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2025,02,03, Monday
(1)農家への所得補償(直接支払い)は最終解でないこと
![]() ![]() ![]() (図の説明:左図は、我が国と諸外国のカロリーベースと生産額ベースの食糧自給率の比較だが、カロリーでは必要な需要を満たした割合はわからず、生産額では単に高いだけかも知れないため、品目別の国内生産重量が需要重量に占める割合《重量ベース》が最も現状を表しているだろう。また、中央の図は、我が国のカロリーベースの食料自給率の推移だが、これは一貫して下がって2023年度は38%にすぎないため、農業政策の是非が問われるわけである。なお、右図は、品目別食料自給率で、米や鶏卵の最終製品は100%に近いが、途中で海外産の資材や餌を投入している製品は、厳密には国産に入れるべきでない) *1-1-1・*1-1-2・*1-1-3は、①日本の食料自給率の長期低迷と農家戸数・耕作面積減少に歯止めがかからず、原因を突き詰めるべき ②持続可能な食料安全保障を確立するため、これまでの農政の効果を検証する必要 ③立憲民主党・国民民主党は戸別所得補償制度(直接支払制度)という観点から提起を始め、石破首相・森山幹事長も「直接支払いの議論を深める」と語った ④農水省は通常国会に農産物の価格転嫁を後押しする法案を提出予定だが、納税者負担による直接支払いの是非が論点として浮上するのは間違いない ⑤「農家の手取り増を実現させる」という石破首相の強いリーダーシップを期待したい ⑥石破政権の「令和の日本列島改造」「地方創生2.0」に「農家の直接支払い」は含まれない ⑦農家数激減から農家への直接支払いは不可欠 ⑧農林業センサスを見ると、高齢化・中小零細農家淘汰で、2005年に208万5000あった農業経営体数は2020年は109万2000まで半減、10haを境に中小零細農家の淘汰が急速に進んだ ⑨2024年5月の食料・農業・農村基本法の見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で、農家数がさらに減少し、農村コミュニティー維持困難 ⑩工場誘致で零細農家も兼業で生き残っていたが、その条件も失われて大規模化が進んだ ⑪円安インフレで農薬・肥料・飼料・燃料の輸入価格が上昇して農業経営を圧迫 ⑫農家の経営困難を救う所得政策が不可欠 ⑬改正基本法はITを使ったスマート農業技術で規模拡大を図ろうとするが、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなる ⑭農業と農家の衰退状況から、欧米並みの農家への直接支払いを導入することが急務 ⑮農水省が2025年度から始まる中山間地域等直接支払制度の次期対策で「集落機能強化加算は継続しない」という方針を示した ⑯加算を終了する理由の1つに「地域運営組織の設立・連携を行うという趣旨が十分に伝わっていなかった」と都道府県・市町村への説明不足を挙げた ⑰集落機能強化加算は「高齢者の見回りや送迎など、生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援している」 ⑱効果を評価していたのに一転、2025年度予算概算要求で加算の廃止が判明 と記載している。 ここで述べられているポイントの第1は、①②から、食料安全保障を確立するために、食料自給率が長期にわたって低迷し、農家戸数・耕作面積が減少している原因を突き詰めて、農政の効果を検証すべき ということだ。 「腹が減っては戦は出来ぬ」と言うように、いざと言う時に国民が飢えたり、栄養失調になったりするようでは、武器ばかりあっても戦が出来ないのは昔から常識であり、そのため「兵糧攻め」や「水攻め」は味方の兵力を損なわずに相手を屈服させる常套手段となっているのである。 その点、日本の農政は、食料自給率が長期にわたって下がり続け、耕作面積も減少しているため、私は「農業政策を検証しなければならない」という主張に賛成だ。しかし、戸別所得補償制度(直接支払制度)による農業振興では、本物の農業振興にならないため、ポイントの第2~第4に、その理由を記載する。 ただし、*1-5のように、日本の食料自給率はカロリーベースで測られているが、人間はカロリーだけで、まして米や芋だけで健康に生きられるわけではない。そのため、栄養バランスを加味した自給率は、現在、需要のある食品毎の重量に対して国内産(海外産の資材で育てられたものは、当然、除外すべき)の割合を出すのが適切であり、主食と副菜の区別も不要である。 また、ポイントの第2として、③④⑤⑥⑦⑫⑭のように、地方創生には、農家の手取り増を実現させるため、農水省の農産物への価格転嫁後押し法案ではなく、農家の経営困難を救う欧米並みの戸別所得補償制度(直接支払制度)を行なって農家数の激減を防ぐべき であり、事実、⑧のように、農林業センサスでは、高齢化や中小零細農家淘汰により、2005年に208万5000あった農業経営体数が2020年は109万2000まで半減し、特に10ha以下の中小零細農家の淘汰が急速に進んだ という主張がある。 しかし、農業の生産性向上による農業所得拡大には機械化や装置化が必要不可欠であり、それができるためには、経営体の規模拡大が必須である。にもかかわらず、これまで中小零細農家が多く、それを温存してきた理由は、戦後の農地改革で小作農が耕作してきた農地を得て自作農になり、家業として農業を引き継いできたからで、細切れの農地が望ましいからではない。 そのため、高齢化による離農をチャンスとして農地を大規模経営体に集約しつつあり、戸別所得補償制度(直接支払制度)がなければ離農したいような中小零細農家は離農しても良く、その農地は大規模経営農家や農業法人に集約すれば良い仕組にしているのである。 なお、ポイントの第3として、⑨⑩⑪⑫のように、円安インフレで農業資材の輸入価格が上昇して農業経営を圧迫し、工場誘致による兼業で支えていた零細農家もさらに減少して、農村コミュニティーが維持困難になっているが、2024年5月の食料・農業・農村基本法見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で大規模化がさらに進んだ とされている。 しかし、円安インフレによる農業資材の高騰は優に想定を超えていたものの、「2024年5月の食料・農業・農村基本法見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で大規模化がさらに進んだ」というのは、本来の意図通りなのである。そして、今回の円安インフレによる輸入価格上昇が経営を圧迫しているのは零細農家だけではなく、輸出企業でない経営体全体の話であり、それでも零細兼業農家を皆が払った税金で支えなければならないかについては、国民全員が支払っている税金であるだけに疑問である。 さらに、ポイントの第4は、⑬⑮⑯⑰⑱のように、改正基本法はITを使ったスマート農業技術で規模拡大を図ろうとしているが、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなる上に、集落機能強化加算は高齢者の見回りや送迎などの生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援しているにもかかわらず、農水省が廃止を表明した としている。 確かに、中小零細農家の離農が進んで住民が減れば、農村コミュニティーが維持困難になり、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなりそうなのはわかるが、スマート農業を行なう大規模経営農家や農業法人の経営者・従業員が住んだり、別の場所に住んで農地に通ってきたりもできるため、住民の暮らし方を変えれば良いのではないだろうか。何故なら、現状維持ばかり主張しても、むしろ現状維持はできないからである。 なお、集落機能強化加算は、「高齢者の見回りや送迎などの生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援している」のだそうだが、若者の農業離れは農業が面白くない産業だから起こっているのではなく、ムラのために無償労働をしなければならないことが多く、ムラの“文化”による縛りが強いからだと言われている。そのため、高齢者の見回りや送迎などの生活支援や環境の維持は、介護制度やシルバー人材などを使って、ボランティアではなく、正当な費用を払って行なわれるべきであろう。 (2)米作の温暖化への適応と令和の「コメ騒動」 *1-2-1は、①温暖化で水稲の生育可能な期間が延び、再生二期作が広がってきた ②島根県の農事組合法人ふくどみは、2024年4月下旬、1haに早生品種を移植し、8月下旬に1度目の収穫を行って追肥し、11月下旬に2番穂を収穫して、10aあたり762kg確保 ③茨城県のJA北つくばは2024年産で「にじのきらめき」など約1haで実証し、10a収量は2度の収穫で計712kg ④2番穂を収穫しても、収穫せずにすき込んでも「労力は大差ない」 ⑤農研機構の2023年研究成果では、福岡県内の試験で「にじのきらめき」の10a収量は2回合計で950kgで、1番穂を地際から40cmと高く刈ることで地上部に栄養を多く残し、2番穂の収量を確保できるとする としている。 野生の稲は、もともと熱帯~亜熱帯地域に広く自生し、多年生型(結実後も親株が枯れず株が生き続ける)・1年生型(種子により毎年繁殖して枯れる)とその中間型がある。そして、日本でも弥生時代は稲穂だけを刈り取る多年生型栽培法がとられ、現在のように田植えをして1年生型栽培の方法が常識となったのは、比較的新しいのだ。 そのため、①のように、日本が温暖化して亜熱帯に近くなれば、穂の近くだけを刈り取って二期作できるようになるのは自然なことである。そして、その二期作では、②③は1度目の収穫時に地際から刈り取ったため、2回の合計で10aあたり700kg代の収穫しかなかったが、④は地際から40cmと高く刈ることで地上部に栄養を多く残したため、2回の合計が10aあたり900kg代になっている。 1回目の収穫では穂を刈り取りさえすればよいので、残りの茎はできるだけ長く残した方が、2回目の収穫が多くなるのは必然で、④の「労力」は、二期作することを前提とした収穫機ができれば、全く大差なくなるだろう。 そのような中、*1-2-2は、⑥昨夏、店頭からコメが消え、昨年末から1月中旬までに3割価格上昇したコメに、政府は備蓄米放出体制をようやく整えた ⑦遅れた背景は米価維持のため生産抑制に重点を置き、消費者への意識を欠いていること ⑧備蓄米放出での値下がりを睨んで、1月24日以降値上がりが止まった ⑨流通を急に増やして米価が値崩れすることを過度に警戒するのは長年の減反政策のため ⑩政府は2018年に農家や生産者の自主性を重んじるため、主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめたが、農家にコメから麦・大豆・飼料用米への転作を促す補助金は残した ⑪水田活用「直接支払交付金」は、2015~2023年は年平均3200億円程度の横ばいで、2018年の減反廃止後も減らず ⑫政府が産地毎の農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の「目安」を示す仕組みも残した ⑬需給見通しには訪日外国人の急増による需要の広がりが織り込まれていない ⑭生産調整と引き換えに受け取る補助金収入に依存する零細農家が多い ⑮コメの生産コストは0.5~1haでは2万円/60kg超だが、15~20haでは1万円強/60kgと半分になる としている。 ⑦のように、政府が、米価維持目的の生産抑制に重点を置いて、消費者への意識を欠いているのは、何もコメに限ったことではないが、その結果として、*1-2-3のように、2024年の2人以上世帯の消費支出は月平均で30万243円と名目では増えたが、実質では前年比1.1%減という結果になった。これは、物価上昇によって国民が貧しくなり、食料品等の必需品にも節約志向が及んで、「エンゲル係数」は28.3%と1981年以来43年ぶりの高水準になったという統計数値にも出ている。 ちなみに、「インフレになれば、将来の物価上昇を見込んで現在の需要が高まる」と言う人がいるが、「将来、食料品が値上がりする」と考えて、現在、10~20年分の食料品を買い溜めする人などおらず、むしろ将来の物価上昇に備え、現在は節約して貯蓄を増やすものである。 しかし、日本政府は「(本来の意味とは逆の)2%のインフレ目標」を掲げて、「インフレになれば賃金が上がる(実際は、そうはならない)」と言って物価を上昇させ続け、⑥⑧⑨のように、米価も高止まりさせた結果、米価は2024年12月に2023年12月の1.7倍となり、コメは必需品であるため、「令和のコメ騒動」となったわけである(https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20250128.html 参照)。 そして、所得の低い層や年金生活者の中には、食事の回数や量を減らしている人もいるのだが、農水省は、*1-2-4のように、大凶作などに限っていた(⁇)方針から転換して政府備蓄米を放出し、1年以内に同量を買い戻すそうだが、米不足の時に備蓄米を放出するのは備蓄の目的の範囲内だと考える。 なお、政府は、⑩⑪のように、農家や生産者の自主性を重んじるために、2018年に主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめたそうで、私は、それは良いと思う。また、農家に自給率の高いコメから自給率の著しく低い麦・大豆への転作を促す補助金を残したのも妥当だと思うが、家畜飼料に米が最も適しているかどうかについては異論がある。 さらに、⑫⑬のように、「政府が産地毎の農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の目安を示す仕組みを残したが、その需給見通しに訪日外国人の急増による需要の広がりは織り込まれていなかった」そうだが、中央政府が日本全国の生産量の目安を示したり、需要の変動を加味して在庫管理したりするのは無理であるため、生産計画は民間に任せ、許容できない価格変動をした場合に備蓄米というシステムを使って価格調整するのが適切ではないかと思う。 そして、⑭の生産調整と呼ぶ減反政策と減反の見返りに配る補助金は止め、⑮のように、大規模生産が著しく生産コスを下げる米・麦・大豆のような作物は、大規模生産し、生産方法も改善して、国際競争力を持つ生産コストにするのが本当の改革だと考える。 (3)中山間地と畑作物について 「中山間地は、耕地面積が狭いので農業に不利」という主張もよく聞くが、*1-3-1は、①広島県の農業法人は、冷涼な標高800mの山間部から瀬戸内海に面する低地までの県内5市で気温差を生かした栽培をしてリレー出荷し、約130haの全国有数規模でキャベツを周年出荷している ②ドローン・営農支援アプリでの作業記録管理と確認・自動収穫機・QRコードでの苗管理・自動操舵システム搭載トラクターなどのスマート技術を組み合わせて効率を高め、中山間地に適した作業体系を確立している ③農地は農地バンクを通じて借りるなどし、1カ所当たり10~20ha規模に集約した ④大規模生産を支えるのは、スマート技術による作業の効率化 ⑤ドローンを約20台所有し、農薬散布ではトマト・ネギ・サツマイモ・飼料作物も含めて計500ha規模で活用 ⑥搭載カメラで撮影した畑の画像を解析して収量を予測したり、鹿対策として赤外線カメラで畑周りの生息域を特定し、効率的な捕獲に繋げたりしている ⑦20人ほどの従業員が移植・収穫・次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業 ⑧生鮮用やカットサラダ等の加工・業務用としても出荷 としている。 「米か芋さえあれば、人間は生きられる」わけではなく、肉・魚・野菜・果物もバランス良く摂取しなければ健康を保つことはできない。そのため、①のように、中山間地の高低差を利用したり、南北に長い日本の国土を利用したりしてリレー出荷するのは良いアイデアだと思う。 この時、生産効率を上げるには、②のように、スマート技術を組み合わせて使う必要があるが、現在は、米の生産と比較して中山間地でのスマート化は遅れていると言わざるを得ない。しかし、中山間地であっても、③のように、10~20ha規模に集約して、④⑤⑥のように、スマート技術で大規模生産を支えなければ、コスト競争に負けそうだ。 そのため、*1-3-2のように、全国のプロ農業経営者14人が発起人となり、新組織を立ち上げて、「中山間地の狭い農地でも効率的に作業できる農機」「コストを抑えた環境に優しい肥料」「生産現場が使い易い農業技術の開発・普及」のため、農家の視点を取り入れた技術で、農機メーカーはじめ農業関係の企業・団体と作業負担の軽減や生産コストの低減等の経営課題解決を目指しているのは重要なことである。 さらに、⑧のように、生鮮用やカットサラダ等の加工・業務用としても出荷し、さまざまなニーズに対応することは、無駄をなくし、付加価値を増やすことに繋がる。 従って、必要な農機具を迅速に開発して(海外も含む)必要な場所に速やかに提供できるようにしたり、生産物の適格なマーケティングをしたりするために、(農業自体や農業機器の生産も産業なので)農水省と経産省が合併し、双方が長所として持っている知恵を共有するのがBestだと、私は考える。 なお、⑦のように、20人ほどの従業員が移植・収穫・次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業しているとのことだが、有能な従業員を集め、待遇を良くすることができるためには、後で書くとおり、さまざまな方法があるため、政府は規制でそれを妨げないようにすべきだ。 (4)農業に関するその他の意見 1)キャノングローバル総合研究所の「農業に関する6つの提言」 キャノングローバル総合研究所は、*1-4のように、「現在の農政は、基本原則だけでなく、政策手法についても大きな間違いを犯している」として、食料・農業・農村基本法見直しに関して、国民全体の利益という視点から、食料安全保障・多面的機能という利益を確保・向上させる方法を記述している。 確かに、「OECDが開発したPSEという農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である」というのは、尤もであり、正しい。 そのため、「農家受取額に占める農業保護PSEの割合は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%(約4兆円)と高く、日本の農業保護は消費者負担の割合が圧倒的に高い」「日本は直接支払いが少ないことで、欧米の方が手厚い農業保護を行っていると主張する農業経済学者がいるが、事実ではない」というのも、そのとおりだろう。 そして、GDPが大きい筈の日本より、外国の市場の方が豊かさを感じることから、これらは体感とも一致している。旅行や出張で海外に行った時には、その国の市場・スーパー・デパートなどに寄って売られているものの種類・分量・価格を日本と比較すれば、その国の人の暮らし・物価水準・日本における高関税の状況がわかるので、お薦めする。 「日本における高関税の理由は、欧米は直接支払いであるのに対し、日本の農業保護は価格支持中心で国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならず、その関税で農家を守り、それを負担しているのは消費者である」というのも、そのとおりである。 つまり、消費者は国産農産物の高い価格を維持するために、輸入農産物に対する高い関税も負担し、農業保護のため国内消費者が負担する額は「内外価格差に国内生産量をかけたPSE+輸入農産物にかかる高い関税」の両方なのである。これに対し、輸出国であるアメリカやEUは輸入が少ない上に関税も低いので、輸入農産物による消費者負担は殆どなく、PSEを国民負担と考えてよいのだそうだ。 アメリカもEUも、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いによって農家所得を確保しており、直接支払いの方が価格支持より優れた政策であることは、世界中の経済学者のコンセンサスだそうだ。何故なら、価格支持は、市場で実現する価格よりも高い価格を農家に保証するため、需要は減少するが供給は増え、需給が均衡する市場では起きない過剰が生じるからだ。 そもそも、日本では1995年まで戦後の食糧管理制度が残っていたこと自体が不作為だが、それを廃止した際、高い米価を維持するために減反で供給を減少させることを選択し、日本政府は過剰米を防ぐために補助金を出して減反し、その結果、農家のやる気を削いで食料自給率低下と耕作放棄地の増大を招き、金を使った上に食料安全保障からはかけ離れた状況になったのだ。 そこで、*1-4は、提言として「①消費者に負担を強いる農政を転換しよう」「②減反を廃止するだけでよい」「③私的経済の活用で国民負担を減らせ」「④市場を歪ませ不正を生んだ政策の是正を」「⑤食料自給のためにも米の増産と輸出を」「⑥肥大化した農政をスリムにしよう」を主張している。そして、米価高騰時に物価対策とは逆のことを行っている自民党農林族・JA(農協)・農水省の農政トライアングルを挙げているが、JAは自民党の得票源であり、得票を増やすにはJA傘下に多くの農家がいた方が良いことから、この構造改革は大変だろう。 しかし、日本国民の炭水化物摂取の多くは既に米からパンに移り、小麦は消費量の14%しか自給していないのだから、麦や大豆(蛋白質を多く含む)の生産拡大を推進する補助金は必要である。そして、この補助金は私が衆議院議員時代に増やしたもので、1970年からの減反(単に米の生産を止めて休耕田にすること)とは、意図が全く異なる。 さらに、*1-4は、「財務省は減反の補助金を払いたくないため、水田を畑に転換するための補助金を支出しようとしているが、日本に適した農産物は米だ」としている。しかし、必要な栄養をバランス良く摂取するための食糧生産は、米か小麦かの2択ではないし、日本に最も適した農産物が米とも限らない。それに加えて、数年前の国産小麦はパンを作っても膨らみが悪い上に高かったが、品種改良のおかげか現在は膨らみがよくなり、円安で輸入小麦との価格差も小さくなっている。そのため、製粉業界も小麦の品種改良・イースト菌の改良・小麦生産の低コスト化などに協力したらどうかと思う。 なお、*1-4は長いので逐一コメントはしないが、農地の集約が進めば生産コストが下がって国際競争力のある農産物価格になり、消費者負担が減ると同時に、農家所得は増えて農業が魅力的な職業になる。また、産出国や品種による違いを除けば、一物一価でなければおかしい。さらに、最近の米は低温保存で新米と古米の味が違わなくなったので、牛乳等ももっと日持ちして無駄のない保存方法がある筈だ。そのため、それらの進歩を活かすシステムが必要なのである。 2)Presidentの「卵の自給率」など なお、*1-5-1は、最近値段の上がった養鶏農家の集約化と大規模化が進み、10万羽以上を飼う大規模養鶏場も珍しくなく、大規模養鶏場だけで全国の飼養羽数の75%を占め、卵も鶏肉も同様の傾向だが、飼料の大半は主に米国からからの輸入とうもろこしで、これを考慮すると自給率は10%程度だそうだが、それでは食糧安全保障に資さない。 また、卵も最近値段が上がったが、*1-5-2のように、2025年1月31日時点で、今シーズン(2024年秋~2025年春)の鳥インフルエンザは14道県48件発生し、約911万羽が殺処分になり、それと同時に卵の価格が上がって、東京地区ではMサイズで305円/kgとなり、1月上旬から80円上昇したのだそうだ。 しかし、2022年に過去最大の鳥インフルエンザが発生し、26道県84件、約1771万羽が処分されて、東京地区の卸売価格は350円/kgとなり「エッグショック」と呼ばれたが、その後も、鶏舎を改良して一部で鳥インフルエンザが発生しても全体には感染せず、ヒステリックに何万羽も殺処分しないですむようにするとか、外部から鳥インフルエンザウイルスが入り込まない鶏舎の造りにするなどをしなかったのは、むしろ不思議である。 そのため、卵の価格を上げる目的で、鳥インフルエンザと称して鶏を殺処分しているのではないかと思われ、このような後ろ向きのことを改善もなく何年も何年も国費で行ない、養鶏農家を集約したり、卵の価格上昇で消費者負担を増やしたりするのは、論外だと考える。 (5)森林と林業の重要性 1)縄文時代は、本当に農業がなかったのか? *2-3は、①弥生時代に稲作が広がるまでは、クリやドングリを主体とした採集・狩猟・漁労で食料を得ていた ②イネとともにアワやキビが伝わった頃、中国北部では雑穀を中心とした農業社会が起きていた ③縄文時代晩期末の七五三掛遺跡(長野県小諸市)から出土した縄文人の骨のコラーゲン炭素同位体から、アワやキビを食べていた ④縄文時代の畑は確認されておらず、農業社会には至っていない ⑤縄文人は食料生産のために自然を改変する発想がなく、存在するものを管理して収穫増を計るが、植物を育てる田畑を作る発想はなかった ⑥縄文人は周囲をある程度管理して、ヒエやマメ科のダイズ・アズキの栽培化が進んだ ⑦栽培化と農業は同時期に起きたと考えられていたが、急に農業が確立したのではなく、徐々に進んで農耕という程ではないが、管理した土地の周辺のものを採集していた時期があった 等としている。 しかし、我が国の縄文文化を代表する三内丸山遺跡は、縄文前期中葉から中期末葉の約1,700年間の生活の痕跡が継続して発見されるが、遺跡の広がりは約42haと広大で、各時期のゴミ捨て場や盛土は大量の遺物を含み、約1,000年間に廃棄物が堆積した厚さは約2mに達し、その中には土偶・北海道産/長野県産黒曜石・新潟県産ヒスイ・岩手県久慈産琥珀・アスファルトなど特定の産地でしか採れないものもみつかり、交流・交易の範囲の広いことがわかっている。 これは、住民全員が狩猟・採集・漁労などの食糧獲得活動をしなくても、別の生産活動をするプロを養えるだけの生産性の高さが農業にあったということだ。事実、三内丸山遺跡ではクリやクルミをはじめ木の実が多く出土し、土壌中から大量のクリ花粉が検出され、その量的な比率から集落周辺にはクリの純林が広がっていたと推定されるが、クリは人が下草を刈るなどして成長を助けなければ純林にならないため、各種自然科学分析の結果を総合すれば、縄文人は集落の周囲の林に手を加えて有用な植物が育ちやすい環境を作り出し、持続性の高い生活を営んでいたことがわかるそうだ(https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/news/news_002・・・ 2021年8月3日文化庁文化財第二課埋蔵文化財部門 参照)。そのため、①は、農業を「稲作」「畑作」と定義し、クリやクルミの栽培を「採集」に分類している点が誤りであろう。 また、②③のように、七五三掛遺跡出土の縄文人がアワやキビを食べていたことから、縄文晩期に長野県に農業社会があったことは確実で、④の「縄文時代の畑は確認されていない」というのは、田畑は数年放置すれば草地や森に戻るため、「畑が確認されていない」ことをもって「農業社会には至っていない」とは言えず、⑤のように、縄文人は「食料生産のために自然を改変する発想がなかった」とも言えない。そして、人が下草を刈ってクリの木を増やし木の成長を助けたり、アワやキビを栽培したりして、作物の生産性を上げるのは、農業そのものである。 そのため、⑥については、縄文人は、ヒエやマメ科のダイズ・アズキの栽培化を進め、⑦については、人が手を加えて栽培し、生産性を上げ始めた時点が農業の始まりというのが正しいだろう。そして、農業に限らず、技術は生産性の向上を目指して良い物を取り入れながら徐々に進むが、持続可能であるためには、どの時代であっても環境を維持管理することが必要不可欠で、食糧の生産量に応じて養える人口には上限があるわけである。 2)現在の森と林業 イ)鳥獣被害対策 (5)1)で述べたとおり、縄文時代から近年までは、集落の周辺にクリやクルミの林を作ったり、森の動物を狩猟したり、森の恵みを採集したり、森の木を伐採して建物を建てたりして、森林をフル活用していた。 しかし、最近は、*2-2のように、「クマによる人身被害が急増している」と何年も騒ぎ続けながら、警察署の横にある建物の中に入った熊でさえ警察官が見守るだけで手を出せなかったり、「シカやイノシシ等の野生動物による農業や林業への被害が深刻だ」と何年にも渡って言い続けながら、有効な手を打たなかったりすることが頻発している。 また、「野生鳥獣による農作物被害額が2022年度に156億円に及び、その約6割がシカ・イノシシによるため個体数の管理は必要だ」と言いながら、せっかく猟友会がシカやイノシシを狩猟しても「駆除して減らす」だけで利用しないことが多いため、現代人の個人的能力は縄文人以下のように思われる。 なお、「ハンターは趣味の愛好家で、地域のためにボランティアで活動しているため、ハンターの高齢化や数の減少が止まらない」という話も、私が衆議院議員時代から聞いているのに、未だに解決されていないため、大学で森林管理・生態系・狩猟学を一体で教えて森林と野生生物を管理することは重要である。 そして、それは、人口減の時代であっても、*4-1のように、若くして退官する自衛官の希望者に森林管理・生態系・狩猟学などを教えて「森林レンジャー」として雇用したり、国有林で自衛隊の演習をかねて狩りを行い、多すぎる野生鳥獣を減らせば、森林の問題点把握・保護活動・自衛隊の演習が同時にできる。また、民有林であっても、クマが出て危険な場所は、地方自治体などが「森林レンジャー」を雇用して有効に管理するのが良いと思う。 なお、一般住民のゴミの出し方にまで注文が多いと、一般住民も住みにくい上に、ゴミを出せないゴミ屋敷が著しく増えるため、地方自治体が工夫してゴミを出しやすいシステムにすべきである。そして、これらについて、人手不足は言い訳にならない。 ロ)水を育む森林(水源林) *2-1は、①東京都は、水源林として主に山梨県の多摩川上流にある森を買い続け、25,000ha所有する ②1960年代に利根川・荒川水系が上水道に本格利用されるまで、多摩川は都民の「命の川」であり、水源地の荒廃を憂えた東京府(当時)が自ら管理を始めた ③植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保することが目的だった ④山梨県小菅村の森の中で源流域保全のために間伐や枝打ちをする担い手はボランティアの「森林隊」 ⑤世界では各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、地球温暖化もあいまって森林面積は減り続け、それに伴う水不足も深刻化している としている。 水もまた食糧と同様、人口の上限を決める上、農業用水や工業用水も必要であるため、水源林の保全は重要だ。そのため、①②③の東京都の事例のように、大量の水を利用する豊かな自治体が、植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保する目的で森を買って自ら管理するのは望ましいことだと思う。 しかし、⑤のように、各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、森林面積が減り続けて水不足も深刻化するのは論外であるとしても、④のように、日本も「源流域保全のために間伐や枝打ちをする人が意識の高い無償ボランティアで、水を当然のように利用している人は利益を得る」というのも理屈に合わない。そのため、水源林の保全のためにも、労働に見合った適切な報酬を支払って「森林レンジャー」を雇用することが必要不可欠である。 (6)その他の人手不足業種 1)埼玉県八潮市の道路陥没事故と上下水道の更新 ![]() ![]() ![]() 2025.1.28防災危機管理News 2025.2.3毎日新聞 2025.2.3日経新聞 (図の説明:左図のように、重機が入っているだけで、命をかけて人を救助する筈の多くの消防隊員は突っ立っている。また、中央の図のように、何日もかけてスロープを作ると決定した段階で、被害者である運転手は見捨てられたのだ。そして、右図は、スロープができたら、スロープの強度を高めたり、土嚢を入れたりしているのであり、被害運転手の救助という最大の課題はとっくに忘れ去られている) *3-1-1・*3-1-2・*3-1-3・*3-1-4によると、①28日午前に埼玉県八潮市で県道が陥没してトラック転落 ②「穴の内部に水が溜まり周囲の地盤が不安定で崩落による二次被害の可能性を否定できない」として、2月2日夜になっても消防の救援隊が穴の中に入って運転手を捜索する活動に入らない ③県は穴に繋がる緩やかなスロープ2本を造成し周辺で土壌改良を実施する大規模な工事を続け、現場はショベルカー等の重機やトラックが行き来し、2月1日朝に完成したスロープの強度を強めたり、土囊を入れたりする作業をした ④県等はスロープの完成を受けて本格的な救助活動を進める予定だったが、穴内部の水位が上昇し、消防隊員らの安全確保のため救助活動を中断 ⑤県は破損した下水道管の水の流れが悪くなっているため、管内になんらかの異物があるとみて、ドローン等を使って調査する方針 ⑥運転手の70代男性が閉じ込められた運転席は土砂等に埋もれて確認できない ⑦2月5日に行われた県のドローン調査で、陥没地点の100~200m下流の下水道管(直径4.75m)内にトラックの運転席部分とみられるものが確認 ⑧運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけない ⑨一部が流水につかり、男性の姿は確認できなかったが、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみている ⑩消防は2月9日朝、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開、手がかりが見つからず、崩落による二次被害の懸念が高まり、約30分で打ち切り ⑪運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内の捜索を検討したが、同日、トラックの男性運転手の穴の中での捜索を終了した ⑫県は2月10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けた としている。 上下水道インフラが適時に更新されず老朽化が進んでいることは前から言われていたが、①の1月28日午前に埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故は、想像以上だった。 しかし、事故対応は、②③④⑥⑩のように、「運転手の70代男性が閉じ込められた運転席は土砂等に埋もれている」と考え、県等は「穴の内部に水が溜まり、周囲の地盤が不安定で崩落による二次被害の可能性を否定できないため、スロープが完成すれば本格的な救助活動を進める」として、重機でスロープ2本を造成し、土壌改良を実施する大規模工事を続け、2月1日朝に完成したスロープは強度を強めたり、土囊を入れたりする作業をしたりしていたが、2月2日夜になっても消防の救援隊は穴の中に入って運転手を捜索する活動に入らず、「穴内部の水位が上昇して消防隊員らの安全が確保できない」などとして救助活動を中断した。 そして、丸12日後の2月9日朝、消防は、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開したが、手がかりが見つからず、崩落による二次被害の懸念が高まったとして、約30分で打ち切ったのだ。そして、この間、メディアも、下水道の更新不足・危険性・更新にかかる費用・人手不足ばかりを強調して報道し、不慮の事故で下水道の中に閉じ込められ、最初は生きて消防士と話をしていた哀れな運転手の救助には滅多に触れず、重機で穴を掘ったり、スロープを作ったり、穴の周囲にぼさっと立っている人の写真ばかりで、「あらゆる知恵を出して、生きているうちに(短時間で)人を助け出す」という発想と努力に欠けていた。 そのため、事故に遭った70歳代の哀れな運転手は、下水道の危険性を世の中に広めるための生け贄のようになり、人命の尊さや人命救助のためにいる筈の埼玉県内の消防の無気力・無能を露呈したのである。 しかし、⑤⑦⑧⑨⑪のように、破損した下水道管の水の流れが悪くなっているため、管内に異物があるとみて、埼玉県が2月5日にドローンで調査したところ、陥没地点の100~200m下流の下水道管(直径4.75m)内にトラックの運転席部分とみられるものを確認したそうだ。 そして、トラックの運転席が下水道管の上流側に流れていくわけはなく、流されるとすれば必ず下流側であり、重たいため遠くには行かないので、重機で捜索すると同時に、速やかに下流側からドローンや既にある内視鏡型の排水管検査機器を使って、あらゆる角度からまず被害者である運転手を見つけて助け出すべきだったのだ。 また、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみているが、下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけないとして、同日、トラックの男性運転手の穴の中での捜索を終了したそうで、事故から1週間以上経過すれば被害運転手は亡くなっているだろうが、ここでも被害運転手は見捨てられたのである。つまり、これらは、人手不足の問題と言うよりは、人命尊重意識と教育・応用力・課題解決力・やる気の問題である。 なお、県は、⑫のように、2月10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けたそうだが、これは事故の被害者救出とは関係がない。しかし、今後の下水道管は、管内の様子を自動的に撮影して、位置と画像を無線で報告し、AIでリスク分析するシステムを備えた方が良いと思われる。 2)退職自衛官の再就職について *3-2は、①退職予定自衛官にバス・トラック・タクシーの運転手を紹介する「運輸業合同説明・運転体験会」が陸上自衛隊北熊本駐屯地で開かれ、119人が参加した ②部隊の強さ維持のため、自衛官の定年は一般公務員よりも早い54~57歳の「若年定年制」で、20~30代半ばで退職する任期制もあり、自衛隊は再就職支援に力を入れてきた ③大型車両の運転免許を持っている自衛官は多く、ドライバー不足に悩む運輸業界にとっては「即戦力」となる ④運輸業界から再就職した自衛官OBが説明役で、「健康なら定年なく長く続けられ、(乗客に)挨拶すれば特に会話しなくても構わない(タクシー)」「安定した生活を送れ、地域社会への貢献という点で自衛隊と通じる(路線バス)」等とPRした ⑤来年5月で退官する男性自衛官(55)は「人と接する仕事も楽しそうだし、仕事で運転しているので、路線バスかトラックの運転手を考えている」と話す ⑥熊本運輸支局の岩本輝彦支局長は「2024年問題で運輸業界は慢性的な人手不足で、自衛官は何事も自分で判断できるスキルもあり、どの会社も大いに期待している」と語った としている。 このうち②の「部隊の強さ維持のため、自衛官の定年は一般公務員よりも早い54~57歳」「20~30代半ばで退職する任期制もある」というのは、平均寿命や健康寿命が延びていることを考慮すれば、定年を延長しても良いし、平時は他の職業に従事しながら有事や災害時に招集される予備役として確保しておく方法もある。 しかし、自衛隊を若くして退職した人なら、①③④⑤⑥のように、体力と同時に経験や技量も持っているため、陸自出身なら大型車両の運転免許を活かして人手不足の運輸業界の即戦力として期待できる。そのため、経験や技量を活かした再就職支援をすれば、再就職後も地域社会に貢献でき、その職種は多少の研修をすれば、運輸業界だけではなく、機械化の進んだ建設業はじめ農業・林業でも活かせると思う。 また、空自出身で航空機やヘリコプターのパイロット資格を持っている人であれば、航空・運輸業界だけでなく農業・林業・救急でも即戦力になれそうだし、海自出身で航海士の資格を持っている人なら、運輸・漁業等で活躍できそうだ。つまり、現在は、人手不足で機械化の進む時代であるため、それに合わせた技量を身につけさせれば、人財を無駄なく活用できるのである。 (7)人手不足を言い訳にすべきではないこと 1)退職自衛官の活用 *4-1は、①岸田首相(当時)は、2022年11月28日、防衛費を2027年度にGDP比2%に増額するよう関係閣僚に指示 ②政府与党の「防衛族」は新たな装備品(長射程のミサイル・艦艇・戦闘機等)に予算を誘導しようとする ③現場が欲しているのは人と安心できるキャリアプラン ④安全保障を担う自衛隊・海上保安庁の現場は人集めに苦労 ⑤自衛官採用には定年と再就職先がネック ⑥地方自治体の防災監として採用されるケースも増えたが、正規職員のポストを用意できない ⑦恩給の支払いができなければ、若年定年退職者は社会保険料の企業負担分を国で面倒見るぐらいのサポートがあって良い ⑧制服組でも将・将補クラスは、天下り規制に引っかかって自衛隊独自の再就職斡旋システムを利用できない ⑨採用難と退職後のキャリアプランの難しさがある 等と記載している。 このうち①②は、多くが米国から長射程ミサイル・艦艇・戦闘機等の装備を購入する前提のようだが、i)どういう事態を想定し ii)どのような作戦の中で iii)どのようにその装備を使うのか iv)その有事の時に、(自給率の低い)食糧・エネルギーや武力攻撃に対応していない原発のリスクはどうするのか を全く考えておらず、プラモデルを集めるかのように、国民の血税を源泉とした大きな予算をつけているため、無用の長物を買っている無駄遣いと言わざるを得ない。 また、③④⑤⑨は「自衛官の採用には定年と再就職先がネックで、自衛隊は人集めに苦労し現場は人と安心できるキャリアプランを必要としている」とするが、退職自衛官は体力があり、独特の技量を持っているため、持っている長所をブラッシュアップして再就職すれば、(6)2)に記載したとおり即戦力になれる。そのため、再教育の仕組みと再就職の選択肢を示し、現役の頃からキャリアプランを意識して仕事をし、資格等もとっておくのが良いと思われる。 なお、⑥は「地方自治体で採用されるケースでは、正規職員のポストを用意できない」としているが、地方自治体は、女性や中途採用者を非正規職員にする場合が多く、これは能力や事情による待遇差ではなく、弱者からの搾取であるため、正規職員にすべきである。従って、⑦のように、「社会保険料の地方自治体や企業負担分について、サービスを受けているわけではない一般国民の税金で面倒見る」というのは、全く筋違いなのである。 さらに、⑧は、「制服組でも将・将補クラスは、天下り規制に引っかかって自衛隊独自の再就職斡旋システムを利用できない」としているが、天下りの問題が起こるのは自衛隊が装備品を購入する等の影響力を持つ企業に再就職する場合に限るため、「恩給+自らの能力で得た再就職で得る収入」で何とかすべきであり、これは50代で民間企業を転職した人も同じ条件なのだ。 2)就業者数は最多になっているが・・ ![]() ![]() ![]() CenturyMaruyoshi Airinku 2023.10.9NewsPicks (図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で両方とも減少傾向にあるが、理由は、死亡率の減少・寿命の伸び・教育の普及・結婚願望の低下等だろう。中央の図は、結果として現れた年齢階級別の人口推移で、0~14歳と15~64歳の人口割合が減少し、65~74歳と75歳以上の人口割合が増えている。そのため、“生産年齢人口”の定義を18~75歳と定義しなおすのが、全体から見て適切だと思う。なお、右図のように、明らかに人口構成の変化があるため、商品やサービスのニーズも1990年、2025年、2040年では異なるわけである) *4-2は、①2024年の就業者数は6,781万人と前年から34万人増えて1953年以降最多 ②女性・高齢者の就労が広がったが、女性・高齢者は働く時間が短いため想定より労働力の確保に繋がっていない ③女性・高齢者による就業者増は限界があり、2040年時点の就業者数は最も低いシナリオで5,768万人 ④日本経済は生産性を高めながら人手不足に対応する課題に直面しており、今からAI等を活用した生産性向上で働き手減少に備える必要 ⑤就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)は2024年は61.7%と前年から0.5%拡大 ⑥女性就業者は前年比31万人増の3,082万人で最多、高齢者就業率も65歳以上が前年比0.5%増で25.7% ⑦雇用形態別では正規雇用39万人増、パート・アルバイト・契約社員等の非正規雇用2万人増 ⑧非正規雇用の待遇を同等の業務をする正社員と揃えたり、勤務地を絞る限定社員を廃止して正社員と同じ待遇に揃えたりする企業も ⑨若手人材確保のため、30万円以上の初任給を提示する企業も ⑩介護・建設分野で有効求人倍率4倍超の職種もあるが、事務系は1倍未満 等としている。 2023年度の高校進学率が男女とも99%に近く、大学進学率(短大を含む)が61%である中、⑤のように、就業率を「15歳以上人口に占める就業者の割合」と定義していることは、1950年代の発想であり古すぎる(https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Data/Popular2024/T11-03.htm 参照)。そのため、生産年齢人口を「18~75歳」と定義し、就業率を「18歳以上の人口に占める就業者の割合」と定義するのが、現在の状況にあっていると、私は考える。 また、大学に進学すれば22歳が最低卒業年齢で、大学院の修士課程まで進学すれば24歳、博士課程まで進学すれば27歳が最低修了年齢であるため、この期間は正規雇用で働くことができず、これらの世代で正規雇用率が低いのは当然ということになる。 そして、“生産年齢人口”の定義で65歳を最高齢としたままでは、最高38年(65-27)の正規雇用期間で、男性の場合なら65歳男性の平均余命20年(65~85歳)分・女性の場合なら平均余命24年(65~89歳)分の生活費(公的年金、公的医療・介護保険を含む)も稼いでいなければ困窮することになり、“生産年齢人口”の期間には子育て費用も払わなければならないため、65歳時点で老後生活資金が十分な人はむしろ少ないのである(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=60984?site=nli#:~:text=・・・ 参照)。 そのため、上の左図のように、合計特殊出生率の減少で我が国の出生数が減り、上の中央の図のように、2012年以降は人口が減り始めると同時に65歳以上の割合が増えているにもかかわらず、①⑥のように、2024年の就業者数が1953年以降最多になったのは、女性及び高齢者(65歳以上)の就業率が増えているからであり、これは自然なことである。 にもかかわらず、②③⑦のように、女性・高齢者でパート・アルバイト・契約社員等の非正規雇用が多く、「女性・高齢者は働く時間が短いため想定より労働力の確保に繋がっていない」「女性・高齢者による就業者増は限界がある」などと言われているが、女性が働く時間を短くせず、キャリアも中断せずにすむためには、充実した保育・教育・学童保育・介護制度が必要なのだ。そして、これらのサービスはブルーオーシャンでもあったのに重視されず、女性に無償労働を押しつけてきたことが合計特殊出生率を必要以上に低下させたのだということを、日本政府はまだわかっていないようで、それが、⑩のように、介護分野で有効求人倍率が4倍超もあり、サービスする人が集まらない原因になっているのだ。 なお、⑧の非正規雇用については、アルバイトでなければ、勤務地を限定しようと勤務時間が短かろうと、(報酬金額は変わるだろうが)働いている以上は正規雇用にすべきで、非正規雇用にして社会保険料(医療保険・介護保険・年金保険・雇用保険・労災保険)を払わないのは、企業の大小を問わず、社会保険料を払って支えている人や企業に対して狡いのである。 また、④のように、「日本経済はAI等を活用して生産性を高めながら、人手不足に対応する必要がある」というのは事実で、失業率上昇の心配なく生産性を高められるのは良いことである。 ただ、⑨のように、若手だけを人材確保のために初任給30万円にしてボーナスを入れ年間500万円支払うとすれば、扶養家族のないその新人は、所得税約30万円、住民税約26万円、社会保険料約71万円(厚生年金保険料46万円、健康保険料25万円)の合計約127万円(年収の約25%)を国と地方自治体に払うことになる。給与の高い人は、さらに多くの金額を支払い、40歳以上になると介護保険料も支払うが、これだけの金額を支払っても、無駄使いなく国や地方自治体からのサービスで報われているか否かは、最も疑わしくて重要な問題なのである。 3)外国人労働者、留学生、移民・難民 イ)日本で働く外国人労働者の状況 ![]() ![]() ![]() Rise For Business 厚生労働省 FUND INNO (図の説明:左図は、在留外国人数と外国人労働者数の推移で、中央の図は、産業別外国人労働者数の推移だが、人手が足りない介護分野や建設業で未だ少ない。右図は、2019年度に始まった在留資格「特定技能」の内容だが、受入可能分野を狭くしている上、家族の帯同を許さない等の制限を多くしている点で、使う人の立場を考えた制度になっていない) *4-3-1は、①日本で働く外国人労働者が2024年10月末は230万2,587人 ②外国人労働者の職場環境改善のため、国は2007年から外国人を雇用した企業・個人事業主にハローワークへの届け出を義務づけ ③国籍別は、ベトナム57万708人・中国40万8,805人・フィリピン24万5,565人 ④増加率は、ミャンマー61%・インドネシア39.5%・スリランカ33.7% ⑤人手不足解消のため2019年度に始まった在留資格で、建設業・介護など16分野の「特定技能」で働く人が20万6,995人 ⑥厚労省は「人手不足等を背景に外国人労働者が増加し、医療・福祉、建設業の増加率が高い」とコメント としている。 “生産年齢人口”割合が低下して日本人の若者が減少すると同時に、日本人の若者の職業選択と求人が合わずに有効求人倍率の高くなる産業が出たり、日本人の生産性と比較して人件費が高すぎ、国内の産業が空洞化してしまうような場合には、外国人労働者の採用が必要不可欠である。 そのような中、①②のように、日本で働く外国人労働者が2024年10月末に230万2,587人となったため、外国人労働者の職場環境改善が必要であるのはよくわかるが、職場環境改善はハローワークに届け出を義務づけたらできるかは疑問だ。 なお、③のように、現在の国籍別外国人労働者数は、ベトナム57万708人・中国40万8,805人・フィリピン24万5,565人だが、増加率は、④のように、ミャンマー61%・インドネシア39.5%・スリランカ33.7%と、(すべてアジアではあるが)より開発途上国の方にシフトしており、これも国別年間所得の差から必然であろう。 政府は、人手不足解消のため、⑤⑥のように、2019年度に「特定技能」という建設・介護はじめ上の右図の産業を加えた在留資格を開始し、現在は「特定技能」で働く人が20万6,995人いるそうだが、これからは日本人の失業率が高くなるわけではなく、人手不足や人件費高騰で既に成り立たなくなっている産業もあるため、政府が(狭い視野で)外国人労働者を受入れられる業種を決めるのではなく、民間のニーズに応じて外国人労働者を受け入れられるようにすべきだ。 また、*4-3-2は、⑦深刻な人手不足で四国は外国人材増加 ⑧多文化共生は日常 ⑨愛媛県は製造業を中心に外国人労働者が増加、地域別では造船業が盛んな今治地域が全体の3割 ⑩独立系造船会社新来島どっくは、491人の外国人労働者が働き、日本人の人材確保が厳しい中で鉄加工全般や塗装等の重要な戦力として活躍 ⑪高知県は四国銀行が人材紹介6社と提携して取引先に外国人材採用を提案 ⑫高知銀行は技能実習生受け入れをサポートする監理団体4団体と業務提携 ⑬香川県は人材紹介8社と連携協定を結び、企業と外国人材のマッチングに乗り出した ⑭香川銀行もノンバンクのJトラストと提携して取引先にインドネシア人材の紹介開始 ⑮徳島県は2024年9月から半年の予定で、外国人のための無料職場体験プログラムを実施して、徳島県内での就職に関心ある留学生と採用に前向きな県内企業との出会いの場を設定 ⑯異なる人種・文化・価値観を尊重する多様性の推進は四国の活性化に不可欠 としている。 上の⑦⑧⑨⑩⑯は、外国人労働者が実際に必要とされており、(日本にいる限り、日本の法律を守ることは当然だが)外国人労働者を受け入れた地域は異なる人種・文化・価値観を尊重して多文化共生しており、⑪⑫⑬⑭⑮のように、県や信用できる企業が地域のため外国人材の採用を提案したり、企業と外国人材のマッチングをしたり、外国人留学生のための無料職場体験プログラムを実施して県内での就職に関心ある留学生と採用に前向きな企業の出会いの場を設定したりしているということで、このやり方であれば前向きで安心できる。 さらに、外国人を雇った企業から「問題なく働けている」「文化や考え方の違いが刺激になる」「海外の知見を取り入れることで、会社全体の活性化に繋がった」等のポジティブな声が聞こえており、外国人材は実際に各地で活躍しているそうだ(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202406_001.html 参照)。 なお、外国人と協働するには言語がネックになる場合が多かったが、*4-6のように、スタートアップがIT(情報技術)を活用して外国人と協働しやすい環境づくりを急いでおり、「カミナシ」が13言語対応の従業員教育サービスを開発したり、「DXHUB」が企業が採用した外国人に日本語教育ソフトを提供して日本語学習の履歴を管理し、その学習履歴を昇給や賞与の判断材料にできるようにしたりしており、言語の壁は低くなりつつある。 ロ)外国人留学生と日本人学生の動向 *4-4-1は、①AI等先端分野人材の確保のため、文科省・東大等がインドからの留学生獲得を強化 ②インドの大学院生300人弱の留学費用を支援し、2028年度迄に留学生を倍増 ③理工系に強いインドから人材を受け入れ、日本の研究力や産業競争力向上に繋げる ④2025年度から文科省はAI等を学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に日本での生活費や大学での活動費として1人300万円支援 ⑤インドで働くITエンジニアの平均年収は約127万円で、支援額は約2.3倍 ⑥留学生支援は1年間で、日本への定着を視野に企業のインターンシップへの参加も促す ⑦受け入れ大学は2025年度に公募し科学技術振興機構(JST)が審査 ⑧東大・立命館アジア太平洋大(APU)等の国内大学、大使館、民間事業者など50を超える機関が2024年度にインド人留学生を増やす連携組織を立ち上げ ⑨人口14億人のインドは伝統的に理工系人材の育成に強く引用数が上位10%に入る「注目論文」数が世界4位(日本は13位) ⑩インド人学生は英語が得意で日本より英語カリキュラムが充実している欧米の大学を目指す傾向 ⑪インドのほか国際的な存在力を増しているアフリカの大学も対象に 等としている。 私はPWCで監査していた時に,インドステイト銀行日本支店(https://jp.statebank/ja/about-sbi-japan 参照)を監査する機会があったが、そこの行員は本当に優秀な人たちだった。また、インドは公用語が英語であるため、EY東京で私が英語で書いた「Tax Opinion」を日本時間の夕方5時くらいまでにEYのインドオフィスにFaxしておくと、翌朝にはネイティブイングリッシュになり、疑問があればそれも記されて送り返してきていた。そのため、時差を有効活用して、速やかに、ネイティブイングリッシュで、外国人にもわかり易い「Tax Opinion」を作成することができたのである。 そのため、①②のように、インドの大学院生の留学費用を支援し、AI等先端分野人材の確保のために文科省・東大等がインドからの留学生獲得を強化し、日本の研究力や産業競争力向上に繋げようとしているのは良いと思う(ただし、先端分野はAIだけではない)。 特にインドは、「0」の概念を発見した国で、⑨のように、伝統的に理工系人材の育成に強く、人口14億人という母集団がおり、引用数が上位10%に入る「注目論文」数が世界4位であるため、③のように、理工系に強いインドから人材を受け入れて日本の研究力や産業競争力向上に繋げるのは経済合理性もある。逆に、日本の「注目論文」数13位という結果は、日本の教育と社会の仕組みが理系に進む人数を制限し、「個性を伸ばし、誰もやっていないことをする」のを嫌う国民性によって、もともと持っている能力を抑えつけた結果であると、私は考えている。 従って、④のように、文科省がAI等を学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に2025年度から日本での生活費や大学での活動費として1人300万円支援することにし、⑥のように、企業のインターンシップへの参加を促して日本への定着進めれば、眠ったような日本にとって良い刺激になると思われる。そのため、⑦⑧のように、東大はじめ、多くの関係機関がインド人留学生を増やす連携組織を立ち上げたのには、期待が持てる。 確かに、⑩のように、インド人学生は英語が得意であり、日本より英語カリキュラムが充実し、かつ就職等で差別されることの少ない欧米の大学を目指す傾向があるため、⑤のように、インドで働くITエンジニアの平均年収の2.3倍の支援額がなければ、日本は選ばれにくいだろう。なお、より開発途上国の方が、日本との平均年収の差が大きいため、⑪のように、アフリカ等の大学も対象とするのが良いと思われる。 また、*4-4-2は、⑫東京一極集中を是正し、地方との人口流出入を均衡させる地方創生の1つとして、国は2018~23年度に徳島県に計29億円を投じたが、県内からの進学者は増えなかった ⑬政府は大学進学・就職で地元を離れる若者が多いことに目をつけ、2018年から10年間、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じ、地方大学への交付金を創設 ⑭地方の教育・研究の一定の底上げに繋がったが、若年層の人口動態を変えるには至っていない ⑮島根大学は人材の質が高まるほど県外の大企業から求人が殺到するジレンマに直面した ⑯日本の成長力を高める地方創生の狙いにそぐわない規制自体が不合理 ⑰企業誘致・賃上げ等の総合的取り組みが必要 ⑱経済合理性に反する改革は持続可能ではなく、むしろ国力をそぐ 等としている。 東京一極集中の原因を「進学時に東京に出るから」と考えた点が誤っているため、⑫⑬⑮のように、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じ、地方大学への交付金を創設しても、県内からの進学者が増えなかったのだと、私は思う。 そのため、この政策は、i)確かな原因分析の後に行なわれたのか(多分、そうではない) ii)交付金創設の効果はどのくらいあったのか iii)東京23区内の大学の定員増禁止は、学生に不便を与えなかったのか 等について、結果から分析して評価されるべきだ。 なお、⑭で若年層の人口動態を変えられなかった理由は、世界を視野に活躍できる魅力的な就職先が都会に多かったり、教授や学友と相互に能力を磨きあえたり、就職に有利だったりする大学が東京はじめ都会に多いからであるため、そのようなメリットがないのに小手先の交付金創設で若者の進路や人口動態を変えることができないのは当たり前だと、私は思う。 従って、⑯⑰⑱ように、規制自体が不合理で日本の成長力を高める地方創生の狙いに合わないため、本当に地方創生をしたいのであれば、地元企業を大きく育てたり、企業誘致をしたりして、地方に魅力的な就職先を作ることが必要であり、不合理な改革はむしろ国力をそぐだろう。 それでは、「地方大学はどうすれば良いのか」については、大学のレベルを上げ、日本と所得格差はあるが優秀な学生の多い国々からの留学生を増やし、独自の魅力を作って、日本人学生にとっても魅力のある大学になるしかない。そのため、留学生や日本人学生のための奨学金・教授陣の強化・大学設備の充実・地元企業との有効な連携などが有効なツールになると思われる。 ハ)難民の移住と日本の難民受け入れについて ![]() ![]() ![]() 2023.10.9日経新聞 NHK 2023.5.8長周新聞 (図の説明:左図は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治区の地図である。また、中央の図の黄色の部分が中東諸国だが、世界4大文明のうちエジプト文明とメソポタミア文明発祥の地を含み、大陸の中で揉まれてきた地域でもあるため、ここに住む人たちは、日本人にはない物品・文明・商魂のたくましさを持っている。なお、右図のように、これまでの日本は、世界でも著しく低い難民認定数・難民認定率であるため、他国の移民・難民締めだし政策に文句の言える立場では到底ない) *4-5-1は、①ガザはイスラエル軍の攻撃で建物が破壊され、多くの女性・子どもが戦闘の巻き添えとなって死者4万7千人超 ②トランプ米大統領は、パレスチナ自治区ガザから約200万人にのぼる住民を出して米国が所有・再建する復興案を出した ③トランプ氏は「(地中海のリゾート地リビエラのように)復興したガザに住むのは、帰還したパレスチナ人ではなく、世界の人々」と語った ④「居住地として別の選択肢があれば、ガザの人々はそちらを選ぶだろう」「米国がガザを長期的に所有して開発を進めれば、中東に安定をもたらすことができる」とも主張した ⑤ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は「アブラハム合意を次の段階に進めることが目標だ」と語り、イスラエルとサウジアラビアの歴史的な関係正常化仲介への意気込みを見せた ⑥サウジアラビアは、パレスチナ国家樹立を正常化の条件としている としている。 また、*4-5-2は、⑦サウジアラビアは、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させるというイスラエルのネタニヤフ首相の提案を「断固拒否」と発表 ⑧サウジは「パレスチナの人々はその土地に権利があり、彼らは追放されるべき侵入者や移民ではない」と強い言葉でネタニヤフ発言を非難 ⑨ネタニヤフ首相は、サウジ領内にパレスチナ国家を創設する構想を示唆しつつ、「イスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃後、パレスチナ国家は存在すべきではない」との立場を繰り返した ⑩トランプ米大統領は他の中東諸国に対し、ガザからパレスチナ人を受け入れるよう求めたが、エジプト・ヨルダンは拒否 ⑪イスラエルは戦争で荒廃したガザから港や陸路経由で、ガザ住民を移す計画を策定しつつあるが、i)パレスチナ人が移住を望んでいるか ii)どこに移り住みたいか iii)実際に移住が可能か は不明 としている。 さらに、*4-5-3は、⑫農水省は2025年度から外国人が国内の農地を取得する際の要件を厳格化し、農地取得を目指す外国人が農業委員会に残りの在留期間を報告するよう義務化 ⑬短期間で在留期間が切れる場合は、農地を取得できなくする ⑭取得後、農地が適切に耕作されるか判断する上で、残りの在留期間を把握する必要がある ⑮短期間で遠方に転居する場合も農地取得を認めない ⑯外国人やその関係法人が2023年に取得した国内農地は90.6ha、外国人個人による取得は60ha(2199人)・残り(30.6ha)が法人による取得(農水省) ⑰日本は外国人による土地取得を規制していない としている。 ポイント1:パレスチナ人は、ガザに住み続けて生活していけるのか? ガザ地区は、地中海沿岸に細長く横たわり、長さ約40km、幅6~12km、面積365km²(奄美大島712km²、淡路島593km²、種子島444km²、福江島326km²、小豆島153km²)のエリアに約220万人が暮らしている世界で最も人口密度(6018人/km²、ちなみに東京都全体が6425人/km²)の高い場所で、燃料・食料・日用品・医療品等が慢性的に欠乏し、経済や生産活動も停滞して、国連や支援団体からの援助物資で命を繋いでいる場所である。 また、ガザは人口の約45%が14歳以下の子どもで、7割は難民となった人々だが、「パレスチナの人々はその土地に権利がある」「パレスチナ人は移住を望んでいない」と言っても、「パレスチナ人が、これからもガザで子孫を増やしつつ、住み続けていけるのか?」と言えば、「それは無理だろう」というのが、私の結論だ。 従って、①は非常に気の毒なことだったが、イスラエル人かパレスチナ人のどちらかが移住しなければ、いずれ住む場所もなくなって戦争が再発するし、いつまでも国連や支援団体からの援助物資で命を繋いでいるのは誰のためにもならない。 そのため、②③のトランプ大統領の「パレスチナ自治区ガザから約200万人の住民を出して米国が所有して再建する」「復興したガザに住むのは、帰還したパレスチナ人ではなく、世界の人々」という復興案は米国本位すぎて驚いたものの、よく考えれば、④⑤のように、居住地としてより良い選択肢があれば、ガザの人々はそちらを選んだ方が賢い。また、イスラエルではなく米国がガザを所有するのであれば、パレスチナ人がイスラエルに土地を譲ることなく、中東(イスラエル・イラク・シリア・トルコ・パレスチナ・ヨルダン・レバノン・アラブ首長国連邦・イエメン・イラン・エジプト・オマーン・カタール・クウェート・サウジアラビア・バーレーン)に安定がもたらされ、次の段階に進めるだろう。 ポイント2:パレスチナ国家樹立はどこにするのか? サウジアラビアは、⑥⑦のように、パレスチナ国家樹立をイスラエルとの国交正常化の条件としているが、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させることは拒否している。しかし、⑧⑨のように、国土が広く文化も似ている筈のエジプトやサウジアラビアにパレスチナ国家を創設するのは合理的だと思うが、サウジはじめ他の中東諸国(エジプト・ヨルダン)は、⑩のように、ガザからパレスチナ人を受け入れることを拒否したのだ。 また、⑪のように、i)パレスチナ人が移住を望んでいるか ii)どこに移り住みたいか iii)実際に移住が可能かは不明 とされているが、イスラエルが港や陸路経由でガザ住民を移す計画を策定しつつあるのなら、(他にも良い移住候補地はあると思うが)日本も、淡路島(593km²)・小豆島(153km²)はじめ瀬戸内海地域は地中海沿岸と似ており、国境離島でもなく、近年はオリーブやレモンも作り始めており、人手不足の産業が多く、まとまって住むことも可能であるため、(パレスチナ国家樹立候補地にはならないが)移住候補地になり得る。 そして、⑫⑬⑭⑮⑯⑰のように、農地が適切に耕作されるようにするため、農地取得を目指す外国人は農業委員会に残りの在留期間を報告し、短期間で遠方に転居する場合は農地取得が認められないが、難民として在留資格を得て腰を据えて農業をやる場合には、日本は外国人による土地取得を規制していないため、外国人やその関係法人も農地を取得することができ、2023年には外国人やその関係法人が取得した農地が90.6haあるのである。 ・・参考資料・・ <農家への所得補償は不正解> *1-1-1:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/277523 (日本農業新聞 2024年12月17日) 与野党伯仲国会の審議 農家所得増へ合意探れ 臨時国会は21日の会期末に向けて終盤を迎えた。石破茂首相は所信表明演説で、党派を超えた「幅広い合意形成」を掲げた。国民の命と国土を守る農業、農村政策は試金石となる。農家の所得が増え、展望を描ける農政の在り方について議論を尽くし、合意点を探るべきだ。日本の食料自給率の長期低迷や農家戸数、耕作面積の減少に歯止めがかからなくなっている原因を突き詰め、持続可能な食料安全保障を確立できるのか。臨時国会では、これまでの農政の効果を検証する必要があるとの指摘が相次いだ。石破首相も4日の衆院予算委員会で、「日本が世界の中で食料自給力、自給率、それが突出して低いというのはやはり相当な問題なのだろうと思っている」などと述べ、危機感を示した。だが、議論が深まったとは言えない。現行施策の検証や諸外国の事例の研究を含めて、対応は待ったなしだ。食料・農業・農村基本計画見直しの時期でもあり、与野党は農家手取りを増やす具体的な道筋についてもっと踏み込んだ論争を展開してほしい。とりわけ、違いが目立つのが、直接支払いを巡る議論だ。立憲民主党や国民民主党などは、戸別所得補償制度の名称をあえて使わず、直接支払制度の見直しという観点から提起を始めている。石破首相や自民党の森山裕幹事長が、水田政策などの検討の中で「直接支払いについて議論を深める」と語ったことに呼応したものとみられ、与野党双方が一致点を見いだす努力が求められている。一方、石破首相は戸別所得補償制度を念頭に「(農家の)意欲にブレーキをかけるとか創意工夫に水を差すとか、そういうご意見があることは事実」とも述べ、与野党の主張には依然として差がある。農水省は来年の通常国会に農産物の価格転嫁を後押しする法案を提出する予定だが、同法案を巡っては、納税者負担による直接支払いの是非について再度、論点として浮上するのは間違いないだろう。政府・与党が、従来の立場を繰り返すだけでは法案は宙に浮きかねない。各党の主張の隔たりを超えて、農家の手取り増を実現させるという石破首相の強いリーダーシップを期待したい。与野党は、直接支払いを含めて手取りを増やすために必要な農林水産関係予算を確保した上で、山積する農政課題に正面から向き合うべきだ。自民、公明、国民民主の3党は、いわゆる「103万円の壁」の見直しで合意した。どのように実施するか不透明な部分は残るが、石破首相が唱える熟議の成果だろう。農業の直接支払いについても、熟議の合意を求めたい。 *1-1-2:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/285622 (日本農業新聞 2025年2月2日) 集落機能強化加算廃止に思う 疑いの目を持ち続ける 集落機能強化加算は継続しないこととする――。2025年度から始まる中山間地域等直接支払制度の次期対策について、農水省が示した方針だ。加算を終了する理由の一つに「地域運営組織(RMO)の設立・連携を行うという趣旨が十分に伝わっていなかった」と都道府県や市町村への説明不足を挙げている。しかし、落ち度を認めるのであれば、加算を継続したり、あるいは次期対策から加算を使おうとしていた集落協定も含めて救済措置を講じたり、現場が混乱しないよう対応すべきではないかと思う。集落機能強化加算は、高齢者の見回りや送迎など、生活支援をはじめとする集落機能の強化や、ボランティアの確保やインターンの受け入れといった人材確保を支援している。同省によると、23年度は555の集落協定が取り組み、加算が始まった20年度から年々増えている。制度の効果を検証する第三者委員会での議論を踏まえ、同省が昨年の8月に公表した最終評価では、集落機能強化加算を使う協定は「さまざまな組織と連携して活動している割合が高い」と効果を評価していたが一転、同月末の25年度予算概算要求で加算の廃止が判明した。これを受け、議論してきた内容と合わないとして、委員の求めで11月に臨時で第三者委員会を開催。同省は、既に加算に取り組んでいる協定を対象に、新設するネットワーク化加算で経過措置として支援を続ける方針を示したものの、次期対策から加算を使おうとしていた協定への対応など、課題は残っている。11月の第三者委員会で同省が示した資料は加算の廃止を前提としており、加算のマイナス面を強調していると感じた。今回のように同省が進めたい政策の方向性に沿うデータが提示されているケースは他にもあるのではないか――。本当の意味でEBPM(客観的な証拠に基づく政策立案)となっているのか、常に疑問を持ちながら取材に臨みたい。 *1-1-3:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/285872 (日本農業新聞 2025年2月3日) 農家数激減の現状 直接支払い議論、今こそ 慶応義塾大学名誉教授・金子勝(1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、2023年4月から淑徳大学大学院客員教授。著書に「金子勝の食から立て直す旅」など。近著に、「高校生からわかる日本経済」(かもがわ出版)、「裏金国家」(朝日新書)) 石破茂政権は「令和の日本列島改造」で「地方創生2.0」を打ち出した。食品加工業の育成などを打ち出したものの、農家の直接支払いは含まれていなかった。しかし、農家数が激減する状況を考えるならば、農家の直接支払いは不可欠である。足元を見てみよう。5年ごとの農林業センサスを見ると、農家数は急減し、高齢化とともに中小零細農家の淘汰(とうた)が進んでいる。2005年に208万5000あった農業経営体数は、2020年には109万2000まで半減している。この間、10ヘクタールを境にして中小零細農家の淘汰が急速に進んでいる。 ●農村維持難しく こうした状況の下、2024年5月に食料・農業・農村基本法の見直しが行われた。だが、この改正基本法は矛盾だらけだ。同法は、従来の大規模化による農業の生産性向上政策を前提としており、それでは農家数がますます減少し、農村コミュニティーの維持は困難になっていくからだ。リーマンショックに伴う円高によって、工場が次々に海外移転した。加えてアベノミクスが先端産業化を失敗させた。これまで工場誘致政策に伴って零細農家も兼業化で生き残っていけたが、その条件が失われると、皮肉なことに、かねてから農水省が意図していた大規模化が急速に進んでいる。だからといって、農家経営が楽になったわけではない。アベノミクスは実質賃金低下とデフレに伴って農産物価格の低迷をもたらす一方で、円安インフレによって、農薬・肥料・飼料・燃料の輸入価格が上昇して、農業経営を圧迫しているからだ。農家の経営困難を救う所得政策が不可欠だ。改正基本法は、ITを使ったスマート農業技術を使って規模拡大を図ろうとするが、人口減少が進めば、地域で学校、病院などが維持できず、ますます人が住めなくなるだろう。ところが、定住政策もない。 ●与野党で協議を 農業と農家の衰退状況を考えれば、欧米並みの農家への直接支払いを導入することが緊急に必要である。立憲民主党を中心に、民主党時代の農家への戸別所得補償を引き継ぎ、そのバージョンアップを目指している。だが、農家への直接支払いは、もともとは石破首相が農相時代に行っていた主張であったはずだ。一方、かつての民主党政権は戸別所得補償制度から農協を排除するように動いた。農協に独占させるのは間違いだが、排除することも誤りだった。与野党伯仲時代なのだ。政党の狭い利害を超えて、農村の危機的状況を踏まえて農業者の利益本位に考えて、真剣に与野党で協議すべき時ではないのか。 *1-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/282099 (日本農業新聞 2025年1月15日) 水稲再生二期作広がる 温暖化、米価上昇で脚光 温暖化で水稲の生育可能な期間が延びる中、生産現場で再生二期作が広がってきた。温暖な西日本で取り組みが先行してきたが、東日本の主産地でも米を安定調達したい卸業者も参画した試みが動き出している。産地からは「米価の回復もあり、機運が高まっている」との声も上がる。「二番穂の再生が旺盛で関心を持った」と、2024年産で1ヘクタールで再生二期作を行ったのが島根県の農事組合法人ふくどみだ。早生品種を4月下旬に移植。8月下旬に1度目の収穫を行った後に追肥、11月下旬に二番穂を収穫した。10アール収量は二番穂が192キロで、全体で762キロを確保した。「水はけが悪く転作が難しい田で、水稲で2回収入を得られるのは有望」とみる。東海地方のある農家は24年産で「コシヒカリ」約100ヘクタールで取り組んだ。二番穂の10アール収量は、一番穂を早く刈り、水を入れた田で約60キロ。「特に24年産は米価が良かったからか、周りでも取り組む農家が多かった」。二番穂を収穫しても、収穫せずにすき込んでも「労力は大差ない」と話す。関東でも取り組みが始まった。茨城県のJA北つくばは24年産で、「にじのきらめき」など約1ヘクタールで実証に乗り出した。同品種の10アール収量は2度の収穫で計712キロ。25年産は4ヘクタールに広げる。実証には大手米卸の木徳神糧も参画。農家の減少が進む中、同社は再生二期作を「米の安定調達に向けた一策」とみる。他産地での展開も検討する。現場で実践が広がる中、農研機構は23年に研究成果を発表。福岡県内の試験では、「にじのきらめき」の10アール収量は2回の合計で950キロ。一番穂を地際から40センチと高く刈ることで地上部に栄養を多く残し、二番穂の収量を確保できるとする。一方、「長い目で見れば地力が落ちて機械代もかさむ。一番穂をより多く取る方が生産コストでは優れる」(別の東海地方の農家)と、慎重な声もある。農水省によると、二番穂から収穫した米であることを理由にした流通上の規制はなく、通常の米と同様に販売できる。イネカメムシの栄養源を田に残さないよう、通常の作型も再生二期作も収穫後は速やかに耕し、すき込むことも重要になる。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250201&ng=DGKKZO86463210R00C25A2EA2000 (日経新聞 2025.2.1) 「コメ騒動」消費者置き去り 値崩れ対策に偏重、備蓄放出「口先介入」でようやく流通増 価格上昇一服 政府が緊急時用に備蓄しているコメを柔軟に放出する体制をようやく整えた。店頭からコメが消えた昨夏の「令和のコメ騒動」から半年、価格高騰に背中を押されてのことだった。後手に回った背景には米価が下がりすぎないよう生産抑制に重点を置き、消費者への意識を欠いてきた長年の農業政策のツケがある。政府が24日に放出準備を表明すると上昇傾向が続いていたコメ相場に変化が表れた。堂島取引所(大阪市)に上場するコメの値動きに連動した指数先物「堂島コメ平均」の31日の終値は、発表前の23日終値から1.6%安だった。日本経済新聞が集計する卸間取引価格は31日時点で、新潟コシヒカリが1月中旬比3%高の4万8500円前後(60キログラム)。昨年末から1月中旬まで3割上昇していた勢いが鈍化した。コメ卸の取引担当者は「24日以降、売り物がかなり増え値上がりが止まった」と話す。備蓄米の放出で値下がりするのをにらんだ対応とみられる。足元の値上がりがこのまま落ち着く可能性はあるものの、備蓄米の放出は対症療法でしかない。そんな手法に踏み切るのにさえ時間がかかるのは、流通を急に増やして米価が値崩れすることを過度に警戒してきた長年の政策があるためだ。象徴的なのは国が主導して生産量を抑える生産調整(減反)だ。1960年代半ばから起きたコメ余りを受けて導入して以降、コメの供給が多すぎて価格が下落するのを防いできた。93年の冷夏による大凶作で供給量が足りなくなる「平成のコメ騒動」が発生しても大きな変化はなかった。政府は2018年、農家や生産者の自主性を重んじるべきだとの判断に転じ、主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめた。減反の廃止と呼ばれるが、現実には農林水産省内でも「事実上の減反は今なお残っている」といわれる。理由の一つは農家にコメから麦や大豆、飼料用米へ転作を促す補助金があるためだ。「水田活用の直接支払交付金」と呼ばれる制度の予算は2015~23年の間、年平均3200億円ほどの横ばいで推移する。18年の減反廃止後も減っていない。もう一つは政府が産地ごとの農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の「目安」を示す仕組みが残ったことだ。かつての国が都道府県に生産量の上限を提示する制度はなくなっても、この目安が一定の生産調整につながりやすい。需給見通しは将来の推計人口や1人あたりの消費量といった統計から算出する。昨年のようなインバウンド(訪日外国人)の急増による需要の広がりは織り込まれておらず、需給バランスが崩れたときの対応は難しい。減反による副作用の影響も響いている。減反には農家の収入を安定させる目的があったが、生産調整と引き換えに受け取る補助金収入に依存する零細農家が多くなった。担い手不足や収益の悪化を理由にコメ農家は減っている。農水省によるとコメ農家は20年時点で69万9000戸と10年前から39.7%減った。農家の81.7%は兼業農家が占め、2ヘクタール未満の小規模な経営体が多い。農地全体も減少が続く。田の面積はピークだった1960年代に比べ3割減った。耕作放棄地も広がっており、国内の食料生産能力は弱体化が止まらない。生産効率化に向けては大規模化が必要になる。コメの生産コストは0.5~1ヘクタールで60キログラムあたり2万円を超える一方、15~20ヘクタールは1万円強と半分になる。15ヘクタール以上のコメ生産者は10年間で8割増えたものの、経営体全体の1.7%ほどに過ぎない。効率的な生産体制をつくるための予算は多くない。たとえば「農地バンク」と呼ばれる農地中間管理機構を活用して農地集積・集約などに取り組む予算は過去10年の累計で755億円。転作を促す「水田活用の直接支払交付金」の単年の4分の1に満たない。三菱総合研究所は23年の提言でコメは40年に「自給は維持すら難しくなる」と警鐘を鳴らした。コメや小麦といった主食穀物の輸入依存度を現状のまま維持するには113万ヘクタールの耕地が「死守すべきライン」だと試算し、大規模や中規模の農家を増やすよう主張する。米国農務省が1月に発表した需給見通しでは世界のコメ生産量は24~25年度で年間5億3287万トンの見込みだ。このうち輸出に回るのは1割ほど。日本国内で供給不足に陥ったときに輸入で補うのは簡単ではない。食料安全保障の観点からも国内生産基盤を強化していくことが欠かせない。昨夏からの「コメ騒動」について政府は当初、秋に新米が流通すれば品不足は解消されると説明していた。新米が出ても卸などは予定の数量をなかなか確保できなかった。流通量の不足感から買い姿勢を強める悪循環が起き、コメ価格は高止まりの状態が続いた。繰り返さないためには生産抑制にとらわれすぎる政策からの脱却が重要となる。 ▼備蓄米 政府は不作に備えて一定量のコメを買い上げ、備蓄米として保管している。10年に1度の不作や、不作が2年連続して発生しても対処できる水準として100万トン程度を目安に保存している。毎年20万~21万トン程度を買い入れ、最大5年間保管する。期間を過ぎたら飼料用などとして売却する。低温倉庫で保管し、大部分を玄米で蓄える。備蓄米の入れ替えに伴う売買差損も含めると、2023年度決算で備蓄米制度の運営には478億円の国費がかかった。災害時でも迅速に食料を供給できるように一部は精米状態で保管している。農林水産省は精米備蓄について「15度以下で保管した場合、精米後12カ月経過しても食味は大幅に低下しない」との分析結果を示している。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250207&ng=DGKKZO86589020X00C25A2MM0000 (日経新聞 2025.2.7) 消費支出、昨年1.1%減 2年連続マイナス 12月は2.7%増 総務省が7日発表した2024年の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は月平均で30万243円と物価変動の影響を除いた実質で前年比1.1%減少した。食料品などの物価上昇が消費の重荷となった。認証不正問題による出荷停止の影響で自動車購入が減り、2年連続で減少した。同日発表した24年12月単月の消費支出(2人以上世帯)は35万2633円と実質2.7%増加した。自動車の購入が増えたことなどから5カ月ぶりに増加に転じた。3カ月移動平均でみた支出も0.5%のプラスに転じたことから「食料品の節約志向が続くものの、足元では消費に回復傾向がみられる」(総務省)としている。2024年通年は支出の内訳に占める比率が高い食料が0.4%減と5年連続で減少した。天候不良の影響で値上がりした野菜や果物の購入が減った。2人以上世帯の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%と、1981年以来43年ぶりの高水準となった。交通・通信も4.1%減だった。品質不正問題による一部自動車メーカーの生産や出荷の停止の影響で新車販売が落ち込んだほか、通信では低価格帯プランへ切り替える人が増えたことなどから支出が減った。暖冬で冬場の暖房利用が減ったことなどから光熱・水道も6.8%減少した。24年の勤労者世帯の実収入は実質1.4%増の63万6155円だった。 *1-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1400829 (佐賀新聞 2025/1/31) 農水省、備蓄米放出へ転換、1年以内の買い戻し条件 農林水産省は31日、政府備蓄米の放出に向けた新制度の概要を発表した。価格高騰が続く中、大凶作などに限っていた方針から転換する。1年以内に同量を買い戻すことを条件とし、全国農業協同組合連合会(JA全農)などの集荷業者へ売り渡す運用を想定。民間在庫を正確に把握するため、調査対象を農家や小規模な卸売業者などにも広げる考えだ。農水省が備蓄米運用を定めた基本指針の変更案を同省関連部会に示した。著しい不作といった従来の基準に加え「円滑な流通に支障が生じる場合」にも放出を認める。売り渡し価格や数量などの詳細は今後検討する。実施されれば、供給量が増え価格低下につながる可能性がある。方針転換の背景には、昨夏以降に激化した集荷競争がある。2024年産米の収穫量は前年から18万トン増えたが、主要な集荷業者の昨年11月末時点の集荷量は17万トン減った。コメの先高観を見越した小規模業者や農家が、在庫を抱え込んでいるためとみられる。新制度では、政府が申し出のあった集荷業者に備蓄米を売り渡し、不足している卸売業者向けの販売に充ててもらう。卸売業者を通じ、コメを扱うスーパーなどの小売店に供給される見通しだ。関連部会に先立ち、江藤拓農相は31日の閣議後記者会見で「生産量は増えたのに市場に出てこない」と指摘。店頭価格の高騰を踏まえ、昨年末から備蓄米放出の議論を始めていたことを明らかにした。農水省は併せて、最新のコメの需給見通しを31日に発表した。25年6月末の民間在庫量を、昨年10月に示した見通しから4万トン少ない158万トンに下方修正した。過去最低だった昨年の153万トンからは微増するものの、2番目に低い水準。需要が増えれば、品薄が再発する懸念もある。備蓄米 著しい不作など緊急時に備えて国が保有しているコメ。1993年の大凶作「平成の米騒動」をきっかけに95年から制度化した。適正な備蓄量は100万トン程度が目安で、近年は91万トンで推移している。約5年間、全国にある民間倉庫で保有した後、飼料用などとして販売しており、毎年20万トン程度を入れ替える。備蓄運営は政府の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」に規定されている。 *1-3-1:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/282293 (日本農業新聞 2025年1月16日) キャベツ周年供給確立 スマート技術組み合わせ 中山間地でも効率化 広島の法人 広島県庄原市の農業法人・vegeta(ベジタ)は、約130ヘクタールと全国有数規模でキャベツを周年出荷する。冷涼な県北部から温暖な県南部まで、約10カ所に農地を集約。ドローンや作業支援アプリ、自動収穫機などスマート技術を組み合わせて効率を高め、中山間地にも適した作業体系を確立している。同社は2016年度に15ヘクタールでキャベツ栽培を開始した。現在、栽培地は標高800メートルの山間部から瀬戸内海に面する低地まで県内5市に広がり、気温差を生かした栽培でリレー出荷を展開する。農地は農地中間管理機構(農地バンク)を通じて借りるなどし、1カ所当たり多少の分散はあるが10~20ヘクタール規模に集約している。大規模生産を支えるのが、スマート技術による作業の効率化だ。➀ドローン➁営農支援アプリによる作業記録の管理・確認➂自動収穫機➃QRコードを使った苗管理➄自動操舵システム搭載のトラクター――を活用。これらは、19、20年度の農水省のスマート農業実証プロジェクトで検証した上で導入した。ドローンは約20台を所有する。農薬散布ではトマトやネギ、サツマイモ、飼料作物も含め計500ヘクタール規模で活用する。搭載したカメラで撮影した畑の画像を解析して収量を予測したり、鹿対策として、赤外線カメラを搭載して飛ばして畑周りの生息域を特定し、効率的な捕獲につなげたりしている。同社では20人ほどの従業員が移植、収穫、次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業する。円滑に作業を進めるため、作業内容の記録や確認などができるアプリ「アグリノート」を使い、各班で仕事の進み具合を共有。自動収穫機は、収穫したキャベツを機械上で数人がかりで調製・選別できる。販売先は、生協ひろしま、県内お好み焼きチェーン店約50店舗、食品スーパーと幅広く確保。生鮮用の他、カットサラダに向く加工・業務用としても出荷する。同社の谷口浩一代表は「次世代型の経営モデルを作り上げたい」と話す。 *1-3-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/285846 (日本農業新聞 2025年2月2日) 「農家の視点×企業の技術」で新組織 現場が第一、技術発展へ 中山間地の狭い農地でも効率的に作業できる農機、コストを抑えつつ環境に優しい肥料――。そんな生産現場が使いやすい農業技術の開発・普及を進めようと、全国のプロ農業経営者14人が発起人となり、新組織を立ち上げる。農機メーカーなど農業関係の企業・団体なども参加。農家の視点を取り入れた技術で、作業負担軽減や生産コスト低減など経営課題の解決を目指す。新組織は、日本農業技術経営会議(通称プラチナファーミングの会)で、3日に設立総会を開く。設立時の会員数は、農家や企業など50を見込む。設立発起人の一人、ぶった農産(石川県野々市市)の佛田利弘会長は「現場起点のかゆい所に手が届く技術を広めたい」と話す。新組織では、3年間の新規プロジェクトを毎年最大5件立ち上げ、新たな農業技術の開発に取り組む。セミナー開催などを通した技術の普及、新技術の開発に向けた課題掘り起こし、企業や研究機関と農家の契約の調整なども行う。研究機関や企業が開発した農業技術には、高い効果が期待できる一方、農家が使うにはハードルが高いものも少なくない。例えば水稲の2段施肥。環境汚染が懸念されるプラスチック被膜肥料の代替技術として登場したが、専用のペースト肥料でしか取り組めず、導入コストも高いという課題があった。新組織では、発起人が開発した通常の粒状肥料でも2段施肥ができる機械の実証を進め、普及に取り組む。場所ごとに肥料の散布量を変える「可変施肥」でも、小規模農地や中山間地でも導入しやすい農機の開発・普及に取り組む。発起人代表の尾藤農産(北海道芽室町)の尾藤光一社長は「農家が受け身ではなく、主体的に技術革新に踏み出せる風土を農業界につくりたい」と意気込んでいる。 *1-4:https://cigs.canon/article/20230118_7220.html (キャノングローバル総合研究所 2023.1.18) 農業を国民に取り戻すための6個の提言、食料・農業・農村基本法見直しを機に農政を抜本的に正せ 前回は、国民全体の利益に立って食料安全保障や多面的機能という利益を確保し向上させるためには、どのような基本原則に立つべきかについて議論した(2022年12月1日付「戦後農政を総決算せよ」)。ここでは、食料・農業・農村基本法見直しに関する論考の最後として、どのような方法で、それを実現すべきかについて、議論したい。今の農政は、基本原則だけでなく、政策手法についても、大きな間違いを犯しているからである。 ●世界標準から周回遅れの日本農政 OECD(経済協力開発機構)が開発したPSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である(PSE=財政負担+内外価格差×生産量)。農家受取額に占める農業保護PSEの割合(%PSEという)は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%と高くなっている。日本では、農家収入の4割は農業保護だということである。しかも、日本の農業保護は、消費者負担の割合が圧倒的に高いという特徴がある。各国のPSEの内訳をみると、農業保護のうち消費者負担の部分の割合は、2020年ではアメリカ6%、EU16%、日本76%(約4兆円)となっている。欧米が価格支持から直接支払いへ政策を変更しているのに、日本の農業保護は依然価格支持中心だ。国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならなくなる。農政トライアングルの政治家はTPP(環太平洋パートナーシップ)交渉を「国益をかけた戦い」と表現した。その国益とは農産物関税を守ることだった。その関税で守っているのは、国内の高い農産物=食料品価格だ。これで保護しているのは農家であり、負担しているのは消費者である。日本の場合は、小麦や牛肉などのように、消費者は国産農産物の高い価格を維持するために、輸入農産物に対しても高い関税を負担しているので、農業保護のために国民消費者が負担している額は、内外価格差に国内生産量をかけただけのPSEを上回る。これに対し、輸出国であるアメリカやEUについては、輸入が少ないうえ関税も低いので、輸入農産物についての消費者負担はほとんどなく、PSEを国民負担と考えてよい。 ●市場の歪みを財政で処理する日本 農家の所得を保証するのは価格だけではない。アメリカもEUも、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いによって、農家所得を確保している。直接支払いの方が価格支持より優れた政策であることは、(食料・農業・農村政策審議会の委員をしている経済学者についてはわからないが)世界中の経済学者のコンセンサスである。価格支持は、本来市場で実現している価格より高い価格を農家に保証しようとする。需要が減少し供給が増えるので、需給が均衡する市場では起きない過剰が生じる。日本では、政府が高価格で米を買い入れていた食糧管理制度の下で、大きな過剰が生じた。EUも同じだった。その過剰を処理するため、日本では補助金を出して減反をし、EUでは補助金を出して国際市場で処理した。つまり、価格支持では、過剰という市場での歪みが生じ、それを処理するために、財政負担が必要となるのだ。直接支払いなら過剰は起きない。アメリカなどから攻められたこともあるが、この問題に気付いたEUは1993年、価格支持から直接支払いに移行した。ただし、同じく補助金を出しても、日本は減産、EUは生産拡大という違いがあった。食料安全保障の観点からは、EUの補助金の方がはるかに優れていた。日本も1995年に食糧管理制度を廃止した際、直接支払いに移行すればよかった。しかし、減反で供給を減少させ、高い米価を維持することを選択してしまった。今は、減反によって事前に過剰米処理をしていることになる。日本の政策当局者にとって不幸だったのは、EUと異なり、日本には、高米価で発展してきたJA農協という圧力団体があったことである。なお、日本の「納税者負担」(直接支払い)が少ないことをもって、欧米の方が手厚い保護を行っていると主張する農業経済学者がいる。日本の農業保護が少ないなどと主張するなら、OECDだけでなく、世界の農業経済学者から相手にされないだろうと思うのであるが、不思議なことに、日本の農業経済学会の中には同調者がいるようである。間違いだと思っている農業経済学者もいると思うのだが、あえて波風を立てないというのが学会の良い所のようだ。日本の農業の場合、専門家の言うことも信じてはいけないのである。 ●提言①消費者に負担を強いる農政を転換しよう 基本法第2条第1項は次のように規定する。「食料は、人間の生命の維持に欠くことができないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることにかんがみ、将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」。さらに、同条第3項は、「食料の供給は、農業の生産性の向上を促進し」と規定する。つまり、基本法は、できる限り安い価格で供給すべきだとし、貧しい消費者にも配慮しているのである。しかし、自民党農林族、JA農協、農林水産省の農政トライアングルは、減反政策を強化してさらに米生産を減少させ、米価を上げようとしている。小麦よりも基礎的な食料だと思われる主食の米について、この価格高騰時にも、物価対策とは逆のことを行っているのである。 ●生活困窮者の声は審議会に届かない 食料・農業・農村政策審議会にも消費者の代表はいるが、豊かな主婦の人たちの代表者であって、貧しい人たちの代表ではない。最近の食料品価格の上昇で、生活困窮者の人たちのためのフードバンクに食料が集まらなくなっている。審議会の消費者代表委員は「多少高くても国産の方がよい」とJA農協の国産国消に同調する人だ。しかし、多少高いどころか、今の食料品価格では満足に食料を買えない人たちがいるのである。生活困窮者の声は審議会には届かない。これまで、消費量の14%しかない国産小麦の高い価格を守るために、86%の外国産小麦についても関税(正確には農林水産省が徴収する課徴金)を課して、消費者に高いパンやうどんを買わせてきた。国内農産物価格と国際価格との差を財政からの直接支払いで補てんするという政策変更を行えば、消費者にとっては、国内産だけでなく外国産農産物の消費者負担までなくなるという大きなメリットが生じる。農業に対する保護は同じで国民消費者の負担を減ずることができるのだ。 ●提言②減反を廃止するだけでよいのだ 農林水産省が努力しなくてもできる政策がある。医療のように、本来財政負担が行われれば、国民は安く財やサービスの提供を受けられるはずなのに、米の減反は補助金(納税者負担)を出して米価を上げる(消費者負担増加)という異常な政策である。国民消費者は納税者として消費者として二重の負担をしている。主食の米の価格を上げることは、消費税以上に逆進的だ。「経世済民」とは対極にある減反は、経済学的には最悪の政策である。減反を廃止するだけでよい。財政的にも3500億円の減反補助金を廃止できる。米価が下がって困る主業農家への補てん(直接支払い)は1500億円くらいで済む。サラリーマン収入に依存している兼業農家には、所得補償となる直接支払いは不要である。米価は下がる。零細な兼業農家は耕作を止めて主業農家に農地を貸しだすようになる。主業農家に直接支払いを交付すれば、これは地代補助となり、農地は円滑に主業農家に集積する。規模拡大で主業農家のコストが下がると、その収益は増加し、元兼業農家である地主に払う地代も上昇する。 ●農地の集約が進めば農村はよみがえる 都府県の平均的な農家である1ヘクタール未満の農家が農業から得ている所得は、トントンかマイナスである。こうした農家のゼロの米作所得に、20戸をかけようが40戸をかけようが、ゼロはゼロである。しかし、20ヘクタールの農地がある集落なら、1人の農業者に全ての農地を任せて耕作してもらうと、1500万円の所得を稼いでくれる。これを地代として、みんなの農家に配分した方が、集落全体のためになる。ビルの大家への家賃が、ビルの補修や修繕の対価であるのと同様、農地に払われる地代は、地主が農地や水路等の維持管理を行うことへの対価である。地代を受けた人は、その対価として、農業のインフラ整備にあたる農地や水路の維持管理の作業を行う。地主には地主の役割がある。健全な店子(担い手農家)がいるから、家賃によってビルの大家(地主)も補修や修繕ができる。このような関係を築かなければ、農村集落は衰退するしかない。農村振興のためにも、農業の構造改革が必要なのだ。国内の米産業を助けるばかりでなく、米価低下は貧しい消費者も助けることになる。食料分野では、減反廃止に勝る物価対策はない。 ●提言③私的経済の活用で国民負担を減らせ 農政は、米価が下がると市場から米を買い上げて米価を維持したり、農家に価格低下分を補てんしてきたりしている。また、2019年から、農家の所得を補償するため、価格低下や災害などで収入が減少した場合に補てんする保険制度を導入している。先物取引は、生産者にとって、将来の価格変動へのリスク回避の行為を行い、経営を安定させるための手段である。具体的に言うと、作付け前に、1俵1万5000円で売る先物契約をすれば、豊作や消費の減少で出来秋(収穫時)の価格が1万円となっても、1万5000円の収入を得ることができる。JA農協は、米が投機の対象となり、価格が乱高下することは望ましくないと主張する。しかし、投機資金で先物価格が2万円に上昇するなら、それは、農家にとっては良いことである。先物価格が上がり、農家が減反に参加しないで米を作り、出来秋に実現した米価が下がっても、農家が受け取る米価は先物価格であって、出来秋の米価ではない。先物価格が上昇すれば、生産者は生産を増やそうとするので、将来の現物価格は低下する。これは市場を安定させる。流通業者も不作で出来秋の価格が高騰しそうなときには、低い先物価格で契約をすれば、リスクを回避できる。先物市場で生産者や実需者の代わりにリスクを負担しているのは、投機家である。JA農協が先物取引に反対するのは、価格が市場で決定されるので、現在の卸売業者との相対取引と異なり、価格を操作できなくなるからである。これまで価格が低下するたびに、政府は財政負担をしてきた。そのような施策があるから、農家は試験的に導入された先物取引にメリットを感じなくなり、これを利用しようとしなかった。利用量が少ないことを主張して、農政トライアングルは先物取引の本格導入を認めてこなかった。しかし、先物のリスクヘッジ(価格安定)機能を利用すれば、価格補てんや保険制度などを行う必要はなくなる。国民負担は軽減される。 ●提言④市場を歪ませ不正を生んだ政策の是正を 2008年に汚染米による不正流通事件が発覚した。カビが生じたミニマム・アクセス米を農林水産省は糊用に売却した。安く政府から買い入れた業者が、主食用などに高く転売して、利益を得た。汚染米8368トンのほとんどが横流しされた。工業用の糊に売却するとトンあたり1万円程度だが、焼酎、あられ、せんべいなどの加工用途だと15万円、食用なら25万円で売却できる。横流しするとかならず儲かるのだ。この問題の本質は、減反政策により主食用の価格を意図的に高く維持する一方、本来主食用と同一の価格では取引されない他の用途向けの価格を安くして需要を作り出し、主食用との価格差を転作(減反)補助金として補てんしていることにある。同じ品質の米に用途別に多くの価格がつけられている「一物多価」の状況が発生するので、これに乗じた不正が発生する。不正をなくすためには、市場の歪みを生じている政策を是正すべきなのだ。 ●政府の介入がなければ一物一価は実現する しかし、農林水産省は、食糧管理制度が廃止され、米の流通規制がなくなったから、米の不正流通をチェックできなくなったとして、2009年米のトレーサビリティ法(「米穀等の取引等に係る情報の記録および産地情報の伝達に関する法律」)を作った。汚染米事件を農林水産省の組織維持に利用したのだ。しかし、2013年に中国産米や加工用米を主食用に横流しした三瀧商事事件が起きている。米のトレーサビリティ法は役に立たなかった。経済政策の基本は、その問題を生じさせている源にダイレクトに対処すべきということだ。ここでは高米価と一物多価が問題なのだ。米の需要を拡大したいなら、減反を廃止して価格を下げ、輸出用の需要を拡大すべきだ。政府の介入が無くなれば、一物一価は実現する。一物多価が生じているのは、生乳でも同じである。生乳も政府の介入を止めて一物一価を実現すれば、アジアの飲用牛乳の需要拡大に向けた生乳の輸出が可能になる。 ●提言⑤食料自給のためにも米の増産と輸出を 食料自給率が低下した大きな原因は、国産の米の価格を大幅に引き上げてその消費を減少させ、輸入麦(小麦、大・はだか麦)の価格を長期間据え置いてその消費を増加させたことだ。1960年頃は米の消費量は小麦の3倍以上もあったのに、今では両者の消費量はほぼ同じ程度になってしまった。大・はだか麦を入れると、米麦の消費量は逆転した。今では、日本人の主食は米ではなく輸入麦なのかもしれない。国産の米をイジメて外国産の麦を優遇したのだ。今では500万トンの米を減産して800万トンの麦を輸入している。高米価で米の需要が減少したので、米価を維持するために減反政策を実施している。2000年から20年以上も食料自給率を45%に引き上げる目標を掲げているにもかかわらず、2000年の40%から逆に減り続け、2021年の食料自給率は38%である。ところが、1960年の食料自給率79%も、今の38%も、その過半は米である。つまり、食料自給率の低下は、米生産を減少させてきたことが原因なのである。 ●減反廃止で自給率は目標を超える 最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止による米の増産とこれによる輸出である。平時には米を輸出し、危機時には輸出に回していた米を食べるのである。日本政府は、財政負担を行って米や輸入麦などの備蓄を行っている。しかし、輸出は財政負担の要らない無償の備蓄の役割を果たす。輸出とは国内の消費以上に生産することなので、食料自給率は向上する。現在の水田面積全てにカリフォルニア米程度の単収の米を生産すれば、1700万トンの生産は難しくはない。国内生産が1700万トンで、国内消費分700万トン、輸出1000万トンとする。米の自給率は243%となる。現在、食料自給率のうち米は20%、残りが18%であるので、米の作付け拡大で他作物が減少する分を3%とすると、この場合の食料自給率は64%(20%×243%+18%-3%)となり、目標としてきた45%を大きく超える。農政トライアングルは、食料自給率の低さを農業の保護や予算の獲得の方便として利用してきた。彼らにとって、食料自給率は低いままの方がよい。 ●日本に最も適した農産物は米だ 今回も麦や大豆の生産拡大を推進するとしている。しかし、これは1970年からの減反=麦等への転作を行ってほとんど効果がなかった政策である。また、財務省は減反の補助金を払いたくないため、水田を畑に転換するための補助金を支出しようとしている。しかし、日本に適した農産物は米である。米はグルテンフリーであるばかりか、体内で合成できない必須アミノ酸を小麦より多く含む。しかも、国産大豆には納豆などの需要があるが、国産小麦は品質が悪く生産も安定しないので、製粉業界から敬遠されている。小麦を輸入している中にあって、国産小麦は長年過剰なのである。製粉業界は農林水産省からさらに国産小麦を押し付けられるのを心配しているだろう。とるべき政策は、減反廃止=米の増産である。財政負担を大幅に削減しようとすれば、減反を廃止すべきだ。しかし、それだと財務省は自民党と正面対決となる。水田の一部を畑にすれば、その面積だけ減反補助金を払わなくて済む。財政負担軽減からすれば次善の策だが、やらないよりはましだ。このように財務省は考えたのだろう。しかし、姑息である。日本で最も優れている農産物は米なのに、それを生産できないようにしようとしている。多面的機能でも、水田の効果は畑を大きく上回る。経済学的にも正当化できない。そろそろ、国民のために真剣に食料安全保障を議論しようではないか。 ●提言⑥肥大化した農政をスリムにしよう 欧米と異なり、農林水産省は、行政が課題を細かく設定し、手取り足取り指導・支援するといったパターナリスティックな対応を行っている。このため、日本の農業施策は細かく複雑なものとなっている。農林水産省には100程度の課があり、一つの課でも多くの事業がある。ほとんどが零細な補助金による事業である。欧米の農業政策は、法律を読めばおおむね理解できる。しかし、日本の場合、法律やそれに基づく政省令には、具体的な事業や仕組みが書かれていないことが多い。その代わり、様々な補助事業ごとに、趣旨や複雑な交付条件、申請書類の様式、申請手続きや事業実施報告の方法などに関する要綱・要領という長く難解な行政文書(都道府県や団体等への通達)が作られる。農林水産省の下請け機関となっている自治体職員は、これを読み込んだうえで、農業団体や農家に事業の趣旨や仕組みを周知徹底し、補助金の申請を手助けしなければならない。これに自治体職員の膨大なエネルギーが投入されてきた。農林水産省は、自治体の職員が地域の農業振興に必要な政策を考案する時間を奪っている。農林水産省が多種多様な補助事業を作る大きな理由は、自分たちの仕事作りである。例えば、2012年から、新しく農業を始めようとする人に対し、研修期間中は毎年150万円を2年間、経営を開始すると毎年150万円を3年間、合計750万円補助する事業を実施している。さらに、新規就農支援資金(借入限度額3700万円:特認1億円、償還期間17年(据置期間5年)の無利子資金)が用意されている。 至れり尽くせりである。 ●整合性のある政策が推進できない ところが、成果はほとんど上がっていない。多額の補助をもらうことで、努力を怠たったり、農業経営に対する厳しさがなくなったりするからである。しかし、農林水産省は金を出しっぱなしで効果を検証しようともしない。この事業を廃止するつもりはない。また、様々な事業が多くの課ごとに作られるため、整合性のある食料・農業政策は推進できない。農家個人所有の田畑の整備のため、毎年1兆円規模の農業土木(基盤整備)事業が、公共事業として農家の負担わずか15%程度で実施されてきた。農家が投資してコストダウンを図っても、農産物価格が低下すると消費者はメリットを受けるが、農家は投資額を回収できなくなると考えて投資しなくなる、これが、農地整備という私的な投資を公共事業で行う根拠だった。その一方で、農産物価格を下げないことを目的とする減反に50年間で9兆円、過剰米処理に3兆円以上を投入した。しかし、農業土木の関係者としては、予算を獲得して事業を行いさえすれば、天下り先が確保できるので、農政の他の部門には全く関心を持たない。畜産についても、価格競争力向上を実現するとして巨額の財政資金を投下しながら、畜産物価格は逆に上がっている。2000万円の所得がある畜産農家を保護するため、貧しい消費者に負担を強いながら、畜産物価格を上げている。そもそも環境に著しい負荷を与えている畜産は、補助するのではなく課税すべきである。野菜、果樹、花については、関税保護もわずかで、その関税もTPP交渉の結果撤廃される。外国からの飼料に依存する畜産のように手厚い補助金もない。しかし、農地資源は、畜産以上に守っている。農政が論理破綻し複雑かつ矛盾の体系となっている今日、我々は食料安全保障や多面的機能という農政の目的に立ち返り、論理整合的でシンプルな農業政策を検討すべきではないだろうか?食料安全保障も多面的機能も、農地資源を維持してこそ達成できる。そうであれば、品目ごとの農業政策や就農補助などこまごました補助事業は全て廃止して、農地面積確保のため、農地面積当たりいくらという単一の直接支払いを行えばよい。このような単一の直接支払いは、EUが長年の改革の末到達した農業保護の姿である。 ●「何ぞ彼等をして自ら済わしめざると」 雑多な補助事業は、農家の創意工夫を削いできた。困ると農政が助けてくれるという他力本願的な経営になってしまった。前回紹介した、柳田國男、石黒忠篤、石橋湛山には、共通の尊敬する人物がいる。二宮尊徳である。また、かれらが共通して主張したのは、「自助」である。柳田國男は主張する。「世に小慈善家なる者ありて、しばしば叫びて曰く、小民救済せざるべからずと。予を以て見れば是れ甚だしく彼等を侮蔑するの語なり。予は乃ち答えて曰わんとす。何ぞ彼等をして自ら済わしめざると。自力、進歩協同相助是、実に産業組合の大主眼なり」(『最新産業組合通解』定本第28巻130ページ参照))。農地の上に、米、野菜、牧草など、何を植えるかは、農家の創意工夫に任せるべきであって、農政が口を出すべきではない。農地を利用しない輸入飼料依存の畜産には直接支払いは交付されない。農家が基盤整備などの土地改良を行いたければ、直接支払いから支出すればよい。農業土木技官がゼネコンに天下るための公共事業予算獲得運動などなくなる。農水省の組織・定員は大幅にスリム化できる。自治体職員は、こまごました零細な補助事業に悩まされなくなる。今の農政はあまりにもわかりにくく、農林水産省の職員のためのものとなっている。国民のための農政とは遠く離れている。 食料・農業・農村基本法見直しに関する筆者の論考は次のとおりです。 ・「食料・農業・農村基本法見直しの背景はなにか 政治に翻弄された農政の軌跡から見えてくる揺り戻しの正体とは」(2022年10月11日付) ・「『改悪』の結末が透ける食料・農業・農村基本法見直し 保護農政への揺り戻し図る農政トライアングルと『お墨付き』のためだけの審議会」(2022年10月21日付) ・「食料・農業・農村基本法見直しのウソとまやかし だまされないために知っておきたい本当のこと」(2022年11月02日付) ・「戦後農政を総決算せよ 食料・農業・農村基本法見直しのあるべき基本原則とは?」(2022年12月1日付) *1-5-1:https://president.jp/articles/-/47124?page=1 (President 2021/6/23) 96%は国内生産なのに「卵の自給率は10%」と農水省が主張するカラクリ、エサが輸入品なら「外国産」扱い 鶏卵の96%は国内で生産されている。しかし農林水産省の統計では「鶏卵の自給率は10%」とされている。なぜそうなるのか。東進ハイスクール地理講師の山岡信幸さんは「諸外国と異なり、日本だけがカロリーベースという計算式を使っている。だから実態と数字が異なっている」という――。 ●品目別で見れば自給率の高い農産物も多い 日本は主食であるお米の一部をアメリカ合衆国などから輸入しています。ただし、輸入分は加工用などに回しており、食用米の自給率は100%です。では、副食、つまり肉や野菜など米以外の農畜産物の自給率はどうなっているのでしょうか。過去の推移も含めて確認しておきましょう。図表1を見てください。太線で示した総合食料自給率は、1960年の79%から、2018年の37%まで、半分以下に低下しています。もし食料輸入が全面的にストップすれば、1日1食になってしまう(?)という数値ですね。しかし、先述の主食の米に加え、鶏卵・肉類・牛乳などの畜産品、野菜、魚介類など多くの食料の自給率はその数値を上回っています。足を引っ張っているのは小麦などの穀物や大豆などに限られます。なぜ「総合」になった途端に数字が低くなるのでしょう? ●品目別と総合で異なる自給率の計算基準 これには「からくり」があります。品目別の自給率は重量によって計算していますが、総合食料自給率は熱量(カロリー)をベースにした計算なのです。重量当たりの熱量が小さい野菜や果実をたくさん国内で作っていても、熱量の大きい小麦や大豆の輸入が多いため、総合の自給率は低くなっているのです。そのうえ、鶏卵・肉類・牛乳など、飼料(餌)で育てたものは自給分に含まれないことになっています(飼料作物の代表格とうもろこしの自給率がグラフには出てきませんが、ほぼ全量を輸入しており、事実上0%です)。国内の畜産農家が牛や豚や鶏を育てる手間ひまは自給率の分子にカウントされないのです。さらに、この総合食料自給率で分母となるのは、私たちの摂取熱量ではなく供給熱量なのです。つまり国産と輸入の合計から輸出分を差し引いたもの、国内市場に出回った農産物の熱量全体ということです。ということは、莫大な食品ロスも分母に含まれています。日本では、ごくわずかに販売期限を過ぎただけで、推定で140万食分以上のコンビニ弁当が毎日廃棄されているそうです(ジャーナリスト井出留美氏のYahoo!ニュース個人の記事「『24時間営業』だけが問題?全国推定143万個分の弁当を毎日捨てるコンビニはなぜ見切り販売しないのか」による)。先進国では、このような「フードロス」が問題になっており、各地のフードバンク活動でその有効利用が図られるほどです。 ●分母は大きく、分子は小さく 日本人1人1日当たり供給熱量は約2400キロカロリーですが、摂取熱量は約1900キロカロリーですから、2割くらいが廃棄されています。1970年代以降、産業構造の変化によって肉体労働は減少し、日常生活でも自動車利用の増加など利便性の向上で運動量は低下しています。健康志向から「カロリーひかえめ」が好まれる現代では、もう私たちはそれほど多くのカロリーを摂取しないのです。もし、実際に摂取している熱量を分母に計算すれば、自給率は約50%にアップします。このように、分母はなるべく大きく、分子はなるべく小さくなるように計算されたのが「総合食料自給率」なのです。供給熱量ベースで自給率を計算している国は世界的に見てごくわずかであり、一般的には生産額ベースで計算されています。日本の生産額ベースによる食料自給率は66%(2019年)となり、供給熱量ベースの2倍近くに跳ね上がります。保護政策で価格を維持している米や、品質が高く消費者の嗜好に合わせて生産される野菜・果実など、単価の高い農産物の自給率が高いからですね。 ●「自給率の低さ」を強調したい 農林水産省が供給熱量ベースの自給率を公表し始めた1983年といえば、日米貿易摩擦を背景に米国から農産物輸入の自由化が強く求められていた時期です。「外国の安い農産物が大量に輸入されれば、日本の農業は崩壊、食料自給率はさらに低下、国際情勢によって飢餓が訪れる!」と国民の不安感に訴えるには、「今でも自給率はこんなに低い」というアナウンスが必要だったのでしょう。考えてみると、もし海外からの輸入が完全にストップすると、自給率の分子(国内生産)と分母(総供給)は同じになって、食料自給率は100%です。もちろんそれは望ましい状態ではありません。「食の安全保障」という観点から考えるならば、むしろ安定的な食料輸入を可能にする国際関係の確立を図るべきだし、日本農業の振興という観点からは高品質で競争力の高い野菜や果実などの輸出を拡大すべきでしょう。国産農産物にこだわって「食料自給率をできるだけ高めなければならない」という政策目標は、必ずしも正しいとはいえないのではないでしょうか。 ●外国産の卵をスーパーで見ない理由 ところで、先ほどのグラフで品目別に自給率の推移を見ると、さまざまな背景が読み取れます。たとえば、今も自給率96%を維持する鶏卵。新鮮さを求められるが卵自体の冷凍はできず、割れないように長距離輸送するのも困難です。そのような品目の特性上、あまり貿易には向いていませんね。だからほとんどが国産なのですが、それでも4%は輸入です。「価格の優等生」である卵は、スーパーの特売品になることが多いのですが、外国産の卵が売り場に並んでいるのは見たことがありません。実は、殻を除いて冷凍した「液卵」、乾燥させた「粉卵」などの加工品として、菓子の原料、外食産業などの業務用に輸入されているのです(図表2)。 ●進む養鶏農家の集約化と大規模化 ちなみに、卵を産む鶏(採卵鶏)の飼養をする国内の養鶏農家の戸数は年々減っており、全国で2000戸程度にすぎませんが、残った農家は飼養羽数の大規模化が著しく、10万羽以上を飼う大規模養鶏場も珍しくありません。そのような大規模養鶏場だけで、全国の飼養羽数の75%を占めています。肉用のブロイラーでも同様の傾向になっています。いずれにせよ、飼料の大半はおもに米国から輸入するとうもろこしなどです。これを考慮に入れると、卵の自給率は10%程度になってしまいます。 ●「国産野菜」にこだわる意味 鮮度を要求される点では、野菜も鶏卵と同じです。それでも、ほぼ100%だった野菜類の自給率は1980年代から徐々に低下して、現在は77%。多くは冷凍野菜などの加工品ですが、輸送機関・流通の整備によって輸入が可能になってきたことをうかがわせます。中国では、国内の大都市圏にも日本にも近い沿海部の山東シャントン省などで野菜の生産・輸出に力を入れています。ところが2002年には、中国産ほうれんそうの残留農薬が問題となり、その安全性に疑問が投げかけられました。ほうれんそうの中国からの輸入量は激減し、その後も回復できていません。その頃から、外食産業や加工食品に「国産野菜を使用しています」というフレーズを頻繁ひんぱんに見かけるようになりました。しかし、ほうれんそうはともかく、今も中国産を中心に野菜全体の輸入は増加しています。この間の飛躍的な経済成長を背景に、中国みずからの国内において都市住民を中心に安全な食品を求める要請が高まりました。法規制の強化などによって、中国農業の安全管理体制の確立は一定程度進んでいるようです。たまにスーパーで見かける中国産野菜は、大規模生産と安い人件費のおかげで国産野菜に比べてたしかに激安です。とはいえ、あの農薬騒動の記憶が残る日本の消費者としては、値段の魅力だけではなかなか手に取れません。そのため、加工用などに回される割合が高いようですから、結局どこかで口にしているのでしょう。国産にこだわる人も知っておきたいのは、日本も耕地面積当たり農薬使用量が世界トップクラスの農薬大国だということ。最近では、発がん性が疑われる除草剤グリホサートや、生態系への影響が指摘されるネオニコチノイド系農薬などについて、使用禁止に向かう欧州連合(EU)などの潮流に逆行して日本では規制が緩和されています。国産=安全は本当でしょうか。 *1-5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16139800.html (朝日新聞 2025年2月1日) 卵1キロ卸価格、東京で300円超 23年7月以来 鳥インフルエンザの急増の影響で、卵価格が上昇している。卵の卸売価格の目安となるJA全農たまごが31日に発表した東京地区のMサイズ1キロあたりの値段は305円で、1月上旬から80円上昇した。300円超えは、過去最悪の被害の影響が続いていた2023年7月以来の水準。大阪地区は同290円、名古屋地区は同320円だった。31日時点で、今シーズン(24年秋~25年春)の鳥インフルエンザは14道県で48件発生、約911万羽が殺処分の方針となっている。特に年明けから急増し、1月は過去最大だった22年のシーズン(22年秋~23年春)の発生件数、処分数を上回り、特に千葉県、愛知県に集中している。22年のシーズンは過去最大の鳥インフルエンザが発生し、26道県で84件、約1771万羽が処分された。この影響で、東京地区の卸売価格が350円となり、「エッグショック」とも呼ばれた。江藤拓農林水産相は31日の閣議後の会見で、「特に1月に入ってからは異常な事態。いよいよ価格の面で顕著になってきた。22年のシーズンは(卸売価格が)350円まで値上がりしたが、そういう事態は何としても避けたい」と述べた。 <森林と林業の重要性> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS573F9BS57OXIE02LM.html (朝日新聞 2024年5月16日) 東京都が買い続ける森 世界的探検家は言う「都民は恵まれている」 始まりは1901年、譲り受けた8460ヘクタールの森だった。最近では2022年度までの10年間で3500ヘクタール以上を購入。東京都はいまも森林を買い続けており、計2万5千ヘクタールを所有する。その面積は都の10分の1以上にあたる。いったいどこに。そして、なぜ。実はその6割が隣接する山梨県にある多摩川上流域の森。そう、この水源林こそ、都が120年以上にわたって守ってきた東京の水のふるさとだ。蛇口をひねれば、すぐに水が飲める――。1960年代に利根川・荒川水系が上水道に本格利用されるようになるまで、多摩川は都民にとって「命の川」だった。そんな水源地の荒廃を憂えた東京府(当時)が自ら管理を始める。植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保することが目的だった。「森が守られてこそ水の量と質が保たれる。多摩川は世界のモデルといえる存在です」。世界に名だたる川の源流地域を訪ね歩き、2023年の「植村直己冒険賞」を受けた探検家、山田高司さん(66)はそう断言する。 ●守り続けて120年 ボランティアも 今年3月、筒井和行さん(80)=東京都東村山市=は高さ約20メートルのヒノキの上にいた。山梨県小菅村の森の中で、慣れた手つきで不要な枝を切り払った。ここは都が管理する森林ではない。ただ、地権者の同意が得られれば、源流域の保全のため、間伐や枝打ちをしている。担い手は筒井さんのようなボランティア「森林隊」だ。せっせと植林した昔と違って、いまは切られないまま放置された山林も多い。日が差し込まないことで木や草が育たず、土がむき出しになれば、大雨の際に大量の土砂が貯水池に流出し、水を汚しかねない。「水に関心があるし、山をきれいにしたい。若いとき、趣味の登山で自然によくないことをした罪滅ぼしでもあるんです」。そんな思いから筒井さんはこれまでに300回以上、「森林隊」の活動に参加してきた。 ●多摩川の「最初の一滴」を訪ねて 東京湾から西へ138キロ。山梨県甲州市にある笠取山(1953メートル)の山頂付近の岩場が、多摩川の源流とされている場所だ。「水干(みずひ)」と呼ばれ、最初の一滴がしたたる。4月末、その水干を目指して山を登った。先人たちが苗を植えたカラマツ人工林やミズナラといった天然林に覆われ、静けさと美しさを保っている。残念なことに滴は見られなかったものの、水干から下ってすぐのところで、大河に注ぐ最初のせせらぎに出会えた。清らかな流れに手を浸すと、かじかむぐらいに冷たかった。ここを訪れたことがある山田さんの目に焼き付いている光景があるという。1981年に訪ねたアマゾン川源流域のすさまじい森林破壊だ。燃料の薪にするため切り尽くしたり焼き畑にしたりして、一帯が丸裸になっていた。いま世界を見渡せば、各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、地球温暖化もあいまって森林面積は減り続けている。それに伴う水不足も深刻だ。そんななか、都やボランティア、さまざまな人たちの努力もあって、多摩川源流域は1世紀以上にわたって守られてきた。いまも東京における上水道の約2割は多摩川水系が担う。「都民は恵まれている」と山田さん。だからこそ、訴えたいことがある。「もっと水に、もっと森に、もっと環境に関心をもってほしい」 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS6L2R5MS6LUJUB001M.html (朝日新聞 2024年6月19日) クマ被害多発で保護から管理へ 野生動物と人間が共生するには ●2030 SDGsで変える 近年、日本でクマによる人身被害が急増しています。昨年度は被害者が219人(うち死者6人)と過去最多に。一方で、シカやイノシシといった他の野生動物による農業や林業などへの被害も深刻です。SDGsでは生物多様性を保ちながら「陸の豊かさも守る」ことを目指しています。野生動物と人間がどう共生すべきか。被害が多い北東北で、現状と課題を探ります。 ●木の芽やドングリ食い尽くすシカ・イノシシ 5月上旬、岩手県花巻市の山林に、花巻市猟友会の猟師約10人が集まった。猟期は終了しているが、市から有害駆除の委託を受けて、シカを捕獲するためだ。シカを追いあげる「勢子(せこ)」と、猟銃で仕留める「立ち」に分かれて、山中に分け入る。「ここが獣道。踏み固められて、足跡もついているでしょう」。猟友会会長の藤沼弘文さん(78)が斜面を指さした。素人目には見極めが難しい。藤沼さんは獣道の近くで、すぐシカを撃てる態勢に入った。例年、この時期はまだ山に雪が残っていた。だが、暖冬の影響で雪解けが早く、すでに草木が生い茂っている。猟師たちは「シカを探すのが難しい」と顔をしかめた。藤沼さんの携帯電話が鳴った。「温泉街でクマが出た」という市からの連絡だった。山に来ていないメンバーに連絡して、現地に向かってもらった。クマの出没が多発した昨秋には、1日に何件も出動要請があったという。昨年度、岩手県ではクマによる人身被害が49件発生。秋田県に次いで多く、過去最悪の数字となった。今年度も、秋田や岩手ではすでに人身被害が発生している。クマを徹底的に排除してほしい――。被害が多発する地域を中心に、そんな声が高まっている。国は今年、捕獲や調査に国の交付金が出る「指定管理鳥獣」にヒグマとツキノワグマを追加し、これまでの保護政策から管理の方向へかじをきった。だが、半世紀以上山を歩いてきた藤沼さんは危機感を抱く。急増するシカなどへの対策が進まないまま、クマの駆除ばかりが注目されていると感じるからだ。「イノシシやシカが木々の芽やドングリなどを食い尽くした影響で、クマは人里に出るようになったのでは」と藤沼さんは語る。同猟友会では「クマとの共存を考える手帳」を独自で発行し、クマによる被害にあわないために人間がすべきことや、猟友会が近年、シカやイノシシの駆除に追われている現状などを伝える活動もしている。県によると、県内のクマの生息数は、2020年度末で推定3700頭。一方、22年度のシカの生息数は推定約10万2千頭だ。シカは江戸時代に県北部まで広く分布していたが、明治以後の乱獲で姿をほぼ消し、長らく保護される対象だった。それが1970年代から爆発的に増え、20年度以降、県内では狩猟と猟期以外の有害鳥獣捕獲分と合わせて年2万頭以上のシカが捕獲されているが、一向に減らない。 ●個体数把握し対策講じる専門家の育成を 大型野生動物の専門家である岩手大の山内貴義准教授は「シカは植林した苗木や希少な高山植物までも食べ尽くし、林業や自然生態系への深刻な影響が懸念されている」と話す。イノシシは県内では明治末期に一度絶滅したとみられるが、10年代から生息域が広まり、22年度の捕獲数は979頭にのぼった。山内准教授は「シカやイノシシは、クマと食べ物が重複し、冬の間も活動するため、冬眠明けのクマの食べ物が減ったのでは。ここ数年、春先の町中にクマが出没することと無関係ではない」と指摘する。日本の野生動物管理の指導的役割を担ってきた、兵庫県森林動物研究センターの梶光一所長(71)は「人口減少の時代だからこそ、生態学、森林管理、被害防除など多様な分野を学んだ野生動物管理の専門家の育成が必要だ」と強調する。野生動物の個体数を把握・管理して、被害を未然に防ぐため、電気柵の設置といった方策を講じる――。既にその必要性は共有され、被害を防ぐための技術はほぼ実用化されているという。問題は誰が担うかだ。「国の制度や法の改正があるたびに、専門家の育成や配置が重要だとはずっと指摘されてきたのですが……」。環境省によると、昨年度、各都道府県で鳥獣対策にあたる行政職員3603人のうち、専門的な知識を有する人はわずか4.7%。加えて異動があるため、継続的な対応が難しいことも課題だ。昨年、全国で最もクマによる人身被害が多かった秋田県のように、鳥獣管理の専門職員を配置する自治体も出始めたが、まだ少数派だ。国は20年度から、東京農工大を核とした6大学と2団体で検討した野生動物管理学の教育プログラムを支援するなどして、人材育成と配置に着手したところだ。 ●絶滅させない数と地域に許容できる数 国によると、野生鳥獣による農作物被害額は156億円(22年度)で、その約6割がシカ、イノシシによるものだ。国は23年度までの10年間で、シカとイノシシの個体数を半減させる計画をたてたが、シカの目標値を達成できず、計画を5年延長した。捕獲を担うハンターの高齢化や減少が止まらないからだ。ハンターはあくまで趣味の愛好家で、地域のためにボランティアで活動している。各地でクマによる人身被害や目撃情報が急増する中で、現場で対応にあたる人材が圧倒的に不足している。北海道では、自治体からのヒグマ駆除の要請を辞退する猟友会もでている。梶さんは「日本は明治時代にドイツから森林学や狩猟学を導入した。そのドイツでは、教育機関が森林管理と狩猟学を一体で教え、国が森林と狩猟を一体で管理する。趣味の狩猟とは別に、専門的な捕獲者がいる。人口減の時代だからこそ、日本でもそういった専門家が必要だ」。そのうえで梶さんは「地域社会での合意形成」が大事だという。クマの場合、地域ぐるみでゴミを外に放置しないといった対策をしたうえで、人里に居ついた個体は排除する必要がある。「専門家と地元の人が『クマを絶滅させないための生息数』と、『地域にどのくらいの数のクマだったら許容できるか』を十分に話し合い、納得することが大事。正解は一つではない。要は私たちが自然とどう向き合うか、その地域をどう持続させるかを自身で決める必要があるのです」 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250202&ng=DGKKZO86466890R00C25A2TYC000 (日経新聞 2025.2.2) <科学で迫る日本人> なぜ縄文に農業始まらず?管理もとに共生植物が食料に 日本列島には食料になる植物がいくつも持ち込まれた。弥生時代に稲作が普及する前にも農耕とまではいかないが、人の管理をもとに「共生関係」が生まれ、食料につながっていた。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書「サピエンス全史」にある「小麦が人を操った」といったとらえ方とは差があるようだ。日本列島に最初に持ち込まれたイネはどんな品種なのか――。神戸大学の石川亮准教授は弥生時代初期の青谷上寺地遺跡(鳥取市)で出土したイネの籾のゲノム(全遺伝情報)を解析した結果を心待ちにする。この遺跡の籾は水につかっていたためDNAの保存状態がよく、解読できる可能性があるという。イネの研究は進み、もち米かうるち米か、赤色か白色かを決める遺伝子などゲノムの特徴が分かってきた。石川氏は「出土した籾のゲノムをもとに今のイネを品種改良して当時のイネを再現したい」と意気込む。現在のイネは品種改良が進んだもので、当時の社会をはかるにも当時の収量の把握などは重要になる。注目するイネの特徴の一つが、稲穂からの籾の落ちやすさ「脱粒性」だ。時代とともに遺伝子が変異して脱粒性が変わり、今の姿になったのかもしれない。現代の稲作では籾が落ちにくいことで栽培しやすいが、昔は落ちる方が都合がよかった可能性もある。人が栽培することによる遺伝子や形質の変化を「栽培化」という。西アジアの麦、東アジアのイネなどが代表例だ。様々な植物のゲノム解読が進み、栽培化の実像が明らかになりつつある。栽培植物を利用する「農耕」が中心的な役割を果たす農業社会へと進んだ経緯に迫ろうとしている。弥生時代に稲作が広がるまではクリやドングリを主体とした採集や狩猟、漁労で食料を得ていたといわれる。イネとともにアワやキビが伝わったころ、中国北部では雑穀を中心とした農業社会が起きている。日本ではどうなのか。東京大学の米田穣教授らは縄文時代晩期末の七五三掛遺跡(長野県小諸市)から出土した縄文人の骨のコラーゲンの炭素同位体などを解析し、アワやキビを食べていたことを明らかにした。ただ主食のレベルではなかった。縄文時代の畑は確認されておらず、農業社会には至っていないと考えられている。米田氏は「縄文人は食料生産のために自然を改変する発想がなかったように見える。存在するものを管理して収穫増をはかるが、植物を育てるために田畑を作るという発想はなかったのではないか」と指摘する。縄文人の遺跡やその周囲からはクリの花粉が集中して見つかっている。つまり縄文人は周囲をある程度管理していたと考えられている。そこでヒエやマメ科のダイズやアズキの栽培化が進んだ可能性がある。当時を確かめようと、岡山理科大学の那須浩郎准教授らは真脇遺跡公園(石川県能登町)で再現実験を進めている。那須氏は「畑を作らなくても、草刈りをして火入れをするだけで、アズキを増やすことができたのではないか」と話す。実験ではこの方法でアズキの原種のヤブツルアズキを収穫する。こうした簡単な行為だけで、耕起を伴う栽培に負けない収量を得られるとみている。「縄文人は有用な植物の生息環境を構築するという農耕民とは全く別の方法で野生のアズキを維持・管理していたのかもしれない」(那須氏)。従来、栽培化と農業は同時期に起きたと考えられていた。だが、遺跡から出土する植物の栽培化の証拠を年代ごとに調べることで、ずれがあることが分かってきた。栽培化は数千年かけて起きていた。急に農業が確立されたわけではなく、徐々に進んでいたわけだ。農耕というほどではなく、食料の獲得手段の一つとして、管理した土地の周辺のものを採集していた時期があったと考えられている。そこでは人と植物のどちらか一方ではなく、双方が利益を得る「相利共生」の関係があり、人が意図しない形で「共進化」が起きていた可能性がある。例えば、マメ科は縄文時代中期以降に大型化が進んだことが分かっている。「ごみ捨て場で自然に育ったマメのうち、日光にあたりやすい大きな苗が生き残って増え、大型化が進んだのかもしれない」(米田氏)。従来の考古学では、地球の寒冷化や人口増加といった圧力をもとに人類の活動の変化を説明する「ストレスモデル」で考える傾向が強かった。そこから離れ、もっと違う理由を考えるのが今の流れだ。植物にも遺伝的な特徴から、栽培化が起きやすい種類があったかもしれない。例えば、染色体のセット数が少ないタイプは多いものに比べ、1つの遺伝子変異による形質の変化が起きやすい。縄文時代に農耕が起きなかった要因は食糧資源の多様さや堆肥作りに適した家畜の不在など多面的な検証がいるが、共生関係に迫ることで当時の社会が見えてくるだろう。 <その他の人手不足業種について> *3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/AST220466T22UTNB00HM.html?iref=comtop_7_05 (朝日新聞 2025年2月2日) 道路陥没事故、本格的な救助至らず 「時間要する可能性高い」と知事 埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故は2日夜になっても、本格的な救助活動には至っていない。穴の内部に水がたまり、周囲の地盤も不安定で、崩落による二次被害の可能性を否定できないためで、消防は救援隊が穴の中に入り、運転手を捜索する活動には当面移れないとみている。関東地方は2日、気温が下がり、雨天になった。八潮市内でも雨が断続的に降るなか、現場ではショベルカーなどの重機やトラックが行き来していた。1日朝に完成した救助活動を進めるためのスロープ(傾斜路)の強度を強めたり、土囊(どのう)を入れたりする作業を続けた。県などはスロープの完成を受けて、本格的な救助活動を進める予定だった。だが、穴の内部の水位が上昇したことから、消防は隊員らの安全を確保するため、1日夕からスロープの先にある穴に下りての救助活動を中断している。県などは今後、穴の内部の水位を低下させるため、ポンプ車での排水を進める方針。水のない方向にスロープを延長することも検討するという。陥没した箇所には土砂や岩のほか、コンクリート製の箱形の構造物があるという。県によると、破損したとみられる下水道管の水の流れが悪くなっていることから、管内になんらかの異物があるとみて、ドローンなどを使って調査する方針だ。県によると、事故発生から6日目を迎え、穴の大きさは直径31メートル、深さ16メートルにまで広がっている模様だ。運転手の70代の男性が閉じ込められた運転席は土砂などに埋もれて確認できていない。大野元裕知事は2日の県危機対策会議で、「救出や復旧までさらなる時間を要する可能性が高い」と説明。その上で「12市町120万人や事業者の協力のおかげで、下水の流入は下がっているものの根本的な解決には至っていない」と述べた。県は引き続き、洗濯や風呂の使用をできる限り控えるよう呼びかける。 *3-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250209-OYT1T50061/?utm_source=webpush&utm_medium=pushone (読売新聞 2025/2/9) 転落した運転手の捜索活動、30分で打ち切り…手掛かり見つからず今後の予定なし 埼玉県八潮市の県道が陥没し、トラックが転落した事故で、消防は9日朝、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開したが、約30分で打ち切った。手がかりが見つからなかった上、さらなる崩落による二次被害の懸念が高まったため。消防によると、作業は午前7時半頃に始まり、消防隊員約20人が重機でがれきや土砂をすくう捜索作業に参加した。ただ、運転手の居場所などに関する手がかりが見つからなかった上、捜索範囲を広げるとさらなる崩落を招く恐れがあり、約30分で終えた。消防は今後の穴内部での捜索は予定しておらず、運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内の捜索などを検討するとみられる。事故は1月28日午前9時50分頃に発生。交差点の中央付近が陥没し、トラックが転落した。運転手とは同日午後1時頃に消防隊員と会話して以降、連絡が取れない状況が続いている。消防による捜索は今月1日夜、穴内部で水が湧き出ていたことなどから中断していた。事故現場は土壌がもろく、断続的に下水とみられる水が流れ込んでいることなどから、陥没の穴が拡大。県は穴につながる緩やかなスロープ2本を造成し、周辺で土壌改良を実施するなど、捜索活動に向けて大規模な工事を続けてきた。 *3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/385007 (東京新聞 2025年2月10日) 埼玉・八潮の道路陥没、穴の中での捜索は断念 不明男性の手がかり求め地表から細い穴、下水管の中を捜索へ 埼玉県八潮市の道路陥没事故で、消防は9日、行方が分かっていないトラックの男性運転手について、穴の中での捜索を終了したと明らかにした。今後は下水管内の捜索に軸足を移す。県は10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けた。消防や県によると、崩落の恐れがあった地表近くのコンクリート管を8日までに撤去。9日朝、重機で土砂をすくって男性を捜したが、手掛かりは得られなかった。さらなる土砂崩落の恐れもあるため、捜索は30分ほどで中止した。下水管は地下約10メートルにあり、直径は約4.7メートル。ドローンによる管内の調査で、現場の下流100~200メートルの地点でトラックの運転席部分とみられる金属塊が見つかっている。地表から開けた細い穴は直径約13センチ。9~10日に地表から掘り下げ、下水管の表面を破り、金属塊近くの2カ所に通した。距離を測定できる機材や小型カメラなどを投入し、管内の状況把握を試みる。NTT東日本によると、近隣で不通になっていた固定電話400回線は9日までに全て復旧した。 *3-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16146604.html (朝日新聞 2025年2月11日) 陥没、救助見通し立たず 穴側からの活動断念 埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故で、安否不明となっているトラックの男性運転手の救助が難航している。運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけない状況だからだ。県や消防は陥没した穴側からの救助は断念。新たな方法を模索するが、発生から10日以上過ぎても見通しは立っていない。5日に行われた県のドローンによる調査で、陥没地点の100~200メートル下流の下水道管(直径4・75メートル)内に、トラックの運転席部分とみられるものが確認された。一部が流水につかり、男性の姿は確認できなかったが、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみている。さらに上流側ではがれきなどの堆積(たいせき)物が管を塞いでおり、陥没地点側は汚水であふれていた。陥没が起きたのは1月28日。当初、消防は穴の内部に隊員を入れたり、クレーンでトラックごと救助しようとしたりしたが、失敗。荷台部分は引き上げたものの現場周辺で崩落が相次いで穴が拡大し、運転席部分はがれきや土砂で見えなくなった。二次災害の恐れもあり、穴の内部での救助活動が難しくなった。その後は、下水道管の破損箇所から穴の中に汚水があふれ出してきた。県は12市町120万人に下水の利用自粛を要請したが、状況は改善しなかった。穴の中のがれきはほぼ撤去されたものの、引き続き土砂崩れの危険があるとして消防は9日、穴からの救助活動を打ち切った。現在検討しているのが、陥没地点から約600メートル離れた下流側のマンホールなどから下水道管内に下りての救助だ。ただ、管内は汚水の流れが速く、高濃度の硫化水素が発生するなど、八潮消防署の担当者によると「通常では人が入れない厳しい環境」。大野元裕知事は「消防庁、自衛隊とレスキュー方法を検討している」とするが、県からも具体的な方策はあがっていない。救助活動に詳しい元東京消防庁警防部長の佐藤康雄さんは、マンホールからの救助について、距離や水流、硫化水素などの課題を挙げ、「不測の事態が起きたときにすぐに脱出できない。安全を担保しながらの作業は至難の業だ」と指摘。運転席部分があるとみられる場所の上部を重機で掘削し、地上から直接救助する方法も考えられるというが、「土砂が崩れないように掘り進めることは難しく、下水道管に穴を開ければ、管全体が壊れてしまう可能性もある」との見方を示した。 *3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS8J3VNVS8JTLVB001M.html (朝日新聞 2024年8月17日) 自衛隊員は「即戦力」 運輸業界が退職予定の自衛官に再就職説明会 退職予定の自衛官に、次の活躍の場としてバスやトラック、タクシーの運転手を紹介する「運輸業合同説明・運転体験会」がこの夏、陸上自衛隊北熊本駐屯地(熊本市北区)で開かれた。自衛官の定年は一般の公務員よりも早く、多くは54~57歳で退官する「若年定年制」をとっている。加えて、20代から30代半ばで退職する任期制もある。いずれも、部隊の卓越した強さを維持するためだ。そのため、自衛隊は再就職の支援に力を入れてきた。今回は九州運輸局熊本運輸支局が自衛隊側に声をかけ、初開催した。大型車両の運転免許を持っている自衛官は多く、ドライバー不足に悩む運輸業界にとっては「即戦力」になるからだ。7月18日にあった体験会には、北熊本に加え健軍駐屯地(熊本市東区)や高遊原分屯地(熊本県益城町)などからも計119人が参加した。運輸業界からは、再就職した自衛官OBが説明役として登場。「健康であれば定年はなく長く続けられる。(乗客に)あいさつさえすれば、特に会話をしなくても構わない」(タクシー)、「安定した生活が送れる。地域社会への貢献という点で自衛隊と相通じる」(路線バス)などとPRした。希望者は駐屯地の構内で運転を体験した。来年5月の誕生日で退官する予定の男性自衛官(55)は「仕事でも運転をしているので、路線バスかトラックの運転手を考えている。人と接する仕事も楽しそうだし」と話す。熊本運輸支局の岩本輝彦支局長は「2024年問題で、運輸業界は慢性的な人手不足。自衛官には何事も自分で判断できるスキルもあり、どの会社も大いに期待している」と語った。 <何事も人手不足を言い訳にすべきではないこと> *4-1:https://president.jp/articles/-/87177?page=1 (President 2024/10/26) 「退職したらハローワークに直行ですよ」現役自衛官が明かす"50代の中年自衛隊員"を待ち受ける厳しい現実、いくら国のために尽くしても恩給も、再就職先もない 自衛官の定年は一般企業によりも早い。2・3曹は54歳、1曹から曹長・准尉・1~3尉は55歳、2・3佐は56歳、1佐は57歳。幹部クラスの将・将補は60歳だ。定年を迎えた自衛官はどうなるのか。ニッポン放送アナウンサーの飯田浩司さんが書いた『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)から紹介する――。 ●「安心できるキャリアプラン」がない 一方に極端に勇ましい言動があり、もう一方には何が何でも話し合いをすればいいというこれまた極端な平和主義論が横行する言論空間。防衛費の増額に関しても、2つの極論がぶつかり合って、現場で真に必要なものが行き届かないことが危惧されています。岸田首相(当時)は2022年11月28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう関係閣僚に指示しました。安保3文書の改定と並んで、岸田政権の安全保障政策の大転換といわれました。立憲民主党などの野党やリベラル系といわれるメディアは、この防衛費の増額により「戦争する国になる!」といったステレオタイプの批判を繰り広げました。一方で、政府与党の中でも「防衛族(防衛省と強い繫がりを持ち、安全保障政策・防衛予算などへの影響力を持つ政治家)」と呼ばれるような人たちは新たな装備品、とりわけ長射程のミサイルや艦艇、戦闘機といった大物をそろえる方に予算を誘導しようとします。しかし、現場は予算の増額によって戦争をしようとしているわけではなく、また、大きな装備品をそろえることを急ぐのでもありません。現場が欲しているのは「人」であり、安心できるキャリアプランの「仕組み」でした。安全保障の現場を担う自衛隊や海上保安庁といった現場は、人を集めるのにも苦労する状況が続いています。自衛隊、海保は「公安系」といった具合に括られて、地元の警察や消防とともに就職説明会を開いたりするようですが、そこで言われるのが、転勤について。士や曹といわれる現場の自衛官たちは地元の部隊に所属すれば地元近辺にいることが多いのですが、それでも部隊改変などのために遠くの任地に配属されるケースもあります。 ●早い人だと「54歳で定年」を迎える 海保も現場の海上保安官は管区内での異動が中心とのことですが、たとえば第一管区海上保安本部は小樽に本部を置き北海道内はすべて管区となりますので、東は根室、北は稚内、南は函館と1日がかりで移動する距離。地元の市町村単位の消防や都道府県単位の警察と比べると、特に地元にいたいという人にとっては一つハードルが高くなります。加えて、採用の際には本人よりも親御さんがそのあたりを気にされると言っていました。一方、幹部となれば話はまったく違ってきます。海保も自衛隊も全国転勤が当たり前という世界。警察もキャリア官僚となれば全国転勤となりますが、それは一握りです。そして、これは自衛官の採用の最前線、地方協力本部を取材した時に特に言われたのですが、採用の際に自衛官の定年と再就職先がネックになってきているという話を聞きました。現場の自衛官は精強さを保つという理由で早期退職制が敷かれています。士といういわゆる兵隊さんはそもそも任期制自衛官と言われる若者たちで、1期2~3年を数期務めて巣立っていきます。そこから任用試験等を経て曹というクラスに昇任すると、定年制となり、2・3曹は54歳で定年。その上の1曹から曹長・准尉・1~3尉(大尉~少尉)で55歳、2・3佐(中佐・少佐)で56歳、1佐(大佐)で57歳定年となります。その上の将・将補(中将・少将)となると最長で60歳定年となります。 それぞれに問題を孕みながらも現状なんとか回している状態とのことですが、まず一般企業や他の公安系公務員と比べても定年が早いだけに、現場で若年層をリクルートしようとする時にライバルから「自衛隊は定年が早いから、ウチの方が先々安定するよ」と口説かれるのだそうです。 ●“何か異質のようなもの”として扱われてしまう もちろん、精強さを保つのは安全保障上も重要なことですから制度自体は致し方ない部分があります。実際、陸・海・空三幕の幕僚監部の中にある募集・援護課や現場の地方協力本部も手をこまねいているわけではなく、「援護」と称される再就職支援を積極的に行うことでそれぞれの退職後のキャリアをサポートしていますし、募集の際にもその手厚さをアピールしたりもするそうですが、この少子化の折、子どもの就職にも親が積極的にかかわる時代。となると、より安定を求めて他の選択肢を検討するケースも多いそうです。曹という現場を取りまとめる重要なポストから、幹部自衛官に至るまで、早期退職制度とはいえ最後まで勤め上げ国に貢献したということに変わりはありません。諸外国であれば、賞賛こそすれ再就職先にも困るということはないでしょう。アメリカなどはここまで勤めれば、いわゆる軍人恩給でハッピーリタイアメントという方も少なくないそうです。もちろん、部隊や職種によっては任務の過酷さも米軍は世界一かもしれませんが。海外に出張したり、あるいは研修で海外に赴任したりした現職自衛官が口々に訴えるのが、その扱いの違いです。海外で制服を着て飛行機に乗ろうとすると、「Thanks for your service!」と声をかけられ、搭乗が優先されたり座席に空きがあればアップグレードされたりするなどの優遇を受けられたそうです。社会全体に国家への貢献を評価するという気風があるようなんですね。一方で、日本に帰れば何か異質なもののように扱われ、かつては蛇蝎だかつの如く嫌われた時期もありました。いまだに憲法学者の大多数は自衛隊を違憲の存在としています。 ●「せめて尊敬の気持ちを…」と本音を語った自衛官 そんな肩身の狭さは一体何なのだろうか? 海外に出て、そんな思いにとらわれる人もいます。自衛官は任官の際に、次のように職務宣誓しています。〈私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います〉〈事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め〉ることを誓っているわけです。アメリカのような手厚さがなくてもいいけれど、その心意気にはせめて尊敬の気持ちを持って接してもらいたい。打ち解け、こちらを信用してくれた一部の自衛官の口からこんな本音が漏れてくるのは、夜もだいぶ深まった頃でした。東日本大震災以降特に顕著になりましたが、自衛官に対する世間の見方がそれまでと180度変わって、今では政府内のどの職種よりも国民の信頼が厚くなっています。たとえば、2022年に読売新聞社と米ギャラップ社が実施した日米共同世論調査で、信頼している国内の組織や公共機関を15項目の中からいくつでも選んでもらうと、日本では「病院」が78%(前回2020年調査74%)、「自衛隊」が72%(同70%)、「裁判所」が64%(同57%)でした。 ●退職後も「正規」にはなりにくい それでも、彼ら・彼女らは普段から言動に非常に気を遣っていることが見えてきます。 制度上の理由で早期退職となりますから、その分本来であれば退職金が少なくなってしまいます。勤続20年以上の場合はそれを補う若年定年退職者給付金がありますが、本来は恩給制度等で報いる方法が検討されてしかるべきでしょう。もちろん、援護サイドも頑張っていて、地方自治体の防災監として採用されるケースも増えてきています。平時には現役時の経験を活かして防災や有事への備えを提言し、非常時には古巣の自衛隊との連携をスムーズに行う潤滑油として働く。理想的にも見える再就職で、実際ウィン・ウィンの関係なので防衛省・自衛隊サイドも推している施策なのですが、先方の自治体側もない袖は振れぬでなかなか正規職員のポストを用意できないのが難しいところ。キャリアプランは人それぞれなので、非正規職員となると尻込みするケースもどうしても出てくるようです。また、民間への再就職となると、そもそも50歳を超えてからの再就職は民間から民間でも難しいもの。採用となると、給料の他に社会保険料の企業負担分も面倒を見なくてはなりません。恩給の支払いが現実的でないのならば、せめて若年定年退職者には社会保険料の企業負担分は国で面倒を見るぐらいのサポートがあってもいいと思います。 ●“偉くなった人”ほど再就職先が見つからない 一方、制服組の中でも一握りのトップが将・将補クラス。このクラスになると、自衛隊独自の再就職あっせんシステムである「援護」を利用することができなくなります。「いやいや、でも将や将補まで偉くなった人だったら企業が放っておかないでしょう」「それぞれの専門を活かして退職後も活躍してくれるでしょう」。普通だったらそう思いますが、将・将補クラスとなると一般の公務員とまったく同じで、国家公務員法に基づく再就職に関する行為規制の対象となります。すなわち、それまでの経験を活かすとなると往々にして当該将官と企業との間で利害関係が生ずることになり、それは現職職員による利害関係企業等への求職活動に関する天下り規制に引っかかることになるのです。その上、一般の公務員でしたらこのポジションは次がある、このポジションは上がりだといったようなだいたいの退職時期の相場観があります。自衛隊にもなんとなくはあったりしますが、しかし政治情勢や内外の情勢によって、適材適所で突然の辞令ということも少なくありません。その上、ここまでのクラスになればどの職種にいようとも基本的には激務です。退職ギリギリまで職務に専念しており、再就職活動に時間を割ける人がどれだけいるか、見ている限りはほとんど思い浮かびません。ある同年代の将補など、「もし私が退職となったら、辞令をもらったその足でハローワークに直行ですよ」と赤裸々に話していました。 ●自衛隊を支えているのは「生身の人間」 入口の採用の難しさと、出口の退職後のキャリアプランの難しさ。安全保障の安定なくして繁栄する経済も安定した社会もありません。かつて日本社会においては「水と安全はタダ」といったことが言われていました。