左のCATEGORIES欄の該当部分をクリックすると、カテゴリー毎に、広津もと子の見解を見ることができます。また、ARCHIVESの見たい月をクリックすると、その月のカレンダーが一番上に出てきますので、その日付をクリックすると、見たい日の記録が出てきます。ただし、投稿のなかった日付は、クリックすることができないようになっています。
|
2025,09,11, Thursday
(1)再エネと分散発電の時代
![]() 2023.10.23アイシン 2022.1.13Money Post 2025.8.26New Switch (図の説明:左図のペロブスカイト型太陽電池は、薄く軽量で柔軟性があるため、ビル壁面・耐荷重の低い屋根・農業用ハウス・自動車屋根等にも設置でき、その主要材料であるヨウ素は日本が世界産出量の約30%を占める。また、塗布して薄膜を作れるため、既存の技術で比較的安価に製造できる電池である。中央の図は、都市でヒートアイランド現象が起こる仕組みだが、都市でペロイブスカイト型太陽電池はじめ太陽電池を多く設置すれば、熱になっていた太陽光線の一部を電力に変えることにより、その分だけ熱の発散が抑えられることを示したものである。右図は、農業用ハウスにペロイブスカイト型太陽電池を設置した場合の効果で、植物が光合成や殺菌に使っていない光を利用して発電することもでき、その場合は、植物の生育に悪影響を与えない。また、発電した電力を農業用に利用すれば、安価に植物の生育を促すことも可能である) 1)再エネと農業の親和性 ![]() 2025.4.22日経新聞 右の3つは、すべて2025.8.29 PR Times (図の説明:1番左の図は、赤色の光を通すペロブスカイト型太陽電池と通常のガラスの下で植物の生育を比較した結果であり、ペロブスカイト型太陽電池の下の方が良かった。また、左から2番目の写真は、山梨県で1番右の有機薄膜型《ペロブスカイト型》太陽電池とLED電球を使ってブドウを育てたところ、右から2番目の写真のように、「有機薄膜+LED」の葡萄が最も色づきが良かったそうだ。農産物とその育て方によって効果的な光は異なるが、ペロブスカイト型太陽電池は効果的に使えることが証明されたわけである) *1-1-1は、①山梨県が公立諏訪東京理科大学(長野県茅野市)と共同で「有機薄膜太陽電池」を使った世界初の赤系ブドウ「サンシャインレッド」栽培の実証試験を開始 ②「サンシャインレッド」は日光が直接果房に当たらないと着色が進まない課題あり ③光を通す薄くて曲がる有機薄膜太陽電池を「サンシャインレッド」を栽培する雨よけハウスの屋根に設置し、昼間に発電 ④発電した電力を使って夜間にブドウの下側からLEDライトの光を照射 ⑤有機薄膜太陽電池は透明度が高いため、ブドウは光合成で成長可能 ⑥結果は、生育に差はなく着色は「路地」「疑似フィルム」「太陽電池+LED 」のうち「太陽電池+LED 」が最善 としている。 植物は主に青(約430–470nm)と赤(約640–680nm)の光を光合成に利用し、緑色の光はほとんど吸収せずに反射するため、葉が緑色に見えるのである。そのため、有機薄膜太陽電池の色を「緑色」にすれば、光合成への影響を最小限に抑えながら発電できるが、発芽・伸長・実の色づきには赤や青の光も関与するため、フィルムの色が植物の生長に影響するわけである(https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/achievement/release/20240828.html 参照)。 そのため、実の色づきをよくするには、実が色づく時期に植物が必要とする色の光をLEDライトで照射するのが効果的であるし、病気を防ぐためには殺菌作用のある紫外線を照射することも考えられる。そして、それらを無料の電力で行なうためには、やはり有機薄膜太陽電池等で発電するのが合理的なのである。 その植物の成長を実験した結果が⑤⑥であり、「太陽電池+LED 」が最善の実の色づきとなっている。実験は、①のように、諏訪東京理科大学(長野県茅野市)と共同で科学的に行なわれ、②③④のように、日光が直接果房に当たらないと着色が進まない「サンシャインレッド」を栽培する雨よけハウスの屋根に緑系の有機薄膜型太陽電池を設置して昼間に発電した電力で、夜間にブドウの下側からLEDライトの光を照射している。 私は、LEDライトの光は光合成にも有効であるため、昼間でも葉に向かってLEDライトの光を照射すれば、さらに光合成が進んで早く成長すると思う。従って、どういう色の有機薄膜太陽電池で発電し、植物にどういうLEDライトを照射するのが、最も早く、美味しく、また減農薬したものを大量に作れるかは、植物毎に実験して確かめる必要があるだろう。 詳しく述べると、光合成に使われる光の範囲は、葉のクロロフィルが最も効率よく吸収する波長の青色(約430–470nm)と赤色(約640–680nm)である。また、可視光より波長の短い紫外線は、UV-A(315–400nm)、UV-B(280–315nm)、UV-C(100–280nm)の3種であり、植物の形態形成(徒長抑制や花芽形成)に関与したり、UV-Aはアントシアン(赤紫色の色素)の合成を促進して果実の着色に影響したり、UV-Cは強い殺菌作用があったりする。 赤外線は、可視光より波長の長い近赤外(700–1400nm)と遠赤外(1400nm以上)に分かれ、遠赤色光(690–770nm)は植物の発芽や伸長に関与する「光形態形成」に重要な役割を果たし、遠赤外線(熱線)は温度上昇を通じて植物の成長に影響する。そのため、暑くなりすぎて高温障害が起こりそうな時は、赤外線で発電して植物に届く赤外線を減らすことも考えられる。 これらを纏めると、i)赤外線を吸収する有機薄膜太陽電池はハウス内の温度上昇を抑制して高温障害の軽減し ii)緑色光を吸収しても光合成への影響は少なくて発電効率に貢献し iii)選択的透過にすれば光合成を維持して農業生産性を確保でき iv)発電した電力をLED照射・冷却装置・環境制御装置などに活用できる ため、安価にスマート農業を実現できるのだ。 従って、このような「波長選択型太陽電池」は、高温地域の農業支援・スマート農業のエネルギー確保・地域分散型電源としての農地活用などに展開することが可能である。 2)ペロブスカイト型太陽電池の遅い開発速度と見かけ倒しの補助 イ)経産省のペロブスカイト型太陽電池への補助 *1-1-2は、①経産省は日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト型太陽電池」の研究開発に総額246億円の補助方針 ②対象はリコー・パナソニックHD・京大発スタートアップ等の3社で、2025年度から5年間支援 ③原資は脱炭素向け「グリーンイノベーション基金」で研究・実証費用の約2/3 ④量産規模は1ギガワット弱で、2030年をめどに量産を促す ⑤ペロブスカイトは日本発の技術で、原材料は国内調達可能であるため、政府は経済安全保障や産業競争力強化する観点から普及支援に力 ⑥薄くて曲がる構造であるため、屋根・窓ガラスなどの建材と一体化し易い ⑦リコーはインクジェット技術で低コスト量産を目指し大和ハウス工業などと屋根への設置を実証 ⑧パナソニックHDは窓ガラスなど建材一体型電池を開発 ⑨エネコートテクノロジーズはKDDI・YKKAP・トヨタなど幅広い企業と実証実験を展開 としている。 日本政府は日米関税協議の中で、アラスカ北部のノーススロープで天然ガスを採掘して約1,300kmのパイプラインで南部へ輸送し、それを液化して日本等に輸出するプロジェクトに、エネルギー安全保障(台湾有事・南シナ海リスク回避)や米国との同盟強化に役立つとして、総事業費約440億ドル(約6.4兆円)の投資を決定した。 そのアラスカLNGプロジェクトのスキームは、主体は、アラスカ州営企業(AGDC)・米エネルギー企業・日本企業で、資金は、民間投資と日本政府の支援だそうで、経産省幹部が式典参加して調達多様化の観点から関心を表明したそうだ。しかし、LNGなら日本近海にメタンハイドレートが大量に存在するにもかかわらず、技術的課題があるとして日本政府は支援を縮小し、実証試験も停滞している状況だが、本当は国産資源が最もエネルギー安全保障に資する上、国民を豊かにするのである。 そのため、他のLNG開発の2倍以上のコストがかかるとされるアラスカLNGに関する合意は、(赤澤大臣は私と同期で、いい人ではあるが)日米関税協議の中で「国民の利益」よりも「外交上の都合」や「既得権益者の利益」を優先したと言わざるを得ない。 そのような中、経産省は、①のように、日本発で有望な「ペロブスカイト型太陽電池」の研究開発に、総額246億円(アラスカLNGプロジェクトの0.38%)の補助を行なうそうだが、その対象は、②のように、リコー・パナソニックHD・京大発スタートアップ等の3社に限られ、その原資は、③のように、脱炭素向け「グリーンイノベーション基金」、上限は研究・実証費用の約2/3まで、量産規模は、④のように、1ギガワット弱2030年をめどに量産 とのことである。 一方で、既に積水化学工業はロール・ツー・ロール製造技術によるフィルム型ペロブスカイト太陽電池の量産技術、東芝がメニスカス塗布方式を用いたフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実用化技術、カネカが建物一体型太陽電池や薄膜シリコンの知見を活かしたサイズフリー・超薄型高性能技術、アイシンが高効率・高耐久性・大面積を重視した開発などでNEDOの「グリーンイノベーション基金事業」に採択されており、2030年度までに200〜300MW以上の量産化構想を持つ企業として社会実装と国際競争力強化を目指した開発体制を構築しているそうだ。 しかし、新築だけでなく既存の建物にも建物一体型太陽電池を設置しながら、よりよい景観を維持するには、大サイズ・超薄型の電池があたかも石造りやタイル張りやガラス張りのように見える印刷技術と安価であることが重要であり、未だどの会社も開発途上なのである。そのため、ここは条件を厳しくせずに、自社の技術を使ってチャレンジしようとする会社には補助をつけた方が良いと考える。 なお、⑤のように、ペロブスカイト型太陽電池は日本発の技術で原材料も国内調達が可能であるため、本当の意味で経済安全保障の資する上、海外の高コスト資源に巨額投資をして作ったエネルギーに国民が所得を割く必要がなくなり、地球規模でのSDGs普及とともに建物一体型太陽電池を輸出することも多くなるため、産業競争力強化に資することは間違いない。 が、ペロブスカイト型太陽電池は、⑥のように、薄くて曲がる構造で屋根・壁面・窓ガラス等の建材と一体化し易いが、ビルやマンションの壁に取り付けて外観を損なわないほど建材として十分な色合いを出すところまでは未だ行っていないため、⑦のように、リコーがインクジェット技術で低コスト量産を目指しているのは歓迎するが、ほかにもトッパン・エプソン・富士フイルム・キャノン・シャープなどの印刷技術に長けた会社が、⑧のパナソニックや東芝のような電気製品が得意な会社とジョイントベンチャーを作って建材一体型電池を開発すれば、市場投入が早まるのではないかと思う。 また、⑨のように、エネコートテクノロジーズは、KDDI・YKKAP・トヨタなど幅広い企業と実証実験を展開しているそうで、早く良い製品ができれば、国際競争力もつくだろう。 ロ)環境省のペロブスカイト型太陽電池への補助 *1-1-3は、①環境省は農業分野はじめさまざまな施設・建物で太陽光発電導入を後押しして温室効果ガス排出削減に繋げる ②軽量で柔軟性のあるフィルム型「ペロブスカイト太陽電池」導入を支援する補助制度開始 ③従来の太陽光パネルでは設置が難しかった牛舎や施設園芸ハウス等にも設置可能 ④対象とする施設は民間企業・地方自治体・学校法人・社会福祉法人・農業法人・JA等で、個人農家は対象外 ⑤補助率は原則費用の2/3(防災計画に位置づけられた施設は3/4) ⑥補助要件は、i)設置場所の耐荷重10kg/㎡以下 ii)発電容量5kW以上 iii)自家消費率50%以上 iv)申請期限は2025年10月3日 v)上限額は1事業あたり最大10億円 vi)交付決定後に設置して2026年2月末までに工事完了 ⑦2022年度のCO₂排出量20万t未満の法人・中小企業は温室効果ガス排出削減の2025年度までの実績と2026年度以降の計画を提出する必要 ⑧交付決定後に設置するもののみ対象 としている。 環境省が、①のように、農業分野だけでなく、さまざまな施設・建物で太陽光発電導入を後押しして温室効果ガス排出削減に繋げようとするのは良いことで、②の「ペロブスカイト太陽電池」は軽量で柔軟であるため、③のように、従来の太陽光パネルでは設置が難しかった牛舎・施設園芸ハウス・社会福祉施設にも設置できる。 しかし、④のように、対象とする施設を民間企業・地方自治体・学校法人・社会福祉法人・農業法人・JA等に限定し、施設園芸の担い手の多くが個人農家であるのに個人農家を対象外にしたことで、補助対象はぐっと狭まった。 また、⑥の補助要件のうちii)の発電容量5kW以上 を満たすには、ペロブスカイト型太陽電池はフィルム型で軽量ではあるが、設置面積を広くとらなければならないため、構造的補強が必要となり、これとi)設置場所の耐荷重10kg/㎡以下を同時に満たすことは困難だ。さらに、iii)の自家消費率50%以上を発電容量5kW以上で満たすためには、常時、多くの電力を使う施設でなければならないため、i) ii) iii)を同時に満たせる施設は非常に限られるわけである。 そのため、この環境省の補助金は、「農業分野への導入を後押し」と言いながら、実際には個人農家を排除しており、さらに⑦の2022年度のCO₂排出量20万t未満の法人・中小企業についても、温室効果ガス排出削減の2025年度までの実績と2026年度以降の計画を提出する必要があればそれを準備できる中小企業は少ないため、「やったふり補助金」に見えるのだ。 ⑤の「補助率」や⑧の「交付金決定後に設置するもののみ対象」はまあ良いが、「ペロブスカイト型太陽電池」を本当に普及させたければ、要件は、i)の耐荷重を15〜20kg/㎡まで許容して一般の農業用ハウスや軽量建屋も対象に含まれるようにするべきだし、ii)の発電容量は3kW以上に緩和して複数施設合算も可能にすることによって小規模農業法人・福祉施設・個人農家なども対象に含まれるようにすべきである。また、iii)の自家消費率は、季節変動を考慮して30〜40%以上に緩和して対象範囲を広げるべきであろう。 しかし、農業に関しては農水省が、また中小企業については経産省が、環境省とは別に補助金をつけて夫々の分野に適した工夫をさせることも可能だ。また、私の場合は、自分が住んでいる中古マンションの屋上・壁・窓にもペロブスカイト型太陽電池をスマートに設置したいので、耐荷重が高くない既築屋根でも設置でき、壁面の外壁材やガラス窓と区別がつかないほど一体化して発電できる「ペロブスカイト型太陽電池」を開発してもらいたいと思っており、これについては経産省と国交省にお願いしたいわけである。 (2)最新科学と農業の親和性 1)AIと農業 イ)AIによる「栽培管理支援システム」 ![]() IT Leaders Asahi Group 赤坂テック (図の説明:左図は、ITで得られる気象情報・水管理データ・土壌データ・生育データなどを組み合わせて灌水・施肥・薬剤散布を行ない、市況や在庫状況を見ながら収穫できるというものだ。中央の図は、菌根菌とビール酵母細胞壁由来の農業資材を組み合わせて植物に与えると発根を促進するため、相乗効果で品質が向上し、収量も増すというものだ。また、右図は、ロボットによるトマトの収穫の様子である) *1-2-1は、①AI・ITを活用して農作業を効率化・省力化する「スマート農業」に注目 ②JAうつのみやは、AIを活用した「栽培管理支援システム」を導入して組合員向けに営農指導し、システムに対応する農業機械の購入費補助も開始した ③AIによる成育予測で異常気象下でも適切な施肥可能 ④衛星画像とAI分析により、土壌の状態を可視化して精密な施肥実現 ⑤病害虫の発生予測により、防除のタイミングの最適化 ⑥新しい品種への挑戦にもAI栽培情報が有効 ⑦埼玉県加須市の小倉さんが、「AIシステム『ザルビオ』を活用して、収量・品質の維持、肥料削減、病害虫予測、新品種への挑戦等で成果をあげた」と報告 ⑧ザルビオは、人工衛星が撮影した農地の上空写真を基にAIで作物の成育状況などを監視・分析し、土がやせている地点や肥沃な地点を探し出してパソコン等に画像で表示 ⑨そのデータを最新鋭の田植え機やドローンなどに取り込めば、肥料を必要な地点に必要なだけ散布(施肥)することが可能 ⑩毎日の気温や降水量等のデータから成育を予測する機能で、タイミングを誤らずに穂肥もできた ⑪AIは病害や害虫の発生時期も予測して適切な時期に防除可能 ⑫展示会では農業機械との連携デモも行われて農家が関心 としている。 農業従事者が減って大規模化が進み、地球温暖化・水不足・肥料価格高騰などで、これまでの経験がそのままでは使えなくなる中、長年にわたって世界各地で積み重ねられた経験をデータ化して対応を示唆してくれるAIとスマート農機の組み合わせは、誰にとっても大きな助けになる。 具体的には、①のように、AIやITを活用して農作業を効率化・省力化する「スマート農業」に注目が集まっており、②のように、JAうつのみやは、AIを活用した「栽培管理支援システム」を導入して組合員向けに営農指導したり、そのシステムに対応する農業機械の購入費補助を始めたりしたそうだ。しかし、日本では農業機械が高額で、あっても買えない農家の多いことが課題なのである。 が、その「栽培管理支援システム」を使えば、③④のように、衛星画像とAI分析による成育予測で異常気象の下でも土壌の状態を可視化して適切な時期に精密な施肥を行なうことが可能で、⑤のように、病害虫の発生も予測して防除のタイミングを最適化してくれるため、コスト削減ができる。そうなると、⑥のように、これまで栽培してこなかった新品種や新作物への挑戦も容易になる。 埼玉県加須市の小倉さんは、⑦のように、AIシステム『ザルビオ』を活用して、実際に、収量・品質の維持、肥料削減、病害虫予測、新品種への挑戦等で成果をあげられ、そのザルビオは、⑧⑨のように、人工衛星が撮影した農地の上空写真を基にしてAIで作物の成育状況等を分析し、土がやせている地点や肥沃な地点をパソコン等に画像で表示して、そのデータを最新鋭の田植え機やドローン等に取り込めば肥料を必要な地点に必要なだけ散布することが可能なのだそうだ。 また、⑩のように、毎日の気温や降水量等のデータから成育を予測する機能もあるため、タイミングを誤らずに穂肥ができ、⑪のように、AIは病害や害虫の発生時期も予測して適切な時期に防除することも可能なのだそうだ。 ロ)水不足への対応 ![]() NSG Group 現代農業 AT Partners (図の説明:左図は、稲作を水田による慣行栽培から乾田直播・非湛水栽培に変更したもので、節水と同時に省力化にも繋がっている。中央の図は、水田を利用して、大豆等の水を好む作物を栽培する場合に溝を作って水を流し込む方法だ。また、右図は、水の少ない地域に適するイスラエルのドロップ式冠水を応用したものである) 日経新聞は2025年9月12日の社説で、*1-2-2のように、①今夏の猛暑と少雨で日本各地に深刻な水不足が発生し、国交省は8年ぶりに渇水対策本部を設けて節水を呼びかけている ②日本は雨量は多いが河川の急勾配によって水がすぐ海に流れ、国民1人あたりの水資源量は世界平均の半分以下 ③地球温暖化の影響で今後も極端な少雨が増える予測のため、雨頼みではない将来を見越した対策が必要 ④岩手県の御所ダム・宮城県の鳴子ダムは貯水率0%に ⑤9月のまとまった雨で渇水の心配は解消されたが、貯水率が平年を大きく下回るダムも ⑥水使用量の2/3を占める農業の支援が急務で、収穫期を迎える農業に対して宮城・京都・兵庫などが補正予算を編成 ⑦農水省は水の再利用や井戸水活用を推進し、機器購入費を補助 ⑧水を張らないコメづくりやIT制御による植物工場導入も進行中 ⑨農水省は水の反復利用や井戸水活用を呼びかけて機器の購入費を補助 ⑨福岡市は1978年の大渇水以降、節水型設備(節水型蛇口と便器、商業施設の下水再生・雨水利用)を普及し、水道管の漏水対策も徹底して1人あたり使用量は政令市最少 ⑩化学・製鉄・輸送機器分野では再利用率8割超だが、紙・パルプ・食品分野が遅れており、産業界の再利用推進が必要 等と記載している。 このうち、②の「日本は雨量は多いが河川の急勾配によって水がすぐ海に流れる」というのは、農業用の溜め池や多目的ダムによって既に解決している筈であるため、現在の原因の1つ目は、溜め池・多目的ダム・河川の維持管理が十分でなく、貯水量や流量の限度が減っていることであろう。また、2つ目は、都市部でコンクリート化やアスファルト化が進んだため、降った雨が地中に浸透して地下水になることなく、直ちに流れ去ってしまう街づくりをしたことである。そのため、ちょっと大雨になれば洪水になり、ちょっと日照りになれば渇水になるのだ。 従って、①のように、今夏のように、猛暑と少雨で日本各地に深刻な水不足が発生したのは、降るときは大量に降るが、降らない期間が長くなる状況に対応できず、せっかく降った雨も地面に浸透させずにすぐ流してしまうコンクリートとアスファルトで固めた街づくりを行なって地下水の補給量が減らした国交省に問題があるのであって、この解決策は、国民に節水を呼びかけて不潔にするよりも、降った雨を無駄なく利用できる体制を整えることである。 なお、③については、地球温暖化すれば物理法則のクラウジウス・クラペイロンの関係に基づいて大気中に含まれる水蒸気量は増加し、気温が1℃上がる毎に大気が保持する水蒸気量が約7%増えるため、周囲が海の日本では地球温暖化すれば、むしろ降水量が増える筈であるため、それをうまく溜めて使うことが必要なのである。これは、雨の多い熱帯の川が澄んで美しいのを見れば、すぐにわかることだ。 そのため、④⑤のように、岩手県の御所ダム・宮城県の鳴子ダムの貯水率が0%になったり、貯水率が平年を大きく下回って心配なダムが出たりしたのは、普段からダムの底サライをして貯水量が減るのを防いでいなかったのではないかと思われるし、今の時代に雨頼みというのも全く同情できなかった。 しかし、⑥⑦のように、農業は水使用量の2/3を占めると言われ、水のやり方で農作物の品質がかわるため、⑧⑨のように、水を張らないコメづくりをしたり、AI・ITによる精密灌漑・成育予測・土壌分析を活用して水の無駄を減らしたりして、品質や収量をむしろ向上させながら環境負荷も軽減できると考える。 福岡市の場合は、⑨のように、1978年の大渇水以降、節水型設備(節水型蛇口と便器、商業施設の下水再生・雨水利用)を普及し、水道管の漏水対策も徹底して1人あたり使用量は政令市最少だそうだが、ただでさえ「国民1人あたりの水資源量は世界平均の半分以下」であるのに、これ以上、節水すれば不潔になるか、洗浄に時間を要するかのどちらかでしかない。 私は、福岡空港をよく利用するが、トイレの水道の出方は「手を洗うな」と言わんばかりのか細いもので、このような社会で育った子どもが手を洗って清潔にする習慣を身につけられるとは思えない。そのため、日本や福岡市でやるべきことは、節水ではなく、福岡市など都市への一極集中の回避と北九州市など余剰水の多い市町から安価な水道水を購入することであろう。 最後に、⑩の「化学・製鉄・輸送機器分野では再利用率8割超だが、紙・パルプ・食品分野が遅れており、産業界の再利用推進が必要」については、汚水を魚が住める程度にまで浄化して排水するのはどの分野でも当然のことだが、食品など安価で清潔で美味しい水を使うことが重要な製品もあるため、単純に水の再利用を進めれば良いわけではないと思う。 2)最新の生物学と農業 ![]() Skomo Skomo 123RF (図の説明:左図は、植物が光エネルギーを使って二酸化炭素《CO₂》と水《H₂O》からブドウ糖を作って酸素《O₂》を吐き出す光合成の原理を示した化学式である。また、中央の図は、αブドウ糖は結合してデンプンになり、βブドウ糖は結合してセルロースになることを示す化学式だ。そして、右図は、窒素《N》を含む蛋白質の化学式で、ダイス等のマメ科植物は根粒細菌が固定した空気中の窒素を使って蛋白質を作る。そして、動物は、これらを食べて分解したり、再合成したりすることによって、エネルギーを出したり筋肉を作ったりしているのである) *1-2-3は、①JAグループのアグベンチャーラボ(以下“アグラボ”)が東京都内開催のイベントで「食と医療の融合による新事業創出」をテーマに掲げ、食を通じた健康維持に繋がる取り組みを発信 ②清野千葉大教授が、稲にワクチン抗原遺伝子を導入し、米粉を水に溶かして摂取する経口ワクチン研究を紹介、冷蔵・冷凍不要で長期保存可能という利点で感染症対策に革新をもたらす可能性 ③清野氏は「食で感染症から守れる社会をつくりたい」と話した ④ミソベーション社が1食で必要な栄養素を摂取できるフリーズドライの完全栄養食みそ汁を開発・販売、日本の食文化を守りながら健康を支えることを目指す ⑤アグラボの荻野理事長は、「JAグループには病院もあるので、食と農だけではなく医療・健康分野でも新しいことができることに期待したい」と述べた としている。 医食同源という考え方は古代から存在し、薬と食は命を養う同じ目的を持つものであるため、①の「食と医療の融合」は、両方とも健康維持には欠かせないものである。 そのような中、②③のように、経口・経鼻ワクチンの開発に力を注いでおられる千葉大教授の清野氏が、稲にワクチン抗原遺伝子を導入して、その稲からとれた米粉を水に溶かして摂取する経口ワクチン研究を紹介され、これは冷蔵・冷凍不要で長期保存が可能であるため、感染症対策に革新をもたらす可能性があるとのことである。 しかし、米は稔るまでに半年以上かかる上、農地・気候・収穫・精製など多くの条件が揃わなければならないが、ユーグレナ(ミドリムシ:葉緑体を取り込んだ原生生物)は1世代の時間が米よりずっと短く、バイオリアクターで短期間に大量培養でき、環境制御も容易で生産効率が高いため、ユーグレナを使えばワクチンを迅速かつ安価に生産することが可能だ。そして、生産したユーグレナを粉末にして保存しておけば、米粉と同様、冷蔵・冷凍不要で長期保存が可能であるため、私は、ユーグレナ由来の医薬品に対する規制や安全性の評価を偏見のない態度で行なうことが重要だと考える。 ちなみに、佐賀市の「サステナブルテック・ファーム」は、下水処理場で発生するCO₂を活用してユーグレナを培養し、肥料や飼料を作って農産物の栽培に利用したり、ユーグレナ粉末の噴霧吸引による抗ウイルス効果をマウス実験で既に確認したりしている。このほか、ユーグレナによる生活習慣病への効果・肌の健康維持・老化細胞の除去などもマウスで確認されているのだ。 つまり、ユーグレナのような微細藻類は、培養効率が高く、遺伝子導入にも適しているため、医療用抗原の生産にも理にかなっているわけである。 さらに、佐賀市は、清掃工場でごみ焼却時に発生する排ガスから高純度(99.5%以上)CO₂を分離回収して、周辺の植物工場やハウス栽培施設に供給し、i)キュウリの収量が全国平均の約4倍になった ii)供給したCO₂がハウス内の光合成を促進して、果実の肥大・糖度上昇・成育期間の短縮などの品質面でも好影響を与えた iii)清掃工場周辺に藻類培養施設やイチゴ・バジル栽培施設などが次々と集まり、経済波及効果は54億円以上である iv)地域産業の集積と雇用創出ができている という成果を上げたそうだ。 つまり、佐賀市は科学によって“迷惑施設”から排出されるCO₂を宝に変えており、これは、日本政府が2050年のカーボンニュートラル達成に向け、多大なコストをかけてCO₂を地下の見えない場所に押し込んで貯留し、国民負担を増やすことしか思いつかないのと対照的である。 次に、④の味噌(大豆+麹菌)を使った1食で必要な栄養素を摂取できるフリーズドライの完全栄養食みそ汁というのは、(志は良いが)食品の分量から見て無理であろう。しかし、⑤のように、JAグループには病院もあるため、医療や健康を考えた食と農の分野で新しいことはできそうである。 3)AIを使った在庫管理・販売管理・生産管理 イ)日本における米の需給と生産の効率化 *1-3-4のように、コメの国際価格は、2024年10月には、タイ産米が$529/t(150円/$で換算、約79円/kg)である。インドでは収穫面積の拡大や雨期に降水量があったことで収穫量が増加し、タイでも生育が順調で収穫量は前年度比0.5%増の予測で、USDAは2024〜25年度の世界の米生産量見通しを前年度比で1.7%多い史上最高の5億3044万トン(精米ベース)を見込んだそうだ。 SMBC日興証券の平山チーフ新興国エコノミストは「コメの国際価格下落は今後物価に反映されていく」とした上で、「インフレ抑制の要因になり、家計の実質所得の増加などに繋がる」と指摘する。日本では、タイ産米は、泡盛・味噌・米菓等の加工品原材料として使われることが多く、国際価格下落は、メーカー等の実需者の仕入れコストを下げる可能性があるが、主食用米の需給や価格への影響は殆どないそうだ。 それにしても、日本米の価格は、$3011/t(150円/$、約452円/kg)と国際価格の5.7倍で高すぎるため、米を輸出するにも、国民を豊かにするにも、米(及び農業全般)の生産性を上げて国際価格近傍でも採算がとれるようにしなければならない。 生産性を上げる方法は、これまでも書いてきたが、*1-3-5のように、日本にも夏の平均気温が高くなったことを利用して、ひこばえを利用した「再生二期作」を始めた地域がある。再生二期作は、農研機構が福岡県内で試験的に取り組んできて、最近は気温上昇により関東でも環境が整いつつある。なお、タイやインドでは、前から2期作3期作が普通に行われていた。 ロ)少しの改修で様々な利用ができる農業用インフラ *1-3-3は、i)農業用ため池の老朽化・利用減に伴う廃止工事で大雨時の氾濫リスクが各地で生じた ii)局地的豪雨でため池決壊のケースも相次ぐ iii)所有者不明等で防災対策が遅れている箇所も多く、早期に実態把握して安全確保が必要 iv)決壊を防ぐため堤防を切り開いて新たに水路を整備し、既存の水路に繋いで雨水を下流に排水する時の不備で、新設した水路の排水量が下流の既存水路の最大流量を上回っていた v)農水省は工事実施済でも周囲の土地の利用状況・人的被害リスクを踏まえ、必要に応じて既存の水路を拡幅する改善策を講じるよう都道府県等に通知 vi)農業用ため池は、西日本の降水量が比較的少ない地域に多い vii)総務省が2024年6月に公表した11府県への調査結果で2022年度末時点に工事が要ると判断された約1万カ所の防災重点ため池のうち、30年度までに工事の着手を予定しているのは2割で、対策を阻む要因の一つが所有者不明 等としている。 これまで農業用インフラだったものでも、少し改修ずれば様々に利用できるのに、i)ii)のように、「老朽化・利用減のため農業用ため池の廃止工事をした」というのには、正直言って驚いた。何故なら、底浚いをして深さを保てば、大雨時に一度に排水されて氾濫するの防ぐことができ、堤防を補強すれば豪雨による決壊も防げるからである。さらに、周囲を公園にすれば、水のある美しい公園になるだろうし、蓮の栽培や魚の養殖もできる筈である。 さらに、vi)のように、農業用ため池は、西日本の降水量が比較的少ない地域に多いが、現在は、あちこちで夏の水不足による不作が起こっているのだ。 また、iv)v)のように、決壊を防ぐため堤防を切り開いて整備した新水路の排水量が下流の既存水路の最大流量を上回っていたり、農水省がさらに必要に応じて既存の水路を拡幅する改善策を講じるよう都道府県等に通知したというのも、無駄遣いをした上に失敗し、それをさらに上塗りしているように見え、農業予算はそこまで余っているのかと思う。 なお、iii)vii)のように、総務省の調査約1万カ所の防災重点ため池のうち、2030年度までに工事着手を予定しているのは2割で、対策を阻む要因の1つが所有者不明だそうだが、誰の所有物かは市町村が登記簿や固定資産税の支払者を見て連絡すれば明らかになる筈で、固定資産税の支払者すらいないのなら、いらないのだから、収容して有意義に使えばよいのである。 ハ)備蓄米と在庫管理 日本農業新聞は、*1-3-1で、i)小泉農相は「政府備蓄米の一定量を主食用米として消費者に安く提供できる仕組みの創設を議論しなければいけない」「備蓄米の政策全般を見直す必要がある」と述べた ii)実現すれば不作や災害などの不測の事態だけでなく、日常的に備蓄米が市場に出回る可能性があり、主食用米の価格や売れ行きへの影響が懸念 iii)備蓄米は元々、保管後に主食用に販売する「回転備蓄」方式をとっていた iv)2011年度から原則5年間保管後に非主食用に販売し、主食用米の需給に影響を与えない「棚上げ備蓄」方式に転換 v)小泉農相は「生活が苦しい消費者などに一定量を主食用として販売することも選択肢」と強調 としている。 今回の米不足と米価の高騰で、私は、銘柄米とカリフォルニア米・備蓄米(古古古米)の味がどれほど違うのかを確認するため、カリフォルニア米と備蓄米を5kgづつ買って食べて見たら、カリフォルニア米は、少しだけ水を多めにして炊くと十分に美味しく、粒がしっかりしているため冷めても美味しいし、チャーハンにはむしろカリフォルニア米の方がべたべたしなくて良いという結果だった。 備蓄米は、水を多めにする必要もなく、銘柄米と同じに炊いて普通に食べられ、敢えて違いを言えば、さがびよりの方が甘みがあって美味しいという程度の差だった。しかし、備蓄米であっても混合せずに銘柄のまま備蓄しておけば、それぞれの味がすると思う。 その経験から、i)iii)v)のように、政府備蓄米の一定量を主食用米として消費者に安く提供できる仕組みを作って「回転備蓄(先入れ先出し)」とし、生活が苦しい消費者などに主食用として販売することは、食料自給率がたった38%の国で、食べ物を無駄にしないため重要である。 そのような中、iv)のように、2011年度から原則5年間保管後に非主食用に販売し、主食用米の需給に影響を与えず米価を高止まりさせるため、「棚上げ備蓄(古くなるまで出さない)」方式に転換したのは、何を考えているのかと思う。 なお、ii)のように、備蓄米は不作や災害などの不測の事態のために持っているそうだが、備蓄量が少ない上に「棚上げ備蓄」して古いものは古古古米などになっていれば、不作や災害など不測の事態であっても大した役には立たない。にもかかわらず、国民の金を使って何のために備蓄しているのだろうか?まさか、主食用米の価格を上げるためではないだろう? 二)需要予測と食品ロスの削減 *1-3-2は、i)栃木県が食品ロスの発生し易い宿泊・外食・卸売り・小売り・製造業の食品ロス削減のため、AIを活用した実証事業を行っている ii)国内の食品ロス(2023年度)は464万tで家庭系と事業系の比率は半々 iii)栃木県は12.4万tの食品ロスの61%が事業系 iv)2022年度は宇都宮市と日光市の宿泊施設で朝・夕食で発生する食品ロス削減に挑み、AIで過去の顧客データや天候を加味して需要を予測し、仕入れ量を最適化 v)在庫管理の自動化や気象情報と全国のスーパーのPOSデータを組み合わせた商品別の需要予測も試験し、値引きや廃棄商品が減少して一定の効果 vi)氷菓やアイスを製造する食品会社でAIによる需要予測を行ったところ、実際の出荷数との誤差が17%改善して年間約180万円物流コストが削減 等としている。 AIを使って、i)iii)のように、食品ロスの発生し易い事業の食品ロス削減を行うのは良いアイデアで、実際、iv)のように、AIで過去の顧客データや天候を加味して需要を予測し、宿泊施設の朝食・夕食で発生する食品ロスを削減でき、仕入数量を最適化に近づけることができている。 また、AIが気象情報と全国スーパーのPOSデータを組み合わせれば、v)vi)のように、商品別需要予測を正確化できるため、在庫管理を自動化でき、実出荷数と製造数・仕入数の誤差が改善するため値引きや廃棄商品が減少し、廃棄ロスや物流コストも削減できるのである。 日本全国では、ii)のように、食品ロス(2023年度)が464万tで、家庭系と事業系の比率は半々だそうだが、家庭も冷蔵庫がAIの機能を備えれば、在庫数や消費期限が近いものの指摘ができるため、無駄な買い物を無くすことができる。さらに、AIが、キッチンパネルに、現在ある材料を有効に使って作るレシピを示せれば、食品の廃棄ロスを減らすことも可能だ。 (3)産業と人材・教育 イ)松尾研のアフリカでのAI講座 *1-2-3は、i)日本政府が東大松尾研と協力し、アフリカの学生がAIを学ぶ講座を提供して3年間で3万人を育成 ii)現地の産業や雇用の創出を支援し、日本企業の市場開拓や人材獲得に繋げる iii)アフリカ全域で20〜30校の大学を選定し、松尾研がAI講座を実施する iv)アフリカ各国はAI人材が不足して研究開発投資が限られるため、製造・流通・農業の3つを重点分野としてAIの担い手を増やし、事業創出や効率化を図る v)日本政府がUNDPなどに資金提供し、AI講座を受けた学生の起業や新規事業立ち上げを支援 vi)アフリカ企業やアフリカで事業展開する日本企業の採用を促し、AIに精通した人材の欧米・中国企業への流出を抑える vii)松尾研はAIの基礎やディープラーニング(深層学習)、マーケティング利用などテーマ別に複数の講座を設けており、国内の受講生は2025年度に7万人に達する viii)アフリカのAI市場は足元で世界の2.5%に留まるが、スマートフォンの普及により市場が急拡大 等としている。 遅れて産業革命が起こったアフリカは、固定電話を飛ばして携帯電話やスマホが普及したり、電線ができる前に太陽光発電が使われたりしている地域だ。つまり、既得権益の妨害がなく、白地に絵を描くような速さで新技術が普及していくため、viii)のように、アフリカのAI市場が現在は世界の2.5%に留まっていても、スマートフォン等の普及により市場が急拡大することは間違いないだろう。 そのため、vii)のように、AIの基礎・ディープラーニング・マーケティング利用等のテーマ別に複数の講座を設けて国内の受講生が7万人にも達する日本で最高の東大松尾研を通して、日本政府が、i)のように、アフリカの学生にAIを学ぶ講座を提供し、ii) vi)のように、アフリカ企業やアフリカで事業展開する日本企業の採用を促したり、日本企業の市場開拓や人材獲得に繋げたりするのは、前向きで良いことだ。 しかし、「AIに精通した人材の欧米・中国企業への流出を抑える」というような対抗意識を発揮するよりも、日本にもAIに精通した優秀な人材を呼び寄せることの方がずっと重要である。 なお、iii)のように、アフリカ全域で20〜30校の大学を選定して松尾研がAI講座を実施するのは大規模だと思うし、v)のように、日本政府が資金提供してAI講座を受けた学生の起業や新規事業立ち上げを支援すれば、10~20年以内に、iv)のアフリカ各国のAI人材不足が和らいで製造・流通・農業等の分野で事業創出ができたり、効率化ができたりすると思われる。が、その時、日本はアフリカにも抜かれていないようにしたいものだ。 ロ)人手不足対策としての女性・高齢者・外国人の雇用について *1-2-4は、i)埼玉県経営者協会の橋元会長(キヤノン電子社長)は「県内企業の競争力向上には人材が何より重要で、協会として行政や大学と連携を深めたい」等と述べた ii)「企業の業況は緩やかに持ち直しつつある」 iii)「省力化等が目的の設備投資にも前向き」 iv)「最大の課題は人手不足で、約5割の企業が正社員が不足していると感じている」 v)「省力化投資だけでは補えない分野も残るので、女性や高齢者が活躍できる環境を整える必要がある」 vi)「外国人の雇用も選択肢の一つ」 vii)「経営者協会は夏にベトナムを視察して日本で働くことを望む人たちへの教育を手掛ける機関を訪問し、インドの理系人材活用に向けたセミナーも実施したが、こうした取り組みを県内企業に紹介して企業と外国人材のマッチングに繋がることを期待したい」 vii)「県内の大学と連携を強化し、県内企業に就職することを条件に奨学金の返済条件を緩和する制度の創設というアイデアも」 等としている。 埼玉県でも、建設業や運輸業などで人手不足が叫ばれていたため、i) iv)の「県内企業の競争力向上には人材が何より重要」「約5割の企業が正社員が不足」という実感に賛成だ。ただ、ii)の「企業の業況は緩やかに持ち直しつつある」というのは、コロナの後遺症が残っている業種もあるため、業種によって異なるのではないだろうか。 なお、人手不足の解決策については、もちろん、iii)の省力化投資はじめ、v) vi)の女性・高齢者の活用・外国人の雇用などが選択肢だが、これまでは正社員として正当な評価を受けながら働く環境が整っておらず、やる気を削ぐ原因になっていたため、その環境を変える必要があると、私は考える。 特に、外国人に関しては、既になくてはならない労働力になっているにもかかわらず、未だに差別を口にする日本人がいたり、埼玉県知事まで外国人差別を口にしたりしていたので、埼玉県の経営者協会が、vii)のように、夏にベトナムを視察して日本での就業を望む人に対する教育機関を訪問したり、インドの理系人材活用に向けたセミナーを実施したりしたのは進んでいると思う。そのため、この取り組みが多くの企業(埼玉県内に限らない)に紹介され、企業と外国人材のマッチングがうまくできれば良いと考える。 さらに、必要な場所に人材が不足していることについては、vii)だけでなく、奨学金貸与団体と連携して、企業や地方自治体に就職して一定期間以上働くことを条件に、その学生を雇用する企業や地方自治体が奨学金の肩代わり返済ができる制度があれば、奨学金を活用して大学を卒業した学生の負担も軽くなって良いと思われた。 (4)エネルギーの選択について 1)地球温暖化の最中に化石燃料開発? ![]() 2025.2.20日経新聞 2025.10.10時事 (図の説明:左図はトランプ大統領の公約と進捗状況で、時代錯誤が甚だしく、科学に疎いようだ。また、右図はトランプ課税の現状だが、日本も国内生産を疎かにしていると、早晩、米国のように国内に技術がなくなり、関税をかけても製造業が戻らなくなることを忘れてはならない) *2-2は、①米大統領令への署名で日本に課す関税率の引き下げが確定的になり、今後は有力な交渉カードとなった対米巨額投融資の実行に焦点が移る ②政府は日米で投資案件を協議する場を設け、日本にとって有益か精査すると説明するが、最終的な選定は米側 ③日本側が拒否すればトランプ大統領が関税を再び引き上げるリスクは拭えない ④対米投融資5,500億ドル(約80兆円)に関する覚書では大統領への投資先候補の提示はラトニック商務長官を議長として米側の委員で構成する「投資委員会」が決定し、ラトニック氏は投資先の選定について「大統領に完全な裁量がある」と述べた ⑤日本への野放図な資金要求に繋がりかねない懸念 ⑥合意に基づいて関税が引き下げられても、幅広い品目に15%という高い関税率が課される ⑦経産省は来年度予算の概算要求で設備投資減税拡充や自動車購入時の「環境性能割」課税廃止を要望 等としている。 現在のトランプ関税は、上の図のとおりだが、①⑥のように、関税率を引き下げてもらったとしても幅広い品目に15%の高い関税率が課される。 また、自動車関税を15%に引き下げてもらうために、②④⑤のように、(どこから金が出るのか不明だが)対米投融資5,500億ドル(約80兆円)を行い、投資先候補の提示はラトニック商務長官を議長とする米側の「投資委員会」が決定し、トランプ大統領が完全な裁量権を持ち、日本への野放図な資金要求に繋がりかねないというのでは、日本は主権国家ではない。 なお、③のように、日本側が拒否すればトランプ大統領が関税を引き上げるリスクは拭えず、経産省は、⑦のように、自動車購入時の「環境性能割」課税廃止を要望して自動車産業を支えようとしているそうだ。しかし、30年も前から「EVにシフトすべきだ」と言い、20年も前から「自動運転にすべきだ」と言っているのに、未だ旧態依然としたガソリン車にこだわっているようだから差別化ができず、関税分を上乗せして販売することもできないのであるため、このような停滞産業をカバーするために国民の税金を使ってもらいたくはない。 その上、2-1は、⑧トランプ米大統領がアラスカ産LNG開発で「日本と合弁事業を立ち上げる計画」と表明 ⑨総事業費440億ドル(約6兆4000億円)の巨大事業 ⑩商社・エネルギー・プラントなどの日本企業は収益性等を慎重に見極める ⑪アラスカLNGは日本のLNG需要の3割に相当する年産約2000万t ⑫北極海沿岸で天然ガスを生産・約1300km離れたアラスカ州南部へパイプラインで輸送・太平洋側で液化してLNG運搬船で出荷 ⑬安永氏(三井物産会長)は「相当に慎重な事業性評価がないと投資判断には至らない」と指摘 ⑭長距離のパイプライン建設の莫大な建設費負担を強いられる可能性 等としている。 日本から提案したのかもしれないが、⑧⑨⑪のように、トランプ米大統領がアラスカ産LNG開発で「日本と合弁事業を立ち上げる」と表明し、総事業費は440億ドル(約6兆4000億円)にものぼって、日本のLNG需要の3割に相当する年産約2000万tを輸入する計画だそうだ。 しかし、「経済安全保障のため・・」と言うのであれば、日本の管轄海域内の海底に「メタンハイドレート」というシャーベット状になった天然ガスが大量に眠っており、埋蔵量は12・6兆㎥と推定され、日本人が使う天然ガスの100年分以上が日本の海底に存在しているのだから、それを開発した方が経済安全保障に資する上に、国民を豊かにするのである。 にもかかわらず、⑫⑭のように、米国の北極海沿岸で今から天然ガスを生産し、約1300kmも離れたアラスカ州南部にパイプライン(莫大な建設費負担の可能性)で輸送して、それを太平洋側で液化してLNG運搬船で出荷するくらいなら、メタンハイドレートを開発した方が、経済と環境の両面でずっと効果的なのである。 従って、⑩のように、商社・エネルギー・プラントなどの日本企業は収益性等を慎重に見極めるとし、⑬のように、三井物産会長の安永氏が「相当に慎重な事業性評価がないと投資判断には至らない」と指摘しているのは全く正しい。その上、下の2)で述べるように、全く環境に負荷をかけない天然水素が発見されているのだ。 2)天然水素の発見 *2-3-1は、①九大と九電はNEDOが公募する「先導研究プログラム/フロンティア育成事業」の委託先に採択され、九州の「天然水素」実用化への研究開発を開始 ②天然水素(ホワイト水素orゴールド水素)は世界各地の地下に存在する高濃度水素で次世代のカーボンニュートラルエネルギー ③日本における先駆けとなる取り組みとして、天然水素の生成ポテンシャルが高い九州地域で天然水素の生産・供給・利用の技術条件を整理して実用化に向けた研究開発を進める ④実用化されれば、日本のエネルギー政策の基本方針である安定供給・経済効率性・環境適合に貢献 ⑤地産地消のエネルギー資源として地域経済活性化に寄与 等としている。 また、*2-3-2は、⑥JOGMECは2025年度中に、国内で天然水素の埋蔵地を探る調査に乗り出す ⑦日本では長野県白馬村で観測 ⑧天然水素開発を手掛ける米スタートアップ企業のコロマには、米マイクロソフト共同創業者ビル・ゲイツ氏が設立したVCが出資し、三菱重工業や大阪ガスも資本参加 ⑨天然水素が地下で発生するメカニズムのうち、高温下で鉄が水と反応して酸化し、水が分解して水素を生じるプロセスが有力 ⑩かんらん岩といった鉄を含む岩石は北海道など日本国内にも分布しているため埋蔵の可能性 としている。 九大と九電が、①②③のように、NEDOの「先導研究プログラム/フロンティア育成事業」に採択された。天然水素(ホワイト水素orゴールド水素)は世界各地の地下に存在する高濃度の水素で次世代のカーボンニュートラルエネルギーであるため、日本における先駆けとなる取り組みとしてポテンシャルの高い九州地域で天然水素の生産・供給・利用の技術条件を整理して実用化に向けた研究開発を進めるのは、大変良いと思う。 確かに、天然水素の生産・供給・利用技術が実用化されれば、④⑤のように、水素の安定供給・経済効率・環境適合に貢献する上、地産地消のエネルギー資源として地域経済の活性化に寄与するだろう。さらに、私は、水素が燃えると水蒸気を発生させ、食品の水分を奪いすぎずにふっくら焼き上げることができるため、ガスも早く水素ガスにならないかと待っているのだ。 「天然水素」の生成メカニズムには複数の説があるが、⑨⑩のように、高温下で鉄が水と反応して酸化し、水が分解して水素を生じるプロセスが有力だそうで、かんらん岩のような鉄を含む岩石は日本国内にも多数分布して「天然水素」埋蔵の可能性があるため、CO₂フリーの国産エネルギー資源として注目される。 日本では、⑥⑦のように、長野県白馬村で天然水素が観測され、JOGMECも2025年度中に、国内で天然水素の埋蔵地を探る調査に乗り出すそうだ。 天然水素の発見2018年に西アフリカ・マリで行なわれ、世界的に注目が高まって、米国などで試掘が進み、関連企業に資金が流入して、米スタートアップ「コロマ」にはビル・ゲイツ氏のVCが出資し、三菱重工業や大阪ガスも資本参加したのだそうだ。しかし、日本の経産省はじめ多くの大企業は、他国の資源への出資はするが、「国内には資源がない」などと言い続けて、努力も工夫もなく国民負担ばかり増やし、国民に迷惑をかけ続けているので情けない。 そのため、今後は日本国内における地域毎の地質分布(例:かんらん岩の分布)を調査し、日本国内における資源の分布を予想する下地とすれば、天然水素の生産・供給・利用技術の実用化が、より早く進むと思われる。 3)日本産レアアースについて *2-4は、①政府はレアアース採掘調査に関する環境ガイドラインを策定 ②2027年から本格着手する南鳥島沖のEEZでの採掘計画に先立ち、調査段階から土壌や水質汚染を防ぐルールを整備 ③日本の探査・採掘技術を世界に示し、海洋開発をリードする狙い ④2026年1月から南鳥島沖で環境モニタリングを始める ⑤探査船から海底6000mまでパイプを通して地層から泥を吸い上げ、深海の堆積物や周辺海域の生態系への影響を調査 ⑥南鳥島沖の深海底には高濃度のレアアースを含む泥が存在 ⑦政府は環境指針に基づいて2027年から本格的な調査に入る ⑧6000m級の本格的な海底調査は世界でも例がない ⑨政府は2028年度までに持続可能な採掘技術の実証を目指す ⑩レアアースは乱開発による環境汚染が問題視されており、環境に配慮した探査・採掘プロセスを世界に先駆けて確立して、レアアースの国内調達を図るとともに日本の技術力を世界に売り込む としている。 レアアースは我が国の基幹産業であるハイテク産業やグリーンテクノロジー産業に必須の金属で、電気自動車やスマートフォン、LEDなど私たちの日常生活の様々な場面で活用されているが、現在、世界のレアアース生産はその大部分を中国に依存している。 中国の方は、レアアースを「重要な戦略資源」と宣言し、2010年の「レアアース・ショック」に続いてレアアース禁輸を示唆し、2025年4 月には米国トランプ政権による関税措置への対抗策として、レアアース7種の輸出規制を実施したが、その影響で、米国メーカーが自動車の生産停止を余儀なくされたり、欧州や日本の自動車メーカーが生産を一時停止したりする事態に陥った。 このような状況を打破するため、アメリカをはじめとした先進諸国は、レアアースを筆頭とする重要資源のサプライチェーンの強靱化に取り組んでいる。そして、日本も国の産業の命運を他国に握られることのない資源安全保障を確立することが喫緊の課題であると同時に、レアアースを産出することは同盟国への貢献にもなるのだ。 東京大学の加藤教授らの研究チームが、2011年に太平洋の深海底でそのレアアースを高濃度で含む「レアアース泥」を発見し、2013年に南鳥島EEZで超高濃度レアアース泥を発見して、現在、その埋蔵量は南鳥島の有望海域(2500km²)だけでもレアアース1600万トン超と世界3位の規模があるとされている(https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt124#:~:text=%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E9%99%A2%E5%B7%A5%E5%AD%A6%E7%B3%BB%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%A7%91%E3%83%BB%E6%95%99%E6%8E%88%E3%83%BB%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%B3%B0%E6%B5%A9%E7%A0%94%E7%A9%B6%E5%AE%A4,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%92%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82 参照)。 にもかかわらず、日本政府は、②のように、2013年から14年も遅い2027年から南鳥島沖EEZでの採掘計画に本格着手するのに先立ち、太平洋深海底の水質汚染を防ぐルールを整備するため、④のように、2026年1月から南鳥島沖で環境モニタリングを始めて、⑦のように、環境指針に基づき2027年から本格的な(採掘ではなく)調査に入るのだそうだ。 これは、今時、アラスカ産LNG開発に対して440億ドル(約6兆4000億円)もの金額をかける意思決定を迅速に行なったのと比較してあまりにも消極的な態度であり、同盟国にとっても「ここまで役立たずの同盟国はいらない」と思われても仕方がないほどの貢献度である。 なお、⑤⑧のように、探査船から海底6000m(6000m級の本格的な海底調査は世界でも例がないとのこと)までパイプを通して地層から泥を吸い上げ、深海の堆積物や周辺海域の生態系への影響を調査するとしているが、北海油田は1960年代に開発開始、春暁ガス田は1995年に試掘成功で、既に原油や天然ガスを生産しているため、環境に配慮して採掘する技術はある筈だ。 そのため、③の「日本の探査・採掘技術を世界に示し、海洋開発をリードする狙い」などというのは言い訳がましくて滑稽ですらあり、EEZ内での「レアアース泥」発見から14年も遅れて、⑥のように、レアアース泥を採掘するのではなく、①のように政府が採掘調査に関する環境ガイドラインを策定するというのは、到底誇るべきことではなく、国産資源に対する消極的な態度を恥じるべきことだ。 そして、⑨のように、政府は2013年から15年も遅い2028年度までに持続可能な採掘技術の実証を目指す(⁉)のだそうで、その上、⑩のように、「レアアースは乱開発による環境汚染が問題視されている」「環境に配慮した探査・採掘プロセスを世界に先駆けて確立して、レアアースの国内調達を図る」「日本の技術力を世界に売り込む」などと言っているのは、負け惜しみも甚だしく、どういう神経をしているのか不明だ。 4)それでも原発に固執するのは何故か? *2-5は、①関西電力は11月から美浜原子力発電所での原発建て替えに向けた調査を開始 ②2011年のフクイチ事故後の新増設への初めての動き ③資源の乏しい日本で安定エネルギーを供給するため原発の必要性が再認識された ④今はデータセンター・半導体製造等の新産業が誕生 ⑤電力需要増加に応えつつ脱炭素も求められる ⑥再エネはコスト面等で不透明 ⑦化石燃料を使う火力発電は脱炭素化技術と組み合わせる必要があって投資がかさみ、ロシアによるウクライナ侵略で燃料価格も急騰 ⑧原発は再エネや火力に比べてボラティリティー(変動性)が低く長期的優位性がある ⑨政府のエネルギー基本計画は原発の必要性明記 ⑩いずれかのタイミングで既設の原発を建て替えなければ原発の継続的活用はできない ⑪原発建て替えには大きな初期投資がかかり、時間軸も極めて長い ⑫政府も「長期脱炭素電源オークション」活用など原発建て替えへの支援議論を推進 ⑬資金調達面でも原発建て替え支援制度の充実が重要 ⑭原発建て替えへの公的支援は事業者が資金調達する前提 ⑮使用済み核燃料を再生してリサイクルさせる「バックエンド」の確立に課題 ⑯原発の安定稼働は安全性が大前提で、まず安全規制にしっかり対応して自主的な安全性向上策も積み重ねる 等としている。 イ)日本は資源の乏しい国か? 上の③は、「資源の乏しい日本で安定エネルギーを供給するため原発の必要性が再認識された」と述べているが、(1)及び(4)2)3)で述べたように、日本は工夫次第で資源の豊富な国であるため、「資源の乏しい日本」と連呼する人は、論理的整合性に欠ける勉強不足の人か、質問に答えている関西電力社長のように、原発や化石燃料の輸入に何らかの既得権を持っている人である。 従って、結論としては、日本に存在する資源を使って発電し、動力にする工夫と技術力が求められるのだ。 ロ)原発は、コスト面で再エネよりも優れているか? 関西電力社長の森氏は、⑥⑧のように、「再エネはコスト面等で不透明」「原発は再エネや火力に比べてボラティリティー(変動性)が低く長期的優位性がある」としながら、⑫⑬⑭のように、政府の資金調達面での原発建て替え支援が不可欠だとしている。 しかし、原発は1966年7月25日に営業運転を開始したため、現在は営業運転開始から59年超も経過しており、これは、既に独立採算で賄われるべき年数である。一方、再エネ発電歴が最も長い太陽光発電でも、補助金開始は1994(H6)年度~2005(H17)年度の財団法人新エネルギー財団(以下NEF)のものと2008(H20)年度~2013(H25)年度申込分のJPEA太陽光発電普及拡大センターによるもので、補助金額は原発とは比べものにならないくらい小さい上に、大手電力会社は原発関連の損失を一般家庭の電気料金に転嫁できるという市場原理の働かない不透明なコスト構造なっているのだ。 そのため、原発は再エネと比較すれば価格が高止まりしたまま変動性(ボラティリティー)が低いのであり、国が支出する直接原価以外の補助金まで加えれば天文学的に高価な電源なのだ。 従って、「ボラティリティーが低いか否か」は「燃料価格の変動が少ないか否か」だけに限定するのではなく、「総合的なライフサイクルコスト」や「社会的リスクコスト」まで含めて述べるべきである。具体的には、「原発の建設・廃炉・廃棄物処理・安全対策・事故処理等の非燃料コストまで含めれば予測困難性が高い」という意味で、原発のボラティリティーは高く、原発の優位性は再エネと比較して著しく低いのだ。 ハ)原発建て替えで現在の電力需要増加に対応できるのか? 関西電力社長の森氏は、④⑤のように、「今はデータセンター・半導体製造等の新産業が誕生して電力需要が増加したため、脱炭素しながらその需要に応えなければならない」としている。 その上で、⑩⑪のように、「いずれかのタイミングで既設の原発を建て替えなければ原発の継続的活用はできない」「原発建て替えは時間軸が極めて長い」と述べておられるが、時間がかかる原発新設をするよりも、蓄電池を整備して再エネ発電による電力供給量の変動を減らし、冷却が必要なデータセンター等は寒冷地に設置した方がずっと早い上に、セキュリティー対策・地球温暖化の緩和・地域振興に役立つ。 そのため、「データセンターや半導体製造等の新産業による電力需要の増加」は、関西電力等の大手電力会社が原発を推進するための言い訳に過ぎず、論理矛盾がある。 二)原発は、再エネより安全か? さらに、⑯は、「原発の安定稼働は安全性が大前提」としながら、「まず安全規制にしっかり対応」「自主的な安全性向上策も積み重ねる」としている。しかし、国の安全規制が抜け穴だらけで杜撰であることはフクイチ事故で明らかになった上、新たに作られた安全対策も実際には機能しないことが(5)のように明らかだ。 そして、原発は再エネ等と異なり、事故を起こせば国土の広い面積に人が住めなくなり、食料生産もできなくなる大規模なものになるため、原発事故による損害額(有形・無形の損害額X事故が起こる確率)は、著しく大きいのである。 ホ)使用済核燃料はどうするのか? 原発は営業運転開始から59年超も経過しているため、核のゴミ対策は、とっくの昔に終わっていなければならず、核のゴミを安全な廃棄物にして捨てる費用までが、原子力発電のコストに含まれるべきである。 にもかかわらず、未だ⑮のように、使用済み核燃料のリサイクル確立も直接廃棄もできず、廃棄物処理を国に依存しているのだから、原発は地球上での営業運転には向かない電源なのだ。 へ)政府のエネルギー基本計画は正しいか? 関西電力社長は、⑨のように政府のエネルギー基本計画に原発の必要性が明記されたことを、①②のように関西電力が美浜原発で原発建て替えに向けた調査を開始する根拠としている。 しかし、政府のエネルギー基本計画も、平時の想定しかしておらず、⑦のように、化石燃料を使う火力発電は脱炭素化技術と組み合わせれば投資がかさむ上、ロシアによるウクライナ侵略等の戦時には燃料価格が急騰して国民を苦しめている。 さらに、日本が戦争に巻き込まれた場合には、エネルギー自給率や食料自給率の低さも大きな問題だが、原発は攻撃対象になりやすい脆弱で危険なインフラであり、原発の爆発は国土の恒久的損失に繋がるため、その原発を北朝鮮・中国・ロシアに面した日本海側に置いておくことも戦略的リスクが極めて高いため、安全保障政策との整合性に欠ける。 従って、原発関連交付金や原発関連の雇用に依存している美浜町等の原発立地自治体を原発依存から脱却させるためには、原発立地自治体に、これから有望になる再エネ・AI・再生医療薬・農林漁業等の現代産業を育成して、原発抜きで成立する経済に変えることが不可欠である。 (5)想定外だらけの原発政策 イ)上空からの攻撃を想定していなかった原発 *3-1は、①九電玄海原発上空で飛行物体が目撃され正体不明 ②九電はモーター音から「ドローン」と見るが客観的映像記録はなし ③原発の「安全神話」のもろさ露呈 ④今回の事案で国内の原子力施設における警備の脆弱性が浮き彫り ⑤24時間体制警備の「原発特別警備部隊」にドローン検知機材が配備されていたが機能せず ⑥地上からの侵入警戒に偏り、上空の脅威は想定外で監視カメラの多くが空を向かず ⑦機密事項の多い原発の警備体制は検証困難 ⑧法制度も大きく矛盾し、小型無人機等飛行禁止法は原発敷地内や周囲の上空をドローンが飛行することを禁じ、航空法は原発上空を飛行禁止区域とせず ⑨原子力施設の安全規制の根幹を定めた「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」も上空からの侵入を直接規制する条文なし ⑩ドローン・航空機・原子力施設と管轄する法律が縦割りで「原発上空の安全」という重要な視点が抜け落ちた危機管理の欠陥 ⑪世界では原子力施設へのドローン攻撃はフィクションではない ⑫高性能な検知システム・上空を常時監視するカメラ網・侵入物体を無力化する技術導入等の物理的防護措置を急ぐべき 等としている。 ①のように、九電玄海原発上空で飛行物体が目撃されたが正体がわからず、九電は、②のように、モーター音から「ドローン」と推測したが客観的映像記録はないそうだ。しかし 原発は稼働中の炉心だけではなく、膨大な量の使用済核燃料を近くの使用済核燃料プールに保存して冷やし続けている構造であるため、万が一でも攻撃されれば大変なことになるのである。 そのため、③の「原発の安全性」などは本当に神話に過ぎず、今回のでき事で、④のように、国内の原子力施設における警備の脆弱性が浮き彫りなった。しかし、原発上空からの脅威については、私が自民党衆議院議員だった2006年に、玄海原発の関係者や自衛隊幹部の入っている部会で「原発は上空から航空機が突っ込むようなテロや爆撃に対応していますか?」と既に尋ねており、玄海原発の関係者は「民間企業はそのようなことには対応できません」と答え、自衛隊幹部は「ミサイルの全てを打ち落とせるわけではありません」と答えていた。 にもかかわらず、⑤⑥のように、24時間体制で警備しても監視カメラの多くが空を向いていなかったというのでは、何のために誰を監視していたのだろうか?その上、「都合の悪いことは隠せば良い」とばかりに、⑦のように、原発に関しては機密事項が多いのだから、国民のことを考えていないのは明らかであり、⑧⑨⑩の小型無人機等飛行禁止法・航空法・「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」はもちろん、特定秘密保護法も見直すべきである。 なお、原発が攻撃されれば、稼働中の炉心だけでなく、使用済核燃料プールに保管されている大量の使用済核燃料の冷却が止まって臨界事故や放射性物質の大量放出となり、核兵器を使わずとも広域の放射能汚染が発生する。それによって、日本の広い地域が居住不能となり、農業生産は壊滅し、海域も汚染されて漁業の停止を余儀なくされるため、食料自給率がさらに低下し、国民の生存基盤が失われる。 従って、⑪⑫のように、世界では原子力施設へのドローン攻撃がフィクションでないことが明らかになっており、⑫のように、高性能な検知システムや上空を常時監視するカメラ網・侵入物体を無力化する技術導入等の物理的防護措置を急ぐべきと言われている中で、私は、「そもそも原発を守ることは可能なのか」「稼働中の原発の横に使用済核燃料プールを設置して大量の使用済核燃料を保管している原発の設計は、危機管理上甘すぎ、設計思想が平時前提で有事対応が欠落している」と思うのだ。 つまり、原発は爆発すれば国家の存続を脅かすほどの損害を与える電源であるため、思考停止に陥るのではなく、「原発は防衛不能」という前提に立った安全保障政策を立てるべきであり、その点でも、分散型電源(再エネ+蓄電池+地域マイクログリッド)への転換が戦略的にも合理的なのである。 ロ)原発事故時の屋内退避とケア人材の確保 *3-2-2は、屋内退避の基本的な考え方として、「屋内退避は原子力災害時に比較的容易に実施できる有効な防護措置の1つ」「避難による健康リスクが高い住民(高齢者など)は、避難よりも屋内退避が優先される場合がある」等としている。 そして、フィルターを設置した吸入装置を使って建屋内部に空気を送り込んで陽圧化した建屋なら内部被曝線量を屋外滞在時と比べて99%低減できるが、陽圧化せず自然換気する建物なら屋外滞在時と比較して3割程度の低減に留まり、佐賀県発行の「原子力防災のてびき」は「木造家屋で内部被曝を1/4程度に抑えることができる」と記載しているものの、内閣府の『原子力災害発生時の防護措置-放射線防護対策が講じられた施設等への屋内退避について』は5割程度の総被曝線量低減と記載しているのだそうだ。 しかし、フィルターを設置した吸入装置で建屋内部に空気を送り込んで陽圧化した密閉できる建物でなければ、屋外と同じ線量になるのは時間の問題にすぎず、屋外はすぐ汚染されて超長期間使用できなくなるのだから、これ以上、原発関連施設に金を使うこと自体が無駄であり、早々に原発を廃炉にして使用済核燃料の始末をしなければならないことは明らかである。 そのような中、*3-2-1は、①松江赤十字病院と福島県立医大の調査で、原発事故時の人材確保が課題 ②原発事故時は保育園・学校が閉鎖され、育児中の職員が出勤できないため、出勤率は5割程度 ③通常医療維持は困難で、外来・検査・手術は停止して入院患者のケアに集中する休日態勢 ④放射線防護施設に留まるには職員の確保が前提だが、家族の安全が守られなければ出勤できないため、屋内退避が機能しない恐れ ⑤空間線量率・被曝リスクに関する情報の信頼性に疑問を持つ職員も多い ⑥研修・訓練への参加意欲は高く、住民避難や被曝防護を学びたいという声もあって使命感・前向きな姿勢も ⑦全国の原発立地病院でBCP(事業継続計画)策定が進まず、松江赤十字病院の取り組みに注目 としている。 松江赤十字病院と福島県立医大では、①②③のように、原発事故時には保育園や学校が閉鎖されるため、育児中の職員が出勤できなくなって出勤率が5割程度に減り、通常医療の維持が困難になるそうだ。確かに、これらの病院が鉄筋コンクリート造りで陽圧化されていたとしても、保育園・学校・介護施設等の建物が陽圧化されていなければ、⑥のように、知識の獲得に前向きで使命感のある職員でも、家族のケアをしつつ速やかにその場から脱出したいのが本音だろう。 そうなると、④のように、放射線防護施設である病院も、職員の確保ができないという理由で屋内退避が機能せず、⑤のように、非科学的で甘すぎる想定を積み重ねてきた行政や電力会社が公表する空間線量率・被曝リスクに関する情報の信頼性に疑問が多いのも、病院の職員であれば当然のことなのである。 従って、⑦のように、全国の原発立地病院でBCP(事業継続計画)策定が進まず、松江赤十字病院の取り組みに注目するのは良いが、結論としては、やはり原発にこれ以上投資をするのは全体から見て無駄以外の何ものでもなく、そんな金があるのなら再エネ普及や教育・福祉に使った方が余程良いのである。 (6)金をつぎ込んでも機能しない防衛 1)国際連合憲章における敵国条項の削除について *4-3は、①日本は冷戦終結直後の1990年に国連憲章に残る「旧敵国条項」の削除を米国に打診した ②中山外相が日本の国際的地位向上と安保理常任理事国入りを意識して駐米大使に、米大統領から提起させるよう指示 ③国連憲章の旧敵国条項(第53条・第107条)は日本・ドイツ等の第2次大戦敗戦国に対する制限を定めたもの ④米側は理解を示しつつもドイツ統一・国連憲章全体の見直しへの懸念から提案を受け流した ⑤日本政府は現在も「憲章改正の機が熟した時に安保理改革と併せて求めていく」との立場を維持 ⑥旧敵国条項は今も残っている ⑦53条は、「旧敵国の『侵略政策の再現』に備える地域的国際機構の強制行動には安全保障理事会の許可を不要」とする ⑧107条は、「旧敵国が第2次大戦の結果として受け入れたことは国連憲章に優先」とする ⑨米側は日本の国際貢献を進める点で理解できるとしつつ、ドイツ統一の行方が見えないことや国連憲章の全面見直し論が出る懸念を示して受け流した 等としている。 まず、1945年6月26日にサン・フランシスコで署名され、同年10月24日に発効した国際連合憲章(https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/unch.htm)は、前文で「連合国の人民は一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権・人間の尊厳と価値・男女・大小各国の同権に関する信念をあらためて確認し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進することと、このために寛容を実行し、善良な隣人として平和に生活し、国際平和と安全を維持するために、国際連合憲章に同意して国際連合を設ける」としている。 従って、国際連合憲章(以下“国連憲章”)は、戦勝国である連合国の人民を主体として基本的人権・人間の尊厳と価値・男女・大小各国の同権に関する信念を追求する前提になっているが、国際連合成立から80年後の現在の状況は当時とはかなり異なっており、制度疲労している。 そして、国連憲章の第53条(地域的取極)と第107条(敵国に関する行動)は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国を「敵国」と定義し、敵国に対しては国際連合憲章に基づかない特別な措置(制裁対象になり得る)を認めているのだ。 しかし、日本を「敵国」としながら「同盟国」としてGDP比5%の防衛費を求めて軍事負担増加を強く要求するのは矛盾が大きく、公平・公正でもないため、まず、現状に合わせて敵国条項を削除し、それを「前提条件」として同盟国の応分の軍事的負担をすべきだと考える。 もちろん、日本国憲法上の制約や財政上の問題はあるが、防衛費増額等は国際的な制度的対等性が担保された上で段階的に進めなければ、筋が通らず危険極まりないため、とても国民の賛成は得られないからである。 なお、国連憲章改正は、国連総会における加盟国の2/3以上の賛成と常任理事国(米・英・仏・中・露)全部を含む加盟国の2/3による批准が必要だが、常任理事国は拒否権を持つため1国でも反対すれば改正は不可能である。そのため、これまで日本やドイツ等が敵国条項の削除を求めてきたが、常任理事国中に削除に消極的な国があって改正できなかった経緯があるのだ。 しかし、第2次世界大戦直後の状況と力関係を引きずったまま21世紀の状況に対応することはできないため、私は、現在の国際連合が硬直している以上、新しい国際組織を作るのが良いと思う。そして、新組織の代表は、i)人口1億人に1名(日本は約1.25億人で1名)出す ii)小国も最低1名を保障(人口1億未満でも1票)する iii)地域ブロック(アフリカ・アジア・欧州など)毎に人口比例による代表を出す とし、iv)既存の国連加盟国は新組織に加盟する際に旧組織を脱退することとし v)新組織は、旧敵国条項のような差別的制度や拒否権を廃止し、人口比議会と国家単位議会の二院制で意思決定する という方法しか解決策はないと思う。 このような中、*4-4は、⑩自民党と日本維新の会の党首が連立政権合意書に署名 ⑪維新が連立の「絶対条件」に掲げる衆院議員定数削減は「1割を目標に削減し、臨時国会に議員立法案を提出して成立を目指す」と記載 ⑫企業・団体献金は「高市早苗総裁の任期中に結論を得る」 ⑬ガソリン税の暫定税率廃止法案は臨時国会で、維新の看板政策「副首都」導入法案は来年の通常国会で成立させると明記 ⑭食料品の消費税率は2年間0も視野に法制化の検討を行う ⑮憲法9条改正と緊急事態条項創設に向け、両党の条文起草協議会を設置との文言も としている。 このうち、⑩の自民党・日本維新の会党首の連立政権合意書に署名によって、高市早苗氏が日本で最初の女性首相になられたのは良いことであろう。 また、⑬のガソリン税の暫定税率廃止はやるべきことであるため、臨時国会で法案を成立させるのが良いと思うが、大阪を「副首都」にする法案は、「副首都」がいくつかあっても良いかもしれないが、その前に、大震災がいつ起こるかわからない東京への一極集中を速やかに回避すべく、首都移転法案を通常国会で成立させるべきである。 また、⑪の維新が掲げる衆院議員定数削減は、1割削減して約419人(465人×0.9)にしてもよいと思うが、それなら臨時国会に、都道府県毎の小選挙区選出衆議院議員を「1人以上10人以下」と規定する公職選挙法改正案を議員立法で提出して成立を目指すべきである。何故なら、そうすれば、「人口のみが投票価値である」という価値観で算出された都市部の過剰な議員数を減らすことができ、人口の少ない県でも最低1人は代表を出すことができるからだ。 そうやって、現行10人以上の小選挙区議員がいる都道府県(東京・神奈川・大阪等)を10人までに抑えると、約60人減少して小選挙区の新定数が229人(289人− 60人)になる。そのため、比例代表の新定数を現行の176人から190人(総定数419人−小選挙区選出229人)に増やすことが可能だ。 そうすれば、北海道・東北・北陸・四国・九州等の人口密度は低いが、農林水産業やエネルギーを産出している地域の代表を一定数は確保することができ、さらに政党の主張を反映する比例代表を増やすこともできるため、日本の横断的な課題を反映したり、少数政党の政策を埋もれさせずに済んだりする。 また、私は、⑭の食料品の消費税率0は2年間では足りず、永久にすべきだと考えているが、そのためには、複式簿記による公会計制度を国に導入し、毎年、省庁間を問わず網羅的に歳出項目や歳出額の妥当性を検証し、時代のニーズに合わせて誰もが納得する合理的な形で歳出項目や歳出額を変化させられるようにすべきなのである。 なお、⑫の企業・団体献金については、私は、開示義務を課して正確な監査をすれば、透明性が確保されるため、利益誘導型の政策と政治献金との関係は自然と浮き彫りになり、浮き彫りになった時点で追求すれば良いと思っていたが、それでは遅いと言うのだろうか。 最後に、⑮の憲法9条改正と緊急事態条項創設に関しては両党とも積極的だが、武器を買えば戦ができるわけでは決してないため、国際連合における日本の位置付け・日本の食料自給率・エネルギー自給率・原発のリスク等を総合的に考えて、危機管理上の想定外をなくし、楽観的すぎない結論を出すべきである。 2)防衛費の大幅引き上げ要求について *4-1は、①米国防総省の報道官パーネル氏が、日本を含むアジアの同盟国に対し、「防衛費をGDP比5%に引き上げる必要がある」「アジア太平洋の同盟国が欧州のペースと水準に追いつくよう迅速に行動するのは当然」「中国や北朝鮮に対抗するため、日本もNATO加盟国が検討する「5%目標」に足並みを揃えるべき」と述べた ②NATOは従来の防衛費3.5%に加え、軍用道路改修等の防衛関連費1.5%を加えた「5%目標」を検討中 ③日本政府は2027年度までに、防衛費を含む安全保障関連費を2022年度GDP比で約1.8%から2%に引き上げる計画 ④英紙FTは、「米政権が日本に対し、防衛支出をGDP比3.5%に引き上げるよう求めた」と報道 ⑤日本側は反発し、日米安全保障協議(2プラス2)開催を見送り ⑥日本政府高官は「日本だけが要求されない筈はない」と警戒 と記載している。 それに加えて、*4-2は、⑦米国防総省は日本の防衛費増額の取り組みに強く不満 ⑧韓国、オーストラリア、ドイツ、カナダなど他の同盟国と比べて対応が鈍い ⑨日本政府が憲法上の制約を理由に防衛力強化を限定していることを、「安全保障環境の悪化を憂慮してきたのに矛盾」と批判 ⑩ウィルソン報道官は「欧州だけでなくインド太平洋地域でも多くの同盟国が防衛費を増やし、勇気づけられている」と述べた ⑪トランプ政権が高水準の軍備増強を要求するのは、中国による台湾侵攻の懸念と、米国だけでは力の均衡と抑止力を維持できないから ⑫米国防総省当局者は日本に対し「自国防衛や集団的自衛権に自らの役割を果たすよう期待するのは一過性の要請ではなく、米国は他の全ての国々と同じく日本を扱うという一般的シフトが起きている」と述べた 等としている。 このうち、⑪⑫のように、中国による台湾侵攻の懸念があり、米国だけでは力の均衡と抑止力を維持できなくなったため、米国防総省が日本に対して「自国防衛や集団的自衛権に自らの役割を果たすよう期待する」と言うのは理解できる。 しかし、⑧⑩のように、ウィルソン報道官が「勇気づけられている」とする欧州・インド太平洋地域で多くの同盟国が防衛費を増やしているというのも、ドイツ以外は「敵国条項」に該当しない国なのである。そのため、米国が他の全ての国々と同じように日本を扱うと言うのなら、まず国連憲章を改正して「敵国条項」をなくすべきだし、常任理事国の拒否権にも一定の制限を加えるべきである。 米国の占領下で制定された日本国憲法は、9条で「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を明記し、軍隊を持たないとしたことで、日本における当時の軍国主義を壊滅させ、平和国家の「理念」によって国際的評価を得るのに大きな役割を果たした。しかし、現在では、⑦⑨のように、米国は憲法9条による制約を理由とする日本の防衛費増額の取り組みに不満で、「安全保障環境の悪化を憂慮してきたことと矛盾する」としているわけである。 では、憲法を改正して「普通の国」になれば良いかと言えば、日本が本当に市民の人権を尊重する専守防衛の国になっていれば憲法を改正しても問題ないのだが、社会保障を削ることに専念し、物価を上昇させて国民を貧しくしながら、政府の政策は正しかったと主張し、国民から選ばれた政治家をまるで繰り人形ででもあるかのように扱い、政治家もそれに満足する人が多くなっている現状から見て、民主主義や人権尊重が日本国民に本当に根付いているとは思えない。 そのため、①③については、②のNATO諸国に習って従来の防衛費2%に加え、軍用道路改修・食料自給率向上・エネルギー自給率向上等の防衛に必要な関連費も加えて5~10年後に5%目標を達成し、その間に、ドイツ・イタリアなど旧敵国と連携して、必ず国際連合における位置付けを「普通の国」にすれば良いと考える。 英紙FTは、④⑤のように、「米政権が日本に対し、防衛支出をGDP比3.5%に引き上げるよう求めた」と報道し、日本側は反発して日米安全保障協議(2プラス2)開催を見送ったそうだが、道路改修・食料自給率向上・エネルギー自給率向上などは、米国から言われなくても必要なことであるため、農水省の農業予算・経産省のエネルギー予算・国交省の道路整備予算を防衛予算に振り替えて達成すれば、国民負担は増えない筈である。 従って、⑥の日本政府高官の「日本だけが要求されない筈はない」というまるで他人事のような発言も、関連予算を防衛費に振り替えれば、国民負担を増やさず達成できるわけである。 <再エネ・AI・農業の親和性> *1-1-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/330867 (日本農業新聞 2025年9月9日) 光通す太陽電池の下でブドウ栽培 山梨県が世界初 夜間LEDで着色改善 次世代型太陽電池と呼ばれる「有機薄膜太陽電池」を活用した世界初のブドウ栽培の実証試験を山梨県が始めた。光を通し、薄くて曲がる電池の特徴を生かし、県が育成した赤系ブドウ「サンシャインレッド」を栽培するハウスの屋根に設置。発電した電力を使って夜間にブドウを発光ダイオード(LED)ライトで照らして着色を向上させる。実証試験は、公立諏訪東京理科大学(長野県茅野市)と共同で行う。県果樹試験場の簡易雨よけハウスの屋根に有機薄膜太陽電池(1枚=30センチ×100センチ)を20枚設置。透明度が高いため、ブドウが光合成で成長できる。発電で得た電力をLEDライトの点灯に使い、果房の下側から光を当て、生育や色づきを慣行栽培などのブドウと比較する。有機薄膜太陽電池に色を似せた疑似フィルムを設置した試験区も用意した。LEDライトは夜間(午後8時~午前4時)に照射し、太陽電池が1日に得る電力で4日間ほど稼働する。これまでの試験では、着色は「有機薄膜+LED」の試験区が最もよく、生育に違いは見られなかった。2024年度に本格出荷が始まった「サンシャインレッド」は、「シャインマスカット」と「サニードルチェ」を交雑して育成。“赤系シャイン”として期待が高まる一方、「果房に直接、日光が当たらないと着色が進まない特性があり、管理が難しい」(県果樹試験場)との課題が指摘されていた。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250910&ng=DGKKZO91226950Z00C25A9EP0000 (日経新聞 2025.9.10) 経産省、曲がる太陽電池に246億円 リコーやパナHDの開発支援 経済産業省は薄くて曲がる「ペロブスカイト太陽電池」の研究開発を支援する。リコーやパナソニックホールディングス(HD)、京都大発スタートアップの技術開発や実証への246億円の補助を近く発表する。量産規模は1ギガワット弱に及ぶ。2030年をめどに量産を促す。ペロブスカイトは日本発の技術で、原材料も国内で調達できる。従来の太陽光パネルは大半が中国製だ。政府は経済安全保障や産業競争力を強化する観点から、ペロブスカイトの普及支援に力を入れる。屋根や窓ガラスなどに設置しやすい。脱炭素向けの「グリーンイノベーション基金」を通じて、リコーなど3社を25年度から5年間支援する。支援額の246億円は研究や実証総額のおよそ3分の2に相当する。リコーはインクジェット印刷技術を使って薄型ガラスに発電層などを作り、低コストで量産する技術開発を進める。大和ハウス工業などと屋根への設置も実証する。パナソニックHDは窓ガラスなど建材一体型の電池を開発する。京大発スタートアップのエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)は、幅広い企業とフィルム設置の実証をする。KDDIとは基地局、YKKAPとは窓ガラスへの設置を検証する。トヨタ自動車とも協力する。 *1-1-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/331976 (日本農業新聞 2025年9月13日) フィルム型の太陽電池、環境省が補助 JA・法人も対象 環境省は、建物の壁面や窓ガラスなどに貼り付けて発電できる「ペロブスカイト太陽電池」の導入を支援する。同電池は、耐荷重や形状の問題で従来型の太陽光パネルには不向きだった牛舎や施設園芸のハウスなどにも設置できる。個人農家は支援の対象にならないが、農業法人やJAなどは対象。農業分野をはじめ、さまざまな施設・建物での太陽光発電導入を後押しし、温室効果ガスの排出削減につなげる。同電池は「次世代型太陽電池」として近年開発・実証が進む。フィルム型で軽く、折り曲げられるのが特徴。発電効率が向上し、従来型の太陽光パネルに匹敵する発電が可能になるとみられている。同省は、同電池を設置する民間企業や地方公共団体、学校法人や社会福祉法人などに補助する。1事業当たり10億円を上限に、設置にかかる費用の3分の2を補助する。地域防災計画に位置付けられた施設など、条件を満たせば補助率を4分の3に引き上げる。2022年度の二酸化炭素(CO2)排出量が20万トン未満の法人、中小企業は、温室効果ガスの排出削減の25年度までの実績や26年度以降の計画を提出する必要がある。設置には(1)設置場所の耐荷重が1平方メートル当たり10キロ以下相当(2)発電容量が1施設当たり5キロワット以上(3)電気を使う需要地と近接し、50%以上の自家消費率があること--などの条件がある。交付決定後に設置するものが対象で、既に設置しているものは申請できない。26年2月末日までに工事を完了するのが原則だ。同電池の農業現場での導入事例は少ないが、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に使う実証を進める自治体もある。同省は「牛舎やJA施設など、これまで設置できなかった場所でも使える可能性は十分にある」と導入の広がりを期待する。10月3日まで対象事業者を公募している。 *1-2-1:https://mainichi.jp/articles/20250317/k00/00m/040/024000c (毎日新聞 2025/3/17) 注目の「スマート農業」 農家が実感したAI導入の「効果」とは 人工知能(AI)やITを活用して農作業を効率化・省力化する「スマート農業」が注目されている。宇都宮農業協同組合(JAうつのみや)も今年度からAIを活用した「栽培管理支援システム」を導入し、組合員向けの営農指導に活用を始めるとともに、同システムに対応する農業機械の購入費を補助する事業も始めている。スマート農業が注目される背景や、これからの農業はどう変わるのかを取材した。 ●肥料削減/成育の「時期」誤らず 「夏の異常な高温も(AIによる)成育予測機能のおかげで収量も品質も落とさずに乗り切れた。必要な肥料の量が正確に分かるので無駄が減り、コストも削減できた。これからの農家にとって、情報は武器です」。昨年12月にJAうつのみやが開催したスマート農業の実演展示会。約80人の組合員を前に、埼玉県でコメを生産している小倉祐一さん(44)が、そう強調した。小倉さんは埼玉県加須市でコメや小麦を生産する農家。2017年に法人化し、「株式会社おぐらライス」の代表を務める。小倉さんは一昨年から「ザルビオ」という栽培管理支援システムを導入してスマート農業を実践。早くも成果を上げていることから、同JAが実演展示会の参加者向けに講演を依頼した。ザルビオは、人工衛星が撮影した農地の上空写真を基に、AIで作物の成育状況などを監視・分析し、土がやせている地点や肥沃(ひよく)な地点を探し出し、パソコンなどに画像で表示してくれる。そのデータを最新鋭の田植え機やドローンなどに取り込めば、肥料を必要な地点に必要なだけ散布(施肥)することもできる。当初、小倉さんは「化学肥料の使いすぎを避け、コスト削減につながれば」と考え、同システムを導入した。しかし、思わぬ「収穫」があった。毎日の気温や降水量などのデータから成育を予測する機能のおかげで、タイミングを誤らずに穂肥(ほごえ)(もみを充実させるために出穂直前に行う追肥)ができたのだ。また、AIは病害や害虫の発生時期も予測する。昨年はカメムシの大量発生が問題になったが、適切な時期に防除が行えたため、被害を最小限に抑えたという。小倉さんは「異常気象になると今までの経験や勘が役に立たないが、AIのおかげで昨年の異常な高温にも対応できた。栽培経験のない新しい品種に挑戦する時にも、システムで得られるさまざまな栽培情報が役立った」と振り返った。会場では栽培管理支援システムのデモ展示や、システムと連携したドローンや田植え機など、最新の農業機械の展示や試乗も行われ、来場者が興味深そうに見て回っていた。宇都宮市の農業、樋口克之さん(55)は「栽培管理支援システムはぜひ使ってみたい。コメ作りは年間を通して作業が多く、やり忘れたり、タイミングを逃したりすることもある。費用はかかっても、作業の負担が軽くなるのは大きな魅力だ」と話した。イベントを企画したJAうつのみやの須藤政治・米麦課長は「こうした新しいシステムの利点を多くの農家に知ってほしいと思い企画した。農業従事者が減り、大規模化が進む中、親世代の長年の勘や経験を、見える化・データ化してくれるシステムは、後継者にとっても、新たな就農者とっても大きな助けになる」と期待を寄せている。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250912&ng=DGKKZO91279950R10C25A9EA1000 (日経新聞社説 2025.9.12) 少雨前提とした渇水対策を 今夏は猛暑と少雨が続き、各地で深刻な水不足に陥った。国土交通省は8年ぶりに渇水対策本部を設け、節水を呼びかけている。日本は雨量は多いが、急勾配の河川が多く、すぐに海に流れてしまう。国民1人が利用できる水資源の量は世界平均の半分以下だ。地球温暖化の影響で、極端な少雨に見舞われる地域が増えるとされる。雨頼みではなく、将来を見越して対策を急ぐ必要がある。岩手県の御所ダムや宮城県の鳴子ダムなどが一時、貯水率0%になった。その後、9月にかけてまとまった雨が降って渇水の心配が解消された地域もある一方で、貯水率が平年を大きく下回っているダムも依然として多い。まずは収穫期を迎える農業への支援を急がねばならない。宮城県や京都府、兵庫県などが補正予算案を編成した。農林水産省は水の反復利用や井戸水の活用を呼びかけ、機器の購入費を補助する。中長期でみれば、水の有効利用が欠かせない。福岡市は1978年に大渇水を経験し、対策を強めた。節水型の蛇口や便器が普及し、商業施設などでは下水の再生や雨水の利用が広がった。1人あたりの使用量は政令市で最少だ。水道管の老朽化対策も効果が高い。福岡市は計画的に検査・補修することで、漏水率を低く抑えている。こうした取り組みを全国に広げるのが望ましい。産業界は工場廃水の再生利用を進める必要がある。化学や製鉄、輸送機器では再利用率が8割を超すが、紙・パルプや食品は遅れている。政府や自治体は設備導入を税制面などで後押しすべきだ。水使用量の3分の2を占める農業の取り組みが重要になる。水をはらないコメづくりが一部で始まった。水田から出る温暖化ガスを減らす効果も期待できる。ITで制御された植物工場は水の消費を抑えられる。政府は検証を進め、普及策を考えるべきだ。水をふんだんに使える時代はいずれ終わる。可能な対策から始め、対応力を高めていきたい。 *1-2-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/331964 (日本農業新聞 2025年9月12日) 食通じ健康に 医療との新事業探る アグラボが都内で催し JAグループのアグベンチャーラボ(アグラボ)は11日夜、医療分野と食・農分野の共同事業創出の可能性を探るイベントを東京都内で開いた。必要な栄養素をバランスよく摂取できるフリーズドライみそ汁の開発や、経口ワクチンを稲から製造する研究など、食を通じた健康維持につながる取り組みを発信した。オンラインも併用し、約200人が参加した。千葉大学未来医療教育研究機構の清野宏・卓越教授は、稲にワクチン抗原遺伝子を導入し、経口ワクチンを製造できることを紹介。収穫した米を粉末にし、水に溶かして摂取する。既存のワクチンと比べ冷蔵や冷凍が不要であることや、長期保存が可能だとした。清野氏は「食で感染症から守れる社会をつくりたい」と話した。ミソベーション(東京都中央区)は、みそ汁で健康を支える。1食に必要な栄養素を摂取できる「完全栄養食」のみそ汁をフリーズドライで販売。斉藤悠斗代表は「日本の食文化を守り健康を支える」と語った。アグラボの荻野浩輝理事長は「JAグループには病院もある。食と農だけではなく、医療、健康分野でも新しいことができることに期待したい」と述べた。イベントは、東京都のスタートアップ(新興企業)支援事業の一環。三井不動産などが設立したライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(東京都中央区)と共催した。 *1-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC281LL0Y5A820C2000000/ (日経新聞 2025年9月16日) 埼玉県経営者協会会長「競争力向上、人材が重要」 米関税の影響注視 埼玉県経営者協会の橋元健会長(キヤノン電子社長)は日本経済新聞の取材に対し、県内企業の競争力向上について「人材が何より重要で、協会として行政や大学と連携を深めたい」と述べた。橋元氏は5月に会長に就任。トランプ米政権の関税政策を巡っては「中小企業への影響を注視している」とした。主なやりとりは以下の通り。 ―埼玉県内企業の現状をどうとらえていますか。 「企業の業況は緩やかに持ち直しつつあるとみている。省力化などが目的の設備投資にも前向きだ。もっとも先行きに関しては、米国の関税政策を受けて不透明感もある。最大の課題は人手不足で、約5割の企業が正社員が不足していると感じている。協会としても行政や関係機関と連携して対応していきたい」 ―人手不足対策に向けてどのような取り組みが必要でしょうか。 「省力化投資は大事だが、それだけでは補えない分野も残る。女性や高齢者が活躍できる環境を整える必要がある。配偶者の転勤などの事情で退職した女性を再雇用するなどの取り組みは一案だ。定年年齢に達したシニアの活用も有効と考える。新たな人材活躍につながる情報をしっかりと提供していきたい」「外国人の雇用も選択肢の一つだ。経営者協会は夏にベトナムを視察し、日本で働くことを望む人たちへの教育を手掛ける機関を訪問した。インドの理系人材活用に向けたセミナーも実施した。こうした取り組みを県内企業に紹介し、企業と外国人材のマッチングにつながることを期待したい」 ―人手不足が深刻化するなかで、人材が東京に流出するリスクも抱えています。 「県内の大学と連携を強化したい。たとえば県内企業に就職することを条件に奨学金の返済条件を緩和する制度の創設というアイデアもある。県が7月に開設したイノベーション創出拠点『渋沢MIX』(さいたま市)などとも連携してイノベーションを生み出す人材の育成にも協力していきたい」 ―いわゆるトランプ税制の影響をどうみていますか。 「影響はこれから出てくるだろう。埼玉県は大手自動車メーカーに部品などを納入する企業が多い。完成車メーカーが価格競争力維持を目指し、コストを引き下げるために納入先への値下げ要求などが広がることを警戒している。米国の物価が上昇して景気が悪化した場合は、中小企業への要求がより厳しくなる負のスパイラルに陥る恐れもある」「経営者協会は事務方トップが企業を訪問して影響を聞き取る取り組みを始めた。企業の間では資金支援などへの要望が強い。県や国に対してこうした実情を伝え、必要な対策を速やかに打ち出すよう求めていきたい」 *1-2-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA041X30U5A800C2000000/ (日経新聞 2025年8月15日) アフリカでAI人材3万人育成 政府と東大松尾研、製造業・農業DX支援 政府はアフリカで人工知能(AI)分野の人材育成に乗り出す。東京大学の松尾豊教授の研究室(松尾研)と協力し、アフリカの学生がAI活用を学ぶ講座を提供する。3年間で3万人を育成し、製造業や農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を後押しする。現地の産業や雇用の創出を支援し、日本企業の市場開拓や人材獲得にもつなげる。20日から横浜市で開く第9回アフリカ開発会議(TICAD9)にあわせて支援策を打ち出す。2028年に予定するTICAD10までに教育と就職・起業支援の体制を整備する。アフリカ全域で20〜30校の大学を選定し、松尾研がAI講座を実施する。学生はビッグデータの扱い方やビジネスでのAI活用のスキルを学ぶ。3年間でDXやデータサイエンス分野を担う人材3万人の育成を目指し、日本企業との連携や人材交流も進める。アフリカ各国ではAI関連の人材が不足しており、研究開発などの投資も限られる。製造、流通、農業の3つを重点分野とし、AI活用の担い手を増やして事業の創出や効率化を図る。 日本政府が国連開発計画(UNDP)などに資金提供し、AI講座を受けた学生の起業や新規事業の立ち上げを支援する。アフリカ企業やアフリカで事業展開する日本企業への採用を促し、AIに精通した人材が欧米や中国企業に流出するのを抑える。日系企業とアフリカのスタートアップのマッチングなどを支援する枠組み「日本アフリカ産業共創イニシアティブ」(JACCI)を活用する。人材育成と事業創出の両面に関わることで、日本のAIシステムや関連サービスをアフリカ市場に広める狙いもある。政府はUNDPとJACCIに計3億円を拠出している。アフリカの若者が欧米などに留学してAIスキルを身につけても、母国に働き口がないため外国に残って就職する例が多い。受講生が地元で活躍できるビジネス環境を整え、人材を定着させる。松尾教授は日本のAI研究の第一人者。松尾研はAIの基礎やディープラーニング(深層学習)、マーケティング利用などテーマ別に複数の講座を設けており、日本国内の受講生は25年度に7万人ほどに達する見込み。受講生と企業との共同研究や起業支援も手がけ、同研究室発のスタートアップは25年6月時点で35社にのぼる。7月にはアフリカで初めて2日間の集中講義を南アフリカのケープタウン大学で実施した。東南アジアでもマレーシア工科大学などで講義の実績があり、ベトナムやタイなど東南アジア諸国連合(ASEAN)各国での開講も予定する。通信関連の業界団体、英GSMAはAIの活用によってアフリカの経済成長は30年までに2兆9000億ドル(約430兆円)押し上げられると予測する。アフリカのAI市場は足元で世界の2.5%にとどまるが、スマートフォンの普及により市場が急拡大するとみる。 *1-3-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/331127 (日本農業新聞 2025年9月9日) 安価提供の仕組み議論を 備蓄米で農相 回転備蓄を提起 小泉進次郎農相は9日の閣議後記者会見で、政府備蓄米制度を巡り、一定量を主食用米として消費者に安く提供できる仕組みの創設を「議論しなければいけない」と述べた。ただ、実現すれば不作や災害など不測の事態だけでなく、日常的に備蓄米が市場に出回る可能性があり、主食用米の価格や売れ行きへの影響が懸念される。小泉農相は会見で、「備蓄米の政策全般を見直す必要がある」と明言。2027年度からの新たな水田政策の在り方を検討するのに合わせて、備蓄米制度の在り方も議論する必要があるとした。備蓄米は元々、保管後に主食用に販売する「回転備蓄」方式をとっていた。一方で、11年度からは、原則5年間の保管後に非主食用に販売し、主食用米の需給に影響を与えない「棚上げ備蓄」方式に転換された。小泉農相は、生活が苦しい消費者などに一定量を主食用として販売することも「選択肢」だと強調。この仕組みについて「回転備蓄みたいな発想」とも述べた。会見では、主食用米の需給動向を測る指標となる来年6月末の民間在庫量が、直近10年で最多の15年の226万トンに「匹敵する水準になる」可能性に言及した。産地への作付け意向調査で、全国で生産量が前年産から56万トン増える見通しであることなどを踏まえた。「(米の)価格は落ち着くのが普通」とした。一方で、備蓄米の買い戻しについては「準備を始めるという局面にない」と述べた。 *1-3-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/330593 (日本農業新聞 2025年9月7日) 需要予測→仕入れ最適化 AIで食品ロス削減へ 複数業界へ横展開狙う 栃木県 栃木県は、事業系の食品ロス削減に向け、人工知能(AI)を活用した実証事業を行っている。これまでに食品ロスが発生しやすい宿泊、卸売り・小売り、製造の各業界で実施し、効果を確認。本年度は外食産業で実証し、幅広い企業に横展開していく。国内の食品ロス(2023年度推計)は464万トンで、家庭系と事業系の比率は半々。一方、同県では12・4万トンのうち、事業系が61%を占める。県は30年度までに食品ロスを9・9万トンに減らす計画を立て、事業者向けの施策を進めてきた。22年度は宇都宮市と日光市の宿泊施設を対象に、朝・夕食で発生する食品ロス削減に挑んだ。AIで過去の顧客データや天候を加味して需要を予測し、仕入れ量を最適化。少量メニューの導入などにも取り組んだ。23年度は、宇都宮市の福田屋百貨店が実証に協力。在庫管理の自動化、気象情報と全国のスーパーの販売時点情報管理(POS)データを組み合わせた商品別の需要予測を試験。値引きや廃棄商品が減少し、一定の効果を得た。24年度は、氷菓やアイスを製造するフタバ食品で実証。AIによる需要予測で実際の出荷数との誤差が17%改善した他、年間に約180万円の物流コストを削減できることを確認した。本年度は宇都宮市内に複数の飲食店を構える(株)宮食で実証事業を行う。AI予測の精度や経営改善効果を高めるため、NTT東日本や中小企業診断士らが協力。県は本年度までの成果を生かし、マニュアルを整備する。システム導入の補助金や支援体制も周知し、「食品ロスが生じる幅広い業界に事業を横展開したい」(資源循環推進課)としている。 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250919&ng=DGKKZO91409150Z10C25A9CT0000 (日経新聞 2025.9.19) ため池工事で氾濫リスク、廃止・老朽化対策、5県23カ所で不備 検査院指摘 農業用ため池の老朽化や利用減に伴う廃止工事で、大雨による氾濫リスクが各地で生じていることが18日、会計検査院の調査で判明した。近年は局地的豪雨の影響でため池が決壊するケースが相次いでいる。所有者不明などの事情で防災対策が遅れている箇所も多く、早期に実態把握したうえでの安全確保が求められる。検査したのは、2021~24年度に全国14県198カ所で実施された農業用ため池の廃止工事。決壊を防ぐため、堤防を切り開いて新たに水路を整備し既存の水路につなぐことで、雨水を下流に排水する仕組みだ。このうち不備が見つかったのが、福島、兵庫、島根、岡山、山口の5県23カ所(交付金相当額約1億5600万円)。新設した水路の排水できる量が、下流にある既存の水路の最大流量を上回り、安全に排水できない設計になっていた。検査院は「水路の接続部分で水があふれ、下流域に被害を及ぼす恐れがある」と指摘。実際に氾濫などの被害が発生したという報告例はないものの、ため池の廃止工事で確認すべき事項として自治体に示していなかったことが要因とみて、所管する農林水産省に改善を求めた。廃止工事が各地で実施されている背景には、農家の減少や高齢化で管理が行き届かず、設備の老朽化が進んでいる現状がある。農水省によると、全国のため池の7割が江戸時代以前の築造、あるいは年代不明。廃止工事は大雨による決壊リスクを見据えた対応だったにもかかわらず、安全対策の不備が今回の検査で浮き彫りになった。指摘を受け、農水省は今年3月、ため池の廃止工事に関する手引を策定。安全に排水できるか確認するよう明示した。工事を実施済みの場合も周囲の土地の利用状況や人的被害のリスクを踏まえ必要に応じて既存の水路を拡幅するといった改善策を講じるよう都道府県などに通知した。農業用ため池は西日本の降水量が比較的少ない地域に多い。全国約15万カ所のうち、最多の約2万カ所が集まる兵庫県の担当者は「各市町とも連携して国の方針に沿った対応を取っていきたい」と話す。農水省によると、18年の西日本豪雨では6府県32カ所で決壊し、広島県福山市で女児(当時3)が犠牲になった。同年のため池の被害は全国約1700カ所に及んだ。西日本豪雨を教訓に、近くに住宅や公共施設があり行政が優先的に対策を進める「防災重点ため池」について、国は具体的な指定基準を新設。改めて各地のため池の防災リスクを見直し、補強や廃止を急ぐよう自治体に求めた。それでも対策は十分に進んでおらず、西日本豪雨後も被害数は毎年500カ所前後で推移。今年8月に九州や北陸を襲った記録的な大雨では山口や福岡で決壊が相次いだ。総務省が24年6月に公表した11府県への調査結果によると、22年度末時点で工事が要ると判断された約1万カ所の防災重点ため池のうち、30年度までに工事の着手を予定しているのは2割にとどまった。対策を阻む要因の一つが、所有者不明の場合の対応の難しさだ。23年12月時点でため池の所有者は集落や個人、自治体が大半を占める一方、「不明」は15%あった。19年施行の農業用ため池管理保全法は、決壊時の被害が大きいとみられるため池の所有者が判明しない場合、都道府県が防災工事を代執行したり、市町村が管理権を取得したりできると規定した。だが総務省は調査報告書の中で、11府県で代執行の実施が確認できておらず、防災工事の着手が困難なケースもみられると指摘。所有者不明の場合の対応事例を収集し、自治体に情報提供するなど必要な支援をするよう農水省に求めた。農水省の担当者は「規模の大きい豪雨災害が増えるなか、老朽化が進むため池の防災対策の重要性はより高まっている。自治体への支援策を続けながら、安全性の確保を一層進めていく」と話している。 *1-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1531N0V11C24A0000000/ (日経新聞 2024年10月23日) コメの値段、国際価格は大幅安 アジアのインフレを抑制 コメの国際価格が急落している。国際指標となるタイ産米の輸出価格は、直近で1トン529ドルと、1カ月で8%(46ドル)下落した。世界最大の輸出国であるインドが9月末に輸出制限を緩和すると発表したためだ。需要が多い東南アジアやアフリカなどでは、米価の下落でインフレ抑制につながるとの見方がある。17日の週のタイ産米のバンコク輸出価格(FOB=本船渡し、砕米率5%)は1トンあたり529ドル。3日の週には1週間で1割超下落するなど、9月末以降値下がりが顕著だ。1月下旬につけた2008年以来およそ15年ぶりの高値(669ドル)からは21%下がった。背景にあるのは、最大の輸出国であるインドの動きだ。インドは23年7月に「国内の適正なコメ在庫の確保と値上がりの沈静化」のため、高級品種であるバスマティ米以外の白米の輸出禁止を打ち出した。雨による不作のほか輸出の増加もあり、同国内のコメ価格が1年弱で3割超上昇していた。こうした措置をうけ、国際価格(タイ産)は高騰。1月の高値まで100ドル以上も上昇していた。一方で9月末、インド政府は自国の在庫水準が回復していることや新米の収穫も始まることから、14カ月ぶりにバスマティ米以外の白米の輸出を許可すると発表した。一部のコメで輸出関税も引き下げた。供給量の増加や価格競争の激化を見込み、国際価格は大きく下落した。世界の食料事情に詳しい国際農林水産業研究センター(国際農研、茨城県つくば市)の飯山みゆき氏は「インドがコメの国際市況に与える影響は大きい」と話す。米農務省(USDA)によると、22〜23年度のインドのコメ輸出量は2025万トンで、世界全体の37%を占めた。タイやベトナムなどもコメの輸出国として存在感はあるが、割合は1〜2割とインドには及ばない。今年作のコメ生産量が前年より増加する見込みであることも相場を押し下げる材料になりそうだ。USDAによれば、24〜25年度の世界の生産量見通しは、前年度(推測値)と比べて1.7%多い史上最高の5億3044万トン(精米ベース)を見込む。インドでは収穫面積の拡大や雨期に降水量があったことで収穫量が増加し、24〜25年度のコメ生産量は前年度比3%増の1億4200万トンを見込む。タイでも生育が順調で収穫量は前年度比0.5%増の予測だ。コメの需要が大きく、輸入依存度も高いアフリカやアジアの一部では、インフレの緩和につながる期待がある。ナイジェリアやインドネシア、フィリピンなどではコメの輸入量が多い。近年では天候要因などもあり、コメをはじめとする食料品の高騰がインフレの一因となっていた。コメが消費者物価指数(CPI)の9%を占めるフィリピンでは、国内のコメ価格高騰を抑えるため、6月に輸入関税を引き下げると発表した。こうした策もあり、9月のCPIは前年同月比1.9%上昇と、フィリピン中央銀行の目標レンジ(2〜4%)を下回った。フィリピン中央銀行は今月、2回連続で政策金利を0.25%引き下げた。SMBC日興証券の平山広太チーフ新興国エコノミストは「コメの国際価格の下落は今後物価に反映されていく」とした上で、「インフレ抑制の要因になり、家計の実質所得の増加などにつながる」と指摘する。日本には一部に影響が予想される。タイ産米は、泡盛や味噌、米菓など加工品の原材料で使われることが多い。国際価格の下落は、メーカーなど実需者の仕入れコストを下げる可能性がある。一方、「主食用の需給や価格への影響はほぼない」(大手コメ卸)とされる。日本では短粒種と呼ばれる粒が小さいコメが食べられているが、タイ産などは長粒種で種類が異なる。 *1-3-5:https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00017630Q5A910C2000000/ (日経新聞 2025.9.13) 暑さ逆手に秋の実り守る、ひこばえのコメ 気候変動が農作物などの生産に大きな影響を及ぼすなか、生産者らは安定供給のため、栽培方法や品種改良など様々な工夫を凝らす。夏の平均気温が統計開始以来、最も高かった今年。実りの秋を前に暑さを逆手にとった取り組みを追った。猛暑に見舞われた8月中旬、千葉県柏市の水田で一足早い稲刈りが行われた。切り株を育てて再び収穫する「再生二期作」の1回目の刈り取りだ。農家の染谷茂さん(76)が増産を目指し、所有する田んぼの一部で今年初めて挑戦した。「例年より収穫量が見込めそうだ」。染谷さんはコメの出来栄えにほっとした表情。今後は再び水を満たし、11月ごろの2回目の実りを待つ。再生二期作は、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が福岡県内で試験的に取り組んできた。水の確保に課題が残るが、最近の気温上昇により関東でも環境が整う。中野洋主席研究員は「暑さでコメの育成や収穫のスタイルが変わってきた」と指摘する。 <地球温暖化の最中に化石燃料開発!?> *2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC235YS0T20C25A7000000/ (日経新聞 2025年7月23日) 米アラスカLNG、日本企業「相当に慎重な評価が必要」 調達には関心 トランプ米大統領が22日(現地時間)、アラスカ産液化天然ガス(LNG)の開発にむけて日本との間で「合弁事業を立ち上げる計画だ」と表明した。具体的な枠組みは明らかになっていないが、総事業費440億ドル(約6兆4000億円)の巨大事業だ。商社やエネルギー、プラントなど日本企業は収益性などを慎重に見極める。トランプ氏はホワイトハウスでの共和党議員との会合で「合意を結ぶ準備がすでに整っている」と述べ、日本勢の参画に自信をみせた。トランプ氏はアラスカLNGについて、かねて日本勢の参画に期待を示していた。アラスカLNGは年産約2000万トンを計画する。日本のLNG需要の3割に相当する。北極海沿岸で天然ガスを生産し、約1300キロメートル離れたアラスカ州南部へパイプラインで輸送。太平洋側で液化してLNG運搬船で出荷する。トランプ氏の発言が伝わった23日、日本貿易会の安永竜夫会長(三井物産会長)は定例記者会見で、米国でのLNG開発は様々な規制が関係することを理由に、一般論として、「相当に慎重な事業性評価がないと投資判断には至らない」と指摘した。同日、伊藤忠商事は「現時点で関与はない」とコメントした。三菱商事は「情報収集しており、状況を注視する」としている。ある商社の広報担当者は「参画に向けた動きはない」と述べた。プラント大手の千代田化工建設は事業性評価など周辺業務に関心を示す。太田光治社長は「アラスカ州のマイク・ダンリービー知事らと4月に面談した」と明らかにしたうえで、「検討業務については関心がある」とした。国内で最大のLNG調達企業であるJERAの可児行夫会長グローバル最高経営責任者(CEO)は調達に関心を示す。6月の記者会見で「値段がいくらか聞かずには判断できない。その前の段階だ」とした一方で、「実現するなら東京湾まで8日で届く。コンセプトはいい」と語っていた。ただ液化を伴う開発には慎重な姿勢が目立つ。太平洋側に船を着けて出荷するには長距離のパイプライン建設が欠かせない。莫大な建設費の負担を強いられる可能性がある。INPEXの山田大介取締役は5月の決算記者会見で「民間企業が採算を狙ってやれるプロジェクトではないのではないか」と話した。エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は事業の採算性が不透明であることを指摘、「資金調達でリスクが出てくる」と話す。日本エネルギー経済研究所の柳沢崇文研究主幹も総事業費について「足元のインフレ基調や関税の影響を踏まえると、膨らむ可能性が高い」と指摘する。武藤容治経済産業相は23日、「発言は承知しているが、現時点でそれ以上の合意内容の詳細というものが確認できていない」と記者団に述べた。資源エネルギー庁幹部は「何か新たな動きをもっての発言ではないと捉えている」と話す。政治色の強い巨大事業で日本政府の支援策が見えないなか、企業が踏み込めるか。判断には時間がかかりそうだ。 *2-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2025090901044&g=eco (時事 2025年09月10日) 80兆円投資、日本「拒否権」焦点 米側が最終選定、関税上げリスクも 米大統領令への署名で日本に課している関税率の引き下げが確定的になり、今後は有力な交渉カードとなった対米巨額投融資の実行に焦点が移る。政府は日米で投資案件を協議する場を設け、日本にとって有益か精査すると説明する。ただ、最終的な選定は米側に委ねられている。日本側が拒否すればトランプ大統領が関税を再び引き上げるリスクは拭えず、運用を注視する必要がある。対米投融資5500億ドル(約80兆円)に関する覚書によると、大統領への投資先候補の提示はラトニック商務長官を議長として米側の委員で構成する「投資委員会」が決める。ラトニック氏は投資先の選定について「大統領に完全な裁量がある」と述べており、日本への野放図な資金要求につながりかねないとの懸念も持ち上がっている。これに対し、赤沢亮正経済再生担当相は9日の閣議後記者会見で「法律に基づき、大赤字のプロジェクトに出資・融資・融資保証はできない」と否定。日米両政府の指名で構成する「協議委員会」が投資委員会と事前に協議することで、日本の戦略や法律との整合性を保てると訴えた。ただ、覚書には、日本は資金提供しない選択もできるが、その場合は決定前に日米で協議すると明記。最終的に日本が資金提供しなかった場合は「大統領が定める率で関税を課すこともできる」との文言もあり、今後、投資案件の選定の過程で、日本側が実際に「拒否権」を行使できるのか検証が不可欠だ。また、合意に基づいて関税が引き下げられても、幅広い品目に15%という高い関税率が課される。経済産業省は来年度予算の概算要求で、設備投資減税の拡充や自動車購入時に燃費性能に応じて課税する「環境性能割」の廃止を要望し、自動車業界を中心に国内産業の下支えに全力を挙げる。短期的にはトランプ関税で影響を受ける企業の資金繰り支援などの機動的な対応も必要。石破茂首相の退陣表明による「政治空白」で、企業への支援が停滞しないよう万全の対応が求められる。 *2-3-1:https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/05038/?ST=msb (日経BP 2025/5/27) 九州産「天然水素」の研究・開発、九大と九電が連携 九州大学と九州電力は、九州地域における「天然水素」の実用化に向けた研究開発を開始する。5月23日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募する「先導研究プログラム/フロンティア育成事業」の委託先に採択されたと発表した。「天然水素」は地下に自然に存在する高濃度の水素で、世界各地で確認され、次世代のカーボンニュートラルのエネルギーとして注目されている。再生可能エネルギー由来のグリーン水素、CCS(CO2回収・貯留)を伴う化石燃料由来のブルー水素との対比でホワイト水素と呼ばれることもある。日本の地下にも存在する可能性があり、CO2排出が少ない純国産の一次エネルギー資源として注目される。その一方で、生成メカニズムやポテンシャル(賦存量)は不明のため、実効的な可採埋蔵量の把握、経済性の算定が現時点では困難といった問題がある。今回採択された事業では、天然水素の生成ポテンシャルが高い可能性がある九州地域を対象に、天然水素の生産・供給・利用の技術条件を整理し、将来の実用化に向けた研究開発を進める。天然水素の研究開発は始まったばかりであり、日本における先駆けとなる取り組みという。天然水素資源の実用化に向けて取り組むべき課題については、天然水素の生成を理解するための化学的・地質学的研究、地下の熱構造や流体循環系の把握、地下探査技術を使った評価、環境への影響評価、供給ロジスティックスの実現可能性評価、社会的合意形成などを挙げる。実用化されれば、日本のエネルギー政策の基本方針であるS+3E(安定供給、経済効率性、環境適合)への貢献が期待される。また、地産地消のエネルギー資源として地域経済活性化への寄与も想定する。 *2-3-2:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00332/062400106/ (日経ビジネス 2026.6.27) ビル・ゲイツ氏も注目「天然水素」、白馬村でも観測 JOGMECが国産化へ調査 この記事の3つのポイント ・天然水素、国内で低コストに安定調達できる可能性も ・JOGMECが埋蔵地の調査へ、INPEXも天然水素に関心 ・エネルギーに「魔法のつえ」はない。現実解を探れ 資源を輸入に頼る日本にとって、朗報となるかもしれない。地下で自然に生じる水素「天然水素」が、国産エネルギーの候補として浮上している。原油・天然ガスの探鉱を手がけるエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2025年度中に、国内で天然水素の埋蔵地を探る調査に乗り出す。天然水素は地中で自然発生した水素ガスで、「ホワイト水素」や「ゴールド水素」とも呼ばれる。日本では長野県白馬村で観測されている。水素は軽いためすぐ飛散する上、他の物質と反応しやすい。JOGMEC水素事業部の小杉安由美氏は「以前はまとまった量の水素が、地下にガス田のように存在するとは想像されていなかった」と話す。原油・天然ガスとは埋蔵地が異なることなどから、未開発のままだった。潮目が変わったのは18年だ。西アフリカのマリで天然水素が発見されたことを紹介する論文が公表され、注目度が高まった。近年は天然水素の埋蔵量を確かめる試掘作業が、米国など海外で相次いで立ち上がっている。関連企業には資金が流入している。天然水素の開発を手掛ける米スタートアップ企業のコロマには、米マイクロソフト共同創業者ビル・ゲイツ氏が設立したベンチャーキャピタル(VC)が出資し、24年には三菱重工業や大阪ガスも資本参加した。天然水素が地下で発生するメカニズムには諸説ある。岩石中の放射性元素が水に反応して水素を生じたり、地球の地下深くにある水素が亀裂を通じて地表近くまで上がったりすることがある。地下の水が岩石に含まれる鉄と反応するプロセスは水素の生成速度が速く、有力視されている。高温下で鉄が水と反応して酸化し、水は分解して水素を生じる。かんらん岩といった鉄を含む岩石は北海道など日本国内にも分布しており、埋蔵の可能性があるという。(以下、略) *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250922&ng=DGKKZO91454740S5A920C2MM8000 (日経新聞 2025.9.22) 政府、レアアース探査に環境指針 水質汚染抑え海洋開発へ 政府はレアアース(希土類)の採掘調査における環境ガイドラインを策定する。2027年から本格着手する南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)での採掘計画に先立ち、調査段階から土壌や水質汚染を防ぐルールを整備する。日本の探査・採掘技術を世界に示し、海洋開発をリードする狙いがある。26年1月から南鳥島沖で環境モニタリングを始める。探査船から海底6000メートルまでパイプを通して地層から泥を吸い上げ、深海の堆積物や周辺海域の生態系への影響を調べる。南鳥島沖の深海底には高濃度のレアアースを含んだ泥の存在が確認されている。政府は環境指針に基づいて27年から本格的な調査に入る。6000メートル級の本格的な海底調査は世界でも例がない。政府は28年度までに持続可能な採掘技術の実証をめざす。レアアースは乱開発による環境汚染が問題視されている。環境に配慮した探査・採掘プロセスを世界に先駆けて確立し、レアアースの国内調達を図るとともに日本の技術力を世界に売り込む。 *2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250922&ng=DGKKZO91418820Z10C25A9TCS000 (日経新聞 2025.9.22) 新たな原発の行方 新設は公的支援欠かせず、関西電力社長 森望氏(88年京大院修了、関西電力入社。18年に執行役員、19年に常務執行役員。21年副社長に就任し、22年から現職) 関西電力は11月から美浜原子力発電所(福井県美浜町)での原発建て替えに向けた調査を始める。2011年の東京電力福島第1原発事故後、新増設に向けた初めての動きだ。新たな原発の展望と課題について、エネルギーの確保、安全性、経済の視点から聞いた。資源の乏しい日本で安定的にエネルギーを供給するため、原発の必要性が再認識されている。特に今はデータセンターや半導体製造といった新しい産業が生まれている。電力需要の増加に応えながら脱炭素も求められる。再生可能エネルギーはコスト面などで不透明な点もある。化石燃料を使う火力発電は脱炭素化の技術と組み合わせる必要があり投資がかさむ。ロシアによるウクライナ侵略の際は燃料価格が急騰した。再生エネや火力に比べて原発はこうしたボラティリティー(変動性)が低く、長期的に見ても優位性はあると思っている。こうした点から政府のエネルギー基本計画にも原発の必要性が明記された。関西電力もいかに原発を長く活用するかを考えなければならない。これまで地元の理解を得ながら福井県で運転可能な全7基の再稼働を果たしてきた。美浜では、次世代原発の建て替えを検討するための調査をしていく。既存原発の有効活用とセットで考えていくことになる。ただいずれかのタイミングで既設のものを建て替えなければ、原発を将来にわたり継続的に活用することはできない。その時への準備を始めるための調査だ。原発の建て替えには大きな初期投資がかかる。建設のリードタイムもあり、時間軸の極めて長い事業になる。運転開始後も事業環境がどう変化するか分からない。こうした不確定な要素を小さくして、事業の成立性や予見性を確保できるよう進めたい。政府も(脱炭素電源への資金的な支援である)「長期脱炭素電源オークション」の活用など、原発建て替えへの支援の議論を進めている。原発建て替えという大規模な電源投資について、一定の予見性を確保できるような制度を整備してもらいたい。資金調達面も、そうした支援制度の充実が重要になる。お金を貸す側にとっても我々の事業への見立てを評価してもらわなければいけない。建て替えへの公的な支援は、事業者が資金調達するための前提にもなる。使用済み核燃料を再生してサイクルさせる「バックエンド」の確立に課題が残っていることも事実だ。鍵になるのが燃料の再処理工程で、日本原燃が青森県六ケ所村の再処理工場の完成に向けた審査の対応をしている。原発を稼働する事業者である関西電力も人的な面を中心に協力している。日本原燃の審査対応が大詰めを迎える中、現在は40人ほどの専門人材を派遣している。関電の原発内にたまる使用済み核燃料については、再処理工場に搬出するまでの間に一時保管する「中間貯蔵施設」への搬出なども含め、貯蔵量を将来的には減少させていく。この実現が私の責務だ。原発の安定稼働には安全性が大前提になる。まずは安全規制にしっかり対応し、海外の原発事業者の経験も反映させるなど自主的な安全性向上策も積み重ねている。こうした取り組みを続けながら、原子力の安全性や必要性を社会にしっかりと説明していくことが大事だと思っている。 <想定外だらけの原発政策> *3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1546016 (佐賀新聞 2025/9/5) 原発上空の脅威 防護措置や法整備、対策急げ 九州電力玄海原発(玄海町)の上空で、三つの光る飛行物体が目撃されてから1カ月以上が経過したが、依然として正体は不明のままだ。九州電力はモーター音などから「ドローン」との見方を強めるが、客観的な映像記録はなく、政府関係者の間では「民間航空機の誤認」との声も漏れる。原因究明が進まない現状は、原発の「安全神話」のもろさを露呈し、地域住民をはじめ国民に大きな不安の影を落としている。今回の事案で浮き彫りになったのは、国内の原子力施設における警備の脆弱(ぜいじゃく)性だ。現地を24時間体制で警備する警察の「原発特別警備部隊」にはドローン検知機材が配備されていたにもかかわらず、機能しなかった。そもそも飛行物体がドローンだったのかさえ定かではなく、機材の性能の問題なのか、別の要因なのかも判然としない。地上からの侵入への警戒に偏るあまり、上空からの脅威に対する備えが想定外だったのではないか。監視カメラの多くが空を向いていなかったとの指摘もあるが、機密事項の多い原発の警備体制はそもそも検証が難しい。法制度にも大きな矛盾が横たわる。小型無人機等飛行禁止法は、原発の敷地内や周囲の上空をドローンが飛行することを禁じている。一方、航空法では原発上空を飛行禁止区域とする明確な規定はなく、最低安全高度さえ守れば民間の航空機が通過することに法的な制約はない。原子力施設の安全規制の根幹を定めた「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)」にも、上空からの侵入を直接規制する条文は見当たらない。ドローン、航空機、そして原子力施設と、管轄する法律が縦割りで運用され、結果として「原発上空の安全」という極めて重要な視点が抜け落ちており、危機管理上の深刻な欠陥と言わざるを得ない。世界に目を転じれば、原子力施設へのドローン攻撃は、もはやフィクションの話ではない。ロシアが侵攻を続けるウクライナでは、チョルノービリ(チェルノブイリ)原発がドローン攻撃の標的となった。安価で高性能化したドローンは、軍やテロリストにとって有用な兵器となっている。ひとたび重要施設が破壊されれば被害は甚大だ。玄海原発の事案は、正体が何であれ、日本の原子力安全体制に警鐘を鳴らした。この警告を真摯(しんし)に受け止め、具体的な行動に移すことが急務だ。国と九州電力は、今回の飛行物体の正体を徹底的に究明し、全ての情報を国民に包み隠さず公開しなければならない。憶測が飛び交う現状こそが、不信と不安を増幅させる最大の要因だからだ。その上で、物理的な防護措置を抜本的に見直すべきである。高性能な検知システムや、上空を常時監視するカメラ網の構築、そして侵入物体を無力化する技術の導入を急ぐ必要がある。国が主導して最新技術の導入を支援し、全国の原発で標準化を図りたい。そして最も重要なのは、新たな脅威に対応するための法整備である。ドローンだけでなく、航空機も含めた「上空からの脅威」全般を視野に入れ、重要インフラ上空の飛行規制を包括的に見直すべきだ。今回の事案を単なる「謎の飛行物体」で終わらせるのではなく、現実的な脅威として捉え、政府と事業者が一体となって、実効性のある対策を講じることを強く求めたい。 *3-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1549724 (佐賀新聞 2025/9/10) 【原発医療体制】家族と仕事、揺れる職員、再稼働進むも人材確保懸念 松江赤十字病院と福島県立医大の調査からは、原発事故時の人材確保が課題として浮かんだ。家族と仕事のはざまで揺れる職員の葛藤もうかがえる。病院が入院患者のケアを続けられなければ、東京電力福島第1原発事故を教訓に定めた屋内退避の原則は実現できないと専門家は指摘する。再稼働を進める政府に突き付けられた課題は重く、事故時の事業継続計画(BCP)作りにも影響しそうだ。 ▽休日態勢 「実際の出勤率は良くて5割くらいだろう。通常医療を回すのは無理だ」。万が一、原発事故が起きた際の見通しについて、同病院の田辺翔太救急部長が指摘する。中国電力島根原発の南東約9キロに立地し、平時から約400~500人の入院患者を抱える。職員の大半は原発の30キロ圏内に住むため、保育園や学校が閉鎖されると育児中の職員は身動きが取れなくなり、深刻な人手不足が懸念される。そのため、事故が起きれば一般の外来や検査、手術を全て止めて、入院患者のケアに注力する「休日態勢」で乗り切る。急患の線量測定や除染といった事故の追加業務に「人を出す余裕はない」(田辺さん)と不安の声が漏れる。 ▽切実 屋内退避の原則は、福島第1原発事故後に政府が策定した。支援が必要な高齢者や入院患者は、室内を気密化して気圧を高め、放射性物質の流入を防ぐ対策を施した「放射線防護施設」と呼ばれる病院や介護施設にとどまる。ただし、運用する職員が十分確保されていることが大前提だ。「家には子どもがいるため、安全が守られなければ出勤できない」、「認知症の親を一人残せない」。今回の調査には家族の身を案じる切実な声が多く寄せられ、自分自身の被ばくやペットの預け先、空間線量率など情報の信頼性への懸念もあった。福島県立医大の坪倉正治主任教授は「今のままでは絵に描いた餅。政府は再稼働を進めるのであれば、現実に目を向けて対策を講じるべきだ」と強調する。 ▽経験 現場の声からは仕事への使命感も垣間見える。調査の回答者約500人のうち、研修や訓練があれば参加したいと答えた人は半数を超えた。「住民の適切な避難の仕方、被ばくの防護を学びたい」と前向きな意見も。全国の原発立地地域の医療機関で事故時のBCP作りは進んでおらず、同病院が策定する計画は、一つの基準として注目される。原発事故を経験した病院は非常に限られ、多くの職員が手探りでの対策を迫られている。田辺さんは「BCP策定の過程で、具体的な対応が何も決まっていないことを実感した」と話し、国には事故対応に当たった医師を各地の医療機関に派遣して策定作業を支援するよう要望した。 *3-2-2:https://www.pref.saga.lg.jp/bousai/kiji00386969/3_86969_247676_up_sqkjataz.pdf (佐賀県) 屋内退避について 内閣府「屋内退避について[暫定版]」では、「屋内退避は原子力災害時に比較的容易に実施出来る有効な防護措置の一つです。…避難のための移動・搬送により健康リスクが高まるおそれのある住民は、避難よりも放射線防護措置を講じた建屋へ屋内退避することが優先される場合があります。屋内退避は全面緊急事態発生時の防護措置の一つです。…内部被ばく線量については、陽圧化等の放射線防護対策が講じられた建屋に屋内退避する場合には、屋外滞在時に比べて 99%低減することが分かりました。」しかし、「陽圧化しない場合(自然換気)では3割強の低減にとどまっています」とあります。 「陽圧化」は、フィルターを設置した吸入装置を使って建屋の内部に空気を送り込み、建屋内の圧力を高めて放射性物質の侵入を低減するものです。1 施設で2億円かかるといわれています。 ⑤風向きによって放射能はどこにでも飛んでいく。OILにもとづく段階的な避難はできるのか。 ①「陽圧化でない住居に屋内退避すると、‟屋外滞在時の約7割を内部被ばくする”」という前提を知った上で、県の避難計画を作ったのか。 ②県発行「原子力防災のてびき」では、「木造家屋では内部被ばくを1/4程度に抑えることができる」とあるが、具体的な根拠を示されたい。 ③陽圧化した鉄筋コンクリート造建屋は佐賀県内のどこにあり、何か所あるのか。 ④原子力規制委員会が策定している原子力災害対策指針(19年7月3日)では、屋内退避について「UPZにおいては、段階的な避難やOILに基づく防護措置を実施するまでは屋内退避を原則実施しなければならない」と明記されている。指示があるまで逃げていけないとなるなら、19万人の30キロ圏内の県民すべてが陽圧化した建屋に屋内退避できるのか。 答) ① 令和2年3月に内閣府において作成された『原子力災害発生時の防護措置-放射線防護対策が講じられた施設等への屋内退避-について[暫定版]』の中で、建屋内を陽圧化していない場合は、屋外滞在時と比較して内部被ばく線量が3割強の低減にとどまる旨の記載があることは承知しています。 しかし、同資料内で陽圧化されていない木造建屋において5割程度の総被ばく線量を低減される旨の記載があるよう、屋内退避を行うことで被ばくを低減させることができるものと考えています。 ② 令和元年度に県が発行した「原子力防災のてびき」の中の「(木造家屋では)吸入による内部被ばくを四分の一程度に抑えることができます。」との記載は、平成28年3月16日に原子力規制委員会から出された「原子力災害発生時の防護措置の考え方」に基づくものです。 ③ 県内に放射線防護対策施設は20か所ありその内鉄筋コンクリート造の建物は、玄海町に1箇所、唐津市に15箇所あります。 ④ UPZ(5~30キロ圏)の避難については、UPZ内の全ての住民が一斉に避難するのではなく、屋内退避をしたうえで原子力発電所の状況やモニタリングによる放射線量の測定結果を踏まえて、避難対象地域を決定し、避難等を行っていただきます。 なお、県内の放射線防護対策施設は、悪天候等によって早期の避難が困難となる離島住民や避難の実施により健康リスクが高まる養護老人ホーム入居者などが屋内退避を行うために整備したものです。 ⑤ 繰り返しになりますが、UPZ(5~30キロ圏)の避難については、UPZ内の全ての住民が一斉に避難するのではなく、屋内退避をしたうえで原子力発電所の状況やモニタリングによる放射線量の測定結果を踏まえて、避難対象地域を決定し、避難等を行っていただきます。 <金をつぎ込んでも機能しない防衛> *4-1:https://www.yomiuri.co.jp/world/20250621-OYT1T50120/ (読売新聞 2025/6/21) 日本の防衛費「GDP比5%に大幅引き上げを」…アメリカ国防総省報道官 米国防総省は20日、日本を含むアジアの同盟国の防衛支出を国内総生産(GDP)比で5%に引き上げる必要があるとの見解を示した。読売新聞の取材に対し、同省のショーン・パーネル報道官が声明で明らかにした。北大西洋条約機構(NATO)は加盟国の防衛支出目標を2%以上から5%に引き上げる案を検討している。兵器購入などの従来の防衛費を3・5%とし、軍用道路の改修などを防衛関連費として1・5%組み込む案を想定している。日本政府は2027年度に防衛費を含む安全保障関連費を22年度のGDP比で現行の約1・8%から2%に引き上げる計画を進めている。パーネル氏は欧州の動向を踏まえ、「アジア太平洋の同盟国が欧州のペースと水準に追いつくよう迅速に行動するのは当然のことだ」と述べ、中国や北朝鮮に対抗するため、日本もNATO加盟国が検討する「5%目標」に足並みをそろえるべきだと主張した。一方、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は20日、米政権が日本に対し、防衛支出をGDP比3・5%に引き上げるよう求めたと報じた。従来の防衛費のみを対象としているのか、公共インフラなども含めた安保関連費を指しているのかは判然としないが、日本にとって大幅な増額となる。報道によると、米国の要求に日本側が反発し、7月1日開催で調整していた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)の会合は見送られた。FTは、日本側が参院選に与える影響も考慮したと伝えた。日本政府は「米側から防衛費増額の要求をされた認識はない。2プラス2は日程調整がつかなかっただけだ」(外務省幹部)として報道を否定している。政府高官は「日本だけが増額要求されないはずはない」と述べ、今後のトランプ政権の出方に警戒感を示した。 *4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN190100Z10C25A8000000/ (日経新聞 2025年8月19日) 米国防総省、日本の防衛費増額「明らかに不十分」 欧州や韓国に後れ 米国防総省の当局者が、日本政府の防衛費増額の取り組みに強い不満を持っていることが18日までに明らかになった。韓国、オーストラリア、ドイツ、カナダなどの同盟国はトランプ政権と歩調を合わせていると評価する一方、日本政府の対応は鈍いとみている。米国防総省当局者は取材に「日本政府は何年もの間、安全保障環境が劇的に悪化していると非常に憂慮する発言をしてきた。それなのに『日本には(米国への)後方支援に限定する憲法上の制限がある』と言うのは、とてもおかしい」と述べた。第2次トランプ政権発足以来、米国防総省は欧州やアジアの同盟国に米国と肩を並べるような防衛力の増強を求め、各国の国防当局と交渉してきた。ドイツやカナダなどを含む北大西洋条約機構(NATO)は、国内総生産(GDP)の5%を国防費と国防関連投資に充てることで合意した。現在の国防費の基準では3.5%で、1.5%は有事に必要なインフラなど広義の関連支出を指す。米国防総省は6月、パーネル報道官(当時)の声明で、アジアの同盟国も、NATOの新目標を基準に国防費を増やすべきだとの見解を明らかにした。8月7日、ウィルソン報道官は「欧州だけでなくインド太平洋地域でも、多くの同盟国が防衛費を増やしているのを見て、とても勇気づけられている」と述べた。米国防総省当局者は「韓国とは、新しい政権と進展する見通しが立っている」との見方を示し、消極的なのは日本だけであると示唆した。日本は2027年までに防衛費をGDPの2%に引き上げるという目標を掲げる。米国防総省当局者は「過去と比べれば、防衛費は改善されたが、現在の安保環境にはまだ明らかに不十分だ」と述べた。ドイツでは、メルツ政権が基本法(憲法)改正で厳しい債務制限を緩和し、国防費増額の道を開く。米国防総省当局者は、ドイツの基本法改正に言及し「もし真剣に安全保障を考えるのであれば、それに応じて適応することはできるし、そうしなければならない」と強調した。日本の政府当局者が憲法を理由に防衛費の大幅な増額を拒否するのであれば、それは適当ではないとの考えをにじませた形だ。トランプ政権が高水準の軍備増強を要求するのは、中国の軍事力が巨大化し、インド太平洋地域の軍事バランスが中国にシフトしているからだ。中国による台湾侵攻の懸念がくするぶるなか、アメリカだけでは力の均衡と抑止力を維持できない。米国防総省の当局者は「日本に対して、自国防衛や集団的自衛権のために自らの役割を果たすよう期待するのは一過性の要請ではない。米国は他のすべての国々と同じように日本を扱うという、いわば一般的なシフトが起きている」と述べた。「日本政府の意見にも耳を傾けた結果だ」と触れ「我々はこの状況を合理的に考えなければならない」と加えた。「課題は目の前のことであり、遠い地平線の話ではない」と訴えた。 *4-3:https://digital.asahi.com/articles/ASPDH5SM7PDBUTFK00P.html (朝日新聞 2021年12月26日) 日本は世界平和に貢献していく」旧敵国条項の削除、米へ異例の打診 日本、ドイツなど第2次大戦で敗れた「旧敵国」に関する国連憲章の条項について、冷戦終結間もない1990年、日本が米国に対し、大統領から提起するよう打診していたことがわかった。22日公開の外交文書に異例のやり取りが記されていた。旧敵国条項は日本の国連加盟から65年を経た今も残っている。この提案は、90年2月27日付で中山太郎外相から村田良平駐米大使への指示を伝えた「極秘 無期限」「大至急」の公電にあった。起案者の「岡本」は、当時の岡本行夫・外務省北米1課長とみられる。国連憲章の旧敵国条項には、旧敵国の「侵略政策の再現」に備える地域的な国際機構の強制行動については安全保障理事会の許可を不要とする53条や、旧敵国が第2次大戦の結果として受け入れたことは国連憲章に優先するとする107条などがある。 30年が経過した外交文書は原則公開対象になります。外務省は、特に国民の関心が高い記録については、外部有識者が参加する公開推進委員会で審査し、毎年末、一括して公開しています。朝日新聞の専門記者らが、これらの文書を徹底して読み込み、取材や分析を加え、日本外交史の真相に迫ります。外相発の公電はまず、89年末の冷戦終結で東西ドイツ統一が見通せるようになり、東ドイツの中で陸の孤島となった西ベルリンを米国などが守るため53条に頼る必要が減って「米国に態度変更を促しやすい状況が出てきているのかもしれない」と指摘した。また、米国に次ぐ経済大国だった日本が「国力にふさわしい政治的役割を果たし、世界平和のための協力に貢献していく」と強調。米大統領から、そんな日本の安保理常任理事国入りに対する改めての支持とあわせ、旧敵国条項削除の提起があれば「日米友好の象徴的意味を有する」とした。その上で、対日貿易赤字への対応を海部俊樹首相に求めたいブッシュ(父)大統領の意向で急にセットされた3月初めの首脳会談で、逆に「大統領の自発的申し出として上記内容の発言を行う可能性につき、米側の感触を大至急打診」と駐米大使に求めた。また、当時のソ連について近年のロシアと同様、日本との平和条約締結交渉で「北方四島の占拠は旧敵国条項(107条)により正当化されるとの不当な主張を行っており、日ソ間で旧敵国条項適用の余地があると解釈されうるような米側発言は我が国の立場を害する恐れがある」と念を押している。だが、今回同時に公開された別の一連の「極秘」文書によると、この挑戦は実らなかった。首脳会談前日3月1日付の駐米大使発外相あての公電には、「カトウ」(後の駐米大使、加藤良三駐米公使とみられる)の打診を、米側が日本の国際貢献を進める点で理解できるとしつつ、首脳会談まで時間がないなどとして受け流す様子が記されている。ジャクソン大統領補佐官は、ドイツ統一の行方がまだ見えないことや、国連憲章の全面見直し論が出てくる懸念を示し、「(両首脳に同行する)外相会談レベルで日本側より今後話し合っていきたい旨の頭出しにとどめていただくのも一案」。アンダーソン国務次官補代理も同様の反応で、「外相レベルの非公式な場で言及される方がよいかも」とかわしていた。3月初めに米西部パームスプリングス、9月下旬にニューヨークで開かれた日米首脳会談と外相会談の議事録に、旧敵国条項削除や日本の安保理常任理事国入りの話は見当たらない。中山外相はその9月の訪米の際、東西ドイツ統一決定から間もない国連総会での各国の一般演説で、日本の外相では4回目となる旧敵国条項削除の訴えをした。今の日本政府は旧敵国条項削除について、安保理常任理事国入りを含む安保理改革で「国連憲章改正の機が熟した時に、あわせて求めていく」という立場。憲章改正には加盟国の3分の2の賛成と批准といった高いハードルがあり、めどは立っていない。 *4-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2025102000905&g=pol (時事 2025.10.20) 衆院定数削減「臨時国会成立目指す」 自・維合意書 自民党と日本維新の会の党首が20日に署名した連立政権合意書は、維新が連立の「絶対条件」に掲げていた衆院議員定数削減について「1割を目標に削減するため、臨時国会に議員立法案を提出し、成立を目指す」と記した。企業・団体献金の扱いについては「高市早苗総裁の任期中に結論を得る」とするにとどめた。合意書はまた、維新が看板政策に掲げる「副首都」導入に向けた法案を来年の通常国会で、ガソリン税の暫定税率廃止法案を臨時国会で成立させると明記。食料品の消費税率については、2年間ゼロも視野に法制化の検討を行うと記した。憲法9条改正と緊急事態条項創設に向け、両党の条文起草協議会を設置するとの文言も盛り込んだ。 <太陽光発電とEV> PS(2025年10月25日追加):*5-1-1・*5-1-2・*5-1-3は、①高市首相:「これ以上、私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」 ②石原環境相:「自然破壊をする太陽光パネルはストップしなければならない」 ③現在:太陽光パネルの95%が外国製(2025年4~6月) ④首相:日本発の技術で建物の屋根や壁に設置しやすいペロブスカイト太陽電池の普及を訴え ⑤日本エコロジー社(大阪市中央区)の釧路湿原のメガソーラーは、森林法に基づく知事許可未取得、土壌汚染対策法・盛土規制法の届け出遅延等複数の法令違反判明 ⑥福島・先達山のメガソーラーは、審議で林地開発許可審査における景観への配慮欠落 ⑦森林審議会森林保全部会の審議の冒頭、福島県は森林法による林地開発許可「災害の防止」「水害の防止」「水の確保」「環境の保全」の4要件とも基準を満たす」と報告 ⑧「景観」が含まれる「環境の保全」で県が審査したのは、開発区域内の森林率と開発面積の2点のみで辛うじてクリア ⑨法制度の不備が問題の根底 ⑩委員の1人:「県が数字を出して『大丈夫』という案件を審議の場に出るだけの我々が『ダメ』とは言えない」 としている。 このうち、④のペロブスカイト太陽電池と同様、①③のシリコン型太陽光発電も世界で最初に始めたのは日本であるにもかかわらず、現在では国内市場の95%を外国製パネルが席巻する結果となった理由に問題があり、それは、太陽光パネルの製造を政治やメディアが後押しするどころか欠点をあげつらって逆風を吹かせ、日本製の価格が高止まりし続けたため、国際競争に負けて日本メーカーが撤退したということだ。そして、これは、他の先進技術でも同じ事が言える。 また、②の「自然破壊をする太陽光パネルはストップ」の根底にも深い問題があり、それは、⑤⑥⑧の日本エコロジー社(大阪市中央区)の釧路湿原のメガソーラーや福島県のメガソーラーのように、「自然を破壊しても利益さえ得られれば良い」と考え、法令違反をしたり、辛うじて法令をクリアしたりしていることである。実際には、自然環境は住民の公共財であり、生態系の連鎖・水源の涵養等を通して生活環境の維持や観光資源の保全に貢献しているのだが、それは何故か軽視され考慮されない傾向にある。 さらなる問題点は、(国の審議会にも言えることだが)事務方主導の部会や審議会は、⑦⑩のように、審議にかける前に要件や基準を満たしているかどうかで既に結論が出ており、審議は、その結論にお墨付きを与えるだけのものとなって様々な視点を吸い上げないことである。 しかし、法律の齟齬を最初に把握できるのは現場であり、技術革新が進んでそれを実装しようとすればあちこちで法制度の不備は発生するものであるため、利益を比較秤量して間違わずに運用し、⑨のような法制度の不備は現場から指摘できるだけの知的水準が必要なのである。 なお、*5-2-1のように、⑩日産が軽EV「サクラ」に充電の手間を減らすため、屋根に太陽光パネルを搭載する試作機を開発 ⑪パネルで発電した電気をバッテリーに蓄え ⑫自宅や職場に屋外駐車場があれば年間で走行距離約3千km分を発電 だそうで、メーカーの方が進んでいるのだが、日産EVもシャープのシリコン型太陽光発電と同じ憂き目に遭った。そして、これは、*5-2-2のように、ノルウェーで全国に1万カ所以上の急速充電設備を設定し、首都オスロでは2024年にタクシーは温室効果ガスを排出しない車に限るという条例が施行されて、EVの普及が加速していることと対照的である。なお、工夫して再エネ発電を普及させれば、どこの国でも、ガソリンより電気の方が安い上に、排気ガスは出さず、エネルギー自給率も上がるのだ。 *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251023&ng=DGKKZO92103390S5A021C2EA2000 (日経新聞 2025.10.23)メガソーラー 自然破壊する開発を規制 大規模太陽光発電所(メガソーラー)の開発規制にもかじを切る。自民党と維新の連立合意には26年の通常国会でメガソーラーについて「法的に規制する施策を実行する」と明記した。現在はメガソーラーを直接規制する法律はない。「これ以上、私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対だ」。首相は9月の自民党総裁選の出馬会見でメガソーラーの急拡大を批判した。首相の懸念は2つある。1つは自然環境の破壊だ。北海道の釧路湿原国立公園の周辺で建設中のメガソーラーを巡り周辺環境への悪影響が指摘され、地元自治体からも見直しを求められている。石原宏高環境相は22日の記者会見で「自然破壊をするような太陽光パネルはストップしなければならない」と述べた。2つ目は外国産の太陽光パネルが国内市場を席巻していることだ。太陽光発電協会がまとめた25年4~6月の出荷データによると、海外製が95%を占める。10年前の同じ時期と比べて29ポイント高い。SMBC日興証券の浅野達氏は「経済安全保障の観点からも、国内製が少ない従来型の太陽光パネルの導入支援にメスが入る可能性がある」と話す。首相が代わりに普及を訴えてきたのが薄くて曲がる「ペロブスカイト太陽電池」だ。日本発の技術で、建物の屋根や壁に設置しやすい。政府のエネルギー基本計画は40年度時点の電源構成に占める太陽光の割合を23~29%程度に高める目標を掲げる。赤沢亮正経済産業相は22日の記者会見で「地域共生と国民負担抑制を図りながら最大限導入していく」と訴えた。太陽光発電は12年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)をきっかけに急拡大した。日本総研の大嶋秀雄主任研究員は「太陽光の導入ペースは加速しにくくなるが、ひずみを解決するきっかけにはなるだろう」と指摘する。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/dd0e6a052ad3fce5f38943b76c43c00cc6650f40 (Yahoo、産経新聞 2025/10/15) 「対立生まず最適な着地点を見いだしたい」 釧路湿原メガソーラー 事業者社長が認識 北海道の釧路湿原国立公園周辺で大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設工事を行う事業者「日本エコロジー」(大阪市中央区)の松井政憲社長は15日、釧路市との協議で「誤解や対立を生まず建設的な対話を通じて、現行法の枠組みの中で最適な着地点を見いだしたいと考えている」と述べた。森林法で定められた知事の許可を得ていないなどの問題が発覚し、同社が工事を一時中断して釧路市に協議を申し入れていた。協議は冒頭、報道陣に公開され、松井氏は議題について「太陽光発電事業の進め方、自治体との間に生じた認識の齟齬(そご)をどのように解消し、地域と調和を図っていくかという点」との認識を示した。北海道などによると、同社は敷地約4・3ヘクタールのうち森林開発の面積が約0・3ヘクタールとする事業計画を釧路市に提出していたが、実際は0・86ヘクタールで、知事の許可が必要な大きさだった。同社は森林区域の造成工事をほぼ終えており、原状回復するか、知事の許可を申請する必要がある。この現場ではほかに、同社が土壌汚染対策法に基づく届け出をせず工事を進め、道の行政指導を受けて約7カ月遅れで届け出を行っていたことが判明。盛り土工事でも盛土規制法上の届け出に遅延があったことも明らかになっている。釧路市によると、同社は市内で、この現場を含め15カ所でメガソーラー設置を計画している。 *5-1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASTBK36PSTBKUGTB002M.html (朝日新聞 2025年10月19日)メガソーラーは、なぜ開発許可されたのか 当時の審議委員は悔やむ 山肌が削られた景観が問題になった福島市の先達山のメガソーラー(大規模太陽光発電施設)に関し、林地開発許可を判断した福島県の4年前の審議会で、景観への議論がなされていなかったことが関係者などへの取材からわかった。この施設の計画は、2021年10月に開催された県の森林審議会森林保全部会の審議で「適当」と認められ、3週間後に県知事名で許可された。部会は、事務局の県から森林保全課長、県北農林事務所部長ら、審議会委員から県の森林組合連合会、指導林家連絡協議会、林研グループ連絡協議会の代表ら6人がリモートも含め出席した。朝日新聞社が情報公開請求して開示された議事録によると、部会は約2時間半実施。ただ、計画の可否を判断する約1時間半の審査部分は「事業者の権利を害する恐れがある」などの理由から黒塗りとされ、内容は明らかになっていなかった。関係者などへの取材によると、審議の冒頭に県がまず、森林法で定められた林地開発許可の「災害の防止」「水害の防止」「(周辺地域への)水の確保」「環境の保全」の4要件について説明。「各要件とも基準を満たしている」との報告があったという。「景観」が含まれる「環境の保全」で県が審査したのは、開発区域内の森林率と開発面積の2点だった。この施設の開発面積は60ヘクタールで、林野庁が示す「おおむね20ヘクタール以下」の基準を超えた。ただ基準では、間に30メートル以上の造成森林などを挟めば可とされ、この施設も3分割され、各区画はおおむね20ヘクタール以下となっていた。森林率も含め、基準内に収まっているというのが県の説明だった。林野庁は「市街地からの景観を維持する必要がある場合は、法面(のりめん)を極力縮小する」などの措置基準も示しているものの、審議では、県からそうした観点の説明はなく、委員側も取り上げなかったという。多くの委員から指摘があったのは、異常気象に伴う災害を防げるのかという懸念だった。県は「コンサル(工事の設計会社)は『大丈夫』と自信をもっている」などと説明。委員から、住民への説明が不十分との指摘もあった。県は「住民合意を許可条件にできない」としつつも「地域住民に丁寧な説明を行うこと」の条件をつけ、部会として許可したという。県の現在の担当者は、「景観」が審査の対象外だったことについて「景観に関する数値基準がない以上、許可の要件とするのは難しい」と話す。先達山のメガソーラーの現状を森林保全部会の当時の委員たちは、どう見ているのか。ある委員は「景観への意識はあったが、こんなに目立つとは想像がつかなかった」と振り返り、こう続けた。「先達山を含め、法に沿って認可された各地のメガソーラーでこれだけ問題が出るとなると、法を変えるしかないのではないか」。別の委員は「パネルの反射光」に戸惑う。「山に無理につくれば想定外のことが起きてしまう。想定外の災害が起きないかも、いまだ心配だ」。「県が数字を出して『大丈夫』という案件を、審議の場に出るだけの我々が『ダメ』とは言えない。ただ、これだけ大勢の住民に迷惑が及んでしまった。拒む手立ては本当になかったのか」と悔やむ委員もいた。 *5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16328754.html (朝日新聞 2025年10月23日) EV屋根搭載、発電用太陽光パネル 日産開発 走行中も駐車中も/充電の手間も減 電気自動車(EV)の充電の手間を減らすため、日産自動車はEVの屋根に載せる太陽光パネルの開発を進めている。パネルで発電した電気をバッテリーに蓄える。同社の軽EV「サクラ」に試作機を載せ、30日に開幕する「ジャパンモビリティショー」に出展する。試作機の名前は「Ao―Solar(あおぞら) エクステンダー」。走行中は1枚の太陽光パネルで発電し、駐車中は収納していたもう1枚を電動スライドで広げて最大500ワットの電力を生み出す。着脱できるため、改造車の届け出をしなくても後付けできるという。自宅や職場に屋外駐車場があれば、年間で走行距離約3千キロ分を発電できる。日産によると、サクラは買い物や送迎など近距離での移動に使われることが多く、「あおぞらエクステンダー」を搭載すれば、外部充電を年5回ほどに減らすことも可能だという。まずは親和性が高いサクラでの実用化を目指し、将来的には他のEVにも搭載できないか検討する。 *5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16328863.html (朝日新聞 2025年10月23日) ノルウェー「新車EV100%」目前 世界に先駆け普及加速 北欧のノルウェーで電気自動車(EV)の普及が加速している。今年9月には、乗用車の新車販売に占める割合が98%を超え、100%が目前に迫っている。世界に先駆けて「EV先進国」となったのはなぜか。 ■充電設備を拡充、税金も免除 首都オスロ近郊の街イエスハイム。トヨタ自動車の販売店にはEVの小型SUV(スポーツ用多目的車)「bZ4X」が展示されていた。その隣には、今後、この店で新たに投入される2車種の新型EVのパネルが置かれている。この販売店でこれまで取り扱ってきたトヨタのEVは1車種のみだが、販売員のヤンエリック・ビョルンスタッドさんは「顧客の要望に応えられる」と自信を示す。オスロの大通りを歩くと、車が多いわりに静かなことに気づく。ガソリン車より走行音が小さいEVが多く、タクシーも大半がEVだからだ。オスロでは2024年、タクシーは温室効果ガスを排出しない車に限るとする条例が施行された。タクシー運転手のモリシスさん(22)は仕方なくEVに替えたというが、今では「電気代は安いし、市内には充電スタンドが多いし、不満はない」と満足げだ。通常、EVの普及では充電設備がネックになる。だが、ノルウェーのEVの業界団体によると、全国に1万カ所以上の急速充電設備がある。主要道路では政府の支援もあり、50キロごとに設置されているという。オスロ中心部の道路には、充電中のEVがずらりと並んでおり、EVがある景色が日常となっている。ノルウェーは25年までに、新車として販売される乗用車や小型商用車をすべて、温室効果ガスを排出しない車にするという目標を掲げている。EVの業界団体によると、今年1月から9月までの新車販売に占めるEVの比率は95%。9月だけみると98・3%に達した。団体幹部は「(100%の)達成は目前に迫っている」と話す。世界各国と比べ、ノルウェーの「EVシフト」は突出している。国際エネルギー機関(IEA)によると、24年の欧州連合(EU)の新車販売におけるEVの割合は13・9%、米国は7・9%、日本は1・6%。EVに力を入れる中国でも27・2%。IEAが調査した欧米や日中韓など世界の主要国で、ノルウェーの普及率は1位だった。ノルウェーでEVが普及した主な理由の一つが税制面での優遇だ。50万クローネ(約750万円)以下のEVを買う場合、ガソリン車などに課せられる25%の付加価値税(VAT)の支払いが免除される。EVは高速道路などの料金も割引されている。バスレーンの利用でも優遇される。 ■ガソリンよりも電気が安い 電気代の安さも理由の一つ。国内の電力供給のほぼ100%を水力発電などの再生可能エネルギーでまかなうためだ。家庭で充電した場合、SUVのEVが100キロ走るのにかかる電気代は21クローネ(約300円)。これに対して、ガソリン車のSUVだと149クローネ(約2200円)かかる。そもそも、ノルウェー政府がEVの普及を強く後押しできる背景には、北海油田の存在がある。政府は25年、税制優遇など過去19年間の普及支援策で歳入が計6400億クローネ(約9兆6千億円)減ると試算したが、それでも石油や天然ガスの輸出によって得る巨額の収入で余力がある。エネルギー資源の乏しい日本とは事情が大きく異なる。政府の統計によると、24年の平均年収は約70万クローネ(約1千万円)と日本の約2倍で、高価格になりがちなEVに手の届く人が多い。市民に話を聞くと、「ガソリン車よりエネルギーの補給回数が多く不便」といった不満は漏れるが、大きな声にはなっていない。政府はEVの普及に伴い、税制優遇を段階的に縮小し、27年にはVATの免除を廃止する方針。ストルテンベルグ財務相は「ほぼすべての(乗用車の)新車が電気自動車になっている。優遇措置を段階的に廃止する時が来た」と説明する。一方、公共放送NRKによると、EVの業界団体は「大きすぎる変化だ」と反発し、VAT免除の廃止時期を先送りするように求めているが、今後、消費者の購入意欲にブレーキがかかる可能性がある。
| 外交・防衛 | 05:26 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2025,07,17, Thursday
(1)運輸業・建設業等の人手不足と人材獲得
![]() ![]() 出入国在留管理庁 Connect Job 2025.7.16NHK (図の説明:左図は、就労が認められる在留資格で、*1の特定技能は2018年に閣議決定され、2019年4月から*2の特定産業分野のみで施行されていた。中央の図は、在留資格別外国人労働者数の推移で、2024年には230万人超になっているが、それでも全就業者の3.4%にすぎない。また、右図は、外国人の犯罪率は外国人の数が増えるに従って低下して現在は日本人と変わらず、「外国人はルールを守らず犯罪が多い」と言うのは偏見にすぎないことがわかる。なお、ルールにも憲法違反と思われるものがあるため、ルールもまた時代に合わせて変えるべきである) ![]() 厚労省 2025.7.17日経新聞 (図の説明:左図は、就労目的で日本に来た外国人の状況で、出身国はベトナム・中国・フィリピンの順に多く、現在はインドネシア・ミャンマー・ネパールが増加中である。また、右図のように、これまで少なかった南アジアや中央アジアの国々を開拓する動きも官民で広がっている) 1)運輸業のケース *1-1-1は、①2030年度には運転手の数が2020年度比で27%減り、36%の物流が滞る恐れがあって、物流業界は人手不足が深刻 ②政府は自動車運送業を特定技能に追加して外国人就労枠は上限24,500人 ③SBSホールディングスは、インドネシアに自動車学校を設立して講師を現地派遣し、全寮制で半年間教育して日本の交通ルールや日本語を教え、2026年から年間100人程度のペースで採用して1800人の外国人運転手を採用し、10年で運転手の約3割を外国人にする予定 ③外国人が最長5年間働ける「特定技能」の制度を活用 ④多くがイスラム教徒であると想定して礼拝・食事等に配慮し、働きやすい環境を整備 ⑤賃金は日本人より低い見通し ⑥船井総研ホールディングスも傘下の物流コンサルティング会社、船井総研ロジが外国人運転手を中小企業に仲介するサービスを始め、主にバングラデシュやベトナムからの採用を想定 ⑦ヤマト運輸・佐川急便・福山通運等も外国人採用に乗り出しており、ヤマト運輸・佐川急便は決まったルート配送中心のため日本語が苦手でも働きやすい職種 ⑧特定技能による外国人運転手はバス・タクシー・引っ越し等の運転手も含む ⑨自動運転の実現が見通せない中、地方のバス運行会社等も外国人運転手の確保に動く ⑩物流に限らず、公共交通・介護まで様々なサービスで外国人なしに成り立たない としている。 このうち①⑩は現実であるため、⑧⑨のように、自動運転の実現が見通せなければ外国人運転手は必要である。また、⑦のように、決まったルートを配送するのなら必要な日本語は限られているため、働き易いと思われる。そのため、より簡単な仕事を任せる分だけ、⑤のように賃金が安いのには合理性があるだろう。 しかし、現在、雨が降ったり、暑かったりすればタクシーも来ない状況なので、②のように、政府が自動車運送業を特定技能に追加したのは合理性があるが、外国人就労枠の上限が24,500人で足りるか否かは心配だ。 そのため、③⑥のように、SBSホールディングスがインドネシアに自動車学校を設立して講師を派遣し、教育した上で資質のある人を採用したり、船井総研ロジが外国人運転手を中小企業に仲介するサービスを始めてバングラデシュやベトナムから採用したりしているのは、さすが民間企業の工夫だと思った。 しかし、このように教育費をかけて外国人を採用し、③のように、「特定技能」の制度を使ってもなお外国人の就労機関が最長5年では、採用する企業はロスが多い上に、日本社会は熟練労働者の割合が少なく、結果として働く外国人は意欲を失い、日本人は不便なままになりそうだ。そのため、④の働き易い環境というのは、日本で安心して長く働くことができ、頑張れば昇進して賃金で報われる環境であって、④のようなイスラム教徒向けの礼拝・食事の配慮が第1ではないと思われる。 また、*1-1-2は、運輸業に限らない外国人労働者就労の歴史を述べており、⑪2024年10月時点で外国人就労者数は230万2587人・就業者全体の3.4% ⑫人手不足の深刻化で10年前の2.9倍に増加 ⑬在留資格は、技術・人文知識・国際業務18%、特定技能・技能実習30%、留学生アルバイト14% ⑭1989年に「定住者」資格で中南米の日系人を受け入れ、1993年に表向き技術移転目的として「技能実習制度」を創設したが、低賃金の人手不足対策としての使用が広がった ⑮2019年に「特定技能制度」を導入し、「1号」は最長5年・「2号」は熟練者向けで在留期間の制限はなく、明確に人手不足対策として位置づけた ⑯来日・定住・永住の増加を懸念する声もあり、参院選で与野党が外国人規制強化の是非を議論している としている。 まず、日本国憲法は、前文で「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とし、第17条で「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」、第18条で「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と定めている。 そのような中、⑪⑫⑬のように、人口構造の変化に伴い、2024年10月時点では外国人就労者数は230万2587人となっているが、未だに人手不足の状態が続いているため、⑯のように、来日・定住・永住の増加を懸念したり、公務員である衆議院議員や参議院議員候補者がヘイトスピーチをするなどは、「何を考えているのか!」と思われる。 なお、⑭のように、少しずつ門戸を開いた在留資格のうちの技能実習制度は滞在期間が1号1年、2号2年、3号2年で、3号への移行は実習生の受入れ企業や監理団体が優良だと認めた場合のみ可能だそうだが、このようにいやいや延長していること丸出しの細切れで低賃金の労働条件では、働く意欲を保つ方が困難であろう。 そのため、⑮のように、2019年に「特定技能制度」が導入されたのだが、これも「1号」は最長5年が上限で狭い産業分野に限られる上、在留期間の制限のない特定技能2号を取得するには、i) 特定技能2号評価試験に合格するか、技能検定1級に合格する ii) 監督・指導者として一定の実務経験を積むの2つを満たす必要があって、日本語が母国語であるため比較優位性がある筈の日本人よりも難しく、「2号には進ませたくないぞ」と言わんばかりのハードルなのである。 2)建設業のケース ← 日本人が減った産業を外国人が支えている現実がある *1-2-1・*1-2-2は、働き方改革による残業時間の上限規制(2024年4月から月45時間・年360時間)と高齢化の進行による慢性的な人手不足や生産性の低さが原因で、未完了工事額が約15.4兆円(2025年3月時点、国交省建設総合統計)にも達し、この状況が、i)商業施設や工場建設の遅延 ii)建設費の高騰 iii)設備投資の停滞 などを通じて日本経済に成長力低下をもたらしており、2023年末の建設業における外国人労働者数は約17.8万人(全体の約7.7%)・有効求人倍率は5.22倍(全産業平均の約4倍)となって、建設業界では外国人労働者の受け入れが進んでいる としている。 具体的には、①建設就業者数が2010年比で6%減少し、477万人になった(総務省の労働力調査) ②65歳以上の高齢化率が約2割(80万人)で、10年間で高齢化率が5%上昇した ③加齢で体力が衰えれば若い頃のようには働けない ④かねてから深刻だった人手不足に2024年4月から始まった時間外労働の上限規制で、建設業は月45時間・年360時間までしか残業できなくなり、総労働時間/人が前年比32.3時間減少した(全産業平均14.3時間の2倍以上) ⑤生産性向上を急がなければ民間企業の設備投資や公共投資の制約となり、日本の成長力が一段と下振れする恐れがある ⑥建設作業員が集まらず工事が計画通り進まなかったため、イオンモールは福島県伊達市の店舗オープンを2024年末から2026年下期に延期した ⑦建設業界全体で供給力が縮んでいる ⑧民間の産業用建築物1m²あたり着工単価は2024年に約30万円と前年より18%上昇した ⑨大手建設会社は採算性・工期を重視し、利益率の高い案件を優先している ⑩人材確保で後手に回って採算の良い案件に参入できなかった中小建設会社は廃業が増加している ⑪建設従事者が使える省人化等のソフトウエアの導入量/人は、フランス・英国の1/5である ⑫生産性向上にはデジタル化による効率化が不可欠 としている。 このうち、①②はデータであるため事実だが、老年学会は75歳までは問題なく働けるとしているので、③のように、「65歳以上は加齢で働けない高齢者である」と認識して高齢化率を計算したり、65歳定年制によって退職させたりすることの方に、むしろ人権侵害の問題があるだろう。 また、④の「人手不足の原因には時間外労働の上限規制があるが、これは働かせない改革になっている」「残業しないため、仕事が中途半端にならないよう早めに終わらなければならない」「もっと働いて稼ぎたい」と言う人も少なからずいるため、上限規制ではなく、働いた分だけ支払う規制にしてはどうかと思う。 さらに、⑤⑪⑫のデジタル化による効率化や省人化による生産性向上は必要不可欠で、それがなければ民間企業の設備投資や公共投資の制約となって日本の成長力が一段と下振れする恐れがるが、これらをすべてやったとしても、建設業に進む日本人の若者が著しく減る以上、外国人労働者を積極的に入れなければ、⑥⑦⑧⑨のように、建設作業員が集まらずに工事の遅延が起こったり、建設業界全体で供給力が縮んで着工単価が上がったり、人材確保のできない中小建設会社の廃業が増加したりする。 そのため、「日本人が減った産業を外国人労働者が支えている」というのは事実であり、外国人労働者をまるで邪魔者ででもあるかのように在留資格の交付を小刻みで厳しくするのではなく、家族帯同を容易にしたり、日本人と同様、家族もまた働いたり学んだりできるようにしたりして、日本で働くことのハードルを下げる必要があるのだ。 3)今後、さらに増えるニーズ ← 運輸業は、共働きの増加と高齢化に伴って通販や配達のニーズが増え、建設業は、 インフラの老朽化と適時・適切な維持管理・更新の需要が確実に増えること 2025年1月には、埼玉県八潮市で、下水道管の破損による地盤空洞化で道路が陥没し、トラックの運転手が犠牲になった。また上水道管の破裂事故も頻繁に起きている。 そのような中、*1-2-3は、①財務省所管研究所の調査によると、市町村の公営企業が運営する上水道事業の99%が設備更新に必要な資金を確保できていない ②上水道事業は原則として必要経費を住民が支払う使用料で賄う ③各事業者が現在の設備を維持したまま必要な内部留保を確保するには平均83.2%の料金引き上げが必要で、国交省によると2022年度末の一般家庭の月額水道料金は全国平均3,332円が6,100円程度に上昇する ④将来の収支見通しが甘く、費用を料金に十分に反映できていない自治体が多い ⑤単年度損益は黒字でも、実は手元資金が少なく老朽化した水道管を更新する資金までは準備できていない例も ⑥水道料金を上げると住民の反発が予想され、物価高対策として水道料金を割り引く例も ⑦総務省よると全国の上水道は1975年頃に整備が進み、足元で法定耐用年数の40年を過ぎた水道管が全体の2割超 ⑧手元現金が少なければ、日常的な保守だけでなく緊急時の対応にも支障が出る ⑨京都市は4月に市内の幹線道路地下を走る水道管が破損して広範囲に冠水し、県鎌倉市も6月に水道管が破裂して市内の約1万世帯が断水した ⑩各自治体は必要経費を料金に反映するとともに、近隣自治体との業務の共同化等でコストを削減することが必要 ⑪事業統合・経営一体化も有力な手段 ⑫人口減少をふまえると市街地の集約による水道インフラ縮小も重要な選択肢 等と記載している。 上下水道等の公的インフラは共通した問題を抱えており、それは当然行なわれなければならなかった固定資産の維持管理が適時・適切に行われず、1970年代に整備され老朽化した水道管・下水管を法定耐用年数(約40年)がすぎるまで、減価償却もせず、修繕引当金も積まずに使い続けてきたことである。 そのため、①④のように、収支の見通しが甘くて更新費用を料金に反映しておらず、突然、「上水道事業の99%が設備更新に必要な資金を確保できていない」などという事態が起こるわけだが、本来、設備の更新に必要な資金は、②③⑥のように、現在の使用者が支払うだけではなく、上下水道ができてからこれまでそれを使用してきた使用者も支払うべきだったのであり、民間企業は、皆、そうしているのだ。 その更新や修繕の費用を合理的に見積もって引き当てるのが、会計用語で減価償却引当金・修繕引当金等と呼ばれる負債性引当金なのだが、公的機関は、⑤のように、単年度のキャッシュフローしか見ていないため、耐用年数が過ぎれば当然必要になる「老朽化した水道管を更新する資金」のようなものすら準備できておらず、⑦のように、1975年頃に整備が進み法定耐用年数40年を過ぎた水道管が全体の2割超あり、⑨のように、水道管の破裂事故が多発し始めても、⑧のように、手元現金がないなどと言っているのである。 従って、これは、公的機関の資産管理全般に関する会計の問題であり、財務省は国所有のインフラも含めて、資産・負債に関して必要な引当金を積み立てる普通の会計制度に変えるべきである。しかし、役所には、税務署を除いて会計に詳しい人が著しく少ないため、私は、公認会計士・税理士(含:税務署を退官した人)等の専門家を担当する役所に派遣して、複式簿記の会計制度をきっちり作らせれば良いと考える。 なお、地方自治体側からは、「技術職員の高齢化や人材不足で更新計画の立案・遂行能力が現場に不足している」等の理由が挙げられることもあるが、それは資産・負債に関して必要な引当金を認識せず、耐用年数が過ぎれば更新時期を迎えることすら忘れていたという状態であるため、管理者として不適格と言わざるを得ない。 そのため、*1-2-3は、選択肢として、⑩⑪の近隣自治体との業務共同化や事業統合・経営一体化を挙げているが、上下水道は複数自治体で管理しても住民に支障は無く、むしろ経営の効率化によって安価に使える方が望ましいため、この選択肢は有力な手段である。 しかし、⑫の「人口減少による市街地の集約や水道インフラの縮小」は、都会の人口密集地帯で育った人ばかりがリーダーになっているために出てきた発想で、食料生産・森林管理・エネルギー生産等は、人口密度の低い地域でしか行なわれないため、その人口密度の低い地域で生産に励んでいる人々を不便にすることがあってはならないのである。 さらに、現在なら、分散型で再エネを生産して大量に使う場所に運ぶために、上下水道の更新と合わせて近くに電線を敷設し、送電料収入を得ることも考えられるし、検針や異常検知を自動的に行なってその位置と状況を電波で知らせることも可能である。そのため、更新時には、スマート化やサステナビリティーを含む更新をすれば良いだろう。 4)外国人材のリクルートについて *1-3-1によれば、母国の経済成長で東南アジア諸国からの来日が頭打ちになるのを見据え、また、韓国・台湾との人材獲得競争の激化もあって、日本政府と民間企業は外国人材の供給源を東南アジア中心から南アジアや中央アジアに広げつつあるそうだ。 具体的には、①厚労省が民間団体に委託して南アジア・中央アジアの「送り出し機関」に聞き取りを行い、日本での就労ニーズや制度面の障害を現地調査 ②インド・スリランカ・ウズベキスタン等を想定 ③オノデラグループは、ウズベキスタン移民庁と連携して日本で働きたい若者に半年ほど日本語を教えて特定技能試験合格の上で来日させるプログラム開始 ④同グループは外食・介護など向けに年間200人程度の育成から始めて年間500人に拡大する計画 ⑤日中亜細亜教育医療文化交流機構もウズベキスタンに日本語教育拠点3カ所を設置し、特定技能での日本就労を目指す ⑥ワタミはバングラデシュに研修センターを設立し、年間3,000人の特定技能人材送り出しを目指す ⑦技能実習・特定技能は2024年12月時点で計74万人が働き、国別ではベトナム34万5,619人と半数近くを占めるが、名目GDPが10年で1.8倍になって伸び率が鈍化 ⑧技能実習で10万人超が働いていた中国は、名目GDP/人が7,000ドルを超えた2013年から来日が減って2024年12月は2万5,960人 ⑨厚労省の担当者は東南アジア各国も他国で働く必要が薄れて獲得が難しくなると分析 ⑩韓国は外国人労働者を対象とする「雇用許可制」の年間受け入れ上限を、2021年の5万人程度から3年で3倍に拡大、時給換算最低賃金は既に日本の全国平均並 ⑪台湾も製造業や建設業等で外国人労働者の賃金上昇 ⑫特定技能と技能実習の合計人数はインドが2024年12月時点で1,427人、スリランカ4,623人、ウズベキスタン346人と南・中央アジアからの来日は未だ少なく、人材送り出しの潜在力は高い ⑬インドの2023年の労働力人口は4億9,243万人で毎年1000万人以上増加し、15~24歳の失業率は15.8% ⑭バングラデシュは2024年12月時点で特定技能・技能実習の合計が2,177人で前年同月比1.5倍 ⑮急速な来日拡大には慎重意見や単純労働者受け入れ制限を求める声もあり、20日投開票の参院選で外国人規制が争点に急浮上 としている。 日本では、(1)の1)2)3)はじめ、多くの産業分野で人手不足による限界が明確になっており、⑩⑪のように、韓国や台湾も外国人労働者のさらなる獲得に動いている中、⑦⑧のベトナムや中国のように、自国の名目GDPや賃金が上がって、既に来日が減っている国もある。 そのため、①②⑨⑫⑬⑭のように、厚労省の担当者が東南アジア各国も他国で働く必要が薄れて獲得が難しくなる考えて、民間団体に委託し、人材送り出しの潜在力は高いが未だ来日の少ないインド・バングラデシュド・スリランカ・ウズベキスタンなど南アジア・中央アジアの「送り出し機関」に聞き取りを行い、日本での就労ニーズや制度面の障害を現地調査をするのは当然のことだ。 また、調査を委託された民間団体の方は、③④のオノデラグループのように、ウズベキスタン移民庁と連携して日本で働きたい若者に半年ほど日本語を教え、特定技能試験合格の上で外食・介護向けに年間500人来日させるプログラム開始したり、⑤の日中亜細亜教育医療文化交流機構のように、ウズベキスタンに日本語教育拠点を設置して特定技能での日本就労を目指させたり、⑥のワタミのように、バングラデシュに研修センターを設立して年間3,000人の特定技能人材送り出しを目指したりなど、合理的かつ効率的な外国人材の開発を始めている。 にもかかわらず、⑮のように、i)急速な来日拡大には慎重意見 ii)単純労働者受け入れ制限を求める声 があり、今回の参院選では外国人規制が争点に急浮上した。そして、母国語で働くことができ、偏見がないだけでも優遇されている日本人労働者の職を侵食し、賃金を下げるなどとして、事実ではない言説を流して外国人労働者への偏見を煽る政党や候補者が少なからずあったことについて、私は、「外国人労働者の必要性やグローバリズムをしっかり説明できない国会議員・候補者・メディアの方が資質が低い」と感じた次第だ。 ちなみに、私がEY(Big4の1つ)で勤務していた時、オランダ人のパートナーやフィリピン人の事務員がいたが、オランダ人のパートナーは夕方5時に帰るものの、「電話が少なくて働き易い」と言って朝7時から事務所に来て仕事を始めていて感心した。また、やはり夕方6時には帰りたいフィリピン人の事務員は、弁当を持ってきて、昼食は事務所で食べながら昼休みも仕事を続けるなど、節約しながら効率的に働くことに頭を使う真面目な人だった。 つまり、「外国人は、怠け者で、犯罪率が高く、日本人のお荷物である」と考えている人は、外国人とともに働いたことがなく、「GDPの高い日本に生まれただけで、日本人である自分の方が優れている」などと勘違いしているのではないかと思うわけである。 (2)外国人制度の再設計 ← マイクロソフトの AI 「Copilot」に情報を集めてもらって記載した 1)外国人労働者について 2025.7.17、2024.3.7日経新聞 2022.3.7Global Saponet 2024.6.15読売新聞 (図の説明:1番左の図は、2024年10月末時点の在留資格別外国人労働者の割合で、技能実習が最も多い。また、左から2番目の図は、2019年4月1日に開始された特定技能のうち1号の国籍別の数で、2024年12月末時点では1号283,634人・2号832人である。右から2番目の図は、産業別の外国人労働者の割合である。そして、1番右の図が、外国人労働者のキャリアが途中で途切れることを防ぐために、2024年6月に公布された改正法に基づいて創設された育成就労制度だが、「公布日から3年以内の施行」とされているため、いつから始まるのか不明だ) ![]() 技能実習・特定技能Sapport Center Japan Job School 2023.11.25沖縄タイムス (図の説明:左図は、特定技能1号と2号でできる仕事であり、2025年7月現在では、1号で従事できる仕事は16分野にわたって定義され、各分野で外国人が担う業務が具体的に定められている。しかし、在留可能期間に上限がなく家族も滞在できる特定技能2号には、移行不可能な仕事が多い。そのため、中央の図のように、2025年現在、特定技能2号の分野拡大と1号からのスムーズな移行に向けた制度整備が進行中で、2027年までの本格運用開始が予定されている。右図は、技能実習と新制度である育成就労の比較で、技能実習の目的が建前上は発展途上国に技術を伝える国際貢献であったのに対し、育成就労は人材確保と育成を挙げている点が異なる) (1)の1)2)3)のように、多くの産業分野で人手不足による限界が明確になってきたが、東南アジアからの来日は、4)のように母国の経済成長で頭打ちになるため、日本は人材の供給源を東南アジアから南アジアや中央アジアに広げつつある。 一方、日本の外国人就労制度は、上の段の1番左の図が2024年10月末時点の在留資格別外国人労働者の割合で「技能実習」が20%と最も多いが、下の段の1番右の図のように、1993年に導入された「技能実習」の在留資格は、発展途上国に技術を伝えることを建前としているため、i)最長5年での帰国が前提 ii)原則転職禁止 iii) 家族の滞在禁止 iv)就ける仕事は91職種・168作業(2025年時点) 等、熟練度が低くて単純労働に近い初級レベルの作業ばかりで、日本で結婚・出産すると難しい在留資格変更を要求され、人間としての生活を阻害してきた。 このような技能実習制度の課題と日本における深刻な人手不足を受けて、上の段の1番右の図のように、外国人労働者のキャリアが途中で途切れないよう、2019年4月に「特定技能1号・2号」が創設され、2024年6月21日に公布された改正法で育成就労制度も創設されたが、「公布日から3年以内の施行」という非常にゆっくりした構えなのだ。 また、技能実習を修了した外国人が特定技能1号になるためには、技能検定3級(実技)か技能評価試験(専門級)に合格し、実習先企業が作成した「評価調書」によって技能・勤務態度・生活状況良好と認定される必要があるが、そこまで辿り着くのに約3年かかる。 さらに、「特定技能1号」の対象分野は下の段の中央の図のように16分野となり、2027年までに始まるとされる「育成就労」の受入れ分野は、上の段の1番右の図のように「特定技能1号」と揃えられるようだが、どちらも家族の帯同は原則不可であるため、日本に入国して在留期間の制限がなく、家族の帯同もできるようになるためには、下の段の左図のように、「特定技能2号」の在留資格をとらなければならない。 しかし、特定技能1号から2号への移行に関しては、i)特定技能2号評価試験か技能検定1級(分野により2級)合格 ii) 2〜3年以上の実務経験(分野毎に異なる) iii)移行可能なのは11分野(建設・外食・農業などは可能だが、介護は対象外) iv)管理・指導的立場での業務経験 等の複数の要件をクリアした上で、入管へ在留資格変更申請(審査期間:約2〜3ヶ月)を行う必要があり、2025年3月時点でも特定技能2号で働いている外国人は832人しかいないのである。 つまり、日本は、今でも「外国人労働者は、単純労働に近い初級レベルの作業をし、数年したら母国に帰ってもらいたい」というスタンスでいるわけだ。 このような中、*1-3-2は、全国知事会は、外国人の受け入れ拡大を国に求める提言を纏め、①2027年開始の「育成就労制度」の柔軟な運用を求め ②人口減が加速する中で外国人は地域産業や地域社会の重要な担い手 ③参院選で外国人規制が争点となって過剰な規制強化の懸念 ④外国人受け入れと多文化共生社会実現に国が責任を持って取り組むよう強く要請 ⑤「国は育成就労の受け入れ要件を厳格化して一定以上の日本語能力を要求する方針だが、技能実習の作業職種から大きく減少することを危惧する声が多数の自治体から聞かれる」と指摘 ⑥外国人の受け入れ環境を整えるため、国が主体となって制度設計や財源確保に取り組むことも要望 ⑦多文化共生に向けた施策を担う司令塔組織の設置も提案 ⑧全国知事会の村井会長は「排外主義があってはならない」と強調、静岡県の鈴木知事は政府が設けた在留外国人の犯罪などに対処するための組織を取り上げて「排斥・規制だけが取り沙汰されるようなことは正さなければならない」と述べた としている。 私も、②のように、人口減の中で外国人労働者は地域産業及び地域社会の重要な担い手になっており、この傾向は高齢化率の高い地方ほど顕著であるため、全国知事会が外国人の受け入れ拡大を国に求める提言を纏めたのは当然である。 しかし、世界では外国人材の獲得競争が激化している中、我が国の“技能実習”制度は、発展途上国に技術を伝えることを建前としながら単純労働に近い作業ばかりさせた上で、「5年経ったら帰れ」というスタンスであり、人権も無視してきた。その欠点を補うために、国は、2019年4月に「特定技能1号・2号」を創設し、2024年6月21日に改正法で育成就労制度も創設したが、「公布日から3年以内の2027年頃に開始」とのことである上、①⑤のように、育成就労の受け入れ要件を厳格化し、作業職種も大きく減少しそうな消極的態度なのである。 さらに、③のように、今回の参院選で外国人に対して過剰な規制強化の懸念が生じたため、④⑥のように、全国知事会は、外国人受け入れと多文化共生社会実現に国が責任を持って取り組み、外国人の受け入れ環境を整えるため、国が主体となって制度設計や財源確保に取り組むことも要請し、⑦⑧のように、司令塔組織は多文化共生に向けた施策を担うために設置し、「排外主義・排斥・規制だけが取り沙汰されるようなことがあってはならない」と強調したのだが、こちらの方が国会議員やその候補よりもずっとまともな主張だと、私は感じる。 そもそも、犯罪率が高いのは職にあぶれて生活に困った人である。そのため、「育成就労→特定技能1号→特定技能2号」と進む間に、在留資格がなくなったり、キャリアを中断させられたりすれば、“不法滞在”という(軽微な)犯罪になるし、近年の日本では、年金の目減りで生活に困った高齢者の万引きも増えているのだ。 これに加えて、*1-3-3は、外国人労働者について、⑨「選ばれない日本」に陥る可能性と外国人労働者が特定地域に偏る弊害 ⑩まだ日本の賃金・待遇には魅力があるが、地域に根付かず都市に流入することで負の循環に繋がる可能性 ⑪特定技能人材の退職理由調査は、入社から3カ月以内の退職で最も多かった理由が「人間関係の不満」で、時期を追う毎に「家族・友達・パートナーの近くに転居」が高くなる ⑫業務・職場の不満はどの時期も高いが、「業務内容が合わない」が主原因 ⑬入社1年を超えると定着率が高まる ⑭人材会社は業務内容の理解促進やキャリア意識を持った人材育成をし、雇用側は異文化理解を促進し、自治体は長期就労を見据えた生活基盤確保支援に取り組むべき ⑮生活基盤確保は、家族との住居探し・子供の日本語支援・妊娠・出産のサポートが必要だが、多額の費用がかかるわけではない としている。 このうち、⑨⑩については、確かに開発途上国の人にとっては、日本の賃金・待遇はまだ魅力があるが、米国と違って「頑張れば成功する」という“Japan Dream”は描きにくいため、頑張る人にほど「選ばれない日本」に陥る可能性が高い。 しかし、外国人労働者が地域に根付かず都市に流入することについては、都市は賃金が多くても不動産価格や家賃はじめ物価がそれ以上に高いため、⑭⑮については、自治体が県営住宅や市営住宅などの長期就労を見据えた住宅政策を行なえば、i) 育児と就労の両立支援 ii) 妊娠・出産期の支援 iii)乳幼児期の支援 iv)学齢期の支援 v)中等・高等教育の支援 等の子育て支援や医療・介護制度、年金制度等については既に国が整えているため、開発途上国と比較すれば外国人を差別しない限り悪くない筈である。 そして、働いて日本人と同じように税金や社会保険料を支払い、日本社会に貢献もしている外国人を差別する理由は無いため、⑮のように、キャリア形成に資する人材育成をしたり、異文化に対する理解を深めたりすれば、定着率は上がるだろう。なお、⑪の退職理由は、その地域にコミュニティーができ、外国人に対しても公平・公正が守られるようになれば解決するだろうし、⑫⑬の「業務内容が合わない」というのは、リクルートする際に業務内容をしっかり告げ、その後のキャリア形成のルートも示しておけば双方にとって「はずれ」は減る。 2)難民の受け入れについて ![]() すべて2025.6.20難民支援協会 (図の説明:左図は、2024年末時点で世界で移動を強いられた人の数である。また、中央の図は、主な難民受け入れ国で、難民の73%を中低所得国が受け入れている。そして、右図が、難民認定数と申請者に占める認定率の国際比較で、日本は著しく低い) 上の左図のように、2024年末時点で世界で移動を強いられた人の数は1億2,320万人で、中央の図のように、難民の73%をイラン(350万人)・トルコ(290万人)・コロンビア(280万人)・ドイツ(270万人)・ウガンダ(180万人)など、主に中低所得国が受け入れている。 また、右図の日本における難民認定率は2.2%だが、AIの調べでは、2024年の日本に対する難民認定申請者は12,373人(出身国:スリランカ、タイ、トルコ、インド、パキスタン等)、難民認定数は190人(アフガニスタン:102人、ミャンマー:36人、イエメン:18人、パレスチナ:8人、中国:5人)で、難民認定率は約 1.5%(190人/12,373人)であり、この認定率は国際的に見て極めて低いため、先進国としての日本政府の人権侵害に対する意識・日本における難民の定義・難民認定制度の透明性・難民審査の迅速性に疑問が出るわけである。 また、2023年12月に始まった補完的保護制度では、補完的保護対象者認定数1,661人、うちウクライナ出身者1,618人(約97%)であり、難民認定後は、難民認定された本人は「定住者」又は「永住者」として日本に滞在・就労することが可能で就労に制限はないが、その配偶者は「定住者」になれば就労制限はないものの、「家族滞在」のままでは週28時間までのアルバイトしかできない。子どもは、年齢・就学状況により異なり、「家族滞在」又は「定住者」となる。 このように、日本の難民認定制度は、i)審査基準が非公開で、認定・不認定の判断基準が不明確 ii)審査期間が長期で、結論も不確実性が高いため、申請者の生活が不安定になる iii)却下通知に不認定理由の具体的な根拠が示されない iv)独立した第三者による審査制度や監査制度がない など、命を賭けて来日し難民としての認定を申請している外国人に対して、保護よりも排除を優先した不誠実極まりない態度になっているのだ。 しかし、難民政策が「外交・安全保障・国益」と密接に関係して形成されている中、このような島国根性丸出しのスタンスのままでは、日本はODA等で金をいくらばら撒いても尊敬されず、口づてに伝わる日本の評判は決して芳しくならず、外交で負けるのは必然なのである。 なお、日本で難民受け入れ数が少ない理由を、AIに具体的にリストアップしてもらたところ、以下のとおりだった。 1. 認定基準が極めて厳しい ・ 「個別把握論」など日本独自の解釈により、迫害の証明が困難 ・強制労働や集団的迫害が「迫害」と認められないケースが多い 2. 手続きのハードルが高い ・日本語での証拠提出が求められ、翻訳支援が乏しい ・面接の録音・録画がなく、通訳の質が検証できない 3. 政治的意思の不在 ・難民保護より「管理」の視点が強く、積極的な受け入れ政策が打ち出されていない ・難民問題が選挙や政策議論で優先されにくい 4. 国民の理解・関心の不足 ・難民に対する誤解や偏見が根強く、世論調査でも受け入れに慎重な意見が多数 ・難民を「他人事」と捉える傾向がある 5. 制度設計の不備 ・難民認定を入管が担っており、「保護」より「取り締まり」の視点が強い ・独立した審査機関が存在せず、第三者的な判断が困難 6. 支援体制の脆弱さ ・住宅・就業支援が乏しく、自治体やNPOへの依存度が高い ・難民の定住支援(日本語教育・職業訓練など)が限定的 7. 地理的・歴史的要因 ・島国であるため、難民の流入が物理的に少ない ・難民受け入れの歴史が浅く、制度的蓄積が乏しい 8. 偽装申請への懸念 ・就労目的の「偽装難民」申請が増加したため、制度が厳格化された ・その結果、本来の難民保護目的が後退する懸念がある しかし、現生人類であるホモ・サピエンスは、約30万年前にアフリカで発祥し、地球上の世界各地に広がったものである。また、他の土地に移動した目的は、現在と同様、縄張り争いに負けて逃げたり、新天地を求めて積極的に出て行ったりしたものであろう。 そのため、現生人類の殆どがもともとは移民・難民であり、古代や中世の日本でも渡来人・亡命者・難民的存在の人が日本社会に受け入れられ、農業はじめさまざまな新技術を伝えたり、律令体制の成立・仏教文化の発展などに貢献したりしたのだ。つまり、日本人も、もとは単一民族ではなく、難民受け入れの歴史が浅いわけでもないのである。 3)まとめ ← 現在の外国人就労制度は、外国人労働者のキャリア形成と 生活支援サービスの視点が欠落していること イ)外国人は、キャリアが続かず、家族の帯同もできない産業がある 2025年7月現在、特定技能1号から2号への移行が認められている分野は、建設・造船・舶用工業・ビルクリーニング・工業製品製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連)・自動車整備・ 航空・宿泊・農業・漁業・飲食料品製造業・外食業に限られている。 そして、2024年度に追加された新分野の自動車運送業・鉄道(車両整備と軌道保守)・林業(伐採・育林)・木材産業(製材・合板製造)は、2号が未設定であるため移行できないが、特定技能1号を追加した時点で2号も追加しなければ、キャリア形成のルートを示すことができない。また、介護は、国家資格である「介護福祉士」を取得して在留資格「介護」へ移行すれば、家族を呼び寄せたり、永住したりすることも可能だが、どの分野も2号への移行要件は厳しい。 ロ)家事延長系の産業が疎かにされている 最初から特定技能制度に含まれていない分野もあり、その第1は、家事支援(掃除・洗濯・料理等)サービスである。外国人の家事支援サービスは、高度外国人材が帯同した場合や東京都・神奈川県・大阪府等の特区でのみ限定的に認められているが、高すぎない時給で家事支援サービスを充実すれば、施設に収容しなければならない高齢者や生活支援を必要とする高齢者が減り、それと同時に高齢者の生活の質も上がる。また、共働き世帯の家事労働を減らせば、時間的にゆとりが増えるため、1人で抑えていた子の数を増やすことも可能であり、家事支援は絶対に特定技能1号と2号に加えるべきである。 第2は、保育サービスで、「保育士の資格が必要」というのがその理由にされているが、保育所にも保育士以外でもできる仕事は多いため、介護と同様、特定技能1号で保育助手として受け入れ、保育士の国家資格をとったら在留資格「保育」に移行させ、家族を呼び寄せたり、永住したりすることも可能にすればよいだろう。 なお、医療・看護・介護・教育・保育等の人手不足が深刻な分野は、特定技能1号で受け入れて国家資格を取得させる方法もある一方、国家資格の相互承認(ある国で取得した資格や免許を、お互いの国で同等の効力を持つようにする制度)をする方法もある。 国家資格の相互承認をするためには、教育・訓練の質の同等性が必要だが、それは日本の方が高いとは限らないし、日本の方が高い国に対しては、資格の相互承認が質を揃える作業を通じて国際貢献になる。さらに、国際的な人材移動を促進したり、専門職のグローバルな活躍を支援したりするためには、国家資格の相互承認が日本人にとっても重要なのだ。 (3)参議院議員選挙と外国人政策 ![]() 2025.7.20日経新聞 2025.7.9佐賀新聞 2025.7.3 2025.7.6 2025.7.8読売新聞 日経新聞 沖縄タイムス (図の説明:1番左の図は、外国人に関するメディアの偏った報道をきっかけとして流れた誤りの多い言説を元に、各党が真偽を確かめずに決めたお粗末な対応で、2025年7月の参議院議員選挙の期間に、演説として頻繁に放送された。また、左から2番目の図は、この参議院議員選挙における外国人政策に関する各党の公約だが、数少ないケースを敷衍して「外国人全体が悪い」としている点が、統計学を理解しておらず非論理的である。そして、中央の図が社会保障に関する各党の公約だが、高齢化率が上がる中、負担を増やさず給付を充実するには外国人の力が不可欠であることもわかっていない。さらに、右から2番目の図が、賃上げ等に関する各党の公約だが、労働生産性に見合った賃金でなければ日本に競争力はなくなるのである。最後に、1番右の図が、大学に関する各党の公約だが、公務員が人を国籍で差別することは許されない) 1)主な党の参院選公約について *2-1-1は、①自民党の小野寺政調会長が参院選公約発表で「『違法外国人ゼロ』に向けた取り組みを加速化する」と宣言した ②国民民主党の玉木代表も参院選公約で、差別解消を掲げつつ「外国人に対する過度な優遇を見直す」「国の財政が厳しい状況にあるなら、税金はまず自国民に使うのが当然」とした ③参政党は参院選公約で、外国人労働者の受け入れ制限や入国管理強化により「望ましくない迷惑外国人などを排除」と謳う ④論戦の名を借りた排外主義の喧伝が危ぶまれる ⑤師岡弁護士は「『外国人が優遇されている』と主張して日本人と外国人を分断し差別を煽る行為は、「税金で公的ヘイトスピーチを行なっているもので、人種差別撤廃条約とヘイトスピーチ解消法に基づいて公的機関は選挙運動におけるヘイトスピーチを批判すべき」 ⑥ジャーナリストの布施氏は、「『日本で優越的な権利を有した外国人住民がいる』という主張は事実ではない」「優遇されているとして挙げるなら米軍人で、『外国人が増えると治安が悪くなる』との言説も根拠はないが、米兵による事件事故は多発している」 と記載している。 また、*2-1-2は、⑦政府は「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置し、発足式を首相官邸で開いた ⑧石破首相は「ルールを守らない人への厳格な対応や外国人を巡る現下の情勢に十分に対応できていない制度の見直しは政府として取り組むべき重要な課題」と指摘 ⑨首相は出入国在留管理の適正化・社会保険料等の未納防止・土地等の取得を含む国土の適切な利用管理に対処するよう指示 ⑩首相は発足式で「外国人の懸念すべき活動の実態把握や国・自治体における情報基盤の整備、各種制度運用の点検、見直しなどに取り組んでもらいたい」と求めた ⑪新組織発足は政府を挙げて施策を推進する姿勢をアピールする狙いで、過度な規制強化や権利制限に繋がりかねない懸念 ⑫参院選では外国人政策を巡って与野党が規制強化や共生の重視を掲げる ⑬参院選では自民、国民民主、参政各党が規制の強化を訴え、立憲民主党は外国人の人権保護を掲げている と記載している。 今回の参議院議員選挙で外国人政策が浮上したのは、メディアが外国の運転免許を持っている外国人が日本で運転して事故をおこしたことを連日放送したためだが、運転免許も相互承認で認めているものであるため、日本人も外国で運転させてもらっているのである。そのため、日本の交通法規を教え、その理解度を確かめる手順が疎かだったにすぎない。 しかし、日本で不動産を取得する外国人の中には、投資目的で不動産を買って空き屋のままにしている人もいるため、不動産の値段が高騰して住みたい人が住めないという問題が生じたそうだが、日本人にもそういう人はおり、不動産を投資目的で所有すれば儲かるようにしたことが問題の本質である。もちろん、「安全保障上、ここに外国人は住んで欲しくない」という場所もあるが、そういう場所はあらかじめルールを決めておかなければ、罪刑法定主義にならない。 そこで、①については、自民党の政調会長が参院選の公約発表で「『違法外国人ゼロ』に向けた取り組みを加速化する」と宣言したのだから、これは首相の決定と言うよりは自民党の政策決定である。また、②③のように、国民民主党や参政党も参院選公約で誤った理解の下、外国人の管理強化や排除を主張し、今回の参院選ではこの2党が議席を伸ばしたわけである。 そのため、1965年に国連総会で採択され、1995年に日本も批准している人種差別撤廃条約に基づいて、人種・皮膚の色・出身民族等による差別を撤廃し、教育・立法・行政等を通じて差別の根絶を図り、人種差別的な扇動はやめさせるべきである。 また、日本には、2016年6月施行のヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)もあり、国・地方公共団体に対して「本邦外出身者」に対する不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)の解消に向けた取組・啓発・教育などの対応を求めているのに、④⑤⑥のように、事実ではないことを基に論戦の名を借りて排外主義を喧伝したり、参議院議員候補者や応援の国会議員が税金を使ってヘイトスピーチを行なったりしており、そうした方が票を集められる日本人のレベルにも呆れるほかなかった。 しかし、不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)は、セクハラ同様、「表現の自由」にはあたらず、国連人種差別撤廃委員会は日本に対して実効性ある法整備を勧告している上、欧州諸国ではヘイトスピーチに対する刑事罰を導入している国も多いため、日本でも罰則を備えた法律にすべきだ。 そのような中、石破首相は、⑧⑨のように、「ルールを守らない人への厳格な対応をすべき」としているが、外国人の運転免許も不動産投資も、ルールを破って行なっていたわけではないし、外国人労働者の社会保険料等の未納が日本人より多いわけでもない。そのため、「出入国在留管理の適正化」「社会保険料等の未納防止」「土地等の取得を含む国土の適切な利用管理に対処」というのは、根拠もなく飛躍しすぎているのだ。 さらに、⑦⑩⑪の政府が内閣官房に設置した「外国人との秩序ある共生社会推進室」は、(架空のルールを守らない)外国人の懸念すべき活動を防止するためとして過度な規制強化や権利制限を行なうのではなく、現存するルールの人種差別撤廃条約やヘイトスピーチ解消法の違反者に対して罰則をつけることによって、日本社会の支え手となっている外国人との秩序ある共生社会を実現するようにすべきだ。 そうすれば、その議論の過程で、国民に物事の善悪が明確になるため、⑫⑬の今回の参院選のように、外国人政策で規制強化を訴えた政党が議席を増やすのではなく、外国人にも日本人と同じ人権保護を訴えたまっとうな政党が議席を伸ばすことになろう。 2)参院選の結果、「トップに結果責任があるため、引責辞任すべき」と言うのは非論理的 ← 「権限無きところに責任なし」なので、責任は公約や候補者を決めた人にある *2-4-1・*2-4-2は、①自民党は大敗した参院選の結果に関する意見を聞くため、党本部で両院議員懇談会を開催 ②党総裁の石破首相は「自らの責任は総合的・適切に判断したい」「国家や国民に対して決して政治空白を生むことがないよう責任を果たす」と続投を表明 ③首相は「米国との関税交渉合意実行」「農業政策」「社会保障と税の改革」を続ける理由に挙げた ④懇談会では首相に選挙敗北の責任を取って退陣するよう求める「石破おろし」の声が多数 ⑤森山幹事長は総括委員会を設け、8月中に結論を得た上で「自らの責任について明らかにしたい」と話した ⑥首相続投に反対する党所属国会議員は両院議員総会開催を求める署名集めをし、既に総会開催を要求できる1/3以上の署名を確保し、旧茂木派の笹川農林水産副大臣は必要な署名を集めたと述べた ⑦小林元経済安全保障相は「組織のトップとしての責任の取り方についてしっかり考えていただきたい」と退陣を求めた ⑧「政治空白を作るべきでない」と続投を支持する声は少数 ⑨報道各社の世論調査では参院選大敗要因は石破氏より自民党そのものにあるとの見方がある ⑩両院総会の署名集めは旧茂木派・旧安倍派・麻生派が主導したが、旧安倍派は自民党離れに繋がった政治資金問題を引き起こしたため、「反省の色がないのはおかしい」との声も としている。 選挙前のメディアは、衆議院解散や参議院議員選挙に関する報道が多く、選挙後は「与党が過半数に達しなかったため、石破首相が引責辞任すべき」ということばかり報道し続けており、メディアは選挙や勢力争いが好きなだけで、政策内容はよく理解していないように見える。これには、自民党の部会でメディアに頭取りだけをさせて、議論しているところは見せないことが影響しているため、時々は議論の全過程を見せることが必要だと思われる。 では、⑦の「選挙に負けたから組織のトップが責任をとるべき」という主張は正しいのかと言えば、世界的には、法的・契約的責任などがある場合に責任をとることは正しいが、そうでない場合はトップが引責辞任をして「けじめ」をつけたとし、原因を曖昧にすることで他の関係者を不問に付すことは、むしろ根本的解決を遠のかせると考えられる。 にもかかわらず、日本ではトップの引責辞任が潔いかのように美化されるが、その理由は、i) 1582年に羽柴秀吉と毛利氏が闘った備中高松城の戦いで水攻めをされた毛利方の清水宗治が自刃して講和した武士道に基づく美談がある ii)第2次世界大戦後の日本でもリーダーが戦犯として裁かれただけで、開戦の空気を作ったメディアやその空気に流された国民は戦争責任を問われず、むしろ責任が曖昧にされたことが美化された などである。しかし、そのため、現在でも、同じ構造が残っているのだ。 そして、「自らを正当化するためには、国民を犠牲にしても良い」と考える官の発想は、今回の参院選でも各党の公約に散見され、そういう政策こそが、①の自民党大敗と立憲民主党の伸び悩みの原因である。そのため、②③のように、石破首相が政治空白を作らず、「米国との関税交渉合意実行」「農業政策」「社会保障と税の改革」を続けたとしても、また、⑩のように首相が旧茂木派・旧安倍派・麻生派出身者に交代したとしても、政策立案を官に依存して国民不在の政策を実行している限り、普通に選挙すれば負けるのが当然なのだ。 従って、④⑥のように、両院議員総会を開催して「石破おろし」をしようと、⑤のように、森山幹事長が総括委員会の後に引責辞任しようと、表紙と目次を変えれば本の中身(=政策の内容)が変わるわけではないため、⑨のように、世論調査では「参院選大敗要因は石破氏より自民党そのものにある」と見抜かれているし、⑧のように、事情がわかっている少数のベテラン議員が「むしろ政治空白を作るべきではない」と石破首相の続投を支持しているのである。 3)外国人との共生が不可欠な理由 ![]() 2025.7.23日経新聞 2025.7.31日経新聞 (図の説明:左図が、各年の在留外国人数で、中央と右の図が、*2-2-1に書かれている経済学者へのアンケート結果である) *2-2-1は、①経済学者の66%が「外国人増加が財政収支の改善に寄与する」と回答 ②財政改善の理由は、若年層(20代・30代)が在留外国人の55.9%を占め、勤労世代が中心で、税収・社会保険料収入の増加に繋がり、現時点では給付より保険料と税の負担が上回るため ③労働市場では、建設・運輸などで人手不足を補完し、モノ・サービスの供給不足や価格上昇の抑制に寄与しつつ、日本人との雇用競合は限定的・補完的 ④多様な価値観や考え方が生産性の向上に繋がる ⑤経済学者の76%が「在留外国人の増加が平均的な日本人の生活水準向上に寄与する」と回答 ⑥外国人の定住・高齢化を見据えた子弟への教育・高齢期の給付等の十分な対応が必要 ⑦現在、日本の外国生まれの人口は日本では3%とOECD平均の11%を大きく下回る 等としている。 また、*2-2-2は、⑧人口減少下の日本は外国人の力を借りなければ人手不足で社会機能を維持することも困難 ⑨政府が「移民は受け入れない」という建前を維持しつつ、外国人受け入れを拡大してきたことが矛盾 ⑩その建前を排して外国人の社会統合を真剣に考えるべき ⑪参院選の終盤、政府は「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置したが、国はこれまで外国人政策を自治体任せにし、本気で取り組んでこなかった ⑫日本の社会制度の多くが外国人を想定しておらず制度設計が不十分 ⑬定住を前提とした移民と認めず、一時的な滞在者との位置づけでは共生にも力が入らない ⑭制度の透明性と分かりやすさが社会統合の質を高める ⑮留学生支援も知日派育成の戦略として重要 等としている。 このうち①の「経済学者の66%が「外国人増加が財政収支の改善に寄与する」と回答した理由は、②③⑧のように、現在は勤労世代が中心で税収・社会保険料収入が給付より多く、建設・運輸等の人手不足で供給不足を起こして社会機能を維持すら困難になっている財やサービスの供給を増やして価格上昇の抑制に寄与すること、日本人との雇用競合は限定的・補完的であること などである。 また、⑤の経済学者の76%が「在留外国人の増加が平均的な日本人の生活水準向上に寄与する」と回答した理由は、④のように、多様な価値観や考え方が生産性の向上に繋がるからである。これは、*2-3のように、日本に来た渡来人が鉄器や稲作などを伝えて技術革新を起こしたことによって、日本で人口増が起こったことが既に歴史で証明されているわけだが、*2-3の研究のうちキビやアワは少し乾燥した山間部や寒冷地に適しているため北部九州の土器には確認されず、高温多湿で水稲に適していた九州では稲作が普及したのだ。 つまり、現在も起こっていることだが、外国人の増加によって食文化も多様で豊かになり、多様な価値観や文化の流入とよい方向への取捨選択が、生産性を向上させて日本を豊かするのである。そのため、⑥⑨⑩のように、「移民は受け入れない」などという建前は排して外国人の社会統合を目指し、外国人の定住・高齢化を見据えた十分な対応を行うべきだ。 国は、⑬のように、「定住を前提とした移民は受け入れない」という建前から、⑪のように、外国人政策に本気で取り組んでこなかったため、日本の社会制度の多くが、⑫のように、外国人を想定しておらず、制度設計が不十分である。政府は、参院選の終盤、「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置したが、一時的な滞在者との位置づけでは共生に力が入らないため、⑭のように、制度の透明性と分かりやすさで社会統合の質を高める必要がある。 さらに、⑮のように、留学生や母国に帰還する外国人も知日派・親日派予備軍であるため、粗末にせず育成することが重要だ。現在、欧米では、移民・難民の急増、異なる宗教・習慣・言語などによる文化的摩擦、国境管理、選挙戦略として移民排斥などがかまびすしいが、⑦のように、現在の日本では、外国生まれの人口は3%とOECD平均の11%を大きく下回るため、そのような心配は周回遅れである上、日本は国境管理が比較的容易で、懸念事項についても平等の理念の下で対応が可能なのである。 (4)地方創生とそれに不可欠な外国人労働力 *3-1は、①東京圏への人口の過度な集中是正は不十分 ②東京圏は進学・就職を契機に全国から若者を集める ③基本構想は、東京への転入を止めるのは難しいとして地方の魅力を高めて地方に転出する若者の流れを倍にする目標を掲げたが、これで均衡にできる保証はない ④地方は若者、特に若い女性が働きたくなる場所が少ない ⑤東京から地方への転出増には若者らが仕事を通じて自己実現できる魅力的な職場を地方に増やすことが前提 ⑥石破政権が東京一極集中是正を掲げ続けるなら、まず中央省庁の一部や関係機関を地方に移転させるべき ⑦大胆な税制優遇策を導入して企業の本社移転を促す ⑧地方の居住者もリモートワークによって東京の企業でもっと働けるようにする ⑨基本構想の目玉は、仕事や趣味を通じて居住地以外の地域に継続的に関わる人を「ふるさと住民」として登録する制度の創設で、これでは地方の賑わいや人口増には直結しないため、地方創生2・0も石破政権の政治的なアピールの道具に終わる恐れ ⑩地方税収に占める東京都と東京23区の割合は上昇傾向が続き、豊かな財政を生かして手厚い子育て支援・高校授業料実質無償化等を進めて周りの県からの移住も促す ⑪東京都の独り勝ちは、首都直下地震といった災害への脆弱性を高め、地方の持続可能性も損なう ⑫国土の均衡ある発展のため東京都の豊かな税収の一部を他の自治体にさらに回すことなども議論すべき ⑬専門人材不足で道路、上下水道の管理・更新、介護、保険等の行政サービスを1市町村だけでは実施できなくなり、今後は複数の市町村が共同で実施するか、都道府県が市町村を支援する仕組みの整備が不可欠 ⑭地方自治の充実のため、住民に一番近い市町村に権限を移す地方分権が進められてきたが、今後も職員不足が深刻化する状況で、市町村から都道府県に権限を移すことも考えざるを得ない 等と記載している。 また、*3-2は、⑮自民党は、2014年年末の衆院選公約の柱の1つに「地方が主役の『地方創生』」を明示し、「人口減少に歯止めをかける」と訴えた ⑯自民党は選挙の度に「地方創生」を掲げ、地域の活性化を軸に支持を集めたが、成果は全く見えない ⑰2024年に生まれた日本人の子の数は、統計開始以降初の70万人割れで、女性1人が生涯に産む子の推定人数は過去最低を更新した ⑱多死時代に入って、人口は2024年だけで約92万人減 ⑲与党政権が地方創生、人口減に歯止めといくら連呼しても、反転の兆しすらない ⑳地方の人口減少は加速し、ヒト・モノ・カネの東京一極集中が進む ㉑立憲民主党は、少子化、人口減少、東京一極集中の流れを止め、国に人口戦略を総合的に推進する体制を整えると主張 ㉒体制の必要性は理解できるが、止めることは不可能 ㉓この参院選で人口減を前提に行政サービスをどう維持するか、地域社会をどう守るか議論すべき ㉔石破政権は「地方創生2・0」の実現を掲げ、関係人口、交流人口を拡大させ若者・女性にも選ばれる地域づくりを進めるのが目玉だが新味に欠ける ㉕自民党の公約・総合政策集を見ても地方創生失敗の反省はなく、人口減社会への対応策を羅列するに留まるが、政権与党として骨太の地方政策を示す責任がある ㉖国民民主党は大都市圏への人口集中是正策として「移住促進・UIJターン促進税制」創設、リモート勤務者支援等の地方への移住・企業移転を促す税制を提案 ㉗人や企業が地方に移る方が、東京にいるより支払う税金が少なくて済むといった打開策をさらに検討すべき ㉘東京への集中は災害時のリスクも高めるため、石破政権が防災庁設置などで「災害に強い日本」を実現すると言うのなら、一極集中是正に本気で取り組むべき ㉙日本維新の会は、公約で災害発生時に首都中枢機能を代替できる「副首都」を大阪に作り、多極型社会への移行を目指すと提案 ㉚多極的国土構造は社会の維持のため不可欠で、人口や産業、行政サービスの適正な配置について国民的議論を始める時 等と記載している。 さらに、*3-3は、㉛青森市で7月23日開催された全国知事会議は、人口減対策に最優先で取り組むよう国に求める提言を纏め、総合的対策を展開するための民間企業も巻き込んだ国民的運動推進や庁レベルの「司令塔」設置を要望 ㉜外国人政策を巡り、多文化共生の推進も訴え ㉝人口減対策に関する提言では、女性や若者の意見を取り入れ、働き易く子育てし易い環境を整備することや税制改正等を通じて企業・大学の地方分散を推進することも求めた ㉞知事会としても経済界を巻き込む形で結婚支援策を検討する方針を確認 ㉟外国人政策を巡っては「国は労働者としてしか見ていないが、自治体は生活者として受け入れている」といった意見が相次いだ ㊱外国人の受け入れや定着のために、教育などの環境整備に国が責任を持つよう提言 ㊲地方税財政については、参院選で消費税減税を訴える政党が伸長した影響も議論 ㊳徳島県の後藤田知事は「持続可能な社会保障制度の維持が非常に不安定化している」という危機感を表明 ㊴東京一極集中による地方税の偏在の是正を訴える声も多く上がった 等としている。 1)東京一極集中の是正には首都移転しかないこと 東京に一極集中した理由は、i)徳川幕府が江戸に幕府を置き、明治時代に首都が京都から東京に移され、政治・行政機関が東京に集約されて、国家予算・政策決定が東京中心になった歴史があること ii)そのため、次第に東京に大企業の本社や金融機関が東京に集中し、企業間連携や取引も容易になって、雇用や投資も東京に集まったこと iii)有名大学・研究機関も東京に集中したため、東京に進学先・就職先が多くなったこと iv)その結果、交通網・医療・娯楽・文化施設等も充実し、生活の利便性の高い情報・文化の発信地になったこと v)これにより、若者の進学・定住が加速し、高学歴・高スキルの人材が東京に集まって地方は人口減・空洞化が進んだこと 等である。 そのような中、⑥⑧⑨㉔の「中央省庁の一部や関係機関を地方移転」「地方の居住者がリモートワークで東京の企業で働けるようにする」「居住地以外の地域に継続的に関わる関係人口を増やす」等の部分的移転は、不便や非効率が増すだけで、東京を中心として廻っているサイクルを本質的に解決することはできない。 そのため、「政治・行政→インフラ→経済・文化→教育」等の首都機能の全面的移転と一貫した首都の設計が必要なのであり、それがないことが、⑯のように成果が出ない理由なのである。 従って、⑦⑩⑫㉗のような「大胆な優遇策で企業の本社移転を促す」「地方税収に占める東京都と東京23区の割合は上昇傾向が続く」「国土の均衡ある発展のため東京都の税収の一部を他の自治体に回す」「人や企業が地方に移る方が、東京にいるより税金を安くする」等も、既にあるパイの分配を少し変えるだけの弥縫策にすぎず、国民の生活を豊かにするものではないため、効果が乏しく、持続可能でもないだろう。 しかし、⑪㉘のように、首都直下地震という災害への対応を怠っては、国の持続可能性すら危ういため、上のi)~v)のサイクルを変えるためには、㉙のような大阪での副首都建設というコストばかりかかる対策ではなく、首都移転が効果的だと、私は考える。 海外では、近年、タンザニアが1996年にダル・エス・サラームから国の地理的中心地ドドマに首都を移転し、カザフスタンが地震リスクの回避と政治的安定のために1997年にアルマトイからアスタナへ首都移転した。さらに、マレーシアが行政の効率化とIT政府構想のために、1999年に、クアラルンプールからプトラジャヤへ首都移転し、インドネシアは首都の過密化・環境問題・ジャカルタの水没危機等への対応のために、2024年以降にジャカルタからヌサンタラに首都を移転する予定であり、第2次世界大戦後に首都移転を決めた国だけでも、少なくとも15か国以上ある。 このうち、首都の過密化・環境問題・地震リスクの回避・水没危機への対応・行政の効率化・IT政府構想・地理的中心地という要素は、日本にもそのまま当てはまる。そして、東京一極集中是正・災害対応力強化・地域の自立促進・政治行政システムの再構築を目的として、1992年には、「国会等の移転に関する法律」が制定されて既に首都移転が議論され、1999年には、国会等移転審議会が栃木・福島地域、岐阜・愛知地域、三重・畿央地域を候補地として選定していたのだ。 しかし、現在であれば、イ)顕著になった地球温暖化に対応するため、高原の涼しい場所が省エネで住み易い場所になったこと ロ)長野県駅付近の地盤は比較的安定し、津波や火山災害のリスクも低いこと ハ)南アルプスの眺望や自然環境が美しいこと 二)大阪・京都・名古屋等と比較して地価が安いため、コストを抑えて広い面積を再開発できること ホ)山地で地下建造物も作り易いこと へ)日本の中央部に位置すること ト)リニア中央新幹線で東京から長野県駅まで約40分になること チ)データや文書の保管に適していること 等々の理由で、リニア新幹線の「長野県駅」を下伊那郡などの広域を含む呼称である「南信州駅」として、新首都をそこに決めるのが良いと思う。 2)東京圏への人口集中が止まらない理由 1)のi)~v)の理由で、①②③のように、東京圏に進学・就職のため全国から若者が集まるため、東京への若者の転入を止めるのは難しく、このままでは流入と流出を均衡にできないため、東京圏への人口の過度な集中是正もできない。 また、④⑤のように、地方は若者や特に若い女性が働きたくなる場所が少なく、東京から地方への転出が増えるためには、若者らが仕事を通じて自己実現できる魅力的な職場を地方に増やすことが、確かに必要である。しかし、これを主張すメディアや政党の公約でさえ「女は子どもを産む機械」と言わんばかりのジェンダーに満ちた発想を前提にして物を言っているのだ。 その例は、⑮⑰㉕のように、「女性1人が生涯に産む子の推定人数は過去最低を更新したことが問題である」として自民党が2014年年末の衆院選公約の柱の1つに「人口減少に歯止めをかけることを目的として地方が主役の『地方創生』」を示したり、㉑のように、立憲民主党が少子化・人口減少・東京一極集中の流れを止めて国に人口戦略を総合的に推進する体制を整えると主張したり、㉛のように、青森市開催の全国知事会議が人口減対策に最優先で取り組むよう国に求めたりしていることで、これでは、地方に女性が仕事で自己実現できるような働きたくなる場所が増えないのは当然のことなのだ。 つまり、⑮⑰㉕㉛のように、「人口減が問題だから、生涯に産む子の数を増やせ」とか、㉞のように、「知事会が結婚を推奨する」などというのは、「仕事を通して自己実現したい」と考える女性の自由な選択や生き方を否定する暴力的な発言であり、「女性は、結婚(=家庭責任)・育児・介護で十分に働けない」「女性は昇進に消極的」などという前提が制度設計に組み込まれることで、実際には育児・介護をしておらず昇進に積極的な女性でも、「女性は昇進に不適」と看做されて選択肢を狭められるのである。そして、この手の干渉は周囲との関係が密な地方ほど大きく、これが女性が地方に留まらず、周囲からの古くさい干渉の少ない都市に集まりたがる原因でもあるのだ。 このように、男女雇用機会均等法の理念は、地方に行くほど未だ浸透しておらず、地方自治体は女性職員の採用が進んでも管理職登用は低水準で、女性議員の比率も地方ほど低く、女性議員や女性職員は発言権を持ちにくく、意思決定の場で孤立することさえあって、未だに根強く残る性別役割分業による構造的・文化的障壁があることを、女性は知っていて嫌っているのだ。 そのため、女性を地方に残したいのであれば、まず女性を「産む性」としてのみ捉えるのではなく、女性が男性と同様に敬意をもって扱われ、政治や社会の意思決定の場で遠慮無く発言できるジェンダー平等となる文化や意識構造の再構築が必要なのである。 3)人口減は必然であり、解決可能であること 人口減の問題を声高に主張する人は、⑱⑲⑳㉒のように、「多死時代に入って人口が2024年だけで約92万人減少した」「与党政権が人口減に歯止めといくら連呼しても反転の兆しがない」「地方の人口減少が加速してヒト・モノ・カネの東京一極集中が進む」等と、人口減そのものを問題にしているが、戦後のベビーブームで子どもの数が一気に増えて、1990年代までは「子どもの数は2人まで」という家族計画を推奨していたのだから、日本の人口ピラミッドが坪型になるのは60年前からわかっていたことだ。また、そうでなければ雇用の維持もできなかった。 にもかかわらず、「不動産価格が高くて狭い家にしか住めない」「食料・エネルギーの自給率が低い」等の問題を抱えながら、「人口減少が問題」「不景気だから財政出動が必要」などと主張している人は、同一人物の中で矛盾だらけだ。 そのため、㉝のように、人口減対策に関する提言で、「女性や若者の意見を取り入れ、働き易く子育てし易い環境を整備する」としているのは、「子育てし易いように、非正規やリモートワークなどの多様な働き方ができるようにする」ではなく、「やり甲斐を持って、堂々と仕事ができる魅力的な環境を整備する」に変更した方が良い。また、誰でも年をとるのだから、若者しか見ていない国や地域には住めない。 また、地方における人口減の問題として、⑬⑭㉓のように、「人材不足で道路、上下水道の管理・更新、介護、保険等の行政サービスを1市町村だけでは実施できず、複数の市町村が共同で実施するか、都道府県が市町村を支援する仕組みが不可欠」「この参院選で人口減を前提に行政サービスをどう維持するか、地域社会をどう守るか議論すべき」については、複数の市町村が合理的な範囲で連携や合併すれば済むことである。 そして、これは、30年前の1990年代に行なわれた「三位一体の改革」のうち行政体制の再編と効率化で既に議論したことで、職員不足は広域連携・共同処理・民間委託・応援職員派遣等で解決することになっていたため、将来を見据えてこれらの問題に取り組んでいたのかを、むしろ聞きたい。 なお、㉖のように、国民民主党も大都市圏への人口集中是正策として移住促進・UIJターン促進税制創設・リモート勤務者支援など地方への移住や企業移転を促す税制を提案しているが、(4)1)に書いたとおり、東京への集中は、「政治・行政→インフラ→経済・文化→教育・研究」という循環が歴史的背景を持って有機的に成立しているため、補助金や減税くらいではコストの割に効果が限られるのである。 そのため、私は、リニア新幹線の「長野県駅」付近への首都移転を提案したわけだが、もちろん、㉚のように、多極的で分散型の国土構造を作ることは社会の維持のため不可欠である。その時に、ITを駆使して政府の二重ワークをなくし、AIを使って分散型でも高度なサービスを提供できるようにすれば、地方に住むことはメリットの方が多くてディメリットが少なくなるため、特定の地域に集中しすぎるということはなくなるだろう。 4)人口減解決のKeyは、外国人労働者と難民を含む移民である 首都移転を決め、政治や行政を移転するためには、首都の建設が必要になるが、今度こそ、最初から道路を広くとり、緑の多い自然豊かな町並みにして、21世紀型の交通インフラを張り巡らせなければならない。そのため、既に開発が進んだ現在の“都会”はむしろやりにくいのである。 政治や行政を移転すれば、大企業や金融機関の本社(大きい必要は無い)が集まってきて、お互いの情報交換が容易になるため、経済の要になり、投資が行なわれて雇用も生まれる。この時に、自然が素晴らしい新天地に一流の教育施設や研究施設を集めれば、文字通り「Japan Valley(JPN Valley)」もしくは「Shinsyu Valley」と呼ばれる最先端の都市を造れるだろう。 しかし、新首都を建設して必要な施設を作ったり、松本空港を拡張したり、リニア建設を急いだりするには、リーズナブルな賃金の労働力を多く必要とするため、日本人だけでなく、外国人労働者や難民などの移民の力も必要になる。 なお、外国人政策について、全国知事会議は、㉜㉟㊱のように、「国は労働者としてしか見ていないが、自治体は生活者として受け入れている」「外国人の受け入れや定着のために、教育などの環境整備に国が責任を持つよう提言した」「多文化共生の推進も訴えた」としているが、高齢化が進んで労働力不足に悩んでいる地方や産業にとって、解決のKeyは外国人労働者と難民を含む移民であるため、尤もなことである。 徳島県の後藤田知事は、㊳のように、持続可能な社会保障制度の維持が不安定化していることに危機感を持っておられるが、看護・介護・保育・家事支援など労働力不足がネックになっている産業は、リーズナブルな賃金で働いてくれる労働力が必要不可欠だ。また、これらは女性が担うことの多い職種であるため、移民夫妻の場合なら妻の仕事として有望である。 このように、外国人労働力を活用してその地方の産業を進展させれば、㊴の税の偏在はかなり是正される。また、㊲の地方税財政のうち消費税減税については、最初は付加価値税(企業が負担)を導入しようとしたが、経済界の反対で消費税(消費者である個人が負担)になってしまったものである。しかし、その2税の違いを書くと長くなるため、またの機会に譲る。 (5)地方の仕事・日本人のレベル・日本の低成長理由 ← 地方に仕事を通じて自己実現できる魅力的な産業を創るべき 1)自己実現に繋がる仕事の条件 入社した時や事業を開始した時からすべて満たされるというわけにはいかないが、自己実現に繋がる仕事の条件をAIにリストアップさせた後、私が整理したものが下である。 イ)個人の成長と能力発揮が可能 ・継続的教育の機会(教育・研修・キャリアパス) ・創造性・判断力・主体性発揮可能な業務 ロ)社会的意義と貢献の実感 ・社会課題解決や地域・人々への貢献実感 ・利用者・顧客との関係で感謝や評価を獲得 ・公共性・倫理性が高く、誇りを持てる ハ)働きがいと報酬 ・適正な報酬と安定した雇用形態 ・心身の健康を守れる環境 ニ)働くことの文化的・精神的価値 ・伝統・文化の継承と革新に関与可能 ・自己の価値観や人生観と調和 ・「生き方」「表現」として位置づけ可能 ホ)制度的支援 ・職能評価・昇進・異動等が透明・公正 ・業界全体として持続可能性・革新性を追求 2)それでは、地方の産業である農業を魅力的な産業にするには、どうすればよいか ![]() 季刊 大林 Agli Food NARO (図の説明:左図は、大林組が作成したスマート農業システムで、中央の図が、実際にスマート農機を使って農作業をしている様子だ。また、右図は、耕作放棄地に肉牛を放牧して20日後には農業を開始できる状態になった状況である) 1)のイ)の「個人の成長と能力発揮」については、ICT・スマート農業の導入による技術革新や多様な職能(経営・販売・観光・教育)を統合した職域設計が挙げられる。 また、ロ)の「社会的意義と貢献の実感」には、国民の暮らしを支えている誇りを実感できることがあるだろう。 さらに、ハ)の「働きがいと報酬」については、6次産業化・直販・ブランド化・再エネ電力の販売等による農業収益の改善や季節労働・繁閑差への対応による収入の安定化がKeyであり、それには地域間連携による人材の循環や研修制度の充実、地域産業とのネットワーク構築が考えられる。 そして、二)の働くことの文化的・精神的価値には、「自然を守りながら自然と共に生き、イノベーションにも携われる」ということが挙げられそうだ。 なお、農業には、女性・外国人・若者・高齢者・障がい者が、その長所を活かして容易に活躍できる素地がある。そのため、国がキャリアを継続して永住可能な特定技能制度を整備し、地方自治体が住居・教育等の生活基盤を整備して、農業を従来の3K「きつい、汚い、危険」で「低賃金・補助金なしでは成り立たない」仕事から、新3K「感動・かっこいい・稼げる」と3Y「やりがい・役立つ・夢がある」仕事に変えられることも重要である。 このような中、*4-4-1は、①コメ不足と価格高騰が消費者に不安を与え、随意契約の政府備蓄米放出で落ち着いたが対症療法 ②農家・消費者の双方が安心できるコメ政策必要 ③転作奨励金等を見直して増産に転換し、農家の所得安定と両立させるべき ④米価高騰で「コメの生産量が足りない」という疑念 ⑤「訪日客による外食産業の需要拡大で消費量は減っていない」との指摘 ⑥卸売業者が何重にも関与する流通過程での価格水準不明確 ⑦生産者の自家消費や知人らに配る縁故米の把握できず ⑧石破首相はコメ輸出の拡大を念頭に「増産にかじを切る」と強調 ⑨これまで農政は生産量を抑えて価格維持する手法で、減反政策終了後も人口減によるコメ消費減を見越して飼料米・加工米への転換を促した ⑩立民は水田2.3千円/a、国民は稲作農家に1.5千円/a支給を唱え ⑪支援が農地集約や大規模化の動きを妨げる ⑫農業の担い手は急ピッチで高齢化、担い手不足の深刻化に歯止めをかける対策も必要 ⑬自民党は土地改良・農地集約、デジタル技術導入のため、思い切った予算を確保すると公約 ⑭立民は就農支援資金を10倍に拡充して都市部からの移住を後押ししようとする ⑮国民は若者の新規参入を促すため直接支払制度に「青年農業者加算」を設け、兼業農家も支援対象に ⑯コメ増産や農家所得を支える財源も課題 ⑰農政改革に伴う農業予算の組み替えや洗い直しを検討すべき ⑱日本維新の会は「ミニマムアクセス」の枠外で輸入するコメの関税を時限的に引き下げると訴え ⑲政府はコメ輸出拡大を目標にするが農産物の海外販路開拓は簡単ではなく、良い品質のコメを決められた時期に契約通り出荷することを輸出先から求められる と記載している。 このうち⑨の生産量を抑えて価格を維持する政策は、国際価格より高い分だけ消費者に負担を強いている上、輸出しようにも国際競争力がないという問題を生んでいる。しかし、⑩の水田や稲作農家に1.5~2.3千円/aを支給するやり方では、⑪のように、農地集約や大規模化の動きを妨げる結果、日本の農業全体が低収益・非効率なまま停滞する上に、⑯のように、コメ増産や農家所得を支える財源が問題である。 また、国から補助金を貰わなければ成り立たないような仕事に、新3K「感動・かっこいい・稼げる」は見いだせないため、⑭⑮のように、就農支援資金を10倍にしても、都市部から移住して農業に新規参入したい若者は限られる。つまり、農協や行政による管理が強くて経営の自由度が低い現在の農業は、自由市場で工夫次第で稼げる産業として成長しにくいため、3Y「やりがい・役立つ・夢がある」の達成も難しいのだ。 そして、これが、⑫のように、若者の農業参入が少なく、農業の担い手の高齢化が進んだ原因であるため、⑬⑰のように、土地改良・農地集約、デジタル技術導入のための予算に農業予算を組み替え、農業改革を進めることが重要なのである。 その農業改革には、⑥のように何重にも卸売業者が関与する人材及びコストの無駄を省くため、規模小売店等が農業法人を作って自らのブランドで米その他の作物を作って加工や販売を行なうのが、資本力・販売戦略があって国際競争力がついて、⑧⑲の問題が解決する。さらに、関係する製造業・サービス業が農業法人を作って従業員を農業に従事させると、実際に農作業をしながら必要な機器を考えたり、疲れた従業員をリフレッシュさせたりもできるので一石二鳥だ。 そのため、⑱のように、日本維新の会が「ミニマムアクセス」の枠外で輸入するコメの関税を時限的に引き下げると訴えたことについて、私もこれが良いと思う。本来なら1993年にGATTウルグアイ・ラウンドの農業合意によって日本はコメの輸入自由化を受け入れ、1995年には食管法が廃止され、それから30年も経過しているため、現在は関税0%でもおかしくないのである。そのため、現在の日本の農業者(基幹的農業従事者)の平均年齢が約69.2歳で65歳以上の割合が70%以上であることを考慮しても、今後10年かけて段階的に0%にすれば十分である。 なお、①のように、コメ不足でコメの価格が2倍以上に高騰すれば、日頃はおとなしい消費者も怒りを覚えてコメの消費を減らすので、随意契約で政府備蓄米を放出したのはひとまず良かったが、コメだけ食べて必要な栄養素がとれるわけでもないのに、②③のように、「農家・消費者の双方が安心できるコメ政策のためコメのみを優遇して農家の所得を安定させよう」と考えるのは、いくら何でも勉強不足すぎる。 また、④⑤⑦のように、農協や行政による管理は、予算や補助金の獲得に専念しており、本当に考えるべき要素が抜けすぎているため、早急に止めて情報提供・生産支援・販売支援へのバックアップに留めるのが良い。 3)地方の有望産業である林業は魅力的な産業にできるか ![]() ドローンBiz 2018.8.6日経新聞 Forest Journal (図の説明:左図は、林業を成長産業化させるための森林管理のサイクルを示したもので、中央の図が、航空レーザー・ドローン・衛星画像を使ったスマート林業のイメージだ。そして、右図が、林業用ハーベスターを使用して伐採している様子である) 日本は、国土の約66%(国土面積:約3,780万ha、森林面積:約2,500万ha)が森林で、トドマツ・エゾマツが豊富な北海道約8〜9億m³、スギ・カラマツ中心の岩手県約4〜5億m³、カラマツ・ヒノキ・スギ等の多様な樹種がある長野県約4〜4.5億m³、ヒノキ・スギの人工林が多い岐阜県約3〜3.5億m³、スギ・ヒノキ中心の高知県約3〜3.5億m³、スギの蓄積が多い熊本県約3.5〜4億m³など、北海道・東北・中部山岳地帯・四国・九州は、森林面積も伐採可能な木材の蓄積量も高水準である(林野庁の統計ページ 、 e-Statの都道府県別統計 参照)。 そのため、国産材の活用は地域経済の再生に有効なのだが、現在の日本は、伐採可能な段階に達した人工林の蓄積量が約33億m³(2017年時点)で、年間木材使用量は約7,000万m³程度であるにもかかわらず、木材自給率は約35.8%(2022年)にすぎず、豊富な木材資源があるのに外材依存が続いている状況だ。 これまで国産材が使われてこなかった理由は、i)コストの高さ:伐採に道づくりから始めるため、運搬・加工に多額の費用がかかったこと ii)若者の就業忌避:収益性・安全性・社会的評価の低さが原因で、林業従事者の高齢化と担い手不足が進んだこと iii)外材との価格競争で敗北:円高と輸入自由化によって安価な外国産材に市場を奪われたこと iv)流通の非効率と加工インフラの不足 v)生活者のニーズ(都市型住まい・価格・デザイン)とのずれ 等が原因である。 一方、フィンランドは、国土の約70%が森林で森林資源を国家戦略の柱に位置づけており、バイオ製品・バイオマテリアルへの転換で木材の付加価値を最大化したり、森林のデジタル管理で持続可能な伐採を実現したり、森林所有者を組織化して森林組合による情報提供やマッチング支援を活発に行なったりしている。 また、スウェーデンは、高収益で持続可能な林業をめざして適切な伐採と植林により持続性を確保し、林業を外貨獲得産業として位置付けることによって、年間100億ドル以上の外貨収入を得たり、林業用ハーベスター導入や廃材のバイオマス活用を行なったりしている。 さらに、オーストリアは、効率化と規模の経済を追求し、所有林の集約化によって効率的な森林整備と運搬を実現し、大型製材工場の整備(年間50万㎥以上)で木材供給を安定化し、森林整備と運搬の一体化で作業効率と収益性を向上させたりしている。 そのため、海外の好事例からの日本への示唆は、森林所有者の協力で所有林を集約・大規模化し、航空レーザー・ドローン・衛星画像を使ったスマート管理を行い、林業用ハーベスターを使用して作業を効率化し、工業製品化された安価な木材製品を増やし、流通の無駄をなくして、収穫した木材を高付加価値で使うことである。そうすれば、林業もまた、新3K「感動・かっこいい・稼げる」と3Y「やりがい・役立つ・夢がある」の仕事に変えられるのだ。 なお、私はマンションに住んでいるため、日本家具よりも北欧家具や北欧カーテンの方が部屋にマッチするのだが、北欧では、女性が高い割合で社会の意思決定する立場に進出しているためか、生活者の視点で、住まいの質を高めたり、家具や建材のデザインを決めたりしているように見える。つまり、日本と違って、制度や教育が、デザイン性や創造性を備えた工業製品化を後押ししているわけである。 このような中、*4-4-2は、①長野県林業大学校はドローン操作実習等の新カリキュラムを2026年度から導入 ②林業は人手不足や従事者の高齢化が深刻で、機械化による生産性向上が急務 ③スマート林業や林業経営を習得する新たなカリキュラムで多様な学びのニーズに対応し、即戦力を求める産業界の需要に応える ④新設するのは企業経営と高所作業の2科目で、ほかにスマート林業への対応で林業機械学等の実習を強化 ⑤実習を通じてドローン操作は国家資格の二等無人航空機操縦士を取得できるようにする ⑥進路に応じて2年次でのコースを選択できるよう再編し、マネジメントコースとスペシャリストコースを設ける としている。 林業に使う最新技術は、林野庁・大学・民間企業が連携して開発・実証を進めている下のようなものがあるため、林業大学校は、森林科学・育林技術だけでなく、最新の機器を使いこなせるかっこよくて役に立つ卒業生を輩出しなければならない。 A)センサー測定技術: ・ドローンによるレーザー計測:森林の地形・樹高・蓄積量を高精度で把握 ・地上レーザー(LiDAR):GNSSが届かない急斜面でも3D地形データ取得 ・スマートチェンソー:GPS・加速度・ジャイロセンサー搭載で作業状況を記録 B) 機械・ロボティクス ・ラジコン式伐倒作業車「ラプトル」:急傾斜地での伐倒・搬出を遠隔操作 ・自動走行フォワーダ:搬出作業の自動化で省力化 ・ロボットアームによる伐採:危険作業の代替手段として注目 C) AI・デジタル技術 ・AI地形解析:最適な作業路網を自動設計 ・森林クラウド:森林情報のデジタル管理・共有 ・ブロックチェーン・トレーサビリティ:木材の合法性やCO₂吸収量などの情報を可視化 D) ドローン活用 ・苗木運搬・播種:1時間で500本運搬、10aあたり6分で播種可能 ・Swarm Drone(群制御):峡谷地形でも自律飛行 そのため、①~⑤のように、長野県林業大学校がスマート林業や林業経営を習得する新たなカリキュラムで多様な学びのニーズに対応し、即戦力を求める産業界の需要に応えようとしているのは尤もだと思うが、転職を志す多様な出身の若者にも門戸が開かれるとさらに良い。 しかし、⑥のように、学生時代からマネジメントコースとスペシャリストコースに分けるよりは、最初はすべてを学んで経験し、就職してから自然とマネジメントとスペシャリストに分かれるようにしなければ、技術も現場経験も乏しいためマネジメントとして機能しないマネジメント候補者ができてしまうと思う。 4)地方の産業である水産業を魅力的な産業にするには、どうすればよいか ![]() 2024EPA 2025.8.5日経新聞 2025.2.14時事 (図の説明:左図のように、世界の平均海水温は1880年以降上昇し続け、1970年以降の上昇が顕著だ。また、中央の図のように、日本近海の海水温は過去100年間で1.33℃上昇し、世界平均《0.62℃上昇》の2倍以上だ。さらに、右図のように、三陸沖の水温が平年より最大6℃も高くなるなど、東北沖や北海道沖での上昇が顕著で、海洋生態系や漁獲高に影響を及ぼしている) ![]() 2022.9.13東洋経済 2022.9.13東洋経済 2022.2.17WedgeOnline (図の説明:左図は、世界の漁獲高推移だが、天然ものは資源管理して1990年以降一定、養殖ものが増えて全体として増加している。中央の図は、日本の漁獲高推移だが、1984年の1282万tから2021年には417万tと1/3以下に減少している。右図は、世界銀行資料から作成した2028年の漁獲高だが、世界第6位の排他的経済水域を持っているのに、世界中で日本だけがマイナスになっており、日本の食料戦略は失敗していると言わざるを得ない。何故そうなるのか?) 1.天然漁業について 世界の平均海水温は、1880年以降上昇し続け、特に1970年代以降の上昇が顕著だが、2023年は観測史上最も高温となって平均海水温が20.98℃に達し、台風の強化、サンゴの白化、漁業資源の変化など、海洋生態系に広範な影響を及ぼしている。 その中でも、日本近海の海水温は、上の段の中央の図のように、過去100年間で1.33℃と急激に上昇し、これは世界平均(0.62℃上昇)の2倍以上である。特に、上の段の右図のように、三陸沖の水温が平年より最大6℃も高くなるなど、東北沖や北海道沖での上昇が顕著であり、2023年には記録的な高温が続いて、磯焼けやサンゴの白化など、沿岸の生態系に深刻な影響が出た。また、気温が高くなって豪雨被害が激甚化するなどの影響もあった。 その理由について、*4-4-5は、「『地球温暖化+黒潮流路の変化』によって暖水が東北沿岸まで到達し、「生き物・水産資源・気象にも影響があるはず」とのみ説明しているが、原発からの温排水による海水温上昇もあり、原発の稼働中(温排水により海水温が最大7℃上昇する)には藻場が消失(磯焼け)し、停止中に海藻が回復したという事実もあるため、原発からの温排水の影響も決して見逃せないのである。 そのような中、*4-4-3は、①日本の漁獲量が大幅に減少し、1984年に1,282万tあった漁業・養殖業の生産量は減り続けて、2023年に372万4,300tと最低になった ②減少原因は複数で、i)1982年に「国連海洋法条約」が採択され、200海里内に外国船が勝手に入って漁をしてはいけないことになった ii)その条約により、ピーク時の漁船漁業全体の約4割を占めていた遠洋漁業の生産量が、1990年頃に約1割まで低下した iii)温暖化による海水温上昇が日本近海は世界の海より早く進行し、この100年で1・28度高くなった iv)これにより魚の生息域が変わった v)その結果、日本近海で獲れていた魚が獲れなくなったり、漁獲量が減少したりした など ③海洋環境の異変が進行し続ければ漁獲量減少は今後も進む ④国・自治体・漁業協同組合等は現状の漁獲量減少に歯止めをかけようと、操業期間や漁獲量などの制限を行なったり、養殖業を増やしたりして「持続可能な漁業」の取り組みを行っている ⑤海洋ごみ・海岸に不法投棄されたごみ等による海洋汚染は魚の生態系にも大きな影響を及ぼすため、レジ袋やペットボトルの使用を控えたり、ビーチクリーンや河原の清掃活動に参加したりするなどの海洋環境に貢献できる取り組みで海の資源保全を行うと、魚を食べられる日常を守ることに繋がる 等としている。 このうち①は事実である。しかし、減少原因を、②のi)ii)のように、200海里内に外国船が入って漁ができなくなった「国連海洋法条約」のせいにしているのは、言い訳がすぎる。何故なら、200海里内の面積は日本が世界で6番目に大きく公海で漁をすることもできるからで、世界では下の段の左図のように、資源管理を始める1990年代までは天然ものの漁獲高も増加し、資源管理を始めて以降は養殖ものの漁獲高のみが増加しているからである。 日本では、下の段の中央の図のように、資源管理が始まる1990年代から遠洋漁業も減り始めているが、200海里内で行なう沖合漁業や沿岸漁業はさらに激しく減少しており、海面養殖業もさほど増加していない。その理由は、②のiii) iv) のように、化石燃料の使い過ぎで地球温暖化が進んだと同時に、原発からの温排水の排出もあって、日本近海の海水温上昇が世界の海の2倍の速さで進行して魚の生息域が変わったのに、変化に応じて漁獲する魚種を変えたり、目的の魚がいる場所まで移動したりできなかったため、②のv)の結果になったということなのである。 なお、正しい原因分析をせずに、④のように、資源管理ばかりしてきたため、漁業者は収入減が著しく燃油価格高騰によって出漁コストは増加したため漁業所得が減り、若者が漁業に参入しなくなった。そのため、漁業者の高齢化が進み、多額の資金を要する漁船・漁具のスマート化もできず、現在は悪循環に陥っているのである。 この大きな政策ミスの流れの中で、⑤の海洋ごみや海岸に不法投棄されたごみによる海洋汚染は小さな問題である上、レジ袋やペットボトルは海洋に投棄するより焼却処分やリサイクルにまわされる量の方が大きいため、それらの使用を控えることで漁獲高が上がるとは思えなかった。そして、やはり、それらの使用を規制して控えても、漁獲高は上がっていないのである。つまり、日本政府は、本質的な原因追及と解決を行なわず、国民に不便を強いることのみを行ない、効果が出ない場合は外国のせいにしているわけなのだ。 そのため、日本の水産業を悪循環から好循環に切り替える方策は、イ)国や地方自治体が産学連携して、漁業資源の量や生態系の変化を正確に把握するための科学的調査を実施する ロ)公正中立な科学的調査に基づいて、漁業資源を増やす方法を考え実施する ハ)化石燃料の価格変動に左右されず地方の収入源となる再エネ発電由来のグリーン水素を漁業地帯で量産する 二)漁船をはじめとする船を水素燃料船に変え、漁業者には水素燃料船への買い換え費用を補助する ホ)漁船にスマート機器を積んで漁業の生産性を上げる費用を補助する などが考えられる。 そして、この大きな政策ミスが起こった理由は、a)経産省が原発や化石燃料に固執し、グリーン水素燃料の実装に力を入れてこなかったこと b)既得権益を持つ電力・石油・商社が経産省傘下で、水素燃料への転換に消極的であること c)地方の声・漁業者の声が政策に反映されにくいこと d)政治家や省庁幹部には法学・経済学系の文系男子が多く物理・工学・生物に関する理解が浅いため技術的直感が乏しいこと e)農水省幹部にも法学・経済学系の文系男子が多く、食料安全保証への寄与や栄養学・生物学・生態系に関する知識が乏しいこと 等が挙げられる。つまり、再エネや水素社会は、技術の問題ではなく、政治・行政及び教育の問題なのである。 2.養殖漁業について ウナギが広く国民に食べられてきた理由は、日本の川・湖・田んぼに天然ウナギが広く分布し、筒漁や手づかみで捕獲でき、炭火焼きと甘辛いタレが庶民の人気を博したからである。 では、何故、今では天然ウナギが絶滅危惧種に指定されるほど激減し、養殖ウナギもシラスウナギの乱獲が問題になっているのかと言えば、ニホンウナギはマリアナ諸島付近で産卵すると言われており、黒潮に乗って日本へ来遊し、川を遡上して育った後に、再び海へ戻って産卵する「両側回遊魚」で、海洋環境の変動(海流の変化、水温上昇等)が稚魚の来遊を妨げたり、ダムや堰によって海と川の連続性が失われて遡上・降下が困難になったり、コンクリート護岸によって岩陰や泥底などの隠れ場が消失したりした上に、農薬・生活排水・工業廃水等によって水質が悪化し、川がウナギの生息に適さなくなったことなどが挙げられる。 その上、シラスウナギも養殖用に高値で取引されるため、過剰な捕獲が続いて、特に1970年代以降に漁獲量が激減し、資源の再生産が追いつかなくなったのだそうだ。 そのため、堰に魚道を設置したり、人工産卵場を整備したりするニホンウナギの生息環境改善の取り組みも進行中ではあるが、それだけでは効果が限られるのが現状だ。 そこで、解決策の1つとして、2023年に完全養殖技術が確立され、*4-4-4が、①2024年、国内で流通したウナギは6万941tで、外国産も含めほぼ養殖 ②環境省が2013年に絶滅危惧種に指定したニホンウナギは、マリアナ海溝周辺で産卵し、5~6cmの稚魚に成長し、日本周辺で捕獲されて国内の養殖場で半年~1年半ほど育てられ出荷 ③稚魚は減少傾向で国を挙げて安定供給のための「完全養殖」の研究が進む ④水産研究・教育機構は、2010年に人工稚魚を親魚まで育て、その親の卵を孵化させる完全養殖に世界初の成功 ⑤政府は2050年までに天然稚魚を使わない完全養殖への移行を掲げる ⑥機構とヤンマーホールディングスが稚魚を大量生産できる水槽を開発 ⑦エサもサメの卵から鶏卵や脱脂粉乳等の安価な材料に切り替えて特許取得 ⑧生産コストは2016年に4万円/匹だったが、現在は1,800円/匹に下げたものの天然稚魚の3倍 ⑨水槽の大型化・光熱費削減・エサやり自動化等を進め、将来的には1,000円/匹以下での生産を目指す ⑩ウナギ養殖には、川越市の武州ガスや印章製造販売大手「大谷」など異業種からの参入も相次ぐ と記載している。 このうち①は事実だが、②のうち「ニホンウナギは、マリアナ海溝周辺で産卵する」という点については、生物が地球上の1ヶ所でしか産卵せず、その種が日本内陸の川・湖・田んぼで日常的に見られたというのはむしろ不自然であるため、昔から食べられていたウナギはニホンウナギだけだったのかについても吟味すべきだ。 そもそも、日本の沿岸地域は、新鮮な海水魚を簡単な調理で美味しく食べることができたため、濃い味付けのウナギが好まれるのは新鮮な海水魚を得にくい埼玉県・長野県などの海に面していない地域であり、野生のウナギは泥くささを隠すために、泥抜きをし、炭火で焼くことで香ばしさを加え、濃い味付けにしたのである。そのため、泥底の田んぼや小川で捕獲されたウナギは、ニホンウナギとタウナギが混在していたのではないだろうか。 そして、現在、日本全国で食べられているウナギは、絶滅危惧種に指定されたニホンウナギであるため、③④のように、「完全養殖」のための研究を重ね、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のように、日本政府も2050年までに天然稚魚を使わない完全養殖への移行を目指しているのは良いことだ。 しかし、炭火で焼いて香ばしさを加え、タレで濃い味付けにすれば、材料は鶏肉でも太刀魚でもウツボでも、もともと泥臭さはないため、ウナギ同様に美味しい味になりそうである。 3.他産業に犠牲にされてきた漁業 これまで述べてきたように、漁業は、地球温暖化や原発温排水による海水温の上昇、工業廃水・生活排水・農薬・肥料の川や海への流出による水質汚濁、ダムや堰の設置・沿岸部の埋立・港湾の物流拠点化等による開発によって、知らず知らずのうちに犠牲にされてきた。 その理由の第1は、漁業は海上及び海中での活動が中心であるため、都市に住むリーダーや都市住民から見えにくいことである。また、理由の第2は、漁業は生物資源依存型の産業で生態系に影響されるのだが、環境変化が生態系に与える影響や漁業資源の再生産に関わる研究が遅れ、研究結果が出ても製造業や農業が優先されて漁業が無視されてきたことである。 そのため、日本国民に不可欠で食料安全保障のKeyになる産業であるにも関わらず、漁業振興のための制度整備は後回しにされ、獲りすぎを防ぐ資源管理のみが強調されてきた。 そこで、MicrosoftのCopilot君に、「リーダーたちは、何故、生態系を軽視してきたのか」と尋ねたところ、「海は広くて無限という幻想がある」「生態系に関する知識の欠如とその専門家の排除がある」「縦割り行政で環境省や水産庁の知見が経産省や国交省のインフラ・エネルギー政策に反映されにくい」「開発こそが地域振興で漁業は時代遅れという産業ヒエラルキーの固定観念がある」「環境省は、海は食の提供だけではなく気候調整・水質浄化など生活全体を支えると明言している」などの答えが返ってきて、そのとおりだと思った。 2007年公布の海洋基本法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC1000000033/《私が衆議院議員時代に言い出して作られた》)は、海洋環境の保全と海洋資源の持続的利用の両立を目的とし、「国と地方自治体は、連携して海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進する責務を負う」としている。この海洋に関する施策は、海洋汚染を防止し、海洋環境を保全して海洋生態系を保護する施策を推進しているが、海洋の持続可能な利用には、漁業資源だけでなく、鉱物資源の開発及び利用も含む。 すなわち、日本の排他的経済水域内の資源は国有財産であると同時に、国民共有の財産であるため、国主導で資源戦略としてレアメタル等の採掘を行なえば、これまで失政を重ねて積み上げられてきた日本の財政問題は、国民負担を増やして国民を苦しめることなく解決することができると同時に、技術立国としての競争力強化にも繋がるのである。そのため、後は、やろうという意志の問題だけだったのだ。 5)地方に利益をもたらす再エネ電力の普及は、何故、遅いのか *4-1-1の国連事務総長グテレス氏の寄稿は、再エネ普及が単なる環境対策ではなく、経済・社会・安全保障の根幹に関わる「文明の転換」であることを強く訴えておられ、このうち送電網・蓄電池への投資不足は、日本における政策形成にも当てはまる重要な課題である。 内容は、①クリーンエネルギー時代の夜明けだ ②昨年の世界の新設電源のほぼ全てが再エネでクリーンエネルギーへの投資額が2兆ドル(約300兆円) ③今や太陽光・風力が地球上で最も安い電源で、クリーンエネルギーは雇用創出・経済成長の原動力になっている ④化石燃料への補助金はずっと多いが、化石燃料に固執する国は競争力を損なっている ⑤再エネはエネルギー主権と安全保障の確保に繋がる ⑥化石燃料市場は価格変動・供給網の寸断・地政学リスクに左右されるが、太陽光に価格急騰はなく、風力は禁輸対象にならない ⑦エネルギーの自給自足を可能とする再エネ資源は殆どの国に存在する ⑧再エネの力発揮のため、送電網・蓄電池にもっと投資し、エネルギー需要の増加分を再エネで賄うべき ⑨2030年までに世界のデータセンターの電力消費量が日本1カ国の使用量に匹敵する可能性があり、IT企業は再エネで電力を賄うべき ⑩再エネ関連製品の供給網は特定地域に集中しているが、調達先を多様化し、関税を引き下げ、投資協定を見直すべき ⑪人権侵害や環境破壊が横行する重要鉱物の供給網も改革すべき ⑫太陽光発電に適した地域の多いアフリカの昨年の再エネ投資額は世界の2%にすぎず、開発銀行の融資能力を引き上げて途上国に資金を流入させるべき 等である。 また、*4-1-2は、⑫工場・店舗の屋根に置く太陽光パネルの導入目標策定が国内1万以上の事業者に来年度から義務化 ⑬多くの工場は屋根に重いものを置く設計がされておらず、導入拡大は「ペロブスカイト」が有力選択肢 ⑭化石燃料の利用が多い工場・店舗は2026年度から屋根置き太陽光パネルの導入目標を国に報告する必要 ⑮経産省幹部は「太陽光発電の量を増やすことだけが目的ではなく、日本に技術的強みのある次世代型太陽電池の普及を促す目的もある」とする ⑯積水化学が量産に目途をつけて市場に本格導入が始まるペロブスカイト型の普及促進が念頭 ⑰イオングループは2025年2月までに1469カ所の店舗・施設にシリコン製を導入済 ⑱キユーピーも設置可能な既存工場のシリコン製導入をほぼ終了 ⑲キリンホールディングス(HD)はグループ全体の約7割の工場でシリコン製を導入済 ⑳軽量薄型のペロブスカイトは設置場所が広がるため、イオングループも軽量で移設が容易なら施設の壁・窓・屋内への導入を検討 ㉑ユニ・チャームも建物の側面にも設置でき、倉庫等への展開を期待 ㉒1963年にシャープの量産を皮切りに国産品の製造が広がったが、価格に優れた中国製との競争に負け、パナソニックやソーラーフロンティアが国内自社製造から手を引いた ㉓2025年1~3月に国内出荷された太陽光パネルのうち国内生産されたものは約5% ㉔ペロブスカイト型はヨウ素など主要原料を国内調達でき、国内の積水化学やシャープが技術開発を進める ㉕建設業者等は「安価なパネルと比べると投資に対し発電効率が低い」「50年以上運用する工場で耐用年数10~15年程度の採用は難しい」とする ㉖パネルメーカーは「設置条件が定められておらず、軽さを生かした設置が難しいため、ルール整備も必要」「中国勢も一部で量産を始めており、安価な中国勢に流れてしまう懸念も」とする ㉗SOMPOリスクマネジメントの堀内上席コンサルタントは「設置方法でリスクは変わり、分析が必要」とする ㉘供給体制も未熟で、積水化学は現状の生産ペースでは設置目標義務を賄えない恐れ ㉙日本が先行したシリコン製は国内産業としては衰退し、太陽光発電設備の多くが輸入 ㉚ペロブスカイト型も中国勢が勢い 等としている。 このうち①②③は、事実で喜ばしいことだが、日本は㉒㉓㉙のように、シャープが1963年に灯浮標(ブイ)などの海上設備向け向け太陽電池を量産化し、1967年には宇宙用太陽電池の開発に着手し、1976年には太陽電池付電卓を発売して、1992年には量産可能な単結晶太陽電池で世界最高のセル変換効率22%を達成し、1994年には世界初の住宅用太陽光発電システム(系統連系)を商品化して、2000年には生産量が世界一になったにもかかわらず、国内のメディアからくだらない批判の数々を受けて住宅用太陽光発電システムを十分に普及できず、中国製との競争に破れて手を引いたという、あまりにもったいない歴史がある(https://jp.sharp/business/solar/point/history.html 参照)。 その「くだらない批判」とは、i)太陽光発電は原子力発電よりコストが高い ii)メガソーラーは森林を破壊する iii)太陽光発電は、夜間・悪天候時に発電できないため、バックアップ電源が必要である iv)FIT制度による再エネ賦課金で電気料金増加する v)発電効率が悪い vi)大量のパネル廃棄の懸念 等々だ。 しかし、政府補助まで含めた原価総額を比較すれば、i)は真っ赤な嘘で、ii)は設置する場所の選び方と設置方法の工夫で容易に解決できる。また、iii)は蓄電池を設置すれば解決でき、iv)のFIT制度による再エネ賦課金で電気料金が増加しているかのように見えるのは、他の電源と請求書の書き方が違うだけで実際には国の補助金は、④のように化石燃料の方がずっと多い上に、化石燃料に固執する国は競争力を損なっているのだ。さらに、vi)の大量のパネル廃棄の懸念は、使用済核燃料の廃棄や原子炉の廃炉、事故原発の後処理と比較すれば異次元の安さであり、容易さなのである。 また、v)の「発電効率の悪さ」については、㉕でも言われているが、設置単価あたりの発電量や設置可能面積を考慮すれば、数%の発電効率の違いを問題にする必要はない。また、㉕の「50年以上運用する工場で耐用年数10~15年程度の採用は難しい」というのも、鉄筋コンクリート造りの建物の法定耐用年数が50年であったとしても、窓ガラスの耐用年数は10~30年、その建物で使う自動ドアの法定耐用年数は12年など、機材によって耐用年数が異なるのは普通のことであるため、交換しやすい取り付け方をすればよいのである。 このように、原発事故の放射能汚染と違って工夫すれば解決できる問題を挙げ連ねて、反対のための反対をしてきたのが、日本で再エネ発電が遅れた理由なのである。そして、その間、真面目に取り組んできた中国の製品に敗退し、日本国内出荷の約8割が中国製となり、さらに、③のように、世界では太陽光・風力が最も安い電源になっているにもかかわらず、日本だけが普及を遅らせて相変わらず高止まりしているのだ。そのため、何故、こういう行動になるのかが、深く追求すべき問題なのである。 それに加えて、日本でこそ、⑤⑥⑦のように、再エネは化石燃料市場の価格変動・供給網の寸断・地政学リスクに左右されず、エネルギー主権と安全保障の確保に繋がり、エネルギーの自給自足を可能とするのだ。また、⑧のように、「送電網+蓄電池」にもっと投資して充実すれば、集中電源よりエネルギー安全保障に資するし、⑪の重要鉱物は、日本もEEZ内の海底にレアメタルの相当量の埋蔵が確認されているため、むしろ供給側となって国際貢献すべきなのである。 しかし、最近、⑨のデータセンターの電力消費量の多さを理由に原発の必要性を叫ぶ声が大きいが、データセンターを冷やす電力に原発由来の電力を使えば二重に地球を暖めることになるため、データセンター自体を寒冷地に作って節電したり、データセンターの電力消費量を減らしたり、再エネでデータセンターの電力を賄ったりする工夫をすべきである。 なお、*4-1-1は、国連事務総長グテレス氏の寄稿であるため、⑩⑫のように、再エネ関連製品の供給網を開発途上国に作ったり、アフリカには太陽光発電に適した地域が多いのに昨年の再エネ投資額は世界の2%にすぎなかったことから開発銀行の融資能力を引き上げて途上国に資金を流入させて欲しいという主張もあるわけだが、これには開発銀行を通した資金援助や技術移転を通じてさまざまな支援方法が考えられる。 *4-1-2の㉔のように、ペロブスカイト型はヨウ素など主要原料を国内調達でき、国内の積水化学やシャープが技術開発を進めているため、⑫⑬⑭のように、ペロブスカイト型太陽電池を選択肢として義務化するのは良いと思う。しかし、⑮⑯については、主として積水化学のペロブスカイト型太陽電池の普及を促す目的であっても、義務化するのであれば罰則をつけた方が効果が上がる。また、⑰⑱⑲のように、既にシリコン製を導入済の企業も多く、⑳㉑のように、軽量薄型なら設置可能場所が広がるため、壁・窓・屋内・倉庫に設置された建材一体型で良いデザインのペロブスカイト型太陽電池が設置されているのを、早く見たいと思う。 一方で、㉖㉗㉘㉚のように、ルールについて提案しなければならない側の損保会社やパネルメーカーが「設置方法でリスクは変わり、分析が必要」「設置条件が定められておらず、軽さを生かした設置が難しいため、ルール整備も必要」「供給体制が未熟」等と言ってぐずぐずしている間に中国メーカーが量産して安価で気の利いた製品を作り、またまたペロブスカイト型でも中国勢に敗退しそうである。そして、世界はまた、できあがった製品が安価で使い安く、建物の付加価値を上げる方に軍配を上げるだろう。 5)原発再稼働の是非 イ)原発による公害 *4-2-4・*4-2-5は、①東京電力が2030年代初頭に着手を目指していたフクイチ3号機での溶融核燃料(デブリ)の本格取り出しは2037年度以降にずれ込む ②「廃炉の本丸」であるデブリ取り出しは2号機で先行したが、取り出せたのは計1g未満 ③原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田廃炉総括監は「2051年までの廃炉完了目標は実現の目途が立っていない」と強調 ④東電は「(2号機での)採取は性状分析のためで本格取り出しは全く別」「想定通り進捗した場合でも技術的に不透明な部分があり、東電が実現可能性を1~2年かけて精査」 ⑤3号機原子炉建屋北側の廃棄物処理建屋は本格取り出し前に撤去する必要があるが、廃液等が保管されている建屋解体は難工事で、発生するがれきは高線量の廃棄物となるので保管先確保が必要 ⑥デブリ取り出しルートの原子炉建屋1階にも極めて高線量のエリアがあり、制御棒の関連機器が汚染源らしく除染しても線量が下がらない ⑦取り出したデブリの処分先・処分方法は検討さえ始まっていない ⑧東電は2051年までの廃炉完了目標に拘泥するが、見直しは避けられそうにない ⑨廃炉は、政府と東電が2011年12月にまとめた廃炉工程表に基づいて東電が進めており、これまでも使用済核燃料の取り出しなど多くの作業が遅れたが、2051年までの廃炉完了という大枠は維持 ⑩東電は、3号機の燃料デブリの取り出し開始時期は明らかにしたが、作業期間は「不確かさがある」として示さず、1~3号機で推計880tあるデブリのうち1、2号機は工程も工法も決まっていない 等と記載している。 しかし、②は何度も延期してやっと1g取り出せたのであり、③の廃炉完了目標は実現の目途が立たないというのは、チェルノブイリ原発の事例から考えても最初から想定できたことである。そのため、①④は、東電の希望にすぎず、実現可能性はなさそうだ。 そのため、⑤⑥⑦⑩のように、デブリや高線量のがれきの取り出し工程・工法・処分先・処分方法の検討もなく、⑧⑨のように、単に「2051年までの廃炉完了」を目標にしているだけなのだろうが、人間が近づいて制御することが不可能であるため実現可能性のない目標を掲げて、原発に金を使い続けるのは無責任極まりない。 その上、*4-2-6のように、原発は蒸気機関であるため、熱効率は33%(1/3)しかなく、利用したエネルギーの2倍の67%(2/3)のエネルギーを、温廃水として海に捨てており、冷却に使った海水は、膨大な熱とともに放射能や化学物質も伴って海に排出されるのだそうだ。 この無駄に捨てるエネルギーは想像を絶するほど膨大で、1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させるため、逃げることのできない植物や底生生物は死滅し、逃げることができる魚類は温廃水の影響範囲の外に逃げて海の生態系を変えるため、近海の海産資源が打撃を受けるのだそうだ。 つまり、原発は、事故時の放射性物質の広範な拡散で農業や漁業を壊滅させるだけでなく、平時から温廃水を流して海を温めているのである。そのため、日本近海の海水温上昇は世界平均に比べて高く、特に(5)4)に添付した上段の右図のように、福島県沖と日本海の温度上昇は著しく、これで温暖化しなければ、その方がおかしいくらいなのである。なお、温められた海水からは、溶け込んでいたCO₂が大量に放出されるため、その効果も無視できないそうだ。 現在では、熱効率が50%しかなく化石燃料である火力発電を使わなくても、再エネを電力に変える方法が安価になった。そのため、地方を豊かにしながら、数々の公害をなくす再エネを使わない手はないのである。 ロ)既存原発の再稼働と原発新設の論理破綻 ![]() 2024.8.21東京新聞 2024.10.10 FoE Japan 2024.12.17新潟日報 (図の説明:左図は、世界の電源別発電コストの推移で、大規模太陽光と陸上風力が最も安く、原発はその3倍近くである。また、中央の図のように、原発の建設費用は世界では兆円単位だが、日本では6千億円程度しか見積もっていない。そのような状況下で、右図のように、日本政府は原発推進に舵をきったのである) 2024.12.27、2024.8.21東京新聞 2024.12.27山陽新聞 (図の説明:左図は、電源別の発電コストの比較だが、原子力は事故確率や事故対策費を低く見積もっている上に、国が負担している費用は全く入っていない。経産省が試算した中央の図も、まるで再エネよりも原子力の方が発電コストが低いかのようだが、原子力は試算の下限値、太陽光と風力は試算の平均値が記載されている。そして、再エネには国が負担するコストはなく、右図のような電力会社の再エネ賦課金だけがあるため、再エネ導入に関するコスト《3.9~6.4円》も、原発のコスト12.5円の1/3~1/2になっているのだ) ![]() 2025.7.13東京新聞 2025.7.2 EoE Japan 2013.7.14日本共産党 環境総合研究所 (図の説明:1番左と左から2番目の図が、2025年参院選における各党の原発政策である。また、右から2番目の図が、2004年時点の政府試算による原発コストで、この時、5.3円/kmhとしていたものが、2024年試算で2040年に12.5円/kmhになるとしているわけだが、どちらも原発関連予算以降は含めていないのだ。