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2023,08,17, Thursday
(1)日本の財政 ← インフレ政策だけで経済成長し、再建できるわけはないこと
![]() ![]() ![]() 3023.1.22産経新聞 2021.7.21Monoist 総務省 (図の説明;左図のように、日本の名目GDPは、日本よりも人口の少ないドイツの名目GDPと比較して、2012年には大きな差があったが、2022年には殆ど差がない。この間、日本では金融緩和が続けられ、イノベーションがつぶされたが、ドイツでは逆に脱原発やEV化を計画的に行った。また、中央の図のように、日本における実質GDPは、1991年から1999年までは名目GDPより小さかったが、2000年以降は名目GDPより実質GDPの方が大きい。これは、1991年に崩壊したバブルの後始末が1999年頃までかかり、2000年以降にやっと正常軌道に乗ったからである。さらに、右図は、1995年~2021年の名目GDP成長率と実質GDP成長率の推移であり、殆ど同じ動きをしているが、少しはイノベーションが進んだ1999年以降2009年までは実質GDP成長率の方が大きかったのである) 1)名目600兆円経済だから何か? *1-1-1は、「内閣府が発表した4~6月期のGDP速報値で、物価変動の影響を除いた実質季節調整値が3四半期連続プラス成長・前期比1.5%増・年率換算6.0%増だった」と大喜びで書いているが、2022年は上の左図のように、コロナによる経済停止で日本は著しくGDPが下がっていたため、2022年と比較すればもとに戻りつつある現在、GDPが増えるのは当然である。 さらに悪いのは、個人消費が弱くなっているため、前期比年率で内需はマイナス1.2ポイント、外需はプラス7.2ポイントと輸出に頼って全体を上げており、これは、国民は貧しくなり、先進国に輸出することで稼いでいる開発途上国型経済に戻りつつあるということなのである。 そして、これは、インフレで実質賃金を下げた上に、65歳以上には100%公的年金生活世帯が24.9%、80~100%公的年金生活世帯が33.3%もいるのに、年金給付額を下げ社会保険料を上げて可処分所得を減らし、インフレ政策で物価を上げたことが原因である。 そのため、実質GDPが560.7兆円とコロナ前のピーク2019年7~9月期の557.4兆円を超えても国民が貧しくなったことに間違いはなく、需要の大半を占める消費が物価高で落ちて、耐久消費財の白物家電も下押し要因となり、その結果、設備投資も伸びなかったのだ。 そのような中、*1-1-2は、①日銀は長期金利が0.5%の上限を一定程度超えるのを容認すると決めた ②日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服してインフレの下で新たな成長に向かいつつある ③政府と日銀が慎重な経済運営を続けるなら、名目国内総生産(GDP)600兆円超の思ってもみなかった視界が開ける ④物価が上がりだして名目GDPが押し上げられた ⑤GDPだけでなく、企業の売り上げ・利益・働く人の給与明細・株価・政府の税収などの目に見える経済活動は「名目」で表示される ⑥デフレ脱却が大きな影響を及ぼすのは企業行動 ⑦大企業は、1990年度から2021年度にかけ、売上高が5%増に留まる中で、リストラによって利益を捻出し経常利益を164%伸ばした ⑧企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させた ⑨インフレ到来で2022年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えてバブルの頂点だった1989年以来の高い伸び、中堅・中小企業も合わせた全規模でも売上高は8.7%増えた ⑩売り上げ増の手応えをつかんで、企業は国内で設備投資のアクセルを踏み出し、2023年度の設備投資は名目ベース100兆円台に乗せて過去最高となる勢い ⑪今回の物価上昇のきっかけはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的インフレでコロナ禍からの回復や人手不足も手伝って国内にも価格転嫁や賃上げの波が及んだ ⑫賃金の伸びは物価の上昇に追いつかず、実質賃金は14カ月連続の減少 ⑬消費者物価上昇率は民間エコノミストの予想を平均すると、2023年7~9月期が前年比2.76%で賃金の伸びが物価を上回れば2023年度下期に実質賃金は増加に転じる ⑭家計の所得が消費を後押しする好循環に入るチャンスが巡ってきた ⑮バブル崩壊後、30年あまり続いた光景が変わるにつれ、財政・金融政策も正常化を探る動き ⑯その際に政府・日銀が心すべきは、経済の好循環に水を差さぬこと ⑰政府はインフレの受益者で、税収の自然増が財政を下支えしている 等と記載している。 このうち、①②は、「日銀の金融緩和(長期金利0.5%の上限)のおかげで、日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレ下で新たな成長に向かいつつある」と主張しているが、上の中央の図のように、この記事が“デフレ”と呼んでいる2000年以降の実質GDPは名目GDPより高い。つまり、「インフレになれば経済成長する」という説自体が正しくないのだ。 また、③の「政府と日銀がこのまま低金利政策を続ければ名目GDP600兆円超の視界が開ける」というのは、単に尺度となる貨幣価値下がったから同じ実体経済が大きく表されただけである。わかりやすく言えば、1mの長さを現在の半分と決めれば、地球の赤道は(約4万kmではなく)約8万kmになるのと同じだ。そのため、貨幣価値が下がって物価が上がれば、④のように名目GDPが上がるのは当然のことなのである。 また⑤⑥は、低金利で金利より高い物価上昇が続けば実質金利はマイナスになるため、金を借りた方が得をして金を貸した方が損をする。そのため、預金を持っているよりも、何でもいいから利益を生むものに投資した方がよいということになるが、これが日本企業の投資利益率が低い理由だと再認識した。そのため、私は、日本企業にはなるべく投資しないことにする。 さらに、⑦の「大企業は1990年度から2021年度にかけ、リストラで利益を捻出し経常利益を164%伸ばした」というのは、リストラのやり方には問題が多かったと記憶しているが、利益が出ずいらない部門を整理すればリストラは必要になる。そのため、そういうことが多い時期には、国が財政支出をしてインフラ整備を進め、失業者を吸収するのが定石なのである。 従って、⑧の「企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させた」というのは、時と場合とやり方に依るのだ。 なお、⑨の「インフレ到来で2022年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えてバブルの頂点だった1989年以来の高い伸び、中堅・中小企業も合わせた全規模でも売上高は8.7%増えた」というのは、今もバブルになりかかっているため、そのうち整理が必要になると思う。 そのため、⑩の「企業が売り上げ増の手応えを掴んで、国内で設備投資のアクセルを踏み出し、2023年度の設備投資は名目ベース100兆円台に乗せて過去最高となる勢い」というのは、一部はイノベーションのための本物の設備投資かもしれないが、物価上昇による売上増部分は、近いうちに数量で調整されるため、喜びすぎない方がよいだろう。 なお、⑪のように、今回の物価上昇のきっかけはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的インフレが主であるため、コストプッシュインフレで、かつ物価上昇分は輸入代金として海外に流出している。そのため、企業に残っているのは、低金利による借り得の部分だけであり、⑫のように、賃金の伸びが物価の上昇に追いつかず実質賃金が14カ月連続減少するのは必然なのだ。 また、⑬の「消費者物価上昇率は民間エコノミストの予想を平均した」というのも、あまりに意図的で正確ではなく、2023年7~9月期の消費者物価上昇率が前年比2.76%というのは低すぎる。そのため、賃金の伸びが物価を上回って実質賃金が増加に転じ、⑭のように、家計所得が消費を後押しする好循環に入ることはないと思われる。 従って、⑮⑯⑰については、財政・金融政策が正常化を探るのは当然のことだが、⑰のように、政府はインフレの受益者で、税収自然増が財政を下支えしているだけでなく、インフレで国債実質残高も目減りするメリットがあるため、今となっては、政府は、国民を犠牲にしてもこの状況を変えるのは期待し難いわけである。 2)名目と実質の差が意味すること 日経新聞は、*1-1-3で、①内閣府発表4~6月期GDP速報値は、名目成長率が前期比年率プラス12.0%でインフレが日本経済の名目値を押し上げた ②デフレで長らく低迷していた名目GDPが世界的な物価上昇を契機に動き出した ③コロナ禍の時期を除けば1990年4~6月期(プラス13.1%)以来の伸び ④企業の売上高・賃金・株価等は名目値なので、インフレによる経済規模拡大で経済指標も上昇する ⑤名目成長率を項目別にみると、個人消費は名目前期比0.2%減だが、インフレの影響で実質は0.5%減 ⑥設備投資は実質横ばい、名目0.8%増 ⑦GDPデフレーターからみた物価上昇率は前年同期比3.4%と3四半期連続プラスで現行基準で遡れる1995年以降最高 ⑧過去の基準も含めて1981年1~3月期以来 ⑨GDPデフレーターの上昇要因は、輸入物価上昇の一巡による押し上げ効果と価格転嫁による国内物価上昇 ⑩賃金も安定的に上昇すれば、日本経済の脱デフレに向けた道筋が本格化する と記載している。 日経新聞は、④のように、「企業の売上高・賃金・株価等は名目値でインフレによる経済規模の拡大で経済指標も上昇する」として名目値を重視しているが、それは指標となる数字上のことにすぎない。実際には、消費(=実需)は実質でしか行えないため、必ず実質による修正が入るのである。その結果、②とは違って“デフレ”と経済低迷は無関係だったり、⑤の個人消費は実質0.5%減だったり、その結果、⑥の設備投資は実質横ばいだったりという事実があるのだ。 従って、⑩の賃金の安定的上昇も、企業が実質利益を安定的に上昇させることができなければ起こらず、金融緩和によるインフレ政策だけでは無理なのだ。 佐賀新聞は、*1-1-4で、⑪内閣府が発表した2023年4~6月期のGDP(季節調整済)速報値は、物価変動を除く実質で前期比1.5%増、年率換算6.0%増 ⑫半導体の供給制約の緩和で自動車などの輸出が伸びた ⑬輸入の減少が統計上プラスに寄与した ⑭物価高の影響でGDPの約6割を占める個人消費は低調 ⑮景気実感に近いとされる名目GDPは前期比2.9%増で、年率換算は12.0%増 ⑯物価高を反映して20年7~9月期(年率22.8%増)以来の高い伸びで、金額も過去最高の590兆7千億円に達した ⑰4~6月期の実質を項目別に見ると、個人消費は前期比0.5%減で、外食・宿泊は伸びたが食料品や白物家電が相次ぐ値上がりの影響で落ち込んだ ⑱設備投資は0.0%増 ⑲輸出は3.2%増 ⑳輸入は4.3%減で、輸入の減少はGDPを押し上げる要因 等と記載している。 ⑪の2023年4~6月期のGDP(季節調整済)速報値が実質で前期比1.5%増、年率換算6.0%増だったというのも、コロナ禍からの回復途上であることを考えれば当然である。 また、⑬のように輸入減が統計上プラスに寄与したり、⑰のように個人消費は前期比0.5%減で外食・宿泊は伸びたが食料品・白物家電が値上げの影響で落ち込んだりした結果、⑱の設備投資は0・0%増でしかないのだから、経済の拡大は数字上のトリックにすぎない部分が多い。 3)物価上昇率以上の賃金上昇はない ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 2022.11.18日経新聞 2023.7.3日経新聞 2023.8.19日経新聞 (図の説明:1番左の図は、前年同月と比較した場合の物価上昇率で、消費税増税によって物価上昇し、国民の節約によって《国民が貧しくなって》元に戻ることを繰り返してきたが、それでも日経新聞は、2020年に3.6%物価上昇したのを「物価の伸び」などと表現している。そして、中央の2つの図のように、必需品でエンゲル係数の高い食品の値上げが8%以上、牛乳の値上げは10~20%に達し、貧しい人ほど物価上昇による負担が大きい結果となった。そして、今回も1番右の図のように、収入以上の支出はできないため、国民は節約して不便になりながら、物価だけは元の水準近くに戻るだろう) 内閣府発表の2023年4~6月期GDP速報値は、*1-1-5のように、年率換算6.0%増加、GDP成長率は名目年率12%、実質年率3.7%になったが、外需に一時的に支えられ、個人消費・設備投資の内需が弱かった。 そのため、メディアは、賃上げや投資の実行へ官民で策を練るべきとしているが、日本は、イノベーションや構造改革で生産性を上げない限り、物価上昇率以上に賃金を上げて実質所得をプラスにすることはできないというのが私の結論であるため、以下に、その理由を記載する.。 i) サービス輸出で訪日外国人のインバウンド消費が堅調だったのはよいが、サービス輸出には観光だけではなく、高度な医療・介護サービスを外国人に提供する付加価値の高いサービスもある。しかし、この10年以上、政府は医療・介護費用を削減することしか思いつかず、日本社会の成熟化を活かした高度な医療・介護サービスを作ることができなかったため、日本は既にこの分野で高度とは言えなくなっていること ii) モノを輸出するには良いものを安価に作る必要がある。しかし、新興国はイノベーション等で品質も磨いているが、日本はイノベーションを嫌い、高コスト構造を変えず、わずかな改良しかしなかったため、日本製は品質より数倍高価になり、競争力が落ちていること iii) 年率6%成長のうち輸入減の貢献は4.4%分で輸入は4.3%減だったそうだが、輸入の数量減は内需の弱さを映しており、これは、実質所得が目減りして個人消費がマイナスになるからだが、(リーダーが余程の馬鹿でない限り)やってから失敗し、時間と金を無駄遣いしなくても容易に想像できたこと iv) 高コスト構造を変えないため、企業は名目利益増加の多くを人件費以外のコスト増に費やさざるを得ず、実質所得がプラスになるほどの賃上げはできないが、これは、*1-1-6や*1-1-7のように、結果として表れていること v) 実質所得がマイナスで、預金や債券も目減りし、国民の財産や所得が政府や企業に移転して消費は以前より少なくなるため、内需を当てにした民間設備投資は減ること vi) *1-1-6に「日銀が掲げる2%の物価目標」と書かれているが、日銀の2%物価目標自体が国民の目を欺きながら国民の財産や所得を政府や企業に移転する目的であるため、日銀は中央銀行の役割を果たしていないこと 4)年金世帯は物価上昇で必ずマイナスになる ![]() ![]() ![]() Hacs 厚労省 厚労省 (図の説明:左図が年金制度の概要で、国民年金は65歳以上になれば全員もらえるが、サラリーマンの専業主婦だけはその原資を支払っておらず、制度導入時からその不公平は指摘されていた。しかし、それでも、団塊の世代が支える側にいた時は年金原資が豊富だったので、厚労省は年金原資を使って無駄遣いの限りを尽くし、団塊の世代が支えられる側になる時に『制度が維持できない』として、中央の図の物価スライド制を導入する制度改正をしたのである。物価スライド制のKeyは、右図のように、賃金や物価の上昇時にそれより低い年金支給額上昇にすることによって、年金受給者が気付かぬように年金の所得代替率を下げていくもので、この改正は『高齢者は豊かだ』というデマをメディアを通じて大々的に流すことによって行われた。本当は、年金原資を発生主義で積み立てておくべきだったのだが、現在もそれは行われていない) ![]() ![]() ![]() 総務省 2020.7.21時事 2022.1.31ビジネス日経 (図の説明:65歳以上を“高齢者”と定義して退職させれば、左図の折れ線グラフのように2021年には29.1%が高齢者であり、その後も高齢者の割合は増えていく。そして、中央の図のように、2019年は高齢者の48.4%で公的年金か恩給が総所得の100%を占め、同じく12.5%で公的年金か恩給が総所得の80~100%を占めるのである。従って、右図のように、高齢者の貧困率はうなぎ上りに上がっているのだ) 年金世帯は、下の段の左図のように、2021年の数字で全世帯の約30%であり、そのうち総所得の100%を公的年金・恩給で賄っている世帯が(2019年の調査だが)48.4%、80~100%を公的年金・恩給で賄っている世帯が12.5%、60~80%を公的年金・恩給で賄っている世帯が14.5%であるため、年金支給額は年金世帯の所得を通して、個人消費に占める割合が大きい。 *1-3-1も、①世帯主が65歳以上世帯の2022年の1ヶ月平均支出は21万1,780円で全体の39% ②年金暮らし世帯がGDPの15%に影響 ③賃上げの恩恵を受けにくい高齢者の消費活性化がデフレ脱却を左右 ④日本の2022年名目GDPは556兆円で5割は個人消費 ⑤GDP全体の15%程度を年金世帯の消費が担っている 等と記載している。 このうち①について、平均で21万1,780円/月支出するのは、生活保護の基準となる最低生活費(神奈川県横浜市の場合:185,490円、https://seikatsuhogo.biz/blogs/140 参照)に近く、都市部ではぎりぎりの生活水準で、年金生活者にはこれ以下の人が半分はいるのである。 また、③の「高齢者は賃上げの恩恵を受けにくい」のは、上の段の中央及び右図のように、「マクロ経済スライド」が導入されたことで、物価上昇と賃上げの恩恵は年金世帯には一部しか及ばないため、物価上昇率を加味すると実質年金支給額はマイナスになるということである。 つまり、物価上昇は実質年金支給額をマイナスにすることで、②④⑤のように、高齢者に消費を減らさせ、GDPには悪影響を与え、下の段の右図のように、高齢者の貧困を増やすのである。 しかし、日経新聞は、これがGDPを押し下げることしか問題にせず、新世代の高齢者が自由に所得を使えれば高齢化した国で必ず必要になる高齢者向けのサービス(医療・介護・生活支援を含む)が磨かれることについて全く触れていない。これらのサービスを磨くことは、政府が生産性の低い金の使い方をするよりずっと将来のためになるのに、である。 なお、*1-3-1は、「65歳以上の無職世帯夫婦の金融資産は1,915万円で、全世帯平均より636万円も金融資産が多い」とも記載しているが、長期間溜めればそれだけ金融資産が多くなるのは当然だが、少ない年金の足しにしたり、夫婦に医療・介護が必要になった時の備えとすべき流動資産なのである。そのため、1,915万円の金融資産というのは、足りなくなる確率の方が高い金額だ。 *1-3-2は、2023年1月20日、⑥来年度の公的年金額は3年ぶりの増額改定だが、「マクロ経済スライド」の適用で物価高騰に追いつかず実質0・6%の目減り ⑦長期的に年金財政を維持して将来世代の支給水準を確保するための対応 ⑧食料品・光熱費等の値上がりが続く中で年金頼みの高齢者にさらなる痛手 ⑨公的年金制度は現役世代が払う保険料等で高齢者への給付を賄う「仕送り方式」 ⑩高齢者は消費期限が近い「見切り品」の食料品購入が中心で、冬はエアコンなどの電源をオフにして凌ぐ 等と記載している。 つまり、⑨のように、「仕送り方式(賦課課税方式)」を前提として、⑦のように、「長期的に年金財政を維持して将来世代への支給水準を確保する」として「マクロ経済スライド」を肯定しているが、仕送り方式だから世代間で人口が変動すると年金原資が余ったり、足りなくなったりするのだ。これが、企業会計の年金給付会計のように発生主義で年金原資を積み立てておけば問題は生じず、その考え方はFASB83により1985年には既に世界で認知されていたのである。 そのため、⑥のように、「マクロ経済スライド」の適用で年金額を実質目減りさせたり、⑧や⑩のように、物価高騰の皺寄せを高齢者に押し付けたりするのは、仕方がないのではなく悪意であると言える。 なお、*1-3-3は、⑪政府は2023年3月に物価高対策等として予備費から2兆2,226億円を支出すると閣議決定 ⑫「地方創生臨時交付金」に1兆2,000億円 ⑬自治体を通じたLPガス利用者等の負担軽減や低所得世帯へ一律3万円の給付 ⑭低所得世帯の子ども1人につき5万円の給付を実施 ⑮家畜の餌となる配合飼料の価格高騰対策965億円 ⑯輸入小麦の政府売渡価格激変緩和策310億円 ⑰農業用水利施設の電気料金対策34億円 ⑱飼料対策は価格安定制度とは別に8,500円/t支給 ⑲新型コロナ対策として病床確保する医療機関への交付金向けに7,365億円 等としている。 しかし、⑪~⑲は、賢い歳出を続けていれば防ぎ得た事象についてその一部を補填しているにすぎず、高齢者に恩恵があるのはそのうちのごく一部であり、本来はこういう事態が起こらないようにすべきであり、また、(1つづつ詳細には書かないが)それはできた筈なのである。 佐賀県統計分析課がまとめた2023年7月の佐賀市消費者物価指数(2020年を100)は、*1-3-4のように、全体では104.9と4.9%上昇し、うち家事・家具用品は114.7と14.7%上昇、食料は111.9と11.9%上昇など、必需品の物価上昇率が著しく高い。そのため、家計が感じた佐賀市民の消費者物価上昇率は10~15%程度となるが、私が住む埼玉県の場合は体感消費者物価上昇率が20%以上になるため、家計は全体ではなく必需品の消費者物価上昇率を感じていることになる。これは、必需品でなければ高すぎるものは買わないため、当然と言える。 5)“異次元金融緩和”の本当の目的は何だったのか *1-2は、①日銀は、2013年1~6月の金融政策決定会合の全議事録を公表 ②この議事録はデフレ脱却のため大規模な金融緩和を掲げて2012年12月に誕生した第2次安倍政権の意向で変わる日銀の姿を示す ③日銀出身の白川総裁時代は「物価目標を『2%』と定めて大規模緩和する」という政権の方針に日銀は抵抗 ④白川総裁は、総選挙の大勝という「民意」を背にした安倍政権の圧力に屈して2013年1月の会合で物価上昇率2%の目標を決定 ⑤投票権を持つ政策委員たちから「目標達成は難しい」とする意見が相次いだ ⑥同年3月、白川氏の後任として安倍政権に起用された財務官僚出身の黒田総裁は着任後すぐ大規模緩和に着手 ⑦黒田総裁は「人々の『期待』に働きかけてデフレを脱却するため、市場に流す金の量を2倍に増やし、2年程度を念頭に2%の物価目標を目指す」と決定 ⑧佐藤審議委員は、大規模緩和の考え方が根本的に誤っている可能性を指摘 ⑨「2%の物価目標」は今も達成されていない 等としている。 このうち、①②は良いが、⑥⑦の「大規模緩和して市場に流す金の量を2倍に増やせば、人々の期待によってデフレを脱却できる」という考え方は、あまりにも国民や経済を甘く見ているし、根本的に誤りである。 しかし、④については仕方がないとしても、③⑤⑧の「物価目標を『2%』と定めて大規模緩和する」という安倍政権の方針に、日銀が抵抗したり、委員が反対したりした言葉は、「○○は難しい」とか成功する可能性も一部は残したような曖昧な言い方であるため、経済や金融の専門家にしては、経済の素人に対して、誤解させずに理由を説明する義務を果たせていない。 そして、私の予想通り、散々な迷惑を国民にかけても、⑨のように「2%の物価目標」は今も達成されていないが、そもそも「コストプッシュインフレでもいいから、ともかく物価上昇させて政府の実質債務を減らそう」という考え方自体が、日本国憲法前文に書かれている国民の福利を完全に無視しているのだ(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)。 6)歳出の正常化について *1-4は、①政府は来年度予算編成の基本方針をコロナ禍以降に膨張した歳出について平時に戻していくと決め ②各省庁の予算要求に制限をかける概算要求基準も閣議了解し、配分にメリハリをつけつつ全体の規模を抑える方針だが、例外や抜け穴が目立つ ③最たるものは政権が2倍近くへの拡大を打ち出した防衛費で、防衛費大幅増は今年度予算から始まって他の重要分野や財政健全化にしわ寄せを及ぼしつつある ④子ども政策財源も防衛費増と同様に別枠で、政府は幅広い「歳出改革」による捻出を当て込む ⑤各省庁の裁量性が高い経費の一律1割減を求めた上で、削減額の3倍分までの要求を「重要政策」として約4兆円の特別枠で認める ⑥歳出の「正常化」への試金石は、高騰したガソリンや電気・ガス料金の補助金の扱い ⑦社会保障など他の分野も物価高や賃金上昇に応じた増額を求める声は強まっている ⑧身の丈に合わない予算増を無理に続ければ政策資源の配分を歪めるため、減らせる予算の徹底的な洗い出しが必須の筈 ⑨先進国で最悪水準の借金が積み上がっている ⑩この状況を漫然と続けるのは将来世代への背信 等と記載している。 ①については、日本はコロナでそこまで経済を止める必要はなく、感染症が流行すればワクチンや医薬品を製造・輸出する科学技術力があって当然の先進国なのだが、厚労省は適切な指導ができなかったため、歳出が膨張しただけで歳入は増えなかった。 また、日本は膨らんだ予算を縮小するのに、②⑤のように、各省庁の予算要求を一律10%減らすなどめくらめっぽうの乱暴なやり方しかできず、それを補うため削減額の3倍までを「重要政策」として特別枠を認めるなど、かえって無駄遣いを含む歳出を増やす状況である。 これについては、国際公会計基準(IPSAS)に従い、複式簿記を使用して、速やかに財務書類を公表して各年度の財政政策の影響を国民に報告するとともに、予算委員会では、前年度の財務書類を基にして次年度予算を審議することが解決策になる。 この際は、当然、省庁毎ではなく事業毎の行政コスト(国民にとっての受益と負担)も計算し、政策について反省しながら、効果の高かった政策を残し、無駄遣いの多かった政策は止める等の作業を繰り返せば、国の歳出生産性は次第に上がるのである。ただし、国や地方自治体で「『効果が高い』とは何か」については、民間企業と全く同じではないため、事前に十分な議論をして定義を決めておく必要がある。 これらを念頭に考えれば、③④については、より良い代替案のある無駄遣いが多額で、それを、⑦のように、ただでさえ生活が苦しい高齢者予算から一部でも引き出すのは論外である。 また、⑥の高騰したガソリンや電気・ガス料金への補助金のうち、ガソリンはハイブリッド車の使用で消費が1/2程度に減っているため、価格が2倍になってもあわてる必要はない筈だ。また、電気・ガス料金も、輸入化石燃料に頼り続けてきたから上昇しているのであるため、1995年頃から言っている環境対応をさっさと行っていれば問題はなかった筈である。 そのため、⑧のように、時代に合わない補助金はかえって資源配分を歪めるので、地球温暖化対策に逆行する予算は真っ先に減らすべきだ。そして、日本政府が内容の検証もせず不適切な政策を採り続けたことにより、日本は、⑨のように、先進国最悪の借金を抱えたが、これは、⑩のように将来世代への背信であるだけではなく、現在及び過去の国民に対する背信でもあり、大変迷惑な行為なのである。 (2)気候変動について 今年の夏は7月からものすごく暑かったため、私は電気料金度外視で夜もエアコンをつけっぱなしにしていたが、エアコンをつけることさえ節約している年金生活者も決して少なくないため、この電気料金高騰の中でどう過ごされていただろうか。 そのような中、WMOとEUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、*2-1のように、2023年7月の世界平均気温が観測史上最高となる見通しと発表し、太古の気候を探る研究者は「地球の平均気温は約12万年ぶりの最高気温を記録した」と警鐘を鳴らしたのだそうだ。 12万5000年前の「エエム紀」の平均気温は現在の工業化前(1850~1900年)と比較してセ氏0.5~2.0度ほど高かったが、今年6月の世界平均気温は工業化前を1.5度以上上回り、国連のグテレス事務総長は「地球の沸騰が始まった」と警告した。 ただ、12万5000年ぶりの暑さが「エエム紀」と異なるのは、*2-2のように、人間の活動が地球環境に多大な影響を及ぼして起こったことで、そのため現代を「人新世」とする議論が国際地質科学連合で大詰めを迎えているのだそうだ。確かに、現在は人口が多く、影響の大きな公害を出す技術も使うため、注意を怠れば地球に不可逆的な変化をもたらす。 従って、*2-3のように、IPCCは第6次統合報告書を纏め、温暖化対策の緊急性を強く訴えたが、今年は日本がG7の議長国だったため、G20と連携して積極的な対策を加速すればよかったのに、原発も禁止した「パリ協定」以下の成果しか出さず、意識の高さに違いが見られた。 さらに、アジア等の途上国で石炭火力への依存度が高ければ、日本は再エネ・蓄電池・省エネ投資等で手伝えばよいのに、*2-5のように、自国でもそれを十分に行わず、石炭火力にアンモニアを混ぜたり、石炭火力から出るCO₂ を貯留したりなど、コストが上がって量にも限りがある提案をし、原発回帰に走ったのは情けない。 このような結果、*2-4のように、台風の豪雨や線状降水帯が頻繁に発生し、過去最多の雨量を記録するケースも目立っているが、この原因も地球温暖化である。そのため、その原因をなくすか、災害時には短期間の避難ではすまないため安全対策として移転するかしかないだろう。 (3)原発と予算 ![]() ![]() ![]() 2023.8.7東京新聞 2023.8.8東京新聞 2024.8.24東京新聞 (図の説明:左図のように、「廃炉作業を行うために、タンクを減らして新しい設備を作る必要がある(科学的根拠ではない)」として、中央の図の仕組みで処理水の海洋放出が始まった。処理水の放出口は、右図のように、陸から1kmしか離れていない水深12mの場所にあるため、汚染物質の濃度は放出口付近及び潮流に乗って東北の太平洋沿岸で高くなると思われる) 1)アルプス処理水の放出について *3-2-1は、フクイチの原発処理水は、2023年8月24日午後1時頃放出開始で、①タンクの水を約1200倍の海水で希釈した処理水を22日夜に採取してトリチウム濃度を調べ ②トリチウム濃度は計画の基準1500ベクレル/リットル(国の放出基準の40分の1)を下回り ③トリチウム以外の放射性物質濃度が基準未満であることは確認済 ④原発内のタンクには大半の放射性物質を除去する「多核種除去設備(ALPS(アルプス))」を通した水が約134万トン溜まっており ⑤今年度はこのうち約3万1200トンを放出する計画 ⑥1回目の放出は約17日間かけて約7800トンを流し ⑦放出開始から1カ月程度は、沖合約1キロ先の放水口の周辺で海水を毎日採取し、トリチウム濃度を調べる としている。 このうち①②より、希釈する前の処理水は180万ベクレル/リットル(=1500ベクレル/リットルX1200=国の放出基準の30 倍)で、⑤⑥⑦より、1回目の放出で約17日間で14兆400ベクレル(=180万ベクレル/リットルX7800X1000 )のトリチウムを海岸から1kmしか離れていない放水口より放出し、⑤より、今年度内に56兆1,600億ベクレル(180万ベクレル/リットルX 31,200X1000)のトリチウムを同じ放水口から放出することがわかる。 ここでおかしいのは、i) 希釈して薄めれば何でも濃度基準以下にはなるが、それでよいわけがなく、総量で議論すべきこと ii) (理由を長くは書かないが)“国の濃度基準”を満たせば健康被害を起こさないという科学的根拠もないこと iii)海岸から1kmしか離れていない水深12mの浅い放水口から放出すると、(海流の影響があるので詳しい調査が必要だが)汚染物質の濃度は放水口付近や東北の太平洋沿岸で濃くなると思われること である。 また、そもそも④の「多核種除去設備(ALPS(アルプス))を通した水が約134万トンも溜まっている理由は、事故で溶け落ちた核燃料に地下水が流れ込むのを防ぐために凍土壁を作り、冷却液を循環させて年間十数億円もかけているのに地下水の流入を防ぐことができず、陸側に遮水壁も作ったがそれでも原発建屋に雨水・地下水が流入するのを防げていないからである。 そのため、③は当然であって欲しいが、それも危うく、「国の濃度基準さえ満たせば、科学的で安全である」と考えていること自体が非科学的であるため、安全にも疑問があるわけだ。 しかし、*3-2-2も、⑧岸田首相は、「漁業が継続できるよう、政府が全責任を持って対応する」と「風評被害」を恐れる漁業者に強調した ⑨順調に進んでも30年に及ぶのに誰が・どう責任を取り続けるのか ⑩フクイチでは、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため大量の冷却水をかけている ⑪そこへ地下水や雨水が加わって「汚染水」が毎日約90トンずつ出続ける ⑫その「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたものが「処理水」である ⑬政府は、一昨年、濃度を国の基準値未満に薄めた上で海底トンネルで沖合一キロの海に流す方針を決めた ⑭原発構内には1000基を超える「処理水」タンクが林立し、廃炉作業の妨げになるとしている ⑮ALPSを用いても放射性物質はわずかに残り、30年間放出し続ければ膨大な量になる ⑯全国漁業協同組合連合会の坂本会長は「科学的な安全と社会的な安心は異なり、科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるものではない」と強い懸念を表明した 等と記載している。 このうち、⑧⑯の「風評被害」という言葉は、「根拠のない間違った情報や意図的なデマで生じる経済的損害」という意味だが、⑮のように、国の濃度基準を満たしていても30年間放出し続ければ膨大な量になる。そのため、「濃度が基準以下であれば安全」と考えていること自体が科学的でないため、言葉の使い方も間違っているのだ。 また、⑨のように、「誰が・どう責任を取り続けるのか」も不明で、放出の意思決定をしていない国民の税金や電力料金で責任をとるのなら論外である。さらに、⑩のように、未だに事故で溶け落ちた核燃料を冷やすために大量の冷却水をかけなければならないのであれば、「冷却水をかけて冷やせばよい」と判断したこと自体に問題があったわけだし、⑪のように、未だに地下水や雨水が流れ込んでいるのなら東電や経産省の工事に問題がある。 そのため、⑫の「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたという「処理水」がどこまで安全かも疑問になるし、⑬のように、「濃度を国の基準値未満に薄めれば沖合一キロの海に流し続けても安全だ」ということこそ、科学的根拠がない。 さらに、⑭の「原発構内にある1000基を超える“処理水”タンクが廃炉作業の妨げになる」というのは単なる場所不足による時間切れにすぎず、科学的根拠にはならない。そして、廃炉作業も、いつから始めていつ終わるつもりだろうか? 2)国の責任のとり方について イ)国内の状況 *3-3-1は、西村経産相がフクイチの処理水放出が始まるのを前に小売業界団体の幹部と面会し、①福島県産水産物等の風評被害が懸念されるので積極的に販売に取り組むよう求め ②都内で開かれた風評対策・流通対策連絡会で小売関連6団体の幹部に処理水の海洋放出後も福島県産の販売継続を要請 ③日本チェーンストア協会の三枝会長は「放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱う」と応じ ④小売業界は消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望し ⑤具体的には、国際機関等の第三者による安全性の厳格な確認・処理水が基準を満たしているかの監視結果の迅速な公表・水産物の検査体制の徹底を求めた ⑥地元漁業者らは処理水の放出により風評被害で売れ行きが落ち込むのではとの懸念を訴え ⑦全漁連の坂本会長らが自民党水産部会に参加して処理水放出に伴う中国・香港の輸入規制を巡り、販路拡大への支援を求めた ⑧中国は処理水放出に反発して日本産水産物の規制を強め ⑨岸田首相は放出と風評被害に「国が全責任を持つ」と強調 ⑩復興庁は処理水処分に伴う対策として水産物・水産加工品の販売支援事業41億円、漁業人材の確保で21億円を24年度概算要求で要求する と記載している。 また、*3-3-2は、⑪イトーヨーカ堂が、真っ先に処理水放出後も「東日本大震災で被災した生産者を応援していく」とし ⑫イオンも国際基準より厳しい放射性物質の自主検査を実施しながら、関東圏などの総合スーパーで継続販売する方針 ⑬ヤオコーも「商品の見直しはせず販売を継続する」 としている。 ⑨の岸田首相の「国が全責任を持つ」との発言を受けてか、西村経産相がフクイチ処理水放出が始まる前に、①②のように、都内で開かれた“風評”対策・流通対策連絡会で小売関連6団体幹部に処理水の海洋放出後も福島県産の販売継続を要請し、③④のように、日本チェーンストア協会の三枝会長が放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱うので消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望されたそうだ。ただ、首相・経産相はじめ小売業界幹部は全員男性で、産業振興には熱心でも食品の安全性にはあまり興味がなく、科学に疎い人たちであることを忘れてはならない。 また、⑤の「国際機関等の第三者による安全性の厳格な確認・処理水が基準を満たしているか」については、政府の言う「食品中の放射性物質の基準値」は、厚労省薬事・食品衛生審議会等の議論を踏まえて設定されたもので、食品の国際規格を策定しているコーデックス委員会(FAO《国連食糧農業機関》とWHO《世界保健機関》の合同委員会)が指標としている年間許容線量1ミリシーベルトを基にしている。しかし、これは、外部被曝を前提とした一般人の許容範囲であり、食品として体内に入る場合は至近距離から被曝するため影響がずっと大きいのだ。 さらに、フクイチの近くは、基準値以下であっても単一の食品のみに放射性物質が含まれているのではなく、多くの食品に基準値以下の放射性物質が含まれ、その上いろいろな場所で外部被曝もするため、それらを総合するとかなりの被曝量になる筈だが、政府は総合値を表示していないのである。(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/risk_commu_2021_002/assets/comsumer_safety_cms203_220311_02.pdf 、http://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/basic_knowledge/additional_exposure_dose.html 参照)、 また、IAEAも「日本政府及び東京電力が公表したデータの裏付けを行うために、処理水及び環境中の放射性物質のモニタリングをIAEAと第三者の研究所が独立した立場で実施する」としているが、IAEAには、日本政府が多額の金を出して多くの職員を送っており、また原子力推進機関でもあるため、公正な第三者機関にはなり得ないのである(https://www.iaea.org/ja/topics/response/fu-dao-di-yi-yuan-fa-niokeruchu-li-shui-nofang-chu、https://www.tokyo-np.co.jp/article/261656 参照)。 このような中、⑪⑫⑬のように、イトーヨーカ堂は真っ先に「生産者を応援する」としたが、東日本大震災後も被災地近くの食品を置き続けたのが消費者を敬遠させた理由なのだ。また、イオンが国際基準よりも厳しい放射性物質の自主検査を実施するのはよいが、私は関東圏にいてもフクイチ事故後は日本海側の水産物しか買っていない。ヤオコーは「商品の見直しをしない」 とのことだが、西部地域や外国製の食品も多いので、それらを選ぶことになるだろう。 このように頼りない政府に対する消費者の自己防衛策を、政府はじめ生産・販売関係者は、①②⑥⑨のように、「風評被害:根拠のない間違った情報や意図的なデマで生じる経済的損害」と呼ぶが、意図的・組織的に間違った情報やデマを流しているのはどちらだろうか。 なお、⑥のように、地元漁業者も「処理水放出による風評被害」と表現しているが、本当に、「売れ行きが落ち込む理由は、風評だ」と思っているのだろうか。 また、⑦⑧のように、全漁連の坂本会長らが自民党水産部会で処理水放出に伴う中国・香港の日本産水産物に対する輸入規制強化を巡って販路拡大への支援を求められたそうだが、それならIAEAやFAO・WHOの地元である米国で販売すればよい。何故なら、米国は肉食が中心で他の食品から内部被曝を受ける機会が少なく外部被曝もしない場所であるため、水産物を口に合うように美味しく加工済・調理済にした製品を輸出すれば売れると思うからである。 そのため、⑩の復興庁の水産物・水産加工品販売支援事業41億円は、米国や米軍などに販売する水産物加工品製造設備の設置に使ったらどうか。 ロ)中国の禁輸 *3-3-3は、①8月24日にフクイチ処理水の海への放出が始まり、少なくとも今後30年続く ②中国政府は日本産水産物輸入を同日から全面的停止と発表 ③香港も同日から10都県(福島・東京・千葉・栃木・茨城・群馬・宮城・新潟・長野・埼玉)の水産物禁輸を開始 ④対象は「食用の水生動物を含む水産品」で冷蔵・冷凍とも魚類・貝類・海藻に適用 ⑤2022年の水産物輸出額は中国871億円が1位、香港755億円が2位 ⑥東電は24日午前、海水で希釈した処理水のトリチウム濃度の測定結果を発表したが、国の放出基準の1/40を大きく下回った ⑦東電の小早川社長は「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とコメント ⑦岸田首相は首相官邸で「科学的根拠に基づいて専門家同士がしっかりと議論を行っていくよう中国政府に強く働きかける」と語った としている。 このうち①は、(3)1)に書いたとおり、放出される放射性物質は全体ではかなりの量にのぼるため、どこからでも輸入でき、自前で漁獲もしている中国が、②④のように、日本産水産物輸入を全面的に停止しても不思議ではないが、放出口の位置と海流によって計測ポイント毎の放射性物質濃度は日々変化し、漁獲海域毎に水産物汚染の度合いは異なる筈である。 また、③のように、香港も、同日から10都県(福島・東京・千葉・栃木・茨城・群馬・宮城・新潟・長野・埼玉)の水産物禁輸を開始したそうだが、福島・東京・千葉・宮城はわかるが、栃木・茨城・群馬・長野・埼玉は海のない県なので、フクイチ処理水が水産物に与える影響は殆どないと思う。また、新潟は日本海側であるため、海流から考えてかなり後にならなければフクイチ処理水の影響は出ないだろう。なお、海流は逆向きだが神奈川の方がフクイチに近く、水産業の盛んな県である。 そこで、⑦のように、日本政府は「希釈して薄めて濃度が基準以下になれば科学的根拠に基づいている」という態度を崩さないため、中国が必要な計測ポイントに計測機器を設置し、ポイント毎の放射性物質の濃度を測って報告して欲しい。現在は、計測機器さえ設置すれば自動的に計測して通信することが可能であるため、簡単だと思う。そして、専門家(原子力の専門家だけでなく公衆衛生の専門家も含む)が、データに基づいて議論できる環境を整えるべきである。 2022年の水産物輸出額は、⑤のように、中国871億円が1位、香港755億円が2位であるため、⑥⑦のように、東電が海水で希釈した処理水のトリチウム濃度測定結果を発表し、「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とコメントしている。しかし、これが電気料金や税金で賄われるのでは、日本国民は二重三重のパンチを受けるのである。 3)廃炉について ![]() ![]() ![]() ![]() 2019.12.27、2023.8.25日経新聞 2022.9.11日経新聞 2022.9.1Goo (図の説明:1番左の図のように、2019年の廃炉工程表改定でプールからの使用済核燃料の取り出し時期が遅れた。そして、左から2番目の図のように、2023年8月現在でも、デブリ取り出し・使用済核燃料取り出しの両方が始まっていない。さらに、右から2番目の図のように、核廃棄物の最終処分場も決まっていないが、1番右の図のように、24基の原発は既に廃炉が予定されているため、仕事は同時に進めればよい筈だ) *3-4-1は、①原発処理水海洋放出は廃炉に向けた第一歩 ②処理水を放出しなければ取り出したデブリを保管する場所が確保できない ③今後はデブリ取り出しが難事業 ④放射線量が非常に高く人が近づけないデブリは1~3号機全体で推計880tあるため作業は遠隔操作 ⑤ロボットアームを使い2号機から着手する ⑥東電等によれば1回目で取り出すのは数グラム程度だが、それすら実際に出来るか不明 ⑦日本原子力学会フクイチ廃炉検討委員会の宮野委員長は「政府が示す廃炉計画は具体的な見通しがあるわけではなく、最も難しいデブリ取り出しの手法が描けなければ廃炉の見通しも立たない」と指摘 ⑧原発内部からの溶融燃料取り出しは、政府目標の30年後廃炉完了も見通せていない ⑨国は廃炉について最終的な形を明らかにしていない ⑩政府はデブリ回収に6兆円・廃炉全体で8兆円の費用試算を2016年に公表したが、さらに増えそう ⑪事故賠償や除染も含めると事故後12兆円を既に支出 ⑫費用総額は廃炉の最終的な形も大きく左右し、負担は国民に跳ね返る 等と記載している。 また、*3-4-2は、⑬東電は8兆円もの廃炉費用を捻出できる力が弱く、経営再建の道筋が描けない ⑭2023年度内に最難関とされるデブリの取り出し作業が始まるが、炉内の正確な状況が分からず、取り出す工法も手探りで費用が想定より膨らむ可能性 ⑮廃炉総額約8兆円のうち約6兆円がデブリへの対処 ⑯東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用も全額負担し、賠償も半分払う ⑰東電は新電力への顧客流出で収益基盤が揺らいだまま ⑱原発再稼働が進まなければ、国主導でグループの経営体制の見直しを迫られる可能性 ⑲東電の小早川社長は「財務基盤が安定しなければ、廃炉や賠償などの責任を果たせない」と厳しい表情で語った ⑳廃炉作業を進めるためにも、早期に稼ぐ力を示すことが不可欠 等と記載している。 このうち、①②は、原発処理水を海洋放出する科学的根拠には全くならず、処理水の貯留に限界があるのも最初からわかっていたため、貯留のために膨大な予算を使った挙句に見切り発車して処理水を海洋放出する方法を採用した理由を、まず明らかにすべきである。 その上で、③のように、「推計880tあるデブリは取り出しが難事業だ」と言ったり、④⑤⑥⑦⑧⑨のように、「デブリは放射線量が高くて人が近づけないためロボットアームで取り出すが、それも実際に出来るかどうか不明だ」「デブリ取り出し手法が描けなければ廃炉の見通しも立たない」等と言っているのはあまりにも遅すぎ、人間は核燃料を扱うことはできないという事実を意味している。そのため、「原発を維持する」「新しい核融合原発を作って地球上に太陽を作る」などと言うのは、後始末もできない危険物を作って稼働させるという無責任な行為だ。 また、⑩⑪⑫のように、事故の賠償や除染も含めると事故後12兆円を既に支出しており、政府は2016年にデブリ回収に6兆円、廃炉全体では8兆円の費用試算を公表したが、それらが多様な形ですべて国民負担になる。しかし、他に重要な予算は多いのに、それは削られるため、何を考えてどう予算を決めてきたのかを聞きたい。 なお、⑬⑭⑮⑯は、「デブリの取り出し作業が最難関で取り出す工法も手探り」「東電は8兆円もの廃炉費用を捻出できる力が弱く、経営再建の道筋が描けない」「東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用も全額負担し、賠償も半分払う」等としているが、それらは原発稼働を決めた時点で覚悟しておくべきことだったため、今さら泣き言を言ったり国民に追加負担を求めたりはして欲しくない。 私は、東電社員にはレベルの高い人や、良い仕事をする人も多いと思うが、⑱のように、未だに原発にしがみつき、⑳のように、廃炉作業の目途も立たないようなら、既に経営体の体はなしておらず、人材の有効活用もできていないと思われる。 従って、東電の経営体制は見直した方が良いが、経産省を中心とした国主導では、⑲のように、「財務基盤を安定させ廃炉や賠償などの責任を果たすために国民負担を追加する」という解決策しか思いつかないため、今後の生産性向上に役に立つ電力会社の改革はできず、新たに匙を投げた顧客が、⑰のように、東電から他の電力会社に流出すると思う。 4)非科学的で不合理な原発回帰論 ![]() ![]() ![]() ![]() 2022.11.29、2022.9.30日経新聞 2022.10.2産経新聞 2022.11.29日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、経産省は既存原発の再稼働と60年超の運転期間延長、次世代原発の開発と建設を計画しており、その理由を、左から2番目の図のように、運転可能原発の過半数が既に30年超を経過しており、右から2番目の図のように、原発の40年運転を厳守すると2060年代には稼働できる原発がなくなり、60年まで運転期間を延長しても2080年代に稼働できる原発はなくなり、1番右の図のように、運転期間延長だけでは原発の縮小が避けられないからとしている。しかし、これは原発運転時の高コストの負担や事故時の膨大なリスクと後処理費用の負担、膨大な核廃棄物の処理費負担、技術の不確実性・不安定性など、原発のあらゆる短所に目をつぶった不合理で強引な行動計画である) ![]() ![]() ![]() ![]() 2022.9.5西日本新聞 2023.2.9、2023.2.11東京新聞 2023.7.27日経新聞 (図の説明:1番左の図が経産省の言う次世代型原発だが、既存原発の改良型なら既存原発と同じ問題が残り、冷却材にNaを使うもんじゅは何年経っても成功しなかった。また、高温ガス炉や核融合炉も爆発のリスクがある上、超高温を発生してタービンを回すシステムはエネルギーロスが多く、冷却時に多量の熱を外部に出すのである。そのため、原発は経済合理性《リスクも金額に換算する》によって自然淘汰されるべき電源だが、左から2番目と右から2番目の図のように、政府は、原発の運転期間を伸ばし、建て替えまで選択肢に入れている。その上、1番右の図のように、原発由来の電力を使わない消費者からまで強制的に原発のコストを徴収すると、政府が介入することで市場を歪めて筋の悪い発電方法を残すことになり、目的不明である) これまで書いてきたように、原発は、1966年に日本で最初の商業運転を始めてから57年が経過してなお、平時でも立地地域に税金を投入してやっと運営しており、使用済核燃料の処分先が決まらないばかりか、災害でコントロールを失えば大きな事故となり、莫大な税金を投入しなければ事故処理すらできないシロモノであることが明るみに出て、「原発はコストが安い」という主張は真っ赤な嘘であったことが判明した。 そうすると、次は「電力の安定供給」「脱炭素社会の実現」「ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化」など、その場限りの思いつきの説明をしているが、災害時にも安定的に電源を供給できるのはむしろ再エネによる自家発電の方なのだ。再エネは燃料電池や蓄電池で電力を溜めれば過不足なく電力を供給でき、戦争や災害時も原発のようにコントロール不能の状態に陥ることなく、国内の資源からクリーンな電力が得られる。そのため、化石燃料はもとより、原発も、既に再エネに完敗しており、原発回帰は筋の悪い政策なのである。 イ)原発回帰ありきのパブリックコメントと有識者会議 *3-1-1・*3-1-2は、①政府は、原子力基本法に原発活用による電力安定供給や脱炭素社会実現を「国の責務」と明記 ②原子力の安定的な利用を図る観点から60年を超える運転を可能にして、原発回帰を鮮明にした ③電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」で通常国会に提出 ④「原則40年、最長60年」としていた運転期間を原子炉等規制法から電気事業法に移管し、上限維持の上で行政処分や裁判所の仮処分命令などで停止した期間を運転期間の計算から除外できるとした ⑤原発建替・60年超運転等の原発推進策を盛り込んだ政府基本方針はパブリックコメントに4000件近くの意見が寄せられ、多くが原発に反対する声だった ⑥政府が公表した意見公募結果には「フクイチ事故は人間が原発をコントロールできない証明」「将来世代に重大な危険を呼び込む」など政府に再考を求める意見が並んだ ⑦しかし、政府は大筋を変えず閣議決定した ⑧原発に否定的意見に対する政府の回答は、ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化で電力安定供給が危機的状況と強調するのみで ⑨脱炭素効果のある再エネとともに原子力の活用を図るとの説明を繰り返し ⑩原発建替は「廃炉が決まった原発敷地内」とした ⑪原発に否定的な委員からも国民的議論を求める意見が相次いだが、方針決定まで国民の声は聞かなかった ⑫西村経産相は「原子力利用政策の観点でまとめ、安全規制の内容は含まれないため問題ない」と説明 ⑬経産省有識者会議委員も務めたNPO法人原子力資料情報室の松久保事務局長は「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めた。政策決定の手法として許されない」と批判 ⑭政府が原発推進策を盛り込んだ基本方針を閣議決定した日、市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が主催して、永田町の首相官邸前で約100人が抗議行動を展開し、冷たい雨の中で「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせた ⑮国際環境NGO「FoE Japan」事務局長の満田夏花さんは「原子力産業の生き残りのため将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせる民意を無視した閣議決定に断固反対」と強調した と記載している。 このうち、①は、電力の安定供給には、再エネと蓄電池を組み合わせて普及させれていれば原発は不要であったため、原子力基本法に「国の責務」などと記載して、民間会社の特定の発電方法である原発にいつまでも税金をつぎ込むと、市場を歪めて最善の発電方法が選択されなくなる。そして、脱炭素社会には、原発ではなく再エネ利用のためのインフラを速やかに整備した方が、エネルギーの変動費を0にして産業に役立ち、エネルギー自給率も上げ、温室効果ガスを発生させず、冷却熱を環境に放出しないため温暖化対策としてもBetterなのである。 そして、これは、原子力村の住民とそこから金を得ているメディアや政治家以外なら誰でもわかることであるため、⑤のように、パブリックコメントに多くの反対意見が寄せられ、⑥のように、「人間は原発をコントロールできない」「将来世代に重大な危険」などの政府に再考を求める意見が並んだのだ。 また、⑪のように、原発に否定的な委員からも国民的議論を求める意見が相次いだのに、政府は方針決定まで国民の声を聞かず、⑦のように、大筋を変えずに閣議決定したのだそうだ。そのため、⑮の「原子力産業の生き残りのために、将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせる民意を無視した閣議決定」というのは、正しいだろう。 そして、政府は、⑧のように、ウクライナ情勢を言い訳にし、⑨のように、脱炭素効果を主張するが、それらは再エネや省エネ設備の導入というよりよい選択肢があったため、説得力のある説明にならないのである。さらに、③のように、電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」にして通常国会に提出すると、野党の追及が十分にできず、国民の理解も進まないため、国民の反対を無視して突破するには都合が良いものの、民主主義の原理から大きく外れるのだ。 つまり、⑫で西村経産相が「原子力利用政策の観点でまとめた」と説明しておられるとおり、原子力利用政策が先にあり、そのために形だけ、有識者会議を開いたり、パブリックコメントを集めたりしたが、その結果を反映する意図はなかったのだと思われる。 また、②の「60年を超える運転を可能にした」というのは、前にも書いた理由で、科学的根拠がない上に過去よりもリスクが増す方向への政策転換であり、フクイチ事故後の政策転換として不適切である。また、④の「原則40年、最長60年の運転期間から行政処分・裁判所の仮処分命令等で停止した期間を除外できる」としたのも、科学的根拠がなく、過去よりもリスクが増す方向への政策転換なのである。 これに加えて、⑩の「原発建替は廃炉が決まった原発敷地内」としたのも、武力攻撃に抵抗力のない原発を日本海側に林立させている状態を継続させる決定であり、災害からのセキュリティーも考えていなければ、防衛費増との整合性も全くない。そのため、⑬の「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めた。政策決定の手法として許されない」との批判は正しく、「多面的な意見を吸い上げて纏めていれば、矛盾だらけではないスマートな結論を出せたのに」と思われる。 最後に、⑭の政府の閣議決定の日、市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」主催で永田町首相官邸前で約100人が抗議行動をし、冷たい雨の中、「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせられたのは、感心すると同時に敬意を表する。 ロ)根拠薄弱な原発政策の転換 *3-1-3は、①巨大地震・津波で世界最悪の原発事故を起こして12年経過しても、事故収束の見通しは立たない ②当時の民主党政権は「2030年代に原発稼働0を可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とし ③自民党政権下でも「原発依存度は可能な限り低減」としていた原発政策を、岸田首相は大した議論もせずに大転換して原発最大限の活用を掲げた ④世界のエネルギー情勢を無視した「先祖返り」のエネルギー政策は、根拠薄弱で将来に禍根を残す ⑤「ロシアのウクライナ侵攻が一因のエネルギー危機や化石燃料使用による気候危機に対処するため原発の活用が重要」というのが転換の根拠だが、フクイチ事故は大規模集中型の巨大電源が一瞬で失われるリスクの大きさを示した ⑥小規模分散型の再エネを活用する方がこの種のリスクは小さく気候危機に対して強靱 ⑦フランスでは熱波で冷却できずに多くの原発が運転停止を迫られ、原発が気候危機対策に貢献するという主張も根拠薄弱 ⑧気候危機対策には2025年頃に世界の温室効果ガス排出を減少に向かわせ、2030年までに大幅な削減を実現することが求められるが、原発の新増設も再稼働もこれに貢献せず、再エネ急拡大が答えであることは世界の常識 ⑨岸田首相の新方針は時代遅れの原発に多大な政策資源を投入し、気候危機対策の主役である再エネ拡大のための投資や制度改革には見るべきものがない ⑩この12年間で安全対策等のため原発コストは上昇し再エネコストは急激に低下 ⑪原発の運転期間を延ばせばさらなる老朽化対策が必要になるから、原発の運転期間延長も発電コスト削減効果は限定的 ⑫米ローレンスバークリー国立研究所等の研究グループは、蓄電池導入や送電網整備、政策の後押しなどにより日本で2035年に再エネの発電比率を70~77%まで増やせると分析 ⑬日本のエネルギー政策に求められるのは、この種の科学的成果や世界の現実に関するデータを基礎に熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めること ⑭いくらそれらしい理屈と言葉を並べても、科学的根拠が薄く決定過程に正当性のないエネルギー政策は机上の空論に終わる 等としている。 このうち①⑥⑦⑧⑩⑪は事実で、地震・津波のリスクを無視して世界最悪の原発事故を起こした上、エネルギー自給率が著しく低く、化石燃料高騰で国民も産業も苦しんでいる日本こそ、②のように、あらゆる政策資源を投入して2030年代に原発稼働0を可能にしなければならなかったし、できた筈なのである。 しかし、③のように、自民党政権下で「原発依存度は可能な限り低減」として後退し、岸田首相はさしたる議論もないまま原発の最大限の活用に大転換したが、まさに④⑨のとおり、世界のエネルギー情勢を無視して時代遅れの原発に後ろ向きの多大な政策資源を投入し、気候危機対策の主役である再エネ投資や制度改革には見るべきものがないという将来に禍根を残すエネルギー政策なのである。 なお、⑤の「ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料価格が高騰し、原発の活用が不可欠になった」という政策転換根拠もよく聞くが、化石燃料価格の高騰は、中東産油国が原油価格を70%引き上げた1973年(今から50年前)のオイルショック以来続いているのだ。また、ロシアのウクライナ侵攻による化石燃料価格高騰は、ロシアに対する日本の金融制裁に対する制裁返しであるため、これは、自給率が低いくせに制裁ばかりした国の末路と言える。 そのような事情の中でも、エネルギー変換を拒み、大量の化石燃料を輸入して国富を流出させ続け、地球温暖化まで招き、化石燃料価格が高騰したからと言っては化石燃料に補助金をつけてエネルギー変更を拒んできた“政策”は、製造業を国内で成り立たなくし、国内にあった産業を外国に追いやってしまった原因の1つであることを忘れてはならない。 また、⑤の「フクイチ事故は大規模集中型の巨大電源が一瞬で失われるリスクの大きさを示した」というのも事実であるため、原発は安定電源というのも合理性も説得力もない。 つまり、⑫の米ローレンスバークリー国立研究所等のグループが言うとおり、現在ある技術を最大限に活用しない技術は開発して、蓄電池導入・送電網整備を政策の後押しで行えば、日本は2035年には再エネ発電比率(≒エネルギー自給率)を70~77%まで増やせると、私も思う。 そして、⑬⑭のように、日本のエネルギー政策に求められるのは、科学的成果や世界の現実に関するデータを基礎に、熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めることで、いくら尤もらしい理屈や言葉を並べても、科学的根拠が薄く決定過程に正当性のないエネルギー政策は机上の空論に終わるだろう。 5)政府の水産事業者向け支援策について 2)イ)に、私が「復興庁の水産物・水産加工品販売支援事業41億円は、米国等に販売する水産物加工品製造設備の設置に使ったらどうか」と書いてから、日本政府は、*3-5-1のように、中国への輸出依存から転換するための販路開拓等で、①国内消費拡大・生産持続対策 ②風評影響への内外での対応 ③輸出先の転換対策 ④国内加工体制強化対策 ⑤迅速で丁寧な賠償 など合計1007億円の水産事業者向け支援策にをまとめたそうだ。 このうち、②の“風評”という言葉使いは賛成しかねるし、①の国内消費拡大は、どの海域で獲れた汚染されていない水産物かどうかによって良し悪しが異なる。また、③の輸出先転換でホタテ等の一時買い取り・保管・新規販路開拓支援も、とりあえず買い取って長期間保管し、他の場所に販路を求めるというのでは、汚染されていない水産物かどうかによって評価が全く異なるのである。しかし、⑤については、未だに汚染水が増えている現状では、処理して海に放出しているとしても、東電や政府はそうするしかないだろう。 しかし、④の「中国に依存している水産物の加工を国内に呼び戻す」として、*3-5-2のように、「加工も中国頼みで、輸出したホタテを中国でむき身に“加工”した後、米国に3万~4万トン輸出していた」というのは、ホタテの殻をとってむき身にするのは加工と呼ぶほどのことではないし、殻つきのホタテを中国の加工場まで運び、そこでむき身にして米国に輸出すれば余分なエネルギーがどれだけかかったかと思われ、呆れた。 私が書いた「水産物を美味しく加工済・調理済にした製品を輸出すれば売れる」というのは、「日本食キャンペーン」をして日本食として売るのではなく、例えばホタテ(牛肉でも豚肉でもないため、ヒンズー教徒もイスラム教徒も食べられる)であれば、ホワイトシチュー・カレー・ハンバーグ・ギョウザ・シュウマイ・燻製等の相手が好む料理に加工して輸出することを意味していた。ここで注意すべきは、水産物は、日本だけで食べられている食材ではないことである。 また、中国向けナマコは、干して輸出し、中華料理に使うのが主だったと思うが、中華料理も世界で食べられている料理であるため、その原料として販売したり、調理済にして販売したりすることを意味していた。そのため、商社や食品加工会社の出番なのであり、栄養士の監修の下、美味しくて健康的な料理にして販売すれば、日本らしい付加価値の高い食材になるわけだ。 ここで、「建設資材が高騰し機械も電気代も値上がりする中、加工は現実的な対策か」「仮に加工施設を国内に設けても、働き手の確保は簡単でない」という声があるが、こういう問題に対する環境整備こそ政府が行うべきであり、現在は、この高コスト構造に負けない付加価値をつけなければ海外販売はできないわけである。 (4)化石燃料と予算 1)日本が遅れる理由は何か 1990年頃から気候変動に関する指摘があり(発端が私だから詳しいのだが)、1992年に気候変動枠組条約が採択されたが、発効は2年後の1994年だった。また、1997年のCOP3では、日本が主導して京都議定書を採択したが、抵抗も多く、その発効は8年後の2005年であり、気候変動に関する歩みは遅々としていた。しかし、2015年にCOP21でパリ協定が採択され、これは翌年の2016年に発効した。 京都議定書とパリ協定の大きな違いは、i) 京都議定書が2020年までの枠組みであるのに対し、パリ協定は2020年以降の枠組みであること ii) 京都議定書は先進国(日本、米国、EU、カナダ等)のみに温室効果ガス削減目標を示していたが、パリ協定ではすべての締約国が対象になったこと である。 しかし、iii) 京都議定書は「目標達成」を義務としていたが、パリ協定は「温室効果ガスの削減・抑制目標を策定・提出すること」を求めているだけで目標達成を義務とはしていないこと 及び、iv) 2020年以降は、温室効果ガスの削減に関しては世界共通の「2度目標(努力目標1.5度以内)」のみが掲げられていること である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page22_003283.html、https://www.asahi.com/sdgs/article/14767158 参照)。 このような中、*4-1は、「IPCCが2023年20日に公表した統合報告書でこれまで以上に危機感を打ち出し、その一方で、人類は温室効果ガスを大幅に削減する手段をすでに手にしていると指摘し、この10年間の行動が人類と地球の未来を決めるとした」と記載している。しかし、これは30年前からわかっていたことで、そのために、建材一体型の再エネ機器やEV等の温室効果ガス削減手段を開発してきたのである。 *4-1は、具体的に、①温室効果ガス排出量が増えるほど温暖化が進むと強調 ②世界で稼働・計画中の化石燃料インフラを使い続けると気温上昇が2度を超える ③「パリ協定」で各国が提出する温暖化対策目標を達成しても2.8度上昇する可能性 ④温暖化が進むほど損失・被害拡大 ⑤水害や海面上昇は堤防などの治水対策で一定のリスクは減らせる ⑥国連のグテーレス事務総長はCOP28までに、G20リーダーのすべてが野心的な新目標を約束することを期待し、温暖化に大きな責任を負う先進国は、2040年までに実質排出0を前倒しするよう求めた ⑦G7の米英独加は2035年に電源の脱炭素化目標を掲げ、仏は2021年に91%を脱炭素化済 ⑧日本は2021年に2030年度の46%削減、2050年の実質排出0を掲げ、2040年の目標はなし ⑨IEAは「世界で導入された再エネは昨年最大4億400万kwで2019年から倍増の見通し」とする ⑩EUは昨年5月に再エネ強化目標「リパワーEU」を決め、2030年時点の再エネ比率を40%から45%に引き上げた ⑪米国はエネルギー安保と気候変動対策の約3700億ドルを含む「インフレ抑制法」が成立し、2030年までに40%前後排出減 ⑪日本の再エネの導入ペースは鈍い ⑫COP28ではパリ協定の下で初めて各国の削減目標の進み具合の評価が行われ、2025年までに新たな目標を提出することになるが、環境省幹部は「まだ何も手が付いていない」と言う ⑬2月閣議決定の「GX実現に向けた基本方針」は、今後10年間で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出するが、発電量に占める再エネ比率を2030年度36~38%と変更なし ⑭大排出源の石炭火力発電燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円を投じるが、技術的に未確立でコストも高く、石炭火力の延命との批判 ⑮日本のGX基本方針には真剣さや迫力がない ⑯「脱炭素経済」移行に遅れれば日本の産業競争力は引き続き低下 ⑰水素・アンモニアの混焼は「見せかけの脱炭素化」と見られ、世界の投資家から理解を得られない と記載している。 このうちの①④は、科学的に考えれば当然のことである。また、②③のように、気温が上昇すれば、⑤についても、大きく海面上昇すれば、海抜の低い地域は堤防等でリスク軽減するのに費用対効果が著しく悪くなり、ちょっとした豪雨で内水反乱や水害を起こすようになるため移転を余儀なくされ、日本も居住可能地域が狭くなるということだ。 そのため、⑥のグテーレス事務総長の要請は尤もであり、⑦⑩⑪のように、日本を除くG7各国は早めの電源脱炭素化目標を掲げて実行し、⑨のように、IEAも「世界で導入された再エネは2019年から倍増」としているが、日本は、⑧⑪⑬のように、2040年の目標はなく、2023年2月の閣議決定「GX実現に向けた基本方針」で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出してもなお、再エネ発電比率は2030年度36~38%と変更せず、再エネ導入ペースを意図的に遅くしているのである。 また、⑭の石炭火力発電燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円も投じるなど寄り道のための無駄遣いも多く、目標を定めて資源を集中しないため、日本のGX基本方針には⑮のように真剣さや迫力がなく、⑰のように「見せかけだけの脱炭素化」になるのだ。 そして、この調子では、⑯のように、「脱炭素経済」への移行に大きく遅れ、国民に無用の負担を押し付けて生活を圧迫しつつ、エネルギー自給率は相変わらず上がらず、日本の産業競争力は他国と比べてさらに低下し続けて、リーダーシップどころではなくなるわけである。 何故、我が国の政府はこのような対応しかできないのか? 私が最初に気候変動に関する指摘をしてから30年以上経過するため、その間に見てきて感じたことを書けば、日本政府は必要な情報を総合して纏めることによって合理的な目標を定めることができず(当然、重要性によって順位をつけ、不要なものは除くべき)、何でも混沌とさせたまま、後戻りしたがったり、「ミックス」にしたがったりするからである。 つまり、日本政府(縦割りに固執した省庁まで含む)は、科学を基礎にしてはじき出した目的に資源を集中させることができず、何でも「ミックス」にして認めることによって政敵を作らないことを重視し、その結果、最も重要な本来の目的を見失うとともに、本来の目的を達成するための国民負担を無視するからである。 そして、この最も根本的な原因は、初等・中等・高等教育における理系科目の軽視と、空気を読んで狭い範囲の周囲にのみ同調することを教える文化にあるだろう。 2)化石燃料価格引き下げ目的の有害補助金について *4-2-1は、①世界銀行は「各国政府が自国産業に出す補助金のうち、環境に有害なものが世界で年間計7兆ドル(約1千兆円)を超える」と公表し ②使い方を見直して環境保護に活用するよう訴え ③補助金のマイナス面に警鐘を鳴らした ④これには不十分な規制で産業を利する「暗黙の補助金」も含む ⑤通常の補助金にも国民生活に不可欠なものがあり、全てを環境保護に振り向けるのは難しい ⑥エネルギー分野では化石燃料価格引き下げにつながる補助金を問題視 としている。 このうち①②③は全くその通りで、世界銀行は良いことを言うと思う。しかし、④の「暗黙の補助金」については具体例が書かれていないためよくわからないが、例えば、原発に関る種々の補助金、放射性物質や排ガスを出す機器への規制の緩さ等が挙げられるだろう。 また、⑤の「環境保護に振り向けるのが難しい国民生活に不可欠な補助金」の具体例も書かれていないのでわからないが、例えば農林漁業関係の補助金の一部はそれに当たると思う。 何故なら、いつまでも農業機械・漁船・トラック・航空機等に化石燃料を使い、「燃油価格が高騰したから補助が欲しい」「コストが合わないから漁に行けない」等々は、私が聞いただけでも20年くらい同じことを言い続けているため、とっくに電動農機・電動船・電動トラック・電動航空機に変更して国内産の再エネ電力でそれを動かしていていい時期だからである。そのため、この20年間、日本政府は膨大な無駄遣いをしながら、何をしていたのかと思う。 つまり、⑥については、最初は仕方がないため燃料に補助するものの、化石燃料価格の引き下げに繋がる補助金は早々に新機器買い替えのための補助金に変え、とっくの昔に新機器への移行を終えていなければいけない時期であり、化石燃料への補助金ではなく、むしろ炭素税を課して移行を促すべきだったのである。 また、*4-2-2は、⑦政府は「9月末まで」としていたガソリン補助金を年末まで延長する方針 ⑧補助の長期化は国民負担を増やし脱炭素に逆行 ⑨8月28日時点の価格(全国平均)は185.6円/lと統計開始以降の最高値 ⑩店頭価格上昇の背景は原油価格の高止まり ⑪産油国は減産によって原油相場を維持 ⑫ロシアも原油輸出を減らす方針 ⑬円安・ドル高の進行もガソリン価格を押し上げ ⑭政府が原油高によるガソリン・軽油・灯油等の価格高騰を抑えるため始めた石油元売りへの補助金は、2022年夏は40円/l前後で、現在は10円/l程度 ⑮ガソリン高は家計の負担増に繋がり、特に地方の家計に響く ⑯補助金の長期化は自然な市場メカニズムの働きを抑える副作用もあるため ⑰「補助金の一部を再エネ・省エネ関連の建設費に投じて将来的な光熱費低減に繋げるべき」との指摘もある 等と記載している。 このうち⑦は、⑪⑫の産油国の減産と⑬の円安で、⑨⑩のように原油価格が高止まりしていれば、それがこれまでの日本政治のツケであっても、今となっては仕方がない。しかし、⑧のように、出口はなく長期化して脱炭素に逆行すると同時に、現在及び将来の国民負担が増えるのだ。 なお、⑭のように、政府が石油元売りに補助金を出すのは変であり、むしろ⑮のように負担増になった家計がガソリンなどの燃油を購入する際に補助すべきだ。そして、早急に燃油依存を止めるため、ドイツのようにガソリンスタンドに充電設備設置を義務付けたり、充電設備設置に補助したりすべきである。 そのため、私は、⑰の「補助金の一部を再エネ・省エネ関連の建設費に投じて将来的な光熱費低減に繋げるべき」との指摘に賛成である。そして、1997年のCOP3で京都議定書の採択を主導した日本なら、2000年になったらすぐにそれを開始していなければならなかったし、集中してやれば今のように借金を増やすことなくできた筈なのだ。 (5)再エネと予算 1)ペロブスカイト型太陽電池への期待 ![]() ![]() ![]() 2023.9.7Yahoo 2019.12.20Smart Japan 2022.1.13Money Post (図の説明:左図が、積水化学工業が開発したペロブスカイト型太陽電池ガラスだが、完全に透明にできていない点で改良の余地がある。中央の図は、外壁タイプとシースルータイプの太陽電池の説明だが、外壁なら煉瓦のような模様を印刷できたり、ガラスなら透明ガラスや色ガラスにできたりしなければ、建材としての実用化には遠い。しかし、右図のように、赤外線や紫外線を使って発電し、可視光線は完全透過して、遮熱と発電を同時に行えるガラスも既にできている) *5-1-3は、①「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めており ②太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使うため、重さがシリコン型の10分の1 ③薄いフィルム状で折り曲げられ、建物の壁・EVの屋根など場所を問わず自由に設置可能 ④日本で原料を確保しやすいため、国内でサプライチェーン構築可能 ⑤政府は2030年までに普及させる方針で、国内企業を支援 ⑥積水化学工業や東芝が2025年以降の事業化に向け開発を急ぐ ⑦ペロブスカイト型太陽電池は水分に弱いが、積水化学は封止材の技術を使って保護し、耐久性を10年相当に高めた ⑧事業化に欠かせない変換効率も高めた ⑨JR西日本がJR大阪駅北側に2025年の開業を目指す「うめきた駅」に設置する予定 ⑩室内光や曇り・雨天時等の弱い光でも発電可能なため、屋内向け電子商品などにも使われる可能性 ⑪経済波及効果は2030年までに約125億円、2050年までに約1兆2500億円 等と記載している。 このうち、②③④の性質によって、「ペロブスカイト型」太陽電池は、①のように、注目に値すると私も思う。そのため、⑤のように、政府が2030年までに普及させる方針で国内企業を支援するのは、脱炭素化・エネルギー自給率の向上・脱公害という意味で、大変良いと思う。 しかし、⑥⑦のように、積水化学工業や東芝などの民間企業が、2025年以降の事業化に向けて、得意技を使って開発を急いでいるのはさらに期待でき、⑨のように、JR西日本が「うめきた駅」に設置することを既に決めているのも頼もしい。なお、⑧の変換効率については、設置可能面積が著しく広いため、シリコン型ほど高める必要はないのではないか?また、⑩のように、室内光や弱い光でも発電でき、電子商品が充電不要になると便利であるため、⑪の経済波及効果は、もっと大きいと思う。 *5-1-1によると、積水化学工業は、量産で先行している中国勢を追い上げる形ではあるが、強みの耐久性を生かして屋外での需要を開拓しているそうで、量産時期が「2030年まで」というのは少し遅いものの、期待はできる。 なお、積水化学工業が液晶向け封止材等の技術を応用して液体や気体が内部に入り込まないようにできるのなら、真空複層ガラスの内部を透明なペロブスカイト型太陽電池にし、省エネと発電の両方を行う複層ガラスを作って、公共施設だけでなく、民間のビル・マンション・住宅も標準仕様にして欲しい。中古のマンションやビルの場合は、大規模修繕工事の時に一斉に採用すればよいと思うが、耐久性が10年程度では短すぎるため、もっと長く持つ太陽光発電複層ガラスができれば、ニーズは著しく高くなるだろう。 また、パナソニックは、*5-1-2のように、2023年8月に、透明なガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を開発し、それはインクジェット塗布製法でガラス基板上に発電層を直接形成するものだそうだ。そして、それを、レーザー加工技術と組み合わせれば、サイズ・透過度・デザイン等の自由度を高めることが可能なのだそうで、大いに期待する。しかし、これなら複層ガラスのペロブスカイト型太陽電池でステンドグラスさえできそうであるため、ウクライナの教会の改修等に利用すれば面白いし、宣伝効果もあると思う。 2)省エネ・創エネ・脱炭素住宅へ *5-1-4は、東京都が、①大規模マンションについては断熱性等の環境性能開示制度を既に設けており ②2025年度から、新築の戸建て・中小規模のマンションやビルも事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明することを義務付け、都の評価基準を満たしているか契約前に説明し、買い手が環境に配慮した物件を選び易くする ③2025年度に始める新築戸建てへの太陽光パネル設置義務化と合わせて省エネ住宅普及に繋げる ④説明義務を負うのは都内で年間2万平方メートル以上の物件を供給する事業者で、大手住宅メーカー等の50社程度を想定し、都内の年間供給棟数の半数程度が対象 ⑤建物自体の環境性能のほか、EV用充電設備の設置状況が都の基準を満たしているかも説明させる ⑥パネルの設置義務も供給棟数の多い50社程度が対象で、新築物件の半数程度が対象になる見通し ⑦都内全体で毎年4万キロワット程度の発電能力を生み出せる と記載している。 東京都は全国で唯一、都立高校入試に男女別定員があり、同じ高校の入試でも男女の合格ラインが違って女性の合格ラインの方が高くなっており、2024年春の入試からこれを全面廃止するという教育面では著しくジェンダー平等から遅れた地域だが、環境については、*5-1-4のように、先進的な規制をした。 具体的には、②⑤⑥のように、事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明することを義務付けたり、EV用充電設備の設置を推進したり、太陽光パネルの設置を義務づけたりしており、良いと思う。 しかし、①②④のように、対象物件や事業者を規模で分けると、③の省エネ・⑦の創エネ・⑤の脱炭素効果が中途半端になる上、買い手が環境に配慮した物件を選ぶ時には、建物の規模や事業者の規模、新築か中古かが重要な要素になる。そのため、分けるより、全新築物件・全中古物件に説明義務を課し、中古物件のリノベーションも進めた方が良いと、私は思う。 なお、この規制は、東京都だけでなく、国が徹底した省エネ・創エネ・脱炭素を国内の全建築物の建築基準に入れるのが良い。何故なら、そうすれば、電力コストが下がり、エネルギー自給率は上がり、災害に強い電力システムができて、脱炭素も進むからである。 3)EVについて イ)EVバスはBYDから(!?) *5-2-1は、①2023年3月に、西東京バスや神奈川中央交通などがEVバスを採用 ②「EVバスはディーゼルバスより音や揺れが少なく乗客に好評」と西東京バスの担当者は語る ③EVバスは、中国のBYDから購入している ④ディーゼルバスは大型2300万円程度、EVバスは4000万円台 ⑤政府は2023年度のEVバス補助率を導入費用の最大1/2に高め ⑥政府や自治体の補助金で一般バスよりも安く導入できるケースもあって、燃料費は少ない ⑦日本バス協会は2023年を「EVバス普及の年」と位置づけ、2030年までに累計1万台を導入する目標 ⑧バス充電に使う電力を発電する際まで含めるとEVバスもCO₂を排出するが、ディーゼルバスの半分で済み、脱炭素効果が大きい ⑨1回の充電に5時間かかるが、EVバスの電気代は「ディーゼル燃料の2/3程度 と記載している。 このうち②は当然だが、最初は、「EVは音がしないから危ない」「EVは振動しないから自動車らしくない」等々、長所を短所として批判する驚くべき(呆れる)記事が日本のメディアには氾濫していた。そのため、日本国内ではEV化が進まず、③のように、日本のバス会社も中国のBYDからEVバスを購入しなければならない事態になっているのだ。 また、⑧のように、「発電時にCO₂を排出する」という批判も散見されてきたが、それは、発電を化石燃料か原発に限定するから起こることで、再エネ発電に変えれば完全に脱CO₂・脱排気ガス・脱公害にできるのである。そのため、「何故、そういう前向きな代替案が出ないのか」が、日本の論調の問題点なのだ。 さらに、④のように、ディーゼルバスは大型2300万円程度、EVバスは4000万円台と、構造は簡単であるのにEVバスの価格をより高く設定し、「環境志向すれば高くなる」という論理にしているが、構造が簡単な自動車を大量生産すればより安くできる筈である。ただし、国内だけでなく世界での販売を視野に入れて生産しなければ大量生産しても需要がないため、価格を高く設定すれば他国に敗退するしかないという循環になっているわけである。 そのような中、⑤⑥のように、政府はEVバスの補助率を高め、政府と自治体の補助金で一般バスよりも安く導入できるケースもあり、燃料費はEVバスの方が少ないため、①⑦のように、西東京バスや神奈川中央交通などがEVバスを採用し、日本バス協会は2030年までに累計1万台を導入する目標を立てたそうだ。 しかし、⑨のように、EVバスの電気代はディーゼルバスの燃料より安く、CO₂を排出しない発電方法も多いため、早急に大量生産して「補助金不要」の状態にしてもらいたい。何故なら、日本では、EVもまた、本格的に推進し始めてから既に25~30年も経過しているからである。 ロ)新EVも外国製(!?) *5-2-2のように、①スウェーデンのボルボは日本に投入する3車種目のEVの「ボルボEX30」を11月中旬に日本で発売する ②値段は税込み559万円から ③最大の特徴は機械式立体駐車場でも使えるよう小型化したこと ④EX30は全長4235mm、全幅1835mm、全高1550mmと最も小さい ⑤最大航続距離は480kmで急速充電器を使えば約26分で充電残量を10%から80%にできる ⑥日本法人の不動社長は「日本から要望し続けてようやく実現したサイズで、日本の道路・車庫事情に最もフィットする一台」と話した ⑦大型車が好まれる欧米では苦戦が見込まれていたが、予想に反して売れ行きは好調 ⑧小型化で部品数が減り、従来のEVより100万円以上安く、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買える と記載している。 このうち⑥の「日本の道路・車庫事情に最もフィットする」のが、③④の「立体駐車場対応」の「小型サイズ」であることは事実だが、道路を狭いままにして小型サイズでなければ運転しにくくしているのは、都市計画のない街づくりの結果であるため、日本の街づくりや道路づくりは再考すべきだ。 しかし、「日本からの要望で実現したサイズ」が、⑦のように、欧米でも売れ行きが好調なのは、どの国にも小路はあるため、小型車の方が運転しやすく、燃費も良いからであろう。 また、②⑧のように、「部品数が減って安くなり、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買える」というのは、庶民の自動車の買い替えには必要条件であり、この値段ならボルボ車でも買える。ただし、私自身は、①のようなSUV(Sport Utility Vehicle、スポーツ用多目的車)ではなく、流線形のスマートなEVの方が好みだ。 なお、⑤のように、「最大航続距離480km」では少し不安が残り、5分で900km走れる充電ができるようになれば十分なのだが、「急速充電器約26分で充電残量10%から80%」というのは、現在なら良い方だろう。 4)車の畜電池について イ)リチウム電池 *5-3-1は、①リチウムの精製・分離は環境負荷が高いため、環境規制が緩くて労働コストの安い中国に依存し、豪州のリチウム輸出先は9割が中国だった ②豪州には完成車メーカーはなく ③現政権は脱炭素に意欲的で、EV国家戦略を公表し、EV関連産業育成やリチウム等の重要鉱物資源国内加工を後押し ④米フォード・モーターが自動車を製造していたジーロングはEV向け電池工場の建設予定地に変貌し、米企業傘下の電池スタートアップ、リチャージ・インダストリーズが工場の立ち上げを計画 ⑤年間生産能力は最大30GWH、EV約30万台分の電池を供給予定 ⑥2025年に生産開始して2550人の雇用創出予定 ⑦豪州は近年、山火事等の自然災害が深刻化し、気候変動対策を求める声が強まる ⑧アルバニージー首相は化石燃料に依存する経済から「再エネ超大国」への転換を目指す 等と記載している。 つまり、①のように、リチウム精製・分離の環境負荷が高いため、豪州は輸出の9割を中国に依存していたが、②のように、完成車メーカーがないため、③のように、現政権は、EV関連産業育成やリチウム等重要鉱物資源の国内加工を後押しし、④⑤⑥のように、ジーロングの米フォード・モーター自動車製造跡地に米企業傘下の電池スタートアップが年間生産能力最大30GWHの電池工場と2550人の雇用創出を予定しているとのことである。 これには、⑦のように、豪州で山火事等の自然災害が深刻化して気候変動対策を求める声が強まり、⑧のように、アルバニージー首相が「化石燃料依存型」から「再エネ超大国」への転換を目指している背景があるそうだ。 一方、*5-3-2は、⑨日本の官民は、カナダでEV向け重要鉱物の探鉱・加工・蓄電池生産を含む供給網を構築する ⑩カナダ政府も補助金等で支援し、両国が協力して供給力を高める ⑪これにより、北米での日本企業のEV販売増に繋げ、経済安全保障を強化する ⑫西村経産相が9月21日にカナダを訪問し、ウィルキンソン天然資源相らと蓄電池供給網に関する協力覚書を結ぶ ⑬協力内容はJOGMEC等によるカナダでのニッケル・リチウム等の探鉱 ⑭カナダ政府は現地に進出する日本企業を補助金等で支援する ⑮米国の税額控除対象になるには、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国のFTA締結国から調達し、電池部品の5割を北米で製造・組み立てする等が要件 ⑯日本にとっては供給網の強化も見込める 等と記載している。 このうち、⑮の米国における税額控除対象要件のために、⑨⑫⑬のように、カナダでEV向け重要鉱物の探鉱・加工・蓄電池生産を含む供給網を構築し、これを⑩のように、カナダ政府も補助金等で支援して、⑪のように、北米での日本企業のEV販売増に繋げ、経済安全保障を強化するのはわかる。 しかし、*5-3-3のように、2020年8月には、日本のEEZでコバルト・ニッケル等のリチウム電池に不可欠なレアメタルの採掘成功が報告されているのに、未だにほぼ全てを輸入に頼って量産化の目途も立てないのはどうしたことか。採掘・精製・分離の環境負荷や労働コストが高すぎると言うのなら、先進国である豪やカナダのように課題解決して、積極的に国内(EEZも含む)で探鉱・加工・蓄電池生産をすべきである。 なお、カナダ政府は、⑭のように、現地に進出する日本企業を補助金等で支援し、米国政府は、⑮のように、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国のFTA締結国から調達し、電池部品の5割を北米で製造・組み立てすること等を税額控除対象の要件としているが、日本政府はこういうことは何も行わずに、⑯のように、輸入先の多角化を喜んでいるだけなのだ。この調子では、国民負担が増えるばかりで国民が豊かになれないのは当然と言わざるを得ない。 ロ)全固体電池 *5-3-4は、パナソニックホールディングス(HD)が、①ドローン等向けの小型の全固体電池を2020年代後半に量産する方針を明らかにし ②3分程度でドローン用電池容量の8割を充電でき、同じ充電に1時間を要するリチウムイオン電池と比べ利便性が高い ③数万回充放電ができ、一般的リチウムイオン電池の約3000回を大きく上回る ④全固体電池はEVの次世代車載電池としてトヨタ自動車も2027〜28年に実用化する方針 とのことである。 ②③のように、3分程度で電池容量の8割を充電でき、数万回充放電ができるのはよいが、家電でも家庭用蓄電池・コードレス掃除機・ガーデンライトソーラー等々、電気の残量を気にせず使いたい蓄電池はいくらでもあるため、開発し始めてから数年経つのに、①のように「2020年代後半(2025年以降)の量産」などと言っているのは遅すぎる。そのため、これでは他国に抜かれても文句は言えまい。 トヨタも「次世代EV車載電池としての全固体電池は2027〜28年に実用化」などとしているが、これも遅すぎて、EVはリチウム電池の世界になりそうなのである。 (6)組織再編について イ)M&Aの使い方 *5-4-1は、①日本企業同士(イン・イン型)のM&Aが全体の63%を占めた ②相乗効果が見込みやすい国内の事業再編が活発になった ③円安で海外企業を買うハードルが上がって潮目が変わる可能性 ④日本企業同士のM&Aで目立ったのは大手企業が国内投資ファンドと組んで株式を非公開化する動き ⑤東芝はJIPや日本企業20社超の支援を受けて株式非公開化を決めた ⑥半導体材料大手のJSRは政府系ファンドJICによる約1兆円買収を受け入れ ⑦半導体材料の国際競争力を高めるため、国の関与の下で積極投資しやすい環境を整える ⑧経営者の高齢化が進み事業承継目的のM&Aも広がった ⑨2010年代の日本企業のM&Aはイン・アウト型が中心だった ⑩脱炭素社会をにらみ再エネ開発会社の再編も増えた ⑪経産省の「企業買収における行動指針(案)」は企業価値向上に繋がる真摯な買収提案を合理的な理由なく拒まないよう求める ⑫日本は主要先進国の中でも、経済規模に比べてM&Aが少ない 等と記載している。 日本では、組織再編の1つであるM&Aに他社やファンドへの「身売り」イメージが強いため、⑫のように、日本の経済規模と比較してM&Aが少ない。そのため、⑪のように、経産省が「企業価値向上に繋がる真摯な買収提案を合理的な理由なく拒まないよう求める」という行動指針(案)を出すほどなのだが、本当は、i)企業の成長のため、他社の買収や合併を行って自社にない技術や販売網を獲得する ii)新規事業への出資や事業拡大のため、ベンチャー企業を作る iii)後継者のいない企業が事業承継する 等の前向きな目的を持つM&Aも多く、M&Aは企業価値向上の一つの手段となる。 そこで、i)の自社にない技術や販売網を獲得するには、①の「イン・イン型」でも⑨の「イン・アウト型」でもよく、ii)のように、お互いの長所を出しあってベンチャー企業を作ってもよいが、⑤の東芝の場合は、⑨の「イン・アウト型」で高すぎる買い物をして大損を出し、公開情報によって不必要なところまで叩かれたため、自らがJIPや日本企業20社超の支援を受けて株式を非公開化することになったという経緯がある。 そのため、②のような国内企業同士の事業再編の方が、お互いをよく知っているため相乗効果の予測がし易いという長所があるが、国内企業同士では大胆な改革が進みにくいという短所もある。また、⑥⑦のように、国の関与の下で積極投資するという政府系ファンドによる買収が、本当に半導体材料の国際競争力を高めるかどうかについては疑問が多い。 なお、⑩のように、脱炭素社会を睨んでの再編も増えたそうだが、その例としては、ソニーと本田の折半出資で設立されたソニー・ホンダモビリティ(株)のように、高付加価値のEVを共同で開発・販売し、モビリティ向けのサービスも提供することを目的として作ったジョイントベンチャーがあり、発電や送電についても、お互いの得意技を活かした提携やジョイントベンチャーがあり得るわけである。 最後に、iii)のように後継者がおらず、⑧のような経営者の高齢化が進んだ企業で事業承継にM&Aを使うのも良い解決策だが、このほかにマネージング・バイアウトという方法もある。 