しかしそれは、今まで現場の心意気でなんとか保ってきただけだったのではないでしょうか? 今後の少子化も相まって曲がり角に来ています。防衛省・自衛隊に関するニュースというと、防衛費の増額や装備品の購入といったものばかりが並びますが、支えているのは生身の人間です。なんとなく、防衛費増額のニュースを見聞きしていると予算が増えて自衛隊は潤っているような印象になるかもしれません。しかし、内実はこの章で紹介した通りお寒いものでした。飯田浩司『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)飯田浩司『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)。見出しから受けるイメージだけに引っ張られず、内実まで伝えることがメディアの仕事だと思いますが、今は記者個人や組織のOBが積極的に発信している例も見られます。「この人のこの分野の情報は信頼できる」といった自分自身の情報源のストックも合わせて見ることで、より深くニュースを理解できるのでしょう。かつては自衛隊員が「戦争をする集団だ」と蔑まれ、制服を着て街を歩けないような風潮までありました。今は表立ってそうしたことはなくなりましたが、社会全体としてリスペクトの醸成やキャリアプランを明確に示せるような仕組み作りこそが、結果としてこの国を支える底力になるのだと思います。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250201&ng=DGKKZO86463520R00C25A2MM8000 (日経新聞 2025.2.1) 就業者最多6781万人 昨年34万人増、正社員に転換進む ミスマッチ、人手不足解消せず 働く人が過去最多となった。総務省が31日公表した2024年の就業者数は6781万人と前年から34万人増え、比較可能な1953年以降で最も多い。女性やシニア層の就労が広がり、正規雇用が増加した。余剰労働力(総合2面きょうのことば)は乏しい。日本経済は生産性を高めながら、どう人手不足に対応するかという課題に直面する。就業者とは15歳以上の人のうち、仕事を持って働いている人や一時的に休職している人を指す。就業者数は景気回復などを反映し、2013年以降、女性やシニアを中心に増加してきたが、新型コロナウイルスの影響で20年、前年比で40万人減少した。その後は緩やかに回復が続き、24年は過去最高だった19年の水準を上回った。15歳以上の人口に占める就業者の割合を示す就業率も24年は61.7%と、前年から0.5ポイント拡大した。女性の就業者は前年比で31万人多い3082万人と最多だった。就業率でみると男性は直近10年間で1.9ポイントの上昇にとどまったが、女性は6.6ポイント上昇した。高齢者の就業率も上昇傾向にあり、65歳以上は前年比で0.5ポイント高い25.7%だった。雇用形態別にみると就業者のうち正規雇用は39万人増と大きく増えたが、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用は2万人増だった。より良い雇用条件を示さなければ、人材が集められない状況が広がっている可能性がある。リクルートの高田悠矢・特任研究員は「企業側の人材ニーズが高まるなか、これまではパートなどで働いていた女性が正社員となっている」と指摘する。小売り大手のイオンはグループで働くパートなど非正規雇用の待遇について、同等の業務を手掛ける正社員とそろえる制度を広げている。食品スーパーのライフコーポレーションは勤務地を絞った社員種別の「限定社員」を廃止し、正社員と同じ待遇にそろえた。若手人材を確保するため、30万円以上の初任給を提示する企業が増えている。アシックスは25年4月入社の大卒新入社員の初任給を24年から2万5000円引き上げ、30万円とする。大和ハウス工業やファーストリテイリングなども30万円以上の初任給を示している。企業側の人手不足感は強い。日銀がまとめた24年12月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、雇用が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」を引いた雇用人員判断指数(DI)は全規模・全産業でマイナス36、先行きはマイナス41だった。厚生労働省によると介護や建設分野では有効求人倍率が4倍を超える職種もある一方、事務系は1倍を下回る。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平・副主任研究員は「求人と求職者のミスマッチが起きている。女性や高齢者は働く時間が短く、想定よりも労働力の確保につながっていないという側面もある」と語る。働く人の増加は経済成長にプラスだ。企業の生産やサービスの供給が増える上、収入増が消費拡大につながり需要が伸びる。社会保険への加入者が増えることで、年金や健康保険の財政的な安定性が高まる。少子高齢化の進展で15歳以上人口は10年代に減少が始まった。女性や高齢者の拡大による就業者の増加には限界がある。労働政策研究・研修機構の推計によると、40年時点の就業者数は最も低いシナリオで5768万人まで落ち込む。今のうちから人工知能(AI)などを活用した生産性の向上などで働き手の減少に備える必要がある。 *4-3-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250131/k10014708111000.html (NHK 2025年1月31日) 日本で働く外国人労働者 去年230万人超で過去最多 日本で働く外国人労働者は去年230万人を超え、12年連続で過去最多を更新したことが厚生労働省のまとめでわかりました。外国人労働者の職場環境の改善などにつなげようと、国は2007年から外国人を雇い入れた企業や個人事業主に対して、ハローワークへの届け出を義務づけています。厚生労働省によりますと、去年10月末時点で日本で働く外国人労働者は230万2587人でした。前の年の同じ時期に比べて25万3912人増え、率にして12.4%の増加で2013年から12年連続で過去最多を更新しました。 国籍別にみると、 ▽ベトナムが57万708人と最も多く全体のおよそ4分の1を占め、 次いで ▽中国が40万8805人 ▽フィリピンが24万5565人でした。 一方、前の年からの増加率では、多い順に ▽ミャンマーが61% ▽インドネシアが39.5% ▽スリランカが33.7%などとなりました。 人手不足の解消につなげようと2019年度に始まった制度で、建設業や介護など16の分野で専門の技能があると認められる「特定技能」の在留資格で働く人は20万6995人でした。厚生労働省は「人手不足などを背景に外国人労働者が増加しているとみられる。特に医療・福祉や建設業の増加率が高くなっている」とコメントしています。 *4-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC014DT0R01C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月4日) 四国の外国人材最多、共生が日常に 今治の造船などで 深刻な人手不足を背景に四国で外国人材が増えている。2023年10月時点の外国人労働者数は届け出が義務化された07年以降で過去最多となった。多文化共生はいまや日常だ。四国の製造品出荷額の約4割を占める愛媛県では、製造業を中心に外国人労働者が増加している。地域別では造船業が盛んな今治地域が全体の3割を占める。独立系造船会社の新来島どっく(愛媛県今治市)では491人の外国人労働者が働く。新型コロナウイルス禍で一時減少したが、入国制限の解除以降はコロナ禍前を上回っている。日本人の人材確保が厳しさを増すなか「溶接作業など鉄加工全般や塗装など重要な戦力として活躍している」と担当者は語る。今後も現状以上の人員を確保する考えだ。高知県では四国銀行が人材紹介の6社と提携し、取引先に外国人材の採用を提案する。高知銀行は9月、技能実習生の受け入れをサポートする監理団体4団体と業務提携した。関心はあるが「どこに相談したらいいか分からない」という企業の声に応える。香川県では香川銀行がノンバンクのJトラストと提携し、取引先にインドネシア人材の紹介を始めた。県も人材紹介の8社と連携協定を結び、企業と外国人材のマッチングに乗り出した。徳島県は9月から半年間の予定で、外国人のための無料職場体験プログラムを実施している。県内での就職に関心のある留学生らと、採用に前向きな県内企業との出会いの場を設ける。夏の阿波踊りには、日本ハムファクトリー(静岡県吉田町)の徳島工場(徳島県石井町)の従業員らでつくる「日本ハム連」が参加。ミャンマーやネパールなど約20人の外国人従業員が日本人と共に生き生きと踊った。高松市中心部の商店街にはインドネシア食材専門店がオープンし、故郷の味を求める人びとが訪れる。異なる人種や文化、価値観を尊重する多様性の推進は四国の活性化に欠かせない。 *4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250215&ng=DGKKZO86746440U5A210C2CT0000 (日経新聞 2025.2.15) インド人留学生に300万円 文科省 人工知能(AI)など先端分野での人材を確保するため、文部科学省や東京大学などがインドからの留学生獲得を強化する。インドの大学院生300人弱の留学費用を支援するほか、現地でリクルート活動を行い、2028年度までに留学生を倍増させる。理工系に強いインドから人材を受け入れ、日本の研究力や産業競争力の向上につなげる。文科省は25年度から、AIなどを学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に、日本での生活費や受け入れ大学での活動費として1人300万円を支援する。文科省によると、300万円は渡航費も含めて日本で1年間生活する上で支障のない金額だという。インド通貨ルピーは対ドルで下落基調にあり、日本の大学の方が欧米の大学より金銭的に留学しやすいという環境もある。人材サービスのヒューマンリソシア(東京・新宿)によると、インドで働くITエンジニアの平均年収は約127万円。支援額は約2.3倍と手厚い。留学生への支援は1年間で、日本への定着を視野に入れて、企業のインターンシップへの参加も促す。受け入れる大学は同年度に公募し、科学技術振興機構(JST)が審査する。東大や立命館アジア太平洋大(APU)などの国内大学、大使館、民間事業者など50を超える機関が24年度、インド人留学生を増やすための連携組織を立ち上げた。SNSで日本の大学や奨学金に関する情報を発信するほか、インド人の留学エージェントが現地の大学を回り、日本の大学の魅力を伝える。人口14億人のインドは伝統的に理工系人材の育成に強い。引用数が上位10%に入る「注目論文」数で日本は13位と低迷するが、インドは4位につける。IT分野をはじめとしたインド人材の獲得競争は世界で激しさを増している。一方、インドの学生は日本に目を向けていない。インド外務省によると、日本への留学生数は22年は1300人。米国(46万5000人)やカナダ(18万3000人)、英国(5万5000人)などと比較して圧倒的に少ない。背景について、東大の北村友人教授(教育学)は「インド人学生は英語が得意で、日本より英語でのカリキュラムが充実している欧米の大学を目指す傾向が強い」と説明する。インドでは日本の大学の知名度が低く、進学先の選択肢に入っていないケースがほとんどだという。そのうえで「日本の大学は教育・研究の質が一定程度高い上、海外に比べて授業料が安いというメリットがある」と指摘。「インドではトップ層の大学以外にも優秀な学生は多く、裾野を広げていきたい」と話す。東大などは日本全体のインド人留学生を28年度までに2倍以上の3000人に増やしたい考えだ。文科省は日印の大学による学生の相互派遣も拡大する。25年度から、共同で留学プログラムを設ける国内大学の資金援助を始める。大学間の単位相互認定を皮切りに、将来的には双方で学位を得られる「ダブルディグリー」といった制度を設けることを目指す。インドのほか、国際的な存在力を増しているアフリカの大学も対象とする。同年度に国公私立大を対象に公募し、12件程度を認定したい考えだ。選ばれれば年間2000万~3200万円の助成を受けられ、29年度までの5年間が対象となる。政府は33年までに日本人留学生を50万人に増やし、外国人留学生を40万人受け入れる目標を掲げている。インドをはじめとした新興国「グローバルサウス」との人的交流の強化で目標達成を後押ししたい考えだ。 *4-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250215&ng=DGKKZO86754130V10C25A2MM8000 (日経新聞 2025.2.15) 〈エビデンス不全〉地方創生の虚実(4)12道県、大学進学で転出拡大 「23区定員規制」効果薄く 「将来は博士号をとりたい」。徳島大学で学ぶ藤井優花さん(20)は地元の徳島県の出身。祖父をがんで亡くしたことなどから内視鏡や顕微鏡を使った研究に興味を持つ。徳島大は青色発光ダイオード(LED)の研究成果でノーベル賞を受賞した中村修二氏の母校。現在、地域の産学官が結集して光技術の専門人材を育成する計画の拠点になっている。国は2018~23年度、県に計29億円を投じた。誤算は藤井さんのような県内からの進学者が思うほど増えていないことだ。23年度も48人と、目標の53人に届かなかった。東京一極集中を是正し、地方との間の人口流出入を均衡させる。地方創生の大きな目標のひとつだった。政府は大学進学や就職で地元を離れる若者が多いことに目をつけた。18年から10年間の時限措置として、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じた。同時に地方大学向けの交付金を創設した。地方の教育や研究の一定の底上げにはつながった。肝心の若年層の人口動態を変えるには至っていない。 ●育てるほど流出 強みの金属素材の分野に磨きをかけた島根大学は学生の地元就職者数が目標に届かない。三浦英生・副学長は「育てた学生を都会に取られてしまう」とこぼす。人材の質が高まるほど県外の大企業から求人が殺到するジレンマに直面する。文部科学省の学校基本調査のデータで19~23年度の大学進学による人口移動を分析すると、37道県は流出超過が続いていた。茨城や香川など12道県は交付金ができる以前の14~18年度と比べて流出が拡大した。東京の流入超過は加速した。大学の定員規制の効果ははっきりしない。23区内の学部入学定員は21年度までの3年間に約2800人増えた。もともと決まっていた学部新設は例外扱いだったことなどが響いている。文科省は「膨大な行政コスト」を理由に、その後は集計していない。日本経済新聞が国の公表資料をもとに数えたところ、21~23年度でさらに約3000人増えていた。そもそも規制自体が不合理との指摘もある。日本の成長力を高めるという地方創生の本来の狙いにそぐわないからだ。東京都の小池百合子知事は「学生の学びと成長の機会を奪うのみならず、大学の教育・研究体制の改革を滞らせ、我が国の国際競争力を低下させることにつながりかねない」と撤廃を求めている。 ●若者の視点欠く 法政大学キャリアデザイン学部の田沢実教授も「当事者である若者の視点が欠けている」と批判する。国による一方的な人口移動の抑制は無理があるとの見方だ。教育や研究が本分の大学に政策的な役割を押しつけるのも限界がある。内閣府の地方創生推進事務局も「企業誘致や賃上げなど総合的な取り組みが必要」と認める。経済合理性に反した改革は持続可能でなく国力をそぎさえしかねない。地方創生という錦の御旗の下、野放図な政策がまかり通っていないか目をこらす必要がある。 *4-5-1:https://digital.asahi.com/articles/AST252P8ZT25UHBI016M.html?comment_id=31653&iref=comtop_Appeal6#expertsComments (朝日新聞 2025年2月5日) トランプ氏の奇策、歴史的成果へ野心 パレスチナの人々置き去りに トランプ米大統領が、パレスチナ自治区ガザから約200万人にのぼる住民を追い出して米国が「所有」し、再建させる復興案を打ち出した。前代未聞の構想は、長年悲劇に見舞われてきたパレスチナの人々を置き去りにしたままぶち上げられた。「ガザを中東のリビエラにする」。トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相との会談後、共同記者会見でこう述べた。イスラエル軍の攻撃で建物は破壊され、多くの女性や子どもが戦闘の巻き添えとなったガザ。死者は4万7千人を超えた。トランプ氏は、荒廃したガザの将来像を地中海のリゾート地リビエラに重ね、そこに住むのは帰還したパレスチナ人ではなく「世界の人々」だと言った。こうした復興案は、不動産開発業出身のトランプ氏らしい「ディール(取引)」とも言えるが、本人は単なる思いつきではないと主張している。トランプ氏は会談の冒頭、「人々は地獄のような生活を送ってきた。ガザは人々が住むべき場所ではない」と語り、居住地として別の選択肢があれば人々はそちらを選ぶだろうと主張。米国がガザを長期的に所有して開発を進めれば中東に安定をもたらすことができるとし、「軽率に決めたことではない。誰もがこのアイデアを気に入っている。何カ月も検討を重ねてきた」と語った。第1次トランプ政権は、米軍の派遣を伴う対外関与は嫌う一方で、宗教的な理由でイスラエル国家の存立に強く共鳴する国内支持層に応え、イスラエルの主張をそのまま実行したような政策を連発した。最大の成果は、イスラエルと一部の周辺アラブ諸国との関係を正常化させた、2020年の「アブラハム合意」の仲介だ。これにはトランプ氏の外交政策に批判的な専門家らの間でも評価する声があり、トランプ氏自身、「ノーベル平和賞に値する」功績としてアピールしてきた。2期目の今回も、大統領選中から「中東に平和をもたらす」と繰り返しており、歴史的成果へ野心を見せてきた。不動産業に携わってきたユダヤ系富豪のウィトコフ中東特使を政権発足前からガザの停戦交渉に参加させるなど、中東外交に力を入れる姿勢を鮮明にし、停戦合意が成立すると自らの成果として誇示。今回の復興案も、こうした流れで準備してきた可能性がある。米国内では、民間人の犠牲と甚大な人道危機を止められなかったバイデン前政権の中東政策への失望が色濃く残る。歴代政権も周辺のアラブ諸国も、前向きで具体的なガザの将来像を示せてこなかったという背景が、これまでの「常識」から逸脱した提案を打ち出す余地を生んでいる。ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)はこの日、記者団にアブラハム合意を「次の段階」に進めることが目標だと語り、イスラエルと地域大国サウジアラビアとの歴史的な関係正常化の仲介へ意気込みを見せた。ただ、サウジはパレスチナ国家の樹立を正常化の条件だとしており、今回のような復興案を打ち出すトランプ政権の思惑通りに進むかはまったく見通せない状況だ。 *4-5-2:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-10/SRF6VBT0AFB400 (Bloomberg 2025年2月10日) サウジ、ガザ住民移住構想を非難-イスラエル首相やトランプ氏が示唆 サウジアラビアは9日、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させるというイスラエルのネタニヤフ首相の提案を「断固拒否」するとの声明を国営サウジ通信(SPA)を通じ発表した。サウジは声明で、「パレスチナの人々にはその土地に対する権利があり、彼らが追放されるべき侵入者や移民ではないことを確認する」と極めて強い言葉で同首相の発言を非難した。イスラエルのチャンネル14との先週のインタビューで、ネタニヤフ首相はサウジ領内にパレスチナ国家を創設する構想を示唆。一方で、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃後、パレスチナ国家は存在すべきではないとの自身の立場を繰り返した。トランプ米大統領は4日夜、ホワイトハウスでネタニヤフ首相と会談後に共同記者会見し、米国がガザ地区を所有し、ガザを「中東のリビエラ」と呼ばれるような場所に変えたいと述べていた。同大統領は他の中東諸国に対しガザからパレスチナ人を受け入れるよう求めたが、エジプトやヨルダンはこれを拒否している。トランプ大統領の考えはとっぴなものと思われたが、イスラエルはすでに、戦争で荒廃したガザから港や陸路を経由して住民を移す計画を策定しつつある。ただし、パレスチナ人が移住を望んでいるのか、またどこに移り住みたいのか、そして、実際に移住が可能かどうかは不明だ。 *4-5-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/288655 (日本農業新聞 2025年2月16日) 外国人農地取得を厳格化 農水省省令見直し 短期在留は認めず 農水省は2025年度から、外国人が国内の農地を取得する際の要件を厳格化する。取得を目指す外国人に対して、取得の可否を判断する農業委員会に残りの在留期間を報告するよう義務化。短期間で在留期間が切れる場合は、農地を取得できなくする。農地取得に関するルールを定める農地法の省令を見直す。農地が取得後も適切に耕作されるか判断する上で、残りの在留期間を把握する必要があると判断した。短期間で在留期間が切れる場合の他、短期間で遠方に転居する場合も農地の取得を認めない。同省は「(どのくらいの期間が短期間なのかは)事例ごとに農業委員会が判断することになる。収穫まで数年かかる果樹など、作物によっても変わる」(農地政策課)とする。外国人の農地取得を巡っては、同省は2023年9月、取得を目指す外国人に対し、農業委員会に国籍や在留資格の種類を報告するよう義務付けている。同省によると、外国人やその関係法人が23年に取得した国内の農地は90・6ヘクタール。うち、外国人個人による取得は60ヘクタール(219人)で、残りは法人による取得だった。日本では、外国人による土地取得を規制できない。世界貿易機関(WTO)協定の一部である「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)で、外国人が不利になる規制が禁止されているからだ。ただ、韓国やロシアは、外国人の土地取得について適用を留保しており、取得を規制できるという。日本は締結時に留保しなかった。 *4-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250211&ng=DGKKZO86654250Q5A210C2TB1000 (日経新聞 2025.2.11) 外国人と協働にIT駆使 新興「育成就労」導入にらみ商機、カミナシ、13言語のマニュアル DXHUBはスマホで日本語教育 スタートアップがIT(情報技術)を活用して外国人と協働しやすい環境づくりを急いでいる。カミナシ(東京・千代田)は13言語対応の従業員教育サービスを開発し、2025年度に10万人の登録を目指す。外国人労働者は200万人を超え、27年にも新制度「育成就労」の適用が始まる。言葉の壁などの問題解決にスタートアップが商機を見いだしている。現場の帳票入力を電子化するSaaS(サース)を手掛けるカミナシは1月、新サービス「カミナシ教育」を始めた。動画コンテンツ事業を手掛けるVideoStep(東京・港)と業務提携し、同社から動画マニュアル作成機能のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける。管理者が現場作業の様子を撮影した映像をクラウドにアップロードして編集すると、人工知能(AI)が音声を文字起こしして字幕をつけ、マニュアルを作成する。 ●AIが字幕音読 従業員がパソコンやスマートフォンで動画を閲覧する際に、マニュアルをベトナム語など13言語に翻訳。字幕を日本語と併記して表示したり、AIが母国語で読み上げたりする。従業員は作業の手順を自分のペースで学ぶことができる。現場作業では、教育を担当する管理者によって指導レベルに差があり、研修を終えたかどうかを管理するプラットフォームが存在しないことも多い。従業員の業務の理解度に差があると、企業が提供する製品やサービスの品質にばらつきが出る懸念がある。カミナシは2月中にも個別の従業員がマニュアルの理解度を確認するアンケートに答えたかを一覧で管理できる機能の提供も始める。食品や機械などの製造業を中心に26年6月までに10万人のユーザー登録を目指す。厚生労働省によると、日本で働く外国人の数は23年10月時点で204万人。前の年から12%増え、初めて200万人を超えた。今後もベトナムや中国、フィリピンなどからの人材流入が見込まれている。問題となっているのが言葉だ。仕事の仕方に不明点があっても理解してもらえないと考えて外国人が対話を避けるケースが多発している。在留外国人を対象にした法務省の23年度の調査では、企業など所属先に困りごとを相談しない理由として、最多の15%が「言語の問題で正確な意思疎通が難しいため」とした。企業の方も、指導や監督で苦労している。厚労省が24年12月に公表した雇用実態調査で「外国人労働者の雇用に関する課題」を聞いたところ、最も多かったのは「日本語能力などのためにコミュニケーションが取りにくい」で45%だった。こうした事態に対応しようと、在留外国人向けの通信サービスを手掛けるDXHUB(京都市)は、オンライン日本語教育ソフト「BondLingo」の事業をボンド(東京・新宿)から取得し、福利厚生型のSIMカードの販売を始めた。企業が採用した外国人にスマホ用SIMカードを配布する際に日本語教育ソフトも提供し、学習への取り組みを管理できる仕組みだ。学習履歴は昇給や賞与の判断材料とするなど、外国人労働者向けのインセンティブとして活用できる。 ●定着率向上に力 企業には外国人や家族の日本語学習に関し、機会の提供や支援に務める義務がある。DXHUBの沢田賢二社長は「日本人や他の外国人社員とのコミュニケーションが取れれば職場は働きやすくなり、企業にとっても外国人の定着率向上が期待できる」と話す。翻訳や教育で業務上の情報格差を緩和し、面談などを通じて働きがいや困りごとの有無を確認しても、実態を把握しきれないケースもある。ミツカリ(東京・渋谷)は24年12月、従業員エンゲージメント調査のサービスを、中国語やベトナム語など合計9カ国語に対応させた。同社のサービスは1分程度のアンケート調査を継続的に実施し、満足度やモチベーションを計測する。企業はデータから外国人労働者の労働意欲低下の兆候を早い段階で捉え、離職防止の対策を取ることができる。住居など生活面での支援でも動きがある。家賃保証審査支援のリース(東京・新宿)は24年12月、外国人が不動産会社に賃貸物件の入居申し込みをする際、家賃保証会社の審査担当者が自身では理解できない外国語の支援を受けられるサービスを始めた。リースは、多言語の相談窓口を運営するインバウンドテックと提携し、書類に不備がないかなどの確認作業を支援する。これまでは審査が後手に回り、契約が成立しないケースもあったが、借り手は入居しやすくなる。外国人労働者を巡っては、18年に成立した改正出入国管理法で在留資格「特定技能」が創設され、19年4月から人材の確保が困難な業界への受け入れが解禁された。27年には、過酷な労働環境下で失跡者が増えるなど問題点が指摘されている技能実習制度に代わり、育成就労が導入される見込み。具体的な運用は有識者会議などで詰めるが、1~2年の就労期間などの条件を満たし本人の意向があれば転職も可能になる方向だ。少子高齢化が定着し、人手不足が本格化するなか、優秀な外国人労働者の存在は企業の競争力を左右するようになっている。ルール順守の上で、外国人側の目線にも立ち、課題に対処していく必要がある。 <日本のブルーオーシャンが、日本政府にいじめ抜かれるのは何故か> PS(2025年3月5~8日追加):*5-1-1は、①家族介護を社会的介護に転換するためにできた介護保険スタートからの25年は改悪につぐ改悪の歴史 ②負担増と給付源(=サービス切り下げ)の繰り返し ③一律1割だった利用者負担は所得に応じて一部の人が2割・3割となり、保険料を支払ったのに必要な時にサービスを受けられず介護保険制度の意味減少 ④事業者に支払う介護報酬抑制と訪問介護の生活援助利用を制限する見直し ⑤今年度から訪問介護基本報酬の引き下げ ⑥ホームヘルパーは極めて高い専門性が求められる職種だが、国は「訪問介護は誰にでもできる仕事」とみなし専門性を評価しないのが問題の根底にある ⑦ヘルパーがいなくなれば要介護高齢者が自宅生活することは困難で、介護報酬の大幅引き上げが必要 ⑧介護保険はいじめ抜かれた ⑨さらに国はi)2割負担対象者の拡大 ii)ケアマネジメントの自己負担導入 iii)要介護1・2の介護保険本体からの切り離し 等の改悪を進めようとしている ⑩国は「制度を持続させるため」として介護費用増加を負担増・給付源で調整しようとしている ⑪財源は公費投入の割合を増やすことも選択肢として国が検討すべき ⑫「3世代世帯」の割合低下、独居と夫婦のみ世帯半数超という家族構成の変化で介護費用抑制の環境にはない としている。 家族介護を社会的介護に転換していなければ、家族が癌や脳出血等で長期療養を強いられた時には、介護の専門家でない他の家族が、仕事を辞めたり、進学を諦めたりして、介護しなければならないが、介護は、⑥のように、知識と経験に基づく専門性が求められる仕事であり、愛さえあればできるものではないため、無知や介護疲れによる虐待・ネグレクト・差別が頻発して家族全員が不幸になる。にもかかわらず、国は、確かに、介護の専門性を評価しておらず、介護は妻や子(特に嫁や娘)・孫など家族の誰かがやるものだと考え続けている点が問題なのである。 私は、家族介護を社会的介護に転換する目的で介護保険制度を作った1人だが、①②③⑧⑨のように、負担増・給付源が繰り返され、1律1割だった利用者負担を(高くもない)所得の人に2割・3割負担させるなどする改悪につぐ改悪が続けられて、介護保険制度は確かに25年間いじめ抜かれたと思うが、何故だろうか。また、著しく物価上昇しているのに、④⑤⑦のように、訪問介護の基本報酬を下げて住み慣れた自宅で療養することを不可能にしたり、介護事業者に支払う介護報酬の抑制や訪問介護の生活援助利用の制限等の見直しをしたりして、高い介護保険料を支払ったのに必要なサービスを受けられないという介護保険詐欺になっている。そして、その理由を、国は、⑩のように、「制度を持続させるため(底の浅い決まり文句)」としているが、日本国憲法25条で定められ、優先的に行なわなければならない福祉を加える度に、他の膨大な無駄使いを放置したまま、国民負担を増加させる財源探しを行うこと自体がおかしい上に、保険料を取るだけで必要なサービスも受けられない骨抜きの制度なら持続させても意味が無いのだ。そのため、⑪⑫については、個別の産業に対する時代遅れで効率の悪い補助金や租税特別措置を止めて公費投入割合を増やしたり、介護の社会化で助かる子や孫の世代からも介護保険料を所得に応じて広く徴収し、介護保険料の負担者を所得のある人全員に広げて高齢者の負担を減らしたりすべきなのである。なお、政府が減らそうとしている介護サービスは、高齢化だけではなく、都市への人口集中・家族構成の変化・共働きの増加等で生じた新たなニーズであり、日本のブルーオーシャンの1つでもあるのだ。 また、*5-1-2・*5-1-3は、⑫福岡厚働相は「高額療養費制度」限度額引き上げ案を修正し、長期治療患者は負担額を変更しないと表明 ⑬長期治療とは直近12ヶ月以内に3回限度額に達した場合の4回目からの「多数回該当」で、その限度額引き上げを見送る ⑭現在は平均的所得区分(年収約370~770万円/年、約31~64万円/月)で多数回該当を利用した場合、限度額は4.4万円/月、2024年末決定の当初案では2027年8月に最大7.6万円/月の予定だった ⑮多数回該当の負担増は見送るが、1ヶ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施し、所得区分を細分化して年収約650万〜約770万円/年(約54~64万円/月)は2027年8月から約13.8万円/月に引き上げる ⑯近年は高齢化や革新的治療の広がりで適用件数が増えて医療保険財政を圧迫、厚労省は2024年末に「制度持続のため」として患者負担限度額の段階的引き上げ案を纏めた ⑰患者団体は福岡厚労相との面会後記者会見で、多数回該当以外の限度額引き上げも凍結を求める方針とした ⑱「高額療養費制度」見直しの背景には、「子ども関連政策」の財源確保に向けた医療費抑制がある ⑲2023年末閣議決定「こども未来戦略」は児童手当の大幅拡充など年3.6兆円規模の対策を盛り込み、うち1.1兆円は2028年度までに社会保障の歳出削減で賄うとする ⑳法改正を経ず閣議決定で制度改正できるので「高額療養費制度」に白羽の矢があたった ㉑高齢化や高額薬剤登場で医療費が増え、現役世代の保険料負担が重荷 ㉒財務省は「個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険負担割合は2000年度13.0%で2024年度18.4%になる」とする ㉓政府試算では、高額療養費制度見直しで保険料は年3700億円規模の軽減、加入者1人あたり保険料軽減効果は1,100円~5千円程度/年 としている。 「高額療養費制度」も癌や脳出血等で長期療養を強いられた時、収入が著しく減る上、医療費が高いままで生活費の多くを占めるようになると、「貯金が底を突く時が、生きることを諦める時」になってしまうため、衆議院議員時代(2005~2007年)に、私が作った制度だ。 しかし、瑕疵のある「高額療養費制度」限度額引き上げ案に反対が起こると、⑫⑬⑭⑮のように、福岡厚労相は修正案を出したのだが、その内容は、イ)直近12ヶ月以内に3回限度額に達した場合の4回目からの「多数回該当」にあたる長期治療患者の限度額引き上げは見送る ロ)平均的所得区分(年収約370~770万円、約31~64万円/月)で多数回該当を利用した場合、限度額は4.4万円/月に据え置く(当初案では2027年8月に最大7.6万円/月) ハ)多数回該当の負担増は見送るが、1ヶ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施する 二)所得区分を細分化して年収約650万〜約770万円(約54~64万円/月)は2027年8月から約13.8万円/月に引き上げる というものだった。ただし、ここで示している所得区分は総収入であるため、ここから所得税・住民税・社会保険料を引かれ、水光熱費や家賃の支払いをすると、生活費にできる可処分所得はずっと少なくなる。その状況で、月収31万円から医療費4.4万円/月を支払うのは既に負担が大きく、やはり「貯金が底を突く時が、治療を諦める時」になるだろう。それでは、月収54万円の人は医療費上限13.8万円/月を支払えるのかと言えば、所得税・住民税・社会保険料・水光熱費・家賃等を支払った残額から、医療費を支払った後で、生活費を支払わなければならないため、物価上昇による生活費高騰で家族もいればやはり無理だろう。さらに、単身の新人給与でさえ500万円/年になろうとする時に年収約650万〜約770万円/年の収入が高いとは言えず、私は、耐えられる医療費は月収(年収/12)の10%が上限だと思う。また、リスクは誰にでもあるが発生するか否かは人によって異なる事態に備えるために保険があるのであり、保険ならリスクに備えるための1人あたりの負担額は小さいため、㉓のように、加入者1人あたり保険料軽減効果も1,100円~5千円程度/年にしかならないのである。従って、⑰のように、患者団体が「多数回該当以外の限度額引き上げも凍結を求める方針」としたのは、当然のことである。 にもかかわらず、⑯⑰のように、「高齢化や革新的治療の広がり」を理由とし、またまた「制度持続のため」として、厚労省は2024年末に患者負担限度額段階的引き上げ案を纏めたそうだが、⑱⑲⑳のように、「子ども関連政策」の財源確保のため医療保健から支出するのは、目的外の流用であり、医療保険詐欺であるため、決して許されない。その上、㉑の「高齢化や高額薬剤登場で医療費が増えた」という点については、これらの革新的治療は、大量生産できるようになって普及すれば治療費や介護費を安くする効果があり、それが日本発の薬や治療法であればブルーオーシャンそのものなのである。また、㉒のように、財務省は「個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険負担割合は2000年度には13.0%で2024年度に18.4%になる」としているが、2000年4月に介護制度が始まったのであるため、まじめにサービスを充実していれば今では企業も個人も介護に人手をとられなくてすむようになっていた筈で、そうであれば負担増は当然なのだ。そのため、そういう状況でも「保険料負担が重荷」などと言うような現役世代が育てた子なら、増やしたところでどうせろくな価値観は持っていないだろう。 なお、石破首相が、2025年3月7日、首相官邸で患者団体の代表と面会後、高額療養費の上限引き上げ実施見送りを表明されたのは、誤った政策で突き進むよりはずっとよかった(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA071PL0X00C25A3000000/ 参照)。 それでは、「財源はどこから持ってくるのか」と言えば、常日頃から歳出を見直して、時代遅れになったり、効果がなかったりする歳出は減額や削除し、新たに必要になった歳出やより効果的な歳出に充てるのが当たり前なのである。そして、それを省単位ではなく、政府全体で行なうためには、皆が納得できる主観的ではない客観的な数値が必要であり、その数値を出すためには、網羅性・検証可能性のある複式簿記による会計制度とそれに基づく行政評価が必要なのだ。また、「新たに必要になった」と言っても、義務教育の無償化(日本国憲法4条)や社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上・増進(日本国憲法25条2項)のように、1947年5月3日に施行された日本国憲法に既に明記されているのに、未だに行なわれていない政策は、他の歳出に優先して行なうのが当然である。 そのような中、大きく歳出削減できる例を挙げると、*5-2-1の、㉔政府が2月18日に閣議決定した新エネルギー基本計画は、再エネの活用を掲げつつ「脱炭素」を旗印に原発の建て替えも促す ㉕新エネ基は東日本大震災後に掲げた「原発依存度を可能な限り低減」の文言を削った ㉖原発回帰は大手電力が切望していたが、政府の支援策がなければ投資できない ㉗九電は玄海原発(佐賀県)の2基を廃炉中で、経産省はその分を川内原発(鹿児島県)の「増設」に充てたい考え ㉘関電のある幹部は「エネ基を旗印に、すぐにリプレースできるわけではない」「重要なのは、本当に採算がとれる支援制度が出てくるかだ」 ㉙エネ基は原発建設費の上ぶれ分を電気料金から回収できるようにする制度づくりを進めるとした ㉚「核のごみ」をめぐる課題は解決に遠い である。 何故なら、1966年に日本原電の東海原発が建設され日本で初めて原発が商業運転を開始してから、既に59年も経過しているのに、未だに㉖㉘のように、「政府の支援策がなければ採算がとれない」のであれば、「原発のコストが安い」というのは真っ赤な嘘だからである。その上、㉚のように、膨大な費用を要する「核のごみ」問題は全く解決せず後世に先送りし、フクイチ事故の莫大な事故処理費用もすべて国民負担にし、その上、原発立地自治体への交付金まで国民に支払わせながら、これらを「原発のコスト」に入れていないのだから、原発に競争力がないのはとっくの昔に明らかになっているのだ。また、㉙の原発建設費の上ぶれ分も原発コストにほかならず、㉕㉗のように原発の新増設をするのならそれを電気料金から回収するのは当然だが、電力のユーザーは、このようにして馬鹿高くなった電力は使いたくないからこそ、自家発電するよう努力しているのである。そのような状況で、㉔のように、その場限りの思いつきの理由を並べて、政府が「脱炭素」を旗印に原発の建て替えを促すなどというのは、膨大な無駄使いであり、真っ先に止めなければならないことである。そして、田園・放牧地・山林等に風力発電機を設置して売電料金を農家・林家の所得保証に代え、建物にペロブスカイト型太陽光発電を取り付ければ、2040年度の再エネ割合は「4~5割」どころか100%にでき、同時に農林業の補助金も節約できる上に、国富の海外流出も防げるのだ。 しかも、原発は、*5-2-2・*5-2-3・*5-2-4のように、原発を優位に導く「逆転」のトリックやこれまで無視されていた活断層・大津波・事故による甚大な住民や農林水産業への被害等の問題も多いため、本当に安全を最優先にして国民の命を守りたいのなら、できるだけ早く原発を手仕舞うのが賢明である。 最後に、*5-3のように、日本政府は、2017年に採択され、2021年に発効した核兵器禁止条約の第3回締約国会議に「米国の『核の傘』の下にいる」としてオブザーバー参加もしなかった。しかし、今回は、長年、核廃絶を訴える活動をしてきた日本被団協がノーベル平和賞を受賞して初の締約国会議で、アメリカの「核の傘」の下にいるNATOの加盟国からは1か国も参加せず、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で核抑止力が叫ばれているが、日本は唯一の被爆国であるため、特使を送って核廃絶を訴えるメッセージを出すくらいはすればよかったのである。その上、核による脅迫で保たれる“平和”は、それを脅迫と感じない国が現れれば容易に壊れる危うい均衡であり、戦争が起これば、核兵器を使わなくても原発は自爆し、住民や食糧生産に甚大な被害をもたらすのである。 ![]() ![]() ![]() 2024.12.27Business Journal 2024.12.17東京新聞 2023.5.9Enetech (図の説明:左図の1番右の棒グラフが「新エネルギー基本計画」による2040年のエネルギー構成で、エネルギーミックスと称して相変わらず原発2割、化石燃料3~4割としており、単価が安くなっても再エネは4~5割と見積もられているにすぎない。また、中央の図は、電源別発電コストの変化とされているが、原子力は、使用済核燃料の最終処分コスト・廃炉コスト・災害発生時の後始末のコストを入れていない超甘の想定でも太陽光発電より高く、今後、ペロブスカイト型太陽光発電が普及すれば、さらに差が開くだろう。右図は、世界と日本の太陽光発電コストの推移で、2022年時点で日本は世界より6.8円高いが、この結果は、できない理由を考えることに専念せず、普及に努力したか否かの差である) ![]() ![]() ![]() 2024.12.24琉球新報 2025.2.17NHK 2022.6.21SustainableSwitch (図の説明:左図が「高額療養費制度見直し」のイメージで、実質賃金や実質年金は下がっているのに、2025年8月に上限を引き上げ、2027年8月にはさらなる引き上げが予定されている。そして、年収1,650万円で扶養家族なし・40歳未満の例で見ると、所得税《約259万円》・住民税《約125万円》・社会保険料《約158万円》を支払うため、残高は約1,108万円/年《約92万円/月》になり、ここから44.4万円の医療費を支払うと生活費に充てられる金額は約48万円になるが、確定申告時に医療費控除はできるが、深刻な病気になってもこの年収が続く人は少なく、扶養家族がいればさらに苦しいだろう。また、年収1,650万円以上は上限が同じ点もおかしい。中央の図は、「多数回該当」に当たる場合の自己負担上限額を据え置いたイメージだが、長期療養を要する深刻な状況の人から巻き上げる構図は変わらない。右図は、上段右図の太陽光発電コストが下がった理由は、普及して設置コストが下がったからだということを示している) ![]() ![]() ![]() 2022.2.22東京新聞 2025.1.9東京商工リサーチ 2023.11.1沖縄タイムス (図の説明:左図は、2000年に始まった介護保険制度の介護給付費と要介護認定者数の推移で、2024年3月現在690万人の方が要介護や要支援の認定を受けているそうだが、これは(7)2)の右図のように、高齢者数が増えれば自然なことであるため、意図的に給付費の伸びを抑えればサービス低下に繋がるのだ。そのような中で、政府は、介護事業者に支払う介護報酬の抑制や訪問介護の生活援助の利用制限をしたため、ただでさえ報酬の低かった介護福祉士が減り、2024年は人手不足による事業所の倒産が著しく増えて、やっとできた資産を減らしたのである。その上、政府は、右図のように、年間所得410万円/年《34万円/月》以上を“高所得者”として保険料を引き上げるそうだが、新人社員でも500万円/年の収入がある物価高騰時代に、高齢者は410万円/年が高所得とはどういうことか!) *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/AST2D05J2T2DUTFL00TM.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2025年2月14日) 「いじめ抜かれた」介護保険の25年 利用者への負担転嫁は限界に 「介護の社会化」を掲げた介護保険スタートから間もなく25年。「改悪につぐ改悪の歴史だった」と振り返るのはNPO渋谷介護サポートセンターの服部万里子さんです。制度見直しのどこに課題があるのか、聞きました。 ◇ いま一番問題だと考えているのは、訪問介護の基本報酬が今年度から引き下げられたことです。ホームヘルパーは本来、極めて高い専門性が求められる職種です。しかし、国は訪問介護を「誰にでもできる仕事」とみなし、専門性を評価していない。それが問題の根底にあります。ヘルパーとして働く人がいなくなれば、要介護の高齢者が自宅で生活することは困難になります。介護報酬は大幅に引き上げなければいけない。その財源はどうするか。介護費用の増加を利用者負担に転嫁するのは、もう限界です。公費投入の割合を増やすことも選択肢として、国が検討すべきだと思います。介護保険は、家族介護を社会的介護に転換するためにできました。高く評価しているし、なくしてはいけない制度です。しかし、施行後の25年を振り返れば、負担増とサービス切り下げの繰り返しでした。一律1割だった利用者負担は、所得に応じて一部は2割、3割に。事業者に支払う介護報酬は抑制され、訪問介護の生活援助の利用を制限するような見直しもありました。「いじめ抜かれた介護保険」と私は言っています。さらに国は、2割負担対象者の拡大、ケアマネジメントの自己負担導入、要介護1・2の介護保険本体からの切り離し、といった改悪を進めようとしています。制度を持続させるため、というのが国の言い分です。介護費用の増加を、負担増とサービス利用制限で調整しようとしています。しかし、考えてほしいのです。自宅で暮らす要介護高齢者の世帯構成をみれば、「3世代世帯」の割合は低下し、独居と夫婦のみの世帯で半数を超します。家族のあり方の変化をふまえれば、とても介護費用を抑制できる環境にありません。無理に抑制すれば影響ははかりしれません。利用者負担を1割から2割に上げるというのは、単純に言えば負担額が倍になるということです。各家庭には様々な経済的事情があり、サービス利用をあきらめたり、減らしたりする高齢者が必ず出ます。結果的には要介護度が悪化します。保険料を払ってきたのに必要なときサービスを受けられないなら、なんのための介護保険か。制度の空洞化と言うほかありません。要介護状態になったら人生終わりではなく、その人らしい生き方を保障するのが介護保険であるはずです。未来も維持しなければいけないし、これ以上の改悪は許されません。 *5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/AST253GJHT25UTFL00CM.html (朝日新聞 2025年2月6日) 背景に子ども財源の捻出、保険料高騰も 高額療養費制度の見直し 「高額療養費制度」の見直しをめぐる政府案について、修正が検討されていることがわかった。この制度は、公的医療保険の「セーフティーネット」として機能しており、見直しに対して患者らから反発の声が上がった。政府は少数与党での国会運営を余儀なくされる中、野党の批判にもさらされ、再考を迫られた形だ。ただ、今回の見直しの背景には、子ども関連政策の財源確保に向け、医療費の抑制が求められている状況がある。 ●修正案の決着は…… 2023年末に閣議決定した「こども未来戦略」は、児童手当の大幅拡充など年3.6兆円規模の対策を盛り込んだが、うち1.1兆円は28年度までに社会保障の歳出削減で賄う予定だ。そこで政府が同時に示した歳出削減候補の一つが、高額療養費制度の見直しだった。厚生労働省内にも「できるなら見直しは避けたい」との声があったが、法改正を経ずに閣議決定で制度改正できることなどから白羽の矢が立った。現役世代を中心とした保険料負担の軽減も課題だ。医療費の多くは保険料と税金で賄う。高齢化や高額薬剤の登場で医療費が増える一方、現役世代の保険料負担が重荷になっている。財務省によると、個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険の負担割合は、00年度に13.0%。それが24年度には18.4%になる見通しだ。政府の試算では、高額療養費制度の見直しで保険料は年3700億円規模で軽減される。加入者1人あたりの保険料軽減効果は、年額で1100円~5千円程度とみられる。こうしたことから、厚労省内には、政府案全体の凍結には否定的な見方がある。長期的に治療が必要な人の負担増を軽くすることで、修正案の決着を図りたい考えだ。 *5-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA146YW0U5A210C2000000/ (日経新聞 2025年2月14日) 高額療養費上げ、長期治療の負担据え置き 厚労相表明 福岡資麿厚生労働相は14日、医療費が高くなった場合の1カ月あたりの患者負担を抑える「高額療養費制度」の限度額引き上げ案を修正し、長期の治療を受けた患者については負担額を変更しないと表明した。がんなどの患者団体との面会で明らかにした。直近12カ月以内に3回限度額に達した場合、4回目から限度額を下げる「多数回該当」の限度額引き上げを見送る。自己負担が増えれば治療を続けられなくなるといった患者からの声に配慮する。現在は平均的な所得区分である年収約370万〜約770万円で、多数回該当を利用した場合の限度額は4.4万円だ。2024年末に決定した当初案では、25年8月から3回に分けて引き上げ、27年8月には最大7.6万円とする予定だった。修正案では引き上げず、現在の4.4万円のままとする。多数回該当の負担増を見送ることで、25年度予算案は修正を迫られる可能性がある。福岡厚労相は患者団体との面会後、報道陣に対し「予算修正は必要だと思う」と話した。1カ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施する。所得区分を細分化し、年収約650万〜約770万円では27年8月から約13.8万円に引き上げる。現在の約8万円から7割高くする。高額療養費制度はがんなどの重い病気にかかって医療費が高額になった場合に、年齢や所得水準に応じて1カ月あたりの自己負担を一定額に抑える仕組みだ。近年では高齢化や革新的な治療の広がりで適用件数が増え、医療保険の財政を圧迫している。制度の持続性を高めるため、厚労省は24年末に患者負担の限度額を段階的に引き上げる改革案をまとめた。その後、患者団体などから経済的負担の増加を懸念する声が強まったことから、改革案の修正を検討していた。患者団体は福岡厚労相との面会後に開いた記者会見で、多数回該当以外の限度額引き上げについても引き続き凍結を求める方針を示した。 *5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16152512.html (朝日新聞 2025年2月19日) 課題山積、原発建設に道 「採算とれる支援」待つ関電 エネ基に建て替え促す制度 政府が18日に閣議決定した新しいエネルギー基本計画(エネ基)は、再生可能エネルギーの活用を掲げつつ、同じ「脱炭素」を旗印に、原発の建て替え(リプレース)も促す内容だ。原発回帰は大手電力が切望していたとはいえ、政府の支援策がなければ投資に踏み込めない事情も浮かぶ。「今後、原子力が重要になるのは間違いない」。九州電力の池辺和弘社長は1月の会見で、こう強調した。新しいエネ基は、東日本大震災後に掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を削り、原発の建設を縛っていた「くびき」を外した。池辺氏は「新設も含めて進めていくべきだ」とも語った。新しいエネ基では、老朽原発を廃炉にした分だけ、別の原発でも原子炉を増やせるとした。九電は玄海原発(佐賀県)の2基を廃炉中だ。経産省は、その分を川内原発(鹿児島県)の「増設」に充てたい考えだ。関連業界も動き始めた。原発メーカーの三菱重工業は、2026年度までに本体の原子力事業の人員を昨年4月比で1割増やす方針だ。今後3年間の生産設備と研究開発への投資額も、前の3年間に比べて3割増やす。泉沢清次社長は「関心を持つ学生が多く、新卒採用はほぼ計画通り」と話す。東芝も原発の設計などにあたる専門人材の採用を増やす。ただ、事態はすぐに動きそうにない。原発の建設について、九電のある幹部は「うちがやるのは、あちら(関西電力)がやったあとだ」とし、当面は様子見の構えだ。関電は美浜原発の2基が廃炉中で、「建て替えの着手に最も近い」(経産省幹部)とされる。森望社長も、リプレースや新増設について、「検討を始めなければならない時期に来ている」との考えを繰り返し口にする。だが、関電のある幹部は「エネ基を旗印に、すぐにリプレースできるわけではない」とも語る。「重要なのは、本当に採算がとれる支援制度が出てくるかだ」。エネ基では、原発の建設費の上ぶれ分を電気料金から回収できるようにする制度づくりを進めるとした。だが、具体策はこれから。関電の幹部は「投資の予見性など、具体的な話が見えてきてからだ」と釘を刺す。一方、「核のごみ」をめぐる課題は解決に遠く、核燃料サイクルも順調には進んでいない。今回実施したパブリックコメントでも、原発の安全性や「核のごみ」についての意見が寄せられ、新しいエネ基でも「懸念の声があることを真摯(しんし)に受け止める」と加えた。関電の関係者は「リプレースの検討に向けた次のステップに踏み出すと、すぐに表明するのは難しいだろう」と話す。 ■洋上風力・太陽光、拡大急ぐ 再エネ2040年度に「4~5割」 新しいエネ基では、再エネも「最大限活用する」と強調した。電源構成に占める割合を、いまの2割から40年度に4~5割にする。政府は50年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると約束しており、達成には再エネの普及が欠かせない。とくに期待するのが洋上風力発電だ。政府は40年までに出力3千万~4500万キロワットの事業化をめざす。いまは領海内に限っている設置場所を、排他的経済水域(EEZ)にも広げるため、関連法の改正案を今国会に提出する予定だ。ただ、コスト面では厳しい。国の公募に応じて秋田県沖と千葉県沖で計画を進めていた三菱商事は、建設コストの高騰などで採算の見通しが悪化。24年4~12月期決算で522億円の減損処理をした。経産省は次回の公募から、コストの上昇分を電力の買い取り価格に上乗せできるようにするなどの対応を急ぐ。自然エネルギー財団の大林ミカ氏は「成長途上の洋上風力産業で日本がリーダーシップをとるためには、半導体産業と同じくらい比重をかけるべきだ」と指摘する。もう一つの柱が、太陽光発電のいっそうの普及だ。日本はすでに平地面積あたりの発電量が世界トップクラスにある。東日本大震災後に始まった再エネの固定価格買い取り制度(FIT)で各地にメガソーラーがつくられた効果が大きいが、建設の余地が少なくなっている。近年では、景観への悪影響などから「迷惑施設」とされつつある。そのため今回のエネ基では、軽くて曲げられる次世代の「ペロブスカイト太陽電池」に注目。40年に約2千万キロワットを導入すると打ち出した。いま普及している「シリコン系」と比べて耐久性が劣り、コストも高いが、政府は日本の将来の産業の核になると期待し、導入拡大やコスト削減を後押しする方針だ。再エネの導入に関する経産省の審議会で委員長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授は、シリコン系についても「空港などの公共施設を活用すれば、拡大余地はまだある」と指摘。今後の再エネの普及には「自治体との調整など、公的な介入が重要になる」と話す。(多鹿ちなみ) ■LNG、陰の主役 火力45%想定も、確保探る 今回の計画で「陰の主役」とささやかれるのが、液化天然ガス(LNG)だ。石炭や石油よりも温室効果ガスの排出が少なく、足元の電源構成の30%超をLNG火力が占める。出力の変動が大きい再エネを補助し、水素の原料にもなるため、「重要なエネルギー源」と位置づけた。エネ基では電源構成に占める火力の割合を、いまの約70%から40年度は3~4割に減らすとしている。だが、経産省は脱炭素化がうまくいかなければ、火力が45%を占めると想定する。経産省内では「現実的にはこちら(45%)」との見方が強く、LNGへの依存は続きそうだ。ただ、LNGはほとんどを輸入に頼り、国際情勢によって価格が跳ね上がるリスクもある。日本エネルギー経済研究所のまとめでは、長期契約によるLNGの確保量は減少していく見通しだ。新しいエネ基でも、LNGを安定して確保することの重要性を書き込んだ。そんななか、トランプ米大統領は前政権が制限していたLNGの輸出の再開にかじを切った。7日の日米首脳会談では、日本が米国からLNGの輸入を拡大することで合意。トランプ氏はアラスカ州のLNG事業について、日米共同開発を検討するとも言及した。米国はロシアや中東に比べて地政学リスクが低い。ただ、アラスカ州の事業は巨費がかかると見込まれる。資源開発大手INPEXの上田隆之社長は「何十年間も計画は実現しなかった。寒い場所でのパイプラインの建設費など解決しなければならない課題がある」と語るなど、警戒感も広がる。さらに、日本が大量のLNGを受け入れることになれば、脱炭素化の遅れにもつながる。 ■<考論>リスクどこまで甘受、議論を 寿楽浩太・東京電機大教授(科学技術社会学) 化石資源が乏しいなかでエネルギーを確保する方法を追求してきた日本には、頼りになるのは原発だ、という考えは古くからある。脱炭素化の流れで、再びそうした考えが出てきても不思議ではない。しかし、原子力の利用に今後どのぐらいのお金がかかるか、積極的に国民に開示すべきだ。そのうえで他の利点やリスクも踏まえて、複数の選択肢を提示してほしい。また、これまでは原発か、再生可能エネルギーかといった「技術の選択」に、やや議論が偏ってきた。その技術によって何を優先して実現しようとするのか、どういうリスクや不都合を甘受するのかが本当の論点だ。原発には重大事故のリスクが伴う。どこまで許容するのか、正面からの議論が必要だ。限られた専門家だけで決定し、「政府の政策を受け入れてください」というやり方は限界にきている。 ■<考論>「電源2割が原発」実現困難 橘川武郎・国際大学長(エネルギー政策) エネルギー基本計画を議論する政府の審議会は、「電気が足りない=原発が必要」とする考えが支配的で、一時は2040年の電源構成に占める原発の割合を25~30%とする数字が打ち出されそうになった。最終的に2割に収まったが、それも実現は困難だろう。前回21年に定めた30年時点の電源構成は、原発を20~22%とした。いま動いている原発に加え、原子力規制委員会が再稼働を不許可とした日本原子力発電敦賀原発2号機や、審査中の9基を含めた27基が稼働することが前提になる。ただ、どう甘く見ても20基前後。原発は頼りにならない。政府は今後、原発の新増設や建て替えを進めるため投資環境を整えようとしている。だが、簡単に進まないだろう。電気が足りないなら再生可能エネルギーでまかなうべきだ。ペロブスカイト太陽電池の実用化、洋上風力の支援拡充といった議論をするのが筋だ。 *5-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/374011 (東京新聞 2024年12月17日) 政府、発電コスト「原子力12.5円、太陽光8.5円」と試算…それでも原発を優位に導く「逆転」のトリック 経済産業省は16日、2040年度時点の電源別の発電コストを公表した。発電にかかるコストは、原子力が事業用太陽光(メガソーラー)を上回った。専門家が「計算の前提条件が、原子力など既存の大型電源に有利」と疑問を呈する甘い想定の中でも、原子力が安いとは言えなくなっている。 ◆エネルギー基本計画の基礎となる試算 経産省が有識者会議に示した発電コストは「均等化発電原価(LCOE)」と呼ばれ、3年ごとに見直される。経産省は17日にエネルギー基本計画の政府素案を公表する予定で、今回の試算を基に計画の決定に向けて素案を議論していく。エネルギー基本計画の改定に伴い、2021年の試算では、2030年度にすべての発電所を新設する想定で建設や運転の費用を計算していたが、今回は2040年度に新設する想定へ変更した。主な電源の1キロワット時当たりの費用は、原子力が2021年の11.7円以上から12.5円以上に増加。事業用太陽光は11.2円から8.5円に減少した。陸上風力は14.7円から15.3円に、液化天然ガス(LNG)火力は10.7円から19.2円に上がった。2021年の数値と比べ、原子力は事故発生確率を引き下げたものの、事故防止の追加的対策費や燃料代が増加したことが影響。太陽光や着床式洋上風力は量産による効果で安くなった。火力は二酸化炭素排出対策や円安による燃料代の高騰で大幅に上がった。電力システムに接続したときに追加で発生する「統合コスト」を加味すると、原子力が太陽光を下回る可能性が高いとした。 ◆「再エネへの政策経費が高すぎる」 今回の試算について、龍谷大の大島堅一教授は「原子力は安く見積もられている」と指摘。理由として、 ▽事故対策工事費が新規制基準の審査申請時の価格を基準にしており、許可時までに実際に上昇した分が反映されていない ▽事故発生確率を引き下げる根拠が不十分 ▽福島第1原発の放射性廃棄物処分費が入っていない ーを挙げた。 大阪産業大の木村啓二准教授は再生可能エネルギーの試算について「太陽光や風力にかかる2040年度の政策経費が高すぎる」と指摘。再エネに不利な統合コストについても「電力システムの前提次第で大きく値が変わり、LCOEに単純加算する議論はナンセンス」(大島教授)との批判がある。試算では蓄電池の活用や需給の細かな調整で、統合コストを抑えられる可能性も示された。 *均等化発電原価 実際にある発電所のデータを参考に、建設費、維持費、燃料費を含めた総経費を、運転期間中の総発電量で割って算出する。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)などの国際的な指標となっている。原子力は事故対応費用が膨らむ恐れがあるため、下限値のみを示している。 *5-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1412731 (佐賀新聞 2025.3.2) 【福島事故の教訓】「厳しい要求ためらわず」石渡明・元原子力規制委員に聞く 2011年3月の東京電力福島第1原発事故を招いた古い体質は、14年後の今も完全には解消されていない。「原子力ムラ」とは無縁の地質学者から原子力規制委員会の委員となり、自然災害の審査を担った石渡明さんは、安全を追求するには電力会社に厳しい要求をすることをためらってはいけないと訴える。(共同通信編集委員・鎮目宰司) ▽大津波 ―事故の教訓は何だと考えていますか。 約千年前の平安時代に東北地方の太平洋岸を大津波が襲ったことは、1990年代に東北大の地質学者が論文で公表していました。2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でも同様に大津波が生じ、複数の原発を襲いました。福島第1では可能性を考えた対策をしなかったため、大事故が起きたのです。 ―規制委の前身である経済産業省原子力安全・保安院や東電は公表済みの情報をすくい上げて生かせませんでした。知り得た重要な情報は議論をした上で、必要な点を原発の安全対策にすぐ反映することが大切だと考えています。当時の内情を詳しく知らないので一般論ですが。 ▽活断層 ―2014年、事故後に発足した規制委入りを引き受けたのはなぜですか。 震災直後に岩手県や宮城県で津波の調査をして、悲惨な状況を目の当たりにしました。自然災害への備えをしないと原発が危ないのは明らかでした。委員への就任を打診されて「やらざるを得ない」と。国難ですから。 ―規制委では、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)の断層問題を担当しました。危険性を直視しない体質が見えたと思いますが。 原子炉から約250mの位置に活断層があり、これとは別の断層が原子炉の真下を走っている。真下の断層もずれるのではないかという問題です。ずれる可能性があると分かれば運転は認められません。原電としては「ずれる可能性はない」と、そういうデータを次々と出してくる。一方で不利なデータは無視する。規制委の初期の会合ではかなり戦闘的な態度でした。現地を見て、データを点検すると、原子炉に向かって伸びている断層は何度もずれた結果、岩が幅広くぐちゃぐちゃに壊れていました。壊れた岩の厚さは平均で70cmもある。原電は、この断層は原子炉のかなり手前で消えて直下の断層にはつながらないと説明するのです。驚きました。 ▽重い判断 ―結局、敦賀2号機は規制委の基準に適合しないとの結論でした。 もちろん他にも多くの問題がありました。しかし、原発内を走る活断層は1990年代には専門書で存在が示されていた。原電がこれを認めたのは2008年です。対応が非常に遅いと思います。 ―分かったらすぐ対応するという教訓とは正反対ですね。 いったん運転を許可した後でも、重要な発見や情報が得られれば、対応するまで運転を認めない運用が規制委では新たに可能となりました。重い判断ですが、必要なら積極的に行うべきです。自然災害は本当に予測が難しく、特に原発では安全性を確保するために十分な余裕を持った対策をしておかなければなりません。大地震はもちろん、大津波や火山噴火はめったに起きないので、国内外での情報収集を怠らないことが必要です。 *いしわたり・あきら 1953年神奈川県生まれ。東京都立高教諭などを経て金沢大教授、東北大教授。岩石学、地質学。2014~2024年原子力規制委員。 ▽「言葉解説」東京電力福島第1原発事故 2011年3月11日の東日本大震災で大津波が発生し、浸水した福島第1原発(福島県)では原子炉などを冷却する機器の多くが動かなくなり、一部の原子炉では核燃料が溶け落ち、建物が爆発した。東北地方の太平洋岸では貞観(じょうがん)地震(869年)の大津波などが知られており、福島第1の津波対策を懸念する声があった。東電も経済産業省原子力安全・保安院(2012年に原子力規制委員会に改組)も情報に接していたが、有効な手を打たなかった。 *5-2-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16162119.html (朝日新聞 2025年3月4日) (東日本大震災14年)福島の農業 米作り、福島ブランドを再び 東京電力福島第一原発事故は田畑だけでなく、福島県の農産物のブランドも傷つけた。事故から14年が経ち、県産品離れは解消の方向に向かっているが、試行錯誤は今も続いている。 ■全袋検査を経て、徐々に価格復調 原発事故の前、福島県は主食用の作付面積が北海道、新潟県、秋田県に次ぐ全国4位の米どころだった。県によると、避難指示が出た12市町村には県内全体の農家の15%にあたる1万4600戸がいた。放射性物質による汚染などでの作付け制限は約6800戸の8500ヘクタールの農地に及び、2011年産のコメ生産量は前年比2割減の35万トンに落ち込んだ。特に原発がある沿岸部のコシヒカリの出荷量は、震災前の3万トン前後から3分の1に減った。原発事故は米価の下落も招いた。周囲を山に囲まれ、寒暖差が大きな会津盆地で栽培された会津産コシヒカリは、ブランド米として知られていた。しかし、12年以降に全国平均に近づき、震災前に上回っていた北陸産にも逆転された。福島市や郡山市がある県中央部や沿岸部のコシヒカリの価格は、事故前の全国平均並みから、さらに低い水準になった。JA福島中央会の今泉仁寿常務理事は「売り場の『棚』を他の産地に取られた。その分は業務用米に回った」と振り返る。県産米のうち、約7割は弁当や外食用の業務用米で、比率の高さは毎年全国1~3位を推移している。原発事故後、初めての収穫となった11年秋、佐藤雄平知事(当時)はサンプル調査を元に「安全宣言」を出した。しかし、その後、基準値超のセシウムが検出されるコメが相次ぎ、消費者の不安を招いた。その反省から、県とJAなどは翌12年、約1千万袋(1袋30キロ)の玄米を全て検査する世界初の「全量全袋検査」に取り組んだ。科学的には、地区ごとなどにコメを抽出する「サンプル調査」で十分との指摘もあったが、県内での米の生産額の1割弱にあたる年間60億円をかけ、全て検査するという「消費者向けの分かりやすさ」を重視した。15年産で基準値超のコメがゼロになっても、19年産まで続け、その後も避難指示が出た地域に限って全量全袋検査を続けた。今泉さんは「流通では風評被害が残っているが、消費者の忌避感はかなりなくなった」とみる。県は21年、震災前から開発してきたブランド米「福、笑い」をデビューさせた。栽培の条件を満たした農家に生産を限り、粒が大きく、強い甘みと香りが特徴で、高価格帯での販売をめざす。県産米の輸出も復調している。 ■沿岸部、営農再開一歩ずつ 一方、沿岸部では、原発事故の影響で営農再開ができない地域が残っている。避難指示が出た12市町村全体の営農再開率は、24年3月時点で49・7%だが、26年3月に6割にする目標を掲げる。22年に中心部の避難指示が復興拠点として解除された大熊町では今年、解除されたエリアで稲作の再開をめざす。町農業委員会などが、実証栽培を続けてきたが、収穫された米のセシウムは基準値を下回っている。同会長の根本友子さん(77)は「一歩一歩ですが、一人でも多くの人に大熊のお米のおいしさを思い出してもらいたい」と営農再開の広がりに期待する。 ■急落乗り越え、完全回復めざす 「フルーツ王国」と言われる福島県を代表する果物、モモ。ふるさと納税の返礼品としても人気だが、原発事故では大きな打撃を受けた。2011年度の東京都中央卸売市場における、福島産モモの1キロ平均単価は222円と、全国平均より4割安だった。樹木に付着した放射性物質を除染するため、生産者やJAは次の冬、1本ずつ洗浄した。約460本あるモモの木をすべて高圧洗浄機で洗い流した福島市のモモ農家、大宮篤司さん(67)は「極寒期の作業で身体的にも精神的にも大変だったが、前に進むためには頑張るしかなかった」と振り返る。それでも需要は回復せず、市場には行き場を失った県産のモモが山積みになり、安く買いたたかれた。「売れば売るほど赤字が膨らみ、地獄だった」(JA全農福島幹部)。安全性や味の良さのPRなど地道な活動で、県産モモの平均単価は18年度、原発事故前の10年度(438円)を上回る491円に回復。23年度は627円に上がったが、依然として全国平均よりも1割ほど安い。「一度ついた風評は根深く、完全払拭は容易ではない」と県の担当者は話す。(以下略) *5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1411306 (佐賀新聞 2025/2/19) 核兵器禁止条約 参加こそ「橋渡し」になる 核廃絶の流れに日本政府が背を向けている。3月に米ニューヨークで開かれる核兵器禁止条約の第3回締約国会議について、これまで通りオブザーバー参加も見送ると表明した。核兵器禁止条約は2017年に採択され、21年に発効した。核兵器の開発や実験、保有、使用や威嚇を禁止する。核を巡る国際的枠組みの歴史上、最も踏み込んだ内容で、核を持たない国々や非政府組織(NGO)の取り組みで実現した。だが核拡散防止条約(NPT)で核保有を認められている米ロ英仏中の5カ国を含む核保有国や、米国の核に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国は参加していない。米国の「核の傘」の下にいる日本も加わっておらず、条約の履行状況を話し合う過去2回の締約国会議にも出席していない。日本政府に参加を訴えてきた被爆者の取り組みは、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞で勢いがついた。被団協は1月、石破茂首相と会い、発言もできるオブザーバー参加を要請した。だがこの時、石破首相は明確な考えを示さなかった。政府側からは、あらかじめ「平和賞の祝意を伝えるもので、意見交換の場ではない」として条約には触れないとの意向が示されたという。石破首相は政府の代わりに与党議員を派遣することを検討したが、自民党の森山裕幹事長は「考えていない」と否定。公明党は議員を派遣するが、政府代表ではなく曖昧さは拭えない。日本政府は参加しない理由として(1)核保有国が参加しておらず、実効性がない(2)米国による核抑止力の正当性を損ない、国民を危険にさらす―ことを挙げている。米国に安全保障の根幹を委ねる日本にとって、条約のハードルは確かに高い。しかし今年は被爆80年。被団協のノーベル平和賞受賞という追い風の中、被爆国が今動かなければ一体いつ動くというのか。一番の問題は、政府として参加するにはどんな方法があるか、模索した形跡がうかがえないことだ。日本が米国に協議を持ちかけたような動きも見えず、今回の石破首相とトランプ米大統領の首脳会談でも、議題にすら上らなかった。こうした状況は、条約発効時の菅義偉元首相、さらに広島選出をアピールした岸田文雄前首相の時から変わらない。それだけ難しい問題だとも言えるが「なんとか参加したいが、できない」ではなく、最初から行かない理由を探しているようにしか見えない。NATO加盟国でもドイツやノルウェー、ベルギーなど、これまで締約国会議にオブザーバー参加し、意見表明した国がある。そのことで、条約に加わるかどうか、すぐに決断を迫られるようなことにはなっていない。「核保有国と非保有国の橋渡しをするのが日本の役割」というのが政府の立場だ。そうであれば、オブザーバー参加して被爆当時の状況や被爆者の現状を説明し、核による惨禍を訴えるべきだ。条約に参加できないのであれば、その理由を明確に伝えることも必要だ。核保有国がその場にいないとしても、メッセージは伝わる。そのことがまさに「橋渡し」になるのではないか。
| 経済・雇用::2023.3~ | 01:27 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2025,01,17, Friday
(1)日本製鉄によるUSスチール買収の経緯
![]() ![]() ![]() ![]() 2025.1.5日経新聞 2025.1.7日経新聞 2025.1.8山陽新聞 (図の説明:1番左の図は、2023年12月18日に日鉄がUSスチールの買収計画を発表し、それと同時にUSWが反対を表明して政治を巻き込み、2025年1月3日にバイデン大統領が買収計画阻止を発表するまでの経緯で、左から2番目の図がバイデン大統領の声明骨子だ。バイデン大統領のUSスチールの買収中止命令を受けて、日鉄とUSスチールは、右から2番目の図のように、バイデン大統領に対する行政訴訟とクリーブランド・クリフス及びUSW会長に対する民事訴訟を起こした。また、訴訟された相手方は、1番右の図のような発言をし、訴訟準備をしている) *1-1-1のように、「最終判断は大統領に委ねる」としたCFIUSの判断によってバイデン米大統領が2025年1月3日に出された米鉄鋼大手USスチールの買収中止命令について、日鉄の橋本CEOは1月7日に記者会見を開き、①安全保障に関する米当局の審査は結論ありきの政治介入だ ②買収計画を諦める理由も必要もない ③日鉄のUSスチール買収を阻止したい競合クリーブランド・クリフスが全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長と連携してバイデン氏に働きかけた ④国家安全保障の観点から審査されたのでないことを示せればバイデン氏らとの裁判に勝訴できる ⑤関税政策だけで産業が強くなるわけではなく、日鉄の独自技術をUSスチールに供与することでUSスチールの立て直しに繋がって米国の国家安全保障強化に資する ⑥(トランプ氏は)製造業を強くして製造業の労働者に豊かな暮らしと明るい未来を与えたいと言っており、買収計画はその趣旨に沿う と述べられ、⑦1月6日に日鉄とUSスチールは買収を巡る政治介入でバイデン氏らを、違法な買収妨害行為でクリフスとゴンカルベスCEO及び全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長を提訴した と述べられたそうだ。 そして、*1-1-2は、日鉄の森副会長兼副社長も、⑧理不尽な扱いを受けて引き下がるわけにはいかないため、徹底抗戦する ⑨訴訟の狙いは買収実現に向けた対応であり、必要な措置を粛々と実行する ⑩対米外国投資委員会(CFIUS)の安全保障上の審査は「当社が自主的に示した国家安全保障協定案に書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも質問や懸念の表明は全くなく、誠実さに欠ける」 とされている。 このうち、③については、*1-2-1・*1-2-2のように、米CNBCテレビが、1月13日、⑪米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携してUSスチールを買収する可能性がある ⑫クリフスがUSスチールを全額現金で買収し、買収後にUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」のニューコアへの売却を検討している ⑬クリフスは当初USスチール買収に意欲を示していたが、日鉄に競り負け、日鉄による買収が失敗した場合はUSスチールを買収するとしていた ⑭クリフスの買い取り額は$30/株台後半で日鉄の同$55/株を下回る ⑮クリフスは買収後、USスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す 等と報道しており、クリフスのゴンカルベス最高経営責任者(CEO)もペンシルベニア州の工場で開いた記者会見で、⑯「私には(USスチール買収の)計画があり、日鉄が現在の買収計画を破棄することが買収の前提になる」と述べられたことから確かだろう。 しかし、合併や買収には反対する人が必ずいるため、実行時まで秘密にしておくのが普通だが、日鉄は、i)競り合った時点で秘密にできなくなり、反対派が政治を巻き込んでしまっている。また、⑬⑭のように、クリフスと競りあった時のクリフスの買い取り価格は$30/株後半であるのに、日鉄はその倍近い$55/株で買おうとしており、ii)クリフスの2倍近くの高い価格で買えば、USスチールの収益力や資産価値から見て高すぎるのではないかという危惧がある。さらに、iii)買収が成立しない場合は(どのような事情でも?)日鉄がUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する可能性がある というのも、日鉄が結んだ買収契約の甘さと売り手市場を感じさせる。 そのため、ii)の理由から、*1-3のように、USスチールのCEOも日鉄と共同で、⑦のように、バイデン氏やクリフスとゴンカルベスCEO、USWのマッコール会長を提訴しているのだろうが、日鉄もまた提訴でもしなければ、iii)によって、(このような事情でも?)USスチールへの5億6500万ドル(約890億円)もの違約金支払義務が生じる羽目になっているのだ。 一方、*1-1-1のように、トランプ次期米大統領は「関税によって、USスチールは、より高収益で価値のある企業になる」と投稿しておられ、USWの組織票を目当てにトランプ氏とバイデン氏が買収計画に反対したのであれば、①②④⑥はいばらの道になる。また、USスチール買収に反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長は、記者会見で「バイデン氏が決めた買収阻止は、トランプ次期政権でも覆らない」と述べられ、同日の声明で買収阻止を歓迎し「組合員や国家安全保障にとって正しい行動であることに疑いの余地はない」とされている。 さらに、*2-5のように、イエレン米財務長官が「日本製鉄によるUSスチール買収計画への中止命令については、大統領に提出するため徹底的に分析した」と述べられており、政府横断組織の対米外国投資委員会(CFIUS)が詳細に分析・審査した結果、バイデン米大統領に最終判断を委ね、バイデン米大統領が買収中止命令を出したという段階を経ているため、⑧のように、「理不尽な扱い(日本にもよくあるが、日本人が米国で訴訟をすれば不利)を受けて引き下がるわけにいかない」のはわかるが、⑨のように、訴訟が買収実現に繋がるとは考えにくい。 また、⑩の「CFIUSの安全保障上の審査は日鉄の国家安全保障協定案に書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも質問や懸念の表明が全くなく、誠実さに欠ける」というのも、安全保証とさえ言えば非公開の部分が多く許されるため、一蹴されそうであるし、日鉄は、*2-1及び*2-4のように、USスチールの買収を通じて米国事業を強化するため、経済合理性を無視した必要以上の譲歩をしているように見える。 なお、⑪⑫のように、米鉄鋼大手クリフスは米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携してUSスチールを買収し、クリフスがUSスチールを全額現金で買収した後にUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」をニューコアに売却することを検討しており、*2-3のように、日鉄がUSスチール買収を巡る違法な妨害行為で提訴したことを受けて、USWは強く反論する姿勢を示し、クリフスは訴訟準備を整えているそうだ。 さらに、*2-4のように、USWのマッコール会長は、⑰USスチールは日鉄による買収提案以前に老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先した ⑱日鉄は買収後もUSスチールのこの計画を踏襲し、電炉に生産を移すことは明らかで、雇用を脅威にさらす」と批判し、これに対し日鉄は2024年12月30日、米政府に、⑲買収後もUSスチールの製鉄所の生産能力を10年間減らさず、減る可能性がある場合に米政府は拒否権を発動できる などと提案している。 私は、⑲については、“生産能力”があったとしても需要のないものを作り続けることはできないため、マッコール氏の「この提案は不可抗力を含む」に私は賛成であるし、日鉄も「10年間」という制限をつけている上、民間企業の稼働に政府が拒否権を発動するというのは、自由主義・市場経済の放棄であって、米国にはなじまないと考える。そのため、これは、必要以上で経済合理性のない譲歩である。 なお、米政府の買収中止命令という不可抗力でも「買収が成立しない場合は、日鉄がUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する」という契約を本当に締結しているとすれば、それは異常に甘い契約である。そのため、違約金を回避するには、日鉄が米政府を提訴することが必要不可欠になるのかも知れないが、そういう不利な契約を結ぶようでは、米国での事業はおぼつかないのだ。 また、*2-4で、マッコール氏はUSスチールのブリット最高経営責任者(CEO)ら経営陣が日鉄による買収が成立した場合に報酬を獲得することを取り上げているが、何かと多くのメリットがあるから、*1-3のように、ブリット氏はバイデン米大統領が日本製鉄の買収を阻止したことに「バイデン氏の行動は恥ずべきもので腐敗している」という声明を出してくれたのだろう。 (2)今後とればよいと思われるスキーム変更 ![]() ![]() ![]() 2025.1.5日経新聞 2025.1.11東京新聞 2025.1.14日経新聞 (図の説明:左図のように、日本からの対米直接投資残高は5年連続最多だが、日本からの投資を減らせば他国が上回るだけである。また、中央と右の図が、ロサンゼルス火災の跡だが、東日本大震災の時と同様、信じられないほどの規模であり、各国の救援が必要と思われる) 金融緩和だけで産業が強くなるわけではないのと同じく、⑤のように、関税政策だけで産業が強くなるわけではないが、日鉄の“独自技術”というものが電炉であれば、それはUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」もニューコアも持っている技術であるため、特にUSスチールの立て直しに繋がって米国の国家安全保障強化に資するとは言えないだろう。 しかし、米政府が買収中止命令を出すという不可抗力があり、⑮のように、クリーブランド・クリフスは、「買収できた後にはUSスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す」と言っており、⑯のように、「日鉄が現在の買収計画を破棄することが、リーブランド・クリフスによるUSスチール買収の前提になる」ということなので、USスチールが会社分割して日鉄とジョイントベンチャー(US-Japanスチールと名乗る)を作り、ジョイントベンチャーに行かなかった方をクリーブランド・クリフスに売却すれば、日鉄は違約金を支払わずに済み、利害関係者全員が望みを叶えられる。 そして、*1-2-1は「買収計画を審査してきたCFIUSはバイデン氏の命令を受けた計画の破棄期限を当初の2月2日から6月18日まで延長することを決めた」としているため、USスチールは、2025年3月末等の早い時期に会社分割し、米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残るA集団と、US-Japanスチールとしてロサンゼルスかペンシルベニア州南部に本社を置くB集団に分けて資産査定を行なう必要があるが、これはBig4の監査法人に依頼すれば正確にできる。 なお、USスチールの会社分割過程で、ペンシルベニア州ピッツバーグに残るA集団には、クリーブランド・クリフス組に行きたい労働者と設備、US-Japanスチールには日鉄組に行きたい役員と労働者・設備を移すようスキーム変更をすれば、日鉄はUS-Japanスチールに投資することによって無駄なカネを使わずに新技術を用いる工場に設備投資することができ、これは、USスチールのブリット最高経営責任者(CEO)はじめ経営陣の意志決定によって可能である。 もともと、⑰のように、USスチールは日鉄による買収提案以前に老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先していたそうであるため、この会社分割は容易であろう。また、名前を「US-Japanスチール」とすることで、米国人・米国政府・USスチール関係者も納得でき、米国の鉄鋼業界は寡占に陥らず、日本からの投資を無駄なく使って技術革新を進めることができる。そのため、⑱の日鉄の電炉生産も容易になる筈だ。 私が、US-Japanスチールの本社をロサンゼルスに置く案を示したのは、*4のように、米カリフォルニア州ロサンゼルスで7日に発生した山火事が10日も続いて、これまでに125平方キロの土地が焼失し、高級住宅地パシフィック・パリセーズ、イートン、ケネス、ハースト、リディア地区の山火事がなお燃え続けているからだ。 カリフォルニア州のニューサム知事は、民主党の次期大統領候補であり、エネルギーの技術革新にも熱心な人であるため、この火事が本当に天災なのかどうかは疑問の余地が残るが、焼失した地域の家屋や自動車を再生産しなければならないことは確かで、電炉による製鉄の需要は多くなる上、カリフォルニア州の新しい街づくりや環境規制について行ければ、世界で通用する。そのため、電炉だけでなく、水素を使ったCO₂排出0の革新的製鉄プロセスも速やかに行なうべきである(https://green-innovation.nedo.go.jp/article/iron-steelmaking/ 参照)。 なお、カリフォルニアの火災は大規模であったため、東日本大震災で米軍が「ともだち作戦」をしてくれたように、日本の自衛隊や米国進出企業も「ともだち作戦」をして、火災の後片付けを手伝いつつ、復興に力を貸したら良いのではないかと思う。 (3)その他の情報 *3-1のように、日鉄が1月6日に米大統領のUSスチール買収禁止命令やCFIUSの審査の無効を求める訴訟を提起し、トランプ次期米大統領は自身のソーシャルメディアへの投稿で日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画に否定的な考えを述べたことで、日鉄の株価は一時2.1%安の3,091円に下落したそうだが、これは日鉄株主の懸念の現れであろう。 また、*3-2は、「訴訟提起以外に日鉄が今後取りうるのは、買収の枠組み変更で、141億ドル(約2兆2千億円)でUSスチールの完全子会社化を目指してきたものを、出資比率を抑えた資本提携に切り替えて米国市場で鋼材の生産・販売を強化する形」としている。 しかし、日鉄が買収完了後にUSスチールにEVモーターに欠かせない「無方向性電磁鋼板」の製造技術や高炉の操業・整備技術、脱炭素技術などを供与するのであれば、USスチールが会社分割して必要な土地・建物・設備・従業員を現物出資することにより、日鉄とジョイントベンチャー子会社(US-Japanスチール《仮称》)を立ち上げ、日鉄が過半数の株式を保有して最先端の製品を作れば良いと思うわけである。 ・・参考資料・・ <日本製鉄によるUSスチール買収の経緯> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06BCF0W5A100C2000000/ (日経新聞 2025年1月7日) 日本製鉄会長、米当局の審査は「結論ありきの政治介入」 日本製鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)は7日、東京都内の本社で記者会見を開いた。バイデン米大統領が3日、米鉄鋼大手USスチールの買収中止命令を出したことを受け、安全保障に関する当局の審査について「最初から結論ありきの政治介入があった」と述べた。買収計画を「諦める理由も必要もない。(中止命令を)到底受け入れることはできない」と強調した。日鉄とUSスチールは6日付で不当な政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴していた。橋本氏は会見で提訴の理由などについて説明した。安全保障上の懸念を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)については「正しい手続きで審査が行われれば違った結論になったはずだ」と述べた。日鉄のUSスチール買収を阻止したい競合のクリーブランド・クリフスが、全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長と連携しバイデン氏に働きかけたとし、「こともあろうにこの働きかけに応じ、政治的に介入した」と批判した。国家安全保障の観点から審査されたものではないと示せれば、バイデン氏らとの裁判に「勝訴できる可能性はある」と語った。勝率や訴訟日程を問われると「今申し上げるタイミングではない」と述べるにとどめた。6日にはトランプ次期米大統領が自身のSNSに「関税(引き上げ)によって(USスチールは)より高収益で価値のある企業になる」と投稿していた。橋本氏は「関税政策だけで産業が強くなるとは決して思えない」とし、日鉄の独自技術をUSスチールに供与することで同社の立て直しにつながり「ひいては米国の国家安全保障の強化に資する」と強調した。実際に中止命令が訴訟を通じて無効となれば、トランプ政権下のCFIUSで再審査されることになる。「(トランプ氏は)製造業を強くして製造業の労働者にもう一度豊かな暮らしと明るい未来を与えたいと言っている。(買収計画は)その趣旨に沿っている」と、トランプ政権の理解を得られるとの見方を示した。日鉄のUSスチール買収を巡っては、23年12月の発表以来、USWのマッコール氏が一貫して反対している。85万人の組合員が所属するUSWの組織票を目当てに、トランプ氏とバイデン氏がいずれも買収計画に反対して政治問題化した。CFIUSは安全保障上の懸念の有無を審査してきたものの最終判断は大統領に委ね、バイデン氏は1月3日に中止命令を出した。橋本氏は過去1年の買収計画の交渉を振り返り「反省点はない。あらゆる手は尽くした」と総括した。日鉄は6日付で買収計画に不当な政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴したほか、買収妨害行為でUSWのマッコール氏、クリフスと同社CEOも提訴した。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250107&ng=DGKKZO85884030X00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.7) 日鉄副会長「徹底抗戦する」 日本製鉄によるUSスチール買収はバイデン米大統領を含む米政府や競合企業を訴える異例の事態に発展した。買収計画を統括する森高弘副会長兼副社長は6日、オンラインでの取材に応じ「理不尽な扱いをされて引き下がるわけにはいかない。徹底抗戦していく」と述べた。森氏は訴訟の狙いについて「買収実現に向けた対応だ。必要な措置を粛々と実行していく」と主張した。これまでの対米外国投資委員会(CFIUS)による安全保障上の審査については「誠実さに欠けるものだった」と指摘した。「当社が自主的に示した国家安全保障協定案には書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも(CFIUSからの)質問や懸念の表明が全くなかった。実質的な協議がないまま判断を大統領に委ねた」と説明した。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250114&ng=DGKKZO86032320U5A110C2MM0000 (日経新聞 2025.1.14) 米クリフスとニューコア、USスチール買収へ連携 米報道 米CNBCテレビは13日、米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携し、USスチールを買収する可能性があると報じた。クリフスがUSスチールを全額現金で買収し、買収後にUSスチール傘下の電炉会社をニューコアに売却することを検討している。バイデン大統領は3日、日本製鉄によるUSスチール買収計画を阻止した。クリフスは当初USスチール買収に意欲を示していたが、日鉄に競り負けていた。日鉄による買収が失敗した場合はUSスチールを買収するとしていた。クリフスの買い取り額は1株当たり30ドル台後半で日鉄の買収計画(同55ドル)を下回る。クリフスがUSスチールを買収すれば、米国の高炉や自動車用鋼板生産で100%近いシェアとなり、反トラスト法(独占禁止法)に抵触する可能性がある。抵触を回避するため、買収後に電炉子会社をニューコアに売却するとみられる。報道によるとクリフスは買収後、USスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す。クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は13日、ペンシルベニア州の工場で開いた記者会見で、「私には(USスチール買収の)計画がある」と述べた。日鉄が現在の買収計画を破棄することが買収の前提になると説明した。報道に関してはコメントしなかった。ニューコアの担当者は「コメントできない」としている。日鉄とUSスチールは6日、買収を巡る政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴した。阻止命令の無効と再審査を求めている。両社は違法な妨害行為でクリフスとゴンカルベスCEO、全米鉄鋼労働組合(USW)会長も提訴した。買収計画を審査してきた対米外国投資委員会(CFIUS)はバイデン氏の命令を受けた計画の破棄期限を当初の2月2日から6月18日まで延長することを決めた。 *1-2-2:https://jp.reuters.com/economy/industry/7EELRETKK5LY7M5KVPHTC2TMNU-2025-01-13/ (Reuters 2025年1月14日) 米クリフス、同業とUSスチール買収計画 CEO「日本は中国より悪」 米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス(CLF.N),が同業ニューコア(NUE.N)と連携し、USスチール(X.N)の買収を目指す準備を進めていることが、関係筋の話で13日分かった。それによると、買収額は1株当たり30ドル台後半となる見通しで、日本製鉄の提案である1株当たり55ドルを大きく下回る。クリーブランド・クリフスは現金でUSスチールを買収し、USスチールの子会社「ビッグリバー・スチール」をニューコアに売却する計画だという。USスチールの本社はピッツバーグにとどまる見通し。クリーブランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベスCEO(最高経営責任者)は記者会見で、2023年に拒否されたUSスチール買収の提案を再び行う考えを示したが、詳細については明言を避けた。「取締役会と経営陣の意向を実現するオファーを出せる立場にいることをうれしく思う」とし、買収によって「米国は良くなり、強くなる」と強調した。 *1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250105&ng=DGKKZO85854050V00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.5) 「恥ずべき行動」バイデン氏を批判 USスチールCEO 米鉄鋼大手、USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は3日、バイデン米大統領が日本製鉄による買収を阻止したことに対し「バイデン氏の行動は恥ずべきもので、腐敗している」との声明を出した。同氏は買収阻止は米国の経済安全保障を危険にさらすとし、「経済・安全保障上の重要な同盟国である日本を侮辱している」と批判した。USスチールは日鉄による買収は米鉄鋼業の競争力を高め、中国の脅威に対抗するものだと正当性を主張してきた。ブリット氏は「(買収阻止で)北京の中国共産党幹部は街頭で踊っている」とコメントし、買収阻止は中国が得をするだけだと非難した。その上で、「投資こそが我々の会社や従業員、地域社会、米国のすばらしい未来を保証する。我々はバイデン大統領の政治的な腐敗と戦うつもりだ」として引き続き日鉄による買収の実現を目指す考えを強調した。一方、日鉄のUSスチール買収に反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長は3日記者会見し、バイデン氏が決めた買収阻止について「トランプ次期政権でも覆らないだろう」と述べた。同日の声明では買収阻止を歓迎し、「組合員や国家安全保障にとって正しい行動であることに疑いの余地はない」とした。 <訴訟> *2-1:https://mainichi.jp/articles/20250107/k00/00m/020/242000c (毎日新聞 2025/1/7) 日鉄、USスチール買収中止命令受け二つの訴訟 狙いと勝算は? 米大統領を相手取るという前代未聞の提訴に踏み切った日本製鉄。大統領の中止命令を取り消し、審査を担った対米外国投資委員会(CFIUS)に再審査を迫る行政訴訟と、買収を阻止するため大統領と結託したとして競合企業などに対し損害賠償を請求する二つの訴訟を起こした。日鉄の狙いはどこにあるのか。勝算はあるのか。 ●「競合と結託し政治介入」日鉄の見立て 「訴訟を通じて示されていく事実が、憲法や法令に明確に違反したものだというのが示されると確信している。勝訴の可能性はある」――。7日に記者会見した日鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)はこう力を込めた。2023年には競合で米鉄鋼大手のクリーブランド・クリフスが全米鉄鋼労働組合(USW)の支援を受け、USスチール買収に名乗りを上げ、日鉄に競り負けたことがあった。橋本氏が一定のリスクを覚悟してまで提訴したのは、競合他社と結託したバイデン大統領が政治的に介入し、CFIUSの適正な手続きを踏まず、大統領命令を出したとみているからだ。ただ、審査のやり直しを求めるにしても、大統領が安全保障を理由にすると、どのように結論を導き出したのかといったことは開示されず、日鉄にとって反論の余地もない。そこでクリーブランド・クリフスやUSW会長を提訴し、行政訴訟と民事訴訟を同時並行で行うことで、バイデン氏との関係をあぶり出し、それを証拠に再審査に臨もうという算段だ。橋本氏は「今回は通常の裁判と違って、勝訴するとCFIUSの審査がやり直しになるので、それが新政権、新しいメンバーによって、新しい手続きで進められる。米国に資するものであるということを説明することで理解を得られる」と語り、今月就任するトランプ政権下での再審査に望みをつなげたい考えを示した。ただ、米政府への訴訟なので「そもそも訴訟で争うことができない」などとして、日鉄側の訴えを却下するよう、政府が裁判所に働きかける可能性もある。USWとクリーブランド・クリフスは6日、いずれもトップの名で声明を発表し、「根拠がない」として争う構えを明確にするなど強気だ。 ●買収に高いハードル、欠かせぬ米国事業 審理に進んでも長期に及ぶ可能性もあり、仮に勝訴しても、再審査の道が開くだけで、日鉄が掲げる今年3月末までとした買収完了の目標には到底間に合いそうにない。買収へのハードルは高く、このまま不成立となることも考えられる。その場合、日鉄は海外戦略の再構築が求められることになる。米国市場は日鉄が得意とする自動車用の鋼材も含め高級鋼材のニーズが強く、鋼材需要は日本の1・7倍ある。今後も人口増が見込まれ、業界の再編も進んでおり、稼ぎやすく「なんとしても米国事業は当社の戦略に欠かせない」(橋本会長)市場だ。買収が不成立に終わっても、日鉄には資本提携など出資枠組みの変更や電炉だけを買収するという手法も残る。ただ、資本提携にとどまれば日鉄の高度な技術をUSスチールに100%供与することは難しく、買収で得られるシナジー効果は薄れてしまう。日鉄はすでに米国で欧州アルセロール・ミタルとの合弁「AM/NSカルバート」を運営しており、同社の業績は好調だ。日鉄はUSスチールの買収が完了すれば、競争法上の理由でカルバート株を売却すると公表しているが、買収が不成立ならば、カルバートの運営を継続し、同社を足がかりに市場を拡大する戦略も残される。「いい案件があれば単独出資にこだわらず、ジョイントベンチャーや現地の会社に出資というのも選択肢」(アナリスト)という見方もある。日鉄が米国市場とともに有望視し、アルセロール・ミタルと合弁事業を手掛けているインド市場をさらに伸ばすというのも成長戦略の一つになる。24年の世界鋼材需要は前年比で減少するが、インドは過去最高を更新する見通しだ。USスチールの買収が不成立ならば、もともと日鉄がホームマーケットとしているASEAN(東南アジア諸国連合)に注力しつつ、インドへの投資を拡大するというのも現実解になりそうだ。 *2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/d4894350ead6d6bdca8d40df4cd61432d28c9a10 (Yahoo、Reuters 2025/1/7) 日本製鉄の訴訟提起、クレジットにはネガティブ=ムーディーズ 格付け会社ムーディーズは7日、日本製鉄が米USスチールの買収計画に関連し訴訟を起こしたことは、日鉄のクレジットに対してネガティブとの見解を示した。日鉄は6日、USスチールの買収に不当介入があったとして、米大統領の買収禁止命令や対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の無効を求める訴訟など複数の訴訟をUSスチールと共に提起したと発表した。ムーディーズのVPシニア・アナリスト、ローマン・ショア氏は、訴訟提起により「買収を巡る不確実性が高まり、(日鉄の)クレジットにとってはマイナス」との認識を示した。買収が頓挫すれば、国内市場での需要減を補うための海外成長戦略の実行が遅れることになるとした。ただ、訴訟に敗訴し買収が実現しなかったとしても、日鉄には違約金支払いなどの影響を相殺できる「財務上の柔軟性」があるとも指摘。海外ではインドなどの成長市場でも投資を拡大させる余地があり、「USスチール買収失敗による下振れリスクの緩和にもなる」としている。買収が成立しない場合、日鉄はUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する可能性がある。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250107&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO85890190X00C25A1MM0000&ng=DGKKZO85890260X00C25A1MM0000&ue=DMM0000 (日経新聞 2025.1.7) 米鉄鋼労組「買収阻止は国益」 クリフスは「訴訟の準備」 日本製鉄が6日、USスチール買収を巡る違法な妨害行為で提訴したことを受け、全米鉄鋼労働組合(USW)会長と米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスの最高経営責任者(CEO)が同日声明を発表した。USWは強く反論する姿勢を示し、クリフスは訴訟準備を整えていると明らかにした。USWのデービッド・マッコール会長は6日、日鉄による提訴を受け、「訴状を精査中だ。根拠のない主張には断固として反論していく」とし対抗策を辞さない方針を示した。USWは日鉄によるUSスチール買収に一貫して反対してきた。バイデン米大統領は3日に買収計画の阻止を決めた。マッコール氏は「日鉄によるUSスチール買収の試みを阻止することで、バイデン政権は米国に重要な利益をもたらし、国家安全保障を守り、我が国の重要なサプライチェーンを支える国内鉄鋼産業の維持に貢献した」と称賛した。クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベスCEOは6日、「我々は訴訟の準備を整えており、法廷で事実を明らかにすることを楽しみにしている」とコメントした。 *2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN110A10R10C25A1000000/ (日経新聞 2025年1月11日) USW会長、日鉄による提訴は「根拠がない脅迫だ」 全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長は10日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチール買収を巡って違法な妨害行為があったとして同氏を提訴したことを受けて反論を表明した。マッコール氏は日鉄の提訴は「根拠がない脅迫だ」とし「軽薄な申し立てから組合を強く守る」と強調した。同日、提訴を批判する動画を公開した。マッコール氏はバイデン大統領が阻止を命じた日鉄による買収は「我々の工場の将来を脅かし、国家安全保障を危険にさらすことは明らかだ」と話した。その上で、USスチールは日鉄による買収提案以前に、老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先したと強調。「日鉄は買収後もUSスチールのこの計画を踏襲し、電炉に生産を移すことは明らかだ」とし、雇用を脅威にさらすと批判した。日鉄は2024年12月30日に米政府に対し、買収後もUSスチールの製鉄所の生産能力を10年間減らさないことを提案。減る可能性がある場合に米政府は拒否権を発動できるとした。マッコール氏は「この提案は不可抗力を含む」とし、労働者が反発した場合、日鉄が約束を守らず、生産能力削減に踏み切るのは確実だと強調した。さらにマッコール氏はUSスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)ら経営陣が日鉄による買収が成立した場合に報酬を獲得することを改めて取り上げ、「傲慢で、従業員や株主、地域社会や顧客のことなど気にかけていない」と批判した。 *2-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN090DX0Z00C25A1000000/ (日経新聞 2025年1月9日) 日鉄のUSスチール買収「徹底的に分析した」 米財務長官 日本製鉄によるUSスチール買収計画への中止命令について、イエレン米財務長官は8日、米CNBCのインタビューで「大統領に提出するため徹底的に分析した」と述べた。計画に安全保障上の懸念があるとした判断の根拠などは語らなかった。買収計画は政府横断組織の対米外国投資委員会(CFIUS)が審査をしたが意見がまとまらず、昨年12月23日にバイデン米大統領に最終判断を委ねた。CFIUSの議長は財務長官が務める。イエレン氏はインタビューで、審査について「言えることはほとんどない」と断ったうえで「CFIUSはいつも通り(計画を)詳細に分析した」と述べた。バイデン氏に「徹底的な分析」を報告したうえで「CFIUSとしてアドバイスした」と話した。 <その他の情報> *3-1:https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/HBQPREXZCZMFDOM6LHW3O6VBM4-2025-01-07/ (Reuters 2025年1月7日) 日鉄株が軟調、USスチール買収計画に否定的なトランプ発言を嫌気 日本製鉄の株価が逆行安となっている。トランプ次期米大統領が自身のソーシャルメディアへの投稿で、日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画に否定的な考えを述べたことが伝わり、嫌気されている。株価は一時2.1%安の3091円に下落した。トランプ氏は「関税によってUSスチールはもっと収益性の高い価値ある企業になるのに、なぜ彼らは今、買収されたいのだろうか」と指摘。市場では「トランプ氏の大統領就任によって状況が好転するとの思惑を後退させる材料として、短期的な売りが強まったようだ」(国内運用会社のファンドマネージャー)との声が聞かれる。日鉄株は6日、バイデン米大統領が安全保障上の懸念を理由に日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画の中止を命じたことを嫌気して軟化したが、トランプ次期大統領の判断で状況が覆り得るとの思惑が支えの一つとなり、下げは限定的だった。日鉄は6日、USスチール買収計画に不当介入があったとして、米大統領の買収禁止命令や対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の無効を求める訴訟などを提起したと発表。きょう午前に橋本英二会長が開いた会見後、株価はやや下げを強めた。市場では「目新しい材料が見当たらず、改めて売られたのではないか」(同)との見方が聞かれる。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250105&ng=DGKKZO85853820V00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.5) 日鉄、資本提携も選択肢 買収阻止 今後のシナリオ、スキーム変更 相乗効果、薄れる懸念 日本製鉄によるUSスチール買収計画にバイデン米大統領が中止命令を出す異例の事態となった。日鉄はUSスチールと共同で買収計画を「決して諦めない」と声明を出し、今後の方策を模索する。まず日鉄は米政府を相手取り訴訟を提起する方針だ。その他には資本提携やトランプ次期米大統領との交渉といったシナリオが選択肢に入る。訴訟提起以外に日鉄が今後取りうるのは、買収の枠組みの変更だ。141億ドル(約2兆2千億円)でUSスチールの完全子会社化を目指してきたが、出資比率を抑えた資本提携に切り替えて、米国市場で鋼材の生産・販売を強化する形だ。ただ出資比率に関わらず対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の対象になるため、比率を抑えたとしても成立するかどうかは不明だ。日鉄は買収完了後にUSスチールに電気自動車(EV)のモーターに欠かせない「無方向性電磁鋼板」の製造技術や高炉の操業・整備技術、脱炭素技術などを供与する考えだった。ある日鉄幹部は「100%出資でやらなければ技術を供与できない」と述べていた。出資比率を抑えた場合、技術面の相乗効果が薄れてしまう恐れもある。JPモルガンは3日、「今後は(USスチールが南部に持つ)電炉買収に関心を示す企業が出てくる」とコメントした。電炉は環境負荷の少ない製鉄手法で日鉄は日本でも設備投資を進めている。今後、電炉のみの単独買収を視野に入れる可能性はある。電炉工場の従業員は今回の買収計画に反対した全米鉄鋼労働組合(USW)に加盟していない点も日鉄には魅力に映るかもしれない。米国の既存事業を堅実に伸ばす選択肢もある。日鉄は米国に、欧州の鉄鋼大手、アルセロール・ミタルとの薄板製造の合弁会社「AM/NSカルバート」を持つ。USスチールを買収すれば競争法上の懸念からカルバートの株式をミタルに売却するとしていた。買収計画が頓挫すれば合弁の運営を続けることになる。森高弘副会長兼副社長は「どちらかを選択するならばUSスチールを選ばなければならない」と述べていたが、カルバートは「有望なキャッシュカウ事業」(国内証券大手アナリスト)と評価されている。現在は7億7500万ドルを投じて電炉建設も進めている。この電炉と薄板をつくる既存の圧延工程を合わせれば製鉄の上工程から下工程までの一貫製鉄の体制が完成する。6月までに買収計画が成立しない場合、日鉄はUSスチールに5億6500万ドルの違約金を支払う義務が生じる可能性がある。 <ロサンゼルスの山火事は偶然か> *4:https://www.bbc.com/japanese/articles/cd0j5pn0vdlo (BBC 2025.1.11) 米ロサンゼルスの山火事、死者11人に 強風で被害拡大のおそれも 米カリフォルニア州ロサンゼルスで7日に発生した山火事は10日も続き、これまでに少なくとも11人の死亡が確認された。また、これまでに125平方キロの土地が焼失し、約18万人が避難した。 高級住宅地パシフィック・パリセーズ、イートン、ケネス、ハースト、リディア地区で、5件の山火事が依然として燃え続けている。鎮圧率は3%から75%とまちまちで、カリフォルニア州の消防当局は、今後数日の間に風が強まれば、さらに被害が発生する可能性があると警告した。ジョー・バイデン米大統領は8日に「大規模災害」を宣言。災害救援のための連邦政府の資金援助を増額している。こうした中、被災地で窃盗が多発していることから、パシフィック・パリセーズとイートン地区では午後6時から翌午前6時までの夜間外出禁止令が発令された。また、200人以上の警官がパトロールに当たっている。またロサンゼルス警察は、9日にロサンゼルス郡とヴェンチュラ郡の境界で発生した火災について、1人を逮捕したと発表した。放火の容疑者とされた人物は事情聴取を受けたが、当局は放火の疑いで容疑者を逮捕するには「十分な理由がない」と判断した。しかし、容疑者は重罪に対する保護観察違反で逮捕され、捜査は継続中だという。米メディアは、パリセーズの山火事について放火捜査官が原因究明を進めていると報じている。ロサンゼルス郡消防本部のトニー・マローン本部長は、もしも出火原因が放火だと判明した場合、死者はすべて殺人によるものとして扱われると述べている。 ●州知事は水不足の調査を支持、トランプ氏から批判も カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事は、消防隊が消火用水の確保に苦労しているという報告について、第三者調査の開始を求めている。ニューサム知事はソーシャルメディア「X」への投稿で、ロサンゼルス水道電力局の責任者とロサンゼルス郡公共事業局の局長に宛てた手紙を共有。「消火栓からの水の供給が失われたことが、一部の住宅や避難経路を保護する努力を妨げた可能性が高い」と説明した。知事は、地元の消火栓の水圧の低下と、貯水池からの水供給の不足について調査が必要だとしたうえで、「このようなことが再び起こらないようにし、一連の壊滅的な火災と戦うためにあらゆる資源を利用できるようにするため、包括的な点検が必要だ」と述べた。民主党のニューサム州知事の対応については、共和党のドナルド・トランプ次期大統領がしきりに批判を重ねている。次期大統領はニューサム知事の辞任を要求し、「アメリカで最も美しく素晴らしい場所の一つが焦土と化している」と述べた。実際、ロサンゼルス市消防局の予算は昨年、1760万ドル削減されており、キャレン・バス・ロサンゼルス市長が批判されている。これに対しニューサム知事は、次期大統領をカリフォルニア州に招待すると述べるとともに、山火事を「政治利用」しないよう強く求めた。ニューサム氏は「X」で公開した書簡で次期大統領に、自分に同行して「被害状況を直接目にする」よう呼びかけた。「この偉大な国の精神に則り、私たちは人間を襲う悲劇を政治利用したり、傍観者として誤った情報を広めたりしてはならない」、「家を失って将来に不安を抱える数十万のアメリカ人は、迅速な復旧と再建を確実にしようと、私たち全員が被災者の最善の利益のために全力を尽くしている姿を見るべきだ」と、知事は強調した。 ●多くの著名人が家を失う 今回の山火事では、多くの著名人が自宅を失ったことを明かしている。米俳優メル・ギブソン氏は、ロサンゼルスの山火事で自宅が焼失したことを明らかにした。ギブソン氏は、著名ポッドキャスターのジョー・ローガン氏の番組収録中に、この災難に見舞われたという。ローガン氏は、気候変動否定派として知られている。取材に対してギブソン氏は、テキサス州オースティンで「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」にゲスト出演している最中に、自宅の近隣が「火事になっている」と知り、「落ち着かない気持ち」だったと述べた。また、マリブの自宅が「完全に焼け落ちた」と述べ「これはかなり衝撃的で、感情的なものだ」と述べた。「自分の持ち物がすべて灰になったことで、物の重荷から解放された気分だ」。ギブソン氏はローガン氏のポッドキャスト内で、ニューサム州知事を批判。ニューサム氏が「森林の管理をする」と言っていたが「何もしなかった」と述べた。「私たちの税金はすべてギャヴィンのヘアジェルに使われたんだと思う」とギブソン氏は語った。ギブソン氏の家族は避難命令に従い、無事だったという。有名ホテルのオーナー一族でリアリティー番組TVスターのパリス・ヒルトン氏も自宅を失った。ヒルトン氏は、ソーシャルメディアで自宅の残骸の動画を共有し、「この悲しみは本当に言葉では表現できない」と述べた。このほか、英俳優サー・アンソニー・ホプキンスも自宅を失ったと報じられている。1996年、2000年、2004年のオリンピック(五輪)でアメリカを代表した水泳選手のギャリー・ホール・ジュニア氏は、この火災でパリセーズの自宅と、獲得した五輪メダル10個を失ったと語った。ホール氏は、「3分しか行動する時間がなかった」と話し、「メダルよりも犬を選んだ」と語った。また、俳優ジェニファー・ガーナー氏はMSNBCのインタビューの中で、山火事で友人を失ったことを明かした。 ●サセックス英公爵夫妻が支援センター訪問 英王室のサセックス公爵夫妻は10日、パサデナの救援センターを訪れ、消防士や警察官などの初動対応者や被災者と面会した。ハリー王子とメガン妃は、4年前にカリフォルニア州モンテシートに移住。これは、最も被害が大きかったパシフィック・パリセーズから北へ約1時間半の距離にある。地元メディアが放送した映像では、ハリー王子とメガン妃が、食料を供給している慈善団体ワールド・セントラル・キッチン(WCK)の現場で、パサデナのヴィクター・ゴードン市長と話している様子が映っている。ハリー王子とメガン妃は、避難を余儀なくされた友人を自宅に招いたとされている。夫妻はウェブサイトで声明を発表し、「友人や愛する人、またはペットが避難しなければならない場合、あなたが自宅に安全な避難場所を提供できるなら、ぜひそうしてください」と語っている。(英語記事 Death toll rises as governor confirms hydrants issue 'impaired' LA wildfires fight/ Mel Gibson says his home burned down in LA fires) <日本における水素社会・EV・自動運転システムの遅れ> PS(2024年1月20日追加):*5-1-1のように、中国は、国がビジョンを掲げて保証した新たなパイに民間企業が殺到して競争する自由競争型の産業形成であるため、国のビジョンが正しい限り無駄のないイノベーションが生まれ、変化のスピードも速い。そして、中国の太陽光発電・リチウムイオン電池・電気自動車(EV)は、日本が先行した技術であるにもかかわらず、日本が迷走したり後退したりしている間に、中国が世界市場を奪って中国のビジョンの正しさを証明した。また、日本が世界に先駆けて提案してきた水素社会の創出も、中国は2022年の国家戦略を背景に爆発的に投資を拡大させてサプライチェーン全般で一気に実用段階に突入したが、日本は相変わらず屁理屈をこねて迷走している。しかし、地球温暖化は確かに起こっており、エネルギー自給率向上も間違いなく必要であるため、世界に水素社会が到来することは確実なのである。しかるに、米国では、*5-1-2のように、トランプ大統領が、バイデン政権で認められなかった化石燃料開発の許認可を拡大する意向を示し、「エネルギー資源を解き放ち、インフレを迅速に克服し、地球上で最も安価なエネルギーを実現する」と言明しているが、化石燃料を自国で採掘して安価に使える国は数少ないため、化石燃料に舵を切れば世界では売れない自動車や機械を作ることになって、EVの技術開発はそれだけ遅れるのだ。つまり、日本の従来型技術を重視する管理主義的産業政策や米国の時代遅れの産業政策こそが、イノベーションを遅れさせ、市場経済を歪めて、経済を停滞させ、ひいては国力を弱めているのである。 そして、次に実用化しなければならない技術は、高齢化社会と人手不足を受けて、*5-2-1や*5-2-3の自動運転・自動操舵システムなのだが、これも2000年代に日本政府に伝えていたにもかかわらず、中国では既に自動運転タクシーが公道を走っているのに、日本ではまだ国交省が新東名高速で自動運転トラックの発着実験をしている段階だ。そして、*5-2-2のように、高齢者に運転を止めさせて活動不能にし、要介護者を増やす方法しか思いついていない。しかし、米西部カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で1月7日に発生した火災による焼失面積は160km²以上で、現在のところJR山手線内側の面積の約2倍に相当するため、新しいまちづくりをするにあたっては、(長くは書かないが)その地域が乾燥しすぎない方法を考えることと、新しい交通システムに対応できる道路システムを作ることが必要なのである(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE103TB0Q5A110C2000000/、https://news.yahoo.co.jp/articles/1126d0064da2b6e0ac711f16ba0f9e51949e6af0 参照)。 *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250119&ng=DGKKZO86154430Y5A110C2EA3000 (日経新聞 2025.1.19) EVの次に来る対中敗北 中国には産業育成やインフラ建設の猛烈なスピードを指す「中国速度」という言葉がある。年初に訪れた広東省深圳市でもその光景を見ることができた。高層ビルの合間を小型の段ボールを抱えたドローンが行き交い、公園内の配送スポットで家族連れが次々と楽しそうに有名チェーンの食べ物やドリンクをドローンから受け取っていた。ドローンを使って低空域で展開される経済活動を意味する「低空経済」という概念が国家の戦略性新興産業に指定されたのは2023年末。あっという間にサービスの具体化が進んだ。日本はそんな中国速度に何度も苦い思いをさせられてきた。中国の「三種の神器」となった太陽電池やリチウムイオン電池、電気自動車(EV)はいずれも日本が先行した技術だが、気がつけば後発の中国にあっさりと世界市場を奪われた。そして今、日本が譲れないはずの重要分野が再び中国に脅かされている。日本が世界に先駆けて提案してきた水素社会の創出だ。中国は22年の国家戦略などを背景に爆発的に投資が拡大し「つくる」「運ぶ」「ためる」「使う」というサプライチェーン全般で一気に実用段階に突入した。エネルギー情報会社のライスタッド・エナジーの推計によると、再生可能エネルギーで製造するグリーン水素の24年の生産能力は中国が22万トンと世界の過半を占める。水素をつくる電解装置は低価格を売りにした輸出も始まり、早くも「第四の神器」との声もある。利用面では水素利用に適した長距離トラックや大型バスの導入が進む。将来的に化学品や鉄鋼生産での巨大需要も見込まれる。足踏みする日本を尻目に、中国の水素産業はいち早く大量生産と需要拡大の成長サイクルに入ったかにみえる。そのような流れの先に世界で本当に水素社会が到来すればどうなるだろうか。石油に代わる重要エネルギーで中国に圧倒的な主導権を握られる。水素は脱炭素時代のエネルギー安全保障そのものだ。日本にとって今よりリスクが高まる悪夢の時代となりかねない。日本は現実を認識し早急に戦略を練り直す必要がある。その過程は日本の産業政策の「負けパターン」を見つめ直す作業でもある。日本の産業政策は国が企業を管理する「調整型」の性格が強い。「日の丸連合」は代表的な形態だ。資源を集中しやすい半面、競争が少なく、既存の知見が基盤で未知の可能性の追求が制約される側面がある。日本の水素戦略もその発想の延長線上にある。最大の力点を日本企業が既に商品化した燃料電池乗用車や家庭での利用拡大に置いた。一方で将来のエネルギー安保に関わる水素調達は最初から自国生産でなく輸入を軸とした。ビジョンよりも「グリーン水素生産に必要な再生可能エネルギーが普及していない」との現実問題に対応した。洋上風力発電など日本の国土に適した技術を伸ばす選択肢もあったが、企業にしてみれば国の目標が明確でなければ開発リスクには及び腰となる。今や同技術は欧州や中国で花開く。中国の産業政策は逆を行く。ときに無理筋にもみえる目標を掲げる「ビジョン型」だが実際の産業形成は「自由放任型」というハイブリッドだ。国家が保証する新たなパイに企業が殺到し「バトルロワイヤル」を展開する。ムダや問題も多いがスピードは速くイノベーションも生まれやすい。米国も国家資本主義に傾く。人工知能(AI)や量子、半導体――。いずれも国家の産業政策力を問う競争だ。まずは限界を迎えた従来型政策を変える「日本速度」が試される。失敗を繰り返している余裕はない。 *5-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO86166470Q5A120C2MM0000/ (日経新聞 2025年1月20日) トランプ氏「米、4年間の衰退に幕」 就任前に演説、化石燃料の開発拡大 トランプ次期米大統領は19日、20日の就任を前に首都ワシントンで演説し「我が国をかつてなく偉大な国にする。20日正午にこの国を取り戻す」と表明した。就任初日に不法移民の強制送還などの大統領令に署名すると明らかにした。「勝利集会」と名付けた約1時間ほどの演説はイベント施設「キャピタルワン・アリーナ」で実施した。トランプ氏は支持者を前に2024年の米大統領選で「我々は勝った」と切り出した。バイデン政権から「災害、インフレと高金利に苦しむ経済、壊滅的な国境危機を継承する」と主張した。「20日から歴史的なスピードと強さで行動し、我が国が直面するあらゆる危機を修復する」と述べ、「4年間の衰退に幕を下ろし、米国の強さと繁栄、誇りを取り戻し、新しい時代が幕を開ける」と訴えた。トランプ氏はエネルギー・環境政策について、バイデン政権で認められなかった化石燃料の開発の許認可を拡大する意向を示した。「エネルギー資源を解き放ち、インフレを迅速に克服し、地球上で最も安価なエネルギーを実現する」と言明した。米国に直接投資を呼び込む意欲を示した。米国で1000億ドルの大型投資を計画するソフトバンクグループ(SBG)などに触れ、「選挙に勝ったからこそできた投資」と唱えた。米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から米国内で大規模投資をすると伝えられたとも明かした。トランプ氏は看板政策である不法移民の強制送還に関する大統領令を20日に出すと明言した。同日夕刻までに「国境への侵入を停止し、すべての不法移民は何らかの方法で自国に戻ることになる」と発言した。「主権のある領土と国境の管理を迅速に再び確立し、米国内で活動する不法滞在のギャングを一人残らず国外追放する。米国史上最大の強制送還作戦を開始する」と述べた。イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意を自らの成果にあげた。「(米大統領選での)歴史的な勝利の結果としてのみ実現した」と話した。ロシアによるウクライナ侵略については「終わらせる。中東の混乱を止め、第3次世界大戦が起こるのを防ぐ」と断言した。ミサイル防衛システム「アイアンドーム」を建設し、米国内に設置するよう軍に指示する方針も示した。演説では20日にカナダとメキシコに25%の関税を課す大統領令に署名するかどうかには触れなかった。不法移民の流入などを理由に国家経済の「緊急事態」を宣言したうえで関税を引き上げるとの見方が出ている。20日に連邦議会議事堂内のロタンダ(円形の大広間)で大統領就任式で宣誓や演説を終えた後も同じ場所で演説し、施設内でのパレードにも臨む。20日のワシントンは厳しい寒さが予想されトランプ氏は就任式を異例の屋内開催に切り替えた。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1118E0R11C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月24日) 新東名高速で自動運転トラック発着 国土交通省が実験 国土交通省は新東名高速道路の浜松サービスエリア(SA)で自動運転トラックによる発着の実証実験を2024年12月4日に公開した。自動発着は、高速道路でのトラックの自動運転に必要な要素技術の1つ。24年度末には、他の要素技術をまとめて、発着だけでなく拠点間の走行における一連の流れを検証する。高速道路でのトラックの自動運転の実現に向けて、一般道への中継地点で運転手の乗り降りなどが必要になる。今回、決められたエリア内でトラックが自動で発着できるかどうかを検証した。実験では、SAまでドライバーが運転し、そのまま自動運転に切り替わり、指定のエリアに駐車した。発車も自動で行い、合流地点から再び手動に切り替えた。 ●商用車メーカーや日本工営が参画 検証に参加したのは、高速道路で自動運転トラックの実用化などを進める経済産業省・国交省委託事業「RoAD to the L4」のテーマ3コンソーシアム(幹事会社:豊田通商)の参加企業とトラックの自動運転技術を手掛けるスタートアップのT2(東京・千代田)だ。テーマ3には、いすゞ自動車や日野自動車などの商用車メーカーの他に日本工営などが参画している。実験では、テーマ3のトラック5台、T2のトラック1台の計6台が参加した。トラックには周囲の状況を確認するためのカメラやレーザー光を使った高性能センサーのLiDAR(ライダー)、位置情報を推定する測位衛星システム(GNSS)センサー、車両の向きなどを検知する慣性計測装置(IMU)などを取り付けている。トラックは全て、ドライバーが介入することなく指定のエリアで発着を完了した。T2技術開発本部の辻勇気本部長は「それぞれの機器から得られた情報を統合して走行させる技術を内製している」と話す。 ●24年度末までに新東名100キロ区間で実証 国交省は高速道路での大型トラックの自動運転に向けて、自動発着以外にも本線との合流を支援するシステム、落下物や工事規制などの情報を提供するシステムなど、まずは5つの要素技術を検証していく。テーマ3のリーダーを務める豊田通商グループのネクスティエレクトロニクス(東京・港)の小川博技監は「車両単体での障害物検知では、範囲が限られるためにトラックの車線変更が困難なケースがある。(インフラ側の)外部支援によって、安全かつ継続的に運行できる」と話す。24年6月には、新東名高速道路の未供用区間を使用して、各要素技術の検証を実施した。24年度末までに、駿河湾沼津SA─浜松SA間の約100キロメートルの供用区間でそれぞれ実証する。25年度以降には、合流区間における加速レーンがより短く難度が高い東北自動車道でも展開する予定だ。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240422&ng=DGKKZO80179970R20C24A4CM0000 (日経新聞 2024.4.22) 高齢ドライバーの運転、中止前に「代替手段検討を」 日本老年学会が提言 高齢ドライバーの増加に伴い、日本老年学会は21日までに、高齢者の自動車運転に関する提言を盛り込んだ報告書を公表した。認知機能や身体機能の衰えを定期的に把握し、運転継続が難しい場合は行政や地域からの適切な支援を受けつつ、中止する前に代替手段を検討すべきだとした。オンラインで記者会見した荒井秀典・学会理事長は、高齢者の運転技能は多様だとし「高齢運転者と危険運転者を同一視するような差別的なイメージは誤り。社会全体で多面的な取り組みを推進する必要がある」と強調。その上で「ゼロリスクにできる限り近づけるにはどうすべきか、科学的に示したい」と話した。報告書は、高齢運転者は視機能、認知機能、身体機能の低下から運転技能が低下することがあり「死亡事故などを起こす危険性が高い状況にある」とした。免許更新の際などに適切な運転技能の判定が必要だという。一方、運転を中止した高齢者は、継続した高齢者と比べて要介護状態になるリスクが高かった。運転中止前に、自身で運転する以外の代替手段を検討すべきだとした。 *5-2-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/283074 (日本農業新聞 2025年1月19日) 自動操舵精度向上へ RTK基地局設置 JAあいち経済連 JAあいち経済連は、トラクターやコンバインなどの自動操舵(そうだ)装置の精度向上につながるRTK(リアルタイム・キネマティック)基地局を県内の4カ所に設置し、運用を始めた。県域のJAグループとしては、都府県で初めての取り組みで、生産者の省力化を後押しする。「JAグループ愛知RTK基地局」という名称で17日から運用を始めた。自動操舵装置は、トラクターやコンバインなどの位置情報を、人工衛星から受信し、設定した経路の自動走行を可能とする装置。JAグループ愛知では、農作業の省力化を目的に、この装置の普及を進めている。人工衛星だけで受信する位置情報では約30センチの誤差が生じる。人工衛星に加え、新たに設置したRTK基地局からも位置情報を受信することで、誤差を2、3センチまで縮小できる。種まきや畝立てといった、高い正確性を要する作業での活用が期待できる。経済連は今後、生産者向けの実演会やJA農機担当者向けの研修会などで、利用方法やメリットを伝え、RTK基地局と自動操舵装置の利用拡大に取り組む。経済連の担当者は「生産者の省力化に貢献していきたい」と話した。 <ホンダ・日産の経営統合は意味があるのか?> PS(2025年2月1日追加):*6-1によると、ホンダ・日産の経営統合スキームは、①ホンダ・日産が共同で持株会社を設立し、両社を持株会社にぶら下げる形で事業統合 ②ホンダが持株会社の経営をリード ③両社は強固な事業基盤を構築して自立 ④経営統合合意に達するには日産の事業構造計画「ターンアラウンド:(i)グローバル生産能力:20%削減 (ii)グローバル人員数:9000人削減 (iii)販売管理費の削減 (iv)会社資産の合理化 (v)設備投資と研究開発費の優先順位を見直し(https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20241107513619/ 参照)」の実現が条件 としている。しかし、このスキームでは両社が共同で作った持株会社の下に、ホンダ・日産という財務的に“自立した”会社がぶら下がるだけであるため、連結決算上、一瞬は世界販売台数約750万台という世界第3位の自動車グループになったとしても、互いの長所を活かすシナジー効果は出そうにない。 そのため、仮に統合するとすれば、持株会社の下には、「国・地域別販売子会社」「研究開発子会社」「電動車製造子会社」「ハイブリッド車製造子会社」「水素燃料車製造子会社」「電動・水素燃料航空機及び同エンジン製造子会社」「電動・水素燃料船及び同エンジン製造子会社」等の機能別子会社をぶら下げて、それに適した人材を両社から選んだり希望者を募ったりして配置し、全体として両社の水素燃料や電動化等の得意分野を活かしつつ、また、これまでなかった分野は他企業との提携を目指すのが発展的経営統合になる。何故なら、NTTのケースでは、最初は固定電話が主流だったため、NTTdocomoやNTTdataなどの子会社に出向させられた人は、出世コースから外れたと思って落ち込んだが、現在ではNTTdocomoが主流になっているのと同じことが起こると思われるからである。 また、日産の事業構造計画“ターンアラウンド”は、*6-2のように、⑤全従業員の7%にあたる9,000人の削減 ⑥世界生産2割削減 ⑦販売低迷で収益が悪化した米キャントン工場(ミシシッピ州)・スマーナ工場(テネシー州)の2つの完成車工場とエンジン等製造のデカード工場(テネシー州)の生産体制縮小 ⑧従業員の早期退職募集 ⑨日産車体湘南工場(神奈川県)の生産体制縮小と従業員の日産車体九州(福岡県)への配転 であり、⑩工場統廃合を含む再建策が出ないと再生は難しく、日産側の示す内容次第で統合協議を白紙に戻す可能性(ホンダ幹部) ⑪統合の方向性については2月中旬発表 となっている。 しかし、「アメリカ国内に製造拠点を作ってもらいたい」というのは、大統領が誰であっても変わらないため、⑦の米国内の工場削減はむしろ慎重に検討すべきだ。さらに、日産の販売低迷は、女性が好む電動車や高齢者・障害者が必要とする運転支援車を、荒っぽい男性が好むいかついスタイルにしたり、サクラのように子どもっぽいかわいらさを強調しすぎて機能は低いというように、販売ターゲットを見据えたマーケティングとデザインの悪さに理由がある(この点でも中国車や韓国車の方が、よほど優れている)。そのため、改善策は、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のような現在の販売数量に合わせたコスト削減一択ではない。両社は、⑪のように、統合の方向性については2月中旬に発表するそうだが、このような大志を持った統合でなければ意味が薄いし、*6-3の三菱自動車はじめ他業種の企業も提携するに値しないと感じると思う。 *6-1:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03049/122300011/ (日経日経クロステック 2024.12.23) ホンダと日産の経営統合、最終合意は「両社の自立」が条件 ホンダと日産自動車が、経営統合に向けて動き出した。両社は2024年12月23日、経営統合に向けた基本合意書を締結し、協議を本格化させた。2025年6月の最終合意を目指す。今回の経営統合が実現すれば、世界販売台数が約750万台の世界3位の自動車グループとなる。ホンダと日産は共同で持ち株会社を設立し、両社を傘下に収める形で事業を統合する。両社のブランドは存続させる。持ち株会社の設立時期は2026年8月を予定する。持ち株会社の社長は、ホンダが指名する取締役の中から選ぶ予定である。当初はホンダが持ち株会社の経営をリードする方針だ。12月23日に東京都内で開いた会見で、ホンダ社長の三部敏宏氏は「持ち株会社をつくるだけではなく、両社が強固な事業基盤を構築して自立することが前提になる」と強調した。経営統合の検討が最終合意に達するには、日産が進める事業構造計画「ターンアラウンド」が実現されることが条件になる。同社社長兼最高経営責任者(CEO)の内田誠氏は同日の会見で、「統合の検討を始めたことで、重要な一歩を踏み出した。ターンアラウンドの成果を形にしていくことが、当社の大きな責任」との決意を示した(以下、略)。 *6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/7b7e582de051fe2a27bd240b8707f0a136978c2a (Yahoo、毎日新聞 2024/1/31) 日産の事業再生をホンダが見極めか 統合の方向性、2月中旬発表へ ホンダと日産自動車の統合協議を巡り、両社は31日、統合の方向性について2月中旬に発表すは業績不振の日産の事業再生計画の取り組み状況をみて、1月末をめどに経営統合の協議をさらに進めるかどうか判断するとしていた。日産が策定する計画をホンダ側が慎重に見極めているとみられる。両社は31日「統合準備委員会でさまざまな議論を進めている段階で、2月中旬には方向性を発表できるように進めていきたい」とするコメントを発表した。ホンダと日産は2月13日、2024年4~12月期連結決算の発表が控えている。両社は昨年12月、本格的な経営統合の協議入りを発表。今年6月に統合契約を結び、26年8月に両社が傘下に入る持ち株会社を設置する計画だ。日産は昨年11月に公表した事業再生計画で、全従業員の7%にあたる9000人を削減し、世界生産も2割減らす方針を示しており、その実現に向け、作業を急いでいる。日産によると、販売低迷で収益が悪化している北米事業を巡り、米国のキャントン工場(ミシシッピ州)とスマーナ工場(テネシー州)の二つの完成車工場と、エンジンなどを製造するデカード工場(同)で生産体制を縮小する。これに伴い従業員の早期退職を募る方針で、対象者に通知する。また、日産関係者によると、国内では日産車体湘南工場(神奈川県平塚市)で生産体制を縮小し、従業員を日産車体九州(福岡県苅田町)に配置転換するなどの検討を進めている。これまでホンダの三部敏宏社長は「(日産の事業再生は)絶対的な条件だ」と話している。日産が踏み込んだ再建策を示す必要があると考えているホンダ幹部は「工場の統廃合を含む再建策が出ないと再生は難しいのではないか。日産側の示す内容次第で統合協議を白紙に戻す可能性もある」との強い懸念を示した。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16134326.html (朝日新聞 2025年1月25日) 三菱自、統合見送りへ 上場維持し協業模索 ホンダ・日産 ホンダと日産自動車が経営統合して発足させようとしている持ち株会社に、三菱自動車は参画しない方向で調整していることが24日、わかった。日産の持ち分法適用会社で上場も維持するという、今の状態を保つ案が有力視されている。三菱グループの意向も踏まえて近く最終判断する。ホンダと日産は、今年6月に最終合意できれば、来年8月に上場を廃止し、新設する持ち株会社にぶらさがることを検討している。三菱自はこの持ち株会社の傘下には入らず、三菱自の株式の27%を持つ日産とホンダとは、プロジェクトごとに協業する道を探る。三菱自の判断の裏には、企業規模で大きく上回るホンダや日産の間で埋没することへの恐れがある。三菱自の時価総額はホンダの10分の1ほど。持ち株会社に参画する場合、統合比率は小さくなり、経営の自主性は失われる可能性が高い。関係者によると、最終判断に向けては、三菱グループの意向が鍵を握っているという。三菱自の筆頭株主は日産だが、三菱商事や三菱重工業も大株主に名を連ねる。ホンダや日産がつくる新会社に参画して上場廃止となれば、三菱グループからは事実上外れてしまいかねない。関係者は「三菱グループとして三菱自を手放すということは考えづらい」と明かす。三菱自の加藤隆雄社長は昨年12月、ホンダと日産が経営統合の協議入りを表明した記者会見に同席。今年1月末をめどに協議に合流するか判断するとしていた。また、今月10日には「我々の立ち位置は(ホンダや日産と)少し違う。必ずしも経営統合ありきとも言えない」と語っていた。同社は24日、「決まった事実はない」とコメントしている。
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2025,01,01, Wednesday