そして、1番右の図は、若狭湾岸の原発で事故が起こり、海風の北風が吹いた場合の放射性物質の拡散状況で、日本海側の原発の場合はフクイチと異なり、すべて陸地に落ちるため被害はさらに甚大になる) 上のイ)のような状況の中、*4-2-1は、①参院選では原発と再エネをどこまで活用するかで各党が大きく分かれた ②自民・公明両党は、政府のエネルギー基本計画「原子力など脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」を意識し、安全性確認済み原発の再稼働を「最大限活用」へ方針転換し「可能な限り原発依存度を低減」という文言は削った ③国民民主・日本維新の会・参政党は、再稼働だけでなく、次世代原発の研究・建て替え・新増設に積極的 ④立憲民主は再稼働を容認しつつ、実効性ある避難計画と地元合意が前提で新増設には反対、れいわ・共産は原発ゼロを明確に主張 ⑤立憲・共産・れいわは、将来的に電源構成100%再エネを目指す ⑥自民・公明は、再エネ「最大限導入」とするが数値目標はなし ⑦日本は国土が狭く、平地が少ないため、再エネの適地が限られ、海外に比べて導入コストが高くなりがち ⑧天候に応じて出力が変わる再エネをどう制御し、安定的に電力を供給するかも大きな課題 ⑨国民民主・参政党は再エネ賦課金が国民に大きな負担になっているとして停止・廃止を主張 ⑩AI・データセンターの普及で電力需要は増加し、40年度には発電量が22年度比で1~2割増 等としている。 参院選では、①②③④⑤と上の最下段の1番左及び左から2番目の図のように、原発と再エネをどこまで活用するかで各党の政策が分かれた。しかし、日本のように再エネ資源(地熱・水力・風力・太陽光etc.)の豊富な国で、⑥のように、「再エネでエネルギーの100%を賄う」と言えないのは、著しく高コストである原発を推進して、本気で再エネに取り組んでこなかったからにほかならない。 そして、⑦⑧のように、「日本は国土が狭く、平地が少ないため、再エネの適地が限られ、海外に比べて導入コストが高くなりがち」「天候に応じて出力が変わる再エネは安定的に電力供給できない」などと思考停止状態の言い訳をしているが、自然の恵みである再エネは日本にも豊富で、蓄電池を使えば安定供給も可能になり、原発に依存する必要は殆どなくなるのである。 また、⑨のように、国民民主・参政党は「再エネ賦課金が国民に大きな負担になっている」として、再エネ賦課金の停止・廃止を主張していたが、上の中段の右図のように、電力会社の再エネ購入費が原発コストに上乗せされる形で請求書が書かれているのが誤りなのである。もし、電源別に請求書を作りたいのなら、電源別のコスト明細を作り、コストに応じた単価を記載するべきであるし、電源別には請求しないのであれば、再エネだけ再エネ賦課金として上乗せする記載の仕方をするのは、意図的でおかしいのである。そして、そのくらいのことを、人から言われなければわからないだろうか。 なお、⑩の「AI・データセンターの普及で電力需要は増加し、40年度には発電量が22年度比で1~2割増」については、*4-2-2に関連して詳しく言及する。 *4-2-2は、⑪関西電力の森社長が「美浜原発で原発建て替えに向けた地質等の調査を始める」と発表 ⑫新増設の具体的動きは2011年のフクイチ事故後初 ⑬再始動する新増設を、原発への信頼を取り戻し、AI時代の産業構造に作り替える起点にすべき ⑭森社長は「電力需要はデータセンター(以下“DC”)や半導体産業の急激な成長を背景に伸びる。脱炭素を進めるためにも原子力は必要不可欠」と強調 ⑮安全性を高めた新規制基準の下、電力会社は既存原発の再稼働を進めている ⑯電力需要増大や温暖化ガス削減に向けた脱炭素電源の選択肢として原発に目を向ける時 ⑰再エネを最大限伸ばす努力を諦めてはならないが、太陽光・風力発電の適地の偏りや時間・天候で変化する出力の不安定性から再エネだけでは力不足 ⑱電力需要増大の象徴がAI普及を支えるDCで、日本ではDCの9割が関東・関西に集中 ⑲DCの電力需要増大への対応には、北海道・九州等の電源豊富な地域にDCを集約して光ファイバーで通信する方法と、大都市圏で大量・安価な脱炭素電力を供給する方法がある ⑳米国では巨大IT事業者が自社のDC用に原発から直接電力を買ったり、原発に隣接してDCを置いたりする動きが広がりつつあるので、日本でもDC事業者が新たな原発の建設・運営に参画して一定の電力引き取りを確約するといった選択も可能にしてはどうか 等としている。 ⑪のように、関西電力の森社長は「美浜原発で原発建て替えに向けた地質等の調査を始める」と発表されたそうだが、高浜・大飯・美浜原発(関電、11基)と敦賀原発(日本原電、2基)は、福井県の日本海に面する若狭湾岸に林立しており、この地域は、下の段の1番右の図のように、原発事故時には、近畿地方全域が立ち入り不能や耕作不能に陥る場所である。また、原発は、平時から海に温排水を出していると同時に、事故時には高濃度の放射性物質を含む汚染水が日本海に流出する恐れの高い地域で、それは⑫のフクイチ事故を見れば明らかである。 にもかかわらず、⑭⑯のように、関電の森社長がDCの電力需要と脱炭素を根拠に「原子力は必要不可欠」と強調しておられ、「電力需要増大や温暖化ガス削減に向けた脱炭素電源の選択肢として原発に目を向ける時」などとも書かれているが、イ)で述べたとおり、原発はCO₂より海を暖めて地球温暖化を早めている上に、DC最大の電力消費は冷却なので、高地や寒冷地(北海道・東北・中部地方)にDCをおけば、自然冷却可能で冷却効率が良く、このような場所は再エネの宝庫でもあるのだ。一方、⑱のように、DCを関東・関西に集中させ、福井県の原発から電力を供給するのは、地震のリスクが高い上に、冷却効率が悪く、電力消費も大きい。 また、原発事故時には、「電力遮断→冷却不能」「放射線→避難→立入禁止」等が同時に発生するが、DCは電力・冷却・人的アクセスが不可欠であるため、原発事故はDCを稼働不可の状態にする。さらに、通信は、1秒で地球を何周もできる速度であるため、⑲のように、大都市にDCを作って近くの原発から電力を供給する必要は無いし、電源豊富な地域にDCを集約する必要も無い。それよりは、データをバックアップしたり、分散したりすることによって、セキュリティを高める方がよほど重要なのである。 従って、AIやDCによる電力需要の増加は事実であるが、それを理由に原発新設を正当化するのは論理の飛躍であり、「再エネ+蓄電+地域分散型電源」等の他の選択肢が、電力会社の利益のために排除されている。そのために、嘘のコスト計算を行い、環境を度外視し、AIやDCによる電力需要増を理由に論理を飛躍させて原発新設を正当化するのでは、⑬の「再始動する新増設が原発への信頼を取り戻す」どころか、どういう頭で考えればそういう結論になるのかと思うわけである。 なお、⑮の「安全性を高めた新規制基準」といっても、その基準を守れば原発は決して事故を起こさないと言う人はおらず、もちろん言えもしないため、電力会社が既存原発の再稼働を進めているのを、私たちは再エネで電力を100%賄えるようになるまで容認しているにすぎない。しかし、既に、その時期は来たのだから、⑰のように、再エネを最大限伸ばし、出力の不安定性は蓄電池・水素等でカバーすれば良いだろう。 さらに⑳は、米国では巨大IT事業者が自社のDC用に原発から直接電力を買ったり、原発に隣接してDCを置いたりする動きが広がりつつあると述べているが、日本では原発廃棄物処理の経済性や課題も解決されていないのに、米国では原発の廃棄物はどう処分するのだろうか。「原発はコストが安い」などと言う以上は、建設費・運転費・立地自治体の住民対策費・廃棄物処理費・廃炉費・事故処理費等のすべての費用を加算してコスト計算すべきである。 ハ)それでは、原発立地自治体と既存電力会社はどうすれば良いのか 福井県のような原発立地自治体が原発の再稼働や新設に前のめりになる理由は、交付金依存の財政構造で、自治体予算に占める電源立地交付金の割合が高く、交付金による歳出によって公共事業にも金が落ち、原発関連企業やその下請け企業に依存する雇用が多いことである。 そして、原発立地自治体に税金から交付される交付金には、i)発電所立地自治体に交付される電源三法交付金(原発への財政依存や政策誘導の温床) ii)地域活性化名目の地域振興整備費(効果の乏しい使途が多い) iii)廃炉作業に伴う廃炉支援交付金(廃炉を長期化させて継続的依存に陥る可能性が大きい) 等がある。 しかし、放射線による健康被害や原発温排水による漁業被害があるため、原発立地自治体では、普通の産業を誘致したり、発展させたりすることが難しく、地域の将来像が暗くなって、ますます若者が流出するという悪循環が生まれている。そのため、原発立地自治体でも環境意識の高まりで住民の中に原発に対する懸念や反対の声を持つ人は少なくなく、この「昭和のスキーム」は限界を迎えているのだ。 佐賀県の玄海町を例に挙げれば、原発事故のリスク・廃炉の長期化・温排水による漁場環境の変化等の地域の未来に希望が持てない状況が続き、地域産業の多様性も欠如しているため、原発以外での雇用の選択肢が乏しくなり、若者が「暮らしたい」と思える町づくりがなされず、進学や就職を機に都市部へ流出して戻らないという状況が続いている。 これを、令和型のスキームに転換するには、脱原発依存の地域経済を構築することが必要不可欠で、そのためには、農林漁業・製造業・IT・観光等の多様な産業を育成し、農林漁業地帯の再エネを活かした再エネ電力を創って、その電力を使うモデルが必要なのである。 ちなみに、住民が住みたい町の条件は、i)放射線被害の心配がない安全・安心な生活環境 ii)原発関連以外の産業育成による地域の経済的自立 iii)働く場の多様性 iv)チャレンジ機会の確保 v)充実した教育機関 vi)福祉の充実 vii)自身が町作りに関われる体制 等である。 そのため、下の⑨のように、東電の柏崎刈羽原発6・7号機は技術的に再稼働可能だとしても、事故リスクが0でない以上、地元住民の同意が難しいのは当然なのだ。 そのような中、*4-2-3は玄海原発の地元紙である佐賀新聞の記事であり、内容は、①2025年2月に政府が纏めた新エネルギー基本計画はフクイチ事故の反省から掲げた「可能な限り原発依存度を低減」という文言を削除し原発推進を明確化 ②参院選では原発・エネルギー政策の議論は低調 ③政府は原発の電源構成比を2023年度の8.5%から2040年度に約20%に引き上げ方針 ④現在稼働中の原発は14基で目標達成には30基以上の原発再稼働が必要 ⑤古い原発の建て替え要件も緩和して新設に道を開いた ⑥自民党は既存原発より安全性が高いとする「次世代型」の具体化を掲げ、公明党も「総基数は増えない」として容認 ⑦再エネは最大電源と位置づけ2040年度に40~50% ⑧野党はさまざま ⑨東電の柏崎刈羽原発6・7号機は技術的には再稼働可能だが、地元同意が最大のハードルで、東電に原発を動かす資格があるのかが問われている ⑩廃炉作業は困難を極め、デブリ880tのうち取り出せたのは0.9g ⑪「30~40年で廃炉」という目標達成は厳しい ⑫フクイチ周辺の住民避難も続き、六ケ所村の核燃料サイクル施設や核のごみ最終処分場等の課題も未解決 ⑬柏崎刈羽原発は新潟県や東電だけの問題ではないという意識で注視 ⑭地球温暖化対策やCO₂削減は喫緊の課題 等である。 このうち、①②は、政府が纏めた新エネルギー基本計画は、フクイチ事故の反省から掲げた「可能な限り原発依存度を低減」という文言が削除されて原発推進になり、参院選では原発・エネルギー政策の議論は覆い隠されたことを憂えているが、全くそのとおりだ。 また、③のように、政府は、原発の電源構成比を2040年度にはフクイチ事故前と同じ約20%に引き上げようとし、④⑤⑥のように、目標達成には30基以上の原発再稼働が必要として、古い原発の建て替え要件を緩和して新設に道を開き、自民党は「次世代型原発(革新軽水炉・SMR・高速炉・高温ガス炉・核融合炉)は既存原発より安全性が高い」などとしているが、次世代型原発も基本的には蒸気機関であり、熱エネルギーを電気に変換するものであるため、熱効率(カルノー効率)の限界は避けられず、冷却による環境への熱放出は不可避だ。また、事故時には人間が制御することが困難になり、安全性が向上したとしても事故の確率が0にならないことに変わりはない。 その上、⑧のように、野党の主張はさまざまだが、与党は原発推進をしたため、⑦のように、再エネ比率は2040年度でも40~50%にしかならない。しかし、日本の場合は、再エネ100%も可能であるため、⑭の地球温暖化対策には、原発よりも再エネを使った方が良いのである。 なお、フクイチでは、⑩⑪⑫⑬のように、廃炉作業が困難を極め、デブリ880tのうち取り出せたのは0.9gにすぎず、「30~40年で廃炉」という目標は机上の空論でしかなかった。また、周辺住民の避難生活も続いており、六ケ所村の核燃料サイクル施設も核ごみの最終処分場等の問題も未解決であり、これはフクイチや東電だけの問題ではないのである。 それでは「既存の大手電力会社はどうすれば良いか」については、電気のプロである人材が豊富であるため、日本企業がアフリカ等のインフラ整備が不十分な開発途上国に進出する際に伴走して現地でインフラ整備を支援すれば良い。その際には、再エネ技術を使って地域密着・分散型の電力供給モデルを輸出し、SDGsを中心に据えた事業スキームを展開すれば良いと考える。 そして、アフリカ市場で事業展開をするには、*4-5のように、アフリカからの留学生を奨学金で支援し、卒業後に自社に就職した場合は返済を免除したり、特定技能でアフリカ人を雇用したりして、親日的なアフリカ人を育てるのが効果的だと思う。 6)EVについて ガソリンエンジンの熱効率も非常に低く、日常運転時は約15〜30%(アクセル全開状態が少ないため、効率低下)で、最大熱効率でも約40〜41%(ホンダのハイブリッド車「シビック HEV」で最大41%)だそうだ。そして、エネルギー損失の主な原因は、i)冷却損失(熱として放出) ii) 排気損失(排気ガスに含まれる未利用エネルギー) iii)機械損失(摩擦など) iv)ポンプ損失(吸気・排気のためのエネルギー) v)未燃焼損失(燃料が完全に燃焼しない) 等で、ガソリンの持つエネルギー(熱量)のうちタイヤを回すエネルギーは非常に少ないのだ。 そのうち、特にi) iii)は、ガソリンエンジンが約60〜85%のエネルギーを熱として捨てていることで、都市部の「ヒートアイランド現象」を加速し、交通量の多い地域では局地的な気温上昇も起こって廃熱による都市の局地的温暖化を引き起こしている。 また、ii) v)は、排気ガスによる大気汚染を起こして呼吸器疾患・アレルギー・癌などの原因となり、CO₂は地球を温暖化させて気候変動や海面上昇を引き起こす。また、NOₓやPM(微細な粒子)は、酸性雨・光化学スモッグ等の原因となり、呼吸器疾患のリスクを高める。さらに、不完全燃焼によって発生するCOは人体に有害である上、VOC(揮発性有機化合物)は光化学オキシダントの原因となって特に都市部の大気汚染を悪化させているそうだ。 そのほか、燃料の採掘・精製・輸送時に、環境破壊(原油採掘による生態系破壊・精製過程の化学物質排出・タンカーの座礁など輸送中の事故による海洋汚染)も引き起こしている。 そのため、欧州では2035年以降のガソリン車販売禁止を打ち出す国も多く、EVへの移行が加速しており、日本でも2030年代半ばまでに新車の電動化100%を目指す方針が示されている。 そのような中、*4-3-1は、①日産は東南アジア・中東・中南米を想定し、2026年に中国からEV輸出を始める ②中国で開発・生産され価格・性能の両面で競争力のあるEVセダン「N7」を中心に海外展開を図る ③N7はデザイン・開発・部品の選定まで中国の合弁会社が担った初のEV ④広州工場で生産し価格は約240万円からでBYDの競合製品と比べて同水準 ⑤ソフトウェアに中国企業のAI技術を採用し、国によって利用制限がある ⑥日産は中国のEV開発大手IAT社に出資し、輸出仕様のソフト開発を推進 ⑦東風汽車集団との合弁会社で通関業務 ⑧中国は世界に先駆けてEV化が進み、航続距離・車室の快適性・エンターテインメント機能等の性能が高く、国外でも需要あり としている。 日本は、1995年にドイツのベルリンでCOP1が開かれた時から地球温暖化と温室効果ガス削減を提唱し、それと同時に市場投入できるEVの開発に着手した。そして、1997年に京都で開催されたCOP3では「京都議定書」を採択して先進国にCO₂等の温室効果ガス削減義務を課し、2015年にパリで開かれたCOP21は全加盟国が温室効果ガス削減に参加して気温上昇1.5℃以内を目標とし、2023年にドバイで開かれたCOP28では化石燃料からの脱却に初合意してロス&ダメージ基金の運用を開始した(環境省 https://www.env.go.jp/earth/copcmpcma.html)。 つまり、日本は1995年頃から地球温暖化と排気ガスによる公害を認識してEV開発を進めていたのだが、2010年に日産が世界初のEV普及車「リーフ」を市場投入したにもかかわらず、日本のメディアは屁理屈の数々を重ねてEV普及を阻害し、先鞭をつけて世界のトップランナーになった日産を破綻寸前まで追い込んだのである。馬鹿にも程があるのだ。 そして、この構造は、シャープの太陽光発電など他のイノベーションにも言えることで、その間、科学的根拠に基づいて真面目に取り組んできた国に差をつけられ、①~⑧の事態に陥った。 また、*4-3-2は、⑨日本政府はアフリカ諸国とのFTA締結を検討し、日本車を輸出促進 ⑩第9回アフリカ開発会議で発表 ⑪ケニアなど東部8カ国でつくる「東アフリカ共同体(EAC)」との交渉が候補で、最終目標はアフリカ全体とのFTA締結 ⑫ケニアは港湾が整備されており、日本政府は東アフリカをインド洋を通じた物流の要と位置づけてインド・中東諸国と一体の経済圏を築く ⑬アフリカで人口最大のナイジェリアも候補で原油生産量最大・内需拡大中 ⑭西アフリカの物流・工業のハブとして成長中のガーナも連携相手 ⑮港湾から内陸国へ陸路で運ぶのに複数国を通過し、各国の関税が輸送コストの上昇要因になるのでFTA締結で日本企業のビジネス環境を整備 ⑯日本からの輸出は中古車を含む自動車が多く、輸入は鉱物資源の割合が高い ⑰経団連は韓国・インド・欧州が先行するアフリカとの協定整備の遅れで、世界との競争条件で大きな格差が生じたと指摘 としている。 このうち⑨⑩の「日本政府はアフリカ諸国とFTAを締結する」というのは、⑪⑫⑬⑭及び⑮⑰を考慮した時に重要なことだが、⑨⑯のように、日本車(それも中古車)を輸出して鉱物資源を輸入するのでは、未だに昭和の加工貿易・ガソリン車・アフリカ蔑視から抜け出しておらず、これではアフリカ諸国に感謝されずに中国に完敗することは間違いない。 それより、アフリカにEVの製造拠点を作って、環境に負荷をかけない再エネによる分散発電由来の電力で工場を稼働させ、EVを動かすのが、アフリカの自然保護と工業化を両立させる方法である。なお、日産はじめ日本車は、スタイルにスマートさはないが、悪路でもへこたれない丈夫さを持っているため、アフリカに開発・製造・販売拠点を持つのが合理的だと思う。 また、大手電力会社は、アフリカで再エネによる分散発電を普及させることによって、アフリカに進出する日本企業の伴走をするとともに、地元に電力インフラを普及させれば感謝されるだろう。もちろん、道路や上下水道の専門家も必要であるが、日本でやったのと同じ失敗を繰り返して負の遺産を作らないようにすべきである。 7)地球温暖化と食糧不足 イ)地球温暖化の第一次産業への影響 *4-3-3は、①北極の海氷が急速に減少しており、2027年には9月に殆どなくなる予測も ②冷却源である海氷の減少で地球温暖化が加速 ③1999~2024年までの25年間で9.38cmの海面上昇が確認され、島嶼国の気候難民が気候移住を始めた ④世界各地の陸上に点在する氷床や氷河の減少も深刻で、世界の氷河は2000~2023年に年間平均2,730億トン減少して約1.8cmの海面上昇を引き起こした ⑤海面上昇の6割が氷河や氷床の融解を原因とし、3割は海水温が高くなったことによる海水の膨張 ⑥気候変動に伴う記録的な熱波で山火事が頻発し、専門家は人為的な気候変動による気温・雨量の変化が影響と分析 ⑦2024年の森林焼失面積は1,350万haで前年比13%増で、温暖化を加速させる悪循環 等としている。 上の①②のように、冷却源となる北極の海氷が急速に減少して地球温暖化が加速し、北極海の通行が容易になるのは良いものの、③④⑤のように、海氷融解や氷床・氷河の減少に加え、海水温上昇による海水の膨張で、1999~2024年の25年間に9.38cmの海面上昇が確認されたそうだ。 そのうち、海面上昇の6割は氷河や氷床の融解、3割は海水温上昇による水の膨張が原因であり、島嶼国の気候難民が気候移住を始めたそうだが、日本も沿岸部の海岸線が変化したのは既に知られているところである。しかし、海水温上昇の影響は、海岸線の変化に留まらず、海中の生態系の変化や気象の変化に及んで、水産業や農業に悪影響を与えている。 さらに、人為的な気候変動による気温や雨量の変化で、⑥⑦のように、記録的な熱波による山火事が頻発し、2024年の森林焼失面積は1,350万haで前年比13%増となり、森林資源に悪影響を与えた上、さらに温暖化を加速させるという悪循環に陥っている。 ロ)食料自給率向上の必要性 国連の2024年改訂推計では、2050年の世界人口は96.6億人、世界人口のピークは2084年に102.9億人と予測されており、2050年までの人口増加の大部分は、インド、ナイジェリア、パキスタン等の9カ国で発生すると予測されている。それと同時に、これらの国でも製造業が発展し、食料のニーズが高まるため、日本は、輸入にばかり頼っていると食糧不足に陥るのだ。 *4-3-4は、①農水省は政府の生産拡大意向を反映し、米の生産費の削減のため農地の大区画化を進めてスマート技術の導入を加速する ②労働力不足の対応として、水田に種を直接まく直播を普及する ③高温耐性品種や多収性品種への転換も促す ④主食用米の将来的な需給緩和を懸念する声を踏まえ、産地の自主的な長期計画販売への支援も盛り込んだ ⑤主食用米から麦・大豆、米粉用米などへの転換を促す水活を明記 ⑥「農業構造転換集中対策」は5年間で事業規模2.5兆円、うち国費1.3兆円を見込む としている。 米を例にすると、日本では気温上昇で従来の品種が不作となって米不足に陥ったため、③のように、農水省が高温耐性品種や多収性品種への転換を促しているが、佐賀県では、夏の高温障害に対応して既に佐賀県農業試験研究センターが研究・ 開発を行って2009年には「さがびより」を本格的に栽培し、2010年から特A評価を得ている。そのため、高温耐性の美味しい米は既にあるのである。 また、イネの原種は熱帯植物であるため、ベトナムやタイでは二期作・三期作・直播・乾田栽培は普通に行なわれており、②の直播は、労働力不足対応だけでなく、生産性向上にも効果的なのである。さらに、イネを刈る時に茎を長く残して「ひこばえ」から米を収穫すれば、再度、田植えや直播をする必要が無く二番穂の収穫も早い。そのため、地域の気候条件を加味せず、全国一律で年に1度の田植えを行なって米粒の大きさまで規制するのは食料自給率向上に資さない。 従って、気候が異なる産地の自主的な長期計画が必要なことは言うまでもないが、ニーズがあって売れる製品を作っている農業が、④のように、主食用米の需給緩和を懸念する声を踏まえて税金を使って販売支援を行い、今後も高コスト構造を維持する必要は無いと思う。 さらに、コスト低減には、①のような農地の大区画化とスマート化が必要不可欠だが、これも国際価格までのコスト低減圧力があって初めて、速やかに進むものだ。 なお、⑤のように、米粉のためにわざわざ米粉用米を作らなくても、白濁したり炊飯用に適さなかったりする米を余すところなく使えば資源と労力の無駄が減る上に、生産者の所得も増える。また、“主食”の米だけ食べて生きていける筈がないため、主食用米から麦・大豆等への転換や二毛作の推進は必要不可欠である。 しかし、これまでの農政は、金を使う割に生産性が上がらず、農業は、いつまでも保護を必要とする産業から脱皮することができなかった。そのため、⑥の「農業構造転換集中対策」の「5年間で事業規模2.5兆円、うち国費1.3兆円」は、単なる金のバラマキではなく、生産性向上を通して国際競争に勝てる産業にするための基盤整備に使ってもらいたいのである。 ハ)日本で常識化した食料と資源の無駄使い *4-3-5は、①大手コンビニのミニストップの一部店舗で、店内加工した「手作りおにぎり」や総菜食品の消費期限を偽って販売する不正が見つかった ②原因究明と改善策が実施されるまで、全店で店内加工のおにぎり・総菜・弁当の販売を中止 ③国内全1784店のうち埼玉・東京・愛知・京都・大阪・兵庫・福岡の23店で、店内調理後、ただちに消費期限を計算してラベルを貼るべきところ時間をおいて貼るなどして期限を2~3時間過ぎた商品を販売した ④購入者から健康被害の連絡はない 等としている。 ミニストップの23店舗の行為については、①のように、「消費期限の偽装は食品表示制度の根幹を揺るがす不正で、消費者の信頼を裏切る行為だ」という論調の批判が多いが、消費者である私も「日本は食料自給率が低いのに、消費期限や賞味期限の名の下に、食べられる食品を捨てるのはもったい」と思った。ちなみに、私自身は、雑菌がつかないように気をつけて昼食用に作ったおにぎりが余れば、それを夕食や翌日の朝食に食べることもあり、その際には、冷蔵庫に保管したり、食べる前に殺菌目的で電子レンジをかけたりする。 そのため、消費期限切れや賞味期限切れによる食品ロスについて調べたところ、サプライチェーンに賞味期間の1/3以内で小売店舗に納品する「1/3ルール」があり、賞味期間の1/3以内で納品できなかったものは廃棄されるため、i)賞味期限表示の大括り化(年月日から年月、日時から日など) ii)賞味期限の延長(=納品期限の緩和) iii)フードバンク・子ども食堂への食品提供 などの商慣習の見直しや食品リサイクルを含めた食品ロス削減に取り組んでいるとのことだった(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/syokansyu/torikumi2024.html 農水省 参照)。 また、消費者庁も関係5 府省庁と連携して、事業者と家庭の双方で食品ロス削減を目指して「No Foodloss Project)を展開しているそうだ(https://www.jsrae.or.jp/annai/yougo/265.html 参照)。 従って、②③の国内全1784店のうち埼玉・東京・愛知・京都・大阪・兵庫・福岡の23店舗で、販売時間を2~3時間過ぎた商品を販売したため、全店で店内加工のおにぎり・総菜・弁当の販売を中止するというミニストップの対応は、④のように、健康被害の連絡もないのにヒステリックな対応に思えた。販売時間を2~3時間過ぎたら食べられなくなるほど、雑菌の多い作り方をしたり、保存の仕方をしたりしているのだろうか? つまり、食品ロスは、環境負荷・経済損失・倫理を含む複合的な問題であり、杓子定規な運用は必要以上の社会的コストを生むため、作り方・保存時の温度管理・陳列時の鮮度維持方法に応じて消費期限や賞味期限は変えた方が良いと思われる。 それらの管理を、ミニストップのようなチェーン店が一斉に行なうには、セントラルキッチンで纏めて作って在庫を見ながら少量ずつ配送する方法もあるし、急速冷凍・氷結・真空パックなどと併用すれば冷凍技術の進歩により解凍後も「作りたてのような美味しさ」を保てる食品が増えているため、消費期限や賞味期限を「保存条件別に可変」とすることも可能である。 いや、むしろ浜で水揚げされた魚を即座に加工・急速冷凍して、産地の美味しさを維持した惣菜や弁当を全国に配送するような「産地加工・冷凍・全国配送モデル」の方が、「都市部で原料購入・加工・販売モデル」よりも、安価で新鮮なものを届けられる可能性が高く、そうなれば産地も6次産業化して付加価値を上げることができる。しかし、ここでネックになるのが流通コストなのだ。 現在は何でも物価上昇して運賃も上がったため、人口の多い都市部から遠い場所が損することになっているが、外国人運転手の雇用促進・無人運転制度の整備・EVや燃料電池トラックの普及などを国が誘導し、国産の安価な燃料で安く流通できるようにすべきだし、それは可能である。 (6)日本の規制が促すサービス業の質低下 1)物流について *5-1は、①インターネット通販大手のアマゾンジャパンは1日、指定住所までの「ラストワンマイル」の起点となる配送拠点を岡山・千葉・福岡・石川・北海道・東京の6カ所に新設すると発表 ②入荷から保管、梱包、仕分け、配送までできる当日配送専用の拠点も全国16カ所で展開し、数万点の商品を午後1時までの注文で夜間に配送する ③アマゾンの物流施設では自走式ロボットが商品棚を持ち運び、大量の荷物を効率よく発送する「アマゾンロボティクス」を採用し、ロボットは世界300カ所以上の拠点で計100万台導入されている ④より効率的な動きを実現するため新たな生成AI「ディープフリート」を取り入れ、従来より効率を10%高める ⑤8月に名古屋市に延べ床面積12万5,000m²で西日本最大の拠点を稼働し、壁面にも太陽光発電設備を導入して、発電設備容量5,500kW としている。 このうち①②は、現在でも便利なアマゾン通販の買い物がより便利になるため、消費者として歓迎である。そして、その便利さが、③のように、アマゾン物流施設の自走式ロボットによる「アマゾンロボティクス」による安価で迅速な配達ができているのであれば、顧客第一主義で顧客の便利さを増やしても損なうことなく、さらに効率化しているのでアッパレと言える。 また、④のように、より効率的な動きを実現するため新たな生成AI「ディープフリート」を取り入れて従来より効率を高め、⑤のように、名古屋市で稼働する西日本最大の拠点は、壁面にも太陽光発電設備を導入して発電設備容量5,500kWだそうだが、これが、合理的意志決定を続けて発展していく優良民間企業の経営である。 一方、*5-2は、⑥国交省は、物流業界の人手不足対策として再配達を減らし負担削減に繋げる目的で、宅配便の標準サービスに「置き配(宅配ボックス・玄関前への配送)」を検討(現行ルールは対面受け取り前提で置き配は荷物を受け取る側が選択) ⑦置き配は時間を気にせず受け取れるが、盗難・汚損等のトラブルや不在時に業者が敷地内に立ち入るプライバシーやセキュリティ対策が必要 ⑧トラブル防止のための宅配ボックス設置方法も課題 ⑨国交省幹部は「地域で不可欠な物流サービスを持続可能にするため、今の時代に合った合理的なやり方を生み出したい」と説明 ⑩物流各社は、国交省が作った基本ルールを参考に荷主との契約条件などを盛り込んだ「運送約款」を策定 ⑪物流業界の人手不足が深刻化する中、2024年からトラック運転手の時間外労働規制(年960時間)開始 としている。 国交省は、⑪のように、トラック運転手の時間外労働規制(年960時間)が開始され、物流業界の人手不足が深刻化したため、⑥のように、再配達を減らして運転手の負担削減に繋げるため、対面受け取り前提で置き配は荷物を受け取る側が選択できる宅配便の標準サービスに「置き配(宅配ボックス・玄関前への配送)」を検討するとのことである。 しかし、規制官庁は、生産者を護るための負担を消費者に押しつけることしかできないことがこれでわかる。私がそう言う理由は、2Lのお茶8~9本入りを(重たいから)アマゾンで買って家まで宅配してもらったところ、最近、勝手に遠い場所にあるマンションの宅配ボックスに配達されて、自宅に運べず酷い目にあったことが数回あるからだ。 つまり、宅配を頼む理由は様々であるため、配達員の効率性のみを優先するのではなく、消費者である高齢者・障がい者・育児中の世帯・共働き世帯等のニーズに合った配達をしてもらわなければ困るのだ。そのため、明文化して「宅配ボックス優先」から「利用者選択優先」に転換すべきである。 そうすれば、重い荷物の持ち運びが不要になるため、要支援・要介護サービスも効率化でき、要支援者の自立支援もできて生活の質向上に役立つ。また、自治体の地域包括ケアと連携して、宅配サービスだけでなく、見守りサービスも追加すれば、新たな事業機会になる。 そのような中、⑦は、「置き配は時間を気にせず受け取れる」としているが、留守中に玄関前に置いていかれると留守であることが判明するし、マンションでは⑧の宅配ボックス自体が離れた場所にあったり、玄関前には置くスペースがなかったりする。そのため、⑨⑩の「今の時代に合った合理的なやり方」とは、高齢者・障がい者・育児中の世帯・共働き世帯のそれぞれのニーズに合った配達方法を選択できる「利用者選択優先」の運送約款を作ることである。 そして、「利用者選択優先」を実現するためには、注文時に「重量物は玄関配達希望」「重いものは宅配ボックス不可」などを消費者が明示できるようにしたり、AIで荷物の属性を判定して適切な配達方法を提案(例:「この商品は対面配達推奨」)したりする方法がある。また、地域密着型で顔の見える配達員になれば、柔軟な対応も可能になるだろう。 なお、共働き世帯が増えたことによる再配達増加は、夜間配達(18〜21時)を標準化して、夜間に3時間くらい働きたい人(副業・兼業希望の人、年金が不足する高齢者、学生アルバイト等)を配達員として雇用し、夜間手当を支給すれば解決する。 *5-3は、⑫総務省は、各自治体に「最高AI責任者(Chief AI Officer “CAIO”)」と補佐官の設置を促す ⑬人材確保の観点から複数自治体が共同で専門人材を置くことも可で法的拘束力はなし ⑭自治体は住民情報を扱う部署も多いため、AI学習に個人情報等の機密情報を用いることは禁止する ⑮AIを使って住民の相談を24時間受け付けるサービスなど例示 ⑯AI活用で会議の議事録要約で5割、企画書の作成で3割の業務時間を減らした自治体も ⑰自治体が安全に生成AIを活用できれば、人口減少下で地方行政の効率を高められる としている。 アマゾンが「ロボティクス」を採用して当日配送を可能にしている時代に、総務省は、⑫⑬のように、各自治体に「最高AI責任者」と補佐官の設置を促し、人材確保が困難な自治体は複数自治体が共同で専門人材を置くことも可としているが、この調子では効率化も期待薄である。 しかし、⑭の個人情報保護は重要であるものの、介護認定・要支援認定・母子手帳交付・障害者手帳交付・年齢情報などを自治体内の複数部署から統合すれば、AIが属性を分類して支援が必要になりそうな住民を自動抽出して、「この地域には要介護者7人、要支援高齢者15人、妊娠中3人」などと人数を可視化して、声をかけたり、支援漏れを防いだりすることができ、⑮のように、AIによる住民相談の24時間受け付け(残業代不要、コーヒーブレイクなし)も可能だ。 また、⑯のように、AIを活用すれば、会議の議事録要約で5割、企画書の作成で3割の業務時間を減らすことも可能だそうだが、私は、会議中の声を発言者を区別して拾って文字起こしし、会議の要約までAIができるようになれば、会議の議事録作成とその要約にかかる時間は7~8割削減できると思う。そのため、⑰のように、自治体が本当に生成AIを活用できれば、地方行政の効率は高められるだろう。 2)“法定点呼”について *6-1は、①約75%の郵便局(2391局)で法定点呼がルール通り実施されず、日本郵便が国交省の運送事業許可取り消し処分を受けた ②飲酒運転(4件)・業務中の飲酒・飲酒した配達員の事故も ③取り消しで各地の郵便局にあるトラック・バン約2500台が5年間使用不可に ④虚偽の点呼記録作成・管理者不在時の点呼省略等の不正があり、経営陣・管理職の指示を現場が軽んじる体質 ⑤現場で起きている問題を上層部が把握できていない構造的問題 ⑥郵政民営化後も旧体質が残存する懸念 ⑦企業統治の徹底と取締役会の役割強化が必要 ⑧持ち株会社の日本郵政による監督も必要で、郵便物の減少により日本郵便の2025年3月期決算は42億円赤字だったが、今回の行政処分で収益に打撃が生じるのは確実 ⑨日本郵便は下請け企業からの値上げ要請を拒否して公正取引委員会から行政指導を受け、ゆうちょ銀行の顧客情報の不正利用も発覚して、日本郵政・日本郵便ともトップ交代して、旧郵政官僚が社長に ⑩官業への逆戻りを防ぐためにも改革が急務 としている。 これに加えて、*6-2は、⑪軽自動車約3万2000台にも安全確保命令が出て、国交省の監査が継続中で一定期間の車両使用停止等の行政処分検討中 ⑫総務省が「監督上の命令」を発出 ⑬日本郵便は代替手段として自社の軽自動車活用や外部委託で利用者への影響最小化を目指す ⑭国交省は、行政処分でトラック等の車両が使用できなくなる中でも郵便サービスを維持することや再発防止策の着実な実施・見直しを求めている ⑮日本郵政の株主総会で増田社長が一連の不祥事を陳謝 としている。 さらに、*6-3は、⑯日本郵政の株主総会は株主の質問が点呼問題に集中し、この日で退任する増田社長は「極めて深刻な事態」「再発防止策に取り組み、オペレーション確保に万全を期す」「業績への影響は精査中」とした ⑰株主の怒りは収まらず、(民営化前の)治外法権の意識が残り、法律を守る意識がないのではないか」「管理職の能力の問題ではないか」「危機管理能力が経営陣も現場もないのでは」との指摘も ⑱日本郵便は「郵便やゆうパックのサービスは維持する」と強調 ⑲日本郵便は軽四輪にも一定の処分が出ると身構え、委託範囲の拡大を迫られる可能性 ⑳外部委託拡大や再発防止対策でコストが膨らむ見込み ㉑千田社長は「ゆうパックの値上げは今の時点で一切考えていない」と言い切ったが、大規模な不祥事が業績に影響を及ぼすのは時間の問題 としている。 ここで言われている“法定点呼”とは、国交省令である貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条「貨物自動車運送事業者は、運転者に対して対面等で点呼を行い、酒気帯びの有無や体調等に関する報告を求め、確認を行い、運行の安全を確保するために必要な指示を与え、運転者等ごとに点呼を行った旨・報告・確認・指示の内容等を記録し、その記録を一年間保存しなければならない」という規定に基づいて行なわれるものである(貨物自動車運送事業輸送安全規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/402M50000800022 参照)。 しかし、法律である貨物自動車運送事業法は第13条・第14条などで「安全確保の義務」を抽象的に規定しているだけで、「点呼」に関する規定はしていないため、「点呼ルール」は、国交省令の貨物自動車運送事業輸送安全規則で具体的に規定されているだけなのだ。そのため、このルールは法律で定められた規定ではなく、省令による指針にすぎないと言える。 従って、①のように、約75%の郵便局(2391局)で点呼がルール通りに実施されなかったからといって、②があったくらいで人身事故等の重大事故を起こしたわけでもないのに、国交省が日本郵便に対し運送事業許可を取り消し、③⑪⑲のように、事業の継続すら危うくする重い処分を下すのはやり過ぎであり、民主主義の罪刑法定主義に反する。そのため、この件に関して行政訴訟をすれば、日本郵便が勝つかも知れない。 また、貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条を見ると、小学生の箸の上げ下ろしにまで口を出すような細かい指示だが、霞ヶ関からこのような細かい指示を出しても、現場の実態に合っていないため、④のような“不正”があり、現場が経営陣・管理職の指示を軽んじたのではないかと思う。そのため、私は、権限と責任を現場の管理職に下ろし、現場で状況に応じて適切に対応させた方が良いと思う。 私がこういうことを言う理由は、「最近のゆうパックは、電話をしたらすぐ集荷に来て、ヤマト運輸より早くてサービスが良い」という優れたものだったからで、むしろ競争に負けそうな他の物流会社が足をひっぱったのではないかと思うからである。そのため、⑬⑱のように、日本郵便が代替手段を使って利用者への影響最小化を目指し、郵便やゆうパックのサービスを維持するのは有難いが、⑳㉑のように、競争会社に外部委託すれば競争会社は儲かり、コストがかさんで、消費者の費用負担が増えるのである。 ⑤については、むしろ上層部が消費者のニーズと現場のサービスを理解していない構造的欠陥があり、⑥⑩については、省庁が民間企業の個別の経営に口出しを続ければ、せっかく郵政民営化しても、天下りが復活して実質的に旧来の体質に戻るということなのである。 従って、⑦の企業統治の徹底と取締役会の役割強化は必要だが、天下りの経営者ではアマゾンのような民間企業の合理性は発揮できず、今回のような行きすぎた事業許可取り消しによる⑧のような損失は、結局は、運賃上昇やサービス低下に加え、国民の税金で穴埋めされることによって、国民に皺寄せされる。 なお、⑨によると、日本郵便は下請け企業からの値上げ要請を拒否して公正取引委員会から行政指導を受けたそうだが、⑭の事情もあるため、日本郵便はゆうパックを完全子会社化して下請けを減らし、(ラストワンマイルの運転手が日本語が達者であれば消費者は困らないため)敬虔なイスラム教徒で酒を飲まず、健康な若い男性(外国人労働者)を長距離輸送の運転手として雇用してはどうかと思う。 また、点呼を貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条に従って行なわなかったのは、運送事業者としての規則違反であるため、郵便法や日本郵便株式会社法のユニバーサルサービス義務とは直接関係がない。にもかかわらず、⑫のように、総務省が「監督上の命令」を発出したところを見ると、総務省も国交省と同様、この機に天下りを出したかったのだろうか。 ちなみに、⑮の日本郵政の増田社長は一連の不祥事を陳謝したが、次の日本郵政グループのトップ層は旧郵政省(現在は総務省)出身者で固められているそうだ。そのため、日本郵政の株主総会では、⑯⑰のように、株主の質問が点呼問題に集中したが、民営化前の親方日の丸意識を変えるためには、むしろ新経営陣の構成に着目すべきであった。 (7)日本の教育について 1)初等・中等教育 ![]() 2023.3.29東京新聞 2025.8.18日経新聞 2023.1.10フリステWalker (図の説明:中央の図のように、文科省が3年に1度行なう全国学力テストの平均スコアが低下し、その理由として、「教える時間の不足」と「教員の質低下」が挙げられた。しかし、左図のように、3歳以降に民定子ども園・幼稚園・保育園に通う子どもは100%に近くなり、右図のように、高校に通う生徒も100%に限りなく近づいているため、これらを義務教育化すれば「教える時間の不足」は解決する) ![]() 2025.8.18日経新聞 (図の説明:左図は、平日の授業以外の勉強時間で、小学校・中学校とも2021年より2024年の方が減っている。また、右図は、家にある本の冊数《家庭の知性度と正の相関関係》とスコアの関係で、本の冊数が多いほどスコアが高い。確かに、私も勉強時間は左の10%以内に入り、勉強していない時も学校図書館の本や父親の本を読んでいたが、それで読解力がついたと思う) ![]() おばとりっくブログ 2024.4.20日経新聞 2024.4.20日経新聞 (図の説明:左図は、オランダのケースで初等教育開始年齢は4歳で8年間教育した後、12歳で終了する。また、中等教育はVMBO《職業教育》コースなら16歳、HAVO《高等一般教育》コースなら17歳、VWO《大学進学準備教育》コースなら18歳で終了し、学力や発達状況に応じて「留年」や「飛び級」が行われることもある。このほか、義務教育の出口で試験をして留年制度があるのは、フランス・ドイツ・アメリカ・フィンランド・スペイン・ブラジルなど多数ある。中央の図は、教員の受験者数と採用倍率の推移だが、次第に下がっており、右図のように、教職の魅力UP策がいろいろと言われているが、最も重要なのは苦労に報いる社会的評価とそれに連動する報酬であろう) *7-1-1は、①文科省が3年に1度程度行う全国学力テストの経年変化分析調査で、小6の国語・算数、中3の国語・英語で平均スコア低下 ②子ども全体の学力低下がこれほど顕著にデータに表れたのは約20年ぶり ③勉強時間が減少し基礎学力も揺らぐ ④テレビゲームやスマホ利用増加、家庭の経済格差、保護者の「良い成績にこだわらない」姿勢等が背景 ⑤成績にこだわらない価値観は一概に悪いとは言えず、情操・道徳心など成長過程で大切にすべき資質は多く、低下した「学力」自体が非認知能力を含む幅広い学力の一部 ⑥デジタル環境への受け身な接し方が言語能力の劣化に繋がる可能性 ⑦教育現場で教える時間不足、教員の時間的余裕の乏しさ ⑧教員の質低下 ⑨「主体的・対話的で深い学び」重視で定着の確認なし ⑩少子化で高校・大学とも難関はごく一部となって受験プレッシャー緩和、入試以外に学ぶ意味を実感させず学ぶ意欲減退 ⑩背景にある知性と学びの危機に目を向ける必要 等としている。 また、*7-1-2は、⑪文科省は、小中高校の成績の基となる学習評価を見直し、「主体的に学習に取り組む態度」の評価比重を軽減する方針で2030年度以降実施予定 ⑫主体的な態度は2020年度以降、小中高校で評価の観点に加えられ主体性の評価は内申点にも影響するが、客観的な判断が難しいとの指摘 ⑬評価の観点は教科毎に「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つを、小学校は3段階・中学校は5段階でつける ⑭導入当初から学校現場では「何を根拠に評価したらよいのか分からない」という声が上がっていた ⑮評価の透明性と妥当性を高めることで、子どもの意欲向上と管理教育の緩和を目指す ⑯早稲田大学の田中教授は「『主体的に学習に取り組む態度』の評価は教員にとって難しく、評価方法を改善するのは良いこと」「主体性評価が高校入試等で活用される内申点に関わるため、生徒は過度に品行方正な振る舞いを求められ管理教育になった」等と指摘した としている。 イ)子どもの基礎学力低下と社会一般の価値観 ①②のように、文科省が3年に1度程度行う全国学力テストで平均スコア低下して子ども全体の学力低下がこれほど顕著にデータに表れたのは、2008年に学習指導要領が改訂され、ゆとり教育が廃止されてから、約20年ぶりだそうだ。 そして、③⑩のように、子どもの勉強時間が減少して基礎学力が揺らぎ、知性と学びの危機に陥った理由の第1は、文科省自身が、全国学力テストの目的を「義務教育の機会均等と水準の維持向上の観点から、全国児童生徒の学力・学習状況を把握・分析して、教育施策の成果と課題を検証し改善を図ることで、児童生徒個人を評価するためのテストではない」として、まるで学力で児童生徒を評価してはならないかのような意見を持っていることである。 このため、小中学校では、スポーツ大会で優勝した生徒は表彰するが、優秀な成績をとった生徒を褒めることはなくなり、生徒に対しては部活重視で勉強する動機付けを与えることがなくなった。そして、このことは、不適切なものも多い人間が作った単純なルールを偏重し、コートの中の目に見える仮想敵を打ち負かすことしか考えられない、AIやロボット以下の視野の狭い大人を大量生産するという結果を生んでいるのだ。 この文科省のスタンスは、小6の国語・算数、中3の国語・数学・英語等の学科の一部についてのみ全国学力テストを行い、経年変化分析調査は3年に1度程度しか行わないことからも明らかである。本当は、毎年、初等・中等教育の出口にあたる小6・中3・高3の全員に対して、英・数・国・社・理などの全国学力テストを行ない、学校別の基礎学力達成度を明らかにして、次年度以降の改善に繋げることが必要なのである。 しかし、「学力で児童生徒を評価してはならない」という主張は、文科省だけではなく、⑤のi)成績にこだわらない価値観は一概に悪いとは言えない ii)情操・道徳心など成長過程で大切にすべき資質は多い iii)低下した『学力』自体が非認知能力を含む幅広い学力の一部 というように、メディアはじめ世間一般でもよく言われていることなのだ。 正しくは、ii)の情操・道徳心は前頭葉に由来するため、学力と負の相関関係ではなく正の相関関係がある。このことは、犯罪を犯した人の学歴(学力と正の相関関係あり)分布を見れば明らかで、iii)については、全国学力テストの科目を増やせば良い。また、全国学力テストの結果とその後の人生における賞罰を結びつけて相関関係を見れば、道徳心や成功と学力に正の相関関係があることも検証できるだろう。 このように、大人が「成績にこだわらない価値観は悪くない」「情操・道徳心と学力は別で学力のある生徒は狡いことをしているからだ」等と言っていれば、子どもは安きに流れて、⑩のように、少子化で受験プレッシャーが緩和すれば、学ぶ意味を無くして学ぶ意欲も減退するのが当然である。 ロ)公教育の重要性と教員の質 親は、親になるための資格試験を受けて親になったわけではないため、子の家庭環境はさまざまで、④⑥のように、子にテレビゲームやスマホを利用させ放題にしたり、デジタル環境に受け身で接して言語能力を劣化させたり、保護者が「良い成績にこだわらない」という態度を示して子のやる気を削いだりなど、家庭間格差は大きい。 そこで、国民の水準を一定以上に保つために公教育の充実が重要なのだが、⑦のように、「教える時間の不足」「教員の時間的余裕の乏しさ」が長く挙げられ続けても、教育現場で教育の質を落とさずに、これらを改善する対策がとられなかったことは明らかだ。しかし、それが、⑧の教員の質の低さそのものなのである。 まず、教える時間の不足については、日本では、6歳で小学校に入学してそこで6年間過ごし、13歳で中学校に入学して3年間過ごす9年間が義務教育であり、義務教育終了時は15歳だ。オランダは、4歳で小学校に入学して8年間を過ごし、義務教育の中等学校で4〜6年(学校種により異なる)を過ごして、最長13年かけて義務教育が終わる。アメリカ・ドイツは州ごとに制度が異なるため省くが、イギリスは、5歳で小学校に入学して6年間過ごし、中等学校で7年間過ごす11年間が義務教育で義務教育終了時の年齢は16歳だが、その後、16〜18歳は教育又は訓練が義務とされている。また、フランスは、3歳で始まる幼児教育から義務教育に含めて、小学校5年間、中等学校7年間の合計13年間が義務教育で、義務教育終了時の年齢は16歳である。 つまり、義務教育開始年齢を6歳に固定する必要は無く、日本でも、上の上段左図のように、3歳以降は認定子ども園・幼稚園・保育所に入る子どもが100%に近いため、オランダを参考にして3歳から初等教育を開始するか、フランスのように3歳から就学前教育を始めるかすれば、「教える時間の不足」は解決し、過度に親に依存することによる家庭間格差も生じずにすむ。そして、その時に必要となるのは、各段階で時間を無駄にせず、効率的に教えるための年齢に適したカリキュラム編成と教員の質・量の充実なのである。 また、上段右図のように、日本の高校進学率も2020年で男女とも100%に限りなく近づいているため、中学・高校は一貫したカリキュラムを作って義務教育化すれば、学習の無駄を省き、さまざまな学習を効率的に行なうことができる。 さらに、「教員の時間的余裕の乏しさ」は、教員に教育以外の仕事をさせず、部活も専門家に任せてレベルの高い指導をしてもらえばよいのに、いつまでも改善せずに同じ事を言い続けているのでは、教員の質が低いと言わざるを得ない。 なお、教員のレベルについては、フィンランドが修士必須、オランダは修士推奨、イギリス・フランスは学士で教員資格取得者、アメリカは学士である。また、教員の職能開発時間・ICT活用授業の頻度・授業設計の自律性は、他国は高いが日本は低い。 しかし、教員のレベルを上げるには、i)社会的地位の高さ(尊敬される職業で、政策形成・教育改革にも関与できること) ii)報酬と待遇(給与・昇給制度・退職金・福利厚生における他の専門職《医師・技術者・政治家など》との競争力) iii)研究や専門性を磨く機会の多さ などの改善が必要であるため、日本は悪循環に陥っているのである。 ハ)基礎学力がなくては、「主体的・対話的で深い学び」もできないこと 主体的な態度は、⑨⑫のように、2020年度以降に小中高校で評価の観点に加えられ、その評価は内申点にも影響するが、学んだことの定着の確認ができず、客観的判断が難しいとの指摘があった。その評価方法は、⑬⑭のように、教科毎に「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つを、小学校は3段階・中学校は5段階でつけたが、導入当初から学校現場で「何を根拠に評価したらよいのか分からない」という声が上がっていた。 また、⑯のように、主体性評価が高校入試等で活用される内申点に関わるため、生徒は過度に品行方正な振る舞いを求められ管理教育になったという指摘もあり、文科省は、⑪⑮のように、「主体的に学習に取り組む態度」の評価比重を軽減し、評価の透明性と妥当性を高めることで、子どもの意欲向上と管理教育の緩和を目指す方針に変更したそうだ。 しかし、思考・判断・表現は、基礎的な知識・技能がなければ有為に成立しないため、「主体的・対話的で深い学びを重視」と言いながら、基礎的知識・技能を習得する時間を減らせば逆効果となる。また、教員自身が、勉強好きで深い知識を持つ実力者でなければ、子どもの思考・判断・表現を正しく評価して良い方向に導くことはできず、単に品行方正な振る舞いを求めるだけの管理教育になって社会に悪影響を与える。 一方、フィンランドの場合は、教員の質の高さを、修士号取得を必須として教育の専門性の高さを担保し、教科横断型の学習で知識を実生活に結びつける力を育成する点が参考になる。また、アメリカの場合は、実社会の課題をテーマにして調査・発表・議論を通じて学力と思考力を同時に育成するプロジェクト型学習が参考になる。 日本の場合は、文科省が「主体的・対話的で深い学び」と言っても、実社会の課題をテーマにして調査・発表・議論を通じて学力と思考力を同時に育成できる教員の質や教育時間が不十分であるため、教育制度や教員の質に関し、時代にあった制度の再構築が必要になるわけだ。 2)男女別学教育の是非について イ)埼玉県には県立の男女別学高校が未だに存在すること *7-2-1は、①埼玉県教委が保護者・県民との意見交換会で共学化推進方針を説明し、賛否両論噴出 ②保護者の部は子が別学高校に通う父母を中心に18人が参加、県民の部は別学校卒業生や県立高校教員経験者など17人が参加 ③共学化反対の意見は、i)女子の目がないので力をフルに発揮でき、人間力が育つ ii)共学の中学校で性被害を受けた人もいる iii)男女の特性に合わせた教育が必要 iv)異性が苦手な人には別学が必要なので、トップ校だけでなく幅広い学力の層に別学校が必要 v)男女共同参画社会と共学化に相関関係があるのか vi)埼玉には名門校のピラミッド構造があり、女子が男子校に入学したら男子の足を引っ張る vii) 女性しかいない中で女性のリーダーシップが育つ 等々 ④共学化賛成の意見は、i)全国的に知名度のある浦和高校に女子が行けないガラスの天井をなくすべき ii)男子校の文化祭の在り方に違和感 iii)共学化しても結果的に男子校や女子校になることがあるから共学化しても良い iv)女子が入ってきても全く問題なく、県立高校は変化を続けなければいけない 等々 ⑤県教委の考え方は、i)共学化で男女共同参画を推進していくものではない ii)男女で教育活動の差を設けることは考えていない iii)一人ひとりの希望と能力に応じた学校の選択肢を用意したい iv)少子化で学校を再編する際は別学校の共学化も検討対象 などと記載している。 1947年に施行された日本国憲法は、「第14条:すべて国民は法の下に平等で、人種・信条・性別・社会的身分・門地により、政治的・経済的・社会的関係において差別されない」「第15条:すべて公務員は全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」「第26条:すべて国民は法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する」と規定しており、女性より男性を優遇してよいとする条文は全くない。そして、その下部の法律として、「男女雇用機会均等法」「男女共同参画基本法」「ストーカー行為等の規制等に関する法律」などがあるのである。 そのような中、埼玉県教委は、今時、①②のように、県立高校の共学化推進のために保護者・県民との意見交換会を行なったそうだが、その保護者の部には、子が別学高校に通う父母を中心に18人を選んで参加させ、県民の部には別学校卒業生や県立高校教員経験者など17人を選んで参加させたそうだ。しかし、埼玉県民で多額の県民税を支払っている我が家に参加意思を聞かれたことはないため、県民税を埼玉県立高校のために支出するのは止めてもらいたいと思う。 そして、県立高校共学化反対意見には、③のi) vi)の「女子の目がないから力をフルに発揮でき、人間力が育つ」とか「埼玉には名門校のピラミッド構造があり、女子が男子校に入学したら男子の足を引っ張る」などという男性中心の視座のものが多い。こういう男性中心の視座を持つ高校を卒業した男性が、職場でも「女性がいない方が働きやすい」とか「女性は昇進に不向き」などと言って、堂々と男女雇用機会均等法違反や男女共同参画基本法違反をするのである。 また、③のii)の「共学の中学校で性被害を受けた」というのは、女性(or男性)に対するセクハラ又は暴力行為であるため、その場で注意して人間の尊厳やそれを護るための道徳を教えるのも学校の仕事であるのに、それもせずに男女別学にすれば、「性加害は悪いことである」ということを教える機会も失って、おかしな大人が卒業してくるのである。 さらに、③のiii)の「男女の特性に合わせた教育が必要」やv)の「男女共同参画社会と共学化に相関関係があるのか」などと言っている人は、男女平等の憲法や男女雇用機会均等法・男女共同参画基本法を持つ日本で、未だに性的役割分担に基づくジェンダーを主張しているわけだが、これに対し、⑤のi)のように、県教委も「共学化で男女共同参画を推進していくものではない」などと言っているのは、憲法14条・15条及び26条違反であり、教師として質が悪い。 なお、県立高校共学化反対意見の中には、iv)の「異性が苦手な人には別学が必要」という意見もあるが、社会に出て「異性が苦手」などと言っていれば、働く場所はなく、結婚もできない。従って、多感な青春時代に、対等な友人として、また手強い競争相手として、異性と同じ校舎で学び、本当の姿の異性を知っておくことが重要なのである。 さらに、③のvii)の「女性しかいない中で、女性のリーダーシップが育つ」という意見も、言い換えれば、「女性しかいない中でしか女性はリーダーシップを発揮できず、その壁を打ち破る気も無い」という情けないものである。そして、こういう事例の積み重ねが、「女性は昇進に不向きである」という固定観念を作って、他のそうでない女性に迷惑をかけているのだ。 共学化賛成の意見のうち、④のi)の「全国的に知名度のある浦和高校に女子が行けないガラスの天井をなくすべき」は、憲法第26条及び男女雇用機会均等法の趣旨から考えて尤もだ。何故なら、しっかり勉強していなければ、いくら機会均等でも、就職も昇進もできず、その結果、リーダーにもなれないからである。 ④のii)については、私は「男子校の文化祭」に行ったことがなく何とも言えないが、④のiii)の「共学化しても結果的に男子校や女子校になることがあるから共学化しても良い」というのも、女性の能力を低く見ている女性蔑視そのものであり、女性に対して失礼千万である。また、iv)の「女子が入ってきても全く問題なく、県立高校は変化を続けなければいけない」というのは、女性がいると何か問題があるかのようで、これも賛成はしているが、男性中心の視座である。 そのため、⑤の県教委は、ii) iii)のような視点をもっているのなら、iv)のような少子化対策に逃げるのではなく、「男女で公教育に差を設けることは、男女平等の日本国憲法に反し、男女雇用機会均等法や男女共同参画基本法にも反するため、県立高校の公務員として、男女差別はしない」ときちんと説明できなければならないのである。 ロ)女子大学は男女を率いるリーダーを育めるのか *7-2-2は、①2000~2025年に、私立女子大学は25校が共学化・2校が廃止・2校が募集停止して存亡の危機 ②日本の女子大は20世紀初め、「良妻賢母」という実践的ジェンダー・ニーズを満たすために設立 ③この使命は多くの女性が共学の大学に進学するようになった1990年代以降に戦略的ジェンダー・ニーズに移行 ④多くの女子大学は家政など伝統的な学科を廃止してグローバルコミュニケーション等のキャリア志向のプログラムを新設したが、女子大が女性のリーダーシップやジェンダー平等に影響を与えたとする研究は乏しい ⑤日本は国際的なジェンダー平等の指標で一貫して低い順位 ⑥女性理事割合が50%を超えるのは津田塾・白百合・聖心女子大の3校のみ ⑦津田塾・日本女子大は理事会の半数を現職教職員が占めるが、他は1/3未満 ⑧多くの私立女子大は、国公立や私立の一流大学の男性教授がキャリアの終盤に移籍して教授・理事のポストを占める ⑨日本企業の取締役や別の大学で運営経験を持つ男性が退職後に女子大理事に就任するケースも ⑩多くの私立女子大理事会は、エリート男性の第二のキャリアの目的地に ⑪日本女性の自由と社会貢献の拡大は、女子大が女性を意思決定プロセスの中核にしない限りは実現が困難 等としている。 また、*7-2-3は、⑫今年に入って、京都ノートルダム女子大が学生募集停止、武庫川女子大が共学化方針発表 ⑬女子大減少は続くが、今も大学全体の1割弱を占め、存在意義や役割を考える必要 ⑭日本は先進国の中でも政治・経済分野で女性リーダーが圧倒的に少ない ⑮お茶の水女子大の室伏前学長は、「性別役割意識や『わきまえる』という無意識の偏見から離れて過ごせる女子大は、女性がリーダーシップを学ぶ上で優れた場所」 ⑯では、女子大は、どれだけリーダーを輩出し、ジェンダー平等に寄与したか ⑰アジアを含めた海外との比較検証と日本社会に横たわる根深い課題を示すことが女子大の役割では 等としている。 このうち②については、戦前の男女差別や性的役割分担意識が激しかった時代、男子の「旧制高等学校」や「大学予科」に相当する教育機関が女子にはなかったため、女子に限った専門教育機関として、「実践的ジェンダー・ニーズを満たすため」と言って「良妻賢母」を目指す文学・家政学・教育学・栄養学・保育・看護などを中心に教える女専(女子専門学校)ができた。そして、その時代としては先進的な家庭の子女で優秀な女性が女専に入学したため、女専は、その時代の重要な役割を果たしたのである。 しかし、戦後、日本国憲法が施行されて男女共学が原則となってからは、③④のように、優秀な女性は旧帝大でもどこでも入れるようになったため、女専の多くは女子短期大学や女子大学として再編され、現在の女子大の基盤となった。そして、男女雇用機会均等法が施行された1990年代以降は、戦略的ジェンダー・ニーズに移行し始めたのである。しかし、私の96歳になる母は、女専を出ているが、私には「せっかく男女平等の世の中になったのだから、共学校に行きなさい」と言っていたので、本当に男性と互角に仕事や研究をしたいと思う優秀な女性は男女共学校に行き、女子大を選択する女性が社会でリーダーシップをとったり、ジェンダー平等に貢献したりすることは少ないと思われる。 従って、役目を終えた女子大が、①⑫のように、共学化・廃止・募集停止となるのは、抗うことのできない時代の流れであろう。そのため、⑬のように、無理に存在意義や役割を考える必要は無く、それでも一定割合の人は家政学・栄養学・保育などを学びたいと思っているだろうから、共学化してもそのニーズを満たせるようにすれば良いのだ。ただし、⑰のように、アジアを含めた海外との比較検証や日本社会に横たわる根深い課題を研究を通して明らかにすることは、東大でもやっていた人はいるが、女子大の方がやりやすいのかもしれない。 なお、⑤⑭の「日本は国際的なジェンダー平等の指標で一貫して低い順位」「日本は先進国の中でも政治・経済分野で女性リーダーが圧倒的に少ない」というのは本当だが、家政学・栄養学・保育などを学んだ女性が活躍しているのは家庭科の先生や保育所の保母であり、女性であっても政治・経済の素養がなければ政治・経済分野のリーダーにはなれない。 さらに、⑮のように、お茶の水女子大の室伏前学長が「女子大は、性別役割意識や『わきまえる』という無意識の偏見から離れて過ごせるため、女性がリーダーシップを学ぶ上で優れた場所」と言っておられるが、女性の中だけでしか性別役割意識や『わきまえる』という無意識の偏見から逃れられない人が、男女混成の社会でリーダーになれるわけがないのである。そして、⑯のように、女子大は、むしろ性的役割分担意識に支えられているため、社会で多くのリーダーを輩出してはおらず、ジェンダー平等にも寄与していないと思われる。 また、⑥⑦のように、女性理事割合が50%を超えるのは津田塾・白百合・聖心女子大の3校のみで、⑧⑨⑩のように、多くの私立女子大は、エリート男性の退職後のセカンドキャリアとなっているそうだが、女子大は卒業生が大きな力やネットワークを持っているわけではないため、⑪のように、日本女性の自由と社会貢献の拡大を女子大が担うのは、女性を意思決定プロセスの中核に据えても難しいと思う。 3)外国人留学生への支援 *7-3は、①現在14億の人口を擁して人口・経済ともに成長中のアフリカ市場に日本が食い込むには日本語や日本文化に精通した人材育成が必要 ②立命館アジア太平洋大学は学生の半数が留学生で、アジア各国で多くの卒業生が日本とのビジネス交流に力を発揮 ③アフリカも留学生を通じた人材育成を図ることが、アフリカ市場進出の足がかりになる ④大学院生と同様、四年制大学のアフリカからの学部留学生を増やすことが重要 ⑤アフリカ留学生はエリート家庭出身も多く、卒業する学生は本国に戻ってすぐ現地エリートとして活躍するので、親日層の獲得効果が高い ⑥学部のアフリカ留学生は、生活・病気・事故時の突発的対応など生活面の不安が課題 ⑦日本国内に同郷人コミュニティーが殆どないので、「アフリカ留学生支援基金」創設を提案する ⑧緊急の資金貸与・在京大使館からの支援・卒業後の就職で便宜が得られるメニューも揃えば、留学生の自主的登録が期待できる ⑨日本の大学を卒業した留学生のデータベースにもなり、日本企業の高度人材採用に活用できる ⑩米トランプ政権や欧州での移民排斥の中、欧米以外への留学志向が高まっているため、日本は安全性と文化的魅力で好機 等としている。 ⑩の米トランプ政権以前のアメリカは、これまで留学生に対する支援が手厚く、⑤⑥のように、生活面の不安を軽減して親米層を獲得する効果を出していた。具体的には、i)給付型奨学金(成績優秀者や経済的困難者向けの返済不要奨学金で、留学生も対象で専攻分野や出身国に応じた特別枠もある) ii)大学による生活支援(留学生向けオリエンテーション・メンタルヘルス支援・医療保険制度案内・ビザ・就労・文化適応など) iii)キャリア支援と就職連携(大学が企業とネットワークを構築してインターンや就職を支援) iv) コミュニティ形成と文化交流(留学生同士のネットワーク形成や地域住民との交流プログラム) などがある。 また、カナダは、v)公立大学の授業料が比較的安価で留学生にも奨学金がある vi)永住権取得に向けた制度(PGWP)との連携で留学が移民戦略と直結 などである。 日本も、①②③④のように、人口・経済ともに成長が見込まれる市場とビジネス交流するためには、その国から大学院生だけでなく四年制大学の学部に優秀な留学生を積極的に入学させて、日本語や日本文化にも精通した人材を育成することが必要である。 それには、i)のアメリカのように、給付型奨学金を日本人だけでなく留学生にも支給し、特に人手が足りず必要な分野を専攻する学生には特別枠を設ける方法があるし、v)のカナダの例のように、公立大学の授業料を比較的安価にした上で留学生にも奨学金を給付する方法もある。 また、⑦の日本国内に同郷人コミュニティーが殆どないことについては、ii)の大学による生活支援、iii)の大学と企業のネットワークによるキャリア支援・就職連携、iv)の留学生同士のネットワーク作りや地域住民との交流などが考えられる。また、在京大使館の支援も重要ではあるが、日本企業も奨学金支給段階から参加して相談相手となり、インターンや採用に繋げるのが、⑧⑨の高度人材採用に効果的だろう。 このように、人道的支援だけでなく、国際関係・新市場開拓・人材確保の観点から見ても、今の日本で外国人差別を行なっている場合ではないのである。 ・・参考資料・・ <運輸業・建設業等の人手不足> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC209UK0Q5A520C2000000/ (日経新聞 2025.7.2)物流大手SBS、運転手の3割1800人を外国人に インドネシアで養成 物流大手のSBSホールディングス(HD)は10年以内にトラック運転手の3割を外国人にする。外国人が最長5年働ける「特定技能」の制度を活用し、主にインドネシアから1800人を採用する。ヤマト運輸など業界大手も採用に乗り出しており、人手不足が深刻な物流業界において外国人頼みが強まっている。SBSHDはまず年内にインドネシアに自動車学校を設ける。講師を現地に派遣し、日本の交通ルールや日本語を教える。全寮制で半年間学んだうえで来日してもらう。2026年からは年間100人程度のペースで採用を始める。現在は特定技能の外国人運転手はおらず、10年以内に全体の3割に当たる1800人程度にする。多くがイスラム教徒であると想定し、来日後も礼拝や食事などに配慮して働きやすい環境を整備する。賃金は日本人より低くなる見通しだ。政府は24年に外国人在留資格について最長で5年就労できる特定技能1号に自動車運送業を新たに加えた。上限は2万4500人。物流業界ではこの制度を通じ、外国人運転手を採用する動きが広がる。船井総研ホールディングス(HD)も傘下の物流コンサルティング会社、船井総研ロジが中小企業に仲介するサービスを始めた。主にバングラデシュからの採用を想定する。顧客である中小企業の要望に応じ、現地の送り出し機関と連携して面接による資質の見極めや入社前後の研修、採用後のマニュアル整備などを支援する。25年からの3年間で510人を計画し、その後も年200人ペースで仲介する。既に28人の採用が内定したという。このほか、福山通運も今秋にベトナム人を運転手として初めて約15人採用する予定。センコーグループホールディングスは32年度までに100人を採用する。背景には業界の人手不足がある。野村総合研究所は30年度に運転手の数が20年度比で27%減り、36%分の荷物が運べなくなると試算する。少子高齢化に伴う人口減に加え、24年度からは運転手の残業規制が年間960時間までに制限されたことで人手不足に拍車がかかっている。SBSHDといった主に企業向け配送を担う企業だけではなく、個人向けが中心の宅配大手も外国人の採用に乗り出す。ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスでは今秋にも、長距離の幹線輸送やルート配送といった中長距離の拠点間を担う運転手として勤務が始まる予定。佐川急便も長距離や店舗間の輸送で採用を検討している。決まったルートを行き来するため、日本語が不慣れな外国人でも働きやすいとみる。特定技能による外国人運転手はバスやタクシー、引っ越しなどの運転手も含む。船井総研ロジはこのうち、トラック運転手が8割を占めるとみる。自動運転の実現が見通せないなか、地方のバス運行会社なども外国人運転手の確保に動いている。物流に限らず、公共交通、介護まで、様々なサービスは外国人なしには成り立たないのが現実だ。受け入れる企業は外国人が働きやすい仕組みづくりだけでなく、サービスを利用する消費者に受け入れられる環境整備も求められる。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250717&ng=DGKKZO90077840W5A710C2EA2000 (2025,7,17) 外国人材 特定技能・技能実習が3割 ▽…厚生労働省によると、日本で働く外国人は2024年10月時点で230万2587人と就業者全体の3.4%を占める。人手不足の深刻化によって10年前の2.9倍に増えた。高度人材向けの在留資格「技術・人文知識・国際業務」は全体の18%で、製造・建設などの現場で働く特定技能や技能実習が約3割を占める。留学生のアルバイトも14%に上る。 ▽…受け入れが本格化したのは1990年代だ。89年の出入国管理法改正で中南米の日系人を主な対象とする在留資格「定住者」を設けた。93年には、技術移転を通して途上国の経済成長に貢献するとして技能実習を創設した。労働力需給の調整手段ではないとされたが、実際には人手不足の穴埋めとして広がった。 ▽…2019年に導入された特定技能は正面から人手不足対策とうたう。最長5年の「1号」のほか、熟練者向けに在留期間の制限がない「2号」がある。来日や定住・永住の増加を懸念する声もあり、20日投開票の参院選で与野党が外国人規制の強化の是非を議論している。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA091TP0Z00C25A2000000/ (日経新聞 2025年6月8日) 縮む建設業、工事さばけず 未完了が15兆円超え過去最大 【この記事のポイント】 ・未完了の建設工事が過去最大級15兆円超 ・建設就業者が10年で6%減、高齢化率2割 ・生産性向上課題、IT活用は英仏の5分の1 国内で商業施設や工場などの建設が停滞している。建設会社が手元に抱える工事は金額にして15兆円を超え、過去最大に膨らんだ。かねて深刻な人手不足に2024年からの残業規制が拍車をかけている。生産性の向上を急がなければ、民間企業の設備投資や公共投資の制約となり、日本の成長力が一段と下振れする恐れがある。イオンモールは福島県伊達市の店舗のオープンを当初予定の24年末から26年下期に延期した。建設作業員が集まらず、工事が計画通りに進まなかった。「東北地方は人手がもともと少ないうえに各地に散らばっている。確保が難しい」と説明する。こうしたケースは各地で相次いでいる。国土交通省の建設総合統計によると、建設会社が契約したうち完了できていない工事は25年3月に15兆3792億円(12カ月移動平均)に達した。物価上昇も影響し、業界全体のデータを遡れる11年4月以降で最も高い水準で推移する。1990年代初めごろも今と同じように手持ち工事高が積み上がっていた。当時はバブルの崩壊で経済が長い低迷期に入る前で、建設需要の増加が大きかった。対照的に目下の大きな問題は業界全体で供給力が縮んでいることだ。総務省の労働力調査によると、24年の建設関連の就業者数は10年前に比べて6%減り、477万人となった。このうち65歳以上が80万人と2割近くを占めた。高齢化率は10年間で5ポイント上がった。加齢で体力が衰えれば若いころのようには働けなくなる懸念がある。社会全体での働き方改革の不可逆な流れも、こと労働力の確保という部分では足かせになる。24年4月に始まった時間外労働の上限規制で、建設業は原則として月45時間、年360時間までしか残業できなくなった。結果として24年の一人あたりの総労働時間は前年から32.3時間減った。マイナス幅は全産業平均の14.3時間を上回る。限りある人手の争奪戦は激しくなっている。先端半導体の量産を狙うラピダスの工場建設が進む北海道は、従業員10人以上の企業で働く建設労働者数が23年におよそ13万人と前年比23%増えた。所定内給与は月平均32万6000円程度と3万円以上増えた。伸びは全国平均の約1万4000円を上回る。建設会社が利益率の高い工事を優先する傾向も強まる。民間の産業用建築物の1平方メートルあたりの着工単価は、24年におよそ30万円と前年から18%も上がった。ある大手のトップは「採算や工期を十分に確保できるかによって厳格に選別している」と語る。近年は中小の建設会社の廃業も目立つ。人手の確保で後手に回り、好採算の案件にあぶれて生き残りが難しくなっているとみられる。労働集約型の産業構造の改革という古くからの課題も改めて浮上する。大和総研の末吉孝行氏は「日本の建設業は中小が多くIT(情報技術)の導入が遅れている」と説く。建設従事者が使える省人化などのソフトウエアの一人あたり導入量はフランスや英国の5分の1にとどまるというのが現状の試算だ。業界全体で工事をさばく能力が低下した状態が続く弊害は大きい。働き手の確保が難しいのなら、デジタル化などによって生産性を高めるしか道はない。建設業は日本の国内総生産(GDP)の5%程度を占める。内需の柱である設備投資の3分の1ほどにあたる。たとえば工場の建設が停滞すれば、備え付ける機械の投資の遅れなどにも波及する。ただでさえ低成長が続く日本経済のボトルネックになりかねない。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/ask (日経新聞 ASK) 建設業の労働力不足の背景 建設業界では、かねてからの人手不足に加えて、時間外労働の上限規制が導入されたことなどが要因となり、労働力不足が深刻化しています G。 ⚙️ 人手不足と高齢化 就業者数の減少: 2024年の建設関連の就業者数は477万人と、10年前に比べて6%減少しています。高齢化の進行: 建設業の就業者に占める65歳以上の割合は2割近くに達し、高齢化率は10年間で5ポイント上昇しています 。高齢化により、体力の低下から若い頃のように働けなくなる懸念があります。 ⏱️ 労働時間の上限規制 残業規制の導入: 2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用され、原則として月45時間、年360時間までしか残業できなくなりました。労働時間の減少: 結果として、2024年の1人当たりの総労働時間は前年から32.3時間減少し、全産業平均の14.3時間を上回る減少幅となっています。 💰 給与水準と待遇 給与の伸び悩み: 建設業では待遇の低さから若者の就業が進まないことが課題となっています。待遇改善の動き: 一部の企業では、初任給の引き上げやリーダー職の待遇改善など、人材確保に向けた動きも見られます 。積水ハウス建設HDでは、特に評価の高い30〜40歳代のリーダーの年収を前年比40%以上増の約850万円に引き上げました。 🏢 中小企業の状況 廃業の増加: 近年、中小の建設会社の廃業が目立っています 。人手確保が難しく、好採算の案件にあぶれて生き残りが難しくなっているとみられます。IT導入の遅れ: 中小企業ではIT(情報技術)の導入が遅れており、省人化などのソフトウェアの導入量が少ないのが現状です。 🔨 その他の要因 建設需要の増加: 国内各地で再開発事業や工場建設などが行われており、工事需要が高い傾向が続いています。技能者の不足: 技能実習制度に代わる育成就労制度や特定技能制度を通じて外国人の受け入れを進めていますが、韓国やオーストラリアも建設分野の外国人材の受け入れに熱心であり、待遇面での競争も激しくなっています。これらの要因が複合的に影響し、建設業界における労働力不足が深刻化しています。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA01BVM0R00C25A7000000/ (日経新聞 2025年7月2日) 老朽水道管、更新資金足りない 財務省研究所「平均8割値上げ必要」 全国の上水道事業の99%が、水道管など設備の更新に必要な資金を確保できていない恐れがあることが財務省所管の研究所の調査で分かった。更新費用を水道使用料だけで賄おうとする場合、料金を平均で8割引き上げる必要があることも明らかになった。近隣自治体との業務共同化などコスト削減策が急務となる。上水道事業は原則として、必要な経費を住民が支払う使用料で賄う。もっとも、将来の収支見通しが甘く、費用を料金に十分に反映できていない自治体が多いとの見方がある。単年度の損益は黒字を確保できていても、実は手元資金が少なく、老朽化した水道管を更新する資金までは準備できていない例もある。そんな状況でも水道料金を上げると住民の反発が予想される。物価高対策として逆に水道料金を割り引く場合もある。東京都は検針の時期によって今年6月から9月、または7月から10月の4カ月間、都内すべての一般家庭の水道の基本料金を無償にする。 ●月額水道料金は全国平均で3332円 上水道は主に市町村の公営企業が運営している。上水道事業の資金繰りを把握するため、財務総合政策研究所の研究班が全国1241事業者を分析した。財務省が保有する公営企業の2013〜22年度の会計データを活用し、給水人口が5000人を超える事業者を対象とした。年間使用料によって経費を賄えているかどうか、どれだけ現金を手元に残せるかという2つの観点から評価した。全体の99%にあたる1228事業者が事業継続に必要な金額を使用料で賄えておらず、安定的に設備投資に回せるほどの現金を生み出せていなかった。各事業者が現在の設備を維持したまま、必要な内部留保を確保するには、平均で83.2%の料金上げが必要になることも分かった。国土交通省によると、22年度末時点で一般家庭の月額水道料金は全国平均で3332円。単純計算でこれが同6100円程度に上昇することになる。総務省などによると、全国の上水道は1975年ごろに整備が進んだため、足元で法定耐用年数の40年を過ぎた水道管が全体の2割を超える。各事業者は手元の現金が少なければ、日常的な保守だけでなく、漏水など緊急時の対応にも支障が出かねない。実際、老朽化した水道管の漏水事故も全国で起きている。京都市では4月、市内の幹線道路の地下を走る水道管が破損し、広範囲に冠水した。神奈川県鎌倉市でも6月、水道管が破裂して市内の約1万世帯が断水した。各自治体は必要経費を料金に反映するとともに、近隣自治体との業務の共同化などのコスト削減策が必要になる。事業統合や経営一体化も有力な手段で、すでに大阪府内の自治体などが取り組んでいる。人口減少をふまえると、市街地の集約による水道インフラの縮小も重要な選択肢となる。財務省は調査結果を自治体や総務省、国交省などと共有し、毎年の実地監査などに活用する。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250717&ng=DGKKZO90079440X10C25A7EA1000 (日経新聞 2025/7/17) アジア人材獲得、西へ拡大、東南アの成長織り込む ルート多様化、バングラは1.5倍 外国人材の来日が少なかった南アジアや中央アジアの国々を開拓する動きが官民で広がっている。厚生労働省は年度内に日本での就労ニーズなどを現地調査する。日本語教育プログラムなどを始める企業も相次ぐ。東南アジアの経済成長で来日が頭打ちとなるのを見据え、他地域に獲得ルートを広げる。厚労省は民間団体に委託して、南アジアや中央アジアの「送り出し機関」(人材会社)などに聞き取りをする。日本での就労ニーズや制度面の障害を調査する。インドやスリランカ、ウズベキスタンなどを想定する。高級すし店などを手掛けるオノデラグループで特定技能人材の育成と紹介を担うオノデラユーザーラン(東京・千代田)は6月11日、ウズベキスタン移民庁と連携協定を結んだ。早ければ今秋から、日本で働きたい若者に半年ほど日本語を教え、特定技能の試験に合格したうえで来日させるプログラムを始める。外食や介護など向けに年200人ほどの育成から始め同500人に拡大する計画だ。日本に留学を希望する学生を支援する日中亜細亜教育医療文化交流機構(東京・港)も4月、ウズベキスタンの3カ所に日本語教育の拠点を設けた。特定技能として日本での就労を目指す。ワタミは特定技能人材を育成する研修センターをバングラデシュに設立する。同国政府機関の施設で教育プログラムなどを提供する。年間で約3000人を特定技能人材などとして日本に送り出す目標を掲げる。製造・建設・介護などの現場で外国人を雇用できる技能実習や特定技能は2024年12月時点で計74万人が働く。国別ではベトナムが34万5619人と半数近くを占めるものの伸び率が鈍っている。かつて技能実習で10万人超が働いていた中国は1人あたり名目国内総生産(GDP)が7000ドルを超えた13年から来日が減り、24年12月は2万5960人となった。ベトナムは24年に約4500ドルと10年で1.8倍になった。厚労省の担当者は東南アジア各国も近い将来、他国で働く必要性が薄れ獲得が難しくなる可能性があると分析する。韓国や台湾との人材獲得競争も激しくなっている。韓国は外国人労働者を対象にする「雇用許可制」について、21年に5万人程度だった年間の受け入れ上限を3年で3倍に拡大した。時給換算の最低賃金はすでに日本の全国平均に並ぶ。台湾も製造業や建設業などで外国人労働者の賃金が上昇している。南・中央アジアからの来日はまだ少ない。特定技能と技能実習の合計人数はインドが24年12月時点で1427人、スリランカ4623人、ウズベキスタン346人にとどまる。人材送り出しの潜在力は高そうだ。厚労省によると、インドは23年の労働力人口が4億9243万人に上り、毎年1000万人以上増えている。15~24歳の失業率は15.8%に達する。バングラデシュは24年12月時点で特定技能・技能実習の合計が2177人で前年同月比1.5倍になった。急速な来日拡大には慎重意見もある。単純労働者の受け入れ制限などを求める声があり、20日投開票の参院選で外国人規制が争点に急浮上している。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250725&ng=DGKKZO90242720U5A720C2EA1000 (日経新聞 2025.7.25) 「外国人材受け入れ拡大を」 全国知事会、国に要請へ 参院選受け過剰規制懸念 全国知事会は23~24日開催の全国知事会議で、外国人の受け入れ拡大を国に求める提言をまとめた。人材育成や確保を目的として2027年に始まる「育成就労制度」の柔軟な運用などを求める。人口減が加速するなか、外国人は地域産業や地域社会の重要な担い手となる。参院選で外国人規制が争点となったこともあり、過剰な規制強化への懸念は大きい。提言では「外国人の受け入れと多文化共生社会の実現に国が責任を持って取り組むよう、強く要請する」と主張し、技能実習制度の後継となる育成就労制度に関する要望を多く盛り込んだ。技能実習は日本で学んだ技能・技術を出身国の経済発展に生かしてもらうのが目的だが、育成就労は人材の育成と確保を主眼とする。国は受け入れ要件を厳格化し、一定以上の日本語能力を要求する方針だ。知事会は育成就労について「技能実習の作業職種から大きく減少することを危惧する声が多くの自治体から聞かれる」と指摘。受け入れ分野の追加や手続きの簡素化など柔軟な運用を求めた。外国人の受け入れ環境を整えるため、国が主体となり制度設計や財源確保に取り組むことも要望した。多文化共生に向けた施策を担う司令塔組織の設置も提案した。外国人規制は参院選で主要な争点となった。日本で排外主義のような極端な主張が急速に広がっているわけではないが、国民の関心は高まっている。外国人材が地域を支える存在となっている地方自治体の危機感は強く、全国知事会の村井嘉浩会長(宮城県知事)は「排外主義はあってはならない」と強調した。静岡県の鈴木康友知事は政府が設けた在留外国人の犯罪などに対処するための組織を取り上げ「排斥、規制だけが取り沙汰されるようなことは正さなければならない」と述べた。 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250725&ng=DGKKZO90229370U5A720C2KE8000 (日経新聞 2025.7.25) 外国人材、地方での定着が重要 マイナビグローバル代表取締役 杠元樹 外国人労働者の増加に伴い、問題点についても多く議論されるようになった。主な論点は「選ばれない日本」に陥る可能性と外国人労働者が特定地域に偏ることによる弊害である。2つの問題の解決の鍵は「都市部」ではなく「地方」にあり、「入り口」ではなく「定着」にあるのではないか。まず、外国人の採用自体はそれほど大きな課題とはなっていない。外国人留学生の増加もあり、外国人在留数が多い都市部の採用はもちろん、地方においても海外から日本に来る外国人を採用する場合、まだ十分に日本の賃金や待遇に魅力があるからだ。求める給与水準が上昇した中国人やベトナム人の採用は難しくなっているが、日本が選ばれるための対策を優先する状況にはない。多額の費用をかけて採用し、入社までに長い時間を待ったにもかかわらず、すぐに退職して都市部へ移り住んでしまうことが、あらゆる弊害の要因である。早期退職ゆえにその地域に根付かず、都市部へ流入することで一極集中し、地域共生社会を妨げる負の循環につながる可能性があるからだ。定着のために必要なのは外国人労働者特有の退職メカニズムを理解し、雇用主・自治体・人材会社がそれぞれの役割を果たすことだ。マイナビグローバルの特定技能人材の退職理由の調査では、入社から3カ月以内の退職で最も多かった理由は「人間関係の不満」であり、「家族・友達・パートナーの近くに転居」は時期を追うごとに高くなる傾向がある。業務・職場の不満はどの時期も高いが、「業務内容が合わなかった」が主な要因だった。また、入社1年を超えると定着率が一気に高まる。人材会社は責務として業務内容の理解促進やキャリア意識を持った人材を育成し、雇用側は異文化理解のコミュニケーションを促進する教育を行い、自治体は長期就労を見据えた生活基盤確保の支援に取り組むべきだ。生活基盤の確保については、家族との住居探し、子供の日本語支援、妊娠・出産の病院でのサポートが必要だが、必ずしも多額の費用はかからない。地方での定着が進めば、おのずと日本就労の魅力は増加し、過度な都市部への流入を食い止められるはずだ。 <参議院議員選挙と外国人政策> *2-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/416128 (東京新聞 2025年7月1日) 「違法外国人問題」の公約ではりあう自民・国民・参政党…見え透いた「狙い」と危ぶまれる「ヘイト演説」 自民党の参院選公約に盛り込まれた「違法外国人ゼロ」を巡って「こちら特報部」は疑問を呈してきたが、外国人に照準を定めた公約を掲げる政党は他にも出てきている。彼らは「優遇の見直しを」「迷惑外国人を排除」と訴える。危ぶまれるのが、論戦の名を借りた排外主義の喧伝。「違法ゼロ」を訴えるなら、むしろあの問題に目を向けるべきでは。 ◆「外国人の規制で生活苦は解決しないのに」 「『違法外国人ゼロ』に向けた取り組みを加速化します」。自民党の小野寺五典政調会長は6月19日、参院選の公約発表で宣言した。外国人による運転免許切り替えや不動産所有の際に起き得る問題への対応を徹底するという。外国人に照準を定めた公約は、最近耳目を集める他党にも広がっている。一例が国民民主党。昨秋の衆院選で「手取りを増やす」と身近な政策を訴えて議席を4倍に増やし、先の東京都議選は議席数をゼロから9に。参院選公約で差別解消を掲げつつ「外国人に対する過度な優遇を見直す」とし、玉木雄一郎代表はX(旧ツイッター)で「国の財政が厳しい状況にあるなら、税金はまず自国民に使うのが当然」と記す。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「外国人に照準」が広まる背景について「ひと言で言えば受け狙いだろう」と語る。「国民は『生活が苦しいのに、自分たちは政治にないがしろにされている』といった不安を持っている。外国人の規制で生活苦は解決しないのに、外国人に問題があるとあおることで、人気を得ようとしているように見える」。 ◆「選挙になれば、選挙運動としてあちこちで主張される可能性」 目を引くのは参政党も。議席ゼロで迎えた都議選で3議席を獲得。共同通信の6月28、29日の世論調査では、参院選比例代表の投票先として同党を選んだのは5.8%。全党のうち4番手で、国民民主の6.4%に迫る勢い。参院選公約では外国人労働者の受け入れ制限や入国管理の強化により「望ましくない迷惑外国人などを排除」とうたう。その参政党は、これまでどう支持を得てきたか。保守派の言論に詳しい作家の古谷経衡氏は「支持者を取材すると、40〜50代の女性が多い。一度も選挙に行ったことがなかったような『無関心層』が目立つのが特徴」と指摘する。参政党は食品添加物などを否定し、有機農法や自然食品の意義を説いてきた。古谷氏は「『自然食品を徹底すれば健康になり、社会も改良される』というオーガニック信仰は、先進国の比較的富裕な層に受け入れられてきた。政治的な知識がなくても理解しやすい。それが無関心層を引きつけた」とみる。「オーガニック信仰は突き詰めると、体に不純物を入れてはならないという発想」で、コロナ禍で同党が訴えた反ワクチンも同じ考えの上にあるという。ただ「コロナ禍が終わり、反ワクチンが受けなくなったのか、代わりに従来主張していた保守的な政策を再び強く訴えるようになった」。強い危惧もある。反人種差別の政策に詳しい師岡康子弁護士は「『外国人が優遇されている』といった主張は日本人と外国人を分断させ、差別をあおる。選挙になれば、選挙運動としてあちこちで主張される可能性がある」と話す。「税金でいわば公的ヘイトスピーチがなされるが、公職選挙法に守られて市民が止めるのは限界がある。人種差別撤廃条約とヘイトスピーチ解消法に基づき、公的機関は選挙運動におけるヘイトスピーチを批判すべきだ」 ◆外国人優遇?「優遇されているとして挙げるなら米軍人だ」 排外主義に陥りかねない参院選公約。「違法外国人ゼロ」「優遇許さず」に反応するのが、ジャーナリストの布施祐仁氏だ。「『日本で優越的な権利を有した外国人住民がいる』という主張は事実ではない」と述べた上で「優遇されているとして挙げるなら米軍人だ」と語る。「『外国人が増えると治安が悪くなる』との言説も根拠はないが、米兵による事件事故は現に多発している」。沖縄県警がまとめた犯罪統計書によると、1972〜2022年の日本復帰後50年間で、県内での米軍関係者(米軍人や軍属ら)の刑法犯の検挙件数は6163件。昨年は73件で、過去20年で最多だった。 *2-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1509850 (佐賀新聞 2025/7/15) 外国人「制度見直し重要な課題」、首相、在留管理の適正化を指示 政府は15日、外国人に関連する施策を担う事務局組織「外国人との秩序ある共生社会推進室」の発足式を首相官邸で開いた。石破茂首相は「ルールを守らない人への厳格な対応や外国人を巡る現下の情勢に十分に対応できていない制度の見直しは政府として取り組むべき重要な課題だ」と指摘。出入国在留管理の適正化や社会保険料などの未納防止、土地などの取得を含む国土の適切な利用管理に対処するよう指示した。参院選では外国人政策を巡り、与野党が規制強化や共生の重視を掲げ、争点の一つに浮上している。新組織発足は政府を挙げて施策を推進する姿勢をアピールする狙いがあるが、過度な規制強化や権利制限につながりかねない懸念がある。首相は発足式で「外国人の懸念すべき活動の実態把握や国・自治体における情報基盤の整備、各種制度運用の点検、見直しなどに取り組んでもらいたい」と求めた。林芳正官房長官は記者会見で、新組織発足は参院選対策ではないかと問われ「選挙対策との批判は当たらない」と述べた。新組織は内閣官房に設置。入国や在留資格の審査を担当する出入国在留管理庁、社会保障制度を所管する厚生労働省、納税管理を受け持つ財務省などの担当者で構成する。参院選では自民、国民民主、参政各党が規制の強化を訴え、立憲民主党は外国人の人権保護を掲げている。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250731&ng=DGKKZO90369360R30C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.31) 外国人増で財政改善66% 学者47人調査、若年層が寄与、共生へ制度設計半ば 日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象とした「エコノミクスパネル」で外国人政策について聞いた。在留外国人(総合2面きょうのことば)が増えることで財政収支が改善するとの見方が66%に上った。若い外国人労働者が人手不足を補完し、税や社会保険料の支払いも大きいためだ。外国人の定住や高齢化を見据えた制度設計を求める声も多かった。2024年末時点の在留外国人数は約377万人と前年から11%増えた。外国人労働者の受け入れが経済に欠かせないとの見方がある一方、日本人の雇用との競合や、治安への悪影響を懸念する声もある。そこで47人の経済学者に「在留外国人の増加が平均的な日本人の生活水準の向上に寄与するか」を問うた。回答は「強くそう思う」(6%)「そう思う」(70%)の割合が計76%に達した。建設や運輸などの分野では人手不足が目立つ。東京大の田中万理准教授(労働経済学)は「外国人の就業増加によりモノやサービスの供給不足や価格上昇が抑えられる」として受け入れのプラス面を強調した。日本人の雇用との競合も限定的との見方が大勢だった。一橋大の森口千晶教授(比較経済史)は「実証研究によると外国人と日本人労働者は主に補完的関係にあり、日本人の賃金や失業率に負の影響を与えていない」と述べた。多様性のメリットを重視する意見も目立った。東京大の仲田泰祐准教授(マクロ経済学)は「(外国人が)新しい考え方を職場にもたらすことは生産性向上につながり得る」と答えた。在留外国人の増加を巡っては、生活保護など公的支出の増加や社会保険料の未納を不安視する見方もある。調査では「日本の財政収支の改善に寄与するか」も問うと「そう思う」との回答が66%だった。外国人の増加が財政を改善させると経済学者が考えるのは、今の在留外国人が「若い」ためだ。法務省の在留外国人統計によると、24年末時点で20代と30代が在留外国人の55.9%を占める。カナダ・ブリティッシュコロンビア大の笠原博幸教授(国際貿易)は「外国人の受け入れ増は働き盛り世代の割合を高めて税収や社会保険料収入の増加につながる」と答えた。一橋大の佐藤主光教授(財政学)も「現時点で在留外国人は勤労世代が多く、給付による受益以上に保険料や税を負担している」と述べた。外国人の受け入れが長期的に経済や財政の安定に寄与するかは今後の制度設計にかかっている。佐藤氏は「在留外国人の子弟への教育の確保や、高齢期を迎えたときの給付は十分な対応が求められる」と付け加えた。現在、日本の外国生まれの人口は3%と経済協力開発機構(OECD)平均の11%を下回る。先行して移民を受け入れた欧州などでは社会への統合が進まず、外国人受け入れのコストが強調されるようにもなっている。慶応大の小西祥文教授(実証ミクロ経済学)は「多様なバックグラウンドを持つ人々が持続的に共生しうる社会を実現するには、財政支出も含む包括的な多文化共生政策が必要だ」と述べ、長期的な視点を求めた。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90194050T20C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.23) 検証 日本の針路(2)移民政策の矛盾 外国人共生へ建前を排せ 参院選での参政党の台頭は、在留外国人やインバウンド(訪日外国人)の増加に国民がうすうす感じている不満を顕在化させた。政府が建前では「移民は受け入れない」としつつ、現実には外国人の受け入れを増やしてきた矛盾が露呈したといえよう。人口減少が進む日本では、外国人の力を借りなければ人手不足で社会機能を維持することもままならない。排外主義の芽を摘み、民主主義を守ってゆくためにも、建前を排して外国人の社会統合を真剣に考えるべき時期を迎えている。参院選の終盤、政府は急きょ「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置した。その慌てぶりは、政府がこれまで外国人政策を自治体任せにし、本気で取り組んでこなかったと認めたに等しい。政権の枠組みがいかなる形になろうとも、外国人政策を進めてゆくのが参院選で示された民意である。選挙中の指摘には事実に基づかないものもあるが、日本の社会制度の多くが外国人を想定していないのは確かだ。社会のルールを守ってもらうために規制を強化することは必要だろう。 ●定住前提の施策 より重要なのは社会になじんでもらうための共生の充実だ。政府にも共生社会に向け中長期的な課題を挙げたロードマップはある。だが定住を前提とした移民と認めず、あくまで一時的な滞在者との位置づけでは共生にも力が入らない。ドイツは第2次大戦後から多くの外国人労働者を受け入れてきたが、移民と認めたのは2000年代に入ってからだった。そこから社会になじんでもらう統合プログラムを始めた。外国人がコミュニティーを形成するのは自然の流れだが、それが閉鎖的になるのが問題だ。英国は外とのつながりをどの程度保っているかを統合の指標として見える化し、社会の分断を防ごうとしている。こうした取り組みにもかかわらず、欧州では難民危機などもあって排外主義的な勢力の台頭が著しい。日本の在留外国人は総人口の3%だが、増加ペースは年々高まり、参院選で現れたような反発もくすぶる。 ●知日派育む戦略 一口に外国人といっても、永住者、高度な専門職、特定技能、技能実習、留学生、インバウンドなど立場は異なる。それぞれに応じたきめ細かな対応が社会統合の質を高めよう。社会統合を考える際は、既存の制度をより透明でわかりやすいものにしていく視点も要る。外国人に選ばれる国になるうえで重要であり、それは日本人にとってもよいことだ。外国人政策は対外政策の意味もある。学生支援では自国民を優遇する国も多いが、日本は平等主義が一般的だ。留学生の受け入れは各国の指導層に知日派を育てるソフトパワー戦略であると考えたい。参院選では外国勢力の介入も指摘された。この問題に詳しい小林哲郎・早大教授は「防衛省、外務省、総務省などが外国勢力からの情報を検出しているが、それが世論にどのような影響を与えているかといった検証は十分でない」と指摘する。専門家を含めた体制づくりが急務だ。 *2-3;https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90190010S5A720C2CT0000 (日経新聞 2025.7.23) 食文化、縄文→弥生で継続 農耕伝来後も煮炊き料理 奈文研、土器に残る脂質分析 奈良文化財研究所(奈良市)などの研究チームは22日、土器で魚などを煮炊きする縄文時代の日本列島の食文化が稲作伝来後の弥生時代でも継続していたとする成果を発表した。遺跡から出土した調理用土器に残る脂質を分析した。日本列島には朝鮮半島から稲作や、キビやアワなどの農耕が伝わったとされる。研究では、検出方法が確立されているキビの成分に着目。朝鮮半島南部の遺跡(紀元前17~同8世紀ごろ)で出土した土器からはキビの成分が検出されたが、縄文から弥生にかけての九州北部の遺跡(紀元前18~同4世紀ごろ)の土器には確認できなかった。一方で、海産物などの成分は縄文土器と弥生土器のいずれからも検出された。このことから煮炊き調理に関しては従来の食文化が維持されていると結論付けた。研究は英ケンブリッジ大や英ヨーク大と共同で実施。朝鮮半島や九州の土器計258点を対象に分析した。成果は米科学誌にオンラインで掲載された。 *2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250729&ng=DGKKZO90317130Z20C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.29) 首相、続投方針変わらず 森山氏「自身の責任、来月示す」 自民両院懇 自民党は28日、大敗した参院選の結果への意見を聞くため、党本部で両院議員懇談会を開いた。党総裁の石破茂首相は「国家や国民に対して決して政治空白を生むことがないよう責任を果たす」と語り、続投する方針を改めて表明した。懇談会では首相に選挙の敗北の責任を取って退陣するよう求める声が相次いだ。首相は終了後、記者団に続投の考えに変わりないと述べた。懇談会は当初の2時間の予定を超え、4時間半ほど続いた。首相は米国との関税交渉の合意に触れ「実行に万全を期したい」と強調した。コメなどの農業政策、社会保障と税の改革も首相職を続ける理由に挙げた。森山裕幹事長は参院選の結果を総括する委員会を設置する考えを示した。8月中に報告書をとりまとめた段階で、進退も含めた自身の責任を明らかにするとした。森山氏は懇談会後、記者団に「幹事長が責任を取れという意見もあり、真摯に耳を傾けないといけない」と語った。引責辞任に含みを持たせた。首相は懇談会の冒頭で「多くの同志の議席を失うことになった。深く心からおわび申し上げる」と陳謝した。懇談会は意見交換会の意味合いが強い。首相や森山氏は出席者の声を聞き、続投への承諾を得る場と位置づけていた。首相の続投に反対する党所属の国会議員は、重要事項が決められる両院議員総会の開催を求める署名集めをしている。すでに総会の開催を要求できる3分の1以上の署名を確保した。森山氏は記者団に29日の役員会で総会を開く方向で協議する方針を明らかにした。 *2-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250729&ng=DGKKZO90316860Z20C25A7EA2000 (日経新聞 2025.7.29) 首相に退陣要求噴出 自民幹事長「両院総会開催へ協議」 反・石破勢力、総裁選の前倒し視野 自民党が28日開いた両院議員懇談会は石破茂首相(党総裁)への退陣要求が続出した。「石破おろし」を進める勢力は総裁選の前倒しを視野に両院議員総会の開催を要求する方向だ。首相は日米関税合意の履行や参院選の総括を理由に続投する方針を崩しておらず、党内対立は激しさを増す。両院懇談会では2024年の衆院選と今回の参院選に敗北した責任を問う意見が相次いだ。小林鷹之元経済安全保障相は「組織のトップとしての責任の取り方についてしっかり考えていただきたい」と退陣を求めた。出席者によると発言は退陣を求める声が多数を占めた。「政治空白をつくるべきでない」と続投を支持する声もあったものの、少数にとどまった。続投するなら総裁選を実施して勝利をめざすべきだとの意見もあった。森山裕幹事長は両院懇談会で参院選の大敗を検証する総括委員会を設けると表明した。8月中に結論を得たうえで「自らの責任について明らかにしたい」と話した。首相は終了後、記者団の質問に「幹事長の判断としておっしゃったことについて私は言及をすべきではない」と答えるにとどめた。自らの責任に関しては「総合的に適切に判断したい」と述べつつ、続投方針に変わりはないと改めて表明した。倒閣勢力は委員会の設置を「時間稼ぎだ」と批判する。首相に圧力をかける次の一手は両院総会の招集になる。意見交換にとどまる両院懇談会と違い、重要事項の議決権がある両院総会は総裁選の前倒し実施などを議案に出して採択を迫ることができる。党則35条は党所属議員3分の1以上の要求で両院総会を開くべきだと明記する。旧茂木派の笹川博義農林水産副大臣は必要な署名を集めたと述べており、近く党側へ提出すると明らかにした。こうした動きを受け、森山氏は記者団に29日の党役員会で両院総会を開催する方向で協議したいと説明した。開催するかは不透明な面もある。森山氏は26日時点では「どういう内容の署名かという確認も必要だ」と語っていた。要求から7日以内に「招集すべきものとする」との党則規定は努力義務にすぎないとの解釈もある。党執行部が両院総会の開催要求を受け入れなかった先例もある。09年7月、首相だった麻生太郎氏の衆院解散戦略に反発した勢力が3分の1超の署名を集めた。執行部は有効な署名が足りていないと説明し、両院懇談会しか開かなかった。執行部が開催に応じない場合、倒閣勢力は次の選択肢として党則6条の活用を検討する。国会議員と各都道府県連の代表者1人の総数の過半が賛成すれば総裁選実施を前倒しできるとの規定だ。一方で、倒閣勢力は決め手を欠く。報道各社の世論調査から参院選の大敗要因は石破氏よりも自民党そのものにあるとの見方がある。「ポスト石破」の総裁選に名乗りを上げる動きも28日夕までに出ていない。衆目が一致する次の総裁候補が定まらない以上、少数与党下で必要な野党との協力交渉も後回しになる。政策が停滞するリスクがある。両院総会の署名集めは旧茂木派と旧安倍派、麻生派が主導した。旧安倍派は自民党離れにつながった政治資金問題を引き起こしただけに、党内に「反省の色がないのはおかしい」との声もある。足元の動きは非主流派との党内政局の様相が色濃い。国民民主党や参政党に流れた支持をどう取り戻すかという党再生の道筋を示すには遠い。 <地方創成について> *3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1486172 (佐賀新聞 2025/6/17) 「地方創生2・0」国は東京問題と向き合え 政府は地方創生の今後10年の指針となる基本構想を閣議決定した。「地方創生2・0」と銘打つ石破政権の看板政策だ。安倍政権が打ち出した地方創生は、文化庁の京都移転など数えるほどの成果しかない。急速な少子高齢化への対応、人口減少への歯止め、東京圏への人口の過度な集中の是正は不十分なままだ。失われた10年とも言われる状況の打破が政府に求められている。東京圏は進学や就職を契機に全国から若者を集める。2014年に始まった地方創生では、東京圏への転入と転出を20年に均衡させる目標を設定。27年度に先延ばししたが達成は不可能だろう。基本構想は東京への転入を止めるのは難しいとして、地方の魅力を高め、地方へ転出する若者の流れを倍にする目標を掲げた。これで均衡にできる保証はない。地方には若者、特に若い女性が働きたくなるような場所が少ない。転出増には、若者らが仕事を通じ自己実現できる魅力的な職場を地方に増やすことが大前提となる。石破政権が東京一極集中の是正を掲げ続けるなら、まず中央省庁の一部や関係機関を地方に移転させるべきだ。次にこれまで以上に大胆な税制優遇策を導入する。これによって企業の本社移転をさらに促す。地方の居住者でも、リモートワークによって東京の企業でもっと働けるようにするのである。基本構想の目玉が、仕事や趣味を通じて居住地以外の地域に継続的に関わる人を「ふるさと住民」として登録する制度の創設という。目標は10年で登録者1千万人。二地域居住者や「ふるさと納税」する人らを登録すれば、数字は膨らみ「やっている感」は出せる。だが、新制度は地方のにぎわいや人口増に直結しないだろう。登録先に住民税を分割して納付できる制度を提案する声もあるが、総務省は検討しておらず実質は伴わない。このままでは、地方創生2・0も石破政権の政治的なアピールの道具に終わる恐れがある。地方税収に占める東京都と東京23区の割合は近年、上昇傾向が続く。豊かな財政を生かし手厚い子育て支援、高校授業料の実質無償化などを進める。これらの施策は周りの県からの移住も促す。東京都の独り勝ちは、首都直下地震といった災害への脆弱(ぜいじゃく)性を高める。同時に地方の持続可能性も損なう。都には首都として地方にも配慮した自治体経営を求めたい。それをしないのなら、国土の均衡ある発展のため、東京都の豊かな税収の一部を他の自治体にさらに回すことなども議論すべきだ。これら東京の問題に国は正面から向き合い調整すべきである。専門人材の不足によって道路や上下水道の管理・更新、介護、保険などの行政サービスを一つの市町村だけで実施できなくなってきた。今後は複数の市町村が共同で実施するか、都道府県が市町村を支援する仕組みの整備が不可欠となる。地方自治の充実のため、住民に一番近い市町村に権限を移す地方分権が進められてきた。今後も職員不足が深刻化する状況では、市町村から都道府県に権限を移すことも考えざるを得ない。人口減少が著しい市町村では、住民の生活維持が最優先である。都道府県、国が一定の責任を負いもっと前面に出なければ地域は守れない。 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1507655 (佐賀新聞 2025/7/12) 参院選・人口減少と地方 地域維持の戦略をつくれ 「地方創生」は安倍政権が2014年に打ち出した。年末に行われた衆院選の自民党の公約は「景気回復、この道しかない」とある。公約の柱の一つに「地方が主役の『地方創生』」を明示し、「人口減少に歯止めをかける」と訴えた。自民は選挙のたびに「地方創生」を掲げ、地域の活性化という夢を軸に支持を集めてきた。政権浮揚には一定の効果があったと言えるだろう。しかし、その成果は全く見えない。2024年に生まれた日本人の子どもの数は、統計開始以降で初めて70万人を割り込み、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数は過去最低を更新した。少子化は政府推計より15年も早く進んでいる。多死の時代に入り、24年だけで人口は約92万人も減った。与党政権が地方創生、人口減に歯止めといくら連呼しても、反転の兆しすらないのが現実だ。地方の人口減少は加速し、ヒト・モノ・カネの東京一極集中が進む。これらを止めるのは難しいとされていたにもかかわらず、安倍政権は掲げ続けた。結果から見て、選挙対策だったと疑われても仕方あるまい。立憲民主党が公約で「『地方創生』政策の検証」としたのはうなずける。さらに、少子化や人口減少、東京一極集中の流れを食い止め、国に人口戦略を総合的に推進する体制を整えると主張する。体制の必要性は理解できるが、食い止めることはもはや不可能だと指摘せざるを得ない。この参院選では、人口減を前提に行政サービスをどう維持するか、地域社会をどう守るかをもっと議論すべきだろう。石破政権は「地方創生2・0」の実現を掲げる。関係人口、交流人口を拡大させ若者・女性にも選ばれる地域づくりを進めるのが目玉だ。これまでの創生策で評価が少し高い施策を強調しているだけで、新味に欠ける。自民の公約、総合政策集を見ても、地方創生の失敗への反省はなく、人口減社会への対応策を羅列するにとどまった。政権与党として骨太の地方政策を示す責任があるのではないか。国民民主党が、大都市圏への人口集中の是正策として「移住促進・UIJターン促進税制」の創設、リモート勤務者支援など、地方への移住、企業の移転を促す税制を提案したのは注目したい。東京の独り勝ちは地域社会の存立にも影響する。人や企業が地方に移る方が、東京にいるより支払う税金が少なくて済むといった打開策をさらに検討すべきではないか。東京への集中は災害時のリスクも高める。石破政権は防災庁の設置などで「災害に強い日本」を実現すると言うなら、一極集中の是正に当然、本気で取り組むべきだ。日本維新の会は公約で、災害発生時に首都中枢機能を代替できる「副首都」をつくり、多極型社会への移行を目指すと提案した。維新発祥の地である大阪に副首都を誘致する考えだけに、党勢維持案としての面もあるだろう。それでも多極的な国土構造は社会の維持のためには不可欠だ。もはや自治体間で人口を奪い合うような余裕はない。人口や産業、行政サービスの適正な配置について、国民的な議論を始めるのである。そして、地域の持続可能性を維持する観点から、中小都市を核として地域を守る戦略を急いでつくらねばならない。 *3-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/321212 (日本農業新聞 2025年7月23日) 人口減対策を国民運動に 知事会議が提言 司令塔組織設置も 全国知事会議が23日、青森市で2日間の日程で開幕した。歯止めがかからない人口減少への対策に最優先で取り組むよう国に求める提言をまとめ、総合的な対策を展開するため民間企業も巻き込んだ国民的運動の推進や、取りまとめを担う庁レベルの「司令塔」の設置を要望。外国人政策を巡り、多文化共生の推進も訴えた。会議の冒頭、村井嘉浩会長(宮城県知事)は20日投開票の参院選の結果に触れ、「こうした時だからこそ、なお一層一致団結して、国難とも言える今の状況を克服するために取り組んでいかなければならない」とあいさつした。人口減対策に関する提言では、女性や若者の意見を取り入れた上で、働きやすく子育てしやすい環境を整備することや、税制改正などを通じて企業や大学の地方分散を推進することも求めた。知事会としても今後、経済界を巻き込む形で結婚支援策を検討する方針も確認した。外国人政策を巡っては、「国は労働者としてしか見ていないが、自治体は生活者として受け入れている」(静岡県の鈴木康友知事)といった意見が相次いだ。受け入れや定着のため、教育などの環境整備に国が責任を持つよう提言をまとめた。地方税財政については、参院選で消費税減税を訴える政党が伸長した影響も議論された。徳島県の後藤田正純知事は「持続可能な社会保障制度の維持が非常に不安定化している」との危機感を表明。東京一極集中による地方税の偏在の是正を訴える声も多く上がった。関税措置を巡る日米合意に関する意見も出た。富山県の新田八朗知事は23日午後の会合で、「一定の影響はあると思うが、輸出先の多角化などの課題に、国と地方がスクラムを組んで取り組む必要がある」と指摘した。 <地方の仕事・日本人のレベル・日本の低成長理由> *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90190860S5A720C2FF8000 (日経新聞 2025.7.23) 再エネ普及へインフラ強化 送電網・蓄電池へ投資訴え グテレス国連事務総長寄稿 エネルギーは人類の歴史を形作り、火や蒸気機関、原子力を生み出してきたが、現在はクリーンエネルギーの新時代の夜明けを迎えている。昨年、世界の新設電源のほぼ全てが再生エネだった。クリーンエネルギーへの投資額は2兆ドル(約300兆円)に達し、化石燃料への投資を8000億ドル上回った。太陽光や風力は今や地球上で最も安い電源で、クリーンエネルギーは雇用を創出し、経済成長の原動力だ。一方、化石燃料への補助金ははるかに多い。化石燃料に固執する国は経済を守るのではなく、むしろ競争力を損なっている。再生エネはエネルギーの主権と安全保障の確保にもつながる。化石燃料の市場は価格変動や供給網の寸断、地政学リスクに左右される。太陽光は価格の急騰もなく、風力は禁輸の対象にならない。エネルギーの自給自足を可能とするだけの再生エネの資源は、ほとんどの国にある。再生エネは社会の発展も促進する。電気のない生活を送っている数億人に迅速かつ安価、持続可能な形で供給できる。再生エネに移行する流れが止まることはない。だが、移行の速度と公平性は足りない。開発途上国は取り残され、温暖化ガス排出量は増えている。これを改善するには6つの取り組みが必要だ。第一に政府はクリーンエネルギーが普及するよう尽力する必要がある。各国は今後数カ月で新たな排出削減目標を提出すると約束している。世界の気温上昇を1.5度に抑える道筋を示さなければならない。世界の排出量の約8割を占める主要20カ国・地域(G20)がその先頭に立つべきだ。加えて、送電網や蓄電池にもっと投資すべきだ。これがないと再生エネは本来の力を発揮できない。現状は、再生エネに1ドル投じられるごとに、送電網と蓄電設備への投資は60セントにとどまる。この比率を1対1にする必要がある。さらに、エネルギー需要の増加分を再生エネで賄うべきだ。2030年までには世界のデータセンターの電力消費量が日本1カ国の使用量に匹敵する可能性がある。IT企業などは再生エネで賄うと打ち出すべきだ。エネルギー移行での社会的な公正さへの目配りも必要だ。脱炭素に備え、化石燃料に依存するコミュニティーを支援すべきだ。人権侵害や環境破壊が横行する重要鉱物の供給網も改革しなければいけない。再生エネ関連の供給網は特定地域に集中している。調達先を多様化し、再生エネ関連製品の関税を引き下げ、投資協定を見直す必要がある。最後に、途上国に資金を流入させるべきだ。太陽光発電に適した地域が多いアフリカは昨年の世界の再生エネ投資に占める地域別の割合がわずか2%だった。途上国の財政を債務が圧迫するのを防ぎ、開発銀行の融資能力を大幅に引き上げるべきだ。私たちは、この世界的な移行の機会を逃してはならない。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89832400U5A700C2EA5000 (日経新聞 2025.7.5) 太陽パネル導入に壁、来年度から工場や店設置目標義務 新型、効率・供給に課題 企業の工場や店舗の屋根に置く太陽光パネルの導入目標策定が国内1万以上の事業者に義務化される。多くの工場は重いものを屋根に置く設計はされておらず、導入拡大へは屋根や壁面に設置しやすい軽量薄型の新型太陽電池「ペロブスカイト」が有力な選択肢となる。性能や価格面など企業が導入を急拡大するには課題が山積する。化石燃料の利用の多い工場や店舗は2026年度から屋根置き太陽光パネルの導入目標を国に報告する必要がある。定期的に計画を更新する必要はあるが、3~5年後をめどに掲げる導入目標が達成できなくとも虚偽の目標設定や報告でなければ罰則はない。目標未達でも罰則を設けないのは太陽光発電の量を増やすことだけが目的ではないためだ。経済産業省幹部は「日本に技術的強みのある次世代型太陽電池の普及を促す目的もある」と明かす。積水化学工業が量産にめどをつけるなど、今後市場への本格導入が始まるペロブスカイトの普及促進を念頭に置く。経産省はこれまでも積水化学の研究開発や生産ラインの整備費用やカネカの研究開発費用などを支援してきた。国内に大規模な工場や店舗を持つ企業は脱炭素に向けて太陽光パネルの導入を進めてきた。例えばイオングループは2月までに1469カ所の店舗・施設に導入済みだ。キユーピーも設置可能な既存工場への導入をほぼ終えた。キリンホールディングス(HD)はグループ全体で約7割の工場で導入した。各社が導入を進めるのはシリコン製の太陽電池がほとんど。軽量薄型のペロブスカイトでは設置場所が広がる。イオングループも「軽量かつ移設が容易にできるのであれば施設の壁や窓、屋内への導入を検討する」と関心を示す。ユニ・チャームも「建物の側面にも設置でき、倉庫などへの展開も期待できる」とする。太陽光パネルの国産化再興の一手としての期待もかかる。1963年、シャープの量産などを皮切りに国産品の製造が広がったが、価格に優れた中国製との競争に苦しんだ。パナソニックホールディングスや出光興産子会社のソーラーフロンティア(東京・港)が国内自社製造から手を引いた。太陽光発電協会(東京・港)によると、25年1~3月に国内出荷された太陽光パネルのうち国内で生産されたものは約5%にとどまる。ペロブスカイトはヨウ素など主要な原料を国内調達でき、国内の積水化学やシャープが技術開発を進める。ただ足元ではペロブスカイトの導入拡大へは懐疑的な声もある。建設業者などからは「安価なパネルと比べると投資に対して発電効率が低い」といった声も漏れる。耐久性も課題を残す。耐用年数は10~15年程度とされ、建設大手の関係者は「50年以上運用する工場などでの採用は現状難しい」と話す。設置条件などが定められておらず、「軽さを生かした設置が難しい」(パネルメーカー)といい、ルール整備も必要だ。SOMPOリスクマネジメントの堀内悟上席コンサルタントは「設置方法で(火災や事故の)リスクは変わり、分析が必要だ」とする。供給体制も未熟だ。積水化学は「現状の生産ペースでは設置目標義務を賄えない恐れがある」と懸念を示す。シャープやカネカも製品化を急ぐが、企業が求める量を確保できるか不透明だ。「湿気に弱い点や鉛使用による環境リスクなどの課題がある」(ユニ・チャーム)。「価格面から補助金など資金面での支援の充実が必要だ」(キリンHD)。中国勢も一部で量産を始めている。「安価な中国勢に流れてしまう懸念もある」(パネルメーカー)。ユーザーとメーカー両サイドの不安はつきない。太陽光発電は設備の多くを輸入に頼る。日本が先行したシリコン製は国内産業としては衰退した。ペロブスカイトも中国勢が勢いを増す。技術や環境整備の壁を乗り越えるには官民の目線を合わせた連携が不可欠になる。 *4-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250717&ng=DGKKZO90077710W5A710C2EA2000 (日経新聞 2025.7.17) 〈参院選2025 選択の夏〉原発再稼働の是非は、積極派は電源に「最大限活用」 慎重派、将来は再エネ100%に 参院選では、暮らしや企業活動に欠かせないエネルギーをどうまかなうかも争点になる。原子力発電所と再生可能エネルギーをどこまで活用するかで各党の立場は大きく分かれた。自民党は安全性を確認した原発の再稼働を積極的に認める方針で政策集には「原子力などの電源を最大限活用する」と記した。公明党も「最大限活用」で足並みをそろえ、2024年衆院選の公約にあった「可能な限り原発依存度を低減」との文言も削除した。自公両党は政府が2月にまとめたエネルギー基本計画を意識する。同計画は「原子力など、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」と明記。4年前の前回計画にあった「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削り、原発推進にカジを切った。 ●国民民主は新設 原発活用に最も積極的なのは国民民主党だ。再稼働のみならず、建て替えや新増設も進める。日本維新の会も早期の再稼働や次世代原発への建て替えを認める立場だ。参政党は再稼働を巡るスタンスを明らかにしていないが、次世代原発の研究に積極投資する考えだ。原発に慎重姿勢を取る野党も多い。立憲民主党は再稼働を容認する構えだが、実効性のある避難計画と地元合意を前提にしている。新増設には反対するほか、「すべての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定を目指す」と将来の原発ゼロ方針も維持する。れいわ新選組は「即時使用禁止」、共産党は「速やかに原発ゼロ」をうたう。エネルギーを巡るもう一つの論点が、太陽光や風力など再エネの推進だ。積極的なのは立民、共産、れいわ。いずれも将来の電源構成の100%を再エネでまかなうと主張する。温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」は再エネ拡大を進めて達成するとの立場だ。自公両党は「最大限の導入」とする表現にとどめ、具体的な数値目標は設けなかった。日本は国土が狭く、平地が少ない。再エネの適地が限られるため、海外に比べて導入コストが高くなりがちだ。また天候に応じて出力が変わる再エネをどう制御し、安定的に電力を供給するかも大きな課題になる。再エネの急速な拡大に慎重な党もある。国民民主は再エネ普及のため電気料金に上乗せされている賦課金の徴収停止を訴える。同党は「手取りを増やす」ことにこだわっており、「賦課金が増大し国民に大きな負担になっている」ことを問題視している。 ●家計負担が増大 太陽光発電などの拡大に伴って、25年度の再エネ賦課金は標準家庭で月1500円余り。年換算では1万9000円ほどに増えており、家計にとって無視できない負担になっている。参政党は再エネ賦課金を廃止するとともに「高コストの再エネを縮小」と明記。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱し、カーボンニュートラルの是非そのものを検証すると主張する。日本政府は「50年までのカーボンニュートラル達成」を20年に宣言した。実現には温暖化ガスを排出しない再エネ拡大が不可欠で、導入費用を国民が広く薄く負担するのが賦課金だ。その停止・廃止は「日本が脱炭素に背を向けた」と国際社会から批判されかねない。経済産業省は再エネ賦課金を停止・廃止した場合「発電事業者から訴訟を受けるリスクがある」(幹部)とみる。政府は再エネ電力を火力などよりも高く買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を12年度に始めた。企業や家庭が再エネで発電した電気を電力会社が10~20年間買い取る仕組みで、電気料金に上乗せする賦課金を原資とする。国は一定額での買い取りを約束しており、財源がなくなって買い取りを中止すれば訴訟問題になりうる。再エネ賦課金の総額は年3兆円規模。消費税で約1%分にあたる規模で、代替財源を見つけるハードルは高い。電力需要は今後、人工知能(AI)普及やデータセンター拡大によって増えると政府は見込む。エネルギー基本計画によると40年度の発電電力量は1.1兆~1.2兆キロワット時と、22年度実績より1~2割増える。安定的で安価なエネルギーの確保は、国民の暮らしと企業の国際競争力にも直結する課題だ。安全性を大前提としたうえで、安定性や経済性、脱炭素といった要素をどう組み合わせていくかについて国民的な議論が求められる。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90193750T20C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.23) 原発「脱炭素へ不可欠」、関電、美浜に新設調査発表 AI時代の電源整備 関西電力の森望社長は22日、美浜原子力発電所(福井県美浜町)において、原発の建て替えに向けた地質などの調査を始めると発表した。新増設の具体的な動きは2011年の東京電力福島第1原発の事故後、初となる。再始動する新増設を、原発への信頼を取り戻し、人工知能(AI)時代の産業構造へ作り替える起点にしていかねばならない。森社長は記者会見で、「電力需要はデータセンターや半導体産業の急激な成長を背景に伸びていく。脱炭素を進めるためにも原子力は必要不可欠だ」と強調した。未曽有の被害をもたらした福島第1原発事故から14年。安全性を高めた新しい規制基準の下で電力会社は既存原発の再稼働を進めている。一方で電力需要増大や温暖化ガス削減に向けた脱炭素電源として、原発に対する視線は変わりつつある。電力広域的運営推進機関によれば、国内の電力需要は向こう10年で約6%増える。再生可能エネルギーを最大限伸ばす努力をあきらめてはならない。しかし、太陽光や風力発電の適地の偏りや、時間や天候で変化する出力の不安定性を考えると、再生エネだけでは力不足だ。原発には不断の安全への取り組みや、回復途上の国民の信頼という大きな課題が残る。原発の建設や運転に関わる人材が先細りしている問題もある。それでも選択肢として目を向けるときだ。既存原発の再稼働を進めても、いずれ設備としての寿命を迎える。新設に着手しても稼働開始まで20年単位の時間が必要だ。50年のカーボンニュートラル実現を約束する日本には、そんなに時間が残されていない。電力需要増大の象徴がAI普及を支えるデータセンターだ。日本ではデータセンターの9割が関東、関西に集中する。その需要増大に対応するには2つの方法がある。1つは原発や再生エネといった脱炭素電源が豊かな北海道や九州にデータセンターを集め、光ファイバーで必要なデータをやり取りする方法だ。電力の単位である「ワット」と、通信の単位である「ビット」をつなげて「ワット・ビット連携」と呼ぶ。もう1つの道は、データセンター需要が集中する大都市圏で、大量かつ安価な脱炭素電力を供給する力を高めることだ。関電の美浜原発での建て替えはこれにあたる。重要なのはワット・ビット連携や、美浜原発の建て替えを、AI時代の産業構造転換に弾みをつけるために戦略的に活用していくことだ。米国では巨大IT事業者が自社のデータセンター用に原発から直接電力を買ったり、原発に隣接してデータセンターを置いたりする動きが広がりつつある。同様の取り組みは、日本では難しい。発電事業者は電力を需要家に平等に売らねばならないルールがあり、原発立地地域や特定の顧客だけに電気を安く売ることは原則できない。そこでデータセンター事業者が今後、新たな原発の建設・運営に参画し、一定の電力引き取りを確約するといった選択も可能にしてはどうか。より安い地点を求め移り気なデータセンター事業者を、国内につなぎとめる材料になるはずだ。こうした仕組みを整えることが、原発が立地する地域の電気料金を下げるなど恩恵を目に見える形にする早道でもある。 *4-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1511189 (佐賀新聞 2025/7/17) 参院選 原発・エネルギー/福島事故の教訓忘れずに 政府が原発推進にかじを切る中、参院選で原発とエネルギーについての議論は低調と言わざるを得ない。だが14年前に東京電力福島第1原発事故を経験した私たちにとっては、常に考えなければならないテーマだ。政府は2月、新しいエネルギー基本計画と地球温暖化対策計画をまとめた。福島事故の反省から掲げてきた「可能な限り原発依存度を低減する」の文言を削除し、原発推進を明確にした。電源構成に占める原発の割合を8・5%(2023年度実績)から40年度に2割程度に上げる。また再生可能エネルギーを最大電源として位置づけ、40年度に4~5割にする目標も掲げた。現在動いている原発は14基。基本計画が示す2割にするためには30基を超える既存原発をほぼ全て動かさなければならない。電力需要を賄うためにはいくつもの方法を組み合わせていく必要がある。これが政府・与党の考えだ。基本計画は古い原発を建て替える要件を緩和し、新たな建設に道を開いた。自民党は既存原発より安全性が高いとする「次世代型」の具体化を掲げ、公明党も「総基数は増えない」として容認した。野党はさまざまだ。立憲民主党は「新増設は認めない」とする。日本維新の会や国民民主党は再稼働を推進する姿勢だ。参政党や日本保守党も前向きだ。一方で共産党やれいわ新選組、社民党は原発反対を訴えている。各党の立場の幅は広い。再稼働を巡る現在の最大の課題は、東電柏崎刈羽原発だ。6号機と7号機は既に原子力規制委員会の審査に合格し、技術的には動かすことが可能になっており、東電は6号機を優先する方針を表明している。だが大きなハードルが残っている。再稼働に必要な地元同意である。新潟県の花角英世知事は県民の意見を聞き是非を判断するとしており、市町村長との懇談会や、県民の公聴会を開いている。県民意識調査も9月末までに結果がまとまる。知事の判断時期は近づいているとみられる。重要なのは、福島で事故を起こした東電にとって初めての再稼働になるということだ。技術的にクリアされても、東電に原発を動かす資格がそもそもあるのか。そのことが問われる。柏崎刈羽原発は新潟県や東電だけの問題ではないという意識で注視したい。福島第1原発では今も過酷な廃炉作業が続いている。取り出した溶融核燃料(デブリ)は昨年11月が0・7グラム、今年4月も0・2グラム。全体で880トンと推定されているのに比べ、ごくわずかだ。東電は今後大規模な取り出しをする考えだが、その方法は決まっていない。「事故から30~40年で廃炉」という目標の達成は厳しい状況に追い込まれている。周辺住民の避難も続いている。福島第1原発だけではない。完成延期を繰り返している青森県六ケ所村の核燃料サイクル施設や、核のごみの最終処分場など重要な課題は解決できていない。地球温暖化対策や、二酸化炭素(CO2)の排出を減らす脱炭素の取り組みは喫緊の課題だ。ウクライナや中東の情勢もあり、資源に乏しい日本にとってエネルギー確保に不安な状況が続く。ただ、まだ終わらない福島事故の教訓を忘れてはならない。 *4-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1520936 (佐賀新聞 2025.7.30) 【福島第1原発】「廃炉の本丸」攻略遠、難題山積、見直し不可避 東京電力が2030年代初頭に着手を目指していた福島第1原発3号機での溶融核燃料(デブリ)の本格取り出しが、37年度以降にずれ込む見通しとなった。デブリ取り出しは「廃炉の本丸」とされるが、その前段にも多くの難題が立ちはだかり、なかなか切り込めない。東電は51年までの廃炉完了目標に拘泥するが、見直しは避けられそうにない。 ▽困難 「元々困難だと感じていた。検討を進めれば進めるほど、より深刻に分かってきた」。廃炉の技術支援を担う原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田豊志廃炉総括監は29日の記者会見で、51年までの廃炉完了目標の実現性について、包み隠さず語った。原子力規制委員会前委員長の更田氏は第1原発の廃炉に思い入れが強く、処理水放出などにも率直な見解を示してきた。目標見直しの必要性は「現時点で十分な判断材料はない」と踏み込まなかったものの、現在有力視される取り出し方法も「小さな可能性が見えたというような感じだ」と述べるにとどめ、目標実現のめどが立っていない現状を強調した。 ▽不透明 デブリの取り出しは、建屋の水素爆発を免れて原子炉格納容器内部の把握が進んでいた2号機で先行した。試験的採取との位置付けで、取り出せたのは計1グラム未満。東電は「採取は性状分析のためで、本格取り出しとは全く別」と説明する。3号機での本格取り出し前に12~15年の準備工程が必要との案が示された。「想定通り進捗した場合」との条件付きで、技術的に不透明な部分があるとして、東電が実現可能性を1~2年かけて精査するとしている。3号機原子炉建屋北側にある廃棄物処理建屋は、本格取り出し前に撤去する必要性が指摘された。廃液などが保管されている建屋解体は難工事となるのは必至。発生するがれきなどは高線量の廃棄物となり、保管先を確保する必要がある。デブリの取り出しルートと想定される原子炉建屋1階にも極めて高線量のエリアがある。制御棒の関連機器が汚染源とみられ、除染しても十分に線量が下がっていない。 ▽何年か 3号機での本格取り出しは、原子炉建屋上部に開口部を設けて、細長いポール状の機器を差し込んでデブリを崩す方法と、横から取り出す方法との組み合わせが有力とされたが、その後の工程は今回の検討の対象外だ。さらに1、2号機の取り出しも待ち構える。デブリがある場所や形状、建屋の状況はまちまちで、3号機の進め方が通用するのか予断を許さない。順調にデブリを取り出せたとしても、どこにどのように処分するかは検討さえ始まっていない。東電の小野明廃炉責任者は、51年までの廃炉完了を掲げた国と東電の工程表は「重い」として、見直す時期ではないと強調。一方で「(廃炉が終わるのが)何年とは言えない」と漏らした。 *4-2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16270772.html (朝日新聞 2025年7月30日) 東電、「51年廃炉」は維持 専門家「現実性ない」 福島第一 東京電力福島第一原発の本格的な燃料デブリの取り出し開始時期が、後ろ倒しになった。最難関の作業が遅れることになるが、東電は2051年までとする廃炉完了の目標は維持する考えだ。東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は29日の記者会見で「廃炉完了目標時期を否定する状況ではない」と繰り返した。廃炉は、政府と東電が11年12月にまとめた中長期ロードマップ(廃炉工程表)に基づいて東電が進めている。これまでも、使用済み燃料の取り出しなど多くの作業が遅れた。工程表は改訂を重ねたが、51年までの廃炉完了という大枠は維持されてきた。今回、3号機の燃料デブリの取り出し開始時期は明らかにしたが、作業期間は「不確かさがある」として示していない。さらに1~3号機で推計880トンのデブリがあるが、1、2号機は工程も工法も決まっていない。小野代表は会見で、今後1~2年で1、2号機の準備作業の検討を進めるとして「1~3号機で同時に(デブリを)取り出すのは不可能ではない」と述べ、「どう達成できるかを考えていきたい」と強調した。東電が今回示した工法は、廃炉について助言する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が昨年3月に示した提言をもとにしている。NDFは専門家による小委員会をつくり、デブリに水をかけながら取り出す「気中工法」、原子炉を水で満たす「冠水工法」、デブリを充填(じゅうてん)材で固めて削り出す「充填固化工法」の3案を検討。冠水工法は原子炉や建屋の損傷が激しく、建屋を覆う構造物を設置するのも難しいことから、放射線量を抑えられる充填固化工法と気中工法を組み合わせることを提案した。東電は提案された工法を採用したうえで、原子炉建屋の上に設ける装置を小さくすることで負荷を減らし、原子炉の側面から取り出す方法を示した。ただ、今後1~2年で取り出し工法について検証を進め、必要があれば見直すとしている。早稲田大学の松岡俊二教授(環境経済・政策学)は「37~51年の14年間で、推計880トンのデブリがすべて取り出せると思う人はいないのではないか。現実性のない目標が維持され続けるのは、福島の復興を考える上でも良くない」と指摘する。 *4-2-6:https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-059-10-03-g112(IMIDAS 2010/3/26) 原発温廃水が海を壊す、原発からは温かい大河が流れている(元京都大学原子炉実験所助教 小出裕章) 原子力発電所の稼働に不可欠な冷却水は、その膨大な熱とともに放射能や化学物質をともなって海に排出される。この温廃水(温排水 hot waste water)の存在、あるいは環境への影響が論じられることは少ない。地球温暖化への貢献を旗印として原子力回帰が叫ばれる中、けっして避けられない温廃水の問題を浮き彫りにする。 ●蒸気機関としての宿命 地球は46億年前に誕生したといわれる。その地球に人類が誕生したのは約400万年前。地球の歴史を1年に縮めて考えれば、人類の誕生は大みそかの夕方になってからにすぎない。その人類も当初は自然に寄り添うように生活していたが、18世紀最後の産業革命を機に、地球環境との関係が激変した。それまでは家畜や奴隷を使ってぜいたくをしてきた一部の人間が、蒸気機関の発明によって機械を動かせるようになった。以降、大量のエネルギーを使うようになり、産業革命以降の200年で人類が使ったエネルギーは、人類が全歴史で使ったエネルギー総量の6割を超える。その結果、地球の生命環境が破壊され、多数の生物が絶滅に追いやられるようになった。その期間を、地球の歴史を1年に縮めた尺度に合わせれば、大みそかの夜11時59分59秒からわずか1秒でのことである。今日利用されている火力発電も原子力発電も、発生させた蒸気でタービンを回す蒸気機関で、基本的に200年前の産業革命のときに誕生した技術である。その理想的な 熱効率は、次の式で表される。 理想的な熱機関の効率=1-(低温熱源の温度÷高温熱源の温度) (※それぞれの温度には「K(ケルビン)」の単位で表す絶対温度を用い、「℃」で表す 摂氏温度の数字に「273」を加え、たとえば0℃=273K、100℃=373Kとなる) だが、現実の装置ではロスも生じるため、この式で示されるような理想的な熱効率を達成することはできない。火力発電や原子力発電の場合、「低温熱源」は冷却水で、日本では海水を使っているので、その温度は地域差や季節差を考慮しても300K(27℃)程度であり、一方の「高温熱源」は炉で熱せられ、タービンに送られる蒸気である。そのため、火力発電と原子力発電の熱効率は、基本的にそれらが発生しうる蒸気の温度で決まり、その温度が高いほど、熱効率も上がることになる。現在稼働している原子力発電では、燃料の健全性を維持するため冷却水の温度を高くすることができず、タービンの入り口での蒸気の温度はせいぜい550K(約280℃)で、実際の熱効率は0.33、すなわち33%しかない。つまり、利用したエネルギーの2倍となる67%のエネルギーを無駄に捨てる以外にない。 ●想像を絶する膨大さ この無駄に捨てるエネルギーは、想像を絶するほど膨大である。たとえば、100万kWと呼ばれる原子力発電所の場合、約200万kW分のエネルギーを海に捨てることになり、このエネルギーは1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させる。日本には、1秒間に70tの流量を超える川は30筋もない。原子力発電所を作るということは、その敷地に忽然として「温かい大河」を出現させることになる。7℃の温度上昇がいかに破滅的かは、入浴時の湯の温度を考えれば分かる。ふだん入っている風呂の温度を7℃上げてしまえば、普通の人なら入れないはずである。しかし、海には海の生態系があって、その場所に適したたくさんの生物が生きている。その生物たちからみれば、海は生活の場であり、その温度が7℃も上がってしまえば、その場では生きられない。逃げることのできない植物や底生生物は死滅し、逃げることができる魚類は温廃水の影響範囲の外に逃げることになる。人間から見れば、近海は海産資源の宝庫であるが、漁業の形態も変える以外にない。 ●途方もない環境破壊源 雨は地球の生態系を持続させるうえで決定的に重要なもので、日本はその恵みを受けている貴重な国の一つである。日本には毎年6500億tの雨が降り、それによって豊かな森林が育ち、長期にわたる稲作も持続的に可能になってきた。雨のうち一部は蒸発し、一部は地下水となるため、日本の河川の総流量は年間約4000億tである。一方、現在日本には54基、電気出力で約4900万kWの原子力発電所があり、それが流す温廃水の総量は年間1000億tに達する。日本近海の海水温の上昇は世界平均に比べて高く、特に日本海の温度上昇は著しい。原発の温廃水は、日本のすべての川の水の温度を約2℃温かくすることに匹敵し、これで温暖化しなければ、その方がおかしい。そのうえ、温められた海水からは、溶け込んでいた二酸化炭素(CO2)が大量に放出される。もし、二酸化炭素が地球温暖化の原因だとするなら、その効果も無視できない。もちろん、日本には原子力発電所を上回る火力発電所が稼働していて、それらも冷却水として海水を使っている。しかし、最近の火力発電所では770K(約500℃)を超える高温の蒸気を利用できるようになり、熱効率は50%を超えている。つまり、100万kWの火力発電所の場合、無駄に捨てるエネルギーは100万kW以下で済む。もし、原子力発電から火力発電に転換することができれば、それだけで海に捨てる熱を半分以下に減らせる。さらに、火力発電所を都会に建ててコージェネレーション(cogeneration)、すなわち無駄に捨てるはずの熱を熱源として活用すれば、総合的なエネルギー効率を80%にすることもできる。しかし、原子力発電所は決して都会には建てられない。 ●熱、化学物質、放射能の三位一体の毒物 温廃水は単に熱いだけではなく、化学物質と放射性物質も混入させられた三位一体の毒物である。まず、海水を敷地内に引き込む入り口で、生物の幼生を殺すための化学物質が投入される。なぜなら海水を施設内に引き込む配管表面にフジツボやイガイなどが張り付き、配管が詰まってしまっては困るからである。さらに、敷地から出る場所では、作業員の汚染した衣服を洗濯したりする場合に発生する洗濯廃水などの放射性廃水も加えられる。日本にあるほぼすべての原子力施設は、原子炉等規制法、放射線障害防止法の規制に基づき、放射性物質を敷地外に捨てる場合に濃度規制を受ける。原子力発電所の場合、温廃水という毎日数百万tの流量をもつ「大河」がある。そのため、いかなる放射性物質も十分な余裕をもって捨てることができる。洗濯廃水も洗剤が含まれているため廃水処理が難しい。原子力発電所から見れば、苦労して処理するよりは薄めて流すほうが得策である。 たとえば、昨今話題となる核燃料サイクルを実現するための核燃料再処理工場は、原子力発電所以上に膨大な放射性物質を環境に捨てる。ところが、再処理工場には原子力発電所のような「大河」はない。そこで、再処理工場は法律の濃度規制から除外されてしまった。逆にいえば、原子力発電所にとっては、温廃水が実に便利な放射能の希釈水となっているのである。 *4-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89837470V00C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.5) 日産、中国をEV拠点に 来年から 東南アや中東に輸出 日産自動車は2026年に中国から電気自動車(EV)の輸出を始める。輸出先は東南アジアや中東、中南米を想定している。日産は業績低迷を受けて世界で生産体制を見直している。価格と性能の両面で競争力のある中国製EVを幅広い地域に出荷し、経営の立て直しを急ぐ。日産は4月に中国で発売し、売れ行きが好調なEVセダン「N7」などを中国から輸出する。N7はデザインや開発、部品の選定まで日本の本社ではなく中国の合弁会社が担った初めてのEVだ。中国での価格は11万9900元(約240万円)から。現地のEV大手、比亜迪(BYD)の競合製品と比べても同水準の安さだ。広東省広州市の工場で生産している。N7のソフトウエア機能には中国企業の人工知能(AI)技術を採用している。国によっては利用が制限されている。日産は4月に中国のEV開発大手、阿爾特汽車技術(IAT)に出資した。同社の協力を得て中国市場向けのソフトなどを輸出仕様車に変える。日産の現地子会社が中国の国有自動車大手、東風汽車集団と通関などの実務を担う合弁会社を設立することでも合意した。新会社には日産子会社が6割を出資する。中国は世界に先駆けて車の電動化が進んだことで、EVの航続距離や車室の快適性、エンターテインメント機能などの性能が高い。日産は中国製の低価格EVの需要は国外でも高いとみる。 *4-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250817&ng=DGKKZO90720210X10C25A8MM8000 (日経新聞 2025.8.17) 政府、アフリカとFTA検討 日本車輸出を促進 日本政府はアフリカ諸国と自由貿易協定(FTA)の締結に向けた検討を始める。産学官による検討会を設置し、本格的な交渉入りをめざす。まずはケニアなど物流の要衝になる東部や人口が多いナイジェリアを念頭に置く。日本からの自動車輸出の促進などを期待する。20~22日に横浜市で開く第9回アフリカ開発会議(総合2面きょうのことば、TICAD9)で発表する見通しだ。産学官の検討会で経済連携の効果や課題を2年程度かけて検証する。日本企業の進出意欲の高い国との協議を優先する。ケニアなど東部8カ国でつくる地域経済共同体「東アフリカ共同体(EAC)」との交渉が候補になる。アフリカ全体とのFTA締結を最終目標とする。ケニアは港湾が整備されている。日本政府は東アフリカをインド洋を通じた物流の要と位置づけ、インドや中東諸国と一体の経済圏を築く構想を持つ。東部以外ではアフリカで人口最大のナイジェリアが候補になる。原油の生産量も最大で、内需が拡大する。西アフリカの物流や工業のハブとして成長するガーナなども連携相手に挙がる。港湾から内陸国へ陸路で運ぶのに複数の国を通過するため、各国の関税が輸送コストの上昇要因になる。各国の関税を撤廃し、アフリカ進出を図る日本企業のビジネス環境を整える。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2024年に日本とアフリカは輸出入ともにそれぞれ1兆3000億円程度にとどまっている。日本からの輸出は中古車を含む自動車が多く、輸入は鉱物資源の割合が高い。日本は50カ国を超すアフリカのいずれの国ともFTAや経済連携協定(EPA)を結んでいない。経団連は6月の提言で、アフリカとの協定整備の遅れを指摘した。韓国やインド、欧州勢が先行し「世界の競合企業と競争条件で大きな格差が生じている」と訴えた。 *4-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250817&ng=DGKKZO90715160W5A810C2TYC000 (日経新聞 2025.8.17) 北極の氷消え、地球過熱、50度超の熱波で山火事も頻発 氷が消え地球に熱がこもる。こんな悪循環が加速している。気温上昇を抑える役割を果たしてきた北極の海氷は2030年には消滅するという予測さえある。氷が溶けて海水面が上昇し、太平洋の島しょ国の住民は故郷を離れ始めた。熱波による山火事と感染症も猛威を振るっている。「地球温暖化の最前線」とも呼ばれる北極域は温暖化の影響が最も表れる地域とされる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所によると、24年9月に人工衛星で観測した北極の海氷の年間最小面積は407万平方キロメートルと、衛星観測史上で5番目に小さかった。北極の海氷面積の最小値は長期的に減少傾向にある。米コロラド大などの国際研究チームは24年、温暖化がこのまま進むと27年にも北極の海氷が9月にほとんどなくなる可能性があると国際科学誌で報告した。 ●島から気候移住 北極は地球の冷却源として働くが、海氷が減るとその機能が弱まる。海氷は太陽光を反射して温暖化を抑える役割がある。また海面に蓋をして水分の蒸発量も抑えている。海氷がなくなると、北半球での水の循環が強まり、豪雨や干ばつなどが起きやすくなると指摘されている。同様に深刻なのが、世界各地の陸上に点在する氷床や氷河の減少だ。スイスのチューリヒ大学などの研究グループによると、世界の氷河は00~23年に年間で平均2730億トン減少し、約1.8センチメートルの海面上昇を引き起こしたと推計された。25年5月にはスイス南部のアルプス山脈で、氷河の崩壊によって大規模な土石流が発生し、築600年の家屋が並ぶ歴史ある村が土砂に埋め尽くされた。海面上昇は沿岸部の居住地を奪って移住を余儀なくする「気候難民」を生み出す。太平洋諸島のツバルは、2100年までに国土の約9割が水没する恐れがある。 ●氷河解け海面上昇 23年にはオーストラリアとの間で、年間280人のツバル国民がオーストラリアの永住権を取得できる協定を結んだ。25年7月の申請の締め切りまでに全国民の約9割が申し込んだ。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、1999~2024年までの25年間で9.38センチメートルの海面上昇が確認された。上昇の6割が氷河や氷床の融解を原因とし、3割は海水温が高くなったことによる海水の膨張が影響した。気候変動に伴う記録的な熱波は、世界各地で頻発する山火事にも深く関係する。国内最高気温となる50.5度を記録したトルコでは25年の7月下旬、各地で山火事が相次いで発生した。広範囲が焼失して町や村単位で住民が避難したほか、消火作業にあたった複数人が死亡した。火災によって焼失する森林の面積は近年増えている。米シンクタンクの世界資源研究所(WRI)によると、24年に焼失した森林は1350万ヘクタールで、ギリシャの国土面積に相当する。23年の1190万ヘクタールから13%増加した。25年に入っても、米カリフォルニア州や日本、韓国、カナダなどで大規模な火災が立て続けに発生した。専門家は、いずれも人為的な気候変動によって気温や雨量に変化があったことが影響したとする分析結果を発表している。山火事は被害を出すだけでなく、温暖化を加速させる悪循環も生む。温暖化が進むことで、山火事を引き起こしやすい極端に乾燥した環境をつくる。 ●感染症が拡大 温暖化は蚊が媒介する感染症のまん延を加速する。25年7月から中国南部の広東省仏山市を中心に「チクングニア熱」の感染拡大が続き、7000人以上の感染が確認されている。チクングニア熱は発熱や発疹、関節痛などを引き起こす。世界保健機関(WHO)によると死に至ることはまれだが、ワクチンや治療薬はないという。また15年に1355人だったデング熱の死者数は24年には6991人にまで増えた。高温が日常となったいま、危機への対応は急務となっている。 *4-3-4:https://www.agrinews.co.jp/news/index/326952 (日本農業新聞 2025年8月21日) 農水予算重点事項 生産費減へ大区画化 直播の普及支援 農水省は20日、2026年度農林関係予算概算要求の重点事項を示した。政府が生産拡大意向を示す米が柱。生産費の削減へ、農地の大区画化を進める。労働力不足への対応になるとして、水田に種を直接まく直播(ちょくは)を普及する。主食用米の需要に応じた生産を支える水田活用の直接支払交付金(水活)を明記した。自民党農林合同会議に示した。27日に総額や各事業の額を示す。米の生産性向上へ、農地の大区画化を進める。農地集積・集約化やスマート技術の導入を加速する。共同で利用する機器の導入や、「節水型乾田直播」の検証を支援する。高温に耐える品種や多収性品種への転換を促す。農地の大区画化を巡っては、農家自らの施工による区画拡大などを支える「大区画化等加速化支援事業」も盛り込んだ。同事業では巨大区画化の効果検証や普及も進める。主食用米の将来的な需給緩和を懸念する声を踏まえ、産地の自主的な長期計画販売への支援を盛り込んだ。農家の減収の一部を穴埋めする収入保険制度の普及や、27年度からの新たな環境直接支払交付金の「制度設計」の推進を掲げた。主食用米から麦・大豆、米粉用米などへの転換を促す水活を明記した。議員からは財源確保を念押しする意見が出た。農水省は「水活は需要に応じた生産の核となる部分だと思っている。しっかり対応する」と応じた。共同利用施設の再編など「農業構造転換集中対策」の詳細は要求段階では示さず、年末にかけて詰める。同対策は5年間で事業規模2・5兆円、うち国費1・3兆円を見込む。議員からは既存事業の財源を減らさずに確保するよう求める声が上がった。 *4-3-5:https://digital.asahi.com/articles/AST8L2VVWT8LULFA00DM.html (朝日新聞 2025年8月18日)ミニストップ、おにぎりや弁当の消費期限を偽装 全店で販売を中止 大手コンビニエンスストアのミニストップ(本社・千葉市)は18日、店内で加工した「手作りおにぎり」や総菜食品について、一部の店舗で消費期限を偽って販売する不正が見つかった、と発表した。原因の究明と改善策が実施されるまでの間、全店で店内加工のおにぎりや総菜、弁当の販売を中止する。同社によると、一部店舗で6月下旬、消費期限を記したラベルが二重に貼られたおにぎりが見つかった。同社が調査したところ、国内全1784店のうち、埼玉、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7都府県の23店で不正が確認された。店内で調理後、ただちに消費期限を計算してラベルを貼るべきなのに、時間をおいてから貼るなどして、期限を2~3時間過ぎた商品を販売していたという。これまでのところ、購入者から健康被害の連絡はないという。ホームページでも一連の経緯を説明し、謝罪文を掲載した。 *4-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1509477 (佐賀新聞 2025/7/15) 参院選・コメと農政 増産と所得安定の両立探れ コメを巡る政策が改革を迫られている。随意契約による政府備蓄米の放出で、コメの流通はようやく落ち着く兆しが見えてきたが、対症療法にとどまっている。コメ政策の見直しは避けて通れず、農家と消費者の双方が安心できる政策が必要だ。転作奨励金などを見直して増産に転換する道筋を描き、農家の所得安定と両立させることが焦点になる。昨年からの米価高騰は「コメの生産量が足りないのではないか」という疑念を生じさせた。インバウンド(訪日客)によって外食産業で需要が拡大し、消費量は思ったほど減っていないとの指摘もある。卸売業者が何重にも関与する複雑な流通の過程で、コメがどんな価格水準で取引されているのか、はっきりしない面もある。生産者の自家消費や、知人らに配る縁故米の把握もできていない。石破茂首相はコメ輸出の拡大を念頭に「増産にかじを切る」と繰り返し強調しているが、生産調整見直しの具体策はまだこれからだ。コメ不足と価格高騰が消費者に大きな不安を与えたことを考えれば、生産や流通の実情把握を急ぐべきだろう。これまでの農政は生産量を抑え、価格を維持する手法を続けてきた。減反政策が終了してからも、人口減によるコメ消費の減少を見越して、主食用から飼料米や加工米への転換を促す政策がとられてきた。増産路線に転じるなら、米価が下落した場合に備え、生産者の支援策が必要だろう。立憲民主党は水田10アール当たり2万3千円を農家に支給する「食農支払」の創設を唱えている。国民民主党は稲作農家に10アール当たり1万5千円を交付する「食料安全保障基礎支払」を提案している。農家への所得補償は丁寧に制度を考えねばならない。営農の規模や形態によって、収入保険と直接支払いを組み合わせる工夫があってもいい。ただ、資金支援が農地の集約や大規模化の動きを妨げるのは避けたい。農業の担い手は急ピッチで高齢化している。担い手不足が深刻化するのに歯止めをかける対策も必要だ。自民党は土地改良や農地集約、デジタル技術導入のため今後5年間、思い切った予算を確保すると公約した。立民は就農支援の資金を10倍に拡充し、都市部からの移住を後押ししようとしている。国民は若者の新規参入を促すため、直接支払制度に「青年農業者加算」を設けるとしている。兼業農家も地域の実態を踏まえて支援対象にするという。コメの増産や農家の所得を支える財源も課題になる。転作奨励金などを振り替えれば足りるのだろうか。農政改革に伴い、農業予算の組み替えや洗い直しを検討しなければならない。コメ不足の対策として、日本維新の会は「ミニマムアクセス(最低輸入量)」の枠外で輸入するコメの関税を時限的に引き下げると訴えている。政府はコメの輸出拡大を目標にしてきた。だが農産物の海外販路の開拓はそう簡単ではない。良い品質のコメを決められた時期に、契約通り出荷することを輸出先から求められるのは当然だ。生産拡大につなげるには、冷凍おにぎりや酒類など加工品の輸出も考える必要がある。コメ政策は国内の農業の行方を左右する。選挙戦の渦中でも深さと広がりのある議論を求めたい。 *4-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1279H0S5A610C2000000/ (日経新聞 2025年6月26日) 長野・林業大学校、即戦力化へ新カリキュラム スマート林業に対応 長野県林業大学校(長野県木曽町)はドローン操作実習などの新カリキュラムを、2026年度から導入する。林業では人手不足や従事者の高齢化が深刻で、機械化による生産性向上が急務となっている。スマート林業や林業経営を習得する新たなカリキュラムで多様な学びのニーズに対応するとともに、即戦力を求める産業界の需要に応える。新設するのは企業経営と高所作業の2科目で、ほかにスマート林業への対応として林業機械学などの実習を強化する。実習を通じて、ドローン操作では国家資格の二等無人航空機操縦士を取得できるようにする。また、進路に応じて2年次でのコースを選択できるよう再編し、マネジメントコースとスペシャリストコースを設ける。募集人員は20人で、修業年限は2年間。県によると林業大学校は全国に28あり、定員を充足しているのは長野県林業大学校を含む3校という。1979年の開校以来、836人が卒業し、民間企業や森林組合などに就職している。 *4-4-3:https://mainichi.jp/articles/20250112/ddm/005/070/040000c (毎日新聞 2025/1/12) 日本の漁獲量=回答・金将来 <気になる> 日本の漁獲量(ぎょかくりょう)が大幅に減少しています。1984年に1282万トンあった漁業・養殖業(ようしょくぎょう)の生産量は、この40年間でどんどん減り続け、2023年に372万4300トンと統計開始以降、最低を更新しました。このままだと、いずれ国産の魚が食べられなくなるのでしょうか。減少している背景を探り、持続可能な漁業について考えます。 ◆どうして減っているの? ○国際的規制や海の温暖化で なるほドリ なぜ日本の漁獲量は減っているの? 記者 減少の原因は複数あります。まず挙げられるのは、およそ40年前に国際的なルールで定められた「200海里水域制限(かいりすいいきせいげん)」です。日本の漁船は70年代ごろまで、はるか遠くの外国の海で漁業を行う「遠洋(えんよう)漁業」を盛んに行っていました。しかし、82年に「国連海洋法条約(こくれんかいようほうじょうやく)」という国際ルールが採択されて、それぞれの国の岸から200カイリ(約370キロ)内に外国の船が勝手に入って漁をしてはいけないことになり、日本の漁獲量は徐々に減り始めました。 Q 日本は遠洋漁業が主流だったの? A 水産庁によると、日本の漁業は戦後、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場を拡大することで発展しました。ピーク時の遠洋漁業の漁業生産量は、漁船漁業全体の約4割を占めていましたが、90年ごろにその量は約1割まで低下しました。条約の規定によって、打撃を受けたわけです。 Q ほかの原因は何? A 近年、最も深刻な問題となっているのは、気候変動による海水温の上昇や海洋汚染による海洋環境の異変です。特に、温暖化による海水温の上昇は顕著(けんちょ)で、気象庁によると、日本近海の海面水温はこの100年で1・28度高くなりました。特に直近4~5年間の海面水温の上昇は異常なレベルで、日本近海の温暖化は世界の海よりも早く進行しているという分析もあります。 Q 海の温暖化が進むと、なぜ魚がとれなくなるの? A 魚は種(しゅ)によって適した水温の海域に生息します。このため、海水温の変化によって、魚たちは生息域(せいそくいき)を変えているとみられます。例えば、サワラは暖かい海を好み、もともと東シナ海や瀬戸内海に多く生息していました。ですが、海水温の上昇で日本海などでの生息が確認されるようになりました。このほか、サンマは主に北太平洋に生息し、秋になると千島列島(ちしまれっとう)から日本列島の東岸を来遊するのが主流でしたが、現在はより沖合を来遊するようになっています。これらの魚が生息域を変えることで、日本近海でとれていた魚がとれなくなったり、特定の魚の漁獲量が減少したりしています。 Q 漁獲量が増えている魚もあるの? A 日本の全体的な漁獲量は減少していますが、地域によっては、これまでとれなかった魚がとれたりして、漁獲量が増加している魚の種類もあります。特に、北海道のブリの漁獲量は10年ごろから増え、20、21年は全国トップになるほどに増加しました。宮城県のサバやタチウオ、福島県のトラフグなどは10年前と比べて大幅に漁獲量が増加しています。これらの現象は、地域の名産物(めいさんぶつ)であった魚がそうでなくなったり、反対にこれまでとれなかった魚がとれることでその地域の水産物になったりと、我々消費者にも大きな影響を与えています。現場の漁師からは「海の変化に困惑している」との声が聞かれます。 ◆国産が食べられなくなるの? ○生産力維持へ さまざま工夫 Q このまま漁獲量が減り続けたら、国産の魚を食べられなくなる日がくるのかな? A たしかに、海洋環境の異変が進行し続ければ漁獲量の減少は今後も進むことが予想されます。一方、国や自治体、漁業協同組合(ぎょぎょうきょうどうくみあい)などは現状の漁獲量の減少に歯止めをかけようと、魚介類(ぎょかいるい)の多様性や生産力を維持できる「持続可能な漁業」の取り組みを行っています。例えば、青森県五所(ごしょ)川原(がわら)市は、大和(やまと)しじみの操業期間や漁獲量などの制限を持続的に行い、安定的な生産を実現しています。また、北海道のホタテは多くの水産物が生産量を減らしている中、長年、養殖業も合わせて年間約30万~40万トンの生産を維持し続けており、13年に環境への配慮と水産資源の持続可能性を実現した漁業に与えられる国際的なエコラベル認証を取得しています。 Q 私たちにできることはあるの? A 海にやさしい環境への配慮を一人一人が心がけることが大切です。海洋ごみや海岸に不法投棄されたごみなどによる海洋汚染は、魚の生態系にも大きな影響を及ぼすとされています。エコバッグやマイボトルを使用してレジ袋やペットボトルの使用を控えたり、ビーチクリーンや河原の清掃活動(せいそうかつどう)に参加したりするなど海洋環境に貢献できる取り組みは多くあります。小さな取り組みが海の資源保全につながり、魚を食べられる日常を守ることにつながります。 *4-4-4:https://digital.asahi.com/articles/AST7L13S0T7LUTIL018M.html (朝日新聞 2025年7月19日)進むウナギの完全養殖 細長の水槽で生存率アップ、異業種から参入も 稚魚の不漁によって価格が高騰するウナギを安定的に生産するため、「完全養殖」の研究が進んでいる。19日は土用の丑(うし)の日。ウナギの養殖には、ハンコやガス会社など異業種からの参入も相次いでいる。水産庁によると、2024年に国内で流通したウナギは計6万941トンで、外国産も含めほぼ養殖でまかなっている。環境省が13年に絶滅危惧種に指定したニホンウナギは日本から約2千キロ離れたマリアナ海溝周辺で産卵する。孵化(ふか)した赤ちゃんは5~6センチほどの稚魚(シラスウナギ)に成長し、日本周辺で捕獲された後、国内の養殖場で半年~1年半ほど育てられ、出荷される。稚魚は減少傾向で、国を挙げた安定供給のための研究が進んでいる。千葉県成田市の老舗うなぎ屋「駿河屋」の店主で、全国鰻蒲焼(うなぎかばやき)商協会理事の木下塁さん(48)は「新技術で安定供給につながるのはいいこと。一方で、将来的に供給が増えすぎ、価格が大幅下落する不安もある」と話す。水産研究・教育機構は2010年、人工の稚魚を親魚まで育て、その親の卵を孵化させる完全養殖に世界で初めて成功した。政府は25年先の50年までに天然の稚魚を使わない完全養殖への移行を掲げる。実現のため、低コストで卵からシラスウナギを育てる技術が欠かせず、機構は今年7月、農業機械を販売するヤンマーホールディングスなどと稚魚を大量に生産できる新たな水槽を開発したと発表した。従来の1千リットル規模のかまぼこ形の水槽では数百匹の飼育が限度だった。水槽の直径が50センチ以上になると成長速度と生存率が低下することが確認され、直径40センチ、長さ150センチの新たな細型の水槽を作ると、1千匹を飼育できた。機構の担当者は「水槽の直径が大きいと、7ミリほどの赤ちゃんがエサにたどり着けない可能性があった」と指摘する。水槽の素材も従来のアクリル製から、安価な繊維強化プラスチックに変更。エサも希少なサメの卵から、ニワトリの卵や脱脂粉乳など比較的安い材料に切り替え、特許も取得した。2016年に4万円だった稚魚1匹の生産コストは20分の1以下の1800円に下げたが、天然稚魚の取引価格と比べ、依然として3倍ほど高い。水槽の大型化や光熱費の削減、エサやりの自動化などを進め、機構の担当者は「将来的には1千円以下での生産を目指す」と話す。水産庁によると、国内のニホンウナギの養殖事業者は442(昨年11月時点)に上り、異業種からの挑戦も目立っている。 ●ハンコ販売やガス会社も参入 3年前から地下水を利用して陸上養殖を始めた、埼玉県川越市のガス会社「武州ガス」もその一つだ。「武州うなぎ」として、年間3万匹の出荷をめざす。昨年から機構と完全養殖の共同研究を進める。ウナギの赤ちゃんを人工海水を使った専用の水槽で飼育し、稚魚に成長させることができた。今後は1%に満たない成功率のアップが課題で、責任者の大河原宏真さん(52)は「近隣には老舗のウナギ店が多く、地域貢献につなげたい」と話す。デジタル化や少子化で、印章の市場が縮小する中、印章製造販売大手「大谷」(新潟市)は24年からウナギの養殖に参入した。同社はすでにウイスキーの製造に取り組み、蒸留時に発生する温水を活用し、養殖池の温度を27~30度に保ち、ウナギを育てる。「新潟ウイスキーうなぎ」としてネットで販売するほか、地元のホテルでも提供する。堂田尚子社長は「数千万円の初期投資が必要だったが、ウナギは単価が高いので、生産量を増やしつつ、数年で黒字化を目指したい」と話す。 *4-4-5:https://www.jiji.com/jc/article?k=2025021401087&g=soc (時事通信 2025年2月14日) 三陸沖の水温上昇、過去最大 黒潮の異常進路で―東北大 三陸沖の海水温が2023年以降、平年より6度以上高い状態が続いていることが、東北大などの研究チームの解析で分かった。22年末から続く黒潮の異常な北上が原因で、上昇幅は世界の海と比較しても過去最大。水産業への影響や豪雨など異常気象との関連が懸念される。論文は14日までに、日本海洋学会の英文国際誌に掲載された。黒潮は九州の南から太平洋を北上する暖流。本来は房総半島沖で東に向かうが、22年末ごろから三陸沖を北上し、昨年4月には青森県沖に達した。東北大の杉本周作准教授らは、人工衛星や観測航海で得られた水温データを解析。23年4月から昨年8月までの間、三陸沖の海面水温は平年と比べ6度以上高い状態が続いていた。また、塩分濃度の解析から、黒潮の北上でもたらされた南方の暖かい海水が、水温上昇を引き起こしていることも分かった。影響は水深700メートルまで達し、海面からの熱は上空2000メートルの気温も上昇させていた。黒潮の異常進路は、和歌山県沖で南に大きく蛇行する「大蛇行」が17年以降続いていることや、北海道から三陸沖に南下する寒流の親潮が弱まっていることなどが原因の可能性があるという。杉本准教授は「生き物や水産資源、気象にも影響があるはずで、海水温上昇が私たちの暮らしにどういう影響があるかを評価したい」と話した。 *4-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90722200X10C25A8TL5000 (日経新聞 2025.8.18) がんゲノム検査に財政の壁、制度で対象制限、治療到達は「10万人中7000人」 がんの患者ごとに遺伝子を検査し、最適な治療薬を届ける「がんゲノム医療」を受けた件数が3月末で10万件を超えた。しかし実際に治療薬が見つかった件数は7000件程度に過ぎない。検査条件が末期患者に限られるなど制度設計の問題もあるが、背景には高額な検査費用に対する医療費増への懸念が立ちはだかっているようだ。今年5月、国立がん研究センターは2019年から始まったゲノム医療の中核となる「遺伝子パネル検査」に登録した人が10万例を超えたと発表した。河野隆志・がんゲノム情報管理センター長は「一つの大きな通過点で、より多くのデータを集めて治療の向上に使いたい」と成果を強調する。 ●化学療法後の「最後の手段」 もっとも実際に最適な治療薬が見つかり治療までたどり着いたのは7000件程度と非常に少ない。日本では転移が分かった段階でホルモン療法や化学療法などの「標準治療」を受け、その治療が効かなくなる段階でパネル検査を受ける制度となっている。米カリフォルニア大学の加藤秀明准教授は「転移が分かっても制度上すぐにパネル検査ができない。(日本に闘病中の家族がおり)非常にもどかしい」と打ちあける。足元ではせっかく登場した新薬が、パネル検査を受けないと使えないという「矛盾」も生じている。24年に登場したアストラゼネカの乳がん治療薬「カピバセルチブ」、ファイザーの「タラゾパリブ」の2つは、特定の遺伝子に変異がある患者に使えるが、変異を調べるためにはパネル検査が必要となる。パネル検査は吐き気や脱毛などの副作用を伴う化学療法などが終わった後の体力が落ちた患者が対象となるため、投与できないケースも多い。新薬の承認条件を調べるとこうしたパネル検査が必須となる薬剤は計8種類もあり、今後さらに増える可能性もある。ある大学病院の乳腺外科の専門医は「検査と治療薬の使い方に齟齬(そご)がある」と指摘する。当然のように医療学会や患者団体からは制度改正を求める声があがる。6月にはがんの専門医や研究者でつくる日本臨床腫瘍学会などが「パネル検査の制限撤廃が理想的だ」とする声明を出した。東京科学大学の池田貞勝教授は、患者に適切なタイミングで薬が届かないことについて「規制上の障壁による『隠れドラッグロス』とも呼べる状況だ」と指摘する。 ●高額な検査費用 10万人で560億円 しかし厚生労働省は制度改正に慎重だ。検査対象を制限している点について「患者の生存期間の改善につながるというエビデンス(根拠)が現時点で証明されていない」と説明するが、最大の理由には医療費負担の懸念があるようだ。がん患者の多くは治療薬や検査、入院などを含めて支払いが高額となるため高額療養費制度を活用することが多い。自己負担額の上限が決まっており、仮に年収370万~770万円程度で月額医療費が100万円かかった場合、自己負担額上限は8万7000円程度。残りは公費と保険者の負担となる。もともとパネル検査は高額で、1回あたり約56万円かかる。検査を受ける人が年間で1万人増えると単純計算で56億円。日本で新たにがんと診断される人は年100万人いるとされ、うち1割の患者が検査を受けると560億円の新たな医療費が必要となる。政府関係者は「いまは末期の患者だけだからなんとかなっているが、治療薬も合わせると費用は膨大だ。財源を考えると対象を絞るのは仕方がない」と明かす。米国のパネル検査は転移が分かった段階で速やかに受けられる設計となっており、標準治療後などの条件はない。しかし加入する保険のプランによって受けられる治療・検査の範囲が異なるほか保険料も高額だ。低中所得者にとって金銭的なハードルは高い。英国では費用対効果を厳格にチェックする仕組みがあり受診する病院も自由に選ぶことはできない。高額な治療薬の使用が認められないケースもあり「各国でもある意味で制限されている」(国内専門医)という。日本では画期的な新薬や検査技術が比較的早く承認され、自己負担を抑えながら様々な治療を受けられる。パネル検査の対象が広がればより多くの人が早い段階で、最適ながん治療を受けられるようになる。しかし高齢化が進み、医療費が膨らむなか、高額な検査をいつまでも受け入れていくだけの余力はない。限られた医療財源と画期的なゲノム医療。このバランスをどうとるのか、医療の取捨選択を含めて国民的な議論が必要となる。 *4-5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90722300X10C25A8TL5000 (日経新聞 2025.8.18) 国際競争、社会の理解不可欠 2003年に人類がヒトの全ゲノムを解読して以降、ゲノム情報を医療にいかす取り組みが加速している。特に進展が著しい分野の一つががんだ。一気に数百の遺伝子を調べるパネル検査によって、個々の患者のがんの原因遺伝子を調べられるようになった。そこで始まったのがゲノムデータ集積の国際競争だ。米国は15年からゲノムを活用した個別化医療を目的に2億ドル以上の費用を投じている。18歳以上の成人100万人以上の国民データを集めて、がんを中心に遺伝子情報や血液や腸内細菌などのデータの蓄積を進めている。がんだけでなく希少疾患や遺伝子が原因の先天性の難病といった情報を集めており、世界で先行しているとされる。英国では13年から「ゲノミクス・イングランド」という国家プロジェクトを立ち上げ約10万人分の全ゲノムを解析する取り組みをスタート。すでに解析を終え、その知見から新たな診断技術や治療薬の開発につなげている。現在は追加のプロジェクトを立ち上げ、最大500万人の参加者を集めたゲノム解析事業を進めている。その意味で日本はゲノム解析の後発組といえる。ゲノム医療はがん患者の検査に役立つ新たな選択肢であることは確かだ。ただし患者に質の高いゲノム医療を届けるには、限りある医療財源の課題とその解決、そして日本におけるゲノムデータ構築の目的、意義、利活用方針をこれまで以上に社会に理解してもらうよう周知していくことも大切だ。 *4-5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90723950X10C25A8CM0000 (日経新聞 2025.8.18) 消化器外科医「5000人不足」 がん診療「病院集約を」 厚労省検討会、40年推計 2040年にがん手術を担う消化器外科医が約5千人不足する――。こうした推計を盛り込んだ報告書を、厚生労働省のがん診療に関する検討会がまとめた。「必要な医師数が確保できず現在提供できている手術を継続できなくなる恐れがある」と指摘。高齢化と現役世代の減少が進む中、長時間労働などを理由に、若手医師が消化器外科を避けがちなことが背景にありそうだ。報告書は、治療の効率性を向上し、医師が経験を蓄積して高度な医療技術を維持できるよう、都道府県が医療機関の集約化などを検討する必要があるとした。40年時点で新たにがんと診断される患者は推計105万5千人で、25年の102万5千人と比べ約3%増加。85歳以上は40年に25万8千人で、25年の17万8千人から約45%増となる。検討会では手術の需要と供給のバランスを予測した。需要は、初回手術を受ける患者数が25年で推計46万5千人なのに対し、40年は約44万人で約5%減る。一方、供給側の医師はこれを大幅に上回る速さで減少する。特に外科医の約7割を占める消化器外科では、日本消化器外科学会の所属医師(65歳以下)が25年の約1万5200人から、40年に約9200人へ約39%減少。需給を単純計算すると、約5200人の不足が見込まれるとした。報告書は手術の他、放射線療法では高額な装置の維持が困難になる場合があり「効率的な配置を計画的に検討することが必要だ」と言及。薬物療法は、患者が定期的に継続して治療を受けられるよう、どの地域でも提供できる体制の構築を訴えた。必要ながん医療の体制は、都市部かどうかなどによっても異なる。報告書は都道府県での検討に当たり、患者の医療機関へのアクセス確保に留意するよう求めた。 <日本の規制が促すサービス業の質低下> *5-1:https://mainichi.jp/articles/20250701/k00/00m/020/251000c (毎日新聞 2025/7/1) アマゾン、配送拠点を6カ所新設 年内に全国翌日配送も可能に インターネット通販大手のアマゾンジャパンは1日、指定住所までの「ラストワンマイル」の起点となる配送拠点を国内6カ所に新設し、当日配送専用の拠点も全国16カ所で展開すると発表した。2025年内に翌日配送を全国で可能にし、当日配送できる地域も順次拡大させるとしている。新たな配送拠点は、岡山、千葉、福岡、石川、北海道、東京の6都道県に設ける。さらに入荷から保管、梱包(こんぽう)、仕分け、配送までできる拠点も年内に16カ所整備し、午後1時までに注文した商品を当日の夜間帯に届ける当日配送を数万点の商品で可能にするという。アマゾンの物流施設では、自走式ロボットが商品棚を持ち運び、大量の荷物を効率よく発送する「アマゾンロボティクス」と呼ぶ仕組みを採用。ロボットは世界300カ所以上の拠点で計100万台導入されている。今回、より効率的な動きを実現するため、新たな生成AI(人工知能)「ディープフリート」を取り入れることで、従来より効率を10%高めるという。東京都内で1日開かれた記者会見で、開発子会社の技術責任者タイ・ブレイディ氏は生成AIの技術について「サービスにかかるコストを削減し、顧客からの信頼性も向上できる。まだ始まり。(生成AIは)多くのデータから学び、さらに賢くなる」と期待した。日本での事業開始から25年。アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は「最新技術でネットワークを築いてきた。今後もより良い暮らしに貢献できるよう取り組む」と話した。また、名古屋市に8月、新たな物流拠点を稼働させると発表した。三菱地所が設計し、延べ床面積は12万5000平方メートルで、「西日本最大」の拠点となる。温室効果ガスの排出削減にこだわり、壁面にも太陽光発電設備を導入。発電設備容量は5500キロワットで、米国外では最大規模だという。 *5-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1493859 (佐賀新聞 2025/6/27) 「置き配」標準化検討、国交省、物流業者負担軽減、秋にも方向性 国土交通省は26日、宅配ボックスや玄関前に荷物を届ける「置き配」を、宅配便の標準サービスとする検討に入った。業界で人手不足が深刻化する中、再配達を減らし、負担削減につなげるのが目的。物流業界関係者も交えた検討会の初会合を同日開いた。秋までに方向性をまとめる。置き配は、配達時間を気にすることなく、荷物を受け取れるという利点がある一方、盗難や汚損などのトラブルへの懸念から利用をためらう人もいる。トラブル防止など課題の解消が焦点となりそうだ。検討会は有識者や自治体関係者らで構成。会合は非公開で、国交省によると、出席者からは、受取人が不在時、業者が敷地内に立ち入ることを念頭に、セキュリティーやプライバシー面での対策を求める意見が出た。トラブル防止のため宅配ボックス設置をどのように推進するかといった課題を指摘する声もあったという。会合に出席した国交省の幹部は「地域で不可欠な物流サービスを持続可能なものにするため、既成概念にとらわれず、今の時代に合った合理的なやり方を生み出したい」と説明した。物流各社は、国交省が作った基本ルールを参考に、荷主との契約条件などを盛り込んだ「運送約款」を策定している。現行の基本ルールは対面での受け取りを前提としており、置き配は、荷物を受け取る側が選択する追加サービスとなっているケースが多い。国交省は、ルールを改定し、対面での受け取りに加え、置き配も標準と位置付けることを視野に入れている。物流の輸送力低下 低賃金や高齢化などで物流業界の人手不足が深刻化する中、トラック運転手の時間外労働の上限を年960時間とする規制が2024年4月から始まった。労働環境が改善するとの期待の一方、運べる荷物の量が減り、輸送力の衰えがさらに進むとの指摘がある。インターネット通販の浸透で荷物の量が増えていることも背景にある。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90726060Y5A810C2MM8000 (日経新聞 2025.8.18) 自治体に「最高AI責任者」 総務省が指針 補佐の専門人材も 総務省は地方自治体向けに生成AI(人工知能)の利用手引を作成する。行政事務での活用事例や使用上の注意事項をまとめ、年内にも公表する。生成AIの活用推進や管理を担う最高AI責任者(CAIO)を各自治体に置き、専門知識をもってCAIOの判断を助ける補佐官の設置を求める。 補佐官の設置に関しては、人材の確保が地方では難しいとみられることから、複数の自治体が連携して共同で置くことも想定している。設置に法的拘束力はないものの、自治体側の取り組みを促す。自治体では住民情報を扱う部署が多く、AI学習に個人情報などの機密情報を用いることを禁止するとも明示する。行政事務での活用事例については、自治体での先行事例を示す。AIを使って住民からの相談を24時間受け付けるといったサービスを例示する。AI活用によって会議の議事録の要約で5割、企画書の作成で3割の業務時間を減らした自治体もあるという。利用指針のひな型も用意し、地方行政における生成AIの活用を後押しする。小規模な自治体ほどAIに関する知見をもつ人材の確保に難があり、導入に踏み切れないケースは多い。総務省が6月に公表した調査結果では、政令指定都市以外の1721市区町村で生成AIを導入しているのは全体の3割程度にとどまっていた。導入していないと回答した自治体は半数近くに上り、すでに9割ほどが導入済みの政令指定都市と大きな開きがある。利用指針がない自治体も全国で1000を超える。総務省は自治体が安全に生成AIを活用できるようになれば、人口減少下での地方行政の効率を高められるとみている。 <その規制は意味があるのか> *6-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1498093 (佐賀新聞 2025/7/2) 日本郵便処分 規律不在の原因を究明せよ 安全をないがしろにする法令違反がなぜ放置されてきたのか。日本郵便が国土交通省の行政処分を受けた。集配業務を手がける郵便局の約75%に上る2391局で酒気帯びの有無などを確認する法定点呼がルール通り実施されていなかったためだ。飲酒運転も発覚しており、規律不在としか言いようがない。各地の郵便局にあるトラックやバン約2500台が使えなくなった。異例の重い処分だ。経営陣や管理職の指示を現場が軽んじる体質があるのではないか。現場で起きている問題を上層部が把握できていないこともはっきりした。問題の根は深い。当たり前の規律が社内に浸透していないのは明らかだ。社長だった千田哲也氏は「会社全体の構造問題だ」と述べたことがある。限られた地域や部門だけで起きた不祥事ではないのだ。点呼を法令で決まった通り実施するのは当然だ。しかしそれだけで解決するわけではない。本来あるべき規律が確立していなかったのか、どこかで緩んでしまったのか。17万人の従業員を抱える巨大組織をいつまでも迷走させてはならない。郵便局の法定点呼は配達員を対象に、アルコール検知器を使って確認する。これまでの調査では、繁忙時には手順に沿った点呼が実施されなかったり、管理者がいる時だけ実施したりしていた事例が判明している。「適切に実施した」と虚偽の報告をしていたケースもあったという。日本郵便によると、2024年度に飲酒運転は4件あった。ワインをペットボトルに入れ、配達員が業務中に飲んでいたり、飲酒した配達員が車を塀に衝突させる事故が起きたりした。郵政民営化によって郵便、貯金、簡易保険は日本郵政を持ち株会社とする民間企業に生まれ変わった。民間のガバナンス(企業統治)を受け入れ、誠実に働いてきた従業員が大半だろう。だが民営化以前の古い組織や体質が温存されている面も否定できない。法令順守よりも旧来の慣習が優先されることはなかったか。郵便局の現場でなれ合いのような関係が残っていないだろうか。取締役会を軸に企業統治を徹底することが欠かせない。不祥事隠しを許さず、直ちに取締役に報告し是正する。こうした経験を重ねることが社内に緊張感を生む。持ち株会社の日本郵政による監督も必要だ。郵便物が減少し、日本郵便の25年3月期決算は42億円の赤字だった。今回の行政処分によって、ライバルの物流会社に業務委託せざるを得なくなり、収益に打撃が生じるのは避けられない。安全確認をないがしろにしてきたツケは重く、26年3月期決算にも影響が生じる可能性がある。日本郵便は昨年、下請け企業からの値上げ要請を拒否し公正取引委員会から行政指導を受け、ゆうちょ銀行の顧客情報の不正利用も発覚した。日本郵政、日本郵便ともトップが交代し、旧郵政官僚が社長に就いた。法令順守と企業統治を最優先する布陣だろうが、業務効率化と過疎地を含むサービス維持という基本を忘れてはならない。郵政民営化は国民の選択によって実現した。不祥事によって郵便事業や人事が官業に回帰することはあってはならない。新経営陣の覚悟と知恵が問われている。 *6-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250625/k10014844061000.html (NHK 2025年6月25日) 国交省 日本郵便のトラックなど使った運送事業の許可取り消し 日本郵便が配達員の点呼を適切に行っていなかった問題で、国土交通省は25日、トラックなどおよそ2500台の車両を使った運送事業の許可を取り消しました。また3万台余りの軽自動車を使った事業については早急な対策を求める安全確保命令を出しました。日本郵便では、全国の郵便局3188か所のうち75%にあたる2391か所で配達員に対して飲酒の有無などを確認する点呼を適切に行っていなかったことがことし4月、会社の調査で明らかになっています。この問題について国土交通省は監査の結果、虚偽の点呼の記録を作成するなどの違反行為が確認されたとして、25日、日本郵便の千田哲也社長に対し、トラックなどを使った運送事業の許可の取り消しを伝える文書を手渡しました。この処分によって、トラックやバンタイプの車両、およそ2500台が5年間、配送に使用できなくなります。文書を受け取った千田社長は「多大なるご心配、ご不安をおかけしていることを改めておわびします。この処分を厳粛に受け止め、経営陣が先頭にたって再発防止に取り組みます」と述べました。また、国土交通省は、日本郵便が国に届け出て行っている3万台余りの軽自動車を使った事業について、監査の結果が出るまでに時間がかかるとして、早急な安全対策を求める安全確保命令を出しました。国では今後、監査の結果を踏まえて、車両の使用停止などの行政処分を検討する方針です。 ●日本郵便 “代替手段を確保し利用者への影響 最小限に” 国土交通省が、トラックなどおよそ2500台の車両を使う運送事業の許可を取り消したことを受けて、日本郵便は、代替手段を確保して利用者への影響を最小限に抑えようとしています。 日本郵便は、 ▽およそ2500台のトラックやバンタイプの車両で「ゆうパック」の集荷や郵便局の間の輸送を行っているほか ▽およそ3万2000台の軽自動車や、 ▽およそ8万3000台のバイクで郵便物の配送を行っています。 このうち、今回、許可が取り消されたのは、およそ2500台のトラックなどを使った事業です。 会社では、当面、 ▽自社の軽自動車を活用するほか ▽大手宅配会社などに業務を委託する といった代替手段を確保して、利用者への影響を最小限に抑えようとしています。日本郵便が使用できなくなる、およそ2500台の車両と同じタイプのものは、大手宅配会社2社も合わせて6万台使用していることから、国土交通省は、業務委託などを進めることで影響は抑えられるとみています。一方、国土交通省は、郵便物の配送を担う、およそ3万2000台の軽自動車を使う事業についても、点呼が適切に行われていなかった疑いがあるとして、監査を進めています。この事業について国土交通省は一定の期間、車両の使用を停止させるなどの行政処分を検討する方針です。処分の内容によっては、郵便物の配達などに支障が出るおそれもあることから、日本郵便は、利用者への影響が最小限となるよう対応を検討することにしています。国土交通省と総務省は、日本郵便に対して、コンプライアンスの強化や再発防止の徹底に加え、物流に影響が出ないよう十分な対策をとるよう求めています。 ●総務省 日本郵便に最も重い行政処分「監督上の命令」 総務省は25日、日本郵便が全国の郵便局の配達員に対して法令で定める飲酒の有無などを確認する点呼を適切に行っていなかったとして、会社に対して法律に基づく行政処分「監督上の命令」を出しました。これは、日本郵便に対する処分では最も重いもので、総務省は25日、日本郵便の千田哲也社長に対し、処分を伝える文書を手渡しました。命令では、国土交通省の行政処分でトラックなどの車両が使用できなくなる中でも郵便サービスを維持することや、再発防止策の着実な実施や見直しなどを求めています。文書を受け取った千田社長は「心よりおわび申し上げる。処分を厳粛に受け止め再発防止策に取り組みたい。ユニバーサルサービスを担うものとして、お客様にご迷惑をおかけしないようにしたい」と述べました。 ●日本郵政の株主総会 増田社長が一連の不祥事を陳謝 日本郵政は、郵便局の配達員に対して法令で定める点呼を適切に行っていなかった問題などグループで不祥事が相次ぐ中、株主総会を開きました。この中で増田寛也社長は極めて深刻な事態だとして、一連の不祥事を陳謝しました。日本郵政では、郵便局の配達員に飲酒の有無などを確認する点呼を適切に行っていなかったことや、日本郵便が金融商品の勧誘のため、ゆうちょ銀行の顧客情報を不正にリスト化していたことなど、グループ内での不祥事が相次いで明らかになりました。こうした中、会社は都内で株主総会を開き、冒頭、増田寛也社長は、一連の不祥事について、「極めて深刻な事態であり、この場をお借りして多大なご迷惑と心配をおかけしたことを深くおわび申し上げる」と陳謝しました。株主からは、法令順守の意識が不足しているので、再発防止に向けた組織づくりを徹底してほしいとか、現場の管理職が指導を徹底する体制が不十分だといった意見が相次ぎました。会社側は総会で、不適切な点呼の問題により25日、国土交通省からトラックなどおよそ2500台を使った運送事業許可の取り消しの処分を受ける見通しとなっていることを明らかにしました。処分による事業への影響について会社の担当者は、他社への配送の委託に加え、処分の対象となっていない軽トラックを効率的に運用し、配送業務に支障が出ないよう対応すると説明しました。このあと、増田氏の後任の社長に内定している根岸一行常務ら13人を取締役に選任する議案が可決されました。郵便・物流事業の赤字が続き、処分による業績へのさらなる影響も懸念される中、グループ全体のガバナンスや経営の立て直しが今後の課題となります。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/AST6T2SJFT6TULFA01JM.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2025年6月25日) 郵便・ゆうパックに影響は 日本郵便、一部運送を佐川などに委託開始 日本郵便で集配時の点呼がまともにされていなかった問題は、25日に国土交通省の処分を受け、大口顧客の集荷などに使うトラックが使えなくなる事態に発展した。物流や業績への影響は、どこにどう出てくるのか。25日に都内であった日本郵政の株主総会は、株主の質問が点呼問題に集中した。この日で退任する増田寛也社長は国交省の処分について「極めて深刻な事態」だとし、「再発防止策に取り組み、オペレーション確保に万全を期す」と述べた。業績への影響は「精査中だ」とした。それでも株主の怒りは収まらない。ある株主は「(民営化前の)治外法権の意識が残り、法律を守る意識がないのではないか」と批判。会社側が公表した原因分析や再発防止策を疑問視し、「管理職の能力の問題ではないか」「危機管理能力が経営陣も現場もないのでは」との指摘も出た。 ●ゆうパック値上げ「今の時点では…」 日本郵便によると、今回の処分を見据え、約2500台ある1トン以上のトラックなどは24日までに使用を停止した。これらはおもに、大口顧客からの集荷や近距離の集配局間の運送に使われ、月に約12万便が行き来していた。そのうち4割強は自社の軽四輪で運び、6割弱は社外に委託する方針で、切り替えは19日から順次進めてきた。佐川急便や西濃運輸など多くの同業者に協力を仰いでおり、一部では代替の集荷や運送がすでに始まっている。日本郵便は「郵便やゆうパックのサービスは維持する」と強調している。個人が差し出す郵便やゆうパックの多くは軽ワゴンや原付きバイクで運ばれており、直接的な影響はなさそうだ。ただ、点呼を省いたり偽ったりする不正は、約3万2千台を保有する軽四輪での集配にも同様に及んでいる。日本郵便は今後、軽四輪にも一定の処分が出ると身構えており、委託範囲の拡大を迫られる可能性がある。外部委託の拡大や再発防止の対策でコストが膨らむ見込みで、それが郵便・物流事業の収益を押し下げるのは必至。千田哲也社長は17日の会見で「ゆうパックの値上げは今の時点で一切考えていない」と言い切ったが、大規模な不祥事が業績に影響を及ぼすのは時間の問題だ。 <教育について> *7-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90722000X10C25A8CK8000 (日経新聞 2025.8.18) 小中「学力低下」の背景 知性と学びの危機に目を 小中学生の「学力低下」が確認された。要因は未解明だが子どもの生活や保護者の意識の変化とも関係がありそうだ。原因究明と指導改善を急ぎつつ、社会全体で対応を考える必要があろう。文部科学省は全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の中で、3年に1回程度「経年変化分析調査」を行っている(2020年度は新型コロナウイルス禍で中止)。小6・中3の全員が対象の「本体調査」と違い、教科ごとに約300校を抽出して調べ、測定対象にした学力の中長期的な変動をつかめる。その24年度調査の結果が出た。小6の国語と算数、中3の国語・数学・英語のうち数学を除く4教科で、基準年度の16年度(英語は21年度)より平均スコアが下がった。子ども全体の学力低下がこれほど顕著にデータに表れたのは、ほぼ20年ぶりだろう。2000年代前半、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)などで日本の成績や国際順位が落ち「ゆとり教育」の見直し路線が不動になった。その後、学力水準は回復。20年代にはコロナ禍で世界の学校教育は大きな制約を受けたが、日本は現場の努力もあって学力への影響が非常に少ないと見られていた。それが今回、覆った。教育界には少なからぬ衝撃が走った。1日、文部科学省が開いた全国学力テストの専門家会議で、塩見みづ枝総合教育政策局長は「結果を重く受け止め、真摯に向き合って改善に取り組む」と述べた。委員の校長や教育学者からも「勉強時間(の減少)はショック」「どうしてこうなった、と言いたくなる状況だ」など厳しい発言が続いた。基礎学力の揺らぎも見られる。25年度本体調査の小6算数で「10%増のハンドソープは増量前の何倍か」という問いに「1.1倍」と正答できた児童は41.3%だった。スコアの低下以外にも気がかりな傾向が浮かんだ。保護者への調査によると、平日に1時間以上勉強する児童生徒の割合は小6で37.1%、中3で58.9%で、それぞれ前回21年度の調査から7.8ポイント、9.2ポイント下がった。平日に2時間以上テレビゲームをする子どもは小6で37.1%、中3で41.5%。いずれも前回より10ポイント強増えた。中3の53.3%が平日、2時間以上スマートフォンや携帯電話を使う。前回は41.4%だった。家庭の経済力による格差が広がった。自宅にある本の数を社会経済的背景(SES)の代替指標として層分けして見ると、数学など複数教科で低SES層の子どもほどスコアが大きく低下している。保護者はというと「学校生活が楽しければ、良い成績をとることにこだわらない」という姿勢がコロナ期を境に強まった。小6の保護者の59.7%、中3で52.4%が「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」と答えている。それぞれ17年度の調査を8.4ポイント、7.6ポイント上回った。成績にこだわらないという価値観は一概に悪いとはいえない。情操や道徳心など成長過程で大切にすべき資質はたくさんあるし、学校が誰もが楽しく通える包摂的な場であることも重要だ。低下した「学力」自体、非認知能力を含む幅広い学力の一部にすぎない。すると今回の結果は、どうとらえればよいのか。興味深いのは「やはり」と感じた向きもあることだ。専門家会議の座長を務める耳塚寛明・お茶の水女子大名誉教授はその一人。耳塚氏はPISAの成績のOECD平均が12年前後で頭打ちになり下降していることに着目する。この間、スマホ・ゲームを含むデジタル環境の生活への浸透が世界的に進んだ。「成績低下との因果関係は断定できないが、デジタル環境に受け身で接してばかりいると言語を操作する能力が劣化しやすい。日本だけ、その影響を免れるとは考えられない」と耳塚氏は言う。そのうえで「デジタル環境に能動的に触れ、広い意味での学習に活用することが非常に重要になるのではないか」と問題提起する。元小学校長で全国連合小学校長会長を務めた喜名朝博・国士舘大教授も今回の結果は「実感に合う」という。理由は3点。まず、学校現場で徹底して教えることが減った。教えることが多い一方、教員に時間的余裕がない。次に「主体的・対話的で深い学び」といった学び方が重視されすぎ、定着の確認ができていない。最後に「学ぶ意欲の減退、勉強しなくても進学できるという意識の広がり」を挙げる。教員の問題も指摘する。採用倍率の低下で小学校高学年を教えるには学力に不安のある教員が増え、理想的な授業ができる教員は減った。本体調査では「授業がよく分かる」と答える子どもの割合が各教科で下がっている。少子化で大学も高校も難関はごく一部となり、受験プレッシャーの緩和は極限に迫りつつある。なのに学校教育は入試以外の「学ぶ意味や意義を実感させてこなかった」(喜名氏)。識者2人の話は学力低下の背後にある課題の大きさを感じさせる。今回の結果が重い理由はそれだ。スマホ・ゲームへの接し方をはじめ大人のあり方も考えざるをえない。日本は成人の学力も高いがリスキリングは低調だ。子どもの自己調整力の育成と大人の学び直しの活性化は地続きであり、生涯学び続ける社会の実現に本気で取り組む時ではないか。教育制度との関連では、下の学年の内容を学び直す機会をよりしっかりと保障する必要があろう。今の学習指導要領では、学習の積み上げが特に大事な中学校数学でも「学び直しの機会の設定に配慮する」と書かれている程度だ。学力低下の性急な犯人捜しは避けたい。政策の失敗はあっても問題の一部だ。背景にある知性と学びの危機にこそ目を向ける必要がある。耳塚氏は「危機の要因は多岐にわたる。腰を据えて取り組むべきだ」と訴える。人工知能(AI)を含むデジタル技術の隆盛の中で人の知性の水準と質をいかに保つか。明確な答えはまだ、どこにもない。それへの挑戦の一環と捉える姿勢を持ちたい。 *7-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89830650U5A700C2CM0000 (日経新聞 2025.7.5) 成績「主体性」の比重小さく 小中高で評価見直し、文科省案、客観的な判断困難指摘で 文部科学省は4日、学習指導要領の改訂を議論する中央教育審議会の特別部会で、小中高校の成績の基となる学習評価を見直す案を示した。「主体性」の評価の比重を小さくする。内申点にも影響するが、客観的な判断が難しいとの指摘があった。2030年度以降に実施する見通し。「主体性の表れ方は子どもによって違うのではないか。先生はきちんと見てくれているのかなと思っていた」。東京都目黒区の小学校に娘を通わせる女性(39)は話す。主体的な態度は20年度以降、小中高校で順次、評価の観点に加えられた。教科ごとに、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点についてA~Cで評価。この観点別評価に基づき、各教科の「評定」を小学校は3段階、中学校は5段階でつけている。評定から「内申点」が算出され、高校入試や大学入試などで活用される。主体的な態度を評価の観点に加えた背景には、社会が激しく変化するなかで、自ら課題を見つけ、学んだ内容を生かして解決を目指す人材を育成したいとの狙いがあった。こども家庭庁の23年度調査によると、「うまくいくかわからないことに取り組める」と答えた日本の若者の割合は米国やフランス、ドイツなどと比べて半分以下だ。一方、導入当初から学校現場では「何を根拠に評価したらよいのか分からない」という声が上がっていた。「知識・技能」はペーパーテストの点数、「思考・判断・表現」は作文や発表などに基づいて判断しやすいが、主体性は定量的にはかることが難しい。入試に関係することも踏まえて、納得性を高めようと挙手やノート提出の回数などを基に評定をつける例も多いが、「勤勉さの評価にとどまっている」などとする批判が出ていた。不登校の子どもについては、実際の学習態度を見る機会が少なく、主体性の評価がより難しいという課題もあった。文科省が示した見直し案によると、成績の基となる評価観点を「知識・技能」「思考・判断・表現」の2つに再編する。そのうえで、主体性は総合所見欄などに記述したり、特に強い主体性をみせた児童生徒に「○」をつけたりする。評定をつける際に「○」の有無を勘案するかは、今後検討されるものの、内申点への主体性の影響は現状より減ることになるという。文科省は「過度な評価材料集めを抑制し、段階別に評価することが難しいという特性を踏まえた評価方法にしたい」と説明する。通知表には児童生徒が自分の学習状況を知り、取り組み方を改善したり意欲を向上させたりする狙いがある。評価に納得感がなければ、こうした効果を期待しにくくなる。早稲田大学の田中博之教授(教育工学)は「教員にとって『主体的に学習に取り組む態度』の評価は難しく、お手上げ状態だった。評価のあり方を改善することは良いことだ」と話す。そのうえで「主体性の評価が高校入試などで活用される内申点に関わるため、生徒は過度に品行方正な振る舞いを求められ、管理教育になっている」と指摘。「通知表の総合所見欄などで主体性が肯定的に評価されることは、子どもの長所を伸ばし、意欲向上につながるだろう」と評価した。 *7-2-1:https://digital.asahi.com/articles/AST8R3W91T8RUTNB00KM.html (朝日新聞 2025年8月24日) 県教委と保護者、県民が意見交換 埼玉県立高校共学化めぐり 埼玉県立の男女別学高校の共学化について、県教育委員会と中高生の保護者や県民との意見交換会が23日、さいたま市浦和区の県県民健康センターで開かれ、参加者からは賛否両論の意見が噴出した。午前に保護者の部、午後に県民の部があり、県教委の事務局を担当する依田英樹・高校改革統括監が「主体的に共学化を推進する」と決定した県教委の考え方を説明した。保護者の部には、別学高校に子どもが通う父母を中心に18人が参加した。共学化に反対する父母からは「女子の目がないので力をフルに発揮できる。人間力が育つ」「共学の中学校で性被害を受けた人もいる」「男女の特性に合わせた教育が必要」といった意見が出た。「男女共同参画社会と共学化の相関関係があるのか」などの疑問も呈され、根拠やデータを示すように求めた父親もいた。一方、共学化に賛成する父母からは「男子校の文化祭の在り方に違和感をもった」「全国的に知名度のある浦和高校に女子が行けないというガラスの天井をなくしてもらいたい」といった意見があり、「共学化しても結果的に男子校や女子校になることがある。共学化してもいいのでは」という提案もあった。「異性が苦手な人には別学が必要」という考え方から、「トップ校だけでなく、幅広い学力の層に別学校が必要」という声も複数あった。県民の部には、別学校の卒業生や県立高校の教員経験者など17人が参加した。別学校の卒業生からは「埼玉には名門校のピラミッド構造がある。女子が男子校に入学したら男子の足を引っ張る」「女性しかいない中で、女性のリーダーシップが育つ」などの反対意見が目立つ中、男子校を卒業した男性から「女子が入ってきても全く問題ない。県立高校は変化し続けなければいけない」という賛成意見もあった。依田統括監は「県教委は、共学化で男女共同参画を推進していくという考え方ではない」としたうえで、「男女で教育活動の差を設けることは考えていない。一人ひとりの希望と能力に応じた学校の選択肢を用意したい」とし、「少子化で学校を再編する際には、別学校の共学化も検討の対象になる」などと説明した。 *7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89818130U5A700C2TCR000 (日経新聞 2025.7.5) リーダー育む女子大学に 国際基督教大学教養学部教授 西村幹子氏(2005年にコロンビア大博士(教育学)、専門は教育社会学。神戸大准教授などを経て18年から現職) 日本の女子大学は存亡の機にある。2000~25年に私立の女子大は25校が共学化され、2校は廃止、さらに2校が募集を停止している。マンチェスター大のキャロライン・モーザー名誉教授は、女子大について「実践的ジェンダー・ニーズと戦略的ジェンダー・ニーズがある」と語る。実践的ジェンダー・ニーズは、ジェンダー構造の不平等が前提にある。例えば家庭での役割を支援するために家庭科を教えることなどだ。一方、戦略的ジェンダー・ニーズはジェンダー平等を促すことで満たされ、女性のリーダーシップと自己変革を重視する。アジアでは多くの国に強いジェンダー規範が存在するため、女子大が依然として盛んだ。その中でも戦略的ジェンダー・ニーズに対応している女子大も存在する。バングラデシュのチッタゴンにあるアジア女子大学(AUW)はその好例だ。リーダーシップ開発と変革の力を重視し、アジアの貧困層などに全額奨学金で高等教育を受ける機会を提供している。日本の女子大は20世紀初め、国策の下で「良妻賢母」という実践的ジェンダー・ニーズを満たすために設立された。この使命は多くの女性が共学の大学に進学するようになった90年代以降、戦略的ジェンダー・ニーズに移行した。多くの大学は家政など伝統的な学科を廃止する代わりに、グローバルコミュニケーションなどキャリア志向のプログラムを新設した。しかし女子大が女性のリーダーシップやジェンダー平等に影響を与えたとする研究は乏しい。日本は国際的なジェンダー平等の指標で一貫して低い順位に甘んじている。女性の経済・政治参加が進んでいないためだ。日本の女性が高等教育には比較的容易にアクセスしているにもかかわらず、政治や経済への参加で後れをとっているのはなぜなのか。この難問に答えるため、私は女子大の経営構造を分析し、戦略的ジェンダー・ニーズへの取り組み具合を調べた。東京にある20の私立女子大について、意思決定プロセスにおける女性や教職員(男女双方)の割合を比較した。大学の理事会における女性の参加率は9%から71%まで幅がある。女性理事の割合が50%を超えるのは津田塾、白百合、聖心女子大の3校だけだった。津田塾や日本女子大は理事会の半数を現職の教職員が占めているが、他の大学では3分の1未満だった。では日本の女子大の理事会を誰が支配しているのか。多くの私立女子大では、国公立や私立の一流大学の男性教授がキャリアの終盤に移籍して教授や理事のポストを占めるのが一般的だ。同様に日本企業の取締役や別の大学で運営経験を持つ男性が、退職後に女子大の理事に就任するケースも多い。つまり日本の私立女子大は女性や現職の教職員が意思決定に権限を持たないという特徴がある。多くの私立女子大の理事会は単にエリート男性の第二のキャリアの目的地になっているようにみえる。日本の女性はキャリアにおいて引き続き苦闘しており、男性に比べて家事労働に多くの時間を費やしている。女子大は規模が比較的小さく、学生が教職員と交流する機会が多いため、硬直的なジェンダーギャップの克服に一役買うことができる。日本の女性の自由と社会貢献の拡大は、女子大が女性を意思決定プロセスの中核にしない限りは実現が困難だろう。 *7-2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250705&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO89818130U5A700C2TCR000&ng=DGKKZO89818200U5A700C2TCR000&ue=DTCR000 (日経新聞 2025.7.5) 「平等」への寄与、検証を 今年に入ってからも京都ノートルダム女子大(京都市)が学生募集の停止を、武庫川女子大(兵庫県西宮市)が共学化の方針を発表している。女子大の減少は続きそうだが今も大学全体の1割弱を占めており、その存在意義や役割を改めて考える必要がある。日本は先進国の中でも政治や経済分野で女性リーダーが圧倒的に少ない。お茶の水女子大の室伏きみ子前学長によれば「性別役割意識や『わきまえる』といった無意識の偏見から離れて過ごせる女子大は本来、女性がリーダーシップを学ぶ上で優れた場所」だ。ではどれだけのリーダーを輩出し、ジェンダー平等に寄与したのか。アジアを含めた海外との比較検証と、日本社会に横たわる根深い課題を示すことこそ女子大の役割ではないだろうか。 *7-3: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90688080V10C25A8KE8000 (日経新聞 2025.8.18) アフリカからの留学生支援を 立命館アジア太平洋大学副学長 岡村善文 14億人の人口を擁し、人口、経済ともにさらに成長するアフリカ市場に、どのように日本が食い込んでいくか。8月20日から横浜市で開催されるアフリカ開発会議(TICAD)の重要なテーマだ。立命館アジア太平洋大学では学生の半数が留学生だ。アジア各国で多くの卒業生が日本とのビジネス交流に力を発揮している。現地に日本語を話し、日本の流儀が分かる人材がいることは、日本企業にとって大いに助けになる。アフリカでも同様に、留学生を通じた人材育成を図ることがアフリカ市場進出の足がかりになるだろう。大学院生レベルでは、2013年のTICADで「ABEイニシアチブ(アフリカビジネス教育)」を始動し、すでに10年以上の実績がある。四年制大学の学部生レベルでも同様に、アフリカ留学生を増やすことが重要である。学部生は院生と比べてはるかに良く日本語を学び、日本の社会文化を吸収するからだ。アフリカの留学生はエリート家庭出身も多く、卒業する学生は本国に戻り、ただちに現地エリートとして活躍するため、親日層の獲得効果が高い。しかし、社会経験や生活力のある院生と違い、学部レベルの留学生には特有の問題がある。学費や渡航費は工面しても、学生の親にとっては、子供の生活、病気や事故の時の突発的な対応などが心配になる。アフリカは遠く、日本国内に同郷人コミュニティーがほとんどないため、学生の不安は一層大きい。この不安を低減するため、アフリカからの学生に対し、生活面で困った時など緊急に必要な支出を融資する「アフリカ留学生支援基金」を設けてはどうか。緊急の資金貸与だけでなく、在京大使館からの支援や、卒業後の就職で便宜が得られるようなメニューもそろえれば、留学生たちが自主的に登録することが期待できよう。日本の大学を卒業した留学生のデータベースになり、日本企業の高度人材採用に活用できる。これまでアフリカの学生の主たる留学先は欧米の大学だった。だが、米トランプ政権の政策や欧州での移民排斥の高まりの中、アフリカの学生は欧米以外に視野を広げている。安全にも定評がある日本はアフリカから留学生を導き入れる良いチャンスを迎えている。
| 経済・雇用::2023.3~ | 01:38 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2025,04,23, Wednesday
(1)トランプ関税と日本の米について
![]() 2025.2.14日経新聞 2025.4.23沖縄タイムス 2025.4.15日本農業新聞 (図の説明:左図は、米国が訴える日本の貿易障壁だが、自動車や牛肉・食品添加物の安全基準についてはすべてが正しいわけではないため、安全を犠牲にすべきではない。しかし、国内の生産者を保護するための米や豚肉の関税については、日本の消費者が高い物を買わされているということであるため、国際競争力をつけて速やかに関税障壁をなくすようにして貰いたい。中央の図は、私も高すぎると思う米の関税障壁で、右図は、それに対する財務省の提言である) *1-1は、①米国は、「輸出を妨げている」と日本の米輸入制度を批判 ②財務省は国内需給の調整弁として輸入米のMA米のうち主食用を年間最大10万トン増やすべきと提言 ③MA米は1993年のガット・ウルグアイラウンド合意に基づいて導入され、日本は米国等から年間77万tを義務的に輸入して最大10万tを主食用にし、残りを(需給に影響を与えないため)飼料用・加工用等にしている ④政府は1993年閣議了解の農業施策基本方針で「売買同時契約(SBS)米を含むMA米で転作の強化は行わない」と定め、MA米が国産米の需給に影響を与えないよう運用してきた ⑤MA米の主食用米としての利用を増やせば、この閣議了解との整合性が問われる ⑥財務省は「飼料用米も一律に高単価で支援する必要があるとは言えない」「毎年度約2000億円もの巨額の財政負担が生じている」として支援方法を見直すよう迫った ⑦米の価格上昇や不足感を背景に輸入米に頼ることは、食料安全保障強化に逆行 ⑧米国は日本の輸入米制度を「非関税障壁」として批判してきた としている。 このうち①⑧については、上の左図と中央の図のとおり、日本はTPPに入っていない米国からの米の輸入に関し、③④のように、1993年のガット・ウルグアイラウンド合意に基づいて導入された無関税のミニマムアクセス米(以下、“MA米”)年間最大77万t(うち主食用10万t)を義務的に輸入し、残りは主食用米の価格を下げないために、1993年の閣議了解の農業施策基本方針で「売買同時契約(SBS)米を含むMA米で転作の強化は行わない」と定めて飼料用・加工用に回している。また、自由に輸入できる米には、341円/kg(約200%)の関税をかけて米作農家を保護してきたため、確かに複雑で高関税で輸入障壁の多い制度になっている。 これについて、⑤は「MA米の主食用米としての利用を増やせば1993年の閣議了解との整合性が問われる」とするが、1993年の閣議了解の源は私で経緯を知っているため記載すると、太平洋戦争中の食糧不足で1942年(昭和17年)に定められた食糧管理法(以下“食管法”)は、とっくに米不足が解消していた1993年(平成5年)まで50年間も漫然と続けられていたのである。 そのため、2年かかって食管法を廃止し食糧法を1995年(平成7年11月)から施行したのだが、計画流通制度とその関連制度は残されたため、米の流通自由化をより本格化させる目的で、2004年(平成16年)4月から改正食糧法が施行され、米価維持目的で1970年(昭和45年)から実施されてきた米の減反政策は2018年(平成30年)にやっと廃止された。しかし、この間に、日本の食料自給率や耕地面積は減少し続け、農業従事者は新規参入が少ないため高齢化したのである(https://smartagri-jp.com/agriculture/247 、https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/s_sankou/pdf/s1.pd 参照)。 つまり、必要に迫られて作られた制度を、その必要が失せて時代に合わなくなっても何十年も続けることは、現状維持どころかマイナスにしかならないのだ。また、現在は、食糧法が施行されて30年経過しているが、最初から言っていたのに激変緩和のための仕組みを次第になくしていかず、農業は世界で勝てるようにならなかったのだが、それをやらなければならなかったのが(決して短くはない)この30年だったのだ。 そのため、世界と比較して値段の差ほど価値の差がない農産物は、あらゆる方法を使って改善し、何とか生産を維持しなければならないと思う。従って、⑥の財務省と同様、「水田があるから米を作りたいので、飼料用米にも高単価で支援すべき」というのはあまりに安易すぎ、生産年齢人口にあたる人に毎年数千億円もの巨額な補助金を支給し続ければ、本当に働けない子供の福祉や教育、高齢者への福祉ができなくなると、私も考えている。 そのため、②については、誰も合理的とは思っていないMA米のうち主食用を増やして、残りは飼料用・加工用に回すのではなく、産地・銘柄・価格を明確に表示して消費者に選ばせればよいだろう。私自身、カリフォルニア産・オーストラリア産・カナダ産のサガビヨリ・コシヒカリ・ユメピリカがあっても良いと思うし、値段との関係でそちらを選ぶ人も多いと思われる。そして、この時、⑦の「米の価格上昇や不足感を背景に輸入米に頼ることは、食料安全保障強化に逆行する」というのは、食料安全保障上、必要な農産物は米だけではない(これは常識)し、そのためにこそ、あらゆる方法で世界競争に勝てる農産物を生産しなければならないのだ。 また、*1-2は、⑨農水省は2月3~9日にスーパーで販売された米5kgの平均価格が前年同期と比べて89.7%高い3,829円だったと発表 ⑩1月下旬に政府が備蓄米放出の新方針を表明したが高騰は続いた ⑪農水省は値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいると見ている としている。 このうち⑨については、2025年4月24日現在、アマゾンで見た米5kgの値段は、ななつぼし4,910円、あきたこまち6,090円、はえぬき5,800円、ブレンド米3,900円であり、ブレンドして銘柄不明になった米以外は、143~242%の値上がりである。これは、子供が多くて食べる分量の多い家庭ほど困ったことだろう。 なお、⑩⑪の「備蓄米放出表明後も高騰が続いた」「値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいる」という点については、去年の米不足で困った実需者(食品会社や家庭)が少しづつ在庫を増やしているのであり、その理由は「価格を抑える気のない口先だけの備蓄米放出など当てにできない」と考えているからだ。 さらに、*1-3・*1-4は、⑫トランプ米政権の関税措置を巡る日米交渉で、米や検疫体制が農産品を巡る攻防の焦点になってきた ⑬米国は、米の市場開放やジャガイモなどの検疫の緩和を要求 ⑭石破茂首相は4月21日の参院予算委員会で、「自動車を守るために農業を犠牲にする考えは全く持っていない」と述べた ⑮米国は自動車や鉄鋼・アルミに25%の追加関税を賦課。それ以外の輸入品には一律10%追加し、国ごとの相互関税の上乗せ分は7月上旬まで停止中 ⑯米国の要求は、3月に公表した「外国貿易障壁報告書」に沿ったもの ⑰検疫体制ではジャガイモ・牛肉等について問題視 ⑱首相は4月20日のNHK番組で「食の安全を譲ることはない」と強調 ⑲第1次トランプ政権時の日米貿易協定で日本は牛肉等の関税をTPP並みに下げ、自動車の追加関税を回避 ⑳江藤農相は「調整弁は備蓄米を活用している」と述べ、輸入米拡大による需給調整に否定的 ㉑立民が生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案について農水省から聞き取りをし、米はじめ農産物価格が上昇して家計を直撃する中で消費者の理解を得ながら価格形成を進めるハードルの高さを指摘する意見が相次いだ ㉒同法案は売り手と買い手に価格交渉に誠実に臨むよう努力義務を課し、対応が不適切な事業者に国が指導・勧告を行う ㉓米・野菜等を対象に価格交渉の材料になる「コスト指標」を作成する方針 としている。 このうち⑫の米の流通については、無関税のMA米を政府が購入して10万tしか主食に回さず、残りの67万tは主食用米の価格を下げないため飼料用・加工用に回すというもったいないことをしている。そして、民間輸入米には200%もの関税をかけ、ここには日本の消費者のための視点が全くない。そのため、米国に言われなくても米の関税率は一律に単純化して低くすべきであり、食料安全保障には米だけが必要なのではなく、日本の農業を強くすることが必要なのだ。 また、⑫⑰の検疫体制については、牛肉の例を挙げると、2001年に国内で1頭目のBSE感染牛が確認され、同年に肉骨粉の飼料利用完全禁止、解体される牛の全頭検査、特定部位(全月齢の頭部)・脊髄・扁桃及び回腸遠位部)の除去・焼却が義務づけられたが、米国からやかましく言われて、2005年に検査対象牛の月齢を21か月以上と緩和し、2013年には48か月超とさらに緩和したのである(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bse/domesticmeasures.html 参照)。 そして、そのBSE検査の規制緩和は輸入牛だけではなく国産牛にまで適用したため、国産牛の安全性に関する付加価値も米国からの輸入牛並になったのだ。そのため、私は、牛肉は米国産でも日本産でもなく、原発を使わず農産品の安全性を追求しているオーストラリア産に決め、オーストラリア産がなかったら買わないことにしているのだが、オーストラリア産は脂肪が少なく蛋白質の部分が多いため、価格だけではなく栄養的にも良い。 さらに、⑬の米の市場開放やジャガイモの検疫緩和については、「遠い外国に輸出するものだから」と安全性を犠牲にするのでなければ良いが、害虫もつかないように遺伝子組み替えした大豆などは、仮に輸入したとしても消費者の区別に資するよう、販売時に明確に表示してもらいたい。そのため、⑭⑱の石破首相の「自動車を守るために、農業を犠牲にする考えはない」という発言も消費者の視点を欠いているし、「食の安全を譲ることはない」は、どう安全を護るのかについて具体性がないため、不安が残るわけである。 なお、⑮⑯は、米国人の視点ですることなので、日本人の視点で止めることは困難だが、⑲のように、第1次トランプ政権時の日米貿易協定で日本は牛肉等の関税はTPP並みに下げているそうだ。また、⑳の江藤農相の「調整弁は備蓄米を活用している」とについては、日本政府の視点は、消費者である国民を豊かにする大きな戦略がなく、その場限りのつじつま合わせが多すぎるため、調整を政府が行なうこと自体に無理があると思う。 また、㉑㉒の立民の「生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案」については、さまざまな工夫をして生産コストを下げることもビジネスの重要な要素であるため、消費者が理解しないのではなく、そういうことを言う政治家自身がビジネスを理解しておらず、消費者の視点にも立っていないのだと思う。そのため、国が変な法律を作って事業者等に不適切な指導・勧告を行うと、日本の国際競争力はさらに下がり、経済成長も阻害されるのである。 さらに、輸入豚肉にも関税がかかっており、国内の養豚農家を保護するために、日本の消費者は海外よりも高い価格で豚肉を購入することになっている(=日本の消費者を貧しくしている)が、これも生産性の向上等で速やかに国際価格に追いつくようにすべきだ(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/shokuniku/lin/l_buta_sagaku/index.html、https://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/attach/pdf/index-2.pdf 参照)。 *1-5は、「牛乳の消費拡大が必要」として、㉔牛乳は差別化が難しく、食品全体の価格が上がる中、業界一体で対策に取り組む必要 ㉕2030年度の生乳生産数量目標は732万t、10年後は780万tを目指し、今後の需要拡大策が焦点 ㉖ホクレンは消費拡大に向けて台湾・香港等の輸出先での試飲や広告展開を進める ㉗牛乳は加工度が低く、差別化が難しい。利益も薄く積極的な販売拡大策が取りにくいのが課題 ㉘Jミルクは「物価高騰が牛乳消費に影響を与えている」「理解醸成だけで消費を維持するのは限界」と指摘 ㉙消費拡大に向けたイベントなどの開催時期やコンセプトを業界全体で行うことが必要と提案 ㉚自民党の簗委員長は「生産現場が安心して営農できる環境の基となるのが需要拡大」と強調 としている。 ここで問題なのは、㉙㉚のように、i)政治家に依頼すれば消費拡大できる ii)「牛乳の消費が拡大しないのは消費者の理解が乏しいからなので、イベントを行なえば消費が拡大する」 と思っていることである。何故なら、戦後に育った子どもは、給食により牛乳を飲むことには慣れており、牛乳の栄養価についても中学校で勉強するため、牛乳の消費が頭打ちになっているのは、理解が乏しいことが理由ではないからだ。 しかし、もし政治家に何かを頼みたいのであれば、子どものうちから牛乳に親しむよう無償で牛乳や乳製品を学校給食で提供して貰ったり、義務教育で(家庭科ではなく、生物学の1項目として)男女ともに栄養学を論理的に教えるようにして貰った方が良いと思う。 ㉔㉕については、確かに牛乳自体は差別化しにくいが、牛乳が中心のイチゴミルク・コーヒー牛乳・ヨーグルト等の飲料を作れば差別化は簡単である。しかし、差別化するには独自の工夫が必要であるため、「業界一体」というのは差別化には向かないだろう。 また、㉖㉗については、牛乳自体ではなく、チーズにして鉄・カルシウム・わさび・からしめんたい・ほたての燻製などを加えれば、日本独自のチーズができ、輸出しても人気が出そうだ。さらに、スキムミルクだけではなく、全粉乳にしたり、冷凍パイ生地・冷凍シュークリーム・アイスクリームなどに加工すれば、保存がきく上、多くの家にあるオーブン・電子レンジ・ホームベーカリー等の機器を使ってできたての味を楽しめる。私自身は、ホームベーカリーでパンを作ったり、モチを作ったりする時に、そこに全粉乳を加えてカルシウム等の補給をしている。 しかし、㉘のように、確かに物価高騰で牛乳の消費は控えざるを得なくなっているため、それを解決するには、販売単位を大きくして安くしたり(アメリカはガロン単位)、全粉乳やスキムミルクにして販売したりなど、節約志向の人でも購入しやすい売り方を工夫すべきだ。 (2)教育について 1)義務教育について ![]() ![]() 2020.6.4朝日新聞 2022.6.9AeroWorld 2012.6.12Synodos (図の説明:左図のように、フランスの義務教育は3~17歳の15年間である。また、中央の図のように、オーストラリアは5歳の1月から11年間、イギリスは5歳の9月から11年間の義務教育が行なわれるが、日本は6歳の4月から9年間、米国は6歳の9月から8年間と義務教育期間が短い。しかし、日本は3歳の4月から幼稚園に入れる人も多いため、右図のように、就学前教育の私的支出割合が高く、義務教育以前に既に親の経済力や地域格差による教育格差が生じている) ![]() 2025.5.4東京新聞 2019.4.9つながりAI 2024.6.25ID学園高校 (図の説明:左図のように、15歳未満の子の割合は、1950年は35.4%だが、2025年は11.1%まで減少している。また、中央の図のように、2017年の保育園と幼稚園の年齢別利用者数及び割合は、3歳児でも90%を超えている。さらに、右図のように、高校進学率も通信制まで入れると令和2年に98.8%となっており、殆どの人が高校に進学しているのである) 上の上段の左と中央の図のように、ヨーロッパにおけるイノベーションリーダー国の1つフランスの義務教育は3~17歳の15年間(https://suumo.jp/journal/2024/09/24/204965/ 参照)で、オーストラリア・イギリスは5~16歳の11年間だが、日本は6~16歳の9年間と義務教育の期間が短い。また、日本では子を3歳から保育園や幼稚園に入れる人も多く、上段の右図のように、就学前教育の私的支出割合が高くなって、義務教育の開始前に親の経済格差や地域差による教育格差が生じている。 このような中、*3-2は、①義務教育のカリキュラムを根本から考え直す時 ②教育基本法の義務教育の目的は「児童生徒各個人の有する能力を伸ばし、社会で自立的に生きる基礎を培う」「国家・社会の形成者として必要な基本的資質を養う」と規定 ③小学校6年と中学校3年の分断を解消して9年間を一貫し、質を保障する義務教育学校にヒント ④義務教育学校は学校教育法改正で2016年に新設された小中一貫校で、全体の9年間を4・3・2や5.4といった段階に設定 ⑤義務教育9年間で柔軟な指導計画を立案するのが目指すべき方向 ⑥例えば美術なら中学校の美術教員が一貫して指導した方がより質の高い学習成果が期待でき、小学校でも高学年では学習内容が高度なので教科担任制を5年生くらいから導入した方が質の高い教育ができる ⑦社会で自立的に生きる基礎的資質・能力を保障するには、出口の中3終了時点の姿を想定しての学びのキャリア設計が重要 ⑧英国は義務教育終了16歳で受ける科目毎全国統一試験(GCSE制度)で義務教育終了時の出口を管理 ⑨日本の全国学力テスト(中3の4月)は義務教育学習の確認としては活用できず、日本の卒業証書は何の公的証明にもならない ⑩義務教育の保障は子どもにとって資質・能力向上の義務と権利であり、国家・社会の形成者としての義務でもあり、生存権に関わる「学習権」の保障であって、国家・社会の責務である 等としている。 私は、①に賛成である。また、②の教育基本法の義務教育目的である「児童生徒各個人の能力を十分に伸ばして社会で自立的に生きる基礎を養うこと」にも賛成で、これができれば生産年齢人口になってから仕事をするのにいつまでも公的補助を必要としないですむ筈であり、さらに自ら考えてイノベーションを起こすための基礎も作れる筈である。さらに、「国家・社会の形成者として必要な基本的資質を養う」ことも必要不可欠で、政策内容も理解できずに選挙で投票しても、良い結果が出せる筈はないのである。 それでは、③④⑤のように、小学校6年と中学校3年を一貫して義務教育学校にすれば十分かと言うと、⑥のように、確かに分けたままよりは充実した教育ができるが、イギリスやフランスと異なり、⑦⑧⑨のように、日本の全国学力テスト(中3の4月)は学習修了の確認にはならず、飛び級や留年の制度もないため、平均より出来る子にとっては授業の進捗を待っている時間が多すぎ、平均より後れる子にとっては、未消化のまま義務教育が修了する。そのため、親は、私的に子に塾の費用を支払い、塾通いのケアまでしなければならなくなるわけである。 従って、⑩のように、国家・社会により、子どもに資質・能力向上の義務と権利、国家・社会の形成者としての義務、生存権に関わる学習権の保障がなされているとは、まだ言えない。 そこで、私は、上の下段の中央の図のように、2017年時点で「幼稚園・保育園・認定子ども園の年齢別利用者数及び割合」が3歳児でも90%を超えていることから、日本は義務教育を3~18歳の15年間とし、小学校を3~12歳の9年間、中等学校を12~18歳の6年間として、中等学校以上は希望と試験による選別を基本として試験に合格すればそこに行ける(飛び級も可能)ようにすれば良いと思う。 そうすれば、第26条2項を変えなくても3~18歳までの教育は無償となるが、上の下段の左図のように、15歳未満の子の割合は1950年には35.4%だったが、2025年には11.1%まで減少しているため、これは可能な筈である。さらに、語学や芸術のように、3歳から始めた方が効果的な科目もあるため、これらのカリキュラムに最も適した教師の配置をすれば良いだろう。 また、現在のように、中学と高校を分ける制度では、学ぶ科目は重複しているのに、それぞれの時間が短いため中途半端な学びで終わるという短所があるため、中高一貫にして出口から学習計画を立てるというのは、やはり重要なことである。 2)高校無償化について ![]() 2023.12.23日経新聞 2025.3.31UFJ銀行 2025.2.25読売新聞 (図の説明:1番左の図のように、2024年10月から高校生にも児童手当が支給され、所得制限も撤廃されて、第3子以降のみ手当が増額された。兄弟数の数え方は、左から2番目の図のとおりだ。また、大学進学への支援は、右から2番目の図のとおり、親の所得によって支援内容が変わり、親の所得が大きくなくても私的負担は大きい。高校無償化は、1番右の図のとおりだが、支援の趣旨から考えて学費の高い私立高校の授業料まで全額支援する必要はないと思われる) 上の下段の右図の通り、高校進学率は通信制まで入れると令和2年(2020年)に98.8%となり、殆どの人が高校に進学している。そのため、現在は経済的理由等で定時制や通信制を選択せざるを得ない人も、希望すれば全日制高校に通って勉強できるように、1)に記載したとおり、中学・高校を一貫教育として義務教育化すれば、国民の潜在的能力をさらに活かせると考える。 そのような中、*3-1-1・*3-1-2は、①高校無償化は公立は授業料相当、私立は一定額を支給して授業料負担を軽減する制度だが、授業料が全額支給されれば実質無償化になる ②高校のほか高専・専修学校高等課程・特別支援学校高等部等の高校相当学年も対象 ③2025年度は11万8,800円支給への所得制限が撤廃され、高校生全員が対象で追加財源約1,000億円 ④2026年度以降は私立高生向け上乗せも所得制限を撤廃し、私立高授業料の全国平均額最大45万7,000円を助成して追加財源約4,000億円 ⑤私立高向け支援拡充で、公立高離れの加速・私立高授業料便乗値上げの懸念 ⑥高所得世帯も支援対象とすることへの疑問 ⑦無償化により「教育の質は向上しない」が66% ⑧基礎年金支給額底上げのための厚生年金減額は、「反対」が52% ⑨高額療養費制度患者負担の上限額引き上げ見送りは、「妥当」が66% としている。 このうち①②は、子どもの数が減って公立でも定員に満たない高校が出ている中で、本来なら中高一貫の義務教育にしてカリキュラムの再編成をしたいのだが、それができるまで、公立高校の授業料無償化と私立高校生への公立高校授業料相当額支給は妥当だと思う。従って、⑦については、高校無償化の目的自体が「教育の質向上」ではないため、無償化したからといって教育の質が向上するわけでないのは当然だ。 しかし、現在の公立高校は私立高校ほど設備や補習が充実しておらず、親が私的に塾に通わせなければならないため、自ら選択して私立に通わせている生徒の親に対する③④の加算は、むしろ不公平だろう。なお、⑤は、公立高校には伝統ある志の高い学校も多いため、私立高向け支援の拡充が単純に公立高離れを促進するとは思わないが、伝統があっても現在の実績が振るわなければ淘汰されるのは世の常であり、淘汰されないためには教育の質向上が不可欠なのである。 なお、⑥のように、馬鹿の1つ覚えのように「高所得世帯への支援を除外」したがる人は多いが、高所得世帯だから子の教育に熱心とは限らず、東大女子卒業生の中には、親の反対を押し切って東大に入った人も少なからずいる。つまり、親より子の方が時代の先端を走っていることも多く、また、そうでなければ社会の発展はない。そのため、教育は、親への支援ではなく子への支援と割り切って、親の所得とは関係なくできるだけ子の方に現物給付すべきなのである。 ただし、後の項で詳しく書くように、⑧の基礎年金支給額底上げのための厚生年金減額は流用そのものであるため私も反対だし、⑨の高額療養費制度患者負担の上限額引き上げも、いざという時のために健康な時から保険料を納めているのだからもってのほかである。そして、こういうことを、人から言われなければわからならないような大人に育ててはならないのだ。 3)大学と研究機関について *3-3は、①急速な少子化で学生確保が難しい地方大学が岐路 ②政府は事態が深刻な大学には円滑な撤退・縮小を促しつつ、地域連携強化で必要な高等教育機関の確保もめざす ③1989年に北信越初の法学部を備えた4年制私大として開学した高岡法科大は、1999年度以降は入学定員を満たせず ④富山の大学進学者数は20年間で4%減って4%増えた全国平均と異なるが、文科省は全国でも2026年頃をピークに大学進学者が減少局面に入るとみる ⑤隣県の金沢市内の大学は文理融合型や情報系の学部新設 ⑥2024年度は国立富山大と富山県立大だけが入学定員をクリア、私立は定員の3~8割台 ⑦18歳人口は2024年に約106万人で1990年代前半より半減したが、大学進学率が約32%上がって大学入学者は過去最多 ⑧大学数は2024年に813校で1992年の約1.5倍 ⑨私大の約6割は定員割れで3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92.4%、定員充足率が70%台の地域も ⑩大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないよう、文科省は入学者数が定員を大幅超過した私大の私学助成を減らしたり、東京23区内の大学の収容定員を10年間原則据え置いたりしたが、地方大学の定員割れは更に進んだ ⑪中央教育審議会は地方大学には地域ニーズに合う人材輩出の役割を示して自治体や企業との連携強化の必要性を指摘 ⑫宮崎国際大は1994年開学・定員150人で授業を英語で行う国際教養学部は英語教員を教育学部は小学校・幼稚園の教員や保育士を毎年数十人送り出し、同じ敷地にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出したが、定員割れが多い ⑬宮崎県保育連盟連合会は「2校が縮小・撤退すれば保育士を確保できず定員を減らす園が出る」と心配する ⑭宮崎県の総合計画は「県内大学等新卒者の県内就職割合引き上げ」のみで「保育士確保」はない ⑮国は地方大学と地元自治体の連携を強める考え ⑯高等教育機関は「高校生の進学先」だけではなく、知の拠点で、人を繋ぐ役割もあり、地域の成長や活性化の中心になり得る ⑰大学が撤退するとネットワークを失うことが地域にとって一番の損失 ⑱良質な教育を進め、地元が求める人材を育てて社会貢献する必要があるが、学生も教職員も少なく、学べる分野が限られる大学が多い 等としている。 このうち、⑦⑧のように、「18歳人口が2024年には1990年代前半より半減しても、大学進学率が上がって大学入学者が過去最多になった」「大学数は2024年に813校で1992年の約1.5倍」というのは、希望者が大学に入り易くなったという意味で国民にとっては幸福なことである。そのため、②のように、安易に撤退・縮小を促すのではなく、地域連携の強化で必要な高等教育機関の確保をめざすべきだ。 しかし、③の1989年に開学した高岡法科大が1999年度以降は入学定員を満たせなかったのは、①のような急速な少子化が原因ではなく、⑤⑥⑯のような情報系等の現在求められている学科がなく、総合大学ではないため、知の拠点としての役割も果たせていないからではないか? 一方、⑫⑬の宮崎国際大の場合は、1994年開学・定員150人で授業を国際教養学部は英語教員を、教育学部は小学校・幼稚園の教員・保育士を毎年数十人送り出し、同じ敷地内にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出したが定員割れが多いそうだが、こちらは、⑪の地域のニーズに基づいた人材輩出をしてはいるが、教員や保育士等福祉関係者の労働条件が悪いため、その職業を目指す人が少ないのだと思われる。 従って、教員や保育士等の福祉系の場合は、仕事の評価となる給与や労働条件が改善されなければ、その職業を目指す人は徐々に減り、その結果、質も上がらないだろう。また、⑭⑮のように、宮崎県の「保育士確保目標」も重要だが、⑪に基づいて国も協力すべきで、必要な学科への進学にあたっては、自治医大のように卒業後に所定の勤務をすれば奨学金の返還を免除する等の制度が有効だ。そうすれば、親に経済力がなくても、開発途上国等の出身者であっても、また転職目的のリカレント教育であっても、大学への進学が容易になって希望者の母集団が増えるため質も上がると思う。 なお、④⑥⑨のように、「文科省は全国でも2026年頃をピークに大学進学者が減少局面に入る」としており、私大の約6割は定員割れで3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92.4%で、定員充足率が70%台の地域もあって、この解決策として、⑩のように、大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないよう、東京23区内の大学の収容定員を10年間原則据え置いたりした。 しかし、大学は単なる高校生の進学先ではなく、そこで学べる内容とそこでできる同窓生のネットワークが重要なのであるため、既に知が集積している大学に行った方が学生のニーズに合うのだ。そのため、東京23区内の大学の収容定員を据え置くよりも、地方大学の魅力を増すことが重要だったのである。 その魅力は、⑰⑱の知の拠点としてのネットワークや良質な教育だが、「学生も教職員も少ない」とされることについては、*3-4の外国人留学生・外国人労働者やその家族は学生の母集団になり得るし、教職員も、*3-5のように、トランプ米政権下で米国を離れようとする研究者等を念頭に、EUのように日本での研究を保証して移住を支援し、技術革新の好機にすれば良い。 例えば、富山県であれば、既に新幹線で東京から2時間半になっている上、昔から薬が有名なので、広い敷地を使ってバイオテクノロジーはじめ健康・医療分野の研究者を招ける研究所と大学を充実し、経営をサポートする学科も増設して、米国を離れる研究者や他国の優秀な研究者を招き、博士課程の学生やポスドクの研究に資金支援すれば、一挙に人材が集まって大学の魅力も増すだろう。 トランプ米政権の研究費削減は、優秀な研究者や教職員の招致をめざす地域にとっては好機となっており、気候変動・宇宙などが適する地域や大学もあると思われる。つまり、日本は、これまで頭脳流出専門だったが、これからは頭脳を求めて優秀な研究者を探すべきである。 (3)高齢者いじめ 1)“年金改革”について ![]() 2021.6.28NipponCom 2019.3.7ニッセイ基礎研究所 (図の説明:左図は、年齢階級別就業率の推移で、2020年には60~64歳の70%超、65~69歳の50%超、70~74歳の30%超が就業している。また、右図は、65歳時点の男女の平均余命と健康寿命の推移で、2016年時点では男性の健康寿命は79歳、女性の健康寿命は81歳であり、どれも延長傾向だ。さらに、人手不足でもあるため、いつまでも60~65歳定年制を固持する必要はない) *4-1は、①厚労省が厚生年金積立金を活用(正しくは流用)して、国民年金を底上げする案を年金制度改革法案から削除する方針を固めた ②年金制度改革法案にはパートらの厚生年金加入拡大に伴う企業の保険料負担増なども含む ③全ての国民が受け取る基礎年金の底上げは、給付水準を改善するために財政が堅調な厚生年金の積立金を活用する ④厚労省は、国民年金だけに加入する人や就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として改革の柱に位置付けてきた ⑤積立金の活用に伴い厚生年金の受給額が一時的に減るため、与野党から懸念や批判が出ている ⑥自民の一部で「厚生年金からの流用だ」との批判も強く、厚労省は理解を得られないと判断 ⑦底上げは今回の法案に規定しないものの将来の底上げ実施を念頭に積立金の活用に向けた措置を取る ⑧具体的には厚生年金の受給額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長する ⑨国民年金保険料の納付期間を現行の「60歳になるまで40年」から5年間延長することを検討する規定を法案に盛り込む としている。 わが国の公的年金制度は「2階建て」で、全員加入する基礎年金(1階部分)と、正規雇用の民間企業の従業員や公務員が加入する厚生年金(2階部分)から成っており、自営業者や非正規雇用者は厚生年金に加入していないため、厚生年金保険料を支払うことはない。そして、厚生年金積立金は、厚生年金加入者が支払った保険料を原資として積み立てているのである。 さらに、1985年に行なわれた年金制度の変更により、厚生年金に加入している会社員や公務員に扶養されている配偶者のうち年収130万円未満で20歳以上60歳未満の人は、3号被保険者として国民年金保険料も支払わずに、基礎年金を受け取ることができるようになった。 そのため、①③⑤⑥については、与野党から批判が出ているとおり、厚生年金保険料から積み立てられ、「ねんきん定期便」で確認をとっていた厚生年金積立金の一部を厚生年金保険料を支払わなかった国民年金加入者等の給付に充てるのは、厚生年金加入者が老後に備えて高い保険料を支払って積み立てていたものを、関係のない人への給付に流用するということであり、高い保険料を支払った人が払い損になるため、保険制度の信頼性がなくなるのである。 また、②の「年金制度改革法案にパートらの厚生年金加入拡大」を行なうのはまあ良いが、そのために企業の保険料負担増を補助したり、3号被保険者制度を未だに温存しようとしたりしていることは、同じ時代に差別を受けながら働き、1985年に男女雇用機会均等法を作り、1997年に努力義務規定から禁止規定にした女性から見れば、不公正・不公平そのものなのである。 従って、⑦⑧のように、底上げは今回の法案に規定しないが、将来の底上げを念頭に「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長して年金給付額を実質的に目減りさせ、積立金活用に向けた措置を取るというのは、国民にわからないうように密かに厚生年金受給者の年金を減額するということであり、もってのほかである。 そのため、*4-2-3は、「年金改革から逃げる政治は無責任」などと記載しているが、こうなることがわかりきっている制度を作り、年金保険料を集め、年金の支払いも行なってきた厚労省の責任こそが問われるべきであり、ここに国民の責任は全くないと言える。 そのような中、④及び*4-2-1・*4-2-2のように、「国民年金だけに加入する人や就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として厚生年金積立金流用を年金改革の柱に位置付けた」という姿勢こそが、これまで日本政府が国民に膨大な負担を強いながら、給付時に「足りない。足りない。財源は?」と言っている理由である。そのため、このようないい加減な運営を改めなければ、国民がいくら負担しても財源が足りない状態は変わらない。 なお、*4-2-4は、⑩政府は首相官邸で就職氷河期世代支援に向けた関係閣僚会議の初会合 ⑪首相は就労・処遇の改善、社会参加、高齢期への備えの3つを柱に、閣僚に支援策の拡充を指示 ⑫重点政策としてリスキリング(学び直し)支援、農業・建設業・物流業分野における就労拡大 ⑬公務員・教員の積極的採用も ⑭資産形成や住宅確保の強化にも言及 ⑮就職氷河期世代は一般的に1973~82年頃に生まれた世代で、就職時期に金融危機等の影響で企業の新卒採用が少なく、非正規雇用期間が長くなる傾向 と記載している。 「就職氷河期世代」とは、⑮のように、1973~82年頃に生まれた世代と言われるが、1970年代半ばから1985年までも、日本の求人倍率が 0.9倍から1倍、有効求人倍率は 0.6倍から0.7倍の間で推移した就職氷河期だった。さらに、この時代には男女雇用機会均等法もなかったため、有効求人倍率に女性が入っていたかどうかも疑わしく、私が大学を卒業した1977年はこの時期に入るが、日本企業は堂々と「男性のみ」と書いている募集が殆どだったのである。 そのため、⑩~⑭のように、農業・建設業・物流・福祉分野などにいくらでも働き口があり、リスキリングはじめさまざまな支援を受けられる近年の就職氷河期世代のために、ひどい女性差別の中で頑張って働いて多く積み立ててきたきた女性の厚生年金積立金を、低年金だからと国民年金加入者への給付に流用するなどというのは、甘ったれるのもいい加減にして欲しい。 結論として、⑨のように、定年は少なくとも75歳まで延長し、年金保険料納付期間は「65歳になるまで」にして、「年金+就労所得」で65歳以上の人の低年金の問題は解決すべきだ。 2)高齢者医療への健保からの拠出等について ![]() 2024.4.11メットライフ生命 国立癌研究センター 厚労省 、 (図の説明:左図は、心疾患の年齢階級別総患者数で、30~59歳では864千人だが、60歳以上では2,639千人と約3倍になる。中央の図は、年齢階級別の癌罹患者数で、60歳以上の罹患者数は面積の比較になるので、60歳未満の20倍以上である。さらに、糖尿病有病者も50歳以上で増え始め、60歳以上は60歳未満の1.4倍だが、健保連が保証するのは60~65歳までの人なのだ) ![]() 日本腎臓学会 2022.12.13時事Equity 2022.107NHK (図の説明:左図は、年齢階級別の慢性腎臓病《CKD》有病率で、59歳以下は8%未満、60~69歳は15%、70~79歳は30%前後、80歳以上は45%以上と増加するが、健保連が保証するのは60~65歳までの比較的健康な人で、その他の人は国保に入っているのである。また、中央の図のように、実質年金収入は下げながら、有病率の高い後期高齢者《75歳以上の人》の1人当たり医療保険料を上げ、その上、右図のように、65歳以上の1号被保険者からは、平均7万円/年以上の介護保険料を徴収し、40歳未満からは徴収していないという不公平さなのである《https://www.minnanokaigo.com/guide/care-insurance/fee/ 参照》) *4-3は、①健保連発表の2025年度予算早期集計で、大企業の従業員が入る健康保険組合の平均保険料率が過去最高 ②高齢者医療への拠出が膨らんだのが要因 ③給付と負担のバランスを見直さなければ、賃上げが進んでも現役世代の消費拡大はおぼつかない ④支出増の要因の1つは高齢者医療費への拠出で、75歳以上が全員入る後期高齢者医療制度は後期高齢者自身の保険料約1割、税金約5割、現役世代の支援金約4割 ⑤65~74歳の前期高齢者も勤め先を退職すれば国民健康保険に入ることが多いため、健保組合等が納付金を支出して国保を支える制度 ⑥2025年に団塊の世代全員が75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増 ⑦健保連の経常支出のうち加入者の医療費支払いに充てる保険給付費は5割で高齢者拠出金が4割 ⑧健保連佐野会長代理は「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』割合が高い傾向が続いている」と説明 ⑨経団連の十倉会長は「若い人が消費に向かわない。社会保険料は右肩上がりで増えており、世代による分断や格差を避けて公正・公平な社会保障にしないといけない」「税と社会保障の一体改革が必要」と語った ⑩現役世代の負担を抑えるには医療・介護の歳出改革が欠かせない ⑪財政制度等審議会分科会は「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」と訴えた ⑫医療費増加要因のうち高齢化等の人口要因は半分程度で、他は新規医薬品保険適用・医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響 ⑬保険料負担を抑えるには、これらの改革が急務 ⑭現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象拡大、市販薬と効果やリスクが似る「OTC類似薬」の保険適用からの除外など ⑮日本医師会松本会長は「賃金上昇・物価高騰・医療技術革新への対応には十分な原資が必要」と述べ、診療報酬引き上げを要求 ⑯2025年春季労使交渉の賃上げ率は2年連続5%台の高水準になる見通しだが、社会保険料も上がれば効果は薄れる ⑰賃上げが消費拡大に結びつかなければ企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない としている。 医療・介護保険制度は、病気に備えて健康な時から保険料を支払い、医療や介護が必要になった時には保険で補償される仕組みで、健康な人と慢性疾患を抱える人の割合は、上の図のように、定年前(60~65歳)と定年後で著しく異なる。つまり、定年後の人は、糖尿病1.4倍、心臓病3倍、癌20倍以上であり、腎臓病も年齢とともに等比級数的に増えるが、働いている健康な人から保険料を集めている健保連は、慢性疾患を患う定年後の人の補償をしないのである。 本当に公平・公正な保険制度というのは、定年前の健康に働いていた時代に入っていた保険が定年後の人も補償するものだが、現在は、⑤のように、65歳以上の高齢者は勤め先を退職すると同時に国民健康保険に入る。そのため、④⑦のように、健保が高齢者に支援金を約4割しか払っていないのは、むしろ大負けに負けている状態で、国保に税金を約5割も投入しなければならないのは、それが主な理由である。そして、高齢になればなるほど有病率が高くなるということは、厚労省はじめ政策立案する人なら誰でも知っておかなければならないことだ。 そのような中、⑧のように、健保連会長代理が「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』割合が高い傾向が続いている」などと説明しているが、『仕送り』したくなければ、定年後も健保連が補償するのが保険の理屈である。また、⑨のように、経団連会長が「若い人が消費に向かわない。世代間格差がある」などと言うのなら、介護制度のなかった時代に自ら家族を介護しなければならなかった世代の世代間格差はどう埋め合わせるのだろうか。さらに、年齢構成が変われば消費対象も変わるため、それも考慮できないようなら、日本のGDPは下がりこそすれ上がらない。 従って、⑥の「団塊の世代全員が75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増」というのは、無理やり抑えた結果、むしろ少なくなっていると言える。また、⑩のように、「現役世代の保険料負担を抑える」のが最も重要なのではなく、保険料を支払った人には補償することが最も重要なのである。 そのため、高齢化による有病率の変化も考慮せずに、⑪のように、「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」などと訴えたり、⑬のように、「保険料負担を抑えるには、医療・介護の歳出改革が急務」として、⑭のように、「現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象を拡大せよ」などと主張したりしているのは、それなら生活保護以下の所得で暮らしている高齢者の医療・介護費は無料にすべきであり、子どもや妊婦の医療費を0にする必要はなく、0というのはむしろ有害なのである。 さらに、⑫は、「医療費増加要因のうち高齢化等の人口要因は半分程度」「他は新規医薬品保険適用・医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響」としているが、上の図のとおり、高齢化すれば高齢者人口の増加以上に医療費が増加するのが当然だ。また、世界に先駆けて高齢化した国は、世界に先駆けて高齢化に対応する予防や治療技術を開発し易く、それを汎用すれば新規医薬品の価格も下がるのだが、これも欧米がやることを真似することしかできないのだろうか。 なお、医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響を問題視しているが、これについては、⑮の日本医師会会長の「賃金上昇・物価高騰・医療技術革新への対応には十分な原資が必要」というのが正しく、労働に応じた診療報酬でなければ必要な分野の医師の質と量も確保できない。 つまり、*4-3は、①②は「健保連の平均保険料率が過去最高で、原因は高齢者医療への拠出が膨らんだから」と述べ、⑯⑰で「2025年の賃上げ率は5%台だが、社会保険料も上がれば効果が薄れ、現役世代が消費拡大しなければ、企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない」などと背景の理解もせずに、単に現在ある消費財の消費を促進しようとしているだけなのである。そのために、③のように「給付と負担のバランス」などと尤もらしい理屈をつけているが、実は、以前は介護も家族が担い、癌になれば助からず、リハビリという概念はなく、病気の早期発見もできなかったという事実を忘れた、お粗末な内容なのだ。 しかし、実際には、医療・介護はじめ、現在でも消費したくてもないサービスは多く、これを地道に改善していくことこそが、経済成長のKeyなのである。 (4)物価高騰による国民の貧困化について ![]() 2025.2.8西日本新聞 2023.10.20、2022.6.25日経新聞 (図の説明:食糧物価が高騰したため、左図と中央の図のように、エンゲル係数《家計消費支出にしめる食料費割合》が上がり、2024年の日本は、1981年と同水準の貧乏な国に後退した。また、右図のように、購入頻度の高い必需品ほど物価上昇したため、体感物価は統計より高い) ![]() NHK 2025.2.21西日本新聞 2024.11.17日経新聞 (図の説明:左図は、頻繁に購入する44品目と総合の物価指数《前年同月比の物価上昇率》で、前年同月と比較しただけでも総合で約3~5%、頻繁に購入する44品目は約6~9%物価上昇している。また、中央の図の主食とされる米は、2025年5月時点では前年の2倍程度になっており、食糧物価高騰の旗手になった。これらの結果、日本のエンゲル係数は、1981年以来の高水準・G7で首位《つまり日本国民はG7で最貧》になったが、これを「首位」と表現したり、コストプッシュ・インフレを「物価の伸び」と表現したりしているのが、全くおかしいのである) ![]() 2025.5.16読売新聞 2024.3.7President 2025.1.9第1生命基礎研究所 (図の説明:左図のように、実質GDPは、コロナ対応時の異常値を除いて0近傍で推移しているが、貨幣価値を下げることによって生産性向上を伴わずにインフレとそれ以下の賃上げを人為的に作っているだけであるため、当然である。中央の図が、実際の国民の豊かさを示す実質購買力平価《その貨幣で、どれだけのものが買えるかを示す》による1人あたりGDPの推移で、2000年頃に香港、2008年頃に台湾、2018年頃に韓国に抜かれている。右図の名目GDPも、2022年頃にイタリア・韓国以下になり、「“責任政党”が国民に責任を果たした」とはとても言えない) 1) 2025年1~3月期の国内総生産(GDP)と2024年度家計調査から *4-4-2は、①2025年1~3月期のGDPが1年ぶりにマイナス成長になった ②肝心の個人消費が冴えなかった ③その原因とされるのは、賃金上昇を上回る物価高の継続 ④消費者物価の総合指数は昨年末頃から伸びを高め、今年1~3月は3%前後で推移 ⑤キャベツなどの生鮮食品が値上がりし、コメが前年の倍近いという異例の高騰が続く ⑥内閣府が公表する消費者態度指数は昨年12月からじりじり低下 ⑦4月はトランプ関税の影響も加わってか、さらに大きく落ち込んだ ⑧日銀が出した「経済・物価情勢の展望」で、今年度の実質成長率見通しは、1月時点の1.1%から0.5%に下ぶれ ⑨第一生命経済研究所の新家氏は「もともと内需が弱いところに、関税引き上げの悪影響が顕在化し、景気の停滞感は一段と強まる。場合によっては景気後退局面入りの可能性」 ⑩SMBC日興証券の集計で東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は純利益総額が4年連続で過去最高に ⑪GDPの動きを中長期に見ると、「名目」と「実質」・「GDP全体」と「個人消費」の2つのギャップ ⑫2024年度の名目GDPは初めて600兆円超 ⑬1970~80年代は5年で約100兆円ペースで増えたが、1992年度に500兆円を超えた後、600兆円まで32年 ⑭このうち2022年度以降の伸びが50兆円近く ⑮実質GDPの伸びは限定的で、2024年度までで5兆円強の増加に留まる ⑯実質GDPの伸びを支える顔ぶれも様変わりし、2018年度と2024年度を比べるとGDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りマイナス、住宅投資・設備投資を加えた民間需要全体もマイナスで、政府消費のみが11兆円増 ⑰政府消費には、医療・介護給付や公共サービス支出が含まれる ⑱内閣府幹部は「高齢化で、政府消費は伸びざるを得ず、より重要なのは国内の民間需要がしっかり伸びていくこと」と話す としている。 また、*4-4-3は、⑲物価高により個人消費が力強さに欠けた ⑳GDPの半分以上を占める個人消費はほぼ横ばいで、肉・魚等の食料品がマイナスでパックご飯もマイナス ㉑外食は天候に恵まれプラス ㉒モノの輸出は自動車が伸び、輸入は2.9%増と大きく増加してGDP成長率を下げた 等としている。 このうち、②⑲は、「物価高で個人消費が冴えなかった」とし、その原因を、③のように、「賃金上昇を上回る物価高」としているが、この分析は、*4-4-4のとおり、勤労者世帯のことしか考えておらず、人口の3割を占める65歳以上の高齢者などの無職者を無視しているため不十分だ。その上、新しいニーズに応えることを拒んで現状維持に汲々としつつ、金融緩和とロシア・ウクライナ侵略に端を発するコストプッシュ・インフレが国内の賃金上昇を上回ることがあるなどと考えるのがどうかしている。 また、④の「消費者物価の総合指数は昨年末頃から伸びを高めたが、今年1~3月は3%前後」と物価が上がることをあたかも良いことであるかのように書いているが、現在の物価上昇は、コストプッシュ・インフレでディマンド・プル・インフレではなく、国民を貧しくするだけの悪いインフレであるのに、まるで良いことであるかのように書いているのも変である。従って、①のように、「2025年1~3月期のGDPがマイナス成長になった」のは当然なのである。 なお、⑤⑥⑳のように、キャベツ等の生鮮食品が値上がりし、コメは前年の倍近くに高騰して、肉・魚・パックご飯等の食料品消費はマイナスになったが、値段が上がってもその分だけ消費が落ち込み、個人消費はほぼ横ばいになっているのである。実質年金が著しく下がり、実質賃金も下がっているのだから、消費者が節約志向になったのは当然のことで、唯一、㉑のように外食がプラスだったのは、海外の観光客が多かったことと、海外旅行に出る日本人が減って短期の国内旅行に切り替えたことが理由ではないのか? つまり、物価が上がるから生鮮食品を10~20年分も買っておくような人はおらず、将来、物価が上がるのなら、できるだけ節約して物価上昇に備えるのに、「物価が上がるという予想を人々がもてば、商品が売れて経済が改善される」などという馬鹿なことを誰が発想して、経済の専門家と称する多くの人が一斉に同じことを言ったのか? 的外しもいいところなのである。 日銀は、⑧⑨のように、「経済・物価情勢の展望」で今年度の実質成長率見通しを0.5%に下げたそうだが、経済政策の失敗を外国のせいにするのはいつも通りではあるものの、⑦のように、すべてトランプ関税のせいにするのは誤りだ。何故なら、敗戦後80年経っても米国頼みの加工貿易の発想から抜け出さず、㉒のように、時代遅れの自動車の輸出頼みで、化石燃料価格の上昇や円安による輸入増など、時代に合わない経済政策を維持したことに原因があるからである。 しかし、日銀の金融緩和による円安と物価上昇で得をした団体もあり、その1つは、借金が多いか、輸出割合の高い企業である。そのため、⑩のように、東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は純利益総額が4年連続で過去最高になったのだ。 もう1つは、政府で、⑫のように、名目GDPや名目賃金が増えれば、例えば消費税(消費者への最終売上の8%or10%)・法人税(純利益の原則23.2%)・所得税(所得の一定割合で累進課税)の徴収額が増える。しかし、日本政府の国債残高(借金)は簿価のまま変化しないため、実質価値が落ち、その分は密かに国債保有者や預金者に負担させているのだ。 国民には、⑫⑬⑭のように、名目GDP総額が600兆円であろうと500兆円であろうと関係なく、関係があるのは購買力平価に基づく1人あたりGDPだけである。しかし、⑮のように、購買力平価に近い実質GDPの伸びは限定的であるため、日本の購買力平価に基づく1人あたりGDPは高くなく、日銀が金融緩和して物価が上昇し始めてからは、むしろ下がったのである。 そのため、⑯のように、実質GDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りのマイナス、住宅投資・設備投資を加えた民間需要全体もマイナスで、政府消費のみが11兆円増加したそうだ。もちろん、⑰の政府支出のうち、保険制度に基づく医療・介護給付は当然しなければならないが、政府支出のうち化石燃料への補助やその場限りのバラマキなど税金の無駄使いにあたる歳出は、将来性も理念もなく有害無益と言わざるを得ない。つまり、金融緩和して政府が無駄使いを増やした分だけ、⑪のように、GDPは「名目」と「実質」がかけ離れ、「GDP全体」と「個人消費」も大きなギャップが生じ、国民は貧しくなったのである。 このように、日本政府は、理念もなく環境にも将来の生産性向上にも資さないその場限りの無益なバラマキが多すぎるため、公会計制度の導入が必要不可欠であるし、⑱のように、将来性と効果をしっかり見据える民間需要が伸びることは重要なのである。 2)物価高騰の国民及び経済への影響 *4-4-1は、①総務省が発表した2024年度家計調査で、1世帯(2人以上)当たり月平均消費支出は30万4,178円で、物価変動の影響を除く実質で前年度比0.1%減少し、2年連続マイナス ②食品などを中心に長引く物価高で、消費者の節約志向が根強かった ③2024年度の家計消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%で、1981年度以来43りの高水準 ④所得の伸びが食品価格高騰に追い付かず、家計を圧迫する構図 ⑤消費支出のうち「食料」が1.0%減、野菜・肉類・乳製品等の幅広い分野で値上げが相次ぎ、支出を減らす動きが広がった ⑥同時に発表した3月の消費支出は33万9,232円で前年同月比2.1%増 ⑦寒さが厳しかった影響で電気代を含む「光熱・水道」が7.2%増 ⑧大学の授業料値上げ等の影響で「教育」も24.2%増と大きく伸びた ⑨食料への支出は0.7%減と6カ月連続減 としている。 このうち①②の2024年度家計調査で「物価変動(物価高騰)の影響を除いた実質消費支出が前年度比0.1%減少し、2年連続のマイナス」というのは、実質賃金・実質年金等の実質収入が減り、食品等の必需品を中心に物価高騰が続いて、この状態は今後も続くと見込まれる以上、消費者が必要なものでも買い控えて節約志向になったのは当然である。