ロ)そごう・西武買収のケース *5-4-2は、①ヨドバシは米ファンドと組んでそごう・西武を買収 ②西武池袋本店・そごう千葉店・西武渋谷店等に出店方針 ③ヨドバシは百貨店中心部に家電売場を設けて集客力を高め、経営再建に繋げる計画 ④西武池袋本店は低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設ける ⑤ヨドバシは人口減の中で効率良く集客でき、インバウンドを見込める都市部での競争力強化が課題 ⑥JR池袋駅や千葉駅近くに店舗があるそごう・西武の資産は魅力 ⑦ストライキ決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満は根強く、労使の信頼関係にはしこり ⑧豊島区や地元の商工会議所もヨドバシの西武池袋本店出店に納得せず ⑨一部の高級ブランドはヨドバシの出店計画に難色、ヨドバシの出店形態によっては百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性 としている。 私は池袋駅まで40分くらいの場所に住んでいるため、池袋駅に直結した西武池袋本店(以下“西武デパート”)と東武百貨店池袋店(以下“東武デパート”)の両方の顧客だが、東武東上線を利用するので東武デパートの方が改札口に近く便利である。また、食品については、東武デパートの方が安くて品質も良いように思う。 しかし、衣類は西武デパートの方が良いので、衣類を東武デパートで買ったことはない。ただし、東武東上線は有楽町線や副都心線と直通運転しているため、本当に良い衣類を探したい場合は、有楽町線で銀座に出たり、副都心線で新宿三丁目や渋谷に出たりすれば、選択肢が増える。そのため、西武デパートは、Young向けの細身サイズ(これが“標準”か)の衣類ばかり置いて特色を出さなければ、競争に負けると思われる。 このような中、2022年度のそごう・西武の業績は、営業利益は25億円と3期ぶりの黒字、純利益はマイナス131億円の赤字で、経営の足を引っ張っているのは3000億円を超える有利子負債だとされている。しかし、①②③のように、ヨドバシカメラが米ファンドと組んでそごう・西武を買収し、百貨店の中心部に家電売場を設ける」という話が飛び込んできた時、私は顧客としてショックだった。 ショックだった理由は、ヨドバシカメラは量販店で高級イメージがなく、百貨店のイメージとは逆だからである。そのため、⑨のように、一部の高級ブランドがヨドバシの出店計画に難色を示したり、百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性があったりするわけだ。また、池袋駅や街のイメージも変わるため、⑧のように、豊島区や地元商工会議所もヨドバシの西武池袋本店出店に納得しないことが起きるのだろう。 しかし、当面の解決策としては、④⑥のように、一階にヨドバシ専用の狭い入口をつけ、低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設けるのなら、百貨店の高級イメージを壊すことなく、駅に直結した家電量販店ができて便利だと、私は思う。そのため、⑤のようなインバウンド客だけでなく、住民も取り込めるのではないだろうか。 もちろん、⑦のように、ストライキの決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満・不信が根強いのはわかるし、西武デパートの専有面積が狭くなるのも残念だが、それは一等地にある西武デパートを、容積率が増すように建てなおせば解決するのではないか? ただし、根本的には、豊島区が、全体として雑然とした池袋駅周辺の街を、緑が多くて整然とした品のある街づくりに変貌させることが重要だ。また、池袋駅も、昔の渋谷駅に負けず劣らず迷路のような長い通路を歩かせて疲れさせる駅であるため、駅ビルを建てなおしてどちら側にも簡単に行けるようにすれば、客足は伸びると思われる。 ・・参考資料・・ <日本の財政と人口減> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73596380V10C23A8MM0000 (日経新聞 2023.8.15) GDP年率6.0%増 4~6月実質、3期連続プラス 輸出復調、消費は弱含み 内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比1.5%増、年率換算で6.0%増だった。プラス成長は3四半期連続となる。個人消費が弱含む一方で、輸出の復調が全体を押し上げた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率3.1%増で、大幅に上回った。前期比年率で内需がマイナス1.2ポイント、外需がプラス7.2ポイントの寄与度だった。年率の成長率が6.0%を超えるのは、新型コロナウイルス禍の落ち込みから一時的に回復していた20年10~12月期(7.9%増)以来となる。GDPの実額は実質年換算で560.7兆円と、過去最高となった。コロナ前のピークの19年7~9月期の557.4兆円を超えた。輸出は前期比3.2%増で2四半期ぶりのプラスとなった。半導体の供給制約が緩和された自動車の増加がけん引した。インバウンド(訪日外国人)の回復もプラスに寄与した。インバウンド消費は計算上、輸出に分類される。輸入は4.3%減で3四半期連続のマイナスだった。マイナス幅は1~3月期の2.3%減から拡大した。原油など鉱物性燃料やコロナワクチンなどの医薬品、携帯電話の減少が全体を下押しした。輸入の減少はGDPの押し上げ要因となる。内需に関連する項目は落ち込みや鈍りが目立つ。GDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%減と、3四半期ぶりのマイナスとなった。コロナ禍からの正常化で外食や宿泊が伸び、自動車やゲームソフトの販売も増加した。一方で長引く物価高で食品や飲料が落ち込み、コロナ禍での巣ごもり需要が一巡した白物家電も下押し要因となった。設備投資は0.0%増と、2四半期連続プラスを維持したものの、横ばいだった。ソフトウエアがプラスに寄与したが、企業の研究開発費などが落ち込んだ。住宅投資は1.9%増で3四半期連続のプラスだった。公共投資は1.2%増で、5四半期連続のプラスだった。ワクチン接種などコロナ対策が落ち着き、政府消費は0.1%増と横ばいだった。民間在庫変動の寄与度は0.2ポイントのマイナスだった。名目GDPは前期比2.9%増、年率換算で12.0%増だった。年換算の実額は590.7兆円と前期(574.2兆円)を上回り、過去最高を更新した。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比3.4%上昇し、3四半期連続のプラスとなった。輸入物価の上昇が一服し、食品や生活用品など国内での価格転嫁が広がっている。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230731&ng=DGKKZO73135260Y3A720C2TCS000 (日経新聞 2023.7.31) 600兆円経済がやって来る、特任編集委員 滝田洋一 日銀は7月28日、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を柔軟にし、長期金利が0.5%の上限を一定程度超えるのを容認すると決めた。日銀は高まるインフレ圧力に負けたのだろうか。いや、逆だろう。日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレの下で新たな成長に向かいつつある。政府と日銀が慎重な経済運営を続けるなら、思ってもみなかった視界が開けるはずだ。601.3兆円。内閣府は7月20日、2024年度の名目国内総生産(GDP)の見通しを発表した。600兆円といえば、15年に当時の安倍晋三首相が打ち出した新3本の矢の第1目標である。15年度の名目GDPは540.7兆円。22年度も561.9兆円と21兆円あまりの増加にとどまる。それが23年度には586.4兆円と前年度比24兆円あまり増え、24年度には600兆円に乗せる。物価が上がりだしたことで、名目GDPが押し上げられるのだ。GDPばかりでない。企業の売り上げ、利益、働く人の給与明細、株価、政府の税収。目に見える経済活動は物価を含む「名目」だ。デフレ脱却が大きな影響を及ぼすのは企業行動である。1990年度から2021年度にかけて、大企業は売上高が5%増にとどまるなか、経常利益を164%伸ばした。リストラで利益を捻出したのである。企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させてきた。インフレの到来でその舞台は一変した。22年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えた。日銀全国企業短期経済観測調査(短観)によれば、バブルの頂点だった1989年以来の高い伸びである。中堅、中小企業も合わせた全規模でも、売上高は8.7%増えた。売り上げ増の手応えをつかんだことで、企業は国内で設備投資のアクセルを踏み出した。23年度の設備投資は名目ベースで100兆円台に乗せ、過去最高となる勢いだ。日本経済団体連合会は4月、27年度に115兆円という設備投資目標を掲げたが、前倒しとなってもおかしくない。今回の物価上昇のきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的なインフレ。コロナ禍からの回復や人手不足も手伝い、国内にも価格転嫁や賃上げの波が及んだ。もちろん、いいことずくめではない。賃金の伸びは物価の上昇に追いついていない。家計のインフレへの不満はここに根差す。5月には物価上昇を差し引いた実質賃金が前年同月比0.9%減少した。実質賃金は14カ月連続の減少。でも減少幅は1月の4.1%減よりぐっと縮まった。春の賃上げ幅が拡大したからだ。連合の集計によると、23年の春闘の平均賃上げ率は3.58%。1993年以来、30年ぶりの高水準になった。7月20日の経済財政諮問会議。有識者である民間議員は「プラスの実質賃金となるよう、賃上げの流れを拡大すべきだ」と提案した。資料に記されたグラフが目を引く。名目賃金の前年比の増加率は22年度上期の1.6%強が、下期には2.0%強に。名目賃金の伸びがこの調子で高まれば、23年度下期にかけ2.5%を上回る姿が描ける。一方、消費者物価上昇率は、民間エコノミストの予想を平均すると、23年7~9月期が前年比2.76%。10~12月期は2.29%と日本経済研究センターは集計する。予想通り賃金の伸びが物価を上回るようなら、23年度下期にも実質賃金は増加に転じる。民間議員がクギを刺すように物価の不確実性は高い。政府によるきめ細かな物価対策は欠かせない。それにしても、家計の所得が消費を後押しする好循環に入るチャンスが巡ってきたのは確かだろう。バブル崩壊後、30年あまり続いた光景が変わるにつれて、財政、金融政策についても正常化を探る動きが出てきている。その際に政府・日銀が心すべきは、経済の好循環に水を差さぬことである。防衛費や少子化対策予算と絡み増税が議論されるが、足元の税収は出世魚のように増加中だ。22年度は当初見積もりの65.2兆円に対し、決算では71.1兆円と6兆円近く上振れした。経済が名目で拡大しだしたからだ。23年度税収の当初見積もりは69.4兆円。前年度の71.1兆円より少ない予想は、政府の名目成長率見通しと整合的ではない。名目成長率見通しの4.4%と同率で税収が増えるなら、23年度の税収は74.2兆円になる勘定。5兆円近い上振れが見込まれる。政府はインフレの受益者であり、税収の自然増が財政を下支えしているのである。デフレ脱却と経済の好循環実現は、岸田文雄内閣の看板政策である少子化対策との関係でも欠かせない。経済停滞のしわ寄せを、特に低所得世帯が被ってきたからだ。35~39歳で配偶者のいる男性の比率を07年と17年で比べると、年収100万~249万円の所得層で低下が目立つ。年収200万~249万円の層を例にとるなら、有配偶者の比率は45.3%から36.2%に低下している。経済産業省はそんなデータを示す。少子化に歯止めをかけるには、真っ先に経済を軌道に乗せ働く人の所得を引き上げる必要がある。バブル崩壊後の日本は経済が軌道に乗りかけると、財政政策か金融政策かでブレーキを踏み、経済を失速させてきた。その轍(てつ)を踏まぬよう細心の注意が必要だ。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73595470V10C23A8EAF000 (日経新聞 2023.8.15) 名目成長、12%に加速、4~6月、物価高で押し上げ インフレが日本経済の名目値を押し上げている。内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、名目成長率が前期比年率でプラス12.0%となった。デフレで長らく低迷していた名目GDPが、世界的な物価上昇を契機に動き出しつつある。新型コロナウイルス禍の経済低迷の反動が出た2020年7~9月期(プラス22.8%)以来の高い伸び率となった。コロナ禍の時期を除くと、1990年4~6月期(プラス13.1%)以来の伸びとなる。年換算の実額は590.7兆円となり、コロナ流行前である19年度の水準に比べ33.9兆円多い。企業の売上高や賃金、株価などは名目値であるため、インフレによる経済規模の拡大が進めば、こういった経済指標も上昇しやすくなる。名目成長率を項目別にみると、個人消費は前期比0.2%減だった。インフレの影響で実質は0.5%減と名目より深く落ち込んだ。設備投資は実質でみると横ばいだったが、名目は0.8%増だった。設備投資のコストが高まっている可能性がある。GDPデフレーターからみた物価上昇率は前年同期比3.4%と、3四半期連続でプラスとなった。伸び率は前の期から加速した。伸び率は現行基準で遡れる1995年以降で最も高い。過去の基準も含めて比較すると1981年1~3月期以来の伸び率になる。前期比では1.4%の上昇だった。GDPは輸入を控除項目として全体から差し引く。物価動向を示すGDPデフレーターも同様に輸入物価の影響を全体から差し引いて計算する。資源高で急激に輸入物価が上昇した場合、輸入デフレーターが全体にマイナス寄与するため、GDPデフレーターも落ち込みやすい。実際にロシアのウクライナ侵攻による資源高で22年4~6月期、7~9月期は2四半期連続でデフレーターがマイナスになった。ここに来てデフレーターが上昇しているのは、輸入物価の上昇が一巡したことによる押し上げ効果のほか、価格転嫁が進み国内物価も上昇していることを示す。賃金も安定的に上昇してくれば、日本経済の脱デフレに向けた道筋が本格化する。後藤茂之経済財政・再生相は同日の記者会見で、今後の景気については所得の改善や企業の高い設備投資意欲を背景に「緩やかな回復が続くことが期待される」との見方を示した。一方で「物価上昇の影響や海外景気の下振れリスクには引き続き十分注意が必要だ」と指摘した。 *1-1-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1090961 (佐賀新聞 2023/8/15) 実質GDP、年率6・0%増、4~6月、3期連続プラス 内閣府が15日発表した2023年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動を除く実質で前期比1・5%増、年率換算は6・0%増だった。市場予想(年率プラス3%程度)を大きく上回り、3四半期連続のプラス成長となった。半導体の供給制約の緩和で自動車などの輸出が伸びた。ただ輸入の減少が統計上プラスに寄与した面も大きく、物価高の影響でGDPの約6割を占める個人消費も低調だった。実質GDPの伸び率は、20年10~12月期(年率7・9%増)以来の大きさだった。景気実感に近いとされる名目GDPは前期比2・9%増で、年率換算は12・0%増となった。物価高を反映して20年7~9月期(年率22・8%増)以来の高い伸びとなり、金額も過去最高の590兆7千億円に達した。4~6月期の実質を項目別に見ると、個人消費は前期比0・5%減。外食や宿泊は伸びたが、食料品や白物家電が相次ぐ値上がりの影響などで落ち込んだのが響いた。設備投資は0・0%増にとどまった。住宅投資は1・9%増、公共投資は1・2%増だった。輸出は3・2%増だった。自動車の伸びに加え、統計上は輸出に区分されるインバウンド(訪日客)消費の伸びが寄与した。一方、輸入は4・3%減だった。原油や医薬品などが減った。輸入の減少はGDPを押し上げる要因になる。こうした結果、GDP全体への影響度合いを示す寄与度は、個人消費や設備投資などの「内需」がマイナス0・3ポイント、輸出から輸入を差し引いた「外需」がプラス1・8ポイントとなり、外需がGDPを大きく押し上げた。国内総生産(GDP) 国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額。内閣府が四半期ごとに公表し、景気や国の経済力を表す代表的な指標とされる。個人消費や企業の設備投資といった「内需」と、輸出から輸入を差し引いた「外需」で構成する。実際の価格で計算した名目GDPと、物価変動の影響を除いた実質GDPがある。前年や前四半期と比べた増減率を「経済成長率」と呼ぶ。 *1-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230816&ng=DGKKZO73624790V10C23A8EA1000 (日経新聞社説 2023.8.16) 内需の弱さ直視し賃金・投資増の歯車回せ 内閣府が15日発表した2023年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は季節調整済みの前期比の年率換算で6.0%増加した。3%程度だった市場の事前予想を大きく上回り、3四半期連続のプラス成長となった。日本経済は回復の歩みを続けている。名目値は物価高もあって年率12%と2ケタ成長を記録した。実質値は1~3月期の成長率も従来の年率2.7%から3.7%に改定され、GDPの水準は今回、年換算で560兆円台と新型コロナウイルス禍前を上回った。だが「高成長」を額面どおりに受け止められない面もある。外需の一時的な押し上げに支えられ、個人消費や設備投資は力強さに欠けた。内需に弱さが残る現実を直視し、賃上げ継続や投資の着実な実行へ官民で策を練るべきだ。外需のうち輸出は前期比3.2%増とプラスに転換した。統計上、サービス輸出に含まれる訪日外国人のインバウンド消費が堅調だったのは心強い。半面、モノの輸出増には半導体の供給制約の解消といった要因も効いており、海外経済の盤石ぶりを示すわけではない。中国向けの輸出減速には警戒が必要だ。輸入は4.3%減だった。GDP統計では海外から買った分を取り除くので輸入減は成長を押し上げる。年率6%成長のうち輸入減の貢献は4.4%分に及ぶ。輸入の数量減は内需の弱さを映す面もある。個人消費は前期比で0.5%減と3期ぶりにマイナスとなった。事前には小幅増の市場予想が目立った。所得が物価ほどには伸びず、実質でみた所得が目減りしていることが大きい。積極的な賃上げが24年以降も続くかは予断を許さない。構造的な賃上げの機運を絶やさぬよう、官民は一致して取り組むべきだ。設備投資は1~3月期の前期比1.8%増から減速し、0.03%増と横ばい圏にとどまった。日本政策投資銀行の調査では、大企業の23年度の国内設備投資計画は前年度比21%増と、計画値としては1980年代以降で3番目に高い伸びとなった。企業が強気の投資計画を着実に実行に移すには、安定した経済や市場環境の維持が欠かせない。日銀は7月に長短金利操作の運用を柔軟にしたが、債券や外国為替市場は不安定さを抱える。日銀は市場安定へ市場との綿密な対話や情報発信に一層努めてほしい。 *1-1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230819&ng=DGKKZO73729570Z10C23A8EA2000 (日経新聞 2023.8.19) 続く物価高、消費に影 生鮮・エネ除く指数4.3%上昇、食品高止まり、宿泊料伸び拡大 賃上げは追いつか 物価の上昇圧力が続いている。7月の消費者物価指数は生鮮食品とエネルギーを除く総合指数が前年同月比4.3%上昇し、伸び率は再拡大した。食品や日用品の値上がりは家計を圧迫し、消費は伸び悩む。物価上昇と賃上げの好循環はなお遠く、景気回復の勢いも弱まりかねない。総務省が18日発表した7月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.1%上昇した。伸び率は6月の3.3%から縮んだものの、日銀が掲げる2%の物価目標を16カ月連続で上回る。価格が変動しやすい品目をさらに除いた指数をみると、物価上昇はむしろ勢いを増す。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比4.3%プラスで、2カ月ぶりに伸びを拡大した。消費者物価は2023年度の後半にかけて鈍化するとの見方もあるが、現時点ではまだピークアウトしたとは言えない状況にある。最大の要因は、全体の6割を占める食料の高止まりだ。7月はハンバーガーが前年同月比で14.0%上昇した。10%超えは13カ月連続。プリンは27.5%プラスで、6月の12.6%から伸び率が拡大した。米欧に遅れた価格転嫁の波が続いている。宿泊料は15.1%プラスと、6月から10ポイントほど伸び率を拡大した。インバウンド(訪日外国人)の回復などによる需要の高まりに、政府の観光支援策「全国旅行支援」が今夏以降に各都道府県で順次終了したことが重なった。ほかのサービスも上昇に弾みがついた。携帯電話通信料は10.2%プラスと統計上さかのぼれる01年以降で過去最高の伸び率となった。NTTドコモが7月から新料金プランを投入したことが背景にある。日銀は7月、23年度の生鮮食品を除く物価上昇率の見通しを2.5%に引き上げた。4月の段階では1.8%とみていた。物価上昇率が11カ月連続で3%を超えて推移するなど、物価高が想定を超えて続いている。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「日銀も市場関係者もウクライナ侵攻による輸入物価上昇のインパクトを読み違えた」とみる。過去の物価高局面と異なり「一度ではコストを転嫁しきれず、複数回値上げする動きを読み切れなかった」と説明する。長引く物価高で消費への下押し圧力は強まっている。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の6月の消費支出は実質で前年同月比4.2%減った。マイナスは4カ月連続だ。品目別に見ると、物価上昇の大きな要因となっている食料が3.9%減で、9カ月連続のマイナスとなった。プリンやハンバーガーといった値上げが目立つ品目ほど消費は細っている。6月の実質消費支出はそれぞれ15.4%、13.5%減った。逆に、電気代は燃料価格の低下や政策効果による価格下押しで支出が5.9%増えている。外食は1.8%増とプラスを維持するものの、5月(6.7%増)から伸びを縮めた。サービス消費は新型コロナウイルス禍からの正常化で回復期待が高かったわりには動きが鈍い。勢いを欠く消費は経済成長に水を差す。23年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は季節調整済みの前期比年率6.0%増と高い成長率となったものの、けん引役は復調した輸出などの外需だった。個人消費は物価高を受けて前期比0.5%減に沈んだ。23年の春季労使交渉の賃上げ率は30年ぶりの高水準だったとはいえ、物価の伸びには追いついていない。24年以降に賃上げが息切れすれば、家計の購買力の低下を通じて再びデフレ圧力が強まるとの懸念がにじむ。実際、コロナ禍前の19年10~12月期と足元を比較すると、雇用者報酬は実質で3.5%減っている。高止まりする物価に賃金が追いつかず、消費はほとんど伸びていない。日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばす。秋以降は物価上昇が加速する恐れもある。政府が実施しているガソリンや電気・都市ガスの価格抑制策は延長措置がなければ、ともに9月分で終了する予定だ。第一生命経済研究所の新家義貴氏はガソリン価格抑制の補助金事業が終われば、10月以降の生鮮食品を除く消費者物価指数を0.5ポイント押し上げるとみる。総務省は電気・都市ガスの価格抑制策が7月の物価の伸びを1ポイントほど押し下げたと推計する。対策が終われば、単純計算で1.5ポイントの上昇圧力となるリスクがある。高い物価上昇率は金融政策の議論にも影響を与える。日銀は物価の安定には「まだまだ距離がある」(植田和男総裁)とみて、金融緩和を続けている。ただ、物価上昇の勢いがこのまま衰えなければ、現状の金融緩和策の見直しが焦点となる。 *1-1-7:https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/fis/kiuchi/0808_2 (NRI 2023/8/8) 春闘の妥結と比べて見劣りする実際の賃上げ率:実質賃金の安定的上昇は2025年半ば以降か:長期インフレ期待の安定回復は日銀の責務(6月毎月勤労統計)、木内 登英 ●期待外れの賃金上昇率 労働省が8月8日に公表した6月分毎月勤労統計で、賃金上昇率は期待されたほどには上昇しなかった。現金給与総額は前年同月比+2.3%と、前月の同+2.9%から低下した。残業代やボーナスなどを除く、より変動の小さい所定内賃金も、前年同月比+1.4%と前月の同+1.7%から低下した。この結果、実質賃金は前年同月比-1.6%と前月の-0.9%から下落幅が拡大し、15か月連続での下落となった。賃金上昇率が物価上昇率に追いつかない状況がなお続いており、潜在的な個人消費への逆風が収まっていない。厚生労働省の発表では、今年の春闘で、主要企業の賃上げ率(定期昇給分を含む)は+3.6%と30年ぶりの高水準となった。6月の毎月勤労統計には、春闘での妥結がほぼ反映されているとみられるが、実際の賃上げ率はそれをかなり下回っている。平均賃金上昇率と概ね一致するのは、定期昇給分を含む賃上げ率全体ではなく、ベースアップ部分である。定期昇給分は個人ベースで見れば賃金増加につながるが、企業の人件費全体の増加率を決めるのはベースアップ部分である。退職者と新規雇用者が同数であれば、定期昇給分は人件費全体には影響しない。ベースアップは連合の発表では+2.3%であった。この水準は6月の現金給与総額の前年比上昇率と一致するが、通常は、ベアと近い動きを示すのは、残業代やボーナスなどを除く、より変動の小さい所定内賃金であり、それは6月に+1.4%に過ぎなかった。ベアを公表する企業が必ずしも多くないことから、その集計には誤差が大きいこと、厚生労働省の数字がカバーするのは、従業員5名以上と、零細企業も含むことが両者の差を生んでいるのだろう。零細企業の賃上げ率は主要企業よりも低かったことが考えられる。 ●実質賃金が安定的に上昇に転じるのは2025年半ば以降か 企業の人件費全体や個人所得全体の増加率を決めるのが、定期昇給分を含まないベアであり、それを幅を持って1%台半ばから2%程度とした場合、消費者物価上昇率がその水準まで低下するにはなお時間がかかる。さらに、物価上昇率の低下を反映して、来年の春闘のベアは比較的高水準ながらも、1%台半ばなど、今年の水準を下回ると予想される。物価上昇率が緩やかに低下していっても、賃金上昇率も低下していくため、なかなか両者の逆転は起きないのである。物価上昇率が安定的にベアを下回り、実質賃金が上昇に転じるのは、消費者物価上昇率が0%台半ば程度まで低下する局面であり、それは2025年半ば以降になると予想される。 ●日本では長期インフレ率が上振れ 米国などと比べて日本では、個人の長期のインフレ期待が大幅に上振れていることが注目される。国際決済銀行(BIS)の計算では、2020年末から3%ポイントも上振れ、足元で+5%に達している(図表1・2)。欧米の中央銀行とは異なり、2%の物価目標にこだわる日本銀行が、物価上昇率が上振れる中でも金融政策を修正せず、長期のインフレ期待の上振れを容認してきたことが、大きく影響しているのではないか。この点から、今後、欧米での物価上昇率は比較的迅速に低下する可能性がある一方、日本では、物価上昇率の低下が遅れるリスクがあるだろう。2%の物価目標達成のために、長期のインフレ期待の大幅上昇は望ましい、との意見もあるが、その考えは危険ではないかと思われる。日本経済の実力から乖離した、足元の物価上昇率の大幅上振れや長期のインフレ期待の大幅上振れは、日本経済の安定を損ねかねない。例えば、企業の長期のインフレ期待は個人ほど上昇していないと考えられる中、企業が賃金の大幅な引き上げに慎重な姿勢を崩さず、その結果、この先の賃金上昇率が個人の高い長期インフレ期待に追いつかないことが考えられる。それが明らかになれば、個人は消費を一気に控えるようになるリスクがある。 ●YCC柔軟化に留まらず本格的な政策修正を 賃金上昇を伴う持続的、安定的な2%の物価目標達成にはなお距離がある、と日本銀行は繰り返し述べている。こうした判断は正しく、足元の物価上昇率が一時的に上振れていると言っても、短期的に2%の物価目標を達成することは確かに難しいと思われる。しかし、政治的圧力のもとで日本銀行が10年前に導入を余儀なくされたこの2%の物価目標には、そもそも妥当性はなかった。日本経済の実力を踏まえれば高過ぎることは今も変わらない。日本銀行は2%の物価目標にこだわらずに、日本経済と国民生活の安定のために中長期の物価安定を確保する姿勢をより強く打ち出すべきだろう。その一環として、先般決めたイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化に留まらずに、マイナス金利解除など、より本格的な政策修正に早期に乗り出すべきではないか。 *1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15705085.html?iref=pc_ss_date_article (朝日新聞 2023年7月31日) 異次元緩和への道、不安と高揚 10年前の日銀政策決定、議事録公表 日本銀行は31日、2013年1~6月の金融政策決定会合の全議事録を公表した。今に続く大規模金融緩和を始めた時期にあたる。過去に例のない規模の緩和に踏み出す高揚感があった一方、失敗のリスクを指摘する意見も出ていたことが明らかになった。当時、日銀が掲げた2%の物価上昇目標は今も達成されず、様々な懸念は現実になっている。(山本恭介、土居新平)。日銀は年2回、10年が経った会合の議事録を半年分ごとに公表している。今回の議事録が描き出すのは、物価が下がり続けるデフレから脱するため、大規模な金融緩和を掲げて12年12月に誕生した第2次安倍晋三政権の意向に沿って変わっていく日銀の姿だ。日銀出身の白川方明(まさあき)総裁(当時、以下同)は13年1月の会合で、政権の求めに応じ物価上昇率2%の目標を決めた。同年3月、白川氏の後任として安倍政権に起用された財務官僚出身の黒田東彦(はるひこ)総裁は、着任後すぐ大規模緩和に着手した。日銀の金融政策の大転換期にあたり、極めて重要な議事録となる。白川総裁時代、物価目標を「2%」と明確に定めて大規模な緩和をするという政権の方針に、日銀はあらがっていた。しかし総選挙での大勝という「民意」を背にした政権の圧力に最後は屈する。 日銀は13年1月21、22日の会合で、2%の物価目標を盛り込んだ政府との共同声明を受け入れることを7対2の賛成多数で決めた。 ■委員から異論 だが、議事録によると、投票権を持つ政策委員たちからは、目標達成は難しいとする意見が相次いでいた。反対票を投じたエコノミスト出身の佐藤健裕審議委員は「実現の難しい目標値を設定して中央銀行の信認が失われることを懸念する」と指摘。やはり反対したエコノミスト出身の木内登英審議委員は「当面1%の物価上昇率ですら、なお達成の目途が立っておらず、2%はあまりにも高い」と述べた。賛成した委員からも、「非常に難しいのは事実であることは認める。だから時間がかかるだろう」(経済学者出身の白井さゆり審議委員)といった声があった。出席者は、政権への注文も忘れなかった。電力業界出身の森本宜久審議委員は「構造改革の着実な実行と財政規律への取り組みを推進されることを期待する」と語った。政府代表として出席していた山口俊一財務副大臣は「機動的な財政政策や成長戦略の実施に取り組む」とは約束した。ただ、「2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現すべく、不退転の決意を持って、積極・果断な金融政策運営をお願いしたいと考えている」と日銀に改めてクギを刺した。 ■目立った賛同 黒田総裁初となる13年4月3、4日の会合。黒田氏は「量・質ともにこれまでと次元の違う金融緩和をおこなう必要がある」と宣言した。人々の「期待」に働きかけてデフレを脱却するため、市場に流すお金の量(マネタリーベース)を2倍に増やし、2年程度を念頭に2%の物価目標を目指すと決めた。「黒田バズーカ」第1弾だ。会合では、黒田氏への賛同が目立った。「安倍自民党総裁の、日銀に2~3%のインフレ目標の達成をめざす大胆な金融緩和を求めるという趣旨の発言によって、デフレ脱却と日本経済回復の期待が生まれた」(経済学者出身の岩田規久男副総裁)。「次を期待させぬよう十分(市場と)コミュニケーションをとっていくことが特に必要」(金融機関出身の石田浩二審議委員)。緩和の効果になお疑問を呈する声もあった。「量を調節することで、インフレ期待や現実のインフレ率を中央銀行があたかも自在にコントロールできるかのような考え方があるとすれば、政策効果のあり方について重大な誤解があると言わざるを得ない」。佐藤審議委員は、大規模緩和の考え方が根本的に誤っている可能性を指摘した。木内審議委員も「非常に大きな不確実性があり、達成までの道筋に関して納得性の高い説明をすることが難しい。政策に対する信認の低下を招き政策効果が減じられるリスクがある」と強い懸念を示していた。あれから10年経って明らかになったのは、物価目標や大規模緩和に対する当時の懸念は杞憂(きゆう)ではなかったということだ。物価目標を達成できないまま、日銀は異例の追加緩和策を相次ぎ導入し、国債や株の保有額は異例の規模に膨らんだ。確かに企業業績は回復し、株価は上がった。ただ、円安の加速は物価高につながり、人々の暮らしを直撃している。大規模緩和を主導した黒田氏は今年4月に退任し、金融政策の手綱は経済学者の植田和男氏が握ることになった。植田氏は就任後3回目となる7月28日の会合で、債券市場がゆがむなどの緩和の副作用を減じる政策修正に初めて動いた。植田氏は会見で、賃金上昇を伴った2%の物価上昇には「まだまだ距離感がある」と語った。異例の緩和をいつまで続けるのか、「出口」はまだ見えていない。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73562150T10C23A8MM8000 (日経新聞 2023.8.13) 年金世帯、脱デフレ左右 消費シェア4割 不安払拭なら資産循環 賃上げが30年ぶりの高水準となり、消費の押し上げ効果への期待が高まるなか、高齢化社会ならではの課題が浮かび上がってきた。国内の消費支出は65歳以上世帯が4割を占め、年金暮らしの世帯が国内総生産(GDP)の15%に影響する。賃上げの恩恵を受けにくい高齢者の消費活性化がデフレ脱却を左右する。「将来を考えるとなかなか思い切ってお金を使えない」。横浜市の70代の男性はこう話す。孫へのプレゼントなどには財布のひもは緩むが、大きな買い物は控えがちだ。消費支出に占める高齢者の存在感は高まっている。世帯主が65歳以上の世帯の2022年の1カ月平均の支出は21万1780円だった。全体に占める割合は約39%になる。少子高齢化に伴い、20年前のおよそ23%からほぼ倍になった。団塊世代の65歳到達が一巡したことなどから10年代後半から頭打ち傾向にあるものの、団塊ジュニア世代が高齢者になる30年代からは伸びが再加速する可能性がある。持ち家を借家とみなした場合に想定される家賃を除いた消費額をもとに第一生命経済研究所の星野卓也氏が試算したところ、年金暮らしと考えられる平均年齢74.5歳の無職世帯の消費額は22年に33%を占めた。日本の22年の名目GDPの実額は556兆円で、5割を個人消費が占める。GDP全体の15%程度を年金世帯の消費が担っていることになる。消費者物価指数は生鮮食品を除く総合の上昇率が6月まで10カ月連続で3%を超えた。今年の春季労使交渉の賃上げ率は連合の最終集計で3.58%と30年ぶりの水準だ。ただ賃上げの恩恵は年金世帯には及ばず、物価高で年金支給額は実質的に減る。22年の物価上昇などを受け、既に年金を受け取っている68歳以上の人は23年度の支給額が前年度比1.9%増と、3年ぶりに増える。物価の伸び以上に年金額が増えない仕組みになっており2.5%の物価上昇率を加味すると実質的にマイナス圏に沈む。日本総合研究所の西岡慎一氏は物価が今後2%伸びても給付を抑制する「マクロ経済スライド」の発動で受給済みの人の年金の伸びは1%程度にとどまると試算する。この場合、60歳以上で無職の世帯の消費は0.2ポイント押し下げられるという。一方で高齢世帯は金融資産が多い。日銀の資金循環統計によると23年3月末の家計の金融資産は2043兆円と、過去最高だった。19年の全国家計構造調査では、65歳以上の無職世帯の夫婦の金融資産は1915万円で、全世帯平均より636万円も多い。65歳以上世帯の金融資産の7割弱は現預金だ。物価高では現預金の価値が目減りする。今年は日経平均株価がバブル崩壊後最高値となるなど株高で「貯蓄から投資」の機運がある。多くの人が一定の知識を持って適切に資産形成できれば支えになりうる。問題は将来の不安からお金を使おうとする意欲がそがれていることだ。生きている間に必要になる生活費や医療費が見通しにくいと手元の資産を使って積極的に消費しようという気持ちになりにくい。人口に占める65歳以上の比率は20年時点で日本が28.6%と突出する。ドイツが21.7%、米国16.6%、韓国15.8%だ。そもそも米国に比べ日本は消費意欲が弱い。適切に資産形成したり、ライフスタイルにあわせながら可能な範囲で働き続けたりと解はいくつもある。高齢者が過度に不安にならずに消費できる前向きな社会観をつくれるか。需要不足を脱しきれない日本がデフレに後戻りしないためのポイントの一つになる。 *1-3-2:https://mainichi.jp/articles/20230120/k00/00m/040/283000c (毎日新聞 2023/1/20) 年金増、物価高騰追いつかず 「キャリーオーバー」、高齢者負担増も 来年度の公的年金額は3年ぶりの増額改定となった一方、物価高騰などには追いつかず、実質的には0・6%の目減りとなる。長期的に年金財政を維持し、将来世代の支給水準を確保するための対応だが、食料品や光熱費などの値上がりが続く中、年金頼みの高齢者にとってはさらなる痛手になりそうだ。急激な物価高騰の一方で、年金額が実質的に0・6%目減りするのは、年金額を抑制する「マクロ経済スライド」が適用されるためだ。公的年金制度は、現役世代が払う保険料などで高齢者への給付をまかなう世代間の「仕送り方式」で運営されている。 ●来年度から年金額はこう変わる 現役世代(20~64歳)は2020年の約6900万人から、40年には約1400万人減の計約5500万人になる見通し。一方、高齢者は約3600万人から約3900万人に増え、ピークを迎える。少子高齢化で現役世代が減り、高齢者が増えれば年金財政が悪化の一途をたどる。年金財政を長期的に維持するため、04年の年金改正で導入されたのがマクロ経済スライドだった。しかし、想定外のデフレ長期化で、実際には適用されない事態が続いていた。マクロ経済スライドは賃金や物価の伸びが下がった場合は適用されない。過去約20年で適用がわずか3回にとどまった結果、現在の高齢者の給付水準が想定よりも高止まりし、国民年金の給付水準は47年度には現在より3割減るなど、将来世代へのしわ寄せが懸念される。こうしたマクロ経済スライドの機能不全を補うため、18年に導入されたのが「キャリーオーバー(繰り越し)制度」だ。デフレなどで適用できなかった場合でも、翌年度以降にカット分を繰り越して、物価や賃金が上昇したタイミングで一気に差し引く仕組みだ。 ●年金額改定のイメージ(67歳以下の場合) 今回の賃金上昇分は2・8%。本来なら年金額も同程度の引き上げになるところだが、繰り越し制度が実施され、21、22年度にカットされなかった分を含むマイナス0・6%分が一気に差し引かれることになった。「今の高齢者にとっては厳しい措置だが、将来の現役世代の年金水準を保つためには必要不可欠の対応」。厚生労働省幹部は理解を求めるが、繰り越し分が積み重なった結果、一度に差し引かれる年金額が大きくなれば、高齢者の負担感が増す恐れもある。年金問題に詳しいニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員は「『雪だるま式』に繰り越した分を次々積み重ね、一気に差し引くキャリーオーバーの仕組みは生活への影響が大きい。物価や賃金の変動に関わらず、マクロ経済スライドを部分的にでも常に適用するなどの方法を模索すべきだ」と指摘する。 ●エアコンオフ、風呂や食事減らしても… 高齢者は年金の実質目減りをどう受け止めるのか。「年金の目減りで、さらに生活は苦しくなりそう」。千葉県八千代市で1人暮らしをする高橋芙蓉子さん(80)はため息をつく。現在の厚生年金額は月10万円ほど。家賃が4万円弱かかり、以前から切り詰めた生活を送っていた。そこに物価高とともに、来年度からは年金の目減りも追い打ちをかける。食料品は消費期限が近い「見切り品」の購入が中心で、冬はエアコンなどの電源をオフにしてしのいでいる。東京都世田谷区の斉藤美恵子さん(76)は、介護保険料などを差し引くと月6万円ほどしか手元に残らない。34歳で離婚後、体の弱い母親や子どもの面倒を見ながら、パートなどで働いてきた。「お風呂の回数や食事を減らして何とかやっている。病気になったらどうすればいいのか」。公的年金制度を巡っては、「財政検証」に向けた議論が今後進む。2004年に導入された仕組みで、「年金の健康診断」として、5年ごとに実施される。24年にとりまとめ、25年通常国会で年金関連改正法案の提出を目指す方針だ。少子高齢化で年金制度の「支え手不足」が懸念される中、次期改正に向けては国民年金(基礎年金)の保険料納付期間の延長が焦点になる見通し。現行は20歳以上60歳未満の「40年間」となっている納付期間を、65歳までの「45年間」に延ばすことなどが検討される。将来世代の年金をどうやって確保するのか。模索が続く。 ●公的年金改定率の推移 ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員は「少子化や平均寿命が延びた影響を考えると、年金水準を下げないと財政バランスが取れない」と話す。厚生年金の保険料率は04年から段階的に引き上げられ、17年に現在の18・3%に固定された。中嶋氏は「今の年金受給者は現役時代に、今より低い料率で保険料を納めていた。その分を年金水準の抑制で補っているとも考えられる」と指摘。マクロ経済スライドを適切に実施することで、世代間の不公平感の解消を進めるよう求める。一方で、低年金者への手当ても課題になる。中嶋氏は「賃金変動率より年金額が低ければ、相対的に貧困に陥る高齢者は増える。低年金で、かつ資産もない高齢者には、公的年金制度ではなく、福祉的な制度でサポートすべきだ」と話す。 ●マクロ経済スライド 長期的に年金財政を維持し、将来世代の一定の給付水準を確保するための仕組み。現役世代の減少と平均余命の延びに応じ、毎年4月の改定時に物価や賃金の上昇幅よりも年金額を抑制する。少子高齢化で保険料を支払う現役の人口が減る一方、高齢者への支給は膨らむことから、2004年の制度改革で導入された。 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230328&ng=DGKKZO69647960Y3A320C2MM0000 (日経新聞 2023.3.28) 物価高対策2.2兆円 政府、予備費から支出決定 政府は28日、2022年度予算に計上した新型コロナウイルス・物価高対策の予備費から2兆2226億円を支出すると閣議決定した。22日に決めた追加の物価高対策などの原資とする。国が地方に配る「地方創生臨時交付金」に1兆2000億円を充てる。自治体を通じ、LPガス利用者などの負担軽減や低所得世帯への一律3万円の給付を実施する。自治体の対応とは別に、政府も低所得世帯の子ども1人につき5万円の給付を実施する。この経費に1550億円を支出する。家畜のえさとなる配合飼料の価格高騰対策に965億円、輸入小麦の政府売り渡し価格の激変緩和策に310億円、農業用水利施設の電気料金対策に34億円を充てる。飼料対策は、1~3月期のコスト上昇分の一部を補填する。畜産農家が生産コスト削減などに取り組むことが前提となる。既存の価格安定制度とは別に1トンあたり8500円を支給する。小麦価格の激変緩和は特別会計の事業として実施している。特会の経費が不足しており、一般会計から繰り入れる。新型コロナ対策として、病床を確保する医療機関への交付金向けに7365億円も支出する。年度末の申請増加に備えて積み増す。22年度予算の一般予備費から655億円の支出も決めた。ロシアの侵攻を受けるウクライナの復旧・復興支援や物資提供の経費などとする。コロナ・物価高予備費は22年度に当初と補正で計9兆8600億円を計上した。一般予備費は計9000億円とした。今回の支出後の残額はそれぞれ2兆7785億円、3742億円となる。ほかに第2次補正予算で計上したウクライナ予備費が1兆円残っている。 *1-3-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1096241 (佐賀新聞 2023/8/24) 佐賀市消費者物価 17カ月連続100超え 7月物価高騰続く 佐賀県統計分析課がまとめた7月の佐賀市消費者物価指数(2020年を100)は104・9と、前月比で0・6%上昇、前年同月比で3・3%の上昇となった。昨年3月以降、17カ月連続の100超えとなっており、物価高騰が続いている。項目別にみると、光熱・水道、被服および履物が前月からわずかに下落し、教育は前月と同じだった。ほとんどの項目でわずかに上昇し、家事・家具用品114・7、食料111・9、教養娯楽108・1だった。野菜や海藻、通信などの値上げ幅が目立っている。 *1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15704189.html (朝日新聞社説 2023年7月31日) 概算要求基準 歳出「正常化」できるか 政府が、来年度の予算編成に向けた基本方針を決めた。コロナ禍以降、膨張した歳出について「経済が正常化する中で、平時に戻していく」という。当然であり、かけ声倒れに終われば財政の持続性が問われる。具体的な道筋を示すべきだ。各省庁の予算要求に制限をかける概算要求基準も閣議了解した。配分にメリハリをつけつつ全体の規模を抑える役割があるはずだが、相変わらず例外や抜け穴が目立つ。歳出の肥大化が続く懸念が強い。最たるものは、政権が2倍近くへの拡大を打ち出した防衛費を、別枠扱いにした点だ。安定財源を確保しないまま「見切り発車」したのを、予算要求のルールでも追認した。防衛費の大幅増はすでに今年度予算から始まり、他の重要分野や財政健全化にしわ寄せを及ぼしつつある。身の丈に合わない予算増を無理に続ければ、政策資源の配分をゆがめる。弊害を直視し、再考すべきだ。防衛費増と、同様に別枠にした子ども政策の財源について、政府は幅広い「歳出改革」による捻出を当て込んでいる。であれば、減らせる予算の徹底的な洗い出しが必須のはずだ。ところがこの点で、概算要求基準は従来の方式から踏み込まなかった。各省庁に裁量性が高い経費の一律1割減を求めたうえで、削減額の3倍分までの要求を「重要政策」の特別枠で認める。枠は計約4兆円で「新しい資本主義」関連など対象が広い。これで大きな財源をひねり出せるのか、疑問が大きい。歳出の「正常化」への試金石は、高騰したガソリンや電気・ガス料金の補助金の扱いだ。兆円単位の巨費を投じてきたが、秋に期限を迎える。政府は、物価高の激変緩和措置を段階的に縮小・廃止し、影響が大きい層への支援に絞る方針を示した。物価動向が見通しにくい中で、低所得者層への支えは必要だが、一律の補助金をいつまでも続けるわけにはいかない。与党の反発も予想される中、方針を貫けるのか。社会保障など他の分野でも、物価高や賃金上昇に応じた増額を求める声は強まっている。合理的な範囲にとどめられるか。首相の指導力が問われる。20年度以降、コロナ禍や物価高への対応で、政府の歳出は数十兆円規模で膨らんだ。先進国で最悪水準の借金が、さらに積み上がっている。この状況を漫然と続けるのは、将来世代への背信にほかならない。政策の必要性や優先度を厳しく見極め、真に大切な政策を始めるときは安定財源を確保する。そうした当たり前の財政運営に、立ち戻る時である。 <気候変動について> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230731&ng=DGKKZO73196930R30C23A7MM0000 (日経新聞 2023.7.31) 地球「12万年ぶり暑さ」 7月平均気温、古気候学者、温暖化に警鐘 米1.5億人に高温警報 世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2023年7月の世界の平均気温が観測史上で最高となる見通しだと発表した。観測記録のない太古の気候を探る研究者は「地球の平均気温はおよそ12万年ぶりの最高気温を記録した」と温暖化の進行に警鐘を鳴らす。数十万年前の地球の気候を研究するのが古気候学だ。米地質調査所(USGS)によると、地層や岩、年輪、サンゴ、アイスコア(氷床のサンプル)に保存される地質学的、生物学的な情報を分析し、過去の気候を推察する。例えばアイスコアの場合、古気候学者は数千年以上かけて何層にも積み重なった氷や雪の層を採取し、中に含まれる気泡やちりを解析する。気泡にははるか昔の大気サンプルが保存されており、地球の平均気温と比例する二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの濃度や当時の雨量までわかる。こうしたデータに基づいた気候モデルを作成し、遠い過去の地球の気候を再現する。米シラキュース大学で古気候学と古生態学を研究するリンダ・アイバニ教授は「地球は過去80万年間、およそ10万年の周期で温暖化と寒冷化を繰り返してきた」と話す。12万5000年前、地球は2つの氷河期の間に位置する間氷期と呼ばれる状態にあり、「直近で地球が最も温暖となった時期だ」という。局所的な異常気象や猛暑日を古気候のモデルと一概に比較することは難しい。ただ、観測を続ければ長期的な傾向がわかる。アイバニ氏は「過去10年間の年間平均気温は毎年のように最高記録を更新した」と指摘。「間違いなく12万5000年ぶりの暑さだ」と断言する。間氷期は「エエム紀」とも呼ばれる。南極の氷床サンプルに基づいた気候モデルを見ると、エエム紀の平均気温は工業化前(1850~1900年)と比べ、セ氏0.5~2.0度ほど高かったことがわかる。気候モデルによると、今年6月に世界の平均気温が工業化前の平均気温を1.5度以上、上回った。米西部アリゾナ州フェニックスでは7月に入り、セ氏42度以上の猛暑日が10日以上続いた。フェニックスではあまりの暑さでサボテンも枯れ始めている。7月28日には米国全体で1億5000万人以上が高温警報の対象となった。バイデン米大統領は27日の演説で「(連日の猛暑もあり)気候変動の影響を否定できる人はもういないだろう」と述べた。熱波は欧州やアフリカでも広がっており、国連のグテレス事務総長も同日、「地球の沸騰が始まった」と警告した。事態はさらに悪化する恐れもある。アイバニ氏は大気中のCO2濃度がここまで高いのは350万年ぶりだと説明し、「大気中の温暖化ガスを見る限り、まだまだ温暖化は続くだろう」と強調した。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73569050U3A810C2TLH000 (日経新聞 2023.8.15) 地球史に人の時代現る、「人新世」、環境に大きく影響 人間活動が地球環境に多大な影響を及ぼすようになった現代を「人新世(じんしんせい)」とする議論が大詰めを迎えている。2024年にも専門家がつくる国際地質科学連合が、地球史に新たな年代を加えるかを決める。地球史と人間の関係を3つのグラフィックとともに考える。地球の歴史は海の誕生や生物の盛衰、気候変動などが節目になってきた。歴史を塗り替えた事件の1つに小惑星の地球衝突がある。白亜紀に栄えた恐竜が絶滅し、新たな章を刻んだ。こうした過去の出来事を地層に残る痕跡からひもとき、地質年代と呼ぶ時代区分に整理してきたのが地球史だ。現代は直近の氷期が終わった1万1700年前から続く新生代第四紀完新世の真っただ中にあった。だが2000年代から始まった人新世の議論は「もはや現代は完新世とは別の時代だ」とする考えに基づく。地球の環境にとって、今の人間の営みは決定的な変化をもたらしているというわけだ。人間の力は大きくなりすぎたのだろうか。19世紀までの産業革命以降、地球は温暖化している。工業社会の進展は豊かな社会を築いたが、深刻な環境問題も招いた。各地の地層からは、人間が地球環境を変えてきた証拠が見つかっている。1950年ごろを境に、化石燃料を燃やした煤(すす)や化学物質、核実験から生じた放射性物質のプルトニウムなどが増えていた。こうした痕跡は地層に残るいわば「科学技術の化石」だ。人間の振るまいが目立つ1950年以降を新たな地質年代と地質学者らが考えるのも自然な流れなのかもしれない。国際地質科学連合の作業部会は7月、人新世の始まりを象徴する場所に、カナダのクロフォード湖を選んだ。湖底の堆積物は地球の変化を克明に記録しているという。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230326&ng=DGKKZO69601710V20C23A (日経新聞社説 2023.3.26) IPCC報告が示す温暖化対策の緊急性 温暖化による気象災害や食料危機、紛争などの悪化を防ぐための時間は、わずかしか残されていない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第6次統合報告書は、温暖化対策の緊急性を強く訴えた。報告書は気候変動をめぐる今後の国際交渉の土台となる。日本は主要7カ国(G7)議長国として真剣に受け止め、中国を含む20カ国・地域(G20)とも連携して対策を加速する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内にとどめる目標を掲げる。だが、報告書によると気温は既に1.1度上がっており、2030年代前半にも1.5度に達する可能性がある。気温が目標を超える期間を短くとどめ、下降に向かわせることが重要だ。それには世界の温暖化ガス排出を25年までに減少に転じさせ、35年の世界の排出量を19年比で約60%減らさねばならないという。パリ協定のもと、各国は25年までに35年の新たな削減目標を提示することになっている。報告書の数値は重要な指標となろう。日本の現行目標は30年度の排出量を13年度比で46%減らし、50%減をめざすというものだ。国際社会から一層の上乗せを求められる可能性がある。見直しの検討を怠ってはならない。報告書は21年10月までのデータに基づいており、ロシアのウクライナ侵攻の影響は含まない。現実にはエネルギーの安定供給を確保するため、化石燃料の利用減を先延ばしする動きもある。石炭火力発電への依存度が高いアジアの途上国などでは、再生可能エネルギーへの転換や省エネの投資が不足している。パリ協定の目標達成は困難を伴う。だが、諦めるわけにはいかない。IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らすとともに「報告書は希望へのメッセージでもある」と強調した。再生エネルギーや蓄電池のコストは劇的に下がった。水素製造・利用技術や、火力発電所から出る二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留する技術の開発も進む。日本は化石燃料依存を減らしつつ、こうした技術の普及へ積極的な役割を果たすべきだ。実績を積み上げ、被害や損害の軽減につなげることが大切だ。 *2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1093420 (佐賀新聞 2023/8/19) 豪雨被害 内水氾濫対策の強化急げ 近畿を縦断するように北上した台風7号のように今年も各地で豪雨による災害が相次いでいる。線状降水帯が頻繁に発生し、過去最多の雨量を記録するケースも目立つ。これらの要因に挙げられるのが、地球温暖化だと言えるだろう。国連のグテレス事務総長は7月末に「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告した。その証拠に7月の世界の平均気温は過去最高だった。気温上昇による台風の大型化、一度に降る雨の量が増える傾向が続くことを前提に、水害防止対策を強化しなければならない。台風7号の対応では、台風が来る2日ぐらい前から、対応を時系列で定めている「タイムライン」の運用を始めた自治体もある。早め早めに避難所を開設し、高齢者らの避難を呼びかけるという予防的な対応を普及させることが不可欠だ。東海道・山陽新幹線や在来線の一部区間では15日、事前に運休を知らせる「計画運休」を実施した。この結果、突然の運転取りやめによる混乱は回避できたと評価できる。一方、東海道・山陽新幹線は16日、静岡県内の豪雨のため半日程度の運転見合わせを余儀なくされた。土砂崩れや、盛り土区間での路盤の崩壊などを警戒してのことであり、安全確保のためやむを得ない措置だろう。ただ、今後は温暖化に伴って豪雨の増加も想定される。突然の運休を増やさないためにも、さらなる土砂崩れの防止対策や路盤強化策の検討も必要ではないか。秋田県で7月に記録的な大雨があり、秋田市では「内水氾濫」が発生して床上浸水する住宅が相次いだ。内水氾濫とは、下水道や水路の排水能力を超える豪雨のため低い場所に雨がたまることを意味する。河川の堤防が切れて浸水する「外水氾濫」とは対策が異なる。国土交通省によると、2020年までの10年間の水害被害額は約4兆2千億円あり、内水氾濫はうち3割を占める。東京都では被害総額の8割超が内水氾濫だ。都市部では、農地のように雨水を地下に浸透させる土地が少ないため、氾濫の被害が増える傾向があると分析できる。対策としては、下水道を更新して排水能力を高めることや、雨水を地下に一時的にためる施設を造るハード対策が中心となる。公園や緑地を整備して地下に浸透させる量を増やす方法もある。ただ、これらの対策には多くの時間や予算がかかることが難点だ。このため自衛策も重要となる。まずは内水氾濫によって浸水する地域を示す自治体のハザードマップを見て、自分が住んだり働いたりする地域が浸水しやすい場所かどうかを把握することから始める。未策定の自治体に対しては、早期の作成を要望する。次に水に漬かっては困る非常時用の発電機やコンピューターなどは、地下や1階に置かないようにする。地下街や地下室に水が浸入しないように止水板や土のうを備え、緊急時に備えた訓練も必須である。車を運転する場合に備えて、アンダーパスのように水がたまりやすい場所の情報を集めておくことも必要だ。内水氾濫の対策に時間がかかる場所については、土地をかさ上げして安全度を高めて住むようにする。それも難しい場所は、居住を避けることも選択肢としたい。 *2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230820&ng=DGKKZO73739880Q3A820C2MM8000 (日経新聞 2023.8.20) 石炭火力、依存断てぬ世界 廃炉超す新設、猛暑も影 迫るCO2許容量 世界の石炭依存に歯止めがかからない。最大の消費国の中国は足元の石炭火力発電(3面きょうのことば)の量が過去5年を大きく上回る。コロナ禍からの経済の回復に猛暑が重なり、電力需要が膨らむ。欧州もウクライナ危機で天然ガスの供給不安に直面し、なりふり構わず石炭に回帰する動きが出た。総じて石炭火力は新設ペースが廃炉に勝り、脱炭素の目標はかすんでいる。二酸化炭素(CO2)排出量で世界の3割を占める中国は電源の過半を石炭に頼る。フランスの衛星データ会社ケイロスによると、7月の1日あたりの石炭火力発電量は1年前と比べ14.2%増えた。宇宙からのCO2観測に基づく推計だ。1年前の6月に上海のロックダウン(都市封鎖)を解除した。年明けには厳しい移動制限を強いるゼロコロナ政策を撤廃した。段階的な経済の正常化で電力需要が増加傾向にある。さらに今夏は熱波が襲う。北京の気温が6月として観測史上最高のセ氏41.1度に達するなど記録的な暑さで、冷房が欠かせなくなっている。脱炭素で足踏みするのは中国だけではない。国際エネルギー機関(IEA)の7月の報告書によると、石炭需要は22年に世界2位のインドで8%増えた。インドネシアは36%増えて世界5位の消費国になった。世界全体も23年に過去最高を更新する見込みだ。石炭は低コストで安定調達しやすい。新興国はもちろん、先進国も有事には頼みの綱とする。脱炭素の旗振り役だったドイツも例外ではない。ウクライナ危機でロシアからのガス供給が滞り、ハベック経済・気候相は「状況は深刻」と石炭火力の稼働を増やした。フランスも再稼働に動いた。日本は電源の30%前後を占める状態が続く。11年に原子力発電所の事故が起き、依存度が5ポイントほど高まった。削減の道筋は見えていない。米調査団体グローバル・エナジー・モニターによると、世界の石炭火力は出力ベースで新設分が廃止分を上回る。新設は日本を含むアジアで多いほか欧州のポーランドやトルコでもある。新設の5割を占める中国は廃止ペースの鈍化も目立つ。新設による効率化を考慮しても温暖化ガスの排出量が相対的に多いことは変わらない。依存を断てなければツケは早々に回ってきかねない。温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定は産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える目標を掲げる。この一線を超えると熱波や豪雨などのリスクが劇的に高まる。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は3月の報告書で、1.5度目標の達成に許容できる温暖化ガス排出量は残り4000億トンとの試算を改めて示した。現状の年400億トンの排出ペースが続くと10年ほどで限界に達する。国連のグテレス事務総長は「気候の時限爆弾が針を進めている」と危機感をあらわにした。各国・地域が無策なわけではない。英シンクタンクのエンバーによると、世界の再生可能エネルギー発電量は00年から22年にかけて3倍になった。直近10年だけでも1.8倍に拡大した。中国も太陽光や風力の出力増が著しい。立命館大学の林大祐教授は「00年代以降に大気汚染対策、新興産業として国家的に育成してきた」と指摘する。問題は成長する経済を再生エネだけでは支えきれていないことだ。世界全体で石炭による発電量も10年で15%増え、ほぼ右肩上がりが続く。温暖化のもたらす熱波が、温暖化を招く化石燃料への依存を深める。そんな悪循環の構図も足元で浮かぶ。残り10年の猶予がさらに短くなる懸念さえちらつく。 <原発と予算> *3-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230118 (東京新聞 2023年2月9日) 原発回帰の姿勢、より鮮明に 政府の法改正案判明「国の責務」 原発活用に向けて政府が通常国会に提出する関連法の改正案が8日、分かった。原子力利用の原則を定めた原子力基本法には、原発活用による電力の安定供給の確保や脱炭素社会の実現を「国の責務」と明記。これまで上限としてきた60年を超える運転を可能にする運転期間の規制は「原子力の安定的な利用を図る観点から措置する」とし、原発回帰の姿勢を鮮明にした。電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」で、政府が自民党会合で示した。今月下旬にも閣議決定した上で、通常国会に提出する。「原則40年、最長60年」としてきた運転期間は、原子炉等規制法から電気事業法に移管。上限を維持した上で、2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、安全規制への対応や行政指導、後に取り消された行政処分や裁判所の仮処分命令などで停止した期間を、運転期間の計算から除外できるとした。原子力基本法に、国や事業者が安全神話に陥り、福島第1原発事故を防げなかったことを真摯に反省することを基本原則として盛り込んだ。 *3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230548 (東京新聞 2023年2月11日) パブコメでは多くが反対、各地の説明会は途中…でも原発推進を閣議決定 「将来世代に重大な危険」声を無視 原発の建て替えや60年超運転などの原発推進策を盛り込んだ政府の基本方針は、意見公募(パブリックコメント)に4000件近くの意見が寄せられ、その多くが原発に反対する声だった。しかし、大筋は変わらないまま、10日に閣議決定された。岸田文雄首相の検討指示から半年足らずでの原子力政策の大転換は、一貫して国民の声に向き合っていない。 ◆与党内の声には配慮 「敷地内」の1点修正 「東京電力福島第一原発事故は、人間が原発をコントロールできないことの証明だ」「将来世代に重大な危険を呼び込む」。閣議決定後に政府が公表した意見公募の結果には、政府に再考を求める意見が並んだ。政府の会議で基本方針を決定した後の昨年12月末から約1カ月間実施した意見公募に寄せられたのは計3966件。政府は、類似の意見をまとめて356件の意見内容と回答を明らかにした。原発に否定的な意見に対する政府の回答は、ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化によって電力の安定供給が危機的な状況だと強調。脱炭素効果のある再生可能エネルギーなどとともに、原子力の活用を図るとの説明を繰り返した。意見公募終了後、基本方針の大きな修正は、原発関連では1点のみ。福島事故後に政府が想定してこなかった原発の建て替えについて、対象となる場所を「廃炉が決まった原発」から「廃炉が決まった原発の敷地内」と詳しくした。これは、与党内の原発慎重派の意見に配慮した側面が強い。 ◆国民の声聞かず 「被災者をばかにしている」 基本方針は経産省の複数の有識者会議で内容を検討。原発に否定的な委員からは国民的な議論を求める意見が相次いだが、方針の決定までに国民の声を聞くことはなかった。昨年末に基本方針を決めた後、経産省は1月中旬から経済産業局などがある全国10都市で説明会をスタート。これまでに名古屋市、さいたま市、大阪市、仙台市の4カ所で開き、3月上旬まで続く。説明会が終わらない中での閣議決定に対し、原発事故被害者団体連絡会の武藤類子共同代表=福島県三春町=は10日の記者会見で「何のための意見交換会なのか理解できない。被災地の福島県では開催せず、被災者をばかにしている」とあきれて見せた。 ◆「結論ありきで強引。政策決定の手法として許されない」 規制当局にも反対意見がくすぶる。基本方針は原発を活用する前提として、原子力規制委員会による厳格な審査や規制を掲げる。今月8日の規制委定例会で、原子炉等規制法(炉規法)に規定された「原則40年、最長60年」とする運転期間の定めを経産省所管の法律に移すことに対し、石渡明委員が「必要性がない」と反対。新たな規制制度が決定できるかは不透明になった。西村康稔経産相は閣議決定後の会見で「(基本方針は)原子力利用政策の観点でまとめており、安全規制の内容は含まれていないので問題ない」と説明し、今後も関連法の改正など手続きを進める意向を示した。経産省の有識者会議の委員も務めたNPO法人・原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めている。政策決定の手法として許されない」と批判する。 ◆首相官邸前では反対の声こだま 政府が原発推進策を盛り込んだ基本方針を閣議決定した10日、東京・永田町の首相官邸前で約100人が抗議行動を展開した。冷たい雨の中、「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせた。市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が主催。環境団体や労組など6団体のメンバーらがマイクを握った。国際環境NGO「FoE Japan」事務局長の満田夏花さん(55)は「原子力産業の生き残りのために、将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせることになる。民意を無視した閣議決定に断固反対」と強調。全国労働組合連絡協議会副議長の藤村妙子さん(68)は「福島第一原発の事故から何も学んでいない。老朽原発の稼働は絶対に許されない」と憤った。 *3-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1002105 (佐賀新聞 2023/3/10) 事故後12年の原発政策 根拠薄弱な方針転換だ 巨大地震と津波が世界最悪クラスの原発事故を引き起こした日から12年。われわれは今年、この日をこれまでとは全く違った状況の中で迎えることになった。「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とした民主党政権の政策は、自民党政権下で後退したものの、原発依存度は「可能な限り低減する」とされていた。岸田文雄首相はさしたる議論もないままこの政策を大転換し、原発の最大限の活用を掲げた。今なお、収束の見通しが立っていない悲惨な事故の経験と、この12年間で大きく変わった世界のエネルギーを取り巻く情勢とを無視した「先祖返り」ともいえるエネルギー政策の根拠は薄弱で、将来に大きな禍根を残す。今年の3月11日を、事故の教訓やエネルギーを取り巻く現実に改めて目を向け、政策の軌道修正を進める契機とするべきだ。ロシアのウクライナ侵攻が一因となったエネルギー危機や化石燃料使用がもたらした気候危機に対処するため、原発の活用が重要だというのが政策転換の根拠だ。だが、東京電力福島第1原発事故は、大規模集中型の巨大な電源が一瞬にして失われることのリスクがいかに大きいかを示した。小規模分散型の再生可能エネルギーを活用する方がこの種のリスクは小さいし、深刻化する気候危機に対しても強靱(きょうじん)だ。昨年、フランスでは熱波の影響で冷却ができなくなり、多くの原発が運転停止を迫られたことは記憶に新しい。原発が気候危機対策に貢献するという主張の根拠も薄弱だ。気候危機に立ち向かうためには、25年ごろには世界の温室効果ガス排出を減少に向かわせ、30年までに大幅な削減を実現することが求められている。原発の新増設はもちろん、再稼働も、これにはほとんど貢献しない。計画から発電開始までの時間が短い再エネの急拡大が答えであることは世界の常識となりつつある。岸田首相の新方針は、時代遅れとなりつつある原発の活用に多大な政策資源を投入する一方で、気候危機対策の主役である再エネ拡大のための投資や制度改革には見るべきものがほとんどない。この12年の間、安全対策などのために原発のコストは上昇傾向にある一方で、再エネのコストは急激に低下した。原発の運転期間を延ばせば、さらなる老朽化対策が必要になる可能性もあるのだから、原発の運転期間延長も発電コスト削減への効果は極めて限定的だろう。透明性を欠く短時間の検討で、重大な政策転換を決めた手法も受け入れがたい。米ローレンスバークリー国立研究所などの研究グループは最近、蓄電池導入や送電網整備、政策の後押しなどにより日本で35年に再エネの発電比率を70~77%まで増やせるとの分析を発表した。これは一つの研究成果に過ぎないとしても、今、日本のエネルギー政策に求められているものは、この種の科学的な成果や世界の現実に関するデータを基礎に、熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めることだ。いくらそれらしい理屈と言葉を並べ立てたとしても、科学的な根拠が薄く、決定過程に正当性のないエネルギー政策は、机上の空論に終わるだろう。 *3-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15726692.html (朝日新聞社説 2023年8月28日) 原発支援強化 経済性あったはずでは 政府が原発の新たな支援策の検討を始めた。再稼働を資金面で後押しする内容で、採算性が低い原発の温存や国民負担の増大につながる懸念がある。既存原発は経済的だというこれまでの説明とも矛盾する。導入ありきで進めるようなことは、あってはならない。経済産業省が審議会に案を示した。脱炭素電源への新規投資を支援する「長期脱炭素電源オークション」の対象に、再稼働前の既存原発を加える。従来は再生可能エネルギーや原発などの新設と建て替えが主な対象で、既設は火力発電の低炭素型への改修に限っていた。オークションは来年初めに始まる。入札で選ばれると、事業者は建設費や人件費など固定費分の収入を原則20年間得られる仕組みだ。元手は小売会社が払うが、電気料金を通じて国民全体の負担となる。福島第一原発の事故以降、原発の安全対策が強化され、大手各社が再稼働に向けて投じた工事費は計約6兆円にのぼる。今回の案は、安全対策投資の回収を保証し、電力会社側の事業リスクを軽くする狙いだ。電力の脱炭素化や長期的な供給力を確保するための仕組みは必要だろう。ただし、手厚く支援する以上、対象は相応の効果が見込めるものに絞るべきだ。この点で、既存原発を加える案には疑問が多い。経産省はこの制度の検討時、「既存電源の最大限活用のみでは不十分」と審議会で訴えていた。新規電源とは言えない既存原発の再稼働も対象にすれば、制度の趣旨から大きく外れる。原発依存を長引かせ、新技術導入を妨げることにならないか。そもそも政府と電力大手はこれまで、「安全対策工事をしても(既存の)原発には経済性が十分ある」として再稼働を進めてきたはずだ。多額の工事費を投じる方針も各社が経営判断で決めており、そのコストは通常の事業の中でまかなうのが筋だろう。後になって公的な支援を入れるのは理解に苦しむ。経産省が7月末に案を示したのも唐突だ。5月末に成立した原発推進の法改正で「安全投資などの事業環境整備」が盛り込まれたのが根拠だという。だが、法改正の検討段階や国会審議では、具体的な手法は説明しなかった。「原発復権」に向けた政権の政策転換に関心が高まった時には議論を避け、法改正を押し通した後に「次の一手」を繰り出すのでは、不信感を持たれて当然だ。審議会では、市場制度のあり方をはじめ、広い視点で徹底的に議論してほしい。疑問を置き去りにした「見切り発車」を繰り返すことは許されない。 *3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR8S3DMKR8RULBH00J.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2023年8月24日)福島第一原発の処理水問題、原発処理水のトリチウム濃度、基準を下回る 午後1時ごろに放出開始 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出計画で、東電は24日午前、海水で薄めた処理水を分析した結果、トリチウムの濃度は、計画の基準1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)を下回ったと発表した。 ●「理解」得られた?東電の説明は 処理水放出始まっても廃炉見通せず トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準未満であることは確認済みで、東電は24日午後1時ごろに放出を始める。会見した東電福島第一廃炉推進カンパニーの処理水対策責任者、松本純一氏は「一段と緊張感を持って対処したい。直接操作にあたる運転員のほか、情報は速やかに発信できるよう準備を整えている。遺漏なきよう実施したい」と述べた。東電によると原発内のタンクには、大半の放射性物質を除去する「多核種除去設備」(ALPS(アルプス))などを通した水が約134万トンたまっている。今年度は、このうち約3万1200トンを放出する計画。1回目の放出では約17日間かけて約7800トンを流す。放出開始から1カ月程度は、沖合約1キロ先の放水口の周辺で海水を毎日採取し、トリチウム濃度を調べる。東電は、22日午前の政府の関係閣僚会議での正式決定を受けて放出の準備を開始。タンクの水を約1200倍の海水で希釈した処理水を22日夜に採取し、トリチウム濃度を調べていた。海水で希釈した処理水は「上流水槽」にたまる。処理水を入れ続けると、あふれて隣の「下流水槽」に流れ込む。下流水槽の底部には、放水口に続く海底トンネルの入り口があり、処理水は自然に放水口から海へ出ていく仕組みという。 *3-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/271966?rct=editorial (東京新聞社説 2023年8月23日) 処理水放出 「全責任」を持てるのか 東京電力福島第一原発にたまり続ける「処理水」が、海に流される。「風評被害」を恐れる漁業者に対し、岸田文雄首相は「漁業が継続できるよう、政府が全責任を持って対応する」と強調するが、順調に進んでも三十年に及ぶ大事業。誰が、どう責任を取り続けるというのだろうか。福島第一原発では、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため、大量の冷却水をかけている。そこへ地下水や雨水が加わって、「汚染水」が毎日約九十トンずつ出続けている。その「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたものが「処理水」だ。原発構内には千基を超える「処理水」のタンクが林立し、廃炉作業の妨げになるとして、政府はおととし、濃度を国の基準値未満に薄めた上で、海底トンネルで沖合一キロの海に流す方針を決めた。ALPSを用いても、放射性物質はわずかに残り、三十年間放出し続ければ膨大な量になる。風評被害を恐れる漁業者の不安はぬぐえていない。政府と東電は八年前、福島県漁業協同組合連合会との間で「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束を交わした。全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長=写真右端=は二十一日、首相=同左端=と面談し、「海洋放出に反対であることには、いささかも変わりない」とした上で「科学的な安全と社会的な安心は異なるもので、科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるものではない」と強い懸念を表明した。約束を反故(ほご)にしての放出開始。いくら首相が「責任を持つ」と繰り返しても、にわかに信じられるものではないだろう。海洋放出の実施については、まだまだ説明と検討が必要だということだ。これほどの難題を抱えつつ、あたかも別問題であるかのように、政府が「原発復権」に舵(かじ)を切るのも全く筋が通らない。日本の水産物輸出先一位の中国は先月から税関検査を強化。七月の輸入量は前の月に比べ、三割以上減少した。拙速な放出開始は将来にさらなる禍根を残す。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230824&ng=DGKKZO73837360U3A820C2EA2000 (日経新聞 2023.8.24) 経産相、福島産の積極販売を要請 小売6団体幹部に 西村康稔経済産業相は23日、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の放出が24日にも始まるのを前に小売業界団体の幹部と面会した。福島県産の水産物などの風評被害が懸念される中、積極的に販売に取り組むよう求めた。政府の支援策と合わせ、漁業者が事業を継続できる環境を整える。「これからも変わらず三陸常磐ものの取り扱いをしてもらえるようにお願いする」。都内で開かれた風評対策・流通対策連絡会。西村経産相は小売り関連の6団体の幹部に、処理水の海洋放出後も福島県産などの産品の販売継続を要請した。西村氏は「消費者の不安などの声も届くと思うので課題があれば言ってほしい」と連携を呼びかけた。日本チェーンストア協会の三枝富博会長は「放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱う」と応じた。小売業界は消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望した。具体的には国際機関など第三者による安全性の厳格な確認、処理水が基準を満たしているかの監視結果の迅速な公表、水産物の検査体制――の徹底を求めた。政府は22日の関係閣僚会議で気象などの条件が整えば24日に放出すると決めた。東京電力ホールディングス(HD)は同日朝に放出の可否を判断し、問題なければ午後1時にも開始する。処理水の放出で地元の漁業者らは風評被害で売れ行きが落ち込むのではとの懸念を訴えている。23日の自民党水産部会には全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長ら漁業関係者が参加した。処理水放出に伴う中国や香港の輸入規制を巡り、販路拡大への支援を求める声が出た。中国は処理水放出に反発し、日本からの水産物の輸入規制を強めている。足元では日本でとれたホタテなど一部の水産物は人件費の安さからいったん中国にわたって殻をとるといった加工後に米国などに輸出されている。輸出維持のため、加工地を日本に戻す支援が必要との主張もあった。岸田文雄首相は放出と風評被害に「国が全責任を持つ」と強調する。政府は不安の払拭のため小売事業者に協力を求めたのに加え、首都圏や福島など東北地方でイベントを開いて水産物などの魅力向上にも努める。23日には復興庁が24年度の概算要求で水産業などへの支援事業を拡充する方針が明らかになった。処理水の処分に伴う対策として水産物や水産加工品の販売支援事業では41億円、漁業人材の確保では23年度当初予算比で14億円増の21億円をそれぞれ要求する。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230824&ng=DGKKZO73838100U3A820C2MM8000 (日経新聞 2023.8.24) 小売り大手、福島産の販売方針変えず ヨーカ堂「生産者を応援」 原発処理水きょう放出 セブン&アイ・ホールディングスなど小売り大手は、24日以降に東京電力福島第1原子力発電所の処理水が海洋放出された後も福島県産水産物の販売を続ける。イオンは放射性物質の自主検査をしながら、関東圏などの総合スーパーで継続販売する方針だ。販売継続で風評被害を防ぎつつ、フェアを通じて需要を喚起する動きもある。セブン&アイ傘下のイトーヨーカ堂は23日、処理水の放出決定を受けて「東日本大震災で被災した生産者を応援していく」とし、福島県産の販売を続ける考えを示した。食品スーパーのライフコーポレーションやヤオコーなども販売を継続する。ヤオコーは「(福島産を減らすなど)商品の見直しはしない」という。イオンは22日、関東圏などの総合スーパーで福島県産を継続販売すると発表。同時に放射性物質トリチウムの含有量について、国際基準より厳しい自主検査を実施し、サイトで結果を公開する方針を明らかにした。 *3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15724835.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2023年8月25日) 福島第一、処理水放出 国産全水産物、中国が禁輸 日本政府抗議、撤廃求める 東京電力は24日、福島第一原発の処理水の海への放出を始めた。増え続ける汚染水対策の一環で、少なくとも約30年は放出が続く。これを受けて中国政府は24日、日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止すると発表した。香港も同日から10都県の水産物禁輸を始めた。東電は24日午前、海水で希釈した処理水のトリチウム濃度の測定結果を発表した。計画で定める1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)を大きく下回った。ほかの放射性物質の濃度も希釈前に基準未満と確認しており、午後1時過ぎから放出を始めた。放出から約2時間後、沖合1キロ先の放水口周辺の海水を採取する船が原発から出港。1カ月程度は毎日、10カ所で海水のトリチウム濃度を測り、翌日公表する。東電の計画では、今年度はタンク約30基分にあたる計3万1200トンを4回に分けて放出する。トリチウムの総量は約5兆ベクレルで、年間の放出上限22兆ベクレルの4分の1以下。1回目は7800トン分で約17日間かけて流す。これに対し、中国外務省は24日、「断固たる反対と強烈な批判」を示す報道官談話を発表した。その後、中国税関総署が日本を原産とする水産物の輸入を暫定的に全面停止すると公表。対象は「食用の水生動物を含む水産品」。魚類や貝類のほか海藻なども幅広く適用され、冷蔵・冷凍ともに禁輸になるとみられる。中国は原発事故後、福島など10都県からの食品輸入を禁止してきた。さらに、7月から放射性物質の検査を厳格化し、日本産の鮮魚などは実質的に輸入が止まっていた。農林水産省によると、2022年の中国への水産物の輸出額は871億円。全体の約2割を占める最大の輸出先だ。香港も同年の輸出額は755億円で中国に次ぐ2位だった。岸田文雄首相は24日、首相官邸で「科学的根拠に基づいて専門家同士がしっかりと議論を行っていくよう、中国政府に強く働きかける」と語り、中国側に冷静な対応を求めた。外務省の岡野正敬事務次官は同日、中国の呉江浩大使に電話で抗議し、全面禁輸措置の早期撤廃を強く要求した。首相は「水産事業者が損害を受けることがないよう、万全の態勢をとっていく」とも強調した。東電の小早川智明社長は「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とのコメントを出した。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230825&ng=DGKKZO73874580V20C23A8MM8000原発処理水放出を開始 (日経新聞 2023.8.25) 「廃炉」目標まで30年、デブリなど難題 東京電力福島第1原子力発電所の事故から12年を経て、原発処理水の放出が24日始まった。廃炉に向けて一歩踏み出したものの、原発内部からの溶融燃料(デブリ、総合2面きょうのことば)の取り出しという最難関作業が待ち受ける。政府が目標とする30年後の廃炉完了は見通せない。東京電力ホールディングス(HD)は24日午後1時すぎ、原発敷地内にたまる処理水の海洋放出を始めた。23年度は全体の2.3%に当たる3万1200トンを4回に分けて放出する。24日に始めた初回分は7800トン程度を17日間程度かけて流す。51年までの廃炉期間内に放出を終える計画だ。処理水は放出前に海水と混ぜて、薄めた処理水に含まれる放射性物質トリチウムの1リットルあたりの濃度が国の安全基準の40分の1(1500ベクレル)未満であることを確認した。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は24日の声明で、IAEA職員の現場での分析で、トリチウム濃度が「1リットルあたり1500ベクレルの上限濃度をはるかに下回っていることが確認された」と指摘した。政府と東電は漁業への風評被害を防ぐため、監視データを定期的に公表して安全性を国内外に示す。基準を上回る濃度のトリチウムが検出されれば、すぐに放出を止める。東電は25日、環境省は27日にデータを公表する。西村康稔経済産業相は放出開始後に都内で記者会見し「データを透明性高く公表して安全安心を確保し、漁業者の生業継続支援に取り組みたい」と述べた。処理水の放出は長い道のりの一歩にすぎない。今後はデブリの取り出しという難事業が控える。処理水を放出できなければ、取り出したデブリを保管する場所が確保できない。放出が進めばタンクが減るため、廃炉計画の具体化に欠かせない過程だ。デブリはメルトダウンで原子炉から溶けた核燃料が金属やコンクリートと一体化したものだ。1~3号機全体でデブリは推計880トンあるとされる。放射線量が非常に高く、人が近づけない。それゆえ取り出し作業は遠隔操作になる。英企業や三菱重工業などが開発したロボットアームを使い2号機から着手する。東電などによると、1回目で取り出すのはわずか数グラム程度にとどまる。それすら実際に出来るのかどうかは分からない。日本原子力学会・福島第1原子力発電所廃炉検討委員会の宮野広委員長は「政府が示す廃炉計画は具体的な見通しがあるわけではない。一番難しいデブリの取り出しの手法が描けないと廃炉の見通しも見えない」と指摘する。国などは福島第1原発の廃炉作業には事故の発生後30~40年かかるとしている。事故後12年を経て残りは30年程度だ。国は廃炉について最終的な形を明らかにしていない。更地となるのか、ある程度の廃棄物が残るのかによって地元の受け止めも大きく変わる。費用も課題だ。政府はデブリ回収に6兆円、廃炉全体で8兆円との費用試算を16年に公表したが、さらに増える可能性が高い。事故賠償や除染も含めると既に事故後12兆円を支出している。費用総額は廃炉の最終的な形も大きく左右する。負担は国民に跳ね返るだけに国は丁寧な説明が求められている。 *3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73914760V20C23A8TB0000 (日経新聞 2023.8.26) 東電、廃炉費用8兆円 処理水放出も収益低迷、再建遠く 東京電力ホールディングス(HD)は福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出を始め、2051年までの完了を掲げる廃炉作業はようやく前進した。8兆円に上る廃炉費用を捻出するだけの稼ぐ力はまだ弱く、経営再建への道筋を描けないでいる。政府が海洋放出を24日に決め、東電幹部は安堵した。「今夏での決着は廃炉を進める上で大きな意義がある」。敷地内の保管タンクは利用率が98%に達し、限界に近づいていたためだ。19年度の福島第2の廃炉決定に続き、約10年間議論してきた懸案がようやく解消したが、社内には楽観的な空気はない。23年度内には最難関とされるデブリの取り出し作業が始まる。廃炉総額約8兆円のうち約6兆円がデブリへの対処につぎ込まれる。炉内の正確な状況は分からず、取り出す工法も手探りで費用は想定より膨らむ可能性が高い。東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用は全額負担し、賠償も半分程度を支払う。まずは20年代半ばに年3000億円の経常利益を稼ぐ目標を達成しなければ支払いは難しくなってくるが、この10年間で達成したのは16年3月期の1度のみ。23年3月期は資源高で2853億円の赤字となり、道のりは険しい。東電は域外への電力販売や再生可能エネルギー事業の強化などを行ってきたが収益を底上げするほどには至っていない。首都圏中心に約2100万件もの顧客を抱えるが、新電力への顧客流出で収益基盤が揺らいだままだ。東電の火力比率は21年度で77%と沖縄電力に次いで高く、今後も資源高で利益が左右されやすい。過去5年で東電HDの純現金収支は1.2兆円の赤字と大手電力で最も悪い。東電にとって、「経営再建には柏崎刈羽しかない」(幹部)。原発1基で1400億円の収支改善につながるだけに経営の最優先事項として取り組んできたが、いまだ先行きは不透明だ。東電は10月に柏崎刈羽7号機の再稼働を目指したが、テロ対策の不備で原子力規制委員会から運転を禁じられたままだ。原発関連の重要書類の紛失などの不祥事も止まらず、立地自治体も不信感をあらわにし、地元同意も遠のいた。金融機関の姿勢も厳しくなってきている。収益力低下に対応するため、東電は財務基盤の強化を進めてきた。4月にも金融機関から4000億円を新規に借り入れたが、「柏崎刈羽が動かない状況では新規融資は難しい」との声もある。中部電力や日立製作所、東芝との原子力事業の提携や、東電の小売りや再生エネ子会社の外部資本の受け入れ論……。単独では経営再建が難しく、中部電と火力事業を統合したように原発や小売事業でも再編案が度々浮上してきた。原発再稼働が進まない状況が続けば、国主導でグループの経営体制の見直しを迫られる可能性がある。「財務の基盤が安定しなければ、(廃炉や賠償など)福島への責任を果たせない。(計画から)大きく外れている状況は改善しなければならない」。23年3月期に大幅赤字になったことを受けて、東電の小早川智明社長は厳しい表情でこう語っていた。廃炉作業を進めるためにも、早期に稼ぐ力を示すことが不可欠だ。 *3-5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15733888.html (朝日新聞 2023年9月5日) 水産業支援策、5本柱 消費喚起や販路開拓など公表 東京電力福島第一原発の処理水の海への放出で中国が日本の水産物を全面禁輸したことを受け、政府は4日、水産事業者向けの支援策をまとめた。中国への輸出依存から転換するための販路開拓など5本柱からなり、従来の計800億円の基金に加え予備費から新たに207億円を充てる。岸田文雄首相は同日夜、記者団に「水産業を守り抜くということで、政府、東電がしっかりとそれぞれの責任を果たしていきたい」と述べた。支援策は「『水産業を守る』政策パッケージ」と題して、(1)国内消費拡大・生産持続対策(2)風評影響に対する内外での対応(3)輸出先の転換対策(4)国内加工体制の強化対策(5)迅速かつ丁寧な賠償――の5本柱としている。(1)では、国内消費を促すための「『国民運動』の展開」を掲げた。岸田首相は「国民の皆様にも理解と支援をお願いしたい」として、水産物の消費などを呼びかけた。(3)では、輸出が急減しているホタテなどの一時買い取り・保管や海外を含めた新規の販路開拓を支援する。飲食店でのフェアなどを通じて海外市場を開拓していく考えだ。(4)では中国に依存している水産物の加工を国内に呼び戻すため、加工用機器の導入や人材活用などを後押し。海外輸出を進めるため、国際的な衛生管理の手法であるHACCP(ハサップ)の認定手続きも支援する。 *3-5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15733855.html (朝日新聞 2023年9月5日) 「脱・中国依存」高い壁 国内に加工施設案「現実的なのか」 水産業支援 中国が日本の水産物を全面禁輸としたことを受け、政府が4日に発表した水産事業者支援策では「輸出先の転換」「国内加工体制の強化」などを柱に「脱・中国依存」をめざす。新たな輸出先として欧米や東南アジアを念頭に置くが、実現のハードルは高い。農林水産省によると、中国への水産物の輸出額は871億円(2022年)で、全体の2割を占め、国・地域別では1位だった。22年のホタテの生産量は51・2万トンで、このうち中国に14・3万トンを輸出。ナマコは5100トンのうち中国向けに1900トンを輸出した。