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 本年も、よろしくお願いします。 原産地は海外だが、現在は日本で普通に作られている作物は、米麦芋類をはじめ野菜・果物・蚕と数が多く、原産地が日本のものを探す方がむしろ難しいくらいだ。そのため、これからも日本産に移行できる作物は多いであろう。 (1)レモンの国産化 ちょっと前まで、レモンは輸入する作物だったが、*1-1のように、最近は国産のレモンもよく見かけるようになった。広島県尾道市瀬戸田町の生口島と高根島は、年平均気温が15・9度という温暖な気候と年間降水量の少なさが柑橘類の栽培に適していて、畑の主、由川光明さんはミカン・ネーブル・不知火・はるか・はるみ・ハッサクなどを作っているそうだ。島の生産者はレモン専業ではなく、収穫時期が異なる複数種類の柑橘類を栽培するそうだが、これができる地域は多いのではないかと思う。 消費者から見ると、農薬や保存料を使っていない国産レモンは、皮まで利用できるため貴重で、私は、国産レモンを皮ごとみじん切り機で粉砕し、それに蜂蜜を加えてレモンジャムにし、長期間、美味しく食べている。また、私は、100%レモンジュースを製氷器で氷にして冷凍することによって鮮度を長持ちさせ、1個あたりの分量が決まっていることを活かして、寿司はじめ色々な料理や菓子作りに使っている。願わくば、20cc毎の氷になった100%レモンジュースが売られていれば、使う時は必要な個数を電子レンジで溶かせば良いので、なお便利であろう。 *1-1は、「葉の商品開発の成功事例はない」としているが、オリーブの葉のように乾燥させれば、レモンの香リの香辛料ができ、オリーブの葉と同様に料理に使えそうだ。 なお、レモンはインド北部原産で柑橘類の中でも寒さに弱いそうだが、私がレモンの中に入っていた種を、(夏は暑くて冬は寒い)埼玉県で植えたところ、芽を出して元気に育っている。ただし、レモンは葉も美味しいらしく、蝶の幼虫が次々と葉を食べてしまうので、防虫剤を撒かざるを得なかった。なお、最近は、埼玉県でもミカンの実がなっているのを見るため、地球温暖化で作物の栽培適地も北上していると思う。 そのような中、*1-2は、京都でレモン栽培の試みが始まり、果実の加工を手掛ける日本果汁・宝酒造・良品計画が「京檸檬」のブランド化に挑んでいるというので期待できる。しかし、冬の冷え込みが厳しいと言われる京都でも、少し工夫すれば、グリーンレモンだけではなく黄色く色づいたレモンも収穫できると思う。 (2)パプリカとアボカドの国産化 *2-1のように、パプリカは約30年前にオランダから輸入されてから輸入品が流通の大半を占めていたが、円安・輸送費の高騰・大手資本の参入、環境制御が可能な大型温室での栽培拡大等によって、生産量が10年で倍増し、国内流通における国産比率は2割に高まり、「日本に着くまで日数を要するため、早取りする輸入品と比べて、色づいてから収穫する国産は味の乗りが良い」のだそうだ。しかし、未だ、価格差があって、契約取引が主体であるため、一般には入手しにくいのが難点だ。 それでは、メキシコからの輸入が主体だったアボカドは国産化できないのかと探してみたところ、*2-2のように、長崎市千々地区のビワ農家ら約10人が2024年11月22日に「長崎地区国産アボカド振興会」を発足し、長崎市産のアボカドとしてブランド化を進めて販売戦略を確立させるそうだ。アボカドは虫による害が少なく、農薬散布の手間が省けるほか、低いところに実がなるため、高齢の生産者も収穫がしやすく、ビワ農家の高齢化や後継者不足を踏まえて、ビワを守っていくためにもアボカドで収益を安定させ、夢のある農業にしたいとのことである。 実は、私は、スーパーで売っている長崎県産の美味しい琵琶を食べた後、その種を埼玉県で植えたところ、冬でも元気に育っている。また、アボカドもメキシコ産のものを使った後、その種を植えたら、埼玉県の場合は、夏は問題なく育ったが、冬になると枯れはしないものの成長が止まったように見える。そのため、場所を選んだり、環境制御が可能な大型温室で栽培したりすれば、どちらも問題なく作れると思う。なお、大温室の暖房は、地中熱やヒートポンプを使ったり、その他の工夫をしたりすれば比較的安価だ。 (3)カカオの国産化 チョコレートの原料となるカカオ豆の約8割は、*3-2のように、西アフリカのガーナの森から日本に届いているそうだが、ガーナの自然保護団体「エコケア・ガーナ」創設者のオウスアダイ氏によると「1万9千haのカカオ農園が金の違法採掘で破壊され」、採掘された金はアラブ首長国連邦やインドで加工されて欧米・日本・中国などにも金製品として輸出されているそうだ。 世界的な金の価格高騰が金の違法採掘の「追い風」となり、それとは対照的にカカオの生産量が落ち込んでいるとのことで、国際ココア機関(ICCO)によると、2020年度に年間104万tあった生産量が2023年度には48万トンと半減し、ニューヨーク市場価格では、2023年の年始以降、価格が上昇傾向で2024年に急騰し、わずか1年半で5倍近くまで跳ね上がり、その影響が日本のチョコレート菓子にも及んでいるのだそうだ。確かに、クリスマスケーキの価格は、2021年の3,862円から2024年には4,561円まで上昇した。 そのような中、*3-1のように、金の出ない日本の東京都小笠原村母島でカカオが栽培され、埼玉県草加市の平塚製菓が東京産カカオを使ったチョコレートを発売していたのは嬉しい。高温多湿地域で育つカカオは、これまで赤道に近いコートジボワールやガーナが主産地だったが、日本でカカオのできる場所は、沖縄や小笠原村母島だけでなく意外に多いのではないかと思う。 (4)真鯛の養殖など ![]() ![]() ![]() 2024.10.24日経新聞 みなと新聞 京都大学 (図の説明:左図のように、世界の漁獲高は1980年代半ばから一定だが、養殖業は伸びている。また、中央の図のように、日本の真鯛生産量も、天然ものの漁獲高は一定だが養殖ものが増え、現在では養殖の割合が80%になっている。そして、右図の右側が、ゲノム編集で筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させて食べられる部分の割合を増やした京大発の真鯛だ) *4は、①リアス海岸の西予市三瓶湾に真鯛の養殖場 ②体長50cm・重量1.8kg程度の真鯛が味が良く人気がある ③日本の全体漁獲量は最盛期の1980年代と比較して約3割まで減少、真鯛は天然はほぼ同水準、8割を占める養殖は約2割増加 ④大豆・白ゴマ等を混合した飼料を2020年に開発し、2022年に魚を全く含まない餌を食べた真鯛を出荷できた ⑤養殖鯛は天然鯛のコリコリ、もちもち感は乏しいが、熟成のうまみは遜色ない ⑥真鯛は人間が卵から孵化させた「人工種苗」がほぼ全てで自然の影響を受けない ⑦養殖の成否は人工種苗の優劣で決まる ⑧近大水産養殖種苗センターの谷口さんは「天然の稚魚を養殖すると1kgまで3年程度かかり、うちのは1年半」と言う ⑨近大の稚魚は、1960年代に兵庫県で漁獲された真鯛から生まれた子のうち、成長が早く形や色が美しいオスとメスを親魚として選ぶことを繰り返して14世代目 ⑩遺伝的リスク分散のため、別の海域由来の2つの系統の親魚も同様に選別を繰り返している ⑪京大発スタートアップ、リージョナルフィッシュは、筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させることで成長を早め、食べられる部分を増やすことに世界で初めて成功し、ゲノム編集した「22世紀鯛」を陸上養殖できる技術を開発して2021年に厚労省と農水省に食品としての届け出た ⑫人間は1万年以上かけて動植物の有益な突然変異を選んで繁殖を繰り返して品種改良したが、豚はその一例 ⑬ゲノム編集は自然界で起こる突然変異をスピーディーに再現 等としている。 世界の漁獲高は、上の左図のように、1980年代半ばから一定だが養殖漁業は伸び続けており、日本の真鯛生産量も、上の中央の図のように、天然の漁獲高は一定だが養殖が増えて、現在では、養殖の割合が80%にもなっている。 そして、③のように、日本の全体漁獲量は最盛期の1980年代から約3割まで減少しており、真鯛の場合は、海への排水管理や稚魚の放流などで天然ものも何とか同水準を保っているが、養殖ものが供給量全体の8割を占めているそうだ。 なお、日本のリアス式海岸は、①②のように、波が穏やかで海面養殖に向いている。私は玄界灘の天然真鯛と養殖真鯛を比較できるのだが、確かに養殖魚は必要な大きさまで成長させて出荷時の大きさを揃えることができ、かつ安価であるため、料理によっては養殖魚で十分である。しかし、⑤のように、筋肉質ではないため、新鮮な魚のコリコリ感がなく、刺身には向かない。なお、私は、“熟成”は“新鮮さ”とは対極にあり、腐る寸前の状態なので食べない。 しかし、養殖漁業は餌が必要であるため、豊富で安価な餌で養殖できなければ採算が合わない。そのため、④のように、大豆や白ゴマなどを混合した飼料を2020年に開発したわけだが、それでも餌に人間と競合する農産物を使うので、私は、ミドリムシ(https://www.euglena.jp/whatiseuglena/ 微細藻類ユーグレナ)の方が鯛にとっては栄養豊富で良いと思う。また、愛媛県であれば、餌にミカンの皮などを混ぜると、安価に柑橘系の香りがする鯛ができそうだ。 また、真鯛の良いところは、⑥のように、人間が卵から孵化させた「人工種苗」がほぼ全てであるため、稚魚を捕獲しなければならない魚種と違って自然の影響を受けず、⑦⑧のように、養殖の成否は人工種苗の優劣で決まるため、⑧⑨のように、成長が早く形や色が美しいオスとメスを親魚として選ぶことを繰り返す品種改良をすれば、必要な形質を持つ魚を作れることだ。 そして、近大は、⑩のように、遺伝的リスク分散のため別の海域由来の2つの系統の親魚も同様に選別を繰り返しているそうだが、私は瀬戸内海の鯛よりも玄界灘の鯛の方が流れの速い海で鍛えあげられているため、自然とマッスル鯛の系統になっていると思う。 なお、京大発スターチアップ企業が、⑪及び上の右図の右側のように、ゲノム編集で筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させ、成長を早めて食べられる部分を増やした「22世紀鯛(マッスル鯛)」を作ったそうだが、筋肉質になればコリコリ感も増すだろう。 人間は、⑫のように、1万年以上かけて動植物の有益な突然変異を選んで繁殖を繰り返し、品種改良をして人間にとって優良な農産物を作ってきた。ただし、⑬のように、ゲノム編集は自然界で起こる突然変異をスピーディーに再現しはするが、本当に必要な部分のみが変化して有害な物質は含まないのか否かは、多くの人がそれを食べた後でなければわからない。 (5)難民の受け入れ支援と職業紹介について 現在の日本では、少子高齢化が進んで“生産年齢人口”の割合が減ったため、労働力不足がネックになって、価格で国際競争に勝てなかったり、生産そのものができなくなったりするものが増えた。そして、これらを解決するには、女性や高齢者を“生産年齢人口”に組み込むだけでなく、外国人労働者の受け入れも重要である。 しかし、日本政府は、“生産年齢人口”が多くて困っていた昭和42年の閣議決定以来、「“単純労働者”は原則として受け入れない」との方針をとっており、現在の入管法でも“単純労働者”のためには、期間・業種・家族の帯同を限定した特定技能や技能実習しか認めていない。現在は、農林水産業・中小企業等で労働力不足がネックになっていることを考慮すれば、これらは早急に改められるべきである(https://www.moj.go.jp/isa/content/001407635.pdf、https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999336_po_20080108.pdf?contentNo=8 参照)。 そのような状況であるから、日本政府は、難民の受け入れにも著しく消極的だが、*5-1・*5-2のように、母国で内戦が繰り返されたり、地球温暖化で住む場所をなくしたり、母国では人権侵害を受けたりする難民が多いのだが、これらの外国人が日本人より犯罪率が高いわけでも努力しないわけでもなく、むしろ新しい財やサービスを作るのに役立つのである。 そのため、気候変動・戦争・人権侵害等を理由とした移住ビザの発効を行なって移住を支援し、認定NPO法人「難民支援協会」だけではなく、日本政府や地方自治体が渡航費・日本語学校の学費・教育などの支援や職業紹介を行なえば、日本における労働力不足と難民の福利の両方が解決される。さらに、人間は、困っている時に助けてくれた人の恩は忘れないものである。 ・・参考資料・・ <輸入作物の国産化> *1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS530T99S53UTFL00VM.html (朝日新聞 2024年5月4日) 生産量は全国の4分の1 レモンの島にレモン専業農家がいない不思議 最近は国産のレモンを店頭でよく見かけます。爽やかな酸味で夏のイメージが強いものの、収穫期は秋から春にかけて。日本有数の産地を訪ねると、収穫のラストスパートを迎えていました。瀬戸内海に浮かぶ生口島(いくちじま)と高根島という二つの島からなる広島県尾道市瀬戸田町。年間降水量が少なく、年平均気温は15・9度という温暖な気候が、かんきつ類の栽培に適している。生口島の山あいにあるレモン畑で、畑の主、由川光明さん(69)が待っていた。緑の葉の間から、実ったレモンが見え隠れする。「木の内側に入ると、もっとたくさん見えます」。由川さんの言葉に誘われ、腰をかがめて幹に近づいた。ちょうど傘の中に入ったかのように、広がった枝に囲まれる。枝からはレモンがたわわにぶら下がる。木の外側は風があたって皮が傷つきやすい。なるべく葉の内側に実るよう、剪定(せんてい)などで調整すると由川さん。「葉もレモンの香りがしますよ」とちぎって渡してくれた。青々しい刺激が鼻から頭へ届き、スッキリする。この香りを生かした商品開発をいくつもの企業が試みたが、まだ成功事例はないという。収穫は10月から4月、大きくなった順番にもいでいく。「他のかんきつもあるから、収穫期が長いレモンはつい後回しにしちゃうこともあるけれど」。レモンのほかに、由川さんは、ミカン、ネーブル、不知火(しらぬい)、はるか、はるみ、ハッサクなどを手がけている。「色々つくる中で、レモンは柱の一つ」と話す。島の生産者はレモン専業ではなく、収穫時期が異なる複数種類のかんきつを栽培する。JAひろしまによると、瀬戸田町の収穫量は年間2千トン前後。およそレモン2千万個で、全国の約4分の1を占める。中でも、由川さんら137戸の農家で構成する「せとだエコレモングループ」は、町のレモン畑の約2割にあたる32ヘクタールで特別栽培のレモンをつくっている。レモンは他の果実と違い、「もう1個食べて」と需要拡大を呼びかけるのはなじまない。ならば品質を国産の中でも別格に高めようと考えた。化学合成農薬と化学肥料を通常の栽培の半分に減らして育てたのがエコレモン。「皮まで食べられるレモン」をキャッチコピーに、2021年度は約600トンを販売した。エコレモンは、使用する農薬を抑えている分、病害虫に襲われやすく、外見の悪さなどから加工品の原料に回る割合が通常より高い。同JAは、企業と協力して、レモンケーキなどの菓子や飲料、調味料などを開発し、販売。収穫したレモンはすべて無駄なく利用しているという。レモンは5月中旬に花が咲く。夏を越えて、10月から早摘みの収穫が始まる。まだ皮が青く、グリーンレモンと呼ばれる。爽やかな香りとすっきりとした酸味が楽しめる。そのまま木に実らせておくと、黄色に色づき、香りが落ち着いて、果汁は増える。黄色いレモンは1月から4月までの収穫。熟すと酸味はまろやかになり甘さも出てくる。収穫が途切れる5月からは鮮度保持フィルムに包んで冷蔵していた黄色のレモン、6月中旬からはハウス栽培ものを出荷。年間を通じ瀬戸田のレモンを供給している。JAひろしまの理事でエコレモングループの会長、宮本悟郎さん(61)は「地元の関心も高まり、若者も帰ってきて、島に動きがあります」と話す。一昨年からは、広島特産のカキの殻を原料にした肥料を使い始めた。「さらに一歩進め、環境循環型農業を目指します」 *レモン 原産はインド北部と言われる。かんきつ類の中でも寒さに弱い。日本に流通する大半が輸入品で国産品は輸入品の1割強。広島県産が国産のおよそ半数を占める。ほかに愛媛県や和歌山県などが主な産地。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO84678320Y4A101C2LKB000/ (日経新聞 2024年11月9日) 京都レモン、名産品に育て 農家24軒が国産不足で栽培、宝酒造・無印が商品開発 京都でレモン栽培の試みが始まった。6年前に植えた苗が育ち、収穫が本格化している。旗振り役となるのが果実の加工を手掛ける日本果汁(京都市)だ。宝酒造や良品計画とともに京都産レモンを使った商品を生み出し「京檸檬(れもん)」のブランド化に挑んでいる。京野菜の九条ネギ畑の隣に青々と茂ったレモン畑が広がる。村田農園(京都府久御山町)では10月下旬に収穫イベントが開かれた。夏の日差しでレモンの表面が焼けてしまった部分もあったが豊作だという。レモンは苗木から本格的に収穫できるまで5年ほどかかる。現在は京都府南部を中心に24軒の農家が栽培しており、2024年の収穫量は23年比で6割増の5トン超となる見込みだ。インドが原産とされるレモンは、温暖な気候で夏に乾燥する地域が栽培に適しており、年間の気温差が激しい京都府ではほとんど栽培されてこなかった。レモンが熟すのは12月~3月だが、冬の冷え込みが厳しい京都では実が凍るのを防ぐため黄色く色づく前のグリーンレモンを収穫する。グリーンレモンは酸味よりも苦みが際立つが、すっきりとした味わいが特徴だ。このため加工に適している。宝酒造は23年11月から京都産レモンを使った地域限定チューハイ「宝CRAFT京檸檬」を販売している。「甘すぎず食事に合わせやすいチューハイに仕上がった」(広報担当者)。無印良品では一部店舗で京檸檬を使っためんつゆと肉のたれを販売。さっぱりとした味わいが好評だったという。京都でレモン栽培が広がる背景には、国産レモンの供給不足がある。広島県や愛媛県などが主な産地で19~21年の栽培面積は2割ほど増えたが、収穫量はむしろ2割近く減った。気候変動や農家の高齢化などが主な要因だ。京檸檬を主導する日本果汁の河野聡社長は「国産レモンを思うように仕入れることができないこともあった」と打ち明ける。かんきつ類に詳しい京都大学の北島宣名誉教授は「地域を見極めれば京都でレモンを育てることも可能」と話す。府内の各地で栽培した結果、冬の平均最低気温が数度でも暖かいと、特定の地域ならレモンの木が冬を越せることがわかった。村田農園では成木に育った現在、冬の防寒対策はほとんど必要ないという。冷え込みにくい地域を探して成功例を重ねている。18年に立ち上がった「京檸檬プロジェクト協議会」は宝酒造や伊藤園など飲料・食品メーカーが参画する。農家が育てたレモンは日本果汁が買い取り、果汁などに加工してメーカーに納めている。農家が販路を心配せず、栽培に集中できる仕組み作りを心がけている。今後、京檸檬の生産者を増やすために北島名誉教授は「手をかけすぎない栽培方法の確立が欠かせない」と語る。主要産地と異なり、京都でレモンを栽培する農家は兼業農家が多い。幼木期の防寒やせん定などの手間を減らすことが重要だ。村田農園は現在、レモン畑を第3圃場まで増やして300~400本の木を栽培している。日本果汁は京都府内で30トン以上の収穫量を目指す。河野社長は「いずれは宇治茶や京野菜と並ぶ京檸檬ブランドを築きたい」と意気込んでいる。 *2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/280445 (日本農業新聞 2025年1月5日) [シェア奪還]国産パプリカ10年で倍増 大手参入 円安追い風、味で優位 輸入品が流通の大半を占めていたパプリカで、国産が存在感を高めている。生産量は10年で倍増し、国内に流通する国産の比率は2割に高まった。輸入品にとって逆風となる円安の中、大手資本が相次ぎ参入し、環境制御が可能な大型温室での栽培が拡大。安定調達したい実需者のニーズを捉え、シェアを着々と伸ばしている。パプリカは約30年前にオランダから輸入されて以来、食卓に定着した。ただ、近年は円安や輸送費の高騰が進行し、財務省の貿易統計によると、2023年の輸入量は2万5027トンと5年で4割減っている。勢いがあるのが国産だ。農水省によると、22年のパプリカ出荷量は7130トンと10年で9割増えた。その結果、10年前に1割だった国産比率は2割まで高まった。輸入への逆風をビジネスチャンスと見て、大手資本による生産への参入が相次いでいる。 ●大型温室整備、高収量法人も 24年5月には富永商事ホールディングス(兵庫県南あわじ市)が、国産の先駆けとして知られる水戸市の農業法人Tedyから企業譲渡を受けた。同法人は22年、高度な環境制御システムを備えた1・8ヘクタールの大型温室を整備。ビニールだと収量は10アール15トンが限界だったが、ガラス温室で太陽光を取り込めるようになり、23年産は同20トン以上を確保した。林俊秀会長は「日本に着くまで日数を要し早取りする輸入品と比べて、色づいてから収穫する国産は味の乗りが良い」と優位性を語る。11月後半から出荷を始め、年末の需要期にピークが来るよう照準を定める。国産の出回りが増えたことで、実需には国産の調達を強化する動きも出ている。総菜店「RF1」などを展開するロック・フィールド(神戸市)は、10年前に重量ベースで8割だった生鮮野菜の国産比率を、前期(23年5月~24年4月)には92・5%まで高めた。近年強化するパプリカは、魚介とあえたマリネやサラダなど、幅広いメニューに使う。調達部は「栽培技術の向上や生産者の増加で、年間を通じて輸入品と併用できるようになった。価格差も縮まってきている」と、調達環境の変化を語る。仕入れは契約取引が主体。自社で扱う総菜用に適しており生産者も取り組みやすい規格を両者で協議し、設定する。24年には国産比率を5割まで高めた。 *2-2:https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=0263d5205af4460f8d4d0d301235f3c1 (長崎新聞 2024/11/23) 『長崎産アボカド』ブランド化へ 千々地区ビワ農家ら 振興会設立 新たな収入源としてアボカドを栽培する長崎市千々地区のビワ農家ら約10人が22日、「長崎地区国産アボカド振興会」を発足した。長崎市産のアボカドとしてブランド化を進め、販売戦略を確立させる。安定した収量の確保が見込まれる来冬の初出荷を目指す。市農林振興課によると、アボカドは虫による害が少なく農薬散布の手間が省けるほか、低いところに実がなるため、高齢の生産者も収穫がしやすいという。アボカドの栽培は、同地区のビワ農家で長崎アボカド普及協議会副会長の森常幸さん(78)が収益安定のため約6年前に始めた。周辺のビワ農家にも耐寒性が強いとされる品種「ベーコン」「フェルテ」の種を配り、現在約20人が栽培している。この日は森さんの果樹園に約10軒のビワ農家が集まった。来冬の初出荷に向け、栽培品種の選定や販売戦略などを協議した。森さんはビワ農家の高齢化や後継者不足を踏まえ「ビワだけでは厳しくなっている。ビワを守っていくためにもアボカドで収益を安定させ、夢のある農業にしたい」と呼びかけた。森さんが種から栽培を始めて約6年。この冬は一定の収量を確保できる見通しだ。収穫したアボカドは来年1月に鈴木史朗市長に贈呈しPRするほか、同17日に市役所食堂で提供される。 *3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51355770U9A021C1L83000/ (日経新聞 2019年10月24日) 東京産カカオのチョコ、小笠原で栽培 平塚製菓 チョコレートなどのOEM(相手先ブランドによる生産)生産を手がける平塚製菓(埼玉県草加市)は24日、東京都小笠原村の母島で栽培したカカオを使ったチョコレートを発売した。2003年から栽培に取り組み、商品化した。国産カカオは沖縄で作られている例はあるものの、東京産の商品化は初めてとなる。「TOKYO CACAO」という商品名で2万個を限定販売する。30日まで東京・渋谷の商業施設「渋谷ヒカリエ」内で販売するほか、11月1日からは同社のオンラインストアで扱う。カカオ分70%の約6センチ×6センチの板状のチョコレートが2枚入って3000円(税別)で、かんきつ類のような酸味と香りが特徴だ。高温多湿の地域で育つカカオは、赤道に近いコートジボワールやガーナが主産地となっている。同社は亜熱帯に属する母島で質の良いカカオを作るため、土壌の改良などに取り組んできた。現在は年間で約1トンのカカオ豆を収穫できるといい、「今後は2トン収穫できるように木を大きくしたい」(平塚正幸社長)としている。 *3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16120047.html (朝日新聞 2025年1月6日) ガーナのカカオ 違法な金採掘、急騰するチョコ 年末年始につい食べ過ぎてしまうスイーツといえば、チョコレートだろう。クリスマスケーキはもちろん、冬に食べるチョコアイスは格別だ。その原料となるカカオ豆の約8割が、西アフリカのガーナの森から日本に届いている。分けいつても分けいつてもカカオ山――。俳人の種田山頭火がガーナを訪れていたら、こう詠んでいたかもしれない。2024年12月、ガーナ東部州のカカオ農園には、そう思わせるような光景が広がっていた。「この山はカカオの木で覆われている」と話すのは、地元のカカオ生産組合のテイノル・フランシス会長(38)。幹にはこぶし大の実がいくつもぶらさがっていた。「でも、多くの山はまるで変わってしまった」。フランシスさんは、そう明かした。 * 異変はすぐに判明した。近くの山でトラクターが地響きをあげている。地面はでこぼこに固まった赤土で覆われ、ため池は濁った緑色だ。カカオ農家のアモア・ジョージさん(52)は「以前はカカオの森だったのに」と悔しそうに話す。親族らで営むカカオ農園は、サッカーコート約4面分の広さだった。しかし、4年前に違法な金の採掘業者に迫られ、約2・5面分を1万9千セディ(約19万円)で売却。すぐに採掘が始まった。違法採掘は、不況で職に就けない若者らの働き口になっていた。地面が数十メートル掘り下げられ、あちこちで地下水が流れ出した。金の精製で使う水銀や重金属がこの水に溶け出した。残ったカカオの農園の土壌が汚染され、生育に影響が出始めた。異常気象も重なった。カカオには週に2度ほどの雨が必要だが、2週間ずっと雨が降らないこともあった。弱った木からさらに病気が広がり、面積あたりの収穫量は4年前の6分の1まで落ち込んだ。今年に入って採掘が終わり、土地は返還された。だが、緑の森は赤土の山と化していた。いま、採掘場に土を埋め戻している。ジョージさんは「再びカカオを植えても、育つかわからない。収入がほとんどなく生きるすべがない」と嘆く。 * ガーナの自然保護団体「エコケア・ガーナ」創設者のオベド・オウスアダイ氏は「1万9千ヘクタールのカカオ農園が、違法採掘で破壊された」と指摘。採掘された金は、アラブ首長国連邦やインドで加工され、欧米や日本、中国などにも金製品として輸出されているとみられる、と説明した。世界的な金の価格高騰が違法採掘の「追い風」にもなっているという。対照的に、カカオの生産は落ち込んでいる。国際ココア機関(ICCO)によると、20年度に年間104万トンあった生産量は、23年度に48万トンと半減したとみられる。ニューヨークの市場価格では、23年の年始以降、価格が上昇傾向となり、24年になると急騰。わずか1年半で5倍近くまで跳ね上がり、「カカオショック」と呼ばれた。この影響は、日本のチョコレート菓子にも及んでいる。明治は24年、「きのこの山」や「たけのこの里」などの価格を2度にわたり値上げ。ロッテも、「コアラのマーチ」や「パイの実」などを2度値上げした。帝国データバンクによると、クリスマスケーキの平均価格は21年の3862円から、24年には4561円まで上昇。主要な原材料が軒並み値上がりする中でも、チョコレートの値上げ幅が最も大きいという。ガーナでの「カカオよりも金」の流れは止まらず、元に戻すのが困難な段階まできている。新たな懸念も浮上している。土壌汚染のカカオ豆への影響だ。カカオにはもともと、土壌由来などの重金属が少量含まれる。農場の汚染が進めば、さらに重金属の含有量が増える恐れがあると、専門家らはいう。オウスアダイ氏は「日本の消費者にとっても、ひとごとではない。(生産者に適正な対価が支払われる)フェアトレード商品を選ぶなど消費行動を変えることで、生産地によい影響を与えられるということも知ってほしい」と呼びかける。 ■金鉱山、数百万人が従事 「カカオ農園を壊す金鉱山で働く人は悪人か」と問われると、返答に困る。数百万人が従事する産業となっており、金の採掘なしに彼らの暮らしは成り立たない。白昼堂々と採掘していたのは「ふつうの若者」たちだ。採掘を取り締まれば数百万人の食いぶちがなくなり、治安悪化にもつながりかねない。生産地で何が起きているのか、自覚したいと思う。 ■農家には「ぜいたく品」 カカオの実は、果肉つきの豆を約1週間発酵させ、1週間乾燥させると、「チョコレート」色の豆が顔を出す。焙煎(ばいせん)し粉末にしてミルクや砂糖を加えれば、チョコレートができあがる。ガーナでも、バレンタイン商戦では多くのチョコが出回るというが、地方ではあまり消費されない。製品は原料の10倍以上の価格で、農家にとっては「ぜいたく品」だ。 <養殖漁業> *4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD062EG0W4A201C2000000/ (日経新聞 2025年1月5日) 真鯛を科学する 養殖やゲノム編集で持続可能な魚へ進化 花は桜木、魚は鯛(たい)――。古来祝いの席に欠かせないのが、色かたちが美しい真鯛だ。新たな年を迎え、さっそく舌鼓を打った人も多いことだろう。そんな和食文化を代表する縁起物が伝統を守りながらも、日々進化していることをご存じだろうか。技術を駆使し、世界へ羽ばたく「百魚の王」を追った。 ●養殖で目指す「大国」 リアス海岸が美しい愛媛県西予市三瓶(みかめ)湾。早朝、漁船に乗り込むと10分ほどで目的地へと到着した。ここは真鯛(まだい)の養殖場だ。10メートル四方の生け簀(す)には、ひとつにつき約5千尾の真鯛がいるという。深さ約10メートルまで沈めた網を少しずつ引き上げると、にわかに海面が魚影で赤く染まり、水しぶきが跳ね上がる。生きのいい鯛をたも網ですくい、船上のカゴに移していく。いずれも体長50センチ、重量1.8キロ程度。真鯛は寿命が15年以上と長く、10キロ以上に成長するのもあるが、最も味が良く人気があるのはこのサイズだという。カゴには6尾入るが、お互い傷つかないように1尾ずつたて板で仕切られていた。この日は70箱以上が岸で待ち構えているトラックに積まれ、午前9時すぎには市場に運ばれた。スズキ目タイ科マダイ属の真鯛だが、日本近海にはチダイ属、キダイ属、クロダイ属などが生息する。そのなかで見た目が赤く、姿が美しい真鯛はおめでたい魚の象徴だ。日本の漁獲量(海面)全体は最盛期だった1980年代から約3割の水準まで減少した。しかし、真鯛はここ10年で見ると天然ものはほぼ同水準、8割を占める養殖ものは約2割増えている。「真鯛はサステナブルな水産資源になり得ます。モデルはノルウェーです」。水揚げ作業を見せてくれた赤坂水産(愛媛県西予市)の赤坂竜太郎さんはこう言って笑った。ノルウェーは養殖サーモン生産量で日本のすべての海面養殖量を上回る「大国」。目指す先がはるか彼方(かなた)にあるのは分かっているが、真鯛こそが可能性を秘めた魚だとの確信がある。 ●餌づくりから改革 まず着手したのが餌だった。養殖真鯛は1キロ太るのに餌としてカタクチイワシ4キロが必要という。水産資源の保護が叫ばれるなか、これでは持続可能とはいえない。そこで赤坂さんは真鯛の雑食性に着目。餌に魚を使わず、大豆や白ゴマなどを混合した飼料を2020年に開発した。配合など試行錯誤しながら22年に魚をまったく含まない餌を食べた真鯛を出荷できるまでになった。養殖ではマグロやブリ、ヒラメなども人気だが、こうはいかない。いずれも肉食の傾向が強く、魚なしの餌では成長しづらいのだ。とはいえ、おいしくなければ消費者には受け入れられない。養殖鯛は天然鯛のようなコリコリ、もちもち感は乏しいが、熟成のうまみは遜色ない。「世界で食べられているノルウェーサーモンも柔らかいでしょう?」。赤坂さんは養殖場の近くに加工施設も完備し、全国どこでも販売先が望む熟成度で配送可能という。 ●人工種苗が支える 日本が「真鯛大国」になり得る理由はもうひとつある。マグロやブリ、カンパチなどの場合、稚魚は漁師から調達する「天然種苗」が大半だ。一方、真鯛はサーモンと同様に人間が卵から孵化(ふか)させた「人工種苗」がほぼすべてを占める。つまり自然の影響を受けにくいのだ。健康で美しく、成長が早いうえにおいしい成魚に育つ稚魚をいかに生み出すか――。養殖の成否は人工種苗の優劣で半ば決まると言っても過言ではない。しかし、養殖業者がそれを手掛けているわけではない。 「天然の稚魚を養殖すると1キロの大きさに成長するまで3年程度かかりますが、うちのは1年半です」。近畿大学水産養殖種苗センター(和歌山県白浜町)で事業副本部長を務める谷口直樹さんはこう言い切る。道のりは長かった。近大で生まれる稚魚は1960年代に兵庫県で漁獲された真鯛に遡る。それらから生まれた子どもたちのうち、成長が早く形や色が美しいオスとメスを親魚として選ぶことを世代ごとに繰り返した。現在はこの系統の親魚は14世代目だという。遺伝的なリスクを分散するため、別の海域を由来とする2つの系統の親魚も同じように選別を繰り返している。2025年1月に産卵させる予定の親魚を見せてもらった。水槽内で泳ぐ35尾はいわば精鋭中の精鋭だ。オスはすべて兵庫由来の系統でメスは別系統という。真鯛の産卵は白浜海域では通常3〜4月だが、養殖業者のニーズに合わせて、明るさや水温を調整することで産卵時期を調整することができるようになった。産卵すると40〜50時間後に孵化し、それから40〜50日で3センチほどのピンク色の稚魚に成長する。この段階で海の生け簀網に移す「沖だし」を迎え、養殖業者に引き渡すまで50〜60日程度を過ごす。歩留まりも向上し、出荷できるのはこのうち70%程度。その後の養殖業者の段階では9割以上が成魚に育つという。 ●ゲノム編集が「世界を救う」 海を必要としない真鯛も登場した。京都大発のスタートアップ企業、リージョナルフィッシュ(京都市)はゲノム編集した「22世紀鯛」を陸上養殖できる技術を開発した。筋肉の発達を抑制する遺伝子を欠失させることで成長を早め、食べられる部分を増やすことに世界で初めて成功。21年に厚生労働省と農林水産省に食品としての届け出を完了した。人間は1万年以上をかけて自然界で起こる動植物の有益な突然変異を選び、繁殖を繰り返して品種改良してきた。家畜化したイノシシが豚になったのはその一例だ。社長の梅川忠典さんは「ゲノム編集は自然界で起きる突然変異をスピーディーに再現するもの」と意義を強調する。商業ベースに乗せるには量産化が不可欠だが、大手企業と組んで施設を建設する計画が進行中という。ゲノム編集した食物に抵抗感のある消費者がまだ多いのも確か。ただ22世紀鯛は商品化にあたり、「ゲノム編集技術を使用」とあえて強調した。「ゲノム編集は世界を救う技術。この魚を生み出したことを誇りに思っています。これからも消費者の理解を得るとともに、科学で社会に貢献するという信念に変わりありません」。梅川さんはこう言い切った。 ●万葉集にも鯛の料理法 日本での真鯛(まだい)の歴史は縄文時代に遡る。各地の貝塚でその骨が出土され、青森県の三内丸山遺跡では、つながったままの真鯛の背骨も見つかった。遺跡には煮たり、焼いたりした痕跡があり、どのように食べていたのかと想像が膨らむ。奈良時代に成立したとされる日本最古の和歌集、万葉集には既に「鯛」の表記と料理法が登場する。「醬酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)きかてて 鯛願ふ 我れにな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)」。現代訳すれば、醬(ひしお)と酢にすりつぶした蒜(のびる)を混ぜて鯛を食べたいのに、お吸い物など私に見せないで――という内容だ。古代から鯛が人気の食べ物だったことがうかがえる。高貴な食材でもあった。平安時代中期の法典「延喜式」には、真鯛が各地から朝廷に献上されていたことが記載されている。ほとんどが干物や塩漬けだが、和泉(大阪)からは鮮魚も届けられていたようだ。 ●平安時代から伝わる「式包丁」 当時をしのばせる儀式が残っている。藤原道長の時代から伝わるという「式包丁」だ。宮中で節会など重要な行事で行われていたもので、大きな俎(まな)板にのせた真鯛や鯉(こい)など魚や雉(きじ)や鶴といった鳥を直接手で触れることなしに包丁刀と俎箸(まなはし)で切り分け、めでたい形を表現する。殺生した命を食材に移行するための儀式だ。滋賀県甲賀市のミホ・ミュージアムに烏帽子(えぼし)と狩衣(かりぎぬ)姿で登場したのは、京都の和食店、萬亀楼(まんかめろう)の小西将清さん。生間(いかま)流の式包丁を一子相伝で受け継ぐ、30代目家元にあたる。この日はイベントで式包丁を披露した。かつて朝廷で最も高貴な魚とされたのは鯉だった。真鯛が「百魚の王」ともてはやされるようになったのは江戸時代以降。「めでたい」と語呂を意識するようになったのもこのころだ。1785年には「鯛百珍料理秘密箱」という鯛を使った100に及ぶレシピを紹介する本も登場した。 ●締め方でおいしさ長持ち 鯛をいかにおいしく食べるか。そんな欲求は現代も変わらない。2024年10月、北海道函館市で開かれた世界料理学会で画期的な真鯛の締め方が報告され、話題となった。発表したのは兵庫県明石市で天然真鯛などの仲卸業を経営する鶴谷真宜(まさのり)さん。セリで落とされた真鯛の締め方は通常、①脳に傷を入れることで動きを止める「脳殺」、②血を抜くことで腐敗や臭みを抑える「放血」、③脊髄を破壊し死後硬直を遅らせる「神経破壊」――からなる。しかし、鶴谷さんは、脳殺せずに神経破壊だけして動けなくなった真鯛が水の中でエラ呼吸しているのを見つけた。これをもとに16年に研究を開始。神経破壊によるショックで排せつが促されるとともに、動くことができないので体内にあるおいしさのもととなる成分(アデノシン三リン酸=ATP)の消費が抑えられているとの仮説を立てた。「数万尾ほど試して、現在の締め方にたどり着きました。個体や顧客の好みによって締め方は少しずつ変えます」と鶴谷さん。18年に東京の高級日本料理店「龍吟」に認められたのをきっかけに、その鯛は全国にファンが広がっている。地元のすし屋「明石菊水」もそんな店のひとつ。代表の楠大司さんは「最大の特徴はおいしく食べられる状態が長持ちしたことです」という。以前は朝に届いた真鯛はその日のうちに提供していたが、いまは翌日でもおいしく食べられる。翌日になると少し熟成して柔らかくなる一方で、コクは増す。お客の好みによって使い分けることも、同時に食べ比べることもできるようになった。鶴谷さんは「どうしておいしさが長持ちするのかなど自分なりの考えはありますが、科学的に実証できていません。大学など研究機関の協力を得て解明したい」とおいしさへの追求に貪欲だ。 ●「百魚の王」、世界へ 漁師、仲買人、料理人らに共通するのは、おいしい真鯛を多くの人に食べてもらいたいという思いだ。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界ではたんぱく質源としての魚介類の需要は拡大の一途をたどり、1人当たりの消費量は過去半世紀で2倍に膨らんだ。ところが、日本からの養殖真鯛の輸出は増加傾向とはいえ、23年で66億円程度。輸出先の大半は韓国だ。その他の国々で鯛を食べる習慣がないからだ。「とにかくおいしさを知ってもらうことが重要」と愛媛の赤坂さんは自社の養殖真鯛を輸出するだけでなく、米国に鯛をメインにした和食レストランを開く準備を始めた。明石の鶴谷さんも24年10月から天然真鯛を冷蔵でシンガポール、タイ、マレーシアの和食料理店に販売し始めた。海外への普及に欠かせないのは料理人だ。世界に和食ブームが定着して久しいが、鯛のさばき方や調理法を本格的に学んだ人はそう多くない。そんななか京都市は京料理を世界へ普及させることを目的に外国人に特例措置を導入した。老舗料亭、菊乃井本店で働くベトナム出身のファム・ドゥック・ユイさん(25)はそのひとり。蒸しものと煮ものが担当のユイさんは明石産の真鯛をさばき、あら炊きを調理していた。味つけは先輩が担当するが「味見もできますし、何でも教えてくれます」。総料理長の辻昌仁さんは「日本料理を世界に広げるのが菊乃井の考え。隠すものはなにもありません」。この日はミャンマーやハンガリーからなど、ほかの制度で滞在する外国人6人も調理場で働いていた。ユイさんは言う。「夢は30代で故郷に近いホーチミンに本格的な日本料理店を開くことです」。本場仕込みの鯛料理が世界中で食べられる日は案外近いのかもしれない。 <難民と外国人労働者> *5-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSDT2JCPSDTUHMC00BM.html (朝日新聞 2024年12月26日) 日本めざす難民学生、外国人が必要な日本 つなぐNPO支える米国人 日本に来て6年になる栃木県内の大学4年生、マダネ(24)が13歳の時のことだ。故郷、シリアのホムスは内戦の激戦地帯。マダネの家があった地区は安全とされていたが、ある晩、爆撃が始まった。戦闘機が飛び交い、ミサイル音が耳をつんざく。隣の家が爆撃を受け、家族7人で身を寄せ合った。「死ぬのは仕方ない。でも、もし3歳下の弟と2人だけ残されたら、どうやって生きていこう」。家族は無事だったが、直後に全員でレバノンに出国。その後イエメン、サウジアラビアと移る。マダネは「日本に行きたい」と思い始める。日本のアニメやゲームが好きだった。「日本は安全で平和な国。明日生き延びられるかわからない生活はもう嫌だ」。ネットで「日本」「難民」「行きたい」と検索すると、日本の認定NPO法人「難民支援協会」が実施する、シリア人学生が対象の日本語教育プログラムを見つけた。2年間の日本語学校の学費と渡航費を出してくれるという。選考はトルコで行われていたため、単身トルコに移り、応募。合格した。千葉・松戸にある語学学校、日本国際工科専門学校に通い、生活費はパン工場のバイトで稼いだ。作業はきつかった。でも、日本語が上達すると製品管理の仕事もまかされ、やりがいも出てきた。奨学金で大学の電子情報工学科に進み、IT企業に就職も決まった。「日本はがんばれば認めてくれる国。困難を抱える人に、日本で人生が変えられると希望を与えたい」。教育プログラムは、日本国際工科専門学校が2015年、難民支援協会に「シリアの若者を学生として受け入れられないか」と相談して始まった。アフガニスタンやウクライナに広がり、150人以上受け入れた。21年からはNPOの「パスウェイズ・ジャパン(PJ)」が引き継いだ。学生のコミュニティーを作り、交流や相談の機会を多く設け支援する。 ●日本が変われば影響は大きい」 PJの代表理事、折居徳正(56)は事業の意義を「優秀で日本に来たいと願う学生たちがいる。一方で、日本も外国人の留学生や働き手が必要。その橋渡し」と語る。プログラムの大口寄付者の1人が、米国人のエド・シャピロ(59)だ。シャピロはボストンで27年間、金融業界で活躍。02年に社会に恩返しをしたいと家族で財団を設立した。米国にはこういう「ファミリー財団」が4万以上あるという。15年、米国政府がシリア難民の受け入れ拡大を表明。16年にボストンにも難民の家族がやってきた。シャピロは財団の運営に専念し、難民支援に力を入れるようになる。22年にウクライナ戦争が起こると、米ワシントン・ポスト紙に、日本の避難民受け入れについて記事が載った。日本の難民認定率が非常に低いこと、「ウクライナ避難民の受け入れが日本の難民政策の抜本的改善につながることを期待する」という難民支援協会の代表理事、石川えり(48)のコメントが紹介された。記事を読んで日本の難民政策に関心を持ったシャピロは石川に連絡をとり、PJの事業を知って寄付を決めた。なぜ米国人のシャピロが日本に来る難民の支援にお金を出すのか。「日本は経済大国。そこが変われば世界への影響は大きい。しかも、日本は少子化に悩んでおり、外国人の力を必要としている。社会を開く良い機会だと思う」。シャピロはとりあえず26年までの寄付を決めている。「いずれは、プログラムの卒業生が寄付をして回る仕組みになるといい」と思い描く。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250107&ng=DGKKZO85884200X00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.7) 〈逆転の世界〉オセアニアから見ると 気候難民、日米受け入れを 私の母国であるオーストラリアは太平洋の島しょ国に対する最大の支援国だ。2023年にはツバルと「ファレピリ連合条約」を結び、世界で初めて気候変動を理由とした移住ビザの発行を決めた。国内ではあまり話題になっていない。豪州の国民は高騰する生活費への対応など政府のインフレ対策に対する関心が最も高い。気候変動は最重要課題ではない。米航空宇宙局(NASA)による人工衛星の観測データを使った分析では、海面上昇の速度は約30年前と比べて2倍に高まった。ソロモン諸島ではすでにいくつかのサンゴ礁の島が海に沈んだ。被害を受ける島しょ国は、化石燃料を大量に消費する先進国に対して温暖化ガスの排出削減を求めてきた。先進国が十分に責任を果たしているかといえば、答えは「ノー」だ。豪州を含む先進国の議論にはスピード感がない。「気候難民」はすでに存在するし、今後も生まれる。彼らが移住を決断しなければいけない時に、先進国は選択肢を少しでも多く提供することが重要になる。受け入れ先が豪州だけでは不十分だ。パラオやマーシャル諸島とつながりが深い米国や日本も役割を果たせるだろう。太平洋の島しょ国では、インフラ整備などを積極支援する中国の存在感が高まっている。24年に取材で訪れたトンガでは街のあちらこちらの建物に「(建設は)中国の支援だ」と示す看板がかけられていた。海洋進出を狙う中国も念頭に、豪州は島しょ国への支援を続けるだろう。
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2024,11,25, Monday
(1)COP29について
![]() ![]() ![]() 2024.11.24日経新聞 2024.11.20沖縄タイムス 2024.11.18日経新聞 (図の説明:左図が、COP29で合意されたポイントで、中央の図が、COP29で各国が公表した2035年の温室効果ガス削減目標だ。また、右図は、脱石炭の廃止目標だが、日本は国民の金を拠出すること以外は何の目標も示せず、気候変動について真剣に考えていないことがわかる) 1)米国の「パリ協定」からの離脱可能性と日本の対応 ![]() ![]() ![]() 2024.11.7毎日新聞 資源エネルギー庁 (図の説明:左図は、世界の平均気温の上昇で、2024年は1.5℃を超えそうだ。中央の図は、米国が2006年以降に開発を進めたシェール層のシェールガス・シェールオイルの説明で、右図のように、シェールガスの生産開始によって天然ガスの値段は著しく下がったが、変動費は再エネより高く、燃焼時にCO₂を出すことも間違いない) *1-1のように、地球温暖化によって2024年の世界平均気温は過去最高で、記録的な猛暑や干ばつ・巨大台風・豪雨・洪水等の災害が世界で多発している。そして、その被害は米国の経済・企業・住民にも影響を及ぼしているが、米国のトランプ次期大統領は、環境規制に否定的なリー・ゼルディン氏を米環境保護局(EPA)長官に起用して、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱しそうである。 確かに、米国は2006年以降にシェール層の開発を進め、シェールガスやシェールオイルの生産が本格化するに伴って、天然ガス・原油の輸入量が減少し、価格も下がる「シェール革命」を起こしたため、簡単に脱化石燃料とは行かないだろうが、いつまでも化石燃料に固執していると、むしろ米国の産業や技術は世界に遅れるというパラドックスを抱えている(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/1-1-1.html 参照)。 このような中、アゼルバイジャンで開かれたCOP29の焦点は、*1-2-1・*1-2-2のように、現状では年1000億ドル(約15兆円)の先進国から途上国への金融支援を、先進国側が2035年までに少なくとも年3千億ドル(約45~46 兆円)出すことで合意し、それに加えて官民あわせて1.3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決め、途上国からの任意の支援資金拠出も奨励したが、脱化石燃料についてはCOP28の成果を再確認しただけに終わったそうだ。 また、EU・(産炭国)オーストラリアは、会期中に石炭火力発電所新設に反対する有志連合を立ち上げたのに対し、日本・米国はこれに入らず、国連傘下の国際的炭素クレジット売買に関する市場創設ルールについて合意して、再エネ導入等による温暖化ガス排出削減効果を取引して炭素クレジットを購入できるようにし、温暖化ガス排出削減効果を取引して削減目標を達成したことにするのでは、自国の温暖化ガス排出削減は進まない。 その上、日本は石炭火力削減ではG7最下位で、調達量や価格に課題のあるアンモニアへの転換に活路を見いだしているそうだが、これは現実を直視した取捨選択ができていないということである。 2)途上国の対応 ![]() ![]() ![]() 日立ソーシャルイノベーション Jccca 日立システム (図の説明:左図は、COPの変遷で、1997年日本開催のCOP3で温室効果ガスの排出削減を定めた京都議定書が採択され、2015年開催のパリ協定で京都議定書に代わって全ての国が参加して世界共通の長期目標としての2℃目標と1.5℃に抑える努力等が定められた。中央の図は、2020年の主要国CO₂排出量と1人当たり排出量の比較だが、国別では中国・米国・インド・ロシア・日本の順で、1人あたりでは米国・ロシア・韓国・日本・中国・ドイツの順となっており、必ずしも新興国の排出量が少ないわけではない。右図は、人工衛星から森林の状況を把握してCO₂の吸収量を可視化するシステムで、現在はカーボンクレジット創出量の算出に用いられているが、逆にカーボンクレジット喪失量の把握にも使用することができる) *1-3-1・*1-3-2は、①COP29では大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と負担軽減を図る先進国が対立 ②再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧に多額の資金を要する途上国は、年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求しており、最後の全体会合でも合意に至った達成感がなかった ③途上国への支援目標は2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった ④インドとや途上国の代表は「合意は私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言 ⑤協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策に繋げる必要 ⑥合意した金額を先進国の公的資金だけで賄うのは厳しく、資金が足りなければ途上国の対策が滞るので、資金の出し手を増やす必要 ⑦温暖化ガスの世界最大排出国である中国や中東産油国などは余力がある筈 ⑧G20は世界の温暖化ガスの約8割を排出し、裕福な国や地域は協力する責任 ⑨民間の投資加速も不可欠 ⑩COP29では2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった 等としている。 このうち①④⑧の途上国が大量の温室効果ガスを排出してきた先進国に対して責任に見合う拠出を求め、インド代表等が「合意は私たちが直面する課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言しているのは、⑧のように産業革命後と現在のCO₂排出量のみを見ればそうかもしれない。しかし、長い歴史を有する文明の中で、化石燃料を使わず森林を伐採して燃料にしてきたのであれば、CO₂吸収源を減らしてきた効果も大きいと思われるため、これも正確に測定すべきであるし、現在は砂漠でも本来は森林や田園にできる場所であればそうすべきである。 そのため、②③のように、途上国が再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧のためとして年1兆3千億ドル(約200兆円)の資金を要求し、“先進国”が裕福(?)だという理由で支援目標を年3000億ドル(約46兆円)にすると決めたのでは、気候危機を題材にしたオネダリとバラマキの構図に見える。 そして、⑥⑩のように、COP29で2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すことを合意した金額でも、一般増税と給付減が続いている“先進国”日本では、当然、公的資金だけで賄うのは厳しいだろう。そのため、⑨の民間投資も含めて資金の出し手を増やす必要があるのだが、⑦の温暖化ガスの大量排出国である中国はじめ米国・インド・ロシア等も、財政に余力があるからではなく、排出量に応じて公平に公的資金を拠出する義務があると思う。 なお、それを公平に行なう方法は、化石燃料の消費量に応じて炭素税(環境税の1つ)をかけて資金を集めることだが、現在、ガソリンにかかっている税は、i) 本則税(揮発油税・地方揮発油税):28.7円/L ii)石油税(石油石炭税・地球温暖化対策税):2.8円/L iii)暫定税率:25.1円/L iv)消費税:税を合わせた総額の10%であり、「トリガー条項」とは、ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で160円/L超の場合、自動的にガソリン税が“本則税率”のみに引き下げる仕組みとのことだ。 そのため、*1-4-1のように、国民民主党の要求を受け入れ、自民・公明両党が2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始めるそうだが、それなら必需品である燃料にかかる、i)の本則税(揮発油税・地方揮発油税28.7円/L)を廃止し、ii)の暫定税率25.1円/Lも意味不明であるため廃止して、消費税10%は本体価格に掛けて算出することとし、現在2.8円/Lしか課税されていない石油石炭税・地球温暖化対策税をCO₂はじめ有害物質の排出量に応じて50~60円/Lに引き上げ、再エネ化・電動化・地球温暖化対策等にかかる費用はここから出すのが時代の要請に合っていると同時に、簡素で合理的でもあると思う。 そして、⑤の途上国支援費や⑩の年1兆3000億ドルのうち官が出す部分は、当然、ここから出すべきだ。 3)ガソリン減税と温暖化対策 ![]() ![]() *1-4-3の図1 *1-4-3の図2 (図の説明:左図のように、日本では自動車関係諸税が国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなる。また、右図のように、取得と保有段階で車体課税され、走行段階では燃料に課税される) ![]() ![]() *1-4-3の図3 *1-4-3の図4 (図の説明:左図が、定められた自動車関係諸税の歴史で、一番下が本則税率に対する実際の税率の倍率で、右図には、各自動車関係諸税が国・地方自治体のどこに入るのかが示されている) ![]() ![]() *1-4-3の図5 *1-4-3の図6 (図の説明:左図は、日本の自動車関係諸税の他国との比較で著しく大きいし、右図は、購入からリサイクルまで自家用乗用車ユーザーにかかる税負担額で新車購入額の8割にもなる) *1-4-2は、①経産省・環境省は、11月25日、現行ペースを継続する「2035年度:2013年度比60%減」「2040年度:73%減」とする案を示した ②2050年実質排出0への温暖化ガス削減と脱炭素技術開発を通じた経済成長の両立を目指す ③「パリ協定」に基づき、政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえ、年内に具体的削減目標を固めて国連に提出 ④両省は2050年に向け、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出0を達成する案を検討する意向 ⑤温暖化ガス次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となり、排出削減強化を求める意見と脱炭素技術普及効果に時間を要する点に配慮を求める意見あり ⑥国立環境研究所のシナリオでは、CO₂回収等の脱炭素技術が2030年以降順調に普及し、再エネ・水素・アンモニア等の脱炭素燃料が広がれば2050年の実質排出0を実現でき、十分普及せずに導入を急げばエネルギー調達コスト等の負担が増大する、現行削減ペースを持続すれば技術導入にかかる2050年までの総費用額は比較的抑えられると分析 ⑦「グリーントランスフォーメーション政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要」という意見も ⑧「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」との指摘も ⑨国連は2035年迄に2019年比60%削減する必要があるし、日本の新削減目標はぎりぎり範囲内 ⑩国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギ 等としている。 このうち、①②⑤⑨は、環境は経済の足を引っ張るという既得権益を持つ企業の言い分を前提としているため、「環境対応はなるべくゆっくりしたい」という考えが根底にあるが、これまで述べてきたとおり、21世紀の環境対応は経済の足を引っ張るどころか経済の前提であり、それに加えて、日本の場合は、環境対応がコストダウンの要であると同時に、やり方によっては食料自給率・エネルギー自給率の上昇にも資するのである。 そのため、③の「パリ協定」は先進的だが、④の経産省・環境省は2050年の実質排出0に向けて2030年度目標を直線的に達成する案を検討する意向で、⑧のように、一部委員から「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」などという指摘があるのは、技術革新や普及によるコストダウンを考慮しておらず、この委員は工学系でもなければ経済にも原価計算にも弱いと思われる。そして、⑦の「GX政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めることが重要」と言う委員の意見は重視されていないため、「結論ありき」の事務局とその委員の選抜に問題があることがわかった。 また、⑩のように、国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギと言いながら、⑥の国立環境研究所のシナリオは、脱炭素技術としてコストアップにしかならないCO₂回収や量と価格で供給に問題のあるアンモニアの使用を前提とし、再エネ・水素の普及に重点を置いてそこに投資することを考えていない点で、「環境対応=コスト負担」という固定観念から抜け出せておらず、とても最先端の環境研究をしているとは言い難いわけである。 このような中、*1-4-1は、⑪国民民主の要求を受け入れ、自民・公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金軽減策の議論開始 ⑫ガソリン等の燃料油の課税体系は複雑で当初目的とは異なる社会保障等の財源にも流用されている ⑬それらを整理し財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探すべき ⑭53.8円/Lのガソリン税は「本則分28.7円/L」と「特例的上乗せ分25.1円/L」からなる ⑮国民民主は物価高対策として価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」適用を主張 ⑯道路特定財源だったガソリン税は2009年に一般財源化され、2010年に上乗せ分の廃止を決め、財源確保の観点から「当分の間維持」とした ⑰流通過程で消費税も二重に課税されている ⑱財務省の試算で国・地方計年1.5兆円分の税収減に繋がるため、上乗せ分を単純にはやめれない ⑲価格下落で消費が増えれば脱炭素に逆行 ⑳与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしており、税収中立や脱炭素との整合性を考えれば妥当 等としている。 (1)2)に書いたとおり、⑪⑳のように、国民民主の要求を入れて与党が2025年度税制改正でガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体を見直し、自動車ユーザーに二重課税はじめ不合理な負担をかけないよう簡素化・軽減に手をつけるのに、私は賛成だ。そして、⑬については、自動車関係諸税を整理して簡素化し、二重課税をなくしつつ、脱炭素の流れと矛盾せぬように炭素税(環境税の一種)をかけ、脱炭素のイノベーションを起こす財源とするのが最適解であろう。 しかし、⑫に関しては、⑯のように、一般財源(1つの大きな財布)化された財源は、社会保障に使われても「流用」ではない。流用とは、厚生年金保険料から国民年金を支払ったり、国民健康保険の目的積立金を子育て支援金に使ったりするような別の財布に手を突っ込んで資金を出すことを言うのであり、国はそうすることに罪悪感を持っていない点が最大の問題なのだ。 なお、⑭のように、本則分以外に特例的上乗せ分があり、⑯のように、財源確保のために上乗せ分の廃止を当分の間維持したり、⑰のように、他の税金部分にまで消費税をかけたりするのは、明らかに公正・中立・簡素の税の原則から外れているため、⑮の「トリガー条項」の適用を待つまでもなく、速やかに整理すべきだったのである。 そして、⑱⑲のように、国・地方の税収減に繋がったり、価格下落で化石燃料の消費が増えれば脱炭素に逆行することに関しては、CO₂排出量に応じて炭素税をかけることによって解決でき、これによってCO₂を排出しないEVへの移行も促されて、二重にイノベーションを進める効果があるのだ。 なお、*1-4-3が、上に図を載せた日本自動車工業会の自動車関係諸税に関する解説だが、私1人でまとめるのは時間がかかりすぎるため、各自で消化してもらいたい。 (2)災害とリスク管理 ![]() ![]() ![]() ![]() BBC 2024.5.1気象庁 2023.9.1WhetherNews YouTube (図の説明:1番左の図は1940~2023年の世界平均気温で2024年は過去最高を更新した2023年より高かった。また、左から2番目の図は日本の4月の気温を推移で2024年4月は著しく高くなっている。さらに、右から2番目の図は日本の夏の平均気温偏差で2023年でも1.76℃と高い。1番右の図は日本近海の海水温の変化で、福島県沖から北に向かって著しく高くなっており、この高さは世界でも群を抜いている) 1)2024年は統計開始以来最も暑い年だったこと *2-1-2は、①欧州気象当局は「猛烈な熱波や多くの犠牲者を出した嵐が世界各地を襲った2024年が統計開始以来最も気温の高い年となる」と発表 ②EUのコペルニクス気候変動サービスは「今年の世界平均気温は工業化以前(1850~1900年を基準)と比べて摂氏1.5度以上高くなり、この高気温は主に人為的な気候変動による」とした ③パリ協定で200カ国近くが気候変動による最悪の影響を回避するには長期的な気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束 ④英王立気象協会のベントリー最高責任者は「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対し、これ以上の温暖化を制限する行動が急務という厳しい警告を発するもの」とした ⑤国連は「現在の政策のままでは、今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性がある」と警告 ⑥科学者らは「大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、新たな記録が更新されるのは時間の問題」と警告 ⑦ホーキンス教授は「気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になり、世界中の人々に目にもあらわな影響が出る」「炭素排出量ネット0を実現して地球の気温を安定化させることが災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法」 等としている。 確かに、今年は体感でも暑い年で、10月になっても夏日が続き、11月になると急に寒くなって秋が非常に短かったわけだが、上の①②⑤は、その様子を世界規模で示している。 そして、COP21のパリ協定では、③のように、200カ国近くが長期的気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束し、④⑥のように、英王立気象協会の最高責任者や科学者らは、COP29での速やかな行動を警告していたが、COP29の成果はCOP21と比較すると新鮮さがなかった。 しかし、⑦のホーキンス教授の予測どおり、気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になって、既に世界中の人々の目にあらわな影響が出ており、これを止めるためには、炭素排出量ネット0を速やかに実現して地球の気温を安定化させるしかなさそうだ。 2)地球温暖化により、日本でも豪雨災害が頻発していること *2-1-1は、①石川県能登半島の記録的豪雨で、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害 ②輪島市の4ヶ所が大雨による洪水リスクの高い区域に立地していた ③輪島市幹部は「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」とし、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した ④他の仮設住宅団地でも床下浸水被害の可能性 ⑤豪雨による死者8人。行方不明者2人、安否不明者5人 としている。 ①②④⑤については、大規模地震の被害で仮設住宅の建設用地が足りなかったとはいえ、大雨が降れば浸水するような場所に、国・県・市が仮設住宅を建設して住民を何度も被害に遭わせたこと自体が間違いであり、③のように、注意喚起や避難誘導をすればすむという話ではない。 そのため、近くに仮設住宅の建設用地がなければ、他の自治体であっても安全な場所に仮設住宅を建設するか、宿泊施設を借りるかするのが住民のためであるし、国民も同じ地域に何度も資金援助をしなければならないのでは、たまったものではないのである。 また、*2-2-1は、⑥国交省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(2023年度版)と国勢調査の人口データ(2000~2020年)から、大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある地域に住む人は全国で約2594万人(2020年)と過去20年間で約90万人増 ⑦気候変動で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える ⑧2020年の日本の全人口は最多だった2010年から約1.5%(約191万人)減ったが、浸水想定エリアの人口は約3%増えた ⑨浸水想定3m以上の地域の人口は約257万人で約7万人増 ⑩浸水5m以上の地域の人口も約26万人に上る ⑪浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で都民の3 割弱 ⑫埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間に20都道県で増加 ⑬2000年の都市計画法改正で、住宅建設が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響 ⑭日本大学の秦教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体があるが、毎年のように水害が起きる中、安全な場所に居住誘導するなど災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべき」と話す としている。 上の⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫についても、既に大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある「洪水浸水想定区域」が開示されているため、開示以後に移り住んだ人は「回避できる浸水リスクを回避せずに移り住んだ」のであるため自己責任で、その人たちにまで被災時に資金援助をしていては、国民がどれだけ税金を払っても「財源」「財源」と言われて必要な福祉に金が廻らないのだ。 また、⑬のように、「2000年に都市計画法改正で住宅建設が原則禁止された市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされた」というのも、人口を維持することを住民の安全よりも優先した自治体であるため、その地域で起こった浸水被害まで全国民が支払った税金を使って救済するのは筋が通らない。 つまり、災害のリスク管理は、基本的にはそこに住む住民自身が行なうべきであり、そのための情報として都市計画法で住宅建設可能地域を指定しているのだから、(その指定が間違っていない限り)⑭のように、自治体が人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的だったり、安全な場所に居住誘導する等の災害リスクを踏まえた土地利用を進めなかったりしたのは、まさに自治体の責任そのものであって国の責任ではないのである。 3)保険料をリスク別に分けるのは名案だが、市区町村別では分け方が粗すぎること *2-2-2は、①水害が多発する中、浸水の恐れがある地域に住む人が2020年は全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3m以上の地域 ②東日本台風では水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流して溢れる内水氾濫が原因で武蔵小杉駅周辺のタワーマンション地下が浸水 ③被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価は前年比約2~5%上昇し、利便性が良ければ水害等の災害の影響は一時的 ④2000年の都市計画法改正で住宅等の建築が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で指定した地域は例外扱いとなったのが、浸水の恐れがある地域での人口増の一因 ⑤国交省の水害統計で2013~2022年の10年間の水害被害額は計7兆3千億円で前の10年の約1.4倍 ⑥浸水リスクのある地域で人口が増え、住宅等の資産も集中して、面積当たりの被害額が増加 ⑦水害多発を背景に火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが導入され、これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったのが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化 と記載している。 このうち①②③④のように、利便性を求めて浸水の恐れがある地域に住む人が増え、被災直後であっても地価は上昇し、都市計画法で住宅等の建築が原則禁止される地域でも自治体の条例で例外扱いできるのでは、「住民も自治体も、浸水リスクは覚悟の上でそこに住んでいるのだ」と言わざるを得ない。 さらに、⑤⑥のように、人口増に伴って住宅等の資産も集中し、面積当たり被害額も増加するのであれば、その被害は、⑦のように、民間の水災保険でカバーしてもらいたいが、水害の多発を背景に火災保険の水災保険料は高リスク地域ほど高くなるそうで、それは合理的だと思う。 しかし、同じ市町村内でも地域によって浸水リスクには違いがあるいため、市区町村別に保険料を変えるというのは分け方が粗すぎる。そのため、むしろ浸水の想定リスクに応じて保険料を変え、その結果として安全な場所に居住誘導することになる方が合理的である。 (4)日本における行政の環境意識 1)温室効果ガス削減と電気・ガス・ガソリン補助金について *3-1-1のように、約80の国・地域の首脳らが参加したCOP29で、英国を含む一部の国が気候変動対策の国際ルール「パリ協定」に基づく新たな温室効果ガス削減目標を発表し、英国のスターマー首相は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意」「2035年の排出量を1990年比81%削減」など前保守党政権の78%減をさらに高めた発表をして存在感を示したそうだ。なお、英国は、今年の9月に石炭火力を0にし、G7最速で新目標を発表するなど、気候変動対策に積極的な姿勢を示している。 一方、日本は、(1)の図に示されているとおり、COP29の終了時までに削減目標を公表することができず、(1)3)のとおり、11月25日になってから、経産省と環境省が現行ペースを継続する案を示したが、これはリーダーシップとは程遠い現状維持策である。 その上、*3-1-2のように、日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻で経済制裁したために高騰した化石燃料価格対策として2023年1月使用分から開始された補助金の終了に踏み込めず、国民が支払った税金から電気・ガス・ガソリンへの補助金を来年1~3月にも再実施することを決めたそうだ。そして、この補助金の額は、これまで投じられた累計額だけでも電気・ガスで約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達しているのである。 もちろん、国民は燃料価格が抑制されれば短期的には助かるが、もともとトップランナーだった日本の再エネやEVにこの金額を投資していれば、エネルギー自給率は上がり、COP29でもリーダー的な立場に立つことができ、化石燃料価格の高騰に右往左往して無駄使いする必要もなかったことから、無能な現状維持策が如何に国益を害するかが証明されたのである。 2)根拠無き廃炉工程と放射線量暫定基準 *3-2-1は、①原子力規制委員会前委員長の更田氏は「燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するか正確にはわからず、高線量の中で遠隔作業しなければいけないのが取り出しの難点」とする ②フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器の底を破って外側の格納容器まで広がっているため、建屋の老朽化で放射性物質が漏れ出す恐れ ③東電は「2号機で試験的に3g以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やし、2030年代初めに3号機で大規模な取り出しを始めて1号機に展開」「最初のステップが今年9月に始まった」とする ④開始遅れの原因は関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足で、今回の取り出しには「釣りざお式装置」を使った ⑤当初の計画は1~4号機に計3108体ある核燃料を2021年までに取り出すとしていたが、2021年までに取り出せたのは3、4号機のみ ⑥政府関係者は「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くなく、事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だったため、何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」と明かす ⑦政府は廃炉に必要な技術開発への支援等として毎年100億円以上を企業などに補助しており、最新の見積もりで廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用等はこれに含まれていない ⑧福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的で、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべき としている。 このうち①については、火星の表面の写真でさえ鮮明に送られてくる時代に、未だに地球上で高線量の放射線を出している燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するかもわかっていないのなら、それは原発関係者の技術レベルが低いか、真実を隠しているかのどちらかである。 そして、やはり②のように、フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器を破って外側の格納容器まで広がっていることがわかっており、これは事故当初に「圧力容器は壊れておらず、燃料デブリは圧力容器の中にある」と強弁していたこととは、全く違っているのである。 さらに、③④⑤のように、78億円もの国費を投じて開発したロボットアームの不具合により、東電は今回の取り出しに「釣りざお式装置」を使って2号機からやっと3g以下を取り出し、当初の計画は1~4号機の計3108体の核燃料を2021年までに取り出すというものだったが、2021年までに取り出せたのは3、4号機だけだったのだ。 これについては、⑥のように、政府関係者が「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くない」「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だった」「何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」等と明かしているが、これは「廃炉がどうなろうと、線量が高かろうと、原発周辺の避難区域の住民が帰還しさえすれば良い」という考え方であり、全く住民の安全側には立っていない。 全く住民の安全側に立っていない事例は多いが、*3-2-2も、文部科学省は学校の校庭利用をめぐる放射線量の暫定基準を「定めた時と比べて線量が大幅に減った」という理由で年間20mSV(本来は年間1mSV以下)の目安を撤廃する方針を固めたそうだが、これもまた、子どもがいる住民の帰還をを促すためだけで科学的根拠はなく、住民の安全側には全く立っていない暫定基準なのである。 なお、⑦のように、政府は廃炉に必要な技術開発支援として毎年100億円以上を企業等に補助し、廃炉費用は8兆円とされ、燃料デブリの最終処分にかかる費用はこれに含まないそうだ。しかし、原発に関することなら、まるで既得権ででもあるかのように「財源」「財源」とは言わずに、私たちが支払った税金から私企業に対し、次々と金を出すのは全くおかしい。 そのため、⑧のように、「フクイチの廃炉は、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的」というのに私は賛成だ。さらに、海水で薄めれば基準値以下になるなどという科学的根拠とはかけ離れた説明をして流している処理水も、対話や説明の時期はとうに終わっているため、水で冷やしさえすれば良いという発想を早急にやめ、これまでの損害は補償すべきである。 3)プラ生産削減の要否と改善すべきごみ分別収集の不便 ![]() ![]() 2021.3.21三井住友TAM 2021.5.31Long Life Labo (図の説明:左図は、世界の温室効果ガス排出量で、発電・熱生産25%、その他エネルギー9.6%、輸送14%、建築物6.4%で55%と過半数を占め、産業は21%しかない。右図は、日本のCO₂排出量推移と部門別割合で、2019年度は運輸18.5%、エネルギー転換8.0%、家庭14.3%で40.8%を占め、産業34.6%のうち約40%は鉄鋼業からの排出で、プラスチック生産による排出は少ない。ただし、世界は、CO₂の部門別排出量データが少ないようである) ![]() ![]() ![]() 2024.5.28朝日新聞 2024.4.22日経新聞 2022.10.14WWD (図の説明:左図は、世界のプラスチック使用量は2060年には2019年の3倍になる予測だが、ここで問題になるのは不適切な投棄で海や川にプラスチックを蓄積させることであるため、それをなくせば問題ない筈だ。また、中央の図は、プラ生産削減条約に対する各国の立場だそうだが、EUはじめ賛成している国は、原油由来のプラスチック製品を使わないのだろうか?もちろん、右図のように、切れた漁網や使い終わった漁網を海に廃棄したり、海や川にプラスチックを蓄積させたりすると生態系に悪影響を与えるため、リサイクルやアップサイクルしやすい製品を作ったり、水や土の中で一定時間が経過すれば跡形もなく溶けて肥料になったりするような進歩系の製品が必要であることは間違いない) ![]() ![]() ![]() 2024.10.16PR Times 2021.12.2HATCH 2024.11.14日経新聞 (図の説明:左図が、廃棄資源利用の流れであり、分別を簡単にするためには、容器は同じ材質にする等のリサイクルまで考慮した生産体制が望まれる。また、中央の図が、循環型社会の3R《Reduce・Reuse・Recycle》だが、最終処分時に公害を出さず、最終処分を要するゴミを極力減らすことが必要だ。さらに、右図は、ゴミ屋敷に潜むさまざまな問題だが、ゴミを出しやすくすることで解決するのが最も安価で生活の質を上げるのではないかと思う) *3-3-2・*3-3-3は、①プラスチックごみを減らすため100ヶ国超がプラ生産量の削減目標を設定する条約作りを提案 ②EU加盟の全27カ国・スイス・カナダ・オーストラリア・メキシコ・パナマ・フィジー・ケニアなどの約180カ国、国連加盟193カ国の半数超が提案書提出 ③生産規制には中東産油国やロシアが抵抗、日本は一律の生産規制に慎重 ④プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出し、ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こして、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響との指摘も ⑤提案国は「この汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要がある」と主張 ⑥プラスチックの生産規制を巡って厳しい規制を求めるEU側と原料の石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらない ⑦条約案への合意は先送り としている。 ①②⑤については、「ごみを減らす解決法=生産量の削減」というのは、原因分析を行なわずにいい加減な解決法を出し、環境のためとして市民に不便を強いる行為であるため、このようなことを続けていると「環境⇒不便の強制、経済の足かせ」という認識が広がり、むしろ環境意識が高まらないと考える。 そのため、③⑥の産油国だけではなく、プラスチック製品を使っている人も、このような提案には賛成しかねるのだ。仮に石油由来のプラスチック製品の生産を規制するとすれば、かわりに木を切り倒して作った紙を原料にしたり、食料のトウモロコシからプラスチックを作ったり、靴下や衣類は絹・綿・麻に昔帰りさせたり、箸は象牙に戻したりするつもりだろうか?それに伴って、別の多くの弊害が起こることは明らかである。 また、④の「プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出する」というのは、(4)3)の一番上の図のように、発電・エネルギー生産・輸送部門が温暖化ガス排出の約半分を占め、産業部門のうちのプラスチック生産による温暖化ガス排出は多くないため、他の弊害と比較考慮した場合に大きくはない。 しかし、「ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こし、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響」というのは、ごみをポイ捨てするのが悪いのであるため、徹底的にポイ捨てをなくすシステムを作り、上から2段目の図のような循環型社会を作れば良いのである。 なお、⑥の化石燃料を産出する国は、原油等を燃料として使わなくなれば、現地で原油由来のプラスチックをはじめさまざまな製品に加工して輸出する必要がある。そのため、それも禁止してしまえば、産地は稼ぐ手段を失う上に、現在、それを使っている人も困るのである。また、そのようなことになって、世界に貧しい人が増えれば、その人たちは誰が養うつもりだろうか。 従って、⑦の「条約案への合意は先送り」というのは、ひとまずまっとうな判断であり、今後は使用済プラスチックの廃棄に関する徹底した規制とリサイクル・アップサイクルに軸足を移すべきで、課題先進国だった日本は既にそのノウハウがなければならない筈なのだ。 それでは、日本における循環型社会はどこまで進んでいるかと言えば、*3-3-1は、⑧ごみ屋敷は疾患・認知症等の問題が影響するケースも多い ⑨環境省の調査で、全国1741自治体の38%が「ごみ屋敷」事案を認知している ⑩ごみ屋敷形成の要因の1つに「セルフネグレクト」がある ⑪認知症等で判断能力が低下して物をため込む場合も ⑫身体的・精神的な障害や特性で、ごみを出せない例も ⑬高齢単身世帯の増加等による孤立・孤独も絡み、ごみ屋敷は社会の縮図といえる ⑭総務省の報告書では181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患疑い ⑮問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題 ⑯知的障害を持つ40代男性は、分別ができずに捨てられなかった 等としている。 ごみのリサイクルは、1995年前後に私が言い出して始まり、それから30年近く経過したが、自治体が集めているせいか、やたら手間をかけて分別させ、資源物や粗大ごみは滅多に集めず、朝8時までに出さなければならないなど、未だに複雑怪奇で不便なままなのである。 そのため、リサイクルに最大限協力していた私でさえ、分別せずに燃やすごみにして出してしまおうかと思うくらいで、分別し易く出し易くすれば、ゴミ屋敷は減りリサイクル率も上がる。また、地下鉄サリン事件以降は駅等の公共施設にゴミ箱すらないことが多いが、これならポイ捨てしたくなるのも無理はなく、知恵を尽くして捨てる際の利便性を上げることが必要不可欠だ。 具体的には、⑧⑪⑫⑬⑯のような、単身高齢者・認知症患者・身体的に弱っている人・知的障害者等が、分別できないためゴミを捨てられなかったり、滅多にない収集日に重たいゴミを引きずって行く必要がなくなったりすれば、⑨のゴミ屋敷はかなり減るし、そのための課題解決は簡単なのである。 また、⑩のやる気をなくして「セルフネグレクト」になる原因はさまざまだが、それを⑭⑮のように、精神疾患や精神上の課題と片付けるのではなく、その根本原因を無くしたり、誰でもゴミを出し易くしたりしつつ、徹底してリサイクル・アップサイクルするシステムにすべきだ。 30年という期間は、真面目に改善し続けていれば、技術開発・問題解決が十分にできていなければならない期間である。そのため、1つ1つの解決策を細かく書くことはしないが、早急に課題解決すべきであり、そのノウハウは開発途上国にも応用できる筈だ。 4)PFASの世界基準と日本の“暫定目標値” ![]() ![]() ![]() 2023.6.9東京新聞 2024.11.29日経新聞 2023.1.31東京新聞 (図の説明:左図は、PFASの用途と健康への影響で、体内に蓄積されると腎臓癌・脂質異常症・抗体反応の低下や乳児・胎児の成長阻害が起こるとされている。中央の図は、2023年12月公表の国際がん研究機関《IARC》による評価で、PFOAはたばこ・アスベストと同様に最も高い発がん性があるとされ、ストックホルム条約の規制対象となった。しかし、日本は、いつものとおり「毒性評価が固まるまで現状維持」「健康影響は調査中で都内は対象外」という状況だ) ![]() ![]() ![]() 2024.11.26日経新聞 2024.6.26産経新聞 2024.7.3TBS (図の説明:左図は、「ストックホルム条約で規制対象となったのはPFASの一部だ」という図だが、どれが、どういう理由で、どの程度危険で、取り扱い上の注意は何か、という情報は伝わっていない。中央の図は、飲料水1LあたりのPFAS目標値であり、日本の50ナノグラム/Lは、米国の4ナノグラム/Lやドイツの4種類合計で20ナノグラム/Lと比較して高い。右図は、中央の図と1週間違いだが、米国の基準値はPFOSとPFOAの合計で4ナノグラム/L、ドイツの基準値はPFOSとPFOA合計で20ナノグラム/Lとなっており、中央の図と異なるため最終確認が必要だ。しかし、日本の基準値が甘いことには変わりがない ) *3-4-2は、①発癌性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出 ②環境省と国交省が11月29日に水道水の全国調査結果を公表し、2024年度に富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出された ③PFASの代表物質PFOA・PFOS合計で“暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)”超の水道事業はなかった ④岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと“暫定目標値”に近い数値が検出された ⑤現在は“暫定目標値”超でも水質改善等の対応は努力義務止まり ⑥浅尾環境相によると、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げして対応を法的に義務付けるか否かは2025年春に方向性を示す ⑦“暫定目標値”超の事業数は2020年度は11、2021年度は5、2022年度は4、2023年度は3と低減傾向 ⑧PFASには1万種類以上の物質があり、耐熱や水・油をはじく特性から布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤に使われてきた ⑨有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが2021年に輸入・製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された としている。 これに加えて、*3-4-3は、⑩“暫定目標値”を超えていた例の大半は、汚染源が特定されていない ⑪安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査を継続しなければならない ⑫PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた ⑬自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積する恐れ ⑭沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出 ⑮岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源 ⑯検査を実施していない事業者は取り組みを始める必要 ⑰環境省は、今回の結果について水源切り替え等の対策の効果があったと評価 ⑱検出された例でも、対策で目標値以下にすることができた ⑲国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかける ⑳検出状況に応じて健康調査等の対応を検討する必要があり、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整える必要 としている。 このうち①②⑨については、有機フッ素化合物(PFAS)とは、(4)4)の上の左図のとおり発癌性等が懸念され、中央の図のとおり有害化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、日本国内では代表物質であるPFOSが2010年・PFOAが2021年・PFHxSがその後に輸入・製造が原則禁止されたものである。 しかし、②③のように、環境省と国交省の11月29日の水道水全国調査結果で、2024年度にPFASの代表物質PFOA・PFOS合計で暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)超の水道事業はなかったが、富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出されたのだそうだ。 その日本の“暫定目標値”は、いつまで暫定を続けるのかも不明だが、*3-4-1のように、米環境保護局(EPA)は、PFASの中で毒性の強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を飲料水で4ナノグラム/Lと決め、これは同50ナノグラム/Lの日本の“暫定目標値”を大幅に下回る1割未満の厳しい水準であり、強制力のない目標値は0なのだそうだ。 また、「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を10ナノグラム/Lと定め、新規制は全米6万6000の水道システムが対象となり、水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定して情報を公開し、基準を超えるPFASが測定された場合は5年以内に削減するよう対応を求めるそうで、基準が甘くて対応も曖昧な日本とは大きく違うが、安全側の目標を定め期限を切って対応するのが、本来は当たり前である。 しかし、日本では、④⑦のように、岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出され、暫定目標値超の事業数は2020年度には11、2021年度に5、2022年度に4、2023年度に3あったが、⑤のように、暫定目標値超でも水質改善等の対応は努力義務止まりで、浅尾環境相は、⑥のように「対応を法的に義務付けるか否か2025年春に方向性を示す」などと悠長だ。 さらに、⑩は“暫定目標値”を超えていた例の大半は汚染源が特定されていないとするが、⑧⑫のように、PFASは、布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤・半導体・防水加工・自動車の製造過程などで使われており、⑭のように、沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたり、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出されたり、⑮のように、岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源だったりし、*3-4-1のように、沖縄県では過去に米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されたのだから、現在は汚染源の特定が容易な筈である。 なお、⑬のように、PFASは自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積するため、⑪⑯のように、安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査は継続しなければならないが、既に「ストックホルム条約」で有害な化学物質として規制対象となり、他国の基準は“暫定”ではなく厳しいものになっているので、今更、⑳のように、検出状況に応じて健康調査等の対応を検討するのでは遅すぎ、健康被害の「予防」は疫学調査の結果を受けて速やかに行うべきなのだ。 また、⑰⑱のように、環境省は検出された例でも対策で目標値以下にすることができた今回の結果を「水源切り替え等の対策の効果があった」と評価しているが、国交省は原発処理水の例など目標値や規制値以下にするために、その物質を含まない水と混ぜる方法を使うことがあるため、その評価は甘い上、食品容器やフライパンのコーティング等の食品とともに摂取される可能性が高い水道水以外のものについては何も述べていないため、本気度が疑われるのである。 最後に、⑯⑲のように、「今まで検査を実施していない事業者に取り組みを始める必要がある」などとして、国は未検査や回答がなかった自治体に検査を義務付けるのではなく呼びかける程度というのは、公衆衛生に対する意識が低すぎる。 ・・・参考資料・・・ <COP29> *1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1289T0S4A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2024年11月12日) 米国は温暖化対策の歩みを止めるな 世界の温暖化対策を話し合う第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が始まった。米国のトランプ次期大統領は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱する構えをみせる。世界2位の温暖化ガス排出国である米国は、脱炭素に向けた歩みを止めるべきでない。トランプ氏は米環境保護局(EPA)長官に元下院議員のリー・ゼルディン氏を起用する方針だ。環境規制に否定的で、バイデン政権が取り組んだ脱炭素政策を大幅に見直すとみられる。記録的な猛暑や干ばつ、巨大台風、豪雨、洪水などの災害が世界各地で多発する。温暖化による被害は米の経済や企業、住民にも及ぶ。米国がパリ協定から抜けないよう日本や欧州は説得すべきだ。2024年の世界の平均気温は23年を上回り、過去最高となる見通しだ。COP29の冒頭で、ムフタル・ババエフ議長は「温暖化対策を軌道に乗せる最後のチャンス」と各国に呼びかけた。最大の焦点は、先進国による途上国への金融支援の増額だ。現状は年1000億ドル(約15兆円)だが、途上国は年1兆ドル以上を求める。難色を示す先進国との隔たりは大きいが、少しでも対策を前進させるよう妥協点を探るべきだ。先進国からの技術や資金を前提に、排出削減を進めようと考える途上国は多い。支援額の上積みが進まなければ、世界全体の排出削減の遅れにつながる。米国が資金を打ち切れば、途上国の削減機運をそぐ恐れがある。温暖化は人類共通の課題で、一国の政権交代に左右されては困る。日欧は削減技術や人材育成など途上国支援を打ち出し、議論をリードすべきだ。世界最大の排出国の中国や中東産油国にも資金を出すよう促すことも必要になる。資金力のある国には、相応の責任が求められよう。米国内でも、州や産業界ではトランプ氏の方針とは距離を置く動きが目立つ。脱炭素に積極的なグローバル企業や機関投資家も多い。投資しやすい環境や制度づくりにも知恵を出し、民間資金のさらなる活用に道筋をつけたい。国連環境計画の報告書によると、現状の対策のままでは産業革命前からの気温上昇が最大3.1度に達する。各国は35年までの削減目標を25年2月までに提出する必要がある。削減強化に向けた機運醸成も大きな課題だ。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16091553.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2024年11月25日) 気候資金、年3000億ドルで合意 途上国支援、35年までに COP29閉幕 アゼルバイジャンのバクーで開かれた国連気候変動会議(COP29)は24日、途上国支援の新たな資金目標として、先進国側が2035年までに年3千億ドル(約45兆円)を出すことで合意し、閉幕した。官民あわせて1・3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決めた。会期は22日までの予定だったが、交渉は難航。24日の明け方まで延長した。途上国の脱炭素化や異常気象による被害対応を支援する「気候資金」は、COP29で最大の焦点だった。先進国は09年、途上国に対し年1千億ドル(約15兆円)の資金を出すことを約束。25年までに新しい目標を決めることになっていた。合意された成果文書では、先進国側からの年1千億ドルの資金を35年までに3倍の年3千億ドルに増やす▽官民含めて35年までに少なくとも年1・3兆ドルの投資を呼びかける▽途上国も任意で資金を出すことを奨励する――などが入った。一方、脱化石燃料をめぐっては、昨年のCOP28での成果文書の確認にとどまった。最近のCOPでは、徐々に脱化石燃料をめぐる表現が強まっていたが、目立った前進は乏しかった。今回は、紛争や分断が続く世界情勢の中で各国が結束できるか試されたCOPだった。パリ協定脱退を示唆する米国のトランプ次期大統領という「不安要素」もあった。会期延長後の23日にも、資金の総額や支援内容などで各国が折り合えず、個別交渉で中断しながら全体会合を進めた。24日未明、ギリギリで着地点を見いだしたが、結束には不安を残す幕引きとなった。(バクー=市野塊、福地慶太郎、合田禄) ■COP29の成果文書の主な内容 ◆2035年までに先進国側から途上国に年3千億ドルを支援 ◆同年までに官民で年1.3兆ドルへの投資拡大を呼びかけ ◆途上国からの任意の支援資金拠出を奨励 ◆「化石燃料からの脱却」などを含む昨年のCOP28での成果を再確認 *1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA233TA0T21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月24日) 途上国支援3倍、年3000億ドル以上で合意 COP29閉幕 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)は24日未明、温暖化対策で先進国から発展途上国向けに拠出する「気候資金」について、2035年までに少なくとも年3000億ドル(約46兆4000億円)に増やすことで合意した。石炭火力発電の廃止時期の明示は見送った。11日に始まった会議は合意文書の採択を経て、24日に閉幕した。22日の会期最終日を大幅に延長した。35年までに世界全体で官民あわせて途上国への支援額を少なくとも年1兆3000億ドルに増やす目標も採択した。今回のCOPでは、現在年1000億ドルが目標の拠出額の増額幅が最大の焦点になっていた。22日が会期最終日だが協議が難航し、24日に入っても協議を続けていた。議長国アゼルバイジャンが22日に先進国から年2500億ドルを草案として提示したが、途上国から低すぎるとの批判が相次いだ。その後に先進国が年3000億ドルへの増額を提案し、島しょ国など一部の途上国の反発が続き、24日未明に「少なくとも」の文言をつけることで決着した。化石燃料の削減については「およそ10年間で脱却を加速する」とした23年の会議の合意文書から大きな進展はなかった。今回のCOP29は12〜13日に開いた首脳級会合で米国や欧州連合(EU)、日本など世界の主要国・地域のトップの欠席が相次ぐなど、例年に比べて合意形成の機運の乏しさが指摘されていた。国連傘下の国際的な炭素クレジットの売買に関する市場創設のルールについても合意した。クレジットは再生可能エネルギーの導入などによる温暖化ガスの排出削減効果を取引できる形にしたもので、政府や企業は削減目標の達成にむけて購入できる。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は気候変動の悪影響が大きくならないように地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標を掲げる。実現のためには世界で35年に19年比で60%の温暖化ガスを減らす必要があり、25年2月までに国連に35年までを見据えた新たな削減目標を提出するよう義務付けている。気候資金は途上国の気候変動対策や温暖化ガス削減の取り組みに欠かせない原資となっている。会期中にはEUや産炭国のオーストラリアが石炭火力発電所の新設に反対する有志連合を立ち上げた。温暖化ガスの排出量が多い石炭火力を増やさないよう呼びかけ、各国に脱炭素の取り組みの強化を求める。日本や米国は入らなかった。そのほか、日本を含む有志国は再生可能エネルギーの活用に欠かせない蓄電池や水素といったエネルギー貯蔵容量を、世界で30年までに22年比6倍の1500ギガ(ギガは10億)ワットに増やすことを目指す誓約をとりまとめた。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241125&ng=DGKKZO85012200V21C24A1PE8000 (日経新聞社説 2024年11月24日) COP29合意後も分断回避へ努力続けよ 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)で、途上国への支援目標を2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった。防災インフラが未整備な途上国では、地球温暖化に伴う気候災害が頻発する。COP29では年1兆ドル以上の要求に対し、先進国がどう応えるかが焦点だった。紛争や分断が続くなか、結束できるかが試されていた。妥協の産物とはいえ、分裂は避けられた。インドなど途上国の一部は金額を不満として抵抗。協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策につなげねばならない。合意した金額を先進国の公的資金だけでまかなうのは厳しいだろう。資金が足りないと途上国の対策が滞る。世界全体の排出削減の遅れを避けるには、様々な形で資金を集める必要がある。まず出し手を増やす努力を続けたい。温暖化ガスの世界最大の排出国である中国や中東産油国などは余力があるはずだ。20カ国・地域(G20)は世界の温暖化ガスの約8割を排出する。裕福な国や地域は協力する責任があると改めて認識してもらいたい。民間の投資加速も不可欠だ。COP29では、35年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった。省エネルギー設備や再生可能エネルギーの導入支援などは民間資金を集めやすい。国際的な炭素市場のクレジット(排出枠)基準が承認されたことは前進だ。国連が支援する二酸化炭素(CO2)削減事業に国や企業が出資し、成果を排出量の相殺に当てられる。民間投資を促す起爆剤になると期待できる。日本は今回のCOP29では交渉を主導できず、影が薄かった。途上国は資金だけでなく、防災の技術やノウハウも求めている。日本には災害対策の蓄積がある。供与を積極的に進めることで世界に貢献し、存在感を高めたい。世界2位の排出国の米国では、温暖化対策に否定的なトランプ前大統領が返り咲く。来年1月の就任後、国際枠組み「パリ協定」から再離脱すると懸念される。温暖化による被害は米国内でも広がっている。日欧などはパリ協定から抜けないように説得すべきだ。トランプ政権の動向にかかわらず、気候危機は進む一方であり、対策が急務だ。あらゆる手段を総動員することが重要になる。 *1-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1362595 (佐賀新聞 2024/11/25) 【COP29合意】要求届かず渦巻く憤り、資金支援巡り対立鮮明 国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国の地球温暖化対策を支援する新たな資金目標に合意した。大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と、負担軽減を図る先進国の対立が鮮明となり、会期は2日も延長。最後の全体会合でも合意に至った達成感はなく、要求から程遠い幕切れに途上国の憤りが会場に渦巻いた。 ▽隔たり 「深く失望した」。閉幕予定日の22日に議長国アゼルバイジャンが示した合意文書案に、既に温暖化の深刻な影響下にある小島しょ国グループは怒りをあらわにした。途上国は年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求。再生可能エネルギーの導入など温暖化対策のほか、既に生じた異常気象に伴う災害復旧などに多額の資金を必要とするからだ。債務の増大を避けるため、先進国からの無償供与が大半を占めることを望んだが、示された先進国からの資金は年2500億ドルと要求から懸け離れていた上、資金の貸し付けや投資を含むものだった。特に先進国に起因する温暖化による自然災害に見舞われている低所得国は、自分たちへの割当額を明示するよう強く求めたがかなわず反発。「議長国は他国からのアドバイスを聞き入れないらしい」。各国代表団や非政府組織(NGO)の間に議長采配への不安が渦巻く中、閉幕予定日は早々に過ぎ去った。 ▽中断 延長1日目の朝。「もう文書の改定版はできているらしい」とのうわさが広がった。会合予定を表示する会場のテレビには、夜から全体会合が開かれるとの予告が表示され、成果文書採択への期待が高まった。だが午後に開かれた議長と主要閣僚の会合は紛糾する。2500億ドルを3千億ドルに上積みする案が示されたが途上国の要求には依然遠く、小島しょ国などが会合の中断を要求。先だって開かれた途上国と先進国が協議する場に呼ばれなかったことも怒りに火を付けた。一方の先進国側も「現在の(目標の)1千億ドルが3千億ドルになるのは、かなり踏み込んだ数字だ」(浅尾慶一郎環境相)とアピールしたが、さらなる上積みには慎重姿勢。ただ、途上国側も交渉決裂で何も残らなくなる事態は望まなかった。 ▽疲労 結局、会期を2日延長した閉幕日の24日未明に出た最終的な合意文書案でも支援額の上積みはなかった。疲労が色濃くにじむ中、閉幕の全体会合が開始。アゼルバイジャンのババエフ議長は議題を読み上げると、異議申し立ての確認時間も取らずつちを振り下ろし、採択を宣言した。直後、インド代表は「合意は目の錯覚だ。私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言。会場に拍手が湧き起こった。「先進国が資金と実施手段を提供する義務を果たさないという不公平を強化するものだ」(ボリビア代表)と失望を表明する声も続いた。ただ合意成立により、国際協調に背を向けるトランプ米次期政権の誕生を前に気候変動対策が勢いを失う事態は避けられたとみるのは世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之さんだ。「たとえ不十分だとしても、国際協力をつなぎとめることはできた」 *1-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2572O0V21C24A1000000/ (日経新聞社説 2024年11月26日) ガソリン減税は脱炭素や財源との整合を 自民、公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始める。10月の衆院選で「手取りを増やす」と訴えて躍進した国民民主党の要求を受け入れ、総合経済対策に検討を明記した。ガソリンなど燃料油の課税体系は複雑なうえ、当初目的と異なる社会保障などの財源にも流用されている。それらを整理し、財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探してもらいたい。1リットル53.8円のガソリン税は、本則分(28.7円)と特例的な上乗せ分(25.1円)からなる。国民民主は物価高対策として、価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の適用を主張。全国平均のガソリン価格が160円を3カ月連続で超えると課税を止め、逆に3カ月連続で同130円を下回れば再開する仕組みだ。2010年に創設されたが、翌年の東日本大震災の復興財源確保のため特例法で凍結してきた。目先の物価高対策に中長期の財政収入にかかわる税を使うのは賛成できない。特にトリガー条項は発動・停止時に価格が大きく変動する。値下がりを見越した買い控えや値上がり前の駆け込み需要が生じ、販売現場の混乱が必至だ。今回の税制改正における検討に意義を見いだすとすれば、あるべき税体系への見直しだろう。もともと道路特定財源だったガソリン税は09年に一般財源化された。10年に上乗せ分の廃止を決めたものの、財源確保の観点から「当分の間維持する」とした経緯がある。それが際限なく続いているうえ、流通の過程で消費税が二重に課されているのも問題だ。ただし上乗せ分を単純にやめればいいわけではない。財務省の試算では国・地方で計年1.5兆円分の税収減につながる。価格下落に伴って消費が増えれば、脱炭素の取り組みにも逆行する。与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしている。税収中立や脱炭素との整合性を考えれば、妥当といえよう。受益者負担の原則に立つなら、ガソリン税は老朽化する道路の補修費や脱炭素支援などの財源に用途を限るのも一案だ。総合経済対策で規模を縮小しつつ延長を決めたガソリン補助金は、一日も早く打ち切るべきだ。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策を、いつまでも続けるのは許されない。 *1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA250KT0V21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月25日) 35年度の温暖化ガス60%減 政府目標案、現行ペース継続 経済産業、環境の両省は25日、次期温暖化ガスの排出削減目標に関して2035年度に13年度比で60%減、40年度に同73%減とする案を示した。50年のカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)に向けた着実な温暖化ガス削減と脱炭素技術の開発を通じた経済成長の両立を目指す。15年に採択した温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」は世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標をかかげる。協定に基づき各国は25年2月までに新目標の国連への提出が義務づけられている。政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえて年内にも具体的な削減目標の数字を固め、国連に提出する。同日の会合で両省は50年に向けて、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出ゼロを達成する案を検討する意向を示した。現行の削減ペースを持続する道筋となる。22年度は13年度比22.9%減で、政府は目標通りに推移しているとみている。温暖化ガスの次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となっていた。これまでの会合では排出削減の強化を求める意見のほか、脱炭素技術が普及し効果が表れるまでに時間を要する点に配慮を求める声も産業界などからあがっていた。両省は性急に削減すると経済への負担が大きいことも踏まえて、排出削減の上積みを目指す。 国立環境研究所は複数のシナリオに基づき排出量やコストなどを推計した。二酸化炭素(CO2)の回収などといった脱炭素技術が30年以降順調に普及し、再生可能エネルギーのほか水素やアンモニアなどの脱炭素燃料が広がれば、50年の実質排出ゼロを実現できるという。一方、脱炭素技術が十分普及しないなかで導入を急ぐとエネルギー調達コストなどの負担が増大するとも分析した。現行の削減ペースを持続した場合には、技術の導入にかかる50年までの総費用額は比較的抑えられるとした。委員からは「グリーントランスフォーメーション(GX)政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要だ」といった意見が出た。「直線の経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要だ」との指摘もあった。国連は1.5度以内に抑えるには世界全体で温暖化ガスを35年までに19年比60%削減する必要があると分析する。分析には49〜77%の幅があり、日本が基準年とする13年度比に換算すると35年度で58〜81%、40年度で66〜92%となる。新しい削減目標の道筋はいずれも範囲内にあり、政府は1.5度目標の実現に整合するとみる。地球温暖化への危機感は世界で高まっている。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7日、24年の世界の平均気温が産業革命前と同程度の1850〜1900年の推定平均気温と比べて1.55度を超える上昇幅になる見通しだと発表した。初めて1.5度を上回ることがほぼ確実だとしており、対策強化が欠かせない。次期の排出削減目標は、政府が年内にまとめるエネルギー基本計画と表裏一体の関係にある。国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギを握るためだ。次期計画では40年度の電源構成を定める。現行目標で30年度に36~38%と据える再生可能エネルギーの上積みや、化石燃料を使う火力発電の減少が一層重要となる。政府はエネルギー基本計画と排出削減目標を踏まえ、年内に「GX2040ビジョン」をまとめる。脱炭素とエネルギーの安定供給、経済成長の同時実現を政策の柱に据える。カーボンプライシングの本格導入や脱炭素電源への投資の後押しなど対策を急ぐ。 *1-4-3:自動車関係諸税 ●9兆円にもおよぶ自動車関係諸税収 自動車関係諸税は第1次道路整備五箇年計画がスタートした1954(昭和29)年度に道路特定財源制度が創設されて以来、これまで増税、新税創設が繰り返されてきました。現在自動車には9種類もの税が課せられ、ユーザーは多額の自動車関係諸税を負担しています。2024年度の当初予算では自動車ユーザーが負担する税金の総額は国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなります。 ●図1.2024年度租税総収入の税目別内訳並びに自動車関係諸税の税収額(当初) 注:1.租税総収入内訳の消費税収は自動車関係諸税に含まれる消費税を除く。 2.自動車関係諸税の消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 3.消費税収には地方消費税収を含む。 資料:財務省、総務省 ●図2.2024年度自動車関連税収と税率 注:1.消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 2.税率は2024年5月1日現在。 ●図3.道路整備計画に関連した新税創設・増税の経緯 エコカー減税対象車は本則税率適用。 注:税率は2024年5月1日現在。 日本自動車工業会調 ●図4.自動車の税金のしくみ(税金および税額は2024年5月1日現在) *別途、エコカー減税に対する「自動車重量税」の軽減措置が講じられている ○ユーザーの負担 ●多種・多額の自動車関係諸税 自家用乗用車ユーザーの場合、車両価格308万円の車を13年間使用すると、6種類の自動車関係諸税が課せられ、その負担額は合計で約190万円にもなります(自工会試算)。さらに自動車ユーザーは、これらの税金以外にも有料道路料金、自動車保険料(自賠責および任意保険)、リサイクル料金、点検整備等多種・多額の費用を負担しています。 ●図5.税負担の国際比較 前提条件: ①排気量2000cc ②車両重量1.5t以下 ③WLTCモード燃費値 19.4km/ℓ(CO2排出量119g/km)④車体価格308万円(軽は144万円)⑤フランスはパリ、米国はニューヨーク市 ⑥13年間使用(平均使用年数:自検協データより)⑦為替レートは1€=¥158、1£=¥186、1$=¥146(2023/4~2024/3の平均) ※2024年4月時点の税体系に基づく試算 ※日本のエコカー減税等の特例措置は考慮せず ※自動車固有の税金に加え、以下のとおり付加価値税等も課税される。(日本の場合は消費税、米国・ニューヨーク市の場合は小売売上税)日本(登録車)30.8万円、イギリス61.6万円、ドイツ58.5万円、フランス61.6万円、米国27.3万円、日本(軽自動車)14.4万円 ●図6.自家用乗用車ユーザーの税負担額(13年間) 前提条件: ①2000ccで車体価格308万円(税抜き小売り価格)の乗用車 ②車両重量1.5トン以下 ③年間燃料消費量1,000ℓ ④重量税は車検証交付時または届出時に課税(第1年目は新車に限り3年分徴収) ⑤税率は2024年4月1日現在 ⑥消費税は10%で計算 ⑦リサイクル料金は2000ccクラスの平均的な額 注:1.有料道路料金、自賠責及びリサイクル料金は自動車諸税に準ずる性格を有するため計算上加味した。(自賠責保険は2024年4月1日現在の保険額) 2.有料道路料金は2022年度料金収入より日本自動車工業会試算。 日本自動車工業会調 <災害とリスク管理> *2-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1326448 (佐賀新聞 2024/9/24) 能登豪雨、浸水想定域の仮設被害、死者8人に、捜索続く 石川県能登半島の記録的豪雨により、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害が発生、うち輪島市の4カ所が大雨による洪水リスクが高い想定区域に立地していることが24日、分かった。これまでに指摘されていた立地のリスクが現実になった形だ。避難誘導が十分だったかなどの検証が求められそうだ。度重なる被災で入居者の生活再建の遅れが懸念され、県と市は今後の住まいに関する意向を確認する。他の団地でも床下浸水の被害があった可能性があり、県や地元自治体が調査する。輪島市は、浸水した団地の住民らをホテルや旅館などに2次避難させる方向で、県と調整している。県や消防によると、珠洲市大谷地区の土砂崩れ現場で新たに1人が見つかり死亡が確認され、豪雨による死者は8人となった。行方不明者は2人。県によると、連絡が取れなくなっている安否不明者は24日時点で5人。生存率が急激に下がるとされる発生72時間が経過する中、警察や消防などが捜索を続けた。県などによると、24日時点で床上浸水が確認されている仮設団地6カ所は輪島市5カ所と珠洲市1カ所。このうち輪島市の宅田町第2団地、宅田町第3団地、山岸町第2団地、浦上第1団地は洪水浸水想定区域にある。宅田町の2カ所は、付近を流れる河原田川が氾濫して団地一帯が浸水、住宅内にも泥水が流れ込んだ。24日、県のボランティアによる泥掃除や家財片付けが始まった。浸水した団地では、被害拡大後に救助される住民が相次いだ。輪島市幹部は取材に「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」として、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した。県によると、24日午後4時時点で輪島市、珠洲市、能登町の計46カ所の集落で少なくとも367人が孤立状態になっている。輪島市門前町七浦地区では仮設住宅の住民約70人が取り残されている。また、輪島市、珠洲市、能登町で計5216戸が断水している。 *2-1-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/cev903mwz9lo (BBC 2024年11月7日) 2024年は史上最も暑い年になる見通し エルニーニョ終息後も高気温続く、マーク・ポインティング気候変動・環境調査員 欧州の気象当局はこのほど、猛烈な熱波や多くの犠牲者につながった嵐が世界各地を襲った2024年が、統計開始以来で最も気温の高い年となることが「ほぼ確実」となったとの見通しを発表した。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、今年の世界平均気温は、人類が化石燃料を大量に燃やし始める前の「工業化以前」と比べて摂氏1.5度以上高くなる見込み。こうした高気温は、主に人為的な気候変動によるもので、エルニーニョ現象のような自然要因による影響は小さいという。科学者たちは、来週アゼルバイジャンで開かれる国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)を前に、これを警鐘として受け止めるべきだと指摘している。英王立気象協会の最高責任者、リズ・ベントリー氏は、「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対して、これ以上の温暖化を制限するための行動が急務だという、厳しい警告を新たに発するものだ」と話した。2024年には、10月までの世界気温があまりに高かったため、最後の2カ月間で気温があり得ないほど急降下しない限り、記録更新は防ぎようがないもようだ。実のところ、欧州コペルニクス気候変動サービスのデータによると、2024年は工業化以前と比べて、少なくとも1.55度は気温が高くなる可能性が高い。「工業化以前」とは、1850~1900年を基準にした期間のこと。この期間は、人間が化石燃料を大量に燃焼させるなどして地球温暖化を大幅に促進する以前の時代と、ほぼ一致している。欧州当局の今回の予測によると、2024年は昨年更新されたばかりの1.4度という最高気温を上回る可能性がある。欧州コペルニクス気候変動サービスのサマンサ・バージェス副ディレクターは、「これは地球の気温記録における新しい一里塚になる」と話した。加えて、コペルニクスのデータによると2024年には初めて、1月1日から12月31日までの1年の平均気温が1.5度上昇することになる。これは象徴的な意味を持つデータだ。2015年のパリ協定では200カ国近くが、気候変動による最悪の影響を回避しようと、長期的な気温上昇を1.5度未満に抑えるよう努力すると約束したからだ。ただし、今年に1.5度という上限を超えても、パリ協定の目標が破られたということにはならない。パリ協定の規定は、自然の変動を平均化するため、20年程度の期間における平均気温として定められているからだ。しかし、1年ずつ上限突破が積み重なるごとに、長期的には1.5度のラインに近づいていくことになる。国連は先月、現在の政策のままでは今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性があるという警告を発した。2024年のデータの細かい中身も、懸念材料となっている。2024年初頭の温暖化は、自然現象のエルニーニョ現象によってさらに拍車がかかった。これは、南太平洋で温かい海水が海面まで上昇し、大気中に暖かい空気を押し出される現象だ。直近のエルニーニョ現象は2023年半ばに始まり、2024年4月頃に終息したが、それ以降も、気温は依然として高い状態が続いている。コペルニクスのデータによると、この1週間、世界の平均気温は毎日、この時期の最高記録を更新している。多くの科学者は、エルニーニョ現象の反対で、海面水温が低下するラニーニャ現象が間もなく発生すると予測している。理論的にはこの現象により、来年には地球の気温が一時的に低下するはずだが、その正確な推移は不明だ。英レディング大学のエド・ホーキンス教授(気候科学)は、「2025年以降に何が起こるのか、興味深く見守っていきたい」と話す。しかし、大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、科学者らは新たな記録が更新されるのは時間の問題だと警告している。「気温の上昇によって嵐はより激しくなり、熱波はさらに暑くなり、豪雨はますます極端になる。その結果、世界中の人々に、目にもあらわな影響が出るはずだ」とホーキンス教授は言う。「炭素排出量を差し引きゼロにする『ネットゼロ』を実現し、地球の気温を安定化させることが、こうした災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法だ」 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046569.html (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスク地域に2594万人 居住者、20年間で90万人増 大雨で河川が氾濫(はんらん)した際に浸水の恐れがある地域に住む人は、全国で約2594万人(2020年)と、過去20年間で約90万人増えたことが朝日新聞のデータ分析で分かった。気候変動の影響で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える。分析したのは、全国の3万以上の河川のうち、主に流域面積や洪水時の被害が大きな約3千河川で、河川整備の目標とすることが多い「100年に1回程度」の大雨により浸水が想定されるエリア内の人口。国土交通省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(23年度版)と、国勢調査の人口データ(00~20年)を元に推計した。それによると、20年の日本の全人口は最多だった10年から約1・5%(約191万人)減った一方、浸水想定エリアの人口は20年までの過去20年間で約3%増え、約2594万人となった。うち浸水想定3メートル以上の地域の人口は約257万人で約7万人増えた。浸水5メートル以上の地域の人口は約26万人に上る。浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で、都民の3割弱を占める。埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間で20都道県が増加した。高度経済成長期以降、治水対策により、浸水リスクがある低地の開発が進み、相対的に地価も安価なため、人口が流入した。また、現在は一部規制が強化されたものの、00年の都市計画法の改正で、住宅の建設が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響した。日本大学の秦康範教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体がある一方、毎年のように水害が起きるなか、安全な場所にある空き家を活用して居住誘導するなど、災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべきだ」と話す。 ◇市区町村ごとのデータ分析は、デジタル版からアクセス出来ます。 *2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046472.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスクより利便性? 多摩川周辺…近い都心、氾濫後も新築 水害が多発するなか、浸水の恐れがある地域に住む人が増えている。2020年には全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3メートル以上の想定エリアに住んでいる。なぜリスクのある場所に人は集まるのか。21日に能登半島北部を襲った豪雨では、元日の地震で大きな被害が出た石川県で計27河川が氾濫(はんらん)し、多くの住宅が水に浸(つ)かった。地震で焼失した「輪島朝市」にほど近い輪島市河井町では、近くを流れる河原田川が氾濫。介護職員の50代女性の自宅は地震で壊れ、1カ月前にリフォームを終えたばかりだったが、約1・5メートル浸水し、1階は泥だらけになった。一帯は最大で3~5メートルの浸水が想定され、女性によると、65年ほど前にも約2メートル浸水した。ただ、堤防工事が進んだことや、自宅を50センチかさ上げしたことで安心し、「(浸水想定は)あまり気にしたことがなかった。まさか自分が生きているうちにまた来るとは思わなかった」と振り返った。朝日新聞の分析では、浸水想定エリアの人口は20年までの20年間で石川県を含む20都道県で増えた。特に増加が目立つのが、人口が密集する都市部だ。百貨店などが立ち並び、「にこたま」の愛称で知られる二子玉川駅(東京都世田谷区)から、多摩川を隔てた川崎市の一角。全国で90人以上の死者・行方不明者が出た19年の東日本台風では、多摩川の支流が氾濫し、多くの住宅が水に浸かり、マンション1階の60代の住民が亡くなった。近くに住む60代の男性の自宅も1メートル浸水した。玄関ドアや床下収納から水が一気に入り込み、1階のリフォーム代には総額で約1200万円かかった。この地区は3~5メートルの浸水が想定されている。男性は「50年以上住むが初めてのことで、まさかだった。最近異常な雨が増えているので怖い」。一方、近所では水害後に新しいアパートや戸建てが複数建った。2年前に夫婦で住み始めた女性(38)は、二子玉川で働き、「水害リスクは知っているが、利便性や家賃の安さから選んだ」と話す。東日本台風ではタワーマンションが林立する市内の武蔵小杉駅周辺で、地下が浸水したタワマンもあった。水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流してあふれる内水氾濫が原因だったが、被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価(20年1月時点)は前年比約2~5%上昇。不動産鑑定士の藤田勝寛さんは「水害などの災害が起きると取引は鈍くなるのが一般的だが、利便性が良ければ影響は一時的にとどまるケースが多い」と話す。川崎市は都心へのアクセス性が高く、人口も増加し続けている。朝日新聞の推計では神奈川県内で浸水リスクのある地域に住む人は同市を中心に過去20年間で約25万人増えた。18年7月の西日本豪雨で、災害関連死を含めて75人が亡くなった岡山県倉敷市。推計では浸水リスク地域に住む人は過去20年間で約3万人増えた。多数の犠牲者が出た同市真備地区は川沿いに浸水3メートル以上のエリアが広がり、過去に何度も水害に見舞われてきた。ただ、70年代ごろから市中心部のベッドタウンとして水田の宅地化が進んで人口が急増。水害後に人口が1割ほど減ったが、スーパーなどの商業施設は整っている。地元の不動産業者は「水害によって土地の価格は下落し、価格に魅力を感じて新たに移り住む人はいる」と話す。 ■国は住宅建築を制限、地域は衰退懸念 浸水の恐れがある地域での人口増は、2000年の都市計画法の改正も一因とされる。住宅などの建築が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で指定したエリアは例外扱いとなった。市街化調整区域は街の開発を抑制する区域で、低湿地帯など浸水リスクをはらむ場合も少なくない。19年の東日本台風で洪水被害が発生した場所の約8割を占めたとする国土交通省の調査もある。同省によると、既存集落の維持などを目的に22年度時点で全国で180自治体が条例を制定。地価が比較的安いことなどから居住者が増えている。熊本市中心部まで車で20分ほどの同市南区富合町もそのひとつ。1級河川の緑川や支流の流域にあり、12年に一定の住宅が集まる地域が条例でエリア指定された。一方で、各地で甚大な水害が相次ぎ、国は20年に法改正し、浸水などの災害リスクが高い場所は原則除外するよう規制を強化。当時、富合町自治協議会の会長だった男性(82)は「除外対象になる場所は多く、開発制限されると人口が減って地域が衰退する」と、条例エリアの維持を求める要望書を市に出した。結果的に、市は条件付きで開発を認め、来年4月以降、一部地域で家を建てる場合は浸水しない高さの部屋を設けることを義務づけた。男性は「次々に戸建てが建っているが、垂直避難できる2階建てが増えている」と話す。国も水害対策を進めるために21年に同法など九つの法律を一括改正。ハード事業の促進に加え、避難場所の整備推進や、浸水リスクが高い場所を都道府県が「浸水被害防止区域」に指定し、住宅や高齢者施設の建設を許可制とする仕組みなどを導入した。 ■保険料、リスク別に 水害による被害は拡大傾向にある。国交省の水害統計によると、13~22年までの10年間の水害被害額は計7兆3千億円で、その前の10年間の約1・4倍に膨らんだ。特に19年は東日本台風の影響で約2兆1800億円となり、統計開始以来で最悪となった。浸水リスクエリアで人口が増えたことで、住宅などの資産もより集中し、面積当たりの被害額も増えている。東京理科大マルチハザード都市防災研究拠点の二瓶泰雄教授の調査によると、水害被害額(前後5年、計10年間の平均)は、1960年代は浸水面積1平方キロメートルあたり2億~3億円だったが、2010年は20億円、18年には30億円に増加。さらに、死者・行方不明者数(同)についても、1960~2000年は0・1~0・2人だったが、18年には0・52人と、最大5倍ほどに増えた。二瓶教授は「高齢化が進み、人的被害はさらに増える可能性がある」と指摘する。また、水害の多発などを背景に、火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが10月から導入される。これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化する。 <環境> *3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083920.html (朝日新聞 2024年11月14日) 温室ガス減、英に存在感 首相、目標引き上げ発表 COP29 アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動会議(COP29)で、英国が存在感を示している。13日までの首脳級会合では、主要排出国などのトップが欠席する中、スターマー首相が登壇。スピーチに好意的な評価が相次いだ。約80の国・地域の首脳らが参加した会合では、英国を含む一部の国が、気候変動対策の国際ルール「パリ協定」にもとづく、新たな温室効果ガス削減目標を発表した。スターマー氏は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意だ」と宣言。2035年の排出量を1990年比で81%減らすと発表した。前保守党政権でまとめていた78%減をさらに高めた。各国の温室効果ガス削減目標は、次は25年2月までに、35年までの目標を国連に提出することが求められている。英国は主要7カ国(G7)で最も早く新目標を発表。今年9月、国内で稼働する石炭火力をゼロにするなど、気候変動対策に積極的な姿勢を強調している。スターマー氏は他国にも目標引き上げを呼びかけた。2大排出国の米中や、世界の温暖化対策をリードしてきた欧州連合が、軒並み首脳の出席を見送る中、気候変動対策に取り組む姿勢を首相自ら訴えた形だ。英紙ガーディアンは社説で「重要な一歩」と評価。米シンクタンク「世界資源研究所」(WRI)は「気候変動に関するリーダーシップの輝かしい例」と持ち上げた。 *3-1-2:https://mainichi.jp/articles/20241122/k00/00m/020/374000c (毎日新聞 2024/11/22) 電気・ガス、ガソリン…補助金の終わり見えず 事業の出口戦略に注目 22日に閣議決定された総合経済対策で、10月で終了した電気・ガス料金への補助金を来年1~3月に再実施することが決まった。年内を終了期限としていたガソリン補助金も規模を縮小して延長する。政府は時限措置だった補助金の終了に踏み込めずにいる。暖房需要で電力の消費量が最も増える1~2月は家庭向けで電気は1キロワット時あたり2・5円、ガスは1立方メートルあたり10円を補助する。電気代は標準家庭(使用量400キロワット時)で月1000円の補助となり、ガス代と合わせると計1300円程度の負担軽減になる。3月は電気1・3円、ガス5円に補助額を縮小する。電気・ガス代への補助金は、ウクライナ危機に伴う燃料価格の高騰対策として2023年1月使用分から開始。その後、燃料価格が落ち着いたため24年5月分でいったん終了した。しかし、岸田文雄前政権が酷暑対策として8~10月の限定で電気は最大1キロワット時あたり4円、ガスは同1立方メートルあたり17・5円の補助を復活。今回、またも終了直後に再開が決まった形だ。一方、ガソリン価格を抑制するため22年1月から続いている石油元売りへの補助については、12月から段階的に補助の規模を縮小させるものの、年明け以降も延長する。来年1月中旬のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は約180円、2月中旬には約185円になる見込み。それ以降は月5円程度の価格上昇となるよう補助率を見直す。終了時期は定めていない。10月の衆院選中には公明党が「寒い時期が一番電気・ガス代がかかる」として経済対策に盛り込むよう要求し、石破茂首相も「電気代が上がって困る人には十分な支援を行う」との意向を表明。選挙の結果、衆院で過半数割れし少数与党となった自公と政策協議していた国民民主党も値下げを求めていた。電気・ガスやガソリン代に対する補助金が長期化していることに対し、「市場原理を無視している」「脱炭素に逆行している」といった批判の声が噴出している。だが、酷暑対策で補助金が復活した際には「絶対に冬もやることになる」(経済官庁幹部)と政府内には諦めムードが広がっていた。電気・ガス補助金は問題も指摘されている。会計検査院の調査によると、補助金事業の事務局業務を319億円で受託した広告大手の博報堂が、業務の大部分を子会社などに委託し、さらに別会社に再委託されていたことが判明している。業務委託費率が50%を超える場合は所管する資源エネルギー庁に理由書を提出する必要があるが、書類には委託が必要だとする理由が具体的に記載されておらず、エネ庁にも委託を認めた経緯の記録が残っていなかった。経済産業省の事業では、過去にも新型コロナウイルス禍を受けた中小企業向けの持続化給付金を巡り、事業を受託した一般社団法人が大半の業務を再委託していたことが発覚して問題になったこともある。エネ庁の担当者は「今後、同じように再委託があればどういう形で適切と判断したのかが残るように手続きを検討している」としている。経産省は今回の補助金の再開・延長で必要な予算額を明らかにしていないが、これまで投じられた累計額だけで電気・ガスは約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達している。ガソリン補助金は間もなく開始から3年がたつ。膨大な税金を投じた補助金事業の出口戦略を描けるかにも注目が集まる。 *3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSB041PWSB0ULBH00QM.html (朝日新聞 2024年11月3日) 福島第一原発、根拠なき「2051年廃炉完了」 現実的な工程示せ *ポイント: 福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的だ。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もある。処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべきだ。 「燃料デブリが原子炉内のどこにどれぐらい分布するかが正確にはわからない。しかも、高線量の中で遠隔で作業しなければいけない。それが取り出しの難しさだ」。原子力規制委員会の前委員長、更田豊志氏は、燃料デブリの取り出しについて、こう解説する。東京電力福島第一原発の1~3号機には推計880トンの燃料デブリがある。3基とも圧力容器の底を突き破り、外側の格納容器にまで広がっている。放っておけば、将来、建屋の老朽化などで放射性物質が漏れ出す恐れがある。政府と東電は、全て取り出して安全な状態で管理しようとしている。東電の構想では、まずは2号機で試験的に3グラム以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やす。それから、30年代初めに3号機で大規模な取り出しを始め、その後、1号機に展開する。この構想の最初のステップが今年9月に始まった。東電は2号機の原子炉格納容器の側面にある貫通口から取り出し装置を挿入した。カメラの不具合で作業は1カ月以上中断したが10月28日に再開。燃料デブリを装置でつまみ、今月2日に装置ごと格納容器の外側の設備に入れた。線量が基準を下回り容器に収めれば初の取り出し成功となるが、これから続く道のりは深い霧に覆われている。政府と東電は51年までの廃炉完了を掲げている。11年12月の工程表で示したものだ。当時の想定では21年までに燃料デブリの取り出しに着手し、10~15年程度で1~3号機すべての取り出しを終える計画だった。しかし、開始は3年遅れた。主な原因は、関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足だ。ロボットアームはいまも試験中で、今回の取り出しには簡易的な「釣りざお式装置」を使った。原子炉建屋のプールにある核燃料の取り出しも大幅に遅れている。当初の計画では、1~4号機に計3108体ある核燃料を21年までに取り出すとしていた。だが、ガレキの撤去など作業環境の整備に時間がかかり、21年までに取り出せたのは3、4号機だけ。1、2号機はいまも始まっていない。最新の工程表では、当初から10年遅れの31年までにすべての取り出し完了をめざしている。重要作業の遅れが続いても、政府と東電は51年までの廃炉完了という旗はおろしていない。東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は「51年までの完了を目標に仕事を積み上げていくことが大事だ」と強調する。そもそも、なぜ51年までの廃炉完了を目標にしたのか。政府関係者は技術的な根拠はまったくなかったと明かす。「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できないような空気だった。何かしらの数字を出さざるを得なかった」。参考にしたのが1979年に事故を起こした米スリーマイル島(TMI)原発2号機だ。事故から11年後に99%の燃料デブリの取り出しが終わっていた。福島第一原発は1~3号機に燃料デブリがあるため、3倍の時間がかかるとみて、30~40年後(51年まで)の廃炉完了を目標にしたという。だが、TMI原発と福島第一原発は状況が大きく異なる。TMI原発では原子炉圧力容器に水をはった状態で、燃料デブリを取り出すことができた。水は放射線を遮れるうえ、作業時に放射性物質の飛散を抑えられるという、大きなメリットがある。 ●取り出し困難な燃料デブリ 一方、福島第一原発は圧力容器の損傷が激しく、水をはることができない。外側の格納容器まで広範囲に燃料デブリが広がり、TMI原発よりも取り出しの難易度が格段に高いとみられている。そもそも事故を起こしていない原発でも、原子炉に核燃料がない状態から作業を始めて廃炉完了までに30~40年かかるとされる。このため、51年までに廃炉完了とする目標については、多くの専門家が「あり得ない」などと指摘している。政府や東電は廃炉の工程をすぐには見直そうとしていない。専門家の間では、自主的に根拠のある見通しを示そうという動きが出ている。早稲田大学の松岡俊二教授(環境経済・政策学)は22年、福島第一原発の燃料デブリの全量取り出しにかかる期間を試算し、論文を発表した。TMI原発では約132トンの取り出しに4年3カ月かかった。週休2日で作業が年間260日とすると、1日の取り出し量は120キロ。TMI原発より作業が難しい福島第一原発の取り出し量は、1日20キロ、もしくは50キロと仮定した。その場合、全量取り出しにかかる期間はそれぞれ170年、68年という結果だった。松岡さんは「3グラム以下の取り出しに難航している現状を踏まえれば、170年でも相当楽観的な数字だ」という。廃炉作業で出る放射性廃棄物は、事故を起こしていない原発600基分になるとの見方もある。技術コンサルタントの河村秀紀さんらは、福島第一原発の図面などの公開情報をもとに試算した。敷地の放射線量が下がり、自由に出入りできる状態にする場合の放射性廃棄物は約780万トンになるという。日本原子力学会の分科会はこの試算を参考に、汚染された地盤などを残して継続管理とする「部分撤去」のシナリオについて検討した。廃棄物量を試算すると約440万トンとなる。放射性物質が自然に減るのを待つために数十年間の期間を挟めば、さらに約110万トンまで減らせるという。 ●地元と対話で探る将来像 政府と東京電力は福島第一原発の廃炉完了の姿を明確にしていない。更地をめざすのか、一部の施設が残っても完了とみなすのか。ゴールはあいまいだ。福島県は燃料デブリを含む放射性廃棄物をすべて県外で最終処分するよう、繰り返し求めている。だが、処分地探しなどの議論は進んでいない。原発事故を後世に継承できるよう、一部を「遺構」として残すよう求める意見もある。廃炉の費用は東電が出すが、電気代の一部として国民の負担になる。政府は廃炉に必要な技術開発への支援などとして、毎年100億円以上を企業などに補助している。最新の見積もりでは廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用などは含んでいない。さらに膨らむのは確実で、廃炉の将来像は国民全体に関わる問題だ。日本原子力学会の分科会が示すように、将来像や時間のかけ方で発生する廃棄物の量は変わる。技術的な検討だけでは解決できず、社会的な合意形成が重要となる。昨年8月に始まった処理水の海洋放出では、政府は専門家会議での技術やコスト面からの議論を重視した。放出の方向性を固めた後に、地元や漁業者らへ説明して理解を得ようとした。だが、結論ありきの姿勢に幅広い納得は得られず、強い反発を招くことになった。福島では地元の住民や専門家、東電社員らが対話し、廃炉の将来像を探る「1F地域塾」が22年から続く。廃炉作業について助言する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」も今年6月、原発事故の避難指示が出るなどした13市町村で住民の声を直接聞く場を設けた。政府と東電はこうした取り組みを参考に、丁寧な対話を重ね現実的な工程を探るべきだ。 *3-2-2:https://www.asahi.com/special/10005/TKY201108240683.html (朝日新聞 2011年8月25日) 校庭利用の基準「20ミリシーベルト」撤廃へ 学校の校庭利用をめぐる放射線量基準について、文部科学省はこれまで示してきた「年間20ミリシーベルト」の目安を撤廃する方針を固めた。基準を定めた今年4月と比べて線量が大幅に減ったため。児童生徒が学校活動全体で受ける線量を年間1ミリシーベルト以下に抑えるとの目標は維持するという。目標達成のため、学校で毎時1マイクロシーベルトを測定した場合は除染が必要との考えを示す予定で、26日にも福島県に通知を出す。ただし、校庭利用の制限基準とはしないという。東京電力福島第一原発の事故を受け、文科省は4月、福島県内の学校で毎時3.8マイクロシーベルト以上が校庭で測定された場合、校庭の利用を制限すべきだとの暫定基準を示した。子どもが年間に受ける放射線量が20ミリシーベルトに達しないよう設定された値だったが、保護者らから「上限20ミリシーベルトは高すぎる」との批判が相次いでいた。文科省はこの夏、基準を改めて検討。自治体による校庭の土壌処理も進み、福島県内の学校の線量は現在3.8マイクロシーベルトを大きく下回っていることから、「役割を終えた」としてこの基準を撤廃する考えだ。合わせて、年間被曝(ひばく)量を1ミリシーベルト以下にするとの目標を改めて示す。学校内では局所的に線量が高い場所があるため、こうした場所を把握するための測定や除染も呼びかける。測定方法をまとめた手引も公表するという。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241114&ng=DGKKZO84780400U4A111C2KNTP00 (日経新聞 2024.11.14) ごみ屋敷、精神的支援に軸足、医師とも連携、包括的に対処 悪臭や害虫の発生などで周囲に大きな影響を与えるごみ屋敷。居住者の自己責任と思われてきたが、疾患や認知症などの問題が影響するケースも多いことが分かってきた。自治体は当事者に寄り添った精神的な支援に軸足を移している。「ごみが壁のようになっていた」。愛知県内に住む自営業の40代女性は実父の家の状態を振り返る。2023年2月、父の入院を機に足を踏み入れると、服やティッシュ箱、缶などが室内にあふれていた。「父は昔から物を全く捨てられない性格。家族が訪ねても、中に入るのを嫌がられ状況がつかめなかった」という。事態に気づいた後は夫と週2回、1年以上通い、8割ほど片付けた。衛生上の懸念や親戚の反発、近隣住民からの苦情もあり、結局は家の解体を決めた。「自分も幼少期から20年ほど住んだ思い出があり、残せるなら残したかった」と複雑な思いもある。環境省の調査によると、全国1741自治体の38%が「22年度までの直近5年度で『ごみ屋敷』事案を認知している」と回答した。ごみ屋敷が形成される要因の一つに、生活への意欲を失い無頓着になる「セルフネグレクト」がある。ほかにも身体的、精神的な障害や特性があってごみが出せない例もある。認知症などにより判断能力が低下し、周りの環境を正しく認識できずに物をため込む場合もあり、事情は様々だ。ごみ屋敷はその居住者だけの問題と捉えられやすいが、実情は異なる。東京都立中部総合精神保健福祉センターの菅原誠副所長は「高齢単身世帯の増加などによる孤立や孤独などの問題も絡んでおり、ごみ屋敷は社会の縮図ともいえる」と話す。8月公表の総務省の報告書によると、181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患やその疑いがあるという。菅原さんは「住環境の改善に加えて支援に精神医学的な知見を入れる必要がある」と説く。当事者への精神的な支援を重視し、手厚く対応する自治体も出てきた。東京都足立区は23年、ごみ屋敷対策のために精神科医を配置した。職員は月1回、悩みや課題を相談できて実際の対応に生かせる。これまでの事例を分析したところ、問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題があることが分かった。ごみ屋敷対策係の小野田嗣也係長は「医療的な助言があると自信になり、現場としてとても助かる」と安堵感をにじませる。20年から3年間対応した70代男性の事例では、医師の指摘で解決に近づいた。当初は男性が区への不満を一方的に話すだけだった。職員が医師に相談すると「(1)自尊心を大切に向き合う(2)ごみ屋敷解決のための『支援』ならできると伝える」と本人の特性を踏まえた助言を得た。男性は支援という言葉に興味を示し、片付けを申し出たという。23年7月に「ごみ屋敷」条例を施行した浜松市の担当者は「制定で法的根拠をもって動けるほか、部署間の連携が取りやすくなった」と話す。看護分野に詳しい専門家などに意見を求められる体制も整えた。当事者への命令や行政代執行の前に相談する。今後は個別の例に対して助言をもらうことも視野に入れる。地域社会での包括的な支援も進む。福岡県の知的障害を持つ40代男性は20年に自宅にたまった不用品を捨てた。民生委員らが手伝ったほか、社会福祉法人は袋や車を提供してくれた。男性は「分別ができずに捨てられなかった」と話す。片付けに参加した自治会長に「いつでも教えるから持ってきて」と言われ、安心して捨てられるようになったという。地域での顔が見える関係作りは問題解決の一手になりそうだ。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD301N40Q4A131C2000000/ (日経新聞 2024年11月30日) プラ生産削減目標、100カ国超提案 条約交渉国の過半 プラスチックごみを減らす初の条約作りを目指す政府間交渉で、100カ国超がプラ生産量の削減目標を設定するよう提案した。12月1日の交渉期限が近づくなか、生産削減に賛同する国の広がりを示して受け入れを迫る。提案書を出したのは欧州連合(EU)に加盟する全27カ国やスイス、カナダ、オーストラリア、メキシコ、パナマなど。島しょ国のフィジーやアフリカのケニアも加わった。政府間交渉に参加中の約180カ国、国連に加盟する193カ国の半数を超えた。生産規制には中東産油国やロシアが抵抗しており、交渉国間の隔たりが大きい。日本は一律の生産規制に慎重で提案に加わっていない。100を超える国々は11月末までに交渉事務局の国連環境計画(UNEP)に対して文書を提出した。パナマがEU加盟国を含む80を超える国の幹事として提案書を起草した。11月25日に始まった政府間交渉の場で、参加国が追加提出した提案書をもとに日本経済新聞社が集計した。プラのほとんどは石油由来で、生産時に大量の温暖化ガスを排出する。ポイ捨てが原因で海洋などに流出したプラが環境汚染を引き起こしたり、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響を及ぼしたりしているとの指摘もある。こうした汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要があるというのが提案国の主張だ。これらの国は以前からプラの「削減」あるいは「持続可能な生産」への切り替えを掲げてきた。条約をめぐる政府間交渉委員会の全体会合ではロシアや産油国が生産規制について繰り返し反対している。100を超える国々は交渉期限間際に改めて提案書を出すことで、多数の国が生産削減に賛同していることを示すのが狙いとみられる。 *3-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1366805 (佐賀新聞 2024/12/1) プラ条約、合意先送りへ、生産規制巡り溝埋まらず プラスチックごみによる環境汚染を防ぐための国際条約作りを進める政府間交渉委員会は1日、全体会合を開き、ルイス・バジャス議長が、この会合で目指していた条約案への合意を先送りすることを提案した。議長は「私たちの作業は完了からはほど遠い」と述べた。最大の焦点となっているプラスチックの生産規制を巡り、厳しい規制を求める欧州連合(EU)側と、プラスチックの原料となる石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらないことが背景にあるとみられる。韓国での今回の交渉委は条約案を取りまとめる最終会合の位置付けで、各国の代表団が1週間にわたり議論した。だが会期末のこの日までに合意が得られず、今後の交渉も難航が予想される。生産規制を巡っては、パナマやEU、島しょ国など100カ国以上が、条約発効後に開く第1回の締約国会議での国際的な削減目標の採択を提案。中東諸国側は「(条約は)あくまで廃棄物対策に絞るべきだ」と反対している。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN10EIA0Q4A410C2000000/ (日経新聞 2024年4月11日) 米政府、飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満に 米環境保護局(EPA)は10日、人体への有害性が指摘されている有機フッ素化合物「PFAS」について飲料水における含有基準を決めた。日本が定めた暫定基準値の1割未満に相当する厳しい水準にした。米連邦政府がPFASを巡り、強制力のある基準を定めるのは初めて。PFAS規制を巡る日本の議論にも影響を及ぼす可能性がある。EPAはPFASのなかで毒性が強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を1リットル当たり4ナノ(ナノは10億分の1)グラムと定めた。強制力のない目標値はゼロにした。両物質の合算で同50ナノグラムとする日本の暫定基準を大幅に下回る。「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を1リットル当たり10ナノグラムと定めた。新規制は全米6万6000の水道システムが対象となる。水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定し、情報を公開するよう求める。基準を超えるPFASが測定された場合、5年以内に削減するよう対応を求める。EPAは、新基準に対応が必要となる水道システムを全体の1割程度と推定している。対応費用は全体で年間およそ15億ドル(約2300億円)と見積もった。EPAは新規制で「PFASにさらされる人が約1億人減り、数千人の死亡を防ぎ、数万人の重篤な病気が減る」と理解を求めた。水道を運営する州や自治体に対し、PFAS検査や対応を支援するため約10億ドルを提供する。水道事業者が加盟する非営利団体の米国水道協会(AWWA)は声明を出し「公衆衛生を保護する強力な飲料水基準を支持する」と規制の設定に支持を表明した。新基準に対応するための費用負担はEPAの試算値の「3倍以上になる」と指摘し、多くの地方で水道料金の値上げにつながると懸念を示した。バイデン政権は2021年の発足以来、PFASの規制強化に取り組んできた。EPAは21年10月、飲み水や産業製品、食品などに含まれるPFAS量を調べたり、飲料水の安全基準を引き上げたりするなど3年の工程表を公表した。毒性が強い6種類のPFASを有害物質に指定し、規制の枠組みづくりを進めてきた。直近ではPFAS汚染に企業の責任を問う動きも広がる。23年には、公共水道システムのPFAS汚染の責任を問う訴訟で、製造元の米化学大手スリーエムとデュポンが相次いで巨額の和解金の支払いに合意した。 ▼有機フッ素化合物「PFAS」 4700種を超える有機フッ素化合物の総称。数千年にわたり分解されないため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水や油をはじき、熱に強いなどの便利な性質から、消防署で使う消火剤や、フライパンの焦げ付き防止加工まで、幅広い産業品や日用品に使われてきた。PFASのうち「PFOS」と「PFOA」は毒性が高いとされている。自然界に流出すると、土壌に染み込むなどして広範囲に環境を汚染する。環境省が国内の河川や地下水への含有量を調べた結果、2022年度は東京、大阪、沖縄など16都府県の111地点で国の暫定目標値を超えていた。沖縄県では過去にも米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されており、健康被害への不安が根強い。 *3-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1365559 (佐賀新聞 2024/11/29) 2割の水道でPFAS検出、46都道府県、332事業 発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出されている問題を巡り、環境省と国土交通省は29日、水道水の全国調査結果を公表した。2024年度に富山県を除く46都道府県の332水道事業でPFASが検出された。検査を実施した全国1745水道事業の2割に相当する。PFASに特化し、小規模事業者にも対象を拡大した大規模調査は初めて。PFASの代表物質PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という国の暫定目標値を超えた水道事業はなかったが、岩倉市水道事業(愛知県)と新上五島町水道事業(長崎県)、むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出された。調査は5月下旬から9月下旬に実施。対象は給水人口が5千人超の上水道や101~5千人の簡易水道など。浄水場の出口水や給水栓から出る水の水質を調べた。社宅などで使用する専用水道は現在集計中のため今回の発表に含まれていない。現在は暫定目標値を超えても水質改善などの対応は努力義務にとどまる。浅尾慶一郎環境相は29日の閣議後記者会見で、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げし、対応を法的に義務付けるかどうか25年春をめどに方向性を示すとした。今回調査では「水道法上の測定義務がない」として20年度以降、一度も検査を実施していない水道事業が一定数確認された。20~23年度に暫定目標値を超えた事業数は20年度は11、21年度は5、22年度は4、23年度は3と低減傾向だった。国交省は高濃度で検出された事業者向けに、国内12カ所で実施されたPFASの対応事例集を公表した。PFASは近年、日本水道協会の水道統計でも検査項目の一つとして調べられているが、対象は規模の大きい水道事業などに限定。今回は小規模な簡易、専用水道にも対象を広げた。有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。1万種類以上の物質があるとされる。耐熱や水、油をはじく特性から布製品や食品容器、フライパンのコーティングのほか、航空機用の泡消火剤に使われてきた。有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となっており、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが21年に輸入や製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された。 *3-4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16097877.html (朝日新聞社説 2024年12月3日) 水道PFAS 実態と影響 調査続けよ 健康への影響が懸念される有機フッ素化合物(総称PFAS〈ピーファス〉)について、水道水の全国調査が公表された。直近では、国の目安である「暫定目標値」を超えた例はなかったが、昨年度までは超えていた例もあり、その大半の汚染源は特定されていない。安心して水道を使い続けられるよう、検査や影響の調査を継続しなければならない。国による水道水の全国調査は初めて。環境省と国土交通省が20~24年度の水道事業者など3755事業の検査状況をまとめた。20~23年度は計14事業で暫定目標値を超え、一方で今年度は9月末時点までで検査した1745事業で暫定目標値超えはなかった。比較的小規模な専用水道は集計中で後日、公表する。PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた。自然界でほとんど分解されず、生物に蓄積する恐れがある。沖縄の米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や、各地の工場周辺でも検出されてきた。それ以外でも、「思いがけない所から検出された例もある」と専門家は指摘する。