そのため、“責任政党”と言っている政党や政府は、誰に責任を果たしたつもりでいるのかを、あらためて問いたい。 また、③のように、2024年度の家計消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数(家計消費支出にしめる食料費割合)」は28.3%と1981年度以来43年ぶりの高水準(つまり、43年分貧乏に逆戻りしたということ)になったが、この物価高騰は生産性向上を伴わない賃上げや円安・いつまでも使って国富を流出し続けている化石燃料の高騰などによるコストプッシュ・インフレであるため、④のように、価格高騰に所得の伸びが追い付くわけはなく、単に家計を圧迫しているだけなのだ。 そのため、消費者は、⑤⑦⑨のように、生活必需品である食料品の購入数量をかなり控えても物価高騰の影響で1.0%減にしかならず、水光熱費は節約したにもかかわらず7.2%増え、⑧の大学授業料は無理してでも支払わざるを得ないため授業料値上げ等の影響で教育支出が24.2%増となったのである。それらの消費者行動を総合した結果、⑥のように、3月の全体消費支出は、前年同月比2.1%増となったのだ。 (5)消費税の位置付けと実際の使途 2019.9.25毎日新聞 2025.4.26東京新聞 消費者経済総合研究所 (図の説明:左図のように、日本が消費税導入の見本と称したヨーロッパは、実は付加価値税であり、消費者ではなく生産者にかかるもので、税率も食料品・水・書籍等の必需品は0%に近い軽減税率だ。日本の消費税は、中央の図のように、1989年に3%の税率で導入され、2014年には8%、2019年には10%とうなぎ登りに引き上げられたが、食料品と定期購読の新聞のみには8%の軽減税率が適用されたため、新聞はこぞって消費税率引き上げに賛成の立場をとっている。一方、日本が見本と称しているヨーロッパは、食料品・水道水・書籍・雑誌等は0%に近い軽減税率である。消費税は逆進税であるため、累進課税の所得税の方が優れた課税方法なのだが、税制間のバランスなどとして日本は消費税の割合を増やし、必需品への軽減度も低くしているため、消費税の短所である逆進性が本家のヨーロッパより大きく出ている。そして、右図のように、税収に占める消費税の割合は増加の一途を辿っているのだ) ![]() 2023.12.23、2024.12.12、2025.4.26沖縄タイムス 2025.4.27佐賀新聞 (図の説明:1番左の図が2024年度の政府予算だが、歳入の31.2%が国債発行で賄われており、実質国債残高は物価上昇によって減り、その減った分は国民の実質預金残高が減ることによって賄われるため、国民は税・社会保険料以外に物価上昇による預金残高の目減りという膨大な負担も強いられている。左から2番目の図が税制改正の政府案だが、防衛費増加分をたばこ税で賄っているのは問題で、その理由は、1989年4月1日の消費税法施行に伴って奢侈品・嗜好品に課されていた物品税が廃止されたが、酒税・たばこ税・自動車税・ガソリン税は現在も残っているからだ。その消費税については、右から2番目の図のとおり、各党が議論しているが、少なくとも食料品等の必需品の税率は0に近い軽減税率にすべきである。1番右の図は、ガソリンの暫定税率を0にした場合の問題点だが、環境税として地方が独自に徴収すれば良いだろう) 1)消費税とは 消費税導入の目的は、i)税制間のバランス ii)個別間接税の問題点解決 iii)高齢化社会の財源確保とされ、「所得税中心の財源では所得税納税世代(20歳~64歳)に負担がかかり、高齢化で年金・福祉に関する財源が増加するから」と理由付けされている(https://airregi.jp/magazine/guide/1795/ 参照)。 しかし、iii)の「高齢化社会の福祉財源は、消費税でなければならない」などと言っている国は日本以外になく、この理由は消費税導入時の説明に使った便法にすぎない。 また、i)の「税制間のバランス」についても、法人税・所得税の方が所得に応じて課税されるため不景気の時には自動的に減税されるというビルトイン・スタビライザー効果があって優れているのだが、消費税は「安定財源」と言われるだけあって貧しい人や不景気の時ほど課税負担が重くなる逆進税なのである。そのため、米国と同じく法人税・所得税の捕そく率が高い日本で、消費税を導入して人為的に“バランス”をとる必要はなく、法人税・所得税の捕そく率をさらに高めて漏れをふさげばよかったのである。 さらに、ii)の個別間接税である物品税は間接消費税であり、日本では1940年(戦争中)に制定された物品税法によって宝石・毛皮・電化製品・乗用車・ゴルフクラブ等の奢侈品・嗜好品に課され、メーカー出荷時に課税されたのだが、「国民の生活水準が上がって贅沢品の線引きが曖昧になったため、一律の消費税導入でその問題を解決する」として、1989年4月1日の消費税法施行に伴って廃止されたものの、現在も、酒税・たばこ税・自動車税や*5-3のガソリン税等は残っているのだ。 このうち自動車やガソリンは1940年代と違って贅沢品どころか必需品になっているため、自動車税やガソリン税は、早々に廃止するのが筋であろう。そのかわり、現在では、化石燃料の使いすぎによる環境悪化が著しいため、化石燃料には地方が環境税を賦課すれば、自動車税やガソリン税の廃止による問題は解決する。 一方、酒税やたばこ税は、消費税の一部である上、酒やたばこを飲みすぎると癌のリスクが増して医療・介護費が増えるため、酒税・たばこ税は消費税の一種としてさらに税率を上げ、医療・介護費にまわすのが筋であり、防衛費の財源にするなどもってのほかである。 また、現在、電化製品や乗用車が必需品で奢侈品でないのは明らかだが、高価な宝石や高すぎる住宅・入場料などが奢侈品に入るのも明らかであるため、単価によって税率を変えつつ消費税をかければ、食料品の税率を0にしてもカバーできると思う。そして、このような複数税率に、正確かつ容易に対応できるのが、インボイス方式の長所なのである。 なお、日本がモデルにしたヨーロッパの付加価値税は、企業が付けた付加価値に対して課税されるものなので企業が負担する計算方法になっているが、それが日本に導入された時には最終消費者(=個人)に転嫁することとなり、最終消費者が負担する計算方法になった。そして、最終消費者が負担することになった理由は、消費税導入時に企業の反対が大きく、「消費者は女性であり、自分は生産者であって消費者でも生活者でもない」と考えている男性ばかりが意志決定権者だったからなのである。 2)消費税減税に関する現在の動向 *5-1は、①立民が江田氏を中心に食料品の軽減税率8%が適用される飲食料品の税率を0%に引き下げて年5兆円規模の減税を実現させる夏の参院選公約に向けた提言書をまとめた ②党税制調査会等の合同会議も開かれ、出席議員の多くが消費税減税を訴えた ③財政規律を重視する枝野幸男元代表が「減税ポピュリズム」と批判し、対立が先鋭化 ④提言書は、食料品の税率を当分の間、0%にすることで「物価高から国民生活を守る」と強調 ⑤中低所得者の消費税を実質的に還付する「給付付き税額控除」を導入するまでの時限的措置 ⑥減税は国内総生産(GDP)を0.39%押し上げると試算 ⑦財源には米国債の償還金活用を挙げた 等としている。 上に記載した理由から、私は、①②には賛成だが、④の「食料品の税率を当分の間、0%にする」では足りないと思うし、「物価高から国民生活を守る」だけでは理論的に弱すぎると思う。ましてや、③のように、「消費税減税はポピュリズム」と言うのは、選挙に都合の良い無駄なバラマキは堅持しつつ、税理論はさておき、とれるところからとる というスタンスであり、民主主義の理念も税理論も無視した政治であろう。 さらに、⑤の「中低所得者の消費税を実質的に還付する『給付付き税額控除』を導入する」については、人間のすることには、変な価値観による恣意性が入り、公正とは言えず、漏れも多く、遅すぎるため、消費税をとってから給付付き税額控除を導入するよりは、ヨーロッパのように、必需品には0%の軽減税率を適用する方が、国民生活を守るためによほど有用なのである。 なお、⑥の減税がGDPを0.39%押し上げるというのは、国民の可処分所得が増える分だけ正しいと思われるが、⑦の財源は、米国債の償還金のような一時的なものではなく、酒税やたばこ税の引き上げと奢侈品への15~20%税率で賄えば良いだろう。付加的ではあるが、1億円超などの高すぎる住宅に高税率をかけると、企業や住宅の地方移転を促すことにもなる。 また、*5-2は、自民の森山氏は、⑧「消費税を下げる議論だけが先行しては大変なことになる」 ⑨「社会保障に充てていく約束で消費税制が成り立っていることを忘れてはいけない」 ⑩「消費税を下げる分の財源をどこに求めるかの話があって初めて議論できる」 ⑪「2012年に旧民主党・自民党・公明党3党で交わした社会保障と税の一体改革に関する合意は、正しい選択・判断だった」 ⑫「日本は経済的にも大きな国で、日本の財政が信任を失ったら国際的に大変なことになるのを認識しておかなければいけない」 ⑬「消費税が地方交付税の財源にもなっており、消費税は色々なことに影響する税金であることを国民に理解してもらわないといけない」 と述べたとしている。 このうち⑧⑩⑫の財源については、選挙目的の無駄なバラマキや時代遅れの補助金の廃止による歳出組みかえこそが重要なのだが、これらには一切触れず、既得権益を守ろうとしたり、予算増ばかりを考えつつ、国民の負担増を強調している点が不誠実だ。 また、消費税導入時には、⑨のように「消費税は社会保障に充てる」というふれ込みだったが、実際には、⑬のように地方交付税の財源にしたり、消費税の一部であるたばこ税を防衛費の財源にしたり、同じく消費税の一部である酒税を福祉以外の財源にしたりなど、当初のふれ込みとは異なる流用が甚だしい。そのため、消費税の使い道を正確に分析する必要はあるが、国民は、財政全体の使い道を理解すればするほど、これではたまったものではないと思うのである。 なお、⑪の「社会保障と税の一体改革」の3党合意も、皆でガラガラポンしてわけがわからないようにし、どうやっても(当然)残る負担は国民に押しつける理不尽な手法であったため、私は、最初から反対で賛成したことは一度もなかったのである。 3)こういうメディアの論調はどこからくるのか? 多くのメディアは、*5-4のように、①自民・公明両党の幹事長が夏の参院選までに新たな経済対策を示すことで合意し事実上の選挙公約 ②政権を担う公明党や自民党参院にまで減税論が広がっているのは見過ごせない ③政策効果や財源の議論抜きに選挙目当てのバラマキに走るようでは「責任政党」と言えない ④公明党は食料品を中心とする物価高対策としての減税を訴え、つなぎとして現金給付も唱える ⑤自民党では、執行部は減税に慎重だが、参院議員の8割は消費税減税を希望 ⑥近く党税制調査会の勉強会を開き、税率を下げる場合の課題を整理 ⑦立憲民主党は野田代表が食料品の税率を1年間0にし、延長も1回できる方針に転じた ⑧日本維新の会、国民民主党も減税をめざしている ⑨食料全体でならしても7.4%上がっている ⑩食品に掛かる8%の軽減税率を0にすれば約5兆円の財源が必要なので、消費税を下げればいいというのは短絡的 ⑪石破首相が「高所得の方も含めて負担が軽減され、低所得の方が物価高で一番苦しんでいるのにどうか」と認める通り、再分配策としての効率も悪い ⑫消費税は医療・年金・介護・子育て支援等の社会保障や地方財源となる基幹税で、次の選挙のために次の世代にツケを回すのは無責任 等とする。 仮に、①のとおり、消費税減税の議論を選挙目当てだけに行なっているとすればあまりにも考えが浅すぎるが、④⑤⑥⑦⑧のように、選挙を機会として国民の意志で制度変更することはあるし、それが民主主義である。 もちろん、③のように、政策効果や財源の議論抜きに選挙目当てのバラマキに走るようでは責任ある政治家とは言えないが、②のように、「政権を担う与党にまで減税論が広がっているのは見過ごせない」などと言っているのは、消費税の本質も知らずに「消費税増税が正しく、減税は人気取りにすぎない」と考える傲慢そのものの態度である。 さらに、⑫は「消費税は医療・年金・介護・子育て支援等の社会保障や地方財源となる基幹税」とするが、子育て支援にはやりすぎも散見される上、社会保障や地方財源が消費税でなければならない理由はない。また、現在の貧困者のことも思いやれない人が、「次の世代に責任を持つ」などと言うのは、その場限りの便法にすぎず、おこがましすぎる。 また、生活必需品のうち食料は、⑨のように、全体でも7.4%上がっているそうなので、⑩のように、食料品の8%の軽減税率を0にすれば物価上昇前と同程度の価格になる。そして、食料品の軽減税率を0にするために約5兆円の財源が必要であれば、コストプッシュ・インフレによる食料品の物価上昇分約5兆円は国民が負担しているため、その財源は物価上昇によって儲かった団体から徴収するのが筋である。 これに対し、⑪のように、石破首相は「高所得の方も含めて負担が軽減され、低所得の方が物価高で一番苦しんでいるのにどうか」と言っておられるそうだが、「再分配策」としてなら消費税自体が低所得の人の方が税率の高い逆進税であるため、なおさら食品の税率を0にするか、消費税自体を廃止するかしか方法はないのである。 ・・参考資料・・ <米について> *1-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/300680 (日本農業新聞 2025年4月16日) [ニッポンの米]MA米の主食枠拡大を 国内需給の調整弁に 財務省提言 財務省は15日、輸入米であるミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米を巡り、主食用米として利用できる量を増やすべきだと提言した。米の不足感が強まる中、国内需給の調整弁になるとして、年間最大10万トンの主食向けの枠を増やすことなどを求めた。輸出を妨げていると、米国が日本の米の輸入制度を批判している最中であり、今後の日米協議に影響を及ぼす懸念もある。提言は同日、財政制度等審議会(財政審)の分科会で示した。財政審は国の財政運営の在り方について議論しており、5月にも建議(意見書)をまとめる。MA米は、1993年のガット・ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)合意に基づき導入され、日本は米国などから年間77万トンの米を義務的に輸入している。うち最大10万トンは売買同時契約(SBS)方式で輸入され、主食用に仕向けられる。残りは需給に影響を与えないよう、飼料用や加工用など非主食用に仕向けられる。提言では、SBS枠を増やすなど、必要に応じて主食用米として利用できる量を増やせば、MA米が「国内需給の調整弁」になると指摘した。国産米の不足時に活用することなどが念頭にあるとみられる。増田寛也分科会長代理(日本郵政社長)は分科会後に記者会見し、主食用の米の輸入枠拡大について「国内需給の調整弁として、いくつかの手法を持っておくのは有力だ」と話した。政府は1993年に閣議了解した農業施策の基本方針の中で、SBS米を含むMA米について「MA導入に伴う転作の強化は行わない」と定め、MA米が国産米の需給に影響を与えないよう運用することとしてきた。MA米の主食用米としての利用を増やせば、この閣議了解との整合性が問われる。提言では飼料用米について、「一律に高単価で支援する必要があるとは言えない」として、支援の在り方を見直すよう迫った。「毎年度約2000億円もの巨額の財政負担が生じている」と指摘。食料自給率の引き上げ効果は0・4%分にとどまるとした。米農家と畜産農家が直接取引しているのは全体の7%にとどまり、「配合飼料工場などで加工され、流通しているものが太宗」と問題視した。 [解説]食料安全保障に逆行 財務省が、MA米について、主食用米として利用できる量を増やし、国内の需給の「調整弁」に使うことを提言した。米の価格上昇や不足感を背景にしたものだが、安易に輸入米に委ねることは、食料安全保障強化に逆行しかねない。新たな食料・農業・農村基本計画では、米の安定供給へ、水田政策の見直しや総合的な備蓄の構築に向けて検討を進めることを掲げた。米輸出や不測時の対応も踏み込んだ方針を掲げ、国内生産での安定供給を目指す。財務省の提言は、この方向性に水を差すものだ。近年、主食用米の需給と価格を安定させる機能を担っていたのが飼料用米だが、同省は支援の削減を一貫して求めている。目先の需給と財政負担削減を優先していると判断せざるを得ない。日本政府はトランプ米政権の追加関税を巡り、米国との交渉に臨む。その米国は、日本の輸入米制度を「非関税障壁」として批判してきた。交渉を前に輸入米制度を巡る提言を出すことは、食料安保への姿勢が問われる。 *1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1410997 (佐賀新聞 2025/2/18) 2月上旬のコメ価格、9割高騰、5キロ平均3829円、農水省 農林水産省は18日、2月3~9日にスーパーで販売されたコメ5キロ当たりの平均価格が、前年同期と比べ89・7%高い3829円だったと発表した。1月下旬には政府が備蓄米放出の新方針を表明していたものの、高騰が続いた。江藤拓農相は2月14日に最大21万トンを放出すると具体策を発表し、3月下旬にもスーパーなどに並ぶ見通しで、値下がりに転じるかどうかが注目される。金額にして1811円の値上がり。前週比でも141円高かった。全国約千店舗のスーパーの販売データに基づいて農水省がまとめた。販売数量は前年同期比9・4%減だった。江藤氏は18日午前の閣議後会見で、14日の放出発表後、コメの流通取引が活発になっているとの認識を示した。卸売業者から小売業者に対し、コメを売りたいという声が「かなりの数出てきている」という。農水省は17、18日、集荷業者を対象に備蓄米の説明会を開催し、入札手続きなどを説明した。江藤氏は、参加者が多く「非常に関心は高い」と評価した。農水省は値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいるとみている。今後、備蓄米放出による値下がりが意識されて流通量が増えれば、放出前に価格が下がる可能性もある。 *1-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/301747 (日本農業新聞 2025年4月21日) 日米交渉で首相「農業犠牲にしない」 米や検疫、攻防の焦点に トランプ米政権の関税措置を巡る日米交渉で、米や検疫体制が農産品を巡る攻防の焦点になってきた。米国は、米の市場開放やジャガイモなどの検疫の緩和を要求。石破茂首相は21日の参院予算委員会で、「自動車を守るために農業を犠牲にする考えは全く持っていない」と述べた。米国は自動車や鉄鋼・アルミに25%の追加関税を賦課。それ以外の輸入品には一律10%追加し、国ごとの相互関税の上乗せ分は7月上旬まで停止中。日本政府は関税措置の撤廃を求め、17日に米国との初交渉に臨んだ。米国の要求は、3月に公表した「外国貿易障壁報告書」に沿ったものとみられる。検疫体制では、ジャガイモや牛肉などについて問題視している。首相は20日のNHK番組では「食の安全を譲ることはない」と強調した。交渉内容について、対米交渉を担う赤沢亮正経済再生担当相は21日の参院予算委員会で、「この場で申し上げることは差し控えたい」と述べるにとどめた。立憲民主党の徳永エリ氏への答弁。第1次トランプ政権時の日米貿易協定では、日本が牛肉などの関税を環太平洋連携協定(TPP)並みに下げ、自動車の追加関税を回避。米国向けの自動車・同部品の関税も撤廃に向けて交渉するとしていた。徳永氏はこれを踏まえ、今回の関税措置と同協定の整合性を問題視した。首相は「整合性はこれから先もきちんと指摘していく」と述べた。財務省は、毎年77万トンを輸入するミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米のうち、主食向けの量を増やし、「国内需給の調整弁」とすべきと提言した。江藤拓農相は「調整弁は備蓄米を活用している」と述べ、輸入米拡大による需給調整に否定的な考えを改めて示した。 *1-4:https://www.agrinews.co.jp/news/index/301755 (日本農業新聞 2025年4月21日) 消費者理解ハードル高い 価格形成法案で立民が議論 立憲民主党は21日、生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案について、農水省から聞き取りをした。現在、米をはじめ農産物の価格が上昇し、家計を直撃する中、消費者の理解を得ながら価格形成を進めるハードルの高さを指摘する意見が相次いだ。同日、党農林水産部門(金子恵美部門長)の会合を開いた。同法案では、売り手と買い手に価格交渉に誠実に臨むよう努力義務を課し、対応が不適切な事業者には国が指導や勧告を行う。米や野菜などを対象に、価格交渉の材料になる「コスト指標」を作成する方針だ。階猛氏(衆・岩手)は、生産コストの価格転嫁が長らく進まず、厳しい経営環境にある生産現場を踏まえ、「農業者の立場に立てば(価格転嫁を)やるべきだ」と強調した。一方で、「消費者に(価格転嫁を)理解してくれと言っても理解してもらえるのだろうか」と危惧。消費者から理解を得るハードルの高さを指摘した。金子部門長も「消費者に丁寧に説明しなければ、ただ単に(農畜産物の)価格を上げるための法律と思われる」と危機感を示した。 *1-5:https://www.agrinews.co.jp/news/index/302257 (日本農業新聞 2025年4月23日) 牛乳消費拡大 業界結束が必要 自民畜酪委が団体聴取 自民党畜産・酪農対策委員会(簗和生委員長)は23日、新たな酪農・肉用牛生産近代化基本方針(酪肉近)を踏まえ、生乳の需要拡大に向けて議論した。ホクレンやJミルク、中央酪農会議が出席し、需要拡大に向けた取り組みや課題を説明。牛乳は差別化が難しいことや、食品全体の価格が上がる中、業界一体となって対策に取り組む必要性などを指摘した。11日に公表された酪肉近では、2030年度の生乳の生産数量目標を732万トンに設定した上で、おおむね10年後の「長期的な姿」として需要拡大を前提に780万トンを目指す。今後の需要拡大策が焦点になる。ホクレンは、消費拡大に向け、台湾や香港などの輸出先での試飲や広告展開を進めている。牛乳について「加工度が低く、差別化が難しい。利益も薄く積極的な販売拡大策が取りにくい」といった課題を挙げた。Jミルクは、物価高騰が牛乳の消費に影響を与えているとし、「理解醸成だけで消費を維持していくのは限界がある」と指摘。消費拡大に向けたイベントなどの開催時期やコンセプトを、業界全体でそろえて行うことが必要と提案した。簗委員長は「生産現場が安心して営農できる環境の基となるのが需要拡大だ」と強調。出席議員からは、インバウンド(訪日外国人)向けに乳製品を使った土産を販売していくことや、おなかに優しいとされる牛乳「A2ミルク」をアピールしていく必要性を指摘する意見が出た。 <経済対策⁇> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16197355.html (朝日新聞社説 2025年4月19日) 経済対策の迷走 必要性の見極め怠るな 物価高やトランプ関税への「経済対策」として、消費税やガソリン税、所得税などの大型減税を求める声が与野党に広がっている。与党は国民全員に現金を配る案を取り下げたが、参院選を夏に控えて負担減のアピール競争は収まりそうにない。しかし政治がまずなすべきは、日本経済と国民生活への影響を冷静に見極めることだ。高関税で誰にどんな痛手が及ぶのか。物価高が長引くなか、対策は適切か。浮足立つことなく、必要な手立てを考えることが欠かせない。トランプ関税では、自動車など輸出産業への打撃の緩和と、雇用面の安全網といった優先度の高い対策への準備を急ぐ局面と言える。米国の方針は二転三転し、日米交渉も始まったばかりで影響は見通しにくいが、企業の資金繰り支援をはじめ、機敏に対処するものを絞り込みたい。与野党とも、関税問題にかこつけて家計支援策に前のめりだ。関税と物価高の話をないまぜにすべきではない。物価高では所得税の減税や低所得者への給付、ガソリン補助など、多くの対策がとられている。電気・ガス代補助も再開の方向だ。それでも政界では減税論が強まる。さらに家計支援が必要と言うなら、理由と財源を明確に説明する責任がある。方策の妥当性や財政への影響を考えることを怠れば、的外れなものが入り込み、無駄遣いは膨らむ。なにより、本当に困っている人に絞った支援策を最優先するのが筋だろう。所得制限のない大型減税や現金給付は本来、深刻な大不況や危機時に検討する異例の手法だ。いま必要かを考えるうえでは、まずトランプ関税の影響で日本経済がどれほど悪化するのか、慎重に見定めることが不可欠なはずだ。ところが、与党の給付案はこうした検討を素通りした。各報道機関の世論調査でも反対が多く、「選挙対策のバラマキ」と批判されて短期間でしぼんだ。一律の減税論も、同じそしりは免れない。大がかりな減税に踏み出すならば、何らかの支出を大きく削るか、将来世代にツケが回る国債の増発に頼らざるをえなくなる。膨大に積み上がった借金の利払い費の増加、過度な金利上昇やインフレのリスクに目を配る必要性も高まっている。政治家たちは厳しい現実に目をつむり、国の財布は便利な「打ち出の小づち」だとばかりに、人気取りに走っていないか。中長期的な視点で持続的な国のかじ取りを考える重責を忘れてはならない。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250419&ng=DGKKZO88156400Z10C25A4MM8000 (日経新聞 2025.4.19) 政府・自民、ガソリン価格10円下げ 電気・ガス補助は7~9月 政府・自民党は物価高対策として、ガソリン価格を1リットルあたり10円値下げする方針だ。5月中に措置を始める。電気・ガス料金の補助は7月から再開し、夏の電気代がかさむ9月までの3カ月間、家計への負担を減らす。与党の幹部が来週、石破茂首相に物価高対策を申し入れる。国民一律の現金給付と消費税減税の即時実施は求めない。政府は月内をめどに物価高への対応策をとりまとめる。ガソリンの値下げ幅は公明党の意向を踏まえて最終判断する。ガソリン価格は現在、補助金を入れて185円程度に抑えている。この補助金は原油の国際価格の下落を受け2024年12月から段階的に縮小している。足元の原油安と円高進行を反映して17日にはゼロになった。新たな措置として、定額の値下げによる抑制策を導入する。ガソリンの市場価格が185円を下回っても補助が適用されるため、今の補助制度よりガソリン価格が下がる可能性が高い。原油相場が高騰すると消費者負担が増すこともある。財源は1兆円ほど残高がある既存の基金を活用する。ガソリン価格の負担軽減を巡っては自公両党と国民民主党が4日、定額で引き下げる方針で合意していた。国民民主は補助金ではなく、ガソリン税の旧暫定税率の廃止を求めている。電気・ガス料金の補助額は5月をめどに決める。24年8~9月は家庭向け電気料金を1キロワット時あたり4円補助した。電気・ガス価格の値下がりが見込まれているため、今年は4円より少ない額で調整する。財源に7000億円ほどある予備費から確保する。政府は今国会での25年度補正予算案の編成を見送る公算が大きい。いまある財源を使い、迅速に対応できるエネルギー関連の補助を打ち出す。トランプ米政権の関税措置の日本経済への影響も見極める。必要であれば追加の負担軽減策も検討する。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250423&ng=DGKKZO88226100T20C25A4EA1000 (日経新聞 2025.4.23) エネルギー補助を選挙目当てに使うな 夏の参院選に向けた露骨なバラマキと言われても仕方あるまい。政府・与党が物価高への対応だとしてガソリンや電気・ガス代への補助を再開する。月内にとりまとめる経済対策に盛り込む。エネルギー補助は価格が上がれば需要が減るという市場原理をゆがめ、脱炭素の取り組みに逆行する。しかもいまは原油安や円高で価格が下落基調にある。合理性を欠く政策を集票目当てに乱用すべきではない。ガソリン補助金は原油価格が急騰した2022年1月から支給している。当初は3カ月間の期間限定と位置づけていたのに、ずるずると延長を繰り返してきた。現在は全国平均のガソリン価格を1リットル185円程度に抑えるよう調整している。トランプ米政権の高関税政策による世界経済の減速懸念などから原油安・円高が進み、直近では補助金が初めてゼロになった。にもかかわらず、今後は価格の目安をなくし、新たに同10円の定額補助を導入する。補助の期限に関しては、ガソリンに上乗せされる旧暫定税率の廃止に向けた与野党協議を踏まえて判断するとみられる。電気・ガス代の補助はロシアのウクライナ侵略に伴う燃料高騰への対応策として23年1月に始め、24年5月でいったん打ち切った。ところが岸田文雄前政権が朝令暮改で復活させ、先月末に終了したばかりだ。夏場の冷房代がかさむ7~9月に改めて再開する。一連の支出はすでに計約12.5兆円に膨らんでいる。政府は23年に、脱炭素投資の呼び水とするため10年間で20兆円のグリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債の発行を決めた。エネルギー補助はそれに迫る金額だ。エネルギー補助はあくまで燃料価格高騰の激変緩和措置だったはずで、長期化は本来の趣旨に反する。ウクライナ戦争で多くの国が補助を実施したが、先進国でいまも続けるのは日本くらいだ。脱炭素のアクセルとブレーキを同時に踏むような施策は、税金の浪費だけでなく、日本が温暖化対策に消極的だという誤ったメッセージを国内外に送りかねない。エネルギー補助が必要ならば、燃料費や夏の光熱費負担がとりわけ重い低所得世帯、零細企業に対象を絞るべきだ。貴重な財源を成長投資に振り向け、持続的な賃上げを後押しすることが、物価高対策の本筋である。 *2-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1451782 (佐賀新聞 2025/4/24) 「ガソリン・電気代補助」選挙目当てと言うほかない 石破茂首相は国民の苦しい生活実態ではなく、迫る参院選での票しか見ていないようだ。表明した物価高対策はタイミング、内容ともに的外れで、選挙目当てと言うほかない。首相率いる政府与党にこの国を任せていいのかどうか、有権者は来たる選挙で厳正な判断を下すべきだ。首相はガソリン価格の押し下げと電気・ガス代の補助を柱とする、新たな物価高対策を発表した。コメの値上がりに対処した政府備蓄米の追加放出などと合わせて、物価高への取り組み姿勢をアピールする狙いがある。柱の一つはガソリン価格の抑制策で、1リットル当たり10円値下げする仕組みを5月下旬から始める。これまでは設定した目標価格に抑えるよう補助を調整していたが、定額を下げるため現在より安くなる可能性がある。公共交通機関の充実した都市部と異なり、それ以外の地域では自動車に頼ることが多いため、ガソリンは安い方が好ましい事情は分かる。しかし足元では原油価格の値下がりと円高進行で、ガソリンの小売値は下落傾向にある。今月中旬には目標価格に収まったため、価格抑制の補助金支給がゼロになった。このような市場環境下では、ガソリン値下げの追加策に合理的な理由は見いだせない。原資には従来策の基金残高約1兆円を充てる。物価対策の目玉として2022年に始まったガソリン補助は、「出口」が見えないまま8兆円超の予算を投じてきた。補助策は恩恵が自動車の所有者に偏るだけでなく、かえってガソリン消費を促し、脱炭素社会に逆行する。むしろ、このような弊害のある政策に幕を下ろすタイミングは、価格が下がり始めた今しかなかろう。電気・ガス代の補助は7月から3カ月間実施する計画で、具体的な補助内容を今後詰める。冷房需要で電気代がかさむ時期に当たり、ガス料金と合わせたエネルギーコストの軽減を図る。暑さ対策にエアコンは不可欠であり、電気代支援はまだ理解できる。だが夏場は使用が減るガス代まで補助の対象にする必要があるのか。補助の財源を、25年度予算に盛り込まれた約7千億円の予備費から賄う点も問題だ。予備費は予期せぬ自然災害などに備えた資金であり、政府与党による「選挙対策費」のような使い方はふさわしくない。記録的なインフレが生活を襲って既に4年目。自民・公明の与党と政府が、その場しのぎで効果の乏しいばらまき政策を繰り返すのはなぜなのか。しかも足元は、低所得世帯への給付金など24年度補正予算や25年度予算に盛り込まれた経済政策が、動き出しているタイミングである。一つは、口先ばかりで国民の苦境に正面から向き合っていないからだ。でなければ今回のようなお粗末なコメ価格対策はなかったはずだ。もう一つは政府与党が「デフレ脱却」の看板を手放そうとせず、それを選挙向け財政出動の口実にしたいためだろう。日銀は金融緩和で足並みをそろえ、輸入コスト増になる円安を招いてきた。少子高齢化と人口減で内需に力強さの欠ける日本経済の基調と、過去のデフレは別のものだ。石破首相は時代遅れのその認識を改めない限り、国民の支持と共感は得難いと気づくべきだ。 *2-2-4:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250420-OYT1T50048/ (読売新聞 2025/4/20) 戸田市議を公選法違反容疑で逮捕、運動員に現金渡したか…防犯カメラ映像などから浮上 1月26日投開票の埼玉県戸田市議選で運動員2人に報酬を渡したとして、県警は20日、同市議の渡辺塁容疑者(46)(戸田市新曽)を公職選挙法違反(買収)容疑で逮捕した。発表によると、渡辺容疑者は1月30日、ビラ配りなどの選挙運動を手伝った見返りとして、JR戸田駅前で、2人に現金計3万5000円を手渡した疑い。防犯カメラの映像や陣営の聞き取りなどから、容疑が浮上した。調べに対し、「弁護士と話をするまで、話せない」などと話している。渡辺容疑者は市議選に無所属で出馬し、初当選していた。県警は20日夕、戸田市役所内の渡辺容疑者の議員控室を捜索した。 *2-2-5:https://mainichi.jp/articles/20250419/ddm/008/020/085000c (毎日新聞 2025/4/19) トランプショック、LNG参画、交渉切り札 日本政府、アラスカ開発巡り トランプ米政権の関税措置を巡る日米協議は、4月末にも次回閣僚協議が開かれ本格化する。日本政府が有力なカードとみるのが、米側が投資と購入を迫る米国産液化天然ガス(LNG)だ。2月の日米首脳会談で石破茂首相が輸入拡大方針を表明し、米側の態度軟化を期待する。ただトランプ大統領がこだわる米アラスカ州での大規模LNG開発案件への参画を巡っては官民に慎重な見方も根強く、「ディール(取引)」が成立するかは見通せない。 ●実現性で慎重論も 「選択肢が広がる。すばらしいことだ」。電気事業連合会の林欣吾会長(中部電力社長)は18日の定例記者会見で、政府の輸入拡大方針をこう評価した。米国産LNG価格は「ヘンリーハブ」と呼ばれる米国内の天然ガス指標価格に連動して決まる。原油価格の影響を受けやすい中東産LNGなどと比べて価格は安定的で「うまく併用すれば価格ヘッジにも使える」(中国電力の中川賢剛社長)という利点もある。トランプ氏にとってLNGの輸出拡大は重要政策の一つだ。大統領就任直後、バイデン前政権が凍結していたLNG新規輸出許可を再開する大統領令に署名。化石燃料の増産でエネルギー価格を引き下げると強調し、各国と交渉している。日本にも恩恵はある。2024年貿易統計によると、日本のLNG輸入量は6589万トン。このうち10%を占める米国はオーストラリア、マレーシアに次ぐ3位の輸入相手だ。ロシアによるウクライナ侵攻後、エネルギー安全保障の観点から調達先の多様化が急がれるなか、米国産の輸入拡大は「日米双方にウィンウィン」(経済官庁幹部)。カタールなど第三国への転売を禁じる産出国もあるが、米国産にはこうした制限はなく、購入分を柔軟に取引できる。ただし、アラスカLNG開発に対しては、その実現性を巡って懐疑的な見方が絶えない。アラスカ北部のガス田から南岸のLNGプラント予定地まで長さ約1300キロのパイプラインが必要で、総事業費は440億ドル(約6・3兆円)に上るとされる。数十年前から構想はありながらも巨額のコストがネックとなり事業は進んでおらず、政府内にも「トランプ政権のうちに完成するのか」(外務省幹部)と冷ややかな見方がある。三菱商事の中西勝也社長は、アラスカLNG開発への参画の可否を以前から検討中だとしたうえで「10年以上かかる案件だと思う。本当にフィージブル(実現可能)なのか慎重に評価している」と話す。購入価格は高水準になると見込まれており、日本ガス協会の内田高史会長(東京ガス会長)は「通常のLNG開発コストは半分以下」だと断言する。住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミストは「コストがさらに高くなる可能性もあり、採算が合わない」との見方を示す。課題は山積しているが、トランプ氏は日米首脳会談後の会見で「日本が記録的な数字のLNGの輸入を始める」と歓迎してみせ、「パイプラインの建設についても話し合った」と言明した。石破氏は「LNG採掘が成功裏に進展することを期待する」と応じるだけだったが、4月7日の参院決算委員会では「アラスカのLNGをどう考えるべきか、パッケージとして示していかねばならない」などと含みを持たせた。米側は攻勢を強める。関税交渉を担うベッセント財務長官は8日、米メディアのインタビューで、日本などがアラスカLNG開発への資金を拠出すれば「米国の雇用を生み出すだけでなく貿易赤字の縮小にもつながる」としたうえで、関税引き上げの「代替案になるかもしれない」と揺さぶりをかける。関税を取引材料にLNG開発への参画を迫る米側の圧力を前に、ある経済産業省幹部は「民間に『コストの高いガスを買え』とは言えない……」と頭を抱えた。 *2-3:https://www.sponichi.co.jp/society/news/2025/04/17/kiji/20250417s00042000041000c.html?nid=20250417s00042000295000c&ref=yahoo (Yahoo 2025年4月17日) 現金一律給付見送りへ 経済対策、補正提出せず 政権、ばらまき批判考慮 野党「迷走、統治 石破政権は、新たな経済対策を念頭に置いた2025年度補正予算案の今国会提出を見送る方針を固めた。これに伴い、参院選前の国民一律の現金給付も行わない方向となった。与党幹部が16日明らかにした。世論のばらまき批判を考慮し、当面は25年度予算などに盛り込んだ物価高対策の効果を見極める。与党で検討中の夏場の電気・ガス代補助やガソリン価格引き下げは、予備費など既存財源を活用する方針だ。一方、野党は補正を巡る政権の迷走ぶりを「統治不全」だと非難した。政府高官は16日、報道各社の世論調査で評価の低かった現金給付案について「世論に響かない対策を打っても意味がない」と否定的な考えを示した。公明党の岡本三成政調会長は記者会見で、党内で賛否が割れているとして「必ず必要だと政府に強く求める段階ではない」と述べた。24年度補正予算には、住民税が課税されない低所得世帯に3万円の給付金を配る施策が既に盛り込まれている。政権内では、大型の経済対策を打つために補正予算を検討する動きがあった。自民党の森山裕幹事長は13日に「補正で対応しなければならない」と明言した。だが、米政権の関税措置の影響が見通せず、さらに少数与党のため、提出しても野党との調整に時間がかかることが見込まれた。夏の参院選を控え、6月22日までの会期を延長することが難しいとの事情もあり、補正を見送る要因となった。現金給付とは別に減税の可否については物価動向を注視した上で、年末の税制改正大綱の策定に向けて与党内で議論を続ける見通しだ。立憲民主党の重徳和彦政調会長は会見で「石破茂首相の統率力の問題に由来している。政権のガバナンス(組織統治)が機能不全を起こしている」と批判。日本維新の会の前原誠司共同代表も党会合で「政権の混迷ぶりが現れた」と断じた。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250505&ng=DGKKZO88477960V00C25A5MM8000 (日経新聞 2025.5.5) 曲がる太陽電池、大都市に数値目標 政府要請へ 都「55万世帯分」構想 経済産業省は薄くて曲がる新型のペロブスカイト太陽電池について、近く東京、大阪、愛知、福岡の4都府県に導入目標の策定を要請する。平野の少ない日本で従来型の太陽光パネルの設置場所は限られる。東京都は2040年までに年間電力消費量で55万世帯分の設置目標を表明する。50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする政府目標の実現に向けては、太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電の導入拡大が求められる。太陽光では今後は都市部の高層ビルなど建造物への設置が有効だとみて、普及加速を後押しする。7日に開く経産省の官民協議会で大都市圏の東京、大阪など4都府県にギガワット級の導入目標の策定を要請する。具体策を盛り込んだロードマップの作成や設置補助金の創設といった取り組みも求める。高層ビルや大規模集客施設といった既存の建造物や、今後着工する施設への設置を促す。東京都は40年までに2ギガワット分の導入目標をまとめており、協議会で表明する。標準世帯で55万世帯分の年間電力消費量にあたる。公共施設に加え、商業ビルや空港、駅といった場所への導入をめざす。都で独自に補助金を設け、設置費用を支援する。日本発の技術であるペロブスカイトには薄くて曲げられるフィルムタイプや、ガラスに埋め込めるタイプといった複数の種類がある。建物の屋上や壁面、窓などに設置しやすく、広大な土地を確保しなくても大規模な導入を期待できる。実用化も日本勢がリードする。積水化学工業は25年度中に販売を始め、30年までに年100万キロワット級まで生産規模を拡大する。3100億円超のコストの半分を政府が補助する。パナソニックホールディングス(HD)は26年にも住宅建材と太陽電池を組み合わせた製品の試験販売を始める。経産省は40年までに国内で、標準家庭の550万世帯分の年間電力消費量にあたる20ギガワット(1ギガワット=100万キロワット)の設置を目標にかかげる。政府は2月に閣議決定した新たなエネルギー基本計画で、電源全体に占める太陽光の割合を足元の9.8%から、40年度に23~29%へ引き上げる方針を打ち出した。ペロブスカイトの導入目標策定は他の道府県への要請も検討する。普及が進めば、価格が低下し、個人による設置拡大にもつながるとみる。太陽光パネルは近年、適地が少なくなってきたことから設置が伸び悩んでいる。発電容量10キロワット以上のパネルの導入は茨城県や福島県、千葉県など広大な用地を確保しやすい自治体に集中する。24年9月時点で設置量が最も小さいのは東京都の15万キロワット分で、最大の茨城の407万キロワット分との差は大きい。 *2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16207903.html (朝日新聞 2025年5月6日) (電ゲン論)原発新増設へ、利益生む仕組みを 九州電力社長・池辺和弘さん 政府は原子力発電を「最大限活用」するとし、これまでの方針を転換しました。大手電力は原発の必要性を主張する一方、新増設に向けた具体的な動きはみられません。九州電力の池辺和弘社長は、投資には原発をより収益が上がる事業にしなければならないと言います。その理由と具体策を聞きました。電力需要の増加が見込まれる半導体工場やデータセンター(DC)は、安定的な電力供給が必要で、脱炭素も求められます。安定供給という意味では、やはり原子力しかない。必要なのは、具体的に新増設をどう進めていくかという議論です。新増設を考えた時に、ファイナンス(資金調達)がつかないのが一番怖い。私たちの事業は、地域独占でも、総括原価方式でもなくなりました。銀行がお金を貸してくれない、株主・投資家が許してくれないとなれば、原発はつくれません。彼らは利益率が低ければ、ほかの投資先を探します。いかに原子力がプロフィタブル(利益を生む)かを示し、納得させないといけません。投資を回収するためには、建設費を電気料金に上乗せする英国の「RABモデル」でもいいですが、民間の力を活用する仕組みがいい。事故などで発電所の運転が止まるリスクは全て電力会社が負っていますが、リスクをシェアする仕組みがほしい。例えば、DCなどと20年間供給する契約を結び、リスクも半分みてもらう。その分、安い料金で提供でき、私たちも利益を上げられます。米国では、再生可能エネルギーと原子力は、CO2(二酸化炭素)を出さない「カーボンフリー電源」として、ひとくくりという感覚になってきています。GAFAなど米テック大手でも、DCに原発から電気の供給を受ける動きが出てきました。日本も変わってくると思います。太陽光も風力も入れられるだけ入れたいのですが、電気はためにくいのが最大の弱点です。福岡県の発電所に蓄電池を置きましたが、30万キロワット時で200億円。日本全体で1日に使う電気が30億キロワット時くらいで、その分の蓄電池を買うと200兆円ほどかかります。再エネで全ての電力需要をまかなうのは、非現実的です。電気がこないとなれば、DCなどは中国や韓国に移り、若い人たちの働く場所がなくなってしまう。原発の建設には約20年かかります。将来の需要を考えると、いまがギリギリのタイミング。政府には投資が可能な制度をつくってもらい、私たちも(新増設を)早く決断したいです。(聞き手・松本真弥) * いけべ・かずひろ 1981年、九州電力に入社。取締役常務執行役員などを経て、2018年6月から代表取締役社長執行役員。今年6月には会長に就く。20年3月~24年3月には東京、中部、関西の3電力会社以外で初めて電気事業連合会の会長を務めた。 <教育> *3-1-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250225-OYT1T50162/ (読売新聞 2025/2/25) 高校無償化とは?…公立は授業料相当額・私立は一定額を支給、新年度から所得制限撤廃 Q 高校無償化とは。 A 高校生のいる世帯に対し、公立の場合は授業料相当額、私立の場合は一定額を支給して授業料負担を軽減する制度で、授業料全額が支給でまかなえれば実質的に無償化となる。民主党政権だった2010年に就学支援金制度が創設され、高校のほか、高等専門学校(高専)の1~3年や職業能力育成のための専修学校高等課程、特別支援学校高等部など、高校相当の学校も対象となっている。現行法では、高校生のいる年収910万円未満の世帯に、公立私立問わず年11万8800円が助成され、私立に通う低所得世帯には支援金が上乗せされている。東京都や大阪府などでは、独自に支援金をさらに上乗せしている。 Q 自民、公明両党と日本維新の会の合意内容が実現すると、制度はどう変わるのか。 A 25年度は、11万8800円の支給に対する所得制限が撤廃され、326万人の高校生(23年度現在)全員が対象となる。26年度からは、私立高生向けの上乗せについても所得制限が撤廃され、私立高授業料の全国平均額にあたる最大45万7000円を助成することになる。上乗せ支給の対象者は、高校生全体の約4割となる約130万人に上る見通しだ。 Q 追加で必要となる財源は。 A 25年度は1000億円程度が必要で、政府・与党は基金など一時的な財源を活用する方針だ。26年度以降は年4000億円程度が必要となる。 Q 課題は。 A 私立高向けの支援が拡充されることで、公立高離れの加速や、私立高の授業料の便乗値上げを懸念する声がある。子育て世帯の負担軽減に効果がある一方、高所得世帯も支援対象とすることへの疑問や、どこまで教育の質の向上につながるかが不透明だといった指摘もある。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250324&ng=DGKKZO87537320T20C25A3PE8000 (日経新聞 2025.3.24) 高校無償化の効果疑問視 本社世論調査、「教育の質高まらず」66% 国会論戦「評価せず」6割 日本経済新聞社とテレビ東京は21~23日の世論調査で、自民党、公明党、日本維新の会が合意した所得制限なしで高校の授業料を無償化する方針に関してもたずねた。無償化により教育の質が「高まると思う」と答えた人が24%で「高まるとは思わない」が66%だった。衆院で少数与党の自公は維新が求める高校無償化などと引き換えに2025年度予算案への維新の賛成を取り付けた。「教育の質が高まると思う」の回答を支持政党別にみると、自民党支持層と維新支持層ともに3割弱、無党派層は2割だった。維新支持層も7割弱が「高まるとは思わない」と答えた。与野党の論戦をはじめとする国会活動への評価を聞いた。「評価しない」が62%となり「評価する」(29%)を上回った。「評価しない」は2月の前回調査から8ポイント上昇した。自民党支持層は「評価しない」が60%で「評価する」(35%)を上回った。立憲民主党の支持層は「評価する」が43%とやや比率が高くなった。政府・与党が今国会での提出を目指す基礎年金の支給額を底上げするため厚生年金を減額する内容を含む年金制度改革法案について聞いた。基礎年金底上げの方針に賛成が31%、反対が52%だった。世代別でみると60歳以上で反対が6割を超えた。18~39歳の反対は4割だった。年金法案を巡り、自民党内で夏の参院選を控え国会提出に慎重論が広がる。自民党支持層は賛成、反対とも4割で、反対が少し多かった。医療費の支払いを一定に抑える高額療養費制度を巡り、石破茂首相は患者負担の上限額の引き上げを見送った。見送りを「妥当」とした回答は66%で、「妥当ではない」は26%だった。すべての世代で6~7割前後が見送りを「妥当」と答えた。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250324&ng=DGKKZO87533090T20C25A3CK8000 (日経新聞 2025.3.24) これからの義務教育 9年間の「出口」保障を、小松郁夫・関西国際大客員教授 学習指導要領の改訂論議が始まった。義務教育のカリキュラムを根本から考え直す時だ。小松郁夫・関西国際大客員教授(国立教育政策研究所名誉所員)は各地に広がる義務教育学校の学びにヒントがあると指摘する。まもなく新年度が始まり全国各地の小学校が新1年生を迎える。入学後の9年間で、どんな生活と義務教育の学びを体験するのだろうか。義務教育として行われる普通教育の目的は、教育基本法第5条で「各個人の児童生徒の有する能力を伸ばしつつ社会で自立的に生きる基礎」を培うことと「国家及び社会の形成者として必要な基本的な資質を養うこと」の2点にある旨が規定されている。最近の義務教育改革では小学校6年間と中学校3年間の分断を解消し、9年間を連携・一貫して質を保障する「義務教育学校」の創設が示唆に富んでいる。学校教育制度の多様化、弾力化を推進するため、学校教育法の改正により2016年に新設された制度で、初等教育と前期中等教育までの義務教育を一貫して行う。前期課程(小学校に相当)6年と後期課程(中学校に相当)3年からなる小中一貫校であり、全体の9年間を一体化して4・3・2や5.4といった教育課程上の新しい段階を設定するなど、特色ある教育活動を展開している。国語であれば9年間で体系的、発展的に育てたい資質・能力を柔軟に構想するのと、各学年の学習内容を細かく定め、学年別の配当漢字を示すといった配慮をするのとでは授業計画に違いが出てくる。児童生徒により適切に対応するには、義務教育の9年間で柔軟な指導計画を立案することが今後目指すべき方向性だと思う。算数と数学、図画工作と美術のように小学校と中学校で教科名が違うのも、今日では違和感がある。それぞれ後者に統一し、美術なら中学校の美術教員が一貫して計画し、指導する方がより質の高い学習成果が期待できる。小学校でも高学年に入ると学習内容が徐々に高度になる。担任ではなくその教科・科目を専門とする教員が教える教科担任制を5年生くらいから大胆に導入し、教科の特性に応じた指導に挑戦すべきだろう。たとえば、中学校レベルの設備のある専用の教室で、専科の教員が中学以降の学びを視野に入れながら小学校高学年の理科の実験指導をした方が学ぶ喜びを実感しやすく、さらなる学びへと発展するのではないか。より質の高い義務教育を保障するシステムの実現にもつながりうる。子どもによっては特別なニーズへの配慮も求められる。義務教育の9年間、丁寧で一貫した方針の下で子どもに関わることで、本人と保護者が安心できる学習環境を保障できる。かつて教育界では「七・五・三」と称し、すべての子どもに個別最適な学びが保障できず、義務教育9年を終了する時点で5割程度(小学校卒業時で7割、高校卒業時には3割)しか十分な学びを得ていないのではないか、という反省を語ることがあった。社会で自立的に生きるための基礎的な資質・能力を保障するには、出口の中3終了時点での姿を想定して各自の学びのキャリアを設計することが大切だ。私が学校改革にかかわってきた京都市左京区にある市立大原小中学校(通称・京都大原学院)は09年4月に小中一貫校になり、18年に義務教育学校として新しいスタートを切った。前期(小1~4)、中期(小5~中1)、後期(中2~3)という教育課程上のブロック(区分)を新たに設定。義務教育終了までに学ぶべきこと、身につけるべきこと、生き方などについて育てたい児童生徒像を保護者、地域住民と学校が一緒に考え、子どもに向き合いながら検討してきた。義務教育9年間の出口は地元の大原で活躍し、京都の輝かしい歴史と伝統、進取の精神を受け継ぎ日本をリードする若者の姿だ。「大人になる科」と呼ぶ探究的学習のまとめとして9年生(中3)が発表する「大原提言」は、義務教育の卒業論文のようなものである。生活と学びが密接に関連している義務教育では地域から・地域で・地域を「学ぶ」ことも重要だ。地域に開かれた教育課程を編成し、地域と共に学ぶ義務教育の創造が期待される。私は日英の比較教育研究をしてきて、英国(スコットランドを除く)のGCSE(中等教育修了一般資格)制度に興味を持った。義務教育終了の16歳で受ける科目ごとの全国統一試験である。この制度の長所は義務教育終了時での出口管理がしっかりしていることだ。日本にこうした制度はなく、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)も中3の4月に実施される。これでは義務教育の学習に関する確認の評価としては活用できない。日本の卒業証書はなんの公的証明にもなっていない。義務教育学校の運営状況は都市部と児童生徒が減っている地域では様相が異なる。だが、9年後どのように成長しているかのゴールを意識し、小中学校の教員が協働して学校改革を熟議している点は共通する。未来の理想像から逆算して今やるべきことを考えるバックキャスティングの思考である。小中の教員が互いの学校文化や指導観の違いを見直し、義務教育はどうあるべきかを協働して考え、地域や保護者とも連携して各地域社会の良さや特色を次世代につなげていくことは、少子化などで悩む多くの地域に新たな希望をもたらすのではないか。「義務」の保障は子どもにとっての資質・能力向上の義務と権利であるとともに、国家・社会の形成者としての義務であるという二面性を持つ。さらにいえば生存権に関わる「学習権」の保障であり、国家・社会の責務である。義務教育は、その後に生きる学びのコンパス(羅針盤)にあたる。次の教育改革では子どもを主語とした新しい義務教育の学びと、それを保障する学校のあり方を再考しなくてはならない。 *3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16199727.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2025年4月23日) あえぐ地方大、探る活路 県唯一の法学部、単科大募集停止 急速な少子化で、特に学生確保が難しい地方大学が岐路に立っている。政府は、事態が深刻な大学には円滑な撤退・縮小を促しつつ、地域連携の強化で必要な高等教育機関の確保もめざす。地方大学の活路はどこに。 ■「県外に出る若者、増えるのでは」 「大学のない街にしたくはない」。「学ぶ機会をなくしてしまっていいのか」。昨年3月。高岡法科大(富山県高岡市)の運営法人の理事会は、3時間以上に及んだ。終盤、理事たちは理事長が提案した「2025年度以降の学生募集停止」に声をあげた。見守った根田正樹学長は、やりきれぬ思いとともに「いかんともしがたい」と感じていた。1989年に、北信越では初めて法学部を備えた4年制の私大として開学した。国公立を合わせても法学部は富山県内で唯一。法律知識を備えた「地域社会に貢献する人材の養成」を掲げた。初年度は定員200人に対し570人が入学。しかし99年度以降、入学定員を満たすことはなかった。なぜ定員割れから抜け出せなかったのか。富山県内の18歳人口は約8900人(24年)で、20年間で約25%減ったが、減少率は全国平均と大きく変わらなかった。一方、学校基本統計に基づく算出などで大学進学率をみると、富山は50・4%(24年度)。20年間で約11ポイント上がったが、約16ポイント上昇の全国平均ほど伸びなかった。その結果、大学進学者数は富山は20年間で4%減り、4%増えた全国平均とは違う傾向だった。国立教育政策研究所は、全国の数値は進学率が比較的高い大都市圏の影響が強く表れており、所得水準や大学数の地域差が背景にあるとする。ただ文部科学省は、全国でも26年ごろをピークに大学進学者が減少局面に入るとみる。中央教育審議会(文科相の諮問機関)の2月の答申では「中間的な規模の大学が1年間で90校程度、減少する規模」とされた。「大学がなくなったら県外に出てしまう若者が増えるのでは」。地元出身で同大に通う飯野圭吾さん(21)は話す。同大の約35年間の卒業生は4770人。6割が県内企業に就職か県内在住だ。根田学長は「地域の人材育成を担う大学として十分な役割を果たしてきた」と話す。18年の就任以降、学生募集のため、中学や高校で法律や選挙の出前講座をしたが効果は限られた。学部新設の構想も持ち上がったが、定員割れの中、身の丈に合わないと白紙に。対照的に、隣県の金沢市内の大学では文理融合型や「情報」系の学部新設が相次ぎ、コロナ禍の収束とともに県外進学も再び増えた。就職支援で県内大学と自治体・企業の連携組織はあったが、県の担当者は高岡法科大との関係について「私立大に行政がどう関わるのかは難しい」とも語った。県内に大学・短大は六つ。24年度は国立の富山大と富山県立大だけが入学定員をクリアし、私立の入学定員充足率は、高岡法科大が最低で37%だが、他も7~8割台だ。昨年4月に高岡法科大が募集停止を発表すると、県は昨夏、効果的な学生募集の方法などを検討する会議を県内大学と開催した。根田学長は「動き出すのが遅すぎた」と悔やむ。「地方大学は生活インフラを支えるもの。なくなることは、地方社会全体が機能しなくなり、いずれは崩壊することを意味するのではないか」 ■私大6割定員割れ、撤退支援も浮上 少子化が進む中、大学をめぐる状況や国の施策はどう変わったのか。18歳人口は約106万人(2024年)で、1990年代前半より半減した。ただ、この間、大学進学率は約32ポイント上がったため、大学入学者は近年、過去最多水準の63万人前後で推移している。一方で大学は、24年は813校で92年の約1・5倍。少子化が予測される中でも、政府は03年、従来の大学設置認可の抑制方針を撤廃した。ただ、私大の約6割は定員割れ。地方は特に厳しく、3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92・4%にとどまり、70%台の地域もある。大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないように、文科省は、入学者数が定員を大幅超過した私大への私学助成を減らしたり、東京23区内の大学(学部)の収容定員を10年間原則据え置きとしたりした。一時改善は見られたが、地方大学の定員割れは更に進んでいる。近く、大学入学者数は減少局面に入る。40年の見込みは約46万人。入学定員充足率は群馬や沖縄が80%超の一方、地方の一部は60%未満とも推計される。中央教育審議会は答申で、深刻な定員割れや経営悪化の大学が撤退・縮小しやすい支援を提言。地方大学には地域ニーズに合う人材輩出の役割を示し、自治体や企業との連携強化の必要性を指摘した。文科省は地方大学振興の部署を新設。地域人材育成の観点で、私学助成の配分方法見直しも進めている。 ■自治体は 県立高を付属校に/連携し経営者学校 地元の大学をどう位置づけ、連携するか。自治体によって対応は違う。宮崎国際大(宮崎市)は1994年開学で入学定員150人。授業を英語で行う国際教養学部は英語教員を、教育学部は小学校・幼稚園の教員や保育士を毎年数十人、送り出す。同じ敷地にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出してきた。それでも定員割れとなるのは珍しくない。大学・短大の村上昇前学長=3月に退任=は「県外からの学生確保は難しい」と話した。一方、宮崎県保育連盟連合会によると、地域や施設によっては保育士が足りないという。もし今後、2校が縮小・撤退すれば「保育士を確保できず定員を減らす園が出る」と連合会担当者は影響を心配する。ただ、宮崎県の総合計画(23年)で大学関係の指標は「県内大学等新卒者の県内就職割合」の引き上げのみだ。保育士確保に向けた指標も見当たらない。県の産業政策担当者は「大学認可は国。県が大学経営に直接関わる取り組みは難しい」。一方、国は、地方大学と地元自治体の連携を強める考えだ。中教審は2月、高等教育振興を担当する部署の設置▽大学・産業界を交えた地域人材の育成に関する議論――などを自治体に求める答申を示した。自治体主導で大学振興を図る例はある。鉄鋼や化学などの工場が多い山口県には、三つの国立高専と工業系学科を持つ18の高校がある。「待遇の良い大企業の工場に就職できる。大学進学率がなかなか上がらない」と山口県立大(山口市)の田中マキ子学長。県の大学進学率は43%(24年)と全国で3番目に低く、県外への進学者も多い。県内の大学10校の学生は県内高校出身が29%。大卒者の県内就職率も27%にとどまる。県はまず、県立周防大島高校を26年度に県立大の付属高校にする。田中学長は「県東部からの進学者を増やし、地元のリーダーとなる人材を高大7年で育成したい」。また、県の総合戦略(24年)には若者の定着に向けた施策や目標が並ぶ。大学や企業が連携した課題解決型学習は「23~27年度に累計330件」が目標だ。就職先に考える契機に、との期待がある。大学などでのデータサイエンス教育の強化も盛り込んだ。担当者は「デジタル人材を育成してほしい」と望む。33万人の人口が60年に23万人に減ると推計される前橋市も悩みは若者の流出。18年時点で地元大学に進む市内の高校生は13%、地元大学に進んだ市内出身者でも市内に就職したのは36%だった。市は、若者の地元進学や定着を目指す組織を設立。大学や商工会議所と経営者を育てるビジネススクールを催し、各大学の授業紹介動画を市内の中学・高校に配信する。入学定員約300人の共愛学園前橋国際大の大森昭生学長は「個々の大学の努力だけでは学生を確保できなくなった」と連携強化が重要だと訴える。「地域に欠かせない人材を養成していると訴えつつ、地元課題の解決にも積極的に取り組む必要がある」 ■<考論>大学は知の拠点、地域活性化の中心 両角亜希子・東大大学院教授(高等教育論) 高等教育機関は「高校生の進学先」だけではない。知の拠点であり、様々な人をつなぐ役割もある。地域の成長や活性化の中心になりえる。大学が撤退すると、こうしたネットワークを失うことが地域にとって一番の損失になる。若者が消えれば活気がなくなり、労働力が減る。ただ、中教審の答申には、どんな地方大学も生き延びさせるべきだとは書いていない。良質な教育を進め、地元が求める人材を育てて社会貢献する必要がある。学生も教職員も少なく、学べる分野が限られる大学が多い。他の大学と単位互換や事務の共通化などで協力すべきだ。自治体との連携も重要だ。積極的に動かない自治体もある。大学から働きかけた方がよい。自治体や企業が連携相手として見極めやすい仕組みも要る。学生を成長させる教育をする大学かどうか。わかりやすい情報公開の仕組みを国が整えることが重要になる。 *3-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1450373 (佐賀新聞 2025/4/22) 日本人89万人減 外国人増は解決にならない 総務省が2024年10月1日時点の人口推計を公表した。日本人は前年同月比89万8千人減の1億2029万6千人で、過去最大の落ち込み幅だった。外国人を含む総人口は55万人減の1億2380万2千人。少子高齢化で進む日本人の人口減少を、外国人の増加で補う構図が鮮明になった。24年の日本人の出生数は、過去最少を更新して初めて70万人を割る可能性が高い。政府は「次元の異なる少子化対策」に取り組むが、効果が上がるまでには長期間を要する。事態は深刻の度を増し続けている。その中で、日本に3カ月を超えて滞在する外国人は過去最多の350万6千人で総人口の2・8%まで増えた。これが70年には10%に達すると国立社会保障・人口問題研究所は推計している。このままいけば、外国人は日本社会に欠かせない位置を占めるに違いない。是非論を超えて、建設的に共生の道を探っていくべきだろう。一方、人口減少の影響が一層深刻な地方では、地域経済、コミュニティーの維持に既に困難が生じている。とはいえ、このまま外国人の受け入れ拡大に安易に活路を見いだそうとしても、すぐには十分な解決に結びつかないだろう。 まず「良き隣人」として地域社会に溶け込めるかという問題がある。そして外国人労働者の増加が地域の賃金水準を抑制する懸念がある。それが原因となり、日本人の若者も比較的に高賃金の都市部へ流出するのを促してしまう可能性がある。外国人との共生推進は、東京一極集中を是正する「地方創生」、子どもを産み育てやすい環境を整える少子化対策という政府の二大政策と関連性が強く、一体的に進める必要があるだろう。今回の推計では、全都道府県で人口が増えたのは東京、埼玉のみ。東京は外国人流入も手伝って3年連続で増えている。首都圏4都県には総人口の約30%が集中する。これが少子化進行にも大きく影響している。23年の日本の合計特殊出生率は過去最低の1・20で、中でも東京は最も低い0・99だった。少子化の原因は一般的に、若者世代の価値観変化や雇用・所得の不安定化に起因する非婚化、晩婚化の傾向にあるとされる。加えて、東京では地方より住宅費や教育費が高いため子どもを持つのをためらうケースが多いという。どうすれば一極集中に歯止めがかかるのか。東京は、進学や就職を機に多くの若者世代が地方から集まることが転入超過の要因となっている。特に若い女性が去って戻らないことが、地方の少子化に響いている。「若者や女性に選ばれる地方」を実現するには、思い切った税制優遇などで有望企業の本社機能や主力工場を誘致するなど、安定した仕事と所得を地方にもたらす具体策が引き続き求められる。これは都市部と地方、正社員と非正規労働者、そして男女間の所得格差是正と同時に進めたい。石破政権は最低賃金の全国加重平均を20年代に1500円に引き上げる目標を掲げた。ならば、地方の中小企業の人件費負担を支援しつつ、現在の都道府県別の最低賃金を欧州主要国のように全国一律に移行することも検討すべきではないか。所得格差が解消できれば、若い日本人も外国人労働者も地方に定着しやすくなると期待できる。 *3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250511&ng=DGKKZO88584530Q5A510C2EA5000 (日経新聞 2025.5.11) 外国人材、地方で争奪戦 浜松市・インド大が覚書 製造業、国内回帰で 大都市圏に近い自治体が、IT(情報技術)系エンジニアなど高度外国人材の確保を急いでいる。浜松市はインド理系最高峰の大学と覚書を交わし、神奈川県や栃木県は地元企業と人材のマッチングに取り組む。国内では製造業回帰が進んでいる。各地域は高度人材の定着で競争力を高め、生産拠点の誘致も狙う。浜松市は2024年12月、インド理系で最高峰とされるインド工科大ハイデラバード校と高度外国人材の誘致に関する覚書を交わした。25年度からはインドとの交流を加速させる。浜松市職員をインドにあるスズキ子会社に派遣し、同国のスタートアップと浜松市内の企業の交流を図る。山梨県もインドに目を向け、北部ウッタルプラデシュ(UP)州との関係を深める。24年末に長崎幸太郎知事がヨギ・アディティヤナートUP州首相と会談し、県内製造業での実習機会の創出を提案した。人材受け入れや交流を進めるため、日本語学習や医療保険制度の環境を整備する。自治体が相次ぎ高度外国人材獲得に乗り出す背景には、為替や世界貿易の不安定化を受けた国内への製造業回帰がある。「24年版ものづくり白書」によると、直近1年で国内事業所を新増設した製造事業者は回答者の51%に上った。海外に生産拠点を持つ事業者の34%は国内の生産機能を拡大すると答えた。製造業では、特にデジタル化における担い手が足りていない。厚生労働省がまとめた報告書は、人手不足が経済成長の制約となって深刻な影響を与えることが懸念されていると指摘する。直接的な補強策として期待されるのが、外国人材の確保だ。出入国在留管理庁によると、23年末の高度人材の在留者数は2万3958人と前年末比3割増えた。地元企業と外国人材のマッチングに取り組む自治体も増えている。神奈川県は4月に「外国人材活用支援ステーション」を設け、採用コストを支援する補助金制度も新設した。栃木県も4月、「外国人材受入支援センター」を発足させた。千葉県は24年度から外国人材向けの職場見学会や採用セミナーを始めている。京都府、京都市、京都大学は優秀な外国人材を呼び込もうと協定を結び、留学生の住宅支援などを検討する。外国人材に詳しいKPMGジャパンの濱田正章マネジャーは「安定雇用や安定収入、社内教育など日本の企業の就業環境に魅力を感じる高度外国人材は多い」と話す。 *3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250430&ng=DGKKZO88377700Q5A430C2EAF000 (日経新聞 2025.4.30) EU、米研究者の移住支援、トランプ政権下の「米国離れ」念頭 技術革新の好機に 欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は29日、トランプ米政権下で米国を離れようとする研究者を念頭に、欧州への移住を支援する政策を検討すると表明した。EU域内に呼び込み、技術革新の好機としたい考えを示した。EUの立法機関、欧州議会の最大政党である欧州人民党(EPP)の会合で演説した。「私たちの大学での議論は歓迎され、科学と研究の自由は尊重される。卓越性と技術革新が花開く土壌だからだ」と述べた。「Choose Europe(欧州を選んで)」と銘打ち、米国などの研究者がEU域内の大学や機関を選ぶよう新たな施策を欧州委員会が提案すると明かした。欧州メディアによると、博士課程の学生やポスドク(博士研究員)が欧州で研究するのをEU予算で資金支援する案がある。トランプ政権は多様性プログラムや反ユダヤ主義への対応を口実に、大学への介入姿勢を強める。研究機関では気候変動や宇宙、健康・医療分野などで予算の削減が進む。こうした環境に嫌気がさした研究者が海外に渡る事例が増え始めている。英科学誌ネイチャーは3月、米研究者1600人以上を対象に実施した調査で、トランプ政権を理由に「米国を離れることを検討している」と回答した割合が75%に上ったと発表した。若手の研究者に特に移動を検討する傾向があったという。カナダなどすでに在米の研究者を受け入れようと動く国が出てきた。優秀な研究者の招致をめざしてきた国や地域にとっては好機に映る。フォンデアライエン氏は演説で「欧州を再び技術革新の本拠地にする」と強調した。フランスも近く独自の施策を発表する予定だ。EUや加盟国による呼び込みが本格化すれば、米国からの頭脳流出に拍車がかかる可能性がある。 <高齢者いじめ> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1447151 (佐賀新聞 2025/4/16) 厚労省、基礎年金底上げ見送りへ、自民反発で法案から削除の方針 厚生労働省は16日、今国会への提出を目指す年金制度改革法案から、基礎年金(国民年金)を底上げする案を削除する方針を固めた。会社員らが入る厚生年金の積立金活用が夏の参院選で争点化する可能性があり、自民党内の懸念や反発を踏まえて見送る。17日の自民会合で示す。法案にはパートらの厚生年金加入拡大に伴う企業の保険料負担増なども含む。底上げ案を削除しても、自民には法案提出自体の参院選後への先送り論が根強く、意見の集約につながるかどうかは見通せない。複数の関係者が明らかにした。全ての国民が受け取る基礎年金の底上げは、給付水準を改善するため、財政が堅調な厚生年金の積立金を活用。厚労省は国民年金だけに加入する人や、就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として改革の柱に位置付けてきた。だが積立金の活用に伴い厚生年金の受給額が一時的に減るため、与野党から懸念や批判が出ている。自民の一部で「厚生年金からの流用だ」との批判も強く、厚労省は理解を得られないと判断した。底上げは今回の法案に規定しないものの、将来の底上げ実施を念頭に、積立金の活用に向けた措置を取る。具体的には、厚生年金の受給額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長し、2030年度まで続ける。一方、国民年金保険料の納付期間を現行の「60歳になるまでの40年」から5年間延長することを検討する規定を法案に盛り込む方向だ。自民幹部は15日、法案提出の是非に関する3度目の協議をしたが結論は出ず、党厚労部会などで議論することを確認した。年金制度改革 将来の推計人口や雇用・経済動向を踏まえ、おおむね5年に1度実施される年金制度の見直し。厚生労働省が公的年金の長期的な給付水準を試算し、年金財政の健全性を点検する「財政検証」の結果を参考にする。2024年の検証結果を踏まえ、厚労省は(1)基礎年金底上げ(2)厚生年金への加入拡大(3)働く高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」見直し(4)高所得の会社員らが支払う厚生年金保険料の上限引き上げ―などの改革が必要としていた。 *4-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250418&ng=DGKKZO88123760X10C25A4EP0000 (日経新聞 2025.4.18) 低年金対策、相次ぎ後退、厚労省、基礎年金底上げを削除 自民内で法案提出に異論 厚生労働省は17日、今国会への提出を目指す年金制度改革法案から基礎年金(国民年金)の底上げ策を削除する方針を示した。低年金対策は相次いで断念・修正に追い込まれた。自民党には参院選への影響を懸念して法案提出を見送るべきだとの意見も目立ち、党執行部は意見集約を急ぐ。自民党が17日に開いた厚生労働部会などの合同会議に修正案を示した。基礎年金は財政が厳しく、将来の給付水準は3割目減りする。厚労省は厚生年金を減額して財源をつくり追加の国庫負担も投入して、将来の基礎年金を何もしない場合より3割底上げする改革を検討してきた。制度上、厚生年金の減額が先行するうえ、国庫負担の財源も探す必要がある。自民党内で反対論が拡大し削除に追い込まれた。今回の年金改革の柱だった低年金対策は後退が相次いでいる。厚労省は基礎年金保険料の納付期間を5年延ばすことを検討していた。年金額が年10万円増える一方で、保険料負担が計100万円増えることへの国民の反発が強く、2024年7月に早々に断念した。パート労働者の厚生年金への加入拡大も後退した。加入すると基礎年金に加えて厚生年金を受け取れる。基礎年金の財政も改善する。保険料を半分負担する事業主への配慮を求める声が自民党内で強く、拡大完了の時期を29年から35年まで先送りした。もともと基礎年金の受給額は25年度の満額で月6.9万円だ。これだけで老後を暮らすのは厳しい。今後水準が下がり続ければますます困窮する人が増え、生活保護を受け取る人が増えるリスクがある。低年金対策が遅れるほど状況は深刻になる。厚労省は年金改革の修正を重ねてきたものの、参院選を控えて今国会への法案提出に反対する声は消えない。自民党参院議員の佐藤正久幹事長代理は17日の会議後、法案提出について「国民とのキャッチボールをやって(参院選後の)臨時国会に出すというのもありだ」と記者団に述べた。別の参院議員は「この政治状況で提出するのは厳しい」と指摘した。年金改革を推進する厚労族の一人も「提出できないだろう」と語った。年金は自民党にとって鬼門のテーマだ。旧社会保険庁の年金記録問題は「消えた年金」と批判された。自民党は07年の参院選で大敗し09年の政権交代につながった。厚労省は高所得者の厚生年金保険料の引き上げなどは法案に残す方針だ。負担増につながる項目で法案から追加で削除を迫られる可能性がある。法案の反対派に配慮して内容が後退すれば、今度は年金改革の推進派が反発する公算が大きい。厚労省幹部は「年金改革はゼロサムゲームだ」と話す。恩恵を受ける人がいる一方で、必ず誰かの負担が増えたり給付が減ったりする。政府・与党が正面から改革の必要性を訴える姿勢を欠いた面は否めない。低年金対策が進まないなかでは、自力で備えを進めることも欠かせない。まずは長く働くことだ。給与収入を得られるのに加えて、69歳まで厚生年金保険料も納めれば月々の年金額も増やせる。次に年金の受け取り開始を遅らせる方法がある。1年遅くすると、月々の年金額は8.4%増える。給与や蓄えだけでしばらくしのげるなら「長生きリスク」への耐性は高まる。少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)で手持ちの資産を増やすことも考えられる。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250418&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO88123760X10C25A4EP0000&ng=DGKKZO88123800X10C25A4EP0000&ue=DEP0000 (日経新聞 2025.4.18) これでは高齢化に克てない 与党は将来の国民生活を守る政治の責任をどう考えているのか。目先の選挙対策を優先し、有権者が反発しそうな改革を遠ざけてしまう。こんな逃げの姿勢では、少子高齢化に克(か)つのは到底不可能だ。現状を放置すると、公的年金の1階部分である基礎年金の給付水準は最終的に3割も下がる。その影響を最も強く受けるのは就職氷河期世代だ。近年は人手不足で正社員が増えたが、年金の受取額は過去に納めた保険料の累積で決まる。事業主負担がある厚生年金が適用されず、低収入の非正規雇用に長く置かれた人は報酬比例の2階部分が薄くなり、基礎年金への依存度が高くなる。その基礎年金が3割も下がれば、生活保護との逆転が強まり、保護を申請する人が急増しかねない。政治はそれをよしとするのだろうか。基礎年金がこんな事態になった原因は、2004年改正で導入した世代間調整の失敗にある。足元の給付を抑えることで将来の年金水準を確保する予定だったが、デフレへの想定が甘く、足元の給付水準は逆に上昇した。厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)でみると、給付水準(所得代替率)を04年の59.3%から23年までに50.2%へと下げるべきところ、実際は24年に61.2%まで上がった。このツケは将来世代に回り、とりわけ氷河期世代が年金生活に入る40年以降の基礎年金に影響が集中する。今の引退世代に年金を払いすぎていることが問題の根本原因なので、これを是正するのが対策の本筋だ。なのに与党議員にはこれを国民に訴える覚悟と自信がなく、夏の参院選を前に白旗を揚げてしまった。「年金を政争の具にするな」。国会で年金改正案が審議されるたびに政権が訴えてきた言葉だ。ところが少数与党の自民は政争の具になることを防ぎたいがために、改革そのものから逃げてしまった。こんなことでは年金の未来が心配だ。 *4-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250419&ng=DGKKZO88155790Z10C25A4EA1000 (日経新聞社説 2025.4.19) 年金改革から逃げる政治は無責任だ 夏の参院選を意識した自民党議員の反対によって、政府の年金制度改正案が大幅な骨抜きを余儀なくされている。政治がこんな逃げ腰では、日本はこの先の少子高齢化を乗り越えられない。少子高齢化が進む局面で年金の持続性を保つには、世代間で痛みを分かち合う給付調整が避けて通れない。複雑な制度の課題を国民に説明し、改革への協力を求めるのが国会議員の役割のはずだが、今の与野党議員はそれを放棄していると言わざるを得ない。全国民共通の1階部分である基礎年金が目減りする問題は年金制度が抱える最大の課題だ。財政悪化によって最終的な給付水準が今より3割も低下してしまう。だが石破茂政権が対策の本命と位置づけた厚生年金の積立金を活用する案に、自民党議員の一部は強く反対してきた。厚生年金の給付水準が一時的に低下するため、影響を受ける国民から反発を受けることを恐れたのだ。厚生労働省は自民側の指摘を踏まえた修正案を何度か示したが、反対論は収まらない。他の制度改正を進めるために基礎年金の改革を断念し、関連項目を削除した改正案を17日に示した。日経新聞社説 2025.4.19礎年金の財政が悪化したのは、2004年の改革で少子高齢化対策として導入した世代間調整の仕組みが機能しなかったためだ。当時の想定では足元の年金を19年間抑制することで、それ以降の年金を確保する計画だった。ところがデフレへの想定が甘く、この間の給付水準は逆に上昇した。厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)でみると、給付水準(所得代替率)を04年の59.3%から23年までに50.2%へと下げるべきところ、実際には24年に61.2%まで上がってしまった。過剰給付のツケは将来世代に回り、とりわけ就職氷河期世代が年金生活に入る40年以降の基礎年金に影響が集中する。不安定な雇用が長く続いた氷河期世代は基礎年金への依存度が高く、このままだと生活保護を申請する人が相次ぐ懸念がある。政治がこの状況を放置するのはあまりに無責任だ。少数与党の国会では野党の責任も重大だが、立憲民主党などは政府に法案提出を迫るだけで、改革案に関する自公からの事前協議の呼びかけに応じていない。今が良ければいいという姿勢では年金は持続しない。国民生活を守る政治の責任を自覚すべきだ。 *4-2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250426&ng=DGKKZO88313090V20C25A4EA3000 (日経新聞 2025.4.26) 氷河期世代支援 3本柱 就労・社会参加・高齢期の備え 6月メドにとりまとめ 政府は25日、首相官邸で就職氷河期世代の支援に向けた関係閣僚会議の初会合を開いた。石破茂首相は就労・処遇の改善、社会参加、高齢期への備えの3つを柱に据え、閣僚に支援策の拡充を指示した。6月をめどに対策をとりまとめ、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込む。会議の議長は首相が務める。首相は重点政策としてリスキリング(学び直し)の支援や農業・建設業・物流業の分野における就労拡大を求めた。公務員や教員の積極的な採用も挙げた。資産形成や住宅確保の強化にも言及した。就職氷河期世代は一般的に1973~82年ごろに生まれた世代をさす。就職時期に金融危機などの影響で企業の新卒採用が少なかった。希望の職につけず非正規雇用の期間が長くなる傾向があった。首相は「今もなお様々な困難を抱えておられる方々が大勢いらっしゃる。ニーズに応じた適切かつ効果的な支援は待ったなしの課題だ」と述べた。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250424&ng=DGKKZO88251770U5A420C2EA2000 (日経新聞 2025.4.24) 賃金上昇、医療費に消える 大企業健保料率が最高の9.34%、消費拡大に向かわず 健康保険組合連合会(健保連)が23日に発表した2025年度予算の早期集計で、大企業の従業員らが入る健康保険組合の平均保険料率は過去最高になった。高齢者医療への拠出が膨らんだのが要因だ。給付と負担のバランスを見直さなければ、賃上げが進んでも現役世代の消費拡大はおぼつかない。およそ1400ある健保組合の平均保険料率は9.34%で、24年度予算比で0.03ポイント上昇する。赤字の健保組合は全体の76%にあたる1043組合にのぼる。支出増の要因の一つは高齢者の医療費への拠出だ。75歳以上が全員入る後期高齢者医療制度は、後期高齢者自身の保険料が約1割、税金が約5割、現役世代の支援金がおよそ4割を賄う。65~74歳の前期高齢者も、勤め先を退職して自営業者らが中心の国民健康保険(国保)に入る場合が多いことから、健保組合などが納付金を支出して国保を支える制度がある。25年に団塊の世代が全員75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増える。経常支出のうち加入者の医療費の支払いに充てる保険給付費は5割にとどまり、高齢者拠出金が4割を占める。健保連の佐野雅宏会長代理は23日の記者会見で「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』の割合が高い傾向がずっと続いている」と説明した。高齢者拠出金は25年度の3兆8933億円から27年度は4兆円に達する可能性がある。「若い人がなかなか消費に向かわない。社会保険料は右肩上がりで増えており、世代による分断や格差を避けて公正・公平な社会保障にしないといけない」。経団連の十倉雅和会長は24年12月にこう語り、税と社会保障の一体改革が必要だと訴えた。厚生年金の保険料率は17年9月に18.3%で固定した。現役世代の負担を抑えるには医療・介護の歳出改革が欠かせない。財務省によると、医療・介護の保険給付費は12~23年度に年2.9%のペースで伸びた。この間の雇用者報酬の伸びは年1.8%にとどまる。給付費の伸びに届かない部分は、保険料率の引き上げで穴埋めしてきた。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は23日に開いた分科会で「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」と訴えた。医療費の増加要因のうち、高齢化などの人口要因は半分ほどに過ぎない。ほかは新規医薬品の保険適用や医師数・医療機関の増加、診療報酬改定などの影響という。保険料負担を抑えるには、これらの改革が急務となる。現役世代の負担抑制策はかねてから議論されてきた。現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象拡大、市販薬と効果やリスクが似る「OTC類似薬」の保険適用からの除外などだ。一方で日本医師会の松本吉郎会長は23日の記者会見で「賃金上昇と物価高騰、医療の技術革新への対応には十分な原資が必要だ」と述べ、診療報酬の引き上げを要求した。25年の春季労使交渉の賃上げ率は2年連続で5%台の高水準になる見通しだが、同時に社会保険料も上がれば効果は薄れる。賃上げが消費拡大に結びつかなければ企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない。26年度は診療報酬改定の年にあたる。年末にかけた予算編成プロセスの中で、どれだけ医療の効率化を進められるかが問われる。 *4-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1460565 (佐賀新聞 2025/5/9) 24年度消費支出0・1%減、物価高で節約志向根強く 総務省が9日発表した2024年度の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの月平均消費支出は30万4178円となり、物価変動の影響を除く実質で前年度比0・1%の減少だった。マイナスは2年連続。食品などを中心に長引く物価高で、消費者の節約志向が根強かった。認証不正問題に伴う自動車大手の出荷停止も響いた。24年度の家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28・3%で、総務省によると1981年度以来、43年ぶりの高水準となった。所得の伸びが食品価格の高騰に追い付かず、家計を圧迫する構図となっている。消費支出を項目別にみると「食料」が1・0%減。野菜や肉類、乳製品など幅広い分野で値上げが相次ぎ、支出を減らす動きが広がった。「交通・通信」は2・6%減で、一時の出荷停止を受け自動車の購入が低調だった。一方で外食は4・0%増だった。同時に発表した3月の消費支出は33万9232円で、前年同月比2・1%増だった。プラスは2カ月ぶり。2月が全国的に寒さが厳しかった影響で、電気代を含む「光熱・水道」が7・2%増となった。大学の授業料値上げなどの影響で「教育」も24・2%増と大きく伸びた。ただ食料への支出は0・7%減と6カ月連続で減った。多分野で進む物価高騰を前に、消費者がめりはりを付けた慎重な購買活動を心がけていることがうかがえる。 *4-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16215205.html (朝日新聞 2025年5月17日) 物価高、さえぬ個人消費 GDP、1年ぶりマイナス成長 1~3月期の国内総生産(GDP)が1年ぶりにマイナス成長となった。4月以降、トランプ関税の影響が本格的に出てくる懸念もあるなかで、それを乗り越えられる基礎体力があるのか、心もとない状況だ。1~3月期のGDPでは、肝心の個人消費がさえなかった。その原因とされるのが、賃金上昇を上回る物価高の継続だ。消費者物価の総合指数は、昨年末ごろから伸びを高め、今年1~3月は3%前後で推移。キャベツなどの生鮮食品が値上がりし、コメが前年の倍近いという異例の高騰が続く。内閣府が公表している消費者態度指数は昨年12月からじりじりと低下。4月はトランプ関税の影響も加わってか、さらに大きく落ち込んだ。では、米国の関税措置の影響は、どのくらい及ぶのか。日本銀行が今月初めに出した「経済・物価情勢の展望」では、今年度の実質成長率見通しが、1月時点の1・1%から0・5%に下ぶれした。民間の見通しも同様の下方修正が相次ぐ。第一生命経済研究所の新家義貴氏は「もともと内需が弱いところに、関税引き上げの悪影響が顕在化することで、景気の停滞感は一段と強まる。場合によっては景気後退局面入りの可能性も否定できない」と話す。 ■最高益でも、関税の影響これから マイナス成長は一時的なものにとどまるのか。トランプ関税の影響が読み切れず、企業は先行きに不安を抱えている。SMBC日興証券の集計では、東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は、純利益の総額が4年連続で過去最高になりそうだ。ただ、1~3月期に限ると、円高の影響などで24年10~12月期より3割以上減った。1~3月期の決算が減収減益だった半導体大手ルネサスエレクトロニクスでは、自動車や産業機器向けの半導体市況の回復の遅れなどから、販売が伸びなかったという。トランプ関税の影響が本格化する今年度は、さらに不透明感が増す。ソニーグループは26年3月期の営業利益について、関税の影響を織り込むと、ゲームや半導体事業などの利益が1千億円下押しされると見込む。十時裕樹社長は5月14日の決算会見で「景況感はある程度、時間差で起きるので注視したい」と話す。明治ホールディングスの川村和夫社長は9日の会見で、「せっかく日本もデフレ脱却して新しい経済の成長路線に移りつつある。トランプ関税が悪影響を及ぼさないといいなと思う」と述べた。経済同友会の新浪剛史代表幹事(サントリーホールディングス会長)は16日の定例会見で、GDPのマイナス成長について「一喜一憂すべき状況ではない」としたうえで、「トランプ関税を始めとして、先行きが見通せない。消費マインドを冷やしているのは事実だと思う」と語った。 ■伸びを支えた政府消費 GDPの動きを中長期でみると、二つのギャップが目に付く。一つは「名目」と「実質」の差。もう一つはGDP全体と個人消費の動きの違いだ。24年度の名目GDPは、年度では初めて600兆円を超えた。1970~80年代は5年で約100兆円のペースで増えてきたが、92年度に500兆円を超えた後、次の大台まで32年かかった。このうち22年度以降の伸びが約50兆円近くある。一方、実質GDPの伸びは限定的だ。23年度にコロナ禍前のピークの18年度を上回った程度。24年度まででも5兆円強の増加にとどまる。実質GDPの伸びを支える顔ぶれも、かつてと様変わりしている。18年度と24年度を比べると、GDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りマイナス。住宅投資や設備投資を加えた民間需要全体で見てもマイナスだ。全体のプラスとの差を埋めているのは政府消費で、11兆円増えた。政府消費には、人々の暮らしを支える医療・介護の給付や、様々な公共サービスのための支出が含まれる。民需がさえないなかで、そうした政府消費がGDPを底支えしている構図にみえる。内閣府幹部は「高齢化のなかで、政府消費は伸びていかざるをえない。ただ、より重要なのは国内の民間需要がしっかり伸びていくことだ」と話す。民間と公的部門がいかにバランスよく伸びていけるか。そんな課題も浮かび上がる。 *4-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250516&ng=DGKKZO88711090W5A510C2MM0000 (日経新聞 2025.5.16) GDP、1~3月0.7%減 4期ぶりマイナス、実質年率 個人消費伸びず 内閣府が16日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%減、年率換算で0.7%減だった。2024年1~3月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高によって個人消費が力強さに欠けた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値の年率0.2%減を下回った。GDPの半分以上を占める個人消費は1~3月期は前期比0.04%増でほぼ横ばいだった。肉や魚などの食料品がマイナスとなった。24年夏ごろに備蓄需要が高まり好調だったパックご飯もマイナスだった。外食は天候に恵まれたこともあり、プラスだった。輸出は0.6%減と4四半期ぶりにマイナスに転じた。知的財産権の使用料が減ったほか、24年10~12月期に大型の案件があった研究開発サービスの反動減があらわれた。モノの輸出の中では自動車が伸びた。米国の関税措置が発動される前の駆け込み需要が一定程度あったと考えられる。増えるとGDP成長率にはマイナス寄与となる輸入は2.9%増と大きく増加し、成長率を押し下げた。ウェブサービスの利用料といった広告宣伝料が増えたほか、航空機や半導体関連もプラスだった。前期比の成長率に対する寄与度をみると、内需がプラス0.7ポイント、外需がマイナス0.8ポイントだった。寄与度については内需のプラスは2四半期ぶり、外需のマイナスも2四半期ぶりだった。個人消費に次ぐ民需の柱である設備投資は前期比1.4%増だった。研究開発やソフトウエア向けの投資が目立った。デジタルトランスフォーメーション(DX)向けの投資などが含まれるとみられる。公共投資は同0.4%減、政府消費は0.0%減となった。1~3月期の収入の動きを示す実質の雇用者報酬は前年同期比1.0%増だった。24年10~12月期の3.2%増から縮小した。赤沢亮正経済財政・再生相は16日、日本経済の先行きについて「米国の通商政策による景気の下振れリスクに十分留意する必要がある」と指摘した。「物価上昇の継続が消費者マインドの下振れなどを通じて個人消費に及ぼす影響も我が国の景気を下押しするリスクとなっている」と言及した。 *4-4-4: https://diamond.jp/articles/-/357947?utm_source=wknd_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20250126 (Diamond 2025.1.23) 物価高で押しつぶされる「無職世帯」、日銀金融緩和政策の“看過できないマイナス”(野口悠紀雄:一橋大学名誉教授) ●11月家計調査、無職世帯は、実収入も支出も前年から減少 ここ数年の物価上昇と賃上げは、国民生活にどのような影響を与えているだろうか?この影響は、世帯のタイプによって大きく違う。勤労者世帯は賃上げの影響を享受しているので生活が改善している面はあるだろう。だがそれに対して、高齢者などの無職世帯は、物価上昇の影響だけを受けて生活が困窮していると考えられる。このことは直近の家計調査でも確かめられる。1月10日に公表された11月分の家計調査報告(総務省)によると、11月の実収入は、勤労者世帯では対前年同月比が実質で0.7%の増になっているのに対して、無職世帯では5.5%の減少だ(注1、2)。消費支出も、勤労者世帯は同1.5%増に対して無職世帯は同2.4%減となっている。日本銀行は、将来、物価が上がるというインフレ期待(予想)が生まれれば、消費が増え経済も上向くということで、物価目標政策のもとに金融緩和策を続けてきた。そして高賃上げの波及を物価目標達成の重要なメルクマールとしてきた。今週23、24日に開かれる金融政策決定会合でも、今春闘でも高い賃上げが続くとの見通しから、利上げをすると市場ではいわれている。だが、家計調査が示しているのは日銀が想定しているのと全く逆の事実だ。 ●勤労者世帯の実収入は増えたが、3割強占める無職世帯は賃上げの恩恵なし 家計調査では、「2人以上の世帯」を主に、その収入や消費の動向をみているが、2人以上の世帯には、「勤労者世帯」と「無職世帯」がある。世帯人数で、前者が54.0%、後者が34.5%だ。この他に個人営業の世帯(11.5%)がある。世帯主の平均年齢は、勤労者世帯は50.8歳、無職世帯が75.3歳だ。後者は退職後の年金生活者が中心だ。1世帯当たりの世帯人員は、勤労者世帯で3.2人、無職世帯では2.3人となっている。だが 勤労者世帯と無職世帯では、収入の状況も支出の中身なども大きく違う。まず、収入の状況をみると、24年11月では、実収入は、勤労者世帯では51.4万円なのに対して、無職世帯では5.6万円でしかない。収入差が大きいのは11月が年金支払い月でないことによる。年金支払いがあった10月でも、実収入は勤労者世帯58.1万円に対して、無職世帯は47.5万円(このうち公的年金給付は2カ月分41.8万円)だ。11月は増加率でも大きな差がある。こうした差をもたらす最大の要因は、勤労世帯では世帯主の勤め先収入が49.5万円と大きく、かつ実質で1.3%増えているのに対して、無職世帯では定義によって世帯主の勤め先収入がゼロであることだ。無職世帯でも、世帯主以外の勤務先収入はあるが、額は少なく、伸び率がマイナスになっている。このように、勤労世帯と無職世帯では、賃金上昇の影響を享受しているか否かという大きな違いがある。賃金上昇がすべての世帯に同じように恩恵を与えているという錯覚に陥りがちだが、決してそうではないことに注意しなければならない。2人以上世帯のうちの3分の1強を占める無職世帯は、賃上げの恩恵に浴していないのだ。 (注1)「毎月勤労統計調査統計」では11月の実質賃金上昇率はマイナスだが、家計調査ではこのようにプラスになっている (注2)11月の無職世帯の実収入で公的年金は、11月が年金支払い月でないため448円でしかない。なお、2024年で国民年金は満額で月額6万8000円だ。賃金や物価の上昇分は翌年の年金給付にスライドされる建前だが、マクロ経済スライドによって、少子化(現役世代の減少率)や長寿化(平均余命の伸び率)分を差し引いて調整される。 ●無職世帯、緊急でないものは買い控え、食料品切り詰め、修繕や家事サービスは支出増 一方、支出額は、勤労者世帯では40.9万円なのに対して、無職世帯では27.4万円だ。世帯員1人当たりで見れば、勤労者世帯では12.7万円、無職世帯では11.7 万円で、あまり大きな差がない。ところが、物価高騰の影響はどちらのタイプの家計にも同じような影響を与える。だから、支出の伸び率や中身は二つのタイプの家計で大きく異なる。家計調査の11月のデータでは、実質消費支出の対前年同月比は、勤労者世帯が1.5%増なのに対して、無職世帯では2.1%の減となっている。また中身を見ると、食料の実質対前年同月比が、勤労者世帯では+1.8%となっている。それに対して無職世帯では-3.6%だ。米が-12.8%、生鮮肉が-12.1%などだ。項目の中には2桁の減少率になっているものがかなりある。生活をするためには誰もが食料品には一定の支出は必要なはずだが、無職世帯では食料品の価格高騰のために、実質支出を減らさざるをえない状況に追い詰められていることが分かる。一方で無職世帯では、食料品とは対照的に住居関係の実質支出は、前年同月比39.6%増という極めて高い増加率になっている。特に住宅や庭などの修繕や維持の「設備材料」は121.3%の上昇率だ。これはどうしても必要な支出だからだろう。ところが家具・家事用品は、どちらのタイプの世帯でも、実質の伸びがマイナスになっている。勤労者世帯では-14.4%、無職世帯では-6.5%だ。こうしたものは緊急に買う必要はないので、価格が高騰したために買い控えていると考えられる。とりわけ無職世帯の場合、家事用耐久財は-38.3%、一般家具は-30.1%、室内装備装飾品は-25.0%だ。なお、ホームヘルパーなどの家事サービスについては、勤労世帯が-23.2%なのに対して、無職世帯は10.3%増となっている。勤労者世帯では、家族メンバーが比較的若いために、家事サービスを頼む必要性はそれほど高くない。それに対して無職世帯の場合には高齢者なので、これがどうしても必要だという事情を反映しているのだろう。このように、全般的には、無職世帯では支出を切り詰める傾向が強いが、修繕費や家事サービスのようにどうしても必要なものに対しては、価格が高くても支出を増やさざるを得ない状況になっていることが分かる。 ●「物価が上がれば経済は改善」!? 誤った想定での金融緩和、家計調査データが裏付け こうした家計調査の結果は、日本銀行の大規模金融緩和政策の評価に関して、重要な意味を持つ。日銀は、大規模金融緩和を進めるにあたって、「ノルム」という概念を持ち出した。「人々が物価は上昇しないと考えれば、いつでも買えるので、商品が売れなくなる」という考えだ。この考えに従って、物価がいずれ上がるという予想を人々がもてば、商品が売れて経済が改善されるとした。 しかし、無職世帯で実際に起きているのは、これとは全く逆のことだ。物価が上がれば、当面、必要がないものは買い控える。だから、支出が減るのだ。それだけではない。食料品のように生きていくために必要なものでさえ、実質支出を切り詰める。物価が上がると支出が増えるものもあるが、それは修繕費や家事サービスのように、どうしても必要だから購入せざるをえないからだ。この場合には、前と同じサービスを得るための支出が増えるのだから、家計は貧しくなることになる。こうしたことが、少なくとも2人以上の世帯の3割強で起きているのだ。日銀の金融緩和政策は、誤った想定に基づいたものだったことを、家計調査のデータは雄弁に語っている。大規模緩和政策を導入したときには、物価が上昇しなかったので、物価が上昇すれば家計がどう反応するかが分からなかった。しかしここ数年間の物価上昇によって、日銀が想定したことは全くの誤りであると分かった。結局のところ日銀は、全く誤った想定に基づいて物価上昇という目標を追い求めたことになる。 <消費税:位置付けと使途の分析> *5-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1446361 (佐賀新聞 2025/4/15) 食品0%で年5兆円の消費減税を、立民・有志議員、参院選へ提言書 立憲民主党の有志議員でつくる「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」(会長・江田憲司元代表代行)は15日、国会内で会合を開き、夏の参院選公約に向けた提言書をまとめた。軽減税率8%が適用される飲食料品の税率を0%に引き下げ、年5兆円規模の減税を実現させるのが柱。近く執行部に提出する。党税制調査会などの合同会議も開かれ、出席議員の多くが消費税減税を訴えた。党内では、別の勉強会も11日に消費税率5%への引き下げを盛り込んだ提言を策定するなど減税論が拡大。これに対し、財政規律を重視する枝野幸男元代表が「減税ポピュリズム」と批判し、対立が先鋭化している。江田氏は15日の会合で、枝野氏の発言に対し「言論の自由を封殺しようとするのは看過できない。大変遺憾だ」と反発。「どう喝や圧力に屈することなく、正々堂々と政策論議を深める」と述べた。提言書は、食料品の税率を当分の間、0%にすることで「物価高から国民生活を守る」と強調。実施期間は、中低所得者の消費税を実質的に還付する「給付付き税額控除」を導入するまでの時限的措置とした。減税により国内総生産(GDP)を0・39%押し上げると試算。財源には米国債の償還金活用を挙げた。合同会議では、食料品の消費税率引き下げを含む減税を訴える声が続出。将来的な給付付き税額控除の導入を目指す姿勢は変えるべきではないとの意見も出た。野田佳彦代表は記者団に、消費税を巡る議論について「活発な意見交換をして、一定の時期が来たら集約する」と説明。党内が二分している現状を踏まえ「いろいろな意見があっても、結論が出たら従うという政治文化をつくるのが私の役割だ」と語った。 *5-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/a67b8fe874373b83888502204e4a4777b88072bb (Yahoo 2025/4/13) 「消費税を下げる議論だけ先行は大変なことになる」自民・森山氏 財源論が必要と強調「正直に正しい政治を」 自民党の森山幹事長は13日、消費税について「下げるという議論だけが先行して、おかしなことになってしまっては、大変なことになる」と述べ、減税に慎重な姿勢を示した。鹿児島市での党の会合で森山氏は、「私は今、日本の政治の中で大変、気になることがある。それは税制の話だ」として、消費税の減税を求める意見に言及。森山氏は「消費税をゼロにするという政党も出てきた。消費税を5%に下げるという政党も出てきた。消費税が下がることは喜ばしいことかもしれない」とした上で、「社会保障にしっかり充てていくという約束をして消費税の税制が成り立っていることを忘れてはいけない」と強調した。そして、「消費税を下げる分の財源をどこに求めるかという話があって、初めて議論ができるのではないか」と財源論の必要性を指摘し、「消費税を下げるという議論だけが先行して、おかしなことになってしまっては、大変なことになる」と述べた。また、2012年に旧民主党と自民党、公明党の3党で交わした社会保障と税の一体改革に関する合意について、「谷垣総裁(当時)が、日本の財政の状況、今後の高齢化社会の到来を考え、(自民議員)一人一人を説得した」と振り返り、「我々は正しい選択、判断をしたのだと思う。この精神を忘れてはならない」と訴えた。さらに、「日本は経済的にも大きな国だ。国際的に日本の財政が信任を失ったら大変なことになるということを、しっかりと認識をして政治を進めていかなければいけない」として、「裏付けのない減税政策というのは、国際的な信任を失うと大変なことになる」と指摘。消費税が地方交付税の財源になっていることにも触れ、「消費税は色々なことに影響する税金であることを、国民に理解してもらわないといけない」と述べた。森山氏は、「正直に正しい政治をさせてもらいたい。自民党の幹事長として強く思う」と語った。 *5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1453698 (佐賀新聞 2025/4/26) 自治体、最大300億円減収、ガソリン暫定税率廃止、政府試算 ガソリン税などに上乗せされる暫定税率が廃止された場合、地方自治体の税収の減少幅は最も多い愛知県で330億円となるなど、地方財政に広く影響が及ぶことが26日、政府の試算で分かった。北海道が318億円で続き、100億円を超える減収は全体の4割に当たる19都道府県に上る。合計では5千億円を超え、インフラ維持などに向け新たな財源を確保する必要性が浮き彫りとなった。ドライバーは減税の恩恵を受ける一方、自治体にとっては景気の動向に影響を受けにくい安定的な税収が減ることになる。都道府県によってばらつきがあるものの、減収幅は地方税収の数%に相当するケースが多い。地方部の方が負担割合は大きくなる傾向がある。2023年度の決算を分析した。国税であるガソリン税の地方に譲与する分や地方税の軽油引取税の暫定税率に相当する金額を機械的に算出した。ほかに減収幅が大きいのは、埼玉県が287億円、大阪府が263億円、神奈川県は222億円と続く。軽油引取税の比重が大きく、トラックなどに使われる軽油の販売が盛んな都道府県ほど上位に来る。物流拠点や保有台数の多さが影響する。政府、与党は暫定税率を廃止する方向で決まっているとしつつも、地方財政への影響の大きさなどを理由に実施には時間が必要との立場だ。補助金よりも暫定税率の廃止の方が値下げ効果が大きいとして、野党は早期実現を要求している。主張は平行線で、これまでに具体的な代替財源をどうするかについては議論は深まっていない。政府、与党は年末にかけての税制改正の議論の中で、恒久的な代替財源を検討する構えだ。それまでの間、5月22日からガソリン価格を1リットル当たり10円引き下げる補助制度を実施する。ガソリン税の暫定税率 ガソリン税は本来1リットル当たり28円70銭だが「当分の間」の措置として25円10銭が上乗せされている。1974年に道路整備の財源に充てるために始まり、その後も財政事情の厳しさなどを背景に維持されている。上乗せ分のうち80銭は地方に譲与される。軽油にも同様の地方税「軽油引取税」があり、暫定税率は17円10銭となっている。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250511&ng=DGKKZO88584130Q5A510C2EA1000 (日経新聞社説 2025.5.11) 参院選対策の消費減税公約は無責任だ 自民・公明両党の幹事長らが夏の参院選までに新たな経済対策を示すことで合意した。事実上の選挙公約となる公算が大きい。すでに主な野党が消費税の減税策を競うなか、見過ごせないのは政権を担う公明党や参院自民党にまで減税論が広がっていることだ。政策効果や財源の議論抜きに選挙目当てのバラマキに走るようでは「責任政党」とはいえない。公明党は食料品を中心とする物価高対策としての減税を訴える。減税実現までのつなぎ策として現金の給付も唱えている。自民党では党執行部こそ減税に慎重なものの、参院議員の8割が消費税減税を望んでいる。近く党税制調査会の勉強会を開き、税率を下げる場合の課題を整理する。野党第1党の立憲民主党では13年前に消費増税を主導した野田佳彦代表が食料品の税率を1年間ゼロにする方針に転じた。延長も1回できるという案だ。党内の減税派に押し切られ、政策の一貫性も損なった。日本維新の会、国民民主党も減税をめざしている。そもそも減税が必要な局面なのか。3月の全国消費者物価指数によると、確かにコメは1年前の2倍近くと高い。食料全体としてならしても7.4%上がっている。所得が低く、収入の多くを食費に回す人ほど消費税の負担が重く感じられる面はあろう。だからといって消費税を下げればいいというのは短絡的だ。食品に掛かる8%の軽減税率をゼロにすれば約5兆円の財源が必要になる。石破茂首相が「高所得の方も含めて負担が軽減される。低所得の方が物価高で一番苦しんでいるのにどうなのか」と認める通り、再分配策としての効率も悪い。備蓄米の出し方の改善や加工用米の転用など、コメ価格の抑制に打てる手ももっとあるはずだ。「トランプ関税」は物価高対策の口実にならない。需要が弱まるならば物価は下がる方向に働くからだ。日銀が1日に公表した展望リポートによると、生鮮食品を除く消費者物価指数の上昇率は2026年度が1.7%上昇で目標の2%を下回る。エネルギー価格の高騰も一服し、減税をしなくても物価は落ち着く兆しがある。消費税は医療・年金・介護・子育て支援など社会保障や地方の財源となる基幹税で、下げたら容易に戻せない。次の選挙のために次の世代にツケを回さないか。政治家も有権者も問われている。 <農業教育と就農> PS(2025年5月24日追加):*6-1-1は、①JA全中・JA全農・JA共済連・農林中金が「よりよい営農活動」の実践研究会を開いた ②人材育成の体系を構築してJA組織基盤・経営基盤の「中核機能」である営農指導事業を強化することを確認した ③「よりよい営農活動」とは農業生産工程管理の手法を取り入れ、生産者の経営基盤強化やリスク低減に繋げるもの としている。 私も、①③の農業生産工程管理の手法を取り入れ、生産者の経営基盤強化やリスク低減に繋げる「よりよい営農活動」は重要だと考える。そして、そのためには、②の人材育成がKeyであり、JAの営農指導事業も重要な役割を果たしてはいるが、より根本的には「生産コストを下げながら品質は上げる」という工業では当然やっていることをやってこなかったことが日本の農業が国際競争力が無く、衰退している原因であると考える。また、技術革新に重要な人材である大学の農学部・工学部出身者で農業に従事する人の割合が低いことも、農業技術や農業経営の革新を阻んでいるため、これを変えるには農業法人化・大規模化・脱世襲化が重要であろう。 そのような中、*6-1-2は、④石破首相は、コメ価格高騰で、価格下落を避けるために生産量を抑える事実上の「減反政策」の転換に意欲を示し、米価下落時には農家に所得補償を行って生産拡大させる考えを示した ⑤自民党農水族議員を中心に価格下落に繋がる増産に消極的な声は根強い ⑥首相は「全ての農家を対象にするのではなく、生産コストを下げる努力をしている農家の経営が行き詰まることがないよう補償すべき」と語った ⑦首相は昨年の自民総裁選でも米増産を念頭に輸出拡大を主張しており、今回の対応を機に自身がめざす農業政策を実現したい考え ⑧自民党の農水族議員や農水省は、コメ余りが価格下落を招かないよう生産を抑えることに主眼を置いてきた ⑨首相は米輸入拡大も選択肢の1つとしたが、森山氏が「足りないから輸入するという話にはならない」と打ち消した 等としている。 確かに、④のコメ価格高騰は米の価格が昨年の2倍以上にもなっているため、事実上の「減反政策」を転換する時期であるのは当然であり、米価下落時に農家に所得補償を行って生産拡大させるのもやむを得ない。そして、むしろ⑤⑧のように、米生産を抑えて価格を高止まりさせ続ければ、国民は「国内価格-国際価格」分の負担を強いられるため、所得補償を行った方が国民負担は少ないのである。しかし、麦・大豆等の自給率は米よりもずっと低いため、その栽培も疎かにすべきでないことは明らかだ。なお、1~2年以内に、価格と質の両面で日本産米の国際競争力を高めなければ、作りすぎて余っても米を輸出することはできない。そのため、⑥⑦のように、首相は「生産コストを下げる努力をしている農家に補償する農業政策を実現したい」そうだが、努力をしているか否かは、政府や農協が判断するより、単位数量あたりの補償額を品質(例えば、特Aなど)で分けてあらかじめ決めておいた方が、農家は努力のし甲斐があって質・量ともに伸びると思う。⑨のように、森山氏は「足りないから輸入するという話にはならない」と言っておられるが、現在のやり方ではこれまでも国際競争力はつかなかったし、これからもつかないことは間違いなく、弁解は無用である。 この時、重要になるのは、*6-2-1の農業高校や大学農学部の質である。農業高校の重要性は、農業を基幹産業とする地方と大阪府・東京都では異なるだろうが、農業を基幹産業とする地方でも学力の問題で農高を選ぶ生徒は多いため、高校授業料無償化や公立高校併願制によって希望する高校を選択できるようになるのは、生徒にとって良いことである。にもかかわらず、文科省は、*6-2-2のように、「農業の発展を支える重要な役割を担っている農高や専門高校の魅力を高める支援策を検討する」としているが、その支援内容は農高教員に「産業教育手当」を支給するということであるため、それよりは農業高校と農業専門学校を連結させて農業大学にし、教員の質も上げて、農業を専門的に学んだ学生に対して大学卒の資格を与えることが重要だと考える。何故なら、大学進学率が増加して看護師になりたい人が看護学校より大学の看護学部を選択するようになったのと同じく、農業を選択したくても農業技術を学べば大学卒の資格を得られないのであれば、農業の社会的地位は上がらず、仕事として農業を選択する生徒は自然に減少して、農業の国際競争力確保などできないからである。そして、それらの結果、選ばれなかった高校が消滅するのなら、それは学校として魅力を出せなかったのだから仕方のないことである。 *6-1-1:https://www.agrinews.co.jp/ja/index/307889 (日本農業新聞 2025年5月23日) 営農指導の質向上へ 人材育成を強化 全中など実践研究会 JA全中とJA全農、JA共済連、農林中央金庫の全国4連は22日、東京・大手町のJAビルで「よりよい営農活動」実践研究会を開いた。6県域が営農指導員の人材育成方針や取り組みを紹介。人材育成の体系を構築し、JA組織基盤、経営基盤の「中核(コア)機能」である営農指導事業を強化することを確認した。2024、25年度の「よりよい営農活動」モデル県域12道県の中央会や全農県本部などの役職員ら約50人がオンラインを含め参加した。JAグループ青森は、営農指導員の実務経験別の研修や認証試験を展開していることを紹介。JAグループ岡山は3年の営農指導員強化研修に取り組んでいると説明し、「営農指導員に武器を与えることが必要」と指摘した。「よりよい営農活動」は農業生産工程管理(GAP)の手法を取り入れ、生産者の経営基盤強化やリスク低減につなげるもの。全国4連で事業を展開し、27年度までに全JAでの取り組みを目指す。 *6-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16217366.html (朝日新聞 2025年5月20日) 農家へ補償、首相前向き 増産に意欲、農水族と対立 コメの高騰をめぐり、石破茂首相は19日、米価が下落した際に農家へ所得補償を行うことで、生産を拡大させることに前向きな考えを示した。価格下落を避けるために生産量を抑える事実上の「減反政策」の転換に意欲を示した形だが、自民党の農水族議員を中心に価格下落につながる増産には消極的な声が根強い。政府・与党内の意見の相違が色濃く表面化した。19日の参院予算委員会で、立憲民主党の打越さく良氏から生産を抑える政策をやめるよう求められたことに対し首相が答弁した。首相は、高騰の要因について「供給がギリギリになっている」ために価格の上下が顕著になったと仮説を説明。「じゃあ、いかにして生産を増やすかということ」と、コメの生産拡大が必要との認識を示した。その上で首相は「生産を増やすと、価格は下がる。その分をいかにして補填(ほてん)をしていくかという議論を進めなければならない」と述べ、所得補償の必要性に言及した。首相は、全ての農家を対象にすることには「本当にコメ作りを強くすることになるのか」と否定的な考えを示す一方、生産コストを下げる努力をしている農家などについて「経営が行き詰まることがないような補償を行うことは、認められるべきではないか」と語った。コメの生産拡大は、首相のかねての持論だ。2008年に麻生内閣で農林水産相に就任した後に減反廃止を打ち出したが、農水省や農水族議員の反対が強く実現はしなかった。首相は昨年9月の自民総裁選でもコメの増産を念頭に輸出拡大を主張。就任後も米価高騰について「コメが足りないから、こんな事態になる。生産調整の限界だ」と周囲に語っていた。今回の対応を機に、自身がめざす農業政策を実現したい考えだ。しかし、自民党の農水族議員や農水省は、コメ余りが価格下落を招かないよう生産を抑えることに主眼を置いてきた。長く自民党の支持基盤である農家や農協の収入に悪影響を及ぼさないためだ。今回の高騰に際しても「生産が足りないということはありえない」(森山裕幹事長)などと生産拡大には一貫して慎重姿勢を示し、流通段階の滞りの解消を訴えている。首相は11日には、コメの輸入拡大も選択肢の一つとの考えを示したが、森山氏は2日後に会見で「足りないから輸入するという話にはならない」と即座に打ち消した。物価高対策が政権の大きな政策課題になる中、首相がめざす農業改革を進める好機と言えそうだが、党内から反発は必至で実現のハードルは高い。 *6-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/306956 (日本農業新聞 2025年5月18日) 高校無償化、公立農高どうなる 志願者減少に危機感 高校授業料の無償化に伴い、公立が中心の農業系高校の志願者減少が懸念されている。先行して無償化した大阪府内の複数の農高は「影響が大きい」とする。農高の多くが、今後の存続に危機感を募らす。 ●施設充実の私立有利 自民・公明両党は私立高校への就学支援金について、2026年度から所得制限を撤廃し、支援額を上積みする方針だ。大阪府や東京都では先行して高校授業料を実質無償化。同府内の農高は近年、入学志願者減に歯止めがかからず、府立園芸高校(池田市)は「高校無償化の影響は大きい。食を学べる私立高校が増えている。施設のきれいな私立で学びたい生徒は多い」と話す。24年度から無償化した東京都。25年度入試で都立高校全体の倍率は過去最低水準に下がったものの、農高の倍率は23年度に比べ上がった。だが、都立農芸高校(杉並区)校長も務める全国農業高等学校長協会の吉野剛文会長は「農高の倍率は年によって変動が大きく単年度の数字では判断できない」と指摘。「全国的に私立の無償化は農高の存続に関わり、農業教育の衰退につながる恐れがあり、大変な危機感がある」と強調する。一般的に、スクールバスの配置や最新の施設所有などがしやすい私立高校。一方、公立農高は教員不足が深刻化し、施設の老朽化が著しい。吉野会長は「古い施設や農機具が非常に多い。魅力を高めることは簡単ではなく、人・物・金が足りない厳しい現実がある」と説明。国が農高向けの支援を講じても、都道府県や市町村負担がある場合は採択にハードルがあるという。 ●“地域密着”にも意義 懸念の声は各地から上がっている。広島県立西条農高(東広島市)は「充実した実習や実験などをアピールしているが、周辺には私立高校が非常に多い。無償化の影響は大きい」とみる。福岡県立八女農高(八女市)も「地域密着の独自教育を進めるが、私立に流れる懸念はある」とする。「農業を学びたい」と農高を志望する中学生は一定数いる。それでも「学力の問題で農高を選び、入学してから農業の大切さを知る生徒が多い」(関東の農業系高校)、「私立無償化の影響を受けない農高は一部有名校などに限られる」(北日本の農高)と指摘する声がある。文部科学省は今後、影響が懸念される農高をはじめとした専門高校の魅力を高める支援策を検討する方針だ。 *6-2-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/307359 (日本農業新聞 2025年5月20日) 文科相 農高への支援拡充検討 阿部俊子文部科学相は20日の閣議後会見で、農業高校への支援について「農業の発展を支える重要な役割を担っている。農業高校をはじめとする専門高校の教育の充実を進めていきたい」と強調した。私立高校の授業料無償化で、公立が中心の農業高校の入学者が減るとの懸念が高まっていることから、支援の拡充を検討する方針を示した。阿部文科相は、石破茂首相と共に議員連盟「農林水産高校を応援する会」の一員であることを紹介。「各都道府県の農業高校の先生方の声をしっかり聞きながら支援してきた」と述べた。その上で、2026年度から自民・公明・日本維新の会の3党合意で私立高校の授業料が実質無償化になることについて「農業高校をはじめとする専門高校の支援の拡充を含む教育の質確保も論点とされている」と強調。国会審議も踏まえつつ文科省として支援する意向を示した。農業高校の教員らに支給される「産業教育手当」が、本来の支給水準(給料の10%)に満たない都道府県が多い問題に対しては、自治体に「今後も適切な対応を呼びかけていきたい」と述べた。 <愚かな選択とその結果> PS(2025年5月26日追加):*7-1-1は、①日産自動車が横浜市の本社売却と「セール・アンド・リースバック」を検討 ②日産は経営再建に向けて世界7工場を削減方針 ③本社の資産価値は1000億円超で工場削減に伴う多額のリストラ費用に充てる ④2026年3月期に2万人のリストラ費用600億円を追加計上の可能性 ⑤エスピノーサ社長「リストラ費用は資産売却で賄う予定」 ⑥日産の2025年3月期最終損益は6,708億円の赤字で、経営再建に向け2026年度迄に2024年度比で固定費・変動費計5,000億円を削減 ⑦国内は主力の追浜工場と湘南工場削減を検討、海外はメキシコ2工場・南アフリカ・インド・アルゼンチン各1工場をやめる としている。 日産は、ゴーン社長の時に赤字体質から脱却して世界初のEV市場投入も果たしたのだが、日本国内でおかしな論調の逆風を受けて沈没した。そして、西川廣人社長の時に昔帰りし、今さらHVを充実させようなどと愚かな意思決定をして赤字体質になり、エスピノーサ社長に代わって、再度、上の①~⑦のリストラをしようとしているのだ。しかし、私は、日産は、長所であるEVに特化しつつ、ブルーオーシャンであるメキシコ・南アフリカ・インド・アルゼンチンの工場こそ大切に残すべきだと思う。何故なら、日産車の車体は、いかつくてスマートではなく、本当はこの15年でスマートさも磨くべきだったがそうしなかったため、道路が整っておらず、ガソリンスタンドが少なく、ガソリン車を製造している競争相手がいない、ドライバーが殆ど男性の男性優位社会である開発途上国向きだからだ。 また、*7-1-2は、⑧ホンダは米国でHVの現地生産を増やし、電池も2025年中に米国のトヨタ自動車電池工場からの調達に ⑨トランプ政権の関税と成長鈍化のEV投資に急ブレーキがかかり、収益源のHVが成長を左右 ⑩三部社長「中長期的に関税措置が長引く場合は米国内の生産能力をさらに増やす」 ⑪関税の影響回避のため、2025年9月から米国向け主力車「シビック」HVの生産を埼玉製作所完成車工場から移す ⑫中核部品も含めて現地生産し、関税コストを軽減 としている。 グローバル企業であれば、米国で販売する自動車は米国で開発・製造・販売するローカル性を持つグローカルであるのが原則であるため、いつまでも日本からの輸出にこだわる方が誤りで、⑧~⑫の方針はだいたい妥当だ。しかし、EVの方が環境に良い上、エネルギー代金も安上がりであるため、トランプ米大統領がいくら頑張っても、ガソリンを燃料とす自動車に後戻りすることはなく、新たにHVに投資するのは寄り道であって技術開発のための資本を分散することになる。また、⑦⑪のように、日産工場の削減対象となった神奈川県やホンダ工場の削減対象となった埼玉県は、自動車工場施設や部品メーカーも揃っているため、世界や日本で売れているEVメーカー(例:中国・ヨーロッパ・アメリカ)の自動車メーカーの工場を誘致したり、今後、自動運転となるトラクター・商用車等のEV化や生産に切り替えた方が発展的になるだろう。 なお、*7-2-1のように、日本から米国への輸出額は21兆6,483億円、米国からの輸入額は12兆6,434億円で、今のところ貿易収支は9兆48億円の黒字であり、トランプ米大統領が問題視して米国製自動車の販売台数が少ないことに不満を述べられたそうだが、テスラのEVは先進的でスマートであるため、日本の道路で運転し易く、購入し易い価格にすれば売れると思う。また、コメはじめ農産物も国民の安全を犠牲にしない限りは輸入しても良いと思うが、*7-2-2のように、トランプ米政権がNASAの予算削減に動き、米主導で日本等も参加する有人月面探査や火星探査を見直すのであれば、関係特許を一括して購入し、研究者も招いて、日本政府と日本の民間企業が中心となって月や火星の探査を追求すれば良いのではないだろうか?そうすれば、日本の輸入額は一時的に著しく増え、その後は技術進歩や産業の高付加価値化ができるからである。 *7-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1909I0Z10C25A5000000/ (日経新聞 2025年5月23日) 日産、横浜本社の売却検討 7工場削減などリストラ費用に 日産自動車が横浜市にある本社の売却を検討していることが分かった。日産は経営再建に向けて国内を含む世界7工場を削減する方針。資産価値は1000億円超とみられ、工場削減に伴う多額の費用に充てる。売却先と賃貸契約を結んで施設を継続使用する「セール・アンド・リースバック」を利用する案が上がっている。2025年度中に売却する資産の候補に、横浜市の本社を入れている。日産は09年に「グローバル本社」を都内から横浜市に移転した。横浜駅などに近い好立地で、日産車を展示するギャラリーなども含まれる。神奈川県内の不動産関係者によると、本社の資産価値は1000億円超に上る。セール・アンド・リースバックはこれまで電通グループなども活用してきた。売却しても日産の社員は引き続き同じ本社で業務を続けることができる。日産は23日、アナリスト向け説明会の質疑応答を公開し、26年3月期にリストラ費用として600億円を追加で計上する可能性があると明らかにした。イバン・エスピノーサ社長が「リストラ費用は資産売却を通じて賄う予定だ」と言及した。日産の25年3月期の最終損益は6708億円の赤字(前の期は4266億円の黒字)と4期ぶりの赤字だった。赤字幅は過去3番目の大きさで、今期は米国の関税政策も経営の重荷となる。経営再建に向けて、26年度までに24年度比で固定費と変動費で計5000億円を削減する。人員削減規模は従来から1万人超を積み増し2万人にするほか、世界にある完成車工場を17カ所から10カ所まで減らすと明らかにしていた。国内では主力の追浜工場(神奈川県横須賀市)と日産車体の湘南工場(同県平塚市)の2工場の削減を検討している。海外ではメキシコで2工場を削減するほか、南アフリカとインド、アルゼンチンで各1工場をやめる。世界7工場の削減により、生産能力は100万台減の250万台になる。 *7-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250525&ng=DGKKZO88905400U5A520C2EA5000 (2025.5.25) ホンダ、米工場「HV頼み」 トヨタ電池調達で関税対策 ホンダが米国でハイブリッド車(HV)の現地生産を増やす。23日に公開した主力の米工場で生産車種を増やすほか、中国などから輸入するHV電池を2025年中に米国のトヨタ自動車の電池工場からの調達に段階的に切り替える。トランプ政権の関税影響に加え、成長が鈍化する電気自動車(EV)の投資に急ブレーキがかかる中、収益源のHVが成長を左右する。インディアナ州にある完成車工場を報道陣に公開した。トランプ政権が自動車や部品への25%の関税を発動して以降、日本の自動車メーカーが米国工場を公開するのは初めて。年間25万台を生産できる工場で組み立てられている完成車の大半は米国向けだ。主に多目的スポーツ車(SUV)「CR-V」などを1日1000台生産し、フル稼働が続く。ホンダの米国販売台数に占める輸入比率は約4割で、輸入が半分以上を占める競合他社より影響は小さいが、部品も含めれば関税の影響は大きい。三部敏宏社長は13日、「中長期的に関税措置が長引く場合は米国内の生産能力をさらに増やす」と話した。インディアナ工場では既にこの取り組みの一つが進む。9月から米国向け主力車「シビック」のHVの生産を埼玉製作所完成車工場(埼玉県寄居町)から移す。関税の影響を回避する狙いだ。今回の移管で米国向けシビックはほぼ全て米国生産になる。HVの生産比率も増やす。現在、インディアナ工場の生産台数に占めるHV比率は6割だが「将来的には増やすことを検討している」(ロクサナ・メッツ工場長)。ガソリン車からHVまで、異なる車種を1つのラインで生産できる強みを生かし、柔軟に車種の入れ替えを行うなどし、不確実性の高い政策に対応する。トランプ政権が発動した部品関税への対応も進む。現在、インディアナ工場の生産車に占める部品の現地調達率は8割だが、これにはメキシコやカナダ製部品が含まれる。関税を回避するため、長期的には米国での調達を増やす必要がある。その取り組みの一環として、中国や日本から輸入するHV電池を25年中にトヨタ自動車がノースカロライナ州で稼働中の電池工場からの調達に順次切り替える。中核部品を含めて現地生産し、関税によるコストを軽減する。 *7-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250520&ng=DGKKZO88780560Z10C25A5EA1000 (日経新聞 2025.5.20) 対米黒字9兆円、解消するには アメ車なら輸入72倍、コメだと生産8年分 トランプ氏要求、ハードル高く 日米両政府は関税交渉で3回目となる閣僚協議を週内にも開く。トランプ米大統領は年間9兆円もの日本の対米貿易黒字を問題視したとされる。日本は米国からの農産物の輸入拡大といった交渉カードを用意し、協議に臨む。仮に巨額の黒字を解消するとした場合、どうすればよいのか、日本経済にどんな影響があるのかを探った。財務省の2024年度の貿易統計によると、日本から米国への輸出額は21兆6483億円で、米国からの輸入額は12兆6434億円。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は9兆48億円の黒字だった。日米関税交渉では、トランプ氏が日本で米国製自動車の販売台数が少ないことに不満を述べたとされる。閣僚からは米国産コメの輸出拡大に関心が寄せられた。日本は交渉カードとして米国産トウモロコシの輸入を増やす案を検討する。では車、コメ、トウモロコシの輸入拡大で対米貿易黒字を解消するにはどれだけの量が必要だろうか。貿易統計によると米国車、いわゆる「アメ車」の輸入価格は平均で1台933万円。9兆円分輸入すると、約96万5000台となる。24年度実績で約1万3000台(乗用車のみ、中古車含む)にとどまる米国車輸入を72倍に増やす計算だ。自動車の業界団体によると24年度の国内新車販売台数(乗用車のみ、軽自動車含む)は386万台。100万台近くの新車を輸入し日本車から置き換わると仮定すると、販売の4台に1台がアメ車になる。現状で日本での新車販売に占めるアメ車の割合は1%に満たない。米国車の輸入は無関税であるにもかかわらず売れていない。トランプ氏が「非関税障壁」と批判する車の安全基準を見直しても、米国車の輸入を72倍に増やすハードルは高そうだ。コメはどうだろうか。足元では34万トンを輸入しているが、貿易黒字分を輸入すると、現状の190倍近い6402万トンの米国産米が日本市場に供給される。農林水産省の食料需給表によると日本国内の23年度のコメ生産量は791万トン。食用や加工向けを合計した消費量は計820万トン強。国内で生産されたり消費されたりするコメ約8年分を輸入しなければ貿易黒字は解消できない。そもそも米国のコメ生産量は700万トン程度にとどまり、それだけの量を生産することは難しいとみられる。トウモロコシで黒字を打ち消すには、2億3000万トン弱を買うことになる。24年度は1280万トンを輸入したが、その18倍が必要になる。米国でのトウモロコシ生産量のうち6割、米国での消費量の7割分に相当する。日本の飼料用を含む消費量15年分にあたる。貿易黒字は輸出を減らしても解消できる。野村総合研究所は米政権がかける自動車や鉄鋼への追加関税が維持され、24%の相互関税が発動された場合、日本の対米輸出は4兆3000億円減り、貿易黒字は半分ほどに縮小すると推計する。日本の国内総生産(GDP)を0.7%押し下げると見積もる。 *7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250520&ng=DGKKZO88779430Z10C25A5FFJ000 (日経新聞 2025.5.20) NASA予算24%減へ、トランプ政権、月探査見直し トランプ米政権が米航空宇宙局(NASA)の予算削減に動き出した。2日に公表した2026年予算案では前年比24%減とNASAとして最大の削減幅になる。米主導で日本なども参加する有人月面探査「アルテミス計画」向けに開発中のロケットなどを見直す。新たな予算案は前年比24%減の188億ドル(約2兆7000億円)とした。NASAの予算は年々増加傾向にあったが、16年予算の水準を下回る可能性がある。米惑星協会は「史上最大の単年度の削減だ」と指摘。「宇宙科学、探査、革新における米国のリーダーシップにとって歴史的な後退を意味する」と批判し撤回を求めた。アルテミス計画で開発が遅れている大型ロケット「SLS」や宇宙船「オリオン」などの打ち上げは27年を最後とする見込み。その後、費用対効果の高い民間サービスの活用を示唆した。月周回有人基地「ゲートウエー」も廃止となる。協力する同盟国にも波紋を広げかねない。日本はゲートウエーの開発などに関わってきた。文部科学省の担当者は「アルテミス計画を含む日米協力の重要性は共有している。米国内の議論を注視したい」と述べた。欧州宇宙機関(ESA)とNASAが進めてきた、火星で採取した砂や石を持ち帰る計画は、予算超過により中止の方針となった。ESAのジョセフ・アッシュバッハー長官は「加盟国と影響を評価する」と述べた。一方、米宇宙企業スペースXの創業者で政権に参加するイーロン・マスク氏が目指す火星探査には10億ドルの予算を充てた。火星探査でスペースXの商機が拡大している格好で、利益誘導との批判もある。政府効率化省(DOGE)を率いるマスク氏は火星移住を視野に火星探査に熱意を燃やしている。「火星に直行する。月は気晴らしだ」とマスク氏は1月にX(旧ツイッター)に投稿し、アルテミス計画を「非効率だ」と批判したこともあった。NASA次期長官には起業家ジャレッド・アイザックマン氏が内定している。同氏はマスク氏が率いるスペースXの宇宙船で宇宙飛行した間柄だ。スペースXは民間ロケットの打ち上げで高シェアを持つトップ企業になっており、新たな人脈も加わってNASAへの影響力はますます強まる。NASAは新たな予算組み替えで月探査の予算は70億ドル以上と強調し、前年比で月探査の予算を増減させたかどうかは明らかにしていない。NASAは「月と火星の有人宇宙探査を加速させるものだ」などとコメントしている。NASAの予算削減に伴う方針変更は、米主導のプロジェクトに参加する日本の宇宙政策にも影響を及ぼしそうだ。廃止が提案されたゲートウエーはアルテミス計画や将来の火星探査で宇宙飛行士の中継基地として使うことが想定されていた。24年には日米間の合意で、日本が月面探査車を開発する代わりに、日本人宇宙飛行士2人をゲートウエーを経由して月面に着陸させるなどとしていた。SLSとオリオンに搭乗すると考えられていたが、27年の打ち上げを最後に運用を終了する案を受けて計画の見直しを迫られる可能性がある。日米のほかロシアなどと国際協力で運用してきた国際宇宙ステーション(ISS)も米国の予算削減の対象となった。米国の方針次第では、日本人宇宙飛行士がISSに滞在し、科学実験などに携わる機会が限られる可能性がある。宇宙政策に詳しい東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「米国の宇宙政策は政権によって変わることは珍しくない。リスクを覚悟の上で参加しなければならない」と指摘した。 <エネルギーに関する数十兆円の無駄使いと厚生年金積立金の流用> PS(2025年5月31日、6月1、5日追加):エネルギーに関しては、*8-1-1のように、5月22日から10円/Lの定額支援を行うそうだ。原油高・円安による価格高騰対策として2022年1月に始まったガソリン補助金は計約7兆円に上るが、この補助金は生産性向上に全く繋がらず、地球温暖化防止には逆行しているため、国民の血税を使った選挙目的のばら撒きとしか言えない。そして、これだけでも*8-3の「映像配信業者スタッフへの人件費支払い、又は、キャンセル料約100万円」の700万倍だが、前者は問題にされず、後者が公職選挙法違反と指摘されるのは、常識外れも甚だしいのである。 また、*8-1-2は、①フクイチの後始末は遅遅として進まず、損害賠償費・除染費・廃炉費等の事故処理費用は現在でも総額23兆円超で上ぶれを繰り返し、廃炉にどれだけの金と年月がかかるか不明 ②事故処理費用は国が立て替えるが、後で全国の利用者が支払う電気料金で回収 ③東電は柏崎刈羽原発の再稼働が見通せず、国が認定した再建計画年4,500億円の利益にはほど遠い ④1基動くと年1千億円の収支改善効果を見込むが、安全対策費に計1兆円超 ⑤テロ対策施設建設も4~5年遅れて期限に間に合わない ⑥政府急ごしらえの事故処理の枠組みも実現性・責任の曖昧さ等多くの問題をかかえて要点検 ⑦東電経営陣の社会的責任は重大で、業務効率化の徹底・成長分野の再エネ拡大・新たな収益源開拓・他社との事業再編等あらゆる努力が必要 ⑧その場しのぎを続ければ事故処理の基盤は揺らいで国民負担が膨らむ ⑨現実的な再建計画への見直しが避けられず、原発頼みには無理があるため、東電はいまの枠組みを検証して原発に頼らない持続的な道筋を示す必要 としている。 ①の「フクイチの損害賠償費・除染費・廃炉費等の事故処理費用は現在でも総額23兆円超で上ぶれを繰り返し、廃炉にどれだけの金と年月がかかるか不明」というのは、全くその通りである。また、③④についても、中越沖地震(2007年7月16日、新潟県中越沖を震源とするマグニチュード6.8、原発建設時の想定を超えた地震動)で、3号機タービン建屋外部の変圧器が火災を起こし、6号機では放射能を含んだ水が外部漏洩し、7号機でも主排気筒から放射性物質が検出され、説明文(https://www.shippai.org/fkd/cf/CZ0200804.html 参照)には1年間に自然界から受ける放射線量2.4ミリシーベルトの1千万分の1程度と書かれているが、一般人は自然放射線の限度が1mSv/年以下で、追加線量は0に超したことがないため、国や東電がどう合理化しようと新潟県民が原発再稼働に反対するのは無理もない。さらに、*8-1-3の原発建設時には“想定外”にした火山噴火リスクも考慮しなければならず、⑤のテロ対策施設建設は4~5年遅れて期限に間に合わず、原発への武力攻撃は未だ“想定外”であるため、原発近くに使用済核燃料を山ほど詰め込んだまま、原発を稼働させて安全保障や食料安全保障などと言うのは矛盾だらけなのである。さらに、事故リスクが0でないことは最初から明らかだったのに、②の「膨大な事故処理費用を一時的に国が立て替え、原発に賛成しなかった国民まで含む全国の電力利用者が支払う電気料金で後から回収する」というのは、原因を作った人のみに責任を負わせるのではない理不尽な話だ。つまり、⑥⑦⑧⑨のように、フクイチ事故時に政府がその場しのぎで急ごしらえした事故処理の枠組みは、責任の所在や実現性に多くの問題をかかえていることが明白であるため、無駄に何十兆円も国民負担を膨らませないよう、現実的な事故処理や東電再建計画の見直しが不可欠なのだ。そして、これらを議論すれば、自然と原発頼みには無理があり、再エネを拡大しなければならないという結果になるのである。 ![]() 2021.12.23日経新聞 2024.9.10東北放送 2025.2.13東北大学 (図の説明:左図は、フクイチ処理水の放出図で、フクイチは事故後も「崩壊熱」を出しており、これを冷却した際の熱が何処に放出されているかについては書かれたものがない。しかし、事故を起こしていない原発でも、タービンを回した蒸気は冷却水として取水した海水で冷やされて元の水に戻り、蒸気を冷やしたあとの海水は取水時より約7度程度上がって海に戻されるので、これを「温排水」と呼ぶ。そして、この温排水は海を暖めるため、電気事業者は温排水の拡散実態を調査して対策を講ずる必要がある。中央と右の図は、三陸沖の海水温が2023年6月までの2年間で6℃上昇し、これは世界最大水準の異変であることを示しているが、この異常現象は地球温暖化や黒潮の流れの変化よりもフクイチから放出される温排水の影響と考えるのが自然だ) *8-2-1は、⑩小泉農相が小売価格で5kg2,000円の米価では生産者は「やっていけない」との認識を表明 ⑪将来的には生産費の上昇も踏まえた適正水準を模索する考え ⑫石破首相は5キロ3,000円台の米価を掲げ、将来的には5キロ4,000円でも買える経済を目指すべきとした ⑬過度な米価下落への生産者の不安を訴える声が野党だけでなく与党からも ⑭米価下落時の対応は農家の収入減を穴埋めする収入保険の拡充を示唆し、新たな直接支払制度の提案には賛意は示さなかった 等としている。 農水省は「米の自給率は100%で食料自給率に占める割合も大きく、日本人にとって米は食料安全保障の要」としており、政治家は、⑩~⑭のように、こぞって「食料安全保障には生産費の上昇を踏まえた適正価格で生産者の持続可能性を維持しなければならず、その適正価格とは5キロ3,000~4,000円である」としている。しかし、「米の自給率がほぼ100%か?」については、*8-2-3のように、日本は重要な農業資材である肥料を100%輸入しているため、ロシアのウクライナ侵攻と円安による肥料価格高騰に喘いでおり、肥料を輸入できなければ米はじめ農産物の生産ができないため、見かけ上は日本で作っているように見える米も、戦争が起これば生産できず、実際には自給していると言える状況にない。そのため、食料安全保障のために生産費上昇を踏まえた適正価格で生産者の持続可能性を維持する理由は、今のところないのである(参考:https://cigs.canon/article/20250305_8672.html)。さらに、*8-2-2のように、日本のエネルギー自給率は12.6%どまりで、農業で使う電力始め化石燃料等のエネルギー価格も高騰したため、農業用水利施設の電気代や燃油費の2020~23年度平均価格との差額の7割を、政府が9月末まで交付するのだそうだ。しかし、これも、エネルギーの輸入が途絶えれば農作物もできないというお粗末な事態を改善するのではなく継続させるだけの膨大なバラマキにすぎない。本当は、農業地帯は風力発電・小水力発電の適地であるため、電力を再エネで賄うように補助して農業機械も電化しておけば、日本のエネルギー自給率は上がり、農家は売電収入を副産物にすることもできたのだ。 ![]() 2022.5.28クルーガー 2023.8.10日経新聞 (図の説明:左図のように、日本は肥料原料を100%輸入しており、2022.5.28時点で中国からの輸入が最も多い。また、右図のように、ロシアは世界最大の肥料輸出国である。なお、ロシアのウクライナ侵攻が始まったのは2022年2月24日で、西側先進国がロシアに対して制裁を行なったため、ロシアから日本への輸入も侵攻直後に途絶えて肥料価格が急上昇したが、その後、中国から迂回輸入が行なわれたためか次第に肥料価格は下がった。しかし、いずれにしても、肥料や飼料を輸入しながら生産する農産物は、食料自給率に入れるべきではないだろう) このような中、*8-4-1・*8-4-2は、⑮基礎年金の目減り防止目的として政府が国会提出した年金制度改革法案が衆院で可決・措置を発動するかは5年後に先送りした ⑯発動された場合、男性63歳・女性67歳が「損益分岐点」 ⑰男性は1963年度生まれ(現在62歳)、女性は1959年度生まれ(現在66歳)以降で受給総額プラス ⑱法案には、モデル世帯(夫婦2人)の年金を2で割り、実質0%成長が続き、かつパート主婦らの厚生年金の加入拡大を実施した場合の総額が減る世代への影響を緩和する措置も ⑲厚生年金の受給割合が少ない低年金の人ほど恩恵が大きく、月6万8000円の基礎年金のみ受け取る1960年度生まれ(現在65歳)の男性は受給総額37万円プラス ⑳6万3000円の基礎年金と5万円の厚生年金(報酬比例部分)を受け取るケースは18万円マイナス ㉑厚労省は2024年7月の財政検証で経済成長が実質0%の場合、モデル世帯は基礎年金の給付水準が30年後に約3割低下すると見通した ㉒基礎年金だけを受給する自営業者や就職難で厚生年金の加入期間が短い氷河期世代は給付水準低下の影響を大きく受ける ㉓このため厚労省は厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げを図る案を提起 ㉔実施すれば基礎年金のマイナス幅は1割減に抑えられる ㉕煮えきらなかった自民党が基礎年金底上げ策の復活を受け入れ、将来的にほぼすべての受給者の年金水準が上がる ㉖その財源の議論は先送りされ、底上げ策を実施するかどうかは2029年まで不透明 ㉗基礎年金のみの人や厚生年金が少ない人には恩恵が大きいが、将来的に新たな国庫負担が見込まれ、財源の目途は立っていない ㉘自民・公明・立憲の3党が当初政府案を了承した ㉙「平均的収入で40年間働いた夫と専業主婦の妻」というモデル世帯の夫婦が受け取る年金額の半分を「1人分」とし、65歳時点の平均余命に基づいて男性は20年間、女性は24年間、年金を受給すると仮定 ㉚実質0成長と仮定すると、62歳以下の男性・66歳以下の女性は受給額が増え、38歳以下の男性は248万円・女性は298万円の増額 ㉛70歳までの試算しか示されていないが、70歳男性で23万円、女性で16万円減額 ㉜1階は基礎年金部分、2階は払った保険料に応じて支払われる厚生年金の所得比例部分で、積立金は2024年度末に約290兆円 ㉝厚労省の試算によると今後100年間で105兆円が1階に充てられる見通しだが、基礎年金の底上げ策でこの部分を約65兆円増やし、170兆円程度にしてマクロ経済スライドを早めに止める ㉞底上げ策のため厚生年金積立金から基礎年金に回す65兆円のうち、約10%が1号の人の基礎年金に充てられ1号の人の基礎年金も増える ㉟2020年時点で1号のうち働いている人は約39%、無職・自営業の人は約58% ㊱基礎年金の半分は国庫負担で、厚労省の試算では底上げ実施で70年度には2.6兆円が新たに必要 ㊲今回の年金関連法案はすべての国民の老後の安心に関わる大きな制度改正 としている。 このうち、⑮は、そもそも基礎年金の目減りは「物価スライド制」だった公的年金制度を、㉝の「マクロ経済スライド制(年金財政の均衡を保つことができない場合に目減りさせる仕組み)」に変更した上に、目減りを加速させるため物価を上昇させたことが原因であるため、元に戻せばすむことだ。また、現在、年金財政の均衡を保つことができなくなっているのは、㉜㉝㉞のように、多くの人が多額の年金保険料を支払って余裕のある年金積立金から勝手に他の年金に流用して年金積立金を減らし、年金支給時に必要となる金額(=要支給額)を積み立ててこなかったからにほかならない。 また、㉒㉓㉔㉟のように、基礎年金だけを受給する自営業者や就職難で厚生年金への加入期間が短い“就職氷河期世代”は給付水準低下の影響を大きく受けるが、自営業者は定年なく働き続けることを前提としていたので年金受給額が少ないのであり、これは、定年のあるサラリーマンが所得比例部分の年金保険料も支払って厚生年金に入っていたのとは条件が異なる。さらに、“就職氷河期世代”の低年金は、男女雇用機会均等法で雇用における男女平等が義務化された時に、非正規雇用という社会保険に入れない雇用形態を作って低年金者を生み出した厚労省・経産省とそれを大いに利用してきた企業に責任があるのであって、所得比例部分も含む高い年金保険料を支払ってきた厚生年金の被保険者に責任があるわけでは全くない。 にもかかわらず、⑯⑰㉚㉛及び下の右図のように、「世代間の不公平是正」などとして男性63歳・女性67歳を損益分岐点とし、それ以下の世代は受給総額がプラスになるが、それ以上の世代はマイナスになり、70歳以上についてはマイナスになる金額すら表示せず改悪に改悪を重ねており、「将来世代に責任を持つ」と正論を言いながら、実は現在の世代にすら責任を持たず、年金によって国民の老後に責任を持って安心を与える政府とはとても言えないのである。また、⑲⑳のように、厚生年金の受給割合が少ない低年金の人ほど恩恵が大きく、合計11万3000円(基礎年金6万3000円と厚生年金の報酬比例部分5万円)を受け取る人は、新人の初任給が30万円超の時代に高年金(!)としてマイナスになるのだそうで、この感性は戦後の日本を少なくともここまでにしてきた高齢者をないがしろにしている。さらに、⑱㉑㉙㉟のように、モデル世帯を未だに「サラリーマンの夫と専業主婦(“無職”)の夫婦2人」とし続けてパート主婦を3号被保険者にしたまま本質的な制度変更は行なわず、不公正を積み重ねているのは重大な問題である。そのため、㉕のように、自民党が“基礎年金底上げ策”を保留したことには賛成だったが、㉘のように、周囲の反対で流用復活を受け入れたのには反対だ。 なお、㉖㉗㊱のように、年金はじめ社会保障に関しては「財源がないから消費税を増税すべき」という主張が必ず出るが、「社会保障は消費税で賄わなければならず、消費税は全額消費者に転嫁すべき」などと決め、社会保障を消費税増税の人質にするような質の悪い主張がまかり通っている国は日本だけだ。また、国債残高がGDPと比較して著しく高いのも日本だけだが、これは上に書いたように、やりたい放題の無駄なバラマキや無駄使いをしているからで、㊲の「今回の年金関連法案は全ての国民の老後の安心に関わる大きな制度改正」どころか、筋の通らない主張をして負担増・給付減を繰り返してきた日本政府のやり方の弥縫策にすぎない。 ![]() 2024.10.18静岡新聞 2025.1.10JIMO 2025.5.27テレ朝 (図の説明:左図のように、日本の年金水準「所得代替率」は38.8%で、OECD平均61.4%の2/3しかない。さらに、中央の図のように、平均年金月額は、厚生年金1号でも男性16万3,875円に対し、女性は10万4,878円と男性の2/3である。そのような中、右図のように、年金保険料を基礎年金分しか支払っていなかったもしくは全く支払っていなかった人に対し、「高年金」だからと厚生年金積立金から流用して基礎年金の底上げをするという厚生年金減の毒饅頭を多くの政党が支持したことを決して忘れてはならない) ![]() 2025.5.28西日本新聞 2025.5.21東京新聞 2025.5.28日経新聞 (図の説明:左図のように、各政党がこぞって主張した年金積立金流用の理由は「就職氷河期世代の救済」だったが、就職氷河期世代はこれから働いても20年働けるのである。一方、すぐ上の段の左と中央の図のように、現在、年金給付を受けている世代は、今でも所得代替率がOECD平均61.4%の2/3しかなく、女性はさらにその2/3しかない上、物価水準に年金水準は全くついて行っていない。そのため、中央の図のように、基礎年金6.8万円+厚生年金13.2万円=20万円の高年金の人《これが高年金!?》は、世界水準ではもともと低い年金のさらなる削減にしかならない。なお、右図のように、今回の改悪で得をするのは、現在63歳以下の男性と67歳以下の女性とされているが、現役世代が自分たちに都合の良い政策のみを主張するのは、教育が悪かったのだと言わざるを得ない) *8-1-1:https://mainichi.jp/articles/20250521/k00/00m/020/308000c (毎日新聞 2025/5/22) ガソリン補助 総額7兆円も「値下げ実感なし」 制度は迷走の兆し 「小売価格に反映されているのか分からない」。物価高にあえぐ消費者から国のガソリン補助金の効果を疑問視する声が上がっている。政府は22日から、1リットル当たり最大10円の定額支援に切り替えるが、一部野党から見直しを求める声が浮上。7月の参院選でのアピール材料の一つとして政争の具になりつつあり、「出口」に向かうはずの補助制度が迷走し始めている。 ●「1万円で給油1、2回」 「7年前に仕事を始めた時は1万円で3回は給油できたが、今では1~2回。ガソリン代が手取りを圧迫している」。東京都大田区の都道から一歩入った住宅街。児童や生徒が遊ぶ小さな公園の脇に軽バンを止め、運転席で休憩中だった軽貨物ドライバーの男性(30)=川崎市=が不満をぶちまけた。軽貨物ドライバーは個人事業主が多く、男性もガソリン代を自ら負担している。配達など自動車、バイクがなければ務まらない仕事や、車での移動が中心の地方では、ガソリン価格の変動が生活を直撃する。公園近くで配達中だった同業の30代男性は「野菜もコメも高くなった。国に何とかしてほしいが、ガソリン補助金の効果を感じたことはあまりない」と突き放した。現在のガソリン補助金は1月から、レギュラーガソリンの価格が1リットル当たり185円程度になるように支給してきた。補助金の支給先は石油元売り会社。経済産業省が毎週公表する補助金の支給額を値引きして小売業者に卸す。石油元売りはその後、政府に申請することで値引き分の補助金を受け取ることができる仕組みだ。経産省によると、補助金事業に参加しているのは石油元売りと商社系を含む34企業・団体。ガソリンスタンドなどの小売業者や消費者に直接支給する方法を採らないのは、店舗や役所での事務作業が膨大になるためだという。ガソリンスタンドの数は1995年の約6万軒から約2万7000軒(2024年3月末)まで減少しているが、それでも元売り業者の数と比べて桁違いに多い。石油元売りには「補助金でもうけている」といった批判の声が届く。業界関係者は「補助金を受け取っても利益は増えない。その上、システム対応や手弁当で行っている煩雑な申請作業でマイナスなのに」と肩を落とす。 ●値下げに「時間差」 なぜガソリンの小売価格が下がった実感を持たれにくいのか。小売価格は一般的に、各小売業者が自由に決められる。補助金分を単純に値引きすれば小売価格も下がるはずだが、店舗には前に仕入れたガソリンの在庫があり、その時の仕入れ価格と採算が合わなくなる可能性があるため、価格をすぐに下げられない事情がある。このため、補助金分を小売業者が間接的に値引きするのは、安く仕入れたガソリンが店頭に出回る時まで遅れる。経産省によると、「大体2~3週間後」に価格に反映されるという。加えて、ガソリンはもともと、製油所からの輸送距離や競合相手の有無、立地、人件費などで価格に地域差がある。補助金も原油価格の下落に伴い補助を縮小してきたため、利用するタイミングや店舗によって、前回よりも高く感じることもある。経産省が毎週公表している補助金適用後の全国平均と乖離(かいり)が生じるのはそのためだ。一方で、小売業者をむやみに批判できない事情もある。帝国データバンクによると、24年のガソリンスタンドの倒産は22件、休廃業は162件で、新型コロナ禍前の水準に迫り、増えている。電気自動車の普及や若者の車離れなどを受けて景況感も悪化。セルフ式の給油所が増えるなど、経営の合理化が進んだとはいえ、人件費の高騰や物価高の影響もあり、厳しい経営を迫られている。 ●定額制「週2円ずつ下がるイメージ」 政府は22日から、ガソリンなどの燃料油補助金の仕組みを定額支援に切り替える。価格の急変動は駆け込み客の混雑や買い控えを引き起こしかねないため、最初の週(22~28日)は全国平均の小売価格が5円下がるように、石油元売りに補助金を支給する。最初の支給額は1リットル当たり7・4円に決まった。値下がりは段階的で小売価格がすぐに10円下がることはない。給油所にはこれまでの在庫があるためだ。資源エネルギー庁の担当者は「毎週2円程度のペースで価格が下がっていくイメージ」と説明する。変更前の制度には目標となる基準価格(1リットルあたり185円)があったが、定額支援では、補助上限の10円に達した後は、支給額は10円のまま変わらない。このため、原油価格が高騰すれば、全国平均の小売価格がこれまでの抑制目標だった185円を上回る可能性もある。反対に、原油安の局面ではこれまでの仕組みより価格が10円下がるメリットがある。ガソリン以外の油種は、軽油10円▽灯油・重油5円▽航空機燃料4円――が補助の上限となっている。最初の週である22~28日の支給額は、軽油はガソリンと同じ7・4円で、それ以外の燃料油は上限額での支給が決まった。今回の定額支援は、ガソリン税の上乗せ分である「暫定税率」(25・1円)の廃止が実現するまで継続される。廃止について自民、公明両党と協議中の野党・日本維新の会は「暫定税率」を廃止するのが筋だとしている。実現すれば、7月の参院選のアピール材料になるため、緊迫した協議が続いている。 ●これまでの補助金の総額は約7兆円 原油高や円安による価格高騰対策で22年1月に始まったガソリン補助金は、23年1月から補助額を段階的に縮小してきたが、価格の再上昇を受けるなどして延長を繰り返してきた。与党幹部は「バラマキではない」と主張するが、これまでに支給された補助金は約7兆円に上る。経産省内では「補助金はその場しのぎで、かつ化石燃料の利用を促している。安価な脱炭素燃料などを開発するための投資に切り替えるべきだ」との声が少なくない。補助水準は未定だが、7~9月には電気・ガス補助金の復活も決まっている。先の軽貨物ドライバーの男性(30)は、神奈川県が中小貨物運送事業者に支給している24年の「燃料高騰対応支援金」を受け取った。軽貨物の「黒ナンバー」車向け支給額は1台当たり8000円とすずめの涙程度だが「県は現金振り込みなので、ありがたい」と話す。各自治体は今年もこうした支援を継続している。石油の流通政策に詳しい桃山学院大学の小嶌正稔教授(石油産業史)は「石油元売りへの補助金継続は絶対にあり得ない。補助金により元売り各社の卸売価格の変動幅は同じ状態が続き、本来の競争が消えてしまった」と批判。「地域の状況に応じて、事業者や消費者に必要な対応ができる自治体ベースの支援を拡充すべきだ」と話している。 *8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16221368.html (朝日新聞社説 2025年5月26日) 東電と原発事故 責任貫く道筋を示せ 原発事故を起こして国の管理下に置かれた東京電力の再建が、不透明さを増している。業績は目標に届かず、再建計画の見直しも遅れる。何十年も続く後始末の責任を、まっとうできるのか。政府と東電はいまの枠組みを検証し、原発に頼らない持続的な道筋を示す必要がある。14年前の福島第一原発事故で東電は経営危機に陥ったが、損害賠償や除染・廃炉に支障が出ないよう、政府が実質国有化して延命させた。事故処理費用の想定は総額23兆円あまり。賠償費を国が立て替え、後から全国の電気利用者が払う料金で実質的に回収する制度をつくるなど、異例の政策支援を続けてきた。国が認定した再建計画は年4500億円の利益を目標に掲げるが、近年の実績はほど遠い。設備投資の支出がかさみ、厳しい資金繰りが続く。事故処理や脱炭素、供給力強化に必要な資金を安定的に稼げるか、懸念は強まる。いまの計画は24年度内に改定する予定だったが、今年度にずれ込んだ。業績向上の柱と期待する柏崎刈羽原発をいつ再稼働できるか、見通せないためという。だが、原発頼みそのものに無理がある。1基が動くと年1千億円の収支改善効果を見込む一方、安全対策費は計1兆円を超え、重荷になっている。不祥事が相次いだ東電への地元の不信は根強く、再稼働に必要な新潟県知事の同意の手順ははっきりしない。テロ対策施設の建設も予定より4~5年遅れ、期限に間に合わない見通しだ。現実的な再建計画へ、見直しは避けられない。東電は原発事故の被害者への償いと福島復興の使命を成し遂げるため、存続を許された特殊な企業だ。経営陣の社会的責任は重大で、業務効率化の徹底はもちろん、成長分野である再生可能エネルギー拡大や新たな収益源の開拓、他社との事業再編など、あらゆる努力が求められる。事故処理の枠組み自体も点検が欠かせない。もともと政府が急ごしらえしたもので、実現性や責任のあいまいさなど、多くの問題を抱える。処理費用は上ぶれを繰り返してきた。特に廃炉は、どれほどのお金と年月がかかるか、誰にもわからないのが実情だ。東電の株価も低迷し、国有化から抜け出す展望は開けない。その場しのぎを続ければ、事故処理の基盤は揺らぎ、国民負担がいたずらに膨らみかねない。計画見直しは、めざす姿と必要な手立てを練り直す好機だ。政府と東電は、各自の役割と説明責任を果たさなければならない。 *8-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16217232.html (朝日新聞社説 2025年5月20日) 富士山噴火 火山灰への備えが急務 この半世紀、日本は多くの火山災害に見舞われてきたが、科学的には中、小規模の噴火だった。大規模な噴火はしばらくは経験していないものの、いずれは直面する。備えを急がなければならない。火山灰への対策として、内閣府は防災指針をまとめた。気象庁は火山灰警報を導入する方針を決めた。大規模噴火は富士山などで繰り返されてきた。火山から遠くても被害がある。1914年の桜島噴火では関東、東北にも火山灰が降った。1783年の浅間山噴火は関東平野でも大きな被害があった。複合災害の恐れもある。1707年の富士山噴火は南海トラフ地震の49日後だった。火山灰は、普通の灰とは違い、ガラスの破片のような砂で、吸い込んだり目に入ったりすれば健康にも影響する。自然には消えず、雨でも流れにくく、除去するのは難しい。水を含めば重くなり、道は滑りやすくなる。電力設備や電子機器にも影響し、停電、航空機や鉄道の運休、通信の障害、上下水道の被害などで社会、経済活動が深刻な打撃を受ける。噴火時の風向きで影響を受ける地域も大きく変わる。どれぐらい続くかの予測も難しい。内閣府の有識者検討会がまとめた指針は、富士山の大規模噴火に備え、危険度を4段階に分けた避難の必要性を示した。自宅で生活を続けることを基本としつつ、降灰が30センチ以上になれば原則避難を求める。全国の活火山への応用も想定している。気象庁は火山灰の警報や注意報の運用を数年後に始めることを目指す。火山灰の積もる深さが0・1ミリ以上3センチ未満で注意報、3センチ以上30センチ未満は警報。降雨時に木造住宅の倒壊の恐れがある30センチ以上は、「一段強い呼びかけ」を発表する。1707年の富士山と同程度の噴火が起きた場合、降灰は静岡~福島県まで11都県に及び、相模原市付近で30センチ以上、東京・新宿付近で3センチ以上と予測される。除去が必要な火山灰は東京ドーム400杯分、東日本大震災の廃棄物の約10倍で、除去する手段も廃棄方法も難題を抱える。物流への影響も深刻で、政府は1週間以上の備蓄を呼びかける。地震や風水害への備えに加えて、火山灰対策も必要だ。目の保護やマスクの準備、積もった火山灰の処理なども考えておく必要がある。日本の都市が高度に発展した後では未経験の災害だけに、防災対応の計画や準備を急ぐ必要がある。国から自治体に対しての情報提供や計画作りの支援も欠かせない。 *8-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/309164 (日本農業新聞 2025年5月29日) 野党トップの質疑に農相 米価抑制は当面の措置 衆院農水委、2000円では「やっていけない」 衆院農林水産委員会で28日、小泉進次郎農相の所信に対する質疑が始まった。小泉農相は、小売価格で5キロ2000円の米価では生産者は「やっていけない」との認識を表明。当面は政府が介入して価格抑制に動く一方、将来的には生産費の上昇も踏まえた適正水準を模索する考えを示した。米の増産と価格下落時の安全網にも言及した。この日、野党は立憲民主党の野田佳彦代表、日本維新の会の前原誠司共同代表、国民民主党の玉木雄一郎代表らが出席し、米政策を中心に小泉農相の考えをただした。同委員会に党のトップがそろうのは極めて異例。石破茂首相が5キロ3000円台の米価を掲げたことについて、小泉農相は、当面の米価に触れた発言だとの認識を示した。将来的には「(同)4000円でも買える経済」を目指すべきだとした。一方、適正米価を冷静に議論するため、「今は下げていかなければならない」と述べた。玉木氏への答弁。過度な米価下落に対する生産者の不安を訴える声が、野党に加え与党からも上がった。自民党の鈴木貴子氏は「政治が出すメッセージはそれ(米価抑制)ではない」と述べた。小泉農相は、価格抑制の構えを強く発信しなければ「局面は変えられない」とした。米の生産量を巡り、小泉農相は「増やしていきたい」と発言。石破首相が以前から生産調整を見直す意向だったとした上で、連携して新たな政策を検討する考えを示した。「作るだけ作って買い上げなきゃ駄目だというのは違う」とし、需要に応じた生産を基本とする方針も示唆した。玉木、野田両氏への答弁。米価下落時の対応として、農家の収入減を穴埋めする収入保険の拡充を示唆した。新たな直接支払制度を提案する野党に賛意は示さず、「全てテーブルに載せた上で(答えを)見いだしていかなければいけない」と述べるにとどめた。玉木氏への答弁。 *8-2-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/309162 (日本農業新聞 2025年5月28日) 水利施設の電気代補助 6月から高騰分の7割 物価高対策で農水省 農水省は28日、農業用ダムや揚排水ポンプといった農業水利施設の電気代を補助すると発表した。6月1日から、電力消費のピークを過ぎる9月末までの燃油費も含めたエネルギー価格について、2020~23年度の平均価格との差額の7割を交付する。エネルギー価格が高騰する中、水利施設の機能発揮に向けた負担を軽減する。対策は、22年度以降、毎年措置されてきた。対象となる施設は、国が管理費を補助する「基幹水利施設管理事業」または「水利施設管理強化事業」の支援対象の農業水利施設。もしくは、維持管理費に占めるエネルギー価格の割合が25%以上の農業水利施設。本年度から新たな施設で補助を活用したい場合、省エネ化やコスト削減の取り組みを2つ以上行うことが要件。同省が示したメニューから選び、26年度から3年間実施する。取り組みを記載した「省エネルギー化推進計画」を策定する必要がある。農業水利施設の管理費のうち、平均4分の1を電気料金が占めるとされ、エネルギー価格の上昇で受ける影響が大きい。 *8-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD268MU0W3A720C2000000/ (日経新聞 2023年8月10日) 肥料「迂回輸出」に走るロシア 中印シフト、食料不安に ロシアとベラルーシが肥料の迂回輸出に動いている。黒海の海上輸送からロシア国内の鉄道などにルートを切り替え、中国やインドへの供給を拡大している。ロシアは世界首位、ベラルーシは4位の肥料輸出大国。貿易取引の構造変化は世界の食料生産を左右しかねない危うさを伴う。 ●「黒海」合意停止の陰に肥料のパイプライン ウクライナから小麦などを海上輸送する「黒海回廊」の国際合意が7月18日、ロシアの延長反対で停止された。ロシアはウクライナ南部のオデッサなど港湾都市にも攻撃を加え、世界的に食料不安が高まっている。だが合意停止に肥料輸出が絡んでいたことはあまり知られていない。6月5日、ロシア南部トリヤッチとオデッサを結ぶアンモニアのパイプラインで爆発が起きた。ロシアとウクライナは互いに相手の攻撃だと主張し、原因は不明だが、ロシアのペスコフ大統領報道官はその直後に黒海回廊の合意停止を示唆した。アンモニアは窒素肥料の原料で、2022年2月のウクライナ侵攻以前はこのパイプラインがロシアの主要な輸出ルートだった。黒海回廊をめぐる協議でロシアはパイプラインを通じたアンモニア輸送の再開を求めていた。化学肥料の三要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)は生産地が偏っている。ロシアはそれら全てを産出する世界最大の肥料輸出国。国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、21年の世界輸出量でロシア産は全体の17%、ベラルーシ産は6%を占める。とくにカリウムは両国が42%の世界シェアを握っている。 ●ロシア、肥料輸出で収益拡大 国際食糧政策研究所(IFPRI)ディレクターのシャーロット・ヒバブランド氏は「ロシアは明らかに肥料の輸出に関心を持っている。肥料価格が上昇し、ウクライナでの戦闘が続くなか、輸出による収益の確保は一段と重要になっている」と指摘する。IFPRIの分析によると、22年のロシアからの尿素肥料やリン酸二アンモニウム(DAP)の輸出量は前年を上回っている。カリウムは減少したが、なお多くの国への肥料の輸出は継続されている。しかも肥料の価格高騰によって「輸出から得られる収益は前年水準をはるかに上回った」(ヒバブランド氏)。中国の輸出規制などで21年秋から上昇していた肥料価格はウクライナ侵攻ではね上がり、世界銀行の商品価格指数(10年=100)は22年4月には294に達した。ただ市場の予想に反してロシアの輸出が続いているためか、直近の今年7月は146とピークの半分以下になっている。肥料輸出は米欧の経済制裁の対象外とはいえ、国際金融決済などの制約はある。それでもロシアの輸出がさほど影響を受けていないようにみえるのはロシアに対して友好的か、強く非難する立場を取らない国々に輸出取引が迂回されているためだ。インドの肥料調達先の変化がそれを物語る。IFPRIによると、昨年、ロシアからのDAPの輸入量は前年の約8倍に増え、ロシア産のシェアは2%から11%に急拡大した。ロシア産尿素の輸入量も約9倍に膨らんだ。 ●中国向けに「記録的な輸出」 ロシアと同盟関係にあるベラルーシは中国向け輸出への傾斜を強める。国際肥料協会(IFA)は「23年第1四半期には記録的な量のカリウムがベラルーシから中国に輸出された」と分析する。 ベラルーシにとって迂回輸出はより切実な問題だ。欧州連合(EU)がルカシェンコ大統領の人権侵害に対して、21年にカリウムなどの輸出を規制する経済制裁を決めたため、隣国リトアニアなどEU加盟国を経由してバルト海から肥料を輸出するルートは閉ざされている。ロシアとベラルーシはどのようなルートで肥料を輸出しているのか。IFAのローラ・クロス市場戦略情報ディレクターは「ロシアは黒海から輸出していた肥料のほとんどをバルト海経由に切り替え、中国に向かう国内鉄道でも輸送している」と語る。ロシア国内のルートは特定できないが、シベリア鉄道か、ロシアから中央アジアを経由して中国に至る中欧班列を利用しているとみられる。肥料を低コストで大量に運ぶには海上輸送が有利であり、ロシアはインドやブラジルなどへの肥料輸出の拡大に向け、バルト海に面する北西部ウスチ・ルガ港や北極圏のムルマンスク港などの能力増強に取り組んでいる。化学肥料の生産拠点であるペルミが内陸部に位置するため、そこで生産された肥料の一部を中国に鉄道輸送しているもようだ。クリミア半島の対岸にあり、黒海に面するタマン半島ではアンモニアなど肥料の積み替え施設の建設が進んでいる。ウクライナ国内を通るパイプラインでオデッサに輸送する従来のルートに代えて、タマン港から黒海経由でアンモニアを輸出する新ルートを構築するためとみられる。バルト海への輸送をEUにブロックされたベラルーシはどうか。IFAのクロス氏は「ロシアの鉄道網を使って中国にカリウムを輸出している。今のところ数量は限られるが、いったんロシアに輸出してバルト海から海上輸送するルートもある」と話す。 ●崩れる肥料供給バランス ウクライナ侵攻による世界的な肥料高騰は一服したが、ロシアやベラルーシが肥料の輸出先を中国やインド、ブラジルなどにシフトしているのは確か。米欧もカナダ産のカリウムやナイジェリア産の尿素などの輸入を増やしているが、国際取引の急激な変化は肥料供給のバランスを崩しかねない。実際にバングラデシュは昨年、カリウムの調達難に直面した。ロシアとベラルーシからの輸入に必要量の約8割を頼っていたためで、カナダやヨルダンに緊急輸入を要請せざるを得なくなった。気になるのは中国の動きだ。窒素とリン酸の世界最大の生産国だが、国内供給を優先するとの理由で21年秋から肥料の輸出規制を始めた。IFPRIによると、22年の中国からのDAPの輸出量は前年比で43%、尿素は47%それぞれ減少した。ロシアとベラルーシからはカリウムなどの輸入を拡大し、肥料の安定確保に走っているようにみえる。言うまでもなく肥料の使用量が減れば、農業生産方式を変えない限り、食料生産は減少する。IFAは窒素肥料の投入量が4%減るとコメの生産量は2.3%減少すると試算する。7月20日、インドが高級品のバスマティ米を除く白米の輸出を禁止すると発表した。豪雨で農作物が被害を受けたうえ、国内の輸送網が寸断されたのが原因だ。インドは国際取引されるコメの約40%を供給する世界最大のコメ輸出国であり、ほかの輸出国のタイやベトナムではコメ価格が急上昇している。肥料や食料の確保は各国とも「自国優先」に傾きがち。ロシアのウクライナ侵攻以降、グローバルなサプライチェーン(供給網)は揺れている。国際価格の高騰はピークを過ぎたが、肥料や食料の供給ショックが終わったと考えるのはまだ早い。 *8-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/384987 (東京新聞 2025年2月10日) 「石丸伸二氏は明らかに支払ってはいけない人に報酬を支払っている」…市民団体が公職選挙法違反の疑いで告発 昨年7月の東京都知事選で、映像配信業者のスタッフに人件費の支払いを約束したとして、市民団体が10日、候補者だった地域政党「再生の道」代表の石丸伸二氏(42)を公職選挙法違反(買収)の疑いで、東京地検に告発した。 ◆昨年の都知事選、「キャンセル料」で97万円を支払ったか 告発状によると、投開票の2日前に開いた決起集会で、配信業者のスタッフ約10人に報酬約45万円を支払う約束をしたとしている。公選法は、車上運動員らを除き、選挙運動は原則無報酬と定めている。告発後に記者会見した「検察庁法改正に反対する会」の岩田薫代表は「明らかに支払ってはいけない人に報酬を支払っている」と指摘した。石丸氏は10日、自身のホームページに「当局の指示に従います」とのコメントを出した。今月6日の会見での石丸氏側の説明によると、業者へのライブ配信の発注について、陣営幹部が集会の開催直前に公選法違反の恐れに気づき、キャンセルを指示したとしている。実際には無償の「ボランティア」名目で業者が配信業務を担った。その後、陣営は業者にキャンセル料名目で約97万円を支払った。当初の見積書には人件費約45万円が計上されていたため、人件費を外した内容の見積書が作成されたという。 *8-4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16223172.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2025年5月28日) 将来の年金、課題残し合意 底上げ策復活、今国会成立へ 自民党が一転して基礎年金の底上げ策の復活を受け入れたことで、将来的にほぼすべての受給者の年金水準は上がることになった。しかし、その財源の議論は先送りされ、底上げ策を実施するかどうかは、2029年まで不透明だ。 ■煮えきらぬ自民、実績欲しい立憲が接近 27日夕、自民、公明、立憲民主3党のトップが国会内に集まり、合意書にサインした。首相官邸に戻って記者団の取材に応じた石破茂首相は「非常に意義深いことで、うれしいことだ」と満足げに語った。立憲の野田佳彦代表も同じだ。「最も先送りをしてはいけないテーマで改革の一里塚に立つことができた」と、達成感をにじませた。21日の党首討論で、野田氏が「比較第1党と第2党が真剣に修正協議し、成案を得なければならない」と直談判してから1週間。急転直下の合意だったが、予兆は5月中旬にすでにあった。12日朝、予算委員会審議のため衆院第1委員室へ入った首相のもとへ年金問題に精通する立憲議員が近づき「うちは小幅な修正ですぐに通しますから」とささやいた。年金関連法案の焦点は、基礎年金(国民年金)の底上げ策を盛り込むかどうかだった。基礎年金のみの人や厚生年金が少ない人には恩恵が大きいが、将来的には新たな国庫負担が見込まれる。その財源のめどは立っていない。年金関連法案は当初、政府与党が今国会の重要法案に位置づけていたが、参院選への影響を懸念し自民が審議入りに反対。4月にはいったん見送りへと傾いていた。議論すれば批判が巻き起こるリスクがあり、議論しなければ無責任と言われかねない。「引くも地獄、進むも地獄」の状況に手をこまぬく自民へ「審議すべきだ」と立憲が呼びかけたのは、そんなタイミングだった。政府は16日、基礎年金の底上げ策を除いた年金関連法案を閣議決定。立憲が「あんこのないあんパン」(野田氏)と批判すると、3党協議で素早く盛り込んだ。協議は複雑な道をたどったが、つまりは自民・公明・立憲の3党が当初政府案を了承したことと同じだ。立憲はなぜ歩み寄ったのか。背景には、3党合意が参院選への実績アピールにつながるとの読みがある。昨秋の衆院選で与党を過半数割れに追い込んだが野党はなおバラバラで、立憲が議論をリードする思惑だった選択的夫婦別姓の導入や企業・団体献金の禁止は、なかなか前に進まない。ただし、与党へ歩み寄ることは野党第1党としての存在感を薄れさせかねない。6月の国会会期末を見据えて内閣不信任案の動向がにわかに注目されるが、単独で提出できるのは計算上、自民を除けば立憲のみだ。合意後、記者団から不信任案の扱いを繰り返し問われた野田氏は「答えはひとつ。適時、適切に判断する」と遮った。不信任案は出さなければ立憲が批判の的にされかねず、出せば衆参同日選までいく覚悟が問われる。「引くか、進むか」の選択が、立憲に突きつけられようとしている。 ■62歳以下の男性・66歳以下の女性、受給額増える試算 実質ゼロ成長と仮定 高齢者は減額も 「実質ゼロ成長を見込んだケースでは、男性で現在62歳以下、女性で66歳以下の方は年金受給総額が増加する見込みとなっている」。福岡資麿厚生労働相は20日の衆院本会議で述べた。発言のもとは、厚労省の試算だ。それによると、底上げ策によって生涯に受け取る年金総額は、男性よりも女性、高齢の人よりも若い人で増える傾向がある。試算には条件がある。「平均的な収入で40年間働いた夫と専業主婦の妻」というモデル世帯の夫婦が受け取る年金額をベースにしている。この半分を「1人分」とし、65歳時点の平均余命に基づいて男性は20年間、女性は24年間、年金を受給すると仮定。年金がどのくらい増えるかを機械的に出した。その際、「年収106万円の壁」の撤廃など、今回の法案に盛り込まれた厚生年金の加入対象を広げる措置が実施されることも加味している。その結果、男性では今年度の年齢が62歳以下の人は受給総額が増え、38歳以下は248万円の増額だ。女性では66歳以下の人は増え、38歳以下は298万円の増額だ。一方、男性は63歳、女性は67歳の場合、受給総額は変わらず、それより年齢が上がると受給額が減る。70歳までの結果しか試算で示されていないが、70歳の人は男性で23万円、女性で16万円の減額になるという。修正案には、年金受給額が減る影響を緩和する措置をとることも盛り込まれている。底上げ策は、現行制度のままでは基礎年金の水準低下が見込まれる場合に実施することが想定されている。 ■「2階」の積立金から65兆円回す 立憲など「厚生年金流用」否定 基礎年金の底上げ策をめぐっては、「厚生年金の積立金の流用」との批判が相次ぎ、自民党が年金関連法案から削る大きな要因となった。底上げ策を復活させる修正案を示した立憲民主党などは「流用ではない」と主張する。一体どのような仕組みなのか。日本の公的年金制度は2階建てになっている。1階部分は20歳以上のすべての人が入る「国民年金」だ。第1~3号に分かれ、会社員や公務員らは2号に分類。3号は2号の人に扶養されている配偶者。1号は、それ以外の自営業や無職の人らだ。2階部分は2号の人が上乗せで加入する厚生年金だ。労使折半で負担する年金保険料の額や期間に応じて、受け取る年金額が増える。1階は基礎年金部分として、2階は払った保険料に応じて支払われる。厚生年金保険料には基礎年金部分も含まれるため、支払う保険料は2階だけでなく、1階にも回る。保険料の一部を将来のために回す積立金も同様だ。厚生年金の積立金は、2024年度末時点で約290兆円。厚生労働省の試算によると、今後100年間で105兆円が1階に充てられる見通しだ。基礎年金の底上げ策では、この部分を約65兆円増やし、170兆円程度にして、今後30年続く可能性がある基礎年金の減額措置を早めに止める。25日にあったNHKの討論番組で、自民の田村憲久・元厚労相は「みんな国民年金に入っているので流用ではないが、そこを野党にご理解いただけるかが非常に不安だった」と説明。立憲の山井和則議員も「『厚生年金流用論』は全くの誤解」とし、底上げ策で厚生年金受給者も受給額が上がることを強調した。一方、日本維新の会の青柳仁士議員は「厚生年金を支払った人が積み立てた積立金を第2号以外の人の底上げに使う」ことを挙げ、やはり流用だと指摘した。確かに、底上げ策で1号の人の基礎年金も増える。厚労省によると、底上げ策のために厚生年金積立金から基礎年金に回す65兆円のうち、約10%が1号の人の基礎年金に充てられる計算だ。20年時点で1号のうち働いている人は約39%。無職や自営業の人は約58%と推計されている。 ■国負担分、財源どうする 衆院の議論、2日だけの見通し 課題も残されている。基礎年金の半分は国庫負担だ。厚労省の試算では、底上げを実施すると、70年度には2・6兆円が新たに必要になる。底上げしなければ、国庫負担も減り続ける。その財源を底上げに活用すれば、「新規財源の確保は不要ではないか」とする意見も与野党内にあるが、議論は先送りされている。26日の自公立の修正協議後、自民の田村憲久氏は「(財源が必要になるのは)今すぐの話ではないが、財源の議論をしっかり行わなければならないと思う」と述べた。今後の増税議論を懸念する声もある。今回の年金関連法案はすべての国民の老後の安心に関わる大きな制度改正だが、底上げ策を削除するなどの作業が自民内で続き、国会への提出が大幅に遅れた。その影響で審議できる時間はわずかだ。今回の修正案は衆院では2日しか議論できない見通しだ。国民民主党の玉木雄一郎代表は27日、「将来の潜在的な税負担の増加をビルトインしたような法案を、こんなに短期間で通すことは問題だ」と批判した。そもそも、底上げするかは、29年に公表予定の次回の財政検証の結果次第だ。 *8-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250531&ng=DGKKZO89054500Q5A530C2EA4000 (日経新聞 2025.5.31) 年金法案が衆院通過 発動時の損益分岐点は…男性63歳・女性67歳 政府が国会に提出した年金制度改革法案が30日、衆院で可決された。基礎年金の目減り防止をうたうものの、措置を発動するかの判断は5年後に先送りされた。実際に発動された場合、一定の仮定のもとで試算すると男性63歳、女性67歳が平均的な「損益分岐点」となる。実際に底上げがなされた場合、年金受給者にどのような影響が出てくるだろうか。厚生労働省が立憲民主党などに提出した試算では、底上げ策を実施した場合、男性は1963年度生まれ(2025年度時点で62歳)、女性は59年度生まれ(同66歳)以降は受給総額はプラスになる。法案には、総額が減る世代への影響を緩和する措置を講じることも盛り込んだ。モデル世帯(夫婦2人)の年金を単純に2で割り、実質ゼロ%成長が続き、かつパート主婦らの厚生年金の加入拡大を実施した場合が前提での試算だ。底上げ策の影響は年金の受取額によって異なる。厚生年金の受給割合が少ない低年金の人ほど恩恵は大きい。月6万8000円の基礎年金のみを受け取る1960年度生まれ(2025年度時点で65歳)の男性の場合、受給総額は37万円のプラスになる。一方、6万3000円の基礎年金に加えて5万円の厚生年金(報酬比例部分)を受け取るケースでは18万円のマイナスとなる。厚労省は24年7月の財政検証で、経済成長が実質ゼロ%程度で推移する場合、モデル世帯では基礎年金の給付水準がおよそ30年後に3割低下するとの見通しを示した。基礎年金だけを受給する自営業者や、就職難で厚生年金の加入期間が短い氷河期世代らは給付水準が低下する影響を大きく受ける。このため厚労省は、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げを図る案を提起した。実施すれば、基礎年金のマイナス幅は1割減に抑えられる。 <止まない無駄使い> PS(2025年6月15、16、18日追加):*9-1-1・*9-1-2は、①自公幹事長が参院選公約の物価高対策として国民に現金等を給付する方針で一致 ②財源は税の増収分で2023年度は2.5兆円弱 ③税の増収分は国債発行の減額に使うのが筋 ④給付をしても貯蓄に回れば、消費は拡大せず、需要の押し上げ効果は疑わしい ⑤給付は本当に困っている人に限るべき ⑥人手不足・原燃料高騰の供給制約による物価高で需要を追加すれば物価が押し上げられる ⑦参院選は与党の給付と野党の消費減税が争点となるバラマキ合戦 ⑧立憲が「食品消費税0%」を公約に明記し、社会保障財源に穴を開け、再引き上げの展望を欠き、問題が多い ⑨自民党の参院選公約は15年後の40年に平均所得1.5倍を目指す方針 ⑩自公の物価高対策給付は、全国民に現金2万円/人給付と住民税非課税世帯への2万円上乗せ ⑪参院選後に補正予算案を編成して年内給付 ⑫野党から消費税減税の訴えが相次ぐ中で自民執行部は「減税すれば社会保障が崩壊する(森山裕幹事長)」と否定し、参院が国民生活の負担軽減に繋がる公約を求めた ⑬マイナンバーにひもづけた公金受取口座を活用 としている。 このうち①②については、近年、選挙前になると現金給付が増えたが、今回の大義名分は「物価高対策」と「税の増収分(2023年度:2.5兆円弱)が財源」で、全国民に現金2万円/人と住民税非課税世帯には2万円の上乗せ給付だった。しかし、1世帯(2人以上)の消費支出は、*9-1-3のように、2024年9月は約29万円/月で年間換算では348万円(29万円x12)であり、消費者物価指数は頻繁に購入する品目では前年と比較しただけでも6.4~9.1%(平均7.8%)上昇し、約14万円/人(348万円x7.8%/2)が物価上昇による1人あたり年間支出増になっているため、⑩のように、現金2万円~4万円給付されても、物価上昇の補填には届かず焼け石に水なのだ。また、2024年のエンゲル係数28.4%を使えば、2024年は食費だけで約4万円/人(348万円x28.4%x8%/2)・その他で約12万円/人(348万円x71.6%x10%/2)・合計約16万円/人の消費税を支払い、食品の消費税率を0%にすれば4万円/人の消費支出減になるが、現金給付2万円はその半分にすぎない。つまり、国民は、購入数量を減らしたり、より安価な製品にシフトしたりしながらも消費金額自体は既に拡大しているため、④⑤の「給付をしても貯蓄に回れば消費は拡大せず、需要の押し上げ効果は疑わしい」「給付は本当に困っている人に限るべき」などと言うのは、家計について考えたこともない人の主張であろう。しかし、マクロ経済は、観念ではなく、ミクロの行動の集積であるため、これでは正しい経済分析や原因追求・問題解決ができないのは当然である。 また、⑧⑫のように、「消費減税はバラマキで、減税すれば社会保障が崩壊する」という主張があるが、消費税は逆進税であるため、食品は0・生活必需品は低税率という国が多く、消費税減税は負担力主義に沿った改正となり、社会保障以前に貧しい人にほど重い税負担を強いるという悪税が改善される。そのため、「食品消費税0%は1年限りで、後は焼け石に水程度の給付」でも足りず、前にも書いたとおり、「社会保障財源は消費税でなければならない」などと決める必要はないのである。なお、⑥の「人手不足・原燃料高騰の供給制約による物価高で需要を追加すれば物価が押し上げられる」という点については、原燃料高騰の原因は、金融緩和による円安とロシアのウクライナ侵攻によるものであるため、何処の国でもやったように金融引き締めすれば、人手不足も同時に解決できる。しかし、その時は同時に国債金利も上がるため、③のように、日頃から税の増収分があればせっせと国債発行の減額に使う必要があるのだ。にもかかわらず、⑪⑬のように、参院選後に補正予算案を編成して年内給付し、それをマイナンバーにひもづけた公金受取口座に振り込むなど、ご都合主義で的外れの言動が多すぎる。そして、⑨の自民党の参院選公約で「15年後の40年に平均所得1.5倍を目指す」というのも、名目平均所得を1.5倍にし、同時に物価も1.5倍にするのであれば、実質所得は変わらず、実質年金受給額は1/1.5になり、同時に実質国債残高や預金残高も1/1.5になって、さらに国民負担を増やしながら意味の無いバラマキを止めない国に恩恵をもたらすだけなのだ。 ![]() 2024.11.8読売新聞 2025.5.10沖縄タイムス 2025.4.26沖縄タイムス (図の説明:左図は、2022~2024年の消費支出の実質増減率で、2023~2024年には実質で減少して、国民が貧しくなったことを示している。具体的には、中央の図のように、2024年度に食品のうち品薄で高騰した米への実質消費(家庭内在庫の積み増しか?)が増え、その分の節約のためか、他が減少した。消費税減税については、右図が、各党の主張であったが、6月15日現在、公明党は自民党執行部に歩調を合わせている) *9-2-1は、⑭サントリーHDが再エネ電気で作る「グリーン水素」を2027年以降に山梨県・東京都の事業者等に向けて販売開始 ⑮今秋に国内最大の製造施設が稼働する予定で、グリーン水素の製造・販売を一貫して手がける国内初の事例 ⑯製造設備は山梨県北杜市に建設中で、敷地面積は約3千㎡・稼働後の生産能力は年間最大約2,200t ⑰サントリーHD・山梨・東レ・東電グループ等の共同事業で、総事業費は約170億円・国が約110億円補助 としている。 私は、⑭~⑰のグリーン水素製造施設への補助は無駄使いとは思わないが、「散々、化石燃料や原発に補助してきたカネがあったら、再エネやグリーン水素を進めるためのインフラを作ればよかったのに」と思う。既存の電力会社がいつまでも旧来の発電方法に固執して高い電力料金を取り続けているのに愛想をつかし、個人や企業は電力会社を見切って自家発電にシフトしているのに、日本政府は、どうしてこうも合理的な発想に基づく改革ができないのだろうか。 そのような中、*9-2-2のCO₂地下貯留への初期投資費用(数千億円)や運営コスト(CO₂の回収・貯留に数千~数万円/t)の補助は、無駄使いそのものである。何故なら、化石燃料を使ってCO₂を地下貯留すれば、それだけコストが上乗せされる上、化石燃料を使用するエネルギーシステム自体が既に地球温暖化によって寿命が尽きかけているからで、そんなカネがあったら、21世紀の産業であり命に関わる介護の財源に使うべきだ。 また、*9-2-3は、⑱生成AI普及等で電力需要の増加が見込まれる ⑲建て替え・新増設が進まない中、今ある原発を長く使うため、最長60年だった原子力発電所の運転期間をさらに延ばせる新制度導入して、フクイチ事故後、政府は運転期間を「原則40年、最長60年」と定めたが、安全審査等による途中の停止期間を除外して延長を認めた ⑳運転延長は安定供給と温暖化ガス排出削減を両立する現実的対応 ㉑原発を将来も活用していくため、政府は電力業界に新規投資を促す方策が急務 ㉒政府が2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画には「原発の最大限活用」が明記され、2040年度電源構成の2割程度を見込む ㉓原発建設には約20年を要するため、早期に建設準備に着手する必要 ㉔自由化した今の電力市場で事業者は巨額投資の回収や資金調達の目途が立ちにくい ㉕GX電源法は原発を活用した安定供給や脱炭素実現を「国の責務」と位置づけた ㉖政府は固定費の回収保証に加え、インフレなどのコスト上昇分も一定程度まで支援する検討を進める ㉗投資の背中を押しつつ、使用済み核燃料の最終処分や福島第1原発の廃炉等の課題でも前面に立つべき ㉘国に支援を求めている電力会社は、安全・安心を最優先しつつ、低廉で潤沢な電力供給に全力を尽くすのが当然 等としている。 しかし、*9-2-3の文章は目を覆うほど矛盾だらけだ。その矛盾の第1は、日本政府が、⑳㉒㉕のように、「原発の運転延長が電力安定供給と温暖化ガス排出削減を両立する現実的対応」として、GX脱炭素電源法で原発を活用した安定供給や脱炭素実現を「国の責務」と位置づけた点である。何故なら、原発は炭素こそ出さないが、普段から温排水として熱そのものを海洋に排出して地球を温暖化させ続けており、事故時には莫大な汚染や健康被害を与えるのに、その全てを無視して第7次エネルギー基本計画にも原発の最大限活用を明記しているからである。矛盾の第2は、⑱のように、生成AI普及等ですぐに電力需要増が見込まれるとし、生成AIの進歩の方がずっと早いのに、㉓のように、建設に約20年も要する原発に頼ろうとしている点で、これは、原発を使うための屁理屈にすぎない。矛盾の第3は、㉘のように、原発を低廉で潤沢な電力供給源などと言いながら、㉔㉕のように、「自由化した電力市場では巨額投資の回収や資金調達の目途が立ちにくい」などと言い、政府に固定費回収保証やインフレ等のコスト上昇分まで一定程度支援するように求め、㉗のように、使用済み核燃料の最終処分や福島第1原発の廃炉等のコストも国に任せるという、赤子並みのおんぶに抱っこを求めている点である。再エネと違って、原発は1966年に日本で最初の商業運転を開始して既に59~60年経過しているので、すべての問題は解決済でもおかしくないところ、未だに何もかも国に頼りつつ高コストであるため、原発が低廉などとは言うべくもなく、早々に退出するのが、これ以上の膨大な無駄使いを止める方法であることは明白なのだ。そのため、国民は、⑲のように、原発の建て替えや新増設を望んでおらず、最長60年だった原発の運転期間をさらに延ばして危険を増す新制度の導入も望んでいなかったのである。ましてや、㉑のように、高コストの原発を将来も活用されて高い電気料金と血税からの無駄使いは容認したくないため、政府は電力業界に原発より再エネへの投資を促すべきである。 ![]() 2024.10.29NipponCom 2024.12.18佐賀新聞 (図の説明:左図は、現在の原子力発電所の稼働状況で、玄海原発は40年超の1・2号機は既に廃炉を決めているが、他は40年超でも足りず60年超まで延長しようとしており、危険だ。中央の図は、2023年度の発電量全体に占める電源別割合で、原発はフクイチ事故後0%になっていたのに8.5%まで上がったが、最終処分場の目途も立たず、国に頼ってばかりいるのに、使用済核燃料を増やしながら、原発の発電割合を20%まで上げる必要などない。しかし、右図のように、経産省の意向を受けて石破首相は原発0を封印し、自民党の大半が原発復権支持だそうだ) *9-3は、㉙政府は、賃上げの実現を重点に掲げ、実質賃金を年1%押し上げる目標を「骨太の方針」に明記 ㉚石破首相は「30年にわたって続いたコストカット型経済を高付加価値創出型経済へ着実に転換していかなければならない」と述べた ㉛「新しい資本主義実行計画」で重視した政策は地方創生と賃上げ ㉜賃金は2029年度までの5年間で年1%程度の実質ベースの上昇を目指し、最低賃金は20年代に全国平均で時給1500円を実現する ㉝足元では実質賃金がマイナス1%を超えて推移し、最低賃金は全国平均1055円 ㉞骨太の方針は「価格転嫁対策強化や生産性向上のための設備投資支援を総動員して、物価上昇を上回る賃上げを実現する」とした ㉟野村総研の木内氏は「実質賃金の上昇率は労働生産性の伸びに一致するため、賃金の上昇率自体ではなく、成長戦略や構造改革を通じた生産性向上を目標に据えるべき」と指摘 ㊱骨太の方針は「減税政策より賃上げ政策こそが成長戦略の要」であると明記して消費税率の引き下げ策をけん制 等としている。 「失われた30年」始め、「賃上げ」や「コストカット型経済から高付加価値創出型経済への転換」という言葉は、石破首相だけでなく安倍首相時代から言われてきたが、それが経済成長に繋がらなかったのは、正確な原因分析とその解決が行なわれないだけではなく、「原因と結果が逆」の理解も少なくなかったからである。 つまり、㉙の「実質賃金を年1%押し上げる」ためには、㉟のとおり「実質賃金の上昇率は労働生産性の伸びに依るため、賃金の上昇率自体ではなく、構造改革を通じた生産性の向上を目標に据えるべき」なのである。しかし、日本政府は、コストダウンに繋がる有為な構造改革をせず、むしろ、㉞のように、価格転嫁を強制して高コスト構造の強化に努めたり、時代を逆戻りさせる政策を行なったりしている点が間違いだったのである。これを詳しく説明すれば、生産性と比較して賃金はじめ各種コストが高すぎたり、規制によって生産活動がやりにくかったりすれば、日本国内は生産活動をしても儲からない国になるため、日本が得意としてきた製造業でさえ海外に出てしまって国内が空洞化し、新興国の製品が輸入されて物価が安く抑えられてきたというのが、1990年代からの30年だったのだ。そして、現在の物価高騰は、構造改革を伴わない金融緩和だけによる円安と戦争によるコストプッシュ・インフレ(悪いインフレ)によるものであり、国民全体を1980年代並みに貧しくしただけなのである。 言い換えれば、できるだけコストカット(労務費/人の削減ではない)しなければ生産性は上がらず、実質賃金を上げることもできず、生産性も上げずに増加したコストを単純に価格転嫁すれば、物価が上がって働く人の実質賃金は同じになるか、むしろ下がり、年金生活者の実質年金受給額は「マクロ経済スライド」の分だけ必ず下がるのである。さらに、需要は、高付加価値製品だけではなく生活全般で使用する製品に渡るため、「すべてを高付加価値製品に転換する」と主張する㉚も間違いだ。これら多くの間違いを続ければ、㉜㉝のように、「賃金は年1%程度の実質ベースの上昇を目指し、最低賃金は2020年代に全国平均で時給1500円を実現する」という目標を立てても、実際には実質(ここが重要)賃金の伸びは0近傍で、最低賃金も上げられないだろう。なお、㊱のように、骨太の方針は「減税政策より賃上げ政策こそが成長戦略の要」などと明記して消費税率の引き下げ策を牽制しているそうだが、そもそも「減税政策」と「賃上げ政策」は、対象となる人の範囲も経済への影響も異なるため、並列して比較すべきものではない。また、「賃上げ」は、労働分配率を上げるために労働組合が言うのなら理解できるが、賃金の安い新興国の方が製造業の適地となって高度経済成長しているのを見ればわかるとおり、賃上げしたから経済成長できるわけではないのだ。そのため、国の責任は、労働分配率を上げることだけではなく、世界競争している産業全体を見渡し、国民をより貧しくするのではなく、より豊かにする方策を考えることである。最後に、㉛の「新しい資本主義実行計画で重視した政策は地方創生」については、未だ整備の進んでいない地方こそが日本経済ののびしろであるため、海外から輸入して国富を流出させているエネルギー・知財・農業・製造業等の地方への回帰を図るべきであり、それはやればできるのである。 ![]() 2023.2.8東京新聞 2022.5.8読売新聞 2022.5.30Economist (図の説明:左図は、金融緩和を開始した2012~22年の実質賃金と生活実感賃金で、どちらも下がっており、この傾向は2025年現在も続いている。中央の図は、実質GDP成長率の推移で、コロナ禍前後を除き0近傍を推移している。右図は、1997~2022年の名目GDP成長率の推移だが、2012年以降は名目では上昇しているように見えるが、それは物価上昇分にすぎないため、実質は変化していないことが中央の図との比較で読み取れる) *9-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1092M0Q5A610C2000000/ (日経新聞社説 2025年6月10日) 自公は税の増収分を選挙でばらまくな これこそ選挙目当てのバラマキではないか。自民党と公明党の両幹事長が10日、参院選公約の物価高対策として国民に現金などを給付する方針で一致した。財源には「税の増収分」を充てるという。効果と必要性の両面から再考を促したい。自公は4月、4万〜5万円の現金を全国民に配る案を検討したが、バラマキ批判で取りやめた経緯がある。この規模の給付だと5兆〜6兆円の財源が必要となる。今回の案では給付の規模をあくまで「税の増収分」に抑えるとしている。国の2023年度決算で税収の上振れは2.5兆円弱だった。24年度も同じぐらいの税収の上振れ幅であれば給付額は大幅に減り、赤字国債も発行しないで済むと自公は主張する。だが税の増収分は本来、将来世代の負担が軽くなるよう国債発行の減額に使うのが筋で、給付は本当に困っている人に限るべきだ。より大きな問題は需要の押し上げ効果が疑わしいことだ。実際、4月に実施した本社世論調査では物価高対策として国民に現金を給付したり、ポイントを付与したりしても「効果があると思わない」との回答が74%を占めた。給付をしても貯蓄に回れば消費は拡大しない。人手不足や原燃料高などの供給制約による物価高のなかで需要を追加すれば、物価をむしろ押し上げる方向に作用する。政策としてもちぐはぐだ。そもそも現在の日本経済が巨額の減税や給付を必要としているのか。5月に経済学者47人を対象に実施した「エコノミストパネル」の調査では「そう思わない」(55%)と「全くそう思わない」(6%)の回答が計6割を超す。公明党は自民党に歩み寄った。これまで主張してきた消費減税を「重要検討事項」に後退させ、公約から落とした。野党では立憲民主党が10日に発表した公約で「食品消費税ゼロ%」を明記した。これで参院選は与党の給付と野党の消費減税が争点となる。まさにバラマキ合戦だが、社会保障財源に穴を開け、再引き上げの展望を欠く野党案も問題が多い。自民党の参院選公約を巡っては9日に石破茂首相が15年後の40年に平均所得1.5倍を目指すとの方針を唐突に打ち出した。2%の物価上昇率を前提とすれば毎年、名目所得2.8%増、実質所得0.8%増と言い換えられる。目標としてあまりに低く、遠い。 *9-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16233360.html (朝日新聞 2025年6月12日) 自公、1人2万円給付案 参院選公約、非課税世帯さらに2万円 自民、公明両党が検討している物価高対策のための給付について、詳細が判明した。所得制限は設けず、全国民を対象に1人あたり現金2万円を給付する。さらに住民税非課税世帯に対し、2万円を上乗せする。自公はそれぞれ参院選の公約とし、年内の実施を目指す。複数の政権幹部が明らかにした。財務省は例年、前年度の決算見通しを7月上旬に発表する。政府は、2024年度の一般会計税収が予想より上振れすることを見込んでおり、これを給付の財源に充てる。参院選後に補正予算案を編成し、年内にも給付したい考えだ。自公は、4月にも1人あたり現金5万円の給付を検討したが、「ばらまき」への世論の批判を受けて見送っていた。今回は「増収分を国民に還元する」と位置づけ、低所得層向けに手厚くすることで、理解や支持を得ようとしている。一度見送った現金給付を再検討する背景には、参院選がある。野党から消費税減税の訴えが相次ぐ中、自民執行部は「減税すれば社会保障が崩壊する」(森山裕幹事長)と否定する姿勢を続けてきた。一方、選挙を戦う参院を中心に「目玉政策がない」などと、国民生活の負担軽減につながる公約の打ち出しを求める声が強まっていた。給付方法については、なるべく早く国民に届けるねらいから、マイナンバーにひもづけた公金受取口座を活用する考え。連携口座がない人には、別の方法での給付を検討する。住民税非課税世帯への加算部分は、自治体を通じた支給を想定している。 *9-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241108-OYT1T50027/ (読売新聞 2024/11/8) 1世帯あたりの消費支出は28万7963円…9月の家計調査、前年同月比1.1%減 総務省が8日発表した9月の家計調査によると、1世帯(2人以上)あたりの消費支出は28万7963円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1・1%減だった。前年同月を下回るのは2か月連続。台風の影響を受けて自動車購入を控える動きが出たほか、物価高による食料品の買い控えも続いた。品目別では「交通・通信」が11・8%減だった。台風で販売店への客足が伸びず、自動車購入は40・6%減となった。「食料」は横ばいだった。前年より休日数が多かったことで外食への支出は9・8%増だったが、肉類や野菜・海藻、果物、酒類などへの支出は減少した。価格の上昇が続くコメへの支出は、8月の買いだめの反動で購入が減ったとみられ、7・4%減だった。物価高で購入数量を減らしたり、より安いものを選んだりする節約志向が高まっている模様で、総務省によると、肉類への支出も豚肉が減り、より安価な鶏肉が増えているという。「教養娯楽」も横ばいで、宿泊料や遊園地入場・乗物代が増える一方、雑誌などが減った。2人以上の世帯のうち勤労者世帯の実収入は実質で1・6%減で5か月ぶりに前年同月を下回った。消費支出は3・9%減で5か月ぶりに実質で減少した。 *9-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16233314.html (朝日新聞 2025年6月12日) 「グリーン水素」製造・販売へ サントリーが国内初 再生エネ電気で サントリーホールディングス(HD)は11日、再生可能エネルギーによる電気でつくる「グリーン水素」を2027年以降、山梨県や東京都の事業者などに向けて販売を始めると発表した。今秋に国内最大の製造施設が稼働する予定で、グリーン水素の製造と販売を一貫して手がける国内初の事例になるという。グリーン水素は、製造時に二酸化炭素を出さず、脱炭素に向けた次世代エネルギーとして注目されている。製造設備は山梨県北杜市に建設中で、敷地面積は約3千平方メートル。稼働後の生産能力は年間で最大約2200トンになる。総事業費は約170億円で、国が約110億円を補助。サントリーHD、山梨県、東レ、東京電力グループなどが共同で事業を進めている。サントリーHDは、この施設でつくったグリーン水素を今秋から、隣接するサントリーの天然水工場で殺菌用の蒸気を発生させる燃料に使う。将来は、ウイスキー蒸留所で水素のみを熱源とするウイスキーの「直火蒸留」にも利用する。グリーン水素の製造量が山梨県内の消費分を上回る規模になるため、東京都の事業者などにも販売し、市場拡大をめざすという。 *9-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250612&ng=DGKKZO89300960R10C25A6EP0000 (日経新聞 2025.6.12) CO2の地下貯留、初期投資費用を補助 経産省、15年程度支援 経済産業省は11日、二酸化炭素(CO2)の回収・地下貯留(CCS)の実用化に向け、初期投資や運営コストを支援する案を示した。支援期間は15年程度を見込む。企業の費用負担を抑え、国内で2030年をめどに事業開始を目指す。脱炭素につなげる。経産省が総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の作業部会に案を示した。工場や発電所から発生したCO2を回収し、パイプラインで地下貯留施設に運ぶ事業を対象にする。CCSは初期投資に数千億円、CO2の回収・貯留に1トン当たり数千~数万円程度かかり脱炭素技術のなかでも投資負担が大きい。 *9-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250612&ng=DGKKZO89302050R10C25A6EA1000 (日経新聞社説 2025.6.12)AI時代に原発投資を促す方策が急務だ 最長60年だった原子力発電所の運転期間をさらに延ばせる新制度が導入された。建て替えや新増設が進まないなか、いまある原発をなるべく長く使う狙いだ。生成AI(人工知能)の普及などで今後の電力需要は増加が見込まれる。運転延長は安定供給と温暖化ガスの排出削減を両立する現実的な対応だが、一時しのぎでしかない。原発を将来も活用していくため、政府は電力業界に新規投資を促す方策の具体化が急務だ。電気事業法や原子炉等規制法などの改正を束ねた「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」を6日施行した。2011年の東京電力福島第1原発事故の後、抑制的だった原発政策を転換する象徴が運転延長だ。福島の事故後、政府は運転期間を「原則40年、最長60年」と定めた。その枠組みは維持しつつ、安全審査などによる途中の停止期間を除外して延長を認める。ただ原子炉圧力容器など交換できない一部設備の経年劣化は未知の部分がある。定期的な安全性確認には万全を期す必要がある。1974年稼働と最も古い関西電力高浜原発1号機(福井県)の場合、従来ルールなら34年までに停止せざるを得ない。新ルールでは47年ごろまで動かせる。ただし東電の柏崎刈羽原発(新潟県)がテロ対策の不備で運転禁止命令を受けた2年8カ月のように、電力会社自身の失策で止まった期間は対象外だ。政府は2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画に「原発の最大限活用」を明記し、40年度の電源構成の2割程度と見込む。原発の建設には約20年を要する。直近で1割に満たない割合を引き上げ、維持するには、早期に建設準備に着手しなければならない。ただ自由化したいまの電力市場で、事業者は巨額投資の回収や資金調達のめどが立ちにくく、計画をためらう要因となっている。GX電源法は原発を活用した安定供給や脱炭素実現を「国の責務」と位置づけた。政府は固定費の回収保証に加え、インフレなどのコスト上昇分も一定程度まで支援する検討を進める。投資の背中を押しつつ、使用済み核燃料の最終処分や福島第1原発の廃炉などの課題でも前面に立つべきだ。国に支援を求めている電力会社は、安全・安心を最優先しつつ、低廉かつ潤沢な電力の供給に全力を尽くすのが当然である。 *9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250614&ng=DGKKZO89365960U5A610C2MM8000 (日経新聞 2025/6/14) 骨太方針閣議決定「減税より賃上げ」 実質1%上昇に方策乏しく 政府は13日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を閣議決定した。賃上げを起点とした成長型経済の実現を重点に掲げ、実質賃金を年1%押し上げる目標を明記した。経済の足腰を強くする成長戦略は新味に欠け、賃上げ実現に向けた具体策は乏しい。今年は石破茂政権で初めての骨太の方針となる。首相官邸で開いた会議で石破首相は「30年にわたって続いたコストカット型経済を高付加価値創出型経済へ着実に転換していかなければならない」と述べた。「新しい資本主義実行計画」の改訂版も閣議決定した。石破政権として最も重視した政策は地方創生と賃上げだ。特に賃金を巡っては、2029年度までの5年間で年1%程度の実質ベースでの上昇を目指すとした。最低賃金は20年代に全国平均で時給1500円を実現するとも強調した。足元は実質賃金がマイナス1%を超えて推移する。最低賃金は全国平均1055円にとどまる。目標はいずれも高い設定だ。骨太の方針では価格転嫁対策の強化や、生産性向上に向けた設備投資の支援などを「総動員」して、物価上昇を上回る賃上げを実現するとした。野村総合研究所の木内登英氏は、実質賃金の上昇率は労働生産性の伸びに一致するという。賃金の上昇率そのものを目標とするのではなく、「成長戦略や構造改革を通じた生産性向上を目標に据えるべきだ」と指摘する。今回の骨太の方針で、成長や構造改革につながる具体的な弾込めが十分だったとは言いがたい。安定的な成長に向けた前提となる財政健全化に向けては、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)について黒字に転換する時期をこれまでの25年度から25~26年度と幅を持たせた。PBは政策に必要な経費を国債に頼らず税収などでまかなえているかを示す指標だ。達成年度について、26年度と先延ばしを最小限に抑えた点は財政規律を保つ意志を示すものとして評価する声がある。骨太の方針では「減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要」であると明記し、消費税率の引き下げ策をけん制した。石破首相は13日、物価高対策として参院選の公約に1人あたり2万円の給付を盛り込むと表明した。第一生命経済研究所の星野卓也氏は「期間や規模が変わらないなら、財政への影響で減税と給付に大きな違いはない」と指摘する。財政健全化に向けた政府・与党の動きにはちぐはぐ感が残る。 <米価格高騰から農業改革へ> PS(2025年6月25、26《図》日):日本人1人が食べた米の量は、2020年度50.7kg/年、2021年度51.4kg/年、2022年度50.9kg/年、2023年度は51.1kg/年・約4.3 kg/月・約140g/日になる(http://www.tahara-kantei.com/column/column2775.html 参照)。 そのような中、2024年に米不足となり、*10-1-1・*10-1-2は、①小泉農相が、6月10日、政府備蓄米を随意契約で2021年産10万t・20年産10万tの合計20万tを小売業者に直接追加放出すると表明 ②大手小売り・中小スーパー・精米機能を持つ米穀店の全ての事業者から受け付け ③小泉氏は「早く安く消費者の手元に届くようスピードを緩めず対応」と強調 ④5kgあたりの店頭価格は「21年産が1800円程度、20年産(古古古古米)が1700円程度」を見込む ⑤農水省はこれまで一般競争入札と随意契約で計61万tの備蓄米放出を表明し、在庫量は2024年6月末に91万tだったため、今回の20万tを放出した後は最大10万t程度 ⑥主食用米としては2011年の東日本大震災で2007~9年産を4万t、2016年の熊本地震で2015年産90tを放出 ⑦小泉氏は放出後在庫量は「過去の事例からも(災害時に)十分対応できる」との見解 としている。また、*10-1-3は、⑧備蓄米は「古いものから放出すべきだった」 ⑨米高騰理由1:政府が需要を見誤った生産調整を行い、2023・2024年に需要に生産が追いついていない ⑩米高騰理由2:政府公表の作況指数に農家と認識のズレがある ⑪米高騰理由3:小売業者の店頭に米がなくなり、卸売業者が米農家と直接契約をするようになって高値で交渉が成立し、JAに入る米の量が大幅に減った ⑫今年1月に約91万tあった政府備蓄米を2023年産から放出して残り約10万tになっているが、本来なら古いものから放出すべき ⑬倉庫は先入先出の形で保管するが、後入先出で放出したため、”流通ロス”が発生 ⑭初回31万tはトラック確保や倉庫からの積み込み問題で流通が遅くなった ⑮古い米はカビ問題等があるため、専門業者が処理する方が妥当 ⑯関税がかからず国内産より安いミニマムアクセス米が増えると供給過多になった場合に国内産価格が下がりすぎるリスクがあり、新米収穫で数量が増える時に輸入する必要はない ⑰米価を下げるには、輸入・増産の方法があるが、米価が下がった場合は十分な補償が必要 ⑱アメリカは農家所得の40%以上、今年は60%が補助金、日本は27%程度 ⑲若い人に農業をやってもらうには、大きな農家に就職してもらう形で給与を保障する等の施策が必要 等としている。 このうち①②③ついては、小泉農相になってから米を小売業者に直接追加放出したため、速やかに店頭に安価な米が並んで良かったし、農水省は、食糧法で国民の主食である米が不作でも国民が安定的に食べられるよう、国による米の備蓄を1995年から制度化して100万t(10年に一度の不作にも供給できる量)近くを備蓄していたのだから、足りずに価格高騰して食べられない人が出た時に備蓄米を放出するのは当然であり、それも備蓄の役割の1つにしなければならないだろう(https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0012/07.html、https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/kome_seisaku/pdf/bitiku_unei.pdf 参照)。 また、④の5kgあたり店頭価格が21年産(古古古米):1800円程度、20年産(古古古古米):1700円程度というのは妥当だと思うが、現在は温度や湿度の管理された低温倉庫で米を保管しているので米の味は変わらず、炊飯器も進歩しているため誰でも美味しく炊ける。そのため、⑮のように、「古い米はカビ問題等がある」ということもなく、日頃から古米や古古米を比較的安い価格で売り、それを買いたい人が買えば合理的であろう。さらに、収穫量を左右すると言われる「ふるい目幅」は、農水省は1.70mm、新潟県は1.85mm、富山県・石川県・福井県1.90mmを使っているそうだが、粒が小さくても美味しく食べられるし収穫量には入るため、単価を変えて販売したり、加工用に回したりなど販売戦略はいくらでも考えられる筈だ。 なお、⑤⑥⑦のように、これまで一般競争入札と随意契約で計61万tの備蓄米放出を表明し、在庫量は2024年6月末には91万tだったため、放出後は最大10万t程度しか残らず、小泉農相が「2011年の東日本大震災でも4万t、2016年の熊本地震では90tしか放出していないので放出後の在庫量でも災害時に十分対応できる」と述べておられるが、総需要量が約800万tの時に、その約1.4ヶ月分(91/800x12)しか備蓄していないのである。これは、食糧・エネルギーは、備蓄したとしてもせいぜい数ヶ月分が限度であるため、戦争等で輸入が途絶えれば、国民はすぐに飢えるということだ。従って、武器を買っても戦争ができるわけではなく、食糧・エネルギーを高い割合で自給できることは、国民の命を守る安全保障の重要な要素である。 また、⑧⑫のように、在庫は先入れ先出しで古いものから出すのが常識で、古いものから放出していけば国民の血税で購入した国民の財産を安すぎる価格で餌米として放出する必要はない。ただし、⑬⑭のように、江藤米の流通が遅れた理由を、「後入先出で放出したから”流通ロス”が発生した」とか「初回31万tはトラック確保や倉庫からの積み込み問題で流通が遅くなった」などと言っているのは、その後の放出時に小売業者が迅速に店頭に並べることができたことから見て、*10-2のとおり、「倉庫会社が収入を得られなくなる」「JAが米の値段を下げたくなかった」という本音を隠した言い訳に過ぎないと考える。なお、低温倉庫は、米の備蓄以外にも使い道が多いため、⑨⑩⑪まで含めて、農水省やJAの考えることは、工夫がなく、国民に迷惑をかけ過ぎている。そのため、私は、⑯⑰のミニマムアクセス米等の輸入による国内産価格の低下は、米生産の合理化のためには黒船として重要な役割を果たすと思う。また、⑱⑲の補助金は、大規模化・二期作・二毛作・品種改良・肥料の国産化・再エネとの共生等々によって世界競争に勝つ米作コスト引き下げ努力を全力で行いながら考えるべきであり、そのためには、この機会に農業法人設立要件を緩和して、企業が農業法人を作り易くするのが良いと思う。 なお、米その他の穀物の生産コストを根本的に引き下げる方法の1つに、*10-3-1のような農地の集積による大規模化・機械化・スマート化がある。そして、担い手への農地集積が大きく増加したのは、認定農業者や集落営農の作業受託面積も集積面積に算入することとなった2006年からで、私が2005年に衆議院議員になってすぐ提唱した品目横断的経営安定対策(2007年導入)の規模要件に即した認定農業者・農業生産法人・集落営農の育成が進められたからだが、担い手に農地が集積されても、20年後の今でもまだ飛び地のままでは変革のスピードが遅すぎるのだ。何故なら、飛び地のままでは、機械化やスマート化に限度があって大規模化のメリットが出ないため集積を速やかにやる必要があるからで、そのためには、*10-3-2のように、小泉農相が経団連会長らと会談し、企業の農業参入の加速やスマート農機の活用に向けて協力していくことで合意し、農地所有適格法人の出資要件を緩和する方向性を示したのは、農業を振興させる目的を忘れない限りタイムリーだと考える。 一方、日本農業新聞は、2025年6月22日の論説で、*10-3-3のように、⑳食料安全保障を確保するには、国内の生産基盤強化と気候変動に対応した持続可能な産地づくりが重要 ㉑農業振興と自給率向上には食品産業との繋がりを強くし、国産原材料の活用が不可欠 ㉒食品産業と産地が連携することで農業基盤を維持し、地域の雇用促進や地方創生に繋がる ㉓ウクライナ危機以降、小麦をはじめ穀物や資材価格が高止まりし、しわ寄せは農家だけでなく国民全体に広がった ㉔輸入依存のままでは食料安全保障のリスクは高まるばかり ㉕農水省が示す諸外国のカロリーベースの自給率(2021年)はカナダ204%、フランス121%、米国104%、ドイツ83%、英国58%などに対し、日本は38%と低迷 ㉖環境負荷軽減を目指す農水省の「みどりの食料システム戦略」実現には、地域・JAを挙げて有機農業等の環境保全型農業を推進すべき ㉗国産の価値を理解して買い支える消費者を増やし、再生産できる所得確保への政府支援が欠かせない ㉘環境負荷を減らした農産物の「温室効果ガス削減マーク」が参考 ㉙土壌への炭素貯留・緑肥の活用などに応じて温室効果ガスをどれだけ削減したかを算定して星印で表す ㉚環境に配慮した国産農産物を消費者が選んで食べることで、日本の農業を支えることになる ㉛農家の高齢化や離農、廃業が止まらず、生産基盤の弱体化は進む ㉜米の価格上昇で起きた混乱は、他の農畜産物でも起こり得る ㉝農家が意欲を持って再生産できる所得を得られなければ、政府が推し進めるスマート農機も導入できない 等と述べている。 このうち⑳~㉕について、私は全く賛成であるし、㉖の有機農業等の環境保全型農業も農業やJAだけでできるものではなく、国を挙げて技術開発を行い、地域で有機肥料の原材料を集める等の協力が必要だと思う。しかし、㉗㉙については、私は国産農産物や農業の価値については十分に理解しているものの、国際比較した場合に高すぎる国産農産物を買い支え続けることはできないため、再生産するためには大規模化・自家発電による電動化・再エネとの共生などを行って、質だけではなく価格でも国際競争力のある農産物を作るべきだと思う。つまり、日本政府が奨励しているような安易な価格転嫁やバラマキ型の補助金は、国民を貧しくするだけであるため、続けるべきではない。 最後に、㉘㉙の環境負荷を減らした農産物に「温室効果ガス削減マーク」をつけて、環境に配慮した国産農産物を消費者が選びやすくするのは良いアイデアだと思うが、価格が違いすぎては買いにくい。そのため、㉛㉜のように、農家の高齢化・離農・廃業が止まらず、生産基盤の弱体化が進む状況であれば、企業が農業法人を作り易くするタイミングは今だと思う。ただ、これまでも「百姓は生かさず、殺さず」とばかりに農機具はじめ農業資材の価格を高止まりさせ続け、㉝のように、農家が意欲を持って再生産できなくしてきたのは本当に問題だと思うが、これには日本政府の思考の浅さだけではなく、JAの工夫のなさも加担していたのではないだろうか? ![]() 2024.11.28三菱総研 2025.2.20キャノングローバル戦略研究所 (図の説明:左図のように、1995年に食管法が廃止されて食糧法に変わったが、価格維持のため、政府による米の生産量規制は続いてきた。実際、中央及び右図のように、他国は米を増産したが、日本は緩やかに減産してOECD平均よりも高い価格を維持し、その分は見えない国民負担となっている) ![]() 2024.11.30日本農業新聞 2024.12.5読売新聞 2025.2.20キャノングローバル戦略研究所 (図の説明:左図のうち、「自立した産業にすべき」「農業予算が多すぎ」については賛成だが、輸入を増やして食料自給率を低いままにしておくと、今後の世界人口増・日本の買い負け・有事などに対応できない。また、中央の図のように、米価は2024年10月に同年1月の1.5倍、2025年6月には2025年1月の2倍になっている。しかし、右図のように、日本の農業保護のための支出《農林水産予算》はOECD諸国と比較しても2倍以上で、世界でも突出して多いのだ) *10-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250610&ng=DGKKZO89255590Q5A610C2MM0000 (日経新聞 2025.6.10) 備蓄米20万トン追加放出 農相表明 随意契約、大手小売りなど 小泉進次郎農相は10日午前、政府備蓄米を小売業者に直接渡す随意契約で計20万トンを追加放出すると表明した。2021年産10万トンと20年産10万トンを対象にする。大手小売り、中小スーパー、精米機能を持つ米穀店の全ての事業者から受け付ける。閣議後の記者会見で明らかにした。11日午前10時から随意契約の申請受け付けを始める。まずは21年産10万トンと、中小スーパー向けに申請受け付け中で残っている同年産2万トンの計12万トン分を売り渡す。21年産が申し込み上限に達した場合は20年産を放出する。先着順となる。これまでに契約を結んだ事業者も対象とする。各事業者の申込数量に上限は設けない。小泉氏は「早く安く消費者の手元に届くようスピードを緩めずに対応する」と強調した。5キロあたりの店頭価格については「21年産が1800円程度、20年産が1700円ほど」を見込む。農林水産省はこれまでに一般競争入札と随意契約で計61万トンの備蓄米を放出すると表明した。備蓄米の在庫量は24年6月末時点で91万トンだった。今回の20万トンを放出した後の在庫量は最大で10万トンほどになる。主食用米としては11年の東日本大震災に07~09年産の4万トン、16年の熊本地震時には15年産90トンを放出した。小泉氏は放出後の在庫量は「過去の事例を考えても(災害時に)十分対応できる水準だ」との見解を示した。農水省によると、5月26日~6月1日時点のコメの平均店頭価格(5キログラム)は、前週より37円安い4223円だった。値下がりは2週連続。入札で放出した割安な備蓄米の流通拡大が影響したとみられる。 *10-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250610-OYT1T50041/ (読売新聞 2025/6/10) コメ高騰:古古古古米も放出へ…小泉農相、備蓄米20万トンの追加放出発表 小泉農相は10日の閣議後記者会見で、随意契約による政府備蓄米の放出について、20万トンを追加すると発表した。当初予定していた30万トンが上限に近づいたためで、新たに2021年産と20年産の10万トンずつを放出する。小泉氏は「備蓄米が早く、安く、消費者の手元に届くようにスピードを緩めずに対応していきたい」と意気込んだ。20年産は初めて放出の対象となり、店頭での販売価格は5キロ・グラムあたり1700円程度になる見通しだという。まずは21年産の10万トンに加え、中小スーパー向けに受け付けて買い手がついていない2万トンを合わせた計12万トンを11日午前10時から受け付ける。各事業者の申込量に上限は設けない。21年産が終了後、20年産の10万トンを放出する。備蓄米を巡っては、一般競争入札で31万トンを放出。その後、政府が安い価格を設定する随意契約に切り替えて30万トンの放出を決め、5月26日から受け付けを始めた。今回の20万トンを加えると、約90万トンあった政府備蓄米は残り約10万トンになる。 *10-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250529-OYT1T50207/ (読売新聞 2025/5/29) 玉木代表の「動物の餌になるようなもの」発言、立憲民主党の泉健太氏「これから我々が口にする主食」と苦言 備蓄米を巡り、「あと1年たったら動物の餌になるようなものだ」とした国民民主党の玉木代表による発言が波紋を広げている。発言は28日の衆院農林水産委員会の質問で出たもので、玉木氏は「餌米に回るようなものを安く出しても本当のニーズではない」とも述べた。政府は、約5年間の保管期間を過ぎた備蓄米を飼料用米に回しており、2021年産の備蓄米を念頭に置いた表現とみられる。小泉農相は28日、記者団に「事実はそうだとしても、放出のあり方について取り組んでいる時に残念だ」と述べた。立憲民主党の泉健太・前代表も自身のX(旧ツイッター)で「これから我々が口にする重要な主食だ。この局面で使う言葉ではない」と苦言を呈した。玉木氏は29日、Xで「(政府の放出に)茶々を入れる意図はなく、現在の制度を説明した」と釈明した。 *10-1-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/f5391f062902bd6b4b2a62dfdc8e18d909f10c08 (Yahoo 2025/6/17) 備蓄米は「古いものから放出すべきだった」 コメ価格高騰のワケ…政府の認識にズレ? 今後について専門家解説 農水省が発表したスーパーでのコメの平均販売価格は、5kgあたり4000円台。依然、高止まりが続いていますが、なぜコメの価格が高騰しているのか。コメ流通評論家の常本泰志氏が解説します。 ●コメ高騰のワケ1「政府が需要を見誤った生産調整を行ってきた」 コメ(主食用)の生産量・需要量の推移のグラフです。2023、2024年をみると、需要に生産が追いついていないのがわかります。常本氏:2024年の推定需要量は約682万tでした。しかし実際は約705万tで、20万t以上見誤ったことになります。ちょうど2024年夏に、スーパーからコメがなくなったと思いますが、その理由の説明として、これが一番正しいのかなと思います。 (Qなぜ、見誤った?) 常本氏:コロナ禍では、需要より生産が上回っていたことがなど挙げられます。しかしコロナ禍以降、家庭内消費が増えているので、「需要量が底を打った」ということになります。 ●コメ高騰のワケ2「農家との認識のズレ」 小泉大臣は16日、作況指数の公表を廃止すると明らかにしました。農水省によると、2024年産のコメの収穫量は約679万t(前年比+約18万t)、その年の生育状況などを表す作況指数は101と平年並みでした。しかし、多くの農家から「穫れている実感ない」という声があり、認識にズレがありました。こうした農家からの声を受け、小泉大臣は16日、作況指数の公表を廃止すると明らかにしました。また、「収穫量調査でのふるい目の変更」「人工衛星や人工知能の活用」「生産者からの収穫量データを主体とする調査」など見直しを行うとしました。 常本氏:私は産地に行く人間なので、農家から直接、生産者量についての話を聞くのですが、ここ10年、数字が当ってたことはないと思います。それぐらいコメが余っていたわけです。 ●コメ高騰のワケ3「流通経路の乱れ」 去年夏、小売業者に店頭にコメがないという状況になり、卸売業者に対して小売り業者が仕入れを強く要望しました。すると、卸売業者はコメ農家と直接契約をするようになりました。つまり、通常のルートよりも高値で交渉が成立するようになったことが、コメ高騰の原因の1つとなりました。また、卸売業者に直接コメが流れた結果、JAに入ってくるコメの量が大幅に減ってしまったことも、高騰の要因に挙げられます。 ●政府の対策 専門家の評価は? 今年1月時点で約91万tあった政府備蓄米。23年産から放出し、残りは約10万tという状況になっていますが、常本氏は「本来なら古いものから放出すべきだった」と指摘します。常本氏:倉庫では通常、先に入れたものほど、先に出るように保管します。つまり今回、一番奥にあるものから出した。それにより”流通のロス”が出ました。また、輸送面でも問題がありました。初回31万tのうち、最初に21万t出てますけど、トラックが延べ台数で約2万台。このトラック確保や、先ほどの挙げた倉庫からの積み込みの問題もあり、流通するのが遅くなりました。常本氏:もう一点、小泉大臣が就任してからは、随意契約で小売業者に放出しました。確かに迅速でよかったですが、全体のコメ価格を下げるのだったら、卸売も買える状態にして23年産と混ぜた方が平均的に下がったんじゃないか。また、古いコメに関しては、カビの問題などいろいろ出てきてます。その辺もをみても、専門業者が処理する方が妥当だったのかなと思います。また、小泉大臣は、政府が関税ゼロで輸入している「ミニマムアクセス米」の入札を前倒しすると明らかにしています。主食用については例年9月ごろに入札、12月ごろ引き渡されます。それを早め、今回は今月27日に入札を実施(3万t予定)、9月下旬に引き渡す見込みです。これに対し、常本氏は「新米収穫で数量が増えるタイミングに、わざわざ輸入する必要があるとは思えない」と指摘します。 常本氏:関税がかからず国内産より安いミニマムアクセス米が増えると、供給過多になった時に、国内産の価格が下がりすぎてしまうリスクがあります。新米の状況を見てから判断しても、よかったんじゃないか。消費者の皆さんには、ちょっとの間、我慢していただけたらと思います。 ●今後どうやってコメ価格を下げる? では、今後どうやってコメ価格を下げていくべきか。常本氏は大きく2つ提言します。 1、輸入に頼る ミニマムアクセス米に対し、関税が1kgあたり341円かかる民間輸入米。この民間輸入米を徐々に増やしていけば、国内産の価格は緩やかに下がり、5年以内にスーパーで特売価格5kg2980円(一般的なコシヒカリ)になるとしています。 2、増産する(増産したいが難しい) 上記の「5kg2980円」より安くしたいのであれば、政府が農家に所得補償をするべきと常本氏は主張します。 常本氏:アメリカでは農家の所得の40%以上、今年の場合は60%が補助金です。一方の日本は27%ぐらいです。コメの価格が下がった場合、十分な補償が必要です。ただ、30年安かったんで、誰にも継がせられないという農家が大半です。コメ農家の平均年齢は約70歳。若い人に農業やってもらうため、新規就農の補助金の枠をどう増やすか。例えば大きい農家さんに就職してもらう形で給与を保障するなどの策が必要です。 *10-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/a5de3d56329b16a6ad19e03c70f3cc7925c73bfd (Yahoo 2025/6/9) 備蓄米の放出で倉庫業者が“廃業危機”報道も…「大量に保管していたのはJA」との指摘 “江藤米”の流通が遅れた真の理由とは 第1回【コメの流通経路は「際立って前時代的」と「ドンキ」社長が喝破…「小泉大臣」方式の圧倒的なスピード感に「これまで遅かったのは誰のせい?」】からの続き・・。共同通信は6月1日、「【独自】備蓄米放出で倉庫収入消失 月4億6千万円、廃業検討も」とのスクープ記事を配信した。 * * * 記事によると備蓄米は60万トンを超える量が放出されるため、全国各地で保管している倉庫では東京ドーム約8個分の空きが生じる。結果、倉庫会社が受け取ってきた保管料が1カ月あたり約4億6000億円失われる見通しだという。共同通信は《廃業を検討する事業者もある》と伝えた。記事はネット上でも拡散し、XなどのSNSには様々な感想や意見が投稿された。担当記者が言う。「何よりも多くの読者が驚きました。『倉庫に備蓄米が保管されていないと、倉庫会社は収入を得られない』との制度設計になっていると初めて知ったからです。これでは凶作や災害が発生して備蓄米を放出するたびに、倉庫会社は経営難で廃業することになるでしょう。Xでは『備蓄米は放出するのが本来の使い方だから、放出して破綻はおかしい』、『倉庫会社には備蓄米の保管料ではなく、倉庫自体のレンタル料を払ってほしい』、『備蓄米の保管は民間委託ではなく、国営の倉庫で行うほうがいい』など、放出しても倉庫会社が困らない制度に改めるべきという意見が目立ちました」。ところが、である。備蓄米を預かる倉庫のうち、かなりの数をJAが運営していることをご存知だろうか。 ●JAの低温倉庫で保存 「日本経済新聞の電子版は1月31日、『備蓄米100万トン、維持費は年478億円 低温倉庫で保管』との記事で、備蓄米は《各地のJAなどにある低温倉庫で保管される》と伝えました。また読売新聞の編集委員は自身のXで備蓄米の大量放出問題に触れ、《備蓄米の在庫が減れば1万トンあたり年1億円の血税を払ってきた倉庫費用が浮く》と指摘、《備蓄米の多くを保管してきたJAは収入減で困るだろう》と投稿したのです(註)」。備蓄米を保管する倉庫の所在地を、国は「防犯上の理由」から非公表としている。だが新聞記事のデータベースで調べてみると、JAの倉庫が備蓄米を保管していると伝える複数の記事が表示される。例えば東北地方のJAが低温保存も可能な倉庫を竣工したと伝えた記事では、「備蓄米を保管することも計画」と報じた。上越地方にあるJAの低温倉庫は一般開放を行い、ガイドツアーが備蓄米の保管状況を見学者に説明した。首都圏のJA倉庫では火事が発生し、多量の備蓄米が焼けた……。「もちろん物流など、備蓄米の保管を引き受けている、JAとは無関係の民間企業もあります。ただ考えてみると当たり前ですが、JAはコメの集荷を担っています。保管用の倉庫を整備することは重要な事業でしょう。最新型の低温管理倉庫も持っていますから、そこで大量の備蓄米を保管するのは理に適っていると言えます。そして、だからこそJAが落札した“江藤米”の流通がなぜ遅れたのかという疑問に再び注目が集まっているのです」 ●回転備蓄と棚上備蓄 多くの消費者は「国の倉庫に保管されている備蓄米をJAが落札。JAが国の倉庫から備蓄米を受け取って精米や発送を行っている」と思っていたのではないだろうか。しかしJAが備蓄米の相当量を保管しているのだから、中には「JAが倉庫に保管していた備蓄米をJAが落札した」というケースもあったかもしれない。その時にJAが急いで手元の備蓄米を卸に流してしまうと、倉庫の保管料は減少してしまう──。「JAが備蓄米制度に強い影響力を行使した問題は他にもあります。例えば備蓄米の保管方法は2011年に『回転備蓄』から『棚上備蓄』に変更されました。前者は備蓄米を数年保管した後、主食用の古米として市場に売却します。後者は数年保管した後、飼料用など非主食用として売却します」。棚上備蓄に切り替わったからこそ、国民民主党の玉木雄一郎代表は5年を過ぎた備蓄米を「エサ米」と呼んで炎上したわけだ。実は農水省の試算によると、今の棚上備蓄より昔の回転備蓄のほうが国民の負担は少ないのだという。なぜ国は棚上備蓄に変更したのか、そこにJAの圧力があったのか、第3回【東日本大震災での放出は「4万トン」…備蓄米は本当に「100万トン」も必要なのか JAの影が見え隠れする“備蓄米ビジネス”のカラクリ】では詳細に報じている。 *10-3-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/312787 (日本農業新聞 2025年6月15日) 担い手農地集積率微増 規模拡大に限界感か 24年度 2024年度の担い手への農地集積率が61・5%となり、前年度から1・1ポイント伸びたことが農水省の調べで分かった。前年度からの伸び幅が7年ぶりに1ポイントを超えたが、30年度までに7割にする政府目標達成に必要な水準には届いていない。農地を任せたくても担い手がいなかったり、担い手の規模拡大にも限界感が出たりしていることが、伸び悩みの背景にあるとみられる。集積率は、国内の農地のうち、担い手が利用している農地の割合。18年度までの5年間は毎年、前年度を1ポイント以上上回るペースで伸びていたが、近年は伸びが鈍化している。政府目標を達成するには、毎年1・4ポイントずつ伸ばす必要があるが、24年度は下回った。同省によると24年度時点で、担い手が利用している農地は262万7100ヘクタール。前年度から3万3700ヘクタール(1・3%)増えたが、うち農地中間管理機構(農地バンク)を介したものは75%だった。集積率を都道府県別に見ると、最も高い北海道(92・5%)に加え、秋田、山形、富山、福井、佐賀の6道県で7割を超えた。水田農業地帯で高い割合の一方、果樹産地や都市近郊で低い傾向がある。前年度からの伸び幅は沖縄(3・5ポイント増)、福島(2・8ポイント増)、奈良(2・6ポイント増)の順に大きかった。政府は、13年に策定した成長戦略「日本再興戦略」で、23年度までに集積率を8割にする目標を掲げた。ただ、23年度の集積率は60・4%にとどまり、目標は未達に終わった。同省は今年4月に閣議決定した食料・農業・農村基本計画で、30年度までに集積率を7割にする新たな目標を掲げた。最終的に「8割」を目指す方針に変わりはないが、30年度時点の現実的な目標として「7割」にした。 *10-3-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/313311 (日本農業新聞 2025年6月18日) 農相と経団連 企業参入加速へ合意 出資要件緩和は議論継続 小泉進次郎農相は17日、東京都内で経団連の筒井義信会長らと会談し、企業の農業参入の加速やスマート農機の活用に向けて協力していくことで合意した。農地所有適格法人の出資要件について、「緩和すれば参入できるという思いの民間企業がいることも事実」と述べ、議論を続ける考えを示した。農相と経団連の会談は、2014年以来11年ぶり。小泉農相は、食料安全保障の確保には、「(農業への)企業参入や民間の投資も不可欠」だと強調。経団連と連携して加速させる考えを示した。企業の農業参入には「一定の経済合理性がなければ参入が見込めないというのは当然」と指摘した。参入促進策に関しては「これから具体的にご提案をいただく」と述べた。農地所有適格法人は、農業者の経営決定権を踏まえ、農業者以外の出資割合を2分の1未満とする。ただ、食品事業者と地銀ファンドに限り、3分の2未満まで出資できるよう要件が緩和された。小泉農相は、法人数は「右肩上がりで増えている」と述べ、参入が進んでいるとの認識を示した。要件は「十分な面」もあるとしつつ、緩和を求める企業の声も踏まえて議論する方針を示した。農機価格の高騰を受け、建設業界の知見も踏まえたリースやレンタルの普及拡大について議論した。「サービスとして当たり前の農業界に変えていかなければいけない」と意欲を見せた。筒井会長は「官民でどのように協力し合いながら進めていけるのか。議論の土俵が今日出来上がった」と話した。 *10-3-3:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/314296 (日本農業新聞論説 2025年6月22日) 自給率向上の方策 食品産業との連携密に 気候変動や国際的な食料需要の増加で食を巡るリスクは高まっている。食料安全保障を確保するには、国内の生産基盤を強化することが先決だ。農業振興と自給率の向上には、食品産業とのつながりを強くし、国産の原材料を積極的に活用していくことが欠かせない。自民党は今月上旬、小泉進次郎農相に対し、食品産業による国産原材料の利用拡大などを求める提言を出した。輸出促進や環境調和とも連動させ、持続可能な食品産業の発展を求めた。農水省は、「持続的な食料システムの確立」に向けて2024年度の補正予算で47億2100万円、25年度は1億4500万円を計上。食品産業と産地が連携することで農業基盤を維持し、地域の雇用促進や地方創生につながる。ウクライナ危機以降、小麦をはじめ穀物や資材価格が高止まりし、しわ寄せは農家だけでなく国民全体に広がっている。輸入依存体質のままでは、食料安全保障のリスクは高まるばかりだ。同省が示す諸外国のカロリーベースの自給率(21年)はカナダ204%、フランス121%、米国104%、ドイツ83%、英国58%などに対し、日本は38%と低迷する。自給率向上につなげるには、国産の利用拡大が不可欠となる。生産基盤の強化へ、異常高温などの気候変動に対応した持続可能な産地づくりも重要だ。環境負荷の軽減を目指す同省の「みどりの食料システム戦略」実現には、地域やJAを挙げて有機農業など環境保全型農業を推進すべきだ。国産の価値を理解し、買い支える消費者を増やすとともに、再生産できる所得の確保へ政府による支援が欠かせない。環境負荷を減らした農産物であることが、ひと目で分かる「温室効果ガス削減マーク」の取り組みが参考になる。土壌への炭素貯留や、緑肥の活用などに応じて温室効果ガスをどれだけ削減したかを算定し、星印で表す。環境に配慮した国産農産物を消費者が選んで食べることで、日本の農業を支えることになる。生産者と消費者、産地と食品産業が共に支え合う「対等互恵」の関係を構築する時だ。農家の高齢化や離農、廃業が止まらず、生産基盤の弱体化は進む。米の価格上昇で起きた混乱は、他の農畜産物でも起こり得る。農業が先細れば、誰が日本の食を支えるのか。農家が意欲を持って再生産できる所得を得られなければ、政府が推し進めるスマート農機も導入できない。農業と食品産業は車の両輪だ。連携を密にし、国産原料の活用を推進することが、危機に強い生産基盤を築き、自給率向上につながる。 <農林業と防衛の大きな親和性> PS(2025.7.2追加):*11-1-1のように、NATO加盟国の防衛支出を2035年までに軍関連インフラの整備費などと合わせてGDP比5%とする新目標に合意し、その合意を受けて米政府の大統領報道官は「欧州が可能なら、インド太平洋地域もできるはずだ」と圧力を強めているそうだ。しかし、日本では長く「GDP比1%枠」が護られてきて、2023年度予算で「2027年度2%」の目標に向け毎年約1兆円のペースで防衛費を積み増しているが、ただでさえ国民負担が重く、財政は歳出超過の状況下で、これ以上防衛予算を増やすことはできない。そのため、*11-2-1で石破首相が「農業を安全保障の一環として考える」「防衛だけでなく食料の面でも安全保障を考える必要がある」「生産性向上等の努力や納税者の理解を前提に生産者への新たな所得政策を検討する」と言われていることもあり、防衛に不可欠な食料安全保障・エネルギー安全保障に関する予算を、「防衛関連インフラ整備費」として防衛費に含めてはどうかと考える。例えば、*11-1-2のように、現在は偵察ドローンで敵の位置をリアルタイムに把握して高精度の砲撃を行い、搭載カメラの画像データで自律飛行し、標的を自動識別するAIドローンもできており、これらの技術は農業でも応用できる上、その操作技術を習得している自衛官は、農地の集約ができていれば農業でも活躍できるのである。 そのような中、*11-2-2は、「小型ドローンは35haで採算がとれる」「課題は導入コスト」としているが、ドローンも使用する機体が増えれば単価は下がる筈で、それでも「日本には安価なドローンを作る技術がない」と言うのであれば、(誠に情けないが)ドローンもウクライナや中国等から輸入するしかないことになる。また、仮に1人では30ha耕作するのがやっとだとしても、3人集まって農業法人を作れば90ha耕作できるため、農業も法人組織で行なった方が、i)農機の負担 ii)労務管理 iii)マーケティング iv)経営管理 等々で有利になるのである。そのため、*11-2-3のように、農水省・防衛省・JA全中などが退職自衛官の就農促進に連携を進めることを決めたのは良いことで、この機会に若くして退職した自衛官を農業大学校等で受け入れ、職業訓練をし、農業現場で就業機会を提供して就農を促進するのは合理的だと考える。さらに、組織として農業を行なえば、農業者として働きながら有事の際には自衛官として任務に就く「予備自衛官」に任官することも可能であろう。 また、*11-3-1・*11-3-2のように、経産省は2026年度から化石燃料使用が多い工場・店舗をもつ1万2000事業者に屋根置き太陽光パネルの導入目標の策定を義務づけるそうだが、これも安全なエネルギーの自給率向上を通して防衛に資するため、技術開発費や設置費用の一部を防衛費から支出して良いと考える。そして、大都市や工場・小売店・倉庫・自治体の庁舎・空港・駅だけではなく、ビルやマンションの屋上・壁面も該当させ、ペロブスカイト型太陽電池の種類・色・模様などの選択肢を広げるようにした方が良い。 ![]() 2025.7.1日経新聞 YANMAR 農水省 (図の説明:左図のように、現在のドローンは攻撃目標をピンポイントで設定して誤りなく攻撃することができる上、一機あたりの価格は安い。また、中央の図のように、農業で使うドローンも作物の生育状況を測定し、肥料の足りない場所にピンポイントで肥料を撒くことができる。さらに、右図のように、GPSを使って無人で耕運・種まき・収穫などをこなすトラクターもあるため、その価格がネックにならなければ農業の生産性を大きく上昇させることは可能なのである) ![]() アカサカテック アカサカテック フォレストジャーナル (図の説明:左図はトマトを収穫するロボットで、センサーで適度に熟したトマトを選び、収穫したトマトをサイズ毎に分類して籠に入れる作業を連続して行うことができる。中央の図は、消毒液をかけているドローンだが、農業現場ではドローンが既に使われている。右図は、林業の現場で使われている重機だが、林業も機械化・自動化を進めて生産性を上げなければならないため、機械の扱いに慣れた人が優位なのである) *11-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1494775 (佐賀新聞 2025/6/28) 「NATO防衛費5%」米国の言い値でいいのか 北大西洋条約機構(NATO)は、オランダで開催した首脳会議で、加盟国の防衛支出を2035年までに軍関連インフラの整備費などと合わせて国内総生産(GDP)比5%とする新目標に合意した。会議をまとめたルッテNATO事務総長は、NATOの根幹である集団防衛を規定した条約第5条について「米国は完全に順守する」と述べ結束を強調した。だが高い目標設定は、ロシアの脅威にさらされた欧州の防衛に米国をつなぎ留めるための苦肉の演出だった。米国のトランプ大統領はこれまで「NATOは応分の負担をしていない」と主張する一方、5%の根拠を明確にはしていない。“言い値”に合わせた安易な妥協は、日本などインド太平洋地域にも影響を及ぼしかねない。今後の影響を注意深く見守る必要がある。NATO首脳宣言は、加盟国が35年までにGDP比5%を中核的な防衛費と軍備関連費に投じると確認。GDP比3・5%を中核的な防衛費に、軍関連インフラ整備や防衛産業基盤の強化などのためにGDP比で1・5%を拠出すると決めた。戦略環境を考慮し、29年に進展状況を検証するという。半面、切迫するウクライナ情勢への対応は十分とは言えなかった。会議の主要議題にならず、首脳宣言は「長期的な脅威」と位置付けただけでロシアの侵攻を直接非難する表現はなし。昨年の宣言で「不可逆的」としたウクライナ加盟についての言及もなく、加盟に反対するトランプ氏に配慮したためとみられる。NATOの現状は厳しい。スペインやイタリアなど現行の2%目標すら達成していない加盟国があり、財政事情が増額を許さない国もある。そうした中、拠出目標を2・5倍と大幅増を掲げたにしては、熟議を欠いた性急な決定であった。取り組むべき課題は核抑止からサイバー、宇宙、弾薬補充と多岐にわたっており、それぞれの軍事的必要性と効果などを見極め、必要な防衛費が算出されるのが順番だろう。そもそも欧州地域の防衛を主眼に置く大多数の加盟国と、地球規模で兵員展開能力を追求してきた米国では、軍事的目標の質が違う。トランプ氏は、そうした現実を無視した「NATOただ乗り論」で圧力をかけた上に、増額に抵抗したスペインに対しては「関税を2倍にする」と脅した。重要な同盟国に対する公の発言として極めて不適切だろう。安全保障問題を、貿易問題に絡めて操る戦略は改めるべきだ。1月の大統領就任以来繰り返された自国優先主義は、米国に対する各国の信頼を揺るがしており、相互の理解と信頼が欠如したどう喝外交は早晩、行き詰まるだろう。今首脳会議を受けて米政府の大統領報道官は早くもインド太平洋地域に対し「欧州が可能なら、同様にできるはずだ」と圧力を強めた。日本政府の「防衛力整備で大事なのは金額ありきではなく、防衛力の中身だ」(林芳正官房長官)という考え方はまっとうなものとして評価したい。石破茂首相が会議出席を突然取りやめたのは残念で、堂々と持論を展開してほしかった。今後もトランプ氏や国際社会に対して日本の姿勢を伝え、理解を得る努力を続けてほしい。 *11-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250701&ng=DGKKZO89701010Q5A630C2TLH000 (日経新聞 2025.7.1) 現代戦変えるドローン兵器、高速で偵察、高精度の攻撃も 歴史上、戦争は科学技術や軍事戦略の進化をもたらしてきた。史上初の大規模なドローン(無人機)戦争になったロシアのウクライナ侵略もその例にもれない。ドローンは世界各国の防衛のあり方をどう変えようとしているのか。この3年の戦闘で起きた変化を解説する。2022年の開戦当初、ドローンは戦闘における補完的な存在だとみなされてきた。ロシアとウクライナのいずれも輸入に頼り、国内の生産基盤も貧弱だった。戦争が一進一退の消耗戦の様相を濃くすると、双方とも偵察や攻撃面でのドローンの重要性を認識するようになった。自爆ドローンは砲弾よりもはるかに命中率が高く、安価というメリットがある。偵察ドローンで敵の位置情報がリアルタイムで把握できれば、高精度の砲撃が可能になる。ドローンは相手の継戦能力をそぐためのインフラ攻撃にも投入されている。ウクライナは装備面での劣勢を補おうと、いち早く生産基盤の整備に動いた。ロシアもドローン技術を持つイランと連携し、生産機数を一気に引き上げた。ドローンを撃退する主な手段となったのがジャミング(電波妨害)で、それを回避する技術も急速に進歩した。それはジャミングに比較的強いアナログ通信のドローンや、電波の影響を受けない有線の光ファイバードローンの台頭を招いた。ドローンの種類も多様になっている。搭載カメラの画像データで自律飛行し、標的を自動識別する人工知能(AI)ドローンや、ヘリを撃墜できる海上ドローンも登場した。双方はドローンの操縦士の育成も急いでいる。ロシアは30年までにドローン操縦士を100万人育成する計画を掲げている。「ドローン操縦」は日本の中学生にあたる生徒向けの教育カリキュラムに組み込まれた。 *11-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/315888 (日本農業新聞 2025年6月30日) 【石破首相 本紙単独インタビュー】農業の力で安保確立へ 米生産に所得政策 納税者の理解が前提 石破茂首相は29日、首相公邸で日本農業新聞の単独インタビューに応じ、農業を安全保障の一環として考える姿勢を強調した。米の生産を抑制から増産に転換することに改めて意欲を示し、生産性向上などの努力や納税者の理解を前提に、生産者への新たな所得政策を検討する考えを表明した。日本の食料自給率がカロリーベースで38%に低迷する現状は「国家を脆弱(ぜいじゃく)にしている」と指摘した。農家の高齢化や農地の減少を問題視し、防衛だけでなく食料の面でも安全保障を考える必要があると訴えた。世界の主要国が一層の人口増加を見据え、食料の増産に動いているとし、米の生産抑制に疑問を呈した。国が需給見通しを示していることを念頭に、生産抑制の仕組みが「実質的には残っているのではないか」との認識を強調。見直すべきだと訴えた。増産に伴う価格下落への対応として「所得補償という言い方をするかどうかは別として、(生産者への)手当ては必要だ」と述べた。ただ「今のまま直接所得補償すれば現状を固定することに他ならない。納税者の理解を得られるとも思っていない」と指摘。農地の集約や農機の共同利用、収量が多い品種の導入によるコスト削減などの努力を求める考えを示した。中山間地域に対する支援も「厚くする必要はある」と述べた。付加価値の高い米を生産していることや、水源涵養(かんよう)、景観維持の機能を踏まえ、「水田の維持の在り方をさらに充実していくべきだ」と強調した。米価を巡っては、1年間で2倍になったとして「かつてのオイルショックを想起させるような異様な高騰ぶり」だと言及。生産者と消費者の双方が納得する具体的な水準については明言を避けたが、米など食料は市場任せでは適正価格にはならないとの認識を示した。米の輸出や農機の共同利用などで「JAの果たす役割も非常に大きい」とした。「なるべく現場の意見を踏まえて政策を決めていきたい」とした上で、市町村合併で「地域の声が届きにくくなった」との認識を示し、地域に根差すJAへの期待を込めた。自らが議長を務める「米の安定供給等実現関係閣僚会議」については、2027年度からの新たな水田政策の在り方を検討すると述べるにとどめた。7月1日に次回会合を開くと明かした。水田政策の検討で、野党の声も一定に考慮する姿勢を示した。参院選で各党の主張がどう支持されるかが「重要な考慮の要素」になるとした。「党利党略が入り始めると政策がゆがむ」とも述べ、冷静な議論を求めた。米国との関税交渉を巡り、農業を犠牲にしない考えは「変わっていない」と強調。「米の輸入を増やすとか、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米とかを考えていることはない」と述べた。 *11-2-2:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/315765 (日本農業新聞 2025年6月30日) [ニュースあぐり]小型ドローン 35ヘクタールで採算 スマート農業 スマート農業技術の普及で、農業の生産性向上を目指す「スマート農業技術活用促進法」の成立から、6月で1年。各地でスマート技術の導入が徐々に進む一方、課題となるのが導入コストだ。農研機構の研究成果から、薬剤散布などで利用が多いドローンなどの導入費用や採算が取れる経営規模、注意点をまとめた。 ●委託と購入で農研機構試算 農研機構は昨年発行した技報(16号)で「スマート農機の導入コストと採算規模」を公開した。ドローンでの農薬散布では、外部委託した場合と、自らドローンを購入し作業した場合の費用を比較し、採算が取れる面積を試算。外部委託の作業料金を10アール当たり2000円とし、一方、ドローンを自分で購入する場合は購入費以外に付属品や保険料、登録料がかかるとする。平たん地は中型機(30キロタンク、機体200万円)、中山間地は小型機(10キロタンク、機体120万円)で耐用年数5年とした。 ●共同利用など散布面積拡大 ドローンを使った10アール当たりの農薬散布時間は、平たん地で0・2時間、中山間で0・27時間かかるとして、自ら散布した場合の10アール当たり散布労働費を試算。このときオペレーターの時給1500円を基に算出した10アール当たり散布労働費は平たん地で300円、中山間で405円となる。労働費以外の経費は固定費のため、散布面積が大きくなるほど10アール当たりの経費は少なくなる。これらを踏まえ、ドローン導入時の費用と作業委託料金を比較した(図)。その結果、中型機では50・7ヘクタール以上、小型機では34・6ヘクタール以上が、自ら導入した場合に採算が取れる規模だと導き出した。例えば稲作で中型機を用い2回防除する場合の水稲作付面積は、その半分の25・3ヘクタールが採算ラインとなる。ドローンの利用を自分の圃場(ほじょう)だけでなく共同利用することや、作業受託を行うことで面積を拡大できる。試算を行い、現在は農業経営支援を行うファーム・マネジメント・サポート代表を務める梅本雅氏は「作物と散布するものは限定しない。他の作物や肥料散布なども合わせられる」と指摘する。 ●コンバインと田植え機でも 同報告では、直進アシスト田植え機と収量計測コンバインの導入についても試算した。直進アシスト田植え機は、23ヘクタール以上の作付面積が確保できれば、慣行機よりも経済的だと試算。収量計測コンバインについては、増収率4%で8ヘクタール以上、増収率2%で15ヘクタール以上、増収率1%で30・5ヘクタール以上稼働できれば、慣行のコンバインからの更新が経済的に有利と試算する。梅本氏は「ドローンと田植え機は稼働面積、コンバインは計測データを活用した栽培改善結果を含む評価だ。導入による作業量の変化だけでなく、コスト面での導入の考え方として参考になればいい」と説明する。試算内容の詳細を掲載した農研機構技報16号は、同機構のホームページから閲覧できる。 *11-2-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/315863 (日本農業新聞 2025年6月29日) [「まいちゃん」のニュース教えて!]退職自衛官の就農促進なぜ? 農水省と防衛省、JA全中など農林水産関係団体の3者は、退職自衛官の就農促進へ連携を進めることを決めました。どうして農業分野に着目し、自衛官の退職後の再就職を支援するのでしょうか。 ●親和性高い“即戦力” Q なぜ退職自衛官の再就職支援に取り組むの? A 自衛隊は若年定年制と任期制を採用しているため、多くの自衛官が一般企業より若い、50代半ば、または20~30代半ばで退職します。2023年度は約7600人がこの制度で退職しました。若くして退職した後の将来設計へ、再就職の支援が求められています。24年12月には自衛官の処遇改善や新たな生涯設計の確立に向けた基本方針が打ち出されました。同方針では自衛官の確保のために、再就職や再就職後の不安の払拭が重要な課題と示されました。 Q なぜ農林水産業への再就職を促進するの? A 農林水産業では担い手の減少が顕著で、就農者の確保が急務です。退職自衛官は「体力や、自動車整備士などの資格が農業に生きる」(農水省就農・女性課)ことから、即戦力として期待されています。石破茂首相も国会で「自衛官と農林水産業はものすごく親和性が高い」と述べ、退職自衛官の就農促進に意欲を示していました。 Q 農業分野にはどれぐらいの退職自衛官が再就職しているのかな? A 防衛省の支援で23年度に再就職したのは4158人。そのうち農林・水産・鉱業分野は若年定年者の0・6%、任期満了者の1・1%で、合計で約30人と全体の1%にもなっていません。 Q 就農促進には、どのようなことに取り組むの? A 農水省は、農業大学校などでの受け入れ体制を整備します。インターンシップ(就業体験)の機会も提供する予定です。防衛省は、これまでも退職予定の自衛官へ業種の説明会や、職業訓練を実施してきましたが、農林水産業の説明会や職業訓練も展開するとしています。 全中などJAグループは、各JAや県域での就農支援策を紹介するウェブサイトを充実させる他、自衛隊の地方組織からの要望に応じて説明会を開きます。企業などで働きながら有事の際には自衛官として任務に就く「予備自衛官制度」の国民理解の醸成にも取り組みます。 *11-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250630&ng=DGKKZO89694610Q5A630C2MM8000 (日経新聞 2025/6/30) 太陽光設置目標を義務に 工場や店 1.2万事業者対象、来年度から、ペロブスカイト導入促す 経済産業省は2026年度から、化石燃料の利用が多い工場や店舗をもつ1万2000事業者に屋根置き太陽光パネルの導入目標の策定を義務づける。薄くて軽いペロブスカイト太陽電池(総合・経済面きょうのことば)の導入を広げて、脱炭素に向けて太陽光の比率を大幅に高めるエネルギー基本計画の目標達成に近づける。省エネ法の省令や告示を25年度内にも改正する。メガソーラー(大規模太陽光発電)は適地が減っていることから、建物の利活用を急ぐ。新たな義務は原油換算で年1500キロリットル以上のエネルギーを使う事業者や施設に課す。工場や小売店、倉庫などが該当する。自治体の庁舎も含む。義務は2段階でかける。企業や自治体の設置目標の策定は26年度からで、約1万2000事業者を対象とする。少なくとも5年に1回程度の更新が必要になり変更時はその都度報告を求める。27年度からは毎年、約1万4000カ所に及ぶ施設ごとに設置可能な面積と実績の報告を求める。予定の出力数なども把握する。違反や虚偽の報告には50万円以下の罰金を科す。工場などの屋根には薄くて軽いペロブスカイトが向くとみている。積水化学工業などの日本企業が技術的に優位で、主要な原材料を国内で調達できるのも経済安全保障上の利点といえる。導入の拡大へ25年度に設けた補助金の活用も促す。政府は2月に閣議決定した新たなエネルギー基本計画で、電源に占める太陽光の割合を40年度に23~29%とする目標を掲げた。足元の9.8%から大幅に上積みする必要がある。日本エネルギー経済研究所は、国内の工場や倉庫、商業施設の屋根に設置可能性のある太陽光発電量は23年度時点で16テラ~48テラワット時と推定する。原子力発電所2~6基分の規模で、日本の総発電量の2~5%に相当する。尾羽秀晃主任研究員は「国内では空き地よりも屋根のほうが設置可能な面積が広い。屋根の利活用は重要だ」と説く。屋根置きの太陽光パネルの普及は公共施設や住宅で先行している。企業部門は取り組みが遅れていた。経産省は目標づくりや報告の義務化でてこ入れを図る。 *11-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0130K0R00C25A5000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2025年5月4日) 曲がる太陽電池、大都市圏に導入目標 東京都は55万世帯分構想 経済産業省は薄くて曲がる新型のペロブスカイト太陽電池について、近く東京、大阪、愛知、福岡の4都府県に導入目標の策定を要請する。平野の少ない日本で従来型の太陽光パネルの設置場所は限られる。東京都は2040年までに年間電力消費量で55万世帯分の設置目標を表明する。50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする政府目標の実現に向けては、太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電の導入拡大が求められる。太陽光では今後は都市部の高層ビルなど建造物への設置が有効だとみて、普及加速を後押しする。7日に開く経産省の官民協議会で大都市圏の東京、大阪など4都府県にギガワット級の導入目標の策定を要請する。具体策を盛り込んだロードマップの作成や設置補助金の創設といった取り組みも求める。高層ビルや大規模集客施設といった既存の建造物や、今後着工する施設への設置を促す。東京都は40年までに2ギガワット分の導入目標をまとめており、協議会で表明する。標準世帯で55万世帯分の年間電力消費量にあたる。公共施設に加え、商業ビルや空港、駅といった場所への導入をめざす。都で独自に補助金を設け、設置費用を支援する。日本発の技術であるペロブスカイトには薄くて曲げられるフィルムタイプや、ガラスに埋め込めるタイプといった複数の種類がある。建物の屋上や壁面、窓などに設置しやすく、広大な土地を確保しなくても大規模な導入を期待できる。実用化も日本勢がリードする。積水化学工業は25年度中に販売を始め、30年までに年100万キロワット級まで生産規模を拡大する。3100億円超のコストの半分を政府が補助する。パナソニックホールディングス(HD)は26年にも住宅建材と太陽電池を組み合わせた製品の試験販売を始める。経産省は40年までに国内で、標準家庭の550万世帯分の年間電力消費量にあたる20ギガワット(1ギガワット=100万キロワット)の設置を目標にかかげる。政府は2月に閣議決定した新たなエネルギー基本計画で、電源全体に占める太陽光の割合を足元の9.8%から、40年度に23〜29%へ引き上げる方針を打ち出した。ペロブスカイトの導入目標策定は他の道府県への要請も検討する。普及が進めば、価格が低下し、個人による設置拡大にもつながるとみる。太陽光パネルは近年、適地が少なくなってきたことから設置が伸び悩んでいる。発電容量10キロワット以上のパネルの導入は茨城県や福島県、千葉県など広大な用地を確保しやすい自治体に集中する。24年9月時点で設置量が最も小さいのは東京都の15万キロワット分で、最大の茨城の407万キロワット分との差は大きい。政府はこれまでに脱炭素投資向けの「グリーンイノベーション基金」を通じて、ペロブスカイトの技術開発に648億円の支出を決定した。25年度からは企業や大学向けの設置補助を始める。50億円の予算を確保した。太陽光パネルは2000年代前半に日本勢が世界シェアの過半を占めていた。中国との価格競争に敗れ、足元のシェアは1%未満だ。中国はペロブスカイトでも大規模な投資を進めており、日本企業の脅威になっている。政府は国際競争力や経済安全保障の観点からも、開発や普及支援が重要とみる。技術の国際標準化や製品輸出も後押しする。太陽光パネルは原材料のシリコンが主に中国で生産されることに対し、ペロブスカイトは原材料のヨウ素が国内で調達できることも強みとなっている。