香港向けを含むと、この数字はさらに増える。加工も中国頼みだ。同省は輸出したホタテを中国でむき身に加工した後、米国に3万~4万トンが輸出されていると推定。今回の支援策では、日本国内で加工するための施策も含めた。現場の受け止めは複雑だ。北海道網走市で水産物加工会社を営む根田俊昭さんは「建設資材が高騰し、機械も電気代も値上がりする中、現実的な対策なのか」と疑問を投げかける。仮に加工施設を国内に設けても、働き手の確保は簡単ではないという。「人手がないのに、『カネを出すからすぐ作れ』と言われて、できるのか」と話す。政府は欧米の飲食店などで「日本食キャンペーン」も開く方針だ。岸田文雄首相は、輸出先の開拓を対策とした理由に「世界の和食ブーム」を挙げる。しかし、実際に需要の掘り起こしにつながるかは未知数だ。日本産食品の輸出先は中国を始めとするアジア諸国が中心だ。欧米は市場規模は大きいが、食文化の違いが足かせになっていた。一般的に欧米の衛生規制はアジア向けよりも厳しく、対応に時間がかかる可能性がある。長崎県の養殖・加工業者「橋口水産」の橋口直正社長は、中国の全面禁輸によって「億単位の損失が見込まれている」と話す。ブリの約95%を海外に輸出しており、うち約2割が中国だった。現地でのイベントに出店したり、SNSでPRしたりしてきた。「これから伸ばしていこうとしていた矢先だった」と橋口社長。11月から本格的な出荷シーズンが始まり、さらに影響を受けることが予想される。 <化石燃料と予算> *4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15587145.html (朝日新聞 2023年3月21日) 1.5度目標、ここが正念場 国連パネル報告「水害・海面上昇、適応に限界」 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が20日公表した統合報告書でこれまで以上に危機感を打ち出した。一方で、温室効果ガスを大幅に削減する手段をすでに手にしているとも指摘。この10年間の行動が、人類と地球の未来を決めるという。 ■再エネ活用「まだ達成の道ある」 報告書は、改めて温室効果ガス排出量が増えるほど温暖化が進むことを強調。世界で稼働または計画中の化石燃料インフラを使い続けると、気温上昇が2度を超える恐れがあるという。2度は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で掲げる目標だが、各国が提出している温暖化対策目標を達成しても2・8度上昇に達する可能性が大きいとする。IPCCはこれまでも警告を発してきた。しかし現実と落差がある。新型コロナからの回復で景気が復調。ウクライナ侵攻などによるエネルギー危機で欧州を中心に各地で一時的に石炭火力を稼働させる動きがある。国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の二酸化炭素(CO2)排出量は過去最多になった。米環境NGO「世界資源研究所」は「今後数年間で化石燃料からの抜本的なシフトがなければ、世界は1・5度の目標を吹き飛ばす」と危機感をあらわにする。報告は温暖化が進むほど、「損失と被害が拡大する」と危機感を示す。食糧や水不足が増えるが、感染症の世界的流行や紛争などと重なるとより事態は難しくなる。水害や海面上昇は堤防などの治水対策で一定のリスクを減らせるが、「適応」には限界がある。すでに熱波や豪雨などの極端現象が増え、陸や海の生態系に相当な被害をもたらした。世界の食糧生産に悪影響を及ぼし、酷暑の増加で死亡率が増えているという。一方で、報告書は「まだ達成の道はある」と希望を残す。再生可能エネルギーや省エネ対策など100ドル以下の対策を活用するだけで、2030年までに排出量を半減できるという。対策は「政治の関与、制度、法律、政策、資金や技術によって可能になる」としている。規制・経済的手段として、二酸化炭素排出への価格付け(カーボンプライシング)や、化石燃料への補助金の撤廃などに言及した。 ■「先進国は目標前倒しを」 遅れる日本 国連のグテーレス事務総長は主要国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を年内に更新するよう呼び掛けた。「年末の国連の気候変動会議(COP28)までに、すべての主要20カ国・地域(G20)のリーダーが野心的な新しい目標を約束することを期待する」。温暖化に大きな責任を負っている先進国には、2040年までに実質排出ゼロを前倒しするよう求めた。先進7カ国(G7)のうち、米英独加は35年に電源の脱炭素化の目標を掲げ、仏は21年に91%を脱炭素化した。日本は21年に30年度の46%削減、50年の実質排出ゼロを掲げるが、40年に向けた目標はない。IEAによると世界で導入された再エネは昨年、最大4億400万キロワットで19年から倍増する見通し。EUはロシアのウクライナ侵攻後の昨年5月に再エネを強化する目標「リパワーEU」を決め、30年時点でのエネルギー消費に占める再エネ比率を40%から45%に引き上げた。米国では昨年8月、エネルギー安全保障と気候変動対策の約3700億ドルを含む「インフレ抑制法」が成立。30年までに40%前後の排出減を試算している。一方、日本での再エネの導入ペースは鈍い。IEAの試算では19年に810万キロワットで、22年は最大でも980万キロワット。27年時点も同710万キロワット。COP28では、パリ協定のもとで初めて各国の削減目標の進み具合の評価が行われ、25年までに新たな目標を提出することになる。環境省幹部は「正直、まだ何も手が付いていない」と頭を抱える。国立環境研究所の増井利彦氏は「35、40年の目標を出さないと日本の地位、信頼性が失われる」と指摘する。2月に閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」では、今後10年間で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出する。だが、再エネについては発電量に占める比率を30年度に36~38%にする目標を変えていない。大排出源である石炭火力発電の燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円を投じる方針だが、技術的に未確立でコストも高く、「石炭火力の延命」(NGO)との批判が根強い。諸富徹・京都大大学院教授(環境経済学)は「欧州や米国は、IPCCが言う1・5度などの実現に沿った政策づくりを進めており、それによって経済成長も実現しようとしている。だが、日本のGX基本方針からは、そのような真剣さや迫力がまったく感じられない。『脱炭素経済』への移行に遅れれば、日本の産業競争力は引き続き低下していく恐れがある」と指摘する。また環境や社会問題に配慮するESG投資に詳しい夫馬賢治・ニューラル社長は「水素やアンモニアの混焼はグリーンウォッシュ(見せかけの脱炭素化)とみられ、世界の投資家から理解を得られない」と指摘する。(関根慎一、編集委員・石井徹) ◇ 国連広報センターは今年も、メディアと共同で、気候変動への行動を呼びかけるキャンペーン「1・5度の約束――いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を行う。現時点で、朝日新聞を含む日本メディア127社が参加表明している。20日、発表した。期間は年内いっぱいで、国連総会が開かれる9月18~25日を集中推進期間とし、参加各社が記事や番組、イベントなどで気候変動の現状や対策を発信する。 *4-2-1:https://www.saitama-np.co.jp/articles/33695/postDetail (埼玉新聞 2023/6/29) 環境に有害補助金、年1千兆円超、世界銀行「保護に活用を」 世界銀行は29日までに、各国政府が自国産業に出す補助金のうち、エネルギーや農業、漁業の分野で環境に有害なものが世界で年間計7兆ドル(約1千兆円)を超えるとの試算を公表した。使い方を見直して環境保護に活用するよう訴えている。補助金のマイナス面に警鐘を鳴らす狙い。ただ、不十分な規制で産業を利している「暗黙の補助金」も試算に含めているほか、通常の補助金にも国民生活に不可欠なものがあり、全てを環境保護に振り向けるのは難しい面もある。エネルギー分野では、化石燃料の価格引き下げにつながる補助金を問題視する。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230903&ng=DGKKZO74127350S3A900C2EA4000 (日経新聞 2023.9.3) 6日 エネ庁、ガソリン価格調査公表、高止まり、補助金は副作用も 資源エネルギー庁は6日、レギュラーガソリンの店頭価格調査の結果を発表する。円安の進行などで最高値を更新するとの見方が多い。政府は9月末までとしていたガソリン補助金を、年末まで延長する方針だ。補助の長期化は最終的に国民負担を長引かせ、脱炭素にも逆行するとの見方がある。エネ庁は原則、毎週月曜に全国の給油所の店頭価格を調べ、水曜に発表する。8月28日時点の価格(全国平均)は1リットル185.6円と、統計開始以降の最高値を15年ぶりに更新した。6日発表の価格(4日時点)は、円安による原油の仕入れ価格上昇を映して「小幅に上がる」との見方が強い。店頭価格上昇の背景には、ガソリンの原料となる原油価格の高止まりがある。アジア市場で指標となる中東産ドバイ原油の価格は、8月28日時点で1バレル86ドル台半ばと6月初めに比べて21%高い。産油国は減産によって原油相場を維持している。サウジアラビアは7月から続けている日量100万バレルの自主減産を、9月も実施すると決めた。ロシアも9月の原油輸出を減らす方針を示した。供給懸念が意識され、原油相場の先高観は強い。円安・ドル高の進行もガソリン価格を押し上げている。8月28日時点の円相場は1ドル=146円台半ばと、約9カ月半ぶりの円安水準だ。原油は主にドル建てで取引する。円安によって輸入価格が上がれば、ガソリンの価格にも反映されやすい。政府が石油元売りに支給している補助金が、6月から段階的に減っているのも大きい。補助金は22年1月、原油高によるガソリンや軽油、灯油などの価格高騰を抑えるために始まった。同年夏には1リットルあたり40円前後を支給していたが、高騰が収まった現在の補助額は10円程度だ。ガソリン高は家計の負担増加につながる。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は、仮にガソリンの価格が1リットル168円から195円まで上がり、そのまま1年間推移した場合、家計の年間負担増は総額で8780億円に達すると試算する。ガソリン価格の高止まりは特に地方の家計に響く。「自家用車を使う人が多い地方では、都市圏に比べて負担が大きくなる」(斎藤氏)。製油所からの輸送距離が長い長野県や山形県、鹿児島県などでは、平均価格がすでに1リットル190円を超えている。急激なガソリン高に対する批判を受け、政府は9月末に終了を予定していた補助金を年末まで延長する方針を示した。10月中に全国平均のガソリン価格が1リットル175円程度になるよう、段階的に拡充する。13日発表分以降の店頭価格は緩やかに下がるとみられる。ただ、補助金によるガソリン価格の引き下げが経済活動に及ぼす効果は限られるとの見方も強い。石油製品市場に詳しい伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリーの伊藤敏憲代表は、仮にガソリン価格が10円程度抑えられたとしても「一般消費者の負担額は月間で300~400円の減少にとどまり、消費を喚起する効果はほとんどない」と語る。補助金の長期化には副作用もある。ガソリン価格の高騰が需要を抑えたり、よりガソリン消費が少ない車への買い替えを促したりする、自然な市場メカニズムの働きを抑える可能性があるためだ。エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は「足元の高騰を考えると補助金の拡充はやむをえないものの、補助金政策が長引けば最終的に国民自身の負担になる」とした上で「補助金の一部を再生可能エネルギー・省エネ関連の建設費に投じることで、将来的な光熱費低減につなげるべきだ」と指摘する。 <再エネと予算> *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230818&ng=DGKKZO73688770Y3A810C2EA2000 (日経新聞 2023.8.18) 積水化学、曲がる太陽電池量産 30年までに 100億円投資 積水化学工業は2030年までに次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」の量産に乗り出す。軽くて折り曲げられる同電池では中国勢が量産で先行するが、積水化学は強みとされる耐久性を生かして屋外での需要を開拓し、中国勢を追い上げる。ペロブスカイト電池は太陽光パネルで主流のシリコン製と比べ、重さは10分の1程度と軽く、折り曲げやすい。ただ、水分に弱く耐久性に課題があり、現在ではスマートフォン向けなど用途の広がりに欠ける。積水化学は液晶向け封止材などの技術を応用し、液体や気体が内部に入り込まないよう工夫。10年程度の耐久性を実現している。100億円以上を投じて製造設備を新設し、30年時点で年数十万平方メートルのペロブスカイト型太陽電池を生産する。発電量は数十メガワット。フィルムに結晶の膜を塗布しロール状に巻いて連続生産する。すでに30センチメートル幅のフィルムでエネルギー変換効率15%を達成した。シリコン型の20%以上に及ばないが、技術開発を進めて変換効率をさらに高めていく。より効率の良い1メートル幅での生産の準備を進めており、コスト競争力も高める。太陽光パネルの分野では、かつてシリコン型の開発・実用化でも日本勢が先行していたが、中国勢の攻勢で多くが撤退に追い込まれた。同様の事態を避けるため、日本政府は4月、ペロブスカイト型太陽電池の普及支援を打ち出し、公共施設で積極的に設置するなど需要を創出したり、量産技術の開発や生産体制の整備を支援したりする。ペロブスカイト型の技術支援はエネルギーの安定供給も背景にある。主な原料のヨウ素の世界シェアは日本が2位で国内で調達しやすく、供給網が寸断された場合に備えることもできる。積水化学は政府の支援策によっては生産量を増やす可能性もある。日本は山間部が多いなど、従来型太陽電池に適した立地が少なくペロブスカイト型の市場性は大きいと言われている。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/0df32a5bc122ac8c2934cd8234646f0255df848d (Yahoo、スマートジャパン 2023/9/7) 「発電する窓」をペロブスカイト太陽電池で実現、パナソニックが実証へ パナソニックは2023年8月、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発したと発表した。今後、技術検証を含めた1年以上にわたる長期実証実験を、神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)内のモデルハウスで実施する。ペロブスカイト太陽電池は、軽量かつ柔軟に製造可能という特徴を持ち、ビルの壁面や耐荷重の小さい屋根、あるいは車体などの曲面といった、さまざまな場所に設置できる次世代太陽電池として期待されている。また、塗布などによる連続生産が可能であること、レアメタルを必要としないなどのメリットも持つ。パナソニックではこれまでに、従来の結晶シリコン系の太陽電池と同等の発電効率を有し、実用サイズ(800平方センチメートル四方)のモジュールとして世界最高レベルという17.9%の発電効率を持つペロブスカイト太陽電池を開発している。今回開発したガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、これらの成果を生かし、ガラス基板上に発電層を直接形成したもの。同社独自のインクジェット塗布製法と、レーザー加工技術を組み合わせることで、サイズ、透過度、デザインなどの自由度を高め、カスタマイズにも対応可能だという。 パナソニックでは今後の実証の結果などをふまえ、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池をさまざまな建築物そのもののデザインと調和する「発電するガラス」として展開していく方針だ。 *5-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BIZ0U3A410C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023年5月12日) 曲がる次世代太陽電池、ビル壁面で発電 25年事業化へ 次世代の「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めている。薄いフィルム状で折り曲げられるため、場所を問わず自由に設置しやすい。原料を確保しやすく、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすい利点もある。政府は2030年までに普及させる方針を打ち出し、国内企業を支援する。35年には1兆円市場に育つとの試算もある。積水化学工業や東芝が25年以降の事業化に向け開発を急ぐ。ペロブスカイト型太陽電池は太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使う。重さが従来のシリコン型の10分の1。折り曲げられるため、建物の壁や電気自動車(EV)の屋根などにも設置できる。一方で水分に弱いため、実用化には高い発電効率を維持しながら、耐久性が課題となる。「実用化できる基準には達した」。積水化学はこれまで1日ももたずに壊れてしまったペロブスカイト型の耐久性を10年相当に高めた。液晶向けで培った液体や気体などが部品の内部に入り込まないようにする封止材の技術を使い、太陽電池を保護した。シリコン型の耐久性は約20年であり、R&Dセンターのペロブスカイト太陽電池グループ長の森田健晴氏は「耐久性を高められなければ、事業化には致命的だ」と話す。事業化に欠かせない発電の変換効率も高めた。30センチメートル幅で変換効率15%(シリコン型は20%以上)を達成した。薄いペロブスカイト型はシリコン型よりも熱を逃がしやすく、変換効率の低下につながる電池の温度上昇を抑えられる。今後は実用に近い1メートル幅での開発を目指す。積水化学は東京都下水道局森ヶ崎水再生センターなど複数の拠点で実証実験を実施しており、設置方法を含む実用化を検討している。現状では発電する薄膜に欠陥が生じやすいほか、歩留まりも悪く、製造コストはシリコン型に劣るという。今後は軽さを生かして物流コストなどを抑えることで、設置までの全体のコストでシリコン型に対抗する。25年度に事業化する方針であり、JR西日本がJR大阪駅北側に25年の開業を目指す「うめきた(大阪)駅」に設置予定だ。ペロブスカイト型は敷地を確保しにくい都心での発電が可能となる。室内光や曇りや雨天時など弱い光でも発電可能なため、屋内向けの電子商品などに使われる可能性がある。実験レベルでは高い変換効率を達成しており、耐久性やコスト面で改善が進めば、中国勢が優位に立つシリコン型に対抗しうる太陽電池として期待が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年から「グリーンイノベーション基金」で次世代太陽電池の開発に約500億円の予算を確保している。30年度までに一定の条件下での発電コストをシリコン型と同等の1キロワット時14円以下の達成を目指す。経済波及効果は30年までに約125億円、50年までには約1兆2500億円を見込む。東芝もグリーンイノベーション基金に採択された企業の1つだ。26年度ごろの事業化を目標に掲げる。広い面積にペロブスカイト層を均一に塗布する独自技術を開発し、703平方センチメートルの大面積で変換効率16.6%を達成した。現在の耐久性能を明らかにしていないが、耐久性の向上と低コストな製品の開発を進めているという。カネカはNEDOが補助するペロブスカイト型だけでなく、シリコン型と2層で重ねる「タンデム型」の開発も進めている。設置済みのシリコン型をタンデム型に置き換えることで、発電効率を高める狙いだ。同社が開発した結晶シリコン太陽電池はトヨタ自動車の新型プリウスのプラグインハイブリッド車(PHEV)などで採用された実績がある。素材開発から量産まで一気通貫で自社で担える強みを生かす。ペロブスカイト型は09年に桐蔭横浜大学(横浜市)の宮坂力特任教授が発明した。だが海外で特許取得をしていなかったことや、各国政府の研究開発支援の充実で、海外との開発競争は激化している。21年にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設した。中国でも大型パネルの量産が始まっている。ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。価格もシリコン型に比べ高額だ。日本企業がコストや性能で優れた製品を量産できれば勝機はある。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。 ●国内で供給網、エネルギー安保でも注目 政府がペロブスカイト型太陽電池の開発を後押しする背景にエネルギー安全保障がある。現在主流のシリコン型は原料であるシリコンの供給を中国に依存しており、有事の際に生産が止まるリスクがある。ペロブスカイト型は太陽光の吸収材料に日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素を使う。他の原材料も国内で確保しやすいため、国内でサプライチェーンを完結できる可能性がある。株式市場では関連銘柄としてヨウ素メーカーにも注目が集まっている。ガラス最大手AGC子会社の伊勢化学工業が国内シェアの30%を、K&Oエナジーグループが15%を占める。ペロブスカイト型が普及した場合、国内のヨウ素使用量はどれくらい増えるのか試算してみた。ペロブスカイト層の厚さを1マイクロメートルとし、ペロブスカイト結晶の密度から単位面積当たりのヨウ素量を計算すると、1平方メートルあたり数グラムとなる。国内の0.5メガワット以上の太陽光発電施設が占める面積と同程度、ペロブスカイト型が設置されると仮定すると、ヨウ素の必要量は数十トン程度と、国内の年間生産量の1%に満たない。日本発のペロブスカイト型太陽電池は市場規模の成長力とエネルギー安保の両面から実用化への期待が高い。一方で関連企業の業績への影響は未知数であり、銘柄選びには冷静な見極めが必要だ。 *5-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230825&ng=DGKKZO73877020V20C23A8MM0000 (日経新聞 2023.8.25) 東京都、住宅メーカーに省エネ効果の説明義務、購入時の判断基準に 東京都は住宅の省エネ化を加速する。新築の戸建てや中小規模のマンションについて、2025年度から事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明するよう義務付ける。都の評価基準を満たしているか契約前に説明し、買い手が環境に配慮した物件を選びやすくする。大規模なマンションについては断熱性などの環境性能の開示制度を既に設けており、より小さな物件に網を広げる。25年度に始める新築戸建てへの太陽光パネル設置義務化と合わせ、省エネ住宅の普及につなげる。延べ床面積2000平方メートル未満の中小規模のマンション、戸建ての注文住宅や分譲住宅について事業者に説明義務を課す。同じ規模のビルも対象とする。説明義務を負うのは都内で年間2万平方メートル以上の物件を供給する事業者で、大手住宅メーカーなど50社程度を想定する。都内の年間供給棟数の半数程度が対象となる見通しだ。事業者に幅広く説明義務を課すのは「自治体初とみられる」という。23年度中に制度の詳細を固め、都民や事業者への周知を始める。25年4月1日以降に建築確認が完了する物件が対象となる。建物自体の環境性能のほか、電気自動車(EV)用の充電設備の設置状況が都の基準を満たしているかも説明させる。都は事業者への訪問調査などを通じ、説明義務を果たしているかどうか確認する。年度ごとの履行状況も事業者に報告を求める。履行状況は都のホームページで公表する。対応が不十分な事業者には都が指導、助言して改善を促す。都内の新築着工棟数のうち2000平方メートル未満の物件は全体の98%にのぼり、その9割を住宅用途が占める。都内で排出される二酸化炭素(CO2)の3割は家庭由来だが、事業所など産業分野に比べて削減の取り組みは遅れ気味だ。東京都によると、家庭からのCO2排出量は21年度の速報値で1729万トンで2000年度に比べて34.8%増加した。都内全体では00年度比で9.2%減っており、家庭部門の排出削減は脱炭素の大きなカギを握っている。パネルの設置義務も供給棟数の多い50社程度が対象で、新築物件の半数程度が対象になる見通しだ。都内全体で毎年4万キロワット程度の発電能力を生み出せるという。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73587900U3A810C2TEB000 (日経新聞 2023.8.15) EVバス、導入相次ぐ 補助金・燃料費減が後押し、30年までに1万台目標 全国で電気自動車(EV)バスの導入が相次いでいる。3月には京王グループの西東京バス(東京都八王子市)や神奈川中央交通などが採用した。業界団体は2030年までに累計1万台の導入目標を掲げる。「ディーゼルバスよりも音や揺れが少ないと乗客に好評だ」。EVバス3台を運行している西東京バスの担当者はこう語る。バスは中国のEV大手の比亜迪(BYD)から購入した。 自動車検査登録情報協会によると、国内で稼働するEVバスは22年3月末に約150台だったが、さらに23年4月末までの直近1年超で100台以上が納車されたようだ。3月だけで少なくとも10社が運行を開始した。背景には脱炭素の動きを受けた政府や自治体の補助金がある。政府は22年度までEVバスの導入費用の最大3分の1を補助してきた。一般的なディーゼルバスの価格は大型で2300万円程度なのに対し、EVバスは4000万円台。自治体の補助金も併用すると、一般のバスよりも安く導入できるケースも想定される。補助金でコストを抑えられるほか、従来型のバスに比べてエネルギー費(燃料費)を減らせることも普及を後押ししている。新型コロナウイルス禍からの経済再開も影響している。「人流の回復を受けてEVバスの導入を本格化した」(富士急行)など、これまで控えてきた車両更新をきっかけにする会社も目立つ。EVバスは脱炭素の効果が大きい。2台を運行する神奈川中央交通によると、一般的にEVバスは走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。EVバスの充電に使う電力を発電する際まで含めるとCO2を排出することになるが、ディーゼルバスが走行時に排出する量の半分で済む。バスを走らせる費用も安い。1回の充電に5時間ほどかかるが、EVバスの電気代は「ディーゼル燃料を使う場合の3分の2ほど」(導入した事業者)だという。追い風も吹く。政府は23年度の補助率を導入費用の最大2分の1に高めた。補助予算も前年度の約10倍にあたる100億円規模に引き上げた。日本バス協会は23年を「EVバス普及の年」と位置づけ、30年までに累計1万台の導入を目指すとしている。国内のバス台数の5%程度だが、導入が加速する可能性もある。今後の課題は補助金依存からの脱却だ。現在、日本向けにEVバスを大量供給できるのはBYDとEV商用車開発のEVモーターズ・ジャパン(北九州市)の2社程度だ。乗用車のように国内外のメーカー間での価格競争はまだ起きていない。トルコの商用車メーカーのカルサンやジェイ・バス(石川県小松市)が23~24年度に販売を開始する計画などもある。補助金が減額された場合でも、競争力のある価格を実現できるかが導入のスピードを左右する。 *5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15725527.html (朝日新聞 2023年8月26日) ボルボ新EV、日本好みに 小型化実現 スウェーデンのボルボ・カーズは24日、電気自動車(EV)の新型SUV(スポーツ用多目的車)「ボルボEX30」を11月中旬に日本で発売すると発表した。税込み559万円から。最大の特徴は、日本法人の要望に応えて、機械式立体駐車場でも使えるよう小型化したことだ。EX30は日本に投入する3車種目のEVで、全長が4235ミリ、全幅が1835ミリ、全高が1550ミリと最も小さい。日本は国別の売り上げで上位10位以内に入る重要市場のため、日本で利用者が多い機械式立体駐車場に収まるサイズにした。日本法人の不動奈緒美社長は朝日新聞の取材に「日本から要望し続けてようやく実現したサイズ。日本の道路・車庫事情に最もフィットする一台だ」と話した。サイズを日本に合わせたため、大型車が好まれる欧米では苦戦が見込まれていたが、予想に反して売れ行きは好調だという。米国では6月に販売を始め、すでに想定を上回る9千台の受注があった。不動氏は「米国でも欧州でも、大都市では日本と同じニーズがあったのではないか」とみる。最大航続距離は480キロで、急速充電器を使えば約26分で充電残量を10%から80%にできる。小型化で部品数が減ったため、従来のEVより100万円以上安く、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買えるという。 *5-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73915390V20C23A8TEZ000 (日経新聞 2023.8.26) 豪州、車電池で産業育成 EV国家戦略公表、リチウム加工促進、再エネ投資に1.4兆円基金 オーストラリアが電気自動車(EV)関連産業の育成に取り組んでいる。現政権は脱炭素に意欲的で、今年、EV国家戦略を初めて公表したほか、リチウムなど重要鉱物資源の国内加工も後押しする。国内産業を化石燃料や鉱物資源の産出から、付加価値の高い産業へ多様化する狙いがある。「この豪州初の電池工場は、産業界が長らく求めてきた聖杯だ」。5月、豪州南東部ジーロングを訪れたマールズ副首相兼国防相は強調した。かつて米フォード・モーターが約900人を雇用し自動車を製造していた同地は、EV向け電池工場の建設予定地へと変貌をとげようとしている。米企業傘下の電池スタートアップ企業、リチャージ・インダストリーズが工場の立ち上げを計画する。年間の生産能力は最大で30ギガ(ギガは10億)ワット時で、EV約30万台分の電池を供給できる。2024年5月ごろまでに着工し、25年から生産を始める予定だ。2550人の雇用創出を見込む。豪州は自動車産業の「空白地帯」だ。17年にトヨタ自動車などが工場を閉鎖し、豪州で生産する完成車メーカーはない。高い賃金や年100万台程度の小さな市場規模、市場の大きな国から遠いといった背景により、完成車メーカーが戻るのは容易ではない。だがEVシフトを呼び水に、電池製造やリサイクルなど関連産業を育成する機運が高まっている。転機となったのが22年5月の労働党政権の誕生だ。国として30年までの温暖化ガス排出削減目標を05年比43%減と定めたほか、エネルギーや鉱業など排出量の多い企業の削減義務を強化するなど脱炭素を推し進めた。豪州では近年、山火事など自然災害が深刻化し、より踏み込んだ気候変動対策を求める声が強まっている。国は150億豪ドル(約1.4兆円)規模の基金を立ち上げ、EV技術などへの投資を後押しする。豪州は天然ガスや石炭を産出しているが、アルバニージー首相は国内電源や輸出で化石燃料に依存する経済から「再生可能エネルギー超大国」への転換を目指す。4月に公表した初のEV国家戦略では「豪州には部品や電池などEV供給を支える製造業を育成する能力がある」と関連産業の発展に自信をにじませた。伊藤忠総研の深尾三四郎上席主任研究員は「豪州にはEVシフトでも傷む雇用がなく、むしろ新たな雇用を創出する」と指摘する。豪州は脱炭素に欠かせない資源も豊富だ。米地質調査所(USGS)によると、豪州は電池材料に使うリチウム鉱石生産の47%を占め、埋蔵量も24%とチリに次いで2番目に多い。EV普及に伴って、リチウムの世界需要は40年に20年から40倍に増える見通しだ。チリは4月にリチウム生産を国有化する方針を打ち出しており、カントリーリスクが相対的に低い豪州への関心が高まっている。既に米テスラやフォードが豪州の鉱山会社、ライオンタウン・リソーシズとリチウムの供給契約を締結している。だが実現には課題も多い。リチウムを電池材料として使うための不純物を除く精製・分離の工程は環境負荷が高い。そのため、環境規制が緩く労働コストも安い中国に依存してきた。豪州のリチウム輸出の9割は中国へ向かう。米ホワイトハウスによると、中国は世界のリチウムの6割の精製を担う。政府は6月に公表した重要鉱物資源戦略で海外からの投資の誘致方針を示した。国内での精製・分離を目的とした設備投資などへの助成金枠として5億豪ドルを充てる。テスラなど完成車メーカーも豪州に加工能力の増強を求めている。豪州にとっても国内で資源の付加価値を高められれば、より高く売れるメリットがある。世界で脱炭素の流れが強まる中、豊富な埋蔵資源をもつ豪州の強みを国内産業への発展につなげられるか。EVシフトは大きな転機となりそうだ。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA131IQ0T10C23A9000000/ (日経新聞 2023年9月14日) 日本、カナダでEV電池供給網 北米販売を後押し、両政府合意へ 日本の官民がカナダで電気自動車(EV)向けの重要鉱物の探鉱、加工、蓄電池の生産を含むサプライチェーン(供給網)を構築する。カナダ政府も補助金などで支援し、両国が協力して供給力を高める。北米での日本企業のEV販売増につなげるほか、経済安全保障を強化する。西村康稔経済産業相が21日にもカナダを訪問し、ウィルキンソン天然資源相らと蓄電池のサプライチェーンに関する協力覚書を結ぶ。想定する協力内容はまず、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などによるカナダでのニッケルやリチウムなどの探鉱だ。カナダは重要鉱物の埋蔵は多いものの、技術力や人材面など生産能力に課題を抱える。米地質調査所(USGS)によると、カナダのリチウムの埋蔵量は中国の半分程度で世界有数の規模だ。その半面、生産量でみると中国の2%ほどにとどまる。日本と協力することで生産量を増やす。日本の素材・電池メーカーが、カナダで採掘した重要鉱物の加工や、その鉱物を材料に使う蓄電池の生産工場を建てることを視野に入れる。西村氏の訪問にはパナソニックホールディングスやトヨタ系のプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)といった電池メーカーや、商社などが同行する。カナダ政府は現地に進出する日本企業を補助金などで支援する構えだ。産業育成や雇用創出に期待する。カナダでの電池生産は米国での日本メーカーのEVの販売促進につながる。米国はインフレ抑制法(IRA)で、EVの新車などを購入する消費者に最大で7500ドル(約110万円)を税額控除している。日本車は現在、対象に選ばれていない。対象になるには、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国の自由貿易協定(FTA)締結国から調達するほか、電池部品の5割を北米で製造・組み立てするなどの要件がある。カナダで調達や加工をすることで、条件が満たしやすくなる。日本にとっては供給網の強化も見込める。日本は現在、中国やチリなどからリチウムを輸入している。一部の国に依存するのは供給途絶のリスクが大きい。とりわけ蓄電池の生産はエネルギーや気候変動政策の観点で競争力に直結する。西村氏はシャンパーニュ革新・科学・産業相とエング国際貿易相と、人工知能(AI)やクリーンエネルギー、量子といった産業技術に関する覚書にも署名する。量子コンピューターの研究開発では経産省所管の産業技術総合研究所と、カナダ国立研究機構(NRC)の協力を盛り込む。日本は冷却に必要な冷凍機など素材分野で強みを持つ。 *5-3-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200821-OYT1T50273/ (読売新聞 2020/8/21) 日本EEZでコバルトやニッケル採掘に成功…リチウム電池に不可欠なレアメタル 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は21日、日本の排他的経済水域(EEZ)でコバルトやニッケルを含む鉱物の採掘に成功したと発表した。リチウムイオン電池に不可欠なレアメタル(希少金属)で、中国依存度が高く、国産化が課題となってきた。採掘場所は、南鳥島南方沖の海底約900メートル。7月に経済産業省の委託事業として、レアメタルを含む鉱物「コバルトリッチクラスト」を約650キロ・グラム掘削した。JOGMECの調査では、同海域には、年間の国内消費量でコバルトは約88年分、ニッケルは約12年分あるという。コバルトやニッケルは、電気自動車などに使うリチウムイオン電池に不可欠な材料だ。希少性が高く、日本は国内消費量のほぼ全てを輸入に頼っている。超高速の通信規格「5G」時代を迎えて、通信機器への活用も急増し、世界的に取引価格が上昇している。国産化は国内産業の競争力強化にもつながる。経産省は「掘削成功は、レアメタルの国産化に向けた大きな一歩」とし、量産に向けて掘削技術の検証などを進める方針だ。 *5-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF127F90S3A910C2000000/ (日経新聞 2023年9月12日) パナHD、全固体電池を20年代後半量産 ドローン用など パナソニックホールディングス(HD)は12日、ドローン(小型無人機)など向けに開発中の小型の全固体電池を2020年代後半に量産する方針を明らかにした。実用化できれば、3分程度でドローン用の電池容量の8割を充電できる見込み。同様の充電に1時間程度を要する現状のリチウムイオン電池に比べ、利便性が大幅に高まるとした。パナソニックHDがこれまで社内向けに開催していた技術展示会を報道陣や取引先企業に初めて公開し、全固体電池について説明した。金属材料の組成など詳細は明らかにしなかったが、想定する充放電回数は数万回とした。一般的なリチウムイオン電池の回数とされる約3000回を大きく上回る。全固体電池は電気自動車(EV)の次世代車載電池として期待されている。トヨタ自動車は27〜28年にも実用化する方針。パナソニックHDの小川立夫グループ最高技術責任者(CTO)は全固体電池の車載向けへの転用は、自動車メーカーと緊密に連携する必要があるとし「自社単独でできるものではないため、コメントできない」と述べた。展示会では木質繊維を使い強度を高めたプラスチック素材や、太陽光を電気に変換せずにそのままエネルギーとして使い水素を製造する装置なども披露された。 *5-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73591180U3A810C2EA2000 (日経新聞 2023.8.15) M&A、日本企業間で8割増 上期6.8兆円、株価底上げへ国内事業再編が活発 円安、海外買収難しく 日本企業同士のM&A(合併・買収)が増えている。今年上期の買収額は約6兆8000億円で前年同期比8割増えた。株価の底上げに向けて、より相乗効果が見込みやすい国内での事業再編が活発になってきたためだ。円安で海外企業を買うハードルも上がっており、海外に成長を求めてきたM&Aの潮目が変わる可能性がある。金融情報会社リフィニティブによると1~6月の日本関連のM&A全体は約10兆8000億円と2割弱増えた。このうち「イン・イン型」と呼ぶ日本企業同士のM&Aは日本関連のM&A全体の63%を占めた。通年で75%だった2009年以来の高水準だった。件数でもイン・イン型は前年同期比3%増の1828件で、件数全体に占める割合は76%だった。09年当時はリーマン・ショック後の不透明感から「イン・アウト型」と呼ぶ日本企業による海外M&Aが急減した。半面、国内企業の再編が増えたことでイン・イン型の比率が上がった。損害保険ジャパンと旧日本興亜損害保険が経営統合を決めたのも同年だ。23年1~6月はイン・アウト型も約3兆2000億円と3割増えたが、イン・イン型の伸びが上回った。日本企業同士のM&Aで目立ったのは大手企業が国内投資ファンドと組んで株式を非公開化する動きだ。東芝は日本産業パートナーズ(JIP)や日本企業20社超の支援を受けて株式非公開化を決めた。買収額は約2兆1000億円。物言う株主(アクティビスト)を含む複雑な株主構成を整理し、出資企業と連携して再成長を目指す。半導体材料大手のJSRは政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)による約1兆円買収を受け入れた。半導体材料の国際競争力を高めるため、国の関与のもと、積極投資しやすい環境を整える。経営者の高齢化が進むなか、事業承継目的のM&Aも広がった。オリックスによる通販化粧品大手ディーエイチシー(DHC、東京・港)の買収は約3000億円で、承継目的のM&Aでは過去最大級だった。10年代の日本企業のM&Aはイン・アウト型が中心だった。人口減少による国内市場の縮小をにらみ、海外に成長を求める傾向が強かった。日銀の大規模緩和のもと、国内金融機関から買収資金を低コストで調達できたことも大きい。もっとも、海外子会社をうまく経営できない企業も多く、巨額の減損損失を計上する企業も相次いだ。日本企業はこうした経験をふまえ「より相乗効果を発揮しやすい国内再編に注力するようになった」(JPモルガン証券の土居浩一郎M&Aグループ責任者)。東芝やJSRのように、生き残りに向けて戦略的に買収を受け入れる企業も出てきた。脱炭素社会をにらみ再生可能エネルギー開発会社の再編も増えている。NTTのエネルギー子会社は国内火力発電最大手JERAと組み、カナダの年金基金傘下にあったグリーンパワーインベストメント(GPI、東京・港)を約3000億円で買収した。豊田通商はソフトバンクグループ(SBG)からSBエナジー株式の85%を1200億円で取得した。1ドル=140円台まで進んだ円安がイン・アウト型のM&Aのハードルを高めている面もあるが、国内企業同士のM&Aは今後、一段と活発になる可能性がある。要因の一つが株式市場からの圧力だ。東京証券取引所が今年3月末、上場企業に資本コストや株価を意識した経営を要請した。1倍割れの低PBR(株価純資産倍率)に沈む企業に対する市場の目は厳しくなっており対応を迫られている。「M&Aによる業界再編は収益性向上のための有力な手段となる」。政策面の追い風も吹く。経済産業省が策定中の「企業買収における行動指針(案)」は企業価値向上につながる真摯な買収提案を、合理的な理由なく拒まないよう求めている。7月にはニデック(旧日本電産)が工作機械メーカーのTAKISAWAへ買収提案し、同意が得られなくてもTOB(株式公開買い付け)を実施すると明らかにした。日本は主要先進国のなかでも、経済規模に比べてM&Aが少ないとされる。国内再編を軸にM&Aが身近になれば、結果的に国際競争力の強化にもつながりそうだ。 *5-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74073420R30C23A8EA2000 (日経新聞 2023.9.1) ヨドバシ、そごう・西武主要3店に出店 都心需要に的、労使しこり、再建に影 高級ブランドが難色 そごう・西武を買収する米ファンドと連携する家電量販大手のヨドバシホールディングス(HD)は西武池袋本店(東京・豊島)やそごう千葉店(千葉市)などそごう・西武の主要3店舗に出店する方針だ。百貨店内の中心部に家電売り場を設けて集客力を高め、経営再建につなげる。1日付でそごう・西武を買収するフォートレス・インベストメント・グループと組み、ヨドバシは西武池袋本店とそごう千葉店の別館にあたる「ジュンヌ館」へ出店する計画だ。西武渋谷店(東京・渋谷)への出店も検討する。出店時期や規模は今後詰めるが、西武池袋本店では低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設ける考えだ。ヨドバシはそごう・西武の主要な売り場に入り、経営再建と自らの成長の両立を狙う。ヨドバシは都市部の駅前立地を軸に全国で24店舗を展開する。売上高規模でヤマダデンキやビックカメラに次ぐ3位に入る。人口が減るなか、効率良く集客でき、インバウンド(訪日外国人客)を見込める都市部での競争力強化が課題だった。特にビックカメラは千葉市や東京・豊島などの主要都市に店舗を構える。シェア向上にはJR池袋駅や千葉駅近くに店舗があるそごう・西武の資産は、収益力向上に直結する魅力があった。交渉過程でヨドバシは当初は西武池袋本店内の大部分に家電量販を出店する考えだったが、そごう・西武の労働組合や豊島区などの反発を考慮して計画を修正した。「1階と地下1階の売り場はほしかったが、メインは百貨店に譲った」(ヨドバシ首脳)。譲歩してまでもそごう・西武の買収にこだわったのは、都市部の家電量販店競争で勝ち残りに欠かせないピースだったためだ。ヨドバシは百貨店内に家電量販の売り場を設けることで従来は百貨店を利用していない若年層などの来店を促し、そごう・西武の収益力を高める。ヨドバシ首脳は「百貨店に負けないくらい品ぞろえには自信がある。地域の方々に喜んでもらえる店にしたい」と話す。ヨドバシが一筋縄に戦略を実行できるかどうかは不透明だ。売却に関してセブン&アイ・ホールディングスはステークホルダー(利害関係者)の理解を十分に得られなかった。ストライキ決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満は特に根強い。寺岡泰博中央執行委員長は8月31日、今後はフォートレスに対して「引き続き雇用維持と事業継続を求めていく」と述べた。労使の信頼関係にしこりが残ったままだ。豊島区や地元の商工会議所もヨドバシの西武池袋本店への出店に対して依然として納得していない。ヨドバシHDの出店形態によっては百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性もある。すでに一部の高級ブランドはヨドバシの出店計画に難色を示しているとされる。高級ブランドとの調整は難航が予想される。 <中国不動産不況の突破口は・・> PS(2023年9月23日):*6-1のように、中国政府が2020年夏に不動産会社に対する融資規制を強化し、金融機関の貸し渋りに直面した恒大集団は、2023年6月末で債務超過額約13兆円(=6442億元X20.32円/元)・販売できない開発用不動産(住宅開発用の土地使用権と建設途中のマンション)約22兆円(=1兆860億元 X20.32円/元)となり、住宅価格下落が本格化すればさらなる評価減で債務超過拡大が避けられず、*6-2のように、マンション建設など3千個のプロジェクトで約28兆円(=1兆4千億元 X20.32円/元)の負債がある中国最大の不動産開発会社碧桂園も社債利子を払えない状態で、*6-3のように、中国主要不動産11社で開発用不動産は約130兆円(=約6兆3500億元X20.32円/元)あり、評価額が3割下落すれば資本が枯渇して債務超過に転落するそうだ。また、11社合計で203兆円(=10兆元X20.32円/元)超の負債(建設・資材会社等への買掛金25%、住宅購入者への契約負債33%)があり、中国政府は、建設業者や建材メーカー等の幅広い取引先に悪影響を与え、社会不安に繋がる法的整理には慎重で、政策金利引き下げ・住宅購入規制緩和等で住宅市場の活性化を狙うが、未完成のまま放置されているビル群も多く、消費者は引き渡し不能を恐れて未完成物件の購入をためらい、効果は限られるそうだ。 庶民が買える価格まで住宅価格を下げなければならなかったのは理解できるが、「不動産不況も規模が違う」というのが私の印象で、未完成のまま放置されている建設中のマンションが多く、代金支払済の消費者に引き渡しもできず、建設・資材会社の買掛金も払えないというのでは問題が大きすぎる。しかし、現在の中国では、土地は国有で私的所有はできず、開発に土地使用権を購入する仕組みなので、政府が特定の場所を選んで土地の所有権を売却し、その金で建設中マンションの一部を購入して庶民向けの賃貸住宅を建設すれば問題は解決するのではないか?私が上海旅行をした時には、中国の人が「あそこはフランス租界、ここは日本疎開だったんだ」とむしろ誇らしげに日本語で語っているのを聞いたことがあり、中国にとって「租界」は悪い思い出の方が多いかもしれないが、その国の自由を認めたことによって多様で先進的な文化が育まれたメリットもあった。そのため、土地を売った特定の場所は特区にして租界のようにし、例えば、フランス疎開・ロシア租界・ドイツ疎開などができればフランス風・ロシア風・ドイツ風の街づくりをするし、日本疎開ができれば日本風の先進的な街づくりをして、それぞれの国から移り住む人がいれば、いろいろなノウハウが集まって面白いと思うわけである。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.8.27ZakuZaku 2022.10.12日経ビジネス 2023.9.1日経新聞 2021.7.2日経新聞 (図の説明:左の2つの写真は工事が途中で止まった開発用不動産、右から2番目の図は、2023年6月末で中国の主要11社の開発用不動産が11社の資本合計の3倍超あることを示す貸借対照表である。また、1番右の図は、習近平国家主席が2021年7月1日に天安門広場で開催された中国共産党創立100周年祝賀記念式典で行った演説の骨子で、これまでの100年で貧困問題を解決してややゆとりのある小康社会を建設したことには賛成だが、これからの100年で豊かな中国社会を築くには、政府が力づくで経済《社会現象である》を変えようとすると、きしみが生じてむしろ逆効果になることを述べておきたい) *6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM280K60Y3A820C2000000/ (日経新聞 2023年8月28日) 中国恒大、22兆円の開発用地が重荷 債務超過拡大も 経営再建中の中国恒大集団の債務超過額が6月末時点で6442億元(約13兆円)に膨らんだ。負債総額は2兆3882億元(約48兆円)にのぼり、販売のめどがつかないまま抱える1兆860億元(約22兆円)の開発用不動産が重くのしかかる。住宅価格の下落が本格化すればさらなる評価減につながり、債務超過の拡大は避けられない。恒大が27日発表した2023年1〜6月期連結決算は最終損益が330億元の赤字だった。中国の不動産規制(きょうのことば)が導入された2020年夏以降、業績が急激に悪化した。中国上場企業として過去最大の4760億元の最終赤字となった21年12月期と比べて赤字額が1割以下に縮小したのは、住宅用地など開発用不動産の評価減を21億元にとどめたためだ。21年12月期には3736億元の評価減を計上した。6月末の資産総額1兆7440億元のうち6割を占めるのが、将来の住宅開発のために中国各地で仕入れた土地(使用権)や建設途中のマンションなどの開発用不動産だ。評価額は合計で1兆860億元にのぼる。仮に中国の住宅価格が1割下がれば、単純計算で1000億元を超える評価減となる。在庫負担を軽減するために住宅を安売りすれば、保有資産の評価損がさらに膨らむ悪循環を招く。恒大は開発用不動産の評価減を主因とした度重なる赤字計上で債務超過が拡大した。理論上の株式価値は実質ゼロとなっており、28日に香港取引所で約1年5カ月ぶりに再開した恒大株の取引は前回終値に比べ87%安で始まり、79%安で取引を終えた。恒大は28日に予定していた外貨建て債務の再編協議を9月下旬に延期した。債権者への提案には最長12年の債券や関連会社の株式への転換を盛り込む。同社の有利子負債(6247億元)のうち外貨建ての割合は26%に限られ、仮に債権者と合意できても抜本的な経営再建には力不足だ。膨大な開発用不動産は業界共通の課題だ。中国不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は22年末で8838億元にのぼる。住宅上昇局面では虎の子だった開発用不動産が、住宅不況で一転して経営再建の最大のお荷物となっている。さらなる評価減のリスクがぬぐえず、不動産各社の債務超過額が膨らみ続ける懸念がある。中国政府は20年夏、不動産会社に対する融資規制を強化した。負債比率などによって資金調達の規模を制限する「3つのレッドライン」を設定し、金融機関の貸し渋りに直面した恒大などが経営難に陥った。中国政府は建設業者や建材メーカーなど幅広い取引先に悪影響を与え、社会不安につながりかねない法的整理には慎重姿勢を崩していない。中国は人口減社会に入り、長期的にも住宅需要の急回復は見込めない。抜本的な解決を先送りすれば中国景気のさらなる減速を招き、世界経済に影響を及ぼしかねない。 *6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/20c44aaeec00fc89aeadee41547c4ff91f3646ae (Yahoo 2023/8/11) 中国不動産最大手に債務不履行の兆候…「恒大集団以上の衝撃」 中国最大の不動産開発会社が社債の利子を払えない事件が起き、中国の不動産危機が再び高まっている。デフレの兆しを見せている中国経済を揺るがす雷管になりかねないとの懸念が出ている。売上高基準で中国最大の不動産開発会社である碧桂園(カントリーガーデン)の不渡りへの懸念により、中国の不動産市場が急速に冷え込んでいる。ロイター通信などが10日報道した。これに先立つ7日、同社は2社に対する社債の2250万ドルの利払いを履行できなかった。会社の規模に比べて少ない金額を定められた時期に返済できないほど資金難が深刻であり、会社側は今後の償還計画も明らかにしていない。碧桂園が今後30日間の猶予期間内に利払いができなければ不渡りとなる。2021年、大型不動産開発会社である恒大集団(エバーグランデ)が債務の元利金を償還できず不渡りになり、中国の不動産市場はバブルがはじけ急速に沈滞した。碧桂園は昨年末基準でマンション建設など3千個のプロジェクトと関連して1兆4千億元(1990億ドル)の負債がある。来月には58億元の債務満期が到来し、利子4800万元を払わなければならない。また、34億元相当の債務について返済か延長を決定しなければならないオプションもかかっている。2024年末までに中国国内で24億ドル、海外で20億ドルの債務を返済しなければならない。市場では碧桂園の不渡りへの懸念が急速に広がり、同社の社債価格は暴落している。香港証券市場に上場された株式も、8日に前取引日に対し14.4%暴落するなど、昨年末と比較すれば株価が70%も下落した。ドル建ての中国ハイイールド債券(信用格付けの低い会社が発行した債券)は、今年に入って最低の1ドル当たり平均67セント前後で取引され、碧桂園問題が伝染する様相を呈している。ブルームバーグ・インテリジェンスは9日「碧桂園には恒大集団よりも4倍も多いプロジェクトがあり、支払い不能事態も恒大集団の崩壊よりもさらに大きな衝撃を中国住宅市場に加えるだろう」と見通した。特に、碧桂園は恒大問題の際に当局が不動産市場の崩壊を防ぐために取った資金支援などの最大受恵者となり、これまで市場を支えてきたが、資金難に陥り市場の崩壊が憂慮される。碧桂園は今年上半期の6カ月間、売上1280億元(約2.4兆円)で30%の減少を記録した。碧桂園は中国のすべての省でマンションなどの工事を進行中だが、特に60%がいわゆる3・4等級の中小都市で進行中だ。大都市とは異なり、中小都市では需要の不足で不動産低迷がさらに深刻だ。政府が保証する中央中国不動産有限会社も最近、債務の利払いを定時ではなく猶予期間中に履行した。7月には大連ワンダグループの子会社と政府が保証する遠洋(シノオーシャン)グループも猶予期間の最後に利払いを行なった。 *6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74074560R00C23A9MM8000 (日経新聞 2023.9.1) 中国主要不動産11社、開発用地3割評価減なら債務超過 政策効果は限定的 中国の不動産開発会社に債務超過リスクが浮上している。主要11社の6月末の開発用不動産(開発用地)は約6兆3500億元(約130兆円)にのぼる。単純計算ではこの評価額がおよそ3割下落すれば現在の資本は枯渇し、債務超過に転落する。開発用不動産は住宅開発のために仕入れた土地使用権や建設途中のマンションを指す。日本経済新聞が2022年の販売上位10社に中国恒大集団を加えた11社の6月末の開発用不動産を集計したところ、合計約6兆3500億元だった。不動産開発会社は入札や相対で開発用地を仕入れ建設会社に建設を発注する。引き渡しまで物件を自社のバランスシート(貸借対照表)上に保有するため、住宅価格の下落局面では評価減のリスクにさらされる。主要11社の6月末のバランスシートは資産総額約12兆3300億元に対し、負債総額が約10兆3400億元。差し引き約1兆9900億元が資本となっている。資産のおよそ半分を占める開発用不動産の評価が32%下がれば資本不足で債務超過に転落する計算だ。主要11社が保有する開発用不動産は経営再建中の恒大が最多で1兆859億元にのぼる。恒大は2021年12月期に3736億元、22年12月期に16億元、23年1~6月期に21億元の評価損を計上した。これが巨額の最終赤字の主因となり、6月末に6442億元の債務超過となった。不動産最大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は6月末時点で2544億元の資産超過だった。ただ8436億元と資本の3倍を超える開発用不動産を抱え、リスクをはらむ。1~6月期決算は恒大と碧桂園の2社が最終赤字、4社が減益、5社が増益と分かれた。資産をどう評価するかは経営陣と監査法人の裁量が大きい。恒大以外は目立った評価減を計上しなかった。11社で計10兆元を超える負債は建設・資材会社などへの買掛金が25%、住宅購入者を対象にした契約負債が33%を占める。中国政府は政策金利引き下げや住宅購入規制の緩和などで住宅市場の活性化を狙う。ただ消費者は引き渡し不能を恐れて未完成物件の購入をためらうようになっており政策効果は限られている。
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2023,07,06, Thursday
(1)日本経済の現状 ← 経常黒字半減・物価上昇・実質賃金減少
1)家計苦境の実態 *1-1-1は、①国の2022年度一般会計税収が71兆1,373億円と過去最高を記録 ②理由は円安の重なった物価上昇による消費税増収と所得税・法人税の増収 ③多額の防衛費や少子化対策費を歳出する岸田首相にとっては好材料 ④税収増は家計苦境の裏返しでさらなる負担は受け入れ難い ⑤2022年度消費者物価指数は前年度比3.2%増で食品・電気・ガス、サービス関連まで値上げが及んだ ⑥それと連動して2022年度の消費税収は過去最高の23兆792億円に達した ⑦景気に左右されにくく物価の影響を受けやすい消費税の特徴が表れ、税収の確かさから社会保障を支える消費税の役割を再認識できた ⑧家計から見れば物価上昇に消費課税増のダブルパンチ ⑨消費税は逆進性があり、家計の重荷は深刻 ⑩多くの人は収入増がインフレに追い付かず、実質賃金は13ヶ月連続で減少 ⑪2022年度は円安による輸出企業の業績上振れで法人税も14兆9,397億円と増収 ⑫岸田政権による血税の使途と財政運営が厳しく問われるのは当然 等と記載している。 このうち①②④⑤⑥⑧⑩は、日銀が「2%の物価目標」を達成しようと低金利政策を続ける理由だが、「物価目標」とは、(欧米先進国を見ればわかるとおり)過熱したインフレを抑制して国民の生活を護るために上限として設定するものであるため、日銀の物価目標は本来の使い方とは逆なのである。 にもかかわらず、日銀が「2%の物価目標」を継続する真の目的は、③のような際限のない政府歳出によって積みあがった多額の国債(国債の所有者から見れば財産)を目減りさせ、⑪のように、輸出企業の業績を上振れさせ、実質賃金を減少させることなのだ。少し考えればわかるとおり、金融緩和を続けて名目賃金が上がっても、構造改革して生産性を上げなければ実質賃金を上げることはできず、次第に円の価値が下がって円安になるのは明白である。 また、⑦は「消費税は、景気に左右されにくく、物価の影響を受けやすいから、税収が確かで社会保障を支える役割を再認識できる」とするが、所得税・法人税等の所得に応じて増減する税は、ビルト・イン・スタビライザー(財政自体に備わっている景気を自動的に安定させる装置)の役割を備えているが、景気に左右されない消費税は、その逆だ。また、⑨のように、逆進性があることで、所得が低くて消費性向の高い層ほど重い税となるため、家計の重荷がより深刻になる税である。 従って、所得の低い層に恩恵の多い社会保障を支える税として消費税を挙げること自体が目的と矛盾しており、⑫のように、既得権を振りかざした無駄の多い税の使途こそ厳しく検証すべきだが、これはずっと前からそうだったのであり、岸田政権に限った話ではない。 2)社会保障・消費税・医療費など イ)社会保障と消費税について *1-1-2は、①岸田首相が消費税等の議論を封印し、政府税調も「中期答申」で増減税等の具体的改革の方向性を示さなかった ②終身雇用や専業主婦世帯が主体と考えられた旧態から働き方や人生設計が多様になった ③デジタル化やグローバル化が進んだ ④税制も経済成長を促す発想で組み直す必要がある ⑤社会保障や財政の持続可能性にも配慮して負担や歳出を見直すことは妥当 ⑥「消費税は社会保障給付を安定的に支えるため、果たす役割は今後とも重要」とだけ記した ⑦税調では現行10%からの引き上げが必要とする議論も出たが、答申は税率や時期等の具体論を避けた ⑧所得税は働き方の違いで不公平が生じないよう給与・退職金・年金への税負担のバランスをとるよう促したが、具体的手法の言及がない ⑨問題は政治が与野党とも次の選挙に影響するとして税や社会保険料など安定財源の確保で真剣な議論から逃げていること ⑩財源を曖昧にして給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任 等と記載している。 ①⑤⑥⑦⑨のように、(新聞には消費税がかからないためか)新聞は消費税増税を進める論調が多いが、本当は記者も生活者で社会保障の受給者でもあるため、社会保障の不適切な見直しや消費税増税は自らにも負担になる筈なのである。 また、②の終身雇用が保障されたのは、ずっと前から大企業に勤めている男性正社員だけだった。さらに、専業主婦世帯が主体だったわけでもなく、正社員として働いている女性の割合が少なかったとしても、少ないからと言って不公正・不公平を無視してよいわけではなく、その少人数の女性が苦労して切り開いたからこそ現在があるため、言葉には気を付けるべきである。 デジタル化やグローバル化は、③のとおり、確かに進んで生産性向上がやりやすくなったが、「税法」や「出入国管理及び難民認定法」が、デジタル化・グローバル化・少子高齢化に合い、④の経済成長を促すものになっているとは言い難い。 なお、⑧の所得税等は働き方の違いで不公平が生じないようにすべきだが、現在はまだ過渡期で、女性に専業主婦を強要する社会システムや終身雇用を前提とした賃金体系が残っているため、具体的手法の言及は難しかっただろうとお察しする。 しかし、⑩の「財源を曖昧にして給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任」というのは、日本国憲法第25条「第1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。第2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」や同第26条「第1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。第2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」等の憲法に記載されていることについては、他を削り優先順位を高くして行うべきであるため、負担増という話にはならない筈である。 ロ)医療費と消費税について ![]() ![]() ![]() 世界の専門医年収比較 日本の医療系専門職年収 日本の平均年収トップ10 (図の説明:左図は世界の専門医年収比較だが、日本は決して高い方ではない。また、中央の図は医療系専門職の年収で、《どうやってこの数値を出したのかは不明だが》さほど高くない。そして、右図の記者と比べて医師は間違ったことをすると取り返しのつかないことになるリスクを常に引き受けている割には高くない。そのため、医療系の人は、職種や業態別の平均年収を把握し、それを他の職種の同等の人材と比較したデータを自分たちで作って公表した方がむしろ有利だと思われる) *1-1-3は、①年間45兆円に上る医療費が物価高を反映させる形で一段と膨らむ可能性 ②物価高で医療機関の経費が増えているのは確かだが、医療費を増やせば患者負担や国民の保険料負担が重くなる ③政府は医療の持続性確保から、丁寧かつ慎重に検討して欲しい ④保険医療は診療報酬という公定価格のため、光熱費・設備費・委託費等の経費増加分を医療費に転嫁できない ⑤2022年4月改定の診療報酬はその後の物価上昇分を勘案しておらず、日本医師会等は2023年度中に補助金で緊急措置を実施した上、2024年4月の次期改定で物価水準を反映するよう求めた ⑥産業界の労使交渉では賃上げと生産性向上をセットで議論するのが一般的で医療従事者の賃上げを考える際も業務効率化の方策を同時に検討すべき ⑦岸田政権は社会保障等の改革で国民負担を抑制して新たな少子化対策に要する負担増分を相殺する方針を閣議決定 ⑧この施策との整合性から国民負担を増やす診療報酬増額は安易に行うべきでない ⑨医療従事者の賃上げはデータに基づく議論も必要 ⑩医師や看護師、事務員等の職種別給与データ提出を医療法人に求め、処遇実態を把握した上で賃金水準のあり方を検討して欲しい 等と記載している。 このうち①②③は、産業界には「物価上昇に見合った賃上げを」と言いつつ、医療費については「患者負担や国民の保険料負担が重くなる」等として反対するのは変である。何故なら、物価を上げれば、それ以上の賃上げをしなければ実質賃金が下がるのは、誰でも同じだからだ。 また、医療は消費税について非課税取引であるため、支払消費税をすべて事業者がかぶっており、それも苦しくなった原因の1つだ。その上、④のように、保険医療は公定価格であるため、光熱費・設備費・委託費等の著しい経費増加分を医療費に転嫁することができないわけである。 そのため、⑤の日本医師会の要望は尤もと思われるし、⑥の医療界の生産性向上は、マイナンバーカードにひもづけてセカンド・オピニオンもとれなくすればよいというものではない。そのため、これらは第三者が勝手に決めるのではなく、その専門家が検討すべきことなのである。 ⑦⑧の「社会保障等の改革で国民負担を抑制」「国民負担を増やす診療報酬増額は行うべきでない」ということについては、高齢者の割合が増えて今までどおりの治療をすれば医療・介護費が増えるのは当然であるため、治療方法や職務分担を合理化したり、薬価を下げる仕組みを入れたりするしか方法はないだろう。 なお、⑨⑩は、「医師・看護師・事務員等の職種別給与データ提出を見て医療従事者の賃金水準のあり方を検討したい」ということだろうが、上の左図の通り、日本の医師の賃金水準は世界の中で高い方ではないため、賃金水準をこれ以上低くすると優秀な人が日本で働かなくなり、その結果、日本の医療の質が落ちて国民が困る事態になるのである。 3)企業物価と消費者物価の上昇 ![]() ![]() ![]() 2022.6.24日経新聞 2023.6.23日経新聞 2023.5.16日経新聞 (図の説明:左図は、1990~2022年の消費者物価指数前年同月比変動率、中央の図は、2022年5月~2023年5月の生鮮食品を除く消費者物価指数の前年同月比変動率で、どちらも前年同月比で2~3%の物価上昇になっている。そのため、1990~2023年の累積消費者物価上昇率は著しく大きい。また、右図は、2018~2023年の輸入物価指数と企業物価指数の前年同月比であるため、累積物価上昇率はこれよりずっと大きい) イ)企業物価の上昇 *1-2-1は、①日銀が発表した2023年4月の企業物価指数は前年同月比5.8%の上昇で公表された品目の8割超で価格が上昇し、②食品等の川下品目での価格転嫁が当面続き ③円相場は136円/ドル程度で円安による直接的押し上げ圧力は一服して、輸入物価指数のうち石油・石炭・天然ガスはマイナス9.0%、金属・同製品もマイナス7.5%だが ④電力・都市ガス・水道の前年同月比上昇率は25.8%で(それでも、電力・ガス料金は2月以降は政府の価格抑制策が効いて、0.7%程度全体の上昇率を押し下げた) ⑤これまでのコスト高で複数回に分けて値上げに踏み切る企業もあり価格転嫁による押し上げ圧力は継続しており ⑥消費者物価指数(生鮮食品を除く)も前年同月比3.1%上昇と高水準で推移している ⑦日銀は物価上昇率が23年度半ばに2%を下回るとの見方を示し ⑧植田総裁は「(2%の物価目標を達成すると)安心して言えるところまで到達していない」として大規模緩和を維持する方針 等としている。 このうち①③④に示される数字は、2022年4月との比較であるため、2020年4月と比較すればかなりの上昇率になる。そして、②⑤のように、生活必需品である食品等の価格転嫁や複数回に分けた値上げで価格上昇は当面続き、⑥のように、最も上昇率の高い生鮮食品を除いても消費者物価指数は前年同月比3.1%上昇と高水準で推移しているのだ。 にもかかわらず、⑦⑧のように、物価上昇率が2023年度半ばに2%を下回るとの見方から「2%の物価目標を達成すると安心して言えるところまで到達していない」として、植田日銀総裁は大規模緩和を維持する方針だそうだが、実質所得を下げ、実質資産を目減りさせて国民を貧しくしながら、日銀は「2%の物価目標」を何のために設定しているのか、それと日銀の役割との整合性はどうなのかについて明確に説明すべきだ。 ロ)消費者物価の上昇 *1-2-2・*1-2-3は、①2023年5月の消費者物価指数は生鮮食品を除き104.8(2020年を100とする)で1981年の第2次石油危機4.5%以来の高い上昇率 ②生鮮食品を除く食料は9.2%プラスで1975年の9.9%以来の上昇幅 ③食品・日用品の店頭価格の上昇が続いてPOSデータによる日次物価の前年比上昇率は6月28日時点で8.7% ④大手が価格改定して中堅企業が続く追随型値上げの傾向 ⑤原材料価格・物流コスト上昇で、アイスクリーム10.1%・ヨーグルト11.3%・洗濯用洗剤が19.9%・宿泊料9.2%上昇 ⑥日銀の物価目標2%を上回る状況が続いている ⑦原材料高を商品価格に反映する動きはウクライナ危機をきっかけに広がり ⑧値上げしてもPOSでみた売上高は大きく落ちないメーカーもある ⑨インフレが定着しつつあり、値上げによる客離れは深刻化していない可能性 ⑩2023年6月は28日までの平均で生鮮卵42%・ベビー食事用品26%・水産缶詰21%上昇など幅広い商品で2桁の値上げ ⑪日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘されてきた 等と記載している。 まず、⑪のように、日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘したり、値上げを「物価の伸び」と表現したりして、コストプッシュインフレであっても良い物価上昇であるかのような表現が目につくが、日本は食料・資源・エネルギー等の自給率が低いため、輸入物価の上昇は富の海外流出増にほかならないことを忘れてはならない。 その中で、①②の原油の輸入単価が上がって他の財・サービスに波及した「第二次石油危機以来の高い物価上昇率」は、政府にとっては名目税収増と実質債務減という大きなメリットがあるが、国民にとっては実質収入減と債権や預金の目減りに加え、物価上昇というマイナスの効果しかない。さらに、物価上昇は消費性向の高い低所得層にほど重いステルス課税になるのである。 例を挙げれば、③⑩の食品・日用品等の生活必需品は、値上がりしても買わないわけにはいかない。そのため、裕福でも貧乏でもさほど購入金額の差が出ないが、収入以上の支出はできないため、⑧のように、値上げしても売上高は落ちないが、それは節約によって販売数量が減り、売上金額全体はさほど変動がない状態なのである。そして、「節約せざるを得ない状態になった」というのは、「国民を前より貧しくした」ということなのである。 にもかかわらず、④⑤⑨のように、物価上昇がまるで良いことであるかのような書き方が散見されるが、この物価上昇は、⑦のように、ウクライナ危機と円安により輸入物価が上がったことによって起こったコストプッシュ・インフレである。そのため、値上げ分の富は海外に支払ってしまって国内で廻すことができなくなるのであり、欧米のディマンド・プル・インフレのように景気が過熱して起こったものではないのだ。 従って、⑥の日銀の「物価目標2%」を上回ったからといって全くめでたいわけではないのに、(故意か過失か)メディアはこれを完全に無視している。そもそも「物価目標2%」というのは、ディマンド・プル・インフレが過熱して困る場合に、金融を引き締めて(=公定歩合を上げて)物価上昇を2%以内に抑制するためのものである。 4)実質賃金の減少と実質消費支出の減少 イ)実質賃金の減少 *1-3-1は、①厚労省の2023年4月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)によると、名目賃金(現金給与総額)は1.0%増、物価変動を考慮した実質賃金/人は前年同月比3.0%減少 ②実質賃金の減少は13カ月連続で、物価の伸びに賃金上昇が追いつかない ③物価上昇率が4.1%に達し実質賃金のマイナス幅は3月より広がった ④厚労省は「まだ交渉中の労使があるから結果が十分に反映されていない」と言う ⑤就業形態別現金給与総額は正社員等の一般労働者1.1%増で36万9468円、パートタイム労働者1.9%増で10万3140円 等としている。 日本政府は、「国民は名目賃金しか意識しないため、物価が上昇しても名目賃金が上がれば喜んでいるだろう」と思ったようだが、国民は激しいインフレを第二次世界大戦後とバブル期の2度経験し、賃金が上がってもそれ以上に物価が上がれば生活が苦しくなることがわかっているため、そうはいかない。 また、金融緩和による円安とウクライナ危機をきっかけとした輸入物価上昇によるインフレであれば、それはコストプッシュ・インフレにほかならず、日本の場合は海外に支払う金が増えるため、物価上昇分の全てが賃金に回るわけがない。従って、①②③は、日本の経済構造から見て必然で、④のように厚労省がいくら待っても物価上昇以上の名目賃金上昇はないのである。 従って、名目賃金上昇も、⑤のように物価上昇と比較すれば小さいが、第二次世界大戦後やバブル期よりも深刻なのは、2022年10月1日現在の65歳以上の人口割合は29.0%、75歳以上の人口割合は15.5%になっており、年金支給額が“物価スライド”で減らされた上に医療・介護関係費用が負担増で可処分所得が減っているため、人口の3割近い人がさらなる節約を強いられ、景気がよくなるどころではないことなのである。 ロ)実質消費支出の減少 このようにして、*1-3-2のように、①総務省の4月の家計調査で2人以上の世帯の消費支出は30万3076円と実質で前年同月比4.4%減少し ②マイナスは2カ月連続で ③食料、通信など生活関連の品目や教育への支出が減って消費を押し下げた そうだ。 しかし、①②③の数字は、より生活の苦しい1人暮らしの高齢者世帯を除いているため、まだ甘く出ている方なのである。 (2)G7とジェンダー平等 1)G7男女共同参画・女性活躍担当相会合について G7の男女共同参画・女性活躍担当相会合が2023年6月24、25日に日光市で開かれ、*2-1のように、①企業の女性役員登用や成長分野への就業を進めて賃金格差を解消することで女性の経済的自立を進める方向で一致した そうだ。 その共同声明では、②女性役員登用 ③成長分野や報酬の高い分野への女性の労働移動促進 ④女性の起業支援 等を具体策で示し、⑤家事・育児・介護等の女性に偏る無償労働は「女性がフルタイムで働く能力や指導的地位に就く能力を損なう」と指摘し ⑥家族への公的支援を強化し ⑦男性の無償労働への参加を増やすための施策を求め ⑧女性や性的少数者(LGBTQIA+LGBTを含めた多様な性)の人々の人権と尊厳が完全に尊重・促進・保護される社会の実現に向けた努力を継続する」 とのことである。 しかし、ジェンダー平等や賃金・男女格差の解消をテーマに取り上げた時、日本では⑧のように、必ず“性的少数者の尊重”を持ち出すが、これは間違っている。何故なら、②③④の女性が高い地位に就いたり、報酬の高い分野で働いたりするのは、働く以上は当然のことだが、これと生物学的性と性自認間に相違のある障害者としての性的少数者とは次元が異なるからである。 もちろん障害者の人権も無視してはならないが、男女差別と性自認の問題を混同するような文化自体が、日本のジェンダーギャップ指数が146ヶ国中125位と下から数えた方が早く、男女間賃金格差は22.1%と大きく、企業の女性役員比率は11.4%と小さく、無償労働が女性に偏っている状況を作った理由だからでもある。 また①については、「まだそんなことを言っているのかな」と思うくらい当たり前のことだが、⑤⑦は、(男性がやろうと女性がやろうと)体力を決して簡単ではない無償労働にとられ、フルタイムで働いて指導的地位に就いていく能力を損なうのは同じである。そのため、⑥の保育所・学童保育・学校教育の充実・介護の社会化・家事労働の担い手確保等の公的支援が最も重要なのだ。 なお、会合に参加した他国の担当相や団体の代表者9人はすべて女性で、日本だけが男性だったことについては私も変な感じがしたが、女性なら誰でもいいわけではなく、男女平等の強い信念とリーダーシップを持つ女性の方が指摘が的確になってよいと思われた。 2)日本の「ジェンダー・ギャップ指数」について *2-2・*2-3は、①日本は世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で146ヶ国中125位で過去最低 ②政治分野138位・経済分野123位と長年指摘されている両分野で指数が悪化 ③「教育」は47位、「健康」は59位 ④政治分野における男女平等はサウジアラビア(131位)を以下で世界で最も低い圏内 ⑤経済分野も女性管理職比率(133位)が低く、男女の所得格差・昇進を阻む「ガラスの天井」が存在 ⑥リーダー層になるにつれ働く女性が減る構造 ⑦政府は東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を掲げた ⑧教育は大学以上の進学率が加わって前年の1位から47位に大きく下がり、全体の順位を下げた ⑨多様性がイノベーションを生むのは世界の共通認識で、投資家は組織の意思決定者に多様性を求め、取締役会が男性ばかりの日本企業にノーを突きつける と記載している。 このうち⑨の「多様性がイノベーションを生む」は、需要の主役抜きで議論しても多角的な意見が出ないため正しい結論に至らないことは日本の政策を見れば明らかだ。また、日本企業は国内に洗練された消費者を持ちながら、(既に存在する製品の製造過程を細かく改善するのは得意だが)需要に合わせて最終製品を企画し製造するのは不得意であることからも実証済である。 そして、これは、発言権や意思決定権のある女性(製品によっては高齢者)が組織内にいることでしか解決できないため、世界の投資家が組織の意思決定者に多様性を求めるのは尤もだ。 ③⑧の「教育は大学以上の進学率が加わって前年の1位から47位に大きく下がった」というのは、今まで大学以上の進学率を加えていなかったのかと残念に思うが、同じ大学でも学部によって男女の割合が偏っており、製造・経済・経営等のビジネスに必要な学部に女性が少ないことは、⑤⑥の女性管理職比率の低さやリーダー層になるにつれて女性割合が減る構造を変えるべき母集団に女性が少ないことを意味するため、初等・中等教育の進路指導から変える必要がある。 そのため、⑦の「政府が東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を掲げた」は悪くないが、女性の多くは中小企業で働くため、東証プライム上場企業の女性役員比率だけでは不足で、会社法にも女性役員比率に関する規制を入れた方がよいと思う。 また、②④の「政治分野は138位でサウジアラビア(131位)以下の世界で最も低い圏内」というのは、日本の政策が生活や環境を軽視しており、エネルギー・食糧の自給率は低く、社会保障は必要なものも作らず、既にある有用なものも削ることしか考えつかない一方で、無駄なバラマキが多いため世界最高水準の債務残高を抱えたという結果を出したわけである。 ④については、サウジアラビア等の資源国は、これまでは資源の輸出により、女性を活用しなくても財政が潤っていたが、今後、最終製品の製造によって世界市場で勝つためには、やはり女性を教育して意思決定権のある場所につけていく必要があると思われる。 このように、①の世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で日本は146ヶ国中125位と過去最低になったが、その理由は、他国はまともに女性活躍の素地づくりに取り組んできたが、日本はやっているふりが多かったからだと言える。 3)女性役員比率について *2-4は、①政府は東証プライム市場へ上場する企業に2025年をめどに女性役員を最低1人選任するよう促す女性活躍・男女共同参画の重点方針を決定し ②女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標も盛り込んだが ③いずれも努力義務で罰則は設けない ④岸田首相は女性活躍と男女共同参画に関する会議で「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組みを進める」と述べ ⑤年内に東証の上場規則に数値目標に関する規定を設けることを想定している と記載している。 このうち①②は悪くないが、もともとは「202030」と言って、2003年に政府が「2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合が30%になるようにする」と女性管理職比率の数値目標を定めたが達成できず、断念したものだ。 202030を達成できなかった理由は、「社会構造等の阻害要因」「現行女性活躍推進法は努力目標で罰則がないこと」「強制力がなく実効性のない法律で企業が目標を達成することは難しいこと」などが挙げられている(https://www.qualia.vc/glossary/203030.html 参照)。 しかし、①は「東証プライム市場に上場する企業」という狭い範囲のみの規制であり、②③は、女性役員比率を2030年までに30%以上にするという先延ばしした目標を盛り込んではみたものの、やはり努力義務で罰則を設けないため達成は期待できそうにない。 そのため、④の「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組み」を進めるためには、私は、⑤の東証の上場規則に数値目標を設けるだけでなく、会社法の役員構成にも女性役員比率に関する規制を設ける必要があると思う。 4)年収の壁について ![]() ![]() ![]() 2023.3.16静岡新聞 2023.2.21朝日新聞 2023.6.28Yahoo (図の説明:左図の103万円・106万円・130万円・150万円が年収の壁である。実は、住民税が発生する100万円の壁もあるが、住民税は税率が低いため世帯の手取りは下がらないそうだ。中央の図は、年収500万円で妻が所得税非課税の103万円まで1.7万円/月の配偶者手当をもらえる夫と2人暮らしの妻の年収が変化した時の世帯の手取りの変化を示したグラフだが、扶養手当の停止や社会保険料負担の開始で妻の年収が138万円になるまで世帯の手取りはむしろ減少している。そのため、右図のように、政府が従業員に手当を払った企業に助成して手取りの減少を抑えようとしているが、これは不公平に不公平を重ねるバラマキであろう) ![]() 2023.6.29読売新聞 (図の説明:上図のように、政府が意図しているのは社会保険料の発生によって起こる106万円の壁の緩和だが、社会保険料の支払いは将来の年金受給額増加や労災保険・失業保険の受給権発生など見返りのある支払いであるため、手取りの減少がすべて払い損になるわけではない。また、他の労働者は女性も含めて応能負担しているため、その人たちが支払った税金から助成金を出すのは不公平の上塗りにしかならない) *2-5は、①配偶者に扶養されるパート従業員が社会保険料負担の発生を避けるため働く時間を抑える「年収の壁」に関する政府の対策案が分かった ②保険料穴埋めの手当を払った企業に対し最大50万円/人助成する ③従業員の負担を解消し労働時間を延長しやすくして、人手不足緩和を狙うため ④飲食業・観光業を中心にコロナ禍後も働き手が戻らず、営業に支障が出ている所もあるので、個人の収入確保と経済を円滑に回す環境整備である ⑤「年収の壁」見直しは人手不足に悩む企業側が求めた ⑥抜本対策は、先送りして2025年の法案提出を目指す年金制度改革で議論する ⑦現在、従業員101人以上の企業で働くパートは年収106万円以上になると配偶者の扶養を外れ、厚生年金等の保険料を負担して手取りが減るが、扶養されている間は国民年金の「第3号被保険者」として保険料を払わずに将来の年金が受け取れる ⑧対策案では所定労働時間の延長などで生じた保険料の全部または一部を、企業が手当として従業員に払うことができる仕組みを作り、手当は賃金に含めない特別扱いとするため、手当による保険料増は生じない ⑨手当の仕組みを後押しするため、政府は既存の助成金を拡充して企業に支給する ⑩それを、手当・賃上げ原資・企業が負担する社会保険料に充ててもらう ⑪扶養に入っている従業員だけでなく単身者も対象とする ⑫企業が3年以内に労働時間を延長する計画を策定し、実際に延長した従業員も助成対象に加える 等としている。 このうち①②③⑧⑨⑩⑪は、上の図の説明に書いたとおり、社会保険料の支払いは将来の年金受給額増加や労災保険・失業保険受給権の発生など見返りのある支払いであるため、手取りの減少がすべて払い損になるわけではなく、他の労働者は女性も含めて応能負担しているため、その人たちが支払った税金から助成金を出すと、不公平を上塗りしてバラマキすることになる。 第1の不公平は、男女雇用機会均等法が施行され、男女共同参画・女性活躍を推進している時代に、女性が働かないことを奨励する配偶者手当を出す企業があることだが、これは従来からの慣習を変えていないだけだろうから、配偶者手当を廃止して個人の基本給を上げればよい。 第2の不公平は、女性が働こうと思えば働ける現在でも、⑥⑦の国民年金3号被保険者が存在することである。何故なら、日本年金機構は「配偶者である2号被保険者が加入している被用者年金制度(厚生年金保険・共済組合等)の保険料・掛金等の一部を基礎年金拠出金として毎年度負担しているから、3号被保険者は自分で保険料を納付する必要はない(https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/sango.html 参照)」と記載しているが、共働きの2号被保険者は2人とも保険料や掛金を支払っており、家事労働は共働きの2号被保険者も同様に行っているからである。 第3の不公平は、社会保険料の負担が生じる年収が企業規模によって異なる点で、これでは国民の安全を支える保険の役割を果たさない。そのため、社会保険料は所得税が発生する年収からすべての人が負担するように所得税と一致させ、所得税が発生する年収を基礎控除を物価上昇に伴って引き上げることによって変えればよいと考える。 しかし、現在でも、女性であることによって働こうと思ってもうまく働けなかったり、賃金を低く抑えられたりするという第4の不公平が確かに存在する。しかし、それこそ、1947年施行の日本国憲法「第27条1項:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」や1986年施行の男女雇用機会均等法に従って変えるべきなのである。 なお、④⑤⑫のように、この施策は、飲食業・観光業を中心にコロナ後も働き手が戻らず営業に支障が出ているため、人手不足に悩む企業が求めて労働時間を延長しやすくするために行うそうだが、人手不足に悩んでいるのなら、思い切って賃金を上げたり、正規雇用に変更したりするまたとない機会だ。そのための生産性向上のツールは出揃ってきており、日本人労働者が足りなければ外国人労働者を雇用すれば、誰にも迷惑をかけないばかりか、むしろ感謝される。 (3)気候変動と国土利用計画 1)気候変動について ![]() ![]() ![]() 2021.10.27Amita 2023.3.21毎日新聞 2023.3.21日経新聞 (図の説明:左図のように、世界の平均気温は1850年以降に急速に上がり始め、特に高度経済成長期の1970~1980年以降の上昇が著しい。そのため、右図のように、IPCC報告書は「人間活動による温暖化は疑う余地がない」としている。そして、中央の図は、「世界平均気温上昇による極端な気象現象の発生回数が多くなる」としているが、まさにそのとおりになっている。しかし、今は極地の氷が残っているため、海水温の上昇はまだ緩やかに抑えられているのだ) 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2023年3月、*3-1のように、第6次統合報告書をまとめ、温暖化対策の緊急性を強く訴えたそうだ。 内容は、①温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内に留める目標を掲げたが ②気温は既に1.1度上がって2030年代前半にも1.5度に達する ③そのため気温が目標を超える期間を短く留めて下降に向かわせることが重要 ④それには世界の温暖化ガス排出を2025年までに減少に転じさせ、2035年の世界の排出量を2019年比で約60%減らす必要 ⑤IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らした 等である。 確かに、⑤のように、近年は世界で熱波・干ばつ・洪水などの異常気象による被害が拡大しているが、日本では、*3-2-1・*3-2-2に書かれているとおり、梅雨前線に暖かく湿った空気が大量に送り込まれて線状降水帯が発生し、それが停滞して集中豪雨となったり、観測史上最大の降水量となったりする頻度が増した。 これによって、川の氾濫・がけ崩れ・ダムの緊急放流が起こったり、それが終わったら観測史上最高の気温になったりもしているため、①②③④は喫緊の課題なのだが、日本政府は、目標なき妥協が多く、気候変動への対応を急いでいるようには見えないし、被害を最小にするための土地利用計画の見直しも行っていない。 2)国土利用計画について 1)サウジアラビアの未来都市 ![]() ![]() ![]() 2023.7.19西日本新聞 「ザ・ライン」 2029年冬季アジア大会誘致地域 (図の説明:左図が、日本・サウジアラビアと日本・アラブ首長国連邦首脳会談のポイントだが、アンモニアをクリーンエネルギーの中に入れたことで、日本の意識の遅れがわかる。中央と右の図は、サウジアラビアが構想している未来都市だ) 岸田首相が訪問されたサウジアラビアは、*3-3-1のように、①世界最大の石油輸出国でも脱炭素時代を見据えた大改革を進め ②サウジ北西部砂漠地帯にスマートシティー(長さ170km、幅200m、高さ500m)「ザ・ライン」を建設中で ③これが一つの街になって将来は900万人が住み ④このスマートシティーは道路も車もなく高速鉄道で移動し ⑤石油ではなく再エネですべて賄い ⑥未開発の山岳地帯を会場に2029年冬季アジア大会を招致し ⑦岸田首相はサウジのムハンマド皇太子との会談で2016年合意の「日・サウジ・ビジョン2030」へのさらなる支援を表明し ⑧日本はクリーンエネルギー・脱炭素技術で協力し ⑨日本企業の投資への関心も高く、1ヵ月前に同行の呼びかけをしたが約30社集まった のだそうだ。 このうち①⑤は、未来を考えれば当然と言えるが、②③④の長さ170km・幅200m・高さ500mの砂漠地帯に一直線に建設されているスマートシティーは私の想像を超えるもので、i)人間の自然な欲求を満たさないと思うが、どうして一直線にするのか ii)どうして500mの高さが必要なのか iii) どうして道路も車もなく、高速鉄道で移動するのか iv) 2022年のサウジアラビアの人口は3,218万人だが、そのうち900万人をこのスマートシティーに住まわせるのか など疑問が尽きない。しかし、仮に海水面が60~100cm上がるとすれば、現在の平野部は海に沈む地域が多いため、都市の移転か建物による対応が必要になることは確かである。従って、⑥のように、未開発の山岳地帯を有効活用することも重要だろう。 また、⑦の日本がサウジアラビアに支援を表明するのは良いし、⑨の日本企業のサウジアラビアへの投資の関心が高いのも良いと思うが、その内容が、⑧の脱炭素技術協力と称してアンモニアの利用を推奨したり、中国の影響力を意識して負けずに接近するだけというのであれば、サウジアラビアとは桁違いに日本の構想は小さいと言わざるを得ない。 2)中国、深圳の未来都市 *3-3-2は、①中国広東省深圳西部の宝安を走る高速道路「G107」周辺の再開発に向けてドローン専用高速道路が提案され ②プロジェクトは「サステナビリティ」「テクノロジー」「グリーン建築」等をテーマに、ドローン・自動運転等の最先端テクノロジーと自然を融合させた近未来の都市を提示し ③排気ガスを出した12車線の高速道路は4車線ずつの2つの道路として筒状の空中トンネルに格納して大気汚染を解決し ④人々はその空中トンネルの上の緑の歩道を歩いて都市と自然が一体化した暮らしを実現し ⑤こうした環境に配慮したスマートシティ構想は深圳以外の世界中で進んでおり ⑥ドローンを活用した新たな空中物流インフラを構築できれば地上のトラック輸送・物流を大幅に削減でき、オフィスビルを貫くドローン専用高速道路が人々の目を引く ⑦ドローンが安全・効率的に飛び回って輸送インフラとしての機能を果たすには、ドローン輸送を前提とする都市計画が必要 等と記載している。 私も、⑥⑦のように、ドローンを安全・効率的に使用して物流改革を行うには、ドローンの通り道となる高速道路とドローン輸送を前提とする都市計画が必要だと考えていた。つまり、誤って落下しても、間違っても下を通る人や物の上に落下しない仕組みにすべきなのである。 また、①②③④⑤の排気ガスを出していた道路は、筒状の空中トンネルに格納しなくても、EVかFCVに置き変えれば排気ガスは出ない。