岡山県では、使用済みの活性炭が置かれた場所が発生源と考えられた。検査を実施していない事業者は、取り組みを始めることが求められる。今回の結果について、環境省は、水源の切り替えなどの対策の効果があったと評価する。検出された例でも対策で目標値以下にすることができた。国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかけていく。検査と対策を進めれば、水道の安全性は高まる。住民への結果の速やかな公表は信頼関係を損なわないために不可欠だ。検出状況に応じて、健康調査などの対応を検討する必要もあるだろう。汚染があった自治体では、水源の井戸の一部使用停止や新たな水源の確保などを進める。血液検査を始めた自治体もある。沖縄県金武町では約3億円かけて新たな送水管を整備した。国は、検査や除去に関して財政や技術面で自治体を支援し、PFASでどんな健康への影響があるのか、調査と研究例の収集を進めてほしい。暫定目標値は、水質基準と違って公表や超えた場合の改善の義務はない。環境省は水質基準にすべきか検討を続けている。過剰な対策は混乱を招きかねないが、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整えなければならない。どんな制度が望ましいのか、国民が安全な水を安心して使えるよう探るのが国の責務だ。 <国際学力調査から> PS(2024年12月6日追加): *4は、①2023年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)で、算数・数学・理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は小4理科で国際平均を上回ったが、それ以外は下回った ②文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている ③小4は、「楽しい」が算数は前回より7%減の70%・理科は2%減の90%で、「得意」が算数は9%減の56%、理科は5%減の81% ④中2は、「楽しい」が数学で4%増の60%、理科は横ばいの70%で、「得意」が数学で1%減の39%、理科が2&減の45%となった ⑤理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った ⑥「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差 としている。 学問は、ドラマや漫画と異なり、その場で「楽しい(満ち足りて愉快な気持ち)」と感じるよりは、(やり方によるが)やっているうちに面白さ(興味をそそられ心引かれること。例:仕事が面白くなった)がわかってくるものであるため、記事のうち「楽しい」の部分と増減部分を除くと、小4では、③のように、「算数が得意」としたのは56%、「理科が得意」としたのは81%で、中2では、④のように、「数学が得意」がとしたのは39%、「理科が得意」としたのは45%と、学年が上がるにつれて「得意」の割合が下がっている。 これは、①のように、小4理科のみで国際平均を上回り、それ以外は下回ったという結果であり、②のように、文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としているが、苦手意識は学校だけではなく、メディアはじめ社会や家族からも発信されており、子どもは大人の真似をしながら成長し、成長に伴って大人の影響を大きく受けていくため、教師だけでなく、社会人を変える必要があるのだ。 その証拠は、⑤⑥のように、理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%であるのに対し、中2数学では男子49%、女子28%と大きな差になっていることだ。そして、そうなる理由は、「女の子は理数系は苦手」「女の子は勉強が苦手と言わなければ生意気」「成長すれば、どうせ男の子に負ける」等々、周囲から苦手意識を促すようなことばかり言われて育つからである。私の場合は、社会からはそう言われて育ったが、家族が違ったのだ。 しかし、いつも感じるのは、TIMSSは中学生までの学力しか調査していないことであり、高校2年生と大学2年生の学力も調査すべきだ。そうすれば、高校で文系と理系を分けている日本の理系学力は驚くほど低く、大学2年生ではさらに低くなるため、OECDでもG20でも最下位に近くなって、教育システムや教え方に関する良い反省材料になると思うのである。 ![]() ![]() ![]() 2024.12.6西日本新聞 2024.12.4Goo 2024.9.23Coki (図の説明:左図は、TIMSS2023の順位と平均得点で、小学4年は算数5位・理科6位、中学2年は数学4位・理科3位と上位にいるが、高校・大学での調査はなく、こちらの方が悪そうだ。また、中央の図は、小学4年と中学2年の数学・理科に関する得意度で、学年が上がると男子の方が女子よりも[得意]と答えた人の割合が上がる。右図は、日本が直面している教育システムの課題について聞いたもので、どの世代も「教員教育の不十分」「時代遅れのカリキュラム」「公的資金の不足」を挙げているのは尤もだが、世代によって割合が異なるのは興味深い) *4:https://news.goo.ne.jp/article/kyodo_nor/nation/kyodo_nor-2024120401001406.html (Goo 2024/12/4) 平均より上、小4理科のみ 「勉強は楽しい」「得意」の割合 2023年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)によると、算数・数学と理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は、小4理科で国際平均をそれぞれ6ポイントと16ポイント上回ったものの、それ以外は4〜11ポイント下回った。文部科学省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている。小4では、「楽しい」の割合が算数で前回より7ポイント減の70%、理科は2ポイント減の90%。「得意」は算数が9ポイント減の56%、理科は5ポイント減の81%だった。中2は、「得意」が数学で1ポイント減の39%、理科が2ポイント減の45%、「楽しい」は数学で4ポイント増の60%、理科は横ばいの70%となった。理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った。「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%。「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差があった。 <カネと不倫で足を引っ張るえせ“民主主義”について> PS(2024年12月7日追加):*5-1-1のように、2024年10月の衆議院議員選挙後に議員数を4倍に増やして“103万円の壁”を突破すべく交渉していた国民民主の玉木代表は、*5-1-2の不倫問題をきっかけとして3カ月間の役職停止処分となった。国会議員・公務員はじめ各界のリーダーになろうとする人は、他の人が身辺を粗探ししても何も出ない生活をしておく必要があるため、「玉木氏は脇が甘すぎた」とは言える。しかし、「処女」「やまと撫子」などの言葉は死語となりつつあり、メディアにおける性の不道徳は不潔で見ていられない程であるのに、玉木氏やトランプ氏の不倫を批判した人たち自身は批判する資格があるのかを私は問いたい。何故なら、民主主義は、政策論争をする限りは有意義だが、個人が聖人のような生活をしてきたか否かに関して粗探しする場になると時間を空費し、独裁主義の方がよほど効率的になるからである。 また、*5-2-1・*5-2-2・*5-2-3のように、韓国の尹大統領が12月3日夜に、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言されたことには私も驚いたが、尹大統領の「非常戒厳宣言」のおかげで世界中が現在の韓国が置かれている立場を理解したと言える。その「非常戒厳宣言」は、与野党や市民の強い反発で12月4日未明には解除が表明され、その後、韓国与党「国民の力」の韓代表が、尹大統領の「速やかな職務執行停止」を要求したり、野党が尹氏の弾劾訴追案の可決に向けて与党の切り崩しを図ったりしている状況だそうだ。 しかし、そもそも尹大統領が選挙で大敗し、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が予算案や法律案の通過を次々と阻止して政治の停滞を招く結果となった原因には、i)2023年12月、韓国の国会が尹大統領の妻が株価操作事件に関与したとして「特別検察官」を任命する法案を可決し、尹大統領が2024年1月に拒否権を行使したこと ii) 尹大統領の妻が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる(くだらない)疑惑をかけられ、韓国ソウル中央地検は10月2日に「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」という理由で不起訴処分としたこと 等々、本人の人格否定ができなければ妻の人格を否定すべく粗探しをして中傷に結びつける民主主義とはかけ離れた人権無視の態度があったと思う。さらに、韓国では、大統領になると次は監獄に行くという事態が続いており、このような形で司法が活躍する社会は、とても民主主義国家とは言えないのである。 *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSCW342QSCWUTFK00FM.html?comment_id=30148&iref=comtop_Appeal4#expertsComments (朝日新聞 2024年11月27日) 「全国の女性を敵に回した」と憤る連合 玉木氏が不倫問題で謝罪 国民民主党の玉木雄一郎代表は27日、党の支援組織である連合の芳野友子会長と国会内で会談し、自身の不倫問題について「期待と信頼を裏切る結果になったことに心からおわびを申し上げたい」と謝罪した。芳野氏は会談後、記者団に「信頼回復に向けご努力をいただきたい」と述べ、玉木氏の進退については「ご本人が考えることだ。その考えを尊重する」と語った。ただ、不倫問題に対し、連合内では「参院選に影響が出る。全国の女性を敵に回した」との厳しい声も出ている。会談では来年夏の参院選に向けた対応も協議。国民民主、立憲民主党に連合を加えた3者で、原発を含むエネルギーなどの基本政策について協議していくことを確認した。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/352e4eb116d971b16a0a59108237a6445e9718de?page=1 (Yahoo 2024/11/15) 玉木代表の不倫相手“元グラドル”を男性は絶賛、女性は同情…のワケ。「あふれ出るB級感に悲しみを感じる」 11月11日、国民民主党の玉木雄一郎代表(55)が、香川県の高松市観光大使を務めるタレント・小泉みゆき(39)と不倫関係にあることが、週刊誌『FLASH』の電子版『SmartFLASH』により報じられた。10月27日に投開票が行われた衆議院選挙で28議席を獲得するなど大躍進を見せた国民民主党。その立役者である玉木代表のスキャンダルに多くの有権者から失望の声が寄せられている。ただ、今回の不倫報道にSNSでは玉木バッシングだけではなく、もう一つ別の角度からの声が少なくない。それは不倫相手の小泉の容姿に言及するものだ。そういったコメントを見ていると、男女で意見が大きく異なっている印象を受ける。男女間で小泉に対する声がどのように違うのか考えたい。 ●男性からは「この人相手なら、不倫するのも仕方ない」と絶賛も まず男性の意見は小泉の容姿を絶賛する傾向が強い。目元が大きく、サラサラした髪が特徴的な顔に好感を示す声は少なくない。また、スキャンダルが報じられた記事内では、ボディラインがはっきりと見えるパツパツの服を着た小泉の写真が何枚も添付されており、その妖艶な身体つきに「不倫するのも仕方ない」と玉木の不倫を肯定する声もかなり寄せられていた。小泉があまりに“エチエチ”すぎたがゆえに、玉木の情状酌量を訴える人が続出しているが、実際のところ小泉が男性に魅力的に映るのは理解できる。やはりボディラインがまるわかりの服を着ていると、否応なしに男性の性的興奮を高める。クリクリした目元も“小動物感”を演出しており、男性の支配欲・守ってあげたい欲をより一層駆り立てている印象。小泉は現在39歳ではあるが、そのファッションセンスはとても幼い。どことなく“痛さ”を覚えるが、「痛い」は「天然」「ドジっ子」と変換できる。虚栄心の強い男性からすれば、そういったデメリットを持つ女性のほうが好都合。“自分の思い通りに支配しやすい女性”と想起させ、むしろ安心感を与えるのだろう。隙が多い女性がモテるのはそういった背景が大きい。男性が小泉に惹かれるのも無理もない。 ●女性からは「あふれ出るB級感」「権力者に遊ばれて気の毒」 一方、女性のものと思われる声を見てみると、小泉の容姿には否定的。年齢不相応のファッションセンスに嫌悪感を示す人ばかり。中には、40歳手前であるにもかかわらず、腕時計をはじめとしたアクセサリーを身に付けている写真が一切ないことに懐疑的な見解を示す“観察眼の鋭い人”から声も見られた。実際のところ、女性は小泉のビジュアルをどのように捉えているのか。取材するとパンチの利いた声が集まった。「一部でバッシングされてますけど、単純に『容姿に嫌悪感』というより、なんていうか、あふれ出るB級感に悲しみを感じるんですよね。39歳ではもうレースクイーンなどの稼業は無理、これといったキャリアもなくて、玉木程度のショボい権力者に遊ばれて、お飾りのような『観光大使』の職まで奪われそうになっている」(40代女性)。「あのパツパツのTシャツも膝上30センチくらいのミニスカも、今のトレンドとは真逆だし、街で振り返られるぐらい珍しい。いまもその土俵で勝負せざるを得ないのが悲しいです。 でも、手が届きそうな感じがあるほうが、男性はグッとくるのもわかります。本人もわかってやってるはずですよ。あのお顔とボディなら、もっとステキになれるはずなのに」(50代女性)。 ●“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い 「もし小泉さんが自力で何かをなしとげていて、生き生きして、自分の好きなものを着てるなら、40でも50でもミニスカでステキに見えますよ。でも、そうじゃないことに、世の女性は気づいてしまっているんです」(50代女性)。各女性の言い分から察すると、今回のスキャンダルを“小泉が男性ウケに振り切ったがために起きた悲劇”と捉えており、“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い。たしかに小泉の容姿を否定しつつも、小泉の“軌跡”を想像して憐れむ声が散見される。つまりは、「男性は容姿に対する表面的な感想」「女性はその容姿から想像される小泉の生き様に関するお察し」に大きく分類できそうだ。 ●“不倫両成敗”ではない、女性だけが割を食う哀しさ 男女の見解が異なる背景が見えてきた。ただ、まだまだ釈然としないことがある。今回のスキャンダルを受け、小泉は自身のX、Instagramなどのアカウントを削除。小泉が19年12月から香川県高松市観光大使を務めてきたが、各メディアの取材に対して高松市は「解職も含め検討している」と回答している。また、7年前に退社したものの当時所属していた芸能事務所には小泉の公式プロフィールが残っていたが、12日までにそのページは削除された。小泉は窮地に追い込まれている中、玉木は代表の座を降りずに続投する見通しだ。小泉と同じように玉木も何かしらの責任を取るべきではないか。玉木が今後どのような対応を見せるのかも注目したい。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241207&ng=DGKKZO85315040X01C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.7) 尹氏停職、与党代表が要求 狭まる包囲網、弾劾案採決へ 国防省、司令官の職務停止 韓国与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は6日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「速やかな職務執行停止」を要求した。野党は尹氏の弾劾訴追案の可決に向け与党の切り崩しを図る。尹氏への包囲網が狭まってきた。韓国メディアによると、最大野党「共に民主党」は弾劾案を7日午後5時に採決したい考えだ。国会は弾劾案を8日未明までに議決する必要がある。韓氏は6日の党会議で、尹氏が軍の防諜(ぼうちょう)司令官に主要政治家を逮捕するよう指示した事実があると説明した。「信頼できる根拠を通じて確認した。政治家を逮捕し、収監しようとする具体的な計画も把握した」と述べた。国家情報院の次長は6日、逮捕リストに韓氏や野党の代表らが含まれていたと国会議員に明らかにした。韓氏は国会議員ではなく、弾劾案への投票権はない。韓氏が尹氏を批判する一方、与党内には尹政権を形だけでも維持し、大統領選までの時間を稼ぐべきだとの意見もある。大統領が弾劾となれば次期大統領選で不利な立場に置かれるとの懸念が渦巻く。与党は6日、断続して議員総会を開いた。党の報道官は同日深夜、弾劾案に反対するという党方針を維持すると明らかにした。7日午前9時に議員総会を再招集するとしている。与党の指導部から尹氏に党内の意見を伝え、尹氏は「議員の話の意味をよく傾聴し、よく考える」と応じたと説明した。与党側は尹氏の対応を見極めているとみられる。聯合ニュースによると、韓氏は6日の尹氏との会談後、党所属議員に「私の判断を覆すほどの言葉は聞いていない」と話したという。与党が弾劾案に反対すれば世論の批判は免れず、造反票が出るかが焦点になる。所属議員の安哲秀(アン・チョルス)氏は尹氏が退陣しないなら弾劾に賛成すると明言した。弾劾案の可決には国会(定数300)の在籍議員の3分の2に当たる200議席以上の賛成が必要となる。108議席を占める与党「国民の力」から8人以上の賛成が要る。警察と検察の当局は6日、非常戒厳を巡ってそれぞれ特別捜査体制を組んだ。警察は120人あまりの専門捜査チームで本格捜査に着手。検察は軍の検察機関と合同で捜査にあたる。国防省は6日、非常戒厳に関わったとされる陸軍の首都防衛司令官、特殊戦司令官、防諜司令官の3人の職務を停止したと発表した。それぞれ別々の場所で待機措置とし、各司令部に職務代理を置いた。国会は終日、騒然とした状況が続いた。午前には野党の政治家や支持団体が集まり、尹氏の弾劾を求めて声を上げた。尹氏は4日未明に非常戒厳の解除を宣言して以降、公の場に姿を見せていない。「尹氏が2度目の非常戒厳宣言を出す可能性がある」といった報道も緊張を高めた。3日の非常戒厳を巡る軍の動きは金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相が指示を出したとの証言がある。国防相の職務を代行している金善鎬(キム・ソンホ)国防次官は「もし戒厳発令の要求があっても、国防省と合同参謀本部はこれを絶対に受け入れない」と明言した。禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は「第二の非常戒厳は許されない。万が一誤った判断があったら国会議長と国会議員はすべてをかけて阻止する。軍と警察は憲法に反する不当な命令に応じずに、制服を着た市民としての名誉を守ってほしい」と呼びかけた。 *5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASSD40D5RSD4UHBI00QM.html?iref=pc_extlink&_gl=1*iw58rc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年12月4日) 尹大統領とは何者か 酒豪の親日家、検察出身で「友達人事」に批判も 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言した。だが、与野党や市民の強い反発を受け、一転、4日未明に解除を表明する事態に追い込まれた。尹氏とは一体、どんな人物なのか。尹氏は1960年、ソウル生まれ。検察トップの検事総長だった2020年12月、捜査妨害や政治的中立性違反などの疑いで、当時の文在寅(ムンジェイン)政権の法相から懲戒処分を受けた。有力な政治指導者がいなかった保守勢力が、「反文在寅の象徴」として尹氏を担ぎだし、22年3月の大統領選では僅差(きんさ)で勝利した。尹氏は政治家としての経験がないため、当初から人脈や指導力が不安視されていた。閣僚や政府高官に次々と検察出身者や大学時代の旧友らを起用した。各国の大使や有力政治家が出席した22年5月の大統領就任式には、検事総長時代にソウルの日本大使館に勤務していた検事を招待し、周囲を驚かせた。 ●妻の疑惑に拒否権を行使したことも 強大な人事権を握る韓国大統領は「王様と帝王を合わせたような権力者」(元大統領府高官)とされる。関係筋によれば、尹氏がある日、側近の閣僚にソウル大学当時の旧友の近況を尋ねた。側近はすぐ、この旧友に連絡を取り、政府関係機関のトップとして起用したという。こうした忖度(そんたく)ともいえる空気が非常戒厳を宣言する背景の一つにもなったと言える。親しい人物を重用する政治の極みが妻、金建希(キムゴニ)氏の存在だった。韓国の国会は23年12月、金氏が株価操作事件に関与した疑いで「特別検察官」を任命する法案を可決したが、尹氏は今年1月、拒否権を行使した。世論の不満が高まり、支持率が2割を切る事態に至り、尹氏は11月の記者会見で陳謝する事態に追い込まれていた。韓国では若者の就職難や不動産価格の高騰などから、政治に対する不信感が増大している。国会で過半数を握る最大野党・共に民主党が、予算案や法律案の通過を次々と阻止し、政治の停滞を招いたことも一因だが、世論の不満は尹氏の「わかりやすい独断政治」に向けられる事態になっていた。 ●岸田氏と夜遅くまで酒を飲み交わした 尹氏は親日家としても知られる。就任直後には、新型コロナウイルスの感染拡大で停止していた羽田・金浦両空港の直行便再開を指示。日本企業に賠償支払い命令が出ていた徴用工問題でも、韓国側が賠償金相当額を肩代わりする解決策を発表。冷え込んでいた日韓関係の急速な改善につなげた。日韓外交筋によれば、石破茂首相が来年1月上旬に訪韓する際、「来年の日韓国交正常化60年を契機に、両国関係をさらに発展させる」ことで合意する方向で調整していたという。尹氏は酒豪でも知られる。23年3月、大統領就任後初めて日本を訪れた際、岸田文雄首相(当時)と遅くまで痛飲した。酒席が終わらず、金建希氏が声を荒らげて止めたという。ソウルでの日本政府関係者を招いた酒席では、お土産に持参された度数40度以上の芋焼酎をいきなり開封し、オンザロックで出席者とともに回し飲みしたとされる。野党側は、混乱を招いた責任を追及するとして、尹大統領に辞任を求めている。弾劾(だんがい)決議案の発議には国会(定数300)の過半数、決議には3分の2の賛成がそれぞれ必要。4月の総選挙で大勝した野党勢力は3分の2に肉薄する議席を確保しており、与党の一部が離反すれば、弾劾が決議される可能性もある。与野党は世論の動向を注視したうえで、今後の方針を判断するとみられるが、低支持率の尹大統領の弾劾を求める声が高まる可能性が強い。非常戒厳に対する国民の反発は強く、決議されれば、最終的に憲法裁判所も弾劾を認める可能性もある。 *5-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSB233WBSB2UHBI022M.html?iref=pc_extlink&_gl=1*1qazrlc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年10月2日) 韓国大統領の妻、検察が不起訴処分に 高級ブランドバッグ授受疑惑で 韓国のソウル中央地検は2日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の妻の金建希(キムゴニ)氏が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる疑惑をめぐり、不起訴処分(嫌疑なし)としたと発表した。理由について「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」としている。疑惑を追及してきた野党は反発している。金氏は知人の在米韓国人の牧師からバッグを受け取ったとして、請託禁止法違反などの疑いがもたれていた。検察は7月に金氏を事情聴取するなど捜査を進めてきた。金氏の疑惑をめぐっては、国会で多数を占める野党が主導して、政府から独立した特別検察官を任命するための法案を9月に可決したが、尹氏は2日、拒否権を行使した。進歩(革新)系最大野党・共に民主党は2日、尹氏が検察出身であることを念頭に「検察は大統領府が望む結論を出した」と批判した。金氏の疑惑は「金建希リスク」と呼ばれ、尹氏の支持率低迷の理由の一つとされている。金氏はドイツ車の輸入販売会社の株価操作に関与したとされる疑惑ももたれており、検察は捜査を続けている。 <政治雑感> PS(2024年12月8日追加):*6-1-1のように、6階建マンションの最上階にある猪口邦子参院議員宅から出火し、国際政治学者で東大名誉教授の夫孝氏と長女が亡くなった。しかし、i)最初のテレビの画像では何かが爆発したような燃え上がり方だった ii)出火原因が特定されないのに事件性はないとされた iii)最初は台所からの失火と言われたが、燃え方が激しかったのは応接室だった iv)事件性は外部から侵入して油をまくことに限っている 等の不自然さがあってすっきりしない。猪口氏は、私と同期の2005年の郵政解散で衆議院議員となり、2005年に内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)になられ、私の提言も受けて少子化対策を行って、その結果、合計特殊出生率は2005年の1.26から2015年は1.45まで上がった。少子化の真の原因は、*6-1-2に纏められているとおりだと思うが、2016年以降に合計特殊出生率が下がり始めたのは、物価上昇による生活費の高騰、都市部マンションの高騰、高齢になった時の準備、教育費の高騰など、多くの子を育てる費用を捻出できなくなったことが原因であろう。 また、*6-2のように、仙台市秋保地区周辺のメガソーラー建設計画については、地元の町内会や温泉組合など10団体が、景観悪化や森林伐採による土砂崩れの懸念のため、郡和子市長に建設中止を要望されたそうだ。私も、自然豊かな景観を悪化させたり、土砂崩れのリスクが増したりするだけでなく、CO₂の吸収源自体を失うことになるため、森林を伐採してメガソーラーを建設するのは止めた方が良いと思う。そのため、これまで作ったメガソーラーも下を放牧地等にして二重に利用したり、今後メガソーラーを作るとすれば農地に併設する形で作ったりし、森林に設置するのは風力発電機にした方が良いと思うわけである。 さらに、*6-3のように、佐賀平野のクリークののり面劣化が進んでいたため、全703kmの護岸工事を進め、県は東西を走る「横幹線」や支線など約580kmを担当して木柵による護岸工事を行い、国は南北を走る「縦幹線」約170kmを担当して植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどして整備しているそうだ。整備が進めばクリークの貯留容量が増えて災害対策効果向上が期待できるのは良いことだが、せっかくクリークの整備を進めるのなら、水をたたえたクリークのある風景は希少で美しいため、両岸に水をよく吸って根が張り、桜のような花が咲くアーモンドを植えると、公園以上の田園風景になるのに、と思った。 ![]() ![]() ![]() 2023.3.1東京新聞 2023.5.3日経新聞 Zehitomo (図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で、2005年に最低の1.26を記録してから2015年の1.45までは上昇した。また、中央の図は、合計特殊出生率の推移のみを大きな縮尺にして表したもので、同じ結果が出ている。それでは、どうやって生産年齢人口不足を解決するのかと言えば、右図で75歳までを生産年齢人口と考え、それと同時に機械化も進めれば、年金問題と同時に当面の解決はできそうだ) ![]() ![]() ![]() 地域の礎 横尾土木(株) 2024.12.7佐賀新聞 (図の説明:左は、有明海を干拓して農地を広げた筑後川流域の航空写真で、クリークが不規則に曲がりくねっているため、大型機械が入りにくいとのことである。そこで、中央のように、まっすぐにしてクリークを広げ、木材やコンクリートでのり面を補強しており、右は植生を妨げないコンクリートで補強したところだが、水をたたえたクリークのある風景は少ないため、せっかくなら両岸に水をよく吸って根が張るアーモンド《花は桜と同じ》を植えると、さらに美しい田園風景になりそうだ) *6-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/370859 (東京新聞 2024年12月1日) 「事件性はなく失火」か…猪口邦子参院議員宅、出火原因は未特定 死亡は夫・孝さんと長女と確認 東京都文京区にある自民党の猪口邦子参院議員(72)の自宅マンションで2人が死亡した火災で、警視庁捜査1課は1日、死亡したのは夫で国際政治学者の孝さん(80)と、長女(33)と判明したと発表した。いずれも死因は焼死だった。出火原因は特定されていないが、事件性はなく失火とみられる。同課は、特に燃え方が激しかった応接室から出火したとみている。室内にストーブはなく、ライターなどの着火物もなかった。外部から人が侵入した形跡や、室内に油をまいた跡も確認されなかった。死亡した2人は台所付近で倒れているのが見つかった。火災は11月27日午後7時10分ごろに発生。6階建てマンションの最上階150平方メートルが全焼した。一家は4人暮らし。猪口氏と次女は外出中で無事だった。28、29日の2日間にわたり実況見分が行われていた。死亡した孝さんは政治学や国際関係論が専門の東大名誉教授。 *6-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD180MY0Y4A111C2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 少子化の真の要因は何か 近藤絢子・東京大学教授(1979年生まれ。東京大経卒、コロンビア大博士(経済学)。専門は労働経済学) ○80年前後に生まれた女性の出産数は微増 ○背景に出産後も就業継続できる環境整備 ○足元の出生率低下は固定観念離れ分析を 少子高齢化は日本経済が直面する最大の課題の一つである。選挙のたびに少子化対策が焦点になり「若年層の経済状況の悪化が少子化の元凶である」「若年層の雇用を安定させ、収入を増やせば子供は増える」との主張が繰り返される。若年層の経済状況の悪化と少子化を結びつける議論は、1970年代前半生まれの第2次ベビーブーマー世代が30代を迎えた2000年代ごろから盛んになった。バブル崩壊後の「就職氷河期」によって若年層の収入が減り、非正規雇用が増えたことで少子化が加速しているという論調だ。たしかに第2次ベビーブーマー世代が大学を卒業するころに就職氷河期が始まり、彼らの出産適齢期に第3次ベビーブームと呼べるほどの出生数の増加が起こらなかったのは事実だ。以来、就職氷河期世代が子供を持てなかったために少子化がさらに進行したというのが通説となっている。しかし未婚化・少子化の傾向は氷河期世代が生まれる1970年代からすでに始まっていた。90年代以前は、女性の社会進出が進んで結婚・出産に伴う機会費用が上昇したことが少子化の主な要因とされてきた。事実、バブル期も合計特殊出生率は下がり続けていた。そして第2次ベビーブーマー世代より就職状況の悪かった80年前後生まれの世代では、むしろ出生率は下げ止まっていたのだ。 ◇ ◇ 図は、人口動態統計(厚生労働省)の母親の年齢別出生数と国勢調査(総務省統計局)の各歳別人口を用いて、生まれ年別に1人の女性が35歳及び40歳までに産んだ子供の数の平均を示したものだ。就職氷河期世代を「1993年から2004年の間に高校や大学を卒業した世代」と定義すると、生まれ年で1970〜85年生まれに相当し、第2次ベビーブーマーはその最初の5年間にあたる。確かに66年生まれの女性に比べると70〜85年生まれの女性が産んだ子供の数は少ない。しかし出生数の減少は主に66〜70年生まれの間で起きていて、40歳時点の平均出生児数は70年代前半生まれ、35歳時点は76〜77年生まれを底にわずかながら増加に転じている。最も景気が冷え込んでいた2000年前後に大学を卒業したのは1970年代後半生まれ、高校を卒業したのは80年代前半生まれだ。彼女たちはその上の世代よりもさらに厳しい雇用状況にさらされてきたはずだが、1人当たりの出生数は下げ止まっていたのだ。なぜ、この世代で1人当たりの出生数は下げ止まったのだろうか。おそらくは育児休業の期間や育児休業給付金の拡充、保育施設の整備、社会規範の変化などによって、出産後も仕事を続けられるようになったことが大きいのではないか。単なるタイミングの一致を因果関係と解釈することには慎重であるべきだが、若い世代ほど既婚女性の就業率や正規雇用比率が高いのは事実だ。労働力調査(総務省統計局)で1960年代後半生まれと80年代前半生まれを比べると、大卒既婚女性の30歳前後(卒業後7〜9年目)の就業率と正規雇用比率はそれぞれ8.2%ポイントと7.4%ポイント上昇した。他の学歴でも、卒業後7〜9年目の既婚女性の就業率は上昇している。背景には、第1子出産前後での就業継続率の上昇がある。出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、女性が第1子出産後も就業継続する割合は、85〜99年に出産した女性は24%程度で横ばいだったのが、2000年代に入ると上昇し始め、10〜14年には42%、直近の15〜19年では54%に達した。2000年代は、1970年代生まれが30代を迎える時期に相当し、既婚女性の就業率や正規雇用割合が上昇した時期と一致する。もう一つ無視できない要因として、体外受精をはじめ高度生殖医療の普及があるかもしれない。国による不妊治療の助成は2004年に開始され、22年の保険適用に至るまで段階的に拡充された。35歳時点と40歳時点の平均出生児数の差が拡大していることから、30代後半での出産数が増えていることが分かる。ここに高度生殖医療の普及が影響していた可能性がある。もっとも35歳までに産む子供の数への影響は限定的なので、出産後も仕事を続けられる環境整備が寄与した部分は大きいのではないか。2010年代は認可保育所の待機児童が問題となったが、保育所のキャパシティー自体は継続的に拡大していた。それに追いつかないほど就業を続ける母親が増えたことが、待機児童が増えた原因だったのだ。 ◇ ◇ ただし世代内の格差という視点で見ると、経済的に安定している方が子供を持ちやすいことも事実だ。昔から男性は経済力のあるほうが結婚し子供を持ちやすい傾向があるが、近年は女性にも同様の傾向が見られ、しかも若い世代ほどその傾向が強まっている。かつては高学歴でキャリア志向の女性ほど、仕事と家庭の二択に直面して、子供を持つことを諦める割合が高かった。しかし社会規範が変化し共働きが増えると、家庭と両立できるような安定した仕事に就いている女性のほうが子供を持ちやすくなってきたのだ。経済力の指標として、学校を卒業してすぐに正社員の仕事に就いた女性とそうでない女性を比較してみよう。卒業後すぐに正社員にならなかった女性は20代のうちはむしろ既婚率や子供がいる割合が高いものの、これはおそらく因果が逆で、若年妊娠の結果、就職する前に結婚・出産をする女性がいるためだろう。30代に入ると逆転し、正社員だった女性の方が既婚率が高く子供の数も多くなる。学歴別で見ても、30歳代後半以降で同じ世帯にいる子供の数は、大学卒ではやや増加傾向にあるが、高校卒では減少傾向にある。かつては大卒の女性は高卒の女性よりも結婚や出産をしない傾向があったのだが、ちょうど1980年前後生まれのあたりで大卒と高卒の子供の数が逆転した。こうした経済力による世代内格差の出現が「雇用の不安定化が少子化を招いている」という印象につながっているのかもしれない。世代内の経済格差が子供を持てるか否かにまで影響すること自体は看過できない問題だ。しかし近年再び出生率が急激に下がってきている原因は別のところにあるのではないだろうか。近年は人手不足から若年の実質賃金は相対的には上がっている。保育所にも余裕が出てきて育児休業の取得率も上がっているのに少子化は加速しているのだ。新型コロナウイルスによる行動制限で若い男女が出会う機会が失われたことや、医療へのアクセス不安から妊娠を控えた影響もあるだろう。しかし出生率の低下はコロナ禍の前から始まっており、行動制限がほぼなくなった23年以降も回復する兆しがみられない。都市部のマンション高騰、高齢化に伴う将来不安、過熱する教育投資など考えられる要因は幾つかある。何がいま出生率を下げているのか、一度固定観念から離れて考える必要がある。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC248BG0U4A021C2000000/ (日経新聞 2024年10月24日) 仙台・秋保でメガソーラー計画 住民らが市長に中止要望 仙台市の秋保地区周辺での大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画を巡り、地元の町内会や温泉組合など10団体は24日、郡和子市長に建設中止を要望した。景観の悪化や森林伐採による土砂崩れなどが懸念されるためとしている。秋保小学区連合町内会によると、沖縄県の企業が約600ヘクタールの山林に太陽光パネルと蓄電池の製造工場と、メガソーラーを整備する計画で、3月に地権者向けの説明会を開いた。2027年5月に工事に着手し、31年4月の操業を予定しているという。同会の大江広夫会長は「秋保地区は里山や温泉に代表される自然豊かな地域だ。国の脱炭素の政策は理解できるが、つくる場所を考えてほしい」と話す。 *6-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1370316 (佐賀新聞 2024/12/7) 佐賀平野のり面劣化、護岸工事703キロ必要 クリーク補修81%完了 計画遅れも2028年完了見込み のり面の劣化が進んでいた佐賀平野のクリークに関して、整備事業が進展している。佐賀県が2011年に打ち出した翌年度から12年間の整備計画で、総延長約1500キロのうち護岸工事などが必要な区間703キロで、本年度までに約81%にあたる572キロで補修が終了した。若干の遅れはあるものの、一部をのぞき、28年までの事業完了を見込んでいる。県農山村課によると、土がむき出しののり面が水位の上下や浸食で崩落している場所が目立ち、貯水機能や営農に支障をきたすおそれがあった。県では東西を走る「横幹線」や支線など約580キロを担当し、木柵による護岸工事を行っている。南北を走る「縦幹線」約170キロは国が担当し、植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどしてのり面の整備を行っている。県が整備する13地区のうち、佐賀市西部、上峰、神埼市千代田中央の3地区で整備が完了している。残り10地区についても着々と整備が進み、範囲の広い佐賀市川副をのぞいた9地区で28年までの事業完了を見込んでいる。事業完了が12年間の整備計画期間からずれ込む見通しとなった要因としては、旧民主党政権時代の「事業仕分け」で「農業農村整備事業関係予算」が大幅減額となったことなどがあるという。民主党政権前の2009年は5820億円だったが、政権交代後の12年には2187億円まで落ち込んだ。クリークではここ数年、大雨対策で事前放流を行い、約1200万トンの洪水貯留容量を確保している。整備が進めば貯留容量も増え、災害対策への効果向上が期待できる。江口洋久課長は「クリークの事前放流が佐賀の風土として定着してほしい」と話した。 <日本のサイバー・セキュリティーについて> PS(2024年12月9日追加):*7-1は、①能動的サイバー防御の法整備には一定の条件の下で通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要 ②政府は有識者会議の最終提言を踏まえて、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする ③有識者会議の最終提言は、通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載 ④通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提で、提言は定期的な報告書公表などの適切な情報公開の必要性を訴え、独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集する問題がないかを調べる機能を備えて、憲法や通信の専門家らで構成する見通し ⑤監視対象はi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報で、日本から海外への通信も監視するのはマルウエアに感染した国内サーバーがあるため ⑥「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要とし、メールの中身をすべて見ることは適当でないと明記 ⑦膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないため、検索条件等を絞り、機械的にデータを選別すべきと唱えた ⑧経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向けて協議に応じる義務を課し、使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエア情報の国への登録を義務づける制度も提案 ⑨電力・ガス事業者等がサイバー攻撃に遭うと国民生活への影響が大きいため、重点的に監視対象へ ⑩有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラ等への攻撃も重点 ⑪「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」とした と記載している。 まず、EUは、個人の人権を大切にし保護する個人主義が根底にあるのに対し、日本は、「防衛や企業のため」と称すれば個人の人権を疎かにすることが許される集団主義・全体主義の発想が根底にあり、それがEUと日本の法律及び運用の違いとなって出て来ているのである。 そして、日本国憲法は、敗戦後に欧米の指導で作られたため、②のように、「通信の秘密」が憲法に記載されているのだが、日本政府は、①のように、能動的サイバー防御の法整備には通信情報の監視が必要として有識者会議を設定し、その有識者会議は、③のように「通信の秘密は、法律により公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と提言している。そして、憲法との整合性をとるために、④⑪のように、透明性確保や憲法や通信の専門家らで構成する独立の第三者機関のチェックを加えたようだが、“独立の第三者”というのは、メンバーの選び方によってどんな結論でも出せることが、経産省設置の原発推進派だらけの有識者会議や原子力規制委員会の適合性審査を見れば明らかなのである。また、政府が設置した有識者会議は、⑤⑦のように、監視対象をi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報としているが、そもそもサーバーのウイルス感染対策は、それぞれのサーバーが行なうべきで、日本政府にやってもらうべきものではないし、⑥の「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」を見ていただく必要など全く無いのである。 さらに、⑧⑨⑩のように、国民の重要なインフラを担っていたり、有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラは、サイバー攻撃だけではなく、複合災害や武力攻撃に対するセキュリティーもやっておくのが当然であるため、今更、サイバー攻撃に的を絞って政府が監視するというのは、政府が国民を監視するためのこじつけにしか見えない。 次に、*7-2は、⑫政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行するEUと比べて限定的 ⑬EUは、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて問題点を幅広く捉える ⑭EUは、デジタル市場法(DMA)と同時に企業に違法コンテンツ排除や偽情報拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定 ⑮EUは、2018年施行の「一般データ保護規則(GDPR)」で、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護 ⑯日本は包括的法整備には至らず、個人データ保護は規制強化に反対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる ⑰EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く設定 ⑱課徴金水準も、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%としたのに対し、EU の制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)と巨額 ⑲日本の経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」とする と記載している。 EUは、⑬⑭⑮のように、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて、デジタル市場法(DMA)と同時に「デジタルサービス法(DSA)」を制定し、「一般データ保護規則(GDPR)」によって「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護する。しかし、日本は、⑯⑲のように、包括的法整備はせず、規制強化に反対するIT業界に応えて、個人データ保護はEUから大きく遅れているが、経済官庁幹部は「企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」としているのである。 その結果、⑫⑰のように、EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く限定し、⑱のように、日本の課徴金水準は、EUの制裁金と比較して著しく低い。実際、私は、週刊文春に嘘八百の記事を書かれ、その偽情報が検索サイト上位で拡散されたことによって選挙結果を歪められたのだが、訴訟で人権侵害や侮辱は認められたものの、損害賠償金額は普通の人なら「訴え損」と思う程度の低い金額で、「(女性である)私が一生かかって築き上げた人格に対する誹謗中傷の値段は、たったこの程度か、ふざけるな!」と憤りを覚えた次第なのである。なお、虚偽で他人を陥れる行為は“表現の自由”で護られる範囲にはならず、憲法21条の「表現の自由」の範囲も人権侵害・人格権の侵害・セクハラ等の範囲の進展とともに狭くなっているため、メディアはじめSNSが“表現の自由”を武器に「何を言ってもいいだろ!」と主張できる範囲は、これらを除く範囲であることを忘れてはならない。 *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241130&ng=DGKKZO85152850Z21C24A1EA1000 (日経新聞 2024.11.30) サイバー防御、「通信の秘密」と両立探る、監視データは選別/定期的に情報公開 能動的サイバー防御の法整備には平時から通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要になる。政府は29日に有識者会議がまとめた最終提言を踏まえ、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする。提言は重大なサイバー攻撃への対策には一定の条件の下で通信を監視する必要があると提起した。通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載した。監視対象は(1)日本を経由する海外間(2)海外から日本(3)日本から海外――の通信情報を想定する。海外から海外の通信は日本の海底ケーブルを経由するものが多く、中国やロシアなど懸念国のサイバー攻撃に関する情報の入手が期待できる。日本から海外への通信も監視するのはマルウエア(悪意のあるプログラム)に感染した国内サーバーが踏み台となって国内外への攻撃に悪用される場合があるためだ。「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要だと整理した。メールの中身を逐一すべて見るようなことは「適当とは言えない」と明記した。膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないと記した。検索条件などを絞り、機械的にデータを選別すべきだと唱えた。攻撃の標的となりやすいインフラ事業者には事前に同意を得ておくべきだとの考えも示した。経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向け「協議に応じる義務を課すことも視野に入れるべきだ」と書き込んだ。電力・ガス事業者などがサイバー攻撃に遭った場合、国民生活への影響も大きいため、重点的に監視対象とする。有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラなどへの攻撃も重点を置く。基幹インフラ事業者が使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエアの情報の国への登録を義務づける制度も提案した。攻撃の兆候がある相手サーバーに入って無害化する手法は「状況に応じ臨機応変な判断」が必要と指摘した。「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」と盛り込んだ。通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提となる。提言は定期的に報告書を公表するなど適切な情報公開の必要性を訴えた。独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集するといった問題がないかを調べる機能を備える。憲法や通信の専門家らで構成する見通しだ。提言は官民の人材交流や中小企業への対策支援の重要性も説いた。すでに能動的サイバー防御を導入している英国や米国などは情報の取得や処理のプロセスを第三者機関が監視する仕組みをもつ。政府は海外事例を参考に制度設計する。 *7-2:https://mainichi.jp/articles/20240418/k00/00m/020/316000c (毎日新聞 2024/4/18) スマホ新法、EUに比べデジタル規制は「限定的」 日本が遅れる理由 政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行する欧州連合(EU)に比べると限定的だ。EUは巨大IT企業のビジネスモデルの問題点をより幅広く捉えている。市場支配によって公正な取引がゆがめられるだけでなく、個人データの乱用や偽情報の拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えるためだ。EUはデジタル市場法(DMA)と同時に、企業に違法コンテンツの排除や偽情報の拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定した。また、2018年に施行された「一般データ保護規則(GDPR)」により、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護している。個人データは巨大ITのビジネスモデルの核心だ。日本はこうした包括的な法整備には至っていない。特に個人データ保護の面では規制強化に対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる。DMAは巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、今回のスマホ新法は規制対象の範囲をスマホアプリ市場と狭く設定した。また、課徴金の水準を見ても、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%と定めたのに対し、DMAの制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)とより巨額だ。EUにはデジタル分野でのルール作りを主導することで、米巨大IT企業が牛耳るデジタル市場での影響力を確保する狙いがある。実際にEUの規制によって巨大ITがサービスのあり方の変更を迫られる例が相次いでいる。一方、政府は今後もさまざまなデジタル規制を検討していくとみられるが、ある経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべきだ」と話す。 <マイナ保険証のセキュリティーについて> PS(2024年12月10日追加):*8-1は、①12月9日から救急患者を受け入れた病院が患者の意識がなく同意がなくてもマイナ保険証で使用中の薬や持病など過去の医療情報を閲覧できるシステムを運用開始 ②救命率向上・治療後生活の質の向上に繋がる可能性 ③例えば心臓・脳の血管が詰まって倒れた救急患者は血液サラサラにする薬を飲んでいると出血を起こしやすいので正確な薬の情報が重要 ④厚労省が開発する新システムは医療者が過去5年分の患者の受診歴・処方された薬剤・診療・健診等の情報と過去100日分の電子処方箋情報等が閲覧可能 ⑤今後はマイナ保険証なしでも名前・生年月日・性別・住所の4情報がわかれば閲覧可能 ⑥消防庁もマイナ保険証を使って救急隊が患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備し119番通報した家族らに患者本人のマイナ保険証を準備しておくよう依頼 としている。 また、*8-2・*8-3は、⑦政府は国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証廃止を閣議決定 ⑧2024年12月2日から新規の保険証発行ができなくなる ⑨2023年11月のマイナ保険証利用率は4.33% ⑩「何のメリットもない」「顔認証や暗証番号が面倒」「保険証で十分」が患者・国民の声で、世論調査では8割超が存続・延期を求める ⑪保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後に紐づけミス報告 ⑫医療現場でマイナトラブルは多岐 ⑬こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱するので、保団連は患者・国民、諸団体と保険証存続を求める取り組みを推進 ⑭2024年も健康保険証を使い続けることが保険証を残す最大の力 ⑮2023年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率は4.36% ⑯政府はキャンペーンで2024年5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせているが、2024年1月の国民のマイナ保険証利用率は4.60% ⑰推進側の国家公務員のマイナ保険証利用率も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印 ⑱マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を12月に廃止することは大問題 等としている。 マイナ保険証の問題点について、保団連は、⑪⑫⑬のように、i)紐づけミスが多発していること ii)医療現場でのトラブルが多岐に渡ること iii)こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱する としているが、これらは導入初期のインプットミスと不慣れによるトラブルであるため、導入して時間がたてば解消していくものである。 しかし、⑨のように、国民全体で利用率が4.33%と低い理由を明らかにしているのが、⑮⑰の国家公務員のマイナ保険証利用率がわずか4.36%と国民全体より低く、「マイナ保険証のメリット無し」という烙印を押していることで、現職国家公務員は、それでも「メリット無し」という柔らかな拒否感を示しているが、実際には被保険者にとってはディメリットの方が大きいのだ。 そして、そのディメリットとは、マイナンバーカードに載ったマイナ保険証は、一枚のカードですべての情報にアクセスできるため、便利である反面、紛失や悪用が起こった場合には、すべての情報がリスクに晒されることである。従って、最善のセキュリティー対策は、1つのカードに情報を紐付けしすぎないことで、医療情報のように守秘義務を要する情報は、医療の専門家だけが見る保険証をネットワークで繋げば良く、①~⑥は、それで十分解決できる筈なのだ。 では、政府は、何故、⑦⑧⑯のように、キャンペーンや217億円もの補助金を使ってまで保険証を廃止し、半強制的にマイナンバーカードに保険証を紐付けして、マイナ保険証に変更したがっているのかと言えば、まさに紐付けされたその情報を使いたいからである。例えば、所得と紐付けして公的医療保険でカバーされる割合を変えたり、特定秘密保護法・運転免許証等で特定疾患の患者を排除したりするための悪用で、公務員はそれを知っているためディメリットを感じているのであり、国民もまたうすうすそれを感じているから、⑩の結果になっているのだ。 そのため、専門家集団である全国保険医団体連合会が保険証廃止に抗議するのであれば、⑭⑱のように、マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を廃止することは大問題として抵抗するのではなく、疾患に基づく差別や保険医療を受ける段階での(大したこともいない)所得差による負担割合の差の問題について、資料を添えて正攻法で抗議するのが良いと思う。 *8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSD435GVSD4UTFL01DM.html (朝日新聞 2024年12月6日)意識ない救急患者、マイナ保険証で医療情報を閲覧 病院で運用開始へ 救急患者を受け入れた病院が、患者の過去の医療情報を閲覧できるシステムの運用が9日から始まる。患者の意識がなく、同意がとれなくても、保険証にひもづいたマイナンバーカード(マイナ保険証)があれば、患者が使っている薬や持病などを医療者が把握できるようになる。救命率の向上や、治療後の生活の質を上げることにつながる可能性がある。救急現場では、意識のない患者から得られる情報が乏しいことが、治療法を選ぶ上で大きな障壁になってきた。例えば、心臓や脳の血管が詰まって突然倒れた救急患者では、手術前に血液検査などをしないと危険な場合がある。患者が普段、血液をサラサラにする薬をのんでいると、出血を起こしやすくなり、手術前に中和薬などが必要になるためだ。どの薬をのんでいるかによっても対応が異なるため、正確な薬の情報が重要になる。厚生労働省が開発する新たなシステムでは、医療者が、過去5年分の患者の受診歴や処方された薬剤、診療、健診などの情報のほか、過去100日分の電子処方箋(せん)の情報などを閲覧することができる。9日から順次、病院に導入され、今年度中には救命救急センターがある病院のほとんどで使われる見込みだ。また、今後はマイナ保険証がなくても、名前、生年月日、性別、住所の4情報がわかれば、閲覧できるようにする。総務省消防庁でも、マイナ保険証を使って、救急隊が救急車の中で患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備しており、来年度には全国の消防本部で展開する予定だ。119番通報した家族らに、患者本人のマイナ保険証を準備しておくように依頼していくという。 *8-2:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/information/hokensyonokose/ (全国保険医団体連合会 2024.12) 保険証廃止勝手に決めるな 政府は、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定(政府は、国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定しました。2024年12月2日からは新規で保険証を発行することができなくなります。2023年11月のマイナ保険証の利用率はわずか4.33%と7カ月連続で低迷しています。厚労省が示した患者総件数に占めるマイナ保険証利用率はわずか2.95%とさらに低い数字です。「何のメリットもない」、「顔認証や暗証番号が面倒」、「保険証で十分」が患者・国民の声です。世論調査で8割超が存続・延期を求めています。保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後も紐づけミスが報告されています。医療現場でマイナトラブルは多岐にわたり、厚労省が対策したトラブルも一向になくなりません。こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱します。保団連は、患者・国民、諸団体とともに、保険証存続を求める取り組みを推進します。「#保険証廃止勝手に決めるな」を掲げて記事を配信します。 2024年も健康保険証使い続けることが保険証を残す最大の力となります。「#保険証廃止勝手に決めるな」の声をSNS等で拡散していきましょう。 *8-3:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-02-29/ (全国保険医団体連合会 2024.2.29) 12月以後の国家公務員マイナ保険証利用率を速やかに公表すべき! 厚労省は2月29日の医療保険部会で23年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率を公表しました。国家公務員全体でマイナ保険証の利用率がわずか4.36%です。政府は、マイナ保険証使ってみようキャンペーンでは数値目標として5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせています。ところが24年1月の国民のマイナ保険証利用率が4.60%であり、推進側の国家公務員のマイナ保険証も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印を押しています。マイナ保険証利用率が低調なままで健康保険証を12月に廃止することは大問題です。保団連は、厚労省に23年12月以後の国家公務員のマイナ保険証利用率を速やかに公表するよう要望しました。 <おかしな財源論> PS(2024年12月12~16日追加):平成29年度税制改正によって、平成30年分以降の所得税で適用されている配偶者控除は、下段の左図のように、扶養者(仮に夫とする)の所得によって変わり、被扶養者(仮に妻とする)の所得が103万円以下で、扶養者の所得が900万円以下なら満額の38万円、900万円超950万円以下なら26万円、950万円超1,000万円以下なら13万円、1,000万円超なら0円というように、配偶者控除を満額とれる妻の最大所得が103万円なのである。また、配偶者控除の壁を緩やかにするため配偶者特別控除制度も変更して、上段の左図のようになだらかになり、配偶者特別控除をとれる妻の最大所得が年収201万円になったわけである。しかし、妻はじめ親族を扶養すれば夫の生活費負担が大きくなるのは夫の所得額とは関係無い上、物価上昇で生活コストが上がり、累進課税で所得の再分配はできているため、夫の所得によって控除額を変更するのは所得税の計算が複雑になりすぎ、公正・中立・簡素の税の原則にも反する。 従って、理論から離れて屋上屋を重ね複雑怪奇になっている配偶者控除・配偶者特別控除は、共働きが普通になった現在であれば生産年齢人口の人は廃止し、共働きでも必要な保育・介護は保育制度・介護制度を充実させて対応すべきである。また、子の扶養控除も子育てに関する物価上昇に応じた児童手当の増額と教育無償化をセットにして廃止すべきで、そうすれば何に使われるかわからない僅少な税額控除より確実に子への投資になる。なお、米国の選択的夫婦合算課税は、夫婦間で所得差が大きい場合に累進税率が低くなる合理的な制度であり、フランスのN分N乗方式は、それに加えて子の数も累進税率に影響させるというさらに合理的な制度である。 そのような中、*9-1-1は、①自・公・国の幹事長は所得税が生じる「年収103万円の壁」を2025年から引き上げることで合意し178万円を目指す ②自公は引き上げ時期で現場事務負担等を理由に2025年からの実施に消極的 ③非課税枠の引き上げに伴い財源の手当てが必要 ④ガソリン税の暫定税率廃止も一致 ⑤大学生年代(19~22歳)の子を扶養する親の特定扶養控除も、国は少なくとも150万円で2025年分から実施するよう要求 ⑥高校生の扶養控除について国は維持を求めた ⑦2024年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳を加え、与党は2024年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要 等としている。 また、*9-1-2は、⑧自・公は12月13日、所得税がかかる年収最低ラインを基礎控除と給与所得控除の最低保障額を10万円ずつ引き上げ103万円から123万円にする案を国に示した ⑨自の宮沢税制調査会長は30年間で生活必需品の物価が約2割上がったことを念頭に決めたと説明 ⑩国の古川税調会長は「グリーンも全然見えない距離」と拒否 としている。 上の①⑧⑨⑩については、1995年から2025年の30年間の物価上昇率は、頻繁に買う生鮮食品を含む必需品では約2割ではなく3割以上であり、さらに統計と体感(頻繁に購入する財・サービス)との差も15%程度あるため、物価上昇から考えれば150万円に引き上げるのが妥当で、これは、⑤の大学生年代の子を扶養する親の特定扶養控除150万円とも整合性がある。また、②については、所得税の扶養控除と特定扶養控除の数値を変えるだけなので、やるとすれば2025年分から実施可能だ。さらに、生活の基礎的コストである基礎控除を物価上昇に伴って上げるのは当然なので、住民税にも同じ変更を適用すれば簡素になる上、③の財源は(これまで公正でも中立でもなかった)配偶者控除の廃止と物価上昇に伴って生じる税収増で賄える筈である。なお、⑥の高校生の扶養控除は、⑦のように、月1万円の児童手当が給付され始めたため、2024年度税制改正で(縮小ではなく)廃止し、児童手当の金額自体を物価上昇に合わせて上げるべきである。なお、④のガソリン税の暫定税率廃止には賛成だ。 また、社会保険には、上段の中央の図のように、106万円と130万円の壁があり、106万円の壁は、i)賃金月額8.8万円(年収約106万円以上 ii)厚生年金保険被保険者である従業員数51人以上 iii)週の所定労働時間20時間以上 iv)学生でない という条件をすべて満たす従業員を雇用する企業は社会保険の加入手続きを行わなければならず、130万円の壁は、i)企業の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人以下 ii)年間収入見込み130万円以上 という条件を満たすと、企業もしくは個人が社会保険の加入手続きを行わなければならないというもの(https://www.mdsol.co.jp/column/column_121_2607.html 参照)だが、従業員の福利の観点から見れば、企業規模で従業員の社会保険加入を差別するのは適切でないため、企業規模要件は速やかに廃止すべきだと思う。しかし、所得要件は「基礎的生活コストの除外」という視点から税制と同じ150万円にするのが、仕組みを変に複雑化させず整合性がとれると考える。 このような中、*9-2-1・*9-2-2は、5年に1度の年金制度改革に関する厚労省の項目案は、①老後受給額の底上げと幅広い世代の就労促進が柱 ②見直しの第1は基礎年金の底上げ ③全ての人が受け取る基礎年金は年金財政悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるため、過去30年と同程度の経済状況が続くと将来の受け取り水準が3割下がる ④厚労省は財政が比較的安定している厚生年金積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げすると、基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まる ⑤上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金底上げ効果で厚生年金受給者の大半は合計年金額増 ⑥経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は生涯総額で136万~215万円受給額が増え、2024年度に65歳になる人は76万円減ることもある ⑦パート労働者は週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入 ⑧週20時間の手前で働き控えが起きないよう月収13万円(年収156万円)未満・標準報酬月額12.6万円(年収151万円)未満のパート労働者を対象に労働者側の厚生年金保険料負担を企業が肩代わりできる仕組みを作る ⑨例えば年収106万円の人は9対1で企業が負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻せば働く人の手取り急減が防げる ⑩制度導入は企業毎の労使合意が前提 ⑪一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を月50万円から62万円か71万円に引き上げ ⑫働く女性が増えているため遺族厚生年金の男女差をなくす ⑬厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限(月収65万円)を75万~98万円に引き上げ ⑭経済同友会と連合は、会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致 ⑮連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきで、働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考えるべき0」と語った としている。 このうち、④⑤⑥の「足りなくなったら、給付水準を下げればよい」という発想自体が公的年金の信頼性を損なう原因になっている上、③の基礎年金の年金財政悪化は「第3号被保険者制度」と社会保険庁(日本年金機構の前身)のずさんな運用が原因であるため、まさに⑭⑮のとおり、まず第3号被保険者制度の廃止で賄うのが筋である。本来なら、他人の負担で専業主婦を優遇する理由などなかったため過去に遡って返して貰いたいくらいであり、「比較的安定している」などという理由で高い年金保険料を支払ってきた人の厚生年金積立金の一部を使うのでは、日本年金機構も社会保険庁と同様、他人の年金積立金を平気で流用する組織だということであり、運用のずさんさも変わっておらず、公正性に欠ける。従って、⑦のパート労働者で週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入というのは正しいし、厚生年金に加入しない人は自営業の妻と同様、自分で国民年金に入るべきで、そうすれば⑧⑨⑩のように、屋上屋を重ねてパート労働者の厚生年金保険料負担を労使合意で企業が肩代わりするなどという不完全かつ不公平な仕組みを作る必要はないのだ。なお、⑪の一定の給与所得がある高齢者の受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を引き上げるのは良いが、保険料を支払って積み立ててきた金額に応じて「ねんきん定期便」で支給額を確認してきたのであるから、働いたからと言って年金支給を停止したり、年金支給に上限を設けたりすることは契約を反故にしているものである。なお、⑫の働く女性が増えたため遺族厚生年金の男女差をなくすのは良いが、未だに労働条件に男女差があるため、同時に労働条件の男女差をなくすべきであろう。さらに、⑬の厚生年金保険料算出に用いる「標準報酬月額」の上限引き上げも良いが、保険は税金とは違うため、支払った分だけの見返りがなければ誰も納得しないのである。つまり、物価上昇で基礎的生活コストが上がっているため、①②のように、年金受給額の底上げは必要不可欠だと思うが、その目的を「幅広い世代の就労促進」に置くと、年金の目的や保険契約に反するのだ。 さらに、*9-3は、⑯厚生年金の積立金等を活用して基礎年金を底上げする背景は、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙い ⑰実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要だが、財源確保は置き去りのまま ⑱社会保障審議会年金部会では基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ ⑲厚労省は一定負担を下に受給額を増やす改革として基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していたが、負担増への批判が強くて見送った ⑳抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかず ㉑基礎年金底上げが必要となる背景は過去のデフレ下で給付抑制がなされず年金財政が悪化したこと ㉒日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず将来の年金水準を一段と切り下げる必要 ㉓厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と給付引き下げに繋がるデフレ下での抑制に慎重 としている。 日本政府は、原発・特定産業・農業には非効率で無駄の多い補助金を湯水のように使いつつ、国民生活に必要な福利厚生(年金・医療・介護・教育・保育etc.)にはケチケチしながら、不公正・不公平の屋上屋を重ねている。年金はその1例であり、i)「基礎年金を底上げするため」として厚生年金積立金を流用 ii)消費税増税 iii)年金・健康保険料・介護保険料の負担増・給付減 など、必要不可欠な社会保障間での流用や負担増・給付減を当然の如く行ないながら、政府歳出全体の無駄や非効率は野放しにしている。そして、これが誰にも追求されない理由は、明治維新以降、藩のかわりに省というテリトリーを作り、省毎に既得権たる財源を作り、無駄な歳出であっても他省の財源とならないよう省益を死守し、歳出の効率性を正確に比較できる会計制度にもなっておらず、政治家は世襲か金持ちの男性が殆どで社会保障の必要性を感じなかったり、または能力不足で官の言いなりだったり、メディアもまた能力不足で官の言いなりだったりするからである。そのため、有権者ができることは、官に対して論理的に対抗できる有能な人を政治家にし、上場企業並みの公会計制度を国や地方自治体に導入させ、その場限りの観念論ではない本当の意味の有効性や効率性を追求し続ける政府を作ることなのである。 そのような中、*9-3は、メディアが官の発言を拡声器よろしく垂れ流しているという典型例で、⑯は、弱者保護と称して他人の財布の資金を流用する詐欺行為である。また、⑰⑱は消費税増税をほのめかし、3号被保険者制度は維持しながら、不公正や流用を黙認し続ける体質であって、この発想ではいくら増税しても国民を貧しくするだけで豊かにはしない。 なお、⑲の厚労省の基礎年金保険料支払い期間を40年から45年に伸ばす案は、平均余命・健康寿命・年金受給期間が伸びているので、定年を65歳以上にする制度とセットであれば良いと思うが、厚労省は批判があったら合理的な説明もできずに見送る程度なのである。そして、⑳㉑のように、“マクロ経済スライド”などと呼ぶご都合主義の抑制措置を導入し、物価を上昇させることによってただでさえ少ない年金の実質額をさらに減らして、㉓のように、厚労省幹部が「年金受給者が気にしているのは名目額だ」などと言っているのであり、これは消費者を甘く見ている。なお、㉒のように、日本経済は次のPSで述べるとおり、政治や官の責任で不景気やデフレが続いているのであるため、抑制措置を続けて年金水準をさらに切り下げれば、それに応じて消費が減退して物価はさらに下落し、深刻なデフレスパイラルに陥ると思う。 ![]() ![]() ![]() 生命保険文化センター JB Press 2024.11.26日経新聞 (図の説明:左図が、平成30年分の所得から適用されている所得税の配偶者控除と配偶者特別控除額で、配偶者の所得だけではなく本人の所得によっても金額が異なる。その結果、中央の図のように、税金の壁は、住民税の所得割が課され始める100万円、所得税が課され始める103万円、配偶者特別控除が減り始める150万円、配偶者特別控除も全く受けられなくなる201万円の4つになり、所得税の配偶者に関する控除額は、壁ではなく下り階段になった。しかし、社会保険は本文で説明するとおり、106万円と130万円の壁が残っている。また、配偶者手当の壁は、公正・公平の観点から企業が判断し、基本給を上げながら無くしていくべきものである。右図は、103万円の壁撤廃に対する国民民主党《以下、国》と政府与党の論点で、国は最低賃金の伸びに合わせて178万円への増加を主張し、与党は財源問題を縦に、またまた屋上屋を重ねる理論からかけ離れた改正案を提示していた) ![]() ![]() ![]() 上山市 2024.12.12佐賀新聞 2024.12.10時事 (図の説明:左図は、平成30年分の住民税から適用されている住民税の配偶者控除と配偶者特別控除の例で、現在は全国一律になっているが、地方自治の観点からは一律にする必要のないものだ。しかし、物価上昇によって基礎的生活コストが上がっていることは所得税と同じであるため、控除額を据え置いて良いわけではない。中央の図は、親が大学生の子の特定扶養控除を適用できる子の年収の上限だが、こちらは103万円から150万円に上がることが決まった。右図は、社会保険料《厚生年金・健康保険》の壁を「企業が一部肩代わりできる仕組み」を導入することによってなだらかにする与党案だが、これも屋上屋を重ねて理論から離れていくその場しのぎの仕組みにすぎない) *9-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1149B0R11C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月11日) 年収103万円の壁、25年から引き上げ 自公国が合意 自民、公明、国民民主の3党は11日、所得税の非課税枠「年収103万円の壁」に関し、2025年から引き上げることで合意した。3党の幹事長が25年度税制改正をめぐる合意書を交わした。引き上げ幅については「178万円をめざす」と明記し協議継続を確認した。ガソリン税に上乗せしている旧暫定税率の廃止でも一致した。自公は補正予算案の12日の衆院通過をめざし国民民主の主張に譲歩した。国民民主の榛葉賀津也幹事長は幹事長会談後、国会内で記者団に「この合意書をもって補正予算案に賛成したい」と明言。24年度補正予算案が衆院で可決する公算が大きくなった。103万円の壁の具体的な引き上げ幅やガソリン税の旧暫定税率の廃止時期は引き続き話し合いを続ける。自公は103万円の壁の引き上げ時期について、現場の事務負担などを理由に25年からの実施に消極的だった。非課税枠の引き上げに伴って財源の手当てが必要となる。自民党の森山裕幹事長は3党合意後、記者団に財源の議論が深まっていないと問われ「健全な財政へ引き続き努力しないといけない」と語った。「103万円の壁」は税負担を避けるために働き控えが起きている問題だ。国民民主は手取りを増やすために非課税枠の調整の必要性を指摘し、最低賃金の伸び率を根拠に178万円への引き上げを求めていた。政府は非課税枠を178万円に引き上げると国税で4兆円弱、地方税で4兆円程度の税収減になると試算する。特に地方税の減収に全国知事会などから懸念が出ている。国民民主は主張が盛り込まれなければ補正予算案に賛成できないとの立場を強調していた。10月の衆院選を経て少数与党となった自公は補正予算案の衆院通過を急ぐため、幹事長同士による交渉で妥結した。ガソリンは1リットルあたり28.7円の通常の税率に、さらに25.1円を上乗せする旧暫定税率を適用している。国民民主は価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の凍結解除のほか、旧暫定税率の恒久的な廃止などの減税策を訴えている。もう一つの「103万円の壁」である大学生らを扶養する親の税負担を軽減する特定扶養控除については3党の税調会長が11日に協議した。自公は子の年収要件を現在の「103万円以下」から「130万円以下」に緩和する案を示した。国民民主は「150万円以下」で25年から実施するよう求めた。自公側は国民民主からの要求について「前向きに検討する」と伝えた。高校生の扶養控除については国民民主は維持を求めた。24年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳が加わったことから、与党は24年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要になる。 *9-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/fe05c347fac374996acc98836580468341adaceb (Yahoo、朝日新聞 2024/12/13) 課税最低ライン123万円案 国民民主拒否「グリーンもみえない」 自民・公明両党は13日、所得税がかかる年収の最低ラインを103万円から123万円に引き上げる案を国民民主党に示した。178万円への引き上げを求めてきた国民民主は自公案を拒否し、週明けに再び協議することになった。与党は、大半の納税者が対象になる「基礎控除(48万円)」と、会社員などの経費にあたる「給与所得控除の最低保障額(55万円)」を、10万円ずつ引き上げる案を示した。自民の宮沢洋一税制調査会長は、ここ30年間で生活必需品の物価がおおむね2割上がったことを念頭に決めたと説明。来年1月の所得から適用し、年末調整で減税分を還付することも提案した。これに対し、国民民主の古川元久税調会長は協議後、記者団に「(ゴルフに例えると)グリーンも全然見えないような距離しか飛んでない」と、与党案を拒否したことを明かした。3党は週明けの17日にも再び協議に臨む。自民税調幹部は「提示した数字が低すぎるということだから、こちらとしても何ができるか考える」と語った。税制に詳しい大和総研の是枝俊悟主任研究員の試算によると、今回の与党案の場合、所得税の減収は5千億円程度になる。是枝氏は「物価上昇への対応としては、妥当な提案だ」とみる。 *9-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380430R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 5年に1度、年金改革の狙いは 給付を底上げ 将来世代、多くは受給増 5年に1度となる年金制度改革について厚生労働省の項目案が10日、出そろった。老後の受給額の底上げと幅広い世代の就労促進を柱に据えた。将来世代の多くは受給増につながる。厚労省は2025年の通常国会に法案提出を目指す。少数与党のもとで政策の実現は簡単ではない。 見直しの第一の柱は基礎年金の底上げだ。厚生年金の受給者を含めた全ての人が受け取る基礎年金は、過去30年と同程度の経済状況が続く場合、今のままでは将来の受け取り水準が3割下がる。年金財政の悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるからだ。そこで厚労省は財政が比較的安定している厚生年金の積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げする。基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まり、現状の見通しに比べると3割上振れする。上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金の底上げ効果が大きく、厚生年金受給者の大半は合計の年金額が増える。厚労省は10日の社会保障審議会年金部会で、関連の試算を公表した。仮に経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は、生涯総額で136万~215万円受給額が増える。他方、24年度に65歳になる人は、76万円減ることもあるという。第二の柱は「働き控え」を減らすことだ。パート労働者は現在(1)企業規模が51人以上(2)月額賃金が標準報酬月額で8.8万円以上(年収106万円以上)(3)所定労働時間が週20時間以上――などの要件を全て満たすと、厚生年金に入る義務がある。改革案では「週20時間以上働く人は原則として厚生年金に入る」というルールに見直す。「106万円の壁」はなくなり、約200万人が新たに厚生年金の対象となる。それでも週20時間の手前で働き控えが起きうるため、実際の月収で13万円(年収156万円)未満のパート労働者を対象に、労働者側の厚生年金保険料の負担を企業が肩代わりできる仕組みをつくる。標準報酬月額では12.6万円(年収151万円)未満となる。例えば年収106万円の人は9対1で企業が多く負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻していけば、働く人の手取り急減が防げるため、「年収の壁」を意識せずに働けるようになると厚労省はみている。制度導入は企業ごとの労使合意が前提となる。高齢者の働き控えも防ぐ。一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」を縮小して、満額受給できる人を増やす。現在は給与と厚生年金の合計額が月50万円を超えると、受け取る厚生年金が減る。この基準額を62万円か71万円に引き上げる方向だ。高齢者の就労意欲がそがれないようにする。働く女性が増えていることを受け、配偶者が亡くなった際に受け取る遺族厚生年金も男女差をなくす。20歳代から50歳代で配偶者と死別して子がいない人の場合、給付期間を原則5年で統一する。これまでは30歳以上の女性は生涯支給、男性は55歳未満では支給なしだった。第三の柱は高所得者の負担増を通じた年金財政の安定だ。賞与を除く年収798万円以上の人の厚生年金保険料を増やす。現在は厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限が月収65万円となっているが、75万~98万円に引き上げる。同日の部会でパート労働者の厚生年金の適用拡大と遺族年金制度の見直しについて大筋で了承された。 *9-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA122ZV0S4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月12日) 年金「第3号」廃止要望、経済同友会・連合が一致 経済同友会と連合は12日、都内で幹部による懇談会を開いた。会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致した。終了後、経済同友会の新浪剛史代表幹事は「年金制度改革は5年に1度。5年後の実現を目指したい」と述べた。連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきだ。働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考える方がいい」と語った。懇談ではこのほか、賃上げの継続や適切な価格転嫁の推進などについても話し合った。 *9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380490R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 財源確保、なお置き去り 実現、野党の賛成必要に 厚生年金の積立金などを活用し基礎年金を底上げする背景には、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙いがある。実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要になるが、財源の確保は置き去りのままだ。「将来の安定財源の確保時期など曖昧な点が問題ではないか」。10日の社会保障審議会年金部会では、基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ。基礎年金の財源は半分は保険料などを活用するが、半分は国庫が出す。厚労省は具体的な策は示していない。高所得者にとっては年金の増加より税負担の増加が上回る可能性があり、国民にとってはわかりにくい。もともと厚労省は基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していた。一定の負担をもとに受給額を増やす改革だ。働く高齢者が増えた今の時代にも合っていたが、負担増への批判が強かったため7月には早々と見送りを決めた。現在の厚労省案では今後、必要な安定財源をどう確保するかが火種になる可能性がある。抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかずのままだ。基礎年金の底上げが必要となる背景には、過去のデフレ下で給付抑制がなされず「もらいすぎ」の状態が続き、年金財政が悪化したことがある。日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず、将来の水準を一段と切り下げる必要に迫られる。ただ、厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と、給付引き下げにつながるデフレ下での抑制には慎重だ。衆議院では与党が過半数を割り込んでいる。25年の年金改革を巡る厚労省案を実現させるには、国民民主党など一部野党の賛成を得る必要がある。国民民主は税制改正では所得税の「103万円の壁」の引き上げを強く主張しているが、年金改革で何にこだわるのかはまだ見えていない状況だ。厚労省が描く一連の制度見直しがどこまで形になるかは、少数与党という現状も重要な変数となる。過去の年金改革に比べ今後の不透明感は強い。 <イノベーション阻止による日本の停滞・政府の膨大な無駄使い・国富の流出> PS(2024年12月17、18、19、21日追加):*10-1-1は、①環境・経産両省は11月、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、世界的目標達成に向けた水準としては不十分 ②両省案は経団連が10月に提言した消極的な数字に沿っての現行目標の延長で、2035年度に2013年度比60%削減が軸 ③COP26は産業革命前からの平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを世界目標とし、COP28は「2019年比で2030年までに43%、35年までに60%削減が必要」と合意し、これは日本の2013年度比なら66%減に相当する ④(日本を含む)先進国が高い目標を掲げることは途上国に対策を促すことに繋がる ⑤短期的な経済的利点にこだわって低い目標を掲げるのは気候変動被害軽視 ⑥環境団体の批判だけでなく大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めている ⑦低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含め国際的に後れをとりかねず、策定中のエネルギー基本計画は世界水準との整合性がない ⑧温室効果ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべき としている。 日本政府(環境・経産両省)は、①②③のように、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、経団連が提言した消極的数字に沿って現行目標の延長をしたため、COP26の産業革命前からの平均気温上昇を1.5℃に抑える世界目標もCOP28の段階的目標も達成していない。そのため、⑤⑥⑦のように、「低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含めて国際的に後れをとる」として、大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体が「企業の産業競争力に影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めているが、技術先進国であり続けたければ当然である。さらに、下段の右図のように、輸入化石燃料による発電が3/4近くを占め、⑧のように、石炭火力発電脱却への道筋も示せず、日本に豊富な再エネの拡大に全力を尽くさず、④のように、「途上国に対策を促す」等と言うのは、環境後進国の根拠無き自信と言わざるを得ない。なお、日本は外交力が低く、国民が稼いだ国富を海外に流出させて高い価格で化石燃料を購入することによって相手国との繋がりを保とうとするため、政府の無能力を国民からの搾取で尻拭いしており、いくら国民負担を上げても「財源がない」と言って国民を豊かにするための福祉政策が削られるのである。そのため、これらすべては、教育に由来するわけである。 また、*10-1-2は、⑨石炭産出国オーストラリアに「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、蓄電池が天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという通説を覆した ⑩豪州最大の資源最大手BHPグループは基幹電源を再エネで供給する契約を仏ネオエンと結び、ネオエンは風力・太陽光発電所の近くに巨大蓄電池を設置して電力を安定供給し、銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は26年6月に85%、2027年までに100%の実現を目指す ⑪米西部カリフォルニア州は蓄電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源 ⑫全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超し、市場でお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた ⑬国際エネルギー機関(IEA)は2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測 ⑭再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠 ⑮蓄電池の2023年導入量は、トップの中国27.1GW、米国15.8 GW、日本0.6 GW ⑯大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無で、米国は2022年成立のインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛り、蓄電池の製造業者に1 GWhあたり3500万ドル(約50億円)を減税して蓄電池工場を米国に誘致 ⑰中国政府は再エネを巨額支援して蓄電池シェアは世界首位 ⑱日本政府は次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があり、ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではなく、長期的に蓄電池を増やす政策にせず民間任せ」と疑問視している としている。 つまり、日本が石炭を輸入する石炭産出国のオーストラリアにさえ、⑨⑩のように「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、豪州最大の資源大手BHPグループは仏ネオエンと結んで巨大蓄電池を使って電力を安定供給し、2027年までに南オーストラリア州の再エネ発電比率100%を目指すそうだ。ただし、「天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという“通説”を蓄電池が覆した」と書いてあるのは、蓄電池は1859年に発明され、必要に応じて改良されてきたものであるため(https://ncltrading.com/column/history/ 参照)、その“通説”自体が再エネ普及を妨げるため発せられた“俗説”にすぎず、そのことにすぐ気づかないのは勉強不足も甚だしい。 それに加えて、シェールガスやシェールオイルが出現して石油・天然ガスとも世界一の輸出入貿易を誇る米国(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009863.html 参照)でも、⑪⑫のように、カリフォルニア州で電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源となり、全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超えて電気の「マイナス価格」が頻発しているいそうだが、電力料金の引き下げ・蓄電池の普及・水素の製造などを目的として電気のマイナス価格はあって良いと思う。これについて、*10-1-3は、「再エネ急増のひずみ(再エネ普及が悪い!?)」などと記載しているが、世界の電力料金が下がる中、日本の電力料金だけが高止まりしていれば、国民が仮に勤勉だったとしても日本の全産業の足を引っ張ってコスト競争力がなくなり、日本からは産業が消えて、国民は賃金引き上げどころか自給自足しなければならなくなるだろう。そして、これは日本政府やメディアの無能力の結果なのである。 一方、国際エネルギー機関(IEA)は、⑬のように、「2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測」しており、当然のことながら、⑭⑮のように、再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠だが、2023年の蓄電池導入量は、中国27.1GW・米国15.8 GWで日本は0.6 GWに過ぎないそうで、これなら生産拠点が中国に移るのは当然と言える。これについて、⑯⑰は、大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無とし、日本政府は、⑱のように、次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト(資源エネルギー庁)」などという後ろ向きな声があるそうだが、日本の場合は、国立大学である東京大学が2016年の調査で南鳥島周辺海域に鉄・マンガン・レアメタル・コバルト等が含まれる海底鉱物資源(マンガンノジュール)が広範囲にあることを発見し、詳細な調査の結果、日本の排他的経済水域である南鳥島周辺の海底100km四方に約2.3億トンものマンガンノジュールがあると判明したのであるため、「日本は資源がない」「蓄電池は日本では海外より高コスト」などと言っているのは、(勉強不足か故意かは知らないが)不作為も甚だしいのである(https://news.yahoo.co.jp/articles/f12abc01b8fae98abfe90ba48a34424d1b9a2491 参照)。 そして、*10-2-1・*10-2-2・*10-2-3は、⑲経産省は原発建替の障害になる「可能な限り原発依存度を低減」という表現を削除して、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示した ⑳経産省は「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という表現も盛り込み、原発を再エネとともに最大限活用と明記 ㉑既存原発の大半の30基程度を再稼働させても2030年度目標20~22%、2040年度の原発割合が2割程度 ㉒ロシアのウクライナ侵攻による資源価格急騰で岸田前政権が原発推進に転換 ㉓次はデータセンター・半導体工場の新増設に伴って将来の電力需要増加に対応するという理由 ㉔廃炉作業中の玄海原発1、2号機(佐賀県)のかわりに九電川内原発(鹿児島県)敷地内での新設を見込み、原発建替要件を緩和して同電力会社なら廃炉が決まった原発敷地外でも建設できるとした ㉕2040年度の再エネ割合は 2023年度の22.9%から4~5割程度と提示したが、「最優先で取り組む」との文言は削除 ㉖2023年度68.6%の火力は2040年度3~4割程度とし、CO₂を多く排出するため世界的に廃止圧力の強い石炭火力割合は具体的に示さない ㉗再エネと原発を脱炭素社会実現の核に位置づけた原案は、パブリックコメントを経て来年2月頃閣議決定 ㉘2040年度電源構成は技術革新やデジタル化の進展に伴う電力需要増加を見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた ㉙安全性を大前提に安定供給・経済効率性・環境適合性が原則 ㉚経産省幹部によると「今回の狙いは軌道修正」 ㉛原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めていた ㉜再エネは天候に依存するため、安定的電力供給には原発が欠かせないとの立場 ㉝福島事故後に民主党政権が掲げたのは「2030年代原発0」だが、遠くかけ離れた未来図 ㉞新エネ基は、発電所建設支援制度対象の拡大、原発建設費・廃炉費を電気料金に上乗せして回収できる制度導入も盛り込み、原発推進に大きく転換 ㉟経産省が震災後に進めてきた電力自由化にも逆行 ㊱市民団体から「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判 等としている。 しかし、㉙のように、i)安全性が大前提 ii)安定供給 iii)経済効率性 iv)環境適合性が原則と言いながら、㉕㉗のように、平時から放射性物質を出し、事故時には人がコントロールできなくなって莫大な被害を与える原発を、再エネと同列に脱炭素社会の核に位置づけ最大限活用するのは、「iv)環境適合性」を脱炭素のみと意図的に狭く解釈している上、「i)安全性を大前提」にすれば原発は使えない筈であるため、根本的に矛盾を含んでいる。 また、技術革新は、デジタル化だけでなく再エネにも起こってコストが下がるため、真面目に再エネを増やせば2040年には国民負担を加味した「統合コスト」は原発の方が比較にならないくらい高くなり、再エネの方が「iii)経済効率性」でもずっと優れる。だからこそ、*10-2-4のように、無理なこじつけで「40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも」などという記事を書かなければならないのだ。つまり、技術革新があるため、㉘のように、2040年度の電力需給を見通すのが難しいのは当然である上、「ii)安定供給」についても、㉜のように、「再エネは天候に依存するから安定的電力供給に原発が欠かせない」などと言い続けて蓄電池の普及を妨げつつ再エネの安定電源化を阻害している人たちが「エネルギー基本計画」をたてること自体が市場に任せるより悪い結果をもたらしているのである。その上、㉟のように、東日本大震災と津波によるフクイチ事故ときっかけとして進めてきた電力自由化も反故にしている。 では、何故、日本の経産省は、㉒㉓のように、長期的展望のない思いつきの理由を並べて、⑲のように、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示したのかと言えば、㉚のよう軌道修正しながらどうしても原発建替に漕ぎ着けたいからで、その浅薄な発想が現在の経産省の限界なのである。その過程として、㉑のように、既存原発のフル活用をまず示し、㉔のように、大手電力会社のために発建替要件を緩和し、㉞のように、発電所建設支援制度対象拡大・原発建設費・廃炉費は電気料金に上乗せして国民から徴収する制度を盛り込んで原発推進に大きく転換しているのだが、原発の方が再エネよりも安ければ支援金は一切不要であるため、㊱のように、市民団体が「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判するのは当然なのである。 なお、㉖のように、日本政府は世界的に廃止圧力の強い輸入石炭による石炭火力発電廃止を考えていないため期限を設けず、㉛のように、原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないのに経済界が求めているのだそうで、経済界もこの程度であるため、先進的な企業の芽をつぶし、イノベーションの好機を逃して国を挙げてのコストダウンも出来ず、製造業の生産拠点は日本から海外に移って、実質経済成長率が低いままなのだ。 つまり、㉝のように、フクイチ事故をきっかけとして作られた「2030年代原発0」「再エネによるエネルギー自給率100%」「再エネによるエネルギーコスト大幅削減」という明確な展望は、日本の経産省と経済界によって潰されつつあり、⑳のように、「エネルギーミックス」「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」「原発を再エネとともに最大限活用」などと言って将来性のないことが明らかなエネルギーに補助し続けることによって、環境対策のみならず、真に合理的なエネルギーの普及を遅らせてコストを高止まりさせ、国民に無益な負担をさせているのであり、*10-2-5のとおり、時代の要請に全く応えていないわけである。 ![]() ![]() 2022.7.4 Sustainable Switch 2022.6.27福島ミエルカ (図の説明:左図は、世界の再エネ発電・バッテリー・EV普及量とそれに伴うコスト低減の状況で、普及して大量生産すればコストが低減するという当たり前の結果が出ており、そのうち集光型太陽熱発電はあまり普及しないうちから化石燃料以下のコストになっている。また、右図は、世界の電源別発電コストで、再エネ《特に太陽光》が最も安く、原発が最も高くなっているが、再エネは設置費《固定費》はかかるが、運転費《変動費》がかからないため、大量に発電するほど発電単価が安くなり、電力会社の水力発電の事例が原価計算の教科書に出てくるのである) ![]() ![]() ![]() すべて2024.2.8 Carbon Media (図の説明:左図は、G7各国の2030年の電源構成だが、化石燃料を全量輸入しながら火力発電を41%も残すような馬鹿なことをするのは日本だけであり、ドイツ・イタリアが原発0で再エネ70~80%と意欲的、米国・英国・カナダも脱炭素化に意欲的である。中央の図は、日本の電源構成の推移だが、「エネルギーミックス」と称して思いつきでえいやっと決めた現状維持に近い数値を目標に掲げてきた結果、右図のように、現在でも石炭・LNG・石油による発電が約73%を占め、世界でも遅れた国になってしまったのだ) *10-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16105707.html (朝日新聞社説 2024年12月14日) 温室ガス削減 世界目標満たす水準に 温室効果ガス削減の新しい目標を決める期限が近づいている。先月、環境省と経済産業省が案を示したが、世界的な目標達成に向けた水準としては不十分だ。削減幅を上積みする必要がある。気候変動の国際ルールのパリ協定では、各国は「国が決定する貢献(NDC)」として削減目標を5年ごとに提出し、実現に向けて取り組むことになっている。次の提出期限は来年2月だ。環境・経産両省の案は、基本的には現行目標の延長で、2035年度に13年度比で60%削減するのが軸になっている。50年の排出実質ゼロと整合的な道筋だとの説明だ。しかし、これでは明らかに削減が足りない。21年の国連の気候変動会議(COP26)では、産業革命前からの平均気温の上昇を1・5度に抑えることが世界目標になった。昨年のCOP28では「19年比で30年までに43%、35年までに60%」の削減が必要と合意されている。これは日本が基準とする13年度比なら66%減に相当する。両省案の60%減では、この水準に届かない。温室効果ガスの排出を重ねて発展してきた先進国として、責任を果たす姿勢とは到底言えない。21年に掲げた現行の目標でも、30年度に「13年度比で46%削減」を目指すにとどまらず、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と世界に宣言していたはずだ。日本を含む先進国が高い目標を掲げることは、途上国に対策を促すことにもつながる。短期的な経済上の利点にこだわって低い目標を掲げるのは、すでに顕在化しつつある気候変動の被害を軽視するに等しい。地球温暖化で災害や熱中症に拍車がかかり、犠牲者が増えれば、国内経済も打撃を受ける。両省案は、経団連が10月に提言した数字に沿っている。経団連は1・5度目標の実現に必要な削減幅の範囲内に入るというが、その説明でも35年度段階での「幅」の下限に近い数字で、消極的な目標であるのは明らかだ。環境団体からの批判だけでなく、大企業も含め気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として、13年度比で75%以上の削減を求めている。低い目標で再生可能エネルギーの拡大を怠れば、技術力を含め国際的にも後れをとりかねない。策定中のエネルギー基本計画も、世界水準との整合性が問われる。温室ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と、再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべきだ。 *10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241214&ng=DGKKZO85470250U4A211C2MM8000 (日経新聞 2024.12.14) エネルギーの新秩序 国富を考える(4)「再エネ100%」導く革命 蓄電池、米欧中が覇権争い 石炭産出国オーストラリアに「再生可能エネルギー100%」の電力網を目指す州がある。天候によって発電量が大きく変わる再生エネは安定供給に向かないという通説を覆したのは、蓄電池の存在だ。鉱石を運び出す巨大なエレベーターが24時間動き続ける豪州最大の銅鉱山オリンピックダム。地下坑内を昼間のように明るく照らす照明や、換気や温度を管理するエアコンなど、操業には大量の電気を使う。 ●不安定さを克服 鉱山を運営する資源最大手BHPグループは、基幹電源を再生エネで供給する契約を仏ネオエンと初めて結んだ。ネオエンは風力・太陽光発電所近くに巨大蓄電池を設置、雨天や夜間も絶え間なく送電する。「蓄電池があることで電力が安定供給される」(BHPの責任者アナ・ワイリー氏) 銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は2025年7月~26年6月に85%になる見通し。27年までに100%の実現を目指す。米西部カリフォルニア州のニューサム知事は10月、同州の蓄電池容量が5年間で15倍超に増えたと発表した。日没後の送電は火力発電などで補ってきたが、4月に蓄電池が初めて最大の供給源になった。「蓄電革命だ」(ニューサム氏)。蓄電池が増えたのは電気が余っているためだ。全米の3割の太陽光パネルが同州に集積し、日中は発電量が消費量を超す。電力卸市場ではお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた。 国際エネルギー機関(IEA)は30年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再生エネの発電比率が46%とほぼ半数になると予測する。再生エネを基幹電源にするには、蓄電池の大量導入が不可欠となる。主要7カ国(G7)は4月の閣僚会合で、世界の蓄電容量を30年に22年比6.5倍に増やすことで合意した。英業界団体によると蓄電池の23年の導入量は、トップの中国が27.1ギガ(ギガは10億)ワット。米国が15.8ギガワットと続くが、日本は0.6ギガワットにとどまる。 ●戦略描けぬ日本 大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無だ。米国は22年に成立したインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛った。蓄電池の製造業者に1ギガワット時あたり3500万ドル(約50億円)を減税し、蓄電池工場を米国に誘致した。中国が念頭にある。中国政府は再生エネを巨額支援し、蓄電池のシェアは世界首位。安価な中国製品が市場を席巻するのを米欧は警戒する。 欧州連合(EU)は23年に電池規則を施行し、廃電池のリサイクルを義務付けた。コバルトやリチウムなどの重要原材料は高い回収率を求め、中国などへの依存を減らす。日本は出遅れている。政府が策定する次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があがる。ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではない。日本は長期的に蓄電池を増やす政策になっておらず、事実上民間任せだ」と疑問視する。 *10-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1041D0Q4A710C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2024年7月14日) 電力「マイナス価格」世界各地で 再エネ急増のひずみ 世界の電力卸市場が再生可能エネルギー急拡大の「ひずみ」を映している。天候に左右されやすい太陽光や風力発電が需給をかく乱し、取引価格がマイナスになる事例が頻発している。事業者の収益悪化を招き再生エネへの逆風となりかねない。1メガワット時マイナス67ドル、マイナス87ユーロ、マイナス45オーストラリアドル――。2024年の春から夏にかけて、米国や欧州、豪州の電力卸市場で取引された電力価格(1日前取引のスポット=随時契約)の一例だ。マイナス価格は発電事業者が小売業者や需要家にお金を支払って電力を引き取ってもらうことを意味する。原油では新型コロナウイルスの感染拡大で需要が消失した20年春に史上初めてマイナス価格をつけたが1〜2日で解消した。そうそう起きることではない。しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日になって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。なって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。 *10-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1375810 (佐賀新聞 2024/12/17) 原発、再エネと最大限活用、2割維持、大半を再稼働へ 経済産業省は17日の有識者会議で、中長期的な政策指針「エネルギー基本計画」の原案を示した。2011年の東京電力福島第1原発事故以降に記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除。再生可能エネルギーとともに最大限活用すると明記した。40年度の発電量全体に占める原発の割合は2割程度と見通した。既存原発の大半に当たる30基程度を再稼働させる想定で、30年度目標の20~22%と同水準を維持した。原発は建て替えの要件緩和も盛り込んだ。同じ電力会社であれば、廃炉が決まった原発の敷地外でも建設できるようにする。政府関係者によると、当面は玄海原発1、2号機(佐賀県)の廃炉作業中の九州電力が川内原発(鹿児島県)の敷地内に新設することを見込んでいる。40年度の再エネの割合は4~5割程度と提示。23年度の22・9%から約2倍に増やすが、前回計画にある「最優先で取り組む」との文言は消した。23年度に68・6%の火力は40年度に3~4割程度にする。二酸化炭素(CO2)を多く排出し、世界的に廃止圧力が強い石炭火力の割合を今回は具体的に示さない。国内では削減ペースが予測しにくいと説明している。原案は17日の議論を踏まえ来週の有識者会議に諮る。パブリックコメント(意見公募)を経て、来年2月ごろの閣議決定を目指す。40年度の電源構成は、技術革新やデジタル化進展に伴う電力需要の増加を明確に見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた。21年に閣議決定した現行の計画では30年度の電源構成は原発の他に、再エネが36~38%、火力が41%、水素・アンモニアが1%。エネルギー基本計画 日本の中長期的なエネルギー政策指針。2002年施行のエネルギー政策基本法に基づいて策定する。おおむね3年ごとに見直し、閣議決定する。今回は第7次計画となる。安全性を大前提に安定供給、経済効率性、環境適合性を原則とする。東京電力福島第1原発事故以降は、福島の復興・再生を最重要課題と位置付けている。 *10-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1376505 (佐賀新聞 2024/12/18) 【エネルギー基本計画】官僚主導の原発復権、政権弱体化で念願成就へ 経済産業省が17日提示した次期エネルギー基本計画の原案は、原発の復権を強く打ち出した。少数与党で弱体化し、政治的な資源を割く余裕がない石破政権を横目に、経産省が議論を主導。脱炭素化に加え、脆弱な供給体制、人工知能(AI)普及に伴う大量電力消費時代の到来を訴え、念願である原発建て替えの要件緩和にもこぎ着けた。 ▽軌道修正 「今回の狙いは軌道修正だ」。経産省幹部はこう解説する。前回の計画は菅義偉元首相が表明した「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」達成に向け、政治主導で再生可能エネルギーの偏重を迫られたとの思いがある。現在は閣外の河野太郎行政改革担当相と小泉進次郎環境相(いずれも当時)が再エネの割合を高めるよう水面下で強く働きかけたと、前回のとりまとめ作業を知る関係者は証言する。それが野心的な30年度の再エネ目標36~38%につながった。今回は対照的に政治の影が薄かった。自民党総裁選で一時言及した「原発ゼロ」を早々と封印した石破茂首相は「議論に口出ししなかった」(経産省関係者)。政府内には「そもそも関心がない」といった声も漏れる。その結果、40年度の原発の電源割合は、既存原発のフル活用を事実上意味する2割程度に設定。一方の再エネは4~5割程度と最大電源に位置付けたものの、30年度目標から大きな上積みがあったとは言い難い。 ▽敷地外も 「戦後最大の難所」。別の経産省幹部は、データセンター増設や半導体産業の強化で電力需要が高まる中、温暖化対策で火力発電所の休廃止も進めなければならない当面のエネルギー事情をこう表現する。再エネは天候に依存するため、安定的な電力供給には原発が欠かせないとの立場だ。既存原発を廃炉にする際、別の原発敷地での新設を容認する「敷地外」の建て替えにも道筋を付けた。建設には20年程度を要するため、40年度電源への寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めてきた。「将来的に原発に依存しない社会」と訴える連立与党の公明党はこれまで「敷地内」に限って認めてきたが、衆院選で議席数とともに発言力を減らし、容認に転じた。公明のエネルギー基本計画に対する提言は、経産省との文言調整を重ねた上で「わが党の基本的な方針に変わりはない」と書き込むのにとどまった。公明幹部は「(建て替えても)原発の数は今より増えない」と強弁するしかなかった。 ▽住民不在 次期エネルギー基本計画も東京電力福島第1原発事故を受け、福島の復興・再生を最重要課題と位置付ける。ただ、地元との話し合いに割かれた時間は短く、住民不在の懸念は尽きない。NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は「正面から福島の事故に向き合わず、経産省主導で原発の積極活用に踏み込んだ。空虚な議論で終わっている」と指摘する。経産省内では「やりたいことが粛々と進む」(中堅幹部)と楽観論が広がり、原発新増設を訴える国民民主党との協力を期待する声もある。福島事故後に当時の民主党政権が掲げたのは「30年代に原発ゼロ」。事故から14年近くたつ今、遠くかけ離れた未来図が描かれている。 *10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSDC3GR5SDCULFA00XM.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2024年12月11日) 原発依存度「可能な限り低減」の文言削除へ 経産省のエネ基本計画 国の中長期のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」(エネ基)について、経済産業省が近くまとめる新しい計画案の概要が分かった。東日本大震災後に掲げた「原発依存度を可能な限り低減する」との表記を削り、原発回帰の姿勢をより鮮明にする。経産省が来週にも開く有識者会議で素案を提示する。「低減」の文言をなくすかわりに、「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という趣旨の表現を盛り込む方向で、最終調整している。エネ基はおおむね3年に1度のペースで改定し、震災後の2014年に策定した計画では「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」と掲げた。その後の改定でも「可能な限り低減」の文言は維持されてきた。だが、ロシアによるウクライナ侵攻により資源価格が急騰したことをきっかけに、岸田文雄前政権は原発推進に転換。22年6月、経済財政運営の指針となる「骨太の方針」で、前年に盛り込んでいた「依存度低減」の表記を見送り、原発を「最大限活用する」と踏み込んだ。23年2月に閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」でも、原発回帰の動きを鮮明にした。新しいエネ基もその流れを引き継ぎ、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む方針だ。GX基本方針では建て替えを「廃炉を決めた原発の敷地内」に限ったが、新しいエネ基には、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも、廃炉した分だけ原子炉をつくれるようにする案を盛り込む。ただ、40年度の電源構成に占める原発の割合は2割を目標とし、震災前の3割には達しないとする。その分、再生可能エネルギーは4~5割に増やし、火力は3~4割とする方向だ。新しいエネ基の議論は今年5月に始まり、40年度に向けて原発を再生可能エネルギーとともに脱炭素電源と位置づけ、「拡大する必要がある」との議論が進む。データセンターや半導体工場の新増設に伴い、将来の電力需要が増加する可能性が高く、それに対応するためとの理由だ。ただ、稼働できる原発が減っていくため、少しでも早く原発の建て替えに着手したい経産省にとって、障害になりうる「低減」の文言を削ることが課題だった。「低減」は「足かせ」だった政府が原発回帰の姿勢を改めて鮮明にした。近く示す新しい「エネルギー基本計画(エネ基)」の素案で、これまで掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を削り、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む。今後は電力需要が増えるため、原発を最大限活用するべきだとの理屈からだ。福島事故の反省をふまえた方針が、転機を迎える。「(次の)エネ基の最大のミッションは、依存度低減の文言を書き換えることだ」。経済産業省の幹部はエネ基の改定にあたり、こう語っていた。原発推進を掲げる同省にとって、「低減」の一文が政策の求心力をそぐ「足かせ」となっていたという。それが外れることで、原発の支援策も大手を振って打ち出せる。新しいエネ基には、原発への投資を後押しする新制度についても盛り込む。エネ基はおおむね3年に1度改定する。同省は今回のタイミングに向けて、手を打ってきた。岸田文雄前政権が、ウクライナ危機をきっかけに立ち上げた「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」だ。会議では脱炭素社会の実現をめざすため、再生可能エネルギーとともに原発も核に位置づけた。2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」では、原発を「最大限活用する」とし、廃炉を決めた原発内での建て替えも認めた。原発回帰には慎重だった公明党も、GX基本方針を了承した。廃炉した分だけ建て替えるなら、原発の基数は増えないからだ。新しいエネ基では、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも廃炉した分だけ建設することも認める。同党は先の衆院選でも「将来的に原発に依存しない社会をめざす」とする公約を掲げた。新しいエネ基から「低減」を削ることとの整合性が問われそうだが、足元では再稼働すら順調に進まず、40年度の電源構成に占める原発の割合も2割を目標とする。東日本大震災前の3割には達しないことから、受け入れたもようだ。週内にも政府に出すエネ基に向けた「提言」にも、「低減」の文字は盛り込まない。新しいエネ基には、発電所の建設支援制度「長期脱炭素電源オークション」の対象を拡大し、原発の建設費や廃炉費を電気料金に上乗せして回収できるようにする制度の導入についても盛り込む。「低減」どころか、原発推進に向けて大きく転換する。経産省が震災後に進めてきた電力自由化に逆行するともいえる。市民団体からは「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせるものだ」との批判もあり、慎重な議論が求められる。 *10-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1622U0W4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月16日) 40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも 経済産業省は16日、2040年時点の電源ごとの発電費用の試算結果を発表した。発電費用だけをみると太陽光発電が原子力を下回るものの、関連コストを合わせると原発の方が下回る可能性があるとの結果を示した。太陽光は昼間しか発電できず、電気が余った時間には使われずに捨てられるケースがある。再生エネを大量に導入すると、電力の需給を均衡させるために発電をとめる出力制御と呼ぶ費用も発生する。こうした費用を加味した「統合コスト」を検証した。経産省が試算のとりまとめ案として同日公表した資料によると、各電源の発電費用は1キロワット時あたり、太陽光(事業用)が8.5円、原子力が12.5円以上、洋上風力(着床式)が14.8円、液化天然ガス(LNG)火力が19.2円などとなった。各電源の統合コストについては1キロワット時あたり太陽光(事業用)が15.3〜36.9円、原子力が16.4円以上、洋上風力(着床式)が18.9~23.9円、LNG火力が20.2〜22.2円などとなった。関連コストなどを合わせると再生エネよりも原子力が割安になる可能性があるとした。現行のエネルギー基本計画を策定した際に検証した電源別コストでは、1キロワット時あたりの発電費用が30年時点で太陽光(事業用)なら8.2〜11.8円、LNG火力なら10.7〜14.3円、原子力が11.7円以上、洋上風力が25.9円などと見込んでいた。経産省は週内にも示す次期エネルギー基本計画の素案に今回の結果を反映する。11年の東日本大震災後に加わり、21年度に閣議決定した現行の計画でも明記している「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除し、原子力を再生エネとともに最大限活用することを記す方針だ。 *10-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1377035 (佐賀新聞 2024/12/19) エネルギー基本計画素案 時代の要請に応えてない 経済産業省が、新たなエネルギー基本計画の原案を示した。東京電力福島第1原発事故以降、明記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を撤回。同一原発の敷地内に限って認めていた建て替えの要件も緩和するなど「原発回帰」を鮮明にした。2040年度の電源構成は現状の2割程度を維持した。経済界の一部意見に沿った内容だが、原発の将来に関する議論は不十分だし、高コストで建設から運転開始まで長時間を要する原発の電力安定供給や、気候危機対策への貢献は限定的だ。気候危機やエネルギー安全保障を視野に入れた将来ビジョンなしに、既得権益の調整に終始する過去の過ちを繰り返した結果で、時代の要請に応えたとは言いがたい。原案は、原子力について安全性の確保を大前提に必要な規模を持続的に活用していくとした。だが、23年度の原発の発電比率は8・5%で、30年度に20~22%とする現行目標達成すら危うい。今後、廃炉となる原発も見込まれ「40年度2割」の実現には再稼働や運転期間の延長、新増設などに多額の投資が必要になる。大手電力会社にその体力はほとんど残っていないのが現実だろう。熟議に基づく合意と、裏打ちとなる政策導入の見通しがない方針転換はあまりに無責任だ。深刻化する気候変動への危機感が極めて希薄なのも原案の大きな問題点だ。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるという日本も支持する国際目標の達成には、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量を今から早急かつ大幅に減らし、50年には実質ゼロにすることが求められている。40年度が視野の新計画では、そのための野心的なビジョンを示した上で、思い切った政策メニューを示すことが求められているのだが、原案にはそれがない。40年度の電源構成は再生可能エネルギーを4~5割程度、火力発電は3~4割程度で、30年度の目標と大差ない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や1・5度目標への言及もない。気候危機の解決に加え、エネルギー安全保障を確保し、化石燃料購入費の国外流出を防ぐために、短期間で何より効果的なのは再生可能エネルギーの大幅導入だ。にもかかわらず原案からは再エネ導入に「最優先で取り組む」との文言が消えた。目標数値も既に一部の国で達成されているレベルの小ささだ。石炭火力への依存を続ける日本には国内外から厳しい批判が出ているが、火力のどれだけを石炭が担うのかは示されていない。「35年までに電力供給の全て、または大部分を脱炭素化する」という日本を含めた先進7カ国(G7)の合意はどこに行ったのだろうか。ヒアリングの中で、1・5度目標の重要性や世代間の公平性に基づく長期的な視点の明記を訴えた若者団体の声が反映されることはなかった。経産省は40年度の温室効果ガス削減割合として13年度比で73%という数字を示したが、この目標案にも「先進国としては不十分で1・5度目標に整合的でない」との批判が根強い。温室効果ガスの大排出国としての国際的な責任、次世代の人々に安全安価で持続可能なエネルギーを提供するという責任。原案はその両者から目を背ける内容だ。 <日本の停滞・低成長の理由 ← 傲慢さと科学に基づくイノベーションを嫌う国民性> PS(2024年12月22~27日追加):新興国が世界市場に参入し始めたのは、今から35年前の1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、同年12月に米国のブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が「冷戦終結」を宣言した時からで、それまで社会主義体制下にあった国々は、教育水準は高かったが人件費は安かったため、安価な生産基地として世界市場に参入してきた。つまり、冷戦中、日本が生産国として独壇場のような経済成長をすることができたのは、社会主義国が世界市場に参加していないという幸運があったからなのである。 そのような中、*11-1-1・*11-1-4は、①ホンダ・日産は持株会社設立を目指し経営統合協議に入る ②三菱も持株会社への合流検討 ③持株会社を上場させ、ホンダ・日産両社は上場廃止方針 ④持株会社社長はホンダの取締役から選出し、取締役の過半もホンダ ⑤EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示していた ⑥鴻海幹部が日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオCEOと会談する可能性も ⑧鴻海が経営参画すれば一段と踏み込んだリストラを迫られるため、内田社長はホンダとの経営統合を選んだ ⑨ホンダ・日産・三菱3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる 等としている。また、*11-1-2は、⑩世界の自動車大手が戦略の転換点を迎え、EVや車載ソフトウエアを強みとするBYDやテスラ等の新興勢との競争激化で経営環境が厳しい ⑪EVを軸にした協業や連携相手の変更、大規模リストラを通じ100年に1度と言われる変革期を乗り越えようとしている ⑫自動車産業の構造はダイナミックに変化し、対応できない企業は淘汰 ⑬ガソリン車を強みとした自動車メーカー間で、EVを軸に新たな提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ ⑭GMはホンダとの低価格EV量産を中止、新たな連携先として韓国の現代自動車を選択 ⑮2024年7~9月の自動車世界販売は、BYD(前年同期比38%増)、テスラ(6%増)、ホンダ(8%減)、日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減) ⑯ホンダ・日産に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ・VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点ではテスラ・BYDには及ばず ⑰今後の競争の軸となる自動車の電動化・知能化に向け巨額な投資が必要になり、各社とも適切な人員・生産規模・協業相手を見極めて機動的に構造対策に踏み切る重要性増 としている。 しかし、自動車は、1769年(周囲は馬車)にフランスでキュニョーが蒸気自動車を発明し、1873年にイギリスで電気式四輪トラックが実用化され史上初の時速100㎞超を達成し、その後、1885~1886年にドイツでダイムラーがガソリン車を発明し、1908年からアメリカでフォード社が自動車を大衆化し(https://gazoo.com/feature/gazoo-museum/car-history/13/05/30_1/)、その間もニーズに合わせて改良されてきたため、⑪のように、「100年に1度の変革期」と言うのは、現在の形のガソリン車しか知らない人の固定観念である。そして、世界中で自動車が普及する中で加えるべき付加価値は、大気を汚さず、地球温暖化を防止し、何処にでもある安価なエネルギーを使うことと、少子高齢化に対応して運転しやすいことなのである。 そのため、日産が2010年12月に初代EVを市場投入し、2017年10月に「プロパイロット」「プロパイロット パーキング」を搭載する等の「電動化」「知能化」を進めたのは変化を先取りしていて良かったのだが、その後、HVに投資し始めたりして資金を分散させたのは、自らの売りとなる技術を伸ばさずに後ろ向きの技術に資源を浪費したと言わざるを得ない。世界では、⑬⑰のように、競争の軸が「電動化」「知能化」であり、EVを軸とした提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ中、日産は軸がぶれて利益を減らし、①④のように、ホンダ・日産が設立する持株会社では社長と取締役の過半をホンダに占められることになったのである。なお、日本では、⑧のように、リストラを嫌うため、企業のイノベーションに時間がかかりすぎ、高コスト構造で、世界競争に負けるという現実もある。 また、(共同記者会見で日産の内田社長とホンダの三部社長は否定しておられたが)メディアは、⑤⑥のように、EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示し、鴻海の幹部が日産株を持つ仏ルノーのデメオCEOと会談する可能性もあったため、ホンダと日産の経営統合が進んだとしていた。これについては、オリンピックのスポーツではないので、⑨のように、一瞬、販売台数が世界3位の日本の自動車会社ができたとしても、その提携や統合の後に長所を活かし合ってシナジー効果を出せなければ心中せざるを得なくなる。つまり、⑫のように、自動車産業もダイナミックな変化に速やかに対応できなければ淘汰されるのであり、ホンダも日産も三菱も、他の会社の動きとは関係なく、本当に必要で最善の提携先を探さなければならないのだ。そのような状況の中、③の持株会社を上場させて、ホンダ・日産両社が上場を廃止する方針なのは、いつぞやの日産のように、短期的視野で外野からくだらない指摘をされないためには良いと思うが、②のように、三菱も持株会社に合流して日本の自動車会社がたった2グループになってしまうと、⑯のように、規模が大きくなって、国内では寡占状態となり、競争が起こらず多様性に欠けそうな気がする。しかし、世界では、⑩⑭⑮のように、BYD・テスラ・現代等の新興自動車会社が出てきており、日本人でもBYDやテスラを選ぼうかと思うため、i-MiEVを作った三菱でも厳しい競争環境にいることは推測できる。 なお、前日産自動車会長のゴーン氏は、*11-1-3のように、⑱似た製品を同じ市場で展開しているため、日産とホンダは事業にほとんど補完性がなく、ホンダと日産の経営統合に相乗効果を見いだすのは難しい ⑲背景には日本政府(経産省)の圧力があり、ホンダはこの協議に押し込まれた ⑳日産は米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない とされており、私も⑲は事実だと思うが、⑳のように、日産が米国や中国で苦戦しているのに対し、ホンダは、“脱エンジン”の電動化戦略を2021年4月に発表し、2024年3月期の連結営業利益は1兆円に達して米国を中心とする北米市場の四輪事業で前期比38%もの販売増を見込んでいるため、技術と販売市場での相互補完性はあると考えている。 ![]() ![]() ![]() 2024.12.19日経新聞 2021.5.11大学院 2023.6.8CNETJapan (図の説明:左図のように、IEAは2035年に世界のEV販売は5,000万台に達すると予測している。しかし、中央の図のように、世界のEV販売台数・保有台数は中国・欧州・米国が上位で、将来予測ではインドが加わるが、世界で最初にEVを市場投入した日本は「その他」に入っている程度だ。また、右図は、世界のEV販売台数トップ10で、アジアでは1位にBYD、9位にHYUNDAIが入っており、日本の姿は見えない。そして、何故、こういう結果になったのかは、多くの人が知っているだろう) ![]() ![]() ![]() ![]() 左から、2023.1.4、2022.10.19、2024.12.18、2024.12.18日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本は屁理屈をこねてガソリンエンジンやガソリンスタンドの保護に固執したため、人口1万人あたりの公共充電器数が世界でも低い方になっており、これでは日本の自動車産業の未来は暗い。しかし、EVを世界で最初に市場投入したのはゴーン氏率いる日本の日産自動車であり、左から2番目の図のように、その技術力や可能性にルノーは魅力を感じていたのだが、検察を使ってゴーン氏を退任させ、世界では通用しない方向に日産の経営方針はかわった。その結果、取り柄を失って日産の利益は次第に縮小し、右から2番目の図のように、身売りに近い統合話が持ち上がっているのだ。なお、研究開発費も固定費であり、積極的に研究開発しながら利益を上げるには効率的な技術開発に加えて販売規模の大きさが必要であるため、1番右の図のように統合や協業が進んでいるのだが、経営方針の誤った統合は瞬間的に売上規模が大きくなるだけで、その後は次第に衰退していくものである) *11-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85565050Z11C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.19) ホンダ・日産、EV世界競争へ連合、来週統合協議入り 「鴻海の買収」危機感 ホンダと日産自動車は23日にも経営統合に向けた協議に入る。背景にはトヨタ自動車と並ぶ2大勢力の結集に向けたホンダの強い覚悟がある。巨額投資が必要な電気自動車(EV)やソフトウエア搭載車(総合2面きょうのことば)の世界競争で劣後する状況の打破をめざす。日産には台湾電機大手・鴻海(ホンハイ)精密工業が経営参画の意欲も示しており、買収回避へ一気に統合に動いた。今秋、日産の周辺に鴻海の影がちらついていた。鴻海は2019年にEV事業への参入を表明した。日産が持つEVの開発力や製造技術に目をつけ、経営参画に動いていた。ホンダと日産はその動きを察知した。「日産と鴻海が連携すれば、こちらの連携は白紙に戻す」。ホンダ幹部は日産に強く警告していたが、焦りの裏返しでもあった。両社は8月に全面提携を発表した。ホンダにとって日産との協業は成長の軸で、破談は何としても避けたい。鴻海が日産に対して敵対的TOB(株式公開買い付け)に踏み切れば、ホワイトナイト(友好的買収者)になることも検討していた。同時期に日産の内田誠社長は業績面でも追い込まれていた。「日産を救済すると共倒れリスクがある」。ホンダ幹部は驚いた。11月に日産が発表した24年4~9月期の連結純利益はわずか192億円。前年同期比で9割も落ち込んだ。想定以上の業績悪化に、ホンダ側でも近づきすぎることに反対意見が出るようになった。日産は抜本的な構造改革の策定に時間をとらざるをえなくなった。9000人の人員削減や世界生産能力の2割減を打ち出したが、具体的なプランの公表は遅れていた。決断が遅い経営陣に対して、日産社内でも批判の声が高まっていた。12月に入り、内田社長は苦境ぶりが深まる。日産は構造改革のスピードを速めるために、前倒しで経営人事を見直した。最高財務責任者(CFO)ら一部担当の席替え人事にとどまった。内田社長は続投が決まったが、一部から反対の声が上がり、全面的な信任は得られなかった。「内田社長を継ぐ人材が育っていないだけだ」。社内からは厳しい声が聞こえるようになってきた。鴻海の動きも活発になっていた。中旬には鴻海幹部と日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)が会談する可能性があるとの情報も入ってきた。鴻海が経営に参画すれば、一段と踏み込んだリストラを迫られる。追い込まれた内田社長は、挽回策として自主再建でなくホンダとの経営統合の道を選んだ。将来的には三菱自動車との合流も視野に入れる。3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる。「3社連合は10年来の悲願だ」。ホンダの三部敏宏社長は実現の意欲を周囲に隠してこなかった。世界のEV市場で生き残りに必要な規模だと考えていた。18日の東京株式市場で日産株が制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比80円(24%)高の417円60銭で取引を終えた。収益改善への期待感から買いが先行した。一方で、ホンダ株は財務の悪化懸念から一時4%安となり、年初来安値を更新した。今回の経営統合は日産の救済ととらえる投資家が多く、ホンダの投資負担の拡大を嫌気したとみられる。ホンダと日産は社内の反対や批判を乗り越えて提携に動き出した。経営資源を結集して生き残れるか。早期に相乗効果を示すことが求められる。 *11-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85564850Z11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.19) 自動車大手、迫られる改革 協業相手組み替え/大規模な人員削減 世界の自動車大手が戦略の転換点を迎えている。新興勢との競争激化により、多くは経営環境が厳しい。電気自動車(EV)を軸にした協業や連携相手の変更、大規模なリストラなどを通じて、100年に1度とも言われる変革期を乗り越えようとしている。「自動車産業の従来構造はダイナミックに変化している。対応できない企業は淘汰される」。8月、日産自動車とのEV協業について記者会見したホンダの三部敏宏社長は危機感を隠さなかった。ホンダと日産が三菱自動車を加えて世界3位グループを目指す背景には新興勢の成長がある。EVや車載ソフトウエアを強みとする中国・比亜迪(BYD)や米テスラが勢いを増している。ガソリン車を強みにしてきた自動車メーカーの間で、EVを軸に新たな提携関係を結んだり、協業相手を見直したりする動きが相次いでいる。伝統的な自動車メーカー同士の提携が主だった従来と比べ、業界内の連携の様相は大きく変わった。米ゼネラル・モーターズ(GM)はホンダとの低価格EVの量産を中止し、新たな連携先として韓国の現代自動車を選んだ。電池やソフトウエアなど次世代車で規模を追求する。独フォルクスワーゲン(VW)は中国の新興EVメーカー小鵬汽車(シャオペン)に7億ドル(現在の為替レートで約1070億円)を出資し、中国向けに多目的スポーツ車(SUV)など2車種のEVを共同開発している。欧州自動車大手のステランティスは、中国EV新興の浙江零●科技(リープモーター・テクノロジー、●はあしへんに包)との共同出資会社をオランダに設立した。24年7~9月の自動車の世界販売は、BYDが前年同期比38%増の113万台と躍進し、テスラも6%増と前年同期を上回った。対照的にホンダ(8%減)や日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減)などは軒並み前年同期を下回った。新たな協業先探しと並行して、自動車大手は構造改革を急ぐ。まず、現地企業の攻勢を受けている中国市場で工場閉鎖などを進めている。GMは4日、中国の工場閉鎖や事業再編で50億ドル超の特別損失計上を発表。GMの中国の自動車販売台数はピークの17年は400万台だったが、直近の23年は210万台まで減った。VWも上海汽車集団(SAIC)との合弁工場を閉鎖する検討に入っている。日本勢もホンダが中国でのガソリン車の生産能力を3割減らす方針を固めている。中国ではスマホメーカーの小米(シャオミ)や華為技術(ファーウエイ)など異業種からの参入も相次ぐ。日米欧の自動車メーカーが巻き返すのは容易ではない。中国市場の依存が高かった欧州勢は、地盤の欧州域内のリストラにまで影響が及んでいる。VWは欧州でのEV需要の低迷と高コスト体質も響き、独国内で少なくとも3工場の閉鎖と数万人規模の人員削減などを労組に通告した。同社にとってドイツでの工場閉鎖は初となる。ステランティスも最大2万5000人の削減を検討している。12月にはカルロス・タバレス氏が任期途中で最高経営責任者(CEO)を辞任することを発表するなど経営が混乱している。ホンダと日産も新興勢に対抗するために次の一手が求められていた。両社に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ、VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点で見ればテスラやBYDには及ばない。今後、競争の軸となる自動車の電動化や知能化に向けては巨額な投資が必要になる。各社ともに適切な人員・生産規模や協業相手を見極め、機動的に構造対策に踏み切る重要性が増している。 *11-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241221-OYT1T50094/ (読売新聞 2024/12/21) ゴーン被告「日産にはパニック状態が広がっている」「ホンダは押し込まれた」 前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告は20日、米ブルームバーグ通信のインタビューに応じ、ホンダと日産の経営統合協議について「相乗効果を見いだすのは難しく、現実的な取引ではない」と指摘した。ゴーン被告は、両社が協議を行う背景には日本政府の圧力があったとの見方を示した。「経済産業省の影響力により、ホンダはこの取引に押し込まれた」と語った。また、「日産とホンダは事業にほとんど補完性がない。似たブランドと製品を同じ市場で展開している」と述べ、相乗効果は薄いとの見方を示した。日産の経営状況については「米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない。日産の内部にはパニック状態が広がっている」と指摘した。ゴーン被告は会社法違反(特別背任)などで起訴されたが、保釈中の2019年に不正に出国、レバノンに逃亡した。23日に日本外国特派員協会でオンライン記者会見を開く予定。 *11-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASSDR2FC0SDRULFA00PM.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2024年12月23日) ホンダと日産、経営統合協議入り正式発表 来年6月の最終合意めざす ホンダと日産自動車は23日、持ち株会社の設立を目指して経営統合の協議に入ると発表した。三菱自動車も同日、持ち株会社への合流を検討することを正式に表明した。来年6月までの最終的合意を目指し、2026年8月に持ち株会社が発足する統合が実現すれば、販売台数で世界3位の巨大グループが誕生する。23日午後5時から東京都内で3社の社長が記者会見し、説明する。ホンダと日産は同日、経営統合に向けた協議に入ることで基本合意書を結んだ。持ち株会社を設立して上場させ、傘下に入る両社は上場廃止となる方針。持ち株会社の社長はホンダの取締役から選出し、新会社の取締役の過半もホンダが占める方針だ。事実上、新会社の主導権はホンダが握ることが鮮明になった。 <買収の失敗事例←相手の立場を考えないメンツのための買収は成功しないこと> PS(2024年12月28日追加):日本製鉄はアメリカの鉄鋼大手USスチールを約2兆円で買収すると発表したが、*11-2-3のように、USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)は、「買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性がある」とバイデン氏に報告し、バイデン米大統領に決定を委ねることになったそうだ。「鉄は国家なり」という言葉があるくらいに製鉄業はどの国でも重要な産業であるため、バイデン米大統領だけでなく、トランプ次期大統領や全米鉄鋼労組が「USスチールは、国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠」と考えるのは当然で、その理由は、同盟国であっても韓国の鉄鋼大手ポスコが日本製鉄を買収すると発表すれば、日本人も反対するのと同じであろう。 また、日本製鉄は、「提示してきた約束は米国の雇用を維持すること」としているが、米国は年功序列・終身雇用・義理人情型の社会ではないため、USスチールでは有能な人が退社し、取引先も離れて販売も振るわなくなり、原子力発電所建設を手掛けていたストーン・アンド・ウェブスター社を高値で買収した東芝と同様、多額の損失を出して本業まで危うくしそうだ。 これに先立ち、*11-2-1・*11-2-2は、①日本製鉄はUSスチールの買収計画を巡り、安全保障の問題を審査するCFIUSに対し、さまざまな提案や説得を続けたが、CFIUSの懸念を払拭できなかった ②バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい ③日本製鉄は、トランプ次期米大統領の反対表明を受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」とする声明を出した ④日本製鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」「日本製鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」「買収はUSスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱化する」と説明した ⑤日本製鉄は政治リスクを縮小するため、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた としている。 このうち、①②については、最初に説明したとおり、米国の対応は理解できるし、③については、理由の説明がないため説得力が無く、米国が鉄鋼産業を護ろうとすれば日本製鉄以上のことができる。また、④のうち、「雇用を守る」というのは米国ではさほど重視されることではなく、仮に日本製鉄が最先端の技術を持ち、それをUSスチールに供与してしまえば日本の優位性はなくなるため、日本製鉄の説明は実行不可能なようなのである。 ![]() ![]() ![]() 2024.12.18日経新聞 2024.4.13時事 2024.9.13読売新聞 (図の説明:左図のように、メディアは買収によって世界での販売量・生産量の順位が上がると主張するが、合計売上高や合計生産高の順位が一瞬上がることに意味は無い。そして、中央の図のように、USスチールの買収を巡っては全米鉄鋼労組はじめ現米国大統領・次期米国大統領がともに反対しており、買収できたとしてもその後の経営は困難を極めると予想されるため、買収額の2兆円はドブに捨てるようなものである。なお、右図のように、USW会長や幹部も最初から乗り気ではなく、日本製鉄の買収計画には無理があったため、2兆円もかけるのなら、今後、確実に鉄鋼需要が伸び、かつ喜ばれるアフリカの適地に製鉄所を作った方が賢いと思う) *11-2-1:ttps://jp.reuters.com/economy/industry/SSRJFBBWP5KGZCIBDGOGBZQJN4-2024-12-18/ (Reuters 2024年12月19日) 日鉄、USスチール買収でCFIUSの懸念払しょくできず=書簡 日本製鉄(5401.T), opens new tabは米鉄鋼大手USスチール(X.N), opens new tab買収計画を巡り、安全保障上の問題を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)に対してさまざまな提案や説得を続けたものの、CFIUS側の懸念を払しょくできなかったもようだ。CFIUSが14日付で日本製鉄に送った書簡の内容をロイターが確認して分かった。CFIUSは23日までにバイデン米大統領に買収計画を承認するか、審査を延長するか、あるいは計画を認めないことを提言する見通し。書簡によると、CFIUSを構成する関係省庁の間でなお意見がまとまっておらず、このままの状況ならば最終的にバイデン氏の判断に委ねられる形になる。バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい。書簡には、9月初めから日本製鉄がCFIUS側と対面で4回、電話で3回の協議をしたとの経緯が記されている。直近では13日にも米財務省および米商務省の事務局との話し合いがあった。また、日本製鉄は安全保障上の懸念を和らげるための対応策も3回提案していたという。 *11-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0354A0T01C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 日鉄「米国の安全保障強化」 USスチール買収意義を強調 日本製鉄は3日、トランプ次期米大統領が日鉄によるUSスチール買収計画に反対すると表明したことを受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」と買収意義を強調する声明を出した。日鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」とも改めて強調した。声明では、日鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」と説明。買収は「USスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱(きょうじん)化する」とした。トランプ氏の反対表明についての直接的な言及はしていない。トランプ氏は2日(米国時間)、「かつて偉大で力強かったUSスチールが外国企業に買収されることは私は完全に反対だ」と自身のSNSに投稿した。大統領選のさなかも、日鉄による買収計画に反対する考えを再三述べてきた。日鉄のUSスチール買収計画は現在、対米外国投資委員会(CFIUS)による安全保障上の審査と、独禁法上の審査の最中だ。CFIUSの審査期限は12月23日とされており、日鉄は現バイデン政権下で12月末までの買収完了を目指している。買収計画は米大統領選の影響で政治問題化してきた。9月にはバイデン大統領が中止命令を出すと欧米メディアが報じた。日鉄は政治リスクを縮小するために、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた。 *11-2-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241224-OYT1T50042/ (読売新聞 2024/12/24) 日鉄のUSスチール買収、バイデン大統領に最終判断委ねられる…15日以内に決定へ 日本製鉄は日本時間24日、米鉄鋼大手USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)から、審査結果について全会一致に至らず、バイデン米大統領に決定を委ねたとの報告を受けたと明らかにした。バイデン氏は15日以内に決定を下す必要がある。米紙ワシントン・ポストも23日、事情に詳しい関係者の話として伝えた。報道によると、CFIUSは、買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性があるとバイデン氏に報告した。その上で、日鉄側のリスク解決に向けた対策や投資計画の実現可能性などについて、委員会内で意見の一致に至らなかったと伝えたという。バイデン氏は3月、USスチールについて「国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠だ」との声明を発表。ホワイトハウスは、その立場は現在も変わっていないとしている。日鉄は「日鉄が提示してきた約束が米国の雇用を維持し、ひいては国家安全保障を強化するということについて、大統領が熟慮されることを強く要望する」とコメントした。CFIUSは財務長官や国務長官らで構成し、全会一致の結論が出なければ、大統領が最終判断する。日鉄は米大統領選前の9月中にCFIUSへ買収計画を再申請しており、今月23日が審査期限だった