| 年金・社会保障::2019.7~ | 02:00 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2025,02,03, Monday
(1)農家への所得補償(直接支払い)は最終解でないこと
![]() (図の説明:左図は、我が国と諸外国のカロリーベースと生産額ベースの食糧自給率の比較だが、カロリーでは必要な需要を満たした割合はわからず、生産額では単に高いだけかも知れないため、品目別の国内生産重量が需要重量に占める割合《重量ベース》が最も現状を表しているだろう。また、中央の図は、我が国のカロリーベースの食料自給率の推移だが、これは一貫して下がって2023年度は38%にすぎないため、農業政策の是非が問われるわけである。なお、右図は、品目別食料自給率で、米や鶏卵の最終製品は100%に近いが、途中で海外産の資材や餌を投入している製品は、厳密には国産に入れるべきでない) *1-1-1・*1-1-2・*1-1-3は、①日本の食料自給率の長期低迷と農家戸数・耕作面積減少に歯止めがかからず、原因を突き詰めるべき ②持続可能な食料安全保障を確立するため、これまでの農政の効果を検証する必要 ③立憲民主党・国民民主党は戸別所得補償制度(直接支払制度)という観点から提起を始め、石破首相・森山幹事長も「直接支払いの議論を深める」と語った ④農水省は通常国会に農産物の価格転嫁を後押しする法案を提出予定だが、納税者負担による直接支払いの是非が論点として浮上するのは間違いない ⑤「農家の手取り増を実現させる」という石破首相の強いリーダーシップを期待したい ⑥石破政権の「令和の日本列島改造」「地方創生2.0」に「農家の直接支払い」は含まれない ⑦農家数激減から農家への直接支払いは不可欠 ⑧農林業センサスを見ると、高齢化・中小零細農家淘汰で、2005年に208万5000あった農業経営体数は2020年は109万2000まで半減、10haを境に中小零細農家の淘汰が急速に進んだ ⑨2024年5月の食料・農業・農村基本法の見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で、農家数がさらに減少し、農村コミュニティー維持困難 ⑩工場誘致で零細農家も兼業で生き残っていたが、その条件も失われて大規模化が進んだ ⑪円安インフレで農薬・肥料・飼料・燃料の輸入価格が上昇して農業経営を圧迫 ⑫農家の経営困難を救う所得政策が不可欠 ⑬改正基本法はITを使ったスマート農業技術で規模拡大を図ろうとするが、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなる ⑭農業と農家の衰退状況から、欧米並みの農家への直接支払いを導入することが急務 ⑮農水省が2025年度から始まる中山間地域等直接支払制度の次期対策で「集落機能強化加算は継続しない」という方針を示した ⑯加算を終了する理由の1つに「地域運営組織の設立・連携を行うという趣旨が十分に伝わっていなかった」と都道府県・市町村への説明不足を挙げた ⑰集落機能強化加算は「高齢者の見回りや送迎など、生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援している」 ⑱効果を評価していたのに一転、2025年度予算概算要求で加算の廃止が判明 と記載している。 ここで述べられているポイントの第1は、①②から、食料安全保障を確立するために、食料自給率が長期にわたって低迷し、農家戸数・耕作面積が減少している原因を突き詰めて、農政の効果を検証すべき ということだ。 「腹が減っては戦は出来ぬ」と言うように、いざと言う時に国民が飢えたり、栄養失調になったりするようでは、武器ばかりあっても戦が出来ないのは昔から常識であり、そのため「兵糧攻め」や「水攻め」は味方の兵力を損なわずに相手を屈服させる常套手段となっているのである。 その点、日本の農政は、食料自給率が長期にわたって下がり続け、耕作面積も減少しているため、私は「農業政策を検証しなければならない」という主張に賛成だ。しかし、戸別所得補償制度(直接支払制度)による農業振興では、本物の農業振興にならないため、ポイントの第2~第4に、その理由を記載する。 ただし、*1-5のように、日本の食料自給率はカロリーベースで測られているが、人間はカロリーだけで、まして米や芋だけで健康に生きられるわけではない。そのため、栄養バランスを加味した自給率は、現在、需要のある食品毎の重量に対して国内産(海外産の資材で育てられたものは、当然、除外すべき)の割合を出すのが適切であり、主食と副菜の区別も不要である。 また、ポイントの第2として、③④⑤⑥⑦⑫⑭のように、地方創生には、農家の手取り増を実現させるため、農水省の農産物への価格転嫁後押し法案ではなく、農家の経営困難を救う欧米並みの戸別所得補償制度(直接支払制度)を行なって農家数の激減を防ぐべき であり、事実、⑧のように、農林業センサスでは、高齢化や中小零細農家淘汰により、2005年に208万5000あった農業経営体数が2020年は109万2000まで半減し、特に10ha以下の中小零細農家の淘汰が急速に進んだ という主張がある。 しかし、農業の生産性向上による農業所得拡大には機械化や装置化が必要不可欠であり、それができるためには、経営体の規模拡大が必須である。にもかかわらず、これまで中小零細農家が多く、それを温存してきた理由は、戦後の農地改革で小作農が耕作してきた農地を得て自作農になり、家業として農業を引き継いできたからで、細切れの農地が望ましいからではない。 そのため、高齢化による離農をチャンスとして農地を大規模経営体に集約しつつあり、戸別所得補償制度(直接支払制度)がなければ離農したいような中小零細農家は離農しても良く、その農地は大規模経営農家や農業法人に集約すれば良い仕組にしているのである。 なお、ポイントの第3として、⑨⑩⑪⑫のように、円安インフレで農業資材の輸入価格が上昇して農業経営を圧迫し、工場誘致による兼業で支えていた零細農家もさらに減少して、農村コミュニティーが維持困難になっているが、2024年5月の食料・農業・農村基本法見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で大規模化がさらに進んだ とされている。 しかし、円安インフレによる農業資材の高騰は優に想定を超えていたものの、「2024年5月の食料・農業・農村基本法見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で大規模化がさらに進んだ」というのは、本来の意図通りなのである。そして、今回の円安インフレによる輸入価格上昇が経営を圧迫しているのは零細農家だけではなく、輸出企業でない経営体全体の話であり、それでも零細兼業農家を皆が払った税金で支えなければならないかについては、国民全員が支払っている税金であるだけに疑問である。 さらに、ポイントの第4は、⑬⑮⑯⑰⑱のように、改正基本法はITを使ったスマート農業技術で規模拡大を図ろうとしているが、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなる上に、集落機能強化加算は高齢者の見回りや送迎などの生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援しているにもかかわらず、農水省が廃止を表明した としている。 確かに、中小零細農家の離農が進んで住民が減れば、農村コミュニティーが維持困難になり、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなりそうなのはわかるが、スマート農業を行なう大規模経営農家や農業法人の経営者・従業員が住んだり、別の場所に住んで農地に通ってきたりもできるため、住民の暮らし方を変えれば良いのではないだろうか。何故なら、現状維持ばかり主張しても、むしろ現状維持はできないからである。 なお、集落機能強化加算は、「高齢者の見回りや送迎などの生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援している」のだそうだが、若者の農業離れは農業が面白くない産業だから起こっているのではなく、ムラのために無償労働をしなければならないことが多く、ムラの“文化”による縛りが強いからだと言われている。そのため、高齢者の見回りや送迎などの生活支援や環境の維持は、介護制度やシルバー人材などを使って、ボランティアではなく、正当な費用を払って行なわれるべきであろう。 (2)米作の温暖化への適応と令和の「コメ騒動」 *1-2-1は、①温暖化で水稲の生育可能な期間が延び、再生二期作が広がってきた ②島根県の農事組合法人ふくどみは、2024年4月下旬、1haに早生品種を移植し、8月下旬に1度目の収穫を行って追肥し、11月下旬に2番穂を収穫して、10aあたり762kg確保 ③茨城県のJA北つくばは2024年産で「にじのきらめき」など約1haで実証し、10a収量は2度の収穫で計712kg ④2番穂を収穫しても、収穫せずにすき込んでも「労力は大差ない」 ⑤農研機構の2023年研究成果では、福岡県内の試験で「にじのきらめき」の10a収量は2回合計で950kgで、1番穂を地際から40cmと高く刈ることで地上部に栄養を多く残し、2番穂の収量を確保できるとする としている。 野生の稲は、もともと熱帯~亜熱帯地域に広く自生し、多年生型(結実後も親株が枯れず株が生き続ける)・1年生型(種子により毎年繁殖して枯れる)とその中間型がある。そして、日本でも弥生時代は稲穂だけを刈り取る多年生型栽培法がとられ、現在のように田植えをして1年生型栽培の方法が常識となったのは、比較的新しいのだ。 そのため、①のように、日本が温暖化して亜熱帯に近くなれば、穂の近くだけを刈り取って二期作できるようになるのは自然なことである。そして、その二期作では、②③は1度目の収穫時に地際から刈り取ったため、2回の合計で10aあたり700kg代の収穫しかなかったが、④は地際から40cmと高く刈ることで地上部に栄養を多く残したため、2回の合計が10aあたり900kg代になっている。 1回目の収穫では穂を刈り取りさえすればよいので、残りの茎はできるだけ長く残した方が、2回目の収穫が多くなるのは必然で、④の「労力」は、二期作することを前提とした収穫機ができれば、全く大差なくなるだろう。 そのような中、*1-2-2は、⑥昨夏、店頭からコメが消え、昨年末から1月中旬までに3割価格上昇したコメに、政府は備蓄米放出体制をようやく整えた ⑦遅れた背景は米価維持のため生産抑制に重点を置き、消費者への意識を欠いていること ⑧備蓄米放出での値下がりを睨んで、1月24日以降値上がりが止まった ⑨流通を急に増やして米価が値崩れすることを過度に警戒するのは長年の減反政策のため ⑩政府は2018年に農家や生産者の自主性を重んじるため、主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめたが、農家にコメから麦・大豆・飼料用米への転作を促す補助金は残した ⑪水田活用「直接支払交付金」は、2015~2023年は年平均3200億円程度の横ばいで、2018年の減反廃止後も減らず ⑫政府が産地毎の農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の「目安」を示す仕組みも残した ⑬需給見通しには訪日外国人の急増による需要の広がりが織り込まれていない ⑭生産調整と引き換えに受け取る補助金収入に依存する零細農家が多い ⑮コメの生産コストは0.5~1haでは2万円/60kg超だが、15~20haでは1万円強/60kgと半分になる としている。 ⑦のように、政府が、米価維持目的の生産抑制に重点を置いて、消費者への意識を欠いているのは、何もコメに限ったことではないが、その結果として、*1-2-3のように、2024年の2人以上世帯の消費支出は月平均で30万243円と名目では増えたが、実質では前年比1.1%減という結果になった。これは、物価上昇によって国民が貧しくなり、食料品等の必需品にも節約志向が及んで、「エンゲル係数」は28.3%と1981年以来43年ぶりの高水準になったという統計数値にも出ている。 ちなみに、「インフレになれば、将来の物価上昇を見込んで現在の需要が高まる」と言う人がいるが、「将来、食料品が値上がりする」と考えて、現在、10~20年分の食料品を買い溜めする人などおらず、むしろ将来の物価上昇に備え、現在は節約して貯蓄を増やすものである。 しかし、日本政府は「(本来の意味とは逆の)2%のインフレ目標」を掲げて、「インフレになれば賃金が上がる(実際は、そうはならない)」と言って物価を上昇させ続け、⑥⑧⑨のように、米価も高止まりさせた結果、米価は2024年12月に2023年12月の1.7倍となり、コメは必需品であるため、「令和のコメ騒動」となったわけである(https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20250128.html 参照)。 そして、所得の低い層や年金生活者の中には、食事の回数や量を減らしている人もいるのだが、農水省は、*1-2-4のように、大凶作などに限っていた(⁇)方針から転換して政府備蓄米を放出し、1年以内に同量を買い戻すそうだが、米不足の時に備蓄米を放出するのは備蓄の目的の範囲内だと考える。 なお、政府は、⑩⑪のように、農家や生産者の自主性を重んじるために、2018年に主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめたそうで、私は、それは良いと思う。また、農家に自給率の高いコメから自給率の著しく低い麦・大豆への転作を促す補助金を残したのも妥当だと思うが、家畜飼料に米が最も適しているかどうかについては異論がある。 さらに、⑫⑬のように、「政府が産地毎の農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の目安を示す仕組みを残したが、その需給見通しに訪日外国人の急増による需要の広がりは織り込まれていなかった」そうだが、中央政府が日本全国の生産量の目安を示したり、需要の変動を加味して在庫管理したりするのは無理であるため、生産計画は民間に任せ、許容できない価格変動をした場合に備蓄米というシステムを使って価格調整するのが適切ではないかと思う。 そして、⑭の生産調整と呼ぶ減反政策と減反の見返りに配る補助金は止め、⑮のように、大規模生産が著しく生産コスを下げる米・麦・大豆のような作物は、大規模生産し、生産方法も改善して、国際競争力を持つ生産コストにするのが本当の改革だと考える。 (3)中山間地と畑作物について 「中山間地は、耕地面積が狭いので農業に不利」という主張もよく聞くが、*1-3-1は、①広島県の農業法人は、冷涼な標高800mの山間部から瀬戸内海に面する低地までの県内5市で気温差を生かした栽培をしてリレー出荷し、約130haの全国有数規模でキャベツを周年出荷している ②ドローン・営農支援アプリでの作業記録管理と確認・自動収穫機・QRコードでの苗管理・自動操舵システム搭載トラクターなどのスマート技術を組み合わせて効率を高め、中山間地に適した作業体系を確立している ③農地は農地バンクを通じて借りるなどし、1カ所当たり10~20ha規模に集約した ④大規模生産を支えるのは、スマート技術による作業の効率化 ⑤ドローンを約20台所有し、農薬散布ではトマト・ネギ・サツマイモ・飼料作物も含めて計500ha規模で活用 ⑥搭載カメラで撮影した畑の画像を解析して収量を予測したり、鹿対策として赤外線カメラで畑周りの生息域を特定し、効率的な捕獲に繋げたりしている ⑦20人ほどの従業員が移植・収穫・次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業 ⑧生鮮用やカットサラダ等の加工・業務用としても出荷 としている。 「米か芋さえあれば、人間は生きられる」わけではなく、肉・魚・野菜・果物もバランス良く摂取しなければ健康を保つことはできない。そのため、①のように、中山間地の高低差を利用したり、南北に長い日本の国土を利用したりしてリレー出荷するのは良いアイデアだと思う。 この時、生産効率を上げるには、②のように、スマート技術を組み合わせて使う必要があるが、現在は、米の生産と比較して中山間地でのスマート化は遅れていると言わざるを得ない。しかし、中山間地であっても、③のように、10~20ha規模に集約して、④⑤⑥のように、スマート技術で大規模生産を支えなければ、コスト競争に負けそうだ。 そのため、*1-3-2のように、全国のプロ農業経営者14人が発起人となり、新組織を立ち上げて、「中山間地の狭い農地でも効率的に作業できる農機」「コストを抑えた環境に優しい肥料」「生産現場が使い易い農業技術の開発・普及」のため、農家の視点を取り入れた技術で、農機メーカーはじめ農業関係の企業・団体と作業負担の軽減や生産コストの低減等の経営課題解決を目指しているのは重要なことである。 さらに、⑧のように、生鮮用やカットサラダ等の加工・業務用としても出荷し、さまざまなニーズに対応することは、無駄をなくし、付加価値を増やすことに繋がる。 従って、必要な農機具を迅速に開発して(海外も含む)必要な場所に速やかに提供できるようにしたり、生産物の適格なマーケティングをしたりするために、(農業自体や農業機器の生産も産業なので)農水省と経産省が合併し、双方が長所として持っている知恵を共有するのがBestだと、私は考える。 なお、⑦のように、20人ほどの従業員が移植・収穫・次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業しているとのことだが、有能な従業員を集め、待遇を良くすることができるためには、後で書くとおり、さまざまな方法があるため、政府は規制でそれを妨げないようにすべきだ。 (4)農業に関するその他の意見 1)キャノングローバル総合研究所の「農業に関する6つの提言」 キャノングローバル総合研究所は、*1-4のように、「現在の農政は、基本原則だけでなく、政策手法についても大きな間違いを犯している」として、食料・農業・農村基本法見直しに関して、国民全体の利益という視点から、食料安全保障・多面的機能という利益を確保・向上させる方法を記述している。 確かに、「OECDが開発したPSEという農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である」というのは、尤もであり、正しい。 そのため、「農家受取額に占める農業保護PSEの割合は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%(約4兆円)と高く、日本の農業保護は消費者負担の割合が圧倒的に高い」「日本は直接支払いが少ないことで、欧米の方が手厚い農業保護を行っていると主張する農業経済学者がいるが、事実ではない」というのも、そのとおりだろう。 そして、GDPが大きい筈の日本より、外国の市場の方が豊かさを感じることから、これらは体感とも一致している。旅行や出張で海外に行った時には、その国の市場・スーパー・デパートなどに寄って売られているものの種類・分量・価格を日本と比較すれば、その国の人の暮らし・物価水準・日本における高関税の状況がわかるので、お薦めする。 「日本における高関税の理由は、欧米は直接支払いであるのに対し、日本の農業保護は価格支持中心で国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならず、その関税で農家を守り、それを負担しているのは消費者である」というのも、そのとおりである。 つまり、消費者は国産農産物の高い価格を維持するために、輸入農産物に対する高い関税も負担し、農業保護のため国内消費者が負担する額は「内外価格差に国内生産量をかけたPSE+輸入農産物にかかる高い関税」の両方なのである。これに対し、輸出国であるアメリカやEUは輸入が少ない上に関税も低いので、輸入農産物による消費者負担は殆どなく、PSEを国民負担と考えてよいのだそうだ。 アメリカもEUも、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いによって農家所得を確保しており、直接支払いの方が価格支持より優れた政策であることは、世界中の経済学者のコンセンサスだそうだ。何故なら、価格支持は、市場で実現する価格よりも高い価格を農家に保証するため、需要は減少するが供給は増え、需給が均衡する市場では起きない過剰が生じるからだ。 そもそも、日本では1995年まで戦後の食糧管理制度が残っていたこと自体が不作為だが、それを廃止した際、高い米価を維持するために減反で供給を減少させることを選択し、日本政府は過剰米を防ぐために補助金を出して減反し、その結果、農家のやる気を削いで食料自給率低下と耕作放棄地の増大を招き、金を使った上に食料安全保障からはかけ離れた状況になったのだ。 そこで、*1-4は、提言として「①消費者に負担を強いる農政を転換しよう」「②減反を廃止するだけでよい」「③私的経済の活用で国民負担を減らせ」「④市場を歪ませ不正を生んだ政策の是正を」「⑤食料自給のためにも米の増産と輸出を」「⑥肥大化した農政をスリムにしよう」を主張している。そして、米価高騰時に物価対策とは逆のことを行っている自民党農林族・JA(農協)・農水省の農政トライアングルを挙げているが、JAは自民党の得票源であり、得票を増やすにはJA傘下に多くの農家がいた方が良いことから、この構造改革は大変だろう。 しかし、日本国民の炭水化物摂取の多くは既に米からパンに移り、小麦は消費量の14%しか自給していないのだから、麦や大豆(蛋白質を多く含む)の生産拡大を推進する補助金は必要である。そして、この補助金は私が衆議院議員時代に増やしたもので、1970年からの減反(単に米の生産を止めて休耕田にすること)とは、意図が全く異なる。 さらに、*1-4は、「財務省は減反の補助金を払いたくないため、水田を畑に転換するための補助金を支出しようとしているが、日本に適した農産物は米だ」としている。しかし、必要な栄養をバランス良く摂取するための食糧生産は、米か小麦かの2択ではないし、日本に最も適した農産物が米とも限らない。それに加えて、数年前の国産小麦はパンを作っても膨らみが悪い上に高かったが、品種改良のおかげか現在は膨らみがよくなり、円安で輸入小麦との価格差も小さくなっている。そのため、製粉業界も小麦の品種改良・イースト菌の改良・小麦生産の低コスト化などに協力したらどうかと思う。 なお、*1-4は長いので逐一コメントはしないが、農地の集約が進めば生産コストが下がって国際競争力のある農産物価格になり、消費者負担が減ると同時に、農家所得は増えて農業が魅力的な職業になる。また、産出国や品種による違いを除けば、一物一価でなければおかしい。さらに、最近の米は低温保存で新米と古米の味が違わなくなったので、牛乳等ももっと日持ちして無駄のない保存方法がある筈だ。そのため、それらの進歩を活かすシステムが必要なのである。 2)Presidentの「卵の自給率」など なお、*1-5-1は、最近値段の上がった養鶏農家の集約化と大規模化が進み、10万羽以上を飼う大規模養鶏場も珍しくなく、大規模養鶏場だけで全国の飼養羽数の75%を占め、卵も鶏肉も同様の傾向だが、飼料の大半は主に米国からからの輸入とうもろこしで、これを考慮すると自給率は10%程度だそうだが、それでは食糧安全保障に資さない。 また、卵も最近値段が上がったが、*1-5-2のように、2025年1月31日時点で、今シーズン(2024年秋~2025年春)の鳥インフルエンザは14道県48件発生し、約911万羽が殺処分になり、それと同時に卵の価格が上がって、東京地区ではMサイズで305円/kgとなり、1月上旬から80円上昇したのだそうだ。 しかし、2022年に過去最大の鳥インフルエンザが発生し、26道県84件、約1771万羽が処分されて、東京地区の卸売価格は350円/kgとなり「エッグショック」と呼ばれたが、その後も、鶏舎を改良して一部で鳥インフルエンザが発生しても全体には感染せず、ヒステリックに何万羽も殺処分しないですむようにするとか、外部から鳥インフルエンザウイルスが入り込まない鶏舎の造りにするなどをしなかったのは、むしろ不思議である。 そのため、卵の価格を上げる目的で、鳥インフルエンザと称して鶏を殺処分しているのではないかと思われ、このような後ろ向きのことを改善もなく何年も何年も国費で行ない、養鶏農家を集約したり、卵の価格上昇で消費者負担を増やしたりするのは、論外だと考える。 (5)森林と林業の重要性 1)縄文時代は、本当に農業がなかったのか? *2-3は、①弥生時代に稲作が広がるまでは、クリやドングリを主体とした採集・狩猟・漁労で食料を得ていた ②イネとともにアワやキビが伝わった頃、中国北部では雑穀を中心とした農業社会が起きていた ③縄文時代晩期末の七五三掛遺跡(長野県小諸市)から出土した縄文人の骨のコラーゲン炭素同位体から、アワやキビを食べていた ④縄文時代の畑は確認されておらず、農業社会には至っていない ⑤縄文人は食料生産のために自然を改変する発想がなく、存在するものを管理して収穫増を計るが、植物を育てる田畑を作る発想はなかった ⑥縄文人は周囲をある程度管理して、ヒエやマメ科のダイズ・アズキの栽培化が進んだ ⑦栽培化と農業は同時期に起きたと考えられていたが、急に農業が確立したのではなく、徐々に進んで農耕という程ではないが、管理した土地の周辺のものを採集していた時期があった 等としている。 しかし、我が国の縄文文化を代表する三内丸山遺跡は、縄文前期中葉から中期末葉の約1,700年間の生活の痕跡が継続して発見されるが、遺跡の広がりは約42haと広大で、各時期のゴミ捨て場や盛土は大量の遺物を含み、約1,000年間に廃棄物が堆積した厚さは約2mに達し、その中には土偶・北海道産/長野県産黒曜石・新潟県産ヒスイ・岩手県久慈産琥珀・アスファルトなど特定の産地でしか採れないものもみつかり、交流・交易の範囲の広いことがわかっている。 これは、住民全員が狩猟・採集・漁労などの食糧獲得活動をしなくても、別の生産活動をするプロを養えるだけの生産性の高さが農業にあったということだ。事実、三内丸山遺跡ではクリやクルミをはじめ木の実が多く出土し、土壌中から大量のクリ花粉が検出され、その量的な比率から集落周辺にはクリの純林が広がっていたと推定されるが、クリは人が下草を刈るなどして成長を助けなければ純林にならないため、各種自然科学分析の結果を総合すれば、縄文人は集落の周囲の林に手を加えて有用な植物が育ちやすい環境を作り出し、持続性の高い生活を営んでいたことがわかるそうだ(https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/news/news_002・・・ 2021年8月3日文化庁文化財第二課埋蔵文化財部門 参照)。そのため、①は、農業を「稲作」「畑作」と定義し、クリやクルミの栽培を「採集」に分類している点が誤りであろう。 また、②③のように、七五三掛遺跡出土の縄文人がアワやキビを食べていたことから、縄文晩期に長野県に農業社会があったことは確実で、④の「縄文時代の畑は確認されていない」というのは、田畑は数年放置すれば草地や森に戻るため、「畑が確認されていない」ことをもって「農業社会には至っていない」とは言えず、⑤のように、縄文人は「食料生産のために自然を改変する発想がなかった」とも言えない。そして、人が下草を刈ってクリの木を増やし木の成長を助けたり、アワやキビを栽培したりして、作物の生産性を上げるのは、農業そのものである。 そのため、⑥については、縄文人は、ヒエやマメ科のダイズ・アズキの栽培化を進め、⑦については、人が手を加えて栽培し、生産性を上げ始めた時点が農業の始まりというのが正しいだろう。そして、農業に限らず、技術は生産性の向上を目指して良い物を取り入れながら徐々に進むが、持続可能であるためには、どの時代であっても環境を維持管理することが必要不可欠で、食糧の生産量に応じて養える人口には上限があるわけである。 2)現在の森と林業 イ)鳥獣被害対策 (5)1)で述べたとおり、縄文時代から近年までは、集落の周辺にクリやクルミの林を作ったり、森の動物を狩猟したり、森の恵みを採集したり、森の木を伐採して建物を建てたりして、森林をフル活用していた。 しかし、最近は、*2-2のように、「クマによる人身被害が急増している」と何年も騒ぎ続けながら、警察署の横にある建物の中に入った熊でさえ警察官が見守るだけで手を出せなかったり、「シカやイノシシ等の野生動物による農業や林業への被害が深刻だ」と何年にも渡って言い続けながら、有効な手を打たなかったりすることが頻発している。 また、「野生鳥獣による農作物被害額が2022年度に156億円に及び、その約6割がシカ・イノシシによるため個体数の管理は必要だ」と言いながら、せっかく猟友会がシカやイノシシを狩猟しても「駆除して減らす」だけで利用しないことが多いため、現代人の個人的能力は縄文人以下のように思われる。 なお、「ハンターは趣味の愛好家で、地域のためにボランティアで活動しているため、ハンターの高齢化や数の減少が止まらない」という話も、私が衆議院議員時代から聞いているのに、未だに解決されていないため、大学で森林管理・生態系・狩猟学を一体で教えて森林と野生生物を管理することは重要である。 そして、それは、人口減の時代であっても、*4-1のように、若くして退官する自衛官の希望者に森林管理・生態系・狩猟学などを教えて「森林レンジャー」として雇用したり、国有林で自衛隊の演習をかねて狩りを行い、多すぎる野生鳥獣を減らせば、森林の問題点把握・保護活動・自衛隊の演習が同時にできる。また、民有林であっても、クマが出て危険な場所は、地方自治体などが「森林レンジャー」を雇用して有効に管理するのが良いと思う。 なお、一般住民のゴミの出し方にまで注文が多いと、一般住民も住みにくい上に、ゴミを出せないゴミ屋敷が著しく増えるため、地方自治体が工夫してゴミを出しやすいシステムにすべきである。そして、これらについて、人手不足は言い訳にならない。 ロ)水を育む森林(水源林) *2-1は、①東京都は、水源林として主に山梨県の多摩川上流にある森を買い続け、25,000ha所有する ②1960年代に利根川・荒川水系が上水道に本格利用されるまで、多摩川は都民の「命の川」であり、水源地の荒廃を憂えた東京府(当時)が自ら管理を始めた ③植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保することが目的だった ④山梨県小菅村の森の中で源流域保全のために間伐や枝打ちをする担い手はボランティアの「森林隊」 ⑤世界では各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、地球温暖化もあいまって森林面積は減り続け、それに伴う水不足も深刻化している としている。 水もまた食糧と同様、人口の上限を決める上、農業用水や工業用水も必要であるため、水源林の保全は重要だ。そのため、①②③の東京都の事例のように、大量の水を利用する豊かな自治体が、植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保する目的で森を買って自ら管理するのは望ましいことだと思う。 しかし、⑤のように、各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、森林面積が減り続けて水不足も深刻化するのは論外であるとしても、④のように、日本も「源流域保全のために間伐や枝打ちをする人が意識の高い無償ボランティアで、水を当然のように利用している人は利益を得る」というのも理屈に合わない。そのため、水源林の保全のためにも、労働に見合った適切な報酬を支払って「森林レンジャー」を雇用することが必要不可欠である。 (6)その他の人手不足業種 1)埼玉県八潮市の道路陥没事故と上下水道の更新 ![]() 2025.1.28防災危機管理News 2025.2.3毎日新聞 2025.2.3日経新聞 (図の説明:左図のように、重機が入っているだけで、命をかけて人を救助する筈の多くの消防隊員は突っ立っている。また、中央の図のように、何日もかけてスロープを作ると決定した段階で、被害者である運転手は見捨てられたのだ。そして、右図は、スロープができたら、スロープの強度を高めたり、土嚢を入れたりしているのであり、被害運転手の救助という最大の課題はとっくに忘れ去られている) *3-1-1・*3-1-2・*3-1-3・*3-1-4によると、①28日午前に埼玉県八潮市で県道が陥没してトラック転落 ②「穴の内部に水が溜まり周囲の地盤が不安定で崩落による二次被害の可能性を否定できない」として、2月2日夜になっても消防の救援隊が穴の中に入って運転手を捜索する活動に入らない ③県は穴に繋がる緩やかなスロープ2本を造成し周辺で土壌改良を実施する大規模な工事を続け、現場はショベルカー等の重機やトラックが行き来し、2月1日朝に完成したスロープの強度を強めたり、土囊を入れたりする作業をした ④県等はスロープの完成を受けて本格的な救助活動を進める予定だったが、穴内部の水位が上昇し、消防隊員らの安全確保のため救助活動を中断 ⑤県は破損した下水道管の水の流れが悪くなっているため、管内になんらかの異物があるとみて、ドローン等を使って調査する方針 ⑥運転手の70代男性が閉じ込められた運転席は土砂等に埋もれて確認できない ⑦2月5日に行われた県のドローン調査で、陥没地点の100~200m下流の下水道管(直径4.75m)内にトラックの運転席部分とみられるものが確認 ⑧運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけない ⑨一部が流水につかり、男性の姿は確認できなかったが、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみている ⑩消防は2月9日朝、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開、手がかりが見つからず、崩落による二次被害の懸念が高まり、約30分で打ち切り ⑪運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内の捜索を検討したが、同日、トラックの男性運転手の穴の中での捜索を終了した ⑫県は2月10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けた としている。 上下水道インフラが適時に更新されず老朽化が進んでいることは前から言われていたが、①の1月28日午前に埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故は、想像以上だった。 しかし、事故対応は、②③④⑥⑩のように、「運転手の70代男性が閉じ込められた運転席は土砂等に埋もれている」と考え、県等は「穴の内部に水が溜まり、周囲の地盤が不安定で崩落による二次被害の可能性を否定できないため、スロープが完成すれば本格的な救助活動を進める」として、重機でスロープ2本を造成し、土壌改良を実施する大規模工事を続け、2月1日朝に完成したスロープは強度を強めたり、土囊を入れたりする作業をしたりしていたが、2月2日夜になっても消防の救援隊は穴の中に入って運転手を捜索する活動に入らず、「穴内部の水位が上昇して消防隊員らの安全が確保できない」などとして救助活動を中断した。 そして、丸12日後の2月9日朝、消防は、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開したが、手がかりが見つからず、崩落による二次被害の懸念が高まったとして、約30分で打ち切ったのだ。そして、この間、メディアも、下水道の更新不足・危険性・更新にかかる費用・人手不足ばかりを強調して報道し、不慮の事故で下水道の中に閉じ込められ、最初は生きて消防士と話をしていた哀れな運転手の救助には滅多に触れず、重機で穴を掘ったり、スロープを作ったり、穴の周囲にぼさっと立っている人の写真ばかりで、「あらゆる知恵を出して、生きているうちに(短時間で)人を助け出す」という発想と努力に欠けていた。 そのため、事故に遭った70歳代の哀れな運転手は、下水道の危険性を世の中に広めるための生け贄のようになり、人命の尊さや人命救助のためにいる筈の埼玉県内の消防の無気力・無能を露呈したのである。 しかし、⑤⑦⑧⑨⑪のように、破損した下水道管の水の流れが悪くなっているため、管内に異物があるとみて、埼玉県が2月5日にドローンで調査したところ、陥没地点の100~200m下流の下水道管(直径4.75m)内にトラックの運転席部分とみられるものを確認したそうだ。 そして、トラックの運転席が下水道管の上流側に流れていくわけはなく、流されるとすれば必ず下流側であり、重たいため遠くには行かないので、重機で捜索すると同時に、速やかに下流側からドローンや既にある内視鏡型の排水管検査機器を使って、あらゆる角度からまず被害者である運転手を見つけて助け出すべきだったのだ。 また、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみているが、下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけないとして、同日、トラックの男性運転手の穴の中での捜索を終了したそうで、事故から1週間以上経過すれば被害運転手は亡くなっているだろうが、ここでも被害運転手は見捨てられたのである。つまり、これらは、人手不足の問題と言うよりは、人命尊重意識と教育・応用力・課題解決力・やる気の問題である。 なお、県は、⑫のように、2月10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けたそうだが、これは事故の被害者救出とは関係がない。しかし、今後の下水道管は、管内の様子を自動的に撮影して、位置と画像を無線で報告し、AIでリスク分析するシステムを備えた方が良いと思われる。 2)退職自衛官の再就職について *3-2は、①退職予定自衛官にバス・トラック・タクシーの運転手を紹介する「運輸業合同説明・運転体験会」が陸上自衛隊北熊本駐屯地で開かれ、119人が参加した ②部隊の強さ維持のため、自衛官の定年は一般公務員よりも早い54~57歳の「若年定年制」で、20~30代半ばで退職する任期制もあり、自衛隊は再就職支援に力を入れてきた ③大型車両の運転免許を持っている自衛官は多く、ドライバー不足に悩む運輸業界にとっては「即戦力」となる ④運輸業界から再就職した自衛官OBが説明役で、「健康なら定年なく長く続けられ、(乗客に)挨拶すれば特に会話しなくても構わない(タクシー)」「安定した生活を送れ、地域社会への貢献という点で自衛隊と通じる(路線バス)」等とPRした ⑤来年5月で退官する男性自衛官(55)は「人と接する仕事も楽しそうだし、仕事で運転しているので、路線バスかトラックの運転手を考えている」と話す ⑥熊本運輸支局の岩本輝彦支局長は「2024年問題で運輸業界は慢性的な人手不足で、自衛官は何事も自分で判断できるスキルもあり、どの会社も大いに期待している」と語った としている。 このうち②の「部隊の強さ維持のため、自衛官の定年は一般公務員よりも早い54~57歳」「20~30代半ばで退職する任期制もある」というのは、平均寿命や健康寿命が延びていることを考慮すれば、定年を延長しても良いし、平時は他の職業に従事しながら有事や災害時に招集される予備役として確保しておく方法もある。 しかし、自衛隊を若くして退職した人なら、①③④⑤⑥のように、体力と同時に経験や技量も持っているため、陸自出身なら大型車両の運転免許を活かして人手不足の運輸業界の即戦力として期待できる。そのため、経験や技量を活かした再就職支援をすれば、再就職後も地域社会に貢献でき、その職種は多少の研修をすれば、運輸業界だけではなく、機械化の進んだ建設業はじめ農業・林業でも活かせると思う。 また、空自出身で航空機やヘリコプターのパイロット資格を持っている人であれば、航空・運輸業界だけでなく農業・林業・救急でも即戦力になれそうだし、海自出身で航海士の資格を持っている人なら、運輸・漁業等で活躍できそうだ。つまり、現在は、人手不足で機械化の進む時代であるため、それに合わせた技量を身につけさせれば、人財を無駄なく活用できるのである。 (7)人手不足を言い訳にすべきではないこと 1)退職自衛官の活用 *4-1は、①岸田首相(当時)は、2022年11月28日、防衛費を2027年度にGDP比2%に増額するよう関係閣僚に指示 ②政府与党の「防衛族」は新たな装備品(長射程のミサイル・艦艇・戦闘機等)に予算を誘導しようとする ③現場が欲しているのは人と安心できるキャリアプラン ④安全保障を担う自衛隊・海上保安庁の現場は人集めに苦労 ⑤自衛官採用には定年と再就職先がネック ⑥地方自治体の防災監として採用されるケースも増えたが、正規職員のポストを用意できない ⑦恩給の支払いができなければ、若年定年退職者は社会保険料の企業負担分を国で面倒見るぐらいのサポートがあって良い ⑧制服組でも将・将補クラスは、天下り規制に引っかかって自衛隊独自の再就職斡旋システムを利用できない ⑨採用難と退職後のキャリアプランの難しさがある 等と記載している。 このうち①②は、多くが米国から長射程ミサイル・艦艇・戦闘機等の装備を購入する前提のようだが、i)どういう事態を想定し ii)どのような作戦の中で iii)どのようにその装備を使うのか iv)その有事の時に、(自給率の低い)食糧・エネルギーや武力攻撃に対応していない原発のリスクはどうするのか を全く考えておらず、プラモデルを集めるかのように、国民の血税を源泉とした大きな予算をつけているため、無用の長物を買っている無駄遣いと言わざるを得ない。 また、③④⑤⑨は「自衛官の採用には定年と再就職先がネックで、自衛隊は人集めに苦労し現場は人と安心できるキャリアプランを必要としている」とするが、退職自衛官は体力があり、独特の技量を持っているため、持っている長所をブラッシュアップして再就職すれば、(6)2)に記載したとおり即戦力になれる。そのため、再教育の仕組みと再就職の選択肢を示し、現役の頃からキャリアプランを意識して仕事をし、資格等もとっておくのが良いと思われる。 なお、⑥は「地方自治体で採用されるケースでは、正規職員のポストを用意できない」としているが、地方自治体は、女性や中途採用者を非正規職員にする場合が多く、これは能力や事情による待遇差ではなく、弱者からの搾取であるため、正規職員にすべきである。従って、⑦のように、「社会保険料の地方自治体や企業負担分について、サービスを受けているわけではない一般国民の税金で面倒見る」というのは、全く筋違いなのである。 さらに、⑧は、「制服組でも将・将補クラスは、天下り規制に引っかかって自衛隊独自の再就職斡旋システムを利用できない」としているが、天下りの問題が起こるのは自衛隊が装備品を購入する等の影響力を持つ企業に再就職する場合に限るため、「恩給+自らの能力で得た再就職で得る収入」で何とかすべきであり、これは50代で民間企業を転職した人も同じ条件なのだ。 2)就業者数は最多になっているが・・ ![]() ![]() ![]() CenturyMaruyoshi Airinku 2023.10.9NewsPicks (図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で両方とも減少傾向にあるが、理由は、死亡率の減少・寿命の伸び・教育の普及・結婚願望の低下等だろう。中央の図は、結果として現れた年齢階級別の人口推移で、0~14歳と15~64歳の人口割合が減少し、65~74歳と75歳以上の人口割合が増えている。そのため、“生産年齢人口”の定義を18~75歳と定義しなおすのが、全体から見て適切だと思う。なお、右図のように、明らかに人口構成の変化があるため、商品やサービスのニーズも1990年、2025年、2040年では異なるわけである) *4-2は、①2024年の就業者数は6,781万人と前年から34万人増えて1953年以降最多 ②女性・高齢者の就労が広がったが、女性・高齢者は働く時間が短いため想定より労働力の確保に繋がっていない ③女性・高齢者による就業者増は限界があり、2040年時点の就業者数は最も低いシナリオで5,768万人 ④日本経済は生産性を高めながら人手不足に対応する課題に直面しており、今からAI等を活用した生産性向上で働き手減少に備える必要 ⑤就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)は2024年は61.7%と前年から0.5%拡大 ⑥女性就業者は前年比31万人増の3,082万人で最多、高齢者就業率も65歳以上が前年比0.5%増で25.7% ⑦雇用形態別では正規雇用39万人増、パート・アルバイト・契約社員等の非正規雇用2万人増 ⑧非正規雇用の待遇を同等の業務をする正社員と揃えたり、勤務地を絞る限定社員を廃止して正社員と同じ待遇に揃えたりする企業も ⑨若手人材確保のため、30万円以上の初任給を提示する企業も ⑩介護・建設分野で有効求人倍率4倍超の職種もあるが、事務系は1倍未満 等としている。 2023年度の高校進学率が男女とも99%に近く、大学進学率(短大を含む)が61%である中、⑤のように、就業率を「15歳以上人口に占める就業者の割合」と定義していることは、1950年代の発想であり古すぎる(https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Data/Popular2024/T11-03.htm 参照)。そのため、生産年齢人口を「18~75歳」と定義し、就業率を「18歳以上の人口に占める就業者の割合」と定義するのが、現在の状況にあっていると、私は考える。 また、大学に進学すれば22歳が最低卒業年齢で、大学院の修士課程まで進学すれば24歳、博士課程まで進学すれば27歳が最低修了年齢であるため、この期間は正規雇用で働くことができず、これらの世代で正規雇用率が低いのは当然ということになる。 そして、“生産年齢人口”の定義で65歳を最高齢としたままでは、最高38年(65-27)の正規雇用期間で、男性の場合なら65歳男性の平均余命20年(65~85歳)分・女性の場合なら平均余命24年(65~89歳)分の生活費(公的年金、公的医療・介護保険を含む)も稼いでいなければ困窮することになり、“生産年齢人口”の期間には子育て費用も払わなければならないため、65歳時点で老後生活資金が十分な人はむしろ少ないのである(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=60984?site=nli#:~:text=・・・ 参照)。 そのため、上の左図のように、合計特殊出生率の減少で我が国の出生数が減り、上の中央の図のように、2012年以降は人口が減り始めると同時に65歳以上の割合が増えているにもかかわらず、①⑥のように、2024年の就業者数が1953年以降最多になったのは、女性及び高齢者(65歳以上)の就業率が増えているからであり、これは自然なことである。 にもかかわらず、②③⑦のように、女性・高齢者でパート・アルバイト・契約社員等の非正規雇用が多く、「女性・高齢者は働く時間が短いため想定より労働力の確保に繋がっていない」「女性・高齢者による就業者増は限界がある」などと言われているが、女性が働く時間を短くせず、キャリアも中断せずにすむためには、充実した保育・教育・学童保育・介護制度が必要なのだ。そして、これらのサービスはブルーオーシャンでもあったのに重視されず、女性に無償労働を押しつけてきたことが合計特殊出生率を必要以上に低下させたのだということを、日本政府はまだわかっていないようで、それが、⑩のように、介護分野で有効求人倍率が4倍超もあり、サービスする人が集まらない原因になっているのだ。 なお、⑧の非正規雇用については、アルバイトでなければ、勤務地を限定しようと勤務時間が短かろうと、(報酬金額は変わるだろうが)働いている以上は正規雇用にすべきで、非正規雇用にして社会保険料(医療保険・介護保険・年金保険・雇用保険・労災保険)を払わないのは、企業の大小を問わず、社会保険料を払って支えている人や企業に対して狡いのである。 また、④のように、「日本経済はAI等を活用して生産性を高めながら、人手不足に対応する必要がある」というのは事実で、失業率上昇の心配なく生産性を高められるのは良いことである。 ただ、⑨のように、若手だけを人材確保のために初任給30万円にしてボーナスを入れ年間500万円支払うとすれば、扶養家族のないその新人は、所得税約30万円、住民税約26万円、社会保険料約71万円(厚生年金保険料46万円、健康保険料25万円)の合計約127万円(年収の約25%)を国と地方自治体に払うことになる。給与の高い人は、さらに多くの金額を支払い、40歳以上になると介護保険料も支払うが、これだけの金額を支払っても、無駄使いなく国や地方自治体からのサービスで報われているか否かは、最も疑わしくて重要な問題なのである。 3)外国人労働者、留学生、移民・難民 イ)日本で働く外国人労働者の状況 ![]() Rise For Business 厚生労働省 FUND INNO (図の説明:左図は、在留外国人数と外国人労働者数の推移で、中央の図は、産業別外国人労働者数の推移だが、人手が足りない介護分野や建設業で未だ少ない。右図は、2019年度に始まった在留資格「特定技能」の内容だが、受入可能分野を狭くしている上、家族の帯同を許さない等の制限を多くしている点で、使う人の立場を考えた制度になっていない) *4-3-1は、①日本で働く外国人労働者が2024年10月末は230万2,587人 ②外国人労働者の職場環境改善のため、国は2007年から外国人を雇用した企業・個人事業主にハローワークへの届け出を義務づけ ③国籍別は、ベトナム57万708人・中国40万8,805人・フィリピン24万5,565人 ④増加率は、ミャンマー61%・インドネシア39.5%・スリランカ33.7% ⑤人手不足解消のため2019年度に始まった在留資格で、建設業・介護など16分野の「特定技能」で働く人が20万6,995人 ⑥厚労省は「人手不足等を背景に外国人労働者が増加し、医療・福祉、建設業の増加率が高い」とコメント としている。 “生産年齢人口”割合が低下して日本人の若者が減少すると同時に、日本人の若者の職業選択と求人が合わずに有効求人倍率の高くなる産業が出たり、日本人の生産性と比較して人件費が高すぎ、国内の産業が空洞化してしまうような場合には、外国人労働者の採用が必要不可欠である。 そのような中、①②のように、日本で働く外国人労働者が2024年10月末に230万2,587人となったため、外国人労働者の職場環境改善が必要であるのはよくわかるが、職場環境改善はハローワークに届け出を義務づけたらできるかは疑問だ。 なお、③のように、現在の国籍別外国人労働者数は、ベトナム57万708人・中国40万8,805人・フィリピン24万5,565人だが、増加率は、④のように、ミャンマー61%・インドネシア39.5%・スリランカ33.7%と、(すべてアジアではあるが)より開発途上国の方にシフトしており、これも国別年間所得の差から必然であろう。 政府は、人手不足解消のため、⑤⑥のように、2019年度に「特定技能」という建設・介護はじめ上の右図の産業を加えた在留資格を開始し、現在は「特定技能」で働く人が20万6,995人いるそうだが、これからは日本人の失業率が高くなるわけではなく、人手不足や人件費高騰で既に成り立たなくなっている産業もあるため、政府が(狭い視野で)外国人労働者を受入れられる業種を決めるのではなく、民間のニーズに応じて外国人労働者を受け入れられるようにすべきだ。 また、*4-3-2は、⑦深刻な人手不足で四国は外国人材増加 ⑧多文化共生は日常 ⑨愛媛県は製造業を中心に外国人労働者が増加、地域別では造船業が盛んな今治地域が全体の3割 ⑩独立系造船会社新来島どっくは、491人の外国人労働者が働き、日本人の人材確保が厳しい中で鉄加工全般や塗装等の重要な戦力として活躍 ⑪高知県は四国銀行が人材紹介6社と提携して取引先に外国人材採用を提案 ⑫高知銀行は技能実習生受け入れをサポートする監理団体4団体と業務提携 ⑬香川県は人材紹介8社と連携協定を結び、企業と外国人材のマッチングに乗り出した ⑭香川銀行もノンバンクのJトラストと提携して取引先にインドネシア人材の紹介開始 ⑮徳島県は2024年9月から半年の予定で、外国人のための無料職場体験プログラムを実施して、徳島県内での就職に関心ある留学生と採用に前向きな県内企業との出会いの場を設定 ⑯異なる人種・文化・価値観を尊重する多様性の推進は四国の活性化に不可欠 としている。 上の⑦⑧⑨⑩⑯は、外国人労働者が実際に必要とされており、(日本にいる限り、日本の法律を守ることは当然だが)外国人労働者を受け入れた地域は異なる人種・文化・価値観を尊重して多文化共生しており、⑪⑫⑬⑭⑮のように、県や信用できる企業が地域のため外国人材の採用を提案したり、企業と外国人材のマッチングをしたり、外国人留学生のための無料職場体験プログラムを実施して県内での就職に関心ある留学生と採用に前向きな企業の出会いの場を設定したりしているということで、このやり方であれば前向きで安心できる。 さらに、外国人を雇った企業から「問題なく働けている」「文化や考え方の違いが刺激になる」「海外の知見を取り入れることで、会社全体の活性化に繋がった」等のポジティブな声が聞こえており、外国人材は実際に各地で活躍しているそうだ(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202406_001.html 参照)。 なお、外国人と協働するには言語がネックになる場合が多かったが、*4-6のように、スタートアップがIT(情報技術)を活用して外国人と協働しやすい環境づくりを急いでおり、「カミナシ」が13言語対応の従業員教育サービスを開発したり、「DXHUB」が企業が採用した外国人に日本語教育ソフトを提供して日本語学習の履歴を管理し、その学習履歴を昇給や賞与の判断材料にできるようにしたりしており、言語の壁は低くなりつつある。 ロ)外国人留学生と日本人学生の動向 *4-4-1は、①AI等先端分野人材の確保のため、文科省・東大等がインドからの留学生獲得を強化 ②インドの大学院生300人弱の留学費用を支援し、2028年度迄に留学生を倍増 ③理工系に強いインドから人材を受け入れ、日本の研究力や産業競争力向上に繋げる ④2025年度から文科省はAI等を学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に日本での生活費や大学での活動費として1人300万円支援 ⑤インドで働くITエンジニアの平均年収は約127万円で、支援額は約2.3倍 ⑥留学生支援は1年間で、日本への定着を視野に企業のインターンシップへの参加も促す ⑦受け入れ大学は2025年度に公募し科学技術振興機構(JST)が審査 ⑧東大・立命館アジア太平洋大(APU)等の国内大学、大使館、民間事業者など50を超える機関が2024年度にインド人留学生を増やす連携組織を立ち上げ ⑨人口14億人のインドは伝統的に理工系人材の育成に強く引用数が上位10%に入る「注目論文」数が世界4位(日本は13位) ⑩インド人学生は英語が得意で日本より英語カリキュラムが充実している欧米の大学を目指す傾向 ⑪インドのほか国際的な存在力を増しているアフリカの大学も対象に 等としている。 私はPWCで監査していた時に,インドステイト銀行日本支店(https://jp.statebank/ja/about-sbi-japan 参照)を監査する機会があったが、そこの行員は本当に優秀な人たちだった。また、インドは公用語が英語であるため、EY東京で私が英語で書いた「Tax Opinion」を日本時間の夕方5時くらいまでにEYのインドオフィスにFaxしておくと、翌朝にはネイティブイングリッシュになり、疑問があればそれも記されて送り返してきていた。そのため、時差を有効活用して、速やかに、ネイティブイングリッシュで、外国人にもわかり易い「Tax Opinion」を作成することができたのである。 そのため、①②のように、インドの大学院生の留学費用を支援し、AI等先端分野人材の確保のために文科省・東大等がインドからの留学生獲得を強化し、日本の研究力や産業競争力向上に繋げようとしているのは良いと思う(ただし、先端分野はAIだけではない)。 特にインドは、「0」の概念を発見した国で、⑨のように、伝統的に理工系人材の育成に強く、人口14億人という母集団がおり、引用数が上位10%に入る「注目論文」数が世界4位であるため、③のように、理工系に強いインドから人材を受け入れて日本の研究力や産業競争力向上に繋げるのは経済合理性もある。逆に、日本の「注目論文」数13位という結果は、日本の教育と社会の仕組みが理系に進む人数を制限し、「個性を伸ばし、誰もやっていないことをする」のを嫌う国民性によって、もともと持っている能力を抑えつけた結果であると、私は考えている。 従って、④のように、文科省がAI等を学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に2025年度から日本での生活費や大学での活動費として1人300万円支援することにし、⑥のように、企業のインターンシップへの参加を促して日本への定着進めれば、眠ったような日本にとって良い刺激になると思われる。そのため、⑦⑧のように、東大はじめ、多くの関係機関がインド人留学生を増やす連携組織を立ち上げたのには、期待が持てる。 確かに、⑩のように、インド人学生は英語が得意であり、日本より英語カリキュラムが充実し、かつ就職等で差別されることの少ない欧米の大学を目指す傾向があるため、⑤のように、インドで働くITエンジニアの平均年収の2.3倍の支援額がなければ、日本は選ばれにくいだろう。なお、より開発途上国の方が、日本との平均年収の差が大きいため、⑪のように、アフリカ等の大学も対象とするのが良いと思われる。 また、*4-4-2は、⑫東京一極集中を是正し、地方との人口流出入を均衡させる地方創生の1つとして、国は2018~23年度に徳島県に計29億円を投じたが、県内からの進学者は増えなかった ⑬政府は大学進学・就職で地元を離れる若者が多いことに目をつけ、2018年から10年間、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じ、地方大学への交付金を創設 ⑭地方の教育・研究の一定の底上げに繋がったが、若年層の人口動態を変えるには至っていない ⑮島根大学は人材の質が高まるほど県外の大企業から求人が殺到するジレンマに直面した ⑯日本の成長力を高める地方創生の狙いにそぐわない規制自体が不合理 ⑰企業誘致・賃上げ等の総合的取り組みが必要 ⑱経済合理性に反する改革は持続可能ではなく、むしろ国力をそぐ 等としている。 東京一極集中の原因を「進学時に東京に出るから」と考えた点が誤っているため、⑫⑬⑮のように、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じ、地方大学への交付金を創設しても、県内からの進学者が増えなかったのだと、私は思う。 そのため、この政策は、i)確かな原因分析の後に行なわれたのか(多分、そうではない) ii)交付金創設の効果はどのくらいあったのか iii)東京23区内の大学の定員増禁止は、学生に不便を与えなかったのか 等について、結果から分析して評価されるべきだ。 なお、⑭で若年層の人口動態を変えられなかった理由は、世界を視野に活躍できる魅力的な就職先が都会に多かったり、教授や学友と相互に能力を磨きあえたり、就職に有利だったりする大学が東京はじめ都会に多いからであるため、そのようなメリットがないのに小手先の交付金創設で若者の進路や人口動態を変えることができないのは当たり前だと、私は思う。 従って、⑯⑰⑱ように、規制自体が不合理で日本の成長力を高める地方創生の狙いに合わないため、本当に地方創生をしたいのであれば、地元企業を大きく育てたり、企業誘致をしたりして、地方に魅力的な就職先を作ることが必要であり、不合理な改革はむしろ国力をそぐだろう。 それでは、「地方大学はどうすれば良いのか」については、大学のレベルを上げ、日本と所得格差はあるが優秀な学生の多い国々からの留学生を増やし、独自の魅力を作って、日本人学生にとっても魅力のある大学になるしかない。そのため、留学生や日本人学生のための奨学金・教授陣の強化・大学設備の充実・地元企業との有効な連携などが有効なツールになると思われる。 ハ)難民の移住と日本の難民受け入れについて ![]() 2023.10.9日経新聞 NHK 2023.5.8長周新聞 (図の説明:左図は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治区の地図である。また、中央の図の黄色の部分が中東諸国だが、世界4大文明のうちエジプト文明とメソポタミア文明発祥の地を含み、大陸の中で揉まれてきた地域でもあるため、ここに住む人たちは、日本人にはない物品・文明・商魂のたくましさを持っている。なお、右図のように、これまでの日本は、世界でも著しく低い難民認定数・難民認定率であるため、他国の移民・難民締めだし政策に文句の言える立場では到底ない) *4-5-1は、①ガザはイスラエル軍の攻撃で建物が破壊され、多くの女性・子どもが戦闘の巻き添えとなって死者4万7千人超 ②トランプ米大統領は、パレスチナ自治区ガザから約200万人にのぼる住民を出して米国が所有・再建する復興案を出した ③トランプ氏は「(地中海のリゾート地リビエラのように)復興したガザに住むのは、帰還したパレスチナ人ではなく、世界の人々」と語った ④「居住地として別の選択肢があれば、ガザの人々はそちらを選ぶだろう」「米国がガザを長期的に所有して開発を進めれば、中東に安定をもたらすことができる」とも主張した ⑤ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は「アブラハム合意を次の段階に進めることが目標だ」と語り、イスラエルとサウジアラビアの歴史的な関係正常化仲介への意気込みを見せた ⑥サウジアラビアは、パレスチナ国家樹立を正常化の条件としている としている。 また、*4-5-2は、⑦サウジアラビアは、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させるというイスラエルのネタニヤフ首相の提案を「断固拒否」と発表 ⑧サウジは「パレスチナの人々はその土地に権利があり、彼らは追放されるべき侵入者や移民ではない」と強い言葉でネタニヤフ発言を非難 ⑨ネタニヤフ首相は、サウジ領内にパレスチナ国家を創設する構想を示唆しつつ、「イスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃後、パレスチナ国家は存在すべきではない」との立場を繰り返した ⑩トランプ米大統領は他の中東諸国に対し、ガザからパレスチナ人を受け入れるよう求めたが、エジプト・ヨルダンは拒否 ⑪イスラエルは戦争で荒廃したガザから港や陸路経由で、ガザ住民を移す計画を策定しつつあるが、i)パレスチナ人が移住を望んでいるか ii)どこに移り住みたいか iii)実際に移住が可能か は不明 としている。 さらに、*4-5-3は、⑫農水省は2025年度から外国人が国内の農地を取得する際の要件を厳格化し、農地取得を目指す外国人が農業委員会に残りの在留期間を報告するよう義務化 ⑬短期間で在留期間が切れる場合は、農地を取得できなくする ⑭取得後、農地が適切に耕作されるか判断する上で、残りの在留期間を把握する必要がある ⑮短期間で遠方に転居する場合も農地取得を認めない ⑯外国人やその関係法人が2023年に取得した国内農地は90.6ha、外国人個人による取得は60ha(2199人)・残り(30.6ha)が法人による取得(農水省) ⑰日本は外国人による土地取得を規制していない としている。 ポイント1:パレスチナ人は、ガザに住み続けて生活していけるのか? ガザ地区は、地中海沿岸に細長く横たわり、長さ約40km、幅6~12km、面積365km²(奄美大島712km²、淡路島593km²、種子島444km²、福江島326km²、小豆島153km²)のエリアに約220万人が暮らしている世界で最も人口密度(6018人/km²、ちなみに東京都全体が6425人/km²)の高い場所で、燃料・食料・日用品・医療品等が慢性的に欠乏し、経済や生産活動も停滞して、国連や支援団体からの援助物資で命を繋いでいる場所である。 また、ガザは人口の約45%が14歳以下の子どもで、7割は難民となった人々だが、「パレスチナの人々はその土地に権利がある」「パレスチナ人は移住を望んでいない」と言っても、「パレスチナ人が、これからもガザで子孫を増やしつつ、住み続けていけるのか?」と言えば、「それは無理だろう」というのが、私の結論だ。 従って、①は非常に気の毒なことだったが、イスラエル人かパレスチナ人のどちらかが移住しなければ、いずれ住む場所もなくなって戦争が再発するし、いつまでも国連や支援団体からの援助物資で命を繋いでいるのは誰のためにもならない。 そのため、②③のトランプ大統領の「パレスチナ自治区ガザから約200万人の住民を出して米国が所有して再建する」「復興したガザに住むのは、帰還したパレスチナ人ではなく、世界の人々」という復興案は米国本位すぎて驚いたものの、よく考えれば、④⑤のように、居住地としてより良い選択肢があれば、ガザの人々はそちらを選んだ方が賢い。また、イスラエルではなく米国がガザを所有するのであれば、パレスチナ人がイスラエルに土地を譲ることなく、中東(イスラエル・イラク・シリア・トルコ・パレスチナ・ヨルダン・レバノン・アラブ首長国連邦・イエメン・イラン・エジプト・オマーン・カタール・クウェート・サウジアラビア・バーレーン)に安定がもたらされ、次の段階に進めるだろう。 ポイント2:パレスチナ国家樹立はどこにするのか? サウジアラビアは、⑥⑦のように、パレスチナ国家樹立をイスラエルとの国交正常化の条件としているが、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させることは拒否している。しかし、⑧⑨のように、国土が広く文化も似ている筈のエジプトやサウジアラビアにパレスチナ国家を創設するのは合理的だと思うが、サウジはじめ他の中東諸国(エジプト・ヨルダン)は、⑩のように、ガザからパレスチナ人を受け入れることを拒否したのだ。 また、⑪のように、i)パレスチナ人が移住を望んでいるか ii)どこに移り住みたいか iii)実際に移住が可能かは不明 とされているが、イスラエルが港や陸路経由でガザ住民を移す計画を策定しつつあるのなら、(他にも良い移住候補地はあると思うが)日本も、淡路島(593km²)・小豆島(153km²)はじめ瀬戸内海地域は地中海沿岸と似ており、国境離島でもなく、近年はオリーブやレモンも作り始めており、人手不足の産業が多く、まとまって住むことも可能であるため、(パレスチナ国家樹立候補地にはならないが)移住候補地になり得る。 そして、⑫⑬⑭⑮⑯⑰のように、農地が適切に耕作されるようにするため、農地取得を目指す外国人は農業委員会に残りの在留期間を報告し、短期間で遠方に転居する場合は農地取得が認められないが、難民として在留資格を得て腰を据えて農業をやる場合には、日本は外国人による土地取得を規制していないため、外国人やその関係法人も農地を取得することができ、2023年には外国人やその関係法人が取得した農地が90.6haあるのである。 ・・参考資料・・ <農家への所得補償は最終解ではない> *1-1-1:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/277523 (日本農業新聞 2024年12月17日) 与野党伯仲国会の審議 農家所得増へ合意探れ 臨時国会は21日の会期末に向けて終盤を迎えた。石破茂首相は所信表明演説で、党派を超えた「幅広い合意形成」を掲げた。国民の命と国土を守る農業、農村政策は試金石となる。農家の所得が増え、展望を描ける農政の在り方について議論を尽くし、合意点を探るべきだ。日本の食料自給率の長期低迷や農家戸数、耕作面積の減少に歯止めがかからなくなっている原因を突き詰め、持続可能な食料安全保障を確立できるのか。臨時国会では、これまでの農政の効果を検証する必要があるとの指摘が相次いだ。石破首相も4日の衆院予算委員会で、「日本が世界の中で食料自給力、自給率、それが突出して低いというのはやはり相当な問題なのだろうと思っている」などと述べ、危機感を示した。だが、議論が深まったとは言えない。現行施策の検証や諸外国の事例の研究を含めて、対応は待ったなしだ。食料・農業・農村基本計画見直しの時期でもあり、与野党は農家手取りを増やす具体的な道筋についてもっと踏み込んだ論争を展開してほしい。とりわけ、違いが目立つのが、直接支払いを巡る議論だ。立憲民主党や国民民主党などは、戸別所得補償制度の名称をあえて使わず、直接支払制度の見直しという観点から提起を始めている。石破首相や自民党の森山裕幹事長が、水田政策などの検討の中で「直接支払いについて議論を深める」と語ったことに呼応したものとみられ、与野党双方が一致点を見いだす努力が求められている。一方、石破首相は戸別所得補償制度を念頭に「(農家の)意欲にブレーキをかけるとか創意工夫に水を差すとか、そういうご意見があることは事実」とも述べ、与野党の主張には依然として差がある。農水省は来年の通常国会に農産物の価格転嫁を後押しする法案を提出する予定だが、同法案を巡っては、納税者負担による直接支払いの是非について再度、論点として浮上するのは間違いないだろう。政府・与党が、従来の立場を繰り返すだけでは法案は宙に浮きかねない。各党の主張の隔たりを超えて、農家の手取り増を実現させるという石破首相の強いリーダーシップを期待したい。与野党は、直接支払いを含めて手取りを増やすために必要な農林水産関係予算を確保した上で、山積する農政課題に正面から向き合うべきだ。自民、公明、国民民主の3党は、いわゆる「103万円の壁」の見直しで合意した。どのように実施するか不透明な部分は残るが、石破首相が唱える熟議の成果だろう。農業の直接支払いについても、熟議の合意を求めたい。 *1-1-2:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/285622 (日本農業新聞 2025年2月2日) 集落機能強化加算廃止に思う 疑いの目を持ち続ける 集落機能強化加算は継続しないこととする――。2025年度から始まる中山間地域等直接支払制度の次期対策について、農水省が示した方針だ。加算を終了する理由の一つに「地域運営組織(RMO)の設立・連携を行うという趣旨が十分に伝わっていなかった」と都道府県や市町村への説明不足を挙げている。しかし、落ち度を認めるのであれば、加算を継続したり、あるいは次期対策から加算を使おうとしていた集落協定も含めて救済措置を講じたり、現場が混乱しないよう対応すべきではないかと思う。集落機能強化加算は、高齢者の見回りや送迎など、生活支援をはじめとする集落機能の強化や、ボランティアの確保やインターンの受け入れといった人材確保を支援している。同省によると、23年度は555の集落協定が取り組み、加算が始まった20年度から年々増えている。制度の効果を検証する第三者委員会での議論を踏まえ、同省が昨年の8月に公表した最終評価では、集落機能強化加算を使う協定は「さまざまな組織と連携して活動している割合が高い」と効果を評価していたが一転、同月末の25年度予算概算要求で加算の廃止が判明した。これを受け、議論してきた内容と合わないとして、委員の求めで11月に臨時で第三者委員会を開催。同省は、既に加算に取り組んでいる協定を対象に、新設するネットワーク化加算で経過措置として支援を続ける方針を示したものの、次期対策から加算を使おうとしていた協定への対応など、課題は残っている。11月の第三者委員会で同省が示した資料は加算の廃止を前提としており、加算のマイナス面を強調していると感じた。今回のように同省が進めたい政策の方向性に沿うデータが提示されているケースは他にもあるのではないか――。本当の意味でEBPM(客観的な証拠に基づく政策立案)となっているのか、常に疑問を持ちながら取材に臨みたい。 *1-1-3:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/285872 (日本農業新聞 2025年2月3日) 農家数激減の現状 直接支払い議論、今こそ 慶応義塾大学名誉教授・金子勝(1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、2023年4月から淑徳大学大学院客員教授。著書に「金子勝の食から立て直す旅」など。近著に、「高校生からわかる日本経済」(かもがわ出版)、「裏金国家」(朝日新書)) 石破茂政権は「令和の日本列島改造」で「地方創生2.0」を打ち出した。食品加工業の育成などを打ち出したものの、農家の直接支払いは含まれていなかった。しかし、農家数が激減する状況を考えるならば、農家の直接支払いは不可欠である。足元を見てみよう。5年ごとの農林業センサスを見ると、農家数は急減し、高齢化とともに中小零細農家の淘汰(とうた)が進んでいる。2005年に208万5000あった農業経営体数は、2020年には109万2000まで半減している。この間、10ヘクタールを境にして中小零細農家の淘汰が急速に進んでいる。 ●農村維持難しく こうした状況の下、2024年5月に食料・農業・農村基本法の見直しが行われた。だが、この改正基本法は矛盾だらけだ。同法は、従来の大規模化による農業の生産性向上政策を前提としており、それでは農家数がますます減少し、農村コミュニティーの維持は困難になっていくからだ。リーマンショックに伴う円高によって、工場が次々に海外移転した。加えてアベノミクスが先端産業化を失敗させた。これまで工場誘致政策に伴って零細農家も兼業化で生き残っていけたが、その条件が失われると、皮肉なことに、かねてから農水省が意図していた大規模化が急速に進んでいる。だからといって、農家経営が楽になったわけではない。アベノミクスは実質賃金低下とデフレに伴って農産物価格の低迷をもたらす一方で、円安インフレによって、農薬・肥料・飼料・燃料の輸入価格が上昇して、農業経営を圧迫しているからだ。農家の経営困難を救う所得政策が不可欠だ。改正基本法は、ITを使ったスマート農業技術を使って規模拡大を図ろうとするが、人口減少が進めば、地域で学校、病院などが維持できず、ますます人が住めなくなるだろう。ところが、定住政策もない。 ●与野党で協議を 農業と農家の衰退状況を考えれば、欧米並みの農家への直接支払いを導入することが緊急に必要である。立憲民主党を中心に、民主党時代の農家への戸別所得補償を引き継ぎ、そのバージョンアップを目指している。だが、農家への直接支払いは、もともとは石破首相が農相時代に行っていた主張であったはずだ。一方、かつての民主党政権は戸別所得補償制度から農協を排除するように動いた。農協に独占させるのは間違いだが、排除することも誤りだった。与野党伯仲時代なのだ。政党の狭い利害を超えて、農村の危機的状況を踏まえて農業者の利益本位に考えて、真剣に与野党で協議すべき時ではないのか。 *1-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/282099 (日本農業新聞 2025年1月15日) 水稲再生二期作広がる 温暖化、米価上昇で脚光 温暖化で水稲の生育可能な期間が延びる中、生産現場で再生二期作が広がってきた。温暖な西日本で取り組みが先行してきたが、東日本の主産地でも米を安定調達したい卸業者も参画した試みが動き出している。産地からは「米価の回復もあり、機運が高まっている」との声も上がる。「二番穂の再生が旺盛で関心を持った」と、2024年産で1ヘクタールで再生二期作を行ったのが島根県の農事組合法人ふくどみだ。早生品種を4月下旬に移植。8月下旬に1度目の収穫を行った後に追肥、11月下旬に二番穂を収穫した。10アール収量は二番穂が192キロで、全体で762キロを確保した。「水はけが悪く転作が難しい田で、水稲で2回収入を得られるのは有望」とみる。東海地方のある農家は24年産で「コシヒカリ」約100ヘクタールで取り組んだ。二番穂の10アール収量は、一番穂を早く刈り、水を入れた田で約60キロ。「特に24年産は米価が良かったからか、周りでも取り組む農家が多かった」。二番穂を収穫しても、収穫せずにすき込んでも「労力は大差ない」と話す。関東でも取り組みが始まった。茨城県のJA北つくばは24年産で、「にじのきらめき」など約1ヘクタールで実証に乗り出した。同品種の10アール収量は2度の収穫で計712キロ。25年産は4ヘクタールに広げる。実証には大手米卸の木徳神糧も参画。農家の減少が進む中、同社は再生二期作を「米の安定調達に向けた一策」とみる。他産地での展開も検討する。現場で実践が広がる中、農研機構は23年に研究成果を発表。福岡県内の試験では、「にじのきらめき」の10アール収量は2回の合計で950キロ。一番穂を地際から40センチと高く刈ることで地上部に栄養を多く残し、二番穂の収量を確保できるとする。一方、「長い目で見れば地力が落ちて機械代もかさむ。一番穂をより多く取る方が生産コストでは優れる」(別の東海地方の農家)と、慎重な声もある。農水省によると、二番穂から収穫した米であることを理由にした流通上の規制はなく、通常の米と同様に販売できる。イネカメムシの栄養源を田に残さないよう、通常の作型も再生二期作も収穫後は速やかに耕し、すき込むことも重要になる。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250201&ng=DGKKZO86463210R00C25A2EA2000 (日経新聞 2025.2.1) 「コメ騒動」消費者置き去り 値崩れ対策に偏重、備蓄放出「口先介入」でようやく流通増 価格上昇一服 政府が緊急時用に備蓄しているコメを柔軟に放出する体制をようやく整えた。店頭からコメが消えた昨夏の「令和のコメ騒動」から半年、価格高騰に背中を押されてのことだった。後手に回った背景には米価が下がりすぎないよう生産抑制に重点を置き、消費者への意識を欠いてきた長年の農業政策のツケがある。政府が24日に放出準備を表明すると上昇傾向が続いていたコメ相場に変化が表れた。堂島取引所(大阪市)に上場するコメの値動きに連動した指数先物「堂島コメ平均」の31日の終値は、発表前の23日終値から1.6%安だった。日本経済新聞が集計する卸間取引価格は31日時点で、新潟コシヒカリが1月中旬比3%高の4万8500円前後(60キログラム)。昨年末から1月中旬まで3割上昇していた勢いが鈍化した。コメ卸の取引担当者は「24日以降、売り物がかなり増え値上がりが止まった」と話す。備蓄米の放出で値下がりするのをにらんだ対応とみられる。足元の値上がりがこのまま落ち着く可能性はあるものの、備蓄米の放出は対症療法でしかない。そんな手法に踏み切るのにさえ時間がかかるのは、流通を急に増やして米価が値崩れすることを過度に警戒してきた長年の政策があるためだ。象徴的なのは国が主導して生産量を抑える生産調整(減反)だ。1960年代半ばから起きたコメ余りを受けて導入して以降、コメの供給が多すぎて価格が下落するのを防いできた。93年の冷夏による大凶作で供給量が足りなくなる「平成のコメ騒動」が発生しても大きな変化はなかった。政府は2018年、農家や生産者の自主性を重んじるべきだとの判断に転じ、主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめた。減反の廃止と呼ばれるが、現実には農林水産省内でも「事実上の減反は今なお残っている」といわれる。理由の一つは農家にコメから麦や大豆、飼料用米へ転作を促す補助金があるためだ。「水田活用の直接支払交付金」と呼ばれる制度の予算は2015~23年の間、年平均3200億円ほどの横ばいで推移する。18年の減反廃止後も減っていない。もう一つは政府が産地ごとの農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の「目安」を示す仕組みが残ったことだ。かつての国が都道府県に生産量の上限を提示する制度はなくなっても、この目安が一定の生産調整につながりやすい。需給見通しは将来の推計人口や1人あたりの消費量といった統計から算出する。昨年のようなインバウンド(訪日外国人)の急増による需要の広がりは織り込まれておらず、需給バランスが崩れたときの対応は難しい。減反による副作用の影響も響いている。減反には農家の収入を安定させる目的があったが、生産調整と引き換えに受け取る補助金収入に依存する零細農家が多くなった。担い手不足や収益の悪化を理由にコメ農家は減っている。農水省によるとコメ農家は20年時点で69万9000戸と10年前から39.7%減った。農家の81.7%は兼業農家が占め、2ヘクタール未満の小規模な経営体が多い。農地全体も減少が続く。田の面積はピークだった1960年代に比べ3割減った。耕作放棄地も広がっており、国内の食料生産能力は弱体化が止まらない。生産効率化に向けては大規模化が必要になる。コメの生産コストは0.5~1ヘクタールで60キログラムあたり2万円を超える一方、15~20ヘクタールは1万円強と半分になる。15ヘクタール以上のコメ生産者は10年間で8割増えたものの、経営体全体の1.7%ほどに過ぎない。効率的な生産体制をつくるための予算は多くない。たとえば「農地バンク」と呼ばれる農地中間管理機構を活用して農地集積・集約などに取り組む予算は過去10年の累計で755億円。転作を促す「水田活用の直接支払交付金」の単年の4分の1に満たない。三菱総合研究所は23年の提言でコメは40年に「自給は維持すら難しくなる」と警鐘を鳴らした。コメや小麦といった主食穀物の輸入依存度を現状のまま維持するには113万ヘクタールの耕地が「死守すべきライン」だと試算し、大規模や中規模の農家を増やすよう主張する。米国農務省が1月に発表した需給見通しでは世界のコメ生産量は24~25年度で年間5億3287万トンの見込みだ。このうち輸出に回るのは1割ほど。日本国内で供給不足に陥ったときに輸入で補うのは簡単ではない。食料安全保障の観点からも国内生産基盤を強化していくことが欠かせない。昨夏からの「コメ騒動」について政府は当初、秋に新米が流通すれば品不足は解消されると説明していた。新米が出ても卸などは予定の数量をなかなか確保できなかった。流通量の不足感から買い姿勢を強める悪循環が起き、コメ価格は高止まりの状態が続いた。繰り返さないためには生産抑制にとらわれすぎる政策からの脱却が重要となる。 ▼備蓄米 政府は不作に備えて一定量のコメを買い上げ、備蓄米として保管している。10年に1度の不作や、不作が2年連続して発生しても対処できる水準として100万トン程度を目安に保存している。毎年20万~21万トン程度を買い入れ、最大5年間保管する。期間を過ぎたら飼料用などとして売却する。低温倉庫で保管し、大部分を玄米で蓄える。備蓄米の入れ替えに伴う売買差損も含めると、2023年度決算で備蓄米制度の運営には478億円の国費がかかった。災害時でも迅速に食料を供給できるように一部は精米状態で保管している。農林水産省は精米備蓄について「15度以下で保管した場合、精米後12カ月経過しても食味は大幅に低下しない」との分析結果を示している。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250207&ng=DGKKZO86589020X00C25A2MM0000 (日経新聞 2025.2.7) 消費支出、昨年1.1%減 2年連続マイナス 12月は2.7%増 総務省が7日発表した2024年の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は月平均で30万243円と物価変動の影響を除いた実質で前年比1.1%減少した。食料品などの物価上昇が消費の重荷となった。認証不正問題による出荷停止の影響で自動車購入が減り、2年連続で減少した。同日発表した24年12月単月の消費支出(2人以上世帯)は35万2633円と実質2.7%増加した。自動車の購入が増えたことなどから5カ月ぶりに増加に転じた。3カ月移動平均でみた支出も0.5%のプラスに転じたことから「食料品の節約志向が続くものの、足元では消費に回復傾向がみられる」(総務省)としている。2024年通年は支出の内訳に占める比率が高い食料が0.4%減と5年連続で減少した。天候不良の影響で値上がりした野菜や果物の購入が減った。2人以上世帯の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%と、1981年以来43年ぶりの高水準となった。交通・通信も4.1%減だった。品質不正問題による一部自動車メーカーの生産や出荷の停止の影響で新車販売が落ち込んだほか、通信では低価格帯プランへ切り替える人が増えたことなどから支出が減った。暖冬で冬場の暖房利用が減ったことなどから光熱・水道も6.8%減少した。24年の勤労者世帯の実収入は実質1.4%増の63万6155円だった。 *1-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1400829 (佐賀新聞 2025/1/31) 農水省、備蓄米放出へ転換、1年以内の買い戻し条件 農林水産省は31日、政府備蓄米の放出に向けた新制度の概要を発表した。価格高騰が続く中、大凶作などに限っていた方針から転換する。1年以内に同量を買い戻すことを条件とし、全国農業協同組合連合会(JA全農)などの集荷業者へ売り渡す運用を想定。民間在庫を正確に把握するため、調査対象を農家や小規模な卸売業者などにも広げる考えだ。農水省が備蓄米運用を定めた基本指針の変更案を同省関連部会に示した。著しい不作といった従来の基準に加え「円滑な流通に支障が生じる場合」にも放出を認める。売り渡し価格や数量などの詳細は今後検討する。実施されれば、供給量が増え価格低下につながる可能性がある。方針転換の背景には、昨夏以降に激化した集荷競争がある。2024年産米の収穫量は前年から18万トン増えたが、主要な集荷業者の昨年11月末時点の集荷量は17万トン減った。コメの先高観を見越した小規模業者や農家が、在庫を抱え込んでいるためとみられる。新制度では、政府が申し出のあった集荷業者に備蓄米を売り渡し、不足している卸売業者向けの販売に充ててもらう。卸売業者を通じ、コメを扱うスーパーなどの小売店に供給される見通しだ。関連部会に先立ち、江藤拓農相は31日の閣議後記者会見で「生産量は増えたのに市場に出てこない」と指摘。店頭価格の高騰を踏まえ、昨年末から備蓄米放出の議論を始めていたことを明らかにした。農水省は併せて、最新のコメの需給見通しを31日に発表した。25年6月末の民間在庫量を、昨年10月に示した見通しから4万トン少ない158万トンに下方修正した。過去最低だった昨年の153万トンからは微増するものの、2番目に低い水準。需要が増えれば、品薄が再発する懸念もある。備蓄米 著しい不作など緊急時に備えて国が保有しているコメ。1993年の大凶作「平成の米騒動」をきっかけに95年から制度化した。適正な備蓄量は100万トン程度が目安で、近年は91万トンで推移している。約5年間、全国にある民間倉庫で保有した後、飼料用などとして販売しており、毎年20万トン程度を入れ替える。備蓄運営は政府の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」に規定されている。 *1-3-1:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/282293 (日本農業新聞 2025年1月16日) キャベツ周年供給確立 スマート技術組み合わせ 中山間地でも効率化 広島の法人 広島県庄原市の農業法人・vegeta(ベジタ)は、約130ヘクタールと全国有数規模でキャベツを周年出荷する。冷涼な県北部から温暖な県南部まで、約10カ所に農地を集約。ドローンや作業支援アプリ、自動収穫機などスマート技術を組み合わせて効率を高め、中山間地にも適した作業体系を確立している。同社は2016年度に15ヘクタールでキャベツ栽培を開始した。現在、栽培地は標高800メートルの山間部から瀬戸内海に面する低地まで県内5市に広がり、気温差を生かした栽培でリレー出荷を展開する。農地は農地中間管理機構(農地バンク)を通じて借りるなどし、1カ所当たり多少の分散はあるが10~20ヘクタール規模に集約している。大規模生産を支えるのが、スマート技術による作業の効率化だ。➀ドローン➁営農支援アプリによる作業記録の管理・確認➂自動収穫機➃QRコードを使った苗管理➄自動操舵システム搭載のトラクター――を活用。これらは、19、20年度の農水省のスマート農業実証プロジェクトで検証した上で導入した。ドローンは約20台を所有する。農薬散布ではトマトやネギ、サツマイモ、飼料作物も含め計500ヘクタール規模で活用する。搭載したカメラで撮影した畑の画像を解析して収量を予測したり、鹿対策として、赤外線カメラを搭載して飛ばして畑周りの生息域を特定し、効率的な捕獲につなげたりしている。同社では20人ほどの従業員が移植、収穫、次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業する。円滑に作業を進めるため、作業内容の記録や確認などができるアプリ「アグリノート」を使い、各班で仕事の進み具合を共有。自動収穫機は、収穫したキャベツを機械上で数人がかりで調製・選別できる。販売先は、生協ひろしま、県内お好み焼きチェーン店約50店舗、食品スーパーと幅広く確保。生鮮用の他、カットサラダに向く加工・業務用としても出荷する。同社の谷口浩一代表は「次世代型の経営モデルを作り上げたい」と話す。 *1-3-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/285846 (日本農業新聞 2025年2月2日) 「農家の視点×企業の技術」で新組織 現場が第一、技術発展へ 中山間地の狭い農地でも効率的に作業できる農機、コストを抑えつつ環境に優しい肥料――。そんな生産現場が使いやすい農業技術の開発・普及を進めようと、全国のプロ農業経営者14人が発起人となり、新組織を立ち上げる。農機メーカーなど農業関係の企業・団体なども参加。農家の視点を取り入れた技術で、作業負担軽減や生産コスト低減など経営課題の解決を目指す。新組織は、日本農業技術経営会議(通称プラチナファーミングの会)で、3日に設立総会を開く。設立時の会員数は、農家や企業など50を見込む。設立発起人の一人、ぶった農産(石川県野々市市)の佛田利弘会長は「現場起点のかゆい所に手が届く技術を広めたい」と話す。新組織では、3年間の新規プロジェクトを毎年最大5件立ち上げ、新たな農業技術の開発に取り組む。セミナー開催などを通した技術の普及、新技術の開発に向けた課題掘り起こし、企業や研究機関と農家の契約の調整なども行う。研究機関や企業が開発した農業技術には、高い効果が期待できる一方、農家が使うにはハードルが高いものも少なくない。例えば水稲の2段施肥。環境汚染が懸念されるプラスチック被膜肥料の代替技術として登場したが、専用のペースト肥料でしか取り組めず、導入コストも高いという課題があった。新組織では、発起人が開発した通常の粒状肥料でも2段施肥ができる機械の実証を進め、普及に取り組む。場所ごとに肥料の散布量を変える「可変施肥」でも、小規模農地や中山間地でも導入しやすい農機の開発・普及に取り組む。発起人代表の尾藤農産(北海道芽室町)の尾藤光一社長は「農家が受け身ではなく、主体的に技術革新に踏み出せる風土を農業界につくりたい」と意気込んでいる。 *1-4:https://cigs.canon/article/20230118_7220.html (キャノングローバル総合研究所 2023.1.18) 農業を国民に取り戻すための6個の提言、食料・農業・農村基本法見直しを機に農政を抜本的に正せ 前回は、国民全体の利益に立って食料安全保障や多面的機能という利益を確保し向上させるためには、どのような基本原則に立つべきかについて議論した(2022年12月1日付「戦後農政を総決算せよ」)。ここでは、食料・農業・農村基本法見直しに関する論考の最後として、どのような方法で、それを実現すべきかについて、議論したい。今の農政は、基本原則だけでなく、政策手法についても、大きな間違いを犯しているからである。 ●世界標準から周回遅れの日本農政 OECD(経済協力開発機構)が開発したPSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である(PSE=財政負担+内外価格差×生産量)。農家受取額に占める農業保護PSEの割合(%PSEという)は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%と高くなっている。日本では、農家収入の4割は農業保護だということである。しかも、日本の農業保護は、消費者負担の割合が圧倒的に高いという特徴がある。各国のPSEの内訳をみると、農業保護のうち消費者負担の部分の割合は、2020年ではアメリカ6%、EU16%、日本76%(約4兆円)となっている。欧米が価格支持から直接支払いへ政策を変更しているのに、日本の農業保護は依然価格支持中心だ。国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならなくなる。農政トライアングルの政治家はTPP(環太平洋パートナーシップ)交渉を「国益をかけた戦い」と表現した。その国益とは農産物関税を守ることだった。その関税で守っているのは、国内の高い農産物=食料品価格だ。これで保護しているのは農家であり、負担しているのは消費者である。日本の場合は、小麦や牛肉などのように、消費者は国産農産物の高い価格を維持するために、輸入農産物に対しても高い関税を負担しているので、農業保護のために国民消費者が負担している額は、内外価格差に国内生産量をかけただけのPSEを上回る。これに対し、輸出国であるアメリカやEUについては、輸入が少ないうえ関税も低いので、輸入農産物についての消費者負担はほとんどなく、PSEを国民負担と考えてよい。 ●市場の歪みを財政で処理する日本 農家の所得を保証するのは価格だけではない。アメリカもEUも、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いによって、農家所得を確保している。直接支払いの方が価格支持より優れた政策であることは、(食料・農業・農村政策審議会の委員をしている経済学者についてはわからないが)世界中の経済学者のコンセンサスである。価格支持は、本来市場で実現している価格より高い価格を農家に保証しようとする。需要が減少し供給が増えるので、需給が均衡する市場では起きない過剰が生じる。日本では、政府が高価格で米を買い入れていた食糧管理制度の下で、大きな過剰が生じた。EUも同じだった。その過剰を処理するため、日本では補助金を出して減反をし、EUでは補助金を出して国際市場で処理した。つまり、価格支持では、過剰という市場での歪みが生じ、それを処理するために、財政負担が必要となるのだ。直接支払いなら過剰は起きない。アメリカなどから攻められたこともあるが、この問題に気付いたEUは1993年、価格支持から直接支払いに移行した。ただし、同じく補助金を出しても、日本は減産、EUは生産拡大という違いがあった。食料安全保障の観点からは、EUの補助金の方がはるかに優れていた。日本も1995年に食糧管理制度を廃止した際、直接支払いに移行すればよかった。しかし、減反で供給を減少させ、高い米価を維持することを選択してしまった。今は、減反によって事前に過剰米処理をしていることになる。日本の政策当局者にとって不幸だったのは、EUと異なり、日本には、高米価で発展してきたJA農協という圧力団体があったことである。なお、日本の「納税者負担」(直接支払い)が少ないことをもって、欧米の方が手厚い保護を行っていると主張する農業経済学者がいる。日本の農業保護が少ないなどと主張するなら、OECDだけでなく、世界の農業経済学者から相手にされないだろうと思うのであるが、不思議なことに、日本の農業経済学会の中には同調者がいるようである。間違いだと思っている農業経済学者もいると思うのだが、あえて波風を立てないというのが学会の良い所のようだ。日本の農業の場合、専門家の言うことも信じてはいけないのである。 ●提言①消費者に負担を強いる農政を転換しよう 基本法第2条第1項は次のように規定する。「食料は、人間の生命の維持に欠くことができないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることにかんがみ、将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」。さらに、同条第3項は、「食料の供給は、農業の生産性の向上を促進し」と規定する。つまり、基本法は、できる限り安い価格で供給すべきだとし、貧しい消費者にも配慮しているのである。しかし、自民党農林族、JA農協、農林水産省の農政トライアングルは、減反政策を強化してさらに米生産を減少させ、米価を上げようとしている。小麦よりも基礎的な食料だと思われる主食の米について、この価格高騰時にも、物価対策とは逆のことを行っているのである。 ●生活困窮者の声は審議会に届かない 食料・農業・農村政策審議会にも消費者の代表はいるが、豊かな主婦の人たちの代表者であって、貧しい人たちの代表ではない。最近の食料品価格の上昇で、生活困窮者の人たちのためのフードバンクに食料が集まらなくなっている。審議会の消費者代表委員は「多少高くても国産の方がよい」とJA農協の国産国消に同調する人だ。しかし、多少高いどころか、今の食料品価格では満足に食料を買えない人たちがいるのである。生活困窮者の声は審議会には届かない。これまで、消費量の14%しかない国産小麦の高い価格を守るために、86%の外国産小麦についても関税(正確には農林水産省が徴収する課徴金)を課して、消費者に高いパンやうどんを買わせてきた。国内農産物価格と国際価格との差を財政からの直接支払いで補てんするという政策変更を行えば、消費者にとっては、国内産だけでなく外国産農産物の消費者負担までなくなるという大きなメリットが生じる。農業に対する保護は同じで国民消費者の負担を減ずることができるのだ。 ●提言②減反を廃止するだけでよいのだ 農林水産省が努力しなくてもできる政策がある。医療のように、本来財政負担が行われれば、国民は安く財やサービスの提供を受けられるはずなのに、米の減反は補助金(納税者負担)を出して米価を上げる(消費者負担増加)という異常な政策である。国民消費者は納税者として消費者として二重の負担をしている。主食の米の価格を上げることは、消費税以上に逆進的だ。「経世済民」とは対極にある減反は、経済学的には最悪の政策である。減反を廃止するだけでよい。財政的にも3500億円の減反補助金を廃止できる。米価が下がって困る主業農家への補てん(直接支払い)は1500億円くらいで済む。サラリーマン収入に依存している兼業農家には、所得補償となる直接支払いは不要である。米価は下がる。零細な兼業農家は耕作を止めて主業農家に農地を貸しだすようになる。主業農家に直接支払いを交付すれば、これは地代補助となり、農地は円滑に主業農家に集積する。規模拡大で主業農家のコストが下がると、その収益は増加し、元兼業農家である地主に払う地代も上昇する。 ●農地の集約が進めば農村はよみがえる 都府県の平均的な農家である1ヘクタール未満の農家が農業から得ている所得は、トントンかマイナスである。こうした農家のゼロの米作所得に、20戸をかけようが40戸をかけようが、ゼロはゼロである。しかし、20ヘクタールの農地がある集落なら、1人の農業者に全ての農地を任せて耕作してもらうと、1500万円の所得を稼いでくれる。これを地代として、みんなの農家に配分した方が、集落全体のためになる。ビルの大家への家賃が、ビルの補修や修繕の対価であるのと同様、農地に払われる地代は、地主が農地や水路等の維持管理を行うことへの対価である。地代を受けた人は、その対価として、農業のインフラ整備にあたる農地や水路の維持管理の作業を行う。地主には地主の役割がある。健全な店子(担い手農家)がいるから、家賃によってビルの大家(地主)も補修や修繕ができる。このような関係を築かなければ、農村集落は衰退するしかない。農村振興のためにも、農業の構造改革が必要なのだ。国内の米産業を助けるばかりでなく、米価低下は貧しい消費者も助けることになる。食料分野では、減反廃止に勝る物価対策はない。 ●提言③私的経済の活用で国民負担を減らせ 農政は、米価が下がると市場から米を買い上げて米価を維持したり、農家に価格低下分を補てんしてきたりしている。また、2019年から、農家の所得を補償するため、価格低下や災害などで収入が減少した場合に補てんする保険制度を導入している。先物取引は、生産者にとって、将来の価格変動へのリスク回避の行為を行い、経営を安定させるための手段である。具体的に言うと、作付け前に、1俵1万5000円で売る先物契約をすれば、豊作や消費の減少で出来秋(収穫時)の価格が1万円となっても、1万5000円の収入を得ることができる。JA農協は、米が投機の対象となり、価格が乱高下することは望ましくないと主張する。しかし、投機資金で先物価格が2万円に上昇するなら、それは、農家にとっては良いことである。先物価格が上がり、農家が減反に参加しないで米を作り、出来秋に実現した米価が下がっても、農家が受け取る米価は先物価格であって、出来秋の米価ではない。先物価格が上昇すれば、生産者は生産を増やそうとするので、将来の現物価格は低下する。これは市場を安定させる。流通業者も不作で出来秋の価格が高騰しそうなときには、低い先物価格で契約をすれば、リスクを回避できる。先物市場で生産者や実需者の代わりにリスクを負担しているのは、投機家である。JA農協が先物取引に反対するのは、価格が市場で決定されるので、現在の卸売業者との相対取引と異なり、価格を操作できなくなるからである。これまで価格が低下するたびに、政府は財政負担をしてきた。そのような施策があるから、農家は試験的に導入された先物取引にメリットを感じなくなり、これを利用しようとしなかった。利用量が少ないことを主張して、農政トライアングルは先物取引の本格導入を認めてこなかった。しかし、先物のリスクヘッジ(価格安定)機能を利用すれば、価格補てんや保険制度などを行う必要はなくなる。国民負担は軽減される。 ●提言④市場を歪ませ不正を生んだ政策の是正を 2008年に汚染米による不正流通事件が発覚した。カビが生じたミニマム・アクセス米を農林水産省は糊用に売却した。安く政府から買い入れた業者が、主食用などに高く転売して、利益を得た。汚染米8368トンのほとんどが横流しされた。工業用の糊に売却するとトンあたり1万円程度だが、焼酎、あられ、せんべいなどの加工用途だと15万円、食用なら25万円で売却できる。横流しするとかならず儲かるのだ。この問題の本質は、減反政策により主食用の価格を意図的に高く維持する一方、本来主食用と同一の価格では取引されない他の用途向けの価格を安くして需要を作り出し、主食用との価格差を転作(減反)補助金として補てんしていることにある。同じ品質の米に用途別に多くの価格がつけられている「一物多価」の状況が発生するので、これに乗じた不正が発生する。不正をなくすためには、市場の歪みを生じている政策を是正すべきなのだ。 ●政府の介入がなければ一物一価は実現する しかし、農林水産省は、食糧管理制度が廃止され、米の流通規制がなくなったから、米の不正流通をチェックできなくなったとして、2009年米のトレーサビリティ法(「米穀等の取引等に係る情報の記録および産地情報の伝達に関する法律」)を作った。汚染米事件を農林水産省の組織維持に利用したのだ。しかし、2013年に中国産米や加工用米を主食用に横流しした三瀧商事事件が起きている。米のトレーサビリティ法は役に立たなかった。経済政策の基本は、その問題を生じさせている源にダイレクトに対処すべきということだ。ここでは高米価と一物多価が問題なのだ。米の需要を拡大したいなら、減反を廃止して価格を下げ、輸出用の需要を拡大すべきだ。政府の介入が無くなれば、一物一価は実現する。一物多価が生じているのは、生乳でも同じである。生乳も政府の介入を止めて一物一価を実現すれば、アジアの飲用牛乳の需要拡大に向けた生乳の輸出が可能になる。 ●提言⑤食料自給のためにも米の増産と輸出を 食料自給率が低下した大きな原因は、国産の米の価格を大幅に引き上げてその消費を減少させ、輸入麦(小麦、大・はだか麦)の価格を長期間据え置いてその消費を増加させたことだ。1960年頃は米の消費量は小麦の3倍以上もあったのに、今では両者の消費量はほぼ同じ程度になってしまった。大・はだか麦を入れると、米麦の消費量は逆転した。今では、日本人の主食は米ではなく輸入麦なのかもしれない。国産の米をイジメて外国産の麦を優遇したのだ。今では500万トンの米を減産して800万トンの麦を輸入している。高米価で米の需要が減少したので、米価を維持するために減反政策を実施している。2000年から20年以上も食料自給率を45%に引き上げる目標を掲げているにもかかわらず、2000年の40%から逆に減り続け、2021年の食料自給率は38%である。ところが、1960年の食料自給率79%も、今の38%も、その過半は米である。つまり、食料自給率の低下は、米生産を減少させてきたことが原因なのである。 ●減反廃止で自給率は目標を超える 最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止による米の増産とこれによる輸出である。平時には米を輸出し、危機時には輸出に回していた米を食べるのである。日本政府は、財政負担を行って米や輸入麦などの備蓄を行っている。しかし、輸出は財政負担の要らない無償の備蓄の役割を果たす。輸出とは国内の消費以上に生産することなので、食料自給率は向上する。現在の水田面積全てにカリフォルニア米程度の単収の米を生産すれば、1700万トンの生産は難しくはない。国内生産が1700万トンで、国内消費分700万トン、輸出1000万トンとする。米の自給率は243%となる。現在、食料自給率のうち米は20%、残りが18%であるので、米の作付け拡大で他作物が減少する分を3%とすると、この場合の食料自給率は64%(20%×243%+18%-3%)となり、目標としてきた45%を大きく超える。農政トライアングルは、食料自給率の低さを農業の保護や予算の獲得の方便として利用してきた。彼らにとって、食料自給率は低いままの方がよい。 ●日本に最も適した農産物は米だ 今回も麦や大豆の生産拡大を推進するとしている。しかし、これは1970年からの減反=麦等への転作を行ってほとんど効果がなかった政策である。また、財務省は減反の補助金を払いたくないため、水田を畑に転換するための補助金を支出しようとしている。しかし、日本に適した農産物は米である。米はグルテンフリーであるばかりか、体内で合成できない必須アミノ酸を小麦より多く含む。しかも、国産大豆には納豆などの需要があるが、国産小麦は品質が悪く生産も安定しないので、製粉業界から敬遠されている。小麦を輸入している中にあって、国産小麦は長年過剰なのである。製粉業界は農林水産省からさらに国産小麦を押し付けられるのを心配しているだろう。とるべき政策は、減反廃止=米の増産である。財政負担を大幅に削減しようとすれば、減反を廃止すべきだ。しかし、それだと財務省は自民党と正面対決となる。水田の一部を畑にすれば、その面積だけ減反補助金を払わなくて済む。財政負担軽減からすれば次善の策だが、やらないよりはましだ。このように財務省は考えたのだろう。しかし、姑息である。日本で最も優れている農産物は米なのに、それを生産できないようにしようとしている。多面的機能でも、水田の効果は畑を大きく上回る。経済学的にも正当化できない。そろそろ、国民のために真剣に食料安全保障を議論しようではないか。 ●提言⑥肥大化した農政をスリムにしよう 欧米と異なり、農林水産省は、行政が課題を細かく設定し、手取り足取り指導・支援するといったパターナリスティックな対応を行っている。このため、日本の農業施策は細かく複雑なものとなっている。農林水産省には100程度の課があり、一つの課でも多くの事業がある。ほとんどが零細な補助金による事業である。欧米の農業政策は、法律を読めばおおむね理解できる。しかし、日本の場合、法律やそれに基づく政省令には、具体的な事業や仕組みが書かれていないことが多い。その代わり、様々な補助事業ごとに、趣旨や複雑な交付条件、申請書類の様式、申請手続きや事業実施報告の方法などに関する要綱・要領という長く難解な行政文書(都道府県や団体等への通達)が作られる。農林水産省の下請け機関となっている自治体職員は、これを読み込んだうえで、農業団体や農家に事業の趣旨や仕組みを周知徹底し、補助金の申請を手助けしなければならない。これに自治体職員の膨大なエネルギーが投入されてきた。農林水産省は、自治体の職員が地域の農業振興に必要な政策を考案する時間を奪っている。農林水産省が多種多様な補助事業を作る大きな理由は、自分たちの仕事作りである。例えば、2012年から、新しく農業を始めようとする人に対し、研修期間中は毎年150万円を2年間、経営を開始すると毎年150万円を3年間、合計750万円補助する事業を実施している。さらに、新規就農支援資金(借入限度額3700万円:特認1億円、償還期間17年(据置期間5年)の無利子資金)が用意されている。 至れり尽くせりである。 ●整合性のある政策が推進できない ところが、成果はほとんど上がっていない。多額の補助をもらうことで、努力を怠たったり、農業経営に対する厳しさがなくなったりするからである。しかし、農林水産省は金を出しっぱなしで効果を検証しようともしない。この事業を廃止するつもりはない。また、様々な事業が多くの課ごとに作られるため、整合性のある食料・農業政策は推進できない。農家個人所有の田畑の整備のため、毎年1兆円規模の農業土木(基盤整備)事業が、公共事業として農家の負担わずか15%程度で実施されてきた。農家が投資してコストダウンを図っても、農産物価格が低下すると消費者はメリットを受けるが、農家は投資額を回収できなくなると考えて投資しなくなる、これが、農地整備という私的な投資を公共事業で行う根拠だった。その一方で、農産物価格を下げないことを目的とする減反に50年間で9兆円、過剰米処理に3兆円以上を投入した。しかし、農業土木の関係者としては、予算を獲得して事業を行いさえすれば、天下り先が確保できるので、農政の他の部門には全く関心を持たない。畜産についても、価格競争力向上を実現するとして巨額の財政資金を投下しながら、畜産物価格は逆に上がっている。2000万円の所得がある畜産農家を保護するため、貧しい消費者に負担を強いながら、畜産物価格を上げている。そもそも環境に著しい負荷を与えている畜産は、補助するのではなく課税すべきである。野菜、果樹、花については、関税保護もわずかで、その関税もTPP交渉の結果撤廃される。外国からの飼料に依存する畜産のように手厚い補助金もない。しかし、農地資源は、畜産以上に守っている。農政が論理破綻し複雑かつ矛盾の体系となっている今日、我々は食料安全保障や多面的機能という農政の目的に立ち返り、論理整合的でシンプルな農業政策を検討すべきではないだろうか?食料安全保障も多面的機能も、農地資源を維持してこそ達成できる。そうであれば、品目ごとの農業政策や就農補助などこまごました補助事業は全て廃止して、農地面積確保のため、農地面積当たりいくらという単一の直接支払いを行えばよい。このような単一の直接支払いは、EUが長年の改革の末到達した農業保護の姿である。 ●「何ぞ彼等をして自ら済わしめざると」 雑多な補助事業は、農家の創意工夫を削いできた。困ると農政が助けてくれるという他力本願的な経営になってしまった。前回紹介した、柳田國男、石黒忠篤、石橋湛山には、共通の尊敬する人物がいる。二宮尊徳である。また、かれらが共通して主張したのは、「自助」である。柳田國男は主張する。「世に小慈善家なる者ありて、しばしば叫びて曰く、小民救済せざるべからずと。予を以て見れば是れ甚だしく彼等を侮蔑するの語なり。予は乃ち答えて曰わんとす。何ぞ彼等をして自ら済わしめざると。自力、進歩協同相助是、実に産業組合の大主眼なり」(『最新産業組合通解』定本第28巻130ページ参照))。農地の上に、米、野菜、牧草など、何を植えるかは、農家の創意工夫に任せるべきであって、農政が口を出すべきではない。農地を利用しない輸入飼料依存の畜産には直接支払いは交付されない。農家が基盤整備などの土地改良を行いたければ、直接支払いから支出すればよい。農業土木技官がゼネコンに天下るための公共事業予算獲得運動などなくなる。農水省の組織・定員は大幅にスリム化できる。自治体職員は、こまごました零細な補助事業に悩まされなくなる。今の農政はあまりにもわかりにくく、農林水産省の職員のためのものとなっている。国民のための農政とは遠く離れている。 食料・農業・農村基本法見直しに関する筆者の論考は次のとおりです。 ・「食料・農業・農村基本法見直しの背景はなにか 政治に翻弄された農政の軌跡から見えてくる揺り戻しの正体とは」(2022年10月11日付) ・「『改悪』の結末が透ける食料・農業・農村基本法見直し 保護農政への揺り戻し図る農政トライアングルと『お墨付き』のためだけの審議会」(2022年10月21日付) ・「食料・農業・農村基本法見直しのウソとまやかし だまされないために知っておきたい本当のこと」(2022年11月02日付) ・「戦後農政を総決算せよ 食料・農業・農村基本法見直しのあるべき基本原則とは?」(2022年12月1日付) *1-5-1:https://president.jp/articles/-/47124?page=1 (President 2021/6/23) 96%は国内生産なのに「卵の自給率は10%」と農水省が主張するカラクリ、エサが輸入品なら「外国産」扱い 鶏卵の96%は国内で生産されている。しかし農林水産省の統計では「鶏卵の自給率は10%」とされている。なぜそうなるのか。東進ハイスクール地理講師の山岡信幸さんは「諸外国と異なり、日本だけがカロリーベースという計算式を使っている。だから実態と数字が異なっている」という――。 ●品目別で見れば自給率の高い農産物も多い 日本は主食であるお米の一部をアメリカ合衆国などから輸入しています。ただし、輸入分は加工用などに回しており、食用米の自給率は100%です。では、副食、つまり肉や野菜など米以外の農畜産物の自給率はどうなっているのでしょうか。過去の推移も含めて確認しておきましょう。図表1を見てください。太線で示した総合食料自給率は、1960年の79%から、2018年の37%まで、半分以下に低下しています。もし食料輸入が全面的にストップすれば、1日1食になってしまう(?)という数値ですね。しかし、先述の主食の米に加え、鶏卵・肉類・牛乳などの畜産品、野菜、魚介類など多くの食料の自給率はその数値を上回っています。足を引っ張っているのは小麦などの穀物や大豆などに限られます。なぜ「総合」になった途端に数字が低くなるのでしょう? ●品目別と総合で異なる自給率の計算基準 これには「からくり」があります。品目別の自給率は重量によって計算していますが、総合食料自給率は熱量(カロリー)をベースにした計算なのです。重量当たりの熱量が小さい野菜や果実をたくさん国内で作っていても、熱量の大きい小麦や大豆の輸入が多いため、総合の自給率は低くなっているのです。そのうえ、鶏卵・肉類・牛乳など、飼料(餌)で育てたものは自給分に含まれないことになっています(飼料作物の代表格とうもろこしの自給率がグラフには出てきませんが、ほぼ全量を輸入しており、事実上0%です)。国内の畜産農家が牛や豚や鶏を育てる手間ひまは自給率の分子にカウントされないのです。さらに、この総合食料自給率で分母となるのは、私たちの摂取熱量ではなく供給熱量なのです。つまり国産と輸入の合計から輸出分を差し引いたもの、国内市場に出回った農産物の熱量全体ということです。ということは、莫大な食品ロスも分母に含まれています。日本では、ごくわずかに販売期限を過ぎただけで、推定で140万食分以上のコンビニ弁当が毎日廃棄されているそうです(ジャーナリスト井出留美氏のYahoo!ニュース個人の記事「『24時間営業』だけが問題?全国推定143万個分の弁当を毎日捨てるコンビニはなぜ見切り販売しないのか」による)。先進国では、このような「フードロス」が問題になっており、各地のフードバンク活動でその有効利用が図られるほどです。 ●分母は大きく、分子は小さく 日本人1人1日当たり供給熱量は約2400キロカロリーですが、摂取熱量は約1900キロカロリーですから、2割くらいが廃棄されています。1970年代以降、産業構造の変化によって肉体労働は減少し、日常生活でも自動車利用の増加など利便性の向上で運動量は低下しています。健康志向から「カロリーひかえめ」が好まれる現代では、もう私たちはそれほど多くのカロリーを摂取しないのです。もし、実際に摂取している熱量を分母に計算すれば、自給率は約50%にアップします。このように、分母はなるべく大きく、分子はなるべく小さくなるように計算されたのが「総合食料自給率」なのです。供給熱量ベースで自給率を計算している国は世界的に見てごくわずかであり、一般的には生産額ベースで計算されています。日本の生産額ベースによる食料自給率は66%(2019年)となり、供給熱量ベースの2倍近くに跳ね上がります。保護政策で価格を維持している米や、品質が高く消費者の嗜好に合わせて生産される野菜・果実など、単価の高い農産物の自給率が高いからですね。 ●「自給率の低さ」を強調したい 農林水産省が供給熱量ベースの自給率を公表し始めた1983年といえば、日米貿易摩擦を背景に米国から農産物輸入の自由化が強く求められていた時期です。「外国の安い農産物が大量に輸入されれば、日本の農業は崩壊、食料自給率はさらに低下、国際情勢によって飢餓が訪れる!」と国民の不安感に訴えるには、「今でも自給率はこんなに低い」というアナウンスが必要だったのでしょう。考えてみると、もし海外からの輸入が完全にストップすると、自給率の分子(国内生産)と分母(総供給)は同じになって、食料自給率は100%です。もちろんそれは望ましい状態ではありません。「食の安全保障」という観点から考えるならば、むしろ安定的な食料輸入を可能にする国際関係の確立を図るべきだし、日本農業の振興という観点からは高品質で競争力の高い野菜や果実などの輸出を拡大すべきでしょう。国産農産物にこだわって「食料自給率をできるだけ高めなければならない」という政策目標は、必ずしも正しいとはいえないのではないでしょうか。 ●外国産の卵をスーパーで見ない理由 ところで、先ほどのグラフで品目別に自給率の推移を見ると、さまざまな背景が読み取れます。たとえば、今も自給率96%を維持する鶏卵。新鮮さを求められるが卵自体の冷凍はできず、割れないように長距離輸送するのも困難です。そのような品目の特性上、あまり貿易には向いていませんね。だからほとんどが国産なのですが、それでも4%は輸入です。「価格の優等生」である卵は、スーパーの特売品になることが多いのですが、外国産の卵が売り場に並んでいるのは見たことがありません。実は、殻を除いて冷凍した「液卵」、乾燥させた「粉卵」などの加工品として、菓子の原料、外食産業などの業務用に輸入されているのです(図表2)。 ●進む養鶏農家の集約化と大規模化 ちなみに、卵を産む鶏(採卵鶏)の飼養をする国内の養鶏農家の戸数は年々減っており、全国で2000戸程度にすぎませんが、残った農家は飼養羽数の大規模化が著しく、10万羽以上を飼う大規模養鶏場も珍しくありません。そのような大規模養鶏場だけで、全国の飼養羽数の75%を占めています。肉用のブロイラーでも同様の傾向になっています。いずれにせよ、飼料の大半はおもに米国から輸入するとうもろこしなどです。これを考慮に入れると、卵の自給率は10%程度になってしまいます。 ●「国産野菜」にこだわる意味 鮮度を要求される点では、野菜も鶏卵と同じです。それでも、ほぼ100%だった野菜類の自給率は1980年代から徐々に低下して、現在は77%。多くは冷凍野菜などの加工品ですが、輸送機関・流通の整備によって輸入が可能になってきたことをうかがわせます。中国では、国内の大都市圏にも日本にも近い沿海部の山東シャントン省などで野菜の生産・輸出に力を入れています。ところが2002年には、中国産ほうれんそうの残留農薬が問題となり、その安全性に疑問が投げかけられました。ほうれんそうの中国からの輸入量は激減し、その後も回復できていません。その頃から、外食産業や加工食品に「国産野菜を使用しています」というフレーズを頻繁ひんぱんに見かけるようになりました。しかし、ほうれんそうはともかく、今も中国産を中心に野菜全体の輸入は増加しています。この間の飛躍的な経済成長を背景に、中国みずからの国内において都市住民を中心に安全な食品を求める要請が高まりました。法規制の強化などによって、中国農業の安全管理体制の確立は一定程度進んでいるようです。たまにスーパーで見かける中国産野菜は、大規模生産と安い人件費のおかげで国産野菜に比べてたしかに激安です。とはいえ、あの農薬騒動の記憶が残る日本の消費者としては、値段の魅力だけではなかなか手に取れません。そのため、加工用などに回される割合が高いようですから、結局どこかで口にしているのでしょう。国産にこだわる人も知っておきたいのは、日本も耕地面積当たり農薬使用量が世界トップクラスの農薬大国だということ。最近では、発がん性が疑われる除草剤グリホサートや、生態系への影響が指摘されるネオニコチノイド系農薬などについて、使用禁止に向かう欧州連合(EU)などの潮流に逆行して日本では規制が緩和されています。国産=安全は本当でしょうか。 *1-5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16139800.html (朝日新聞 2025年2月1日) 卵1キロ卸価格、東京で300円超 23年7月以来 鳥インフルエンザの急増の影響で、卵価格が上昇している。卵の卸売価格の目安となるJA全農たまごが31日に発表した東京地区のMサイズ1キロあたりの値段は305円で、1月上旬から80円上昇した。300円超えは、過去最悪の被害の影響が続いていた2023年7月以来の水準。大阪地区は同290円、名古屋地区は同320円だった。31日時点で、今シーズン(24年秋~25年春)の鳥インフルエンザは14道県で48件発生、約911万羽が殺処分の方針となっている。特に年明けから急増し、1月は過去最大だった22年のシーズン(22年秋~23年春)の発生件数、処分数を上回り、特に千葉県、愛知県に集中している。22年のシーズンは過去最大の鳥インフルエンザが発生し、26道県で84件、約1771万羽が処分された。この影響で、東京地区の卸売価格が350円となり、「エッグショック」とも呼ばれた。江藤拓農林水産相は31日の閣議後の会見で、「特に1月に入ってからは異常な事態。いよいよ価格の面で顕著になってきた。22年のシーズンは(卸売価格が)350円まで値上がりしたが、そういう事態は何としても避けたい」と述べた。 <森林と林業の重要性> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS573F9BS57OXIE02LM.html (朝日新聞 2024年5月16日) 東京都が買い続ける森 世界的探検家は言う「都民は恵まれている」 始まりは1901年、譲り受けた8460ヘクタールの森だった。最近では2022年度までの10年間で3500ヘクタール以上を購入。東京都はいまも森林を買い続けており、計2万5千ヘクタールを所有する。その面積は都の10分の1以上にあたる。いったいどこに。そして、なぜ。実はその6割が隣接する山梨県にある多摩川上流域の森。そう、この水源林こそ、都が120年以上にわたって守ってきた東京の水のふるさとだ。蛇口をひねれば、すぐに水が飲める――。1960年代に利根川・荒川水系が上水道に本格利用されるようになるまで、多摩川は都民にとって「命の川」だった。そんな水源地の荒廃を憂えた東京府(当時)が自ら管理を始める。植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保することが目的だった。「森が守られてこそ水の量と質が保たれる。多摩川は世界のモデルといえる存在です」。世界に名だたる川の源流地域を訪ね歩き、2023年の「植村直己冒険賞」を受けた探検家、山田高司さん(66)はそう断言する。 ●守り続けて120年 ボランティアも 今年3月、筒井和行さん(80)=東京都東村山市=は高さ約20メートルのヒノキの上にいた。山梨県小菅村の森の中で、慣れた手つきで不要な枝を切り払った。ここは都が管理する森林ではない。ただ、地権者の同意が得られれば、源流域の保全のため、間伐や枝打ちをしている。担い手は筒井さんのようなボランティア「森林隊」だ。せっせと植林した昔と違って、いまは切られないまま放置された山林も多い。日が差し込まないことで木や草が育たず、土がむき出しになれば、大雨の際に大量の土砂が貯水池に流出し、水を汚しかねない。「水に関心があるし、山をきれいにしたい。若いとき、趣味の登山で自然によくないことをした罪滅ぼしでもあるんです」。そんな思いから筒井さんはこれまでに300回以上、「森林隊」の活動に参加してきた。 ●多摩川の「最初の一滴」を訪ねて 東京湾から西へ138キロ。山梨県甲州市にある笠取山(1953メートル)の山頂付近の岩場が、多摩川の源流とされている場所だ。「水干(みずひ)」と呼ばれ、最初の一滴がしたたる。4月末、その水干を目指して山を登った。先人たちが苗を植えたカラマツ人工林やミズナラといった天然林に覆われ、静けさと美しさを保っている。残念なことに滴は見られなかったものの、水干から下ってすぐのところで、大河に注ぐ最初のせせらぎに出会えた。清らかな流れに手を浸すと、かじかむぐらいに冷たかった。ここを訪れたことがある山田さんの目に焼き付いている光景があるという。1981年に訪ねたアマゾン川源流域のすさまじい森林破壊だ。燃料の薪にするため切り尽くしたり焼き畑にしたりして、一帯が丸裸になっていた。いま世界を見渡せば、各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、地球温暖化もあいまって森林面積は減り続けている。それに伴う水不足も深刻だ。そんななか、都やボランティア、さまざまな人たちの努力もあって、多摩川源流域は1世紀以上にわたって守られてきた。いまも東京における上水道の約2割は多摩川水系が担う。「都民は恵まれている」と山田さん。だからこそ、訴えたいことがある。「もっと水に、もっと森に、もっと環境に関心をもってほしい」 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS6L2R5MS6LUJUB001M.html (朝日新聞 2024年6月19日) クマ被害多発で保護から管理へ 野生動物と人間が共生するには ●2030 SDGsで変える 近年、日本でクマによる人身被害が急増しています。昨年度は被害者が219人(うち死者6人)と過去最多に。一方で、シカやイノシシといった他の野生動物による農業や林業などへの被害も深刻です。SDGsでは生物多様性を保ちながら「陸の豊かさも守る」ことを目指しています。野生動物と人間がどう共生すべきか。被害が多い北東北で、現状と課題を探ります。 ●木の芽やドングリ食い尽くすシカ・イノシシ 5月上旬、岩手県花巻市の山林に、花巻市猟友会の猟師約10人が集まった。猟期は終了しているが、市から有害駆除の委託を受けて、シカを捕獲するためだ。シカを追いあげる「勢子(せこ)」と、猟銃で仕留める「立ち」に分かれて、山中に分け入る。「ここが獣道。踏み固められて、足跡もついているでしょう」。猟友会会長の藤沼弘文さん(78)が斜面を指さした。素人目には見極めが難しい。藤沼さんは獣道の近くで、すぐシカを撃てる態勢に入った。例年、この時期はまだ山に雪が残っていた。だが、暖冬の影響で雪解けが早く、すでに草木が生い茂っている。猟師たちは「シカを探すのが難しい」と顔をしかめた。藤沼さんの携帯電話が鳴った。「温泉街でクマが出た」という市からの連絡だった。山に来ていないメンバーに連絡して、現地に向かってもらった。クマの出没が多発した昨秋には、1日に何件も出動要請があったという。昨年度、岩手県ではクマによる人身被害が49件発生。秋田県に次いで多く、過去最悪の数字となった。今年度も、秋田や岩手ではすでに人身被害が発生している。クマを徹底的に排除してほしい――。被害が多発する地域を中心に、そんな声が高まっている。国は今年、捕獲や調査に国の交付金が出る「指定管理鳥獣」にヒグマとツキノワグマを追加し、これまでの保護政策から管理の方向へかじをきった。だが、半世紀以上山を歩いてきた藤沼さんは危機感を抱く。急増するシカなどへの対策が進まないまま、クマの駆除ばかりが注目されていると感じるからだ。「イノシシやシカが木々の芽やドングリなどを食い尽くした影響で、クマは人里に出るようになったのでは」と藤沼さんは語る。同猟友会では「クマとの共存を考える手帳」を独自で発行し、クマによる被害にあわないために人間がすべきことや、猟友会が近年、シカやイノシシの駆除に追われている現状などを伝える活動もしている。県によると、県内のクマの生息数は、2020年度末で推定3700頭。一方、22年度のシカの生息数は推定約10万2千頭だ。シカは江戸時代に県北部まで広く分布していたが、明治以後の乱獲で姿をほぼ消し、長らく保護される対象だった。それが1970年代から爆発的に増え、20年度以降、県内では狩猟と猟期以外の有害鳥獣捕獲分と合わせて年2万頭以上のシカが捕獲されているが、一向に減らない。 ●個体数把握し対策講じる専門家の育成を 大型野生動物の専門家である岩手大の山内貴義准教授は「シカは植林した苗木や希少な高山植物までも食べ尽くし、林業や自然生態系への深刻な影響が懸念されている」と話す。イノシシは県内では明治末期に一度絶滅したとみられるが、10年代から生息域が広まり、22年度の捕獲数は979頭にのぼった。山内准教授は「シカやイノシシは、クマと食べ物が重複し、冬の間も活動するため、冬眠明けのクマの食べ物が減ったのでは。ここ数年、春先の町中にクマが出没することと無関係ではない」と指摘する。日本の野生動物管理の指導的役割を担ってきた、兵庫県森林動物研究センターの梶光一所長(71)は「人口減少の時代だからこそ、生態学、森林管理、被害防除など多様な分野を学んだ野生動物管理の専門家の育成が必要だ」と強調する。野生動物の個体数を把握・管理して、被害を未然に防ぐため、電気柵の設置といった方策を講じる――。既にその必要性は共有され、被害を防ぐための技術はほぼ実用化されているという。問題は誰が担うかだ。「国の制度や法の改正があるたびに、専門家の育成や配置が重要だとはずっと指摘されてきたのですが……」。環境省によると、昨年度、各都道府県で鳥獣対策にあたる行政職員3603人のうち、専門的な知識を有する人はわずか4.7%。加えて異動があるため、継続的な対応が難しいことも課題だ。昨年、全国で最もクマによる人身被害が多かった秋田県のように、鳥獣管理の専門職員を配置する自治体も出始めたが、まだ少数派だ。国は20年度から、東京農工大を核とした6大学と2団体で検討した野生動物管理学の教育プログラムを支援するなどして、人材育成と配置に着手したところだ。 ●絶滅させない数と地域に許容できる数 国によると、野生鳥獣による農作物被害額は156億円(22年度)で、その約6割がシカ、イノシシによるものだ。国は23年度までの10年間で、シカとイノシシの個体数を半減させる計画をたてたが、シカの目標値を達成できず、計画を5年延長した。捕獲を担うハンターの高齢化や減少が止まらないからだ。ハンターはあくまで趣味の愛好家で、地域のためにボランティアで活動している。各地でクマによる人身被害や目撃情報が急増する中で、現場で対応にあたる人材が圧倒的に不足している。北海道では、自治体からのヒグマ駆除の要請を辞退する猟友会もでている。梶さんは「日本は明治時代にドイツから森林学や狩猟学を導入した。そのドイツでは、教育機関が森林管理と狩猟学を一体で教え、国が森林と狩猟を一体で管理する。趣味の狩猟とは別に、専門的な捕獲者がいる。人口減の時代だからこそ、日本でもそういった専門家が必要だ」。そのうえで梶さんは「地域社会での合意形成」が大事だという。クマの場合、地域ぐるみでゴミを外に放置しないといった対策をしたうえで、人里に居ついた個体は排除する必要がある。「専門家と地元の人が『クマを絶滅させないための生息数』と、『地域にどのくらいの数のクマだったら許容できるか』を十分に話し合い、納得することが大事。正解は一つではない。要は私たちが自然とどう向き合うか、その地域をどう持続させるかを自身で決める必要があるのです」 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250202&ng=DGKKZO86466890R00C25A2TYC000 (日経新聞 2025.2.2) <科学で迫る日本人> なぜ縄文に農業始まらず?管理もとに共生植物が食料に 日本列島には食料になる植物がいくつも持ち込まれた。弥生時代に稲作が普及する前にも農耕とまではいかないが、人の管理をもとに「共生関係」が生まれ、食料につながっていた。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書「サピエンス全史」にある「小麦が人を操った」といったとらえ方とは差があるようだ。日本列島に最初に持ち込まれたイネはどんな品種なのか――。神戸大学の石川亮准教授は弥生時代初期の青谷上寺地遺跡(鳥取市)で出土したイネの籾のゲノム(全遺伝情報)を解析した結果を心待ちにする。この遺跡の籾は水につかっていたためDNAの保存状態がよく、解読できる可能性があるという。イネの研究は進み、もち米かうるち米か、赤色か白色かを決める遺伝子などゲノムの特徴が分かってきた。石川氏は「出土した籾のゲノムをもとに今のイネを品種改良して当時のイネを再現したい」と意気込む。現在のイネは品種改良が進んだもので、当時の社会をはかるにも当時の収量の把握などは重要になる。注目するイネの特徴の一つが、稲穂からの籾の落ちやすさ「脱粒性」だ。時代とともに遺伝子が変異して脱粒性が変わり、今の姿になったのかもしれない。現代の稲作では籾が落ちにくいことで栽培しやすいが、昔は落ちる方が都合がよかった可能性もある。人が栽培することによる遺伝子や形質の変化を「栽培化」という。西アジアの麦、東アジアのイネなどが代表例だ。様々な植物のゲノム解読が進み、栽培化の実像が明らかになりつつある。栽培植物を利用する「農耕」が中心的な役割を果たす農業社会へと進んだ経緯に迫ろうとしている。弥生時代に稲作が広がるまではクリやドングリを主体とした採集や狩猟、漁労で食料を得ていたといわれる。イネとともにアワやキビが伝わったころ、中国北部では雑穀を中心とした農業社会が起きている。日本ではどうなのか。東京大学の米田穣教授らは縄文時代晩期末の七五三掛遺跡(長野県小諸市)から出土した縄文人の骨のコラーゲンの炭素同位体などを解析し、アワやキビを食べていたことを明らかにした。ただ主食のレベルではなかった。縄文時代の畑は確認されておらず、農業社会には至っていないと考えられている。米田氏は「縄文人は食料生産のために自然を改変する発想がなかったように見える。存在するものを管理して収穫増をはかるが、植物を育てるために田畑を作るという発想はなかったのではないか」と指摘する。縄文人の遺跡やその周囲からはクリの花粉が集中して見つかっている。つまり縄文人は周囲をある程度管理していたと考えられている。そこでヒエやマメ科のダイズやアズキの栽培化が進んだ可能性がある。当時を確かめようと、岡山理科大学の那須浩郎准教授らは真脇遺跡公園(石川県能登町)で再現実験を進めている。那須氏は「畑を作らなくても、草刈りをして火入れをするだけで、アズキを増やすことができたのではないか」と話す。実験ではこの方法でアズキの原種のヤブツルアズキを収穫する。こうした簡単な行為だけで、耕起を伴う栽培に負けない収量を得られるとみている。「縄文人は有用な植物の生息環境を構築するという農耕民とは全く別の方法で野生のアズキを維持・管理していたのかもしれない」(那須氏)。従来、栽培化と農業は同時期に起きたと考えられていた。だが、遺跡から出土する植物の栽培化の証拠を年代ごとに調べることで、ずれがあることが分かってきた。栽培化は数千年かけて起きていた。急に農業が確立されたわけではなく、徐々に進んでいたわけだ。農耕というほどではなく、食料の獲得手段の一つとして、管理した土地の周辺のものを採集していた時期があったと考えられている。そこでは人と植物のどちらか一方ではなく、双方が利益を得る「相利共生」の関係があり、人が意図しない形で「共進化」が起きていた可能性がある。例えば、マメ科は縄文時代中期以降に大型化が進んだことが分かっている。「ごみ捨て場で自然に育ったマメのうち、日光にあたりやすい大きな苗が生き残って増え、大型化が進んだのかもしれない」(米田氏)。従来の考古学では、地球の寒冷化や人口増加といった圧力をもとに人類の活動の変化を説明する「ストレスモデル」で考える傾向が強かった。そこから離れ、もっと違う理由を考えるのが今の流れだ。植物にも遺伝的な特徴から、栽培化が起きやすい種類があったかもしれない。例えば、染色体のセット数が少ないタイプは多いものに比べ、1つの遺伝子変異による形質の変化が起きやすい。縄文時代に農耕が起きなかった要因は食糧資源の多様さや堆肥作りに適した家畜の不在など多面的な検証がいるが、共生関係に迫ることで当時の社会が見えてくるだろう。 <その他の人手不足業種について> *3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/AST220466T22UTNB00HM.html?iref=comtop_7_05 (朝日新聞 2025年2月2日) 道路陥没事故、本格的な救助至らず 「時間要する可能性高い」と知事 埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故は2日夜になっても、本格的な救助活動には至っていない。穴の内部に水がたまり、周囲の地盤も不安定で、崩落による二次被害の可能性を否定できないためで、消防は救援隊が穴の中に入り、運転手を捜索する活動には当面移れないとみている。関東地方は2日、気温が下がり、雨天になった。八潮市内でも雨が断続的に降るなか、現場ではショベルカーなどの重機やトラックが行き来していた。1日朝に完成した救助活動を進めるためのスロープ(傾斜路)の強度を強めたり、土囊(どのう)を入れたりする作業を続けた。県などはスロープの完成を受けて、本格的な救助活動を進める予定だった。だが、穴の内部の水位が上昇したことから、消防は隊員らの安全を確保するため、1日夕からスロープの先にある穴に下りての救助活動を中断している。県などは今後、穴の内部の水位を低下させるため、ポンプ車での排水を進める方針。水のない方向にスロープを延長することも検討するという。陥没した箇所には土砂や岩のほか、コンクリート製の箱形の構造物があるという。県によると、破損したとみられる下水道管の水の流れが悪くなっていることから、管内になんらかの異物があるとみて、ドローンなどを使って調査する方針だ。県によると、事故発生から6日目を迎え、穴の大きさは直径31メートル、深さ16メートルにまで広がっている模様だ。運転手の70代の男性が閉じ込められた運転席は土砂などに埋もれて確認できていない。大野元裕知事は2日の県危機対策会議で、「救出や復旧までさらなる時間を要する可能性が高い」と説明。その上で「12市町120万人や事業者の協力のおかげで、下水の流入は下がっているものの根本的な解決には至っていない」と述べた。県は引き続き、洗濯や風呂の使用をできる限り控えるよう呼びかける。 *3-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250209-OYT1T50061/?utm_source=webpush&utm_medium=pushone (読売新聞 2025/2/9) 転落した運転手の捜索活動、30分で打ち切り…手掛かり見つからず今後の予定なし 埼玉県八潮市の県道が陥没し、トラックが転落した事故で、消防は9日朝、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開したが、約30分で打ち切った。手がかりが見つからなかった上、さらなる崩落による二次被害の懸念が高まったため。消防によると、作業は午前7時半頃に始まり、消防隊員約20人が重機でがれきや土砂をすくう捜索作業に参加した。ただ、運転手の居場所などに関する手がかりが見つからなかった上、捜索範囲を広げるとさらなる崩落を招く恐れがあり、約30分で終えた。消防は今後の穴内部での捜索は予定しておらず、運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内の捜索などを検討するとみられる。事故は1月28日午前9時50分頃に発生。交差点の中央付近が陥没し、トラックが転落した。運転手とは同日午後1時頃に消防隊員と会話して以降、連絡が取れない状況が続いている。消防による捜索は今月1日夜、穴内部で水が湧き出ていたことなどから中断していた。事故現場は土壌がもろく、断続的に下水とみられる水が流れ込んでいることなどから、陥没の穴が拡大。県は穴につながる緩やかなスロープ2本を造成し、周辺で土壌改良を実施するなど、捜索活動に向けて大規模な工事を続けてきた。 *3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/385007 (東京新聞 2025年2月10日) 埼玉・八潮の道路陥没、穴の中での捜索は断念 不明男性の手がかり求め地表から細い穴、下水管の中を捜索へ 埼玉県八潮市の道路陥没事故で、消防は9日、行方が分かっていないトラックの男性運転手について、穴の中での捜索を終了したと明らかにした。今後は下水管内の捜索に軸足を移す。県は10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けた。消防や県によると、崩落の恐れがあった地表近くのコンクリート管を8日までに撤去。9日朝、重機で土砂をすくって男性を捜したが、手掛かりは得られなかった。さらなる土砂崩落の恐れもあるため、捜索は30分ほどで中止した。下水管は地下約10メートルにあり、直径は約4.7メートル。ドローンによる管内の調査で、現場の下流100~200メートルの地点でトラックの運転席部分とみられる金属塊が見つかっている。地表から開けた細い穴は直径約13センチ。9~10日に地表から掘り下げ、下水管の表面を破り、金属塊近くの2カ所に通した。距離を測定できる機材や小型カメラなどを投入し、管内の状況把握を試みる。NTT東日本によると、近隣で不通になっていた固定電話400回線は9日までに全て復旧した。 *3-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16146604.html (朝日新聞 2025年2月11日) 陥没、救助見通し立たず 穴側からの活動断念 埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故で、安否不明となっているトラックの男性運転手の救助が難航している。運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけない状況だからだ。県や消防は陥没した穴側からの救助は断念。新たな方法を模索するが、発生から10日以上過ぎても見通しは立っていない。5日に行われた県のドローンによる調査で、陥没地点の100~200メートル下流の下水道管(直径4・75メートル)内に、トラックの運転席部分とみられるものが確認された。一部が流水につかり、男性の姿は確認できなかったが、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみている。さらに上流側ではがれきなどの堆積(たいせき)物が管を塞いでおり、陥没地点側は汚水であふれていた。陥没が起きたのは1月28日。当初、消防は穴の内部に隊員を入れたり、クレーンでトラックごと救助しようとしたりしたが、失敗。荷台部分は引き上げたものの現場周辺で崩落が相次いで穴が拡大し、運転席部分はがれきや土砂で見えなくなった。二次災害の恐れもあり、穴の内部での救助活動が難しくなった。その後は、下水道管の破損箇所から穴の中に汚水があふれ出してきた。県は12市町120万人に下水の利用自粛を要請したが、状況は改善しなかった。穴の中のがれきはほぼ撤去されたものの、引き続き土砂崩れの危険があるとして消防は9日、穴からの救助活動を打ち切った。現在検討しているのが、陥没地点から約600メートル離れた下流側のマンホールなどから下水道管内に下りての救助だ。ただ、管内は汚水の流れが速く、高濃度の硫化水素が発生するなど、八潮消防署の担当者によると「通常では人が入れない厳しい環境」。大野元裕知事は「消防庁、自衛隊とレスキュー方法を検討している」とするが、県からも具体的な方策はあがっていない。救助活動に詳しい元東京消防庁警防部長の佐藤康雄さんは、マンホールからの救助について、距離や水流、硫化水素などの課題を挙げ、「不測の事態が起きたときにすぐに脱出できない。安全を担保しながらの作業は至難の業だ」と指摘。運転席部分があるとみられる場所の上部を重機で掘削し、地上から直接救助する方法も考えられるというが、「土砂が崩れないように掘り進めることは難しく、下水道管に穴を開ければ、管全体が壊れてしまう可能性もある」との見方を示した。 *3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS8J3VNVS8JTLVB001M.html (朝日新聞 2024年8月17日) 自衛隊員は「即戦力」 運輸業界が退職予定の自衛官に再就職説明会 退職予定の自衛官に、次の活躍の場としてバスやトラック、タクシーの運転手を紹介する「運輸業合同説明・運転体験会」がこの夏、陸上自衛隊北熊本駐屯地(熊本市北区)で開かれた。自衛官の定年は一般の公務員よりも早く、多くは54~57歳で退官する「若年定年制」をとっている。加えて、20代から30代半ばで退職する任期制もある。いずれも、部隊の卓越した強さを維持するためだ。そのため、自衛隊は再就職の支援に力を入れてきた。今回は九州運輸局熊本運輸支局が自衛隊側に声をかけ、初開催した。大型車両の運転免許を持っている自衛官は多く、ドライバー不足に悩む運輸業界にとっては「即戦力」になるからだ。7月18日にあった体験会には、北熊本に加え健軍駐屯地(熊本市東区)や高遊原分屯地(熊本県益城町)などからも計119人が参加した。運輸業界からは、再就職した自衛官OBが説明役として登場。「健康であれば定年はなく長く続けられる。(乗客に)あいさつさえすれば、特に会話をしなくても構わない」(タクシー)、「安定した生活が送れる。地域社会への貢献という点で自衛隊と相通じる」(路線バス)などとPRした。希望者は駐屯地の構内で運転を体験した。来年5月の誕生日で退官する予定の男性自衛官(55)は「仕事でも運転をしているので、路線バスかトラックの運転手を考えている。人と接する仕事も楽しそうだし」と話す。熊本運輸支局の岩本輝彦支局長は「2024年問題で、運輸業界は慢性的な人手不足。自衛官には何事も自分で判断できるスキルもあり、どの会社も大いに期待している」と語った。 <何事も人手不足を言い訳にすべきではないこと> *4-1:https://president.jp/articles/-/87177?page=1 (President 2024/10/26) 「退職したらハローワークに直行ですよ」現役自衛官が明かす"50代の中年自衛隊員"を待ち受ける厳しい現実、いくら国のために尽くしても恩給も、再就職先もない 自衛官の定年は一般企業によりも早い。2・3曹は54歳、1曹から曹長・准尉・1~3尉は55歳、2・3佐は56歳、1佐は57歳。幹部クラスの将・将補は60歳だ。定年を迎えた自衛官はどうなるのか。ニッポン放送アナウンサーの飯田浩司さんが書いた『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)から紹介する――。 ●「安心できるキャリアプラン」がない 一方に極端に勇ましい言動があり、もう一方には何が何でも話し合いをすればいいというこれまた極端な平和主義論が横行する言論空間。防衛費の増額に関しても、2つの極論がぶつかり合って、現場で真に必要なものが行き届かないことが危惧されています。岸田首相(当時)は2022年11月28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう関係閣僚に指示しました。安保3文書の改定と並んで、岸田政権の安全保障政策の大転換といわれました。立憲民主党などの野党やリベラル系といわれるメディアは、この防衛費の増額により「戦争する国になる!」といったステレオタイプの批判を繰り広げました。一方で、政府与党の中でも「防衛族(防衛省と強い繫がりを持ち、安全保障政策・防衛予算などへの影響力を持つ政治家)」と呼ばれるような人たちは新たな装備品、とりわけ長射程のミサイルや艦艇、戦闘機といった大物をそろえる方に予算を誘導しようとします。しかし、現場は予算の増額によって戦争をしようとしているわけではなく、また、大きな装備品をそろえることを急ぐのでもありません。現場が欲しているのは「人」であり、安心できるキャリアプランの「仕組み」でした。安全保障の現場を担う自衛隊や海上保安庁といった現場は、人を集めるのにも苦労する状況が続いています。自衛隊、海保は「公安系」といった具合に括られて、地元の警察や消防とともに就職説明会を開いたりするようですが、そこで言われるのが、転勤について。士や曹といわれる現場の自衛官たちは地元の部隊に所属すれば地元近辺にいることが多いのですが、それでも部隊改変などのために遠くの任地に配属されるケースもあります。 ●早い人だと「54歳で定年」を迎える 海保も現場の海上保安官は管区内での異動が中心とのことですが、たとえば第一管区海上保安本部は小樽に本部を置き北海道内はすべて管区となりますので、東は根室、北は稚内、南は函館と1日がかりで移動する距離。地元の市町村単位の消防や都道府県単位の警察と比べると、特に地元にいたいという人にとっては一つハードルが高くなります。加えて、採用の際には本人よりも親御さんがそのあたりを気にされると言っていました。一方、幹部となれば話はまったく違ってきます。海保も自衛隊も全国転勤が当たり前という世界。警察もキャリア官僚となれば全国転勤となりますが、それは一握りです。そして、これは自衛官の採用の最前線、地方協力本部を取材した時に特に言われたのですが、採用の際に自衛官の定年と再就職先がネックになってきているという話を聞きました。現場の自衛官は精強さを保つという理由で早期退職制が敷かれています。士といういわゆる兵隊さんはそもそも任期制自衛官と言われる若者たちで、1期2~3年を数期務めて巣立っていきます。そこから任用試験等を経て曹というクラスに昇任すると、定年制となり、2・3曹は54歳で定年。その上の1曹から曹長・准尉・1~3尉(大尉~少尉)で55歳、2・3佐(中佐・少佐)で56歳、1佐(大佐)で57歳定年となります。その上の将・将補(中将・少将)となると最長で60歳定年となります。 それぞれに問題を孕みながらも現状なんとか回している状態とのことですが、まず一般企業や他の公安系公務員と比べても定年が早いだけに、現場で若年層をリクルートしようとする時にライバルから「自衛隊は定年が早いから、ウチの方が先々安定するよ」と口説かれるのだそうです。 ●“何か異質のようなもの”として扱われてしまう もちろん、精強さを保つのは安全保障上も重要なことですから制度自体は致し方ない部分があります。実際、陸・海・空三幕の幕僚監部の中にある募集・援護課や現場の地方協力本部も手をこまねいているわけではなく、「援護」と称される再就職支援を積極的に行うことでそれぞれの退職後のキャリアをサポートしていますし、募集の際にもその手厚さをアピールしたりもするそうですが、この少子化の折、子どもの就職にも親が積極的にかかわる時代。となると、より安定を求めて他の選択肢を検討するケースも多いそうです。曹という現場を取りまとめる重要なポストから、幹部自衛官に至るまで、早期退職制度とはいえ最後まで勤め上げ国に貢献したということに変わりはありません。諸外国であれば、賞賛こそすれ再就職先にも困るということはないでしょう。アメリカなどはここまで勤めれば、いわゆる軍人恩給でハッピーリタイアメントという方も少なくないそうです。もちろん、部隊や職種によっては任務の過酷さも米軍は世界一かもしれませんが。海外に出張したり、あるいは研修で海外に赴任したりした現職自衛官が口々に訴えるのが、その扱いの違いです。海外で制服を着て飛行機に乗ろうとすると、「Thanks for your service!」と声をかけられ、搭乗が優先されたり座席に空きがあればアップグレードされたりするなどの優遇を受けられたそうです。社会全体に国家への貢献を評価するという気風があるようなんですね。一方で、日本に帰れば何か異質なもののように扱われ、かつては蛇蝎だかつの如く嫌われた時期もありました。いまだに憲法学者の大多数は自衛隊を違憲の存在としています。 ●「せめて尊敬の気持ちを…」と本音を語った自衛官 そんな肩身の狭さは一体何なのだろうか? 海外に出て、そんな思いにとらわれる人もいます。自衛官は任官の際に、次のように職務宣誓しています。〈私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います〉〈事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め〉ることを誓っているわけです。アメリカのような手厚さがなくてもいいけれど、その心意気にはせめて尊敬の気持ちを持って接してもらいたい。打ち解け、こちらを信用してくれた一部の自衛官の口からこんな本音が漏れてくるのは、夜もだいぶ深まった頃でした。東日本大震災以降特に顕著になりましたが、自衛官に対する世間の見方がそれまでと180度変わって、今では政府内のどの職種よりも国民の信頼が厚くなっています。たとえば、2022年に読売新聞社と米ギャラップ社が実施した日米共同世論調査で、信頼している国内の組織や公共機関を15項目の中からいくつでも選んでもらうと、日本では「病院」が78%(前回2020年調査74%)、「自衛隊」が72%(同70%)、「裁判所」が64%(同57%)でした。 ●退職後も「正規」にはなりにくい それでも、彼ら・彼女らは普段から言動に非常に気を遣っていることが見えてきます。 制度上の理由で早期退職となりますから、その分本来であれば退職金が少なくなってしまいます。勤続20年以上の場合はそれを補う若年定年退職者給付金がありますが、本来は恩給制度等で報いる方法が検討されてしかるべきでしょう。もちろん、援護サイドも頑張っていて、地方自治体の防災監として採用されるケースも増えてきています。平時には現役時の経験を活かして防災や有事への備えを提言し、非常時には古巣の自衛隊との連携をスムーズに行う潤滑油として働く。理想的にも見える再就職で、実際ウィン・ウィンの関係なので防衛省・自衛隊サイドも推している施策なのですが、先方の自治体側もない袖は振れぬでなかなか正規職員のポストを用意できないのが難しいところ。キャリアプランは人それぞれなので、非正規職員となると尻込みするケースもどうしても出てくるようです。また、民間への再就職となると、そもそも50歳を超えてからの再就職は民間から民間でも難しいもの。採用となると、給料の他に社会保険料の企業負担分も面倒を見なくてはなりません。恩給の支払いが現実的でないのならば、せめて若年定年退職者には社会保険料の企業負担分は国で面倒を見るぐらいのサポートがあってもいいと思います。 ●“偉くなった人”ほど再就職先が見つからない 一方、制服組の中でも一握りのトップが将・将補クラス。このクラスになると、自衛隊独自の再就職あっせんシステムである「援護」を利用することができなくなります。「いやいや、でも将や将補まで偉くなった人だったら企業が放っておかないでしょう」「それぞれの専門を活かして退職後も活躍してくれるでしょう」。普通だったらそう思いますが、将・将補クラスとなると一般の公務員とまったく同じで、国家公務員法に基づく再就職に関する行為規制の対象となります。すなわち、それまでの経験を活かすとなると往々にして当該将官と企業との間で利害関係が生ずることになり、それは現職職員による利害関係企業等への求職活動に関する天下り規制に引っかかることになるのです。その上、一般の公務員でしたらこのポジションは次がある、このポジションは上がりだといったようなだいたいの退職時期の相場観があります。自衛隊にもなんとなくはあったりしますが、しかし政治情勢や内外の情勢によって、適材適所で突然の辞令ということも少なくありません。その上、ここまでのクラスになればどの職種にいようとも基本的には激務です。退職ギリギリまで職務に専念しており、再就職活動に時間を割ける人がどれだけいるか、見ている限りはほとんど思い浮かびません。ある同年代の将補など、「もし私が退職となったら、辞令をもらったその足でハローワークに直行ですよ」と赤裸々に話していました。 ●自衛隊を支えているのは「生身の人間」 入口の採用の難しさと、出口の退職後のキャリアプランの難しさ。安全保障の安定なくして繁栄する経済も安定した社会もありません。かつて日本社会においては「水と安全はタダ」といったことが言われていました。しかしそれは、今まで現場の心意気でなんとか保ってきただけだったのではないでしょうか? 今後の少子化も相まって曲がり角に来ています。防衛省・自衛隊に関するニュースというと、防衛費の増額や装備品の購入といったものばかりが並びますが、支えているのは生身の人間です。なんとなく、防衛費増額のニュースを見聞きしていると予算が増えて自衛隊は潤っているような印象になるかもしれません。しかし、内実はこの章で紹介した通りお寒いものでした。飯田浩司『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)飯田浩司『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)。見出しから受けるイメージだけに引っ張られず、内実まで伝えることがメディアの仕事だと思いますが、今は記者個人や組織のOBが積極的に発信している例も見られます。「この人のこの分野の情報は信頼できる」といった自分自身の情報源のストックも合わせて見ることで、より深くニュースを理解できるのでしょう。かつては自衛隊員が「戦争をする集団だ」と蔑まれ、制服を着て街を歩けないような風潮までありました。今は表立ってそうしたことはなくなりましたが、社会全体としてリスペクトの醸成やキャリアプランを明確に示せるような仕組み作りこそが、結果としてこの国を支える底力になるのだと思います。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250201&ng=DGKKZO86463520R00C25A2MM8000 (日経新聞 2025.2.1) 就業者最多6781万人 昨年34万人増、正社員に転換進む ミスマッチ、人手不足解消せず 働く人が過去最多となった。総務省が31日公表した2024年の就業者数は6781万人と前年から34万人増え、比較可能な1953年以降で最も多い。女性やシニア層の就労が広がり、正規雇用が増加した。余剰労働力(総合2面きょうのことば)は乏しい。日本経済は生産性を高めながら、どう人手不足に対応するかという課題に直面する。就業者とは15歳以上の人のうち、仕事を持って働いている人や一時的に休職している人を指す。就業者数は景気回復などを反映し、2013年以降、女性やシニアを中心に増加してきたが、新型コロナウイルスの影響で20年、前年比で40万人減少した。その後は緩やかに回復が続き、24年は過去最高だった19年の水準を上回った。15歳以上の人口に占める就業者の割合を示す就業率も24年は61.7%と、前年から0.5ポイント拡大した。女性の就業者は前年比で31万人多い3082万人と最多だった。就業率でみると男性は直近10年間で1.9ポイントの上昇にとどまったが、女性は6.6ポイント上昇した。高齢者の就業率も上昇傾向にあり、65歳以上は前年比で0.5ポイント高い25.7%だった。雇用形態別にみると就業者のうち正規雇用は39万人増と大きく増えたが、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用は2万人増だった。より良い雇用条件を示さなければ、人材が集められない状況が広がっている可能性がある。リクルートの高田悠矢・特任研究員は「企業側の人材ニーズが高まるなか、これまではパートなどで働いていた女性が正社員となっている」と指摘する。小売り大手のイオンはグループで働くパートなど非正規雇用の待遇について、同等の業務を手掛ける正社員とそろえる制度を広げている。食品スーパーのライフコーポレーションは勤務地を絞った社員種別の「限定社員」を廃止し、正社員と同じ待遇にそろえた。若手人材を確保するため、30万円以上の初任給を提示する企業が増えている。アシックスは25年4月入社の大卒新入社員の初任給を24年から2万5000円引き上げ、30万円とする。大和ハウス工業やファーストリテイリングなども30万円以上の初任給を示している。企業側の人手不足感は強い。日銀がまとめた24年12月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、雇用が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」を引いた雇用人員判断指数(DI)は全規模・全産業でマイナス36、先行きはマイナス41だった。厚生労働省によると介護や建設分野では有効求人倍率が4倍を超える職種もある一方、事務系は1倍を下回る。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平・副主任研究員は「求人と求職者のミスマッチが起きている。女性や高齢者は働く時間が短く、想定よりも労働力の確保につながっていないという側面もある」と語る。働く人の増加は経済成長にプラスだ。企業の生産やサービスの供給が増える上、収入増が消費拡大につながり需要が伸びる。社会保険への加入者が増えることで、年金や健康保険の財政的な安定性が高まる。少子高齢化の進展で15歳以上人口は10年代に減少が始まった。女性や高齢者の拡大による就業者の増加には限界がある。労働政策研究・研修機構の推計によると、40年時点の就業者数は最も低いシナリオで5768万人まで落ち込む。今のうちから人工知能(AI)などを活用した生産性の向上などで働き手の減少に備える必要がある。 *4-3-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250131/k10014708111000.html (NHK 2025年1月31日) 日本で働く外国人労働者 去年230万人超で過去最多 日本で働く外国人労働者は去年230万人を超え、12年連続で過去最多を更新したことが厚生労働省のまとめでわかりました。外国人労働者の職場環境の改善などにつなげようと、国は2007年から外国人を雇い入れた企業や個人事業主に対して、ハローワークへの届け出を義務づけています。厚生労働省によりますと、去年10月末時点で日本で働く外国人労働者は230万2587人でした。前の年の同じ時期に比べて25万3912人増え、率にして12.4%の増加で2013年から12年連続で過去最多を更新しました。 国籍別にみると、 ▽ベトナムが57万708人と最も多く全体のおよそ4分の1を占め、 次いで ▽中国が40万8805人 ▽フィリピンが24万5565人でした。 一方、前の年からの増加率では、多い順に ▽ミャンマーが61% ▽インドネシアが39.5% ▽スリランカが33.7%などとなりました。 人手不足の解消につなげようと2019年度に始まった制度で、建設業や介護など16の分野で専門の技能があると認められる「特定技能」の在留資格で働く人は20万6995人でした。厚生労働省は「人手不足などを背景に外国人労働者が増加しているとみられる。特に医療・福祉や建設業の増加率が高くなっている」とコメントしています。 *4-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC014DT0R01C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月4日) 四国の外国人材最多、共生が日常に 今治の造船などで 深刻な人手不足を背景に四国で外国人材が増えている。2023年10月時点の外国人労働者数は届け出が義務化された07年以降で過去最多となった。多文化共生はいまや日常だ。四国の製造品出荷額の約4割を占める愛媛県では、製造業を中心に外国人労働者が増加している。地域別では造船業が盛んな今治地域が全体の3割を占める。独立系造船会社の新来島どっく(愛媛県今治市)では491人の外国人労働者が働く。新型コロナウイルス禍で一時減少したが、入国制限の解除以降はコロナ禍前を上回っている。日本人の人材確保が厳しさを増すなか「溶接作業など鉄加工全般や塗装など重要な戦力として活躍している」と担当者は語る。今後も現状以上の人員を確保する考えだ。高知県では四国銀行が人材紹介の6社と提携し、取引先に外国人材の採用を提案する。高知銀行は9月、技能実習生の受け入れをサポートする監理団体4団体と業務提携した。関心はあるが「どこに相談したらいいか分からない」という企業の声に応える。香川県では香川銀行がノンバンクのJトラストと提携し、取引先にインドネシア人材の紹介を始めた。県も人材紹介の8社と連携協定を結び、企業と外国人材のマッチングに乗り出した。徳島県は9月から半年間の予定で、外国人のための無料職場体験プログラムを実施している。県内での就職に関心のある留学生らと、採用に前向きな県内企業との出会いの場を設ける。夏の阿波踊りには、日本ハムファクトリー(静岡県吉田町)の徳島工場(徳島県石井町)の従業員らでつくる「日本ハム連」が参加。ミャンマーやネパールなど約20人の外国人従業員が日本人と共に生き生きと踊った。高松市中心部の商店街にはインドネシア食材専門店がオープンし、故郷の味を求める人びとが訪れる。異なる人種や文化、価値観を尊重する多様性の推進は四国の活性化に欠かせない。 *4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250215&ng=DGKKZO86746440U5A210C2CT0000 (日経新聞 2025.2.15) インド人留学生に300万円 文科省 人工知能(AI)など先端分野での人材を確保するため、文部科学省や東京大学などがインドからの留学生獲得を強化する。インドの大学院生300人弱の留学費用を支援するほか、現地でリクルート活動を行い、2028年度までに留学生を倍増させる。理工系に強いインドから人材を受け入れ、日本の研究力や産業競争力の向上につなげる。文科省は25年度から、AIなどを学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に、日本での生活費や受け入れ大学での活動費として1人300万円を支援する。文科省によると、300万円は渡航費も含めて日本で1年間生活する上で支障のない金額だという。インド通貨ルピーは対ドルで下落基調にあり、日本の大学の方が欧米の大学より金銭的に留学しやすいという環境もある。人材サービスのヒューマンリソシア(東京・新宿)によると、インドで働くITエンジニアの平均年収は約127万円。支援額は約2.3倍と手厚い。留学生への支援は1年間で、日本への定着を視野に入れて、企業のインターンシップへの参加も促す。受け入れる大学は同年度に公募し、科学技術振興機構(JST)が審査する。東大や立命館アジア太平洋大(APU)などの国内大学、大使館、民間事業者など50を超える機関が24年度、インド人留学生を増やすための連携組織を立ち上げた。SNSで日本の大学や奨学金に関する情報を発信するほか、インド人の留学エージェントが現地の大学を回り、日本の大学の魅力を伝える。人口14億人のインドは伝統的に理工系人材の育成に強い。引用数が上位10%に入る「注目論文」数で日本は13位と低迷するが、インドは4位につける。IT分野をはじめとしたインド人材の獲得競争は世界で激しさを増している。一方、インドの学生は日本に目を向けていない。インド外務省によると、日本への留学生数は22年は1300人。米国(46万5000人)やカナダ(18万3000人)、英国(5万5000人)などと比較して圧倒的に少ない。背景について、東大の北村友人教授(教育学)は「インド人学生は英語が得意で、日本より英語でのカリキュラムが充実している欧米の大学を目指す傾向が強い」と説明する。インドでは日本の大学の知名度が低く、進学先の選択肢に入っていないケースがほとんどだという。そのうえで「日本の大学は教育・研究の質が一定程度高い上、海外に比べて授業料が安いというメリットがある」と指摘。「インドではトップ層の大学以外にも優秀な学生は多く、裾野を広げていきたい」と話す。東大などは日本全体のインド人留学生を28年度までに2倍以上の3000人に増やしたい考えだ。文科省は日印の大学による学生の相互派遣も拡大する。25年度から、共同で留学プログラムを設ける国内大学の資金援助を始める。大学間の単位相互認定を皮切りに、将来的には双方で学位を得られる「ダブルディグリー」といった制度を設けることを目指す。インドのほか、国際的な存在力を増しているアフリカの大学も対象とする。同年度に国公私立大を対象に公募し、12件程度を認定したい考えだ。選ばれれば年間2000万~3200万円の助成を受けられ、29年度までの5年間が対象となる。政府は33年までに日本人留学生を50万人に増やし、外国人留学生を40万人受け入れる目標を掲げている。インドをはじめとした新興国「グローバルサウス」との人的交流の強化で目標達成を後押ししたい考えだ。 *4-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250215&ng=DGKKZO86754130V10C25A2MM8000 (日経新聞 2025.2.15) 〈エビデンス不全〉地方創生の虚実(4)12道県、大学進学で転出拡大 「23区定員規制」効果薄く 「将来は博士号をとりたい」。徳島大学で学ぶ藤井優花さん(20)は地元の徳島県の出身。祖父をがんで亡くしたことなどから内視鏡や顕微鏡を使った研究に興味を持つ。徳島大は青色発光ダイオード(LED)の研究成果でノーベル賞を受賞した中村修二氏の母校。現在、地域の産学官が結集して光技術の専門人材を育成する計画の拠点になっている。国は2018~23年度、県に計29億円を投じた。誤算は藤井さんのような県内からの進学者が思うほど増えていないことだ。23年度も48人と、目標の53人に届かなかった。東京一極集中を是正し、地方との間の人口流出入を均衡させる。地方創生の大きな目標のひとつだった。政府は大学進学や就職で地元を離れる若者が多いことに目をつけた。18年から10年間の時限措置として、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じた。同時に地方大学向けの交付金を創設した。地方の教育や研究の一定の底上げにはつながった。肝心の若年層の人口動態を変えるには至っていない。 ●育てるほど流出 強みの金属素材の分野に磨きをかけた島根大学は学生の地元就職者数が目標に届かない。三浦英生・副学長は「育てた学生を都会に取られてしまう」とこぼす。人材の質が高まるほど県外の大企業から求人が殺到するジレンマに直面する。文部科学省の学校基本調査のデータで19~23年度の大学進学による人口移動を分析すると、37道県は流出超過が続いていた。茨城や香川など12道県は交付金ができる以前の14~18年度と比べて流出が拡大した。東京の流入超過は加速した。大学の定員規制の効果ははっきりしない。23区内の学部入学定員は21年度までの3年間に約2800人増えた。もともと決まっていた学部新設は例外扱いだったことなどが響いている。文科省は「膨大な行政コスト」を理由に、その後は集計していない。日本経済新聞が国の公表資料をもとに数えたところ、21~23年度でさらに約3000人増えていた。そもそも規制自体が不合理との指摘もある。日本の成長力を高めるという地方創生の本来の狙いにそぐわないからだ。東京都の小池百合子知事は「学生の学びと成長の機会を奪うのみならず、大学の教育・研究体制の改革を滞らせ、我が国の国際競争力を低下させることにつながりかねない」と撤廃を求めている。 ●若者の視点欠く 法政大学キャリアデザイン学部の田沢実教授も「当事者である若者の視点が欠けている」と批判する。国による一方的な人口移動の抑制は無理があるとの見方だ。教育や研究が本分の大学に政策的な役割を押しつけるのも限界がある。内閣府の地方創生推進事務局も「企業誘致や賃上げなど総合的な取り組みが必要」と認める。経済合理性に反した改革は持続可能でなく国力をそぎさえしかねない。地方創生という錦の御旗の下、野放図な政策がまかり通っていないか目をこらす必要がある。 *4-5-1:https://digital.asahi.com/articles/AST252P8ZT25UHBI016M.html?comment_id=31653&iref=comtop_Appeal6#expertsComments (朝日新聞 2025年2月5日) トランプ氏の奇策、歴史的成果へ野心 パレスチナの人々置き去りに トランプ米大統領が、パレスチナ自治区ガザから約200万人にのぼる住民を追い出して米国が「所有」し、再建させる復興案を打ち出した。前代未聞の構想は、長年悲劇に見舞われてきたパレスチナの人々を置き去りにしたままぶち上げられた。「ガザを中東のリビエラにする」。トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相との会談後、共同記者会見でこう述べた。イスラエル軍の攻撃で建物は破壊され、多くの女性や子どもが戦闘の巻き添えとなったガザ。死者は4万7千人を超えた。トランプ氏は、荒廃したガザの将来像を地中海のリゾート地リビエラに重ね、そこに住むのは帰還したパレスチナ人ではなく「世界の人々」だと言った。こうした復興案は、不動産開発業出身のトランプ氏らしい「ディール(取引)」とも言えるが、本人は単なる思いつきではないと主張している。トランプ氏は会談の冒頭、「人々は地獄のような生活を送ってきた。ガザは人々が住むべき場所ではない」と語り、居住地として別の選択肢があれば人々はそちらを選ぶだろうと主張。米国がガザを長期的に所有して開発を進めれば中東に安定をもたらすことができるとし、「軽率に決めたことではない。誰もがこのアイデアを気に入っている。何カ月も検討を重ねてきた」と語った。第1次トランプ政権は、米軍の派遣を伴う対外関与は嫌う一方で、宗教的な理由でイスラエル国家の存立に強く共鳴する国内支持層に応え、イスラエルの主張をそのまま実行したような政策を連発した。最大の成果は、イスラエルと一部の周辺アラブ諸国との関係を正常化させた、2020年の「アブラハム合意」の仲介だ。これにはトランプ氏の外交政策に批判的な専門家らの間でも評価する声があり、トランプ氏自身、「ノーベル平和賞に値する」功績としてアピールしてきた。2期目の今回も、大統領選中から「中東に平和をもたらす」と繰り返しており、歴史的成果へ野心を見せてきた。不動産業に携わってきたユダヤ系富豪のウィトコフ中東特使を政権発足前からガザの停戦交渉に参加させるなど、中東外交に力を入れる姿勢を鮮明にし、停戦合意が成立すると自らの成果として誇示。今回の復興案も、こうした流れで準備してきた可能性がある。米国内では、民間人の犠牲と甚大な人道危機を止められなかったバイデン前政権の中東政策への失望が色濃く残る。歴代政権も周辺のアラブ諸国も、前向きで具体的なガザの将来像を示せてこなかったという背景が、これまでの「常識」から逸脱した提案を打ち出す余地を生んでいる。ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)はこの日、記者団にアブラハム合意を「次の段階」に進めることが目標だと語り、イスラエルと地域大国サウジアラビアとの歴史的な関係正常化の仲介へ意気込みを見せた。ただ、サウジはパレスチナ国家の樹立を正常化の条件だとしており、今回のような復興案を打ち出すトランプ政権の思惑通りに進むかはまったく見通せない状況だ。 *4-5-2:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-10/SRF6VBT0AFB400 (Bloomberg 2025年2月10日) サウジ、ガザ住民移住構想を非難-イスラエル首相やトランプ氏が示唆 サウジアラビアは9日、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させるというイスラエルのネタニヤフ首相の提案を「断固拒否」するとの声明を国営サウジ通信(SPA)を通じ発表した。サウジは声明で、「パレスチナの人々にはその土地に対する権利があり、彼らが追放されるべき侵入者や移民ではないことを確認する」と極めて強い言葉で同首相の発言を非難した。イスラエルのチャンネル14との先週のインタビューで、ネタニヤフ首相はサウジ領内にパレスチナ国家を創設する構想を示唆。一方で、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃後、パレスチナ国家は存在すべきではないとの自身の立場を繰り返した。トランプ米大統領は4日夜、ホワイトハウスでネタニヤフ首相と会談後に共同記者会見し、米国がガザ地区を所有し、ガザを「中東のリビエラ」と呼ばれるような場所に変えたいと述べていた。同大統領は他の中東諸国に対しガザからパレスチナ人を受け入れるよう求めたが、エジプトやヨルダンはこれを拒否している。トランプ大統領の考えはとっぴなものと思われたが、イスラエルはすでに、戦争で荒廃したガザから港や陸路を経由して住民を移す計画を策定しつつある。ただし、パレスチナ人が移住を望んでいるのか、またどこに移り住みたいのか、そして、実際に移住が可能かどうかは不明だ。 *4-5-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/288655 (日本農業新聞 2025年2月16日) 外国人農地取得を厳格化 農水省省令見直し 短期在留は認めず 農水省は2025年度から、外国人が国内の農地を取得する際の要件を厳格化する。取得を目指す外国人に対して、取得の可否を判断する農業委員会に残りの在留期間を報告するよう義務化。短期間で在留期間が切れる場合は、農地を取得できなくする。農地取得に関するルールを定める農地法の省令を見直す。農地が取得後も適切に耕作されるか判断する上で、残りの在留期間を把握する必要があると判断した。短期間で在留期間が切れる場合の他、短期間で遠方に転居する場合も農地の取得を認めない。同省は「(どのくらいの期間が短期間なのかは)事例ごとに農業委員会が判断することになる。収穫まで数年かかる果樹など、作物によっても変わる」(農地政策課)とする。外国人の農地取得を巡っては、同省は2023年9月、取得を目指す外国人に対し、農業委員会に国籍や在留資格の種類を報告するよう義務付けている。同省によると、外国人やその関係法人が23年に取得した国内の農地は90・6ヘクタール。うち、外国人個人による取得は60ヘクタール(219人)で、残りは法人による取得だった。日本では、外国人による土地取得を規制できない。世界貿易機関(WTO)協定の一部である「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)で、外国人が不利になる規制が禁止されているからだ。ただ、韓国やロシアは、外国人の土地取得について適用を留保しており、取得を規制できるという。日本は締結時に留保しなかった。 *4-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250211&ng=DGKKZO86654250Q5A210C2TB1000 (日経新聞 2025.2.11) 外国人と協働にIT駆使 新興「育成就労」導入にらみ商機、カミナシ、13言語のマニュアル DXHUBはスマホで日本語教育 スタートアップがIT(情報技術)を活用して外国人と協働しやすい環境づくりを急いでいる。カミナシ(東京・千代田)は13言語対応の従業員教育サービスを開発し、2025年度に10万人の登録を目指す。外国人労働者は200万人を超え、27年にも新制度「育成就労」の適用が始まる。言葉の壁などの問題解決にスタートアップが商機を見いだしている。現場の帳票入力を電子化するSaaS(サース)を手掛けるカミナシは1月、新サービス「カミナシ教育」を始めた。動画コンテンツ事業を手掛けるVideoStep(東京・港)と業務提携し、同社から動画マニュアル作成機能のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける。管理者が現場作業の様子を撮影した映像をクラウドにアップロードして編集すると、人工知能(AI)が音声を文字起こしして字幕をつけ、マニュアルを作成する。 ●AIが字幕音読 従業員がパソコンやスマートフォンで動画を閲覧する際に、マニュアルをベトナム語など13言語に翻訳。字幕を日本語と併記して表示したり、AIが母国語で読み上げたりする。従業員は作業の手順を自分のペースで学ぶことができる。現場作業では、教育を担当する管理者によって指導レベルに差があり、研修を終えたかどうかを管理するプラットフォームが存在しないことも多い。従業員の業務の理解度に差があると、企業が提供する製品やサービスの品質にばらつきが出る懸念がある。カミナシは2月中にも個別の従業員がマニュアルの理解度を確認するアンケートに答えたかを一覧で管理できる機能の提供も始める。食品や機械などの製造業を中心に26年6月までに10万人のユーザー登録を目指す。厚生労働省によると、日本で働く外国人の数は23年10月時点で204万人。前の年から12%増え、初めて200万人を超えた。今後もベトナムや中国、フィリピンなどからの人材流入が見込まれている。問題となっているのが言葉だ。仕事の仕方に不明点があっても理解してもらえないと考えて外国人が対話を避けるケースが多発している。在留外国人を対象にした法務省の23年度の調査では、企業など所属先に困りごとを相談しない理由として、最多の15%が「言語の問題で正確な意思疎通が難しいため」とした。企業の方も、指導や監督で苦労している。厚労省が24年12月に公表した雇用実態調査で「外国人労働者の雇用に関する課題」を聞いたところ、最も多かったのは「日本語能力などのためにコミュニケーションが取りにくい」で45%だった。こうした事態に対応しようと、在留外国人向けの通信サービスを手掛けるDXHUB(京都市)は、オンライン日本語教育ソフト「BondLingo」の事業をボンド(東京・新宿)から取得し、福利厚生型のSIMカードの販売を始めた。企業が採用した外国人にスマホ用SIMカードを配布する際に日本語教育ソフトも提供し、学習への取り組みを管理できる仕組みだ。学習履歴は昇給や賞与の判断材料とするなど、外国人労働者向けのインセンティブとして活用できる。 ●定着率向上に力 企業には外国人や家族の日本語学習に関し、機会の提供や支援に務める義務がある。DXHUBの沢田賢二社長は「日本人や他の外国人社員とのコミュニケーションが取れれば職場は働きやすくなり、企業にとっても外国人の定着率向上が期待できる」と話す。翻訳や教育で業務上の情報格差を緩和し、面談などを通じて働きがいや困りごとの有無を確認しても、実態を把握しきれないケースもある。ミツカリ(東京・渋谷)は24年12月、従業員エンゲージメント調査のサービスを、中国語やベトナム語など合計9カ国語に対応させた。同社のサービスは1分程度のアンケート調査を継続的に実施し、満足度やモチベーションを計測する。企業はデータから外国人労働者の労働意欲低下の兆候を早い段階で捉え、離職防止の対策を取ることができる。住居など生活面での支援でも動きがある。家賃保証審査支援のリース(東京・新宿)は24年12月、外国人が不動産会社に賃貸物件の入居申し込みをする際、家賃保証会社の審査担当者が自身では理解できない外国語の支援を受けられるサービスを始めた。リースは、多言語の相談窓口を運営するインバウンドテックと提携し、書類に不備がないかなどの確認作業を支援する。これまでは審査が後手に回り、契約が成立しないケースもあったが、借り手は入居しやすくなる。外国人労働者を巡っては、18年に成立した改正出入国管理法で在留資格「特定技能」が創設され、19年4月から人材の確保が困難な業界への受け入れが解禁された。27年には、過酷な労働環境下で失跡者が増えるなど問題点が指摘されている技能実習制度に代わり、育成就労が導入される見込み。具体的な運用は有識者会議などで詰めるが、1~2年の就労期間などの条件を満たし本人の意向があれば転職も可能になる方向だ。少子高齢化が定着し、人手不足が本格化するなか、優秀な外国人労働者の存在は企業の競争力を左右するようになっている。ルール順守の上で、外国人側の目線にも立ち、課題に対処していく必要がある。 <日本のブルーオーシャンが、日本政府にいじめ抜かれるのは何故か> PS(2025年3月5~8日追加):*5-1-1は、①家族介護を社会的介護に転換するためにできた介護保険スタートからの25年は改悪につぐ改悪の歴史 ②負担増と給付源(=サービス切り下げ)の繰り返し ③一律1割だった利用者負担は所得に応じて一部の人が2割・3割となり、保険料を支払ったのに必要な時にサービスを受けられず介護保険制度の意味減少 ④事業者に支払う介護報酬抑制と訪問介護の生活援助利用を制限する見直し ⑤今年度から訪問介護基本報酬の引き下げ ⑥ホームヘルパーは極めて高い専門性が求められる職種だが、国は「訪問介護は誰にでもできる仕事」とみなし専門性を評価しないのが問題の根底にある ⑦ヘルパーがいなくなれば要介護高齢者が自宅生活することは困難で、介護報酬の大幅引き上げが必要 ⑧介護保険はいじめ抜かれた ⑨さらに国はi)2割負担対象者の拡大 ii)ケアマネジメントの自己負担導入 iii)要介護1・2の介護保険本体からの切り離し 等の改悪を進めようとしている ⑩国は「制度を持続させるため」として介護費用増加を負担増・給付源で調整しようとしている ⑪財源は公費投入の割合を増やすことも選択肢として国が検討すべき ⑫「3世代世帯」の割合低下、独居と夫婦のみ世帯半数超という家族構成の変化で介護費用抑制の環境にはない としている。 家族介護を社会的介護に転換していなければ、家族が癌や脳出血等で長期療養を強いられた時には、介護の専門家でない他の家族が、仕事を辞めたり、進学を諦めたりして、介護しなければならないが、介護は、⑥のように、知識と経験に基づく専門性が求められる仕事であり、愛さえあればできるものではないため、無知や介護疲れによる虐待・ネグレクト・差別が頻発して家族全員が不幸になる。にもかかわらず、国は、確かに、介護の専門性を評価しておらず、介護は妻や子(特に嫁や娘)・孫など家族の誰かがやるものだと考え続けている点が問題なのである。 私は、家族介護を社会的介護に転換する目的で介護保険制度を作った1人だが、①②③⑧⑨のように、負担増・給付源が繰り返され、1律1割だった利用者負担を(高くもない)所得の人に2割・3割負担させるなどする改悪につぐ改悪が続けられて、介護保険制度は確かに25年間いじめ抜かれたと思うが、何故だろうか。また、著しく物価上昇しているのに、④⑤⑦のように、訪問介護の基本報酬を下げて住み慣れた自宅で療養することを不可能にしたり、介護事業者に支払う介護報酬の抑制や訪問介護の生活援助利用の制限等の見直しをしたりして、高い介護保険料を支払ったのに必要なサービスを受けられないという介護保険詐欺になっている。そして、その理由を、国は、⑩のように、「制度を持続させるため(底の浅い決まり文句)」としているが、日本国憲法25条で定められ、優先的に行なわなければならない福祉を加える度に、他の膨大な無駄使いを放置したまま、国民負担を増加させる財源探しを行うこと自体がおかしい上に、保険料を取るだけで必要なサービスも受けられない骨抜きの制度なら持続させても意味が無いのだ。そのため、⑪⑫については、個別の産業に対する時代遅れで効率の悪い補助金や租税特別措置を止めて公費投入割合を増やしたり、介護の社会化で助かる子や孫の世代からも介護保険料を所得に応じて広く徴収し、介護保険料の負担者を所得のある人全員に広げて高齢者の負担を減らしたりすべきなのである。なお、政府が減らそうとしている介護サービスは、高齢化だけではなく、都市への人口集中・家族構成の変化・共働きの増加等で生じた新たなニーズであり、日本のブルーオーシャンの1つでもあるのだ。 また、*5-1-2・*5-1-3は、⑫福岡厚働相は「高額療養費制度」限度額引き上げ案を修正し、長期治療患者は負担額を変更しないと表明 ⑬長期治療とは直近12ヶ月以内に3回限度額に達した場合の4回目からの「多数回該当」で、その限度額引き上げを見送る ⑭現在は平均的所得区分(年収約370~770万円/年、約31~64万円/月)で多数回該当を利用した場合、限度額は4.4万円/月、2024年末決定の当初案では2027年8月に最大7.6万円/月の予定だった ⑮多数回該当の負担増は見送るが、1ヶ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施し、所得区分を細分化して年収約650万〜約770万円/年(約54~64万円/月)は2027年8月から約13.8万円/月に引き上げる ⑯近年は高齢化や革新的治療の広がりで適用件数が増えて医療保険財政を圧迫、厚労省は2024年末に「制度持続のため」として患者負担限度額の段階的引き上げ案を纏めた ⑰患者団体は福岡厚労相との面会後記者会見で、多数回該当以外の限度額引き上げも凍結を求める方針とした ⑱「高額療養費制度」見直しの背景には、「子ども関連政策」の財源確保に向けた医療費抑制がある ⑲2023年末閣議決定「こども未来戦略」は児童手当の大幅拡充など年3.6兆円規模の対策を盛り込み、うち1.1兆円は2028年度までに社会保障の歳出削減で賄うとする ⑳法改正を経ず閣議決定で制度改正できるので「高額療養費制度」に白羽の矢があたった ㉑高齢化や高額薬剤登場で医療費が増え、現役世代の保険料負担が重荷 ㉒財務省は「個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険負担割合は2000年度13.0%で2024年度18.4%になる」とする ㉓政府試算では、高額療養費制度見直しで保険料は年3700億円規模の軽減、加入者1人あたり保険料軽減効果は1,100円~5千円程度/年 としている。 「高額療養費制度」も癌や脳出血等で長期療養を強いられた時、収入が著しく減る上、医療費が高いままで生活費の多くを占めるようになると、「貯金が底を突く時が、生きることを諦める時」になってしまうため、衆議院議員時代(2005~2007年)に、私が作った制度だ。 しかし、瑕疵のある「高額療養費制度」限度額引き上げ案に反対が起こると、⑫⑬⑭⑮のように、福岡厚労相は修正案を出したのだが、その内容は、イ)直近12ヶ月以内に3回限度額に達した場合の4回目からの「多数回該当」にあたる長期治療患者の限度額引き上げは見送る ロ)平均的所得区分(年収約370~770万円、約31~64万円/月)で多数回該当を利用した場合、限度額は4.4万円/月に据え置く(当初案では2027年8月に最大7.6万円/月) ハ)多数回該当の負担増は見送るが、1ヶ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施する 二)所得区分を細分化して年収約650万〜約770万円(約54~64万円/月)は2027年8月から約13.8万円/月に引き上げる というものだった。ただし、ここで示している所得区分は総収入であるため、ここから所得税・住民税・社会保険料を引かれ、水光熱費や家賃の支払いをすると、生活費にできる可処分所得はずっと少なくなる。その状況で、月収31万円から医療費4.4万円/月を支払うのは既に負担が大きく、やはり「貯金が底を突く時が、治療を諦める時」になるだろう。それでは、月収54万円の人は医療費上限13.8万円/月を支払えるのかと言えば、所得税・住民税・社会保険料・水光熱費・家賃等を支払った残額から、医療費を支払った後で、生活費を支払わなければならないため、物価上昇による生活費高騰で家族もいればやはり無理だろう。さらに、単身の新人給与でさえ500万円/年になろうとする時に年収約650万〜約770万円/年の収入が高いとは言えず、私は、耐えられる医療費は月収(年収/12)の10%が上限だと思う。また、リスクは誰にでもあるが発生するか否かは人によって異なる事態に備えるために保険があるのであり、保険ならリスクに備えるための1人あたりの負担額は小さいため、㉓のように、加入者1人あたり保険料軽減効果も1,100円~5千円程度/年にしかならないのである。従って、⑰のように、患者団体が「多数回該当以外の限度額引き上げも凍結を求める方針」としたのは、当然のことである。 にもかかわらず、⑯⑰のように、「高齢化や革新的治療の広がり」を理由とし、またまた「制度持続のため」として、厚労省は2024年末に患者負担限度額段階的引き上げ案を纏めたそうだが、⑱⑲⑳のように、「子ども関連政策」の財源確保のため医療保健から支出するのは、目的外の流用であり、医療保険詐欺であるため、決して許されない。その上、㉑の「高齢化や高額薬剤登場で医療費が増えた」という点については、これらの革新的治療は、大量生産できるようになって普及すれば治療費や介護費を安くする効果があり、それが日本発の薬や治療法であればブルーオーシャンそのものなのである。また、㉒のように、財務省は「個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険負担割合は2000年度には13.0%で2024年度に18.4%になる」としているが、2000年4月に介護制度が始まったのであるため、まじめにサービスを充実していれば今では企業も個人も介護に人手をとられなくてすむようになっていた筈で、そうであれば負担増は当然なのだ。そのため、そういう状況でも「保険料負担が重荷」などと言うような現役世代が育てた子なら、増やしたところでどうせろくな価値観は持っていないだろう。 なお、石破首相が、2025年3月7日、首相官邸で患者団体の代表と面会後、高額療養費の上限引き上げ実施見送りを表明されたのは、誤った政策で突き進むよりはずっとよかった(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA071PL0X00C25A3000000/ 参照)。 それでは、「財源はどこから持ってくるのか」と言えば、常日頃から歳出を見直して、時代遅れになったり、効果がなかったりする歳出は減額や削除し、新たに必要になった歳出やより効果的な歳出に充てるのが当たり前なのである。そして、それを省単位ではなく、政府全体で行なうためには、皆が納得できる主観的ではない客観的な数値が必要であり、その数値を出すためには、網羅性・検証可能性のある複式簿記による会計制度とそれに基づく行政評価が必要なのだ。また、「新たに必要になった」と言っても、義務教育の無償化(日本国憲法4条)や社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上・増進(日本国憲法25条2項)のように、1947年5月3日に施行された日本国憲法に既に明記されているのに、未だに行なわれていない政策は、他の歳出に優先して行なうのが当然である。 そのような中、大きく歳出削減できる例を挙げると、*5-2-1の、㉔政府が2月18日に閣議決定した新エネルギー基本計画は、再エネの活用を掲げつつ「脱炭素」を旗印に原発の建て替えも促す ㉕新エネ基は東日本大震災後に掲げた「原発依存度を可能な限り低減」の文言を削った ㉖原発回帰は大手電力が切望していたが、政府の支援策がなければ投資できない ㉗九電は玄海原発(佐賀県)の2基を廃炉中で、経産省はその分を川内原発(鹿児島県)の「増設」に充てたい考え ㉘関電のある幹部は「エネ基を旗印に、すぐにリプレースできるわけではない」「重要なのは、本当に採算がとれる支援制度が出てくるかだ」 ㉙エネ基は原発建設費の上ぶれ分を電気料金から回収できるようにする制度づくりを進めるとした ㉚「核のごみ」をめぐる課題は解決に遠い である。 何故なら、1966年に日本原電の東海原発が建設され日本で初めて原発が商業運転を開始してから、既に59年も経過しているのに、未だに㉖㉘のように、「政府の支援策がなければ採算がとれない」のであれば、「原発のコストが安い」というのは真っ赤な嘘だからである。その上、㉚のように、膨大な費用を要する「核のごみ」問題は全く解決せず後世に先送りし、フクイチ事故の莫大な事故処理費用もすべて国民負担にし、その上、原発立地自治体への交付金まで国民に支払わせながら、これらを「原発のコスト」に入れていないのだから、原発に競争力がないのはとっくの昔に明らかになっているのだ。また、㉙の原発建設費の上ぶれ分も原発コストにほかならず、㉕㉗のように原発の新増設をするのならそれを電気料金から回収するのは当然だが、電力のユーザーは、このようにして馬鹿高くなった電力は使いたくないからこそ、自家発電するよう努力しているのである。そのような状況で、㉔のように、その場限りの思いつきの理由を並べて、政府が「脱炭素」を旗印に原発の建て替えを促すなどというのは、膨大な無駄使いであり、真っ先に止めなければならないことである。そして、田園・放牧地・山林等に風力発電機を設置して売電料金を農家・林家の所得保証に代え、建物にペロブスカイト型太陽光発電を取り付ければ、2040年度の再エネ割合は「4~5割」どころか100%にでき、同時に農林業の補助金も節約できる上に、国富の海外流出も防げるのだ。 しかも、原発は、*5-2-2・*5-2-3・*5-2-4のように、原発を優位に導く「逆転」のトリックやこれまで無視されていた活断層・大津波・事故による甚大な住民や農林水産業への被害等の問題も多いため、本当に安全を最優先にして国民の命を守りたいのなら、できるだけ早く原発を手仕舞うのが賢明である。 最後に、*5-3のように、日本政府は、2017年に採択され、2021年に発効した核兵器禁止条約の第3回締約国会議に「米国の『核の傘』の下にいる」としてオブザーバー参加もしなかった。しかし、今回は、長年、核廃絶を訴える活動をしてきた日本被団協がノーベル平和賞を受賞して初の締約国会議で、アメリカの「核の傘」の下にいるNATOの加盟国からは1か国も参加せず、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で核抑止力が叫ばれているが、日本は唯一の被爆国であるため、特使を送って核廃絶を訴えるメッセージを出すくらいはすればよかったのである。その上、核による脅迫で保たれる“平和”は、それを脅迫と感じない国が現れれば容易に壊れる危うい均衡であり、戦争が起これば、核兵器を使わなくても原発は自爆し、住民や食糧生産に甚大な被害をもたらすのである。 ![]() 2024.12.27Business Journal 2024.12.17東京新聞 2023.5.9Enetech (図の説明:左図の1番右の棒グラフが「新エネルギー基本計画」による2040年のエネルギー構成で、エネルギーミックスと称して相変わらず原発2割、化石燃料3~4割としており、単価が安くなっても再エネは4~5割と見積もられているにすぎない。また、中央の図は、電源別発電コストの変化とされているが、原子力は、使用済核燃料の最終処分コスト・廃炉コスト・災害発生時の後始末のコストを入れていない超甘の想定でも太陽光発電より高く、今後、ペロブスカイト型太陽光発電が普及すれば、さらに差が開くだろう。右図は、世界と日本の太陽光発電コストの推移で、2022年時点で日本は世界より6.8円高いが、この結果は、できない理由を考えることに専念せず、普及に努力したか否かの差である) ![]() 2024.12.24琉球新報 2025.2.17NHK 2022.6.21SustainableSwitch (図の説明:左図が「高額療養費制度見直し」のイメージで、実質賃金や実質年金は下がっているのに、2025年8月に上限を引き上げ、2027年8月にはさらなる引き上げが予定されている。そして、年収1,650万円で扶養家族なし・40歳未満の例で見ると、所得税《約259万円》・住民税《約125万円》・社会保険料《約158万円》を支払うため、残高は約1,108万円/年《約92万円/月》になり、ここから44.4万円の医療費を支払うと生活費に充てられる金額は約48万円になるが、確定申告時に医療費控除はできるが、深刻な病気になってもこの年収が続く人は少なく、扶養家族がいればさらに苦しいだろう。また、年収1,650万円以上は上限が同じ点もおかしい。中央の図は、「多数回該当」に当たる場合の自己負担上限額を据え置いたイメージだが、長期療養を要する深刻な状況の人から巻き上げる構図は変わらない。右図は、上段右図の太陽光発電コストが下がった理由は、普及して設置コストが下がったからだということを示している) ![]() 2022.2.22東京新聞 2025.1.9東京商工リサーチ 2023.11.1沖縄タイムス (図の説明:左図は、2000年に始まった介護保険制度の介護給付費と要介護認定者数の推移で、2024年3月現在690万人の方が要介護や要支援の認定を受けているそうだが、これは(7)2)の右図のように、高齢者数が増えれば自然なことであるため、意図的に給付費の伸びを抑えればサービス低下に繋がるのだ。そのような中で、政府は、介護事業者に支払う介護報酬の抑制や訪問介護の生活援助の利用制限をしたため、ただでさえ報酬の低かった介護福祉士が減り、2024年は人手不足による事業所の倒産が著しく増えて、やっとできた資産を減らしたのである。その上、政府は、右図のように、年間所得410万円/年《34万円/月》以上を“高所得者”として保険料を引き上げるそうだが、新人社員でも500万円/年の収入がある物価高騰時代に、高齢者は410万円/年が高所得とはどういうことか!) *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/AST2D05J2T2DUTFL00TM.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2025年2月14日) 「いじめ抜かれた」介護保険の25年 利用者への負担転嫁は限界に 「介護の社会化」を掲げた介護保険スタートから間もなく25年。「改悪につぐ改悪の歴史だった」と振り返るのはNPO渋谷介護サポートセンターの服部万里子さんです。制度見直しのどこに課題があるのか、聞きました。 ◇ いま一番問題だと考えているのは、訪問介護の基本報酬が今年度から引き下げられたことです。ホームヘルパーは本来、極めて高い専門性が求められる職種です。しかし、国は訪問介護を「誰にでもできる仕事」とみなし、専門性を評価していない。それが問題の根底にあります。ヘルパーとして働く人がいなくなれば、要介護の高齢者が自宅で生活することは困難になります。介護報酬は大幅に引き上げなければいけない。その財源はどうするか。介護費用の増加を利用者負担に転嫁するのは、もう限界です。公費投入の割合を増やすことも選択肢として、国が検討すべきだと思います。介護保険は、家族介護を社会的介護に転換するためにできました。高く評価しているし、なくしてはいけない制度です。しかし、施行後の25年を振り返れば、負担増とサービス切り下げの繰り返しでした。一律1割だった利用者負担は、所得に応じて一部は2割、3割に。事業者に支払う介護報酬は抑制され、訪問介護の生活援助の利用を制限するような見直しもありました。「いじめ抜かれた介護保険」と私は言っています。さらに国は、2割負担対象者の拡大、ケアマネジメントの自己負担導入、要介護1・2の介護保険本体からの切り離し、といった改悪を進めようとしています。制度を持続させるため、というのが国の言い分です。介護費用の増加を、負担増とサービス利用制限で調整しようとしています。しかし、考えてほしいのです。自宅で暮らす要介護高齢者の世帯構成をみれば、「3世代世帯」の割合は低下し、独居と夫婦のみの世帯で半数を超します。家族のあり方の変化をふまえれば、とても介護費用を抑制できる環境にありません。無理に抑制すれば影響ははかりしれません。利用者負担を1割から2割に上げるというのは、単純に言えば負担額が倍になるということです。各家庭には様々な経済的事情があり、サービス利用をあきらめたり、減らしたりする高齢者が必ず出ます。結果的には要介護度が悪化します。保険料を払ってきたのに必要なときサービスを受けられないなら、なんのための介護保険か。制度の空洞化と言うほかありません。要介護状態になったら人生終わりではなく、その人らしい生き方を保障するのが介護保険であるはずです。未来も維持しなければいけないし、これ以上の改悪は許されません。 *5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/AST253GJHT25UTFL00CM.html (朝日新聞 2025年2月6日) 背景に子ども財源の捻出、保険料高騰も 高額療養費制度の見直し 「高額療養費制度」の見直しをめぐる政府案について、修正が検討されていることがわかった。この制度は、公的医療保険の「セーフティーネット」として機能しており、見直しに対して患者らから反発の声が上がった。政府は少数与党での国会運営を余儀なくされる中、野党の批判にもさらされ、再考を迫られた形だ。ただ、今回の見直しの背景には、子ども関連政策の財源確保に向け、医療費の抑制が求められている状況がある。 ●修正案の決着は…… 2023年末に閣議決定した「こども未来戦略」は、児童手当の大幅拡充など年3.6兆円規模の対策を盛り込んだが、うち1.1兆円は28年度までに社会保障の歳出削減で賄う予定だ。そこで政府が同時に示した歳出削減候補の一つが、高額療養費制度の見直しだった。厚生労働省内にも「できるなら見直しは避けたい」との声があったが、法改正を経ずに閣議決定で制度改正できることなどから白羽の矢が立った。現役世代を中心とした保険料負担の軽減も課題だ。医療費の多くは保険料と税金で賄う。高齢化や高額薬剤の登場で医療費が増える一方、現役世代の保険料負担が重荷になっている。財務省によると、個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険の負担割合は、00年度に13.0%。それが24年度には18.4%になる見通しだ。政府の試算では、高額療養費制度の見直しで保険料は年3700億円規模で軽減される。加入者1人あたりの保険料軽減効果は、年額で1100円~5千円程度とみられる。こうしたことから、厚労省内には、政府案全体の凍結には否定的な見方がある。長期的に治療が必要な人の負担増を軽くすることで、修正案の決着を図りたい考えだ。 *5-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA146YW0U5A210C2000000/ (日経新聞 2025年2月14日) 高額療養費上げ、長期治療の負担据え置き 厚労相表明 福岡資麿厚生労働相は14日、医療費が高くなった場合の1カ月あたりの患者負担を抑える「高額療養費制度」の限度額引き上げ案を修正し、長期の治療を受けた患者については負担額を変更しないと表明した。がんなどの患者団体との面会で明らかにした。直近12カ月以内に3回限度額に達した場合、4回目から限度額を下げる「多数回該当」の限度額引き上げを見送る。自己負担が増えれば治療を続けられなくなるといった患者からの声に配慮する。現在は平均的な所得区分である年収約370万〜約770万円で、多数回該当を利用した場合の限度額は4.4万円だ。2024年末に決定した当初案では、25年8月から3回に分けて引き上げ、27年8月には最大7.6万円とする予定だった。修正案では引き上げず、現在の4.4万円のままとする。多数回該当の負担増を見送ることで、25年度予算案は修正を迫られる可能性がある。福岡厚労相は患者団体との面会後、報道陣に対し「予算修正は必要だと思う」と話した。1カ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施する。所得区分を細分化し、年収約650万〜約770万円では27年8月から約13.8万円に引き上げる。現在の約8万円から7割高くする。高額療養費制度はがんなどの重い病気にかかって医療費が高額になった場合に、年齢や所得水準に応じて1カ月あたりの自己負担を一定額に抑える仕組みだ。近年では高齢化や革新的な治療の広がりで適用件数が増え、医療保険の財政を圧迫している。制度の持続性を高めるため、厚労省は24年末に患者負担の限度額を段階的に引き上げる改革案をまとめた。その後、患者団体などから経済的負担の増加を懸念する声が強まったことから、改革案の修正を検討していた。患者団体は福岡厚労相との面会後に開いた記者会見で、多数回該当以外の限度額引き上げについても引き続き凍結を求める方針を示した。 *5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16152512.html (朝日新聞 2025年2月19日) 課題山積、原発建設に道 「採算とれる支援」待つ関電 エネ基に建て替え促す制度 政府が18日に閣議決定した新しいエネルギー基本計画(エネ基)は、再生可能エネルギーの活用を掲げつつ、同じ「脱炭素」を旗印に、原発の建て替え(リプレース)も促す内容だ。原発回帰は大手電力が切望していたとはいえ、政府の支援策がなければ投資に踏み込めない事情も浮かぶ。「今後、原子力が重要になるのは間違いない」。九州電力の池辺和弘社長は1月の会見で、こう強調した。新しいエネ基は、東日本大震災後に掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を削り、原発の建設を縛っていた「くびき」を外した。池辺氏は「新設も含めて進めていくべきだ」とも語った。新しいエネ基では、老朽原発を廃炉にした分だけ、別の原発でも原子炉を増やせるとした。九電は玄海原発(佐賀県)の2基を廃炉中だ。経産省は、その分を川内原発(鹿児島県)の「増設」に充てたい考えだ。関連業界も動き始めた。原発メーカーの三菱重工業は、2026年度までに本体の原子力事業の人員を昨年4月比で1割増やす方針だ。今後3年間の生産設備と研究開発への投資額も、前の3年間に比べて3割増やす。泉沢清次社長は「関心を持つ学生が多く、新卒採用はほぼ計画通り」と話す。東芝も原発の設計などにあたる専門人材の採用を増やす。ただ、事態はすぐに動きそうにない。原発の建設について、九電のある幹部は「うちがやるのは、あちら(関西電力)がやったあとだ」とし、当面は様子見の構えだ。関電は美浜原発の2基が廃炉中で、「建て替えの着手に最も近い」(経産省幹部)とされる。森望社長も、リプレースや新増設について、「検討を始めなければならない時期に来ている」との考えを繰り返し口にする。だが、関電のある幹部は「エネ基を旗印に、すぐにリプレースできるわけではない」とも語る。「重要なのは、本当に採算がとれる支援制度が出てくるかだ」。エネ基では、原発の建設費の上ぶれ分を電気料金から回収できるようにする制度づくりを進めるとした。だが、具体策はこれから。関電の幹部は「投資の予見性など、具体的な話が見えてきてからだ」と釘を刺す。一方、「核のごみ」をめぐる課題は解決に遠く、核燃料サイクルも順調には進んでいない。今回実施したパブリックコメントでも、原発の安全性や「核のごみ」についての意見が寄せられ、新しいエネ基でも「懸念の声があることを真摯(しんし)に受け止める」と加えた。関電の関係者は「リプレースの検討に向けた次のステップに踏み出すと、すぐに表明するのは難しいだろう」と話す。 ■洋上風力・太陽光、拡大急ぐ 再エネ2040年度に「4~5割」 新しいエネ基では、再エネも「最大限活用する」と強調した。電源構成に占める割合を、いまの2割から40年度に4~5割にする。政府は50年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると約束しており、達成には再エネの普及が欠かせない。とくに期待するのが洋上風力発電だ。政府は40年までに出力3千万~4500万キロワットの事業化をめざす。いまは領海内に限っている設置場所を、排他的経済水域(EEZ)にも広げるため、関連法の改正案を今国会に提出する予定だ。ただ、コスト面では厳しい。国の公募に応じて秋田県沖と千葉県沖で計画を進めていた三菱商事は、建設コストの高騰などで採算の見通しが悪化。24年4~12月期決算で522億円の減損処理をした。経産省は次回の公募から、コストの上昇分を電力の買い取り価格に上乗せできるようにするなどの対応を急ぐ。自然エネルギー財団の大林ミカ氏は「成長途上の洋上風力産業で日本がリーダーシップをとるためには、半導体産業と同じくらい比重をかけるべきだ」と指摘する。もう一つの柱が、太陽光発電のいっそうの普及だ。日本はすでに平地面積あたりの発電量が世界トップクラスにある。東日本大震災後に始まった再エネの固定価格買い取り制度(FIT)で各地にメガソーラーがつくられた効果が大きいが、建設の余地が少なくなっている。近年では、景観への悪影響などから「迷惑施設」とされつつある。そのため今回のエネ基では、軽くて曲げられる次世代の「ペロブスカイト太陽電池」に注目。40年に約2千万キロワットを導入すると打ち出した。いま普及している「シリコン系」と比べて耐久性が劣り、コストも高いが、政府は日本の将来の産業の核になると期待し、導入拡大やコスト削減を後押しする方針だ。再エネの導入に関する経産省の審議会で委員長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授は、シリコン系についても「空港などの公共施設を活用すれば、拡大余地はまだある」と指摘。今後の再エネの普及には「自治体との調整など、公的な介入が重要になる」と話す。(多鹿ちなみ) ■LNG、陰の主役 火力45%想定も、確保探る 今回の計画で「陰の主役」とささやかれるのが、液化天然ガス(LNG)だ。石炭や石油よりも温室効果ガスの排出が少なく、足元の電源構成の30%超をLNG火力が占める。出力の変動が大きい再エネを補助し、水素の原料にもなるため、「重要なエネルギー源」と位置づけた。エネ基では電源構成に占める火力の割合を、いまの約70%から40年度は3~4割に減らすとしている。だが、経産省は脱炭素化がうまくいかなければ、火力が45%を占めると想定する。経産省内では「現実的にはこちら(45%)」との見方が強く、LNGへの依存は続きそうだ。ただ、LNGはほとんどを輸入に頼り、国際情勢によって価格が跳ね上がるリスクもある。日本エネルギー経済研究所のまとめでは、長期契約によるLNGの確保量は減少していく見通しだ。新しいエネ基でも、LNGを安定して確保することの重要性を書き込んだ。そんななか、トランプ米大統領は前政権が制限していたLNGの輸出の再開にかじを切った。7日の日米首脳会談では、日本が米国からLNGの輸入を拡大することで合意。トランプ氏はアラスカ州のLNG事業について、日米共同開発を検討するとも言及した。米国はロシアや中東に比べて地政学リスクが低い。ただ、アラスカ州の事業は巨費がかかると見込まれる。資源開発大手INPEXの上田隆之社長は「何十年間も計画は実現しなかった。寒い場所でのパイプラインの建設費など解決しなければならない課題がある」と語るなど、警戒感も広がる。さらに、日本が大量のLNGを受け入れることになれば、脱炭素化の遅れにもつながる。 ■<考論>リスクどこまで甘受、議論を 寿楽浩太・東京電機大教授(科学技術社会学) 化石資源が乏しいなかでエネルギーを確保する方法を追求してきた日本には、頼りになるのは原発だ、という考えは古くからある。脱炭素化の流れで、再びそうした考えが出てきても不思議ではない。しかし、原子力の利用に今後どのぐらいのお金がかかるか、積極的に国民に開示すべきだ。そのうえで他の利点やリスクも踏まえて、複数の選択肢を提示してほしい。また、これまでは原発か、再生可能エネルギーかといった「技術の選択」に、やや議論が偏ってきた。その技術によって何を優先して実現しようとするのか、どういうリスクや不都合を甘受するのかが本当の論点だ。原発には重大事故のリスクが伴う。どこまで許容するのか、正面からの議論が必要だ。限られた専門家だけで決定し、「政府の政策を受け入れてください」というやり方は限界にきている。 ■<考論>「電源2割が原発」実現困難 橘川武郎・国際大学長(エネルギー政策) エネルギー基本計画を議論する政府の審議会は、「電気が足りない=原発が必要」とする考えが支配的で、一時は2040年の電源構成に占める原発の割合を25~30%とする数字が打ち出されそうになった。最終的に2割に収まったが、それも実現は困難だろう。前回21年に定めた30年時点の電源構成は、原発を20~22%とした。いま動いている原発に加え、原子力規制委員会が再稼働を不許可とした日本原子力発電敦賀原発2号機や、審査中の9基を含めた27基が稼働することが前提になる。ただ、どう甘く見ても20基前後。原発は頼りにならない。政府は今後、原発の新増設や建て替えを進めるため投資環境を整えようとしている。だが、簡単に進まないだろう。電気が足りないなら再生可能エネルギーでまかなうべきだ。ペロブスカイト太陽電池の実用化、洋上風力の支援拡充といった議論をするのが筋だ。 *5-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/374011 (東京新聞 2024年12月17日) 政府、発電コスト「原子力12.5円、太陽光8.5円」と試算…それでも原発を優位に導く「逆転」のトリック 経済産業省は16日、2040年度時点の電源別の発電コストを公表した。発電にかかるコストは、原子力が事業用太陽光(メガソーラー)を上回った。専門家が「計算の前提条件が、原子力など既存の大型電源に有利」と疑問を呈する甘い想定の中でも、原子力が安いとは言えなくなっている。 ◆エネルギー基本計画の基礎となる試算 経産省が有識者会議に示した発電コストは「均等化発電原価(LCOE)」と呼ばれ、3年ごとに見直される。経産省は17日にエネルギー基本計画の政府素案を公表する予定で、今回の試算を基に計画の決定に向けて素案を議論していく。エネルギー基本計画の改定に伴い、2021年の試算では、2030年度にすべての発電所を新設する想定で建設や運転の費用を計算していたが、今回は2040年度に新設する想定へ変更した。主な電源の1キロワット時当たりの費用は、原子力が2021年の11.7円以上から12.5円以上に増加。事業用太陽光は11.2円から8.5円に減少した。陸上風力は14.7円から15.3円に、液化天然ガス(LNG)火力は10.7円から19.2円に上がった。2021年の数値と比べ、原子力は事故発生確率を引き下げたものの、事故防止の追加的対策費や燃料代が増加したことが影響。太陽光や着床式洋上風力は量産による効果で安くなった。火力は二酸化炭素排出対策や円安による燃料代の高騰で大幅に上がった。電力システムに接続したときに追加で発生する「統合コスト」を加味すると、原子力が太陽光を下回る可能性が高いとした。 ◆「再エネへの政策経費が高すぎる」 今回の試算について、龍谷大の大島堅一教授は「原子力は安く見積もられている」と指摘。理由として、 ▽事故対策工事費が新規制基準の審査申請時の価格を基準にしており、許可時までに実際に上昇した分が反映されていない ▽事故発生確率を引き下げる根拠が不十分 ▽福島第1原発の放射性廃棄物処分費が入っていない ーを挙げた。 大阪産業大の木村啓二准教授は再生可能エネルギーの試算について「太陽光や風力にかかる2040年度の政策経費が高すぎる」と指摘。再エネに不利な統合コストについても「電力システムの前提次第で大きく値が変わり、LCOEに単純加算する議論はナンセンス」(大島教授)との批判がある。試算では蓄電池の活用や需給の細かな調整で、統合コストを抑えられる可能性も示された。 *均等化発電原価 実際にある発電所のデータを参考に、建設費、維持費、燃料費を含めた総経費を、運転期間中の総発電量で割って算出する。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)などの国際的な指標となっている。原子力は事故対応費用が膨らむ恐れがあるため、下限値のみを示している。 *5-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1412731 (佐賀新聞 2025.3.2) 【福島事故の教訓】「厳しい要求ためらわず」石渡明・元原子力規制委員に聞く 2011年3月の東京電力福島第1原発事故を招いた古い体質は、14年後の今も完全には解消されていない。「原子力ムラ」とは無縁の地質学者から原子力規制委員会の委員となり、自然災害の審査を担った石渡明さんは、安全を追求するには電力会社に厳しい要求をすることをためらってはいけないと訴える。(共同通信編集委員・鎮目宰司) ▽大津波 ―事故の教訓は何だと考えていますか。 約千年前の平安時代に東北地方の太平洋岸を大津波が襲ったことは、1990年代に東北大の地質学者が論文で公表していました。2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でも同様に大津波が生じ、複数の原発を襲いました。福島第1では可能性を考えた対策をしなかったため、大事故が起きたのです。 ―規制委の前身である経済産業省原子力安全・保安院や東電は公表済みの情報をすくい上げて生かせませんでした。知り得た重要な情報は議論をした上で、必要な点を原発の安全対策にすぐ反映することが大切だと考えています。当時の内情を詳しく知らないので一般論ですが。 ▽活断層 ―2014年、事故後に発足した規制委入りを引き受けたのはなぜですか。 震災直後に岩手県や宮城県で津波の調査をして、悲惨な状況を目の当たりにしました。自然災害への備えをしないと原発が危ないのは明らかでした。委員への就任を打診されて「やらざるを得ない」と。国難ですから。 ―規制委では、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)の断層問題を担当しました。危険性を直視しない体質が見えたと思いますが。 原子炉から約250mの位置に活断層があり、これとは別の断層が原子炉の真下を走っている。真下の断層もずれるのではないかという問題です。ずれる可能性があると分かれば運転は認められません。原電としては「ずれる可能性はない」と、そういうデータを次々と出してくる。一方で不利なデータは無視する。規制委の初期の会合ではかなり戦闘的な態度でした。現地を見て、データを点検すると、原子炉に向かって伸びている断層は何度もずれた結果、岩が幅広くぐちゃぐちゃに壊れていました。壊れた岩の厚さは平均で70cmもある。原電は、この断層は原子炉のかなり手前で消えて直下の断層にはつながらないと説明するのです。驚きました。 ▽重い判断 ―結局、敦賀2号機は規制委の基準に適合しないとの結論でした。 もちろん他にも多くの問題がありました。しかし、原発内を走る活断層は1990年代には専門書で存在が示されていた。原電がこれを認めたのは2008年です。対応が非常に遅いと思います。 ―分かったらすぐ対応するという教訓とは正反対ですね。 いったん運転を許可した後でも、重要な発見や情報が得られれば、対応するまで運転を認めない運用が規制委では新たに可能となりました。重い判断ですが、必要なら積極的に行うべきです。自然災害は本当に予測が難しく、特に原発では安全性を確保するために十分な余裕を持った対策をしておかなければなりません。大地震はもちろん、大津波や火山噴火はめったに起きないので、国内外での情報収集を怠らないことが必要です。 *いしわたり・あきら 1953年神奈川県生まれ。東京都立高教諭などを経て金沢大教授、東北大教授。岩石学、地質学。2014~2024年原子力規制委員。 ▽「言葉解説」東京電力福島第1原発事故 2011年3月11日の東日本大震災で大津波が発生し、浸水した福島第1原発(福島県)では原子炉などを冷却する機器の多くが動かなくなり、一部の原子炉では核燃料が溶け落ち、建物が爆発した。東北地方の太平洋岸では貞観(じょうがん)地震(869年)の大津波などが知られており、福島第1の津波対策を懸念する声があった。東電も経済産業省原子力安全・保安院(2012年に原子力規制委員会に改組)も情報に接していたが、有効な手を打たなかった。 *5-2-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16162119.html (朝日新聞 2025年3月4日) (東日本大震災14年)福島の農業 米作り、福島ブランドを再び 東京電力福島第一原発事故は田畑だけでなく、福島県の農産物のブランドも傷つけた。事故から14年が経ち、県産品離れは解消の方向に向かっているが、試行錯誤は今も続いている。 ■全袋検査を経て、徐々に価格復調 原発事故の前、福島県は主食用の作付面積が北海道、新潟県、秋田県に次ぐ全国4位の米どころだった。県によると、避難指示が出た12市町村には県内全体の農家の15%にあたる1万4600戸がいた。放射性物質による汚染などでの作付け制限は約6800戸の8500ヘクタールの農地に及び、2011年産のコメ生産量は前年比2割減の35万トンに落ち込んだ。特に原発がある沿岸部のコシヒカリの出荷量は、震災前の3万トン前後から3分の1に減った。原発事故は米価の下落も招いた。周囲を山に囲まれ、寒暖差が大きな会津盆地で栽培された会津産コシヒカリは、ブランド米として知られていた。しかし、12年以降に全国平均に近づき、震災前に上回っていた北陸産にも逆転された。福島市や郡山市がある県中央部や沿岸部のコシヒカリの価格は、事故前の全国平均並みから、さらに低い水準になった。JA福島中央会の今泉仁寿常務理事は「売り場の『棚』を他の産地に取られた。その分は業務用米に回った」と振り返る。県産米のうち、約7割は弁当や外食用の業務用米で、比率の高さは毎年全国1~3位を推移している。原発事故後、初めての収穫となった11年秋、佐藤雄平知事(当時)はサンプル調査を元に「安全宣言」を出した。しかし、その後、基準値超のセシウムが検出されるコメが相次ぎ、消費者の不安を招いた。その反省から、県とJAなどは翌12年、約1千万袋(1袋30キロ)の玄米を全て検査する世界初の「全量全袋検査」に取り組んだ。科学的には、地区ごとなどにコメを抽出する「サンプル調査」で十分との指摘もあったが、県内での米の生産額の1割弱にあたる年間60億円をかけ、全て検査するという「消費者向けの分かりやすさ」を重視した。15年産で基準値超のコメがゼロになっても、19年産まで続け、その後も避難指示が出た地域に限って全量全袋検査を続けた。今泉さんは「流通では風評被害が残っているが、消費者の忌避感はかなりなくなった」とみる。県は21年、震災前から開発してきたブランド米「福、笑い」をデビューさせた。栽培の条件を満たした農家に生産を限り、粒が大きく、強い甘みと香りが特徴で、高価格帯での販売をめざす。県産米の輸出も復調している。 ■沿岸部、営農再開一歩ずつ 一方、沿岸部では、原発事故の影響で営農再開ができない地域が残っている。避難指示が出た12市町村全体の営農再開率は、24年3月時点で49・7%だが、26年3月に6割にする目標を掲げる。22年に中心部の避難指示が復興拠点として解除された大熊町では今年、解除されたエリアで稲作の再開をめざす。町農業委員会などが、実証栽培を続けてきたが、収穫された米のセシウムは基準値を下回っている。同会長の根本友子さん(77)は「一歩一歩ですが、一人でも多くの人に大熊のお米のおいしさを思い出してもらいたい」と営農再開の広がりに期待する。 ■急落乗り越え、完全回復めざす 「フルーツ王国」と言われる福島県を代表する果物、モモ。ふるさと納税の返礼品としても人気だが、原発事故では大きな打撃を受けた。2011年度の東京都中央卸売市場における、福島産モモの1キロ平均単価は222円と、全国平均より4割安だった。樹木に付着した放射性物質を除染するため、生産者やJAは次の冬、1本ずつ洗浄した。約460本あるモモの木をすべて高圧洗浄機で洗い流した福島市のモモ農家、大宮篤司さん(67)は「極寒期の作業で身体的にも精神的にも大変だったが、前に進むためには頑張るしかなかった」と振り返る。それでも需要は回復せず、市場には行き場を失った県産のモモが山積みになり、安く買いたたかれた。「売れば売るほど赤字が膨らみ、地獄だった」(JA全農福島幹部)。安全性や味の良さのPRなど地道な活動で、県産モモの平均単価は18年度、原発事故前の10年度(438円)を上回る491円に回復。23年度は627円に上がったが、依然として全国平均よりも1割ほど安い。「一度ついた風評は根深く、完全払拭は容易ではない」と県の担当者は話す。(以下略) *5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1411306 (佐賀新聞 2025/2/19) 核兵器禁止条約 参加こそ「橋渡し」になる 核廃絶の流れに日本政府が背を向けている。3月に米ニューヨークで開かれる核兵器禁止条約の第3回締約国会議について、これまで通りオブザーバー参加も見送ると表明した。核兵器禁止条約は2017年に採択され、21年に発効した。核兵器の開発や実験、保有、使用や威嚇を禁止する。核を巡る国際的枠組みの歴史上、最も踏み込んだ内容で、核を持たない国々や非政府組織(NGO)の取り組みで実現した。だが核拡散防止条約(NPT)で核保有を認められている米ロ英仏中の5カ国を含む核保有国や、米国の核に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国は参加していない。米国の「核の傘」の下にいる日本も加わっておらず、条約の履行状況を話し合う過去2回の締約国会議にも出席していない。日本政府に参加を訴えてきた被爆者の取り組みは、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞で勢いがついた。被団協は1月、石破茂首相と会い、発言もできるオブザーバー参加を要請した。だがこの時、石破首相は明確な考えを示さなかった。政府側からは、あらかじめ「平和賞の祝意を伝えるもので、意見交換の場ではない」として条約には触れないとの意向が示されたという。石破首相は政府の代わりに与党議員を派遣することを検討したが、自民党の森山裕幹事長は「考えていない」と否定。公明党は議員を派遣するが、政府代表ではなく曖昧さは拭えない。日本政府は参加しない理由として(1)核保有国が参加しておらず、実効性がない(2)米国による核抑止力の正当性を損ない、国民を危険にさらす―ことを挙げている。米国に安全保障の根幹を委ねる日本にとって、条約のハードルは確かに高い。しかし今年は被爆80年。被団協のノーベル平和賞受賞という追い風の中、被爆国が今動かなければ一体いつ動くというのか。一番の問題は、政府として参加するにはどんな方法があるか、模索した形跡がうかがえないことだ。日本が米国に協議を持ちかけたような動きも見えず、今回の石破首相とトランプ米大統領の首脳会談でも、議題にすら上らなかった。こうした状況は、条約発効時の菅義偉元首相、さらに広島選出をアピールした岸田文雄前首相の時から変わらない。それだけ難しい問題だとも言えるが「なんとか参加したいが、できない」ではなく、最初から行かない理由を探しているようにしか見えない。NATO加盟国でもドイツやノルウェー、ベルギーなど、これまで締約国会議にオブザーバー参加し、意見表明した国がある。そのことで、条約に加わるかどうか、すぐに決断を迫られるようなことにはなっていない。「核保有国と非保有国の橋渡しをするのが日本の役割」というのが政府の立場だ。そうであれば、オブザーバー参加して被爆当時の状況や被爆者の現状を説明し、核による惨禍を訴えるべきだ。条約に参加できないのであれば、その理由を明確に伝えることも必要だ。核保有国がその場にいないとしても、メッセージは伝わる。そのことがまさに「橋渡し」になるのではないか。 <トランプ関税と日本> PS(2025年4月6、7日追加):*6-1-1・*6-1-2は、①トランプ米政権は全世界に対する一律10%の関税・国毎の関税率「相互関税」を発表 ②米国外製造の全輸入車は、自動車メーカーの生産拠点を米国に移設させるため、現行に上乗せして25%の関税を発動し、乗用車は2・5%から27・5%・一部トラックは25%から50%に ③2029年1月まで続く第2次トランプ政権の適用除外なき恒久措置 ④日本の自動車産業に大打撃 ⑤米国外生産の主要自動車部品にも25%の関税発動 ⑥原則無課税で輸出入できる「米国・メキシコ・カナダ協定」に適合した自動車は米国製部品使用割合に応じて関税率引き下げ ⑦日産自動車は今夏にも米国向け主力車の国内生産を一部現地生産に切り替え ⑧生産移管は中小の部品サプライヤーに打撃 ⑨トヨタ自動車の北米法人は、メキシコ・カナダからの輸入分を対象として現地の部品メーカーに関税に伴うコスト上昇対応を支援すると伝え、米国での販売価格は当面維持する方針 ⑩自動車は日本の基幹産業で、製品出荷額は国内総生産(GDP)の約1割に相当 ⑪生産移管はGDPの押し下げに繋がるため、政府は国内の空洞化対策を急ぐ必要 としている。 日本のメディアは、①②③④のように、トランプ関税とそれが日本の基幹産業と言われる自動車の輸出に与える影響について多くを語っているが、下の段の左図及び⑦⑨のように、自動車メーカーは米国販売の高い割合を既に現地生産しているため、その割合を高めれば問題解決できる。また、⑤⑧の自動車部品メーカーは、現地生産について行くか、これを機会に日本国内で他産業の部品や完成品も作る等の前向きなことを考えた方が良い。他国は進歩しているため、日本だけがいつまでも⑩⑪のように、自動車のみを日本の基幹産業とし、加工貿易の比較優位幻想にとらわれて、アメリカが関税を上げればGDPが下がるなどと言いながら現状維持に汲々としていると、世界では経済的地位も生活水準も現状維持すらできずに次第に落ちていくものだ。なお、⑥のように、原則無課税で輸出入できたためメキシコに作ってしまった自動車工場は、最初に自動車の大量生産を行い、従業員の賃金を上げて従業員が「T型車」を買えるようにして、従業員を広告塔としてT型車を大量販売することに成功し、資本主義のうねりを生んで20世紀の社会まで変えた米国フォードのマーケティング方式を使えば良いと思う(https://www.webcg.net/articles/-/44857 参照)。それでは、「日本国内に残る部品メーカーが入るべき他産業は、どれが有望か」と言えば、これから国内で大量のインフラ更新が必要で、新しい街作りや最新技術を取り入れた住居への更新もしなければならないことを考えれば、自らの得意技をさらに磨いてそれらの分野に進出するのが良いと思う。また、今後、ブルーオーシャンになりそうな有望分野の例を示すと、*6-3-1のようなAI搭載ロボット(1台ですべてをこなす必要はない)や、*6-3-2のような幹細胞(iPS細胞に限らない)による再生医療に使う細胞増殖そのものや増殖装置の生産もあり、新しいアイデアを製品にして市場投入できるためには、これまで培ってきた精緻な技術が必要であるため、有望分野は多い。また、私は、日本で販売する米国製品や中国製品(BYD等)も日本で作るよう促してもらいたい。 また、*6-2-2は、⑫トランプ米大統領が「我々の友人(日本)が、私たちに米やその他を売らせたくないから(米国産の米に)700%の関税を課している」と語った ⑬日本政府は米・農家を守るため、米の輸入を原則認めてこなかったが、1995年に方針転換した ⑭無関税で米を輸入するミニマム・アクセス米以外は、341円/kg関税をかけている ⑮日本政府は2000年代のWTO交渉で米の国際的な平均価格を約44円/kgとして参考値で「778%」との高めの関税率を示したことがある ⑯直近の米国産うるち精米中粒種(23年度)は約150円/kgであるため、341円/kgの関税を率にすると227% としている。 令和6年産の日本産米は、Amazonで調べると、北海道産ゆめぴりか1,080円/kg、佐賀県産さがびより1,420円/kg、熊本県産ヒノヒカリ1,449円/kg、新潟県産コシヒカリ1,118円/kg、岡山県産あきたこまち976円/kgであるため、*6-2-3のように、関税を払っても米国産米491円/kgの方が安いが、⑯の227%の関税も十分に高関税であり、日本人はこれを払っているのだ。そのため、⑫~⑮のように、トランプ米大統領の古い思い込みを批判する前に、この外圧を利用して米はじめ農産物も自由貿易化し、日本国民や他産業に迷惑をかけないようにすべきだ。その時、食糧安全保障を堅持して農家を護る方法は、下の段の図の説明に書いたとおり、農家の農業法人化・大規模化を促し、スマート農業を普及させてコストダウンさせながら、直接支払に替えて農家に再エネ発電設備設置補助を十分に行なって電力収入を農家の副収入に加え、同時にエネルギー安全保障と環境維持を達成することである。そして、これは、私は10年以上前から言っていることで、その間、真面目に進めていればとっくに実現できており、無駄なバラマキをせずにすんだのである。 なお、日本農業新聞論説は、*6-2-1のように、⑰米国は貿易赤字が膨らみ、2024年は約1兆2000億ドル(約185兆円)で過去最大 ⑱トランプ大統領は「国家非常事態に当たる」「米国経済を復活する」と強調する ⑲米国の貿易赤字の大半は自動車・その部品・半導体など工業製品によるもので、農林水産物は米国が圧倒的な貿易黒字であるため、米の関税を持ち出すのは筋違い ⑳「相互関税」の公表に先立ち米通商代表部(USTR)は、日本の牛肉やジャガイモなどの検疫体制も問題視した 等としている。 このうち⑰⑱については、米国も双子の赤字が大きく、GDP2位の中国に迫られ、輸入ばかりしているわけにはいかない状況なのだから、日本の農業もあちこちに甘えてばかりでは困る。また、⑲の工業製品は自助努力で世界競争に勝っている部分が大きく、「農林水産物は米国が圧倒的な貿易黒字」というのも、あらゆる方法で改善すべきだ。しかし、下の段の中央の図のように、農業は誤った保護の仕方をして本来ある活力を抑え続けたため、改革してもそれが成長に繋がらず、農業人口も食料自給率も減り続けているという実績なのである。そして、日本の財政赤字/GDPは、250%を超え、米国の120%程度の2倍以上であることも忘れてはならない(https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/900009877.html 参照)。 ![]() 2025.1.25日経新聞 2023.1011世界コネクト GDFreak (図の説明:左図は、日本の最近20年の貿易収支の推移で、2011年以降は赤字続きであるため、トランプ関税を馬鹿にできるような状態ではない。また、中央の図は、2019年の輸出《約11兆円》輸入《13兆円》の内訳で機械類・輸送用機器の輸入も多く、実際に日本製の電気製品を探すのは難しいくらいであるため、「日本が加工貿易に比較優位性を持つ」などという状態はとっくに失われており、右図のように、中国はじめアジア各国が、安い物価水準と安価な労働力を背景に、日本に輸出しているのだ) ![]() すべて、2025.4.6日経新聞 (図の説明:左図は、日本の基幹産業と言われている自動車メーカーの米国販売額を現地生産と日本からの輸出に色分けして示したもので、既に現地生産の割合が高いので、それをさらに増やせば問題解決できる。中央の図は、日本のコメ輸入を巡る動きで、1995年までも食管法があったが、1995年にこれを廃止して食糧法を施行したものの、2004年までは価格が市場で決まらなかった上、未だに著しい高関税で国内産のコメを護っている。そして、右図のように、輸入米は米国産が最も多いため、そろそろ関税をなくして農家の農業法人化・大規模化を促すと同時に、直接支払に替わる農家への再エネ発電設備設置補助を十分に行なえば良いと思う) *6-1-1:https://mainichi.jp/articles/20250403/k00/00m/020/077000c (毎日新聞 2025/4/3) トランプ政権、25%の自動車関税を発動 日本の自動車産業に大打撃 トランプ米政権は3日、米国外で製造された全ての輸入車に対する25%の関税を発動した。現行の関税に上乗せする形で、乗用車が2・5%から27・5%、一部トラックは25%から50%に引き上げられる。適用除外は設けず、2029年1月まで続く第2次トランプ政権の恒久的措置としている。日本の自動車産業に大打撃となる。海外にある自動車メーカーの生産拠点を米国に移設させる狙い。3日午前0時1分に発動すると明記した布告に、トランプ大統領が署名していた。米国外で生産された主要自動車部品に対しても、5月3日までに25%の関税を発動する。原則無課税で輸出入できる「米国・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)に適合した自動車については、米国製部品の使用割合に応じて関税率を引き下げる。USMCAに適合した部品に関しては、非米国産部分のみに課税できるプロセスを確立するまで適用されない。トランプ氏は2日に全世界に対する一律10%の関税や、国ごとに関税率を分けた「相互関税」を発表したが、自動車や主要自動車部品には適用されない。 *6-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250406&ng=DGKKZO87855040W5A400C2MM8000 (日経新聞 2025.4.6) 日産、米に生産一部移管 輸出回避、国内で減産 中小供給業者に影響恐れ 日産自動車が今夏にも、米国向け主力車の国内生産を一部現地生産に切り替える検討に入った。生産を担う福岡県の工場で減産し、輸出を回避してトランプ米政権が発動した追加関税の影響を抑える。生産移管は中小の部品サプライヤーに打撃となる。政府は国内の空洞化対策を急ぐ必要がある。日産は多目的スポーツ車(SUV)「ローグ」の国内生産の一部を米国に移管する方向で検討している。ローグは米国の主力車で、福岡県にある工場と米国の工場で生産している。追加関税の発動後に国内からの生産移管の動きが明らかになるのは初めて。日産の2024年の米国販売は約92万台で、そのうち16%の約15万台を日本から輸出している。主力拠点である福岡の工場は年50万台の生産能力があり、ローグを年12万台程度生産している。減産は一定規模になるもようで、中小のサプライヤーを中心に地域経済に影響が出る恐れもある。過去には海外への生産移管により、国内工場の縮小につながったことがある。日産は国内のサプライチェーン(供給網)を維持するために100万台必要だった。生産台数は24年に約66万台まで減っており、日産の国内生産の再編にも追加関税が影響を与える可能性がある。業績不振の日産は構造改革の一環で、4月以降に米国工場の生産ラインの一部でシフトを半減し、ローグなどを減産する計画だった。追加関税の発動を受けて減産計画を撤回し、一転増産する方針を決めた。トランプ政権が発動した関税政策では、日本などから輸入する自動車に対して25%の追加関税がかかる。福岡県で生産した車両は米国への輸出コストがかさむことになる。日産は日米で車両生産を調整し、関税の影響を抑える。今後、他の自動車メーカーでも国内から米国への生産移管が広がる可能性がある。自動車は日本の基幹産業で、製品出荷額は国内総生産(GDP)の約1割に相当する。生産移管はGDPの押し下げにつながるため、国内の空洞化対策は大きな課題となる。政府は中堅、中小の自動車部品メーカーの事業強化に向けた支援にも取り組む。副大臣や政務官などを自動車産業が集積している地域、関連工場に派遣する。他の日本の自動車メーカーも対応策を急いでいる。トヨタ自動車の北米法人は現地の部品メーカーに、関税に伴うコスト上昇への対応を支援すると伝えた。メキシコ・カナダからの輸入分を対象とし、米国での販売価格は当面維持する方針だ。トヨタは日本のメーカーで最も多く自動車を日本から米国に輸出している。日本の取引先については「当面のオペレーションを維持する」と伝えており、日本から輸出する分については今後、対応を検討するようだ。 *6-2-1:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/298480 (日本農業新聞論説 2025年4月4日) 米国の相互関税と日本 農業への悪影響許すな 米国が貿易相手国に同じ水準の関税をかける「相互関税」を導入し、日本からの輸入品に24%の関税を課す。トランプ大統領は、日本が米にかけている関税にも言及した。一方的な措置は、世界貿易機関(WTO)協定に反するだけに、関係国と協調し、見直しを強く求めるべきだ。米国は貿易赤字が膨らみ、2024年は約1兆2000億ドル(約185兆円)と過去最大に膨らんだ。トランプ大統領は「われわれの生活を脅かす国家非常事態に当たる」とし、関税措置で「(米国経済を)復活する」と強調した。相互関税は、安全保障上の脅威に対する国際緊急経済権限法に基づくもので、中国には34%、韓国には25%、欧州連合(EU)には20%をかける。これとは別に、輸入車には25%の追加関税を導入した。各国の反発は必至であり、「貿易戦争」につながる恐れがある。日本に24%の関税をかける根拠については、日本が米国からの輸入品にかけている関税が平均で46%になっていることを挙げた。その一例としてトランプ大統領は、日本の米を引き合いに出し、「700%の関税を課している」と言及した。高関税を印象づけようとするもので到底、容認できない。米国の貿易赤字の大半は自動車とその部分品、半導体など工業製品によるものだ。農林水産物は、米国が圧倒的な貿易黒字であり、米の関税を持ち出すのは筋違いである。日本が外国から米を輸入する場合、WTO協定に基づき、年間77万トンものミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)と1キロ当たり341円の関税をかけている。第1次トランプ政権時に締結した日米貿易協定でも認められ、共同声明で「協定が誠実に履行されている間、協定と共同声明に反する行動を取らない」としていた。米国の姿勢は、約束を反故(ほご)にするものだ。「相互関税」の公表に先立ち米通商代表部(USTR)は、日本の牛肉やジャガイモなどの検疫体制も問題視した。今後、非関税障壁として圧力も強まるとみられる。日本の農業は、幾多の貿易自由化の結果、生産基盤は弱体化し、食料自給率(カロリーベース)は38%に低迷している。政府・与党は、農林水産物・食品の輸出に力を入れ、30年までに5兆円を目指す。茨城大学の西川邦夫教授は「日本の米輸入制度がターゲットになっていることは明らか。輸出戦略の見直しが迫られる」と指摘する。自動車産業を守るために、日本の農林水産物、農業・農村を犠牲にするようなことがあってはならない。 *6-2-2:https://digital.asahi.com/articles/AST443FLPT44UTIL004M.html (朝日新聞 2025年4月5日) トランプ大統領「日本は輸入米に関税700%」 発言は「誤り」 【トランプ米大統領の発言】「日本では、我々の友人(日本)が(米国産の米に)700%の関税を課しているが、それは私たちに米やその他のものを売らせたくないからだ」(4月2日、米ワシントンのホワイトハウスでの「相互関税」に関する発表で)。トランプ米大統領が2日にホワイトハウスでの「相互関税」に関する発表で語った。江藤拓農林水産相はその後、報道各社の取材に「論理的に私も計算しても、そういう数字が出てこない。なかなか理解不能だ」と述べた。 ●一定枠超えた輸入米、1キロ341円の関税 政府は主食である米や農家を守るため、米の輸入を原則認めてこなかったが、1995年に方針転換した。無関税で米を受け入れる最低枠「ミニマム・アクセス(MA)」を設け、現在は年間約77万トンを輸入し、米国が最も多く半分近くを占める。一方、この枠外で輸入した米には価格に関わらず、1キロあたり341円の関税をかけ、2024年度は今年1月末時点で991トン(暫定値)を輸入する。ランプ氏が示す「700%」の根拠は不明だ。しかし、日本政府は2000年代の世界貿易機関(WTO)の交渉で、米の国際的な平均価格を1キロあたり約44円とし、参考値で「778%」との高めの関税率を示したことがある。最初の設定が高ければ、交渉で関税率を引き下げても、一定の税率を維持し、輸入量を抑える狙いだったとみられるが、現在はこの数字は当てはまらない。 ●「トランプ氏にうまく使われている」 元農水官僚で、国際貿易交渉に詳しい明治大の作山巧専任教授に関税率の試算を依頼した。農水省によると、直近の米国産うるち精米中粒種(23年度)の価格は1キロ当たり約150円で、関税率に換算すると227%と、トランプ氏が主張する「700%」には遠く及ばなかった。作山氏は「かつての交渉では日本が米を守るために高い関税率を示した。それをトランプ氏にうまく使われているのでは」と指摘する。 ●結果判定=「誤り」 政府は無関税で米を輸入する一定量の枠を設け、この枠外で輸入する米には1キロあたり341円の関税を課す。専門家が直近の米国からの輸入米の価格(2023年度、1キロ当たり150円)を元に、341円で関税率を試算すると、227%だった。 *6-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250406&ng=DGKKZO87854770V00C25A4EA2000 (日経新聞 2025.4.6) コメ政策、内外から圧力 米騒動や関税で強まる 「閉鎖的」批判、改革促す 日本の閉鎖的なコメ政策に内外から圧力が強まっている。「令和の米騒動」を受けて小売りや外食業界はコメ輸入のニーズを高め、米国も日本の高関税の象徴としてやり玉に挙げる。農家保護を優先した守りの農政を脱し、増産や農地集約といった改革路線への転換が欠かせない。農林水産省の農林水産物輸出入情報によると1~2月の米国産コメの輸入量は7万423トンで前年同期比19%増だった。貿易統計を基に分析すると政府経由の輸入が全体の99%以上を占める。民間輸入も58トンと少量ながら3倍になった。小売りや外食で外国産コメを使う動きが広がっている。24年夏にスーパーなどの店頭からコメが消えた「令和の米騒動」が引き金となった。イオンは10日ごろから米国産と国産のコメをブレンドした新商品「二穂の匠」を発売する。米国産と国産を8対2の比率でブレンドし、4キロ2780円(税抜き)と割安感を出す。兼松は12月までに1万トンを輸入する見込みだ。吉野家ホールディングスは牛丼チェーン「吉野家」で2024年春から国産米と外国産米のブレンド米に変更した。輸入米を扱う大手卸の担当者は「外食産業はコメを使ったメニューをなくせない危機感がある。調達の選択肢として輸入米を求めている」と明かす。国産米の価格高騰によって、足元では輸入米の方が割安になっていることも一因という。農水省は25年1月に備蓄米放出にかじを切った。計21万トンの備蓄米を入札2回に分けて市場に順次供給しているものの価格抑制の効果はなお限定的だ。農水省によると、スーパーのコメ5キログラムの平均価格(3月17~23日)は4197円だった。前年同期比で2倍超の高値が続く。この状況が米国には好機と映る。「強い輸入需要を反映している」。米通商代表部(USTR)が3月末に公表した25年の貿易障壁報告書はあるデータに着目し、こう強調した。日本政府が無関税で輸入したミニマムアクセス米を国内の卸業者などが落札する際、国に事実上の関税として支払うマークアップ(輸入差益)だ。制度を導入した1995年度以降、輸入差益が24年末に初めて上限の1キログラム292円に達したことをUSTRは見逃さなかった。トランプ米大統領も2日の相互関税の発表時、日本が「コメに700%の関税をかけている」と非難した。通商問題に詳しいオウルズコンサルティンググループの菅原淳一シニアフェローは米政権にとって700%という数字が「不公正さを強調するのに都合がよく、関税の正当性を示す上でインパクトがある」と指摘する。米国産コメの主産地はカリフォルニア州など民主党の地盤が多い。従来は共和党政権にとって日本のコメ市場の開放の関心は薄いとされてきた。その状況に変化が生じつつある。米国の高関税政策への対抗として農産品に報復関税を設ける国が相次ぎ「米国内で農業者の不満を抑える必要が出てきた」(菅原氏)ためだ。トランプ氏らが日本のコメ関税に重ねて言及する一因とみられる。江藤拓農相は700%という主張は「理解不能だ」と反発する。関税はキロあたりの従量制で、輸入価格に定率の税をかけていない。700%という税率はそもそも存在しないという立場だ。米国側の主張に不正確さがあったとしても、日本のコメ政策が閉鎖的だとの指摘は否めない面がある。国内外で同時に高まる圧力は日本の農政転換の契機になる。コメ価格を下げすぎないことが農水省にとって長年の最重要課題だった。国内の主食用米の需要は人口減を背景に年10万トンほどのペースで減っている。国が産地ごとに生産量を割り振る減反政策は18年に終了したものの補助金を通じた実質的な調整は続く。そのひずみが米騒動であらわになった。JAや大手卸以外の小規模業者の参入が相次ぎ、在庫の全体像を正確につかめない政府の不備も混乱に拍車をかけた。米価高騰が常態化すれば個人消費の重荷になりかねない。 農水省によると、農業を主な職業とする基幹的農業従事者(概数値)は24年に前年比4%減の111万人で、05年の半数ほどに減った。65歳以上の担い手が7割を占め、後継者不在を理由とした耕作放棄が一気に進む可能性がある。東京大の鈴木宣弘特任教授(農業経済学)は「農産物が関税を巡る交渉カードになる可能性はある。コメ輸入によって価格が下がりすぎれば日本の農家は立ちゆかない。もし輸入が途絶した場合、食料危機に直結することにも注意が要る」と指摘する。国土の維持や食料安全保障の観点から農家を支援する仕組みは欧州などで例がある。「国内の増産を支援しつつ、コメ農家の収入を補填するような仕組みの構築が必要だ」と話す。水田集約などを通じて生産性を高める取り組みも不可欠になる。農業全般に意欲ある働き手の新規参入をしやすくし、人工知能(AI)など最新のデジタル技術を活用したスマート農業を普及させることも急務だ。従来型のばらまき補助金では実現は難しい。規模や立地の観点で高い生産性を実現できる農業従事者を重点的に育てる仕組みも検討が必要だ。用水路などのインフラを維持するためにも一定の集約は避けられない。米国の高関税政策は世界の自由貿易体制を揺るがした。食料の多くを輸入に頼る日本にとって国内農業を強くする政策が求められる。 *6-3-1:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250103-OYT1T50003/ (読売新聞 2025/1/8) スマホのように、1人1台のロボット…AI進歩で「夢物語ではない」近未来 ●[AI近未来]第1部<1> 「今から持ち上げますね。どこか不快感はありますか」。ベッドに寝かせたマネキンに、人型ロボットが話しかける。左手を背中に差し伸べ、起き上がらせようとするロボット。キッチンを模したスペースでは、容器に入ったお茶を一滴もこぼさずコップに注いでみせた。東京都新宿区にある早稲田大の次世代ロボット研究機構。産学の開発チームを率いる同大の菅野重樹教授(66)が、我が子を見守るようにその様子を見つめる。1人に1台、一生寄り添う――。4月に開幕する大阪・関西万博では、そんなコンセプトの人型スマートロボット「AIREC(アイレック)」が披露される。アイレックの頭脳にはAI(人工知能)が搭載されている。人間がロボットの手や腕を遠隔操作することで、AIが人の動作を学習。体を起き上がらせたり、トイレを掃除したり、様々なスキルを習得した。料理にも挑戦中。スクランブルエッグなら、フライパンで卵の固まり具合に合わせた混ぜ方をマスターした。菅野教授は、アイレックが人の暮らしを支え、人と共生する社会を思い描く。10年先には、人の指示を受けて洗濯物を畳んだり、火加減が難しいオムレツを作ったり、人を手助けする動作が増える。家事だけではなく、健康も管理。人の体に機器を当てて超音波検査を行い、病気やけががないか調べる能力も身につける。そして2040年、アイレックは研究室を飛び出す。50年には社会に溶け込んで、人の意図をくみ取って動き回る。家の中では、住人の指示がなくても率先して好みの料理を作ったり、掃除をしたりする。住人の体調が悪く、歩くのも難しければ、車いすに乗せて病院に付き添う。「スマートフォンのように、生まれた時からロボットが家庭にいて人を支える未来が待っている」と語る菅野教授。1970年の大阪万博では、携帯電話の原型「ワイヤレステレホン」や「動く歩道」が注目され、今や社会に広く普及した。スマートロボットの構想も決して夢物語ではない。人とロボットが一緒に暮らすうちに、人は、家族のように愛情を抱き、ロボットも人の感情や価値観を理解して動く日が来る――。菅野教授は、開発の延長線上にそんな未来を予想する。AIの進歩によって、人の暮らしや社会のありようは、さらに変容する可能性を秘める。野村総合研究所によると、世界のAI研究者約2800人への調査を基にした論文(2024年)では、今後10年以内に、〈ロボットが洗濯物を畳む〉〈小売店の従業員がロボットに置き換わる〉といった変革が50%の確率で実現する可能性があるとされた。野村総研の森健デジタル社会・経済研究室長は「2030年代にはAIの搭載されたロボットが、一部の肉体労働も担い始めるとの見方が多い」と話す。研究者の間では、AIの近未来に楽観と悲観が交錯している。同論文では、68%の回答者が「良い結果の方が悪い結果よりも起こりやすい」とした。一方、「人類滅亡のような極端に悪い結果が起こる可能性がゼロではない」とする回答者も58%に達した。AIによって暮らしの豊かさや経済成長、医療の進歩などが期待される一方、雇用の喪失や、偽情報の拡散による社会の分断、軍事への悪用といった懸念は根強い。 ◇ 人間と会話しているかのような文章を生み出す生成AIが急速に広まってから2年余り。さらに進化を続けるAIは「ドラえもん」のように人を手助けしてくれるパートナーになるのか。それとも、人の知能を超え、人類の命運を左右する脅威になるのか。AI社会の近未来を展望する。 *6-3-2:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20250321-OYT1T50142/ (読売新聞 2025.3.21) iPS細胞移植後に2人の運動機能が改善、脊髄損傷患者が自分で食事をとれるように…世界初 慶応大などの研究チームは21日、脊髄損傷で体がまひした患者4人にiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した細胞を移植した世界初の臨床研究で、2人の運動機能が改善したと発表した。2人は食事を自分でとれるようになり、うち1人は立つことができたという。チームは「移植した細胞が損傷を修復した可能性がある」とみている。臨床研究を行ったのは慶大の中村雅也教授(整形外科)、岡野 栄之ひでゆき 教授(生理学)らのチーム。横浜市で開かれている日本再生医療学会で結果を報告した。発表によると、患者は受傷後2~4週間の18歳以上の4人で、受傷した首や胸から下の運動機能や感覚が完全にまひした。チームは健康な人のiPS細胞から神経のもとになる細胞を作り、2021~23年、患者1人あたり約200万個の細胞を傷ついた脊髄に移植。患者は機能回復を促す通常のリハビリなどを続けた。移植の約1年後に有効性を検証した結果、運動機能の5段階のスコアが1人は3段階、1人は2段階改善した。残る2人は治療前と同じスコアだったが、改善はみられたという。今回の臨床研究は安全性を確認するのが主な目的で、重い健康被害は確認されなかった。有効性はさらに精査する。チームはまひが固定した慢性期患者を対象にした治験を27年に行う方針を明らかにした。脊髄損傷は交通事故などが原因で、国内の新規患者は年間約6000人。慢性期の患者は10万人以上とされる。
| 経済・雇用::2023.3~ | 01:27 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2025,01,17, Friday
(1)日本製鉄によるUSスチール買収の経緯