それを筒状の空中トンネルに入れてしまえば、移動中に周囲の景色を見ることができなくなって、精神的にむしろマイナスだろう。また、道路を高架にして建物の中も通し、その高速道路の上をドローンが飛んで、人・車椅子・自転車などは緑豊かに都市計画された地上を歩いた方が良いと、私は思う。 しかし、ダイナミックにドローン専用高速道路等を提案し、そこから改良を重ねていくのも、長期的には無駄遣いにしかならない対症療法ばかりしているよりはずっと良い。 3)日本の未来都市は? ← みんなで考えよう ![]() ![]() ![]() 2021.8.14日経新聞 2021.11.6日経新聞 2021.9.7論座 (図の説明:左図のように、都道府県別農業産出額は北海道・栃木県・鹿児島県・青森県・千葉県・熊本県・宮崎県が頑張っている。また、中央の図のように、漁業産出額は1980年前後をピークに低下の一途を辿り、右図のように、林業も低迷しているが、これらは、日本政府が第1次産業を軽視してきた結果である。これによって、日本の食料自給率やエネルギー自給率は著しく低くなり、恵まれた国土を十分に活かすことなく、地方自治体の税収や自立力が低下している) ![]() ![]() ![]() ![]() 2021.7.2日経新聞 2021.7.10日経新聞 2021.5.21日経新聞 (図の説明:左図は、2009年と2019年を比較した場合の個人住民税の増減比較で、20%以上増加している県に沖縄県・宮城県・熊本県・北海道などの大都会以外も入っているが、正確に比べるには、法人住民税・事業税・地方消費税を加えた住民1人当たりの地方税収額の比較が必要だ。住民1人当たりの地方税収額を比較すると、法人の本社・工場がある地域の法人住民税・事業税が多く、そこで働く従業員等の個人住民税も多いため、その地域の地方税収が大きくなる。従って、既に国家資本を集中投下し、法人の本社・工場が多数存在する地域が潤沢な税収を得ることになるが、そういう地域は食料やエネルギーを殆ど生産していないと言っても過言ではない。また、中央の2つの図は、全国のごみ処理費用がうなぎ上りであるのに対し、1人あたりのごみ排出量が少ない市町村があるという話だが、そうなる理由が大切である。右図は、脳卒中が少なく老衰による死亡が多い都道府県で医療費が少ないという表だが、これに介護費を加えるとさらに著しい差が出る。しかし、「老衰」とされるものには、病気の見逃しや放置も含まれるため、少なくさえあればよいという見方は禁物だ) このような中、*3-3-3は、①戦後から今日まで東京圏へ人口・企業の集中 ②2022年都道府県別転入超過率は埼玉県0.35%・神奈川県(0.30%)・東京都(0.27%)・千葉県(0.14%)で、東京圏全体では10万人弱転入超 ③東京都の所得/人は575.7万円(19年度)で全国平均の約1.7倍で2位の愛知県366.1万円を引き離しており ④東京都の上場企業本社数(22年7月)は2122社で全国の約54% と記載している。 このうち①④については、上の図の下の段に書いたとおり、国家資本を集中的に投下した首都圏に企業の本社・工場が多数存在しており、その結果、②のように、生産年齢人口の勤労者が多く流入するため、③のように、東京都の所得/人は全国平均の約1.7倍と高くなり、この地域が潤沢な税収を得ることになるのである。 しかし、2019年の県庁所在地公示地価は、東京23区601,300円/㎡、名古屋183,100円/㎡、福岡150,100円/㎡、佐賀39,200円/㎡と著しく異なり、これは住居費のみならず、すべてのコストに反映されるため、東京都の生活コストは全国平均の約1.7倍どころではない筈だ。 また、*3-3-3は、⑤小中学生時点で東京圏以外に居住し調査時点で東京圏に居住する回答者は他のタイプと比べて所得水準が高く、人的資本水準の高い人材が経済合理的判断から都市に移動 ⑥近年、先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となる研究が目立つ ⑦「労働年齢人口」の伸び率の低さは「1人当たり県内総生産」の伸び率の低さと関連 ⑧日本の地域及び全国の経済成長には社会移動だけでなく人口構造変化への対策が重要 とも記載している。 このうち⑤については、地域内で比較的人的資本水準の高い人材が都市に移動する傾向は確かにあるが、所得水準は同一勤務先の同一職階であれば同じ筈であるものの、女性にはガラスの天井(もしくは、コンクリートの天井)が用意されている上、高校の同窓生を優遇する習慣があるため、地方出身者は職階を上がるのも大変になるのだ。 また⑥については、先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となるのは、既に人口や産業が集中しすぎているため、土地をはじめとするすべてのコストが上がっていて高コスト構造になり、中国はじめ新興国における生産コストにかなわないからである。 さらに、既存の都市にはまとまった空地が少ないため、サウジアラビアのように、未利用の砂漠や山岳地帯に未来都市を作るようなダイナミックな構造改革はできず、日本ではちょっと変えるのに数十年もかかることになる。そのため、首都移転したり、新しい産業都市を作ったりする先進国や新興国が多いのだ。 しかし、⑦の「『労働年齢人口』の伸び率の低さは『1人当たり県内総生産』の伸び率の低さと関連するから」といって、「高齢者は早く逝くことを推奨する」というのは、文明の進歩に逆行しており、先進国や福祉国家の名にも値しない。もし生産年齢人口が足りなければ、女性・高齢者の使用に加えて、生産年齢人口の外国人労働者も招けばよい。つまり、⑧の社会移動に、国内移動だけではなく、国際間移動を加えればよいのである。 *3-3-3は、⑨「まち・ひと・しごと創生法」は「地方創生」を国の重要な政策として位置づけ、自治体に様々な取り組みを求め、自治体が計画を立案して、国がその計画を支援する形だが ⑩自治体の自主財源比率が低く ⑪財政面での国と地方の関係も人口の東京一極集中を助長した ⑫地方版総合戦略策定にあたって多くの自治体が国からの地方創生関連交付金を基に東京都に本社がある業者に外部委託した ⑬税収の地域間格差が比較的少ない地方消費税率引き上げなどでの自主財源強化が検討に値する とも記載している。 このうち⑨⑫の地方版総合戦略策定に多くの自治体が、国からの地方創生関連交付金を基に、東京都に本社がある業者に外部委託したというのは、東京に本社のあるコンサルティング・ファームなら国内の他地域だけでなく海外の事例も容易に参照できるという点で優れているが、その地域の事情に詳しいわけではないため、地方自治体が主体となってコンサルティング・ファームや地域の大学を使うのがよいと思う。そして、それもできないのであれば、地域主体の地域創生などとてもできないため、⑪は仕方がないということになろう。 地方財政についても、⑩のように、自主財源比率が低すぎることはよくわかるが、⑬のように、地方消費税率を引き上げただけでは、大きな財源にはならない。そのため、農林漁業・再エネ発電・企業誘致など、地域の特色を活かして法人住民税・事業税及びそれにかかわる個人住民税を確保する必要がある。 なお、*3-3-3は、⑭町村などの過疎地域では既に高齢化が進み、実際の人口分布以上に地方議員の年齢階層が高齢者に集中し ⑮地域の現場で長期的展望に立って政策を進める若手政治家が不足 ⑯日本の地方議員は大企業で働く会社員や常勤公務員と比較して経済的に恵まれず、人口減少が進む町村で成り手不足が一層深刻化 ⑰勤め人が地方選挙に出る選択は、家族を養うこととの両立が難しく就労世代が政治に関わりにくい ⑱議員定数に年齢枠や女性枠を設ける「クオータ制」導入や地方議員の報酬増を検討すべき ⑲中長期的には東京以外にも様々な人材・産業が集積する拠点を整備する方向性が望ましい としている。 確かに、地方創生をこなし、教育・保育・医療・介護などの諸制度を的確に運用するには、地方議員の質と量が重要である。そのため、⑮ほど「若手でなければ、長期的展望に立てない」とは思わないが、⑭のように、人口分布に比例した男女比・年齢層になるのが多面的なニーズをくみ取るためには必要だと思う。 そのためには、⑯⑰は事実であるため、⑱のように、地方議員定数に年齢枠や女性枠を設けたり、議員の報酬増を検討したりすることは不可欠である。しかし、それにもまして重要なのは、くだらないことで誹謗中傷したり、足を引っ張って喜んだりするのも止めることで、そうでなければ有用な人材を議員にして住民のために継続的に働いてもらうことはできない。 最後に、⑲については、過密で高コスト構造で不便になった東京以外の地域にも、中長期的視点で産業や人材が集積する場所を作ることは重要である。それには、自然条件・災害・気候変動・海面上昇なども考慮して、これまでは人口の少なかった地域に首都機能を移転したり、スマートシティーを作ったりするのが、恵まれた国土を無駄なく使う方法であると、私は考える。 ・・参考資料・・ <日本経済の現状 ← 経常黒字半減・物価上昇・実質賃金減少> *1-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1065635 (佐賀新聞 2023/7/4) 税収過去最高 家計の苦境に目を向けよ 国の2022年度の一般会計税収が、71兆1373億円と過去最高を記録した。円安の重なった物価高で消費税が増え、所得税、法人税も伸びたためだ。防衛費や少子化対策に多額の追加歳出を計画する岸田文雄首相にとっては、政権運営の好材料かもしれない。しかし税収増は家計の苦境の裏返しであり、さらなる負担は受け入れ難い点に目を向けねばならない。政府の当初予算時点の税収見積もりは65兆2350億円だった。70兆円台は初めてで、3年続けて過去最高を更新した。税収を押し上げた大きな要因は物価上昇だ。22年度の消費者物価指数は、石油や輸入原材料の高騰に円安が拍車をかけ、前年度比3・2%と約30年ぶりの伸びとなった。値上がりは食品から電気・ガス、サービス関連にまで及び、連動して消費税額も膨らんだ結果、22年度の消費税収は過去最高の23兆792億円に達した。19年10月に税率を10%へ引き上げた効果などが続き最高だった前年度に比べ、約1兆2千億円も多かった。景気に左右されにくい一方で、物価の影響を受けやすい消費税の特徴が表れた形だ。税収の確かさから、社会保障を支える消費税の役割を再認識することができよう。だが消費税収の好調を喜んではいられない。家計にしてみれば、物価上昇に課税増のダブルパンチとなったからだ。新型コロナウイルス禍からの経済回復があり単純比較はできないものの、前年度からの増収分は0・5%程度の税率引き上げに匹敵する。消費税は所得の低い世帯ほど負担感の重い「逆進性」がある点を考えれば、家計の重荷は深刻ととらえるべきだろう。基幹税では所得税も22年度は伸び、前年度より1兆円超多い22兆5216億円だった。物価高に伴う賃上げや、企業から株主への配当増が税収につながったとみられる。ここで留意すべきは十分な賃上げが大企業などに限られ多くの人は収入増がインフレに追い付かない状況である。物価動向を反映した実質賃金は、4月まで13カ月連続で減少している。22年度はコロナ禍からの立ち直りや円安による輸出企業の業績上振れで、法人税も14兆9397億円と増収だった。物価高が収まらない中で、配当など株主還元に比べて見劣りする賃上げの充実が引き続き課題である。岸田政権による血税の使途と財政運営が厳しく問われるのは当然だ。税収増の結果、22年度は2兆6294億円の決算剰余金が生じた。政府は防衛力強化の財源の一つに年7千億円の剰余金を想定しているが、多額の剰余金の発生は、もう一つの財源であり与党に抵抗感の強い増税の先送り論につながる可能性があろう。しかし議論すべきは「先送り」でなく、今以上の家計負担が困難な点である。防衛増税を実施するにしても課税余地のある企業向けを軸にすべきだし、財源に不安のない規模へ防衛費を縮減するのが理にかなっている。税収増を受け政府、与党で歳出拡大の声が高まることも戒めたい。今年の「骨太方針」はコロナ沈静化を受けて歳出を「平時に戻していく」と明記。国と地方を合わせた基礎的財政収支を25年度に黒字化する財政健全化の目標を維持した。歳出増はその方針を揺るがしかねない。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230701&ng=DGKKZO72407730R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.1) 政府税調まで消費税論議から逃げるのか 中長期を見据えた税制の提言というには、看板倒れの内容だ。政府税制調査会(首相の諮問機関)が4年ぶりにまとめ、岸田文雄首相に提出した「中期答申」のことだ。前回の10倍の約260ページの分量ながら、増減税など具体的な改革の方向性を何ら示さなかった。答申を受け取る立場の岸田首相が少子化対策の財源を巡り、消費税などの議論を封印している。だが、各界の有識者から税制の将来について率直な意見を集める政府税調は、政治への忖度(そんたく)と一線を画すべきだ。逃げ腰と言わざるを得ない。中期答申は昭和・平成時代の税制改革を回顧し、最近の経済と社会の構造変化を総括した。終身雇用や専業主婦世帯が主体と考えられた旧態から働き方や人生設計が多様となり、デジタル化やグローバル化が進む。税制も経済成長を促す発想で組み直す必要がある。新型コロナウイルス対策などで悪化した財政の立て直しにも目配りが欠かせない。政府税調は「公平・中立・簡素」の原則に加えて、税の「十分性」の重視を掲げた。社会保障や財政の持続可能性にも配慮し、負担や歳出を見直すことは妥当といえる。だが、個別の税制をどう変えるかの記述はない。消費税に関しては社会保障給付を安定的に支える観点で「果たす役割は今後とも重要」とだけ記した。税調では現行10%からの引き上げが必要とする議論も出ていたが、答申は税率や時期などの具体論を避けている。所得税を巡っては働き方の違いで不公平が生じないよう、給与や退職金、年金への税負担のバランスをとるよう促した。そこは適切な指摘としても、具体的な手法への言及はない。「基幹税としての財源調達機能を適切に発揮する」と、原則論の確認にとどまる。税制改正の具体像を決めるのは政治家であり、中期答申は議論の下地となる考え方を提示するというのが政府税調の認識という。問題は、政治が与野党そろって、次の選挙に影響するとして税や社会保険料など安定財源の確保で真剣な議論から逃げていることだ。財源を曖昧に給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任だ。専門家の立場から将来の負担のあり方で見識を示し、踏み込んだ議論を喚起する。それが政府税調に求められる役割ではないか。問題先送りを続ける政治に、あえて歩調を合わせる必要は全くない。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230702&ng=DGKKZO72416970R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.2) 医療費の物価反映は慎重に 年間45兆円に上っている医療費が物価高を反映させる形で一段と膨らむ可能性が出てきた。政府が6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に「次期診療報酬改定で必要な対応を行う」と明記された。物価高で医療機関の経費が増えているのは確かだが、医療費を増やせば、患者負担や国民の保険料負担が重くなることを軽く見るべきではない。政府は医療の持続性を確保する観点から、丁寧かつ慎重に対策を検討してほしい。保険医療は診療報酬という政府が定める公定価格で提供されるので、医療機関や薬局は光熱費や設備費、委託費など経費の増加分を患者の医療費に転嫁できない。2022年4月に改定された今の診療報酬にはその後の物価上昇分が勘案されていないため、日本医師会などは23年度中に補助金で緊急措置を実施した上で、24年4月の次期改定で物価水準を反映するよう求めている。賃上げが重要なのは医療従事者も例外ではない。ただその原資や経費の増加分すべてを診療報酬の増額で賄う考え方で国民の理解を得られるだろうか。産業界の労使交渉では賃上げと生産性向上をセットで議論するのが一般的だ。医療従事者の賃上げを考える際も、業務効率化の方策を同時に検討すべきだ。岸田文雄政権は社会保障などの改革で国民負担を抑制し、新たな少子化対策に要する負担増分を相殺する方針を閣議決定している。この施策との整合性を考えても、国民負担を増やす診療報酬の増額は安易に行うべきではない。医療従事者の賃上げにはデータに基づく議論も必要だ。医師や看護師、事務員など職種別給与データの提出を医療法人に求め、処遇実態を把握した上で賃金水準のあり方を検討してほしい。新型コロナウイルス対策の病床確保料などで医療機関の収支が改善した点にも留意が要る。物価反映が国民の理解を得るにはプロセスを踏んだ議論が欠かせない。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230516&ng=DGKKZO71023830V10C23A5EP0000 (日経新聞 2023.5.16) 企業物価上昇、なお5%台、4月、食品などで価格転嫁続く 資源高・円安の影響は一服 日銀が15日発表した4月の企業物価指数は前年同月比5.8%の上昇だった。伸び率は4カ月連続で鈍化し、1年8カ月ぶりに5%台まで低下した。資源高や円安の影響が和らいだことで、市場には「今夏には5%を割る」との見方もある。ただ食品などの川下の品目での価格転嫁は当面続きそうだ。輸入物価指数(円ベース)は2年2カ月ぶりに前年同月比でマイナスになった。足元で円相場は1ドル=136円程度で推移しており、円安の直接的な押し上げ圧力には一服感が出ている。輸入物価指数の石油・石炭・天然ガスはマイナス9.0%、金属・同製品もマイナス7.5%になった。電力やガス料金には2月以降、政府の価格抑制策が効いている。企業物価指数の電力・都市ガス・水道の前年同月比上昇率は、25.8%と3月の26.8%から鈍化した。日銀によれば抑制策で0.7%程度、企業物価指数全体の前年同月比上昇率を押し下げている。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「早ければ(企業物価指数の前年同月比上昇率が)6月に5%台を割り込む可能性がある」と話す。ただこれまでのコスト高を受け、「複数回に分けて値上げに踏み切る企業もあり価格転嫁による押し上げ圧力は継続している」と指摘する。輸送用機器や生産用機器では、部品などの材料価格や物流費の上昇を価格に反映する動きが目立った。飲食料品は小麦などの原材料高を価格転嫁する動きが続いている。鉄鋼もこれまでのエネルギーコスト高が影響し前年同月比で上昇した。政府の抑制策で価格が抑えられている一方、事業用電力では燃料価格の上昇や託送料金の引き上げなどを価格に反映する動きもみられた。日銀は「コスト上昇分も含めた川下への価格転嫁の動きなどを注視していく」としている。4月分は公表されている品目のうち8割超で価格が上昇した。足元では消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)でも前年同月比3.1%上昇と高水準での推移が続く。企業物価指数はCPIの先行指標ともされる。高止まりが続けば、CPIにも上振れの要因として波及しやすくなる。日銀は物価上昇率が23年度半ばには2%を下回るとの見方を示している。植田和男総裁は「(2%の物価目標を達成すると)安心して言えるところまで到達していない」として大規模緩和を維持する方針だ。価格転嫁が継続してCPIを押し上げれば、先行きの物価動向や政策運営にも影響を与える可能性がある。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2274H0S3A620C2000000/ (日経新聞 2023年6月23日) 消費者物価、5月3.2%上昇 食品や宿泊が伸び高止まり 総務省が23日発表した5月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.8となり、前年同月比で3.2%上昇した。プラスは21カ月連続で、高水準での推移が続く。食品といった生活必需品や宿泊料の値上がりが全体を押し上げ、物価上昇の品目も増えた。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の3.1%を上回った。再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げや燃料価格の下落があった電気代が押し下げ、4月の3.4%からは伸び幅が縮小した。日銀の物価目標である2%を上回る状況が続く。生鮮食品を含む総合指数は3.2%上昇した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は4.3%上昇し、プラス幅が前月から0.2ポイント拡大した。伸びの拡大は12カ月連続となる。第2次石油危機の影響で物価が上昇した1981年6月の4.5%以来41年11カ月ぶりの高い上昇率となった。品目別では生鮮食品を除く食料が9.2%プラスだった。75年10月の9.9%以来47年7カ月ぶりの上昇幅となる。原材料価格や物流コストの上昇で、アイスクリームが10.1%上昇した。4月に価格改定のあったヨーグルトも11.3%伸びた。日用品も値上げが続き洗濯用洗剤が19.9%上がった。宿泊料は9.2%伸びた。政府の観光支援促進策「全国旅行支援」の効果が続く一方で、新型コロナウイルス禍からの経済社会活動の正常化で観光需要が増えて価格が上昇した。17.1%マイナスだった電気代を中心にエネルギーは8.2%低下した。都市ガス代も1.4%上昇と4月の5.0%プラスから伸びが縮小した。総務省の試算では、電気・都市ガス料金の抑制策と全国旅行支援をあわせた政策効果は、生鮮食品を除く総合の前年同月比伸び率を1.0ポイント押し下げた。単純計算すると、政策効果がなければ前年同月比で4.2%の上昇だったことになる。生鮮食品を除く総合を構成する522品目のうち前年同月より上がったのは438品目、変化なしは43品目、下がったのは41品目だった。4月は433品目が上昇しており、物価上昇の裾野が広がっている。日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では4〜6月期の生鮮食品を除く総合の前年同期比が3.24%プラスで、前回調査から0.31ポイント引き上げた。2024年4〜6月期も同2.01%伸びると予測する。足元では再び進行する円安が輸入価格の上昇圧力にもつながり、物価は高止まりが続く可能性がある。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230703&ng=DGKKZO72422720T00C23A7NN1000 (日経新聞 2023.7.3) 食品・日用品の大手値上げ、中堅に波及 店頭価格8.7%上昇、原材料高の転嫁広がる 食品や日用品の店頭価格の上昇が続いている。POS(販売時点情報管理)データに基づく日次物価の前年比伸び率は6月28日時点で8.7%となった。昨年秋以降、業界大手を中心に価格改定に踏み切り、中堅企業などが追いかける「追随型値上げ」が多くの商品で広がっている。デフレが長く続く日本では値上げで売り上げが落ち込むリスクが強く意識され、価格転嫁を避ける傾向があった。ウクライナ危機をきっかけに原材料高を商品価格に反映する動きが広がり、潮目が変わりつつある。日経ナウキャスト日次物価指数から分析した。この指数はスーパーなどのPOSデータをもとにナウキャスト(東京・千代田)が毎日算出している。食品や日用品の最新のインフレ動向をリアルタイムに把握できる特徴がある。217品目のうち価格が上昇したのは199品目、低下は16品目だった。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月に価格が上昇していたのは130品目にとどまっていた。全体の前年比伸び率も当時は0.7%だった。足元ではヨーグルトや冷凍総菜などの値上げ幅が拡大している。ヨーグルトの値段は22年夏までほぼ横ばいだったが、11月に6%上昇し、今年4月以降はその幅が10%となった。この2回のタイミングでは業界最大手の明治がまず値上げを発表し、森永乳業や雪印メグミルクなどが続いた。その結果、江崎グリコなどシェアが高くないメーカーも値上げしやすい環境になり、業界に波及した。冷凍総菜も昨年6月は4%程度の上昇率だったが、11月に9%まで加速し、23年6月は15%まで上がった。味の素冷凍食品が2月に出荷価格を上げたことが影響する。ナウキャストの中山公汰氏は「値上げが大手だけでなく中堅メーカーに広がっている」と話す。ナウキャストによると、値上げをしてもPOSでみた売上高は大きく落ちていないメーカーもみられる。インフレが定着しつつあり、値上げによる客離れがそこまで深刻化していない可能性がある。品目の広がりも鮮明だ。ウクライナ侵攻が始まった直後は食用油が15%、マヨネーズが11%と、資源価格の影響を受けやすい商品が大きく上昇する傾向にあった。23年6月は28日までの平均で生鮮卵が42%、ベビー食事用品が26%、水産缶詰が21%の上昇になるなど幅広い商品で2ケタの値上げがみられる。日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘されてきた。食品価格の上昇率を日米欧で比べると米国は昨年夏に10%強まで加速したが、足元は6%台に鈍化した。ユーロ圏は今年3月に17%台半ばまで高まり、5月は13%台に鈍った。日本は昨夏が4%台半ば、昨年末は7%、今年5月に8%台半ばと上げ幅が徐々に高まってきた。直近では瞬間的に米国を上回る伸び率になった。帝国データバンクが主要食品企業を対象に調査したところ7月は3566品目で値上げが予定されている。昨年10月が7864件と多かったが、その後も幅広く価格改定の表明が続く。昨年、一時的に10%を超えた企業物価指数は足元で5%台まで伸びが鈍化しており、資源高による川上価格の上昇は一服しつつある。それでも昨年からの仕入れ価格上昇や足元の人件費増を十分に価格転嫁ができているとは限らず、値上げに踏み切るメーカーは今後も出てくると予想される。日本のインフレも長引く様相が強まっている。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71652180W3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.6) 4月実質賃金、3%減 13カ月連続マイナス 物価高続く 厚生労働省が6日発表した4月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比3.0%減った。減少は13カ月連続となる。名目にあたる現金給与総額は1.0%増の28万5176円だった。物価の伸びに賃金上昇が追いつかない状態が続いている。実質賃金のマイナス幅は3月の2.3%減から広がった。実質賃金の算出で用いる物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)の上昇率が4.1%に達しており、3月の3.8%から拡大した影響が出た。現金給与総額の増加は22年1月から続いており、16カ月連続となる。新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化に伴う動きだ。現金給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は1.1%増、残業代などの所定外給与は0.3%減だった。今年の春季労使交渉では物価高を背景に賃上げ率は30年ぶりの高水準となっている。4月の速報段階では「まだ交渉中の労使があることなどから結果が十分に反映されていない」(厚労省)という。就業形態別に現金給与総額を見ると、正社員など一般労働者は1.1%増の36万9468円、パートタイム労働者は1.9%増の10万3140円だった。1人当たりの総実労働時間は0.3%減の141.0時間だった。業種別では不動産・物品賃貸業が14.3%増となったほか、飲食サービス業も6%を超える伸びだった。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71652190W3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.6) 消費支出、4月4.4%減 2カ月連続マイナス 総務省が6日発表した4月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は30万3076円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比4.4%減少した。マイナスは2カ月連続。食料、通信など生活関連の品目や教育への支出が減り、消費を押し下げた。下落幅は21年2月の6.5%減以来2年2カ月ぶりの大きさとなった。 <G7とジェンダー平等> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15670995.html (朝日新聞 2023年6月26日) 賃金、男女格差「解消を」 性的少数者尊重も言及 G7担当相声明 主要7カ国(G7)男女共同参画・女性活躍担当相会合が24、25日に栃木県日光市で開かれ、企業の女性役員登用や成長分野への就業を進め、賃金格差を解消することで女性の経済的自立を進める方向で一致した。ジェンダー平等で遅れる日本にとって、議論を踏まえた取り組みが急がれる。男女間の賃金格差はG7共通の課題で、共同声明は「是正には包括的アプローチが必要」と強調。女性役員の登用▽成長分野や報酬の高い分野への女性の労働移動の促進▽女性の起業支援――などを具体策で示した。また、家事や育児、介護など女性に偏る無償労働は「女性がフルタイムで働く能力や指導的地位に就く能力を損なう」と指摘。家族への公的支援を強化するほか、男性の無償労働への参加を増やすための施策を求めた。今月公表された各国の男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ報告書」で、日本は146カ国中125位。男女間の賃金格差は22・1%、企業(東証プライム上場)の女性役員の比率は11・4%でともにG7各国では最下位。無償労働時間は女性が男性の5・5倍長く、男女差はG7で最大との統計もある。会合の議長を務めた小倉将信・男女共同参画相は今後の対応について、会見で「女性起業家の支援などを着実に進める。男性の家事育児への参画促進のための施策に取り組みたい」と述べた。会合に参加した他国の担当相や団体の代表者9人はすべて女性。日本だけが男性だったことについて、小倉氏は「女性だけが主張しても実現しえない。非常に強い熱意を持つ男性リーダーが一緒に行動を起こさないと実現しない、というのが共通認識だった」とした。また、共同声明では性的少数者に関して、女性や「LGBTQIA+(LGBTを含めた多様な性)の人々の人権と尊厳が完全に尊重され、促進され、保護される社会の実現に向けた努力を継続する」とした。LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「LGBTQIA+の問題がジェンダーの課題であると強力に示された。政府は今後、国内での平等に向けた取り組みを具体的に進めていくべきだ」と話した。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230621&ng=DGKKZO72075270R20C23A6MM0000 (日経新聞 2023.6.21) 男女平等、日本125位 過去最低 政治や経済分野悪化 世界経済フォーラム(WEF)は21日、男女平等がどれだけ実現できているかを数値にした「ジェンダー・ギャップ指数」を発表した。調査した146カ国のうち、日本は過去最低の125位だった。政治や経済分野での指数が悪化し、前年調査(116位)より順位を落とした。主要7カ国(G7)では最低水準となった。調査は「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で男女平等の現状を指数化している。完全に実現できている場合は1、まったくできていない場合をゼロとして各分野ごとに指数化し、総合評価のランキングを毎年発表している。日本の順位を分野別にみると「政治」が138位、「経済」が123位となった。改善の必要性が長年指摘されている両分野で指数が悪化した。国内での教育格差が相対的に小さいことや、男女の健康に大きな差がないと判断されたことから「教育」は47位、「健康」は59位となった。日本の評価が特に低いのは政治における男女平等だ。女性の議員数や閣僚数が他の国・地域と比べて大幅に少ないことに加え、これまでに女性の首相が誕生していないことなどが指数や順位に織り込まれた。女性の権利を制限していると指摘されるサウジアラビア(131位)を下回り、世界で最も低い圏内にある。経済の項目でも低い評価が目立つ。女性管理職の比率が低いことや、男女の所得に依然として差があることなどが響いた。政府は東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を2030年までに30%以上にする目標を新たに掲げ、多様性の確保を急ぐ。WEFは教育における日本の男女平等は99%以上達成できていると分析した。ただ、今回は大学以上の進学率が加わったことで、順位は47位と前年(1位)から大きく下がった。全体の順位が下がった一因にもなったと考えられる。総合評価が高かったのはアイスランドやノルウェー、フィンランドなどだ。アイスランドでは男女平等の達成率が90%を超えた。最下位はアフガニスタンだった。WEFは世界で男女平等が実現されるのは131年後の2154年だと試算する。男女平等の度合いは新型コロナウイルス感染拡大前の水準までには回復した一方で、「進展のペースは鈍化している」としている。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230622&ng=DGKKZO72100240S3A620C2EA1000 (日経新聞 2023.6.22) 男女平等、達成率68% 政治・経済の壁なお 世界の格差指数 日本、過去最低の125位 世界経済フォーラム(WEF)が21日発表した2023年の男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中125位と過去最低になった。政治分野の低さが変わらず、経済分野は女性管理職比率の低さが足を引っ張る。世界全体でも格差はなお残り、WEFはこの差を埋めるにはあと131年必要だと指摘する。調査は経済、教育、健康、政治の4分野に関する統計データから算出する。男女が平等な状態を100%とした場合、世界の達成率は68.4%。WEFは現状では世界での男女平等実現は2154年になると指摘する。格差が目立つのは経済、政治の両分野。差を埋めるには経済で169年、政治で162年かかるという。国別にみると、首位は14年連続のアイスランドで91.2%。日本は64.7%、最も低い146位のアフガニスタンは40.5%だ。地域別では欧州や北米が高く、WEFは東アジア・太平洋地域の歩みが10年以上停滞しているとみる。ニュージーランドなどは上位だが、韓国(105位)や中国(107位)などは課題を抱える。リポートでは労働人口に占める女性の割合が4割を超す一方、上級指導職の女性割合が10ポイント近く低い点も指摘。昇進を阻む「ガラスの天井」が依然存在するとした。日本も政治(138位)や経済(123位)の低さが目立つ。経済は女性管理職の比率が133位にとどまるのが大きく影響している。働く女性がリーダー層になるにつれ減る構造がある。23年版男女共同参画白書によれば、日本の就業者に占める女性の割合は45%で米国(46.8%)と大差なく、韓国(43.2%)より高い。だが管理職に占める女性比率は12.9%で米国(41.0%)を下回り、韓国(16.3%)より低い。民間企業の場合、係長級で24.1%いる女性が課長級で13.9%、部長級は8.2%に減る。キャリアの階段が細くなる背景に何があるか。ロールモデルが身近にいないことや硬直的な働き方、家事・育児負担の偏りなどが指摘されるが、そのままでは企業の成長は期待できない。政府は女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)で、東証プライム上場企業は25年をめどに女性役員を最低1人起用、女性役員比率は30年までに30%以上の目標を掲げる。ヒントはある。キリンホールディングスは入社後10年ほどまでに多くの業務を担当し、プロジェクトリーダーなどに挑戦する「早回しキャリア」で女性管理職育成を急ぐ。各段階で切れ目なく支援をし、「管理職手前」の層を厚くする。結果的に改善への早道になる。経済で多様性がイノベーションを生むのはすでに世界の共通認識だ。投資家は組織の意思決定者に多様性を求め、取締役会が男性ばかりの日本企業にノーを突きつける。ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングのロッシェル・カップ社長は「欧米に比べて日本は政策や慣行、法律などを変えるのに消極的だ。リーダーは具体的な行動を起こす必要がある。現状維持優先の態度はますます遅れにつながる」と強調する。 *2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA128CD0S3A610C2000000/ (日経新聞 2023年6月13日) 女性役員比率30%目標に 政府「女性版骨太の方針」決定 政府は13日、女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)を決定した。東証プライム市場へ上場する企業に2025年をめどに女性役員を最低1人選任するよう促す。女性役員比率を30年までに30%以上とする目標も盛り込んだ。いずれも努力義務で罰則は設けない。岸田文雄首相は同日の女性活躍と男女共同参画に関する会議で「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組みを進める」と述べた。近くまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。目標達成のためプライム上場企業に行動計画をつくるよう推奨する。年内に東証の上場規則に数値目標に関する規定を設けることを想定している。東証プライム上場で女性役員比率が30%を超える企業は22年7月末時点で2.2%にとどまる。女性役員が1人もいない企業の比率は18.7%だった。優良なスタートアップ企業に占める女性起業家の比率を33年までに20%以上とする目標も掲げた。「Jスタートアップ」と呼ばれる新興企業が対象で、経済産業省を中心に23年5月時点で選定した238社の女性起業家比率は8.8%だった。 *2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1062235 (佐賀新聞 2023/6/28) 年収の壁、企業助成50万円、従業員の保険料穴埋め、年内にも 配偶者に扶養されるパート従業員が、社会保険料負担の発生を避けるため働く時間を抑える「年収の壁」に関する政府の対策案が分かった。保険料を穴埋めする手当を払った企業に対し、従業員1人当たり最大50万円を助成。従業員の負担解消につなげ、労働時間を延長しやすくすることで人手不足緩和を狙う。関係者が28日明らかにした。飲食業や観光業を中心に、新型コロナウイルス禍後も働き手が戻らず、営業に支障が出ている所もある。個人の収入確保とともに、経済を円滑に回す環境整備を進める。政府内の調整を経て最終決定し、年内にも対策を開始。時限措置とする。「年収の壁」見直しは人手不足に悩む企業側が求め、岸田文雄首相が2月に「対応策を検討する」と踏み込んだ。抜本的な対策は先送りし、2025年の法案提出を目指す年金制度改革の中で議論する。現在は、従業員101人以上の企業で働くパートの場合、年収106万円以上になると配偶者の扶養を外れる。厚生年金などの保険料を自ら負担し、手取りが減る。扶養されている間は国民年金の「第3号被保険者」として、保険料を払わず、将来の年金が受け取れる。対策案では、所定労働時間の延長などで生じた保険料の全部または一部を、企業が手当として従業員に払うことができる仕組みをつくる。手当は賃金に含めない特別扱いとし、手当による保険料増は生じない。手当の仕組みを後押しするため、政府は既存の助成金を拡充し、1人当たり最大50万円を企業に支給。手当や賃上げ原資、企業が負担する社会保険料に充ててもらう。基本給を増やしたかどうかで助成額が変動する。扶養に入っている従業員だけでなく、単身者も対象とする。企業が3年以内に労働時間を延長する計画を策定し、実際に延長した従業員も助成対象に加える。年収の壁 会社員や公務員の扶養に入る配偶者がパートなどで働くと、一定以上の年収で社会保険料が発生したり税の優遇が小さくなったりする。この額の境目が「壁」と呼ばれる。保険料の場合、勤め先の従業員数規模などに応じて106万円や130万円が境となり、手取りが減る。106万円の壁では、年収が約125万円になると手取りが106万円に戻る。税は、年収が150万円を超えると所得税の配偶者特別控除の満額を受けることができない。 <気候変動と国土利用計画> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230326&ng=DGKKZO69601710V20C23A (日経新聞社説 2023.3.26) IPCC報告が示す温暖化対策の緊急性 温暖化による気象災害や食料危機、紛争などの悪化を防ぐための時間は、わずかしか残されていない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第6次統合報告書は、温暖化対策の緊急性を強く訴えた。報告書は気候変動をめぐる今後の国際交渉の土台となる。日本は主要7カ国(G7)議長国として真剣に受け止め、中国を含む20カ国・地域(G20)とも連携して対策を加速する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内にとどめる目標を掲げる。だが、報告書によると気温は既に1.1度上がっており、2030年代前半にも1.5度に達する可能性がある。気温が目標を超える期間を短くとどめ、下降に向かわせることが重要だ。それには世界の温暖化ガス排出を25年までに減少に転じさせ、35年の世界の排出量を19年比で約60%減らさねばならないという。パリ協定のもと、各国は25年までに35年の新たな削減目標を提示することになっている。報告書の数値は重要な指標となろう。日本の現行目標は30年度の排出量を13年度比で46%減らし、50%減をめざすというものだ。国際社会から一層の上乗せを求められる可能性がある。見直しの検討を怠ってはならない。報告書は21年10月までのデータに基づいており、ロシアのウクライナ侵攻の影響は含まない。現実にはエネルギーの安定供給を確保するため、化石燃料の利用減を先延ばしする動きもある。石炭火力発電への依存度が高いアジアの途上国などでは、再生可能エネルギーへの転換や省エネの投資が不足している。パリ協定の目標達成は困難を伴う。だが、諦めるわけにはいかない。IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らすとともに「報告書は希望へのメッセージでもある」と強調した。再生エネルギーや蓄電池のコストは劇的に下がった。水素製造・利用技術や、火力発電所から出る二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留する技術の開発も進む。日本は化石燃料依存を減らしつつ、こうした技術の普及へ積極的な役割を果たすべきだ。実績を積み上げ、被害や損害の軽減につなげることが大切だ。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE102J80Q3A710C2000000/ (日経新聞 2023年7月10日) 停滞した梅雨前線に水蒸気が流入、九州の大雨の要因に 九州北部では7月に入ってから断続的に線状降水帯が発生し、10日は土砂崩れによる家屋被害や河川の氾濫が相次いだ。梅雨前線が九州付近に長くとどまり、太平洋高気圧の縁を回るように大量の水蒸気が流れ込んでいることが要因とされる。この時期は同様のメカニズムで豪雨が起こりやすく、気象庁は注意を求めている。気象庁気象研究所によると、7月に「3時間降水量が130ミリ以上」の豪雨が起きた頻度は、2020年までの45年間で約3.8倍に増えた。梅雨の時期に起きた集中豪雨の多くは、積乱雲が発達して連なる線状降水帯を伴うものだという。6月下旬〜7月上旬の梅雨時期は、日本の南側から張り出した太平洋高気圧の縁を回るようにして暖かく湿った空気が大量に梅雨前線に送り込まれやすくなる。とくに今年は上空の偏西風が弱いことなどから梅雨前線が九州付近に停滞。7日午後からは九州北側の対馬海峡の周辺にとどまり、雨雲のもととなる大量の水蒸気が流入し続けた。17年の九州北部豪雨でも九州の北側に梅雨前線が停滞し、線状降水帯が発生した。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE151YT0V10C23A7000000/ (日経新聞 2023年7月15日) 秋田大雨で河川氾濫 秋田駅前が冠水、16日新幹線運休 発達した梅雨前線の影響により秋田県で15日、記録的な大雨となった。秋田市ではJR秋田駅前など市街地が冠水した。夜時点で14市町村に避難指示が出され、最高の警戒レベル5に当たる「緊急安全確保」も6市町村で発令された。秋田市添川地区の住宅が土砂崩れに巻き込まれ、4人が軽傷を負った。同市には避難所が開設された。秋田県は同日、15市町村への災害救助法の適用を決定した。秋田新幹線は運休が相次ぎ、16日は盛岡-秋田間で始発から終日運転を見合わせる。17日も見合わせる見通しだ。大雨で川の水位が上昇し、同県五城目町の内川川や秋田市内の太平川などで氾濫が発生した。八峰町の水沢ダムと秋田市の旭川ダムでは午後、大雨により貯水しきれなくなった水を下流に流す「緊急放流」が始まった。同県内での午後5時時点までの24時間降水量は秋田市で最大287.5㍉、男鹿市で244.0㍉、藤里町で237.0㍉、八峰町で219.0㍉など7カ所で観測史上最大となった。八峰町では既に7月の平年1カ月分を超えた。朝鮮半島から東北を通って日本の東に延びる前線に暖かく湿った空気が流れ込み、前線は16日にかけて東北に停滞し、活発な状態が続くとみられる。16日午後6時までの24時間予想雨量は多いところで東北北部で120ミリ、東北南部で100ミリの見込み。 *3-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15690019.html (朝日新聞 2023年7月17日) 脱・石油、サウジが見る夢 首相中東歴訪 岸田文雄首相の中東3カ国歴訪が始まった。いずれも日本が石油やガスの供給元として依存するペルシャ湾岸諸国だが、「脱石油」時代に向けて、国の姿を変え始めている。湾岸諸国は、日本に何を期待しているのか。日本は、この地域にどう関与するのか。 ■全長170キロスマートシティー・外交で存在感 岸田首相がまず訪れたサウジアラビア。世界最大の石油輸出国ながら、脱炭素時代を見据えた大改革を進めている。サウジ北西部の赤茶けた砂漠地帯に、うっすらと浮かぶ1本の直線。衛星写真がとらえた線は長さ170キロ。幅200メートル。道路ではない。これ自体が一つの街になるという。サウジの国政を取り仕切るムハンマド皇太子が2021年に発表したスマートシティー「ザ・ライン」の建設現場だ。将来的に900万人が住み、道路も車もなく、高速鉄道などで移動。石油ではなく、すべてを再生可能エネルギーでまかなう計画だ。ムハンマド氏は「自然を守り、人類の生存可能性を高めるモデルを作る」と語った。サウジでは、石油依存からの脱却を図る社会改革が進行中だ。その指針が、ムハンマド氏が副皇太子時代の16年に発表した「ビジョン2030」。産業の多角化や教育・医療改革、女性の社会参加などを含む野心的な内容だ。世界が脱炭素へ向かう中、良くも悪くも原油価格次第という産業構造の転換は、サウジにとっての喫緊の課題だ。振興を目指す新産業は再生可能エネルギーや観光、文化、スポーツなど多岐にわたる。すでに観光ビザの発給を始め、自動車ラリー、eスポーツなどの国際イベントを誘致。未開発の山岳地帯を会場に29年冬季アジア大会も招致した。サウジは中東地域で唯一のG20(主要20カ国)メンバーで、アラブ圏、イスラム圏の盟主的な存在だ。近年はその枠を超えて、外交面での影響力も高まっている。ウクライナ侵攻では、昨年3月の国連総会でロシア非難決議に賛成しつつ、ロシア制裁を強める欧米とは距離を置く。主要産油国でつくる「石油輸出国機構(OPEC)プラス」のメンバーであるロシアとの関係を重視し、親米国家ながら、米バイデン政権の原油増産要請をはねつけた。一方、ロシアとウクライナの間で捕虜交換も仲介するなど、バランスをとる姿勢が目立つ。3月には、中国の仲介で、敵対関係にあったイランと7年ぶりに外交関係の正常化で合意。敵対から和解へ、中東各地で進む流れを主導する。安全保障面で後ろ盾となってきた米国は、中東での存在感を低下させている。サウジは外交攻勢によって独自に安保環境を整え、脱炭素時代に向けた国造りに資源を集中させたい考えとみられる。新構想には、すでに中国や韓国が投資や技術面での協力を表明しているが、日本への期待も高そうだ。 ■日本、支援に前のめり 中国の影響力警戒 日本の首相のサウジ訪問は、20年1月の安倍晋三元首相以来で約3年半ぶり。岸田首相は昨夏に中東訪問を模索したが、新型コロナ感染で見送った。外務省幹部は「突出した国力を持つサウジを含む中東への訪問は、これ以上遅らせることはできなかった」と話す。背景には、中東での中国のプレゼンスの高まりがある。岸田氏はサウジのムハンマド皇太子との会談で、16年に合意した両国の協力に関する「日・サウジ・ビジョン2030」へのさらなる支援を表明する。その柱に掲げるのが、クリーンエネルギーや脱炭素技術の協力だ。首相周辺によると、日本企業の投資への関心も高く、同行の呼びかけが1カ月前だったにもかかわらず、約30社が集まったという。岸田氏は16日、日本を発つ前に「グローバルなエネルギー安全保障と現実的なグリーン・トランスフォーメーション(脱炭素化)の実現に向け、緊密な連携を確認したい」と記者団に語った。会談では、アニメなどの日本文化、観光、教育などでの交流の推進で一致する見通し。岸田氏は両国間の幅広い分野での連携強化により、サウジの中国への接近に歯止めをかけたい考えだ。ただ、中東情勢の専門家のなかには「サウジとの連携を強める国際社会の中で日本は周回遅れだ」と指摘する人もいる。中国の影響力がさらに高まれば、日本のエネルギー政策にも影響しかねないと懸念する。岸田氏はまた、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を呼びかける。日本は今年、主要7カ国(G7)の議長国を務めており、首相周辺は「日本は中東やグローバルサウスと西側をつなぐポジションにあり、それを生かすことが重要だ」と話す。ムハンマド氏との信頼関係の構築も重視する。サウジは「中東全体を動かすパワーを持つ」(外務省幹部)ため、現在37歳の同氏との関係は、将来にわたる日本の国益につながると踏む。ただ、18年にトルコで起きたサウジ人記者殺害事件をめぐっては、ムハンマド氏の関与が疑われ、米国が問題視している。 ■<考論>存在感低下、技術や投資で関与を 日本エネルギー経済研究所理事・保坂修司氏 日本の石油輸入量の9割以上を占める中東の安定は、日本の経済安全保障という観点から重要だ。ウクライナ戦争を引き金にしたエネルギー危機で、世界的に中東の重要性は高まっているが、近年、中東での日本の存在感は低下している。湾岸諸国は、石油依存からの脱却をめざす。石油を売ったお金を石油以外の分野に投資し、経済を多角化すべく、急速に改革を進めている。首相が訪れる3カ国が日本に期待するのも、「脱炭素」に向けた協力や投資だろう。注目されている水素技術は、日本にも先端技術がある。こうした分野で協力関係を構築していくべきだ。安く安定的に石油やガスを供給できる地域は、今後も中東以外は考えにくい。首脳レベルでの関係強化は欠かせない。中東の人口は増加が見込まれ、経済的にも潜在力を秘めている。紛争が多く、政情不安に陥りやすい地域であるため、(企業が進出に)二の足を踏むのもわかる。ただ他国や他国企業も、一定のリスクをとって関与し続けている。日本側にもそうした姿勢が必要だ。 *3-3-2:https://ideasforgood.jp/2016/09/14/drone_baoan/ (Ideas For Good 2016年9月14日) 世界初、ドローン専用の高速道路?深圳が描く未来都市 約1,500万人の人口を抱え、今や中国はおろか世界を代表する経済都市として「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでになった中国広東省の深圳で、また新たな一大プロジェクトが始まろうとしている。深圳の西部にある宝安(Bao’an)を走る高速道路、「G107」周辺地域の再開発プロジェクトにおいて、その全容は明らかにされた。宝安地区の再開発に向けてAvoid Obvious Architectsらが提案したのは、世界で初めてとなるドローン専用の高速道路だ。ニューヨークのマンハッタンよりも長く、30kmに渡って宝安地区を横切るG107は、同地域を都市化が進むウォーターフロントエリアと自然が残されたままの内陸エリアに分断し、都市の持続可能な発展を妨げる要因となっている。都市における高速道路の役割を再定義するところから始まった同プロジェクトは、「サステナビリティ」「つながり」「テクノロジー」「シェアリングエコノミー」「社会創造」「グリーン建築」の6つをテーマに置き、ドローンや自動運転といった最先端のテクノロジーと自然を融合させた近未来の都市の在り方を提示するものとなっている。大量の排気ガスを排出していた12車線の高速道路は、4車線ずつに分かれた2つの道路として筒状の空中トンネルの中に格納され、大気汚染の問題が解決される。そしてその空中トンネルの上に敷き詰められた緑の歩道を人々は歩き、都市と自然が一体化された暮らしを実現する。こうした環境に配慮されたスマートシティ構想は深圳以外にも世界中で進んでいるが、今回提示された都市ビジョンの中でひと際人々の目を引いたのは、何といってもオフィスビルを貫くドローン専用の高速道路の存在だ。現在、ドローンは産業分野での活用が期待されているテクノロジーの一つだが、その中でも特に関心が寄せられているのが、輸送・物流分野における革命だ。ドローンを活用した新たな空中の物流インフラを構築することができれば、地上のトラック輸送・物流を大幅に削減することができ、利便性はもちろん環境面におけるプラス効果も期待できる。しかし、ドローンが空中を安全かつ効率的に飛び回り、輸送インフラとしての機能を果たすためには、ドローン輸送を前提とする都市計画が必要となる。そこで今回提案されたのが、ドローン専用の高速道路なのだ。ドローンの輸送導線を考慮したビル設計を行うことで、効率的な輸送インフラが実現し、テクノロジーと利便性、環境へ配慮が一体化した都市が実現するというわけだ。今回プロジェクトを提案した香港とニューヨークに拠点を置く建築デザイン会社のAvoid Obvious Architectsは、今回のプランを段階的に実現し、2045年までにこの自然とテクノロジーが融合した未来都市を完成させる計画だ。今から約30年後の2045年、世界の都市はテクノロジーと共にどのような進化を遂げているのか。そして、そこで私たちはどのような暮らしをしているのか。想像するだけで夢は膨らむが、その未来を現実にするための最初の一歩は、既に始まろうとしている。 *3-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230628&ng=DGKKZO72254030X20C23A6KE8000 (日経新聞 2023.6.28) 地方経済をどうするか(下) 自治体財源・議会の改革カギ、浦川邦夫・九州大学教授(うらかわ・くにお 77年生まれ。京都大学博士(経済学)。専門は応用経済学、福祉政策) <ポイント> ○過度な都市集積は成長にプラスと限らず ○地方消費税率上げなどで自主財源強化を ○地方議会での年齢枠・女性枠導入も一案 戦後から今日に至るまで程度の差はあるが、日本の地域格差のほぼ一貫した特徴として、東京圏、とりわけ東京都への人口・企業の集中の傾向が挙げられる。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」を基に、2022年の人口移動の状況を確認すると、都道府県別の転入超過率は埼玉県が0.35%と最も高く、神奈川県(0.30%)、東京都(0.27%)、千葉県(0.14%)が続く。東京圏全体で10万人弱の転入超過だった。東京都の転入超過率は前年に比べて最も大きく上昇(0.23ポイント)しており、コロナ禍でやや沈静化していた東京一極集中の傾向が再び鮮明になりつつある。政府統計によると、東京都の1人当たり所得は575.7万円(19年度)と全国平均の約1.7倍で、2位の愛知県の366.1万円を大きく引き離す。東京都の上場企業本社数(22年7月)は2122社で、全国の約54%を占める。東京都の高い所得水準や多様な企業の存在は地方から多くの人材を引きつける。筆者は10年代前半に9千人規模の調査を用いた共同研究で、回答者の幼少期以降の地域移動のパターンと現在の所得水準の関係を検証した。小中学生時点で東京圏以外の地域に居住し、調査時点で東京圏に居住する回答者(地方から都市への移動経験を持つ回答者)は、他の移動タイプ(移動経験なしを含む)の回答者と比べ、一般に所得水準が高い傾向が確認された。これは、もともと人的資本の水準が高い優秀な人材が自己の選択により経済合理的な判断から都市に移動するとしたトルコ・コチ大学のインサン・ツナリ氏らの分析を支持する結果だ。都市の最適な人口規模を考えるうえで「ヘンリー・ジョージの定理」が知られる。住民の効用を最大化させるような最適な人口規模がどのような条件下で達成されるかについて、都市集積のベネフィットとコストの差に注目した定理だ。東京圏など特定地域に労働や資本が集まることは、規模の経済や集積の経済を通じて日本全体の平均的な生産性を高める効果が期待される。一方で、過度の集積は混雑や騒音などによる地域住民の生活環境の悪化をもたらし、出生率の低迷や福祉水準の低下につながりうる。大規模災害や環境汚染に対する脆弱性への対応も重要な論点だ。立正大学の西崎文平氏は、20世紀後半以降のデータを基に大都市集中と経済成長の関係に関する各国の先行研究を調べた。その結果、近年は主に先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となる研究が目立つと指摘した。すなわち経済規模が一定水準を超えて成熟した国については、大都市への集中が成長にポジティブな影響を与え続けるとは一概にはいえない。「県民経済計算」を用いたアジア成長研究所の戴二彪氏の分析は、「労働年齢人口」の伸び率の低さが「1人当たり県内総生産」の伸び率の低さと関連している点を指摘する。このことは、日本の地域経済成長および全国の経済成長に対し、社会移動に加え、出生数の減少や高齢化など人口構造変化への対策が本質的に重要なことを示唆する。14年制定の「まち・ひと・しごと創生法」は、人口減少・高齢化・労働力不足などの地域的課題を解決すべく「地方創生」を国の重要な政策として位置づけ、自治体に様々な取り組みを求める。具体的には、各自治体が地方創生に関する計画を立案し、国がその計画を支援する形が採られた。だが現状の社会経済指標(人口移動、経済成長など)を踏まえると、全体としての取り組みには課題が残る。ここでは、必要とされる視点やとるべき方策について主に2点指摘したい。第1に地域のあり方を決める主役はその地域の住民であることから、地方創生に向けた取り組みは自治体ができる限り自主財源(地方税など)を駆使して実施する形が望ましい。しかし現行の自主財源比率は7割を超える自治体もある一方で、過疎地では2割を割り込む自治体もある。財源の多くが国の判断に左右されやすい状況下で、毎年の歳入・歳出規模が決定される構造が自治体には定着している。財政面での国と地方の関係性も、人口の東京一極集中を助長した一因だ。宮崎雅人・埼玉大教授は地方版総合戦略の策定にあたり、多くの自治体が国からの地方創生関連交付金を基に、東京都に本社がある業者に外部委託した点を指摘する。地域政策の経済効果が地元の経済にどの程度還元されているかを検証する手法として産業連関分析があるが、使用財源を明確にした形での経済効果の検証が求められる。自主財源を高める措置としては、税収の地域間格差が比較的少ない地方消費税の税率引き上げなどが検討に値する。第2に町村など人口が少ない地域では既に高齢化が相当進んでいるが、実際の人口分布以上に政治家(地方議員)の年齢階層が高齢者に集中しているという問題への対応が必要だ。総務省の「地方選挙結果調」によると、19年4月実施の統一地方選で当選した全国約1万5千人の地方議員のうち、39歳以下は7%で、町村議に限れば3%を下回る(表参照)。地域の現場で長期的な展望に立って政策を進める若手政治家が非常に不足しているといえる。他方、無投票で当選・再選を果たす地方議員は増加傾向にある。19年統一地方選の無投票当選率は市議選では2.7%にとどまるが、町村議選では23.4%にのぼる。人口減少が進む町村では成り手不足が一層深刻化しており、立候補者が定数に至らないこともある。日本の地方議員は、大企業で働く会社員や常勤の公務員に比べて必ずしも経済的に恵まれているとはいえない。会社員の立候補者が選挙運動のための休暇をとることや、議員に就任した一定期間後に従前の職または同等の給与が得られる地位に復職できる制度は海外諸国と比べて不十分だ。企業の勤め人が地方選挙に出るという選択は、家族を養うこととの両立が難しく、結果として就労世代の住民が政治の現場に関わりにくい状況にある。地方創生にかかる政策の推進を正面から支援するには、議員定数の中に年齢枠や女性枠などを設ける「クオータ制」の導入や地方議員の報酬増を検討すべきだ。東京圏への人口・産業集中をさらに進めるべきか、あるいは地方分権を進めて自立した経済圏を持つ複数の都市を中心とした多極化を目指すべきか、国と地域の望ましい将来像に対して様々な議論がある。短期的には人口が集中する東京圏の生活環境(子育て、教育など)の改善が重要な課題だが、中長期的には東京以外にも様々な人材・産業が集積する拠点を整備する方向性が望ましい。特にコンテンツ、ソフトウエア・システム開発、研究開発、デザイン、芸術などの創造的な産業は、IT(情報技術)を駆使して空間的な距離を克服しやすいことから、地方での立地のさらなる増加を目指すべきだ。 <原発は温暖化対策にならないこと> PS(2023年8月7日追加):*4-1のように、東京・埼玉・千葉・横浜・水戸・静岡等で危険な暑さが続き、宇都宮・前橋も厳重警戒だが、内陸である埼玉県の暑さは東京・千葉・横浜を上回る。この極端な高温増加の背景にはCO₂の排出など人間活動による地球温暖化の影響が大きいが、コンクリートとアスファルトで覆った街やエアコンが吹き出す熱も影響が大きいだろう。 CO₂排出による地球温暖化を阻止するには再エネが一番だが、政府は脱炭素化に向けた基本方針として原子力基本法で「原発事業者が安全投資と安定的な事業ができる環境を整備する施策を国が講じる」と決め、*4-2-1・*4-2-2のように、電力会社が既存原発の再稼働に投じた巨額の安全対策費を再エネ由来の新電力と契約している消費者にまで負担させる制度導入を検討するとのことである。しかし、原発のコストは、原発にかかる全ての支出を合計して出すべきであるため、いつまでも政府や再エネ事業者から拠出を受けなければならないような原発のコストはとんでもなく高いのである。また、大手電力会社を護るために再エネ事業者に犠牲を強いているため、イノベーションも進まない。さらに、原発は大量の温排水を出して海水温を上げているため、地球温暖化阻止に役立っているかどうかも、本当は疑わしいのである。 このような中、*4-3のように、1974年に運転を始めた関西電力高浜原発1号機が、「原則40年」の運転期間を延長して12年ぶりに再稼働し、事故時の避難計画の実効性や使用済核燃料の扱いなど課題は残ったまま、設計は古く、コンクリートやケーブルの劣化も懸念されるのだそうだ。関電の大飯・美浜原発、日本原電の敦賀原発が林立する福井県の若狭湾沿いは、もともとは好漁場だったのだが、事故が起こればフクイチどころではない日本海沿岸の汚染になるにもかかわらず、そこで40年ルールを形骸化させたことは住民の安全と食糧自給率を無視した対応だ。仮に避難路が使えたとしても、どこにどれだけの期間避難し続けたらよいと思っているのか。それに加えて、使用済核燃料の中間貯蔵施設や最終処分場確保も見通せないのである。 なお、*4-4-1のように、フクイチのアルプス処理水を海洋放出するにあたり、“風評対策”として300億円が2021年度補正予算に計上されたそうだが、これも国民の税金から支出する原発のコストだ。そして、これは水産物の販路拡大支援のために使われるぞうだが、サバ・イワシ等の冷凍しても市場価格が落ちにくい水産物は買い取って冷凍保管し市況が回復してから販売、マダイ・ヒラメ等の冷凍に向かない水産物はネット販売経費助成や企業の食堂で提供する補助金に使うそうだ。しかし、この政策は、「国民が忘れるのを待つ」という意味で国民に対して不誠実であることこの上ない。仮に「基準値以下なら蓄積することなく、全く無害である」と主張するのなら、国の補助金など使わず、無害だと主張する東電はじめ原発関連企業や経産省の食堂で毎日提供すればよいだろう。処理水排出期間中、それを続けても他の国民と比較して癌や心疾患の発生率に有為の差がなければ無害だったと言える。なお、魚介類は、人間と違って超多産多死で生存期間が短いため、抵抗力のある個体だけが生き残り、蓄積も少ない。そのため、処理水を流しても平気な魚介類がいるからといって、人間もそうとは限らない。 このような中、中国電力と関西電力は、*4-4-2のように、山口県上関町に「中間貯蔵施設」建設を検討し始め、2011年のフクイチ事故後に原発建設が中断して財政逼迫している上関町と6基が稼働して使用済核燃料貯蔵プールが5~7年でいっぱいになる関電との思惑が一致し、経産省も政府の方針に沿ったものであることを示唆しているそうだ。つまり、原発を立地すれば国の交付金などの原発マネーが入り、使用済核燃料の中間貯蔵や最終処分にも税金を使うのだ。しかし、四国沖の広い領域で南海トラフ地震が予想されているのに、活断層そのものである瀬戸内海の入り口にあたる上関町に原発関連施設を作るというのは安全性に疑問があり、町が10年持たないのなら周辺市町村と合併して地域振興を考えるのが町民や国民に迷惑をかけない方法だ。なお、空冷式であれば温排水は出ないが、その熱は空気中に発散するのである。 ![]() ![]() ![]() 2023.8.7毎日新聞 埼玉県 ![]() (図の説明:左図のように、地球温暖化によって猛暑や豪雨の頻度が上がり、中央の図のような対応策が考えられている。そのような中、原発は地球温暖化対策の解にはならず、右図の山口県上関町は原発の立地だけでなく、中間貯蔵施設の立地でさえ危ない場所である) *4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/268361 (東京新聞 2023年8月7日) <熱中症予報・7日>「危険」は東京都心、さいたま、千葉、横浜、水戸、静岡 「厳重警戒」は宇都宮と前橋 首都圏では7日、熱中症について、東京都心とさいたま、千葉、横浜、水戸、静岡の各市で「危険」、宇都宮、前橋の両市で「厳重警戒」と予測されている。「危険」は「外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。運動は原則中止」とされ、高齢者の熱中症は「安静状態でも発生する危険性が大きい」と警告されている。各地の熱中症予報は、本紙が前日夜に環境省熱中症予防情報サイトを確認し、時間帯別の暑さ指数のうちで最も高い水準を選んだ。予測は定期的に修正され、情報サイトで公開されている。 ◆予防には冷房、水分・塩分補給、休憩を 熱中症は、汗をかくなどの体温の調整機能のバランスが崩れ、どんどん身体に熱が溜まってしまう状態で、最悪の場合、死に至る。気温や湿度が高いときや、脱水、二日酔いや寝不足、激しい運動などによって引き起こされる恐れがある。予防には、暑い場所を避け、水分・塩分をこまめに補給し、積極的に休憩をすることが大切だ。屋内で熱中症になるケースも多いため、エアコンで十分に室内を涼しくすることが重要。省エネとの両立では設定温度は28度が目安になるが、状況次第では実際の室温が28度まで下がらないこともある。室温を測りながら、体調に合わせて快適な温度まで下げることが望ましい。 ◆極端な高温、背景に地球温暖化 熱中症の発症リスクは35度以上の猛暑で特に高まる。地球温暖化によって極端な高温の起きやすさや深刻さは増している。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年に公表した最新の評価報告書では、人間の活動によって起きた気候変動で、極端な高温の頻度や強度が増加してきたとの見方が示されている。発電所や車、工場などあらゆる分野で温室効果ガスを出し続けてきたことの影響が既に現れているという。日本では、熱中症による死亡が1000人を超えた2018年7月の記録的な猛暑について、気象庁気象研究所などの研究チームは、温暖化の影響がなかった場合に発生した確率は「ほぼ0%」と推定。世界の気温上昇を1.5度に抑える国際的な目標を達成しても、日本の猛暑日の観測は今の約1.4倍になると予測した。 *4-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/265526 (東京新聞 2023年7月26日) 原発再稼働費を消費者が負担 電気料金で新電力と契約でも 経済産業省は26日、電力会社が既存原発の再稼働のために投じた巨額の安全対策費を、電気料金を通じて消費者から回収できるようにする制度の導入を検討すると明らかにした。脱炭素に貢献する発電所の新設を支援する制度の対象に、既存原発を加える。導入されれば、再生可能エネルギー由来を売りにする新電力と契約している消費者も、再稼働費用を負担することになる。政府は2月、原発の「最大限活用」を盛り込んだ、脱炭素化に向けた基本方針を決定。5月に改正した原子力基本法は、原発事業者が安全投資と安定的な事業ができる環境を整備する施策を、国が講じるとした。制度は「長期脱炭素電源オークション」で、脱炭素化と電力安定供給の両立を目指し、来年1月に導入する。電力小売事業者から拠出金として集めたお金を発電事業者に分配し、運転開始から20年間の収入を保証することで、投資を促す。再生可能エネルギーや、CO2の排出を新技術でゼロにする火力発電所のほか、原発の新設や建て替えなどを対象としている。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230727&ng=DGKKZO73083220W3A720C2EP0000 (日経新聞 2023.7.27) 経産省、原発安全対策費を支援 再稼働後押し 原資は電気代 経済産業省は26日の有識者会議で、原子力発電所の再稼働に欠かせない安全対策費の支援策を検討する方針を示した。温暖化ガスの排出削減につながる新規の発電所への支援制度の対象に追加する方向だ。電力会社の巨額負担を減らし、政府が目指す原発の活用促進につなげる。政府は2024年1月に、原則20年にわたって電力会社などに固定収入を保証する「長期脱炭素電源オークション」という新制度を始める。これまで支援対象を水素やアンモニアを燃料に使う火力発電所や大規模蓄電池、新設・建て替えの原発などと定めていた。経産省は26日に開いた会合で、この対象に既存の原発を含めることを検討する方針を示した。実現すれば、大手電力が進める原発の再稼働に向けた安全対策費用の負担が減る。原発の安全対策費は電力11社の総額で5兆円超が必要とされる。例えば関西電力は安全対策に1兆円程度かかるとみており事業者にとって巨額の費用負担がのしかかる。こうした支援の原資は電力の小売会社から集める。国の認可法人の電力広域的運営推進機関がオークションを開いて小売りから資金を集め、発電企業に配る仕組みだ。電力会社が消費者の電気料金を通じて捻出する仕組みが想定される。結果として、幅広い利用者が再稼働の費用を負担することになる。6月には東電など大手電力7社が家庭向け電気料金を値上げしたが、さらなる負担増につながる可能性がある。再生可能エネルギーの導入が進むなか、火力発電所は再エネのバックアップとしての役割が強まっている。ただ火力の採算性は悪化しており、将来供給力が不足する恐れがあった。経産省は必要な電源投資が不足しかねないとの問題意識から、支援対象の拡大を目指す。岸田政権は原発再稼働を掲げているが、現在までの再稼働実績は10基にとどまる。資源エネルギー庁によると30年度に原発で電源の2割程度をまかなう目標の達成には少なくともさらに15基の再稼働が欠かせず、ペースを加速する必要がある。 *4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15704188.html (朝日新聞社説 2023年7月31日) 高浜原発稼働 不安と疑問、抱えたまま 1974年に運転を始めた関西電力高浜原発1号機(福井県高浜町)が、12年ぶりに動き出した。「原則40年」の運転期間を延長しての再稼働であり、事故時の避難計画の実効性や、使用済み核燃料の扱いなど、重い課題は残ったままだ。不安と疑問を禁じ得ない。高浜1号機は、定期検査中に東日本大震災が起き、運転停止が続いた。東京電力福島第一原発事故を踏まえて原発の運転は原則40年とされ、「1回だけ最長20年延長可」の例外規定が設けられた。高浜1号機にもこれが適用され、原子力規制委員会の審査を経て、16年に延長が認可されていた。だが、半世紀前につくられた原発は設計自体が古い。原子炉の停止期間を含め、コンクリートやケーブルの劣化も懸念される。40年ルールには、原発依存度を低下させることに加え、そうした老朽化に伴うリスクを減らす意味もあったはずだ。しかし、政府は20年延長の例外規定を次々と適用してきたうえに、前国会の法改正では60年を超える運転を可能にし、ルール自体を形骸化させている。事故の教訓を投げ捨てる姿勢と言わざるをえない。「原発復権」の中での再稼働は、老朽化以外にも様々な未解決の難題を突きつける。高浜原発がある福井県の若狭湾沿いは、関電の大飯、美浜両原発、日本原電の敦賀原発も立地する「原発銀座」だ。事故の想定と対応は複雑になる。地形上も避難路が限られるなかで、計画通りに退避できるのか。住民の不安は根強い。「発電後」の問題もある。関電は福井県に対し、県内3原発にたまり続ける使用済み核燃料について、県外に中間貯蔵施設を確保すると約束してきた。最終的に今年末を期限としたが、候補地のメドが立っていなかった。ところが関電は先月、高浜原発分の一部を再処理工場があるフランスに搬出すると公表し、それをもって「約束はひとまず果たされた」と説明した。だが、この搬出分は3原発にある総量の5%に過ぎず、関電の詭弁(きべん)に驚く。県民から反発がでるのも当然だ。しかも、関電は9月にも高浜2号機を再稼働する。さらに同3・4号機の20年間の運転延長も申請中だ。無責任と言うしかない。問題の構図は、すべての原発に共通する。背景には、使用済み燃料を再処理する核燃料サイクル政策の行き詰まりがある。さらに、最後に残る高レベル放射性廃棄物などの最終処分場の確保も見通せていない。電力業界と政府は、高浜原発が示す現状を直視すべきだ。 *4-4-1:https://mainichi.jp/articles/20211126/k00/00m/040/252000c (毎日新聞 2021/11/26) 福島第1原発処理水 海洋放出の風評対策に300億円 補正予算案 東京電力福島第1原発でたまり続ける処理水の海洋放出を巡り、経済産業省は26日、水産物の風評被害に対応する基金のために、2021年度補正予算案に300億円を計上すると発表した。水産物の販路の拡大などを支援する。原発事故による風評被害への対策に国費が投入されることになる。政府と東電は23年春から処理水を海に流す方針を示している。経産省は、補正予算案が成立すれば、基金の管理や運営を担う団体を公募し、22年3月までに基金を創設したい考えだ。基金の事業では処理水の海洋放出に伴う風評被害が起きた場合、漁協などがサバやイワシなど冷凍しても市場価格が落ちにくい水産物を買い取って冷凍保管し、市況が回復してから販売することを想定している。その際、冷凍保管にかかる費用や買い取り資金を借りた場合の利子を補助する。一方、マダイやヒラメといった冷凍に向かない水産物では、ネット販売にかかる経費を助成したり、企業の食堂で提供するのに補助金を出したりすることなどを検討している。基金の対象は福島県産だけでなく、全国の水産物になる。経産省は、基金の費用を22年度の当初予算に計上する方針だったが、放出前から風評被害が生じる可能性があることから、前倒しした。風評被害による損害そのものへの賠償は、東電が別の制度で実施する。経産省の担当者は「基金の運用益だけで事業が回るとは想定していない。政府には風評の影響に対応する責務があり、国費を投入することになる」と説明する。処理水の放出には30~40年かかるとみられており、経産省は基金の残高が不足すれば追加の拠出も検討する。一方、漁業関係者らは、海洋放出に反対している。 *4-4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASR826R2LR82PLFA00G.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2023年8月2日) 背水の関西電力、「原発マネー」に頼る町 両者を結んだ中国電力 中国電力と関西電力が共同で山口県上関(かみのせき)町で検討をはじめた「中間貯蔵施設」の建設。施設確保に苦戦する関電、財政が逼迫(ひっぱく)する町など、それぞれの思惑がうずまく。一方、国が描く核燃料サイクルにとっては、急場しのぎの面も垣間見える。中国電が関電と中間貯蔵施設の共同開発に踏み切ったのはなぜか。「事業者間でしっかり連携してほしいということは、国もずっと言い続けていることだ」。原発政策を担う経済産業省の幹部は、今回の動きが政府の方針に沿ったものであることを示唆する。原発を保有する大手電力はそれぞれ使用済み燃料の保管場所を確保する必要がある。だが、中間貯蔵施設をつくるには地元との調整や費用など課題が多い。用地確保は特にハードルが高い。「全国にそう何個もつくれるわけがない」(同幹部)ため、政府は共同利用するなど融通策をとるよう促してきた。大手電力でつくる電気事業連合会も「事業者間の連携・協力をより一層強化する」との方針を掲げている。複数の関係者は、こうした背景に加えて、中国電と関電の利害が一致したとも指摘する。中国電は大手電力の中でも経営規模は中位。中間貯蔵施設を単独で建設し、運営するのは「財務面で難しい」(大手電力関係者)ともされる。隣接地域の九州電力や四国電力と組もうにも、両社は自前で原発敷地内に貯蔵場所を確保している。一方の関電は、経営規模が売上高ベースで中国電の倍以上。福島第一原発事故で事実上国有化されている東京電力に代わって、電力業界の盟主となったが、中間貯蔵施設の確保に苦戦していた。施設の規模は未定だが、中国電は、関電の使用済み核燃料の貯蔵量の方が多くなることも「可能性としてはある」とする。6基が稼働している関電の原発では、使用済み核燃料を貯蔵する原発内のプールがあと5~7年でいっぱいになる見通しだ。関電は2030年ごろに2千トン規模の中間貯蔵施設の確保を目指すが、実現の糸口はつかめていなかった。「確保できていないとあふれる。貯蔵しきれない、というわけにいかない」。ある関電幹部は、差し迫った状況をこう語る。関電は自社の3原発が立地する福井県に対して、県外に中間貯蔵の施設を確保すると約束してきたが、先送りを繰り返してきた。21年には約束の「最終期限」を23年末とし、守れなければ、稼働中の美浜3号機と高浜1号機、9月にも再稼働予定の同2号機の計3基を運転しないとする方針を示した。背水の関電は6月、高浜原発で出た使用済み核燃料のごく一部をフランスへ搬出すると表明。関電側は「約束はひとまず果たされた」との認識を示した。しかし、約束が果たされたかどうかの「ボール」は福井県側の手中にある。県議会では「詭弁(きべん)だ」「小ばかにしている」と反発が広がった。杉本達治知事は「総合的に判断したい」と態度を留保している。知事の判断次第では、ようやく再稼働にめどをつけた原発3基を止めざるを得なくなる。関電は上関町の中間貯蔵施設について、調査前であることなどから「まだ正式に中間貯蔵の計画地といえるものではない」とする。保守系のベテラン県議は「候補地に手を挙げてくれればありがたい」と取材に述べた。一方、杉本知事はこの日、記者団の取材は受けないと回答した。(岩沢志気、小田健司、吉田貴司) ●原発マネーに期待した上関町の財政逼迫 中間貯蔵施設を町内に建設する計画を提案された山口県上関町。報道陣の取材に応じた西哲夫町長は、「町議会の判断を仰ぎたい」と受け入れの是非の明言は避けたが、前向きな姿勢は随所ににじんだ。「このまま何もせずに町が10年もつかと言ったら相当厳しい」「交付金や固定資産税が入れば、町の財政が安定するのは間違いない」「安心できる施設だと思う」。そもそも、この日の中国電幹部の町訪問のきっかけを作ったのは、町側だ。町では、1982年に上関原発の計画が浮上し、2009年に中国電が敷地造成などの準備工事に着手。だが、11年の東京電力福島第一原発事故後、建設は中断した。町税収入が2億円に満たず、国の交付金や関連税収など「原発マネー」に期待していた町の財政は逼迫(ひっぱく)した。昨年12月、西町長は中国電力幹部に着工の見通しを尋ねたが、今年2月の返答は「現時点で着工の見通しは立っていない」だった。「原子力が1ミリも前に進まず、町を生かさず殺さずの状態でええんか」。こう考えていた西町長は今年2月、西村康稔経済産業相と面会。上関原発の建設について「早く目鼻をつけてほしい」と求め、交付金の増額を要望した。西村経産相は「上関町には長年ご迷惑をおかけしている。重く受けとめている」と語ったが、原発建設が進む確約は得られなかった。そうした中で、西町長が頼ったのが中国電だった。今年2月、中国電に新たな地域振興策を要請。この日がその「回答」だった。地域振興策として、中間貯蔵施設を提案されたことに、西町長に驚きはなかった。実は、かつて町側にも誘致案があったからだ。「中間貯蔵施設を選択肢の一つとして考えたい。議員も勉強しておいてもらえんか」。19年、当時の柏原重海町長が町議らに伝えた。当時、町議長だった西町長らは使用済み核燃料が乾式貯蔵される日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)を視察した。「よその核燃料を受け入れるなんてとんでもない」。視察前、原発推進の議員らの間にも否定的な見方があったが、貯蔵施設を見て「なんだ、倉庫じゃないか」と懸念が消えたという。中間貯蔵施設の核燃料は空冷式のため温排水も出ない、との説明も受けた。「まさしく百聞は一見にしかず」と、西氏は当時の柏原町長に報告していた。この40年で人口が3分の1ほどの2310人に減り、高齢化率が6割に迫る町は、中国電に何度も頼ってきた。中国電は07~10年度に24億円、震災後の18年に8億円、19年に4億円を町に寄付している。一方、中国電の経営は急速に悪化している。同社は火力発電に大きく依存しており、ウクライナ危機や円安による燃料費高騰などで赤字を計上。カルテル問題も重なり、町への寄付金や支援は見こめない状況だ。中間貯蔵施設を建設する自治体には、建設に向けた調査段階から交付金が出る。調査から知事の同意まで最大で年1・4億円、知事の同意後の2年間は最大で年9・8億円だ。建設や運転段階では貯蔵量などに応じて交付金が出る。ある町議は言う。「中間貯蔵施設なら、まだ原発をあきらめていないという理屈も成り立つし、国の交付金や核燃料税による財源も確保できる。中国電も町も、良い落としどころを見つけたということではないか」。ただ、原発計画の賛否を巡る対立は40年超に及び、中間貯蔵施設への激しい反対運動も予想される。2日朝、町役場前で中国電幹部の進入を阻止しようと住民らが集まり、「町の分断を続けるのか」と訴えた。 <高レベル放射性廃棄物の最終処分場について> PS(2023年8月16日追加):原発の使用済核燃料から出る高レベル放射性廃棄物は、最終処分場で地層処分(人間の管理に委ねなくて済むよう地下深くの安定した岩盤に閉じ込めて人間の生活環境から隔離して処分すること)になっており、日本では「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」で地表から300メートル以上深い地層に処分すると定められている(https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/hlw/hlw01.html 参照)。 そして、現在、最終処分場はなく、文献調査の候補地になるだけで最大20億円の交付金が国から入るため、*5の長崎県対馬市などのように、①土建業等の4団体が文献調査の推進を求める請願を市議会に提出し ②市民団体・漁協が出した反対の請願は不採択になり ③市議会特別委員会が国の「文献調査」を推進する請願を賛成多数で採択して市長に国に応募するよう迫ったりしている。市長は、これまで文献調査について慎重な姿勢を崩さず、「手をあげて『20億円もらったからもうやめる』という考えはない」と定例議会で述べていたが、④政府やNUMOは歓迎し ⑤岸田政権は「核のごみ」最終処分場の選定に全面関与する方針を打ち出し ⑥改正原子力基本法は「国が地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛けをする」と明記し ⑦経産省幹部は「北海道の寿都町と神恵内村に加えて対馬でも一歩進んだのは大きく、この動きが他の自治体にも広がってくれればいい」とし ⑧NUMO関係者は「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか。国家のエネルギー政策は重い。『入り口』である文献調査は受け入れるべきではないか」と言っているそうだ。 しかし、①の文献調査候補地になっただけで最大20億円の交付金をもらえるというのは、原発がいかに高コストかを示しており、②の土建業の積極性も国からの文献調査費や最終処分場建設費の流れが明らかだ。しかし、対馬市は対馬海峡の流れの速さに鍛えられた魚が美味しく、養殖マグロも肉質がよくて美味しいと高評価を得ている地域であり(https://nagasaki-keizai.jp/report/report-report/1270 参照)、国境離島でもある。そのため、ここに高レベル放射性廃棄物の最終処分場を作ることは、地域の長所を打ち消すと同時に、セキュリティー上も問題が多いのである。従って、④⑤⑥⑦は税金を無駄遣いしながら地域資源を台無しにする行為であり、予算も人材も不足している食料自給率の小さな国で税金を使うのなら、このような無駄遣いではなく活きた使い方をすべきなのである。活きた使い方とは、例えば再エネ開発や送電線の敷設、漁業・観光の振興であって、間違ってもそれを邪魔する行為ではない。 なお、最終処分場は、国境離島ではない無人島で既に施設のある場所(例えば「軍艦島」など)もしくは排他的経済水域内の数千m以上の深海などが安価でかつ必要な条件を満たしているが、それを可能にするためには、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」で地表から300メートル以上深い地層に処分するという規定を、まず変更する必要があるだろう。 *5:https://digital.asahi.com/articles/ASR8J5645R8JTIPE00L.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2023年8月16日) 核のごみを問う、長崎・対馬市議会、「核のごみ」最終処分場の調査「推進」請願を採択 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場をめぐり、長崎県の対馬市議会特別委員会は16日、国の選定プロセスの第1段階「文献調査」を推進する請願を賛成多数で採択した。市議会が比田勝尚喜市長に対し、国に応募するよう迫った形だ。北海道2町村に続く応募自治体となるか、注目される。特別委では、土建業などの4団体が6月に議会に提出した、文献調査の推進を求める請願について採決し、9票対7票の賛成多数で採択した。風評被害などを懸念する漁協などが出した、反対の請願は不採択となった。最終処分場の選定プロセスは3段階あり、文献調査は過去の論文などから処分場の候補地にふさわしいかを調べる。応募した自治体には、約2年間で最大20億円の交付金が国から入る。対馬市は人口減が進み、基幹産業の漁業や土建業は衰退が続く。このため、地元経済界などから、交付金がもらえる文献調査への応募を求める声が上がった。これに対し、市民団体や漁協が反対の請願を6件出して対抗するなど、島を二分する事態に陥っていた。今後の焦点は、比田勝市長の判断に移る。文献調査は、市長が応募を決めなければ始まらないからだ。市議会は9月12日に開会予定の定例会で、正式に推進の請願を採択する見通し。市長は16日、「特別委での議論・採決を踏まえて、さらに熟慮する」とコメントするにとどまった。早ければ9月議会で判断を示すとみられる。市長はこれまで文献調査について慎重な姿勢を崩していない。5月の定例会見で「手をあげて『20億円もらったからもうやめる』という考えはない」と述べていた。一方で、6月の市議会一般質問では「市議会での議論や市民の意見を参考にして判断する」と語った。 ●NUMOは歓迎 一方、今回の結果について、政府や処分場計画を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)は歓迎する。岸田政権は「核のごみ」最終処分場の選定に全面関与する方針を打ち出している。5月末に成立した改正原子力基本法では、国が「地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛け」をすると明記された。経済産業省幹部は「(すでに文献調査を受け入れている)北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村に加えて、対馬でも一歩進んだのは大きい。この動きが他の自治体にも広がってくれればいい」と話す。ただ、対馬市については世論が二分していることから、「まずは地域で丁寧に議論を深めていただくのが重要」(西村康稔経産相)との姿勢を保ってきた。NUMO関係者は、市議会特別委の結論を強調し、「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか。国家のエネルギー政策は重い。『入り口』である文献調査は受け入れるべきではないか」と話す。
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2023,06,05, Monday
(1)先進技術の導入と国の財源のひねりだし