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2024,10,28, Monday
衆議院議員選挙期間中であり、私が他の事で忙しくもあったため、しばらくブログを書きませんでしたが、再開します。
(1)日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約 *1は、①日本被団協のノーベル平和賞受賞決定 ②衆院選公示を控え、日本記者クラブの党首討論会で安全保障をめぐる議論が白熱 ③核兵器をめぐる議論で自民党と他党の立場の違いが浮き彫り ④首相(≒自民党)は核抑止力を重視している ⑤立憲の野田代表は、日本は唯一の被爆国で、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容する発言をしている日本のトップでいいのか」「核兵器禁止条約にせめてオブザーバー参加すべき」と述べた ⑥共産党の田村委員長は「核兵器禁止条約を批准すべき」「核抑止は核兵器を使う脅しで、被爆者の願いを踏みにじるもの」とした ⑦公明党の石井代表は、「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」とオブザーバー参加に賛成 等としている。 日本は、2度も原子爆弾を落とされた唯一の被爆国で、その上、戦後に「原子力の平和利用」として作られた原発では、自然災害に起因する世界最悪の福島第一原発事故を起こし、未だに解決の道筋も見えない国である。そのため、人類に被爆(外部被曝・内部被曝を含む)という著しい危険をもたらす核兵器の廃絶や脱原発の推進こそが日本に与えられた天命だと、私は思う。 そのような中、①のように、日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことは、大変、喜ばしいことだった。しかし、②③④⑤⑥のように、日本政府は、安全保障上の“核抑止力”を理由として、核兵器禁止条約に批准するどころか、オブザーバー参加すらしてこなかった。しかし、「核兵器を持つことに依る抑止力」というのは、核兵器を持ちたいと思う人の希望にすぎず、むしろ現実的でないと私は考える。 そして、本当の核抑止力は、戦後の長期にわたって被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶や平和の尊さを発信し続けたことによって培われ、それがノーベル平和賞を通じてヨーロッパの国によって橋渡しされつつあるのではないだろうか?そのため、⑦のように、日本政府が“橋渡し(具体的に何をしたのか?)”した形跡はないと思うのである。 (2)長崎原爆の被爆者と日本政府の対応 ![]() ![]() ![]() 2022.7.29民医連 2024.8.7朝日新聞 2024.9.3朝日新聞 (図の説明:左図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地とされず、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれてきた。そして、中央の図の○の「被爆体験者」が、今回の訴訟の原告である。また、右図のように、「被爆体験者」の症状は、「被爆者」と違って放射線の影響ではなく、被爆体験による不安が原因の精神疾患とされてきた。しかし、精神疾患が原因で白血病や癌になるのでないことは常識だ) 1)地元紙の記事から 長崎原爆に近いエリアの佐賀新聞は、*2-2のように、①長崎地裁は被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出した ②岸田首相は全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表 ③同時に判決を不服として控訴 ④被爆体験者の医療費以外の各種手当は被爆者との差が大 ⑤救済策・訴訟対応とも被爆体験者の反発は強く法廷闘争は続く ⑥国が被爆者認定の在り方を見直す以外に解決はない ⑦国は「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持し、被爆体験者への現行医療費助成は精神疾患とその合併症や胃癌など7種類の癌に限定した上、申請時と年1回の精神科受診を義務化している ⑧広島高裁が援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて新基準に基づく被爆者認定を進めている広島と差が残り、差の原因は「長崎には客観的な降雨記録がないため」とされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果等を根拠に一部援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限り被爆者と認めた ⑨長崎では1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定され、その後、周囲に特例区域が追加されて全体として援護区域は広がったが、線引きは旧行政区画に沿って行われた ⑩原爆由来の放射性物質の影響が行政区画通りに広がる筈がなく不合理であることは明らか ⑪国は画一的線引きではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を調査結果等と突き合わせて精査し判断すべき ⑫被爆体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超えるが、長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった と記載している。 また、長崎原爆地元の長崎新聞は、*2-1のように、⑬長崎原爆の爆心地から半径12kmの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている ⑭違いは国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうかで、被爆者には「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めている ⑮被爆者は、被爆者健康手帳を交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担され、状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当も受けられる ⑯被爆体験者は、2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)の医療費支給に留まる ⑰長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者は多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島のみに適用され、長崎は対象外になっている 等としている。 ポイント1:被爆エリアについて ← 黒い雨が降った地域だけを加えても不十分である 日本政府は、⑨⑩のように、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域を指定し、その後、周囲に特例区域を追加したが、旧行政区画に沿って線引きした。しかし、原爆由来の放射性物質が行政区画通りに広がるわけがないため、被爆エリアの定義自体が不合理なのである。また、⑪のように、被爆エリア(≒援護区域)外にいた人の証言・当時の状況・健康被害の状況を疫学的に調査して統計処理したものは、客観的・科学的な根拠そのものなのだ。 また、⑧の広島高裁は被爆者と認めたものの、本当に「“黒い雨”を浴びた人のみが被爆者か?」と言えば、原発事故で明らかになったとおり、被曝には内部被曝もあるため、放射線量の高い地域で収穫された作物を食べた人やその地域で呼吸していた人も被曝者になる。 つまり、これまで、日本政府は、i)原爆で焼け死んだ人(熱による焼死) ii)被爆直後に著しい放射線障害を起こした人(強い外部被曝) のみを被爆者として認定していたが、実際は、iii)黒い雨を浴びた人(緩やかな外部被曝) iv)黒い雨が降ったため放射線量の高くなった地域で収穫された作物を食べた人(内部被曝) v) 放射線量の高い地域で呼吸していた人(内部被曝)も健康被害を受けるため、被爆者なのである。 従って、⑰のように、長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った多くの体験者は被爆者であり、広島のみに黒い雨被害者を被爆者と認めたのは片手落ちであると同時に、直接、黒い雨にあった人のみを被爆者としているのも、未だ不足なのである。 ちなみに、長崎原爆が投下された時、佐賀市の飛行機工場で尾翼を作っていたという私の母は、真っ青な空にモクモクと黒いキノコ雲が上がり、女学生の友人と「あれは何だ。何だ」と言っていたところ、しばらくして「新型爆弾だ」という情報が入ってきたのだそうだ。従って、佐賀市からでも見えた長崎原爆による「灰(粉塵)」や「黒い雨」は、かなり広い範囲で降ったと推測でき、狭い行政区画や⑬のような爆心地から半径12kmの同心円内に収まっていたわけがない。また、現在、90~100歳代のこのような多くの人たちの貴重な証言は、広く集めて記録しておく必要がある。 ポイント2:被爆者と被爆体験者の定義について 国は、⑨⑬のように、爆心地から半径12kmの同心円内にいても原爆投下時に国が定める地域(旧長崎市全域と特例区域)の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」に分け、⑭のように、被爆者には、「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には、被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めているのだそうだ。 違いの根拠は、国は上のi)ii)しか「原爆放射線による健康被害」のある被爆者と認めず、iii)iv)の人は、被爆の影響はないのにうるさく言う「精神的疾患」だとしているからである。 その結果、⑮⑯のように、被爆者は被爆者健康手帳の交付を受けてほぼ全医療費が公費負担・状況に応じ健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当が支給されるが、被爆体験者は2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)への医療費支給に留まっているのである。そして、これは⑧の広島高裁判決との不均衡や長崎地裁判決の分断による公平性の問題以前に、緩やかな外部被曝や内部被曝の健康への悪影響を認めないという国の頑なな態度の問題なのである。 ポイント3:被爆(外部被曝・内部被曝を含む)の健康への影響について 国は、⑦のように、「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持しているが、それが医学的に正しいのかと言えば、緩やかな外部被曝や内部被曝の影響を無視しているため、正しくない。また、内部被曝による胃癌等発生が精神疾患によるものであるわけがないため、被爆体験者への現行医療費助成に精神科受診を義務化しているのは、賠償費用を抑えるために意図的にやっているとしか思えない。 従って、①のように、長崎地裁が被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出したのは、少しは良かったし、②のように、岸田首相が全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表したのは何もしないよりは良かったのだが、被爆者や被曝者の定義を、国は最新の科学に従って見直すことが重要だ。そうすれば、④⑫のように、生存者の数が減っても賠償金額は増えるが、被害者を犠牲にする不公正を続けるよりは、ずっとましであろう。 そして、③⑤⑥のように、国が被爆者認定の在り方を科学的に見直す以外に納得は得られず、裁判は続き、国の不作為による被害者は増える。そのため、裁判所も、黒い雨が降ったか否かだけではなく、緩やかな外部被曝や内部被爆の健康影響を認め、日本政府に心の問題(≒精神的疾患)などと言わせてはならないのである。 2)全日本民医連(https://aequalis.jp/feature/cherish.html)の見解について ![]() ![]() ![]() 2024.9.9NHK Radio Active Pollution 玄海原発 プルサーマル裁判の会 (図の説明:左図の黄色と黄緑色のエリアが、爆心地から半径12km以内で「被爆体験者」とされた人の住んでいた地域だ。しかし、半径12kmで小さすぎることは、中央の図の福島第一原発事故によって著しく汚染された地域から明らかで、地形・風向き・降雨によって放射性物質の広がり方は異なる。これを、長崎県と風向きが近い玄海原発でシミュレーションした地図が右図であり、半径80kmでも汚染される地域がある。ちなみに、チェルノブイリ原発事故では、移住義務ゾーンが右図の赤・橙・黄緑の地域、移住権利ゾーンが右図の緑色までの地域となっている) 全日本民医連による*2-3の記事は、①原爆の熱線や黒い雨を浴びながら行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たちが“被爆体験者”で、放射能の影響ではなく原爆体験のストレスで病気になったとされている ②長崎の被爆地は2度にわたって範囲が広がったが、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形 ③図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではなく、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者 ④被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない ⑤被爆体験者には「被爆体験の不安が原因で病気になった」と書かれた「被爆体験者精神医療受給者証」が交付される ⑥こんなおかしな仕組みは放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向でできた ⑦被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はなく、放射能の影響が考えられる癌などは対象外で、例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃癌」になった途端、医療費助成が打ち切られるという矛盾した制度 ⑧長崎民医連は2012~13年に被爆体験者194人を調査し、約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があった ⑨長崎県連事務局次長は「被爆者の認定指針はじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めており、根本的に間違っている」と指摘 ⑩被爆体験者とされる鶴さん(85歳)は、爆心地から東へ7.3kmの旧矢上村で被爆し、同じ村内の隣の集落は被爆地になったが、山の尾根の反対側の鶴さんの集落は被爆地と認められなかった ⑪1945年8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見たが「梅干みたいに赤黒かった」 ⑫父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した 等としている。 全日本民医連の記事は、①③④⑤⑦のように明確に書いてあるため、よくわかった。そして、⑥⑨は、私の推測と同じだが、これは、水俣病でも福島第1原発事故でも行なわれたことであり、今後起こる原発事故や公害による被害者に対しても行なわれるだろうから、国民は、それも折り込んで意志決定しなければならないのである。 さらに、長崎民医連は、⑧のように、2012~13年に被爆体験者194人を調査して、その約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があったことを確かめているが、これは、世界の学会誌に掲載された論文だろうか? もしそうでなければ、速やかに体裁を整えて、世界の学会誌に論文を掲載した方が良いと思う。 なお、被爆体験者とされている⑩⑪の鶴さんは、爆風で舞い上がった大量の放射性物質を含む粉塵がそのまま降ったり、雨に混じって黒い雨となって降ったりすれば、山の尾根の反対側の集落であっても緩やかに外部被曝し、内部被曝もする。そのため、⑫のように、全員ではないが、家族が早逝しているのだろう。 従って、②の長崎の被爆地は、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形というのは、円形でないから正しくないとは思わないが、あまりに範囲が狭すぎるため、被爆者全員の健康管理をしていないことが明らかだ。ただし、戦争による被害は原爆による被爆だけではないため、被害者全員に補償していたら際限が無く、殆ど補償されていないとも言えるのだ。 (3)衆議院議員選挙におけるエネルギー政策への審判 ![]() ![]() ![]() 2023.8.1東京新聞 2024.9.25西日本新聞 資源エネルギー庁 (図の説明:左図が全国の原発の状況で、再稼働済が11基あり、その中には使用済核燃料貯蔵率が80%以上のものが多い。また、中央の図は、再稼働審査に合格した原発の使用済核燃料保管状況だが、殆どが80%以上である。そして、右図が高濃度放射性物質を陸地で最終処分する方法で、地上から300m以上離れた地下深くで、1000年~数万年も管理しなければならない《https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-02-11.html 参照》わけだが、誰の金で、誰が管理するのか、無責任極まりないのだ) ![]() ![]() ![]() 2022.8.21東京新聞 2023.7.27日経新聞 2024.10.29NOTE (図の説明:左図は、フクイチ事故原発の汚染水《トリチウムを含む処理水》を海に放出する議論だが、トリチウム濃度が国基準の1/40未満であっても、分量は優に40倍を超えるため総量では基準を超え、第一次産業に損害を与えていることは明白だ。そのような中、中央の図のように、“脱炭素電源オークション”として、原発の新設・建て替え・既存原発の安全対策費やアンモニアを使う火力など、将来性のない電源に対して電気料金から支援金を出す仕組を作ったのは無駄に国民負担を増やすものでしかない。そのようなことの積み重ねが、右図の今回の衆議院議員選挙の結果であり、原発地元の新潟県・佐賀県では全選挙区で立憲民主党が勝ち、福井県・鹿児島県でも自民党の原発推進派が落選する結果となったのである) 1)衆議院議員選挙における候補者の態度 *3-1-1は、①3年前の前回衆院選から十分な議論もなく原発政策は大きく変化 ②岸田前政権は次世代型原発へのリプレース・最長60年としてきた既存原発の運転期間延長など、福島第一原発事故(以下、“フクイチ事故”)を受けて進めた「脱・原発依存」から大きく舵を切り、なし崩しで原発回帰が進む ③今回の衆院選で議論は低調 ④原発利用については、自民党・日本維新の会・国民民主党が推進の立場で、共産党・れいわ新選組が脱原発、立憲民主党は公約では触れず党綱領に原発ゼロを明記 ⑤薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者は発言内容は違えど運転延長には容認 ⑥原発利用とセットで語る必要のある「核燃料サイクル」も実現が見通せず ⑦高レベル放射性廃棄物を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドもなし ⑧選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が2002年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都町と神恵内村、玄海町の3自治体のみ としている。 衆議院議員選挙の立候補者が、③のように、脱原発を口にしない理由の第1は、自民党の場合は大手電力会社から寄付だけではなく選挙協力も得ているから、国民民主党・民主党の場合は、大手電力会社の労組から選挙協力を得ているからである。 また、理由の第2は、経産省はじめ原子力エネルギーを維持したい人の発言力が強く、政治家・候補者・メディアはじめ国民の多くが、これに対抗できる知識や力を持っていないからだ。そのため、政権批判と言えば、国民に賛成されやすい「政治とカネ」論争ばかりになるのだが、これは国民を馬鹿にしすぎているだろう。 そのような事情から、①②のように、自民党の岸田前政権は選挙で審判を仰ぐことなく、フクイチ事故を受けて進めた「脱原発依存」から、なし崩しで原発回帰を進め、④のように、立憲民主党は党綱領に原発ゼロを明記しているが、公約では触れなかった。 それでは、よく言われるように原発はコストが安いのかと言えば、後で詳しく述べるとおり、⑥⑦⑧の如く、高レベル放射性廃棄物の処理はできず、リスクが高いのに使用済核燃料を各原発に溜め込んでおり、国が無駄金をばら撒かなければ一歩も前に進まない金食い虫なのである。 なお、⑤のように、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者が運転延長に容認している理由は、選挙は票数の勝負であるため、候補者の主張に反対の人が多いと得られる票数が減って不利になるからであろう。 しかし、選挙結果を見ると、*3-1-4のように、原発地元である新潟県・佐賀県では立憲民主党がすべての小選挙区を制し、福井2区でも原発推進派で自民党系の高木氏が落選した。そして、従来は自民党が強かった鹿児島県も、1区立民・2区野党系無所属・3区立民が小選挙区を制し、4区の森山氏(自民党幹事長)だけが自民党なのである。そして、この結果については、「政治とカネ」問題が大きいと言われてはいるが、原発の地元は、他の地域と違って真剣に原発のリスクについて考えていることを忘れてはならない。 なお、日本の経済団体は、*3-1-5のように、経団連の十倉会長が、⑨自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢を構築し、政策本位の政治を進めることを強く期待 ⑩与党の敗因は政治資金を巡る問題への国民の厳しい判断 ⑪待ったなしの重要課題に原子力の最大限活用を含む とし、日本鉄鋼連盟の今井会長は、⑫安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する としている。 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬連立与党の枠組みがどうであれ、デフレからの完全脱却に不退転の決意で臨むべき とし、経済同友会の新浪代表幹事は、⑭与野党問わず現実を直視してしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めて欲しい としている。 つまり、経産省の意向を強く受けている経団連の十倉会長は、⑨⑩⑪のように、問題は「政治とカネ」だけなので、自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢で政策本位の政治を進めることを期待し、原子力の最大限活用は待ったなしの重要課題だ としている。また、日本鉄鋼連盟の今井会長も、⑫のように、原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待する としているのだ。 しかし、このように日本の経済界の大企業が安定のみを追求して、イノベーションを軽んじた結果、日本は「失われた30年(https://toyokeizai.net/articles/-/325346 参照)」を経験したのだということを、決して忘れてはならない。 そして、あまりにもパッとしない発言だったため、十倉氏の経歴を調べたところ、1974年東京大学経済学部卒の74歳(学生運動が盛んで、学生が勉強していない時期)で、現在は住友化学株式会社代表取締役会長であり、経団連会長である。しかし、積水化学はペロブスカイト太陽電池を2025年に事業化する(https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/12/news047.html 参照)のに対し、住友化学は大分工場で購入電力を100%再エネ化しただけで、次の大きな利益機会であるペロブスカイト型太陽電池には参入していない。 また、日本鉄鋼連盟会長で日本製鉄社長の今井氏は、1988年東大院金属工学研究科修士修了、1997年マサチューセッツ工科大博士修了で、旧新日本製鉄出身初の技術系社長で脱炭素化対応(≒電炉推進)にあたってきた人なので、脱炭素の安定電源として原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待するのもわからなくはないが、原発は高コストで温排水を出す電源であるため、SDGsの役に立たない上、コストダウンも難しい。そのため、もっとスマートな代替案を考えて欲しいと思ったのである。 なお、AGCは、建築用ガラスの性能(遮熱・断熱性)と太陽光発電の性能を併せ持つ建物のガラス部位で発電することによって、カーボンニュートラルに貢献しようとしており、私も使える限り使いたいと思うのだから、これは当たるだろう。 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬のように、デフレからの完全脱却を求めておられるが、原発等への無駄で膨大な補助金を削らずに新しい財源を確保するためとして国民負担を増やし続ければ、国民の可処分所得が減るためデフレからの脱却などできるわけがないのである。さらに、経済同友会の新浪代表幹事の⑭の発言は、「何が無視できない重要な現実なのか」を知力を尽くして議論していないため、何も言っていないのと同じである。 2)原発は採算性が悪く、巨額で不透明な補助金によってのみ成り立っていること *3-1-2は、①原発コストは陸上風力・太陽光より高くなり、海外では採算を理由に廃炉も ②日本政府の試算でも原発コストは上昇 ③年度内に予定されるエネルギー基本計画改定で原発活用方針が盛り込まれれば国民負担増 ④日本政府はフクイチ事故後、原発依存度を可能な限り低減する方針を掲げたが、岸田政権がGX基本方針で「原発の最大限活用」に転換 ⑤エネルギー安全保障・CO₂排出抑制を理由に掲げても、事故の危険性とコスト高騰あり ⑥米国ラザードが発電所新設時の電源別コストを発表し、建設・維持管理・燃料購入費用を発電量で割って算出する原発のコストは陸上風力・太陽光発電の3倍以上 ⑦経産省作業部会の計算でも2030年新設原発の単純コストは11.7円/kwhで、陸上風力・太陽光と同じ ⑧実際には単純なコストだけでなく補助金等の政策経費を含めて算出すべき ⑨太陽光・風力は大量生産で安くなるが、原発は量産効果が働かない ⑩原発活用でも電気代が下がるとは考えられない としている。 原発は、安価で安定的な電源だと言われ続けてきたが、原発のコストは、本当は、⑧のとおり、電力会社が支払う単純コストだけではなく、国が支払う補助金等による膨大なコストも含めて算出するのが正しい。 しかし、補助金を加えない単純コストだけを比較しても、①⑥⑨のように、原発は大量生産することができず、太陽光・風力は大量生産できるため、普及して量産効果が出れば出るほど太陽光・風力の方が安くなり、これは最初からわかっていたことである。 そして、原発を推進したい経産省の作業部会でも、⑦のように、やっと2030年新設原発の単純コストが11.7円/kwhで陸上風力・太陽光と同じになるとしているが、この日本の遅れは、原発には膨大な補助金をつけて推進し、太陽光・風力の普及には消極的だった結果なのである。 なお、②③⑤⑩のように、原発のコストは、日本政府の試算でも事故の危険性とコスト高騰で上昇している上に、再エネと比較してエネルギー安全保障に資さず、CO₂排出は抑制するが地球温暖化抑制にも公害防止にも資さず、原発の活用で電気代が下がるわけでもなく、エネルギー基本計画の改定で原発活用の方針が盛り込まれれば、むしろ国民負担は増すのである。 それでも、④のように、岸田政権は、十分な議論もなく、GXを理由として、「原発依存度を可能な限り低減する」という方針を掲げたのだが、思いつきのこじつけで1人前の大人を説得することはできない。 また、*3-1-3は、⑪CO₂等の温室効果ガス排出を減らす発電所の改修・新設を対象として発電会社が国の補助金を受け取る「長期脱炭素電源オークション」が始まった ⑫補助金原資には電気料金も含まれる ⑬発電会社への補助額等の内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できない ⑭発電会社は施設等の維持費を積算し、経産省が所管する電力広域的運営推進機関の入札に応じて落札できた場合に維持費に相当する国の補助金を受け取れる ⑮個々の落札価格や受取期間は公表されず、資源エネルギー庁の担当者曰く「必要な時が来たら情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」 ⑯原発対象の補助金を受ける中国電力も「経営戦略上、回答を控える」とした ⑰初回2023年度は新設・建て替えに補助対象が絞られ、今月手続きが始まった2024年度から「新規制基準へ安全対策工事が必要な原発」も対象 ⑱龍谷大の大島教授は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めないものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかを公開するのが当然」と語る ⑲NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木理事長は「落札価格が公表されなければ、応札の基本ルールが機能しているのかどうかもチェックできない」と指摘 ⑳国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機がどれだけ補助金を得るのかを、NPO法人「原子力資料情報室」が、「公表されている落札総額を落札総容量で割り、1kw当たり平均落札価格を5万8254円と計算し、これに同原発の容量を乗じて766億円とはじいた ㉑「原子力資料情報室」の松久保事務局長は「殆ど知らされることなく極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘 等としている。 そもそも、大量の温排水を出す原発を温室効果ガス排出を減らす発電所と認定すること自体が奇妙だが、これは、⑪⑫⑭のように、国民が支払う税金を使った補助金と電気料金から拠出させる支援金を「長期脱炭素電源オークションを通したから」と正当化して、主に原発に配ることが目的だったのだろうと、公認会計士として外部監査の経験を持つ私は推測する。 そして、再エネを普及させるための補助金は著しく少ないため、⑬のように、補助額の内訳を示すことはできず、⑮のように、資源エネルギー庁の担当者は、個々の落札価格や受取期間を公表せず「資料の作成も取得もしていない」とし、⑯の中国電力もそうするのであろう。⑰の「新設・建て替え」「新規制基準へ安全対策工事」は、原発が対象であることが明らかであることから、私の推測は、さらに裏打ちされたわけである。 このように、時代に合わなくなったことに対する補助金をなくさずに、時代が求める新しいことをする度に「財源は?」と称して国民負担を増やせば、そのうち国民負担を100%にしても新しいニーズを満たすことはできなくなるだろう。そのため、必要なことは、情報開示した上で国民の審判を受けることだが、国民を馬鹿にしているのか、それが行なわれていないのだ。 従って、私は、⑱⑲の意見に全く賛成であるし、⑳のように、NPO法人「原子力資料情報室」が、限られた情報からできるだけのことをして、中国電力島根原発3号機に766億円の補助金が渡されたであろうことをはじき出したのはアッパレだと思う。 さらに、㉑のように、簡単なことを複雑化して国民が事実を把握できないようにし、不透明にしてやりたい放題やることこそ、民主主義から大きくはずれている。そして、こういうことができないようにするためには、国の会計を複式簿記・総額表示に変更して迅速に決算を行ない、政策毎にかかる金額の内訳を示して行政評価できるようにする以外にはないのだ。もちろん、そうされると都合の悪い人は抵抗するだろうが、これは既に殆どの国でやっていることなのである。 3)女川原発の再稼働にかかった費用と再稼働の是非 ![]() ![]() ![]() 2024.10.29Yahoo 2024.10.29毎日新聞 2024.10.29Nippon.Com (図の説明:左図は、現在の女川原発の様子で、中央の図が、同原発の安全対策のために行なった工事だ。そして、右図が、2024年10月末時点の原発の稼働状況である) *3-1-6は、①東北電力が、13年半ぶりにに女川原発2号機を起動 ②事故を起こしたフクイチと同じ「沸騰水型」初 ③被災地及び東日本の原発再稼働初 ④女川原発2号機は東日本大震災で敷地内震度6弱を観測し、約13mの津波が押し寄せて外部電源の多くが失われ、港にあった重油タンクが倒壊し地下室が浸水 ⑤その後、想定される最大クラスの津波に備えて防潮堤の高さを海抜29mにかさ上げし、地震被害を抑えるため原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行って、2020年に原子力規制委員会の審査に合格 ⑥震災後の安全対策工事費用約5700億円 ⑦テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」は再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内の設置が義務で、期限の2026年12月までに約1400億円かけて建設予定 ⑧政府は脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発最大限活用方針 ⑨電力各社は、新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発も地元の理解を得た上で再稼働を目指す ⑩女川町長は「継続的な安全性向上を求める」 ⑪宮城県知事は「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」 ⑫地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できるか課題 ⑬東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減見通しだが、電気料金の値下げに慎重 ⑭武藤経産大臣は「大きな節目になる」 ⑮使用済核燃料は原発建屋内の燃料プールで一時的保管されているが、既に79%に達し、再稼働に伴って今後4年程度で満杯 等としている。 東北電力女川原発再稼働のためにかかる費用は、⑤⑥のように、i)想定される最大の津波に備える防潮堤の海抜29mへのかさ上げ ii)地震被害を抑える原子炉建屋内の配管・天井等の耐震補強 iii)テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」であり、i)ii)の安全対策工事に約5,700億円かけたところで、原子力規制委員会は審査に合格させている。また、iii)のテロ等対策費には約1,400億円かかるそうだが、再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内に設置すればよく、建設期限は2026年12月なのだそうだ。 そこで疑問に思うのは、イ)いつも甘い“想定”の最大津波は本当に29mが上限なのか ロ)実際に29mの津波(ものすごい分量で、勢いのある水の塊)が何度も押し寄せた時に、防潮堤の薄い壁は耐えられるのか ハ)津波が来た時、海水が逆流する内水氾濫は起きないのか である。「津波や巨大地震はない」という甘い“想定”で、原発を低い場所に建てた上に、重要な施設を地下に置いたため、ほんの13年前にフクイチ事故は起き、①②③④のように、女川原発も危ういところだったのだから、忘れたわけはない筈だ。 その原発に、電力の全消費者が支払う電気料金から支出される支援金を約5,700億円もかけて弥縫策のような工事を行い、さらに約1,400億円かけるテロ等対策は未完成で、完成したところで武力攻撃には無力なのに、原子力規制委員会は審査に合格させたのである。そのため、消費者である国民は、二重・三重に馬鹿にされ踏みにじられているのであり、政策をチェックして選挙に行くこともなく、ぼんやり(or熱狂して)野球ばかり見ている場合ではない。 そして、政府は、電力の全消費者が支払う電気料金から支援金を支出する理由として、⑧のように、「脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発を最大限活用する方針」「生成AIの普及による電力消費の増大」等を掲げているが、前にも書いたとおり、原発は、脱炭素は実現できても海に温排水を排出しているため地球温暖化防止の役には立たず、漁業に多大な迷惑をかけて食糧自給率を落とし、集中電源は、北海道胆振東部地震やウクライナ戦争で明らかになったとおり、エネルギー安定供給にもむしろ資さないのである。 しかし、「電力の全消費者が払う電気料金から安全対策費に関わる支援金が出る」などといううまい話は滅多にないため、⑨のように、電力各社は新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発でも再稼働を目指しているが、いくら安全性を重視しても「事故0」はなく、原発事故は巨大事故に繋がるため、地元が理解しないのは当然なのだ。 そのような中、⑩⑪の女川町長・宮城県知事の「継続的な安全性向上を求める」「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」というのは、原発維持や安全対策工事の経済効果を見ているのかも知れないが、無理な要求である上に視野が狭くもある。 また、宮城県知事は「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」としているが、住民が避難して何処へ行き、どういう生活をし、誰が生活の面倒を見て、原発事故の収拾費を出すのは誰かを考えるべきだし、⑮のように、原発建屋内の燃料プールで“一時(本当は長期)”保管されている使用済核燃料は、既に容量の79%に達しており、再稼働すれば4年程度で満杯となるのであり、これは原発のリスクをさらに増している。 その上、⑫のように、地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できないのは能登半島地震で経験済で、そもそも事故や災害が起きたら避難しなければならないような場所に住宅地等があること自体、「一寸先は闇」なのである。 なお、⑬のように、東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減の見通しだが、電気料金の値下げはせず、⑭のように、武藤経産大臣は「大きな節目になる」と言われているが、どういう節目になると言うのだろうか。 4)再エネ・EVのエネルギー自給率向上・食糧自給率向上・地方創生との相乗効果 ![]() ![]() ![]() 2022.1.13MoneyPost Panasonic PRTimes (図の説明:左図のように、建物を透明な太陽電池で覆うと、太陽光のエネルギーが電力に変換される分だけ環境への放熱が減るため、発電と温暖化防止の両方を実現できる。しかし、建物に無様な太陽光発電装置をつけるわけにはいかないため、中央の図のように、ガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池が開発された。また、右図のように、瓦型の太陽電池もあるため、住宅はもちろん城や寺などの伝統ある建物で使うと面白い) ![]() ![]() ![]() AGC トヨタイムス 2019.7.20日経BP (図の説明:左図のように、AGCもサンジュールという建材一体型太陽光発電ガラスを生産し始めており、様々なデザインがある。また、中央の図のように、トヨタは、街の景観に馴染ませながらビル壁面等で発電できる、レンガや板の模様を出せる太陽光パネルを作った。さらに、右図のように、駐車場や道路で発電できる太陽光発電もある) ![]() ![]() ![]() アグリジャーナル 国際環境経済研究所 ナゾロジー (図の説明:左図は、農業と風力発電のコラボレーションで、様々な設置方法が考えられる。また、中央の図は、温室に設置した透明な太陽光発電だが、日本のガラス室やハウスの設置面積は42,000haあるため、コストが見合って太陽光発電できればかなりの発電規模になるそうだ。さらに、右図は、シリコン型太陽光パネルの下で放牧されている羊だが、パネルが太陽光をエネルギーに変換しながら太陽光を遮るため、その分涼しくなって羊の成育がよくなったそうだ) イ)ペロブスカイト型太陽電池について *3-2-1は、①日本発のペロブスカイト型太陽電池の投資ラッシュが中国で開始 ②中国の新興6社が工場建設の計画で内外から流入する投資マネーが生産を後押し ③中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う ④中国・江蘇省無錫市で極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場完成が近づき、「世界初のGW(100万キロワット)級の生産基地」へ ⑤福建省アモイ市では大正微納科技が100MW級の工場を建設中で2025年に量産開始、発明した桐蔭横浜大学宮坂特任教授の教え子、李鑫氏が最高技術責任者 ⑥日本発の技術だが宮坂教授は技術の基本的な部分に海外で特許取得しておらず、量産で中国企業先行 ⑦太陽光から電気への変換効率は2009年の発明当時は3.8%で実用化に遠かったが、現在は最高26%台まで上昇し理論変換効率(33%)上限に近い ⑧カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍) ⑨日本勢は積水化学工業が25年の事業化を目指してシャープ堺工場の一部取得を検討 ⑩パナソニックホールディングスは2026年に参入方針 ⑪中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保する意志 ⑫ペロブスカイト型は、曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるため、発電効率もシリコン型と比べて優位 ⑬大正微納の馬晨董事長兼総経理は「ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わる」と話す 等としている。 上の図のように、様々に工夫された太陽電池は、⑬のとおり、都市部の建物の外壁・ガラス・瓦などの建材や道路・駐車場と一体化させれば、街そのものを発電所に変化させることができる。そして、太陽光エネルギーのうち電力エネルギーに変換された分は、熱エネルギーとして放射されないため、二重に地球温暖化防止に役立つと同時に、電力の自給率向上・防災・分散型発電にも資するのである。 そのため、上の図の瓦型やガラス型だけでなく、トヨタの板目模様やレンガ模様を印刷したペロブスカイト型太陽電池のようなものをビルやマンションの壁面に貼り付ければ、街の景観を保ちながら、スマートに太陽光発電をすることが可能である。 しかし、日本という国は、仮に研究で先を行っても、⑥⑦のように、「太陽光から電気への変換効率が悪い」等々の思いつく限りの欠点を並べられて、「世界特許をとらない」「市場投入が遅い」「大規模生産できない」「製品が高い」などの結果となるのであり、世界競争時代に勝つための製造業の基本がわかっていない。しかし、欠点は、⑫のように、ペロブスカイト型は曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるので発電効率もシリコン型と比べて優位であったり、設置可能面積が広かったり、製品を改良したりして、解決が可能なのである。 その点、中国は、①②③④⑤のように、可能性を見いだせば、短所を改良しながら、大規模投資・大規模生産・市場投入するため、手頃な価格で販売することが可能で、近年は、日本人も中国製の製品を使うようになっている。特に、EVと太陽光発電は、米国が過去の製品を護るための保護主義に陥っている中で、中国の1人勝ちになりそうだ。 なお、カナダの調査会社プレシデンス・リサーチは、⑧のように、「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍)としているが、スマートな建材一体型太陽電池の種類が増えれば、世界中で現在の建材に替えて使えるため、24億ドル(約3400億円)どころではないだろう。 このような中、⑨⑩のように、積水化学が、2025年の事業化を目指してフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発中で、パナソニックは、建材としてのガラスの代替を目指して建材ガラス基板にペロブスカイト層をインクジェット塗布して作る手法を使って2026年に参入するそうだ。しかし、日本政府も、過去の製品に固執して腰が重いため、⑪のように、中国企業の方が、日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打って世界シェアを確保しそうなのである。 ロ)蓄電池について 米大統領選において、何故か大差で勝利したトランプ前大統領は、「メキシコ・その他の国々からの輸入車に新たな関税を課す」「EVを推進する多くの既存政策を撤回する」としていたため、就任初日に、環境保護局(EPA)及び運輸省の自動車関連規則撤廃に着手する計画を示しているそうだ。 しかし、米国のゼロエミッション輸送協会は、「今後4年間は、これらの技術が今後何世代も米国の工場で米国の労働者によって開発・採用されるのを確実にする上で極めて重要だ」として、時間稼ぎできたことを喜んでいるようである(https://jp.reuters.com/markets/global-markets/BMDUUSY2RJJWFBLYLTOCFNGFCQ-2024-11-07/ 参照)。 そのような中、*3-2-2は、①米テスラは、ヤマダホールディングスの全国1000店ある店舗で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダは住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込む ②天候によって発電量が変わる太陽光電力の需要と供給を調整するには蓄電池を増やす必要がある ③テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量13.5kwhと大きく、競合国内メーカーと比べて容量当たり単価が安い ④米欧では既に複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっている ⑤太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電し、足りない時に販売して収入を得る仕組みで、電力の需給バランスも調整できる としている。 これに加えて、*3-2-3は、⑥経産省は、2025年度にも再エネ発電と蓄電池を併用する事業者の発電量に応じて上乗せして交付する補助金額を現状の2倍程度に拡充し、海外に比べて遅れた蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げる ⑦日本の再エネは太陽光の普及が特に進み、昼間に電気が余って発電停止が頻発 ⑧電気を溜めるのが解決策だが蓄電池が高くて使えていない 等としている。 このうち②⑦は、2012年7月に再エネ固定価格買取制度(FIT)が始まった当初から問題になっていたのに、それから12年後の現在でも⑤を説明しなければならず、④のように、米欧では、とっくに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっているのに、日本では、⑧のように、「蓄電池が高くて使えない」などと何の問題解決もできていないのが異常である。そして、何故そうなったのかが、最も重要だ。 そして、③のように、米テスラの蓄電池の方が国内メーカーよりも容量当たりの単価が安い上にデザインも優れ、①のように、ヤマダが全国1000店ある店舗で米テスラの蓄電池の注文を受け、住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込むというのは、家電に対する国内メーカーの衰退の著しさを感じた。何故そうなったのか。 また、⑥のように、経産省は、再エネ発電・蓄電池併用の事業者への補助金を2倍程度に拡充し、「海外に比べて遅れた」蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げるそうだが、「どんなイノベーションも、海外より遅れる」という我が国の状況をなくすためには、海外と比較して太陽光発電や蓄電池の普及が遅れた理由を追求し、それを解決することが最も重要であろう。 ハ)地方創生と再エネについて ![]() ![]() ![]() JA苫前 2022.8.24日経BizGate 長崎大学 (図の説明:左図は、広大な農地と風力発電の組み合わせ、中央の図は、牛の放牧と風力発電の組み合わせであり、風力発電からの電力収入を副収入とすることによって、国際競争力のある価格で農業生産を行なうことが可能だ。また、右図は、風力発電と養殖の組み合わせで、さまざまな組み合わせが考えられるが、どれも、再エネ収入を地方創生に活かしながら、食料・エネルギーの自給率向上にも資する点で優れている) *3-3は、①石破政権は、人口減・社会的基盤維持等の地方が抱える課題解消をめざし、首相官邸で閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合 ②2025年6月に纏める「骨太の方針」に今後10年間を見据えた具体的施策を盛り込む ③柱は、i)安心して働き暮らせる地方の生活環境 ii)東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散 iii)付加価値創出型の新しい地方経済 iv)デジタル・新技術の徹底した活用 v)「産官学金労言」の連携と国民的機運の向上 ④首相は11月中に纏める経済対策に関して「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出等の取り組みを支援する」と強調 ⑤首相は倍増方針を示した地方創生交付金に関し「金額だけ増やしても意味がない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った ⑥首相は、2014年9月発足の第2次安倍改造内閣で初代地方創生相を務め、2014年12月に決定した長期ビジョンに「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んで、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが地方の環境は依然厳しい ⑦首相は11月8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければ先の展望はない」とした ⑧国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した将来推計人口は、2056年に1億人を割って9,965万人になり、2070年に8,700万人 ⑨総務省住民基本台帳人口移動報告では、2023年の東京圏は転入者数が転出者数を上回って28年連続転入超過、地方は人口流出が続く ⑩首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動は、10年間で全国33の道県で男性より女性が多く転出」とし、婚姻率上昇を念頭に若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えた としている。 このうち①②⑤は良いと思うが、④については、農林水産業の高付加価値化は、例えば中食にまでして利便性を高めるような高付加価値化は良いが、価格のみを上げて贈答品で貰いでもしない限り果物も食べられないような国になっては、国民が困る。また、観光産業も、サービスは変わらないのに価格だけが上がるような高付加価値化では、国民が貧しくなって困るので重点化の内容が重要である。 また、首相は、⑥⑧のように、第2次安倍内閣で地方創生相を務められ、「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込まれて、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとされたが、人口減は止まらなかった。しかし、戦後のベビーブームで増えすぎた人口が減るのは自然現象だろうと、私は、思う。 そして、⑨⑩のように、東京圏でのみ転入者数が転出者数を上回り、地方は人口流出が続いて、特に若年世代の人口移動は男性よりも女性の方が多く転出する社会的増減が起こっているため、首相は、婚姻率を上昇させる目的で、若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えられたのだそうだ。しかし、「人口を増やすために婚姻率を上昇させよう(『生めよ増やせよ』論に近い)」などという発想自体が、女性に嫌われ、より自由で行動を縛らない東京に女性が転出するのだということを決して忘れてはならない。 1953年生まれの私の経験では、進学・就職・結婚年齢だった1970年~80年代は、東京でも女性差別・女性蔑視の発言・行動が横行していたため、多くの女性が活路を求めて日本から海外に出て行き、日本に残った人も東京の外資系企業に勤務するなどして活路を開き、そういう女性たちの行動や実績が男女雇用機会均等法制定に繋がって、東京では女性差別・女性蔑視を緩和させたのである。 しかし、その私でも埼玉県で活動すると、「女性は、科学的知識のない人、専門家でない人、細かい人、やさしくあるべき人、お茶くみやお酌をする人、男性の後ろにいるべき人」等のジェンダーまるだしの言葉や態度に不快な思いをすることが多い。そのため、もっと田舎で「科学的知識のある女性」や「専門家である女性」のサンプル数が少ない場所では、状況はさらに悪いだろう。つまり、女性は、「女性に対して差別や偏見の残っている地域に住んで無駄な苦労をしたくない」と思っているのであり、可能であれば差別や偏見の少ない地域に移動するのである。 そのため、⑦のように、首相が「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない」と思われるのであれば、まず「人口を増やすために、婚姻率を上昇させよう」などという「生めよ増やせよ」論を止め、女性が周囲からの敬意を感じながら自由に働ける地方創生をすべきである。 また、首相は、③のように、柱を5つに分解されているので、この柱に従って意見を述べる。 i)「安心して働き暮らせる地方の生活環境」について 女性差別のない職場・生活物資の調達・保育・教育・医療・介護などの日常生活に必要な財・サービスは、安心して働き、暮らしていくために必要不可欠なインフラだ。そして、女性は、自分に苦労が降りかかってくるこれらの点をしっかり比較して住む場所を決めているのであるため、未だに不合理な点が多いのは早急に改めるべきである。 ii)「東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散」について 東京に一極集中する理由には、便利さ・多い職業の選択肢・給与水準の高さ・子の教育における選択肢の多さなどがあるが、東京は、首都直下型地震や水害のリスクが大きく、東京で育った子は、自然に関する暗黙知が少ないという問題もある。そのため、優良企業が地方に分散し、地域住民に条件の良い職場を与えられれば、その効果は多くの分野に波及すると思われる。 iii)「付加価値創出型の新しい地方経済」について 付加価値を創出しない産業はこれまでも続いて来なかったが、いち早く新しい時代のニーズを捕らえれば、付加価値率は高くなる。 それでは、「新しい時代に顕著になったニーズは何か?」と言えば、a)環境と両立する経済 b)地球規模の人口増加に備えるエネルギー・食糧自給率の向上 c)共働きを前提とした家事の外部化 d)国内で少子化が起こる原因の正確な分析とその解決 e)災害による被害の最小化 などであり、これらを同時に解決できるのが、地方への人口分散なのである。 しかし、地方への人口分散を促すには、④のように、地方でも日常生活に不可欠なサービスを維持向上させ、新技術を活用した高付加価値型の企業を増やさなければならないのだ。 iv)「デジタル・新技術の徹底した活用」について “デジタル化”は、2000年代の始めから盛んに言われていることなので、「新技術≒デジタル化」という論調は、他の先進技術を知らないことを意味する。また、セキュリティー・通信の秘密・個人情報の保護などは、デジタル化を口実に犠牲にして良いものではないが、日本ではしばしばそれが混同される点が問題だ。 その他の新技術には、農業や水産業における品種改良、医療における癌の免疫療法や幹細胞・IPS細胞を使った再生医療などの生物系の新発見を応用したものも多いが、日本政府は化学療法を優先するなど、生物系の新発見・新発明への理解が乏しい。そして、これは、生物系の理論を学習することを疎かにしてきた中等教育・高等教育の問題だと思う。 v)「『産官学金労言』の連携と国民的機運の向上」について “産官学”の連携はよく言われてなじみがあったが、これに“金(金融)”を加えたのは、設備投資をして生産性を上げるには何らかの形で金融の関与が不可欠であるため納得だ。 “労”については、人口減と人手不足の中、政府が景気対策を行なって無理に雇用を作らなければならないような人材を生み出さないためには、基礎教育・再教育の充実とやる気の育成が重要である。 “言”については、メディアはじめ言論人の役割が大きいが、近年は、馬鹿でもわかるカネ・女・数合わせ・犯罪・スポーツに関する報道ばかりが多く、メディアの構成人が生物・物理・化学等の科学的知識に乏しいためか、国民に対して教育効果を発揮できていないのが現状だ。 (4)先端技術と教育 1)高級カメラを超えたスマホカメラ *4-1は、①シャオミやアップルのスマホカメラ機能が大幅に向上 ②レンズの改良と画像補正技術を磨いて高級コンパクトカメラに匹敵する写真を撮影可能 ③日経新聞は複数機種で撮り比べた ④アップルは「iPhone16 Pro」に光学5倍の望遠カメラを搭載して画像処理で撮影後の色調編集を実現 ⑤シャオミは「Xiaomi14 Ultra」にライカと共同開発した4つのレンズを搭載して、光学で5倍、デジタルで最大120倍のズームが可能 ⑥サムスンは「Galaxy S24」に背景加工機能搭載 ⑦ソニーの「Xperia 1 6」は暗所でも撮影できる ⑧シャープの「AQUOS R9」もライカ製レンズを搭載 ⑨スマホ本体の台数は2028年に2024年比8%の成長に留まるが、スマホ向けのカメラモジュール市場は47%の成長見込み ⑩日経新聞が、シャオミ・アップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べたところ、ズームアップした場合には高校生10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と言った ⑪デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うが、リアルと加工の境目はどこかという課題が内在 等としている。 最近のカメラはどれも、画像を引き伸ばした時に解像度の低下が少ないので感心していたが、①②④⑤⑥⑦のように、スマホカメラも望遠機能を搭載し、デジタルなら画像処理して最大120倍のズームまで可能で、撮影後の色調編集もできるそうなので、さらに感心した。しかし、私自身は自分のスマホで写真や動画を撮影するのは最小限に留めており、その理由は、写真や動画はメモリーを食うため、その他の機能まで使えなくなっては困るからである。 なお、ドイツのレンズはカールツァイスもライカも良いと言われているが、シャオミもシャープもライカのレンズを搭載しており、日本のレンズは、高いのに品質がついていっていないのか、全く影を潜めているのが気にかかる。 また、日経新聞が、③⑩のように、シャオミやアップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べ、ズームアップした場合の感想を聞いたところ、高校生10人全員が「(中国の大手スマホメーカー)シャオミの写真が一番きれい」と言ったそうで、隔世の感がある。 そして、⑨⑪のように、デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うため「リアルと加工の境目はどこか」という課題が内在するが、スマホ向けカメラモジュール市場は2028年に2024年比47%成長の見込みなのだそうだ。 それでは、日本のカメラメーカーはどこに活路を見いだしたら良いのかと言えば、i)日本で最終製品を作る自動車のドライブレコーダーや自動運転に使用する ii)中古のビルやマンションも増えたため、大規模修繕時にドローンで写真を撮れば要修理箇所がわかるようにする iii) 写真で公共インフラのチェックをし、要修理箇所をもれなく把握できるようにする 等に可能性が大きいのではないかと思う。 しかし、これらをやるためには、「官僚主義を廃し、時代に合う規制に変更し、無駄な支出を減らす」という強い意識が必要であるため、日本もイーロン・マスク氏を政府効率化省のヘッドに頼みたいくらいだ。 2)農林水産業について イ)果樹園のケース *4-2は、①中央果実協会が果樹産地の担い手育成等事例発表会を開いた ②大分県は2023年までの10年間で200人が新規就農 ③県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進めて成果を上げた ④園地の確保・未収益期間の長さが就農の壁で、果樹の担い手は2020年までの20年で半減、60歳以上が8割 ⑤果樹価格や輸出攻勢に魅力を感じる人が増えて反転攻勢の好機 ⑥果樹の新規就農者確保には積極的誘致が重要で、DM等で働きかけ農家以外の人や異業種法人の参入が増えた ⑦就農者が小規模園地で1~2年経験を積む間に育苗や園地整備を推進し、その園地に加えて整備された園地も渡して未収益期間を削減 ⑧就農者に渡すため園地を集約するには、地権者らへの説明を丁寧に進める取り組みも不可欠 ⑨広島県世羅町の光元組合長は、47haの大規模梨園をジョイント仕立て(https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450008/p581138.html 参照)とリモコン式草刈り機を導入して維持 としている。 果樹だけでなく農家全体が担い手不足で、④のように、60歳以上の担い手が8割になったというのは、労働の割に収益性が低いことから尤もだが、農家の子も職業選択の自由があるため、農業に魅力を感じる人の中から新たな担い手を探さなければならない。従って、⑥のように、DM等で働きかけて農家以外の人や異業種法人からも新規就農者を確保するのは良いと思う。 そして、⑤のように、果樹価格の上昇や輸出可能性に魅力を感じる人は多いだろうが、果樹をはじめとして農産物の価格が上がりすぎると、農産物も存分に食べられないほど相対的に国民が貧しくなるため、食品価格の値上げには慎重であるべきだ。 そのため、⑦⑧⑨のように、梨園を47haと大規模化してジョイント仕立てにし、未収益期間を短くし、リモコン式草刈り機等も導入して生産性を上げられたのは良いと思うし、大規模化による生産性の向上は、新規就農者に渡すために複数の農家の土地を集約できたからこそ可能だったのである。 これに加えて、瀬戸内海沿岸地域なら、レモンやオリーブ等、現在ニーズが高まっていて、手間が少なく、温暖化した気候により適した作物を作り、園地に風力発電機を置いて副収入を得たり、草刈りを草食の家畜に任せたりすれば、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスがより良くなるだろう。 そして、①②③のように、大分県が、県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進め、2023年までの10年間に200人が新規就農にこぎつけたことは、大きな成果だったと思う。 ロ)水産業の養殖のケース ![]() ![]() 2018.7.23流通研究所 (図の説明:最新データではないが、左図のように、世界では漁船漁業による漁獲高は一定で、海面及び内水面養殖業による漁獲高が著しく増えている。また、国別では、右図のように、中国・インドネシアの漁獲高が著しく増えている) ![]() ![]() ![]() 2018.7.23流通研究所 2017.11.24海と日本 2024.11.17JAcom (図の説明:これも最新データではないが、左図のように、日本では遠洋漁業・沖合漁業の漁獲高が著しく減少し、沿岸漁業は少し減少して、海面養殖業は増加している。そのため、日本は遠洋漁業を減らして他国で捕獲したり養殖したりした魚介類の輸入に変更した可能性がある。また、中央の図のように、産業革命後100年間の海水温上昇は、2017年のデータで世界は0.53℃であるのに対し、日本近海は、日本海側で1.20~1.70℃、太平洋側でも0.70~1.10℃と世界平均より高く、これには地球温暖化だけではなく原発の影響も考えられる。さらに、右図のように、2024年7月における日本近海の海面水温は、平年より3~5℃も高いところが多く、 先入観のない科学的原因分析と解決が必要である) *4-3は、①陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階 ②丸紅はノルウェーのプロキシマーシーフードと共同で「閉鎖循環式」を採用、電力の15%は敷地内太陽光発電で賄ってサーモンを養殖 ③NTTグループはCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来はこの藻を飼料に使って環境負荷を軽減しながらエビを養殖 ④技術力・資金力を持つ大企業の大量生産が水産供給網を変えつつある ⑤陸上養殖する理由は、i)地球温暖化・乱獲の影響で天然魚の水揚げ不安定 ii)海面養殖は水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権で新規参入困難 ⑥そのため、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 ⑦国内の陸上養殖サーモンは三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んで参入 ⑧世界の漁業・養殖業生産量は2022年に2億2,322万tで10年前と比較して25%増 ⑨海面養殖は48%増と急増だが、適地が限られ中長期拡大は難しい ⑩陸上養殖の世界市場は2029年に2023年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増 等としている。 このうち、②は、餌やふんで汚れた水をバクテリア分解と散水で浄化して再利用し続ける「閉鎖循環式」を採用している点が技術進歩している上、商社がノルウェーの水産企業で高い養殖技術を持つプロキシマーシーフードと共同で取り組んだ点が、情報力や販売ルートを活用してシナジー効果を出していて面白い。また、⑦のように、商社の三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んでサーモンの陸上養殖に参入している。 しかし、養殖は餌の調達とその価格が問題であるため、③④のように、NTTグループがCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来は、この藻を飼料としてエビを養殖するというように、技術力・資金力のある大企業が本業で培ってきた能力を活かしてなら、研究開発し大量生産することも可能だろう。 なお、(3)4)ハ)の「長崎大学」の画像は、離島を利用して沖合養殖と洋上風力発電を行い、養殖産業と洋上風力発電産業の共生の扉を開いて社会実装を検討しているもので、三井物産環境基金の助成を受けているそうだ。確かに、これまで漁業に使われていなかった離島や洋上風力発電機の下を使えば漁業権の問題が起こりにくく、洋上風力発電機の設置も容易になり、発電機の下ではさまざまな養殖を行なうことができる。また、島で加工することも可能であるため、多くの問題が一挙に解決するだろう(https://www.mitsui.com/jp/ja/sustainability/contribution/fund/results/1229586_13007.html 参照)。従って、⑨のように、「海面養殖は適地が限られる」と考えるのは、時期尚早である。 さらに、世界人口が増え、良質の蛋白質を求めるようになれば、水産資源への依存は不可欠であるため、⑧⑩のように、世界の漁業・養殖業の生産量は2022年に10年前と比較して25%増、陸上養殖の世界市場は2029年に2023年と比較して88%増となり、今後も増えることが予想される。そして、日本の場合は、洋上風力発電と結びつければ、海面・海中・海底を使った養殖の可能性が増すのである。 また、⑤のように、陸上養殖する理由は、i)地球温暖化や乱獲による天然魚水揚げの不安定化 ii)海面養殖における水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権による新規参入の困難性 であり、⑥のように、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 とされているのである。 しかし、*4-3-2は、i)について、地球温暖化による環境変化のみに責任転嫁がなされすぎた結果、現象の中に矛盾が多いとし、令和2年発行の水産白書は、サケ・サンマ・スルメイカの不漁の原因が、海水温・海洋環境変化・外国船による漁獲の影響等で、日本の乱獲や水産資源管理の問題は書かれていないとしている。が、日本では、漁師の数も漁獲高も減少しているため、私には、漁師の乱獲が不漁の原因とは思えないのだ。従って、観念的ではなく、他の原因も含めた正確な原因分析を行ない、それに基づいた解決策を考えるべきである。 ii)については、それもあるかも知れないが、陸上養殖する場合は広い土地と堅固な設備を要し、維持費も高そうなので、iii)をクリアするには、これまで漁業者が使ってこなかった離島や沖合の風力発電機付近に養殖設備を作るのも有力な案だと思う。 3)教育投資は最優先の課題なので、財源は他に先んじて確保されるべき ![]() ![]() ![]() 2022.5.2日経新聞 Kidsdoor Tokyo 大学入学年齢 (図の説明:左図のように、日本の人口100万人あたりの博士号取得者数は先進国の中で低い方だ。また、中央の図のように、高等教育の学部学生数は中国が飛び抜けて多く、これらは今後の経済を左右するだろう。また、右図のように、日本は大学入学年齢が飛び抜けて若く、高校卒業時に大学に進学した後は再教育では大学が使われないことを意味しており、大学に入っても早くから就職活動を開始するため、落ち着いて勉強する時間は少ないと思われる) ![]() ![]() ![]() 2024.4.20日経新聞 2023.3.29東京新聞 (図の説明:中央の図は、教員の人気低迷が続き、採用倍率が下がっていることを示しているが、教員の質の確保は倍率向上だけが解決策ではないだろう。また、左図のように、政府は教員の確保に向けた政策として働き方改革を挙げているが、自己管理しながら働き甲斐を感じて積極的に働く人材こそが指導者にふさわしいと思われる。また、管理職でない教員の待遇については、働いた時間を正確に記録し、それに対する残業手当をつけつつ、教員でなければできない仕事とそれ以外の仕事を分けていき、効率性を高めるのが良いと思うし、教科担任制は科目によっては対象年齢をもっと下げても良いくらいである。なお、右図は、3歳以上では100%近い子どもが幼稚園か保育園に通っていることを示しており、幼児教育を充実させれば、時代に合わせて多くのことを無理なく教えられることがわかる) 1947年5月3日に施行された日本国憲法は、「第26条:①すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する。②すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」と定め、同年にこれを反映する教育基本法が定められた。 そして、教育基本法は、2006年に発展的改正が行なわれ、日本国憲法の精神にのっとって、教育の目標として「第2条:①学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培い、健やかな身体を養う ②個人の価値を尊重し、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養い、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養う ③正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んじ、公共の精神に基づいて主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う ④生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養う ⑤伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」と定め、そのほかに「生涯学習の理念」「教育の機会均等」「幼児教育」「社会教育」「政治教育」等が書かれており、必要な理念は述べられている。(https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html 参照)。 そのような中、*4-4は、イ)資源が少なく少子高齢化が進む日本に公教育の充実は重要 ロ)長時間労働や教員不足で屋台骨が揺らぎ、大幅な教員の増員が不可欠 ハ)教育投資は未来への投資で、財源確保に向け国民的納得の得られる議論を本格化すべき 二)公立学校教員は教員給与特措法に基づいて残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われるが、文科省は教員増や勤務時間の削減を進めつつ上乗せ分を13%に増やすとして年1千億円規模の増額を求め、財務省は文科省案では働き方改革が進まず教員不足は解消されないとして時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した ホ)労働環境が厳しいままでは、教員のなり手は大きく増えないと考える教育関係者が多い へ)いじめ・不登校など多くの問題を抱える中で教員らを増やさず労働時間を減らすのは難しい ト)日本の小中学校教員の仕事時間は、中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあって、国際的に見ても長い チ)過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある としている。 教育基本法の中の①②④のように、「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度・真理を求める態度・創造性」等を教育段階で養っていれば、イ)の「日本に資源が少ない」という問題は既に解決できており、既存の資源を減らすこともなかったであろう。そして、それは数少ない“エリート”だけでできるものではなく、一般国民が高い意識を持って現場からアイデアを出していかなければならないものであるため、公教育の充実は必要不可欠で、その内容は教育基本法に沿った質の高さが求められるのである。 また、ハ)の教育投資は1947年以降は必要不可欠な投資だったのであり、それをやるために新しく財源を確保すべきという話ではない。つまり、既存の事業に対し漫然と行なってきた無駄な補助金よりも優先して教育投資を行なえば、その効果は想像以上なのである。 このような中、ロ)二)ホ)チ)のように、「公立学校教員は長時間労働だが残業代ではなく基本給の4%を一律上乗せした給与」「(少子化しているのに)教員不足で大幅な教員増が不可欠」「過酷な労働環境を嫌って志願者が減って教員不足が常態化」等としている。 つまり、「教育の充実=教員の増員←給与体系の問題」という側面でしか捉えておらず、最も重要な「教育の目標」である「国民の質の向上(=教育の質の向上)」が語られないのだ。そして「教育の質」から見れば、へ)の「いじめ・不登校などの多くの問題」をいつまでも解決できないのは教員の質の問題であり、数の問題ではないと思われる。 また、いつまでも同じことをやっている「労働時間」の問題も、中等・高等学校は地方自治体立であるため、それを解決するのは各自治体と教員の意志であり、ひいては教員の質の問題になる。私は、教員も一般企業と同様、働いた時間に応じて残業時間を記録し、残業時間に応じて残業手当を支給すればよいし、残業が多いのに成果が上がらないのであれば、正確に原因分析をして事実に基づいた解決策を考えるべきだと考える。 さらに、ト)には「中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあるため、日本の小中学校教員の仕事時間は国際的に見ても長い」と書かれているが、学校毎に素人の教員が監督をする部活動を置いて生徒の役に立つのかが問題であるし、そもそも部活動ばかりしていても「学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養う」教育はできないのである。 最後に、「複雑な家庭環境」は教員だけで対応できるものではないため、学校から自治体の援助に繋げ易いルートが必要であるし、「過度な要求をする保護者」とはどういう保護者か知らないが、学校教育が保護者(一般に教育の素人)の教育まで担わなければならないことも当然あるため、それに耐える教員の質と仕組みが必要なのである。さらに、近年は当然のクレームまで「カスハラ」のジャンルに入れて自ら進歩の道を閉ざす社会的風潮があるが、適切な判断でそれを止めなければ、日本はますます遅れていくと思う。 (5)女性の人権・職業選択の自由・職業教育 ![]() ![]() ![]() 第一生命経済研究所 2023.11.25日経新聞 2023.9.30日経新聞 (図の説明:左図は、1990年1月~2022年7月の生鮮食品と生鮮食品を除く食品の価格水準の推移で、1990年1月と比較して2022年7月は生鮮食品が36%、生鮮食品を除く食品が33%上がっている。なお、食品は貧しくなっても節約には限度があるため、エンゲル係数(食料費/消費支出)の分子になっている指標である。また、中央の図は、2022年1月~2023年10月までの物価上昇率で、頻繁に買う品目《食料品等》ほど物価上昇率が高く、4年弱で10%近くも物価上昇している。また、右図は、2018年半ば~2023年半ばの体感物価上昇率と統計上の物価上昇率の差であり、統計上の物価上昇率との間に11.4%もの差がある。そのため、物価上昇率は、全体で薄めたり、生鮮食品を除いたりして出すのではなく、生鮮食品も含めて頻繁に購入するものについては、分類して出したり、全体で出したり、戦後の長期累積で出したりするべきだ) 1)所得税・住民税における年収の壁について <所得税・住民税の計算方法> ![]() ![]() ![]() 財務省 Miney Foward Ten Navi (図の説明:左図は、給与所得者の所得税額の計算で、給与収入からそれを得るための必要経費である給与所得控除を差し引き、残った所得から基礎控除等の人的控除を差し引いた課税所得に、累進税率になっている税率をかけて税額を出す。しかし、人的控除のうち、子の扶養控除は児童手当の開始とともに廃止されるべきものであったし、配偶者控除は夫婦それぞれの基礎控除の充実と同時に廃止すべきだ。また、中央の図は、個人住民税には全国一律の均等割と所得割があることを示しているが、地方税には、そのほか法人住民税・事業税・固定資産税・都市計画税・不動産取得税・自動車税・地方消費税・森林環境税などもあるため、物価上昇で税収が増える筈の税目もあり、また努力次第でふるさと寄付金も入るのだ。さらに、右図は、住民税の配偶者特別控除一覧だが、夫や妻の所得によって配偶者の寄与度が変わるわけではないのに、夫と妻の所得によって配偶者控除の額が複雑怪奇に分けられるようになり、累進税率で所得税額が決まっていることなど全く無視した公正・中立・簡素から外れた制度となっている) 2024年11月21日の新聞に「自公国が103万円の壁引き上げ明記」と書いてあるが、途中には、*5-1-2・*5-1-3のように、①「基礎控除等を103万円から178万円に拡大」という公約を掲げた国民民主が衆議院選挙で躍進 ②国民民主は「最低賃金上昇率1.73倍に合わせて上げるべき」と提起 ③現在は、被用者は給与所得控除55万円と基礎控除48万円をたした年103万円まで非課税だが、178万円に上げると年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減る ④控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられ、その後約30年間据え置かれた ⑤政府は国民民主の訴え通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算 ⑥一律10%で課す地方税収の減少は4兆円程度と所得税減収よりも大 ⑦減税額は所得の多い人ほど大きくなるが、減税率は低所得者ほど大きい ⑧控除額引き上げは被扶養者の労働時間を延ばして収入増と労働時間確保の効果 ⑨年収の壁も労働者不足を招く原因 ⑩2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の1/3に相当する巨額の財源を、国民民主は税収の上振れ・予算の使い残し・外国為替資金特別会計の剰余金を充てると説明 等の議論があり、その議論は今も続いている。 このうち②については、国民民主が103万円から引き上げるべきとした178万円は、最低賃金の上昇を基に計算した数字であり、最低賃金の引き上げは給与引き上げを促す象徴的意味が含まれているため妥当か否かに議論があるが、そもそも103万円の壁にひっかかるため労働時間を制限する人は最低賃金に近い人であるため、⑧⑨を考慮するとともに、今後は、給与引き上げも最低賃金の引き上げに続くと仮定すれば妥当である。そして、①は、膨大な無駄使いをしながら、こっそり国民負担を増やし続けた政府への国民の怒りの結果なのである。 なお、所得税の「給与所得控除」は事業者の必要経費にあたる給与所得者の必要経費で、「基礎控除」は個人の生活費等の納税者の事情を加味して無理なく納税できるよう皆に対して設けられたものであるため、物価上昇すればどちらも上げるのが当然で、④のように、1995年までは物価上昇に合わせて引き上げられてきたのだ。 その後、1995~2012 年までは物価上昇が0近傍であったため、これらの控除金額は据え置かれたが、2013年以降は(5)の一番上の左と中央の図のように、日銀の金融緩和で物価が上昇し始めたので、本来なら物価上昇に応じて上げるべきだったものである。さらに、一番上の右図のように、体感インフレ率は2023年だけで11.4%の差があるため、2013年以降の累積では、(正確な資料はないが)国民民主が出した1.73倍に近いと思われる。 その上、③の「被用者の給与所得控除55万円」というのは、2018年度の税制改正で2020年分から38万円だった基礎控除額を48万円に引き上げた際に、給与所得控除の最低額を65万円から55万円に引き下げたもので、物価上昇による必要経費増とは逆向きの変更だったのである。従って、65万円の給与所得控除を112万円(65x1.73)にし、38万円だった基礎控除は66万円(38x1.73)にするのが物価上昇に見合った引き上げ額だが、きりの良さと⑦も考慮すれば、最低給与所得控除85万円、基礎控除額90万円くらいが適切であろう。 また、同じく2018年度の税制改正で、公的年金等控除は、2020年分から基礎控除が一律10万円引き上げられた代わりに10万円引き下げられ、改正前120万円だった金額が公的年金にかかる雑所得以外が1000万円以下なら110万円、1000~2000万円なら100万円、2000万円超なら90万円と物価上昇に反して引き下げられたものであり、現在の控除額を前提としても1.73倍にするのが妥当だ。 これに対し、⑤のように、政府は「控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減になる」などとして躊躇しているが、政府は、物価上昇で国民生活を圧迫しながら名目上増えた税収を享受していたのであるため、物価上昇に応じて本来なら引き上げるべきだった控除の財源は増えた税収に決まっている。さらに、皆の基礎控除額を上げるのだから配偶者控除は廃止すべきで、そのために児童手当を払っているのだから子の扶養控除も廃止すべきなのである。 そして、⑥のように、一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と所得税の減収より大きく、*5-1-4のように、自治体の財政が苦しいとして全国知事会長を務める宮城県の村井知事が強い言葉で懸念を表明されているが、上記の理論は地方税も同じである。 さらに、そもそも全地方自治体の個人住民税を「一律10%(市町村民税の所得割6%、県民税4%)」としたのは2007年からであり、「全地方自治体の税率を同じにしなければならない」という地方税法自体が地方自治に反するため、各地方自治体が自由に住民税率を決められるようにすべきだ。そして、自治体の経営努力の結果が、税率引き下げ・福祉の充実等を通して「住民の移動」という形で現れるようにすべきなのである。 2)社会保険料における年収の壁の問題点 <年収の壁の存在とその影響> ![]() ![]() ![]() 2022.8.12PRESIDENT 2024.11.7日経新聞 Ten Navi (図の説明:左と中央の図のように、年収100万円以上になると住民税が課税され、103万円以上で所得税も課税になる。また、年収106万円以上で51人以上の企業なら社会保険料が発生し、130万円以上になると全企業で社会保険料がかかる。さらに、150万円以上になると配偶者特別控除が減少し始めるため、働いても手取りの減る領域が存在する。さらに、年金収入に対する所得控除は120万円だったが、物価上昇にもかかわらず2020年分から110万円減らされた) 日本国憲法は、25条で「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めており、これに基づいて「社会保険」、「公的扶助」、「社会福祉」「公衆衛生」等の社会保障制度が整備されている。 しかし、社会保障制度の負担は、世帯単位なのか個人単位なのかも一貫せず、国民のためにならないご都合主義の制度設計も頻発したため、社会保障の負担をしない人・加重な負担をして見返りのない人・そもそも制度から漏れている人など、社会保障制度の矛盾が見過ごせなくなり、信頼を失っているのだ。そのため、「そもそも社会保障は、世帯単位なのか、個人単位なのか」という根源的な問題から出発する必要があろう。 そのような中、*5-1-1は、①「年収の壁」には「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」がある ②103万円を超えると、企業が配偶者手当を打ち切るケースが多い ③「106万円の壁」は51人以上の企業に勤めるパート労働者の年収が約106万円に達すると社会保険に加入する義務が生じて、社会保険加入前より手取りを増やすには年収約125万円まで働く必要がある ④年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある ⑤年収150万円以上で配偶者特別控除が段階的に減らされて夫の税負担が増える と記載している。 また、*5-2は、⑥厚労省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃方向 ⑦企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃し、週20時間以上の労働時間要件のみ残して「約106万円の壁」廃止 ⑧200万人が新たに年金・医療の社会保険料対象 ⑨社会保険加入で、医療保険で傷病手当金等の手当が厚くなり、厚生年金加入で老後の低年金リスクを軽減し、加入者増により将来世代の年金受給水準を改善する効果 ⑩改正の背景は最低賃金上昇 ⑪今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しで、学生除外要件も残すが、企業規模要件と賃金要件はなくなって、5人以上の個人事業所も全ての業種が対象 と記載している。 まず、社会保険料に関する「年収の壁」について述べると、①③⑥⑦⑧⑨の「106万円の壁」は、従業員50人以下の企業に勤めるパート労働者は社会保険料を支払う必要が無く、老後は低年金で、就業時の傷病手当もないのが、そもそも問題である。 そのため、「新たに200万人が年金・医療の社会保険料対象となって将来世代の年金受給水準を改善する」という以前に、本人への社会保障を手厚くし、他の労働者との公平性を保つためにも、「106万円の壁」は廃止するのが筋だ。しかし、⑪のように、5人未満の個人事業所が対象にならなければ、ここで働く労働者は、依然として社会保障の対象外に置かれるのである。 なお、「106万円の壁」を廃止したことによる手取りの減少を社会保険加入前まで戻すには、年収約125万円まで働く必要があるそうだが、⑩のように、最低賃金は上昇しているのだから働けば良いし、それもできなければ労働時間を週20時間以内に抑えれば良いだろう。 従って、④の「年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある」というのは、年収にかかわらず年金・医療・介護等の社会保証は必要であるため、社会保障制度が世帯単位であれば世帯の誰かが代表して支払うし、個人単位であれば個人が社会保険に加入して所得(≒負担力)に応じて負担するのが合理的であろう。 最後に、①⑤の「103万円の壁」「150万円の壁」のうち、「103万円の壁」は、本人に所得税がかからない年収上限であり、これを178万円まで上げるかどうかの議論が、現在、行なわれているのである。また、「150万円の壁」は、配偶者である夫か妻の配偶者特別控除を満額(38万円)受けられる被扶養者の年収上限のことだが、仮に「103万円の壁」が「178万円の壁」になれば、②や「150万円の壁」は不要になるので、廃止すれば良い。 3)選択的夫婦別姓制度について ![]() ![]() ![]() ![]() 平和政策研究所 2020.12.29 2024.9.17 日経新聞 産経新聞 (図の説明:1番左の図は、1979年女子差別撤廃条約以降の選択的夫婦別氏制度をめぐる経緯で、左から2番目の図は、2022年内閣府調査による姓の変更に関する意識調査だ。また、右から2番目の図は、夫婦の氏に関する各国の法制で、1番右の図が日本で旧姓の通称使用が通用する範囲だが、通称が堂々と広く通用できなければ通称使用には不便が残るのである) *5-3-1は、①立民が、議論の場である衆院法務委員会委員長ポストを獲得し、導入賛成の公明・自民内の一部議員を取り込む考え ②公明は、衆院選公約で「選択的夫婦別姓制度導入推進」と明記 ③国民民主・共産などは導入賛成 ④立民中堅は、「夫婦同姓を見直すことは家族観・社会のあり方に大きな影響を与えるため、丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘 としている。 上の①②③④によると、国会は党議拘束がなければ多くの議員が選択的夫婦別姓制度に賛成するようで、これには「『選択的』夫婦別姓制度だから、強制ではない」という説得の効果があると思うが、「姓(氏)」に関する利害関係は、結婚する両性だけにあるのではなく、子の利益・氏の存続・外部からの判別可能性も含むものである。 そのような中、*5-3-2は、氏の歴史として、⑤徳川時代は農民・町民に氏はなく ⑥明治8年2月13日の太政官布告で氏の使用が義務化され、その時は妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制で ⑦明治31年民法(旧法)成立で、夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する夫婦同氏制へ ⑧昭和22年改正民法750条で夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する夫婦同氏制へ ⑨同791条で嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は、離婚の際の父母の氏、非嫡出子は母の氏 と記載している。 歴史を見ると、確かに、⑤のように、徳川時代は農民・町民など平民には氏がなく、明治時代になってから、⑥のように、太政官布告で氏の使用が義務化され、この時は、中国・韓国と同じく妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制度だったが、その意味は、子は婚家のものだが、「腹は借り腹」で妻は婚家の一員ですらないということなのである。そして、現代でも、台湾はそうだし、日本でも「女は子を産む機械」「嫁して3年子無きは去る」などと言う人がおり、その考え方が根本にあると考えられる。 しかし、これでは余りに妻や母の立場が不安定で男女不平等であるため、日本では明治31年成立の旧民法で、⑦のように、「夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する」とする夫婦同氏制が施行され、その分だけ中国や韓国よりも妻や母の立場が法的安定性を持ったのである。 そして、⑧のように、昭和22年改正の戦後民法は、750条で「夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する」とする男女平等の夫婦同氏制を施行し、⑨のように、同791条で「嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は離婚時の父母の氏、非嫡出子は母の氏」とした。つまり、非嫡出子だけは母の氏を使うよう義務化されたのであり、日本の夫婦別氏制度は儒教の影響による男女不平等の流れをくむもので、その発想は今も残っているため要注意なのだ。 なお、*5-3-2は、⑩「選択的夫婦別氏制」の議論は女性の社会進出や男女平等推進の社会的気運の中で起こった ⑪2021年10月に最高裁大法廷で夫婦同姓を定めた民法規定は合憲という判決が出され、制度の在り方は国会で論じ判断されるべきと明言 ⑫内閣府の2021年世論調査では、結婚での改姓が多くの人に「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴と認識 ⑬夫婦同氏は新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとってセーフティネットの役割 ⑭選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失して安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする可能性 ⑮子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果 ⑯夫婦が別氏を選択することで子供の氏の選択という新たな課題 ⑰子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益 ⑱夫婦の名字・姓が違うことによる夫婦間の子どもへの影響の有無について、69%の人が「子供にとって好ましくない影響」と回答 としている。 1995年頃、最初に言ったのが私であるため知っているのだが、⑩⑪は事実である。私がそれを言った理由は、結婚で姓を変えると、i)仕事のキャリアが中断する ii)(女の子だけの場合)実家の姓が残らない iii)離婚したのに、その姓で有名になった前夫の姓を使わざるを得ない人がいる iv)女性だけ離婚が表面に出るのは不公平 などの理由からだった。 そのため、⑫の内閣府の世論調査で、結婚での改姓が「新たな人生の始まり」や「夫婦の一体感」の象徴と認識する人が多かったり、⑬のように、新婚期に初めて価値観をすりあわせて夫婦アイデンティティを形成するなどというのは、回答者に改姓しない男性が多く含まれていたり、そういう状態で結婚した男女は考えが甘かったりするのだと思う。 ただ、⑭のように、選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失するのは確かに困る。しかし、家族名としての氏が消失すると夫婦のアイデンティティが形成されないようなら、その結婚は誤りであるため、結婚前に結婚しない決断をした方が良かったのだ。 しかし、子どもは親を選べず、自分の親が互いに相手をけなし合っているのではなく尊敬しあっていることが自分の存在を肯定する要素であるため、⑮⑯のように、両親が同氏で自分も同じ姓であることが確かに家族への帰属意識や安心感を持たせる効果がある。また、⑰のように、子の氏を「早期かつ安定的に決定すること」が子の利益であり、⑱のように、夫婦の名字・姓が違うのは子にとって好ましいことではないだろう。 文化を含めた諸外国との比較について、*5-3-2は、⑲英・米は氏の変更は基本的に自由・豪・仏は同氏、別氏、結合氏のどれも可・独は同氏が原則で別氏・結合氏も可・中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可・伊は夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏・韓国は別氏が原則 ⑳日本の氏は家族全員が同じ氏を世代を超えて受け継ぐので、中国・韓国と同じ「身分規定の認識としての名前」に相当 ㉑韓国は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序を重視、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味が氏にある ㉒別氏を選択する夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない ㉓日本は夫婦同氏制を原則とすべきだが、日常生活における不利益は解消されるべきで、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の旧姓の通称使用拡大と法制化が望ましい ㉔選択的夫婦別氏制導入は氏に関する男女不平等の是正にはならない 等としている。 ⑲のように、英・米のように氏の変更が基本的に自由というのも、氏の意味を考えた時に疑問に思うが、豪・仏・独は同氏が原則で別氏・結合氏が可能であり、やはり原則は同氏なのである。また、伊は、夫は自分の氏で妻は自分の氏または結合氏と日本より男女不平等に見える。 なお、⑳㉑のように、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、韓国は妻だけ別氏が原則で同じ氏を世代を超えて受け継ぎ、氏には始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味があるのだそうだ。そのため、儒教を基にする国で妻の別氏が原則の国は、むしろ男女不平等で結婚における妻・母の立場の法的安定性が低く、㉔のように、選択的夫婦別氏制度の導入は男女不平等の是正にはならないのである。 さらに、*5-3-2は、㉒のように、「別氏の夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない」と記載しているが、確かに他のカップルが夫婦別氏の場合、私の経験では、長期間その2人が夫婦であることに気がつかなかったという不便があったが、自分の場合は、逆に配偶者の属性が知られないためステレオタイプな偏見を持たれず、自由に仕事をできるメリットがあった。 そのため、私も、今は、㉓のように、「日本は夫婦同氏制を原則とし、家族名としての氏は残したまま、日常生活においては氏を変更する個人の旧姓の通称使用を法制化し、拡大するのが良い」と考えており、法制化のやり方は、民法750条「1項:夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」に「2項:婚姻の際に定める氏が旧姓と異なる者は、旧姓を通称として使用することもできる」と加え、これに伴って戸籍法16条も変更することになる。 4)主体的に家事をせず、エンゲル係数の意味もわからない男性の「群盲象を撫ず」発言 *5-4は、①エンゲル係数(食費/消費支出)が日本で急伸し、G7で首位 ②身近な食材が値上がりして負担が家計へ ③実質賃金が伸び悩み、仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった ④食費割合の高い65歳以上の高齢者割合が2024年29.3%とトップ、エンゲル係数が高くなり易い土台がある所に物価高が直撃 ⑤生活の質の劣化懸念 ⑥スーパーで表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」、コメも大幅値上がり ⑦「庶民の味」の食材ほど上昇が激しい ⑧総務省消費者物価指数(2020年=100)で2023年の上昇率は5年前と比べて鶏肉12%、イワシ20%、サンマ1.9倍 ⑨日本のエンゲル係数は2022年で26%、2024年7~9月期は28.7%まで上昇 ⑩大和総研の矢作主任研究員は「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」 ⑪家計調査(総世帯)で食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、2023年15.8%と10年前より3%高い ⑫SOMPOインスティチュート・プラスの小池上級研究員は「係数上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべき」 ⑬小池上級研究員は「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」 等と記載している。 このうち①②④⑥⑦⑧⑨⑪は、統計数値であるため事実だろう。 しかし、③の「仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯が家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった」というのは、エンゲル係数の分子である「食費」しか見ていないため誤りだ。何故なら、共働きでなければ所得が減るため、分母の「消費支出」がさらに小さくなり、相対的に節約に限度のある食費の割合が高くなるからだ。わかり易く言えば、所得が減れば、子どもの塾や習い事を止めさせ、夫の小遣いを減らして、家族の食費を確保するしかないのだ。 また、⑩は、「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」とまるで中食(調理食品)が悪であるかのような言い方をしているが、栄養士が監修し、生産現場に近い場所で加工調理されてくる中食(調理食品)は、材料が新鮮なうちに加工され、調理時に捨てる部分は運ばないので運賃や家庭ごみが減り、残渣は生産現場で餌や肥料にアップサイクルできるのだ。 そして、最も重要なことは、⑬の「効率よく働く」を個人レベルでなく、社会レベルで達成しているのであり、共働き夫婦の家事の時短だけではなく、単身者や食事を自分で作れない高齢者に食事を提供することによって、要支援者にかかる支援時間を減らしているのである。 なお、小池上級研究員は、⑬で、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと悠長なことを言っておられるが、家事は外部委託すれば自給1,500円程度の仕事であり、週40時間、月4週間働けば24万円(1,500円/時間x40時間x4)稼げる仕事であることをご存じだろうか。そして、それに保育や介護が加われば、さらに高くなるのである。 そのため、共働きで家事も負担している場合の日本の妻は、「給与+24 万円」の働きをしているため、家事を負担していない男性とは異なり、いつも最大の効率で働くことを考えているのであり、それでも睡眠時間は世界1短いのだ。そのため、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと言うのは、「自分を基準に考えて、何をとぼけたことを言っているのか」と思われた。 結論として、⑫のとおり、「エンゲル係数の上昇は、生活レベルの低下が原因」にほかならないのである。 ・・参考資料・・ <日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約> *1:https://digital.asahi.com/articles/ASSBD3QDFSBDUTFK004M.html (朝日新聞 2024年10月12日) 核禁条約、際立つ消極姿勢 「核共有」言及で問われる被爆国のトップ 衆院選公示を15日に控え、与野党の政策論議が熱を帯びてきた。日本記者クラブの12日の党首討論会では、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が決まったことを受け、安全保障をめぐる議論が白熱。とくに核兵器をめぐる議論では、自民党と他党との立場の違いが浮き彫りになった。相手を指名して質問する討論会の前半。立憲民主党の野田佳彦代表は石破茂首相を指名し、議論の口火を切った。「昨日、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。日本は唯一の被爆国であり、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」。そして、こうたたみかけた。「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容するような発言をしている日本のトップでいいのか」 ●地位協定改定、野田氏「後押ししてもいい」 野田氏が突いたのは、核抑止力を重視する首相の持論だ。首相は就任直前の9月下旬に米シンクタンクに寄稿した論文で、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを踏まえ、「米国の核シェア(共有)や核の持ち込みも具体的に検討せねばならない」と強調した。野田氏はこの主張に疑問を示し、「(核兵器の保有や使用などを全面的に禁じる)核兵器禁止条約にせめて、オブザーバー参加するべきだ」と訴えた。共産党の田村智子委員長も首相を指名して「条約を批准するべきだ」と迫った。首相は「核廃絶の思いは全く変わらない。そこに至るまでの道筋をどうやって現実にやっていくか」と説明。だが、過去にウクライナが核兵器を放棄したことがロシアのウクライナ侵略を招いた背景にあるとの主張を展開し、「核抑止力から目を背けてはいけない。現実として抑止力は機能している」と強調した。核禁条約への態度をはっきりと示さない首相に対し、田村氏は「核禁条約に背を向けている」と批判。「核抑止は、いざとなれば核兵器を使うという脅しで、被爆者の願いを踏みにじるものだ」と指摘した。安倍、菅、岸田政権は核禁条約を批准せず、オブザーバー参加も見送ってきた。しかし、自民党と連立を組む公明党は「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」(石井啓一代表)とオブザーバー参加に賛成の立場。今回、日本の条約批准を訴えてきた日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことも、オブザーバー参加すら拒む自民党の消極姿勢を際立たせている。自民中堅は「政府は核禁条約から逃げ続けている。被団協とは正反対の姿勢で、政権浮揚には全くならない」と手厳しい。首相は討論会で「今までの政府の立場との整合性もあり、政府の長として軽々なことは言わない。抑止力を認めながら、核兵器の廃絶が本当に両立可能なのか。検証は必要だ」と述べるにとどめた。一方、首相は、就任後トーンダウンさせていた持論の日米地位協定の改定について「必ず実現する」と踏み込んだ。この日の討論会でも、自身が防衛庁長官だった2004年の沖縄国際大での米軍ヘリ墜落事故について改めて言及。「あの時の衝撃を忘れられない。沖縄県警が全く触れられず、機体も全部回収された」と振り返った。地位協定改定に消極的な米国との交渉を念頭に「相手のある話なので、どんなに大変かよく分かっている」としつつも、「これから党内で議論し、各党とも議論を進める」と意欲を見せた。野田氏も日米地位協定改定については「石破さんもおっしゃっているならば、私どももそれは後押しをしてもいいと思う」と協力する姿勢を示した。首相はもう一つの持論の「アジア版NATO」については「仕組みとして機能しないと思わない」と強調。「まず議論から始めなければ、何を言っても結実はしない」と述べ、自民党内での議論を進める考えを示した。 ●「減税」「給付」主張の野党 財源は語らず 各党が力を入れる経済政策についても論戦が交わされた。立憲の野田氏は、アベノミクスの「副作用」を克服していく必要があると主張。その点をどう認識しているか、首相に問うた。首相は「実質GDPはほとんど上がらず、実質賃金は下がりすらしたこともある。突き詰めれば、コストカット型の経済ということだった。これから先は、付加価値をつけて、それにふさわしい対価をきちんと得られ、個人消費が上がっていかない限り、デフレ脱却はあり得ない」と強調した。国民民主党の玉木雄一郎代表は、首相が「倍増する」とした地方創生の交付金の効果を疑問視した。首相は「全く効果を発現しなかったものもある。徹底して検証し、効果的な地方創生に使っていく」と答えた。各党の党首からは、負担減を軸とした政策を掲げる発言が相次いだ。共産の田村氏は中小企業への直接支援を訴えた。立憲の野田氏は、税金控除と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入を掲げ、「本当に困っている方に的を絞った対策だ」と主張。国民の玉木氏は、賃金上昇が継続するまで「金融緩和と積極財政を続ける」と明言し、ガソリン税に上乗せされている旧暫定税率の廃止も訴えた。一方、こうした施策の裏付けとなる財源や負担について、各党首とも積極的には語らなかった。公明の石井氏は、日本維新の会が公約に掲げる高齢者医療費の負担増について、「後期高齢者の窓口負担が3割になると、急激な負担増になる」と指摘した。維新の馬場伸幸代表は、すべての国民に一定額を支給する「ベーシックインカム」制度の導入を挙げ、「いろんな形で所得補償をしていく」と述べた。れいわ新選組の山本太郎代表は、首相に対して「消費減税に踏み切るべきだ」と迫った。首相は「消費税は景気にほとんど影響されない。社会保障の財源にあてなければいけない」と述べ、消費減税は「今のところ考えていない」と明言した。経済界からも早期導入を求める声が上がる「選択的夫婦別姓制度」についても議題になった。導入の是非を問われた首相は「議論を引き延ばすつもりはない。自民党内できちんと結論を得たい」と述べた。法案を党議拘束を外して採決することには「あまり賛成ではない」と述べた。維新の馬場氏は「戸籍制度をきちんと守っていくことを前提に賛成だ」と、家族同姓制度は維持したうえで、旧姓の通称使用を広げる考えを示した。 ●自民非公認候補、推薦の公明「地元の判断」と釈明 自民派閥の裏金事件を受け、「政治とカネ」の問題にどう向き合うのかも論戦になった。首相の後ろ向きな姿勢を浮き彫りにしようと、党から議員に渡され使途公開の義務がない政策活動費について、国民民主の玉木氏が切り込んだ。「政策活動費を使わない、使う、の方針を示していただきたい」と切り出し、自民党の公約を逆手に取って、こう追及した。「公約には廃止を念頭に見直すという言葉がある。廃止を公約に掲げた選挙で政策活動費を使うのはあまりにも矛盾だ」。これに対し、首相は「政策活動費自体は合法だが、どう見ても違法の疑いがある使い方はしない」と強調し、使途公開にも難色を示した。廃止については「遠い先のことではなく」としつつ、「国会においてもきちんと議論したい」と具体的な時期は示さなかった。煮え切らない首相の答弁に、玉木氏は「使い道を公開しない限り、違法か適法に使ったかはわからない」と、過去に刑事事件になった元自民議員の例を挙げて、首相の姿勢を批判した。政治とカネの問題への姿勢をめぐっては、自民と連立を組む公明にも疑問の目が向けられた。公明は公約で「クリーンな政治の実現」を前面に打ち出しているにもかかわらず、自民が非公認とした裏金問題に関与した2人を推薦。その矛盾を突いたのが、関西の小選挙区で公明党との「すみ分け」を解消し、初めて全面対決する維新の馬場氏だ。推薦した理由を問われた公明の石井氏は「当初は自民が公認しない方については、自民からの推薦の要請がないから、推薦は多分ないとの前提で考えていた」などと説明し、司会者が「発言をまとめてください」と促される場面も。その後の主催者との質疑でも「党本部が『この人はだめだ、あの人はだめだ』と上から命令をするわけではない」と、あくまでも地元の判断だと強調するなど苦しい釈明に追われた。公明が候補を擁立する小選挙区や、比例区での票を積み上げるため、推薦したとの見方がもっぱらだ。与党が防戦に追われる中、追い風に乗り切れない野党の姿も露呈した。政権批判票をまとめるためには、野党の候補者一本化が必要だが、公示日まであと3日と迫っても党同士の協議は進んでいない。それでも立憲の野田氏は「限られた時間だが、最後まで粘り強く、対話のチャンスがある限りはやり続けていきたい」と語るのみ。これに対し、共産の田村氏は、いらだちをのぞかせてこう訴えた。「裏金を暴いて追及の先頭に立ってきたのは共産だ。共産の候補者を降ろすことを前提として、裏金議員との対決というふうに話が進むのはいかがなものか」 <被爆者の定義> *2-1:https://nordot.app/1210406327982293009 (長崎新聞 2024/9/22) 「新たな救済策」で何変わる? 長崎の被爆体験者…手当など被爆者と大きな格差 広島との分断も 長崎原爆の爆心地から半径12キロの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている。根本的な違いは、国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうか。被爆者には認める一方、体験者については否定し、被爆体験に起因する「精神的疾患」だけを認める形だ。このため救済策に大きな格差がある。被爆者には被爆者健康手帳が交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担される。状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当、葬祭料など各種手当も受けられる。一方で、体験者は2002年度開始の支援事業により、精神科受診を前提に、精神疾患やその合併症(がん7種が昨年度追加)の医療費支給にとどまる。手当は一切ない。こうした被爆者との差に加え、体験者は原爆由来の「黒い雨」を巡る広島との分断にも直面。長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者も多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島だけに適用され、長崎は対象外だ。岸田文雄首相が今回示した救済策によって体験者も精神科受診が不要となり、医療費助成の対象疾病が被爆者とほぼ同じになる。一方で手当はないままだ。被爆80年近くがたち、全国の被爆者は約10万7千人で、最も多い37万人台(1980年代)から3割弱に減った。これに伴い国の被爆者援護費も減少。当初予算ベースで2023年度は約1188億円と、ピーク時の01年度から約470億円減った。一方、県内の被爆体験者(第2種健康診断受診者証所持者)は今年7月末現在で5111人。体験者への医療費助成については、23~25年度予算の概算要求で毎年12億円程度となっている。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1327282 (佐賀新聞 2024/9/26) 「被爆体験者」救済策 これが「合理的解決」か 国が指定した援護区域外で長崎原爆に遭ったため、被爆者と認められない「被爆体験者」の救済策を岸田文雄首相が自ら発表した。年内に全ての体験者を対象に医療費助成を拡充し、被爆者と同等にするという。現状より前進ではあるが医療費に限った措置であり、各種手当も支給される被爆者との格差は依然として大きい。そもそも体験者の願いは、戦争の「特殊の被害」(被爆者援護法)を受けた被爆者認定そのものであることを忘れてはならない。首相は同時に、体験者の一部を被爆者と認めた長崎地裁判決を不服として控訴する方針も表明、期限の24日に実行された。首相は「長崎原爆の日」の8月9日、現地で体験者と初めて面会し「合理的に解決するよう指示する」と明言した。これが「合理的解決」なのか。程遠い。救済策、訴訟対応ともに体験者側の反発は強く、法廷闘争はこれからも続く。国が被爆者認定の在り方を根本から見直す以外に、解決への道筋はないことを知るべきだ。被爆体験者に対する現行の医療費助成は、精神疾患とその合併症や、胃がんなど7種類のがんに対象を限定。しかも申請時や毎年1回、精神科を受診することが必要だ。救済策では、対象疾病の制限や精神科の受診要件を撤廃する。その点では被爆者並みとなるが、放射線に起因する疾病に罹患(りかん)していることなどを条件に、被爆者に支給される各種手当は対象外のままだ。これは国が、被爆体験者には精神的な悩みは認められるが、被爆者と違って放射線の影響はないとの立場を堅持しているからだ。その姿勢を改めて鮮明にしたと言え、体験者側の反発も当然だ。これでは、広島高裁が3年前、援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて、新基準に基づく被爆者認定を進めている広島との格差は残り続ける。この差は、長崎には客観的な降雨記録がないためとされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果などを根拠に、一部ではあるが援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限って被爆者と認めた。長崎の援護区域は、爆心地から南北約12キロ、東西約7キロの極めていびつな形だ。爆心地から遠くにいた人が被爆者認定され、より近くにいた人が体験者にとどめられたという例も少なくない。もともとの国の区域指定に問題があると言わざるを得ない。長崎では、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定された。その後、周囲に特例区域が追加され、全体として援護区域は広がったが、こうした線引きは旧行政区画に沿って行われた。原爆由来の放射性物質の影響が、行政区画通りに広がるはずがなく、不合理であることは明らかだ。国は画一的に線引きするのではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を、これまでの調査結果などと突き合わせて精査し、個別に判断すべきだ。長崎県によると、体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超える。長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった。時間がない。体験者に「国に見捨てられた」と感じさせてはならない。 *2-3:https://www.min-iren.gr.jp/?p=45956 (全日本民医連 2022年7月29日) 被爆体験者ってなに? 長崎には“被爆体験者”という聞き慣れない言葉がある。原爆の熱線や黒い雨を浴びながら、行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たち。放射能の影響ではなく、原爆体験のストレスで病気になったというのだ。「被爆体験者の“体験”って、いったいなに?」と話すのは長崎市香焼町の津村はるみさん(76歳)。1945年8月9日の原爆投下、生後19日の津村さんは布団ごと吹き飛ばされた。庭で洗濯物を干していた曾祖母は熱線を浴び、背中が真っ赤になった。母は乳がんや子宮がんを患い、津村さん自身も50歳の時に甲状腺がんを手術。「少しでも体調が悪いと、がんではないかと不安になる」と言う。長崎の被爆地は当初、旧長崎市と隣接する村の一部だった(図のピンク)。2度にわたって範囲が広がったが(青と緑)、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形だ。図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではない。ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれる。被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない。一方、被爆体験者に交付されるのは「被爆体験者精神医療受給者証」で、受給者証には「被爆体験の不安が原因で」病気になったと書いてある。放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向で、こんなおかしな仕組みができた。被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はないが、放射能の影響が考えられるがんなどは対象外。例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃がん」になった途端、医療費助成が打ち切られる矛盾した制度だ。津村さんは爆心地から南へ約9・7kmの旧香焼村で被爆したが、被爆地ではないため被爆体験者。「受給者証をもらうためには精神科の受診が必要だが、抵抗がある。そもそも私たちは精神病なのか。どうして被爆者と認めてくれんとかな」。 ●こんなこと許されるか 爆心地から半径12km圏内で被爆した全ての人を被爆者として認めてほしいー。「長崎被爆地域拡大協議会」(以下、協議会)は2001年から、長崎民医連や長崎健康友の会と協力して、国や県、市に要望してきた。長崎民医連は12~13年、被爆体験者194人を調査、約6割に下痢、脱毛、紫斑など放射線による急性障害があった。県連事務局次長の松延栄治さんは「被爆者の認定指針をはじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めている。これは社会保障政策も同様で根本的に間違っている」と指摘する。同じ被爆地でも、広島に被爆体験者はいない。広島高裁は昨年7月、広島で放射性物質を含む黒い雨を浴びた原告84人全員を被爆者と認める判決を出した。原告には爆心地から30km圏内の人もいた。厚労省は判決を受け被爆者認定指針を見直す方針だが、長崎の被爆体験者は対象外とした。協議会副会長の池山道夫さん(80歳)は長崎健康友の会副会長も務める。「広島も長崎も同じ原爆。何が違うのか。こんなことが法治国家として許されるのか」と怒る。協議会は高裁判決を踏まえ、12km圏外の原爆被害の実態調査を始めることを決めた。 ●梅干みたいな太陽 長崎市平間町の鶴武さん(85歳)は、爆心地から東へ7・3kmの旧矢上村で被爆。同じ村内の隣の集落は被爆地だが、山の尾根の反対側に当たる鶴さんの集落は認められなかった。「祭りも運動会も一緒にやってきた。なぜ分断されるのか」と言う。8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見た。「梅干みたいに赤黒かった」。父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した。「緑の手帳ばもらっているが、ピンクをもらえれば人として安心する。※ 広島は認めて、なぜ長崎は認めないのか、不思議か。私たちには先がない。生きているうちに原爆手帳を」と訴える。 ●「壁を突破したい」 協議会会長の峰松巳さんは95歳。長崎市深堀町に一人で暮らしている。「高齢化で子どもを頼って引っ越す会員も増えているが、県外に移住すると受給者証は返還しなければならない。こんな酷い制度を変えるために活動している」と語る。峰さんの11人の兄弟姉妹のうち、4人は幼くして早逝。その後も白血病や肺炎で3人が亡くなったが、誰も被爆者とは認められなかった。「放射能の影響を小さく見せたい米国の意向で、日本政府は被爆地域を狭く限定している」と憤る。協議会の山本誠一事務局長(86歳)は、原爆で一緒に吹き飛ばされ9歳で亡くなった友人が忘れられない。この友人は原爆投下から下痢が続き、60日後に突然亡くなった。一緒に運動してきた仲間が、受給者証を交付された半年後にがんになり「手帳は使えない」と無念のうちに亡くなったことも。「何度打ち砕かれても、多くの人の支えで運動を続けてきた。民医連や友の会をはじめ、皆さんと一緒に壁を突破したい」と山本さん。4年前に心筋梗塞の手術をし、3本のステントが体内に残る。「まだ、死ぬわけにはいかないのです」。 ※被爆者に交付される被爆者健康手帳の表紙はピンク色、被爆体験者精神医療受給者証は緑色 <衆院選と原発・エネルギー政策> *3-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/224cf2459efb29b2e698decc9df4c9aa11c37c8f (Yahoo、毎日新聞 2024/10/23) 議論深まらぬ原発政策 原発立地でも「選挙戦では触れもしない」 3年前の前回衆院選から原発政策は大きく変わった。岸田前政権は次世代型原発へのリプレース(建て替え)や、最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めるなど、十分な議論がないまま、福島の事故を受けて進めてきた「脱・原発依存」から大きくかじを切った。なし崩しで進む原発回帰だが、今回の衆院選でも議論は低調なままだ。「原発の20年延長の話は、もう夏前には終わった感じ。衆院選では話題になっていない気がする」。九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市で飲食店を経営する40代女性は振り返る。川内原発では、1号機は7月に原則40年とされる運転期間を超え、国内で4基目となる最長20年の延長期間に入った。2025年11月には2号機も40年を超える。運転延長を巡っては、20年の知事選で「安全性の検証」を訴えた塩田康一氏が初当選。22年に九電が原子力規制委員会に運転延長を申請すると、23年10月には市民団体が約4万6000人の署名を集め運転延長の是非を問う県民投票条例制定を求める直接請求をするなど議論の盛り上がりを見せた。だが、県議会は条例案を否決。同年11月には原子力規制委が延長を認可し、翌12月には、薩摩川内市の田中良二市長や塩田氏が相次いで容認した。今年7月の知事選では、原発について目立った議論が交わされることなく、産業振興などを訴えた塩田氏が延長反対を掲げた新人に大差を付けて再選。今月20日には薩摩川内市長選が告示されたが、田中氏以外の立候補はなく、あっけなく無投票再選が決まった。衆院選では、原発の利用について、自民党、日本維新の会、国民民主党などが推進の立場なのに対し、共産党、れいわ新選組は脱原発を掲げる。立憲民主党は、公約では触れていないが党綱領に原発ゼロを明記する。だが、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する、自民と立憲の候補者は発言内容は違えど、いずれも運転延長に容認の立場で、大きな争点となっていない。市民団体「川内原発建設反対連絡協議会」の鳥原良子会長は「立地する地元では、原発関連の仕事に就いている人も多く、争点にしたくないだろうけど、選挙でしっかり考えを示すべきだ」と注文する。福島の事故後、玄海原発(佐賀県玄海町)の2基を含め原発4基が再稼働している九州電力管内は、全国でも電気料金が低く抑えられている。ただ、原発賛成の立場を取る市民からも「安全性について『わかりにくい』『不安だ』という声はある。市民に理解してもらうよう説明してほしい」との声が上がる。一方、原発利用とセットで語る必要がある「核燃料サイクル」も、実現が見通せないままだ。原発から出る使用済み核燃料を再処理し、核燃料として再び原発で使う計画だが、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場ではトラブルが続き、1997年の完成予定だったのが27回も延期されている。再処理工場が稼働できたとしても、再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドも立たない。最終処分場に絡んでは5月、玄海町が原発立地自治体として初めて、選定調査の第1段階である「文献調査」受け入れを表明。脇山伸太郎町長は「国民的議論の喚起」を求めた。だが、安全性や風評被害への懸念は強く、どの自治体も簡単に手を挙げられないのが現状だ。選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が02年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、玄海町の3自治体にすぎない。国内で原発が稼働して半世紀超。使用済み核燃料は各地にたまっており、原発利用の賛成、反対を問わず最終処分場整備は避けては通れない問題だ。だが、脇山氏の願いとは裏腹に、県内の選挙区でも議論は深まっているとは言い難い。玄海町の調査受け入れに積極的に関わった町議会原子力対策特別委員会の岩下孝嗣委員長は「選挙戦では政治資金の話ばかりで原発政策には触れもしない。(放射性廃棄物の処理など)『バックエンド対策』はまだ国民全体がよそ事のような感じだ。エネルギー安全保障など、本来国にとって大事な政策をもっと訴えてほしい」と求めた。 *3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/348660 (東京新聞 2024年8月21日) 原発コストは太陽光発電の何倍?アメリカの最新試算でわかった驚きの数字 次期基本計画でどうする日本政府 原子力発電のコストが上昇している。米国の最新の試算では、既に陸上風力や太陽光より高く、海外では採算を理由にした廃炉も出ている。日本政府の試算でもコストは上昇傾向だ。年度内にも予定されるエネルギー基本計画(エネ基)の改定で、原発を活用する方針が盛り込まれれば、国民負担が増えると指摘する専門家もいる。 岸田文雄首相(資料写真) ◆岸田政権は「原発を最大限活用」 政府は福島第1原発事故後、エネ基で原発の依存度を「可能な限り低減」する方針を掲げてきた。しかし岸田文雄政権発足以降、2023年のGX基本方針などで「原発を最大限活用」と転換。エネルギー安全保障や二酸化炭素の排出抑制を回帰の理由に掲げるが、事故の危険性に加え、コスト高騰のリスクもはらむ。米国では23年、民間投資会社ラザードが発電所新設時の電源別コスト「均等化発電原価(LCOE)」を発表。原発のコストの平均値は、陸上風力や太陽光発電の平均の3倍以上だった。経年比較でも原発のコストは上がり続け、14年以降、太陽光や陸上風力より高くなった。均等化発電原価 発電所を新設した場合のコストを電源種類別に比較する指標。建設、設備の維持管理、燃料購入にかかる費用を発電量で割って算出する。日本では、1キロワット時の電力量を作るのに必要な金額で比較することが多い。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)の国際的指標として使われる。単純なコストだけでなく、補助金など政策に関連する費用を含めて算出する場合もある。国内では、経済産業省の作業部会がLCOEを計算。21年の調査では30年新設の想定で、原発のコストは1キロワット時あたり最低で11.7円。前回15年、前々回11年を上回った。一方、陸上風力や太陽光のコストは21年でみると、原発とほぼ変わらなかった。 ◆専門家「再稼働でも再エネ新設と同程度」 東北大の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授(環境政策論)は、「原発の建設費用は1基あたり1兆~2兆円」と説明。コスト上昇の要因として、事故対策費用がかかる上、量産が難しいことを挙げる。「最近の原発は事故対策を強化した新型炉が中心で、技術が継承されておらず、高くつく。太陽光と風力は大量生産で安くなったが、この効果が原発では働きにくい」と指摘する。経産省はエネ基の改定に合わせ、年内にも最新のLCOEを発表する見通し。明日香氏は「今年は21年と比べ、原発新設のコストが上がるのが自然。再稼働でも再エネ新設と同程度という調査もある。政府は原発の活用を進める上で、はっきり『安いから』とは言わないだろう」とみる。 ◆原発活用でも「電気代下がるとは考えにくい」 海外でも日本と同様に、原発推進にかじを切る国は増えている。しかし、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「近年はコスト高で原発の廃炉や計画断念、建設遅延が相次いでいる」と指摘。実際に国内の原子力研究者らでつくる研究会のまとめでは、米国で11年以降、13基が経済的な理由で閉鎖された。松久保氏は「国内も、原発の活用で電気代が下がり、国民の負担軽減になるとは考えにくい」と話している。 *3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/360944 (東京新聞 2024年10月18日) 「原発も対象」巨額の新補助金、詳細なぜ「黒塗り」…集めた電気料金も原資 島根3号機に年700億円試算も 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を減らす発電所の改修や新設を対象に、発電会社が補助金を受け取れる国の制度が今年から始まった。補助金の原資には市民が払う電気料金も含まれる。しかし発電会社への補助額など内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できないようになっている。 ◆23社の52電源に総額4102億円が この制度は「長期脱炭素電源オークション」。1月に入札が行われた。発電会社は施設などの維持費を積算し、経済産業省が所管する電力広域的運営推進機関(OCCTO)の入札に応じる。落札できた場合、維持費に相当する補助金を受け取れる。補助額は各社の落札価格が基になる。OCCTOによると、初年度の2023年度の募集は最大1000万キロワットで、23社計52電源が総額4102億円で落札した。水力発電やバイオマス発電、蓄電池のほか、原発では唯一、中国電力の島根3号機(131万キロワット)が含まれる。 ◆価格の情報公開請求には「非開示」 個々の落札価格や受取期間は公表されていない。東京新聞は個別の落札価格などについてOCCTOに情報公開請求をしたところ、「非開示」となった。「事業者の経営方針や事業活動の情報と考えられ、公表対象ではない」とした。制度を設計した経産省資源エネルギー庁への情報公開請求では、文書不存在を理由に「不開示」だった。同庁の担当者は「必要な時が来たら(OCCTOに)情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」とする。原発を対象に補助金を受ける中国電力にも尋ねたが「経営戦略上、回答を控える」とした。 ◆支払いを拒めないのに負担させられる 初回の2023年度は新設や建て替えに補助対象が絞られたが、今月手続きが始まった2024年度からは「新規制基準への安全対策工事が必要な原発」も対象となる。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めない税金のようなものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかが分かるよう公開するのが当然だ」と語る。NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「落札価格が公表されなければ、応札価格が低い順から落札するという基本ルールが機能しているのかさえチェックできない」とも指摘。この懸念について、エネ庁の担当者は「OCCTOを信頼するしかない」と話した。長期脱炭素電源オークション 発電した電気(キロワット時)を売買する卸電力市場に対し、発電能力(キロワット)を取引する容量市場の一つ。再生可能エネルギー拡大の影響で、卸電力市場での電気価格が低下し、大手発電会社が保有する大規模電源の投資回収見込みが不確実になったことが導入の背景にある。発電会社が電源維持のために必要な金額をキロワット単価で応札し、低い順から落札。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)実現に向け、毎年400万〜600万キロワットを調達し、化石燃料から脱炭素電源への移行を目指す。ただ初回は将来の脱炭素化を条件にLNG火力も参加した。 ◇ ◆落札すると人件費など20年間保証 脱炭素電源の発電会社を対象とする補助金で、個別の落札価格などが公表されておらず各社が得る金額は不明だ。国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機はどれだけの補助金を得るのか。NPO法人「原子力資料情報室」が公開情報で試算すると、年間700億円を超えた。この制度では、発電会社はまず年間の固定費(建設費や人件費など)に当たる金額をキロワット単価で応札する。落札すると、固定費分が収益の一部として原則20年間保証される。ただ実際の売電収入と合わせると収益の二重取りとなるため、売電後の利益の9割を還付する。 ◆「国民の理解が得られるとは到底…」 同NPOは今回、公表されている落札総額を落札総容量で割り、1キロワット当たりの平均落札価格を5万8254円と計算。これに同原発の容量を乗じ、766億円とはじいた。補助金を受け取れる「制度適用期間」も非公表のため、原則通り20年だと計1.5兆円。OCCTOによると、落札電源の3分の1が20年を超える受け取り期間に設定している。ここから還付金が発生するが、補助が巨額なのは変わりない。同NPOの松久保肇事務局長は「ほとんど知らされることなく、極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘する。 *3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241028&ng=DGKKZO84404960Y4A021C2EAF000 (日経新聞 2024.10.28) 自民独占 8県どまり 小選挙区、前回より6県減、新潟・佐賀は立民が独占 自民党は27日に投開票した衆院選の小選挙区で、山形、群馬、熊本など8県の議席を独占した。前回2021年衆院選の14県から6県減らした。自民党派閥の政治資金問題などが影響した。立憲民主党が新潟、佐賀両県、日本維新の会が大阪府のすべての小選挙区を制した。自民が独占したのは、山形、群馬、富山、鳥取、山口、徳島、高知、熊本の8県。徳島、熊本両県は今衆院選で新たに加わった。独占が崩れたのは、青森、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、島根、愛媛の8県だ。滋賀県は維新、そのほかの選挙区はすべて立民が議席を奪った。岐阜4区では立民の元職、今井雅人氏が自民前職を破った。福井2区は政治資金収支報告書に不記載があり、自民から公認されずに無所属で出た高木毅元復興相が落選した。滋賀1区は前原誠司元外相とともに国民民主党を離党した後、教育無償化を実現する会を経て維新に移った斎藤アレックス氏が議席を得た。島根1区は細田博之元衆院議長の死去に伴う24年4月の補欠選挙で当選した立民前職の亀井亜紀子氏が議席を維持した。和歌山1区は自民新人、山本大地氏が競り勝った。23年補選では維新の林佑美氏が当選していた。2区は今回無所属で出馬した旧安倍派「5人衆」のひとりで、参院からくら替えした世耕弘成元経済産業相が議席をとった。党が追加公認をすれば和歌山県も自民の独占県になる。立民は新潟県5小選挙区すべてで前職と元職が議席を得た。同県2区では政治資金問題を巡り自民から公認を得られず無所属で出馬した細田健一氏が議席を逃した。佐賀県も前回衆院選に引き続き立民がすべての議席を独占した。維新は大阪の全19選挙区で勝利した。維新は21年衆院選まで公明党が議席を持ってきた大阪府と兵庫県の6選挙区で初めて候補者を立てた。大阪府の4選挙区はすべて維新、兵庫県の2選挙区は公明が議席を獲得した。維新はこれまでの党の看板政策である「大阪都構想」への協力を得るため公明現職のいる小選挙区への擁立を見送ってきた経緯がある。23年4月の統一地方選で大阪府議会に加え、大阪市議会でも過半数を獲得し、候補者の擁立に踏み切った。 *3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241029&ng=DGKKZO84423330Y4A021C2EP0000 (日経新聞 2024.10.29) 経団連「政策本位の政治期待」 自公中心、安定訴え 経団連は28日、自民党と公明党の与党が過半数を割った衆院選の結果について十倉雅和会長の談話を発表した。「自民党・公明党を中心とする安定的な政治の態勢を構築し、政策本位の政治が進められることを強く期待する」と訴えた。与党の敗因に関して「政治資金を巡る問題に国民が厳しい判断を下した」との認識を示した。「待ったなしの様々な重要課題に直面している」と主張し、成長と分配の好循環や原子力の最大限活用、賃上げへの環境整備などに迅速に取り組むよう求めた。日本商工会議所の小林健会頭は談話で「連立与党の枠組みがいかなるものであれ、デフレ経済からの完全脱却などに不退転の決意で臨むべきだ」と唱えた。経済同友会の新浪剛史代表幹事は「与野党問わず現実を直視した上でしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めてほしい」と要求した。業界団体では日本鉄鋼連盟の今井正会長(日本製鉄社長)が「安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する」とのコメントを発表した。石破茂首相は連立政権の枠組みの拡大など野党の協力を引き出す道を探る。自民党内で連携を模索する声がある日本維新の会や国民民主党は衆院選で消費税の減税を提起した。経団連の十倉氏は22日の記者会見で「暮らしをよくするために消費税を下げるというのはやや安直な議論ではないか」と批判した。 *3-1-6:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241029/k10014622291000.html (NHK 2024年10月29日) 宮城 女川原発2号機が再稼働 福島第一原発と同タイプで初 東北電力は29日夜、宮城県にある女川原子力発電所2号機の原子炉を起動し、東日本大震災で停止して以来、13年半余りを経て再稼働させました。事故を起こした東京電力福島第一原発と同じタイプの原発で、このタイプでは初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。東北電力女川原発2号機は、13年前の巨大地震と津波により外部電源の多くが失われ、地下の設備が浸水するなどの被害が出ましたが、その後、防潮堤を海抜29メートルの高さにかさ上げするなどの安全対策を講じて、2020年に原子力規制委員会による再稼働の前提となる審査に合格しました。その後、安全対策の工事や国の検査などが終わったことを受けて再稼働することになり、女川原発2号機の中央制御室では、29日夜7時に、東北電力の運転員が核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く操作を行い、原子炉を起動させました。東北電力によりますと、作業が順調に進めば夜遅くにかけて原子炉で核分裂反応が連続する臨界状態になり、11月上旬には発電を開始する見通しだということです。女川原発2号機は、事故を起こした東京電力福島第一原発と同じBWR=「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、このタイプの原発では東日本大震災のあと初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。また、国内でこれまでに再稼働した12基の原発はすべて西日本に立地していて、東日本にある原発の再稼働は初めてです。政府は、脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け原発を最大限に活用する方針で、12月には同じ「沸騰水型」の中国電力島根原発2号機の再稼働が計画されています。また、電力各社は、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発や、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発など東日本を含む各地の原発についても、今後地元の理解を得た上で再稼働することを目指しています。 ●女川町長 “緊張感と責任感持って慎重に対応を” 女川原発が立地する自治体のひとつ、女川町の須田善明町長は「原子炉の起動は一番の大きな山とは言えるが、送電接続をもって再稼働であり、プロセス全体の安全面の確認が完了するまで状況を注視していく。東北電力に対しては営業運転の段階までしっかりと工程を進め、作業では点検などを着実に実施し、安全上の不備がないよう緊張感と責任感を持って慎重に対応するよう求めている。引き続き進捗状況などの分かりやすい情報提供や、現在の枠組みにとどまることのない継続的な安全性向上を求める」とするコメントを発表しました。 ●宮城県知事 “安全最優先で作業を” 女川原発2号機が再稼働することについて、宮城県の村井知事は午前中に開かれた定例の記者会見で「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい。少しでも異常があった場合にはためらうことなく作業を止めて、県民に積極的に情報公開をしてほしい」と述べました。そして、「事故後被災した原子炉としては初めての再稼働で、他の原発と違って非常に注目度が高いと思っている。私もこの前、視察をしてきたが、本当にここまでやるのかと驚くほどの対応をしていた。安全度は極めて高まったと思っているが、なお油断することなくしっかり対応していただきたい」と述べました。その上で事故が起きた場合に備えてまとめた住民の避難計画については「いざというときに計画のとおり住民が動いてくれるのか、動作がちゃんとするのか。訓練をしながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要だと思っている」述べました。 ●13年前の被害とその後の対策 女川原発2号機は、東日本大震災の際に、敷地内で震度6弱の揺れが観測され、約13メートルの津波が押し寄せました。周辺環境に放射性物質が漏れることはありませんでしたが、原発に電気を送り込む外部電源の多くが鉄塔の倒壊などで失われたほか、敷地の下の港にあった重油タンクが倒壊したり、「熱交換器」と呼ばれる設備がある地下室が浸水したりするなどの被害が出ました。このため、東北電力は再稼働に向けて、2013年から地震や津波などの際の事故に備えた安全対策工事を進めてきました。具体的には、想定される最大クラスの津波に備えて、防潮堤の高さを海抜29メートルにかさ上げしたほか、地震による被害を抑えるための原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行いました。さらに、事故が起きても、原子炉を7日間冷やし続けられる量に当たるおよそ1万トンの水をためられる貯水槽の設置や、ケーブルを入れる管を燃えにくい素材で覆う工事など、さまざまな面で安全対策を講じてきたということです。こうした対策で、東北電力は13年前のレベルの地震や津波にも耐えられるとしています。安全対策工事をめぐっては、東北電力は当初、完了時期を2016年3月と発表していましたが、追加工事などを理由にその後7回の見直しが行われ、ことし5月下旬にようやく完了に至りました。震災後の安全対策工事にかかった費用は、約5700億円にのぼるということです。また、テロなどに備えるための「特定重大事故等対処施設」は、再稼働に必要な原発の工事計画の認可から5年以内の設置が義務づけられていて、期限となる再来年12月までに、約1400億円かけて建設する予定だということです。 ●再稼働で600億円程度のコスト削減か 東北電力によりますと、82万5000キロワットの出力がある女川原発2号機が発電を再開することで、年間で一般家庭の約162万世帯分の電気を賄うと試算されています。東北電力が供給する電力量の構成は、火力発電が67%を占めていますが、今回の再稼働で火力発電所で使っていた燃料費の削減につながり、来年度は、今年度の燃料価格に基づく試算で600億円程度のコストが抑えられる見通しだということです。ただ、東北電力では再稼働に伴って電気料金の値下げをするかについては慎重な姿勢を示しています。昨年度、最終的な利益が2261億円と過去最高となりましたが、その前年度までの2年間はロシアによるウクライナへの侵攻で、天然ガスなどの燃料価格が高止まりしたことなどから赤字となり、自己資本比率が低い水準が続いています。このため東北電力は悪化した財務基盤の立て直しが必要だとしていて、経営の効率化の進捗などを総合的に判断したうえで、電気料金が値下げできるか検討するとしています。 ●武藤経産相「大きな節目になる」 女川原発2号機が再稼働することについて、武藤経済産業大臣は29日午前、「大きな節目になる」と述べました。11月上旬には発電を開始する見通しについては、「東日本における電力供給構造のぜい弱性や電気料金の東西格差、経済成長機会の確保という観点からも、再稼働の重要性は極めて大きい。東日本としては震災後、初めての原子炉起動で大きな節目になり、安全最優先で緊張感をもって対応してほしい」と述べました。そのうえで、新潟県にある柏崎刈羽原発の再稼働については、「地元の不安の声や地域振興の要望を踏まえながら、再稼働への理解が進むよう政府をあげて取り組んでいきたい」と述べました。 ●再稼働の背景 脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け、政府は原子力発電を最大限に活用する方針で、安全性の確保を前提に地元の理解を得た上で、東日本大震災のあとに運転を停止している原発の再稼働を進めていくことにしています。