![]() 2025.1.5日経新聞 2025.1.7日経新聞 2025.1.8山陽新聞 (図の説明:1番左の図は、2023年12月18日に日鉄がUSスチールの買収計画を発表し、それと同時にUSWが反対を表明して政治を巻き込み、2025年1月3日にバイデン大統領が買収計画阻止を発表するまでの経緯で、左から2番目の図がバイデン大統領の声明骨子だ。バイデン大統領のUSスチールの買収中止命令を受けて、日鉄とUSスチールは、右から2番目の図のように、バイデン大統領に対する行政訴訟とクリーブランド・クリフス及びUSW会長に対する民事訴訟を起こした。また、訴訟された相手方は、1番右の図のような発言をし、訴訟準備をしている) *1-1-1のように、「最終判断は大統領に委ねる」としたCFIUSの判断によってバイデン米大統領が2025年1月3日に出された米鉄鋼大手USスチールの買収中止命令について、日鉄の橋本CEOは1月7日に記者会見を開き、①安全保障に関する米当局の審査は結論ありきの政治介入だ ②買収計画を諦める理由も必要もない ③日鉄のUSスチール買収を阻止したい競合クリーブランド・クリフスが全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長と連携してバイデン氏に働きかけた ④国家安全保障の観点から審査されたのでないことを示せればバイデン氏らとの裁判に勝訴できる ⑤関税政策だけで産業が強くなるわけではなく、日鉄の独自技術をUSスチールに供与することでUSスチールの立て直しに繋がって米国の国家安全保障強化に資する ⑥(トランプ氏は)製造業を強くして製造業の労働者に豊かな暮らしと明るい未来を与えたいと言っており、買収計画はその趣旨に沿う と述べられ、⑦1月6日に日鉄とUSスチールは買収を巡る政治介入でバイデン氏らを、違法な買収妨害行為でクリフスとゴンカルベスCEO及び全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長を提訴した と述べられたそうだ。 そして、*1-1-2は、日鉄の森副会長兼副社長も、⑧理不尽な扱いを受けて引き下がるわけにはいかないため、徹底抗戦する ⑨訴訟の狙いは買収実現に向けた対応であり、必要な措置を粛々と実行する ⑩対米外国投資委員会(CFIUS)の安全保障上の審査は「当社が自主的に示した国家安全保障協定案に書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも質問や懸念の表明は全くなく、誠実さに欠ける」 とされている。 このうち、③については、*1-2-1・*1-2-2のように、米CNBCテレビが、1月13日、⑪米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携してUSスチールを買収する可能性がある ⑫クリフスがUSスチールを全額現金で買収し、買収後にUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」のニューコアへの売却を検討している ⑬クリフスは当初USスチール買収に意欲を示していたが、日鉄に競り負け、日鉄による買収が失敗した場合はUSスチールを買収するとしていた ⑭クリフスの買い取り額は$30/株台後半で日鉄の同$55/株を下回る ⑮クリフスは買収後、USスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す 等と報道しており、クリフスのゴンカルベス最高経営責任者(CEO)もペンシルベニア州の工場で開いた記者会見で、⑯「私には(USスチール買収の)計画があり、日鉄が現在の買収計画を破棄することが買収の前提になる」と述べられたことから確かだろう。 しかし、合併や買収には反対する人が必ずいるため、実行時まで秘密にしておくのが普通だが、日鉄は、i)競り合った時点で秘密にできなくなり、反対派が政治を巻き込んでしまっている。また、⑬⑭のように、クリフスと競りあった時のクリフスの買い取り価格は$30/株後半であるのに、日鉄はその倍近い$55/株で買おうとしており、ii)クリフスの2倍近くの高い価格で買えば、USスチールの収益力や資産価値から見て高すぎるのではないかという危惧がある。さらに、iii)買収が成立しない場合は(どのような事情でも?)日鉄がUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する可能性がある というのも、日鉄が結んだ買収契約の甘さと売り手市場を感じさせる。 そのため、ii)の理由から、*1-3のように、USスチールのCEOも日鉄と共同で、⑦のように、バイデン氏やクリフスとゴンカルベスCEO、USWのマッコール会長を提訴しているのだろうが、日鉄もまた提訴でもしなければ、iii)によって、(このような事情でも?)USスチールへの5億6500万ドル(約890億円)もの違約金支払義務が生じる羽目になっているのだ。 一方、*1-1-1のように、トランプ次期米大統領は「関税によって、USスチールは、より高収益で価値のある企業になる」と投稿しておられ、USWの組織票を目当てにトランプ氏とバイデン氏が買収計画に反対したのであれば、①②④⑥はいばらの道になる。また、USスチール買収に反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長は、記者会見で「バイデン氏が決めた買収阻止は、トランプ次期政権でも覆らない」と述べられ、同日の声明で買収阻止を歓迎し「組合員や国家安全保障にとって正しい行動であることに疑いの余地はない」とされている。 さらに、*2-5のように、イエレン米財務長官が「日本製鉄によるUSスチール買収計画への中止命令については、大統領に提出するため徹底的に分析した」と述べられており、政府横断組織の対米外国投資委員会(CFIUS)が詳細に分析・審査した結果、バイデン米大統領に最終判断を委ね、バイデン米大統領が買収中止命令を出したという段階を経ているため、⑧のように、「理不尽な扱い(日本にもよくあるが、日本人が米国で訴訟をすれば不利)を受けて引き下がるわけにいかない」のはわかるが、⑨のように、訴訟が買収実現に繋がるとは考えにくい。 また、⑩の「CFIUSの安全保障上の審査は日鉄の国家安全保障協定案に書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも質問や懸念の表明が全くなく、誠実さに欠ける」というのも、安全保証とさえ言えば非公開の部分が多く許されるため、一蹴されそうであるし、日鉄は、*2-1及び*2-4のように、USスチールの買収を通じて米国事業を強化するため、経済合理性を無視した必要以上の譲歩をしているように見える。 なお、⑪⑫のように、米鉄鋼大手クリフスは米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携してUSスチールを買収し、クリフスがUSスチールを全額現金で買収した後にUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」をニューコアに売却することを検討しており、*2-3のように、日鉄がUSスチール買収を巡る違法な妨害行為で提訴したことを受けて、USWは強く反論する姿勢を示し、クリフスは訴訟準備を整えているそうだ。 さらに、*2-4のように、USWのマッコール会長は、⑰USスチールは日鉄による買収提案以前に老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先した ⑱日鉄は買収後もUSスチールのこの計画を踏襲し、電炉に生産を移すことは明らかで、雇用を脅威にさらす」と批判し、これに対し日鉄は2024年12月30日、米政府に、⑲買収後もUSスチールの製鉄所の生産能力を10年間減らさず、減る可能性がある場合に米政府は拒否権を発動できる などと提案している。 私は、⑲については、“生産能力”があったとしても需要のないものを作り続けることはできないため、マッコール氏の「この提案は不可抗力を含む」に私は賛成であるし、日鉄も「10年間」という制限をつけている上、民間企業の稼働に政府が拒否権を発動するというのは、自由主義・市場経済の放棄であって、米国にはなじまないと考える。そのため、これは、必要以上で経済合理性のない譲歩である。 なお、米政府の買収中止命令という不可抗力でも「買収が成立しない場合は、日鉄がUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する」という契約を本当に締結しているとすれば、それは異常に甘い契約である。そのため、違約金を回避するには、日鉄が米政府を提訴することが必要不可欠になるのかも知れないが、そういう不利な契約を結ぶようでは、米国での事業はおぼつかないのだ。 また、*2-4で、マッコール氏はUSスチールのブリット最高経営責任者(CEO)ら経営陣が日鉄による買収が成立した場合に報酬を獲得することを取り上げているが、何かと多くのメリットがあるから、*1-3のように、ブリット氏はバイデン米大統領が日本製鉄の買収を阻止したことに「バイデン氏の行動は恥ずべきもので腐敗している」という声明を出してくれたのだろう。 (2)今後とればよいと思われるスキーム変更 ![]() 2025.1.5日経新聞 2025.1.11東京新聞 2025.1.14日経新聞 (図の説明:左図のように、日本からの対米直接投資残高は5年連続最多だが、日本からの投資を減らせば他国が上回るだけである。また、中央と右の図が、ロサンゼルス火災の跡だが、東日本大震災の時と同様、信じられないほどの規模であり、各国の救援が必要と思われる) 金融緩和だけで産業が強くなるわけではないのと同じく、⑤のように、関税政策だけで産業が強くなるわけではないが、日鉄の“独自技術”というものが電炉であれば、それはUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」もニューコアも持っている技術であるため、特にUSスチールの立て直しに繋がって米国の国家安全保障強化に資するとは言えないだろう。 しかし、米政府が買収中止命令を出すという不可抗力があり、⑮のように、クリーブランド・クリフスは、「買収できた後にはUSスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す」と言っており、⑯のように、「日鉄が現在の買収計画を破棄することが、リーブランド・クリフスによるUSスチール買収の前提になる」ということなので、USスチールが会社分割して日鉄とジョイントベンチャー(US-Japanスチールと名乗る)を作り、ジョイントベンチャーに行かなかった方をクリーブランド・クリフスに売却すれば、日鉄は違約金を支払わずに済み、利害関係者全員が望みを叶えられる。 そして、*1-2-1は「買収計画を審査してきたCFIUSはバイデン氏の命令を受けた計画の破棄期限を当初の2月2日から6月18日まで延長することを決めた」としているため、USスチールは、2025年3月末等の早い時期に会社分割し、米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残るA集団と、US-Japanスチールとしてロサンゼルスかペンシルベニア州南部に本社を置くB集団に分けて資産査定を行なう必要があるが、これはBig4の監査法人に依頼すれば正確にできる。 なお、USスチールの会社分割過程で、ペンシルベニア州ピッツバーグに残るA集団には、クリーブランド・クリフス組に行きたい労働者と設備、US-Japanスチールには日鉄組に行きたい役員と労働者・設備を移すようスキーム変更をすれば、日鉄はUS-Japanスチールに投資することによって無駄なカネを使わずに新技術を用いる工場に設備投資することができ、これは、USスチールのブリット最高経営責任者(CEO)はじめ経営陣の意志決定によって可能である。 もともと、⑰のように、USスチールは日鉄による買収提案以前に老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先していたそうであるため、この会社分割は容易であろう。また、名前を「US-Japanスチール」とすることで、米国人・米国政府・USスチール関係者も納得でき、米国の鉄鋼業界は寡占に陥らず、日本からの投資を無駄なく使って技術革新を進めることができる。そのため、⑱の日鉄の電炉生産も容易になる筈だ。 私が、US-Japanスチールの本社をロサンゼルスに置く案を示したのは、*4のように、米カリフォルニア州ロサンゼルスで7日に発生した山火事が10日も続いて、これまでに125平方キロの土地が焼失し、高級住宅地パシフィック・パリセーズ、イートン、ケネス、ハースト、リディア地区の山火事がなお燃え続けているからだ。 カリフォルニア州のニューサム知事は、民主党の次期大統領候補であり、エネルギーの技術革新にも熱心な人であるため、この火事が本当に天災なのかどうかは疑問の余地が残るが、焼失した地域の家屋や自動車を再生産しなければならないことは確かで、電炉による製鉄の需要は多くなる上、カリフォルニア州の新しい街づくりや環境規制について行ければ、世界で通用する。そのため、電炉だけでなく、水素を使ったCO₂排出0の革新的製鉄プロセスも速やかに行なうべきである(https://green-innovation.nedo.go.jp/article/iron-steelmaking/ 参照)。 なお、カリフォルニアの火災は大規模であったため、東日本大震災で米軍が「ともだち作戦」をしてくれたように、日本の自衛隊や米国進出企業も「ともだち作戦」をして、火災の後片付けを手伝いつつ、復興に力を貸したら良いのではないかと思う。 (3)その他の情報 *3-1のように、日鉄が1月6日に米大統領のUSスチール買収禁止命令やCFIUSの審査の無効を求める訴訟を提起し、トランプ次期米大統領は自身のソーシャルメディアへの投稿で日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画に否定的な考えを述べたことで、日鉄の株価は一時2.1%安の3,091円に下落したそうだが、これは日鉄株主の懸念の現れであろう。 また、*3-2は、「訴訟提起以外に日鉄が今後取りうるのは、買収の枠組み変更で、141億ドル(約2兆2千億円)でUSスチールの完全子会社化を目指してきたものを、出資比率を抑えた資本提携に切り替えて米国市場で鋼材の生産・販売を強化する形」としている。 しかし、日鉄が買収完了後にUSスチールにEVモーターに欠かせない「無方向性電磁鋼板」の製造技術や高炉の操業・整備技術、脱炭素技術などを供与するのであれば、USスチールが会社分割して必要な土地・建物・設備・従業員を現物出資することにより、日鉄とジョイントベンチャー子会社(US-Japanスチール《仮称》)を立ち上げ、日鉄が過半数の株式を保有して最先端の製品を作れば良いと思うわけである。 ・・参考資料・・ <日本製鉄によるUSスチール買収の経緯> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06BCF0W5A100C2000000/ (日経新聞 2025年1月7日) 日本製鉄会長、米当局の審査は「結論ありきの政治介入」 日本製鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)は7日、東京都内の本社で記者会見を開いた。バイデン米大統領が3日、米鉄鋼大手USスチールの買収中止命令を出したことを受け、安全保障に関する当局の審査について「最初から結論ありきの政治介入があった」と述べた。買収計画を「諦める理由も必要もない。(中止命令を)到底受け入れることはできない」と強調した。日鉄とUSスチールは6日付で不当な政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴していた。橋本氏は会見で提訴の理由などについて説明した。安全保障上の懸念を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)については「正しい手続きで審査が行われれば違った結論になったはずだ」と述べた。日鉄のUSスチール買収を阻止したい競合のクリーブランド・クリフスが、全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長と連携しバイデン氏に働きかけたとし、「こともあろうにこの働きかけに応じ、政治的に介入した」と批判した。国家安全保障の観点から審査されたものではないと示せれば、バイデン氏らとの裁判に「勝訴できる可能性はある」と語った。勝率や訴訟日程を問われると「今申し上げるタイミングではない」と述べるにとどめた。6日にはトランプ次期米大統領が自身のSNSに「関税(引き上げ)によって(USスチールは)より高収益で価値のある企業になる」と投稿していた。橋本氏は「関税政策だけで産業が強くなるとは決して思えない」とし、日鉄の独自技術をUSスチールに供与することで同社の立て直しにつながり「ひいては米国の国家安全保障の強化に資する」と強調した。実際に中止命令が訴訟を通じて無効となれば、トランプ政権下のCFIUSで再審査されることになる。「(トランプ氏は)製造業を強くして製造業の労働者にもう一度豊かな暮らしと明るい未来を与えたいと言っている。(買収計画は)その趣旨に沿っている」と、トランプ政権の理解を得られるとの見方を示した。日鉄のUSスチール買収を巡っては、23年12月の発表以来、USWのマッコール氏が一貫して反対している。85万人の組合員が所属するUSWの組織票を目当てに、トランプ氏とバイデン氏がいずれも買収計画に反対して政治問題化した。CFIUSは安全保障上の懸念の有無を審査してきたものの最終判断は大統領に委ね、バイデン氏は1月3日に中止命令を出した。橋本氏は過去1年の買収計画の交渉を振り返り「反省点はない。あらゆる手は尽くした」と総括した。日鉄は6日付で買収計画に不当な政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴したほか、買収妨害行為でUSWのマッコール氏、クリフスと同社CEOも提訴した。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250107&ng=DGKKZO85884030X00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.7) 日鉄副会長「徹底抗戦する」 日本製鉄によるUSスチール買収はバイデン米大統領を含む米政府や競合企業を訴える異例の事態に発展した。買収計画を統括する森高弘副会長兼副社長は6日、オンラインでの取材に応じ「理不尽な扱いをされて引き下がるわけにはいかない。徹底抗戦していく」と述べた。森氏は訴訟の狙いについて「買収実現に向けた対応だ。必要な措置を粛々と実行していく」と主張した。これまでの対米外国投資委員会(CFIUS)による安全保障上の審査については「誠実さに欠けるものだった」と指摘した。「当社が自主的に示した国家安全保障協定案には書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも(CFIUSからの)質問や懸念の表明が全くなかった。実質的な協議がないまま判断を大統領に委ねた」と説明した。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250114&ng=DGKKZO86032320U5A110C2MM0000 (日経新聞 2025.1.14) 米クリフスとニューコア、USスチール買収へ連携 米報道 米CNBCテレビは13日、米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携し、USスチールを買収する可能性があると報じた。クリフスがUSスチールを全額現金で買収し、買収後にUSスチール傘下の電炉会社をニューコアに売却することを検討している。バイデン大統領は3日、日本製鉄によるUSスチール買収計画を阻止した。クリフスは当初USスチール買収に意欲を示していたが、日鉄に競り負けていた。日鉄による買収が失敗した場合はUSスチールを買収するとしていた。クリフスの買い取り額は1株当たり30ドル台後半で日鉄の買収計画(同55ドル)を下回る。クリフスがUSスチールを買収すれば、米国の高炉や自動車用鋼板生産で100%近いシェアとなり、反トラスト法(独占禁止法)に抵触する可能性がある。抵触を回避するため、買収後に電炉子会社をニューコアに売却するとみられる。報道によるとクリフスは買収後、USスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す。クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は13日、ペンシルベニア州の工場で開いた記者会見で、「私には(USスチール買収の)計画がある」と述べた。日鉄が現在の買収計画を破棄することが買収の前提になると説明した。報道に関してはコメントしなかった。ニューコアの担当者は「コメントできない」としている。日鉄とUSスチールは6日、買収を巡る政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴した。阻止命令の無効と再審査を求めている。両社は違法な妨害行為でクリフスとゴンカルベスCEO、全米鉄鋼労働組合(USW)会長も提訴した。買収計画を審査してきた対米外国投資委員会(CFIUS)はバイデン氏の命令を受けた計画の破棄期限を当初の2月2日から6月18日まで延長することを決めた。 *1-2-2:https://jp.reuters.com/economy/industry/7EELRETKK5LY7M5KVPHTC2TMNU-2025-01-13/ (Reuters 2025年1月14日) 米クリフス、同業とUSスチール買収計画 CEO「日本は中国より悪」 米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス(CLF.N),が同業ニューコア(NUE.N)と連携し、USスチール(X.N)の買収を目指す準備を進めていることが、関係筋の話で13日分かった。それによると、買収額は1株当たり30ドル台後半となる見通しで、日本製鉄の提案である1株当たり55ドルを大きく下回る。クリーブランド・クリフスは現金でUSスチールを買収し、USスチールの子会社「ビッグリバー・スチール」をニューコアに売却する計画だという。USスチールの本社はピッツバーグにとどまる見通し。クリーブランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベスCEO(最高経営責任者)は記者会見で、2023年に拒否されたUSスチール買収の提案を再び行う考えを示したが、詳細については明言を避けた。「取締役会と経営陣の意向を実現するオファーを出せる立場にいることをうれしく思う」とし、買収によって「米国は良くなり、強くなる」と強調した。 *1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250105&ng=DGKKZO85854050V00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.5) 「恥ずべき行動」バイデン氏を批判 USスチールCEO 米鉄鋼大手、USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は3日、バイデン米大統領が日本製鉄による買収を阻止したことに対し「バイデン氏の行動は恥ずべきもので、腐敗している」との声明を出した。同氏は買収阻止は米国の経済安全保障を危険にさらすとし、「経済・安全保障上の重要な同盟国である日本を侮辱している」と批判した。USスチールは日鉄による買収は米鉄鋼業の競争力を高め、中国の脅威に対抗するものだと正当性を主張してきた。ブリット氏は「(買収阻止で)北京の中国共産党幹部は街頭で踊っている」とコメントし、買収阻止は中国が得をするだけだと非難した。その上で、「投資こそが我々の会社や従業員、地域社会、米国のすばらしい未来を保証する。我々はバイデン大統領の政治的な腐敗と戦うつもりだ」として引き続き日鉄による買収の実現を目指す考えを強調した。一方、日鉄のUSスチール買収に反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長は3日記者会見し、バイデン氏が決めた買収阻止について「トランプ次期政権でも覆らないだろう」と述べた。同日の声明では買収阻止を歓迎し、「組合員や国家安全保障にとって正しい行動であることに疑いの余地はない」とした。 <訴訟> *2-1:https://mainichi.jp/articles/20250107/k00/00m/020/242000c (毎日新聞 2025/1/7) 日鉄、USスチール買収中止命令受け二つの訴訟 狙いと勝算は? 米大統領を相手取るという前代未聞の提訴に踏み切った日本製鉄。大統領の中止命令を取り消し、審査を担った対米外国投資委員会(CFIUS)に再審査を迫る行政訴訟と、買収を阻止するため大統領と結託したとして競合企業などに対し損害賠償を請求する二つの訴訟を起こした。日鉄の狙いはどこにあるのか。勝算はあるのか。 ●「競合と結託し政治介入」日鉄の見立て 「訴訟を通じて示されていく事実が、憲法や法令に明確に違反したものだというのが示されると確信している。勝訴の可能性はある」――。7日に記者会見した日鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)はこう力を込めた。2023年には競合で米鉄鋼大手のクリーブランド・クリフスが全米鉄鋼労働組合(USW)の支援を受け、USスチール買収に名乗りを上げ、日鉄に競り負けたことがあった。橋本氏が一定のリスクを覚悟してまで提訴したのは、競合他社と結託したバイデン大統領が政治的に介入し、CFIUSの適正な手続きを踏まず、大統領命令を出したとみているからだ。ただ、審査のやり直しを求めるにしても、大統領が安全保障を理由にすると、どのように結論を導き出したのかといったことは開示されず、日鉄にとって反論の余地もない。そこでクリーブランド・クリフスやUSW会長を提訴し、行政訴訟と民事訴訟を同時並行で行うことで、バイデン氏との関係をあぶり出し、それを証拠に再審査に臨もうという算段だ。橋本氏は「今回は通常の裁判と違って、勝訴するとCFIUSの審査がやり直しになるので、それが新政権、新しいメンバーによって、新しい手続きで進められる。米国に資するものであるということを説明することで理解を得られる」と語り、今月就任するトランプ政権下での再審査に望みをつなげたい考えを示した。ただ、米政府への訴訟なので「そもそも訴訟で争うことができない」などとして、日鉄側の訴えを却下するよう、政府が裁判所に働きかける可能性もある。USWとクリーブランド・クリフスは6日、いずれもトップの名で声明を発表し、「根拠がない」として争う構えを明確にするなど強気だ。 ●買収に高いハードル、欠かせぬ米国事業 審理に進んでも長期に及ぶ可能性もあり、仮に勝訴しても、再審査の道が開くだけで、日鉄が掲げる今年3月末までとした買収完了の目標には到底間に合いそうにない。買収へのハードルは高く、このまま不成立となることも考えられる。その場合、日鉄は海外戦略の再構築が求められることになる。米国市場は日鉄が得意とする自動車用の鋼材も含め高級鋼材のニーズが強く、鋼材需要は日本の1・7倍ある。今後も人口増が見込まれ、業界の再編も進んでおり、稼ぎやすく「なんとしても米国事業は当社の戦略に欠かせない」(橋本会長)市場だ。買収が不成立に終わっても、日鉄には資本提携など出資枠組みの変更や電炉だけを買収するという手法も残る。ただ、資本提携にとどまれば日鉄の高度な技術をUSスチールに100%供与することは難しく、買収で得られるシナジー効果は薄れてしまう。日鉄はすでに米国で欧州アルセロール・ミタルとの合弁「AM/NSカルバート」を運営しており、同社の業績は好調だ。日鉄はUSスチールの買収が完了すれば、競争法上の理由でカルバート株を売却すると公表しているが、買収が不成立ならば、カルバートの運営を継続し、同社を足がかりに市場を拡大する戦略も残される。「いい案件があれば単独出資にこだわらず、ジョイントベンチャーや現地の会社に出資というのも選択肢」(アナリスト)という見方もある。日鉄が米国市場とともに有望視し、アルセロール・ミタルと合弁事業を手掛けているインド市場をさらに伸ばすというのも成長戦略の一つになる。24年の世界鋼材需要は前年比で減少するが、インドは過去最高を更新する見通しだ。USスチールの買収が不成立ならば、もともと日鉄がホームマーケットとしているASEAN(東南アジア諸国連合)に注力しつつ、インドへの投資を拡大するというのも現実解になりそうだ。 *2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/d4894350ead6d6bdca8d40df4cd61432d28c9a10 (Yahoo、Reuters 2025/1/7) 日本製鉄の訴訟提起、クレジットにはネガティブ=ムーディーズ 格付け会社ムーディーズは7日、日本製鉄が米USスチールの買収計画に関連し訴訟を起こしたことは、日鉄のクレジットに対してネガティブとの見解を示した。日鉄は6日、USスチールの買収に不当介入があったとして、米大統領の買収禁止命令や対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の無効を求める訴訟など複数の訴訟をUSスチールと共に提起したと発表した。ムーディーズのVPシニア・アナリスト、ローマン・ショア氏は、訴訟提起により「買収を巡る不確実性が高まり、(日鉄の)クレジットにとってはマイナス」との認識を示した。買収が頓挫すれば、国内市場での需要減を補うための海外成長戦略の実行が遅れることになるとした。ただ、訴訟に敗訴し買収が実現しなかったとしても、日鉄には違約金支払いなどの影響を相殺できる「財務上の柔軟性」があるとも指摘。海外ではインドなどの成長市場でも投資を拡大させる余地があり、「USスチール買収失敗による下振れリスクの緩和にもなる」としている。買収が成立しない場合、日鉄はUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する可能性がある。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250107&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO85890190X00C25A1MM0000&ng=DGKKZO85890260X00C25A1MM0000&ue=DMM0000 (日経新聞 2025.1.7) 米鉄鋼労組「買収阻止は国益」 クリフスは「訴訟の準備」 日本製鉄が6日、USスチール買収を巡る違法な妨害行為で提訴したことを受け、全米鉄鋼労働組合(USW)会長と米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスの最高経営責任者(CEO)が同日声明を発表した。USWは強く反論する姿勢を示し、クリフスは訴訟準備を整えていると明らかにした。USWのデービッド・マッコール会長は6日、日鉄による提訴を受け、「訴状を精査中だ。根拠のない主張には断固として反論していく」とし対抗策を辞さない方針を示した。USWは日鉄によるUSスチール買収に一貫して反対してきた。バイデン米大統領は3日に買収計画の阻止を決めた。マッコール氏は「日鉄によるUSスチール買収の試みを阻止することで、バイデン政権は米国に重要な利益をもたらし、国家安全保障を守り、我が国の重要なサプライチェーンを支える国内鉄鋼産業の維持に貢献した」と称賛した。クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベスCEOは6日、「我々は訴訟の準備を整えており、法廷で事実を明らかにすることを楽しみにしている」とコメントした。 *2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN110A10R10C25A1000000/ (日経新聞 2025年1月11日) USW会長、日鉄による提訴は「根拠がない脅迫だ」 全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長は10日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチール買収を巡って違法な妨害行為があったとして同氏を提訴したことを受けて反論を表明した。マッコール氏は日鉄の提訴は「根拠がない脅迫だ」とし「軽薄な申し立てから組合を強く守る」と強調した。同日、提訴を批判する動画を公開した。マッコール氏はバイデン大統領が阻止を命じた日鉄による買収は「我々の工場の将来を脅かし、国家安全保障を危険にさらすことは明らかだ」と話した。その上で、USスチールは日鉄による買収提案以前に、老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先したと強調。「日鉄は買収後もUSスチールのこの計画を踏襲し、電炉に生産を移すことは明らかだ」とし、雇用を脅威にさらすと批判した。日鉄は2024年12月30日に米政府に対し、買収後もUSスチールの製鉄所の生産能力を10年間減らさないことを提案。減る可能性がある場合に米政府は拒否権を発動できるとした。マッコール氏は「この提案は不可抗力を含む」とし、労働者が反発した場合、日鉄が約束を守らず、生産能力削減に踏み切るのは確実だと強調した。さらにマッコール氏はUSスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)ら経営陣が日鉄による買収が成立した場合に報酬を獲得することを改めて取り上げ、「傲慢で、従業員や株主、地域社会や顧客のことなど気にかけていない」と批判した。 *2-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN090DX0Z00C25A1000000/ (日経新聞 2025年1月9日) 日鉄のUSスチール買収「徹底的に分析した」 米財務長官 日本製鉄によるUSスチール買収計画への中止命令について、イエレン米財務長官は8日、米CNBCのインタビューで「大統領に提出するため徹底的に分析した」と述べた。計画に安全保障上の懸念があるとした判断の根拠などは語らなかった。買収計画は政府横断組織の対米外国投資委員会(CFIUS)が審査をしたが意見がまとまらず、昨年12月23日にバイデン米大統領に最終判断を委ねた。CFIUSの議長は財務長官が務める。イエレン氏はインタビューで、審査について「言えることはほとんどない」と断ったうえで「CFIUSはいつも通り(計画を)詳細に分析した」と述べた。バイデン氏に「徹底的な分析」を報告したうえで「CFIUSとしてアドバイスした」と話した。 <その他の情報> *3-1:https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/HBQPREXZCZMFDOM6LHW3O6VBM4-2025-01-07/ (Reuters 2025年1月7日) 日鉄株が軟調、USスチール買収計画に否定的なトランプ発言を嫌気 日本製鉄の株価が逆行安となっている。トランプ次期米大統領が自身のソーシャルメディアへの投稿で、日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画に否定的な考えを述べたことが伝わり、嫌気されている。株価は一時2.1%安の3091円に下落した。トランプ氏は「関税によってUSスチールはもっと収益性の高い価値ある企業になるのに、なぜ彼らは今、買収されたいのだろうか」と指摘。市場では「トランプ氏の大統領就任によって状況が好転するとの思惑を後退させる材料として、短期的な売りが強まったようだ」(国内運用会社のファンドマネージャー)との声が聞かれる。日鉄株は6日、バイデン米大統領が安全保障上の懸念を理由に日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画の中止を命じたことを嫌気して軟化したが、トランプ次期大統領の判断で状況が覆り得るとの思惑が支えの一つとなり、下げは限定的だった。日鉄は6日、USスチール買収計画に不当介入があったとして、米大統領の買収禁止命令や対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の無効を求める訴訟などを提起したと発表。きょう午前に橋本英二会長が開いた会見後、株価はやや下げを強めた。市場では「目新しい材料が見当たらず、改めて売られたのではないか」(同)との見方が聞かれる。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250105&ng=DGKKZO85853820V00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.5) 日鉄、資本提携も選択肢 買収阻止 今後のシナリオ、スキーム変更 相乗効果、薄れる懸念 日本製鉄によるUSスチール買収計画にバイデン米大統領が中止命令を出す異例の事態となった。日鉄はUSスチールと共同で買収計画を「決して諦めない」と声明を出し、今後の方策を模索する。まず日鉄は米政府を相手取り訴訟を提起する方針だ。その他には資本提携やトランプ次期米大統領との交渉といったシナリオが選択肢に入る。訴訟提起以外に日鉄が今後取りうるのは、買収の枠組みの変更だ。141億ドル(約2兆2千億円)でUSスチールの完全子会社化を目指してきたが、出資比率を抑えた資本提携に切り替えて、米国市場で鋼材の生産・販売を強化する形だ。ただ出資比率に関わらず対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の対象になるため、比率を抑えたとしても成立するかどうかは不明だ。日鉄は買収完了後にUSスチールに電気自動車(EV)のモーターに欠かせない「無方向性電磁鋼板」の製造技術や高炉の操業・整備技術、脱炭素技術などを供与する考えだった。ある日鉄幹部は「100%出資でやらなければ技術を供与できない」と述べていた。出資比率を抑えた場合、技術面の相乗効果が薄れてしまう恐れもある。JPモルガンは3日、「今後は(USスチールが南部に持つ)電炉買収に関心を示す企業が出てくる」とコメントした。電炉は環境負荷の少ない製鉄手法で日鉄は日本でも設備投資を進めている。今後、電炉のみの単独買収を視野に入れる可能性はある。電炉工場の従業員は今回の買収計画に反対した全米鉄鋼労働組合(USW)に加盟していない点も日鉄には魅力に映るかもしれない。米国の既存事業を堅実に伸ばす選択肢もある。日鉄は米国に、欧州の鉄鋼大手、アルセロール・ミタルとの薄板製造の合弁会社「AM/NSカルバート」を持つ。USスチールを買収すれば競争法上の懸念からカルバートの株式をミタルに売却するとしていた。買収計画が頓挫すれば合弁の運営を続けることになる。森高弘副会長兼副社長は「どちらかを選択するならばUSスチールを選ばなければならない」と述べていたが、カルバートは「有望なキャッシュカウ事業」(国内証券大手アナリスト)と評価されている。現在は7億7500万ドルを投じて電炉建設も進めている。この電炉と薄板をつくる既存の圧延工程を合わせれば製鉄の上工程から下工程までの一貫製鉄の体制が完成する。6月までに買収計画が成立しない場合、日鉄はUSスチールに5億6500万ドルの違約金を支払う義務が生じる可能性がある。 <ロサンゼルスの山火事は偶然か> *4:https://www.bbc.com/japanese/articles/cd0j5pn0vdlo (BBC 2025.1.11) 米ロサンゼルスの山火事、死者11人に 強風で被害拡大のおそれも 米カリフォルニア州ロサンゼルスで7日に発生した山火事は10日も続き、これまでに少なくとも11人の死亡が確認された。また、これまでに125平方キロの土地が焼失し、約18万人が避難した。 高級住宅地パシフィック・パリセーズ、イートン、ケネス、ハースト、リディア地区で、5件の山火事が依然として燃え続けている。鎮圧率は3%から75%とまちまちで、カリフォルニア州の消防当局は、今後数日の間に風が強まれば、さらに被害が発生する可能性があると警告した。ジョー・バイデン米大統領は8日に「大規模災害」を宣言。災害救援のための連邦政府の資金援助を増額している。こうした中、被災地で窃盗が多発していることから、パシフィック・パリセーズとイートン地区では午後6時から翌午前6時までの夜間外出禁止令が発令された。また、200人以上の警官がパトロールに当たっている。またロサンゼルス警察は、9日にロサンゼルス郡とヴェンチュラ郡の境界で発生した火災について、1人を逮捕したと発表した。放火の容疑者とされた人物は事情聴取を受けたが、当局は放火の疑いで容疑者を逮捕するには「十分な理由がない」と判断した。しかし、容疑者は重罪に対する保護観察違反で逮捕され、捜査は継続中だという。米メディアは、パリセーズの山火事について放火捜査官が原因究明を進めていると報じている。ロサンゼルス郡消防本部のトニー・マローン本部長は、もしも出火原因が放火だと判明した場合、死者はすべて殺人によるものとして扱われると述べている。 ●州知事は水不足の調査を支持、トランプ氏から批判も カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事は、消防隊が消火用水の確保に苦労しているという報告について、第三者調査の開始を求めている。ニューサム知事はソーシャルメディア「X」への投稿で、ロサンゼルス水道電力局の責任者とロサンゼルス郡公共事業局の局長に宛てた手紙を共有。「消火栓からの水の供給が失われたことが、一部の住宅や避難経路を保護する努力を妨げた可能性が高い」と説明した。知事は、地元の消火栓の水圧の低下と、貯水池からの水供給の不足について調査が必要だとしたうえで、「このようなことが再び起こらないようにし、一連の壊滅的な火災と戦うためにあらゆる資源を利用できるようにするため、包括的な点検が必要だ」と述べた。民主党のニューサム州知事の対応については、共和党のドナルド・トランプ次期大統領がしきりに批判を重ねている。次期大統領はニューサム知事の辞任を要求し、「アメリカで最も美しく素晴らしい場所の一つが焦土と化している」と述べた。実際、ロサンゼルス市消防局の予算は昨年、1760万ドル削減されており、キャレン・バス・ロサンゼルス市長が批判されている。これに対しニューサム知事は、次期大統領をカリフォルニア州に招待すると述べるとともに、山火事を「政治利用」しないよう強く求めた。ニューサム氏は「X」で公開した書簡で次期大統領に、自分に同行して「被害状況を直接目にする」よう呼びかけた。「この偉大な国の精神に則り、私たちは人間を襲う悲劇を政治利用したり、傍観者として誤った情報を広めたりしてはならない」、「家を失って将来に不安を抱える数十万のアメリカ人は、迅速な復旧と再建を確実にしようと、私たち全員が被災者の最善の利益のために全力を尽くしている姿を見るべきだ」と、知事は強調した。 ●多くの著名人が家を失う 今回の山火事では、多くの著名人が自宅を失ったことを明かしている。米俳優メル・ギブソン氏は、ロサンゼルスの山火事で自宅が焼失したことを明らかにした。ギブソン氏は、著名ポッドキャスターのジョー・ローガン氏の番組収録中に、この災難に見舞われたという。ローガン氏は、気候変動否定派として知られている。取材に対してギブソン氏は、テキサス州オースティンで「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」にゲスト出演している最中に、自宅の近隣が「火事になっている」と知り、「落ち着かない気持ち」だったと述べた。また、マリブの自宅が「完全に焼け落ちた」と述べ「これはかなり衝撃的で、感情的なものだ」と述べた。「自分の持ち物がすべて灰になったことで、物の重荷から解放された気分だ」。ギブソン氏はローガン氏のポッドキャスト内で、ニューサム州知事を批判。ニューサム氏が「森林の管理をする」と言っていたが「何もしなかった」と述べた。「私たちの税金はすべてギャヴィンのヘアジェルに使われたんだと思う」とギブソン氏は語った。ギブソン氏の家族は避難命令に従い、無事だったという。有名ホテルのオーナー一族でリアリティー番組TVスターのパリス・ヒルトン氏も自宅を失った。ヒルトン氏は、ソーシャルメディアで自宅の残骸の動画を共有し、「この悲しみは本当に言葉では表現できない」と述べた。このほか、英俳優サー・アンソニー・ホプキンスも自宅を失ったと報じられている。1996年、2000年、2004年のオリンピック(五輪)でアメリカを代表した水泳選手のギャリー・ホール・ジュニア氏は、この火災でパリセーズの自宅と、獲得した五輪メダル10個を失ったと語った。ホール氏は、「3分しか行動する時間がなかった」と話し、「メダルよりも犬を選んだ」と語った。また、俳優ジェニファー・ガーナー氏はMSNBCのインタビューの中で、山火事で友人を失ったことを明かした。 ●サセックス英公爵夫妻が支援センター訪問 英王室のサセックス公爵夫妻は10日、パサデナの救援センターを訪れ、消防士や警察官などの初動対応者や被災者と面会した。ハリー王子とメガン妃は、4年前にカリフォルニア州モンテシートに移住。これは、最も被害が大きかったパシフィック・パリセーズから北へ約1時間半の距離にある。地元メディアが放送した映像では、ハリー王子とメガン妃が、食料を供給している慈善団体ワールド・セントラル・キッチン(WCK)の現場で、パサデナのヴィクター・ゴードン市長と話している様子が映っている。ハリー王子とメガン妃は、避難を余儀なくされた友人を自宅に招いたとされている。夫妻はウェブサイトで声明を発表し、「友人や愛する人、またはペットが避難しなければならない場合、あなたが自宅に安全な避難場所を提供できるなら、ぜひそうしてください」と語っている。(英語記事 Death toll rises as governor confirms hydrants issue 'impaired' LA wildfires fight/ Mel Gibson says his home burned down in LA fires) <日本における水素社会・EV・自動運転システムの遅れ> PS(2024年1月20日追加):*5-1-1のように、中国は、国がビジョンを掲げて保証した新たなパイに民間企業が殺到して競争する自由競争型の産業形成であるため、国のビジョンが正しい限り無駄のないイノベーションが生まれ、変化のスピードも速い。そして、中国の太陽光発電・リチウムイオン電池・電気自動車(EV)は、日本が先行した技術であるにもかかわらず、日本が迷走したり後退したりしている間に、中国が世界市場を奪って中国のビジョンの正しさを証明した。また、日本が世界に先駆けて提案してきた水素社会の創出も、中国は2022年の国家戦略を背景に爆発的に投資を拡大させてサプライチェーン全般で一気に実用段階に突入したが、日本は相変わらず屁理屈をこねて迷走している。しかし、地球温暖化は確かに起こっており、エネルギー自給率向上も間違いなく必要であるため、世界に水素社会が到来することは確実なのである。しかるに、米国では、*5-1-2のように、トランプ大統領が、バイデン政権で認められなかった化石燃料開発の許認可を拡大する意向を示し、「エネルギー資源を解き放ち、インフレを迅速に克服し、地球上で最も安価なエネルギーを実現する」と言明しているが、化石燃料を自国で採掘して安価に使える国は数少ないため、化石燃料に舵を切れば世界では売れない自動車や機械を作ることになって、EVの技術開発はそれだけ遅れるのだ。つまり、日本の従来型技術を重視する管理主義的産業政策や米国の時代遅れの産業政策こそが、イノベーションを遅れさせ、市場経済を歪めて、経済を停滞させ、ひいては国力を弱めているのである。 そして、次に実用化しなければならない技術は、高齢化社会と人手不足を受けて、*5-2-1や*5-2-3の自動運転・自動操舵システムなのだが、これも2000年代に日本政府に伝えていたにもかかわらず、中国では既に自動運転タクシーが公道を走っているのに、日本ではまだ国交省が新東名高速で自動運転トラックの発着実験をしている段階だ。そして、*5-2-2のように、高齢者に運転を止めさせて活動不能にし、要介護者を増やす方法しか思いついていない。しかし、米西部カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で1月7日に発生した火災による焼失面積は160km²以上で、現在のところJR山手線内側の面積の約2倍に相当するため、新しいまちづくりをするにあたっては、(長くは書かないが)その地域が乾燥しすぎない方法を考えることと、新しい交通システムに対応できる道路システムを作ることが必要なのである(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE103TB0Q5A110C2000000/、https://news.yahoo.co.jp/articles/1126d0064da2b6e0ac711f16ba0f9e51949e6af0 参照)。 *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250119&ng=DGKKZO86154430Y5A110C2EA3000 (日経新聞 2025.1.19) EVの次に来る対中敗北 中国には産業育成やインフラ建設の猛烈なスピードを指す「中国速度」という言葉がある。年初に訪れた広東省深圳市でもその光景を見ることができた。高層ビルの合間を小型の段ボールを抱えたドローンが行き交い、公園内の配送スポットで家族連れが次々と楽しそうに有名チェーンの食べ物やドリンクをドローンから受け取っていた。ドローンを使って低空域で展開される経済活動を意味する「低空経済」という概念が国家の戦略性新興産業に指定されたのは2023年末。あっという間にサービスの具体化が進んだ。日本はそんな中国速度に何度も苦い思いをさせられてきた。中国の「三種の神器」となった太陽電池やリチウムイオン電池、電気自動車(EV)はいずれも日本が先行した技術だが、気がつけば後発の中国にあっさりと世界市場を奪われた。そして今、日本が譲れないはずの重要分野が再び中国に脅かされている。日本が世界に先駆けて提案してきた水素社会の創出だ。中国は22年の国家戦略などを背景に爆発的に投資が拡大し「つくる」「運ぶ」「ためる」「使う」というサプライチェーン全般で一気に実用段階に突入した。エネルギー情報会社のライスタッド・エナジーの推計によると、再生可能エネルギーで製造するグリーン水素の24年の生産能力は中国が22万トンと世界の過半を占める。水素をつくる電解装置は低価格を売りにした輸出も始まり、早くも「第四の神器」との声もある。利用面では水素利用に適した長距離トラックや大型バスの導入が進む。将来的に化学品や鉄鋼生産での巨大需要も見込まれる。足踏みする日本を尻目に、中国の水素産業はいち早く大量生産と需要拡大の成長サイクルに入ったかにみえる。そのような流れの先に世界で本当に水素社会が到来すればどうなるだろうか。石油に代わる重要エネルギーで中国に圧倒的な主導権を握られる。水素は脱炭素時代のエネルギー安全保障そのものだ。日本にとって今よりリスクが高まる悪夢の時代となりかねない。日本は現実を認識し早急に戦略を練り直す必要がある。その過程は日本の産業政策の「負けパターン」を見つめ直す作業でもある。日本の産業政策は国が企業を管理する「調整型」の性格が強い。「日の丸連合」は代表的な形態だ。資源を集中しやすい半面、競争が少なく、既存の知見が基盤で未知の可能性の追求が制約される側面がある。日本の水素戦略もその発想の延長線上にある。最大の力点を日本企業が既に商品化した燃料電池乗用車や家庭での利用拡大に置いた。一方で将来のエネルギー安保に関わる水素調達は最初から自国生産でなく輸入を軸とした。ビジョンよりも「グリーン水素生産に必要な再生可能エネルギーが普及していない」との現実問題に対応した。洋上風力発電など日本の国土に適した技術を伸ばす選択肢もあったが、企業にしてみれば国の目標が明確でなければ開発リスクには及び腰となる。今や同技術は欧州や中国で花開く。中国の産業政策は逆を行く。ときに無理筋にもみえる目標を掲げる「ビジョン型」だが実際の産業形成は「自由放任型」というハイブリッドだ。国家が保証する新たなパイに企業が殺到し「バトルロワイヤル」を展開する。ムダや問題も多いがスピードは速くイノベーションも生まれやすい。米国も国家資本主義に傾く。人工知能(AI)や量子、半導体――。いずれも国家の産業政策力を問う競争だ。まずは限界を迎えた従来型政策を変える「日本速度」が試される。失敗を繰り返している余裕はない。 *5-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO86166470Q5A120C2MM0000/ (日経新聞 2025年1月20日) トランプ氏「米、4年間の衰退に幕」 就任前に演説、化石燃料の開発拡大 トランプ次期米大統領は19日、20日の就任を前に首都ワシントンで演説し「我が国をかつてなく偉大な国にする。20日正午にこの国を取り戻す」と表明した。就任初日に不法移民の強制送還などの大統領令に署名すると明らかにした。「勝利集会」と名付けた約1時間ほどの演説はイベント施設「キャピタルワン・アリーナ」で実施した。トランプ氏は支持者を前に2024年の米大統領選で「我々は勝った」と切り出した。バイデン政権から「災害、インフレと高金利に苦しむ経済、壊滅的な国境危機を継承する」と主張した。「20日から歴史的なスピードと強さで行動し、我が国が直面するあらゆる危機を修復する」と述べ、「4年間の衰退に幕を下ろし、米国の強さと繁栄、誇りを取り戻し、新しい時代が幕を開ける」と訴えた。トランプ氏はエネルギー・環境政策について、バイデン政権で認められなかった化石燃料の開発の許認可を拡大する意向を示した。「エネルギー資源を解き放ち、インフレを迅速に克服し、地球上で最も安価なエネルギーを実現する」と言明した。米国に直接投資を呼び込む意欲を示した。米国で1000億ドルの大型投資を計画するソフトバンクグループ(SBG)などに触れ、「選挙に勝ったからこそできた投資」と唱えた。米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から米国内で大規模投資をすると伝えられたとも明かした。トランプ氏は看板政策である不法移民の強制送還に関する大統領令を20日に出すと明言した。同日夕刻までに「国境への侵入を停止し、すべての不法移民は何らかの方法で自国に戻ることになる」と発言した。「主権のある領土と国境の管理を迅速に再び確立し、米国内で活動する不法滞在のギャングを一人残らず国外追放する。米国史上最大の強制送還作戦を開始する」と述べた。イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意を自らの成果にあげた。「(米大統領選での)歴史的な勝利の結果としてのみ実現した」と話した。ロシアによるウクライナ侵略については「終わらせる。中東の混乱を止め、第3次世界大戦が起こるのを防ぐ」と断言した。ミサイル防衛システム「アイアンドーム」を建設し、米国内に設置するよう軍に指示する方針も示した。演説では20日にカナダとメキシコに25%の関税を課す大統領令に署名するかどうかには触れなかった。不法移民の流入などを理由に国家経済の「緊急事態」を宣言したうえで関税を引き上げるとの見方が出ている。20日に連邦議会議事堂内のロタンダ(円形の大広間)で大統領就任式で宣誓や演説を終えた後も同じ場所で演説し、施設内でのパレードにも臨む。20日のワシントンは厳しい寒さが予想されトランプ氏は就任式を異例の屋内開催に切り替えた。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1118E0R11C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月24日) 新東名高速で自動運転トラック発着 国土交通省が実験 国土交通省は新東名高速道路の浜松サービスエリア(SA)で自動運転トラックによる発着の実証実験を2024年12月4日に公開した。自動発着は、高速道路でのトラックの自動運転に必要な要素技術の1つ。24年度末には、他の要素技術をまとめて、発着だけでなく拠点間の走行における一連の流れを検証する。高速道路でのトラックの自動運転の実現に向けて、一般道への中継地点で運転手の乗り降りなどが必要になる。今回、決められたエリア内でトラックが自動で発着できるかどうかを検証した。実験では、SAまでドライバーが運転し、そのまま自動運転に切り替わり、指定のエリアに駐車した。発車も自動で行い、合流地点から再び手動に切り替えた。 ●商用車メーカーや日本工営が参画 検証に参加したのは、高速道路で自動運転トラックの実用化などを進める経済産業省・国交省委託事業「RoAD to the L4」のテーマ3コンソーシアム(幹事会社:豊田通商)の参加企業とトラックの自動運転技術を手掛けるスタートアップのT2(東京・千代田)だ。テーマ3には、いすゞ自動車や日野自動車などの商用車メーカーの他に日本工営などが参画している。実験では、テーマ3のトラック5台、T2のトラック1台の計6台が参加した。トラックには周囲の状況を確認するためのカメラやレーザー光を使った高性能センサーのLiDAR(ライダー)、位置情報を推定する測位衛星システム(GNSS)センサー、車両の向きなどを検知する慣性計測装置(IMU)などを取り付けている。トラックは全て、ドライバーが介入することなく指定のエリアで発着を完了した。T2技術開発本部の辻勇気本部長は「それぞれの機器から得られた情報を統合して走行させる技術を内製している」と話す。 ●24年度末までに新東名100キロ区間で実証 国交省は高速道路での大型トラックの自動運転に向けて、自動発着以外にも本線との合流を支援するシステム、落下物や工事規制などの情報を提供するシステムなど、まずは5つの要素技術を検証していく。テーマ3のリーダーを務める豊田通商グループのネクスティエレクトロニクス(東京・港)の小川博技監は「車両単体での障害物検知では、範囲が限られるためにトラックの車線変更が困難なケースがある。(インフラ側の)外部支援によって、安全かつ継続的に運行できる」と話す。24年6月には、新東名高速道路の未供用区間を使用して、各要素技術の検証を実施した。24年度末までに、駿河湾沼津SA─浜松SA間の約100キロメートルの供用区間でそれぞれ実証する。25年度以降には、合流区間における加速レーンがより短く難度が高い東北自動車道でも展開する予定だ。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240422&ng=DGKKZO80179970R20C24A4CM0000 (日経新聞 2024.4.22) 高齢ドライバーの運転、中止前に「代替手段検討を」 日本老年学会が提言 高齢ドライバーの増加に伴い、日本老年学会は21日までに、高齢者の自動車運転に関する提言を盛り込んだ報告書を公表した。認知機能や身体機能の衰えを定期的に把握し、運転継続が難しい場合は行政や地域からの適切な支援を受けつつ、中止する前に代替手段を検討すべきだとした。オンラインで記者会見した荒井秀典・学会理事長は、高齢者の運転技能は多様だとし「高齢運転者と危険運転者を同一視するような差別的なイメージは誤り。社会全体で多面的な取り組みを推進する必要がある」と強調。その上で「ゼロリスクにできる限り近づけるにはどうすべきか、科学的に示したい」と話した。報告書は、高齢運転者は視機能、認知機能、身体機能の低下から運転技能が低下することがあり「死亡事故などを起こす危険性が高い状況にある」とした。免許更新の際などに適切な運転技能の判定が必要だという。一方、運転を中止した高齢者は、継続した高齢者と比べて要介護状態になるリスクが高かった。運転中止前に、自身で運転する以外の代替手段を検討すべきだとした。 *5-2-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/283074 (日本農業新聞 2025年1月19日) 自動操舵精度向上へ RTK基地局設置 JAあいち経済連 JAあいち経済連は、トラクターやコンバインなどの自動操舵(そうだ)装置の精度向上につながるRTK(リアルタイム・キネマティック)基地局を県内の4カ所に設置し、運用を始めた。県域のJAグループとしては、都府県で初めての取り組みで、生産者の省力化を後押しする。「JAグループ愛知RTK基地局」という名称で17日から運用を始めた。自動操舵装置は、トラクターやコンバインなどの位置情報を、人工衛星から受信し、設定した経路の自動走行を可能とする装置。JAグループ愛知では、農作業の省力化を目的に、この装置の普及を進めている。人工衛星だけで受信する位置情報では約30センチの誤差が生じる。人工衛星に加え、新たに設置したRTK基地局からも位置情報を受信することで、誤差を2、3センチまで縮小できる。種まきや畝立てといった、高い正確性を要する作業での活用が期待できる。経済連は今後、生産者向けの実演会やJA農機担当者向けの研修会などで、利用方法やメリットを伝え、RTK基地局と自動操舵装置の利用拡大に取り組む。経済連の担当者は「生産者の省力化に貢献していきたい」と話した。 <ホンダ・日産の経営統合は意味があるのか?> PS(2025年2月1日追加):*6-1によると、ホンダ・日産の経営統合スキームは、①ホンダ・日産が共同で持株会社を設立し、両社を持株会社にぶら下げる形で事業統合 ②ホンダが持株会社の経営をリード ③両社は強固な事業基盤を構築して自立 ④経営統合合意に達するには日産の事業構造計画「ターンアラウンド:(i)グローバル生産能力:20%削減 (ii)グローバル人員数:9000人削減 (iii)販売管理費の削減 (iv)会社資産の合理化 (v)設備投資と研究開発費の優先順位を見直し(https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20241107513619/ 参照)」の実現が条件 としている。しかし、このスキームでは両社が共同で作った持株会社の下に、ホンダ・日産という財務的に“自立した”会社がぶら下がるだけであるため、連結決算上、一瞬は世界販売台数約750万台という世界第3位の自動車グループになったとしても、互いの長所を活かすシナジー効果は出そうにない。 そのため、仮に統合するとすれば、持株会社の下には、「国・地域別販売子会社」「研究開発子会社」「電動車製造子会社」「ハイブリッド車製造子会社」「水素燃料車製造子会社」「電動・水素燃料航空機及び同エンジン製造子会社」「電動・水素燃料船及び同エンジン製造子会社」等の機能別子会社をぶら下げて、それに適した人材を両社から選んだり希望者を募ったりして配置し、全体として両社の水素燃料や電動化等の得意分野を活かしつつ、また、これまでなかった分野は他企業との提携を目指すのが発展的経営統合になる。何故なら、NTTのケースでは、最初は固定電話が主流だったため、NTTdocomoやNTTdataなどの子会社に出向させられた人は、出世コースから外れたと思って落ち込んだが、現在ではNTTdocomoが主流になっているのと同じことが起こると思われるからである。 また、日産の事業構造計画“ターンアラウンド”は、*6-2のように、⑤全従業員の7%にあたる9,000人の削減 ⑥世界生産2割削減 ⑦販売低迷で収益が悪化した米キャントン工場(ミシシッピ州)・スマーナ工場(テネシー州)の2つの完成車工場とエンジン等製造のデカード工場(テネシー州)の生産体制縮小 ⑧従業員の早期退職募集 ⑨日産車体湘南工場(神奈川県)の生産体制縮小と従業員の日産車体九州(福岡県)への配転 であり、⑩工場統廃合を含む再建策が出ないと再生は難しく、日産側の示す内容次第で統合協議を白紙に戻す可能性(ホンダ幹部) ⑪統合の方向性については2月中旬発表 となっている。 しかし、「アメリカ国内に製造拠点を作ってもらいたい」というのは、大統領が誰であっても変わらないため、⑦の米国内の工場削減はむしろ慎重に検討すべきだ。さらに、日産の販売低迷は、女性が好む電動車や高齢者・障害者が必要とする運転支援車を、荒っぽい男性が好むいかついスタイルにしたり、サクラのように子どもっぽいかわいらさを強調しすぎて機能は低いというように、販売ターゲットを見据えたマーケティングとデザインの悪さに理由がある(この点でも中国車や韓国車の方が、よほど優れている)。そのため、改善策は、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のような現在の販売数量に合わせたコスト削減一択ではない。両社は、⑪のように、統合の方向性については2月中旬に発表するそうだが、このような大志を持った統合でなければ意味が薄いし、*6-3の三菱自動車はじめ他業種の企業も提携するに値しないと感じると思う。 *6-1:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03049/122300011/ (日経日経クロステック 2024.12.23) ホンダと日産の経営統合、最終合意は「両社の自立」が条件 ホンダと日産自動車が、経営統合に向けて動き出した。両社は2024年12月23日、経営統合に向けた基本合意書を締結し、協議を本格化させた。2025年6月の最終合意を目指す。今回の経営統合が実現すれば、世界販売台数が約750万台の世界3位の自動車グループとなる。ホンダと日産は共同で持ち株会社を設立し、両社を傘下に収める形で事業を統合する。両社のブランドは存続させる。持ち株会社の設立時期は2026年8月を予定する。持ち株会社の社長は、ホンダが指名する取締役の中から選ぶ予定である。当初はホンダが持ち株会社の経営をリードする方針だ。12月23日に東京都内で開いた会見で、ホンダ社長の三部敏宏氏は「持ち株会社をつくるだけではなく、両社が強固な事業基盤を構築して自立することが前提になる」と強調した。経営統合の検討が最終合意に達するには、日産が進める事業構造計画「ターンアラウンド」が実現されることが条件になる。同社社長兼最高経営責任者(CEO)の内田誠氏は同日の会見で、「統合の検討を始めたことで、重要な一歩を踏み出した。ターンアラウンドの成果を形にしていくことが、当社の大きな責任」との決意を示した(以下、略)。 *6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/7b7e582de051fe2a27bd240b8707f0a136978c2a (Yahoo、毎日新聞 2024/1/31) 日産の事業再生をホンダが見極めか 統合の方向性、2月中旬発表へ ホンダと日産自動車の統合協議を巡り、両社は31日、統合の方向性について2月中旬に発表すは業績不振の日産の事業再生計画の取り組み状況をみて、1月末をめどに経営統合の協議をさらに進めるかどうか判断するとしていた。日産が策定する計画をホンダ側が慎重に見極めているとみられる。両社は31日「統合準備委員会でさまざまな議論を進めている段階で、2月中旬には方向性を発表できるように進めていきたい」とするコメントを発表した。ホンダと日産は2月13日、2024年4~12月期連結決算の発表が控えている。両社は昨年12月、本格的な経営統合の協議入りを発表。今年6月に統合契約を結び、26年8月に両社が傘下に入る持ち株会社を設置する計画だ。日産は昨年11月に公表した事業再生計画で、全従業員の7%にあたる9000人を削減し、世界生産も2割減らす方針を示しており、その実現に向け、作業を急いでいる。日産によると、販売低迷で収益が悪化している北米事業を巡り、米国のキャントン工場(ミシシッピ州)とスマーナ工場(テネシー州)の二つの完成車工場と、エンジンなどを製造するデカード工場(同)で生産体制を縮小する。これに伴い従業員の早期退職を募る方針で、対象者に通知する。また、日産関係者によると、国内では日産車体湘南工場(神奈川県平塚市)で生産体制を縮小し、従業員を日産車体九州(福岡県苅田町)に配置転換するなどの検討を進めている。これまでホンダの三部敏宏社長は「(日産の事業再生は)絶対的な条件だ」と話している。日産が踏み込んだ再建策を示す必要があると考えているホンダ幹部は「工場の統廃合を含む再建策が出ないと再生は難しいのではないか。日産側の示す内容次第で統合協議を白紙に戻す可能性もある」との強い懸念を示した。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16134326.html (朝日新聞 2025年1月25日) 三菱自、統合見送りへ 上場維持し協業模索 ホンダ・日産 ホンダと日産自動車が経営統合して発足させようとしている持ち株会社に、三菱自動車は参画しない方向で調整していることが24日、わかった。日産の持ち分法適用会社で上場も維持するという、今の状態を保つ案が有力視されている。三菱グループの意向も踏まえて近く最終判断する。ホンダと日産は、今年6月に最終合意できれば、来年8月に上場を廃止し、新設する持ち株会社にぶらさがることを検討している。三菱自はこの持ち株会社の傘下には入らず、三菱自の株式の27%を持つ日産とホンダとは、プロジェクトごとに協業する道を探る。三菱自の判断の裏には、企業規模で大きく上回るホンダや日産の間で埋没することへの恐れがある。三菱自の時価総額はホンダの10分の1ほど。持ち株会社に参画する場合、統合比率は小さくなり、経営の自主性は失われる可能性が高い。関係者によると、最終判断に向けては、三菱グループの意向が鍵を握っているという。三菱自の筆頭株主は日産だが、三菱商事や三菱重工業も大株主に名を連ねる。ホンダや日産がつくる新会社に参画して上場廃止となれば、三菱グループからは事実上外れてしまいかねない。関係者は「三菱グループとして三菱自を手放すということは考えづらい」と明かす。三菱自の加藤隆雄社長は昨年12月、ホンダと日産が経営統合の協議入りを表明した記者会見に同席。今年1月末をめどに協議に合流するか判断するとしていた。また、今月10日には「我々の立ち位置は(ホンダや日産と)少し違う。必ずしも経営統合ありきとも言えない」と語っていた。同社は24日、「決まった事実はない」とコメントしている。
| 経済・雇用::2023.3~ | 04:45 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2025,01,01, Wednesday
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 本年も、よろしくお願いします。 原産地は海外だが、現在は日本で普通に作られている作物は、米麦芋類をはじめ野菜・果物・蚕と数が多く、原産地が日本のものを探す方がむしろ難しいくらいだ。そのため、これからも日本産に移行できる作物は多いであろう。 (1)レモンの国産化 ちょっと前まで、レモンは輸入する作物だったが、*1-1のように、最近は国産のレモンもよく見かけるようになった。広島県尾道市瀬戸田町の生口島と高根島は、年平均気温が15・9度という温暖な気候と年間降水量の少なさが柑橘類の栽培に適していて、畑の主、由川光明さんはミカン・ネーブル・不知火・はるか・はるみ・ハッサクなどを作っているそうだ。島の生産者はレモン専業ではなく、収穫時期が異なる複数種類の柑橘類を栽培するそうだが、これができる地域は多いのではないかと思う。 消費者から見ると、農薬や保存料を使っていない国産レモンは、皮まで利用できるため貴重で、私は、国産レモンを皮ごとみじん切り機で粉砕し、それに蜂蜜を加えてレモンジャムにし、長期間、美味しく食べている。また、私は、100%レモンジュースを製氷器で氷にして冷凍することによって鮮度を長持ちさせ、1個あたりの分量が決まっていることを活かして、寿司はじめ色々な料理や菓子作りに使っている。願わくば、20cc毎の氷になった100%レモンジュースが売られていれば、使う時は必要な個数を電子レンジで溶かせば良いので、なお便利であろう。 *1-1は、「葉の商品開発の成功事例はない」としているが、オリーブの葉のように乾燥させれば、レモンの香リの香辛料ができ、オリーブの葉と同様に料理に使えそうだ。 なお、レモンはインド北部原産で柑橘類の中でも寒さに弱いそうだが、私がレモンの中に入っていた種を、(夏は暑くて冬は寒い)埼玉県で植えたところ、芽を出して元気に育っている。ただし、レモンは葉も美味しいらしく、蝶の幼虫が次々と葉を食べてしまうので、防虫剤を撒かざるを得なかった。なお、最近は、埼玉県でもミカンの実がなっているのを見るため、地球温暖化で作物の栽培適地も北上していると思う。 そのような中、*1-2は、京都でレモン栽培の試みが始まり、果実の加工を手掛ける日本果汁・宝酒造・良品計画が「京檸檬」のブランド化に挑んでいるというので期待できる。しかし、冬の冷え込みが厳しいと言われる京都でも、少し工夫すれば、グリーンレモンだけではなく黄色く色づいたレモンも収穫できると思う。 (2)パプリカとアボカドの国産化 *2-1のように、パプリカは約30年前にオランダから輸入されてから輸入品が流通の大半を占めていたが、円安・輸送費の高騰・大手資本の参入、環境制御が可能な大型温室での栽培拡大等によって、生産量が10年で倍増し、国内流通における国産比率は2割に高まり、「日本に着くまで日数を要するため、早取りする輸入品と比べて、色づいてから収穫する国産は味の乗りが良い」のだそうだ。しかし、未だ、価格差があって、契約取引が主体であるため、一般には入手しにくいのが難点だ。 それでは、メキシコからの輸入が主体だったアボカドは国産化できないのかと探してみたところ、*2-2のように、長崎市千々地区のビワ農家ら約10人が2024年11月22日に「長崎地区国産アボカド振興会」を発足し、長崎市産のアボカドとしてブランド化を進めて販売戦略を確立させるそうだ。アボカドは虫による害が少なく、農薬散布の手間が省けるほか、低いところに実がなるため、高齢の生産者も収穫がしやすく、ビワ農家の高齢化や後継者不足を踏まえて、ビワを守っていくためにもアボカドで収益を安定させ、夢のある農業にしたいとのことである。 実は、私は、スーパーで売っている長崎県産の美味しい琵琶を食べた後、その種を埼玉県で植えたところ、冬でも元気に育っている。また、アボカドもメキシコ産のものを使った後、その種を植えたら、埼玉県の場合は、夏は問題なく育ったが、冬になると枯れはしないものの成長が止まったように見える。そのため、場所を選んだり、環境制御が可能な大型温室で栽培したりすれば、どちらも問題なく作れると思う。なお、大温室の暖房は、地中熱やヒートポンプを使ったり、その他の工夫をしたりすれば比較的安価だ。 (3)カカオの国産化 チョコレートの原料となるカカオ豆の約8割は、*3-2のように、西アフリカのガーナの森から日本に届いているそうだが、ガーナの自然保護団体「エコケア・ガーナ」創設者のオウスアダイ氏によると「1万9千haのカカオ農園が金の違法採掘で破壊され」、採掘された金はアラブ首長国連邦やインドで加工されて欧米・日本・中国などにも金製品として輸出されているそうだ。 世界的な金の価格高騰が金の違法採掘の「追い風」となり、それとは対照的にカカオの生産量が落ち込んでいるとのことで、国際ココア機関(ICCO)によると、2020年度に年間104万tあった生産量が2023年度には48万トンと半減し、ニューヨーク市場価格では、2023年の年始以降、価格が上昇傾向で2024年に急騰し、わずか1年半で5倍近くまで跳ね上がり、その影響が日本のチョコレート菓子にも及んでいるのだそうだ。確かに、クリスマスケーキの価格は、2021年の3,862円から2024年には4,561円まで上昇した。 そのような中、*3-1のように、金の出ない日本の東京都小笠原村母島でカカオが栽培され、埼玉県草加市の平塚製菓が東京産カカオを使ったチョコレートを発売していたのは嬉しい。高温多湿地域で育つカカオは、これまで赤道に近いコートジボワールやガーナが主産地だったが、日本でカカオのできる場所は、沖縄や小笠原村母島だけでなく意外に多いのではないかと思う。 (4)真鯛の養殖など ![]() 2024.10.24日経新聞 みなと新聞 京都大学 (図の説明:左図のように、世界の漁獲高は1980年代半ばから一定だが、養殖業は伸びている。また、中央の図のように、日本の真鯛生産量も、天然ものの漁獲高は一定だが養殖ものが増え、現在では養殖の割合が80%になっている。そして、右図の右側が、ゲノム編集で筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させて食べられる部分の割合を増やした京大発の真鯛だ) *4は、①リアス海岸の西予市三瓶湾に真鯛の養殖場 ②体長50cm・重量1.8kg程度の真鯛が味が良く人気がある ③日本の全体漁獲量は最盛期の1980年代と比較して約3割まで減少、真鯛は天然はほぼ同水準、8割を占める養殖は約2割増加 ④大豆・白ゴマ等を混合した飼料を2020年に開発し、2022年に魚を全く含まない餌を食べた真鯛を出荷できた ⑤養殖鯛は天然鯛のコリコリ、もちもち感は乏しいが、熟成のうまみは遜色ない ⑥真鯛は人間が卵から孵化させた「人工種苗」がほぼ全てで自然の影響を受けない ⑦養殖の成否は人工種苗の優劣で決まる ⑧近大水産養殖種苗センターの谷口さんは「天然の稚魚を養殖すると1kgまで3年程度かかり、うちのは1年半」と言う ⑨近大の稚魚は、1960年代に兵庫県で漁獲された真鯛から生まれた子のうち、成長が早く形や色が美しいオスとメスを親魚として選ぶことを繰り返して14世代目 ⑩遺伝的リスク分散のため、別の海域由来の2つの系統の親魚も同様に選別を繰り返している ⑪京大発スタートアップ、リージョナルフィッシュは、筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させることで成長を早め、食べられる部分を増やすことに世界で初めて成功し、ゲノム編集した「22世紀鯛」を陸上養殖できる技術を開発して2021年に厚労省と農水省に食品としての届け出た ⑫人間は1万年以上かけて動植物の有益な突然変異を選んで繁殖を繰り返して品種改良したが、豚はその一例 ⑬ゲノム編集は自然界で起こる突然変異をスピーディーに再現 等としている。 世界の漁獲高は、上の左図のように、1980年代半ばから一定だが養殖漁業は伸び続けており、日本の真鯛生産量も、上の中央の図のように、天然の漁獲高は一定だが養殖が増えて、現在では、養殖の割合が80%にもなっている。 そして、③のように、日本の全体漁獲量は最盛期の1980年代から約3割まで減少しており、真鯛の場合は、海への排水管理や稚魚の放流などで天然ものも何とか同水準を保っているが、養殖ものが供給量全体の8割を占めているそうだ。 なお、日本のリアス式海岸は、①②のように、波が穏やかで海面養殖に向いている。私は玄界灘の天然真鯛と養殖真鯛を比較できるのだが、確かに養殖魚は必要な大きさまで成長させて出荷時の大きさを揃えることができ、かつ安価であるため、料理によっては養殖魚で十分である。しかし、⑤のように、筋肉質ではないため、新鮮な魚のコリコリ感がなく、刺身には向かない。なお、私は、“熟成”は“新鮮さ”とは対極にあり、腐る寸前の状態なので食べない。 しかし、養殖漁業は餌が必要であるため、豊富で安価な餌で養殖できなければ採算が合わない。そのため、④のように、大豆や白ゴマなどを混合した飼料を2020年に開発したわけだが、それでも餌に人間と競合する農産物を使うので、私は、ミドリムシ(https://www.euglena.jp/whatiseuglena/ 微細藻類ユーグレナ)の方が鯛にとっては栄養豊富で良いと思う。また、愛媛県であれば、餌にミカンの皮などを混ぜると、安価に柑橘系の香りがする鯛ができそうだ。 また、真鯛の良いところは、⑥のように、人間が卵から孵化させた「人工種苗」がほぼ全てであるため、稚魚を捕獲しなければならない魚種と違って自然の影響を受けず、⑦⑧のように、養殖の成否は人工種苗の優劣で決まるため、⑧⑨のように、成長が早く形や色が美しいオスとメスを親魚として選ぶことを繰り返す品種改良をすれば、必要な形質を持つ魚を作れることだ。 そして、近大は、⑩のように、遺伝的リスク分散のため別の海域由来の2つの系統の親魚も同様に選別を繰り返しているそうだが、私は瀬戸内海の鯛よりも玄界灘の鯛の方が流れの速い海で鍛えあげられているため、自然とマッスル鯛の系統になっていると思う。 なお、京大発スターチアップ企業が、⑪及び上の右図の右側のように、ゲノム編集で筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させ、成長を早めて食べられる部分を増やした「22世紀鯛(マッスル鯛)」を作ったそうだが、筋肉質になればコリコリ感も増すだろう。 人間は、⑫のように、1万年以上かけて動植物の有益な突然変異を選んで繁殖を繰り返し、品種改良をして人間にとって優良な農産物を作ってきた。ただし、⑬のように、ゲノム編集は自然界で起こる突然変異をスピーディーに再現しはするが、本当に必要な部分のみが変化して有害な物質は含まないのか否かは、多くの人がそれを食べた後でなければわからない。 (5)難民の受け入れ支援と職業紹介について 現在の日本では、少子高齢化が進んで“生産年齢人口”の割合が減ったため、労働力不足がネックになって、価格で国際競争に勝てなかったり、生産そのものができなくなったりするものが増えた。そして、これらを解決するには、女性や高齢者を“生産年齢人口”に組み込むだけでなく、外国人労働者の受け入れも重要である。 しかし、日本政府は、“生産年齢人口”が多くて困っていた昭和42年の閣議決定以来、「“単純労働者”は原則として受け入れない」との方針をとっており、現在の入管法でも“単純労働者”のためには、期間・業種・家族の帯同を限定した特定技能や技能実習しか認めていない。現在は、農林水産業・中小企業等で労働力不足がネックになっていることを考慮すれば、これらは早急に改められるべきである(https://www.moj.go.jp/isa/content/001407635.pdf、https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999336_po_20080108.pdf?contentNo=8 参照)。 そのような状況であるから、日本政府は、難民の受け入れにも著しく消極的だが、*5-1・*5-2のように、母国で内戦が繰り返されたり、地球温暖化で住む場所をなくしたり、母国では人権侵害を受けたりする難民が多いのだが、これらの外国人が日本人より犯罪率が高いわけでも努力しないわけでもなく、むしろ新しい財やサービスを作るのに役立つのである。 そのため、気候変動・戦争・人権侵害等を理由とした移住ビザの発効を行なって移住を支援し、認定NPO法人「難民支援協会」だけではなく、日本政府や地方自治体が渡航費・日本語学校の学費・教育などの支援や職業紹介を行なえば、日本における労働力不足と難民の福利の両方が解決される。さらに、人間は、困っている時に助けてくれた人の恩は忘れないものである。 ・・参考資料・・ <輸入作物の国産化> *1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS530T99S53UTFL00VM.html (朝日新聞 2024年5月4日) 生産量は全国の4分の1 レモンの島にレモン専業農家がいない不思議 最近は国産のレモンを店頭でよく見かけます。爽やかな酸味で夏のイメージが強いものの、収穫期は秋から春にかけて。日本有数の産地を訪ねると、収穫のラストスパートを迎えていました。瀬戸内海に浮かぶ生口島(いくちじま)と高根島という二つの島からなる広島県尾道市瀬戸田町。年間降水量が少なく、年平均気温は15・9度という温暖な気候が、かんきつ類の栽培に適している。生口島の山あいにあるレモン畑で、畑の主、由川光明さん(69)が待っていた。緑の葉の間から、実ったレモンが見え隠れする。「木の内側に入ると、もっとたくさん見えます」。由川さんの言葉に誘われ、腰をかがめて幹に近づいた。ちょうど傘の中に入ったかのように、広がった枝に囲まれる。枝からはレモンがたわわにぶら下がる。木の外側は風があたって皮が傷つきやすい。なるべく葉の内側に実るよう、剪定(せんてい)などで調整すると由川さん。「葉もレモンの香りがしますよ」とちぎって渡してくれた。青々しい刺激が鼻から頭へ届き、スッキリする。この香りを生かした商品開発をいくつもの企業が試みたが、まだ成功事例はないという。収穫は10月から4月、大きくなった順番にもいでいく。「他のかんきつもあるから、収穫期が長いレモンはつい後回しにしちゃうこともあるけれど」。レモンのほかに、由川さんは、ミカン、ネーブル、不知火(しらぬい)、はるか、はるみ、ハッサクなどを手がけている。「色々つくる中で、レモンは柱の一つ」と話す。島の生産者はレモン専業ではなく、収穫時期が異なる複数種類のかんきつを栽培する。JAひろしまによると、瀬戸田町の収穫量は年間2千トン前後。およそレモン2千万個で、全国の約4分の1を占める。中でも、由川さんら137戸の農家で構成する「せとだエコレモングループ」は、町のレモン畑の約2割にあたる32ヘクタールで特別栽培のレモンをつくっている。レモンは他の果実と違い、「もう1個食べて」と需要拡大を呼びかけるのはなじまない。ならば品質を国産の中でも別格に高めようと考えた。化学合成農薬と化学肥料を通常の栽培の半分に減らして育てたのがエコレモン。「皮まで食べられるレモン」をキャッチコピーに、2021年度は約600トンを販売した。エコレモンは、使用する農薬を抑えている分、病害虫に襲われやすく、外見の悪さなどから加工品の原料に回る割合が通常より高い。同JAは、企業と協力して、レモンケーキなどの菓子や飲料、調味料などを開発し、販売。収穫したレモンはすべて無駄なく利用しているという。レモンは5月中旬に花が咲く。夏を越えて、10月から早摘みの収穫が始まる。まだ皮が青く、グリーンレモンと呼ばれる。爽やかな香りとすっきりとした酸味が楽しめる。そのまま木に実らせておくと、黄色に色づき、香りが落ち着いて、果汁は増える。黄色いレモンは1月から4月までの収穫。熟すと酸味はまろやかになり甘さも出てくる。収穫が途切れる5月からは鮮度保持フィルムに包んで冷蔵していた黄色のレモン、6月中旬からはハウス栽培ものを出荷。年間を通じ瀬戸田のレモンを供給している。JAひろしまの理事でエコレモングループの会長、宮本悟郎さん(61)は「地元の関心も高まり、若者も帰ってきて、島に動きがあります」と話す。一昨年からは、広島特産のカキの殻を原料にした肥料を使い始めた。「さらに一歩進め、環境循環型農業を目指します」 *レモン 原産はインド北部と言われる。かんきつ類の中でも寒さに弱い。日本に流通する大半が輸入品で国産品は輸入品の1割強。広島県産が国産のおよそ半数を占める。ほかに愛媛県や和歌山県などが主な産地。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO84678320Y4A101C2LKB000/ (日経新聞 2024年11月9日) 京都レモン、名産品に育て 農家24軒が国産不足で栽培、宝酒造・無印が商品開発 京都でレモン栽培の試みが始まった。6年前に植えた苗が育ち、収穫が本格化している。旗振り役となるのが果実の加工を手掛ける日本果汁(京都市)だ。宝酒造や良品計画とともに京都産レモンを使った商品を生み出し「京檸檬(れもん)」のブランド化に挑んでいる。京野菜の九条ネギ畑の隣に青々と茂ったレモン畑が広がる。村田農園(京都府久御山町)では10月下旬に収穫イベントが開かれた。夏の日差しでレモンの表面が焼けてしまった部分もあったが豊作だという。レモンは苗木から本格的に収穫できるまで5年ほどかかる。現在は京都府南部を中心に24軒の農家が栽培しており、2024年の収穫量は23年比で6割増の5トン超となる見込みだ。インドが原産とされるレモンは、温暖な気候で夏に乾燥する地域が栽培に適しており、年間の気温差が激しい京都府ではほとんど栽培されてこなかった。レモンが熟すのは12月~3月だが、冬の冷え込みが厳しい京都では実が凍るのを防ぐため黄色く色づく前のグリーンレモンを収穫する。グリーンレモンは酸味よりも苦みが際立つが、すっきりとした味わいが特徴だ。このため加工に適している。宝酒造は23年11月から京都産レモンを使った地域限定チューハイ「宝CRAFT京檸檬」を販売している。「甘すぎず食事に合わせやすいチューハイに仕上がった」(広報担当者)。無印良品では一部店舗で京檸檬を使っためんつゆと肉のたれを販売。さっぱりとした味わいが好評だったという。京都でレモン栽培が広がる背景には、国産レモンの供給不足がある。広島県や愛媛県などが主な産地で19~21年の栽培面積は2割ほど増えたが、収穫量はむしろ2割近く減った。気候変動や農家の高齢化などが主な要因だ。京檸檬を主導する日本果汁の河野聡社長は「国産レモンを思うように仕入れることができないこともあった」と打ち明ける。かんきつ類に詳しい京都大学の北島宣名誉教授は「地域を見極めれば京都でレモンを育てることも可能」と話す。府内の各地で栽培した結果、冬の平均最低気温が数度でも暖かいと、特定の地域ならレモンの木が冬を越せることがわかった。村田農園では成木に育った現在、冬の防寒対策はほとんど必要ないという。冷え込みにくい地域を探して成功例を重ねている。18年に立ち上がった「京檸檬プロジェクト協議会」は宝酒造や伊藤園など飲料・食品メーカーが参画する。農家が育てたレモンは日本果汁が買い取り、果汁などに加工してメーカーに納めている。農家が販路を心配せず、栽培に集中できる仕組み作りを心がけている。今後、京檸檬の生産者を増やすために北島名誉教授は「手をかけすぎない栽培方法の確立が欠かせない」と語る。主要産地と異なり、京都でレモンを栽培する農家は兼業農家が多い。幼木期の防寒やせん定などの手間を減らすことが重要だ。村田農園は現在、レモン畑を第3圃場まで増やして300~400本の木を栽培している。日本果汁は京都府内で30トン以上の収穫量を目指す。河野社長は「いずれは宇治茶や京野菜と並ぶ京檸檬ブランドを築きたい」と意気込んでいる。 *2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/280445 (日本農業新聞 2025年1月5日) [シェア奪還]国産パプリカ10年で倍増 大手参入 円安追い風、味で優位 輸入品が流通の大半を占めていたパプリカで、国産が存在感を高めている。生産量は10年で倍増し、国内に流通する国産の比率は2割に高まった。輸入品にとって逆風となる円安の中、大手資本が相次ぎ参入し、環境制御が可能な大型温室での栽培が拡大。安定調達したい実需者のニーズを捉え、シェアを着々と伸ばしている。パプリカは約30年前にオランダから輸入されて以来、食卓に定着した。ただ、近年は円安や輸送費の高騰が進行し、財務省の貿易統計によると、2023年の輸入量は2万5027トンと5年で4割減っている。勢いがあるのが国産だ。農水省によると、22年のパプリカ出荷量は7130トンと10年で9割増えた。その結果、10年前に1割だった国産比率は2割まで高まった。輸入への逆風をビジネスチャンスと見て、大手資本による生産への参入が相次いでいる。 ●大型温室整備、高収量法人も 24年5月には富永商事ホールディングス(兵庫県南あわじ市)が、国産の先駆けとして知られる水戸市の農業法人Tedyから企業譲渡を受けた。同法人は22年、高度な環境制御システムを備えた1・8ヘクタールの大型温室を整備。ビニールだと収量は10アール15トンが限界だったが、ガラス温室で太陽光を取り込めるようになり、23年産は同20トン以上を確保した。林俊秀会長は「日本に着くまで日数を要し早取りする輸入品と比べて、色づいてから収穫する国産は味の乗りが良い」と優位性を語る。11月後半から出荷を始め、年末の需要期にピークが来るよう照準を定める。国産の出回りが増えたことで、実需には国産の調達を強化する動きも出ている。総菜店「RF1」などを展開するロック・フィールド(神戸市)は、10年前に重量ベースで8割だった生鮮野菜の国産比率を、前期(23年5月~24年4月)には92・5%まで高めた。近年強化するパプリカは、魚介とあえたマリネやサラダなど、幅広いメニューに使う。調達部は「栽培技術の向上や生産者の増加で、年間を通じて輸入品と併用できるようになった。価格差も縮まってきている」と、調達環境の変化を語る。仕入れは契約取引が主体。自社で扱う総菜用に適しており生産者も取り組みやすい規格を両者で協議し、設定する。24年には国産比率を5割まで高めた。 *2-2:https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=0263d5205af4460f8d4d0d301235f3c1 (長崎新聞 2024/11/23) 『長崎産アボカド』ブランド化へ 千々地区ビワ農家ら 振興会設立 新たな収入源としてアボカドを栽培する長崎市千々地区のビワ農家ら約10人が22日、「長崎地区国産アボカド振興会」を発足した。長崎市産のアボカドとしてブランド化を進め、販売戦略を確立させる。安定した収量の確保が見込まれる来冬の初出荷を目指す。市農林振興課によると、アボカドは虫による害が少なく農薬散布の手間が省けるほか、低いところに実がなるため、高齢の生産者も収穫がしやすいという。アボカドの栽培は、同地区のビワ農家で長崎アボカド普及協議会副会長の森常幸さん(78)が収益安定のため約6年前に始めた。周辺のビワ農家にも耐寒性が強いとされる品種「ベーコン」「フェルテ」の種を配り、現在約20人が栽培している。この日は森さんの果樹園に約10軒のビワ農家が集まった。来冬の初出荷に向け、栽培品種の選定や販売戦略などを協議した。森さんはビワ農家の高齢化や後継者不足を踏まえ「ビワだけでは厳しくなっている。ビワを守っていくためにもアボカドで収益を安定させ、夢のある農業にしたい」と呼びかけた。森さんが種から栽培を始めて約6年。この冬は一定の収量を確保できる見通しだ。収穫したアボカドは来年1月に鈴木史朗市長に贈呈しPRするほか、同17日に市役所食堂で提供される。 *3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51355770U9A021C1L83000/ (日経新聞 2019年10月24日) 東京産カカオのチョコ、小笠原で栽培 平塚製菓 チョコレートなどのOEM(相手先ブランドによる生産)生産を手がける平塚製菓(埼玉県草加市)は24日、東京都小笠原村の母島で栽培したカカオを使ったチョコレートを発売した。2003年から栽培に取り組み、商品化した。国産カカオは沖縄で作られている例はあるものの、東京産の商品化は初めてとなる。「TOKYO CACAO」という商品名で2万個を限定販売する。30日まで東京・渋谷の商業施設「渋谷ヒカリエ」内で販売するほか、11月1日からは同社のオンラインストアで扱う。カカオ分70%の約6センチ×6センチの板状のチョコレートが2枚入って3000円(税別)で、かんきつ類のような酸味と香りが特徴だ。高温多湿の地域で育つカカオは、赤道に近いコートジボワールやガーナが主産地となっている。同社は亜熱帯に属する母島で質の良いカカオを作るため、土壌の改良などに取り組んできた。現在は年間で約1トンのカカオ豆を収穫できるといい、「今後は2トン収穫できるように木を大きくしたい」(平塚正幸社長)としている。 *3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16120047.html (朝日新聞 2025年1月6日) ガーナのカカオ 違法な金採掘、急騰するチョコ 年末年始につい食べ過ぎてしまうスイーツといえば、チョコレートだろう。クリスマスケーキはもちろん、冬に食べるチョコアイスは格別だ。その原料となるカカオ豆の約8割が、西アフリカのガーナの森から日本に届いている。分けいつても分けいつてもカカオ山――。俳人の種田山頭火がガーナを訪れていたら、こう詠んでいたかもしれない。2024年12月、ガーナ東部州のカカオ農園には、そう思わせるような光景が広がっていた。「この山はカカオの木で覆われている」と話すのは、地元のカカオ生産組合のテイノル・フランシス会長(38)。幹にはこぶし大の実がいくつもぶらさがっていた。「でも、多くの山はまるで変わってしまった」。フランシスさんは、そう明かした。 * 異変はすぐに判明した。近くの山でトラクターが地響きをあげている。地面はでこぼこに固まった赤土で覆われ、ため池は濁った緑色だ。カカオ農家のアモア・ジョージさん(52)は「以前はカカオの森だったのに」と悔しそうに話す。親族らで営むカカオ農園は、サッカーコート約4面分の広さだった。しかし、4年前に違法な金の採掘業者に迫られ、約2・5面分を1万9千セディ(約19万円)で売却。すぐに採掘が始まった。違法採掘は、不況で職に就けない若者らの働き口になっていた。地面が数十メートル掘り下げられ、あちこちで地下水が流れ出した。金の精製で使う水銀や重金属がこの水に溶け出した。残ったカカオの農園の土壌が汚染され、生育に影響が出始めた。異常気象も重なった。カカオには週に2度ほどの雨が必要だが、2週間ずっと雨が降らないこともあった。弱った木からさらに病気が広がり、面積あたりの収穫量は4年前の6分の1まで落ち込んだ。今年に入って採掘が終わり、土地は返還された。だが、緑の森は赤土の山と化していた。いま、採掘場に土を埋め戻している。ジョージさんは「再びカカオを植えても、育つかわからない。収入がほとんどなく生きるすべがない」と嘆く。 * ガーナの自然保護団体「エコケア・ガーナ」創設者のオベド・オウスアダイ氏は「1万9千ヘクタールのカカオ農園が、違法採掘で破壊された」と指摘。採掘された金は、アラブ首長国連邦やインドで加工され、欧米や日本、中国などにも金製品として輸出されているとみられる、と説明した。世界的な金の価格高騰が違法採掘の「追い風」にもなっているという。対照的に、カカオの生産は落ち込んでいる。国際ココア機関(ICCO)によると、20年度に年間104万トンあった生産量は、23年度に48万トンと半減したとみられる。ニューヨークの市場価格では、23年の年始以降、価格が上昇傾向となり、24年になると急騰。わずか1年半で5倍近くまで跳ね上がり、「カカオショック」と呼ばれた。この影響は、日本のチョコレート菓子にも及んでいる。明治は24年、「きのこの山」や「たけのこの里」などの価格を2度にわたり値上げ。ロッテも、「コアラのマーチ」や「パイの実」などを2度値上げした。帝国データバンクによると、クリスマスケーキの平均価格は21年の3862円から、24年には4561円まで上昇。主要な原材料が軒並み値上がりする中でも、チョコレートの値上げ幅が最も大きいという。ガーナでの「カカオよりも金」の流れは止まらず、元に戻すのが困難な段階まできている。新たな懸念も浮上している。土壌汚染のカカオ豆への影響だ。カカオにはもともと、土壌由来などの重金属が少量含まれる。農場の汚染が進めば、さらに重金属の含有量が増える恐れがあると、専門家らはいう。オウスアダイ氏は「日本の消費者にとっても、ひとごとではない。(生産者に適正な対価が支払われる)フェアトレード商品を選ぶなど消費行動を変えることで、生産地によい影響を与えられるということも知ってほしい」と呼びかける。 ■金鉱山、数百万人が従事 「カカオ農園を壊す金鉱山で働く人は悪人か」と問われると、返答に困る。数百万人が従事する産業となっており、金の採掘なしに彼らの暮らしは成り立たない。白昼堂々と採掘していたのは「ふつうの若者」たちだ。採掘を取り締まれば数百万人の食いぶちがなくなり、治安悪化にもつながりかねない。生産地で何が起きているのか、自覚したいと思う。 ■農家には「ぜいたく品」 カカオの実は、果肉つきの豆を約1週間発酵させ、1週間乾燥させると、「チョコレート」色の豆が顔を出す。焙煎(ばいせん)し粉末にしてミルクや砂糖を加えれば、チョコレートができあがる。ガーナでも、バレンタイン商戦では多くのチョコが出回るというが、地方ではあまり消費されない。製品は原料の10倍以上の価格で、農家にとっては「ぜいたく品」だ。 <養殖漁業> *4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD062EG0W4A201C2000000/ (日経新聞 2025年1月5日) 真鯛を科学する 養殖やゲノム編集で持続可能な魚へ進化 花は桜木、魚は鯛(たい)――。古来祝いの席に欠かせないのが、色かたちが美しい真鯛だ。新たな年を迎え、さっそく舌鼓を打った人も多いことだろう。そんな和食文化を代表する縁起物が伝統を守りながらも、日々進化していることをご存じだろうか。技術を駆使し、世界へ羽ばたく「百魚の王」を追った。 ●養殖で目指す「大国」 リアス海岸が美しい愛媛県西予市三瓶(みかめ)湾。早朝、漁船に乗り込むと10分ほどで目的地へと到着した。ここは真鯛(まだい)の養殖場だ。10メートル四方の生け簀(す)には、ひとつにつき約5千尾の真鯛がいるという。深さ約10メートルまで沈めた網を少しずつ引き上げると、にわかに海面が魚影で赤く染まり、水しぶきが跳ね上がる。生きのいい鯛をたも網ですくい、船上のカゴに移していく。いずれも体長50センチ、重量1.8キロ程度。真鯛は寿命が15年以上と長く、10キロ以上に成長するのもあるが、最も味が良く人気があるのはこのサイズだという。カゴには6尾入るが、お互い傷つかないように1尾ずつたて板で仕切られていた。この日は70箱以上が岸で待ち構えているトラックに積まれ、午前9時すぎには市場に運ばれた。スズキ目タイ科マダイ属の真鯛だが、日本近海にはチダイ属、キダイ属、クロダイ属などが生息する。そのなかで見た目が赤く、姿が美しい真鯛はおめでたい魚の象徴だ。日本の漁獲量(海面)全体は最盛期だった1980年代から約3割の水準まで減少した。しかし、真鯛はここ10年で見ると天然ものはほぼ同水準、8割を占める養殖ものは約2割増えている。「真鯛はサステナブルな水産資源になり得ます。モデルはノルウェーです」。水揚げ作業を見せてくれた赤坂水産(愛媛県西予市)の赤坂竜太郎さんはこう言って笑った。ノルウェーは養殖サーモン生産量で日本のすべての海面養殖量を上回る「大国」。目指す先がはるか彼方(かなた)にあるのは分かっているが、真鯛こそが可能性を秘めた魚だとの確信がある。 ●餌づくりから改革 まず着手したのが餌だった。養殖真鯛は1キロ太るのに餌としてカタクチイワシ4キロが必要という。水産資源の保護が叫ばれるなか、これでは持続可能とはいえない。そこで赤坂さんは真鯛の雑食性に着目。餌に魚を使わず、大豆や白ゴマなどを混合した飼料を2020年に開発した。配合など試行錯誤しながら22年に魚をまったく含まない餌を食べた真鯛を出荷できるまでになった。養殖ではマグロやブリ、ヒラメなども人気だが、こうはいかない。いずれも肉食の傾向が強く、魚なしの餌では成長しづらいのだ。とはいえ、おいしくなければ消費者には受け入れられない。養殖鯛は天然鯛のようなコリコリ、もちもち感は乏しいが、熟成のうまみは遜色ない。「世界で食べられているノルウェーサーモンも柔らかいでしょう?」。赤坂さんは養殖場の近くに加工施設も完備し、全国どこでも販売先が望む熟成度で配送可能という。 ●人工種苗が支える 日本が「真鯛大国」になり得る理由はもうひとつある。マグロやブリ、カンパチなどの場合、稚魚は漁師から調達する「天然種苗」が大半だ。一方、真鯛はサーモンと同様に人間が卵から孵化(ふか)させた「人工種苗」がほぼすべてを占める。つまり自然の影響を受けにくいのだ。健康で美しく、成長が早いうえにおいしい成魚に育つ稚魚をいかに生み出すか――。養殖の成否は人工種苗の優劣で半ば決まると言っても過言ではない。しかし、養殖業者がそれを手掛けているわけではない。 「天然の稚魚を養殖すると1キロの大きさに成長するまで3年程度かかりますが、うちのは1年半です」。近畿大学水産養殖種苗センター(和歌山県白浜町)で事業副本部長を務める谷口直樹さんはこう言い切る。道のりは長かった。近大で生まれる稚魚は1960年代に兵庫県で漁獲された真鯛に遡る。それらから生まれた子どもたちのうち、成長が早く形や色が美しいオスとメスを親魚として選ぶことを世代ごとに繰り返した。現在はこの系統の親魚は14世代目だという。遺伝的なリスクを分散するため、別の海域を由来とする2つの系統の親魚も同じように選別を繰り返している。2025年1月に産卵させる予定の親魚を見せてもらった。水槽内で泳ぐ35尾はいわば精鋭中の精鋭だ。オスはすべて兵庫由来の系統でメスは別系統という。真鯛の産卵は白浜海域では通常3〜4月だが、養殖業者のニーズに合わせて、明るさや水温を調整することで産卵時期を調整することができるようになった。産卵すると40〜50時間後に孵化し、それから40〜50日で3センチほどのピンク色の稚魚に成長する。この段階で海の生け簀網に移す「沖だし」を迎え、養殖業者に引き渡すまで50〜60日程度を過ごす。歩留まりも向上し、出荷できるのはこのうち70%程度。その後の養殖業者の段階では9割以上が成魚に育つという。 ●ゲノム編集が「世界を救う」 海を必要としない真鯛も登場した。京都大発のスタートアップ企業、リージョナルフィッシュ(京都市)はゲノム編集した「22世紀鯛」を陸上養殖できる技術を開発した。筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させることで成長を早め、食べられる部分を増やすことに世界で初めて成功。21年に厚生労働省と農林水産省に食品としての届け出を完了した。人間は1万年以上をかけて自然界で起こる動植物の有益な突然変異を選び、繁殖を繰り返して品種改良してきた。家畜化したイノシシが豚になったのはその一例だ。社長の梅川忠典さんは「ゲノム編集は自然界で起きる突然変異をスピーディーに再現するもの」と意義を強調する。商業ベースに乗せるには量産化が不可欠だが、大手企業と組んで施設を建設する計画が進行中という。ゲノム編集した食物に抵抗感のある消費者がまだ多いのも確か。ただ22世紀鯛は商品化にあたり、「ゲノム編集技術を使用」とあえて強調した。「ゲノム編集は世界を救う技術。この魚を生み出したことを誇りに思っています。これからも消費者の理解を得るとともに、科学で社会に貢献するという信念に変わりありません」。梅川さんはこう言い切った。 ●万葉集にも鯛の料理法 日本での真鯛(まだい)の歴史は縄文時代に遡る。各地の貝塚でその骨が出土され、青森県の三内丸山遺跡では、つながったままの真鯛の背骨も見つかった。遺跡には煮たり、焼いたりした痕跡があり、どのように食べていたのかと想像が膨らむ。奈良時代に成立したとされる日本最古の和歌集、万葉集には既に「鯛」の表記と料理法が登場する。「醬酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)きかてて 鯛願ふ 我れにな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)」。現代訳すれば、醬(ひしお)と酢にすりつぶした蒜(のびる)を混ぜて鯛を食べたいのに、お吸い物など私に見せないで――という内容だ。古代から鯛が人気の食べ物だったことがうかがえる。高貴な食材でもあった。平安時代中期の法典「延喜式」には、真鯛が各地から朝廷に献上されていたことが記載されている。ほとんどが干物や塩漬けだが、和泉(大阪)からは鮮魚も届けられていたようだ。 ●平安時代から伝わる「式包丁」 当時をしのばせる儀式が残っている。藤原道長の時代から伝わるという「式包丁」だ。宮中で節会など重要な行事で行われていたもので、大きな俎(まな)板にのせた真鯛や鯉(こい)など魚や雉(きじ)や鶴といった鳥を直接手で触れることなしに包丁刀と俎箸(まなはし)で切り分け、めでたい形を表現する。殺生した命を食材に移行するための儀式だ。滋賀県甲賀市のミホ・ミュージアムに烏帽子(えぼし)と狩衣(かりぎぬ)姿で登場したのは、京都の和食店、萬亀楼(まんかめろう)の小西将清さん。生間(いかま)流の式包丁を一子相伝で受け継ぐ、30代目家元にあたる。この日はイベントで式包丁を披露した。かつて朝廷で最も高貴な魚とされたのは鯉だった。真鯛が「百魚の王」ともてはやされるようになったのは江戸時代以降。「めでたい」と語呂を意識するようになったのもこのころだ。1785年には「鯛百珍料理秘密箱」という鯛を使った100に及ぶレシピを紹介する本も登場した。 ●締め方でおいしさ長持ち 鯛をいかにおいしく食べるか。そんな欲求は現代も変わらない。2024年10月、北海道函館市で開かれた世界料理学会で画期的な真鯛の締め方が報告され、話題となった。発表したのは兵庫県明石市で天然真鯛などの仲卸業を経営する鶴谷真宜(まさのり)さん。セリで落とされた真鯛の締め方は通常、①脳に傷を入れることで動きを止める「脳殺」、②血を抜くことで腐敗や臭みを抑える「放血」、③脊髄を破壊し死後硬直を遅らせる「神経破壊」――からなる。しかし、鶴谷さんは、脳殺せずに神経破壊だけして動けなくなった真鯛が水の中でエラ呼吸しているのを見つけた。これをもとに16年に研究を開始。神経破壊によるショックで排せつが促されるとともに、動くことができないので体内にあるおいしさのもととなる成分(アデノシン三リン酸=ATP)の消費が抑えられているとの仮説を立てた。「数万尾ほど試して、現在の締め方にたどり着きました。個体や顧客の好みによって締め方は少しずつ変えます」と鶴谷さん。18年に東京の高級日本料理店「龍吟」に認められたのをきっかけに、その鯛は全国にファンが広がっている。地元のすし屋「明石菊水」もそんな店のひとつ。代表の楠大司さんは「最大の特徴はおいしく食べられる状態が長持ちしたことです」という。以前は朝に届いた真鯛はその日のうちに提供していたが、いまは翌日でもおいしく食べられる。翌日になると少し熟成して柔らかくなる一方で、コクは増す。お客の好みによって使い分けることも、同時に食べ比べることもできるようになった。鶴谷さんは「どうしておいしさが長持ちするのかなど自分なりの考えはありますが、科学的に実証できていません。大学など研究機関の協力を得て解明したい」とおいしさへの追求に貪欲だ。 ●「百魚の王」、世界へ 漁師、仲買人、料理人らに共通するのは、おいしい真鯛を多くの人に食べてもらいたいという思いだ。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界ではたんぱく質源としての魚介類の需要は拡大の一途をたどり、1人当たりの消費量は過去半世紀で2倍に膨らんだ。ところが、日本からの養殖真鯛の輸出は増加傾向とはいえ、23年で66億円程度。輸出先の大半は韓国だ。その他の国々で鯛を食べる習慣がないからだ。「とにかくおいしさを知ってもらうことが重要」と愛媛の赤坂さんは自社の養殖真鯛を輸出するだけでなく、米国に鯛をメインにした和食レストランを開く準備を始めた。明石の鶴谷さんも24年10月から天然真鯛を冷蔵でシンガポール、タイ、マレーシアの和食料理店に販売し始めた。海外への普及に欠かせないのは料理人だ。世界に和食ブームが定着して久しいが、鯛のさばき方や調理法を本格的に学んだ人はそう多くない。そんななか京都市は京料理を世界へ普及させることを目的に外国人に特例措置を導入した。老舗料亭、菊乃井本店で働くベトナム出身のファム・ドゥック・ユイさん(25)はそのひとり。蒸しものと煮ものが担当のユイさんは明石産の真鯛をさばき、あら炊きを調理していた。味つけは先輩が担当するが「味見もできますし、何でも教えてくれます」。総料理長の辻昌仁さんは「日本料理を世界に広げるのが菊乃井の考え。隠すものはなにもありません」。この日はミャンマーやハンガリーからなど、ほかの制度で滞在する外国人6人も調理場で働いていた。ユイさんは言う。「夢は30代で故郷に近いホーチミンに本格的な日本料理店を開くことです」。本場仕込みの鯛料理が世界中で食べられる日は案外近いのかもしれない。 <難民と外国人労働者> *5-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSDT2JCPSDTUHMC00BM.html (朝日新聞 2024年12月26日) 日本めざす難民学生、外国人が必要な日本 つなぐNPO支える米国人 日本に来て6年になる栃木県内の大学4年生、マダネ(24)が13歳の時のことだ。故郷、シリアのホムスは内戦の激戦地帯。マダネの家があった地区は安全とされていたが、ある晩、爆撃が始まった。戦闘機が飛び交い、ミサイル音が耳をつんざく。隣の家が爆撃を受け、家族7人で身を寄せ合った。「死ぬのは仕方ない。でも、もし3歳下の弟と2人だけ残されたら、どうやって生きていこう」。家族は無事だったが、直後に全員でレバノンに出国。その後イエメン、サウジアラビアと移る。マダネは「日本に行きたい」と思い始める。日本のアニメやゲームが好きだった。「日本は安全で平和な国。明日生き延びられるかわからない生活はもう嫌だ」。ネットで「日本」「難民」「行きたい」と検索すると、日本の認定NPO法人「難民支援協会」が実施する、シリア人学生が対象の日本語教育プログラムを見つけた。2年間の日本語学校の学費と渡航費を出してくれるという。選考はトルコで行われていたため、単身トルコに移り、応募。合格した。千葉・松戸にある語学学校、日本国際工科専門学校に通い、生活費はパン工場のバイトで稼いだ。作業はきつかった。でも、日本語が上達すると製品管理の仕事もまかされ、やりがいも出てきた。奨学金で大学の電子情報工学科に進み、IT企業に就職も決まった。「日本はがんばれば認めてくれる国。困難を抱える人に、日本で人生が変えられると希望を与えたい」。教育プログラムは、日本国際工科専門学校が2015年、難民支援協会に「シリアの若者を学生として受け入れられないか」と相談して始まった。アフガニスタンやウクライナに広がり、150人以上受け入れた。21年からはNPOの「パスウェイズ・ジャパン(PJ)」が引き継いだ。学生のコミュニティーを作り、交流や相談の機会を多く設け支援する。 ●日本が変われば影響は大きい」 PJの代表理事、折居徳正(56)は事業の意義を「優秀で日本に来たいと願う学生たちがいる。一方で、日本も外国人の留学生や働き手が必要。その橋渡し」と語る。プログラムの大口寄付者の1人が、米国人のエド・シャピロ(59)だ。シャピロはボストンで27年間、金融業界で活躍。02年に社会に恩返しをしたいと家族で財団を設立した。米国にはこういう「ファミリー財団」が4万以上あるという。15年、米国政府がシリア難民の受け入れ拡大を表明。16年にボストンにも難民の家族がやってきた。シャピロは財団の運営に専念し、難民支援に力を入れるようになる。22年にウクライナ戦争が起こると、米ワシントン・ポスト紙に、日本の避難民受け入れについて記事が載った。日本の難民認定率が非常に低いこと、「ウクライナ避難民の受け入れが日本の難民政策の抜本的改善につながることを期待する」という難民支援協会の代表理事、石川えり(48)のコメントが紹介された。記事を読んで日本の難民政策に関心を持ったシャピロは石川に連絡をとり、PJの事業を知って寄付を決めた。なぜ米国人のシャピロが日本に来る難民の支援にお金を出すのか。「日本は経済大国。そこが変われば世界への影響は大きい。しかも、日本は少子化に悩んでおり、外国人の力を必要としている。社会を開く良い機会だと思う」。シャピロはとりあえず26年までの寄付を決めている。「いずれは、プログラムの卒業生が寄付をして回る仕組みになるといい」と思い描く。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250107&ng=DGKKZO85884200X00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.7) 〈逆転の世界〉オセアニアから見ると 気候難民、日米受け入れを 私の母国であるオーストラリアは太平洋の島しょ国に対する最大の支援国だ。2023年にはツバルと「ファレピリ連合条約」を結び、世界で初めて気候変動を理由とした移住ビザの発行を決めた。国内ではあまり話題になっていない。豪州の国民は高騰する生活費への対応など政府のインフレ対策に対する関心が最も高い。気候変動は最重要課題ではない。米航空宇宙局(NASA)による人工衛星の観測データを使った分析では、海面上昇の速度は約30年前と比べて2倍に高まった。ソロモン諸島ではすでにいくつかのサンゴ礁の島が海に沈んだ。被害を受ける島しょ国は、化石燃料を大量に消費する先進国に対して温暖化ガスの排出削減を求めてきた。先進国が十分に責任を果たしているかといえば、答えは「ノー」だ。豪州を含む先進国の議論にはスピード感がない。「気候難民」はすでに存在するし、今後も生まれる。彼らが移住を決断しなければいけない時に、先進国は選択肢を少しでも多く提供することが重要になる。受け入れ先が豪州だけでは不十分だ。パラオやマーシャル諸島とつながりが深い米国や日本も役割を果たせるだろう。太平洋の島しょ国では、インフラ整備などを積極支援する中国の存在感が高まっている。24年に取材で訪れたトンガでは街のあちらこちらの建物に「(建設は)中国の支援だ」と示す看板がかけられていた。海洋進出を狙う中国も念頭に、豪州は島しょ国への支援を続けるだろう。
| 農林漁業::2019.8~ | 12:56 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2024,11,25, Monday
(1)COP29について
![]() 2024.11.24日経新聞 2024.11.20沖縄タイムス 2024.11.18日経新聞 (図の説明:左図が、COP29で合意されたポイントで、中央の図が、COP29で各国が公表した2035年の温室効果ガス削減目標だ。また、右図は、脱石炭の廃止目標だが、日本は国民の金を拠出すること以外は何の目標も示せず、気候変動について真剣に考えていないことがわかる) 1)米国の「パリ協定」からの離脱可能性と日本の対応 ![]() 2024.11.7毎日新聞 資源エネルギー庁 (図の説明:左図は、世界の平均気温の上昇で、2024年は1.5℃を超えそうだ。中央の図は、米国が2006年以降に開発を進めたシェール層のシェールガス・シェールオイルの説明で、右図のように、シェールガスの生産開始によって天然ガスの値段は著しく下がったが、変動費は再エネより高く、燃焼時にCO₂を出すことも間違いない) *1-1のように、地球温暖化によって2024年の世界平均気温は過去最高で、記録的な猛暑や干ばつ・巨大台風・豪雨・洪水等の災害が世界で多発している。そして、その被害は米国の経済・企業・住民にも影響を及ぼしているが、米国のトランプ次期大統領は、環境規制に否定的なリー・ゼルディン氏を米環境保護局(EPA)長官に起用して、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱しそうである。 確かに、米国は2006年以降にシェール層の開発を進め、シェールガスやシェールオイルの生産が本格化するに伴って、天然ガス・原油の輸入量が減少し、価格も下がる「シェール革命」を起こしたため、簡単に脱化石燃料とは行かないだろうが、いつまでも化石燃料に固執していると、むしろ米国の産業や技術は世界に遅れるというパラドックスを抱えている(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/1-1-1.html 参照)。 このような中、アゼルバイジャンで開かれたCOP29の焦点は、*1-2-1・*1-2-2のように、現状では年1000億ドル(約15兆円)の先進国から途上国への金融支援を、先進国側が2035年までに少なくとも年3千億ドル(約45~46 兆円)出すことで合意し、それに加えて官民あわせて1.3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決め、途上国からの任意の支援資金拠出も奨励したが、脱化石燃料についてはCOP28の成果を再確認しただけに終わったそうだ。 また、EU・(産炭国)オーストラリアは、会期中に石炭火力発電所新設に反対する有志連合を立ち上げたのに対し、日本・米国はこれに入らず、国連傘下の国際的炭素クレジット売買に関する市場創設ルールについて合意して、再エネ導入等による温暖化ガス排出削減効果を取引して炭素クレジットを購入できるようにし、温暖化ガス排出削減効果を取引して削減目標を達成したことにするのでは、自国の温暖化ガス排出削減は進まない。 その上、日本は石炭火力削減ではG7最下位で、調達量や価格に課題のあるアンモニアへの転換に活路を見いだしているそうだが、これは現実を直視した取捨選択ができていないということである。 2)途上国の対応 ![]() ![]() 日立ソーシャルイノベーション Jccca 日立システム (図の説明:左図は、COPの変遷で、1997年日本開催のCOP3で温室効果ガスの排出削減を定めた京都議定書が採択され、2015年開催のパリ協定で京都議定書に代わって全ての国が参加して世界共通の長期目標としての2℃目標と1.5℃に抑える努力等が定められた。中央の図は、2020年の主要国CO₂排出量と1人当たり排出量の比較だが、国別では中国・米国・インド・ロシア・日本の順で、1人あたりでは米国・ロシア・韓国・日本・中国・ドイツの順となっており、必ずしも新興国の排出量が少ないわけではない。右図は、人工衛星から森林の状況を把握してCO₂の吸収量を可視化するシステムで、現在はカーボンクレジット創出量の算出に用いられているが、逆にカーボンクレジット喪失量の把握にも使用することができる) *1-3-1・*1-3-2は、①COP29では大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と負担軽減を図る先進国が対立 ②再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧に多額の資金を要する途上国は、年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求しており、最後の全体会合でも合意に至った達成感がなかった ③途上国への支援目標は2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった ④インドとや途上国の代表は「合意は私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言 ⑤協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策に繋げる必要 ⑥合意した金額を先進国の公的資金だけで賄うのは厳しく、資金が足りなければ途上国の対策が滞るので、資金の出し手を増やす必要 ⑦温暖化ガスの世界最大排出国である中国や中東産油国などは余力がある筈 ⑧G20は世界の温暖化ガスの約8割を排出し、裕福な国や地域は協力する責任 ⑨民間の投資加速も不可欠 ⑩COP29では2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった 等としている。 このうち①④⑧の途上国が大量の温室効果ガスを排出してきた先進国に対して責任に見合う拠出を求め、インド代表等が「合意は私たちが直面する課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言しているのは、⑧のように産業革命後と現在のCO₂排出量のみを見ればそうかもしれない。しかし、長い歴史を有する文明の中で、化石燃料を使わず森林を伐採して燃料にしてきたのであれば、CO₂吸収源を減らしてきた効果も大きいと思われるため、これも正確に測定すべきであるし、現在は砂漠でも本来は森林や田園にできる場所であればそうすべきである。 そのため、②③のように、途上国が再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧のためとして年1兆3千億ドル(約200兆円)の資金を要求し、“先進国”が裕福(?)だという理由で支援目標を年3000億ドル(約46兆円)にすると決めたのでは、気候危機を題材にしたオネダリとバラマキの構図に見える。 そして、⑥⑩のように、COP29で2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すことを合意した金額でも、一般増税と給付減が続いている“先進国”日本では、当然、公的資金だけで賄うのは厳しいだろう。そのため、⑨の民間投資も含めて資金の出し手を増やす必要があるのだが、⑦の温暖化ガスの大量排出国である中国はじめ米国・インド・ロシア等も、財政に余力があるからではなく、排出量に応じて公平に公的資金を拠出する義務があると思う。 なお、それを公平に行なう方法は、化石燃料の消費量に応じて炭素税(環境税の1つ)をかけて資金を集めることだが、現在、ガソリンにかかっている税は、i) 本則税(揮発油税・地方揮発油税):28.7円/L ii)石油税(石油石炭税・地球温暖化対策税):2.8円/L iii)暫定税率:25.1円/L iv)消費税:税を合わせた総額の10%であり、「トリガー条項」とは、ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で160円/L超の場合、自動的にガソリン税が“本則税率”のみに引き下げる仕組みとのことだ。 そのため、*1-4-1のように、国民民主党の要求を受け入れ、自民・公明両党が2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始めるそうだが、それなら必需品である燃料にかかる、i)の本則税(揮発油税・地方揮発油税28.7円/L)を廃止し、ii)の暫定税率25.1円/Lも意味不明であるため廃止して、消費税10%は本体価格に掛けて算出することとし、現在2.8円/Lしか課税されていない石油石炭税・地球温暖化対策税をCO₂はじめ有害物質の排出量に応じて50~60円/Lに引き上げ、再エネ化・電動化・地球温暖化対策等にかかる費用はここから出すのが時代の要請に合っていると同時に、簡素で合理的でもあると思う。 そして、⑤の途上国支援費や⑩の年1兆3000億ドルのうち官が出す部分は、当然、ここから出すべきだ。 3)ガソリン減税と温暖化対策 ![]() *1-4-3の図1 *1-4-3の図2 (図の説明:左図のように、日本では自動車関係諸税が国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなる。また、右図のように、取得と保有段階で車体課税され、走行段階では燃料に課税される) ![]() *1-4-3の図3 *1-4-3の図4 (図の説明:左図が、定められた自動車関係諸税の歴史で、一番下が本則税率に対する実際の税率の倍率で、右図には、各自動車関係諸税が国・地方自治体のどこに入るのかが示されている) ![]() *1-4-3の図5 *1-4-3の図6 (図の説明:左図は、日本の自動車関係諸税の他国との比較で著しく大きいし、右図は、購入からリサイクルまで自家用乗用車ユーザーにかかる税負担額で新車購入額の8割にもなる) *1-4-2は、①経産省・環境省は、11月25日、現行ペースを継続する「2035年度:2013年度比60%減」「2040年度:73%減」とする案を示した ②2050年実質排出0への温暖化ガス削減と脱炭素技術開発を通じた経済成長の両立を目指す ③「パリ協定」に基づき、政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえ、年内に具体的削減目標を固めて国連に提出 ④両省は2050年に向け、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出0を達成する案を検討する意向 ⑤温暖化ガス次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となり、排出削減強化を求める意見と脱炭素技術普及効果に時間を要する点に配慮を求める意見あり ⑥国立環境研究所のシナリオでは、CO₂回収等の脱炭素技術が2030年以降順調に普及し、再エネ・水素・アンモニア等の脱炭素燃料が広がれば2050年の実質排出0を実現でき、十分普及せずに導入を急げばエネルギー調達コスト等の負担が増大する、現行削減ペースを持続すれば技術導入にかかる2050年までの総費用額は比較的抑えられると分析 ⑦「グリーントランスフォーメーション政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要」という意見も ⑧「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」との指摘も ⑨国連は2035年迄に2019年比60%削減する必要があるし、日本の新削減目標はぎりぎり範囲内 ⑩国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギ 等としている。 このうち、①②⑤⑨は、環境は経済の足を引っ張るという既得権益を持つ企業の言い分を前提としているため、「環境対応はなるべくゆっくりしたい」という考えが根底にあるが、これまで述べてきたとおり、21世紀の環境対応は経済の足を引っ張るどころか経済の前提であり、それに加えて、日本の場合は、環境対応がコストダウンの要であると同時に、やり方によっては食料自給率・エネルギー自給率の上昇にも資するのである。 そのため、③の「パリ協定」は先進的だが、④の経産省・環境省は2050年の実質排出0に向けて2030年度目標を直線的に達成する案を検討する意向で、⑧のように、一部委員から「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」などという指摘があるのは、技術革新や普及によるコストダウンを考慮しておらず、この委員は工学系でもなければ経済にも原価計算にも弱いと思われる。そして、⑦の「GX政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めることが重要」と言う委員の意見は重視されていないため、「結論ありき」の事務局とその委員の選抜に問題があることがわかった。 また、⑩のように、国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギと言いながら、⑥の国立環境研究所のシナリオは、脱炭素技術としてコストアップにしかならないCO₂回収や量と価格で供給に問題のあるアンモニアの使用を前提とし、再エネ・水素の普及に重点を置いてそこに投資することを考えていない点で、「環境対応=コスト負担」という固定観念から抜け出せておらず、とても最先端の環境研究をしているとは言い難いわけである。 このような中、*1-4-1は、⑪国民民主の要求を受け入れ、自民・公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金軽減策の議論開始 ⑫ガソリン等の燃料油の課税体系は複雑で当初目的とは異なる社会保障等の財源にも流用されている ⑬それらを整理し財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探すべき ⑭53.8円/Lのガソリン税は「本則分28.7円/L」と「特例的上乗せ分25.1円/L」からなる ⑮国民民主は物価高対策として価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」適用を主張 ⑯道路特定財源だったガソリン税は2009年に一般財源化され、2010年に上乗せ分の廃止を決め、財源確保の観点から「当分の間維持」とした ⑰流通過程で消費税も二重に課税されている ⑱財務省の試算で国・地方計年1.5兆円分の税収減に繋がるため、上乗せ分を単純にはやめれない ⑲価格下落で消費が増えれば脱炭素に逆行 ⑳与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしており、税収中立や脱炭素との整合性を考えれば妥当 等としている。 (1)2)に書いたとおり、⑪⑳のように、国民民主の要求を入れて与党が2025年度税制改正でガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体を見直し、自動車ユーザーに二重課税はじめ不合理な負担をかけないよう簡素化・軽減に手をつけるのに、私は賛成だ。そして、⑬については、自動車関係諸税を整理して簡素化し、二重課税をなくしつつ、脱炭素の流れと矛盾せぬように炭素税(環境税の一種)をかけ、脱炭素のイノベーションを起こす財源とするのが最適解であろう。 しかし、⑫に関しては、⑯のように、一般財源(1つの大きな財布)化された財源は、社会保障に使われても「流用」ではない。流用とは、厚生年金保険料から国民年金を支払ったり、国民健康保険の目的積立金を子育て支援金に使ったりするような別の財布に手を突っ込んで資金を出すことを言うのであり、国はそうすることに罪悪感を持っていない点が最大の問題なのだ。 なお、⑭のように、本則分以外に特例的上乗せ分があり、⑯のように、財源確保のために上乗せ分の廃止を当分の間維持したり、⑰のように、他の税金部分にまで消費税をかけたりするのは、明らかに公正・中立・簡素の税の原則から外れているため、⑮の「トリガー条項」の適用を待つまでもなく、速やかに整理すべきだったのである。 そして、⑱⑲のように、国・地方の税収減に繋がったり、価格下落で化石燃料の消費が増えれば脱炭素に逆行することに関しては、CO₂排出量に応じて炭素税をかけることによって解決でき、これによってCO₂を排出しないEVへの移行も促されて、二重にイノベーションを進める効果があるのだ。 なお、*1-4-3が、上に図を載せた日本自動車工業会の自動車関係諸税に関する解説だが、私1人でまとめるのは時間がかかりすぎるため、各自で消化してもらいたい。 (2)災害とリスク管理 ![]() ![]() ![]() BBC 2024.5.1気象庁 2023.9.1WhetherNews YouTube (図の説明:1番左の図は1940~2023年の世界平均気温で2024年は過去最高を更新した2023年より高かった。また、左から2番目の図は日本の4月の気温を推移で2024年4月は著しく高くなっている。さらに、右から2番目の図は日本の夏の平均気温偏差で2023年でも1.76℃と高い。1番右の図は日本近海の海水温の変化で、福島県沖から北に向かって著しく高くなっており、この高さは世界でも群を抜いている) 1)2024年は統計開始以来最も暑い年だったこと *2-1-2は、①欧州気象当局は「猛烈な熱波や多くの犠牲者を出した嵐が世界各地を襲った2024年が統計開始以来最も気温の高い年となる」と発表 ②EUのコペルニクス気候変動サービスは「今年の世界平均気温は工業化以前(1850~1900年を基準)と比べて摂氏1.5度以上高くなり、この高気温は主に人為的な気候変動による」とした ③パリ協定で200カ国近くが気候変動による最悪の影響を回避するには長期的な気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束 ④英王立気象協会のベントリー最高責任者は「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対し、これ以上の温暖化を制限する行動が急務という厳しい警告を発するもの」とした ⑤国連は「現在の政策のままでは、今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性がある」と警告 ⑥科学者らは「大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、新たな記録が更新されるのは時間の問題」と警告 ⑦ホーキンス教授は「気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になり、世界中の人々に目にもあらわな影響が出る」「炭素排出量ネット0を実現して地球の気温を安定化させることが災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法」 等としている。 確かに、今年は体感でも暑い年で、10月になっても夏日が続き、11月になると急に寒くなって秋が非常に短かったわけだが、上の①②⑤は、その様子を世界規模で示している。 そして、COP21のパリ協定では、③のように、200カ国近くが長期的気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束し、④⑥のように、英王立気象協会の最高責任者や科学者らは、COP29での速やかな行動を警告していたが、COP29の成果はCOP21と比較すると新鮮さがなかった。 しかし、⑦のホーキンス教授の予測どおり、気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になって、既に世界中の人々の目にあらわな影響が出ており、これを止めるためには、炭素排出量ネット0を速やかに実現して地球の気温を安定化させるしかなさそうだ。 2)地球温暖化により、日本でも豪雨災害が頻発していること *2-1-1は、①石川県能登半島の記録的豪雨で、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害 ②輪島市の4ヶ所が大雨による洪水リスクの高い区域に立地していた ③輪島市幹部は「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」とし、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した ④他の仮設住宅団地でも床下浸水被害の可能性 ⑤豪雨による死者8人。行方不明者2人、安否不明者5人 としている。 ①②④⑤については、大規模地震の被害で仮設住宅の建設用地が足りなかったとはいえ、大雨が降れば浸水するような場所に、国・県・市が仮設住宅を建設して住民を何度も被害に遭わせたこと自体が間違いであり、③のように、注意喚起や避難誘導をすればすむという話ではない。 そのため、近くに仮設住宅の建設用地がなければ、他の自治体であっても安全な場所に仮設住宅を建設するか、宿泊施設を借りるかするのが住民のためであるし、国民も同じ地域に何度も資金援助をしなければならないのでは、たまったものではないのである。 また、*2-2-1は、⑥国交省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(2023年度版)と国勢調査の人口データ(2000~2020年)から、大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある地域に住む人は全国で約2594万人(2020年)と過去20年間で約90万人増 ⑦気候変動で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える ⑧2020年の日本の全人口は最多だった2010年から約1.5%(約191万人)減ったが、浸水想定エリアの人口は約3%増えた ⑨浸水想定3m以上の地域の人口は約257万人で約7万人増 ⑩浸水5m以上の地域の人口も約26万人に上る ⑪浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で都民の3 割弱 ⑫埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間に20都道県で増加 ⑬2000年の都市計画法改正で、住宅建設が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響 ⑭日本大学の秦教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体があるが、毎年のように水害が起きる中、安全な場所に居住誘導するなど災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべき」と話す としている。 上の⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫についても、既に大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある「洪水浸水想定区域」が開示されているため、開示以後に移り住んだ人は「回避できる浸水リスクを回避せずに移り住んだ」のであるため自己責任で、その人たちにまで被災時に資金援助をしていては、国民がどれだけ税金を払っても「財源」「財源」と言われて必要な福祉に金が廻らないのだ。 また、⑬のように、「2000年に都市計画法改正で住宅建設が原則禁止された市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされた」というのも、人口を維持することを住民の安全よりも優先した自治体であるため、その地域で起こった浸水被害まで全国民が支払った税金を使って救済するのは筋が通らない。 つまり、災害のリスク管理は、基本的にはそこに住む住民自身が行なうべきであり、そのための情報として都市計画法で住宅建設可能地域を指定しているのだから、(その指定が間違っていない限り)⑭のように、自治体が人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的だったり、安全な場所に居住誘導する等の災害リスクを踏まえた土地利用を進めなかったりしたのは、まさに自治体の責任そのものであって国の責任ではないのである。 3)保険料をリスク別に分けるのは名案だが、市区町村別では分け方が粗すぎること *2-2-2は、①水害が多発する中、浸水の恐れがある地域に住む人が2020年は全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3m以上の地域 ②東日本台風では水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流して溢れる内水氾濫が原因で武蔵小杉駅周辺のタワーマンション地下が浸水 ③被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価は前年比約2~5%上昇し、利便性が良ければ水害等の災害の影響は一時的 ④2000年の都市計画法改正で住宅等の建築が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で指定した地域は例外扱いとなったのが、浸水の恐れがある地域での人口増の一因 ⑤国交省の水害統計で2013~2022年の10年間の水害被害額は計7兆3千億円で前の10年の約1.4倍 ⑥浸水リスクのある地域で人口が増え、住宅等の資産も集中して、面積当たりの被害額が増加 ⑦水害多発を背景に火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが導入され、これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったのが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化 と記載している。 このうち①②③④のように、利便性を求めて浸水の恐れがある地域に住む人が増え、被災直後であっても地価は上昇し、都市計画法で住宅等の建築が原則禁止される地域でも自治体の条例で例外扱いできるのでは、「住民も自治体も、浸水リスクは覚悟の上でそこに住んでいるのだ」と言わざるを得ない。 さらに、⑤⑥のように、人口増に伴って住宅等の資産も集中し、面積当たり被害額も増加するのであれば、その被害は、⑦のように、民間の水災保険でカバーしてもらいたいが、水害の多発を背景に火災保険の水災保険料は高リスク地域ほど高くなるそうで、それは合理的だと思う。 しかし、同じ市町村内でも地域によって浸水リスクには違いがあるいため、市区町村別に保険料を変えるというのは分け方が粗すぎる。そのため、むしろ浸水の想定リスクに応じて保険料を変え、その結果として安全な場所に居住誘導することになる方が合理的である。 (4)日本における行政の環境意識 1)温室効果ガス削減と電気・ガス・ガソリン補助金について *3-1-1のように、約80の国・地域の首脳らが参加したCOP29で、英国を含む一部の国が気候変動対策の国際ルール「パリ協定」に基づく新たな温室効果ガス削減目標を発表し、英国のスターマー首相は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意」「2035年の排出量を1990年比81%削減」など前保守党政権の78%減をさらに高めた発表をして存在感を示したそうだ。なお、英国は、今年の9月に石炭火力を0にし、G7最速で新目標を発表するなど、気候変動対策に積極的な姿勢を示している。 一方、日本は、(1)の図に示されているとおり、COP29の終了時までに削減目標を公表することができず、(1)3)のとおり、11月25日になってから、経産省と環境省が現行ペースを継続する案を示したが、これはリーダーシップとは程遠い現状維持策である。 その上、*3-1-2のように、日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻で経済制裁したために高騰した化石燃料価格対策として2023年1月使用分から開始された補助金の終了に踏み込めず、国民が支払った税金から電気・ガス・ガソリンへの補助金を来年1~3月にも再実施することを決めたそうだ。そして、この補助金の額は、これまで投じられた累計額だけでも電気・ガスで約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達しているのである。 もちろん、国民は燃料価格が抑制されれば短期的には助かるが、もともとトップランナーだった日本の再エネやEVにこの金額を投資していれば、エネルギー自給率は上がり、COP29でもリーダー的な立場に立つことができ、化石燃料価格の高騰に右往左往して無駄使いする必要もなかったことから、無能な現状維持策が如何に国益を害するかが証明されたのである。 2)根拠無き廃炉工程と放射線量暫定基準 *3-2-1は、①原子力規制委員会前委員長の更田氏は「燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するか正確にはわからず、高線量の中で遠隔作業しなければいけないのが取り出しの難点」とする ②フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器の底を破って外側の格納容器まで広がっているため、建屋の老朽化で放射性物質が漏れ出す恐れ ③東電は「2号機で試験的に3g以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やし、2030年代初めに3号機で大規模な取り出しを始めて1号機に展開」「最初のステップが今年9月に始まった」とする ④開始遅れの原因は関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足で、今回の取り出しには「釣りざお式装置」を使った ⑤当初の計画は1~4号機に計3108体ある核燃料を2021年までに取り出すとしていたが、2021年までに取り出せたのは3、4号機のみ ⑥政府関係者は「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くなく、事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だったため、何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」と明かす ⑦政府は廃炉に必要な技術開発への支援等として毎年100億円以上を企業などに補助しており、最新の見積もりで廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用等はこれに含まれていない ⑧福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的で、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべき としている。 このうち①については、火星の表面の写真でさえ鮮明に送られてくる時代に、未だに地球上で高線量の放射線を出している燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するかもわかっていないのなら、それは原発関係者の技術レベルが低いか、真実を隠しているかのどちらかである。 そして、やはり②のように、フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器を破って外側の格納容器まで広がっていることがわかっており、これは事故当初に「圧力容器は壊れておらず、燃料デブリは圧力容器の中にある」と強弁していたこととは、全く違っているのである。 さらに、③④⑤のように、78億円もの国費を投じて開発したロボットアームの不具合により、東電は今回の取り出しに「釣りざお式装置」を使って2号機からやっと3g以下を取り出し、当初の計画は1~4号機の計3108体の核燃料を2021年までに取り出すというものだったが、2021年までに取り出せたのは3、4号機だけだったのだ。 これについては、⑥のように、政府関係者が「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くない」「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だった」「何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」等と明かしているが、これは「廃炉がどうなろうと、線量が高かろうと、原発周辺の避難区域の住民が帰還しさえすれば良い」という考え方であり、全く住民の安全側には立っていない。 全く住民の安全側に立っていない事例は多いが、*3-2-2も、文部科学省は学校の校庭利用をめぐる放射線量の暫定基準を「定めた時と比べて線量が大幅に減った」という理由で年間20mSV(本来は年間1mSV以下)の目安を撤廃する方針を固めたそうだが、これもまた、子どもがいる住民の帰還をを促すためだけで科学的根拠はなく、住民の安全側には全く立っていない暫定基準なのである。 なお、⑦のように、政府は廃炉に必要な技術開発支援として毎年100億円以上を企業等に補助し、廃炉費用は8兆円とされ、燃料デブリの最終処分にかかる費用はこれに含まないそうだ。しかし、原発に関することなら、まるで既得権ででもあるかのように「財源」「財源」とは言わずに、私たちが支払った税金から私企業に対し、次々と金を出すのは全くおかしい。 そのため、⑧のように、「フクイチの廃炉は、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的」というのに私は賛成だ。さらに、海水で薄めれば基準値以下になるなどという科学的根拠とはかけ離れた説明をして流している処理水も、対話や説明の時期はとうに終わっているため、水で冷やしさえすれば良いという発想を早急にやめ、これまでの損害は補償すべきである。 3)プラ生産削減の要否と改善すべきごみ分別収集の不便 ![]() 2021.3.21三井住友TAM 2021.5.31Long Life Labo (図の説明:左図は、世界の温室効果ガス排出量で、発電・熱生産25%、その他エネルギー9.6%、輸送14%、建築物6.4%で55%と過半数を占め、産業は21%しかない。右図は、日本のCO₂排出量推移と部門別割合で、2019年度は運輸18.5%、エネルギー転換8.0%、家庭14.3%で40.8%を占め、産業34.6%のうち約40%は鉄鋼業からの排出で、プラスチック生産による排出は少ない。ただし、世界は、CO₂の部門別排出量データが少ないようである) ![]() 2024.5.28朝日新聞 2024.4.22日経新聞 2022.10.14WWD (図の説明:左図は、世界のプラスチック使用量は2060年には2019年の3倍になる予測だが、ここで問題になるのは不適切な投棄で海や川にプラスチックを蓄積させることであるため、それをなくせば問題ない筈だ。また、中央の図は、プラ生産削減条約に対する各国の立場だそうだが、EUはじめ賛成している国は、原油由来のプラスチック製品を使わないのだろうか?もちろん、右図のように、切れた漁網や使い終わった漁網を海に廃棄したり、海や川にプラスチックを蓄積させたりすると生態系に悪影響を与えるため、リサイクルやアップサイクルしやすい製品を作ったり、水や土の中で一定時間が経過すれば跡形もなく溶けて肥料になったりするような進歩系の製品が必要であることは間違いない) ![]() 2024.10.16PR Times 2021.12.2HATCH 2024.11.14日経新聞 (図の説明:左図が、廃棄資源利用の流れであり、分別を簡単にするためには、容器は同じ材質にする等のリサイクルまで考慮した生産体制が望まれる。また、中央の図が、循環型社会の3R《Reduce・Reuse・Recycle》だが、最終処分時に公害を出さず、最終処分を要するゴミを極力減らすことが必要だ。さらに、右図は、ゴミ屋敷に潜むさまざまな問題だが、ゴミを出しやすくすることで解決するのが最も安価で生活の質を上げるのではないかと思う) *3-3-2・*3-3-3は、①プラスチックごみを減らすため100ヶ国超がプラ生産量の削減目標を設定する条約作りを提案 ②EU加盟の全27カ国・スイス・カナダ・オーストラリア・メキシコ・パナマ・フィジー・ケニアなどの約180カ国、国連加盟193カ国の半数超が提案書提出 ③生産規制には中東産油国やロシアが抵抗、日本は一律の生産規制に慎重 ④プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出し、ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こして、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響との指摘も ⑤提案国は「この汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要がある」と主張 ⑥プラスチックの生産規制を巡って厳しい規制を求めるEU側と原料の石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらない ⑦条約案への合意は先送り としている。 ①②⑤については、「ごみを減らす解決法=生産量の削減」というのは、原因分析を行なわずにいい加減な解決法を出し、環境のためとして市民に不便を強いる行為であるため、このようなことを続けていると「環境⇒不便の強制、経済の足かせ」という認識が広がり、むしろ環境意識が高まらないと考える。 そのため、③⑥の産油国だけではなく、プラスチック製品を使っている人も、このような提案には賛成しかねるのだ。仮に石油由来のプラスチック製品の生産を規制するとすれば、かわりに木を切り倒して作った紙を原料にしたり、食料のトウモロコシからプラスチックを作ったり、靴下や衣類は絹・綿・麻に昔帰りさせたり、箸は象牙に戻したりするつもりだろうか?それに伴って、別の多くの弊害が起こることは明らかである。 また、④の「プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出する」というのは、(4)3)の一番上の図のように、発電・エネルギー生産・輸送部門が温暖化ガス排出の約半分を占め、産業部門のうちのプラスチック生産による温暖化ガス排出は多くないため、他の弊害と比較考慮した場合に大きくはない。 しかし、「ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こし、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響」というのは、ごみをポイ捨てするのが悪いのであるため、徹底的にポイ捨てをなくすシステムを作り、上から2段目の図のような循環型社会を作れば良いのである。 なお、⑥の化石燃料を産出する国は、原油等を燃料として使わなくなれば、現地で原油由来のプラスチックをはじめさまざまな製品に加工して輸出する必要がある。そのため、それも禁止してしまえば、産地は稼ぐ手段を失う上に、現在、それを使っている人も困るのである。また、そのようなことになって、世界に貧しい人が増えれば、その人たちは誰が養うつもりだろうか。 従って、⑦の「条約案への合意は先送り」というのは、ひとまずまっとうな判断であり、今後は使用済プラスチックの廃棄に関する徹底した規制とリサイクル・アップサイクルに軸足を移すべきで、課題先進国だった日本は既にそのノウハウがなければならない筈なのだ。 それでは、日本における循環型社会はどこまで進んでいるかと言えば、*3-3-1は、⑧ごみ屋敷は疾患・認知症等の問題が影響するケースも多い ⑨環境省の調査で、全国1741自治体の38%が「ごみ屋敷」事案を認知している ⑩ごみ屋敷形成の要因の1つに「セルフネグレクト」がある ⑪認知症等で判断能力が低下して物をため込む場合も ⑫身体的・精神的な障害や特性で、ごみを出せない例も ⑬高齢単身世帯の増加等による孤立・孤独も絡み、ごみ屋敷は社会の縮図といえる ⑭総務省の報告書では181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患疑い ⑮問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題 ⑯知的障害を持つ40代男性は、分別ができずに捨てられなかった 等としている。 ごみのリサイクルは、1995年前後に私が言い出して始まり、それから30年近く経過したが、自治体が集めているせいか、やたら手間をかけて分別させ、資源物や粗大ごみは滅多に集めず、朝8時までに出さなければならないなど、未だに複雑怪奇で不便なままなのである。 そのため、リサイクルに最大限協力していた私でさえ、分別せずに燃やすごみにして出してしまおうかと思うくらいで、分別し易く出し易くすれば、ゴミ屋敷は減りリサイクル率も上がる。また、地下鉄サリン事件以降は駅等の公共施設にゴミ箱すらないことが多いが、これならポイ捨てしたくなるのも無理はなく、知恵を尽くして捨てる際の利便性を上げることが必要不可欠だ。 具体的には、⑧⑪⑫⑬⑯のような、単身高齢者・認知症患者・身体的に弱っている人・知的障害者等が、分別できないためゴミを捨てられなかったり、滅多にない収集日に重たいゴミを引きずって行く必要がなくなったりすれば、⑨のゴミ屋敷はかなり減るし、そのための課題解決は簡単なのである。 また、⑩のやる気をなくして「セルフネグレクト」になる原因はさまざまだが、それを⑭⑮のように、精神疾患や精神上の課題と片付けるのではなく、その根本原因を無くしたり、誰でもゴミを出し易くしたりしつつ、徹底してリサイクル・アップサイクルするシステムにすべきだ。 30年という期間は、真面目に改善し続けていれば、技術開発・問題解決が十分にできていなければならない期間である。そのため、1つ1つの解決策を細かく書くことはしないが、早急に課題解決すべきであり、そのノウハウは開発途上国にも応用できる筈だ。 4)PFASの世界基準と日本の“暫定目標値” ![]() 2023.6.9東京新聞 2024.11.29日経新聞 2023.1.31東京新聞 (図の説明:左図は、PFASの用途と健康への影響で、体内に蓄積されると腎臓癌・脂質異常症・抗体反応の低下や乳児・胎児の成長阻害が起こるとされている。中央の図は、2023年12月公表の国際がん研究機関《IARC》による評価で、PFOAはたばこ・アスベストと同様に最も高い発がん性があるとされ、ストックホルム条約の規制対象となった。しかし、日本は、いつものとおり「毒性評価が固まるまで現状維持」「健康影響は調査中で都内は対象外」という状況だ) ![]() 2024.11.26日経新聞 2024.6.26産経新聞 2024.7.3TBS (図の説明:左図は、「ストックホルム条約で規制対象となったのはPFASの一部だ」という図だが、どれが、どういう理由で、どの程度危険で、取り扱い上の注意は何か、という情報は伝わっていない。中央の図は、飲料水1LあたりのPFAS目標値であり、日本の50ナノグラム/Lは、米国の4ナノグラム/Lやドイツの4種類合計で20ナノグラム/Lと比較して高い。右図は、中央の図と1週間違いだが、米国の基準値はPFOSとPFOAの合計で4ナノグラム/L、ドイツの基準値はPFOSとPFOA合計で20ナノグラム/Lとなっており、中央の図と異なるため最終確認が必要だ。しかし、日本の基準値が甘いことには変わりがない ) *3-4-2は、①発癌性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出 ②環境省と国交省が11月29日に水道水の全国調査結果を公表し、2024年度に富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出された ③PFASの代表物質PFOA・PFOS合計で“暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)”超の水道事業はなかった ④岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと“暫定目標値”に近い数値が検出された ⑤現在は“暫定目標値”超でも水質改善等の対応は努力義務止まり ⑥浅尾環境相によると、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げして対応を法的に義務付けるか否かは2025年春に方向性を示す ⑦“暫定目標値”超の事業数は2020年度は11、2021年度は5、2022年度は4、2023年度は3と低減傾向 ⑧PFASには1万種類以上の物質があり、耐熱や水・油をはじく特性から布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤に使われてきた ⑨有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが2021年に輸入・製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された としている。 これに加えて、*3-4-3は、⑩“暫定目標値”を超えていた例の大半は、汚染源が特定されていない ⑪安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査を継続しなければならない ⑫PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた ⑬自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積する恐れ ⑭沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出 ⑮岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源 ⑯検査を実施していない事業者は取り組みを始める必要 ⑰環境省は、今回の結果について水源切り替え等の対策の効果があったと評価 ⑱検出された例でも、対策で目標値以下にすることができた ⑲国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかける ⑳検出状況に応じて健康調査等の対応を検討する必要があり、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整える必要 としている。 このうち①②⑨については、有機フッ素化合物(PFAS)とは、(4)4)の上の左図のとおり発癌性等が懸念され、中央の図のとおり有害化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、日本国内では代表物質であるPFOSが2010年・PFOAが2021年・PFHxSがその後に輸入・製造が原則禁止されたものである。 しかし、②③のように、環境省と国交省の11月29日の水道水全国調査結果で、2024年度にPFASの代表物質PFOA・PFOS合計で暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)超の水道事業はなかったが、富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出されたのだそうだ。 その日本の“暫定目標値”は、いつまで暫定を続けるのかも不明だが、*3-4-1のように、米環境保護局(EPA)は、PFASの中で毒性の強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を飲料水で4ナノグラム/Lと決め、これは同50ナノグラム/Lの日本の“暫定目標値”を大幅に下回る1割未満の厳しい水準であり、強制力のない目標値は0なのだそうだ。 また、「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を10ナノグラム/Lと定め、新規制は全米6万6000の水道システムが対象となり、水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定して情報を公開し、基準を超えるPFASが測定された場合は5年以内に削減するよう対応を求めるそうで、基準が甘くて対応も曖昧な日本とは大きく違うが、安全側の目標を定め期限を切って対応するのが、本来は当たり前である。 しかし、日本では、④⑦のように、岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出され、暫定目標値超の事業数は2020年度には11、2021年度に5、2022年度に4、2023年度に3あったが、⑤のように、暫定目標値超でも水質改善等の対応は努力義務止まりで、浅尾環境相は、⑥のように「対応を法的に義務付けるか否か2025年春に方向性を示す」などと悠長だ。 さらに、⑩は“暫定目標値”を超えていた例の大半は汚染源が特定されていないとするが、⑧⑫のように、PFASは、布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤・半導体・防水加工・自動車の製造過程などで使われており、⑭のように、沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたり、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出されたり、⑮のように、岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源だったりし、*3-4-1のように、沖縄県では過去に米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されたのだから、現在は汚染源の特定が容易な筈である。 なお、⑬のように、PFASは自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積するため、⑪⑯のように、安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査は継続しなければならないが、既に「ストックホルム条約」で有害な化学物質として規制対象となり、他国の基準は“暫定”ではなく厳しいものになっているので、今更、⑳のように、検出状況に応じて健康調査等の対応を検討するのでは遅すぎ、健康被害の「予防」は疫学調査の結果を受けて速やかに行うべきなのだ。 また、⑰⑱のように、環境省は検出された例でも対策で目標値以下にすることができた今回の結果を「水源切り替え等の対策の効果があった」と評価しているが、国交省は原発処理水の例など目標値や規制値以下にするために、その物質を含まない水と混ぜる方法を使うことがあるため、その評価は甘い上、食品容器やフライパンのコーティング等の食品とともに摂取される可能性が高い水道水以外のものについては何も述べていないため、本気度が疑われるのである。 最後に、⑯⑲のように、「今まで検査を実施していない事業者に取り組みを始める必要がある」などとして、国は未検査や回答がなかった自治体に検査を義務付けるのではなく呼びかける程度というのは、公衆衛生に対する意識が低すぎる。 ・・・参考資料・・・ <COP29> *1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1289T0S4A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2024年11月12日) 米国は温暖化対策の歩みを止めるな 世界の温暖化対策を話し合う第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が始まった。米国のトランプ次期大統領は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱する構えをみせる。世界2位の温暖化ガス排出国である米国は、脱炭素に向けた歩みを止めるべきでない。トランプ氏は米環境保護局(EPA)長官に元下院議員のリー・ゼルディン氏を起用する方針だ。環境規制に否定的で、バイデン政権が取り組んだ脱炭素政策を大幅に見直すとみられる。記録的な猛暑や干ばつ、巨大台風、豪雨、洪水などの災害が世界各地で多発する。温暖化による被害は米の経済や企業、住民にも及ぶ。米国がパリ協定から抜けないよう日本や欧州は説得すべきだ。2024年の世界の平均気温は23年を上回り、過去最高となる見通しだ。COP29の冒頭で、ムフタル・ババエフ議長は「温暖化対策を軌道に乗せる最後のチャンス」と各国に呼びかけた。最大の焦点は、先進国による途上国への金融支援の増額だ。現状は年1000億ドル(約15兆円)だが、途上国は年1兆ドル以上を求める。難色を示す先進国との隔たりは大きいが、少しでも対策を前進させるよう妥協点を探るべきだ。先進国からの技術や資金を前提に、排出削減を進めようと考える途上国は多い。支援額の上積みが進まなければ、世界全体の排出削減の遅れにつながる。米国が資金を打ち切れば、途上国の削減機運をそぐ恐れがある。温暖化は人類共通の課題で、一国の政権交代に左右されては困る。日欧は削減技術や人材育成など途上国支援を打ち出し、議論をリードすべきだ。世界最大の排出国の中国や中東産油国にも資金を出すよう促すことも必要になる。資金力のある国には、相応の責任が求められよう。米国内でも、州や産業界ではトランプ氏の方針とは距離を置く動きが目立つ。脱炭素に積極的なグローバル企業や機関投資家も多い。投資しやすい環境や制度づくりにも知恵を出し、民間資金のさらなる活用に道筋をつけたい。国連環境計画の報告書によると、現状の対策のままでは産業革命前からの気温上昇が最大3.1度に達する。各国は35年までの削減目標を25年2月までに提出する必要がある。削減強化に向けた機運醸成も大きな課題だ。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16091553.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2024年11月25日) 気候資金、年3000億ドルで合意 途上国支援、35年までに COP29閉幕 アゼルバイジャンのバクーで開かれた国連気候変動会議(COP29)は24日、途上国支援の新たな資金目標として、先進国側が2035年までに年3千億ドル(約45兆円)を出すことで合意し、閉幕した。官民あわせて1・3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決めた。会期は22日までの予定だったが、交渉は難航。24日の明け方まで延長した。途上国の脱炭素化や異常気象による被害対応を支援する「気候資金」は、COP29で最大の焦点だった。先進国は09年、途上国に対し年1千億ドル(約15兆円)の資金を出すことを約束。25年までに新しい目標を決めることになっていた。合意された成果文書では、先進国側からの年1千億ドルの資金を35年までに3倍の年3千億ドルに増やす▽官民含めて35年までに少なくとも年1・3兆ドルの投資を呼びかける▽途上国も任意で資金を出すことを奨励する――などが入った。一方、脱化石燃料をめぐっては、昨年のCOP28での成果文書の確認にとどまった。最近のCOPでは、徐々に脱化石燃料をめぐる表現が強まっていたが、目立った前進は乏しかった。今回は、紛争や分断が続く世界情勢の中で各国が結束できるか試されたCOPだった。パリ協定脱退を示唆する米国のトランプ次期大統領という「不安要素」もあった。会期延長後の23日にも、資金の総額や支援内容などで各国が折り合えず、個別交渉で中断しながら全体会合を進めた。24日未明、ギリギリで着地点を見いだしたが、結束には不安を残す幕引きとなった。(バクー=市野塊、福地慶太郎、合田禄) ■COP29の成果文書の主な内容 ◆2035年までに先進国側から途上国に年3千億ドルを支援 ◆同年までに官民で年1.3兆ドルへの投資拡大を呼びかけ ◆途上国からの任意の支援資金拠出を奨励 ◆「化石燃料からの脱却」などを含む昨年のCOP28での成果を再確認 *1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA233TA0T21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月24日) 途上国支援3倍、年3000億ドル以上で合意 COP29閉幕 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)は24日未明、温暖化対策で先進国から発展途上国向けに拠出する「気候資金」について、2035年までに少なくとも年3000億ドル(約46兆4000億円)に増やすことで合意した。石炭火力発電の廃止時期の明示は見送った。11日に始まった会議は合意文書の採択を経て、24日に閉幕した。22日の会期最終日を大幅に延長した。35年までに世界全体で官民あわせて途上国への支援額を少なくとも年1兆3000億ドルに増やす目標も採択した。今回のCOPでは、現在年1000億ドルが目標の拠出額の増額幅が最大の焦点になっていた。22日が会期最終日だが協議が難航し、24日に入っても協議を続けていた。議長国アゼルバイジャンが22日に先進国から年2500億ドルを草案として提示したが、途上国から低すぎるとの批判が相次いだ。その後に先進国が年3000億ドルへの増額を提案し、島しょ国など一部の途上国の反発が続き、24日未明に「少なくとも」の文言をつけることで決着した。化石燃料の削減については「およそ10年間で脱却を加速する」とした23年の会議の合意文書から大きな進展はなかった。今回のCOP29は12〜13日に開いた首脳級会合で米国や欧州連合(EU)、日本など世界の主要国・地域のトップの欠席が相次ぐなど、例年に比べて合意形成の機運の乏しさが指摘されていた。国連傘下の国際的な炭素クレジットの売買に関する市場創設のルールについても合意した。クレジットは再生可能エネルギーの導入などによる温暖化ガスの排出削減効果を取引できる形にしたもので、政府や企業は削減目標の達成にむけて購入できる。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は気候変動の悪影響が大きくならないように地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標を掲げる。実現のためには世界で35年に19年比で60%の温暖化ガスを減らす必要があり、25年2月までに国連に35年までを見据えた新たな削減目標を提出するよう義務付けている。気候資金は途上国の気候変動対策や温暖化ガス削減の取り組みに欠かせない原資となっている。会期中にはEUや産炭国のオーストラリアが石炭火力発電所の新設に反対する有志連合を立ち上げた。温暖化ガスの排出量が多い石炭火力を増やさないよう呼びかけ、各国に脱炭素の取り組みの強化を求める。日本や米国は入らなかった。そのほか、日本を含む有志国は再生可能エネルギーの活用に欠かせない蓄電池や水素といったエネルギー貯蔵容量を、世界で30年までに22年比6倍の1500ギガ(ギガは10億)ワットに増やすことを目指す誓約をとりまとめた。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241125&ng=DGKKZO85012200V21C24A1PE8000 (日経新聞社説 2024年11月24日) COP29合意後も分断回避へ努力続けよ 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)で、途上国への支援目標を2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった。防災インフラが未整備な途上国では、地球温暖化に伴う気候災害が頻発する。COP29では年1兆ドル以上の要求に対し、先進国がどう応えるかが焦点だった。紛争や分断が続くなか、結束できるかが試されていた。妥協の産物とはいえ、分裂は避けられた。インドなど途上国の一部は金額を不満として抵抗。協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策につなげねばならない。合意した金額を先進国の公的資金だけでまかなうのは厳しいだろう。資金が足りないと途上国の対策が滞る。世界全体の排出削減の遅れを避けるには、様々な形で資金を集める必要がある。まず出し手を増やす努力を続けたい。温暖化ガスの世界最大の排出国である中国や中東産油国などは余力があるはずだ。20カ国・地域(G20)は世界の温暖化ガスの約8割を排出する。裕福な国や地域は協力する責任があると改めて認識してもらいたい。民間の投資加速も不可欠だ。COP29では、35年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった。省エネルギー設備や再生可能エネルギーの導入支援などは民間資金を集めやすい。国際的な炭素市場のクレジット(排出枠)基準が承認されたことは前進だ。国連が支援する二酸化炭素(CO2)削減事業に国や企業が出資し、成果を排出量の相殺に当てられる。民間投資を促す起爆剤になると期待できる。日本は今回のCOP29では交渉を主導できず、影が薄かった。途上国は資金だけでなく、防災の技術やノウハウも求めている。日本には災害対策の蓄積がある。供与を積極的に進めることで世界に貢献し、存在感を高めたい。世界2位の排出国の米国では、温暖化対策に否定的なトランプ前大統領が返り咲く。来年1月の就任後、国際枠組み「パリ協定」から再離脱すると懸念される。温暖化による被害は米国内でも広がっている。日欧などはパリ協定から抜けないように説得すべきだ。トランプ政権の動向にかかわらず、気候危機は進む一方であり、対策が急務だ。あらゆる手段を総動員することが重要になる。 *1-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1362595 (佐賀新聞 2024/11/25) 【COP29合意】要求届かず渦巻く憤り、資金支援巡り対立鮮明 国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国の地球温暖化対策を支援する新たな資金目標に合意した。大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と、負担軽減を図る先進国の対立が鮮明となり、会期は2日も延長。最後の全体会合でも合意に至った達成感はなく、要求から程遠い幕切れに途上国の憤りが会場に渦巻いた。 ▽隔たり 「深く失望した」。閉幕予定日の22日に議長国アゼルバイジャンが示した合意文書案に、既に温暖化の深刻な影響下にある小島しょ国グループは怒りをあらわにした。途上国は年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求。再生可能エネルギーの導入など温暖化対策のほか、既に生じた異常気象に伴う災害復旧などに多額の資金を必要とするからだ。債務の増大を避けるため、先進国からの無償供与が大半を占めることを望んだが、示された先進国からの資金は年2500億ドルと要求から懸け離れていた上、資金の貸し付けや投資を含むものだった。特に先進国に起因する温暖化による自然災害に見舞われている低所得国は、自分たちへの割当額を明示するよう強く求めたがかなわず反発。「議長国は他国からのアドバイスを聞き入れないらしい」。各国代表団や非政府組織(NGO)の間に議長采配への不安が渦巻く中、閉幕予定日は早々に過ぎ去った。 ▽中断 延長1日目の朝。「もう文書の改定版はできているらしい」とのうわさが広がった。会合予定を表示する会場のテレビには、夜から全体会合が開かれるとの予告が表示され、成果文書採択への期待が高まった。だが午後に開かれた議長と主要閣僚の会合は紛糾する。2500億ドルを3千億ドルに上積みする案が示されたが途上国の要求には依然遠く、小島しょ国などが会合の中断を要求。先だって開かれた途上国と先進国が協議する場に呼ばれなかったことも怒りに火を付けた。一方の先進国側も「現在の(目標の)1千億ドルが3千億ドルになるのは、かなり踏み込んだ数字だ」(浅尾慶一郎環境相)とアピールしたが、さらなる上積みには慎重姿勢。ただ、途上国側も交渉決裂で何も残らなくなる事態は望まなかった。 ▽疲労 結局、会期を2日延長した閉幕日の24日未明に出た最終的な合意文書案でも支援額の上積みはなかった。疲労が色濃くにじむ中、閉幕の全体会合が開始。アゼルバイジャンのババエフ議長は議題を読み上げると、異議申し立ての確認時間も取らずつちを振り下ろし、採択を宣言した。直後、インド代表は「合意は目の錯覚だ。私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言。会場に拍手が湧き起こった。「先進国が資金と実施手段を提供する義務を果たさないという不公平を強化するものだ」(ボリビア代表)と失望を表明する声も続いた。ただ合意成立により、国際協調に背を向けるトランプ米次期政権の誕生を前に気候変動対策が勢いを失う事態は避けられたとみるのは世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之さんだ。「たとえ不十分だとしても、国際協力をつなぎとめることはできた」 *1-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2572O0V21C24A1000000/ (日経新聞社説 2024年11月26日) ガソリン減税は脱炭素や財源との整合を 自民、公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始める。10月の衆院選で「手取りを増やす」と訴えて躍進した国民民主党の要求を受け入れ、総合経済対策に検討を明記した。ガソリンなど燃料油の課税体系は複雑なうえ、当初目的と異なる社会保障などの財源にも流用されている。それらを整理し、財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探してもらいたい。1リットル53.8円のガソリン税は、本則分(28.7円)と特例的な上乗せ分(25.1円)からなる。国民民主は物価高対策として、価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の適用を主張。全国平均のガソリン価格が160円を3カ月連続で超えると課税を止め、逆に3カ月連続で同130円を下回れば再開する仕組みだ。2010年に創設されたが、翌年の東日本大震災の復興財源確保のため特例法で凍結してきた。目先の物価高対策に中長期の財政収入にかかわる税を使うのは賛成できない。特にトリガー条項は発動・停止時に価格が大きく変動する。値下がりを見越した買い控えや値上がり前の駆け込み需要が生じ、販売現場の混乱が必至だ。今回の税制改正における検討に意義を見いだすとすれば、あるべき税体系への見直しだろう。もともと道路特定財源だったガソリン税は09年に一般財源化された。10年に上乗せ分の廃止を決めたものの、財源確保の観点から「当分の間維持する」とした経緯がある。それが際限なく続いているうえ、流通の過程で消費税が二重に課されているのも問題だ。ただし上乗せ分を単純にやめればいいわけではない。財務省の試算では国・地方で計年1.5兆円分の税収減につながる。価格下落に伴って消費が増えれば、脱炭素の取り組みにも逆行する。与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしている。税収中立や脱炭素との整合性を考えれば、妥当といえよう。受益者負担の原則に立つなら、ガソリン税は老朽化する道路の補修費や脱炭素支援などの財源に用途を限るのも一案だ。総合経済対策で規模を縮小しつつ延長を決めたガソリン補助金は、一日も早く打ち切るべきだ。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策を、いつまでも続けるのは許されない。 *1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA250KT0V21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月25日) 35年度の温暖化ガス60%減 政府目標案、現行ペース継続 経済産業、環境の両省は25日、次期温暖化ガスの排出削減目標に関して2035年度に13年度比で60%減、40年度に同73%減とする案を示した。50年のカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)に向けた着実な温暖化ガス削減と脱炭素技術の開発を通じた経済成長の両立を目指す。15年に採択した温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」は世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標をかかげる。協定に基づき各国は25年2月までに新目標の国連への提出が義務づけられている。政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえて年内にも具体的な削減目標の数字を固め、国連に提出する。同日の会合で両省は50年に向けて、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出ゼロを達成する案を検討する意向を示した。現行の削減ペースを持続する道筋となる。22年度は13年度比22.9%減で、政府は目標通りに推移しているとみている。温暖化ガスの次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となっていた。これまでの会合では排出削減の強化を求める意見のほか、脱炭素技術が普及し効果が表れるまでに時間を要する点に配慮を求める声も産業界などからあがっていた。両省は性急に削減すると経済への負担が大きいことも踏まえて、排出削減の上積みを目指す。 国立環境研究所は複数のシナリオに基づき排出量やコストなどを推計した。二酸化炭素(CO2)の回収などといった脱炭素技術が30年以降順調に普及し、再生可能エネルギーのほか水素やアンモニアなどの脱炭素燃料が広がれば、50年の実質排出ゼロを実現できるという。一方、脱炭素技術が十分普及しないなかで導入を急ぐとエネルギー調達コストなどの負担が増大するとも分析した。現行の削減ペースを持続した場合には、技術の導入にかかる50年までの総費用額は比較的抑えられるとした。委員からは「グリーントランスフォーメーション(GX)政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要だ」といった意見が出た。「直線の経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要だ」との指摘もあった。国連は1.5度以内に抑えるには世界全体で温暖化ガスを35年までに19年比60%削減する必要があると分析する。分析には49〜77%の幅があり、日本が基準年とする13年度比に換算すると35年度で58〜81%、40年度で66〜92%となる。新しい削減目標の道筋はいずれも範囲内にあり、政府は1.5度目標の実現に整合するとみる。地球温暖化への危機感は世界で高まっている。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7日、24年の世界の平均気温が産業革命前と同程度の1850〜1900年の推定平均気温と比べて1.55度を超える上昇幅になる見通しだと発表した。初めて1.5度を上回ることがほぼ確実だとしており、対策強化が欠かせない。次期の排出削減目標は、政府が年内にまとめるエネルギー基本計画と表裏一体の関係にある。国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギを握るためだ。次期計画では40年度の電源構成を定める。現行目標で30年度に36~38%と据える再生可能エネルギーの上積みや、化石燃料を使う火力発電の減少が一層重要となる。政府はエネルギー基本計画と排出削減目標を踏まえ、年内に「GX2040ビジョン」をまとめる。脱炭素とエネルギーの安定供給、経済成長の同時実現を政策の柱に据える。カーボンプライシングの本格導入や脱炭素電源への投資の後押しなど対策を急ぐ。 *1-4-3:自動車関係諸税 ●9兆円にもおよぶ自動車関係諸税収 自動車関係諸税は第1次道路整備五箇年計画がスタートした1954(昭和29)年度に道路特定財源制度が創設されて以来、これまで増税、新税創設が繰り返されてきました。現在自動車には9種類もの税が課せられ、ユーザーは多額の自動車関係諸税を負担しています。2024年度の当初予算では自動車ユーザーが負担する税金の総額は国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなります。 ●図1.2024年度租税総収入の税目別内訳並びに自動車関係諸税の税収額(当初) 注:1.租税総収入内訳の消費税収は自動車関係諸税に含まれる消費税を除く。 2.自動車関係諸税の消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 3.消費税収には地方消費税収を含む。 資料:財務省、総務省 ●図2.2024年度自動車関連税収と税率 注:1.消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 2.税率は2024年5月1日現在。 ●図3.道路整備計画に関連した新税創設・増税の経緯 エコカー減税対象車は本則税率適用。 注:税率は2024年5月1日現在。 日本自動車工業会調 ●図4.自動車の税金のしくみ(税金および税額は2024年5月1日現在) *別途、エコカー減税に対する「自動車重量税」の軽減措置が講じられている ○ユーザーの負担 ●多種・多額の自動車関係諸税 自家用乗用車ユーザーの場合、車両価格308万円の車を13年間使用すると、6種類の自動車関係諸税が課せられ、その負担額は合計で約190万円にもなります(自工会試算)。さらに自動車ユーザーは、これらの税金以外にも有料道路料金、自動車保険料(自賠責および任意保険)、リサイクル料金、点検整備等多種・多額の費用を負担しています。 ●図5.税負担の国際比較 前提条件: ①排気量2000cc ②車両重量1.5t以下 ③WLTCモード燃費値 19.4km/ℓ(CO2排出量119g/km)④車体価格308万円(軽は144万円)⑤フランスはパリ、米国はニューヨーク市 ⑥13年間使用(平均使用年数:自検協データより)⑦為替レートは1€=¥158、1£=¥186、1$=¥146(2023/4~2024/3の平均) ※2024年4月時点の税体系に基づく試算 ※日本のエコカー減税等の特例措置は考慮せず ※自動車固有の税金に加え、以下のとおり付加価値税等も課税される。(日本の場合は消費税、米国・ニューヨーク市の場合は小売売上税)日本(登録車)30.8万円、イギリス61.6万円、ドイツ58.5万円、フランス61.6万円、米国27.3万円、日本(軽自動車)14.4万円 ●図6.自家用乗用車ユーザーの税負担額(13年間) 前提条件: ①2000ccで車体価格308万円(税抜き小売り価格)の乗用車 ②車両重量1.5トン以下 ③年間燃料消費量1,000ℓ ④重量税は車検証交付時または届出時に課税(第1年目は新車に限り3年分徴収) ⑤税率は2024年4月1日現在 ⑥消費税は10%で計算 ⑦リサイクル料金は2000ccクラスの平均的な額 注:1.有料道路料金、自賠責及びリサイクル料金は自動車諸税に準ずる性格を有するため計算上加味した。(自賠責保険は2024年4月1日現在の保険額) 2.有料道路料金は2022年度料金収入より日本自動車工業会試算。 日本自動車工業会調 <災害とリスク管理> *2-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1326448 (佐賀新聞 2024/9/24) 能登豪雨、浸水想定域の仮設被害、死者8人に、捜索続く 石川県能登半島の記録的豪雨により、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害が発生、うち輪島市の4カ所が大雨による洪水リスクが高い想定区域に立地していることが24日、分かった。これまでに指摘されていた立地のリスクが現実になった形だ。避難誘導が十分だったかなどの検証が求められそうだ。度重なる被災で入居者の生活再建の遅れが懸念され、県と市は今後の住まいに関する意向を確認する。他の団地でも床下浸水の被害があった可能性があり、県や地元自治体が調査する。輪島市は、浸水した団地の住民らをホテルや旅館などに2次避難させる方向で、県と調整している。県や消防によると、珠洲市大谷地区の土砂崩れ現場で新たに1人が見つかり死亡が確認され、豪雨による死者は8人となった。行方不明者は2人。県によると、連絡が取れなくなっている安否不明者は24日時点で5人。生存率が急激に下がるとされる発生72時間が経過する中、警察や消防などが捜索を続けた。県などによると、24日時点で床上浸水が確認されている仮設団地6カ所は輪島市5カ所と珠洲市1カ所。このうち輪島市の宅田町第2団地、宅田町第3団地、山岸町第2団地、浦上第1団地は洪水浸水想定区域にある。宅田町の2カ所は、付近を流れる河原田川が氾濫して団地一帯が浸水、住宅内にも泥水が流れ込んだ。24日、県のボランティアによる泥掃除や家財片付けが始まった。浸水した団地では、被害拡大後に救助される住民が相次いだ。輪島市幹部は取材に「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」として、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した。県によると、24日午後4時時点で輪島市、珠洲市、能登町の計46カ所の集落で少なくとも367人が孤立状態になっている。輪島市門前町七浦地区では仮設住宅の住民約70人が取り残されている。また、輪島市、珠洲市、能登町で計5216戸が断水している。 *2-1-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/cev903mwz9lo (BBC 2024年11月7日) 2024年は史上最も暑い年になる見通し エルニーニョ終息後も高気温続く、マーク・ポインティング気候変動・環境調査員 欧州の気象当局はこのほど、猛烈な熱波や多くの犠牲者につながった嵐が世界各地を襲った2024年が、統計開始以来で最も気温の高い年となることが「ほぼ確実」となったとの見通しを発表した。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、今年の世界平均気温は、人類が化石燃料を大量に燃やし始める前の「工業化以前」と比べて摂氏1.5度以上高くなる見込み。こうした高気温は、主に人為的な気候変動によるもので、エルニーニョ現象のような自然要因による影響は小さいという。科学者たちは、来週アゼルバイジャンで開かれる国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)を前に、これを警鐘として受け止めるべきだと指摘している。英王立気象協会の最高責任者、リズ・ベントリー氏は、「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対して、これ以上の温暖化を制限するための行動が急務だという、厳しい警告を新たに発するものだ」と話した。2024年には、10月までの世界気温があまりに高かったため、最後の2カ月間で気温があり得ないほど急降下しない限り、記録更新は防ぎようがないもようだ。実のところ、欧州コペルニクス気候変動サービスのデータによると、2024年は工業化以前と比べて、少なくとも1.55度は気温が高くなる可能性が高い。「工業化以前」とは、1850~1900年を基準にした期間のこと。この期間は、人間が化石燃料を大量に燃焼させるなどして地球温暖化を大幅に促進する以前の時代と、ほぼ一致している。欧州当局の今回の予測によると、2024年は昨年更新されたばかりの1.4度という最高気温を上回る可能性がある。欧州コペルニクス気候変動サービスのサマンサ・バージェス副ディレクターは、「これは地球の気温記録における新しい一里塚になる」と話した。加えて、コペルニクスのデータによると2024年には初めて、1月1日から12月31日までの1年の平均気温が1.5度上昇することになる。これは象徴的な意味を持つデータだ。2015年のパリ協定では200カ国近くが、気候変動による最悪の影響を回避しようと、長期的な気温上昇を1.5度未満に抑えるよう努力すると約束したからだ。ただし、今年に1.5度という上限を超えても、パリ協定の目標が破られたということにはならない。パリ協定の規定は、自然の変動を平均化するため、20年程度の期間における平均気温として定められているからだ。しかし、1年ずつ上限突破が積み重なるごとに、長期的には1.5度のラインに近づいていくことになる。国連は先月、現在の政策のままでは今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性があるという警告を発した。2024年のデータの細かい中身も、懸念材料となっている。2024年初頭の温暖化は、自然現象のエルニーニョ現象によってさらに拍車がかかった。これは、南太平洋で温かい海水が海面まで上昇し、大気中に暖かい空気を押し出される現象だ。直近のエルニーニョ現象は2023年半ばに始まり、2024年4月頃に終息したが、それ以降も、気温は依然として高い状態が続いている。コペルニクスのデータによると、この1週間、世界の平均気温は毎日、この時期の最高記録を更新している。多くの科学者は、エルニーニョ現象の反対で、海面水温が低下するラニーニャ現象が間もなく発生すると予測している。理論的にはこの現象により、来年には地球の気温が一時的に低下するはずだが、その正確な推移は不明だ。英レディング大学のエド・ホーキンス教授(気候科学)は、「2025年以降に何が起こるのか、興味深く見守っていきたい」と話す。しかし、大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、科学者らは新たな記録が更新されるのは時間の問題だと警告している。「気温の上昇によって嵐はより激しくなり、熱波はさらに暑くなり、豪雨はますます極端になる。その結果、世界中の人々に、目にもあらわな影響が出るはずだ」とホーキンス教授は言う。「炭素排出量を差し引きゼロにする『ネットゼロ』を実現し、地球の気温を安定化させることが、こうした災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法だ」 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046569.html (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスク地域に2594万人 居住者、20年間で90万人増 大雨で河川が氾濫(はんらん)した際に浸水の恐れがある地域に住む人は、全国で約2594万人(2020年)と、過去20年間で約90万人増えたことが朝日新聞のデータ分析で分かった。気候変動の影響で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える。分析したのは、全国の3万以上の河川のうち、主に流域面積や洪水時の被害が大きな約3千河川で、河川整備の目標とすることが多い「100年に1回程度」の大雨により浸水が想定されるエリア内の人口。国土交通省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(23年度版)と、国勢調査の人口データ(00~20年)を元に推計した。それによると、20年の日本の全人口は最多だった10年から約1・5%(約191万人)減った一方、浸水想定エリアの人口は20年までの過去20年間で約3%増え、約2594万人となった。うち浸水想定3メートル以上の地域の人口は約257万人で約7万人増えた。浸水5メートル以上の地域の人口は約26万人に上る。浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で、都民の3割弱を占める。埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間で20都道県が増加した。高度経済成長期以降、治水対策により、浸水リスクがある低地の開発が進み、相対的に地価も安価なため、人口が流入した。また、現在は一部規制が強化されたものの、00年の都市計画法の改正で、住宅の建設が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響した。日本大学の秦康範教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体がある一方、毎年のように水害が起きるなか、安全な場所にある空き家を活用して居住誘導するなど、災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべきだ」と話す。 ◇市区町村ごとのデータ分析は、デジタル版からアクセス出来ます。 *2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046472.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスクより利便性? 多摩川周辺…近い都心、氾濫後も新築 水害が多発するなか、浸水の恐れがある地域に住む人が増えている。2020年には全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3メートル以上の想定エリアに住んでいる。なぜリスクのある場所に人は集まるのか。21日に能登半島北部を襲った豪雨では、元日の地震で大きな被害が出た石川県で計27河川が氾濫(はんらん)し、多くの住宅が水に浸(つ)かった。地震で焼失した「輪島朝市」にほど近い輪島市河井町では、近くを流れる河原田川が氾濫。介護職員の50代女性の自宅は地震で壊れ、1カ月前にリフォームを終えたばかりだったが、約1・5メートル浸水し、1階は泥だらけになった。一帯は最大で3~5メートルの浸水が想定され、女性によると、65年ほど前にも約2メートル浸水した。ただ、堤防工事が進んだことや、自宅を50センチかさ上げしたことで安心し、「(浸水想定は)あまり気にしたことがなかった。まさか自分が生きているうちにまた来るとは思わなかった」と振り返った。朝日新聞の分析では、浸水想定エリアの人口は20年までの20年間で石川県を含む20都道県で増えた。特に増加が目立つのが、人口が密集する都市部だ。百貨店などが立ち並び、「にこたま」の愛称で知られる二子玉川駅(東京都世田谷区)から、多摩川を隔てた川崎市の一角。全国で90人以上の死者・行方不明者が出た19年の東日本台風では、多摩川の支流が氾濫し、多くの住宅が水に浸かり、マンション1階の60代の住民が亡くなった。近くに住む60代の男性の自宅も1メートル浸水した。玄関ドアや床下収納から水が一気に入り込み、1階のリフォーム代には総額で約1200万円かかった。この地区は3~5メートルの浸水が想定されている。男性は「50年以上住むが初めてのことで、まさかだった。最近異常な雨が増えているので怖い」。一方、近所では水害後に新しいアパートや戸建てが複数建った。2年前に夫婦で住み始めた女性(38)は、二子玉川で働き、「水害リスクは知っているが、利便性や家賃の安さから選んだ」と話す。東日本台風ではタワーマンションが林立する市内の武蔵小杉駅周辺で、地下が浸水したタワマンもあった。水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流してあふれる内水氾濫が原因だったが、被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価(20年1月時点)は前年比約2~5%上昇。不動産鑑定士の藤田勝寛さんは「水害などの災害が起きると取引は鈍くなるのが一般的だが、利便性が良ければ影響は一時的にとどまるケースが多い」と話す。川崎市は都心へのアクセス性が高く、人口も増加し続けている。朝日新聞の推計では神奈川県内で浸水リスクのある地域に住む人は同市を中心に過去20年間で約25万人増えた。18年7月の西日本豪雨で、災害関連死を含めて75人が亡くなった岡山県倉敷市。推計では浸水リスク地域に住む人は過去20年間で約3万人増えた。多数の犠牲者が出た同市真備地区は川沿いに浸水3メートル以上のエリアが広がり、過去に何度も水害に見舞われてきた。ただ、70年代ごろから市中心部のベッドタウンとして水田の宅地化が進んで人口が急増。水害後に人口が1割ほど減ったが、スーパーなどの商業施設は整っている。地元の不動産業者は「水害によって土地の価格は下落し、価格に魅力を感じて新たに移り住む人はいる」と話す。 ■国は住宅建築を制限、地域は衰退懸念 浸水の恐れがある地域での人口増は、2000年の都市計画法の改正も一因とされる。住宅などの建築が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で指定したエリアは例外扱いとなった。市街化調整区域は街の開発を抑制する区域で、低湿地帯など浸水リスクをはらむ場合も少なくない。19年の東日本台風で洪水被害が発生した場所の約8割を占めたとする国土交通省の調査もある。同省によると、既存集落の維持などを目的に22年度時点で全国で180自治体が条例を制定。地価が比較的安いことなどから居住者が増えている。熊本市中心部まで車で20分ほどの同市南区富合町もそのひとつ。1級河川の緑川や支流の流域にあり、12年に一定の住宅が集まる地域が条例でエリア指定された。一方で、各地で甚大な水害が相次ぎ、国は20年に法改正し、浸水などの災害リスクが高い場所は原則除外するよう規制を強化。当時、富合町自治協議会の会長だった男性(82)は「除外対象になる場所は多く、開発制限されると人口が減って地域が衰退する」と、条例エリアの維持を求める要望書を市に出した。結果的に、市は条件付きで開発を認め、来年4月以降、一部地域で家を建てる場合は浸水しない高さの部屋を設けることを義務づけた。男性は「次々に戸建てが建っているが、垂直避難できる2階建てが増えている」と話す。国も水害対策を進めるために21年に同法など九つの法律を一括改正。ハード事業の促進に加え、避難場所の整備推進や、浸水リスクが高い場所を都道府県が「浸水被害防止区域」に指定し、住宅や高齢者施設の建設を許可制とする仕組みなどを導入した。 ■保険料、リスク別に 水害による被害は拡大傾向にある。国交省の水害統計によると、13~22年までの10年間の水害被害額は計7兆3千億円で、その前の10年間の約1・4倍に膨らんだ。特に19年は東日本台風の影響で約2兆1800億円となり、統計開始以来で最悪となった。浸水リスクエリアで人口が増えたことで、住宅などの資産もより集中し、面積当たりの被害額も増えている。東京理科大マルチハザード都市防災研究拠点の二瓶泰雄教授の調査によると、水害被害額(前後5年、計10年間の平均)は、1960年代は浸水面積1平方キロメートルあたり2億~3億円だったが、2010年は20億円、18年には30億円に増加。さらに、死者・行方不明者数(同)についても、1960~2000年は0・1~0・2人だったが、18年には0・52人と、最大5倍ほどに増えた。二瓶教授は「高齢化が進み、人的被害はさらに増える可能性がある」と指摘する。また、水害の多発などを背景に、火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが10月から導入される。これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化する。 <環境> *3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083920.html (朝日新聞 2024年11月14日) 温室ガス減、英に存在感 首相、目標引き上げ発表 COP29 アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動会議(COP29)で、英国が存在感を示している。13日までの首脳級会合では、主要排出国などのトップが欠席する中、スターマー首相が登壇。スピーチに好意的な評価が相次いだ。約80の国・地域の首脳らが参加した会合では、英国を含む一部の国が、気候変動対策の国際ルール「パリ協定」にもとづく、新たな温室効果ガス削減目標を発表した。スターマー氏は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意だ」と宣言。2035年の排出量を1990年比で81%減らすと発表した。前保守党政権でまとめていた78%減をさらに高めた。各国の温室効果ガス削減目標は、次は25年2月までに、35年までの目標を国連に提出することが求められている。英国は主要7カ国(G7)で最も早く新目標を発表。今年9月、国内で稼働する石炭火力をゼロにするなど、気候変動対策に積極的な姿勢を強調している。スターマー氏は他国にも目標引き上げを呼びかけた。2大排出国の米中や、世界の温暖化対策をリードしてきた欧州連合が、軒並み首脳の出席を見送る中、気候変動対策に取り組む姿勢を首相自ら訴えた形だ。英紙ガーディアンは社説で「重要な一歩」と評価。米シンクタンク「世界資源研究所」(WRI)は「気候変動に関するリーダーシップの輝かしい例」と持ち上げた。 *3-1-2:https://mainichi.jp/articles/20241122/k00/00m/020/374000c (毎日新聞 2024/11/22) 電気・ガス、ガソリン…補助金の終わり見えず 事業の出口戦略に注目 22日に閣議決定された総合経済対策で、10月で終了した電気・ガス料金への補助金を来年1~3月に再実施することが決まった。年内を終了期限としていたガソリン補助金も規模を縮小して延長する。政府は時限措置だった補助金の終了に踏み込めずにいる。暖房需要で電力の消費量が最も増える1~2月は家庭向けで電気は1キロワット時あたり2・5円、ガスは1立方メートルあたり10円を補助する。電気代は標準家庭(使用量400キロワット時)で月1000円の補助となり、ガス代と合わせると計1300円程度の負担軽減になる。3月は電気1・3円、ガス5円に補助額を縮小する。電気・ガス代への補助金は、ウクライナ危機に伴う燃料価格の高騰対策として2023年1月使用分から開始。その後、燃料価格が落ち着いたため24年5月分でいったん終了した。しかし、岸田文雄前政権が酷暑対策として8~10月の限定で電気は最大1キロワット時あたり4円、ガスは同1立方メートルあたり17・5円の補助を復活。今回、またも終了直後に再開が決まった形だ。一方、ガソリン価格を抑制するため22年1月から続いている石油元売りへの補助については、12月から段階的に補助の規模を縮小させるものの、年明け以降も延長する。来年1月中旬のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は約180円、2月中旬には約185円になる見込み。それ以降は月5円程度の価格上昇となるよう補助率を見直す。終了時期は定めていない。10月の衆院選中には公明党が「寒い時期が一番電気・ガス代がかかる」として経済対策に盛り込むよう要求し、石破茂首相も「電気代が上がって困る人には十分な支援を行う」との意向を表明。選挙の結果、衆院で過半数割れし少数与党となった自公と政策協議していた国民民主党も値下げを求めていた。電気・ガスやガソリン代に対する補助金が長期化していることに対し、「市場原理を無視している」「脱炭素に逆行している」といった批判の声が噴出している。だが、酷暑対策で補助金が復活した際には「絶対に冬もやることになる」(経済官庁幹部)と政府内には諦めムードが広がっていた。電気・ガス補助金は問題も指摘されている。会計検査院の調査によると、補助金事業の事務局業務を319億円で受託した広告大手の博報堂が、業務の大部分を子会社などに委託し、さらに別会社に再委託されていたことが判明している。業務委託費率が50%を超える場合は所管する資源エネルギー庁に理由書を提出する必要があるが、書類には委託が必要だとする理由が具体的に記載されておらず、エネ庁にも委託を認めた経緯の記録が残っていなかった。経済産業省の事業では、過去にも新型コロナウイルス禍を受けた中小企業向けの持続化給付金を巡り、事業を受託した一般社団法人が大半の業務を再委託していたことが発覚して問題になったこともある。エネ庁の担当者は「今後、同じように再委託があればどういう形で適切と判断したのかが残るように手続きを検討している」としている。経産省は今回の補助金の再開・延長で必要な予算額を明らかにしていないが、これまで投じられた累計額だけで電気・ガスは約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達している。ガソリン補助金は間もなく開始から3年がたつ。膨大な税金を投じた補助金事業の出口戦略を描けるかにも注目が集まる。 *3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSB041PWSB0ULBH00QM.html (朝日新聞 2024年11月3日) 福島第一原発、根拠なき「2051年廃炉完了」 現実的な工程示せ *ポイント: 福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的だ。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もある。処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべきだ。 「燃料デブリが原子炉内のどこにどれぐらい分布するかが正確にはわからない。しかも、高線量の中で遠隔で作業しなければいけない。それが取り出しの難しさだ」。原子力規制委員会の前委員長、更田豊志氏は、燃料デブリの取り出しについて、こう解説する。東京電力福島第一原発の1~3号機には推計880トンの燃料デブリがある。3基とも圧力容器の底を突き破り、外側の格納容器にまで広がっている。放っておけば、将来、建屋の老朽化などで放射性物質が漏れ出す恐れがある。政府と東電は、全て取り出して安全な状態で管理しようとしている。東電の構想では、まずは2号機で試験的に3グラム以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やす。それから、30年代初めに3号機で大規模な取り出しを始め、その後、1号機に展開する。この構想の最初のステップが今年9月に始まった。東電は2号機の原子炉格納容器の側面にある貫通口から取り出し装置を挿入した。カメラの不具合で作業は1カ月以上中断したが10月28日に再開。燃料デブリを装置でつまみ、今月2日に装置ごと格納容器の外側の設備に入れた。線量が基準を下回り容器に収めれば初の取り出し成功となるが、これから続く道のりは深い霧に覆われている。政府と東電は51年までの廃炉完了を掲げている。11年12月の工程表で示したものだ。当時の想定では21年までに燃料デブリの取り出しに着手し、10~15年程度で1~3号機すべての取り出しを終える計画だった。しかし、開始は3年遅れた。主な原因は、関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足だ。ロボットアームはいまも試験中で、今回の取り出しには簡易的な「釣りざお式装置」を使った。原子炉建屋のプールにある核燃料の取り出しも大幅に遅れている。当初の計画では、1~4号機に計3108体ある核燃料を21年までに取り出すとしていた。だが、ガレキの撤去など作業環境の整備に時間がかかり、21年までに取り出せたのは3、4号機だけ。1、2号機はいまも始まっていない。最新の工程表では、当初から10年遅れの31年までにすべての取り出し完了をめざしている。重要作業の遅れが続いても、政府と東電は51年までの廃炉完了という旗はおろしていない。東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は「51年までの完了を目標に仕事を積み上げていくことが大事だ」と強調する。そもそも、なぜ51年までの廃炉完了を目標にしたのか。政府関係者は技術的な根拠はまったくなかったと明かす。「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できないような空気だった。何かしらの数字を出さざるを得なかった」。参考にしたのが1979年に事故を起こした米スリーマイル島(TMI)原発2号機だ。事故から11年後に99%の燃料デブリの取り出しが終わっていた。福島第一原発は1~3号機に燃料デブリがあるため、3倍の時間がかかるとみて、30~40年後(51年まで)の廃炉完了を目標にしたという。だが、TMI原発と福島第一原発は状況が大きく異なる。TMI原発では原子炉圧力容器に水をはった状態で、燃料デブリを取り出すことができた。水は放射線を遮れるうえ、作業時に放射性物質の飛散を抑えられるという、大きなメリットがある。 ●取り出し困難な燃料デブリ 一方、福島第一原発は圧力容器の損傷が激しく、水をはることができない。外側の格納容器まで広範囲に燃料デブリが広がり、TMI原発よりも取り出しの難易度が格段に高いとみられている。そもそも事故を起こしていない原発でも、原子炉に核燃料がない状態から作業を始めて廃炉完了までに30~40年かかるとされる。このため、51年までに廃炉完了とする目標については、多くの専門家が「あり得ない」などと指摘している。政府や東電は廃炉の工程をすぐには見直そうとしていない。専門家の間では、自主的に根拠のある見通しを示そうという動きが出ている。早稲田大学の松岡俊二教授(環境経済・政策学)は22年、福島第一原発の燃料デブリの全量取り出しにかかる期間を試算し、論文を発表した。TMI原発では約132トンの取り出しに4年3カ月かかった。週休2日で作業が年間260日とすると、1日の取り出し量は120キロ。TMI原発より作業が難しい福島第一原発の取り出し量は、1日20キロ、もしくは50キロと仮定した。その場合、全量取り出しにかかる期間はそれぞれ170年、68年という結果だった。松岡さんは「3グラム以下の取り出しに難航している現状を踏まえれば、170年でも相当楽観的な数字だ」という。廃炉作業で出る放射性廃棄物は、事故を起こしていない原発600基分になるとの見方もある。技術コンサルタントの河村秀紀さんらは、福島第一原発の図面などの公開情報をもとに試算した。敷地の放射線量が下がり、自由に出入りできる状態にする場合の放射性廃棄物は約780万トンになるという。日本原子力学会の分科会はこの試算を参考に、汚染された地盤などを残して継続管理とする「部分撤去」のシナリオについて検討した。廃棄物量を試算すると約440万トンとなる。放射性物質が自然に減るのを待つために数十年間の期間を挟めば、さらに約110万トンまで減らせるという。 ●地元と対話で探る将来像 政府と東京電力は福島第一原発の廃炉完了の姿を明確にしていない。更地をめざすのか、一部の施設が残っても完了とみなすのか。ゴールはあいまいだ。福島県は燃料デブリを含む放射性廃棄物をすべて県外で最終処分するよう、繰り返し求めている。だが、処分地探しなどの議論は進んでいない。原発事故を後世に継承できるよう、一部を「遺構」として残すよう求める意見もある。廃炉の費用は東電が出すが、電気代の一部として国民の負担になる。政府は廃炉に必要な技術開発への支援などとして、毎年100億円以上を企業などに補助している。最新の見積もりでは廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用などは含んでいない。さらに膨らむのは確実で、廃炉の将来像は国民全体に関わる問題だ。日本原子力学会の分科会が示すように、将来像や時間のかけ方で発生する廃棄物の量は変わる。技術的な検討だけでは解決できず、社会的な合意形成が重要となる。昨年8月に始まった処理水の海洋放出では、政府は専門家会議での技術やコスト面からの議論を重視した。放出の方向性を固めた後に、地元や漁業者らへ説明して理解を得ようとした。だが、結論ありきの姿勢に幅広い納得は得られず、強い反発を招くことになった。福島では地元の住民や専門家、東電社員らが対話し、廃炉の将来像を探る「1F地域塾」が22年から続く。廃炉作業について助言する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」も今年6月、原発事故の避難指示が出るなどした13市町村で住民の声を直接聞く場を設けた。政府と東電はこうした取り組みを参考に、丁寧な対話を重ね現実的な工程を探るべきだ。 *3-2-2:https://www.asahi.com/special/10005/TKY201108240683.html (朝日新聞 2011年8月25日) 校庭利用の基準「20ミリシーベルト」撤廃へ 学校の校庭利用をめぐる放射線量基準について、文部科学省はこれまで示してきた「年間20ミリシーベルト」の目安を撤廃する方針を固めた。基準を定めた今年4月と比べて線量が大幅に減ったため。児童生徒が学校活動全体で受ける線量を年間1ミリシーベルト以下に抑えるとの目標は維持するという。目標達成のため、学校で毎時1マイクロシーベルトを測定した場合は除染が必要との考えを示す予定で、26日にも福島県に通知を出す。ただし、校庭利用の制限基準とはしないという。東京電力福島第一原発の事故を受け、文科省は4月、福島県内の学校で毎時3.8マイクロシーベルト以上が校庭で測定された場合、校庭の利用を制限すべきだとの暫定基準を示した。子どもが年間に受ける放射線量が20ミリシーベルトに達しないよう設定された値だったが、保護者らから「上限20ミリシーベルトは高すぎる」との批判が相次いでいた。文科省はこの夏、基準を改めて検討。自治体による校庭の土壌処理も進み、福島県内の学校の線量は現在3.8マイクロシーベルトを大きく下回っていることから、「役割を終えた」としてこの基準を撤廃する考えだ。合わせて、年間被曝(ひばく)量を1ミリシーベルト以下にするとの目標を改めて示す。学校内では局所的に線量が高い場所があるため、こうした場所を把握するための測定や除染も呼びかける。測定方法をまとめた手引も公表するという。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241114&ng=DGKKZO84780400U4A111C2KNTP00 (日経新聞 2024.11.14) ごみ屋敷、精神的支援に軸足、医師とも連携、包括的に対処 悪臭や害虫の発生などで周囲に大きな影響を与えるごみ屋敷。居住者の自己責任と思われてきたが、疾患や認知症などの問題が影響するケースも多いことが分かってきた。自治体は当事者に寄り添った精神的な支援に軸足を移している。「ごみが壁のようになっていた」。愛知県内に住む自営業の40代女性は実父の家の状態を振り返る。2023年2月、父の入院を機に足を踏み入れると、服やティッシュ箱、缶などが室内にあふれていた。「父は昔から物を全く捨てられない性格。家族が訪ねても、中に入るのを嫌がられ状況がつかめなかった」という。事態に気づいた後は夫と週2回、1年以上通い、8割ほど片付けた。衛生上の懸念や親戚の反発、近隣住民からの苦情もあり、結局は家の解体を決めた。「自分も幼少期から20年ほど住んだ思い出があり、残せるなら残したかった」と複雑な思いもある。環境省の調査によると、全国1741自治体の38%が「22年度までの直近5年度で『ごみ屋敷』事案を認知している」と回答した。ごみ屋敷が形成される要因の一つに、生活への意欲を失い無頓着になる「セルフネグレクト」がある。ほかにも身体的、精神的な障害や特性があってごみが出せない例もある。認知症などにより判断能力が低下し、周りの環境を正しく認識できずに物をため込む場合もあり、事情は様々だ。ごみ屋敷はその居住者だけの問題と捉えられやすいが、実情は異なる。東京都立中部総合精神保健福祉センターの菅原誠副所長は「高齢単身世帯の増加などによる孤立や孤独などの問題も絡んでおり、ごみ屋敷は社会の縮図ともいえる」と話す。8月公表の総務省の報告書によると、181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患やその疑いがあるという。菅原さんは「住環境の改善に加えて支援に精神医学的な知見を入れる必要がある」と説く。当事者への精神的な支援を重視し、手厚く対応する自治体も出てきた。東京都足立区は23年、ごみ屋敷対策のために精神科医を配置した。職員は月1回、悩みや課題を相談できて実際の対応に生かせる。これまでの事例を分析したところ、問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題があることが分かった。ごみ屋敷対策係の小野田嗣也係長は「医療的な助言があると自信になり、現場としてとても助かる」と安堵感をにじませる。20年から3年間対応した70代男性の事例では、医師の指摘で解決に近づいた。当初は男性が区への不満を一方的に話すだけだった。職員が医師に相談すると「(1)自尊心を大切に向き合う(2)ごみ屋敷解決のための『支援』ならできると伝える」と本人の特性を踏まえた助言を得た。男性は支援という言葉に興味を示し、片付けを申し出たという。23年7月に「ごみ屋敷」条例を施行した浜松市の担当者は「制定で法的根拠をもって動けるほか、部署間の連携が取りやすくなった」と話す。看護分野に詳しい専門家などに意見を求められる体制も整えた。当事者への命令や行政代執行の前に相談する。今後は個別の例に対して助言をもらうことも視野に入れる。地域社会での包括的な支援も進む。福岡県の知的障害を持つ40代男性は20年に自宅にたまった不用品を捨てた。民生委員らが手伝ったほか、社会福祉法人は袋や車を提供してくれた。男性は「分別ができずに捨てられなかった」と話す。片付けに参加した自治会長に「いつでも教えるから持ってきて」と言われ、安心して捨てられるようになったという。地域での顔が見える関係作りは問題解決の一手になりそうだ。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD301N40Q4A131C2000000/ (日経新聞 2024年11月30日) プラ生産削減目標、100カ国超提案 条約交渉国の過半 プラスチックごみを減らす初の条約作りを目指す政府間交渉で、100カ国超がプラ生産量の削減目標を設定するよう提案した。12月1日の交渉期限が近づくなか、生産削減に賛同する国の広がりを示して受け入れを迫る。提案書を出したのは欧州連合(EU)に加盟する全27カ国やスイス、カナダ、オーストラリア、メキシコ、パナマなど。島しょ国のフィジーやアフリカのケニアも加わった。政府間交渉に参加中の約180カ国、国連に加盟する193カ国の半数を超えた。生産規制には中東産油国やロシアが抵抗しており、交渉国間の隔たりが大きい。日本は一律の生産規制に慎重で提案に加わっていない。100を超える国々は11月末までに交渉事務局の国連環境計画(UNEP)に対して文書を提出した。パナマがEU加盟国を含む80を超える国の幹事として提案書を起草した。11月25日に始まった政府間交渉の場で、参加国が追加提出した提案書をもとに日本経済新聞社が集計した。プラのほとんどは石油由来で、生産時に大量の温暖化ガスを排出する。ポイ捨てが原因で海洋などに流出したプラが環境汚染を引き起こしたり、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響を及ぼしたりしているとの指摘もある。こうした汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要があるというのが提案国の主張だ。これらの国は以前からプラの「削減」あるいは「持続可能な生産」への切り替えを掲げてきた。条約をめぐる政府間交渉委員会の全体会合ではロシアや産油国が生産規制について繰り返し反対している。100を超える国々は交渉期限間際に改めて提案書を出すことで、多数の国が生産削減に賛同していることを示すのが狙いとみられる。 *3-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1366805 (佐賀新聞 2024/12/1) プラ条約、合意先送りへ、生産規制巡り溝埋まらず プラスチックごみによる環境汚染を防ぐための国際条約作りを進める政府間交渉委員会は1日、全体会合を開き、ルイス・バジャス議長が、この会合で目指していた条約案への合意を先送りすることを提案した。議長は「私たちの作業は完了からはほど遠い」と述べた。最大の焦点となっているプラスチックの生産規制を巡り、厳しい規制を求める欧州連合(EU)側と、プラスチックの原料となる石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらないことが背景にあるとみられる。韓国での今回の交渉委は条約案を取りまとめる最終会合の位置付けで、各国の代表団が1週間にわたり議論した。だが会期末のこの日までに合意が得られず、今後の交渉も難航が予想される。生産規制を巡っては、パナマやEU、島しょ国など100カ国以上が、条約発効後に開く第1回の締約国会議での国際的な削減目標の採択を提案。中東諸国側は「(条約は)あくまで廃棄物対策に絞るべきだ」と反対している。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN10EIA0Q4A410C2000000/ (日経新聞 2024年4月11日) 米政府、飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満に 米環境保護局(EPA)は10日、人体への有害性が指摘されている有機フッ素化合物「PFAS」について飲料水における含有基準を決めた。日本が定めた暫定基準値の1割未満に相当する厳しい水準にした。米連邦政府がPFASを巡り、強制力のある基準を定めるのは初めて。PFAS規制を巡る日本の議論にも影響を及ぼす可能性がある。EPAはPFASのなかで毒性が強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を1リットル当たり4ナノ(ナノは10億分の1)グラムと定めた。強制力のない目標値はゼロにした。両物質の合算で同50ナノグラムとする日本の暫定基準を大幅に下回る。「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を1リットル当たり10ナノグラムと定めた。新規制は全米6万6000の水道システムが対象となる。水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定し、情報を公開するよう求める。基準を超えるPFASが測定された場合、5年以内に削減するよう対応を求める。EPAは、新基準に対応が必要となる水道システムを全体の1割程度と推定している。対応費用は全体で年間およそ15億ドル(約2300億円)と見積もった。EPAは新規制で「PFASにさらされる人が約1億人減り、数千人の死亡を防ぎ、数万人の重篤な病気が減る」と理解を求めた。水道を運営する州や自治体に対し、PFAS検査や対応を支援するため約10億ドルを提供する。水道事業者が加盟する非営利団体の米国水道協会(AWWA)は声明を出し「公衆衛生を保護する強力な飲料水基準を支持する」と規制の設定に支持を表明した。新基準に対応するための費用負担はEPAの試算値の「3倍以上になる」と指摘し、多くの地方で水道料金の値上げにつながると懸念を示した。バイデン政権は2021年の発足以来、PFASの規制強化に取り組んできた。EPAは21年10月、飲み水や産業製品、食品などに含まれるPFAS量を調べたり、飲料水の安全基準を引き上げたりするなど3年の工程表を公表した。毒性が強い6種類のPFASを有害物質に指定し、規制の枠組みづくりを進めてきた。直近ではPFAS汚染に企業の責任を問う動きも広がる。23年には、公共水道システムのPFAS汚染の責任を問う訴訟で、製造元の米化学大手スリーエムとデュポンが相次いで巨額の和解金の支払いに合意した。 ▼有機フッ素化合物「PFAS」 4700種を超える有機フッ素化合物の総称。数千年にわたり分解されないため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水や油をはじき、熱に強いなどの便利な性質から、消防署で使う消火剤や、フライパンの焦げ付き防止加工まで、幅広い産業品や日用品に使われてきた。PFASのうち「PFOS」と「PFOA」は毒性が高いとされている。自然界に流出すると、土壌に染み込むなどして広範囲に環境を汚染する。環境省が国内の河川や地下水への含有量を調べた結果、2022年度は東京、大阪、沖縄など16都府県の111地点で国の暫定目標値を超えていた。沖縄県では過去にも米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されており、健康被害への不安が根強い。 *3-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1365559 (佐賀新聞 2024/11/29) 2割の水道でPFAS検出、46都道府県、332事業 発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出されている問題を巡り、環境省と国土交通省は29日、水道水の全国調査結果を公表した。2024年度に富山県を除く46都道府県の332水道事業でPFASが検出された。検査を実施した全国1745水道事業の2割に相当する。PFASに特化し、小規模事業者にも対象を拡大した大規模調査は初めて。PFASの代表物質PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という国の暫定目標値を超えた水道事業はなかったが、岩倉市水道事業(愛知県)と新上五島町水道事業(長崎県)、むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出された。調査は5月下旬から9月下旬に実施。対象は給水人口が5千人超の上水道や101~5千人の簡易水道など。浄水場の出口水や給水栓から出る水の水質を調べた。社宅などで使用する専用水道は現在集計中のため今回の発表に含まれていない。現在は暫定目標値を超えても水質改善などの対応は努力義務にとどまる。浅尾慶一郎環境相は29日の閣議後記者会見で、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げし、対応を法的に義務付けるかどうか25年春をめどに方向性を示すとした。今回調査では「水道法上の測定義務がない」として20年度以降、一度も検査を実施していない水道事業が一定数確認された。20~23年度に暫定目標値を超えた事業数は20年度は11、21年度は5、22年度は4、23年度は3と低減傾向だった。国交省は高濃度で検出された事業者向けに、国内12カ所で実施されたPFASの対応事例集を公表した。PFASは近年、日本水道協会の水道統計でも検査項目の一つとして調べられているが、対象は規模の大きい水道事業などに限定。今回は小規模な簡易、専用水道にも対象を広げた。有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。1万種類以上の物質があるとされる。耐熱や水、油をはじく特性から布製品や食品容器、フライパンのコーティングのほか、航空機用の泡消火剤に使われてきた。有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となっており、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが21年に輸入や製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された。 *3-4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16097877.html (朝日新聞社説 2024年12月3日) 水道PFAS 実態と影響 調査続けよ 健康への影響が懸念される有機フッ素化合物(総称PFAS〈ピーファス〉)について、水道水の全国調査が公表された。直近では、国の目安である「暫定目標値」を超えた例はなかったが、昨年度までは超えていた例もあり、その大半の汚染源は特定されていない。安心して水道を使い続けられるよう、検査や影響の調査を継続しなければならない。国による水道水の全国調査は初めて。環境省と国土交通省が20~24年度の水道事業者など3755事業の検査状況をまとめた。20~23年度は計14事業で暫定目標値を超え、一方で今年度は9月末時点までで検査した1745事業で暫定目標値超えはなかった。比較的小規模な専用水道は集計中で後日、公表する。PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた。自然界でほとんど分解されず、生物に蓄積する恐れがある。沖縄の米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や、各地の工場周辺でも検出されてきた。それ以外でも、「思いがけない所から検出された例もある」と専門家は指摘する。岡山県では、使用済みの活性炭が置かれた場所が発生源と考えられた。検査を実施していない事業者は、取り組みを始めることが求められる。今回の結果について、環境省は、水源の切り替えなどの対策の効果があったと評価する。検出された例でも対策で目標値以下にすることができた。国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかけていく。検査と対策を進めれば、水道の安全性は高まる。住民への結果の速やかな公表は信頼関係を損なわないために不可欠だ。検出状況に応じて、健康調査などの対応を検討する必要もあるだろう。汚染があった自治体では、水源の井戸の一部使用停止や新たな水源の確保などを進める。血液検査を始めた自治体もある。沖縄県金武町では約3億円かけて新たな送水管を整備した。国は、検査や除去に関して財政や技術面で自治体を支援し、PFASでどんな健康への影響があるのか、調査と研究例の収集を進めてほしい。暫定目標値は、水質基準と違って公表や超えた場合の改善の義務はない。環境省は水質基準にすべきか検討を続けている。過剰な対策は混乱を招きかねないが、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整えなければならない。どんな制度が望ましいのか、国民が安全な水を安心して使えるよう探るのが国の責務だ。 <国際学力調査から> PS(2024年12月6日追加): *4は、①2023年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)で、算数・数学・理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は小4理科で国際平均を上回ったが、それ以外は下回った ②文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている ③小4は、「楽しい」が算数は前回より7%減の70%・理科は2%減の90%で、「得意」が算数は9%減の56%、理科は5%減の81% ④中2は、「楽しい」が数学で4%増の60%、理科は横ばいの70%で、「得意」が数学で1%減の39%、理科が2&減の45%となった ⑤理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った ⑥「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差 としている。 学問は、ドラマや漫画と異なり、その場で「楽しい(満ち足りて愉快な気持ち)」と感じるよりは、(やり方によるが)やっているうちに面白さ(興味をそそられ心引かれること。例:仕事が面白くなった)がわかってくるものであるため、記事のうち「楽しい」の部分と増減部分を除くと、小4では、③のように、「算数が得意」としたのは56%、「理科が得意」としたのは81%で、中2では、④のように、「数学が得意」がとしたのは39%、「理科が得意」としたのは45%と、学年が上がるにつれて「得意」の割合が下がっている。 これは、①のように、小4理科のみで国際平均を上回り、それ以外は下回ったという結果であり、②のように、文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としているが、苦手意識は学校だけではなく、メディアはじめ社会や家族からも発信されており、子どもは大人の真似をしながら成長し、成長に伴って大人の影響を大きく受けていくため、教師だけでなく、社会人を変える必要があるのだ。 その証拠は、⑤⑥のように、理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%であるのに対し、中2数学では男子49%、女子28%と大きな差になっていることだ。そして、そうなる理由は、「女の子は理数系は苦手」「女の子は勉強が苦手と言わなければ生意気」「成長すれば、どうせ男の子に負ける」等々、周囲から苦手意識を促すようなことばかり言われて育つからである。私の場合は、社会からはそう言われて育ったが、家族が違ったのだ。 しかし、いつも感じるのは、TIMSSは中学生までの学力しか調査していないことであり、高校2年生と大学2年生の学力も調査すべきだ。そうすれば、高校で文系と理系を分けている日本の理系学力は驚くほど低く、大学2年生ではさらに低くなるため、OECDでもG20でも最下位に近くなって、教育システムや教え方に関する良い反省材料になると思うのである。 ![]() 2024.12.6西日本新聞 2024.12.4Goo 2024.9.23Coki (図の説明:左図は、TIMSS2023の順位と平均得点で、小学4年は算数5位・理科6位、中学2年は数学4位・理科3位と上位にいるが、高校・大学での調査はなく、こちらの方が悪そうだ。また、中央の図は、小学4年と中学2年の数学・理科に関する得意度で、学年が上がると男子の方が女子よりも[得意]と答えた人の割合が上がる。右図は、日本が直面している教育システムの課題について聞いたもので、どの世代も「教員教育の不十分」「時代遅れのカリキュラム」「公的資金の不足」を挙げているのは尤もだが、世代によって割合が異なるのは興味深い) *4:https://news.goo.ne.jp/article/kyodo_nor/nation/kyodo_nor-2024120401001406.html (Goo 2024/12/4) 平均より上、小4理科のみ 「勉強は楽しい」「得意」の割合 2023年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)によると、算数・数学と理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は、小4理科で国際平均をそれぞれ6ポイントと16ポイント上回ったものの、それ以外は4〜11ポイント下回った。文部科学省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている。小4では、「楽しい」の割合が算数で前回より7ポイント減の70%、理科は2ポイント減の90%。「得意」は算数が9ポイント減の56%、理科は5ポイント減の81%だった。中2は、「得意」が数学で1ポイント減の39%、理科が2ポイント減の45%、「楽しい」は数学で4ポイント増の60%、理科は横ばいの70%となった。理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った。「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%。「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差があった。 <カネと不倫で足を引っ張るえせ“民主主義”について> PS(2024年12月7日追加):*5-1-1のように、2024年10月の衆議院議員選挙後に議員数を4倍に増やして“103万円の壁”を突破すべく交渉していた国民民主の玉木代表は、*5-1-2の不倫問題をきっかけとして3カ月間の役職停止処分となった。国会議員・公務員はじめ各界のリーダーになろうとする人は、他の人が身辺を粗探ししても何も出ない生活をしておく必要があるため、「玉木氏は脇が甘すぎた」とは言える。しかし、「処女」「やまと撫子」などの言葉は死語となりつつあり、メディアにおける性の不道徳は不潔で見ていられない程であるのに、玉木氏やトランプ氏の不倫を批判した人たち自身は批判する資格があるのかを私は問いたい。何故なら、民主主義は、政策論争をする限りは有意義だが、個人が聖人のような生活をしてきたか否かに関して粗探しする場になると時間を空費し、独裁主義の方がよほど効率的になるからである。 また、*5-2-1・*5-2-2・*5-2-3のように、韓国の尹大統領が12月3日夜に、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言されたことには私も驚いたが、尹大統領の「非常戒厳宣言」のおかげで世界中が現在の韓国が置かれている立場を理解したと言える。その「非常戒厳宣言」は、与野党や市民の強い反発で12月4日未明には解除が表明され、その後、韓国与党「国民の力」の韓代表が、尹大統領の「速やかな職務執行停止」を要求したり、野党が尹氏の弾劾訴追案の可決に向けて与党の切り崩しを図ったりしている状況だそうだ。 しかし、そもそも尹大統領が選挙で大敗し、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が予算案や法律案の通過を次々と阻止して政治の停滞を招く結果となった原因には、i)2023年12月、韓国の国会が尹大統領の妻が株価操作事件に関与したとして「特別検察官」を任命する法案を可決し、尹大統領が2024年1月に拒否権を行使したこと ii) 尹大統領の妻が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる(くだらない)疑惑をかけられ、韓国ソウル中央地検は10月2日に「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」という理由で不起訴処分としたこと 等々、本人の人格否定ができなければ妻の人格を否定すべく粗探しをして中傷に結びつける民主主義とはかけ離れた人権無視の態度があったと思う。さらに、韓国では、大統領になると次は監獄に行くという事態が続いており、このような形で司法が活躍する社会は、とても民主主義国家とは言えないのである。 *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSCW342QSCWUTFK00FM.html?comment_id=30148&iref=comtop_Appeal4#expertsComments (朝日新聞 2024年11月27日) 「全国の女性を敵に回した」と憤る連合 玉木氏が不倫問題で謝罪 国民民主党の玉木雄一郎代表は27日、党の支援組織である連合の芳野友子会長と国会内で会談し、自身の不倫問題について「期待と信頼を裏切る結果になったことに心からおわびを申し上げたい」と謝罪した。芳野氏は会談後、記者団に「信頼回復に向けご努力をいただきたい」と述べ、玉木氏の進退については「ご本人が考えることだ。その考えを尊重する」と語った。ただ、不倫問題に対し、連合内では「参院選に影響が出る。全国の女性を敵に回した」との厳しい声も出ている。会談では来年夏の参院選に向けた対応も協議。国民民主、立憲民主党に連合を加えた3者で、原発を含むエネルギーなどの基本政策について協議していくことを確認した。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/352e4eb116d971b16a0a59108237a6445e9718de?page=1 (Yahoo 2024/11/15) 玉木代表の不倫相手“元グラドル”を男性は絶賛、女性は同情…のワケ。「あふれ出るB級感に悲しみを感じる」 11月11日、国民民主党の玉木雄一郎代表(55)が、香川県の高松市観光大使を務めるタレント・小泉みゆき(39)と不倫関係にあることが、週刊誌『FLASH』の電子版『SmartFLASH』により報じられた。10月27日に投開票が行われた衆議院選挙で28議席を獲得するなど大躍進を見せた国民民主党。その立役者である玉木代表のスキャンダルに多くの有権者から失望の声が寄せられている。ただ、今回の不倫報道にSNSでは玉木バッシングだけではなく、もう一つ別の角度からの声が少なくない。それは不倫相手の小泉の容姿に言及するものだ。そういったコメントを見ていると、男女で意見が大きく異なっている印象を受ける。男女間で小泉に対する声がどのように違うのか考えたい。 ●男性からは「この人相手なら、不倫するのも仕方ない」と絶賛も まず男性の意見は小泉の容姿を絶賛する傾向が強い。目元が大きく、サラサラした髪が特徴的な顔に好感を示す声は少なくない。また、スキャンダルが報じられた記事内では、ボディラインがはっきりと見えるパツパツの服を着た小泉の写真が何枚も添付されており、その妖艶な身体つきに「不倫するのも仕方ない」と玉木の不倫を肯定する声もかなり寄せられていた。小泉があまりに“エチエチ”すぎたがゆえに、玉木の情状酌量を訴える人が続出しているが、実際のところ小泉が男性に魅力的に映るのは理解できる。やはりボディラインがまるわかりの服を着ていると、否応なしに男性の性的興奮を高める。クリクリした目元も“小動物感”を演出しており、男性の支配欲・守ってあげたい欲をより一層駆り立てている印象。小泉は現在39歳ではあるが、そのファッションセンスはとても幼い。どことなく“痛さ”を覚えるが、「痛い」は「天然」「ドジっ子」と変換できる。虚栄心の強い男性からすれば、そういったデメリットを持つ女性のほうが好都合。“自分の思い通りに支配しやすい女性”と想起させ、むしろ安心感を与えるのだろう。隙が多い女性がモテるのはそういった背景が大きい。男性が小泉に惹かれるのも無理もない。 ●女性からは「あふれ出るB級感」「権力者に遊ばれて気の毒」 一方、女性のものと思われる声を見てみると、小泉の容姿には否定的。年齢不相応のファッションセンスに嫌悪感を示す人ばかり。中には、40歳手前であるにもかかわらず、腕時計をはじめとしたアクセサリーを身に付けている写真が一切ないことに懐疑的な見解を示す“観察眼の鋭い人”から声も見られた。実際のところ、女性は小泉のビジュアルをどのように捉えているのか。取材するとパンチの利いた声が集まった。「一部でバッシングされてますけど、単純に『容姿に嫌悪感』というより、なんていうか、あふれ出るB級感に悲しみを感じるんですよね。39歳ではもうレースクイーンなどの稼業は無理、これといったキャリアもなくて、玉木程度のショボい権力者に遊ばれて、お飾りのような『観光大使』の職まで奪われそうになっている」(40代女性)。「あのパツパツのTシャツも膝上30センチくらいのミニスカも、今のトレンドとは真逆だし、街で振り返られるぐらい珍しい。いまもその土俵で勝負せざるを得ないのが悲しいです。 でも、手が届きそうな感じがあるほうが、男性はグッとくるのもわかります。本人もわかってやってるはずですよ。あのお顔とボディなら、もっとステキになれるはずなのに」(50代女性)。 ●“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い 「もし小泉さんが自力で何かをなしとげていて、生き生きして、自分の好きなものを着てるなら、40でも50でもミニスカでステキに見えますよ。でも、そうじゃないことに、世の女性は気づいてしまっているんです」(50代女性)。各女性の言い分から察すると、今回のスキャンダルを“小泉が男性ウケに振り切ったがために起きた悲劇”と捉えており、“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い。たしかに小泉の容姿を否定しつつも、小泉の“軌跡”を想像して憐れむ声が散見される。つまりは、「男性は容姿に対する表面的な感想」「女性はその容姿から想像される小泉の生き様に関するお察し」に大きく分類できそうだ。 ●“不倫両成敗”ではない、女性だけが割を食う哀しさ 男女の見解が異なる背景が見えてきた。ただ、まだまだ釈然としないことがある。今回のスキャンダルを受け、小泉は自身のX、Instagramなどのアカウントを削除。小泉が19年12月から香川県高松市観光大使を務めてきたが、各メディアの取材に対して高松市は「解職も含め検討している」と回答している。また、7年前に退社したものの当時所属していた芸能事務所には小泉の公式プロフィールが残っていたが、12日までにそのページは削除された。小泉は窮地に追い込まれている中、玉木は代表の座を降りずに続投する見通しだ。小泉と同じように玉木も何かしらの責任を取るべきではないか。玉木が今後どのような対応を見せるのかも注目したい。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241207&ng=DGKKZO85315040X01C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.7) 尹氏停職、与党代表が要求 狭まる包囲網、弾劾案採決へ 国防省、司令官の職務停止 韓国与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は6日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「速やかな職務執行停止」を要求した。野党は尹氏の弾劾訴追案の可決に向け与党の切り崩しを図る。尹氏への包囲網が狭まってきた。韓国メディアによると、最大野党「共に民主党」は弾劾案を7日午後5時に採決したい考えだ。国会は弾劾案を8日未明までに議決する必要がある。韓氏は6日の党会議で、尹氏が軍の防諜(ぼうちょう)司令官に主要政治家を逮捕するよう指示した事実があると説明した。「信頼できる根拠を通じて確認した。政治家を逮捕し、収監しようとする具体的な計画も把握した」と述べた。国家情報院の次長は6日、逮捕リストに韓氏や野党の代表らが含まれていたと国会議員に明らかにした。韓氏は国会議員ではなく、弾劾案への投票権はない。韓氏が尹氏を批判する一方、与党内には尹政権を形だけでも維持し、大統領選までの時間を稼ぐべきだとの意見もある。大統領が弾劾となれば次期大統領選で不利な立場に置かれるとの懸念が渦巻く。与党は6日、断続して議員総会を開いた。党の報道官は同日深夜、弾劾案に反対するという党方針を維持すると明らかにした。7日午前9時に議員総会を再招集するとしている。与党の指導部から尹氏に党内の意見を伝え、尹氏は「議員の話の意味をよく傾聴し、よく考える」と応じたと説明した。与党側は尹氏の対応を見極めているとみられる。聯合ニュースによると、韓氏は6日の尹氏との会談後、党所属議員に「私の判断を覆すほどの言葉は聞いていない」と話したという。与党が弾劾案に反対すれば世論の批判は免れず、造反票が出るかが焦点になる。所属議員の安哲秀(アン・チョルス)氏は尹氏が退陣しないなら弾劾に賛成すると明言した。弾劾案の可決には国会(定数300)の在籍議員の3分の2に当たる200議席以上の賛成が必要となる。108議席を占める与党「国民の力」から8人以上の賛成が要る。警察と検察の当局は6日、非常戒厳を巡ってそれぞれ特別捜査体制を組んだ。警察は120人あまりの専門捜査チームで本格捜査に着手。検察は軍の検察機関と合同で捜査にあたる。国防省は6日、非常戒厳に関わったとされる陸軍の首都防衛司令官、特殊戦司令官、防諜司令官の3人の職務を停止したと発表した。それぞれ別々の場所で待機措置とし、各司令部に職務代理を置いた。国会は終日、騒然とした状況が続いた。午前には野党の政治家や支持団体が集まり、尹氏の弾劾を求めて声を上げた。尹氏は4日未明に非常戒厳の解除を宣言して以降、公の場に姿を見せていない。「尹氏が2度目の非常戒厳宣言を出す可能性がある」といった報道も緊張を高めた。3日の非常戒厳を巡る軍の動きは金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相が指示を出したとの証言がある。国防相の職務を代行している金善鎬(キム・ソンホ)国防次官は「もし戒厳発令の要求があっても、国防省と合同参謀本部はこれを絶対に受け入れない」と明言した。禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は「第二の非常戒厳は許されない。万が一誤った判断があったら国会議長と国会議員はすべてをかけて阻止する。軍と警察は憲法に反する不当な命令に応じずに、制服を着た市民としての名誉を守ってほしい」と呼びかけた。 *5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASSD40D5RSD4UHBI00QM.html?iref=pc_extlink&_gl=1*iw58rc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年12月4日) 尹大統領とは何者か 酒豪の親日家、検察出身で「友達人事」に批判も 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言した。だが、与野党や市民の強い反発を受け、一転、4日未明に解除を表明する事態に追い込まれた。尹氏とは一体、どんな人物なのか。尹氏は1960年、ソウル生まれ。検察トップの検事総長だった2020年12月、捜査妨害や政治的中立性違反などの疑いで、当時の文在寅(ムンジェイン)政権の法相から懲戒処分を受けた。有力な政治指導者がいなかった保守勢力が、「反文在寅の象徴」として尹氏を担ぎだし、22年3月の大統領選では僅差(きんさ)で勝利した。尹氏は政治家としての経験がないため、当初から人脈や指導力が不安視されていた。閣僚や政府高官に次々と検察出身者や大学時代の旧友らを起用した。各国の大使や有力政治家が出席した22年5月の大統領就任式には、検事総長時代にソウルの日本大使館に勤務していた検事を招待し、周囲を驚かせた。 ●妻の疑惑に拒否権を行使したことも 強大な人事権を握る韓国大統領は「王様と帝王を合わせたような権力者」(元大統領府高官)とされる。関係筋によれば、尹氏がある日、側近の閣僚にソウル大学当時の旧友の近況を尋ねた。側近はすぐ、この旧友に連絡を取り、政府関係機関のトップとして起用したという。こうした忖度(そんたく)ともいえる空気が非常戒厳を宣言する背景の一つにもなったと言える。親しい人物を重用する政治の極みが妻、金建希(キムゴニ)氏の存在だった。韓国の国会は23年12月、金氏が株価操作事件に関与した疑いで「特別検察官」を任命する法案を可決したが、尹氏は今年1月、拒否権を行使した。世論の不満が高まり、支持率が2割を切る事態に至り、尹氏は11月の記者会見で陳謝する事態に追い込まれていた。韓国では若者の就職難や不動産価格の高騰などから、政治に対する不信感が増大している。国会で過半数を握る最大野党・共に民主党が、予算案や法律案の通過を次々と阻止し、政治の停滞を招いたことも一因だが、世論の不満は尹氏の「わかりやすい独断政治」に向けられる事態になっていた。 ●岸田氏と夜遅くまで酒を飲み交わした 尹氏は親日家としても知られる。就任直後には、新型コロナウイルスの感染拡大で停止していた羽田・金浦両空港の直行便再開を指示。日本企業に賠償支払い命令が出ていた徴用工問題でも、韓国側が賠償金相当額を肩代わりする解決策を発表。冷え込んでいた日韓関係の急速な改善につなげた。日韓外交筋によれば、石破茂首相が来年1月上旬に訪韓する際、「来年の日韓国交正常化60年を契機に、両国関係をさらに発展させる」ことで合意する方向で調整していたという。尹氏は酒豪でも知られる。23年3月、大統領就任後初めて日本を訪れた際、岸田文雄首相(当時)と遅くまで痛飲した。酒席が終わらず、金建希氏が声を荒らげて止めたという。ソウルでの日本政府関係者を招いた酒席では、お土産に持参された度数40度以上の芋焼酎をいきなり開封し、オンザロックで出席者とともに回し飲みしたとされる。野党側は、混乱を招いた責任を追及するとして、尹大統領に辞任を求めている。弾劾(だんがい)決議案の発議には国会(定数300)の過半数、決議には3分の2の賛成がそれぞれ必要。4月の総選挙で大勝した野党勢力は3分の2に肉薄する議席を確保しており、与党の一部が離反すれば、弾劾が決議される可能性もある。与野党は世論の動向を注視したうえで、今後の方針を判断するとみられるが、低支持率の尹大統領の弾劾を求める声が高まる可能性が強い。非常戒厳に対する国民の反発は強く、決議されれば、最終的に憲法裁判所も弾劾を認める可能性もある。 *5-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSB233WBSB2UHBI022M.html?iref=pc_extlink&_gl=1*1qazrlc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年10月2日) 韓国大統領の妻、検察が不起訴処分に 高級ブランドバッグ授受疑惑で 韓国のソウル中央地検は2日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の妻の金建希(キムゴニ)氏が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる疑惑をめぐり、不起訴処分(嫌疑なし)としたと発表した。理由について「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」としている。疑惑を追及してきた野党は反発している。金氏は知人の在米韓国人の牧師からバッグを受け取ったとして、請託禁止法違反などの疑いがもたれていた。検察は7月に金氏を事情聴取するなど捜査を進めてきた。金氏の疑惑をめぐっては、国会で多数を占める野党が主導して、政府から独立した特別検察官を任命するための法案を9月に可決したが、尹氏は2日、拒否権を行使した。進歩(革新)系最大野党・共に民主党は2日、尹氏が検察出身であることを念頭に「検察は大統領府が望む結論を出した」と批判した。金氏の疑惑は「金建希リスク」と呼ばれ、尹氏の支持率低迷の理由の一つとされている。金氏はドイツ車の輸入販売会社の株価操作に関与したとされる疑惑ももたれており、検察は捜査を続けている。 <政治雑感> PS(2024年12月8日追加):*6-1-1のように、6階建マンションの最上階にある猪口邦子参院議員宅から出火し、国際政治学者で東大名誉教授の夫孝氏と長女が亡くなった。しかし、i)最初のテレビの画像では何かが爆発したような燃え上がり方だった ii)出火原因が特定されないのに事件性はないとされた iii)最初は台所からの失火と言われたが、燃え方が激しかったのは応接室だった iv)事件性は外部から侵入して油をまくことに限っている 等の不自然さがあってすっきりしない。猪口氏は、私と同期の2005年の郵政解散で衆議院議員となり、2005年に内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)になられ、私の提言も受けて少子化対策を行って、その結果、合計特殊出生率は2005年の1.26から2015年は1.45まで上がった。少子化の真の原因は、*6-1-2に纏められているとおりだと思うが、2016年以降に合計特殊出生率が下がり始めたのは、物価上昇による生活費の高騰、都市部マンションの高騰、高齢になった時の準備、教育費の高騰など、多くの子を育てる費用を捻出できなくなったことが原因であろう。 また、*6-2のように、仙台市秋保地区周辺のメガソーラー建設計画については、地元の町内会や温泉組合など10団体が、景観悪化や森林伐採による土砂崩れの懸念のため、郡和子市長に建設中止を要望されたそうだ。私も、自然豊かな景観を悪化させたり、土砂崩れのリスクが増したりするだけでなく、CO₂の吸収源自体を失うことになるため、森林を伐採してメガソーラーを建設するのは止めた方が良いと思う。そのため、これまで作ったメガソーラーも下を放牧地等にして二重に利用したり、今後メガソーラーを作るとすれば農地に併設する形で作ったりし、森林に設置するのは風力発電機にした方が良いと思うわけである。 さらに、*6-3のように、佐賀平野のクリークののり面劣化が進んでいたため、全703kmの護岸工事を進め、県は東西を走る「横幹線」や支線など約580kmを担当して木柵による護岸工事を行い、国は南北を走る「縦幹線」約170kmを担当して植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどして整備しているそうだ。整備が進めばクリークの貯留容量が増えて災害対策効果向上が期待できるのは良いことだが、せっかくクリークの整備を進めるのなら、水をたたえたクリークのある風景は希少で美しいため、両岸に水をよく吸って根が張り、桜のような花が咲くアーモンドを植えると、公園以上の田園風景になるのに、と思った。 ![]() 2023.3.1東京新聞 2023.5.3日経新聞 Zehitomo (図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で、2005年に最低の1.26を記録してから2015年の1.45までは上昇した。また、中央の図は、合計特殊出生率の推移のみを大きな縮尺にして表したもので、同じ結果が出ている。それでは、どうやって生産年齢人口不足を解決するのかと言えば、右図で75歳までを生産年齢人口と考え、それと同時に機械化も進めれば、年金問題と同時に当面の解決はできそうだ) ![]() 地域の礎 横尾土木(株) 2024.12.7佐賀新聞 (図の説明:左は、有明海を干拓して農地を広げた筑後川流域の航空写真で、クリークが不規則に曲がりくねっているため、大型機械が入りにくいとのことである。そこで、中央のように、まっすぐにしてクリークを広げ、木材やコンクリートでのり面を補強しており、右は植生を妨げないコンクリートで補強したところだが、水をたたえたクリークのある風景は少ないため、せっかくなら両岸に水をよく吸って根が張るアーモンド《花は桜と同じ》を植えると、さらに美しい田園風景になりそうだ) *6-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/370859 (東京新聞 2024年12月1日) 「事件性はなく失火」か…猪口邦子参院議員宅、出火原因は未特定 死亡は夫・孝さんと長女と確認 東京都文京区にある自民党の猪口邦子参院議員(72)の自宅マンションで2人が死亡した火災で、警視庁捜査1課は1日、死亡したのは夫で国際政治学者の孝さん(80)と、長女(33)と判明したと発表した。いずれも死因は焼死だった。出火原因は特定されていないが、事件性はなく失火とみられる。同課は、特に燃え方が激しかった応接室から出火したとみている。室内にストーブはなく、ライターなどの着火物もなかった。外部から人が侵入した形跡や、室内に油をまいた跡も確認されなかった。死亡した2人は台所付近で倒れているのが見つかった。火災は11月27日午後7時10分ごろに発生。6階建てマンションの最上階150平方メートルが全焼した。一家は4人暮らし。猪口氏と次女は外出中で無事だった。28、29日の2日間にわたり実況見分が行われていた。死亡した孝さんは政治学や国際関係論が専門の東大名誉教授。 *6-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD180MY0Y4A111C2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 少子化の真の要因は何か 近藤絢子・東京大学教授(1979年生まれ。東京大経卒、コロンビア大博士(経済学)。専門は労働経済学) ○80年前後に生まれた女性の出産数は微増 ○背景に出産後も就業継続できる環境整備 ○足元の出生率低下は固定観念離れ分析を 少子高齢化は日本経済が直面する最大の課題の一つである。選挙のたびに少子化対策が焦点になり「若年層の経済状況の悪化が少子化の元凶である」「若年層の雇用を安定させ、収入を増やせば子供は増える」との主張が繰り返される。若年層の経済状況の悪化と少子化を結びつける議論は、1970年代前半生まれの第2次ベビーブーマー世代が30代を迎えた2000年代ごろから盛んになった。バブル崩壊後の「就職氷河期」によって若年層の収入が減り、非正規雇用が増えたことで少子化が加速しているという論調だ。たしかに第2次ベビーブーマー世代が大学を卒業するころに就職氷河期が始まり、彼らの出産適齢期に第3次ベビーブームと呼べるほどの出生数の増加が起こらなかったのは事実だ。以来、就職氷河期世代が子供を持てなかったために少子化がさらに進行したというのが通説となっている。しかし未婚化・少子化の傾向は氷河期世代が生まれる1970年代からすでに始まっていた。90年代以前は、女性の社会進出が進んで結婚・出産に伴う機会費用が上昇したことが少子化の主な要因とされてきた。事実、バブル期も合計特殊出生率は下がり続けていた。そして第2次ベビーブーマー世代より就職状況の悪かった80年前後生まれの世代では、むしろ出生率は下げ止まっていたのだ。 ◇ ◇ 図は、人口動態統計(厚生労働省)の母親の年齢別出生数と国勢調査(総務省統計局)の各歳別人口を用いて、生まれ年別に1人の女性が35歳及び40歳までに産んだ子供の数の平均を示したものだ。就職氷河期世代を「1993年から2004年の間に高校や大学を卒業した世代」と定義すると、生まれ年で1970〜85年生まれに相当し、第2次ベビーブーマーはその最初の5年間にあたる。確かに66年生まれの女性に比べると70〜85年生まれの女性が産んだ子供の数は少ない。しかし出生数の減少は主に66〜70年生まれの間で起きていて、40歳時点の平均出生児数は70年代前半生まれ、35歳時点は76〜77年生まれを底にわずかながら増加に転じている。最も景気が冷え込んでいた2000年前後に大学を卒業したのは1970年代後半生まれ、高校を卒業したのは80年代前半生まれだ。彼女たちはその上の世代よりもさらに厳しい雇用状況にさらされてきたはずだが、1人当たりの出生数は下げ止まっていたのだ。なぜ、この世代で1人当たりの出生数は下げ止まったのだろうか。おそらくは育児休業の期間や育児休業給付金の拡充、保育施設の整備、社会規範の変化などによって、出産後も仕事を続けられるようになったことが大きいのではないか。単なるタイミングの一致を因果関係と解釈することには慎重であるべきだが、若い世代ほど既婚女性の就業率や正規雇用比率が高いのは事実だ。労働力調査(総務省統計局)で1960年代後半生まれと80年代前半生まれを比べると、大卒既婚女性の30歳前後(卒業後7〜9年目)の就業率と正規雇用比率はそれぞれ8.2%ポイントと7.4%ポイント上昇した。他の学歴でも、卒業後7〜9年目の既婚女性の就業率は上昇している。背景には、第1子出産前後での就業継続率の上昇がある。出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、女性が第1子出産後も就業継続する割合は、85〜99年に出産した女性は24%程度で横ばいだったのが、2000年代に入ると上昇し始め、10〜14年には42%、直近の15〜19年では54%に達した。2000年代は、1970年代生まれが30代を迎える時期に相当し、既婚女性の就業率や正規雇用割合が上昇した時期と一致する。もう一つ無視できない要因として、体外受精をはじめ高度生殖医療の普及があるかもしれない。国による不妊治療の助成は2004年に開始され、22年の保険適用に至るまで段階的に拡充された。35歳時点と40歳時点の平均出生児数の差が拡大していることから、30代後半での出産数が増えていることが分かる。ここに高度生殖医療の普及が影響していた可能性がある。もっとも35歳までに産む子供の数への影響は限定的なので、出産後も仕事を続けられる環境整備が寄与した部分は大きいのではないか。2010年代は認可保育所の待機児童が問題となったが、保育所のキャパシティー自体は継続的に拡大していた。それに追いつかないほど就業を続ける母親が増えたことが、待機児童が増えた原因だったのだ。 ◇ ◇ ただし世代内の格差という視点で見ると、経済的に安定している方が子供を持ちやすいことも事実だ。昔から男性は経済力のあるほうが結婚し子供を持ちやすい傾向があるが、近年は女性にも同様の傾向が見られ、しかも若い世代ほどその傾向が強まっている。かつては高学歴でキャリア志向の女性ほど、仕事と家庭の二択に直面して、子供を持つことを諦める割合が高かった。しかし社会規範が変化し共働きが増えると、家庭と両立できるような安定した仕事に就いている女性のほうが子供を持ちやすくなってきたのだ。経済力の指標として、学校を卒業してすぐに正社員の仕事に就いた女性とそうでない女性を比較してみよう。卒業後すぐに正社員にならなかった女性は20代のうちはむしろ既婚率や子供がいる割合が高いものの、これはおそらく因果が逆で、若年妊娠の結果、就職する前に結婚・出産をする女性がいるためだろう。30代に入ると逆転し、正社員だった女性の方が既婚率が高く子供の数も多くなる。学歴別で見ても、30歳代後半以降で同じ世帯にいる子供の数は、大学卒ではやや増加傾向にあるが、高校卒では減少傾向にある。かつては大卒の女性は高卒の女性よりも結婚や出産をしない傾向があったのだが、ちょうど1980年前後生まれのあたりで大卒と高卒の子供の数が逆転した。こうした経済力による世代内格差の出現が「雇用の不安定化が少子化を招いている」という印象につながっているのかもしれない。世代内の経済格差が子供を持てるか否かにまで影響すること自体は看過できない問題だ。しかし近年再び出生率が急激に下がってきている原因は別のところにあるのではないだろうか。近年は人手不足から若年の実質賃金は相対的には上がっている。保育所にも余裕が出てきて育児休業の取得率も上がっているのに少子化は加速しているのだ。新型コロナウイルスによる行動制限で若い男女が出会う機会が失われたことや、医療へのアクセス不安から妊娠を控えた影響もあるだろう。しかし出生率の低下はコロナ禍の前から始まっており、行動制限がほぼなくなった23年以降も回復する兆しがみられない。都市部のマンション高騰、高齢化に伴う将来不安、過熱する教育投資など考えられる要因は幾つかある。何がいま出生率を下げているのか、一度固定観念から離れて考える必要がある。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC248BG0U4A021C2000000/ (日経新聞 2024年10月24日) 仙台・秋保でメガソーラー計画 住民らが市長に中止要望 仙台市の秋保地区周辺での大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画を巡り、地元の町内会や温泉組合など10団体は24日、郡和子市長に建設中止を要望した。景観の悪化や森林伐採による土砂崩れなどが懸念されるためとしている。秋保小学区連合町内会によると、沖縄県の企業が約600ヘクタールの山林に太陽光パネルと蓄電池の製造工場と、メガソーラーを整備する計画で、3月に地権者向けの説明会を開いた。2027年5月に工事に着手し、31年4月の操業を予定しているという。同会の大江広夫会長は「秋保地区は里山や温泉に代表される自然豊かな地域だ。国の脱炭素の政策は理解できるが、つくる場所を考えてほしい」と話す。 *6-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1370316 (佐賀新聞 2024/12/7) 佐賀平野のり面劣化、護岸工事703キロ必要 クリーク補修81%完了 計画遅れも2028年完了見込み のり面の劣化が進んでいた佐賀平野のクリークに関して、整備事業が進展している。佐賀県が2011年に打ち出した翌年度から12年間の整備計画で、総延長約1500キロのうち護岸工事などが必要な区間703キロで、本年度までに約81%にあたる572キロで補修が終了した。若干の遅れはあるものの、一部をのぞき、28年までの事業完了を見込んでいる。県農山村課によると、土がむき出しののり面が水位の上下や浸食で崩落している場所が目立ち、貯水機能や営農に支障をきたすおそれがあった。県では東西を走る「横幹線」や支線など約580キロを担当し、木柵による護岸工事を行っている。南北を走る「縦幹線」約170キロは国が担当し、植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどしてのり面の整備を行っている。県が整備する13地区のうち、佐賀市西部、上峰、神埼市千代田中央の3地区で整備が完了している。残り10地区についても着々と整備が進み、範囲の広い佐賀市川副をのぞいた9地区で28年までの事業完了を見込んでいる。事業完了が12年間の整備計画期間からずれ込む見通しとなった要因としては、旧民主党政権時代の「事業仕分け」で「農業農村整備事業関係予算」が大幅減額となったことなどがあるという。民主党政権前の2009年は5820億円だったが、政権交代後の12年には2187億円まで落ち込んだ。