1)少子化対策について ![]() ![]() ![]() 2023.3.31東京新聞 2023.5.24佐賀新聞 2023.6.1東京新聞 (図の説明:左図が今後3年間で取り組む主な子育て政策だそうで、大切なものも多いが、整理すべき項目も少なくない。また、中央の図の児童手当拡充では第3子以降の金額が加算されているが、これは不要で、全員の義務教育無償化や公立大学の授業料減額に充てた方がよいと思う。一方、高齢者の医療費・介護費に関して自己負担割合を増やしたり、介護保険の給付やサービスを抑制したりするのは、マクロ経済スライドと称して年金支給額は下げ、一方で介護保険料は上げていることを考慮すれば、明確な高齢者いじめとなっている) 政府は、*1-1-1のように、こども未来戦略会議で「こども未来戦略方針」の素案を示し、①児童手当は親の所得にかかわらず、子が高校を卒業するまで受け取れるようにする ②3歳~高校生まで一律1万円で、第3子以降は0歳から高校生まで3万円支給する ③2024年度中の実施をめざし予算は2024年度からの3年間に年3兆円台半ば ④予算倍増時期は、こども家庭庁予算を基準に2030年代初頭までの実現をめざし ⑤予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵する ⑥16歳以上の子を養育する世帯主が受けられる扶養控除は給付との兼ね合いが検討課題 ⑦親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度」を創設し ⑧夫婦とも育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げて育児休業給付金も増やす 等としている。 このうち①②は、児童手当を配るなら「親の所得にかかわらず0歳~高校卒業まで」とするのが公平だが、「第3子以降は3万円支給」は「生めよ増やせよ論」であるため不要で、もしそこまで予算が余っているのなら、国民負担を増やさず他に使えばよいだろう。 また、③④の「年3兆円台半ば」というのも、イ)子を産み育てるためのネックは何か ロ)本当に子育てを支援するには何が必要か ハ)その支援でどういう効果があるか 等の吟味が行われておらず、「始めに額ありき」で無駄遣いが多くなりそうだ。 そして、⑤のように、少子化対策の予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵するそうだが、年齢を問わず人を大切にするのではない哲学とその哲学に基づく日本の政策はスウェーデンとは全く異なる。 ⑥については、「高校生の子を養育する世帯主が児童手当の給付を受けても扶養控除をなくすべきでない」という意見が多いが、これは所得税の計算方法を知らないか、欲の皮が突っ張りすぎているかであるため、所得税の計算方法を把握してからコメントすべきだ。 また、⑦の「希望する親が就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる」のは当然のことだ。何故なら、幼な子を持つ親は、そのインフラがなければ、一日中子と向き合って家に引きこもっていなければならず、買い物にも行けず、就職活動もできないため、社会的動物である普通の人なら欝になるのが当たり前だからである。 しかし、⑧については、夫婦一緒に育休を取得する必要はなく、28日程度の短期間の育休をとっても、その間に子が成長して手がかからなくなるわけではないため、現行の育児休業制度に関して取得状況や取得による効果を検証し、本当に必要な支援に集中する必要があろう。 2)少子化対策の財源について *1-1-2は、①政府は「異次元の少子化対策」の財源は示さず「年末までに結論を出す」とした ②医療保険料の上乗せ(年1兆円程度)や社会保障費の歳出削減(年1兆円強)を検討中 ③医療・介護を利用する高齢者の負担増 ④消費税増税は否定し、安定財源は2028年度までに確保、その間「こども特例公債」を発行 ⑤診療報酬・介護報酬抑制は医療・介護の人材不足に拍車をかけ、「医療・介護が崩壊する」との反発もある ⑥財政制度等審議会は「後期高齢者医療費窓口負担の原則2割化」「介護保険2割負担の範囲拡大」を提案 ⑦高校生扶養控除(現行16〜18歳の子1人につき所得額から38万円控除)の見直し方によっては児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性 ⑧2010年に中学生までの子ども手当創設に合わせて15歳以下の扶養控除は廃止 等を記載している。 ⑦⑧については、毎月1万円(年間12万円)の児童手当は所得税率31.6%(=12万円/38万円)以上の人ならもらう額より手取り減の方が大きいが、所得税率を31.6%以上支払う人というのは、その他の所得控除額を差し引いた後で所得が900万円以上(所得税率33%)残る人である。一方、配偶者控除は、1000万円以上の人は0になるため、900万円以上あっても児童手当をもらえるならよしとすべきである。そして、900万円以下の人なら手取りの減少額がもらう額より小さいため、児童手当の目的に合っているのだ。 しかし、②③⑥のように、総額だけを見てめくらめっぽう社会保障費を削減するやり方では、ただでさえ所得が少なくて生活の限界に達している高齢者にさらなる負担増・給付減を強いる上、⑤の診療報酬・介護報酬の抑制が医療・介護の人材不足に拍車をかけて医療・介護の崩壊に繋がることはコロナ禍で既に明確になっているため、ゆとりを増やすことはあっても減らすことがあってはならないのである。 このような中、④のように、安定財源には消費税増税しか思いつかない“有識者”や新聞が多いため、まず新聞にも消費税をかけるべきである。そして、発行した「こども特例公債」の返済には、以下に述べるような人を幸せにしながら行う歳出改革や税外収入の確保が必要である。 3)医療改革 イ)ゲノム創薬と治療 厚労省は、*1-2-1・*1-2-2のように、①約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積し ②蓄積したデータを一元管理し ③個人情報を保護しながら産業界や学術界が幅広く利用できるようにし ④創薬・難病診断・癌治療に繋げ ⑤産学共同事業体に参画する組織に利用資格を持たせ ⑥企業からはデータ利用料を取り、研究機関や大学は無料として ⑦得た知見を協力した医療機関とも共有し ⑧創薬等を通じて研究成果を癌や難病患者の治療に生かし ⑨1人1人の遺伝的特徴や体質に合わせて病気を治療できるようにし、早期発見や予防も可能にして、世界最高水準のゲノム医療を実現させ ⑩ゲノム情報の保護は十分に図られ、不当な差別が行われないようにすることを理念に掲げて 新組織を設立するそうだ。 このうち、①の約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積するのは、各国で行って現生人類のゲノムの分布状況がわかれば、人類の発祥・交雑・移動・感染症耐性等を、科学的・定量的に把握することが可能になり、創薬・診断・治療だけでなく人類史の研究にも非常に役立つ。 しかし、②のように、厚労省がデータを一元管理し、③⑤⑥⑦のように、産業界・学術界・協力医療機関等に幅広く利用させるのは、ゲノムという個人情報の利用が主目的と思われ、④⑧⑨の創薬・難病診断・癌治療はそのための建前のように見える。 何故なら、ロ)のように、アクセスできる情報量が2倍になれば誤謬発生のリスクは2乗になるのに、あまり訓練しておらず、守秘義務も理解していない人にデータをインプットさせるなど、かなりのリスクを無視して保険証とマイナンバーカードの1本化を急いでおり、そのやり方には、⑩のような、医療情報やゲノム情報を通じた差別を禁じ、人権を大切にする発想が全く見られないからである。 また、癌治療を例にとれば、本当に副作用が少なく治癒可能な治療を目指せば、いつまでも放射線治療や薬物療法(化学療法)を「標準治療」とするのではなく、速やかに免疫療法を「標準治療」としてその薬剤の安価な製造を推進すればよいのに、いつまでも著しい副作用を持つ薬物療法を「標準治療」として、多くの患者や家族に避け得べき苦痛を与えているからである。 さらに、新型コロナ感染症の例では、日本はワクチンすら作れず、抗ウイルス薬ができても厚労省が承認せず、経済に打撃を与えるまで国民を引きこもらせて運動不足にし、精神的苦痛も与えて高齢者の死亡を増やしたが、これらは人権を大切にする発想からかけ離れているのだ。 ロ)健康保険証とマイナンバーカードの一本化は高リスク 日本政府は、*1-2-3のように、「行政のデジタル化を進める」として、改正マイナンバー法を成立させ、2024年秋に現行の健康保険証を廃止する予定だそうだが、マイナンバーカードと保険証を一体化すれば、それだけ不正・誤謬の入り込む確率が上がる。つまり、本人にとって便利なことは、どういう動機を持っている人にとっても便利であるため、健康保険証とマイナンバーカードは別々にデジタル化を進めるのが無難なのだ。 そして、「行政のデジタル化」は、マイナンバーカードで進め、「医療・介護のデジタル化」は、よく訓練を受けて守秘義務も理解している専門家だけがアクセスできる保険証(デジタルでよい)を使って分けるのがよいと思う。 4)再エネの先端技術 イ)ペロブスカイト型太陽電池について ![]() ![]() ![]() すべて2023.4.3日経新聞 (図の説明:ペロブスカイト型太陽電池は、左図のように、コストが安くてビルの壁面等々いろいろな場所に設置できるため、中央の図のように、実用化を進めている企業が多い。また、右図のように、世界市場は急拡大する予想だ) 日経新聞は、*1-3-1で、①太陽光・風力・水素・原子力・CO2回収の5つの分野で注目される11の脱炭素技術の普及時期を検証 ②G7気候・エネルギー・環境相会合は浮体式洋上風力発電と並び「ペロブスカイト太陽電池等の革新的技術の開発推進」と共同声明に記した ③ペロブスカイト型は薄く、軽く、曲げられ、壁面や車の屋根にも設置できる ④材料を塗って乾かす簡単な製造工程なので価格は半額にできる ⑤ペロブスカイト型の2030年の設置可能面積は東京ドーム1万個分、発電能力600万キロワット(原発6基分) ⑥日本発の技術だが量産で先行したのは中国企業 ⑦基礎的部分の特許を国内でしか取得しなかったので、海外勢は特許使用料を払う必要がない ⑧従来の太陽光パネルも開発・実用化で先行したのは京セラ・シャープの日本勢で一時は世界の50%のシェアを持ったが、国等から補助を受けた中国企業が低価格で量産し市場の8割超を握って日本勢の多くは撤退した 等と記載している。 このうち、①②③④⑤⑥は事実だろうが、⑦は、「特許を国内でしか取得しなかった」という点で、あまりに価値がわからず、世界で売るつもりもなかったと言わざるを得ない。何故なら、この状況なら、日本企業であっても、ペロブスカイト型太陽電池は国内ではなく海外子会社で製造した方が有利で、⑧ともども、せっかく機器を製造してエネルギーを自給できるチャンスだったのに、自らそのチャンスを投げすてているからである。 しかし、ビルや住宅に取り付けて太陽光発電し、都市自体を仮想発電所にするには、ペロブスカイト型太陽電池は重要なアイテムになるため、安価で良いものができれば外国製でも買わざるを得ず、日本の技術はここでも置いてきぼりになりそうだ。そして、この調子では、財源をひねり出せそうにないのである。 ロ)蓄電池について *1-3-2は、①一般家庭が1ヵ月に使う電気200万戸超の太陽光発電電力(石油火力発電換算で200億円分)が使われず捨てられ ②九電は今年度、出力制御で受け入れない電力が最大7億4000万kwhに達すると発表 ③蓄電池に電気を溜め、電気が必要となる時間帯や市場で高く売れる時間帯に放電する取り組みが始まった ④住友商事は北海道千歳市で約700台のEV電池を使って大型蓄電所として北電の送電網に接続する ⑤トヨタは東電HDと提携し、新品EV電池を大型蓄電システム化して送電網に繋ぎ、再エネ電力を有効活用する実証を始める ⑥NTTは再エネ電源を確保するため、その電力子会社がJERAと再エネ会社を3000億円で買収する ⑦4月のG7環境大臣会合で、2035年に温暖化ガスを2019年比60%削減が確認され、異次元の再エネ導入に踏み込まないと達成不可能な数字 ⑧日本のEVは昨年やっと新車販売の2%に達したが、日本全体が保有する自動車のわずか0.25% ⑨EVグリッドは燃料費のかからない究極の国産エネルギー、再エネを限りなく無料に近づける挑戦 等と記載している。 このうち①②は事実だろうが、まだ解決せずに同じことを言っているのが呆れるのである。また、③④⑤⑥のように、蓄電池に電気を溜めて必要な時間に放電するのは、太陽光発電を導入した当初から言っていた当たり前のことなのに、⑦のように、今年のG7環境大臣会合の結果としての異次元の再エネ導入として、今頃あわてているのはむしろ驚きだ。 また、⑧のEVも、2000年代前半には実用化され市場投入もされていたのに、散々、EV普及の足を引っ張った挙句、まだ「日本の普及率は自動車全体の0.25%しかない」等と言い、今頃になって⑨のようなことを言っているのは恥ずかしくないのかと思う。今なら、「EVには蓄電池だけでなく、ペロブスカイト型太陽電池をモダンに搭載して、発電しながら走るEVに」と言うのが、やるべきことであろう。 *1-3-3は、⑩南オーストラリア州は再エネ普及で世界の先頭を走り ⑪太陽光・風力の発電量は州の年間需要157億kwhの約6割に相当し、2030年にすべての需要を賄って2050年には需要の5倍の供給能力を備えて輸出を見据える ⑫米テスラ等の蓄電大手が商機とみて同州に相次ぎ進出し、再エネ・蓄電池関連投資は60億豪ドル(約5500億円)超 ⑬日本で再エネ90%、残り10%を水素火力発電で補う場合、蓄電池が大量に必要で蓄電池が現在の価格なら日本の発電コストは2倍になる ⑭IEAは世界の脱炭素シナリオも2050年の再エネ比率を8~9割とみる ⑮電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギ ⑯有望なのはEVの活用で ⑰シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは岩石を熱してエネルギーをためる技術を開発し、コストを従来の蓄電池の1/5にした ⑱蓄電コストをどこまで下げられるか、脱炭素時代の電力は蓄電を制するものが覇者となる と記載している。 このうち、⑩⑪⑫は、日本の農林漁業地域でも全く同じことができ、オーストラリアより前からそう言っていたのに、「日本には適地が少ない」「日本には国産エネルギーはない」等々の変な理屈を重ねて変革しなかったことが他国より遅れた原因であるため、こういうことを言っていた人は、重大な責任を感じるべきなのである。 また、⑬のように、日本でやると何でもコスト高で、その結果、従来のやり方を踏襲するばかりで何も進まず現在に至っているが、コストを下げるのは工夫次第で、例えば、大量の蓄電池が必要でも、i) 原料を海底から採掘して国産化したり ii) 安価な材料に変更したり iii) 蓄電池ではなく水素を作って保存し、水素発電でバックアップしたり など、方法は多いのだ。 そして、その国の事情に合わせて方法を組み合わせれば、⑭のIEAの世界の脱炭素シナリオ(2050年の再エネ比率を8~9割)は容易に達成できる筈で、それこそ高コストの上に激しい公害が発生する原発の出番などはない。 従って、⑮⑯の電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギというのは事実で、EVの活用が有望というのは一つの選択肢だが、⑰のような他の方法もあれば、水素にして保存する方法もあるため、⑱の蓄電コストは工夫次第で下げられるのだ。そして、工夫がなければ、日本がまた敗退するのも明確なことである。 ハ)列車と送電線について ← インドの列車事故から ![]() ![]() ![]() 2023.6.3ANN 2023.6.4TBS 2023.6.5日テレ (図の説明:左・中央・右図のように、日本のTV各局がインドのオディシャ州で起き、275人の死者を出した列車事故について報道しており、原因は、列車の進路を制御する電子連動装置の不具合のようだ。しかし、3日たっても重機で列車を釣り上げて対応した様子がない) インドのアシュウィニ・ヴァイシュナヴ鉄道相が、*1-4-1のように、「インド東部オディシャ州で起きて死者275人・負傷者1175人を出した列車事故は、列車の進路を制御する電子連動装置の変更がおそらく原因だろう」との見方を示されたそうだ。 また、インド鉄道委員会のジャヤ・ヴェルマ=シンハ氏は、「2本の旅客列車が、青信号の下、時速130kmの速度制限を守って走ってきて本線ですれ違う筈だったが、1本の急行旅客列車が誤った信号で支線に入るよう指示を受け、支線にいた貨物列車に衝突して、脱線した車両が対向線路の旅客列車に衝突して起こった」「電子連動装置に問題はなく、信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだが、事故原因調査委員会がいずれ明らかにする」とされている。 そして、モディ首相は、「責任者を厳正に処罰する」としておられるが、広島G7サミットでクアッド首脳会合に出席した後、*1-4-2のように、南太平洋のパプアニューギニアで太平洋島しょ国首脳と会合を開き、太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に気候変動対策・食糧安全保障・デジタル技術などでの支援を打ち出して「我々は多国間で島しょ国とのパートナーシップを強化する。自由で開かれたインド太平洋を支持する」と言っておられたため、その影響で誤った信号が出されたのでなければよいがと思う。 いずれにしても、インドの鉄道はまだ古そうなので、高架にして燃料電池列車か新幹線か超電導リニアを走らせるように、国土計画を作り直してはどうかと思われた。なお、この時、鉄道線路に沿って送電線を敷設すれば、一度の工事で地方の再エネで発電した電力を大量に使う地域に送ることができるため、日本のインフラ関係企業がこれらのアドバイスを行い、インドの若者を雇用して、インドで製造するように手配し、受注すればよいのではないだろうか? (2)G7気候・エネルギー・環境相会合から ![]() ![]() ![]() 2023.3.21日経新聞 2021.8.9BBC 2023.6.2日経新聞 (図の説明:左図のように、産業革命前と比較して陸地の気温は既に2度上昇しており、中央の図のように、原因は温暖化ガスの排出という人為的なものだ。そのため、世界は温暖化ガスを排出しない再エネを急拡大しているが、公害や排気ガスを排出しないという要請も当然あるのだ) ![]() ![]() ![]() 2021.3.9中日新聞 2021.8.4Jetro 2023.2.28日経新聞 (図の説明:左図のように、2020年までの発電比率とその後の推計で、各国は著しく再エネ比率を伸ばしているが、日本だけが意図された低迷状態にある。また、中央の図の太陽光発電コストは設備容量が増えるに従って低減しており、これが装置産業の大原則だ。なお、右図のように、太陽光発電機器の種類が増えるにつれて、太陽光発電できる場所も広がる) 1)気候・エネルギー・環境相会合の全貌 G7気候・エネルギー・環境相会合は、*2-1のように、①自動車分野の脱炭素化は2035年までに2000年比でCO₂排出量を50%削減する進捗を毎年確認することで合意したが ②欧米が求めていたEVの導入目標ではなくHVも含めた脱炭素化を目指すことになり ③石炭火力発電廃止の時期は明示せず、化石燃料のCO₂排出削減対策が取られない場合は段階的廃止で合意し ④ ⑤環境分野ではレアメタルなどの重要鉱物は、G7各国が中心となってリサイクル量を世界全体で増加させること ⑥プラスチックごみによるさらなる海洋汚染を2040年までに0にする目標が盛り込まれ ⑦西村環境大臣は「共同声明で気候変動や環境政策の方向性を示すことができ、今後はこの方向性に沿った具体的な対策を進めていくことが重要」述べられた と記載している。 このうち①②は、世界でEVの普及が進む中、欧米各国が「EVの導入目標を定めるべきだ」と主張したのに、日本はHVが多いとして反対したり、既存のエンジン車で活用できる「合成燃料」の技術開発を強調したりしたのは、日本のガラパゴス化の始まりである。何故なら、EVの方が、部品点数が少ないため、コスト低減しながら生産性を上げ易い上に、操作性もよく、気候・エネルギー・環境のどれをとっても優れているからだ。そのため、これからはEVが世界で選択され、欧米各国が「日本は困った国だが、まあ、ご勝手に」を考えたのが目に見えるようなのだ。 また、工場などから排出されたCO₂を原料に合成燃料を製造すれば排出量を実質0にできるともしているが、わざわざCO₂をエンジン車の合成燃料に使用して都市で排気ガスを出すより、農地・山林・農業用ハウス等に撒いた方が植物の成長がよくなることは多くの研究が示している。 さらに、③の石炭火力発電は、段階的廃止に向けて期限を設けるのが正道であるのに、日本が「アジア各国の現状」などと称して廃止時期を明示せず、「(コストをかけて)CO₂排出削減の対策が取れない場合のみ段階的に廃止する」と主張したのは、方向が誤っている。 再エネについては、ペロブスカイト型太陽光発電パネルを普及させるなどして原発1000基分に相当する1テラワットまで拡大させるのが、最もコストが安く、電力需要地でスマートにまとまった電力を得られる。そのため、2030年までに洋上風力発電を原発150基分に相当する150ギガワットにする必要がどこまであるのか、海の環境破壊を防止するためにも、慎重に進めた方がよいと思われた。 EVのバッテリーや半導体材料となるリチウム・ニッケル等の重要鉱物は、中国との間で獲得競争が激しく、経済安全保障上の観点からも安定確保に向けてG7で1兆7000億円余りの財政支出を行って鉱山の共同開発などを支援するそうだが、日本政府は自国の排他的水域内にある重要鉱物や天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりして税外収入を増やそうとはせず、高いコストを支払って資源を輸入し、それによって他国との関係を保とうとしている。しかし、これは、国民を犠牲にしていると同時に、あまりに安易だ。 しかし、「プラスチックごみは、海洋汚染を引き起こす」として2040年までに0にする目標にしたそうで、リサイクルしたり、ゴミとして回収し燃やしつつ発電もして、土壌や海洋に廃棄していないプラスチックまで禁止して国民を不便にする必要は全くないのに、自国民を犠牲にすることについては非常に積極的で、私には全く意味不明だった。 2)G7で強く打ち出された再エネへの移行 G7広島サミットの共同声明で採択された気候変動・エネルギー分野は、*2-2-1のように、①再エネへの移行を強く打ち出し ②「パリ協定」で掲げた産業革命前からの気温上昇を1.5°に抑える目標達成に向けて太陽光発電を現在の3倍以上に増やす目標を掲げるなど世界の再エネ移行を進める土台を作り ③首脳会議でグローバルサウス(新興国・途上国)への再エネ移行支援が入ったが ④先進国はパリ協定で気候変動対策として年間1千億ドルを支援すると約束したが、果たしていない ⑤再エネのコスト低減、中国に依存するレアアース等の重要鉱物の供給網確保を示した「クリーンエネルギー経済行動計画」も別に採択した ⑥脱化石燃料では「段階的廃止」を打ち出したが、天然ガスへの公的投資を容認するなど抜け道も多い としている。 また、*2-2-2は、⑦世界で太陽光等の再エネ導入が急拡大し ⑧IEAは2024年の再エネ発電能力が約45億kwh(2021年の化石燃料に匹敵)になる見通しを公表 ⑨再エネ発電能力は2024年に全電源の5割規模だが、火力等に比べて稼働率が劣るため実際の発電量は5割以下 ⑩再エネは24時間は発電できないが、原発4500基分 ⑪安定電源としての活用には太陽光に比べて導入が遅れる風力の拡大など電源構成の多様化と送電網整備が課題 ⑫再エネ導入は、中国・EUが牽引役で米国・インドも存在感を増す ⑬日本の出遅れは鮮明 ⑭各国は燃料を他国に依存せずに済むとみて、再エネ導入を急いだ ⑮再エネの発電は天候に左右されやすく、変動があるため、発電量の安定には火力や蓄電池を組み合わせる必要 としている。 このうち、①②③はよいことだが、④の年間1千億ドルもの支援は、単なる金銭的援助ではなく、(1)4)ハ)で述べたインドの事例のような、再エネ移行と国土計画・鉄道・送電線の設置等を組み合わせ、最小のコストと労力でスマートに先進国に追いつく計画と助言が必要だ。 また、⑤については、(2)1)で述べたように、日本政府も、自国の排他的水域内にある重要鉱物た天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりできるようにすべきだ。 が、⑥のように、いつまでも化石燃料にしがみついたり、*2-2-3のように、原発にしがみついて再エネ発電事業者に対して出力制御を求めたりしているのが、日本で発明された太陽光発電や風力発電等の再エネが、⑦⑧⑨⑫⑬⑭のように、世界で急拡大し、これを中国・EUが牽引して米国・インドも存在感を増しているのに、日本が出遅れている原因そのものである。 そして、これには⑩⑪のように、「再エネ発電は天候に左右されやすくて変動があるため、発電量の安定には火力発電を組み合わせる必要がある」「安定電源としての活用には太陽電源構成の多様化が必要」などと言って、いつまでも蓄電池や送電網の整備を行わなわず、無駄遣いのバラマキばかりしてきたことが、日本が債務残高だけはとびぬけて世界一だが、高コスト構造や生産性の低さは変えられなかった原因なのだ。 3)原発推進法とは! イ)原発の課題は残ったまま、脱炭素も進まず 原発は1966年に商用運転を開始して57年にもなるが、原発立地地域には、今でも国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われており、保存されている使用済核燃料には核燃料集合体1体当たり25万円程度の使用済核燃料税が支払われ、多額の原発投資による固定資産税収入もあって、これらは全て国民が負担している(https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_hyogo34/02/0224_jre/index.htm 参照)。そして、原発は、現在でも課題が多く残っており、未だ解決されていないのだ。 このような中、安全性や経済性の問題に加え、増え続ける使用済核燃料や核燃料サイクルの失敗といった課題が解決されないまま、原発推進関連法が国会で成立し、「原発依存を減らす」から「原発を最大限活用する」に政策が大きく転換された。 *2-3-1は、その具体的内容を、①エネルギーの安定供給と脱炭素化対応を理由に ②60年超の稼働を可能にした ③政府は原発が実際にどれだけその役割を果たせるか、なぜ原発を「特別扱い」するかについては答えず、「あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返しただけだった ④運転期間上限は導入時には「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されたが、政府は「安全規制ではなく利用政策上の判断」と主張した ⑤今回の転換は経済産業省の主導で進み ⑥フクイチ事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」も大きく揺らぎ ⑦政府は再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ と記載している。 玄海原発立地地域の佐賀新聞は、さらに詳しく、*2-3-2のように、⑧原発推進を明確にした「GX脱炭素電源法」が成立した ⑨フクイチ事故後に導入した「原則40年、最長60年」の運転期間規定を原子炉等規制法から電気事業法に移り、運転延長を経産相が認可することで60年超の運転を可能にした ⑩原子力基本法では、原発活用による電力の安定供給や脱炭素社会の実現を新たに「国の責務」とするなど原発に関する重大な政策転換をした ⑪気候危機対策として原発に過大な投資をすることも合理的ではなく、エネルギー政策の失政の歴史にさらなる1ページを加える ⑫オープンで公正な議論を通じて見直しを進めるべきだった ⑬気候危機対策では電力の脱炭素化が急務で、多くの国がそれを進める中、大きく後れを取ってきたのが日本である ⑭1kwhの電気をつくる時に出るCO₂はG7中最大だが ⑮各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発拡大ではない ⑯日本の遅れは脱石炭・再エネ・省エネのすべてが進んでいないことが原因 ⑰原発の運転期間延長や革新的な原子炉の開発などの政府が進めようとしている原発推進策が短期間でのCO₂の大幅削減に貢献しないことは明白 ⑱多くの政策資源や資金が原子力に投入されることで、短期的な排出削減に最も効果的な再エネの拡大や省エネの推進が滞る懸念がある ⑲このままでは化石燃料への依存が続き、安価な電力の安定供給もCO₂排出削減も実現せず、早晩、政策の見直しを迫られる ⑳既得権益と前例にこだわり、正当性も科学的根拠も欠くこのような政策が、いとも簡単に通ってしまうことが日本のエネルギー政策の大きな問題 等と記載している。 ②⑨の原発の運転期間について、日本は「原則40年、最長60年」を10年毎に安全レビューを受けることによって60年超の稼働を可能にしたが、米国は「原則40年、最長60年」のまま、フランス・イギリスは「運転期間の上限規定なし、10年毎に安全レビューを受けることによって運転延長可能」、カナダは「サイト毎に規定」、韓国は「運転上限に関する規定なし」である(https://eneken.ieej.or.jp/data/8397.pdf 参照)。 つまり、日本は原発についてのみフランス・イギリスの制度を真似したのだが、フランス・イギリス・カナダ等は固定資産の耐用年数を会計上も税法上も決めておらず、全ての固定資産について実態に合わせて会社が選んだ耐用年数を使用することができる。しかし、それでも適切な耐用年数を設定するため、問題が起きないのである。 一方、日本は利益の状況に合わせて固定資産の耐用年数を決めるのを防ぐため、税法で固定資産の耐用年数を決めており、会計上も同じ耐用年数を使うことが多い。そして、もし法律で耐用年数を決めていなければ、日本政府や経産省は、①③④⑤⑥⑦に示されるように、科学的根拠が乏しくても、何とかかんとか言って運転期間を恣意的に変えてしまうリスクがあるため、私は、日本では「原則40年」を変えない方がよいと思っていたのだ。 また、⑧⑰のように、気候危機対策としての脱炭素が目的なら原発を推進する必要はなく、⑪⑬⑭⑮に書かれているとおり、電力の脱炭素化が急務なのであり、各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発ではなく、これらの進んでいないことが日本の遅れの原因なのである。 にもかかわらず、①⑩⑪⑱⑲のように、電力の安定供給と脱炭素社会の実現には原発活用が必要不可欠と強弁して原発の推進を「国の責務」とし、原発に無駄な投資をすることで、本来ならCO₂の排出削減に最も効果的な再エネの拡大・送電線の敷設・給電スポットや蓄電池の整備・省エネの推進にまわせた筈の資金が減り、その結果、⑲のように、いつまでも化石燃料への依存が続いて安価な電力供給もCO₂排出削減も実現しない。そのため、⑫のように、オープンで公正な議論を通じて見直しを進めれば、各分野の専門家から熟慮した意見が出て、③のような、お粗末なことにはならなかった筈である。 ロ)フクイチから出た汚染水について←「その場しのぎ」の繰り返しでは・・ *2-3-3は、①汚染水の大元は原子炉建屋へ沁み込む地下水や雨水で ②大量の地下水の噴出は建設が始まった1960年代から問題だった ③安定した岩盤の上に原発を建て、海上から楽に資材を運搬するため、地面を20メートル以上掘り下げたことが原因で ④地下水の発生と排水は運転を開始した後も続いた ⑤2011年のフクイチ事故で地下水はデブリの放射性物質を含み汚染水になった ⑥東電は直後は海に流したが、国内外から酷評されて汚染水と放射性物質を概ね抜き取った処理水を地上タンクに溜めた ⑦2013年にタンクからの水漏れが問題になった ⑧国と東電は建屋に入る前の地下水を海に流すため、2015年に「処理水は関係者の理解なしには処分しない」と漁業者に約束した ⑨実際はタンクが敷地に満杯になるまでには「理解」が進むだろうと楽観視していた ⑩3年後に処理水に取り除かれた筈のストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚した ⑪福島県内の除染で出た汚染土も原発近くの双葉・大熊両町の“中間貯蔵施設”に溜め ⑫当初は最終処分場にする筈だったが、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束し ⑬除染土の県外搬出を法律に明記したが見通しは立たない ⑭国は各地で原発の再稼働・新増設を進めるが、増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理等の深刻な問題から目をそらしている ⑮東電や国の対応は「その場しのぎ」だ としている。 このうち③の20メートル以上の岩盤があったのに、「海上から楽に資材を運搬するため」に地面を20メートル以上も掘り下げ、予備電源まで低い場所に置いていたのは、地下水の問題もさることながら、この地域は大地震・大津波の発生可能性が高いことを無視した判断だったし、①②④は、この間に地下水や雨水が沁み込むのを止める工事をしなかったのだろうか? そして、これらのリスクを無視した判断の連鎖が、2011年の大津波によるフクイチ事故に繋がり、その後、多額の国費を使って国民に負担をかけているのである。 にもかかわらず、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のように、フクイチ事故でデブリにふれた地下水が放射性物質を含む汚染水になり、最初はそれを海に流したが、国内外の酷評を受けて放射性物質を概ね抜き取ったとされる“処理水”を地上タンクに溜め、タンクが敷地いっぱいになる頃には国民もフクイチ事故や放射性物質のことを忘れているだろうと楽観視していたが、タンクから水が漏れたり、処理水にストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚したりしたのは、当事者は放射性物質に慣れて鈍感になっていると同時に、国民の命をないがしろにしている。 また、⑪⑫⑬の福島県内の除染で出た汚染土についても、、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束しても、わざわざそれを受け入れて最終処分場を作らせる自治体があるわけがないため、フクイチ近くの双葉町か大熊町に密閉された施設を作って封じ込めるのが最も低コストで合理的でもあったのに、⑮のように、その場しのぎの言葉を繰り返したのは、国民を馬鹿にしていたと言わざるを得ない。 さらに、⑭の増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理は、本土から離れた場所にある無人島から入る最終処分場を作るか、密閉した容器に入れて3000m以上深い日本海溝の窪みに投棄or保管するなど、安価で合理的な方法が考えられるにもかかわらず、国はこれらの深刻な問題を解決しないをまま、各地で原発の再稼働・新増設を積極的に進めており、その調子で「言うことを信じよ」と言っても無理があるのだ。 ハ)原発の発電コストは安いか? 「原発は発電コストが安い」と言われてきたが、上に書いたとおり、原発が他の発電方法と違うのは、i)保存されている使用済核燃料に使用済核燃料税がかかって電気料金に加算され ii)国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われ iii)平時もトリチウムを含む排水を出し iv)事故時は除染や汚染水の処理に多額のコストがかかってそれを国民が負担し v)高レベル放射性廃棄物の処理で多額のコストがかかることは確実で vi)国民が税金か電気料金かでそれらを支払うため電力会社内の原価計算に現れないステルス・コストも著しく多い ということだ。 それに加えて、*2-3-4は、電力会社内の原価計算でも、①東電の公表資料から、原発の発電コストは火力等の市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がり ②東電が委員会に提出した資料では東電が他社から購入する火力等の電力の市場価格は20.97円/kwh ③東電の原発にかかる発電コストは34.25円/kwh ④2020年4月~23年4月の卸電力市場の平均価格は14.82円/kwhであるため、仮に原発を全基再稼働しても原発の発電コストは市場価格平均を上回り ⑤政府は原発が再稼働すれば電力料金の抑制に繋がると説明するが、原発は燃料代が安くても維持費が高いため、電気料金の抑制効果は殆どないと見るべき としている。 なお、①~④のように、既に作ってしまった原発は稼働させなくても維持費はかかるのだが、電力会社の原価計算に現れないステルス・コストまで加えれば、原発の発電コストは著しく高い。そのため、⑤のようにはならず、最も安価で、地球環境によく、エネルギー自給率を高められるのが再エネとなって、原発の新増設などあり得ないわけである。 二)事実に基づかない発言が多く、やることが中途半端で徹底しない日本 *2-3-5は、①ドイツは1986年のチェルノブイリ原発事故で原発支持だった国民の意見が変わり、社会民主党と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と脱原発で基本合意して2002年に脱原発法を制定した ②福島の原発事故後、メルケル首相が「日本でも原発事故が防げないなら、ドイツでも起こりうる」として「脱原発が妥当」と結論づけた ③日本では「ドイツが脱原発できるのは、原発大国フランスから電力を輸入しているからだ」という論調が多かったが、実際にはフランスの方が輸入超過だった ④「ドイツは褐炭の依存度が高く、気候変動対策に逆行する」との指摘も聞くが、ショルツ政権は2030年までに石炭火力廃止、自然エネルギー80%にする目標を持っている ⑤目標を定めて道筋を示せば、新たな技術や仕組みも開発される ⑥日本はフクイチ事故から12年で原発回帰にかじを切り ⑦最大の問題は長期的ビジョンを持たず、短期的利益を優先し、業界の既得権益を守ること ⑨先日も関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧して公正競争を妨害した と記載している。 このうち①②は、さすがに理論の国ドイツだと思うが、緑の党党首もメルケル首相(物理学者)も優秀な女性であるため、こういう思い切った判断をして進めることができたのだろう。それに対し、私も日本のメディアで③の論調をよく見かけたが、実際にはフランスの方が輸入超過だったとは、本当にさすがである。 また、④⑤については、ショルツ首相も2030年までに石炭火力を廃止して自然エネルギーの割合を80%に引き上げることを目標としており、何とかかんとか言って未だに石炭火力発電所を建設している日本とは大きく異なる。そして、政府がしっかりした目標を提示すれば、民間企業も、安心して新技術の開発に投資したり、組織再編して商品化し、新しい販売網を築いたりすることができるため、イノベーションも進む。 一方、フクイチ事故を起こした日本は、⑥のように、12年で原発回帰にかじを切り、⑦のように、安い電力を供給して産業の生産性を上げたり、エネルギー自給率を上げたりするという長期的ビジョンを持たずに、“足元では”などと言って常に短期的利益を優先し、大企業の既得権益を守るため、いつまでも状況が改善しないのである。 ⑨の関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧していた事件も、大手電力会社の送配電網しかなく、新電力もその送配電網を使って送電しており、送電子会社が大手電力会社の支配下にあるため必然的に出てきたことだ。 これについては、2015年6月に電力自由化の一環として電気事業法が改正され、2020年4月から送配電部門の中立性を確保するため、法的分離(送配電部門を発電・小売部門と別会社にすること)による発送電分離が行われたが、法的に別会社になっても大手電力の支配下にあれば中立性が保たれない。そのため、中立性を保つには、資本や役員関係も分離し、送配電会社が複数存在するようにして、送電条件を市場競争に委ねなければならないのだ。 (3)G7広島サミットと農業 ![]() ![]() ![]() Sustainable Brands 農林水産省 (図の説明:左図は世界人口の推移で、2020年以降はアフリカで最も増える予想だが、これは「それだけの人口を養う食料があれば」の話だ。また、中央の図のように、アフリカは未だ日本の第二次世界大戦前後までと同じピラミッド型《多産多死型》の人口構成をしている。なお、食料の枯渇は戦争の始まりになるが、日本の食料自給率は令和3年度で38%と次第に低くなってきており、これは他のG7諸国より著しく低く、世界の食糧事情への貢献もしていない) 1)食料安全保障に関する首脳宣言の全貌 G7広島サミットは、*3-1のように、食料・農業分野は農相会合の結果を受けて首脳宣言を発表し、①ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料安全保障が悪化しているとして「深い懸念」を表明し ②ロシアが世界有数の農業大国であるウクライナを侵攻したことで、食料供給体制が脆弱な国の食料安保が脅かされていると批判し ③G7としてそうした国への支援を続けていくと表明し ④食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるとして ⑤既存の農業資源を活用した生産性向上や技術革新、環境に配慮した持続可能な農業の推進を提起し ⑥学校給食等を通じた健康的な食料確保の重要性も提起し ⑦不当な輸出制限措置回避の重要性も表明して、G20参加国にも要請した そうだ。 このうち、①②③のロシアの行動は、日本はじめG7各国が行った“制裁”のお返しであるため、ウクライナから食料を輸入していた第三国にとっては大きなとばっちりだが、古くからある「目には目を」の論理には沿っており、G7も含めた戦争と破壊の開始が原因と言わざるを得ない。 また、④については、G7の中で食料自給率が38%と最も低く、食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるのは日本自身であるため、G7で話し合う前に効果的な行動をすべきだったのは日本である。さらに、⑤の「環境に配慮した持続可能な農業の推進」も、自然を利用して行う産業が自然環境に大きく依存するのは当たり前であるため、「今さら」感が否めない。 なお、「既存の農業資源を活用した生産性向上」が具体的に何を指すかは不明だが、仮に米の消費が減ったから、(稲作を減らすのではなく)米の消費を奨励するのなら、それは栄養面から考えて時代錯誤だ。また、「技術革新による生産性の向上」は重要で、それには自動化・大規模化・需要の多い作物への転作が必要だが、それを妨げる補助金制度は頑固に残っているのだ。 「栄養や食物に関する指導は小学生時代から始める」という意味で、⑥の学校給食等を通じた健康的な食料確保は重要だが、これも日本国内で地域差が大きい。その上、⑦のように、「不当な輸出制限措置回避の重要性」も表明したそうだが、G20参加国に要請する前に日本のような気候の恵まれた国で食料自給率がたった38%と輸出より輸入が著しく超過するような政策は止め、足りない国に輸出できるようにするのが最重要課題であろう。 さらに、*3-1は、G7首脳は首脳宣言とは別に世界の食料安全保障強靭化に向けた「広島行動声明」を出して、⑧世界は「現世代で最も高い飢饉のリスクに直面」していると警告して危機対応の必要性を訴え ⑨飢饉回避のために民間等からの人道・開発支援への投資増加が必要と強調し ⑩農業貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿うよう明記し ⑪全ての人が栄養価の高い食料に安定的にアクセスできることが不可欠だと指摘し ⑫女性や子どもを含む弱い立場の人々や小規模零細農家への支援強化 ⑬既存の国内農業資源の公正かつ適切な利用等の行動を求めた とも記載している。 ⑧は事実だが、恵まれた気候を持っているのに海外からの食料に大きく依存している日本から⑩⑬を言うのはおこがましすぎる。また、⑨⑪の飢饉回避と全ての人の栄養価の高い食料への安定的にアクセスには、国毎に過度な人口増を抑えて適正人口を保つことが必要で、そのためには教育や産業基盤への投資が重要になるため、まず政府が人道・開発支援を行い、民間投資の呼び水にするのが通常の順番だ。それに加え、⑫のように、小規模零細農家への支援を強化し続ければ、自動化・機械化による生産性向上は望めず、その結果、教育の行き届いた豊かな暮らしも健康的な食料確保もできないため、どこかで現状を突破をさせる必要があるのである。 2)日本は食料安全保障の〝弱者〟のままでいいのか? *3-2は、①G7農相会合の共同声明は周囲を海に囲まれ食料の大半を輸入に頼る食料安全保障の「弱者」である日本の意向を反映した ②自国生産の拡大と持続可能な農業を両立する方針をG7で共有した ③日本の農業は、少子高齢化で農家・農地の激減という恒常的課題を抱える ④G7には米国・カナダ等の食料の輸出大国も多いため、輸入国の生産拡大をG7の議題にすることはタブーだった ⑤日本の輸入依存度低減に直結する自国生産拡大は、食料安保に不可欠 ⑥G7は途上国も含めた食料輸入国の自国生産拡大を容認 ⑦ウクライナ危機後の食料供給不安定化・頻発する気象災害・世界的人口増加で、G7内でも食料不足にある現状認識が広がった ⑧生産拡大と持続可能な農業の両立という条件で環境意識の高い欧米の合意を得た ⑨「日本は小規模農家が多く、どう(生産性を拡大)していくかは、イノベーション(革新)が重要になっていく」と野村農水相は強調した と記載している。 このうち①は、「海に囲まれているから、食料の大半を輸入に頼らざるを得ず、食料安全保障の弱者である」としている点で誤りだ。何故なら、広い排他的経済水域に囲まれているからこそ、水産業による食料生産もでき、良質のたんぱく質を入手することが容易な筈だからで、これが細ったのは、環境を壊し、工夫もなく漁船の燃費を高止まりさせていることが原因だからだ。 また、②⑤⑥⑧は当たり前のことで、④については、ドイツ・イタリアを含むG7の要請ではなく、日本が勝手に忖度していたのであり、⑦によって、日本が認識を新たにしたにすぎない。 さらに、③については、農家・農地を激減させたのは、農家を生かさず殺さずにし続けて農業を魅力のないものにしてしまった日本の農業政策の失敗であり、少子高齢化の時代でも他のG7諸国は農家や農地を激減させてはいない。日本の農業政策の失敗の本質は、⑨のように、小規模農家を小規模のまま補助することによって、大規模化しなければできない自動化・機械化等の生産性向上をもたらすイノベーション(革新)をやりにくくしてきたことなのである。 3)農水省の食料・農業・農村基本法改正案について *3-3は、①農水省が食料・農業・農村基本法改正に向け、緊急時の食料増産等を柱とする「中間取りまとめ」を公表した ②1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが実現せず、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機等の食料確保が脅かされる事態が起き ③こうした状況変化を受けて農水省が法改正を議論し始め、2024年の通常国会に改正案提出を予定 ④焦点の1つは緊急時に政府全体で意思決定する体制を整え、農産物輸入急減時に不足が予想される農産物を増産できるようにすることで ⑤どこでどんな作物を作るべきかを政府が生産者に指示することなどを念頭に置き ⑥買い占め防止や流通規制等もテーマとなる ⑦混乱を避けるため、行政命令を発動する基準を明確にし、生産・流通の制限で不利益を被る業者への補償も用意しておく必要 ⑧国民1人1人の「食品アクセス」改善に平時から取り組むことを提起した点は評価できる ⑨日本は大量の食品を廃棄する一方、生活困窮世帯には食べ物が十分に行き届いていない ⑩輸入に支障が生じたときの影響を和らげるため、小麦・大豆・飼料作物など輸入に頼る作物の増産も盛り込んだ ⑪そこで必要になるのが水田の一部の畑への転換で ⑫食料の余剰を前提としてきた農政から、不足も視野に入れた農政に変わることがいま求められている と記載している。 が、①②の1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが、実際の食料自給率が次第に下がった理由は、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機ではなく、「食品は輸入すればよい」と軽く考えて農業の構造改革を怠り、耕作放棄地を増やし、優良農地をつぶして宅地等にしたためであり、「国の長期計画が欠けていたから」にほかならない。 また、③の法改正の議論はよいが、④⑤のように、国が生産物を決めて強制的に増産する共産主義に酷似した制度は、(理由を長くは書かないが)成功したためしがない。その理由は、国が強制力を発揮する場合は、まさに⑥⑦のように、規制を強化して国民の行動を制限し、⑦のように、事業者に補償することしか思いつかないからである。 従って、国民が食料不足に陥ることなく豊かに暮らし続けられるためには、日本の気候や環境をフル活用して農林漁業を振興し食料自給率を100%以上にすることが必要で、それは⑩⑪のような転作をはじめとした工夫次第でできる。また、⑧のように、国民が心配なく食品にアクセスできるようにするためには、そのための国土計画や適切な人材配置が必要であり、少子化で労働力が不足するのであれば、外国からの移民や難民も使って目的を達成すればよいだろう。 なお、⑨のように、大量の食品を廃棄するのは、生活困窮世帯に食べ物が十分に行き届いているか否かを問わず、その食品を作った人に対して傲慢この上ない態度である。そして、日本で⑫のように食料が余剰していたことなどなく、足りないからこそ海外からの輸入超過が続いてきたのだが、これまでは製造業が輸出超過だったため食品の輸入超過を続けることが可能だったのだということを忘れてはならない。 4)日本で新たに作られるようになった作物 ![]() ![]() 野菜の原産地 保存蚕品種の原産地 (図の説明:左図は、現在、日本で普通に作られている野菜の原産地と伝来時期を示したものだ。また、右図は、保存種の蚕の原産地で、もともとは原産地によって特徴が異なっていたが、次第に混血させて長所を集めた蚕が広がっているとのことである) ![]() ![]() ![]() アーモンドの花 レモンの花 オリーブの実 (図の説明:左図は、アーモンドの花と実、中央の図は、レモンの花と実、右図は、オリーブの実で、少し前まで日本では作られず輸入に頼っていたが、近年、作られるようになった作物だ) 現在は日本で普通に作られている野菜や蚕も、古代・中世・近代・現代等の時代毎に日本に伝来し、品種改良を重ねて定着したものだ。そのため、新たにアーモンド・レモン・オリーブなどが栽培され始めたのも食生活の変化とともに自然の流れで、これからも、気候変動とともに栽培できる作物が多様化することは容易に推測できる。 イ)アーモンド サクランボ・モモ等の果物生産が盛んな山形県で、*3-4-1のように、アーモンド栽培が注目を集めており、アーモンドは①果樹の手入れが簡単で ②乾燥させると1年中販売でき ③農家の冬場の収入源にもなる ため、県産ブランドとしての知名度向上と販路拡大を目指すそうである。 アーモンドの女王と呼ばれる高級種は山形県のブランドになるだろうが、アーモンドの花は桜の花に似ており、食べられる実がなる点で桜よりよいため、(私は桜のかわりにベランダの植木鉢に植えているが)耕作放棄地に植えるだけでなく、並木に使ってもよさそうだ。 ロ)レモン さわやかな酸味で、幅広い料理や飲み物に使われるレモンも、*3-4-2のように、通年で温暖な瀬戸内海地域産だけでなく、近年は近畿・首都圏にも栽培地が広がりつつあるそうだ。もぎたての国産レモンは、皮に防腐剤等がついておらず、安心して皮まで食べられるので、私も近年は国産レモンに切り替えている。 また、私は佐賀県太良町にふるさと納税をして返礼品としてマイヤーレモンを沢山もらった時に、マイヤーレモンの皮ごとレモンジャムを作ったところ、まろやかな酸味に適度な苦みも加わって美味しかった。また、その時に採取した種を植木鉢に撒いたところ、芽を出して埼玉県の冬を元気で越し、今では1mくらいの木になっている。 そのため、*3-4-3のように、ポッカサッポロフード&ビバレッジのようなレモン事業を行っている会社が、2019年4月から国産レモンの生産振興を目的として広島県でレモンの栽培を開始し、レモン商品の開発やレモンに関する研究を行い、消費者が使い易くて健康に良いレモン商品の提案を行ってくれるのは有難いと思う。 ハ)オリーブ オリーブ生産の98%以上は地中海に面した国々で、日本国内に出回っているのはイタリア・スペイン等の輸入品が大半で国産は1%未満だが、国内産地は、香川県の小豆島はじめ、近年は静岡県・大分県等にも広がっているそうだ。 このような中、*3-4-4・*3-4-5は、①民間企業・農家・団体等が相次いでオリーブ栽培に参入し ②オイルだけでなく、瓶詰・葉を使った茶・化粧品などの加工品も増え ③オリーブの収穫は年に1度で木が強くて作業が少なくて済み ④降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適している と記載している。 確かに、地中海沿岸が主産地のオリーブなので、④のように、降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適しているのだろうが、多くのタネを撒くと降水量の多い場所でも病気にならず元気に育つものが出てくるため、そういう個体を選んでいけば、③のように、木が強くて降水量の多い場所にも適したオリーブの品種ができるだろう。 そして、①のように、民間企業・農家・団体等がオリーブ栽培に参加して生産量を増やし、②のように、加工品の種類を増やせばよいと思うが、価格が外国産の倍以上するのでは、いくら健康によいといっても日本産でなければならない理由はなくなる。そのため、価格も世界競争に耐えられるものにすべきなのである。そのためには、オリーブ園で風力発電による電力を副産物にする方法があるのではないか? なお、私は料理用の油もオリーブオイルを使うため、オリーブオイルを多く使うことになり、スペイン産を選んでいる。しかし、スペイン産は品質はよいが、干ばつでオリーブの収穫量が半減し、世界的な供給不足と円安があいまって販売価格が上がるのが気になっている。 4)ふるさと納税について 朝日新聞は、*3-5のように、①「ふるさと納税」の仕組みは歪んでおり、貴重な税収を失わせている ②総務省は自治体間競争の過熱を抑えるため、ふるさと納税の返礼品調達費を寄付額の3割以下、送料・事務費を含めた経費総額を5割以下にするルールを定めたが ③2021年度に136市町村が5割を超える経費を費やし、集めた金の半分以上が税収以外に消えた ④総務省が5割規制の対象にしている経費は、受領証明書送料等の寄付後の経費は対象外だが、上位20自治体で合計63億円が「寄付後」に生じていた ⑤松本総務相は「寄付金の少なくとも半分以上が寄付先地域のために活用されるべき」と説明しており、寄付後の費用も対象に含めるべき ⑥5割基準でも寄付後の費用を対象にした上で、継続的な違反自治体は利用から除外すべき ⑦ふるさと納税は、返礼品を手に入れるため、自らが暮らす自治体の行政サービスにかかる費用負担の回避を認める制度 ⑧地方自治の精神を揺るがす ⑨高所得者ほど恩恵が大きく格差を助長する欠陥もある ⑩財政力の弱い地方を中心にふるさと納税に期待する自治体があるのは事実だが、都市と地方の税収格差是正にしても、返礼品となりうる特産品の有無で寄付額が左右される仕組みは望ましくない ⑪ふるさと納税で多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市の地方交付税減額の妥当性が裁判でも争われてきたが、こうした問題が起きたのも制度自体が歪んでいるから ⑫全国では、ふるさと納税により2021年度だけで4千億円近い税収が失われた ⑬経費ルールの中身や運用を見直すに留まらず、制度の存続を含めて根本からの再考を急ぐべき と記載している。 この記事に欠けている発想は、i) 都市部は地方で教育費をかけて育てた子を、住民税を支払う年齢になってから受け入れることで得をしていること ii) 地方はその子を育てた住民税支払額の少ない老親を医療・介護等で支えていること iii) 都市部に住民税を支払う年齢の大人が集中する理由は、(東京で2度もオリンピックを開いた例のように)国が都市部に投資を集中してきたからにほかならないこと iv) 都市部で住民税を支払う年齢の大人を機関車に例えれば、地方がすべて客車では引っ張りきれないこと v) そのため、返礼品となる特産品を作った地方を優遇することで競争させていること vi) 地方も地方交付税を待つだけでなく、よい特産品を作るよう自助努力して欲しいこと というふるさと納税制度を提案した私の思いである。 そのため、①⑦⑬は、「ふるさと納税制度は、歪んでいるから廃止すべきだ」という結論が先にあって、②③⑥⑪⑫の返礼品調達費・経費総額ルールやルール違反等々を持ち出しているが、そもそも集めた寄付金や税金を何に使うかは、その地方自治体の判断に任せられるべきで、それこそが⑧の地方自治の精神である。そのため、「特産品を育てるために、返礼品や返礼品の送料・受領証明書の送付料にどれだけ使うか」も地方自治体の判断に任せればよく、本来は⑤を言うことも不要だ。 また、④についても、税務申告書の送付料をとる税務署がないのと同様、受領証明書の送料くらい地方自治体が出してよいと思うし、⑨の「高所得者に有利で格差を助長する」という記述は、(必ず誰かが言う安易な反対論だが)教育して高所得者になるような人を出した地方には住民税収が全く入らず、そういう努力をしなかった居住自治体にのみ住民税が全額入る方がよほど不公平なのである。 従って、上のiv) v) vi) に照らし、⑩の財政力の弱い地方自治体も、国が少ない地方交付税で援助し続けるのを待つだけでなく、都市の住民が欲しがる人気返礼品(=特産品)を作るくらいの努力はして欲しいので、特産品を返礼品にすることは理にかなっているのだ。つまり、過度の結果平等は悪平等になって意欲を失わせ、すべてを沈滞させるということである。 (4)G7における核の議論について 1)核軍縮に関する「広島ビジョン」 G7首脳は、*4-1・*4-2のように、「1945年の原爆投下で広島・長崎の人々が経験した甚大な苦難を想起させる広島に集い、全ての者の安全が損なわれない核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認する」という「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発表し、内容は①核兵器による威嚇禁止と核兵器不使用(G7の核兵器は侵略抑止・戦争/威圧防止など防衛目的) ②世界の核兵器数減少 ③現実的で実践的な責任あるアプローチを通じて達成される「核兵器なき世界」という究極の目標に向けコミットメントを再確認 ④核戦力とその規模に関する透明性促進 ⑤核分裂性物質の生産禁止条約の即時交渉開始 ⑥包括的核実験禁止条約発効も喫緊 ⑦核兵器なき世界は核不拡散なくして達成できず、北朝鮮に核実験・弾道ミサイル発射を含む挑発的行動の自制要求 ⑧G7は原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると認識 ⑨民生用プルトニウム管理の透明性維持 ⑩民生用を装った軍事用生産や生産支援に反対 ⑪広島・長崎での核兵器使用の理解を高めて持続させる ⑫核兵器による威嚇や使用は許されないと改めて表明 などだそうだ。 G7サミットを広島で開催し、⑪のように、広島・長崎での核兵器使用への理解を高めたのはよかったと思うが、①②④⑤⑦については、「核兵器による威嚇禁止、核兵器の不使用、核兵器数の減少」には賛成するものの、批判の対象がロシア・イラン・北朝鮮だけであり、「G7の核兵器は、侵略抑止や戦争・威圧の防止等の抑止力である」「核戦力とその規模に透明性があれば良い」というのは、一方的すぎて無理がある。何故なら、全員が廃棄するのでなければ、ロシア等も核兵器を廃棄したくないだろうからである。 また、③の「核兵器なき世界は、『現実的で』『実践的な』『責任ある』アプローチを通じて達成される」というのも、そう言い始めてから何年経っても大した進展がないため、それらの言葉は、核兵器なき世界を進めないための言い訳として使われているように思う。 「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指す」というのは、*4-5のように、2016年10月28日に国連総会第一委員会(軍縮)が核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択した時、日本政府はこの決議に反対し、岸田外務大臣(当時)が「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指すという我が国の基本的立場に合致しないから」と釈明された時に使われた言葉だ。 一般には、「日本は核兵器保有国ではないが、米国の核兵器によって間接的に守られているため、核兵器禁止条約に賛成できない」という説明がよくされるが、それでは、本当に日本は米国の核兵器によって守られるのか、『現実的で実践的な責任ある』どのようなアプローチを、その時点から現在までに行ってきたのか、核兵器禁止条約に賛成するよりもそのアプローチの方が功を奏したのか、について具体的な説明が必要だ。 また、日本が核兵器禁止条約に賛成すれば、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し、その亀裂を深める」という説明も意味不明であるため、その理由を明快に説明して欲しい。実際には、核兵器が使用されれば距離の離れた場所でも人間が住めない状態になるため、⑥の包括的核実験禁止条約発効だけでなく、核兵器の禁止と廃棄が必要なのであり、それを提唱するにあたって、日本は歴史的に Best Person になっているのだ。 なお、⑧については、G7のフランスでパリ協定が締結され、脱炭素エネルギーに原子力エネルギーは含まない旨が明記されたし、ドイツはG7広島サミットの最中に脱原発を完了した。そして、原子力の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると主張しているのは主として日本なのであり、実際には原発は低廉どころか著しくコストがかかり、それを税金や電力料金として国民に負担させているのである。 何故、原爆を2度も落とされ、フクイチで世界最悪の原発事故を起こして周囲に激しい公害を撒き散らしながら、日本は原子力エネルギーにしがみつくのかについては、⑨⑫のようなことを言いつつ、⑩のように、民生用を装いながらいつでも軍事用生産に切り替えられる体制にしておきたいのではないかと思われる。しかし、核兵器が必要となる時などあってはならないため、それこそ大きな無駄遣いだ。 2)「広島ビジョン」で核軍縮はできるのか? *4-3は、①G7首脳が被爆地広島で「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示した ②各国首脳は広島平和記念資料館(原爆資料館)を見学し、被爆者と面会した ③この訪問を「核兵器のない世界」の実現への機運を高める契機とすべき ③G7は米・英・仏の核保有国と米国の「核の傘」に守られている日・独・伊・カナダで構成 ④岸田首相はG7首脳の訪問を「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」と評した ⑤G7首脳は「広島ビジョン(核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進)」をまとめた ⑥中長期的には核拡散防止条約体制を立て直す努力が要る ⑦この条約は世界の安定に寄与するだけでなく、米国との戦力の均衡を維持する点でロシアにもメリットがあるはず としている。 私は、小学校の修学旅行で長崎を訪れた時に、平和公園や長崎原爆資料館を見学し、信じられないような光景の絵・展示物・その解説を見て、その惨状に驚いたことがある。そのため、①②のように、G7首脳が広島原爆資料館を見学して被爆者の話を聞き、「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示したのは理解できるし、よかったと思う。 しかし、③のように、「『核の傘』に守られているから」とか、④のように、「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」とか、⑤のように、「核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進」のような核兵器廃絶の本質とは異なる悠長なことを言っていては、これまでどおり、核兵器廃絶は進まないと思う。 また、⑥の「中長期的に核拡散防止条約体制を立て直す努力」というのも、現在、核兵器を保有している国の核兵器保有は認めるが、非核保有国が核兵器開発することは認めないということであるため、不公平すぎて守られず、努力しているふりで終わりそうだ。 なお、⑦の「核拡散防止条約がロシアと米国との戦力均衡を維持して世界の安定に寄与する」という説もあるが、“戦力均衡”を目的とする限り、どちらのグループも相手より大きな軍備を持って優位な形で均衡したいと思うため、核軍縮ではなく軍拡への道を進むことになると思う。 3)法の支配に基づく国際秩序とは? 「法の支配に基づく国際秩序」は国際法に基づく国際秩序を指すが、国際法にはi) 条約・慣習法等の様々な基本原則が存在し ii) 歴史的には主権尊重・主権平等・国家の自己保存権・国家独立の原則・国家の交通権・不干渉義務等の原則が基本的権利義務として捉えられてきた。 また、1970年に国連総会友好関係原則宣言は、iii) 国際社会の基本的原則(武力不行使・紛争の平和的解決・国内問題不干渉・相互協力・人民の同権と自決・国際法の適用における平等の原則等)を掲げ iv) 法の前の平等とは「慣習法は全ての国に、条約は全ての締約国に無差別に適用すること」と明記した(https://hiro-autmn.hatenablog.com/entry/2015/05/21/155750 参照)。 そのような中、*4-4は、G7広島サミットは「G7広島首脳共同声明」を発表し、①ロシアによるウクライナ侵攻を「可能な限り最も強い言葉で非難」し ②ウクライナ支援を継続すると明記し ③「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持・強化する」と強調し ④現実的・実践的な取り組みによって「核兵器のない世界」の実現をめざすことも表明し ⑤覇権主義的な動きを強める中国も念頭に「力による一方的な現状変更の試みに反対する」とした 等と記載している。 iii) iv)によれば、独立国である以上、その国の人民に自決権があるため、国の大小にかかわらず、他国への内政干渉や武力行使は許されない。そのため、平等に国際法を適用しても、①のように、ロシアはウクライナへの侵攻に対する非難を免れないが、日本のメディアには、ロシアのウクライナ侵攻以前に、ロシアを馬鹿にしたり、ロシアに対し内政干渉的な発言をしたり、プーチン大統領をけしかけるような発言が多かったりしたのは事実である。また、②のウクライナ支援は、本来なら国連の仲裁で紛争を解決することによって行われるべきだ。 また、④については、(4)2)に記載したとおりだ。 なお、③の「法の支配」は国際法を指し、個別の国が勝手に作った法律が他国を支配できるわけではない。そして、排他的経済水域(領海基線の外側200海里までの海域やその海底で、イ)天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利 ロ)人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権 ハ)海洋の科学的調査に関する管轄権 二)海洋環境の保護及び保全に関する管轄権 が沿岸国に認められている。 一方で、大陸棚も領海基線から外側200海里までが原則だが、例外的に地質的・地形的条件等により国連海洋法条約の規定に従って延長することが可能で、その大陸棚を探査したり、天然資源開発のため主権的権利を行使したりすることも認められている。そのため、日本の排他的経済水域内で中国が自国の大陸棚だと主張している海域については、日本と中国の両方で主権が認められ解決不能になっている(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/zyoho/msk_idx.html 参照)が、このような規定では日本も中国の大陸棚上になってしまうだろう。 さらに、中華民国(台湾)が独立国であれば、台湾についても、iii)の国内問題不干渉・人民の自決・国際法適用における平等が守られなければならないが、1つの中国を認めるのであれば、中華人民共和国として国内問題への不干渉や人民の自決権が守られなければならない。そのため、⑤の「力による一方的な現状変更の試みに反対する」という曖昧な主張は、単に問題を先送りしただけで何も意味していないのである。 ・・参考資料・・ <先進技術導入の仕方と財源> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551430S3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.2) 児童手当・育休給付上げ 少子化対策素案 予算、30年代に倍増 政府は1日のこども未来戦略会議で少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を示した。毎月支給する児童手当は所得制限を撤廃し、支給の期間を拡充する。2024年度中の実施をめざすと明記した。必要な予算は24年度からの3年間に年3兆円台半ばとする。当初見込んだ3兆円ほどから上乗せした。予算を倍増する時期は、こども家庭庁予算を基準に30年代初頭までの実現をめざすと明示した。岸田文雄首相は予算規模に関して「経済協力開発機構(OECD)トップ水準のスウェーデンに達する」と述べた。政府は与党と調整し、6月中にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。児童手当は親の所得にかかわらず、子どもが高校を卒業するまで受け取れる。3歳から高校生まで一律1万円となる。第3子以降の場合は0歳から高校生まで3万円が支給される。一方、16歳以上の子どもを養育する世帯主が受けられる扶養控除は、給付との兼ね合いを検討課題とした。親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設を盛った。両親が就労していないと利用できない現在の制度を改める。24年度から本格実施を見据えて準備する。育児休業の給付金も増やす。夫婦ともに育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げる。25年度からの実施をめざす。 *1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/253941 (東京新聞 2023年6月1日) 異次元の少子化対策に年3兆5000億円…財源は? 高齢世代は負担増、子育て世代の手取りが減る可能性 政府は1日、「こども未来戦略会議」を開き、「次元の異なる少子化対策」の素案を公表した。児童手当は所得制限撤廃をはじめとする拡充策を2024年度中に実施することを盛り込んだ。24年度から3年間の集中期間に必要となる追加予算は年3兆5000億円に上るが、財源確保の具体策は示さず、「年末までに結論を出す」と先送りした。政府は医療保険料の上乗せに加え、社会保障費の歳出削減を検討しており、医療や介護を主に利用する高齢世代の負担増につながる可能性がある。岸田文雄首相は1日の未来戦略会議で「少子化対策の財源はまず徹底した歳出改革等で確保することを原則とする」と強調した。素案では、児童手当の拡充は減額や不支給となる所得制限を撤廃し、支給期間を「中学卒業」から「高校卒業」までに延長。第3子以降は月額3万円に給付を増やす。育休制度では25年度から、給付金の手取り10割相当への引き上げ(最大28日間)を目指す。財源確保策として、医療保険料の上乗せを念頭に「支援金制度(仮称)」の創設や「徹底した歳出改革」を行うとして、消費税などの増税は否定。安定財源は28年度までに確保し、その間は「こども特例公債」を発行するとしたが、具体的な国民負担の規模は明らかにしなかった。政府は、医療保険料への上乗せで年1兆円程度、社会保障費の歳出改革でも5年かけて年1兆円強を確保することを検討している。歳出改革では公費支出の削減を図る考えで、来年度に改定される診療報酬や介護報酬の抑制などが想定されるが、医療や介護の人材不足に拍車をかけかねず、与党には「医療・介護が崩壊する」との反発もある。高齢者の自己負担増や医療・介護のサービス削減などで負担増となる可能性もある。財務相の諮問機関の財政制度等審議会は5月、社会保障の歳出改革案として「後期高齢者の医療費窓口負担の原則2割化」や「介護保険の2割負担の範囲拡大」などを提案している。政府は素案を「戦略方針」として決定し、6月策定の経済財政運営の指針「骨太方針」に反映させる。 ◆「高校生の扶養控除を整理」するとどうなる? 少子化対策の素案には児童手当の拡充策とともに、「高校生の扶養控除との関係をどう考えるか整理する」との注釈が入った。拡充策である高校生への新たな給付と、既にある税負担軽減を同時に受けられる家庭が出るために浮上した論点だ。だが、控除の見直し次第では児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性があり、与野党などから早くも反発が起きている。扶養控除は子どもや親などの親族を養っている場合に税負担を軽くする仕組み。現行は16〜18歳の子ども1人につき所得額から38万円が控除されている。所得税は所得が高いほど税率も高くなるため、控除による税負担の軽減効果は高所得者の方が大きい。一方、児童手当は所得にかかわらず一定額が給付されるため低中所得者により手厚い支援となる。2010年には当時の民主党政権が「控除から手当へ」との方針のもと、中学生までの子ども手当(現児童手当)の創設に合わせ、15歳以下が対象の年少扶養控除を廃止した経緯がある。拡充策が実現すれば、高校生のいる世帯は児童手当と税負担軽減が併存する。このため、扶養控除がない中学生までとのバランスを踏まえる必要があるというのが政府の考え方だ。扶養控除の見直しには反対論も強い。子育て支援団体が1日に国会内で開いた集会では、与野党議員から「可処分所得を削ってはいけない」「新たな税負担を求めないと言っていたのに実質的な増税だ」と批判が噴出。控除廃止による課税所得の増加で高校無償化の対象から外れる恐れがあるなどの懸念も出た。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA218FR0R20C23A4000000/ (日経新聞 2023年6月4日) 全ゲノムデータ、一元管理へ新組織 創薬・治療に貢献 厚生労働省は2025年度にも全ゲノム(遺伝情報)のデータを一元管理する新組織を設立する調整に入った。蓄積したデータを患者の診断や治療の質の向上に役立てる。個人情報を保護しつつ産業界や学術界も幅広く利用できる仕組みとし、創薬や難病診断、がん治療につなげる。医療機関などから集めた検体を全ゲノム解析しデータとして蓄積する。産学からなるコンソーシアム(共同事業体)に参画する組織に利用資格を持たせる。企業からはデータ利用料を取り、研究機関や大学は無料とする見通しだ。政府が22年に決めた全ゲノム解析の実行計画の一環として実施する。研究成果は創薬などを通じてがんや難病の患者の治療に生かす。得た知見は協力してもらった医療機関とも共有して活用する。企業の参加を促すため、新組織発足に向けた準備室に人材や技術、資本などで協力した企業にはデータの利用料の割引や優先権といったインセンティブを設けることも想定する。全ゲノム解析はおよそ30億にのぼるすべての塩基配列を読み取る。がん治療の場合、従来の手法に比べて一人ひとりの病状に合った投薬など効果的な治療が期待できる。最適な治療法を早く発見できれば患者の治療に役立つだけでなく、検査の重複を避けられる。手探りで治療を続ける必要もなくなり、医療費の削減も見込まれる。全ゲノム解析は英国などが先行する。12年に当時のキャメロン首相が「10万ゲノムプロジェクト」を始め、18年にがんや希少疾患の患者10万件分のゲノム解析を終えた。医療現場での導入も進み、全ゲノム解析を保険適用の対象にする疾患もある。日本では国の研究事業として19年度から21年度にかけて、がんでおよそ1万3700症例、難病でおよそ5500症例分の全ゲノム解析の実績がある。難病が疑われるものの診断が困難な疾患のうち、全ゲノム解析をして9.4%で何の疾患かを特定できた。研究は進んだものの、学術界や企業がデータを二次活用する仕組みは整っていなかった。創薬への利活用が進まない点が課題として指摘されていた。日本製薬工業協会(製薬協)は「戦略的に一定規模の診療情報やゲノムが集まれば、様々な研究者が同時に研究に着手できる」とゲノム研究の加速に期待を寄せる。データの利活用については「幅広く利用しやすい料金体系とし、利活用までのスピードでも国際競争力のあるデータベースをつくる必要がある」と指摘する。ゲノムは人体の設計図となる遺伝情報で、2本の鎖がらせん状になったDNAからなる。DNAは4種類の塩基からなり、遺伝情報はその塩基の配列で決まる。細胞が分裂する際にDNAの複製に失敗すると遺伝子に変異が起こる。紫外線や化学物質を浴びて傷つき変異することもある。親から変異を引き継ぐ場合もある。こうした塩基配列のわずかな差が、病気の原因となり得る。米欧に比べ全ゲノム解析が遅れる日本としては、国が主導する新組織の設立を足がかりに国民の医療の質の向上を狙う。 *1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15653712.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2023年6月4日) ゲノム医療法案 健全な発展の一歩に 一人ひとりの遺伝的な特徴や体質にあわせて病気を治療し、早期発見や予防を可能にする。そんな「ゲノム医療」を推進する法案が衆院委員会で可決され、参院での審議を経て成立する見通しとなった。世界最高水準のゲノム医療を実現させ、国民が広く恵沢を享受するとともに、ゲノム情報の保護が十分に図られ、不当な差別が行われないようにすることを理念に掲げた。総合的な施策を進める基本計画の策定と、財政上の措置を国に求めている。生まれつき持った遺伝的特徴によって尊厳や人権を傷つけられることがあってはならないという理念は、ユネスコが1997年に採択した「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」などで国際的に共有されている。海外には遺伝情報による差別を禁じた法律を持つ国もあり、患者団体や医療界から早急な法整備を求める要望が出され、超党派の議員で検討を進めてきた。法律ができることは一歩前進だ。すでにがんの遺伝子異常を調べられる検査が公的医療保険で実施され、がんや難病患者を対象にゲノムを網羅的に解析する国のプロジェクトも進められている。将来、様々な病気のリスクが予測できるようになれば、がんや難病に限らず、すべての人に関わる。健全な発展と普及、データ利活用のための環境整備に向け、実効性ある計画づくりを国に求めたい。一方、法案には、差別のほかゲノム情報の利用が拡大することで起こりうる課題に適切に対処するための施策を講じるという条文もある。実際、保険や雇用、結婚、教育などさまざまな場面で差別や不利益を受ける恐れが指摘されている。厚生労働省の研究班が2017年に1万人を対象にした遺伝情報の差別と利用に関する意識調査では「保険加入を拒否・高い保険料設定を受けた」といった経験を持つ人が一定程度いた。生命保険協会は昨年、会員各社の引き受け・支払いに関して、遺伝情報の「収集・利用は行っておりません」とする文書を公表したが、将来的に見直す可能性にも言及する。何をもって差別や不利益とみなすのかは必ずしも明確ではなく、対処するための方策も場面によって変わりうる。まずは実態を把握し、一定の考え方を示しつつ、社会的合意を作ってゆく必要がある。民間でも唾液(だえき)を利用して健康な人の遺伝情報を調べ、病気のリスク判定などを試みるビジネスがある。しかし、判定の方法や根拠は必ずしも確立されているわけではない。質の確保に向けた取り組みやルール作りにつなげていくことが求められる。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71556570S3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.2) 保険証廃止、マイナ一本化、来秋から、改正法が成立 番号の利用範囲拡大 行政のデジタル化を進めるための改正マイナンバー法が2日の参院本会議で可決、成立した。2024年秋に予定する現行の健康保険証の廃止に向けた制度をそろえた。誤登録などが相次いでおり制度改善には余地がある。政府はマイナンバーカードと保険証を一体にする「マイナ保険証」の普及をめざす。今の保険証は来年秋以降、1年の猶予期間を経て使えなくなる。法改正によりカードを持たない人でも保険診療を受けられるようにする「資格確認書」の発行が健康保険組合などで可能になる。確認書の期限は1年とする方針で、カードの利用者よりも受診時の窓口負担を割高にする検討も進める。カードへの移行を促す狙いだ。乳幼児の顔つきが成長で変わることを踏まえ1歳未満に交付するカードには顔写真を不要とする内容も入れた。政府などの給付金を個人に迅速に配るため口座の登録を広げる措置を盛り込んだ。年金の受給口座の情報を日本年金機構から政府に提供することを事前に通知し、不同意の連絡が1カ月程度なければ同意したと扱う。新型コロナウイルス禍での個人給付では通帳のコピーなどの提出が必要で行き渡るまでに時間がかかった。口座登録の割合が高齢者で低いことを踏まえ年金口座の利用を決めた。税と社会保障、災害対策の3分野に限ってきたマイナンバーの活用を広げる。引っ越しの際の自動車変更登録や国家資格の手続きなどでも使えるようにする。改正マイナンバー法は与党と日本維新の会、国民民主党などが賛成した。個人情報の漏洩防止の徹底や全ての被保険者が保険診療を受けられる措置の導入などを盛り込んだ付帯決議を採択した。政府はマイナカードを「23年3月までにほぼ全国民に行き渡らせる」と号令をかけ、ポイントを付与するなどして国民に取得を呼びかけた。全国民の申請率は8割弱、交付率は7割強に達した。コンビニエンスストアで住民票などの証明書を他人に発行したりマイナ保険証で別人の情報をひもづけたりするなどのトラブルも多く発覚した。システムの問題や人為的な入力ミスに起因している。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230605&ng=DGKKZO71614620V00C23A6MM8000 (日経新聞 2023.6.5) 再エネテックの波(1)貼る太陽光、覇権争い、日本発技術、量産は中国先行 原発6基分「国産化」急ぐ ウクライナ危機に端を発するエネルギー危機は化石燃料に依存するリスクを改めて浮き彫りにした。脱炭素に加え、エネルギー安全保障の面からも再生可能エネルギーの拡大が国や企業の命運を左右する。急速に進化する再エネテックの最前線で何が起きているのか。日本経済新聞は専門家の意見も参考に太陽光、風力、水素、原子力発電所、二酸化炭素(CO2)回収の5つの分野で注目される11の脱炭素技術の普及時期を検証した。実用化が近づくものが目立つなか、ゲームチェンジャーになりうるのが次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」だ。主要7カ国(G7)が4月の気候・エネルギー・環境相会合で採択した共同声明。浮体式洋上風力発電などと並ぶ形で「ペロブスカイト太陽電池などの革新的技術の開発を推進する」と記された。声明で具体名が盛り込まれたのは初めてだ。 ●薄く・軽く・屈曲 2月11日。横浜市にある市民交流施設で、鉄道模型「Nゲージ」を50人以上が取り囲み、感嘆の声を上げていた。珍しいのは模型そのものでなく、その動力を1ミリメートル以下の薄さの太陽電池が供給する点だ。部屋の中の弱い光でも十分な電力を生み出せると実証した。ペロブスカイト型は薄く、軽く曲げられ、従来のシリコン製では不可能だった壁面や車の屋根にも設置できる。材料を塗って乾かすだけの簡単な製造工程で、価格は半額ほどに下がるとされる。日本は山間部が多く、従来の太陽光パネルの置き場所が限られる。東京大学の瀬川浩司教授の試算ではペロブスカイトなら2030年時点の設置可能面積は最大470平方キロメートルと、東京ドーム1万個分になる。発電能力は600万キロワットと原発6基分に相当する。桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した日本発の技術だが、量産で先行したのは中国企業だ。大正微納科技は江蘇省の拠点に8000万元(約16億円)を投じて生産能力が年1万キロワットのラインをつくり、22年夏から量産を始めた。23年には生産能力を10倍にする。宮坂氏は海外での特許出願手続きに多額の費用がかかるため、基礎的な部分の特許を国内でしか取得しなかった。海外勢が特許使用料を支払う必要がなかったことも先行を許す一因となった。日本でも積水化学工業やカネカが25年以降の量産を計画し、東芝やアイシンも事業化をめざす。ただ宮坂氏は「本来、この分野をリードすべき日本の大手電機メーカーは腰が重い」と話す。 ●世界で投資加速 似たような光景は過去にもあった。 従来の太陽光パネルも開発・実用化で先行し00年代には京セラやシャープなどの日本勢が世界で50%のシェアを持った。国などからの補助を受けた中国企業が低価格で量産し、今では市場シェアの8割超を握り、日本勢の多くは撤退した。ウクライナ危機後、再生エネは「国産エネルギー」として存在感を増した。ペロブスカイト型が普及する際に日本がパネルを輸入に頼れば、本質的な「国産」とはなりにくく、エネ安保の死角になる可能性がある。世界では投資競争が加速する。米調査会社ブルームバーグNEFの報告書によると、再生エネや原子力といった低炭素エネルギー技術への企業・金融機関などの投資額は22年に最高の1兆1100億ドル(約160兆円)。前年から3割増えた。中国がおよそ半分の76兆円、米国が20兆円と2番目に多い。ドイツ、フランス、英国に続く日本は3兆円だ。脱炭素で有望な11の技術のうち、ペロブスカイト型や浮体式の洋上風力発電など、半分弱は日本が開発段階では先頭集団にいる。これまで逆転を許すことが多かった普及期に生産支援だけでなく、家庭や企業が導入するインセンティブを高めて市場をつくり、産業として育てられるか。光る技術を生かす政策が重要になる。 *1-3-2:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230613/se1/00m/020/050000c (エコノミストOnline 2023年6月2日) 日本の蓄電ビジネスはNTT+東電+トヨタの共闘で(編集部) 電力の200億円分をドブに捨てている──。6月に値上げされる電気料金の裏側で、こんな現実があることをご存じだろうか。一般家庭が1カ月に使う電気にして200万戸を超える太陽光発電の電気が使われないまま捨てられている。日本で最も再生可能エネルギーの普及が進む九州電力は今年度、出力制御という形で、電力需要がない時間に作り過ぎて送電網で受け入れられない電力が最大で7億4000万キロワット時に達する見込みを発表。仮に、これだけの電気を石油火力で発電すると、約200億円かかる。この無駄をいかに日本全国で減らし、脱炭素を同時に達成するか、という取り組みが始まっている。 ●再エネを使い倒す 国民にとって電気代の高騰は死活問題だ。6月から電力大手7社の電気料金が一斉に値上げされる。値上げ幅は最大40%。ウクライナ紛争による原油・ガス価格の高騰や円安が主因だ。食料価格に加え電気料金の値上げは家計を直撃するが、今秋には政府の電気代補助金が終わり、化石燃料の需要期でさらに高騰することが確実だ。では、どうやって電気代を削り、稼ぐのか。電気代が安い時間帯に太陽光など再エネの電気をあえて大量に使用したり、蓄電池にためる。節電要請に応えて報奨金をもらったり、高く売れる時間帯に電力市場で売るのだ。産業界ではこんな取り組みが始まっている。太陽光の電力が余っていると予想される時間帯に、大量の電力を使う電炉メーカーが、これまで電気代が安かった夜間の操業から、太陽光の電力が余る昼間の時間帯に操業をシフトし、電気代の節約と再エネ利用による脱炭素を同時に実現しているのだ。暑くも寒くもなく、工場の稼働も止まる5月の日あたりの良い連休など、電気の需要が急激に落ちる時期に、大量の発電ができる太陽光発電の作りすぎを吸収するため、蓄電池で電気をため込み、電気が大量に必要となる時間帯や、市場で高く売れる時間帯に放電する取り組みも始まっている。大型蓄電システムとして系統(送配電網)につなげる取り組みも全国で始まった。住友商事はこの夏、北海道千歳市で約700台のEV電池を使い、出力6000キロワット、容量2万3000キロワットの大型蓄電所として北海道電力の送電網に接続する。EVが走っていない時間帯を利用して、マンションに給電し、電力需給が逼迫(ひっぱく)する時期に住宅に戻す取り組みも始まっている。エネルギーベンチャーのREXEV(レクシヴ)は神奈川県小田原市でカーシェアリングと、遠隔操作できるスマート充放電器約100台を使い、乗用に使用していない時間帯のEVの電池を活用し、昨年7月の電力会社の節電要請時に応え、電気代を獲得した。これを1万台まで大規模化する目標で、同社にはNTTや電力・ガス会社も出資している(特集:電力が無料になる日〈インタビュー「EVを蓄電池として利用する」渡部健REXEV社長〉参照)。コストが高い電池を自動車、通信、電力など複数の産業セクターの共有インフラとしてコストをシェアしたり、電池の持つライフサイクルバリューをフルに生かし、電池そのものが持つ収益力を産業の垣根を越えてシェアしたりする取り組みも始まっている。EVで使用するだけでなく、乗用していない時間帯の電池を有効利用したり、乗用に適さなくなった電池を大型蓄電システムとして再利用(リユース)したりして、リチウムやニッケル、コバルトなどの希少資源を取り出しリサイクルするのだ。再エネという燃料費のかからない究極の国産エネルギーを、電池をうまく活用して使い倒そうという試みともいえる。 ●全国に系統蓄電「発電所」 動いたのはトヨタ自動車。EVシフトを本格化し始めたトヨタは5月29日、東京電力ホールディングス(HD)と提携し、新品のEV電池を大型蓄電システム化して送電網へのつなぎ込み、再エネの電力を有効活用する実証を始める、と発表した。日本の電力の1%(約100億キロワット)を使う日本最大の電力バイヤーNTTも動き始めている。再エネ電源そのものを確保するため、電力子会社のNTTアノードエナジーが東京電力と中部電力が折半出資する日本最大の発電会社JERAとともに200万キロワット規模(開発中含む)の再エネ会社グリーンパワーインベストメント(GPI)を3000億円で買収するのだ。主導したのは80%を出資するNTTアノード。同社はこの買収に先行して、福岡県と群馬県で系統につなぐ大型蓄電システムの設置にも乗り出している。群馬県は東京電力HDと共同で設置。福岡県では九州電力、三菱商事と再エネの出力制御の低減に向けた電力ビジネスも検討している。国もこの動きを支援し始めている。4月に系統につなぐ大型蓄電池を発電所として認める法改正を行ったのだ。これに先行して21年度から22年度にかけ、全国28カ所で系統蓄電システムの助成を始めている(図2)。住友商事が北海道で立ち上げる中古EV電池を活用した大型蓄電設備も、この助成を活用した。EV電池を送電網に直接つなぎ込むEVグリッドのワーキンググループも5月29日に資源エネルギー庁で始まった。昨年11月に始まった分散型電力システム検討会の中核となる取り組みで、自動車、電力会社、充電器メーカー、充電サービサーなど複数の業界が横断的に議論し、10年後を見据えて今から準備を始める。例えば、「ただ充電するだけでなく充放電を遠隔操作できるスマート充電器を整備するルールにしておけば、10年後にEVグリッドを整備しやすくなる」(資源エネルギー庁電力ガス事業部の清水真美子室長補佐)といった議論を今から始めておくのだ。国がここまで本気で動いているのには訳がある。国際政治の圧力だ。4月のG7環境大臣会合で、35年に温暖化ガスを19年比で60%削減することが確認された。これは一昨年、菅政権が打ち出した30年の13年比46%を、35年までに65.6%まで引き上げることを意味する。エネルギー基本計画の審議委員を務める橘川武郎国際大学副学長は、「異次元の再エネ導入に踏み込まないと達成不可能な数字」という。この動きに経済産業省は先手を打ってきた。二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアの活用、東北地方や北海道で整備を進める大型洋上風力、再エネ資源が豊富な北海道から首都圏まで電気を運ぶ海底高圧直流送電線の建設構想、国際争奪戦が始まっているリチウムイオン電池の国産基盤の整備、次世代原子炉の開発──などだ。複数の政策が総動員されているが、この中でも早期に確実に削減目標を達成するには、いまある再エネを有効利用して無駄を減らすしかない。それが一番手っ取り早い。 ●GX150兆円の中核 2月10日に閣議決定された日本の「GX実現に向けた基本方針」の中にもこの動きは隠されていた。政府は同日、国債20兆円を含む150兆円の資金投入の内訳を参考資料で明らかにしたが、この内訳に「政策の一つの方向性が見えていた」(橘川氏)という。150兆円のうち、自動車に34兆円(蓄電池7兆円含む)、再エネに20兆円、送配電網(ネットワーク)に11兆円。これに脱炭素目的のデジタル投資12兆円を加えると全体の過半に達する。この77兆円を結びつける触媒がEVグリッドというわけだ。もちろん課題はある。まだまだ低いEVの普及率と充電インフラの整備だ。日本で普及しているEVは昨年やっと新車販売の2%に達したが、日本全体が保有する8000万台のわずか0.25%、20万台に過ぎない。しかしEV普及に向けた動きは加速している。40年のガソリン車全廃を決めているホンダはジーエス・ユアサコーポレーションと組み、20ギガワットの電池の工場建設に4300億円を投じ、27年から日本で生産に乗り出すことを決めた。経産省はこの電池工場に1587億円の補正予算をつける。経産省は年間200万〜300万台のEV国産化に必要な電池として150ギガワットの整備目標を示し、すでに稼働中、開発中のものと今回のホンダの計画を足して「60ギガワットのメドを付けた」(経産省の武尾伸隆電池産業室長)。産業界を横断する取り組みも動き始めている。電池・素材メーカーから自動車、商社、金融、ITなど140社が参加する電池サプライチェーン協議会では、電力のリユース、リサイクルに必要な電池そのもののあらゆる情報を業界横断で共有できるデジタルプラットフォームを作り、24年度までの社会実装を目指す(特集:電力が無料になる日〈電池のリユースは自動車業界の命綱〉参照)。必要なのは、まだ高額な電池を、再利用まで視野に入れ、社会インフラとして自動車・電力・通信・サービスなどセクター横断で共有し、価格を下げて、EVの普及を促す取り組みだ。NTTが基地局などで設置している蓄電池は停電時の非常用電源としても利用でき、通信事業の中で償却できるメリットがある。NTTはこれを全国のNTTビル間で直流送電網につなげる取り組みを始めている。こうした取り組みは電力を大量に消費する産業でも意識され始めている。図2にある通り全国28カ所で経産省の助成をもとに、電力・ガス、石油元売り、鉄道、商社、製鉄、エンジニアリングなどあらゆる業界が系統蓄電池の設置に乗り出している。究極はトヨタと東京電力の戦略的な提携の実現だ。日本総研創発戦略センターの瀧口信一郎氏は「EV用電池がトヨタから東電に流れる形ができれば、潜在的な巨額投資を引き出せる」と指摘する。日本で販売されるEVの電池をリユースで東電が引き取り、エネルギーマネジメントサービスとして電池コストを償却できるビジネスの仕組みだ。 ●東電9兆円の投資先 東京電力HDは30年までに9兆円以上を投じてカーボンニュートラル実現に向けたアライアンスを進める方針を昨年4月に明らかにしている。詳細は明らかにしていないが、蓄電ビジネスを脱炭素の中核に位置付けようとしていることは間違いない。同社はかねてから「EV用蓄電池の活用は重要。当社が保有する蓄電池のノウハウや独自の安全基準、システム化技術を活用し、EV用蓄電池を使って競争力のあるシステム構築する」と語っていた。5月29日のトヨタとの蓄電システム提携が第1弾とすれば、9兆円を原資とするさらに踏み込んだアライアンスに乗り出す可能性もある。産業界と国が連携して始まったEVグリッドの試みは、燃料費のかからない究極の国産エネルギー、再エネを限りなく無料に近づける挑戦ともいえる。 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71646260W3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.6) 再エネテックの波(2)脱炭素実現、蓄電池が左右 「価格4分の1」で壁突破 オーストラリア南部の南オーストラリア州。豊かな自然やワインで有名な州はいま、再生可能エネルギーの普及で世界の先頭を走る。太陽光と風力の発電量は州の年間需要157億キロワット時の約6割に相当。2030年にはすべての需要を賄い、50年には需要の5倍の供給能力を備えて州外への「輸出」も見据える。再エネの普及を支えるのが、つくった電気をためこむ蓄電池だ。米テスラなど蓄電大手は商機とみて同州に相次ぎ進出し、再エネ・蓄電池関連の投資は60億豪ドル(約5500億円)を超えた。23年には新たな施設が稼働し、同州の蓄電能力は一気に2倍超に高まる。 ●「捨てる」を回避 電気は需要と供給が常に一致しなければ周波数や電圧が狂い停電につながる。再エネの発電量は天候で変動し、再エネの比率が高まるほど変動幅は大きくなる。電気が余った時にためて足りない時に放出する蓄電池で変動をならす。16年9月には悪天候で再エネの発電量が減ってブラックアウト(全域停電)が起きた。それでも火力発電に回帰せず、蓄電池拡大で再エネの弱点を補った。