再稼働の背景にあるのは、1つは日本の化石燃料への依存です。国内の電力供給は約7割が火力発電に依存していて、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、サプライチェーンの混乱によって供給不安の問題も出ました。政府としては、原発の活用で化石燃料への依存度を下げ、エネルギーの安定供給につなげたい考えです。もう1つは、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げる中で、脱炭素電源を増やしていく必要があるためです。今後、国内でも電力需要が増加していく可能性も指摘されています。生成AIの普及が急速に進む中で、不可欠なデータセンターや、半導体の製造工場などの建設が拡大するとみられ、こうした施設は大量の電力を消費します。全国の電力需給を調整しているオクト=電力広域的運営推進機関によりますと、東日本大震災後、省エネや節電の進展などを背景に、全国の電力需要は減少傾向にありました。しかし今後、電力需要は上昇に転じ、9年後の2033年度にはデータセンターなどの新増設によって約537万キロワットの需要が増える見込みだとしていて、政府はこうした需要に応えるためにも、原発の再稼働を進めていく必要があるとしています。 ●使用済み核燃料 4年程度で満杯に 原発の運転で出る使用済み核燃料は、青森県六ヶ所村にある再処理工場に運ばれる計画となっていますが、完成時期が遅れているため、全国の原発に留め置かれた状態が続いています。用済み核燃料は、原発の建屋の中にある燃料プールで一時的に保管されていますが、東北電力によりますと、女川原発2号機ではすでに燃料プールの管理容量の79%に達していて、再稼働に伴って今後4年程度で満杯になる見通しです。このため、東北電力は使用済み核燃料を女川原発から搬出するまでの間、金属製の容器に入れて保管する乾式貯蔵施設を敷地内に設置し、2028年3月に運用を開始する計画です。ただ、原発の立地自治体からは、再処理工場の完成が遅れる中で、施設内に長期間にわたって使用済み核燃料が留め置かれるのではないかという懸念も出ています。 ●原子力規制委も態勢強化 国内で初めて「BWR」=「沸騰水型」の原発が再稼働するのにあわせて、検査を行って運転を監視する原子力規制委員会も、態勢を強化しています。これまで再稼働してきた「PWR」=「加圧水型」とは内部の設備が異なるほか、運転操作にも異なる部分があるため、検査官には、検査や運転の監視にあたってそれぞれのタイプに合わせた対応が求められるということです。検査官の中には「BWR」の検査に携わった経験のない職員もいて、原子力規制委員会では、検査官に改めて知識を確認してもらおうと、研修を増やして態勢を強化しています。2023年秋以降、原発の中央制御室を模したシミュレーターを使って、トラブルが起きやすい起動の手順を確認する研修をこれまで9回開催し、約30人の検査官が受講したということです。原子力安全人材育成センター原子炉技術研修課の白井充課長は「BWRとPWRはシステムの構成や動きが異なるため、検査官がそれぞれに対応できるようにしている。起動やトラブル対応などを重点的に学習してもらった」と話していました。 ●「PWR」と「BWR」 全国の稼働状況は 東京電力福島第一原発の事故のあと新たに作られた規制基準の審査に合格し再稼働したのは、女川原発2号機で13基目です。国内には33基の原発がありますが、これまでに再稼働した12基はいずれも西日本に立地しているほか、事故を起こした福島第一原発とは異なる「PWR」=「加圧水型」と呼ばれるタイプでした。一方、福島第一原発と同じ「BWR」=「沸騰水型」と呼ばれるタイプは国内に17基あり、東北電力や東京電力など東日本にある原発の多くがこのタイプですが、再稼働したのは女川原発2号機が初めてです。女川原発以外では、柏崎刈羽原発6号機と7号機、東海第二原発、島根原発2号機がすでに新しい規制基準の審査に合格していて、このうち島根原発2号機は12月に再稼働する計画となっています。ただ、柏崎刈羽原発は地元の了解が得られておらず、東海第二原発は避難計画の策定などが課題となっていて、「BWR」の再稼働がどこまで進むかは見通せない状況です。 ●専門家に聞く「PWR」「BWR」の ”違い” 「PWR」と「BWR」。なぜこうした違いが生じているのか。経緯や安全性について、原子力規制庁の元幹部で長岡技術科学大学の山形浩史教授に聞きました。 Q.「BWR」と「PWR」は安全性に違いはあると考えていますか。 『BWR』は、原子炉を覆っている格納容器が『PWR』に比べて小さいという特徴があります。福島第一原発の事故では、炉心が溶けるという、設計では考えていなかったような事態が起こりました。小さい格納容器では余裕がなくて、事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなって、蒸気と一緒に放射性物質が放出されました。福島第一原発の事故以前の対策では、炉心が溶けるというような事態を考えた場合には、格納容器が小さい『BWR』は不利であったということになります Q.福島第一原発の事故後に行われてきた対策について、どのように考えていますか。 事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなりそうになったら、弁を開けて蒸気を放出させるという対策を新しく要求しています。ただし、そのまま放出すると蒸気と一緒に放射性物質が放出されてしまいますので、水などに放射性物質を吸着させます。こうした対策を『BWR』には特別に要求をしています。ですから、新しい規制基準を満足していれば、『PWR』と同等、またはそれに近いレベルまで安全性を高められたということになります Q.世界では「PWR」が主流、国内では「BWR」と「PWR」が半々となっています。「BWR」と「PWR」は、コスト面で違いがあると考えていますか。安全面、コスト面ともに大差ないと思います。原子力発電所はもともと原子力潜水艦の技術が使われています。原子力潜水艦が『PWR』だったので、地上も同じ『PWR』から始まりました。先行したものが技術や審査の実績が積み上がってくるので、電力会社としてもそちらのほうが経営面でのリスクが少ないということになるかと思います。日本の場合は『PWR』と『BWR』の両方ありますが、電力会社が、昔からPWR系のアメリカのメーカー、BWR系のアメリカのメーカーのどちらとつきあいがあったのかで分かれたのだと思います。 Q.なぜ「BWR」のほうが再稼働が遅くなったのでしょうか。 新規制基準が施行された日に電力各社が『PWR』の審査の申請をしました。『PWR』はフィルター付きベントの設置が求められていなかったため、新しい検討要素がなく対応が早くなったのではないかと考えられます。最初に鹿児島県の川内原発の審査が進み、1つ前例ができるとほかの『PWR』の審査も進むようになりました。少し遅れて『BWR』の申請が出され、技術力のある東京電力の柏崎刈羽原発の審査が進みました。しかし、テロ対策の不備があり、東京電力の事情で大きく遅れたということだと思います。東京電力を追うように審査が進んだ東北電力の女川原発、中国電力の島根原発が再稼働することになったのだと思います。 Q.「BWR」の再稼働にあたって、事業者にはどのようなことが求められますか。 『BWR』にはフィルター付きベントという安全装置がありますが、これ使う時は放射性物質が少なからず出ます。そういうことがあるかもしれない。それを起こさないために今何をするのか。そういうことをしっかり考えてほしいです。周辺地域に対しての影響というのは大きなものがあります。これを肝に銘じて安全対策に取り組んでいただきたいと思います。 ●避難計画の課題 宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大な事故が起きた際には、住民を安全に避難させることができるかが課題となります。元日に起きた能登半島地震は、地震や津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」となった場合の課題を改めて突きつけました。1つ目は住民の避難路の確保です。能登半島地震では地震による土砂崩れなどの影響で道路が通行止めになって避難できず、孤立した集落も多く見られました。宮城県によりますと、牡鹿半島では住民が避難に使う3つの県道には、あわせて92か所で土砂崩れなどの危険性がある「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」があります。さらに、巨大津波が発生した場合には、2つの県道であわせて14か所が、津波による浸水で通行できなくなるおそれもあります。課題の2つ目は、被ばくを避けるため、まずは自宅など建物の中にとどまる「屋内退避」についてです。国の指針では原発で重大な事故が起きた際、原則、半径5キロ圏内の住民は即時に避難し、5キロから30キロの住民は自宅などに屋内退避するとされています。しかし、能登半島地震では住宅をはじめ多くの建物が倒壊しました。専門家からは仮に倒壊しなかった場合でも、巨大地震のあとは、倒壊の危険性がある自宅にとどまり続けることは困難だと指摘されています。こうしたことについて宮城県は、国や関係機関などと連携してヘリコプターや船などあるゆる手段を使って住民を避難させるなどとしていますが、「複合災害」が起きたときの避難計画の実効性を、いかに高めていくのかが問われることになります。 ●再稼働反対の人たちが抗議活動 29日午前中、女川原発のゲート前には、再稼働に反対する団体などから約30人が集まりました。プラカードや横断幕を掲げ、「周辺住民の被ばくや生活の破壊を全く顧みず、私たちの声を全く無視した再稼働を許すことはできません」などと訴えました。また、東北電力の樋口康二郎社長への申し入れとして、能登半島地震から避難への不安が大きくなり、避難計画を示されても安心できないことや、東京電力福島第一原発の事故の復旧に見通しが立たず立ち入ることができないふるさとがある状態で、同じようなことがあってはならないなどと訴えました。そして、ゲートの方向に向かって「再稼働するな」などと声をあげていました。抗議を行った団体は申し入れ書をゲート前で提出したいと東北電力側に打診しましたが断られたため、郵送したということです。女川から未来を考える会の阿部美紀子代表は「原発は避難を強いるほど危険な代物で必要ない。東北電力は地元の人に聞くと逃げることは大変困難だと身をもって感じるはずだ」と話していました。 ●住民“安全に避難できるのか“ 原発周辺の住民からは、地震や津波と原子力災害が重なる複合災害が起きた時に安全に避難できるのか、心配する声があがっています。女川原発がある牡鹿半島の牡鹿地区の行政区長会、会長を務める鈴木正利さんは29日の再稼働について「すでにそこにできていて、動いたことのある原発なので、今さらどうすることもできないし、賛成でも反対でもない」と話しました。その上で原発が半島部分にあるため、東日本大震災やことしの能登半島地震の経験も踏まえて、もし事故が起きた時に住民が安全に避難できるかが重要だと話します。震災では、鈴木さんが住む牡鹿半島の先端にある鮎川地区には8メートルを超える津波が襲い、半島のあちこちが土砂崩れや津波による浸水などで通行止めとなりました。このため車による避難は難しく、震災の時、港が流されてきたがれきなどで使えなくなった経験から、国や自治体が考える船を使った避難も簡単ではないと指摘します。また、天候によってはヘリコプターによる避難も難しく、現実的なのは地区にあるコンクリート造りの集会所に退避することだと言います。東日本大震災の時には集会所に最大300人の住民が避難したということで、鈴木さんは放射線から身を守れるよう気密性を高めた防護施設に改修するよう求めています。鈴木さんは「震災では港は転覆した船や養殖いかだ、魚網などであふれ使えなかった。この集会所は地域の中心にあり、お年寄りも歩いて来られる場所にある。放射線から身を守る施設に改修してもらえれば、ここで何日か安全に避難できる」と話していました。 ●経団連 十倉会長“エネルギー自給率向上などに貢献を期待” 経団連の十倉会長は「安全性の確認と地元の理解が得られ、原子炉が起動し、再稼働への大きな一歩が踏み出されたことを歓迎する。ここに至るまでの関係者のご尽力に心から敬意を表したい。引き続き、円滑に営業運転が開始されるよう、準備を着実に進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「国際的に遜色のない価格での安定した電力供給は国民生活と企業活動の基盤であり、女川原子力発電所2号機が、エネルギー自給率の向上とカーボンニュートラルの双方に資する電源として、大いに貢献することを期待する」としています。 ●同友会 新浪代表幹事“経営者として 再稼働を心から歓迎” 経済同友会の新浪代表幹事は、「震災によって多大な被害を受けた立地地域の自治体をはじめ、関係各位の尽力に敬意を表する。半導体事業、データセンター、生成AIなどにより、今後、電力需要の大幅な増加が見込まれる。また、わが国のエネルギー自給率向上や脱炭素化の取り組みに際しては原子力発電は非常に重要な手段の一つでありわれわれ経営者としても再稼働を心から歓迎する」というコメントを発表しました。そのうえで「世界で最も厳しいとされる新規制基準の審査に合格した原子力発電所については、立地地域を含め、広く社会のステークホルダーに対して丁寧でわかりやすい説明と信頼醸成に努め、早期に再稼働が進むことを期待している。第7次エネルギー基本計画策定の議論が進められているが原子力発電所の再稼働を含め、安定的なエネルギーの確保はわが国の未来にかかわる重要なテーマである。この取り組みを進めるため、さまざまなステークホルダーとの熟議を含め、経済同友会としても責任ある対応を進めていきたい」としています。 ●日商 小林会頭“電力価格安定や脱炭素などに向け再稼働不可欠” 日本商工会議所の小林会頭は「立地地域をはじめ関係者の尽力に深く感謝と敬意を表するとともに大いに歓迎したい。東北電力におかれては、安全の確保を最優先に再稼働、営業運転再開に向けた取り組みを進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「電力の価格安定と需要増加への対応、脱炭素の推進に向けて、原子力発電所の再稼働は不可欠である。女川原発2号機に続き、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6・7号機など安全が確保された原発の早期再稼働に向け、地元理解の促進など政府が前面に立った取り組みを期待する」としています。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240920&ng=DGKKZO83568530Z10C24A9FFJ000 (日経新聞 2024.9.20) 日本発の次世代太陽電池、中国が量産先手、「ペロブスカイト」新興6社が工場計画、新市場覇権狙う 日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト」の投資ラッシュが中国で始まった。少なくとも中国の新興6社が工場を建設する計画で、国内外から流入する投資マネーが生産を後押しする。中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う。中国・江蘇省無錫市で、極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場の完成が近づく。2023年4月に着工し、同社によるとペロブスカイト型として「世界初のギガワット(GW、100万キロワット)級の生産基地」となる。敷地面積は約1153平方メートルで、生産ラインのほか研究センターや倉庫なども備える。ここから南へ約1000キロメートルに位置する福建省アモイ市では大正微納科技が100メガワット(MW)級の工場を建設中で、25年には量産を始める。ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の教え子である李鑫氏が最高技術責任者(CTO)を務める。各社の公式発表によると、中国では少なくとも6カ所でペロブスカイト型の建設プロジェクトが進行中だ。江蘇省昆山市では、中国太陽電池大手の協鑫集団(GCLグループ)傘下の昆山協鑫光電材料が23年12月に起工した工場の建設が進む。急速な技術発展と市場拡大を期待してマネーが流入している。太陽光から電気への変換効率をみると09年の発明当時はわずか3.8%で、実用化に程遠い水準だった。これが試作品レベルとはいえ現在は最高26%台まで上昇し、理論変換効率(33%)の上限に近づく。カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は32年に24億ドル(約3400億円)と22年の26倍に成長する。協鑫光電には寧徳時代新能源科技(CATL)、騰訊控股(テンセント)、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどが出資した。大正微納には、みずほフィナンシャルグループと深圳力合科創集団が共同設立したベンチャーキャピタル(VC)の瑞穂力合基金などが資金を投じた。瑞穂力合の高級投資総監、張一欧氏は「当社の出資を通じて日本と世界市場の開拓につなげてほしい」と語る。日本勢では、積水化学工業が25年の事業化を目指し、シャープ堺工場(堺市)の一部取得を検討している。パナソニックホールディングス(HD)は26年に参入する方針だ。自社開発したペロブスカイト型太陽電池と、住宅の建材を組み合わせ「発電するガラス」としての用途を開拓する。日本発の技術だが、発明した宮坂教授は技術の基本的な部分について海外で特許を取得しておらず、量産では中国企業が先行した。中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保しようとしている。「曲がる」点が最も注目されるペロブスカイト型だが、発電効率でも一般的なシリコン型と比べた優位性が高い。大正微納の試験では、ペロブスカイト型は年間の合計発電量でシリコン型を大幅に上回った。曇天や早朝、夕暮れなどの弱い光でも発電できるためだ。同社の馬晨董事長兼総経理は「中国では広大な土地に太陽光電池を敷き詰める集中型が一般的だった。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わるだろう」と話す。課題は山積している。生産面ではパネル基板に太陽光を吸収するペロブスカイト層を薄く均一にコーティングする難易度が高く、大型パネルを安定的に量産するのが難しい。このためフィルムに比べて表面に付着させやすいガラス基板の量産が先行する見通しだ。ただガラス基板では「軽く」「薄く」「曲がる」というメリットが失われる。フィルムを使ったパネルを大型化することが開発の焦点となる。 ▼ペロブスカイト型太陽電池 太陽光を吸収するためにペロブスカイトと呼ぶ薄膜材料を使う太陽電池のこと。ペロブスカイトは八面体の結晶構造を持つ化合物。ロシアの科学者ペロブスキー氏が天然鉱物から発見し、その名前にちなんで命名された。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84313960U4A021C2MM8000 (日経新聞 2024.10.24) テスラ、蓄電池を全国販売 ヤマダと連携、1000店規模 家庭の再エネ需要に布石 米テスラはヤマダホールディングスの店舗で家庭用蓄電池(総合2面きょうのことば)を販売する。全国1000店の家電量販店で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダの住宅や太陽光発電設備と組み合わせる。蓄電池と量販の大手が連携し、家庭での再生可能エネルギーの需要を取り込む。太陽光発電は家庭で発電した電力を国が決めた価格で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を契機に導入が一気に広まった。2023年度までの日本の住宅用太陽光の設置件数は累積で330万件ある一方で、蓄電池の累計出荷台数は産業用を含めても93万台にとどまっていた。国は30年度に再生エネの普及率で36~38%の目標を掲げ、太陽光発電は14~16%程度を占める主要な電源だ。天候によって発電量が変わる太陽光の供給と電力需要を調整するには蓄電池を増やす必要がある。家庭に蓄電池が普及すれば再生エネの安定供給につながる。テスラが家庭用蓄電池「パワーウォール」を全国規模の小売店経由で売るのは初めて。これまでは同社が認定する施工店経由の販売が中心だった。ヤマダは全国に約1000店の直営店を展開しており、まずは25日に開店する神奈川県平塚市の店で販売を始める。年内にヤマダの大阪市内や松江市の店でも実機を展示して販売を始め、沖縄を除く全国に順次広げる。施工はテスラの認定施工会社が担う。テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量に当たる13.5キロワット時と大きく、競合の国内メーカーと比べて容量当たりの価格が安い。ヤマダでの販売価格は工事費などを含めて208万7800円。シャープやニチコンなど競合の大容量商品(工賃込み)の市場価格と比べて、容量当たりの価格は3割以上安い。日本で現在販売している家庭用蓄電池は米国で生産したものを輸入している。ヤマダは国内の家電市場が伸び悩むなか、電気自動車(EV)や住宅、家具といった非家電領域を開拓し、再成長を目指している。蓄電池を巡っては日本で新たな市場が拡大する見通し。米欧ではすでに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」と呼ばれる電力ビジネスが広がっている。太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電しておき、電力が足りない時にためた電気を販売して収入を得る仕組みだ。市場に余剰電力があるときには蓄電して、電力の需給バランスも調整できる。テスラも米国ではVPPを展開し、世界の設置台数は累計で75万台超ある。日本では沖縄県の一部でサービスを導入しており、設置台数が増えれば全国への展開も視野に入れる。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83771040Z20C24A9NN1000 (日経新聞 2024.9.30) 再エネ・蓄電池の併用支援 経産省、補助金を増額 経済産業省は2025年度にも、再生可能エネルギーの発電と蓄電池を併用する事業者への支援を拡充する。発電量に応じて上乗せして交付する補助金の額を現状の2倍程度に増やす。海外に比べて遅れる蓄電池の普及を後押しして、再生エネの有効活用を広げる。日本の再生エネは太陽光の普及が特に進んでいる。昼間に電気が余る傾向があるため、発電を停止する事態が頻発している。電気をためるのが解決策だが、蓄電池の導入コストが高く再生エネの発電事業者の多くが活用できていない。経産省はこうした状況を踏まえ、蓄電池を活用する「FIP」と呼ばれる再生エネの発電事業者を対象に、交付する補助金の額を現状から増やす。他の事業者に比べて発電量1キロワット時あたり1円程度上乗せしている交付額を、2円程度に増額する。FIP事業者に対する現在の上乗せ額は初年度が1円程度で、徐々に支援規模を縮小しながら数年間上乗せが続く仕組みになっている。初年度を含めて3~5年程度、現状の金額から倍増する案がある。詳細は24年度末までに専門家の意見を踏まえて詰める。例えば2018年度に事業用の太陽光発電を始めていた場合、国のベースの支援額は1キロワット時あたり18円だが、陸上風力は20円、洋上風力は36円だった。ベースの支援額は再生エネの種類や事業開始年度で異なる。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84687330Y4A101C2EA3000 (日経新聞 2024.11.9) 政府、地方創生に5本柱 閣僚会議が初会合 東京一極集中是正やデジタル活用 首相「付加価値を創出」 政府は8日、首相官邸で地方創生策を検討する閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合を開いた。石破茂政権は地方創生を看板政策に掲げる。人口減や社会的な基盤の維持など地方が抱える課題の解消をめざす。2025年度予算案で関連交付金を倍増する計画だ。首相が本部長を務め、全閣僚で構成した。副本部長には林芳正官房長官と伊東良孝地方創生相が就いた。25年6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、今後10年間を見据えた具体的な施策を盛り込む見通し。(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境(2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散(3)付加価値創出型の新しい地方経済(4)デジタル・新技術の徹底した活用(5)「産官学金労言」のステークホルダーの連携と国民的な機運の向上――を柱に据えて議論する。首相は商工会議所や行政、教育機関、金融機関、労働組合、地方新聞社・テレビ局からなる有識者会議の立ち上げを表明した。地方が直面する問題などを検証して政策立案に生かす。11月中にまとめる経済対策に関し「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出などの取り組みを支援する」と強調した。倍増方針を示した地方創生の交付金については「金額だけ増やしては何の意味もない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った。地方創生は首相にとって思い入れのある政策だ。14年9月に発足した第2次安倍晋三改造内閣で初代の地方創生相を務めた。同年12月に決定した長期ビジョンには「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んだ。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが、地方を取り巻く環境は依然として厳しい。首相は8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければこの先の展望はない」と述べた。「地方創生2.0」を掲げて改めて政策をてこ入れする。10月28日の記者会見では「日本創生」を訴え「地方と都市が結びつくことにより日本社会のあり方を大きく変える」と呼びかけた。国立社会保障・人口問題研究所が23年に発表した将来推計人口によると、56年には1億人を割って9965万人になり、70年には8700万人になる見通しだ。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、23年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は転入者数が転出者数を上回り、28年連続で転入超過を記録した。地方の人口流出が続く。首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動をみると10年間で全国33の道県で男性より女性の方が多く転出した」と説明した。婚姻率の上昇を念頭に、若者や女性に選ばれる地方の実現を訴えた。経済産業省は閣僚会議の設置を受けて各地域の経済産業局長らが出席する会議を開き、地方企業の声を集める。8日の会議で設備投資などの現状を報告した。 <先端技術と教育> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83766580Z20C24A9TB2000 (日経新聞 2024.9.30) スマホ、高級カメラのみ込む、小米やiPhone、画質大幅アップ 加工技術の「リアル」争点 中国の小米集団(シャオミ)や米アップルのスマートフォンのカメラ機能が大幅に向上している。レンズの改良と画像補正技術を磨き、数十万円するような高級コンパクトカメラに匹敵する写真が撮れるようになった。ただ、日本経済新聞が複数機種で撮り比べをしたところ、リアルと加工の境目はどこかという課題も見えてきた。「驚異的な新しいカメラで魅力的な写真の体験ができる」。日本時間9月10日にアップルが開いた新製品の説明会で、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は新型iPhoneのカメラ機能の向上についてこう強調した。新機種「iPhone16 Pro」ではアップル史上最長の焦点距離をもつ光学5倍の望遠カメラを搭載した。画像処理を活用し、撮影後の細かな色調の編集を実現した。スマホ各社はカメラ性能を高めた新機種を国内で相次ぎ発売している。2023年のスマホ出荷台数で世界3位のシャオミは5月、旗艦モデル「Xiaomi14 Ultra」を発売した。独高級カメラメーカーのライカと共同開発した4つのレンズを搭載し、光学で5倍、デジタルズームで最大120倍のズームができる。韓国サムスン電子は4月に発売した旗艦モデル「Galaxy S24」は、撮影後の背景を簡単に加工できる機能を売り物とする。ソニーグループ傘下のソニーが6月に発売した「Xperia 1 6」は暗所でもきれいに撮影できるのが強みだ。7月発売のシャープの「AQUOS R9」もライカ製のレンズを搭載する。各社がカメラ機能に力を入れる背景にはスマホ市場の成熟化がある。データ処理速度など基本性能の差異化が難しいなか、カメラはインスタグラムなどSNSに写真を投稿する層をつなぎとめるのに欠かせない機能として重要度を増している。米調査会社IDCによるとスマホ本体の台数は28年に24年比で8%の成長にとどまる見通し。それでもスマホ向けカメラモジュール市場は、調査会社のグローバルインフォメーションとマーケッツアンドマーケッツによれば、同期間で47%の成長が見込まれる。キヤノンやニコンなどカメラメーカーにとってはスマホの進撃は脅威だ。カメラ映像機器工業会(CIPA)によればデジカメの総出荷額は08年の2兆円超から、足元では7000億円台に沈む。国内では08年にアップルが初めてのスマホを発売し、市場シェアを奪ってきた。調査会社のMM総研(東京・港)は「人工知能(AI)など技術向上でスマホのカメラ機能の向上は間違いなく続いていく」と指摘。コンパクトデジカメに続き、高級デジタル一眼などカメラメーカーの主力の領域をのみ込む可能性もある。実際にスマホカメラの性能はどれだけ高性能なのか。日本経済新聞では今回、シャオミとアップルの最新機種と、比較対象としてユーザーの評価が高い日本の大手カメラメーカー製の高級コンパクトデジカメ(19年発売、価格20万円前後)を使い、東京都千代田区の日経本社ビルから直線距離で約5キロメートル離れた東京スカイツリーを撮り比べした。スマホ、デジカメともスカイツリーの全景は新聞の印刷には十分すぎる高い水準の写真が撮れた。こだわりのあるカメラ愛好家やプロのカメラマンでなければ、3枚に大きな違いを感じないだろう。次に、ズームアップして撮影したところ、明らかな差が出た。シャオミのスマホでは地上450メートルに位置する「天望回廊」とその下の鉄骨部分がクッキリと写った。それと比べるとデジカメはコントラストが低く、ややかすみがかって見える。アップルはデジカメに比べ色合いで青みが薄れた。何をきれいと感じるかは人それぞれだが、SNSを活発に利用する高校生10人に3枚の印象を聞いたところ、10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と答えた。シャオミのズーム写真の秘密を探るため、別の対象も撮影してみた。最大ズームで路上にいる人物に焦点をあてたところ視覚障害者用の黄色のブロックの凹凸が塗りつぶされたように平たんになった。ビル屋上の看板は絵の具で描いた絵画のようになった。シャオミ日本法人でスマホなどの製品開発に携わる安達晃彦プロダクトプランニング部本部長は「実用的に撮影できるのは30倍まで。最大120倍まで撮影が可能だが、デジタル処理感が強くなる」と加工感を認める。一般的にデジタルズームでは画像を引き伸ばす際に解像度の低下が起きる。それをなんらかの機能で補うのがメーカー各社の技術の見せどころになるが、そこには「現実を写しているのか、現実を作り替えているのか」という問題が内在している。楽しむことを優先するなら加工は積極的に肯定されるが、記録を優先するなら不安が残る。そして、リアルと加工の揺れ幅はAIの普及で大きくなっている。シャオミやアップルなどのスマホメーカーに限らず、カメラメーカーの最新デジタルカメラにもAIによる補正機能が搭載されるようになっている。プロの写真家で組織する日本写真家協会では、生成AIによる作成物は写真ではなく「画像」と見なしているが、ノイズ処理や色の補正を含めたAIのテクニックまでは線引きできていないという。会長の熊切大輔氏は「業界で議論されないまま技術だけが発達してしまった。ルールを決めていく必要がある」と話す。 *4-2:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/260594 (日本農業新聞 2024年9月24日) 果樹産地の担い手確保 優良事例を発表 中央果実協会 中央果実協会は24日、果樹産地での担い手育成などに関する事例発表会をオンラインで開いた。大分県農林水産部は、2023年までの10年間で200人が新規就農者したと紹介。園地の確保や未収益期間の長さが就農の壁となる中、県主導で園地の基盤整備や技術習得の支援を同時並行で進め、成果を上げているとした。同協会は、果樹の担い手は、20年までの20年で半減し、60歳以上が8割を占めていると説明。一方、果樹の価格や輸出の攻勢などに魅力を感じている人らが増えているとし、反転攻勢へ大きな好機を迎えているとの考えを示した。大分県農林水産部の河野雅俊氏は、07年から行う基盤整備の取り組みを紹介した。果樹の新規就農者の確保へ「積極的な誘致が重要」として、ダイレクトメールなどを活用して働きかけを展開し、特に農家以外の人や異業種の法人などの参入が増えていると報告。経営展開のシミュレーションを示して、参入を円滑に進めているとした。就農者が1、2年間、小規模な園地で経験を積む間、並行して育苗や園地整備を推進。その後、その園地に加えて、整備された園地も渡すことで、未収益期間の削減につなげているとした。就農者に渡すための園地を集約するには、地権者らへの説明などを丁寧に進める地道な取り組みも不可欠として、「最低でも1、2年は必要」とも指摘。同じ目標を持ったチームを県や市町村、JAや生産者で作り上げることも重要とした。世羅幸水農園(広島県世羅町)の光元信能組合長は、47ヘクタールの大規模な梨園を維持する仕組みを紹介。ジョイント仕立てを導入し、リモコン式草刈り機の活用なども進めているとした。 *4-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84307860T21C24A0TB3000 (日経新聞 2024.10.24) 陸上養殖サーモン大量出荷 NTT、エビ国内大手に、丸紅など4商社でノルウェー輸入に迫る 海ではなく陸地で魚介類を人工的に育てる陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階に入る。丸紅が販売するサーモンが10月中にも店頭に並ぶほか、NTTグループは2025年3月にもエビを出荷する。技術力と資金力を持つ大企業による大量生産で、水産のサプライチェーン(供給網)が変わり始めた。9月下旬、富士山の麓にある静岡県小山町の養殖場では出荷を1カ月後に控えた数百匹の魚が遊泳していた。丸紅がノルウェー企業のプロキシマーシーフードと共同で取り組んできた国産アトランティックサーモンが、いよいよ首都圏のスーパーなどで生鮮食品として販売される。プロジェクトの起点は2020年に遡る。プロキシマーはオスロ証券取引所に上場する水産企業で、高い養殖技術を持つ。丸紅は販売代理について協議。22年に10年間の国産陸上養殖サーモンの独占販売契約を結んだ。まずは25年末までに計4700トンを富士山麓から出荷する計画で、27年には国内最大規模の年5300トンに増やす。全てすしネタに使うと仮定すると3億貫分に相当する量だ。 ●資本力生かす なぜ陸上養殖なのか。天然魚は地球温暖化や乱獲の影響で水揚げが安定しない。海面養殖は水温や寄生虫といった自然環境の影響があるほか、漁業権が必要で新規参入が難しい。大手企業が資本力を生かして大規模に生産するには陸上養殖が最適なのだ。環境負荷の軽減に寄与する利点も大きい。プロキシマーは今回、「閉鎖循環式」と呼ぶ仕組みを採用した。餌やふんで汚れた水をそのまま排水せず、バクテリア分解と散水で浄化し再利用し続ける。さらに航空輸送を伴わない分、サーモン1キロあたり12キログラムの二酸化炭素(CO2)排出削減効果も見込める。施設の運営に必要な電力の15%は敷地内の太陽光発電設備で賄う予定だという。単純な生産コストは海面養殖に比べて割高だが、大規模生産による効率化や消費地までの輸送時間短縮による鮮度の向上、環境負荷軽減などを総合的に考慮すると、十分に収益性を確保できる。プロキシマーのヨアキム・ニールセン最高経営責任者(CEO)は「想定通りの魚の質に仕上がっている。数年後には同規模の養殖場を新たに建設したい」と、既に日本での増産が視野に入っていることを明かす。国内の陸上養殖サーモン事業は三井物産、三菱商事、伊藤忠商事もそれぞれ別のパートナーと組み参入。いずれも今後3年程度で本格出荷が始まる見込みだ。各社が公表する年間生産量(計画値)は4商社合計で2万1300トンと、今の主要供給元のノルウェーからの輸入量(約3万トン、生鮮・冷蔵)に迫る。自給率向上に一役買うだけでなく、追加の設備投資で生産量がさらに上乗せされれば輸出産業に育つ可能性もでてくる。大手商社だけではない。通信各社も陸上養殖に注目する。大企業としての資本力を生かせるだけでなく、情報サービスで既に生産者や卸売・小売事業者と接点があり、有利な立ち位置にいるためだ。「水産業の工業化と標準化をなし遂げたい」。NTTグループ子会社で陸上養殖を手掛けるNTTグリーン&フード(東京・千代田)の久住嘉和社長は意気込む。静岡県磐田市にある敷地面積1万3000平方メートルのスズキの部品工場跡地に巨大なエビ養殖場を建設中だ。12月稼働、来年3月にも初出荷を見込む。8月に関西電力から買収した磐田市内のエビ養殖場と合わせ26年度には年産約200トンとなる。水産大手のニッスイが年産110トンの陸上養殖施設を稼働済みだが、それを超えてエビ陸上養殖で国内最大手に浮上するとみられる。陸上養殖のエビは臭みがなく、病気などを防ぐ薬品の使用量が少なくすむ。また、NTTグループの研究所ではCO2を効率的に吸着する藻の研究を進めている。将来、この藻を飼料に使って環境負荷の軽減につながる養殖事業に育てる考えだ。ソフトバンクはあらゆるものがネットにつながるIoT技術を駆使して養殖が難しいとされるチョウザメの養殖実証に乗り出した。日常の食卓には上らないが、卵のキャビアは高値で取引される。 ●世界市場9割増 世界の漁業・養殖業生産量は22年に2億2322万トンで10年前に比べ25%増えた。天然魚などの海面漁業の生産量はほぼ横ばい。海面養殖業は48%増と急増しているが、適地が限られるため中長期な今後の拡大は難しいとされる。人類の胃袋を満たす伸びしろは陸上養殖だ。調査会社のグローバルインフォメーションによると陸上養殖の世界市場は29年に23年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増する。日本にとっては、食の安全保障の観点からも陸上養殖の重要性は増している。政府は食用魚介類の自給率を32年度に94%に引き上げることを目指している。23年度は50%台だった。背景には中国など近隣諸国・地域との漁獲競争が激しくなっているほか、気候変動でサンマやスルメなど身近な水産物がとれにくくなっている危機感がある。これまでの日本の養殖は小規模事業者が多く、生産性の向上が課題だった。大企業の本格出荷で構図が変わる。消費者の選択肢が広がるだけでなく、水産大国ニッポンの復活も見えてくる。 *4-3-2:https://suisanshigen.com/2020/06/20/article24/ (水産資源管理 2020年6月20日) 過去最低と最高の水揚げ量 この違いは何か? ●世界全体と日本の水揚げ量の傾向は逆 農林水産省から2019年、そしてFAO(国連食糧農業機関)から2年ごとに出される世界全体の水揚げ量(2018年)が発表されました。日本の水揚げ量は、416万㌧と1956年以降の比較しうる数量で過去最低を更新中。1980年代の1,200万㌧台から滑り落ちるように減少が続き止まりません。ところで、これまで主な減少要因とされてきたマイワシの水揚げ量は、減少要因どころか2011年の震災以降10万㌧台を回復し、2019年は50万㌧を超え、減少を続ける水揚げをかろうじて支える位置付けになっています。つまり、マイワシの減少が、日本の水揚げ量が減り続ける原因ではなかったのです。一方で、世界全体の水揚げ数量は、引き続き右肩上がりを続けています。2018年は天然と養殖で合計2億1千万㌧(海藻類3千万㌧含む)と過去最高を更新中です。天然と養殖物は、ほぼ半々。ただ、天然物の漁獲に関しては、主に北米、北欧、オセアニアなどの漁業先進国が、サステナビリティを考えて漁獲をセーブしているので、今後は養殖物の比率が増えて行くことでしょう。ただし、サーモンを始め養殖魚の多くはエサを必要とするので、その供給が課題です。 日本と世界の傾向がなぜこんなにも違うのか?その原因と明確な答えを出し続け、皆さんに水産資源管理の大切さに気付いていただきたいというのが、当サイト(魚が消えて行く本当の理由)の目的です。 ●成長乱獲と加入乱獲そして投棄が同時多発 小さな幼魚を獲ってしまえば魚は大きくなりませんし、産卵する親が減れば産まれる卵の量は減ってしまいます。また漁獲した魚を小さかったり、産卵後で痩せていたりで価値が無いため投棄してしまえば資源は減少します。残念ながら日本で、様々な魚で同時に起こってしまっている現象です。その結果が、様々な魚種、そして全体でも過去最低という水揚げ量につながっています。 ●魚と海水温 海水温の高い低いが、水産物の資源量に影響を与えるのは当然です。農作物の収穫量も気温に影響されるのと同じです。しかしながら、日本では魚の資源が減少した理由について、海水温の上昇を安易に使いすぎています。そしてそれは「矛盾」という形で現れます。資源量に水温の影響があるなら、より漁獲量を減らして資源量の維持を図る予防的アプローチがされるべきです。しかし、供給が減ることで魚価が上がり、よりたくさん獲ろうとする力が働いて資源を潰してしまう例があちらこちらにあります。そしてとどのつまりが、環境の変化に対する責任転嫁。地方の深刻な衰退につながっています。令和二年発行の水産白書にサケ・サンマ・スルメイカの不漁に関するコラムがあります。不漁の原因は、海水温、海洋環境の変化、外国船による漁獲の影響などが出ていますが、日本が獲り過ぎてしまったこと、水産資源管理に問題があったことは何も書かれていません。 現実的には、主に資源管理の問題で、資源状況が悪化して不漁になっているのです。かつてのノルウェー、現在の中国はそれに気づき対策を取っています。 ○スルメイカの例:海水温の上昇ではなく、東シナ海の産卵場での海水温の低下が不漁の原因として挙げられています。海水温は低いのではなく高いので問題になっているのではないでしょうか?(漁師のつぶやき)。 ○マイワシの例:水温が低い寒冷レジームで増えると言われています。現在資源量が増加していますが海水温は下がってきているのでしょうか? ○サンマの例:水温が高いため日本の沿岸に魚群が来る量が減っていると言われています。ところで、上記のサンマとマイワシの漁場も時期もほぼ同じです。同じ海域でも水温がサンマには高くてマイワシには低く影響しているのでしょうか? ○イカナゴの例:水温の上昇が資源量が激減した主な理由とされていますが、一方で青森で激減した理由は海水温が低いからと矛盾しています。また、緯度が高く海水温の上昇を日本同様もしくはそれ以上影響を受けているノルウェーの2019年の資源量と漁獲量は皮肉にも大幅に増えています。 ○ニシンの例:水温の上昇が資源減少の主な理由の一つとされてきました。しかし、2019年は1.5万㌧と過去10年の平均より2.5倍増加しています。北海道は水温が低下したのでしょうか?。 ○カツオの例:海水温が高いことに影響を受けるなら、南太平洋から回遊して来るカツオの量は減少していますが、増えるはずではないでしょうか? ●クジラが食べる影響 クジラはどこに多いのか? クジラは、大量の魚を食べます。アラスカなどで群れでニシンを追い込んでひとのみにする映像をご覧になった方もいるでしょう。IWC(国際捕鯨委員会)からの脱退で調査捕鯨を止めた海域は南氷洋で、そこでは最も多くクジラが生息しています。日本の周りばかり魚をたくさん食べてしまうクジラがいるのではありません。クジラはエサになる水産資源が豊富な海域に来ます。ちなみに、太平洋と大西洋、そして南氷洋に生息するクジラの推定生息数を比べてみましょう。最も資源量が多いミンククジラでは、日本の周りを含む太平洋(推定約2.4万頭)より、大西洋の方がはるかに推定生息数が多い(推定約14.5万頭)ことが分かります。南氷洋はさらに多い(推定51.5万頭)です。つまり、クジラが食べる影響についても、日本だけ特別に影響があるわけではないのです。かえってノルウェー、アイスランドなどの方が影響が多いことが予想できます。しかし魚の資源量では、マダラ、マサバ、ニシンなど同じ魚種でもそれらの国々の方が資源量が多く、サイズも大きいという逆の現象が起きています。その違いこそが、まさに科学的根拠に基づく水産資源管理が行われているか否かなのです。 *4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083074.html (朝日新聞社説 2024年11月14日) 教育への投資 財源確保へ本格議論を 資源が少なく少子高齢化が進む日本にとって、公教育の充実は極めて重要だ。だが長時間労働や教員不足によって、屋台骨が揺らいでいる。現状の打開には教員らの大幅な増員が不可欠だ。教育への投資は、未来への投資である。財源確保に向けて、国民的納得の得られる議論を早急に本格化する必要がある。教員のなり手不足に対処するとして、文部科学省が来年度予算の概算要求に盛り込んだ給与制度の改正案について、財務省が真っ向から対立する案を示した。公立学校の教員には、教員給与特措法(給特法)に基づき、残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われている。文科省は、教員増や勤務時間の削減を進めながら上乗せ分を13%に増やすなどとして、年1千億円規模の増額を求めた。一方、増額を抑えたい財務省は、時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した。文科省案では働き方改革は進まず、教員不足は解消されないとする。確かに、給特法の枠組みの下で給与を増やしても、労働環境が厳しいままでは、なり手は大きく増えないと考える教育関係者は多い。働き方改革の実行を強く迫る財務省案を評価する意見もある。だが、いじめや不登校など多くの問題を抱える中、教員らを増やさずに労働時間を減らすのは難しい。1人当たりの業務量が減らなければ、持ち帰り残業や残業隠しといった問題が増えるとの指摘もある。財務省案だけで状況が好転するとは思えない。日本の小中学校教員の仕事時間は、国際的にみても特に長い。中学校には部活動があり、複雑な家庭環境の子や、過度な要求をする保護者への対応などもある。過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある。いじめや不登校は早期対応が大切なのに、一人ひとりの子どもと十分に向き合う余裕がない教員が多い。改善に必要なのは、教員やスクールカウンセラーなどの充実だ。政府は、省庁間の綱引きに終わらせず、社会の未来を左右する教育政策の優先度を上げ、どう財源を確保すべきか、トータルな議論を深めてもらいたい。働き方改革を強力に推し進める仕組みの構築も急務だ。教育委員会が教員の健康を守る役割を果たせていないなら、第三者が目を光らせる仕組みの導入を検討してもよい。学校現場に意識改革を促し、教員が心身ともに余裕を持って能力を発揮できる環境を整備しなければならない。 <女性の人権・職業選択の自由・職業教育> *5-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA067I30W4A101C2000000/ (日経新聞 2024年11月7日) 103万円だけじゃない「年収の壁」 働き控えの要因に、「103万円の壁」ポイント解説① 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党が掲げて話題となっている「103万円の壁」だけでなく、106万円や130万円といった壁もある。それぞれの内容を知ることが働き方や経済政策を考えるカギになる。まずは税の壁だ。パート労働者の年収が100万円を超えると住民税、103万円を超えると所得税がかかる。所得税は基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円あるため合計額の103万円までは税金がかからない。課税されるのは103万円を超えた部分だけなので、税負担が発生しても年収が増えれば手取り自体は増えていく。一見すると「壁はない」ように映る。ところが、実際には年収が103万円を超えないように働く時間を抑える人が少なくない。103万円を超えると企業が配偶者手当を打ち切るケースが多く、世帯収入が減るのを避けようとするためだ。19歳以上23歳未満のアルバイト学生は103万円を超えると特定扶養控除がなくなって親の税負担が一気に増える。この影響を避ける狙いもある。106万円と130万円は社会保険料の壁だ。51人以上の企業に勤めるパート労働者なら年収が約106万円に達すると、社会保険に加入する義務が発生して保険料を払わなければならない。年収130万円以上になると企業規模に関係なく加入する必要がある。年収106万円で社会保険に入ると、年15万円程度の社会保険料の負担が発生する。105万円までで働くのをやめた場合よりも手取りが減ってしまう。加入前よりも手取りを増やすにはおおむね年収125万円になるまで働く必要があり、負担感が大きい。年収150万円の壁は配偶者特別控除に関係する。この金額を超えると配偶者特別控除が段階的に減り始める。手取りは働いた分だけ増えるものの、夫の税負担が増えるため働き控えの一因となる。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/74fb418a8a406caff427548b8fef9561179c72eb (Yahoo 2024/11/8) 基礎控除等の「103万円の壁」が178万円に拡大した場合の影響とは?国民民主党の躍進で話題のテーマを解説 令和6年10月に行われた衆議院選挙で国民民主党が躍進しましたが、国民民主党が掲げていた公約の1つに「基礎控除等を103万円から178万円に拡大(※)」というものがあります。基礎控除等の額が実際に上がるかどうかは今後の話ですが、今回はいわゆる103万円の壁が178万円に移動した際に起こり得る変化について解説します。 ●103万円から178万円に引き上げる根拠は? 国民民主党が基礎控除等を103万円から178万円に引き上げようとしている根拠として、最低賃金上昇率があります。バブル崩壊後、平均年収はほぼ横ばいなのに対し、最低賃金については約30年前の1995年から1.73倍になっています。現在の基礎控除等の103万円を1.73倍すると約178万円となりますので、178万円の数字には一定の根拠が示されています。 ●控除額の引き上げによる変化1:所得税の減税効果 国民民主党は、基礎控除等を103万円から178万円に拡大した場合、大きく3つの効果があるとしています。1点目は、所得減税の効果です。所得控除等の額が大きくなれば、その分だけ課税所得金額は減りますので、算出される所得税は小さくなります。減税「額」は所得が多い人ほど大きくなりますが、減税「率」で考えた場合、控除額の拡大は低所得者ほど恩恵があるとしていますので、働いている人にとっては一定の節税効果が期待できます。 ●控除額の引き上げによる変化2:被扶養者の労働時間の確保 2点目は、扶養されている人の労働時間を調節できるようになる効果です。所得税では、扶養している配偶者や子どもの数に応じて、配偶者控除や扶養控除を適用できますが、扶養対象者となる人の所得金額が一定以上になると控除を適用できなくなります。扶養されている人の中には、扶養の枠を超えないよう労働時間を調整している方もいますので、103万円の壁が働く時間を短くしている要因の1つとされています。基礎控除等が178万円まで拡大すれば、扶養対象のまま働ける時間も長くなりますので、控除額の引き上げは節税効果だけでなく、労働時間を延ばすことで収入を増やす効果もあります。 ●控除額の引き上げによる変化3:労働者不足の解消 3点目は、最近社会的な問題となっている企業の労働者不足の解消です。現役世代の人口減少も、労働者不足となっている業界が増えている要因ですが、年収の壁も労働者不足を招いている要因です。世の中にはパートやアルバイトをしている人もいらっしゃいますが、働いている人が家族の扶養となっている場合、扶養対象者に収まる範囲で働きます。最低賃金の引き上げが話題となっていますが、時給が上昇すれば103万円に達するまでに要する時間は短くなりますので、被扶養者が年間で働ける時間は時給が上がるほど少なくなります。国民民主党の玉木代表によると、学生などをアルバイトとして採用している企業は、1人当たりの労働時間が減少したことで、年末の忙しい時期に働ける人を確保できないことが問題となっていると指摘しています。減税に関する施策は基本的に労働者に対するものが多いですが、103万円の壁については労働者側だけでなく、雇用側にとってもメリットがある話です。103万円の壁が動くかどうかは国会で議論されることになると思いますが、もし国民民主党の主張がそのまま通れば、多くの方が節税効果等を享受できる可能性が高いです。 *5-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241113&ng=DGKKZO84751960T11C24A1EP0000 (日経新聞 2024.11.13) 103万円の壁ポイント解説(4)178万円案、財源課題 国民民主「消費活発に」 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党は衆院選公約に基づき、所得税がかかり始める「課税最低限」を103万円から178万円に上げるよう求め、与党と協議している。所得税は収入から一定額を除いた金額に税率をかける。会社などに勤める人は給与所得控除55万円と基礎控除48万円を足した年103万円までが非課税となる。控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられていた。その後はおよそ30年間、103万円のまま据え置かれている。国民民主は最低賃金の上昇率1.73倍にあわせて上げるべきだと提起する。178万円への引き上げによって年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減ると見積もる。政府は国民民主の訴える通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算する。一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と、所得税の減収よりも大きくなる計算だ。2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の3分の1に相当する巨額の財源について、国民民主は税収の上振れや予算の使い残し、外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金を充てると説明する。玉木雄一郎代表は「7兆円分、国民の『手取り』が増えれば、消費も活性化し、企業業績も上がり法人税収も消費税収も増える」と主張する。政府の試算ほど税収は減らないとの考えも示す。年収の高い人ほど減税額が大きくなるとの批判については、「今、払っている税金と比較した場合の『減税率』は明らかに所得の低い人ほど大きくなる」と反論している。 *5-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16085774.html (朝日新聞 2024年11月17日) 「103万円の壁」引き上げ、地方悲鳴 税収減「たちどころに財政破綻」 国民民主党が実現を訴える「103万円の壁」の引き上げに対し、地方自治体で懸念や反発が広がっている。実施で生じるとされる税収の減少が、苦しい自治体財政を直撃しかねないためだ。「国民民主のおっしゃる通りやった場合は、たちどころに財政破綻(はたん)するだろう」。強い言葉で懸念を表明したのは、全国知事会長を務める宮城県の村井嘉浩知事だった。13日の記者会見で「税収が減れば結果的に住民サービスが下がる。非常に心配している」と語った。国民民主の訴えは、所得税の非課税枠「103万円」の引き上げとともに、地方税である住民税の非課税枠も引き上げを求めるものだ。政府は、税収減は国と地方あわせて7兆~8兆円となり、うち地方税分は4兆円程度と試算した。村井知事は、政府試算を前提に推計したとして、県と県内35市町村の住民税関連で約620億円の税収減になると発表。「私が総理ならば首を縦に振らない」と語った。総務省によれば、神奈川県や仙台市など、少なくとも30以上の県や市が、税収減への懸念を表明している。多くは、実施するなら減収分を穴埋めする措置が必要だと訴えているという。国民民主は、自治体の懸念に対する解決策を示していない。玉木雄一郎代表は7日、記者団に対して「(解決するのは)政府・与党の責任だ。我々は予算の全体像はわからない」と述べた。それでも、過半数割れした与党は、政権運営に必要な協力を得るために国民民主の要求を無視できない。今後本格化する協議の行方を、関係者は固唾(かたず)をのんで見つめている。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84689270Z01C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.9) 「106万円の壁」撤廃へ 厚生年金の対象拡大 厚労省が調整 週20時間以上に原則適用 厚生労働省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃する方向で調整に入った。配偶者の扶養内で働く人が手取り収入の減少を意識する「106万円の壁」はなくなる。労働時間要件は残る見通しで、週20時間以上働くと原則として厚生年金に入ることになる。同省は企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃する方針も固めている。賃金要件の月8.8万円は、年収換算で106万円程度となる。実現すると200万人が新たに対象になる試算だ。25年は5年に1度の年金制度改正の年にあたる。厚労省は近く開く審議会で要件の見直しについて議論して、年末をめどに詳細を詰める。25年の通常国会で改正法案を提出する考えだ。賃金要件はこれまで、年金や医療の社会保険料を払うため手取りが減ることから、就業時間を短くするなど労働者の働き控えにつながるとの指摘がされていた。ただ、社会保険に加入することで、労働者は将来受け取る年金を増やすことができるほか、医療保険の保障として、傷病手当金など手当が手厚くなるメリットがある。改正の背景には近年の最低賃金の上昇がある。24年度の最低賃金の全国加重平均は1055円で、23年度から51円上昇した。週20時間働くと月額賃金が8万8000円を上回る地域が増えており、厚労省は将来的に賃金要件が事実上不要になると判断した。今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しだ。学生除外要件も残す。企業規模要件と賃金要件はなくなり、さらに5人以上の個人事業所は全ての業種が対象になる方向だ。現行制度では、配偶者の扶養内で働くパート労働者は、従業員51人以上の企業で週20時間以上、月額賃金8.8万円以上、学生ではないといった要件を満たすと、厚生年金に入る必要がある。厚生年金に加入することで老後の低年金リスクを軽減できるほか、加入者が増えれば将来世代の年金の受給水準を改善する効果も期待できる。 *5-3-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241113-OYT1T50280/?utm_source=webpush&utm_medium=pushone (読売新聞 2024/11/14) 「夫婦別姓」で揺さぶりかける立憲民主、自民・公明の一部取り込み図る…衆院法務委員長ポスト獲得で議論主導 立憲民主党が、選択的夫婦別姓制度の導入に向けた議論で自民党に揺さぶりをかけている。議論の場となる衆院法務委員会の委員長ポストを獲得したことで国会での議論を主導し、導入に賛成する公明党や自民内の一部議員を取り込みたい考えだ。立民の辻元清美代表代行は13日、党ジェンダー平等推進本部の会合で、選択的夫婦別姓を導入する法案の早期提出を目指す考えを示し、「公明や自民の一部の人にも呼びかけて、国民運動として実現に向け進めていきたい」と意欲を示した。立民の野田代表は選択的夫婦別姓導入の布石として、衆院法務委員長に立民の西村智奈美衆院議員を就けた。委員長は委員会開催や議事進行などで大きな権限を持つ。野田氏は8日に党のX(旧ツイッター)に投稿した動画で、法務委員長ポストを「どうしても取りたかった」と説明。選択的夫婦別姓について、「野党は全部、一致・協力できると思うし、公明も多分賛成で、非常に効果的な委員会だ」と期待感を示した。選択的夫婦別姓を巡り、自民内では、保守派を中心に反対論が根強いものの、9月の党総裁選に立候補した小泉進次郎・前選挙対策委員長や河野太郎・元デジタル相が肯定的な姿勢を示すなど、賛否は割れている。公明は衆院選公約で「導入を推進」と明記しているほか、野党では国民民主党や共産党などが導入に賛成の立場だ。野田氏は与野党の賛成派をまとめれば、衆院で過半数を確保し、導入のための法案を可決することも可能だとみている。11日のテレビ番組では「少なくとも来年の通常国会の冒頭には(法案を)出せるよう環境整備をしたい」と語った。立民内には、自民に参院での法案可決、成立を迫るため、「来年度予算への賛成を交換条件とすることも可能だ」(ベテラン)との意見も出ている。ただ、夫婦同姓を見直すことは家族観や社会のあり方に大きな影響を与えるため、立民中堅は「丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘した。 *5-3-2:https://ippjapan.org/archives/7266 ( 2022年9月6日) 日本における「氏」の役割と今後の方向性 —選択的夫婦別氏制の検討— ※IPP-Youth政策情報レポートは、若手研究者および学生等の政策研究グループである「IPP-Youth政策研究会」がまとめたレポートです。 第一章 はじめに 近年、わが国の「家族」の在り方が大きく変わってきている。例えば、過去30年で世帯構造の構成は大きく変わった。いわゆる「標準家族」とされていた「夫婦と未婚の子のみの世帯」は39.3%(1989年)から29.1%(2018年)に減少している(厚労省2018)。他方で「単独世帯」は20.0%から27.7%に、「夫婦のみの世帯」も16.0%から24.1%に上昇している。その背後には、晩婚化・非婚化、少子化、離婚の増加、世代分離など、様々な要因がある。また1997年以降、「共働き世帯」数が「男性雇用者と無業の妻」世帯数を上回り、その後も増加を続けている。高度経済成長期に大衆化した「夫は仕事、妻は家庭」という家族モデルも過去のものとなりつつある。それに伴い、夫婦の氏の在り方を含む家族に関わる様々な制度・政策について、改革を望む声が多くのメディアに取り上げられるようになった。私たちは改めて、それらの課題を見つめなおす重要な時を迎えている。本稿では、昨今活発化している選択的夫婦別氏制を巡る議論に着目し、日本社会において「氏」の果たす役割と重要性を考察することを通して、今後の「氏」の在り方に関する方向性について検討したい。以下では、まず第二章においてわが国における「氏」をめぐる歴史的経緯を紹介し、第三章で日本において「氏」が夫婦・家族関係に与える影響について考察し、第四章で日本における「氏」の特徴と役割について検討する。そして以上の議論を踏まえて、第五章において具体的な制度の方向性について検討していきたい。 第二章 「氏」に関する歴史的経緯と現状 第一節 歴史的経緯と法制度の現状 まず、日本における「氏」の歴史をさかのぼってみる。江戸時代、氏を持つことは武士の特権であり、庶民は公には氏をもっていなかった。しかし、「屋号」という形で「家」を示す名称は広く使用されていた。それが、明治3年の太政官布告にて庶民にも氏の使用が許され、明治8年には氏の使用が義務化された。当初、妻の氏は実家の氏を用いること(夫婦別氏制)とされたが、既に夫婦同氏の意識や慣行が庶民の間で広まっており、妻が夫の氏を称することが慣習化していったと言われている(『明日への選択』編集部 2021、法務省HP)。明治31年の民法成立時、江戸時代に発達した「家制度1」が民法の中で規定され、家を同じくすることにより、同じ氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。戦後の民法改正に伴い、「家制度」は廃止され、夫婦は、夫または妻の氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。改正民法は、旧民法以来の夫婦同氏制の原則を維持しつつ、男女平等の理念に沿って、夫婦は、その合意により、夫または妻のいずれかの氏を称することができるとした(法務省HP)。2022年現在、下記の通り夫婦は婚姻の際に同一の姓を称し(民法第750条)、子は親の氏を称することとされている(同法第791条)。 ■ 民法(明治二十九年法律第八十九号)抄 (夫婦の氏) 第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。 (子の氏) 第七百九十一条 嫡出である子は父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚した ときは、離婚の際における父母の氏を称する。 2 嫡出でない子は、母の氏を称する。 第二節 選択的夫婦別氏制をめぐる経緯 「選択的夫婦別氏制」についての議論は、女性の労働参加率の上昇に代表される女性の社会進出や、男女平等を推進する社会的気運の中で起こってきた。1979年に国連総会において女子差別撤廃条約が採択され、1985年に日本が当該条約に批准した。翌年には労働基準法の改正とともに男女雇用機会均等法が制定された。このような法制度の改革を背景として、1991年の法制審議会民法部会(身分法小委員会、以下単に「民法部会」)において夫婦別姓についての審議が開始された。1994年から1996年にかけて議論が重ねられ、1996年に選択的夫婦別氏制が明記された「民法の一部を改正する法律案要綱2」が答申された。しかし、その後、国民各層からの反対を受けて本法律案の国会提出は断念された。その後、表立って目立った動きはなかったが、2015年に最高裁大法廷にて夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が出て以降、各所で議論が再燃している。2021年には自民党内において選択的夫婦別氏制の賛成派と反対派の議論が活発化し、関連する議員連盟が成立した。同年10月には最高裁大法廷にて、夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が再度出されたが、その制度の在り方については、国会で論ぜられ判断されるべき事柄であることも明言された。10月末日に行われた衆院選においても、各党が氏のあり方についての公約を掲げ、国民が注目する論点の一つとなった。 第三章 選択的夫婦別氏制度が家族に与える影響 我が国における選択的夫婦別氏制の導入に関する議論は、主に個人の権利と法律の観点から行われることが多く、家族への具体的な影響を扱った論考はあまりない。本章では、夫婦と子供のアイデンティティの観点から、選択的夫婦別氏制の影響を論じる。 第一節 「夫婦アイデンティティ」への影響 まず、「夫婦アイデンティティ」に着目して考えてみる。夫婦アイデンティティとは、「私たちはこのような夫婦である」という感覚を指す(Emery et al. 2021)。夫婦は、結婚前は別々の個人であったが、結婚後は生活様式や外部との関わり方にある程度の共通性が生じてくる。そうした共通性に対する自覚と、それが一貫して続いているという認識が夫婦アイデンティティの要素である。夫婦アイデンティティが安定している時、夫と妻が共に「わたしたち」として物事を判断しやすく、夫婦の関係へのコミットメントが高まりやすい。一方で、何らかの事情により、共有していた価値観や信念、優先事項に疑問が生まれると、夫と妻が物事の判断基準を個人の内に求めるようなる。そうすると、「わたしたち」感が揺らぎ、関係を維持する力が弱まるという。安定した夫婦アイデンティティを形成するためには、夫婦が互いに適応していくことが必要となる。夫婦としての家庭生活と友人関係や仕事のバランス、日常生活や性生活の取り決め、互いの実家との関わり方、子供を産む時期や人数などに関して話し合い、ルール作りをしていくことが適応につながる(野末 2015)。しかし、夫婦の互いへの適応は、決して容易なことではない。互いに適応するためには、夫婦が互いの生活や考え方をすり合わせる必要があるが、元々夫婦はそれぞれ別々の考え・習慣をもった家庭で育った他人である。そのため、日本人同士の夫婦でも「異文化結婚」と言ってよいほど、夫婦や親としての役割観、男女の性質に関するイメージ、家事や子育ての仕方、人間関係のパターンなどあらゆることが異なっている(野末2019)。一方で、夫婦という関係は特別視されるため、他の関係以上に相手への期待が高い。その期待と現実の間に生まれた葛藤を解決できない場合、失望や怒りを覚えたり、結婚自体を後悔したりすることもある(野末2015)。夫婦アイデンティティの形成とは、夫婦の違いを前提に互いの立場をすり合わせ、夫婦という連体として物事の進め方とその根底にある考え方、情緒的な支え合いの在り方を調整していくことだと言えよう。このように見ると、夫婦アイデンティティは結婚後即座に安定するものではなく、少なくとも新婚期をかけて、葛藤をはらみながら徐々に醸成されるものだと言える。そうだとすれば、夫婦同氏は夫婦アイデンティティ安定にとって、重要な役割を果たしている可能性が高い。内閣府が2021年に実施した世論調査によれば、「婚姻によって、ご自分の名字・姓があいての名字・姓に変わったとした場合、どのような感じを持つと思いますか。(〇はいくつでも)」という質問に対し、54.1%が「名字・姓が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と回答しており、39.7%が「相手と一体となったような喜びを感じると思う」と回答した(図1、内閣府2022)。この調査結果からは、結婚にともなう改姓が、「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴として認識されていることがわかる。すなわち、夫婦同氏は、新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとって、葛藤があっても自分たちは結びついているという感覚を与えるセーフティネットの役割を果たしている可能性があるのである。他方で、選択的夫婦別氏制を導入した場合、婚姻時に全ての夫婦が同氏か別氏かの選択をする必要が生じる。また、制度的には「家族名としての氏」が消失することになる。仮説的にではあるが、選択的夫婦別氏の導入は、日本の夫婦が安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする一因となる可能性が提起される。 第二節 子供への影響 次に、子供への影響を考えてみる。選択的夫婦別氏制の導入を検討する際に、避けて通れないのが「子供の氏」の検討である。多くの場合、子供は両親の結婚時には生まれていないか声をあげられるほど成熟していない。そのため、夫婦にとっての「個人の尊厳」を優先するあまり、子供の利益は軽んじられる可能性が高く、配慮が必要である。子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果がある。他方で、夫婦が別氏を選択することで、子供の氏の選択という新たな課題が生じることが指摘されている(篠原 2021、『明日への選択』編集部2021)。篠原(2021)は、夫婦同氏制の改正を目指す場合、子の氏の決定の仕組みについての検討が必須となると指摘している。氏が個人のアイデンティティの基盤を成すとすれば、子供のアイデンティティの基盤となる氏を決定する仕組みの整備は、「子供の利益」の観点から求められる。いかなる仕組みとなるとしても、子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益となる。子供の氏の決定が、夫婦アイデンティティの不安定化を招くことのないよう、慎重な制度設計が必要となるだろう。世論も夫婦別氏が子供に与える影響については懸念を抱いている。内閣府(2022)の世論調査において、「夫婦の名字・姓が違うことによる、夫婦の間の子どもへの影響の有無について」、約7割(69%)の人が「子供にとって好ましくない影響あると思う」と回答している。家庭内で父母が子供に対して情緒的安定を保障することは重要な家族機能であるが、夫婦が別氏であること(片方の親と氏が異なること)や、子供の氏の決定に関する事柄が、子供の情緒的安定を損ねるようなことは防ぐべきである。夫婦アイデンティティの形成、そして子供を含めた家族アイデンティティの形成に対して、選択的であろうと夫婦別氏が与える負の影響についての考慮はあってしかるべきである。国際結婚した家族など、同氏でない家族でも十分な夫婦・家族アイデンティティを形成しているという意見もあるが、次章で扱うように、氏のはたらきは各国の文化によって異なる。国際結婚など特異な文化的前提を持つ例外をもって、夫婦同氏のはたらきを軽視するのは拙速である。その影響範囲が正確に想定できない事柄については、できるだけ小さな変更で対応することが望ましい。 第四章 日本における「氏」の特徴と機能 我が国では、各国と比較して、選択的夫婦別氏制を導入していないことが時代遅れのように語られることがある。しかし、各国の文化によって「氏」の意味合いは異なる。したがって、選択的夫婦別氏制度の導入を検討するにあたり、「氏」や家族に関わる文化の影響を考察しておく必要がある。本章では、日本における「氏」が示す内容と、その機能について論じる。 第一節 文化による「氏」の意味の違い 各国の夫婦の氏に関する制度を見てみると、イギリス・アメリカは氏の変更は基本的に自由であり、オーストラリア・フランスは同氏、別氏、結合氏(双方の氏をつなげた氏)のいずれも可、ドイツは同氏が原則で別氏・結合氏も可、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、イタリアは夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏、韓国は別氏が原則となっている。夫婦別氏が可能な国もあるが、氏のあり方は国の文化によって異なる点に着目する必要がある。まず、氏が意味するものにおいて違いがある。名前に関する人類学の議論によれば、名前には①「身分規定の認識としての名前」と②「自由な創造物としての名前」の二種類がある(上野 1999)。上述した中では、少なくとも中国・韓国の氏は氏族名・家族名を表し、①の「身分規定の認識としての名前」に相当する。対して、英米は氏の変更が自由であることから、②の創造物としての性質を持つと考えられる。日本の氏も世代を超えて受け継がれること、家族全員が同じ氏を名乗ることから、①の「身分規定の認識としての名前」に相当するといえる。ただし、同じ「身分規定の認識としての名前」としての氏を持っていても、中国・韓国と日本の氏が表す集団の性格は異なる。隣国の韓国や中国は原則別氏だが、それは血統を重要視しており、歴史的にも生家の氏を名乗り続けることが当然とされているためである。特に、韓国の場合は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序が重視され、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表すという意味が氏にはある(仲川 2016、上野 1999)。一方、日本の氏も古くは「家(イエ)」を表し、代々継承されるものではあるが、「家」は祖先祭祀の単位ではない。上野(2003)によれば、日本では韓国のような縦の親族組織(単系親族組織)は部分的にしか存在せず、祖先祭祀の単位は「家族」である(上野 2003)。日本の「家」の性格は、財産の共有範囲や経営共同体のまとまりであるとされる。百姓身分においてすら、そのような「家」が戦国時代(16世紀)に成立し、武士の前以外では「苗字」に相当するものが使用されていた(坂田 2016)。それが、明治民法の成立を契機に、「家」に所属していた家産の所有権が家長に移されたことで(宇野 2016)、氏の表す範囲が現在の「世帯」に相当する家族へと変化したと考えられる。つまり、日本の氏は、明治以前はその氏が示す「家」への、明治以降は主に世帯としての家族への帰属を表す身分関係を表示する役割を持っていたのである。ただし、韓国のように完全な縦の親族関係を示すものではなく、生活を共にする共同体としての「家」「家族」を指示していたと考えられる。このように、氏に関係する制度は、各国の異なる歴史的背景や文化を反映している。そのため、他国の状況は日本に夫婦別氏を導入する理由にはならない。 第二節 日本における氏の身分関係表示機能 では、氏のはたらきに関わる日本の文化的特質とはどのようなものか。それは、日本人に特徴的な「うち」と「そと」の区別である。日本人は、「うち」と「そと」の中間にいる人々から氏で呼ばれることにより、その人々が持つ結婚・家族に関わる規範・期待を自分の行動に反映してきた。多くの関係する研究において、日本人の人間関係のあり方は、人々の親密さの距離に応じて三層に分類されている。その三層とは、①「内」である親しい身内や仲間の世界、②「中間」である遠慮や義理や体面がからむ知人の世界、③「外」である遠慮も義理も働かない無縁の他人の世界の三層である(岩田 1982)。このうち、①の親しい身内や仲間の世界は明確に「うち」であり、互いに無理を言っても許され、私的に立ち入ったことをうちあけても許される。一方、③の無縁の他人の世界は明確に「そと」であり、互いに期待を持っておらず、裏切られることもないので、遠慮することなく粗野な行動を取ることもできるという。注目したいのは、②の知人の世界である。②の関係は、互いに名前や地位を知り、個人的な接触によってある程度人柄を知っている顔見知りのような関係である(岩田1982)。あるいは直接には知らなくとも何らかの既存のネットワークで支えられた範囲の人間関係といわれる(中根1972)。そこではある種の「道義的期待」が相互に形成され、この期待を裏切らないであろうという相手に対する一種の信頼感が形成される。そして、こうした「道義的期待」が、義理や遠慮として表れる日本人の「責任意識」の中核をなすという(岩田1982)。ここで重要なのは、この②の知人関係では、氏で呼びあうことが一般的だということである。橘(2010)は、誰に対してもファーストネームで呼びかける文化のある英語圏等と比較して、「日本人のコミュニケーションは良くも悪くもお互いが一定の心の距離を保ち、相手から離れた遠いところにおいて行われる」と述べている。つまり、日本人は氏で呼び合うことによって互いの距離を測り、「うち」と「そと」を区別しているのである。日本人の人間関係における以上のような特徴は、日本において氏が果たす「身分関係表示機能」の重要性を浮き彫りにする。②の知人関係にある人々は互いに氏で呼び合い、その人間関係は日本人の責任意識の元となっている。つまり、日本人は②の知人関係にある人々に、家族への帰属を示す氏で名乗ったり呼ばれたりするとき、家族または夫婦に関する規範の遵守を期待されていると感じ、その期待を行動の基準とする可能性が高い。具体的には、夫婦間の貞操や家族の生活保障に関する権利義務などについての規範の遵守が期待されると考えられる3。選択的夫婦別氏制の導入により、氏から家族名としての性質が失われる場合、家族に関わる規範の遵守を期待される機会が減る。まず、別氏を選択する夫婦は、共通の氏という、②の知人関係にある人から見て、婚姻関係にあるか否かを判別する最もわかりやすい要素をはじめから持たないことになる。また、同氏を選択する夫婦も、同一の氏で名乗り呼ばれたとしても、その氏が家族名として扱われる機会は減る。例えば、結婚式や葬儀などの冠婚葬祭において、従来は「○○家・△△家式場」「◆◆家斎場」などのように案内されたが、選択的夫婦別氏制度の導入により個人名に置き換えられていくだろう。それに応じて、参席者も冠婚葬祭を家族というより個人の行事として受け取ることが考えられる。このように、別氏でも同氏でも、選択的夫婦別氏制度により全ての夫婦は規範遵守を期待される機会が減りうる。それにより、日本人の家族に関する規範意識や行動は大きく左右されるだろう。以上のように、夫婦の氏が持つ意味は各国の文化によって異なり、氏に関係する制度は単純に国家間で比較することができない。また、人々が氏で呼び合うことが一般的な日本社会においては、氏が家族への所属を表すかどうかは、人々が家族に関する規範の遵守を期待されたと感じる機会の多さと関係している。そして、選択的夫婦別氏制度の導入はその機会を減らす可能性が高い。選択的夫婦別氏制度を検討するにあたり、これらの点を考慮に入れる必要がある。 第五章 具体的な政策の方向性—旧姓の通称使用の法制化— 第三章及び第四章で考察した氏の果たす役割を踏まえて、日本においては夫婦同氏制を原則とすべきであると考える。ただし、日常生活における不利益は解消されるべきであり、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の尊厳を最大限尊重する方法を検討すべきである。家族にかかる法制度は人々の生活のあり方、国家のあり方に影響し得る重要な事柄であるため、中長期的な影響が定かでない中においては、できるだけ小さな変更で現実にある課題を解決することが望ましい。具体的な方向性としては、旧姓の通称使用の拡大、さらには法制化を支持する。参考までに、旧姓の通称使用を拡大する場合と、選択的夫婦別氏制を取り入れる場合の差異について整理する。表2の通り、旧姓の通称使用を拡大する場合、旧姓を通称使用する人は実質的に二つの氏を使い分けることになる。ただし、家族名としての共通の氏は保持されるので、家族としての身分表示機能は保たれる。当然、子供も家族共通の氏を持つこととなる。選択的夫婦別氏制を導入する場合、個人の氏は一つであり、家族で見れば別氏家族は家庭内に氏が二つ存在することとなる。また、子供の氏についても検討が必要となる。旧姓の通称使用拡大と選択的夫婦別氏制導入の主な違いは、氏が家族名としての役割を持つかどうか、という点である。以下では、選択的夫婦別氏制に関する主な論点に対して、旧姓の通称使用の拡大を支持する立場から考察する。 ①個人のアイデンティティの喪失について 夫婦同氏制は、改氏によって個人のアイデンティティを喪失させる場合があると指摘されている。氏名は人格の重要な一部であり、選択的夫婦別姓を取り入れることにより人格権を保護することが可能となるという(太田・石野 2010)。先述した通り、内閣府(2022)の世論調査によると、「(結婚に伴い)名前が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と答えた人の割合は54.1%、「相手と一体となった喜びを感じると思う」と答えた人は39.7%である。他方で、「今までの自分が失われてしまったような感じを持つと思う」と回答した人は9.7%、「名字・姓が変わったことに違和感を持つと思う」と答えた人は25.6%である(図1)。この結果から、5割以上の人は結婚時に氏が変わることを肯定的に捉えていることがわかる。ただし、少数であれアイデンティティの喪失を感じる人が存在しているのも事実である。太田・石野(2010)によれば、結婚による改姓が人格面で個人のアイデンティティの感覚と強く関連するのは、「自己の同一性を形成しにくい女性」とされている。自己の同一性の安定には、主に青年期までの親子・家族関係が重要である。人格面のアイデンティティについては、夫婦別氏制度による補完機能を強調するよりも、家族支援の課題として考える方が、該当する人のウェルビーイングに資するのではないかと考える。もちろん、個人のアイデンティティを尊重することは重要であるが、社会制度の変更を伴う場合は、社会として守っていくべき家庭や子供の福祉との比較衡量を慎重に行うべきである。個人のアイデンティティの尊重を過度に重視した結果、家庭が軽視されたり、子供の福祉が損なわれたり、ひいては社会の混乱が引き起こされることがあってはならない。既に実施されている旧姓の通称使用拡大によって大半の課題が解決するのであれば、それで十分ではないだろうか。 ②社会生活上の不便・不利益について 婚姻時の改氏によって、社会生活上の不便・不利益が生じることは明らかであり、この点についてはできる限り解決する必要がある。従来、女性は職業活動を行うことが少なかったため、あまり問題として認識されてこなかったが、女性の社会進出に伴い、その課題が浮き彫りとなった。男女を問わず、婚姻して氏を改める人が不便・不利益を被らないようにすることは、当然必要なことである。こうした改氏による不便・不利益は、旧姓使用の拡大・法制化により対応可能である。現在、旧姓使用可能な領域は拡大を続けており、パスポートや運転免許証、マイナンバーカード・住民票では旧姓併記が可能となった。各種国家資格や免許についても、令和4年6月現在、大半の国家資格や免許で旧姓使用が可能となっている4(内閣府男女共同参画局 2021)。確かに、従来の法制化を伴わない旧姓使用の拡大については、効果に疑問が呈されてきた。主に、①旧姓使用を許可する企業や団体により、旧姓を使用できる範囲が異なること、②社会保険や年金、納税など、戸籍名が必要な場合は旧姓を通称として使用できないこと、の2点が懸念されている(鈴木2016、富田2020)。しかし、これらの懸念は旧姓使用の法制化により解消しうる。①の各企業や団体による旧姓使用を認める範囲の違いは、法制化によって旧姓使用の適用範囲を定めることにより、基準を明確にできる。また、②に関して、戸籍名が必要となる法的手続きの問題は、旧姓使用の法制化に旧姓の戸籍への併記を含めることで対応できるという議論もある。以上のことから、旧姓使用を法制化することで、家族名を保持したまま、社会生活上の不便・不利益を最大限解消することができるのではないかと考える。 ③男女不平等の解決策となるか 婚姻に際し氏を変える人の大半は女性であるため、選択的夫婦別氏制の導入により、男女の実質的不平等を解消することができるという意見がある。現行の同氏制は、制度だけ見れば夫婦の同意によって夫または妻の氏を選択するという男女平等の発想に基づくものになっている。内閣府の世論調査(2022)では5割以上の人が婚姻時の改氏に対して肯定的な意見を持っている。つまり、必ずしも強制的に改氏しているわけではなく、両者が納得したうえで肯定的に氏を改めている人も多くいるということである。そして、選択的夫婦別氏制の導入は必ずしも氏に関する男女不平等の是正にはならないという点を強調したい。例えば、仮に選択的夫婦別氏制が導入され、意に沿わない改氏をしなくて済むようになるとしよう。しかし今度は、子供の氏をどうするかという問題が生じる。子供の氏を決める際に、男女間の不平等が形を変えて現れる可能性は十分にあるだろう。実質的不平等を解決するためには、社会生活上の不便・不利益の解消が重要である。旧姓の通称使用法制化によって、氏を改める者とそうでない者との不平等感も薄まることが期待される。 第六章 おわりに 内閣府は「家庭は、子どもが親や家族との愛情によるきずなを形成し、人に対する基本的な信頼感や倫理観、自立心などを身に付けていく場でもある」(内閣府2004)としている。冒頭で述べた通り、世帯構造の構成は近年大きく変わってきているが、家庭が社会の安定と発展に果たす役割が重要であることに変わりない。家族に関わる制度は、人々の日々の生活に直結するものであると同時に、社会のあり方にも大きく影響を及ぼすものである。そのため、日本の社会にとってどのような選択が最善なのか、国会はもちろんのこと、国民の間でも丁寧に議論を重ねて方向性を見出す必要があるだろう。夫婦の氏に関わる制度の在り方については、既に旧姓の通称使用拡大が積極的に行われている。日本の文化や社会風土を踏まえれば、さらなる不便・不利益の解消にむけては旧姓使用の法制化など、夫婦同氏を原則とした対策を検討すべきではないか、というのが本稿の立場である。本稿が、日本における氏制度の在り方を検討する際の一助となれば幸いである。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241117&ng=DGKKZO84854750X11C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.17) エンゲル係数 日本圧迫、G7で首位 時短優先、割高でも中食 消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」(総合2面きょうのことば)が日本で急伸し、主要7カ国(G7)で首位となっている。身近な食材が値上がりし、負担が家計に重くのしかかる。実質賃金が伸び悩むなかで仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は、家事の時短のため割高な総菜など中食への依存が強まる。支出に占める食費の割合が高くなりやすい高齢者の急増も係数急伸の背景だ。生活の質の劣化が懸念される。「スーパーの買い物でレジに立つのが怖い」。東京都の40代女性はこぼす。表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」。最近はコメも大幅に値上がりした。「計算すると、食費の割合が30%を超えている」。家計調査(総世帯)によると、日本のエンゲル係数は2022年で26%。経済協力開発機構(OECD)のデータから計算した米英独仏の同時点の水準を上回る。24年7~9月期は28.7%まで上昇するなど傾向は変わらない。係数が20%を下回る米国は、医療費などの負担が極端に重く、相対的に食費の割合が低くみえる面もある。外食機会の多さ、なかでもファストフードの利用頻度が高いかなど各国の食生活にも左右され、単純比較はしにくい。三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「エンゲル係数には各国の食文化も影響する。最高水準だから日本が貧しいとは言えない。ただ、『上がり方』に日本の課題がにじむ」とみる。日本のエンゲル係数は他国より上昇が急ピッチだ。「所得が伸び悩む一方、高齢化の進展も早い」(上野氏)のも要因だ。OECDによると、日本は可処分所得の伸び率がほかの先進国に比べて低迷しているうえ、65歳以上の高齢者の割合はトップで、24年は29.3%を記録した。エンゲル係数が高くなりやすい土台があるなか、物価高が直撃。値上がりの率でみると、「庶民の味」とされる食材ほど上昇が激しい。総務省の消費者物価指数(20年=100)で23年の数値を5年前と比べると、上昇率は鶏肉12%、イワシ20%、サンマにいたっては1.9倍だ。24年前半も同様の傾向が続いた。大和総研の矢作大祐主任研究員は「女性の社会進出の加速も食費の負担増の一因になったのでは」とみる。20代後半や30代前半女性の正規雇用率はこの10年間で約14ポイント上昇した。正社員同士の共働き世帯にとっても、仕事と家事の両立が改めて課題となる一方、働き方改革は道半ばだ。その結果、「割高でも総菜といった中食などに依存せざるを得ない世帯は増える」(矢作氏)。実際、家計調査(総世帯)では食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、23年は15.8%と10年前より3ポイント高い。こうした現状についてシンクタンクのSOMPOインスティチュート・プラスの小池理人上級研究員は「事情が異なる米国のような水準を目指す必要はない」としながらも、「係数の上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべきだ」と話す。生活の質を保つ策はあるのか。小池氏は企業や政府も含めた「実質賃金の継続的な上昇と生産性向上の取り組み」の必要性を指摘する。矢作氏は「生産性の真の意味合いの整理から始めるべきだ」と訴える。効率よく働くことで長時間労働を是正すれは、短い時間で今と同じかそれ以上の所得が得られる。時間的な余裕が増えれば割高な中食に頼らなくてもすむ。自炊を楽しむこともできる。エンゲル係数の急伸は食にとどまらず、働き方を含めた日本人のライフスタイルのあり方を問いかけている。
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2024,09,16, Monday
(1)公的年金の財政検証と年金改革
![]() ![]() ![]() 2024.9.2日経新聞 2024.9.16日経新聞 年金Hacs (図の説明:左図のように、労働参加が進めば人手不足が解消し、社会保障の担い手も増える。しかし、中央の図のように、2023年の高齢者就業率は50%超にすぎない。また、右図のように、2号保険者に扶養されている配偶者は年金保険料を払わずに基礎年金を受給できるが、これは他の被保険者との間で不公平を生んでいる。そのため、転勤の多い2号被保険者の配偶者で就業できない人は、2号被保険者とその雇用主に保険料を支払ってもらう仕組みに変更すべきだ) 1)公的年金の財政検証結果について *1-2-1は、①公的年金の「財政検証」結果が発表され、政府は年金水準維持のため年末にかけ制度改正を本格的に議論 ②i)高成長実現ケースは所得代替率56.9% ii)成長型経済移行・継続ケースは57.6% iii)過去30年投影ケースは50.4% iv)1人あたり0成長ケースは45.3% v)5人未満の個人事業所にも厚生年金を適用すれば60.7% vi)週10時間以上働く全ての労働者まで厚生年金適用を拡大すれば61.2% ③国民年金(基礎年金)支払期間5年延長は見送る ④企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やす ⑤人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」 ⑥厚生年金積立金の活用により、基礎年金調整期間を厚生年金と一致させる ⑦基礎年金の保険料納付期間を40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長 ⑧在職老齢年金撤廃 ⑨厚生年金保険料上限引き上げ 等としている。 また、*1-2-2は、⑩一定の経済成長で少子高齢化による給付水準低下は2024年度比6%で止まる ⑪成長率が横ばいで2割近く下がる ⑫高齢者の就労拡大が年金財政を下支え ⑬指標は「所得代替率」で「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す ⑭厚労省がめざす「中長期的に一定の経済成長が続く成長ケース」で、2037年度の所得代替率は57.6%、給付水準は2024年度から6%低下 ⑮最も悲観的なマイナス成長ケースでは国民年金積立金が2059年度に枯渇して制度が破綻 ⑯高齢者・女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がり、積立金が2019年想定より70兆円ほど増えて前回より改善 ⑰60代就業率は2040年に77%と推計(2022年から15%高い) ⑱将来出生率は1.36としたが、2023年の出生率は1.20 ⑲1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は2001~22年度の平均がマイナス0.3% ⑳年金制度の安定には就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援や外国人労働者の呼び込みが必要 ㉑財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも示し、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースで2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円となり男女差が縮小 等としている。 このうち、①のように、年末にかけて年金制度改正を本格的に議論するのは良いが、厚労省は、⑬のように、いつまで「40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻」をモデル世帯とする「所得代替率」を使うつもりなのだろうか? このような世帯は既に少数派で、女性の労働参加を促しながら専業主婦世帯をモデルとするのは自己矛盾している。その上、年金は個人単位で考えなければ働く女性が損をし、㉑のように、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースであっても2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円と年金受給額に男女差が存在するのは、同様に働いても男女間に賃金格差があり、女性の方が在職年数も短くなりがちであることに依るのだ。しかし、これをこそ早急に改めるべきである。 そのため、②の“所得代替率”は、夫婦で稼いできた世帯のケースも出さなければ、多くの世帯にとってどうなるのか不明である。また、経済成長率についても、1人当たりGDPを比較すれば、*1-2-3のように、「子だくさん≒女性の教育水準が低く、働いていないか、低賃金⇒貧乏」であり、⑤⑱の「将来出生率が高くなれば、年金の所得代替率を高くできる」という仮説に基づいた“マクロ経済スライド”は誤りなのである。 また、②⑩⑪⑭のように、経済成長の大きさで年金給付水準を下げるのも、経済成長するか否かの原因が国民にあるわけではなく、厚労省・経産省・農水省・文科省のこれまでの政策にあるため、間違った政策の責任転嫁である。仮に国民に責任の一端があるとすれば、それは、メディアを通した情報で政策の誤りを見抜けず政治家を選んだことに依るが、実態は政治家よりも行政庁の方が強いのである。 さらに、⑲の実質賃金上昇率には、生産性向上と生産性向上に資する産業の育成が必要だが、EV・再エネ・再生医療・介護サービスなどを見ると、これから発展する産業を抑える経産省・厚労省、物価上昇を促す財務省、生産性も上がらないのに賃金上昇を叫ぶ政治など、高コスト構造で日本企業が海外に生産拠点を移すことはあっても、将来性ある企業が日本で育ったり、海外企業が日本に生産拠点を移したりすることは、余程の補助金でもつけなければなさそうだ。 しかし、高齢者の就労については、平均寿命の伸びによって年金受給期間が伸びており、⑫⑯のように、高齢者や女性の就労拡大は年金財政を下支えをしているため、私は、③⑦⑧の国民年金(基礎年金)支払期間の5年延長と在職老齢年金撤廃はやればよいと思うが、健康寿命も伸びているため、年齢による差別(例:役職停止・定年・労災保険の加入年齢制限)の廃止と同時に行なうべきである。そうやって、⑰の60代就業率を100%にしなければ、結局は年金支払期間の延長も受給開始年齢の繰り上げもできないだろう。 また、女性の就労については、年金制度の安定だけでなく本人の老後生活の安定のためにも、④のように、企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やすのは当然のことであるし、⑳のように、長期就労や就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援が必要であることも言うまでもない。また、外国人労働者の呼び込みも重要である。 なお、物価と賃金の上昇が続く場合には、⑨の厚生年金保険料の上限引き上げは当然のことになるが、⑥の「基礎年金に厚生年金積立金を活用する」というのは目的外使用だ。そして、これまでも、年金積立金が要支給額(=要積立額)という発生主義で認識されず、キャッシュフローだけを見て余っていると勘違いし流用されてきたのが、必要な積立金の不足原因であるため、同じことを繰り返して欲しくない。このように流用を重ねた結果、⑮のように、「年金制度が破綻した」と言って「緊急事態条項」を発動し、契約に基づいて年金保険料を支払ってきた国民が受給権を制限されてはたまったものではないのである。 2)世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係 ![]() ![]() ![]() すべて、*1-2-3の統計メモ帳より (図の説明:左図のように、合計特殊出生率とGDP/人はマイナスの相関関係があるが、アンゴラ・赤道ギニア・ミャンマー・北朝鮮・モルドバはその例外だ。また、GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、中央の図のように、産油国・資源国でGDPの割に合計特殊出生率が高いが、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない国である。さらに、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率が1.3未満の国を拾うと、東アジア・東ヨーロッパの新興国に集中しており、西ヨーロッパ諸国に「成熟した国」とは何かを学ぶべきである) ![]() ![]() ![]() 人口ピラミッド アフリカ ブラジル・中国・フランス・日本 世界とヨーロッパ (図の説明:左図は、アフリカの人口ピラミッドでエチオピア・ナイジェリア・ルワンダ・ザンビアのようなピラミッド型は、多産多死型の国である。中央の図は、多産多死型の国が少産少死型に移行する過程を示しており、ブラジルは1985年頃まで、中国・日本も1950年代まで多産多死型の国だった。右図が、今後の世界とヨーロッパの人口構成を示しており、次第に少産少死型となって、2100年頃には生まれた人が高齢まであまり亡くならないことが予想されている) *1-2-3は、①190の国・地域で合計特殊出生率とGDP/人の相関をグラフにした ②GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人は反比例 ③途上国の人口増大問題解決にはGDP/人を上げるのが正しい ④アンゴラ・赤道ギニアはGDP/人が比較的高いが出生率も高く、その理由は石油収入が必ずしも国民の貧困解消に結びついていない、GDP/人の増加で出生率が低下するまでに10年ほどかかるなど ⑤GDPが低いのに出生率も低いのがミャンマー・北朝鮮・モルドバで、ミャンマー・北朝鮮は圧政国家、モルドバは経済状態悪化 ⑥GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、GDPの割に出生率の高い国はカタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・イスラエル・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナと多くが産油国・資源国で、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない ⑦日本と他の先進国を比較するため、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率1.3未満の国をGDP/人が高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人と東アジアと東ヨーロッパに集中 ⑧成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべき としている。 このうち、①②③④⑤⑥は、合計特殊出生率とGDP /人の相関を調べた点が、大変、面白い。そして、日本政府が言う「出生率が上がれば、GDPが上がる」というのは、GDP全体 は少し上がるかも知れないが、GDP/人(国民1人1人の豊かさ)については事実でないことがわかる。 それでは、何故、②のように、GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人が反比例するのかと言えば、GDP/人が数千ドル以下の途上国は産業革命以前で、食糧/人が乏しく教育・医療も普及していないからだ。そのため、③のように、途上国の人口増大問題解決には、GDP/人を上げる(≒食糧《栄養》・教育・医療を普及させる)のが正しい解決策になるのである。 また、④⑥の赤道ギニア・カタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナ等の産油国・資源国は、GDP/人は比較的高いが出生率も高く、その理由は、資源からの収入が必ずしも国民の豊かさに結びついていなかったり、宗教上の理由で女性の自由や権利が著しく制限されて女子教育が普及していなかったりするからだ。さらに、アンゴラのように、長期の内戦で経済が疲弊し人口も減少して、復興によってGDPが増加し、食糧・教育・医療が普及して出生率が低下するまでに数十年の歳月がかかることもある。 なお、⑤のように、GDPが低いのに出生率も低いミャンマー・北朝鮮は圧政国家で、同モルドバは経済状態の悪化が原因としているが、⑦の日本・韓国・シンガポール・マカオ・香港などの東アジア諸国も、未だに儒教由来で個人(特に女性)の権利を軽視する国々であり、組織(会社・世帯など)のために個人(特に女性)を犠牲にすることを厭わないどころか尊ぶ風潮の残っている全体主義・集団主義国家(反対用語:個人を大切にする民主主義国家)である。 さらに、スロベニア・チェコ・スロバキア・ハンガリー・リトアニア・ラトビア・ポーランド・ベラルーシなどの東ヨーロッパ諸国は、社会主義という全体主義国家から市場経済社会に加わって日が浅く、社会主義的価値観を持つ国民も多く残っている上に、未だに国民生活が豊かとは言えない状態なのであろう。 そのため、⑧の「成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶ」とすれば、それはまさに第二次世界大戦敗戦後に欧米先進国から日本に与えられた日本国憲法(1946年11月3日公布、https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/174 参照)に書かれている理念そのものであるため、解釈改憲などをして後戻りさせること無く、その理念を実行すれば良かったのだ。 3)非正規労働(特に女性)と低賃金・低年金 ![]() ![]() ![]() ![]() 2024.9.20東洋経済 2023.12.10日経新聞 2023.10.2読売新聞 2021.3.30日経新聞 (図の説明:1番左の図は、2018年の相対的貧困率で年齢が上がるごとに貧困率が上昇し、中でも1人になった女性の貧困率が上がっている。また、左から2番目の図は、日本の男女間賃金格差で先進国平均の2倍だ。そして、右から2番目の図は、働く女性が増加してM字カーブは解消されつつあるが、子育て後は非正規の仕事しかないため、正規雇用率はL字カーブになることを示している。さらに、1番右の図は、上が年齢階層別正規雇用率で、下は大卒以上の女性の労働力率だが、日本は先進国の中で著しく低いことを示している) *1-3-2は、①2023年は共働き世帯が1200万を超え、専業主婦世帯の約3倍 ②保育所増設・育児休業拡充等の環境整備が進んで仕事と家庭を両立しやすくなったことが背景 ③社会保障・税制は専業主婦を前提にしたものが多く改革が急務 ④2023年の15~64歳女性の就業率は73.3%で、この10年で10.9%の伸び ⑤2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%だが、55~64歳で31%、65歳以上は59% ⑥共働き女性の働き方は、週34時間以下の短時間労働が5割超 ⑦年収は100万円台が最多で100万円未満がその次 ⑧短時間労働が多い理由の1つは「昭和型」の社会保障・税制による専業主婦優遇 ⑨配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は49%で減少 ⑩共働きが主流で各業界で人手不足が深刻さを増す中、官民をあげた制度の見直しが不可欠 としている。 また、*1-3-1は、⑪年金受給月額が10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性は7割弱、「50歳」女性は6割弱になる ⑫どちらも女性の老後が安心というレベルでない ⑬高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある ⑭50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代で、今から働くのは難しいが、働いたり、キャリアアップしたりすることが老後の生活に大きく影響 ⑮女性の低年金は、非正規雇用が多く世帯中心に考え個人単位の生活を想定しなかったことが原因 ⑯国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大は年金財政改善のためで、非正規雇用の老後生活という視線がない ⑰「男女の賃金格差で女性の低年金は当然」という考え方もあるが、男女の賃金格差自体が社会的に認められない ⑱現在働く女性の老後は、現在の高齢女性より数字上は良いが、国民の実感とは距離 ⑲「低年金の人は生活保護に」という考え方は、年金制度は維持できるが、生活保護給付費が増加するため持続可能性が低い ⑳年金を巡る政策は、現在の雇用政策と結びつけて考えるべき 等としている。 このうち、①②③④は、そのとおりであるため、社会保障は、夫婦子2人の専業主婦世帯を標準にするのではなく、個人を中心として共働き世帯の生涯所得を出すべきだ。そうすれば、⑥⑦のように、子育てを原因としてやむを得ず正規から非正規に転換することが、生涯所得の減少にどれだけ影響するのか(=女性にとっての結婚・子育ての機会費用)が明確にわかり、それは出産費用の無償化や結婚・出産祝い金の金額とは2~3桁違うため、教育水準が高くなるほど少子化する原因が特定できて、的確な解決策が出る筈である。 なお、⑧⑨のように、短時間労働が多い理由が、社会保障・税制と雇用における配偶者手当による専業主婦優遇というのは正しいだろうが、⑤のように、2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%、55~64歳では31%、65歳以上では59%と年齢が上がるにつれて所得を得る仕事をする妻の割合が減るが、その理由は、昭和の“規範”の中で生かされ、現在も女性差別・年齢差別が存在している中、65歳以上の女性の雇用は著しく厳しいという社会構造にある。 そして、この状態は、男女雇用機会均等法による均等待遇義務化以前の影響が色濃く残っているからであり、専業主婦に甘んじざるを得なかった妻たちの責任とは言えないため、⑩のように、官民をあげた制度の見直しをするとしても、年金制度の変更は、少なくとも国が男女雇用機会均等法によって男女の均等待遇を義務化した2001年以降に就職した世代からにすべきだ。何故なら、各業界の人手不足は深刻だが、企業の我儘を満たすのが改正目的ではなく、(金銭だけではない)負担と給付の公平性を正すのが最も重要な改正目的だからである。 さらに、男女の雇用が均等ではなく賃金格差が大きいため、⑪⑫⑱のように、年金受給月額10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性で7割弱、「50歳」女性でも6割弱になるそうだが、物価が高騰している中で、「20万円未満の年金で老後は安心」などと思う人はいないため、「高齢者は裕福だ」と言っているのがどういう背景を持つ人なのかは、よく見ておくべきである。 つまり、⑬の「高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある」というのは、いかにも「年金額が低いのは本人の責任」とでも言っているかのようだが、高齢女性は、頑張って働いても男女間賃金格差が大きかった上に、女性が働く環境も整っていなかったため、結婚や子育てで退職させられることの多かった世代であることを忘れてはならない。 にもかかわらず、⑭は、「50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代」などと1986年施行の最初の男女雇用機会均等法以降に就職した女性だけが結婚・出産による退職が多かったかのように記載している。しかし、男女雇用機会均等法もない中で働き、均等法を作ることから始めさせられた均等法以前の世代の苦労を無視しているのを許すわけにはいかない。何事も、常識や法律になった後で行なうのは容易であり、先端で常識にし、法律にした世代の方がよほど大変だったのであり、より偉いのだから、その苦労には正当に報いるべきなのである。 なお、⑮のように、女性の低年金は政府が個人の幸福を追求しなかったことが原因であり、⑯のように、国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大も年金財政改善のためであって国民の老後生活維持・改善という視点ではない。つまり、それは、日本が未だ個人の自由や幸福を尊重する民主主義国家ではなく、国家や組織の論理を優先する全体主義・集団主義国家であり、特に女性・高齢者・外国人から搾取することに罪悪感を感じない国だということなのである。 そして、⑲のように、「低年金のため、生活できない人は生活保護になる」と書かれている年金・医療・介護はじめ社会保障については、1947年5月3日施行の日本国憲法25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に定められている。そのため、「年金制度を維持するために、生活保護給付費が増加するのは云々」という議論は憲法違反である。 従って、⑳の年金を巡る政策は、雇用政策と結びつけて考えるべきなのは当然のことで、それは、組織の便法のためではなく、憲法第13 条に「すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と書かれているとおり、あくまで個人である国民の福利の増進のために行なわなければならないのだ。 4)年金の手取り額について ![]() ![]() ![]() 厚労省 2024.2.27沖縄タイムス 介護保険料の支払方法 (図の説明:左図のように、政府は「マクロ経済スライド」という他国に例を見ないおかしな手法とインフレ政策によって、国民に気づかれないように年金支給率を低下させているが、そうでなくても年金収入は不十分であるため、中央の図のように、高齢者が困窮し、生活保護受給世帯に占める高齢者の割合が増えている。その上、右図のように、65歳以上《第1号被保険者》になると少ない年金収入から介護保険料を徴収し、健康保険と一緒に天引きされる40~64歳《第2号被保険者》まで含めても40歳以上からしか保険料を徴収しないため、年収が減り、介護の必要性が増してから介護保険料を徴収するという保険として誤った制度になっているのだ) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 2024.8.29Diamond 2023.2.27、2024.4.5そよかぜ (図の説明:左の3つの図は、額面年金収入200万円の人の社会保険料控除後の年金手取額順位で、ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市だ。しかし、介助が必要になった場合に支給されるサービスは、右から2番目の図のように支援と介護に分かれており、給付財源は公費50%《国37.5%、地方12.5%》、介護保険料50%《第1号被保険者23%、第2号被保険者27%》だが、要支援の一部は地方負担であるため、高齢化率の高い地方ほど保険料が高い割に支援はなかなか受けられない状態になっている。ちなみに、右図のように、要支援は25~50分、要介護2~4では50~110分程度のサービスしか受けられないが、これで何ができるのか疑問だ) *1-4は、①年金定期便記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではない ②年金手取り額は、「額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」である ③所得税・住民税は同じだが、国民健康保険料・介護保険料は自治体により計算式や料率が異なるため、年金手取り額は住む場所で違う ④高齢化の進捗で国民健康保険料・介護保険料は上がっている ⑤22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円、妻は基礎年金のみ、額面年金収入200万円のケースで、手取額ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市・2位は長野市・3位は鳥取市である ⑥国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は約5万円 ⑦介護保険料が最も高いさいたま市と最も低い山口市との差額は約3万円 と記載している。 年金のように支給額が小さい場合には、控除される税金や社会保険料が大きな割合を占め、可処分所得が非常に小さくなるため、①②③は重要な視点だ。 また、④については、高齢化の進捗だけが理由ではないが、国民健康保険料・介護保険料が上昇して、確かに年金生活者は負担しきれなくなっている。そのため、⑤⑥⑦のように、手取額ワースト1位大阪市、ベスト1位名古屋市のように可処分所得の違いが比較でき、国民健康保険料の差額が年間約5万円、介護保険料の差額が年間約3万円もあることが示されたのは新鮮だった。 しかし、地域によって物価水準が異なるため、購買力平価で比べると、むしろ2位の長野市や3位の鳥取市の方が1位の名古屋市より生活にゆとりがあるかも知れない。さらに、ここでも22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収600万円、妻は基礎年金のみという厚労省のモデル世帯しか示されていないのはわかりにくく、年功序列型賃金体系の下で勤務年数が短いため生涯所得が小さくなりそうな大学院卒の個人や夫婦についても示してもらいたい。 5)年金改革の課題 ![]() ![]() ![]() ![]() 2024.7.3朝日新聞 2019.7.15毎日新聞 2024.7.3朝日新聞 2024.9.23日経新聞 (図の説明:1番左の図は、厚労省の年金財政検証で使われた1959年生まれと2004年生まれの人が65歳時点で受け取る成長型経済移行・継続と過去30年投影ケースの年金額で、成長型経済移行・継続ケースは名目年金額は増えるが物価はそれ以上に上昇するだろう。また、左から2番目の図は、2017年末の男女別厚生年金受給月額分布で、女性は厚生年金を受給している人でも最頻値が9~10万円と下方に偏っている。さらに、右から2番目の図のように、厚労省は未だ会社員と専業主婦世帯を「モデル世帯」としてこれしか試算しておらず、女性の就労を家計補助の位置づけとしか捉えていないが、この発想が保育・学童保育・介護制度の不十分さに繋がり、ひいては女性の年金受給額を下げている。そして、1番右の図は、共働きと専業主婦世帯の年金額だが、共働きの合計が専業主婦世帯《片働き世帯》と大して違わないのがむしろ不自然だ) *1-1-1は、①厚労省は公的年金の財政検証結果を公表して、制度改正の提案を5つ示し、「年金額分布推計」も出した ②将来の出生率等の人口動態や経済成長に関する想定をいくつか置き、各ケースの片働き夫婦のモデル年金を出し、所得代替率は2024年度で61.2%だった ③少子高齢化のため、マクロ経済スライドで所得代替率を下げている ④前回の財政検証ではスライド調整が27~28年続き、所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースもあったが、今回の成長型経済移行・継続ケースではスライド調整期間は13年間で57.6%までしか下がらない ⑤女性・高齢者の労働参加が進み、2012年から2022年にかけて生産年齢人口は約600万人減ったが、就業者数は約400万人増えた ⑥25~34歳女性の就業率は70.7%から82.5%に、55~64歳女性の就業率は54.2%から69.6%に上昇し、男性は高齢者の就業率上昇が顕著で60~64歳は72.2%から84.4%、65~69歳は48.8%から61.6%に急上昇した ⑦積立金運用も好調 ⑧労働参加の進展は前回財政検証時の想定を超えた ⑨労働参加の拡大で公的年金の支え手が増える ⑩被用者保険の適用を巡るムラの解消は急ぐべき ⑪在職老齢年金は速やかに撤廃すべき ⑫女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額分布は、上の世代より受給額が増える ⑬財政検証は所得代替率だけでなく、人生設計を支援する情報提供も行なうべき 等としている。 これに加えて、*1-1-2は、⑭現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円、女性は同16.4万円で2人が夫婦の場合は世帯で月38万円 ⑮金額は物価上昇の影響を除いて算出しているため、今の賃金や消費額と比較可能 ⑯2023年の家計調査で65歳以上・夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額25万959円 ⑰食費・交通費・通信費で4割、教養娯楽費1割・光熱水道費1割 ⑱住居費1割弱・保健医療費1割弱だが、都心の賃貸物件に暮らすと家賃負担が支出の大部分を占め、病気になると医療費急増 ⑲夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」が受け取る年金額は月33万円で、「共働き世帯」より苦しい ⑳月33万円を年間換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度 ㉑これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進む前提 ㉒女性・高齢者が労働参加すれば、担い手が増え、年金額も増える ㉓女性・高齢者の働く意欲を後押しすべき 等としている。 このうち①は良いが、②は片働き夫婦のモデル年金のみを出している点で、時代遅れかつ不十分である。その上、片働き夫婦なら2024年度の所得代替率は61.2%あるかも知れないが、共働き夫婦の所得代替率はずっと低いため、苦労して働いても働き損になりそうなのである。 また、③のように、「少子高齢化を原因として、マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」というのは、要支給額で年金積立金を計上しなかったため、(前からわかっていた)人口構成の変化によって積立金が不足したのを、少子高齢化に責任転嫁しているため率直さに欠ける。また、ただでさえ少ない年金支給額の積立金不足に関し、「マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」という解決策しか思いつかないのは、為政者として失格でもある。 さらに、④については、成長型経済に移行・継続しても賃金上昇率より物価上昇率の方が低くなるには、イノベーションによる生産性向上が欠かせないが、イノベーションの種は環境・高齢化・家事の外部化にあるにもかかわらず、政府は、再エネ・EV・自動運転・再生医療・保育・介護等の推進には消極的で、片働き世帯の維持・原発新増設・化石燃料の延命などに積極的なのだから、これではイノベーションを起こして生産性を上げることはできないのである。 私も⑤⑥⑧⑨のように、女性・高齢者の労働参加が進めば公的年金の支え手も増えるため、多様な労働力は多様なニーズ発掘に繋がることと合わせ一石二鳥だと思うが、⑩⑪⑫のように、女性・高齢者が働くことにペナルティーを科すような制度は早急に止め、被用者保険の適用を巡るムラも解消して、働けば報われる社会を作るべきである。また、⑬のように、所得代替率だけでなく人生設計に資する情報提供を行い、将来の年金受給額と不足額を予測可能にすべきだ。 なお、⑦のように、積立金運用も好調だったそうだが、金融緩和による株高が背景であれば、その持続可能性は低い。 また、⑭⑲は共働き夫婦の合計年金受給額が月38万円、夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯(片働き世帯)」が受け取る年金額は月33万円としているが、片働き世帯が共働き世帯より苦しいのは当然であり、むしろ差が小さすぎると、私は思う。⑮については、具体的な計算方法が不明であるため、コメントを控える。 さらに、⑳は月33万円を年間換算すると400万円程度で現在の20代後半の男性の平均年収程度としているが、2人で生活している世帯が1人で生活する世帯より生活費がかかるのは当然であるため、何故、それで良いのかわからない。また、⑯⑰⑱に、2023年の家計調査の結果が出ているが、現在30歳の男性が65歳で年金を受け取る35年後の物価は現在の数倍になっていると予測されるため、どうしても節約できない食費の比重が高くなり(=エンゲル係数が高くなり)、娯楽費を減らさざるを得ないのは明らかだろう。 しかし、どちらにしても言えることは、㉑㉒㉓のように、年金制度のためにも、女性・高齢者本人のためにも、女性・高齢者の働く意欲を後押しして労働参加を進めることは必要である。 (2)現在でもOECD平均の6割しかない日本の公的年金の所得代替率をさらに下げるとは! ![]() ![]() 2024.1.19Jiji 2024.1.19NHK (図の説明:上の左右の図のとおり、2024年度は、金融緩和と戦争によるインフレの結果、物価上昇率は3.2%、賃金上昇率は3.1%だが、年金改定率は2.7%であり、賃金上昇率は物価上昇率に追いついておらず、“マクロ経済スライド”を適用した年金改定率は賃金上昇率以下であり、これが年金の所得代替率を下げる仕組みだ) ![]() ![]() ![]() 2024.7.29テレ朝 2015.3.3ニッセイ基礎研究所 2022.12.8ニッセイ基礎研究所 (図の説明:左図のように、2024年度の“モデル世帯《妻に収入なし》”の所得代替率は現役男子の平均手取り収入の61.2%となっているが、「妻には収入がない」と仮定しているため、実際の世帯の所得代替率よりも高く表示されている。つまり、共働き世帯の所得代替率は、夫婦の所得合計を分母にしなければ正確ではないのだ。その上、「経済成長したか否かや出生率で所得代替率が変わる」などとしているが、これが賦課方式《自転車操業方式》による年金制度の欠陥なのである。そして、中央の図のように、OECD諸国の公的年金の所得代替率《同じ計算式で比較》は平均65.9%であり、日本の40.8%は韓国の45.2%より低いが、右図のように、出生率は日本より韓国の方が低いため、日本の年金制度は制度とその運用に不備のあることが明らかだ) 1)世界から見た日本の公的年金について *2-2は、①公的年金の財政検証結果で、給付水準は目標の「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った ②「所得代替率50%以上の維持」が100年安心の根幹 ③外国人や女性も含め、働く人が将来700万人余り増えて保険料収入が増加することを見込む ④モデル世帯の給付水準は若い人ほど低く、老後の暮らしは心もとない ⑤「出生率や経済成長の想定が甘い」との指摘がある ⑥政府内には目標をぎりぎりクリアして安堵感 ⑦「50%以上の維持」は年金の受給開始時の状況に過ぎず、「マクロ経済スライド」の影響で年齢を重ねる毎に給付水準低下 ⑧政府はNISAなどで老後への備えを呼びかけ ⑨日本総研西沢理事は「若者の結婚・出産への意欲は低下しており、検証の想定に願望が含まれている」と批判 ⑩実質賃金は減少が続くが、プラスと仮定している ⑪外国人労働者増加も見込む ⑫武見厚労相は「国民年金保険料納付期間5年延長案の必要性は乏しい」と見送りを表明 ⑬与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説 ⑭厚労省は一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃し、パートなど短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方針 等としている。 これに加えて、*2-1は、⑮公的年金財政検証結果は、5年前と比べると改善傾向だが、給付水準低下が当面続くことも示した ⑯政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩めて「支え手」を広げ、年金制度の安定をめざす ⑰老後に備えた自己資産形成の重要性も呼びかけ ⑱基礎年金は満額で月6.8万円だが、少子高齢化が進むとさらに給付水準が下がる ⑲「就職氷河期世代」が年金に頼る時期が近づき、少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要 ⑳単身世帯の所得代替率は、日本32.4%、OECD加盟国平均50.7%で、日本はOECD平均の6割程度 ㉑企業規模要件を廃止し、5人以上の全業種個人事業所に厚生年金加入を適用すると、90万人が新たに厚生年金加入対象 ㉒賃金・労働時間の要件を外し、週10時間以上働く全員を対象にすると新たに860万人が厚生年金に加入し、所得代替率が3.6%上昇 ㉓「マクロ経済スライド」を基礎年金に適用する期間を短くすると、所得代替率は3.6%上昇 ㉔厚生年金保険料の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると所得代替率は0.2~0.5%上昇 ㉕基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担も増すため、財源確保が必要になり、増税論に繋がり易い 等としている。 このうち①②④⑥⑦⑮については、モデル世帯(被用者の夫と専業主婦の妻)の年金所得代替率が現在は現役男子の平均手取り収入の61.2%で、30年後も50%以上であるとしても、1人あたりでは、現在は31%、30年後は25%となる。そして、現在の31%は、⑳の32.4%に近く、年金制度は100年安心かも知れないが、年金生活者の生活は安心ではないということなのだ。 一方、OECD加盟国の平均は50.7%/人で、日本人はOECD平均の6割程度の年金しか受給できていない。何故だろうか? 政府・メディアは、インフレ政策をとり、“マクロ経済スライド”を適用してまで、年金を減額しなければならない理由を、⑤⑨⑱のように、「出生率が低い」「少子高齢化が進んだ」「経済成長しなかった」等と言い訳しているが、それが理由なら日本より条件の悪い国は多かった筈で、他国が日本と違うのは、国際会計基準に従って要支給額で年金積立金を積み、適格な運用を行なって、年金資金の目的外使用をしていないことなのである。 そこで、まずは「年金の要支給額を積み、適格な運用を行なって、目的外使用をしない」ということが名実ともに保証されなければ、いくら国民負担を増やされても国民にとっては見返りがないのだ。また、③⑪⑯のように、外国人・女性・高齢者等に「支え手」を広げて保険料収入を増加させることは必要だが、その目的が「支え手」を広げるだけで、その「支え手」の将来の年金受給を考えていなければ「支え手」の年金受給時には今と同じことが起こるのである。 なお、女性の「支え手」を増やすためには、⑭㉑㉒のように、企業規模要件を廃し、個人事業所にも厚生年金加入を適用し、賃金・労働時間の要件を緩和して週10時間以上働く人全員を対象にして、パート等の短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方法がある。 さらに、高齢の「支え手」を増やすためには、*2-3のように、65歳又は75歳まで働くことを前提として労働関係法令を一斉に見直し、高齢者が働くためのインフラを整える必要があり、単に国民年金保険料の支払期間を40年から45年に延長するだけでは、政府及び厚労省の無駄使いを尻拭いするための負担にしかならないため誰も納得しないだろう。 そのため、単に「支え手」を増やすことしか考えていない場合は、⑫⑬のように、内閣支持率が下がるため、年金保険料の納付期間延長や厚生年金の適用拡大はできない。 そのほか、政府は、⑧⑰のように、NISA等を使った老後に備えた自己資産形成も呼びかけているそうだが、⑩のように、インフレ政策で実質賃金減少が続く中、子育てや介護のために所得が減ったり、マイホーム取得に莫大な費用を要したりすれば、老後の備えまでは手が回らなくなるため、少子化・非婚化はますます進むと思われる。 従って、「日本で本当に困っている人」というのは、⑲の「就職氷河期世代」や災害被害者だけではなく、多くの普通の国民もそれに当たるのだ。 2)「会計ビッグバン」と退職給付会計 *2-4は、①日本が1990年代後半から進めてきた会計ビッグバンを加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい ②20年余りの改革で残った主要項目の1つだったリース資産に関する会計基準改正がASBJから発表された ③新基準では中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する ④新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS) ⑤欧米の主要な官民の市場関係者は2001年からIFRSづくりを本格的に始めた ⑥日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた ⑦IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める ⑧官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい 等としている。 レンタル・リース・購入の違いは、誰が所有権を持っているかであり、購入は購入者に所有権が移転するが、レンタルとリースはレンタル会社やリース会社が所有権を持っている。 しかし、リースのうち、i)解約不能リース期間のリース料総額の現在価値が、現金で購入する場合の90%以上 ii) 解約不能リース期間が耐用年数の75%以上 の2要件を満たす場合は、殆ど購入と同じであるため、ファイナンス・リースとして、会計上、オンバランス化していた。 オペレーティング・リースは、上の要件を満たさないリースで、定められた契約期間中に所定のリース料を払って機器を使用し、途中で機器が故障した場合は貸主が修理代を負担して、契約が満了すれば返却するという、契約期間中に機器を借りているだけの取引だ。 そして、リースといってもレンタルに近いものからファイナンス・リースまで、契約にはグラデーションがあるため、会計ビッグバンを主導した私でさえ、③のように、新基準で中途解約可能なものまで含め全リースの資産・負債をオンバランス化するのはやりすぎだと思う。国際会計基準(IFRS)は合理的であるため、多分、リース取引のグラデーションに応じて判断することになっていると思う。 それよりも早く行なうべきだったのは、国際会計基準に定められている退職給付会計の年金への適用である。それは、企業が行なっている厚生年金基金と同じ考え方で、年金給付の要支給額を現在価値で割り引いた数理的評価額を年金に適用し、必要な積立金を積み立てておくもので、これが行なわれていれば、人口構成の変化によって年金支給額を変える必要などなかったのである(https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/taikyu-4_3.pdf 参照)。 (3)高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係 ![]() ![]() ![]() 2020.9.23GemMed 2019.3.7日生基礎研究所 2021.6.28NiponCom (図の説明:左図は、1950~2040年の年齢階層別高齢者人口と総人口に占める高齢者人口の割合だが、高齢者人口の割合は「高齢者」の定義によって変わる。中央の図は、男女別の65歳時点の平均余命と健康余命で、どちらも80歳前後までは健康である。また、健康余命も女性の方が長いため、女性の方が退職年齢が低いのは女性差別の結果にほかならない。右の図は、男女の年齢階層別就業率で、60~64歳でも70%程度、70~74歳は30%程度、75歳以上では10%程度しかないが、これは健康余命が80歳前後であることを考慮すれば少なすぎる) *3-1は、①財政検証結果、経済条件が良い場合でも公的年金の給付水準は2030年代後半まで下がり続ける ②給付水準は順調に行っても夫婦2人で現役世代の5~6割 ③老後の生活資金を公的年金だけに頼るのは限界 ④重要性が増すのは、企業年金・個人年金などの任意で加入する私的年金 ⑤公的年金以外の所得がない高齢者世帯が4割強を占め、所得代替率が50~60%の公的年金に依存 ⑥総務省がまとめた2023年の家計調査で無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字で貯蓄等を取り崩して生活 ⑦厚労省は2025年の公的年金制度改正に合わせ、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進める ⑧政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積立可能にする ⑨与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべき」という主張もある 等としている。 このうち①②③⑤⑥は事実だろうが、そもそも夫婦2人で現役世代の5~6割というのは、1人分に換算すれば2.5~3割しかないため、(2)1)に記載したとおり、OECD平均の6割しかなく、あまりに少ないのである。 そこで、④⑦⑧のように、企業年金・個人年金等の私的年金の重要性が増し、政府は、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進め、加入開始年齢の上限を引き上げて退職後も積立可能にするそうだが、勤務していた期間にはそのような制度がなくて積み立てていなかったのに、退職後になって積立できる人は非常に少ないと思われる。そのため、⑨のように、「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てろ」と言うのは無理がある。 特に、現在は第二次世界大戦敗戦後79年しか経過しておらず、焼け跡から這々の体で立ち上がって経済成長まで漕ぎ着けた高齢者が多く残っているのであり、苦しい暮らしの中で子どもを教育したため、大した老後資金は残っていない人が多いのだ。 また、団塊の世代も、戦後、急に出生率が上がって貧しい世の中で幼少期を過ごし、学校も職場も混み合っていて競争が激しく、最初はゆとりのなかった世代なのである。そのため、「公的年金だけで老後を暮らせるというのは幻想だ」というよりも「公的年金以外に老後資金がある」と考える方が幻想なのだ。つまり、「若返ったら、刷新感が出る」と安易に考えていること自体が、軽薄なのである。 *3-2は、⑩「65歳以上とされる高齢者の年齢を引き上げるべき」との声が経済界から上がる ⑪政府内では「人手不足解消や社会保障の担い手増加に繋がる」と期待 ⑫SNSを中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も ⑬高齢者の年齢は法律によって異なり、年齢引き上げの動きが出れば60歳が多い企業の定年や原則65歳の年金受給開始年齢引き上げに繋がる ⑭見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた ⑮定義見直しには踏み込まなかったが、社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要との考えを示した ⑯経済財政諮問会議の民間議員は、「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言 ⑰経済同友会の新浪代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた ⑱日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめた ⑲内閣府幹部は「元気で意欲ある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリングの徹底が重い課題 等としている。 2020年代になって団塊の世代が退職し始め、働き方改革も実行され始めると、少子化も手伝って人手不足状態となった。そのため、⑩のように、「高齢者の定義を65歳より引き上げるべき」との声が経済界から上がり、⑯のように、経済財政諮問会議の民間議員が「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言し、⑰のように、経済同友会の新浪代表幹事が「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べ、⑱のように、日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめている。 私は、上の中央の図のように、健康余命が男女とも80歳前後であることを考えれば、日本老年学会の「75歳以上が高齢者」というのが妥当だと考える。また、健康には個人差もあるため、経済同友会代表幹事の新浪氏の「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」というのに賛成だ。また、仕事があれば働き続けた方が、規則正しい生活ができ、刺激もあるため、健康寿命が長いというのはずっと前から言われていることだ。 そのため、⑪のように、人手不足解消と社会保障の担い手増加だけを目的とするのはいかがなものかと思うが、⑫の「死ぬまで働かされる」といった警戒感は当たらない。何故なら、働きたくいない人は、(生活ができれば)何歳であっても仕事を辞めればよく、働きたい人が働けるようにするだけだからである。 ただし、働きたい高齢者が働けるようにするためには、⑬のように、企業の定年と年金受給開始年齢を同時に引き上げ、⑲のように、「高齢者は労災が多い」「高齢者はリスキリングの徹底が必要」などという偏見をなくし、⑭⑮の中の高齢者の定義の見直しこそが重要なのだ。それなくして、「社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要」等というのは、虫が良すぎる。 *3-3は、⑳総務省は65歳以上の高齢者に関する統計を公表 ㉑2023年の65歳以上の就業者数は2022年に比べて2万人増の914万人で20年連続増加 ㉒高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52% ㉓定年延長する企業が増え、高齢者の働く環境が整って高齢者の働き手が人手不足を補う ㉔年齢別就業率は60~64歳74%、70~74歳34%、75歳以上11.4%といずれも上昇 ㉕2023年就業者中の高齢者は13.5%で7人に1人 ㉖65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8% 等としている。 しかし、⑳㉑のように、65歳以上の就業者数が20年連続で増加しても、㉒㉔のように、60~64歳の就業率は74%、65~69歳の就業率は52%、70~74歳の就業率は34%にすぎず、75歳以上の就業率は11.4%に減る。 そして、就業率が下がる理由は、働けないからではなく、㉓のように、人手不足を補うため定年を延長する企業が増え、㉕のように、就業者中の高齢者が7人に1人となっても、㉖のように、65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8%で、正規社員としては60~65歳止まりの企業が多いからである。これでは、高齢者の働く環境が整ったとは言えないため、まず年齢による差別をなくすよう法律改正しなければ、高齢者が気持ちよく働くことはできないのだ。 (4)社会保障の支え手拡大について 1)高齢者と女性による支え手の拡大 *4-1は、①今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象 ②65歳以上の人の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」撤廃案は、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要 ③「第3号被保険者制度」の廃止論には厚労省が慎重 ④対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しく、厚生年金に入る要件を緩めることで第3号被保険者を減らす方向 と記載している。 このうち①は良いが、②の高齢者に関しては、75歳以前の定年禁止or定年廃止はじめ関係する労働法制の改正が必要だ。しかし、既に退職させられた人も多く、年金を受給することが前提の割り引いた賃金で、再雇用されたり、他の企業で働いたりしているため、公正性の観点から「在職老齢年金制度」撤廃案は不可欠であろう。 また、③の「第3号被保険者制度」は早急に廃止し、働いている人は社会保険料を支払うことにした方が公正だと思う。しかし、所得税は、2020年の基礎控除額改正時から物価は5~6%高騰しているため、全員の基礎控除額を50万円(48万円x1.05)以上にするのが妥当である。また、給与所得控除額の最低額も、引き下げるどころか物価上昇に合わせて引き上げるべきであり、2020年と比較すれば58万円(55万円x1.05)以上にすべきである。住民税についても、同じだ。 しかし、④のように、政治や政府(厚労省)が第3号被保険者制度廃止に後ろ向きである理由は、政治家こそ普段からの妻の支えなく当選するのが難しい職業であり、厚労省はじめ官庁も残業や転勤が多く共働きに適さない職場環境にあるからだ。しかし、そのような環境の中で、女性政治家や女性官僚は、なるべく夫に迷惑をかけないようにしながら仕事をしているため、人手不足の現在、政治や官庁こそ率先して変化すべきである。 2)外国人材による支え手の拡大 ![]() ![]() Rise for Business 2024.2.16Diver Ship (図の説明:左図は、在留資格の変遷と在留外国人及び外国人労働者数の推移で、右図は、在留資格別の外国人労働者の推移だ) ![]() ![]() ![]() FUNDINNO 2023.10.23日経新聞 2023.6.19朝日新聞 (図の説明:左図は、技能実習や特定技能評価試験から特定技能1号・2号に移行する過程だが、受入可能な分野には、女性が主として担っているHouse Keeping・保育・看護等の分野が入っておらず、1号の場合は在留期間5年で家族の帯同も許されていない。中央の図は、高卒の日本人と技能実習生の賃金を比較したもので、手数料まで含めれば同年代では、ほぼ同水準だそうだ。右図は、G7における2022年の難民認定数と認定率で、日本は著しく少なく、このような外国人の入国に対する態度の違いが、生産拠点の国外化→産業の流出→経済成長率の鈍化及び食料自給率の低下に繋がっていることは間違いない) *4-2は、①政府がめざす経済成長達成には、2040年に外国人労働者が688万人必要で97万人不足する ②国際的人材獲得競争が激化する中、労働力確保には受入環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要 ③為替相場変動の影響を加味していないため、不足数は膨らむ可能性 ④2019年年金財政検証の「成長実現ケース」に基づき、GDPの年平均1.24%の成長を目標に設定 ⑤機械化・自動化がこれまで以上に進んでも、2030年に419万人・2040年に688万人の外国人労働者が必要 ⑥今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定したが、3年を超えて日本で働く割合が高くなれば不足数は縮小 ⑦政府は2027年を目途に技能実習に代わる「育成就労」を導入し、特定技能と対象業種を揃えて3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替え易くする ⑧課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だが、中小零細企業が自前で教育するのは容易でないため、官民で環境整備に努める必要 等としている。 このうち、①④⑤から、2019年の年金財政検証における「成長実現ケース」に基づけば、機械化・自動化が進んでも、2040年代には700万人近くの外国人労働者が必要であり、100万人近くの外国人労働者が不足することがわかる。 そして、⑥⑦のように、日本の外国人労働者は、原則として来日3年で帰国する前提であるため、政府が2027年を目途に「技能実習制度」に代えて「育成就労制度」を導入し、3年間の育成就労後に(限定は多いが)特定技能に切り替え易くしたところだが、切り替え後もまだ、外国人労働者を生活者として日本社会に包含するわけではない。 しかし、3年や5年で習得できる技術は初歩的なものでしかないため、例えば、多くの外国人労働者が働いている建築現場や介護現場は、熟練労働者が著しく少なく、日本の産業自体の質が落ちて競争力を失っている。そのため、3年などという限定なく日本で働けるようにすれば、外国人労働者の不足数が縮小するだけではなく、熟練労働者が増えて産業の質も上がるのだ。 また、②③のように、為替相場が円安に傾けば、日本で得られる賃金は母国通貨への換算時に安くなる上、国際的な人材獲得競争も激化しているため、労働力確保のためには外国人労働者の受入環境の整備と来日後の労働条件や生活条件が重要な要素になる。それには、⑧のように、外国人に日本語能力を求めるだけでなく、外国人労働者の存在を当然のものとして、その長所を活かしながら、日本社会が包含する体制を整える必要がある。 *4-3は、⑨日本にいる一般的外国人の社会統合政策は長年なかった ⑩「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人がいるが、明確な根拠はない ⑪西欧諸国では、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆ど ⑫中央政府・受け入れ自治体・外国人本人の間できめ細かな仕組みができている ⑬日本で外国人の多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけて欲しいということ ⑭日本にいる外国人に対して政策的支援がなければ、当然、厳しい状況に置かれる ⑮移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れるほど最悪の政策はない ⑯日本の組織に協力したため迫害を受ける恐れが高まったケースがアフガニスタンで起きたが、海外の日本大使館・国際協力機構・NGO等で働いていた現地職員の退避・受入態勢が整えられていない 等としている。 確かに、⑨のように、日本にいる一般的外国人の社会統合政策はない。また、⑩のように、「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人も多いが、賃金はその人の生産性によって決めるものであるため、外国人の方に高い賃金を払わなければならない場合もある。そして、その人の生産性に従って決めた賃金は公正で、それが上昇しても雇用主が傾くことはないのである。 そして、⑪⑫のように、外国人を多く受け入れている西欧諸国では、難民でも移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆どで、中央政府・受入自治体で受入体制ができているそうだ。 日本でも、労働力不足で外国人を多く受入れている自治体が求めているのは、⑬のように、国が予算をつけて受入体制を作ることだそうで、これにより、中等教育まで終わった地方出身者が首都圏に集まって首都圏で働き、首都圏で税や社会保険料を納めるのと同じ効果が生じる。そのため、⑭の日本に来た外国人労働者に政策的支援を行なうことの費用対効果は良いのである。 なお、⑮のように、建前上は「移民政策をとらない」と言いながら、実際には多くの外国人を受け入れて使い捨てにするほど最悪の政策はない。これでは、いくらODAで国民の金をばら撒いても、日本の評判を下げることによって経済上・外交上に悪影響が広がり、かえって高いものにつく。その顕著な例が、⑯のアフガニスタン人に対する扱いで、日本人の根拠無き優越感と利己主義によってチャンスをピンチに変える所業だったのである。 *4-4-1は、⑰各国の間で留学生の獲得競争が激しくなった ⑱教育政策の枠を超え、就職や定住促進策と一体で留学生の受け入れを進めなければ日本は後れをとる ⑲日本は、国内の大学・大学院で学ぶ留学生の増加に成功していない ⑳日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることを止め、大学の受け入れ増に本腰を入れるべき ㉑直面している課題は3つで、i)留学先としての日本の魅力低下 ii)日本では学位(修士、博士)の評価が低い iii)留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていない ㉒留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすくすることが重要だが、これは教育政策の範囲を超える ㉓留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は消極的すぎる ㉔日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要 等としている。 これに関して、*4-4-2は、「全国の私立大学の 53.3%で入学者数が定員割れとなったため、教育効果の客観的把握と情報開示で『大学の供給過剰』を是正すべき」という結論になっているが、私は文部科学省の「18 歳で入学する日本人を主と想定する従来モデルから脱却し、大学を留学生やリカレント教育に活用する」という目標の方が有用だと思う。 何故なら、せっかく投資して作った建物や教授陣等の大学組織を壊すのは簡単だが、現在の日本経済のニーズに沿った教育内容に改善・変化させた方が、付加価値が高くなるからである。 そのような中、⑰⑱は、「各国間で留学生の獲得競争が激しくなり、教育政策の枠を超えて就職や定住促進と一体で留学生受入を進めなければ日本は後れをとる」としているが、私もそのとおりだと思う。 また、⑲㉑㉒のように、留学生が国を選ぶ際に重視する要因は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすいことが重要だそうだが、留学生にとっても就職・昇進の機会が均等でなく、移民可能性も低ければ、留学先として魅力が低くなるのは当然である。これは、日本人が海外の留学先を選ぶ時も同じであるため、よくわかる。 さらに、日本では、学位の評価が低く、これらの留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないため、「日本国内の大学・大学院は留学生の増加に成功していない」と述べられており、大学側もグローバル社会が求める科学・技術や文系学問に科目をシフトする必要はあるとは思うが、日本人学生にとっても状況が同じであるため、尤もだ。 