クリークではここ数年、大雨対策で事前放流を行い、約1200万トンの洪水貯留容量を確保している。整備が進めば貯留容量も増え、災害対策への効果向上が期待できる。江口洋久課長は「クリークの事前放流が佐賀の風土として定着してほしい」と話した。 <日本のサイバー・セキュリティーについて> PS(2024年12月9日追加):*7-1は、①能動的サイバー防御の法整備には一定の条件の下で通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要 ②政府は有識者会議の最終提言を踏まえて、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする ③有識者会議の最終提言は、通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載 ④通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提で、提言は定期的な報告書公表などの適切な情報公開の必要性を訴え、独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集する問題がないかを調べる機能を備えて、憲法や通信の専門家らで構成する見通し ⑤監視対象はi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報で、日本から海外への通信も監視するのはマルウエアに感染した国内サーバーがあるため ⑥「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要とし、メールの中身をすべて見ることは適当でないと明記 ⑦膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないため、検索条件等を絞り、機械的にデータを選別すべきと唱えた ⑧経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向けて協議に応じる義務を課し、使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエア情報の国への登録を義務づける制度も提案 ⑨電力・ガス事業者等がサイバー攻撃に遭うと国民生活への影響が大きいため、重点的に監視対象へ ⑩有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラ等への攻撃も重点 ⑪「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」とした と記載している。 まず、EUは、個人の人権を大切にし保護する個人主義が根底にあるのに対し、日本は、「防衛や企業のため」と称すれば個人の人権を疎かにすることが許される集団主義・全体主義の発想が根底にあり、それがEUと日本の法律及び運用の違いとなって出て来ているのである。 そして、日本国憲法は、敗戦後に欧米の指導で作られたため、②のように、「通信の秘密」が憲法に記載されているのだが、日本政府は、①のように、能動的サイバー防御の法整備には通信情報の監視が必要として有識者会議を設定し、その有識者会議は、③のように「通信の秘密は、法律により公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と提言している。そして、憲法との整合性をとるために、④⑪のように、透明性確保や憲法や通信の専門家らで構成する独立の第三者機関のチェックを加えたようだが、“独立の第三者”というのは、メンバーの選び方によってどんな結論でも出せることが、経産省設置の原発推進派だらけの有識者会議や原子力規制委員会の適合性審査を見れば明らかなのである。また、政府が設置した有識者会議は、⑤⑦のように、監視対象をi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報としているが、そもそもサーバーのウイルス感染対策は、それぞれのサーバーが行なうべきで、日本政府にやってもらうべきものではないし、⑥の「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」を見ていただく必要など全く無いのである。 さらに、⑧⑨⑩のように、国民の重要なインフラを担っていたり、有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラは、サイバー攻撃だけではなく、複合災害や武力攻撃に対するセキュリティーもやっておくのが当然であるため、今更、サイバー攻撃に的を絞って政府が監視するというのは、政府が国民を監視するためのこじつけにしか見えない。 次に、*7-2は、⑫政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行するEUと比べて限定的 ⑬EUは、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて問題点を幅広く捉える ⑭EUは、デジタル市場法(DMA)と同時に企業に違法コンテンツ排除や偽情報拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定 ⑮EUは、2018年施行の「一般データ保護規則(GDPR)」で、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護 ⑯日本は包括的法整備には至らず、個人データ保護は規制強化に反対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる ⑰EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く設定 ⑱課徴金水準も、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%としたのに対し、EU の制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)と巨額 ⑲日本の経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」とする と記載している。 EUは、⑬⑭⑮のように、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて、デジタル市場法(DMA)と同時に「デジタルサービス法(DSA)」を制定し、「一般データ保護規則(GDPR)」によって「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護する。しかし、日本は、⑯⑲のように、包括的法整備はせず、規制強化に反対するIT業界に応えて、個人データ保護はEUから大きく遅れているが、経済官庁幹部は「企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」としているのである。 その結果、⑫⑰のように、EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く限定し、⑱のように、日本の課徴金水準は、EUの制裁金と比較して著しく低い。実際、私は、週刊文春に嘘八百の記事を書かれ、その偽情報が検索サイト上位で拡散されたことによって選挙結果を歪められたのだが、訴訟で人権侵害や侮辱は認められたものの、損害賠償金額は普通の人なら「訴え損」と思う程度の低い金額で、「(女性である)私が一生かかって築き上げた人格に対する誹謗中傷の値段は、たったこの程度か、ふざけるな!」と憤りを覚えた次第なのである。なお、虚偽で他人を陥れる行為は“表現の自由”で護られる範囲にはならず、憲法21条の「表現の自由」の範囲も人権侵害・人格権の侵害・セクハラ等の範囲の進展とともに狭くなっているため、メディアはじめSNSが“表現の自由”を武器に「何を言ってもいいだろ!」と主張できる範囲は、これらを除く範囲であることを忘れてはならない。 *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241130&ng=DGKKZO85152850Z21C24A1EA1000 (日経新聞 2024.11.30) サイバー防御、「通信の秘密」と両立探る、監視データは選別/定期的に情報公開 能動的サイバー防御の法整備には平時から通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要になる。政府は29日に有識者会議がまとめた最終提言を踏まえ、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする。提言は重大なサイバー攻撃への対策には一定の条件の下で通信を監視する必要があると提起した。通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載した。監視対象は(1)日本を経由する海外間(2)海外から日本(3)日本から海外――の通信情報を想定する。海外から海外の通信は日本の海底ケーブルを経由するものが多く、中国やロシアなど懸念国のサイバー攻撃に関する情報の入手が期待できる。日本から海外への通信も監視するのはマルウエア(悪意のあるプログラム)に感染した国内サーバーが踏み台となって国内外への攻撃に悪用される場合があるためだ。「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要だと整理した。メールの中身を逐一すべて見るようなことは「適当とは言えない」と明記した。膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないと記した。検索条件などを絞り、機械的にデータを選別すべきだと唱えた。攻撃の標的となりやすいインフラ事業者には事前に同意を得ておくべきだとの考えも示した。経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向け「協議に応じる義務を課すことも視野に入れるべきだ」と書き込んだ。電力・ガス事業者などがサイバー攻撃に遭った場合、国民生活への影響も大きいため、重点的に監視対象とする。有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラなどへの攻撃も重点を置く。基幹インフラ事業者が使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエアの情報の国への登録を義務づける制度も提案した。攻撃の兆候がある相手サーバーに入って無害化する手法は「状況に応じ臨機応変な判断」が必要と指摘した。「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」と盛り込んだ。通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提となる。提言は定期的に報告書を公表するなど適切な情報公開の必要性を訴えた。独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集するといった問題がないかを調べる機能を備える。憲法や通信の専門家らで構成する見通しだ。提言は官民の人材交流や中小企業への対策支援の重要性も説いた。すでに能動的サイバー防御を導入している英国や米国などは情報の取得や処理のプロセスを第三者機関が監視する仕組みをもつ。政府は海外事例を参考に制度設計する。 *7-2:https://mainichi.jp/articles/20240418/k00/00m/020/316000c (毎日新聞 2024/4/18) スマホ新法、EUに比べデジタル規制は「限定的」 日本が遅れる理由 政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行する欧州連合(EU)に比べると限定的だ。EUは巨大IT企業のビジネスモデルの問題点をより幅広く捉えている。市場支配によって公正な取引がゆがめられるだけでなく、個人データの乱用や偽情報の拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えるためだ。EUはデジタル市場法(DMA)と同時に、企業に違法コンテンツの排除や偽情報の拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定した。また、2018年に施行された「一般データ保護規則(GDPR)」により、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護している。個人データは巨大ITのビジネスモデルの核心だ。日本はこうした包括的な法整備には至っていない。特に個人データ保護の面では規制強化に対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる。DMAは巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、今回のスマホ新法は規制対象の範囲をスマホアプリ市場と狭く設定した。また、課徴金の水準を見ても、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%と定めたのに対し、DMAの制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)とより巨額だ。EUにはデジタル分野でのルール作りを主導することで、米巨大IT企業が牛耳るデジタル市場での影響力を確保する狙いがある。実際にEUの規制によって巨大ITがサービスのあり方の変更を迫られる例が相次いでいる。一方、政府は今後もさまざまなデジタル規制を検討していくとみられるが、ある経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべきだ」と話す。 <マイナ保険証のセキュリティーについて> PS(2024年12月10日追加):*8-1は、①12月9日から救急患者を受け入れた病院が患者の意識がなく同意がなくてもマイナ保険証で使用中の薬や持病など過去の医療情報を閲覧できるシステムを運用開始 ②救命率向上・治療後生活の質の向上に繋がる可能性 ③例えば心臓・脳の血管が詰まって倒れた救急患者は血液サラサラにする薬を飲んでいると出血を起こしやすいので正確な薬の情報が重要 ④厚労省が開発する新システムは医療者が過去5年分の患者の受診歴・処方された薬剤・診療・健診等の情報と過去100日分の電子処方箋情報等が閲覧可能 ⑤今後はマイナ保険証なしでも名前・生年月日・性別・住所の4情報がわかれば閲覧可能 ⑥消防庁もマイナ保険証を使って救急隊が患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備し119番通報した家族らに患者本人のマイナ保険証を準備しておくよう依頼 としている。 また、*8-2・*8-3は、⑦政府は国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証廃止を閣議決定 ⑧2024年12月2日から新規の保険証発行ができなくなる ⑨2023年11月のマイナ保険証利用率は4.33% ⑩「何のメリットもない」「顔認証や暗証番号が面倒」「保険証で十分」が患者・国民の声で、世論調査では8割超が存続・延期を求める ⑪保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後に紐づけミス報告 ⑫医療現場でマイナトラブルは多岐 ⑬こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱するので、保団連は患者・国民、諸団体と保険証存続を求める取り組みを推進 ⑭2024年も健康保険証を使い続けることが保険証を残す最大の力 ⑮2023年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率は4.36% ⑯政府はキャンペーンで2024年5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせているが、2024年1月の国民のマイナ保険証利用率は4.60% ⑰推進側の国家公務員のマイナ保険証利用率も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印 ⑱マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を12月に廃止することは大問題 等としている。 マイナ保険証の問題点について、保団連は、⑪⑫⑬のように、i)紐づけミスが多発していること ii)医療現場でのトラブルが多岐に渡ること iii)こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱する としているが、これらは導入初期のインプットミスと不慣れによるトラブルであるため、導入して時間がたてば解消していくものである。 しかし、⑨のように、国民全体で利用率が4.33%と低い理由を明らかにしているのが、⑮⑰の国家公務員のマイナ保険証利用率がわずか4.36%と国民全体より低く、「マイナ保険証のメリット無し」という烙印を押していることで、現職国家公務員は、それでも「メリット無し」という柔らかな拒否感を示しているが、実際には被保険者にとってはディメリットの方が大きいのだ。 そして、そのディメリットとは、マイナンバーカードに載ったマイナ保険証は、一枚のカードですべての情報にアクセスできるため、便利である反面、紛失や悪用が起こった場合には、すべての情報がリスクに晒されることである。従って、最善のセキュリティー対策は、1つのカードに情報を紐付けしすぎないことで、医療情報のように守秘義務を要する情報は、医療の専門家だけが見る保険証をネットワークで繋げば良く、①~⑥は、それで十分解決できる筈なのだ。 では、政府は、何故、⑦⑧⑯のように、キャンペーンや217億円もの補助金を使ってまで保険証を廃止し、半強制的にマイナンバーカードに保険証を紐付けして、マイナ保険証に変更したがっているのかと言えば、まさに紐付けされたその情報を使いたいからである。例えば、所得と紐付けして公的医療保険でカバーされる割合を変えたり、特定秘密保護法・運転免許証等で特定疾患の患者を排除したりするための悪用で、公務員はそれを知っているためディメリットを感じているのであり、国民もまたうすうすそれを感じているから、⑩の結果になっているのだ。 そのため、専門家集団である全国保険医団体連合会が保険証廃止に抗議するのであれば、⑭⑱のように、マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を廃止することは大問題として抵抗するのではなく、疾患に基づく差別や保険医療を受ける段階での(大したこともいない)所得差による負担割合の差の問題について、資料を添えて正攻法で抗議するのが良いと思う。 *8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSD435GVSD4UTFL01DM.html (朝日新聞 2024年12月6日)意識ない救急患者、マイナ保険証で医療情報を閲覧 病院で運用開始へ 救急患者を受け入れた病院が、患者の過去の医療情報を閲覧できるシステムの運用が9日から始まる。患者の意識がなく、同意がとれなくても、保険証にひもづいたマイナンバーカード(マイナ保険証)があれば、患者が使っている薬や持病などを医療者が把握できるようになる。救命率の向上や、治療後の生活の質を上げることにつながる可能性がある。救急現場では、意識のない患者から得られる情報が乏しいことが、治療法を選ぶ上で大きな障壁になってきた。例えば、心臓や脳の血管が詰まって突然倒れた救急患者では、手術前に血液検査などをしないと危険な場合がある。患者が普段、血液をサラサラにする薬をのんでいると、出血を起こしやすくなり、手術前に中和薬などが必要になるためだ。どの薬をのんでいるかによっても対応が異なるため、正確な薬の情報が重要になる。厚生労働省が開発する新たなシステムでは、医療者が、過去5年分の患者の受診歴や処方された薬剤、診療、健診などの情報のほか、過去100日分の電子処方箋(せん)の情報などを閲覧することができる。9日から順次、病院に導入され、今年度中には救命救急センターがある病院のほとんどで使われる見込みだ。また、今後はマイナ保険証がなくても、名前、生年月日、性別、住所の4情報がわかれば、閲覧できるようにする。総務省消防庁でも、マイナ保険証を使って、救急隊が救急車の中で患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備しており、来年度には全国の消防本部で展開する予定だ。119番通報した家族らに、患者本人のマイナ保険証を準備しておくように依頼していくという。 *8-2:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/information/hokensyonokose/ (全国保険医団体連合会 2024.12) 保険証廃止勝手に決めるな 政府は、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定(政府は、国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定しました。2024年12月2日からは新規で保険証を発行することができなくなります。2023年11月のマイナ保険証の利用率はわずか4.33%と7カ月連続で低迷しています。厚労省が示した患者総件数に占めるマイナ保険証利用率はわずか2.95%とさらに低い数字です。「何のメリットもない」、「顔認証や暗証番号が面倒」、「保険証で十分」が患者・国民の声です。世論調査で8割超が存続・延期を求めています。保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後も紐づけミスが報告されています。医療現場でマイナトラブルは多岐にわたり、厚労省が対策したトラブルも一向になくなりません。こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱します。保団連は、患者・国民、諸団体とともに、保険証存続を求める取り組みを推進します。「#保険証廃止勝手に決めるな」を掲げて記事を配信します。 2024年も健康保険証使い続けることが保険証を残す最大の力となります。「#保険証廃止勝手に決めるな」の声をSNS等で拡散していきましょう。 *8-3:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-02-29/ (全国保険医団体連合会 2024.2.29) 12月以後の国家公務員マイナ保険証利用率を速やかに公表すべき! 厚労省は2月29日の医療保険部会で23年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率を公表しました。国家公務員全体でマイナ保険証の利用率がわずか4.36%です。政府は、マイナ保険証使ってみようキャンペーンでは数値目標として5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせています。ところが24年1月の国民のマイナ保険証利用率が4.60%であり、推進側の国家公務員のマイナ保険証も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印を押しています。マイナ保険証利用率が低調なままで健康保険証を12月に廃止することは大問題です。保団連は、厚労省に23年12月以後の国家公務員のマイナ保険証利用率を速やかに公表するよう要望しました。 <おかしな財源論> PS(2024年12月12~16日追加):平成29年度税制改正によって、平成30年分以降の所得税で適用されている配偶者控除は、下段の左図のように、扶養者(仮に夫とする)の所得によって変わり、被扶養者(仮に妻とする)の所得が103万円以下で、扶養者の所得が900万円以下なら満額の38万円、900万円超950万円以下なら26万円、950万円超1,000万円以下なら13万円、1,000万円超なら0円というように、配偶者控除を満額とれる妻の最大所得が103万円なのである。また、配偶者控除の壁を緩やかにするため配偶者特別控除制度も変更して、上段の左図のようになだらかになり、配偶者特別控除をとれる妻の最大所得が年収201万円になったわけである。しかし、妻はじめ親族を扶養すれば夫の生活費負担が大きくなるのは夫の所得額とは関係無い上、物価上昇で生活コストが上がり、累進課税で所得の再分配はできているため、夫の所得によって控除額を変更するのは所得税の計算が複雑になりすぎ、公正・中立・簡素の税の原則にも反する。 従って、理論から離れて屋上屋を重ね複雑怪奇になっている配偶者控除・配偶者特別控除は、共働きが普通になった現在であれば生産年齢人口の人は廃止し、共働きでも必要な保育・介護は保育制度・介護制度を充実させて対応すべきである。また、子の扶養控除も子育てに関する物価上昇に応じた児童手当の増額と教育無償化をセットにして廃止すべきで、そうすれば何に使われるかわからない僅少な税額控除より確実に子への投資になる。なお、米国の選択的夫婦合算課税は、夫婦間で所得差が大きい場合に累進税率が低くなる合理的な制度であり、フランスのN分N乗方式は、それに加えて子の数も累進税率に影響させるというさらに合理的な制度である。 そのような中、*9-1-1は、①自・公・国の幹事長は所得税が生じる「年収103万円の壁」を2025年から引き上げることで合意し178万円を目指す ②自公は引き上げ時期で現場事務負担等を理由に2025年からの実施に消極的 ③非課税枠の引き上げに伴い財源の手当てが必要 ④ガソリン税の暫定税率廃止も一致 ⑤大学生年代(19~22歳)の子を扶養する親の特定扶養控除も、国は少なくとも150万円で2025年分から実施するよう要求 ⑥高校生の扶養控除について国は維持を求めた ⑦2024年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳を加え、与党は2024年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要 等としている。 また、*9-1-2は、⑧自・公は12月13日、所得税がかかる年収最低ラインを基礎控除と給与所得控除の最低保障額を10万円ずつ引き上げ103万円から123万円にする案を国に示した ⑨自の宮沢税制調査会長は30年間で生活必需品の物価が約2割上がったことを念頭に決めたと説明 ⑩国の古川税調会長は「グリーンも全然見えない距離」と拒否 としている。 上の①⑧⑨⑩については、1995年から2025年の30年間の物価上昇率は、頻繁に買う生鮮食品を含む必需品では約2割ではなく3割以上であり、さらに統計と体感(頻繁に購入する財・サービス)との差も15%程度あるため、物価上昇から考えれば150万円に引き上げるのが妥当で、これは、⑤の大学生年代の子を扶養する親の特定扶養控除150万円とも整合性がある。また、②については、所得税の扶養控除と特定扶養控除の数値を変えるだけなので、やるとすれば2025年分から実施可能だ。さらに、生活の基礎的コストである基礎控除を物価上昇に伴って上げるのは当然なので、住民税にも同じ変更を適用すれば簡素になる上、③の財源は(これまで公正でも中立でもなかった)配偶者控除の廃止と物価上昇に伴って生じる税収増で賄える筈である。なお、⑥の高校生の扶養控除は、⑦のように、月1万円の児童手当が給付され始めたため、2024年度税制改正で(縮小ではなく)廃止し、児童手当の金額自体を物価上昇に合わせて上げるべきである。なお、④のガソリン税の暫定税率廃止には賛成だ。 また、社会保険には、上段の中央の図のように、106万円と130万円の壁があり、106万円の壁は、i)賃金月額8.8万円(年収約106万円以上 ii)厚生年金保険被保険者である従業員数51人以上 iii)週の所定労働時間20時間以上 iv)学生でない という条件をすべて満たす従業員を雇用する企業は社会保険の加入手続きを行わなければならず、130万円の壁は、i)企業の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人以下 ii)年間収入見込み130万円以上 という条件を満たすと、企業もしくは個人が社会保険の加入手続きを行わなければならないというもの(https://www.mdsol.co.jp/column/column_121_2607.html 参照)だが、従業員の福利の観点から見れば、企業規模で従業員の社会保険加入を差別するのは適切でないため、企業規模要件は速やかに廃止すべきだと思う。しかし、所得要件は「基礎的生活コストの除外」という視点から税制と同じ150万円にするのが、仕組みを変に複雑化させず整合性がとれると考える。 このような中、*9-2-1・*9-2-2は、5年に1度の年金制度改革に関する厚労省の項目案は、①老後受給額の底上げと幅広い世代の就労促進が柱 ②見直しの第1は基礎年金の底上げ ③全ての人が受け取る基礎年金は年金財政悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるため、過去30年と同程度の経済状況が続くと将来の受け取り水準が3割下がる ④厚労省は財政が比較的安定している厚生年金積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げすると、基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まる ⑤上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金底上げ効果で厚生年金受給者の大半は合計年金額増 ⑥経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は生涯総額で136万~215万円受給額が増え、2024年度に65歳になる人は76万円減ることもある ⑦パート労働者は週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入 ⑧週20時間の手前で働き控えが起きないよう月収13万円(年収156万円)未満・標準報酬月額12.6万円(年収151万円)未満のパート労働者を対象に労働者側の厚生年金保険料負担を企業が肩代わりできる仕組みを作る ⑨例えば年収106万円の人は9対1で企業が負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻せば働く人の手取り急減が防げる ⑩制度導入は企業毎の労使合意が前提 ⑪一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を月50万円から62万円か71万円に引き上げ ⑫働く女性が増えているため遺族厚生年金の男女差をなくす ⑬厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限(月収65万円)を75万~98万円に引き上げ ⑭経済同友会と連合は、会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致 ⑮連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきで、働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考えるべき0」と語った としている。 このうち、④⑤⑥の「足りなくなったら、給付水準を下げればよい」という発想自体が公的年金の信頼性を損なう原因になっている上、③の基礎年金の年金財政悪化は「第3号被保険者制度」と社会保険庁(日本年金機構の前身)のずさんな運用が原因であるため、まさに⑭⑮のとおり、まず第3号被保険者制度の廃止で賄うのが筋である。本来なら、他人の負担で専業主婦を優遇する理由などなかったため過去に遡って返して貰いたいくらいであり、「比較的安定している」などという理由で高い年金保険料を支払ってきた人の厚生年金積立金の一部を使うのでは、日本年金機構も社会保険庁と同様、他人の年金積立金を平気で流用する組織だということであり、運用のずさんさも変わっておらず、公正性に欠ける。従って、⑦のパート労働者で週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入というのは正しいし、厚生年金に加入しない人は自営業の妻と同様、自分で国民年金に入るべきで、そうすれば⑧⑨⑩のように、屋上屋を重ねてパート労働者の厚生年金保険料負担を労使合意で企業が肩代わりするなどという不完全かつ不公平な仕組みを作る必要はないのだ。なお、⑪の一定の給与所得がある高齢者の受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を引き上げるのは良いが、保険料を支払って積み立ててきた金額に応じて「ねんきん定期便」で支給額を確認してきたのであるから、働いたからと言って年金支給を停止したり、年金支給に上限を設けたりすることは契約を反故にしているものである。なお、⑫の働く女性が増えたため遺族厚生年金の男女差をなくすのは良いが、未だに労働条件に男女差があるため、同時に労働条件の男女差をなくすべきであろう。さらに、⑬の厚生年金保険料算出に用いる「標準報酬月額」の上限引き上げも良いが、保険は税金とは違うため、支払った分だけの見返りがなければ誰も納得しないのである。つまり、物価上昇で基礎的生活コストが上がっているため、①②のように、年金受給額の底上げは必要不可欠だと思うが、その目的を「幅広い世代の就労促進」に置くと、年金の目的や保険契約に反するのだ。 さらに、*9-3は、⑯厚生年金の積立金等を活用して基礎年金を底上げする背景は、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙い ⑰実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要だが、財源確保は置き去りのまま ⑱社会保障審議会年金部会では基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ ⑲厚労省は一定負担を下に受給額を増やす改革として基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していたが、負担増への批判が強くて見送った ⑳抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかず ㉑基礎年金底上げが必要となる背景は過去のデフレ下で給付抑制がなされず年金財政が悪化したこと ㉒日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず将来の年金水準を一段と切り下げる必要 ㉓厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と給付引き下げに繋がるデフレ下での抑制に慎重 としている。 日本政府は、原発・特定産業・農業には非効率で無駄の多い補助金を湯水のように使いつつ、国民生活に必要な福利厚生(年金・医療・介護・教育・保育etc.)にはケチケチしながら、不公正・不公平の屋上屋を重ねている。年金はその1例であり、i)「基礎年金を底上げするため」として厚生年金積立金を流用 ii)消費税増税 iii)年金・健康保険料・介護保険料の負担増・給付減 など、必要不可欠な社会保障間での流用や負担増・給付減を当然の如く行ないながら、政府歳出全体の無駄や非効率は野放しにしている。そして、これが誰にも追求されない理由は、明治維新以降、藩のかわりに省というテリトリーを作り、省毎に既得権たる財源を作り、無駄な歳出であっても他省の財源とならないよう省益を死守し、歳出の効率性を正確に比較できる会計制度にもなっておらず、政治家は世襲か金持ちの男性が殆どで社会保障の必要性を感じなかったり、または能力不足で官の言いなりだったり、メディアもまた能力不足で官の言いなりだったりするからである。そのため、有権者ができることは、官に対して論理的に対抗できる有能な人を政治家にし、上場企業並みの公会計制度を国や地方自治体に導入させ、その場限りの観念論ではない本当の意味の有効性や効率性を追求し続ける政府を作ることなのである。 そのような中、*9-3は、メディアが官の発言を拡声器よろしく垂れ流しているという典型例で、⑯は、弱者保護と称して他人の財布の資金を流用する詐欺行為である。また、⑰⑱は消費税増税をほのめかし、3号被保険者制度は維持しながら、不公正や流用を黙認し続ける体質であって、この発想ではいくら増税しても国民を貧しくするだけで豊かにはしない。 なお、⑲の厚労省の基礎年金保険料支払い期間を40年から45年に伸ばす案は、平均余命・健康寿命・年金受給期間が伸びているので、定年を65歳以上にする制度とセットであれば良いと思うが、厚労省は批判があったら合理的な説明もできずに見送る程度なのである。そして、⑳㉑のように、“マクロ経済スライド”などと呼ぶご都合主義の抑制措置を導入し、物価を上昇させることによってただでさえ少ない年金の実質額をさらに減らして、㉓のように、厚労省幹部が「年金受給者が気にしているのは名目額だ」などと言っているのであり、これは消費者を甘く見ている。なお、㉒のように、日本経済は次のPSで述べるとおり、政治や官の責任で不景気やデフレが続いているのであるため、抑制措置を続けて年金水準をさらに切り下げれば、それに応じて消費が減退して物価はさらに下落し、深刻なデフレスパイラルに陥ると思う。 ![]() 生命保険文化センター JB Press 2024.11.26日経新聞 (図の説明:左図が、平成30年分の所得から適用されている所得税の配偶者控除と配偶者特別控除額で、配偶者の所得だけではなく本人の所得によっても金額が異なる。その結果、中央の図のように、税金の壁は、住民税の所得割が課され始める100万円、所得税が課され始める103万円、配偶者特別控除が減り始める150万円、配偶者特別控除も全く受けられなくなる201万円の4つになり、所得税の配偶者に関する控除額は、壁ではなく下り階段になった。しかし、社会保険は本文で説明するとおり、106万円と130万円の壁が残っている。また、配偶者手当の壁は、公正・公平の観点から企業が判断し、基本給を上げながら無くしていくべきものである。右図は、103万円の壁撤廃に対する国民民主党《以下、国》と政府与党の論点で、国は最低賃金の伸びに合わせて178万円への増加を主張し、与党は財源問題を縦に、またまた屋上屋を重ねる理論からかけ離れた改正案を提示していた) ![]() ![]() 上山市 2024.12.12佐賀新聞 2024.12.10時事 (図の説明:左図は、平成30年分の住民税から適用されている住民税の配偶者控除と配偶者特別控除の例で、現在は全国一律になっているが、地方自治の観点からは一律にする必要のないものだ。しかし、物価上昇によって基礎的生活コストが上がっていることは所得税と同じであるため、控除額を据え置いて良いわけではない。中央の図は、親が大学生の子の特定扶養控除を適用できる子の年収の上限だが、こちらは103万円から150万円に上がることが決まった。右図は、社会保険料《厚生年金・健康保険》の壁を「企業が一部肩代わりできる仕組み」を導入することによってなだらかにする与党案だが、これも屋上屋を重ねて理論から離れていくその場しのぎの仕組みにすぎない) *9-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1149B0R11C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月11日) 年収103万円の壁、25年から引き上げ 自公国が合意 自民、公明、国民民主の3党は11日、所得税の非課税枠「年収103万円の壁」に関し、2025年から引き上げることで合意した。3党の幹事長が25年度税制改正をめぐる合意書を交わした。引き上げ幅については「178万円をめざす」と明記し協議継続を確認した。ガソリン税に上乗せしている旧暫定税率の廃止でも一致した。自公は補正予算案の12日の衆院通過をめざし国民民主の主張に譲歩した。国民民主の榛葉賀津也幹事長は幹事長会談後、国会内で記者団に「この合意書をもって補正予算案に賛成したい」と明言。24年度補正予算案が衆院で可決する公算が大きくなった。103万円の壁の具体的な引き上げ幅やガソリン税の旧暫定税率の廃止時期は引き続き話し合いを続ける。自公は103万円の壁の引き上げ時期について、現場の事務負担などを理由に25年からの実施に消極的だった。非課税枠の引き上げに伴って財源の手当てが必要となる。自民党の森山裕幹事長は3党合意後、記者団に財源の議論が深まっていないと問われ「健全な財政へ引き続き努力しないといけない」と語った。「103万円の壁」は税負担を避けるために働き控えが起きている問題だ。国民民主は手取りを増やすために非課税枠の調整の必要性を指摘し、最低賃金の伸び率を根拠に178万円への引き上げを求めていた。政府は非課税枠を178万円に引き上げると国税で4兆円弱、地方税で4兆円程度の税収減になると試算する。特に地方税の減収に全国知事会などから懸念が出ている。国民民主は主張が盛り込まれなければ補正予算案に賛成できないとの立場を強調していた。10月の衆院選を経て少数与党となった自公は補正予算案の衆院通過を急ぐため、幹事長同士による交渉で妥結した。ガソリンは1リットルあたり28.7円の通常の税率に、さらに25.1円を上乗せする旧暫定税率を適用している。国民民主は価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の凍結解除のほか、旧暫定税率の恒久的な廃止などの減税策を訴えている。もう一つの「103万円の壁」である大学生らを扶養する親の税負担を軽減する特定扶養控除については3党の税調会長が11日に協議した。自公は子の年収要件を現在の「103万円以下」から「130万円以下」に緩和する案を示した。国民民主は「150万円以下」で25年から実施するよう求めた。自公側は国民民主からの要求について「前向きに検討する」と伝えた。高校生の扶養控除については国民民主は維持を求めた。24年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳が加わったことから、与党は24年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要になる。 *9-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/fe05c347fac374996acc98836580468341adaceb (Yahoo、朝日新聞 2024/12/13) 課税最低ライン123万円案 国民民主拒否「グリーンもみえない」 自民・公明両党は13日、所得税がかかる年収の最低ラインを103万円から123万円に引き上げる案を国民民主党に示した。178万円への引き上げを求めてきた国民民主は自公案を拒否し、週明けに再び協議することになった。与党は、大半の納税者が対象になる「基礎控除(48万円)」と、会社員などの経費にあたる「給与所得控除の最低保障額(55万円)」を、10万円ずつ引き上げる案を示した。自民の宮沢洋一税制調査会長は、ここ30年間で生活必需品の物価がおおむね2割上がったことを念頭に決めたと説明。来年1月の所得から適用し、年末調整で減税分を還付することも提案した。これに対し、国民民主の古川元久税調会長は協議後、記者団に「(ゴルフに例えると)グリーンも全然見えないような距離しか飛んでない」と、与党案を拒否したことを明かした。3党は週明けの17日にも再び協議に臨む。自民税調幹部は「提示した数字が低すぎるということだから、こちらとしても何ができるか考える」と語った。税制に詳しい大和総研の是枝俊悟主任研究員の試算によると、今回の与党案の場合、所得税の減収は5千億円程度になる。是枝氏は「物価上昇への対応としては、妥当な提案だ」とみる。 *9-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380430R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 5年に1度、年金改革の狙いは 給付を底上げ 将来世代、多くは受給増 5年に1度となる年金制度改革について厚生労働省の項目案が10日、出そろった。老後の受給額の底上げと幅広い世代の就労促進を柱に据えた。将来世代の多くは受給増につながる。厚労省は2025年の通常国会に法案提出を目指す。少数与党のもとで政策の実現は簡単ではない。 見直しの第一の柱は基礎年金の底上げだ。厚生年金の受給者を含めた全ての人が受け取る基礎年金は、過去30年と同程度の経済状況が続く場合、今のままでは将来の受け取り水準が3割下がる。年金財政の悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるからだ。そこで厚労省は財政が比較的安定している厚生年金の積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げする。基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まり、現状の見通しに比べると3割上振れする。上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金の底上げ効果が大きく、厚生年金受給者の大半は合計の年金額が増える。厚労省は10日の社会保障審議会年金部会で、関連の試算を公表した。仮に経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は、生涯総額で136万~215万円受給額が増える。他方、24年度に65歳になる人は、76万円減ることもあるという。第二の柱は「働き控え」を減らすことだ。パート労働者は現在(1)企業規模が51人以上(2)月額賃金が標準報酬月額で8.8万円以上(年収106万円以上)(3)所定労働時間が週20時間以上――などの要件を全て満たすと、厚生年金に入る義務がある。改革案では「週20時間以上働く人は原則として厚生年金に入る」というルールに見直す。「106万円の壁」はなくなり、約200万人が新たに厚生年金の対象となる。それでも週20時間の手前で働き控えが起きうるため、実際の月収で13万円(年収156万円)未満のパート労働者を対象に、労働者側の厚生年金保険料の負担を企業が肩代わりできる仕組みをつくる。標準報酬月額では12.6万円(年収151万円)未満となる。例えば年収106万円の人は9対1で企業が多く負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻していけば、働く人の手取り急減が防げるため、「年収の壁」を意識せずに働けるようになると厚労省はみている。制度導入は企業ごとの労使合意が前提となる。高齢者の働き控えも防ぐ。一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」を縮小して、満額受給できる人を増やす。現在は給与と厚生年金の合計額が月50万円を超えると、受け取る厚生年金が減る。この基準額を62万円か71万円に引き上げる方向だ。高齢者の就労意欲がそがれないようにする。働く女性が増えていることを受け、配偶者が亡くなった際に受け取る遺族厚生年金も男女差をなくす。20歳代から50歳代で配偶者と死別して子がいない人の場合、給付期間を原則5年で統一する。これまでは30歳以上の女性は生涯支給、男性は55歳未満では支給なしだった。第三の柱は高所得者の負担増を通じた年金財政の安定だ。賞与を除く年収798万円以上の人の厚生年金保険料を増やす。現在は厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限が月収65万円となっているが、75万~98万円に引き上げる。同日の部会でパート労働者の厚生年金の適用拡大と遺族年金制度の見直しについて大筋で了承された。 *9-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA122ZV0S4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月12日) 年金「第3号」廃止要望、経済同友会・連合が一致 経済同友会と連合は12日、都内で幹部による懇談会を開いた。会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致した。終了後、経済同友会の新浪剛史代表幹事は「年金制度改革は5年に1度。5年後の実現を目指したい」と述べた。連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきだ。働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考える方がいい」と語った。懇談ではこのほか、賃上げの継続や適切な価格転嫁の推進などについても話し合った。 *9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380490R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 財源確保、なお置き去り 実現、野党の賛成必要に 厚生年金の積立金などを活用し基礎年金を底上げする背景には、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙いがある。実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要になるが、財源の確保は置き去りのままだ。「将来の安定財源の確保時期など曖昧な点が問題ではないか」。10日の社会保障審議会年金部会では、基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ。基礎年金の財源は半分は保険料などを活用するが、半分は国庫が出す。厚労省は具体的な策は示していない。高所得者にとっては年金の増加より税負担の増加が上回る可能性があり、国民にとってはわかりにくい。もともと厚労省は基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していた。一定の負担をもとに受給額を増やす改革だ。働く高齢者が増えた今の時代にも合っていたが、負担増への批判が強かったため7月には早々と見送りを決めた。現在の厚労省案では今後、必要な安定財源をどう確保するかが火種になる可能性がある。抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかずのままだ。基礎年金の底上げが必要となる背景には、過去のデフレ下で給付抑制がなされず「もらいすぎ」の状態が続き、年金財政が悪化したことがある。日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず、将来の水準を一段と切り下げる必要に迫られる。ただ、厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と、給付引き下げにつながるデフレ下での抑制には慎重だ。衆議院では与党が過半数を割り込んでいる。25年の年金改革を巡る厚労省案を実現させるには、国民民主党など一部野党の賛成を得る必要がある。国民民主は税制改正では所得税の「103万円の壁」の引き上げを強く主張しているが、年金改革で何にこだわるのかはまだ見えていない状況だ。厚労省が描く一連の制度見直しがどこまで形になるかは、少数与党という現状も重要な変数となる。過去の年金改革に比べ今後の不透明感は強い。 <イノベーション阻止による日本の停滞・政府の膨大な無駄使い・国富の流出> PS(2024年12月17、18、19、21日追加):*10-1-1は、①環境・経産両省は11月、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、世界的目標達成に向けた水準としては不十分 ②両省案は経団連が10月に提言した消極的な数字に沿っての現行目標の延長で、2035年度に2013年度比60%削減が軸 ③COP26は産業革命前からの平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを世界目標とし、COP28は「2019年比で2030年までに43%、35年までに60%削減が必要」と合意し、これは日本の2013年度比なら66%減に相当する ④(日本を含む)先進国が高い目標を掲げることは途上国に対策を促すことに繋がる ⑤短期的な経済的利点にこだわって低い目標を掲げるのは気候変動被害軽視 ⑥環境団体の批判だけでなく大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めている ⑦低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含め国際的に後れをとりかねず、策定中のエネルギー基本計画は世界水準との整合性がない ⑧温室効果ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべき としている。 日本政府(環境・経産両省)は、①②③のように、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、経団連が提言した消極的数字に沿って現行目標の延長をしたため、COP26の産業革命前からの平均気温上昇を1.5℃に抑える世界目標もCOP28の段階的目標も達成していない。そのため、⑤⑥⑦のように、「低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含めて国際的に後れをとる」として、大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体が「企業の産業競争力に影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めているが、技術先進国であり続けたければ当然である。さらに、下段の右図のように、輸入化石燃料による発電が3/4近くを占め、⑧のように、石炭火力発電脱却への道筋も示せず、日本に豊富な再エネの拡大に全力を尽くさず、④のように、「途上国に対策を促す」等と言うのは、環境後進国の根拠無き自信と言わざるを得ない。なお、日本は外交力が低く、国民が稼いだ国富を海外に流出させて高い価格で化石燃料を購入することによって相手国との繋がりを保とうとするため、政府の無能力を国民からの搾取で尻拭いしており、いくら国民負担を上げても「財源がない」と言って国民を豊かにするための福祉政策が削られるのである。そのため、これらすべては、教育に由来するわけである。 また、*10-1-2は、⑨石炭産出国オーストラリアに「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、蓄電池が天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという通説を覆した ⑩豪州最大の資源最大手BHPグループは基幹電源を再エネで供給する契約を仏ネオエンと結び、ネオエンは風力・太陽光発電所の近くに巨大蓄電池を設置して電力を安定供給し、銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は26年6月に85%、2027年までに100%の実現を目指す ⑪米西部カリフォルニア州は蓄電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源 ⑫全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超し、市場でお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた ⑬国際エネルギー機関(IEA)は2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測 ⑭再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠 ⑮蓄電池の2023年導入量は、トップの中国27.1GW、米国15.8 GW、日本0.6 GW ⑯大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無で、米国は2022年成立のインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛り、蓄電池の製造業者に1 GWhあたり3500万ドル(約50億円)を減税して蓄電池工場を米国に誘致 ⑰中国政府は再エネを巨額支援して蓄電池シェアは世界首位 ⑱日本政府は次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があり、ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではなく、長期的に蓄電池を増やす政策にせず民間任せ」と疑問視している としている。 つまり、日本が石炭を輸入する石炭産出国のオーストラリアにさえ、⑨⑩のように「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、豪州最大の資源大手BHPグループは仏ネオエンと結んで巨大蓄電池を使って電力を安定供給し、2027年までに南オーストラリア州の再エネ発電比率100%を目指すそうだ。ただし、「天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという“通説”を蓄電池が覆した」と書いてあるのは、蓄電池は1859年に発明され、必要に応じて改良されてきたものであるため(https://ncltrading.com/column/history/ 参照)、その“通説”自体が再エネ普及を妨げるため発せられた“俗説”にすぎず、そのことにすぐ気づかないのは勉強不足も甚だしい。 それに加えて、シェールガスやシェールオイルが出現して石油・天然ガスとも世界一の輸出入貿易を誇る米国(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009863.html 参照)でも、⑪⑫のように、カリフォルニア州で電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源となり、全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超えて電気の「マイナス価格」が頻発しているいそうだが、電力料金の引き下げ・蓄電池の普及・水素の製造などを目的として電気のマイナス価格はあって良いと思う。これについて、*10-1-3は、「再エネ急増のひずみ(再エネ普及が悪い!?)」などと記載しているが、世界の電力料金が下がる中、日本の電力料金だけが高止まりしていれば、国民が仮に勤勉だったとしても日本の全産業の足を引っ張ってコスト競争力がなくなり、日本からは産業が消えて、国民は賃金引き上げどころか自給自足しなければならなくなるだろう。そして、これは日本政府やメディアの無能力の結果なのである。 一方、国際エネルギー機関(IEA)は、⑬のように、「2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測」しており、当然のことながら、⑭⑮のように、再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠だが、2023年の蓄電池導入量は、中国27.1GW・米国15.8 GWで日本は0.6 GWに過ぎないそうで、これなら生産拠点が中国に移るのは当然と言える。これについて、⑯⑰は、大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無とし、日本政府は、⑱のように、次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト(資源エネルギー庁)」などという後ろ向きな声があるそうだが、日本の場合は、国立大学である東京大学が2016年の調査で南鳥島周辺海域に鉄・マンガン・レアメタル・コバルト等が含まれる海底鉱物資源(マンガンノジュール)が広範囲にあることを発見し、詳細な調査の結果、日本の排他的経済水域である南鳥島周辺の海底100km四方に約2.3億トンものマンガンノジュールがあると判明したのであるため、「日本は資源がない」「蓄電池は日本では海外より高コスト」などと言っているのは、(勉強不足か故意かは知らないが)不作為も甚だしいのである(https://news.yahoo.co.jp/articles/f12abc01b8fae98abfe90ba48a34424d1b9a2491 参照)。 そして、*10-2-1・*10-2-2・*10-2-3は、⑲経産省は原発建替の障害になる「可能な限り原発依存度を低減」という表現を削除して、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示した ⑳経産省は「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という表現も盛り込み、原発を再エネとともに最大限活用と明記 ㉑既存原発の大半の30基程度を再稼働させても2030年度目標20~22%、2040年度の原発割合が2割程度 ㉒ロシアのウクライナ侵攻による資源価格急騰で岸田前政権が原発推進に転換 ㉓次はデータセンター・半導体工場の新増設に伴って将来の電力需要増加に対応するという理由 ㉔廃炉作業中の玄海原発1、2号機(佐賀県)のかわりに九電川内原発(鹿児島県)敷地内での新設を見込み、原発建替要件を緩和して同電力会社なら廃炉が決まった原発敷地外でも建設できるとした ㉕2040年度の再エネ割合は 2023年度の22.9%から4~5割程度と提示したが、「最優先で取り組む」との文言は削除 ㉖2023年度68.6%の火力は2040年度3~4割程度とし、CO₂を多く排出するため世界的に廃止圧力の強い石炭火力割合は具体的に示さない ㉗再エネと原発を脱炭素社会実現の核に位置づけた原案は、パブリックコメントを経て来年2月頃閣議決定 ㉘2040年度電源構成は技術革新やデジタル化の進展に伴う電力需要増加を見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた ㉙安全性を大前提に安定供給・経済効率性・環境適合性が原則 ㉚経産省幹部によると「今回の狙いは軌道修正」 ㉛原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めていた ㉜再エネは天候に依存するため、安定的電力供給には原発が欠かせないとの立場 ㉝福島事故後に民主党政権が掲げたのは「2030年代原発0」だが、遠くかけ離れた未来図 ㉞新エネ基は、発電所建設支援制度対象の拡大、原発建設費・廃炉費を電気料金に上乗せして回収できる制度導入も盛り込み、原発推進に大きく転換 ㉟経産省が震災後に進めてきた電力自由化にも逆行 ㊱市民団体から「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判 等としている。 しかし、㉙のように、i)安全性が大前提 ii)安定供給 iii)経済効率性 iv)環境適合性が原則と言いながら、㉕㉗のように、平時から放射性物質を出し、事故時には人がコントロールできなくなって莫大な被害を与える原発を、再エネと同列に脱炭素社会の核に位置づけ最大限活用するのは、「iv)環境適合性」を脱炭素のみと意図的に狭く解釈している上、「i)安全性を大前提」にすれば原発は使えない筈であるため、根本的に矛盾を含んでいる。 また、技術革新は、デジタル化だけでなく再エネにも起こってコストが下がるため、真面目に再エネを増やせば2040年には国民負担を加味した「統合コスト」は原発の方が比較にならないくらい高くなり、再エネの方が「iii)経済効率性」でもずっと優れる。だからこそ、*10-2-4のように、無理なこじつけで「40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも」などという記事を書かなければならないのだ。つまり、技術革新があるため、㉘のように、2040年度の電力需給を見通すのが難しいのは当然である上、「ii)安定供給」についても、㉜のように、「再エネは天候に依存するから安定的電力供給に原発が欠かせない」などと言い続けて蓄電池の普及を妨げつつ再エネの安定電源化を阻害している人たちが「エネルギー基本計画」をたてること自体が市場に任せるより悪い結果をもたらしているのである。その上、㉟のように、東日本大震災と津波によるフクイチ事故ときっかけとして進めてきた電力自由化も反故にしている。 では、何故、日本の経産省は、㉒㉓のように、長期的展望のない思いつきの理由を並べて、⑲のように、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示したのかと言えば、㉚のよう軌道修正しながらどうしても原発建替に漕ぎ着けたいからで、その浅薄な発想が現在の経産省の限界なのである。その過程として、㉑のように、既存原発のフル活用をまず示し、㉔のように、大手電力会社のために発建替要件を緩和し、㉞のように、発電所建設支援制度対象拡大・原発建設費・廃炉費は電気料金に上乗せして国民から徴収する制度を盛り込んで原発推進に大きく転換しているのだが、原発の方が再エネよりも安ければ支援金は一切不要であるため、㊱のように、市民団体が「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判するのは当然なのである。 なお、㉖のように、日本政府は世界的に廃止圧力の強い輸入石炭による石炭火力発電廃止を考えていないため期限を設けず、㉛のように、原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないのに経済界が求めているのだそうで、経済界もこの程度であるため、先進的な企業の芽をつぶし、イノベーションの好機を逃して国を挙げてのコストダウンも出来ず、製造業の生産拠点は日本から海外に移って、実質経済成長率が低いままなのだ。 つまり、㉝のように、フクイチ事故をきっかけとして作られた「2030年代原発0」「再エネによるエネルギー自給率100%」「再エネによるエネルギーコスト大幅削減」という明確な展望は、日本の経産省と経済界によって潰されつつあり、⑳のように、「エネルギーミックス」「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」「原発を再エネとともに最大限活用」などと言って将来性のないことが明らかなエネルギーに補助し続けることによって、環境対策のみならず、真に合理的なエネルギーの普及を遅らせてコストを高止まりさせ、国民に無益な負担をさせているのであり、*10-2-5のとおり、時代の要請に全く応えていないわけである。 ![]() 2022.7.4 Sustainable Switch 2022.6.27福島ミエルカ (図の説明:左図は、世界の再エネ発電・バッテリー・EV普及量とそれに伴うコスト低減の状況で、普及して大量生産すればコストが低減するという当たり前の結果が出ており、そのうち集光型太陽熱発電はあまり普及しないうちから化石燃料以下のコストになっている。また、右図は、世界の電源別発電コストで、再エネ《特に太陽光》が最も安く、原発が最も高くなっているが、再エネは設置費《固定費》はかかるが、運転費《変動費》がかからないため、大量に発電するほど発電単価が安くなり、電力会社の水力発電の事例が原価計算の教科書に出てくるのである) ![]() すべて2024.2.8 Carbon Media (図の説明:左図は、G7各国の2030年の電源構成だが、化石燃料を全量輸入しながら火力発電を41%も残すような馬鹿なことをするのは日本だけであり、ドイツ・イタリアが原発0で再エネ70~80%と意欲的、米国・英国・カナダも脱炭素化に意欲的である。中央の図は、日本の電源構成の推移だが、「エネルギーミックス」と称して思いつきでえいやっと決めた現状維持に近い数値を目標に掲げてきた結果、右図のように、現在でも石炭・LNG・石油による発電が約73%を占め、世界でも遅れた国になってしまったのだ) *10-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16105707.html (朝日新聞社説 2024年12月14日) 温室ガス削減 世界目標満たす水準に 温室効果ガス削減の新しい目標を決める期限が近づいている。先月、環境省と経済産業省が案を示したが、世界的な目標達成に向けた水準としては不十分だ。削減幅を上積みする必要がある。気候変動の国際ルールのパリ協定では、各国は「国が決定する貢献(NDC)」として削減目標を5年ごとに提出し、実現に向けて取り組むことになっている。次の提出期限は来年2月だ。環境・経産両省の案は、基本的には現行目標の延長で、2035年度に13年度比で60%削減するのが軸になっている。50年の排出実質ゼロと整合的な道筋だとの説明だ。しかし、これでは明らかに削減が足りない。21年の国連の気候変動会議(COP26)では、産業革命前からの平均気温の上昇を1・5度に抑えることが世界目標になった。昨年のCOP28では「19年比で30年までに43%、35年までに60%」の削減が必要と合意されている。これは日本が基準とする13年度比なら66%減に相当する。両省案の60%減では、この水準に届かない。温室効果ガスの排出を重ねて発展してきた先進国として、責任を果たす姿勢とは到底言えない。21年に掲げた現行の目標でも、30年度に「13年度比で46%削減」を目指すにとどまらず、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と世界に宣言していたはずだ。日本を含む先進国が高い目標を掲げることは、途上国に対策を促すことにもつながる。短期的な経済上の利点にこだわって低い目標を掲げるのは、すでに顕在化しつつある気候変動の被害を軽視するに等しい。地球温暖化で災害や熱中症に拍車がかかり、犠牲者が増えれば、国内経済も打撃を受ける。両省案は、経団連が10月に提言した数字に沿っている。経団連は1・5度目標の実現に必要な削減幅の範囲内に入るというが、その説明でも35年度段階での「幅」の下限に近い数字で、消極的な目標であるのは明らかだ。環境団体からの批判だけでなく、大企業も含め気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として、13年度比で75%以上の削減を求めている。低い目標で再生可能エネルギーの拡大を怠れば、技術力を含め国際的にも後れをとりかねない。策定中のエネルギー基本計画も、世界水準との整合性が問われる。温室ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と、再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべきだ。 *10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241214&ng=DGKKZO85470250U4A211C2MM8000 (日経新聞 2024.12.14) エネルギーの新秩序 国富を考える(4)「再エネ100%」導く革命 蓄電池、米欧中が覇権争い 石炭産出国オーストラリアに「再生可能エネルギー100%」の電力網を目指す州がある。天候によって発電量が大きく変わる再生エネは安定供給に向かないという通説を覆したのは、蓄電池の存在だ。鉱石を運び出す巨大なエレベーターが24時間動き続ける豪州最大の銅鉱山オリンピックダム。地下坑内を昼間のように明るく照らす照明や、換気や温度を管理するエアコンなど、操業には大量の電気を使う。 ●不安定さを克服 鉱山を運営する資源最大手BHPグループは、基幹電源を再生エネで供給する契約を仏ネオエンと初めて結んだ。ネオエンは風力・太陽光発電所近くに巨大蓄電池を設置、雨天や夜間も絶え間なく送電する。「蓄電池があることで電力が安定供給される」(BHPの責任者アナ・ワイリー氏) 銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は2025年7月~26年6月に85%になる見通し。27年までに100%の実現を目指す。米西部カリフォルニア州のニューサム知事は10月、同州の蓄電池容量が5年間で15倍超に増えたと発表した。日没後の送電は火力発電などで補ってきたが、4月に蓄電池が初めて最大の供給源になった。「蓄電革命だ」(ニューサム氏)。蓄電池が増えたのは電気が余っているためだ。全米の3割の太陽光パネルが同州に集積し、日中は発電量が消費量を超す。電力卸市場ではお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた。 国際エネルギー機関(IEA)は30年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再生エネの発電比率が46%とほぼ半数になると予測する。再生エネを基幹電源にするには、蓄電池の大量導入が不可欠となる。主要7カ国(G7)は4月の閣僚会合で、世界の蓄電容量を30年に22年比6.5倍に増やすことで合意した。英業界団体によると蓄電池の23年の導入量は、トップの中国が27.1ギガ(ギガは10億)ワット。米国が15.8ギガワットと続くが、日本は0.6ギガワットにとどまる。 ●戦略描けぬ日本 大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無だ。米国は22年に成立したインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛った。蓄電池の製造業者に1ギガワット時あたり3500万ドル(約50億円)を減税し、蓄電池工場を米国に誘致した。中国が念頭にある。中国政府は再生エネを巨額支援し、蓄電池のシェアは世界首位。安価な中国製品が市場を席巻するのを米欧は警戒する。 欧州連合(EU)は23年に電池規則を施行し、廃電池のリサイクルを義務付けた。コバルトやリチウムなどの重要原材料は高い回収率を求め、中国などへの依存を減らす。日本は出遅れている。政府が策定する次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があがる。ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではない。日本は長期的に蓄電池を増やす政策になっておらず、事実上民間任せだ」と疑問視する。 *10-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1041D0Q4A710C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2024年7月14日) 電力「マイナス価格」世界各地で 再エネ急増のひずみ 世界の電力卸市場が再生可能エネルギー急拡大の「ひずみ」を映している。天候に左右されやすい太陽光や風力発電が需給をかく乱し、取引価格がマイナスになる事例が頻発している。事業者の収益悪化を招き再生エネへの逆風となりかねない。1メガワット時マイナス67ドル、マイナス87ユーロ、マイナス45オーストラリアドル――。2024年の春から夏にかけて、米国や欧州、豪州の電力卸市場で取引された電力価格(1日前取引のスポット=随時契約)の一例だ。マイナス価格は発電事業者が小売業者や需要家にお金を支払って電力を引き取ってもらうことを意味する。原油では新型コロナウイルスの感染拡大で需要が消失した20年春に史上初めてマイナス価格をつけたが1〜2日で解消した。そうそう起きることではない。しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日になって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。なって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。 *10-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1375810 (佐賀新聞 2024/12/17) 原発、再エネと最大限活用、2割維持、大半を再稼働へ 経済産業省は17日の有識者会議で、中長期的な政策指針「エネルギー基本計画」の原案を示した。2011年の東京電力福島第1原発事故以降に記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除。再生可能エネルギーとともに最大限活用すると明記した。40年度の発電量全体に占める原発の割合は2割程度と見通した。既存原発の大半に当たる30基程度を再稼働させる想定で、30年度目標の20~22%と同水準を維持した。原発は建て替えの要件緩和も盛り込んだ。同じ電力会社であれば、廃炉が決まった原発の敷地外でも建設できるようにする。政府関係者によると、当面は玄海原発1、2号機(佐賀県)の廃炉作業中の九州電力が川内原発(鹿児島県)の敷地内に新設することを見込んでいる。40年度の再エネの割合は4~5割程度と提示。23年度の22・9%から約2倍に増やすが、前回計画にある「最優先で取り組む」との文言は消した。23年度に68・6%の火力は40年度に3~4割程度にする。二酸化炭素(CO2)を多く排出し、世界的に廃止圧力が強い石炭火力の割合を今回は具体的に示さない。国内では削減ペースが予測しにくいと説明している。原案は17日の議論を踏まえ来週の有識者会議に諮る。パブリックコメント(意見公募)を経て、来年2月ごろの閣議決定を目指す。40年度の電源構成は、技術革新やデジタル化進展に伴う電力需要の増加を明確に見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた。21年に閣議決定した現行の計画では30年度の電源構成は原発の他に、再エネが36~38%、火力が41%、水素・アンモニアが1%。エネルギー基本計画 日本の中長期的なエネルギー政策指針。2002年施行のエネルギー政策基本法に基づいて策定する。おおむね3年ごとに見直し、閣議決定する。今回は第7次計画となる。安全性を大前提に安定供給、経済効率性、環境適合性を原則とする。東京電力福島第1原発事故以降は、福島の復興・再生を最重要課題と位置付けている。 *10-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1376505 (佐賀新聞 2024/12/18) 【エネルギー基本計画】官僚主導の原発復権、政権弱体化で念願成就へ 経済産業省が17日提示した次期エネルギー基本計画の原案は、原発の復権を強く打ち出した。少数与党で弱体化し、政治的な資源を割く余裕がない石破政権を横目に、経産省が議論を主導。脱炭素化に加え、脆弱な供給体制、人工知能(AI)普及に伴う大量電力消費時代の到来を訴え、念願である原発建て替えの要件緩和にもこぎ着けた。 ▽軌道修正 「今回の狙いは軌道修正だ」。経産省幹部はこう解説する。前回の計画は菅義偉元首相が表明した「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」達成に向け、政治主導で再生可能エネルギーの偏重を迫られたとの思いがある。現在は閣外の河野太郎行政改革担当相と小泉進次郎環境相(いずれも当時)が再エネの割合を高めるよう水面下で強く働きかけたと、前回のとりまとめ作業を知る関係者は証言する。それが野心的な30年度の再エネ目標36~38%につながった。今回は対照的に政治の影が薄かった。自民党総裁選で一時言及した「原発ゼロ」を早々と封印した石破茂首相は「議論に口出ししなかった」(経産省関係者)。政府内には「そもそも関心がない」といった声も漏れる。その結果、40年度の原発の電源割合は、既存原発のフル活用を事実上意味する2割程度に設定。一方の再エネは4~5割程度と最大電源に位置付けたものの、30年度目標から大きな上積みがあったとは言い難い。 ▽敷地外も 「戦後最大の難所」。別の経産省幹部は、データセンター増設や半導体産業の強化で電力需要が高まる中、温暖化対策で火力発電所の休廃止も進めなければならない当面のエネルギー事情をこう表現する。再エネは天候に依存するため、安定的な電力供給には原発が欠かせないとの立場だ。既存原発を廃炉にする際、別の原発敷地での新設を容認する「敷地外」の建て替えにも道筋を付けた。建設には20年程度を要するため、40年度電源への寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めてきた。「将来的に原発に依存しない社会」と訴える連立与党の公明党はこれまで「敷地内」に限って認めてきたが、衆院選で議席数とともに発言力を減らし、容認に転じた。公明のエネルギー基本計画に対する提言は、経産省との文言調整を重ねた上で「わが党の基本的な方針に変わりはない」と書き込むのにとどまった。公明幹部は「(建て替えても)原発の数は今より増えない」と強弁するしかなかった。 ▽住民不在 次期エネルギー基本計画も東京電力福島第1原発事故を受け、福島の復興・再生を最重要課題と位置付ける。ただ、地元との話し合いに割かれた時間は短く、住民不在の懸念は尽きない。NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は「正面から福島の事故に向き合わず、経産省主導で原発の積極活用に踏み込んだ。空虚な議論で終わっている」と指摘する。経産省内では「やりたいことが粛々と進む」(中堅幹部)と楽観論が広がり、原発新増設を訴える国民民主党との協力を期待する声もある。福島事故後に当時の民主党政権が掲げたのは「30年代に原発ゼロ」。事故から14年近くたつ今、遠くかけ離れた未来図が描かれている。 *10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSDC3GR5SDCULFA00XM.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2024年12月11日) 原発依存度「可能な限り低減」の文言削除へ 経産省のエネ基本計画 国の中長期のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」(エネ基)について、経済産業省が近くまとめる新しい計画案の概要が分かった。東日本大震災後に掲げた「原発依存度を可能な限り低減する」との表記を削り、原発回帰の姿勢をより鮮明にする。経産省が来週にも開く有識者会議で素案を提示する。「低減」の文言をなくすかわりに、「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という趣旨の表現を盛り込む方向で、最終調整している。エネ基はおおむね3年に1度のペースで改定し、震災後の2014年に策定した計画では「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」と掲げた。その後の改定でも「可能な限り低減」の文言は維持されてきた。だが、ロシアによるウクライナ侵攻により資源価格が急騰したことをきっかけに、岸田文雄前政権は原発推進に転換。22年6月、経済財政運営の指針となる「骨太の方針」で、前年に盛り込んでいた「依存度低減」の表記を見送り、原発を「最大限活用する」と踏み込んだ。23年2月に閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」でも、原発回帰の動きを鮮明にした。新しいエネ基もその流れを引き継ぎ、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む方針だ。GX基本方針では建て替えを「廃炉を決めた原発の敷地内」に限ったが、新しいエネ基には、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも、廃炉した分だけ原子炉をつくれるようにする案を盛り込む。ただ、40年度の電源構成に占める原発の割合は2割を目標とし、震災前の3割には達しないとする。その分、再生可能エネルギーは4~5割に増やし、火力は3~4割とする方向だ。新しいエネ基の議論は今年5月に始まり、40年度に向けて原発を再生可能エネルギーとともに脱炭素電源と位置づけ、「拡大する必要がある」との議論が進む。データセンターや半導体工場の新増設に伴い、将来の電力需要が増加する可能性が高く、それに対応するためとの理由だ。ただ、稼働できる原発が減っていくため、少しでも早く原発の建て替えに着手したい経産省にとって、障害になりうる「低減」の文言を削ることが課題だった。「低減」は「足かせ」だった政府が原発回帰の姿勢を改めて鮮明にした。近く示す新しい「エネルギー基本計画(エネ基)」の素案で、これまで掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を削り、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む。今後は電力需要が増えるため、原発を最大限活用するべきだとの理屈からだ。福島事故の反省をふまえた方針が、転機を迎える。「(次の)エネ基の最大のミッションは、依存度低減の文言を書き換えることだ」。経済産業省の幹部はエネ基の改定にあたり、こう語っていた。原発推進を掲げる同省にとって、「低減」の一文が政策の求心力をそぐ「足かせ」となっていたという。それが外れることで、原発の支援策も大手を振って打ち出せる。新しいエネ基には、原発への投資を後押しする新制度についても盛り込む。エネ基はおおむね3年に1度改定する。同省は今回のタイミングに向けて、手を打ってきた。岸田文雄前政権が、ウクライナ危機をきっかけに立ち上げた「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」だ。会議では脱炭素社会の実現をめざすため、再生可能エネルギーとともに原発も核に位置づけた。2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」では、原発を「最大限活用する」とし、廃炉を決めた原発内での建て替えも認めた。原発回帰には慎重だった公明党も、GX基本方針を了承した。廃炉した分だけ建て替えるなら、原発の基数は増えないからだ。新しいエネ基では、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも廃炉した分だけ建設することも認める。同党は先の衆院選でも「将来的に原発に依存しない社会をめざす」とする公約を掲げた。新しいエネ基から「低減」を削ることとの整合性が問われそうだが、足元では再稼働すら順調に進まず、40年度の電源構成に占める原発の割合も2割を目標とする。東日本大震災前の3割には達しないことから、受け入れたもようだ。週内にも政府に出すエネ基に向けた「提言」にも、「低減」の文字は盛り込まない。新しいエネ基には、発電所の建設支援制度「長期脱炭素電源オークション」の対象を拡大し、原発の建設費や廃炉費を電気料金に上乗せして回収できるようにする制度の導入についても盛り込む。「低減」どころか、原発推進に向けて大きく転換する。経産省が震災後に進めてきた電力自由化に逆行するともいえる。市民団体からは「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせるものだ」との批判もあり、慎重な議論が求められる。 *10-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1622U0W4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月16日) 40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも 経済産業省は16日、2040年時点の電源ごとの発電費用の試算結果を発表した。発電費用だけをみると太陽光発電が原子力を下回るものの、関連コストを合わせると原発の方が下回る可能性があるとの結果を示した。太陽光は昼間しか発電できず、電気が余った時間には使われずに捨てられるケースがある。再生エネを大量に導入すると、電力の需給を均衡させるために発電をとめる出力制御と呼ぶ費用も発生する。こうした費用を加味した「統合コスト」を検証した。経産省が試算のとりまとめ案として同日公表した資料によると、各電源の発電費用は1キロワット時あたり、太陽光(事業用)が8.5円、原子力が12.5円以上、洋上風力(着床式)が14.8円、液化天然ガス(LNG)火力が19.2円などとなった。各電源の統合コストについては1キロワット時あたり太陽光(事業用)が15.3〜36.9円、原子力が16.4円以上、洋上風力(着床式)が18.9~23.9円、LNG火力が20.2〜22.2円などとなった。関連コストなどを合わせると再生エネよりも原子力が割安になる可能性があるとした。現行のエネルギー基本計画を策定した際に検証した電源別コストでは、1キロワット時あたりの発電費用が30年時点で太陽光(事業用)なら8.2〜11.8円、LNG火力なら10.7〜14.3円、原子力が11.7円以上、洋上風力が25.9円などと見込んでいた。経産省は週内にも示す次期エネルギー基本計画の素案に今回の結果を反映する。11年の東日本大震災後に加わり、21年度に閣議決定した現行の計画でも明記している「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除し、原子力を再生エネとともに最大限活用することを記す方針だ。 *10-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1377035 (佐賀新聞 2024/12/19) エネルギー基本計画素案 時代の要請に応えてない 経済産業省が、新たなエネルギー基本計画の原案を示した。東京電力福島第1原発事故以降、明記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を撤回。同一原発の敷地内に限って認めていた建て替えの要件も緩和するなど「原発回帰」を鮮明にした。2040年度の電源構成は現状の2割程度を維持した。経済界の一部意見に沿った内容だが、原発の将来に関する議論は不十分だし、高コストで建設から運転開始まで長時間を要する原発の電力安定供給や、気候危機対策への貢献は限定的だ。気候危機やエネルギー安全保障を視野に入れた将来ビジョンなしに、既得権益の調整に終始する過去の過ちを繰り返した結果で、時代の要請に応えたとは言いがたい。原案は、原子力について安全性の確保を大前提に必要な規模を持続的に活用していくとした。だが、23年度の原発の発電比率は8・5%で、30年度に20~22%とする現行目標達成すら危うい。今後、廃炉となる原発も見込まれ「40年度2割」の実現には再稼働や運転期間の延長、新増設などに多額の投資が必要になる。大手電力会社にその体力はほとんど残っていないのが現実だろう。熟議に基づく合意と、裏打ちとなる政策導入の見通しがない方針転換はあまりに無責任だ。深刻化する気候変動への危機感が極めて希薄なのも原案の大きな問題点だ。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるという日本も支持する国際目標の達成には、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量を今から早急かつ大幅に減らし、50年には実質ゼロにすることが求められている。40年度が視野の新計画では、そのための野心的なビジョンを示した上で、思い切った政策メニューを示すことが求められているのだが、原案にはそれがない。40年度の電源構成は再生可能エネルギーを4~5割程度、火力発電は3~4割程度で、30年度の目標と大差ない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や1・5度目標への言及もない。気候危機の解決に加え、エネルギー安全保障を確保し、化石燃料購入費の国外流出を防ぐために、短期間で何より効果的なのは再生可能エネルギーの大幅導入だ。にもかかわらず原案からは再エネ導入に「最優先で取り組む」との文言が消えた。目標数値も既に一部の国で達成されているレベルの小ささだ。石炭火力への依存を続ける日本には国内外から厳しい批判が出ているが、火力のどれだけを石炭が担うのかは示されていない。「35年までに電力供給の全て、または大部分を脱炭素化する」という日本を含めた先進7カ国(G7)の合意はどこに行ったのだろうか。ヒアリングの中で、1・5度目標の重要性や世代間の公平性に基づく長期的な視点の明記を訴えた若者団体の声が反映されることはなかった。経産省は40年度の温室効果ガス削減割合として13年度比で73%という数字を示したが、この目標案にも「先進国としては不十分で1・5度目標に整合的でない」との批判が根強い。温室効果ガスの大排出国としての国際的な責任、次世代の人々に安全安価で持続可能なエネルギーを提供するという責任。原案はその両者から目を背ける内容だ。 <日本の停滞・低成長の理由 ← 傲慢さと科学に基づくイノベーションを嫌う国民性> PS(2024年12月22~27日追加):新興国が世界市場に参入し始めたのは、今から35年前の1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、同年12月に米国のブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が「冷戦終結」を宣言した時からで、それまで社会主義体制下にあった国々は、教育水準は高かったが人件費は安かったため、安価な生産基地として世界市場に参入してきた。つまり、冷戦中、日本が生産国として独壇場のような経済成長をすることができたのは、社会主義国が世界市場に参加していないという幸運があったからなのである。 そのような中、*11-1-1・*11-1-4は、①ホンダ・日産は持株会社設立を目指し経営統合協議に入る ②三菱も持株会社への合流検討 ③持株会社を上場させ、ホンダ・日産両社は上場廃止方針 ④持株会社社長はホンダの取締役から選出し、取締役の過半もホンダ ⑤EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示していた ⑥鴻海幹部が日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオCEOと会談する可能性も ⑧鴻海が経営参画すれば一段と踏み込んだリストラを迫られるため、内田社長はホンダとの経営統合を選んだ ⑨ホンダ・日産・三菱3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる 等としている。また、*11-1-2は、⑩世界の自動車大手が戦略の転換点を迎え、EVや車載ソフトウエアを強みとするBYDやテスラ等の新興勢との競争激化で経営環境が厳しい ⑪EVを軸にした協業や連携相手の変更、大規模リストラを通じ100年に1度と言われる変革期を乗り越えようとしている ⑫自動車産業の構造はダイナミックに変化し、対応できない企業は淘汰 ⑬ガソリン車を強みとした自動車メーカー間で、EVを軸に新たな提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ ⑭GMはホンダとの低価格EV量産を中止、新たな連携先として韓国の現代自動車を選択 ⑮2024年7~9月の自動車世界販売は、BYD(前年同期比38%増)、テスラ(6%増)、ホンダ(8%減)、日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減) ⑯ホンダ・日産に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ・VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点ではテスラ・BYDには及ばず ⑰今後の競争の軸となる自動車の電動化・知能化に向け巨額な投資が必要になり、各社とも適切な人員・生産規模・協業相手を見極めて機動的に構造対策に踏み切る重要性増 としている。 しかし、自動車は、1769年(周囲は馬車)にフランスでキュニョーが蒸気自動車を発明し、1873年にイギリスで電気式四輪トラックが実用化され史上初の時速100㎞超を達成し、その後、1885~1886年にドイツでダイムラーがガソリン車を発明し、1908年からアメリカでフォード社が自動車を大衆化し(https://gazoo.com/feature/gazoo-museum/car-history/13/05/30_1/)、その間もニーズに合わせて改良されてきたため、⑪のように、「100年に1度の変革期」と言うのは、現在の形のガソリン車しか知らない人の固定観念である。そして、世界中で自動車が普及する中で加えるべき付加価値は、大気を汚さず、地球温暖化を防止し、何処にでもある安価なエネルギーを使うことと、少子高齢化に対応して運転しやすいことなのである。 そのため、日産が2010年12月に初代EVを市場投入し、2017年10月に「プロパイロット」「プロパイロット パーキング」を搭載する等の「電動化」「知能化」を進めたのは変化を先取りしていて良かったのだが、その後、HVに投資し始めたりして資金を分散させたのは、自らの売りとなる技術を伸ばさずに後ろ向きの技術に資源を浪費したと言わざるを得ない。世界では、⑬⑰のように、競争の軸が「電動化」「知能化」であり、EVを軸とした提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ中、日産は軸がぶれて利益を減らし、①④のように、ホンダ・日産が設立する持株会社では社長と取締役の過半をホンダに占められることになったのである。なお、日本では、⑧のように、リストラを嫌うため、企業のイノベーションに時間がかかりすぎ、高コスト構造で、世界競争に負けるという現実もある。 また、(共同記者会見で日産の内田社長とホンダの三部社長は否定しておられたが)メディアは、⑤⑥のように、EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示し、鴻海の幹部が日産株を持つ仏ルノーのデメオCEOと会談する可能性もあったため、ホンダと日産の経営統合が進んだとしていた。これについては、オリンピックのスポーツではないので、⑨のように、一瞬、販売台数が世界3位の日本の自動車会社ができたとしても、その提携や統合の後に長所を活かし合ってシナジー効果を出せなければ心中せざるを得なくなる。つまり、⑫のように、自動車産業もダイナミックな変化に速やかに対応できなければ淘汰されるのであり、ホンダも日産も三菱も、他の会社の動きとは関係なく、本当に必要で最善の提携先を探さなければならないのだ。そのような状況の中、③の持株会社を上場させて、ホンダ・日産両社が上場を廃止する方針なのは、いつぞやの日産のように、短期的視野で外野からくだらない指摘をされないためには良いと思うが、②のように、三菱も持株会社に合流して日本の自動車会社がたった2グループになってしまうと、⑯のように、規模が大きくなって、国内では寡占状態となり、競争が起こらず多様性に欠けそうな気がする。しかし、世界では、⑩⑭⑮のように、BYD・テスラ・現代等の新興自動車会社が出てきており、日本人でもBYDやテスラを選ぼうかと思うため、i-MiEVを作った三菱でも厳しい競争環境にいることは推測できる。 なお、前日産自動車会長のゴーン氏は、*11-1-3のように、⑱似た製品を同じ市場で展開しているため、日産とホンダは事業にほとんど補完性がなく、ホンダと日産の経営統合に相乗効果を見いだすのは難しい ⑲背景には日本政府(経産省)の圧力があり、ホンダはこの協議に押し込まれた ⑳日産は米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない とされており、私も⑲は事実だと思うが、⑳のように、日産が米国や中国で苦戦しているのに対し、ホンダは、“脱エンジン”の電動化戦略を2021年4月に発表し、2024年3月期の連結営業利益は1兆円に達して米国を中心とする北米市場の四輪事業で前期比38%もの販売増を見込んでいるため、技術と販売市場での相互補完性はあると考えている。 ![]() 2024.12.19日経新聞 2021.5.11大学院 2023.6.8CNETJapan (図の説明:左図のように、IEAは2035年に世界のEV販売は5,000万台に達すると予測している。しかし、中央の図のように、世界のEV販売台数・保有台数は中国・欧州・米国が上位で、将来予測ではインドが加わるが、世界で最初にEVを市場投入した日本は「その他」に入っている程度だ。また、右図は、世界のEV販売台数トップ10で、アジアでは1位にBYD、9位にHYUNDAIが入っており、日本の姿は見えない。そして、何故、こういう結果になったのかは、多くの人が知っているだろう) ![]() 左から、2023.1.4、2022.10.19、2024.12.18、2024.12.18日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本は屁理屈をこねてガソリンエンジンやガソリンスタンドの保護に固執したため、人口1万人あたりの公共充電器数が世界でも低い方になっており、これでは日本の自動車産業の未来は暗い。しかし、EVを世界で最初に市場投入したのはゴーン氏率いる日本の日産自動車であり、左から2番目の図のように、その技術力や可能性にルノーは魅力を感じていたのだが、検察を使ってゴーン氏を退任させ、世界では通用しない方向に日産の経営方針はかわった。その結果、取り柄を失って日産の利益は次第に縮小し、右から2番目の図のように、身売りに近い統合話が持ち上がっているのだ。なお、研究開発費も固定費であり、積極的に研究開発しながら利益を上げるには効率的な技術開発に加えて販売規模の大きさが必要であるため、1番右の図のように統合や協業が進んでいるのだが、経営方針の誤った統合は瞬間的に売上規模が大きくなるだけで、その後は次第に衰退していくものである) *11-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85565050Z11C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.19) ホンダ・日産、EV世界競争へ連合、来週統合協議入り 「鴻海の買収」危機感 ホンダと日産自動車は23日にも経営統合に向けた協議に入る。背景にはトヨタ自動車と並ぶ2大勢力の結集に向けたホンダの強い覚悟がある。巨額投資が必要な電気自動車(EV)やソフトウエア搭載車(総合2面きょうのことば)の世界競争で劣後する状況の打破をめざす。日産には台湾電機大手・鴻海(ホンハイ)精密工業が経営参画の意欲も示しており、買収回避へ一気に統合に動いた。今秋、日産の周辺に鴻海の影がちらついていた。鴻海は2019年にEV事業への参入を表明した。日産が持つEVの開発力や製造技術に目をつけ、経営参画に動いていた。ホンダと日産はその動きを察知した。「日産と鴻海が連携すれば、こちらの連携は白紙に戻す」。ホンダ幹部は日産に強く警告していたが、焦りの裏返しでもあった。両社は8月に全面提携を発表した。ホンダにとって日産との協業は成長の軸で、破談は何としても避けたい。鴻海が日産に対して敵対的TOB(株式公開買い付け)に踏み切れば、ホワイトナイト(友好的買収者)になることも検討していた。同時期に日産の内田誠社長は業績面でも追い込まれていた。「日産を救済すると共倒れリスクがある」。ホンダ幹部は驚いた。11月に日産が発表した24年4~9月期の連結純利益はわずか192億円。前年同期比で9割も落ち込んだ。想定以上の業績悪化に、ホンダ側でも近づきすぎることに反対意見が出るようになった。日産は抜本的な構造改革の策定に時間をとらざるをえなくなった。9000人の人員削減や世界生産能力の2割減を打ち出したが、具体的なプランの公表は遅れていた。決断が遅い経営陣に対して、日産社内でも批判の声が高まっていた。12月に入り、内田社長は苦境ぶりが深まる。日産は構造改革のスピードを速めるために、前倒しで経営人事を見直した。最高財務責任者(CFO)ら一部担当の席替え人事にとどまった。内田社長は続投が決まったが、一部から反対の声が上がり、全面的な信任は得られなかった。「内田社長を継ぐ人材が育っていないだけだ」。社内からは厳しい声が聞こえるようになってきた。鴻海の動きも活発になっていた。中旬には鴻海幹部と日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)が会談する可能性があるとの情報も入ってきた。鴻海が経営に参画すれば、一段と踏み込んだリストラを迫られる。追い込まれた内田社長は、挽回策として自主再建でなくホンダとの経営統合の道を選んだ。将来的には三菱自動車との合流も視野に入れる。3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる。「3社連合は10年来の悲願だ」。ホンダの三部敏宏社長は実現の意欲を周囲に隠してこなかった。世界のEV市場で生き残りに必要な規模だと考えていた。18日の東京株式市場で日産株が制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比80円(24%)高の417円60銭で取引を終えた。収益改善への期待感から買いが先行した。一方で、ホンダ株は財務の悪化懸念から一時4%安となり、年初来安値を更新した。今回の経営統合は日産の救済ととらえる投資家が多く、ホンダの投資負担の拡大を嫌気したとみられる。ホンダと日産は社内の反対や批判を乗り越えて提携に動き出した。経営資源を結集して生き残れるか。早期に相乗効果を示すことが求められる。 *11-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85564850Z11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.19) 自動車大手、迫られる改革 協業相手組み替え/大規模な人員削減 世界の自動車大手が戦略の転換点を迎えている。新興勢との競争激化により、多くは経営環境が厳しい。電気自動車(EV)を軸にした協業や連携相手の変更、大規模なリストラなどを通じて、100年に1度とも言われる変革期を乗り越えようとしている。「自動車産業の従来構造はダイナミックに変化している。対応できない企業は淘汰される」。8月、日産自動車とのEV協業について記者会見したホンダの三部敏宏社長は危機感を隠さなかった。ホンダと日産が三菱自動車を加えて世界3位グループを目指す背景には新興勢の成長がある。EVや車載ソフトウエアを強みとする中国・比亜迪(BYD)や米テスラが勢いを増している。ガソリン車を強みにしてきた自動車メーカーの間で、EVを軸に新たな提携関係を結んだり、協業相手を見直したりする動きが相次いでいる。伝統的な自動車メーカー同士の提携が主だった従来と比べ、業界内の連携の様相は大きく変わった。米ゼネラル・モーターズ(GM)はホンダとの低価格EVの量産を中止し、新たな連携先として韓国の現代自動車を選んだ。電池やソフトウエアなど次世代車で規模を追求する。独フォルクスワーゲン(VW)は中国の新興EVメーカー小鵬汽車(シャオペン)に7億ドル(現在の為替レートで約1070億円)を出資し、中国向けに多目的スポーツ車(SUV)など2車種のEVを共同開発している。欧州自動車大手のステランティスは、中国EV新興の浙江零●科技(リープモーター・テクノロジー、●はあしへんに包)との共同出資会社をオランダに設立した。24年7~9月の自動車の世界販売は、BYDが前年同期比38%増の113万台と躍進し、テスラも6%増と前年同期を上回った。対照的にホンダ(8%減)や日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減)などは軒並み前年同期を下回った。新たな協業先探しと並行して、自動車大手は構造改革を急ぐ。まず、現地企業の攻勢を受けている中国市場で工場閉鎖などを進めている。GMは4日、中国の工場閉鎖や事業再編で50億ドル超の特別損失計上を発表。GMの中国の自動車販売台数はピークの17年は400万台だったが、直近の23年は210万台まで減った。VWも上海汽車集団(SAIC)との合弁工場を閉鎖する検討に入っている。日本勢もホンダが中国でのガソリン車の生産能力を3割減らす方針を固めている。中国ではスマホメーカーの小米(シャオミ)や華為技術(ファーウエイ)など異業種からの参入も相次ぐ。日米欧の自動車メーカーが巻き返すのは容易ではない。中国市場の依存が高かった欧州勢は、地盤の欧州域内のリストラにまで影響が及んでいる。VWは欧州でのEV需要の低迷と高コスト体質も響き、独国内で少なくとも3工場の閉鎖と数万人規模の人員削減などを労組に通告した。同社にとってドイツでの工場閉鎖は初となる。ステランティスも最大2万5000人の削減を検討している。12月にはカルロス・タバレス氏が任期途中で最高経営責任者(CEO)を辞任することを発表するなど経営が混乱している。ホンダと日産も新興勢に対抗するために次の一手が求められていた。両社に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ、VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点で見ればテスラやBYDには及ばない。今後、競争の軸となる自動車の電動化や知能化に向けては巨額な投資が必要になる。各社ともに適切な人員・生産規模や協業相手を見極め、機動的に構造対策に踏み切る重要性が増している。 *11-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241221-OYT1T50094/ (読売新聞 2024/12/21) ゴーン被告「日産にはパニック状態が広がっている」「ホンダは押し込まれた」 前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告は20日、米ブルームバーグ通信のインタビューに応じ、ホンダと日産の経営統合協議について「相乗効果を見いだすのは難しく、現実的な取引ではない」と指摘した。ゴーン被告は、両社が協議を行う背景には日本政府の圧力があったとの見方を示した。「経済産業省の影響力により、ホンダはこの取引に押し込まれた」と語った。また、「日産とホンダは事業にほとんど補完性がない。似たブランドと製品を同じ市場で展開している」と述べ、相乗効果は薄いとの見方を示した。日産の経営状況については「米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない。日産の内部にはパニック状態が広がっている」と指摘した。ゴーン被告は会社法違反(特別背任)などで起訴されたが、保釈中の2019年に不正に出国、レバノンに逃亡した。23日に日本外国特派員協会でオンライン記者会見を開く予定。 *11-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASSDR2FC0SDRULFA00PM.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2024年12月23日) ホンダと日産、経営統合協議入り正式発表 来年6月の最終合意めざす ホンダと日産自動車は23日、持ち株会社の設立を目指して経営統合の協議に入ると発表した。三菱自動車も同日、持ち株会社への合流を検討することを正式に表明した。来年6月までの最終的合意を目指し、2026年8月に持ち株会社が発足する統合が実現すれば、販売台数で世界3位の巨大グループが誕生する。23日午後5時から東京都内で3社の社長が記者会見し、説明する。ホンダと日産は同日、経営統合に向けた協議に入ることで基本合意書を結んだ。持ち株会社を設立して上場させ、傘下に入る両社は上場廃止となる方針。持ち株会社の社長はホンダの取締役から選出し、新会社の取締役の過半もホンダが占める方針だ。事実上、新会社の主導権はホンダが握ることが鮮明になった。 <買収の失敗事例←相手の立場を考えないメンツのための買収は成功しないこと> PS(2024年12月28日追加):日本製鉄はアメリカの鉄鋼大手USスチールを約2兆円で買収すると発表したが、*11-2-3のように、USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)は、「買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性がある」とバイデン氏に報告し、バイデン米大統領に決定を委ねることになったそうだ。「鉄は国家なり」という言葉があるくらいに製鉄業はどの国でも重要な産業であるため、バイデン米大統領だけでなく、トランプ次期大統領や全米鉄鋼労組が「USスチールは、国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠」と考えるのは当然で、その理由は、同盟国であっても韓国の鉄鋼大手ポスコが日本製鉄を買収すると発表すれば、日本人も反対するのと同じであろう。 また、日本製鉄は、「提示してきた約束は米国の雇用を維持すること」としているが、米国は年功序列・終身雇用・義理人情型の社会ではないため、USスチールでは有能な人が退社し、取引先も離れて販売も振るわなくなり、原子力発電所建設を手掛けていたストーン・アンド・ウェブスター社を高値で買収した東芝と同様、多額の損失を出して本業まで危うくしそうだ。 これに先立ち、*11-2-1・*11-2-2は、①日本製鉄はUSスチールの買収計画を巡り、安全保障の問題を審査するCFIUSに対し、さまざまな提案や説得を続けたが、CFIUSの懸念を払拭できなかった ②バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい ③日本製鉄は、トランプ次期米大統領の反対表明を受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」とする声明を出した ④日本製鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」「日本製鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」「買収はUSスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱化する」と説明した ⑤日本製鉄は政治リスクを縮小するため、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた としている。 このうち、①②については、最初に説明したとおり、米国の対応は理解できるし、③については、理由の説明がないため説得力が無く、米国が鉄鋼産業を護ろうとすれば日本製鉄以上のことができる。また、④のうち、「雇用を守る」というのは米国ではさほど重視されることではなく、仮に日本製鉄が最先端の技術を持ち、それをUSスチールに供与してしまえば日本の優位性はなくなるため、日本製鉄の説明は実行不可能なようなのである。 ![]() 2024.12.18日経新聞 2024.4.13時事 2024.9.13読売新聞 (図の説明:左図のように、メディアは買収によって世界での販売量・生産量の順位が上がると主張するが、合計売上高や合計生産高の順位が一瞬上がることに意味は無い。そして、中央の図のように、USスチールの買収を巡っては全米鉄鋼労組はじめ現米国大統領・次期米国大統領がともに反対しており、買収できたとしてもその後の経営は困難を極めると予想されるため、買収額の2兆円はドブに捨てるようなものである。なお、右図のように、USW会長や幹部も最初から乗り気ではなく、日本製鉄の買収計画には無理があったため、2兆円もかけるのなら、今後、確実に鉄鋼需要が伸び、かつ喜ばれるアフリカの適地に製鉄所を作った方が賢いと思う) *11-2-1:ttps://jp.reuters.com/economy/industry/SSRJFBBWP5KGZCIBDGOGBZQJN4-2024-12-18/ (Reuters 2024年12月19日) 日鉄、USスチール買収でCFIUSの懸念払しょくできず=書簡 日本製鉄(5401.T), opens new tabは米鉄鋼大手USスチール(X.N), opens new tab買収計画を巡り、安全保障上の問題を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)に対してさまざまな提案や説得を続けたものの、CFIUS側の懸念を払しょくできなかったもようだ。CFIUSが14日付で日本製鉄に送った書簡の内容をロイターが確認して分かった。CFIUSは23日までにバイデン米大統領に買収計画を承認するか、審査を延長するか、あるいは計画を認めないことを提言する見通し。書簡によると、CFIUSを構成する関係省庁の間でなお意見がまとまっておらず、このままの状況ならば最終的にバイデン氏の判断に委ねられる形になる。バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい。書簡には、9月初めから日本製鉄がCFIUS側と対面で4回、電話で3回の協議をしたとの経緯が記されている。直近では13日にも米財務省および米商務省の事務局との話し合いがあった。また、日本製鉄は安全保障上の懸念を和らげるための対応策も3回提案していたという。 *11-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0354A0T01C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 日鉄「米国の安全保障強化」 USスチール買収意義を強調 日本製鉄は3日、トランプ次期米大統領が日鉄によるUSスチール買収計画に反対すると表明したことを受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」と買収意義を強調する声明を出した。日鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」とも改めて強調した。声明では、日鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」と説明。買収は「USスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱(きょうじん)化する」とした。トランプ氏の反対表明についての直接的な言及はしていない。トランプ氏は2日(米国時間)、「かつて偉大で力強かったUSスチールが外国企業に買収されることは私は完全に反対だ」と自身のSNSに投稿した。大統領選のさなかも、日鉄による買収計画に反対する考えを再三述べてきた。日鉄のUSスチール買収計画は現在、対米外国投資委員会(CFIUS)による安全保障上の審査と、独禁法上の審査の最中だ。CFIUSの審査期限は12月23日とされており、日鉄は現バイデン政権下で12月末までの買収完了を目指している。買収計画は米大統領選の影響で政治問題化してきた。9月にはバイデン大統領が中止命令を出すと欧米メディアが報じた。日鉄は政治リスクを縮小するために、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた。 *11-2-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241224-OYT1T50042/ (読売新聞 2024/12/24) 日鉄のUSスチール買収、バイデン大統領に最終判断委ねられる…15日以内に決定へ 日本製鉄は日本時間24日、米鉄鋼大手USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)から、審査結果について全会一致に至らず、バイデン米大統領に決定を委ねたとの報告を受けたと明らかにした。バイデン氏は15日以内に決定を下す必要がある。米紙ワシントン・ポストも23日、事情に詳しい関係者の話として伝えた。報道によると、CFIUSは、買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性があるとバイデン氏に報告した。その上で、日鉄側のリスク解決に向けた対策や投資計画の実現可能性などについて、委員会内で意見の一致に至らなかったと伝えたという。バイデン氏は3月、USスチールについて「国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠だ」との声明を発表。ホワイトハウスは、その立場は現在も変わっていないとしている。日鉄は「日鉄が提示してきた約束が米国の雇用を維持し、ひいては国家安全保障を強化するということについて、大統領が熟慮されることを強く要望する」とコメントした。CFIUSは財務長官や国務長官らで構成し、全会一致の結論が出なければ、大統領が最終判断する。日鉄は米大統領選前の9月中にCFIUSへ買収計画を再申請しており、今月23日が審査期限だった
| 環境::2015.5~ | 04:18 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2024,10,28, Monday
衆議院議員選挙期間中であり、私が他の事で忙しくもあったため、しばらくブログを書きませんでしたが、再開します。
(1)日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約 *1は、①日本被団協のノーベル平和賞受賞決定 ②衆院選公示を控え、日本記者クラブの党首討論会で安全保障をめぐる議論が白熱 ③核兵器をめぐる議論で自民党と他党の立場の違いが浮き彫り ④首相(≒自民党)は核抑止力を重視している ⑤立憲の野田代表は、日本は唯一の被爆国で、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容する発言をしている日本のトップでいいのか」「核兵器禁止条約にせめてオブザーバー参加すべき」と述べた ⑥共産党の田村委員長は「核兵器禁止条約を批准すべき」「核抑止は核兵器を使う脅しで、被爆者の願いを踏みにじるもの」とした ⑦公明党の石井代表は、「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」とオブザーバー参加に賛成 等としている。 日本は、2度も原子爆弾を落とされた唯一の被爆国で、その上、戦後に「原子力の平和利用」として作られた原発では、自然災害に起因する世界最悪の福島第一原発事故を起こし、未だに解決の道筋も見えない国である。そのため、人類に被爆(外部被曝・内部被曝を含む)という著しい危険をもたらす核兵器の廃絶や脱原発の推進こそが日本に与えられた天命だと、私は思う。 そのような中、①のように、日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことは、大変、喜ばしいことだった。しかし、②③④⑤⑥のように、日本政府は、安全保障上の“核抑止力”を理由として、核兵器禁止条約に批准するどころか、オブザーバー参加すらしてこなかった。しかし、「核兵器を持つことに依る抑止力」というのは、核兵器を持ちたいと思う人の希望にすぎず、むしろ現実的でないと私は考える。 そして、本当の核抑止力は、戦後の長期にわたって被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶や平和の尊さを発信し続けたことによって培われ、それがノーベル平和賞を通じてヨーロッパの国によって橋渡しされつつあるのではないだろうか?そのため、⑦のように、日本政府が“橋渡し(具体的に何をしたのか?)”した形跡はないと思うのである。 (2)長崎原爆の被爆者と日本政府の対応 ![]() 2022.7.29民医連 2024.8.7朝日新聞 2024.9.3朝日新聞 (図の説明:左図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地とされず、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれてきた。そして、中央の図の○の「被爆体験者」が、今回の訴訟の原告である。また、右図のように、「被爆体験者」の症状は、「被爆者」と違って放射線の影響ではなく、被爆体験による不安が原因の精神疾患とされてきた。しかし、精神疾患が原因で白血病や癌になるのでないことは常識だ) 1)地元紙の記事から 長崎原爆に近いエリアの佐賀新聞は、*2-2のように、①長崎地裁は被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出した ②岸田首相は全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表 ③同時に判決を不服として控訴 ④被爆体験者の医療費以外の各種手当は被爆者との差が大 ⑤救済策・訴訟対応とも被爆体験者の反発は強く法廷闘争は続く ⑥国が被爆者認定の在り方を見直す以外に解決はない ⑦国は「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持し、被爆体験者への現行医療費助成は精神疾患とその合併症や胃癌など7種類の癌に限定した上、申請時と年1回の精神科受診を義務化している ⑧広島高裁が援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて新基準に基づく被爆者認定を進めている広島と差が残り、差の原因は「長崎には客観的な降雨記録がないため」とされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果等を根拠に一部援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限り被爆者と認めた ⑨長崎では1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定され、その後、周囲に特例区域が追加されて全体として援護区域は広がったが、線引きは旧行政区画に沿って行われた ⑩原爆由来の放射性物質の影響が行政区画通りに広がる筈がなく不合理であることは明らか ⑪国は画一的線引きではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を調査結果等と突き合わせて精査し判断すべき ⑫被爆体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超えるが、長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった と記載している。 また、長崎原爆地元の長崎新聞は、*2-1のように、⑬長崎原爆の爆心地から半径12kmの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている ⑭違いは国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうかで、被爆者には「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めている ⑮被爆者は、被爆者健康手帳を交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担され、状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当も受けられる ⑯被爆体験者は、2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)の医療費支給に留まる ⑰長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者は多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島のみに適用され、長崎は対象外になっている 等としている。 ポイント1:被爆エリアについて ← 黒い雨が降った地域だけを加えても不十分である 日本政府は、⑨⑩のように、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域を指定し、その後、周囲に特例区域を追加したが、旧行政区画に沿って線引きした。しかし、原爆由来の放射性物質が行政区画通りに広がるわけがないため、被爆エリアの定義自体が不合理なのである。また、⑪のように、被爆エリア(≒援護区域)外にいた人の証言・当時の状況・健康被害の状況を疫学的に調査して統計処理したものは、客観的・科学的な根拠そのものなのだ。 また、⑧の広島高裁は被爆者と認めたものの、本当に「“黒い雨”を浴びた人のみが被爆者か?」と言えば、原発事故で明らかになったとおり、被曝には内部被曝もあるため、放射線量の高い地域で収穫された作物を食べた人やその地域で呼吸していた人も被曝者になる。 つまり、これまで、日本政府は、i)原爆で焼け死んだ人(熱による焼死) ii)被爆直後に著しい放射線障害を起こした人(強い外部被曝) のみを被爆者として認定していたが、実際は、iii)黒い雨を浴びた人(緩やかな外部被曝) iv)黒い雨が降ったため放射線量の高くなった地域で収穫された作物を食べた人(内部被曝) v) 放射線量の高い地域で呼吸していた人(内部被曝)も健康被害を受けるため、被爆者なのである。 従って、⑰のように、長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った多くの体験者は被爆者であり、広島のみに黒い雨被害者を被爆者と認めたのは片手落ちであると同時に、直接、黒い雨にあった人のみを被爆者としているのも、未だ不足なのである。 ちなみに、長崎原爆が投下された時、佐賀市の飛行機工場で尾翼を作っていたという私の母は、真っ青な空にモクモクと黒いキノコ雲が上がり、女学生の友人と「あれは何だ。何だ」と言っていたところ、しばらくして「新型爆弾だ」という情報が入ってきたのだそうだ。従って、佐賀市からでも見えた長崎原爆による「灰(粉塵)」や「黒い雨」は、かなり広い範囲で降ったと推測でき、狭い行政区画や⑬のような爆心地から半径12kmの同心円内に収まっていたわけがない。また、現在、90~100歳代のこのような多くの人たちの貴重な証言は、広く集めて記録しておく必要がある。 ポイント2:被爆者と被爆体験者の定義について 国は、⑨⑬のように、爆心地から半径12kmの同心円内にいても原爆投下時に国が定める地域(旧長崎市全域と特例区域)の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」に分け、⑭のように、被爆者には、「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には、被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めているのだそうだ。 違いの根拠は、国は上のi)ii)しか「原爆放射線による健康被害」のある被爆者と認めず、iii)iv)の人は、被爆の影響はないのにうるさく言う「精神的疾患」だとしているからである。 その結果、⑮⑯のように、被爆者は被爆者健康手帳の交付を受けてほぼ全医療費が公費負担・状況に応じ健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当が支給されるが、被爆体験者は2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)への医療費支給に留まっているのである。そして、これは⑧の広島高裁判決との不均衡や長崎地裁判決の分断による公平性の問題以前に、緩やかな外部被曝や内部被曝の健康への悪影響を認めないという国の頑なな態度の問題なのである。 ポイント3:被爆(外部被曝・内部被曝を含む)の健康への影響について 国は、⑦のように、「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持しているが、それが医学的に正しいのかと言えば、緩やかな外部被曝や内部被曝の影響を無視しているため、正しくない。また、内部被曝による胃癌等発生が精神疾患によるものであるわけがないため、被爆体験者への現行医療費助成に精神科受診を義務化しているのは、賠償費用を抑えるために意図的にやっているとしか思えない。 従って、①のように、長崎地裁が被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出したのは、少しは良かったし、②のように、岸田首相が全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表したのは何もしないよりは良かったのだが、被爆者や被曝者の定義を、国は最新の科学に従って見直すことが重要だ。そうすれば、④⑫のように、生存者の数が減っても賠償金額は増えるが、被害者を犠牲にする不公正を続けるよりは、ずっとましであろう。 そして、③⑤⑥のように、国が被爆者認定の在り方を科学的に見直す以外に納得は得られず、裁判は続き、国の不作為による被害者は増える。そのため、裁判所も、黒い雨が降ったか否かだけではなく、緩やかな外部被曝や内部被爆の健康影響を認め、日本政府に心の問題(≒精神的疾患)などと言わせてはならないのである。 2)全日本民医連(https://aequalis.jp/feature/cherish.html)の見解について ![]() 2024.9.9NHK Radio Active Pollution 玄海原発 プルサーマル裁判の会 (図の説明:左図の黄色と黄緑色のエリアが、爆心地から半径12km以内で「被爆体験者」とされた人の住んでいた地域だ。しかし、半径12kmで小さすぎることは、中央の図の福島第一原発事故によって著しく汚染された地域から明らかで、地形・風向き・降雨によって放射性物質の広がり方は異なる。これを、長崎県と風向きが近い玄海原発でシミュレーションした地図が右図であり、半径80kmでも汚染される地域がある。ちなみに、チェルノブイリ原発事故では、移住義務ゾーンが右図の赤・橙・黄緑の地域、移住権利ゾーンが右図の緑色までの地域となっている) 全日本民医連による*2-3の記事は、①原爆の熱線や黒い雨を浴びながら行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たちが“被爆体験者”で、放射能の影響ではなく原爆体験のストレスで病気になったとされている ②長崎の被爆地は2度にわたって範囲が広がったが、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形 ③図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではなく、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者 ④被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない ⑤被爆体験者には「被爆体験の不安が原因で病気になった」と書かれた「被爆体験者精神医療受給者証」が交付される ⑥こんなおかしな仕組みは放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向でできた ⑦被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はなく、放射能の影響が考えられる癌などは対象外で、例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃癌」になった途端、医療費助成が打ち切られるという矛盾した制度 ⑧長崎民医連は2012~13年に被爆体験者194人を調査し、約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があった ⑨長崎県連事務局次長は「被爆者の認定指針はじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めており、根本的に間違っている」と指摘 ⑩被爆体験者とされる鶴さん(85歳)は、爆心地から東へ7.3kmの旧矢上村で被爆し、同じ村内の隣の集落は被爆地になったが、山の尾根の反対側の鶴さんの集落は被爆地と認められなかった ⑪1945年8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見たが「梅干みたいに赤黒かった」 ⑫父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した 等としている。 全日本民医連の記事は、①③④⑤⑦のように明確に書いてあるため、よくわかった。そして、⑥⑨は、私の推測と同じだが、これは、水俣病でも福島第1原発事故でも行なわれたことであり、今後起こる原発事故や公害による被害者に対しても行なわれるだろうから、国民は、それも折り込んで意志決定しなければならないのである。 さらに、長崎民医連は、⑧のように、2012~13年に被爆体験者194人を調査して、その約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があったことを確かめているが、これは、世界の学会誌に掲載された論文だろうか? もしそうでなければ、速やかに体裁を整えて、世界の学会誌に論文を掲載した方が良いと思う。 なお、被爆体験者とされている⑩⑪の鶴さんは、爆風で舞い上がった大量の放射性物質を含む粉塵がそのまま降ったり、雨に混じって黒い雨となって降ったりすれば、山の尾根の反対側の集落であっても緩やかに外部被曝し、内部被曝もする。そのため、⑫のように、全員ではないが、家族が早逝しているのだろう。 従って、②の長崎の被爆地は、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形というのは、円形でないから正しくないとは思わないが、あまりに範囲が狭すぎるため、被爆者全員の健康管理をしていないことが明らかだ。ただし、戦争による被害は原爆による被爆だけではないため、被害者全員に補償していたら際限が無く、殆ど補償されていないとも言えるのだ。 (3)衆議院議員選挙におけるエネルギー政策への審判 ![]() 2023.8.1東京新聞 2024.9.25西日本新聞 資源エネルギー庁 (図の説明:左図が全国の原発の状況で、再稼働済が11基あり、その中には使用済核燃料貯蔵率が80%以上のものが多い。また、中央の図は、再稼働審査に合格した原発の使用済核燃料保管状況だが、殆どが80%以上である。そして、右図が高濃度放射性物質を陸地で最終処分する方法で、地上から300m以上離れた地下深くで、1000年~数万年も管理しなければならない《https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-02-11.html 参照》わけだが、誰の金で、誰が管理するのか、無責任極まりないのだ) ![]() 2022.8.21東京新聞 2023.7.27日経新聞 2024.10.29NOTE (図の説明:左図は、フクイチ事故原発の汚染水《トリチウムを含む処理水》を海に放出する議論だが、トリチウム濃度が国基準の1/40未満であっても、分量は優に40倍を超えるため総量では基準を超え、第一次産業に損害を与えていることは明白だ。そのような中、中央の図のように、“脱炭素電源オークション”として、原発の新設・建て替え・既存原発の安全対策費やアンモニアを使う火力など、将来性のない電源に対して電気料金から支援金を出す仕組を作ったのは無駄に国民負担を増やすものでしかない。そのようなことの積み重ねが、右図の今回の衆議院議員選挙の結果であり、原発地元の新潟県・佐賀県では全選挙区で立憲民主党が勝ち、福井県・鹿児島県でも自民党の原発推進派が落選する結果となったのである) 1)衆議院議員選挙における候補者の態度 *3-1-1は、①3年前の前回衆院選から十分な議論もなく原発政策は大きく変化 ②岸田前政権は次世代型原発へのリプレース・最長60年としてきた既存原発の運転期間延長など、福島第一原発事故(以下、“フクイチ事故”)を受けて進めた「脱・原発依存」から大きく舵を切り、なし崩しで原発回帰が進む ③今回の衆院選で議論は低調 ④原発利用については、自民党・日本維新の会・国民民主党が推進の立場で、共産党・れいわ新選組が脱原発、立憲民主党は公約では触れず党綱領に原発ゼロを明記 ⑤薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者は発言内容は違えど運転延長には容認 ⑥原発利用とセットで語る必要のある「核燃料サイクル」も実現が見通せず ⑦高レベル放射性廃棄物を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドもなし ⑧選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が2002年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都町と神恵内村、玄海町の3自治体のみ としている。 衆議院議員選挙の立候補者が、③のように、脱原発を口にしない理由の第1は、自民党の場合は大手電力会社から寄付だけではなく選挙協力も得ているから、国民民主党・民主党の場合は、大手電力会社の労組から選挙協力を得ているからである。 また、理由の第2は、経産省はじめ原子力エネルギーを維持したい人の発言力が強く、政治家・候補者・メディアはじめ国民の多くが、これに対抗できる知識や力を持っていないからだ。そのため、政権批判と言えば、国民に賛成されやすい「政治とカネ」論争ばかりになるのだが、これは国民を馬鹿にしすぎているだろう。 そのような事情から、①②のように、自民党の岸田前政権は選挙で審判を仰ぐことなく、フクイチ事故を受けて進めた「脱原発依存」から、なし崩しで原発回帰を進め、④のように、立憲民主党は党綱領に原発ゼロを明記しているが、公約では触れなかった。 それでは、よく言われるように原発はコストが安いのかと言えば、後で詳しく述べるとおり、⑥⑦⑧の如く、高レベル放射性廃棄物の処理はできず、リスクが高いのに使用済核燃料を各原発に溜め込んでおり、国が無駄金をばら撒かなければ一歩も前に進まない金食い虫なのである。 なお、⑤のように、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者が運転延長に容認している理由は、選挙は票数の勝負であるため、候補者の主張に反対の人が多いと得られる票数が減って不利になるからであろう。 しかし、選挙結果を見ると、*3-1-4のように、原発地元である新潟県・佐賀県では立憲民主党がすべての小選挙区を制し、福井2区でも原発推進派で自民党系の高木氏が落選した。そして、従来は自民党が強かった鹿児島県も、1区立民・2区野党系無所属・3区立民が小選挙区を制し、4区の森山氏(自民党幹事長)だけが自民党なのである。そして、この結果については、「政治とカネ」問題が大きいと言われてはいるが、原発の地元は、他の地域と違って真剣に原発のリスクについて考えていることを忘れてはならない。 なお、日本の経済団体は、*3-1-5のように、経団連の十倉会長が、⑨自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢を構築し、政策本位の政治を進めることを強く期待 ⑩与党の敗因は政治資金を巡る問題への国民の厳しい判断 ⑪待ったなしの重要課題に原子力の最大限活用を含む とし、日本鉄鋼連盟の今井会長は、⑫安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する としている。 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬連立与党の枠組みがどうであれ、デフレからの完全脱却に不退転の決意で臨むべき とし、経済同友会の新浪代表幹事は、⑭与野党問わず現実を直視してしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めて欲しい としている。 つまり、経産省の意向を強く受けている経団連の十倉会長は、⑨⑩⑪のように、問題は「政治とカネ」だけなので、自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢で政策本位の政治を進めることを期待し、原子力の最大限活用は待ったなしの重要課題だ としている。また、日本鉄鋼連盟の今井会長も、⑫のように、原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待する としているのだ。 しかし、このように日本の経済界の大企業が安定のみを追求して、イノベーションを軽んじた結果、日本は「失われた30年(https://toyokeizai.net/articles/-/325346 参照)」を経験したのだということを、決して忘れてはならない。 そして、あまりにもパッとしない発言だったため、十倉氏の経歴を調べたところ、1974年東京大学経済学部卒の74歳(学生運動が盛んで、学生が勉強していない時期)で、現在は住友化学株式会社代表取締役会長であり、経団連会長である。しかし、積水化学はペロブスカイト太陽電池を2025年に事業化する(https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/12/news047.html 参照)のに対し、住友化学は大分工場で購入電力を100%再エネ化しただけで、次の大きな利益機会であるペロブスカイト型太陽電池には参入していない。 また、日本鉄鋼連盟会長で日本製鉄社長の今井氏は、1988年東大院金属工学研究科修士修了、1997年マサチューセッツ工科大博士修了で、旧新日本製鉄出身初の技術系社長で脱炭素化対応(≒電炉推進)にあたってきた人なので、脱炭素の安定電源として原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待するのもわからなくはないが、原発は高コストで温排水を出す電源であるため、SDGsの役に立たない上、コストダウンも難しい。そのため、もっとスマートな代替案を考えて欲しいと思ったのである。 なお、AGCは、建築用ガラスの性能(遮熱・断熱性)と太陽光発電の性能を併せ持つ建物のガラス部位で発電することによって、カーボンニュートラルに貢献しようとしており、私も使える限り使いたいと思うのだから、これは当たるだろう。 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬のように、デフレからの完全脱却を求めておられるが、原発等への無駄で膨大な補助金を削らずに新しい財源を確保するためとして国民負担を増やし続ければ、国民の可処分所得が減るためデフレからの脱却などできるわけがないのである。さらに、経済同友会の新浪代表幹事の⑭の発言は、「何が無視できない重要な現実なのか」を知力を尽くして議論していないため、何も言っていないのと同じである。 2)原発は採算性が悪く、巨額で不透明な補助金によってのみ成り立っていること *3-1-2は、①原発コストは陸上風力・太陽光より高くなり、海外では採算を理由に廃炉も ②日本政府の試算でも原発コストは上昇 ③年度内に予定されるエネルギー基本計画改定で原発活用方針が盛り込まれれば国民負担増 ④日本政府はフクイチ事故後、原発依存度を可能な限り低減する方針を掲げたが、岸田政権がGX基本方針で「原発の最大限活用」に転換 ⑤エネルギー安全保障・CO₂排出抑制を理由に掲げても、事故の危険性とコスト高騰あり ⑥米国ラザードが発電所新設時の電源別コストを発表し、建設・維持管理・燃料購入費用を発電量で割って算出する原発のコストは陸上風力・太陽光発電の3倍以上 ⑦経産省作業部会の計算でも2030年新設原発の単純コストは11.7円/kwhで、陸上風力・太陽光と同じ ⑧実際には単純なコストだけでなく補助金等の政策経費を含めて算出すべき ⑨太陽光・風力は大量生産で安くなるが、原発は量産効果が働かない ⑩原発活用でも電気代が下がるとは考えられない としている。 原発は、安価で安定的な電源だと言われ続けてきたが、原発のコストは、本当は、⑧のとおり、電力会社が支払う単純コストだけではなく、国が支払う補助金等による膨大なコストも含めて算出するのが正しい。 しかし、補助金を加えない単純コストだけを比較しても、①⑥⑨のように、原発は大量生産することができず、太陽光・風力は大量生産できるため、普及して量産効果が出れば出るほど太陽光・風力の方が安くなり、これは最初からわかっていたことである。 そして、原発を推進したい経産省の作業部会でも、⑦のように、やっと2030年新設原発の単純コストが11.7円/kwhで陸上風力・太陽光と同じになるとしているが、この日本の遅れは、原発には膨大な補助金をつけて推進し、太陽光・風力の普及には消極的だった結果なのである。 なお、②③⑤⑩のように、原発のコストは、日本政府の試算でも事故の危険性とコスト高騰で上昇している上に、再エネと比較してエネルギー安全保障に資さず、CO₂排出は抑制するが地球温暖化抑制にも公害防止にも資さず、原発の活用で電気代が下がるわけでもなく、エネルギー基本計画の改定で原発活用の方針が盛り込まれれば、むしろ国民負担は増すのである。 それでも、④のように、岸田政権は、十分な議論もなく、GXを理由として、「原発依存度を可能な限り低減する」という方針を掲げたのだが、思いつきのこじつけで1人前の大人を説得することはできない。 また、*3-1-3は、⑪CO₂等の温室効果ガス排出を減らす発電所の改修・新設を対象として発電会社が国の補助金を受け取る「長期脱炭素電源オークション」が始まった ⑫補助金原資には電気料金も含まれる ⑬発電会社への補助額等の内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できない ⑭発電会社は施設等の維持費を積算し、経産省が所管する電力広域的運営推進機関の入札に応じて落札できた場合に維持費に相当する国の補助金を受け取れる ⑮個々の落札価格や受取期間は公表されず、資源エネルギー庁の担当者曰く「必要な時が来たら情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」 ⑯原発対象の補助金を受ける中国電力も「経営戦略上、回答を控える」とした ⑰初回2023年度は新設・建て替えに補助対象が絞られ、今月手続きが始まった2024年度から「新規制基準へ安全対策工事が必要な原発」も対象 ⑱龍谷大の大島教授は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めないものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかを公開するのが当然」と語る ⑲NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木理事長は「落札価格が公表されなければ、応札の基本ルールが機能しているのかどうかもチェックできない」と指摘 ⑳国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機がどれだけ補助金を得るのかを、NPO法人「原子力資料情報室」が、「公表されている落札総額を落札総容量で割り、1kw当たり平均落札価格を5万8254円と計算し、これに同原発の容量を乗じて766億円とはじいた ㉑「原子力資料情報室」の松久保事務局長は「殆ど知らされることなく極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘 等としている。 そもそも、大量の温排水を出す原発を温室効果ガス排出を減らす発電所と認定すること自体が奇妙だが、これは、⑪⑫⑭のように、国民が支払う税金を使った補助金と電気料金から拠出させる支援金を「長期脱炭素電源オークションを通したから」と正当化して、主に原発に配ることが目的だったのだろうと、公認会計士として外部監査の経験を持つ私は推測する。 そして、再エネを普及させるための補助金は著しく少ないため、⑬のように、補助額の内訳を示すことはできず、⑮のように、資源エネルギー庁の担当者は、個々の落札価格や受取期間を公表せず「資料の作成も取得もしていない」とし、⑯の中国電力もそうするのであろう。⑰の「新設・建て替え」「新規制基準へ安全対策工事」は、原発が対象であることが明らかであることから、私の推測は、さらに裏打ちされたわけである。 このように、時代に合わなくなったことに対する補助金をなくさずに、時代が求める新しいことをする度に「財源は?」と称して国民負担を増やせば、そのうち国民負担を100%にしても新しいニーズを満たすことはできなくなるだろう。そのため、必要なことは、情報開示した上で国民の審判を受けることだが、国民を馬鹿にしているのか、それが行なわれていないのだ。 従って、私は、⑱⑲の意見に全く賛成であるし、⑳のように、NPO法人「原子力資料情報室」が、限られた情報からできるだけのことをして、中国電力島根原発3号機に766億円の補助金が渡されたであろうことをはじき出したのはアッパレだと思う。 さらに、㉑のように、簡単なことを複雑化して国民が事実を把握できないようにし、不透明にしてやりたい放題やることこそ、民主主義から大きくはずれている。そして、こういうことができないようにするためには、国の会計を複式簿記・総額表示に変更して迅速に決算を行ない、政策毎にかかる金額の内訳を示して行政評価できるようにする以外にはないのだ。もちろん、そうされると都合の悪い人は抵抗するだろうが、これは既に殆どの国でやっていることなのである。 3)女川原発の再稼働にかかった費用と再稼働の是非 ![]() 2024.10.29Yahoo 2024.10.29毎日新聞 2024.10.29Nippon.Com (図の説明:左図は、現在の女川原発の様子で、中央の図が、同原発の安全対策のために行なった工事だ。そして、右図が、2024年10月末時点の原発の稼働状況である) *3-1-6は、①東北電力が、13年半ぶりにに女川原発2号機を起動 ②事故を起こしたフクイチと同じ「沸騰水型」初 ③被災地及び東日本の原発再稼働初 ④女川原発2号機は東日本大震災で敷地内震度6弱を観測し、約13mの津波が押し寄せて外部電源の多くが失われ、港にあった重油タンクが倒壊し地下室が浸水 ⑤その後、想定される最大クラスの津波に備えて防潮堤の高さを海抜29mにかさ上げし、地震被害を抑えるため原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行って、2020年に原子力規制委員会の審査に合格 ⑥震災後の安全対策工事費用約5700億円 ⑦テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」は再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内の設置が義務で、期限の2026年12月までに約1400億円かけて建設予定 ⑧政府は脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発最大限活用方針 ⑨電力各社は、新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発も地元の理解を得た上で再稼働を目指す ⑩女川町長は「継続的な安全性向上を求める」 ⑪宮城県知事は「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」 ⑫地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できるか課題 ⑬東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減見通しだが、電気料金の値下げに慎重 ⑭武藤経産大臣は「大きな節目になる」 ⑮使用済核燃料は原発建屋内の燃料プールで一時的保管されているが、既に79%に達し、再稼働に伴って今後4年程度で満杯 等としている。 東北電力女川原発再稼働のためにかかる費用は、⑤⑥のように、i)想定される最大の津波に備える防潮堤の海抜29mへのかさ上げ ii)地震被害を抑える原子炉建屋内の配管・天井等の耐震補強 iii)テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」であり、i)ii)の安全対策工事に約5,700億円かけたところで、原子力規制委員会は審査に合格させている。また、iii)のテロ等対策費には約1,400億円かかるそうだが、再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内に設置すればよく、建設期限は2026年12月なのだそうだ。 そこで疑問に思うのは、イ)いつも甘い“想定”の最大津波は本当に29mが上限なのか ロ)実際に29mの津波(ものすごい分量で、勢いのある水の塊)が何度も押し寄せた時に、防潮堤の薄い壁は耐えられるのか ハ)津波が来た時、海水が逆流する内水氾濫は起きないのか である。「津波や巨大地震はない」という甘い“想定”で、原発を低い場所に建てた上に、重要な施設を地下に置いたため、ほんの13年前にフクイチ事故は起き、①②③④のように、女川原発も危ういところだったのだから、忘れたわけはない筈だ。 その原発に、電力の全消費者が支払う電気料金から支出される支援金を約5,700億円もかけて弥縫策のような工事を行い、さらに約1,400億円かけるテロ等対策は未完成で、完成したところで武力攻撃には無力なのに、原子力規制委員会は審査に合格させたのである。そのため、消費者である国民は、二重・三重に馬鹿にされ踏みにじられているのであり、政策をチェックして選挙に行くこともなく、ぼんやり(or熱狂して)野球ばかり見ている場合ではない。 そして、政府は、電力の全消費者が支払う電気料金から支援金を支出する理由として、⑧のように、「脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発を最大限活用する方針」「生成AIの普及による電力消費の増大」等を掲げているが、前にも書いたとおり、原発は、脱炭素は実現できても海に温排水を排出しているため地球温暖化防止の役には立たず、漁業に多大な迷惑をかけて食糧自給率を落とし、集中電源は、北海道胆振東部地震やウクライナ戦争で明らかになったとおり、エネルギー安定供給にもむしろ資さないのである。 しかし、「電力の全消費者が払う電気料金から安全対策費に関わる支援金が出る」などといううまい話は滅多にないため、⑨のように、電力各社は新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発でも再稼働を目指しているが、いくら安全性を重視しても「事故0」はなく、原発事故は巨大事故に繋がるため、地元が理解しないのは当然なのだ。 そのような中、⑩⑪の女川町長・宮城県知事の「継続的な安全性向上を求める」「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」というのは、原発維持や安全対策工事の経済効果を見ているのかも知れないが、無理な要求である上に視野が狭くもある。 また、宮城県知事は「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」としているが、住民が避難して何処へ行き、どういう生活をし、誰が生活の面倒を見て、原発事故の収拾費を出すのは誰かを考えるべきだし、⑮のように、原発建屋内の燃料プールで“一時(本当は長期)”保管されている使用済核燃料は、既に容量の79%に達しており、再稼働すれば4年程度で満杯となるのであり、これは原発のリスクをさらに増している。 その上、⑫のように、地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できないのは能登半島地震で経験済で、そもそも事故や災害が起きたら避難しなければならないような場所に住宅地等があること自体、「一寸先は闇」なのである。 なお、⑬のように、東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減の見通しだが、電気料金の値下げはせず、⑭のように、武藤経産大臣は「大きな節目になる」と言われているが、どういう節目になると言うのだろうか。 4)再エネ・EVのエネルギー自給率向上・食糧自給率向上・地方創生との相乗効果 ![]() 2022.1.13MoneyPost Panasonic PRTimes (図の説明:左図のように、建物を透明な太陽電池で覆うと、太陽光のエネルギーが電力に変換される分だけ環境への放熱が減るため、発電と温暖化防止の両方を実現できる。しかし、建物に無様な太陽光発電装置をつけるわけにはいかないため、中央の図のように、ガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池が開発された。また、右図のように、瓦型の太陽電池もあるため、住宅はもちろん城や寺などの伝統ある建物で使うと面白い) ![]() AGC トヨタイムス 2019.7.20日経BP (図の説明:左図のように、AGCもサンジュールという建材一体型太陽光発電ガラスを生産し始めており、様々なデザインがある。また、中央の図のように、トヨタは、街の景観に馴染ませながらビル壁面等で発電できる、レンガや板の模様を出せる太陽光パネルを作った。さらに、右図のように、駐車場や道路で発電できる太陽光発電もある) ![]() アグリジャーナル 国際環境経済研究所 ナゾロジー (図の説明:左図は、農業と風力発電のコラボレーションで、様々な設置方法が考えられる。また、中央の図は、温室に設置した透明な太陽光発電だが、日本のガラス室やハウスの設置面積は42,000haあるため、コストが見合って太陽光発電できればかなりの発電規模になるそうだ。さらに、右図は、シリコン型太陽光パネルの下で放牧されている羊だが、パネルが太陽光をエネルギーに変換しながら太陽光を遮るため、その分涼しくなって羊の成育がよくなったそうだ) イ)ペロブスカイト型太陽電池について *3-2-1は、①日本発のペロブスカイト型太陽電池の投資ラッシュが中国で開始 ②中国の新興6社が工場建設の計画で内外から流入する投資マネーが生産を後押し ③中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う ④中国・江蘇省無錫市で極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場完成が近づき、「世界初のGW(100万キロワット)級の生産基地」へ ⑤福建省アモイ市では大正微納科技が100MW級の工場を建設中で2025年に量産開始、発明した桐蔭横浜大学宮坂特任教授の教え子、李鑫氏が最高技術責任者 ⑥日本発の技術だが宮坂教授は技術の基本的な部分に海外で特許取得しておらず、量産で中国企業先行 ⑦太陽光から電気への変換効率は2009年の発明当時は3.8%で実用化に遠かったが、現在は最高26%台まで上昇し理論変換効率(33%)上限に近い ⑧カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍) ⑨日本勢は積水化学工業が25年の事業化を目指してシャープ堺工場の一部取得を検討 ⑩パナソニックホールディングスは2026年に参入方針 ⑪中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保する意志 ⑫ペロブスカイト型は、曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるため、発電効率もシリコン型と比べて優位 ⑬大正微納の馬晨董事長兼総経理は「ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わる」と話す 等としている。 上の図のように、様々に工夫された太陽電池は、⑬のとおり、都市部の建物の外壁・ガラス・瓦などの建材や道路・駐車場と一体化させれば、街そのものを発電所に変化させることができる。そして、太陽光エネルギーのうち電力エネルギーに変換された分は、熱エネルギーとして放射されないため、二重に地球温暖化防止に役立つと同時に、電力の自給率向上・防災・分散型発電にも資するのである。 そのため、上の図の瓦型やガラス型だけでなく、トヨタの板目模様やレンガ模様を印刷したペロブスカイト型太陽電池のようなものをビルやマンションの壁面に貼り付ければ、街の景観を保ちながら、スマートに太陽光発電をすることが可能である。 しかし、日本という国は、仮に研究で先を行っても、⑥⑦のように、「太陽光から電気への変換効率が悪い」等々の思いつく限りの欠点を並べられて、「世界特許をとらない」「市場投入が遅い」「大規模生産できない」「製品が高い」などの結果となるのであり、世界競争時代に勝つための製造業の基本がわかっていない。しかし、欠点は、⑫のように、ペロブスカイト型は曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるので発電効率もシリコン型と比べて優位であったり、設置可能面積が広かったり、製品を改良したりして、解決が可能なのである。 その点、中国は、①②③④⑤のように、可能性を見いだせば、短所を改良しながら、大規模投資・大規模生産・市場投入するため、手頃な価格で販売することが可能で、近年は、日本人も中国製の製品を使うようになっている。特に、EVと太陽光発電は、米国が過去の製品を護るための保護主義に陥っている中で、中国の1人勝ちになりそうだ。 なお、カナダの調査会社プレシデンス・リサーチは、⑧のように、「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍)としているが、スマートな建材一体型太陽電池の種類が増えれば、世界中で現在の建材に替えて使えるため、24億ドル(約3400億円)どころではないだろう。 このような中、⑨⑩のように、積水化学が、2025年の事業化を目指してフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発中で、パナソニックは、建材としてのガラスの代替を目指して建材ガラス基板にペロブスカイト層をインクジェット塗布して作る手法を使って2026年に参入するそうだ。しかし、日本政府も、過去の製品に固執して腰が重いため、⑪のように、中国企業の方が、日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打って世界シェアを確保しそうなのである。 ロ)蓄電池について 米大統領選において、何故か大差で勝利したトランプ前大統領は、「メキシコ・その他の国々からの輸入車に新たな関税を課す」「EVを推進する多くの既存政策を撤回する」としていたため、就任初日に、環境保護局(EPA)及び運輸省の自動車関連規則撤廃に着手する計画を示しているそうだ。 しかし、米国のゼロエミッション輸送協会は、「今後4年間は、これらの技術が今後何世代も米国の工場で米国の労働者によって開発・採用されるのを確実にする上で極めて重要だ」として、時間稼ぎできたことを喜んでいるようである(https://jp.reuters.com/markets/global-markets/BMDUUSY2RJJWFBLYLTOCFNGFCQ-2024-11-07/ 参照)。 そのような中、*3-2-2は、①米テスラは、ヤマダホールディングスの全国1000店ある店舗で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダは住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込む ②天候によって発電量が変わる太陽光電力の需要と供給を調整するには蓄電池を増やす必要がある ③テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量13.5kwhと大きく、競合国内メーカーと比べて容量当たり単価が安い ④米欧では既に複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっている ⑤太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電し、足りない時に販売して収入を得る仕組みで、電力の需給バランスも調整できる としている。 これに加えて、*3-2-3は、⑥経産省は、2025年度にも再エネ発電と蓄電池を併用する事業者の発電量に応じて上乗せして交付する補助金額を現状の2倍程度に拡充し、海外に比べて遅れた蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げる ⑦日本の再エネは太陽光の普及が特に進み、昼間に電気が余って発電停止が頻発 ⑧電気を溜めるのが解決策だが蓄電池が高くて使えていない 等としている。 このうち②⑦は、2012年7月に再エネ固定価格買取制度(FIT)が始まった当初から問題になっていたのに、それから12年後の現在でも⑤を説明しなければならず、④のように、米欧では、とっくに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっているのに、日本では、⑧のように、「蓄電池が高くて使えない」などと何の問題解決もできていないのが異常である。そして、何故そうなったのかが、最も重要だ。 そして、③のように、米テスラの蓄電池の方が国内メーカーよりも容量当たりの単価が安い上にデザインも優れ、①のように、ヤマダが全国1000店ある店舗で米テスラの蓄電池の注文を受け、住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込むというのは、家電に対する国内メーカーの衰退の著しさを感じた。何故そうなったのか。 また、⑥のように、経産省は、再エネ発電・蓄電池併用の事業者への補助金を2倍程度に拡充し、「海外に比べて遅れた」蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げるそうだが、「どんなイノベーションも、海外より遅れる」という我が国の状況をなくすためには、海外と比較して太陽光発電や蓄電池の普及が遅れた理由を追求し、それを解決することが最も重要であろう。 ハ)地方創生と再エネについて ![]() JA苫前 2022.8.24日経BizGate 長崎大学 (図の説明:左図は、広大な農地と風力発電の組み合わせ、中央の図は、牛の放牧と風力発電の組み合わせであり、風力発電からの電力収入を副収入とすることによって、国際競争力のある価格で農業生産を行なうことが可能だ。また、右図は、風力発電と養殖の組み合わせで、さまざまな組み合わせが考えられるが、どれも、再エネ収入を地方創生に活かしながら、食料・エネルギーの自給率向上にも資する点で優れている) *3-3は、①石破政権は、人口減・社会的基盤維持等の地方が抱える課題解消をめざし、首相官邸で閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合 ②2025年6月に纏める「骨太の方針」に今後10年間を見据えた具体的施策を盛り込む ③柱は、i)安心して働き暮らせる地方の生活環境 ii)東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散 iii)付加価値創出型の新しい地方経済 iv)デジタル・新技術の徹底した活用 v)「産官学金労言」の連携と国民的機運の向上 ④首相は11月中に纏める経済対策に関して「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出等の取り組みを支援する」と強調 ⑤首相は倍増方針を示した地方創生交付金に関し「金額だけ増やしても意味がない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った ⑥首相は、2014年9月発足の第2次安倍改造内閣で初代地方創生相を務め、2014年12月に決定した長期ビジョンに「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んで、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが地方の環境は依然厳しい ⑦首相は11月8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければ先の展望はない」とした ⑧国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した将来推計人口は、2056年に1億人を割って9,965万人になり、2070年に8,700万人 ⑨総務省住民基本台帳人口移動報告では、2023年の東京圏は転入者数が転出者数を上回って28年連続転入超過、地方は人口流出が続く ⑩首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動は、10年間で全国33の道県で男性より女性が多く転出」とし、婚姻率上昇を念頭に若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えた としている。 このうち①②⑤は良いと思うが、④については、農林水産業の高付加価値化は、例えば中食にまでして利便性を高めるような高付加価値化は良いが、価格のみを上げて贈答品で貰いでもしない限り果物も食べられないような国になっては、国民が困る。また、観光産業も、サービスは変わらないのに価格だけが上がるような高付加価値化では、国民が貧しくなって困るので重点化の内容が重要である。 また、首相は、⑥⑧のように、第2次安倍内閣で地方創生相を務められ、「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込まれて、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとされたが、人口減は止まらなかった。しかし、戦後のベビーブームで増えすぎた人口が減るのは自然現象だろうと、私は、思う。 そして、⑨⑩のように、東京圏でのみ転入者数が転出者数を上回り、地方は人口流出が続いて、特に若年世代の人口移動は男性よりも女性の方が多く転出する社会的増減が起こっているため、首相は、婚姻率を上昇させる目的で、若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えられたのだそうだ。しかし、「人口を増やすために婚姻率を上昇させよう(『生めよ増やせよ』論に近い)」などという発想自体が、女性に嫌われ、より自由で行動を縛らない東京に女性が転出するのだということを決して忘れてはならない。 1953年生まれの私の経験では、進学・就職・結婚年齢だった1970年~80年代は、東京でも女性差別・女性蔑視の発言・行動が横行していたため、多くの女性が活路を求めて日本から海外に出て行き、日本に残った人も東京の外資系企業に勤務するなどして活路を開き、そういう女性たちの行動や実績が男女雇用機会均等法制定に繋がって、東京では女性差別・女性蔑視を緩和させたのである。 しかし、その私でも埼玉県で活動すると、「女性は、科学的知識のない人、専門家でない人、細かい人、やさしくあるべき人、お茶くみやお酌をする人、男性の後ろにいるべき人」等のジェンダーまるだしの言葉や態度に不快な思いをすることが多い。そのため、もっと田舎で「科学的知識のある女性」や「専門家である女性」のサンプル数が少ない場所では、状況はさらに悪いだろう。つまり、女性は、「女性に対して差別や偏見の残っている地域に住んで無駄な苦労をしたくない」と思っているのであり、可能であれば差別や偏見の少ない地域に移動するのである。 そのため、⑦のように、首相が「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない」と思われるのであれば、まず「人口を増やすために、婚姻率を上昇させよう」などという「生めよ増やせよ」論を止め、女性が周囲からの敬意を感じながら自由に働ける地方創生をすべきである。 また、首相は、③のように、柱を5つに分解されているので、この柱に従って意見を述べる。 i)「安心して働き暮らせる地方の生活環境」について 女性差別のない職場・生活物資の調達・保育・教育・医療・介護などの日常生活に必要な財・サービスは、安心して働き、暮らしていくために必要不可欠なインフラだ。そして、女性は、自分に苦労が降りかかってくるこれらの点をしっかり比較して住む場所を決めているのであるため、未だに不合理な点が多いのは早急に改めるべきである。 ii)「東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散」について 東京に一極集中する理由には、便利さ・多い職業の選択肢・給与水準の高さ・子の教育における選択肢の多さなどがあるが、東京は、首都直下型地震や水害のリスクが大きく、東京で育った子は、自然に関する暗黙知が少ないという問題もある。そのため、優良企業が地方に分散し、地域住民に条件の良い職場を与えられれば、その効果は多くの分野に波及すると思われる。 iii)「付加価値創出型の新しい地方経済」について 付加価値を創出しない産業はこれまでも続いて来なかったが、いち早く新しい時代のニーズを捕らえれば、付加価値率は高くなる。 それでは、「新しい時代に顕著になったニーズは何か?」と言えば、a)環境と両立する経済 b)地球規模の人口増加に備えるエネルギー・食糧自給率の向上 c)共働きを前提とした家事の外部化 d)国内で少子化が起こる原因の正確な分析とその解決 e)災害による被害の最小化 などであり、これらを同時に解決できるのが、地方への人口分散なのである。 しかし、地方への人口分散を促すには、④のように、地方でも日常生活に不可欠なサービスを維持向上させ、新技術を活用した高付加価値型の企業を増やさなければならないのだ。 iv)「デジタル・新技術の徹底した活用」について “デジタル化”は、2000年代の始めから盛んに言われていることなので、「新技術≒デジタル化」という論調は、他の先進技術を知らないことを意味する。また、セキュリティー・通信の秘密・個人情報の保護などは、デジタル化を口実に犠牲にして良いものではないが、日本ではしばしばそれが混同される点が問題だ。 その他の新技術には、農業や水産業における品種改良、医療における癌の免疫療法や幹細胞・IPS細胞を使った再生医療などの生物系の新発見を応用したものも多いが、日本政府は化学療法を優先するなど、生物系の新発見・新発明への理解が乏しい。そして、これは、生物系の理論を学習することを疎かにしてきた中等教育・高等教育の問題だと思う。 v)「『産官学金労言』の連携と国民的機運の向上」について “産官学”の連携はよく言われてなじみがあったが、これに“金(金融)”を加えたのは、設備投資をして生産性を上げるには何らかの形で金融の関与が不可欠であるため納得だ。 “労”については、人口減と人手不足の中、政府が景気対策を行なって無理に雇用を作らなければならないような人材を生み出さないためには、基礎教育・再教育の充実とやる気の育成が重要である。 “言”については、メディアはじめ言論人の役割が大きいが、近年は、馬鹿でもわかるカネ・女・数合わせ・犯罪・スポーツに関する報道ばかりが多く、メディアの構成人が生物・物理・化学等の科学的知識に乏しいためか、国民に対して教育効果を発揮できていないのが現状だ。 (4)先端技術と教育 1)高級カメラを超えたスマホカメラ *4-1は、①シャオミやアップルのスマホカメラ機能が大幅に向上 ②レンズの改良と画像補正技術を磨いて高級コンパクトカメラに匹敵する写真を撮影可能 ③日経新聞は複数機種で撮り比べた ④アップルは「iPhone16 Pro」に光学5倍の望遠カメラを搭載して画像処理で撮影後の色調編集を実現 ⑤シャオミは「Xiaomi14 Ultra」にライカと共同開発した4つのレンズを搭載して、光学で5倍、デジタルで最大120倍のズームが可能 ⑥サムスンは「Galaxy S24」に背景加工機能搭載 ⑦ソニーの「Xperia 1 6」は暗所でも撮影できる ⑧シャープの「AQUOS R9」もライカ製レンズを搭載 ⑨スマホ本体の台数は2028年に2024年比8%の成長に留まるが、スマホ向けのカメラモジュール市場は47%の成長見込み ⑩日経新聞が、シャオミ・アップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べたところ、ズームアップした場合には高校生10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と言った ⑪デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うが、リアルと加工の境目はどこかという課題が内在 等としている。 最近のカメラはどれも、画像を引き伸ばした時に解像度の低下が少ないので感心していたが、①②④⑤⑥⑦のように、スマホカメラも望遠機能を搭載し、デジタルなら画像処理して最大120倍のズームまで可能で、撮影後の色調編集もできるそうなので、さらに感心した。しかし、私自身は自分のスマホで写真や動画を撮影するのは最小限に留めており、その理由は、写真や動画はメモリーを食うため、その他の機能まで使えなくなっては困るからである。 なお、ドイツのレンズはカールツァイスもライカも良いと言われているが、シャオミもシャープもライカのレンズを搭載しており、日本のレンズは、高いのに品質がついていっていないのか、全く影を潜めているのが気にかかる。 また、日経新聞が、③⑩のように、シャオミやアップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べ、ズームアップした場合の感想を聞いたところ、高校生10人全員が「(中国の大手スマホメーカー)シャオミの写真が一番きれい」と言ったそうで、隔世の感がある。 そして、⑨⑪のように、デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うため「リアルと加工の境目はどこか」という課題が内在するが、スマホ向けカメラモジュール市場は2028年に2024年比47%成長の見込みなのだそうだ。 それでは、日本のカメラメーカーはどこに活路を見いだしたら良いのかと言えば、i)日本で最終製品を作る自動車のドライブレコーダーや自動運転に使用する ii)中古のビルやマンションも増えたため、大規模修繕時にドローンで写真を撮れば要修理箇所がわかるようにする iii) 写真で公共インフラのチェックをし、要修理箇所をもれなく把握できるようにする 等に可能性が大きいのではないかと思う。 しかし、これらをやるためには、「官僚主義を廃し、時代に合う規制に変更し、無駄な支出を減らす」という強い意識が必要であるため、日本もイーロン・マスク氏を政府効率化省のヘッドに頼みたいくらいだ。 2)農林水産業について イ)果樹園のケース *4-2は、①中央果実協会が果樹産地の担い手育成等事例発表会を開いた ②大分県は2023年までの10年間で200人が新規就農 ③県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進めて成果を上げた ④園地の確保・未収益期間の長さが就農の壁で、果樹の担い手は2020年までの20年で半減、60歳以上が8割 ⑤果樹価格や輸出攻勢に魅力を感じる人が増えて反転攻勢の好機 ⑥果樹の新規就農者確保には積極的誘致が重要で、DM等で働きかけ農家以外の人や異業種法人の参入が増えた ⑦就農者が小規模園地で1~2年経験を積む間に育苗や園地整備を推進し、その園地に加えて整備された園地も渡して未収益期間を削減 ⑧就農者に渡すため園地を集約するには、地権者らへの説明を丁寧に進める取り組みも不可欠 ⑨広島県世羅町の光元組合長は、47haの大規模梨園をジョイント仕立て(https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450008/p581138.html 参照)とリモコン式草刈り機を導入して維持 としている。 果樹だけでなく農家全体が担い手不足で、④のように、60歳以上の担い手が8割になったというのは、労働の割に収益性が低いことから尤もだが、農家の子も職業選択の自由があるため、農業に魅力を感じる人の中から新たな担い手を探さなければならない。従って、⑥のように、DM等で働きかけて農家以外の人や異業種法人からも新規就農者を確保するのは良いと思う。 そして、⑤のように、果樹価格の上昇や輸出可能性に魅力を感じる人は多いだろうが、果樹をはじめとして農産物の価格が上がりすぎると、農産物も存分に食べられないほど相対的に国民が貧しくなるため、食品価格の値上げには慎重であるべきだ。 そのため、⑦⑧⑨のように、梨園を47haと大規模化してジョイント仕立てにし、未収益期間を短くし、リモコン式草刈り機等も導入して生産性を上げられたのは良いと思うし、大規模化による生産性の向上は、新規就農者に渡すために複数の農家の土地を集約できたからこそ可能だったのである。 これに加えて、瀬戸内海沿岸地域なら、レモンやオリーブ等、現在ニーズが高まっていて、手間が少なく、温暖化した気候により適した作物を作り、園地に風力発電機を置いて副収入を得たり、草刈りを草食の家畜に任せたりすれば、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスがより良くなるだろう。 そして、①②③のように、大分県が、県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進め、2023年までの10年間に200人が新規就農にこぎつけたことは、大きな成果だったと思う。 ロ)水産業の養殖のケース ![]() ![]() 2018.7.23流通研究所 (図の説明:最新データではないが、左図のように、世界では漁船漁業による漁獲高は一定で、海面及び内水面養殖業による漁獲高が著しく増えている。また、国別では、右図のように、中国・インドネシアの漁獲高が著しく増えている) ![]() 2018.7.23流通研究所 2017.11.24海と日本 2024.11.17JAcom (図の説明:これも最新データではないが、左図のように、日本では遠洋漁業・沖合漁業の漁獲高が著しく減少し、沿岸漁業は少し減少して、海面養殖業は増加している。そのため、日本は遠洋漁業を減らして他国で捕獲したり養殖したりした魚介類の輸入に変更した可能性がある。また、中央の図のように、産業革命後100年間の海水温上昇は、2017年のデータで世界は0.53℃であるのに対し、日本近海は、日本海側で1.20~1.70℃、太平洋側でも0.70~1.10℃と世界平均より高く、これには地球温暖化だけではなく原発の影響も考えられる。さらに、右図のように、2024年7月における日本近海の海面水温は、平年より3~5℃も高いところが多く、 先入観のない科学的原因分析と解決が必要である) *4-3は、①陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階 ②丸紅はノルウェーのプロキシマーシーフードと共同で「閉鎖循環式」を採用、電力の15%は敷地内太陽光発電で賄ってサーモンを養殖 ③NTTグループはCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来はこの藻を飼料に使って環境負荷を軽減しながらエビを養殖 ④技術力・資金力を持つ大企業の大量生産が水産供給網を変えつつある ⑤陸上養殖する理由は、i)地球温暖化・乱獲の影響で天然魚の水揚げ不安定 ii)海面養殖は水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権で新規参入困難 ⑥そのため、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 ⑦国内の陸上養殖サーモンは三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んで参入 ⑧世界の漁業・養殖業生産量は2022年に2億2,322万tで10年前と比較して25%増 ⑨海面養殖は48%増と急増だが、適地が限られ中長期拡大は難しい ⑩陸上養殖の世界市場は2029年に2023年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増 等としている。 このうち、②は、餌やふんで汚れた水をバクテリア分解と散水で浄化して再利用し続ける「閉鎖循環式」を採用している点が技術進歩している上、商社がノルウェーの水産企業で高い養殖技術を持つプロキシマーシーフードと共同で取り組んだ点が、情報力や販売ルートを活用してシナジー効果を出していて面白い。また、⑦のように、商社の三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んでサーモンの陸上養殖に参入している。 しかし、養殖は餌の調達とその価格が問題であるため、③④のように、NTTグループがCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来は、この藻を飼料としてエビを養殖するというように、技術力・資金力のある大企業が本業で培ってきた能力を活かしてなら、研究開発し大量生産することも可能だろう。 なお、(3)4)ハ)の「長崎大学」の画像は、離島を利用して沖合養殖と洋上風力発電を行い、養殖産業と洋上風力発電産業の共生の扉を開いて社会実装を検討しているもので、三井物産環境基金の助成を受けているそうだ。確かに、これまで漁業に使われていなかった離島や洋上風力発電機の下を使えば漁業権の問題が起こりにくく、洋上風力発電機の設置も容易になり、発電機の下ではさまざまな養殖を行なうことができる。また、島で加工することも可能であるため、多くの問題が一挙に解決するだろう(https://www.mitsui.com/jp/ja/sustainability/contribution/fund/results/1229586_13007.html 参照)。従って、⑨のように、「海面養殖は適地が限られる」と考えるのは、時期尚早である。 さらに、世界人口が増え、良質の蛋白質を求めるようになれば、水産資源への依存は不可欠であるため、⑧⑩のように、世界の漁業・養殖業の生産量は2022年に10年前と比較して25%増、陸上養殖の世界市場は2029年に2023年と比較して88%増となり、今後も増えることが予想される。そして、日本の場合は、洋上風力発電と結びつければ、海面・海中・海底を使った養殖の可能性が増すのである。 また、⑤のように、陸上養殖する理由は、i)地球温暖化や乱獲による天然魚水揚げの不安定化 ii)海面養殖における水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権による新規参入の困難性 であり、⑥のように、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 とされているのである。 しかし、*4-3-2は、i)について、地球温暖化による環境変化のみに責任転嫁がなされすぎた結果、現象の中に矛盾が多いとし、令和2年発行の水産白書は、サケ・サンマ・スルメイカの不漁の原因が、海水温・海洋環境変化・外国船による漁獲の影響等で、日本の乱獲や水産資源管理の問題は書かれていないとしている。が、日本では、漁師の数も漁獲高も減少しているため、私には、漁師の乱獲が不漁の原因とは思えないのだ。従って、観念的ではなく、他の原因も含めた正確な原因分析を行ない、それに基づいた解決策を考えるべきである。 ii)については、それもあるかも知れないが、陸上養殖する場合は広い土地と堅固な設備を要し、維持費も高そうなので、iii)をクリアするには、これまで漁業者が使ってこなかった離島や沖合の風力発電機付近に養殖設備を作るのも有力な案だと思う。 3)教育投資は最優先の課題なので、財源は他に先んじて確保されるべき ![]() ![]() 2022.5.2日経新聞 Kidsdoor Tokyo 大学入学年齢 (図の説明:左図のように、日本の人口100万人あたりの博士号取得者数は先進国の中で低い方だ。また、中央の図のように、高等教育の学部学生数は中国が飛び抜けて多く、これらは今後の経済を左右するだろう。また、右図のように、日本は大学入学年齢が飛び抜けて若く、高校卒業時に大学に進学した後は再教育では大学が使われないことを意味しており、大学に入っても早くから就職活動を開始するため、落ち着いて勉強する時間は少ないと思われる) ![]() 2024.4.20日経新聞 2023.3.29東京新聞 (図の説明:中央の図は、教員の人気低迷が続き、採用倍率が下がっていることを示しているが、教員の質の確保は倍率向上だけが解決策ではないだろう。また、左図のように、政府は教員の確保に向けた政策として働き方改革を挙げているが、自己管理しながら働き甲斐を感じて積極的に働く人材こそが指導者にふさわしいと思われる。また、管理職でない教員の待遇については、働いた時間を正確に記録し、それに対する残業手当をつけつつ、教員でなければできない仕事とそれ以外の仕事を分けていき、効率性を高めるのが良いと思うし、教科担任制は科目によっては対象年齢をもっと下げても良いくらいである。なお、右図は、3歳以上では100%近い子どもが幼稚園か保育園に通っていることを示しており、幼児教育を充実させれば、時代に合わせて多くのことを無理なく教えられることがわかる) 1947年5月3日に施行された日本国憲法は、「第26条:①すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する。②すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」と定め、同年にこれを反映する教育基本法が定められた。 そして、教育基本法は、2006年に発展的改正が行なわれ、日本国憲法の精神にのっとって、教育の目標として「第2条:①学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培い、健やかな身体を養う ②個人の価値を尊重し、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養い、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養う ③正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んじ、公共の精神に基づいて主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う ④生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養う ⑤伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」と定め、そのほかに「生涯学習の理念」「教育の機会均等」「幼児教育」「社会教育」「政治教育」等が書かれており、必要な理念は述べられている。(https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html 参照)。 そのような中、*4-4は、イ)資源が少なく少子高齢化が進む日本に公教育の充実は重要 ロ)長時間労働や教員不足で屋台骨が揺らぎ、大幅な教員の増員が不可欠 ハ)教育投資は未来への投資で、財源確保に向け国民的納得の得られる議論を本格化すべき 二)公立学校教員は教員給与特措法に基づいて残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われるが、文科省は教員増や勤務時間の削減を進めつつ上乗せ分を13%に増やすとして年1千億円規模の増額を求め、財務省は文科省案では働き方改革が進まず教員不足は解消されないとして時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した ホ)労働環境が厳しいままでは、教員のなり手は大きく増えないと考える教育関係者が多い へ)いじめ・不登校など多くの問題を抱える中で教員らを増やさず労働時間を減らすのは難しい ト)日本の小中学校教員の仕事時間は、中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあって、国際的に見ても長い チ)過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある としている。 教育基本法の中の①②④のように、「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度・真理を求める態度・創造性」等を教育段階で養っていれば、イ)の「日本に資源が少ない」という問題は既に解決できており、既存の資源を減らすこともなかったであろう。そして、それは数少ない“エリート”だけでできるものではなく、一般国民が高い意識を持って現場からアイデアを出していかなければならないものであるため、公教育の充実は必要不可欠で、その内容は教育基本法に沿った質の高さが求められるのである。 また、ハ)の教育投資は1947年以降は必要不可欠な投資だったのであり、それをやるために新しく財源を確保すべきという話ではない。つまり、既存の事業に対し漫然と行なってきた無駄な補助金よりも優先して教育投資を行なえば、その効果は想像以上なのである。 このような中、ロ)二)ホ)チ)のように、「公立学校教員は長時間労働だが残業代ではなく基本給の4%を一律上乗せした給与」「(少子化しているのに)教員不足で大幅な教員増が不可欠」「過酷な労働環境を嫌って志願者が減って教員不足が常態化」等としている。 つまり、「教育の充実=教員の増員←給与体系の問題」という側面でしか捉えておらず、最も重要な「教育の目標」である「国民の質の向上(=教育の質の向上)」が語られないのだ。そして「教育の質」から見れば、へ)の「いじめ・不登校などの多くの問題」をいつまでも解決できないのは教員の質の問題であり、数の問題ではないと思われる。 また、いつまでも同じことをやっている「労働時間」の問題も、中等・高等学校は地方自治体立であるため、それを解決するのは各自治体と教員の意志であり、ひいては教員の質の問題になる。私は、教員も一般企業と同様、働いた時間に応じて残業時間を記録し、残業時間に応じて残業手当を支給すればよいし、残業が多いのに成果が上がらないのであれば、正確に原因分析をして事実に基づいた解決策を考えるべきだと考える。 さらに、ト)には「中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあるため、日本の小中学校教員の仕事時間は国際的に見ても長い」と書かれているが、学校毎に素人の教員が監督をする部活動を置いて生徒の役に立つのかが問題であるし、そもそも部活動ばかりしていても「学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養う」教育はできないのである。 最後に、「複雑な家庭環境」は教員だけで対応できるものではないため、学校から自治体の援助に繋げ易いルートが必要であるし、「過度な要求をする保護者」とはどういう保護者か知らないが、学校教育が保護者(一般に教育の素人)の教育まで担わなければならないことも当然あるため、それに耐える教員の質と仕組みが必要なのである。さらに、近年は当然のクレームまで「カスハラ」のジャンルに入れて自ら進歩の道を閉ざす社会的風潮があるが、適切な判断でそれを止めなければ、日本はますます遅れていくと思う。 (5)女性の人権・職業選択の自由・職業教育 ![]() 第一生命経済研究所 2023.11.25日経新聞 2023.9.30日経新聞 (図の説明:左図は、1990年1月~2022年7月の生鮮食品と生鮮食品を除く食品の価格水準の推移で、1990年1月と比較して2022年7月は生鮮食品が36%、生鮮食品を除く食品が33%上がっている。なお、食品は貧しくなっても節約には限度があるため、エンゲル係数(食料費/消費支出)の分子になっている指標である。また、中央の図は、2022年1月~2023年10月までの物価上昇率で、頻繁に買う品目《食料品等》ほど物価上昇率が高く、4年弱で10%近くも物価上昇している。また、右図は、2018年半ば~2023年半ばの体感物価上昇率と統計上の物価上昇率の差であり、統計上の物価上昇率との間に11.4%もの差がある。そのため、物価上昇率は、全体で薄めたり、生鮮食品を除いたりして出すのではなく、生鮮食品も含めて頻繁に購入するものについては、分類して出したり、全体で出したり、戦後の長期累積で出したりするべきだ) 1)所得税・住民税における年収の壁について <所得税・住民税の計算方法> ![]() 財務省 Miney Foward Ten Navi (図の説明:左図は、給与所得者の所得税額の計算で、給与収入からそれを得るための必要経費である給与所得控除を差し引き、残った所得から基礎控除等の人的控除を差し引いた課税所得に、累進税率になっている税率をかけて税額を出す。しかし、人的控除のうち、子の扶養控除は児童手当の開始とともに廃止されるべきものであったし、配偶者控除は夫婦それぞれの基礎控除の充実と同時に廃止すべきだ。また、中央の図は、個人住民税には全国一律の均等割と所得割があることを示しているが、地方税には、そのほか法人住民税・事業税・固定資産税・都市計画税・不動産取得税・自動車税・地方消費税・森林環境税などもあるため、物価上昇で税収が増える筈の税目もあり、また努力次第でふるさと寄付金も入るのだ。さらに、右図は、住民税の配偶者特別控除一覧だが、夫や妻の所得によって配偶者の寄与度が変わるわけではないのに、夫と妻の所得によって配偶者控除の額が複雑怪奇に分けられるようになり、累進税率で所得税額が決まっていることなど全く無視した公正・中立・簡素から外れた制度となっている) 2024年11月21日の新聞に「自公国が103万円の壁引き上げ明記」と書いてあるが、途中には、*5-1-2・*5-1-3のように、①「基礎控除等を103万円から178万円に拡大」という公約を掲げた国民民主が衆議院選挙で躍進 ②国民民主は「最低賃金上昇率1.73倍に合わせて上げるべき」と提起 ③現在は、被用者は給与所得控除55万円と基礎控除48万円をたした年103万円まで非課税だが、178万円に上げると年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減る ④控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられ、その後約30年間据え置かれた ⑤政府は国民民主の訴え通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算 ⑥一律10%で課す地方税収の減少は4兆円程度と所得税減収よりも大 ⑦減税額は所得の多い人ほど大きくなるが、減税率は低所得者ほど大きい ⑧控除額引き上げは被扶養者の労働時間を延ばして収入増と労働時間確保の効果 ⑨年収の壁も労働者不足を招く原因 ⑩2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の1/3に相当する巨額の財源を、国民民主は税収の上振れ・予算の使い残し・外国為替資金特別会計の剰余金を充てると説明 等の議論があり、その議論は今も続いている。 このうち②については、国民民主が103万円から引き上げるべきとした178万円は、最低賃金の上昇を基に計算した数字であり、最低賃金の引き上げは給与引き上げを促す象徴的意味が含まれているため妥当か否かに議論があるが、そもそも103万円の壁にひっかかるため労働時間を制限する人は最低賃金に近い人であるため、⑧⑨を考慮するとともに、今後は、給与引き上げも最低賃金の引き上げに続くと仮定すれば妥当である。そして、①は、膨大な無駄使いをしながら、こっそり国民負担を増やし続けた政府への国民の怒りの結果なのである。 なお、所得税の「給与所得控除」は事業者の必要経費にあたる給与所得者の必要経費で、「基礎控除」は個人の生活費等の納税者の事情を加味して無理なく納税できるよう皆に対して設けられたものであるため、物価上昇すればどちらも上げるのが当然で、④のように、1995年までは物価上昇に合わせて引き上げられてきたのだ。 その後、1995~2012 年までは物価上昇が0近傍であったため、これらの控除金額は据え置かれたが、2013年以降は(5)の一番上の左と中央の図のように、日銀の金融緩和で物価が上昇し始めたので、本来なら物価上昇に応じて上げるべきだったものである。さらに、一番上の右図のように、体感インフレ率は2023年だけで11.4%の差があるため、2013年以降の累積では、(正確な資料はないが)国民民主が出した1.73倍に近いと思われる。 その上、③の「被用者の給与所得控除55万円」というのは、2018年度の税制改正で2020年分から38万円だった基礎控除額を48万円に引き上げた際に、給与所得控除の最低額を65万円から55万円に引き下げたもので、物価上昇による必要経費増とは逆向きの変更だったのである。従って、65万円の給与所得控除を112万円(65x1.73)にし、38万円だった基礎控除は66万円(38x1.73)にするのが物価上昇に見合った引き上げ額だが、きりの良さと⑦も考慮すれば、最低給与所得控除85万円、基礎控除額90万円くらいが適切であろう。 また、同じく2018年度の税制改正で、公的年金等控除は、2020年分から基礎控除が一律10万円引き上げられた代わりに10万円引き下げられ、改正前120万円だった金額が公的年金にかかる雑所得以外が1000万円以下なら110万円、1000~2000万円なら100万円、2000万円超なら90万円と物価上昇に反して引き下げられたものであり、現在の控除額を前提としても1.73倍にするのが妥当だ。 これに対し、⑤のように、政府は「控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減になる」などとして躊躇しているが、政府は、物価上昇で国民生活を圧迫しながら名目上増えた税収を享受していたのであるため、物価上昇に応じて本来なら引き上げるべきだった控除の財源は増えた税収に決まっている。さらに、皆の基礎控除額を上げるのだから配偶者控除は廃止すべきで、そのために児童手当を払っているのだから子の扶養控除も廃止すべきなのである。 そして、⑥のように、一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と所得税の減収より大きく、*5-1-4のように、自治体の財政が苦しいとして全国知事会長を務める宮城県の村井知事が強い言葉で懸念を表明されているが、上記の理論は地方税も同じである。 さらに、そもそも全地方自治体の個人住民税を「一律10%(市町村民税の所得割6%、県民税4%)」としたのは2007年からであり、「全地方自治体の税率を同じにしなければならない」という地方税法自体が地方自治に反するため、各地方自治体が自由に住民税率を決められるようにすべきだ。そして、自治体の経営努力の結果が、税率引き下げ・福祉の充実等を通して「住民の移動」という形で現れるようにすべきなのである。 2)社会保険料における年収の壁の問題点 <年収の壁の存在とその影響> ![]() 2022.8.12PRESIDENT 2024.11.7日経新聞 Ten Navi (図の説明:左と中央の図のように、年収100万円以上になると住民税が課税され、103万円以上で所得税も課税になる。また、年収106万円以上で51人以上の企業なら社会保険料が発生し、130万円以上になると全企業で社会保険料がかかる。さらに、150万円以上になると配偶者特別控除が減少し始めるため、働いても手取りの減る領域が存在する。さらに、年金収入に対する所得控除は120万円だったが、物価上昇にもかかわらず2020年分から110万円減らされた) 日本国憲法は、25条で「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めており、これに基づいて「社会保険」、「公的扶助」、「社会福祉」「公衆衛生」等の社会保障制度が整備されている。 しかし、社会保障制度の負担は、世帯単位なのか個人単位なのかも一貫せず、国民のためにならないご都合主義の制度設計も頻発したため、社会保障の負担をしない人・加重な負担をして見返りのない人・そもそも制度から漏れている人など、社会保障制度の矛盾が見過ごせなくなり、信頼を失っているのだ。そのため、「そもそも社会保障は、世帯単位なのか、個人単位なのか」という根源的な問題から出発する必要があろう。 そのような中、*5-1-1は、①「年収の壁」には「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」がある ②103万円を超えると、企業が配偶者手当を打ち切るケースが多い ③「106万円の壁」は51人以上の企業に勤めるパート労働者の年収が約106万円に達すると社会保険に加入する義務が生じて、社会保険加入前より手取りを増やすには年収約125万円まで働く必要がある ④年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある ⑤年収150万円以上で配偶者特別控除が段階的に減らされて夫の税負担が増える と記載している。 また、*5-2は、⑥厚労省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃方向 ⑦企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃し、週20時間以上の労働時間要件のみ残して「約106万円の壁」廃止 ⑧200万人が新たに年金・医療の社会保険料対象 ⑨社会保険加入で、医療保険で傷病手当金等の手当が厚くなり、厚生年金加入で老後の低年金リスクを軽減し、加入者増により将来世代の年金受給水準を改善する効果 ⑩改正の背景は最低賃金上昇 ⑪今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しで、学生除外要件も残すが、企業規模要件と賃金要件はなくなって、5人以上の個人事業所も全ての業種が対象 と記載している。 まず、社会保険料に関する「年収の壁」について述べると、①③⑥⑦⑧⑨の「106万円の壁」は、従業員50人以下の企業に勤めるパート労働者は社会保険料を支払う必要が無く、老後は低年金で、就業時の傷病手当もないのが、そもそも問題である。 そのため、「新たに200万人が年金・医療の社会保険料対象となって将来世代の年金受給水準を改善する」という以前に、本人への社会保障を手厚くし、他の労働者との公平性を保つためにも、「106万円の壁」は廃止するのが筋だ。しかし、⑪のように、5人未満の個人事業所が対象にならなければ、ここで働く労働者は、依然として社会保障の対象外に置かれるのである。 なお、「106万円の壁」を廃止したことによる手取りの減少を社会保険加入前まで戻すには、年収約125万円まで働く必要があるそうだが、⑩のように、最低賃金は上昇しているのだから働けば良いし、それもできなければ労働時間を週20時間以内に抑えれば良いだろう。 従って、④の「年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある」というのは、年収にかかわらず年金・医療・介護等の社会保証は必要であるため、社会保障制度が世帯単位であれば世帯の誰かが代表して支払うし、個人単位であれば個人が社会保険に加入して所得(≒負担力)に応じて負担するのが合理的であろう。 最後に、①⑤の「103万円の壁」「150万円の壁」のうち、「103万円の壁」は、本人に所得税がかからない年収上限であり、これを178万円まで上げるかどうかの議論が、現在、行なわれているのである。また、「150万円の壁」は、配偶者である夫か妻の配偶者特別控除を満額(38万円)受けられる被扶養者の年収上限のことだが、仮に「103万円の壁」が「178万円の壁」になれば、②や「150万円の壁」は不要になるので、廃止すれば良い。 3)選択的夫婦別姓制度について ![]() 平和政策研究所 2020.12.29 2024.9.17 日経新聞 産経新聞 (図の説明:1番左の図は、1979年女子差別撤廃条約以降の選択的夫婦別氏制度をめぐる経緯で、左から2番目の図は、2022年内閣府調査による姓の変更に関する意識調査だ。また、右から2番目の図は、夫婦の氏に関する各国の法制で、1番右の図が日本で旧姓の通称使用が通用する範囲だが、通称が堂々と広く通用できなければ通称使用には不便が残るのである) *5-3-1は、①立民が、議論の場である衆院法務委員会委員長ポストを獲得し、導入賛成の公明・自民内の一部議員を取り込む考え ②公明は、衆院選公約で「選択的夫婦別姓制度導入推進」と明記 ③国民民主・共産などは導入賛成 ④立民中堅は、「夫婦同姓を見直すことは家族観・社会のあり方に大きな影響を与えるため、丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘 としている。 上の①②③④によると、国会は党議拘束がなければ多くの議員が選択的夫婦別姓制度に賛成するようで、これには「『選択的』夫婦別姓制度だから、強制ではない」という説得の効果があると思うが、「姓(氏)」に関する利害関係は、結婚する両性だけにあるのではなく、子の利益・氏の存続・外部からの判別可能性も含むものである。 そのような中、*5-3-2は、氏の歴史として、⑤徳川時代は農民・町民に氏はなく ⑥明治8年2月13日の太政官布告で氏の使用が義務化され、その時は妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制で ⑦明治31年民法(旧法)成立で、夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する夫婦同氏制へ ⑧昭和22年改正民法750条で夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する夫婦同氏制へ ⑨同791条で嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は、離婚の際の父母の氏、非嫡出子は母の氏 と記載している。 歴史を見ると、確かに、⑤のように、徳川時代は農民・町民など平民には氏がなく、明治時代になってから、⑥のように、太政官布告で氏の使用が義務化され、この時は、中国・韓国と同じく妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制度だったが、その意味は、子は婚家のものだが、「腹は借り腹」で妻は婚家の一員ですらないということなのである。そして、現代でも、台湾はそうだし、日本でも「女は子を産む機械」「嫁して3年子無きは去る」などと言う人がおり、その考え方が根本にあると考えられる。 しかし、これでは余りに妻や母の立場が不安定で男女不平等であるため、日本では明治31年成立の旧民法で、⑦のように、「夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する」とする夫婦同氏制が施行され、その分だけ中国や韓国よりも妻や母の立場が法的安定性を持ったのである。 そして、⑧のように、昭和22年改正の戦後民法は、750条で「夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する」とする男女平等の夫婦同氏制を施行し、⑨のように、同791条で「嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は離婚時の父母の氏、非嫡出子は母の氏」とした。つまり、非嫡出子だけは母の氏を使うよう義務化されたのであり、日本の夫婦別氏制度は儒教の影響による男女不平等の流れをくむもので、その発想は今も残っているため要注意なのだ。 なお、*5-3-2は、⑩「選択的夫婦別氏制」の議論は女性の社会進出や男女平等推進の社会的気運の中で起こった ⑪2021年10月に最高裁大法廷で夫婦同姓を定めた民法規定は合憲という判決が出され、制度の在り方は国会で論じ判断されるべきと明言 ⑫内閣府の2021年世論調査では、結婚での改姓が多くの人に「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴と認識 ⑬夫婦同氏は新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとってセーフティネットの役割 ⑭選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失して安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする可能性 ⑮子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果 ⑯夫婦が別氏を選択することで子供の氏の選択という新たな課題 ⑰子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益 ⑱夫婦の名字・姓が違うことによる夫婦間の子どもへの影響の有無について、69%の人が「子供にとって好ましくない影響」と回答 としている。 1995年頃、最初に言ったのが私であるため知っているのだが、⑩⑪は事実である。私がそれを言った理由は、結婚で姓を変えると、i)仕事のキャリアが中断する ii)(女の子だけの場合)実家の姓が残らない iii)離婚したのに、その姓で有名になった前夫の姓を使わざるを得ない人がいる iv)女性だけ離婚が表面に出るのは不公平 などの理由からだった。 そのため、⑫の内閣府の世論調査で、結婚での改姓が「新たな人生の始まり」や「夫婦の一体感」の象徴と認識する人が多かったり、⑬のように、新婚期に初めて価値観をすりあわせて夫婦アイデンティティを形成するなどというのは、回答者に改姓しない男性が多く含まれていたり、そういう状態で結婚した男女は考えが甘かったりするのだと思う。 ただ、⑭のように、選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失するのは確かに困る。しかし、家族名としての氏が消失すると夫婦のアイデンティティが形成されないようなら、その結婚は誤りであるため、結婚前に結婚しない決断をした方が良かったのだ。 しかし、子どもは親を選べず、自分の親が互いに相手をけなし合っているのではなく尊敬しあっていることが自分の存在を肯定する要素であるため、⑮⑯のように、両親が同氏で自分も同じ姓であることが確かに家族への帰属意識や安心感を持たせる効果がある。また、⑰のように、子の氏を「早期かつ安定的に決定すること」が子の利益であり、⑱のように、夫婦の名字・姓が違うのは子にとって好ましいことではないだろう。 文化を含めた諸外国との比較について、*5-3-2は、⑲英・米は氏の変更は基本的に自由・豪・仏は同氏、別氏、結合氏のどれも可・独は同氏が原則で別氏・結合氏も可・中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可・伊は夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏・韓国は別氏が原則 ⑳日本の氏は家族全員が同じ氏を世代を超えて受け継ぐので、中国・韓国と同じ「身分規定の認識としての名前」に相当 ㉑韓国は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序を重視、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味が氏にある ㉒別氏を選択する夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない ㉓日本は夫婦同氏制を原則とすべきだが、日常生活における不利益は解消されるべきで、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の旧姓の通称使用拡大と法制化が望ましい ㉔選択的夫婦別氏制導入は氏に関する男女不平等の是正にはならない 等としている。 ⑲のように、英・米のように氏の変更が基本的に自由というのも、氏の意味を考えた時に疑問に思うが、豪・仏・独は同氏が原則で別氏・結合氏が可能であり、やはり原則は同氏なのである。また、伊は、夫は自分の氏で妻は自分の氏または結合氏と日本より男女不平等に見える。 なお、⑳㉑のように、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、韓国は妻だけ別氏が原則で同じ氏を世代を超えて受け継ぎ、氏には始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味があるのだそうだ。そのため、儒教を基にする国で妻の別氏が原則の国は、むしろ男女不平等で結婚における妻・母の立場の法的安定性が低く、㉔のように、選択的夫婦別氏制度の導入は男女不平等の是正にはならないのである。 さらに、*5-3-2は、㉒のように、「別氏の夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない」と記載しているが、確かに他のカップルが夫婦別氏の場合、私の経験では、長期間その2人が夫婦であることに気がつかなかったという不便があったが、自分の場合は、逆に配偶者の属性が知られないためステレオタイプな偏見を持たれず、自由に仕事をできるメリットがあった。 そのため、私も、今は、㉓のように、「日本は夫婦同氏制を原則とし、家族名としての氏は残したまま、日常生活においては氏を変更する個人の旧姓の通称使用を法制化し、拡大するのが良い」と考えており、法制化のやり方は、民法750条「1項:夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」に「2項:婚姻の際に定める氏が旧姓と異なる者は、旧姓を通称として使用することもできる」と加え、これに伴って戸籍法16条も変更することになる。 4)主体的に家事をせず、エンゲル係数の意味もわからない男性の「群盲象を撫ず」発言 *5-4は、①エンゲル係数(食費/消費支出)が日本で急伸し、G7で首位 ②身近な食材が値上がりして負担が家計へ ③実質賃金が伸び悩み、仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった ④食費割合の高い65歳以上の高齢者割合が2024年29.3%とトップ、エンゲル係数が高くなり易い土台がある所に物価高が直撃 ⑤生活の質の劣化懸念 ⑥スーパーで表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」、コメも大幅値上がり ⑦「庶民の味」の食材ほど上昇が激しい ⑧総務省消費者物価指数(2020年=100)で2023年の上昇率は5年前と比べて鶏肉12%、イワシ20%、サンマ1.9倍 ⑨日本のエンゲル係数は2022年で26%、2024年7~9月期は28.7%まで上昇 ⑩大和総研の矢作主任研究員は「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」 ⑪家計調査(総世帯)で食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、2023年15.8%と10年前より3%高い ⑫SOMPOインスティチュート・プラスの小池上級研究員は「係数上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべき」 ⑬小池上級研究員は「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」 等と記載している。 このうち①②④⑥⑦⑧⑨⑪は、統計数値であるため事実だろう。 しかし、③の「仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯が家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった」というのは、エンゲル係数の分子である「食費」しか見ていないため誤りだ。何故なら、共働きでなければ所得が減るため、分母の「消費支出」がさらに小さくなり、相対的に節約に限度のある食費の割合が高くなるからだ。わかり易く言えば、所得が減れば、子どもの塾や習い事を止めさせ、夫の小遣いを減らして、家族の食費を確保するしかないのだ。 また、⑩は、「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」とまるで中食(調理食品)が悪であるかのような言い方をしているが、栄養士が監修し、生産現場に近い場所で加工調理されてくる中食(調理食品)は、材料が新鮮なうちに加工され、調理時に捨てる部分は運ばないので運賃や家庭ごみが減り、残渣は生産現場で餌や肥料にアップサイクルできるのだ。 そして、最も重要なことは、⑬の「効率よく働く」を個人レベルでなく、社会レベルで達成しているのであり、共働き夫婦の家事の時短だけではなく、単身者や食事を自分で作れない高齢者に食事を提供することによって、要支援者にかかる支援時間を減らしているのである。 なお、小池上級研究員は、⑬で、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと悠長なことを言っておられるが、家事は外部委託すれば自給1,500円程度の仕事であり、週40時間、月4週間働けば24万円(1,500円/時間x40時間x4)稼げる仕事であることをご存じだろうか。そして、それに保育や介護が加われば、さらに高くなるのである。 そのため、共働きで家事も負担している場合の日本の妻は、「給与+24 万円」の働きをしているため、家事を負担していない男性とは異なり、いつも最大の効率で働くことを考えているのであり、それでも睡眠時間は世界1短いのだ。そのため、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと言うのは、「自分を基準に考えて、何をとぼけたことを言っているのか」と思われた。 結論として、⑫のとおり、「エンゲル係数の上昇は、生活レベルの低下が原因」にほかならないのである。 ・・参考資料・・ <日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約> *1:https://digital.asahi.com/articles/ASSBD3QDFSBDUTFK004M.html (朝日新聞 2024年10月12日) 核禁条約、際立つ消極姿勢 「核共有」言及で問われる被爆国のトップ 衆院選公示を15日に控え、与野党の政策論議が熱を帯びてきた。日本記者クラブの12日の党首討論会では、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が決まったことを受け、安全保障をめぐる議論が白熱。とくに核兵器をめぐる議論では、自民党と他党との立場の違いが浮き彫りになった。相手を指名して質問する討論会の前半。立憲民主党の野田佳彦代表は石破茂首相を指名し、議論の口火を切った。「昨日、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。日本は唯一の被爆国であり、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」。そして、こうたたみかけた。「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容するような発言をしている日本のトップでいいのか」 ●地位協定改定、野田氏「後押ししてもいい」 野田氏が突いたのは、核抑止力を重視する首相の持論だ。首相は就任直前の9月下旬に米シンクタンクに寄稿した論文で、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを踏まえ、「米国の核シェア(共有)や核の持ち込みも具体的に検討せねばならない」と強調した。野田氏はこの主張に疑問を示し、「(核兵器の保有や使用などを全面的に禁じる)核兵器禁止条約にせめて、オブザーバー参加するべきだ」と訴えた。共産党の田村智子委員長も首相を指名して「条約を批准するべきだ」と迫った。首相は「核廃絶の思いは全く変わらない。そこに至るまでの道筋をどうやって現実にやっていくか」と説明。だが、過去にウクライナが核兵器を放棄したことがロシアのウクライナ侵略を招いた背景にあるとの主張を展開し、「核抑止力から目を背けてはいけない。現実として抑止力は機能している」と強調した。核禁条約への態度をはっきりと示さない首相に対し、田村氏は「核禁条約に背を向けている」と批判。「核抑止は、いざとなれば核兵器を使うという脅しで、被爆者の願いを踏みにじるものだ」と指摘した。安倍、菅、岸田政権は核禁条約を批准せず、オブザーバー参加も見送ってきた。しかし、自民党と連立を組む公明党は「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」(石井啓一代表)とオブザーバー参加に賛成の立場。今回、日本の条約批准を訴えてきた日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことも、オブザーバー参加すら拒む自民党の消極姿勢を際立たせている。自民中堅は「政府は核禁条約から逃げ続けている。被団協とは正反対の姿勢で、政権浮揚には全くならない」と手厳しい。首相は討論会で「今までの政府の立場との整合性もあり、政府の長として軽々なことは言わない。抑止力を認めながら、核兵器の廃絶が本当に両立可能なのか。検証は必要だ」と述べるにとどめた。一方、首相は、就任後トーンダウンさせていた持論の日米地位協定の改定について「必ず実現する」と踏み込んだ。この日の討論会でも、自身が防衛庁長官だった2004年の沖縄国際大での米軍ヘリ墜落事故について改めて言及。「あの時の衝撃を忘れられない。沖縄県警が全く触れられず、機体も全部回収された」と振り返った。地位協定改定に消極的な米国との交渉を念頭に「相手のある話なので、どんなに大変かよく分かっている」としつつも、「これから党内で議論し、各党とも議論を進める」と意欲を見せた。野田氏も日米地位協定改定については「石破さんもおっしゃっているならば、私どももそれは後押しをしてもいいと思う」と協力する姿勢を示した。首相はもう一つの持論の「アジア版NATO」については「仕組みとして機能しないと思わない」と強調。「まず議論から始めなければ、何を言っても結実はしない」と述べ、自民党内での議論を進める考えを示した。 ●「減税」「給付」主張の野党 財源は語らず 各党が力を入れる経済政策についても論戦が交わされた。立憲の野田氏は、アベノミクスの「副作用」を克服していく必要があると主張。その点をどう認識しているか、首相に問うた。首相は「実質GDPはほとんど上がらず、実質賃金は下がりすらしたこともある。突き詰めれば、コストカット型の経済ということだった。これから先は、付加価値をつけて、それにふさわしい対価をきちんと得られ、個人消費が上がっていかない限り、デフレ脱却はあり得ない」と強調した。国民民主党の玉木雄一郎代表は、首相が「倍増する」とした地方創生の交付金の効果を疑問視した。首相は「全く効果を発現しなかったものもある。徹底して検証し、効果的な地方創生に使っていく」と答えた。各党の党首からは、負担減を軸とした政策を掲げる発言が相次いだ。共産の田村氏は中小企業への直接支援を訴えた。立憲の野田氏は、税金控除と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入を掲げ、「本当に困っている方に的を絞った対策だ」と主張。国民の玉木氏は、賃金上昇が継続するまで「金融緩和と積極財政を続ける」と明言し、ガソリン税に上乗せされている旧暫定税率の廃止も訴えた。一方、こうした施策の裏付けとなる財源や負担について、各党首とも積極的には語らなかった。公明の石井氏は、日本維新の会が公約に掲げる高齢者医療費の負担増について、「後期高齢者の窓口負担が3割になると、急激な負担増になる」と指摘した。維新の馬場伸幸代表は、すべての国民に一定額を支給する「ベーシックインカム」制度の導入を挙げ、「いろんな形で所得補償をしていく」と述べた。れいわ新選組の山本太郎代表は、首相に対して「消費減税に踏み切るべきだ」と迫った。首相は「消費税は景気にほとんど影響されない。社会保障の財源にあてなければいけない」と述べ、消費減税は「今のところ考えていない」と明言した。経済界からも早期導入を求める声が上がる「選択的夫婦別姓制度」についても議題になった。導入の是非を問われた首相は「議論を引き延ばすつもりはない。自民党内できちんと結論を得たい」と述べた。法案を党議拘束を外して採決することには「あまり賛成ではない」と述べた。維新の馬場氏は「戸籍制度をきちんと守っていくことを前提に賛成だ」と、家族同姓制度は維持したうえで、旧姓の通称使用を広げる考えを示した。 ●自民非公認候補、推薦の公明「地元の判断」と釈明 自民派閥の裏金事件を受け、「政治とカネ」の問題にどう向き合うのかも論戦になった。首相の後ろ向きな姿勢を浮き彫りにしようと、党から議員に渡され使途公開の義務がない政策活動費について、国民民主の玉木氏が切り込んだ。「政策活動費を使わない、使う、の方針を示していただきたい」と切り出し、自民党の公約を逆手に取って、こう追及した。「公約には廃止を念頭に見直すという言葉がある。廃止を公約に掲げた選挙で政策活動費を使うのはあまりにも矛盾だ」。これに対し、首相は「政策活動費自体は合法だが、どう見ても違法の疑いがある使い方はしない」と強調し、使途公開にも難色を示した。廃止については「遠い先のことではなく」としつつ、「国会においてもきちんと議論したい」と具体的な時期は示さなかった。煮え切らない首相の答弁に、玉木氏は「使い道を公開しない限り、違法か適法に使ったかはわからない」と、過去に刑事事件になった元自民議員の例を挙げて、首相の姿勢を批判した。政治とカネの問題への姿勢をめぐっては、自民と連立を組む公明にも疑問の目が向けられた。公明は公約で「クリーンな政治の実現」を前面に打ち出しているにもかかわらず、自民が非公認とした裏金問題に関与した2人を推薦。その矛盾を突いたのが、関西の小選挙区で公明党との「すみ分け」を解消し、初めて全面対決する維新の馬場氏だ。推薦した理由を問われた公明の石井氏は「当初は自民が公認しない方については、自民からの推薦の要請がないから、推薦は多分ないとの前提で考えていた」などと説明し、司会者が「発言をまとめてください」と促される場面も。その後の主催者との質疑でも「党本部が『この人はだめだ、あの人はだめだ』と上から命令をするわけではない」と、あくまでも地元の判断だと強調するなど苦しい釈明に追われた。公明が候補を擁立する小選挙区や、比例区での票を積み上げるため、推薦したとの見方がもっぱらだ。与党が防戦に追われる中、追い風に乗り切れない野党の姿も露呈した。政権批判票をまとめるためには、野党の候補者一本化が必要だが、公示日まであと3日と迫っても党同士の協議は進んでいない。それでも立憲の野田氏は「限られた時間だが、最後まで粘り強く、対話のチャンスがある限りはやり続けていきたい」と語るのみ。これに対し、共産の田村氏は、いらだちをのぞかせてこう訴えた。「裏金を暴いて追及の先頭に立ってきたのは共産だ。共産の候補者を降ろすことを前提として、裏金議員との対決というふうに話が進むのはいかがなものか」 <被爆者の定義> *2-1:https://nordot.app/1210406327982293009 (長崎新聞 2024/9/22) 「新たな救済策」で何変わる? 長崎の被爆体験者…手当など被爆者と大きな格差 広島との分断も 長崎原爆の爆心地から半径12キロの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている。根本的な違いは、国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうか。被爆者には認める一方、体験者については否定し、被爆体験に起因する「精神的疾患」だけを認める形だ。このため救済策に大きな格差がある。被爆者には被爆者健康手帳が交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担される。状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当、葬祭料など各種手当も受けられる。一方で、体験者は2002年度開始の支援事業により、精神科受診を前提に、精神疾患やその合併症(がん7種が昨年度追加)の医療費支給にとどまる。手当は一切ない。こうした被爆者との差に加え、体験者は原爆由来の「黒い雨」を巡る広島との分断にも直面。長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者も多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島だけに適用され、長崎は対象外だ。岸田文雄首相が今回示した救済策によって体験者も精神科受診が不要となり、医療費助成の対象疾病が被爆者とほぼ同じになる。一方で手当はないままだ。被爆80年近くがたち、全国の被爆者は約10万7千人で、最も多い37万人台(1980年代)から3割弱に減った。これに伴い国の被爆者援護費も減少。当初予算ベースで2023年度は約1188億円と、ピーク時の01年度から約470億円減った。一方、県内の被爆体験者(第2種健康診断受診者証所持者)は今年7月末現在で5111人。体験者への医療費助成については、23~25年度予算の概算要求で毎年12億円程度となっている。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1327282 (佐賀新聞 2024/9/26) 「被爆体験者」救済策 これが「合理的解決」か 国が指定した援護区域外で長崎原爆に遭ったため、被爆者と認められない「被爆体験者」の救済策を岸田文雄首相が自ら発表した。年内に全ての体験者を対象に医療費助成を拡充し、被爆者と同等にするという。現状より前進ではあるが医療費に限った措置であり、各種手当も支給される被爆者との格差は依然として大きい。そもそも体験者の願いは、戦争の「特殊の被害」(被爆者援護法)を受けた被爆者認定そのものであることを忘れてはならない。首相は同時に、体験者の一部を被爆者と認めた長崎地裁判決を不服として控訴する方針も表明、期限の24日に実行された。首相は「長崎原爆の日」の8月9日、現地で体験者と初めて面会し「合理的に解決するよう指示する」と明言した。これが「合理的解決」なのか。程遠い。救済策、訴訟対応ともに体験者側の反発は強く、法廷闘争はこれからも続く。国が被爆者認定の在り方を根本から見直す以外に、解決への道筋はないことを知るべきだ。被爆体験者に対する現行の医療費助成は、精神疾患とその合併症や、胃がんなど7種類のがんに対象を限定。しかも申請時や毎年1回、精神科を受診することが必要だ。救済策では、対象疾病の制限や精神科の受診要件を撤廃する。その点では被爆者並みとなるが、放射線に起因する疾病に罹患(りかん)していることなどを条件に、被爆者に支給される各種手当は対象外のままだ。これは国が、被爆体験者には精神的な悩みは認められるが、被爆者と違って放射線の影響はないとの立場を堅持しているからだ。その姿勢を改めて鮮明にしたと言え、体験者側の反発も当然だ。これでは、広島高裁が3年前、援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて、新基準に基づく被爆者認定を進めている広島との格差は残り続ける。この差は、長崎には客観的な降雨記録がないためとされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果などを根拠に、一部ではあるが援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限って被爆者と認めた。長崎の援護区域は、爆心地から南北約12キロ、東西約7キロの極めていびつな形だ。爆心地から遠くにいた人が被爆者認定され、より近くにいた人が体験者にとどめられたという例も少なくない。もともとの国の区域指定に問題があると言わざるを得ない。長崎では、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定された。その後、周囲に特例区域が追加され、全体として援護区域は広がったが、こうした線引きは旧行政区画に沿って行われた。原爆由来の放射性物質の影響が、行政区画通りに広がるはずがなく、不合理であることは明らかだ。国は画一的に線引きするのではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を、これまでの調査結果などと突き合わせて精査し、個別に判断すべきだ。長崎県によると、体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超える。長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった。時間がない。体験者に「国に見捨てられた」と感じさせてはならない。 *2-3:https://www.min-iren.gr.jp/?p=45956 (全日本民医連 2022年7月29日) 被爆体験者ってなに? 長崎には“被爆体験者”という聞き慣れない言葉がある。原爆の熱線や黒い雨を浴びながら、行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たち。放射能の影響ではなく、原爆体験のストレスで病気になったというのだ。「被爆体験者の“体験”って、いったいなに?」と話すのは長崎市香焼町の津村はるみさん(76歳)。1945年8月9日の原爆投下、生後19日の津村さんは布団ごと吹き飛ばされた。庭で洗濯物を干していた曾祖母は熱線を浴び、背中が真っ赤になった。母は乳がんや子宮がんを患い、津村さん自身も50歳の時に甲状腺がんを手術。「少しでも体調が悪いと、がんではないかと不安になる」と言う。長崎の被爆地は当初、旧長崎市と隣接する村の一部だった(図のピンク)。2度にわたって範囲が広がったが(青と緑)、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形だ。図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではない。ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれる。被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない。一方、被爆体験者に交付されるのは「被爆体験者精神医療受給者証」で、受給者証には「被爆体験の不安が原因で」病気になったと書いてある。放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向で、こんなおかしな仕組みができた。被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はないが、放射能の影響が考えられるがんなどは対象外。例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃がん」になった途端、医療費助成が打ち切られる矛盾した制度だ。津村さんは爆心地から南へ約9・7kmの旧香焼村で被爆したが、被爆地ではないため被爆体験者。「受給者証をもらうためには精神科の受診が必要だが、抵抗がある。そもそも私たちは精神病なのか。どうして被爆者と認めてくれんとかな」。 ●こんなこと許されるか 爆心地から半径12km圏内で被爆した全ての人を被爆者として認めてほしいー。「長崎被爆地域拡大協議会」(以下、協議会)は2001年から、長崎民医連や長崎健康友の会と協力して、国や県、市に要望してきた。長崎民医連は12~13年、被爆体験者194人を調査、約6割に下痢、脱毛、紫斑など放射線による急性障害があった。県連事務局次長の松延栄治さんは「被爆者の認定指針をはじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めている。これは社会保障政策も同様で根本的に間違っている」と指摘する。同じ被爆地でも、広島に被爆体験者はいない。広島高裁は昨年7月、広島で放射性物質を含む黒い雨を浴びた原告84人全員を被爆者と認める判決を出した。原告には爆心地から30km圏内の人もいた。厚労省は判決を受け被爆者認定指針を見直す方針だが、長崎の被爆体験者は対象外とした。協議会副会長の池山道夫さん(80歳)は長崎健康友の会副会長も務める。「広島も長崎も同じ原爆。何が違うのか。こんなことが法治国家として許されるのか」と怒る。協議会は高裁判決を踏まえ、12km圏外の原爆被害の実態調査を始めることを決めた。 ●梅干みたいな太陽 長崎市平間町の鶴武さん(85歳)は、爆心地から東へ7・3kmの旧矢上村で被爆。同じ村内の隣の集落は被爆地だが、山の尾根の反対側に当たる鶴さんの集落は認められなかった。「祭りも運動会も一緒にやってきた。なぜ分断されるのか」と言う。8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見た。「梅干みたいに赤黒かった」。父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した。「緑の手帳ばもらっているが、ピンクをもらえれば人として安心する。※ 広島は認めて、なぜ長崎は認めないのか、不思議か。私たちには先がない。生きているうちに原爆手帳を」と訴える。 ●「壁を突破したい」 協議会会長の峰松巳さんは95歳。長崎市深堀町に一人で暮らしている。「高齢化で子どもを頼って引っ越す会員も増えているが、県外に移住すると受給者証は返還しなければならない。こんな酷い制度を変えるために活動している」と語る。峰さんの11人の兄弟姉妹のうち、4人は幼くして早逝。その後も白血病や肺炎で3人が亡くなったが、誰も被爆者とは認められなかった。「放射能の影響を小さく見せたい米国の意向で、日本政府は被爆地域を狭く限定している」と憤る。協議会の山本誠一事務局長(86歳)は、原爆で一緒に吹き飛ばされ9歳で亡くなった友人が忘れられない。この友人は原爆投下から下痢が続き、60日後に突然亡くなった。一緒に運動してきた仲間が、受給者証を交付された半年後にがんになり「手帳は使えない」と無念のうちに亡くなったことも。「何度打ち砕かれても、多くの人の支えで運動を続けてきた。民医連や友の会をはじめ、皆さんと一緒に壁を突破したい」と山本さん。4年前に心筋梗塞の手術をし、3本のステントが体内に残る。「まだ、死ぬわけにはいかないのです」。 ※被爆者に交付される被爆者健康手帳の表紙はピンク色、被爆体験者精神医療受給者証は緑色 <衆院選と原発・エネルギー政策> *3-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/224cf2459efb29b2e698decc9df4c9aa11c37c8f (Yahoo、毎日新聞 2024/10/23) 議論深まらぬ原発政策 原発立地でも「選挙戦では触れもしない」 3年前の前回衆院選から原発政策は大きく変わった。岸田前政権は次世代型原発へのリプレース(建て替え)や、最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めるなど、十分な議論がないまま、福島の事故を受けて進めてきた「脱・原発依存」から大きくかじを切った。なし崩しで進む原発回帰だが、今回の衆院選でも議論は低調なままだ。「原発の20年延長の話は、もう夏前には終わった感じ。衆院選では話題になっていない気がする」。九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市で飲食店を経営する40代女性は振り返る。川内原発では、1号機は7月に原則40年とされる運転期間を超え、国内で4基目となる最長20年の延長期間に入った。2025年11月には2号機も40年を超える。運転延長を巡っては、20年の知事選で「安全性の検証」を訴えた塩田康一氏が初当選。22年に九電が原子力規制委員会に運転延長を申請すると、23年10月には市民団体が約4万6000人の署名を集め運転延長の是非を問う県民投票条例制定を求める直接請求をするなど議論の盛り上がりを見せた。だが、県議会は条例案を否決。同年11月には原子力規制委が延長を認可し、翌12月には、薩摩川内市の田中良二市長や塩田氏が相次いで容認した。今年7月の知事選では、原発について目立った議論が交わされることなく、産業振興などを訴えた塩田氏が延長反対を掲げた新人に大差を付けて再選。今月20日には薩摩川内市長選が告示されたが、田中氏以外の立候補はなく、あっけなく無投票再選が決まった。衆院選では、原発の利用について、自民党、日本維新の会、国民民主党などが推進の立場なのに対し、共産党、れいわ新選組は脱原発を掲げる。立憲民主党は、公約では触れていないが党綱領に原発ゼロを明記する。だが、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する、自民と立憲の候補者は発言内容は違えど、いずれも運転延長に容認の立場で、大きな争点となっていない。市民団体「川内原発建設反対連絡協議会」の鳥原良子会長は「立地する地元では、原発関連の仕事に就いている人も多く、争点にしたくないだろうけど、選挙でしっかり考えを示すべきだ」と注文する。福島の事故後、玄海原発(佐賀県玄海町)の2基を含め原発4基が再稼働している九州電力管内は、全国でも電気料金が低く抑えられている。ただ、原発賛成の立場を取る市民からも「安全性について『わかりにくい』『不安だ』という声はある。市民に理解してもらうよう説明してほしい」との声が上がる。一方、原発利用とセットで語る必要がある「核燃料サイクル」も、実現が見通せないままだ。原発から出る使用済み核燃料を再処理し、核燃料として再び原発で使う計画だが、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場ではトラブルが続き、1997年の完成予定だったのが27回も延期されている。再処理工場が稼働できたとしても、再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドも立たない。最終処分場に絡んでは5月、玄海町が原発立地自治体として初めて、選定調査の第1段階である「文献調査」受け入れを表明。脇山伸太郎町長は「国民的議論の喚起」を求めた。だが、安全性や風評被害への懸念は強く、どの自治体も簡単に手を挙げられないのが現状だ。選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が02年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、玄海町の3自治体にすぎない。国内で原発が稼働して半世紀超。使用済み核燃料は各地にたまっており、原発利用の賛成、反対を問わず最終処分場整備は避けては通れない問題だ。だが、脇山氏の願いとは裏腹に、県内の選挙区でも議論は深まっているとは言い難い。玄海町の調査受け入れに積極的に関わった町議会原子力対策特別委員会の岩下孝嗣委員長は「選挙戦では政治資金の話ばかりで原発政策には触れもしない。(放射性廃棄物の処理など)『バックエンド対策』はまだ国民全体がよそ事のような感じだ。エネルギー安全保障など、本来国にとって大事な政策をもっと訴えてほしい」と求めた。 *3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/348660 (東京新聞 2024年8月21日) 原発コストは太陽光発電の何倍?アメリカの最新試算でわかった驚きの数字 次期基本計画でどうする日本政府 原子力発電のコストが上昇している。米国の最新の試算では、既に陸上風力や太陽光より高く、海外では採算を理由にした廃炉も出ている。日本政府の試算でもコストは上昇傾向だ。年度内にも予定されるエネルギー基本計画(エネ基)の改定で、原発を活用する方針が盛り込まれれば、国民負担が増えると指摘する専門家もいる。 岸田文雄首相(資料写真) ◆岸田政権は「原発を最大限活用」 政府は福島第1原発事故後、エネ基で原発の依存度を「可能な限り低減」する方針を掲げてきた。しかし岸田文雄政権発足以降、2023年のGX基本方針などで「原発を最大限活用」と転換。エネルギー安全保障や二酸化炭素の排出抑制を回帰の理由に掲げるが、事故の危険性に加え、コスト高騰のリスクもはらむ。米国では23年、民間投資会社ラザードが発電所新設時の電源別コスト「均等化発電原価(LCOE)」を発表。原発のコストの平均値は、陸上風力や太陽光発電の平均の3倍以上だった。経年比較でも原発のコストは上がり続け、14年以降、太陽光や陸上風力より高くなった。均等化発電原価 発電所を新設した場合のコストを電源種類別に比較する指標。建設、設備の維持管理、燃料購入にかかる費用を発電量で割って算出する。日本では、1キロワット時の電力量を作るのに必要な金額で比較することが多い。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)の国際的指標として使われる。単純なコストだけでなく、補助金など政策に関連する費用を含めて算出する場合もある。国内では、経済産業省の作業部会がLCOEを計算。21年の調査では30年新設の想定で、原発のコストは1キロワット時あたり最低で11.7円。前回15年、前々回11年を上回った。一方、陸上風力や太陽光のコストは21年でみると、原発とほぼ変わらなかった。 ◆専門家「再稼働でも再エネ新設と同程度」 東北大の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授(環境政策論)は、「原発の建設費用は1基あたり1兆~2兆円」と説明。コスト上昇の要因として、事故対策費用がかかる上、量産が難しいことを挙げる。「最近の原発は事故対策を強化した新型炉が中心で、技術が継承されておらず、高くつく。太陽光と風力は大量生産で安くなったが、この効果が原発では働きにくい」と指摘する。経産省はエネ基の改定に合わせ、年内にも最新のLCOEを発表する見通し。明日香氏は「今年は21年と比べ、原発新設のコストが上がるのが自然。再稼働でも再エネ新設と同程度という調査もある。政府は原発の活用を進める上で、はっきり『安いから』とは言わないだろう」とみる。 ◆原発活用でも「電気代下がるとは考えにくい」 海外でも日本と同様に、原発推進にかじを切る国は増えている。しかし、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「近年はコスト高で原発の廃炉や計画断念、建設遅延が相次いでいる」と指摘。実際に国内の原子力研究者らでつくる研究会のまとめでは、米国で11年以降、13基が経済的な理由で閉鎖された。松久保氏は「国内も、原発の活用で電気代が下がり、国民の負担軽減になるとは考えにくい」と話している。 *3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/360944 (東京新聞 2024年10月18日) 「原発も対象」巨額の新補助金、詳細なぜ「黒塗り」…集めた電気料金も原資 島根3号機に年700億円試算も 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を減らす発電所の改修や新設を対象に、発電会社が補助金を受け取れる国の制度が今年から始まった。補助金の原資には市民が払う電気料金も含まれる。しかし発電会社への補助額など内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できないようになっている。 ◆23社の52電源に総額4102億円が この制度は「長期脱炭素電源オークション」。1月に入札が行われた。発電会社は施設などの維持費を積算し、経済産業省が所管する電力広域的運営推進機関(OCCTO)の入札に応じる。落札できた場合、維持費に相当する補助金を受け取れる。補助額は各社の落札価格が基になる。OCCTOによると、初年度の2023年度の募集は最大1000万キロワットで、23社計52電源が総額4102億円で落札した。水力発電やバイオマス発電、蓄電池のほか、原発では唯一、中国電力の島根3号機(131万キロワット)が含まれる。 ◆価格の情報公開請求には「非開示」 個々の落札価格や受取期間は公表されていない。東京新聞は個別の落札価格などについてOCCTOに情報公開請求をしたところ、「非開示」となった。「事業者の経営方針や事業活動の情報と考えられ、公表対象ではない」とした。制度を設計した経産省資源エネルギー庁への情報公開請求では、文書不存在を理由に「不開示」だった。同庁の担当者は「必要な時が来たら(OCCTOに)情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」とする。原発を対象に補助金を受ける中国電力にも尋ねたが「経営戦略上、回答を控える」とした。 ◆支払いを拒めないのに負担させられる 初回の2023年度は新設や建て替えに補助対象が絞られたが、今月手続きが始まった2024年度からは「新規制基準への安全対策工事が必要な原発」も対象となる。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めない税金のようなものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかが分かるよう公開するのが当然だ」と語る。NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「落札価格が公表されなければ、応札価格が低い順から落札するという基本ルールが機能しているのかさえチェックできない」とも指摘。この懸念について、エネ庁の担当者は「OCCTOを信頼するしかない」と話した。長期脱炭素電源オークション 発電した電気(キロワット時)を売買する卸電力市場に対し、発電能力(キロワット)を取引する容量市場の一つ。再生可能エネルギー拡大の影響で、卸電力市場での電気価格が低下し、大手発電会社が保有する大規模電源の投資回収見込みが不確実になったことが導入の背景にある。発電会社が電源維持のために必要な金額をキロワット単価で応札し、低い順から落札。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)実現に向け、毎年400万〜600万キロワットを調達し、化石燃料から脱炭素電源への移行を目指す。ただ初回は将来の脱炭素化を条件にLNG火力も参加した。 ◇ ◆落札すると人件費など20年間保証 脱炭素電源の発電会社を対象とする補助金で、個別の落札価格などが公表されておらず各社が得る金額は不明だ。国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機はどれだけの補助金を得るのか。NPO法人「原子力資料情報室」が公開情報で試算すると、年間700億円を超えた。この制度では、発電会社はまず年間の固定費(建設費や人件費など)に当たる金額をキロワット単価で応札する。落札すると、固定費分が収益の一部として原則20年間保証される。ただ実際の売電収入と合わせると収益の二重取りとなるため、売電後の利益の9割を還付する。 ◆「国民の理解が得られるとは到底…」 同NPOは今回、公表されている落札総額を落札総容量で割り、1キロワット当たりの平均落札価格を5万8254円と計算。これに同原発の容量を乗じ、766億円とはじいた。補助金を受け取れる「制度適用期間」も非公表のため、原則通り20年だと計1.5兆円。OCCTOによると、落札電源の3分の1が20年を超える受け取り期間に設定している。ここから還付金が発生するが、補助が巨額なのは変わりない。同NPOの松久保肇事務局長は「ほとんど知らされることなく、極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘する。 *3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241028&ng=DGKKZO84404960Y4A021C2EAF000 (日経新聞 2024.10.28) 自民独占 8県どまり 小選挙区、前回より6県減、新潟・佐賀は立民が独占 自民党は27日に投開票した衆院選の小選挙区で、山形、群馬、熊本など8県の議席を独占した。前回2021年衆院選の14県から6県減らした。自民党派閥の政治資金問題などが影響した。立憲民主党が新潟、佐賀両県、日本維新の会が大阪府のすべての小選挙区を制した。自民が独占したのは、山形、群馬、富山、鳥取、山口、徳島、高知、熊本の8県。徳島、熊本両県は今衆院選で新たに加わった。独占が崩れたのは、青森、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、島根、愛媛の8県だ。滋賀県は維新、そのほかの選挙区はすべて立民が議席を奪った。岐阜4区では立民の元職、今井雅人氏が自民前職を破った。福井2区は政治資金収支報告書に不記載があり、自民から公認されずに無所属で出た高木毅元復興相が落選した。滋賀1区は前原誠司元外相とともに国民民主党を離党した後、教育無償化を実現する会を経て維新に移った斎藤アレックス氏が議席を得た。島根1区は細田博之元衆院議長の死去に伴う24年4月の補欠選挙で当選した立民前職の亀井亜紀子氏が議席を維持した。和歌山1区は自民新人、山本大地氏が競り勝った。23年補選では維新の林佑美氏が当選していた。2区は今回無所属で出馬した旧安倍派「5人衆」のひとりで、参院からくら替えした世耕弘成元経済産業相が議席をとった。党が追加公認をすれば和歌山県も自民の独占県になる。立民は新潟県5小選挙区すべてで前職と元職が議席を得た。同県2区では政治資金問題を巡り自民から公認を得られず無所属で出馬した細田健一氏が議席を逃した。佐賀県も前回衆院選に引き続き立民がすべての議席を独占した。維新は大阪の全19選挙区で勝利した。維新は21年衆院選まで公明党が議席を持ってきた大阪府と兵庫県の6選挙区で初めて候補者を立てた。大阪府の4選挙区はすべて維新、兵庫県の2選挙区は公明が議席を獲得した。維新はこれまでの党の看板政策である「大阪都構想」への協力を得るため公明現職のいる小選挙区への擁立を見送ってきた経緯がある。23年4月の統一地方選で大阪府議会に加え、大阪市議会でも過半数を獲得し、候補者の擁立に踏み切った。 *3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241029&ng=DGKKZO84423330Y4A021C2EP0000 (日経新聞 2024.10.29) 経団連「政策本位の政治期待」 自公中心、安定訴え 経団連は28日、自民党と公明党の与党が過半数を割った衆院選の結果について十倉雅和会長の談話を発表した。「自民党・公明党を中心とする安定的な政治の態勢を構築し、政策本位の政治が進められることを強く期待する」と訴えた。与党の敗因に関して「政治資金を巡る問題に国民が厳しい判断を下した」との認識を示した。「待ったなしの様々な重要課題に直面している」と主張し、成長と分配の好循環や原子力の最大限活用、賃上げへの環境整備などに迅速に取り組むよう求めた。日本商工会議所の小林健会頭は談話で「連立与党の枠組みがいかなるものであれ、デフレ経済からの完全脱却などに不退転の決意で臨むべきだ」と唱えた。経済同友会の新浪剛史代表幹事は「与野党問わず現実を直視した上でしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めてほしい」と要求した。業界団体では日本鉄鋼連盟の今井正会長(日本製鉄社長)が「安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する」とのコメントを発表した。石破茂首相は連立政権の枠組みの拡大など野党の協力を引き出す道を探る。自民党内で連携を模索する声がある日本維新の会や国民民主党は衆院選で消費税の減税を提起した。経団連の十倉氏は22日の記者会見で「暮らしをよくするために消費税を下げるというのはやや安直な議論ではないか」と批判した。 *3-1-6:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241029/k10014622291000.html (NHK 2024年10月29日) 宮城 女川原発2号機が再稼働 福島第一原発と同タイプで初 東北電力は29日夜、宮城県にある女川原子力発電所2号機の原子炉を起動し、東日本大震災で停止して以来、13年半余りを経て再稼働させました。事故を起こした東京電力福島第一原発と同じタイプの原発で、このタイプでは初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。東北電力女川原発2号機は、13年前の巨大地震と津波により外部電源の多くが失われ、地下の設備が浸水するなどの被害が出ましたが、その後、防潮堤を海抜29メートルの高さにかさ上げするなどの安全対策を講じて、2020年に原子力規制委員会による再稼働の前提となる審査に合格しました。その後、安全対策の工事や国の検査などが終わったことを受けて再稼働することになり、女川原発2号機の中央制御室では、29日夜7時に、東北電力の運転員が核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く操作を行い、原子炉を起動させました。東北電力によりますと、作業が順調に進めば夜遅くにかけて原子炉で核分裂反応が連続する臨界状態になり、11月上旬には発電を開始する見通しだということです。女川原発2号機は、事故を起こした東京電力福島第一原発と同じBWR=「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、このタイプの原発では東日本大震災のあと初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。また、国内でこれまでに再稼働した12基の原発はすべて西日本に立地していて、東日本にある原発の再稼働は初めてです。政府は、脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け原発を最大限に活用する方針で、12月には同じ「沸騰水型」の中国電力島根原発2号機の再稼働が計画されています。また、電力各社は、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発や、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発など東日本を含む各地の原発についても、今後地元の理解を得た上で再稼働することを目指しています。 ●女川町長 “緊張感と責任感持って慎重に対応を” 女川原発が立地する自治体のひとつ、女川町の須田善明町長は「原子炉の起動は一番の大きな山とは言えるが、送電接続をもって再稼働であり、プロセス全体の安全面の確認が完了するまで状況を注視していく。東北電力に対しては営業運転の段階までしっかりと工程を進め、作業では点検などを着実に実施し、安全上の不備がないよう緊張感と責任感を持って慎重に対応するよう求めている。引き続き進捗状況などの分かりやすい情報提供や、現在の枠組みにとどまることのない継続的な安全性向上を求める」とするコメントを発表しました。 ●宮城県知事 “安全最優先で作業を” 女川原発2号機が再稼働することについて、宮城県の村井知事は午前中に開かれた定例の記者会見で「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい。少しでも異常があった場合にはためらうことなく作業を止めて、県民に積極的に情報公開をしてほしい」と述べました。そして、「事故後被災した原子炉としては初めての再稼働で、他の原発と違って非常に注目度が高いと思っている。私もこの前、視察をしてきたが、本当にここまでやるのかと驚くほどの対応をしていた。安全度は極めて高まったと思っているが、なお油断することなくしっかり対応していただきたい」と述べました。その上で事故が起きた場合に備えてまとめた住民の避難計画については「いざというときに計画のとおり住民が動いてくれるのか、動作がちゃんとするのか。訓練をしながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要だと思っている」述べました。 ●13年前の被害とその後の対策 女川原発2号機は、東日本大震災の際に、敷地内で震度6弱の揺れが観測され、約13メートルの津波が押し寄せました。周辺環境に放射性物質が漏れることはありませんでしたが、原発に電気を送り込む外部電源の多くが鉄塔の倒壊などで失われたほか、敷地の下の港にあった重油タンクが倒壊したり、「熱交換器」と呼ばれる設備がある地下室が浸水したりするなどの被害が出ました。このため、東北電力は再稼働に向けて、2013年から地震や津波などの際の事故に備えた安全対策工事を進めてきました。具体的には、想定される最大クラスの津波に備えて、防潮堤の高さを海抜29メートルにかさ上げしたほか、地震による被害を抑えるための原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行いました。さらに、事故が起きても、原子炉を7日間冷やし続けられる量に当たるおよそ1万トンの水をためられる貯水槽の設置や、ケーブルを入れる管を燃えにくい素材で覆う工事など、さまざまな面で安全対策を講じてきたということです。