州政府の元高官は「再エネの周波数や電圧の管理は発電量を増やす以上に重要。停電を起こす急激な変動を避けるために蓄電池は欠かせない」と話す。英調査会社ウッドマッケンジーは電力網につなぐ蓄電池は30年に世界で1億9400万キロワット時と20年比で19倍に膨らむとみる。各国で再エネが普及し、電気を「捨てる」のを避けようと蓄電投資が増える。それでもいまの蓄電池の国際流通価格(1キロワット時で約4万円)では再エネを柱に脱炭素を実現するにはまだ高い。日本で再エネ90%、残り10%を温暖化ガスを排出しない水素火力発電で補う場合、蓄電池が大量に必要になるため、現状の価格なら日本の発電コストは2倍になる。仮に蓄電池が1万円に下がれば上昇幅は4割、5000円なら3割に抑えることができ、電源構成として現実的な選択肢になる。日本経済新聞が21年時点の発電コストをもとに立命館アジア太平洋大学の松尾雄司准教授の論文から試算した。 ●EVや岩石活用 国際エネルギー機関(IEA)による世界の脱炭素シナリオも50年の再エネ比率を8~9割とみる。脱炭素と経済性の両立には、電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギとなる。有望なのが急速に普及する電気自動車(EV)の活用だ。世界で個人が所有する車の9割は駐車場にとまっている。EVを「電池」とみなして電力網につなげば、蓄電投資を抑制できる。IEAの予測では30年に世界のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)は合計で最大3億5千万台になる。英政府は国内で30年にEVの半数が送電網に接続すれば、原発16基分の1600万キロワットもの電気を補う効果があると試算する。EVは主流のリチウムイオン電池を載せるが、それ以外の蓄電技術の開発も盛んだ。独シーメンス・エナジー子会社のシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは岩石を熱してエネルギーをためる技術を開発した。コンクリートの建物内に並べた大量の小石に熱を蓄え、水蒸気を出して発電タービンを回す。100万キロワット時の電気を1~2週間蓄える。コストは従来の蓄電池の5分の1になる。20年代半ばの商用化を目指す。EVを組み込むことができる柔軟な電力システムになっているか。どんな蓄電の技術を開発し、どこまでコストを下げられるか。脱炭素時代の電力は蓄電を制するものが覇者となる。 *1-4-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/60c28d58e20926cae61f1556141ddd7a68288da4 (BBC、Yahoo 2023/6/5) 運行システムか信号に問題か インド列車事故、死者は275人、スティク・ビスワス(デリー)、アダム・ダービン(ロンドン) インド東部オディシャ(オリッサ)州で2日夜に起きた列車事故について、インドの鉄道相は4日、列車の進路を制御する「電子連動装置の変更」がおそらく原因だろうとの見方を地元メディアに示した。他方、鉄道相のもとに置かれているインド鉄道委員会は記者会見で「信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだ」と述べた。地元当局は同日、死者数について、二重計上があったとして288人から275人に修正した。アシュウィニ・ヴァイシュナヴ鉄道相はこの後、事故原因は特定されたと述べたものの、詳細は明らかにしなかった。電子連動装置は、特定区間で個々の列車のルートを決め、複数の線路での安全運行を確保するためのもの。今回の事故では、急行旅客列車が誤った信号で支線に入るよう指示を受け、支線に停車していた貨物列車に衝突。脱線した車両が、隣の線路を対向してきた別の旅客列車に衝突した。4日の記者会見で、インド鉄道委員会のジャヤ・ヴェルマ=シンハ氏は、2本の旅客列車は青信号のもと、速度制限の時速130キロを守り、それぞれバラソール地区駅へ向かっていたと説明した。ヴェルマ=シンハ氏によると、2本の旅客列車は本線ですれ違うはずだったものの、南へ向かう「コロマンデル急行」が支線へ進んでしまい、鉄鉱石を積んだ貨物列車に衝突。重い貨物列車はまったく動かず、急行の機関車や一部の車両が、貨物列車の上に乗り上げたという。北へ向かっていた「ハウラ・スーパーファスト急行」は、この衝突現場の横をほとんど通過し終えていたものの、後方の2車両に、脱線した「コロマンデル急行」の車両が当たってしまったという。ヴェルマ=シンハ氏は、「電子連動装置に問題はなく」、「信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだ」と述べた。「手動によるものか、偶発的なものか、気候関連か、経年劣化あるいは整備不良が原因か、そうしたことはすべて事故原因調査委員会がいずれ明らかにする」という。デリー拠点のシンクタンク「政策研究センター」の研究員でインフラに詳しいパルタ・ムコパディエイ氏はBBCに対して、列車の進行先が支線に切り替わっていたならば、本線に青信号が点灯するはずはないと話した。「鉄道信号の電子連動装置は、フェイルセイフ(誤作動が生じた場合に安全対応するための設計)になっているはずで、これほどの失敗は前例がない」とムコパディエイ氏は話した。 ■死者数275人に 3本の列車がからむ衝突事故は、現地時間2日午後7時(日本時間同10時半)ごろに起きた。死者数について、地元当局は同日、死者数を275人に修正した。これまで288人と発表していたが、二重計上があったという。負傷者1175人のうち、793人は退院した。安否不明の家族をまだ探している人も複数いる。2本の旅客列車には計約2000人の乗客が乗っていたとみられる。オディシャ(現地語でオリッサ)州のプラディープ・ジェナ知事はBBCに対して、少なくとも187人の遺体の身元が確認できていないと話した。当局は遺体の写真を政府ウェブサイトに掲載する作業を進めており、必要に応じてDNA検査を行うという。捜索・救出作業は3日中に終わり、現在は大破した列車を現場から撤去し、鉄道運行の再開へ向けて取り組んでいるという。インドのナレンドラ・モディ首相は3日に事故現場と、被害者の運ばれた病院を訪れ、責任者を厳正に処罰すると述べた。インドの鉄道網は世界最大級で、毎日数百万人が利用するものの、そのインフラの大部分が改良を必要としている。学校が休みになるこの時期には鉄道利用者が増えるため、車内は非常に混雑することがある。インド史上最悪の列車事故は1981年にビハール州で起こった。超満員の旅客列車がサイクロンにあおられて脱線し、川に落下。少なくとも800人が亡くなった。 *1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM220HO0S3A520C2000000/ (日経新聞 2023年5月22日) インドのモディ首相、島しょ国と会合 中国抑止へ関与 インドのモディ首相は22日、南太平洋のパプアニューギニアで8年ぶりに太平洋島しょ国首脳との会合を開いた。太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に、島しょ国への関与を強めて同地域への影響力を確保する狙いがある。「我々はあなた方の優先順位を尊重する。人道支援であれ開発であれ、あなた方はインドをパートナーとして信頼できる」。会合の冒頭、モディ氏は14カ国の島しょ国首脳に語りかけた。気候変動対策や食糧安全保障、デジタル技術などでの支援を打ち出した。モディ氏は21日に広島で主要7カ国首脳会議(G7サミット)の拡大会合に出席後、パプアの首都ポートモレスビーに向かった。現職のインド首相が同国を訪問するのは初めて。会合では広島で開いた日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」首脳会議の議論にも触れ「我々は多国間で島しょ国とのパートナーシップを強化する。自由で開かれたインド太平洋を支持する」と強調した。パプアのマラペ首相は会合で「我々は大国同士の勢力争いに苦しんでいる」と強調した。モディ氏に「我々の擁護者になってほしい」と求め、気候変動対策やエネルギー高騰などによる財政難への継続支援を訴えた。侵略や植民地支配の歴史をもつ島しょ国には、再び大国の覇権争いの舞台になることへの警戒感が強い。南半球を中心とした新興・途上国「グローバルサウス」として歴史を共有するインドに対して代弁者としての期待を抱く。「インド・太平洋島しょ国協力会議」は2014年にモディ氏のフィジー訪問に合わせて発足した。15年にインドで2度目の会合を開いたが、その後は空白期間が続いていた。今回の会合はインド側の呼びかけで実現した。インドは自国と国境問題を抱える中国が島しょ国の周辺海域の軍事拠点化を進めることに懸念を強めている。中国は06年にフィジーで「中国・太平洋島しょ国経済発展協力フォーラム」を開催。14年には習近平(シー・ジンピン)氏が国家主席として初めてフィジーを訪れ地域への経済支援の拡大を打ち出した。22年4月にはソロモン諸島と安全保障協定を締結した。米国はソロモン諸島やキリバス、トンガに大使館開設を決めるなど巻き返しを図ってきた。 <G7 環境> *2-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230416/k10014040201000.html (NHK 2023年4月16日) G7環境相会合 閉幕 自動車分野の二酸化炭素排出50%削減へ合意 札幌市で行われていたG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合は2日間の議論を終え、閉幕しました。焦点となっていた自動車分野の脱炭素化では、G7各国の保有台数をベースに、二酸化炭素の排出量の50%削減に向けた取り組みを進めることで合意しました。脱炭素社会の実現や経済安全保障の強化などをテーマに、2日間にわたって開かれた会合は共同声明を採択して閉幕しました。それによりますと、自動車分野の脱炭素化については、エンジン車なども含めた各国の保有台数をベースに、G7各国で二酸化炭素の排出量を2035年までに2000年に比べて50%削減できるよう、進捗(しんちょく)を毎年確認することで合意しました。欧米の国々が求めていた電気自動車の導入目標ではなく、ハイブリッド車も含めた幅広い種類の車で脱炭素化を目指すことになりました。また、石炭火力発電の廃止時期は明示しない一方、石炭や天然ガスなどの化石燃料について、二酸化炭素の排出削減の対策が取られない場合、段階的に廃止することで合意しました。一方、環境分野では、レアメタルなどの重要鉱物について、G7各国が中心となって国内外の使用済み電子機器などを回収し、リサイクル量を世界全体で増加させることや、プラスチックごみによるさらなる海洋汚染などを、2040年までにゼロにするという新たな目標が盛り込まれました。議長国の日本としては、脱炭素化に向けて、各国の事情に応じたさまざまな道筋を示せたとしていて、来月のG7広島サミットでの議論に反映させる方針です。 ●西村環境相 「G7各国の結束揺るぎない」 会合を終え、西村環境大臣は「さまざまな国際情勢の中で、気候変動と環境問題に関してG7各国の結束が揺るぎないということを世界に示すことができた非常に意味のある会議だった。今回の共同声明で気候変動や環境政策の方向性を示すことができたが、今後はこの方向性に沿った具体的な対策を進めていくことが重要で、課題だと思う。今回の成果を来月の広島サミットや国連の気候変動問題を話し合うCOP28につなげ、各国で取り組んでいきたい」と述べました。 ●西村経産相「技術を広げ 実装していくことが大事」 会合のあと西村経済産業大臣は採択された共同声明について「各国のエネルギーや経済の事情が違うなかでも多様な道筋を認めながら、それでもカーボンニュートラルを目指すということだ」と述べました。そのうえで「まさにイノベーションが温室効果ガスの排出量の実質ゼロを実現するためのカギだと思う。グローバルサウスとの連携のなかで、技術をしっかりと広げ、実装していくことが大事だと思っている」と述べ、日本として途上国などへの技術協力や投資なども行い、脱炭素の取り組みを支援していく考えを示しました。 ●脱炭素社会実現に向け どのようなメッセージ打ち出すかが焦点 今回のG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合では、脱炭素社会の実現に向けて、どのようなメッセージを打ち出すかが焦点でした。 【自動車分野の脱炭素化】 世界で電気自動車の普及が進むなか、欧米の国々は、電気自動車の導入目標を定めるべきと主張しましたが、ハイブリッド車の多い日本は慎重な立場で、会合の終盤まで調整が続きました。その結果、ハイブリッド車やエンジン車なども含めた各国の保有台数をベースにG7各国で二酸化炭素の排出量を2035年までに2000年に比べて50%削減できるよう、進捗を毎年確認することになりました。日本としては、電気自動車に限った目標ではないため、ハイブリッド車も含む幅広い種類の車で脱炭素化を進められるとしています。 【合成燃料】 その一方で既存のエンジン車でも活用できる「合成燃料」の技術開発の必要性が強調されました。工場などから排出された二酸化炭素を原料に合成燃料を製造すれば排出量を実質ゼロにできます。EU=ヨーロッパ連合も合成燃料の使用を条件にエンジン車の販売の継続を認めることにしていて、次世代エネルギーを推進することで脱炭素化を進めることにしています。 【石炭火力発電】 石炭火力発電についてはヨーロッパの国々が段階的な廃止に向けて期限を設けるべきだと訴えていたのに対して、日本は、アジア各国の現状なども踏まえ、一定程度の活用は必要だというスタンスでした。その結果、石炭火力発電の廃止時期は明示しない一方で、石炭や天然ガスなどの化石燃料については、二酸化炭素の排出削減の対策が取れない場合、段階的に廃止するという内容で決着をはかりました。 【再生可能エネルギー】 再生可能エネルギーの普及に向けては、G7全体で、▽2030年までに洋上風力発電を原発150基分に相当する150ギガワットに、▽太陽光発電については、「ペロブスカイト型」と呼ばれる薄くて軽い次世代型のパネルを普及させるなどして、原発1000基分に相当する1テラワットまで拡大させるとしています。これらの目標は現在と比べて、▽洋上風力で7倍余り、▽太陽光では3倍余りの規模となります。 【重要鉱物】 電気自動車のバッテリーや半導体の材料となるリチウムやニッケルなどの重要鉱物は、中国などとの間で獲得競争が激しくなっています。このため今回の会合では、経済安全保障上の観点から重要鉱物の安定確保に向けた行動計画がとりまとめられました。G7で日本円にして1兆7000億円余りの財政支出を行い、鉱山の共同開発などを支援するほか、電気自動車の使用済みバッテリーなどから重要鉱物を回収するリサイクルを進めるなど、5つの協力を進めることにしています。 【天然ガス】 その上で天然ガスについても、ロシアのウクライナ侵攻のあと安定供給に向けた懸念が高まっていることから、各国で投資を進めることの重要性を確認しました。 天然ガスは石炭などに比べると二酸化炭素の排出量が少なく、日本としては、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国が経済成長と脱炭素化を両立させるうえでも供給量を増やす必要があるとしています。 ●プラスチックごみゼロを目指す新たな目標などに合意 16日閉幕したG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合の気候と環境の分野ではリサイクルなどによる循環経済の推進や海洋汚染などを引き起こすプラスチックごみゼロを目指す新たな目標などに合意しました。 【気候変動への対応】 世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるという目標の達成に向け、少なくとも2025年までに世界の温室効果ガスの排出量を減少に転じさせ、2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするためには、経済システムの変革が必要だとしています。そして、中国やインドなどを念頭に、温室効果ガスの削減目標が1.5度の上昇と整合していない主要経済国に対して、ことし11月の国連の気候変動対策の会議「COP28」までに排出削減目標を強化するよう、呼びかけています。 【プラスチックごみ】 生き物などに悪影響を与え、海洋汚染を引き起こすプラスチックごみによるさらなる汚染を2040年までにゼロにするという新たな目標が設定されました。プラスチック汚染をめぐっては、2019年に開催されたG20大阪サミットで、プラスチックによるさらなる海洋汚染を2050年までにゼロにするという目標が合意されましたが、この目標を10年前倒しして、早期の実現を目指す形です。 【侵略的外来種の対策】 固有の生態系に影響を与え、生物多様性を損失させる要因でもあるヒアリなどの「侵略的外来種」について、水際対策など、国際協力の必要性を各国が認識するとともに、侵略的外来種の発生状況や駆除方法などについて、専門家を交えて話し合う国際会議が開催されることが決まりました。 1回目の会議は年内に日本で開催されることが検討されています。 【循環経済】 資源のリサイクルやリユースでエネルギー消費を抑制する「循環経済」の実現の重要性も強調され、企業が取り組むべき行動指針がまとまりました。具体的には、リサイクル材での製造やシェアリングサービスの促進など、資源を効率的に活用するビジネスモデルをつくることや、製造とリサイクルなど異なる業界での連携を強化して供給網全体で資源を有効活用することなどが挙げられています。また、レアメタルなどの重要鉱物について、G7が中心となって国内外の使用済み電子機器などを回収しリサイクル量を世界全体で増加させることも決まりました。 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR5P6FYKR5PULBH006.html?iref=sp_extlink (朝日新聞 2023年5月21日) G7 再生可能エネルギー強調、「作文」ではなく世界を動かせるか 21日に閉幕した、G7広島サミット(主要7カ国首脳会議)で採択された共同声明の気候変動やエネルギー分野では、再生可能エネルギーへの移行が強く打ち出された。「パリ協定」で掲げた産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑える目標の達成に向け、太陽光発電を現在の3倍以上増やす目標を掲げるなど、世界全体で再エネ移行を進める土台をつくった。さらに、首脳会議を経て初めて入ったのが「気候変動に脆弱(ぜいじゃく)なグループの支援が不可欠」という文言だ。グローバルサウスと呼ばれる、新興国・途上国への再エネ移行支援などを想定する。発展に伴い、温室効果ガスの排出増も懸念される中、途上国などに対策の資金が渡らなければ世界全体で脱炭素を目指すことはできなくなる。ただ、IEA(国際エネルギー機関)は、2050年までに排出実質ゼロを達成するには、再エネ投資額を30年までに、現在の3倍以上の年間4兆ドルにする必要があると報告。先進国はパリ協定で気候変動対策として年間1千億ドルを支援すると約束しているが、いまだ果たせておらず、途上国の動きを鈍くしている。そんな中、「投資の質」を高めることも意識。共同声明でIEAに対し、年内に再エネ供給を多様化するための選択肢を提示するよう要請。再エネのコストの低減や、中国に依存する太陽光パネルや蓄電池に必要なレアアースなどの重要鉱物の供給網確保を示した「クリーンエネルギー経済行動計画」も別に採択した。一方、脱化石燃料では「段階的廃止」を打ち出したものの、天然ガスへの公的投資を容認するなど抜け道も多く、先進国としての範を示せたとは言い難い。英シンクタンクE3Gのオルデン・マイヤー氏は、「G7はこれらの目標をどう実現するつもりか、より具体的に説明する必要がある。具体性がなければ、聞き心地のよい作文だとみなされる」と指摘する。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551370S3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.2) 再エネ電源、世界で5割規模へ 発電能力が化石燃料に匹敵、送電・安定供給に課題 世界で太陽光など再生可能エネルギーの導入が急拡大している。国際エネルギー機関(IEA)は1日、2024年の再生エネ発電能力が約45億キロワットになる見通しを公表した。石炭などの化石燃料に匹敵する規模だ。50年の二酸化炭素(CO2)実質排出ゼロに向けて各国が導入を加速したほか、ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料の輸入依存への危機感が強まったのが要因だ。再生エネの発電能力は24年には全電源の5割規模になるとみられる。ただ火力などに比べて稼働率は劣るため、実際の発電量は5割より低くなる。安定電源として活用するには、太陽光に比べて導入が遅れる風力の拡大といった電源構成の多様化や、送電網整備などが課題となる。IEAによると、世界の再生エネの発電能力は22年に21年比で約3.3億キロワット増えた。23年は4.4億キロワット増え、前年からの増加幅は過去最大となる見通しだ。24年の発電能力は約45億キロワットを見込む。これは21年時点の化石燃料(約44億キロワット、独調査会社スタティスタ調べ)と同規模になる。原子力や火力発電所のように24時間発電できるわけではないが、原発4500基分にあたる。IEAは太陽光は23年の増加幅の過半を占める可能性があり、24年もさらに増えると予測。メガソーラー(大規模太陽光発電所)に加え、屋根に設置するタイプの太陽光パネルの普及が進む。風力も勢いを取り戻す。近年は新型コロナウイルス禍で導入の伸び悩みもみられたが、再び導入増に転じると分析した。中国と欧州連合(EU)がけん引役となる。IEAは23、24年ともに再生エネ導入を最も推進するのは中国とみる。再生エネ市場での「主導的立場を固める」可能性を指摘した。米国やインドも存在感を増す。日本の出遅れは鮮明だ。IEAは中国の23年の発電能力は2億3100万キロワット増えると予測するが、日本は1千万キロワットにとどまる。化石燃料などの電源の発電能力(20年時点)に、24年の再生エネの発電能力予測を単純にあてはめると、全電源の5割程度を占める計算だ。急拡大の背景には、各国のエネルギー安全保障への危機感がある。ウクライナ危機で化石燃料に依存するリスクが浮上。各国は燃料を他国に依存せずに済むとみて、再エネ導入を急いだ。再生エネの発電は天候に左右されやすく、変動がある。発電量の安定には火力や蓄電池を組み合わせる必要がある。IEAは2050年に温暖化ガス実質排出ゼロを達成するには、30年時点で6割程度、50年で9割近くを再生エネでまかなう必要があるとみている。ただ太陽光は製造能力が50年の排出ゼロに十分な拡大をしているが、風力はペースが遅いと指摘している。安定した発電には、電気を無駄にせずに大消費地などに送る送配電網の充実も不可欠だ。蓄電池の大規模な新規設置も必要になる。 *2-2-3:https://nordot.app/1037719559253410388?c=302675738515047521 (共同通信 2023/6/3) 関西電力、初の出力制御へ 4日、再エネ一時停止要請 関西電力送配電は3日、太陽光と風力の再生可能エネルギー発電事業者に対し、一時的に発電停止を求める出力制御を4日に初めて実施すると発表した。休日で工場の稼働が減って電力需要が縮小する中、晴天により太陽光などの発電量が増えて供給過剰になると、需給のバランスが崩れて大規模停電につながる恐れがあるため。出力制御は4日午前9時~午後1時半に実施予定で、制御量は42万~52万キロワットの見通し。関西送配電はバイオマスの発電量を抑制した例はあるが、太陽光や風力を含む出力制御はなかった。再エネの急速な普及により、大手電力会社による出力制御は急増している。関西送配電が実施すると、大手10社では東京電力を除く9社のエリアで行われたことになる。出力制御は、寒さや暑さが和らぎエアコンの使用量が減少する、春や秋の休日に実施するケースが多い。政府は再エネを最大限活用するため、広範囲に電気を融通する仕組みの強化などを急いでいる。 *2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15651890.html?iref=pc_opinion_top__n (朝日新聞社説 2023年6月2日) 原発推進法 難題に背向ける無責任 原発事故の惨禍から得た教訓は、かくも軽いものだったのか。「依存を減らす」から「最大限活用」へ。熟議抜きに政策の反転を押し通した政府と国会の多数派の責任は重い。原発が抱える数多くの難題を解決できるのか。後世に禍根を残すことにならないか。今後も問い続けなければならない。原発推進関連法が今週、国会で成立した。積極活用に向けた国の責務や施策を原子力基本法に明記した。福島第一原発の事故後に導入された運転期間の制限も緩め、一定の要件で60年を超える稼働に道を開いた。朝日新聞の社説は法案に反対し、再考を求めてきた。原発には、安全性や経済性の問題に加えて、増え続ける「核のゴミ」や核燃料サイクルの行き詰まりといった課題が山積する。その解決の道筋も示さずに、なし崩しに「復権」に転じるのは許されないと考えるからだ。エネルギー政策全般の見地でも、いまは再生可能エネルギーを主軸に据える変革を急ぐべきときだ。「原発頼み」に戻れば、道を誤りかねない。進め方も拙速だった。政府は昨年、新方針を数カ月間の限られた議論で決めた。国会は多角的に検討を尽くす責任を負っていたはずだが、議論は深まらなかった。失望を禁じ得ない。政策転換の理由にされたのはエネルギーの安定供給と脱炭素化への対応だ。では、原発が実際にこれらの役割をどれほど果たせるのか。なぜ原発を「特別扱い」する必要があるのか。政府は正面から答えず、「原子力を含め、あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返した。内容が多岐にわたる「束ね法案」にされ、具体策の議論も散漫になった。運転期間の上限は、導入時に「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されていたが、今回政府は「安全規制ではなく、利用政策上の判断」と主張した。大きな変更だが、腑(ふ)に落ちる説明はなかった。結局、根本の問題を含め、数々の疑問が置き去りにされた。この姿勢が続くなら、原発政策が推進一辺倒に硬直化するのは必至だろう。今回の転換は経済産業省の主導で進み、福島の事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」すら大きく揺らいでいる。政府は、再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ。だが少なくとも、安全に関する手続きや経済性の見極めをおろそかにしてはならない。そして、いくら目を背けようとも、原発の不都合な現実が消えるわけではない。早晩向き合わざるを得ない日が来ることを、政府と法案に賛成した各党は肝に銘じておくべきだ。 *2-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1049610 (佐賀新聞 2023/6/6) GX原発推進法成立 根拠欠く拙速な決定だ エネルギー関連の五つの法改正をまとめ、原発推進を明確にした「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立した。東京電力福島第1原発事故後に導入した「原則40年、最長60年」との運転期間の規定を原子炉等規制法から電気事業法に移し、運転延長を経済産業相が認可することで、60年超の運転を可能にした。原子力基本法では、原発活用による電力安定供給確保や脱炭素社会の実現を新たに「国の責務」とするなど、原発に関する重大な政策転換だ。悲惨な原発事故を忘れたかのような安易で拙速な決定は受け入れがたい。気候危機対策として原発に過大な投資をすることも合理的ではなく、エネルギー政策の失政の歴史にさらなる一ページを加えることになる。オープンで公正な議論を通じて見直しを進めるべきだ。気候危機対策では電力の脱炭素化が急務だ。多くの国がそれを進める中、大きく後れを取ってきたのが日本だ。1キロワット時の電気をつくる時に出る二酸化炭素(CO2)の量は、先進7カ国(G7)の中で最も多い。各国で電力の脱炭素化に貢献したのは、石炭火力の削減と再生可能エネルギーの拡大、省エネの推進で、原発拡大ではなかった。日本の遅れは、脱石炭と再エネ、省エネのすべてが進んでいないことが大きな原因だ。発電時に出るCO2の大幅削減は時間との闘いだ。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるためには2030年までに大幅な排出削減を実現する必要があり、これができないと手遅れになる。原発の運転期間の延長や革新的な原子炉の開発など、政府が進めようとしている原発推進策が、短期間での大幅削減に貢献しないことは明白だ。逆に多くの政策資源や資金が原子力に投入されることで、短期的な排出削減に最も効果的な再エネの拡大や省エネの推進が滞ると懸念される。このままでは化石燃料への依存が続き、安価な電力の安定供給も、CO2排出削減も実現せず、早晩、政策の見直しを迫られることになるだろう。今回の政策変更は内容も問題ばかりだが、その進め方にも多くの疑問点がある。福島事故を理由に掲げてきた「原発依存度の可能な限りの低減」を撤回し、原発推進にかじを切ったのは22年8月の岸田文雄首相の指示だった。その後、多くの法改正や新政策の議論が経産省を中心とする一部の関係者だけで進められ、短期間の決定となった。意見公募の機会も政府の説明も不十分で、原発事故の被災者や次世代の若者などを含めた多様な利害関係者が意見を表明する場はほとんどなかった。しかも今国会には、電気事業法などの関連する五つの法律をまとめて審議する「束ね法案」の形で提出されたため、審議時間は不十分。多くの疑問に政府が納得できる回答をしないまま、成立に至った。既得権益と前例にこだわり、正当性も科学的な根拠も欠くこのような政策が、いとも簡単に通ってしまうことが日本のエネルギー政策の大きな問題だ。不透明で非民主的な政策決定の手法が根本にある。国の将来を左右する重要なエネルギー政策決定で、いつまでもこのような手法を続けることは日本の将来を極めて危ういものにしかねない。 *2-3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASR5R6VM2R5QUPQJ00J.html?iref=pc_opinion_top__n (朝日新聞 2023年5月27日) 「その場しのぎ」を繰り返した原発 地下水は60年代から問題だった 大月規義(編集委員。大阪大学大学院原子力工学専攻修了。東京電力勤務を経て1994年から朝日新聞記者。昨年から南相馬市に駐在) 東京電力福島第一原発から出る汚染水を、「安全」に処理して海に流すことへの漁業者らの反発。その原因をたどると、東電や国が「その場しのぎ」を続けてきた歴史が垣間見える。汚染水の大もとは、原子炉の建屋へしみ込む地下水や雨水だ。そもそも大量の地下水の噴出は、第一原発の建設が始まった1960年代から問題になっていた。原発を安定した岩盤の上に建て、海上から楽に資材を運搬するため、地面を20メートル以上掘り下げたことが原因と言われる。地下水の発生と排水は、運転を開始した後も続いた。2011年に事故が起きると、地下水は溶け落ちた核燃料(デブリ)の放射性物質を含み、汚染水となった。直後に東電は海に流し、国内外から酷評された。汚染水と、放射性物質をおおむね抜き取った処理水は、地上タンクにため続けた。13年にはタンクからの水漏れが問題になる。それでも安倍晋三首相(当時)は、汚染水の状況を「アンダーコントロール」と世界に発信した。地元は現実との違いに落胆した。そんな国と東電が、建屋に入る前の地下水を海に流すために漁業者の説得に使ったのが、処理水は「関係者の理解なしには処分しない」という15年の約束だ。実際は、タンクが敷地に満杯になるまでには「理解」が進むだろうという楽観に過ぎなかった。3年後には処理水に、取り除かれているはずのストロンチウムなどが基準を超えて含まれていることが発覚。東電は情報をホームページには載せていたと釈明したが、処理問題を話し合う国の会議では説明を省いていた。信頼や理解が地元に根付かないのは、こうした経緯があるためだ。当座をしのぐ対応は、他にもある。福島県内の除染で出た汚染土を、国は原発近くの双葉、大熊両町の中間貯蔵施設にためている。当初は最終処分場にするはずだったが、「中間貯蔵」と言い換え、「30年後に県外に運び出す」と約束し2町を説得した。その後、除染土の県外搬出は法律に明記されたが、見通しは全く立たない。国は各地で原発の再稼働や新増設を進めようとしている。だが、増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理など、深刻な問題から目をそらし続けた。そのツケが必ずどこかに回ってくることは、福島の現実が示している。 *2-3-4:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20230601/biz/00m/020/014000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailbiz&utm_content=20230606 (毎日新聞 2023年6月2日) 原発が安いは本当?「東電資料」から見つけた意外なデータ ●原発の発電コストが安いは本当か(上) 東京電力など大手電力7社が6月1日から電気の規制料金を値上げした。政府や電力会社は原発を再稼働すれば燃料代が安くなり、電気料金の抑制につながると主張しているが、本当なのか。東電の公表資料を基に計算すると、原発の発電コストが火力などの市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がった。東電(正確には東京電力ホールディングス傘下で電力を販売する東京電力エナジーパートナー)は、家庭などに供給する電気の規制料金を6月1日から平均15.9%値上げした。東電は福島第1原発の事故後、全ての原発が停止している。ところが今回の電気料金の原価計算では、新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機を再稼働させることを「仮置き」として織り込んでいる。原発2基を再稼働することで、東電は「年間900億円程度の費用削減効果になる」と説明する。これは再稼働に伴い、核燃料代などはかかるが、卸電力取引市場を通じて他社から購入する火力発電などの電力が少なくなるからだという。 ●東電の公表資料を基に計算 大手電力の規制料金の値上げは、政府の電力・ガス取引監視等委員会が消費者庁とともに審査した。東電が同委員会に提出した資料によると、東電が他社から購入する火力などの電力の市場価格は1キロワット時当たり20.97円となっている。これに対して、原発の発電コストはいくらなのか。東電の公表資料によると、再稼働する原発2基で年間119億キロワット時の電力を発電する想定で、その費用の総額は4940億円という。この中には日本原子力発電と東北電力から原発の電力を購入する契約に基づき、東電が日本原電に支払う約550億円と東北電力に支払う約313億円が含まれている。両社の原発は動いていないため、東電が実際に受け取る原発の電力はゼロだが、契約に基づき人件費や修繕費などを「基本料金」として支払うことになっている。年間119億キロワット時の電力を4940億円かけて発電するので、1キロワット時当たりの発電コストは4940÷119=41.51円となる。日本原電と東北電力へ支払う基本料金を除いた東電の原発にかかる費用は4076億円となっており、発電コストは4076÷119=34.25円となる計算だ。 ●原発が全基再稼働したら? いずれも東電が他社から購入する上記の市場価格20.97円を大きく上回る。これなら東電は原発2基を再稼働するよりも、市場から火力発電など他社の電力を購入した方が安く済む計算になる。さらに原発が再稼働した場合はどうか。NPO法人「原子力資料情報室」の事務局長を務める松久保肇氏は、柏崎刈羽原発の2~7号機が再稼働した場合を試算した。松久保氏は経済産業相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会原子力小委員会」などの委員を務めている。松久保氏は東電が政府に提出した公表資料を基に核燃料の単価や原発の固定費などを推計し、発電コストを試算した。柏崎刈羽原発は地元の新潟県柏崎市長が6、7号機の再稼働を認める条件として、1~5号機の廃炉計画を示すよう東電に要請している。このため最も古い1号機を廃炉にすると仮定して計算したところ、2~7号機(設備利用率80%)の発電コストは1キロワット時当たり17.09円となった。さらに日本原電と東北電力の原発が再稼働し、契約通りに東電が電力を購入した場合を加えると、原発の発電コストは同15.96円となった。東電が他社から電力を購入する市場価格(同20.97円)は下回るが、松久保氏によると、2020年4月~23年4月の卸電力市場の平均価格は同14.82円だという。原発を全基再稼働しても、原発の発電コストは市場価格の平均を上回る計算だ。松久保氏は「固定費などは電力会社や原発ごとに異なると思われるため、試算には一定の限界がある」としながらも、「政府は原発が再稼働すれば電力料金の抑制につながると説明するが、原発は燃料代が安くても維持費が高いため、電気料金の抑制効果はほとんどないと見るべきだ」と指摘する。今回の試算について、政府や東電は何と反論するのか。同様の試算をめぐっては、辻元清美参院議員(立憲民主党)が政府に質問主意書を提出している。次回、詳しくお伝えする。 *2-3-5:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20230502/biz/00m/020/008000c (毎日新聞 2023年5月6日)「脱原発のドイツ」はフランスから電力輸入は本当か ここは書かないわけにはいかない。ドイツが4月15日に脱原発を達成した。「とうとうその日がきたのか」と感慨深い。思い出すのは2015年、ドイツに「エネルギーベンデ(大転換)」の取材に出かけた時のことだ。国内最大の電力会社「エーオン」のエネルギー政策担当者が淡々と語っていた。「個人的には原発はクリーンなエネルギーとして優れていると思います。でも、そういう意見を言う段階は過ぎたのです」。誰が政権を取ろうと脱原発は変わらない。電力業界の諦めにも似た認識が覆されることはなかったわけだ。東京電力の福島第1原発事故をきっかけに業界がなんと言おうと脱原発を進めたドイツ。事故の当事者でありながら開き直りのように「原発回帰」にかじを切る日本の政府。いったい何が違うのだろうか。 ●「日本でも原発事故防げなかった」 そもそもドイツの脱原発の方針は20年以上前にさかのぼる。1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに原発を支持してきた国民の意見が変わった。その意向を反映した社会民主党と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と脱原発で基本合意し、02年に脱原発法を制定したのだ。ただ、10年には一時、中道保守のメルケル政権が原発延命を決定した。そこに起きたのが福島の原発事故だ。ここで有名な政府の「倫理委員会」が開かれる。工学者や経済学者だけでなく、哲学者や宗教界の代表者らで構成され、原発事故のリスクや廃棄物、他のエネルギー源との比較などを検討。原発よりリスクの少ない代替手段はあり、「脱原発が妥当」と結論づけた。これとは別に原発の専門家による「原子炉安全委員会」が「ドイツの原発は安全」と報告したが、メルケル首相は倫理委の判断を尊重した。「日本のような技術の高い国で原発事故が防げないなら、ドイツでも起こりうる」との認識からだ。22年までに国内の全原発17基を停止する計画は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機で延期を余儀なくされた。それでも脱原発の方針は揺るがなかった。 ●日本で見かける誤解 もちろん、原発さえやめれば「バラ色」というわけではない。当然課題はあるが、誤解もある。たとえば日本でよくみかける「ドイツが脱原発できるのは原発大国フランスから電力を輸入しているからだ」との論調があるが、事実はどうか。08~21年のドイツと各国間の電力取引総量をみると、輸出量が輸入量を上回り、ドイツは電力輸出国となっている。フランスとの取引の収支でも20年、21年とドイツの輸出超過。つまり、輸入しているのはフランスの方なのだ(原典は「Monitoringbericht 2022」)。フランスが電力輸入に転じた背景には、昨夏、配管の腐食や点検で全原発の半数以上が停止したことや、熱波の影響で一部の原発が出力を抑えざるをえなかったことがある。「ドイツは褐炭(低品質で安価な石炭)の依存度が高く、気候変動対策に逆行する」という指摘も聞く。確かに、22年のドイツの電源構成は風力、太陽光などの再生エネルギーが4割を超える一方で、石炭火力も3割を占める。ただ、10年に比べると3割減。この10年で原発とともに化石燃料も大幅に減らしてきたことがわかる。ショルツ政権は30年までに石炭火力を廃止し、自然エネルギーを80%に引き上げる目標を立てている。褐炭・石炭をフェーズアウトさせるための具体的なシナリオや対策、明確なスケジュールも示されている。簡単ではないが、目標を定め、道筋を示すことで、新たな技術や仕組みも開発されるはずだ。 ●短期的利益優先でよいのか このところ電力価格高騰への不安から、世論が原発維持に傾いていることも指摘される。だが、原発数基を再稼働したからといって、一気に価格を抑えられる見込みがあるわけではない。電力価格の高騰にはさまざまな要因がある。ひとたび事故が起きれば、これではすまない。核のゴミの問題も解決はむずかしい。こうした原発依存のリスクは今後もなくならない。翻って日本はどうか。福島の事故からわずか12年で原発回帰へとかじを切った岸田政権。最大の問題は長期的ビジョンを持たず、短期的利益が優先され、原発事故前からの業界の既得権益を守る方向に傾くことだ。先日も、関西電力や九州電力など大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧し、公正な競争を妨害した。こうした事件が起きるのも、政府が原発を守ろうとする姿勢への便乗ではないだろうか。 <G7と農業> *3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/f25b2a9306abd7f83bcf23d73f1cbbc9691721c0 (Yahoo、日本農業新聞 2023/5/20) 食料安保「深い懸念」 G7首脳宣言 生産性向上を提起 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は20日、広島市のグランドプリンスホテル広島で2日目の討議を行い、最終日の21日を前に首脳宣言を発表した。食料・農業分野では、ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料安全保障が悪化しているとして「深い懸念」を表明。食料の生産・供給体制を強靭(きょうじん)化する必要があるとし、既存の農業資源を活用した生産性向上や環境に配慮した持続可能な農業を推進することを提起した。4月22、23日に宮崎市で開かれたG7農相会合でも、持続可能性を維持しながら国内の農業生産を拡大していくべきだとの見解で一致していた。この成果が、今回の首脳宣言に反映された格好だ。宣言では、国内の既存の農業資源を活用することや、幅広いイノベーション(技術革新)を推進していくことに言及。学校給食などを通じて健康的な食料を確保していくことの重要性も提起された。不当な輸出制限措置を回避することの重要性も改めて表明し、20カ国・地域(G20)の参加国にもこれを講じるよう求めた。ウクライナを巡っては、ロシアが世界有数の農業大国であるウクライナを侵攻したことで、食料供給体制が脆弱(ぜいじゃく)な国の食料安保が脅かされていると厳しく批判。G7として、そうした国への支援を続けていくと表明した。声明は当初、最終日の21日に発表予定だったが、新興国を加えた拡大首脳会議が始まったことなどを受け、G7の討議が事実上終了したとして発表に踏み切った。最終日は、20日に急遽来日したウクライナのゼレンスキー大統領やインドなど招待国の首脳らも加わり、ウクライナ情勢に関した討議を行う。 ●「行動声明」 グローバルサウスと初 首脳宣言とは別にG7首脳は、「グローバルサウス」と呼ばれるインド、ブラジルなど新興・途上の8カ国首脳と初めて、世界の食料安全保障の強靭化に向けた「広島行動声明」を出した。世界は「現世代で最も高い飢饉(ききん)のリスクに直面」していると警告し、危機への備えなどの必要性を訴えた。食料不足や物価高騰の影響を受けやすい8カ国との行動声明は、飢饉回避のため、民間などからの人道・開発支援への投資の増加が必要だと強調。農業貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿うよう明記した。全ての人が栄養価の高い食料に安定的にアクセスできることが不可欠だと指摘し、女性や子どもを含む弱い立場の人々や小規模零細農家への支援強化、既存の国内農業資源の公正かつ適切な利用などの行動を求めた。 *3-2:https://www.sankei.com/article/20230423-SE5XTMBV65ODZGXAK3IBLCF66I/ (産経新聞 2023/4/23) 食料安保〝弱者〟日本、声明作成成功も国内生産拡大に課題 G7農相会合で採択された共同声明は、周囲を海に囲まれ食料の大半を輸入に頼る食料安全保障上の〝弱者〟である日本の意向を反映したものとなった。日本が重視する自国生産の拡大と持続可能な農業を両立する方針をG7で共有した。ただ、少子高齢化による農家や農地の激減といった恒常的課題を抱える日本の農業にとって、声明の順守は容易ではない。G7には米国やカナダなど食料の輸出大国も多く、他国が生産量を増やせば輸出機会の喪失につながる。そのため、「輸入国の生産拡大をG7の議題にすることはタブー視されてきた」(農水省幹部)。だが、食料の大半を輸入に頼る日本にとって、輸入依存度の低減に直結する自国生産の拡大は食料安保を確保する上で不可欠だ。今回の共同声明が「生産性の向上を支援する政策の促進にコミット(関与)する」と明記したことは、G7が途上国も含めた食料輸入国の自国生産の拡大を容認したことを意味する。背景には、ウクライナ危機後の食料供給の不安定化に加え、近年頻発する気象災害や世界的な人口増加の問題が顕在化し、G7内で食料不足にある現状の認識が広がったことがある。さらに、生産拡大と「持続可能な農業とを両立」させるという〝条件付き〟で、環境意識の高い欧米の合意を得るに至った。高度経済成長期に食生活の欧米化が進み、貿易自由化による多くの輸入農産品の国内への流入が自給率の低下を招いた日本の農業。令和3年度の食料自給率(カロリーベース)は38%とG7内では最低だ。「日本は小規模農家が多い。その中でどう(生産性を拡大)していくかは、イノベーション(革新)が重要になっていく」。野村哲郎農林水産相は23日の会見でこう強調した。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551190S3A600C2EA1000 (日経新聞社説 2023.6.2) 農業基本法の改正で緊急時への備えを 農林水産省は食料・農業・農村基本法の改正に向け、緊急時の食料増産などを柱とする「中間取りまとめ」を公表した。国民に安定して食料を供給し続けるために、不測の事態に対する備えを確かなものにしてほしい。現行の基本法は1999年に制定された。食料自給率の向上を目指したが実現せず、気候変動や新型コロナウイルスの流行、ウクライナ危機など食料確保が脅かされる事態がこの間に起きた。こうした状況の変化を受け、農水省は法改正を議論し始めた。2024年の通常国会への改正案の提出を予定している。焦点の一つは農産物輸入が急減したときの対応だ。中間取りまとめは、緊急時に政府全体で意思決定する体制を整え、不足が予想される農産物を増産できるようにすることを課題に掲げた。どこでどんな作物を作るべきかを、政府が生産者に指示することなどを念頭に置いている。政策で農業を支援しているのは食料確保が目的であり、いざというとき国民に不可欠なものに生産をシフトするのは当然の措置だろう。買い占めの防止や流通規制などもテーマになる。混乱を避けるため、行政命令を発動する基準を明確にするとともに、生産や流通の制限で不利益を被る業者への補償も用意しておく必要がある。国民一人ひとりの「食品アクセス」の改善に、平時から取り組むことを提起した点は評価できる。日本は大量の食品を廃棄する一方、生活困窮世帯には食べ物が十分に行き届いていない。フードバンクなどが食品の寄贈を受け、困窮世帯に提供しているが、運営団体の資金が足りないことも少なくない。政府や自治体が日ごろから団体と連携し、支援を充実させるべきだろう。小麦や大豆、飼料作物など輸入に頼る作物の増産も盛り込んだ。輸入に支障が生じたときの影響を和らげるためには欠かせない。そこで必要になるのが、水田の一部の畑への転換だ。食料安全保障の確保にとって必須の措置と位置づけ、基本法の改正をきっかけに政策を手厚くすべきだ。食料の余剰を前提としてきた農政から、不足も視野に入れた農政に変わることがいま求められている。国民にとって重要なテーマであり、幅広い意見を参考にしながら危機に対応できる新たな食料政策を構築してほしい。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70762710W3A500C2CE0000/ (日経新聞 2023年5月6日) 山形、アーモンド栽培注目 果樹手入れ簡単・冬場の収入源に、知名度向上と販路拡大狙う サクランボやモモなど果物の生産が盛んな山形県天童市で、アーモンド栽培が注目を集めている。果樹の手入れが簡単なのが魅力で、乾燥させれば年中販売でき、農家の冬場の収入源にもなる。県産ブランドとして知名度向上を図り、販路拡大を目指す。天童市の農業、東海林敏也さんは7~8年前からアーモンドの女王と呼ばれる高級種「マルコナ」の栽培を始めた。市内の種苗業、佐藤隆さんと協力。マルコナの生産に挑戦していた鹿児島県南さつま市の農業、窪壮一朗さんから穂木を譲り受け、苗木を育てた。アーモンドと品種が近いモモの苗木を生産する佐藤さんのノウハウを活用し、量産化に成功。市内には東海林さんに加え、仲間の農業者で計1000本以上が植えられた。サクランボやモモは果実を大きくするため、余分な実を間引く摘果や、色づきをよくするための反射シート敷設が必要で手間がかかる。アーモンドは種の部分を食べるためいずれも不要で、果肉が鳥の食害に遭っても品質に問題ない。昨年は約100キロを収穫した。果肉を取り除いて乾燥させれば日持ちし、一年中販売できる。東海林さんや佐藤さんの元には全国から苗の注文や、耕作放棄地対策への活用を模索する自治体からも問い合わせがあるという。徐々に生産量は増えているが、大口の受注先に対応するには足りない。国内で消費されるアーモンドのほぼ全てが輸入品で知名度も低い。東海林さんは「味が良いのに手間がかからない。良さを知ってもらえれば、魅力的な商品になる」と話している。 *3-4-2:https://www.sankei.com/article/20190217-5ZRQCXJLPJJ6ZHR4I56DKUAMNU/(産経新聞 2019/2/17)トレンド 国産レモン栽培拡大 瀬戸内から近畿・首都圏へ さわやかな酸味で、幅広い料理や飲み物に使われるレモン。日本では、通年で温暖な瀬戸内海地域産が有名だが、近年、近畿や首都圏にも栽培地が広がりつつある。もぎたての国産レモンは、温かいレモネードやお酒のレモン割り、焼き菓子などで「皮までおいしい」と親しまれている。 ◆都心に近い畑で 東京・大手町から地下鉄千代田線で北へ37分。千葉県松戸市でつくられる「新松戸レモン」が、今季も約3トン実った。「子供の頃は水田で稲穂が揺れていた。まさかここでかんきつ類が育つとは」。直売所「シトラスファーム」を営む農業、鵜殿敏弘さん(66)によると、戦後の宅地開発で田は埋め立てられ、鵜殿さんも稲作をやめて土地の一部を畑に転換した。弟の芳行さん(60)と地産地消できる作物を探すうち、約30年前、レモン栽培にいきついたという。うまく収穫までたどりつける斜面もあれば、冬に半数が枯れるような畑では、倍の本数を植えるなどして試行錯誤。7年前から出荷に弾みがつき、今は市内8カ所で約500本を育てるまでになった。 ◆2つの町おこし レモンは、ヒマラヤ東部から欧米へ広がったとされる。日本へきたのは明治初期だ。近年は国産レモンの収穫量も伸びており、農林水産省園芸作物課によると、平成元年の1902トンから、27年は1万52トンへ5倍になっている。広島、愛媛両県で8割を占め、和歌山が続く。昨年はレモンを中心に据えた2つの町おこしも始動した。東京の立川市商店街連合会は10月、新産品作りへレモンの植樹式を実施。西日本豪雨で浸水した広島県呉市のとびしまレモンを植えて、今は耐寒性を調べている。初の越冬は今のところ順調で、来月から20本を本格栽培する。収穫までは数年かかる見込みで、それまでは呉のレモンを取り寄せ、ケーキやブリュレ、カルパッチョ、カレーなど、レモンを使ったメニューを商店街の各店が開発する。「豪雨の被災地支援も目的の一つ。栽培を成功させて、友好の印となる商品を作りたい」(石井賢連合会事務局長)。昨年3月には京都で「京檸檬(れもん)プロジェクト協議会」も発足した。日本果汁、宝酒造、伊藤園など府内7企業や生産者14人(4月から17人)、行政が参画し、耕作放棄地を活用し、栽培から販路確保まで取り組む。 ◆皮ごと食べても 新松戸レモンは、もぎたてを直売するため、はちみつ漬けやカクテルなどに、「皮ごと食べてもおいしい」と人気が高い。近隣住民が袋ごと買って、ニンジンりんごジュースに入れたり、レモネードやレモンハイにしたり。飲食店や菓子店にも提供する。「秋はクエン酸が多くて酸っぱい。冬にかけて酸がだんだん抜けて、2月は甘みが際立つ」(鵜殿さん)という。千葉県の温暖な気候がレモンの生育を助けている。「国産といえば瀬戸内レモン。それに比べてうちのは瀬戸際レモンだった」。鵜殿さんは笑う。「レモンの木もここの気候に慣れてくれた。このままいけば十数年後は千葉もレモンの主要な産地になるかもしれない」 *3-4-3:https://www.ssnp.co.jp/beverage/174880/ (食品産業新聞社 2019年4月22日) ポッカサッポロが広島・大崎上島でレモン栽培を開始 国産レモンの生産振興へ ポッカサッポロフード&ビバレッジは2019年4月より、国産レモンの生産振興を目的として、広島県豊田郡大崎上島町においてレモンの栽培を開始する。同社は、1957年にレモン事業を開始して以来、レモン商品の開発やレモンに関する研究を通じて、消費者の身近にレモンがある生活の提案を行っている。昨今、レモンの需要が拡大する中、特に国産レモンの市場が伸長している。一方で、国内のレモン農家において高齢化や後継者不足などの影響から生産や供給が不足しており、高まる需要に十分に対応できない状況となっている。同社は、国内において持続的にレモンの需要を拡大するためには、安定的な生産が必要であると考え、自らがレモンの栽培に携わることで、その課題を理解し、農家の共に生産振興を進め、更なる国産レモン市場の活性化に寄与することを目指す。栽培地は、これまでにレモンの振興などに関する協定を結んで協働している広島県の大崎上島町とし、これまでにも増して地域と共に農業環境づくりに取り組む。 *3-4-4:https://www.chunichi.co.jp/article/45308 (中日新聞 2018年12月9日) 国産人気 参入相次ぐ オリーブ栽培 ◆手間かからず高値で販売 オリーブ栽培が県内で活発だ。民間企業のほか、農家や団体などが近年相次いで参入し、オイルだけでなく、葉を使った茶や化粧品といった関連商品も増えている。オリーブに熱い視線が注がれる理由とは-。湖西市の小高い丘の一・六ヘクタールに八百本余りのオリーブの木が並ぶ。二〇一〇年から栽培を始めた「アグリ浜名湖」社長の奥田孝浩さん(58)は「ことしは裏年に台風24号が重なり、百本以上が倒れた」と苦笑いした。今秋の実の収量は前年の一・六トンから三分の一に落ち込んだが、オイルの瓶詰(百ミリリットル、二千百六十円)は、十一月中に三百本がすぐ完売した。価格は安い輸入品の倍以上だが「健康ブームで需要がある。国産の安心感も強いのでは」と手応えを口にする。ポリフェノールが豊富な葉を粉末にした茶や、オイルの化粧品も市内で営む喫茶店に並べる。シニア世代が買い求め、農園には茶農家や定年間際のサラリーマンらの視察が相次ぐ。静岡、藤枝市などの十二ヘクタールの畑で生産するクレアファーム(静岡市葵区)が四年前に開店したオリーブ専門店(葵区)では、県内産オイルが昨年から店頭に並んだ。十月下旬から今秋の品が入り、店員は「本当によく売れます」と驚く。ろ過しない「生搾り状態」で、劣化は早いが風味や栄養価を損なわない点で輸入品に勝ると自信を見せる。 ◆加工品開発も続々 購入者の多くは加熱せず、パンにつけたり、サラダにかけたりして食べるという。同社は県内産のシラスとワサビを使った瓶詰なども商品化し、消費促進に余念がない。各地で生産が増えているが「競争より相乗効果がある。静岡全体で小豆島を超えたい」と思い描く。国産の希少性から高値で売れるうえ、比較的に栽培の手間がかからないのも参入が増える理由だ。社会福祉法人天竜厚生会(浜松市天竜区)は、就労支援事業所の利用者の仕事の幅を広げたいと、一四年度から敷地の畑などで栽培。収穫や商品のラベル貼りなどできる作業も多く、生きがいづくりになると期待する。オリーブは自治体にも魅力的に映る。掛川市は、畑の整備や苗木購入の補助を始めた。市の担当者は「茶は年に数回刈り取るが、オリーブは一度。木が強くて作業も少なくて済む」。市内では全面的に茶から切り替えたり、副業で始めたりする農家も出てきた。「健康に良く、茶との相乗効果が狙える」。十年後に市内で百ヘクタールの栽培面積を目標に掲げる。県内の主力農産物である茶の消費低迷も反映し、官民でオリーブを推す動きは広がりそうだ。 ◆ほとんどが輸入品 一般社団法人日本オリーブ協会(東京都)によると、オリーブオイルは悪玉コレステロールを減らす脂肪酸「オレイン酸」が豊富で、生活習慣病予防につながる健康効果でも注目されている。国内に出回るのはイタリア、スペイン産など輸入品が大半で、国産は1%未満。国内産地では香川県の小豆島が有名だが、近年は九州などにも広がっている。静岡県によると、県内の栽培面積は二〇一〇年に一・三ヘクタールだったが、一五年は一五・六ヘクタールに拡大。現在は三十ヘクタール超と推計される。県内は日照時間が長く栽培に適しているが、降水量が多く病気が出やすい懸念もあるという。 *3-4-5:https://www.yomiuri.co.jp/local/oita/news/20230525-OYTNT50090/ (読売新聞 2023/5/26) オリーブの花ゆらり 国東 国東市の農園ではオリーブの白い小さな花が咲き、風に揺られている。オリーブは香川県の小豆島が有名だが、同市は小豆島と同じく、降水量が少なく温暖で、日照時間が長いため、栽培に適しているとされる。同市のオリーブ園「国東クリーブガーデン」では、緩やかな斜面にオリーブが植えられており、24日には直径5ミリ程度の白い花が咲いていた。風によって受粉し、実ができて秋に収穫を迎える。栽培の責任者を務める光武慎司さん(31)は「昨年と同様、たくさん咲いている。日々の管理に気をつけて収穫を待ちたい」と話していた。 *3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15634021.html (朝日新聞社説 2023年5月12日) ふるさと納税 根本から制度の再考を 「ふるさと納税」のゆがんだ仕組みが、貴重な税収を失わせ続けている。政府は防衛費や子育て予算の財源確保に苦心しているが、不合理な制度を放置したままでは、負担増への理解は得られないだろう。総務省は4年前、ふるさと納税への返礼品の調達費を寄付額の3割以下にするルールを導入した。自治体間の競争の過熱を抑えるためだ。同時に、送料や事務費も含めた経費総額は5割以下にする基準も定めた。ところが同省によると、21年度に136市町村が、5割を超える経費を費やしていたという。ルールの軽視が甚だしい。集めたお金の半分以上が税収以外に消えていくことを、どう考えているのだろうか。さらに見過ごせないのは、総務省が5割規制の対象にしている経費は「募集に要する」ものに限っていることだ。受領証明書の送料といった寄付後の経費は対象外になっている。朝日新聞が納税額の上位20自治体を調べたところ、計63億円の費用が「寄付後」に生じていた。これらを含めると、上位20自治体のうち13で経費率が5割を超える。松本剛明総務相は5割基準の目的について、「寄付金のうち少なくとも半分以上が寄付先の地域のために活用されるべきという考え方」と説明している。ならば、寄付後の費用も対象に含めるのが当然だ。返礼品の3割基準に違反した自治体は、ふるさと納税の利用ができなくなる。5割基準でも、寄付後の費用も対象にした上で、継続的な違反自治体は利用から除外すべきだろう。そもそもふるさと納税は、返礼品を手に入れるために、自らが暮らす自治体の行政サービスにかかる費用負担の回避を認める制度だ。地方自治の精神を揺るがす仕組みというしかない。所得税を多く納める高所得者ほど恩恵が大きく、格差を助長するという欠陥もある。財政力の弱い地方を中心に、ふるさと納税に期待する自治体があるのは事実だ。だが、都市と地方の税収格差を是正するにしても、返礼品になりうる特産品の有無で寄付額が左右される仕組みは望ましくない。ふるさと納税をめぐっては、多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市への地方交付税減額の妥当性が裁判でも争われてきた。こうした問題が起きたのも、制度自体がゆがんでいるからだ。全国でみれば、ふるさと納税により、21年度だけで少なくとも4千億円近い税収が実質的に失われている。経費のルールの中身や運用を見直すにとどまらず、制度の存続を含めて、根本からの再考を急ぐべきだ。 <G7核> *4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR5M7VRQR5MUTFK027.html (朝日新聞 2023年5月20日) 【要旨】核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン 広島で開かれている主要7カ国首脳会議(G7サミット)は19日夜、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発表した。主な内容は次の通り。 歴史的な転換期の中、G7首脳は1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び長崎の人々が経験した、かつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った。核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する。 【核兵器の不使用】 我々は77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性を強調する。ロシアのウクライナ侵略の文脈における核兵器の使用の威嚇、ましてや核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する。我々の安全保障政策は、核兵器は防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。 【核兵器数の減少】 冷戦終結以後に達成された世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない。核兵器不拡散条約(NPT)は、国際的な核不拡散体制の礎石だ。現実的で、実践的な、責任あるアプローチで達成される、核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」は、歓迎すべき貢献だ。 新戦略兵器削減条約(新START)を損なわせるロシアの決定を深く遺憾に思う。中国による透明性や有意義な対話を欠いた、加速している核戦力の増強は、世界及び地域の安定にとっての懸念となっている。 【核兵器の透明性】 核兵器に関する透明性の重要性を強調し、米国、フランス及び英国が、自国の核戦力やその客観的規模に関するデータの提供を通じて、効果的かつ責任ある透明性措置を促進するためにとってきた行動を歓迎する。まだそうしていない核兵器国がこれに倣うことを求める。 【核分裂性物質】 核兵器または他の核爆発装置に用いるための核分裂性物質の生産を禁止する条約の即時交渉開始を求める。核軍備競争の再発を阻止するための優先行動として、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)への政治的関心を再び集めることを全ての国に強く求める。まだそうしていない全ての国に対し、核分裂性物質の生産に関する自発的なモラトリアムを宣言または維持することを求める。 【核兵器の実験的爆発】 いかなる国もあらゆる核兵器の実験的爆発または他の核爆発を行うべきではないとの見解において断固とした態度をとっている。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効もまた喫緊の事項だと強調する。 【核不拡散】 核兵器のない世界は、核不拡散なくして達成できない。北朝鮮による完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な放棄という目標への揺るぎないコミットメントを改めて表明する。北朝鮮に対し、核実験または弾道ミサイル技術を使用する発射を含め、不安定化をもたらす、挑発的ないかなる行動も自制するよう求める。 【民生プルトニウム】 民生用プルトニウムの管理の透明性が維持されなければならないことを強調する。民生用プログラムを装った軍事用プログラムのためのプルトニウムの生産または生産支援のいかなる試みにも反対する。我々が望む世界を実現するためには、その道がいかに狭いものであろうとも、厳しい現実から理想へと我々を導く世界的な取り組みが必要だ。広島及び長崎で目にすることができる核兵器使用の実相への理解を高め、持続させるために、世界中の他の指導者、若者らが広島及び長崎を訪問することを促す。 *4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19DB40Z10C23A5000000/ (日経新聞 2023年5月20日) G7首脳、核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」の要旨、核なき世界「究極の目標」 主要7カ国(G7)首脳による核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」の要旨は次の通り。 歴史的な転換期の中、我々は原子爆弾投下の結果、広島や長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎とともに想起させる広島に集った。核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書で、すべての者にとって安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認する。77年間に及ぶ核兵器不使用の記録の重要性を強調する。ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損やベラルーシに核兵器を配備するとの意図は危険で受け入れられない。核兵器使用の威嚇、ましてや使用も許されないとの立場を改めて表明する。我々の安全保障政策は核兵器が存在する限りにおいて防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し戦争や威圧を防止すべきとの理解に基づく。世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない。核兵器不拡散条約(NPT)は堅持されなければならない。現実的で実践的な責任あるアプローチを通じて達成される核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。この点で日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」は歓迎すべき貢献である。新戦略兵器削減条約(新START)を損なわせるロシアの決定を深く遺憾に思う。条約の完全履行に戻ることを可能とするよう求める。中国による透明性や有意義な対話を欠く核戦力の増強は世界や地域の安定の懸念となっている。米国、フランスや英国が核戦力に関するデータを提供し透明性を促進してきた行動を歓迎する。そうしていない国がこれにならい、非核兵器国と透明性について対話することを求める。中国やロシアに第6条を含むNPTの下での義務に沿い、関連する多国間及び二国間のフォーラムにおいて実質的に関与することを求める。長く遅延している核兵器または他の核爆発装置に用いるための核分裂性物質の生産を禁止する条約の即時交渉開始を求める。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)への政治的関心を再び集めることをすべての国に強く求める。いかなる国も核兵器の実験的爆発を行うべきではないとの見解で断固とした態度をとる。包括的核実験禁止条約(CTBT)発効も喫緊事項だと強調する。核実験を行う用意があるとのロシアの発表に懸念を表明する。核兵器のない世界は核不拡散なくして達成できない。北朝鮮に核実験や弾道ミサイル発射を含め挑発的な行動の自制を求める。大量破壊兵器や弾道ミサイル計画が存在する限り制裁は完全かつ厳密に実施、維持されることが極めて重要。イランが決して核兵器を開発してはならないとの明確な決意を改めて表明する。すべての国に次世代技術を含め原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の平和的利用の促進で保障措置、安全、核セキュリティーの最高水準を満たす責任を真剣に果たすよう強く求める。ロシアによるウクライナの原子力施設を管理しようとする試みに深刻な懸念を表明する。原子力安全や核セキュリティー上の深刻なリスクをもたらし、原子力の平和利用追求というNPT下でのウクライナの権利を完全に無視するものである。原子力発電または平和的な原子力応用を選択するG7の国は原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の利用が低廉な低炭素のエネルギーを提供することに貢献することを認識する。民生用プルトニウム管理の透明性が維持されなければならないと強調する。民生用を装った軍事用の生産や生産支援のいかなる試みに反対する。平和的原子力活動でのプルトニウム保有量を国際原子力機関(IAEA)に年次報告するとコミットしたすべての国に履行を求める。プルトニウムと同様の責任を持って高濃縮ウランの民生保有量を管理する必要性を認識する。我々が望む世界を実現するためには、その道がいかに狭いものであろうとも厳しい現実から理想へと我々を導く世界的な取り組みが必要である。広島や長崎で目にすることができる核兵器使用の実相への理解を高め持続させるために、世界中の他の指導者、若者、人々が広島や長崎を訪問することを促す。 *4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK18AGW0Y3A510C2000000/ (日経新聞社説 2023年5月20日) 「広島ビジョン」で核軍縮の機運を再び 人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない。主要7カ国(G7)の首脳が被爆地の広島に一堂に会し、世界にこう決意を示した。今回の訪問を「核兵器のない世界」の実現に向けた機運を再び高める契機とすべきだ。G7首脳会議(サミット)が19日開幕した。それにあわせて各国の首脳が広島平和記念資料館(原爆資料館)を40分間見学し、被爆者と面会した。G7は米英仏の核保有国に加え、米国の「核の傘」に守られている日本とドイツ、イタリア、カナダで構成する。その首脳が初めてそろって被爆の実相を目の当たりにし、核廃絶への認識を共有できた意義は大きい。2016年に現職の米大統領として初めて広島に足を運んだオバマ米大統領が原爆資料館に滞在したのは10分間だった。今回は滞在時間が伸び、首脳らの理解も深まったに違いない。ウクライナのゼレンスキー大統領はG7サミットに対面で参加する。ロシアの核の脅威に直面する同氏がこの機会に原爆資料館を訪れれば、核軍縮を巡る国際的な議論の喚起につながるだろう。岸田文雄首相はG7首脳の訪問を「核兵器のない世界への決意を示す観点で歴史的」と評した。世界の注目を広島に集める機会をつくった努力は評価したい。大事なのはそれを行動にどう移すかだ。核軍縮の共同文書としてG7首脳は「広島ビジョン」をまとめた。核兵器不使用の継続や中国を念頭に核戦力の透明性向上のためのデータ共有、非核保有国との対話促進などを打ち出した。ロシアは核の威嚇を繰り返し、中国や北朝鮮は核戦力の増強を加速させている。残念ながら、日本が米国に頼る核抑止力の重要性は高まっている。この状況で「広島ビジョン」で示した取り組みは当面の現実的な方策といえる。中長期的には、核軍縮で中心的な役割を果たすべき核拡散防止条約(NPT)体制を立て直す努力が要る。NPT再検討会議は15年、22年と2回続けて決裂し、最終文書案を採択できずに終わった。NPTは核軍縮に向けた誠実な交渉に臨むよう、核保有国に義務付けている。ロシアは米国と結ぶ新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を撤回すべきだ。この条約は世界の安定に寄与するだけでなく、米国との戦力の均衡を維持する点でロシアにもメリットがあるはずだ。 *4-4:https://digital.asahi.com/articles/ASR5P7234R5PUTFK00G.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2023年5月21日) 法の支配に基づく国際秩序の堅持を表明、G7広島首脳共同声明 広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)は20日、議論の成果をまとめた「G7広島首脳コミュニケ(声明)」を発表した。ロシアによるウクライナ侵攻を「可能な限り最も強い言葉で非難」し、ウクライナ支援を継続すると明記した。声明では、ウクライナ侵攻などを踏まえ、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、強化する」と強調。現実的で実践的な取り組みにより、「核兵器のない世界」の実現をめざすことも表明した。さらに覇権主義的な動きを強める中国も念頭に、「力による一方的な現状変更の試みに反対する」と記した。また、ウクライナ侵攻がエネルギー危機などを引き起こしたと指摘し、同志国と連携して対応するとした。「信頼できるAI(人工知能)」の推進や再生可能エネルギーへの移行、ジェンダー平等やLGBTの人たちが差別されない社会の実現なども明記した。 *4-5:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a192095.htm (平成二十八年十月三十一日 衆議院提出) 質問第九五号:核兵器禁止条約にかかる決議案反対に対する外務大臣の発言に関する質問主意書、提出者 逢坂誠二 日本時間の平成二十八年十月二十八日、国連総会第一委員会(軍縮)は、核兵器禁止条約に向けた交渉を二〇一七年に開始するよう求める決議案(「本決議案」という。)を賛成多数で採択した。しかし日本政府はこの決議に反対した。岸田外務大臣は、同日の会見で、「我が国としましては慎重な検討を重ねた結果、反対票を投じました。反対の理由は、この決議案が、(一)具体的・実践的措置を積み重ね、「核兵器のない世界」を目指すという我が国の基本的立場に合致せず、(二)北朝鮮の核・ミサイル開発への深刻化などに直面している中、核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し、その亀裂を深めるものであるからであります」と述べている。この岸田外務大臣の発言について疑義があるので、以下質問する。 一 「具体的・実践的措置を積み重ね」とは、具体的にどのようなことを考えているのか。 政府の見解を示されたい。 二 なぜ今回の本決議案に日本が賛成すれば、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を 一層助長し、その亀裂を深めるものである」と判断するのか。その理由について、 政府の見解を示されたい。 三 日本は核兵器保有国ではないが、事実上、米国の核兵器によって日本が間接的に 守られていると政府は考えているのか。政府の見解を示されたい。 右質問する。 <稼ぐ力を作り出す研究力・イノベーション、次世代太陽電池> PS(2023年7月2、4日追加):*5-1-1は、①モノやサービスの海外取引結果を表す2022年度経常収支黒字は2021年度比54%減 ②モノの海外取引結果を示す2022年度貿易収支が大幅赤字となった理由は資源価格高騰・円安・最先端半導体/スマートフォンの輸入依存・電気機器貿易収支の赤字等 ③日本の「貿易立国」の地位はあやしくなり ④これを所得収支の黒字で穴埋めした ⑤日本発のイノベーションで新たな価値を生み出す努力が必要 としている。 このうち、②③④については、スマートフォンや電気製品は海外製が多くなり、秋葉原の電気街では電気製品が減って雑貨の展示が増えたことから肌感覚でもわかっていたが、日本にとっては大きな問題である。この貿易収支の赤字を、①④のように所得収支の黒字で穴埋めして何とか経常収支の黒字を保っているのは、過去の蓄積を使っているにすぎないため、世界で競争力を維持するには、⑤のように、日本発のイノベーションを素早く取り込んで産業構造を変えなければならない。にもかかわらず、これをやらないのが他国とは異なる日本の袋小路になっているのだ。また、産業が他国に出てしまえば日本国内の技術は消滅して修理すらできなくなるが、産業を発展させた中国の方は技術が次第に高度化し、自然科学の研究力育成にも努めているため、*5-1-2のように、米国を抜いて世界1になった。研究機関別のランキングでは、中国の機関がトップ10の6つを占め、日本は国別では5位、機関別では東京大18位が最高(京都大44位・大阪大74位・東北大89位)だが、これが人口だけの問題でないことは、ドイツ(人口83百万人)3位、英国(人口68百万人)4位であることから明らかなのである。このような中、日本政府は、*5-1-3のように、「国際卓越研究大学」の最終候補を東京大・京都大・東北大の3校に絞ったそうだが、東京科学大(東京医科歯科大と東京工業大の共同申請)、名古屋大、筑波大、九州大、大阪大、早稲田大、東京理科大を書面や面接審査だけで落としたのは、付加価値を作り出し稼ぐ力を高める研究力とそれによるイノベーションを軽視しすぎた判断だ。 これに加えて、*5-2-1・*5-2-2のように、電気料金を引き上げながら電力供給余裕度が安定供給に必要なぎりぎりの水準に落ち込むとして何年も節電要請をしているが、日本で再エネ導入が進まなかった理由は、低廉・安定電源などと称して原発や化石燃料に頼り続け、変動費無料の再エネを活用するインフラ建設を行わなかったからである。しかし、これだけ地震の多い日本で、武力攻撃にも対応していない原発に多額の補助金をつけて再稼働を促すのは安全神話の復活以外の何物でもなく、それこそが不合理すぎて信頼できない理由なのである。 なお、不自由なく節電するためには、電気製品の省エネ化だけではなく、ペアガラス(特に真空断熱ガラス)をビル・マンション・住宅などに取り付けることを奨励したり、地中熱利用を推進したりすることに補助金を使った方が投資効果が高い。また、*5-3-1・*5-3-2のペロブスカイト型太陽電池は、薄いフィルムに印刷する太陽電池であるため、コストが安く、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすく、何より場所を問わずに設置できるため、ビル・マンション・住宅の壁やEVの屋根に貼って発電することもできる。そのため、2030年より前のなるべく早い時期に普及させるべく補助金を付けて推進した方が投資が生きるが、これもまた、2021年に既にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設し、中国では大型パネルの量産が始まっているのに、日本は未だにモタモタしているのである。 そして、*5-4は、⑥世界は経済・安全保障の両面から脱化石燃料を加速して再エネ導入に邁進 ⑦G7共同声明は「世界の温暖化ガス排出量を2035年までに1019年比60%削減する緊急性が高まっている」とした ⑧日本は再エネの導入でアジア諸国にも後れを取っている ⑨風力発電は2022年に中国約3700万kwh、米国約860万kwh増やしたが、日本は23万kwhでインド・トルコ・台湾より下位 ⑩EUは一定規模以上の公共建築物・商業ビルは2027年までに新築・既設を問わず太陽光発電設置を義務化し、新築住宅は2029年までに義務化の方向 ⑪日本は東京都と川崎市が新築住宅に太陽光パネル設置義務化を決めた程度 等と記載している。 このうち⑥⑦について、再エネ導入は経済安全保障のみならず、環境や国産エネルギーへの転換・高コスト構造からの卒業など日本にとって極めて有意義だが、これまで「不安定」などと言って過小評価していた結果が、⑧⑩⑪になっているのだ。ただし、建材の一部として建物に設置する太陽光発電は静かに自家発電して公害もないのでよいが、大規模風力発電はよほど工夫したものでなければ、低周波を出したり、景観を壊したり、漁業の邪魔になったりするため、⑨のように、砂漠があったり、広い土地があったりする国と単純に比較する必要はないだろう。むしろ、日本が火山地帯にあることを考えれば、地熱を利用した方がよさそうだ。 *5-1-1: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230512&ng=DGKKZO70919500R10C23A5EA1000 (日経新聞社説 2023.5.12) 経常黒字の半減が迫る「稼ぐ力」の育成 日本の稼ぐ力が試されている。2022年度の経常黒字は前年度の半分に減った。海外に支払うお金ばかりが増えれば、経常赤字に陥りかねない。さまざまな面で競争力を高める必要がある。財務省が11日発表した22年度の国際収支統計(速報)では、海外とのモノやサービスなどの取引を示す経常収支の黒字が21年度比で54%減の9兆2千億円となった。モノの輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が、18兆円を超す大幅な赤字になったのが主因だ。ロシアによるウクライナ侵攻で原油や液化天然ガス(LNG)などの資源価格が高騰したところに、一時1ドル=150円台をつけた記録的な円安が重なり、円建ての輸入額が大きく膨らんだ。輸出の伸び悩みも貿易赤字の拡大につながった。自動車が3割近く増えて好調だったものの、かつては稼ぎ頭だった電気機器の伸びが1割に満たなかった。最先端の半導体やスマートフォンは大部分を輸入に頼っており、電気機器の輸入額は22年度に輸出額を上回った。付加価値の高い製品を輸出して稼ぐ日本の「貿易立国」としての地位は、もはやあやしくなっている。貿易赤字が巨額だったにもかかわらず経常黒字を保ったのは、投資で得た利子や配当のやり取りである第1次所得収支が35兆円を超す黒字になったからだ。日本企業が海外で攻めのM&A(合併・買収)を進めた成果であり、配当や現地子会社の内部留保を含めた直接投資からの受取額は支払額のおよそ6倍に達した。貿易収支が赤字でも、所得収支の黒字で穴埋めする「成熟した債権国」として、日本が海外で稼ぐ力を着実につけている表れだ。この流れを止めず、いっそう太くしていきたい。新型コロナウイルス禍で途絶えていた訪日外国人(インバウンド)も急増している。ただ、米巨大テック企業の「GAFA」などが提供するネット広告やクラウドサービスへの支払いが膨らみ、サービス収支全体は赤字のままだ。海外での稼ぎだけでは国内の雇用を保てず、格差の拡大を招くおそれがある。やはり日本発のイノベーションで新たな価値を生み出す努力が欠かせない。日本が経常赤字国に転落すれば、巨額の財政赤字を国内のお金だけで賄えなくなる。それを忘れてはならない。 *5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15672125.html (朝日新聞 2023年6月27日) 中国、自然科学の「研究力」1位に 米国を抜いて初、日本は5位 学術出版社がランキング 自然科学の研究力ランキングで中国が米国を抜いて初めて1位になったと、世界的な学術出版社シュプリンガー・ネイチャーが発表した。研究機関別のランキングでも中国の機関がトップ10の六つを占めた。日本は国別で5位、機関別では東京大の18位が最高だった。シュプリンガー・ネイチャーは科学誌ネイチャーなどを発行しており、毎年、主要学術誌の論文数などをもとに研究力のランキングを発表している。今回は2022年に発行された自然科学分野の82誌の論文を集計した。国別ランキングでは、前年2位の中国が1位になった。米国は前年1位から2位に落ち、3位のドイツ、4位の英国、5位の日本は前年と同じ順位だった。研究機関別のランキングでは、中国科学院が11年連続で首位を守ったほか、中国の5大学がトップ10に入った。2位は米ハーバード大、3位は独マックスプランク研究所だった。100位以内に入った日本の研究機関は、前年14位から順位が四つ落ちた東京大のほか、京都大44位(前年37位)、大阪大74位(同64位)、東北大89位(同103位)の4機関にとどまった。前年87位の理化学研究所は103位だった。 *5-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15673022.html (朝日新聞 2023年6月28日) 「卓越大」候補に東大・京大・東北大 10兆円ファンド支援 世界トップレベルの研究力をめざす「国際卓越研究大学」の最終候補が、東京大と京都大、東北大の3校に事実上、絞られたことがわかった。審査をする文部科学省の有識者会議が来月にも現地視察をして、秋ごろに正式決定する。認定校には、政府が出資する10兆円規模の大学ファンドの運用益をもとに、1校あたり年に数百億円が支援される。この制度は、国際的に戦える研究力を実現し、世界から優秀な人材を集められる大学をめざすもの。昨年12月に公募を始め、今年3月末に締め切った。応募した大学は3校に加え、東京科学大(東京医科歯科大と東京工業大の共同申請)、名古屋大、筑波大、九州大、大阪大、早稲田大、東京理科大の10校。有識者会議は、各大学が提出した運営計画や事業計画を書面や面接で審査をして、3校に絞り込んだ。秋ごろまでに数校程度の内定校を公表する方針だ。認定されると、来年度以降、最長25年間にわたって予算支援を受けられる。国は認定後も6~10年ごとをめどに評価する。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230702&ng=DGKKZO72416950R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.2) 電力の需給逼迫と料金格差は放置できぬ 政府は7月1日から8月末までの2カ月間、東京電力ホールディングス(HD)の供給区域を対象に、数値目標を定めない節電を要請した。電力供給の余裕度が安定供給に必要とされるぎりぎりの水準に落ち込むためだ。一方、東電HDなど電力大手7社は家庭用の電気料金を6月から引き上げた。その結果、関西電力や九州電力など据え置いた3社との料金格差が開きつつある。政府が導入した負担軽減策を加味した後の比較では、首都圏の料金は関西より3割以上高い。電力は日々の暮らしや経済活動を支える血液だ。必要なときにいつでも、手ごろな価格で使えなければならない。電力の地域格差は生活の利便性や快適さ、ひいては産業立地や企業競争力にも影響しかねない。格差を生む構造的な課題を解消しなければならない。東電エリアの節電は7年ぶりに要請した2022年夏、同年冬に続く。休止中の発電所を最大限活用して供給力の確保に努めると同時に、使い手に無理のない消費の抑制へ協力を促すことが大切だ。刻々と変わる電力需給の逼迫度や効果的な節電方法をわかりやすく伝える工夫が要る。節電に協力する家庭や企業には料金の割引などインセンティブを提供する仕組みを一段と定着させていきたい。ただし、こんな綱渡りを毎年続けるわけにはいかない。供給力を長期で確保することが重要だ。足元で広がる首都圏と、関西や九州との料金格差や供給の余裕度をめぐる違いは、原子力発電所の稼働状況が左右している点を直視しなければならない。関電は5基、九電は4基の原発が再稼働しているのに対し、東電HDはゼロだ。その分、資源価格や為替に左右される化石燃料を使う火力発電の比率が高い。国は安全を確認した原発の再稼働を進めるとする。東電HDは今秋の柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を計画に織り込んでいる。しかし、繰り返される不祥事に、原発の立地自治体からは「東電に原発を任せられるのか」といった厳しい声があがる。東電HDは信頼を得る努力を積み上げるしかない。これに時間がかかるなら、並行して火力発電の供給力維持や再生可能エネルギーの導入拡大へ投資を振り向けることが重要だ。地域を超えて電気を送る送電網の整備も続けていかなければならない。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230701&ng=DGKKZO72410250R00C23A7MM0000 (日経新聞 2023.7.1) 節電要請始まる 政府、東電管内で来月末まで 東京電力ホールディングス管内の家庭や企業を対象にした政府の節電要請期間が1日、始まった。8月末までの2カ月間が対象となる。暑い時間帯には冷房を使って熱中症に気を付けつつ、不要な照明を消すといった無理のない範囲での節電を呼びかけている。政府は2022年の夏は全国規模で節電を要請した。23年は電力需給の見通しが厳しい東電管内に限った。経済産業省によると10年に1度の厳しい暑さを想定した場合、7月の東電管内の供給余力を示す電力予備率は3.1%になる。安定供給に最低限必要とされる3%をわずかに上回る。8月は4.8%、9月は5.3%に高まり、徐々に余力が出てくる見込みだ。西村康稔経産相は6月30日の記者会見で「小さな取り組みを重ねれば大きな効果になる」と述べた。具体的には、不要な照明の消灯や、エアコンや冷蔵庫の設定温度を必要以上に下げないことを求めた。経産省が発表した1~7日までの1週間の電力需給見通しによると、最高気温が30度を超えても予備率は少なくとも12%を確保する。「安定供給に必要な水準は確保できる」としている。 *5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BIZ0U3A410C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023年5月12日) 曲がる次世代太陽電池、ビル壁面で発電 25年事業化へ 次世代の「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めている。薄いフィルム状で折り曲げられるため、場所を問わず自由に設置しやすい。原料を確保しやすく、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすい利点もある。政府は2030年までに普及させる方針を打ち出し、国内企業を支援する。35年には1兆円市場に育つとの試算もある。積水化学工業や東芝が25年以降の事業化に向け開発を急ぐ。ペロブスカイト型太陽電池は太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使う。重さが従来のシリコン型の10分の1。折り曲げられるため、建物の壁や電気自動車(EV)の屋根などにも設置できる。一方で水分に弱いため、実用化には高い発電効率を維持しながら、耐久性が課題となる。「実用化できる基準には達した」。積水化学はこれまで1日ももたずに壊れてしまったペロブスカイト型の耐久性を10年相当に高めた。液晶向けで培った液体や気体などが部品の内部に入り込まないようにする封止材の技術を使い、太陽電池を保護した。シリコン型の耐久性は約20年であり、R&Dセンターのペロブスカイト太陽電池グループ長の森田健晴氏は「耐久性を高められなければ、事業化には致命的だ」と話す。事業化に欠かせない発電の変換効率も高めた。30センチメートル幅で変換効率15%(シリコン型は20%以上)を達成した。薄いペロブスカイト型はシリコン型よりも熱を逃がしやすく、変換効率の低下につながる電池の温度上昇を抑えられる。今後は実用に近い1メートル幅での開発を目指す。積水化学は東京都下水道局森ヶ崎水再生センターなど複数の拠点で実証実験を実施しており、設置方法を含む実用化を検討している。現状では発電する薄膜に欠陥が生じやすいほか、歩留まりも悪く、製造コストはシリコン型に劣るという。今後は軽さを生かして物流コストなどを抑えることで、設置までの全体のコストでシリコン型に対抗する。25年度に事業化する方針であり、JR西日本がJR大阪駅北側に25年の開業を目指す「うめきた(大阪)駅」に設置予定だ。ペロブスカイト型は敷地を確保しにくい都心での発電が可能となる。室内光や曇りや雨天時など弱い光でも発電可能なため、屋内向けの電子商品などに使われる可能性がある。実験レベルでは高い変換効率を達成しており、耐久性やコスト面で改善が進めば、中国勢が優位に立つシリコン型に対抗しうる太陽電池として期待が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年から「グリーンイノベーション基金」で次世代太陽電池の開発に約500億円の予算を確保している。30年度までに一定の条件下での発電コストをシリコン型と同等の1キロワット時14円以下の達成を目指す。経済波及効果は30年までに約125億円、50年までには約1兆2500億円を見込む。東芝もグリーンイノベーション基金に採択された企業の1つだ。26年度ごろの事業化を目標に掲げる。広い面積にペロブスカイト層を均一に塗布する独自技術を開発し、703平方センチメートルの大面積で変換効率16.6%を達成した。現在の耐久性能を明らかにしていないが、耐久性の向上と低コストな製品の開発を進めているという。カネカはNEDOが補助するペロブスカイト型だけでなく、シリコン型と2層で重ねる「タンデム型」の開発も進めている。設置済みのシリコン型をタンデム型に置き換えることで、発電効率を高める狙いだ。同社が開発した結晶シリコン太陽電池はトヨタ自動車の新型プリウスのプラグインハイブリッド車(PHEV)などで採用された実績がある。素材開発から量産まで一気通貫で自社で担える強みを生かす。ペロブスカイト型は09年に桐蔭横浜大学(横浜市)の宮坂力特任教授が発明した。だが海外で特許取得をしていなかったことや、各国政府の研究開発支援の充実で、海外との開発競争は激化している。21年にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設した。中国でも大型パネルの量産が始まっている。ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。価格もシリコン型に比べ高額だ。日本企業がコストや性能で優れた製品を量産できれば勝機はある。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。 ●国内で供給網、エネルギー安保でも注目 政府がペロブスカイト型太陽電池の開発を後押しする背景にエネルギー安全保障がある。現在主流のシリコン型は原料であるシリコンの供給を中国に依存しており、有事の際に生産が止まるリスクがある。ペロブスカイト型は太陽光の吸収材料に日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素を使う。他の原材料も国内で確保しやすいため、国内でサプライチェーンを完結できる可能性がある。株式市場では関連銘柄としてヨウ素メーカーにも注目が集まっている。ガラス最大手AGC子会社の伊勢化学工業が国内シェアの30%を、K&Oエナジーグループが15%を占める。ペロブスカイト型が普及した場合、国内のヨウ素使用量はどれくらい増えるのか試算してみた。ペロブスカイト層の厚さを1マイクロメートルとし、ペロブスカイト結晶の密度から単位面積当たりのヨウ素量を計算すると、1平方メートルあたり数グラムとなる。国内の0.5メガワット以上の太陽光発電施設が占める面積と同程度、ペロブスカイト型が設置されると仮定すると、ヨウ素の必要量は数十トン程度と、国内の年間生産量の1%に満たない。日本発のペロブスカイト型太陽電池は市場規模の成長力とエネルギー安保の両面から実用化への期待が高い。一方で関連企業の業績への影響は未知数であり、銘柄選びには冷静な見極めが必要だ。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230628&ng=DGKKZO72277830X20C23A6TB2000 (日経新聞 ) 曲がる太陽電池 京大発新興とトヨタ開発 EV屋根に搭載目指す 京大発スタートアップのエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)とトヨタ自動車は27日、次世代太陽電池の本命とされる「ペロブスカイト型太陽電池」を共同開発すると発表した。2030年までに電気自動車(EV)の屋根などに搭載を目指す。エネコートはトヨタと組むことで大型化や耐久性の課題を解決し、実用化につなげる考え。エネコートとトヨタは5月に車載向けパネルの共同開発を始めた。太陽電池においてシリコンに代わる材料として注目を集めるペロブスカイトの成分などを見直し、現在はシリコンとほぼ同程度の発電効率を最大で5割高める。トヨタがペロブスカイト型太陽電池で外部企業との共同開発を明らかにするのは初めて。トヨタはプリウスのプラグインハイブリッド車(PHV)や一部EVで車の屋根に太陽電池をつけるメーカーオプションを提供している。23年発売のプリウスの場合、1平方メートル程度のシリコン製のパネルが載る。価格は28万6000円。一般的な気象条件で、年間約1200キロメートル走行分の電気を発電できるとしている。トヨタの増田泰造・再エネ開発Gグループ長は「屋根以外のボンネットなどに置いて面積を2倍に増やせば、計算上は約3倍の3600キロメートル走行分を発電できる」と期待する。一般的な自家用車の年間走行距離は1万キロメートルとされ、3分の1を太陽光でまかなえる計算だ。近距離だけで車を使う人なら、ほぼ充電不要になる。太陽電池を搭載する車はSUBARU(スバル)や韓国の現代自動車なども手がけるが、トヨタによると太陽光だけで実用に耐えられる車は珍しい。エネコートの加藤尚哉社長は「ペロブスカイト型はシリコンに比べて製造工程が少なく、低コスト化も期待できる」と話す。ペロブスカイトの曲げやすい特性をいかし、車体のデザインとマッチしやすい太陽電池の形も探る。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230703&ng=DGKKZO72418330S3A700C2TL5000 (日経新聞 2023.7.3) 日本の「GX」看板倒れ、アジアにも後れ、風力は中国の160分の1 脱炭素分野で日本の出遅れが鮮明だ。世界はウクライナ危機で経済・安全保障の両面から脱化石燃料を加速しており、再生可能エネルギーの導入にまい進する。日本はアジア諸国にも再生エネの導入で後れを取るのが現状だ。岸田文雄政権が掲げるグリーントランスフォーメーション(GX)は足元の具体策を欠き、看板倒れとの印象が拭えない。「2030年までの『勝負の10年』に、全ての部門において急速かつ大幅で、即時の温室効果ガス排出削減を実施しなければならない」。5月21日閉幕の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の会合で、岸田首相は強調した。G7の共同声明には「世界の温暖化ガス排出量を35年までに19年比60%削減する緊急性が高まっている」とも盛り込まれた。これまで日本は30年度に13年度比で46%削減する方針だったが、さらに上積みを目指すとの宣言だ。 ●再生エネ導入予測 ベトナムに抜かれる 勇ましい言葉とは裏腹に、日本の実績は振るわない。たとえば世界で主流になった風力発電。業界団体で構成する世界風力会議によると、22年に中国は約3700万キロワット、米国は約860万キロワット増やした。日本はわずか23万キロワット。原発1基の5分の1程度だ。年間で中国の160分の1しか導入できず、インドやトルコ、台湾よりも下位に沈んだ。国際エネルギー機関(IEA)の22年12月の予測では、主要国は再生エネを急速に増やす一方、日本は伸びが鈍化する。27年の年間導入量予測で日本は最大約710万キロワットだが、同約730万キロワットのベトナムに抜かれる見通しだ。洋上風力発電が日本で大規模に立ち上がるのは30年前後と遅い。広島サミットの共同文書に「再生エネの導入を大幅に加速する」と明記したものの、実態が伴わない。国が30年度時点の野心的な目標として約1800万キロワットを見込む陸上風力も、現状は約460万キロワットにとどまっている。事業者が地元と十分協議せずに景観の観点からトラブルになる案件が相次ぎ、自治体は国とは別のアセスメントを次々に導入する。国と自治体では基準や内容もバラバラで、環境影響評価に約4~5年、工事に約2年もかかるという。新規案件はまとまらず、既にある風車の置き換えすら困難な状況だ。30年の目標には間に合わない。GX基本方針で「再生エネを最優先」と位置づけるならば、国が規制の基準を統一するなど前面に立って推進しなければ大幅拡大はおぼつかない。それでも国は「地域との合意形成に向けた適切なコミュニケーションの不足」と事業者の責任を追及するばかりだ。欧州連合(EU)は一定規模以上の公共建築物や商業ビルで27年までに新築・既設を問わず太陽光発電の設置を義務化し、新築住宅は29年までに義務化する方向で検討している。日本は東京都や川崎市が新築住宅に太陽光パネル設置の義務化を決めた程度で、全国的な広がりを欠く。脱炭素の原資として、二酸化炭素(CO2)排出に価格をつける「カーボンプライシング」を導入する方針だが、規模・時期ともに見劣りする。政府は20兆円規模の「GX経済移行債」をGX基本方針に盛り込んだ。温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標の2050年までに償還を終える。仮に20兆円を30年から50年にかけて完済すれば、12年に導入した地球温暖化対策税の税収規模で換算した炭素価格は排出1トンあたり1000円ほど。欧州の10分の1程度だ。韓国は1600円、中国も1100円と日本を上回る。国際通貨基金(IMF)は30年に1トンあたり75ドル(約1万円)以上にする必要があると試算するが、数字はほど遠い。 ●「GXは曖昧」 米国などが難色 カーボンプライシングの本格導入も遅い。ガスや石油元売りなど化石燃料を輸入する企業が燃料消費時の排出量に応じて負担する「炭素に対する賦課金」は28年度、電力会社にCO2の排出枠を買い取らせる「排出量取引」は33年度と見込むが、インドネシアは23年、ベトナムは26年に導入する。「GXは言葉が曖昧だ」。米国は4月のG7気候・エネルギー・環境相会合の交渉過程で、共同宣言にGXという単語を盛り込むことに難色を示した。日本はGXを日本発の看板政策としてアピールする狙いだったが、各国の賛同は得られず、最終的に一般名詞の「green transformation」という表記にとどまった。再生エネルギーや電気自動車(EV)の拡大をテコ入れし、温暖化ガス排出を減らす規制の導入に汗をかかなければ、日本のGXが世界で評価される日は遠い。