なお、㉓のように、留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は確かに低すぎる。何故なら、世界には母国に大学が足りなかったり、戦争中だったりして、日本に留学したいと考える学生が多い上に、日本にとっては良質の労働力や両国の架け橋となる人材を確保するまたとないチャンスだからである。つまり、このような積極的な学生たちに奨学金を出す方が、時代遅れの産業にドブに捨てるような補助金をつけるよりも、産業のイノベーションにとってずっと効果的なのである。 そして、㉔のように、日本の若者もグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々がいることを知り、彼らと協働できることが重要である。反対に、他国の価値感も知らずに、何が何でも日本が一番と思っているようでは、支え手としても期待できない。 そのため、⑳のように、日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることは止めた方が良い。日本語学校は、日本の大学への進学や日本での就職のための予備校的位置づけであり、専門学校は学校によっては就職に必要なことを教えるが、大学の留学生増加のために本腰を入れる方が望ましいのである。 ・・参考資料・・ <公的年金の財政検証と年金改革について> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240902&ng=DGKKZO83128000Q4A830C2KE8000 (日経新聞 2024.9.2) 財政検証と年金改革の課題(上) 就業率大幅上昇で財政改善、玉木伸介・大妻女子大学短期大学部教授(56年生まれ。東京大経卒、ロンドン大修士(経済学)。専門は公的年金、資産運用) <ポイント> ○労働参加の拡大で公的年金制度は若返り ○被用者保険の適用を巡るムラの解消急げ ○財政検証は人生設計支援する情報提供も 7月3日、厚生労働省は公的年金の財政検証結果を公表するとともに、制度改正の提案(オプション試算)を5つ示した。また今回の新しい試みとして「年金額分布推計」も出された。財政検証とは5年に一度、今後100年間の公的年金を巡るお金の出入りを様々な想定の下で予測し、所得代替率を試算することを柱とする作業だ。将来の出生率などの人口動態や国民所得の伸び(経済成長)に関する想定をいくつか置き、各ケースの高齢者の給付水準(片働き夫婦のモデル年金)を出す。これを各想定下での平均的な現役労働者の可処分所得で割ったものが所得代替率であり、2024年度は61.2%だ。少子高齢化で支え手が減る中で、保険料率を固定しているため、給付は少しずつ削らねばならない。毎年、物価や賃金(保険料はおおむね賃金に比例)の変動率に劣後させるマクロ経済スライドという仕組みにより、所得代替率を下げていく制度設計になっている。これをいつまでやるかと言えば、給付が下がり、今後100年間の年金財政のバランスが確保可能と判断できるまでだ。この期間をスライド調整期間という。現行制度では、1階(基礎年金)と2階(報酬比例部分)の今後100年間のバランスをそれぞれ確保できるまで、スライド調整が続くことになっている。今回の財政検証の大きな特徴は、前回(19年)に比べスライド調整期間が短くなった、すなわち給付の実質価値の引き下げを早めに終えて、より高い所得代替率で安定させても、100年間の年金財政がバランスを失わないという結果になったことだ。これは朗報だ。具体的な数値を見てみよう。前回、スライド調整が27~28年間続いて所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースがあった。これと似た今回の成長型経済移行・継続ケースでは、スライド調整期間は13年間に短縮され、水準も57.6%までしか下がらない。少子高齢化が進んでいるのに、そんなうまい話があるのかといぶかる向きもあろう。だがこれには極めて強力な理由、すなわち日本人がより多く働きだしたことがある。積立金の運用が好調なことも背景にある。12年から22年にかけ、15~64歳の生産年齢人口は約600万人減っている。これに対し、就業者数は13年の6326万人から23年には6747万人へと10年間で約400万人も増えた。特に女性や高齢者の労働参加が進んでいるからだ。13年から23年にかけ、25~34歳の女性の就業率は70.7%から82.5%、55~64歳の女性では54.2%から69.6%に上昇した。男性は高齢者の就業率上昇が顕著で、60~64歳では72.2%から84.4%、65~69歳では48.8%から61.6%に急上昇した。劇的とも言える社会的な変化だろう。こうした労働参加の進展は、前回財政検証時の想定の「労働参加が進むケース」を超えたものだ。図では前回の同ケースの就業者数の想定を破線で示したが、実績(太い実線)はこれを上回る。発射台が高くなっているから、今回の「労働参加漸進シナリオ」でも、40年時点では6375万人と、前回の一番上のケースの6024万人を上回る就業者数が見込まれる。労働参加の拡大は支え手を増やすが、これは現役世代が増えるのと同じ効果を年金財政に対し有する。いわば日本の公的年金制度は労働参加の拡大により若返ったのだ。この若返り傾向がすぐに終わるかしばらく続くかは、自らの働き方に関する国民の選択次第だ。ここまでが現行制度を前提とする財政検証作業の結果の柱だ。これに対し、現行制度を変えていく議論の出発点として、いくつかの提案(オプション試算)が示された。そのうち個々人の働き方との関係が深いものを2つ見てみよう。一つは適用拡大である。適用とは、被用者保険(年金では厚生年金保険)の加入者にするということだ。具体的には、雇われて働いている第1号被保険者(一部の短時間労働者など)や第3号被保険者(パートに出ている専業主婦など)を第2号被保険者(保険料を労使折半)にすることだ。第2号被保険者になれば、基礎年金に加えて報酬比例部分を受給でき、働いて保険料を払った分だけ将来の給付を増やす道が開ける。ところが現行制度では被用者保険の適用に関し、看過し難いムラがある。同じ働き方でも、雇い主がどんな主体であるかにより差がある。例えば週20~30時間の短時間労働者の場合、企業規模が小さいと被用者保険が適用されない。個人事業主に雇用されているとフルタイムでも適用されないことがある。なるべく多くの人が被用者保険に入ることで、こうしたムラを減らしていくのが適用拡大だ。適用のムラがあると、同じ労働でもそのコストとして事業主負担のあるものとないものが生じてしまう。一物二価だ。事業主負担のない「安い労働」があれば、雇う側は労働生産性を上げる努力をしなくなる。適用拡大は、安い労働をなくして日本経済の効率向上を促すものでもある。以前よりはコスト増の価格転嫁がしやすくなっているという経済環境の変化をとらえて、早急に進めるべきだ。また被用者保険の適用がない人々の中には経済的に弱い人もいる。こうした人々に被用者保険のより強力な安全網を及ぼす(包摂する)という発想も必要だ。適用拡大には、事業主負担を回避したい企業の抵抗や個々人の心理的なものなど様々な摩擦があるが、なるべく大胆に拡大すべきだ。もう一つは在職老齢年金の見直しである。現行制度では65歳以降も就労していると、報酬比例部分がカットされる可能性がある。特に、65歳までもそれ以降も正社員の平均的な賃金(年収500万円程度)以上で働く人は、カットが大きくなる(場合によっては全額)可能性がある。現行制度は65歳以降の就労に対するペナルティーであり、今の時代に合わない。年金制度への信頼確保のためにも、速やかに撤廃すべきだ。最後に今回の新たな試みである年金額分布推計に触れる。財政検証はマクロ試算であるのに対し、年金額分布推計はミクロ試算だ。具体的には平均を求める財政検証の枠組みの中で、個々人の年金加入履歴(誰が制度間を移動するかなど)をシミュレーションし、将来の年金額の分布を推計する。推計からは、女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額の分布は、上の世代よりも受給額が増える方向にシフトすることが分かる。相対的に高い給付を受ける人の比率が上がり、低年金者の比率が下がる。こうした推計作業は、将来に不安を感じている若年層に対し、合理的なライフプランニングを支える有力な情報提供になり得る。財政検証についてはとかく所得代替率に目が行きがちだが、人々のライフプランニングを支援する貴重な情報も数多く提供されている。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240923&ng=DGKKZO83625000S4A920C2TLF000 (日経新聞 2024.9.24) 夫婦で月38万円 老後の年金十分?「不足」なら自助努力、制度の改革必須 2024年は公的年金の財政状況をチェックする5年に1度の財政検証の年にあたる。厚生労働省はこのなかで将来の給付水準の見通しを示した。現在30歳の夫婦が65歳になった時にもらえる年金額は2人あわせて月38万円。果たして、この金額でぜいたくはできるのだろうか。厚労省が7月に公表した財政検証によると、現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円。女性は同16.4万円。この2人が夫婦の場合は世帯で月38万円となる。金額は物価上昇の影響を除いて算出しているので、今の賃金や消費額との比較が可能だ。23年の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額で25万959円だ。内訳を見ると、食費や交通・通信で計4割、教養娯楽や光熱水道が1割ずつ、住居と保健医療がともに1割弱を占める。支出額だけなら月10万程度を貯蓄に回すことができる。都心の賃貸物件に暮らす場合、家賃負担が支出の大部分を占める可能性が高い。病気になって医療費が急増する可能性もある。余裕がある暮らしを送れるかは定かではない。夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」だと、受け取る年金額は月33万円だ。老後の資金繰りは共働き世帯よりも苦しくなる。もっとも月33万円を年間で換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度に相当する。ぜいたくはできないが、一定の水準は確保したとも言える。 ●経済成長が前提 これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進むという前提を置く。公的年金制度は現役世代が払う保険料を高齢者に仕送りする仕組みだ。女性や高齢者が労働参加すれば、保険料を納める担い手が増える。これによって年金額も増える。ところが、過去30年と同じ経済状況が続く場合は年金額は増えない。共働き夫婦で月25万円、モデル世帯では月21万円となる。24年のモデル世帯の支給額は23万円なので、これよりも減ってしまう。老後に関する政府の23年の調査では「全面的に公的年金に頼る」と回答した人が26.3%、「公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組み合わせる」と回答した人が53.8%いた。2019年には「老後資金2000万円問題」が提起された。公的年金だけでは余裕がある生活を送るには不十分と考え、自助努力で老後の資金を確保する人が増えている。金融相談を手掛けるブロードマインドの柴田舜太氏はファイナンシャルプランナーの立場から資産形成セミナーを午後7時から開いている。9月中旬のセミナーには30人強が参加した。柴田氏がまず説明したのが、政府が個人の資産形成として活用を促進する少額投資非課税制度(NISA)と個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)だ。さらに国内外の株式や債券に投資するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の分散投資手法についても個人が参考にすべき点を解説した。若いうちから少額を積み立てればまとまった資産になる。「時間」を味方につけた長期分散投資の効用を説いた。個人の備えと同時に、行政にできることはまだまだある。年金財政の状況は夫が会社員で妻が専業主婦のモデル世帯で判断してきた。夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。年金のモデル世帯は古いものさしとなってしまった。 ●働く意欲後押しを 公的年金制度にはいわゆる「年収の壁」など女性の労働参加の選択に影響を及ぼす制度が今も存在する。配偶者の扶養下で生活するため保険料を払わずに済む半面、年金は基礎年金だけになり老後の生活が厳しいものになるリスクもはらむ。年金を受け取りながら働き、月収との合計額が多いと年金の一部、または全額が支給停止になってしまう在職老齢年金も廃止や見直しが俎上(そじょう)にのぼる。高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘がある。男女の賃金格差の是正も課題の一つだ。国際的に見ても開きが大きい男女の賃金格差を是正し、時代に合った年金の制度改正を後押しする労働環境をつくる必要がある。日本の人口は56年に1億人を割る。現役世代が減れば年金額が減るため、不安を感じる人は多いだろう。老後の基盤を手厚くするためにも、年内に方針が固まる年金制度の見直しに注目が集まる。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15973877.html (朝日新聞 2024年7月4日) 年金見直し、実現度は 「財政検証」試算を公表 公的年金の「財政検証」の結果が3日、発表された。年金水準を維持するため、政府は、年末にかけて制度改正の中身を本格的に議論する。厚生労働省は、議論に向けて制度を見直した場合の「試算」も公表。取材に基づき、見直し対象となっている各項目の実現度を星の数で示した。国民年金(基礎年金)の支払期間を5年間延長する案は見送る。政府は厚生年金の加入対象者を増やす方針は固めており、さらなる制度改正の項目としてどのような政策を選択するのかが今後の焦点だ。(高絢実) ■公的年金将来見通しの試算4ケース 〈1〉高成長実現ケース/所得代替率56.9% 〈2〉成長型経済移行・継続ケース/57.6% 〈3〉過去30年投影ケース/50.4% 〈4〉1人あたりゼロ成長ケース/45.3% ■被用者保険の適用拡大(★★★) 政府は、厚生年金の加入対象となるパートなどの短時間労働者を増やす方針だ。現在は従業員101人以上の企業のみが対象の「週20時間以上働き、月収8万8千円以上」という基準を、企業規模に関わらず適用する。5人以上の個人事業所で働く、農業や理美容業などの人も現在は適用されないが、業種を問わず対象にする方針。現状だと、労働参加が進んだ「成長型経済移行・継続ケース〈2〉」でも所得代替率は2037年度に57.6%となり、24年度から3.6ポイント減。一方、政府方針の適用拡大=表A=では58.6%に。加えて賃金の条件を撤廃、または最低賃金が2千円程度まで上昇した場合=B=は59.3%、さらに5人未満の個人事業所にも適用=C=すると60.7%で下げ止まる。週10時間以上働く全ての労働者まで拡大=D=すると61.2%となり、24年度と同水準を維持できる。 ■マクロ経済スライド、調整期間一致(★★) 人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みは「マクロ経済スライド」と呼ばれる。財政収支が均衡するまでゆっくり「調整」(抑制)していく。国民共通の基礎年金は、低年金の人にとってより重要だ。だが、その調整期間は、基盤の弱い国民年金の財政状況で決まるため、長引いてしまう。そこで、厚生年金の積立金の活用によって調整期間を一致させる。そうして基礎年金の調整期間を早く終わらせることで、基礎年金の給付を引き上げる案だ。ケース〈2〉で3.6ポイント増の61.2%、ケース〈3〉で5.8ポイント増の56.2%まで引き上がる。基礎年金が充実するため収入の少ない人への恩恵が大きいだけでなく、生涯の平均年収が1千万円を超える人を除き、厚生年金の加入者でも年金額が引き上がる。基礎年金の半額を賄う国庫負担が増え、〈3〉で2050年度以降に1.8兆~2.6兆円になると試算された。 ■国民年金の納付期間5年延長(―) 国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を、現行の40年(20~59歳)から、45年(20~64歳)に延長する案。ケース〈2〉では64.7%(7.1ポイント増)、〈3〉では57.3%(6.9ポイント増)となる。国庫負担は徐々に増え、2069年度以降に1.3兆円増の見通し。 ■在職老齢年金の撤廃(★★) 65歳以上で働いている人の場合、賃金と厚生年金(報酬比例部分のみ)の合計が50万円を超えると、年金の一部またはすべてがカットされる。この「在職老齢年金」の仕組みを撤廃すると、働く高齢者の給付が増える一方、そのための年金財源が必要となり、将来世代の厚生年金の給付水準は、ケース〈3〉で0.5ポイント低下する。高齢者の労働参加が期待される一方、高賃金の人の優遇策だという指摘もある。 ■標準報酬月額の上限見直し(★★) 厚生年金の保険料は、月々の給料などを等級(標準報酬月額)で分け、保険料率(労使折半で18.3%)を掛けて算出する。現行の上限は65万円で到達者は全体の6.2%。この上限を引き上げ、75万円(上限到達者の割合4.0%)、83万円(同3.0%)、98万円(同2.0%)にする案を試算した。保険料収入が増え、ケース〈3〉で所得代替率が0.2~0.5ポイント改善する。 ■将来の見通し、4ケース試算 厚労省 公的年金の将来見通しについて、厚生労働省は4ケースを試算した。上から2番目の「成長型経済移行・継続ケース」は、労働参加が進み、経済成長が軌道に乗る想定。現役世代の手取りに対する年金額の割合を示す「所得代替率」は、2024年度の61・2%から57・6%(37年度)と下落幅が抑えられる。3番目の「過去30年投影ケース」は、50・4%(57年度)に落ち込む。平均的な会社員と配偶者の「モデル世帯」の年金は、年齢でどう変わるのか。一覧にまとめた。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000 (日経新聞 2024.7.4) 年金目減り、就労増で縮小 1.1%成長なら6% / 横ばいだと2割、厚労省試算、出生率の想定高く 厚生労働省は3日、公的年金制度の中長期的な見通しを示す「財政検証」の結果を公表した。一定の経済成長が続けば少子高齢化による給付水準の低下は2024年度比6%で止まるとの試算を示した。成長率がほぼ横ばいのケースでは2割近く下がる。高齢者らの就労拡大が年金財政を下支えし、いずれも前回の19年検証から減少率に縮小傾向がみられた。財政検証は年金制度が持続可能かを5年に1度、点検する仕組みだ。年金をもらう高齢者が増え、財源となる保険料を払う現役世代が減るなか、給付水準がどこまで下がるか確認する。政府・与党は検証結果を受けて年内に給付底上げ策などの改革案をまとめる。今回は経済成長率や労働参加の進展度などが異なる4つのケースごとに給付水準を計算した。指標とするのは「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す「所得代替率(総合2面きょうのことば)」だ。4ケースのうち厚労省が「めざすべき姿」とする中長期的に一定の経済成長が続く成長ケースでは37年度の所得代替率が57.6%となり、給付水準は24年度から6%低下する。成長率をより高く設定した高成長ケースでは39年度に同7%減の56.9%となる。成長ケースの方が高いのは、前提となる賃金上昇率が低い分、「賃金を上回る実質的な運用利回り(スプレッド)」が大きくなるためだ。過去30年間と同じ程度の経済状況が続く横ばいケースでは57年度に同18%減の50.4%になる。もっとも悲観的なマイナス成長ケースになると国民年金の積立金が59年度に枯渇し、制度が事実上の破綻となる。5年前は6ケースを試算した。経済成長率などの前提が異なるため単純比較はできないが、所得代替率は最高でも51.9%だった。今回の横ばいケースに近いシナリオでは政府が目標とする50%を割り込んだ。給付水準の低下率は今回より大きい傾向が示された。改善した要因は高齢者や女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がったことと、積立金が19年想定より70兆円ほど増えたことだ。成長ケースの前提条件には実現のハードルが高いものもある。60代の就業率は40年に77%と推計しており、22年から15ポイント上げる必要がある。将来の出生率は1.36としたが、23年の出生率は1.20だった。1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は01~22年度の平均がマイナス0.3%だった。出生率は早期の回復が見込みにくい。年金制度の安定には就労拡大につながる仕事と育児の両立支援や新たな年金の支え手となり得る外国人労働者の呼び込み強化といった取り組みが要る。年金の給付水準は当面、低下が続くため、あらかじめ老後資産を形成しておく重要性が増す。単身者や非正規雇用の人が低年金にならないよう給付水準の底上げへの目配りも欠かせない。財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも初めて示した。24年度は男性が14.9万円、女性は9.3万円。成長ケースでは59年度に男性が21.6万円、女性は16.4万円となり男女差が縮小する。 *1-2-3:https://ecitizen.jp/Gdp/fertility-rate-and-gdp (統計メモ帳) 世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係 合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係について相関をグラフにしてみた。まず、数字の得られる190の国と地域で散布図を描いてみた(図1)。国連による人口予測では、アフリカの人口増加が突出しているが、アフリカ諸国の多くは、貧乏で子だくさんの国が多い。グラフから見ると一人当たりGDPが数千ドルになるまでは出生率とGDPは反比例している。途上国の人口増大の問題の解決には、発展途上国の一人あたりのGDPをあげるというのが正しいアプローチである。図1のグラフではずれた位置にあるのが、一つはアンゴラ、赤道ギニア、もう一つはミャンマー、北朝鮮、モルドバである。アンゴラ、赤道ギニアは、一人当たりGDPは比較的高いが出生率も高い。その理由としては、GDPが高いのは原油の生産によるもので、アンゴラはつい最近まで、長期にわたる内戦により経済は極度に疲弊していたこともあり、石油収入が必ずしも国民の貧困解消にまで結びついていないか、GDPの増加によって出生率が低下するまでには10年ほどの期間がかかるということなので、その期間がまだ来ていないと言うことになる。一方、GDPが低いにもかかわらず出生率も低いのが、ミャンマー、北朝鮮、モルドバである。ミャンマー、北朝鮮は、圧政国家であり政治が経済を犠牲にしている国である。モルドバは、ソ連崩壊によって貧困化した国であり、資源供給などロシアに依存する面が多く、ロシア通貨危機等により経済が混乱、度重なる自然災害や沿ドニエストル紛争の影響もあって経済状態が悪化している国である。次に、一人当たりGDPが1万ドル以下の国及び赤道ギニアを除いて作成したの が図2である。GDPの割に出生率の高い国を拾うとカタール、ブルネイ、バーレーン、アラブ首長国連邦、イスラエル、サウジアラビア、オマーン、ガボン、ボツワナということになり、多くが産油国になる。一人当たりGDPというのは石油生産も含んでいるため必ずしも国民の生活の豊かさを示していない面もある。ボツワナは、ダイアモンド、銅等の鉱物資源に恵まれて他のアフリカ諸国と対照的に急速な経済発展を遂げたが、一方でエイズの影響が大きい。国連のUNAIDS(国連合同エイズ計画)によると15歳から49歳までの人の23.9%がエイズに感染しているということである。そのため、出生率は高いものの人口の増加率は高くない。国連の資料によると増加率は年1.23%である。最後に、日本を他の先進国と比較したいので産油国を除いてグラフを作成した。合計特殊出生率が1.3未満の国を一人当たりGDPが高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人となっている。東アジアと東ヨーロッパに集中している。東欧諸国では、人口が減少している国が多く、世界で人口増加率の低い順に、ウクライナ -0.72%、ブルガリア -0.59%、ロシア -0.55%、ベラルーシ -0.53%となっている。今後は、日本と韓国がその仲間入りをするであろう。日本では、不況対策のためにいろいろな政策が考えられているが、大型の公共投資をするしても、総人口の減少が加速すれば、過去のような経済の成長や拡大はもはや起こらないだろう。成熟した国であるイギリスをはじめとした西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべきであろう。なお、合計特殊出生率については、国際連合経済社会局が作成したWorld Population Prospects The 2006 Revision HighlightsのTABLE A.15を使用した。一人当たりのGDP(購買力平価PPP)についは、 世界銀行の資料を主に使用し、世界銀行の資料で数字が得られない場合には、IMF、CIAの資料の順で使用した。 *1-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240906/pol/00・・lpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月9日) 女性の「低年金」 改善されるのか、坊美生子・ニッセイ基礎研究所准主任研究員 今年7月に、5年に一度の公的年金の財政検証を政府が公表しました。今後、女性の年金を巡る状況は改善されるとしました。ニッセイ基礎研究所准主任研究員の坊美生子さんに聞きました。 ●女性の老後はこれから良くなる? ――これから女性の年金をめぐる状況は改善されるという財政検証は、実感とはあわない気がします。 ◆将来的に、世代が下れば低年金は解決していくであろうという話と、たとえば今、50歳の女性が老後にどういう状況になるかは同じ問題ではありません。財政検証ではそうした個人の視点が不足しています。財政検証をみると、現在の高齢者(65歳以上)の女性と、今、50歳の女性が65歳以上になった時をくらべると、年金水準は改善はします。たとえば年金受給月額が10万円に満たない人の割合は、現在「65歳」の女性では7割弱に上りますが、「50歳」だと6割弱に減ります。しかし、それは女性の老後が安心になるというレベルではありません。高齢女性にとって厳しい状況が続くことも確かです。厳しい老後にならないためには、今、頑張って働く必要があることに変わりはありません。 ――50歳の女性が今から働くのは難しいのではないですか。 ◆たしかに難しいのですが、私としては、50歳を過ぎても、健康上の問題などがなければ、がんばって働いてほしいと思います。 専業主婦などで、長く働いていないと一歩踏み出すのは難しいとは思います。しかし、非正規でも働けるならば働いたほうが、自身の年金を確保するためにはよいのです。そうしたからといって、老後に自立できるレベルにまでなるとは限りませんが、女性が少しでも自分の生活を守り、人生をコントロールできるようになってほしいと思います。もちろん、現在働いている人も、50歳を過ぎても、新しいチャレンジをして、賃金を上げる挑戦をしてほしいと思っています。今、しっかり働いたり、キャリアアップしたりすることが、老後の生活に大きく影響します。現在、50歳の女性はいわゆる結婚・出産退職がまだ多かった世代です。「当時の社会規範に従って、若い時に仕事を辞めたのに、今さら働けと言われても」と思う女性もいるかもしれませんが、現実問題として、ご自身の老後、特に、夫と死別したり子が独立したりして、「おひとりさま」になった後のことを考えれば、やはり50歳になっても、働くことを選択肢から外してはいけないと思います。 ●女性の非正規の人は ――女性の低年金は非正規雇用の問題と関係します。 ◆2000年代に入って非正規雇用が増えてきても、政策を作る政府の関係者には、非正規は、稼ぎ頭の夫の家計補助として、パートで働いている主婦だ、という意識が強かったのではないでしょうか。世帯単位で考えれば、正社員で働いている夫の賃金・年金があるから問題はないという考え方です。しかし実際には、夫婦が2人とも非正規で同じように家計を担っている、あるいは単身で非正規という人は多くいます。そうした人たちへの対応が遅れてきたのではないでしょうか。世帯を中心に考えてきて、個人単位の生活を想定していなかったことも、女性の低年金の問題が目に入らなかった理由ではないかと思います。 ――現実には、非正規は例外でも、家計補助のためだけでもなくなっています。 ◆ですから年金を考えるうえでも非正規雇用は無視できない要素です。近年、国が進めてきた厚生年金の適用拡大は大きな政策ですが、年金財政を改善する必要に迫られたためにやっている側面が強いと感じます。財政目線ではなく、非正規雇用の人たちの老後の生活をどうするかという、一人一人の生活者の視線はまだ薄いと感じています。 ――女性の低年金は男女の賃金格差が背景にあります。 ◆男女の賃金格差があるから、女性の年金が低いのは当然のことで、男女の賃金格差は年金の問題ではない、という考え方もあります。しかし、「男女の賃金格差が大きいのは当然」という考え方は、もはや社会的に認められないでしょう。政府は大企業の男女の賃金格差の公表(2022年7月の女性活躍推進法の厚生労働省令改正。従業員301人以上)を義務づけました。公表する際の注釈欄で、原因を分析している企業があります。自分たちで問題を認識するようになっていることは大きな進歩です。 ●リアルに伝えなければ ――今の女性は、老後は今の高齢女性より良くなると言われて納得するでしょうか。 ◆数字の上では良くなっていくのですが、国民の実感とは距離があります。本当は、財政検証のような数字と、国民の意識をつないで説明するのは政治家の仕事です。数字が実際の生活にどう反映するかを話してくれる人はいないのか、と思います。国民の反発を恐れて、政府が悪い情報を出しにくいという事情もあります。政治家も年金の話をするのは怖いのかもしれません。しかしおカネの話ですから、リアルに伝えないと、国民も必要な備えができないし、年金制度に対する信頼も結局、低下してしまいます。 ――低年金には生活保護で対応すればいいという考え方もあります。 ◆75歳以上になると、男性も女性も多くの方は体が弱り、働いて稼ぐことが難しくなってきます。ですから、もっと若い時に、あなたの老後はこうなりますと示して、備えてもらわなければなりません。「低年金の人は生活保護に回せばよい」という考え方だと、年金制度を維持することができたとしても、社会全体の仕組みとしては、生活保護の給付費が増加し、持続可能性は低くなります。将来の年金の話をする時には、今の働き方にさかのぼって論じるべきです。年金を巡る政策も、今の雇用政策ともっと結びつけるべきです。特に女性については、若い世代でも、低年金のリスクがあることが分かったので、女性の働き方が、もっと骨太になるように、女性の雇用政策を強化していくべきです。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240918&ng=DGKKZO83520370X10C24A9EP0000 (日経新聞 2024.9.18) 共働き、専業主婦の3倍に 1200万世帯超す、保育所増、育休整備進む 社会保障なお「昭和型」 夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。保育所の増設や育児休業の拡充など環境整備が進み、仕事と家庭を両立しやすくなってきたことが背景にある。ただ、社会保障や税の制度には専業主婦を前提にしたものがなお多く、時代に合わせた改革が急務となる。総務省の労働力調査によると、夫婦とも雇用者で妻が64歳以下の共働きは23年に1206万世帯と前年より15万増えた。さかのぼれる1985年以降で最多となった。夫が雇用者で妻が働いていない専業主婦世帯は最少の404万で前年より26万減っている。男女雇用機会均等法が成立した1985年時点で専業主婦は936万世帯で、共働きの718万世帯を上回っていた。90年代に逆転し、2023年までに専業主婦世帯は6割減り、共働きは7割増えた。23年の15~64歳の女性の就業率は73.3%に達し、この10年で10.9ポイント伸びた。男性の就業率は84.3%で伸びは3.5ポイントにとどまる。専業主婦世帯の割合を妻の年代別に見ると、23年に25~34歳で22.0%、35~44歳で22.9%、45~54歳で21.8%と3割を下回っている。55~64歳では30.8%と3割を超え、65歳以上では59.2%に上る。若年世帯で専業主婦は少数となっている。働く女性が増えた背景には、男女雇用機会均等法が施行され、男女ともに長く仕事を続けるという価値観が一般的に広がったことが挙げられる。同時に保育所の整備やテレワークの普及といった仕事と家庭を両立しやすい環境づくりも進展した。「人手不足のなかで、企業が女性の採用・つなぎとめを進めている」(ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員)といった側面もある。子どもが増え、教育や住居などの費用負担が高まり、子育てが一段落ついたところで共働きに転じる動きも見られる。近年の物価高がそうした動きを強めている可能性もある。共働きの女性の働き方では、週34時間以下の短時間労働が5割超を占める。25歳以上の妻で見ると、どの年代でも短時間が多い。年収は100万円台が最多で、100万円未満がその次に多い。短時間労働が多い理由の一つに、「昭和型」の社会保障や税の仕組みがいまだに残っていることがある。例えば、配偶者年金があげられる。会社員らの配偶者は年収106万円未満といった要件を満たせば年金の保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる。第3号被保険者制度と呼ばれる。第3号被保険者の保険料はフルタイムの共働き夫婦や独身者を含めた厚生年金の加入者全体で負担している。専業主婦(主夫)を優遇する仕組みとも言え、「働き控え」を招くと指摘されている。会社員の健康保険に関しても、保険料を納める会社員が養っている配偶者らを扶養家族として保障している。専業主婦(主夫)を扶養している場合は1人分の保険料で2人とも健康保険を使えるようになっている。配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は減少傾向にある。23年は事業所の49.1%で、18年と比べて6.1ポイント下がった。税制にも配偶者控除があり、給与収入が一定額以下であれば、税の軽減を受けられる。「働き過ぎない方が得だ」といった考えが残る要因とも言える。共働きが主流となり、各業界で人手不足が深刻さを増すなか、制度の見直しは欠かせない。夫婦が働きながら育児に取り組むためには、企業の長時間労働の是正や学童保育の受け皿の拡大なども急がれる。官民をあげた取り組みが不可欠となる。 *1-4:https://diamond.jp/articles/-/349523?utm_source=wknd_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20240901 (Diamond 2024.8.29) 「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング2024【年金年収200万円編】(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵) 住む場所によって年金の手取り額が異なる――。この衝撃の事実は、意外と知られていない。では、実際にどのくらいの差があるのか。過去にも本連載で取り上げ、大きな反響を呼んだ『「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング』について、国民健康保険料や介護保険料の改訂を反映した「最新版」を作成した。年金年収「200万円編」と「300万円編」の2回に分けてお届けする。まずは「200万円編」をご覧いただこう。 ●住んでいるところで、年金の「手取り額」が異なる驚愕の事実! リタイア後に受け取る年金額は、「ねんきん定期便」で知ることができる。その際に注意したいのは、ねんきん定期便に記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではないこと。年金収入にも、税金や社会保険料がかかるのだ。「年金から税金や社会保険料が引かれるのですね!知らなかった」と言う人が少なくないが、もっと驚くべき事実は、「年金の手取り額は住んでいる場所によって異なること」である。筆者は手取り計算が大好きな、自称“手取リスト”のファイナンシャルプランナー(FP)だ。本連載でも「給与収入の手取り」、「パート収入の手取り」、「退職金の手取り」など、さまざまな手取り額を試算している。今回は、47都道府県の県庁所在地別の「年金の手取り額ランキング」をお伝えする。同じ年金収入で手取り額に結構な差が発生することを仕組みとともに解説しよう。年金の手取り額は、次のように算出する。「年金の手取り額=額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」。同じ年金収入で手取り額が異なる要因は、意外にも税金ではなく、社会保険料にある。ちまたでは「住民税は、自治体によって高い、安いがある」と言われているが、これは都市伝説であり、事実と異なる。住民税は、全国どこに住んでいても原則として同じ(均等割の非課税要件など細かい部分で違いはあるが、所得にかかる税率は変わらない)。所得税も同様に、どこに住んでいても計算方法は同じだ。ところが、国民健康保険料と介護保険料は自治体により保険料の計算式や料率が異なり、手取り額に結構な差が発生する。そして、高齢化が進んでいるため、国民健康保険と介護保険の保険料が上がり続けていることも見逃せない。国民健康保険料は毎年見直され、介護保険料は3年に1回の見直しされ、今年がそのタイミングだ。最新の保険料が公表されたので、本連載では「額面年金収入200万円」と「額面年金収入300万円」の二つのケースについて、50の自治体の手取り額を試算した。今回と次回(9月12日(木)配信予定)の2回にわたって、ランキング形式で紹介する。 ●「額面年金収入200万円」ってどんな人? 50の自治体の手取り額を徹底調査! ランキングを見る前に、今回の調査方法と試算の条件について説明しておこう。額面年金収入200万円のケースは、22歳から60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円の人を想定した。そういう人が65歳から受け取る公的年金の額(老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計)が200万円という水準。イメージとしては、定年退職前の額面年収が800万円くらいの人だ。一方、次回紹介する額面年金収入300万円のケースは、公的年金に加えて企業年金や、確定拠出年金(DC)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、退職金などの年金受取があり、合計で300万円になる人を想定した。ランキング対象は、合計50の自治体。46道府県の県庁所在地と東京都内の4区だ。東京都は23区がそれぞれ独立した自治体なので、東西のビジネス街と住宅街の代表として、千代田区、墨田区、新宿区、杉並区を調査した。国民健康保険料と介護保険料は、ダイヤモンド編集部が各自治体にアンケート調査を依頼し、その保険料データを基に筆者が税額を計算して手取り額を算出した。なお、期日までに未回答だった自治体については市区のウェブサイトを参照の上、それぞれのケースの保険料を算出している。試算条件は、60代後半の年金生活者で、妻は基礎年金のみ。夫の手取り額を試算し、「少ない順番」でランキングしている。それでは、結果をご覧いただきたい。 ●ワースト1位は大阪市! 年金の手取り額は? まず、ワースト1位から25位まで見てみよう。表には、額面年金収入200万円に対する「手取り額」、「社会保険料の合計額」、「税金」、「手取り率(収入に対しての手取りの割合)」を掲載している。税金がゼロであることに注目したい。今回の50の自治体のケースでは、200万円の年金収入(公的年金扱いになる国の年金や企業年金などの合計)から社会保険料を差し引き、配偶者控除を受けると、所得税、住民税ともにゼロとなった。過去にも何回か実施しているランキングだが、大阪市は不動のワースト1で手取り額が少ない。大阪市の財政状況が良くないことが影響しているのだろう。2位から25位までは、数千円の差で過去のランキングと順位が入れ替わっている。ワースト1の大阪市の「手取り率」は89.8%。これをいったん記憶してほしい。筆者はFPになったばかりの頃(28年前)に、自治体によって国民健康保険料の差があることに気が付き、いくつかの大都市の保険料を定点観測していたのだが(変わり者のFPだ)、当時から大阪市は東京23区や横浜市に比べて、ダントツに保険料が高かったことを記憶している。国民健康保険料は、所得割(所得に応じて計算)と応益割(収入がなくても一律に定額がかかるもの。被保険者の数に応じてかかる均等割や世帯ごとにかかる平等割など)の合計額で算出される。このうち、所得割は総所得に料率を掛けて計算する。年金収入だけの人なら「公的年金等の収入-公的年金等控除額-住民税の基礎控除43万円」を指す。以前は、所得ではなく住民税に料率を掛けて算出する自治体があり、東京23区がそうであった。「住民税方式」だと、扶養家族が複数いたり、所得控除が多かったりすると、住民税が少なくなり、それに連動して保険料も安くなる。ところが、15年くらい前に「住民税方式」を採用する自治体はほぼなくなり、代わりに「総所得方式」を採用することになったのだ。扶養控除は反映されないため、扶養家族のいる人にとっては、保険料の負担増につながっている。ともかく、国民健康保険料の計算は複雑。自身のケースを試算したい場合は、お住まいの自治体のウェブサイトで確認しよう。親切な自治体は、保険料シミュレーターを掲載しているので、活用するといい。では、ワースト26位から50位も見てみよう。 ●手取り額が多いのはどの自治体? 手取り率の違いは? ワーストランキング下位、つまり「手取り額」の多い自治体は、1位名古屋市、2位長野市、3位鳥取市という結果になった。とはいっても数千円の差があるくらいだ。ワースト1位の大阪市の手取り額は、179万5225円。手取り額が最も多いワースト50位の名古屋市は、186万5110円で、その差は6万9885円だ。額面の年金額が同じでも約7万円の手取り額の差が出る結果となった。収入200万円に対する7万円は、3.5%。大きな「格差」といってもいいだろう。手取り率にも注目したい。ワースト上位3位までは89.8~91.4%で、ワースト下位3自治体では93.2~93.3%となっている。年金収入が200万円くらいの人は、手取り率が概算で90%前後と覚えておくといいだろう。 ●国民健康保険料と介護保険料 手取りを左右する「格差」は大きい! 最後に、国民健康保険料と介護保険料のワースト3とベスト3を見てみよう。国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は、約5万円。2倍近い差となっている。介護保険料が最も高いさいたま市と最も少ない山口市との差額は、約3万円という結果になった。年金の手取り額の多寡だけでリタイア後の住まいを決めることはできないが、自治体によって、国民健康保険料と介護保険料が異なることは知っておきたい。額面年金収入が異なると、社会保険料負担割合も変わってくるため、手取り額ランキングの結果は違ったものとなる。 <老後資金について> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.4) 老後資金の底上げ急ぐ 年金、OECD平均の6割、パート加入要件緩和 自己資産づくり促す 厚生労働省が3日公表した公的年金の財政検証結果は5年前に比べて改善傾向がみられたものの、給付水準の低下が当面続くことも示した。政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩め、「支え手」を広げることで制度の安定をめざす。老後に備えて自己資産を形成する重要性も呼びかける。厚生年金に入っていない自営業者らが加入する国民年金(基礎年金)は現在、満額で月6.8万円だ。この給付水準は少子高齢化が進むにつれ、さらに下がっていく。やむなく非正規雇用になった人が多い「就職氷河期世代」は現在50歳前後で、生活資金を年金に頼る時期が近づきつつある。少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要性が増している。日本の年金水準は国際的に見ても低い。現役世代の収入に対する年金額の割合である「所得代替率」を経済協力開発機構(OECD)の基準でみると一目瞭然だ。単身世帯の場合、日本は32.4%で欧米などOECD加盟国平均の50.7%の6割程度の水準にとどまる。今回の財政検証は5つの改革案を実施した場合の効果を試算した。1つは厚生年金に加入する労働者を増やす案だ。10月時点の加入要件は(1)従業員51人以上の企業に勤務(2)月収8.8万円以上――など。このうち企業規模の要件について政府は撤廃する方針を固めている。財政検証結果によると、企業規模の要件を廃止し、さらに5人以上の全業種の個人事業所に適用した場合、新たに90万人が厚生年金の加入対象となる。成長ケースの試算では基礎年金の所得代替率を1ポイント押し上げる効果があった。賃金や労働時間に関する要件を外して週10時間以上働く全員を対象にすると、新たに860万人が加入することになる。このときの所得代替率は3.6ポイント上がる。財政検証は基礎年金を底上げする別の改革案も試算した。「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金水準を抑制する仕組みについて、基礎年金に適用する期間を短くする案では所得代替率が3.6ポイント上昇する効果がみられた。厚生年金を引き上げる案もある。厚生年金の保険料は月収などから算出する「標準額」に18.3%をかけた金額を労使折半で負担する。この標準額の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると、横ばいケースの所得代替率は0.2~0.5ポイント改善する。改革案には反発もある。基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担が増すため、財源確保が必要になる。増税論につながりやすく、実現には政治的なハードルが高い。基礎年金の抑制期間短縮案も、保険料納付の延長案も、新たに必要な財源はそれぞれ年1兆円を超える。権丈善一慶大教授は「税を含めた一体的な会議体で議論をするのが妥当ではないか」と指摘する。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1273939 (佐賀新聞 2024/7/4) 【年金財政検証】「100年安心」綱渡り、心もとない老後の暮らし 政府は、公的年金について5年に1度の「健康診断」に当たる財政検証の結果を発表した。給付水準は目標とする「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った。ただモデル世帯の給付水準は現在若い人ほど低くなり、老後の暮らしは心もとない。出生率や経済成長の想定が甘いとも指摘され、政府が掲げる金看板「100年安心」は綱渡りとなる可能性をはらむ。 ▽公約 「将来にわたって50%を確保できる。今後100年間の持続可能性が改めて確認された」。林芳正官房長官は3日の記者会見で財政検証の評価を問われて、こう述べた。100年安心は小泉政権が2004年に実施した年金制度改革で、事実上の公約となった。現役世代の平均手取り収入に対する給付水準(所得代替率)の「50%以上の維持」が根幹部分となっている。今回、目標をぎりぎりでクリア。政府内には安堵感が広がる。経済成長が標準的なケースで厚生年金のモデル世帯の給付水準は33年後に50・4%となり、前回検証の類似したケースと比べても改善した。外国人や女性も含め働く人が将来700万人余り増え、保険料収入が増加すると見込んだことなどが要因に挙げられる。 ▽働き続ける ただ「50%以上の維持」は、年金の受給開始時の状況に過ぎない。給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」などの影響で、年齢を重ねるごとに給付水準は低下する。モデル世帯について5歳刻みの推移を見ると、現在65歳の人の給付水準は61・2%だが、80歳になると55・5%に下がる。若い世代ほど給付水準が低くなる特徴もある。現在50歳の人は、受給開始時の65歳で56・7%、80歳になると50%を割る。現在30歳なら65歳で50・4%、80歳では46・8%に落ち込む。このため政府は新たな少額投資非課税制度(NISA)など老後への備えを呼びかけている。厚生年金に加入せず国民年金(基礎年金)だけに頼る人はさらに厳しい。埼玉県深谷市の塗装業片平裕二さん(49)は「年金は当てにできない」と言う。子ども3人を育て家計に余裕はなく貯蓄は難しい。「健康でいられる限り働き続けるしかない」と話した。 ▽願望 検証の前提条件を疑問視する声もある。女性1人が産む子どもの推定人数の出生率は23年が過去最低の1・20だったのに対し、1・36と想定。政府が少子化対策を策定したとはいえ、日本総合研究所の西沢和彦理事は「若者の結婚や出産への意欲は低下しており、検証の想定には願望が含まれている」と批判した。他にも実質賃金は減少が続くのにプラスと仮定しているほか、外国人労働者の増加や株高も見込む。どれか一つでも目算が狂えば、受給開始時の50%割れが現実味を帯びる。焦点は制度改革に移る。ただ武見敬三厚生労働相は3日、国民年金保険料の納付期間5年延長案に関し「必要性は乏しい」と見送りを表明した。実施するには、自営業者らの保険料が計約100万円増え、巨額の公費も必要。与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説した。厚労省は、パートら短時間労働者の厚生年金の加入拡大を進める。一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃する方針で、保険料を折半する中小企業は反発する。マクロ経済スライドの見直しも国庫負担増が課題となるなど、年末に向けた議論は曲折が予想される。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000&ng=DGKKZO81842610U4A700C2MM8000&ue=DMM8000 (日経新聞 2024.7.4) 「65歳まで納付」案見送り 厚生労働省は2025年の年金制度改正案について、国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現行の40年から45年に延長する案を見送ると決めた。他の改革案で一定の給付底上げ効果が見込めるとわかり、負担増への反発も考慮し判断した。厚労省は3日に公表した財政検証結果で、支払期間を65歳になるまで5年延長した場合の給付水準などの見通しを示した。一定の経済成長が進むケースでは将来の年金の給付水準が12%上がる効果が見込まれた。一方で、保険料負担は5年間で100万円ほど増すため「低所得者の負担が大きい」との指摘が出ていた。長期的に年1.3兆円の追加財源も必要で、自民党内に慎重論があった。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83770730Z20C24A9PE8000 (日経新聞社説 2024.9.30) 「会計ビッグバン」を加速し意見を世界に 企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。20年余りの改革で残った主要項目のひとつだった基準改正が13日、日本の会計基準をつくる企業会計基準委員会(ASBJ)から発表された。企業が事業用に借りる建物や設備などリース資産に関する会計処理だ。企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。現在も中途解約できず購入に近いリースについては、貸借対照表に計上されている。新基準では、中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する。2027年度から適用が始まる。約1万社が対応を求められ、自己資本比率が半減する例も予想されるなど影響は大きい。丁寧な説明が必要だ。商船三井が新基準を踏まえた見込み資産量と総資産利益率(ROA)目標の開示を始めたのは参考になる。新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS)だ。同基準では19年にリースのオンバランス化が始まった。日本の会計処理が異なると企業の信頼が下がりかねなかっただけに、国際標準に合わせるのは賢明な措置だ。欧米の主要な官民の市場関係者は01年からIFRSづくりを本格的に始めた。折しも日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた。日本はIFRSを改革の先導役と位置づけ、当初から基準設定の議論に専従者を送り、その決定に基づき日本基準の改革を進めてきた。資産価値の変動が財務諸表に反映されやすくなったことなどは、IFRSの影響を受けている。今後は企業買収に関する会計処理なども、国際的な視点で検討を進めてほしい。IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める。今ではIFRSをそのまま使う日本の大企業も増えており、官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい。会計の知見を備えた人材の育成や国際会議での意見発信に、官民が一段と取り組むべきだ。 <高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842330U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 公的年金頼み限界 老後の生活資金を公的年金だけに頼るのには限界がある。財政検証結果によると公的年金の給付水準は経済条件が良いシナリオでも2030年代後半まで下がり続ける。順調にいっても夫婦2人で現役世代の5~6割という給付水準だ。重要性が増しているのは企業年金や個人年金といった任意で加入する私的年金で自己資産を厚くし、老後の生活資金を補完することだ。公的年金以外の所得がない高齢者世帯は足元で4割強を占める。30年間で10ポイントほど減ったとはいえ、所得代替率が50~60%にすぎない公的年金になお依存する傾向がある。総務省がまとめた23年の家計調査によると無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字だった。貯蓄などを取り崩して生活するケースが多いことがうかがえる。厚生労働省は財政検証結果を受けた25年の公的年金制度改正に合わせ、私的年金制度の改革に取り組む。具体的には加入者自らが運用商品などを選び、その成果によって受け取る年金額が変わる企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の拡充を進める。イデコは原則60歳までは引き出せないものの、掛け金の全額が所得税の控除対象となり、運用益は非課税となるなど税控除のメリットが大きい。政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積み立てて資産を増やせるようにする。与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべきだ」という主張も出始めている。 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301634 (佐賀新聞 2024/8/15) 高齢者の定義年齢に引き上げ論、人手不足解消、警戒感も 65歳以上と定義されることが多い高齢者の年齢を引き上げるべきだとの声が経済界から上がっている。政府内では人口減少による人手不足の解消や、社会保障の担い手を増やすことにつながるとの期待が高まる一方、交流サイト(SNS)を中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も広がる。高齢者の年齢は法律によって異なる。仮に年齢引き上げの動きが出てくれば、60歳が多い企業の定年や、原則65歳の年金受給開始年齢の引き上げにつながる可能性がある。見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた。定義見直しには踏み込まなかったものの、社会保障や財政を長期で持続させるためには高齢者就労の拡大が重要との考えを示した。骨太方針の議論の中で経済財政諮問会議の民間議員は「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべきだ」と提言。経済同友会の新浪剛史代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた。背景には働き手不足への危機感がある。内閣府の試算では、70代前半の労働参加率は45年度に56%程度となる姿を描く。経済界以外からも提案があった。高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会は6月、医療の進歩などによる心身の若返りを踏まえて75歳以上が高齢者だとした17年の提言が「現在も妥当」との検証結果をまとめた。SNSでは「悠々自適の老後は存在しない」などとネガティブな反応が目立つ。低年金により仕方なく働く高齢者も少なくない。内閣府幹部は「元気で意欲のある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリング(学び直し)の徹底などが重い課題となりそうだ。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83491810W4A910C2MM8000 (日経新聞 2024.9.16) 働く高齢者、最多の914万人 昨年、4人に1人が就業 総務省は16日の「敬老の日」にあわせ、65歳以上の高齢者に関する統計を公表した。2023年の65歳以上の就業者数は22年に比べて2万人増の914万人だった。20年連続で増加し、過去最多を更新した。高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52%と2人に1人が働いている。定年を延長する企業が増加し高齢者が働く環境が整ってきた。高齢者の働き手が人手不足を補う。年齢別の就業率は60~64歳は74%、70~74歳は34%、後期高齢者の75歳以上は11.4%といずれも上昇し、過去最高となった。23年の就業者数のなかの働く高齢者の割合は13.5%だった。就業者の7人に1人を高齢者が占める。65歳以上の就業者のうち、役員を除く雇用者を雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員が76.8%を占めた。産業別では「卸売業、小売業」が132万人と最も多く、「医療、福祉」が107万人、「サービス業」が104万人と続いた。「医療、福祉」に従事する高齢者の数は増えた。13年からの10年間でおよそ2.4倍となった。15日時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者人口は前年比2万人増の3625万人と過去最多だった。総人口に占める割合は前年から0.2ポイント上昇の29.3%で過去最高を記録した。65歳以上人口の割合は日本が世界で突出する。人口10万人以上の200カ国・地域で日本が首位に立った。 <社会保障の支え手について> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842300U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 高齢者の就労後押し 「働き損」制度の撤廃試算 今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象にした。一定の給与所得がある高齢者の年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」の撤廃案だ。現行制度では65歳以上の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金額が減る。これが高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘があった。撤廃した場合、厚生年金部分の所得代替率は横ばいケースで29年度に0.5ポイント下がる。所得の高い高齢者の就労を後押しする一方で、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要になるためだ。年金水準の低下と引き換えに、就労拡大を進める案となる。人手不足対策としては、会社員らの配偶者が年金保険料を納めずに基礎年金を受け取る「第3号被保険者制度」の廃止論もある。この制度があるために労働時間を保険料負担が発生しない範囲にとどめる人がおり、就労拡大を妨げる一因になるからだ。厚労省は撤廃に慎重な姿勢を崩していない。対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しいとみている。しばらくはパート労働者が厚生年金に入る要件を緩めることで、第3号の対象者を減らしていく方向だ。財政検証結果によると第3号の対象者は40年度に現在の半分近くに減る見通しだが、それでもなお371万人が残る。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81840020T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 外国人材、40年に97万人不足 推計、前回から倍増 政府がめざす経済成長を達成するには2040年に外国人労働者が688万人必要との推計を国際協力機構(JICA)などがまとめた。人材供給の見通しは591万人で97万人が不足する。国際的な人材獲得競争が激化するなか、労働力を確保するには受け入れ環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要となる。22年に公表した前回推計は40年時点で42万人が不足するとしていた。今回はアジア各国から来日する労働者数が前回推計よりも減ると見込んだ。為替相場変動の影響は加味しておらず不足人数は膨らむ可能性がある。推計では政府が19年の年金財政検証で示した「成長実現ケース」に基づき、国内総生産(GDP)の年平均1.24%の成長を目標に設定した。機械化や自動化がこれまで以上のペースで進んだとしても30年に419万人、40年に688万人の外国人労働者が必要と算出した。前回推計は674万人としていた。海外からの人材供給の見通しも検討した。アジア各国の成長予測が前回推計時より鈍化し、出国者数は減少すると推測した。この結果、外国人労働者は30年に342万人、40年に591万人と前回推計より減った。必要人数と比べると、30年に77万人、40年に97万人不足する。外国人材を確保する方法の一つは来日人数を増やすことだが、少子化に悩む韓国や台湾も受け入れを拡大している。もう一つは来日した外国人に長くとどまってもらうことだ。今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定した。3年を超えて日本で働く割合が大きくなれば不足数は縮小する。政府も動き出している。27年をめどに技能実習に代わる新制度「育成就労」を導入。特定技能と対象業種をそろえ、3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替えやすくする。こうした政策面の変化は今回の推計には反映されていない。課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だ。経営に余裕のない中小零細企業が自前で教育するのは容易でない。自治体主導で複数の企業が学習機会を設けるなど、官民で環境整備に努める必要がある。 *4-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240909/po・・aign=mailpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月10日) 「日本にいる外国人」への政策は 国境管理と社会統合政策、橋本直子・国際基督教大学准教授 外国人の入国をどうするかという国境管理と、入国した後、日本でどう暮らすかという二つの側面があります。国際基督教大学准教授の橋本直子さんに聞きました。 ◇ ◇ ◇ ――受け入れ後の政策はあまりみえません。 ◆難民として受け入れられたわけではない、日本にいる一般的な外国人への社会統合政策は、長年ほぼなかったと言えます。 最近できた「特定技能」については、少し政策が進みましたが、一般的な外国人の受け入れ後の研修は、日本が長年やってきた難民への生活オリエンテーションの経験からもっと学べる部分があります。今後、日本が外国人の受け入れを増やすのは既定路線です。しかし、受け入れ後の実態や日本社会への影響は十分把握されていません。たとえば、外国人を入れると賃金が下がると言う人がいますが、明確な根拠はありません。まずデータが必要です。 ●居場所はあるか ――政策の空白ですね。 ◆西欧諸国では長年の苦い経験を経て、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが、実質的に義務付けられている国がほとんどです。そのために、中央政府、受け入れ自治体、外国人本人の間で、きめ細かな仕組みが作られています。日本にはそのような工夫が欠けています。日本でも外国人が多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけてほしいということです。日本にいる外国人に対して政策的な支援がなければ、当然、厳しい状況におかれます。すると、国内から、「入国させるな」というような排外的な主張が出てきます。国境をどう管理するかは、既に国内にいる外国人との共生がうまくいっているかが、おおいに影響します。日本社会のなかで外国人に居場所があり、そのことが国民にきちんと理解されることが重要です。 ●「移民政策はとらない」 ――日本は「移民政策をとらない」ことになっています。 ◆特殊な定義に基づく「移民政策」をとらない建前があるから、社会統合政策を長年やってきませんでした。「いつかは帰る出稼ぎ労働者だから」、国はなにもやらない、自治体や企業、NGOやNPOに任せておけというのが、この30年ぐらいの日本でした。移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れることほど、最悪の政策はありません。欧州が1970年代から犯した過ちを繰り返してきました。2018年ごろからようやく日本でも動きだしたかな、というのが現在地だと思います。 ●現地職員をどうする ――海外にある日本の大使館や国際協力機構、NGOなどで働いていた現地職員の退避と受け入れの態勢が整えられていません。 ◆日本の組織と協力したために迫害を受けるおそれが高まるケースはアフガニスタンで問題になりましたが、今後も起きえます。こうした人たちをどのような立場で日本に受け入れるかは空白状態です。これでは、優秀な現地職員は日本の組織では働かない方がよい、となってしまいます。一刻も早い整備が必要です。 *4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83485820V10C24A9CK8000 (日経新聞 2024.9.16) 留学生受け入れの課題 就職・定住一体で進めよ、浜名篤・関西国際大学長 各国の間で留学生の獲得競争が激しくなっている。関西国際大学の浜名篤学長は教育政策の枠を超え、就職・定住の促進策と一体で留学生の受け入れを進めないと日本は後れをとりかねないと指摘する。少子高齢化や景気回復で労働力不足が深刻化している。政府は特定技能制度で一定の専門性がある労働者を受け入れ、家族の帯同や無制限のビザ更新にも道を開いた。同制度による来日は増えている。他方、日本国内の大学や大学院で学ぶ留学生の増加には必ずしも成功していない。2023年5月現在の外国人留学生は27万9000人と新型コロナウイルス禍による減少から回復している。だが、このうち大学セクター(大学院・大学・短期大学・高等専門学校等)は約半分の14万人規模にとどまる。日本語教育機関が約9万人と32%を占めるが、コロナ禍中の留学待機者が大挙して来日したことが背景にあり、今後は減る見込みという。日本語学校や専門学校を含めた「水増し」の尺度で考えることはやめ、大学への受け入れ増に本腰を入れるべきだ。筆者は国際教育に力を入れる地方中小大学の学長であり、高等教育研究者として大学政策の国際比較に取り組んできた。本稿では海外調査で得た知見も踏まえ、日本の留学生政策の課題を考える。直面している課題は3つある。第1は、留学先としての日本の魅力低下だ。かつて円高の時代には、母国への仕送りを目的にアジア諸国から日本に留学する人が相当数いたと思われる。現在の日本では給与水準がお隣の韓国を下回るケースが多い。日本学生支援機構の調査結果から留学生の卒業後の進路を見ると、22年度に大学を卒業した約1万6000人のうち、日本で就職したのは38%にすぎない。進学者(21%)を含めても6割弱しか正規ビザを更新できていない。第2に、日本では学位(修士、博士)の評価が低い。台湾では公務員と教員の7割以上が修士以上の学位を取得しており、学位を得ると昇給・昇進が早くなる。公務員は週1日、大学院通学のための休暇が認められる。利用する人が多く、政府高官が「業務に支障をきたすことがある」と嘆くほどだ。留学生大国といわれる英国では1年で修士の学位が取得できる。このため留学生は学部ではなく大学院を選ぶ傾向がある。先ほどの学生支援機構の調査によると、卒業後に日本で就職・進学してとどまる割合は修士課程修了では49%、博士課程修了では34%に低下する。院卒者の処遇と就業機会が不十分だからだろう。第3に、留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないことがある。カナダの教育テクノロジー企業アプライボードの調査によると、留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位には学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)などが並ぶ。つまり就職しやすくすることが重要であり、これは教育政策の範囲を超える。各国はこうした点にも目配りして留学生の獲得を競っている。まず、日本と同様に18歳人口減少に苦しむ韓国を見てみよう。20年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の統計によると、世界の留学生に占める韓国のシェアは13位で、中国や日本を下回った。そこで教育部(日本の文部科学省に相当)は23年8月に「留学生教育競争力引き上げ方案」を公表。22年で16万7000人の留学生を27年までに30万人に増やし、「世界10大留学強国」を目指すとした。「方案」には大学・企業・地方自治体の連携を前提にした具体的な戦略が盛り込まれている。地域ごとに「海外人材に特化した教育国際化特区」を指定し、地域の発展戦略とも連携させて留学生の誘致を進めるのはその一例だ。学業支援では在学中のインターンシップなどの機会を大幅に増やし、多くの分野の仕事に触れる機会を提供する。いつ、どこでも韓国語を学べるようテキスト・授業のデジタル化を進め、韓国語能力試験TOPIKもコンピューターで実施する方式にする。就職支援も強化し、中小企業などに就職する場合の特典の付与なども検討する。留学生獲得は人口減少国に限った政策ではない。人口増が続くマレーシアは私立大学の新設認可の条件に「留学生10%以上」という条件を付け、20年に国全体の留学生割合10%を達成した。25年までに25万人の受け入れを目標にしている。日本はどうか。40年の高等教育のあり方を議論している中央教育審議会の特別部会は8月に中間まとめを公表した。そこでは「留学生や社会人をはじめとした多様な学生の受け入れ促進」の重要性を指摘しているが、大学などに努力を求めるだけで具体策はみられない。中間まとめは40年の大学入学者数を留学生を含めても22年度比で2割減と試算する。せめてその半分、1割相当の留学生を獲得する発想がほしい。留学生比率に関する現在の政府目標(33年に学部で5%)は消極的すぎる。日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化、価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要だ。留学生の受け入れは教育上の課題であるとともに、喫緊の社会課題であり産業政策や労働政策、地域振興と一体で進めることが欠かせない。文科省の所管事項と矮小(わいしょう)化せず、法務・厚労・経済産業の各省や自治体も含め、国を挙げて取り組むことが必要だ。具体的には、日本で学位を取得した留学生がフルタイムで就職すれば就労ビザを出すことを制度化してはどうか。文科省が進める地域の「産官学プラットフォーム」を活用して有償インターンシップの機会を設け、収入の確保と就職のミスマッチ防止につなげてもよい。留学ビザの審査期間短縮も有効だ。留学生獲得を巡る国・地域間の競争は激化している。アニメやポップカルチャーをきっかけに日本に関心を持つ海外の若者がいる間に真に有効な施策を講じないと手遅れになる。そんな危機感を強くしている。 *4-4-2:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107061 (日本総研 2024年1月17日) 「私立大学の過半が定員割れ」が示唆するわが国の課題 ―教育効果の客観的把握と情報開示で「大学の供給過剰」是正を― 今年度、全国の私立大学の 53.3%において、入学者数が定員割れとなったことが明らかになった。現実には、地方の中小私立大学ほど経営が悪化し、公立大学化を模索する動きが後を絶たないが、それでは税金を使って、減る一方の学生の奪い合いをしているだけで、問題の本質的な解決とはならない。世界最悪の財政事情にあるわが国にとってはなおのこと、適切な対応ではない。少子化は今に始まった話ではない。しかしながら、文部科学省は 2018 年に中央教育審議会においてとりまとめた「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」において「18 歳で入学する日本人を主に想定する従来のモデルからの脱却」を目標に据えた。これは「留学生頼み」「リカレント頼み」で、国全体としての大学の定員の縮小には手を付けずにすむと見立てたものであったが、その後の現実は厳しい。わが国全体として研究力の低下が近年著しいなか、わが国を選ぶ留学生は思うようには伸びておらず、社会人のリカレント需要を合わせても、国全体としての大幅な「定員割れ」を埋められる学生数を集めるには到底至っていない。大学の定員は「まず学費の安い国公立大学から、都市部の大学から埋まる」現実があり、とりわけ地方の中小私立大学が厳しい調整圧力に晒される結果となっている。しかしながら、地方にも大学は必要であり、入学定員の適切な設定は、国公立大学も含む各大学の教育の成果を維持するうえでも必要なはずである。大学の定員の適正化に、国全体として取り組む必要がある。現状のように「当事者である大学任せ」では、各大学とも学生の定員減が教員数の削減につながるため後ろ向きとなりがちな実態があり、国が果たすべき役割は大きい。諸外国ですでに取り組まれているように、高等教育の客観的な評価を行う枠組みを確立して、その結果を各大学ごと、学部ごと、専攻ごとに、全国で横並びで公表し、「志願者による選別」を促すことで、国全体としての定員の適正化につなげるべきである。わが国の高等教育の機能を維持し、質の向上を図りつつ、大学の供給過剰状態を是正していくことは、わが国社会の活力を維持し、経済の生産性を高めていくうえでも、喫緊の課題であるといえよう。
| 年金・社会保障::2019.7~ | 11:40 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2024,07,06, Saturday
このところ多忙だったため2ヶ月近くもかかりましたが、やっと工事完了となりました。
![]() (1)経済におけるイノベーション(技術革新)の重要性 ![]() ![]() ![]() ![]() 2022.7.25東洋経済 2023.12.25読売新聞 キャノン・グローバル研 2024.6.13日経新聞 (図の説明:1番左の図は、主要国の1990~2021年までの名目1人当たりGDPの推移で、左から2番目の図は、2022年の主要国名目1人当たりGDPだが、この2つから、日本は名目でも著しく順位を下げたことがわかる。また、右から2番目の図は、購買力平価による1人当たりGDPの推移で、購買力平価による日本の伸びも他国と比較して緩やかだ。1番右の図は、人口増加率とイノベーションの関係で、OECD諸国ではこの2つに相関関係のないことがわかる) *1-1は、①経済停滞の原因はイノベーションの欠如 ②技術革新はミクロで、人口動態とは無関係 ③民間企業が主役だが金融や国も役割重要 として、具体的に、④2023年にドイツ(人口は日本の2/3)とGDPが逆転し、日本経済の凋落が続いている ⑤2025年にはインドにも抜かれて日本のGDPは世界5位となる見通し ⑥生活水準と密接な関係を持つ名目GDP/人は、2000年は世界2位、2010年18位、2021年28位まで転落した ⑦購買力平価ベースでは世界38位で、アジアの中でもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に及ばない ⑧GDP/人の水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではなく、「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP) ⑨全要素生産性上昇はイノベーション(技術革新)に依る ⑩日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である ⑪OECD諸国のグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率は相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係がある ⑫日本経済の将来を考えると、人口減少を言い訳にせず、民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要 ⑬日本で生じている人口減少は省力化イノベーションを促す ⑭高齢者増加は高齢者特有の財・サービス提供や介護のハイテク技術活用等を必要とする ⑮日本が抱える人口減少や高齢化の課題は、イノベーションを生みだす素地である ⑯経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくため金融機関の果たす役割も重要 ⑰政府が時代の変化に対応できなければイノベーションを阻害して国力低下を招く と記載している。 上の①~⑰は、全くそのとおりで賛成だ。つまり、国内で誤りを100万回述べても、結果として統計上に表される事実は変わらないため、これまで人口減少を経済停滞の原因として語ってきた無能な政治家・官僚・メディア関係者・経済学者は、誤った情報を無批判に垂れ流し、国民をミスリードして貧しくさせた責任をとって、意志決定する第一線から退くべきである。 特に、⑥のように、1人当たりの名目GDPは2000年の世界第2位から2021年には世界第28位まで転落し、⑦のように、購買力平価ベースでは、世界38位となってシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)にも及ばなくなったのだ。 その理由は、政府の無駄使いによって、日本の国債残高の対GDP比が251.9%と世界第2位のイタリア143.2%を大きく引き離して世界第1位となり、財務省はじめ日本政府は「国民全体が貧しくなれば文句は出ないだろう」と考えて金融緩和を続け、これに他国への制裁返しも加わって、著しい物価上昇を引き起こすことによるステルス増税を行なってきたからで、ここに国民の生活や福利の向上という理念は全く見られないのである。 また、⑧⑨⑩のように、GDP/人の水準を決めるのは、全要素生産性(TFP)であり、全要素生産性上昇はイノベーションに依るのに、(後で詳しく述べるが)日本政府は現状維持に汲々としてイノベーションを阻害する政策をとり、経済を停滞させる政策が多かったのだ。何故か? その上、⑪のように、人口増加率の高さは先進国ではイノベーションとは相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係があるのに、各国の人口動態や日本の食料自給率・地球の食料生産力を考えることもなく、「人口減少が問題だ」と叫んできたリーダーは、無知というより故意であろう。何のために、そういうことをしたのだろうか? (2)イノベーションの具体的事例 1)環境は、イノベーションの宝庫だったこと ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.7.3、2023.8.25日経新聞 2024.7.5日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、既に再エネ技術はあるのに、新規再エネ導入容量で日本は停滞し、炭素価格《=環境意識》はアジア各国より見劣りする。また、左から2番目の図のように、建物の断熱・設備の省エネ・再エネ・EV利用によって安全で環境にも財布にもやさしいエネルギー政策ができるのに、これらの技術進歩は遅遅としている。そして、右から2番目と1番右の図のように、再エネと比較して危険性が高く、2050年頃にやっと発電の実証実験ができるとされている核融合発電に膨大な国費を投入しているのだ) *1-2-1は、①政府が環境政策の長期的な指針である第6次環境基本計画(以下“計画”)を閣議決定 ②現代社会は気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面と指摘 ③人類活動の環境影響は地球の許容力を超えつつある ④計画は天然資源の浪費や地球環境を破壊しつつ「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘 ⑤経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めつつ「新たな成長」を実現する考え ⑥GDP等の限られた指標で測る現在の浪費的「経済成長」に代わって計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング」を最上位に置いた成長 ⑦計画は森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調 ⑧これを社会変革の契機としたいが、根本的な変革の実現は容易でない ⑨最初の計画ができて30年、この間の経済停滞も深刻だが、日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れ ⑩長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできた ⑪計画の実現には環境省の真価が問われるが、現実は極めてお寒い状況 ⑫計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」と、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘 ⑬首相をはじめ政策決定者や企業のトップが悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが必要 等と記載している。 今頃になってではあるが、①③⑦のように、政府が人類の活動の環境への影響が地球の許容力を超えることを認め、環境政策の第6次環境基本計画を閣議決定して、森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調したのはよかった。しかし、⑨⑩のように、経産省をリーダーとする既得権益に変革を阻まれ、既に最初の計画から30年も経過した結果、日本は停滞の30年を過ごした上、トップランナーだった筈の環境政策も世界に大きな後れをとったのである。 ただし、②の「気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面としている」というのは、生物は絶滅と進化を繰り返すものであるため現状維持が何より重要とは限らないし、プラスチック汚染は、環境を汚していないものまで過度に禁止して国民に不便を強いるより、ゴミの分別回収を(いつまでも複雑怪奇で不便なままにしておかず)簡単にして、再利用を進めればよいと思われる。 なお、日本政府が、人間に直接被害を与える放射性物質や化学物質による環境汚染には無頓着で、気候変動については30年前から指摘しているのに、未だ中途半端な対応しかしていないのは何故だろうか。 さらに、④⑤⑥が、新たな成長かと言えば、GDPを増やす方法は、需要者のニーズにあった製品やサービスを提供することであるため、環境や国民の年齢層を無視した製品やサービスしか提供しなければ、需要が減ってGDPも落ちるのが当然である。また、浪費したものは蓄積されないため、いつまでも進歩のない貧しいままの生活が続くのだ。 つまり、国民の「ウェルビーイング」の1要素である国民1人あたりGDPを増やして国民を豊かにするためにも、ニーズに合った技術革新が必要で、無理に化石燃料を浪費して地球環境を破壊しても、国民を豊かにすることはできないのである。 その上、日本の場合は、化石燃料を輸入に頼って国富を外国に流し、国民を貧しくしているため、エネルギーを再エネに変更すれば、国産エネルギーに替わって国富が流出しないという大きなメリットがある。さらに、東京大と日本財団の調査チームが、*1-2-2のように、南鳥島沖のEEZ内等に、レアメタルを含む「マンガンノジュール」が大量に存在することを発表したが、日本政府の動きは鈍く、未だ国内用にも輸出用にも採取していない状態なのだ。 この調子では、⑧のような社会変革はいつまで経ってもできず、⑪⑫⑬のように、環境省だけではなく、首相はじめ政策決定者・企業のトップ等の今後の数年間の取り組みが重要なのだが、省エネや再エネへの資金投入はケチケチしながら、*1-2-3のように、危険な上に大量の熱を発生する核融合に多額の資金を投入するようなことが、日本政府の大きな無駄使いなのである。 2)EV・再エネ・バイオは特にイノベーションのKey技術だったこと *1-3-1のように、経産省も、①失われた30年の状態が今後も続けば、2040年頃に新興国に追いつかれる ②特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ ③日本経済停滞の理由は企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたから ④このままでは賃金も伸び悩み、GDPも成長しない ⑤今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある ⑥停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要 ⑦スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もある ⑧政府も一歩前に出て大規模・長期・計画的に投資を行う具体策を検討 等としているそうだ。 このうち③は事実で正しいが、現在は、④のように、生産性の向上よりも高い賃上げを連呼して労働コストを上げ、円安と物価上昇により原材料費・エネルギー・不動産のコストも上げているため、問題意識とその解決策が逆である。そのため、このような状態が今後も続けば、①⑤のように、名目GDPでもインドに抜かれて世界5位となり、実質GDPはますます減少して、2040年頃には新興国に追いつき追い越されるというのが正しい展望だろう。 そのような中、経産省は、②⑥のように、「停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要」とし、「特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ」としているそうだ。しかし、エネルギー分野では、日本がトップランナーだったEV・再エネで経産省がバックラッシュを行なってイノベーションを妨げ、バイオ分野でも、日本がトップランナーだった再生医療と免疫療法で厚労省が高すぎる(有害無益な)ハードルを作って進捗を妨げたため、イノベーションを進めてきた先端企業の方が淘汰される結果となったわけである。 これらの総合的結果として、*1-3-3のように、抗生物質も、原料物質はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在では抗生物質原料のほぼ全量を中国等の国外に依存している状況で、国産化するのに、またまた、政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を新たに設けなくてはならばいそうだが、その原資は国民の税金なのである。 さらに、イノベーションの源泉は研究開発であるため、⑦のように、スタートアップ・大学・研究所が連携することも重要だが、大企業もイノベーションに繋がる技術開発をせずに、旧来型の技術を護る意志決定だけをしていればよいわけでは決してない筈だ。 そのため、*1-4のように、「教育環境の改善は待ったなしだが、国からの運営費交付金が減って財務状況が厳しい」等として、東京大学が学部学生で現在は入学料282,000円・授業料年間535,800円の授業料を2割上げる検討をしているそうだが、⑧のように、政府が時代遅れだったり的外れだったりする大規模・長期・計画的な投資を行うより、大学への進学率を上げてイノベーションを担える母集団を増やし、イノベーションの基礎となる教育・研究を充実する方が重要なので、充実した教育・研究を行なうに十分な交付金や研究費を大学に支給すべきなのである。 なお、東京大学は授業料全額免除の対象を世帯収入年600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げるとしているそうだが、世帯収入が600万円であっても、535,800円の授業料は夫婦と子1人で自宅通学の場合以外は負担が重すぎる上、親と学生の進路希望が異なるケースでは、世帯収入は学生にとっては何の意味もなく、学生の方が親よりも次の時代を見ている場合も少なくない。そのため、国公立大学の授業料は、下げたり無償化したりすることはあっても、上げるのは論外なのである。 3)技術革新の効果と研究者の処遇 *1-3-2のように、小野薬品工業の売上高は、2014年に癌治療薬「オプジーボ」を発売してから、2023年度までに3.7倍に伸びたそうだ。オプジーボをはじめとする免疫療法は、自己の免疫に働きかけて癌を攻撃させる治療法であるため、標準治療と呼ばれる従来型の癌治療法(薬物療法・手術療法・放射線療法)と異なり、治療を受ける人への副作用が著しく少なく、身体的負担も少なくてすむのが特徴だ。 これが技術革新の効果であり、現在はオプジーボが当初の1/5の薬価になったため、小野薬品が困ったと書かれている。しかし、免疫に働きかける治療法なら理論的にはどの癌にも効く筈であるため、対象となる癌の種類を増やす研究をすれば、皆にとってハッピーな結果になる。そのため、国は、このような技術革新を推進すべきなのであり、間違っても免疫療法を“標準治療”の下位に位置づけるべきではない。 また、このような技術革新を促す研究は容易ではないため、研究者に特許料を支払うことを惜しんではならないし、そういうことをすれば、日本で、もしくは日本企業と研究開発をしたい研究者はいなくなるという覚悟をすべきである。 (3)観光への投資について 1)国立公園の魅力向上について 岸田首相は、*1-5-1のように、①2031年までに全国に35カ所ある国立公園で民間を活用した魅力向上に取り組む ②環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大に繋げる ③地方空港の就航拡大に向け、週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示 ④インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る ⑤2030年に訪日客数6000万人・消費額15兆円が政府目標 ⑥地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策を重点的に取り組む ⑦オーバーツーリズム対策として観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島・高山・那覇等の6地域を加える 等とされた。 私は、これまで大切に維持してきた日本の国立公園を観光に活かすのに賛成だが、適正な入場料を徴収して環境を保全し、大自然を美しく保たなければ、観光地としての魅力もなくなる。そのため、①②はセットであり、高級リゾートホテルだけでなく、長期間滞在できるようなホテルや民宿も必要だと思う。 また、③の地方空港の就航拡大も重要だが、「地方空港に降り立てば、空港に新幹線が乗り入れており、地域内を容易に移動できる」というような利便性も重要な付加価値だ。日本の空港は、何故か、国際空港と国内空港が分かれていたり、空港と鉄道が接続していなかったりして、移動に労力を使わせ、旅行者やビジネスマンに不便な思いをさせているのが現状なのだ。 それでも、④のように、インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入るそうだ。しかし、山国で面積は九州よりも小さく、人口は約897万人と日本の1/14のスイスは、年間平均観光客数が2500万人、のべ宿泊客数は5500万人で、観光産業収入は2021年に170億スイスフラン(177.07円/スイスフランx170億スイスフラン≒3兆円)であるため、⑤の日本の目標は、スイスと比較すればまだ低い。 私も、*1-5-2の観光列車ユングフラウ鉄道に乗ってユングフラウヨッホに行ったことがあるが、日本人の利用客数が年間10万人以上もいるだけあって、列車の乗換駅にカタカナで「←ユングフラウヨッホ」と書かれていたのには参ったほどだ。 ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3,454mに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅で、麓のクライネシャイデック駅から、スイスの美しい景色を眺め、山の中を繰り抜いたトンネルを通過すると、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登りきり、頂上では欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできる。私が最初に地球温暖化を意識したのは、鉄道で登ってきた地元の老夫婦が「この氷河はどんどん短くなっているのですよ」と言った時だった。なお、帰りは、ハイキングコースを降りることもでき、高齢者や障害者でも観光を楽しむことができるようになっていて、観光地としての配慮が行き届いている。 また、私は、*1-5-3の標高4,478mのマッターホルンにも1990年代に行ったが、ツェルマット(その時からガソリン車禁止だった)からゴルナーグラート鉄道(ツェルマットの街とゴルナーグラート山頂を結ぶスイスの登山鉄道)で展望台まで上り、帰りはハイキングを楽しむこともできるようになっている。スキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園で、納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されていたが、最近の科学で「ヨーロッパ最古」の納屋が発見されたのだそうだ。 一方、日本では、*1-5-4のように、「富士山の麓の観光地でオーバーツーリズムが深刻化している」等として、山梨県富士河口湖町では富士山を隠す黒い幕を設置したり、富士吉田市ではマナー悪化の解決策として人気スポットの有料化を検討していたり、通りの商店から「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」という苦情が出たり、市街地以外の場所でも駐車場やトイレ不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入り等の観光客のマナーの悪さが問題となっているそうだ。 しかし、これらは、観光地としての準備不足に依るところが大きいため、地元の議員や観光協会・商工会議所の会員が、スイスのユングフラウヨッホやマッターホルン等に視察に行き、周囲はどのような整備をしているか等を調査研究して、観光地として長期的に地元の立地を活かす方法を考えた方が良いと思う。 ⑥⑦の地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策については、山だけでなく海や川もあり、火山・断層・温泉にも事欠かず、食材が豊富な日本であれば、全国の地域がその特色を活かして観光客を分散受け入れすることができるだろう。そうすれば、スイス並みなら単純計算で42兆円(≒3兆円x14)の観光収入があってよい筈なのだ。それには、オーバーツーリズム対策としての補助金よりも、観光客を分散誘致できる交通体系と地域作りが重要だろう。 2)訪日外国人旅行者向け「二重価格」について *1-5-5は、①地方自治体で訪日外国人旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」検討の動き ②観光資源維持のための財源確保が狙い ③実際に導入する場合は本人確認に手間やコスト ④清元姫路市長は「市民と訪日外国人旅行者との2種類の料金設定があっていいのではないか」とした ⑤大阪市の横山市長も「有効な手の一つ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向き ⑥京都市の松井市長は、地元住民の公共交通料金を観光客より低くする市民優先価格の導入を公約に掲げて当選 ⑦二重価格や外国人からの金銭徴収制度は外国人に対して不公平な印象や歓迎していない印象を与える と記載している。 私も、①について、市民の税金で賄っている施設であれば、市民の入場料を安くしたり、無料にしたりする合理性はあるが、訪日外国人旅行者というだけで日本人との間に二重価格を設定する合理性はないと考える。そのため、②の観光資源維持の財源確保は、全員から入場料を取り、維持管理費を支払っている日本人集団の入場料を割引するのが筋であろう。それなら、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートの提示で、住所を確認すれば③は解決する。 なお、④については、姫路城は姫路市の所有にはなっているが、修復費は国が出しているため、姫路市民だけを割引するのも変である。⑤⑥についても、所有者が誰か、管理費・修繕費を出しているのは誰かによって、その財源となっている集団に入場料の割引をするのは合理性があるのだ。しかし、⑦のように、外国人と日本人に二重価格を設定したり、外国人からのみ金銭を徴収したりするのは、確かに、外国人に対して不公平であり、訪日外国人を歓迎していない印象を与える。 (4)日本の農業について ![]() ![]() ![]() 農業白書 ミノラス 農水省 (図の説明:左図は少し古い資料だが、日本では今でも小麦の消費量に対して生産量が著しく少ないため、消費量の多くを輸入している。また、中央の図のように、米と麦の国民1人あたり年間消費量は、「小麦は一定」「米は著しく減少」だが、その理由は、栄養指導の効果と他の食品から栄養をとることが可能な現在の経済状況がある。そして、右図は、米・小麦・肉類の生産量だが、米は減ったと言っても余り気味、小麦や肉類はその多くを輸入依存という状況だ) ![]() ![]() ![]() 2022.9.26日経新聞 2023.7.27読売新聞 農水省 (図の説明:左図のように、2020年の小麦の自給率は15%程度にすぎない。また、これらの結果、中央の図のように、日本のカロリーベースの食料自給率は、他の先進国と比べても低迷し続けており、右図のように、2022年度では、生産額ベースの食料自給率は58%あるものの、カロリーベースの食料自給率は38%にすぎないのである) 1)「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内改定について 令和6年改正後の食料・農業・農村基本法(以下、「同法」)は、第1条で「食料・農業・農村に関する施策について、食料安全保障確保等の基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、食料・農業・農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする」と述べている(https://www.maff.go.jp/j/basiclaw/attach/pdf/index-12.pdf 参照)。 また、同法第2条は「食料は、人間の生命維持に欠かせないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることに鑑み、将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態)の確保が図られなければならない」としている。 価格に関しては、同法第23条で「国は、食料価格形成に当たり、食料の持続的供給に要する合理的な費用が考慮されるよう、食料システムの関係者による理解の増進、合理的費用の明確化促進、その他必要な施策を講ずる」とし、第39条で「国は、農産物の価格形成について、消費者の需要に即した農業生産を推進するため、需給事情及び品質評価が適切に反映されるよう、必要な施策を講ずる。国は、農産物価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずる」としている。 そして、政府は、*2-1-1のように、「食料・農業・農村基本計画」を2024年度内に改定して食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めたそうだが、食料の需要者である国民は、物価上昇で実質賃金が下がり、年金も“マクロ経済スライド”によって所得代替率が下がり続けてエンゲル係数が上がっているため、これ以上値上げすれば、いくら合理的費用を明確化しても国民が良質な食料を合理的な価格で入手することはできないと思われる。 一方、エネルギーや農業資材も輸入に頼って円安・戦争による価格高騰の打撃を受けているため、同法第42条の「国は農業資材の安定的な供給を確保するため、輸入に依存する農業資材及びその原料について、国内で生産できる良質な代替物への転換の推進、備蓄への支援その他必要な施策を講ずる。国は、農業経営における農業資材費の低減に資するため、農業資材の生産及び流通の合理化の促進その他必要な施策を講ずる。国は、農業資材価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずるものとする」は重要だ。 これらの要請を同時に満たすイノベーションの例が、同法第45条「国は、農業と農業以外の産業の連携による地域の資源を活用した事業活動を通じて農村との関わりを持つ者の増加を図るため、これらの事業活動の促進その他必要な施策を講ずるものとする」という地域資源を活用した事業活動の促進で、農地への風力発電設置、小水力発電設置、ハウスへの太陽光発電設置によるエネルギーの自給や地域資源を使った飼料・肥料の生産等である。 なお、*2-1-1は、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直しが必要としているが、同法第22条は「国は、農業者・食品産業事業者の収益性向上に資するよう海外需要に応じた農産物の輸出を促進するため、輸出を行う産地の育成、農産物の生産から販売に至る各段階の関係者が組織する団体による輸出のための取組の促進等により農産物の競争力を強化するとともに、市場調査の充実、情報の提供、普及宣伝の強化等の輸出の相手国における需要の開拓を包括的に支援する体制の整備、輸出する農産物に係る知的財産権の保護、輸出の相手国とのその相手国が定める輸入についての動植物の検疫その他の事項についての条件に関する協議その他必要な施策を講ずるものとする」と定めており、食料自給率を上げたり、農林水産物の輸出を促進したりすれば、人口が減少しても生産インフラを縮小する必要はない筈である。 また、農業を担う人材の育成や確保については、同法第33条で「国は、効率的かつ安定的な農業経営を担うべき人材の育成及び確保を図るため、農業者の農業の技術及び経営管理能力の向上、新たに就農しようとする者に対する農業の技術及び経営方法の習得の促進その他必要な施策を講ずるものとする」と定め、第34条で女性の参画促進、第35条で高齢農業者の活動促進も定めているが、これだけで十分ではないだろう。 *2-1-2は、①東京都の出生率が1を割り、都知事選では子育て支援・少子化対策が大きな争点の一つになっているが、住宅費が極めて高い東京で多くの子を育てられる広い家を持つのは普通の人には無理で出生率が他地域より低いのは当然 ②人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ無意味 ③生活環境の良い地方で働いて家族を形成する選択肢の提供が必要 ④有力候補者の政策が、水・食料・エネルギーという生存に不可欠な資源は金さえ出せばいつでも買える前提 ⑤国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるべき ⑥日本は高度成長期以来積み上げてきた貯金を食いつぶし、衰弱の局面にある ⑦食料・エネルギーの海外依存を続ければ富の国外流出も大きく、これらを自給する体制を立て直すこと・地域における雇用機会の創出・人口再生力の回復は一体である ⑧国の形のグランドデザインを問う論争が必要で、日本に残された時間は長くない と記載しており、完全に賛成である。 つまり、農業・食品・エネルギー関係の人材は、都市からの移住や外国人の移住でも賄うべきなのだ。 2)穀物を燃料にすれば、世界の栄養不良と地球温暖化が解決するというのか *2-2-1は、①国際社会のフードセキュリティーは「飢餓0」 ②具体的にはi)飢餓の終了 ii)食料安全保障達成と栄養状態改善 iii)持続可能な農業促進 ③その結果、i)全ての人が食料を得られる ii)誰も栄養不良に苦しまない iii)小規模農家の生産性向上・所得向上で食料安全保障と栄養状態改善 iv)フードシステムが持続可能 ④改正基本法は輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格形成、環境と調和のとれた食料システムの確立を新たに追加 ⑤日本は、1951年には全就業者数の46%が第1次産業に従事、2022年は3%に減少し、必要な食料は食品の生産性向上と輸入によって調達し、餓死者・栄養不良人口は少ない ⑥問題はiv)の持続可能性 ⑦少数の生産者と大量輸入で今後の食料安全保障は確保されるか ⑧食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメ ⑨コメの国内生産を守るため、コメをエタノールの原料としてはどうか ⑩米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している 等と記載している。 このうち、①~③の国際社会のフードセキュリティーには賛成だ。しかし、④のうちの「輸出で食料供給能力を維持すれば、国内の自給力が維持される」という説はあまりに甘いと思った。何故なら、栽培品目を変えれば、必要な圃場の形・灌漑方法・農機の種類・施肥の方法等が変わるため、慣れないことをすれば生産性が著しく落ちるからである。 また、⑤⑥⑦のように、現在の日本は、少数の生産者の生産性向上と大量輸入によって必要な食料を調達でき、栄養不良の人口は少なくてすんでいるが、工業化はどこの国でも進むものの、食料生産できる農地には限りがあるため、世界人口が増加している中、このままでは日本も今後の食料安全保障を約束することはできないし、世界の「飢餓0」も達成できないと思われる。 そのような中、突然、⑧のように、「食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメだ」というのは、コメだけ食べて栄養バランスが保てるわけではないため、結論がおかしい。その上、⑨のように、食品であるコメを、酒ではなくエタノールの原料としたり、⑩のように、同じく食品であるトウモロコシ・サトウキビからエタノールを作ってガソリンに添加して使用するなど、世界の「飢餓0」に貢献するどころか逆のことをしつつ、さらに地球温暖化防止にも資さない提案をするのは、何を考えているのかと思う。 3)農地規制を撤廃すれば、食料自給率が向上するのか *2-2-2は、①食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民1人1人が入手できる状態」という国連食糧農業機関(FAO)の定義では、食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、食料の利用・摂取までサプライチェーンの全てが確保されることで、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障が脅かされるのかを分析しなければならない としており、これには完全に賛成だ。 また、*2-2-2は、②国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきたが、自給率は食料安全保障への評価を表さない ③食料自給率は市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果で、消費者に選ばれた国産品の割合が現在の38%ということ ④これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う とも記載している。 しかし、③の「現在の食料自給率38%は消費者が選んだ食品の組み合わせの結果」というのは正しいが、製造業はどの国でも20~30年の時間差で近代化でき、世界人口は増え続けているため、日本も食料輸入力をいつまでも高く保ち続けることはできず、食料の62%を輸入に頼っていれば、日本人は良質な食料を合理的な価格で安定的に入手することもできなくなり、結果として、②の食料安全保障も保たれなくなるであろう。 また、④についても、これまで述べてきたとおり、消費者ニーズのあるものを生産性を高くして生産すれば国民負担増にならないが、問題は、何が何でもコメコメと言い、何かやろうとする度に補助金をばら撒く農業政策にある。 さらに、*2-2-2は、⑤国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しく、食料自給率向上が目的化して豊かさが犠牲になるのでは本末転倒 ⑥食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきでない ⑦平時と異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要で、「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定して、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者に増産を求める とも記載している。 このうち、⑤⑥については、日本は開発途上国でないため、先進国同士の食料自給率を比較すると、カナダ・オーストラリア・米国・フランスはカロリーベースで100%以上、ドイツも84%を自給しており、日本の38%は著しく低い。もちろん、国境を閉ざさなくても、国内生産の食料が輸入食料に質と価格の総合で勝てばよいわけだが、現在は国内生産は価格が高いため生産額ベースの自給率は高いが、経済活動の結果は価格で世界に負けているのである。 なお、⑦については、(4)2)で述べたとおり、有事の際にあわてて“政府が重要とする食料”を“必要物資”と指定して生産者に増産を求めても、大したものを供給できるわけがないため、これは絵に描いたモチ、つまり安全神話にすぎない。 これに加えて、*2-2-2は、⑧食料安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーはじめ国家安全保障の一環として総合的な法体系の中で議論すべき ⑨有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保 ⑩農業を担う労働力は高齢化が進んで農業労働人口は急速に減少し、農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性も、2020年の61万8千円と比べて2022年の58万3千円は低下 ⑪農業従事者の減少と高齢化は農地の荒廃に繋がり、2022年で約430万haある耕地面積の利用率は91%で1割近い農地が利用されず ⑫日本農業の持続的発展には、農地の維持・保全と効率的利用が最優先の課題 ⑬高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されており、100haを超える規模の経営も珍しくないが、その多くは分散した農地を合わせての100haで、多くが借地であるため区画整理等の基盤整備を自由に行えない とも記載している。 ⑧については、全く賛成だが、⑨の有事に備える農業生産力が平時は別のものを作っていても維持・確保できるというのは、上に書いたとおり、安全神話にすぎない。 また、⑩⑪⑫⑬は事実だが、小規模でも自分の土地を持って現在農業を行なっている人から無理に農地を取り上げて農地の大規模化を進めることは、資本主義国の日本ではできない。そのため、農業の労働生産性を上げることを目的として、高齢化して離農する人から次第に農地を集め、現在は「分散した農地を合わせて」ではあるが、次第に大規模化してきたわけである。もちろん、今後、区画整理等の基盤整備を行なって大規模な農業機械を導入し、生産性を上げる必要があることは言うまでも無い。 さらに、*2-2-2は、⑭農地の効率的利用を妨げているのは農地法で、農地を耕作する農業者か農地所有適格法人でなければ農地を取得できない ⑮一般の株式会社は、賃借は可能だが農地取得はできず、基盤整備などの長期投資が困難 ㉒経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべき ⑯農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件なので、農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づける等の新たな制度が必要 とも記載している。 このうち⑭⑮については、本当に農業をする気のある株式会社なら、子会社か関連会社として農地所有適格法人(https://www.pref.kagoshima.jp/ag02/sangyo-rodo/nogyo/keiei/06002005.html 参照)を作ればよいため、それも行なわずに農地を取得したいというのは、農地取得後に土地の使用目的を変換することを意図しているのではないかと思われる。そして、それでは、⑯の「有事にも国民を飢えさせない」という食料安全保障は達成されないのだ。 例を挙げれば、一般株式会社であるICT会社・農機会社・食品会社・建設会社・銀行等が、子会社か関連会社として農地所有適格法人を作り、従業員を交代で農業に従事させることによって、もとの事業との間にシナジー効果を出すこともできるだろう。 最後に、*2-2-2は、⑰質の高い国内農産物と世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障 ⑱肥料・飼料など、多くの生産資材も輸入に依存するため、国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱 ⑲国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる ⑳シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている ㉑最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる とも記載している。 しかし、⑰は今後も続けられるとは限らず、⑱については、あまりに輸入に頼りすぎているため、これらも考慮すれば食料自給率38%も怪しくなる。もちろん、⑲⑳㉑のように、国際市場の動向を詳しく分析したり、貿易相手国と友好関係を維持したりすることは重要だが、おんぶにだっこされてばかりではまともな交渉はできず、“平和維持のため”と称して相手の言いなりになり、国民には我慢を強いるしかなくなることを忘れてはならない。 4)武蔵野銀行の試み ![]() ![]() ![]() 耕作放棄地でのスマート放牧 耕作放棄地のオリーブ園化 オリーブ (図の説明:左図は《耕作放棄地に限る必要はないが》放牧して餌代と人手を節約しつつ、健康な牛を育てる方法。中央の図は、耕作放棄地をオリーブ園に変えたケース。右図はオリーブ) *2-3は、①武蔵野銀行の新入行員が、同行アグリイノベーションファームで田植えをした ②農業は埼玉県経済の柱の1つで、同行は農業関連の融資も手掛ける ③同行は新たな産業の創造・高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦・23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる ④同行は、田の面積を9500㎡に増やし、その2割を新入行員が田植えして、残りは実証実験としてドローンで種まきする ⑤農業の大変さを身をもって体験することで、農業の課題に当事者意識を持って向き合う人材を育成できる 等と記載している。 農業は、②のとおり、埼玉県の経済で重要な位置を占めるので、銀行が農業関連の融資も手掛けてイノベーションを進めることは重要だが、従来の不動産担保による融資では農業への融資金額は限られる。そのため、①③④⑤のように、行員が農業に参加することで身をもって農業の課題と可能性を知り、融資や企業とのマッチング等の側面から解決策を考え実行していくことは、銀行にとっても地域にとっても有益である。従って、研修の終わりには、新人に農業や農業融資に関するレポートを書かせ、できの良いものは取り入れることがあって良いだろう。 このほか、他業種の従業員が農業に関わると有益な事例は、(4)3)にも述べたとおりで、ICT企業や農機企業の従業員の場合なら、屋内で緻密な作業ばかりしていると心身の健康に悪いが、時々、農業に従事することで日の光を浴びながら力仕事をして心身の健康を回復しつつ、農業の課題である省力化・スマート化の方法等について具体的に考えることによって、事業間のシナジー効果が生まれる。 また、食品会社の従業員が農業に関わると、農業に従事することによって外で仕事をして心身の健康を保ちつつ、原料である農産物の改良や原料の使い方の無駄を省く方法を考えるなど、事業上の課題解決にも結びつけられる。 さらに、建設会社の場合であれば、農業体験することによって心身の健康を保ちながら、農業の省力化やスマート化に対応する農業施設や農業の基盤整備について考えることができる。 5)ふるさと納税反対論への反論 ← 地方の視点から ![]() ![]() ![]() 2024.7.26佐賀新聞 2024.7.26佐賀新聞 22年度受入順 (図の説明:左図はふるさと納税寄付額の推移で、順調に伸びているのは良いことだと思う。中央の図の右側に、ふるさと納税の課題として「好みの返礼品やポイント還元率で返礼品を選ぶ」と書かれているが、公平なルールの下で競争原理が働いて自治体・生産者・仲介業者の努力が反映されているため、批判には当たらない。また、「寄付が一部の自治体に集中する」という批判も、住民税を徴収しにくい第一次産業地帯に集中しているのだから、自治体の努力に応じて住民税の偏りの是正が行なわれているのであり、良いことだ。その結果として、右図のような受入額の順位になっているのであり、下位に位置する都道府県は良識ある工夫をすれば良いだろう) *2-4-1・*2-4-2・*2-4-3によれば、ふるさと納税に関する主な反対論は、①返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向がある ②ネットショッピング感覚で、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中し、地方を活性化する理念と乖離している ③魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出る ④手数料の寄付額に占める割合が47%に達する ⑤都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満がある ⑥仲介サイトで各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競う ⑦自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資である などである。 このうち、⑤の都市部の自治体の不満は、住民税の徴収方法を知っていれば、本末転倒であることがわかる筈である。 住民税には、企業等が負担する「法人住民税」と個人が負担する「個人住民税」があり、それぞれに「道府県民税」と「区市町村民税」がある。計算方法は、所得割(前年の所得に税率を掛けて計算)と均等割(一定の所得がある人全員が均等に負担)の合計で、税率は地方税法で全国一律10%(道府県民税2%、市民税8%)と定められているが、自治体の条例によって増減もできる(https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/49732/ 参照)。 また、住民税の使途は、福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等)、教育(小・中学校、図書館等)、土木(道路、公園、下水道事業等)、消防(消防、救急、防災等)、衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等)等の主として住民に身近な行政サービスである。 イ)住民税が多く集まる地方自治体は何処か 住民税は、課税所得の多い個人や利益の多い企業が集まる地域で豊富に集まる。 そのため、住民税が多く集まる地域は、「集積の外部経済」を効かせて生産性を上げるために、インフラ・技術・労働・情報を優先的に集めた地域になる。日本は、国策として集中を進め、優先的にインフラを整備して労働・技術・情報を集めて製造業関係の企業を立地させたため、そこに生産年齢人口にあたる労働者が集まり、その他のサービスも整ったという経緯があるのだ。ただし、現在は、集めすぎによる外部不経済も起こっている。 従って、利益の多い企業や課税所得の多い個人は、現在は、これらの優先的に開発された地域に多く流入しており、そうでない地方自治体や農林漁業中心の地方自治体からは、生産年齢人口の労働力が流出しているのである。そして、これは、個々の地方自治体の努力の結果ではない。 それでは、「農業は不要な産業なのか」と言えば、世界人口の増加、新興国や開発途上国における製造業の発展、食料安全保障を考えれば、上に述べてきたように、不要どころか重要な産業なのである。 ロ)住民税の使途の偏在 住民税の使途は、以下のとおりだ。 i) 福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等) より多く福祉を必要とする人は、元気に働いて多くの住民税を支払っている健康な生産年齢人口の大人ではなく、子ども・高齢者・病気で所得のない人などである。そして、その割合が高いのは、国策で優先的にインフラを整備し、労働・技術・情報を集めた地域以外の地域なのだ。 ii) 教育(小・中学校、図書館等) 小・中・高の公教育を受けている生徒も、地方自治体がその資金を出しているが、所得がないため住民税は支払っていない。 iii) 土木(道路、公園、下水道事業等) 優先的にインフラを整備した地域は既に整っているが、そうでない地域は現在も整備されておらず、整備中である。 iv) 消防(消防、救急、防災等) 消防や防災のニーズは何処でもあるが、救急の出番は高齢者の割合が高い地域で多そうだ。 v) 衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等) ごみの分量は、飲食店は多くなるなど個人によって異なるため、ごみ処理が無料である必要はなく、無料であることより、さっと取りに来る利便性の方が好ましいと、私は思う。しかし、保健・病院・水道事業は、優先的にインフラを整備されなかった地域でも必要であるため、その地域の住民の負担は重くなる。 そのため、ふるさと納税は、地方出身で都会で働いていた私が、税理士として申告書を書きながら住民税の偏在に気づき、提案してできたものである。それに対し、②のように、「農林漁業を中心とした返礼品が人気の一部自治体に寄付が集中する」とか、⑤の「都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満」などというのは、背景を無視した利己的な反論である。つまり、それは、国策によってもともと住民税には偏在が生じているという背景を無視した主張なのだ。 また、③の「魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出ることがいけない」というのも、努力もせず棚からぼた餅を期待することをよしとするもので、それでは日本の衰退は必然である。さらに、①のように、比較可能でお得感の強い自治体を選べるからこそ、返礼品やその展示の仕方に工夫が促され、通販でも十分に売れる商品も出て地方を活性化させるのである。 確かに、私も、④の手数料の寄付額に占める割合が47%というのは高い割合だとは思うが、商品開発費・広告宣伝費・販売費まで含んでいると考えれば、その支出は地方自治体の判断であり、高すぎるとも言えないだろう。 なお、仲介サイトで返礼品を比較できるのは、寄付者にとってだけでなく、出品者にとってもよいことだと、私は思う。そのため、⑥⑦のように、「サイトが寄付に応じたポイント付与を競い、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっている」として、総務省が「特典ポイントは、本来の趣旨とずれている」と指摘し、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張していることに関し、私は、総務省が箸の上げ下ろしにまで口を出すと、護送船団方式という最低の速度でしか進まないシロモノができあがるため、出品する自治体の判断に任せた方が良いのではないかと思う次第である。 6)業務用野菜の国産増について *2-5は、①農水省は輸入依存の加工・業務用野菜国産シェア奪還に向け、9月から品目別商談イベントを開く ②国産への切り替えが期待できる野菜で、産地・流通業者・実需者の橋渡しをする ③国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割 ④同省は、タマネギ・ニンジン・ネギ・カボチャ・エダマメ・ブロッコリー・ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定 ⑤プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く としている。 上の④は典型的な日本の野菜であるため、①~③のように、農水省が「重点品目」に指定して音頭をとらなければ輸入品が選択されるというのがむしろショッキングだが、日本産は高いので業務用では特に輸入依存になるのだろう。 そのため、⑤の冷凍技術や安価な栽培方法など、質だけではなく価格も含めて競争力をつけるしかないと思う。 (5)金融緩和と物価高 1)赤字財政と金融緩和政策 ![]() ![]() ![]() 社会実績データ 2024.4.20佐賀新聞 2024.7.21西日本新聞 (図の説明:左図のように、2023年の消費者物価指数は、1970年と比較すれば37%、2012年と比較すれば13%程度の上昇をしているが、この割合は体感より低い。また、中央の図のように、よく言われる前年や2~3年前との物価比較は、預金・債権などの資産の目減りを無視しているため、大きな意味がない。そのため、右図のように、消費者物価指数は実質GDPより低いが、これは実質所得と実質資産の目減りを反映して、国民が消費を抑えているからである) ![]() ![]() ![]() 2024.5.9日経新聞 2023.1.20毎日新聞 2024.7.5日経新聞 (図の説明:左図のように、実質賃金はマイナスが続いているが、その理由は生産性が向上していないからである。また、中央の図のように、物価上昇にもかかわらず公的年金は一定である上、介護保険料の負担が著しく増えたため、高齢者の実質可処分所得は著しく減少した。そのため、右図のように、実質消費支出は減っており、その代わりに増えたのが公的支出なのだが、これは生産性を向上させるものではなくバラマキが多いのである) *3-1-4は、①総務省発表の6月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数は107.8で前年同月と比べて2.6%、生鮮食品を含む総合指数は2.8%上昇 ②政府が電気代・ガス代等の負担軽減策を縮小したことで電気代・ガス代が値上がり ③日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている ④エネルギー上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した ⑤電気代13.4%と大幅上昇・都市ガス代3.7%上昇で、生鮮食品を除く消費者物価指数の伸びを0.47ポイント押し上げた ⑥電気代は5月に再エネ普及賦課金の上昇で16カ月ぶりにプラス 等と記載している。 また、*3-1-2は、⑦財務省が発表した税収は72兆761億円と4年連続過去最高 ⑧インフレ環境の継続で名目GDP成長率のプラスが定着し、税収の増加傾向は続く ⑨金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的 ⑩歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要 ⑪内閣府による2023年度名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスで2022年度の2.5%プラスから上振れ ⑫円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与して法人税収は15兆8606億円で前年度から6.2%伸び、所得税収は22兆529億円で2.1%減少し、消費税収は23兆922億円で0.1%増加 ⑬日銀の金融政策修正等の影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇し、国債利払費の増加が財政圧迫の可能性 ⑭新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる 等と記載している。 このうち①は、2024年6月の消費者物価指数は2020年と比べれば生鮮食品を除く総合指数は107.8で7.8%の上昇だが、上の段の左図のように、アベノミクス開始時点(2012年末)と比較すれば12.8%程度、バブル崩壊前の1988年と比較すれば22.8%程度の物価上昇をしており、その分、国民の購買力が下がって、資産と所得が政府・企業にステルス移転したのである。 その結果、⑦⑧⑫のように、税収が上振れし、国が赤字国債を発行して無駄遣いしてきた穴埋めがなされた。そして、この間に、バブルの反省をし、本物の改革を断行するために、景気対策として再エネの普及等に役立つインフラ整備をしてきたのなら、その後の生産性が上がるため我慢もできるが、そうではなく、⑪のように、名目国内総生産が上振れしただけなのだ。 それにもかかわらず、⑥のような馬鹿を言い、“景気対策”と称してバラマキしつつ、⑩の歳出構造は改革していないため、今後の生産性向上も財政再建もおぼつかないのである。 これに加えて、ロシアに対する制裁返しで輸入に頼りきりの燃料価格が上昇したため、②③④⑤のような燃料費上昇による物価上昇が加わったのだが、この偶発的な事件を、③のように、あたかも「日銀の物価安定目標2%を超える上昇」と言っている点も呆れる。何故なら、中央銀行の役割は、物価を安定させ、通貨の価値を維持して国民の財産を護ることであって、物価上昇目標をたてて、国民からのステルス増税に加担することではないからだ。 経済学では、「ジョンブル(典型的に真面目なイギリス人の名前)も2%の利子率には満足できない」と言うように、2%以上の実質金利があるのは当然なのだが、日本は、⑨⑬のように、いつまでも「金利ある世界が現実となれば国債利払費の増加が財政圧迫の可能性」などと言わざるを得ず、⑭をはじめとして無駄使いばかりが多いため、将来性に欠けるのである。 2)国の歳出改革について ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.2.16日経新聞 2022.12.23読売新聞 2023.11.11北海道新聞 2023.12.22日経新聞 (図の説明:1番左の図は、日本の財政状況で主要国最悪になった。左から2番目の図は、2023年度当初予算で114兆3,812億円だが、これに右から2番目の補正予算13兆1,992億円が加わり、合計127兆5,804億円となった。1番右の図は、2024年度当初予算で112兆717億円だが、これに補正予算が加わるかどうかは現在のところ未定だ) 上の左図のように、日本における政府債務の対GDP比は258.2%であり、これはイタリアを優に超えて主要国最悪になっており、その5割を日銀が保有している。こうなった理由は、日銀が公開市場操作(貸出金利の引き下げ)や「買いオペ」等の手段で政策金利を引き下げ、金融緩和を行なって資金の供給量を増やし、景気を良くして物価を上昇させようとしてきたからである。 しかし、金融緩和はカンフル剤にすぎないため、経済構造改革をして生産性を上げることなく金融緩和を長期間続けたことによって、政府債務は増え、円の価値が下がって、円安や悪い物価上昇、株価の上昇などが起こっているわけだ。 それでは、「借金だらけの政府支出は、どういうところになされたのか?」と言えば、2023年度は中央の2つの図のように、社会保障費(36兆8,996億円)が最も大きい。しかし、これは憲法に規定されていたり、国民との契約に基づいて支払われたりするもので、高齢化に伴って増えることはあっても、減らしてよいようなものではない。 次に大きな支出は、国債費(当初予算25兆2,503億円)と国債元利払い(補正予算1兆3,147億円)の計26兆5,650億円で、2023年度末には普通国債の累積残高が1,068兆円に上る国債の償還分と利払い費の合計である。元本の返済と利払い費を合計して表示する公会計基準はわかりにくくて良くないが、国債残高が少なければ元本の返済と利払い費の合計も少ないことは明らかだ。なお、金利が上がれば国債の利支払い費も増えるが、特殊な事情でもない限り、安い金利の資産を持ち続けたい人はいないのである。 3番目に大きな支出は、地方交付税(当初予算16兆3,992億円)である。これは、地方自治体が再エネ発電をしたり、産業振興をしたりして、国への依存度を下げれば下がるものだ。 4番目に大きな支出は、防衛費と防衛力強化資金(11兆2,415億円=当初予算6兆8,219億円+3兆,3806円+補正予算1兆390億円)である。防衛費は細かく分けて1つ1つの項目を小さく見せているが、総額では2023年度に11兆2,415億円を支出している。そのため、11兆円以上の支出の費用対効果を検証すべきだが、私は、原発等の危険施設を残したまま、食料も燃料も殆ど輸入に頼りつつ、どんな理由があろうと決して戦争などできるわけがないため、日本における防衛費の費用対効果は著しく低いと考えている。 5番目に大きな支出は、公共事業費(7兆3,622億円=当初予算6兆600億円+補正予算1兆3,022億円)だが、古くなった設備の更新や再エネ電力の送電線等のニーズを満たし、インフラという観点から生産性の向上に資しているのかは大いに疑問だ。 右から2番目の補正予算で、2023年度には、そのほか、i)低所得者世帯への7万円給付1兆592億円 ii)ガソリン・電気・ガスの補助延長7,948億円 iii)次世代半導体研究開発基金6,175億円などが支出されており、ii)の7,948億円はロシア・ウクライナ戦争に加担したことによる費用(=防衛費の一部?)に入るだろう。 1番右の2024年度当初予算における歳出・歳入の内訳は、2023年度に36兆8,996億円だった社会保障費が37兆7,193億円に増え、26兆5,650億円だった国債費も27兆90億円に増加している。地方交付税交付金は、16兆3,992億円から17兆7,863億円に、防衛費は11兆2,415億円から7兆9172億円に減少しているが、補正予算を組めば、2024年度の歳出はさらに増加する。 しかし、2024年度当初予算の中には、教育・研究開発費及び公共事業費は現れないくらい小さな割合だ。教育や研究開発がイノベーションの基となり、公共事業改革がインフラの面で生産性を上げる必要条件であることを考えれば、生産性を上げるための本質的なことはせず、金をバラマキ続けてきたことが、イノベーションを妨げ、日本の停滞を招いたのだと言えるだろう。 ところで、今日(8月14日)、岸田首相は来月の総裁選立候補を見送ると発表された。私は、岸田首相の原発推進には全く賛成できない(これは首相を変えれば変わる問題ではない)が、NISAを制限でがんじがらめの制度から、非課税期間無期限化・非課税上限額拡大を行なって、より投資しやすい新NISAに変換されたことは、長銀出身の首相らしいと思って評価している。 しかし、メディアは、この間、政治資金規正法違反報道や首相の進退・衆議院解散など、誰かを貶めて首を切ることばかりを興じて報道し、視聴率の高い時間帯に野球・馬鹿笑いの番組を長時間配置するなど、まともな政策論議をして見せることによって国民(子供を含む)に深く考えさせることができなかった。これは、教育の問題に端を発しながら、民主主義を担うべき国民の劣化を促している。 3)メディアの主張する歳出改革について *3-1-1は、①政府が6月に公表した骨太の方針案は、財政拡張路線からの転換 ②自民党の積極財政派に配慮して2022年以降は避けていた国・地方の2025年度のPB黒字化目標を3年ぶりに明記 ③内閣府試算では2025年度PBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収める等の歳出改革を続ければ黒字化可能 ④2025~30年度予算編成方針は「PB黒字化を後戻りさせず、債務残高のGDP比を安定的に引き下げる」 ⑤2030年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らみ、元本償還も含む国債費は2024年度では一般会計の2割超 ⑥利払い費が膨らめば社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる ⑦金利上昇しても、インフレで名目成長率が底上げされれば税収も増え、財政健全化に繋がる ⑧経団連の十倉会長は経済財政諮問会議で「PB目標は単年度で考えるのではなく、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべき」とした ⑨小泉政権で策定した2006年骨太方針は社会保障費を毎年2200億円圧縮する等の数値目標を明記し、2011年度黒字化を打ち出した 等としている。 また、*3-1-3は、⑩政策の優先度を見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要 ⑪PBは税収増で上ぶれし、大型補正予算を組まなければ2025年度には小幅なプラス ⑫金利が上昇すれば国債利払いも増加 ⑬無駄な支出と赤字抑制に最大限努めるべき ⑭閣議了解された概算要求基準は「施策の優先順位を洗い直し予算を大胆に重点化」とする ⑮物価や人件費上昇で歳出拡大圧力が強い ⑯少子高齢化対応はじめ、重要な政策課題も多い ⑰防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱い ⑱「重要政策」を優遇する特別枠と金額を明示しない「事項要求」対象が広い ⑲賃上げ促進・官民投資拡大・物価高対策などが例示されている ⑳物価高で苦しむ家計や事業者を支えると言うが、対象を広げれば財政悪化 ㉑各省庁は予算要求の段階で費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべき ㉒安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図 等としている。 このうち①は、賛成だが、②④については、補正予算を組めば実現できない。また、⑩⑬⑭㉑を本当の意味で行なうためには、日頃から費用対効果の高い賢い支出を選び続けていく行政評価可能な複式簿記による公会計制度を採用しておくべきで、現在それをやっていないのは、*3-4に書かれているとおり、主として日本とアフリカだけなのだ。これについては、⑧のように、経団連の十倉会長が経済財政諮問会議で少し触れられているが、民間企業は、当然のこととして、月次でそれを行なっているのである。 また、③⑨のように、歳出改革と言えば「高齢者の社会保障費の伸びを抑える」案しか出ないのは、実際の高齢者の生活を見ておらず、観念的な政策決定をしているからである。 さらに、⑤⑥については、いつまでも0金利政策を続けるわけにいかないことは明らかで、これまで0金利政策をとっていた間に必要な改革をし、国債残高は減らしていなければならなかったのであり、既に過去の蓄積を使い果たして時間切れになったということだ。しかし、未だに⑦⑪のように、「インフレで名目成長率が底上げされれば税収が増えて財政健全化に繋がる」と言っているのは、国民の生活については全く考えていないということだ。 なお、⑫の「金利が上昇すれば国債利払いも増加する」や⑮の「物価や人件費上昇で歳出が拡大する」というのは当然であるため、⑲の賃上げ促進政策と官民投資拡大、⑳の物価高対策と日銀のインフレ目標は矛盾した政策なのである。 確かに重要な政策課題は、⑯の少子高齢化対応だけではないのに、⑰の防衛費増額は、日本の財政状態から見て大幅すぎる。また、㉒のように、無駄使いとバラマキを繰り返した挙げ句、「足りなくなったら安定財源の確保として消費税を上げれば良い」と考えるのも、国民の生活について全く考慮しておらず、どういう人にこういう発想が浮かぶのか、むしろ疑問である。 4)金利正常化と円高について ![]() ![]() ![]() 家づくりコンサルティング 2022.6.21トウシル 2022.6.22SMBC (図の説明:左図は長期金利《名目》の推移で2016年から0近傍が続いているが、実質金利はここから物価上昇率を差し引いたものであるため、さらに低く、消費者が節約せざるを得ないのは当然なのだ。また、中央の図は、主要国の金利だが、日本は突出して低いため投資が外国に出るのも当然なのである。右図は、日本人がどこに投資するかを考えている様子だ) ![]() 2024.6.25日経新聞 2022.10.21三井住友アセットマネージメント (図の説明:左図は1900年からの対ドル為替レートと日本・米国の物価の推移で、第2次世界大戦敗戦後の著しいインフレとその後のインフレ停止は、物資不足による物価高から預金の引き出しが集中したこと等により、幣原内閣がインフレ抑制と資産差し押さえの目的で旧円から新円への切替えを行い、旧紙幣は一部を除いて無効にしたからで、国民から見ればひどいことをしたものだ。右図は、1971年以降のドル円相場であり、1973年に変動相場制に移行した後、日本の貿易黒字拡大に伴って次第に円高となり、1995年4月19日の79.75円/$と2011年10月31日の75円32銭/$が円の対ドル高値であり、これを受けてアベノミクスが始まったのである) *3-1-5は、①円相場は2024年4月29日に1ドル160円24銭、2024年6月22日に再度1ドル159円80銭台の円安になり、米金利上昇とドル買いを誘った ②政府・日銀の円買い為替介入を受けて、円は151円台まで上昇した ③その後、日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進み、輸入企業のドル調達もあって円の下落基調が続く と記載している。 また、*3-2-1は、④低い政策金利が円安・インフレの弊害を招き ⑤日銀は、金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げた ⑥金利全般が上昇して住宅ローンや企業の借入金利に影響が出るが、2%台半ばにある物価上昇率を勘案すれば実質的金利は依然マイナス ⑦目標とする2%以上のインフレが27カ月続く ⑧石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国は、円安が輸入コスト増に直結して物価上昇の引き金になる ⑨GDPの5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは物価高による節約志向が原因 等としている。 さらに、*3-2-2は、⑩日銀は7月末の金融政策決定会合で「追加利上げ」と「量的引き締め」を決めた ⑪国も企業も家計も、これから金利の規律と向き合う ⑫インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然 ⑬日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことはなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む ⑭公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された ⑮日経平均株価は2日に史上2番目の下落 ⑯日本国債発行残高は1082兆円で日銀が53%を保有するが、巨大な買い手がいなくなれば金利は急騰する ⑰財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望し、ある大手銀行は「長期金利が1.2%になれば国債買いに動くが、現在は1%を切っており動く地合いではない」とする 等と記載している。 このうち、①②③は、1ドル160円前後から151円前後まで動いたから円高になったとは思わないが、1ドル75~80円/$の時に円売りドル買い介入して得ていたドルを、150~160円/$の時に円買いドル売り介入して売れば、財務省は膨大な為替差益を実現することができて税外収入を得られる。しかし、これは過去の蓄積の食い潰しにすぎないため、そう威張れるものではない。 また、④のように、低い政策金利が円安・インフレの弊害を招いたことは事実だが、⑤のように、日銀が金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度に引き上げても、⑥⑦のように、物価上昇率が2%なら実質金利は-1.75%程度になるため、住宅ローンの借り手・企業の借入・公的債務への国民からの所得移転は続いているのである。つまり、一般消費者の生活への配慮なき主張だ。 なお、円の為替相場が下がれば、⑧のように、エネルギー・食料・原材料の多くを輸入に頼っている日本では、「円安=輸入コスト増」となり、さらなる物価上昇に繋がるため、これらを総合した結果、⑨のように、GDPの5割超を占める個人消費は、物価高によって節約せざるを得ず、消費は不本意ながらマイナスが続いているのである。 つまり、低金利政策を長くとって貨幣価値を下げれば弊害の方が多くなるのであり、日本は、⑫⑬のように、1995年以降政策金利が1%を超えたことがなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込んでいるそうだが、インフレ率が2%で推移するのなら政策金利は少なくとも4%程度まで上げなければ実質金利2%は実現しないのである。 そのため、名目2%程度の金利では、⑩⑪の「追加利上げ」と「量的引き締め」を行なったことにはならず、国・企業・家計が金利の規律と向き合うことにもならない。従って、⑭のように、公表翌日に円相場は148円/$台までしか上がらず、⑮のように、日経平均株価が「史上2番目の下落」をしたのは、これまで円の価値が下がっていたため、円で計られる株価は上がっていたが、それが円の価値の回復に伴ってその分だけ修正されたにすぎない。 なお、⑯のように、「日本国債発行残高1082兆円のうちの53%を、日銀が保有している」というのもすごいが、その日銀が引けば債権価格が下がって金利は急騰するだろう。しかし、⑰のように、長期金利が1.2%でも実質金利がマイナスである以上、民間にとって日本国債は持ち損になるのである。 5)金利正常化と株安について *3-2-3は、①内外の株価や円相場の不安定な動きが続くが、日銀と市場との対話が不十分 ②日銀がさらなる利上げ姿勢を示したことが円の急伸を招いた ③世界で日本株の下落が際立ったのは、ハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れ等の米国要因に円の急伸が重なったから ④日銀が7月末金融政策決定会合で利上げを決めた直後、FRBが9月利下げの可能性を示唆し日米金融政策の方向性の違いが強く意識された ⑤日銀の内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しした ⑥経済・物価が想定通りに推移して円安を背景に物価の上振れリスクに注意する必要性が判断材料となったが、説明が首尾一貫していない ⑦日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に市場との対話を見直してほしい 等としている。 日経新聞は、①②⑦のように、「株価下落は日銀の市場との対話不足にある」と主張しているが、「(配当+譲渡損益)/株価」は債権の金利と株式のリスクを加味した値に落ちつくため、金利を上げれば株価が下がるのは当然のことだ。そして、投資家は、それも織り込み済でファンドにするなどしているため、日銀と市場の対話が不十分だったとは、私は思わない。 しかし、メディアの指摘を受けて、⑤のように、日銀の内田副総裁が火消しを行なったため、⑥のように、首尾一貫性がなくなった。なお、日本の経済と物価は、米国とは違ってディマンドプル・インフレになっているのではなく、ウクライナ戦争と円安を背景として輸入物価の値上がりで起こるコストプッシュ・インフレになっているため、④のように、日銀が利上げを決め、FRBが利下げの可能性を示唆するという方向性の違いがあっても、おかしくはない。 つまり、これまで日本政府が行なってきた政策と、その結果として起こっている経済状況が株価下落の原因であるため、日本株の下落原因を、③のように「米国要因」に求めるのは、米国への責任転嫁になると思う。 また、*3-2-4は、⑧日本株のボラティリティーが高まり、急激な下げへの警戒が残る ⑨避難先銘柄は食品や小売り、住宅関連等の業種 ⑩総菜製造のフジッコや製粉会社のニップン等はベータ値が0.05程度で、市場全体の値動きに対する感応度は極めて小さい ⑪内需中心で業績が安定している企業や財務レバレッジの低い企業のボラティリティーが小さくなる ⑫食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期まで10期連続の営業増益 ⑬営業地盤を地方に置く銘柄も、業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先 ⑭大規模ホームセンターのジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落した時にむしろ株価上昇 ⑮外国人持ち株比率が高いとボラティリティーは高い ⑯日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されている ⑰ディフェンシブ性の高い銘柄は市場シェア拡大が期待できるとしてヘルスケアや投資指標面での堅実な公益株 としている。 私は、⑧のように、日本株のボラティリティーが急に高まったとは思わないが、⑨⑩⑫⑭のように、避難先銘柄が、食品・小売り・総菜製造・製粉・ホームセンターであることには、消費者の行動から納得できるし、面白いと思った。何故なら、食品の節約には限度があるが、節約する場合には惣菜・小麦粉・液卵を使ったり、ホームセンターで買い物したりというように、これらは節約時にむしろ需要が増す業種だからである。 また、⑪⑬⑮のように、内需中心だったり、借入金の割合が低かったり、営業地盤が地方にあったり、外国人持ち株比率が低かったりして、為替・金利・グローバルな景気に左右されにくければ、企業のボラティリティーが小さいのも納得できる。 ⑯のように、日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されているというのは、利率が高くてリスクは低い方が良いに決まっているが、興味深い。ここで、⑰のように、ディフェンシブ性の高い銘柄が、市場シェアの拡大が期待できるヘルスケアと堅実な公益株というのも尤もだが、日本政府は、高齢化や女性の社会進出で需要が伸びるヘルスケアの業種や地球環境を護りながらエネルギー・食料の自給率を高める業種を軽んじている点が合理的でない。 6)家計と日本経済 *3-2-5は、①内閣府発表の2024年4~6月期GDPは、前期比の年率換算で実質3.1%増だが、前期からの反動要因が大きい ②景気の弱さは主にインフレの長期化による家計圧迫に原因があるため、大規模財政出動や日銀の追加利上げ牽制は打開策にならない ③政策対応は物価抑制・低所得世帯等への家計支援に力を入れる時期 ④4~6月期プラス成長の最大要因はGDPの約半分を占め、景気のエンジン役である個人消費が5四半期ぶりに増加へ転じたためだが、前期の自動車認証不正問題の悪影響の反動で4~6月期の消費が大きめに出た ⑤総務省の家計調査から長引く物価高に節約で対抗し、食品等の必要なものに絞って金を使う家計の実情が浮かび上がる ⑥定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから先行きの消費改善を予想する声があるが、減税は一時的で、全世帯の3割を占める高齢世帯に賃上げは無縁 ⑦円安が是正され物価が落ち着くまで消費は低空飛行 ⑧他のGDP主要項目は、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加して全体のプラスに貢献 ⑨円安による輸出企業の好業績や認証不正問題からの回復が投資増に ⑩今後は日銀の政策変更による金利上昇や株価・円相場の影響が避けられないが、相場の荒い変動は投資手控えに繋がる ⑪輸出から輸入を差し引いた外需は、2四半期連続のマイナスでGDPの足を引っ張る要因 ⑫訪日客需要は堅調だったが、中国の成長減速等から輸出の伸びは輸入の伸びを下回った ⑬この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方 ⑭米景気や利下げの行方が株価の波乱要因で円相場にも影響 ⑮その場しのぎの減税や電気・ガス代の補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道 としている。 