こうした対策で、東北電力は13年前のレベルの地震や津波にも耐えられるとしています。安全対策工事をめぐっては、東北電力は当初、完了時期を2016年3月と発表していましたが、追加工事などを理由にその後7回の見直しが行われ、ことし5月下旬にようやく完了に至りました。震災後の安全対策工事にかかった費用は、約5700億円にのぼるということです。また、テロなどに備えるための「特定重大事故等対処施設」は、再稼働に必要な原発の工事計画の認可から5年以内の設置が義務づけられていて、期限となる再来年12月までに、約1400億円かけて建設する予定だということです。 ●再稼働で600億円程度のコスト削減か 東北電力によりますと、82万5000キロワットの出力がある女川原発2号機が発電を再開することで、年間で一般家庭の約162万世帯分の電気を賄うと試算されています。東北電力が供給する電力量の構成は、火力発電が67%を占めていますが、今回の再稼働で火力発電所で使っていた燃料費の削減につながり、来年度は、今年度の燃料価格に基づく試算で600億円程度のコストが抑えられる見通しだということです。ただ、東北電力では再稼働に伴って電気料金の値下げをするかについては慎重な姿勢を示しています。昨年度、最終的な利益が2261億円と過去最高となりましたが、その前年度までの2年間はロシアによるウクライナへの侵攻で、天然ガスなどの燃料価格が高止まりしたことなどから赤字となり、自己資本比率が低い水準が続いています。このため東北電力は悪化した財務基盤の立て直しが必要だとしていて、経営の効率化の進捗などを総合的に判断したうえで、電気料金が値下げできるか検討するとしています。 ●武藤経産相「大きな節目になる」 女川原発2号機が再稼働することについて、武藤経済産業大臣は29日午前、「大きな節目になる」と述べました。11月上旬には発電を開始する見通しについては、「東日本における電力供給構造のぜい弱性や電気料金の東西格差、経済成長機会の確保という観点からも、再稼働の重要性は極めて大きい。東日本としては震災後、初めての原子炉起動で大きな節目になり、安全最優先で緊張感をもって対応してほしい」と述べました。そのうえで、新潟県にある柏崎刈羽原発の再稼働については、「地元の不安の声や地域振興の要望を踏まえながら、再稼働への理解が進むよう政府をあげて取り組んでいきたい」と述べました。 ●再稼働の背景 脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け、政府は原子力発電を最大限に活用する方針で、安全性の確保を前提に地元の理解を得た上で、東日本大震災のあとに運転を停止している原発の再稼働を進めていくことにしています。再稼働の背景にあるのは、1つは日本の化石燃料への依存です。国内の電力供給は約7割が火力発電に依存していて、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、サプライチェーンの混乱によって供給不安の問題も出ました。政府としては、原発の活用で化石燃料への依存度を下げ、エネルギーの安定供給につなげたい考えです。もう1つは、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げる中で、脱炭素電源を増やしていく必要があるためです。今後、国内でも電力需要が増加していく可能性も指摘されています。生成AIの普及が急速に進む中で、不可欠なデータセンターや、半導体の製造工場などの建設が拡大するとみられ、こうした施設は大量の電力を消費します。全国の電力需給を調整しているオクト=電力広域的運営推進機関によりますと、東日本大震災後、省エネや節電の進展などを背景に、全国の電力需要は減少傾向にありました。しかし今後、電力需要は上昇に転じ、9年後の2033年度にはデータセンターなどの新増設によって約537万キロワットの需要が増える見込みだとしていて、政府はこうした需要に応えるためにも、原発の再稼働を進めていく必要があるとしています。 ●使用済み核燃料 4年程度で満杯に 原発の運転で出る使用済み核燃料は、青森県六ヶ所村にある再処理工場に運ばれる計画となっていますが、完成時期が遅れているため、全国の原発に留め置かれた状態が続いています。用済み核燃料は、原発の建屋の中にある燃料プールで一時的に保管されていますが、東北電力によりますと、女川原発2号機ではすでに燃料プールの管理容量の79%に達していて、再稼働に伴って今後4年程度で満杯になる見通しです。このため、東北電力は使用済み核燃料を女川原発から搬出するまでの間、金属製の容器に入れて保管する乾式貯蔵施設を敷地内に設置し、2028年3月に運用を開始する計画です。ただ、原発の立地自治体からは、再処理工場の完成が遅れる中で、施設内に長期間にわたって使用済み核燃料が留め置かれるのではないかという懸念も出ています。 ●原子力規制委も態勢強化 国内で初めて「BWR」=「沸騰水型」の原発が再稼働するのにあわせて、検査を行って運転を監視する原子力規制委員会も、態勢を強化しています。これまで再稼働してきた「PWR」=「加圧水型」とは内部の設備が異なるほか、運転操作にも異なる部分があるため、検査官には、検査や運転の監視にあたってそれぞれのタイプに合わせた対応が求められるということです。検査官の中には「BWR」の検査に携わった経験のない職員もいて、原子力規制委員会では、検査官に改めて知識を確認してもらおうと、研修を増やして態勢を強化しています。2023年秋以降、原発の中央制御室を模したシミュレーターを使って、トラブルが起きやすい起動の手順を確認する研修をこれまで9回開催し、約30人の検査官が受講したということです。原子力安全人材育成センター原子炉技術研修課の白井充課長は「BWRとPWRはシステムの構成や動きが異なるため、検査官がそれぞれに対応できるようにしている。起動やトラブル対応などを重点的に学習してもらった」と話していました。 ●「PWR」と「BWR」 全国の稼働状況は 東京電力福島第一原発の事故のあと新たに作られた規制基準の審査に合格し再稼働したのは、女川原発2号機で13基目です。国内には33基の原発がありますが、これまでに再稼働した12基はいずれも西日本に立地しているほか、事故を起こした福島第一原発とは異なる「PWR」=「加圧水型」と呼ばれるタイプでした。一方、福島第一原発と同じ「BWR」=「沸騰水型」と呼ばれるタイプは国内に17基あり、東北電力や東京電力など東日本にある原発の多くがこのタイプですが、再稼働したのは女川原発2号機が初めてです。女川原発以外では、柏崎刈羽原発6号機と7号機、東海第二原発、島根原発2号機がすでに新しい規制基準の審査に合格していて、このうち島根原発2号機は12月に再稼働する計画となっています。ただ、柏崎刈羽原発は地元の了解が得られておらず、東海第二原発は避難計画の策定などが課題となっていて、「BWR」の再稼働がどこまで進むかは見通せない状況です。 ●専門家に聞く「PWR」「BWR」の ”違い” 「PWR」と「BWR」。なぜこうした違いが生じているのか。経緯や安全性について、原子力規制庁の元幹部で長岡技術科学大学の山形浩史教授に聞きました。 Q.「BWR」と「PWR」は安全性に違いはあると考えていますか。 『BWR』は、原子炉を覆っている格納容器が『PWR』に比べて小さいという特徴があります。福島第一原発の事故では、炉心が溶けるという、設計では考えていなかったような事態が起こりました。小さい格納容器では余裕がなくて、事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなって、蒸気と一緒に放射性物質が放出されました。福島第一原発の事故以前の対策では、炉心が溶けるというような事態を考えた場合には、格納容器が小さい『BWR』は不利であったということになります Q.福島第一原発の事故後に行われてきた対策について、どのように考えていますか。 事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなりそうになったら、弁を開けて蒸気を放出させるという対策を新しく要求しています。ただし、そのまま放出すると蒸気と一緒に放射性物質が放出されてしまいますので、水などに放射性物質を吸着させます。こうした対策を『BWR』には特別に要求をしています。ですから、新しい規制基準を満足していれば、『PWR』と同等、またはそれに近いレベルまで安全性を高められたということになります Q.世界では「PWR」が主流、国内では「BWR」と「PWR」が半々となっています。「BWR」と「PWR」は、コスト面で違いがあると考えていますか。安全面、コスト面ともに大差ないと思います。原子力発電所はもともと原子力潜水艦の技術が使われています。原子力潜水艦が『PWR』だったので、地上も同じ『PWR』から始まりました。先行したものが技術や審査の実績が積み上がってくるので、電力会社としてもそちらのほうが経営面でのリスクが少ないということになるかと思います。日本の場合は『PWR』と『BWR』の両方ありますが、電力会社が、昔からPWR系のアメリカのメーカー、BWR系のアメリカのメーカーのどちらとつきあいがあったのかで分かれたのだと思います。 Q.なぜ「BWR」のほうが再稼働が遅くなったのでしょうか。 新規制基準が施行された日に電力各社が『PWR』の審査の申請をしました。『PWR』はフィルター付きベントの設置が求められていなかったため、新しい検討要素がなく対応が早くなったのではないかと考えられます。最初に鹿児島県の川内原発の審査が進み、1つ前例ができるとほかの『PWR』の審査も進むようになりました。少し遅れて『BWR』の申請が出され、技術力のある東京電力の柏崎刈羽原発の審査が進みました。しかし、テロ対策の不備があり、東京電力の事情で大きく遅れたということだと思います。東京電力を追うように審査が進んだ東北電力の女川原発、中国電力の島根原発が再稼働することになったのだと思います。 Q.「BWR」の再稼働にあたって、事業者にはどのようなことが求められますか。 『BWR』にはフィルター付きベントという安全装置がありますが、これ使う時は放射性物質が少なからず出ます。そういうことがあるかもしれない。それを起こさないために今何をするのか。そういうことをしっかり考えてほしいです。周辺地域に対しての影響というのは大きなものがあります。これを肝に銘じて安全対策に取り組んでいただきたいと思います。 ●避難計画の課題 宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大な事故が起きた際には、住民を安全に避難させることができるかが課題となります。元日に起きた能登半島地震は、地震や津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」となった場合の課題を改めて突きつけました。1つ目は住民の避難路の確保です。能登半島地震では地震による土砂崩れなどの影響で道路が通行止めになって避難できず、孤立した集落も多く見られました。宮城県によりますと、牡鹿半島では住民が避難に使う3つの県道には、あわせて92か所で土砂崩れなどの危険性がある「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」があります。さらに、巨大津波が発生した場合には、2つの県道であわせて14か所が、津波による浸水で通行できなくなるおそれもあります。課題の2つ目は、被ばくを避けるため、まずは自宅など建物の中にとどまる「屋内退避」についてです。国の指針では原発で重大な事故が起きた際、原則、半径5キロ圏内の住民は即時に避難し、5キロから30キロの住民は自宅などに屋内退避するとされています。しかし、能登半島地震では住宅をはじめ多くの建物が倒壊しました。専門家からは仮に倒壊しなかった場合でも、巨大地震のあとは、倒壊の危険性がある自宅にとどまり続けることは困難だと指摘されています。こうしたことについて宮城県は、国や関係機関などと連携してヘリコプターや船などあるゆる手段を使って住民を避難させるなどとしていますが、「複合災害」が起きたときの避難計画の実効性を、いかに高めていくのかが問われることになります。 ●再稼働反対の人たちが抗議活動 29日午前中、女川原発のゲート前には、再稼働に反対する団体などから約30人が集まりました。プラカードや横断幕を掲げ、「周辺住民の被ばくや生活の破壊を全く顧みず、私たちの声を全く無視した再稼働を許すことはできません」などと訴えました。また、東北電力の樋口康二郎社長への申し入れとして、能登半島地震から避難への不安が大きくなり、避難計画を示されても安心できないことや、東京電力福島第一原発の事故の復旧に見通しが立たず立ち入ることができないふるさとがある状態で、同じようなことがあってはならないなどと訴えました。そして、ゲートの方向に向かって「再稼働するな」などと声をあげていました。抗議を行った団体は申し入れ書をゲート前で提出したいと東北電力側に打診しましたが断られたため、郵送したということです。女川から未来を考える会の阿部美紀子代表は「原発は避難を強いるほど危険な代物で必要ない。東北電力は地元の人に聞くと逃げることは大変困難だと身をもって感じるはずだ」と話していました。 ●住民“安全に避難できるのか“ 原発周辺の住民からは、地震や津波と原子力災害が重なる複合災害が起きた時に安全に避難できるのか、心配する声があがっています。女川原発がある牡鹿半島の牡鹿地区の行政区長会、会長を務める鈴木正利さんは29日の再稼働について「すでにそこにできていて、動いたことのある原発なので、今さらどうすることもできないし、賛成でも反対でもない」と話しました。その上で原発が半島部分にあるため、東日本大震災やことしの能登半島地震の経験も踏まえて、もし事故が起きた時に住民が安全に避難できるかが重要だと話します。震災では、鈴木さんが住む牡鹿半島の先端にある鮎川地区には8メートルを超える津波が襲い、半島のあちこちが土砂崩れや津波による浸水などで通行止めとなりました。このため車による避難は難しく、震災の時、港が流されてきたがれきなどで使えなくなった経験から、国や自治体が考える船を使った避難も簡単ではないと指摘します。また、天候によってはヘリコプターによる避難も難しく、現実的なのは地区にあるコンクリート造りの集会所に退避することだと言います。東日本大震災の時には集会所に最大300人の住民が避難したということで、鈴木さんは放射線から身を守れるよう気密性を高めた防護施設に改修するよう求めています。鈴木さんは「震災では港は転覆した船や養殖いかだ、魚網などであふれ使えなかった。この集会所は地域の中心にあり、お年寄りも歩いて来られる場所にある。放射線から身を守る施設に改修してもらえれば、ここで何日か安全に避難できる」と話していました。 ●経団連 十倉会長“エネルギー自給率向上などに貢献を期待” 経団連の十倉会長は「安全性の確認と地元の理解が得られ、原子炉が起動し、再稼働への大きな一歩が踏み出されたことを歓迎する。ここに至るまでの関係者のご尽力に心から敬意を表したい。引き続き、円滑に営業運転が開始されるよう、準備を着実に進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「国際的に遜色のない価格での安定した電力供給は国民生活と企業活動の基盤であり、女川原子力発電所2号機が、エネルギー自給率の向上とカーボンニュートラルの双方に資する電源として、大いに貢献することを期待する」としています。 ●同友会 新浪代表幹事“経営者として 再稼働を心から歓迎” 経済同友会の新浪代表幹事は、「震災によって多大な被害を受けた立地地域の自治体をはじめ、関係各位の尽力に敬意を表する。半導体事業、データセンター、生成AIなどにより、今後、電力需要の大幅な増加が見込まれる。また、わが国のエネルギー自給率向上や脱炭素化の取り組みに際しては原子力発電は非常に重要な手段の一つでありわれわれ経営者としても再稼働を心から歓迎する」というコメントを発表しました。そのうえで「世界で最も厳しいとされる新規制基準の審査に合格した原子力発電所については、立地地域を含め、広く社会のステークホルダーに対して丁寧でわかりやすい説明と信頼醸成に努め、早期に再稼働が進むことを期待している。第7次エネルギー基本計画策定の議論が進められているが原子力発電所の再稼働を含め、安定的なエネルギーの確保はわが国の未来にかかわる重要なテーマである。この取り組みを進めるため、さまざまなステークホルダーとの熟議を含め、経済同友会としても責任ある対応を進めていきたい」としています。 ●日商 小林会頭“電力価格安定や脱炭素などに向け再稼働不可欠” 日本商工会議所の小林会頭は「立地地域をはじめ関係者の尽力に深く感謝と敬意を表するとともに大いに歓迎したい。東北電力におかれては、安全の確保を最優先に再稼働、営業運転再開に向けた取り組みを進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「電力の価格安定と需要増加への対応、脱炭素の推進に向けて、原子力発電所の再稼働は不可欠である。女川原発2号機に続き、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6・7号機など安全が確保された原発の早期再稼働に向け、地元理解の促進など政府が前面に立った取り組みを期待する」としています。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240920&ng=DGKKZO83568530Z10C24A9FFJ000 (日経新聞 2024.9.20) 日本発の次世代太陽電池、中国が量産先手、「ペロブスカイト」新興6社が工場計画、新市場覇権狙う 日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト」の投資ラッシュが中国で始まった。少なくとも中国の新興6社が工場を建設する計画で、国内外から流入する投資マネーが生産を後押しする。中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う。中国・江蘇省無錫市で、極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場の完成が近づく。2023年4月に着工し、同社によるとペロブスカイト型として「世界初のギガワット(GW、100万キロワット)級の生産基地」となる。敷地面積は約1153平方メートルで、生産ラインのほか研究センターや倉庫なども備える。ここから南へ約1000キロメートルに位置する福建省アモイ市では大正微納科技が100メガワット(MW)級の工場を建設中で、25年には量産を始める。ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の教え子である李鑫氏が最高技術責任者(CTO)を務める。各社の公式発表によると、中国では少なくとも6カ所でペロブスカイト型の建設プロジェクトが進行中だ。江蘇省昆山市では、中国太陽電池大手の協鑫集団(GCLグループ)傘下の昆山協鑫光電材料が23年12月に起工した工場の建設が進む。急速な技術発展と市場拡大を期待してマネーが流入している。太陽光から電気への変換効率をみると09年の発明当時はわずか3.8%で、実用化に程遠い水準だった。これが試作品レベルとはいえ現在は最高26%台まで上昇し、理論変換効率(33%)の上限に近づく。カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は32年に24億ドル(約3400億円)と22年の26倍に成長する。協鑫光電には寧徳時代新能源科技(CATL)、騰訊控股(テンセント)、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどが出資した。大正微納には、みずほフィナンシャルグループと深圳力合科創集団が共同設立したベンチャーキャピタル(VC)の瑞穂力合基金などが資金を投じた。瑞穂力合の高級投資総監、張一欧氏は「当社の出資を通じて日本と世界市場の開拓につなげてほしい」と語る。日本勢では、積水化学工業が25年の事業化を目指し、シャープ堺工場(堺市)の一部取得を検討している。パナソニックホールディングス(HD)は26年に参入する方針だ。自社開発したペロブスカイト型太陽電池と、住宅の建材を組み合わせ「発電するガラス」としての用途を開拓する。日本発の技術だが、発明した宮坂教授は技術の基本的な部分について海外で特許を取得しておらず、量産では中国企業が先行した。中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保しようとしている。「曲がる」点が最も注目されるペロブスカイト型だが、発電効率でも一般的なシリコン型と比べた優位性が高い。大正微納の試験では、ペロブスカイト型は年間の合計発電量でシリコン型を大幅に上回った。曇天や早朝、夕暮れなどの弱い光でも発電できるためだ。同社の馬晨董事長兼総経理は「中国では広大な土地に太陽光電池を敷き詰める集中型が一般的だった。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わるだろう」と話す。課題は山積している。生産面ではパネル基板に太陽光を吸収するペロブスカイト層を薄く均一にコーティングする難易度が高く、大型パネルを安定的に量産するのが難しい。このためフィルムに比べて表面に付着させやすいガラス基板の量産が先行する見通しだ。ただガラス基板では「軽く」「薄く」「曲がる」というメリットが失われる。フィルムを使ったパネルを大型化することが開発の焦点となる。 ▼ペロブスカイト型太陽電池 太陽光を吸収するためにペロブスカイトと呼ぶ薄膜材料を使う太陽電池のこと。ペロブスカイトは八面体の結晶構造を持つ化合物。ロシアの科学者ペロブスキー氏が天然鉱物から発見し、その名前にちなんで命名された。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84313960U4A021C2MM8000 (日経新聞 2024.10.24) テスラ、蓄電池を全国販売 ヤマダと連携、1000店規模 家庭の再エネ需要に布石 米テスラはヤマダホールディングスの店舗で家庭用蓄電池(総合2面きょうのことば)を販売する。全国1000店の家電量販店で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダの住宅や太陽光発電設備と組み合わせる。蓄電池と量販の大手が連携し、家庭での再生可能エネルギーの需要を取り込む。太陽光発電は家庭で発電した電力を国が決めた価格で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を契機に導入が一気に広まった。2023年度までの日本の住宅用太陽光の設置件数は累積で330万件ある一方で、蓄電池の累計出荷台数は産業用を含めても93万台にとどまっていた。国は30年度に再生エネの普及率で36~38%の目標を掲げ、太陽光発電は14~16%程度を占める主要な電源だ。天候によって発電量が変わる太陽光の供給と電力需要を調整するには蓄電池を増やす必要がある。家庭に蓄電池が普及すれば再生エネの安定供給につながる。テスラが家庭用蓄電池「パワーウォール」を全国規模の小売店経由で売るのは初めて。これまでは同社が認定する施工店経由の販売が中心だった。ヤマダは全国に約1000店の直営店を展開しており、まずは25日に開店する神奈川県平塚市の店で販売を始める。年内にヤマダの大阪市内や松江市の店でも実機を展示して販売を始め、沖縄を除く全国に順次広げる。施工はテスラの認定施工会社が担う。テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量に当たる13.5キロワット時と大きく、競合の国内メーカーと比べて容量当たりの価格が安い。ヤマダでの販売価格は工事費などを含めて208万7800円。シャープやニチコンなど競合の大容量商品(工賃込み)の市場価格と比べて、容量当たりの価格は3割以上安い。日本で現在販売している家庭用蓄電池は米国で生産したものを輸入している。ヤマダは国内の家電市場が伸び悩むなか、電気自動車(EV)や住宅、家具といった非家電領域を開拓し、再成長を目指している。蓄電池を巡っては日本で新たな市場が拡大する見通し。米欧ではすでに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」と呼ばれる電力ビジネスが広がっている。太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電しておき、電力が足りない時にためた電気を販売して収入を得る仕組みだ。市場に余剰電力があるときには蓄電して、電力の需給バランスも調整できる。テスラも米国ではVPPを展開し、世界の設置台数は累計で75万台超ある。日本では沖縄県の一部でサービスを導入しており、設置台数が増えれば全国への展開も視野に入れる。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83771040Z20C24A9NN1000 (日経新聞 2024.9.30) 再エネ・蓄電池の併用支援 経産省、補助金を増額 経済産業省は2025年度にも、再生可能エネルギーの発電と蓄電池を併用する事業者への支援を拡充する。発電量に応じて上乗せして交付する補助金の額を現状の2倍程度に増やす。海外に比べて遅れる蓄電池の普及を後押しして、再生エネの有効活用を広げる。日本の再生エネは太陽光の普及が特に進んでいる。昼間に電気が余る傾向があるため、発電を停止する事態が頻発している。電気をためるのが解決策だが、蓄電池の導入コストが高く再生エネの発電事業者の多くが活用できていない。経産省はこうした状況を踏まえ、蓄電池を活用する「FIP」と呼ばれる再生エネの発電事業者を対象に、交付する補助金の額を現状から増やす。他の事業者に比べて発電量1キロワット時あたり1円程度上乗せしている交付額を、2円程度に増額する。FIP事業者に対する現在の上乗せ額は初年度が1円程度で、徐々に支援規模を縮小しながら数年間上乗せが続く仕組みになっている。初年度を含めて3~5年程度、現状の金額から倍増する案がある。詳細は24年度末までに専門家の意見を踏まえて詰める。例えば2018年度に事業用の太陽光発電を始めていた場合、国のベースの支援額は1キロワット時あたり18円だが、陸上風力は20円、洋上風力は36円だった。ベースの支援額は再生エネの種類や事業開始年度で異なる。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84687330Y4A101C2EA3000 (日経新聞 2024.11.9) 政府、地方創生に5本柱 閣僚会議が初会合 東京一極集中是正やデジタル活用 首相「付加価値を創出」 政府は8日、首相官邸で地方創生策を検討する閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合を開いた。石破茂政権は地方創生を看板政策に掲げる。人口減や社会的な基盤の維持など地方が抱える課題の解消をめざす。2025年度予算案で関連交付金を倍増する計画だ。首相が本部長を務め、全閣僚で構成した。副本部長には林芳正官房長官と伊東良孝地方創生相が就いた。25年6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、今後10年間を見据えた具体的な施策を盛り込む見通し。(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境(2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散(3)付加価値創出型の新しい地方経済(4)デジタル・新技術の徹底した活用(5)「産官学金労言」のステークホルダーの連携と国民的な機運の向上――を柱に据えて議論する。首相は商工会議所や行政、教育機関、金融機関、労働組合、地方新聞社・テレビ局からなる有識者会議の立ち上げを表明した。地方が直面する問題などを検証して政策立案に生かす。11月中にまとめる経済対策に関し「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出などの取り組みを支援する」と強調した。倍増方針を示した地方創生の交付金については「金額だけ増やしては何の意味もない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った。地方創生は首相にとって思い入れのある政策だ。14年9月に発足した第2次安倍晋三改造内閣で初代の地方創生相を務めた。同年12月に決定した長期ビジョンには「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んだ。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが、地方を取り巻く環境は依然として厳しい。首相は8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければこの先の展望はない」と述べた。「地方創生2.0」を掲げて改めて政策をてこ入れする。10月28日の記者会見では「日本創生」を訴え「地方と都市が結びつくことにより日本社会のあり方を大きく変える」と呼びかけた。国立社会保障・人口問題研究所が23年に発表した将来推計人口によると、56年には1億人を割って9965万人になり、70年には8700万人になる見通しだ。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、23年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は転入者数が転出者数を上回り、28年連続で転入超過を記録した。地方の人口流出が続く。首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動をみると10年間で全国33の道県で男性より女性の方が多く転出した」と説明した。婚姻率の上昇を念頭に、若者や女性に選ばれる地方の実現を訴えた。経済産業省は閣僚会議の設置を受けて各地域の経済産業局長らが出席する会議を開き、地方企業の声を集める。8日の会議で設備投資などの現状を報告した。 <先端技術と教育> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83766580Z20C24A9TB2000 (日経新聞 2024.9.30) スマホ、高級カメラのみ込む、小米やiPhone、画質大幅アップ 加工技術の「リアル」争点 中国の小米集団(シャオミ)や米アップルのスマートフォンのカメラ機能が大幅に向上している。レンズの改良と画像補正技術を磨き、数十万円するような高級コンパクトカメラに匹敵する写真が撮れるようになった。ただ、日本経済新聞が複数機種で撮り比べをしたところ、リアルと加工の境目はどこかという課題も見えてきた。「驚異的な新しいカメラで魅力的な写真の体験ができる」。日本時間9月10日にアップルが開いた新製品の説明会で、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は新型iPhoneのカメラ機能の向上についてこう強調した。新機種「iPhone16 Pro」ではアップル史上最長の焦点距離をもつ光学5倍の望遠カメラを搭載した。画像処理を活用し、撮影後の細かな色調の編集を実現した。スマホ各社はカメラ性能を高めた新機種を国内で相次ぎ発売している。2023年のスマホ出荷台数で世界3位のシャオミは5月、旗艦モデル「Xiaomi14 Ultra」を発売した。独高級カメラメーカーのライカと共同開発した4つのレンズを搭載し、光学で5倍、デジタルズームで最大120倍のズームができる。韓国サムスン電子は4月に発売した旗艦モデル「Galaxy S24」は、撮影後の背景を簡単に加工できる機能を売り物とする。ソニーグループ傘下のソニーが6月に発売した「Xperia 1 6」は暗所でもきれいに撮影できるのが強みだ。7月発売のシャープの「AQUOS R9」もライカ製のレンズを搭載する。各社がカメラ機能に力を入れる背景にはスマホ市場の成熟化がある。データ処理速度など基本性能の差異化が難しいなか、カメラはインスタグラムなどSNSに写真を投稿する層をつなぎとめるのに欠かせない機能として重要度を増している。米調査会社IDCによるとスマホ本体の台数は28年に24年比で8%の成長にとどまる見通し。それでもスマホ向けカメラモジュール市場は、調査会社のグローバルインフォメーションとマーケッツアンドマーケッツによれば、同期間で47%の成長が見込まれる。キヤノンやニコンなどカメラメーカーにとってはスマホの進撃は脅威だ。カメラ映像機器工業会(CIPA)によればデジカメの総出荷額は08年の2兆円超から、足元では7000億円台に沈む。国内では08年にアップルが初めてのスマホを発売し、市場シェアを奪ってきた。調査会社のMM総研(東京・港)は「人工知能(AI)など技術向上でスマホのカメラ機能の向上は間違いなく続いていく」と指摘。コンパクトデジカメに続き、高級デジタル一眼などカメラメーカーの主力の領域をのみ込む可能性もある。実際にスマホカメラの性能はどれだけ高性能なのか。日本経済新聞では今回、シャオミとアップルの最新機種と、比較対象としてユーザーの評価が高い日本の大手カメラメーカー製の高級コンパクトデジカメ(19年発売、価格20万円前後)を使い、東京都千代田区の日経本社ビルから直線距離で約5キロメートル離れた東京スカイツリーを撮り比べした。スマホ、デジカメともスカイツリーの全景は新聞の印刷には十分すぎる高い水準の写真が撮れた。こだわりのあるカメラ愛好家やプロのカメラマンでなければ、3枚に大きな違いを感じないだろう。次に、ズームアップして撮影したところ、明らかな差が出た。シャオミのスマホでは地上450メートルに位置する「天望回廊」とその下の鉄骨部分がクッキリと写った。それと比べるとデジカメはコントラストが低く、ややかすみがかって見える。アップルはデジカメに比べ色合いで青みが薄れた。何をきれいと感じるかは人それぞれだが、SNSを活発に利用する高校生10人に3枚の印象を聞いたところ、10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と答えた。シャオミのズーム写真の秘密を探るため、別の対象も撮影してみた。最大ズームで路上にいる人物に焦点をあてたところ視覚障害者用の黄色のブロックの凹凸が塗りつぶされたように平たんになった。ビル屋上の看板は絵の具で描いた絵画のようになった。シャオミ日本法人でスマホなどの製品開発に携わる安達晃彦プロダクトプランニング部本部長は「実用的に撮影できるのは30倍まで。最大120倍まで撮影が可能だが、デジタル処理感が強くなる」と加工感を認める。一般的にデジタルズームでは画像を引き伸ばす際に解像度の低下が起きる。それをなんらかの機能で補うのがメーカー各社の技術の見せどころになるが、そこには「現実を写しているのか、現実を作り替えているのか」という問題が内在している。楽しむことを優先するなら加工は積極的に肯定されるが、記録を優先するなら不安が残る。そして、リアルと加工の揺れ幅はAIの普及で大きくなっている。シャオミやアップルなどのスマホメーカーに限らず、カメラメーカーの最新デジタルカメラにもAIによる補正機能が搭載されるようになっている。プロの写真家で組織する日本写真家協会では、生成AIによる作成物は写真ではなく「画像」と見なしているが、ノイズ処理や色の補正を含めたAIのテクニックまでは線引きできていないという。会長の熊切大輔氏は「業界で議論されないまま技術だけが発達してしまった。ルールを決めていく必要がある」と話す。 *4-2:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/260594 (日本農業新聞 2024年9月24日) 果樹産地の担い手確保 優良事例を発表 中央果実協会 中央果実協会は24日、果樹産地での担い手育成などに関する事例発表会をオンラインで開いた。大分県農林水産部は、2023年までの10年間で200人が新規就農者したと紹介。園地の確保や未収益期間の長さが就農の壁となる中、県主導で園地の基盤整備や技術習得の支援を同時並行で進め、成果を上げているとした。同協会は、果樹の担い手は、20年までの20年で半減し、60歳以上が8割を占めていると説明。一方、果樹の価格や輸出の攻勢などに魅力を感じている人らが増えているとし、反転攻勢へ大きな好機を迎えているとの考えを示した。大分県農林水産部の河野雅俊氏は、07年から行う基盤整備の取り組みを紹介した。果樹の新規就農者の確保へ「積極的な誘致が重要」として、ダイレクトメールなどを活用して働きかけを展開し、特に農家以外の人や異業種の法人などの参入が増えていると報告。経営展開のシミュレーションを示して、参入を円滑に進めているとした。就農者が1、2年間、小規模な園地で経験を積む間、並行して育苗や園地整備を推進。その後、その園地に加えて、整備された園地も渡すことで、未収益期間の削減につなげているとした。就農者に渡すための園地を集約するには、地権者らへの説明などを丁寧に進める地道な取り組みも不可欠として、「最低でも1、2年は必要」とも指摘。同じ目標を持ったチームを県や市町村、JAや生産者で作り上げることも重要とした。世羅幸水農園(広島県世羅町)の光元信能組合長は、47ヘクタールの大規模な梨園を維持する仕組みを紹介。ジョイント仕立てを導入し、リモコン式草刈り機の活用なども進めているとした。 *4-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84307860T21C24A0TB3000 (日経新聞 2024.10.24) 陸上養殖サーモン大量出荷 NTT、エビ国内大手に、丸紅など4商社でノルウェー輸入に迫る 海ではなく陸地で魚介類を人工的に育てる陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階に入る。丸紅が販売するサーモンが10月中にも店頭に並ぶほか、NTTグループは2025年3月にもエビを出荷する。技術力と資金力を持つ大企業による大量生産で、水産のサプライチェーン(供給網)が変わり始めた。9月下旬、富士山の麓にある静岡県小山町の養殖場では出荷を1カ月後に控えた数百匹の魚が遊泳していた。丸紅がノルウェー企業のプロキシマーシーフードと共同で取り組んできた国産アトランティックサーモンが、いよいよ首都圏のスーパーなどで生鮮食品として販売される。プロジェクトの起点は2020年に遡る。プロキシマーはオスロ証券取引所に上場する水産企業で、高い養殖技術を持つ。丸紅は販売代理について協議。22年に10年間の国産陸上養殖サーモンの独占販売契約を結んだ。まずは25年末までに計4700トンを富士山麓から出荷する計画で、27年には国内最大規模の年5300トンに増やす。全てすしネタに使うと仮定すると3億貫分に相当する量だ。 ●資本力生かす なぜ陸上養殖なのか。天然魚は地球温暖化や乱獲の影響で水揚げが安定しない。海面養殖は水温や寄生虫といった自然環境の影響があるほか、漁業権が必要で新規参入が難しい。大手企業が資本力を生かして大規模に生産するには陸上養殖が最適なのだ。環境負荷の軽減に寄与する利点も大きい。プロキシマーは今回、「閉鎖循環式」と呼ぶ仕組みを採用した。餌やふんで汚れた水をそのまま排水せず、バクテリア分解と散水で浄化し再利用し続ける。さらに航空輸送を伴わない分、サーモン1キロあたり12キログラムの二酸化炭素(CO2)排出削減効果も見込める。施設の運営に必要な電力の15%は敷地内の太陽光発電設備で賄う予定だという。単純な生産コストは海面養殖に比べて割高だが、大規模生産による効率化や消費地までの輸送時間短縮による鮮度の向上、環境負荷軽減などを総合的に考慮すると、十分に収益性を確保できる。プロキシマーのヨアキム・ニールセン最高経営責任者(CEO)は「想定通りの魚の質に仕上がっている。数年後には同規模の養殖場を新たに建設したい」と、既に日本での増産が視野に入っていることを明かす。国内の陸上養殖サーモン事業は三井物産、三菱商事、伊藤忠商事もそれぞれ別のパートナーと組み参入。いずれも今後3年程度で本格出荷が始まる見込みだ。各社が公表する年間生産量(計画値)は4商社合計で2万1300トンと、今の主要供給元のノルウェーからの輸入量(約3万トン、生鮮・冷蔵)に迫る。自給率向上に一役買うだけでなく、追加の設備投資で生産量がさらに上乗せされれば輸出産業に育つ可能性もでてくる。大手商社だけではない。通信各社も陸上養殖に注目する。大企業としての資本力を生かせるだけでなく、情報サービスで既に生産者や卸売・小売事業者と接点があり、有利な立ち位置にいるためだ。「水産業の工業化と標準化をなし遂げたい」。NTTグループ子会社で陸上養殖を手掛けるNTTグリーン&フード(東京・千代田)の久住嘉和社長は意気込む。静岡県磐田市にある敷地面積1万3000平方メートルのスズキの部品工場跡地に巨大なエビ養殖場を建設中だ。12月稼働、来年3月にも初出荷を見込む。8月に関西電力から買収した磐田市内のエビ養殖場と合わせ26年度には年産約200トンとなる。水産大手のニッスイが年産110トンの陸上養殖施設を稼働済みだが、それを超えてエビ陸上養殖で国内最大手に浮上するとみられる。陸上養殖のエビは臭みがなく、病気などを防ぐ薬品の使用量が少なくすむ。また、NTTグループの研究所ではCO2を効率的に吸着する藻の研究を進めている。将来、この藻を飼料に使って環境負荷の軽減につながる養殖事業に育てる考えだ。ソフトバンクはあらゆるものがネットにつながるIoT技術を駆使して養殖が難しいとされるチョウザメの養殖実証に乗り出した。日常の食卓には上らないが、卵のキャビアは高値で取引される。 ●世界市場9割増 世界の漁業・養殖業生産量は22年に2億2322万トンで10年前に比べ25%増えた。天然魚などの海面漁業の生産量はほぼ横ばい。海面養殖業は48%増と急増しているが、適地が限られるため中長期な今後の拡大は難しいとされる。人類の胃袋を満たす伸びしろは陸上養殖だ。調査会社のグローバルインフォメーションによると陸上養殖の世界市場は29年に23年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増する。日本にとっては、食の安全保障の観点からも陸上養殖の重要性は増している。政府は食用魚介類の自給率を32年度に94%に引き上げることを目指している。23年度は50%台だった。背景には中国など近隣諸国・地域との漁獲競争が激しくなっているほか、気候変動でサンマやスルメなど身近な水産物がとれにくくなっている危機感がある。これまでの日本の養殖は小規模事業者が多く、生産性の向上が課題だった。大企業の本格出荷で構図が変わる。消費者の選択肢が広がるだけでなく、水産大国ニッポンの復活も見えてくる。 *4-3-2:https://suisanshigen.com/2020/06/20/article24/ (水産資源管理 2020年6月20日) 過去最低と最高の水揚げ量 この違いは何か? ●世界全体と日本の水揚げ量の傾向は逆 農林水産省から2019年、そしてFAO(国連食糧農業機関)から2年ごとに出される世界全体の水揚げ量(2018年)が発表されました。日本の水揚げ量は、416万㌧と1956年以降の比較しうる数量で過去最低を更新中。1980年代の1,200万㌧台から滑り落ちるように減少が続き止まりません。ところで、これまで主な減少要因とされてきたマイワシの水揚げ量は、減少要因どころか2011年の震災以降10万㌧台を回復し、2019年は50万㌧を超え、減少を続ける水揚げをかろうじて支える位置付けになっています。つまり、マイワシの減少が、日本の水揚げ量が減り続ける原因ではなかったのです。一方で、世界全体の水揚げ数量は、引き続き右肩上がりを続けています。2018年は天然と養殖で合計2億1千万㌧(海藻類3千万㌧含む)と過去最高を更新中です。天然と養殖物は、ほぼ半々。ただ、天然物の漁獲に関しては、主に北米、北欧、オセアニアなどの漁業先進国が、サステナビリティを考えて漁獲をセーブしているので、今後は養殖物の比率が増えて行くことでしょう。ただし、サーモンを始め養殖魚の多くはエサを必要とするので、その供給が課題です。 日本と世界の傾向がなぜこんなにも違うのか?その原因と明確な答えを出し続け、皆さんに水産資源管理の大切さに気付いていただきたいというのが、当サイト(魚が消えて行く本当の理由)の目的です。 ●成長乱獲と加入乱獲そして投棄が同時多発 小さな幼魚を獲ってしまえば魚は大きくなりませんし、産卵する親が減れば産まれる卵の量は減ってしまいます。また漁獲した魚を小さかったり、産卵後で痩せていたりで価値が無いため投棄してしまえば資源は減少します。残念ながら日本で、様々な魚で同時に起こってしまっている現象です。その結果が、様々な魚種、そして全体でも過去最低という水揚げ量につながっています。 ●魚と海水温 海水温の高い低いが、水産物の資源量に影響を与えるのは当然です。農作物の収穫量も気温に影響されるのと同じです。しかしながら、日本では魚の資源が減少した理由について、海水温の上昇を安易に使いすぎています。そしてそれは「矛盾」という形で現れます。資源量に水温の影響があるなら、より漁獲量を減らして資源量の維持を図る予防的アプローチがされるべきです。しかし、供給が減ることで魚価が上がり、よりたくさん獲ろうとする力が働いて資源を潰してしまう例があちらこちらにあります。そしてとどのつまりが、環境の変化に対する責任転嫁。地方の深刻な衰退につながっています。令和二年発行の水産白書にサケ・サンマ・スルメイカの不漁に関するコラムがあります。不漁の原因は、海水温、海洋環境の変化、外国船による漁獲の影響などが出ていますが、日本が獲り過ぎてしまったこと、水産資源管理に問題があったことは何も書かれていません。 現実的には、主に資源管理の問題で、資源状況が悪化して不漁になっているのです。かつてのノルウェー、現在の中国はそれに気づき対策を取っています。 ○スルメイカの例:海水温の上昇ではなく、東シナ海の産卵場での海水温の低下が不漁の原因として挙げられています。海水温は低いのではなく高いので問題になっているのではないでしょうか?(漁師のつぶやき)。 ○マイワシの例:水温が低い寒冷レジームで増えると言われています。現在資源量が増加していますが海水温は下がってきているのでしょうか? ○サンマの例:水温が高いため日本の沿岸に魚群が来る量が減っていると言われています。ところで、上記のサンマとマイワシの漁場も時期もほぼ同じです。同じ海域でも水温がサンマには高くてマイワシには低く影響しているのでしょうか? ○イカナゴの例:水温の上昇が資源量が激減した主な理由とされていますが、一方で青森で激減した理由は海水温が低いからと矛盾しています。また、緯度が高く海水温の上昇を日本同様もしくはそれ以上影響を受けているノルウェーの2019年の資源量と漁獲量は皮肉にも大幅に増えています。 ○ニシンの例:水温の上昇が資源減少の主な理由の一つとされてきました。しかし、2019年は1.5万㌧と過去10年の平均より2.5倍増加しています。北海道は水温が低下したのでしょうか?。 ○カツオの例:海水温が高いことに影響を受けるなら、南太平洋から回遊して来るカツオの量は減少していますが、増えるはずではないでしょうか? ●クジラが食べる影響 クジラはどこに多いのか? クジラは、大量の魚を食べます。アラスカなどで群れでニシンを追い込んでひとのみにする映像をご覧になった方もいるでしょう。IWC(国際捕鯨委員会)からの脱退で調査捕鯨を止めた海域は南氷洋で、そこでは最も多くクジラが生息しています。日本の周りばかり魚をたくさん食べてしまうクジラがいるのではありません。クジラはエサになる水産資源が豊富な海域に来ます。ちなみに、太平洋と大西洋、そして南氷洋に生息するクジラの推定生息数を比べてみましょう。最も資源量が多いミンククジラでは、日本の周りを含む太平洋(推定約2.4万頭)より、大西洋の方がはるかに推定生息数が多い(推定約14.5万頭)ことが分かります。南氷洋はさらに多い(推定51.5万頭)です。つまり、クジラが食べる影響についても、日本だけ特別に影響があるわけではないのです。かえってノルウェー、アイスランドなどの方が影響が多いことが予想できます。しかし魚の資源量では、マダラ、マサバ、ニシンなど同じ魚種でもそれらの国々の方が資源量が多く、サイズも大きいという逆の現象が起きています。その違いこそが、まさに科学的根拠に基づく水産資源管理が行われているか否かなのです。 *4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083074.html (朝日新聞社説 2024年11月14日) 教育への投資 財源確保へ本格議論を 資源が少なく少子高齢化が進む日本にとって、公教育の充実は極めて重要だ。だが長時間労働や教員不足によって、屋台骨が揺らいでいる。現状の打開には教員らの大幅な増員が不可欠だ。教育への投資は、未来への投資である。財源確保に向けて、国民的納得の得られる議論を早急に本格化する必要がある。教員のなり手不足に対処するとして、文部科学省が来年度予算の概算要求に盛り込んだ給与制度の改正案について、財務省が真っ向から対立する案を示した。公立学校の教員には、教員給与特措法(給特法)に基づき、残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われている。文科省は、教員増や勤務時間の削減を進めながら上乗せ分を13%に増やすなどとして、年1千億円規模の増額を求めた。一方、増額を抑えたい財務省は、時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した。文科省案では働き方改革は進まず、教員不足は解消されないとする。確かに、給特法の枠組みの下で給与を増やしても、労働環境が厳しいままでは、なり手は大きく増えないと考える教育関係者は多い。働き方改革の実行を強く迫る財務省案を評価する意見もある。だが、いじめや不登校など多くの問題を抱える中、教員らを増やさずに労働時間を減らすのは難しい。1人当たりの業務量が減らなければ、持ち帰り残業や残業隠しといった問題が増えるとの指摘もある。財務省案だけで状況が好転するとは思えない。日本の小中学校教員の仕事時間は、国際的にみても特に長い。中学校には部活動があり、複雑な家庭環境の子や、過度な要求をする保護者への対応などもある。過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある。いじめや不登校は早期対応が大切なのに、一人ひとりの子どもと十分に向き合う余裕がない教員が多い。改善に必要なのは、教員やスクールカウンセラーなどの充実だ。政府は、省庁間の綱引きに終わらせず、社会の未来を左右する教育政策の優先度を上げ、どう財源を確保すべきか、トータルな議論を深めてもらいたい。働き方改革を強力に推し進める仕組みの構築も急務だ。教育委員会が教員の健康を守る役割を果たせていないなら、第三者が目を光らせる仕組みの導入を検討してもよい。学校現場に意識改革を促し、教員が心身ともに余裕を持って能力を発揮できる環境を整備しなければならない。 <女性の人権・職業選択の自由・職業教育> *5-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA067I30W4A101C2000000/ (日経新聞 2024年11月7日) 103万円だけじゃない「年収の壁」 働き控えの要因に、「103万円の壁」ポイント解説① 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党が掲げて話題となっている「103万円の壁」だけでなく、106万円や130万円といった壁もある。それぞれの内容を知ることが働き方や経済政策を考えるカギになる。まずは税の壁だ。パート労働者の年収が100万円を超えると住民税、103万円を超えると所得税がかかる。所得税は基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円あるため合計額の103万円までは税金がかからない。課税されるのは103万円を超えた部分だけなので、税負担が発生しても年収が増えれば手取り自体は増えていく。一見すると「壁はない」ように映る。ところが、実際には年収が103万円を超えないように働く時間を抑える人が少なくない。103万円を超えると企業が配偶者手当を打ち切るケースが多く、世帯収入が減るのを避けようとするためだ。19歳以上23歳未満のアルバイト学生は103万円を超えると特定扶養控除がなくなって親の税負担が一気に増える。この影響を避ける狙いもある。106万円と130万円は社会保険料の壁だ。51人以上の企業に勤めるパート労働者なら年収が約106万円に達すると、社会保険に加入する義務が発生して保険料を払わなければならない。年収130万円以上になると企業規模に関係なく加入する必要がある。年収106万円で社会保険に入ると、年15万円程度の社会保険料の負担が発生する。105万円までで働くのをやめた場合よりも手取りが減ってしまう。加入前よりも手取りを増やすにはおおむね年収125万円になるまで働く必要があり、負担感が大きい。年収150万円の壁は配偶者特別控除に関係する。この金額を超えると配偶者特別控除が段階的に減り始める。手取りは働いた分だけ増えるものの、夫の税負担が増えるため働き控えの一因となる。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/74fb418a8a406caff427548b8fef9561179c72eb (Yahoo 2024/11/8) 基礎控除等の「103万円の壁」が178万円に拡大した場合の影響とは?国民民主党の躍進で話題のテーマを解説 令和6年10月に行われた衆議院選挙で国民民主党が躍進しましたが、国民民主党が掲げていた公約の1つに「基礎控除等を103万円から178万円に拡大(※)」というものがあります。基礎控除等の額が実際に上がるかどうかは今後の話ですが、今回はいわゆる103万円の壁が178万円に移動した際に起こり得る変化について解説します。 ●103万円から178万円に引き上げる根拠は? 国民民主党が基礎控除等を103万円から178万円に引き上げようとしている根拠として、最低賃金上昇率があります。バブル崩壊後、平均年収はほぼ横ばいなのに対し、最低賃金については約30年前の1995年から1.73倍になっています。現在の基礎控除等の103万円を1.73倍すると約178万円となりますので、178万円の数字には一定の根拠が示されています。 ●控除額の引き上げによる変化1:所得税の減税効果 国民民主党は、基礎控除等を103万円から178万円に拡大した場合、大きく3つの効果があるとしています。1点目は、所得減税の効果です。所得控除等の額が大きくなれば、その分だけ課税所得金額は減りますので、算出される所得税は小さくなります。減税「額」は所得が多い人ほど大きくなりますが、減税「率」で考えた場合、控除額の拡大は低所得者ほど恩恵があるとしていますので、働いている人にとっては一定の節税効果が期待できます。 ●控除額の引き上げによる変化2:被扶養者の労働時間の確保 2点目は、扶養されている人の労働時間を調節できるようになる効果です。所得税では、扶養している配偶者や子どもの数に応じて、配偶者控除や扶養控除を適用できますが、扶養対象者となる人の所得金額が一定以上になると控除を適用できなくなります。扶養されている人の中には、扶養の枠を超えないよう労働時間を調整している方もいますので、103万円の壁が働く時間を短くしている要因の1つとされています。基礎控除等が178万円まで拡大すれば、扶養対象のまま働ける時間も長くなりますので、控除額の引き上げは節税効果だけでなく、労働時間を延ばすことで収入を増やす効果もあります。 ●控除額の引き上げによる変化3:労働者不足の解消 3点目は、最近社会的な問題となっている企業の労働者不足の解消です。現役世代の人口減少も、労働者不足となっている業界が増えている要因ですが、年収の壁も労働者不足を招いている要因です。世の中にはパートやアルバイトをしている人もいらっしゃいますが、働いている人が家族の扶養となっている場合、扶養対象者に収まる範囲で働きます。最低賃金の引き上げが話題となっていますが、時給が上昇すれば103万円に達するまでに要する時間は短くなりますので、被扶養者が年間で働ける時間は時給が上がるほど少なくなります。国民民主党の玉木代表によると、学生などをアルバイトとして採用している企業は、1人当たりの労働時間が減少したことで、年末の忙しい時期に働ける人を確保できないことが問題となっていると指摘しています。減税に関する施策は基本的に労働者に対するものが多いですが、103万円の壁については労働者側だけでなく、雇用側にとってもメリットがある話です。103万円の壁が動くかどうかは国会で議論されることになると思いますが、もし国民民主党の主張がそのまま通れば、多くの方が節税効果等を享受できる可能性が高いです。 *5-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241113&ng=DGKKZO84751960T11C24A1EP0000 (日経新聞 2024.11.13) 103万円の壁ポイント解説(4)178万円案、財源課題 国民民主「消費活発に」 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党は衆院選公約に基づき、所得税がかかり始める「課税最低限」を103万円から178万円に上げるよう求め、与党と協議している。所得税は収入から一定額を除いた金額に税率をかける。会社などに勤める人は給与所得控除55万円と基礎控除48万円を足した年103万円までが非課税となる。控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられていた。その後はおよそ30年間、103万円のまま据え置かれている。国民民主は最低賃金の上昇率1.73倍にあわせて上げるべきだと提起する。178万円への引き上げによって年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減ると見積もる。政府は国民民主の訴える通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算する。一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と、所得税の減収よりも大きくなる計算だ。2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の3分の1に相当する巨額の財源について、国民民主は税収の上振れや予算の使い残し、外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金を充てると説明する。玉木雄一郎代表は「7兆円分、国民の『手取り』が増えれば、消費も活性化し、企業業績も上がり法人税収も消費税収も増える」と主張する。政府の試算ほど税収は減らないとの考えも示す。年収の高い人ほど減税額が大きくなるとの批判については、「今、払っている税金と比較した場合の『減税率』は明らかに所得の低い人ほど大きくなる」と反論している。 *5-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16085774.html (朝日新聞 2024年11月17日) 「103万円の壁」引き上げ、地方悲鳴 税収減「たちどころに財政破綻」 国民民主党が実現を訴える「103万円の壁」の引き上げに対し、地方自治体で懸念や反発が広がっている。実施で生じるとされる税収の減少が、苦しい自治体財政を直撃しかねないためだ。「国民民主のおっしゃる通りやった場合は、たちどころに財政破綻(はたん)するだろう」。強い言葉で懸念を表明したのは、全国知事会長を務める宮城県の村井嘉浩知事だった。13日の記者会見で「税収が減れば結果的に住民サービスが下がる。非常に心配している」と語った。国民民主の訴えは、所得税の非課税枠「103万円」の引き上げとともに、地方税である住民税の非課税枠も引き上げを求めるものだ。政府は、税収減は国と地方あわせて7兆~8兆円となり、うち地方税分は4兆円程度と試算した。村井知事は、政府試算を前提に推計したとして、県と県内35市町村の住民税関連で約620億円の税収減になると発表。「私が総理ならば首を縦に振らない」と語った。総務省によれば、神奈川県や仙台市など、少なくとも30以上の県や市が、税収減への懸念を表明している。多くは、実施するなら減収分を穴埋めする措置が必要だと訴えているという。国民民主は、自治体の懸念に対する解決策を示していない。玉木雄一郎代表は7日、記者団に対して「(解決するのは)政府・与党の責任だ。我々は予算の全体像はわからない」と述べた。それでも、過半数割れした与党は、政権運営に必要な協力を得るために国民民主の要求を無視できない。今後本格化する協議の行方を、関係者は固唾(かたず)をのんで見つめている。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84689270Z01C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.9) 「106万円の壁」撤廃へ 厚生年金の対象拡大 厚労省が調整 週20時間以上に原則適用 厚生労働省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃する方向で調整に入った。配偶者の扶養内で働く人が手取り収入の減少を意識する「106万円の壁」はなくなる。労働時間要件は残る見通しで、週20時間以上働くと原則として厚生年金に入ることになる。同省は企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃する方針も固めている。賃金要件の月8.8万円は、年収換算で106万円程度となる。実現すると200万人が新たに対象になる試算だ。25年は5年に1度の年金制度改正の年にあたる。厚労省は近く開く審議会で要件の見直しについて議論して、年末をめどに詳細を詰める。25年の通常国会で改正法案を提出する考えだ。賃金要件はこれまで、年金や医療の社会保険料を払うため手取りが減ることから、就業時間を短くするなど労働者の働き控えにつながるとの指摘がされていた。ただ、社会保険に加入することで、労働者は将来受け取る年金を増やすことができるほか、医療保険の保障として、傷病手当金など手当が手厚くなるメリットがある。改正の背景には近年の最低賃金の上昇がある。24年度の最低賃金の全国加重平均は1055円で、23年度から51円上昇した。週20時間働くと月額賃金が8万8000円を上回る地域が増えており、厚労省は将来的に賃金要件が事実上不要になると判断した。今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しだ。学生除外要件も残す。企業規模要件と賃金要件はなくなり、さらに5人以上の個人事業所は全ての業種が対象になる方向だ。現行制度では、配偶者の扶養内で働くパート労働者は、従業員51人以上の企業で週20時間以上、月額賃金8.8万円以上、学生ではないといった要件を満たすと、厚生年金に入る必要がある。厚生年金に加入することで老後の低年金リスクを軽減できるほか、加入者が増えれば将来世代の年金の受給水準を改善する効果も期待できる。 *5-3-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241113-OYT1T50280/?utm_source=webpush&utm_medium=pushone (読売新聞 2024/11/14) 「夫婦別姓」で揺さぶりかける立憲民主、自民・公明の一部取り込み図る…衆院法務委員長ポスト獲得で議論主導 立憲民主党が、選択的夫婦別姓制度の導入に向けた議論で自民党に揺さぶりをかけている。議論の場となる衆院法務委員会の委員長ポストを獲得したことで国会での議論を主導し、導入に賛成する公明党や自民内の一部議員を取り込みたい考えだ。立民の辻元清美代表代行は13日、党ジェンダー平等推進本部の会合で、選択的夫婦別姓を導入する法案の早期提出を目指す考えを示し、「公明や自民の一部の人にも呼びかけて、国民運動として実現に向け進めていきたい」と意欲を示した。立民の野田代表は選択的夫婦別姓導入の布石として、衆院法務委員長に立民の西村智奈美衆院議員を就けた。委員長は委員会開催や議事進行などで大きな権限を持つ。野田氏は8日に党のX(旧ツイッター)に投稿した動画で、法務委員長ポストを「どうしても取りたかった」と説明。選択的夫婦別姓について、「野党は全部、一致・協力できると思うし、公明も多分賛成で、非常に効果的な委員会だ」と期待感を示した。選択的夫婦別姓を巡り、自民内では、保守派を中心に反対論が根強いものの、9月の党総裁選に立候補した小泉進次郎・前選挙対策委員長や河野太郎・元デジタル相が肯定的な姿勢を示すなど、賛否は割れている。公明は衆院選公約で「導入を推進」と明記しているほか、野党では国民民主党や共産党などが導入に賛成の立場だ。野田氏は与野党の賛成派をまとめれば、衆院で過半数を確保し、導入のための法案を可決することも可能だとみている。11日のテレビ番組では「少なくとも来年の通常国会の冒頭には(法案を)出せるよう環境整備をしたい」と語った。立民内には、自民に参院での法案可決、成立を迫るため、「来年度予算への賛成を交換条件とすることも可能だ」(ベテラン)との意見も出ている。ただ、夫婦同姓を見直すことは家族観や社会のあり方に大きな影響を与えるため、立民中堅は「丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘した。 *5-3-2:https://ippjapan.org/archives/7266 ( 2022年9月6日) 日本における「氏」の役割と今後の方向性 —選択的夫婦別氏制の検討— ※IPP-Youth政策情報レポートは、若手研究者および学生等の政策研究グループである「IPP-Youth政策研究会」がまとめたレポートです。 第一章 はじめに 近年、わが国の「家族」の在り方が大きく変わってきている。例えば、過去30年で世帯構造の構成は大きく変わった。いわゆる「標準家族」とされていた「夫婦と未婚の子のみの世帯」は39.3%(1989年)から29.1%(2018年)に減少している(厚労省2018)。他方で「単独世帯」は20.0%から27.7%に、「夫婦のみの世帯」も16.0%から24.1%に上昇している。その背後には、晩婚化・非婚化、少子化、離婚の増加、世代分離など、様々な要因がある。また1997年以降、「共働き世帯」数が「男性雇用者と無業の妻」世帯数を上回り、その後も増加を続けている。高度経済成長期に大衆化した「夫は仕事、妻は家庭」という家族モデルも過去のものとなりつつある。それに伴い、夫婦の氏の在り方を含む家族に関わる様々な制度・政策について、改革を望む声が多くのメディアに取り上げられるようになった。私たちは改めて、それらの課題を見つめなおす重要な時を迎えている。本稿では、昨今活発化している選択的夫婦別氏制を巡る議論に着目し、日本社会において「氏」の果たす役割と重要性を考察することを通して、今後の「氏」の在り方に関する方向性について検討したい。以下では、まず第二章においてわが国における「氏」をめぐる歴史的経緯を紹介し、第三章で日本において「氏」が夫婦・家族関係に与える影響について考察し、第四章で日本における「氏」の特徴と役割について検討する。そして以上の議論を踏まえて、第五章において具体的な制度の方向性について検討していきたい。 第二章 「氏」に関する歴史的経緯と現状 第一節 歴史的経緯と法制度の現状 まず、日本における「氏」の歴史をさかのぼってみる。江戸時代、氏を持つことは武士の特権であり、庶民は公には氏をもっていなかった。しかし、「屋号」という形で「家」を示す名称は広く使用されていた。それが、明治3年の太政官布告にて庶民にも氏の使用が許され、明治8年には氏の使用が義務化された。当初、妻の氏は実家の氏を用いること(夫婦別氏制)とされたが、既に夫婦同氏の意識や慣行が庶民の間で広まっており、妻が夫の氏を称することが慣習化していったと言われている(『明日への選択』編集部 2021、法務省HP)。明治31年の民法成立時、江戸時代に発達した「家制度1」が民法の中で規定され、家を同じくすることにより、同じ氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。戦後の民法改正に伴い、「家制度」は廃止され、夫婦は、夫または妻の氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。改正民法は、旧民法以来の夫婦同氏制の原則を維持しつつ、男女平等の理念に沿って、夫婦は、その合意により、夫または妻のいずれかの氏を称することができるとした(法務省HP)。2022年現在、下記の通り夫婦は婚姻の際に同一の姓を称し(民法第750条)、子は親の氏を称することとされている(同法第791条)。 ■ 民法(明治二十九年法律第八十九号)抄 (夫婦の氏) 第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。 (子の氏) 第七百九十一条 嫡出である子は父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚した ときは、離婚の際における父母の氏を称する。 2 嫡出でない子は、母の氏を称する。 第二節 選択的夫婦別氏制をめぐる経緯 「選択的夫婦別氏制」についての議論は、女性の労働参加率の上昇に代表される女性の社会進出や、男女平等を推進する社会的気運の中で起こってきた。1979年に国連総会において女子差別撤廃条約が採択され、1985年に日本が当該条約に批准した。翌年には労働基準法の改正とともに男女雇用機会均等法が制定された。このような法制度の改革を背景として、1991年の法制審議会民法部会(身分法小委員会、以下単に「民法部会」)において夫婦別姓についての審議が開始された。1994年から1996年にかけて議論が重ねられ、1996年に選択的夫婦別氏制が明記された「民法の一部を改正する法律案要綱2」が答申された。しかし、その後、国民各層からの反対を受けて本法律案の国会提出は断念された。その後、表立って目立った動きはなかったが、2015年に最高裁大法廷にて夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が出て以降、各所で議論が再燃している。2021年には自民党内において選択的夫婦別氏制の賛成派と反対派の議論が活発化し、関連する議員連盟が成立した。同年10月には最高裁大法廷にて、夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が再度出されたが、その制度の在り方については、国会で論ぜられ判断されるべき事柄であることも明言された。10月末日に行われた衆院選においても、各党が氏のあり方についての公約を掲げ、国民が注目する論点の一つとなった。 第三章 選択的夫婦別氏制度が家族に与える影響 我が国における選択的夫婦別氏制の導入に関する議論は、主に個人の権利と法律の観点から行われることが多く、家族への具体的な影響を扱った論考はあまりない。本章では、夫婦と子供のアイデンティティの観点から、選択的夫婦別氏制の影響を論じる。 第一節 「夫婦アイデンティティ」への影響 まず、「夫婦アイデンティティ」に着目して考えてみる。夫婦アイデンティティとは、「私たちはこのような夫婦である」という感覚を指す(Emery et al. 2021)。夫婦は、結婚前は別々の個人であったが、結婚後は生活様式や外部との関わり方にある程度の共通性が生じてくる。そうした共通性に対する自覚と、それが一貫して続いているという認識が夫婦アイデンティティの要素である。夫婦アイデンティティが安定している時、夫と妻が共に「わたしたち」として物事を判断しやすく、夫婦の関係へのコミットメントが高まりやすい。一方で、何らかの事情により、共有していた価値観や信念、優先事項に疑問が生まれると、夫と妻が物事の判断基準を個人の内に求めるようなる。そうすると、「わたしたち」感が揺らぎ、関係を維持する力が弱まるという。安定した夫婦アイデンティティを形成するためには、夫婦が互いに適応していくことが必要となる。夫婦としての家庭生活と友人関係や仕事のバランス、日常生活や性生活の取り決め、互いの実家との関わり方、子供を産む時期や人数などに関して話し合い、ルール作りをしていくことが適応につながる(野末 2015)。しかし、夫婦の互いへの適応は、決して容易なことではない。互いに適応するためには、夫婦が互いの生活や考え方をすり合わせる必要があるが、元々夫婦はそれぞれ別々の考え・習慣をもった家庭で育った他人である。そのため、日本人同士の夫婦でも「異文化結婚」と言ってよいほど、夫婦や親としての役割観、男女の性質に関するイメージ、家事や子育ての仕方、人間関係のパターンなどあらゆることが異なっている(野末2019)。一方で、夫婦という関係は特別視されるため、他の関係以上に相手への期待が高い。その期待と現実の間に生まれた葛藤を解決できない場合、失望や怒りを覚えたり、結婚自体を後悔したりすることもある(野末2015)。夫婦アイデンティティの形成とは、夫婦の違いを前提に互いの立場をすり合わせ、夫婦という連体として物事の進め方とその根底にある考え方、情緒的な支え合いの在り方を調整していくことだと言えよう。このように見ると、夫婦アイデンティティは結婚後即座に安定するものではなく、少なくとも新婚期をかけて、葛藤をはらみながら徐々に醸成されるものだと言える。そうだとすれば、夫婦同氏は夫婦アイデンティティ安定にとって、重要な役割を果たしている可能性が高い。内閣府が2021年に実施した世論調査によれば、「婚姻によって、ご自分の名字・姓があいての名字・姓に変わったとした場合、どのような感じを持つと思いますか。(〇はいくつでも)」という質問に対し、54.1%が「名字・姓が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と回答しており、39.7%が「相手と一体となったような喜びを感じると思う」と回答した(図1、内閣府2022)。この調査結果からは、結婚にともなう改姓が、「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴として認識されていることがわかる。すなわち、夫婦同氏は、新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとって、葛藤があっても自分たちは結びついているという感覚を与えるセーフティネットの役割を果たしている可能性があるのである。他方で、選択的夫婦別氏制を導入した場合、婚姻時に全ての夫婦が同氏か別氏かの選択をする必要が生じる。また、制度的には「家族名としての氏」が消失することになる。仮説的にではあるが、選択的夫婦別氏の導入は、日本の夫婦が安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする一因となる可能性が提起される。 第二節 子供への影響 次に、子供への影響を考えてみる。選択的夫婦別氏制の導入を検討する際に、避けて通れないのが「子供の氏」の検討である。多くの場合、子供は両親の結婚時には生まれていないか声をあげられるほど成熟していない。そのため、夫婦にとっての「個人の尊厳」を優先するあまり、子供の利益は軽んじられる可能性が高く、配慮が必要である。子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果がある。他方で、夫婦が別氏を選択することで、子供の氏の選択という新たな課題が生じることが指摘されている(篠原 2021、『明日への選択』編集部2021)。篠原(2021)は、夫婦同氏制の改正を目指す場合、子の氏の決定の仕組みについての検討が必須となると指摘している。氏が個人のアイデンティティの基盤を成すとすれば、子供のアイデンティティの基盤となる氏を決定する仕組みの整備は、「子供の利益」の観点から求められる。いかなる仕組みとなるとしても、子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益となる。子供の氏の決定が、夫婦アイデンティティの不安定化を招くことのないよう、慎重な制度設計が必要となるだろう。世論も夫婦別氏が子供に与える影響については懸念を抱いている。内閣府(2022)の世論調査において、「夫婦の名字・姓が違うことによる、夫婦の間の子どもへの影響の有無について」、約7割(69%)の人が「子供にとって好ましくない影響あると思う」と回答している。家庭内で父母が子供に対して情緒的安定を保障することは重要な家族機能であるが、夫婦が別氏であること(片方の親と氏が異なること)や、子供の氏の決定に関する事柄が、子供の情緒的安定を損ねるようなことは防ぐべきである。夫婦アイデンティティの形成、そして子供を含めた家族アイデンティティの形成に対して、選択的であろうと夫婦別氏が与える負の影響についての考慮はあってしかるべきである。国際結婚した家族など、同氏でない家族でも十分な夫婦・家族アイデンティティを形成しているという意見もあるが、次章で扱うように、氏のはたらきは各国の文化によって異なる。国際結婚など特異な文化的前提を持つ例外をもって、夫婦同氏のはたらきを軽視するのは拙速である。その影響範囲が正確に想定できない事柄については、できるだけ小さな変更で対応することが望ましい。 第四章 日本における「氏」の特徴と機能 我が国では、各国と比較して、選択的夫婦別氏制を導入していないことが時代遅れのように語られることがある。しかし、各国の文化によって「氏」の意味合いは異なる。したがって、選択的夫婦別氏制度の導入を検討するにあたり、「氏」や家族に関わる文化の影響を考察しておく必要がある。本章では、日本における「氏」が示す内容と、その機能について論じる。 第一節 文化による「氏」の意味の違い 各国の夫婦の氏に関する制度を見てみると、イギリス・アメリカは氏の変更は基本的に自由であり、オーストラリア・フランスは同氏、別氏、結合氏(双方の氏をつなげた氏)のいずれも可、ドイツは同氏が原則で別氏・結合氏も可、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、イタリアは夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏、韓国は別氏が原則となっている。夫婦別氏が可能な国もあるが、氏のあり方は国の文化によって異なる点に着目する必要がある。まず、氏が意味するものにおいて違いがある。名前に関する人類学の議論によれば、名前には①「身分規定の認識としての名前」と②「自由な創造物としての名前」の二種類がある(上野 1999)。上述した中では、少なくとも中国・韓国の氏は氏族名・家族名を表し、①の「身分規定の認識としての名前」に相当する。対して、英米は氏の変更が自由であることから、②の創造物としての性質を持つと考えられる。日本の氏も世代を超えて受け継がれること、家族全員が同じ氏を名乗ることから、①の「身分規定の認識としての名前」に相当するといえる。ただし、同じ「身分規定の認識としての名前」としての氏を持っていても、中国・韓国と日本の氏が表す集団の性格は異なる。隣国の韓国や中国は原則別氏だが、それは血統を重要視しており、歴史的にも生家の氏を名乗り続けることが当然とされているためである。特に、韓国の場合は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序が重視され、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表すという意味が氏にはある(仲川 2016、上野 1999)。一方、日本の氏も古くは「家(イエ)」を表し、代々継承されるものではあるが、「家」は祖先祭祀の単位ではない。上野(2003)によれば、日本では韓国のような縦の親族組織(単系親族組織)は部分的にしか存在せず、祖先祭祀の単位は「家族」である(上野 2003)。日本の「家」の性格は、財産の共有範囲や経営共同体のまとまりであるとされる。百姓身分においてすら、そのような「家」が戦国時代(16世紀)に成立し、武士の前以外では「苗字」に相当するものが使用されていた(坂田 2016)。それが、明治民法の成立を契機に、「家」に所属していた家産の所有権が家長に移されたことで(宇野 2016)、氏の表す範囲が現在の「世帯」に相当する家族へと変化したと考えられる。つまり、日本の氏は、明治以前はその氏が示す「家」への、明治以降は主に世帯としての家族への帰属を表す身分関係を表示する役割を持っていたのである。ただし、韓国のように完全な縦の親族関係を示すものではなく、生活を共にする共同体としての「家」「家族」を指示していたと考えられる。このように、氏に関係する制度は、各国の異なる歴史的背景や文化を反映している。そのため、他国の状況は日本に夫婦別氏を導入する理由にはならない。 第二節 日本における氏の身分関係表示機能 では、氏のはたらきに関わる日本の文化的特質とはどのようなものか。それは、日本人に特徴的な「うち」と「そと」の区別である。日本人は、「うち」と「そと」の中間にいる人々から氏で呼ばれることにより、その人々が持つ結婚・家族に関わる規範・期待を自分の行動に反映してきた。多くの関係する研究において、日本人の人間関係のあり方は、人々の親密さの距離に応じて三層に分類されている。その三層とは、①「内」である親しい身内や仲間の世界、②「中間」である遠慮や義理や体面がからむ知人の世界、③「外」である遠慮も義理も働かない無縁の他人の世界の三層である(岩田 1982)。このうち、①の親しい身内や仲間の世界は明確に「うち」であり、互いに無理を言っても許され、私的に立ち入ったことをうちあけても許される。一方、③の無縁の他人の世界は明確に「そと」であり、互いに期待を持っておらず、裏切られることもないので、遠慮することなく粗野な行動を取ることもできるという。注目したいのは、②の知人の世界である。②の関係は、互いに名前や地位を知り、個人的な接触によってある程度人柄を知っている顔見知りのような関係である(岩田1982)。あるいは直接には知らなくとも何らかの既存のネットワークで支えられた範囲の人間関係といわれる(中根1972)。そこではある種の「道義的期待」が相互に形成され、この期待を裏切らないであろうという相手に対する一種の信頼感が形成される。そして、こうした「道義的期待」が、義理や遠慮として表れる日本人の「責任意識」の中核をなすという(岩田1982)。ここで重要なのは、この②の知人関係では、氏で呼びあうことが一般的だということである。橘(2010)は、誰に対してもファーストネームで呼びかける文化のある英語圏等と比較して、「日本人のコミュニケーションは良くも悪くもお互いが一定の心の距離を保ち、相手から離れた遠いところにおいて行われる」と述べている。つまり、日本人は氏で呼び合うことによって互いの距離を測り、「うち」と「そと」を区別しているのである。日本人の人間関係における以上のような特徴は、日本において氏が果たす「身分関係表示機能」の重要性を浮き彫りにする。②の知人関係にある人々は互いに氏で呼び合い、その人間関係は日本人の責任意識の元となっている。つまり、日本人は②の知人関係にある人々に、家族への帰属を示す氏で名乗ったり呼ばれたりするとき、家族または夫婦に関する規範の遵守を期待されていると感じ、その期待を行動の基準とする可能性が高い。具体的には、夫婦間の貞操や家族の生活保障に関する権利義務などについての規範の遵守が期待されると考えられる3。選択的夫婦別氏制の導入により、氏から家族名としての性質が失われる場合、家族に関わる規範の遵守を期待される機会が減る。まず、別氏を選択する夫婦は、共通の氏という、②の知人関係にある人から見て、婚姻関係にあるか否かを判別する最もわかりやすい要素をはじめから持たないことになる。また、同氏を選択する夫婦も、同一の氏で名乗り呼ばれたとしても、その氏が家族名として扱われる機会は減る。例えば、結婚式や葬儀などの冠婚葬祭において、従来は「○○家・△△家式場」「◆◆家斎場」などのように案内されたが、選択的夫婦別氏制度の導入により個人名に置き換えられていくだろう。それに応じて、参席者も冠婚葬祭を家族というより個人の行事として受け取ることが考えられる。このように、別氏でも同氏でも、選択的夫婦別氏制度により全ての夫婦は規範遵守を期待される機会が減りうる。それにより、日本人の家族に関する規範意識や行動は大きく左右されるだろう。以上のように、夫婦の氏が持つ意味は各国の文化によって異なり、氏に関係する制度は単純に国家間で比較することができない。また、人々が氏で呼び合うことが一般的な日本社会においては、氏が家族への所属を表すかどうかは、人々が家族に関する規範の遵守を期待されたと感じる機会の多さと関係している。そして、選択的夫婦別氏制度の導入はその機会を減らす可能性が高い。選択的夫婦別氏制度を検討するにあたり、これらの点を考慮に入れる必要がある。 第五章 具体的な政策の方向性—旧姓の通称使用の法制化— 第三章及び第四章で考察した氏の果たす役割を踏まえて、日本においては夫婦同氏制を原則とすべきであると考える。ただし、日常生活における不利益は解消されるべきであり、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の尊厳を最大限尊重する方法を検討すべきである。家族にかかる法制度は人々の生活のあり方、国家のあり方に影響し得る重要な事柄であるため、中長期的な影響が定かでない中においては、できるだけ小さな変更で現実にある課題を解決することが望ましい。具体的な方向性としては、旧姓の通称使用の拡大、さらには法制化を支持する。参考までに、旧姓の通称使用を拡大する場合と、選択的夫婦別氏制を取り入れる場合の差異について整理する。表2の通り、旧姓の通称使用を拡大する場合、旧姓を通称使用する人は実質的に二つの氏を使い分けることになる。ただし、家族名としての共通の氏は保持されるので、家族としての身分表示機能は保たれる。当然、子供も家族共通の氏を持つこととなる。選択的夫婦別氏制を導入する場合、個人の氏は一つであり、家族で見れば別氏家族は家庭内に氏が二つ存在することとなる。また、子供の氏についても検討が必要となる。旧姓の通称使用拡大と選択的夫婦別氏制導入の主な違いは、氏が家族名としての役割を持つかどうか、という点である。以下では、選択的夫婦別氏制に関する主な論点に対して、旧姓の通称使用の拡大を支持する立場から考察する。 ①個人のアイデンティティの喪失について 夫婦同氏制は、改氏によって個人のアイデンティティを喪失させる場合があると指摘されている。氏名は人格の重要な一部であり、選択的夫婦別姓を取り入れることにより人格権を保護することが可能となるという(太田・石野 2010)。先述した通り、内閣府(2022)の世論調査によると、「(結婚に伴い)名前が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と答えた人の割合は54.1%、「相手と一体となった喜びを感じると思う」と答えた人は39.7%である。他方で、「今までの自分が失われてしまったような感じを持つと思う」と回答した人は9.7%、「名字・姓が変わったことに違和感を持つと思う」と答えた人は25.6%である(図1)。この結果から、5割以上の人は結婚時に氏が変わることを肯定的に捉えていることがわかる。ただし、少数であれアイデンティティの喪失を感じる人が存在しているのも事実である。太田・石野(2010)によれば、結婚による改姓が人格面で個人のアイデンティティの感覚と強く関連するのは、「自己の同一性を形成しにくい女性」とされている。自己の同一性の安定には、主に青年期までの親子・家族関係が重要である。人格面のアイデンティティについては、夫婦別氏制度による補完機能を強調するよりも、家族支援の課題として考える方が、該当する人のウェルビーイングに資するのではないかと考える。もちろん、個人のアイデンティティを尊重することは重要であるが、社会制度の変更を伴う場合は、社会として守っていくべき家庭や子供の福祉との比較衡量を慎重に行うべきである。個人のアイデンティティの尊重を過度に重視した結果、家庭が軽視されたり、子供の福祉が損なわれたり、ひいては社会の混乱が引き起こされることがあってはならない。既に実施されている旧姓の通称使用拡大によって大半の課題が解決するのであれば、それで十分ではないだろうか。 ②社会生活上の不便・不利益について 婚姻時の改氏によって、社会生活上の不便・不利益が生じることは明らかであり、この点についてはできる限り解決する必要がある。従来、女性は職業活動を行うことが少なかったため、あまり問題として認識されてこなかったが、女性の社会進出に伴い、その課題が浮き彫りとなった。男女を問わず、婚姻して氏を改める人が不便・不利益を被らないようにすることは、当然必要なことである。こうした改氏による不便・不利益は、旧姓使用の拡大・法制化により対応可能である。現在、旧姓使用可能な領域は拡大を続けており、パスポートや運転免許証、マイナンバーカード・住民票では旧姓併記が可能となった。各種国家資格や免許についても、令和4年6月現在、大半の国家資格や免許で旧姓使用が可能となっている4(内閣府男女共同参画局 2021)。確かに、従来の法制化を伴わない旧姓使用の拡大については、効果に疑問が呈されてきた。主に、①旧姓使用を許可する企業や団体により、旧姓を使用できる範囲が異なること、②社会保険や年金、納税など、戸籍名が必要な場合は旧姓を通称として使用できないこと、の2点が懸念されている(鈴木2016、富田2020)。しかし、これらの懸念は旧姓使用の法制化により解消しうる。①の各企業や団体による旧姓使用を認める範囲の違いは、法制化によって旧姓使用の適用範囲を定めることにより、基準を明確にできる。また、②に関して、戸籍名が必要となる法的手続きの問題は、旧姓使用の法制化に旧姓の戸籍への併記を含めることで対応できるという議論もある。以上のことから、旧姓使用を法制化することで、家族名を保持したまま、社会生活上の不便・不利益を最大限解消することができるのではないかと考える。 ③男女不平等の解決策となるか 婚姻に際し氏を変える人の大半は女性であるため、選択的夫婦別氏制の導入により、男女の実質的不平等を解消することができるという意見がある。現行の同氏制は、制度だけ見れば夫婦の同意によって夫または妻の氏を選択するという男女平等の発想に基づくものになっている。内閣府の世論調査(2022)では5割以上の人が婚姻時の改氏に対して肯定的な意見を持っている。つまり、必ずしも強制的に改氏しているわけではなく、両者が納得したうえで肯定的に氏を改めている人も多くいるということである。そして、選択的夫婦別氏制の導入は必ずしも氏に関する男女不平等の是正にはならないという点を強調したい。例えば、仮に選択的夫婦別氏制が導入され、意に沿わない改氏をしなくて済むようになるとしよう。しかし今度は、子供の氏をどうするかという問題が生じる。子供の氏を決める際に、男女間の不平等が形を変えて現れる可能性は十分にあるだろう。実質的不平等を解決するためには、社会生活上の不便・不利益の解消が重要である。旧姓の通称使用法制化によって、氏を改める者とそうでない者との不平等感も薄まることが期待される。 第六章 おわりに 内閣府は「家庭は、子どもが親や家族との愛情によるきずなを形成し、人に対する基本的な信頼感や倫理観、自立心などを身に付けていく場でもある」(内閣府2004)としている。冒頭で述べた通り、世帯構造の構成は近年大きく変わってきているが、家庭が社会の安定と発展に果たす役割が重要であることに変わりない。家族に関わる制度は、人々の日々の生活に直結するものであると同時に、社会のあり方にも大きく影響を及ぼすものである。そのため、日本の社会にとってどのような選択が最善なのか、国会はもちろんのこと、国民の間でも丁寧に議論を重ねて方向性を見出す必要があるだろう。夫婦の氏に関わる制度の在り方については、既に旧姓の通称使用拡大が積極的に行われている。日本の文化や社会風土を踏まえれば、さらなる不便・不利益の解消にむけては旧姓使用の法制化など、夫婦同氏を原則とした対策を検討すべきではないか、というのが本稿の立場である。本稿が、日本における氏制度の在り方を検討する際の一助となれば幸いである。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241117&ng=DGKKZO84854750X11C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.17) エンゲル係数 日本圧迫、G7で首位 時短優先、割高でも中食 消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」(総合2面きょうのことば)が日本で急伸し、主要7カ国(G7)で首位となっている。身近な食材が値上がりし、負担が家計に重くのしかかる。実質賃金が伸び悩むなかで仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は、家事の時短のため割高な総菜など中食への依存が強まる。支出に占める食費の割合が高くなりやすい高齢者の急増も係数急伸の背景だ。生活の質の劣化が懸念される。「スーパーの買い物でレジに立つのが怖い」。東京都の40代女性はこぼす。表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」。最近はコメも大幅に値上がりした。「計算すると、食費の割合が30%を超えている」。家計調査(総世帯)によると、日本のエンゲル係数は2022年で26%。経済協力開発機構(OECD)のデータから計算した米英独仏の同時点の水準を上回る。24年7~9月期は28.7%まで上昇するなど傾向は変わらない。係数が20%を下回る米国は、医療費などの負担が極端に重く、相対的に食費の割合が低くみえる面もある。外食機会の多さ、なかでもファストフードの利用頻度が高いかなど各国の食生活にも左右され、単純比較はしにくい。三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「エンゲル係数には各国の食文化も影響する。最高水準だから日本が貧しいとは言えない。ただ、『上がり方』に日本の課題がにじむ」とみる。日本のエンゲル係数は他国より上昇が急ピッチだ。「所得が伸び悩む一方、高齢化の進展も早い」(上野氏)のも要因だ。OECDによると、日本は可処分所得の伸び率がほかの先進国に比べて低迷しているうえ、65歳以上の高齢者の割合はトップで、24年は29.3%を記録した。エンゲル係数が高くなりやすい土台があるなか、物価高が直撃。値上がりの率でみると、「庶民の味」とされる食材ほど上昇が激しい。総務省の消費者物価指数(20年=100)で23年の数値を5年前と比べると、上昇率は鶏肉12%、イワシ20%、サンマにいたっては1.9倍だ。24年前半も同様の傾向が続いた。大和総研の矢作大祐主任研究員は「女性の社会進出の加速も食費の負担増の一因になったのでは」とみる。20代後半や30代前半女性の正規雇用率はこの10年間で約14ポイント上昇した。正社員同士の共働き世帯にとっても、仕事と家事の両立が改めて課題となる一方、働き方改革は道半ばだ。その結果、「割高でも総菜といった中食などに依存せざるを得ない世帯は増える」(矢作氏)。実際、家計調査(総世帯)では食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、23年は15.8%と10年前より3ポイント高い。こうした現状についてシンクタンクのSOMPOインスティチュート・プラスの小池理人上級研究員は「事情が異なる米国のような水準を目指す必要はない」としながらも、「係数の上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべきだ」と話す。生活の質を保つ策はあるのか。小池氏は企業や政府も含めた「実質賃金の継続的な上昇と生産性向上の取り組み」の必要性を指摘する。矢作氏は「生産性の真の意味合いの整理から始めるべきだ」と訴える。効率よく働くことで長時間労働を是正すれは、短い時間で今と同じかそれ以上の所得が得られる。時間的な余裕が増えれば割高な中食に頼らなくてもすむ。自炊を楽しむこともできる。エンゲル係数の急伸は食にとどまらず、働き方を含めた日本人のライフスタイルのあり方を問いかけている。
| 経済・雇用::2023.3~ | 10:44 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2024,09,16, Monday
(1)公的年金の財政検証と年金改革
![]() 2024.9.2日経新聞 2024.9.16日経新聞 年金Hacs (図の説明:左図のように、労働参加が進めば人手不足が解消し、社会保障の担い手も増える。しかし、中央の図のように、2023年の高齢者就業率は50%超にすぎない。また、右図のように、2号保険者に扶養されている配偶者は年金保険料を払わずに基礎年金を受給できるが、これは他の被保険者との間で不公平を生んでいる。そのため、転勤の多い2号被保険者の配偶者で就業できない人は、2号被保険者とその雇用主に保険料を支払ってもらう仕組みに変更すべきだ) 1)公的年金の財政検証結果について *1-2-1は、①公的年金の「財政検証」結果が発表され、政府は年金水準維持のため年末にかけ制度改正を本格的に議論 ②i)高成長実現ケースは所得代替率56.9% ii)成長型経済移行・継続ケースは57.6% iii)過去30年投影ケースは50.4% iv)1人あたり0成長ケースは45.3% v)5人未満の個人事業所にも厚生年金を適用すれば60.7% vi)週10時間以上働く全ての労働者まで厚生年金適用を拡大すれば61.2% ③国民年金(基礎年金)支払期間5年延長は見送る ④企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やす ⑤人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」 ⑥厚生年金積立金の活用により、基礎年金調整期間を厚生年金と一致させる ⑦基礎年金の保険料納付期間を40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長 ⑧在職老齢年金撤廃 ⑨厚生年金保険料上限引き上げ 等としている。 また、*1-2-2は、⑩一定の経済成長で少子高齢化による給付水準低下は2024年度比6%で止まる ⑪成長率が横ばいで2割近く下がる ⑫高齢者の就労拡大が年金財政を下支え ⑬指標は「所得代替率」で「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す ⑭厚労省がめざす「中長期的に一定の経済成長が続く成長ケース」で、2037年度の所得代替率は57.6%、給付水準は2024年度から6%低下 ⑮最も悲観的なマイナス成長ケースでは国民年金積立金が2059年度に枯渇して制度が破綻 ⑯高齢者・女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がり、積立金が2019年想定より70兆円ほど増えて前回より改善 ⑰60代就業率は2040年に77%と推計(2022年から15%高い) ⑱将来出生率は1.36としたが、2023年の出生率は1.20 ⑲1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は2001~22年度の平均がマイナス0.3% ⑳年金制度の安定には就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援や外国人労働者の呼び込みが必要 ㉑財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも示し、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースで2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円となり男女差が縮小 等としている。 このうち、①のように、年末にかけて年金制度改正を本格的に議論するのは良いが、厚労省は、⑬のように、いつまで「40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻」をモデル世帯とする「所得代替率」を使うつもりなのだろうか? このような世帯は既に少数派で、女性の労働参加を促しながら専業主婦世帯をモデルとするのは自己矛盾している。その上、年金は個人単位で考えなければ働く女性が損をし、㉑のように、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースであっても2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円と年金受給額に男女差が存在するのは、同様に働いても男女間に賃金格差があり、女性の方が在職年数も短くなりがちであることに依るのだ。しかし、これをこそ早急に改めるべきである。 そのため、②の“所得代替率”は、夫婦で稼いできた世帯のケースも出さなければ、多くの世帯にとってどうなるのか不明である。また、経済成長率についても、1人当たりGDPを比較すれば、*1-2-3のように、「子だくさん≒女性の教育水準が低く、働いていないか、低賃金⇒貧乏」であり、⑤⑱の「将来出生率が高くなれば、年金の所得代替率を高くできる」という仮説に基づいた“マクロ経済スライド”は誤りなのである。 また、②⑩⑪⑭のように、経済成長の大きさで年金給付水準を下げるのも、経済成長するか否かの原因が国民にあるわけではなく、厚労省・経産省・農水省・文科省のこれまでの政策にあるため、間違った政策の責任転嫁である。仮に国民に責任の一端があるとすれば、それは、メディアを通した情報で政策の誤りを見抜けず政治家を選んだことに依るが、実態は政治家よりも行政庁の方が強いのである。 さらに、⑲の実質賃金上昇率には、生産性向上と生産性向上に資する産業の育成が必要だが、EV・再エネ・再生医療・介護サービスなどを見ると、これから発展する産業を抑える経産省・厚労省、物価上昇を促す財務省、生産性も上がらないのに賃金上昇を叫ぶ政治など、高コスト構造で日本企業が海外に生産拠点を移すことはあっても、将来性ある企業が日本で育ったり、海外企業が日本に生産拠点を移したりすることは、余程の補助金でもつけなければなさそうだ。 しかし、高齢者の就労については、平均寿命の伸びによって年金受給期間が伸びており、⑫⑯のように、高齢者や女性の就労拡大は年金財政を下支えをしているため、私は、③⑦⑧の国民年金(基礎年金)支払期間の5年延長と在職老齢年金撤廃はやればよいと思うが、健康寿命も伸びているため、年齢による差別(例:役職停止・定年・労災保険の加入年齢制限)の廃止と同時に行なうべきである。そうやって、⑰の60代就業率を100%にしなければ、結局は年金支払期間の延長も受給開始年齢の繰り上げもできないだろう。 また、女性の就労については、年金制度の安定だけでなく本人の老後生活の安定のためにも、④のように、企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やすのは当然のことであるし、⑳のように、長期就労や就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援が必要であることも言うまでもない。また、外国人労働者の呼び込みも重要である。 なお、物価と賃金の上昇が続く場合には、⑨の厚生年金保険料の上限引き上げは当然のことになるが、⑥の「基礎年金に厚生年金積立金を活用する」というのは目的外使用だ。そして、これまでも、年金積立金が要支給額(=要積立額)という発生主義で認識されず、キャッシュフローだけを見て余っていると勘違いし流用されてきたのが、必要な積立金の不足原因であるため、同じことを繰り返して欲しくない。このように流用を重ねた結果、⑮のように、「年金制度が破綻した」と言って「緊急事態条項」を発動し、契約に基づいて年金保険料を支払ってきた国民が受給権を制限されてはたまったものではないのである。 2)世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係 ![]() すべて、*1-2-3の統計メモ帳より (図の説明:左図のように、合計特殊出生率とGDP/人はマイナスの相関関係があるが、アンゴラ・赤道ギニア・ミャンマー・北朝鮮・モルドバはその例外だ。また、GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、中央の図のように、産油国・資源国でGDPの割に合計特殊出生率が高いが、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない国である。さらに、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率が1.3未満の国を拾うと、東アジア・東ヨーロッパの新興国に集中しており、西ヨーロッパ諸国に「成熟した国」とは何かを学ぶべきである) ![]() 人口ピラミッド アフリカ ブラジル・中国・フランス・日本 世界とヨーロッパ (図の説明:左図は、アフリカの人口ピラミッドでエチオピア・ナイジェリア・ルワンダ・ザンビアのようなピラミッド型は、多産多死型の国である。中央の図は、多産多死型の国が少産少死型に移行する過程を示しており、ブラジルは1985年頃まで、中国・日本も1950年代まで多産多死型の国だった。右図が、今後の世界とヨーロッパの人口構成を示しており、次第に少産少死型となって、2100年頃には生まれた人が高齢まであまり亡くならないことが予想されている) *1-2-3は、①190の国・地域で合計特殊出生率とGDP/人の相関をグラフにした ②GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人は反比例 ③途上国の人口増大問題解決にはGDP/人を上げるのが正しい ④アンゴラ・赤道ギニアはGDP/人が比較的高いが出生率も高く、その理由は石油収入が必ずしも国民の貧困解消に結びついていない、GDP/人の増加で出生率が低下するまでに10年ほどかかるなど ⑤GDPが低いのに出生率も低いのがミャンマー・北朝鮮・モルドバで、ミャンマー・北朝鮮は圧政国家、モルドバは経済状態悪化 ⑥GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、GDPの割に出生率の高い国はカタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・イスラエル・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナと多くが産油国・資源国で、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない ⑦日本と他の先進国を比較するため、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率1.3未満の国をGDP/人が高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人と東アジアと東ヨーロッパに集中 ⑧成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべき としている。 このうち、①②③④⑤⑥は、合計特殊出生率とGDP /人の相関を調べた点が、大変、面白い。そして、日本政府が言う「出生率が上がれば、GDPが上がる」というのは、GDP全体 は少し上がるかも知れないが、GDP/人(国民1人1人の豊かさ)については事実でないことがわかる。 それでは、何故、②のように、GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人が反比例するのかと言えば、GDP/人が数千ドル以下の途上国は産業革命以前で、食糧/人が乏しく教育・医療も普及していないからだ。そのため、③のように、途上国の人口増大問題解決には、GDP/人を上げる(≒食糧《栄養》・教育・医療を普及させる)のが正しい解決策になるのである。 また、④⑥の赤道ギニア・カタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナ等の産油国・資源国は、GDP/人は比較的高いが出生率も高く、その理由は、資源からの収入が必ずしも国民の豊かさに結びついていなかったり、宗教上の理由で女性の自由や権利が著しく制限されて女子教育が普及していなかったりするからだ。さらに、アンゴラのように、長期の内戦で経済が疲弊し人口も減少して、復興によってGDPが増加し、食糧・教育・医療が普及して出生率が低下するまでに数十年の歳月がかかることもある。 なお、⑤のように、GDPが低いのに出生率も低いミャンマー・北朝鮮は圧政国家で、同モルドバは経済状態の悪化が原因としているが、⑦の日本・韓国・シンガポール・マカオ・香港などの東アジア諸国も、未だに儒教由来で個人(特に女性)の権利を軽視する国々であり、組織(会社・世帯など)のために個人(特に女性)を犠牲にすることを厭わないどころか尊ぶ風潮の残っている全体主義・集団主義国家(反対用語:個人を大切にする民主主義国家)である。 さらに、スロベニア・チェコ・スロバキア・ハンガリー・リトアニア・ラトビア・ポーランド・ベラルーシなどの東ヨーロッパ諸国は、社会主義という全体主義国家から市場経済社会に加わって日が浅く、社会主義的価値観を持つ国民も多く残っている上に、未だに国民生活が豊かとは言えない状態なのであろう。 そのため、⑧の「成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶ」とすれば、それはまさに第二次世界大戦敗戦後に欧米先進国から日本に与えられた日本国憲法(1946年11月3日公布、https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/174 参照)に書かれている理念そのものであるため、解釈改憲などをして後戻りさせること無く、その理念を実行すれば良かったのだ。 3)非正規労働(特に女性)と低賃金・低年金 ![]() 2024.9.20東洋経済 2023.12.10日経新聞 2023.10.2読売新聞 2021.3.30日経新聞 (図の説明:1番左の図は、2018年の相対的貧困率で年齢が上がるごとに貧困率が上昇し、中でも1人になった女性の貧困率が上がっている。また、左から2番目の図は、日本の男女間賃金格差で先進国平均の2倍だ。そして、右から2番目の図は、働く女性が増加してM字カーブは解消されつつあるが、子育て後は非正規の仕事しかないため、正規雇用率はL字カーブになることを示している。さらに、1番右の図は、上が年齢階層別正規雇用率で、下は大卒以上の女性の労働力率だが、日本は先進国の中で著しく低いことを示している) *1-3-2は、①2023年は共働き世帯が1200万を超え、専業主婦世帯の約3倍 ②保育所増設・育児休業拡充等の環境整備が進んで仕事と家庭を両立しやすくなったことが背景 ③社会保障・税制は専業主婦を前提にしたものが多く改革が急務 ④2023年の15~64歳女性の就業率は73.3%で、この10年で10.9%の伸び ⑤2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%だが、55~64歳で31%、65歳以上は59% ⑥共働き女性の働き方は、週34時間以下の短時間労働が5割超 ⑦年収は100万円台が最多で100万円未満がその次 ⑧短時間労働が多い理由の1つは「昭和型」の社会保障・税制による専業主婦優遇 ⑨配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は49%で減少 ⑩共働きが主流で各業界で人手不足が深刻さを増す中、官民をあげた制度の見直しが不可欠 としている。 また、*1-3-1は、⑪年金受給月額が10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性は7割弱、「50歳」女性は6割弱になる ⑫どちらも女性の老後が安心というレベルでない ⑬高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある ⑭50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代で、今から働くのは難しいが、働いたり、キャリアアップしたりすることが老後の生活に大きく影響 ⑮女性の低年金は、非正規雇用が多く世帯中心に考え個人単位の生活を想定しなかったことが原因 ⑯国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大は年金財政改善のためで、非正規雇用の老後生活という視線がない ⑰「男女の賃金格差で女性の低年金は当然」という考え方もあるが、男女の賃金格差自体が社会的に認められない ⑱現在働く女性の老後は、現在の高齢女性より数字上は良いが、国民の実感とは距離 ⑲「低年金の人は生活保護に」という考え方は、年金制度は維持できるが、生活保護給付費が増加するため持続可能性が低い ⑳年金を巡る政策は、現在の雇用政策と結びつけて考えるべき 等としている。 このうち、①②③④は、そのとおりであるため、社会保障は、夫婦子2人の専業主婦世帯を標準にするのではなく、個人を中心として共働き世帯の生涯所得を出すべきだ。そうすれば、⑥⑦のように、子育てを原因としてやむを得ず正規から非正規に転換することが、生涯所得の減少にどれだけ影響するのか(=女性にとっての結婚・子育ての機会費用)が明確にわかり、それは出産費用の無償化や結婚・出産祝い金の金額とは2~3桁違うため、教育水準が高くなるほど少子化する原因が特定できて、的確な解決策が出る筈である。 なお、⑧⑨のように、短時間労働が多い理由が、社会保障・税制と雇用における配偶者手当による専業主婦優遇というのは正しいだろうが、⑤のように、2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%、55~64歳では31%、65歳以上では59%と年齢が上がるにつれて所得を得る仕事をする妻の割合が減るが、その理由は、昭和の“規範”の中で生かされ、現在も女性差別・年齢差別が存在している中、65歳以上の女性の雇用は著しく厳しいという社会構造にある。 そして、この状態は、男女雇用機会均等法による均等待遇義務化以前の影響が色濃く残っているからであり、専業主婦に甘んじざるを得なかった妻たちの責任とは言えないため、⑩のように、官民をあげた制度の見直しをするとしても、年金制度の変更は、少なくとも国が男女雇用機会均等法によって男女の均等待遇を義務化した2001年以降に就職した世代からにすべきだ。何故なら、各業界の人手不足は深刻だが、企業の我儘を満たすのが改正目的ではなく、(金銭だけではない)負担と給付の公平性を正すのが最も重要な改正目的だからである。 さらに、男女の雇用が均等ではなく賃金格差が大きいため、⑪⑫⑱のように、年金受給月額10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性で7割弱、「50歳」女性でも6割弱になるそうだが、物価が高騰している中で、「20万円未満の年金で老後は安心」などと思う人はいないため、「高齢者は裕福だ」と言っているのがどういう背景を持つ人なのかは、よく見ておくべきである。 つまり、⑬の「高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある」というのは、いかにも「年金額が低いのは本人の責任」とでも言っているかのようだが、高齢女性は、頑張って働いても男女間賃金格差が大きかった上に、女性が働く環境も整っていなかったため、結婚や子育てで退職させられることの多かった世代であることを忘れてはならない。 にもかかわらず、⑭は、「50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代」などと1986年施行の最初の男女雇用機会均等法以降に就職した女性だけが結婚・出産による退職が多かったかのように記載している。しかし、男女雇用機会均等法もない中で働き、均等法を作ることから始めさせられた均等法以前の世代の苦労を無視しているのを許すわけにはいかない。何事も、常識や法律になった後で行なうのは容易であり、先端で常識にし、法律にした世代の方がよほど大変だったのであり、より偉いのだから、その苦労には正当に報いるべきなのである。 なお、⑮のように、女性の低年金は政府が個人の幸福を追求しなかったことが原因であり、⑯のように、国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大も年金財政改善のためであって国民の老後生活維持・改善という視点ではない。つまり、それは、日本が未だ個人の自由や幸福を尊重する民主主義国家ではなく、国家や組織の論理を優先する全体主義・集団主義国家であり、特に女性・高齢者・外国人から搾取することに罪悪感を感じない国だということなのである。 そして、⑲のように、「低年金のため、生活できない人は生活保護になる」と書かれている年金・医療・介護はじめ社会保障については、1947年5月3日施行の日本国憲法25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に定められている。そのため、「年金制度を維持するために、生活保護給付費が増加するのは云々」という議論は憲法違反である。 従って、⑳の年金を巡る政策は、雇用政策と結びつけて考えるべきなのは当然のことで、それは、組織の便法のためではなく、憲法第13 条に「すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と書かれているとおり、あくまで個人である国民の福利の増進のために行なわなければならないのだ。 4)年金の手取り額について ![]() 厚労省 2024.2.27沖縄タイムス 介護保険料の支払方法 (図の説明:左図のように、政府は「マクロ経済スライド」という他国に例を見ないおかしな手法とインフレ政策によって、国民に気づかれないように年金支給率を低下させているが、そうでなくても年金収入は不十分であるため、中央の図のように、高齢者が困窮し、生活保護受給世帯に占める高齢者の割合が増えている。その上、右図のように、65歳以上《第1号被保険者》になると少ない年金収入から介護保険料を徴収し、健康保険と一緒に天引きされる40~64歳《第2号被保険者》まで含めても40歳以上からしか保険料を徴収しないため、年収が減り、介護の必要性が増してから介護保険料を徴収するという保険として誤った制度になっているのだ) ![]() 2024.8.29Diamond 2023.2.27、2024.4.5そよかぜ (図の説明:左の3つの図は、額面年金収入200万円の人の社会保険料控除後の年金手取額順位で、ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市だ。しかし、介助が必要になった場合に支給されるサービスは、右から2番目の図のように支援と介護に分かれており、給付財源は公費50%《国37.5%、地方12.5%》、介護保険料50%《第1号被保険者23%、第2号被保険者27%》だが、要支援の一部は地方負担であるため、高齢化率の高い地方ほど保険料が高い割に支援はなかなか受けられない状態になっている。ちなみに、右図のように、要支援は25~50分、要介護2~4では50~110分程度のサービスしか受けられないが、これで何ができるのか疑問だ) *1-4は、①年金定期便記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではない ②年金手取り額は、「額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」である ③所得税・住民税は同じだが、国民健康保険料・介護保険料は自治体により計算式や料率が異なるため、年金手取り額は住む場所で違う ④高齢化の進捗で国民健康保険料・介護保険料は上がっている ⑤22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円、妻は基礎年金のみ、額面年金収入200万円のケースで、手取額ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市・2位は長野市・3位は鳥取市である ⑥国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は約5万円 ⑦介護保険料が最も高いさいたま市と最も低い山口市との差額は約3万円 と記載している。 年金のように支給額が小さい場合には、控除される税金や社会保険料が大きな割合を占め、可処分所得が非常に小さくなるため、①②③は重要な視点だ。 また、④については、高齢化の進捗だけが理由ではないが、国民健康保険料・介護保険料が上昇して、確かに年金生活者は負担しきれなくなっている。そのため、⑤⑥⑦のように、手取額ワースト1位大阪市、ベスト1位名古屋市のように可処分所得の違いが比較でき、国民健康保険料の差額が年間約5万円、介護保険料の差額が年間約3万円もあることが示されたのは新鮮だった。 しかし、地域によって物価水準が異なるため、購買力平価で比べると、むしろ2位の長野市や3位の鳥取市の方が1位の名古屋市より生活にゆとりがあるかも知れない。さらに、ここでも22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収600万円、妻は基礎年金のみという厚労省のモデル世帯しか示されていないのはわかりにくく、年功序列型賃金体系の下で勤務年数が短いため生涯所得が小さくなりそうな大学院卒の個人や夫婦についても示してもらいたい。 5)年金改革の課題 ![]() 2024.7.3朝日新聞 2019.7.15毎日新聞 2024.7.3朝日新聞 2024.9.23日経新聞 (図の説明:1番左の図は、厚労省の年金財政検証で使われた1959年生まれと2004年生まれの人が65歳時点で受け取る成長型経済移行・継続と過去30年投影ケースの年金額で、成長型経済移行・継続ケースは名目年金額は増えるが物価はそれ以上に上昇するだろう。また、左から2番目の図は、2017年末の男女別厚生年金受給月額分布で、女性は厚生年金を受給している人でも最頻値が9~10万円と下方に偏っている。さらに、右から2番目の図のように、厚労省は未だ会社員と専業主婦世帯を「モデル世帯」としてこれしか試算しておらず、女性の就労を家計補助の位置づけとしか捉えていないが、この発想が保育・学童保育・介護制度の不十分さに繋がり、ひいては女性の年金受給額を下げている。そして、1番右の図は、共働きと専業主婦世帯の年金額だが、共働きの合計が専業主婦世帯《片働き世帯》と大して違わないのがむしろ不自然だ) *1-1-1は、①厚労省は公的年金の財政検証結果を公表して、制度改正の提案を5つ示し、「年金額分布推計」も出した ②将来の出生率等の人口動態や経済成長に関する想定をいくつか置き、各ケースの片働き夫婦のモデル年金を出し、所得代替率は2024年度で61.2%だった ③少子高齢化のため、マクロ経済スライドで所得代替率を下げている ④前回の財政検証ではスライド調整が27~28年続き、所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースもあったが、今回の成長型経済移行・継続ケースではスライド調整期間は13年間で57.6%までしか下がらない ⑤女性・高齢者の労働参加が進み、2012年から2022年にかけて生産年齢人口は約600万人減ったが、就業者数は約400万人増えた ⑥25~34歳女性の就業率は70.7%から82.5%に、55~64歳女性の就業率は54.2%から69.6%に上昇し、男性は高齢者の就業率上昇が顕著で60~64歳は72.2%から84.4%、65~69歳は48.8%から61.6%に急上昇した ⑦積立金運用も好調 ⑧労働参加の進展は前回財政検証時の想定を超えた ⑨労働参加の拡大で公的年金の支え手が増える ⑩被用者保険の適用を巡るムラの解消は急ぐべき ⑪在職老齢年金は速やかに撤廃すべき ⑫女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額分布は、上の世代より受給額が増える ⑬財政検証は所得代替率だけでなく、人生設計を支援する情報提供も行なうべき 等としている。 これに加えて、*1-1-2は、⑭現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円、女性は同16.4万円で2人が夫婦の場合は世帯で月38万円 ⑮金額は物価上昇の影響を除いて算出しているため、今の賃金や消費額と比較可能 ⑯2023年の家計調査で65歳以上・夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額25万959円 ⑰食費・交通費・通信費で4割、教養娯楽費1割・光熱水道費1割 ⑱住居費1割弱・保健医療費1割弱だが、都心の賃貸物件に暮らすと家賃負担が支出の大部分を占め、病気になると医療費急増 ⑲夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」が受け取る年金額は月33万円で、「共働き世帯」より苦しい ⑳月33万円を年間換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度 ㉑これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進む前提 ㉒女性・高齢者が労働参加すれば、担い手が増え、年金額も増える ㉓女性・高齢者の働く意欲を後押しすべき 等としている。 このうち①は良いが、②は片働き夫婦のモデル年金のみを出している点で、時代遅れかつ不十分である。その上、片働き夫婦なら2024年度の所得代替率は61.2%あるかも知れないが、共働き夫婦の所得代替率はずっと低いため、苦労して働いても働き損になりそうなのである。 また、③のように、「少子高齢化を原因として、マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」というのは、要支給額で年金積立金を計上しなかったため、(前からわかっていた)人口構成の変化によって積立金が不足したのを、少子高齢化に責任転嫁しているため率直さに欠ける。また、ただでさえ少ない年金支給額の積立金不足に関し、「マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」という解決策しか思いつかないのは、為政者として失格でもある。 さらに、④については、成長型経済に移行・継続しても賃金上昇率より物価上昇率の方が低くなるには、イノベーションによる生産性向上が欠かせないが、イノベーションの種は環境・高齢化・家事の外部化にあるにもかかわらず、政府は、再エネ・EV・自動運転・再生医療・保育・介護等の推進には消極的で、片働き世帯の維持・原発新増設・化石燃料の延命などに積極的なのだから、これではイノベーションを起こして生産性を上げることはできないのである。 私も⑤⑥⑧⑨のように、女性・高齢者の労働参加が進めば公的年金の支え手も増えるため、多様な労働力は多様なニーズ発掘に繋がることと合わせ一石二鳥だと思うが、⑩⑪⑫のように、女性・高齢者が働くことにペナルティーを科すような制度は早急に止め、被用者保険の適用を巡るムラも解消して、働けば報われる社会を作るべきである。また、⑬のように、所得代替率だけでなく人生設計に資する情報提供を行い、将来の年金受給額と不足額を予測可能にすべきだ。 なお、⑦のように、積立金運用も好調だったそうだが、金融緩和による株高が背景であれば、その持続可能性は低い。 また、⑭⑲は共働き夫婦の合計年金受給額が月38万円、夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯(片働き世帯)」が受け取る年金額は月33万円としているが、片働き世帯が共働き世帯より苦しいのは当然であり、むしろ差が小さすぎると、私は思う。⑮については、具体的な計算方法が不明であるため、コメントを控える。 さらに、⑳は月33万円を年間換算すると400万円程度で現在の20代後半の男性の平均年収程度としているが、2人で生活している世帯が1人で生活する世帯より生活費がかかるのは当然であるため、何故、それで良いのかわからない。また、⑯⑰⑱に、2023年の家計調査の結果が出ているが、現在30歳の男性が65歳で年金を受け取る35年後の物価は現在の数倍になっていると予測されるため、どうしても節約できない食費の比重が高くなり(=エンゲル係数が高くなり)、娯楽費を減らさざるを得ないのは明らかだろう。 しかし、どちらにしても言えることは、㉑㉒㉓のように、年金制度のためにも、女性・高齢者本人のためにも、女性・高齢者の働く意欲を後押しして労働参加を進めることは必要である。 (2)現在でもOECD平均の6割しかない日本の公的年金の所得代替率をさらに下げるとは! ![]() 2024.1.19Jiji 2024.1.19NHK (図の説明:上の左右の図のとおり、2024年度は、金融緩和と戦争によるインフレの結果、物価上昇率は3.2%、賃金上昇率は3.1%だが、年金改定率は2.7%であり、賃金上昇率は物価上昇率に追いついておらず、“マクロ経済スライド”を適用した年金改定率は賃金上昇率以下であり、これが年金の所得代替率を下げる仕組みだ) ![]() 2024.7.29テレ朝 2015.3.3ニッセイ基礎研究所 2022.12.8ニッセイ基礎研究所 (図の説明:左図のように、2024年度の“モデル世帯《妻に収入なし》”の所得代替率は現役男子の平均手取り収入の61.2%となっているが、「妻には収入がない」と仮定しているため、実際の世帯の所得代替率よりも高く表示されている。つまり、共働き世帯の所得代替率は、夫婦の所得合計を分母にしなければ正確ではないのだ。その上、「経済成長したか否かや出生率で所得代替率が変わる」などとしているが、これが賦課方式《自転車操業方式》による年金制度の欠陥なのである。そして、中央の図のように、OECD諸国の公的年金の所得代替率《同じ計算式で比較》は平均65.9%であり、日本の40.8%は韓国の45.2%より低いが、右図のように、出生率は日本より韓国の方が低いため、日本の年金制度は制度とその運用に不備のあることが明らかだ) 1)世界から見た日本の公的年金について *2-2は、①公的年金の財政検証結果で、給付水準は目標の「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った ②「所得代替率50%以上の維持」が100年安心の根幹 ③外国人や女性も含め、働く人が将来700万人余り増えて保険料収入が増加することを見込む ④モデル世帯の給付水準は若い人ほど低く、老後の暮らしは心もとない ⑤「出生率や経済成長の想定が甘い」との指摘がある ⑥政府内には目標をぎりぎりクリアして安堵感 ⑦「50%以上の維持」は年金の受給開始時の状況に過ぎず、「マクロ経済スライド」の影響で年齢を重ねる毎に給付水準低下 ⑧政府はNISAなどで老後への備えを呼びかけ ⑨日本総研西沢理事は「若者の結婚・出産への意欲は低下しており、検証の想定に願望が含まれている」と批判 ⑩実質賃金は減少が続くが、プラスと仮定している ⑪外国人労働者増加も見込む ⑫武見厚労相は「国民年金保険料納付期間5年延長案の必要性は乏しい」と見送りを表明 ⑬与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説 ⑭厚労省は一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃し、パートなど短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方針 等としている。 これに加えて、*2-1は、⑮公的年金財政検証結果は、5年前と比べると改善傾向だが、給付水準低下が当面続くことも示した ⑯政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩めて「支え手」を広げ、年金制度の安定をめざす ⑰老後に備えた自己資産形成の重要性も呼びかけ ⑱基礎年金は満額で月6.8万円だが、少子高齢化が進むとさらに給付水準が下がる ⑲「就職氷河期世代」が年金に頼る時期が近づき、少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要 ⑳単身世帯の所得代替率は、日本32.4%、OECD加盟国平均50.7%で、日本はOECD平均の6割程度 ㉑企業規模要件を廃止し、5人以上の全業種個人事業所に厚生年金加入を適用すると、90万人が新たに厚生年金加入対象 ㉒賃金・労働時間の要件を外し、週10時間以上働く全員を対象にすると新たに860万人が厚生年金に加入し、所得代替率が3.6%上昇 ㉓「マクロ経済スライド」を基礎年金に適用する期間を短くすると、所得代替率は3.6%上昇 ㉔厚生年金保険料の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると所得代替率は0.2~0.5%上昇 ㉕基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担も増すため、財源確保が必要になり、増税論に繋がり易い 等としている。 このうち①②④⑥⑦⑮については、モデル世帯(被用者の夫と専業主婦の妻)の年金所得代替率が現在は現役男子の平均手取り収入の61.2%で、30年後も50%以上であるとしても、1人あたりでは、現在は31%、30年後は25%となる。そして、現在の31%は、⑳の32.4%に近く、年金制度は100年安心かも知れないが、年金生活者の生活は安心ではないということなのだ。 一方、OECD加盟国の平均は50.7%/人で、日本人はOECD平均の6割程度の年金しか受給できていない。何故だろうか? 政府・メディアは、インフレ政策をとり、“マクロ経済スライド”を適用してまで、年金を減額しなければならない理由を、⑤⑨⑱のように、「出生率が低い」「少子高齢化が進んだ」「経済成長しなかった」等と言い訳しているが、それが理由なら日本より条件の悪い国は多かった筈で、他国が日本と違うのは、国際会計基準に従って要支給額で年金積立金を積み、適格な運用を行なって、年金資金の目的外使用をしていないことなのである。 そこで、まずは「年金の要支給額を積み、適格な運用を行なって、目的外使用をしない」ということが名実ともに保証されなければ、いくら国民負担を増やされても国民にとっては見返りがないのだ。また、③⑪⑯のように、外国人・女性・高齢者等に「支え手」を広げて保険料収入を増加させることは必要だが、その目的が「支え手」を広げるだけで、その「支え手」の将来の年金受給を考えていなければ「支え手」の年金受給時には今と同じことが起こるのである。 なお、女性の「支え手」を増やすためには、⑭㉑㉒のように、企業規模要件を廃し、個人事業所にも厚生年金加入を適用し、賃金・労働時間の要件を緩和して週10時間以上働く人全員を対象にして、パート等の短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方法がある。 さらに、高齢の「支え手」を増やすためには、*2-3のように、65歳又は75歳まで働くことを前提として労働関係法令を一斉に見直し、高齢者が働くためのインフラを整える必要があり、単に国民年金保険料の支払期間を40年から45年に延長するだけでは、政府及び厚労省の無駄使いを尻拭いするための負担にしかならないため誰も納得しないだろう。 そのため、単に「支え手」を増やすことしか考えていない場合は、⑫⑬のように、内閣支持率が下がるため、年金保険料の納付期間延長や厚生年金の適用拡大はできない。 そのほか、政府は、⑧⑰のように、NISA等を使った老後に備えた自己資産形成も呼びかけているそうだが、⑩のように、インフレ政策で実質賃金減少が続く中、子育てや介護のために所得が減ったり、マイホーム取得に莫大な費用を要したりすれば、老後の備えまでは手が回らなくなるため、少子化・非婚化はますます進むと思われる。 従って、「日本で本当に困っている人」というのは、⑲の「就職氷河期世代」や災害被害者だけではなく、多くの普通の国民もそれに当たるのだ。 2)「会計ビッグバン」と退職給付会計 *2-4は、①日本が1990年代後半から進めてきた会計ビッグバンを加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい ②20年余りの改革で残った主要項目の1つだったリース資産に関する会計基準改正がASBJから発表された ③新基準では中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する ④新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS) ⑤欧米の主要な官民の市場関係者は2001年からIFRSづくりを本格的に始めた ⑥日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた ⑦IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める ⑧官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい 等としている。 レンタル・リース・購入の違いは、誰が所有権を持っているかであり、購入は購入者に所有権が移転するが、レンタルとリースはレンタル会社やリース会社が所有権を持っている。 しかし、リースのうち、i)解約不能リース期間のリース料総額の現在価値が、現金で購入する場合の90%以上 ii) 解約不能リース期間が耐用年数の75%以上 の2要件を満たす場合は、殆ど購入と同じであるため、ファイナンス・リースとして、会計上、オンバランス化していた。 オペレーティング・リースは、上の要件を満たさないリースで、定められた契約期間中に所定のリース料を払って機器を使用し、途中で機器が故障した場合は貸主が修理代を負担して、契約が満了すれば返却するという、契約期間中に機器を借りているだけの取引だ。 そして、リースといってもレンタルに近いものからファイナンス・リースまで、契約にはグラデーションがあるため、会計ビッグバンを主導した私でさえ、③のように、新基準で中途解約可能なものまで含め全リースの資産・負債をオンバランス化するのはやりすぎだと思う。国際会計基準(IFRS)は合理的であるため、多分、リース取引のグラデーションに応じて判断することになっていると思う。 それよりも早く行なうべきだったのは、国際会計基準に定められている退職給付会計の年金への適用である。それは、企業が行なっている厚生年金基金と同じ考え方で、年金給付の要支給額を現在価値で割り引いた数理的評価額を年金に適用し、必要な積立金を積み立てておくもので、これが行なわれていれば、人口構成の変化によって年金支給額を変える必要などなかったのである(https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/taikyu-4_3.pdf 参照)。 (3)高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係 ![]() ![]() ![]() 2020.9.23GemMed 2019.3.7日生基礎研究所 2021.6.28NiponCom (図の説明:左図は、1950~2040年の年齢階層別高齢者人口と総人口に占める高齢者人口の割合だが、高齢者人口の割合は「高齢者」の定義によって変わる。中央の図は、男女別の65歳時点の平均余命と健康余命で、どちらも80歳前後までは健康である。また、健康余命も女性の方が長いため、女性の方が退職年齢が低いのは女性差別の結果にほかならない。右の図は、男女の年齢階層別就業率で、60~64歳でも70%程度、70~74歳は30%程度、75歳以上では10%程度しかないが、これは健康余命が80歳前後であることを考慮すれば少なすぎる) *3-1は、①財政検証結果、経済条件が良い場合でも公的年金の給付水準は2030年代後半まで下がり続ける ②給付水準は順調に行っても夫婦2人で現役世代の5~6割 ③老後の生活資金を公的年金だけに頼るのは限界 ④重要性が増すのは、企業年金・個人年金などの任意で加入する私的年金 ⑤公的年金以外の所得がない高齢者世帯が4割強を占め、所得代替率が50~60%の公的年金に依存 ⑥総務省がまとめた2023年の家計調査で無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字で貯蓄等を取り崩して生活 ⑦厚労省は2025年の公的年金制度改正に合わせ、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進める ⑧政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積立可能にする ⑨与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべき」という主張もある 等としている。 このうち①②③⑤⑥は事実だろうが、そもそも夫婦2人で現役世代の5~6割というのは、1人分に換算すれば2.5~3割しかないため、(2)1)に記載したとおり、OECD平均の6割しかなく、あまりに少ないのである。 そこで、④⑦⑧のように、企業年金・個人年金等の私的年金の重要性が増し、政府は、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進め、加入開始年齢の上限を引き上げて退職後も積立可能にするそうだが、勤務していた期間にはそのような制度がなくて積み立てていなかったのに、退職後になって積立できる人は非常に少ないと思われる。そのため、⑨のように、「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てろ」と言うのは無理がある。 特に、現在は第二次世界大戦敗戦後79年しか経過しておらず、焼け跡から這々の体で立ち上がって経済成長まで漕ぎ着けた高齢者が多く残っているのであり、苦しい暮らしの中で子どもを教育したため、大した老後資金は残っていない人が多いのだ。 また、団塊の世代も、戦後、急に出生率が上がって貧しい世の中で幼少期を過ごし、学校も職場も混み合っていて競争が激しく、最初はゆとりのなかった世代なのである。そのため、「公的年金だけで老後を暮らせるというのは幻想だ」というよりも「公的年金以外に老後資金がある」と考える方が幻想なのだ。つまり、「若返ったら、刷新感が出る」と安易に考えていること自体が、軽薄なのである。 *3-2は、⑩「65歳以上とされる高齢者の年齢を引き上げるべき」との声が経済界から上がる ⑪政府内では「人手不足解消や社会保障の担い手増加に繋がる」と期待 ⑫SNSを中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も ⑬高齢者の年齢は法律によって異なり、年齢引き上げの動きが出れば60歳が多い企業の定年や原則65歳の年金受給開始年齢引き上げに繋がる ⑭見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた ⑮定義見直しには踏み込まなかったが、社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要との考えを示した ⑯経済財政諮問会議の民間議員は、「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言 ⑰経済同友会の新浪代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた ⑱日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめた ⑲内閣府幹部は「元気で意欲ある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリングの徹底が重い課題 等としている。 2020年代になって団塊の世代が退職し始め、働き方改革も実行され始めると、少子化も手伝って人手不足状態となった。そのため、⑩のように、「高齢者の定義を65歳より引き上げるべき」との声が経済界から上がり、⑯のように、経済財政諮問会議の民間議員が「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言し、⑰のように、経済同友会の新浪代表幹事が「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べ、⑱のように、日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめている。 私は、上の中央の図のように、健康余命が男女とも80歳前後であることを考えれば、日本老年学会の「75歳以上が高齢者」というのが妥当だと考える。また、健康には個人差もあるため、経済同友会代表幹事の新浪氏の「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」というのに賛成だ。また、仕事があれば働き続けた方が、規則正しい生活ができ、刺激もあるため、健康寿命が長いというのはずっと前から言われていることだ。 そのため、⑪のように、人手不足解消と社会保障の担い手増加だけを目的とするのはいかがなものかと思うが、⑫の「死ぬまで働かされる」といった警戒感は当たらない。何故なら、働きたくいない人は、(生活ができれば)何歳であっても仕事を辞めればよく、働きたい人が働けるようにするだけだからである。 ただし、働きたい高齢者が働けるようにするためには、⑬のように、企業の定年と年金受給開始年齢を同時に引き上げ、⑲のように、「高齢者は労災が多い」「高齢者はリスキリングの徹底が必要」などという偏見をなくし、⑭⑮の中の高齢者の定義の見直しこそが重要なのだ。それなくして、「社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要」等というのは、虫が良すぎる。 *3-3は、⑳総務省は65歳以上の高齢者に関する統計を公表 ㉑2023年の65歳以上の就業者数は2022年に比べて2万人増の914万人で20年連続増加 ㉒高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52% ㉓定年延長する企業が増え、高齢者の働く環境が整って高齢者の働き手が人手不足を補う ㉔年齢別就業率は60~64歳74%、70~74歳34%、75歳以上11.4%といずれも上昇 ㉕2023年就業者中の高齢者は13.5%で7人に1人 ㉖65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8% 等としている。 しかし、⑳㉑のように、65歳以上の就業者数が20年連続で増加しても、㉒㉔のように、60~64歳の就業率は74%、65~69歳の就業率は52%、70~74歳の就業率は34%にすぎず、75歳以上の就業率は11.4%に減る。 そして、就業率が下がる理由は、働けないからではなく、㉓のように、人手不足を補うため定年を延長する企業が増え、㉕のように、就業者中の高齢者が7人に1人となっても、㉖のように、65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8%で、正規社員としては60~65歳止まりの企業が多いからである。これでは、高齢者の働く環境が整ったとは言えないため、まず年齢による差別をなくすよう法律改正しなければ、高齢者が気持ちよく働くことはできないのだ。 (4)社会保障の支え手拡大について 1)高齢者と女性による支え手の拡大 *4-1は、①今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象 ②65歳以上の人の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」撤廃案は、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要 ③「第3号被保険者制度」の廃止論には厚労省が慎重 ④対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しく、厚生年金に入る要件を緩めることで第3号被保険者を減らす方向 と記載している。 このうち①は良いが、②の高齢者に関しては、75歳以前の定年禁止or定年廃止はじめ関係する労働法制の改正が必要だ。しかし、既に退職させられた人も多く、年金を受給することが前提の割り引いた賃金で、再雇用されたり、他の企業で働いたりしているため、公正性の観点から「在職老齢年金制度」撤廃案は不可欠であろう。 また、③の「第3号被保険者制度」は早急に廃止し、働いている人は社会保険料を支払うことにした方が公正だと思う。しかし、所得税は、2020年の基礎控除額改正時から物価は5~6%高騰しているため、全員の基礎控除額を50万円(48万円x1.05)以上にするのが妥当である。また、給与所得控除額の最低額も、引き下げるどころか物価上昇に合わせて引き上げるべきであり、2020年と比較すれば58万円(55万円x1.05)以上にすべきである。住民税についても、同じだ。 しかし、④のように、政治や政府(厚労省)が第3号被保険者制度廃止に後ろ向きである理由は、政治家こそ普段からの妻の支えなく当選するのが難しい職業であり、厚労省はじめ官庁も残業や転勤が多く共働きに適さない職場環境にあるからだ。しかし、そのような環境の中で、女性政治家や女性官僚は、なるべく夫に迷惑をかけないようにしながら仕事をしているため、人手不足の現在、政治や官庁こそ率先して変化すべきである。 2)外国人材による支え手の拡大 ![]() Rise for Business 2024.2.16Diver Ship (図の説明:左図は、在留資格の変遷と在留外国人及び外国人労働者数の推移で、右図は、在留資格別の外国人労働者の推移だ) ![]() FUNDINNO 2023.10.23日経新聞 2023.6.19朝日新聞 (図の説明:左図は、技能実習や特定技能評価試験から特定技能1号・2号に移行する過程だが、受入可能な分野には、女性が主として担っているHouse Keeping・保育・看護等の分野が入っておらず、1号の場合は在留期間5年で家族の帯同も許されていない。中央の図は、高卒の日本人と技能実習生の賃金を比較したもので、手数料まで含めれば同年代では、ほぼ同水準だそうだ。右図は、G7における2022年の難民認定数と認定率で、日本は著しく少なく、このような外国人の入国に対する態度の違いが、生産拠点の国外化→産業の流出→経済成長率の鈍化及び食料自給率の低下に繋がっていることは間違いない) *4-2は、①政府がめざす経済成長達成には、2040年に外国人労働者が688万人必要で97万人不足する ②国際的人材獲得競争が激化する中、労働力確保には受入環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要 ③為替相場変動の影響を加味していないため、不足数は膨らむ可能性 ④2019年年金財政検証の「成長実現ケース」に基づき、GDPの年平均1.24%の成長を目標に設定 ⑤機械化・自動化がこれまで以上に進んでも、2030年に419万人・2040年に688万人の外国人労働者が必要 ⑥今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定したが、3年を超えて日本で働く割合が高くなれば不足数は縮小 ⑦政府は2027年を目途に技能実習に代わる「育成就労」を導入し、特定技能と対象業種を揃えて3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替え易くする ⑧課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だが、中小零細企業が自前で教育するのは容易でないため、官民で環境整備に努める必要 等としている。 このうち、①④⑤から、2019年の年金財政検証における「成長実現ケース」に基づけば、機械化・自動化が進んでも、2040年代には700万人近くの外国人労働者が必要であり、100万人近くの外国人労働者が不足することがわかる。 そして、⑥⑦のように、日本の外国人労働者は、原則として来日3年で帰国する前提であるため、政府が2027年を目途に「技能実習制度」に代えて「育成就労制度」を導入し、3年間の育成就労後に(限定は多いが)特定技能に切り替え易くしたところだが、切り替え後もまだ、外国人労働者を生活者として日本社会に包含するわけではない。 しかし、3年や5年で習得できる技術は初歩的なものでしかないため、例えば、多くの外国人労働者が働いている建築現場や介護現場は、熟練労働者が著しく少なく、日本の産業自体の質が落ちて競争力を失っている。そのため、3年などという限定なく日本で働けるようにすれば、外国人労働者の不足数が縮小するだけではなく、熟練労働者が増えて産業の質も上がるのだ。 また、②③のように、為替相場が円安に傾けば、日本で得られる賃金は母国通貨への換算時に安くなる上、国際的な人材獲得競争も激化しているため、労働力確保のためには外国人労働者の受入環境の整備と来日後の労働条件や生活条件が重要な要素になる。それには、⑧のように、外国人に日本語能力を求めるだけでなく、外国人労働者の存在を当然のものとして、その長所を活かしながら、日本社会が包含する体制を整える必要がある。 *4-3は、⑨日本にいる一般的外国人の社会統合政策は長年なかった ⑩「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人がいるが、明確な根拠はない ⑪西欧諸国では、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆ど ⑫中央政府・受け入れ自治体・外国人本人の間できめ細かな仕組みができている ⑬日本で外国人の多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけて欲しいということ ⑭日本にいる外国人に対して政策的支援がなければ、当然、厳しい状況に置かれる ⑮移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れるほど最悪の政策はない ⑯日本の組織に協力したため迫害を受ける恐れが高まったケースがアフガニスタンで起きたが、海外の日本大使館・国際協力機構・NGO等で働いていた現地職員の退避・受入態勢が整えられていない 等としている。 確かに、⑨のように、日本にいる一般的外国人の社会統合政策はない。また、⑩のように、「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人も多いが、賃金はその人の生産性によって決めるものであるため、外国人の方に高い賃金を払わなければならない場合もある。そして、その人の生産性に従って決めた賃金は公正で、それが上昇しても雇用主が傾くことはないのである。 そして、⑪⑫のように、外国人を多く受け入れている西欧諸国では、難民でも移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆どで、中央政府・受入自治体で受入体制ができているそうだ。 日本でも、労働力不足で外国人を多く受入れている自治体が求めているのは、⑬のように、国が予算をつけて受入体制を作ることだそうで、これにより、中等教育まで終わった地方出身者が首都圏に集まって首都圏で働き、首都圏で税や社会保険料を納めるのと同じ効果が生じる。そのため、⑭の日本に来た外国人労働者に政策的支援を行なうことの費用対効果は良いのである。 なお、⑮のように、建前上は「移民政策をとらない」と言いながら、実際には多くの外国人を受け入れて使い捨てにするほど最悪の政策はない。これでは、いくらODAで国民の金をばら撒いても、日本の評判を下げることによって経済上・外交上に悪影響が広がり、かえって高いものにつく。その顕著な例が、⑯のアフガニスタン人に対する扱いで、日本人の根拠無き優越感と利己主義によってチャンスをピンチに変える所業だったのである。 *4-4-1は、⑰各国の間で留学生の獲得競争が激しくなった ⑱教育政策の枠を超え、就職や定住促進策と一体で留学生の受け入れを進めなければ日本は後れをとる ⑲日本は、国内の大学・大学院で学ぶ留学生の増加に成功していない ⑳日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることを止め、大学の受け入れ増に本腰を入れるべき ㉑直面している課題は3つで、i)留学先としての日本の魅力低下 ii)日本では学位(修士、博士)の評価が低い iii)留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていない ㉒留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすくすることが重要だが、これは教育政策の範囲を超える ㉓留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は消極的すぎる ㉔日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要 等としている。 これに関して、*4-4-2は、「全国の私立大学の 53.3%で入学者数が定員割れとなったため、教育効果の客観的把握と情報開示で『大学の供給過剰』を是正すべき」という結論になっているが、私は文部科学省の「18 歳で入学する日本人を主と想定する従来モデルから脱却し、大学を留学生やリカレント教育に活用する」という目標の方が有用だと思う。 何故なら、せっかく投資して作った建物や教授陣等の大学組織を壊すのは簡単だが、現在の日本経済のニーズに沿った教育内容に改善・変化させた方が、付加価値が高くなるからである。 そのような中、⑰⑱は、「各国間で留学生の獲得競争が激しくなり、教育政策の枠を超えて就職や定住促進と一体で留学生受入を進めなければ日本は後れをとる」としているが、私もそのとおりだと思う。 また、⑲㉑㉒のように、留学生が国を選ぶ際に重視する要因は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすいことが重要だそうだが、留学生にとっても就職・昇進の機会が均等でなく、移民可能性も低ければ、留学先として魅力が低くなるのは当然である。これは、日本人が海外の留学先を選ぶ時も同じであるため、よくわかる。 さらに、日本では、学位の評価が低く、これらの留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないため、「日本国内の大学・大学院は留学生の増加に成功していない」と述べられており、大学側もグローバル社会が求める科学・技術や文系学問に科目をシフトする必要はあるとは思うが、日本人学生にとっても状況が同じであるため、尤もだ。 なお、㉓のように、留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は確かに低すぎる。何故なら、世界には母国に大学が足りなかったり、戦争中だったりして、日本に留学したいと考える学生が多い上に、日本にとっては良質の労働力や両国の架け橋となる人材を確保するまたとないチャンスだからである。つまり、このような積極的な学生たちに奨学金を出す方が、時代遅れの産業にドブに捨てるような補助金をつけるよりも、産業のイノベーションにとってずっと効果的なのである。 そして、㉔のように、日本の若者もグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々がいることを知り、彼らと協働できることが重要である。反対に、他国の価値感も知らずに、何が何でも日本が一番と思っているようでは、支え手としても期待できない。 そのため、⑳のように、日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることは止めた方が良い。日本語学校は、日本の大学への進学や日本での就職のための予備校的位置づけであり、専門学校は学校によっては就職に必要なことを教えるが、大学の留学生増加のために本腰を入れる方が望ましいのである。 ・・参考資料・・ <公的年金の財政検証と年金改革について> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240902&ng=DGKKZO83128000Q4A830C2KE8000 (日経新聞 2024.9.2) 財政検証と年金改革の課題(上) 就業率大幅上昇で財政改善、玉木伸介・大妻女子大学短期大学部教授(56年生まれ。東京大経卒、ロンドン大修士(経済学)。専門は公的年金、資産運用) <ポイント> ○労働参加の拡大で公的年金制度は若返り ○被用者保険の適用を巡るムラの解消急げ ○財政検証は人生設計支援する情報提供も 7月3日、厚生労働省は公的年金の財政検証結果を公表するとともに、制度改正の提案(オプション試算)を5つ示した。また今回の新しい試みとして「年金額分布推計」も出された。財政検証とは5年に一度、今後100年間の公的年金を巡るお金の出入りを様々な想定の下で予測し、所得代替率を試算することを柱とする作業だ。将来の出生率などの人口動態や国民所得の伸び(経済成長)に関する想定をいくつか置き、各ケースの高齢者の給付水準(片働き夫婦のモデル年金)を出す。これを各想定下での平均的な現役労働者の可処分所得で割ったものが所得代替率であり、2024年度は61.2%だ。少子高齢化で支え手が減る中で、保険料率を固定しているため、給付は少しずつ削らねばならない。毎年、物価や賃金(保険料はおおむね賃金に比例)の変動率に劣後させるマクロ経済スライドという仕組みにより、所得代替率を下げていく制度設計になっている。これをいつまでやるかと言えば、給付が下がり、今後100年間の年金財政のバランスが確保可能と判断できるまでだ。この期間をスライド調整期間という。現行制度では、1階(基礎年金)と2階(報酬比例部分)の今後100年間のバランスをそれぞれ確保できるまで、スライド調整が続くことになっている。今回の財政検証の大きな特徴は、前回(19年)に比べスライド調整期間が短くなった、すなわち給付の実質価値の引き下げを早めに終えて、より高い所得代替率で安定させても、100年間の年金財政がバランスを失わないという結果になったことだ。これは朗報だ。具体的な数値を見てみよう。前回、スライド調整が27~28年間続いて所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースがあった。これと似た今回の成長型経済移行・継続ケースでは、スライド調整期間は13年間に短縮され、水準も57.6%までしか下がらない。少子高齢化が進んでいるのに、そんなうまい話があるのかといぶかる向きもあろう。だがこれには極めて強力な理由、すなわち日本人がより多く働きだしたことがある。積立金の運用が好調なことも背景にある。12年から22年にかけ、15~64歳の生産年齢人口は約600万人減っている。これに対し、就業者数は13年の6326万人から23年には6747万人へと10年間で約400万人も増えた。特に女性や高齢者の労働参加が進んでいるからだ。13年から23年にかけ、25~34歳の女性の就業率は70.7%から82.5%、55~64歳の女性では54.2%から69.6%に上昇した。男性は高齢者の就業率上昇が顕著で、60~64歳では72.2%から84.4%、65~69歳では48.8%から61.6%に急上昇した。劇的とも言える社会的な変化だろう。こうした労働参加の進展は、前回財政検証時の想定の「労働参加が進むケース」を超えたものだ。図では前回の同ケースの就業者数の想定を破線で示したが、実績(太い実線)はこれを上回る。発射台が高くなっているから、今回の「労働参加漸進シナリオ」でも、40年時点では6375万人と、前回の一番上のケースの6024万人を上回る就業者数が見込まれる。労働参加の拡大は支え手を増やすが、これは現役世代が増えるのと同じ効果を年金財政に対し有する。いわば日本の公的年金制度は労働参加の拡大により若返ったのだ。この若返り傾向がすぐに終わるかしばらく続くかは、自らの働き方に関する国民の選択次第だ。ここまでが現行制度を前提とする財政検証作業の結果の柱だ。これに対し、現行制度を変えていく議論の出発点として、いくつかの提案(オプション試算)が示された。そのうち個々人の働き方との関係が深いものを2つ見てみよう。一つは適用拡大である。適用とは、被用者保険(年金では厚生年金保険)の加入者にするということだ。具体的には、雇われて働いている第1号被保険者(一部の短時間労働者など)や第3号被保険者(パートに出ている専業主婦など)を第2号被保険者(保険料を労使折半)にすることだ。第2号被保険者になれば、基礎年金に加えて報酬比例部分を受給でき、働いて保険料を払った分だけ将来の給付を増やす道が開ける。ところが現行制度では被用者保険の適用に関し、看過し難いムラがある。同じ働き方でも、雇い主がどんな主体であるかにより差がある。例えば週20~30時間の短時間労働者の場合、企業規模が小さいと被用者保険が適用されない。個人事業主に雇用されているとフルタイムでも適用されないことがある。なるべく多くの人が被用者保険に入ることで、こうしたムラを減らしていくのが適用拡大だ。適用のムラがあると、同じ労働でもそのコストとして事業主負担のあるものとないものが生じてしまう。一物二価だ。事業主負担のない「安い労働」があれば、雇う側は労働生産性を上げる努力をしなくなる。適用拡大は、安い労働をなくして日本経済の効率向上を促すものでもある。以前よりはコスト増の価格転嫁がしやすくなっているという経済環境の変化をとらえて、早急に進めるべきだ。また被用者保険の適用がない人々の中には経済的に弱い人もいる。こうした人々に被用者保険のより強力な安全網を及ぼす(包摂する)という発想も必要だ。適用拡大には、事業主負担を回避したい企業の抵抗や個々人の心理的なものなど様々な摩擦があるが、なるべく大胆に拡大すべきだ。もう一つは在職老齢年金の見直しである。現行制度では65歳以降も就労していると、報酬比例部分がカットされる可能性がある。特に、65歳までもそれ以降も正社員の平均的な賃金(年収500万円程度)以上で働く人は、カットが大きくなる(場合によっては全額)可能性がある。現行制度は65歳以降の就労に対するペナルティーであり、今の時代に合わない。年金制度への信頼確保のためにも、速やかに撤廃すべきだ。最後に今回の新たな試みである年金額分布推計に触れる。財政検証はマクロ試算であるのに対し、年金額分布推計はミクロ試算だ。具体的には平均を求める財政検証の枠組みの中で、個々人の年金加入履歴(誰が制度間を移動するかなど)をシミュレーションし、将来の年金額の分布を推計する。推計からは、女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額の分布は、上の世代よりも受給額が増える方向にシフトすることが分かる。相対的に高い給付を受ける人の比率が上がり、低年金者の比率が下がる。こうした推計作業は、将来に不安を感じている若年層に対し、合理的なライフプランニングを支える有力な情報提供になり得る。財政検証についてはとかく所得代替率に目が行きがちだが、人々のライフプランニングを支援する貴重な情報も数多く提供されている。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240923&ng=DGKKZO83625000S4A920C2TLF000 (日経新聞 2024.9.24) 夫婦で月38万円 老後の年金十分?「不足」なら自助努力、制度の改革必須 2024年は公的年金の財政状況をチェックする5年に1度の財政検証の年にあたる。厚生労働省はこのなかで将来の給付水準の見通しを示した。現在30歳の夫婦が65歳になった時にもらえる年金額は2人あわせて月38万円。果たして、この金額でぜいたくはできるのだろうか。厚労省が7月に公表した財政検証によると、現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円。女性は同16.4万円。この2人が夫婦の場合は世帯で月38万円となる。金額は物価上昇の影響を除いて算出しているので、今の賃金や消費額との比較が可能だ。23年の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額で25万959円だ。内訳を見ると、食費や交通・通信で計4割、教養娯楽や光熱水道が1割ずつ、住居と保健医療がともに1割弱を占める。支出額だけなら月10万程度を貯蓄に回すことができる。都心の賃貸物件に暮らす場合、家賃負担が支出の大部分を占める可能性が高い。病気になって医療費が急増する可能性もある。余裕がある暮らしを送れるかは定かではない。夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」だと、受け取る年金額は月33万円だ。老後の資金繰りは共働き世帯よりも苦しくなる。もっとも月33万円を年間で換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度に相当する。ぜいたくはできないが、一定の水準は確保したとも言える。 ●経済成長が前提 これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進むという前提を置く。公的年金制度は現役世代が払う保険料を高齢者に仕送りする仕組みだ。女性や高齢者が労働参加すれば、保険料を納める担い手が増える。これによって年金額も増える。ところが、過去30年と同じ経済状況が続く場合は年金額は増えない。共働き夫婦で月25万円、モデル世帯では月21万円となる。24年のモデル世帯の支給額は23万円なので、これよりも減ってしまう。老後に関する政府の23年の調査では「全面的に公的年金に頼る」と回答した人が26.3%、「公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組み合わせる」と回答した人が53.8%いた。2019年には「老後資金2000万円問題」が提起された。公的年金だけでは余裕がある生活を送るには不十分と考え、自助努力で老後の資金を確保する人が増えている。金融相談を手掛けるブロードマインドの柴田舜太氏はファイナンシャルプランナーの立場から資産形成セミナーを午後7時から開いている。9月中旬のセミナーには30人強が参加した。柴田氏がまず説明したのが、政府が個人の資産形成として活用を促進する少額投資非課税制度(NISA)と個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)だ。さらに国内外の株式や債券に投資するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の分散投資手法についても個人が参考にすべき点を解説した。若いうちから少額を積み立てればまとまった資産になる。「時間」を味方につけた長期分散投資の効用を説いた。個人の備えと同時に、行政にできることはまだまだある。年金財政の状況は夫が会社員で妻が専業主婦のモデル世帯で判断してきた。夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。年金のモデル世帯は古いものさしとなってしまった。 ●働く意欲後押しを 公的年金制度にはいわゆる「年収の壁」など女性の労働参加の選択に影響を及ぼす制度が今も存在する。配偶者の扶養下で生活するため保険料を払わずに済む半面、年金は基礎年金だけになり老後の生活が厳しいものになるリスクもはらむ。年金を受け取りながら働き、月収との合計額が多いと年金の一部、または全額が支給停止になってしまう在職老齢年金も廃止や見直しが俎上(そじょう)にのぼる。高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘がある。男女の賃金格差の是正も課題の一つだ。国際的に見ても開きが大きい男女の賃金格差を是正し、時代に合った年金の制度改正を後押しする労働環境をつくる必要がある。日本の人口は56年に1億人を割る。現役世代が減れば年金額が減るため、不安を感じる人は多いだろう。老後の基盤を手厚くするためにも、年内に方針が固まる年金制度の見直しに注目が集まる。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15973877.html (朝日新聞 2024年7月4日) 年金見直し、実現度は 「財政検証」試算を公表 公的年金の「財政検証」の結果が3日、発表された。年金水準を維持するため、政府は、年末にかけて制度改正の中身を本格的に議論する。厚生労働省は、議論に向けて制度を見直した場合の「試算」も公表。取材に基づき、見直し対象となっている各項目の実現度を星の数で示した。国民年金(基礎年金)の支払期間を5年間延長する案は見送る。政府は厚生年金の加入対象者を増やす方針は固めており、さらなる制度改正の項目としてどのような政策を選択するのかが今後の焦点だ。(高絢実) ■公的年金将来見通しの試算4ケース 〈1〉高成長実現ケース/所得代替率56.9% 〈2〉成長型経済移行・継続ケース/57.6% 〈3〉過去30年投影ケース/50.4% 〈4〉1人あたりゼロ成長ケース/45.3% ■被用者保険の適用拡大(★★★) 政府は、厚生年金の加入対象となるパートなどの短時間労働者を増やす方針だ。現在は従業員101人以上の企業のみが対象の「週20時間以上働き、月収8万8千円以上」という基準を、企業規模に関わらず適用する。5人以上の個人事業所で働く、農業や理美容業などの人も現在は適用されないが、業種を問わず対象にする方針。現状だと、労働参加が進んだ「成長型経済移行・継続ケース〈2〉」でも所得代替率は2037年度に57.6%となり、24年度から3.6ポイント減。一方、政府方針の適用拡大=表A=では58.6%に。加えて賃金の条件を撤廃、または最低賃金が2千円程度まで上昇した場合=B=は59.3%、さらに5人未満の個人事業所にも適用=C=すると60.7%で下げ止まる。週10時間以上働く全ての労働者まで拡大=D=すると61.2%となり、24年度と同水準を維持できる。 ■マクロ経済スライド、調整期間一致(★★) 人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みは「マクロ経済スライド」と呼ばれる。財政収支が均衡するまでゆっくり「調整」(抑制)していく。国民共通の基礎年金は、低年金の人にとってより重要だ。だが、その調整期間は、基盤の弱い国民年金の財政状況で決まるため、長引いてしまう。そこで、厚生年金の積立金の活用によって調整期間を一致させる。そうして基礎年金の調整期間を早く終わらせることで、基礎年金の給付を引き上げる案だ。ケース〈2〉で3.6ポイント増の61.2%、ケース〈3〉で5.8ポイント増の56.2%まで引き上がる。基礎年金が充実するため収入の少ない人への恩恵が大きいだけでなく、生涯の平均年収が1千万円を超える人を除き、厚生年金の加入者でも年金額が引き上がる。基礎年金の半額を賄う国庫負担が増え、〈3〉で2050年度以降に1.8兆~2.6兆円になると試算された。 ■国民年金の納付期間5年延長(―) 国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を、現行の40年(20~59歳)から、45年(20~64歳)に延長する案。ケース〈2〉では64.7%(7.1ポイント増)、〈3〉では57.3%(6.9ポイント増)となる。国庫負担は徐々に増え、2069年度以降に1.3兆円増の見通し。 ■在職老齢年金の撤廃(★★) 65歳以上で働いている人の場合、賃金と厚生年金(報酬比例部分のみ)の合計が50万円を超えると、年金の一部またはすべてがカットされる。この「在職老齢年金」の仕組みを撤廃すると、働く高齢者の給付が増える一方、そのための年金財源が必要となり、将来世代の厚生年金の給付水準は、ケース〈3〉で0.5ポイント低下する。高齢者の労働参加が期待される一方、高賃金の人の優遇策だという指摘もある。 ■標準報酬月額の上限見直し(★★) 厚生年金の保険料は、月々の給料などを等級(標準報酬月額)で分け、保険料率(労使折半で18.3%)を掛けて算出する。現行の上限は65万円で到達者は全体の6.2%。この上限を引き上げ、75万円(上限到達者の割合4.0%)、83万円(同3.0%)、98万円(同2.0%)にする案を試算した。保険料収入が増え、ケース〈3〉で所得代替率が0.2~0.5ポイント改善する。 ■将来の見通し、4ケース試算 厚労省 公的年金の将来見通しについて、厚生労働省は4ケースを試算した。上から2番目の「成長型経済移行・継続ケース」は、労働参加が進み、経済成長が軌道に乗る想定。現役世代の手取りに対する年金額の割合を示す「所得代替率」は、2024年度の61・2%から57・6%(37年度)と下落幅が抑えられる。3番目の「過去30年投影ケース」は、50・4%(57年度)に落ち込む。平均的な会社員と配偶者の「モデル世帯」の年金は、年齢でどう変わるのか。一覧にまとめた。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000 (日経新聞 2024.7.4) 年金目減り、就労増で縮小 1.1%成長なら6% / 横ばいだと2割、厚労省試算、出生率の想定高く 厚生労働省は3日、公的年金制度の中長期的な見通しを示す「財政検証」の結果を公表した。一定の経済成長が続けば少子高齢化による給付水準の低下は2024年度比6%で止まるとの試算を示した。成長率がほぼ横ばいのケースでは2割近く下がる。高齢者らの就労拡大が年金財政を下支えし、いずれも前回の19年検証から減少率に縮小傾向がみられた。財政検証は年金制度が持続可能かを5年に1度、点検する仕組みだ。年金をもらう高齢者が増え、財源となる保険料を払う現役世代が減るなか、給付水準がどこまで下がるか確認する。政府・与党は検証結果を受けて年内に給付底上げ策などの改革案をまとめる。今回は経済成長率や労働参加の進展度などが異なる4つのケースごとに給付水準を計算した。指標とするのは「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す「所得代替率(総合2面きょうのことば)」だ。4ケースのうち厚労省が「めざすべき姿」とする中長期的に一定の経済成長が続く成長ケースでは37年度の所得代替率が57.6%となり、給付水準は24年度から6%低下する。成長率をより高く設定した高成長ケースでは39年度に同7%減の56.9%となる。成長ケースの方が高いのは、前提となる賃金上昇率が低い分、「賃金を上回る実質的な運用利回り(スプレッド)」が大きくなるためだ。過去30年間と同じ程度の経済状況が続く横ばいケースでは57年度に同18%減の50.4%になる。もっとも悲観的なマイナス成長ケースになると国民年金の積立金が59年度に枯渇し、制度が事実上の破綻となる。5年前は6ケースを試算した。経済成長率などの前提が異なるため単純比較はできないが、所得代替率は最高でも51.9%だった。今回の横ばいケースに近いシナリオでは政府が目標とする50%を割り込んだ。給付水準の低下率は今回より大きい傾向が示された。改善した要因は高齢者や女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がったことと、積立金が19年想定より70兆円ほど増えたことだ。成長ケースの前提条件には実現のハードルが高いものもある。60代の就業率は40年に77%と推計しており、22年から15ポイント上げる必要がある。将来の出生率は1.36としたが、23年の出生率は1.20だった。1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は01~22年度の平均がマイナス0.3%だった。出生率は早期の回復が見込みにくい。年金制度の安定には就労拡大につながる仕事と育児の両立支援や新たな年金の支え手となり得る外国人労働者の呼び込み強化といった取り組みが要る。年金の給付水準は当面、低下が続くため、あらかじめ老後資産を形成しておく重要性が増す。単身者や非正規雇用の人が低年金にならないよう給付水準の底上げへの目配りも欠かせない。財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも初めて示した。24年度は男性が14.9万円、女性は9.3万円。成長ケースでは59年度に男性が21.6万円、女性は16.4万円となり男女差が縮小する。 *1-2-3:https://ecitizen.jp/Gdp/fertility-rate-and-gdp (統計メモ帳) 世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係 合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係について相関をグラフにしてみた。まず、数字の得られる190の国と地域で散布図を描いてみた(図1)。国連による人口予測では、アフリカの人口増加が突出しているが、アフリカ諸国の多くは、貧乏で子だくさんの国が多い。グラフから見ると一人当たりGDPが数千ドルになるまでは出生率とGDPは反比例している。途上国の人口増大の問題の解決には、発展途上国の一人あたりのGDPをあげるというのが正しいアプローチである。図1のグラフではずれた位置にあるのが、一つはアンゴラ、赤道ギニア、もう一つはミャンマー、北朝鮮、モルドバである。アンゴラ、赤道ギニアは、一人当たりGDPは比較的高いが出生率も高い。その理由としては、GDPが高いのは原油の生産によるもので、アンゴラはつい最近まで、長期にわたる内戦により経済は極度に疲弊していたこともあり、石油収入が必ずしも国民の貧困解消にまで結びついていないか、GDPの増加によって出生率が低下するまでには10年ほどの期間がかかるということなので、その期間がまだ来ていないと言うことになる。一方、GDPが低いにもかかわらず出生率も低いのが、ミャンマー、北朝鮮、モルドバである。ミャンマー、北朝鮮は、圧政国家であり政治が経済を犠牲にしている国である。モルドバは、ソ連崩壊によって貧困化した国であり、資源供給などロシアに依存する面が多く、ロシア通貨危機等により経済が混乱、度重なる自然災害や沿ドニエストル紛争の影響もあって経済状態が悪化している国である。次に、一人当たりGDPが1万ドル以下の国及び赤道ギニアを除いて作成したの が図2である。GDPの割に出生率の高い国を拾うとカタール、ブルネイ、バーレーン、アラブ首長国連邦、イスラエル、サウジアラビア、オマーン、ガボン、ボツワナということになり、多くが産油国になる。一人当たりGDPというのは石油生産も含んでいるため必ずしも国民の生活の豊かさを示していない面もある。ボツワナは、ダイアモンド、銅等の鉱物資源に恵まれて他のアフリカ諸国と対照的に急速な経済発展を遂げたが、一方でエイズの影響が大きい。国連のUNAIDS(国連合同エイズ計画)によると15歳から49歳までの人の23.9%がエイズに感染しているということである。そのため、出生率は高いものの人口の増加率は高くない。国連の資料によると増加率は年1.23%である。最後に、日本を他の先進国と比較したいので産油国を除いてグラフを作成した。合計特殊出生率が1.3未満の国を一人当たりGDPが高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人となっている。東アジアと東ヨーロッパに集中している。東欧諸国では、人口が減少している国が多く、世界で人口増加率の低い順に、ウクライナ -0.72%、ブルガリア -0.59%、ロシア -0.55%、ベラルーシ -0.53%となっている。今後は、日本と韓国がその仲間入りをするであろう。日本では、不況対策のためにいろいろな政策が考えられているが、大型の公共投資をするしても、総人口の減少が加速すれば、過去のような経済の成長や拡大はもはや起こらないだろう。成熟した国であるイギリスをはじめとした西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべきであろう。なお、合計特殊出生率については、国際連合経済社会局が作成したWorld Population Prospects The 2006 Revision HighlightsのTABLE A.15を使用した。一人当たりのGDP(購買力平価PPP)についは、 世界銀行の資料を主に使用し、世界銀行の資料で数字が得られない場合には、IMF、CIAの資料の順で使用した。 *1-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240906/pol/00・・lpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月9日) 女性の「低年金」 改善されるのか、坊美生子・ニッセイ基礎研究所准主任研究員 今年7月に、5年に一度の公的年金の財政検証を政府が公表しました。今後、女性の年金を巡る状況は改善されるとしました。ニッセイ基礎研究所准主任研究員の坊美生子さんに聞きました。 ●女性の老後はこれから良くなる? ――これから女性の年金をめぐる状況は改善されるという財政検証は、実感とはあわない気がします。 ◆将来的に、世代が下れば低年金は解決していくであろうという話と、たとえば今、50歳の女性が老後にどういう状況になるかは同じ問題ではありません。財政検証ではそうした個人の視点が不足しています。財政検証をみると、現在の高齢者(65歳以上)の女性と、今、50歳の女性が65歳以上になった時をくらべると、年金水準は改善はします。たとえば年金受給月額が10万円に満たない人の割合は、現在「65歳」の女性では7割弱に上りますが、「50歳」だと6割弱に減ります。しかし、それは女性の老後が安心になるというレベルではありません。高齢女性にとって厳しい状況が続くことも確かです。厳しい老後にならないためには、今、頑張って働く必要があることに変わりはありません。 ――50歳の女性が今から働くのは難しいのではないですか。 ◆たしかに難しいのですが、私としては、50歳を過ぎても、健康上の問題などがなければ、がんばって働いてほしいと思います。 専業主婦などで、長く働いていないと一歩踏み出すのは難しいとは思います。しかし、非正規でも働けるならば働いたほうが、自身の年金を確保するためにはよいのです。そうしたからといって、老後に自立できるレベルにまでなるとは限りませんが、女性が少しでも自分の生活を守り、人生をコントロールできるようになってほしいと思います。もちろん、現在働いている人も、50歳を過ぎても、新しいチャレンジをして、賃金を上げる挑戦をしてほしいと思っています。今、しっかり働いたり、キャリアアップしたりすることが、老後の生活に大きく影響します。現在、50歳の女性はいわゆる結婚・出産退職がまだ多かった世代です。「当時の社会規範に従って、若い時に仕事を辞めたのに、今さら働けと言われても」と思う女性もいるかもしれませんが、現実問題として、ご自身の老後、特に、夫と死別したり子が独立したりして、「おひとりさま」になった後のことを考えれば、やはり50歳になっても、働くことを選択肢から外してはいけないと思います。 ●女性の非正規の人は ――女性の低年金は非正規雇用の問題と関係します。 ◆2000年代に入って非正規雇用が増えてきても、政策を作る政府の関係者には、非正規は、稼ぎ頭の夫の家計補助として、パートで働いている主婦だ、という意識が強かったのではないでしょうか。世帯単位で考えれば、正社員で働いている夫の賃金・年金があるから問題はないという考え方です。しかし実際には、夫婦が2人とも非正規で同じように家計を担っている、あるいは単身で非正規という人は多くいます。そうした人たちへの対応が遅れてきたのではないでしょうか。世帯を中心に考えてきて、個人単位の生活を想定していなかったことも、女性の低年金の問題が目に入らなかった理由ではないかと思います。 ――現実には、非正規は例外でも、家計補助のためだけでもなくなっています。 ◆ですから年金を考えるうえでも非正規雇用は無視できない要素です。近年、国が進めてきた厚生年金の適用拡大は大きな政策ですが、年金財政を改善する必要に迫られたためにやっている側面が強いと感じます。財政目線ではなく、非正規雇用の人たちの老後の生活をどうするかという、一人一人の生活者の視線はまだ薄いと感じています。 ――女性の低年金は男女の賃金格差が背景にあります。 ◆男女の賃金格差があるから、女性の年金が低いのは当然のことで、男女の賃金格差は年金の問題ではない、という考え方もあります。しかし、「男女の賃金格差が大きいのは当然」という考え方は、もはや社会的に認められないでしょう。政府は大企業の男女の賃金格差の公表(2022年7月の女性活躍推進法の厚生労働省令改正。従業員301人以上)を義務づけました。公表する際の注釈欄で、原因を分析している企業があります。自分たちで問題を認識するようになっていることは大きな進歩です。 ●リアルに伝えなければ ――今の女性は、老後は今の高齢女性より良くなると言われて納得するでしょうか。 ◆数字の上では良くなっていくのですが、国民の実感とは距離があります。本当は、財政検証のような数字と、国民の意識をつないで説明するのは政治家の仕事です。数字が実際の生活にどう反映するかを話してくれる人はいないのか、と思います。国民の反発を恐れて、政府が悪い情報を出しにくいという事情もあります。政治家も年金の話をするのは怖いのかもしれません。しかしおカネの話ですから、リアルに伝えないと、国民も必要な備えができないし、年金制度に対する信頼も結局、低下してしまいます。 ――低年金には生活保護で対応すればいいという考え方もあります。 ◆75歳以上になると、男性も女性も多くの方は体が弱り、働いて稼ぐことが難しくなってきます。ですから、もっと若い時に、あなたの老後はこうなりますと示して、備えてもらわなければなりません。「低年金の人は生活保護に回せばよい」という考え方だと、年金制度を維持することができたとしても、社会全体の仕組みとしては、生活保護の給付費が増加し、持続可能性は低くなります。将来の年金の話をする時には、今の働き方にさかのぼって論じるべきです。年金を巡る政策も、今の雇用政策ともっと結びつけるべきです。特に女性については、若い世代でも、低年金のリスクがあることが分かったので、女性の働き方が、もっと骨太になるように、女性の雇用政策を強化していくべきです。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240918&ng=DGKKZO83520370X10C24A9EP0000 (日経新聞 2024.9.18) 共働き、専業主婦の3倍に 1200万世帯超す、保育所増、育休整備進む 社会保障なお「昭和型」 夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。保育所の増設や育児休業の拡充など環境整備が進み、仕事と家庭を両立しやすくなってきたことが背景にある。ただ、社会保障や税の制度には専業主婦を前提にしたものがなお多く、時代に合わせた改革が急務となる。総務省の労働力調査によると、夫婦とも雇用者で妻が64歳以下の共働きは23年に1206万世帯と前年より15万増えた。さかのぼれる1985年以降で最多となった。夫が雇用者で妻が働いていない専業主婦世帯は最少の404万で前年より26万減っている。男女雇用機会均等法が成立した1985年時点で専業主婦は936万世帯で、共働きの718万世帯を上回っていた。90年代に逆転し、2023年までに専業主婦世帯は6割減り、共働きは7割増えた。23年の15~64歳の女性の就業率は73.3%に達し、この10年で10.9ポイント伸びた。男性の就業率は84.3%で伸びは3.5ポイントにとどまる。専業主婦世帯の割合を妻の年代別に見ると、23年に25~34歳で22.0%、35~44歳で22.9%、45~54歳で21.8%と3割を下回っている。55~64歳では30.8%と3割を超え、65歳以上では59.2%に上る。若年世帯で専業主婦は少数となっている。働く女性が増えた背景には、男女雇用機会均等法が施行され、男女ともに長く仕事を続けるという価値観が一般的に広がったことが挙げられる。同時に保育所の整備やテレワークの普及といった仕事と家庭を両立しやすい環境づくりも進展した。「人手不足のなかで、企業が女性の採用・つなぎとめを進めている」(ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員)といった側面もある。子どもが増え、教育や住居などの費用負担が高まり、子育てが一段落ついたところで共働きに転じる動きも見られる。近年の物価高がそうした動きを強めている可能性もある。共働きの女性の働き方では、週34時間以下の短時間労働が5割超を占める。25歳以上の妻で見ると、どの年代でも短時間が多い。年収は100万円台が最多で、100万円未満がその次に多い。短時間労働が多い理由の一つに、「昭和型」の社会保障や税の仕組みがいまだに残っていることがある。例えば、配偶者年金があげられる。会社員らの配偶者は年収106万円未満といった要件を満たせば年金の保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる。第3号被保険者制度と呼ばれる。第3号被保険者の保険料はフルタイムの共働き夫婦や独身者を含めた厚生年金の加入者全体で負担している。専業主婦(主夫)を優遇する仕組みとも言え、「働き控え」を招くと指摘されている。会社員の健康保険に関しても、保険料を納める会社員が養っている配偶者らを扶養家族として保障している。専業主婦(主夫)を扶養している場合は1人分の保険料で2人とも健康保険を使えるようになっている。配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は減少傾向にある。23年は事業所の49.1%で、18年と比べて6.1ポイント下がった。税制にも配偶者控除があり、給与収入が一定額以下であれば、税の軽減を受けられる。「働き過ぎない方が得だ」といった考えが残る要因とも言える。共働きが主流となり、各業界で人手不足が深刻さを増すなか、制度の見直しは欠かせない。夫婦が働きながら育児に取り組むためには、企業の長時間労働の是正や学童保育の受け皿の拡大なども急がれる。官民をあげた取り組みが不可欠となる。 *1-4:https://diamond.jp/articles/-/349523?utm_source=wknd_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20240901 (Diamond 2024.8.29) 「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング2024【年金年収200万円編】(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵) 住む場所によって年金の手取り額が異なる――。この衝撃の事実は、意外と知られていない。では、実際にどのくらいの差があるのか。過去にも本連載で取り上げ、大きな反響を呼んだ『「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング』について、国民健康保険料や介護保険料の改訂を反映した「最新版」を作成した。年金年収「200万円編」と「300万円編」の2回に分けてお届けする。まずは「200万円編」をご覧いただこう。 ●住んでいるところで、年金の「手取り額」が異なる驚愕の事実! リタイア後に受け取る年金額は、「ねんきん定期便」で知ることができる。その際に注意したいのは、ねんきん定期便に記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではないこと。年金収入にも、税金や社会保険料がかかるのだ。「年金から税金や社会保険料が引かれるのですね!知らなかった」と言う人が少なくないが、もっと驚くべき事実は、「年金の手取り額は住んでいる場所によって異なること」である。筆者は手取り計算が大好きな、自称“手取リスト”のファイナンシャルプランナー(FP)だ。本連載でも「給与収入の手取り」、「パート収入の手取り」、「退職金の手取り」など、さまざまな手取り額を試算している。今回は、47都道府県の県庁所在地別の「年金の手取り額ランキング」をお伝えする。同じ年金収入で手取り額に結構な差が発生することを仕組みとともに解説しよう。年金の手取り額は、次のように算出する。「年金の手取り額=額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」。同じ年金収入で手取り額が異なる要因は、意外にも税金ではなく、社会保険料にある。ちまたでは「住民税は、自治体によって高い、安いがある」と言われているが、これは都市伝説であり、事実と異なる。住民税は、全国どこに住んでいても原則として同じ(均等割の非課税要件など細かい部分で違いはあるが、所得にかかる税率は変わらない)。所得税も同様に、どこに住んでいても計算方法は同じだ。ところが、国民健康保険料と介護保険料は自治体により保険料の計算式や料率が異なり、手取り額に結構な差が発生する。そして、高齢化が進んでいるため、国民健康保険と介護保険の保険料が上がり続けていることも見逃せない。国民健康保険料は毎年見直され、介護保険料は3年に1回の見直しされ、今年がそのタイミングだ。最新の保険料が公表されたので、本連載では「額面年金収入200万円」と「額面年金収入300万円」の二つのケースについて、50の自治体の手取り額を試算した。今回と次回(9月12日(木)配信予定)の2回にわたって、ランキング形式で紹介する。 ●「額面年金収入200万円」ってどんな人? 50の自治体の手取り額を徹底調査! ランキングを見る前に、今回の調査方法と試算の条件について説明しておこう。額面年金収入200万円のケースは、22歳から60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円の人を想定した。そういう人が65歳から受け取る公的年金の額(老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計)が200万円という水準。イメージとしては、定年退職前の額面年収が800万円くらいの人だ。一方、次回紹介する額面年金収入300万円のケースは、公的年金に加えて企業年金や、確定拠出年金(DC)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、退職金などの年金受取があり、合計で300万円になる人を想定した。ランキング対象は、合計50の自治体。46道府県の県庁所在地と東京都内の4区だ。東京都は23区がそれぞれ独立した自治体なので、東西のビジネス街と住宅街の代表として、千代田区、墨田区、新宿区、杉並区を調査した。国民健康保険料と介護保険料は、ダイヤモンド編集部が各自治体にアンケート調査を依頼し、その保険料データを基に筆者が税額を計算して手取り額を算出した。なお、期日までに未回答だった自治体については市区のウェブサイトを参照の上、それぞれのケースの保険料を算出している。試算条件は、60代後半の年金生活者で、妻は基礎年金のみ。夫の手取り額を試算し、「少ない順番」でランキングしている。それでは、結果をご覧いただきたい。 ●ワースト1位は大阪市! 年金の手取り額は? まず、ワースト1位から25位まで見てみよう。表には、額面年金収入200万円に対する「手取り額」、「社会保険料の合計額」、「税金」、「手取り率(収入に対しての手取りの割合)」を掲載している。税金がゼロであることに注目したい。今回の50の自治体のケースでは、200万円の年金収入(公的年金扱いになる国の年金や企業年金などの合計)から社会保険料を差し引き、配偶者控除を受けると、所得税、住民税ともにゼロとなった。過去にも何回か実施しているランキングだが、大阪市は不動のワースト1で手取り額が少ない。大阪市の財政状況が良くないことが影響しているのだろう。2位から25位までは、数千円の差で過去のランキングと順位が入れ替わっている。ワースト1の大阪市の「手取り率」は89.8%。これをいったん記憶してほしい。筆者はFPになったばかりの頃(28年前)に、自治体によって国民健康保険料の差があることに気が付き、いくつかの大都市の保険料を定点観測していたのだが(変わり者のFPだ)、当時から大阪市は東京23区や横浜市に比べて、ダントツに保険料が高かったことを記憶している。国民健康保険料は、所得割(所得に応じて計算)と応益割(収入がなくても一律に定額がかかるもの。被保険者の数に応じてかかる均等割や世帯ごとにかかる平等割など)の合計額で算出される。このうち、所得割は総所得に料率を掛けて計算する。年金収入だけの人なら「公的年金等の収入-公的年金等控除額-住民税の基礎控除43万円」を指す。以前は、所得ではなく住民税に料率を掛けて算出する自治体があり、東京23区がそうであった。「住民税方式」だと、扶養家族が複数いたり、所得控除が多かったりすると、住民税が少なくなり、それに連動して保険料も安くなる。ところが、15年くらい前に「住民税方式」を採用する自治体はほぼなくなり、代わりに「総所得方式」を採用することになったのだ。扶養控除は反映されないため、扶養家族のいる人にとっては、保険料の負担増につながっている。ともかく、国民健康保険料の計算は複雑。自身のケースを試算したい場合は、お住まいの自治体のウェブサイトで確認しよう。親切な自治体は、保険料シミュレーターを掲載しているので、活用するといい。では、ワースト26位から50位も見てみよう。 ●手取り額が多いのはどの自治体? 手取り率の違いは? ワーストランキング下位、つまり「手取り額」の多い自治体は、1位名古屋市、2位長野市、3位鳥取市という結果になった。とはいっても数千円の差があるくらいだ。ワースト1位の大阪市の手取り額は、179万5225円。手取り額が最も多いワースト50位の名古屋市は、186万5110円で、その差は6万9885円だ。額面の年金額が同じでも約7万円の手取り額の差が出る結果となった。収入200万円に対する7万円は、3.5%。大きな「格差」といってもいいだろう。手取り率にも注目したい。ワースト上位3位までは89.8~91.4%で、ワースト下位3自治体では93.2~93.3%となっている。年金収入が200万円くらいの人は、手取り率が概算で90%前後と覚えておくといいだろう。 ●国民健康保険料と介護保険料 手取りを左右する「格差」は大きい! 最後に、国民健康保険料と介護保険料のワースト3とベスト3を見てみよう。国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は、約5万円。2倍近い差となっている。介護保険料が最も高いさいたま市と最も少ない山口市との差額は、約3万円という結果になった。年金の手取り額の多寡だけでリタイア後の住まいを決めることはできないが、自治体によって、国民健康保険料と介護保険料が異なることは知っておきたい。額面年金収入が異なると、社会保険料負担割合も変わってくるため、手取り額ランキングの結果は違ったものとなる。 <老後資金について> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.4) 老後資金の底上げ急ぐ 年金、OECD平均の6割、パート加入要件緩和 自己資産づくり促す 厚生労働省が3日公表した公的年金の財政検証結果は5年前に比べて改善傾向がみられたものの、給付水準の低下が当面続くことも示した。政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩め、「支え手」を広げることで制度の安定をめざす。老後に備えて自己資産を形成する重要性も呼びかける。厚生年金に入っていない自営業者らが加入する国民年金(基礎年金)は現在、満額で月6.8万円だ。この給付水準は少子高齢化が進むにつれ、さらに下がっていく。やむなく非正規雇用になった人が多い「就職氷河期世代」は現在50歳前後で、生活資金を年金に頼る時期が近づきつつある。少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要性が増している。日本の年金水準は国際的に見ても低い。現役世代の収入に対する年金額の割合である「所得代替率」を経済協力開発機構(OECD)の基準でみると一目瞭然だ。単身世帯の場合、日本は32.4%で欧米などOECD加盟国平均の50.7%の6割程度の水準にとどまる。今回の財政検証は5つの改革案を実施した場合の効果を試算した。1つは厚生年金に加入する労働者を増やす案だ。10月時点の加入要件は(1)従業員51人以上の企業に勤務(2)月収8.8万円以上――など。このうち企業規模の要件について政府は撤廃する方針を固めている。財政検証結果によると、企業規模の要件を廃止し、さらに5人以上の全業種の個人事業所に適用した場合、新たに90万人が厚生年金の加入対象となる。成長ケースの試算では基礎年金の所得代替率を1ポイント押し上げる効果があった。賃金や労働時間に関する要件を外して週10時間以上働く全員を対象にすると、新たに860万人が加入することになる。このときの所得代替率は3.6ポイント上がる。財政検証は基礎年金を底上げする別の改革案も試算した。「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金水準を抑制する仕組みについて、基礎年金に適用する期間を短くする案では所得代替率が3.6ポイント上昇する効果がみられた。厚生年金を引き上げる案もある。厚生年金の保険料は月収などから算出する「標準額」に18.3%をかけた金額を労使折半で負担する。この標準額の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると、横ばいケースの所得代替率は0.2~0.5ポイント改善する。改革案には反発もある。基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担が増すため、財源確保が必要になる。増税論につながりやすく、実現には政治的なハードルが高い。基礎年金の抑制期間短縮案も、保険料納付の延長案も、新たに必要な財源はそれぞれ年1兆円を超える。権丈善一慶大教授は「税を含めた一体的な会議体で議論をするのが妥当ではないか」と指摘する。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1273939 (佐賀新聞 2024/7/4) 【年金財政検証】「100年安心」綱渡り、心もとない老後の暮らし 政府は、公的年金について5年に1度の「健康診断」に当たる財政検証の結果を発表した。給付水準は目標とする「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った。ただモデル世帯の給付水準は現在若い人ほど低くなり、老後の暮らしは心もとない。出生率や経済成長の想定が甘いとも指摘され、政府が掲げる金看板「100年安心」は綱渡りとなる可能性をはらむ。 ▽公約 「将来にわたって50%を確保できる。今後100年間の持続可能性が改めて確認された」。林芳正官房長官は3日の記者会見で財政検証の評価を問われて、こう述べた。100年安心は小泉政権が2004年に実施した年金制度改革で、事実上の公約となった。現役世代の平均手取り収入に対する給付水準(所得代替率)の「50%以上の維持」が根幹部分となっている。今回、目標をぎりぎりでクリア。政府内には安堵感が広がる。経済成長が標準的なケースで厚生年金のモデル世帯の給付水準は33年後に50・4%となり、前回検証の類似したケースと比べても改善した。外国人や女性も含め働く人が将来700万人余り増え、保険料収入が増加すると見込んだことなどが要因に挙げられる。 ▽働き続ける ただ「50%以上の維持」は、年金の受給開始時の状況に過ぎない。給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」などの影響で、年齢を重ねるごとに給付水準は低下する。モデル世帯について5歳刻みの推移を見ると、現在65歳の人の給付水準は61・2%だが、80歳になると55・5%に下がる。若い世代ほど給付水準が低くなる特徴もある。現在50歳の人は、受給開始時の65歳で56・7%、80歳になると50%を割る。現在30歳なら65歳で50・4%、80歳では46・8%に落ち込む。このため政府は新たな少額投資非課税制度(NISA)など老後への備えを呼びかけている。厚生年金に加入せず国民年金(基礎年金)だけに頼る人はさらに厳しい。埼玉県深谷市の塗装業片平裕二さん(49)は「年金は当てにできない」と言う。子ども3人を育て家計に余裕はなく貯蓄は難しい。「健康でいられる限り働き続けるしかない」と話した。 ▽願望 検証の前提条件を疑問視する声もある。女性1人が産む子どもの推定人数の出生率は23年が過去最低の1・20だったのに対し、1・36と想定。政府が少子化対策を策定したとはいえ、日本総合研究所の西沢和彦理事は「若者の結婚や出産への意欲は低下しており、検証の想定には願望が含まれている」と批判した。他にも実質賃金は減少が続くのにプラスと仮定しているほか、外国人労働者の増加や株高も見込む。どれか一つでも目算が狂えば、受給開始時の50%割れが現実味を帯びる。焦点は制度改革に移る。ただ武見敬三厚生労働相は3日、国民年金保険料の納付期間5年延長案に関し「必要性は乏しい」と見送りを表明した。実施するには、自営業者らの保険料が計約100万円増え、巨額の公費も必要。与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説した。厚労省は、パートら短時間労働者の厚生年金の加入拡大を進める。一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃する方針で、保険料を折半する中小企業は反発する。マクロ経済スライドの見直しも国庫負担増が課題となるなど、年末に向けた議論は曲折が予想される。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000&ng=DGKKZO81842610U4A700C2MM8000&ue=DMM8000 (日経新聞 2024.7.4) 「65歳まで納付」案見送り 厚生労働省は2025年の年金制度改正案について、国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現行の40年から45年に延長する案を見送ると決めた。他の改革案で一定の給付底上げ効果が見込めるとわかり、負担増への反発も考慮し判断した。厚労省は3日に公表した財政検証結果で、支払期間を65歳になるまで5年延長した場合の給付水準などの見通しを示した。一定の経済成長が進むケースでは将来の年金の給付水準が12%上がる効果が見込まれた。一方で、保険料負担は5年間で100万円ほど増すため「低所得者の負担が大きい」との指摘が出ていた。長期的に年1.3兆円の追加財源も必要で、自民党内に慎重論があった。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83770730Z20C24A9PE8000 (日経新聞社説 2024.9.30) 「会計ビッグバン」を加速し意見を世界に 企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。20年余りの改革で残った主要項目のひとつだった基準改正が13日、日本の会計基準をつくる企業会計基準委員会(ASBJ)から発表された。企業が事業用に借りる建物や設備などリース資産に関する会計処理だ。企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。現在も中途解約できず購入に近いリースについては、貸借対照表に計上されている。新基準では、中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する。2027年度から適用が始まる。約1万社が対応を求められ、自己資本比率が半減する例も予想されるなど影響は大きい。丁寧な説明が必要だ。商船三井が新基準を踏まえた見込み資産量と総資産利益率(ROA)目標の開示を始めたのは参考になる。新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS)だ。同基準では19年にリースのオンバランス化が始まった。日本の会計処理が異なると企業の信頼が下がりかねなかっただけに、国際標準に合わせるのは賢明な措置だ。欧米の主要な官民の市場関係者は01年からIFRSづくりを本格的に始めた。折しも日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた。日本はIFRSを改革の先導役と位置づけ、当初から基準設定の議論に専従者を送り、その決定に基づき日本基準の改革を進めてきた。資産価値の変動が財務諸表に反映されやすくなったことなどは、IFRSの影響を受けている。今後は企業買収に関する会計処理なども、国際的な視点で検討を進めてほしい。IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める。今ではIFRSをそのまま使う日本の大企業も増えており、官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい。会計の知見を備えた人材の育成や国際会議での意見発信に、官民が一段と取り組むべきだ。 <高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842330U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 公的年金頼み限界 老後の生活資金を公的年金だけに頼るのには限界がある。財政検証結果によると公的年金の給付水準は経済条件が良いシナリオでも2030年代後半まで下がり続ける。順調にいっても夫婦2人で現役世代の5~6割という給付水準だ。重要性が増しているのは企業年金や個人年金といった任意で加入する私的年金で自己資産を厚くし、老後の生活資金を補完することだ。公的年金以外の所得がない高齢者世帯は足元で4割強を占める。30年間で10ポイントほど減ったとはいえ、所得代替率が50~60%にすぎない公的年金になお依存する傾向がある。総務省がまとめた23年の家計調査によると無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字だった。貯蓄などを取り崩して生活するケースが多いことがうかがえる。厚生労働省は財政検証結果を受けた25年の公的年金制度改正に合わせ、私的年金制度の改革に取り組む。具体的には加入者自らが運用商品などを選び、その成果によって受け取る年金額が変わる企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の拡充を進める。イデコは原則60歳までは引き出せないものの、掛け金の全額が所得税の控除対象となり、運用益は非課税となるなど税控除のメリットが大きい。政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積み立てて資産を増やせるようにする。与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべきだ」という主張も出始めている。 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301634 (佐賀新聞 2024/8/15) 高齢者の定義年齢に引き上げ論、人手不足解消、警戒感も 65歳以上と定義されることが多い高齢者の年齢を引き上げるべきだとの声が経済界から上がっている。政府内では人口減少による人手不足の解消や、社会保障の担い手を増やすことにつながるとの期待が高まる一方、交流サイト(SNS)を中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も広がる。高齢者の年齢は法律によって異なる。仮に年齢引き上げの動きが出てくれば、60歳が多い企業の定年や、原則65歳の年金受給開始年齢の引き上げにつながる可能性がある。見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた。定義見直しには踏み込まなかったものの、社会保障や財政を長期で持続させるためには高齢者就労の拡大が重要との考えを示した。骨太方針の議論の中で経済財政諮問会議の民間議員は「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべきだ」と提言。経済同友会の新浪剛史代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた。背景には働き手不足への危機感がある。内閣府の試算では、70代前半の労働参加率は45年度に56%程度となる姿を描く。経済界以外からも提案があった。高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会は6月、医療の進歩などによる心身の若返りを踏まえて75歳以上が高齢者だとした17年の提言が「現在も妥当」との検証結果をまとめた。SNSでは「悠々自適の老後は存在しない」などとネガティブな反応が目立つ。低年金により仕方なく働く高齢者も少なくない。内閣府幹部は「元気で意欲のある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリング(学び直し)の徹底などが重い課題となりそうだ。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83491810W4A910C2MM8000 (日経新聞 2024.9.16) 働く高齢者、最多の914万人 昨年、4人に1人が就業 総務省は16日の「敬老の日」にあわせ、65歳以上の高齢者に関する統計を公表した。2023年の65歳以上の就業者数は22年に比べて2万人増の914万人だった。20年連続で増加し、過去最多を更新した。高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52%と2人に1人が働いている。定年を延長する企業が増加し高齢者が働く環境が整ってきた。高齢者の働き手が人手不足を補う。年齢別の就業率は60~64歳は74%、70~74歳は34%、後期高齢者の75歳以上は11.4%といずれも上昇し、過去最高となった。23年の就業者数のなかの働く高齢者の割合は13.5%だった。就業者の7人に1人を高齢者が占める。65歳以上の就業者のうち、役員を除く雇用者を雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員が76.8%を占めた。産業別では「卸売業、小売業」が132万人と最も多く、「医療、福祉」が107万人、「サービス業」が104万人と続いた。「医療、福祉」に従事する高齢者の数は増えた。13年からの10年間でおよそ2.4倍となった。15日時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者人口は前年比2万人増の3625万人と過去最多だった。総人口に占める割合は前年から0.2ポイント上昇の29.3%で過去最高を記録した。65歳以上人口の割合は日本が世界で突出する。人口10万人以上の200カ国・地域で日本が首位に立った。 <社会保障の支え手について> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842300U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 高齢者の就労後押し 「働き損」制度の撤廃試算 今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象にした。一定の給与所得がある高齢者の年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」の撤廃案だ。現行制度では65歳以上の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金額が減る。これが高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘があった。撤廃した場合、厚生年金部分の所得代替率は横ばいケースで29年度に0.5ポイント下がる。所得の高い高齢者の就労を後押しする一方で、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要になるためだ。年金水準の低下と引き換えに、就労拡大を進める案となる。人手不足対策としては、会社員らの配偶者が年金保険料を納めずに基礎年金を受け取る「第3号被保険者制度」の廃止論もある。この制度があるために労働時間を保険料負担が発生しない範囲にとどめる人がおり、就労拡大を妨げる一因になるからだ。厚労省は撤廃に慎重な姿勢を崩していない。対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しいとみている。しばらくはパート労働者が厚生年金に入る要件を緩めることで、第3号の対象者を減らしていく方向だ。財政検証結果によると第3号の対象者は40年度に現在の半分近くに減る見通しだが、それでもなお371万人が残る。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81840020T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 外国人材、40年に97万人不足 推計、前回から倍増 政府がめざす経済成長を達成するには2040年に外国人労働者が688万人必要との推計を国際協力機構(JICA)などがまとめた。人材供給の見通しは591万人で97万人が不足する。国際的な人材獲得競争が激化するなか、労働力を確保するには受け入れ環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要となる。22年に公表した前回推計は40年時点で42万人が不足するとしていた。今回はアジア各国から来日する労働者数が前回推計よりも減ると見込んだ。為替相場変動の影響は加味しておらず不足人数は膨らむ可能性がある。推計では政府が19年の年金財政検証で示した「成長実現ケース」に基づき、国内総生産(GDP)の年平均1.24%の成長を目標に設定した。機械化や自動化がこれまで以上のペースで進んだとしても30年に419万人、40年に688万人の外国人労働者が必要と算出した。前回推計は674万人としていた。海外からの人材供給の見通しも検討した。アジア各国の成長予測が前回推計時より鈍化し、出国者数は減少すると推測した。この結果、外国人労働者は30年に342万人、40年に591万人と前回推計より減った。必要人数と比べると、30年に77万人、40年に97万人不足する。外国人材を確保する方法の一つは来日人数を増やすことだが、少子化に悩む韓国や台湾も受け入れを拡大している。もう一つは来日した外国人に長くとどまってもらうことだ。今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定した。3年を超えて日本で働く割合が大きくなれば不足数は縮小する。政府も動き出している。27年をめどに技能実習に代わる新制度「育成就労」を導入。特定技能と対象業種をそろえ、3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替えやすくする。こうした政策面の変化は今回の推計には反映されていない。課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だ。経営に余裕のない中小零細企業が自前で教育するのは容易でない。自治体主導で複数の企業が学習機会を設けるなど、官民で環境整備に努める必要がある。 *4-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240909/po・・aign=mailpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月10日) 「日本にいる外国人」への政策は 国境管理と社会統合政策、橋本直子・国際基督教大学准教授 外国人の入国をどうするかという国境管理と、入国した後、日本でどう暮らすかという二つの側面があります。国際基督教大学准教授の橋本直子さんに聞きました。 ◇ ◇ ◇ ――受け入れ後の政策はあまりみえません。 ◆難民として受け入れられたわけではない、日本にいる一般的な外国人への社会統合政策は、長年ほぼなかったと言えます。 最近できた「特定技能」については、少し政策が進みましたが、一般的な外国人の受け入れ後の研修は、日本が長年やってきた難民への生活オリエンテーションの経験からもっと学べる部分があります。今後、日本が外国人の受け入れを増やすのは既定路線です。しかし、受け入れ後の実態や日本社会への影響は十分把握されていません。たとえば、外国人を入れると賃金が下がると言う人がいますが、明確な根拠はありません。まずデータが必要です。 ●居場所はあるか ――政策の空白ですね。 ◆西欧諸国では長年の苦い経験を経て、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが、実質的に義務付けられている国がほとんどです。そのために、中央政府、受け入れ自治体、外国人本人の間で、きめ細かな仕組みが作られています。日本にはそのような工夫が欠けています。日本でも外国人が多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけてほしいということです。日本にいる外国人に対して政策的な支援がなければ、当然、厳しい状況におかれます。すると、国内から、「入国させるな」というような排外的な主張が出てきます。国境をどう管理するかは、既に国内にいる外国人との共生がうまくいっているかが、おおいに影響します。日本社会のなかで外国人に居場所があり、そのことが国民にきちんと理解されることが重要です。 ●「移民政策はとらない」 ――日本は「移民政策をとらない」ことになっています。 ◆特殊な定義に基づく「移民政策」をとらない建前があるから、社会統合政策を長年やってきませんでした。「いつかは帰る出稼ぎ労働者だから」、国はなにもやらない、自治体や企業、NGOやNPOに任せておけというのが、この30年ぐらいの日本でした。移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れることほど、最悪の政策はありません。欧州が1970年代から犯した過ちを繰り返してきました。2018年ごろからようやく日本でも動きだしたかな、というのが現在地だと思います。 ●現地職員をどうする ――海外にある日本の大使館や国際協力機構、NGOなどで働いていた現地職員の退避と受け入れの態勢が整えられていません。 ◆日本の組織と協力したために迫害を受けるおそれが高まるケースはアフガニスタンで問題になりましたが、今後も起きえます。こうした人たちをどのような立場で日本に受け入れるかは空白状態です。これでは、優秀な現地職員は日本の組織では働かない方がよい、となってしまいます。一刻も早い整備が必要です。 *4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83485820V10C24A9CK8000 (日経新聞 2024.9.16) 留学生受け入れの課題 就職・定住一体で進めよ、浜名篤・関西国際大学長 各国の間で留学生の獲得競争が激しくなっている。関西国際大学の浜名篤学長は教育政策の枠を超え、就職・定住の促進策と一体で留学生の受け入れを進めないと日本は後れをとりかねないと指摘する。少子高齢化や景気回復で労働力不足が深刻化している。政府は特定技能制度で一定の専門性がある労働者を受け入れ、家族の帯同や無制限のビザ更新にも道を開いた。同制度による来日は増えている。他方、日本国内の大学や大学院で学ぶ留学生の増加には必ずしも成功していない。2023年5月現在の外国人留学生は27万9000人と新型コロナウイルス禍による減少から回復している。だが、このうち大学セクター(大学院・大学・短期大学・高等専門学校等)は約半分の14万人規模にとどまる。日本語教育機関が約9万人と32%を占めるが、コロナ禍中の留学待機者が大挙して来日したことが背景にあり、今後は減る見込みという。日本語学校や専門学校を含めた「水増し」の尺度で考えることはやめ、大学への受け入れ増に本腰を入れるべきだ。筆者は国際教育に力を入れる地方中小大学の学長であり、高等教育研究者として大学政策の国際比較に取り組んできた。本稿では海外調査で得た知見も踏まえ、日本の留学生政策の課題を考える。直面している課題は3つある。第1は、留学先としての日本の魅力低下だ。かつて円高の時代には、母国への仕送りを目的にアジア諸国から日本に留学する人が相当数いたと思われる。現在の日本では給与水準がお隣の韓国を下回るケースが多い。日本学生支援機構の調査結果から留学生の卒業後の進路を見ると、22年度に大学を卒業した約1万6000人のうち、日本で就職したのは38%にすぎない。進学者(21%)を含めても6割弱しか正規ビザを更新できていない。第2に、日本では学位(修士、博士)の評価が低い。台湾では公務員と教員の7割以上が修士以上の学位を取得しており、学位を得ると昇給・昇進が早くなる。公務員は週1日、大学院通学のための休暇が認められる。利用する人が多く、政府高官が「業務に支障をきたすことがある」と嘆くほどだ。留学生大国といわれる英国では1年で修士の学位が取得できる。このため留学生は学部ではなく大学院を選ぶ傾向がある。先ほどの学生支援機構の調査によると、卒業後に日本で就職・進学してとどまる割合は修士課程修了では49%、博士課程修了では34%に低下する。院卒者の処遇と就業機会が不十分だからだろう。第3に、留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないことがある。カナダの教育テクノロジー企業アプライボードの調査によると、留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位には学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)などが並ぶ。つまり就職しやすくすることが重要であり、これは教育政策の範囲を超える。各国はこうした点にも目配りして留学生の獲得を競っている。まず、日本と同様に18歳人口減少に苦しむ韓国を見てみよう。20年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の統計によると、世界の留学生に占める韓国のシェアは13位で、中国や日本を下回った。そこで教育部(日本の文部科学省に相当)は23年8月に「留学生教育競争力引き上げ方案」を公表。22年で16万7000人の留学生を27年までに30万人に増やし、「世界10大留学強国」を目指すとした。「方案」には大学・企業・地方自治体の連携を前提にした具体的な戦略が盛り込まれている。地域ごとに「海外人材に特化した教育国際化特区」を指定し、地域の発展戦略とも連携させて留学生の誘致を進めるのはその一例だ。学業支援では在学中のインターンシップなどの機会を大幅に増やし、多くの分野の仕事に触れる機会を提供する。いつ、どこでも韓国語を学べるようテキスト・授業のデジタル化を進め、韓国語能力試験TOPIKもコンピューターで実施する方式にする。就職支援も強化し、中小企業などに就職する場合の特典の付与なども検討する。留学生獲得は人口減少国に限った政策ではない。人口増が続くマレーシアは私立大学の新設認可の条件に「留学生10%以上」という条件を付け、20年に国全体の留学生割合10%を達成した。25年までに25万人の受け入れを目標にしている。日本はどうか。40年の高等教育のあり方を議論している中央教育審議会の特別部会は8月に中間まとめを公表した。そこでは「留学生や社会人をはじめとした多様な学生の受け入れ促進」の重要性を指摘しているが、大学などに努力を求めるだけで具体策はみられない。中間まとめは40年の大学入学者数を留学生を含めても22年度比で2割減と試算する。せめてその半分、1割相当の留学生を獲得する発想がほしい。留学生比率に関する現在の政府目標(33年に学部で5%)は消極的すぎる。日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化、価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要だ。留学生の受け入れは教育上の課題であるとともに、喫緊の社会課題であり産業政策や労働政策、地域振興と一体で進めることが欠かせない。文科省の所管事項と矮小(わいしょう)化せず、法務・厚労・経済産業の各省や自治体も含め、国を挙げて取り組むことが必要だ。具体的には、日本で学位を取得した留学生がフルタイムで就職すれば就労ビザを出すことを制度化してはどうか。文科省が進める地域の「産官学プラットフォーム」を活用して有償インターンシップの機会を設け、収入の確保と就職のミスマッチ防止につなげてもよい。留学ビザの審査期間短縮も有効だ。留学生獲得を巡る国・地域間の競争は激化している。アニメやポップカルチャーをきっかけに日本に関心を持つ海外の若者がいる間に真に有効な施策を講じないと手遅れになる。そんな危機感を強くしている。 *4-4-2:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107061 (日本総研 2024年1月17日) 「私立大学の過半が定員割れ」が示唆するわが国の課題 ―教育効果の客観的把握と情報開示で「大学の供給過剰」是正を― 今年度、全国の私立大学の 53.3%において、入学者数が定員割れとなったことが明らかになった。現実には、地方の中小私立大学ほど経営が悪化し、公立大学化を模索する動きが後を絶たないが、それでは税金を使って、減る一方の学生の奪い合いをしているだけで、問題の本質的な解決とはならない。世界最悪の財政事情にあるわが国にとってはなおのこと、適切な対応ではない。少子化は今に始まった話ではない。しかしながら、文部科学省は 2018 年に中央教育審議会においてとりまとめた「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」において「18 歳で入学する日本人を主に想定する従来のモデルからの脱却」を目標に据えた。これは「留学生頼み」「リカレント頼み」で、国全体としての大学の定員の縮小には手を付けずにすむと見立てたものであったが、その後の現実は厳しい。わが国全体として研究力の低下が近年著しいなか、わが国を選ぶ留学生は思うようには伸びておらず、社会人のリカレント需要を合わせても、国全体としての大幅な「定員割れ」を埋められる学生数を集めるには到底至っていない。大学の定員は「まず学費の安い国公立大学から、都市部の大学から埋まる」現実があり、とりわけ地方の中小私立大学が厳しい調整圧力に晒される結果となっている。しかしながら、地方にも大学は必要であり、入学定員の適切な設定は、国公立大学も含む各大学の教育の成果を維持するうえでも必要なはずである。大学の定員の適正化に、国全体として取り組む必要がある。現状のように「当事者である大学任せ」では、各大学とも学生の定員減が教員数の削減につながるため後ろ向きとなりがちな実態があり、国が果たすべき役割は大きい。諸外国ですでに取り組まれているように、高等教育の客観的な評価を行う枠組みを確立して、その結果を各大学ごと、学部ごと、専攻ごとに、全国で横並びで公表し、「志願者による選別」を促すことで、国全体としての定員の適正化につなげるべきである。わが国の高等教育の機能を維持し、質の向上を図りつつ、大学の供給過剰状態を是正していくことは、わが国社会の活力を維持し、経済の生産性を高めていくうえでも、喫緊の課題であるといえよう。
| 年金・社会保障::2019.7~ | 11:40 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
|
2024,07,06, Saturday
このところ多忙だったため2ヶ月近くもかかりましたが、やっと工事完了となりました。