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2023,05,01, Monday
(1)2023年3月28日に成立した114兆円の2023年度予算について
![]() ![]() ![]() ![]() すべて2022.12.24日経新聞 (図の説明:1番左の図は、2023年度予算で過去最大の114兆3,812億円だが、うち35兆6,230億円は新規国債発行で賄われており、税収割合も低いが、税外収入が極めて少ない。左から2番目の図は、高齢者が増えることを理由に物価高の中で年金給付抑制をしているが、これは命にかかわることで、そもそも目的外支出せずに要支給額を積み立てておけば何の問題もなかった。このうち明らかな無駄遣いは出産時の10万円給付で、出産にかかわる費用を保険適用すればすむことだ。また、脱炭素を進めれば税外収入を増やしたり、農林漁業への補助金を減らしたりできるツールであるため、積極的にやらない理由はない。右から2番目の図のように、マクロ経済スライドなどとしてただでさえ少ない年金を物価上昇に比べて抑制する政策は、高齢者の生活を不可能にする。1番右の図のように、高齢者人口が増えれば年金・医療・介護費用が増えるのは当然なので、地道に無駄遣いをなくすことなく無理に社会保障費を抑制すれば社会保障の水準が下がるのである。まさか「高齢者は、生きているだけで無駄遣いだ」などと言うつもりはあるまい) *1-1のように、①2023年度予算の一般会計総額は過去最大の114兆3,812億円で ②防衛費は(ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえて?)2022年度当初予算と比較して26%増えた6兆7,880億円だが、政府は5年間で43兆円程度を充てる計画を立てているため、初年度の2023年度には前年度より1兆4,192億円増額したそうだ。 しかし、②の防衛費増のうち、「反撃能力」に活用する長射程ミサイルや艦艇などの購入は前から言われているため、ロシアのウクライナ侵攻とは関係ない。また、弾薬・装備品の維持整備等の「継戦能力」強化も本当に必要な金額は防衛費そのものであるため、ロシアのウクライナ侵攻とは関係ない。そのため、「ロシアによるウクライナ侵攻」を言い訳にして何でもありにしている点が、信頼性に欠けるのである。 また、②社会保障費は一般会計の3割にあたる36兆8,889億円で高齢化による医療・介護費用の増加により前年度より6,154億円増 ③国債の元利払いに充てる国債費は25兆2,503億円で9,111億円増 ④地方交付税に一般会計から出す額は5,166億円増えて16兆3,992億円 だそうだ。 社会保障費は、いらない人にまで車椅子を買わせたり、薬を必要以上に処方したり、薬の値段を高く設定しすぎたりしている無駄遣いを除き、高齢者が増えれば医療・介護費用が増えるのは当然であるため、増えた高齢者の人数より社会保障費の増加分を抑えるのは、人の命にかかわることである。 さらに、新型コロナ対策の予備費も計上して ⑤コロナ・物価高対策として4兆円 ⑥ウクライナ危機対策1兆円を充当し ⑦税収は過去最高の69兆4,400億円だが ⑧35兆6,230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めし ⑨歳入総額に占める借金割合は31.1%(2000年代半ばまでは2割台)と高い水準だそうだ。 2023年度も新型コロナ対策の予備費を計上する意味はわからないが、⑤のように、コロナ・物価高対策をまとめて4兆円と記載してある。しかし、物価高対策こそ、「ロシアによるウクライナ侵攻」を理由にロシアに“制裁”し、逆制裁を受けての値上がりであるため、「ロシアへの制裁に関する物価高対策」として明確に区別し、戦争のコストとして認識すべきだ。また、⑥の書き方では、何に使った費用か不明だ。 歳出額の明細をきちんと開示して国民の目に明らかにすることは、節約できるものとそうでないものを明確にする第一歩である。また、国債がなければ国債利払いと元本返済は不要であり、実質的に必要な他のことに使えるのである。 日本が無駄遣いを続けるわけにいかないのは、⑦のように税収が過去最高でも、⑧のように新規国債を35兆6,230億円も発行して歳入不足を穴埋めしなければならず、⑨のように、歳入総額に占める借金割合が31.1%もあるからで、その上、国債は利払いと元本返済がごっちゃに表示されるため、借金がいくら減って、利子がいくらかかったのかもわからない状態だ。 そのため、国への公会計制度の導入は、適切な歳出を確保するツールなのである。 (2)日本のGDPについて ![]() ![]() ![]() ![]() 2021.10.25FinTech 2015.2.13NNAAsia 2016.5.25ITI (図の説明:1番左の図は、国全体の名目GDPで日本は世界3位だが、左から2番目の購買力平価《その貨幣でどれだけのモノが買えるか》によるGDPは、インドに抜かれて世界4位である。そして、右から2番目の図のように、購買力平価ベースの国のGDPは次第に下がっていく予想だが、1番右の図のように、1人当たり実質GDPの順位はこれよりもずっと低い) *1-2は、日本の2022年のGDPが世界3位を維持したと記載しているが、これは国全体の名目GDPの話で、長く続いた金融緩和により、物価は上昇し、円安にもなり、円の実質的価値が下がったため、購買力平価による国全体のGDPは、上図のように、世界4位だ。しかし、1人当たり実質GDPは、2020年時点で世界30位にすぎない。 この中で、国民生活の豊かさを最もよく示すのは、1人当たり実質GDPだが、購買力平価による1人当たりGDPの比較があればなおよい。何故なら、国全体の名目GDPが高くても、人口が多かったり、物価が高かったりしてGDPが高くなっているだけであれば、1人当たりの購買力は小さいからである。 しかし、ある国の国際的地位は、国力(国民数・政治・経済・軍事・科学・技術・文化・情報等の能力や影響力の総合)によって変化し、国力が特に高い国は大国として大きな存在感を示すことができる。そのため、政府にとっては、1人当たり実質GDPよりも、国全体の名目GDPの方が重要なのだろう。 なお、1位米国、2位中国の順位は2028年までは変わらず、先進国の2022年の成長率が2.7%だったのに対してインドの成長率は6.8%に達し、日本は円安で人口8,336万人のドイツにも1,580億ドル差まで迫られたそうだ。人口の多い中国・インドの国全体のGDPが大きくなるのは必然で、成熟国よりも新興国の方が成長率が高いのも普遍的にみられる現象だが、日本は特に振るわないため、おいおいその原因を記載していくつもりだ。 (3)少子化について ![]() ![]() ![]() ![]() 2022.4.18労働政策研 2023.4.18DmenuNews 2022.8.12佐賀新聞 2021.5.28日経新聞 (図の説明:1番左の図は、1955~2021年の日本の実質GDP成長率で、左から2番目の図と比較すればわかるように、人口が1億人以下だった時に8~13%の高い成長率を示している。しかし、当時の生産年齢人口は2050年以降の推計と変わらないのである。つまり、高度経済成長は、人口増によって起こったのではなく、ハングリー精神を持つ国民が必要なものをがむしゃらに生産したことによって起こったのであり、ニクソンショックは、ドルの切り下げ、第1次・第2次石油危機は、中東産油国が原油価格を70%引き上げたことによって起こったのだが、その後も、日本はエネルギーの変換をはじめ必要な改革を怠ったため高コスト構造が継続し、実質成長率が持ち直すことはなかった。また、右から2番目の図のように、日本のジェンダーギャップ指数は女性活躍の分野で著しく悪いが、これにより、女性の方が多く持っている生活に直結する具体的な知識・経験を政策に反映させることができず、観念的な議論と雇用確保のためのバラマキに終始して経済が停滞したのである。最後に、1番右の図のように、難民認定率を著しく低くして外国人差別をしたことは、賃金を高止まりさせて重要な産業を失う結果を招いている) 1)国力は人口のみに依存するのか? 日経新聞は、*2-1-1・*2-1-2で、①国立社会保障・人口問題研究所が公表した日本の「将来推計人口」で、人口は2056年に1億人を下回り、2070年に8700万人に減る ②人口規模を保てなければ国力は縮みかねない ③政府は子育て支援拡充などで出生率の維持・向上を目指す ④日本が2030年に現在の成長率を確保するには労働生産性を2.5倍にする必要がある ⑤女性の労働力率が男性並みになれば、GDPを519.5兆円まで引き上げられる ⑥経済成長を維持するため、政府は高齢者や女性の労働参加率を高めて社会全体の生産性向上を狙う ⑦2070年に9人に1人が外国人となって外国人が下支えする構図が鮮明だが、外国人の家族も住みやすい社会づくりに向けた外国人政策が必要で、移民受入の論議も避けて通れない と記載している。 このうち、①は推計を含むものの事実に近いだろうが、②の「人口規模を保てなければ国力が縮む」というのは、その人口の使い方によって異なるため、事実ではない。何故なら、上の左から2番目の図は、65歳以上の人をしつこく「高齢者で働けず、支えられる人」と定義しているが、これを実態に合わせて75歳以上にするだけでも状況は変わるからである。 ③の政府の子育て支援拡充は、⑤のように、女性を支え手にカウントし、女性も自己実現できるようにするために必要不可欠なのであって、出生率の維持・向上ばかりを目的にすると女子差別撤廃条約に反して女性の自己決定権を阻害することになり、そうなれば、また静かに生涯未婚率が上がるだろう。しかし、⑥のように、“高齢者”の定義を改め、女性や65歳以上の人の労働参加率を高めて社会全体の生産性を上げることは重要だ。 さらに、④の労働生産性を上げることは必要だが、それは日本が現在の低い成長率を2030年にも維持し続けるためではなく、高い賃金を得て豊かに暮らすには、それに見合った働きが必要だからである。 なお、⑦の「2070年に9人に1人が外国人となる」というのは、「外国人」の定義を考え直す必要があるし、「外国人は下支えする人」というのは、日本人の根拠なき傲慢さである。そして、外国人差別をして門戸を閉ざすことなく、外国人の家族も住み易く、子の教育に心配がなければ、日本に移住したい人は少なくないだろう。 そのほか、*2-1-1・*2-1-2は、⑧高齢化で社会保障費は急増するが、社会の担い手が先細れば現役世代が高齢者を支える現行社会保障制度も維持は難しい ⑨内閣府によれば、2060年代に1億人の人口規模を維持できれば高齢化率もピークアウトする ともしている。 ⑧は、65歳以上が高齢者で、高齢者は働けないから全員支えられる人であり、女性の労働参加率は不変で、外国人労働者を支え手として認識することなどせず、現行制度は改善しないという前提でのみ言えることであるため、意欲なき思考停止状態と言わざるを得ない。 また、⑨は、上にも述べたとおり、食料自給率38%・エネルギー自給率12%しかなく、雇用維持と称して補助金やバラマキをし続けている国が言うべきことではないため、まず、これらを解決するようにすれば、自然と道は開ける。 2)人口減少で現役世代が減り続けるとGDPはマイナス成長になるか? *2-2-1は、第一生命経済研究所主任エコノミスト星野氏の話として、①人口が縮小すると働き手が減って潜在成長率を押し下げ ②GDP成長率は2030年代には0%台前半、2040年にはマイナス成長で ③経済成長がなければ年金・介護・医療等の社会保障制度の保険料負担増が避けられない としている。 しかし、①②については、上の図で説明したとおり、労働参加率を変えることによって「人口減少≠働き手の減少」にできる。例えば、高齢者・女性・外国人などの多様な労働力を積極的に参加させれば、支え手が増えると同時に、多様な発想を擦り合わせることによって多角的な検討ができ、そこにイノベーションが生まれる。また、高コスト構造で日本から逃げだしていた産業を再活性化することもできるため、GDP成長率はむしろ上がるだろう。 また、③についても、非正規ではなく正規雇用として、自己実現に結びつく働き方ができるようにすれば、被用者の福利は増し、支え手も増えて、社会保障の保険料負担増は避けられる。 *2-2-1は、元内閣府審議官の前川氏の話として、④総人口の減少以上に成長の原動力となる15〜64歳の生産年齢人口減少が大問題で ⑤経済成長は資本と労働と生産性によるが ⑥IT・AI等の第4次産業革命が進展する中でイノベーションを起こすには、教育を受けて高度な知的能力を身につけた現役世代の力がより大切で ⑦その層が減ることは日本の成長力が落ちていくことを意味する とも記載している。 このうち④については、寿命が延びても65歳以上は働き手(=支え手)になれず、女性や外国人の労働参加率も変えないとしている点で、それこそ発想が硬直的すぎる。また、⑤の国全体の生産性は、国民の数だけでなく労働参加率や個々の労働者の生産性も含む関数であり、個々の労働者の生産性は年齢・性別・国籍に依るわけではない。さらに、⑥の「イノベーションを起こせる人材」とは、必要な教育を受けて専門能力を身につけた人であり、それは年齢・性別・国籍とは関係なく、むしろ混成チームの方が多面的な検討ができるため、イノベーションを起こしやすいのだ。 3)人口減を前提にした社会とは? *2-2-2は、①国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口は外国人を含む日本の総人口が2070年に8,700万人で2020年から約3割減少し ②15~64歳の生産年齢人口は2020年に7,509万人だったが、2045年には2割減って5,832万人になり、外国人数が横ばいなら減少率は3割に近づき ③2070年の外国人数は939万人と総人口の1割を超え ④在留外国人数は2022年6月で2015年末より約3割増えたが、今後は人材獲得競争が激しくなるためこの流れが中長期的に続く保証はなく ⑤今回の推計で人口減少のトレンドが改善したと受け止めるのは楽観的すぎ、日本人と同等に処遇して海外に見劣りしない水準に賃金を引き上げなければ日本は選ばれなくなる ⑥日本はさまざまな重要な決断を迫られる大きな変革期にある 等と記載している。 このうち①②については、(3)の1)2)で述べたので省くが、③④⑤については、地方の農林漁業やインフラ整備、繊維産業などでも外国人労働者は有用であるため、若い人が多いが雇用の足りない国で労働者を募集したり、難民を欧米並みに受け入れたりすれば、働き手の減少はカバーできる。その理由は、日本の教育や社会保障は、開発途上国と比較すれば、まだ良いからで、今は、⑥のとおり、次々と合理的な決断を行っていくべき時なのだ。 年金については、日本ほど国民との契約をないがしろにするいい加減な国はないと思われるため、1日も早く退職給付会計の計算方式と同じ積立方式に変更すべきで、変更する際は、決して特定の世代に2重払いや3重払いをさせる不公正なことが起こらないよう配慮すべきだ。 なお、2-2-3は、⑦いま日本各地で「人手不足」が叫ばれている ⑧今後はAIの活用で省人化を徹底しつつ ⑨貴重な労働力は社会機能の維持に不可欠な業務や経済を牽引する生産性の高い業務に集約する必要がある ⑩新たな担い手も発掘したい 等も記載している。 国はまだ外国人差別から抜け出せていないようなので、⑦については、人手不足を感じる地域の企業・農協・漁協・森林組合などが、地方自治体と協力して日本で働くことを前提に労働力の余っている国で外国人を募集して雇用し、日本で働いてもらう方が速そうだ。 また、⑧⑩はそのとおりだが、⑨ができるためには、教育の質の向上・義務教育期間の延長・安価な公教育の提供などが必要不可欠である。 4)少子化対策の財源について *2-3は、①民間有識者による令和国民会議が社会保障制度改革に関する提言を発表し、持続可能な少子化対策の財源は税を軸に安定的に確保するよう求めた と記載している。 日本国憲法は、第4条2項で「国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については授業料を徴収しない」と定め、教育は人材を育てて国力を増すために必要不可欠なものであるため、義務教育は無償化することを憲法制定時から宣言していた。従って、その原資には憲法第30条によって国民が支払う税を使うのが当然で、これは安定財源と称する消費税ではなく、所得税・法人税・相続税などから支出することを予定していたものである。つまり、教育費は基本となる重要な支出であるから、無駄遣いを廃して叩き出せということだ。 また、*2-3は、②世代間や所得差による負担の不公平感の是正を進め ③医療体制を強化するよう提案し ④公表された提言は「公正・持続・効率」の三原則で社会保障制度を再設計すると明記したが ⑤政府・与党内で浮上する社会保険料を引き上げて財源にする議論が先行することに待ったをかける内容だ 等も記載している。 しかし、既に重い累進課税制度によって税を応能負担しているため、社会保障給付に残った保有資産を反映させれば、②④は、頑張って稼いだ人に対して持続の名の下に二重課税や懲罰を行ったことになる。また、③も、医療・介護保険を既に応能負担しているため、サービスを受ける時まで負担割合に差をつけると、二重取りになってむしろ不公正・不公平なのである。 また、「少子化で労働力不足になって困るのは企業」であり、「女性の労働参加率を上げるべきなのも企業」であるから、保育や学童保育等の少子化関連費用を法人税等を原資として支出するのも極めて自然である。 なお、⑤社会保険料を引き上げて財源にする案は、社会保険料の内容による。例えば、育休手当を雇用保険から支出したり、妊娠・出産にかかる医療・介護費用を医療保険や介護保険から支出するのは極めて合理的だが、年金原資を流用するのは詐欺的行為で全く合理性がないわけだ。 5)人口減で労働力や国内需要はしぼむのか? *2-4は、少子高齢化で人口減少が続き、①企業は女性・高齢者の雇用を拡大し ②コンビニや製造業等の現場で外国人労働者の受け入れも進めた ③セルフレジ導入や無人コンビニ等のAIを駆使した省人化や ④朝型勤務推奨で社内出生率と労働生産性を上げた会社もある ⑤人口減少は国内市場の需要縮小も意味する としている。 これまで書いてきたとおり、①②は不十分で、働きたい人材を活用しきれていないのが日本の現状である。その理由には働き方や評価の不合理があるため、能力主義に基づく公正な評価と評価に見合った賃金体系の構築が必要だろう。 また、③の自動化・省力化は、生産性向上や多様な人材の活用に役立つ重要なツールで、④は、つきあい残業を減らして生産性を上げ、同時に自由時間を増やした事例だが、働く時間帯を夜から朝に変えたとしても、女性が長時間労働しながら子育てするのは困難だと、私は思う。 なお、⑤の人口減少は国内市場の需要縮小も意味するというのは、やるべきことをやらずに危機感を煽っている。何故なら、日本では、必要なサービスでも提供されていないものが多いからで、子を育てるには良質で便利な保育サービスが必要だが十分に提供されていないし、自宅療養するには訪問診療・訪問看護・訪問介護などのサービスが必要だが、(政府が管轄しているせいか)どれも制限が多くてなかなか便利なものが提供されないのである。 つまり、人口構成の変化・家族構成の変化・価値観の変化等によって必要とされる財やサービスは変わるため、提供する財やサービスも変えなければ売上げは増えないが、それを行わずに、なくなったニーズを追いかけているのが需要が縮小したように見える大きな理由なのである。 6)人手不足でも移民は受け入れないのか? ![]() ![]() ![]() ![]() 2020.4.4mitsukari nippon.com 2023.1.7日経新聞 (図の説明:1番左の図は、日本で働く外国人労働者数の推移だが、「専門的・技術的分野の在留資格」以外は「身分に基づく在留資格」「技能実習」「留学生等の資格外活動」で、左から2番目の図のように、2017年までは就労を目的としない在留資格という建前で働いていたため、労働法による保護がなかった。しかし、実態は人材不足を補う労働力であるため、右から2番目の図のように、骨太の方針に「人材不足を補う就労目的の在留資格の創設」が明記された。しかし、外国人が家族を帯同したり、日本で家族ができたりした場合、1番右の図のように、現在のところ公立校に外国人の受入体制がない地域も多い) ![]() ![]() ![]() 2019.1.7Economist 2022.3.23GlobalSaponet 2018.10.11朝日新聞 (図の説明:左図は国籍別在留外国人数の推移で、2018年に入管法が改正され、右図の特定技能1号・2号の在留資格ができた。中央の図のように、特定技能1号・2号の在留資格なら特定産業分野では就労できるが、この在留資格で働ける人は技能実習を終えた人か日本語と技能試験に通った人のみで、技能実習制度も未だ残っており、外国人労働者に対し閉鎖的である) イ)特定技能2号の拡大について 日本政府は、*2-5-1のように、経済界等の要望を受けて、在留期間の更新に制限がなく家族を帯同できる「特定技能2号」を現行の2分野から11分野に大幅拡大し、幅広い分野で外国人の永住に道を開く方針だそうだが、「移民受け入れに繋がる」という反発もあるそうだ。 しかし、少子化で「労働力が減少するのが問題」と言いつつ、移民の受け入れには反対し、高コスト構造にしたまま、多くの産業を日本からなくすのは筋が通らないため、反対する人は事実に基づいて首尾一貫した説明をする必要がある。 そして、そもそも仕事というのは、一定の教育を受けた人が慣れれば専門性を獲得して即戦力になるもので、それは日本人か外国人かを問わない。そのため、外国人にのみ変なハードルを課して家族の帯同や永住を拒否すれば、選択肢の多い有能な人ほど日本を避け、その結果、日本は安価で良質の労働力を雇用する機会を失い、産業を衰退させ、産業がなくなれば技術者がいなくなって技術もなくなり、当然、イノベーションも起きなくなるのである。 ロ)技能実習制度の廃止について *2-5-2は、①技能実習制度は国際貢献という建前と違って人手不足を補っている ②政府の有識者会議が「技能実習制度」を廃止して「人材確保」「人材育成」を目的とする制度に抜本的に見直す必要があると指摘した ③政府は在留期間の更新に制限がなく、永住に道を開く特定技能2号の対象分野を大幅に拡大する方針を示した 等と記載している。 確かに①は、建前と違って開発途上国から働きに来た労働者から搾取し、使い捨てにする制度になっており、これは最高裁が「日本国憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶと解すべき」としているため、憲法違反だ。 そのため、②の「技能実習制度」を廃止して「人材確保」「人材育成」を目的とする制度に抜本的に見直す必要があるというのに賛成だ。また、③の政府が特定技能2号の対象分野を大幅に拡大するのもよいと思う。 が、不法行為でなければ政府が予定していなかったことをしてもよいと思うし、政府が予定していなかったようなところから新しい付加価値が生まれることは多いため、むしろ対象分野を政府が狭く設定しない方がよいのではないだろうか。 ハ)入管法について *2-6-1は、①“不法残留”する外国人の迅速な送還や入管施設での長期収容解消を目的とした入管難民法改正案が自民・公明・日本維新の会・国民民主の賛成多数により衆院で可決され ②改正の柱は難民認定申請中でも3回目以降の申請者や3年以上の実刑判決を受けた人の送還を可能にしたことで ③出入国在留管理庁は、難民申請中に一律に送還が停止される規定の“乱用”が送還を妨げ、収容の長期化も招いていると問題視していた と記載している。 しかし、①③について、不法とされる内容は有効な旅券を持っていない入管法違反で(https://nyukan-bengoshi.com/nyuukanhouihan_syurui/)、亡命や難民申請をする人が自国政府から有効な旅券を発行してもらえる筈はないのである。そのため、②のように、難民認定申請中の人を強制送還することは、*2-6-4に書かれているとおり、「死刑執行ボタンを押すこと」に等しい。 ここで注意すべきことは、日本は難民認定基準の厳しさから、難民条約批准国であるにもかかわらず、難民認定率が2021年でも0.7%にすぎず、ドイツ25%や米国32%等の先進国と比較して極端に少ないことだ。そのため、その難民認定基準を維持したまま、出入国在留管理庁の言うとおりに送還を促進すれば、本来保護すべき人の命を危険に晒すのである。それにもかかわらず、これまで難民認定率を低くしてきたのは日本人の雇用を護るためにほかならないが、人手不足が叫ばれる中、その必要は既にない。 さらに、日本国憲法は前文で、「④われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会で名誉ある地位を占めたいと思う ⑤全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免がれ、平和に生存する権利を有することを確認する ⑥いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と述べているが (https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm#zen) 、この難民認定率の低さや外国人に対する偏狭さ・配慮のなさは憲法違反であり、とても名誉ある地位を得られるものではない。また、長期的には、平和維持にも貢献しない。 そのため、*2-6-3のように、「入管難民法の改正は、罪のない人に手錠をかけ、先の見えない人生に追いやる」として、入管難民法改正案の廃案を訴え、東京で3500人が反対デモを行った。「杉並から差別をなくす会」など外国人支援や反差別運動に取り組む約100団体が賛同した実行委員会がこれを呼びかけ、参加者は「入管は人権守れ!」と書いたプラカードを手に、高円寺から阿佐谷まで練り歩いたそうだ。私も、*2-6-2に、全く賛成である。 (4)教育・保育について 1)教育について イ)教育内容の進歩と必要な学校施設 *3-3は、①学校施設の老朽化がピークを迎え、教育環境の向上と老朽化対策の一体的整備が必要で ②文科省は施設整備予算を計上した ③これからの人材育成は知識詰め込み偏重で受け身の一斉授業から、児童生徒が自律的・主体的に学び対話を重ねて課題を解決する授業へ転換すべきなので ④学校設置者は新しい時代のビジョン・目標を共有して学校の改修計画を立てる必要がある ⑤新しい教育環境とは、映像編集・オンライン会議のためスタジオや情報交換・休息のためのラウンジを設けたり、老朽化した公民館・図書館を学校と共有化したり、地域住民との「共創空間」を整備したり ⑥小中一貫校・義務教育学校の新設や統廃合による建て替えが進む中、自然との調和や豊かな生活・学習環境に寄与する木造校舎を採用する自治体が増加しているが ⑦ハードの整備だけでなく、壁や間仕切りも含めて学校用家具や活用まで視野に入れた検討が必要 と記載している。 このうち①④⑤⑥のように、ちょうど学校施設の老朽化がピークを迎え、少子化による義務教育学校の新設等で改修や建て替えが進む中、教育環境の向上と老朽化対策の一体的整備を考慮して、映像編集・オンライン会議のためスタジオや地域住民との共創空間を整備したり、自然と調和して豊かな生活・学習環境に寄与する木造校舎を採用したりなどをするために、②のように、文科省が施設整備予算を計上して、⑦のように、ハードの整備だけでなく壁や間仕切りも含めて学校用家具や活用まで視野に入れた一体的な検討がされるのは素晴らしいことだと思う。 しかし、③については、いつの時代も知識の詰め込みと主体的な行動による課題解決は必要不可欠だった。何故なら、知識のない人ばかりでいくら議論や対話を重ねてもまともな課題解決はできないからで、これまで知識の詰め込みのみを偏重し、生徒の質問に適格に答えることができず、知識に裏打ちされた多面的な議論も封じて受け身で授業を受けることのみを強いてきた学校があったとすれば、それは先生の質の問題である。 つまり、知識と議論や対話による課題解決は、対立概念ではなく相互補完しながら発達していくものであるのに、この頃、漢字は読めず、本も読まず、狭い範囲の空気を読むだけの大人が増えたのは、推薦重視の入学試験とそれに合わせた教育のせいではないかと思うのだ。 ロ)インクルーシブな社会環境とはどういう環境か また、*3-3は、⑧障害の有無・性別・国籍の違いにかかわらず、物理的・心理的なバリアフリー化を進めてインクルーシブな社会環境を整備することが必要だ ⑨特別支援学級在籍の児童生徒数が10年間で約2倍に増加する中、全国で4千近い教室が不足している ⑩学校施設のバリアフリー化は全ての学校に車椅子使用者用トイレとスロープ等による段差解消を整備し、要配慮児童生徒等が在籍する全ての学校にエレベーターを整備することが目標で ⑪公立小中学校等の9割以上が避難所に指定されているが、車椅子使用者用のトイレ設置率や段差解消も目標に届かないため ⑫早期に防災機能強化を図ることが求められる 等とも記載している。 このうち⑧⑫については、全面的に賛成だ。しかし、⑩⑪のように、インクルーシブの中には「車椅子使用者用トイレとスロープの設置」というように、身体障害者を包摂することしか考えていない場面が多いのは、身体障害者も社会から排除していた時代よりはずっとましだが、未だ不十分である。 問題は、⑨のように、少子化で児童・生徒の数が減ったにもかかわらず、特別支援学級に在籍する児童生徒数が10年間で約2倍に増加したということだ。これは、教室不足が問題なのではなく、平凡でない児童・生徒を「普通でない(=正常でない)」として、発達障害・精神障害・知的障害等として分けてしまうからだが、非凡である(=平凡でない)ことは異常であることを意味しないのに、分けることによってその児童・生徒の教育の機会を奪ったり、児童・生徒が相互作用しながら発達することを妨げたりする。 そのため、国連も、日本が2014年に締結した障害者権利条約に基づいて、“障害児”を分離する「特別支援教育」の中止と精神科の「強制入院」を可能にする法令の廃止勧告を出したのだ。 ハ)結論 ![]() ![]() ![]() 年齢別就園児割合 高校・大学進学率推移 博士号取得割合 (図の説明:左図のように、3歳児になると87%が幼稚園か保育園に通園しており、どちらにも通園していないのはわずか13%だ。また、中央の図のように、生活保護世帯も含めて高校進学率は99%以上である。しかし、右図のように、人口100万人あたりの博士号取得割合は先進国の中で著しく低いため、原因究明と改善が必要だ) ハ)結論 必要な知識は十分に教えながら、主体的な探究によって課題解決もできる児童・生徒を育てるには、現在の義務教育期間(6~15歳の9年間)では不十分であろう。 そのため、私は、義務教育期間を伸ばして1年当たりの負担を少なくするのがよいと思う。具体的には、87%が幼稚園か保育園に通園する3歳児から義務教育を開始し、99%以上が進学する高校卒業までを義務教育として無償化するのが、憲法改正もいらないためよい。 何故なら、そうすることによって、①無償の義務教育期間を3~17歳とすることができ ②就学前格差や高校進学に伴う格差をなくすこともできるからだ。また、学習内容をできるだけ下の年齢に下げることによって、新たに必要になった事柄を高校卒業までに学ぶことも可能である。 この時、3~11歳の9年間を初等教育とし、12~17歳の6年間を中等教育として、初等教育から中等教育に進む時に受験して行きたい学校を選べるようにすれば、中等教育も6年かけて現在の大学教養くらいまでの教育を行うことが可能だ。また、初等教育9年間の内容を9年もかけずに学習した児童は、何歳であっても中等教育学校や大学を受験できるようにしておけば、時間の無駄なく博士課程に進める生徒も出ると思われる。 以上が、児童・生徒に単なる居場所を提供するだけでなく、その時間を利用して楽しくて無駄のない多様な学習を可能にする方法であると、私は考える。 2)保育について イ)幼児の保育について *3-1は、①待機児童問題が深刻だった2010年代は、保育の「質」より「量」の問題解決を最優先し ②ビルの一室・高架下・園庭なしの認可保育園や定員1~2割超えの預かりも認められ ③子の育つ環境としてどうかという声があるが ④スピーディーな増設が求められる中で最小限の「質」を確保できるよう工夫した ⑤日本は欧米諸国に比べて保育士1人あたり幼児数が多く、未だ改善されていない ⑥その理由は幼保無償化で、無償化予算の半分でも保育の質に割かれていたら今の保育園の風景はだいぶ違った ⑦待機児童がある程度減った今、岸田政権は少子化対策試案で配置基準の改善を盛り込んだ ⑧園の第三者評価を充実させることで質を担保する仕組みも必要 と記載している。 このうち、①④⑥は、1970年代から問題が指摘されていたにもかかわらず、2010年代まで大した対処をしていなかったということであるため、言い訳にすぎない。また、子どもの感性は長く過ごす場所で体験する事柄によって培われるため、②の状況は、③のとおり、子どもが育つ環境として悪すぎ、とてもふさわしいと言えない。 なお、欧米は日本と違って必要な政策は迅速に実行するから⑤の状況が起こっているのであり、財政状況を比べれば無駄な補助金の多い日本の方がずっと悪いのである。 そのため、私は、少子化で教室の余る初等教育の開始年齢を3歳からにし、保育園は主として0~3歳児を預かるようにすればよいと思う。それによって、⑦の配置基準を欧米並みにしても保育士不足や子の育つ環境は改善でき、入学前の教育格差も小さくできる。また、⑥のように、幼保無償化は既にできているため、義務教育年齢を下げて義務教育を無償化しても国の歳出はあまり増えないのだ。 ⑧の第三者評価については、保育園が護るべき最低の基準を決めて公認会計士監査を義務付ければ、最低の質は必ず護れ、合併や組織再編等の必要なアドバイスもできる。 ロ)学童保育について *3-2は、①子どもの小学校入学で放課後の預け先に困って、母親の退職に繋がるのが小1の壁 ②学童保育は施設が飽和状態で、1教室に120人詰め込んだり、熱が出ても寝かせる場所がなかったりする ③学童保育も国が運営基準を定め、定員は1クラス40人以下だが義務でない ④詰め込みは怪我や事故が増えたり、ささいなことで喧嘩になったりして子どもへの負担が大きい ⑤学童保育は、児童数が減っても共働き家庭の増加で利用数は右肩上がりで増加している ⑥市の担当者は「学校に協力を仰いだり、民間の空き物件を探したりしているが、対応が追いつかない」と言う ⑦子どもの相手をする支援員も不足している と記載している。 初等教育開始年齢を3歳からにすれば、これまで保育園で預かっていた3~6歳児も放課後は、学童保育を利用することになる。そのため、保育園・認定こども園なども学童保育の児童を預かって、単なる居場所ではなく多様なよい経験ができる場所になった方がよいだろう。 何故なら、学童保育の質が悪ければ、①は避けられず、②③④のように、子どもに無用なストレスを与えて、子どもの感性を育てる環境として悪すぎることになるからだ。 なお、⑤のように、共働き家庭の増加で学童保育の利用数は右肩上がりで増加しているが、⑦子どもの相手をする支援員には退職した教員・保育士・栄養士はじめ退職した会社員など、さまざまな人が関われば、むしろ内容の充実した学童保育施設ができるのではないかと思う。 <参考資料> *1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230328&ng=DGKKZO69647920Y3A320C2MM0000 (日経新聞 2023.3.28) 114兆円予算案、午後成立、23年度、過去最大 防衛費6.7兆円 2023年度予算案が28日午後の参院本会議で与党の賛成多数で可決、成立する。一般会計総額は過去最大の114兆3812億円となる。ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ防衛費は6兆7880億円と国内総生産(GDP)比で1%を超えた。新規国債で歳入不足を穴埋めする構図が続く。参院予算委員会で可決した。岸田文雄首相は締めくくり質疑で防衛力の強化を巡り「日本を取り巻く環境は極めて厳しい状況にある。いかなる事態にも対応できるよう、万全の態勢を期していくことが重要だ」と強調した。当初予算が110兆円を超えるのは初めて。23年度予算案は22年度当初予算から6兆7848億円増えた。防衛費は22年度当初予算と比べて26%増え、予算全体を押し上げた。政府は5年間で従来の1.5倍の43兆円程度を充てる計画を掲げる。初年度にあたる23年度は前年度から1兆4192億円増額した。近年の前年度からの伸び幅は500億~600億円程度にとどまっていた。相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」に活用する長射程ミサイルや艦艇などの購入にあてる。弾薬や装備品の維持整備など「継戦能力」の強化にも費やす。防衛費の財源を確保するため、自衛隊の隊舎などに初めて建設国債を使う。過去には海上保安庁の巡視船の調達に使った例はあるものの、防衛費にはあてていなかった。社会保障費は一般会計の3割にあたる36兆8889億円に膨らんだ。高齢化による医療や介護費用が増えて前年度から6154億円増となった。国債の元利払いに充てる国債費は25兆2503億円で9111億円上振れした。地方自治体に配る地方交付税に一般会計から出す額は5166億円増えて16兆3992億円となった。新型コロナウイルス対策の予備費も計上した。コロナ・物価高対策で4兆円を盛り込んだ。ウクライナ危機対策として1兆円を充てた。税収は69兆4400億円で過去最高となる見通し。歳出が拡大するのに伴い35兆6230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めする。歳入総額に占める借金の割合は31.1%と高い水準が続く。00年代半ばまでは2割台だった。リーマン危機後の09年度に4割近くに拡大し、それ以降は3~4割台と高止まりが続いている。 *1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1026054 (佐賀新聞 2023/4/25) 22年日本GDP、世界3位維持、円安でドイツ肉薄、インド急伸 日本の2022年の国内総生産(GDP)が世界3位を維持したことが、国際通貨基金(IMF)の資料で分かった。ドルベースで比較するため円安で目減りし、4位のドイツが肉薄した。一方、人口が増えている5位のインドは急成長しており、27年には日独を上回り3位となると見込んだ。足元では中国やインドの伸びが目立つ。ただ、1位米国、2位中国については予測した28年までは順位は変わらず「米中逆転」はないとした。22年の世界のGDPは100兆2180億ドル(約1京3千兆円)。日本は4兆2330億ドルで、前年より15%減少。ドイツに1580億ドル差まで迫られた。IMFは、各国中央銀行による急激な利上げの影響で、先進国は当面、成長が抑えられると予測。27年は日本が5兆770億ドル、ドイツが4兆9470億ドルで差が縮まると見込む。円安がさらに進めば、逆転する可能性もある。インドは年度ベース(4月~翌年3月)で試算。先進国の22年の成長率が2・7%だったのに対し、インドの22年度は6・8%に達した。27年度のGDPは5兆1530億ドルと予測した。国連によると、インドの人口は今月末までに中国を抜き世界最多になる見通し。若年層の割合も高く、成長が期待されている。22年に上位10位圏外だったブラジルは、25年以降は8位と予想。一方、22年に8位のロシアは、23年に10位圏外に転落する見込みで、ウクライナ侵攻に対する制裁の影響をうかがわせた。日本は1968年、当時の主要指標だった国民総生産(GNP)で西ドイツ(当時)を抜き、世界2位の経済大国となった。2010年に中国に抜かれ、3位に転落した。 <少子化について> *2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230427&ng=DGKKZO70542780X20C23A4MM8000 (日経新聞 2023.4.27) 人口減で縮む国力 将来推計人口、生産性向上が急務、2070年、3割減8700万人 出生は59年に50万人割れ 国立社会保障・人口問題研究所は26日、長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口(総合2面きょうのことば)」を公表した。2056年に人口が1億人を下回り、59年には日本人の出生数が50万人を割る。人口規模を保てなければ国力は縮みかねない。人口減社会でも経済成長の維持を目指す施策を急ぐ時期にさしかかっている。70年の総人口は現在のおよそ1億2600万人から3割減の8700万人に減る。17年の前回推計と比べ、人口の1億人割れの時期は3年遅くなった。外国人の入国超過数について16~19年の平均値をとって、前回の年7万人から16万人に増えると見積もったためだ。日本人だけの人口でみると1億人を割る時期は48年へと1年早まった。全体の人口減のスピードはわずかに緩むものの、外国人が下支えする構図が鮮明となった。70年には日本の9人に1人が外国人となる。出生率の見通しは少子化の進展を反映し、仮定値の中位のシナリオで前回試算の1.44から1.36に下方修正した。それに基づけば日本人の出生数は59年に49.6万人となる。足元では16年に100万人を、22年には80万人を割った。人口構成も少子高齢化の色が濃くなる。14歳以下の人口割合は50年に10%を割り込む。人数でみれば20年の1500万人からおよそ1040万人に減る。一方で65歳以上人口の比率は20年の28.6%から70年には38.7%に上がる。高齢者の数も70年に3367万人となる。20年比で200万人以上減るものの、現役世代の人口減のスピードの方が速く、社会全体に占める高齢者の比率は高まる。外国人の流入が増えるとしても過度な期待をすべきでない。現役世代の減少傾向は変わらないからだ。15~64歳の生産年齢人口は70年に4535万人と見積もった。7509万人だった20年実績からは4割減にあたる。これから50年間で3000万人規模の働き手が失われることになる。高齢化は社会保障費の急増につながるおそれがある。前回推計を使った政府試算によれば、18年度に121兆円だったものが40年度に190兆円まで膨らむ。日本の経済成長の行方も左右する。マッキンゼー・アンド・カンパニーは20年公表の報告書で、日本が30年に現在の成長率を確保するには、労働生産性を2.5倍にする必要があると指摘した。総人口が1億人を割る見込みの時期まで、まだ30年以上ある。政府が取り組める余地はなお多い。経済成長は一般に労働、資本、生産性の3要素からなる。たとえ投下できる労働力が減っても生産性を高めれば成長につながる。内閣府の22年の試算によると、いまの生産性と資本が続くと仮定した場合、40年の実質国内総生産(GDP)は479兆円。女性の労働力率が男性並みに高まれば、これを519.5兆円まで押し上げられるという。内閣府は60年代も1億人の人口規模を維持できれば、高齢化率もピークアウトして現役世代の割合が増え、人口構成の「若返り」が期待できると分析する。少子化対策は出産や育児への財政支援だけではない。先端技術の開発を人口減対応の観点から進め、人工知能(AI)などをうまく活用すれば労働代替を期待できる。子育てしやすい環境づくりにつながれば出生率も改善する可能性はある。 *2-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230427&ng=DGKKZO70539440W3A420C2EA2000 (日経新聞 2023.4.27) 少子化加速、備え不可欠 2070年どうなる 国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」は2070年に向けて人口減社会へ突き進む日本の姿を映した。少子化の加速は社会のあらゆる仕組みに影響を与える。推計が期待する通りに外国人が増える保証はない。社会保障を巡る現役世代の負担を是正し、働き手を確保して経済成長を保たなければ、社会機能の維持もままならなくなる。政府は60年代に人口1億人を維持する目標を掲げる。達成するには出生率を1.80にまで引き上げる必要がある。前回推計では合計特殊出生率を1.44と仮定したが、6年たった今回は1.36と下方修正した。足元では21年に1.30と、前回推計で出生率を低く見積もった場合の1.25に近い状況で推移する。これまでの推計人口は実態より甘いことが多く、それに基づく少子化対策も後手に回ってきた。これ以上の政策の緩みは許されない。 ●0~14歳、1割以下続く 政府は子育て支援拡充などで出生率の維持・向上を目指すが同時に人口減社会への備えも進めることが不可欠といえる。特に深刻なのは将来の日本を支える0~14歳が人口全体に占める割合の大幅な低下だ。この層は1950年代半ばから70年代前半は2~3割で安定し、高度成長の基盤となった。今回の推計は50年に0~14歳が1割を切り、その後も1割以下で推移するとした。 一方で65歳以上の割合はおよそ4割で高止まりする見通しだ。65歳以上の人数は2020年の3.5人に1人から70年には2.6人に1人になる。社会の担い手が先細れば、医療や介護など現役世代が高齢者を支える現行の社会保障制度も維持が難しくなる。20年度時点で国内総生産(GDP)比の医療費の割合は初めて8%を超えた。75歳以上の後期高齢者の医療費などがかさみ、健康保険料率は高まるばかりだ。年金制度の持続性にも響く。厚生労働省は24年に今回の推計を踏まえ、公的年金が将来どの程度もらえるかを含む「財政検証」を示す。厚労省は高齢化率が前回推計時からほぼ横ばいだったのを踏まえ「推計が年金財政に与える影響は限定的だ」とみる。外国人が予想通り入ってこなければ、新たな財政検証も甘い推計に基づく試算となりかねない。現役世代の割合が下がれば、現役世代の賃金水準に対する年金額の割合(所得代替率)もさらなる低下が懸念される。現役世代の負担がこれ以上増えれば、家計不安などから少子化が一層進むおそれもある。高齢者層でも所得に応じて保険料を引き上げるなど、世代間の給付と負担のバランスの是正を検討する余地はありそうだ。 ●生産年齢人口3000万人減 経済の行く末を占う15~64歳の生産年齢人口の状況も悪化する。今回の推計に基づくと70年に4535万人と、これから50年間で3000万人も減る計算となった。購買力の高い層の減少で内需が低迷すれば成長の阻害要因になる。経済成長を維持するため、政府は高齢者や女性の労働参加率を高めて社会全体の生産性の向上を狙う。22年までの10年間で65歳以上の高齢者の就業率は5ポイント以上、子育て世代の女性の就業率も10ポイントほど上昇した。労働参加の裾野は広がっているものの、1人当たりでみた労働生産性の伸びは鈍い。デジタル化やイノベーションの活性化をさらに進めれば生産性の伸びしろも大きくなる。外国人の受け入れ拡大も選択肢の一つだ。厚労省の試算では医療・福祉分野の人手は40年時点で96万人が不足する。物流や飲食・小売りといったサービス業ではすでに外国人労働者は貴重な戦力だが、アジア各国でも賃金は上がり、日本の賃金水準の相対的な高さは失われてきている。国際的な人材獲得競争で日本は「選ばれない国」になりつつある。 ●外国人、9人に1人に 今回の推計では外国人が日本の人口の下支えになる構図が鮮明になった。70年には9人に1人が外国人となる見通しだ。職場や教育現場で外国人とともに過ごす風景が日常的になる。摩擦を避けるためにも働く外国人の家族も住みやすい社会づくりに向けて外国人政策の拡充が必要となる。移民の受け入れ論議も避けて通れない。大正大の小峰隆夫客員教授は「外国人を安い労働力と捉えるなら持続性がない。日本人との同一賃金など、労働条件を整えて日本で働きたい外国人を増やす必要がある」と指摘する。「日本は生産年齢人口の減少分を女性や高齢者の就業者を増やして補ってきたが、これも限界がくる」とも話す。そのうえで「人口減を所与と考え、人口減でも幸せに暮らせる社会を目指すべきだ」と提起する。世界に先駆けて迎える人口減社会を前に、日本がどのような有効策を示すのかを国際社会は注視している。 *2-2-1:https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/dot/nation/dot-2023041800088?redirect=1 (AERAdot 2023/4/21) 人口減少で何が起きる? 日本は現役世代が減り続け、2040年にGDPマイナス成長 厚生労働省が公表した2022年の出生数は79万9728人(速報値)。80万人を割り込み過去最少を記録した。死亡者も増え、急速に人口が減っている。人口減少は、日本にどんな影響を及ぼすのか。専門家に聞いた。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。 * * * ●「静かな有事」 日本の人口減少は、そう呼ばれてきた。1967年に1億人を超え、2008年には1億2808万人に。だがその後は、急速に減少の坂道を下る。国立社会保障・人口問題研究所の推計では53年に1億人を割り9924万人となり、65年には8808万人まで減る。「人口」という土台が縮小すると、何が起きるのか。第一生命経済研究所主任エコノミストの星野卓也さんは、働き手が減ることによって潜在成長率を押し下げることになると言う。「その結果、実質国内総生産(GDP)成長率は30年代には0%台前半、40年にはマイナス成長に陥ると予測しています。経済が成長しなければ、年金や介護、医療などの社会保障制度は保険料などの負担増が避けられなくなります」。元内閣府審議官で、少子化や人口問題にも取り組んできた前川守さんは「総人口の減少以上に人口構成の変化に問題がある」と指摘する。「特に、成長の原動力となる15〜64歳の現役世代の『生産年齢人口』の減少が大きな問題です」。65歳以上の高齢者人口は増え続け、2015年に3千万人を超え3459万人。42年に3935万人とピークに達し、その後は微減で65年は3381万人。一方、生産年齢人口は、1995年の8726万人をピークに減り続け2015年は7656万人、65年には4529万人。15年と65年を比べた人口構成比は、高齢者人口がプラス11.8%に対し、生産年齢人口はマイナス9.4%だ。経済成長は、資本と労働と生産性によります。生産性は、かつては機械化を進めれば上がりましたが、ITやAIなど第4次産業革命が進展する中、イノベーション(技術革新)を起こすには、教育を受け高度な知的能力を身につけた現役世代の力がより大切になります。その層が減っていくことは、日本の成長力が落ちていくことを意味します」(前川さん) ※AERA 2023年4月24日号より抜粋 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230427&ng=DGKKZO70538500W3A420C2EA1000 (日経新聞社説 2023.4.27) 人口減を前提に社会を作り直そう 日本の人口減少は着実に進み、社会のあちこちに深刻な影響を与える。労働力が急速に減る中で社会機能をどう維持し、増え続ける高齢者を支えていくのか。厳しい未来図を直視して社会全体の変革を急がなければならない。国立社会保障・人口問題研究所が26日公表した将来推計人口によると、外国人を含む日本の総人口は2070年に8700万人になる。20年の1億2615万人から50年間で約3割減ることになる。 ●外国人の見積もり多く 将来推計人口は5年ごとの国勢調査をもとに50年後までの人口を推計する。人口は出生率や平均寿命、外国人を含む出入国の状況によって変動していくが、近年の動向を未来に投影する形で仮定を置き、将来像をはじいた。20年の国勢調査を出発点とする今回の推計では、人口減少のペースが前回推計に比べて緩む結果となった。総人口が1億人を割り込む時期は、前回の53年から56年に3年遅くなった。これは出生率が上がるためではない。大きな要因は日本で暮らす外国人の人口を大きく見積もったことだ。前回調査では外国人の入国超過数を年6.9万人とみていたが、今回は年16.4万人と2倍以上になった。この結果、70年時点の外国人数は939万人と20年時点の3.4倍に増え、総人口の1割を超える推計になっている。もう一つの要因は平均寿命が延びることだ。20年時点の平均寿命は男性81.58歳、女性87.72歳だったが、70年には男性85.89歳、女性91.94歳になる。さらに日本人の出国超過がわずかに減少したという要因も加わり、将来の推計人口が上振れした。今回の推計をもって人口減少のトレンドが改善したと受け止めるのは楽観的すぎるだろう。確かに在留外国人数は22年6月時点で296万人と、15年末時点の223万人から約3割も増えたが、この流れが中長期的に続く保証はまったくないからだ。中国や韓国など人口減や少子化に直面する国が増え、今後は人材獲得競争が一段と激しくなる。日本人と同等に処遇して海外に見劣りしない水準に賃金を引き上げないと日本は選ばれなくなる。足元で必要なのは人口への楽観を排し、急激に進む人手不足への対応に全力を注ぐことだろう。15~64歳の生産年齢人口は20年に7509万人だったが、45年には2割減の5832万人になる。外国人数が横ばいなら減少率は3割に近づく。テクノロジーで省人化を徹底するなど知恵を結集し、社会の機能を維持できる方策を見いださなければならない。日本はさまざまな重要な決断を迫られる大きな変革期にある。外国人を今後どのくらい受け入れるのか、日本社会のなかでどう位置づけるのか。もっと正面から議論しなければならない。人口が急減した地域では道路や鉄道、水道、電線といったインフラの維持が難しくなる。森林の保全も行き届かなくなるだろう。国土が荒廃する懸念もある中で、国民の居住地をどう考えるか。地方自治のあり方を含め、持続可能な対策を打ち出す時期だ。労働力の縮小と並行して高齢化は一段と進み、43年には65歳以上の高齢者数がピークの3953万人に到達する。現役世代への過度な負担を避けながら急増する高齢者にしっかり寄り添うために、効率的な医療や介護の仕組みを追求しなければならない。 ●年金は慎重に検証を 政府は年金制度への影響を慎重に検証してほしい。今回の人口推計では合計特殊出生率の長期想定が1.36と前回推計の1.44から低下し平均寿命も延びた。これらは年金財政を悪化させる要因になる。厚生労働省は増えていく外国人が年金を支えるプラス要因もあるとして「年金制度への影響は限定的」との立場だが、外国人がどうなるかは不確定要素が多い。今回の推計が突き付けるのは今を生きる多くの成人にとって、人口減少がほぼ確定した未来だということだ。出生率が長期的に2.20まで上がる最高位のシナリオでも、人口が反転増加するのは70年よりも後になる。こうした現実に向き合い、縮小する社会で生活や文化、経済活力を守る手立てを早急に考える必要がある。少子化対策の重要性は変わらない。出生数が増えれば人口減のペースは鈍り、活力ある社会を将来の世代に継承しやすくなる。社会変革の時間を稼ぐことにもつながる。固定化した男女の役割分担や硬直的な雇用慣行など、根本原因にメスを入れる対策が急務だ。 *2-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230427&ng=DGKKZO70539520W3A420C2EA2000 (日経新聞 2023.4.27) 「3割減」成り立つ社会に 人口に関する将来推計は「さまざまな未来予測のなかでも最も確度が高い」と評されてきた。しかし今回の結果に限っては、悪い方に外れるリスクも十分認識しておいたほうがよいだろう。日本の総人口が1億人を割り込む時期は2056年となり、前回推計に比べて3年遅くなった。これは外国人の入国超過が長期的に年16.4万人のペースで続く仮定を置いた影響が大きい。前回調査(年6.9万人)の倍以上だ。確かに15年末に223万人だった在留外国人数は22年6月時点で296万人と約3割も増えた。ただ中国や韓国など少子化が深刻な国が増え、今後の人材獲得競争は一段と激しくなる。移民政策に正面から向き合っていない国が外国人が数百万人も増える前提で人口問題に備えるのは危うい。いま日本各地で「人手不足」が悲鳴のように叫ばれているが、1995年から20年までの15~64歳の生産年齢人口の減少率は約14%だった。この先の四半世紀の担い手不足ははるかに強烈だ。45年には5832万人と20年時点から約22%も減る。仮に外国人人口が横ばいだったら減少率は約26%に達する。日本は今から20年程度の期間で、人手が3割程度減っても成り立つ社会をつくらなければならない。43年には65歳以上の高齢者数が3953万人でピークに達する。いまの7割程度の生産人口で高齢者を支えながら、社会や経済を回していく。こんな離れ業が求められるということだ。今までは働き手の頑張りで何とかこなせた面もあった。でも今後は人工知能(AI)の活用などで省人化を徹底しつつ、貴重な労働力は社会機能の維持に不可欠な業務や、経済をけん引する生産性が高い業務に集約する必要がある。新たな担い手も発掘したい。人口減が深刻な地域では地域住民が出し合った資金を元手に介護や子育て支援など地域に欠かせない活動を自ら担う「労働者協同組合」を設立する動きが出ている。高齢者が活躍する領域をもっと広げる。企業が副業を認めて本業以外の従業員の活動を後押しする。「仕事」に関する発想を転換すれば、まだ対策の余地はある。岸田文雄政権の少子化対策で出生数が反転したとしてもその子たちが社会を支えてくれるのは20年くらい先になる。「2040年問題」は今の日本に生きる大人たちが解決しなければならない。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230426&ng=DGKKZO70507660W3A420C2EA2000 (日経新聞 2023.4.26) 少子化財源「税を軸に」、令和臨調、安定確保を提言 保険料負担は資産反映促す 民間有識者による令和国民会議は25日、社会保障制度改革に関する提言を発表した。持続可能な少子化対策の財源について税を軸に安定的に確保するよう求めた。世代間や所得差による負担の不公平感の是正を進め、医療体制を強化するよう提案した。産業構造や働き方が大きく変わるなかで、抜本的な改革を政府に迫った。公表された提言は「公正・持続・効率」の三原則で社会保障制度を再設計すると明記した。政府が6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映することを目指す。提言は少子化対策について「税を軸に安定的な財源を確保する」よう記した。政府・与党内で浮上する社会保険料を引き上げて財源にする議論が先行することに待ったをかける内容だ。政府・与党では増税に否定的な声が強く、岸田文雄首相は消費税率は「10年程度はあげることは考えない」と否定する。与党には国債活用を求める声もある。社会保険料を引き上げて財源に充てると、子育て世帯を含む現役世代の負担が増え、賃上げの実感を得られにくい問題がある。令和臨調の財政・社会保障部会の共同座長を務める平野信行・三菱UFJ銀行特別顧問は記者会見で「保険料と税のベストミックスに知恵を絞るべきだ」と述べた。平野氏は消費税、法人税、所得税に触れ「特性に応じてどう組み合わせるかを議論すべきだ」とも訴えた。他にも経済界から税を含めて検討すべきだとの意見が相次ぐ。経団連の十倉雅和会長は日本経済新聞のインタビューで「消費税も当然議論の対象になってくる」と明言した。保険料負担の大半は現役世代にかかる一方、消費税は幅広い世代が負担する。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は25日「保険という財源ではなく、より安定的で持続可能性の高い財源を議論すべきだ」と語った。連合の芳野友子会長は「税や財政の見直しなども含めて幅広い財源確保策について検討してほしい」と話した。経済界に加え、佐々木毅・元東大学長ら学識者も含む令和臨調が税を含めた検討を求めたことは、政府・与党の財源論議に一定の影響を与える可能性がある。デジタル化や脱炭素が進んで産業構造や働き方は変わっている。令和臨調がこの提言を出した背景には少子高齢化に加え、社会や経済の変化に対応した社会保障制度にしなければ、存続が危ぶまれるとの危機感がある。提言は社会保険料算定の改善も求めた。現行制度は保険料は原則として所得に応じて段階的に増える。保有資産は反映されないため、資産を持たない会社員にとっては不公平感が強いとして、資産を含める制度に変更するよう提起した。減税と現金給付を組み合わせる「給付付き税額控除」の導入も促した。同制度案は消費税率の10%引き上げに合わせた低所得者対策として一時、俎上(そじょう)に載った。税や社会保険料は所得が低い人ほど相対的に負担が重くなるためだが、現状は政府が本格的に議論する機運は乏しい。医療分野ではかかりつけ医の機能を備えた医療者の認定制度の創設を提唱した。かかりつけ医を認定して責任の明確化が必要だとした上で医療者を定期評価し、責任に応じた報酬が設定される仕組みの導入を目指す。厚生労働省の調査ではかかりつけ医を持たない人は国民の約46%に上る。厚労省はかかりつけ医のあり方を社会保障審議会(厚労相の諮問機関)で検討したものの、2022年11月に公的に認める認定制の導入見送りを決めた経緯がある。新型コロナウイルス禍を受けて、緊急時の都道府県や国の指揮命令権の強化についても盛り込んだ。病院の機能と規模を再編し、緊急性の高い分野への手厚い人材配置を進めるべきだと訴えた。労働政策の転換にも触れた。非正規労働者のセーフティーネット未整備などの課題を挙げ、雇用保険の拡大や所得がない期間の補償制度の導入を呼びかけた。リスキリング(学び直し)の支援拡充も打ち出した。 *2-4:https://mainichi.jp/articles/20230426/k00/00m/020/128000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailasa&utm_content=20230427 (毎日新聞 2023/4/26) 人口減でしぼむ労働力&国内需要 企業の持続性にも影響 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は26日、2070年の総人口(外国人を含む)が8700万人に減少するとする将来推計人口を公表した。少子高齢化で働き手を含めた人口減少が続く中、企業はこれまで女性や高齢者の雇用などを拡大。さらにコンビニや製造業などさまざまな現場で外国人労働者の受け入れも進めてきた。ただ、それでも補いきれない将来の働き手不足が「組織の崩壊」(有識者)を招きかねないだけに、企業の間にも危機感が強まっている。こうした中、人工知能(AI)を駆使して「省人化」を図る動きや「社内出生率」の上昇につながる働き方改革などに積極的に取り組む事例も出てきた。 ●1人で運営可能「無人コンビニ」 24時間営業が基本のコンビニ業界では長年、人手不足が叫ばれ、各社は「セルフレジ」の導入や深夜営業の見直しなどを進めてきた。コンビニ大手のファミリーマートでは21年、無人決済システムを手掛ける「TOUCH TO GO(タッチトゥゴー)」と資本業務提携を結び、これまでに「無人コンビニ」を大学や役所などに展開してきた。4月10日に私立大森学園高校(東京都大田区)の校舎内で、コロナ禍を機に閉まった食堂跡地に17店目となる小さな無人コンビニを開いた。利用客が店舗内に入って棚から商品を取り出すと、センサーやカメラがそれを検知。無人のレジの上に商品を置くと支払う金額が示され、現金や電子マネーなどで決済して店外へと出れば買い物が完了する仕組みだ。これまで同校では自動販売機で買えるのがパンぐらいしかなかったが、無人コンビニを導入したことでカップラーメンや弁当、サラダや飲み物など約400種類から選べるようになったという。この店は近所にある加盟店の「支店」扱いで、商品の補充や管理などは加盟店のスタッフが逐次実施する。ファミリーマート担当者は「コンビニ店舗は最低でも2人の従業員が必要だが、無人店舗は1人でも運営が可能。人件費が軽減できる」と利点を語り、「人手の確保を理由に出店がしにくかった省スペースなどへの出店も可能となり、(無人コンビニで)商売のチャンスは広がる」とも話している。 ●「朝型勤務」推奨で効率アップ 一方、働き方改革で結果的に子育ての後押しにつながった好事例もある。日本では男性を中心にして稼ぐ世帯モデルが長らく続き、育児と仕事の両立が難しい状況なども背景に、1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する合計特殊出生率が1・30(21年、厚労省調べ)と6年連続で低下している。これを社内で数値化して「1・97」と大きく上回っているのが総合商社の伊藤忠商事だ。以前は同社も「1」を切る状況だったというが、数字が改善している背景に働き方の改善がある。昼夜を問わず働く印象がある総合商社。同社では元々、全国の合計特殊出生率より低かった。12年の全国の出生率は1・41だったが、12年度の伊藤忠商事の社内出生率は0・6だった。同社では13年度から、働き方改革の一環で、効率的な業務につながることを見込み「朝型勤務制度」を導入した。現在の制度では、午後8~10時の勤務は「原則禁止」。午後10時~翌朝5時の勤務は「禁止」とした。一方で午前5時から8時を「推奨」とした。午前7時50分以前に勤務を開始した場合、深夜勤務と同様の割増賃金(25%)を支給するという。更に、午前6時半~8時の間に出勤した社員には朝食を無料配布して朝型勤務を後押しした。子育て中の社員にとっては、朝型勤務になることで保育園の送迎などの計画が立てやすくなり、子育てと仕事の両立がしやすくなったようだ。同社によると、出産などのライフイベントを迎えた後も自己都合での退職はせずに働き続ける女性社員が増えてきているという。こうした取り組みは夜の残業を減らして効率的に働くという意識改革にもつながり、結果的に出生率の改善にもつながったという。10年度を1とした場合、生み出した利益を従業員数で割った労働生産性は、21年度は5・2倍に伸びた。同社の担当者は「ただ会社に長くいれば評価されるというのではなく、成果で評価されるという意識の変化が起きた」と説明し、「一朝一夕にはいかず、10年やり続けてきたことに意味がある。今後も朝型勤務を定着させていきたい」と話す。 ●国内市場縮小 専門家は警鐘 今回の人口推計でも中長期的な人口減少トレンドは変わらない状態が浮き彫りとなった。人口の減少はこれまでみてきたような労働力の確保が難しいだけでなく、国内市場の需要縮小も意味する。企業は国内市場だけでなく、世界の市場に進出してシェア獲得を目指すが、その戦いは激化している。ビール大手や百貨店大手など、海外に進出したものの、撤退したケースも多く、成功するのはそう簡単ではない。この状況が続けば日本社会や企業はどうなるか。第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストは「(人口減で先行する)地方経済が衰えていったように、日本全体の社会や組織の構造そのものが崩壊してしまう」と警鐘を鳴らす。熊野氏は省力化による生産性向上について、大手コンビニのような投資は簡単でないが「多くの企業でもっと割り切って生産性を高める必要がある」とする。また、必要な少子高齢化対策として「若い世代が早く結婚して子供を産み育てたくなる環境作りが必要だ」と話す。「企業は初任給も上げ、入社から間もない若手にも育児休業の取得などを積極的に促すべきだ。その子育てが一服して30代、40代になればすごく収益を上げる人材になる、という考え方に立って大胆に変えないと社会は変わらない」と訴える。さらに「外国人労働者だけでなく、能力のある人材にきちんとした処遇をしないと、特に若い世代はどんどん海外に出て行ってしまうだろう」と指摘する。既存の働き方を打開しないと、企業の持続性が失われかねない局面にさしかかっている。 *2-5-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR4R52NGR4QUTIL00F.html (朝日新聞 2023年4月24日) 「特定技能2号」大幅拡大へ 外国人労働者、永住に道 政府方針 人手不足の分野で外国人労働者を受け入れる在留資格「特定技能」について政府は24日、在留期間の更新に制限がなく、家族も帯同できる「2号」を現行の2分野から11分野に拡大する方針を自民党に示した。与党内の了承を経て、6月の閣議決定を目指す。 ●技能実習の廃止案、残る両論 「移民国家に警戒」「欠かせぬ労働力」 経済界などの要望を受けた措置で、幅広い分野で外国人の永住に道を開く転換点となるが、自民党の保守派などからは「事実上の移民の受け入れにつながる」といった反発が予想される。 ●人手不足が深刻 2分野→11分野に 特定技能は、深刻な人手不足に対応するために、一定の専門性を持つ即戦力の外国人を受け入れる制度。2019年4月に導入され、1号と2号がある。1号には飲食料品製造、産業機械など製造、農業、介護などの12分野があり、「相当程度の知識または経験」が求められる。在留期間の上限は5年で、家族は帯同できない。1号からのステップアップを想定した2号は「熟練した技能」まで必要で、現場統括ができる知識などが要る。在留期間の更新に制限はなく、家族帯同も可能だが、人手不足が特に深刻な建設と造船・舶用工業の2分野に限られていた。今年2月末現在で、1号は約14万6千人いるが、2号は10人にとどまる。特定技能制度の導入後も人手不足は続く中、各分野を所管する省庁や経済界は「人材の定着」につながる2号の分野拡大を要望していた。政府はこの日の自民党の外国人労働者等特別委員会で、介護を除く11分野に2号を拡大する方針を示した。介護分野は、在留延長が可能な資格「介護」が既に別途あるため、特定技能2号には含めないという。 ●「移民受け入れ」 保守派は反発か 特定技能の導入時に1号の資格を得た外国人は24年春に5年の在留期限を迎える。このため政府は「日本での就労継続が可能かを早く示す必要がある」と説明。6月に分野拡大を閣議決定し、秋に2号の試験を始めたいと理解を求めた。一方、特定技能を導入した際の自民党の部会では、家族での永住につながる2号に「移民の受け入れだ」と慎重論が続出し、認定要件の厳格化を求める決議をした経緯がある。今回の大幅な分野拡大については改めて反発が予想される。外国人労働者をめぐっては、特定技能が正面から受け入れる制度である一方、「技能実習」は途上国への技能移転を名目に「裏口」から受け入れる制度と指摘されてきた。政府は今月、技能実習を廃止し、労働力としての実態に即した新制度を創設すると提案。特定技能にキャリアアップする制度と位置づけている。 *2-5-2:https://digital.asahi.com/articles/ASR4X3JP6R4WUTIL04L.html (朝日新聞 2023年4月28日) 技能実習制度を廃止し、「新制度」創設を 有識者会議が中間報告書 外国人が日本で学んだ技能を母国に持ち帰るという国際貢献を目的とした「技能実習制度」について、政府の有識者会議は28日、廃止した上で、日本での「人材確保」と「人材育成」を目的とする新制度を創設するよう求める中間報告書をまとめた。制度の詳細は今秋にまとめる最終報告書に向けてさらに検討する。会議の終了後、座長の田中明彦・国際協力機構(JICA)理事長は「最終報告書に向け、制度に関わってきた外国人や、日本社会のあり方を良い方向に持っていく道筋をつくることができた」と述べた。中間報告書は、30年続く技能実習制度について、実習生が日本の人手不足を補う労働力になっている実態に即した制度に「抜本的に見直す必要がある」と指摘した。新制度の目的としては、「労働者としての人材確保」を認めつつ、「一定の専門性や技能を有するレベルまで人材育成」するという二つを掲げた。 ●永住の道開く「特定技能2号」の拡大も その上で、育成した人材がキャリアアップする制度として「特定技能制度」を活用する。特定技能は即戦力の外国人労働者を「正面」から受け入れる制度として2019年に導入されており、新制度の職種を特定技能の分野に一致させて接続を良くするという。特定技能をめぐって政府は、在留期間の更新に制限がなく、永住に道を開く特定技能2号の対象分野を大幅に拡大する方針を24日に示したばかり。今回の中間報告書も「外国人と受け入れ企業の双方に向けたインセンティブ(動機づけ)」になるよう、2号拡大の検討を盛り込んだ。技能実習が原則認めてこなかった他企業への転籍については、人材確保をうたう新制度では、「労働者としての権利性を高める」ために制限を「緩和する」と打ち出した。ただ、人材育成にかかるコストや、地方から都市部に人材が流出する懸念を踏まえ、どこまで認めるかは今後検討する。技能実習で受け入れ企業の監督を担ってきた「監理団体」は、存続させた上で許可要件を厳格化し、人権侵害を是正できない団体は排除するという。政府は10日に中間報告書のたたき台を有識者会議に示していた。 ●新制度の評価と課題 「在日ビルマ市民労働組合」会長のミンスイさん(62)のもとには、全国のミャンマー人の技能実習生から毎月50件近くの相談が寄せられる。内容は、給料の未払い、長時間労働、暴行、セクハラなど様々だ。技能実習は転籍が原則認められず、「うつ病になったり自殺したりした人もいた」とミンスイさんは言う。人材確保を認める新制度が転籍を一定認める点は「良い方向だ」と評価。ただ「制度の名前が変わっても、受け入れ企業の中身が変わらなければ働く状況は変わらない」と指摘する。「国際貢献や技能移転といった建前をなくすのは良い」。監理団体を長く運営する理事長はそう話す。実習の実態は単純労働でも受け入れ企業は「実習日誌」などをもっともらしく作成し、実習生らも母国で対象の職種で働いた経験を捏造(ねつぞう)するといった例も多いと指摘。「建前のせいで皆がウソをつかなければならない。日本の恥を世界にさらす制度だった」という。新制度で気になるのは、人材育成の機能を維持し、「人材育成に由来する転籍制限は残す」としている点だ。「誰のための人材育成なのか。転籍を防ぐためにまた建前でごまかすのであれば進歩がない」。ベトナム人実習生の相談を日々受ける神戸大の斉藤善久准教授は、新制度が一定の日本語能力を来日の要件とし、来日後も向上させる仕組みを設ける点は評価する。トラブルの多くは言葉に起因しているからだ。一方でその他は「何も変わっていない。相変わらず外国人労働者を『生かさず、殺さず』の使い捨て政策だ」と厳しい。仮に人材育成の目的を残すなら、「希望すれば確実に転籍できる仕組みを、国の責任で作るべきだ」と注文する。 ●技能実習に代わる新制度案のポイント ・労働力としての実態に即し、国内での「人材確保」と「人材育成」を目的とする ・特定技能制度にキャリアアップする人材を育成。職種も特定技能と一致させる (特定技能2号は分野拡大を検討) ・別の企業への転籍を原則認めない制限を緩和 ・日本側の受け入れ窓口となる監理団体は存続させた上で、要件の厳格化で 優良な団体のみ残す *2-6-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1703556.html (琉球新報社説 2023年5月2日) 入管法改正衆院委可決 制度の根本議論し直せ 外国人の収容・送還のルールを見直す入管難民法改正案が衆院法務委員会で、自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党の賛成で可決された。大型連休明けに衆院通過の見込みだ。制度の基本を変えず、むしろ難民申請者を強制送還して危険に追いやるとして国内外から厳しい批判を浴びている改正案が、なぜ可決されるのか。参院では制度を根本から議論すべきだ。できないなら再び廃案にするしかない。改正案の主眼は、難民申請を2回までに制限して強制送還することで収容期間の長期化を改善することにある。2021年に提出され廃案になった案と骨格は変わらない。裁判などの手続きなしに、期間に上限がなく収容されることも変わらない。「恣意(しい)的拘禁」として拷問禁止条約に抵触すると指摘されてきた。さらに、日本で生まれた子どもや家族がいても在留が許可されないとか、収容を解く「仮放免」になっても就労が認められず生活できないなど、多くの問題が指摘されてきた。強制送還した結果、家族の分断や在留資格のない子どもの救済などの問題も出てくる。21年の改正案には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が「非常に重大な懸念」を示し、日本弁護士連合会(日弁連)も問題点を指摘する意見書を出した。今回も、国連人権理事会の、移住者の人権を担当する特別報告者らが「国際人権法の下、改正案を徹底的に見直す必要がある」とする公開書簡を日本政府に提出した。国会では立憲民主党が、難民認定を審査する第三者機関の設置、国外退去を拒否した外国人の収容に裁判官の許可を必要とするなどの対案をまとめた。過去に共産党などが同趣旨の法案を出している。これに対し与党は、付則に第三者機関設置の「検討」を記す、在留特別許可の要件として「子どもの利益」を条文に明記するなどの譲歩案を提示した。しかし、立民の中で「実現が不透明」「当事者や支援者への裏切りになる」などの反対論が強く、白紙になった。一方で、与党は維新などと修正協議を進め、野党は分断された。結局、難民申請者に聴取する際の配慮義務に関する規定の創設などの微修正で4党が合意した。根本には望ましくない外国人を排除しようとする出入国管理と、保護の理念に立脚する難民認定を、出入国在留管理庁(入管庁)という同一の機関が所管しているという問題がある。現行制度は、在留資格のない外国人を全員収容して強制送還することが原則だ。収容を解くか、在留を特別に許可するかは、入管の裁量に任されている。これが難民認定率の極端な低さにつながっており、収容者の人権侵害の原因にもなっている。参院では、国際人権基準を満たす制度に変えるために根本から議論し直すべきだ。 *2-6-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1031454 (佐賀新聞論説 2023/5/6) 入管法改正 根本的解決にならない 不法滞在などで外国人を強制送還しやすくする入管難民法改正案が衆院法務委員会で可決された。連休明けに衆院を通過する。難民認定を申請中であれば、その回数や理由を問わず一律に送還手続きを停止する現行制度を変更して、3回目の申請以降は「難民認定すべき相当の理由」が認められない限り、いつでも送還できるようにする。ほかに送還に必要な旅券の申請を命じられても拒んだり、送還の航空機内で暴れたりした場合の刑事罰を新設するなど、送還を徹底するのが柱だ。「難民としての保護を求める人が、迫害の恐れがある本国に送還されてしまう危険がある」と当事者や支援団体などは反発を強めている。与党との修正協議で立憲民主党は、出入国在留管理庁から独立して難民認定を担う第三者機関の設置を要求したが、合意に至らず、反対。しかし日本維新の会が難民認定を担当する職員の研修などに関する規定を設けるという小幅な修正と引き換えに賛成に回った。国民民主党も賛成。野党の足並みが乱れる中、ほぼ原案通り可決された。これでは外国人の収容で度々指摘されている人権軽視や、他の先進国と比べ桁違いに低い難民認定率など、入管行政が抱える構造的な問題の根本的な解決にならない。国内外の理解を得るのは難しいだろう。保護と支援の観点から、参院で議論を尽くす必要がある。2年前、名古屋の入管施設でスリランカ人女性が亡くなったのをきっかけに外国人の長期収容について内外で人権軽視の批判が噴出。そうした中、今回のものとほとんど変わらない法案が審議されたが、与野党の修正協議は決裂し、廃案となった。以来、何の進展もないのに、政治上の駆け引きで成立に近づいた。入管庁によると、不法滞在などで強制退去処分になっても帰国を拒む外国人は昨年末時点で4233人。うち200人前後が日本で生まれ育った子どもという。送還の徹底を図る理由として、難民認定申請中は送還を停止する制度が乱用されていると強調している。支援団体などは、難民認定が厳しすぎるため申請を繰り返さざるを得ないと訴える。国連人権理事会の特別報告者は4月、申請回数の制限など法案の内容を点検した上で「国際人権基準を下回る」と指摘。「国際人権法の下で徹底的に見直すことを求める」との書簡を日本政府に送った。立民は「外国人を排除する出入国管理と、保護の理念に立つ難民認定は同じ機関が所管すべきではない」と、第三者機関の設置を主張。先の修正協議で与党は、第三者機関設置の検討を付則に盛り込む▽在留資格のない外国人の子どもに在留特別許可を付与する際の判断要素として「児童の利益」を条文に明記する―の修正案を示した。決裂したため、いずれも白紙に戻ったが、国際基準に見合う制度構築には重要な要素だろう。さらに入管施設への収容に司法審査など第三者のチェックを導入したり、収容期間に上限を設けたりする必要性もかねて指摘され、課題は山積している。昨年1月、入管庁職員向けに「公正な目と改善の意識を持つ」「人権と尊厳を尊重する」などとする「使命と心得」が策定された。それをしっかりと踏まえ、制度の抜本的な改正に取り組むべきだ。 *2-6-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/248505 (東京新聞 2023年5月7日) 入管難民法改正、杉並で3500人反対デモ 「罪のない人に手錠をかけ、先の見えない人生に追いやる 政府が今国会での成立を目指す入管難民法改正案の廃案を訴えるデモが7日、東京都杉並区であった。「杉並から差別をなくす会」など、外国人支援や反差別運動に取り組む約100団体が賛同した実行委員会が呼びかけ、3500人(主催者発表)が集まった。どしゃ降りの雨の中、参加者は「入管は人権守れ!」などと書いたプラカードを手に、高円寺から阿佐谷までを練り歩いた。入管難民法改正案は、難民認定申請中でも国内の外国人を強制送還できる内容などが問題視されている。与党は9日の衆院本会議で採決し、衆院通過を図る構えだ。高円寺中央公園で開かれた集会では、名古屋出入国在留管理局に収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=遺族弁護団の指宿昭一弁護士が「改悪はいまからでも止められる。諦めず廃案まで闘おう」とあいさつ。3回目の難民申請を却下されたミャンマー出身で少数民族ロヒンギャのミョーチョーチョーさんは「2006年8月に命や家族が危ないと日本に逃げてきた。入管は罪のない人に手錠をかけ、先の見えない人生に追いやる。法案は、市民の声で止めないといけない」と声を上げた。ウィシュマさんの妹ポールニマさん(28)も「姉の死の真相究明をせず、法案を成立させようとしている。絶対に納得がいかない」と訴えた。 *2-6-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/246941 (東京新聞 2023年4月29日) 入管法改正法案「命と権利」ないがしろ…衆院委で可決 「鎖国」状態のまま、子どもの救済策なし 外国人の収容・送還のルールを見直す入管難民法改正案が28日、衆院法務委員会で、自民、公明、日本維新の会、国民民主の与野党4党の賛成で可決された。立憲民主、共産両党は採決に反対した。与党は大型連休明けの5月上旬に衆院を通過させる考え。改正案は、不法滞在などで強制退去を命じられても本国送還を拒む人の長期収容の解消が狙い。2021年の通常国会にも提出されたが、廃案となった。3回目の難民申請以降は「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ送還する。 ◆法案通過は「死刑執行ボタンを押すこと」 「法案をこのまま通すのは無辜むこの人に死刑執行ボタンを押すこと」。入管難民法改正案を可決した衆院法務委員会の参考人質疑では専門家から、こんな警告もあったが、ほぼ原案通りの決定となった。支援団体からは「人々の命と権利が守れない」との声が上がっている。改正案の柱は難民認定の申請回数について3回目以降は申請中でも強制送還できるルールの導入。現行法では申請中は送還できないが、出入国在留管理庁(入管庁)は上限設定で送還を促進する考え。迫害の事実がないのに申請を繰り返す乱用を防ぐという。だが、申請を繰り返さざるをえないのは日本の難民認定基準が厳しすぎる要因も大きい。難民条約の批准国である日本は迫害から逃れた人を受け入れる義務を負うが、難民認定率は2021年で0.7%にすぎない。25%のドイツや32%の米国など先進国で極端に少なく「難民鎖国」状態が続く。認定が厳しいまま送還を促進すれば本来保護すべき人の命を危険にさらすことになる。 ◆過酷な条件で暮らす子どもたちは 難民申請者の子どもなど日本で生まれ育ちながら在留資格がない子どもたちの救済策もない。保険証がなく、就職の権利もない過酷な条件で暮らす。与野党協議で自民党は立憲民主党に、法案に賛成すれば子どもたちに在留資格を与えると迫った。協議は決裂したが、子どもの在留資格と引き換えに法案への同意を求めるのは人権を軽視する行為。政府は法案とは別に子どもの権利条約に従い救済策を早急に講じるべきだ。スリランカ女性が死亡した施設収容のあり方に関しても有効な改善策はない。政府が2021年、同様の法案を出した際は市民の反対の広がりで撤回に追い込まれた。今回も国会前などのデモ参加者は増えてきた。外国人問題に詳しい指宿昭一弁護士は「入管庁任せでは命も人権も守れないことがはっきりしてきた。状況を変えるのは市民の声しかない」と語る。「不法だから」と追い出すのか、共生社会への契機にするのか。日本社会のあり方にかかわる法案は大きなヤマ場を迎えた。 <教育・保育について> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR4L4S8VR4BULLI00L.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2023年4月26日) 保育の質、なぜ日本は遅れた? 有識者会議の会長も驚いた政策転換 保育の現場で、様々な問題が表面化しています。過去10年間で大きく動いた保育をめぐる政策決定の現場では、何が起きていたのでしょうか。国の有識者会議で長らく会長を務めた無藤隆・白梅学園大学名誉教授に、内実を語ってもらいました。「異次元」とうたう少子化対策を掲げた国が、今すべきこととは。国の保育政策を提言する会議で会長を務めてきた経験からすると、待機児童問題が深刻だった2010年代は、国も自治体も、保育の「質」より「量」の問題の解決を最優先してきたと思います。特に16年に「保育園落ちた日本死ね」のブログ投稿が国会で取り上げられ世論が動いてからは、園を増やすことに予算を大きく振り向けてきました。その結果、ビルの一室や高架下にあったり園庭がなかったりする認可保育園や、定員を1~2割超えた預かりが認められ、子どもの育つ環境としてどうかという声はあります。当時は首相や大臣、世論の要望としてスピーディーな増設が求められ、最小限の「質」を確保できるよう懸命に工夫してきたつもりです。全て経過的な措置と認識しています。この間、小規模保育園や企業主導型保育所など、様々な形態の園に公金をつけ、増やして、一定の質を持った預け先を確保するための体制を整えました。とはいえ、質が十分な園ばかりではなかったかもしれません。質を客観的に評価し、問題があれば改善する仕組みを作るべきでしたが、巨額なお金がかかり、評価者を養成するのにも時間がかかるため、間に合いませんでした。ただ、保育士の待遇改善や研修の拡充はしており、保育の質を無視していたわけではありませんでした。日本は欧米諸国と比べ、保育士1人あたりが見る幼児の数が多いことは事実です。12年に自民・公明・民主の3党で合意した「社会保障と税の一体改革」で、こうした配置基準の改善など保育の質について3千億円超を確保することが努力義務とされました。しかし、いまだに実現されていません。 ●幼保無償化の予算が壁に? その大きな理由は、幼保無償化ではないかと思います。17年、解散総選挙に踏み切る際に安倍晋三元首相が、消費増税分を使って行うと突然打ち出しました。私たち保育関係者ばかりでなく国の担当者にも驚きであったでしょう。結果、年約8千億円を割くことになり、保育にさらに予算をつける要望をする際の障壁となったことは否めません。今政府が打ち出している児童手当の所得制限撤廃にも通じますが、保護者の子育て費用に配分するだけでなく、直接子どもの保育環境に還元される予算が必要です。無償化予算の半分でも保育の質に割かれていたら、今の保育園の風景がだいぶ違ったのではと考えることがあります。 ●配置基準 実行されるか注視 今では、待機児童はある程度減りました。昨年相次いで発覚した不適切保育を受け、保育の質に対する世論も高まっています。岸田政権が「異次元」と掲げた少子化対策の試案では、配置基準を改善し、保育士1人あたりがみる1歳児を6人から5人に、4~5歳児を30人から25人にする政策が盛り込まれました。まだ十分とは言えませんが、この機会を逃すわけにはいきません。言葉通りに実現されるか注視し、園の第三者評価を充実させることで質を担保する仕組みも必要です。少子化で定員割れと統廃合が相次ぐ地方では、課題は配置基準の先にあるでしょう。全国一律の対策にこだわらずに、保育の質を上げるための様々な補助金を充実させるべく、国は知恵を絞るべきです。 *無藤隆さんプロフィール 1946年生まれ。白梅学園大学名誉教授。内閣府の子ども・子育て会議で2013~19年に会長を務め、保育政策作りに関わった。 *3-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/234419 (東京新聞 2023年3月4日) 「まるで鳥小屋」学童保育 定員超えの詰め込みが横行 こんな事態はなぜ起きる? 子どもの小学校入学を控えた今、働く親たちを悩ませているのが放課後の預け先だ。多くが利用する放課後児童クラブ(学童保育)では、定員を超えて子どもを受け入れる「詰め込み学童」が横行している。本紙「ニュースあなた発」にも、「子どもたちが劣悪な環境にさらされている」との訴えが寄せられた。待機児童対策の裏で起きている子育ての現実を見つめた。 ◆待機児童はゼロ…でも施設は飽和状態 「雨で校庭が使えなくなると1教室に120人が詰め込まれる」「子どもに熱が出ても寝かせられる場所がない」。本紙に情報を寄せた掃部関かもんぜき和美さん(64)は、支援員として働く千葉県松戸市の学童保育の実態を打ち明けた。松戸市では現在、約4600人の子どもが学童を利用し、待機児童はゼロ。年々増える希望者を全て受け入れ、多くの施設が飽和状態だ。市子育て支援課の担当者は「学校に協力を仰いだり、民間の空き物件を探したりしているが、対応が追いつかない」とこぼす。学童保育も、保育園のように国が運営基準を定めている。定員は1クラス「おおむね40人以下」。ただ、参考扱いで義務ではない。市の担当者は「基準はクリアすべきだが、働く親たちのために受け入れたい。かといって、すぐに施設を増やせるわけでもなく…」とジレンマを抱える。全国学童保育連絡協議会(全国連協)の2022年度調査によると、「40人」の基準を超えて受け入れた「詰め込み学童」数は全国で約1万2000クラス、全体の36.3%を占める。 ◆けがや事故が増え、ささいなことでけんかに 表向きは待機児童が解消していても、受け皿が足りていない状況では子どもたちが詰め込まれるだけだ。全国連協・事務局次長の佐藤愛子さんは「詰め込みは、けがや事故が増えたり、ささいなことでけんかになったりして子どもへの負担は大きい」と指摘する。学童施設を見学したことのある川崎市の母親(43)は「子どもが両手を広げられないほどギュウギュウで、まるで鳥小屋だった」と振り返る。小2の長男を学童に預ける東京都練馬区の母親(51)は「事故が起きないか不安だが、働くために預けざるを得ない」と語る。岸田政権が打ち出す「異次元の少子化対策」では、学童を含めた保育サービスの拡充も挙がる。共働きで子どもを学童に預けている大田区の佐々木真平さん(43)は、「子どもを安心して預けられる場所があってこそ、子どもを産み育てようと思う。子育て環境の整備なしに少子化対策は進まない」と話す。 ◆子どもが減っても利用数は右肩上がり 学童保育は、学校の空き教室や児童館などを使い、自治体や保育系企業などが運営し、保護者自らが開いているところもある。共働き家庭の増加で、学童保育の利用数は右肩上がりで増えている。厚生労働省によると、2022年5月1日時点で、139万2158人に上る。待機児童は1万5180人で、過去8年間で一度も、1万人を割っていない。施設不足とともに壁となっているのが、子どもの相手をする支援員集めだ。全国連協の調べでは、週20時間以上勤務する支援員のうち、6割が年収200万円未満。人材確保には、保育士と同様、支援員の処遇改善が課題となっている。厚労省は待機児童を解消するため、19年度からの5年間で学童の受け皿を30万人分増やす計画を進めているが、昨年5月時点で達成率は5割ほどという。全国連協の佐藤愛子事務局次長は「社会の関心は待機児童解消に集まりがちだが、そのために詰め込みになっては本末転倒。支援員の処遇改善も重要だ。適正な人数で子どもたちが安心して通える受け皿を整備してほしい」と訴える。 *3-3:https://www.kyoiku-press.com/post-253820/ (日本教育新聞 2023年1月23日) 未来思考で変わる学校と教育環境 学校施設の老朽化がピークを迎える中、子どもたちの多様なニーズに応じた教育環境の向上と老朽化対策の一体的整備が必要になっている。ここでは、未来思考で変わる学校施設をテーマに、新しい時代にふさわしい学校づくりのあり方や、教育環境を向上させる最新の施設設備・機器を紹介する。 ●新しい価値創造とウェルビーイングな視点をもった学校づくりへ ○望む未来に向けて学校を変えていく 新学習指導要領が目指す個別最適化された学びと協働的な学びに対応した多様な学習空間や、クリーンで高度な教育環境を推進するため、文科省は来年度の概算要求で公立学校施設整備に2104億円、国立大学・高専等施設整備に1000億円、私立学校施設等整備に329億円を計上。また、自治体の負担を縮減する補助率の引き上げや建築費の単価アップなどにも着手している。併せて、国土強靭化に向けた屋内運動場等の防災機能の強化や、コロナ禍の学びの保障に向けた衛生関連機器の導入も加速化していく必要があるなど、これからの学校施設・設備にはより一層の変化が求められている。もちろん、その前提には公立学校施設では建築後25年以上の建物が約8割を占めるなど老朽化がピークを迎えており、そのための長寿命化改修が必須になっている。その上で、文科省が学校施設のビジョンとして「未来思考で実空間の価値を捉え直し、学校施設全体を学びの場として創造する」ことを提唱する理由は、これからの予測が困難で変化の激しい時代には、私たち自身で望む未来を示し、作り上げていくことが求められているからだ。すなわち、今後、学校施設を造り替えていく上では新たな価値を創造していく力や、一人一人や社会全体の幸せを考えたウェルビーイングの思想が欠かせないことを指している。 ○学びのスタイルの変容に対応する このような学校施設の長寿命化改修では、建て替え同等の教育環境を確保することと同時に、ICT活用等による個人及び協働的な学びを展開できる空間や、教室との連続性・一体性を確保し多様な学習活動に柔軟に対応できる空間など、学びのスタイルの変容に対応するワークスペースを整備することが推奨されている。また、そのためには廊下や階段、体育館、校庭など、あらゆる空間を学びの場として捉え直す、柔軟な視点を持つことも大切になる。それは、これからの社会に通じる人材を育成するためには、従来までの知識詰め込みに偏重した子どもたちから見て受け身の一斉型授業から、児童生徒自ら自律的・主体的に学び、対話を重ねながら課題を解決していく授業への転換が求められているからにほかならない。したがって学校設置者においては、どのような学びを実現したいか、そのためにどんな学び舎を創るか、それをどう生かすかといった新しい時代の学び舎づくりのビジョン・目標を共有した上で、改修計画を立てることが重要といえる。そして、こうした新たな価値を創造していく力を持つことが、学校施設の魅力化・特色化につながっていくことになるのだ。現状、アクティブ・ラーニング型授業に対応できる多目的教室の整備率は3割にとどまっており、GIGA端末整備によって使われなくなったコンピューター教室をどうするかといった問題も浮上している。その中で新しい教育環境の姿としては、教室と連続する空間も活用し、高機能のコンピューター室を専門的で高度な学びを誘発する「デザインラボ」として造り変える、映像編集やオンライン会議のためスタジオや情報交換、休息ができるラウンジを設ける、老朽化した公民館、図書館を学校に複合化・共有化する、地域住民との交流・学習の場ともなる「共創空間」を整備するといった動きも起きている。これらや余裕教室の活用を含め、各学校に新しい時代の学びに対応した多様な教育環境をどのように整備していくのか、今後の学校設置者の手腕が問われている。 ○インクルーシブな教育環境を~バリアフリー化の推進~ もう一つ、学校施設の長寿命化改修で重要になるのが、インクルーシブな教育環境の実現だ。近年では障害の有無や性別、国籍の違い等にかかわらず、共に育つことを基本理念として、物理的・心理的なバリアフリー化を進め、インクルーシブな社会環境を整備していくことが求められており、学校においても障害等の有無にかかわらず、誰もが支障なく学校生活を送ることができるよう環境を整備していく必要があるからだ。特に公立小中学校等施設のバリアフリー化については、すでに2020年5月の法改正によって努力義務化されている。このため文科省では、2025年度末までの整備目標を設定して取り組みの加速を要請。バリアフリー化のための改修事業について国庫補助率を引き上げ、「学校施設のバリアフリー化の加速に向けた取組事例集」を取りまとめるなどして早期の整備を促している。さらに、年末に公表したバリアフリー化の調査結果をもとに、再度、全国の学校設置者に向けて加速化の要請を発出した。学校施設のバリアフリー化としては、全ての学校に車椅子使用者用トイレとスロープ等による段差解消を整備すること。加えて、要配慮児童生徒等が在籍する全ての学校にエレベーターを整備することが目標になっている。だが、学校施設のバリアフリー化に関する計画がある地方自治体は増加傾向にあるものの全体の25%にとどまっており、十分な取り組みができているとは言い難い。中でも、公立小中学校等の9割以上が避難所に指定されている中で、屋内運動場の車椅子使用者用トイレの設置率が約4割、スロープ等による段差解消も、⾨から建物の前までが8割弱、昇降⼝・⽞関から教室までが6割程度など整備目標に届いていない状況となっている。近年では地震時だけでなく、気象変動に伴う豪雨などにより避難所を開設する機会が増えており、高齢者や乳幼児、医療ケアが必要な人などを受け入れる上での環境整備の遅れが表面化している。また、地域に開かれた学校づくりや地域住民の生涯学習の場として多様な年齢層が学校に参加する機会を増やすためにも、バリアフリー化の推進は重要なファクターとなる。 ○特別支援教室が不足している また、特別支援学級に在籍する児童生徒数が10年間で約2倍に増加する中で、全国で4千近い教室が不足していることも大きな課題になっている。この点についても文科省では、各設置者に対し、国の財政支援制度を積極的に活用するなどして、2024年度までに教室不足の解消に向けた取り組みを集中的に行うよう要請している。具体的には、新設校の設置、校舎の増築、分校・分教室による対応、廃校・余裕教室等の既存施設の活用が挙げられる。しかも、教室不足という点では、普通教室でも小学校35人学級化に伴って新たな教室の整備や空き教室の活用が必要になっているほか、不登校の児童生徒が25万人に達する中で、通学しやすい教室や相談場所となるスペースの確保の重要性も増している。加えて、国際化で急増している日本語指導が必要な児童生徒(外国籍を含む)に向けた学習空間づくりも、今後急ピッチで進めていかなければならない。なぜなら2021年5月時点の調査によれば、その数は全国で6万人に迫っており、前回調査から14・1%も増加しているからだ。 ○新築・建替時の木材利用の促進も 小中一貫校・義務教育学校の新設や少子化による統廃合における建て替えが進む中では、自然との調和や豊かな生活・学習環境に寄与する木造校舎を採用する自治体が増えている。新築校舎全体としても、2020年度に建てられた学校施設805棟のうち、595棟(73・9%)が木材を使用。その内訳は、木造校舎が154棟、内装木質化が441校。木造校舎の学校別では、幼稚園が6園、小中学校が102校、義務教育学校が8校、高等学校が27校、特別支援学校が11校となっている。また、体育館や武道場でも木材利用が進んでおり、今回の調査では新しく建てられた施設の大半が木造、または内装木質化が施されている。その上で特徴的なのは、全体の木材使用量の7割以上が国産材を使用していることだ。これにより脱炭素化への効果に加え、地元の間伐材等の利用につながることで地域経済の活性化・地場産業の振興に貢献できることも大きな魅力になっている。木材の良さは、地震に耐える強度がありながらも軽量で、断熱性にも優れていること。そして、何より木のもつ温かみや心地よさが子どものストレスを緩和し、授業の集中力を増す効果があることが挙げられる。また、湿度を自然に調節する木材は健康面にも効果があり、木造校舎はRC造校舎に比べてインフルエンザによる学級閉鎖の割合が3分の1という調査結果もある。もう一つ、木材利用の促進には施工技術の進化も大きな要素となっている。近年では集成材と製材の最適な組み合わせによる費用対効果の高い施工も可能になっており、その中では建築基準法改正により規制緩和された木造3階建て校舎も生まれている。木材ならではの温かみやデザインを活かした造形により、子どもたちが生き生きと過ごし、学び、成長していける、新しい時代の学び舎として注目を集めている。ただし、学校施設の木造施設数はいまだ全体の1割にも達していないため、文科省は今年度より学校施設の内装木質化を標準化するとともに、地域材を活用して木造施設を整備する場合は補助単価を5%加算するなどして木材利用の促進を図っている。 ○学校家具も変化する必要がある さらに、教育環境では施設だけでなく、学校家具もそれに合わせて変化していく必要がある。例えば、これまで一般的に使われてきた教室机ではGIGAスクール構想で導入されたタブレットを活用するには手狭になることから、寸法の大きい新JIS規格の机に切り替えることが推奨されている。ただし、教室机をすぐに買い替えるのは財政的に難しいため、机の奥行を簡易的に拡張できるアタッチメントや落下防止ガードを設置し、対応する学校も多くなっている。また、多目的スペースなどを使って個人やグループで自由な学習を展開するためには、学習形態に合わせて容易にレイアウト変更が可能なテーブルやパーテーション、収納性に優れた椅子やさまざまな姿勢にフィットして学習をサポートする机・椅子、リラックスできる木製の机・椅子などを用意することも重要だ。私立高校や大学では個別の学習スペースを設けるところも現れている。すなわち、新たに多目的教室などを設計する場合は、単にハード面の整備にとどめず、壁や間仕切りも含めて多様な学習活動を生み出す要素として計画する、学校用家具の設置や活用まで視野に入れて検討していく必要がある。 ○防災機能の強化も進めていく 一方、激甚化する風水害や切迫する大規模地震への備えとしては、政府が国策として進める「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策(事業規模15兆円)」のもと、より早期に防災機能の強化を図ることが求められている。その一つが、過去の大規模地震で多くの被害を出した屋内運動場等の吊り天井や、窓ガラス、照明、内外壁材といった非構造部材の耐震化だ。構造体の耐震化は平成期に実施された対策でおおむね完了しているが、私立学校を中心に対策が未整備の建物が多く残っている。したがって、これを2025年度には70%、2028年度までには100%にすることを目標に掲げている。次に、避難者の生活拠点となる体育館では寒暖期に対応した空調設備が欠かせないが、昨年9月時点の文科省調査では整備率が15・3%と遅れが目立っている。2年前の調査では9%だったことを考えると伸びてはいるが、文科省では、これも2025年度までに35%まで押し上げる意向だ。また、教室棟では熱中症対策として普通教室の空調整備はほぼ完了したが、特別教室は6割程度にとどまっている。加えて、こうした空調を災害が発生した際にも使用するためには非常用の電気を供給するための備えが必要になるが、自立型発電機・蓄電池の整備も十分とはいえない。したがって、LPガスの備蓄による災害用バルクとしての利用や、地域の電力・ガス会社と連携した供給体制の確保とも併せて、二重三重の対策を練ることが重要になっている。また、災害時のライフラインとなるマンホールトイレを始めとした断水時のトイレや公衆Wi―Fiなどの災害時利用通信の整備。浸水対策としては電源設備の高台化や止水版の設置といったインフラの整備を一刻も早く進めていかなければならない。 <生物学・生態学から見た世界人口と必要な政策> PS(2023年5月14日追加): *4-1は、人口問題に詳しい平野氏の話として、①先進国の出生率低下には都市化と女性の社会進出という背景があり ②女性もキャリア選択が可能になって初婚年齢が上昇し、婚姻率が低下したが ③先進国の人口は主に移民の数で変動しており ④東アジアは移民受入が一般的でないため人口減が加速している ⑤アフリカの人口増加は農地の拡大に子供の労働力を要するからで ⑥アフリカ中西部は一夫多妻制と女性の若年婚が一般的であり ⑦女性が食糧生産の主体を担って子供は労働力で ⑧1980年代からアフリカの農地は一貫して拡大して出生率は下がらず ⑨2080年代は人類の1/2がアフリカ人になるだろう ⑩アフリカの最大の課題は食糧確保で、必要な食糧を輸入できる貿易の安定化が解決策であり ⑪人口は1950年約25億人、2022年約80億人、2086年に約104億人になって微減が始まる 等としている。 このうち①②は、密度が高くなれば増加率が減るのは生物の法則で、田植えを密にしすぎると一株の稲は成長が悪く実りも少ない。また、生存可能な数が餌となる草食動物の数に支配されるライオン等の肉食動物は、縄張り争いが激しい。人間も、都市に集中しすぎて1人当たりの専有面積が狭くなったり、生活にゆとりがなくなったりすれば、出生率が下がるのは生物の法則であり、文化的に女性の社会進出やキャリア選択の自由が重なったのはむしろ付加的なことだろう。なお、⑤⑥⑦⑧のように、アフリカ中西部はまだ一夫多妻制が一般的だそうだが、女性が食糧生産の主体を担って子供が労働力ということは、主に人手を使って労働しており、生産性が低く、(男性は縄張り争いをしているのか)紛争も絶えない。⑨については、100億人もの人口を地球全体で養えるか否かが重要な問題なのであり、輸出するものがなければ不足して高くなる食糧やエネルギーを輸入することもできない。さらに、100億人もの人口を地球が養えなければ、どこかの時点で悲惨な戦争(縄張り争いや殺し合い)が起こる。そのため、先進国は食料・エネルギーの徹底した自給率向上と③④のような移民の受け入れが必要なのであり、アフリカは人口の抑制・生産性の向上・そのための教育等が必要なのだ。 一方、*4-2は、⑫日本の外国人労働の在り方を検討する政府有識者会議が外国人技能実習制度の廃止を求める中間報告書のたたき台を示した ⑬日本は少子化が進む国でありながら、労働力不足対策としての外国人材獲得競争でも先進各国に後れを取っている ⑭高齢者の就業率アップ・女性の社会進出促進・AI等の先端技術活用で人手不足が緩和される可能性も期待できるが ⑮移民受入や難民認定制度との整合性を図るのが急務で ⑯ウクライナ出身の女性は「ウクライナは農業国。農業を通じて日本の地域づくりにも貢献できるのではないか」と語る ⑰「第2の開国」の言葉を使って多文化共生の一層の飛躍を促したい と記載している。 私は、⑫⑬⑭⑮に全く賛成で、⑯について具体例を加えれば、農林漁業の人口が減少しており、緯度の高い東北・北海道には特にウクライナからの避難民が役立つと思われ、九州・沖縄等の亜熱帯気候に近い地域はミャンマー・バングラデシュ等のアジアやアフリカ等からの移民・難民が役立ちそうだ。また、インドの人は英語・数学ができるため、先端技術の開発や活用もできそうだ。そのようなわけで、地球に貢献しながら少子高齢化を乗り切る方法となるため、(遅すぎたくらいだが)今は⑰の「第2の開国」をすべき時なのである。 ![]() ![]() ![]() いずれもSustainableBrandsより (図の説明:左図のように、世界人口は2050年には97億人になり、アフリカの増加が著しく、インドも増加し続ける。その理由は、右図のように、アフリカがまだ多産多死社会であり、これは食糧・医療の提供体制やそれに伴う意識の変化によって「多産多死→多産少死→少産少死→少産多死」という人口サイクルが先進国や高所得国から先に進むことが理由だ。そして、中央の図のように、政府の政策や経済発展に伴い、次第に「富士山型《ピラミッド型》→釣鐘型→壺型」に進んで人口が減少し始め、最後は平衡状態になると思われる) *4-1:https://mainichi.jp/articles/20230507/k00/00m/030/106000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailyu&utm_content=20230508 (毎日新聞 2023/5/8) 世界人口考:2080年代「人類の半分はアフリカ人」 研究者が予測、課題は 2022年に80億人を超えた人類に今後、どのような課題が待ち受けているのか。人口減少が続く日本の未来の姿は。人口問題に詳しい日本貿易振興機構上席主任調査研究員の平野克己氏に聞いた。先進国で出生率が低下している背景には、都市化や女性の社会進出が進んだことがある。女性が自らキャリアを選択できるようになって初婚年齢が上がり、婚姻率も下がった。出生率低下は、若者が将来への期待を持てなくなった結果でもある。現在、先進国の人口は主に移民の数で変動している。移民の流入は一部で反発を招き、欧州でブレグジット(英国の欧州連合離脱)、米国ではトランプ前大統領が人気を集める現象につながったと言える。一方、日本、中国、韓国など東アジアは、欧米に比べれば移民の受け入れなどが一般的ではないため、人口減少が加速しやすい傾向がある。アフリカで人口増加が続いているのは、農地が拡大して子供の労働力が求められているからだ。アフリカ中西部の国々では一夫多妻制が大衆的にみられ、女性の若年婚が一般的だ。女性が食糧生産の主体を担い、子供は貴重な労働力となっている。1980年代からアフリカの農地は一貫して拡大しており、そのスピードは2000年以降、年率2・5%に達している。そのため出生率は下がらない。私は、アフリカの人口増加率は国連の中位予測ほどには鈍化しないとみている。80年代には人類の2人に1人がアフリカ人になるかもしれない。世界の人口分布は今後、極めていびつな形になっていく。アフリカの最大の課題は食糧の確保だ。穀物の生産性が低いことに加え、水資源に乏しく、農地拡大にはおのずと限界がある。農村分は賄えても都市人口は半分ほどしか養えていない。解決を図るには、必要な食糧輸入を確保できるよう貿易を安定化させるしかない。アフリカ諸国は小麦の輸入をロシアやウクライナに頼っており、ロシアによるウクライナ侵攻でこの問題の重要性が浮き彫りになった。食糧自給率が低く農業の担い手が高齢化している日本にとっても人ごとではない。産業革命当初から食糧の貿易はグローバリゼーションの基幹であり、安定した貿易体制の確保は、人口爆発後の世界には不可欠だ。日本は30年代以降、人口減少がさらに加速し、企業の連鎖倒産が起こる可能性がある。グローバル競争に勝ち残り海外市場で売り上げを伸ばす企業と、国内のニーズに応える企業に二分されていくのではないか。そうなれば所得格差の拡大は避けられず、それに耐えられる社会をつくれるかどうかが鍵だ。経済的には人口減少はマイナスだ。とはいえ歴史的にみて出生率は政策によって容易に操作できるものではない。子を持つかどうかは各個人の選択であり、どのような生き方も尊重されなければならない。移民受け入れの是非も最終的には国民が判断することだ。いずれにせよ、将来的に世界全体で人口減少のステージに入ることは間違いない。人類全体のあり方は今後、変わっていくだろう。 ●世界人口増、鈍化傾向 アフリカは急増 世界の人口は20世紀以降、技術革新や医療の発達などにより、増加の一途をたどってきた。国連によると、1950年に約25億人だった人口は2022年には80億人に到達。86年に104億人でピークに達し、その後は微減が始まると推計されている。22年の世界の人口は①中国(14億2600万人)②インド(14億1200万人)③米国(3億3700万人)④インドネシア(2億7500万人)の順だったが、23年4月にインドが中国を上回り、50年は①インド(16億6800万人)②中国(13億1700万人)③米国(3億7500万人)④ナイジェリア(3億7500万人)の順になると予測されている。しかし、世界全体の人口増加率は鈍化傾向だ。20年には1950年以降で初めて1%を割り込んだ。1人の女性が生涯に産む子どもの数に当たる合計特殊出生率は世界全体で、1950年の4・86から21年には2・32まで下落。22年から50年の間、61の国と地域でそれぞれ人口が1%以上減少すると予想されている。世界全体で65歳以上の高齢者の割合は22年の10%から50年に16%に上昇し、国連は「年金の持続可能性を改善するなど公的制度の見直しをすべきだ」と指摘する。一方、人口増加を支えるのはアフリカだ。22年時点で14億人だが、50年に24億人、2100年には39億人まで増え、世界全体の4割弱に達すると見込まれている。サハラ以南のアフリカ諸国が、50年までの世界人口増加数の半分以上を占めるという。急激な人口増加は、貧困や教育制度の普及を難しくする懸念がある一方で、生産年齢人口の増加に伴う経済成長が期待されている。 *平野克己 1956年生まれ。91年、アジア経済研究所入所。日本貿易振興機構(JETRO)理事を経て2023年4月から現職。著書に『人口革命 アフリカ化する人類』など。 *4-2:https://blog.canpan.info/sasakawa/archive/8694 (産経新聞 2023年4月26日、) 「第2の開国」に向け意識改革を 少子化の進行で将来の労働力不足が懸念される中、日本での外国人労働の在り方を検討する政府の有識者会議が今月初め、平成5年にスタートした外国人技能実習制度の廃止を求める中間報告書のたたき台を示した。 ≪外国人材獲得で各国に後れ≫ 人材育成による国際貢献を掲げた制度の理念と、安価な労働力確保の抜け道となっている現実との「乖離(かいり)が大きすぎる」というのが理由。今秋に予定される最終報告書では、海外からの人材確保に向けた新制度の設立などが打ち出されるもようだ。現在の技能実習制度に関しては、国内外から批判が強く、見直しは当然と理解する。ただし、瞬く間にパンデミック(世界的流行)に発展した新型コロナウイルス感染や燃料・食料を中心に世界のサプライチェーンを大混乱に陥れたロシアのウクライナ侵攻を見るまでもなく、世界の動きはあまりに速く激しい。海に囲まれた海洋国家として発展してきたわが国は、ともすれば急速に進む国際化の流れに後れを取るきらいがある。世界の先端を切って少子化が進む国でありながら、それに伴う労働力不足対策としての外国人材獲得競争でも先進各国に後れを取っている。制度の見直しに当たり、この点に対する国民の幅広い認識の共有が何よりも必要と考える。理解が広がれば新しい制度に対する国民の支持も広がり、国際化に不可欠な「世界あっての日本」の自覚も深まるからだ。技能実習制度開始後の約30年間を振り返ると、経済の担い手である生産年齢人口(15~64歳)は平成7年に総人口の69.5%、8726万人とピークに達した後、減少に転じ、昨年は7421万人、59.4%となった。総人口比で10%超、1300万人が減った計算で、制度にゆがみを生じる一番の原因となった。27年後の令和32年には全人口の54%、5275万人まで減ると予測されている。ただし、高齢者の就業率アップや女性の社会進出促進で労働人口は変化する。今後、人工知能(AI)など先端技術の活用で人手不足が緩和される可能性も十分、期待できる。制度を見直す以上、政府が消極的な姿勢を長く維持してきた移民政策や、昨年、過去最多の202人が認定されたものの欧米各国に比べ格段に少なく、国際社会から批判を浴びる難民認定制度との整合性を図るのも急務だ。ちなみにウクライナから戦争を逃れてきた人たちは難民の定義に合わないため便宜的に「避難民」の名称が使われ、約2000人の避難民に渡航費や生活費などを支援する日本財団にも「なぜウクライナの人ばかりなのか」といった疑問が寄せられている。法律上はともかく、国民目線にはアフガニスタン難民などとの対応の差に違和感があるということだ。新制度では多様な受け皿を用意する必要がある。日本で10年以上生活し、日本財団の支援事業に携わるウクライナ出身の女性は「ウクライナは農業国。農業を通じて日本の地域づくりにも貢献できるのではないか」と語っている。 ≪イノベーションに人材確保も≫ 海外からの人材というと、都会中心の先端技術分野に目が行くが、最近は地方文化に対するインバウンドの関心も高い。地方も視野に入れた多様な受け皿が外国人材の活躍の場を広げ、多彩な人材確保につながる。そのためにも日本語学習や就職支援制度の強化が欠かせない。昨年末、ウクライナ避難民を対象に実施したアンケートに回答を寄せた750人のうち3人に2人が「ウクライナ情勢が落ち着くまで」、あるいは「できるだけ長く」日本に滞在したいと答えた。戦争が終われば、祖国の復興に向けて帰国する人、引き続き日本に残る人に分かれよう。どの場合も日本文化の良き理解者として、両国の友好や日本の社会づくりへの貢献が期待できる。そんな積み重ねが海外からの安定的な人材活用に道を開き、わが国のイノベーションに必要な有為な人材確保にもつながる。日本はペリー率いる黒船の来航を受け、徳川幕府が嘉永7(1854)年に米国と「日米和親条約」を締結し開国に踏み切った。以後、欧米から輸入した先進技術や知識を取り込むことで近代化を果たした。「人より知識」を重視する気風がいまだに色濃く残る。 ≪多文化との一層の共生図る≫ これからは、米国の政治学者サミュエル・ハンチントンが『文明の衝突』で世界8大文明の一つに位置付けた日本文明を大切にしながら、「人も知識も」の精神で国際社会と向き合い、多文化との一層の共生を図る必要がある。開国から170年を経て、わが国は先進7カ国(G7)に名を連ねるまで発展してきた。その中で、あえて「第2の開国」の言葉を使うことで一層の飛躍を促したいと思う。それにふさわしい意識改革、制度整備が実現したとき、この国の新たな形が見えてくる。 <教育・保育等少子化対策財源は、従来の税に決まっていること> PS(2023年5月18、19日追加):*5-1-1は、政府は①少子化克服のため、関連予算の「倍増」を唱え ②財源として公的医療保険・介護保険の保険料への上乗せを軸とする ③財務省を中心に(買い物の度に負担を感じる消費税より給与から天引きされる保険料の方が負担増を感じにくいので)社会保険料に白羽の矢を立てていた ④社会保険料への上乗せでは十分な財源を確保できない ⑤自民党の少子化対策に関する提言を実行すると総額年8兆円 ⑥特に児童手当に多くの予算が見込まれ、所得制限撤廃で千数百億円、高校までの延長で4000億円かかる ⑦第2子以降の手当増額は2兆円規模 ⑧医療保険は高齢者を含む幅広い年齢層が支払い企業も折半で負担するので社会全体で支える理念に合致し、年金暮らしの高齢者の負担は抑えられる ⑨多くの預貯金を持つ高齢者より生活の苦しい現役世代の保険料が高い ⑩病気やケガに備える医療保険を少子化対策に使うのは「流用」である ⑪受益と負担の対応関係も曖昧 と記載している。 このうち、②は、出産・子育てに伴う医療・介護費用に充当するものでない限り、⑨のとおり流用であるため、支払った保険料を流用するような政府に保険料を払いたい人はいない。また、③のように、「国民が負担感を感じさえしなければよい」と考えるのも論外で、①の少子化の克服はそもそも何のために必要なのかよくわからない。仮に「高齢化時代に生産年齢人口が減るから」と言うのであれば、非正規労働者として社会保険料の支払いを回避している人を皆無にし、生産年齢人口を75歳までにして女性や高齢者の労働参加率を上げればよい。また、甘ったれた日本人よりも真面目に働く外国人は多いため、*5-3のように、制限ばかりが多くて使い捨てにするような「特定技能1号」もやめて「特定技能2号」の拡大を12分野に限らず全業種に広げて外国人労働者を増やせばよいのだ。当然、人権侵害をしながら、難民を無理に送還する必要もない。さらに、少子化の理由とそれを“克服”する道筋が明確でないため、⑤⑥⑦はバラマキのようになってしまい、関連予算の「倍増」が“少子化克服”に資するのかどうかも不明になっている。そのため、科学的検証と整理が必要不可欠だ。 しかし、国民は新たな財源を探さなくても従来から税を支払っているため、④⑧のように、少子化対策と言えば財源確保を声高に叫んだり、的外れの社会保険料上乗せを行ったりするのは変である。まして、病気やケガに備えるための医療保険を少子化対策に使うのは、⑩⑪のとおり、流用そのものであり、ほんの一部を除いて受益と負担の関係がない。さらに、「高齢者を含む社会全体で支えるべき」というのも、これまでに所得税を累進課税で支払済であるため、子育て・介護を自らの負担で行ってきた高齢者にとっては3重負担にほかならない。その上、⑨のように、「高齢者が多くの預貯金を持つ」などと言うのは、それを取り崩して生活しなければならない高齢者にとっては必要な金であり、死後に残った財産には常識的な相続税が課されるため不合理はないのである。つまり、全貌を知らない人が思いつきの“公平感”を振り回すと、むしろ不公平・不公正になるのだ。 また、*5-1-2は、⑫全世代型社会保障の一環として、75歳以上の公的医療保険料を引き上げる改正健康保険法などが成立 ⑬高齢化で膨らむ医療費に充てるほか「出産育児一時金」の財源にも回す ⑭高齢者世帯は物価高・公的年金の目減りで既に苦しく、医療負担増は厳しい追い打ち ⑮国民負担率は約50%で高齢者を支える現役世代の負担は限界に近い ⑯所得と資産で比較的余裕のある高齢者に応能負担を求める方向はやむを得まい ⑰年金収入が一定以上の人の保険料を2024年度から段階的に上げ、対象は75歳以上の4割 ⑱年金収入が年200万円なら2025年度に保険料が年3900円増える ⑲子を産んだ人に全国一律で支給する「出産育児一時金」は42万円から50万円に増額され、2024年度から75歳以上の保険料も財源に充てる ⑳政府は2026年度を目途に「出産費用の公的保険適用」の検討を表明し、首相は保険適用で生じる原則3割の窓口負担も実質0にする考えを示す と記載している。 ⑫⑬⑭⑮は事実だが、⑰⑱のように、たった200万円/年(16.7万円/月)の年金収入を一定以上の年金収入として保険料を段階的に上げるなどという発想は、最低生活を保障する生活保護費が単身者で10万円〜13万円/月、夫婦2人世帯なら15万円〜18万円/月で、保険診療は原則無料になることを考えれば、それ自体が高齢者虐待である。そんなことをしてまで、⑲のように、「出産育児一時金」を出したり、⑳のように、「出産費用を公的保険適用にすれば、3割の窓口負担も実質0にする」などという必要は全くないし、こんなことを言うような次世代を増やすために少子化対策をしても無益だ。最後に、⑯も、所得は所得税課税済で、死後の残余財産には相続税が課されるので、応能負担を求めると称してそこまでぶんだくる必要はない。 ![]() ![]() ![]() 2023.4.1西日本新聞 2023.4.1毎日新聞 2023.4.1東京新聞 (図の説明:左図が自民党の少子化対策のたたき台で、中央の図が、自民党幹部の主な発言だ。私は、教育・保育の充実と義務教育の無償化を最優先にすれば、親の当たりはずれなく、どの子もよい環境で必要な教育を受けられるため、義務教育期間の延長・義務教育の無償化・給食の無償化、保育・学童保育の充実《保育士数の増加・預かり中の教育・給食の提供など》、国立大学・大学院の授業料低減等を、どの子に対しても平等に、親に関係なく行うのがよいと考える。しかし、出産費用及び子の医療費の無償化はやりすぎで、保険適用して1~3割負担にすれば十分だ。また、右図のように、「保険の支え手が増えることによって制度維持に貢献するから少子化対策費の財源に年金・医療・介護保険を使う」などとする意見があるが、これは異なる保険財源を流用するための屁理屈にほかならない。支え手を増やしたければ、組織内失業者をなくし、労働法で保護されない非正規労働を禁止し、高齢者・女性・外国人の労働参加率を上げることによって、直接的に増やした方が効果的である。なお、無償の義務教育を提供することは憲法第26条に定められた国の責務であるため、 新たに財源を探すのではなく、*5-2の防衛費より優先的に支出すべきである。そして、我が国はこのほかにも無駄な歳出に事欠かないため、これを削って本当に必要な費用は出すべきなのだ) *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230518&ng=DGKKZO71097660X10C23A5PD0000 (日経新聞 2023.5.18) 少子化克服、力不足の財源、税活用に及び腰、衆院選意識 政府・与党の議論低調 政府は少子化対策の財源確保策として公的医療保険や介護保険の保険料への上乗せを軸とする方針だ。関連予算の「倍増」を唱えながらも、国民の負担に直結する税の議論は政府・与党で乏しい。衆院の早期解散を意識し本格的な検討に及び腰な姿勢が背景にある。政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を6月中旬ごろにとりまとめる。財源を含む少子化対策の大枠を記す。最終決定まで1カ月ほどしか残っていないのに、与党政務調査会の全体会議や各部会で財源に関する表だった議論はない。昨年12月に防衛財源を決定した際も直前になって岸田文雄首相が政府・与党の幹部を呼び増税方針を打ち出した。防衛費を国内総生産(GDP)比で1%から2%に増額する一方、財源論は党内で紛糾し、増税法案は先送りとなったままだ。責任の所在があいまいな実態がある。党は茂木敏充幹事長が「『こども・若者』輝く未来創造本部」の本部長を務め、萩生田光一政調会長が政策全般の責任者を担う。茂木氏は「既存の保険料収入の活用でできる限り確保したい」と料率上げには慎重だ。萩生田氏は防衛財源で増税の先送りなどを目指す立ち位置で、負担増に前向きではない。財源のメドがつかないまま首相が子育て予算の「倍増」を打ち出し、3月末には政府・自民でそれぞれ子育てメニューをまとめた。19日に開幕する主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の直後など、早期に首相が衆院解散に打って出るとの見方がくすぶる。閣僚経験者は「選挙があると思うと、税のような直接的な国民負担の話は打ち出しづらい」と漏らす。買い物のたびに負担を感じる消費税より、給与から天引きされる保険料は負担増を感じにくい。政治的な反発を受けにくいとして財務省を中心に早々に社会保険料の活用に白羽の矢を立てていた経緯があった。負担増の具体策を明確にすると次期衆院選の争点となる可能性がある。政府・与党内では骨太の方針の段階では大枠を示すにとどめ、年末に具体策を得るシナリオも浮かぶ。その間に衆院選を打てれば、争点化を回避しやすくなるためだ。社会保険料への上乗せでは十分な財源を確保できない懸念がある。自民党が3月にまとめた少子化対策の提言では60項目ほどのメニューを挙げた。そのまま実行すると予算総額は年8兆円規模に及ぶとされる。こども家庭庁の予算規模を倍増する場合は年4.8兆円の財源を新たに確保する必要がある。特に多くの予算が見込まれるのは児童手当だ。政府内には所得制限を撤廃すれば千数百億円、支給を高校生まで延長すると4000億円程度かかるとの試算がある。第2子以降の手当の増額には2兆円規模が必要になるとの見通しもある。政府は40年に社会保障給付費が190兆円程度に膨らむと予測する。その場合、保険料負担は現状からおよそ4割増える。現役世代に負担が集中する社会保険料の上昇は可処分所得の伸び悩みの一因となるとの指摘も根強い。産業界で盛り上がりつつある大幅賃上げの効果を打ち消しかねない。首相は10日、日本経済新聞のインタビューで少子化対策や防衛力強化の財源に関して「社会全体で支える」と説明した。医療保険の場合、年金保険料と異なり高齢者を含む幅広い年齢層が支払う。企業も折半で負担する。社会全体で支えるとの理念には合致する。所得に応じた負担が原則で、年金暮らしの高齢者らの負担は抑えられる。多くの預貯金を持つ高齢者らより、生活の苦しい現役世代の方が保険料が高くなるといった現象が起きる。病気やケガに備える医療保険の仕組みを少子化対策に使うことは「流用」となり、原則にあわない。受益と負担の対応関係もあいまいになる。増税論議を求める声はある。経済界、学界、労働界の有志でつくる民間組織「令和国民会議(令和臨調)」は4月「税を軸に安定的な財源を確保する」との提言を出した。首相は17日のこども未来戦略会議で「安定的な財源のあり方について集中的に議論をいただきたい」と呼びかけた。6月までにこども未来戦略方針をまとめる。会議に参加した経団連の十倉雅和会長は医療・介護保険の給付抑制策と税活用を組み合わせた「ベストミックスを追求すべきだ」と訴えた。会議終了後、記者団に語った。これまで首相は「消費税の引き上げは考えていない」と再三否定してきた。世に問うことすら封じたままでは「次元の異なる少子化対策」はおぼつかない。 *5-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1036548 (佐賀新聞 2023/5/16) 高齢者の医療負担増 子や孫の未来を支えたい 75歳以上の公的医療保険料を引き上げる改正健康保険法などが成立した。年齢にかかわらず経済力に応じて支え合う全世代型社会保障の一環だ。高齢化で膨らむ医療費に充てるほか「出産育児一時金」の財源にも回す。高齢者世帯は物価高、公的年金目減りで既に苦しい。医療負担増は厳しい追い打ちだ。ただ国民や企業が所得の中から払っている税と社会保険料の割合である国民負担率は約50%だ。高齢者を支える現役世代の負担は限界に近い。少子化で人口が細りゆく将来世代の暮らしは、さらに心配だ。子や孫たちの未来を支えていくには、所得と資産で比較的余裕のある高齢者に応能負担を求める方向はやむを得まい。75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の医療費は約17兆7千億円(窓口負担を除く)に上る。財源は、公費と加入者が払う保険料以外の4割が現役世代からの支援金。その負担が重くなり、大企業の社員が入る健康保険組合でも8割は赤字だ。負担緩和のため改正法は、年金収入が一定以上の人の保険料を2024年度から段階的に上げる。対象は75歳以上の4割だ。年金収入が年200万円なら25年度に保険料が年3900円増える。後期高齢者医療制度は開始以降に現役世代の財政負担が7割増えたが、高齢者は2割増だ。50年後は働き手の15~64歳が今より約3千万人減る一方、65歳以上は人口の4割まで占めるようになる。現役世代に頼る負担の在り方ではもう続かない。子どもを産んだ人へ全国一律で支給する「出産育児一時金」は4月、42万円から50万円に増額された。主な財源は、現役世代が加入する公的医療保険だ。これを「出産・子育てを全世代で支える」として、24年度からは75歳以上の保険料も財源に充てることになった。岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の目玉として趣旨は理解できる。気になるのは、政府が26年度をめどに「出産費用の公的保険適用」の検討も表明したことだ。同じ出産費用支援でも一時金と保険適用では方向性が大きく異なる。正常分娩は保険が利かず各医療機関が価格を決めている。21年度の公的病院の平均出産費用は、最高の東京都が約56万5千円で、最低の鳥取県より20万円以上高い。全国平均は約45万5千円だが、「自由診療」を前提に一時金を増額すれば、そのたびに値上げで「いたちごっこ」になりがちだ。「公定価格」を決めて保険適用すれば、医療機関が自由に値上げすることはできなくなる。問題は公定価格の決め方が容易ではないことだ。地方の水準に合わせれば、都市部の医療機関は経営難になる。逆に都市部を基準にすれば医療保険財政への負荷が大きい。しかも首相は保険適用で生じる原則3割の窓口負担も実質ゼロにする考えを示してるが、肝心のその財源は見えていない。政策上の矛盾をどう整理するのか。財源はどこに求めるのか。こうした土台部分の議論抜きで、サービスの充実ばかりをアピールするのでは、国民は負担増を課されても納得して応じられない。政府は少子化対策の財源として医療保険を軸に社会保険料への上乗せ徴収をさらに検討する。現役世代のみならず、今は経済的余裕がある高齢者にも当然限界はある。負担増の前に、削れる給付を極力削る努力も必要だ。 *5-2:ttps://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/946105 (京都新聞社説 2022年12月24日) 来年度予算案 防衛費膨張のひずみ憂う なし崩しの肥大化である。政府が決定した2023年度予算案は、一般会計の歳出総額が114兆3千億円に達した。11年連続で過去最大を更新するにとどまらず、本年度当初より6兆円以上も大きく膨れ上がった。岸田文雄首相が掲げた防衛費の大幅増額に主眼を置いて1・26倍に急増させた上、今後の増額財源もプールする破格の扱いで全体を押し上げた。高齢化に伴って社会保障費も伸び続けており、急激な防衛費の増大が、借金頼みの財政運営のさらなる圧迫要因として重くのしかかっている。岸田氏が防衛増税を求める前提としていた歳出改革の努力は見えず、財政規律のたがは外れたままだ。はるかに身の丈を超えた予算膨張は、国民生活へのしわ寄せと将来世代へのつけを際限なく広げかねない。23年度の防衛費は過去最大の6兆8千億円。反撃能力保有への転換に伴う攻撃用のミサイル取得など本年度当初の5兆4千億円から跳ね上がる。社会保障費、地方交付税に次ぐ規模となり、全国の道路や橋などを整備する公共事業費を上回る。身近なインフラの老朽化や災害対応の整備遅れが問題となる一方で、膨張する防衛費の突出感は否めない。さらに5年間で43兆円に増やす財源として、剰余金などをかき集めた「防衛力強化資金」約4兆6千億円を一括計上して確保するとした。ただ、こうした財源も他の用途からの付け替えに過ぎない。これまで一般会計の決算剰余金は国債の償還と補正予算に半分ずつ充てていた。それを防衛費に回すとなれば、今後の補正予算などが赤字国債に一段と依存する可能性が高まる。国有ビル売却の一時収入も含まれ、とても安定財源とは言えない。高価な装備品は購入費に加え保守・運用費もかさみ、将来にわたる重荷となるのは必至だ。最大費目の社会保障費は6千億円増えて37兆円に迫り、高齢化の加速による医療費の伸び抑制は容易でない。岸田氏が掲げていた「子ども予算の倍増」は財源の見通しが立たず、防衛費増に追いやられた形だ。一方、新型コロナウイルス対策などを名目に内閣の裁量で使い道を決める予備費を本年度と同じ5兆円盛った。流行時も強い行動制限を避ける共存策に軸足を移した政府が、多額の予備費を持ち続ける道理はない。財政民主主義に反し、無駄遣いの温床であるのは明らかだ。企業の業績改善などで税収は過去最高を見込むが、歳出増は賄えない。35兆6千億円の国債発行で歳入の3割を穴埋めする借金体質が続く。政府は防衛向けの税外収入増で新規発行を抑えたとするが、近年は大型補正予算での増発が常態化している。日銀が大規模金融緩和の修正に動く中、1千兆円超に積み上がった国債の利払い費増加が財政運営の足かせとなりかねない。「大幅増額ありき」で施策強化を取り繕うのでなく、地に足のついた持続可能な社会づくりに必要な中身は何かを、国会で徹底的に議論し精査すべきだ。 *5-3:https://mainichi.jp/articles/20230423/k00/00m/040/183000c (毎日新聞 2023/4/24) 外国人の無期限就労OK「特定技能2号」拡大を 入管庁が自民に提案 出入国在留管理庁は24日、自民党の外国人労働者等特別委員会で、熟練した技能を有する外国人労働者が取得できる在留資格「特定技能2号」の大幅な対象拡大を提案した。実現すれば人手不足が深刻な12分野で外国人の無期限就労が可能になる。対象拡大には閣議決定による法務省令の改正が必要で、政府は6月の閣議決定を目指したい考えだ。 ●人手不足に対応、2→12分野へ 特定技能は2019年4月に設けられた在留資格。技能試験と日本語試験に合格するか3年の技能実習を修了すれば取得できる「1号」(在留期間は通算5年)と、より熟練した技能が必要で在留期間の更新回数に上限がない「2号」がある。1号は12分野が対象だが、2号はこのうち「建設」「造船」の2分野しか認められていない。また、「介護」は介護福祉士の資格を取得すれば、別制度で無期限就労が可能だ。今月10日には、国際貢献を目的に外国人の技能を育成する「技能実習」と、特定技能の見直しを検討中の政府の有識者会議で中間報告書のたたき台が示され、技能実習を廃止して新制度を創設し特定技能につなげる案が提示されている。2号の対象が拡大されれば、外国人労働者が日本でキャリアアップしながら長期就労できる枠組みが整う。特定技能は24年4月で制度創設から丸5年となり、1号での在留期間が上限に達する外国人労働者が出てくる。各分野を所管する省庁がこれまでに業界団体にヒアリングしたところ、いずれも2号への移行が可能な制度変更を希望したという。2号は家族の帯同が認められ、5年以上就労して日本滞在が10年になれば永住権取得の道が開ける。2月末現在の在留者数は1号が14万6002人で、2号は10人。2号の対象が拡大されれば1号からの流入が加速することも予想されるが、2号は現場の監督者として業務を統括できる技能が求められ、取得のハードルが高いという側面もある。与党内では今回の入管庁の提案を踏まえ、分野ごとに対象拡大の是非が議論される見通しだ。外国人の長期就労や永住者を増やす政策は保守層に慎重論が根強いことから、議論が難航する可能性がある。【山本将克】 ●特定技能(在留期間) 1号(最長5年)/2号(上限なし) 建設/あり、造船/あり 介護/別制度あり ビルクリーニング/追加を提案、製造業/追加を提案、自動車整備/追加を提案、航空/追加を提案、宿泊/追加を提案、農業/追加を提案、漁業/追加を提案、飲食料品製造業/追加を提案、外食業/追加を提案 <少子化対策財源として医療・介護保険は不適切> PS(2023年5月24、26日追加):*6-1は、岸田首相が①「少子化対策の集中取組期間で増やす予算の財源に消費税を含む新たな税負担は考えていない」と明言し ②「徹底した歳出改革による財源確保を図る」と強調、既定予算の最大限の活用も挙げた ③「歳出改革の徹底で国民の実質的な負担を最大限抑制する」とも述べ ④経済成長で財源確保をめざす方向も明示した としており、私は、①②③④に賛成だ。 しかし、*6-2は、⑤政府は「異次元の少子化対策」の柱に位置付ける児童手当拡充で新たに高校生に月額1万円を支給する方針で ⑥3人以上の子がいる世帯割合が減少しているため、3歳から小学生までを対象に第3子以降の支給額も1万5千円から3万円に倍増する方向で ⑦所得制限は撤廃 ⑧現在16~18歳の子1人につき親の課税所得から38万円差し引かれる「扶養控除」縮小案も浮上し ⑨財源は歳出カット・企業の拠出金、公的医療保険料への上乗せ としているが、⑤は“異次元”ありきの児童手当拡充なので、効果の検証がされていない。ただし、同じ効果を狙っているものの高所得者ほど控除額が大きい所得税の扶養控除廃止とセットであれば、⑦⑧はさほど負担増にならない筈である。しかし、⑥の第3子以降は1万5千円から3万円に倍増というのは、3番目以降の子が1・2番目の子より費用がかかるわけではないため、「生めよ増やせよ」政策であり不要だ。3~18歳は全員1万円でよいのではないか?また、⑨のように増加する少子化対策の財源を歳出カットと企業の拠出金で賄うのはよいが、公的医険料は出産の医療保険適用等の医療に限るべきである。さらに、歳出カットも、福祉財源はもともと足りないのだから、ここに手を付けるべきではない。事例として、介護保険料を挙げれば、*6-3は、妻が1982年に脳梗塞を患って左半身麻痺となり、常時介護が必要になった時から、本来なら社会が手を差し伸べるべきだったが、介護保険制度が作られたのが2000年だったため、夫が40年間も介護しなければならず、老々介護状態になって行き詰った痛ましい事例なのである。その上、2000年に作られた介護保険制度は、40歳で加入して介護保険料の支払義務が生じ、65歳以上の被保険者は年金から天引きされるという未だ変則的で不十分なものであるため、これこそ全世代型にすべきなのだ。 なお、*6-4のように、日本医師会や全国老人保健施設協会等の12団体が、⑩物価高騰・賃金上昇への対応を巡る合同声明を発表し、⑪医療・介護は公定価格のため、物価上昇に対応する原資が必要だとし ⑫「少子化対策は重要だが、病や障害に苦しむ方々のための財源を切り崩してはならない」として財源論をけん制し ⑬政府がまとめる骨太の方針に、医療・介護分野での物価高騰と賃上げへの対応を明記することを求めた としている。医療・介護分野のサービスは消費税非課税取引となっており、課税売上げに消費税がかからず課税仕入れに係る消費税額が控除できないため、全消費税額を医療・介護事業者負担している。そのため、消費税率が上がれば上がるほど経営が苦しくなった。その上、2023年1月の物価上昇は、最も上昇幅の大きな生鮮食品を除く食料とエネルギーとその他の合計で4.2%もあり、必需品の物価上昇は医療・介護分野はじめ所得の低い生活者ほど負担が大きい。これに加えて働き方改革と賃上げを行うのであれば、⑩⑪のとおり、他産業と同じ水準で医療・介護の公定価格を上げるしかなく、⑫のとおり、医療・介護制度の財源を削る選択肢などない。そのため、⑬のとおり、医療・介護制度の充実と物価高騰・賃上げ対応を骨太の方針に明記しなければ、人材難となって、医療・介護の両方とも質の低下から崩壊に向かうしかないのである。 ![]() ![]() ![]() 2023.4.1朝日新聞 2023.4.12北海道新聞 2023.5.23日経新聞 (図の説明:左図は、少子化対策試案のタイムスケジュールだが、育児環境の改善はよいものの、目的を少子化の反転として危機感を煽っている点が生物学・生態学の視点に欠ける。また、少子化対策は、国民が気づかぬように財源を確保しながら異次元のバラマキをすることに意義があるのではなく、人的投資をすることや子育てしやすくすることに価値があるため、中央の図の優先順位や財源に違和感があるのだ。また、右図のように、医療保険や介護保険から少子化対策費を支出し、国民の生活を支えるべき医療・介護制度をさらに危うくするのは論外だ) ![]() ![]() ![]() 2023.3.7みずほリサーチ 2023.1.23西日本新聞 2023.5.25沖縄タイムス (図の説明:左図のように、前年同月比の物価上昇が毎月起こっており、エネルギー・食糧等の必需品の上昇割合が大きい。また、中央の図のように、児童手当拡充のうち第2子以降の増額で2~3兆円を要するそうだが、第2子以降だから金がかかるわけではないため不要で、公教育の無償化の方がむしろ全員の役に立つ。なお、右図のような金額しか見ていない医療等の社会保障改革は、人材不足によって質の低下や制度崩壊に至らしめる可能性があるため有害である) *6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230523&ng=DGKKZO71237430T20C23A5MM8000 (日経新聞 2023.5.23) 少子化対策財源「消費税考えず」 首相、歳出改革を徹底 岸田文雄首相は22日、少子化対策を巡る3年間の集中取り組み期間で増やす予算の財源について「消費税を含めた新たな税負担は考えていない」と明言した。徹底した歳出改革や経済成長で実質的な国民負担を抑制する方向性を指示した。政府が22日に首相官邸で開いた「こども未来戦略会議」で語った。「企業を含め社会、経済の参加者全体が連帯し、公平な立場で子育て世帯を広く支援していく新たな枠組み」に言及した。与党の意見を踏まえ「具体的に検討し、結論を出していく必要がある」と話した。次回会合でこども未来戦略方針の素案を示して議論する。6月に決める経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込む。首相は「何よりも徹底した歳出改革による財源確保を図る」と強調した。既定予算の最大限の活用も挙げた。「歳出改革の徹底などにより、国民の実質的な負担を最大限抑制する」と述べた。経済成長で財源確保をめざす方向も明示。「持続的で構造的な賃上げなど官民連携による投資活性化に向けた取り組みを先行させ、経済基盤および財源基盤を確固たるものとしていく」と訴えた。 *6-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1041396 (佐賀新聞 2023/5/23) 児童手当、高校生に月1万円、小学生まで第3子倍増、政府検討 政府は「次元の異なる少子化対策」の柱に位置付ける児童手当拡充で、新たに高校生に月額1万円を支給する方針を固めた。現行の支給は中学生まで。多子世帯の経済負担を軽減するため、3歳から小学生までを対象に、第3子以降の支給額も現在の1万5千円から3万円に倍増する方向で検討している。政府関係者が23日、明らかにした。一定以上の所得がある世帯は不支給または減額となっているが、この所得制限も撤廃する方向。児童手当の支給対象年齢を高校生まで引き上げる一方、税負担を軽減する「扶養控除」の縮小案が浮上していることも判明。現在は16歳以上19歳未満の子ども1人につき、親の課税所得から38万円が差し引かれる。政府は岸田文雄首相が議長を務める「こども未来戦略会議」で少子化対策の具体策や財源の議論を進めている。6月までに考え方をまとめ、経済財政運営の指針「骨太方針」に反映させる。現行の児童手当は3歳未満の子ども1人につき月額1万5千円、3歳から中学生までは1万円が支給される。第3子以降は3歳から小学生まで1万5千円となっている。政府は3月末に公表した少子化対策の試案で、児童手当の拡充を明記。多子世帯に関しては、子どもが3人以上いる世帯の割合が減少し、経済的に余裕がないとの調査結果もあることから、第3子以降の支給額を倍増する方向となった。今後3年間の具体策をまとめた「こども・子育て支援加速化プラン」を策定。年間3兆円規模の追加予算を確保するため、財源として歳出カットや企業による拠出金、社会保険料への上乗せ徴収を検討している。このうち上乗せ徴収は2026年度にも始める方向で調整。公的医療保険が有力で1兆円程度を捻出し、「支援金」として子ども予算に活用する方針だ。 *児童手当:家庭生活の安定と児童の健全な成長を目的に1972年に始まった現金給付。現在の仕組みでは、0歳から中学卒業までの子どもが対象。年齢や人数に応じて1人当たり月額1万~1万5千円が支給される。所得制限が設けられており、制限を超えた世帯は一律5千円の「特例給付」となる。2022年10月からは一部の高収入世帯を対象に手当が廃止された。手当の費用は国や自治体、事業主が負担し、予算規模は約2兆円に上る。 *6-3:https://mainichi.jp/articles/20230522/k00/00m/040/201000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailhiru&utm_content=20230523 (毎日新聞 2023/5/23) 40年介護した妻を車椅子ごと海へ 被告が悔やむ「最後のうそ」 整備しながら40年間使い続けた特注の車椅子を力いっぱい押し、妻を海に突き落とした。「愛する人を、最後はうそをついて殺してしまった」。2022年11月に神奈川県大磯町の漁港で起きた殺人事件。40年間介護してきた妻照子さん(79)を殺害したとして殺人罪で起訴されて勾留中の藤原宏被告(81)が毎日新聞の取材に応じ、記者の前でそう悔やんだ。最愛の人を手にかけるまでに何があったのか。藤原被告は23年2月以降計11回、拘置施設で記者と接見したほか、経緯などをつづった手記も寄せた。初めて接見した時、被告は記者をやや警戒しているように感じた。世間話や雑談には応じるものの「事件に関することは語れない」と告げられた。それが、3回目の接見の時だった。被告は「こんな話を信用できるのか分かりませんが」と前置きした上で、事件当日のこと、妻との生活のことについて、とつとつと話し始めた。その後の接見も含め、被告の口から何度も聞かれたのは後悔や謝罪の言葉だった。「彼女には一生つらい思いをさせないと決めていたが、最後は殺してしまった。申し訳ないことをした」。自ら妻を介護することへの強いこだわりもにじませ「(どちらかが)死ぬまで介護するつもりだった」などと語った。起訴状などによると、被告は22年11月2日午後5時半ごろ、漁港の岸壁から車椅子ごと照子さんを海に突き落とし、溺死させたとされる。照子さんは1982年に脳梗塞(こうそく)を患い、左半身がまひ。常時介護が必要な「要介護3」の認定を受けていた。被告によると、26歳の時に勤務先のスーパーマーケットで同僚だった照子さんと結婚し2人の息子に恵まれた。「立派に育ってくれ、私にとって自慢の2人でした」と目を細めた。だが、40歳を前に妻が脳梗塞で倒れる。医師からは「脳梗塞には前兆がある。今後は見逃さないように」と助言された。好きだった車の運転ができなくなった妻を見て、被告は「仕事に追われ、家族を見ていなかった私の責任。これ以上つらい思いをさせない」と心に決めたという。被告はスーパーを辞め、比較的時間の融通が利くコンビニエンスストアの経営などで生計を立てながら自宅で介護を続けた。息子が独立して2人暮らしになった後も妻のために3食を手作りした。自宅マンションのベランダには妻が好きな花をいくつも並べた。近所の住民によると、照子さんは「料理はおいしいし、夫が花に水をやってくれる」とよくうれしそうに話していたという。そんな2人の生活は、事件の約10カ月前に暗転する。妻はそれまでは自ら車椅子を動かすこともできたが、ほぼ寝たきりになった。1日に何度も失禁を繰り返すようになり、その度に被告が着替えさせた。被告自身も持病の糖尿病が悪化し、頻尿で夜も眠れなくなった。体重も激減し、パニックになることもあった。「こんな状態で介護施設に入所しても迷惑をかけるだけ。行きたくないな」。この頃、妻は度々目に涙を浮かべながらつぶやくようになった。週2回ほどデイサービスの施設に通っていたものの、被告は「死ぬまで面倒を見るから」と妻に伝えていた。一方で、被告は周囲の強い勧めを受け、妻の思いに応えられないことに罪悪感を感じながら施設への入所手続きを進めていた。在宅で介護しようと思いつつ、自身の体調不良もあって施設入所を選ばなければならないことに葛藤する日々。そんな中、「事件の2、3カ月前には漠然と、一緒に海に飛び込んで死のうと考えるようになった」と明かす。最終的に決意したのは当日の朝だった。「その日に決めた理由ははっきりとは説明できないが、施設側による彼女への入所の説明が数日後に迫っていたことが、心のどこかにあったのかもしれない」と振り返る。「海に行こう。息子も会いに来る」。うそを言って妻を誘い出し、自ら車を運転して自宅から約5キロ離れた漁港に着いた。「息子はいないんじゃない?」「もうすぐ来るよ」太平洋を見渡した岸壁でのこんな会話が最後だったと記憶している。「海に突き落とした後、自分も海に飛び込もうとした。だが、息子の顔がとっさに目の前に浮かび、飛び込めなかった」。自宅に戻り、息子に連絡して経緯を説明した。息子はすぐに警察に通報し、翌朝逮捕された。「施設に入ると彼女が苦しむと思い込み、自分で介護することしか頭になかった。施設に入所させて、2人で生き続けることが正しかったんだろう。でも当時はとにかく混乱していた。愛する人を、最後はうそをついて殺してしまった。どんな刑になってもしっかりと罪を償いたい。そして、いつか外に出られるようになったら、真っ先に墓参りをしたい」。藤原被告はそう言って天を仰いだ。裁判員裁判は7月に開かれる予定だ。 ●介護者の支援体制充実を 高齢化が進んで「老老介護」が増える中、介護する人が介護される人を殺害したり殺害しようとしたりする事件が後を絶たない。自分一人で妻や夫を介護することに強い責任感を持ち社会から孤立しがちで、自らSOSを発信することはまれだ。専門家は「事件に至る前に介護者の異変に気づけるよう支援体制を充実させるべきだ」と指摘する。介護を巡る殺人事件に詳しい日本福祉大の湯原悦子教授(司法福祉論)は「日本の介護関連の制度は欧米などに比べて介護者への支援やサポートが手薄だ。厚生労働省は『介護者本人の人生の支援』との理念を掲げるが、具体的な支援策は乏しい」と語る。例えば、英国では介護される人に加えて介護者も自治体に直接相談できるなど支援体制が充実している。湯原教授は「(介護者の状況を分析・評価する)アセスメントを実施し、理念の実現に向けて支援策を行うことが『介護殺人』の防止につながる」と提言する。NPO法人「地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク」(千葉県松戸市)の岡崎和佳子理事は自身もケアマネジャーである経験を踏まえ「介護者を含めたその家庭の介護に関する状況の把握を国はケアマネジャーの役割としている。だが、介護される人に関することだけでも仕事量が膨大で、介護者の異変に気づくのは容易ではない」と説明。「ケアマネジャーに頼らなくても介護者の異変に気づくことができるように、介護者を対象としたケースワーカーを置くなどの仕組みづくりが必要だ」と訴える。 *6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230526&ng=DGKKZO71338390V20C23A5EP0000 (日経新聞 2023.5.26) 医師会など「物価高対応、原資が必要」 医療・介護巡り 少子化対策の財源論けん制 日本医師会や全国老人保健施設協会など12団体は25日、物価高騰や賃金上昇への対応を巡る合同声明を発表した。医療や介護は公定価格であるため、物価上昇に対応するには原資が必要だと主張した。そのうえで「少子化対策は重要な施策だが、病や障害に苦しむ方々のための財源を切り崩してはならない」として、対策に向けた財源論をけん制した。声明では政府が6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、医療や介護分野での物価高騰と賃上げへの対応を明記することを求めた。政府が進める少子化対策の財源について「診療報酬・介護報酬の抑制などの意見もある」と触れ、財源としての活用には異論があることをにじませた。 <イノベーションと社内失業・労働移動など> PS(2023年5月28、29日追加):*7-1-1は、①G7広島サミットが世界が直面する多面的危機解決に、どれだけ成果を上げたか疑問 ②石炭火力・天然ガス等の化石燃料との決別に年次目標を示さず、昨年から殆ど進展がなかった ③サミット共同宣言は「全てのG7諸国の排出量は既にピークを迎えた」「世界の気温上昇を抑える上で、全ての主要経済国が果たすべき重要な役割を認識する」と指摘し ④全締約国に対して削減目標の深掘りと2050年までの「ネット0目標」を求めたが ⑤G7のカナダ・米国・日本・ドイツのCO₂排出量/人は中国より多く世界平均以下はフランスだけで ⑥技術も資金も豊かな先進国が、排出量/人が世界平均半分以下のインドに一層の削減努力を求める根拠は薄い ⑦国連のグテレス事務総長は、新興国に2050年のなるべく近い時期のネット0達成を求め、G7にはネット0の目標年次を2050年から2040年に前倒しすることを求めたが ⑧日本は議長国としてのリーダーシップを示さず、既得権益に配慮して石炭火力・化石燃料等の廃絶に否定的な姿勢で前向きな合意の足を引っ張った としている。また、*7-1-2は、⑨G7気候・エネルギー・環境相会合は最優先課題の脱炭素の推進で目立った成果を打ち出せず、日本の内向きな姿勢が足かせとなった ⑩石炭火力発電の温存等に関し、会合前から議長国としてのかじ取りに疑問の声があり ⑪会合はプラスチックごみの新たな汚染を2040年に0にする目標設定や生物多様性保全の新枠組み設立等の成果を上げたが、気候変動対策は進展に乏しかった ⑫G7は昨年2035年までに電力部門の完全又は大部分の脱炭素化に合意し、英国・カナダは「大部分」を削除して「完全脱炭素化」に強化することを、ドイツは2035年からの前倒しを迫ったが、日本は昨年の合意内容の踏襲に留める姿勢を崩さず、他の国と「6対1」の構図が生まれ、声明は昨年の合意をなぞった ⑬日本は原発事故処理水の海洋放出について「透明性あるプロセスを歓迎する」との文言を声明に盛り込もうとしたが、他国は難色を示し、ドイツは関連部分を全て削除するよう要求した とする。 このうち、②⑧⑨⑩⑪⑫のように、日本が国内に存在する再エネを利用せずに石炭火力・天然ガス等の輸入化石燃料に固執するのは、エネルギー自給率を上げる機会を自ら放棄している。また、化石燃料の代替として変動費無料の再エネで作れる水素(H₂)にわざわざ窒素(N₂)を結合させてアンモニア(NH₃)を作れば、コストが上がるだけでなく窒素酸化物(NOx)の排気ガスを出す燃料になるのに、他国の反対にもかかわらずアンモニアの燃料利用を進めるのは、労力と資金の無駄遣いである。さらに、⑬の原発事故処理水の海洋放出も、状況が透明ならよいのではなく無害であることが証明されなければならないのに、放出する分量を無視して濃度が規制値以下であることを主張しているだけであるため、科学的説得力に欠ける。その上、原発回帰しているのも、パリ協定より遅れている。さらに、③④⑤⑥のように、G7各国のCO₂排出量/人の方が多いのに「既にピークを迎えた」として中国やインドに主要経済国として果たすべき役割をG7から指摘するのもおかしく、⑦のグテレス事務総長の発言が妥当だろう。そのため、これらを総合すると、①のように、世界が直面する環境問題の解決に、G7広島サミットがどれだけ成果を上げたか疑問ということになる。 *7-1-3は、⑭EVシフトとデジタル化の中、ドイツの自動車生産が生産コストの安い国外に流出するリスクがあり ⑮デトロイトは米国の自動車生産の中心地だったが、労働コストの問題から他地域に生産が流出した ⑯生産コストの高いドイツも自動車産業とそのバリューチェーンが直面する課題は大きい ⑰EVシフトが進むドイツでは部品メーカーが人員削減を進めている 等としている。確かに、このまま化石燃料を使うエンジン車に固執し続ければ、デジタル化に追いつけず、部品点数が多い分だけ高コスト構造になり、CO₂やNOxを排出して環境悪化に繋がるので、EVか水素(H₂)エンジン車に替える以外の選択肢はない。しかし、日本の場合は労働市場の流動性が低く、労働移動しにくい社会であるため、さらに逡巡することになり、この結果、日本がイノベーションの足を引っ張ることになるのである。 これについて、*7-2-1は、「雇用流動性と付加価値率は逆U字型の関係になる」としているが、変化の激しいイノベーションの時代には、雇用流動性が高くなければ社内失業が増え、国全体としてはより生産性の高い部門で人手不足になる。そのため、人が移動しないことを善とするのではなく、個人がキャリアを形成してそれを活かしながらよりよい仕事に転職していけるジョブ型正社員(欧米では、こちらが普通)を増やすことが、双方にとって望ましいと思う。 なお、*7-2-2は、「政府は2028年度までにパートやアルバイトの人に雇用保険を拡大し、非正規の立場で働く人も失業給付や育児休業給付を受け取れるようにして安心して出産や子育てができる環境を整える」としているが、アルバイトはともかく、女性や高齢者でも雇用していれば正規労働者にするのが本筋であるため、雇用者は人員配置を見直し、生産性を向上させて、労働には差別なく報いるべきである。この際、労働時間が20時間未満/週という短時間であることは正規労働者の要件を満たさないわけではなく、就業規則で短時間勤務従業員の存在と報酬の計算方法を規定すれば良いだけだ。ただ、正規労働者は医療保険料・介護保険料・年金保険料も支払わなければならないが、これも差別なく応分の負担をするのが筋である。 ![]() ![]() ![]() 2023.4.3日経新聞 2023.4.15日経新聞 2023.4.18静岡新聞 (図の説明:左と中央の図が、G7広島サミットの環境相会合の主な論点と各国の主張で、他国は石炭火力の廃止時期の明記やEV導入の加速を主張したが、日本はいずれも反対でアンモニアの活用などを主張して、脱炭素化とコスト低減の足を引っ張っている。また、原発についても、ドイツは4月15日に全機停止できたのに対し、日本は汚染水の処理や廃炉作業もできないのに、ロシアのウクライナ侵攻を口実にして活用に前向きだ。また、右図は、他の6ヶ国と日本の対立点をわかりやすく説明しているが、日本は、「バランス」や「ミックス」などと称し、徹底できるところまで徹底せず、政策を不完全にした上に補助金や資金を無駄遣いしている。また、透明でありさえすればよいわけではないため、欧米の主張の方が合理的である) *7-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1042749 (佐賀新聞 2023/5/26) サミットの気候変動議論 先進国の責任放棄だ 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が、世界が直面する多面的危機の解決に向け、どれだけの成果を上げたかには大きな疑問符が付く。中でも多くの人を失望させたのが、深刻化する気候危機に向き合う姿勢だ。気候危機に大きな責任を負う先進国が、最大の原因とされる石炭火力発電の廃絶や天然ガスなど他の化石燃料との決別について明確な年次目標などを示すことはなく、昨年のサミットからほとんど進展がなかった。その一方で、サミットの共同宣言は「全てのG7諸国において排出量が既にピークを迎えたことに留意し、世界の気温上昇を抑える上で、全ての主要経済国が果たすべき重要な役割を認識する」と指摘。全ての締約国、特に主要経済国に対し、削減目標の深掘りや遅くとも2050年までに、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「ネットゼロ目標」を掲げるよう求めた。まるで「われわれはやることはやった。次は新興国の番だ」と言わんばかりだ。だが、これは大きな間違いで、G7としての責任放棄である。カナダ、米国、日本、ドイツの1人当たりの二酸化炭素排出量は中国より多く、G7の中で世界平均を下回っているのはフランスだけ。新興国の努力が重要なことは言うまでもないが、技術も資金も豊かな先進国が、1人当たり排出量が世界平均の半分にも満たないインドに一層の削減努力を求める根拠は薄い。しかも、先進国は途上国のために「20年までに年間1千億ドルの気候資金を動員する」との目標を達成していない。G7が「全ての主要経済国」の取り組みを強調するのは、この冬アラブ首長国連邦で開かれる気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)をにらんだものだ。COP28では、25年に各国が提出する新たな排出削減目標を視野に、パリ協定の目標達成に向けた各国の取り組みの進捗(しんちょく)状況を評価する初めての「グローバルストックテイク」が開かれる。COP28の議論を進めるために、自らの責任を正面から受け止め、率先行動を取るとのメッセージを出すことがG7に求められていた。だが、広島サミットの結論にそれは見当たらない。各国の削減努力は不十分で、産業革命以来の気温上昇を1・5度に抑えるとのパリ協定の目標達成は極めて困難だ。ストックテイクの結論は既に明らかで、25年に提出する次期目標では一層の深掘りが必要になる。国連のグテレス事務総長はサミット後の記者会見で、新興国に50年にできるだけ近い時期のネットゼロ達成を求める一方で、G7にはネットゼロの目標年次を、現在の50年から40年に前倒しすることを求めた。日本は、サミットで議長国としてリーダーシップを示すどころか、国内の既得権益に配慮して、石炭火力や化石燃料の廃絶に関して否定的な姿勢をとり続け、前向きな合意の足を引っ張った。こんな議長国では、COP28で、気候危機の被害に苦しむ途上国などからの批判にさらされることになりかねない。現在の姿勢を根本から改め、次期目標での大幅な削減やネットゼロ実現時期の前倒しに向けた国内の議論を喚起すること。それがG7の議長を務める岸田文雄首相に今、求められる行動だ。 *7-1-2:https://www.at-s.com/sp/news/article/national/1226602.html?lbl=861 (静岡新聞 2023.4.18) G7環境相会合 内向き姿勢、脱炭素阻む 議長国かじ取りに疑問【大型サイド】 札幌市で開かれた先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合は、最優先課題の脱炭素の推進で目立った成果を打ち出せなかった。足かせとなったのは日本の内向きな姿勢。石炭火力発電の温存などにこだわり、会合前から議長国としてのかじ取りに疑問の声が漏れていた。 ▽6対1 「世界全体の行動をG7がリードする強い決意を示せた」。16日の閉幕後、西村明宏環境相は記者会見で胸を張った。会合はプラスチックごみの新たな汚染を2040年にゼロにする目標設定や、生物多様性保全の新枠組み設立などの成果を上げた。 だが気候変動対策は進展に乏しい。G7は昨年「35年までに電力部門の完全または大部分の脱炭素化」に合意し、今回はさらなる前進が求められた。事務レベルの交渉は今年1月から本格化。英国やカナダは「大部分」を削除し「完全な脱炭素化」に強化することを、ドイツは35年からの前倒しを迫った。だが日本は、昨年の合意内容の踏襲にとどめる構えを崩さなかった。二酸化炭素(CO2)排出が特に多い石炭火力発電に依存しており、温存したい意向があるためだ。他の国と「6対1」の構図が生まれ、結局、声明は昨年の合意をなぞる記述となった。 ▽お墨付き 内向きな姿勢は東京電力福島第1原発の扱いでも表れた。日本は当初、処理水の海洋放出計画について「透明性のあるプロセスを歓迎する」との文言を声明に盛り込もうとした。漁業者の根強い反発や周辺国の懸念に対し、G7の「お墨付き」を得る狙いが透けた。他国は「個別事情」と難色を示し、ドイツは関連部分を全て削除するよう要求。日本政府内でも「やりすぎ」(外務省幹部)との声が上がった。最終的にこの表現を断念したが、事故から12年たっても解決が遠い現実が改めて浮き彫りに。ドイツは会合の期間中に脱原発を実現し、対照的な展開を見せた。 ▽使命感 環境分野は近年、議長国の意欲が成果を左右している。21年の英国は、排出抑制策がない石炭火力発電への国際投資をやめる方針をまとめた。22年のドイツは主要排出源の電力部門に狙いを定め、脱炭素化の方向性を示す成果を上げた。日本が今回、注力したのが、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアの活用だ。石炭火力発電で燃料として混ぜて使うと脱炭素に役立つとするが、現状では製造時のCO2排出が多い。世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之さんは「日本の独自路線が脱炭素の議論の足を引っ張った面が強い。リーダーシップはなかったと言わざるを得ない」と語る。京都大大学院の諸富徹教授(環境経済学)は日本と欧米の姿勢の違いを指摘する。例えば米国はインフレ抑制法で排出削減を進める意思を明確にしたが、日本は脱炭素社会に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針でも具体的なCO2削減効果を示していない。諸富さんは「指導力を発揮できないのは、気候変動を世界的な最重要課題と捉えておらず、使命感も薄いからだ」と語った。 *7-1-3:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00122/051200175/ (日経ビジネス 2023.5.18) 「EVリストラ」、独部品会社が震源地に エンジン生産縮小が直撃 *急速に電気自動車(EV)シフトを進めるドイツでは、経営や雇用にどのような影響が出ているのだろうか。完成車メーカーより影響の大きい部品メーカーの動向を追う。 2021年1月、ドイツ銀行のアナリストが、電気自動車(EV)シフトについて、衝撃的なリポートを発表した。「ドイツ自動車産業集積地のデトロイト化」に警鐘を鳴らすというものだ。自動車生産で栄えた米デトロイトでは、1970年代ごろから自動車工場の閉鎖や部品メーカーの倒産が起こり、大量失業につながった。リポートはドイツの自動車産業を当時のデトロイトと比較するような内容となっている。「EVシフトとデジタル化の波の中で、ドイツにおける自動車生産が生産コストの安い国外に流出するリスクがある。デトロイトが米国の自動車生産の中心地だった時代があったが、労働コストなどの問題から他の地域に生産が流出した。生産コストの高いドイツでも、自動車産業とそのバリューチェーンが直面する課題は非常に大きい」としている。この警鐘からすると、昨今の完成車メーカーの業績は意外感があるかもしれない。フォルクスワーゲン(VW)グループとメルセデス・ベンツグループ、BMWの独大手自動車メーカーの22年度決算はいずれも好調だった。その理由は主に2つある。1つは、EVは利益が出しづらいと言われるものの、現状はエンジン車が主力である点だ。もう1つは、新型コロナウイルスの感染拡大以降、半導体不足などで完成車の生産が追いつかない状況が続いており、需要が供給を上回り値下げ幅が小さくなっているのだ。一方、リポートのようなEVシフトの影響がいち早く及んでいるのが、部品メーカーだ。完成車メーカーに比べて企業規模が小さいものの、EVシフトに合わせて大規模な事業の構造転換が必要であるため、赤字への転落や人員削減につながるケースもある。 ●約27万5000人の雇用が危険に 非上場企業が多いので業績の比較が難しいが、EVシフトが進むドイツでは、部品メーカーが人員削減を進めているのは確かだ。自動車部品世界最大手のボッシュはエンジン関連の部品の生産が減少し、人員を削減している。欧州自動車部品工業会(CLEPA)は21年12月、エンジン車からEVへのシフトにより、約27万5000人の雇用が危険にさらされると警告している。35年までにエンジン車の新車販売が禁止された場合、EV向けパワートレーン製造に22万6000人の新規雇用が見込まれる一方、エンジン部品製造の部品メーカーで働く50万1000人の雇用が脅かされると試算。部品メーカーは完成車メーカーとの長期契約に縛られているため、機敏に反応することができない。そのため、CLEPAは完成車メーカーよりも部品メーカーはEVシフトの影響を受けやすいと指摘している。 *7-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230516&ng=DGKKZO70988280V10C23A5KE8000 (日経新聞 2023.5.16) 労働移動は成長を促すのか 鶴光太郎・慶大教授 <ポイント> ○労働市場の流動性の違いに経済的合理性 ○上場企業は雇用流動性を高める余地あり ○キャリアの自律性促進により人を動かせ 成長戦略や構造改革の決め手として、労働市場の流動性を高めることが重要だという主張は多い。政府の労働市場改革においても、周期的に取り上げられているテーマでもある。では現在の日本において、労働市場の流動性は高めるべきであろうか。まず、そもそも国や時代によってなぜ労働市場の流動性が異なるのだろうか。日米でみれば、米国の方が流動性は高いと認識されているが、戦前の日本の労働市場の流動性も高かったことが知られている。経済学の一分野である比較制度分析では、制度をゲーム理論の均衡と捉え、様々な経済主体の行動様式や仕組みの間のコーディネーション、制度的補完性が影響して、労働市場の流動性が高い均衡と低い均衡が生じると解釈している。では、簡単なゲーム理論の枠組みで考えてみよう。まず、プレーヤーを労働者、使用者とし、それぞれが「終身雇用」「流動雇用」のどちらかの戦略を選ぶものとする。労働者の「終身雇用」戦略は、基本的に同じ会社に定年まで勤めるよう努力するというものだ。一方、「流動雇用」戦略では、勤務先に不満があったり、より条件のよい企業があったりすれば転職する。使用者の「終身雇用」戦略では、労働者には定年まで勤めてもらうことを前提に雇用管理や能力開発を行い、中途採用はあまり実施せず、解雇はできるだけ抑制する。「流動雇用」戦略では、労働者が転職することを前提とした雇用管理を行い、能力開発はあまりしない代わりに中途採用を積極的に行い、必要に応じて解雇も実施する。労働者、使用者の戦略がマッチしないと両者とも利得がないと考えると(図1)、相手の戦略を所与とした最適反応戦略の組み合わせ(ナッシュ均衡)は、いずれも「終身雇用」を選ぶ流動性の低い均衡と、いずれもが「流動雇用」を選ぶ流動性の高い均衡の2つが存在することになる。いずれの均衡が広く国全体に行き渡り、共有化された予想となるかはゲーム理論の枠組みを超えて、その時代や場所に依存した歴史的経緯などで決まる。流動性が低い均衡、高い均衡もそれぞれ「均衡」である限り、経済主体の行動パターン・仕組みとしてどちらも合理的な存在といえる。ただし、いずれの均衡が対象となる経済全体として、より高いパフォーマンスを生むのかは別の話になる。その時々の経済環境によっても変わってくるし、経済環境自体が大きく変化すれば、望ましい均衡が一方から一方へ移行することもあり得る。では、企業レベルでの雇用の流動性はどうだろうか。当然、国レベルの労働市場の流動性には制約を受けるが、理論的には、それぞれの企業にとって利潤を最大化できるような、雇用の流動性の適正水準を考えることができる。そして雇用の流動性の最適水準があるならば、現在の水準がそれより低くても高くても、企業業績は悪くなることになる。つまり、企業レベルでは、雇用の流動性と企業業績の間に逆U字型の関係があると想定できる。日本の企業データによる検証をみると、慶応義塾大学の山本勲教授らの2016年の論文は雇用の流動性(離職率、中途採用超過率)が高いほど売上高利益率が高まるが、流動性が高すぎると利益率は低くなるという逆U字型の関係を見いだした。また18年の経済財政白書は、異なる企業データを用いて離入職率と付加価値率が逆U字型の関係になることを示した。上場企業が800社超を占める日経「スマートワーク経営」調査(各年)を使って学習院大学の滝澤美帆教授と筆者が行った最近の分析でも、離職率でみた企業レベルの流動性とROS(売上高利益率)でみた企業業績に逆U字型の関係が確認され、先述した分析と同様の結果を得た。ただし我々の分析では、逆U字の転換点となる離職率の水準はかなり高く、ほとんどの対象企業について離職率とROSには正の関係があると分かった。これは、離職率の水準ごとにグループ分けをして、それぞれのROSの中央値をみた図2からも読み取れる。以上の結果から、日本の場合、労働市場全体でみれば流動性の低い均衡にとどまっているため、本来であれば企業はより高い流動性を選択すべきであるのに、それが妨げられている可能性が示唆される。また、労働市場の流動性が政策面から取り上げられる一つの背景として、労働再配分効果が期待されていることが挙げられる。つまり、生産性の低い部門から生産性の高い部門へ労働者が移動することで、経済全体の生産性が高まるという想定である。例えば、生産性の低い農業部門の余剰人口が生産性の高い工業部門に移動することで、経済全体の生産性、成長が加速される現象は、日本の高度成長期やアジア諸国で顕著だった。しかし、日銀の22年の論文は、特に00年代以降、日本の産業間における労働再分配効果は小さいことを明らかにしている。生産性の低い部門から高い部門に資源を配分することは必ず効率的なのか。一橋大学の塩路悦朗教授は反例を2つ挙げている。一つは、製造業の生産性が向上すると、その所得増加効果で、所得弾力性が高いサービス業の相対的需要・価格が高まり、そこに資源が配分されることのほうが効率的になってしまう場合だ。他方は、製造業の中でも生産性の継続的上昇が著しい部門(電気機械)では、コスト低下による相対価格下落がより顕著になり、その部門から資源を放出するほうが逆に望ましくなってしまう場合だ。21年の労働経済白書における、10年代の産業別の就業者数と労働生産性の推移を国際比較した分析では、日本の場合、就業者増・生産性横ばいの各種サービス業と(情報通信産業含む)、就業者減・生産性増の製造業というようにパターンが二極化し、先の例示が現実にも起きている可能性を示している。つまり、生産性の水準・伸びの高い製造業から生産性の水準・伸びの低いサービス業へ人が移動しており、必ずしも経済全体の成長を促進するような労働移動になっていないことが分かる。一方、米国は多くの産業で就業者増・生産性増という動きがみてとれ、再配分効果は大きいようだ。「成長分野への円滑な労働移動」の達成は理想ではあるが必ずしも容易ではなく、とかく絵に描いた餅に終わりかねない。まず日本では、大手を中心とする上場企業に多い、人が動かないことを前提としたメンバーシップ型雇用を突き崩すことから始めたい。キャリアの自律性が担保されることで望ましい転職を後押しするジョブ型(職務限定型)正社員が普及することで、企業にとっても望ましい雇用の流動性が実現されることを期待したい。 *7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230526&ng=DGKKZO71338160V20C23A5EP0000 (日経新聞 2023.5.26) パート・バイトにも雇用保険、28年度までに、政府、骨太方針に明記へ 政府は2028年度までにパートやアルバイトの人らへ雇用保険を拡大する。非正規の立場で働く人にも失業給付や育児休業給付を受け取れるようにし、安心して出産や子育てができる環境を整える。企業側は人件費が増え、人員配置の見直しなども迫られる。政府は24年度に始める少子化対策で雇用保険の対象者を広げると掲げた。6月に政府が閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に開始時期とともに盛り込む見通しだ。現在、1週間の所定労働時間が20時間未満の短時間労働者は雇用保険の対象外で失業給付などを受けられない。非正規雇用で十分なセーフティーネットがないことが少子化につながっているという意見も若者などからは根強い。こうした声に政府は配慮した。また高齢者や専業主婦だった人の就業も増えている実態もある。ただ良い面だけではない。保険拡大は企業にとって売り上げ・利益が変わらない中で人件費の増加にもなる。雇用保険は企業の負担も少なくない。場合によっては雇う人を減らし、業務の見直しなども必要になる。人事管理システムの改修作業も生まれる。適用開始が28年度までと先であるのも企業側が十分に準備できるようにしたものだ。国はまず雇用保険法を改正し、周知と準備の期間を設けたうえで施行する。週の労働時間や年収要件、雇用期間などの細かい条件は、法改正を前に専門家らで構成する労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)でも議論する。制度の概要が固まるのは24~25年ごろになる。企業は3年程度の猶予を持つことになる。雇用保険は現在、週の労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込みがある人を対象にしている。週労働時間が20時間未満の人は22年に約700万人いる。役員を除く全雇用者の13%と、13年から3ポイント超上がった。週の労働時間15時間以上に対象を広げた場合、新たに約300万人が適用になる。10時間以上の場合は約500万人となる。対象になれば思わぬ失業時に保障が受けられ、育児休業給付金や教育訓練への助成などキャリア形成の面でも利点がある。現在の料率は企業側が賃金の0.95%、労働者側が0.6%。従業員数が少ない企業は週労働時間20時間未満の人が占める割合が高い傾向で、中小企業の負担は大きい。産業にも偏りがある。卸売りや小売り、宿泊や飲食、医療・福祉とサービス関連が多くを占めている。保険料の負担を敬遠して労働時間を削減すれば、雇用される人は逆に家計が苦しくなる。政府は雇用保険の拡大のほかにも少子化対策を打ち出すとしている。ただ企業が負担を嫌い、働く人への不利益をしない目配りも求められる。
| 人口動態・少子高齢化・雇用 | 03:59 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2023,04,27, Thursday
![]() ![]() ![]() ![]() 梅 水仙 桜 さつき 3月、4月は多忙だったので、あまりブログを書かずにいるうちに、あっと言う間に季節は冬から初夏になり、いろいろな花が咲いては散っていきました。 そして、季節の変わり方は、確かに早くなっています。
| 環境::2015.5~ | 04:46 PM | comments (x) | trackback (x) |
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