(1)経済におけるイノベーション(技術革新)の重要性 ![]() 2022.7.25東洋経済 2023.12.25読売新聞 キャノン・グローバル研 2024.6.13日経新聞 (図の説明:1番左の図は、主要国の1990~2021年までの名目1人当たりGDPの推移で、左から2番目の図は、2022年の主要国名目1人当たりGDPだが、この2つから、日本は名目でも著しく順位を下げたことがわかる。また、右から2番目の図は、購買力平価による1人当たりGDPの推移で、購買力平価による日本の伸びも他国と比較して緩やかだ。1番右の図は、人口増加率とイノベーションの関係で、OECD諸国ではこの2つに相関関係のないことがわかる) *1-1は、①経済停滞の原因はイノベーションの欠如 ②技術革新はミクロで、人口動態とは無関係 ③民間企業が主役だが金融や国も役割重要 として、具体的に、④2023年にドイツ(人口は日本の2/3)とGDPが逆転し、日本経済の凋落が続いている ⑤2025年にはインドにも抜かれて日本のGDPは世界5位となる見通し ⑥生活水準と密接な関係を持つ名目GDP/人は、2000年は世界2位、2010年18位、2021年28位まで転落した ⑦購買力平価ベースでは世界38位で、アジアの中でもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に及ばない ⑧GDP/人の水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではなく、「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP) ⑨全要素生産性上昇はイノベーション(技術革新)に依る ⑩日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である ⑪OECD諸国のグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率は相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係がある ⑫日本経済の将来を考えると、人口減少を言い訳にせず、民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要 ⑬日本で生じている人口減少は省力化イノベーションを促す ⑭高齢者増加は高齢者特有の財・サービス提供や介護のハイテク技術活用等を必要とする ⑮日本が抱える人口減少や高齢化の課題は、イノベーションを生みだす素地である ⑯経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくため金融機関の果たす役割も重要 ⑰政府が時代の変化に対応できなければイノベーションを阻害して国力低下を招く と記載している。 上の①~⑰は、全くそのとおりで賛成だ。つまり、国内で誤りを100万回述べても、結果として統計上に表される事実は変わらないため、これまで人口減少を経済停滞の原因として語ってきた無能な政治家・官僚・メディア関係者・経済学者は、誤った情報を無批判に垂れ流し、国民をミスリードして貧しくさせた責任をとって、意志決定する第一線から退くべきである。 特に、⑥のように、1人当たりの名目GDPは2000年の世界第2位から2021年には世界第28位まで転落し、⑦のように、購買力平価ベースでは、世界38位となってシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)にも及ばなくなったのだ。 その理由は、政府の無駄使いによって、日本の国債残高の対GDP比が251.9%と世界第2位のイタリア143.2%を大きく引き離して世界第1位となり、財務省はじめ日本政府は「国民全体が貧しくなれば文句は出ないだろう」と考えて金融緩和を続け、これに他国への制裁返しも加わって、著しい物価上昇を引き起こすことによるステルス増税を行なってきたからで、ここに国民の生活や福利の向上という理念は全く見られないのである。 また、⑧⑨⑩のように、GDP/人の水準を決めるのは、全要素生産性(TFP)であり、全要素生産性上昇はイノベーションに依るのに、(後で詳しく述べるが)日本政府は現状維持に汲々としてイノベーションを阻害する政策をとり、経済を停滞させる政策が多かったのだ。何故か? その上、⑪のように、人口増加率の高さは先進国ではイノベーションとは相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係があるのに、各国の人口動態や日本の食料自給率・地球の食料生産力を考えることもなく、「人口減少が問題だ」と叫んできたリーダーは、無知というより故意であろう。何のために、そういうことをしたのだろうか? (2)イノベーションの具体的事例 1)環境は、イノベーションの宝庫だったこと ![]() 2023.7.3、2023.8.25日経新聞 2024.7.5日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、既に再エネ技術はあるのに、新規再エネ導入容量で日本は停滞し、炭素価格《=環境意識》はアジア各国より見劣りする。また、左から2番目の図のように、建物の断熱・設備の省エネ・再エネ・EV利用によって安全で環境にも財布にもやさしいエネルギー政策ができるのに、これらの技術進歩は遅遅としている。そして、右から2番目と1番右の図のように、再エネと比較して危険性が高く、2050年頃にやっと発電の実証実験ができるとされている核融合発電に膨大な国費を投入しているのだ) *1-2-1は、①政府が環境政策の長期的な指針である第6次環境基本計画(以下“計画”)を閣議決定 ②現代社会は気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面と指摘 ③人類活動の環境影響は地球の許容力を超えつつある ④計画は天然資源の浪費や地球環境を破壊しつつ「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘 ⑤経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めつつ「新たな成長」を実現する考え ⑥GDP等の限られた指標で測る現在の浪費的「経済成長」に代わって計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング」を最上位に置いた成長 ⑦計画は森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調 ⑧これを社会変革の契機としたいが、根本的な変革の実現は容易でない ⑨最初の計画ができて30年、この間の経済停滞も深刻だが、日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れ ⑩長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできた ⑪計画の実現には環境省の真価が問われるが、現実は極めてお寒い状況 ⑫計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」と、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘 ⑬首相をはじめ政策決定者や企業のトップが悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが必要 等と記載している。 今頃になってではあるが、①③⑦のように、政府が人類の活動の環境への影響が地球の許容力を超えることを認め、環境政策の第6次環境基本計画を閣議決定して、森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調したのはよかった。しかし、⑨⑩のように、経産省をリーダーとする既得権益に変革を阻まれ、既に最初の計画から30年も経過した結果、日本は停滞の30年を過ごした上、トップランナーだった筈の環境政策も世界に大きな後れをとったのである。 ただし、②の「気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面としている」というのは、生物は絶滅と進化を繰り返すものであるため現状維持が何より重要とは限らないし、プラスチック汚染は、環境を汚していないものまで過度に禁止して国民に不便を強いるより、ゴミの分別回収を(いつまでも複雑怪奇で不便なままにしておかず)簡単にして、再利用を進めればよいと思われる。 なお、日本政府が、人間に直接被害を与える放射性物質や化学物質による環境汚染には無頓着で、気候変動については30年前から指摘しているのに、未だ中途半端な対応しかしていないのは何故だろうか。 さらに、④⑤⑥が、新たな成長かと言えば、GDPを増やす方法は、需要者のニーズにあった製品やサービスを提供することであるため、環境や国民の年齢層を無視した製品やサービスしか提供しなければ、需要が減ってGDPも落ちるのが当然である。また、浪費したものは蓄積されないため、いつまでも進歩のない貧しいままの生活が続くのだ。 つまり、国民の「ウェルビーイング」の1要素である国民1人あたりGDPを増やして国民を豊かにするためにも、ニーズに合った技術革新が必要で、無理に化石燃料を浪費して地球環境を破壊しても、国民を豊かにすることはできないのである。 その上、日本の場合は、化石燃料を輸入に頼って国富を外国に流し、国民を貧しくしているため、エネルギーを再エネに変更すれば、国産エネルギーに替わって国富が流出しないという大きなメリットがある。さらに、東京大と日本財団の調査チームが、*1-2-2のように、南鳥島沖のEEZ内等に、レアメタルを含む「マンガンノジュール」が大量に存在することを発表したが、日本政府の動きは鈍く、未だ国内用にも輸出用にも採取していない状態なのだ。 この調子では、⑧のような社会変革はいつまで経ってもできず、⑪⑫⑬のように、環境省だけではなく、首相はじめ政策決定者・企業のトップ等の今後の数年間の取り組みが重要なのだが、省エネや再エネへの資金投入はケチケチしながら、*1-2-3のように、危険な上に大量の熱を発生する核融合に多額の資金を投入するようなことが、日本政府の大きな無駄使いなのである。 2)EV・再エネ・バイオは特にイノベーションのKey技術だったこと *1-3-1のように、経産省も、①失われた30年の状態が今後も続けば、2040年頃に新興国に追いつかれる ②特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ ③日本経済停滞の理由は企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたから ④このままでは賃金も伸び悩み、GDPも成長しない ⑤今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある ⑥停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要 ⑦スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もある ⑧政府も一歩前に出て大規模・長期・計画的に投資を行う具体策を検討 等としているそうだ。 このうち③は事実で正しいが、現在は、④のように、生産性の向上よりも高い賃上げを連呼して労働コストを上げ、円安と物価上昇により原材料費・エネルギー・不動産のコストも上げているため、問題意識とその解決策が逆である。そのため、このような状態が今後も続けば、①⑤のように、名目GDPでもインドに抜かれて世界5位となり、実質GDPはますます減少して、2040年頃には新興国に追いつき追い越されるというのが正しい展望だろう。 そのような中、経産省は、②⑥のように、「停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要」とし、「特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ」としているそうだ。しかし、エネルギー分野では、日本がトップランナーだったEV・再エネで経産省がバックラッシュを行なってイノベーションを妨げ、バイオ分野でも、日本がトップランナーだった再生医療と免疫療法で厚労省が高すぎる(有害無益な)ハードルを作って進捗を妨げたため、イノベーションを進めてきた先端企業の方が淘汰される結果となったわけである。 これらの総合的結果として、*1-3-3のように、抗生物質も、原料物質はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在では抗生物質原料のほぼ全量を中国等の国外に依存している状況で、国産化するのに、またまた、政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を新たに設けなくてはならばいそうだが、その原資は国民の税金なのである。 さらに、イノベーションの源泉は研究開発であるため、⑦のように、スタートアップ・大学・研究所が連携することも重要だが、大企業もイノベーションに繋がる技術開発をせずに、旧来型の技術を護る意志決定だけをしていればよいわけでは決してない筈だ。 そのため、*1-4のように、「教育環境の改善は待ったなしだが、国からの運営費交付金が減って財務状況が厳しい」等として、東京大学が学部学生で現在は入学料282,000円・授業料年間535,800円の授業料を2割上げる検討をしているそうだが、⑧のように、政府が時代遅れだったり的外れだったりする大規模・長期・計画的な投資を行うより、大学への進学率を上げてイノベーションを担える母集団を増やし、イノベーションの基礎となる教育・研究を充実する方が重要なので、充実した教育・研究を行なうに十分な交付金や研究費を大学に支給すべきなのである。 なお、東京大学は授業料全額免除の対象を世帯収入年600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げるとしているそうだが、世帯収入が600万円であっても、535,800円の授業料は夫婦と子1人で自宅通学の場合以外は負担が重すぎる上、親と学生の進路希望が異なるケースでは、世帯収入は学生にとっては何の意味もなく、学生の方が親よりも次の時代を見ている場合も少なくない。そのため、国公立大学の授業料は、下げたり無償化したりすることはあっても、上げるのは論外なのである。 3)技術革新の効果と研究者の処遇 *1-3-2のように、小野薬品工業の売上高は、2014年に癌治療薬「オプジーボ」を発売してから、2023年度までに3.7倍に伸びたそうだ。オプジーボをはじめとする免疫療法は、自己の免疫に働きかけて癌を攻撃させる治療法であるため、標準治療と呼ばれる従来型の癌治療法(薬物療法・手術療法・放射線療法)と異なり、治療を受ける人への副作用が著しく少なく、身体的負担も少なくてすむのが特徴だ。 これが技術革新の効果であり、現在はオプジーボが当初の1/5の薬価になったため、小野薬品が困ったと書かれている。しかし、免疫に働きかける治療法なら理論的にはどの癌にも効く筈であるため、対象となる癌の種類を増やす研究をすれば、皆にとってハッピーな結果になる。そのため、国は、このような技術革新を推進すべきなのであり、間違っても免疫療法を“標準治療”の下位に位置づけるべきではない。 また、このような技術革新を促す研究は容易ではないため、研究者に特許料を支払うことを惜しんではならないし、そういうことをすれば、日本で、もしくは日本企業と研究開発をしたい研究者はいなくなるという覚悟をすべきである。 (3)観光への投資について 1)国立公園の魅力向上について 岸田首相は、*1-5-1のように、①2031年までに全国に35カ所ある国立公園で民間を活用した魅力向上に取り組む ②環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大に繋げる ③地方空港の就航拡大に向け、週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示 ④インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る ⑤2030年に訪日客数6000万人・消費額15兆円が政府目標 ⑥地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策を重点的に取り組む ⑦オーバーツーリズム対策として観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島・高山・那覇等の6地域を加える 等とされた。 私は、これまで大切に維持してきた日本の国立公園を観光に活かすのに賛成だが、適正な入場料を徴収して環境を保全し、大自然を美しく保たなければ、観光地としての魅力もなくなる。そのため、①②はセットであり、高級リゾートホテルだけでなく、長期間滞在できるようなホテルや民宿も必要だと思う。 また、③の地方空港の就航拡大も重要だが、「地方空港に降り立てば、空港に新幹線が乗り入れており、地域内を容易に移動できる」というような利便性も重要な付加価値だ。日本の空港は、何故か、国際空港と国内空港が分かれていたり、空港と鉄道が接続していなかったりして、移動に労力を使わせ、旅行者やビジネスマンに不便な思いをさせているのが現状なのだ。 それでも、④のように、インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入るそうだ。しかし、山国で面積は九州よりも小さく、人口は約897万人と日本の1/14のスイスは、年間平均観光客数が2500万人、のべ宿泊客数は5500万人で、観光産業収入は2021年に170億スイスフラン(177.07円/スイスフランx170億スイスフラン≒3兆円)であるため、⑤の日本の目標は、スイスと比較すればまだ低い。 私も、*1-5-2の観光列車ユングフラウ鉄道に乗ってユングフラウヨッホに行ったことがあるが、日本人の利用客数が年間10万人以上もいるだけあって、列車の乗換駅にカタカナで「←ユングフラウヨッホ」と書かれていたのには参ったほどだ。 ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3,454mに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅で、麓のクライネシャイデック駅から、スイスの美しい景色を眺め、山の中を繰り抜いたトンネルを通過すると、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登りきり、頂上では欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできる。私が最初に地球温暖化を意識したのは、鉄道で登ってきた地元の老夫婦が「この氷河はどんどん短くなっているのですよ」と言った時だった。なお、帰りは、ハイキングコースを降りることもでき、高齢者や障害者でも観光を楽しむことができるようになっていて、観光地としての配慮が行き届いている。 また、私は、*1-5-3の標高4,478mのマッターホルンにも1990年代に行ったが、ツェルマット(その時からガソリン車禁止だった)からゴルナーグラート鉄道(ツェルマットの街とゴルナーグラート山頂を結ぶスイスの登山鉄道)で展望台まで上り、帰りはハイキングを楽しむこともできるようになっている。スキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園で、納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されていたが、最近の科学で「ヨーロッパ最古」の納屋が発見されたのだそうだ。 一方、日本では、*1-5-4のように、「富士山の麓の観光地でオーバーツーリズムが深刻化している」等として、山梨県富士河口湖町では富士山を隠す黒い幕を設置したり、富士吉田市ではマナー悪化の解決策として人気スポットの有料化を検討していたり、通りの商店から「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」という苦情が出たり、市街地以外の場所でも駐車場やトイレ不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入り等の観光客のマナーの悪さが問題となっているそうだ。 しかし、これらは、観光地としての準備不足に依るところが大きいため、地元の議員や観光協会・商工会議所の会員が、スイスのユングフラウヨッホやマッターホルン等に視察に行き、周囲はどのような整備をしているか等を調査研究して、観光地として長期的に地元の立地を活かす方法を考えた方が良いと思う。 ⑥⑦の地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策については、山だけでなく海や川もあり、火山・断層・温泉にも事欠かず、食材が豊富な日本であれば、全国の地域がその特色を活かして観光客を分散受け入れすることができるだろう。そうすれば、スイス並みなら単純計算で42兆円(≒3兆円x14)の観光収入があってよい筈なのだ。それには、オーバーツーリズム対策としての補助金よりも、観光客を分散誘致できる交通体系と地域作りが重要だろう。 2)訪日外国人旅行者向け「二重価格」について *1-5-5は、①地方自治体で訪日外国人旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」検討の動き ②観光資源維持のための財源確保が狙い ③実際に導入する場合は本人確認に手間やコスト ④清元姫路市長は「市民と訪日外国人旅行者との2種類の料金設定があっていいのではないか」とした ⑤大阪市の横山市長も「有効な手の一つ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向き ⑥京都市の松井市長は、地元住民の公共交通料金を観光客より低くする市民優先価格の導入を公約に掲げて当選 ⑦二重価格や外国人からの金銭徴収制度は外国人に対して不公平な印象や歓迎していない印象を与える と記載している。 私も、①について、市民の税金で賄っている施設であれば、市民の入場料を安くしたり、無料にしたりする合理性はあるが、訪日外国人旅行者というだけで日本人との間に二重価格を設定する合理性はないと考える。そのため、②の観光資源維持の財源確保は、全員から入場料を取り、維持管理費を支払っている日本人集団の入場料を割引するのが筋であろう。それなら、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートの提示で、住所を確認すれば③は解決する。 なお、④については、姫路城は姫路市の所有にはなっているが、修復費は国が出しているため、姫路市民だけを割引するのも変である。⑤⑥についても、所有者が誰か、管理費・修繕費を出しているのは誰かによって、その財源となっている集団に入場料の割引をするのは合理性があるのだ。しかし、⑦のように、外国人と日本人に二重価格を設定したり、外国人からのみ金銭を徴収したりするのは、確かに、外国人に対して不公平であり、訪日外国人を歓迎していない印象を与える。 (4)日本の農業について ![]() 農業白書 ミノラス 農水省 (図の説明:左図は少し古い資料だが、日本では今でも小麦の消費量に対して生産量が著しく少ないため、消費量の多くを輸入している。また、中央の図のように、米と麦の国民1人あたり年間消費量は、「小麦は一定」「米は著しく減少」だが、その理由は、栄養指導の効果と他の食品から栄養をとることが可能な現在の経済状況がある。そして、右図は、米・小麦・肉類の生産量だが、米は減ったと言っても余り気味、小麦や肉類はその多くを輸入依存という状況だ) ![]() ![]() ![]() 2022.9.26日経新聞 2023.7.27読売新聞 農水省 (図の説明:左図のように、2020年の小麦の自給率は15%程度にすぎない。また、これらの結果、中央の図のように、日本のカロリーベースの食料自給率は、他の先進国と比べても低迷し続けており、右図のように、2022年度では、生産額ベースの食料自給率は58%あるものの、カロリーベースの食料自給率は38%にすぎないのである) 1)「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内改定について 令和6年改正後の食料・農業・農村基本法(以下、「同法」)は、第1条で「食料・農業・農村に関する施策について、食料安全保障確保等の基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、食料・農業・農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする」と述べている(https://www.maff.go.jp/j/basiclaw/attach/pdf/index-12.pdf 参照)。 また、同法第2条は「食料は、人間の生命維持に欠かせないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることに鑑み、将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態)の確保が図られなければならない」としている。 価格に関しては、同法第23条で「国は、食料価格形成に当たり、食料の持続的供給に要する合理的な費用が考慮されるよう、食料システムの関係者による理解の増進、合理的費用の明確化促進、その他必要な施策を講ずる」とし、第39条で「国は、農産物の価格形成について、消費者の需要に即した農業生産を推進するため、需給事情及び品質評価が適切に反映されるよう、必要な施策を講ずる。国は、農産物価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずる」としている。 そして、政府は、*2-1-1のように、「食料・農業・農村基本計画」を2024年度内に改定して食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めたそうだが、食料の需要者である国民は、物価上昇で実質賃金が下がり、年金も“マクロ経済スライド”によって所得代替率が下がり続けてエンゲル係数が上がっているため、これ以上値上げすれば、いくら合理的費用を明確化しても国民が良質な食料を合理的な価格で入手することはできないと思われる。 一方、エネルギーや農業資材も輸入に頼って円安・戦争による価格高騰の打撃を受けているため、同法第42条の「国は農業資材の安定的な供給を確保するため、輸入に依存する農業資材及びその原料について、国内で生産できる良質な代替物への転換の推進、備蓄への支援その他必要な施策を講ずる。国は、農業経営における農業資材費の低減に資するため、農業資材の生産及び流通の合理化の促進その他必要な施策を講ずる。国は、農業資材価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずるものとする」は重要だ。 これらの要請を同時に満たすイノベーションの例が、同法第45条「国は、農業と農業以外の産業の連携による地域の資源を活用した事業活動を通じて農村との関わりを持つ者の増加を図るため、これらの事業活動の促進その他必要な施策を講ずるものとする」という地域資源を活用した事業活動の促進で、農地への風力発電設置、小水力発電設置、ハウスへの太陽光発電設置によるエネルギーの自給や地域資源を使った飼料・肥料の生産等である。 なお、*2-1-1は、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直しが必要としているが、同法第22条は「国は、農業者・食品産業事業者の収益性向上に資するよう海外需要に応じた農産物の輸出を促進するため、輸出を行う産地の育成、農産物の生産から販売に至る各段階の関係者が組織する団体による輸出のための取組の促進等により農産物の競争力を強化するとともに、市場調査の充実、情報の提供、普及宣伝の強化等の輸出の相手国における需要の開拓を包括的に支援する体制の整備、輸出する農産物に係る知的財産権の保護、輸出の相手国とのその相手国が定める輸入についての動植物の検疫その他の事項についての条件に関する協議その他必要な施策を講ずるものとする」と定めており、食料自給率を上げたり、農林水産物の輸出を促進したりすれば、人口が減少しても生産インフラを縮小する必要はない筈である。 また、農業を担う人材の育成や確保については、同法第33条で「国は、効率的かつ安定的な農業経営を担うべき人材の育成及び確保を図るため、農業者の農業の技術及び経営管理能力の向上、新たに就農しようとする者に対する農業の技術及び経営方法の習得の促進その他必要な施策を講ずるものとする」と定め、第34条で女性の参画促進、第35条で高齢農業者の活動促進も定めているが、これだけで十分ではないだろう。 *2-1-2は、①東京都の出生率が1を割り、都知事選では子育て支援・少子化対策が大きな争点の一つになっているが、住宅費が極めて高い東京で多くの子を育てられる広い家を持つのは普通の人には無理で出生率が他地域より低いのは当然 ②人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ無意味 ③生活環境の良い地方で働いて家族を形成する選択肢の提供が必要 ④有力候補者の政策が、水・食料・エネルギーという生存に不可欠な資源は金さえ出せばいつでも買える前提 ⑤国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるべき ⑥日本は高度成長期以来積み上げてきた貯金を食いつぶし、衰弱の局面にある ⑦食料・エネルギーの海外依存を続ければ富の国外流出も大きく、これらを自給する体制を立て直すこと・地域における雇用機会の創出・人口再生力の回復は一体である ⑧国の形のグランドデザインを問う論争が必要で、日本に残された時間は長くない と記載しており、完全に賛成である。 つまり、農業・食品・エネルギー関係の人材は、都市からの移住や外国人の移住でも賄うべきなのだ。 2)穀物を燃料にすれば、世界の栄養不良と地球温暖化が解決するというのか *2-2-1は、①国際社会のフードセキュリティーは「飢餓0」 ②具体的にはi)飢餓の終了 ii)食料安全保障達成と栄養状態改善 iii)持続可能な農業促進 ③その結果、i)全ての人が食料を得られる ii)誰も栄養不良に苦しまない iii)小規模農家の生産性向上・所得向上で食料安全保障と栄養状態改善 iv)フードシステムが持続可能 ④改正基本法は輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格形成、環境と調和のとれた食料システムの確立を新たに追加 ⑤日本は、1951年には全就業者数の46%が第1次産業に従事、2022年は3%に減少し、必要な食料は食品の生産性向上と輸入によって調達し、餓死者・栄養不良人口は少ない ⑥問題はiv)の持続可能性 ⑦少数の生産者と大量輸入で今後の食料安全保障は確保されるか ⑧食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメ ⑨コメの国内生産を守るため、コメをエタノールの原料としてはどうか ⑩米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している 等と記載している。 このうち、①~③の国際社会のフードセキュリティーには賛成だ。しかし、④のうちの「輸出で食料供給能力を維持すれば、国内の自給力が維持される」という説はあまりに甘いと思った。何故なら、栽培品目を変えれば、必要な圃場の形・灌漑方法・農機の種類・施肥の方法等が変わるため、慣れないことをすれば生産性が著しく落ちるからである。 また、⑤⑥⑦のように、現在の日本は、少数の生産者の生産性向上と大量輸入によって必要な食料を調達でき、栄養不良の人口は少なくてすんでいるが、工業化はどこの国でも進むものの、食料生産できる農地には限りがあるため、世界人口が増加している中、このままでは日本も今後の食料安全保障を約束することはできないし、世界の「飢餓0」も達成できないと思われる。 そのような中、突然、⑧のように、「食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメだ」というのは、コメだけ食べて栄養バランスが保てるわけではないため、結論がおかしい。その上、⑨のように、食品であるコメを、酒ではなくエタノールの原料としたり、⑩のように、同じく食品であるトウモロコシ・サトウキビからエタノールを作ってガソリンに添加して使用するなど、世界の「飢餓0」に貢献するどころか逆のことをしつつ、さらに地球温暖化防止にも資さない提案をするのは、何を考えているのかと思う。 3)農地規制を撤廃すれば、食料自給率が向上するのか *2-2-2は、①食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民1人1人が入手できる状態」という国連食糧農業機関(FAO)の定義では、食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、食料の利用・摂取までサプライチェーンの全てが確保されることで、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障が脅かされるのかを分析しなければならない としており、これには完全に賛成だ。 また、*2-2-2は、②国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきたが、自給率は食料安全保障への評価を表さない ③食料自給率は市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果で、消費者に選ばれた国産品の割合が現在の38%ということ ④これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う とも記載している。 しかし、③の「現在の食料自給率38%は消費者が選んだ食品の組み合わせの結果」というのは正しいが、製造業はどの国でも20~30年の時間差で近代化でき、世界人口は増え続けているため、日本も食料輸入力をいつまでも高く保ち続けることはできず、食料の62%を輸入に頼っていれば、日本人は良質な食料を合理的な価格で安定的に入手することもできなくなり、結果として、②の食料安全保障も保たれなくなるであろう。 また、④についても、これまで述べてきたとおり、消費者ニーズのあるものを生産性を高くして生産すれば国民負担増にならないが、問題は、何が何でもコメコメと言い、何かやろうとする度に補助金をばら撒く農業政策にある。 さらに、*2-2-2は、⑤国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しく、食料自給率向上が目的化して豊かさが犠牲になるのでは本末転倒 ⑥食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきでない ⑦平時と異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要で、「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定して、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者に増産を求める とも記載している。 このうち、⑤⑥については、日本は開発途上国でないため、先進国同士の食料自給率を比較すると、カナダ・オーストラリア・米国・フランスはカロリーベースで100%以上、ドイツも84%を自給しており、日本の38%は著しく低い。もちろん、国境を閉ざさなくても、国内生産の食料が輸入食料に質と価格の総合で勝てばよいわけだが、現在は国内生産は価格が高いため生産額ベースの自給率は高いが、経済活動の結果は価格で世界に負けているのである。 なお、⑦については、(4)2)で述べたとおり、有事の際にあわてて“政府が重要とする食料”を“必要物資”と指定して生産者に増産を求めても、大したものを供給できるわけがないため、これは絵に描いたモチ、つまり安全神話にすぎない。 これに加えて、*2-2-2は、⑧食料安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーはじめ国家安全保障の一環として総合的な法体系の中で議論すべき ⑨有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保 ⑩農業を担う労働力は高齢化が進んで農業労働人口は急速に減少し、農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性も、2020年の61万8千円と比べて2022年の58万3千円は低下 ⑪農業従事者の減少と高齢化は農地の荒廃に繋がり、2022年で約430万haある耕地面積の利用率は91%で1割近い農地が利用されず ⑫日本農業の持続的発展には、農地の維持・保全と効率的利用が最優先の課題 ⑬高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されており、100haを超える規模の経営も珍しくないが、その多くは分散した農地を合わせての100haで、多くが借地であるため区画整理等の基盤整備を自由に行えない とも記載している。 ⑧については、全く賛成だが、⑨の有事に備える農業生産力が平時は別のものを作っていても維持・確保できるというのは、上に書いたとおり、安全神話にすぎない。 また、⑩⑪⑫⑬は事実だが、小規模でも自分の土地を持って現在農業を行なっている人から無理に農地を取り上げて農地の大規模化を進めることは、資本主義国の日本ではできない。そのため、農業の労働生産性を上げることを目的として、高齢化して離農する人から次第に農地を集め、現在は「分散した農地を合わせて」ではあるが、次第に大規模化してきたわけである。もちろん、今後、区画整理等の基盤整備を行なって大規模な農業機械を導入し、生産性を上げる必要があることは言うまでも無い。 さらに、*2-2-2は、⑭農地の効率的利用を妨げているのは農地法で、農地を耕作する農業者か農地所有適格法人でなければ農地を取得できない ⑮一般の株式会社は、賃借は可能だが農地取得はできず、基盤整備などの長期投資が困難 ㉒経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべき ⑯農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件なので、農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づける等の新たな制度が必要 とも記載している。 このうち⑭⑮については、本当に農業をする気のある株式会社なら、子会社か関連会社として農地所有適格法人(https://www.pref.kagoshima.jp/ag02/sangyo-rodo/nogyo/keiei/06002005.html 参照)を作ればよいため、それも行なわずに農地を取得したいというのは、農地取得後に土地の使用目的を変換することを意図しているのではないかと思われる。そして、それでは、⑯の「有事にも国民を飢えさせない」という食料安全保障は達成されないのだ。 例を挙げれば、一般株式会社であるICT会社・農機会社・食品会社・建設会社・銀行等が、子会社か関連会社として農地所有適格法人を作り、従業員を交代で農業に従事させることによって、もとの事業との間にシナジー効果を出すこともできるだろう。 最後に、*2-2-2は、⑰質の高い国内農産物と世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障 ⑱肥料・飼料など、多くの生産資材も輸入に依存するため、国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱 ⑲国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる ⑳シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている ㉑最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる とも記載している。 しかし、⑰は今後も続けられるとは限らず、⑱については、あまりに輸入に頼りすぎているため、これらも考慮すれば食料自給率38%も怪しくなる。もちろん、⑲⑳㉑のように、国際市場の動向を詳しく分析したり、貿易相手国と友好関係を維持したりすることは重要だが、おんぶにだっこされてばかりではまともな交渉はできず、“平和維持のため”と称して相手の言いなりになり、国民には我慢を強いるしかなくなることを忘れてはならない。 4)武蔵野銀行の試み ![]() 耕作放棄地でのスマート放牧 耕作放棄地のオリーブ園化 オリーブ (図の説明:左図は《耕作放棄地に限る必要はないが》放牧して餌代と人手を節約しつつ、健康な牛を育てる方法。中央の図は、耕作放棄地をオリーブ園に変えたケース。右図はオリーブ) *2-3は、①武蔵野銀行の新入行員が、同行アグリイノベーションファームで田植えをした ②農業は埼玉県経済の柱の1つで、同行は農業関連の融資も手掛ける ③同行は新たな産業の創造・高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦・23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる ④同行は、田の面積を9500㎡に増やし、その2割を新入行員が田植えして、残りは実証実験としてドローンで種まきする ⑤農業の大変さを身をもって体験することで、農業の課題に当事者意識を持って向き合う人材を育成できる 等と記載している。 農業は、②のとおり、埼玉県の経済で重要な位置を占めるので、銀行が農業関連の融資も手掛けてイノベーションを進めることは重要だが、従来の不動産担保による融資では農業への融資金額は限られる。そのため、①③④⑤のように、行員が農業に参加することで身をもって農業の課題と可能性を知り、融資や企業とのマッチング等の側面から解決策を考え実行していくことは、銀行にとっても地域にとっても有益である。従って、研修の終わりには、新人に農業や農業融資に関するレポートを書かせ、できの良いものは取り入れることがあって良いだろう。 このほか、他業種の従業員が農業に関わると有益な事例は、(4)3)にも述べたとおりで、ICT企業や農機企業の従業員の場合なら、屋内で緻密な作業ばかりしていると心身の健康に悪いが、時々、農業に従事することで日の光を浴びながら力仕事をして心身の健康を回復しつつ、農業の課題である省力化・スマート化の方法等について具体的に考えることによって、事業間のシナジー効果が生まれる。 また、食品会社の従業員が農業に関わると、農業に従事することによって外で仕事をして心身の健康を保ちつつ、原料である農産物の改良や原料の使い方の無駄を省く方法を考えるなど、事業上の課題解決にも結びつけられる。 さらに、建設会社の場合であれば、農業体験することによって心身の健康を保ちながら、農業の省力化やスマート化に対応する農業施設や農業の基盤整備について考えることができる。 5)ふるさと納税反対論への反論 ← 地方の視点から ![]() 2024.7.26佐賀新聞 2024.7.26佐賀新聞 22年度受入順 (図の説明:左図はふるさと納税寄付額の推移で、順調に伸びているのは良いことだと思う。中央の図の右側に、ふるさと納税の課題として「好みの返礼品やポイント還元率で返礼品を選ぶ」と書かれているが、公平なルールの下で競争原理が働いて自治体・生産者・仲介業者の努力が反映されているため、批判には当たらない。また、「寄付が一部の自治体に集中する」という批判も、住民税を徴収しにくい第一次産業地帯に集中しているのだから、自治体の努力に応じて住民税の偏りの是正が行なわれているのであり、良いことだ。その結果として、右図のような受入額の順位になっているのであり、下位に位置する都道府県は良識ある工夫をすれば良いだろう) *2-4-1・*2-4-2・*2-4-3によれば、ふるさと納税に関する主な反対論は、①返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向がある ②ネットショッピング感覚で、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中し、地方を活性化する理念と乖離している ③魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出る ④手数料の寄付額に占める割合が47%に達する ⑤都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満がある ⑥仲介サイトで各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競う ⑦自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資である などである。 このうち、⑤の都市部の自治体の不満は、住民税の徴収方法を知っていれば、本末転倒であることがわかる筈である。 住民税には、企業等が負担する「法人住民税」と個人が負担する「個人住民税」があり、それぞれに「道府県民税」と「区市町村民税」がある。計算方法は、所得割(前年の所得に税率を掛けて計算)と均等割(一定の所得がある人全員が均等に負担)の合計で、税率は地方税法で全国一律10%(道府県民税2%、市民税8%)と定められているが、自治体の条例によって増減もできる(https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/49732/ 参照)。 また、住民税の使途は、福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等)、教育(小・中学校、図書館等)、土木(道路、公園、下水道事業等)、消防(消防、救急、防災等)、衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等)等の主として住民に身近な行政サービスである。 イ)住民税が多く集まる地方自治体は何処か 住民税は、課税所得の多い個人や利益の多い企業が集まる地域で豊富に集まる。 そのため、住民税が多く集まる地域は、「集積の外部経済」を効かせて生産性を上げるために、インフラ・技術・労働・情報を優先的に集めた地域になる。日本は、国策として集中を進め、優先的にインフラを整備して労働・技術・情報を集めて製造業関係の企業を立地させたため、そこに生産年齢人口にあたる労働者が集まり、その他のサービスも整ったという経緯があるのだ。ただし、現在は、集めすぎによる外部不経済も起こっている。 従って、利益の多い企業や課税所得の多い個人は、現在は、これらの優先的に開発された地域に多く流入しており、そうでない地方自治体や農林漁業中心の地方自治体からは、生産年齢人口の労働力が流出しているのである。そして、これは、個々の地方自治体の努力の結果ではない。 それでは、「農業は不要な産業なのか」と言えば、世界人口の増加、新興国や開発途上国における製造業の発展、食料安全保障を考えれば、上に述べてきたように、不要どころか重要な産業なのである。 ロ)住民税の使途の偏在 住民税の使途は、以下のとおりだ。 i) 福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等) より多く福祉を必要とする人は、元気に働いて多くの住民税を支払っている健康な生産年齢人口の大人ではなく、子ども・高齢者・病気で所得のない人などである。そして、その割合が高いのは、国策で優先的にインフラを整備し、労働・技術・情報を集めた地域以外の地域なのだ。 ii) 教育(小・中学校、図書館等) 小・中・高の公教育を受けている生徒も、地方自治体がその資金を出しているが、所得がないため住民税は支払っていない。 iii) 土木(道路、公園、下水道事業等) 優先的にインフラを整備した地域は既に整っているが、そうでない地域は現在も整備されておらず、整備中である。 iv) 消防(消防、救急、防災等) 消防や防災のニーズは何処でもあるが、救急の出番は高齢者の割合が高い地域で多そうだ。 v) 衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等) ごみの分量は、飲食店は多くなるなど個人によって異なるため、ごみ処理が無料である必要はなく、無料であることより、さっと取りに来る利便性の方が好ましいと、私は思う。しかし、保健・病院・水道事業は、優先的にインフラを整備されなかった地域でも必要であるため、その地域の住民の負担は重くなる。 そのため、ふるさと納税は、地方出身で都会で働いていた私が、税理士として申告書を書きながら住民税の偏在に気づき、提案してできたものである。それに対し、②のように、「農林漁業を中心とした返礼品が人気の一部自治体に寄付が集中する」とか、⑤の「都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満」などというのは、背景を無視した利己的な反論である。つまり、それは、国策によってもともと住民税には偏在が生じているという背景を無視した主張なのだ。 また、③の「魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出ることがいけない」というのも、努力もせず棚からぼた餅を期待することをよしとするもので、それでは日本の衰退は必然である。さらに、①のように、比較可能でお得感の強い自治体を選べるからこそ、返礼品やその展示の仕方に工夫が促され、通販でも十分に売れる商品も出て地方を活性化させるのである。 確かに、私も、④の手数料の寄付額に占める割合が47%というのは高い割合だとは思うが、商品開発費・広告宣伝費・販売費まで含んでいると考えれば、その支出は地方自治体の判断であり、高すぎるとも言えないだろう。 なお、仲介サイトで返礼品を比較できるのは、寄付者にとってだけでなく、出品者にとってもよいことだと、私は思う。そのため、⑥⑦のように、「サイトが寄付に応じたポイント付与を競い、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっている」として、総務省が「特典ポイントは、本来の趣旨とずれている」と指摘し、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張していることに関し、私は、総務省が箸の上げ下ろしにまで口を出すと、護送船団方式という最低の速度でしか進まないシロモノができあがるため、出品する自治体の判断に任せた方が良いのではないかと思う次第である。 6)業務用野菜の国産増について *2-5は、①農水省は輸入依存の加工・業務用野菜国産シェア奪還に向け、9月から品目別商談イベントを開く ②国産への切り替えが期待できる野菜で、産地・流通業者・実需者の橋渡しをする ③国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割 ④同省は、タマネギ・ニンジン・ネギ・カボチャ・エダマメ・ブロッコリー・ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定 ⑤プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く としている。 上の④は典型的な日本の野菜であるため、①~③のように、農水省が「重点品目」に指定して音頭をとらなければ輸入品が選択されるというのがむしろショッキングだが、日本産は高いので業務用では特に輸入依存になるのだろう。 そのため、⑤の冷凍技術や安価な栽培方法など、質だけではなく価格も含めて競争力をつけるしかないと思う。 (5)金融緩和と物価高 1)赤字財政と金融緩和政策 ![]() 社会実績データ 2024.4.20佐賀新聞 2024.7.21西日本新聞 (図の説明:左図のように、2023年の消費者物価指数は、1970年と比較すれば37%、2012年と比較すれば13%程度の上昇をしているが、この割合は体感より低い。また、中央の図のように、よく言われる前年や2~3年前との物価比較は、預金・債権などの資産の目減りを無視しているため、大きな意味がない。そのため、右図のように、消費者物価指数は実質GDPより低いが、これは実質所得と実質資産の目減りを反映して、国民が消費を抑えているからである) ![]() 2024.5.9日経新聞 2023.1.20毎日新聞 2024.7.5日経新聞 (図の説明:左図のように、実質賃金はマイナスが続いているが、その理由は生産性が向上していないからである。また、中央の図のように、物価上昇にもかかわらず公的年金は一定である上、介護保険料の負担が著しく増えたため、高齢者の実質可処分所得は著しく減少した。そのため、右図のように、実質消費支出は減っており、その代わりに増えたのが公的支出なのだが、これは生産性を向上させるものではなくバラマキが多いのである) *3-1-4は、①総務省発表の6月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数は107.8で前年同月と比べて2.6%、生鮮食品を含む総合指数は2.8%上昇 ②政府が電気代・ガス代等の負担軽減策を縮小したことで電気代・ガス代が値上がり ③日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている ④エネルギー上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した ⑤電気代13.4%と大幅上昇・都市ガス代3.7%上昇で、生鮮食品を除く消費者物価指数の伸びを0.47ポイント押し上げた ⑥電気代は5月に再エネ普及賦課金の上昇で16カ月ぶりにプラス 等と記載している。 また、*3-1-2は、⑦財務省が発表した税収は72兆761億円と4年連続過去最高 ⑧インフレ環境の継続で名目GDP成長率のプラスが定着し、税収の増加傾向は続く ⑨金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的 ⑩歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要 ⑪内閣府による2023年度名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスで2022年度の2.5%プラスから上振れ ⑫円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与して法人税収は15兆8606億円で前年度から6.2%伸び、所得税収は22兆529億円で2.1%減少し、消費税収は23兆922億円で0.1%増加 ⑬日銀の金融政策修正等の影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇し、国債利払費の増加が財政圧迫の可能性 ⑭新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる 等と記載している。 このうち①は、2024年6月の消費者物価指数は2020年と比べれば生鮮食品を除く総合指数は107.8で7.8%の上昇だが、上の段の左図のように、アベノミクス開始時点(2012年末)と比較すれば12.8%程度、バブル崩壊前の1988年と比較すれば22.8%程度の物価上昇をしており、その分、国民の購買力が下がって、資産と所得が政府・企業にステルス移転したのである。 その結果、⑦⑧⑫のように、税収が上振れし、国が赤字国債を発行して無駄遣いしてきた穴埋めがなされた。そして、この間に、バブルの反省をし、本物の改革を断行するために、景気対策として再エネの普及等に役立つインフラ整備をしてきたのなら、その後の生産性が上がるため我慢もできるが、そうではなく、⑪のように、名目国内総生産が上振れしただけなのだ。 それにもかかわらず、⑥のような馬鹿を言い、“景気対策”と称してバラマキしつつ、⑩の歳出構造は改革していないため、今後の生産性向上も財政再建もおぼつかないのである。 これに加えて、ロシアに対する制裁返しで輸入に頼りきりの燃料価格が上昇したため、②③④⑤のような燃料費上昇による物価上昇が加わったのだが、この偶発的な事件を、③のように、あたかも「日銀の物価安定目標2%を超える上昇」と言っている点も呆れる。何故なら、中央銀行の役割は、物価を安定させ、通貨の価値を維持して国民の財産を護ることであって、物価上昇目標をたてて、国民からのステルス増税に加担することではないからだ。 経済学では、「ジョンブル(典型的に真面目なイギリス人の名前)も2%の利子率には満足できない」と言うように、2%以上の実質金利があるのは当然なのだが、日本は、⑨⑬のように、いつまでも「金利ある世界が現実となれば国債利払費の増加が財政圧迫の可能性」などと言わざるを得ず、⑭をはじめとして無駄使いばかりが多いため、将来性に欠けるのである。 2)国の歳出改革について ![]() 2023.2.16日経新聞 2022.12.23読売新聞 2023.11.11北海道新聞 2023.12.22日経新聞 (図の説明:1番左の図は、日本の財政状況で主要国最悪になった。左から2番目の図は、2023年度当初予算で114兆3,812億円だが、これに右から2番目の補正予算13兆1,992億円が加わり、合計127兆5,804億円となった。1番右の図は、2024年度当初予算で112兆717億円だが、これに補正予算が加わるかどうかは現在のところ未定だ) 上の左図のように、日本における政府債務の対GDP比は258.2%であり、これはイタリアを優に超えて主要国最悪になっており、その5割を日銀が保有している。こうなった理由は、日銀が公開市場操作(貸出金利の引き下げ)や「買いオペ」等の手段で政策金利を引き下げ、金融緩和を行なって資金の供給量を増やし、景気を良くして物価を上昇させようとしてきたからである。 しかし、金融緩和はカンフル剤にすぎないため、経済構造改革をして生産性を上げることなく金融緩和を長期間続けたことによって、政府債務は増え、円の価値が下がって、円安や悪い物価上昇、株価の上昇などが起こっているわけだ。 それでは、「借金だらけの政府支出は、どういうところになされたのか?」と言えば、2023年度は中央の2つの図のように、社会保障費(36兆8,996億円)が最も大きい。しかし、これは憲法に規定されていたり、国民との契約に基づいて支払われたりするもので、高齢化に伴って増えることはあっても、減らしてよいようなものではない。 次に大きな支出は、国債費(当初予算25兆2,503億円)と国債元利払い(補正予算1兆3,147億円)の計26兆5,650億円で、2023年度末には普通国債の累積残高が1,068兆円に上る国債の償還分と利払い費の合計である。元本の返済と利払い費を合計して表示する公会計基準はわかりにくくて良くないが、国債残高が少なければ元本の返済と利払い費の合計も少ないことは明らかだ。なお、金利が上がれば国債の利支払い費も増えるが、特殊な事情でもない限り、安い金利の資産を持ち続けたい人はいないのである。 3番目に大きな支出は、地方交付税(当初予算16兆3,992億円)である。これは、地方自治体が再エネ発電をしたり、産業振興をしたりして、国への依存度を下げれば下がるものだ。 4番目に大きな支出は、防衛費と防衛力強化資金(11兆2,415億円=当初予算6兆8,219億円+3兆,3806円+補正予算1兆390億円)である。防衛費は細かく分けて1つ1つの項目を小さく見せているが、総額では2023年度に11兆2,415億円を支出している。そのため、11兆円以上の支出の費用対効果を検証すべきだが、私は、原発等の危険施設を残したまま、食料も燃料も殆ど輸入に頼りつつ、どんな理由があろうと決して戦争などできるわけがないため、日本における防衛費の費用対効果は著しく低いと考えている。 5番目に大きな支出は、公共事業費(7兆3,622億円=当初予算6兆600億円+補正予算1兆3,022億円)だが、古くなった設備の更新や再エネ電力の送電線等のニーズを満たし、インフラという観点から生産性の向上に資しているのかは大いに疑問だ。 右から2番目の補正予算で、2023年度には、そのほか、i)低所得者世帯への7万円給付1兆592億円 ii)ガソリン・電気・ガスの補助延長7,948億円 iii)次世代半導体研究開発基金6,175億円などが支出されており、ii)の7,948億円はロシア・ウクライナ戦争に加担したことによる費用(=防衛費の一部?)に入るだろう。 1番右の2024年度当初予算における歳出・歳入の内訳は、2023年度に36兆8,996億円だった社会保障費が37兆7,193億円に増え、26兆5,650億円だった国債費も27兆90億円に増加している。地方交付税交付金は、16兆3,992億円から17兆7,863億円に、防衛費は11兆2,415億円から7兆9172億円に減少しているが、補正予算を組めば、2024年度の歳出はさらに増加する。 しかし、2024年度当初予算の中には、教育・研究開発費及び公共事業費は現れないくらい小さな割合だ。教育や研究開発がイノベーションの基となり、公共事業改革がインフラの面で生産性を上げる必要条件であることを考えれば、生産性を上げるための本質的なことはせず、金をバラマキ続けてきたことが、イノベーションを妨げ、日本の停滞を招いたのだと言えるだろう。 ところで、今日(8月14日)、岸田首相は来月の総裁選立候補を見送ると発表された。私は、岸田首相の原発推進には全く賛成できない(これは首相を変えれば変わる問題ではない)が、NISAを制限でがんじがらめの制度から、非課税期間無期限化・非課税上限額拡大を行なって、より投資しやすい新NISAに変換されたことは、長銀出身の首相らしいと思って評価している。 しかし、メディアは、この間、政治資金規正法違反報道や首相の進退・衆議院解散など、誰かを貶めて首を切ることばかりを興じて報道し、視聴率の高い時間帯に野球・馬鹿笑いの番組を長時間配置するなど、まともな政策論議をして見せることによって国民(子供を含む)に深く考えさせることができなかった。これは、教育の問題に端を発しながら、民主主義を担うべき国民の劣化を促している。 3)メディアの主張する歳出改革について *3-1-1は、①政府が6月に公表した骨太の方針案は、財政拡張路線からの転換 ②自民党の積極財政派に配慮して2022年以降は避けていた国・地方の2025年度のPB黒字化目標を3年ぶりに明記 ③内閣府試算では2025年度PBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収める等の歳出改革を続ければ黒字化可能 ④2025~30年度予算編成方針は「PB黒字化を後戻りさせず、債務残高のGDP比を安定的に引き下げる」 ⑤2030年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らみ、元本償還も含む国債費は2024年度では一般会計の2割超 ⑥利払い費が膨らめば社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる ⑦金利上昇しても、インフレで名目成長率が底上げされれば税収も増え、財政健全化に繋がる ⑧経団連の十倉会長は経済財政諮問会議で「PB目標は単年度で考えるのではなく、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべき」とした ⑨小泉政権で策定した2006年骨太方針は社会保障費を毎年2200億円圧縮する等の数値目標を明記し、2011年度黒字化を打ち出した 等としている。 また、*3-1-3は、⑩政策の優先度を見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要 ⑪PBは税収増で上ぶれし、大型補正予算を組まなければ2025年度には小幅なプラス ⑫金利が上昇すれば国債利払いも増加 ⑬無駄な支出と赤字抑制に最大限努めるべき ⑭閣議了解された概算要求基準は「施策の優先順位を洗い直し予算を大胆に重点化」とする ⑮物価や人件費上昇で歳出拡大圧力が強い ⑯少子高齢化対応はじめ、重要な政策課題も多い ⑰防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱い ⑱「重要政策」を優遇する特別枠と金額を明示しない「事項要求」対象が広い ⑲賃上げ促進・官民投資拡大・物価高対策などが例示されている ⑳物価高で苦しむ家計や事業者を支えると言うが、対象を広げれば財政悪化 ㉑各省庁は予算要求の段階で費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべき ㉒安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図 等としている。 このうち①は、賛成だが、②④については、補正予算を組めば実現できない。また、⑩⑬⑭㉑を本当の意味で行なうためには、日頃から費用対効果の高い賢い支出を選び続けていく行政評価可能な複式簿記による公会計制度を採用しておくべきで、現在それをやっていないのは、*3-4に書かれているとおり、主として日本とアフリカだけなのだ。これについては、⑧のように、経団連の十倉会長が経済財政諮問会議で少し触れられているが、民間企業は、当然のこととして、月次でそれを行なっているのである。 また、③⑨のように、歳出改革と言えば「高齢者の社会保障費の伸びを抑える」案しか出ないのは、実際の高齢者の生活を見ておらず、観念的な政策決定をしているからである。 さらに、⑤⑥については、いつまでも0金利政策を続けるわけにいかないことは明らかで、これまで0金利政策をとっていた間に必要な改革をし、国債残高は減らしていなければならなかったのであり、既に過去の蓄積を使い果たして時間切れになったということだ。しかし、未だに⑦⑪のように、「インフレで名目成長率が底上げされれば税収が増えて財政健全化に繋がる」と言っているのは、国民の生活については全く考えていないということだ。 なお、⑫の「金利が上昇すれば国債利払いも増加する」や⑮の「物価や人件費上昇で歳出が拡大する」というのは当然であるため、⑲の賃上げ促進政策と官民投資拡大、⑳の物価高対策と日銀のインフレ目標は矛盾した政策なのである。 確かに重要な政策課題は、⑯の少子高齢化対応だけではないのに、⑰の防衛費増額は、日本の財政状態から見て大幅すぎる。また、㉒のように、無駄使いとバラマキを繰り返した挙げ句、「足りなくなったら安定財源の確保として消費税を上げれば良い」と考えるのも、国民の生活について全く考慮しておらず、どういう人にこういう発想が浮かぶのか、むしろ疑問である。 4)金利正常化と円高について ![]() 家づくりコンサルティング 2022.6.21トウシル 2022.6.22SMBC (図の説明:左図は長期金利《名目》の推移で2016年から0近傍が続いているが、実質金利はここから物価上昇率を差し引いたものであるため、さらに低く、消費者が節約せざるを得ないのは当然なのだ。また、中央の図は、主要国の金利だが、日本は突出して低いため投資が外国に出るのも当然なのである。右図は、日本人がどこに投資するかを考えている様子だ) 2024.6.25日経新聞 2022.10.21三井住友アセットマネージメント (図の説明:左図は1900年からの対ドル為替レートと日本・米国の物価の推移で、第2次世界大戦敗戦後の著しいインフレとその後のインフレ停止は、物資不足による物価高から預金の引き出しが集中したこと等により、幣原内閣がインフレ抑制と資産差し押さえの目的で旧円から新円への切替えを行い、旧紙幣は一部を除いて無効にしたからで、国民から見ればひどいことをしたものだ。右図は、1971年以降のドル円相場であり、1973年に変動相場制に移行した後、日本の貿易黒字拡大に伴って次第に円高となり、1995年4月19日の79.75円/$と2011年10月31日の75円32銭/$が円の対ドル高値であり、これを受けてアベノミクスが始まったのである) *3-1-5は、①円相場は2024年4月29日に1ドル160円24銭、2024年6月22日に再度1ドル159円80銭台の円安になり、米金利上昇とドル買いを誘った ②政府・日銀の円買い為替介入を受けて、円は151円台まで上昇した ③その後、日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進み、輸入企業のドル調達もあって円の下落基調が続く と記載している。 また、*3-2-1は、④低い政策金利が円安・インフレの弊害を招き ⑤日銀は、金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げた ⑥金利全般が上昇して住宅ローンや企業の借入金利に影響が出るが、2%台半ばにある物価上昇率を勘案すれば実質的金利は依然マイナス ⑦目標とする2%以上のインフレが27カ月続く ⑧石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国は、円安が輸入コスト増に直結して物価上昇の引き金になる ⑨GDPの5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは物価高による節約志向が原因 等としている。 さらに、*3-2-2は、⑩日銀は7月末の金融政策決定会合で「追加利上げ」と「量的引き締め」を決めた ⑪国も企業も家計も、これから金利の規律と向き合う ⑫インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然 ⑬日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことはなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む ⑭公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された ⑮日経平均株価は2日に史上2番目の下落 ⑯日本国債発行残高は1082兆円で日銀が53%を保有するが、巨大な買い手がいなくなれば金利は急騰する ⑰財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望し、ある大手銀行は「長期金利が1.2%になれば国債買いに動くが、現在は1%を切っており動く地合いではない」とする 等と記載している。 このうち、①②③は、1ドル160円前後から151円前後まで動いたから円高になったとは思わないが、1ドル75~80円/$の時に円売りドル買い介入して得ていたドルを、150~160円/$の時に円買いドル売り介入して売れば、財務省は膨大な為替差益を実現することができて税外収入を得られる。しかし、これは過去の蓄積の食い潰しにすぎないため、そう威張れるものではない。 また、④のように、低い政策金利が円安・インフレの弊害を招いたことは事実だが、⑤のように、日銀が金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度に引き上げても、⑥⑦のように、物価上昇率が2%なら実質金利は-1.75%程度になるため、住宅ローンの借り手・企業の借入・公的債務への国民からの所得移転は続いているのである。つまり、一般消費者の生活への配慮なき主張だ。 なお、円の為替相場が下がれば、⑧のように、エネルギー・食料・原材料の多くを輸入に頼っている日本では、「円安=輸入コスト増」となり、さらなる物価上昇に繋がるため、これらを総合した結果、⑨のように、GDPの5割超を占める個人消費は、物価高によって節約せざるを得ず、消費は不本意ながらマイナスが続いているのである。 つまり、低金利政策を長くとって貨幣価値を下げれば弊害の方が多くなるのであり、日本は、⑫⑬のように、1995年以降政策金利が1%を超えたことがなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込んでいるそうだが、インフレ率が2%で推移するのなら政策金利は少なくとも4%程度まで上げなければ実質金利2%は実現しないのである。 そのため、名目2%程度の金利では、⑩⑪の「追加利上げ」と「量的引き締め」を行なったことにはならず、国・企業・家計が金利の規律と向き合うことにもならない。従って、⑭のように、公表翌日に円相場は148円/$台までしか上がらず、⑮のように、日経平均株価が「史上2番目の下落」をしたのは、これまで円の価値が下がっていたため、円で計られる株価は上がっていたが、それが円の価値の回復に伴ってその分だけ修正されたにすぎない。 なお、⑯のように、「日本国債発行残高1082兆円のうちの53%を、日銀が保有している」というのもすごいが、その日銀が引けば債権価格が下がって金利は急騰するだろう。しかし、⑰のように、長期金利が1.2%でも実質金利がマイナスである以上、民間にとって日本国債は持ち損になるのである。 5)金利正常化と株安について *3-2-3は、①内外の株価や円相場の不安定な動きが続くが、日銀と市場との対話が不十分 ②日銀がさらなる利上げ姿勢を示したことが円の急伸を招いた ③世界で日本株の下落が際立ったのは、ハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れ等の米国要因に円の急伸が重なったから ④日銀が7月末金融政策決定会合で利上げを決めた直後、FRBが9月利下げの可能性を示唆し日米金融政策の方向性の違いが強く意識された ⑤日銀の内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しした ⑥経済・物価が想定通りに推移して円安を背景に物価の上振れリスクに注意する必要性が判断材料となったが、説明が首尾一貫していない ⑦日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に市場との対話を見直してほしい 等としている。 日経新聞は、①②⑦のように、「株価下落は日銀の市場との対話不足にある」と主張しているが、「(配当+譲渡損益)/株価」は債権の金利と株式のリスクを加味した値に落ちつくため、金利を上げれば株価が下がるのは当然のことだ。そして、投資家は、それも織り込み済でファンドにするなどしているため、日銀と市場の対話が不十分だったとは、私は思わない。 しかし、メディアの指摘を受けて、⑤のように、日銀の内田副総裁が火消しを行なったため、⑥のように、首尾一貫性がなくなった。なお、日本の経済と物価は、米国とは違ってディマンドプル・インフレになっているのではなく、ウクライナ戦争と円安を背景として輸入物価の値上がりで起こるコストプッシュ・インフレになっているため、④のように、日銀が利上げを決め、FRBが利下げの可能性を示唆するという方向性の違いがあっても、おかしくはない。 つまり、これまで日本政府が行なってきた政策と、その結果として起こっている経済状況が株価下落の原因であるため、日本株の下落原因を、③のように「米国要因」に求めるのは、米国への責任転嫁になると思う。 また、*3-2-4は、⑧日本株のボラティリティーが高まり、急激な下げへの警戒が残る ⑨避難先銘柄は食品や小売り、住宅関連等の業種 ⑩総菜製造のフジッコや製粉会社のニップン等はベータ値が0.05程度で、市場全体の値動きに対する感応度は極めて小さい ⑪内需中心で業績が安定している企業や財務レバレッジの低い企業のボラティリティーが小さくなる ⑫食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期まで10期連続の営業増益 ⑬営業地盤を地方に置く銘柄も、業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先 ⑭大規模ホームセンターのジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落した時にむしろ株価上昇 ⑮外国人持ち株比率が高いとボラティリティーは高い ⑯日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されている ⑰ディフェンシブ性の高い銘柄は市場シェア拡大が期待できるとしてヘルスケアや投資指標面での堅実な公益株 としている。 私は、⑧のように、日本株のボラティリティーが急に高まったとは思わないが、⑨⑩⑫⑭のように、避難先銘柄が、食品・小売り・総菜製造・製粉・ホームセンターであることには、消費者の行動から納得できるし、面白いと思った。何故なら、食品の節約には限度があるが、節約する場合には惣菜・小麦粉・液卵を使ったり、ホームセンターで買い物したりというように、これらは節約時にむしろ需要が増す業種だからである。 また、⑪⑬⑮のように、内需中心だったり、借入金の割合が低かったり、営業地盤が地方にあったり、外国人持ち株比率が低かったりして、為替・金利・グローバルな景気に左右されにくければ、企業のボラティリティーが小さいのも納得できる。 ⑯のように、日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されているというのは、利率が高くてリスクは低い方が良いに決まっているが、興味深い。ここで、⑰のように、ディフェンシブ性の高い銘柄が、市場シェアの拡大が期待できるヘルスケアと堅実な公益株というのも尤もだが、日本政府は、高齢化や女性の社会進出で需要が伸びるヘルスケアの業種や地球環境を護りながらエネルギー・食料の自給率を高める業種を軽んじている点が合理的でない。 6)家計と日本経済 *3-2-5は、①内閣府発表の2024年4~6月期GDPは、前期比の年率換算で実質3.1%増だが、前期からの反動要因が大きい ②景気の弱さは主にインフレの長期化による家計圧迫に原因があるため、大規模財政出動や日銀の追加利上げ牽制は打開策にならない ③政策対応は物価抑制・低所得世帯等への家計支援に力を入れる時期 ④4~6月期プラス成長の最大要因はGDPの約半分を占め、景気のエンジン役である個人消費が5四半期ぶりに増加へ転じたためだが、前期の自動車認証不正問題の悪影響の反動で4~6月期の消費が大きめに出た ⑤総務省の家計調査から長引く物価高に節約で対抗し、食品等の必要なものに絞って金を使う家計の実情が浮かび上がる ⑥定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから先行きの消費改善を予想する声があるが、減税は一時的で、全世帯の3割を占める高齢世帯に賃上げは無縁 ⑦円安が是正され物価が落ち着くまで消費は低空飛行 ⑧他のGDP主要項目は、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加して全体のプラスに貢献 ⑨円安による輸出企業の好業績や認証不正問題からの回復が投資増に ⑩今後は日銀の政策変更による金利上昇や株価・円相場の影響が避けられないが、相場の荒い変動は投資手控えに繋がる ⑪輸出から輸入を差し引いた外需は、2四半期連続のマイナスでGDPの足を引っ張る要因 ⑫訪日客需要は堅調だったが、中国の成長減速等から輸出の伸びは輸入の伸びを下回った ⑬この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方 ⑭米景気や利下げの行方が株価の波乱要因で円相場にも影響 ⑮その場しのぎの減税や電気・ガス代の補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道 としている。 上の①②④⑤⑥⑦は全くそのとおりで、久々に正確な記事に出会ったような気がするが、特殊な理由でGDPが前期より増加した四半期の数値を4倍して年率に換算するのは粉飾に近い。 また、③については、物価抑制・低所得世帯等への家計支援のうち物価抑制は必要だが、低所得世帯等への家計支援は、i)“低所得世帯”の範囲が狭く、金額も小さいため殆ど意味がない ii) 所得税・住民税・社会保険で既に所得の再配分は終わっている iii)“低所得世帯”の定義を広くしてさらに配分すると二重・三重の不正確な配分となり、バラマキになる と思う。 そのため、⑮も含め、分配を考えるなら負担力主義で正確に計算する所得税を利用し、所得税制に不完全な部分があれば、それを改正するのが正攻法だ。さらに、電気・ガス代の補助よりも、再エネを利用しやすくする補助の方が、単に国の債務を増やすのではなく、地球温暖化防止に資しながら、日本のエネルギー自給率向上にも役だつ。 そのため、政府が迅速にEV・再エネに舵をきる方向性を示していれば、⑧の企業は設備投資の方向性を早い時期に決めることができ、設備投資を増やして景気回復と生産性向上の両方を達成できた筈だ。そうすれば、ガソリン車を合格させるための⑨のような認証不正問題を起こす必要も無く、日本が景気対策の膨大なバラマキで世界1の債務国になる必要もなかったのである。 ⑩については、今後は日銀による政策金利の上昇が株価や円相場に影響することもあるだろうが、投資するからには、投資信託等を使って専門家に任せるか、自分自身が勉強してリスク管理を行なう必要がある。 また、⑪⑫のように、「輸出から輸入を差し引いた外需がマイナス(貿易赤字)で、訪日客需要だけが堅調だった」というのは、日本のグローバルな製造業は円高とコスト高で既に中国はじめ新興国に出てしまい、日本国内で製造した製品を輸出する“加工貿易”には比較優位性がなくなってしまったということだ。しかし、製造業が衰退して良いわけはないため、飛躍的に付加価値や生産性を高くする研究を行ない、できた製品は速やかに社会実装して、さらに進歩させる仕組みが必要なのである。 つまり、⑫⑬⑭のように、いつまでも「日本の景気が米国や中国に大きく左右される」などという責任転嫁の姿勢はよくないし、それを卒業するには、足下ばかり見てその場しのぎの政策を積み重ねても、無駄が多すぎてマイナスにしかならないということだ。 (6)国民生活を考慮しない政策がまかり通る理由 ← 男女の教育格差と女性の社会的地位の低さ ![]() 2024.8.23朝日新聞 2022.8.1MarkeTRUNK 2023.11.2日経新聞 (図の説明:左図は、全国にある公立の男女別学高校数で、2024年4月には42校に減っているものの、その3/4が関東に集中している。そして、教育格差とアンコンシャスバイアスによって、中央の図のように、男女雇用機会均等法の存在にもかかわらず、民間企業の管理職に占める女性の割合は著しく低い。そして、これが、右図のように、欧米と比較して日本の男女間賃金格差が大きくなっている理由だ) ![]() ![]() 2022.8.1MarkeTRUNK 2023.6.21日経新聞 (図の説明:左図は、民間企業の雇用者の各役職に占める女性割合についての目標と現状を示したものだが、もともとは2020年までにすべて30%にするという「202030」というのが目標だった。しかし、目標をたてても実践しなかったため、日本の男女平等度ランキングは、右図のように、世界で125位という先進国だけでなく、アジアでも低い方になったのである) 1)未だに男女別学を主張する人々 *3-3-3は、①かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進んだ ②2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫った ③元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は、今年4月に記者会見して「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調 ④共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも「公立の別学校も選択肢の一つとすべき」と反論 ⑤7月下旬、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出 ⑥浦和一女で「討論会」を開いて「男女別学高校の共学化」を議題にすると「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」等、共学化反対一色になった ⑦埼玉県内の中高生と保護者を対象にアンケートを実施したところ、別学校の生徒3割を含む高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割 ⑧1947年に男女共学等を定めた教育基本法が施行され、多くの公立高校で共学化が進められた ⑨全国的には公立の男女別学高校は減っているが、北関東や東北などで別学校が残り、2024年4月現在、別学校があるのは宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島の8県42校で、埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に3/4が集中している ⑩共学の場合でも男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある ⑪法の下の平等を定めた憲法14条は性別による差別を禁止しているため男女共学が原則で、自宅から最も近い公立高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば違憲判断が出るかもしれない 等としている。 このうち①は、⑧⑪の教育基本法や憲法に基づいて、本来なら1947年に行なわれなければならなかったことであるにもかかわらず、⑨のように、公立の別学校が宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島で42校も残っており、埼玉・群馬・栃木に32校とその3/4が集中しているのである。そして、これは、この地域におけるジェンダー平等の遅れを物語っている。 このような中、②のように、2023年8月、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫ったのは評価できる。しかし、③で市民グループ「共学ネット・さいたま」が「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」としたのには賛成だが、元高校教諭らが「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調したのは失望だ。何故なら、男女格差はそのような考え方の教諭によって教育によって社会的に作られるものが多く、本当は、社会のリーダーになるためには、男女にかかわらず男性優位を前提としない感性を持って働くことが必要だからである。 日本でも、⑩のように、確かに「男子の方が、共学校でも発言機会が多い」という場面はある。しかし、社会に出れば男女別にリーダーになる昇進競争をするのではないため、女子生徒も、共学校の中で実力を発揮する訓練をし、堂々と発言する練習もして、職場では男女別ではない競争に静かに勝たなければならない。 従って、④⑥⑧のように、浦和第一女子・川越女子の同窓会長が公立の別学校を支持し、浦和一女の生徒が討論会で「電車の中で怖い思いをした」「異性がいると不安」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」などと言っているのでは、「浦和一女の“伝統”とは、どういう伝統か」とむしろ聞きたくなるのであり、ジェンダー平等に大きく立ち後れていると言わざるを得ないのだ。 しかし、男女別学高校の討論会で「男女共学の方に賛成だ」と言うのは、男女共学高校に通った経験が無く、異性に変な関心を持っているとの誤解を受けかねず、学校の方針に逆らって内申書の評価を下げることにもなりかねないため、実質的に不可能だろう。そのため、⑦のように、埼玉県内の中高生と保護者のアンケートでは、高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割になっているのだと思われる。 なお、男女別学を嫌う親は埼玉県内の公立高校に子どもを通わせておらず、高い学費を支払って東京都の私立中高一貫校に通わせたり、そもそも埼玉県に住んでいなかったりするため、アンケートの母集団に入らない重要な集団がいることを忘れてはならない。そのため、高校生やその保護者にアンケートをとったり、⑤のように、広い世界を知らない高校生が県庁を訪れて男女別学の維持を求める要望書を提出したりするのは無意味であり、「高校生は、そんなことをする暇があったら周囲に異性がいようといまい集中して勉強した方が良く、それも修養の1つだ」と、私は思うわけである。 また、*3-3-4は、⑫県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが「公教育」に関する考え方 ⑬公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平 ⑭進学実績で県内トップとされる浦和高校が男子校で男女の教育機会に格差を生んでいる ⑮東大の2024年の合格者数は、埼玉県内の公立高校では男子高の浦和が最多44人、続いて共学の大宮が19人、女子校の最多は浦和第一女子と川越女子で2人ずつ ⑯別学維持を求める署名を7月下旬に県教委に提出した浦和高校3年の男子生徒は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できる方が選択肢は広がる」 等としている。 私は、⑫⑬⑭⑯に、全く賛成である。⑮については、どういう“伝統”ある学校かは知らないが、首都圏にあって人口の多い県でありながら、浦和第一女子高校は2名(理1:1名、理2:1名)、川越女子高校は2名(文学部:1名、法学部:1名)と、男子高の浦和高校、共学校の大宮高校と比較して東大への合格者数が著しく少ない。この男女格差は、教育格差によって形成された部分が大きい上に、男女別学を嫌う親は埼玉県に住まないため、遺伝格差も出ているかも知れない。埼玉県は、それでいいのか? さらに、*3-3-5は、⑰埼玉県教委は「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表したが、共学化の方法や時期・校名は明記せず具体的な進め方を先送りした ⑱県教委は、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展等の社会の変化に応じた学校教育の変革が求められる」「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」とした ⑲日吉教育長は、「結果的に別学校を存続させる可能性を含めて総合的に考える」「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」とした ⑳曖昧さが残る報告書に、賛否両派から不満の声が漏れた 等としている。 私は、⑰は「主体的に共学化を推進する」と言いながら、⑳のように、先送りしてうやむやにしようとする消極性があると思う。しかし、青少年期の教育は1年1年が重要な位置を占めるため、親は裁判に訴えるのではなく、他の地域に引っ越すか、子の数を制限して私立や塾に通わせざるを得ず、この教育インフラの差は企業誘致や不動産価格に響いていると思う。 また、⑱のうち、学校教育の変革は「外圧によって仕方なく」ではなく自ら率先して行なって欲しいし、私は、高校の3年間、男女が協力するだけでなく、同じ教育を受けた場合の女性の実力を男性が身をもって知ることは、社会に出た後に男性が女性を上から目線で見る男性優位のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくすのに最も効果的だと思っている。そのため、⑲の公立高校の共学化は、一刻の猶予もなく速やかに行なうべきなのだ。 2)日本における男女間賃金格差の原因 ← 日本には「ガラスの天井」以前に「壊れたはしご」すらない女性が多いこと *3-3-1は、①ガラスの天井=十分な能力があるにもかかわらず、性別・人種等の要因で昇進が妨げられること ②壊れたはしご=女性が昇進するために上るはしごが元々壊れており、1段目から男女格差が生じていること ③はしごの1段目はグループ長・主任などファーストレベルの管理職 ④第一段階の地位に就く女性割合の低い構造が女性の昇進を阻むハードル ⑤男女の昇進格差をなくすには壊れたはしごを生み出す構造を見直すべき ⑥日本政府は2003年に「あらゆる分野の指導的地位の女性割合が2020年までに30%程度に到達することを目指す『202030』目標」を発表した ⑦役職に就く女性割合は、現在、目標の30%に届かない ⑧EUはジェンダー平等推進に取り組んできたが、管理職に就く女性比率に関して加盟国間で大きな差があり、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意 ⑨EU域内の上場企業は、2026年6月末までに、社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成できない企業は場合によって罰則対象 ⑩男女共同参画局の調査で、日本の女性役員割合は12.6% ⑪2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国中でも韓国・中国・ASEAN諸国より低順位 ⑫2022年3月にエコノミストが発表したガラスの天井指数で日本は29ヶ国中28位 ⑬OECD調査で日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位 ⑭ガラスの天井が生まれる要因にアンコンシャスバイアス(「女性は仕事より育児をすべき」「女性に力仕事は任せられない」等の無意識の偏見・思い込み・根拠なき決めつけ)がある ⑮女性に対する偏見・思い込みが組織に根付いていると、女性の昇進が妨げられる ⑯アンコンシャスバイアス解消には自分に無意識の偏見があることを自覚する必要 ⑰物事を判断する際に偏見が働いていないか検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除く第一歩 等としている。 *3-3-1の記述は、①②③④のように、「ガラスの天井」と「壊れたはしご」を明確に定義し、⑤のように、「壊れたはしご」を生み出す構造を見直すことが、男女の昇進格差をなくすのに不可欠だとしている点が優れているが、日本には、非正規社員や限定正社員など、壊れたはしごすら見えない働き方をしている女性が多い。 そして、⑮⑯⑰のように、正社員であっても、女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると昇進が妨げられるため、そのアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を解消するには、自分に無意識の偏見があることを自覚し、物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが必要であるとしている点も正しい。 しかし、⑭のように、アンコンシャスバイアスとは「無意識のうちに持っている偏見・思い込み・決めつけである」という定義には賛成だが、その事例の中に「女性に力仕事は任せられない」とあるのは説明不足だと思う。何故なら、オリンピック競技でも、例えばウエイトリフティングの記録は男子の方が重いバーベルを持ち上げ、女子でもトランスジェンダーが記録を出し、100m競争をしても同様だからだが、それでは女性に力仕事はできないのかと言えば、現在では、機械を使ったり、工夫したりして、力任せではなく頭を使って、効率的に同じ以上の結果を出すこともできるからである。 なお、「仕事より育児をすべき」というのは、日本では子どものいる男性には言わないにもかかわらず、独身や子どものいない女性にまで言う人が少なくない。しかし、これは仕事の能力とは関係のない場合が多いため、女性に対する単なるハードルだったり、セクシャルハラスメントだったりするのである。そして、このような女性の昇進を妨げるためのバイアスは挙げればキリが無いが、これらが意識的又は無意識的に女性の昇進を妨げ、その結果として、日本では、⑥⑦のように、日本政府が2003年に「202030」を目標にしたにもかかわらず、役職に就いている女性割合は30%にも届かず、これがさらなるバイアスを生んでいるのである。 また、⑩⑪⑫⑬のように、日本の女性役員割合は12.6%にすぎず、2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国でも韓国・中国・ASEAN諸国より低く、ガラスの天井指数は日本は29ヶ国中28位で、日本の男女間賃金格差は38ヶ国中ワースト3位だが、どうしてそういうことになるのかは、こちらが聞きたいくらいだ。 一方、EUは、⑧⑨のように、ジェンダー平等推進に取り組んできたが、加盟国間で管理職に就く女性比率に大きな差があるため、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意し、域内上場企業は2026年6月末までに社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成しなければ場合によっては罰則対象になるそうだ。加盟国のESG経営を通して経済にプラスになることでもあるため、TPPもEUに合わせたら良いと思う。 また、*3-3-2は、⑱日経新聞の集計で女性役員のいない東証プライム上場企業は69社で全体の4.2% ⑲政府は2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定 ⑳現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならず、役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要 ㉑就業者の半分近くが女性なのに、管理的職業従事者の女性比率は14.6% ㉒政府目標達成には女性社員の育成も必要 ㉓「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材 等としている。 日本政府は、⑲のように、2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定しており、現在は、⑱⑳のように、女性役員のいない東証プライム上場企業が69社・全体4.2%あり、現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務めている2500以上のポストを女性のために空けなければならず、役員の数を増やして女性を登用するには3800近いポストの新設が必要なのだそうだ。しかし、本来なら、空けて2020年までにやっておくのが筋である。 さらに、㉑のように、管理的職業従事者の女性比率が14.6%しかいないそうだが、男女雇用機会均等法は1999年の改正で「採用・配置・研修・退職で男女差別をしてはならない」と男女差別禁止を義務化している。そのため、それから25年後(四半世紀後)の現在になっても、㉒のように、「政府目標達成には女性社員の育成も必要」などと言っているのは、この間、様々な手練手管を使って均等法違反をしてきたということにほかならない。 なお、㉓は、「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材」としているが、見せかけの女性役員割合の増加ではなく、本当に企業文化を改革して業績を上げるには、現在の上司が想像できる範囲外の社内人材である必要があると、私は思う。 *3-3-6は、㉔男女間賃金格差は労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響がある ㉕問題解消には、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠 ㉖男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然だが、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向 ㉗育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多いことが影響 ㉘複数の研究が女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差に繋がる ㉙世界47ヵ国・11万人を対象とした調査で、女性は仕事の社会的意義をより重視する傾向 ㉚アメリカのMBA学生を対象とした研究では社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない ㉛この選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因 ㉜選好理由は、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのか ㉝この研究結果は企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆 ㉞女性の少ない金融業界は、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる 等と記載している。 このうち㉔には賛成だが、㉕については、日本では、i)男女差別のない雇用機会(採用)があるか ii)給与や昇進機会の実質的男女平等があるか iii)結婚・子育てが不可能なほど、転勤・残業が多くないか iv)長く働くことができ、老後生活の安定が保てるか などが、女性の職業選択の条件になっていると思う。 これらの条件に照らせば、㉞の「女性が少ない」という日本の金融業界は、総合職なら過度の転勤があり、そうでなければ昇進機会が著しく限られて給与も上がらないため、能力の高い女性の選択肢には入りにくいのである。しかし、日本の金融機関が女性を補助職としてしか採用していなかった時代でも、私が監査で行っていた外資系の金融機関は、1980年代から日本企業に行けなかった優秀な女性を多く採用しており、管理職の女性も多かった。 また、㉖の「男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然」というのはそのとおりだが、「女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する」というのは、「女性は仕事より家事を重視する」というアンコンシャスバイアスに基づいている。 具体例として、「公認会計士」という同業種で比較すれば、男女とも本人の同意なき転勤はない。また、通勤時間が長過ぎれば、それに時間と体力を奪われて十分な仕事ができないため、仕事で競争に敗れるのは男女とも同じなのだが、家事分担の多い女性の方が余計に効く。また、柔軟性ばかり気にする人は、仕事の能力で競争に敗れて昇進しないものの、MBA取得目的の留学や出産目的の休職も認められており、監査法人が語学留学させてくれることも多い。 そして、㉗の「育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多い」については、そのために(私が経産省と)1990年代後半に介護保険制度を作り始めて2000年には介護保険制度が創設され、現在は40歳以上の人が介護保険料を払っているため、家族が介護しなくても十分な介護を受けられるようにしてもらいたいのだ。本当は、働く人全員に介護保険料を払って貰いたいのだが、現在は40歳以上の人のみであるため、介護保険料は高いのに必要な介護や生活支援の1/4~1/2くらいしかなされていないのは論外で、さらに保育や学童保育も税金を使って整備してきたにもかかわらず、未だ不十分なのは何をやっているのかと思う。 また、2002年に香港で行なわれた世界会計士会議に出た時、シンガポールの女性会計士が世界会計士会議に来ていて「子どもが2人いて、フルに働いており、現在マネージャーです」と言っていたので、「子どもが2人もいて、どうやってフルに働いているのですか」と聞いたところ、「フィリピン人の家事労働者を2交代で回して家事を全部やってもらっている」という答えだった。日本の場合は、「女性間の差別だ」と言うおかしな論調があったり、家事労働に従事する外国人労働者を制限したりしており、働く女性が子を育てるには犠牲が多すぎるのである。 さらに、㉘の「女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向がある」というのは、ハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンでなければ採算が合わないのは男女とも同じだが、現在の日本では、女性が仕事で昇進しようとすると、さまざまな嫌がらせや間接差別のため、男性よりハイリスクになることが多いようである。 なお、㉙㉚の「女性は仕事の社会的意義をより重視する」「社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない」というのは女性に対して失礼であり、男女とも「儲かりさえすれば公害を出して社会に外部不経済を与えても、何をしても良い」という発想は、教育を通じて止めさせて欲しい。また、給与は能力の反映であるべきで、「社会的意義の高い仕事だから、給与は低くて良い」などということは全くなく、むしろ社会的意義の高い仕事ほど給与は高くなければならない筈である。 以上から、㉛の「女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む」という男女の選好の違いは、現在の日本では、公共部門は採用されれば男女差別が少なく、金融部門はガラスの天井・壊れたはしごが存在する上、中には壊れたはしごすら見えない女性も多くいるという現実があるからだと言える。そして、㉝のように、選択肢の多い能力の高い女性は合理的な職業選択をするが、その選好理由は、㉜の「女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響している」のではない。 ・・参考資料・・ <経済における技術革新の重要性> *1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81334460S4A610C2KE8000 (日経新聞 2024.6.13) 日本経済復活の条件(上) 人口より技術革新、将来左右、山口広秀・日興リサーチセンター理事長(1951年生まれ。東京大経済学部卒。元日銀副総裁。13年から現職)、吉川洋・東京大学名誉教授(1951年生まれ。エール大博士(経済学)。専門はマクロ経済学) <ポイント> ○経済停滞の原因はイノベーションの欠如 ○技術革新はミクロで、人口動態と無関係 ○民間企業が主役だが金融や国も役割重要 日本経済の凋落(ちょうらく)が続いている。2023年には人口が日本の3分の2のドイツと55年ぶりに国内総生産(GDP)が逆転した。25年にはインドにも抜かれ、日本経済は世界5位となる見通しだ。私たちの生活水準に密接な関係を持つ1人あたりGDPの順位低下はさらに劇的だ。00年には名目ベースでルクセンブルクに次ぎ世界2位だったが、10年に18位、21年には28位まで転落した。購買力平価ベースでは世界38位だ。アジアでもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に遠く及ばない。1人あたりGDPの水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではない。労働者一人ひとりにどれだけの資本ストックが装備されているかを表す「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP)だ。資本・労働比率の高低は、工事現場でクレーンやブルドーザーを使い働いているか、それとも1人1本のシャベルやツルハシで働いているかの違いに相当する。全要素生産性の上昇は、ハード・ソフト両面を含む広い意味での技術進歩によりもたらされるが、イノベーション(技術革新)と言い換えてもよい。資本ストックの増強も多くの場合、新しい製品や品質改良、あるいは生産工程における生産性向上を伴うから、全要素生産性の上昇と同様にイノベーションの成果といえる。結局1人あたりGDPの上昇をもたらすのはイノベーションだ。失われた30年といわれる日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である。日本でイノベーションが振るわなかったのは人口の減少が原因であり仕方がないとの指摘があるが、イノベーションの本質を理解しない誤った考え方だ。イノベーションというコンセプトを経済学の中に定着させたシュンペーターは、それがどこまでも「ミクロ」であることを強調した。イノベーションの担い手は、マスとしての人口を相手にしていないのだ。例えば新しい時代を切り開いた米国のハイテク企業4社(GAFA)の時価総額は12年から22年にかけて385%上昇したが、この間の米国の人口増加はわずか6.2%だ。人口とイノベーションは別物である。経済協力開発機構(OECD)諸国についてみると、世界知的所有権機関(WIPO)が公表するグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率との間には相関関係がない(図参照)。OECDに加盟していない途上国の場合にはむしろ明確な負の関係、すなわち人口増加率が低い、あるいは減少している国の方がイノベーションが活発であるという傾向がみられる。イノベーションはどこまでもミクロで、マクロの人口動態と直接の関係はない。日本経済の将来を考えるとき、人口減少を言い訳にしてはいけない。民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要だ。「もう買うものがなくなった」との声も聞かれる。既成のプロダクトへの需要が飽和点に達したということだが、それは飽和点を打ち破るための新しいプロダクトの創造の夜明け前ということだ。実際、多くの企業で新しいプロダクトの開発が進められている。こうした成果が1人あたりGDPの向上につながるのだ。1707年創業で、伊勢神宮土産の定番として名高い「赤福餅」を手掛ける老舗和菓子店は、数年前から消費者の嗜好の変化に対応すべく新しい洋菓子を開発している。これはまさにイノベーションだが、その背景には人口の減少とは別の「時代の変化」がある。ある漁網メーカーでは需要が落ち込むなか、サッカーのゴールネットの品質向上に力を注ぎ、漁網づくりの技術を使い六角形のネットを開発した。ゴールの瞬間、ボールが一瞬止まったように見える効果を劇的に演出することに成功した。あるアルコール飲料メーカーは、缶ビールの蓋を開けた瞬間にキメ細かい泡が吹き出て、ジョッキで飲む生ビールのような風味を味わえる製品を開発した。「泡を出さない」缶ビールから「泡を出す」缶ビールへと発想が転換され、缶内側の加工方法の変更など新しい工夫が集積された結果だ。日本で生じている人口減少はそれ自体が省力化のイノベーションを促すことは間違いないし、そうした例は数多くみられる。今後人口減少が加速するなか、こうした省力化のためのイノベーションの必要性は一層高まると考えられる。さらに高齢者の増加に対しては、高齢者特有の財・サービスの提供のほかに、介護のためのハイテク技術の活用などが求められる。現にそうした活用は広がっているし今後利用の余地は広がっていく。1つや2つのイノベーションでは済まない。日本が抱える人口減少や高齢化という課題は、イノベーションを生みだす素地になっている。経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくために、金融機関の果たすべき役割も重要だ。企業がいわゆる「死の谷」を乗り越えてイノベーションを事業化するには、金融面での支援が欠かせない。これまでは新陳代謝促進に向けて、リスクテイクとリスク回避の適切な使い分けも十分でなかった。金利のある経済の到来で、金融機関のリスクテイク能力の果たす役割は大きくなっている。イノベーションの主役は民間企業だが、国も無縁ではない。政府が時代の変化に対応できずに国力の低下を招いた例としては、04年度に始まったスーパー中枢港湾政策がある。コンテナ取扱個数でみた世界の港湾ランキングで、1980年にはトップ20に4位の神戸をはじめ3港がランクインしていた。しかし21年にはトップ40にランクインする港はない。日本はハブ(中核)機能を失った。一方、成功例もある。例えば00年代に入ってから急増した海外からのインバウンド(訪日外国人)だ。ビザ(査証)免除や発給要件の緩和、観光庁の設立、統計整備、ICT(情報通信技術)を利用したインバウンド消費の把握など、政府による必要な施策を積み上げた成果だ。国費の投入はそれほど大きくはない。「ワイズスペンディング(賢い支出)」ならぬ「ワイズアクション」が奏功した。もちろん国の施策だけではなく、外国人向け高級ホテルの建設、外国人のニーズに対応した新たな商品やサービスの提供、外国人との対話に対応できるスマホによる翻訳機能の開発といった様々な革新的なアイデアが功を奏した結果でもある。まさに官民が協力し、ツーリズムにおけるイノベーションが起きた。人口減少が続くなか、今後のイノベーションの発展については、とかく悲観的な見方が多い。しかし実際には、ミクロレベルのプロダクトイノベーションを含めたイノベーションの動きはすでに始まっている。 *1-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1274461 (佐賀新聞 2024/7/5) 新しい環境基本計画 社会の根本変革への契機に 政府が環境政策に取り組む際の長期的な指針となる第6次の環境基本計画が閣議決定された。 現代社会は、気候変動、生物多様性の損失、プラスチックに代表される汚染の三つの危機に直面していると指摘。人類の活動が環境に与える影響について、地球の許容力を超えつつあるとした。 「目指すべき文明・経済社会の在り方を提示」するというのが計画の触れ込みである。この点に関し計画は、天然資源を浪費し、地球環境を破壊しながら「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘。経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めながら「新たな成長」を実現するとの考えを打ち出した。国内総生産(GDP)など限られた指標で測る現在の浪費的な「経済成長」に代わるものとして計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング(高い生活の質)」を最上位に置いた新たな成長だ。計画は、森林などの自然を「資本」と考えることの重要性や、地下資源文明から、再生可能エネルギーなどに基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調した。今のような経済成長を無限に続けることはできず、人類は地球の限界の中で活動を行うべきだとした点は、これまでにないものとして評価できる。これを社会変革への契機としたい。だが、根本的な変革の実現は容易ではない。最初の基本計画ができてから今年で30年。この間の経済の停滞も深刻だが、同時に日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れを取った。長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできたからだ。計画の実現には環境省の真価が問われるのだが、現実は極めてお寒い状況だ。水俣病患者団体などとの懇談の場で、職員が団体メンバーの発言中にマイクを切断して厳しい批判にさらされた。環境省が登録に多大な努力を傾けた世界自然遺産、北海道・知床半島の中核地域では、携帯電話基地局の設置工事を不透明な手続きで認可した。気候危機対策上、重要なエネルギー政策やGX(グリーントランスフォーメーション)政策は経済産業省主導で進み、環境省の声が十分に反映されているとは言い難い。こんな状況では市民の信頼を得た環境政策によって、社会変革をリードすることはできない。環境政策はもはや、環境省だけの仕事ではない。変革実現のためには、岸田文雄首相のリーダーシップと勇気が不可欠なのだが、この点でも期待薄だ。首相の日常の言動からは、深刻化する環境問題への関心も危機感もまったく感じられない。基本計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」だと、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘した。首相をはじめとする政策決定者や企業のトップが、悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが求められる。それなしには基本計画が打ち出した新たな経済も社会も実現せず、計画は単なる紙切れに終わるだろう。その結果、われわれは劣化した環境と貧困や食料難などの社会問題が深刻化し、安全や安心とはほど遠い社会を、次世代に引き渡すことになってしまう。 *1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1266377 (佐賀新聞 2024/6/21) レアメタル含む岩石2億トン、南鳥島沖、25年採取目指す 小笠原諸島・南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内の深海底に、レアメタル(希少金属)を含む球状の岩石「マンガンノジュール」が2億トン以上あることが確認されたと、東京大と日本財団の調査チームが21日発表した。2025年以降、民間企業などと共に商用化を目指した試験採取を始める計画だという。21日に記者会見した加藤泰浩東京大教授は「経済安全保障上、重要な資源だ。年間300万トンの引き上げを目標にしている。海洋環境に負荷をかけないようにしつつ開発を進めたい」と話した。チームは今年4~6月、水深5200~5700メートルの海底を100カ所以上調査。遠隔操作型無人潜水機(ROV)で、約1万平方キロメートルに高密度に分布しているのを確認した。計約2億3千万トンあると推計される。一部を採取して分析したところ、レアメタルのコバルトは、国内消費量の約75年分に相当する約61万トン、ニッケルは約11年分の約74万トンあると試算された。25年以降、海外の採鉱船などを使い1日数千トンの引き上げを目指す実験をするとともに、民間企業などと商用化に向けた体制構築に取り組む。マンガンノジュールは、岩石の破片などを核とし、海水などの金属成分が沈着してできる。海底鉱物資源として期待されており、東京大や海洋研究開発機構などが16年に、同じ海域に密集していることを明らかにしていた。今回の調査では古代の大型ザメ「メガロドン」の歯を核としたマンガンノジュールも複数見つかった。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81872280U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.5) 核融合、多国間協力に壁 実験炉ITER 完成8年先送り、米中、独自開発進める 日本は2国間を強化 日本、米国、中国、ロシアなど「7極」が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)の完成が、当初の2025年から早くても33年に先送りとなった。多国間協力が順調に続くかは見通せない。米国や中国は独自開発も進めており、核融合発電(きょうのことば)の実現に向けた戦略が日本にとって重要になる。核融合は太陽と同じ反応を地上で再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを生み出せる。ただ、技術的なハードルが高く、膨大な開発資金が必要なことから、国際協力を軸に開発が進んできた。 ●部品不具合響く それが日本、欧州連合(EU)、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参加するITERだ。ITERは核融合で生じるエネルギーを発電に利用できるかどうかを確かめる研究施設で07年にフランスで建設が始まった。投入量の10倍のエネルギーを取り出す成果を目指す。当初は18年の完成を目指していたが、25年に切り替えた。しかし、25年の完成についても、新型コロナウイルスの感染拡大による作業の遅れや部品の不具合で遅延する可能性がここ数年報じられてきた。3日、ITERは部品の不具合などを理由に完成の遅れは8年になると発表した。仏紙によると、総事業費は遅延などを受けて250億ユーロ(4兆3000億円)近くに達する見通しだ。これまでの想定より50億ユーロほど増える。開発の遅れの背景には多国間協力の複雑さがある。ITERでは各国が担当している部品を製造し、「物納」してフランスで組み立てる方式をとる。今回、不具合があったのは核融合を起こす中心部である真空容器だ。真空容器の外側に取り付けられるサーマルシールドと呼ばれる熱を遮蔽する板の冷却用配管に亀裂が見つかったという。部品の製造を担った韓国が納入した時点で、設計との誤差があった。ITERは溶接で誤差を補えるとみていたが、フランスの規制当局は認めなかった。ほかにも真空容器の壁の素材を作業員の安全のために変更する方針で、組み立て作業をやり直す。バラバスキ機構長は3日の記者会見で「プロジェクト全体の遅れを最小限に抑える」と説明した。 ●国際連携の象徴 東西冷戦終結の前後に構想が固まったITERは国際宇宙ステーション(ISS)などと同様に、壮大な科学プロジェクトを国際連携で進める象徴だった。ITERには米国などと急速に関係が悪化する中国やロシアも参加しており、今後、協力が続くかは不透明な面もある。ITERの遅れは各国の核融合開発の戦略に影響を与える。ITERは当初50年代の核融合発電の実現を見据えたプロジェクトだったが、海外を中心に早期の実用化を見据えた動きが活発になっている。米国や中国は40年代に発電する炉の建設を目指している。中国は発電能力を備えた試験炉の建設にすでに着手している。米国はITERとは別の方式で核融合を起こす実験装置を国立研究所が持ち、22年に世界で初めて投入量を上回るエネルギーの「純増」に成功している。日本などはITERの成果をもとに原型炉を建設して、50年代の発電を目指してきた。今もITERとの協力を開発の中心に据えているものの、2国間協力にもかじを切り始めている。日米両政府は4月の首脳会談に合わせて、核融合に関する共同声明をまとめた。両国の企業や研究機関の人材の交流や研究施設の相互利用などを盛り込んだ。核融合施設に部品を納入する企業を中心に国が産業界と連携し、世界的なサプライチェーン(供給網)の構築を目指すことも盛り込まれた。日本は米国との協力強化に先立ち、23年12月にEUとも核融合の推進に関する声明を出している。米国や欧州など西側諸国との協力を強化することで実用化にこれ以上の遅れが生じないようにする狙いがある。 *1-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15920162.html (朝日新聞 2024年4月25日) 2040年、日本は新興国並み 半導体やバイオ投資、成長のカギ 経産省見通し 「失われた30年」の状態が今後も続くと、2040年ごろに新興国に追いつかれ、海外より豊かでなくなる――。経済産業省が24日、こんな見通しを明らかにした。半導体やバイオ医薬品の開発などに思い切って投資しないと、国が貧しくなって技術の発展も遅れ、世界と勝負できなくなるおそれがあるという。今後の経済産業政策の指針とするため、経産省が課題や展望をまとめた。経産省は日本経済が停滞した理由として、企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたと指摘。このままでは賃金も伸び悩み、国内総生産(GDP)も成長しないとみる。今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある。停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要だとする。とくに半導体や蓄電池、再生可能エネルギー、バイオ産業への積極投資が成長のカギを握る。スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もあると指摘。それに伴って、所得を伸ばしてゆくという筋書きだ。経産省は「政府も一歩前に出て、大規模・長期・計画的に投資を行う」とし、具体策を検討する。岸田政権が6月にもとりまとめる「骨太の方針」に反映し、具体策を来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。これまでも経産省は半導体産業への巨額の支援を実行してきた。21~23年度は計約3・9兆円の予算を計上。今回示した見通しは、政策の正当性を主張し、今後も続けさせる目的もあるようだ。今月9日に開かれた財務省の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会では、経産省が主導する半導体支援などの産業政策について、「財政的に持続可能なものではない」などとの意見も出た。増田寛也分科会会長代理は「強力な財政的出動の効果は、厳密に検証しなければいけない」と話す。今後、経産省と財政再建をめざす財務省で綱引きがありそうだ。 *1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15958978.html (朝日新聞 2024年6月15日) オプジーボの先へ:下 「特許の壁」乗り越え、挑む海外展開 小野薬品工業の売上高は、2014年にがん治療薬「オプジーボ」を発売してから、23年度までで3・7倍に伸びた。一方でその間、オプジーボによる二つの壁に直面した。ひとつは、価格が高いとの批判だ。いまは、さまざまながんの治療薬として認められているが、日本では当初、患者が少ない皮膚がんの一種(メラノーマ)の治療薬として売り出した。投じた研究開発費なども考慮して採算が取れるよう、国が決めた薬価は100ミリグラム約73万円だった。ところが、翌15年に患者が多い肺がんに使えるようになると、1人当たり年3500万円かかり、米英の2~5倍などとして批判にさらされた。「公的医療保険制度を崩壊させかねない」などとして、国は16年、当時は2年おきだった薬価改定を待たず、半額にする緊急値下げを決めた。その後も引き下げが続き、今は当初の5分の1だ。当時社長の相良暁は「自分の体を切られるぐらいのつらさがあった」。だが、こうも考えたという。「自分でコントロールできることと、できないことがある。コントロールできないことにいくら思い悩んでたって変わらない。だから、できることに専念する」。もうひとつは、共同研究をした京都大学特別教授の本庶佑との訴訟だ。本庶は18年、オプジーボにつながる研究でノーベル生理学・医学賞を受賞。その後の20年6月、契約通りの特許使用料を得られなかったなどとして、約262億円を払うよう小野薬品を訴えた。「対応を間違ったら、小野薬品のレピュテーション(評判)が悪くなってしまう。社員やその家族にも迷惑をかける」。相良はリスクを感じ、21年に和解に応じた。本庶に解決金などで50億円を支払い、若手の研究者を支援するための基金として230億円を京大に寄付することにした。だが、本庶と結んだ特許料の契約の内容を変えることには応じなかった。製薬会社に限らず、企業は大学などと組み、さまざまな研究や開発に取り組んでいる。成功すれば目立つが、失敗することも多い。企業はそのリスクを負って資金を出している。「研究が大きな成功につながったら、もともとの契約を変更して上乗せしてしまうと、産学連携に禍根を残すのではないか」。この裁判は自分たちだけの問題ではないと考えていた。この先に待ち構えるのは、製薬業界にはつきものの「特許の壁(パテントクリフ)」だ。オプジーボの特許は、国内では7年後の31年に切れる。ほかの薬の特許切れも迫り、価格の安い後発薬(ジェネリック)が出れば、会社の売り上げは大幅に落ち込む可能性がある。この4月に社長の座を滝野十一(56)に譲り、会長になったのは、オプジーボのその先を考えてのことだ。海外での経験が豊かな滝野とともに海外展開に本腰を入れる。手始めに米国のバイオ医薬品ベンチャーを約24億ドル(約3765億円)で買収することを決めた。2年後には自社開発したリンパ腫の薬を米国で売り出す計画だ。この会社が持つ欧米での販路を生かす。相良が社長に就く前後の2000年代、国内外で製薬会社の合併が相次いだ。「変わり者」の小野薬品にも声はかかったが、乗る気はなかった。17年に300年を迎えた会社の歴史の重みを感じ、「未来に引き継いでいかなあかん、名前をなくしちゃあかん」。思いは強い。人体の仕組みの解明や人工知能の高度化といった技術の進展で、薬の作り方は変わり続ける。「真のグローバルファーマになることに、真剣に本気になって取り組む」。特許の壁も乗り越え、自前で生き残るため、海外に挑む。=敬称略 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81874780V00C24A7MM8000 (日経新聞 2024.7.5) 抗生物質も脱中国 薬の安定供給へ国産化 明治や塩野義、政府が支援 抗生物質の原料のほぼ全量を中国など国外に依存している状況を変えようと官民が国産化に動く。輸入が途切れれば十分な医療を受けるのが難しくなるためだ。政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を2024年度にも新たにつくる。抗生物質は抗菌薬ともいい、細菌や体内の寄生虫を殺したり、増えるのを抑えたりする薬。抗生物質がなければ細菌性感染症の治療や手術ができない。院内感染が増える恐れもある。世界保健機関(WHO)は各国に十分な量の抗生物質を確保するように呼びかけている。抗生物質の市場規模は400億~500億ドル(6.4兆~8兆円)とされる。WHOは「地球規模の公共財」と呼ぶ。抗生物質の最終製品は日本国内でも製造するが、原料物質である「原薬」はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在はほぼ全量を国外に依存する。手術などでよく使う「ベータラクタム系」の抗生物質の原薬はほぼ100%を中国から輸入する。19年には中国の工場の操業が停止した影響で、国内で抗生物質が品薄になり、手術を延期した例もあった。政府は22年、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に指定した。現在は複数のメーカーが国内で原薬製造の設備投資を進める。厚労省は明治ホールディングス系のMeiji Seikaファルマと、塩野義製薬系のシオノギファーマが率いる2つの事業を支援し、設備投資を2件合計で約550億円補助することを決めた。本格的な供給開始は25年度以降だが、現状では大規模なロットで効率生産する中国産には価格面で対抗できない可能性が高い。採算が合わないと判断したメーカーが再び撤退する恐れがあるため、厚労省は国産原薬が継続的に使われるための制度を整備する。具体的には原薬メーカーや供給先の製薬会社への補助や、国が製品を買い取る形で原薬メーカーに一定額を支払う制度などを検討する。抗生物質の原薬の輸入単価は5年間で数倍になり、安定供給へのニーズは高い。各国も確保に取り組んでいる。米国は23年、国防生産法を活用して重要な医薬品の国内生産に向けた投資拡大を表明した。英国は抗生物質の開発を促すため、メーカーに固定報酬を支払う「サブスクリプションモデル」を24年に本格導入した。 *1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81579030R20C24A6CM0000 (日経新聞 2024年6月22日) 東大、授業料2割上げ提案、学長「教育改善待ったなし」 「進学機会に格差」の声も 東京大の藤井輝夫学長は21日、学生との意見交換の場である「総長対話」を開き、授業料を2割上げる検討案を示した。世帯収入に応じた経済的支援の拡充も併せて検討中だとしたが、一部の学生や教員は「進学機会の格差拡大につながる」と反対している。20年間据え置いてきた授業料の値上げに踏み切れるのか。財務状況が厳しい地方国立大はトップ大の動向を注視している。「国からの運営費交付金が減る中、設備の老朽化や物価、光熱費、人件費の増大などに対応しなくてはならない」「教育環境の改善は待ったなしだ」。藤井学長は同日夜、オンラインで開催された総長対話で、画面越しに学生にこう訴えた。授業料収入はグローバル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に充てると説明した。文部科学省の省令は国立大の授業料の標準額を年53万5800円とし、最大で20%まで引き上げられると定めている。関係者によると、藤井学長が示した検討案は、現在標準額としている授業料を上限である年約10万円増の64万2960円とする内容。「経済的に困難な学生の支援を厚くするのは必須」とした上で、授業料全額免除の対象について、現在は世帯収入年400万円以下の学部生としているところ、同600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げることなども話したという。同600万~同900万円の学生についても、状況を勘案して一部免除とするとも述べた。導入時期については「学生の皆さんの意見も踏まえてさらに検討を進めたい」と明言しなかったという。値上げには賛否がある。ある東大教授は「充実した教育や研究には費用がかかる。現状では全く足りていない」と理解を示す。一方で学生や教員の一部は「格差の拡大につながる」「大学院への進学に影響を及ぼす」などと反対する。学生らは14日、国からの運営費交付金の増額などを求める要望書を文科省に提出した。総長対話に臨んだ学生も「値上げされれば、首都圏出身者が多いといった学生の偏りが助長されかねない」と主張。別の学生は経済支援について「状況を勘案するというが、支援が適用されるかどうか判別がつかない場合は進学を諦める層がいるのではないか」と疑問を投げかけた。約2時間続いた対話は値上げ反対の声が大半だった。教養学部学生自治会が5月下旬に実施した学生アンケートでは、回答した2000人超の学生のうち、9割が値上げに反対だった。東大の2021年度の調査で、学部生の保護者の世帯年収は1050万円超が4割を占めた。関東出身は55%と半数を超える。授業料が上がれば、地方の学生などのアクセスがますます困難になるとの懸念は根強い。地方国立大も東大の判断を固唾をのんで見守る。近畿地方のある国立大学長は「地方大は東大より厳しい経営環境にある。授業料を上げられるなら上げたい」と漏らす。一方で九州地方のある国立大幹部は「地方は都市部と比べて家庭の平均収入が低く、授業料を上げれば、門戸を狭めてしまう恐れがある。値上げを決めて『悪目立ちしたくない』という思いもあり、すぐには難しい」と複雑な胸の内を明かす。標準額からの引き上げは19年に東京工業大が初めて実施。同省によると、現在標準額を超える授業料を設定しているのは東京芸術大や一橋大、千葉大など計7大学で、すべて首都圏にある。この幹部は「京都大や大阪大、東北大などの旧帝大が追随するかどうかが、国立大に値上げの波が広がるポイントではないか」と予想する。国立大を取り巻く環境は厳しさを増している。物価高などで研究や教育のコストが高まる一方、基盤的経費である国からの運営費交付金は減少傾向にあるためだ。国立大学協会は7日、国立大の財務状況が「もう限界だ」とする声明を出し、運営費交付金の増額に向けた社会の後押しを求めた。同協会の永田恭介会長(筑波大学長)は「(20%の)上限までの引き上げについては、各大学の裁量に任せるほかない」としつつ国立大一律での値上げは難しいとの見解を示している。文科省幹部は標準額や上限の変更について「現時点では検討していない」と述べるにとどめた。 *1-5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA192VJ0Z10C24A7000000/ (日経新聞 2024年7月19日) 首相「国立公園35カ所の魅力を向上」 高級ホテル誘致へ 岸田文雄首相は19日に首相官邸で開いた観光立国推進閣僚会議で、2031年までに全国に35カ所ある国立公園で、民間を活用した魅力の向上に取り組むと言及した。環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大につなげる。地方空港の就航拡大に向け週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示した。「秋に予定する経済対策を念頭に取り組みを加速してほしい」と述べた。首相はインバウンド(訪日客)について「2024年は過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る勢いだ」と明らかにした。政府は30年に訪日客数6000万人、消費額15兆円の目標を掲げる。首相は、地方への誘客促進と、訪日客の急増に対応するオーバーツーリズム対策に重点的に取り組む方針を示した。地方の空港では航空便の燃料不足により新規の就航や増便ができない問題が表面化している。オーバーツーリズム対策として、観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島(香川県)や高山(岐阜県)、那覇(沖縄県)など6つの地域を加えると表明した。成果を踏まえ対策の参考となる指針を年内にまとめるよう求めた。日本政府観光局(JNTO)が19日に発表した訪日客数によると1〜6月は1777万人ほどで、同期として過去最高だった19年の1663万人ほどを上回った。 *1-5-2:https://www.jiji.com/jc/v4?id=swiss14070005 (時事 2024年7月21日) イノベーション立国スイス~山と湖とハイテクと~ ●伝統の観光地にも革新 日本とスイスは2014年、国交樹立150周年を迎えた。幕末に日・スイス通商条約を締結して以来の関係だが、観光面での結び付きの強さで知られる。アルプス有数の観光列車ユングフラウ鉄道は利用客数で日本人は年間10万人以上と1、2位を争う。ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3454メートルに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅として、「欧州の頂上」と呼ばれる。ふもとのクライネシャイデック駅から、登山者に難攻不落と恐れられた断崖絶壁の「アイガー北壁」を眺めたり、山の中を繰り抜いたトンネルを通過したりしながら、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登っていくが、空気が薄くなり徐々に息苦しくなる。3000メートルを越えた辺りからは、頭がぼんやりし、めまいも覚える。隣に座っていた男性の「酸素を多めに取り込んだ方がいいですよ」とのアドバイスに従い、深呼吸を繰り返すと少し楽になった。ほうほうの体で頂上駅に到着すると、頂上には晴れ間が広がり、雪に覆われた峰々の間に形成された欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできた。 頂上駅には、日・スイスの友好関係の象徴として、富士山五合目簡易郵便局から寄贈された日本の赤い郵便ポストが置かれ、公式のポストとして現役という。1912年にユングフラウ鉄道が開通した伝統観光地にも競争力を維持するために「革新」が求められているという。同鉄道マーケティング担当者のシュテファン・フィスターさんは「新しい要素があれば、再訪してもらう理由になる」とリピーター開拓の必要性を訴える。鉄道工事の様子などを再現したアトラクション施設を開設したり、急増するインド人観光客に合わせてインド料理レストランをオープンしたりと営業努力に余念がない。さらに、日帰り観光を望むアジアからの観光客のニーズを見据え、「開業以来の100年で最大のイノベーション」という、観光拠点グリンデルワルトから頂上までの所要時間87分を45分に大幅短縮するロープウェー建設の計画も進んでいる。 *1-5-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOLM120N70S2A211C2000000/ (日経新聞 2023年1月12日) スイスの人気観光地 アルプス最古の集落で驚きの歴史 1865年、英国人のエドワード・ウィンパーが、ヨーロッパのアルプスを象徴するマッターホルンを制覇した。標高4478メートル、独特な形状を持つ険しい頂きは、スイス南部でイタリア国境に接するヴァレー州ツェルマットの背後にそびえている。マッターホルン登頂という画期的な成功によって、ヨーロッパ全域で登山が盛んになった。ただ、その快挙も、このスイスの村にとっては長い歴史の1ページにすぎない。「クルトゥーアヴェーゲ」(文化の道)と名づけられた新しいハイキングトレイルでは、この名高いリゾートの"別の顔"に出会うことができる。このトレイルの整備は10年計画で進められており、今後6年間で、6つの集落を通るおよそ20キロメートルのルートがつながる予定だ。かつてツェルマットの農村地帯に欠かせなかった、牧歌的な牧草地にたたずむ数百年前のカラマツ材の納屋は、トレイルの見どころになっている。「ツェルマットは、毎年、何百万人もの旅行者でにぎわいますが、町の中心から15分ほど歩けば、500年前の暮らしに触れることができます」。ヴァレー州のツム・ゼーを目指して歩きながら、トレイルの共同設立者である民俗学者のヴェルナー・ベルワルド氏は話す。現在、トレイルの5つの区間のうち2つの区間がハイカーに開放されている。ツム・ゼーは、この開放された区間にあり、居住者がほとんどいない集落のひとつだ。世界屈指のスキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年の間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園だった。納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されており、人々がこの地方特有の気候を生き抜くために不可欠な建物だった。この地方はアルプスを越える主要な塩の交易路の中継地点であったにもかかわらず、中世後期(1300~1500年ごろ)の生活を記録した文書はほとんど残っていない。名高いマッターホルンの山頂からわずか10キロメートル弱の地点にある、トレイルの設立者たちは、科学技術と数世代にわたる地元の知識を駆使して、この歴史の空白を埋めようと取り組んでいる。 ●ツェルマットの昔に思いをはせる クルトゥーアヴェーゲとして案内標識のある最初のトレイルが開通したのは2019年だった。ツェルマットの中心部からツムットまで標高差約300メートルを登る、距離にして3.2キロメートル強の道のりだ。その途中には、注目スポットとして説明看板が設置された14の「ステーション」が設けられている。そのひとつは、数百年前の羊小屋で、この地方の方言では家畜小屋を意味する「ガディ」と呼ばれている。岩壁の張り出し部分にへばりつくように建つカラマツ材の納屋には、複数の中世の住宅の梁(はり)と窓が再利用されている。中間地点の雑木林を抜けると、石が積まれた場所がある。これは、古い牛小屋の跡だ。トレイルで最もぞっとするようなコース(現在は安全のためロープが張られている)の最後にあるのは、オオヤマネコを捕獲するために作られた250年前の石造りのわなだ。ツェルマット地域では、2つしか発見されていない。2021年に開通したクルトゥーアヴェーゲの第2区間は、登山道というより、のんびりとした村の散策路に近い。このトレイルは、1300~1600年ごろに建てられたツムットの家畜小屋、住居、納屋(きのこ型の支柱がある穀物用の納屋)の間を縫うように続いている。ある家畜小屋は、ツェルマットの農業社会を支えた女性たちに関する展示スペースに転用されている。地元在住のオトマール・ペレン氏が監督した展示では、昔の写真に、ヴァレー州の主要穀物であるライ麦の束や牛の飼料などを「ツチフラ」と呼ばれる籐(トウ)で編んだ背負いかごで運ぶ女性の姿がある。「ツェルマットの人々は、1950年代まで穀物と牛で生計を立てていました」と、トレイルの創案者であるルネ・バイナー氏は話す。彼は、地元の歴史協会である「アルツ・ツェルマット協会」の会長で、ツェルマットの発足に関わった旧家の子孫でもある。 ●ほぼ自給自足の暮らしだった集落 2023年夏に開通予定の第3区間では、ハイカーは4つの集落(フーリ、フレッシェン、ツム・ゼー、ブラッテン)を通る4.8キロメートルの道を下り、ツェルマットの起源となった土地を歩くことができる。まとめてアロレイトと称されるこうした集落は、独立を放棄して、ウィンクルマッテン、ツムット、イム・ホフ(今日のツェルマットの旧市街)に加わった。1791年、これらの集落は、古い方言で「牧草地のそば、または上」を意味する「Zer Matt(ツェル・マット)」というひとつの共同体に統合された。1891年にフィスプ~ツェルマット間の鉄道が通るまで、ツェルマットの集落は、ほぼ自給自足で暮らしていた。だが、この鉄道によって観光業が盛んになると、納屋の多くが放棄された。拡大する氷河を避けるため「レゴのように」解体された納屋もあったことを、フレッシェン近くの家畜小屋を調査している際に、ベルワルド氏が話してくれた。この家畜小屋には、近くのイム・ボーデンにあった住居の資材が再利用されている、とトレイル整備チームは確信している。イム・ボーデンは、14~19世紀のヨーロッパの小氷河期に、ゴルナー氷河に飲みこまれてしまった集落だ。この区間の最後は、香り高い松林を歩き、20世紀初頭のティーハウスに到着する。教師の職を引退後にアマチュア歴史家に転向したクラウス・ユーレン氏によれば、このティーハウスは英国人観光客向けに建てられた多くの店のひとつだという。女性たちが経営するこうした店は、1927年までツェルマット観光のピークシーズンだった夏に、土産物や軽食、高山植物の花束などを販売し、ツェルマットの山岳高級レストランの先駆けとなった。 ●「ヨーロッパ最古」の納屋を発見 クルトゥーアヴェーゲの実現には、科学が重要な役割を果たしてきた。バイナー氏は長い間、ツェルマットの集落は納屋や住居に刻まれた年代よりも古い、と推測していた。だが、それを証明するには、動かぬ証拠が必要だ。そこで、"樹木の探偵"、マルティン・シュミッドハルター氏の助けを借りた。年輪年代学者のシュミッドハルター氏は、スイスアルプスの非常に辺ぴな集落で、木造建造物が建設された年代を特定する調査に20年間携わってきた。「通常、樹木は冬に伐採し、翌年の夏に家屋の建設に使用します」と、シュミッドハルター氏は説明する。シュミッドハルター氏は、2012年からクルトゥーアヴェーゲの現場調査を本格的に開始した。現在のツェルマット~ツムット間のトレイルにある複数の建物から、鉛筆ほどの木材サンプルを採取し、分析作業に取りかかった。顕微鏡下で木材の年輪を算出したデータに対してコンピュータープログラムを実行すると、心電図に似たグラフが大量に出力される。これらの結果から、樹木の誕生と死の時期を特定できる。この調査では、2つの驚くべき発見がもたらされた。まず、ツェルマットの町を見下ろす見晴らしのよい高原に残る納屋が、700年以上前のヨーロッパ最古の納屋であることが、2019年に判明した。クルトゥーアヴェーゲ最初のトレイルにあるヘルブリッグ・シュターデルという納屋のデータから、この集落の誕生は1261年にさかのぼると確認されたのだ。ヨーロッパの年輪年代学の研究者たちは、「ツムットはアルプス最古の集落である」というシュミッドハルター氏の2つ目の主張にも同意した。それまでは、同じヴァレー州にあるゴムス谷のミュンスターがアルプス最古の集落とされていた。第3区間は完成間近で、あと2つの区間の整備が残っている。このため、クルトゥーアヴェーゲ沿いでは、もっと多くの発見が期待される。地域の歴史がさらに明らかになる可能性が、トレイルの設立者たちを後押ししている。「まだ、すべてが解明されたわけではありません」とベルワルド氏は話す。「だからこそ、興味津々なのです」 *1-5-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS7M2VZ9S7MUZOB004M.html (朝日新聞 2024年7月21日) 富士山と五重塔の名所、大混雑で入場料徴収も? 観光公害で市が検討 富士山のふもとの観光地でオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化している。富士山を隠す黒い幕が設置された山梨県富士河口湖町だけでなく、隣接する富士吉田市でもマナー悪化の問題に直面し、人気スポットの有料化などの対策が検討されている。連日、多くの外国人観光客が詰めかける市中心部の「本町通り」(国道139号)。両脇に延びるレトロな商店街と、その先の富士山を写真に収められることで人気の「映えスポット」だ。だが、本町通りは片側1車線。周辺の路地では、団体客を降ろすワゴン車が頻繁に一時停止し、車の通行を妨げていた。通りの商店からは「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」との苦情も出ていた。 ●訪日客急増、市街地のほかの場所でも問題に そこで市は6月1日、通りに面した土地に有料駐車場をオープンした。事業費は1億8千万円。敷地内にトイレも設け、車の乗降場所としても周知を図る。コロナ禍を経て急増した外国人観光客によって市内は活気づく一方、市街地のほかの場所でも駐車場やトイレの不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入りなど、観光客のマナーの悪さが問題となっている。市は5月下旬に会議を開き、課題を洗い出して対策を講じることを確認した。中でも対応が急がれているのが、新倉山浅間公園だ。園内のデッキからは富士山を背に「五重塔」と呼ばれる園内の忠霊塔が一緒に撮影でき、桜の名所としても人気だ。ここで訪日客が急増している。市によると、コロナ禍前の2019年度の入園者は約54万人だったが、23年度は約2・4倍の約130万人となった。園内のトイレはごみやペーパーで便器が詰まる被害が頻発し、ペットボトルのポイ捨ても散見された。市の担当者は「当面は観光客の流れを抑制し、清掃やごみ処理をさらに徹底しなければならない」と指摘する。 ●混雑緩和へ、公園とデッキつなぐ乗り物も検討 そこで浮上するのが、公園で入場料を徴収する構想だ。市幹部は「強制ではなく任意の『協力金』という形も考えられる。いずれにしても前向きに検討したい」と明かす。園内のデッキにつながる398段の階段が混雑し、高齢者や障害者がたどり着くのが困難だったとの声も上がっている。市は、観光客をデッキに誘導する乗り物を新設して混雑緩和を目指す検討も始めた。現在、エレベーター、エスカレーター、スロープカーの3種類が候補に挙がっている。小林登・経済環境部長は「観光客と市民の共存を第一に考えたい。実現したいが、市民に負担をかけるのは避けたい」とし、財源や効果を考慮して判断する。 *1-5-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA216960R20C24A6000000/ (日経新聞 2024年7月17日) 訪日客向け二重価格、関西自治体が検討 納得感カギに 地方自治体でインバウンド(訪日外国人)旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」を検討する動きが広がってきた。観光資源を維持するための財源を確保する狙いがある。実際に導入する場合は本人確認に手間やコストがかかる課題がある。外国人を歓迎していないとも受け取られかねないため、丁寧な制度設計が欠かせない。「市民と外国から訪れる人と2種類の料金設定があっていいのではないか」。兵庫県姫路市の清元秀泰市長は6月中旬、世界遺産で国宝の姫路城(姫路市)の外国人入場料を引き上げる案に言及した。外国人を30ドル(約4760円)、市民を5ドルにする構想を披露した。現在の18歳以上の入場料は国籍問わず千円で、いまの為替水準なら外国人は4倍超になる計算だ。清元市長は文化財として保護していくための費用に充てる必要性を指摘する。これを受けて大阪市の横山英幸市長も記者団に「有効な手の一つだ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向きな考えを示した。京都市の松井孝治市長は地元住民の公共交通料金を観光客より低くするという市民優先価格の導入を公約に掲げて当選した。国籍によって区別する二重価格については「差別する合理性がどこまであるのか」と疑問を呈する。海外では二重価格を採用している国も多い。たとえばエジプトのピラミッドは地元やアラブ諸国の観光客と、そのほかの観光客の価格差は9倍だ。インドやネパールでも導入されている。二重価格以外でも、対策の財源を確保しようとする動きがある。大阪府の吉村洋文知事は府内を訪れる訪日客から数百円程度を徴収する制度を導入する意向を示す。二重価格や外国人から別途お金を徴収する制度には課題がある。一つは外国人に与える印象や不公平さの問題だ。日本人と差をつければ訪日客を歓迎していないと受け取られる可能性がある。横山市長は「2025年に万博があるから、海外の方に後ろ向きにとられないメッセージの出し方をしなければいけない」と語る。博覧会国際事務局(BIE、本部パリ)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長は4月に来日した際、大阪府が検討する徴収金について「潜在的な来場者は歓迎されていないと感じる」と懸念を示した。府が設置した有識者会議でも「なぜ外国人のみに負担を求めるのか、租税条約や(法の下の平等を定めた)憲法14条を踏まえて整理してほしい」との声が出た。負担を重くすればネガティブに受け止められて訪日客増加の流れに水を差す可能性もある。今は円安を背景に日本で割安に消費できることが訪日客の増加につながっている面があるが、円高に振れれば訪日客の負担感は重くなる。運用面のハードルもある。二重価格を導入する場合、日本に住む外国人と訪日客を見分ける仕組みが欠かせない。人員の負担が増えたり、新たなシステムを導入したりする必要も出てくる。観光産業では足元の人手不足が深刻で、追加で人員を雇うのは容易ではない。立教大学の西川亮准教授は「導入する場合は外国人を差別しているように受け止められ、日本の良さが伝わらなくなってしまうのは避けなければいけない」と指摘する。「『日本文化を知ってもらうためのガイドツアーを提供する』とか『普段公開していないエリアを見ることができる』など、体験の質を上げるために価格に差があるという説明がきちんとできるかどうかが重要だ」と指摘する。 <日本の農業と食料安全保障> *2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81345960S4A610C2EP0000 (日経新聞 2024.6.13) 農業基本計画、年度内に改定 政府、価格転嫁へ法制化も 政府は12日、「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の会合を首相官邸で開いた。今後の農政の中長期の指針となる「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内の改定、食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めた。岸田文雄首相は価格転嫁に加えて、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直し、森林組合や伐採業者といった林業経営体の集約の促進について、それぞれ25年の通常国会で法制化を目指すよう指示した。基本計画は改定に向けて今夏にも議論を始める。従来の計画では自給率の目標のみを掲げていた。改正食料・農業・農村基本法が5月に成立したのを受け、自給率に加えて目標に据える「その他の食料安全保障の確保に関する事項」の具体案を検討する。価格転嫁を巡っては、生産者や加工業者、小売業者間での価格交渉をしやすくするため、価格に占める肥料や燃料、輸送費などサプライチェーン(供給網)全体のコスト構造を整理し、費用が上がった場合に交渉を促すような仕組みを想定している。政府は今後の農林水産業の政策の全体像を示した。今国会での成立を目指す「食料供給困難事態対策法案」について、食料供給が困難な事態の定義などを定める基本指針を25年中に策定することも盛り込んだ。 *2-1-2:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/244147 (日本農業新聞 2024年7月8日) [論点]東京都知事選に思う 国の政策論議とは別物 法政大学教授 山口二郎 本稿の執筆時点で、東京都知事選挙の選挙戦は終盤を迎えている。自治体の首長の選挙なので、東京の税金をいかにして東京都民の福祉のために使うかが政策のテーマである。それはあまりにも当然のことなのだが、豊かな大都市で住民のためのサービスを競うという形の政策論議に、これからの国全体の政策論争が引きずられることには、危うさを感じる。 ●特殊な東京の事情 東京都における出生率が1を割り、子育て支援、少子化対策が大きな争点の一つになっている。もちろん、これらの政策を拡充することは必要だが、東京の出生率が他の地域より低いのは当然である。住宅費が極めて高い東京で、たくさんの子どもを育てるための広い家を持つことは、普通の人には無理である。人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ、無意味である。東京に住みたい人の自由は尊重するが、雇用機会のためにやむを得ず東京に集まる若い人々に対し、生活環境の良い地方で働き、家族を形成するという選択肢を提供することが必要となる。もう一つ気になることがある。有力な候補者の政策が、平穏無事な自然環境と経済状況を前提としていることである。都知事候補者に農業や食料のことを考えろというのは、ないものねだりである。それにしても、水、食料、エネルギーという人間の生存に不可欠な資源はお金さえ出せばいつでも必要なだけ買えるという前提がこれからも続くと楽観すべきではない。日本がシンガポールのような都市国家であれば、都知事選挙の政策論争はそのまま国政のそれに重なるだろう。しかし、日本は大都市だけでなく、山地、農地、離島などを抱えた多様な国土を持っており、さまざまな職業を持つ人が各地に定住して、社会を構成している。それが日本という国の魅力でもある。 ●〝土台〟を守るには 従って、国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるはずである。今の日本は、高度成長期以来積み上げたさまざまな貯金を食いつぶし、衰弱の局面に入っている。最近の円安はその象徴である。食料とエネルギーの海外依存を続ければ、富の国外流出も大きくなる。これらを自給する体制を立て直すことと、地域における雇用機会の創出、人口再生力の回復は、一体の課題である。国政では、岸田文雄政権が迷走を続け、自民党内からも退陣を求める声が出てきて、政局は混迷を深めている。岸田氏あるいは次の首相の下で、遠からず解散、総選挙が行われるに違いない。その時には、国の形のグランドデザインを問う論争が必要である。日本に残された時間は、そう長くない。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81826740T00C24A7KE8000 (日経新聞 2024.7.4) 食料安全保障の論点(中) コメの工業利用で生産守れ、三石誠司・宮城大学教授(60年生まれ。神戸大博士(経営学)。専門は経営戦略、アグリビジネス経営。宮城大副学長) <ポイント> ○国内農業は従事者減で持続可能性が課題 ○米国などは穀物をエタノール原料に活用 ○コメの食用以外の用途開拓し官民支援を 肥料・飼料や生産資材の高騰で、食料安全保障への関心が高まっている。その確保を理念に位置づけた改正食料・農業・農村基本法も5月に成立したが、取り組みが問われるのはこれからだ。そこで食料安全保障をめぐる国内外の状況を俯瞰(ふかん)してみたい。食料安全保障は通常「フードセキュリティー」と訳されるが、厳密には同じではない。国際社会におけるフードセキュリティー概念は、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づく。17のゴールを定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール2「飢餓をゼロに」に、フードセキュリティーが含まれている。具体的には第1に飢餓を終わらせること、第2に食料安全保障の達成と栄養状態の改善、第3が持続可能な農業の促進――である。これら3つが達成された場合に想定される成果として、世界食糧計画(WFP)が定めた内容は4つある。(1)全ての人々が食料を得られ(2)誰も栄養不良に苦しまず(3)小規模農家が生産性と所得向上により食料安全保障と栄養状態を改善し(4)フードシステムが持続可能であること――である。これは1996年の世界食糧サミットで、フードセキュリティー成立のための4要件(食料の入手可能性・アクセス・活用・安定性)として示されていたものを精緻化している。この目標の達成に向けた対策の対象となるのは、通常なら途上国、それも食料の供給不安が高い国や、自国だけでは食料調達に困難を生じる国、栄養不良人口が多い国などである。当該国政府と協力しながら、国際機関・国際社会がどう支援するかが中心となる。したがって、世界の多くの国は日本にフードセキュリティーの問題など存在しないと認識しているのが現実であろう。しかし、決してそのようなことはない。途上国とは異なる、日本のような先進国型のフードセキュリティーについて議論することも重要である。さて、日本にとっての食料安全保障とは「日本人が必要とする食料の安定供給を確保すること」だ。改正前の基本法では「将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」(第2条)と定められていた。今回の改正により、この部分は「将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう)の確保が図られなければならない」という形に修正されている。食料に限らず世界的に、安全保障の概念自体が国家から個人レベルに拡大していることを受けたものだ。さらに改正基本法では、輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格の形成、環境と調和のとれた食料システムの確立などが新たに追加されている。また多面的機能の発揮では「環境への負荷の低減」を追加。農業の持続的な発展および農村の振興は「農村の人口の減少その他の農村をめぐる情勢の変化」や「地域社会の維持」を踏まえた形に修正されている。全体として、1999年制定の旧基本法の構成を維持しつつ、その後の四半世紀の環境変化を反映した表現が各所で追加された形と理解してよいだろう。食料安全保障をめぐる物理的・社会的・心理的環境は各国で異なり、一律の物差しでの判断は難しい。それでも、栄養不良人口の増減などの大きな変化を見ながら、一定の流れをとらえることは可能である。日本における切り口のひとつは、産業別就業者数の推移が示している。1951年当時、全就業者数の46%が第1次産業に従事していた。これが2022年にはわずか3%へと減少。今や日本は完全に第3次産業中心の国になった。過去70年以上の間に、全体の就業者数が1.9倍に増加し、第1次産業従事者は8分の1に減少したにもかかわらず、餓死者や栄養不良人口は途上国と比較すれば極めて少ない。必要な食料は国内関連分野の生産性向上と、購買力を背景とした輸入により調達してきた。これは、先述したWFPの(1)~(3)に相当する。問題は(4)の持続可能性である。総人口約1億2500万人で食料自給率が38%(22年度)なら、単純計算で4750万人分の食料を自給できる。1次産業従事者が205万人なので、生産者1人で23人の人口を支える構図だ。圧倒的少数の生産者と大量輸入で、今後の食料安全保障は確保されるのか。これこそが目を背けてはいけない点である。ウクライナ危機以降、これまでの食料システムを支えてきた暗黙の前提が顕在化した。それは「世界が安定し、貿易に支障がない限り」である。人々は何となく意識していたが、ようやく国内生産の本当の重要性を肌で感じ始めている。日本の場合、食料安全保障上の最大の問題となる農作物はコメである。減少を続けるコメの国内生産を守るために取り得る選択肢は「流れに任せる」か「個別対応を積み重ねる」か、「少し異なる視点からコメを捉えなおす」かである。現状は個別対応の積み重ねだ。国・地方自治体・民間企業・JA・地域共同体などが、生産を守るために苦労して対応しているのが実情であろう。しかし農家の高齢化が進む一方、新たな就農者も増えていない。こうした現実も直視すべきである。流れを変えるには一定の仕掛けが必要だ。一案だが、コメの国内生産を守るために食用以外の用途をもう一度、真剣に考えてみたらどうか。工業用原料としてのコメ、より具体的にはエタノール原料としての可能性である。例えば米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している。かつて米国のトウモロコシは需要の9割が国内飼料用であったが、現在は需要の約半分が工業用需要、その8割がエタノール需要である。米国もブラジルも、自分たちの土地に最適な作物を作り、食用以外にも徹底活用している。これに対して日本では、まだコメの活用は食用と飼料用中心である。日本では年間700万トン以上のコメを生産可能だ。食用に限らず、工業用利用を徹底的に検討した方がよい。道が開ければ、インフラとしての水田を生かして農家は思い切りコメを作り、国内需要に振り向けられる。それを官民あげて支援することが、国内で完結した食料安全保障の確保につながる。バイオエタノールに限らず、コメを原材料としたバイオマスプラスチックなど、新産業の構築までを視野に入れて工業利用を検討すべきである。それができて日本はコメの潜在力をすべて活用したことになる。 改正基本法は輸出による食料供給能力の維持を掲げる。しかし輸出はあくまで有利な価格の時や「パック米」など付加価値を付けた製品を中心とすべきであり、安値での原材料輸出競争に自ら参入する必要などないといえる。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81854730U4A700C2KE8000 (日経新聞 2024.7.5) 食料安全保障の論点(下) 農地規制撤廃で効率向上へ、本間正義・アジア成長研究所特別教授(51年生まれ。アイオワ州立大博士。専門は農業経済学。東大名誉教授) <ポイント> ○食料自給率向上、目的化なら国民負担増 ○農地法の所有規制は長期的投資の妨げに ○輸入確保へ自由貿易や平和維持に努力を ウクライナ戦争や中東紛争で地政学的な不安定さが増すなか、食料安全保障への関心が高まっている。5月に改正された食料・農業・農村基本法も食料安全保障を前面に押し出した。改正法では、食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人が入手できる状態」と定義している。これは国連食糧農業機関(FAO)の定義に沿ったものだ。FAOが言う食料安全保障は食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、さらには食料の利用・摂取にいたるまで、マクロからミクロに及ぶ食料のサプライチェーン(供給網)のすべてが確保されることだ。したがって、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障がおびやかされるのかを分析しなければならない。現在の日本の食料安全保障体制に対する国際的な評価は悪くない。英エコノミスト誌の関連組織であるEconomist Impactが、世界113カ国を対象に世界食料安全保障指数(GFSI)を公表している。「手頃な価格」「入手可能性」「品質と安全性」「持続可能性と適応」という4つのカテゴリーで、68項目の要因に基づいて計測したものだ。日本はこの指数で113カ国中の第6位(2022年)。図1に12~22年の指数の推移を中国・韓国との比較で示したが、一貫して日本が上位にある。国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきた。だが本来、自給率は食料安全保障への評価を表すものではない。食料自給率は、市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果だ。消費者に選ばれた国産品の割合が、現在の38%という自給率だ。これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う。国家の安全保障で軍備拡張を基本とすれば、防衛費が増えて国民生活が犠牲となることに似ている。国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しい。食料自給率の向上が目的化し、豊かさが犠牲になるのでは本末転倒だ。従来の基本法では、約5年ごとに農政の指針を示す食料・農業・農村基本計画で、食料自給率の目標を設定していた。改正基本法でも自給率が目標の中心であることに変わりはない。しかし食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきではない。一方で、平時とは異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要だ。改正基本法に合わせて6月に成立した「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定し、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者にも増産を求める。しかし、それだけで不測時に対応できる体制になるとはいいがたい。そもそも食料の安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーをはじめとする国家安全保障の一環として、総合的な法体系の中で議論すべき問題だ。有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保だが、農業を担う労働力の減少と高齢化が著しい。図2に示すように、2000年に240万人いた基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)は、23年に116万人まで減少した。数だけでなく、その中身が問題だ。75歳以上の割合は2000年では13%だったが、23年には36%を占める。65歳以上では70%を超える。一方、50歳未満の従事者は11%でしかない。また新規就農者は22年で4万6千人ほどいるが、多くが定年帰農などの高齢者であり、50歳未満は1万7千人に満たない。なかでも土地や資金を独自に調達して営農を始めた新規参入者は全体で4千人以下だ。農業労働力の弱体化は労働生産性の向上を遅らせ、他産業との格差を拡大する。農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性は、22年で58万3千円にとどまる。農業労働人口が急速に減少しているにもかかわらず、20年の61万8千円と比べても低下した(23年度「食料・農業・農村白書」)。農業従事者の減少と高齢化は、農地の荒廃につながる。22年で約430万ヘクタールある耕地面積の利用率は91%で、1割近い農地が利用されていない。日本農業の持続的発展のためには、農地の維持・保全と効率的利用は最優先すべき課題だ。高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されているといわれ、100ヘクタールを超える規模の経営も珍しくない。しかし、その多くは分散した農地を合わせての100ヘクタールだ。また多くが借地であり、区画整理など、自由に基盤整備を行えるわけではない。農地の効率的利用を妨げているのが農地法だ。農地を耕作する農業者か、一定の要件を満たした法人(農地所有適格法人)でなければ農地を取得できない。賃借は可能だが、一般の株式会社は農地が取得できず、基盤整備などの長期投資が困難になっている。原則耕作する人しか農地を所有できないということは、例えれば、サッカー競技場の所有権がそこでプレーするサッカー選手にしかないのと同じだ。このような規制は撤廃し、経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべきだ。農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件だ。農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づけるなどの新たな制度が必要だ。現在、日本の食卓は多彩で、それを支えるのは国内生産と輸入だ。質の高い国内農産物と、世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障だ。肥料や飼料など、多くの生産資材も輸入に依存する。国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱だ。国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる。かつて、シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている。最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる。 *2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1086Y0Q4A610C2000000/ (日経新聞 2024.6.12)武蔵野銀行、新入行員が田植え 生産者目線で課題を理解 武蔵野銀行はこのほど、さいたま市内の田んぼで新入行員による田植えを実施した。農業は埼玉県経済の柱の一つで、同行は農業関連の融資も手掛けている。自ら田んぼに入って農業の苦労や楽しさを知ることで、顧客の目線に立ったきめ細やかな課題解決策を提案できる可能性がある。 新入行員96名が6日、同行の武蔵野銀行アグリイノベーションファーム(さいたま市)で田植えを行った。田んぼに足を取られながらもペアで協力し、1苗ずつ丁寧に植えていった。長堀和正頭取も田植えの作業に汗を流した。同行は新たな産業の創造、高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦、23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる。田んぼの面積を昨年比約3倍の9500平方メートルに増やし、そのうち約2割を新入行員が田植えした。残りは実証実験としてドローンで種まきをした。収穫量は合計で3700キログラムを見込み、販売も行う予定だ。人材育成も体験の目的の一つ。長堀頭取は「農業の大変さを身をもって体験することで、担い手不足などの課題にも当事者意識を持って向き合える。今後携わる仕事にも役立つ」と期待を込める。実地で知った課題を地域経済の活性化に結びつける。 *2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81837430T00C24A7TB1000 (日経新聞 2024.7.4) ふるさと納税新方針で波紋 さとふる、楽天で賛否割れる 仲介サイトでポイント付与禁止 ふるさと納税の仲介サイトでポイント付与を禁止する総務省の方針について、サイト運営大手のさとふる(東京・中央)など2社は日本経済新聞の取材で賛成する方針を示した。競合の楽天グループはすでに反対意見を表明しており、大手の反応が分かれた格好だ。消費者の関心が高いふるさと納税を巡る制度変更に事業者が揺れている。仲介サイトは多くの自治体の情報をまとめて載せ、希望する返礼品を手軽に探せる手段として定着している。ポイントがつく点も人気の理由だ。だが、総務省は6月25日、ポイントを付与する仲介サイトを通じ、自治体がふるさと納税を募ることを2025年10月から禁止すると発表した。いち早く反応したのが楽天Gだ。6月28日、仲介サイト「楽天ふるさと納税」上に方針撤回を求める声明を出し、賛同者を集めるオンライン署名も始めた。三木谷浩史会長兼社長はX(旧ツイッター)に「地方に恩返しという思いをぶっ潰そうとしている。断固反対する」と投稿した。ほかの大手に聞き取り取材したところ、さとふるは「今後の健全な発展につながる整備と考えている」と賛成する意向を示した。「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京・品川)はポイント付与を終了しており、制度変更にも賛成した。「ふるなび」を運営するアイモバイルは賛否を明らかにしなかった。総務省が制度変更を決めたのは、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっているとみるためだ。松本剛明総務相は7月2日の記者会見で「ポイント付与による競争が過熱している。ふるさと納税の本旨にかなった適正化をめざす」と理解を求めた。同手数料は寄付額の1割前後とされる。総務省によると、22年度は全国で4517億円の経費がかかり、寄付額に占める割合は47%に達する。ポイント付与を禁じ、自治体に残る寄付額を増やす狙いがある。一方、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張した。お金に色をつけることは難しく、原資に関する双方の言い分は平行線をたどる様相を強めている。ふるさと納税は地域活性化などを目的に08年度に始まった。名称は「納税」だが、税制上は寄付として扱う。22年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新し、08~22年度の累計では約4兆3000億円に上る。楽天Gなどは成長領域とみて経営資源を注いできた。ポイント還元による集客ができなくなれば、サイトの利便性向上や掲載情報の充実など、別の付加価値を競う必要性が高まる。さとふるは手続きの簡素化や配送体制強化を検討している。 *2-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1287476 (佐賀新聞 2024/7/25) ふるさと納税、初の1兆円超え、利用者、過去最多1千万人規模に ふるさと納税制度による寄付総額が2023年度に初めて1兆円を超えたことが25日、分かった。寄付で居住自治体の住民税が軽減される。利用者も増加し、過去最多の1千万人規模に達する見通し。返礼品の品目充実や、仲介サイトによる特典ポイントが寄付を後押しする形となっている。物価高騰下の節約志向も追い風となった。総務省が来週にも自治体別の寄付額を含めて集計を公表する。特典ポイントに関して総務省は「本来の趣旨とずれ、過熱している」と指摘。来年10月からポイントを付与する仲介サイトの利用を自治体に禁じる方針で、寄付の動向に影響する可能性もある。返礼品は和牛や海産物、果物などが人気で、自治体も寄付獲得を目指して品目を拡充している。仲介サイトの運営業者によると、物価高が続く中、近年は日用品を選ぶ利用者も増えている。ふるさと納税制度が始まった08年度の寄付総額は81億円だったが、寄付上限の引き上げなどで人気が集まり、18年度に5千億円を突破。返礼品を「寄付額の30%以下の地場産品」に規制した影響で一時減少したが、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要もあって再び増加に転じ、22年度は9654億円だった。一方、総務省は自治体間の過度な競争を抑止する見直しを重ねており、23年度は年度途中で返礼品の調達や経費に関するルールを厳格化した。ふるさと納税は、自治体を選んで寄付すると、上限内であれば寄付額から2千円を差し引いた分、住民税と所得税が軽減される。都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向にあり、不満が出ている。 *ふるさと納税 生まれ故郷など地方を活性化するため2008年度に始まった。自己負担分の2千円を除いた額が住民税、所得税から差し引かれる。控除額には上限があり、所得や世帯構成などに応じて変わる。豪華な返礼品を呼び水とした自治体の寄付獲得競争が過熱。19年6月からは返礼品は「寄付額の30%以下の地場産品」とし、ルールを守る自治体だけが参加できる制度に移行した。返礼品を含む経費は寄付額の50%以下に抑える必要がある。 *2-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1288102 (佐賀新聞 2024/7/26) ふるさと納税1兆円】買い物感覚、被災地応援も、自治体間の格差解消課題 ふるさと納税の2023年度の寄付総額が1兆円を突破した。地域を応援するという趣旨で08年度に始まり、好みの返礼品を選べる仲介サイトの普及もあって寄付が急増。被災地を応援するといった使い方もある。ただネットショッピング感覚での利用により、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中。自治体間の格差解消が課題となっている。 ▽理念 「ここまで利用が広がるとは思っていなかった」。総務省幹部は1兆円突破に驚きを隠さない。政府の理念は、納税者が故郷やお世話になった地域などを寄付先に選んでその使われ方に関心を持ち、自治体では選ばれるまちづくりの意識醸成を通じて地域活性化につなげる―というものだ。大手仲介業者トラストバンクが今月実施した調査によると、寄付を通じ「知らなかった自治体を知った経験」が「ある」と答えた人は72・2%に上った。「特定の地域のファンになった経験」が「ある」は52・7%だった。能登半島地震では、被災地を支援しようと、返礼品を受け取らない寄付も広がった。仲介サイトでは、被災者を励まそうとする寄付者のコメントも掲載。返礼品なしで、前年度の約10倍に当たる約14億7千万円が集まった石川県珠洲市の担当者は「非常にありがたい。復旧復興に役立てたい」と話す。 ▽不満 利用が拡大する中で、理念との乖離も目立つようになった。仲介サイトでは各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競っており、返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向が強まっている。総務省は、来年10月からは自治体に対し、ポイントを付与する仲介サイトの利用を禁じる。別の総務省幹部は「仲介業者の節度を期待していたが、見過ごせなくなった」と打ち明ける。制度は、地方に寄付が回っていくことで、都市部との税収格差を是正する目的もあった。実際、横浜市、名古屋市など大都市の税収減は大きく、不満が高まっている。ただ、地方に恩恵が広く行き渡ったわけでもない。22年度の寄付額全体の6割が上位1割の自治体に集中。和牛や海産物といった人気の返礼品の有無が左右する。多額の寄付を集める自治体が、子育て支援などを充実させて周囲から移住者を吸い寄せているとも指摘される。政府関係者は「地方の自治体間でも勝ち負けが鮮明になっている。不満をため込む地域は少なくない」と説明。格差是正の役割は果たし切れていないと認める。 *2-5:https://www.agrinews.co.jp/news/index/248722 (日本農業新聞 2024年7月28日) [シェア奪還]業務用野菜の国産増へ 9月、品目別商談会 農水省 輸入に依存する加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けて、農水省は9月から品目別の商談イベントを開く。国産への切り替えが期待できるタマネギやカボチャ、ブロッコリーなどで、産地と流通業者、実需者の橋渡しをし、国産野菜の利用拡大を後押しする。国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割を占める。国産への切り替えを進めるため、同省は4月に「国産野菜シェア奪還プロジェクト」を立ち上げた。イベントは、同プロジェクトの一貫で開く。生産者や流通事業者、加工・冷凍メーカー、小売りなどの参加を想定。事業者間のマッチングを促す。同省は、国産への切り替えが期待できる品目として、タマネギ、ニンジン、ネギ、カボチャ、エダマメ、ブロッコリー、ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定。イベントは重点7品目から始め、ニーズに応じて品目を増やしていく。他にも、同プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く。加工・業務用野菜の国産利用を増やすには、産地間の端境期に収量をどう確保するのかが課題だ。同省は「冷凍保存などで、年間を通じて安定的に供給する体制づくりが重要」(園芸流通加工対策室)とみる。 <物価高を進めた日本の金融緩和> *3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240728&be=NDSKDBDGKKZO81327・・ue=DMM8000 (日経新聞 2024/6/12) 財政、拡張路線に転機 骨太方針、「基礎収支25年度黒字化」復活 金利ある世界意識 政府が11日に公表した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)原案は財政拡張路線からの転換がにじむ内容となった。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の2025年度黒字化目標を3年ぶりに明記し、「金利のある世界」を見据えて財政健全化に目配りした。成長投資と歳出改革の両立を探る。原案はPBについて「25年度の国・地方を合わせた黒字化を目指す」と盛り込んだ。もともと18年の骨太方針で打ち出した方針であるものの、自民党の積極財政派に配慮して22年以降は明示を避けていた。政府は目標自体は堅持しているとの立場をとりつつ、昨年の骨太方針も「これまでの財政健全化目標に取り組む」という曖昧な書きぶりにとどめていた。目標年度の提示は財政健全化への姿勢を従来より踏み込んで示すことになる。25年度の黒字化を目標としてきた現行計画は達成が視野に入りつつある。内閣府が1月に発表した試算によると25年度のPBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収めるなどの歳出改革を続ければ今のところ黒字化が可能な範囲にあるという。原案は後継計画として6年間の「経済・財政新生計画」を示した。25~30年度の予算編成の基本方針とする。PB黒字化への前進を「後戻りさせることなく」、債務残高のGDP(国内総生産)比を安定的に引き下げると記した。 ●成長と両立必須 背景にあるのは、日銀によるマイナス金利政策の解除だ。骨太原案は「金利のある世界への移行」をにらみ、利上げによる国債の利払い費増加に「懸念」を訴えた。内閣府は30年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利が1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らむと見積もる。元本償還も含む国債費は24年度は一般会計の2割を超す。利払い費が膨らめば、社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる。第2次以降の安倍晋三政権による「アベノミクス」は超低金利政策を背景に高成長を求める財政運営だったといえる。金利が成長率よりも低いため利払い費は軽く、財政規律が緩む一因になったとの指摘がある。一方で、金利が上昇してもインフレによって名目成長率が底上げされれば税収も増えるため、財政健全化につながるとの見方もある。「賢い支出」を徹底したうえで成長につながる投資は必要になる。利払い費の増加を警戒した今回の書きぶりは財政再建を進めるために、成長率などの経済前提に慎重な立場をとったことがうかがえる。原案が言及した実質成長率は1%だった。向こう6年間の計画期間や人口減が加速する30年代以降について「実質1%を安定的に上回る成長を確保する必要がある」と強調した。その上で「さらに高い成長の実現をめざす」とも書き込んだ。目標設定の土台となったのは内閣府が4月に初めてまとめた社会保障や財政に関する60年度までの長期推計だ。長期金利が名目成長率を0.6ポイントほど上回る財政面に厳しい設定で将来推計をはじいたところ、実質成長率が平均1.2%でも社会保障費が膨らむと57年度ごろにPBが赤字に陥るという試算となった。国と地方のGDP比の債務残高も40年度ごろに下げ止まり、60年度に180%ほどまで再上昇する絵姿を示した。金利が成長率を上回る状況が常態化すれば、安定成長を続けるだけでは財政健全化はおぼつかないことになる。PBの一定の黒字幅を確保し続けるには、実質1%成長の持続と歳出改革の両方に取り組まなければならない。財政規律に傾斜した今回の骨太原案には不安要素もある。次世代半導体の量産に向けて「必要な法制上の措置」を検討するとした点だ。企業の投資計画の予見可能性を高めるために「必要な財源を確保しながら」複数年度の支援を実施する方針だが、財源確保の具体策は定まっていない。 ●米でも利払い増 新たな経済・財政計画にも解釈の余地が残る。経団連の十倉雅和会長は4日、民間議員を務める経済財政諮問会議でPB目標は「単年度で考えるのではなくて、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべきだ」と語った。景気変動があれば、単年度の赤字は許容するとの考えがのぞく。原案の調整過程では単年度赤字の含みをもつ「黒字基調」の使用に前向きだった内閣府と慎重な財務省との間でさやあてがあった。結果として「黒字基調」は使わなかったものの、単年度赤字でPBが遠のく可能性はある。財政健全化の計画は頓挫の歴史を繰り返してきた。小泉純一郎政権で策定した06年の骨太方針では社会保障費を毎年2200億円圧縮するなどの数値目標を明記し、11年度に黒字化すると打ち出した。その後の麻生太郎政権はリーマン危機への対応などで数値目標を棚上げした。民主党政権ではPB黒字化の実現を「遅くとも20年度までに」とずらした。18年に策定した現行目標「25年度黒字化」も大型の補正予算を組めば達成は難しくなる。利払い費の負担増は日本だけの問題ではない。米政府の対GDP比の財政赤字は23年度に6.3%と22年度から0.9ポイント悪化した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げで利払い費が増えたことが背景にある。財政赤字は中長期で拡大する見通しだ。中東情勢の緊迫が続き、台湾有事を心配する声も強まっている。「金利ある世界」に向けて財政余力を確保しておくことは地政学リスクや首都直下型地震のような大災害に対応するためにも急務となる。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81839890T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 税収最高もかりそめの改善 昨年度72兆円、物価高が押し上げ、予算不用額は高止まり 歳出構造の改革不可避 財務省は3日、2023年度の国の一般会計の決算概要を発表した。企業の好業績やインフレを背景に税収は72兆761億円と4年連続で過去最高となった。金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的ともいえる。いまのうちに歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要がある。税収は22年度の71兆1373億円を上回り、2年連続で70兆円を突破した。インフレは名目成長率を押し上げて税収にもプラスに働く。内閣府によると23年度の名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスだった。22年度の2.5%プラスから上振れした。23年度補正予算段階では69兆6110億円と22年度実績を下回ると見込んでいた。法人税の納税制度が変わった影響で還付が増えたことなどから年度前半の伸びは鈍かった。23年4月~24年4月の累計の税収は59兆5193億円と前年同期を2兆円程度下回っていたが、5月分の法人税収が伸び、大幅に上回る結果となった。法人税収は15兆8606億円で、前年度から6.2%伸びた。想定よりもおよそ1.2兆円上振れした。1991年度(16.5兆円)以来の高水準で、5月分は7兆4867億円と過去最高だった。円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与した。所得税収は22兆529億円で、2.1%減少したが、想定をおよそ0.8兆円上回った。企業の賃上げの動きの広がりで給与所得が増えた。消費税収は23兆922億円で0.1%増加し、過去最高となった。年度前半に還付金が増えたことなどが減収要因となったが、国内消費は堅調に推移した。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「24年度は定額減税が減収要因になるが、インフレ環境の継続とともに名目GDP成長率のプラスが定着する中で、税収の増加傾向は続くだろう」と分析する。ただ足元では日銀の金融政策修正などの影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇している。今後は国債の利払い費の増加が財政を圧迫する可能性がある。税収が伸びているうちに歳出構造改革を進める必要がある。現状は心もとない。予算計上したが結果として使う必要のなくなった不用額は6兆8910億円だった。赤字国債発行を取りやめたが、過去最大だった22年度の11.3兆円に次ぐ規模だ。不用額の大きさは予算の見積もりが精緻になされたかや、無駄な支出を計上していなかったかの目安になる。新型コロナウイルスの感染が広がる前まではおおむね1兆~2兆円台で推移してきたが、コロナ禍を機に大規模な補正予算が組まれるようになり金額も拡大した。その年度に使われなかったお金としては次年度への繰越金もある。不用額は繰り越しても使われる見込みがないお金とも言える。そもそも無駄な予算計上だった可能性を否定できない。新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる。岸田文雄首相は年金受給世帯などへの給付金を計画しており、財源として24年度補正予算の編成を念頭に置いている。政府は高成長の実現や歳出改革の継続によって25年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化が視野に入っているとする。税収の上振れが次の経済財政試算にどの程度反映されるかに左右されるが、黒字化がより近づく可能性もある。税収の上振れは与党などからの経済対策を求める声につながりやすい。大規模な補正予算を編成すればPB黒字化は困難になる。予算の平時化に向けては「今回の補正予算が試金石になる」(財務省幹部)。規模ありきで不要な支出を積み増す慣行から脱却できるかが問われる。 *3-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998370.html (朝日新聞社説 2024年7月31日) 国の予算編成 手を緩めず歳出改革を 政府が来年度予算編成にあたっての要求基準を決め、各省庁の作業が始まった。財政健全化の目標が来年度で達成できるとの試算も示したが、楽観できる状況ではない。政策の優先度を厳しく見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要がある。歴代政権は20年ほど前から、国・地方の「基礎的財政収支」の黒字化をめざしてきた。政策経費を新しい借金なしでまかなえることを意味する。財政再建に向けた「最初の一歩」の目標だ。新しい試算は、基礎的収支が税収増で上ぶれし、今の目標の25年度には小幅なプラスになるとした。ただ、近年恒例の大型補正予算を年度途中に組まないのが前提で、実現性は依然不透明だ。 財政全体をみれば、金利の上昇で国債の利払いも増える見込みだ。気を緩めず、無駄な支出と赤字の抑制に最大限努めなければならない。足元では物価や人件費の上昇が続き、歳出拡大の圧力が強まっている。少子高齢化への対応をはじめ、重要な政策課題も多い。各省庁は予算要求の段階で、費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべきだ。閣議了解された概算要求基準も、「施策の優先順位を洗い直し、予算を大胆に重点化する」とうたう。各省庁の要求額に制限をかける仕組みだが、昨年同様、「例外」や抜け穴が多く、かけ声で終わる懸念がぬぐえない。防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱いにした。安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図が強まる。「重要政策」を優遇する特別枠と、金額を明示しない「事項要求」の対象も広い。賃上げ促進や官民投資拡大、物価高対策などが例示されているが、歳出膨張に十分歯止めをかけられなかった昨年の繰り返しになる恐れがある。政府が昨年から掲げる「歳出の平時化」がどこまで本気なのか。まず試されるのが、岸田首相が先月唐突に打ち出した今秋の経済対策だ。物価高で苦しむ家計や事業者を支えるというが、政治的アピールを優先し、対象をいたずらに広げれば、規模が水膨れし財政悪化を招くだろう。そもそも今の予算編成の手法は、中長期で財政の持続性を保つ視点が薄い。概算要求基準の対象は当初予算だけで、継続的な事業を補正予算に回すことが常態化している。補正も含めた通年や数年単位で歳出に一定のたがをはめ、その中で配分を適切に見直す仕組みを考えるべきだ。 *3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240719&ng=DGKKZO82181150Z10C24A7MM0000 (日経新聞 2024.7.19) 消費者物価6月2.6%上昇 電気・ガス代押し上げ 総務省が19日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が107.8となり、前年同月と比べて2.6%上昇した。政府が電気代やガス料金などの負担軽減策を縮小したことで、電気代やガス代が値上がりした。前月の2.5%上昇から伸びが拡大した。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.7%の上昇だった。2年10カ月連続で前年同月を上回った。依然として日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている。エネルギーの上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した。電気代が13.4%と大幅に上昇し、生鮮食品を除く指数の伸びを0.47ポイント押し上げた。都市ガス代も3.7%上昇した。電気代は23年1月に始めた補助金の影響でマイナスの推移が続いたものの、5月に再生可能エネルギー普及にかかる賦課金が上昇し16カ月ぶりにプラスに転じていた。政府補助は5月使用分で半減となり、6月のCPIから押し下げ効果が縮小した。電気代の上昇は2カ月連続。6月の政府補助による電気代の押し下げ効果はマイナス0.22ポイントだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.2%上昇した。生鮮食品を含む総合指数は2.8%上がった。食料は3.6%の上昇だった。オレンジの原産国での天候不良が不作を招いた影響で果実ジュースが32.1%上昇した。さくらんぼも15.7%上がった。昨年夏や今季の収穫期における猛暑が影響した。食料の上昇幅は前月の4.1%からは縮小した。猛暑による影響でルームエアコンの需要が拡大し、家庭用耐久財は3.9%上昇した。宿泊料も19.9%伸び、前月の14.7%から上昇幅が広がった。全品目をモノとサービスに分けたうち、サービスは1.7%上昇だった。前月は1.6%で上昇幅は拡大した。外食は2.8%上昇して、前月から横ばいだった。 *3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81585450S4A620C2MM0000 (日経新聞 2024.6.22) 円一段安、159円後半 米景況感上振れでドル買い 21日のニューヨーク外国為替市場で対ドルの円相場が下落し、一時1ドル=159円80銭台とおよそ2カ月ぶりの円安・ドル高水準を付けた。同日発表の米企業の景況感が市場予想を上回り、米金利上昇(債券価格の下落)とドル買いを誘った。米S&Pグローバルが21日発表した米国の6月の購買担当者景気指数(PMI、速報値)は総合が54.6と前月から0.1ポイント上昇し、2022年4月以来2年2カ月ぶりの高さになった。米景気が好調を維持し、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ転換に時間がかかるとの見方から、米金融市場ではPMI公表後に米金利上昇とドル高が進んだ。円相場は4月29日に34年ぶり円安水準となる1ドル=160円24銭を付けたあと、政府・日銀の円買い為替介入を受けて151円台まで上昇した。ただ、その後は日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進んでいるほか輸入企業によるドル調達もあり、円の下落基調が続いている。PMIの調査期間は6月12~20日。総合指数は好不況の分かれ目となる50を1年5カ月続けて上回る水準で推移している。21日発表の6月のユーロ圏のPMIは総合指数が前月から低下しており、米景気が他国・地域よりも底堅い様子を映した。米PMIの内訳をみると、サービス業の指数は55.1と0.3ポイント上昇し、2年2カ月ぶりの高水準だった。53.7への低下を見込んでいた市場予想を上回った。個人消費がなお堅調で、サービス業の新規受注が拡大している。 *3-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1292925 (佐賀新聞 2024/8/2) 日銀が追加利上げ、金利正常化を明確にせよ 日銀は、政策金利の追加利上げと国債買い入れの減額計画を決定した。後者は予告通りだが、利上げを予想した市場関係者は直前まで多くなかった。異次元緩和を終えながら、日銀が金利正常化の意図をあいまいにしてきたためだ。依然低い政策金利が円安とインフレの弊害を招いている。金利修正を明確にすべきだ。日銀は金融政策決定会合で、政策金利である短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げることを決めた。異次元緩和を3月にやめ、マイナス金利を解除して以来の利上げとなる。一方、長期国債の買い入れは現状の月6兆円程度から、2025年度末をめどに3兆円程度へ半減することを決めた。前回6月の会合で減額方針を決定していた。国債購入による長期金利抑制は異次元緩和のもう一つの柱であり、買い入れ減額は国債保有を減らす「量的引き締め」となる。追加利上げと相まって金利全般が上昇し、住宅ローンや企業の借入金利に影響が出てこよう。しかし、2%台半ばにある足元の物価上昇率を勘案すれば、実質的な金利水準は依然マイナスであり極めて低い。金利上昇による経済への影響を、過度に警戒する局面ではあるまい。むしろ懸念すべきは、植田和男総裁をはじめ日銀の姿勢と情報発信だ。賃上げを伴った好循環を理由に異次元緩和を終え、目標とする2%以上のインフレは27カ月続く。それでもまだ望ましい物価上昇ではないと、正常化への金利見直しに慎重姿勢を崩していないからだ。市場参加者はもとより、物価高の苦境にある国民には理解し難い。日銀は今回、当面2%前後の物価上昇が続くとの見通しを公表。その度合いに応じて政策金利を上げていく考えを明らかにしたのは、一歩前進と言えるだろう。最近の円安は、米国の金利高止まりだけが原因ではない。低金利修正に腰の引けた日銀の姿勢に、正常化は遅れると市場参加者が見込んだ点が為替相場に反映している。石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国では、円安が輸入コスト増に直結し、物価上昇の引き金となる。帝国データバンクの食品メーカー調査によると、春からの急激な円安を受けて、秋に再び値上げラッシュが襲う見通しという。国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは、物価高による節約志向が原因だ。金融政策が円安を通じて、かえって消費と景気の足を引っ張っている「逆効果」を日銀は直視すべきである。日銀の金融政策を分かりにくくしている原因が、2%目標の硬直的な運用にあるのは明らかだ。13年に政府との共同声明に明記されて以来、日銀の政策運営を縛ってきた。柔軟で機動的な政策運営を可能とするため、政府と日銀で見直しに着手する時だろう。日銀は今回の利上げを物価の上振れリスクなどに対応するためと説明するが、額面通りに受け取る市場関係者は少なかろう。それよりも円安と物価懸念から金利修正を暗に求めた政府・与党関係者の発言が影響した、との見方に説得力がある。緩和要求が常だった政府・与党から利上げ発言が出てくること自体、異例である。それだけ日銀の政策運営がずれている証拠と理解したい。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB096MG0Z00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月4日) 脱・日銀依存で戻る規律 日本経済は変わるか、金利が動く世界へ 日銀が7月末の金融政策決定会合で追加利上げと「量的引き締め」への具体策を決めました。日本経済は脱・日銀依存へとさらに一歩踏み出します。連載企画「金利が動く世界へ」は、戻ってくる金利の規律が政府、企業、家計にどんな変化をもたらそうとしているのかに迫りました。日銀が追加利上げを決断し、同時に国債保有を圧縮する「量的引き締め」も開始した。日本経済は中央銀行による金利コントロールから、市場原理による「金利が動く世界」に戻る。国も企業も家計も、これからは金利の規律と向き合うことになる。「インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然だ」。7月末に追加利上げに踏み切った日銀。日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことがないが、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む。超低金利が続くとみていた市場にはサプライズとなり、公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された。一方で日経平均株価は2日に史上2番目の下落幅を記録。市場は揺れながら「金利が動く世界」へ向かう。早期安定の試金石は、まさに中銀の統制を解く債券市場にある。日本国債の発行残高は1082兆円。日銀はその53%を保有する「池の中の鯨」だ。巨大な買い手がいなくなれば、金利は急騰リスクを抱える。財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望する。民間銀行などは日本国債の9%を現在保有するが、約10年前は39%(317兆円)と最大のプレーヤーだった。「国内銀行だけで200兆円は国債を買える。ただ、長期金利の最終水準がみえてこないと買いに行けない」。あるメガバンク首脳はそう思案する。確かに民間銀行に国債を買い入れる余力はある。ただ、金利が上昇し続ければ保有国債に含み損が発生する。ある大手銀行は長期金利が1.2%になれば本格的な国債買いに動く腹づもりだが、現在は1%を切っており「動く地合いではない」。最大の問題は国債取引の人の厚みもノウハウも薄れていることだ。ある大手銀は日本国債の取引担当がわずか2人。30年前は10人超いたものの、金利が動かなくなってチームを縮小した。国債取引で中核的な役割を果たす「国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー)」も、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)が資格を返上したほか、欧州系のアール・ビー・エス証券(当時)なども撤収した。1998年の資金運用部ショック、2003年のVaRショックと、かつて国債市場は金利急騰で大混乱したことがあった。当時と異なるのは、国債のトレーダーも運用機関も層が薄くなり、金利急変動の耐性がないことだ。長期金利は経済の好不調に合わせて上下動するのが自然な姿だ。日銀が国債の大量購入で長期金利を人為的に抑えつけると、世界のマネーフローは為替相場でしか調整できなくなった。極端に開いた日米金利差で発生したのが歴史的な円安だった。「円売りが連鎖してキャピタル・フライト(海外への資本逃避)になれば、1ドル=300円も冗談でなくなる」。ある自民党議員は海外投資家に真顔でそう脅された。円売り連鎖という目先の苦境は遠のいた。とはいえ、秩序だった市場を取り戻さなければ、次なるリスクを抱え込む。S&Pグローバル・レーティングなど主要格付け機関は、財政悪化にもかかわらず日本国債の格付け見通しを「安定的」と据え置いている。その理由は、皮肉にも日銀による巨額の国債買い入れ策があったからだ。民間主体で国債相場を支えきれないなら、財政悪化はそのまま国債格下げリスクとなる。邦銀の格下げにも直結し、日本企業のドル調達難という新たな危機となる。中央銀行頼みのツケはすぐにはなくならない。市場のプレーヤーの厚みを取り戻す必要がある。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0979Q0Z00C24A8000000/ (日経新聞社説 2024年8月9日) 日銀の市場との対話は十分だったか 内外の株価や円相場の不安定な動きが続いている。様々な要因が絡み合うなかで、日銀がさらなる利上げに積極的な姿勢を示したことが「予想外」との反応を生み、円の急伸を招いた。日銀と市場との対話は本当に十分だったといえるのか。市場の安定を確保するためにも問題がなかったかを改めて点検し、丁寧な意思疎通を心がけてほしい。世界で日本株の下落が際立ったのはハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れといった米国の要因に円の急伸が重なったためだ。日銀が7月末の金融政策決定会合で利上げを決めた直後、米連邦準備理事会(FRB)が9月に利下げに動く可能性を示唆し、日米金融政策の方向性の違いが強く意識されたことも大きい。日銀の内田真一副総裁は7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しに動いた。市場の動向とともに企業や消費者の心理に変化がないか細心の注意を払うのは当然としても、説明が首尾一貫していないように聞こえる。日銀は8日、利上げを決めた会合での「主な意見」を公表した。経済や物価がおおむね想定通りに推移しているとの見方に加え、円安を背景に「物価の上振れリスクには注意する必要」との認識が判断材料となったことがわかる。正副総裁らが会合前に情報を発信する機会が限られたこともあり、日銀が円安のリスクへの懸念をより強めていることは市場には十分に伝わっていなかった。事前に市場にすべてを伝える必要はないものの、結果をみれば、市場との対話が円滑だったとはとても言えまい。日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に、市場との対話を見直してほしい。一方、市場の落ち着きを前提にすれば、金融政策の正常化を封印するのは適切な判断ではない。主要国で日本だけが金融緩和を長く続けた。そのことが円売り取引の膨張を許し、円急伸の遠因となった側面は否めない。投機資金の動きや影響を注視しつつ、望ましい政策のあり方を探ってほしい。経済や物価の動きに応じて金融緩和の度合いを調整していく試みは、長い目でみた経済成長と市場の安定のためにも欠かせない。だからこそ日銀には、入念な市場との対話と精緻な情勢分析を通じ、適切な政策運営につなげる不断の努力を強く求めたい。 *3-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB058TK0V00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月12日) 日本株激動、「避難先」銘柄は 相場低連動・還元策に注目 日本株のボラティリティー(変動率)が高まり、急激な下げへの警戒は残る。荒れ相場の駆け込み寺となる銘柄は何か。相場全体の値動きに対する感応度や配当利回りなどの指標でスクリーニングしたところ、食品や小売り、住宅関連などの業種が浮かび上がった。QUICKのデータを使い、東証株価指数(TOPIX)採用で時価総額100億円以上、予想配当利回りが2.5%以上などの条件を満たす銘柄を抽出し、対TOPIXのベータ値(60カ月)が低い順に並べた。新型コロナウイルス禍の影響を考慮し、短期(180日)のベータ値が平均より低いことも条件とした。ベータは個別株と相場全体の動きの相関を表す値。TOPIXなどの指数と同じ動きなら「1」となる。1より小さくなるほど感応度が小さく、相場の調整局面で下値抵抗力を発揮する。内需中心で業績が安定している企業のほか、財務レバレッジの低い場合などに小さくなりやすい。投資家からの関心を表す指標とも解釈できるため、外国人持ち株比率と一定程度の負の相関があるとされる。「世界が本格的なリセッションに向かうのであれば、低ベータ銘柄への投資が有効になる」(野村アセットマネジメントの石黒英之チーフ・ストラテジスト)。リストで目立つのが食品銘柄だ。総菜製造のフジッコや製粉会社のニップンなどはベータ値が0.05程度。市場全体の値動きに対する感応度が極めて小さい銘柄群といえ、日経平均が連日で大幅下落した8月1日からの3営業日も株価下落率は日経平均(20%)より10ポイント以上小さかった。業績の安定性も注目される。食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期(2024年3月期)まで10期連続の営業増益だった。液卵事業は「今年に入って販売数量が前年を上回り回復傾向にある」(同社)といい、25年3月期の営業利益は前期比12%増と過去最高を計画する。営業地盤を地方に置く銘柄にも注目だ。業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先になる。茨城県や千葉県などの関東圏で大規模ホームセンターを展開するジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落したときにむしろ株価が上昇しやすいという珍しい特徴を持つ。ジョイ本田株は8月5日までの3営業日で6%安にとどまった。このほか栃木県に本社を置くドラッグストアチェーンのカワチ薬品、北関東を中心にスーパーマーケットを展開するエコスといった小売銘柄もベータ値が低い。 リスクオフ局面では投資家の関心が配当に集まりやすいため、還元実績や財務体質に注目することも重要だ。福岡県などを地盤に住宅建材・設備をてがけるOCHIホールディングスは、24年3月期まで13期連続で増配中だ。今期から「連結配当性向30%以上」との目標を新たに導入し、積極的な還元姿勢を打ち出している。化粧品のノエビアホールディングスも23年9月期まで12期連続で増配している。株主還元を含めたキャッシュマネジメントに注力し、自己資本利益率(ROE)は過去5期平均で13.2%と、同業他社に比べて高い。足元の配当利回りは4%台と、東証プライム市場の平均(約2.6%)を上回っている。 ●米国株、公益・ヘルスケアに資金シフト 「ディフェンシブ株をポートフォリオに加えるのは今からでも遅くない」。米モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏は8月初めの相場急変を受けて投資家向けリポートにこう記した。ディフェンシブ株に対する景気敏感株のリターン優位は4月頃にピークをつけたと指摘。過去のリスクオフ局面に照らし合わせれば、ディフェンシブ株への資金シフトはここからある程度時間をかけて進むとみる。日本株に比べ株価の振幅が小さい米国株市場でも物色はディフェンシブ性の高い銘柄に向かっている。S&P500種株価指数が直近の高値をつけた7月16日からの騰落率をみると、上位にはヘルスケアや公益株が多く並ぶ。業績の変動が小さく、相対的に配当利回りが高いことなどがリスクを回避したい投資家からの関心を集めている。ヘルスケアでは医療施設運営のHCAヘルスケアやユニバーサル・ヘルス・サービシズ、産業用品大手スリーエムのヘルスケア部門として4月に分離上場したソルベンタムなどに買いが集まっている。英バークレイズが7月下旬、「市場シェア拡大が期待できる」などとしてHCAヘルスケアの目標株価を376ドルから396ドルに引き上げるなど、4〜6月期決算発表を経て好業績を再評価する動きも出ている。 公益ではエジソン・インターナショナル、エバーソース・エナジーなど電力会社が高い。予想配当利回りが4%前後、予想PER(株価収益率)が14〜16倍台と、割高感のあるテック株などに比べた投資指標面での堅実さに注目が集まっているようだ。市場全体の値動きに対する感応度であるベータ値が低い銘柄が物色されていることも特徴だ。米国防総省を主要顧客とする防衛企業のノースロップ・グラマン、ニューヨーク市に電気やガスなどのインフラを供給するコンソリデーテッド・エジソンは、対S&P500のベータ値(60カ月)が0.3程度と小さい。その中で米国では日本と異なり消費株が敬遠されていることには注意が必要だ。「労働市場が軟化し、米国の投資家は消費株をリスク視している」(米ゴールドマン・サックスのチーフ米国株ストラテジスト、デイビッド・コスティン氏)。失業率の上昇や賃金上昇の鈍化によって消費意欲の減退が予想され、スナック食品のケラノバなど一部の銘柄を除けば軟調な消費株が目立つ。ヨガウエアなどスポーツ用品のルルレモン、美容小売りのアルタ・ビューティーの株価は3週間で約2割下落した。 *3-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301927 (佐賀新聞 2024/8/16) 力強さ欠く景気 物価抑え家計を支援せよ 内閣府が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)は、前期比の年率換算で実質3・1%増だった。2四半期ぶりのプラス成長だが落ち込んだ前期からの反動要因が大きく、景気は依然力強さに欠けると言えよう。不安定な株価や円相場、海外経済への懸念から先行きの不透明感も拭えない。このため経済対策による大規模な財政出動を求めたり、政策正常化へ向けた日銀の追加利上げをけん制したりする声が出てくると見込まれる。だが、景気の弱さは主にインフレ長期化による家計の圧迫に原因があり、これらは打開策とならない。政策対応としては物価抑制と、低所得世帯などへの家計支援に力を入れるタイミングだ。4~6月期がプラス成長となった最大の要因は、GDPの約半分を占め景気のエンジン役である個人消費が、5四半期ぶりに増加へ転じたためだ。しかし内容を見ると楽観できる状況にはない。前期の1~3月期は自動車の認証不正問題の悪影響が濃く表れ、その反動で4~6月期の消費が大きめに出たとみられるからだ。総務省の家計調査などからは、長引く物価高に節約で対抗し、食品など必要なものに絞ってお金を使う家計の実情が浮かび上がる。定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから、先行きの消費改善を予想する声はある。だが減税は一時的に過ぎず、全世帯の3割を占める高齢世帯は賃上げにほとんど無縁である。円安が是正され、物価が落ち着くまでは消費の低空飛行が続くと見ておいてよいのではないか。ほかのGDP主要項目では、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加し全体のプラスに貢献した。円安による輸出企業の好業績や、認証不正問題からの回復が投資増につながったとみられる。だが今後は日銀の政策変更による金利上昇に加え、株価や円相場の影響が避けられまい。相場の荒い変動は投資手控えにつながる点を警戒したい。一方で、輸出から輸入を差し引いた外需は2四半期連続のマイナスとなり、GDPの足を引っ張る要因に働いた。統計上の輸出に当たるインバウンド(訪日客)需要は堅調だったとみられるが、中国の成長減速などから輸出全体の伸びは鈍く、輸入の伸びを下回った。中国は不動産不況が引き続き景気に影を落とす見通しだ。その上で、この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方と言えるだろう。インフレ退治の金融引き締めにもかかわらず底堅く成長してきたが、最近の統計は雇用の冷え込みを示唆。連邦準備制度理事会(FRB)は9月にも利下げへ転じる見通しで、米国経済は軟着陸できるかどうかの分水嶺(れい)にあるためだ。米景気や利下げの行方が株価の波乱要因となり得るだけでなく、円相場に影響する点は改めて言うまでもあるまい。岸田文雄首相の退陣表明により、秋に予定される経済対策をはじめ政策運営の先行きは見通しにくい状況となった。しかし力強さを欠く景気の現状を見れば、その場しのぎの減税や電気・ガス代補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道であることは明らかだろう。次期政権には、その点に正面から取り組んでもらいたい。 *3-3-1:https://www.profuture.co.jp/mk/recruit/strategy/40122 (MarkeTRUNK 2022.8.1) ガラスの天井の意味は。壊れたはしごとは違う?女性やマイノリティのキャリアアップの障壁 ガラスの天井とは、十分な能力を持つ女性やマイノリティが、不当に昇進を制限されることだ。日本は女性の社会進出に関して諸外国に遅れを取っており、多様化する社会においては早急な課題解決が求められる。ガラスの天井の意味や壊れたはしごとの違い、解決のためのキーワードなどを見ていこう。 ●ガラスの天井、壊れたはしごの意味 ガラスの天井とは、女性の社会進出における問題を喩えた言葉である。男女が平等に働ける社会を実現するうえで、ガラスの天井は大きな課題とされている。 また、壊れたはしごも女性の働き方に関わるキーワードだ。ここでは、ガラスの天井や壊れたはしごの意味、日本政府が掲げる目標、諸外国における男女の働き方について解説する。 ○ガラスの天井とは ガラスの天井(=グラスシーリング)とは、十分な能力があるのにもかかわらず、性別や人種などの要因によって昇進が妨げられる状態を表す。目には見えない障壁をガラスに喩えた言葉で、特に女性やマイノリティが不当な扱いを受ける場合に用いられる。ガラスの天井を初めて使用したのは、企業コンサルタントのマリリン・ローデンだ。のちにウォールストリート・ジャーナル紙の紙面でも用いられ、ガラスの天井の概念が世間に広く浸透した。1991年には、アメリカ連邦政府労働省が公的な場面でガラスの天井を使用している。また、2020年のアメリカ大統領選で史上初の女性副大統領が誕生し、ガラスの天井が破られたと話題になったニュースは記憶に新しいだろう。 ○壊れたはしごとは 壊れたはしごとは、女性が昇進するために上る階段(はしご)は元々壊れており、1段目から男女格差が生じていることを意味する。ここでの1段目とは、グループ長や主任のようなファーストレベルの管理職を指す。壊れたはしごの概念が提唱されるまで、女性の社会進出を阻む要因はガラスの天井であると考えられていた。しかし近年の調査では、そもそも第一段階の地位に就く女性の割合が少ない構造となっていることが、女性の昇進を阻むハードルだと結論づけられている。上級職レベルで女性の昇進を改善しても、上級職に到達できる女性の数が少ないため、根本的な解決にはつながらない。昇進における男女格差をなくすためには、壊れたはしごを生み出す構造自体を見直す必要があるのだ。 ○政府は「女性管理職比率30%」を掲げているが・・ 女性の社会進出における課題を問題視し、政府は2003年に「『2020年30%』の目標」を発表した。これは、あらゆる分野の指導的地位に就く女性の割合が、2020年までに30%程度に到達することを目指すものである。目標達成のためにさまざまな施策が実施されているが、その成果は期待を上回るほどではない。役職に就く女性の割合を確認すると、1989年から徐々に上昇してはいるものの、現状は目標の30%に届いていないことが読み取れる。2020年には女性の参画拡大に関する成果目標が見直され、「第5次男女共同参画基本計画」において以下の基準が定められた。現状値を2025年の目標値まで引き上げるために、今後も女性の活躍を促す施策の実施が検討されている。 ■「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標 グラフ:「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標 参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」 ○EUでは上場企業の役員の男女均衡義務化 2022年6月、EUは上場企業における役員比率の男女均衡を義務付けることに合意した。EUはこれまでにもジェンダー平等の推進に取り組んでいたが、管理職に就く女性の比率に関しては加盟国の間で大きな差があった。新たに合意されたルールでは、取締役に登用する男女の最低割合が定められている。域内の上場企業は、2026年6月末までに社外取締役の40%以上、または全取締役の33%以上に女性を登用しなければならない。基準を達成できない企業には理由や対策の報告が求められ、場合によっては罰則の対象となりうる。 ●調査でわかる日本の現状 実際のところ、日本における男女の社会進出にはどれくらいの格差があるのだろうか。各種調査を参考にして、日本の現状を把握しよう。 ○女性管理職の比率、日本は10%台 男女共同参画局の調査によると、日本の女性役員割合は12.6%となっている。過去数年間における女性役員数は増加傾向にあるが、諸外国に比べるとまだまだ低いことがわかるだろう。 諸外国の女性役員割合(2021年の値) フランス 45.3% イタリア 38.8% スウェーデン 37.9% イギリス 37.8% ドイツ 36.0% カナダ 32.9% アメリカ 29.7% 中国 13.8% 日本 12.6% 韓国 8.7% 参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」 諸外国の女性役員割合が高くなっている背景には、クオータ制の導入が影響している。クオータ制とは、女性の登用割合を役職ごとに規定し、基準を満たすことを義務化するものだ。発祥であるノルウェーをはじめ、クオータ制は各国における女性役員割合の増加に大きく貢献した。 ○ジェンダー・ギャップ指数は156か国中120位 世界経済フォーラム(WEF)は、男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数を毎年発表している。2021年は156か国を対象に調査が行われ、日本の総合スコアは0.656、順位は120位であった。これは先進国の中でも最低レベルの結果である。アジア諸国の中では、韓国や中国、ASEAN諸国よりも順位が低く、ジェンダー平等に関して日本が遅れを取っていることが読み取れる。 参考:内閣府男女共同参画局「共同参画」2021年5月号 ○ガラスの天井指数では29か国中28位 2022年3月に経済週刊誌エコノミストが発表したガラスの天井指数において、日本は29か国中28位であった。ガラスの天井指数はエコノミストが2013年から毎年発表しているもので、男女間の賃金格差や育休取得状況などの10項目を元に順位が決められる。日本以外には、スイスやトルコ、韓国が下位を占めており、これらの4か国の順位は10年間変動していない。エコノミストは、「女性が家族と仕事の選択を迫られる日本と韓国が下位にとどまっている」と指摘している。 参考:The Economist「The Economist’s glass-ceiling index」 ○男女間賃金格差、38か国中ワースト3位 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位であった。具体的には、男性の賃金の中央値を100とした場合、女性の賃金の中央値は77.5となっており、22.5ポイントの差が開いている。以下の表は、主要各国の男女間賃金格差をまとめたものだ。各国の値を見ると、日本における男女間の賃金差が大きいことがわかるだろう。 国名 女性賃金の中央値 男女賃金格差 OECD加盟国平均 88.4 11.6ポイント イタリア 92.4 7.6ポイント フランス 88.2 11.8ポイント 英国 87.7 12.3ポイント ドイツ 86.1 13.9ポイント カナダ 83.9 16.1ポイント 米国 82.3 17.7ポイント 日本 77.5 22.5ポイント 参考:東京新聞「男女の賃金格差、開示を義務化へ 主要国でも格差大きい日本、女性の働きにくさ要因」 ●解決のためのキーワード ガラスの天井を解決するためのキーワードとして、「アンコンシャスバイアス」や「ESG経営」が挙げられる。多様化が進む現代で企業が生き残るためには、ガラスの天井を取り払い、女性の社会進出を支援する取り組みが不可欠だろう。ガラスの天井を取り除くためには、アンコンシャスバイアスに気づくこと、そしてESG経営を行うことが有効である。女性やマイノリティが働きやすい社会を作るために、ガラスの天井の解決につながるヒントを確認しておこう。 ○アンコンシャスバイアスの気づき ガラスの天井が生まれる要因として、アンコンシャスバイアスの存在が指摘されている。アンコンシャスバイアスとは、無意識のうちに生じる偏見や思い込み、根拠のない決めつけなどを意味する。たとえば「女性は仕事よりも育児をすべきだ」、「女性に力仕事は任せられない」などは、アンコンシャスバイアスの代表例だ。女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると、ガラスの天井の発生につながり、女性の昇進が妨げられてしまうだろう。アンコンシャスバイアスを解消するためには、自分の中に無意識の偏見があることを自覚しなければいけない。自分の言動に対する相手の反応を観察し、無意識のうちに他者を傷つけていないかどうかをチェックしよう。物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除くための第一歩である。 関連記事:アンコンシャスバイアスの具体例は?仕事上で気をつけたい対策 ○ESG経営の取り組み ESG経営とは、以下の3つの領域を考慮して経営を行うことを意味する。 ・ Environment:環境 ・ Social:社会 ・ Governance:企業統治 昨今は、ESGを投資の基準にするESG投資が注目を集めており、ESG投資額は世界中で増加傾向にある。ESG経営を理解するために、キーワードである「ESG」と「ダイバーシティ&インクルージョン」について見ていこう。 ■ESG ESGとは、投資家が企業投資を行う際の判断基準のひとつである。近年は環境や社会の持続可能性が懸念されており、ESGへの取り組みが企業の長期的な成長につながるという見方が強い。 関連記事:ESGとSDGsとの違いとは?意味や背景、人事として取り組めることを解説 ESGには世界共通の基準や定義が存在しないが、一般的には以下の3つで構成される。 ・ E:自然環境に配慮すること ・ S:自社が社会に与える影響を考えること ・ G:企業における管理体制が整っていること 内閣府男女共同参画局の資料では、半数以上の投資家が企業の女性活躍情報を投資判断に活用していることが明らかになった。女性活躍情報には女性役員比率や女性管理職比率などが含まれており、女性の昇進とESG経営の関係性の深さがうかがえる。 参考:内閣府男女共同参画局「女性活躍情報がESG投資にますます活用されています~すべての女性が輝く令和の社会へ~」 ■ダイバーシティ&インクルージョン ダイバーシティ&インクルージョンとは、組織において多様性が認められ、個々が強みを発揮できていると実感できる状態を指す。企業イメージの向上につながることや、ライフワークバランスに対する意識の高まりなどの理由から、企業ではダイバーシティ&インクルージョンの実現が求められている。また、組織として多様性を認め合う環境整備を推進することは、ESG経営の一環としても重視されている。ESG経営に取り組むのであれば、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方に基づいた企業運営が不可欠なのだ。 関連記事:インクルージョンとは?ダイバーシティとの関係や推進のためのポイント ●まとめ ガラスの天井とは、性別や人種などの見えない障壁によって、女性やマイノリティの昇進が妨げられることである。さまざまな調査からもわかるとおり、日本では女性の社会進出に関して諸外国から遅れを取っている。また、壊れたはしごも女性の昇進に関するキーワードだ。壊れたはしごとは、ファーストレベルの管理職に就く女性が少ない構造こそが女性の昇進を阻んでいる、という考え方を意味する。女性にとって働きやすい社会を実現させるためには、ガラスの天井や壊れたはしごの解決が不可欠だ。女性の昇進の妨げとなりうるアンコンシャス・バイアスの解消、女性の活躍につながるESG経営などに取り組み、ガラスの天井のない組織づくりを始めよう。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240820&ng=DGKKZO82880910Q4A820C2EA1000 (日経新聞 2024.8.20) 女性役員ゼロなお69社 プライムの4% 政府目標期限、来年に 前年度からは半減 女性役員がいない東証プライム上場企業は69社で、全体の4.2%であることが日本経済新聞社の集計でわかった。政府が女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)で掲げた「女性役員ゼロ企業0%」の目標期限は2025年に迫っている。24年3月末と23年3月末時点で東証プライムに上場する1628社を対象に、23年度(23年4月期から24年3月期)の有価証券報告書「役員の状況」記載の男女別役員数から算出した。最も数の多い3月期決算企業は、6月末の株主総会での役員選任を反映している。女性役員ゼロの企業は前年度の146社(9.0%)から半減。ドラッグストア運営のGenky DrugStoresで3人が社外取締役に就くなど81社が新たに「ゼロ状態」を解消した。政府は23年6月にまとめた女性版骨太の方針で「30年までに女性役員比率30%以上」の目標を掲げた。同年12月の閣議決定では「25年までに女性役員比率19%」を中間目標に設定している。女性役員の数自体は3083人で全体の16.2%と前年度比で2.6ポイント増えたが、企業単位では「19%」の達成企業は540社(33.2%)、「30%以上」は122社(7.5%)にとどまる。現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには、今は男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならない。役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要になる。ただ就業者の半分近くが女性にもかかわらず、管理的職業従事者の女性比率は14.6%(24年版男女共同参画白書)。政府目標の達成には女性社員の育成も求められる。女性役員比率が最も高い(9人中5人)人材サービスのディップの女性役員は全員が社外だ。女性社外役員候補の研修などを担うOnBoardの越直美最高経営責任者(CEO)は「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内の人材」と話す。アステラス製薬は1991年入社の広田里香氏が取締役に就任、サンゲツは97年入社の高木史緒執行役員が取締役に選任された。 *3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998419.html (朝日新聞 2024年7月31日) 男女別学 公立共学化、どうする埼玉 20年ぶり再燃、生徒から存続訴えも かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進み、今では主に残るのは埼玉、群馬、栃木の3県だけになった。そんな埼玉県で、共学化を求める勧告を受けた議論が大詰めを迎えている。約20年前は「存続」と結論づけたが、男女共同参画が進む中で再度対応を迫られた県教育委員会は、8月末までに結論を出す。発端は2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が、県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫る勧告だった。同様の勧告は02年に続いて2度目だが、県内では賛否の表明が相次ぐ。元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は今年4月に記者会見し、「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」と説明。「社会的なリーダーになるためには、高校生活の中で、男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要だ」と強調する。トランスジェンダーの生徒が、将来、履歴書の学校名で性的マイノリティーであることが明かされてしまう懸念も指摘する。これに対し、共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも直後に会見し、「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と反論した。ジェンダーによって傷ついた体験を抱え、安心できる環境を求めて別学を選んだ人もいることや「女子校の方が女子のリーダーを育てやすい」などと指摘し、別学の維持を訴えた。7月下旬には、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出した。女子校2年の生徒(16)は「対話を重ねることで私たちの考え方を知ってもらい、共学化を止めたい」と話した。浦和一女では昨秋、全校生徒が参加する恒例の「討論会」を開き、「男女別学高校の共学化」を議題にすると、発言は反対一色となった。「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」。3年生の一人(17)は議論を振り返り、「埼玉では別学も共学も選択できる(のがいい)。異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」と語る。ただ、ジェンダーをめぐる社会の意識が多様化する中、02年の勧告時とは状況が変わったとの見方もある。前回は、別学校のPTAらでつくるグループが約27万人の反対署名を知事に提出し、県議会では別学維持派が超党派の議員連盟を結成するなど、高校の内外に波紋は広がった。だが、今回はそこまでの大がかりな動きはない。ある県議は「約20年前は県民を巻き込んで盛り上がったが、いまはジェンダー平等などが叫ばれ、社会の空気が明らかに変わった」と話す。 県教委は今年1~3月、別学12校の同窓会や保護者から意見を聞いた。4月19日からは、県内の中高生とその保護者を対象にアンケートを実施し、約7万500件の回答が寄せられた。別学校の生徒3割を含む高校生の回答では「共学化しない方がよい」が6割だった一方、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割で最多だった。県教委は、アンケートはあくまでも「参考資料の一つ」と説明する。各高校の生徒や保護者らの意見を踏まえ、8月中に別学校のあり方をまとめた報告書を公表する。 ■共学化、背景に共同参画・少子化 全国的には、公立の男女別学高校は減っている。戦前は男女別の教育が基本だったが、1947年に男女共学などを定めた教育基本法が施行。連合国軍総司令部(GHQ)主導の教育改革により、多くの公立高校で共学化が進められた。一方で、北関東や東北などでは別学校が残った。GHQの担当者によって地域ごとに温度差があったためで、埼玉では当時、同じ地区に男子校と女子校がある場合は共学化しなくてもいい方針になったとされる。文部科学省の学校基本調査によると、男子のみ、女子のみが通う別学の公立高校は64年度は全体の13%にあたる382校(男子のみ210、女子のみ172)あった。その後は、男女共同参画意識の高まりや、少子化の影響で共学化や統廃合が進んだことなどで、2023年度には全体の1%の45校(男子のみ15、女子のみ30)まで減った。福島県では別学校が約20校あった1993年、県の有識者会議が「男女共同社会が進行するなか、共学化を逐次進めていく必要がある」と答申。03年までにすべて共学化された。01年度に22校の別学校があった宮城県も、10年度までに県立高校をすべて共学化した。県教委によると、「多感な高校時代には男女が共に学び理解し合う環境が望ましい」などとして、当時の知事が主導したという。最近も、少子化に伴う定員割れなどを理由に、和歌山県内唯一の公立女子高が23年度末に閉校。5校の別学があった鹿児島県でも、男子校1校が4月に共学化し、別の男子校1校も26年度から段階的に共学になる予定だ。朝日新聞の調べでは、24年4月現在、別学校があるのは宮城、埼玉、群馬、栃木、千葉、島根、福岡、鹿児島の8県で42校。埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に4分の3が集中する。男女別学高校について、盛山正仁文科相は3月の会見で「男女別学を一律に否定するものではない。それぞれの学校の特色、歴史的経緯等に応じて、設置者において適切に判断されるべきだ」との見解を示している。 ■教育内容が大事、別学にも利点 昭和女子大の友野清文特別招聘研究員(ジェンダー教育学)の話 共学化すれば、男女共同参画社会が進むという単純なものではない。大事なのは、ジェンダー問題に向き合う各学校の教育方針であり、教育の内容だ。志望する生徒がいるのであれば、公立でも別学を選択できる環境を残すことは一定の意味がある。共学の場合でも、男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある。共学の方が「性差」を意識する機会が多く、別学の方がより自分らしく過ごし、学べる面もある。今、文部科学省は公立の普通科高校の個性化・多様化を進めている。別学の議論は、高校のあり方を考えるいい機会だ。埼玉の別学校は伝統を基盤により新しい教育を探れる可能性がある。これから進学する生徒やその保護者の意見を踏まえ、検討する必要がある。 ■憲法は性差別禁止、共学が原則 明治大の斎藤一久教授(憲法学)の話 法の下の平等を定めた憲法14条は、性別による差別を禁止している。憲法に従えば、男女共学が原則だ。性別によって入学を制限する別学校は、憲法違反の疑いがある。一方で、別学が必要だと結論づけるとすると、十分に合理的な理由があるかが論点になる。別学維持を主張する理由として、よく「伝統」が挙げられるが、行事の違いなどは根拠にならない。女子校はリーダーシップを育成できるという意見もあるが、内申書などで、もともとリーダーの資質がある女子を入学させているに過ぎない。公立高校で別学という選択肢が必要な合理的な理由があるなら、小中学校にも必要になってしまう。自宅から最も近い高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば、違憲判断が出るかもしれない。 *3-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS8C3HP6S8CUTNB00RM.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年8月13日) 公立の男女別学は選択肢?不公平? 割れる意見 危機感持つ卒業生も 2023年8月、埼玉県の第三者機関である男女共同参画苦情処理委員が、浦和や浦和第一女子など12校ある県立の男女別高校の共学化を求める勧告を出した。県教委は8月末までに、苦情処理委員への報告をまとめる。共学化か、別学維持か――。報告を前に、共学化をめぐる議論を追った。県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが、「公教育」についての考え方だ。「公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平だ」。共学派推進の市民団体などは昨年8月の勧告以降、会見などで活発に意見を表明してきた。別学校の多くは地域の伝統校で偏差値も高めのため、「選択できるのは学力の高い一部の生徒に過ぎず、そもそも公平性に欠ける」との声が上がる。また、逆に「地域の進学トップ校に行こうとしても、共学という選択肢がない」(県北部の中学3年生)との声もある。なかでも、進学実績で「県内トップ」とされる浦和高校が男子校であることが、男女の教育機会に差を生んでいるという批判は根強い。国内最難関とされる東大の2024年の合格者数をみると、県内の公立高校では浦和が最多の44人。続く共学の大宮の19人と2倍以上の開きがあった。女子校で最も多いのは浦和第一女子と川越女子で2人ずつだった。一方、別学維持を求める署名を7月下旬に県教育委員会へ提出した浦和高校3年の男子生徒(17)は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できている方が選択肢が広がる」と語る。別学が私学だけになると、金銭面で余裕がない人の選択肢が狭まるのではないかとの懸念だ。県によると、県内の高校生に占める私立の生徒の割合は約3割。授業料は県立の全日制が年11万8800円、私立の平均は年約40万3千円だ。文部科学省の調査(21年度)によると、授業料、修学旅行費、学校納付金などにかかる「学校教育費」は、公立高30万9千円、私立高75万円でさらに差が大きかった。一部の私立高生は、国の就学支援金に埼玉県の助成を上乗せすれば授業料平均額相当(年40万3千円)の補助を受けられるが、所得制限で補助を受けられない家庭もあり、物価高騰などで負担が重くなっているという。県教委による男女共学校の保護者らへの意見聴取でも「男女別学は特色ある学校という観点からも意義がある」「地理的に(公立の)男子校しかないのであれば問題だが、そういった状況ではない」などと別学維持を求める意見も挙がる。別学校の同窓会長らは「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と訴えている。ただ、少子化の影響もあり、地域によっては別学校が選ばれなくなっている状況もある。昨年度の県立の別学校(全日制)の入試倍率をみると、春日部1・50倍、川越1・47倍、浦和1・38倍、浦和一女1・37倍など県南部周辺が高かった。一方で、熊谷1・11倍、松山女子1・04倍、松山1・02倍、熊谷女子0・99倍、鴻巣女子0・92倍など、県北部では1倍を割る高校もあった。熊谷女子の卒業生という中学3年の保護者(47)は現状への危機感を口にする。「倍率が1倍を切ったのには驚いた。少子化が進むなか、地域によっては別学校も男女共学化で、より魅力的な学校像を探る時期なのかもしれない」。 高等学校(全日制)の学校教育費の内訳 <公立> <私立> 入学金 1万6千円 7万1千円 授業料 5万2千円 28万8千円 修学旅行費等 1万9千円 2万6千円 学校納付金等 3万2千円 11万5千円 図書・学用品等 5万3千円 6万4千円 教科外活動費 3万9千円 4万7千円 通学関係費 9万1千円 12万9千円 その他 4千円 7千円 合計 30万9千円 75万円 ※文部科学省の22年度「子供の学習費調査」より *3-3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16016631.html (朝日新聞 2024年8月23日) 公立高共学化「主体的に推進」 埼玉県教委、別学12校の方法・時期先送り 埼玉県で伝統校を中心に12校ある県立の男女別学高校の共学化をめぐり、埼玉県教育委員会は22日、「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表した。ただ、共学化の方法や時期、校名などは明記せず、具体的な進め方は先送りした。昨年8月、県の第三者機関の男女共同参画苦情処理委員から「早期の共学化」を勧告され、1年以内の報告を求められていた。同様の勧告を受け、県教委が2002年度にまとめた報告書では「当面維持」としていた。今回の報告書では、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展」など社会の変化に応じた学校教育の変革が求められると指摘。「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」と述べ、「今後の県立高校の在り方について総合的に検討する中で、主体的に共学化を推進していく」と結論づけた。一方、別学校の共学化に当たっては、「県民の意見を丁寧に把握する必要があるため、アンケートや地域別での意見交換、有識者からの意見聴取などを実施していく」とし、具体的な時期などは示さなかった。日吉亨教育長は22日の記者会見で、結果的に別学校を存続させる可能性を含めて「総合的に考える」としつつ、「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」と話した。(杉原里美) ■賛否両派から不満 今回の勧告は「県立の男子高校が女子の入学を拒んでいるのは、女性差別撤廃条約に違反する」という県民の苦情が発端だった。県教委は別学校や共学校の保護者、生徒、市民団体などから意見を聴取。県内の中高生とその保護者を対象に記名式のアンケートも実施した。この間、共学化賛成派と反対派が鋭く対立。賛成派の市民団体「共学ネット・さいたま」が4月に記者会見を開くと、その1週間後に浦和、浦和第一女子など別学4校の同窓会長らが会見を開いて反論した。激しい対立を背景に、報告書は共学化への道筋を明確に示さなかった。勧告は、県立高校の「公共性」の観点から別学校を問題視したが、報告書は別学校に「一定のニーズ」を認め、共学校も選択できることを踏まえ、「男女の教育の機会均等を確保している」と評した。あいまいさが残る報告書に対し、賛否両派から不満の声が漏れた。共学ネット・さいたまの清水はるみ世話人代表(72)は「県教委が主体的に推進するという(報告書の)意義はあるが、具体的な計画が何もない。共学化を進める検討会議を立ち上げてほしい」と注文。男子校の浦和高校同窓会の野辺博会長(71)は「県民の意見を無視した報告書。共学化推進が明記され残念だ。すぐに共学化しないとも受け取れるが、また数年後に同じことを繰り返すのではないか」と反発した。 *3-3-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240826&ng=DGKKZO83007160V20C24A8TYA000 (日経新聞 2024.8.26) 〈多様性 私の視点〉男女賃金差、職業選択が影響 東京大教授 山口慎太郎氏 男女間賃金格差は依然として課題であり、労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響を及ぼしている。この問題を解消するためには、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠だ。男女の異なる職業選択の背景には、仕事に求める要件の違いが大きくかかわっている。男女ともに給与や昇進機会を重視するのは当然として、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向が強い。これには、育児や介護といった家庭内の責任を担う女性が多いことが影響していると考えられる。また、複数の研究は、女性は競争が少なく、リスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差につながっている。さらに、最新の研究によると、仕事の持つ社会的意義を重視する度合いにも男女間で大きな差があることが明らかになっている。世界47ヵ国、11万人を対象とした調査では、女性が仕事の社会的意義をより重視する傾向が強いことが分かっている。アメリカのMBAプログラムに通う学生を対象とした研究によると、社会的意義が非常に高いと感じられる仕事であれば、女性は15%低い賃金を受け入れるが、男性は11%低い賃金までしか受け入れない。このような選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因となっている。こうした選好がどこから生じるのかについては明確な答えは出ていないが、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのかもしれない。この研究結果は、企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆を与える。例えば、女性の少ない金融業界においては、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる。また、政府が公共調達や税制などを通じて、企業の社会的責任(CSR)に対する努力を優遇することで、企業の取り組みを後押しすることができるだろう。 *3-4:http://www.newstokyo.jp/index.php?id=299 (都政新聞 2011年4月20日号) 局長に聞く、会計事務の専門集団、会計管理局長 新田 洋平氏 東京都の各局が行っている事業の内容を、局長自身によって紹介してもらう「局長に聞く」。31回目の今回は会計管理局の新田洋平氏にご登場いただいた。出納事務以外にも、石原知事自身が自らの最大の功績と自負する新公会計制度改革を推進するなど、目立たないながらも重要な業務を担っている。 ●出納事務を通じ都政運営に貢献 ―会計管理局は、その仕事の中身が都民にわかりにくいと思われています。 我々は都民向けの具体的な施策を持つ他局と違い、都民からは見えにくい組織の典型だと思います。各局が施策を実施するのに伴って、例えば工事請負代金などいろいろな支払が生じますが、我々は、そうした支払の実務を担っています。支払事務以外では、都民の皆さんからいただく税金や使用料、あるいは国庫補助金や都債収入などの、収入面での実務も取り扱っています。間接的ではありますが、都民や企業との関わりが深い仕事です。地味で見えにくいのですが重い責任を担っており、各局とペアを組んで円滑な都政運営に努めています。 ―出納事務の責任の重さはわかりますが、それ以外ではどのような仕事を行っていますか。 東京都は、将来に備えて必要な資金を基金として積み立てており、手元資金約3兆8千億円のうち、2兆8千億円が基金となっています。これを遊ばせておくわけにはいかないので、支払までの間に効果的な運用を図っています。21年度実績では3兆8千億円の資金を運用した結果、低金利時代にも関わらず188億円の運用収益をあげています。我々は、交通局、水道局、下水道局などの公営企業を除いた各局のほか、警視庁や東京消防庁も含めた収入支出や資金管理も行っています。一例として、東日本大震災を受けて警視庁や東京消防庁の出番が増えており、緊急な資金対応の必要性も生じています。東京消防庁がハイパーレスキューを福島などの被災地に派遣した際にも、急遽、資金が必要になったということで、深夜に用意しました。 ●公会計制度改革を全国でリード ―新公会計制度の導入は石原都政の大きな目玉ですね。 石原知事自身、3期12年の最大の実績は、「会計制度改革だ」と述べていますが、知事のリーダーシップによって導入した複式簿記・発生主義会計は、貸借対照表などを見れば、官庁会計の専門知識のない一般都民の方でも東京都の財政状況がわかるすぐれものです。例えば、21年度一般会計決算で見ると、都の資産は29兆円で、負債は8兆円です。つまり都の正味財産は差し引き21兆円あり、非常に健全だということがわかります。一方、国は21年度の一般会計決算で、資産は260兆円ありますが、負債は650兆円にも達しており、390兆円もの債務超過の状態にあることがわかります。国家財政は非常に厳しい状況にありますね。 ―行政のトップである首長の理解はどうですか。 各自治体の首長さんとお話しすることがありますが、特に大阪府の橋下知事や町田市の石阪市長は非常に理解が深いですね。橋下知事が就任して、大阪府には膨大な隠れ借金があることが明らかになりましたが、実態をわかってもらうためには従来の官庁会計ではダメだということで、石原知事に協力要請があり、我々もそれに応えてきました。その結果、大阪府では今年度から、東京都の方式に準じた会計制度の試験運用を行っています。都内では町田市が来年度から新公会計制度の導入を目指しています。一方で、各自治体の職員が導入に前向きであっても、首長さんの理解がなければ前に進まないのも事実です。首長さんの認識を変えてもらう必要があることから、昨年、知事から指示を受け、首長向けのパンフレットを作成しました。その中に「置いてきぼりの日本」ということで、世界各国の中で複式簿記を導入している国とそうでない国を色分けした世界地図を掲載したのですが、日本が世界の大きな潮流から取り残されていることがひと目でわかります。知事もこの点を取り上げて、「日本の周辺で複式簿記を導入していないのは、北朝鮮とパプアニューギニアくらいだ」と、機会あるごとに発言しています。 ―公会計制度改革の重要性は、これからも増してきますね。 都民・国民に対する説明責任などを考えれば、抽象的な言葉で語るよりも具体的な数字でわかりやすく伝えることが今後ますます重要になってきます。複式簿記・発生主義会計の導入は、いまや「必要」を超えて「必然」だと思います。もちろん当局の基本的な業務は、最初にお話ししたように出納業務です。先ほどの東京消防庁の例のように毎日、多くの職員が汗をかいているということを是非、都民の皆さんにもおわかりいただければと思います。 *3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16018363.html (朝日新聞 2024年8月26日) 越境入学、元議長が再三要求 担当者の上司らに 千代田区 東京都千代田区立小中学校へ区外から通う越境入学で不正な申請があった問題で、仲介した元区議会議長が保護者から金品を得た2021年度入学のケースでは、区教育委員会側が越境入学を制限していた中で、元議長が再三にわたり区教委幹部らに要求していたことが関係者への取材でわかった。その後、審査を通っていた。このケースを含めた5件で、保護者の勤務地が千代田区内にあるよう装う虚偽の書類などが作成され、申請されたことが判明しているが、区教委は取材に、いずれも「虚偽の認識はなかった」と説明。元議長の働きかけは「審査に影響していない」としている。元議長は嶋崎秀彦氏(64)=区発注工事を巡る汚職事件で有罪判決。複数の関係者によると、元議長は20年秋ごろ、東京都江東区の女性から、子どもが千代田区立中へ越境入学できるよう要望を受けた。自身の支援者である千代田区内の店舗に、女性が店で勤務しているよう装った就労証明書の作成を依頼した。元議長は申請の直前、区教委に申請を許可するよう要求。担当者は、受け入れを制限していることなどを理由にすぐには受け入れなかったが、元議長はその後も上司らに電話するなどし、許可するように求めたという。区教委によると、この区立中では21年度入学で、「保護者の勤務地が区内」という基準での受け入れは運用として取りやめていた。女性は虚偽の証明書を申請資料として提出し、区教委の審査を経て、21年度の入学が許可された。元議長は女性側から銀ダラや最中(もなか)を受け取ったという。千代田区教委によると、同区への越境入学では基準が11項目あるといい、満たす項目があれば審査の対象になる。江東区の女性のケースについては、就労証明書について「虚偽だという認識はなく、その認識の上で適切な事務処理を行った」と説明。就労要件だけではなく「特別な事情」もあったとしたが、どの項目にあたるかは明らかにしなかった。 ■千代田区、受け入れ減少傾向 千代田区にある公立校は小学校が8校、中学校が2校(中等教育学校を除く)。区教委によると、越境入学の受け入れは減少傾向にある。小学校で2012年度に入学が認められたのは86件あったが、23年度には14件と2割弱まで減少。中学校では12年度は64件で、23年度は25件と4割弱になった。千代田区の越境入学の審査基準は11項目あり、どの項目を審査で採用するかは学校ごとに異なるという。11のうち、保護者の勤務先が学区内にあり、共働きなどで放課後の保護などの配慮を必要とする「就労要件」にあてはまるケースが以前は8割以上だったが、就労要件のみでの受け入れを認める学校は減少。20年度は小中合わせて6校あったが、23年度は3小学校になった。中学校は21年度から原則として就労要件のみでの受け入れをしていない。背景には、区立校の人気に加え、区内にマンションなどが建設されて子どもの数が増え、区外を受け入れる余裕が無くなったことがあるという。 <日本のエネルギー基本計画について> PS(2024.9.1追加):*4-1-1・*4-1-2は、①東電HDは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じて大型変電所を新増設 ②AI普及をにらんだ電力インフラの整備が課題でデータセンターが集まる首都圏に変電所新増設計画の半数集中 ③2030年までに全国で18カ所の大型変電所新増設が計画、うち約半数は首都圏 ④工場等の新設時は電力会社に使用量を伝えるが、供給量が足りなければ建設できない ⑤九電はTSMCの新工場建設に合わせて熊本県内2カ所の変電所増強を決定 ⑥北電もラピダスの新工場のため、2027年に南千歳で変電所を新設 ⑦日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少したが、2023年度を底に増加に転じる見通し ⑧データセンターは膨大な計算が必要な生成AI普及でサーバー1台当たり消費電力が10倍近くに増える ⑨日本政府は再エネ豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている ⑩河野氏は自民党総裁選を前に脱原発を修正し、「電力需要の急増に対応するため、原発再稼働を含めて様々な技術を活用する必要がある」「EVの急速な普及で、再エネをこれまでの2倍のペースで入れたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」とした ⑪自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める 等としている。 しかし、日本は「首都直下型地震や富士山の噴火がいつ起こっても不思議ではない」と言われている地震火山国で地熱も豊富なため、データセンターは、⑨の日本政府のように、再エネが豊富な地方に分散させるのが、リスク管理まで含めて合理的である。にもかかわらず、①②③のように、首都圏にデータセンターを増やすため送電網を増強し、④⑤⑥⑦⑧⑩のように、データセンター・半導体生産・EVの普及を口実に原発再稼働や原発新増設を主張するのは、原発推進のための理由の後付けにほかならない。そして、下の図のように、世界では再エネ拡大とともに再エネの価格も下がっており、技術進歩とともにさらに再エネ設置可能面積は増えるのであるから、「エネルギー・ミックス」と称してあらかじめ電源構成を定めそれに固執する馬鹿な日本では、技術進歩しても再エネを増やせず、再エネ価格も下落しないのである。さらに、自民等総裁選に出るという河野氏は、⑪の理由から脱原発を修正されたそうだが、これが選挙時には大手電力会社の応援を受け、多額の寄付金をもらっている自民党の限界だと思われた。 そもそも、*4-2-1のように、巨大IT企業の米アップルは、再エネ100%の取り組みを行なっており、2030年までにサプライチェーン全体で温室効果ガスの排出を「実質0」にすると宣言して、実際にサプライチェーン全体で使用した再エネは前年から倍増したのだ。これに対し、日経新聞等は「コストが課題」などと主張するが、コストなら原発ほど高いものはなく、再エネの方がずっと安い。そのため、1500社以上の半導体・IT企業が集中するシリコンバレー(米国カリフォルニア州サンフランシスコ、サンマテオ、サンホセ、サンタクララ付近の渓谷地帯)には、日本が「原発は安全な安定電源だ」と言って原発に執着していた1990年代始めから、現在と同じ型の風力発電機が並んでいた。私は飛行機からそれを見て通産省(当時)に太陽光発電機器の開発・普及を提案したのだが、「女性の言うことなんか、(どうせ大したこと無いから)聞かなくて良い」と考えた馬鹿が再エネ普及を妨害して日本を遅れさせた事実があるのだ。 さらに、*4-2-2は、⑫全国的にバスや鉄道の廃線が増える中、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている ⑬地方は急速な人口減少等で路線バスの9割以上が赤字で、運転手の確保も容易ではなく、公共交通網の維持が厳しい ⑭大分県玖珠町は、人口減少が続き、高齢化率も約40%と大分県の平均を上回り、郊外ほど移動手段がなく、町民が住み慣れた場所に住み続けられない ⑮そのため、コミュニティーバスの運賃を下げ、自宅前まで迎えに行くデマンド交通への転換を始めて、高齢者の外出を促す 等としている。 このうち⑫⑬については、バスの小型化・EV化・自動運転化を行い、道路や駐車場の屋根に太陽光発電機を設置して発電し、安価に給電するシステム(https://www.shindengen.co.jp/products/eco_energy/ev_wireless/ 、 https://www.audi.jp/e-tron/charging/ach/?utm_source=yahoo&utm_medium=cpc&utm_content=_21278479597_160526617325_698993347831_kwd-317363273911&utm_campaign=02NN_SCH_F01%28AudiChargingHub%7CYSA%7CSEA%29&utm_term=p_%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%20%E5%85%85%E9%9B%BB 参照)にすれば、バス運行の損益分岐点が著しく下がるため、再エネの豊富な地方から始めて事例を見せればよいと思う。また、⑭⑮のように、バスが自宅前まで迎えに行けば高齢者の外出が促されるのは確かだが、他の乗客もいるため、EVを完全自動運転化して高齢になっても自家用車に乗れるようにするのがBestだ。さらに、農林漁業は人口密度の低い地域で行なう産業であるため、その従事者の利便性を無視して「赤字路線は廃止してコンパクトシティーにすれば良い」という主張は、全体を見ていないのである。 ![]() 2024.2.8Sustech 2023.2.27日経新聞 2022.12.23朝日 2024.5.15日経 (図の説明:1番左の図のように、G7各国は脱炭素電源への転換を推進し、2035年までの電力部門の完全又は概ね脱炭素化に合意しているが、原子力を20~22%も使う不合理な電源ミックス目標を設定しているのは日本だけである。何故なら、左から2番目の図のように、技術が進歩すれば太陽光発電できる場所も広がるため、あらかじめ電源ミックスを定めることなどできないからで、米国の「内訳なし」かドイツ・イタリアの原子力0が正解なのだ。にもかかわらず、右から2番目の図のように、日本は原発に関する諸問題が何一つ解決できず、原発は金食い虫であるのに、原発の運転延長を決め、建て替えや新増設まで検討している。1番右の図は、2040年度の電源構成の見通しを決めるエネルギー基本計画だそうだが、合理性のあるリーダーシップは見られず、未だに費用対効果の悪いバラマキや国富の国外流出が散見されるのだ) ![]() ![]() ![]() Kepco Asuene 2024.8.30日経新聞 (図の説明:左図のように、日本のエネルギー自給率は著しく低いが、これは再エネを増やせばすぐに解決できる。また、中央の図のように、再エネは真剣に普及させれば価格が下がるのは当然なので、「再エネは高い」というのは原発再稼働・新増設の言い訳にすぎない。また、右図の「データセンターへの電力供給のため原発再稼働・新増設が必要」というのも、データセンターは地方の再エネの豊富な地域に分散させるのが地方の活性化と危機管理の上で合理的であるため、原発再稼働・新増設の言い訳であろう) *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240830&ng=DGKKZO83119170Q4A830C2MM8000 (日経新聞 2024.8.30) 送電網、首都圏で集中投資 データ拠点需要増、東電4700億円、AI普及へ安定供給 電力会社がデータセンターや半導体工場の増加に対応して送電網(総合2面きょうのことば)を増強する。東京電力ホールディングスは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じ、大型変電所を新増設する。データセンターが集まる首都圏に変電所の新増設計画の半数が集中しており、安定供給に向けて人工知能(AI)の普及をにらんだ電力インフラ整備が課題となってきた。電力広域的運営推進機関が3月にまとめた各社の開発計画をもとに、日本経済新聞社が電力需要の拡大に対応した大型変電所の新設と増強分をまとめた。30年までに全国で18カ所の新増設が計画されており、そのうち約半数となる8カ所が首都圏となる。容量ベースでも約4割を占める。東京電力パワーグリッド(PG)は27年度までの5年間で産業向けを含む送電設備の増強に約4700億円を投じる。直近5年間と比べ3倍に増やす。6月には24年ぶりとなる大型変電所を千葉県印西市に新設した。東電PG管内では多摩や相模原などでもデータセンターの開発計画が相次ぐ。金子禎則社長は「印西と同規模の集積地が5~6カ所あり、消費需要は33年度までに700万キロワット増える」とみており、エリア内での変電所の増強を進める。発電所で作られた電力は効率良く運ぶために電圧を高めて送電する。変電所は段階的に電圧を下げて顧客に供給する役割を担う。変電所の能力はエリア内の電力需要を基に決めている。工場などの新設時には電力会社に使用量について伝えるが、供給量が足りなければ建設できない。電力会社は需要の増加に合わせて、変圧器や送電線を増強する。半導体工場の誘致を進める九州や北海道でも変電所が不足している。九州電力は台湾積体電路製造(TSMC)が新工場を建設するのに合わせ、熊本県内の2カ所の変電所の増強を決めた。投資額は100億円超となる見通し。北海道電力もラピダスの新工場を見据えて、27年に南千歳で変電所を新設する。日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少が続いてきたが、23年度を底に増加に転じる見通し。電力広域的運営推進機関の試算では33年度までの10年間で消費電力が4%増える。データセンターは膨大な計算が必要な生成AIの普及でサーバー1台当たりの消費電力が10倍近くに増えることもある。変電所の新増設だけでなく、老朽化した設備の更新や再生可能エネルギーへの対応に向けての投資も増えている。消費者の負担を抑えるには電力需要の分散が課題となる。日本政府は再生可能エネルギーが豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA305AX0Q4A730C2000000/ (日経新聞 2024年7月31日) 河野太郎氏、脱原発を修正 AIで電力需要増え「活用必要」 河野太郎デジタル相は31日、茨城県で東海第2原子力発電所(東海村)や高速実験炉「常陽」(大洗町)を視察した。記者団に「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含めて、様々な技術を活用する必要がある」と述べた。自民党総裁選を前に「脱原発」色を修正した。「生成AI(人工知能)が急速に発展し、データセンターのニーズが増えている」と指摘した。電気自動車(EV)の急速な普及に言及した。「再生可能エネルギーをこれまでの10年間の2倍のペースで入れられたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」と話した。「原発再稼働、再エネから核融合に至るまで、色々な幅の中で何ができるようになるか」を検討する必要性があるとの見解を示した。31日にはX(旧ツイッター)でも一連の視察を報告した。日本の電力需要が増加に転ずる予測があることに触れた。河野氏はもともと脱原発を訴え、原発ゼロへの道筋を明確にするよう訴える立場だった。再エネを最優先し、最大限導入することを主張してきた。2021年の前回総裁選に出馬した際は将来の脱原発を目指しつつ「安全性が確認できた原発は再稼働するのが現実的」との姿勢をとった。今回はさらに原発活用の必要性を前面に出した。エネルギーは河野氏が「ライフワーク」と位置づける政策のひとつだ。祖父の一郎氏は当時の経済企画庁長官として1957年の日本原子力発電の設立にかかわった。今回視察した東海第2原発は日本原電が運営している。2011年の東日本大震災で停止して以降、安全対策工事を進めているものの再稼働に至っていない。国際エネルギー機関(IEA)が7月に公表した報告書は「安定した低排出電源の必要性などから、原子力発電が地熱発電とならんで魅力的な存在になりつつある」と指摘する。河野氏も31日の発言で「再生可能エネルギー、それから原発というゼロエミッションの電源で必要な電力需要をまかなうのは日本だけじゃなく、各国がやらなければいけないことだと思う」との認識を表明した。経済成長やEVの浸透などで電力需要は世界的に伸びている。報告書は23年に2.5%だった世界の電力需要の成長率が24年は4%ほどと過去20年で最高水準になる見通しを示している。こうした環境変化も河野氏の発言の背後にあるとみられる。国が基本方針とする「核燃料サイクル」については「予算を投じる以上、効果をきっちり見る必要がある」と語った。岸田文雄首相の自民党総裁の任期は9月末までだ。その前にある総裁選に向け、河野氏は有力な「ポスト岸田」候補のひとりとして名前が挙がる。7月26〜28日の日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査で次の総裁にふさわしい人を聞いたところ5%が河野氏と回答した。最も多かった石破茂元幹事長の24%、小泉進次郎元環境相の15%と差がついている。河野氏は21年の総裁選の党員・党友票で当選した首相を上回った。一方で国会議員票で差をつけられて1回目の投票も決選投票も敗れた。自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める。21年の総裁選は脱原発への懸念から賛同を得られなかった側面がある。原発推進の立場を打ち出すことはエネルギー政策で距離を縮めて、議員の支持を広げることにつながりうる。河野氏は31日、量子科学技術研究開発機構(QST)の那珂フュージョン科学技術研究所(茨城県那珂市)にも足を運んだ。核融合エネルギーの早期実現のために日本と欧州が共同で実施するプロジェクトの進捗を確認した。河野氏は「世界に打って出ていける技術開発は温暖化対策という意味でも、日本経済の未来にとっても大事なことだ」と言明した。 *4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ4G72C7Q4GUHBI016.html (朝日新聞 2022年4月15日) アップル、再エネ100%の供給元倍増 「外圧」うけ日本は20社増 米アップルは14日、同社向けの製品をつくるのに100%再生可能エネルギーを使うサプライヤー(供給元)が213社となり、1年前からほぼ倍増したと発表した。日本企業は9社から29社となった。日本は欧米よりも再エネの普及が遅れているとされる。巨大IT企業という「外圧」が日本企業の環境戦略に変化を与えている。同社の再エネ100%の取り組みに参加する企業は25カ国に及び、主要取引先の大半が含まれる。日本企業では、シャープやキオクシアなどが新たに参加した。欧州の参加企業は11社増えて25社となった。中国でも23社が新たに加わった。年間2億台以上のiPhone(アイフォーン)を売るとされるアップルの存在感は大きく、参加企業は年々増えている。アップルは2030年までにサプライチェーン(部品供給網)全体で温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすると宣言している。昨年同社が供給網全体で使用した再エネは前年から倍増した。現在の取り組みは、年間で300万台近いガソリン車を削減するだけの効果があるという。同社は日本や中国で太陽光発電プロジェクトに投資をしたり、供給元に助言をしたりして、再エネ導入を支援する。アップル担当者は昨年、日本などでの課題として、「コスト効率が良く信頼できる再エネにサプライヤーがアクセスするうえで、世界の多くの地域で政策が障壁になっている」と話していた。同社は日本について今回、企業が発電事業者と直接契約して電気の供給を受ける「電力購入協定(PPA)」と呼ばれるしくみが広がるなど、「クリーン電力の新たな選択肢が増えている」と指摘した。 ●コストが課題 それでも「対応している企業が選ばれる」 電子部品大手の村田製作所(京都府長岡京市)は、2050年度までに会社で使うすべての電力を再生可能エネルギーでまかなう目標を掲げている。しかし、米アップルとの取引にかかわる事業については、30年度までに前倒しで達成できるよう、優先して取り組んでいる。同社の生産子会社の金津村田製作所(福井県あわら市)では、昨年11月、同社の工場として初めて再エネ使用率100%に踏み切った。使う電力のうち自社の発電で13%をまかない、残る87%は再エネ由来の電力を外部から買っている。いずれは自社発電を50%まで高める計画だ。工場内の駐車場の屋根などに太陽光発電パネルを敷き詰め、独自に蓄電システムも開発した。天気や気温などの気象条件と工場の稼働状況を過去のデータとも照らし合わせて分析。翌日に発電できる量と使う電力量を予測して、無駄なく再エネを使っているという。いま工場で発電できる再エネは年間74万キロワット時。二酸化炭素排出量を年間368トン削減できるという。同社の工場は北陸地方に多く立地している。豪雪地帯だと冬場は天候が悪くて太陽光発電が思うように使えない。それでも、再エネ100%にこぎ着けた金津村田製作所のしくみを、ほかの工場にも広げる考えだ。日本では再エネの購入費用が比較的高く、規制なども多いため、調達が難しい傾向にあるとされる。費用面だけでみれば再エネ100%は割に合わない面もある。しかし、同社は売上高に占める海外比率は9割に達している。取引先だけでなく、消費者の環境意識にも目配りが必要だという。担当者は「今後はますます、きちんと対応している企業が選ばれるだろう」と話している。2020年からアップルの再エネの取り組みに参加している素材メーカーの恵和(本社東京)では、グローバル企業の取引先から再エネ利用に取り組んでいるかどうかの調査が増えているという。同社の広報担当者は、「自信を持って『はい』と答えられる」と話す。仕入れ先に対しても、環境や人権関連についての調査をしているという。同社は、アップル向けにディスプレーの光学フィルムを納入している。和歌山県にある工場では、三重県の風力発電所から再エネを購入。アップル向けの製品では再エネ100%を実現しているという。ただ、世界的に資源価格が高騰するなか、「再エネの需要も高まっており、奪い合いになりつつある」といい、コスト面が一番の課題だという。 ●再エネ100%に参加する主な日本の供給元 (かっこ内は供給している主な製品) ・村田製作所(電子部品) ・アルプスアルパイン(同上) ・ヒロセ電機(同上) ・TDK(同上) ・ジャパンディスプレイ(液晶パネル) ・シャープ(同上) ・キオクシア(半導体) ・ソニーセミコンダクタソリューションズ(同上) ・恵和(フィルム) *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240831&ng=DGKKZO83154270R30C24A8MM8000 (日経新聞 2024.8.31) 交通網再生へ計画1000超 自治体、事業者・住民と連携、大分・玖珠町 バス運賃下げ利用者増 全国的にバスや鉄道の廃線が増えるなか、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている。事業者や住民と連携して今後のあるべき姿を示す「地域公共交通計画」の作成数は4月末で1052まで増えた。自治体あたりの作成数が最多の大分県では、計画に基づいたバス運賃の引き下げなどで利用者を増やす動きも出てきた。地方圏では急速な人口減少などで路線バスの9割以上が赤字に陥っている。運転手の確保なども容易ではなく公共交通網の維持は厳しさを増す。国は2020年の法改正で、運営体制や路線網などの再構築に向けたグランドデザインとなる地域計画の作成を自治体の努力義務とした。地域計画は県や市町村のほか、複数の自治体が共同で作成するケースもある。自治体あたりの計画数を都道府県別に見ると大分県が1.11と自治体数を上回って最多となり、広島県、富山県が続いた。大分県は県が主導して東部や中部など6圏域別に計画を作ったほか、多くの自治体が単独でも作成している。県地域交通・物流対策室は「市町村合併もあって広い面積に人口が分散している自治体が多く、交通網の維持への危機感が強い」と説明する。同県玖珠町は21年3月に県と共同で西部圏(日田市・九重町・玖珠町)の計画を作った。同町は人口減少が続くうえ、高齢化率も約40%と県平均を上回る。宿利政和町長は「何とか利用者を増やして公共交通を守りたい。このままでは郊外になるほど移動手段がなくなり、町民が住み慣れた場所に住み続けられなくなる」と話す。地域計画に沿って今年4月には「ゾーン制運賃」を導入した。従来、町のコミュニティーバスと民間の路線バスは、目的地が同じでも運賃が異なるなどの弊害があった。新運賃はJR豊後森駅など中心区域は大人が150円で、区域外は300円とした。大分交通グループの玖珠観光バスは長距離区間で600円を超えることもあったが半額以下になった。コミュニティーバスの運賃も距離に応じて最大200円だったが一律150円となり、4~7月の利用者は前年同期を上回った。宿利町長は「バス会社の減収分は町が補填するうえ、利用者を一定数確保できれば地域計画に基づいた国の補助もある」と強調。「分かりやすい運賃は増加する訪日客の呼び水にもなる」と期待する。玖珠町と同じ西部圏の九重町は、3月に町単独の地域計画も作った。路線バスの幹線から延びる枝線の改善が大きな柱で、10月にはコミュニティーバスのデマンド交通への転換を始める。日野康志町長は「バス停まで歩くのもつらいという高齢者が増えた。自宅前まで迎えに行くデマンド交通で高齢者の外出を促したい」と話す。広島県福山市は県境を接する岡山県笠岡市と共同で3月に地域計画を作った。両市内はバスやタクシーの運転手不足が深刻化しており、交通空白地が広がりかねない。福山市は計画に基づいて交通事業者などと「バス共創プラットフォーム」を設立。ライドシェアなど新たな交通サービス導入の検討を始めた。国は24年度末に1200の地域計画作成を目標とする。東京大学の中村文彦特任教授は「住民の理解を得てこそ持続可能な公共交通を実現できる」と指摘。「遠回りのように見えるかもしれないが、実証運行や体験乗車会などを通じて住民の意見を聞く機会を重ねていくことが実効性のある計画作りにつながる」としている。 <漁業と環境> PS(2024年9月7日):*5-1は、①日本は海藻・海草由来のブルーカーボン創出で先行 ②日立等の産官学連合が下水処理技術を用いた藻場造りの技術開発に乗り出した ③関連技術開発の裾野が広がれば海外での事業拡大に繋がる ④生育中のワカメの全長は約2.5mまで育ち、栄養素を適切に追加供給すればさらに成長がよくなる ⑤下水処理した後に海に放流するきれいな水に含まれる栄養価を高めて周辺の海藻を茂らせる ⑥ブルーカーボンはワカメ・コンブ等の海藻、アマモ等の海草が水中のCO₂を吸収した後に、ちぎれたり枯れたりして海底に長期貯留される仕組み ⑦世界の陸域のCO₂吸収量は年77億トン、海域の吸収量は同102億トン(国土交通省) ⑧場所や季節によっては、栄養が足りず痩せすぎた海となり、海藻がウニなどに食べ尽くされる磯焼けや漁獲量減の要因にもなるため、日立は下水処理の水質制御技術を活用し、処理工程の微生物濃度や送り込む酸素の量などを調節して栄養塩濃度を適切に制御する技術を開発する ⑨水中カメラを使って水中の画像データなどから藻場の生育状況を精度高く計測できるシステムの活用も進める ⑩実際に下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自然界への影響が大きいため、自治体や漁業関係者などとの調整も必要で実現のハードルが高い 等としている。 このうち、①②③④⑤⑦⑨は、始めたのが遅すぎたくらいだが(何故なら、有明海の海苔は既にそれをやっているから)、⑩の「下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自治体や漁業関係者などとの調整で実現のハードルが高い」は、⑧の「海藻がウニ等に食べ尽くされ、磯焼けや漁獲量減の要因にもなっている」ことの解決策にもなる。その理由は、磯焼けの原因となっているウニ等を捕獲してブルーカーボンで育つワカメを自由に食べられる形のケージに入れたり、育ったワカメを収穫して捕獲したウニに餌として与えたりすれば、⑥のように、育ったワカメ・コンブ・アマモなどを海底に放置するのではなく有効に使えるからで、それを思いつかないのは、国交省と水産庁が全く別の組織で相互に連絡すること無くやっているからだろう。 また、動物と植物の両方の性質を持ち、鞭毛を使って動くことができ、CO₂を吸って酸素を吐き出しながら光合成によって成長する、ワカメや昆布と同じ藻類のユーグレナ(和名:ミドリムシ)は、59 種類もの栄養素をバランスよく含むため(https://www.euglena.jp/whatiseuglena/ 参照)、下水処理後の栄養塩を含む水でユーグレナを育てれば、*5-2-1のように、餌代がネックになっている魚介類の養殖で、わざわざ「昆虫」を育てて粉にしなくても低魚粉の飼料作りに役立つ。 さらに、*5-2-2のように、人口増加で拡大する世界の胃袋を満たし、持続可能な食材供給と両立させるため、三井物産がインド・南米・アフリカ等で鶏肉・エビの現地大手企業へ出資して生産段階でCO₂排出が少ないたんぱく資源の供給網を構築しているのはよいが、それを日本国内ではできないというのが情けない。「鶏は牛・豚を使う料理に、美味しくて高脂血症を起こさない優れた代替材料として使える」と思うので、私も最近は鶏肉を多用しているが、その鶏や養殖エビの配合飼料にもユーグレナは使える。つまり、ユーグレナは、59種類の豊富な栄養素を持つため、飼料に使うことで味や品質が向上することが研究によって明らかになっており、食糧と競合しないため持続可能な国産飼料として有効なのだ。従って、「農林水産物やその加工品は輸入しなければならない」という固定観念を捨て去り、日本の資源を余さず使うことで食糧を安価に作り、環境に貢献しつつ食料自給率を高めて輸出もできる体制をつくる必要がある。 ![]() すべて、2024.9.5日経新聞 (図の説明:1番左と左から2番目の図のように、下水処理場から出る窒素・リンを含む処理水と大気中のCO₂を使って海藻がすくすく育ち、同時に海水も浄化される研究が進んでいる。また、右から2番目は、世界で動物性タンパク質のニーズが高まるが、三井物産は、1番右の図のように、鶏とエビに焦点を定めて海外で出資しているそうだ。そして、日経新聞は、同じ日にこれらの記事を掲載しておきながら、育った海藻等を餌にして日本で魚介類の養殖や養鶏を行なうことは思いつかないのが不思議だが、都市出身の人ばかりが記者になっているのだろうか?) *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240905&ng=DGKKZO83243160U4A900C2TB3000 (日経新聞 2024.9.5) 日立、ワカメ育てCO2吸収 下水処理技術で藻場再生、「ブルーカーボン」日本の産官学が主導 海洋生物に二酸化炭素(CO2)を吸収させる「ブルーカーボン」が日本で進んでいる。日立製作所など産官学連合が、下水処理技術を用いた藻場造りの技術開発に乗り出した。日本は海藻・海草由来のブルーカーボン創出で先行している。関連する技術開発の裾野が広がれば、企業の海外での事業拡大にもつながる。大阪府阪南市の沿岸部から約100~400メートルの沖合。等間隔に並ぶブイの間で、試験生育中のワカメが海中で揺れる様子が船上からはっきり見える。日立や月島JFEアクアソリューション、大阪公立大など18の企業や団体、自治体の産官学連合が進める大阪湾でのブルーカーボン創出の実証だ。日立の研究者らが3月に沖合に出て生育中のワカメの全長を測ると約2.5メートルまで育っていた。海水中の栄養素などを変化させない状態の生育状況で「栄養素を適切に追加供給すればさらに成長がよくなる可能性は十分ある」。船上ではこんな声があがった。ブルーカーボンはワカメやコンブなどの海藻やアマモなどの海草が水中のCO2を吸収した後に、ちぎれたり枯れたりして海底に長期貯留される仕組みだ。海藻・海草由来のブルーカーボンの貯留期間は数千年と言われる。国土交通省所管の港湾空港技術研究所によれば世界での陸域のCO2吸収量は年77億トンに対し、海域での吸収量は同102億トンと陸より多い。浅海域だけでも同40億トンある。日本は国土は小さいが、海岸線の長さと海洋面積はともに世界6位とブルーカーボンを手掛ける余地は大きい。これまで海藻の育成手法の開発など海での技術開発が主だったが、舞台が陸にも広がり始めた。今回の産官学の実証では下水処理場を活用する。下水を処理した後に海に放流されるきれいな水に含まれる栄養価を高めることで、周辺域の海藻を茂らせる。ワカメの生育実証をするのは阪南市沖で同市近隣の下水処理施設の放流域だ。通常、下水処理後の放流水は栄養塩と呼ばれる窒素とリンの濃度が低水準で厳格に管理されている。だが、管理が行き過ぎる場合があるという。プロジェクトを統括している日立研究所の脱炭素エネルギーイノベーションセンタの圓佛伊智朗氏は「場所や季節によって、栄養が足りずにやせすぎた海となり、海藻がウニなどに食べ尽くされる磯焼けや漁獲量減の要因にもなっている。栄養塩の適切な制御で豊かな海を実現したい」と話す。産官学連合の技術を結集して実証する。日立は下水処理の水質制御技術を活用。処理工程の微生物濃度や送り込む酸素の量などを調節して、栄養塩濃度を適切に制御する技術を開発する。月島JFEアクアは下水処理水由来の栄養塩類を必要な箇所に届ける放流方式を開発する。KDDIはこれまで水上ドローン技術をブルーカーボン計測に活用してきた。漁船などの船上で海に潜ることなく、水中カメラを使って水中の画像データなどから藻場の生育状況を精度高く計測できるシステムの活用を進める。ただ実際に下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自然界への影響が大きい。自治体や漁業関係者などとの調整も必要で、実現のハードルは高い。現状の海の栄養塩の濃度でワカメがどれほど生育するかを把握し、今後試験場などで栄養塩を増やしてワカメがどれほど育つかなどの基礎実証を進める。ブルーカーボンに関連した製品開発が日本で相次いでいる。東洋製缶グループホールディングスは海藻の養分となる鉄がゆっくりと水中に溶け出すガラスを開発した。これまでに全国60カ所以上の漁港や防波堤に採用された。養殖の難しい沖合でブルーカーボンを創出する開発も始まった。海洋向け建築資材を手掛ける岡部は、深さ30メートル以上でも海藻を育てられる多段式の養殖設備を作った。深度に合わせて海藻の種類を変えられる。産官学で40年までに年100万トン超の吸収量創出を目指すENEOSも、沿岸や沖合での養殖技術の開発を進める。ブルーカーボンを巡っては、環境省が国連に報告する温暖化ガスのインベントリ(排出・吸収量)に海藻・海草由来のブルーカーボンを世界に先駆けて反映した。脱炭素対策の有効な手として注目が集まるなか、ブルーカーボンで削減したCO2量をクレジットとして販売する動きも日本で進んでいる。ブルーカーボンクレジットの認証団体である、国交相の認可法人ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE、神奈川県横須賀市)の発行実績は23年度で2000トン超と、海外と比べて突出している。他のクレジットと比べると規模はまだ小さいが、生物多様性確保などの環境価値が評価され、森林クレジットなどに比べて5倍以上高値で取引されている。上下水道コンサルの東京設計事務所(東京・千代田)は今回の産官学プロジェクトに関係する自治体支援や、ブルーカーボンをクレジット化するためのノウハウづくりを検討する。クレジット化できれば、下水道事業者や沿岸部の漁業者などの参入を後押しできるとみている。JBEの桑江朝比呂理事長は「クレジット創出ノウハウなどに対して海外からの問いあわせが増えている」と語る。実際にJパワーはオーストラリアで現地の大学と組み、実証を進めている。日本として様々なノウハウが確立できれば、関連技術や機器の輸出拡大につながる。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240905&be=NDSKDBDGKKZO8113507003062024QM8000%5CDM1&bf=0&c=DM1&d=・・DTB2000 (日経新聞 2024/6/4) 魚養殖、「昆虫」エサに 価格変動大きい魚粉を代替 安定供給で生産拡大狙う これからの魚は「昆虫」で育つ――。水産養殖の現場で、代表的なエサである魚粉を補う飼料として、たんぱく質が豊富な昆虫からつくる飼料が注目され始めた。昆虫飼料を安定的に供給することで、価格変動の大きい魚粉に頼るよりも養殖現場のコストを抑え、養殖物の生産を拡大しようという動きが広がりつつある。マダイの海面養殖量が日本一の愛媛県から、2024年秋、エサの一部に昆虫飼料を使って育てられた約1万3000尾のマダイ「えひめ鯛」が出荷される見込みだ。愛媛大学と企業の連携による取り組みで、カブトムシなどの仲間にあたる甲虫の一種の幼虫「ミールワーム」を粉末状にして混ぜた飼料を与えてマダイを育てている。通常の養殖のエサはカタクチイワシなどを原料にした魚粉の割合が半分程度とされる。愛媛大の三浦猛教授(水族繁殖生理学)が開発した飼料は昆虫由来などを混ぜることで魚粉を30%程度、将来は20%まで抑えるという。23年には第1弾となる「えひめ鯛」を8000尾出荷し、連携先企業の社員食堂などで提供された。ミールワームの油分の調整やコストを下げるなどの工夫を重ねながら、26年には数十トンの飼料を生産できるテストプラントの設置を計画しているという。三浦教授は「4~5年後には市場への出荷を目指す」と意気込む。矢野経済研究所(東京・中野)が23年にまとめた推計によると、昆虫たんぱく質飼料の国内市場規模(メーカー出荷金額ベース)の見通しは27年度に4億9200万円。まだ普及し始める段階とみられるが、22年度の40倍弱に増える。魚粉の量を少なくした低魚粉飼料は27年度に22年度比7割ほど多い664億1200万円との予測だ。養殖の現場で現在中心的な飼料である魚粉にはカタクチイワシなどが使われるが、カタクチイワシはペルー沖などからの供給が不安定になりやすく、需給によっては価格が高騰する。安定した量の供給と低コストを実現できる代替原料が望まれている。鳥などの残りかすや大豆ミールといった原料が使われているが、近年はたんぱく質が豊富な昆虫に注目が集まる。将来を見越し、企業の動きも活発になってきた。住友商事は昆虫飼料を手がけるシンガポールのスタートアップ、ニュートリションテクノロジーズに出資し、日本の独占販売権を取得した。昆虫飼料はアメリカミズアブ(BSF)の幼虫を粉末状に加工している。現在は観賞魚のエサとして出荷されているが、今後はマダイの海上養殖での活用を検討しているという。30年までに3万トンの輸入販売を目指す。住友商事アニマルヘルス事業ユニットの李建川チームリーダーは「昆虫を使った飼料はサステナブルな取り組み」と話す。世界の人口増加で水産物の需要が高まるなか、養殖は拡大傾向が続く。国際食糧農業機関(FAO)によると、世界の水産物で養殖が占める割合は21年時点で57.7%だった。日本は農林水産省の調べでは21年時点で22.8%。養殖の拡大余地が大きい中で、昆虫由来や低魚粉の飼料の役割は増す。東京海洋大学の中原尚知教授(水産経済学)は「飼料の新たな選択肢が増えていくことは望ましい。今後、輸出できるまで成長した際には原材料の持続可能性や安全性なども求められる」と話す。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240905&ng=DGKKZO83239810U4A900C2TB2000 (日経新聞 2024.9.5) 三井物産、鶏・エビで供給網、インド・南米など3社に出資 持続可能な食材に重点 三井物産が動物性たんぱく質の確保を急いでいる。インドや南米、アフリカなどで鶏肉やエビの現地大手企業へ相次ぎ出資し、生産段階で二酸化炭素(CO2)排出が比較的少ないたんぱく資源の供給網を構築する。人口増加で拡大する世界の胃袋を満たすことと、持続可能な食材供給の両立に商機があると見込み、成長の活路を見いだす。 ●事業利益2倍 「自然資本と調和し、健康に資する食の選択肢を増やす」。堀健一社長は、エビと鶏が経済性と環境対応の両方を満たすたんぱく源と定める。食と農に関する事業の本部長を務めた経験から、「2021年の社長就任時からたんぱく質分野は伸ばしたいと思っていた」とする肝煎り事業だ。26年3月期に動物性たんぱく質事業の純利益を23年3月期比で2倍以上となる300億円超に引き上げる方針だ。市場の成長性は申し分ない。経済協力開発機構(OECD)の調査では33年の鶏肉生産量は1億6000万トンと21~23年の平均と比較して1.4%増加する。牛肉(1.1%増)や豚肉(0.5%増)より高い成長率だ。インドの調査会社フォーチュン・ビジネス・インサイツによると世界のエビ市場は32年に742億ドルと23年比で8割伸びる。鶏や養殖エビは牛や豚よりも飼料効率が良く、1キログラムのたんぱく質の生産で排出される温暖化ガスは牛肉の2分の1~5分の1程度とされ環境負荷が比較的小さい。環境に配慮しながら、増加する人口を支えられることが市場成長を期待できる背景だ。伊藤ハム米久ホールディングスに4割出資する三菱商事やプリマハムに45%出資する伊藤忠商事、畜産に強い丸紅といった同業他社が牛や豚といった食肉で先行する。相対的に存在感の小さい三井物産でも鶏やエビでは入り込める余地があるとの思惑もある。三井物産は26年3月期までに1400億円を動物性たんぱく質事業に投じる計画。既に24年4月までに計1000億円超を投じて鶏肉とエビで3社への出資を決めた。堀社長は「パイプライン(投資候補)はまだまだある」とし、残り400億円を既存案件の出資比率向上や東欧やアフリカなどで交渉が進む新規案件の取得などに振り向ける構えだ。各出資先企業の地産地消を基本としつつ、国際的な供給網構築の足がかりとしてそれぞれを活用していくのが三井物産の事業戦略だ。鶏肉では400億円弱を出資して25年3月期中に持ち分法適用会社にする予定のスネハ・ファームズ(インド)がグローバル展開をけん引する。同社は飼料調達から育成、加工、販売まで鶏肉供給を一貫して手掛け、インドの鶏肉消費の1割に相当する年間2億羽を供給する。三井物産は鶏肉処理機械で国内シェア8割を持つ子会社のプライフーズ(青森県八戸市)などグループ各社と連携し、低温物流や鮮度維持、加工品開発で知見を取り入れ輸出に向けた供給力拡大の下地をつくる。佐野豊執行役員(食料本部長)は「ブラジル、タイといった鶏肉輸出大国に伍する安い鶏肉が出来る」とにらみ、ブロイラー生産量を29年までに現在の2倍の約50万トンまで拡大する計画だ。エビでは24年3月期に20%出資した世界最大のエビ養殖事業者インダストリアル・ペスケラ・サンタ・プリシラ(IPSP、エクアドル)を供給網の核にする。同社の年間輸出量は23万トン超。22年は世界のエビ貿易量の6%を占めた。現在は冷凍状態で米国や日本などに輸出している。今後は同じく35%超出資する世界最大のエビ加工業者ミンフー・シーフード(ベトナム)でエビフライなどに加工して世界に流通させる戦略だ。ファンドを通じて出資するオランダの畜水産種苗事業者とも連携し、より育成効率の高いエビの品種や飼料を開発し、エビ養殖に一貫して取り組む体制の構築も視野に入れる。 ●争奪戦過熱も 堀社長は動物性たんぱく質事業強化の進捗状況について「いいペースで実現しているが、5合目だ」とする。順調に成長しても、26年3月期時点の連結純利益見通し全体の3%を占める事業に過ぎないが、27年3月期以降の次期中期計画でも引き続き注力分野に据える見込みだ。たんぱく質確保は世界中の課題だけに、投資案件の争奪戦が今後過熱する可能性があるのは懸念材料だ。エクアドルは交渉に6年、インドは3年かけたことで他社が入り込む余地がない関係を築けたという。競争が厳しい中で、有望企業を早期に見つける目利き力を磨く。商社ビジネスの基本の徹底が、三井物産の今後の動物性たんぱく質事業の持続可能性を左右する。
| 経済・雇用::2023.3~ | 04:05 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
PAGE TOP ↑
































































































































































































































































































































































