上の①②④⑤⑥⑦は全くそのとおりで、久々に正確な記事に出会ったような気がするが、特殊な理由でGDPが前期より増加した四半期の数値を4倍して年率に換算するのは粉飾に近い。 また、③については、物価抑制・低所得世帯等への家計支援のうち物価抑制は必要だが、低所得世帯等への家計支援は、i)“低所得世帯”の範囲が狭く、金額も小さいため殆ど意味がない ii) 所得税・住民税・社会保険で既に所得の再配分は終わっている iii)“低所得世帯”の定義を広くしてさらに配分すると二重・三重の不正確な配分となり、バラマキになる と思う。 そのため、⑮も含め、分配を考えるなら負担力主義で正確に計算する所得税を利用し、所得税制に不完全な部分があれば、それを改正するのが正攻法だ。さらに、電気・ガス代の補助よりも、再エネを利用しやすくする補助の方が、単に国の債務を増やすのではなく、地球温暖化防止に資しながら、日本のエネルギー自給率向上にも役だつ。 そのため、政府が迅速にEV・再エネに舵をきる方向性を示していれば、⑧の企業は設備投資の方向性を早い時期に決めることができ、設備投資を増やして景気回復と生産性向上の両方を達成できた筈だ。そうすれば、ガソリン車を合格させるための⑨のような認証不正問題を起こす必要も無く、日本が景気対策の膨大なバラマキで世界1の債務国になる必要もなかったのである。 ⑩については、今後は日銀による政策金利の上昇が株価や円相場に影響することもあるだろうが、投資するからには、投資信託等を使って専門家に任せるか、自分自身が勉強してリスク管理を行なう必要がある。 また、⑪⑫のように、「輸出から輸入を差し引いた外需がマイナス(貿易赤字)で、訪日客需要だけが堅調だった」というのは、日本のグローバルな製造業は円高とコスト高で既に中国はじめ新興国に出てしまい、日本国内で製造した製品を輸出する“加工貿易”には比較優位性がなくなってしまったということだ。しかし、製造業が衰退して良いわけはないため、飛躍的に付加価値や生産性を高くする研究を行ない、できた製品は速やかに社会実装して、さらに進歩させる仕組みが必要なのである。 つまり、⑫⑬⑭のように、いつまでも「日本の景気が米国や中国に大きく左右される」などという責任転嫁の姿勢はよくないし、それを卒業するには、足下ばかり見てその場しのぎの政策を積み重ねても、無駄が多すぎてマイナスにしかならないということだ。 (6)国民生活を考慮しない政策がまかり通る理由 ← 男女の教育格差と女性の社会的地位の低さ ![]() ![]() ![]() 2024.8.23朝日新聞 2022.8.1MarkeTRUNK 2023.11.2日経新聞 (図の説明:左図は、全国にある公立の男女別学高校数で、2024年4月には42校に減っているものの、その3/4が関東に集中している。そして、教育格差とアンコンシャスバイアスによって、中央の図のように、男女雇用機会均等法の存在にもかかわらず、民間企業の管理職に占める女性の割合は著しく低い。そして、これが、右図のように、欧米と比較して日本の男女間賃金格差が大きくなっている理由だ) ![]() ![]() 2022.8.1MarkeTRUNK 2023.6.21日経新聞 (図の説明:左図は、民間企業の雇用者の各役職に占める女性割合についての目標と現状を示したものだが、もともとは2020年までにすべて30%にするという「202030」というのが目標だった。しかし、目標をたてても実践しなかったため、日本の男女平等度ランキングは、右図のように、世界で125位という先進国だけでなく、アジアでも低い方になったのである) 1)未だに男女別学を主張する人々 *3-3-3は、①かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進んだ ②2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫った ③元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は、今年4月に記者会見して「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調 ④共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも「公立の別学校も選択肢の一つとすべき」と反論 ⑤7月下旬、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出 ⑥浦和一女で「討論会」を開いて「男女別学高校の共学化」を議題にすると「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」等、共学化反対一色になった ⑦埼玉県内の中高生と保護者を対象にアンケートを実施したところ、別学校の生徒3割を含む高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割 ⑧1947年に男女共学等を定めた教育基本法が施行され、多くの公立高校で共学化が進められた ⑨全国的には公立の男女別学高校は減っているが、北関東や東北などで別学校が残り、2024年4月現在、別学校があるのは宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島の8県42校で、埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に3/4が集中している ⑩共学の場合でも男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある ⑪法の下の平等を定めた憲法14条は性別による差別を禁止しているため男女共学が原則で、自宅から最も近い公立高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば違憲判断が出るかもしれない 等としている。 このうち①は、⑧⑪の教育基本法や憲法に基づいて、本来なら1947年に行なわれなければならなかったことであるにもかかわらず、⑨のように、公立の別学校が宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島で42校も残っており、埼玉・群馬・栃木に32校とその3/4が集中しているのである。そして、これは、この地域におけるジェンダー平等の遅れを物語っている。 このような中、②のように、2023年8月、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫ったのは評価できる。しかし、③で市民グループ「共学ネット・さいたま」が「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」としたのには賛成だが、元高校教諭らが「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調したのは失望だ。何故なら、男女格差はそのような考え方の教諭によって教育によって社会的に作られるものが多く、本当は、社会のリーダーになるためには、男女にかかわらず男性優位を前提としない感性を持って働くことが必要だからである。 日本でも、⑩のように、確かに「男子の方が、共学校でも発言機会が多い」という場面はある。しかし、社会に出れば男女別にリーダーになる昇進競争をするのではないため、女子生徒も、共学校の中で実力を発揮する訓練をし、堂々と発言する練習もして、職場では男女別ではない競争に静かに勝たなければならない。 従って、④⑥⑧のように、浦和第一女子・川越女子の同窓会長が公立の別学校を支持し、浦和一女の生徒が討論会で「電車の中で怖い思いをした」「異性がいると不安」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」などと言っているのでは、「浦和一女の“伝統”とは、どういう伝統か」とむしろ聞きたくなるのであり、ジェンダー平等に大きく立ち後れていると言わざるを得ないのだ。 しかし、男女別学高校の討論会で「男女共学の方に賛成だ」と言うのは、男女共学高校に通った経験が無く、異性に変な関心を持っているとの誤解を受けかねず、学校の方針に逆らって内申書の評価を下げることにもなりかねないため、実質的に不可能だろう。そのため、⑦のように、埼玉県内の中高生と保護者のアンケートでは、高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割になっているのだと思われる。 なお、男女別学を嫌う親は埼玉県内の公立高校に子どもを通わせておらず、高い学費を支払って東京都の私立中高一貫校に通わせたり、そもそも埼玉県に住んでいなかったりするため、アンケートの母集団に入らない重要な集団がいることを忘れてはならない。そのため、高校生やその保護者にアンケートをとったり、⑤のように、広い世界を知らない高校生が県庁を訪れて男女別学の維持を求める要望書を提出したりするのは無意味であり、「高校生は、そんなことをする暇があったら周囲に異性がいようといまい集中して勉強した方が良く、それも修養の1つだ」と、私は思うわけである。 また、*3-3-4は、⑫県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが「公教育」に関する考え方 ⑬公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平 ⑭進学実績で県内トップとされる浦和高校が男子校で男女の教育機会に格差を生んでいる ⑮東大の2024年の合格者数は、埼玉県内の公立高校では男子高の浦和が最多44人、続いて共学の大宮が19人、女子校の最多は浦和第一女子と川越女子で2人ずつ ⑯別学維持を求める署名を7月下旬に県教委に提出した浦和高校3年の男子生徒は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できる方が選択肢は広がる」 等としている。 私は、⑫⑬⑭⑯に、全く賛成である。⑮については、どういう“伝統”ある学校かは知らないが、首都圏にあって人口の多い県でありながら、浦和第一女子高校は2名(理1:1名、理2:1名)、川越女子高校は2名(文学部:1名、法学部:1名)と、男子高の浦和高校、共学校の大宮高校と比較して東大への合格者数が著しく少ない。この男女格差は、教育格差によって形成された部分が大きい上に、男女別学を嫌う親は埼玉県に住まないため、遺伝格差も出ているかも知れない。埼玉県は、それでいいのか? さらに、*3-3-5は、⑰埼玉県教委は「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表したが、共学化の方法や時期・校名は明記せず具体的な進め方を先送りした ⑱県教委は、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展等の社会の変化に応じた学校教育の変革が求められる」「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」とした ⑲日吉教育長は、「結果的に別学校を存続させる可能性を含めて総合的に考える」「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」とした ⑳曖昧さが残る報告書に、賛否両派から不満の声が漏れた 等としている。 私は、⑰は「主体的に共学化を推進する」と言いながら、⑳のように、先送りしてうやむやにしようとする消極性があると思う。しかし、青少年期の教育は1年1年が重要な位置を占めるため、親は裁判に訴えるのではなく、他の地域に引っ越すか、子の数を制限して私立や塾に通わせざるを得ず、この教育インフラの差は企業誘致や不動産価格に響いていると思う。 また、⑱のうち、学校教育の変革は「外圧によって仕方なく」ではなく自ら率先して行なって欲しいし、私は、高校の3年間、男女が協力するだけでなく、同じ教育を受けた場合の女性の実力を男性が身をもって知ることは、社会に出た後に男性が女性を上から目線で見る男性優位のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくすのに最も効果的だと思っている。そのため、⑲の公立高校の共学化は、一刻の猶予もなく速やかに行なうべきなのだ。 2)日本における男女間賃金格差の原因 ← 日本には「ガラスの天井」以前に「壊れたはしご」すらない女性が多いこと *3-3-1は、①ガラスの天井=十分な能力があるにもかかわらず、性別・人種等の要因で昇進が妨げられること ②壊れたはしご=女性が昇進するために上るはしごが元々壊れており、1段目から男女格差が生じていること ③はしごの1段目はグループ長・主任などファーストレベルの管理職 ④第一段階の地位に就く女性割合の低い構造が女性の昇進を阻むハードル ⑤男女の昇進格差をなくすには壊れたはしごを生み出す構造を見直すべき ⑥日本政府は2003年に「あらゆる分野の指導的地位の女性割合が2020年までに30%程度に到達することを目指す『202030』目標」を発表した ⑦役職に就く女性割合は、現在、目標の30%に届かない ⑧EUはジェンダー平等推進に取り組んできたが、管理職に就く女性比率に関して加盟国間で大きな差があり、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意 ⑨EU域内の上場企業は、2026年6月末までに、社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成できない企業は場合によって罰則対象 ⑩男女共同参画局の調査で、日本の女性役員割合は12.6% ⑪2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国中でも韓国・中国・ASEAN諸国より低順位 ⑫2022年3月にエコノミストが発表したガラスの天井指数で日本は29ヶ国中28位 ⑬OECD調査で日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位 ⑭ガラスの天井が生まれる要因にアンコンシャスバイアス(「女性は仕事より育児をすべき」「女性に力仕事は任せられない」等の無意識の偏見・思い込み・根拠なき決めつけ)がある ⑮女性に対する偏見・思い込みが組織に根付いていると、女性の昇進が妨げられる ⑯アンコンシャスバイアス解消には自分に無意識の偏見があることを自覚する必要 ⑰物事を判断する際に偏見が働いていないか検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除く第一歩 等としている。 *3-3-1の記述は、①②③④のように、「ガラスの天井」と「壊れたはしご」を明確に定義し、⑤のように、「壊れたはしご」を生み出す構造を見直すことが、男女の昇進格差をなくすのに不可欠だとしている点が優れているが、日本には、非正規社員や限定正社員など、壊れたはしごすら見えない働き方をしている女性が多い。 そして、⑮⑯⑰のように、正社員であっても、女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると昇進が妨げられるため、そのアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を解消するには、自分に無意識の偏見があることを自覚し、物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが必要であるとしている点も正しい。 しかし、⑭のように、アンコンシャスバイアスとは「無意識のうちに持っている偏見・思い込み・決めつけである」という定義には賛成だが、その事例の中に「女性に力仕事は任せられない」とあるのは説明不足だと思う。何故なら、オリンピック競技でも、例えばウエイトリフティングの記録は男子の方が重いバーベルを持ち上げ、女子でもトランスジェンダーが記録を出し、100m競争をしても同様だからだが、それでは女性に力仕事はできないのかと言えば、現在では、機械を使ったり、工夫したりして、力任せではなく頭を使って、効率的に同じ以上の結果を出すこともできるからである。 なお、「仕事より育児をすべき」というのは、日本では子どものいる男性には言わないにもかかわらず、独身や子どものいない女性にまで言う人が少なくない。しかし、これは仕事の能力とは関係のない場合が多いため、女性に対する単なるハードルだったり、セクシャルハラスメントだったりするのである。そして、このような女性の昇進を妨げるためのバイアスは挙げればキリが無いが、これらが意識的又は無意識的に女性の昇進を妨げ、その結果として、日本では、⑥⑦のように、日本政府が2003年に「202030」を目標にしたにもかかわらず、役職に就いている女性割合は30%にも届かず、これがさらなるバイアスを生んでいるのである。 また、⑩⑪⑫⑬のように、日本の女性役員割合は12.6%にすぎず、2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国でも韓国・中国・ASEAN諸国より低く、ガラスの天井指数は日本は29ヶ国中28位で、日本の男女間賃金格差は38ヶ国中ワースト3位だが、どうしてそういうことになるのかは、こちらが聞きたいくらいだ。 一方、EUは、⑧⑨のように、ジェンダー平等推進に取り組んできたが、加盟国間で管理職に就く女性比率に大きな差があるため、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意し、域内上場企業は2026年6月末までに社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成しなければ場合によっては罰則対象になるそうだ。加盟国のESG経営を通して経済にプラスになることでもあるため、TPPもEUに合わせたら良いと思う。 また、*3-3-2は、⑱日経新聞の集計で女性役員のいない東証プライム上場企業は69社で全体の4.2% ⑲政府は2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定 ⑳現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならず、役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要 ㉑就業者の半分近くが女性なのに、管理的職業従事者の女性比率は14.6% ㉒政府目標達成には女性社員の育成も必要 ㉓「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材 等としている。 日本政府は、⑲のように、2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定しており、現在は、⑱⑳のように、女性役員のいない東証プライム上場企業が69社・全体4.2%あり、現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務めている2500以上のポストを女性のために空けなければならず、役員の数を増やして女性を登用するには3800近いポストの新設が必要なのだそうだ。しかし、本来なら、空けて2020年までにやっておくのが筋である。 さらに、㉑のように、管理的職業従事者の女性比率が14.6%しかいないそうだが、男女雇用機会均等法は1999年の改正で「採用・配置・研修・退職で男女差別をしてはならない」と男女差別禁止を義務化している。そのため、それから25年後(四半世紀後)の現在になっても、㉒のように、「政府目標達成には女性社員の育成も必要」などと言っているのは、この間、様々な手練手管を使って均等法違反をしてきたということにほかならない。 なお、㉓は、「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材」としているが、見せかけの女性役員割合の増加ではなく、本当に企業文化を改革して業績を上げるには、現在の上司が想像できる範囲外の社内人材である必要があると、私は思う。 *3-3-6は、㉔男女間賃金格差は労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響がある ㉕問題解消には、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠 ㉖男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然だが、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向 ㉗育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多いことが影響 ㉘複数の研究が女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差に繋がる ㉙世界47ヵ国・11万人を対象とした調査で、女性は仕事の社会的意義をより重視する傾向 ㉚アメリカのMBA学生を対象とした研究では社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない ㉛この選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因 ㉜選好理由は、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのか ㉝この研究結果は企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆 ㉞女性の少ない金融業界は、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる 等と記載している。 このうち㉔には賛成だが、㉕については、日本では、i)男女差別のない雇用機会(採用)があるか ii)給与や昇進機会の実質的男女平等があるか iii)結婚・子育てが不可能なほど、転勤・残業が多くないか iv)長く働くことができ、老後生活の安定が保てるか などが、女性の職業選択の条件になっていると思う。 これらの条件に照らせば、㉞の「女性が少ない」という日本の金融業界は、総合職なら過度の転勤があり、そうでなければ昇進機会が著しく限られて給与も上がらないため、能力の高い女性の選択肢には入りにくいのである。しかし、日本の金融機関が女性を補助職としてしか採用していなかった時代でも、私が監査で行っていた外資系の金融機関は、1980年代から日本企業に行けなかった優秀な女性を多く採用しており、管理職の女性も多かった。 また、㉖の「男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然」というのはそのとおりだが、「女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する」というのは、「女性は仕事より家事を重視する」というアンコンシャスバイアスに基づいている。 具体例として、「公認会計士」という同業種で比較すれば、男女とも本人の同意なき転勤はない。また、通勤時間が長過ぎれば、それに時間と体力を奪われて十分な仕事ができないため、仕事で競争に敗れるのは男女とも同じなのだが、家事分担の多い女性の方が余計に効く。また、柔軟性ばかり気にする人は、仕事の能力で競争に敗れて昇進しないものの、MBA取得目的の留学や出産目的の休職も認められており、監査法人が語学留学させてくれることも多い。 そして、㉗の「育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多い」については、そのために(私が経産省と)1990年代後半に介護保険制度を作り始めて2000年には介護保険制度が創設され、現在は40歳以上の人が介護保険料を払っているため、家族が介護しなくても十分な介護を受けられるようにしてもらいたいのだ。本当は、働く人全員に介護保険料を払って貰いたいのだが、現在は40歳以上の人のみであるため、介護保険料は高いのに必要な介護や生活支援の1/4~1/2くらいしかなされていないのは論外で、さらに保育や学童保育も税金を使って整備してきたにもかかわらず、未だ不十分なのは何をやっているのかと思う。 また、2002年に香港で行なわれた世界会計士会議に出た時、シンガポールの女性会計士が世界会計士会議に来ていて「子どもが2人いて、フルに働いており、現在マネージャーです」と言っていたので、「子どもが2人もいて、どうやってフルに働いているのですか」と聞いたところ、「フィリピン人の家事労働者を2交代で回して家事を全部やってもらっている」という答えだった。日本の場合は、「女性間の差別だ」と言うおかしな論調があったり、家事労働に従事する外国人労働者を制限したりしており、働く女性が子を育てるには犠牲が多すぎるのである。 さらに、㉘の「女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向がある」というのは、ハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンでなければ採算が合わないのは男女とも同じだが、現在の日本では、女性が仕事で昇進しようとすると、さまざまな嫌がらせや間接差別のため、男性よりハイリスクになることが多いようである。 なお、㉙㉚の「女性は仕事の社会的意義をより重視する」「社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない」というのは女性に対して失礼であり、男女とも「儲かりさえすれば公害を出して社会に外部不経済を与えても、何をしても良い」という発想は、教育を通じて止めさせて欲しい。また、給与は能力の反映であるべきで、「社会的意義の高い仕事だから、給与は低くて良い」などということは全くなく、むしろ社会的意義の高い仕事ほど給与は高くなければならない筈である。 以上から、㉛の「女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む」という男女の選好の違いは、現在の日本では、公共部門は採用されれば男女差別が少なく、金融部門はガラスの天井・壊れたはしごが存在する上、中には壊れたはしごすら見えない女性も多くいるという現実があるからだと言える。そして、㉝のように、選択肢の多い能力の高い女性は合理的な職業選択をするが、その選好理由は、㉜の「女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響している」のではない。 ・・参考資料・・ <経済における技術革新の重要性> *1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81334460S4A610C2KE8000 (日経新聞 2024.6.13) 日本経済復活の条件(上) 人口より技術革新、将来左右、山口広秀・日興リサーチセンター理事長(1951年生まれ。東京大経済学部卒。元日銀副総裁。13年から現職)、吉川洋・東京大学名誉教授(1951年生まれ。エール大博士(経済学)。専門はマクロ経済学) <ポイント> ○経済停滞の原因はイノベーションの欠如 ○技術革新はミクロで、人口動態と無関係 ○民間企業が主役だが金融や国も役割重要 日本経済の凋落(ちょうらく)が続いている。2023年には人口が日本の3分の2のドイツと55年ぶりに国内総生産(GDP)が逆転した。25年にはインドにも抜かれ、日本経済は世界5位となる見通しだ。私たちの生活水準に密接な関係を持つ1人あたりGDPの順位低下はさらに劇的だ。00年には名目ベースでルクセンブルクに次ぎ世界2位だったが、10年に18位、21年には28位まで転落した。購買力平価ベースでは世界38位だ。アジアでもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に遠く及ばない。1人あたりGDPの水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではない。労働者一人ひとりにどれだけの資本ストックが装備されているかを表す「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP)だ。資本・労働比率の高低は、工事現場でクレーンやブルドーザーを使い働いているか、それとも1人1本のシャベルやツルハシで働いているかの違いに相当する。全要素生産性の上昇は、ハード・ソフト両面を含む広い意味での技術進歩によりもたらされるが、イノベーション(技術革新)と言い換えてもよい。資本ストックの増強も多くの場合、新しい製品や品質改良、あるいは生産工程における生産性向上を伴うから、全要素生産性の上昇と同様にイノベーションの成果といえる。結局1人あたりGDPの上昇をもたらすのはイノベーションだ。失われた30年といわれる日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である。日本でイノベーションが振るわなかったのは人口の減少が原因であり仕方がないとの指摘があるが、イノベーションの本質を理解しない誤った考え方だ。イノベーションというコンセプトを経済学の中に定着させたシュンペーターは、それがどこまでも「ミクロ」であることを強調した。イノベーションの担い手は、マスとしての人口を相手にしていないのだ。例えば新しい時代を切り開いた米国のハイテク企業4社(GAFA)の時価総額は12年から22年にかけて385%上昇したが、この間の米国の人口増加はわずか6.2%だ。人口とイノベーションは別物である。経済協力開発機構(OECD)諸国についてみると、世界知的所有権機関(WIPO)が公表するグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率との間には相関関係がない(図参照)。OECDに加盟していない途上国の場合にはむしろ明確な負の関係、すなわち人口増加率が低い、あるいは減少している国の方がイノベーションが活発であるという傾向がみられる。イノベーションはどこまでもミクロで、マクロの人口動態と直接の関係はない。日本経済の将来を考えるとき、人口減少を言い訳にしてはいけない。民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要だ。「もう買うものがなくなった」との声も聞かれる。既成のプロダクトへの需要が飽和点に達したということだが、それは飽和点を打ち破るための新しいプロダクトの創造の夜明け前ということだ。実際、多くの企業で新しいプロダクトの開発が進められている。こうした成果が1人あたりGDPの向上につながるのだ。1707年創業で、伊勢神宮土産の定番として名高い「赤福餅」を手掛ける老舗和菓子店は、数年前から消費者の嗜好の変化に対応すべく新しい洋菓子を開発している。これはまさにイノベーションだが、その背景には人口の減少とは別の「時代の変化」がある。ある漁網メーカーでは需要が落ち込むなか、サッカーのゴールネットの品質向上に力を注ぎ、漁網づくりの技術を使い六角形のネットを開発した。ゴールの瞬間、ボールが一瞬止まったように見える効果を劇的に演出することに成功した。あるアルコール飲料メーカーは、缶ビールの蓋を開けた瞬間にキメ細かい泡が吹き出て、ジョッキで飲む生ビールのような風味を味わえる製品を開発した。「泡を出さない」缶ビールから「泡を出す」缶ビールへと発想が転換され、缶内側の加工方法の変更など新しい工夫が集積された結果だ。日本で生じている人口減少はそれ自体が省力化のイノベーションを促すことは間違いないし、そうした例は数多くみられる。今後人口減少が加速するなか、こうした省力化のためのイノベーションの必要性は一層高まると考えられる。さらに高齢者の増加に対しては、高齢者特有の財・サービスの提供のほかに、介護のためのハイテク技術の活用などが求められる。現にそうした活用は広がっているし今後利用の余地は広がっていく。1つや2つのイノベーションでは済まない。日本が抱える人口減少や高齢化という課題は、イノベーションを生みだす素地になっている。経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくために、金融機関の果たすべき役割も重要だ。企業がいわゆる「死の谷」を乗り越えてイノベーションを事業化するには、金融面での支援が欠かせない。これまでは新陳代謝促進に向けて、リスクテイクとリスク回避の適切な使い分けも十分でなかった。金利のある経済の到来で、金融機関のリスクテイク能力の果たす役割は大きくなっている。イノベーションの主役は民間企業だが、国も無縁ではない。政府が時代の変化に対応できずに国力の低下を招いた例としては、04年度に始まったスーパー中枢港湾政策がある。コンテナ取扱個数でみた世界の港湾ランキングで、1980年にはトップ20に4位の神戸をはじめ3港がランクインしていた。しかし21年にはトップ40にランクインする港はない。日本はハブ(中核)機能を失った。一方、成功例もある。例えば00年代に入ってから急増した海外からのインバウンド(訪日外国人)だ。ビザ(査証)免除や発給要件の緩和、観光庁の設立、統計整備、ICT(情報通信技術)を利用したインバウンド消費の把握など、政府による必要な施策を積み上げた成果だ。国費の投入はそれほど大きくはない。「ワイズスペンディング(賢い支出)」ならぬ「ワイズアクション」が奏功した。もちろん国の施策だけではなく、外国人向け高級ホテルの建設、外国人のニーズに対応した新たな商品やサービスの提供、外国人との対話に対応できるスマホによる翻訳機能の開発といった様々な革新的なアイデアが功を奏した結果でもある。まさに官民が協力し、ツーリズムにおけるイノベーションが起きた。人口減少が続くなか、今後のイノベーションの発展については、とかく悲観的な見方が多い。しかし実際には、ミクロレベルのプロダクトイノベーションを含めたイノベーションの動きはすでに始まっている。 *1-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1274461 (佐賀新聞 2024/7/5) 新しい環境基本計画 社会の根本変革への契機に 政府が環境政策に取り組む際の長期的な指針となる第6次の環境基本計画が閣議決定された。 現代社会は、気候変動、生物多様性の損失、プラスチックに代表される汚染の三つの危機に直面していると指摘。人類の活動が環境に与える影響について、地球の許容力を超えつつあるとした。 「目指すべき文明・経済社会の在り方を提示」するというのが計画の触れ込みである。この点に関し計画は、天然資源を浪費し、地球環境を破壊しながら「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘。経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めながら「新たな成長」を実現するとの考えを打ち出した。国内総生産(GDP)など限られた指標で測る現在の浪費的な「経済成長」に代わるものとして計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング(高い生活の質)」を最上位に置いた新たな成長だ。計画は、森林などの自然を「資本」と考えることの重要性や、地下資源文明から、再生可能エネルギーなどに基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調した。今のような経済成長を無限に続けることはできず、人類は地球の限界の中で活動を行うべきだとした点は、これまでにないものとして評価できる。これを社会変革への契機としたい。だが、根本的な変革の実現は容易ではない。最初の基本計画ができてから今年で30年。この間の経済の停滞も深刻だが、同時に日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れを取った。長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできたからだ。計画の実現には環境省の真価が問われるのだが、現実は極めてお寒い状況だ。水俣病患者団体などとの懇談の場で、職員が団体メンバーの発言中にマイクを切断して厳しい批判にさらされた。環境省が登録に多大な努力を傾けた世界自然遺産、北海道・知床半島の中核地域では、携帯電話基地局の設置工事を不透明な手続きで認可した。気候危機対策上、重要なエネルギー政策やGX(グリーントランスフォーメーション)政策は経済産業省主導で進み、環境省の声が十分に反映されているとは言い難い。こんな状況では市民の信頼を得た環境政策によって、社会変革をリードすることはできない。環境政策はもはや、環境省だけの仕事ではない。変革実現のためには、岸田文雄首相のリーダーシップと勇気が不可欠なのだが、この点でも期待薄だ。首相の日常の言動からは、深刻化する環境問題への関心も危機感もまったく感じられない。基本計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」だと、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘した。首相をはじめとする政策決定者や企業のトップが、悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが求められる。それなしには基本計画が打ち出した新たな経済も社会も実現せず、計画は単なる紙切れに終わるだろう。その結果、われわれは劣化した環境と貧困や食料難などの社会問題が深刻化し、安全や安心とはほど遠い社会を、次世代に引き渡すことになってしまう。 *1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1266377 (佐賀新聞 2024/6/21) レアメタル含む岩石2億トン、南鳥島沖、25年採取目指す 小笠原諸島・南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内の深海底に、レアメタル(希少金属)を含む球状の岩石「マンガンノジュール」が2億トン以上あることが確認されたと、東京大と日本財団の調査チームが21日発表した。2025年以降、民間企業などと共に商用化を目指した試験採取を始める計画だという。21日に記者会見した加藤泰浩東京大教授は「経済安全保障上、重要な資源だ。年間300万トンの引き上げを目標にしている。海洋環境に負荷をかけないようにしつつ開発を進めたい」と話した。チームは今年4~6月、水深5200~5700メートルの海底を100カ所以上調査。遠隔操作型無人潜水機(ROV)で、約1万平方キロメートルに高密度に分布しているのを確認した。計約2億3千万トンあると推計される。一部を採取して分析したところ、レアメタルのコバルトは、国内消費量の約75年分に相当する約61万トン、ニッケルは約11年分の約74万トンあると試算された。25年以降、海外の採鉱船などを使い1日数千トンの引き上げを目指す実験をするとともに、民間企業などと商用化に向けた体制構築に取り組む。マンガンノジュールは、岩石の破片などを核とし、海水などの金属成分が沈着してできる。海底鉱物資源として期待されており、東京大や海洋研究開発機構などが16年に、同じ海域に密集していることを明らかにしていた。今回の調査では古代の大型ザメ「メガロドン」の歯を核としたマンガンノジュールも複数見つかった。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81872280U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.5) 核融合、多国間協力に壁 実験炉ITER 完成8年先送り、米中、独自開発進める 日本は2国間を強化 日本、米国、中国、ロシアなど「7極」が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)の完成が、当初の2025年から早くても33年に先送りとなった。多国間協力が順調に続くかは見通せない。米国や中国は独自開発も進めており、核融合発電(きょうのことば)の実現に向けた戦略が日本にとって重要になる。核融合は太陽と同じ反応を地上で再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを生み出せる。ただ、技術的なハードルが高く、膨大な開発資金が必要なことから、国際協力を軸に開発が進んできた。 ●部品不具合響く それが日本、欧州連合(EU)、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参加するITERだ。ITERは核融合で生じるエネルギーを発電に利用できるかどうかを確かめる研究施設で07年にフランスで建設が始まった。投入量の10倍のエネルギーを取り出す成果を目指す。当初は18年の完成を目指していたが、25年に切り替えた。しかし、25年の完成についても、新型コロナウイルスの感染拡大による作業の遅れや部品の不具合で遅延する可能性がここ数年報じられてきた。3日、ITERは部品の不具合などを理由に完成の遅れは8年になると発表した。仏紙によると、総事業費は遅延などを受けて250億ユーロ(4兆3000億円)近くに達する見通しだ。これまでの想定より50億ユーロほど増える。開発の遅れの背景には多国間協力の複雑さがある。ITERでは各国が担当している部品を製造し、「物納」してフランスで組み立てる方式をとる。今回、不具合があったのは核融合を起こす中心部である真空容器だ。真空容器の外側に取り付けられるサーマルシールドと呼ばれる熱を遮蔽する板の冷却用配管に亀裂が見つかったという。部品の製造を担った韓国が納入した時点で、設計との誤差があった。ITERは溶接で誤差を補えるとみていたが、フランスの規制当局は認めなかった。ほかにも真空容器の壁の素材を作業員の安全のために変更する方針で、組み立て作業をやり直す。バラバスキ機構長は3日の記者会見で「プロジェクト全体の遅れを最小限に抑える」と説明した。 ●国際連携の象徴 東西冷戦終結の前後に構想が固まったITERは国際宇宙ステーション(ISS)などと同様に、壮大な科学プロジェクトを国際連携で進める象徴だった。ITERには米国などと急速に関係が悪化する中国やロシアも参加しており、今後、協力が続くかは不透明な面もある。ITERの遅れは各国の核融合開発の戦略に影響を与える。ITERは当初50年代の核融合発電の実現を見据えたプロジェクトだったが、海外を中心に早期の実用化を見据えた動きが活発になっている。米国や中国は40年代に発電する炉の建設を目指している。中国は発電能力を備えた試験炉の建設にすでに着手している。米国はITERとは別の方式で核融合を起こす実験装置を国立研究所が持ち、22年に世界で初めて投入量を上回るエネルギーの「純増」に成功している。日本などはITERの成果をもとに原型炉を建設して、50年代の発電を目指してきた。今もITERとの協力を開発の中心に据えているものの、2国間協力にもかじを切り始めている。日米両政府は4月の首脳会談に合わせて、核融合に関する共同声明をまとめた。両国の企業や研究機関の人材の交流や研究施設の相互利用などを盛り込んだ。核融合施設に部品を納入する企業を中心に国が産業界と連携し、世界的なサプライチェーン(供給網)の構築を目指すことも盛り込まれた。日本は米国との協力強化に先立ち、23年12月にEUとも核融合の推進に関する声明を出している。米国や欧州など西側諸国との協力を強化することで実用化にこれ以上の遅れが生じないようにする狙いがある。 *1-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15920162.html (朝日新聞 2024年4月25日) 2040年、日本は新興国並み 半導体やバイオ投資、成長のカギ 経産省見通し 「失われた30年」の状態が今後も続くと、2040年ごろに新興国に追いつかれ、海外より豊かでなくなる――。経済産業省が24日、こんな見通しを明らかにした。半導体やバイオ医薬品の開発などに思い切って投資しないと、国が貧しくなって技術の発展も遅れ、世界と勝負できなくなるおそれがあるという。今後の経済産業政策の指針とするため、経産省が課題や展望をまとめた。経産省は日本経済が停滞した理由として、企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたと指摘。このままでは賃金も伸び悩み、国内総生産(GDP)も成長しないとみる。今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある。停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要だとする。とくに半導体や蓄電池、再生可能エネルギー、バイオ産業への積極投資が成長のカギを握る。スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もあると指摘。それに伴って、所得を伸ばしてゆくという筋書きだ。経産省は「政府も一歩前に出て、大規模・長期・計画的に投資を行う」とし、具体策を検討する。岸田政権が6月にもとりまとめる「骨太の方針」に反映し、具体策を来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。これまでも経産省は半導体産業への巨額の支援を実行してきた。21~23年度は計約3・9兆円の予算を計上。今回示した見通しは、政策の正当性を主張し、今後も続けさせる目的もあるようだ。今月9日に開かれた財務省の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会では、経産省が主導する半導体支援などの産業政策について、「財政的に持続可能なものではない」などとの意見も出た。増田寛也分科会会長代理は「強力な財政的出動の効果は、厳密に検証しなければいけない」と話す。今後、経産省と財政再建をめざす財務省で綱引きがありそうだ。 *1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15958978.html (朝日新聞 2024年6月15日) オプジーボの先へ:下 「特許の壁」乗り越え、挑む海外展開 小野薬品工業の売上高は、2014年にがん治療薬「オプジーボ」を発売してから、23年度までで3・7倍に伸びた。一方でその間、オプジーボによる二つの壁に直面した。ひとつは、価格が高いとの批判だ。いまは、さまざまながんの治療薬として認められているが、日本では当初、患者が少ない皮膚がんの一種(メラノーマ)の治療薬として売り出した。投じた研究開発費なども考慮して採算が取れるよう、国が決めた薬価は100ミリグラム約73万円だった。ところが、翌15年に患者が多い肺がんに使えるようになると、1人当たり年3500万円かかり、米英の2~5倍などとして批判にさらされた。「公的医療保険制度を崩壊させかねない」などとして、国は16年、当時は2年おきだった薬価改定を待たず、半額にする緊急値下げを決めた。その後も引き下げが続き、今は当初の5分の1だ。当時社長の相良暁は「自分の体を切られるぐらいのつらさがあった」。だが、こうも考えたという。「自分でコントロールできることと、できないことがある。コントロールできないことにいくら思い悩んでたって変わらない。だから、できることに専念する」。もうひとつは、共同研究をした京都大学特別教授の本庶佑との訴訟だ。本庶は18年、オプジーボにつながる研究でノーベル生理学・医学賞を受賞。その後の20年6月、契約通りの特許使用料を得られなかったなどとして、約262億円を払うよう小野薬品を訴えた。「対応を間違ったら、小野薬品のレピュテーション(評判)が悪くなってしまう。社員やその家族にも迷惑をかける」。相良はリスクを感じ、21年に和解に応じた。本庶に解決金などで50億円を支払い、若手の研究者を支援するための基金として230億円を京大に寄付することにした。だが、本庶と結んだ特許料の契約の内容を変えることには応じなかった。製薬会社に限らず、企業は大学などと組み、さまざまな研究や開発に取り組んでいる。成功すれば目立つが、失敗することも多い。企業はそのリスクを負って資金を出している。「研究が大きな成功につながったら、もともとの契約を変更して上乗せしてしまうと、産学連携に禍根を残すのではないか」。この裁判は自分たちだけの問題ではないと考えていた。この先に待ち構えるのは、製薬業界にはつきものの「特許の壁(パテントクリフ)」だ。オプジーボの特許は、国内では7年後の31年に切れる。ほかの薬の特許切れも迫り、価格の安い後発薬(ジェネリック)が出れば、会社の売り上げは大幅に落ち込む可能性がある。この4月に社長の座を滝野十一(56)に譲り、会長になったのは、オプジーボのその先を考えてのことだ。海外での経験が豊かな滝野とともに海外展開に本腰を入れる。手始めに米国のバイオ医薬品ベンチャーを約24億ドル(約3765億円)で買収することを決めた。2年後には自社開発したリンパ腫の薬を米国で売り出す計画だ。この会社が持つ欧米での販路を生かす。相良が社長に就く前後の2000年代、国内外で製薬会社の合併が相次いだ。「変わり者」の小野薬品にも声はかかったが、乗る気はなかった。17年に300年を迎えた会社の歴史の重みを感じ、「未来に引き継いでいかなあかん、名前をなくしちゃあかん」。思いは強い。人体の仕組みの解明や人工知能の高度化といった技術の進展で、薬の作り方は変わり続ける。「真のグローバルファーマになることに、真剣に本気になって取り組む」。特許の壁も乗り越え、自前で生き残るため、海外に挑む。=敬称略 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81874780V00C24A7MM8000 (日経新聞 2024.7.5) 抗生物質も脱中国 薬の安定供給へ国産化 明治や塩野義、政府が支援 抗生物質の原料のほぼ全量を中国など国外に依存している状況を変えようと官民が国産化に動く。輸入が途切れれば十分な医療を受けるのが難しくなるためだ。政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を2024年度にも新たにつくる。抗生物質は抗菌薬ともいい、細菌や体内の寄生虫を殺したり、増えるのを抑えたりする薬。抗生物質がなければ細菌性感染症の治療や手術ができない。院内感染が増える恐れもある。世界保健機関(WHO)は各国に十分な量の抗生物質を確保するように呼びかけている。抗生物質の市場規模は400億~500億ドル(6.4兆~8兆円)とされる。WHOは「地球規模の公共財」と呼ぶ。抗生物質の最終製品は日本国内でも製造するが、原料物質である「原薬」はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在はほぼ全量を国外に依存する。手術などでよく使う「ベータラクタム系」の抗生物質の原薬はほぼ100%を中国から輸入する。19年には中国の工場の操業が停止した影響で、国内で抗生物質が品薄になり、手術を延期した例もあった。政府は22年、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に指定した。現在は複数のメーカーが国内で原薬製造の設備投資を進める。厚労省は明治ホールディングス系のMeiji Seikaファルマと、塩野義製薬系のシオノギファーマが率いる2つの事業を支援し、設備投資を2件合計で約550億円補助することを決めた。本格的な供給開始は25年度以降だが、現状では大規模なロットで効率生産する中国産には価格面で対抗できない可能性が高い。採算が合わないと判断したメーカーが再び撤退する恐れがあるため、厚労省は国産原薬が継続的に使われるための制度を整備する。具体的には原薬メーカーや供給先の製薬会社への補助や、国が製品を買い取る形で原薬メーカーに一定額を支払う制度などを検討する。抗生物質の原薬の輸入単価は5年間で数倍になり、安定供給へのニーズは高い。各国も確保に取り組んでいる。米国は23年、国防生産法を活用して重要な医薬品の国内生産に向けた投資拡大を表明した。英国は抗生物質の開発を促すため、メーカーに固定報酬を支払う「サブスクリプションモデル」を24年に本格導入した。 *1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81579030R20C24A6CM0000 (日経新聞 2024年6月22日) 東大、授業料2割上げ提案、学長「教育改善待ったなし」 「進学機会に格差」の声も 東京大の藤井輝夫学長は21日、学生との意見交換の場である「総長対話」を開き、授業料を2割上げる検討案を示した。世帯収入に応じた経済的支援の拡充も併せて検討中だとしたが、一部の学生や教員は「進学機会の格差拡大につながる」と反対している。20年間据え置いてきた授業料の値上げに踏み切れるのか。財務状況が厳しい地方国立大はトップ大の動向を注視している。「国からの運営費交付金が減る中、設備の老朽化や物価、光熱費、人件費の増大などに対応しなくてはならない」「教育環境の改善は待ったなしだ」。藤井学長は同日夜、オンラインで開催された総長対話で、画面越しに学生にこう訴えた。授業料収入はグローバル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に充てると説明した。文部科学省の省令は国立大の授業料の標準額を年53万5800円とし、最大で20%まで引き上げられると定めている。関係者によると、藤井学長が示した検討案は、現在標準額としている授業料を上限である年約10万円増の64万2960円とする内容。「経済的に困難な学生の支援を厚くするのは必須」とした上で、授業料全額免除の対象について、現在は世帯収入年400万円以下の学部生としているところ、同600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げることなども話したという。同600万~同900万円の学生についても、状況を勘案して一部免除とするとも述べた。導入時期については「学生の皆さんの意見も踏まえてさらに検討を進めたい」と明言しなかったという。値上げには賛否がある。ある東大教授は「充実した教育や研究には費用がかかる。現状では全く足りていない」と理解を示す。一方で学生や教員の一部は「格差の拡大につながる」「大学院への進学に影響を及ぼす」などと反対する。学生らは14日、国からの運営費交付金の増額などを求める要望書を文科省に提出した。総長対話に臨んだ学生も「値上げされれば、首都圏出身者が多いといった学生の偏りが助長されかねない」と主張。別の学生は経済支援について「状況を勘案するというが、支援が適用されるかどうか判別がつかない場合は進学を諦める層がいるのではないか」と疑問を投げかけた。約2時間続いた対話は値上げ反対の声が大半だった。教養学部学生自治会が5月下旬に実施した学生アンケートでは、回答した2000人超の学生のうち、9割が値上げに反対だった。東大の2021年度の調査で、学部生の保護者の世帯年収は1050万円超が4割を占めた。関東出身は55%と半数を超える。授業料が上がれば、地方の学生などのアクセスがますます困難になるとの懸念は根強い。地方国立大も東大の判断を固唾をのんで見守る。近畿地方のある国立大学長は「地方大は東大より厳しい経営環境にある。授業料を上げられるなら上げたい」と漏らす。一方で九州地方のある国立大幹部は「地方は都市部と比べて家庭の平均収入が低く、授業料を上げれば、門戸を狭めてしまう恐れがある。値上げを決めて『悪目立ちしたくない』という思いもあり、すぐには難しい」と複雑な胸の内を明かす。標準額からの引き上げは19年に東京工業大が初めて実施。同省によると、現在標準額を超える授業料を設定しているのは東京芸術大や一橋大、千葉大など計7大学で、すべて首都圏にある。この幹部は「京都大や大阪大、東北大などの旧帝大が追随するかどうかが、国立大に値上げの波が広がるポイントではないか」と予想する。国立大を取り巻く環境は厳しさを増している。物価高などで研究や教育のコストが高まる一方、基盤的経費である国からの運営費交付金は減少傾向にあるためだ。国立大学協会は7日、国立大の財務状況が「もう限界だ」とする声明を出し、運営費交付金の増額に向けた社会の後押しを求めた。同協会の永田恭介会長(筑波大学長)は「(20%の)上限までの引き上げについては、各大学の裁量に任せるほかない」としつつ国立大一律での値上げは難しいとの見解を示している。文科省幹部は標準額や上限の変更について「現時点では検討していない」と述べるにとどめた。 *1-5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA192VJ0Z10C24A7000000/ (日経新聞 2024年7月19日) 首相「国立公園35カ所の魅力を向上」 高級ホテル誘致へ 岸田文雄首相は19日に首相官邸で開いた観光立国推進閣僚会議で、2031年までに全国に35カ所ある国立公園で、民間を活用した魅力の向上に取り組むと言及した。環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大につなげる。地方空港の就航拡大に向け週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示した。「秋に予定する経済対策を念頭に取り組みを加速してほしい」と述べた。首相はインバウンド(訪日客)について「2024年は過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る勢いだ」と明らかにした。政府は30年に訪日客数6000万人、消費額15兆円の目標を掲げる。首相は、地方への誘客促進と、訪日客の急増に対応するオーバーツーリズム対策に重点的に取り組む方針を示した。地方の空港では航空便の燃料不足により新規の就航や増便ができない問題が表面化している。オーバーツーリズム対策として、観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島(香川県)や高山(岐阜県)、那覇(沖縄県)など6つの地域を加えると表明した。成果を踏まえ対策の参考となる指針を年内にまとめるよう求めた。日本政府観光局(JNTO)が19日に発表した訪日客数によると1〜6月は1777万人ほどで、同期として過去最高だった19年の1663万人ほどを上回った。 *1-5-2:https://www.jiji.com/jc/v4?id=swiss14070005 (時事 2024年7月21日) イノベーション立国スイス~山と湖とハイテクと~ ●伝統の観光地にも革新 日本とスイスは2014年、国交樹立150周年を迎えた。幕末に日・スイス通商条約を締結して以来の関係だが、観光面での結び付きの強さで知られる。アルプス有数の観光列車ユングフラウ鉄道は利用客数で日本人は年間10万人以上と1、2位を争う。ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3454メートルに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅として、「欧州の頂上」と呼ばれる。ふもとのクライネシャイデック駅から、登山者に難攻不落と恐れられた断崖絶壁の「アイガー北壁」を眺めたり、山の中を繰り抜いたトンネルを通過したりしながら、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登っていくが、空気が薄くなり徐々に息苦しくなる。3000メートルを越えた辺りからは、頭がぼんやりし、めまいも覚える。隣に座っていた男性の「酸素を多めに取り込んだ方がいいですよ」とのアドバイスに従い、深呼吸を繰り返すと少し楽になった。ほうほうの体で頂上駅に到着すると、頂上には晴れ間が広がり、雪に覆われた峰々の間に形成された欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできた。 頂上駅には、日・スイスの友好関係の象徴として、富士山五合目簡易郵便局から寄贈された日本の赤い郵便ポストが置かれ、公式のポストとして現役という。1912年にユングフラウ鉄道が開通した伝統観光地にも競争力を維持するために「革新」が求められているという。同鉄道マーケティング担当者のシュテファン・フィスターさんは「新しい要素があれば、再訪してもらう理由になる」とリピーター開拓の必要性を訴える。鉄道工事の様子などを再現したアトラクション施設を開設したり、急増するインド人観光客に合わせてインド料理レストランをオープンしたりと営業努力に余念がない。さらに、日帰り観光を望むアジアからの観光客のニーズを見据え、「開業以来の100年で最大のイノベーション」という、観光拠点グリンデルワルトから頂上までの所要時間87分を45分に大幅短縮するロープウェー建設の計画も進んでいる。 *1-5-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOLM120N70S2A211C2000000/ (日経新聞 2023年1月12日) スイスの人気観光地 アルプス最古の集落で驚きの歴史 1865年、英国人のエドワード・ウィンパーが、ヨーロッパのアルプスを象徴するマッターホルンを制覇した。標高4478メートル、独特な形状を持つ険しい頂きは、スイス南部でイタリア国境に接するヴァレー州ツェルマットの背後にそびえている。マッターホルン登頂という画期的な成功によって、ヨーロッパ全域で登山が盛んになった。ただ、その快挙も、このスイスの村にとっては長い歴史の1ページにすぎない。「クルトゥーアヴェーゲ」(文化の道)と名づけられた新しいハイキングトレイルでは、この名高いリゾートの"別の顔"に出会うことができる。このトレイルの整備は10年計画で進められており、今後6年間で、6つの集落を通るおよそ20キロメートルのルートがつながる予定だ。かつてツェルマットの農村地帯に欠かせなかった、牧歌的な牧草地にたたずむ数百年前のカラマツ材の納屋は、トレイルの見どころになっている。「ツェルマットは、毎年、何百万人もの旅行者でにぎわいますが、町の中心から15分ほど歩けば、500年前の暮らしに触れることができます」。ヴァレー州のツム・ゼーを目指して歩きながら、トレイルの共同設立者である民俗学者のヴェルナー・ベルワルド氏は話す。現在、トレイルの5つの区間のうち2つの区間がハイカーに開放されている。ツム・ゼーは、この開放された区間にあり、居住者がほとんどいない集落のひとつだ。世界屈指のスキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年の間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園だった。納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されており、人々がこの地方特有の気候を生き抜くために不可欠な建物だった。この地方はアルプスを越える主要な塩の交易路の中継地点であったにもかかわらず、中世後期(1300~1500年ごろ)の生活を記録した文書はほとんど残っていない。名高いマッターホルンの山頂からわずか10キロメートル弱の地点にある、トレイルの設立者たちは、科学技術と数世代にわたる地元の知識を駆使して、この歴史の空白を埋めようと取り組んでいる。 ●ツェルマットの昔に思いをはせる クルトゥーアヴェーゲとして案内標識のある最初のトレイルが開通したのは2019年だった。ツェルマットの中心部からツムットまで標高差約300メートルを登る、距離にして3.2キロメートル強の道のりだ。その途中には、注目スポットとして説明看板が設置された14の「ステーション」が設けられている。そのひとつは、数百年前の羊小屋で、この地方の方言では家畜小屋を意味する「ガディ」と呼ばれている。岩壁の張り出し部分にへばりつくように建つカラマツ材の納屋には、複数の中世の住宅の梁(はり)と窓が再利用されている。中間地点の雑木林を抜けると、石が積まれた場所がある。これは、古い牛小屋の跡だ。トレイルで最もぞっとするようなコース(現在は安全のためロープが張られている)の最後にあるのは、オオヤマネコを捕獲するために作られた250年前の石造りのわなだ。ツェルマット地域では、2つしか発見されていない。2021年に開通したクルトゥーアヴェーゲの第2区間は、登山道というより、のんびりとした村の散策路に近い。このトレイルは、1300~1600年ごろに建てられたツムットの家畜小屋、住居、納屋(きのこ型の支柱がある穀物用の納屋)の間を縫うように続いている。ある家畜小屋は、ツェルマットの農業社会を支えた女性たちに関する展示スペースに転用されている。地元在住のオトマール・ペレン氏が監督した展示では、昔の写真に、ヴァレー州の主要穀物であるライ麦の束や牛の飼料などを「ツチフラ」と呼ばれる籐(トウ)で編んだ背負いかごで運ぶ女性の姿がある。「ツェルマットの人々は、1950年代まで穀物と牛で生計を立てていました」と、トレイルの創案者であるルネ・バイナー氏は話す。彼は、地元の歴史協会である「アルツ・ツェルマット協会」の会長で、ツェルマットの発足に関わった旧家の子孫でもある。 ●ほぼ自給自足の暮らしだった集落 2023年夏に開通予定の第3区間では、ハイカーは4つの集落(フーリ、フレッシェン、ツム・ゼー、ブラッテン)を通る4.8キロメートルの道を下り、ツェルマットの起源となった土地を歩くことができる。まとめてアロレイトと称されるこうした集落は、独立を放棄して、ウィンクルマッテン、ツムット、イム・ホフ(今日のツェルマットの旧市街)に加わった。1791年、これらの集落は、古い方言で「牧草地のそば、または上」を意味する「Zer Matt(ツェル・マット)」というひとつの共同体に統合された。1891年にフィスプ~ツェルマット間の鉄道が通るまで、ツェルマットの集落は、ほぼ自給自足で暮らしていた。だが、この鉄道によって観光業が盛んになると、納屋の多くが放棄された。拡大する氷河を避けるため「レゴのように」解体された納屋もあったことを、フレッシェン近くの家畜小屋を調査している際に、ベルワルド氏が話してくれた。この家畜小屋には、近くのイム・ボーデンにあった住居の資材が再利用されている、とトレイル整備チームは確信している。イム・ボーデンは、14~19世紀のヨーロッパの小氷河期に、ゴルナー氷河に飲みこまれてしまった集落だ。この区間の最後は、香り高い松林を歩き、20世紀初頭のティーハウスに到着する。教師の職を引退後にアマチュア歴史家に転向したクラウス・ユーレン氏によれば、このティーハウスは英国人観光客向けに建てられた多くの店のひとつだという。女性たちが経営するこうした店は、1927年までツェルマット観光のピークシーズンだった夏に、土産物や軽食、高山植物の花束などを販売し、ツェルマットの山岳高級レストランの先駆けとなった。 ●「ヨーロッパ最古」の納屋を発見 クルトゥーアヴェーゲの実現には、科学が重要な役割を果たしてきた。バイナー氏は長い間、ツェルマットの集落は納屋や住居に刻まれた年代よりも古い、と推測していた。だが、それを証明するには、動かぬ証拠が必要だ。そこで、"樹木の探偵"、マルティン・シュミッドハルター氏の助けを借りた。年輪年代学者のシュミッドハルター氏は、スイスアルプスの非常に辺ぴな集落で、木造建造物が建設された年代を特定する調査に20年間携わってきた。「通常、樹木は冬に伐採し、翌年の夏に家屋の建設に使用します」と、シュミッドハルター氏は説明する。シュミッドハルター氏は、2012年からクルトゥーアヴェーゲの現場調査を本格的に開始した。現在のツェルマット~ツムット間のトレイルにある複数の建物から、鉛筆ほどの木材サンプルを採取し、分析作業に取りかかった。顕微鏡下で木材の年輪を算出したデータに対してコンピュータープログラムを実行すると、心電図に似たグラフが大量に出力される。これらの結果から、樹木の誕生と死の時期を特定できる。この調査では、2つの驚くべき発見がもたらされた。まず、ツェルマットの町を見下ろす見晴らしのよい高原に残る納屋が、700年以上前のヨーロッパ最古の納屋であることが、2019年に判明した。クルトゥーアヴェーゲ最初のトレイルにあるヘルブリッグ・シュターデルという納屋のデータから、この集落の誕生は1261年にさかのぼると確認されたのだ。ヨーロッパの年輪年代学の研究者たちは、「ツムットはアルプス最古の集落である」というシュミッドハルター氏の2つ目の主張にも同意した。それまでは、同じヴァレー州にあるゴムス谷のミュンスターがアルプス最古の集落とされていた。第3区間は完成間近で、あと2つの区間の整備が残っている。このため、クルトゥーアヴェーゲ沿いでは、もっと多くの発見が期待される。地域の歴史がさらに明らかになる可能性が、トレイルの設立者たちを後押ししている。「まだ、すべてが解明されたわけではありません」とベルワルド氏は話す。「だからこそ、興味津々なのです」 *1-5-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS7M2VZ9S7MUZOB004M.html (朝日新聞 2024年7月21日) 富士山と五重塔の名所、大混雑で入場料徴収も? 観光公害で市が検討 富士山のふもとの観光地でオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化している。富士山を隠す黒い幕が設置された山梨県富士河口湖町だけでなく、隣接する富士吉田市でもマナー悪化の問題に直面し、人気スポットの有料化などの対策が検討されている。連日、多くの外国人観光客が詰めかける市中心部の「本町通り」(国道139号)。両脇に延びるレトロな商店街と、その先の富士山を写真に収められることで人気の「映えスポット」だ。だが、本町通りは片側1車線。周辺の路地では、団体客を降ろすワゴン車が頻繁に一時停止し、車の通行を妨げていた。通りの商店からは「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」との苦情も出ていた。 ●訪日客急増、市街地のほかの場所でも問題に そこで市は6月1日、通りに面した土地に有料駐車場をオープンした。事業費は1億8千万円。敷地内にトイレも設け、車の乗降場所としても周知を図る。コロナ禍を経て急増した外国人観光客によって市内は活気づく一方、市街地のほかの場所でも駐車場やトイレの不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入りなど、観光客のマナーの悪さが問題となっている。市は5月下旬に会議を開き、課題を洗い出して対策を講じることを確認した。中でも対応が急がれているのが、新倉山浅間公園だ。園内のデッキからは富士山を背に「五重塔」と呼ばれる園内の忠霊塔が一緒に撮影でき、桜の名所としても人気だ。ここで訪日客が急増している。市によると、コロナ禍前の2019年度の入園者は約54万人だったが、23年度は約2・4倍の約130万人となった。園内のトイレはごみやペーパーで便器が詰まる被害が頻発し、ペットボトルのポイ捨ても散見された。市の担当者は「当面は観光客の流れを抑制し、清掃やごみ処理をさらに徹底しなければならない」と指摘する。 ●混雑緩和へ、公園とデッキつなぐ乗り物も検討 そこで浮上するのが、公園で入場料を徴収する構想だ。市幹部は「強制ではなく任意の『協力金』という形も考えられる。いずれにしても前向きに検討したい」と明かす。園内のデッキにつながる398段の階段が混雑し、高齢者や障害者がたどり着くのが困難だったとの声も上がっている。市は、観光客をデッキに誘導する乗り物を新設して混雑緩和を目指す検討も始めた。現在、エレベーター、エスカレーター、スロープカーの3種類が候補に挙がっている。小林登・経済環境部長は「観光客と市民の共存を第一に考えたい。実現したいが、市民に負担をかけるのは避けたい」とし、財源や効果を考慮して判断する。 *1-5-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA216960R20C24A6000000/ (日経新聞 2024年7月17日) 訪日客向け二重価格、関西自治体が検討 納得感カギに 地方自治体でインバウンド(訪日外国人)旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」を検討する動きが広がってきた。観光資源を維持するための財源を確保する狙いがある。実際に導入する場合は本人確認に手間やコストがかかる課題がある。外国人を歓迎していないとも受け取られかねないため、丁寧な制度設計が欠かせない。「市民と外国から訪れる人と2種類の料金設定があっていいのではないか」。兵庫県姫路市の清元秀泰市長は6月中旬、世界遺産で国宝の姫路城(姫路市)の外国人入場料を引き上げる案に言及した。外国人を30ドル(約4760円)、市民を5ドルにする構想を披露した。現在の18歳以上の入場料は国籍問わず千円で、いまの為替水準なら外国人は4倍超になる計算だ。清元市長は文化財として保護していくための費用に充てる必要性を指摘する。これを受けて大阪市の横山英幸市長も記者団に「有効な手の一つだ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向きな考えを示した。京都市の松井孝治市長は地元住民の公共交通料金を観光客より低くするという市民優先価格の導入を公約に掲げて当選した。国籍によって区別する二重価格については「差別する合理性がどこまであるのか」と疑問を呈する。海外では二重価格を採用している国も多い。たとえばエジプトのピラミッドは地元やアラブ諸国の観光客と、そのほかの観光客の価格差は9倍だ。インドやネパールでも導入されている。二重価格以外でも、対策の財源を確保しようとする動きがある。大阪府の吉村洋文知事は府内を訪れる訪日客から数百円程度を徴収する制度を導入する意向を示す。二重価格や外国人から別途お金を徴収する制度には課題がある。一つは外国人に与える印象や不公平さの問題だ。日本人と差をつければ訪日客を歓迎していないと受け取られる可能性がある。横山市長は「2025年に万博があるから、海外の方に後ろ向きにとられないメッセージの出し方をしなければいけない」と語る。博覧会国際事務局(BIE、本部パリ)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長は4月に来日した際、大阪府が検討する徴収金について「潜在的な来場者は歓迎されていないと感じる」と懸念を示した。府が設置した有識者会議でも「なぜ外国人のみに負担を求めるのか、租税条約や(法の下の平等を定めた)憲法14条を踏まえて整理してほしい」との声が出た。負担を重くすればネガティブに受け止められて訪日客増加の流れに水を差す可能性もある。今は円安を背景に日本で割安に消費できることが訪日客の増加につながっている面があるが、円高に振れれば訪日客の負担感は重くなる。運用面のハードルもある。二重価格を導入する場合、日本に住む外国人と訪日客を見分ける仕組みが欠かせない。人員の負担が増えたり、新たなシステムを導入したりする必要も出てくる。観光産業では足元の人手不足が深刻で、追加で人員を雇うのは容易ではない。立教大学の西川亮准教授は「導入する場合は外国人を差別しているように受け止められ、日本の良さが伝わらなくなってしまうのは避けなければいけない」と指摘する。「『日本文化を知ってもらうためのガイドツアーを提供する』とか『普段公開していないエリアを見ることができる』など、体験の質を上げるために価格に差があるという説明がきちんとできるかどうかが重要だ」と指摘する。 <日本の農業と食料安全保障> *2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81345960S4A610C2EP0000 (日経新聞 2024.6.13) 農業基本計画、年度内に改定 政府、価格転嫁へ法制化も 政府は12日、「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の会合を首相官邸で開いた。今後の農政の中長期の指針となる「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内の改定、食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めた。岸田文雄首相は価格転嫁に加えて、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直し、森林組合や伐採業者といった林業経営体の集約の促進について、それぞれ25年の通常国会で法制化を目指すよう指示した。基本計画は改定に向けて今夏にも議論を始める。従来の計画では自給率の目標のみを掲げていた。改正食料・農業・農村基本法が5月に成立したのを受け、自給率に加えて目標に据える「その他の食料安全保障の確保に関する事項」の具体案を検討する。価格転嫁を巡っては、生産者や加工業者、小売業者間での価格交渉をしやすくするため、価格に占める肥料や燃料、輸送費などサプライチェーン(供給網)全体のコスト構造を整理し、費用が上がった場合に交渉を促すような仕組みを想定している。政府は今後の農林水産業の政策の全体像を示した。今国会での成立を目指す「食料供給困難事態対策法案」について、食料供給が困難な事態の定義などを定める基本指針を25年中に策定することも盛り込んだ。 *2-1-2:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/244147 (日本農業新聞 2024年7月8日) [論点]東京都知事選に思う 国の政策論議とは別物 法政大学教授 山口二郎 本稿の執筆時点で、東京都知事選挙の選挙戦は終盤を迎えている。自治体の首長の選挙なので、東京の税金をいかにして東京都民の福祉のために使うかが政策のテーマである。それはあまりにも当然のことなのだが、豊かな大都市で住民のためのサービスを競うという形の政策論議に、これからの国全体の政策論争が引きずられることには、危うさを感じる。 ●特殊な東京の事情 東京都における出生率が1を割り、子育て支援、少子化対策が大きな争点の一つになっている。もちろん、これらの政策を拡充することは必要だが、東京の出生率が他の地域より低いのは当然である。住宅費が極めて高い東京で、たくさんの子どもを育てるための広い家を持つことは、普通の人には無理である。人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ、無意味である。東京に住みたい人の自由は尊重するが、雇用機会のためにやむを得ず東京に集まる若い人々に対し、生活環境の良い地方で働き、家族を形成するという選択肢を提供することが必要となる。もう一つ気になることがある。有力な候補者の政策が、平穏無事な自然環境と経済状況を前提としていることである。都知事候補者に農業や食料のことを考えろというのは、ないものねだりである。それにしても、水、食料、エネルギーという人間の生存に不可欠な資源はお金さえ出せばいつでも必要なだけ買えるという前提がこれからも続くと楽観すべきではない。日本がシンガポールのような都市国家であれば、都知事選挙の政策論争はそのまま国政のそれに重なるだろう。しかし、日本は大都市だけでなく、山地、農地、離島などを抱えた多様な国土を持っており、さまざまな職業を持つ人が各地に定住して、社会を構成している。それが日本という国の魅力でもある。 ●〝土台〟を守るには 従って、国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるはずである。今の日本は、高度成長期以来積み上げたさまざまな貯金を食いつぶし、衰弱の局面に入っている。最近の円安はその象徴である。食料とエネルギーの海外依存を続ければ、富の国外流出も大きくなる。これらを自給する体制を立て直すことと、地域における雇用機会の創出、人口再生力の回復は、一体の課題である。国政では、岸田文雄政権が迷走を続け、自民党内からも退陣を求める声が出てきて、政局は混迷を深めている。岸田氏あるいは次の首相の下で、遠からず解散、総選挙が行われるに違いない。その時には、国の形のグランドデザインを問う論争が必要である。日本に残された時間は、そう長くない。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81826740T00C24A7KE8000 (日経新聞 2024.7.4) 食料安全保障の論点(中) コメの工業利用で生産守れ、三石誠司・宮城大学教授(60年生まれ。神戸大博士(経営学)。専門は経営戦略、アグリビジネス経営。宮城大副学長) <ポイント> ○国内農業は従事者減で持続可能性が課題 ○米国などは穀物をエタノール原料に活用 ○コメの食用以外の用途開拓し官民支援を 肥料・飼料や生産資材の高騰で、食料安全保障への関心が高まっている。その確保を理念に位置づけた改正食料・農業・農村基本法も5月に成立したが、取り組みが問われるのはこれからだ。そこで食料安全保障をめぐる国内外の状況を俯瞰(ふかん)してみたい。食料安全保障は通常「フードセキュリティー」と訳されるが、厳密には同じではない。国際社会におけるフードセキュリティー概念は、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づく。17のゴールを定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール2「飢餓をゼロに」に、フードセキュリティーが含まれている。具体的には第1に飢餓を終わらせること、第2に食料安全保障の達成と栄養状態の改善、第3が持続可能な農業の促進――である。これら3つが達成された場合に想定される成果として、世界食糧計画(WFP)が定めた内容は4つある。(1)全ての人々が食料を得られ(2)誰も栄養不良に苦しまず(3)小規模農家が生産性と所得向上により食料安全保障と栄養状態を改善し(4)フードシステムが持続可能であること――である。これは1996年の世界食糧サミットで、フードセキュリティー成立のための4要件(食料の入手可能性・アクセス・活用・安定性)として示されていたものを精緻化している。この目標の達成に向けた対策の対象となるのは、通常なら途上国、それも食料の供給不安が高い国や、自国だけでは食料調達に困難を生じる国、栄養不良人口が多い国などである。当該国政府と協力しながら、国際機関・国際社会がどう支援するかが中心となる。したがって、世界の多くの国は日本にフードセキュリティーの問題など存在しないと認識しているのが現実であろう。しかし、決してそのようなことはない。途上国とは異なる、日本のような先進国型のフードセキュリティーについて議論することも重要である。さて、日本にとっての食料安全保障とは「日本人が必要とする食料の安定供給を確保すること」だ。改正前の基本法では「将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」(第2条)と定められていた。今回の改正により、この部分は「将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう)の確保が図られなければならない」という形に修正されている。食料に限らず世界的に、安全保障の概念自体が国家から個人レベルに拡大していることを受けたものだ。さらに改正基本法では、輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格の形成、環境と調和のとれた食料システムの確立などが新たに追加されている。また多面的機能の発揮では「環境への負荷の低減」を追加。農業の持続的な発展および農村の振興は「農村の人口の減少その他の農村をめぐる情勢の変化」や「地域社会の維持」を踏まえた形に修正されている。全体として、1999年制定の旧基本法の構成を維持しつつ、その後の四半世紀の環境変化を反映した表現が各所で追加された形と理解してよいだろう。食料安全保障をめぐる物理的・社会的・心理的環境は各国で異なり、一律の物差しでの判断は難しい。それでも、栄養不良人口の増減などの大きな変化を見ながら、一定の流れをとらえることは可能である。日本における切り口のひとつは、産業別就業者数の推移が示している。1951年当時、全就業者数の46%が第1次産業に従事していた。これが2022年にはわずか3%へと減少。今や日本は完全に第3次産業中心の国になった。過去70年以上の間に、全体の就業者数が1.9倍に増加し、第1次産業従事者は8分の1に減少したにもかかわらず、餓死者や栄養不良人口は途上国と比較すれば極めて少ない。必要な食料は国内関連分野の生産性向上と、購買力を背景とした輸入により調達してきた。これは、先述したWFPの(1)~(3)に相当する。問題は(4)の持続可能性である。総人口約1億2500万人で食料自給率が38%(22年度)なら、単純計算で4750万人分の食料を自給できる。1次産業従事者が205万人なので、生産者1人で23人の人口を支える構図だ。圧倒的少数の生産者と大量輸入で、今後の食料安全保障は確保されるのか。これこそが目を背けてはいけない点である。ウクライナ危機以降、これまでの食料システムを支えてきた暗黙の前提が顕在化した。それは「世界が安定し、貿易に支障がない限り」である。人々は何となく意識していたが、ようやく国内生産の本当の重要性を肌で感じ始めている。日本の場合、食料安全保障上の最大の問題となる農作物はコメである。減少を続けるコメの国内生産を守るために取り得る選択肢は「流れに任せる」か「個別対応を積み重ねる」か、「少し異なる視点からコメを捉えなおす」かである。現状は個別対応の積み重ねだ。国・地方自治体・民間企業・JA・地域共同体などが、生産を守るために苦労して対応しているのが実情であろう。しかし農家の高齢化が進む一方、新たな就農者も増えていない。こうした現実も直視すべきである。流れを変えるには一定の仕掛けが必要だ。一案だが、コメの国内生産を守るために食用以外の用途をもう一度、真剣に考えてみたらどうか。工業用原料としてのコメ、より具体的にはエタノール原料としての可能性である。例えば米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している。かつて米国のトウモロコシは需要の9割が国内飼料用であったが、現在は需要の約半分が工業用需要、その8割がエタノール需要である。米国もブラジルも、自分たちの土地に最適な作物を作り、食用以外にも徹底活用している。これに対して日本では、まだコメの活用は食用と飼料用中心である。日本では年間700万トン以上のコメを生産可能だ。食用に限らず、工業用利用を徹底的に検討した方がよい。道が開ければ、インフラとしての水田を生かして農家は思い切りコメを作り、国内需要に振り向けられる。それを官民あげて支援することが、国内で完結した食料安全保障の確保につながる。バイオエタノールに限らず、コメを原材料としたバイオマスプラスチックなど、新産業の構築までを視野に入れて工業利用を検討すべきである。それができて日本はコメの潜在力をすべて活用したことになる。 改正基本法は輸出による食料供給能力の維持を掲げる。しかし輸出はあくまで有利な価格の時や「パック米」など付加価値を付けた製品を中心とすべきであり、安値での原材料輸出競争に自ら参入する必要などないといえる。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81854730U4A700C2KE8000 (日経新聞 2024.7.5) 食料安全保障の論点(下) 農地規制撤廃で効率向上へ、本間正義・アジア成長研究所特別教授(51年生まれ。アイオワ州立大博士。専門は農業経済学。東大名誉教授) <ポイント> ○食料自給率向上、目的化なら国民負担増 ○農地法の所有規制は長期的投資の妨げに ○輸入確保へ自由貿易や平和維持に努力を ウクライナ戦争や中東紛争で地政学的な不安定さが増すなか、食料安全保障への関心が高まっている。5月に改正された食料・農業・農村基本法も食料安全保障を前面に押し出した。改正法では、食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人が入手できる状態」と定義している。これは国連食糧農業機関(FAO)の定義に沿ったものだ。FAOが言う食料安全保障は食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、さらには食料の利用・摂取にいたるまで、マクロからミクロに及ぶ食料のサプライチェーン(供給網)のすべてが確保されることだ。したがって、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障がおびやかされるのかを分析しなければならない。現在の日本の食料安全保障体制に対する国際的な評価は悪くない。英エコノミスト誌の関連組織であるEconomist Impactが、世界113カ国を対象に世界食料安全保障指数(GFSI)を公表している。「手頃な価格」「入手可能性」「品質と安全性」「持続可能性と適応」という4つのカテゴリーで、68項目の要因に基づいて計測したものだ。日本はこの指数で113カ国中の第6位(2022年)。図1に12~22年の指数の推移を中国・韓国との比較で示したが、一貫して日本が上位にある。国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきた。だが本来、自給率は食料安全保障への評価を表すものではない。食料自給率は、市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果だ。消費者に選ばれた国産品の割合が、現在の38%という自給率だ。これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う。国家の安全保障で軍備拡張を基本とすれば、防衛費が増えて国民生活が犠牲となることに似ている。国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しい。食料自給率の向上が目的化し、豊かさが犠牲になるのでは本末転倒だ。従来の基本法では、約5年ごとに農政の指針を示す食料・農業・農村基本計画で、食料自給率の目標を設定していた。改正基本法でも自給率が目標の中心であることに変わりはない。しかし食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきではない。一方で、平時とは異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要だ。改正基本法に合わせて6月に成立した「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定し、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者にも増産を求める。しかし、それだけで不測時に対応できる体制になるとはいいがたい。そもそも食料の安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーをはじめとする国家安全保障の一環として、総合的な法体系の中で議論すべき問題だ。有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保だが、農業を担う労働力の減少と高齢化が著しい。図2に示すように、2000年に240万人いた基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)は、23年に116万人まで減少した。数だけでなく、その中身が問題だ。75歳以上の割合は2000年では13%だったが、23年には36%を占める。65歳以上では70%を超える。一方、50歳未満の従事者は11%でしかない。また新規就農者は22年で4万6千人ほどいるが、多くが定年帰農などの高齢者であり、50歳未満は1万7千人に満たない。なかでも土地や資金を独自に調達して営農を始めた新規参入者は全体で4千人以下だ。農業労働力の弱体化は労働生産性の向上を遅らせ、他産業との格差を拡大する。農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性は、22年で58万3千円にとどまる。農業労働人口が急速に減少しているにもかかわらず、20年の61万8千円と比べても低下した(23年度「食料・農業・農村白書」)。農業従事者の減少と高齢化は、農地の荒廃につながる。22年で約430万ヘクタールある耕地面積の利用率は91%で、1割近い農地が利用されていない。日本農業の持続的発展のためには、農地の維持・保全と効率的利用は最優先すべき課題だ。高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されているといわれ、100ヘクタールを超える規模の経営も珍しくない。しかし、その多くは分散した農地を合わせての100ヘクタールだ。また多くが借地であり、区画整理など、自由に基盤整備を行えるわけではない。農地の効率的利用を妨げているのが農地法だ。農地を耕作する農業者か、一定の要件を満たした法人(農地所有適格法人)でなければ農地を取得できない。賃借は可能だが、一般の株式会社は農地が取得できず、基盤整備などの長期投資が困難になっている。原則耕作する人しか農地を所有できないということは、例えれば、サッカー競技場の所有権がそこでプレーするサッカー選手にしかないのと同じだ。このような規制は撤廃し、経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべきだ。農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件だ。農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づけるなどの新たな制度が必要だ。現在、日本の食卓は多彩で、それを支えるのは国内生産と輸入だ。質の高い国内農産物と、世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障だ。肥料や飼料など、多くの生産資材も輸入に依存する。国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱だ。国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる。かつて、シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている。最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる。 *2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1086Y0Q4A610C2000000/ (日経新聞 2024.6.12)武蔵野銀行、新入行員が田植え 生産者目線で課題を理解 武蔵野銀行はこのほど、さいたま市内の田んぼで新入行員による田植えを実施した。農業は埼玉県経済の柱の一つで、同行は農業関連の融資も手掛けている。自ら田んぼに入って農業の苦労や楽しさを知ることで、顧客の目線に立ったきめ細やかな課題解決策を提案できる可能性がある。 新入行員96名が6日、同行の武蔵野銀行アグリイノベーションファーム(さいたま市)で田植えを行った。田んぼに足を取られながらもペアで協力し、1苗ずつ丁寧に植えていった。長堀和正頭取も田植えの作業に汗を流した。同行は新たな産業の創造、高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦、23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる。田んぼの面積を昨年比約3倍の9500平方メートルに増やし、そのうち約2割を新入行員が田植えした。残りは実証実験としてドローンで種まきをした。収穫量は合計で3700キログラムを見込み、販売も行う予定だ。人材育成も体験の目的の一つ。長堀頭取は「農業の大変さを身をもって体験することで、担い手不足などの課題にも当事者意識を持って向き合える。今後携わる仕事にも役立つ」と期待を込める。実地で知った課題を地域経済の活性化に結びつける。 *2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81837430T00C24A7TB1000 (日経新聞 2024.7.4) ふるさと納税新方針で波紋 さとふる、楽天で賛否割れる 仲介サイトでポイント付与禁止 ふるさと納税の仲介サイトでポイント付与を禁止する総務省の方針について、サイト運営大手のさとふる(東京・中央)など2社は日本経済新聞の取材で賛成する方針を示した。競合の楽天グループはすでに反対意見を表明しており、大手の反応が分かれた格好だ。消費者の関心が高いふるさと納税を巡る制度変更に事業者が揺れている。仲介サイトは多くの自治体の情報をまとめて載せ、希望する返礼品を手軽に探せる手段として定着している。ポイントがつく点も人気の理由だ。だが、総務省は6月25日、ポイントを付与する仲介サイトを通じ、自治体がふるさと納税を募ることを2025年10月から禁止すると発表した。いち早く反応したのが楽天Gだ。6月28日、仲介サイト「楽天ふるさと納税」上に方針撤回を求める声明を出し、賛同者を集めるオンライン署名も始めた。三木谷浩史会長兼社長はX(旧ツイッター)に「地方に恩返しという思いをぶっ潰そうとしている。断固反対する」と投稿した。ほかの大手に聞き取り取材したところ、さとふるは「今後の健全な発展につながる整備と考えている」と賛成する意向を示した。「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京・品川)はポイント付与を終了しており、制度変更にも賛成した。「ふるなび」を運営するアイモバイルは賛否を明らかにしなかった。総務省が制度変更を決めたのは、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっているとみるためだ。松本剛明総務相は7月2日の記者会見で「ポイント付与による競争が過熱している。ふるさと納税の本旨にかなった適正化をめざす」と理解を求めた。同手数料は寄付額の1割前後とされる。総務省によると、22年度は全国で4517億円の経費がかかり、寄付額に占める割合は47%に達する。ポイント付与を禁じ、自治体に残る寄付額を増やす狙いがある。一方、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張した。お金に色をつけることは難しく、原資に関する双方の言い分は平行線をたどる様相を強めている。ふるさと納税は地域活性化などを目的に08年度に始まった。名称は「納税」だが、税制上は寄付として扱う。22年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新し、08~22年度の累計では約4兆3000億円に上る。楽天Gなどは成長領域とみて経営資源を注いできた。ポイント還元による集客ができなくなれば、サイトの利便性向上や掲載情報の充実など、別の付加価値を競う必要性が高まる。さとふるは手続きの簡素化や配送体制強化を検討している。 *2-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1287476 (佐賀新聞 2024/7/25) ふるさと納税、初の1兆円超え、利用者、過去最多1千万人規模に ふるさと納税制度による寄付総額が2023年度に初めて1兆円を超えたことが25日、分かった。寄付で居住自治体の住民税が軽減される。利用者も増加し、過去最多の1千万人規模に達する見通し。返礼品の品目充実や、仲介サイトによる特典ポイントが寄付を後押しする形となっている。物価高騰下の節約志向も追い風となった。総務省が来週にも自治体別の寄付額を含めて集計を公表する。特典ポイントに関して総務省は「本来の趣旨とずれ、過熱している」と指摘。来年10月からポイントを付与する仲介サイトの利用を自治体に禁じる方針で、寄付の動向に影響する可能性もある。返礼品は和牛や海産物、果物などが人気で、自治体も寄付獲得を目指して品目を拡充している。仲介サイトの運営業者によると、物価高が続く中、近年は日用品を選ぶ利用者も増えている。ふるさと納税制度が始まった08年度の寄付総額は81億円だったが、寄付上限の引き上げなどで人気が集まり、18年度に5千億円を突破。返礼品を「寄付額の30%以下の地場産品」に規制した影響で一時減少したが、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要もあって再び増加に転じ、22年度は9654億円だった。一方、総務省は自治体間の過度な競争を抑止する見直しを重ねており、23年度は年度途中で返礼品の調達や経費に関するルールを厳格化した。ふるさと納税は、自治体を選んで寄付すると、上限内であれば寄付額から2千円を差し引いた分、住民税と所得税が軽減される。都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向にあり、不満が出ている。 *ふるさと納税 生まれ故郷など地方を活性化するため2008年度に始まった。自己負担分の2千円を除いた額が住民税、所得税から差し引かれる。控除額には上限があり、所得や世帯構成などに応じて変わる。豪華な返礼品を呼び水とした自治体の寄付獲得競争が過熱。19年6月からは返礼品は「寄付額の30%以下の地場産品」とし、ルールを守る自治体だけが参加できる制度に移行した。返礼品を含む経費は寄付額の50%以下に抑える必要がある。 *2-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1288102 (佐賀新聞 2024/7/26) ふるさと納税1兆円】買い物感覚、被災地応援も、自治体間の格差解消課題 ふるさと納税の2023年度の寄付総額が1兆円を突破した。地域を応援するという趣旨で08年度に始まり、好みの返礼品を選べる仲介サイトの普及もあって寄付が急増。被災地を応援するといった使い方もある。ただネットショッピング感覚での利用により、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中。自治体間の格差解消が課題となっている。 ▽理念 「ここまで利用が広がるとは思っていなかった」。総務省幹部は1兆円突破に驚きを隠さない。政府の理念は、納税者が故郷やお世話になった地域などを寄付先に選んでその使われ方に関心を持ち、自治体では選ばれるまちづくりの意識醸成を通じて地域活性化につなげる―というものだ。大手仲介業者トラストバンクが今月実施した調査によると、寄付を通じ「知らなかった自治体を知った経験」が「ある」と答えた人は72・2%に上った。「特定の地域のファンになった経験」が「ある」は52・7%だった。能登半島地震では、被災地を支援しようと、返礼品を受け取らない寄付も広がった。仲介サイトでは、被災者を励まそうとする寄付者のコメントも掲載。返礼品なしで、前年度の約10倍に当たる約14億7千万円が集まった石川県珠洲市の担当者は「非常にありがたい。復旧復興に役立てたい」と話す。 ▽不満 利用が拡大する中で、理念との乖離も目立つようになった。仲介サイトでは各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競っており、返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向が強まっている。総務省は、来年10月からは自治体に対し、ポイントを付与する仲介サイトの利用を禁じる。別の総務省幹部は「仲介業者の節度を期待していたが、見過ごせなくなった」と打ち明ける。制度は、地方に寄付が回っていくことで、都市部との税収格差を是正する目的もあった。実際、横浜市、名古屋市など大都市の税収減は大きく、不満が高まっている。ただ、地方に恩恵が広く行き渡ったわけでもない。22年度の寄付額全体の6割が上位1割の自治体に集中。和牛や海産物といった人気の返礼品の有無が左右する。多額の寄付を集める自治体が、子育て支援などを充実させて周囲から移住者を吸い寄せているとも指摘される。政府関係者は「地方の自治体間でも勝ち負けが鮮明になっている。不満をため込む地域は少なくない」と説明。格差是正の役割は果たし切れていないと認める。 *2-5:https://www.agrinews.co.jp/news/index/248722 (日本農業新聞 2024年7月28日) [シェア奪還]業務用野菜の国産増へ 9月、品目別商談会 農水省 輸入に依存する加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けて、農水省は9月から品目別の商談イベントを開く。国産への切り替えが期待できるタマネギやカボチャ、ブロッコリーなどで、産地と流通業者、実需者の橋渡しをし、国産野菜の利用拡大を後押しする。国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割を占める。国産への切り替えを進めるため、同省は4月に「国産野菜シェア奪還プロジェクト」を立ち上げた。イベントは、同プロジェクトの一貫で開く。生産者や流通事業者、加工・冷凍メーカー、小売りなどの参加を想定。事業者間のマッチングを促す。同省は、国産への切り替えが期待できる品目として、タマネギ、ニンジン、ネギ、カボチャ、エダマメ、ブロッコリー、ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定。イベントは重点7品目から始め、ニーズに応じて品目を増やしていく。他にも、同プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く。加工・業務用野菜の国産利用を増やすには、産地間の端境期に収量をどう確保するのかが課題だ。同省は「冷凍保存などで、年間を通じて安定的に供給する体制づくりが重要」(園芸流通加工対策室)とみる。 <物価高を進めた日本の金融緩和> *3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240728&be=NDSKDBDGKKZO81327・・ue=DMM8000 (日経新聞 2024/6/12) 財政、拡張路線に転機 骨太方針、「基礎収支25年度黒字化」復活 金利ある世界意識 政府が11日に公表した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)原案は財政拡張路線からの転換がにじむ内容となった。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の2025年度黒字化目標を3年ぶりに明記し、「金利のある世界」を見据えて財政健全化に目配りした。成長投資と歳出改革の両立を探る。原案はPBについて「25年度の国・地方を合わせた黒字化を目指す」と盛り込んだ。もともと18年の骨太方針で打ち出した方針であるものの、自民党の積極財政派に配慮して22年以降は明示を避けていた。政府は目標自体は堅持しているとの立場をとりつつ、昨年の骨太方針も「これまでの財政健全化目標に取り組む」という曖昧な書きぶりにとどめていた。目標年度の提示は財政健全化への姿勢を従来より踏み込んで示すことになる。25年度の黒字化を目標としてきた現行計画は達成が視野に入りつつある。内閣府が1月に発表した試算によると25年度のPBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収めるなどの歳出改革を続ければ今のところ黒字化が可能な範囲にあるという。原案は後継計画として6年間の「経済・財政新生計画」を示した。25~30年度の予算編成の基本方針とする。PB黒字化への前進を「後戻りさせることなく」、債務残高のGDP(国内総生産)比を安定的に引き下げると記した。 ●成長と両立必須 背景にあるのは、日銀によるマイナス金利政策の解除だ。骨太原案は「金利のある世界への移行」をにらみ、利上げによる国債の利払い費増加に「懸念」を訴えた。内閣府は30年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利が1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らむと見積もる。元本償還も含む国債費は24年度は一般会計の2割を超す。利払い費が膨らめば、社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる。第2次以降の安倍晋三政権による「アベノミクス」は超低金利政策を背景に高成長を求める財政運営だったといえる。金利が成長率よりも低いため利払い費は軽く、財政規律が緩む一因になったとの指摘がある。一方で、金利が上昇してもインフレによって名目成長率が底上げされれば税収も増えるため、財政健全化につながるとの見方もある。「賢い支出」を徹底したうえで成長につながる投資は必要になる。利払い費の増加を警戒した今回の書きぶりは財政再建を進めるために、成長率などの経済前提に慎重な立場をとったことがうかがえる。原案が言及した実質成長率は1%だった。向こう6年間の計画期間や人口減が加速する30年代以降について「実質1%を安定的に上回る成長を確保する必要がある」と強調した。その上で「さらに高い成長の実現をめざす」とも書き込んだ。目標設定の土台となったのは内閣府が4月に初めてまとめた社会保障や財政に関する60年度までの長期推計だ。長期金利が名目成長率を0.6ポイントほど上回る財政面に厳しい設定で将来推計をはじいたところ、実質成長率が平均1.2%でも社会保障費が膨らむと57年度ごろにPBが赤字に陥るという試算となった。国と地方のGDP比の債務残高も40年度ごろに下げ止まり、60年度に180%ほどまで再上昇する絵姿を示した。金利が成長率を上回る状況が常態化すれば、安定成長を続けるだけでは財政健全化はおぼつかないことになる。PBの一定の黒字幅を確保し続けるには、実質1%成長の持続と歳出改革の両方に取り組まなければならない。財政規律に傾斜した今回の骨太原案には不安要素もある。次世代半導体の量産に向けて「必要な法制上の措置」を検討するとした点だ。企業の投資計画の予見可能性を高めるために「必要な財源を確保しながら」複数年度の支援を実施する方針だが、財源確保の具体策は定まっていない。 ●米でも利払い増 新たな経済・財政計画にも解釈の余地が残る。経団連の十倉雅和会長は4日、民間議員を務める経済財政諮問会議でPB目標は「単年度で考えるのではなくて、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべきだ」と語った。景気変動があれば、単年度の赤字は許容するとの考えがのぞく。原案の調整過程では単年度赤字の含みをもつ「黒字基調」の使用に前向きだった内閣府と慎重な財務省との間でさやあてがあった。結果として「黒字基調」は使わなかったものの、単年度赤字でPBが遠のく可能性はある。財政健全化の計画は頓挫の歴史を繰り返してきた。小泉純一郎政権で策定した06年の骨太方針では社会保障費を毎年2200億円圧縮するなどの数値目標を明記し、11年度に黒字化すると打ち出した。その後の麻生太郎政権はリーマン危機への対応などで数値目標を棚上げした。民主党政権ではPB黒字化の実現を「遅くとも20年度までに」とずらした。18年に策定した現行目標「25年度黒字化」も大型の補正予算を組めば達成は難しくなる。利払い費の負担増は日本だけの問題ではない。米政府の対GDP比の財政赤字は23年度に6.3%と22年度から0.9ポイント悪化した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げで利払い費が増えたことが背景にある。財政赤字は中長期で拡大する見通しだ。中東情勢の緊迫が続き、台湾有事を心配する声も強まっている。「金利ある世界」に向けて財政余力を確保しておくことは地政学リスクや首都直下型地震のような大災害に対応するためにも急務となる。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81839890T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 税収最高もかりそめの改善 昨年度72兆円、物価高が押し上げ、予算不用額は高止まり 歳出構造の改革不可避 財務省は3日、2023年度の国の一般会計の決算概要を発表した。企業の好業績やインフレを背景に税収は72兆761億円と4年連続で過去最高となった。金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的ともいえる。いまのうちに歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要がある。税収は22年度の71兆1373億円を上回り、2年連続で70兆円を突破した。インフレは名目成長率を押し上げて税収にもプラスに働く。内閣府によると23年度の名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスだった。22年度の2.5%プラスから上振れした。23年度補正予算段階では69兆6110億円と22年度実績を下回ると見込んでいた。法人税の納税制度が変わった影響で還付が増えたことなどから年度前半の伸びは鈍かった。23年4月~24年4月の累計の税収は59兆5193億円と前年同期を2兆円程度下回っていたが、5月分の法人税収が伸び、大幅に上回る結果となった。法人税収は15兆8606億円で、前年度から6.2%伸びた。想定よりもおよそ1.2兆円上振れした。1991年度(16.5兆円)以来の高水準で、5月分は7兆4867億円と過去最高だった。円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与した。所得税収は22兆529億円で、2.1%減少したが、想定をおよそ0.8兆円上回った。企業の賃上げの動きの広がりで給与所得が増えた。消費税収は23兆922億円で0.1%増加し、過去最高となった。年度前半に還付金が増えたことなどが減収要因となったが、国内消費は堅調に推移した。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「24年度は定額減税が減収要因になるが、インフレ環境の継続とともに名目GDP成長率のプラスが定着する中で、税収の増加傾向は続くだろう」と分析する。ただ足元では日銀の金融政策修正などの影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇している。今後は国債の利払い費の増加が財政を圧迫する可能性がある。税収が伸びているうちに歳出構造改革を進める必要がある。現状は心もとない。予算計上したが結果として使う必要のなくなった不用額は6兆8910億円だった。赤字国債発行を取りやめたが、過去最大だった22年度の11.3兆円に次ぐ規模だ。不用額の大きさは予算の見積もりが精緻になされたかや、無駄な支出を計上していなかったかの目安になる。新型コロナウイルスの感染が広がる前まではおおむね1兆~2兆円台で推移してきたが、コロナ禍を機に大規模な補正予算が組まれるようになり金額も拡大した。その年度に使われなかったお金としては次年度への繰越金もある。不用額は繰り越しても使われる見込みがないお金とも言える。そもそも無駄な予算計上だった可能性を否定できない。新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる。岸田文雄首相は年金受給世帯などへの給付金を計画しており、財源として24年度補正予算の編成を念頭に置いている。政府は高成長の実現や歳出改革の継続によって25年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化が視野に入っているとする。税収の上振れが次の経済財政試算にどの程度反映されるかに左右されるが、黒字化がより近づく可能性もある。税収の上振れは与党などからの経済対策を求める声につながりやすい。大規模な補正予算を編成すればPB黒字化は困難になる。予算の平時化に向けては「今回の補正予算が試金石になる」(財務省幹部)。規模ありきで不要な支出を積み増す慣行から脱却できるかが問われる。 *3-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998370.html (朝日新聞社説 2024年7月31日) 国の予算編成 手を緩めず歳出改革を 政府が来年度予算編成にあたっての要求基準を決め、各省庁の作業が始まった。財政健全化の目標が来年度で達成できるとの試算も示したが、楽観できる状況ではない。政策の優先度を厳しく見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要がある。歴代政権は20年ほど前から、国・地方の「基礎的財政収支」の黒字化をめざしてきた。政策経費を新しい借金なしでまかなえることを意味する。財政再建に向けた「最初の一歩」の目標だ。新しい試算は、基礎的収支が税収増で上ぶれし、今の目標の25年度には小幅なプラスになるとした。ただ、近年恒例の大型補正予算を年度途中に組まないのが前提で、実現性は依然不透明だ。 財政全体をみれば、金利の上昇で国債の利払いも増える見込みだ。気を緩めず、無駄な支出と赤字の抑制に最大限努めなければならない。足元では物価や人件費の上昇が続き、歳出拡大の圧力が強まっている。少子高齢化への対応をはじめ、重要な政策課題も多い。各省庁は予算要求の段階で、費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべきだ。閣議了解された概算要求基準も、「施策の優先順位を洗い直し、予算を大胆に重点化する」とうたう。各省庁の要求額に制限をかける仕組みだが、昨年同様、「例外」や抜け穴が多く、かけ声で終わる懸念がぬぐえない。防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱いにした。安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図が強まる。「重要政策」を優遇する特別枠と、金額を明示しない「事項要求」の対象も広い。賃上げ促進や官民投資拡大、物価高対策などが例示されているが、歳出膨張に十分歯止めをかけられなかった昨年の繰り返しになる恐れがある。政府が昨年から掲げる「歳出の平時化」がどこまで本気なのか。まず試されるのが、岸田首相が先月唐突に打ち出した今秋の経済対策だ。物価高で苦しむ家計や事業者を支えるというが、政治的アピールを優先し、対象をいたずらに広げれば、規模が水膨れし財政悪化を招くだろう。そもそも今の予算編成の手法は、中長期で財政の持続性を保つ視点が薄い。概算要求基準の対象は当初予算だけで、継続的な事業を補正予算に回すことが常態化している。補正も含めた通年や数年単位で歳出に一定のたがをはめ、その中で配分を適切に見直す仕組みを考えるべきだ。 *3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240719&ng=DGKKZO82181150Z10C24A7MM0000 (日経新聞 2024.7.19) 消費者物価6月2.6%上昇 電気・ガス代押し上げ 総務省が19日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が107.8となり、前年同月と比べて2.6%上昇した。政府が電気代やガス料金などの負担軽減策を縮小したことで、電気代やガス代が値上がりした。前月の2.5%上昇から伸びが拡大した。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.7%の上昇だった。2年10カ月連続で前年同月を上回った。依然として日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている。エネルギーの上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した。電気代が13.4%と大幅に上昇し、生鮮食品を除く指数の伸びを0.47ポイント押し上げた。都市ガス代も3.7%上昇した。電気代は23年1月に始めた補助金の影響でマイナスの推移が続いたものの、5月に再生可能エネルギー普及にかかる賦課金が上昇し16カ月ぶりにプラスに転じていた。政府補助は5月使用分で半減となり、6月のCPIから押し下げ効果が縮小した。電気代の上昇は2カ月連続。6月の政府補助による電気代の押し下げ効果はマイナス0.22ポイントだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.2%上昇した。生鮮食品を含む総合指数は2.8%上がった。食料は3.6%の上昇だった。オレンジの原産国での天候不良が不作を招いた影響で果実ジュースが32.1%上昇した。さくらんぼも15.7%上がった。昨年夏や今季の収穫期における猛暑が影響した。食料の上昇幅は前月の4.1%からは縮小した。猛暑による影響でルームエアコンの需要が拡大し、家庭用耐久財は3.9%上昇した。宿泊料も19.9%伸び、前月の14.7%から上昇幅が広がった。全品目をモノとサービスに分けたうち、サービスは1.7%上昇だった。前月は1.6%で上昇幅は拡大した。外食は2.8%上昇して、前月から横ばいだった。 *3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81585450S4A620C2MM0000 (日経新聞 2024.6.22) 円一段安、159円後半 米景況感上振れでドル買い 21日のニューヨーク外国為替市場で対ドルの円相場が下落し、一時1ドル=159円80銭台とおよそ2カ月ぶりの円安・ドル高水準を付けた。同日発表の米企業の景況感が市場予想を上回り、米金利上昇(債券価格の下落)とドル買いを誘った。米S&Pグローバルが21日発表した米国の6月の購買担当者景気指数(PMI、速報値)は総合が54.6と前月から0.1ポイント上昇し、2022年4月以来2年2カ月ぶりの高さになった。米景気が好調を維持し、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ転換に時間がかかるとの見方から、米金融市場ではPMI公表後に米金利上昇とドル高が進んだ。円相場は4月29日に34年ぶり円安水準となる1ドル=160円24銭を付けたあと、政府・日銀の円買い為替介入を受けて151円台まで上昇した。ただ、その後は日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進んでいるほか輸入企業によるドル調達もあり、円の下落基調が続いている。PMIの調査期間は6月12~20日。総合指数は好不況の分かれ目となる50を1年5カ月続けて上回る水準で推移している。21日発表の6月のユーロ圏のPMIは総合指数が前月から低下しており、米景気が他国・地域よりも底堅い様子を映した。米PMIの内訳をみると、サービス業の指数は55.1と0.3ポイント上昇し、2年2カ月ぶりの高水準だった。53.7への低下を見込んでいた市場予想を上回った。個人消費がなお堅調で、サービス業の新規受注が拡大している。 *3-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1292925 (佐賀新聞 2024/8/2) 日銀が追加利上げ、金利正常化を明確にせよ 日銀は、政策金利の追加利上げと国債買い入れの減額計画を決定した。後者は予告通りだが、利上げを予想した市場関係者は直前まで多くなかった。異次元緩和を終えながら、日銀が金利正常化の意図をあいまいにしてきたためだ。依然低い政策金利が円安とインフレの弊害を招いている。金利修正を明確にすべきだ。日銀は金融政策決定会合で、政策金利である短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げることを決めた。異次元緩和を3月にやめ、マイナス金利を解除して以来の利上げとなる。一方、長期国債の買い入れは現状の月6兆円程度から、2025年度末をめどに3兆円程度へ半減することを決めた。前回6月の会合で減額方針を決定していた。国債購入による長期金利抑制は異次元緩和のもう一つの柱であり、買い入れ減額は国債保有を減らす「量的引き締め」となる。追加利上げと相まって金利全般が上昇し、住宅ローンや企業の借入金利に影響が出てこよう。しかし、2%台半ばにある足元の物価上昇率を勘案すれば、実質的な金利水準は依然マイナスであり極めて低い。金利上昇による経済への影響を、過度に警戒する局面ではあるまい。むしろ懸念すべきは、植田和男総裁をはじめ日銀の姿勢と情報発信だ。賃上げを伴った好循環を理由に異次元緩和を終え、目標とする2%以上のインフレは27カ月続く。それでもまだ望ましい物価上昇ではないと、正常化への金利見直しに慎重姿勢を崩していないからだ。市場参加者はもとより、物価高の苦境にある国民には理解し難い。日銀は今回、当面2%前後の物価上昇が続くとの見通しを公表。その度合いに応じて政策金利を上げていく考えを明らかにしたのは、一歩前進と言えるだろう。最近の円安は、米国の金利高止まりだけが原因ではない。低金利修正に腰の引けた日銀の姿勢に、正常化は遅れると市場参加者が見込んだ点が為替相場に反映している。石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国では、円安が輸入コスト増に直結し、物価上昇の引き金となる。帝国データバンクの食品メーカー調査によると、春からの急激な円安を受けて、秋に再び値上げラッシュが襲う見通しという。国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは、物価高による節約志向が原因だ。金融政策が円安を通じて、かえって消費と景気の足を引っ張っている「逆効果」を日銀は直視すべきである。日銀の金融政策を分かりにくくしている原因が、2%目標の硬直的な運用にあるのは明らかだ。13年に政府との共同声明に明記されて以来、日銀の政策運営を縛ってきた。柔軟で機動的な政策運営を可能とするため、政府と日銀で見直しに着手する時だろう。日銀は今回の利上げを物価の上振れリスクなどに対応するためと説明するが、額面通りに受け取る市場関係者は少なかろう。それよりも円安と物価懸念から金利修正を暗に求めた政府・与党関係者の発言が影響した、との見方に説得力がある。緩和要求が常だった政府・与党から利上げ発言が出てくること自体、異例である。それだけ日銀の政策運営がずれている証拠と理解したい。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB096MG0Z00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月4日) 脱・日銀依存で戻る規律 日本経済は変わるか、金利が動く世界へ 日銀が7月末の金融政策決定会合で追加利上げと「量的引き締め」への具体策を決めました。日本経済は脱・日銀依存へとさらに一歩踏み出します。連載企画「金利が動く世界へ」は、戻ってくる金利の規律が政府、企業、家計にどんな変化をもたらそうとしているのかに迫りました。日銀が追加利上げを決断し、同時に国債保有を圧縮する「量的引き締め」も開始した。日本経済は中央銀行による金利コントロールから、市場原理による「金利が動く世界」に戻る。国も企業も家計も、これからは金利の規律と向き合うことになる。「インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然だ」。7月末に追加利上げに踏み切った日銀。日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことがないが、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む。超低金利が続くとみていた市場にはサプライズとなり、公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された。一方で日経平均株価は2日に史上2番目の下落幅を記録。市場は揺れながら「金利が動く世界」へ向かう。早期安定の試金石は、まさに中銀の統制を解く債券市場にある。日本国債の発行残高は1082兆円。日銀はその53%を保有する「池の中の鯨」だ。巨大な買い手がいなくなれば、金利は急騰リスクを抱える。財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望する。民間銀行などは日本国債の9%を現在保有するが、約10年前は39%(317兆円)と最大のプレーヤーだった。「国内銀行だけで200兆円は国債を買える。ただ、長期金利の最終水準がみえてこないと買いに行けない」。あるメガバンク首脳はそう思案する。確かに民間銀行に国債を買い入れる余力はある。ただ、金利が上昇し続ければ保有国債に含み損が発生する。ある大手銀行は長期金利が1.2%になれば本格的な国債買いに動く腹づもりだが、現在は1%を切っており「動く地合いではない」。最大の問題は国債取引の人の厚みもノウハウも薄れていることだ。ある大手銀は日本国債の取引担当がわずか2人。30年前は10人超いたものの、金利が動かなくなってチームを縮小した。国債取引で中核的な役割を果たす「国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー)」も、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)が資格を返上したほか、欧州系のアール・ビー・エス証券(当時)なども撤収した。1998年の資金運用部ショック、2003年のVaRショックと、かつて国債市場は金利急騰で大混乱したことがあった。当時と異なるのは、国債のトレーダーも運用機関も層が薄くなり、金利急変動の耐性がないことだ。長期金利は経済の好不調に合わせて上下動するのが自然な姿だ。日銀が国債の大量購入で長期金利を人為的に抑えつけると、世界のマネーフローは為替相場でしか調整できなくなった。極端に開いた日米金利差で発生したのが歴史的な円安だった。「円売りが連鎖してキャピタル・フライト(海外への資本逃避)になれば、1ドル=300円も冗談でなくなる」。ある自民党議員は海外投資家に真顔でそう脅された。円売り連鎖という目先の苦境は遠のいた。とはいえ、秩序だった市場を取り戻さなければ、次なるリスクを抱え込む。S&Pグローバル・レーティングなど主要格付け機関は、財政悪化にもかかわらず日本国債の格付け見通しを「安定的」と据え置いている。その理由は、皮肉にも日銀による巨額の国債買い入れ策があったからだ。民間主体で国債相場を支えきれないなら、財政悪化はそのまま国債格下げリスクとなる。邦銀の格下げにも直結し、日本企業のドル調達難という新たな危機となる。中央銀行頼みのツケはすぐにはなくならない。市場のプレーヤーの厚みを取り戻す必要がある。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0979Q0Z00C24A8000000/ (日経新聞社説 2024年8月9日) 日銀の市場との対話は十分だったか 内外の株価や円相場の不安定な動きが続いている。様々な要因が絡み合うなかで、日銀がさらなる利上げに積極的な姿勢を示したことが「予想外」との反応を生み、円の急伸を招いた。日銀と市場との対話は本当に十分だったといえるのか。市場の安定を確保するためにも問題がなかったかを改めて点検し、丁寧な意思疎通を心がけてほしい。世界で日本株の下落が際立ったのはハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れといった米国の要因に円の急伸が重なったためだ。日銀が7月末の金融政策決定会合で利上げを決めた直後、米連邦準備理事会(FRB)が9月に利下げに動く可能性を示唆し、日米金融政策の方向性の違いが強く意識されたことも大きい。日銀の内田真一副総裁は7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しに動いた。市場の動向とともに企業や消費者の心理に変化がないか細心の注意を払うのは当然としても、説明が首尾一貫していないように聞こえる。日銀は8日、利上げを決めた会合での「主な意見」を公表した。経済や物価がおおむね想定通りに推移しているとの見方に加え、円安を背景に「物価の上振れリスクには注意する必要」との認識が判断材料となったことがわかる。正副総裁らが会合前に情報を発信する機会が限られたこともあり、日銀が円安のリスクへの懸念をより強めていることは市場には十分に伝わっていなかった。事前に市場にすべてを伝える必要はないものの、結果をみれば、市場との対話が円滑だったとはとても言えまい。日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に、市場との対話を見直してほしい。一方、市場の落ち着きを前提にすれば、金融政策の正常化を封印するのは適切な判断ではない。主要国で日本だけが金融緩和を長く続けた。そのことが円売り取引の膨張を許し、円急伸の遠因となった側面は否めない。投機資金の動きや影響を注視しつつ、望ましい政策のあり方を探ってほしい。経済や物価の動きに応じて金融緩和の度合いを調整していく試みは、長い目でみた経済成長と市場の安定のためにも欠かせない。だからこそ日銀には、入念な市場との対話と精緻な情勢分析を通じ、適切な政策運営につなげる不断の努力を強く求めたい。 *3-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB058TK0V00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月12日) 日本株激動、「避難先」銘柄は 相場低連動・還元策に注目 日本株のボラティリティー(変動率)が高まり、急激な下げへの警戒は残る。荒れ相場の駆け込み寺となる銘柄は何か。相場全体の値動きに対する感応度や配当利回りなどの指標でスクリーニングしたところ、食品や小売り、住宅関連などの業種が浮かび上がった。QUICKのデータを使い、東証株価指数(TOPIX)採用で時価総額100億円以上、予想配当利回りが2.5%以上などの条件を満たす銘柄を抽出し、対TOPIXのベータ値(60カ月)が低い順に並べた。新型コロナウイルス禍の影響を考慮し、短期(180日)のベータ値が平均より低いことも条件とした。ベータは個別株と相場全体の動きの相関を表す値。TOPIXなどの指数と同じ動きなら「1」となる。1より小さくなるほど感応度が小さく、相場の調整局面で下値抵抗力を発揮する。内需中心で業績が安定している企業のほか、財務レバレッジの低い場合などに小さくなりやすい。投資家からの関心を表す指標とも解釈できるため、外国人持ち株比率と一定程度の負の相関があるとされる。「世界が本格的なリセッションに向かうのであれば、低ベータ銘柄への投資が有効になる」(野村アセットマネジメントの石黒英之チーフ・ストラテジスト)。リストで目立つのが食品銘柄だ。総菜製造のフジッコや製粉会社のニップンなどはベータ値が0.05程度。市場全体の値動きに対する感応度が極めて小さい銘柄群といえ、日経平均が連日で大幅下落した8月1日からの3営業日も株価下落率は日経平均(20%)より10ポイント以上小さかった。業績の安定性も注目される。食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期(2024年3月期)まで10期連続の営業増益だった。液卵事業は「今年に入って販売数量が前年を上回り回復傾向にある」(同社)といい、25年3月期の営業利益は前期比12%増と過去最高を計画する。営業地盤を地方に置く銘柄にも注目だ。業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先になる。茨城県や千葉県などの関東圏で大規模ホームセンターを展開するジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落したときにむしろ株価が上昇しやすいという珍しい特徴を持つ。ジョイ本田株は8月5日までの3営業日で6%安にとどまった。このほか栃木県に本社を置くドラッグストアチェーンのカワチ薬品、北関東を中心にスーパーマーケットを展開するエコスといった小売銘柄もベータ値が低い。 リスクオフ局面では投資家の関心が配当に集まりやすいため、還元実績や財務体質に注目することも重要だ。福岡県などを地盤に住宅建材・設備をてがけるOCHIホールディングスは、24年3月期まで13期連続で増配中だ。今期から「連結配当性向30%以上」との目標を新たに導入し、積極的な還元姿勢を打ち出している。化粧品のノエビアホールディングスも23年9月期まで12期連続で増配している。株主還元を含めたキャッシュマネジメントに注力し、自己資本利益率(ROE)は過去5期平均で13.2%と、同業他社に比べて高い。足元の配当利回りは4%台と、東証プライム市場の平均(約2.6%)を上回っている。 ●米国株、公益・ヘルスケアに資金シフト 「ディフェンシブ株をポートフォリオに加えるのは今からでも遅くない」。米モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏は8月初めの相場急変を受けて投資家向けリポートにこう記した。ディフェンシブ株に対する景気敏感株のリターン優位は4月頃にピークをつけたと指摘。過去のリスクオフ局面に照らし合わせれば、ディフェンシブ株への資金シフトはここからある程度時間をかけて進むとみる。日本株に比べ株価の振幅が小さい米国株市場でも物色はディフェンシブ性の高い銘柄に向かっている。S&P500種株価指数が直近の高値をつけた7月16日からの騰落率をみると、上位にはヘルスケアや公益株が多く並ぶ。業績の変動が小さく、相対的に配当利回りが高いことなどがリスクを回避したい投資家からの関心を集めている。ヘルスケアでは医療施設運営のHCAヘルスケアやユニバーサル・ヘルス・サービシズ、産業用品大手スリーエムのヘルスケア部門として4月に分離上場したソルベンタムなどに買いが集まっている。英バークレイズが7月下旬、「市場シェア拡大が期待できる」などとしてHCAヘルスケアの目標株価を376ドルから396ドルに引き上げるなど、4〜6月期決算発表を経て好業績を再評価する動きも出ている。 公益ではエジソン・インターナショナル、エバーソース・エナジーなど電力会社が高い。予想配当利回りが4%前後、予想PER(株価収益率)が14〜16倍台と、割高感のあるテック株などに比べた投資指標面での堅実さに注目が集まっているようだ。市場全体の値動きに対する感応度であるベータ値が低い銘柄が物色されていることも特徴だ。米国防総省を主要顧客とする防衛企業のノースロップ・グラマン、ニューヨーク市に電気やガスなどのインフラを供給するコンソリデーテッド・エジソンは、対S&P500のベータ値(60カ月)が0.3程度と小さい。その中で米国では日本と異なり消費株が敬遠されていることには注意が必要だ。「労働市場が軟化し、米国の投資家は消費株をリスク視している」(米ゴールドマン・サックスのチーフ米国株ストラテジスト、デイビッド・コスティン氏)。失業率の上昇や賃金上昇の鈍化によって消費意欲の減退が予想され、スナック食品のケラノバなど一部の銘柄を除けば軟調な消費株が目立つ。ヨガウエアなどスポーツ用品のルルレモン、美容小売りのアルタ・ビューティーの株価は3週間で約2割下落した。 *3-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301927 (佐賀新聞 2024/8/16) 力強さ欠く景気 物価抑え家計を支援せよ 内閣府が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)は、前期比の年率換算で実質3・1%増だった。2四半期ぶりのプラス成長だが落ち込んだ前期からの反動要因が大きく、景気は依然力強さに欠けると言えよう。不安定な株価や円相場、海外経済への懸念から先行きの不透明感も拭えない。このため経済対策による大規模な財政出動を求めたり、政策正常化へ向けた日銀の追加利上げをけん制したりする声が出てくると見込まれる。だが、景気の弱さは主にインフレ長期化による家計の圧迫に原因があり、これらは打開策とならない。政策対応としては物価抑制と、低所得世帯などへの家計支援に力を入れるタイミングだ。4~6月期がプラス成長となった最大の要因は、GDPの約半分を占め景気のエンジン役である個人消費が、5四半期ぶりに増加へ転じたためだ。しかし内容を見ると楽観できる状況にはない。前期の1~3月期は自動車の認証不正問題の悪影響が濃く表れ、その反動で4~6月期の消費が大きめに出たとみられるからだ。総務省の家計調査などからは、長引く物価高に節約で対抗し、食品など必要なものに絞ってお金を使う家計の実情が浮かび上がる。定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから、先行きの消費改善を予想する声はある。だが減税は一時的に過ぎず、全世帯の3割を占める高齢世帯は賃上げにほとんど無縁である。円安が是正され、物価が落ち着くまでは消費の低空飛行が続くと見ておいてよいのではないか。ほかのGDP主要項目では、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加し全体のプラスに貢献した。円安による輸出企業の好業績や、認証不正問題からの回復が投資増につながったとみられる。だが今後は日銀の政策変更による金利上昇に加え、株価や円相場の影響が避けられまい。相場の荒い変動は投資手控えにつながる点を警戒したい。一方で、輸出から輸入を差し引いた外需は2四半期連続のマイナスとなり、GDPの足を引っ張る要因に働いた。統計上の輸出に当たるインバウンド(訪日客)需要は堅調だったとみられるが、中国の成長減速などから輸出全体の伸びは鈍く、輸入の伸びを下回った。中国は不動産不況が引き続き景気に影を落とす見通しだ。その上で、この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方と言えるだろう。インフレ退治の金融引き締めにもかかわらず底堅く成長してきたが、最近の統計は雇用の冷え込みを示唆。連邦準備制度理事会(FRB)は9月にも利下げへ転じる見通しで、米国経済は軟着陸できるかどうかの分水嶺(れい)にあるためだ。米景気や利下げの行方が株価の波乱要因となり得るだけでなく、円相場に影響する点は改めて言うまでもあるまい。岸田文雄首相の退陣表明により、秋に予定される経済対策をはじめ政策運営の先行きは見通しにくい状況となった。しかし力強さを欠く景気の現状を見れば、その場しのぎの減税や電気・ガス代補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道であることは明らかだろう。次期政権には、その点に正面から取り組んでもらいたい。 *3-3-1:https://www.profuture.co.jp/mk/recruit/strategy/40122 (MarkeTRUNK 2022.8.1) ガラスの天井の意味は。壊れたはしごとは違う?女性やマイノリティのキャリアアップの障壁 ガラスの天井とは、十分な能力を持つ女性やマイノリティが、不当に昇進を制限されることだ。日本は女性の社会進出に関して諸外国に遅れを取っており、多様化する社会においては早急な課題解決が求められる。ガラスの天井の意味や壊れたはしごとの違い、解決のためのキーワードなどを見ていこう。 ●ガラスの天井、壊れたはしごの意味 ガラスの天井とは、女性の社会進出における問題を喩えた言葉である。男女が平等に働ける社会を実現するうえで、ガラスの天井は大きな課題とされている。 また、壊れたはしごも女性の働き方に関わるキーワードだ。ここでは、ガラスの天井や壊れたはしごの意味、日本政府が掲げる目標、諸外国における男女の働き方について解説する。 ○ガラスの天井とは ガラスの天井(=グラスシーリング)とは、十分な能力があるのにもかかわらず、性別や人種などの要因によって昇進が妨げられる状態を表す。目には見えない障壁をガラスに喩えた言葉で、特に女性やマイノリティが不当な扱いを受ける場合に用いられる。ガラスの天井を初めて使用したのは、企業コンサルタントのマリリン・ローデンだ。のちにウォールストリート・ジャーナル紙の紙面でも用いられ、ガラスの天井の概念が世間に広く浸透した。1991年には、アメリカ連邦政府労働省が公的な場面でガラスの天井を使用している。また、2020年のアメリカ大統領選で史上初の女性副大統領が誕生し、ガラスの天井が破られたと話題になったニュースは記憶に新しいだろう。 ○壊れたはしごとは 壊れたはしごとは、女性が昇進するために上る階段(はしご)は元々壊れており、1段目から男女格差が生じていることを意味する。ここでの1段目とは、グループ長や主任のようなファーストレベルの管理職を指す。壊れたはしごの概念が提唱されるまで、女性の社会進出を阻む要因はガラスの天井であると考えられていた。しかし近年の調査では、そもそも第一段階の地位に就く女性の割合が少ない構造となっていることが、女性の昇進を阻むハードルだと結論づけられている。上級職レベルで女性の昇進を改善しても、上級職に到達できる女性の数が少ないため、根本的な解決にはつながらない。昇進における男女格差をなくすためには、壊れたはしごを生み出す構造自体を見直す必要があるのだ。 ○政府は「女性管理職比率30%」を掲げているが・・ 女性の社会進出における課題を問題視し、政府は2003年に「『2020年30%』の目標」を発表した。これは、あらゆる分野の指導的地位に就く女性の割合が、2020年までに30%程度に到達することを目指すものである。目標達成のためにさまざまな施策が実施されているが、その成果は期待を上回るほどではない。役職に就く女性の割合を確認すると、1989年から徐々に上昇してはいるものの、現状は目標の30%に届いていないことが読み取れる。2020年には女性の参画拡大に関する成果目標が見直され、「第5次男女共同参画基本計画」において以下の基準が定められた。現状値を2025年の目標値まで引き上げるために、今後も女性の活躍を促す施策の実施が検討されている。 ■「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標 グラフ:「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標 参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」 ○EUでは上場企業の役員の男女均衡義務化 2022年6月、EUは上場企業における役員比率の男女均衡を義務付けることに合意した。EUはこれまでにもジェンダー平等の推進に取り組んでいたが、管理職に就く女性の比率に関しては加盟国の間で大きな差があった。新たに合意されたルールでは、取締役に登用する男女の最低割合が定められている。域内の上場企業は、2026年6月末までに社外取締役の40%以上、または全取締役の33%以上に女性を登用しなければならない。基準を達成できない企業には理由や対策の報告が求められ、場合によっては罰則の対象となりうる。 ●調査でわかる日本の現状 実際のところ、日本における男女の社会進出にはどれくらいの格差があるのだろうか。各種調査を参考にして、日本の現状を把握しよう。 ○女性管理職の比率、日本は10%台 男女共同参画局の調査によると、日本の女性役員割合は12.6%となっている。過去数年間における女性役員数は増加傾向にあるが、諸外国に比べるとまだまだ低いことがわかるだろう。 諸外国の女性役員割合(2021年の値) フランス 45.3% イタリア 38.8% スウェーデン 37.9% イギリス 37.8% ドイツ 36.0% カナダ 32.9% アメリカ 29.7% 中国 13.8% 日本 12.6% 韓国 8.7% 参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」 諸外国の女性役員割合が高くなっている背景には、クオータ制の導入が影響している。クオータ制とは、女性の登用割合を役職ごとに規定し、基準を満たすことを義務化するものだ。発祥であるノルウェーをはじめ、クオータ制は各国における女性役員割合の増加に大きく貢献した。 ○ジェンダー・ギャップ指数は156か国中120位 世界経済フォーラム(WEF)は、男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数を毎年発表している。2021年は156か国を対象に調査が行われ、日本の総合スコアは0.656、順位は120位であった。これは先進国の中でも最低レベルの結果である。アジア諸国の中では、韓国や中国、ASEAN諸国よりも順位が低く、ジェンダー平等に関して日本が遅れを取っていることが読み取れる。 参考:内閣府男女共同参画局「共同参画」2021年5月号 ○ガラスの天井指数では29か国中28位 2022年3月に経済週刊誌エコノミストが発表したガラスの天井指数において、日本は29か国中28位であった。ガラスの天井指数はエコノミストが2013年から毎年発表しているもので、男女間の賃金格差や育休取得状況などの10項目を元に順位が決められる。日本以外には、スイスやトルコ、韓国が下位を占めており、これらの4か国の順位は10年間変動していない。エコノミストは、「女性が家族と仕事の選択を迫られる日本と韓国が下位にとどまっている」と指摘している。 参考:The Economist「The Economist’s glass-ceiling index」 ○男女間賃金格差、38か国中ワースト3位 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位であった。具体的には、男性の賃金の中央値を100とした場合、女性の賃金の中央値は77.5となっており、22.5ポイントの差が開いている。以下の表は、主要各国の男女間賃金格差をまとめたものだ。各国の値を見ると、日本における男女間の賃金差が大きいことがわかるだろう。 国名 女性賃金の中央値 男女賃金格差 OECD加盟国平均 88.4 11.6ポイント イタリア 92.4 7.6ポイント フランス 88.2 11.8ポイント 英国 87.7 12.3ポイント ドイツ 86.1 13.9ポイント カナダ 83.9 16.1ポイント 米国 82.3 17.7ポイント 日本 77.5 22.5ポイント 参考:東京新聞「男女の賃金格差、開示を義務化へ 主要国でも格差大きい日本、女性の働きにくさ要因」 ●解決のためのキーワード ガラスの天井を解決するためのキーワードとして、「アンコンシャスバイアス」や「ESG経営」が挙げられる。多様化が進む現代で企業が生き残るためには、ガラスの天井を取り払い、女性の社会進出を支援する取り組みが不可欠だろう。ガラスの天井を取り除くためには、アンコンシャスバイアスに気づくこと、そしてESG経営を行うことが有効である。女性やマイノリティが働きやすい社会を作るために、ガラスの天井の解決につながるヒントを確認しておこう。 ○アンコンシャスバイアスの気づき ガラスの天井が生まれる要因として、アンコンシャスバイアスの存在が指摘されている。アンコンシャスバイアスとは、無意識のうちに生じる偏見や思い込み、根拠のない決めつけなどを意味する。たとえば「女性は仕事よりも育児をすべきだ」、「女性に力仕事は任せられない」などは、アンコンシャスバイアスの代表例だ。女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると、ガラスの天井の発生につながり、女性の昇進が妨げられてしまうだろう。アンコンシャスバイアスを解消するためには、自分の中に無意識の偏見があることを自覚しなければいけない。自分の言動に対する相手の反応を観察し、無意識のうちに他者を傷つけていないかどうかをチェックしよう。物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除くための第一歩である。 関連記事:アンコンシャスバイアスの具体例は?仕事上で気をつけたい対策 ○ESG経営の取り組み ESG経営とは、以下の3つの領域を考慮して経営を行うことを意味する。 ・ Environment:環境 ・ Social:社会 ・ Governance:企業統治 昨今は、ESGを投資の基準にするESG投資が注目を集めており、ESG投資額は世界中で増加傾向にある。ESG経営を理解するために、キーワードである「ESG」と「ダイバーシティ&インクルージョン」について見ていこう。 ■ESG ESGとは、投資家が企業投資を行う際の判断基準のひとつである。近年は環境や社会の持続可能性が懸念されており、ESGへの取り組みが企業の長期的な成長につながるという見方が強い。 関連記事:ESGとSDGsとの違いとは?意味や背景、人事として取り組めることを解説 ESGには世界共通の基準や定義が存在しないが、一般的には以下の3つで構成される。 ・ E:自然環境に配慮すること ・ S:自社が社会に与える影響を考えること ・ G:企業における管理体制が整っていること 内閣府男女共同参画局の資料では、半数以上の投資家が企業の女性活躍情報を投資判断に活用していることが明らかになった。女性活躍情報には女性役員比率や女性管理職比率などが含まれており、女性の昇進とESG経営の関係性の深さがうかがえる。 参考:内閣府男女共同参画局「女性活躍情報がESG投資にますます活用されています~すべての女性が輝く令和の社会へ~」 ■ダイバーシティ&インクルージョン ダイバーシティ&インクルージョンとは、組織において多様性が認められ、個々が強みを発揮できていると実感できる状態を指す。企業イメージの向上につながることや、ライフワークバランスに対する意識の高まりなどの理由から、企業ではダイバーシティ&インクルージョンの実現が求められている。また、組織として多様性を認め合う環境整備を推進することは、ESG経営の一環としても重視されている。ESG経営に取り組むのであれば、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方に基づいた企業運営が不可欠なのだ。 関連記事:インクルージョンとは?ダイバーシティとの関係や推進のためのポイント ●まとめ ガラスの天井とは、性別や人種などの見えない障壁によって、女性やマイノリティの昇進が妨げられることである。さまざまな調査からもわかるとおり、日本では女性の社会進出に関して諸外国から遅れを取っている。また、壊れたはしごも女性の昇進に関するキーワードだ。壊れたはしごとは、ファーストレベルの管理職に就く女性が少ない構造こそが女性の昇進を阻んでいる、という考え方を意味する。女性にとって働きやすい社会を実現させるためには、ガラスの天井や壊れたはしごの解決が不可欠だ。女性の昇進の妨げとなりうるアンコンシャス・バイアスの解消、女性の活躍につながるESG経営などに取り組み、ガラスの天井のない組織づくりを始めよう。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240820&ng=DGKKZO82880910Q4A820C2EA1000 (日経新聞 2024.8.20) 女性役員ゼロなお69社 プライムの4% 政府目標期限、来年に 前年度からは半減 女性役員がいない東証プライム上場企業は69社で、全体の4.2%であることが日本経済新聞社の集計でわかった。政府が女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)で掲げた「女性役員ゼロ企業0%」の目標期限は2025年に迫っている。24年3月末と23年3月末時点で東証プライムに上場する1628社を対象に、23年度(23年4月期から24年3月期)の有価証券報告書「役員の状況」記載の男女別役員数から算出した。最も数の多い3月期決算企業は、6月末の株主総会での役員選任を反映している。女性役員ゼロの企業は前年度の146社(9.0%)から半減。ドラッグストア運営のGenky DrugStoresで3人が社外取締役に就くなど81社が新たに「ゼロ状態」を解消した。政府は23年6月にまとめた女性版骨太の方針で「30年までに女性役員比率30%以上」の目標を掲げた。同年12月の閣議決定では「25年までに女性役員比率19%」を中間目標に設定している。女性役員の数自体は3083人で全体の16.2%と前年度比で2.6ポイント増えたが、企業単位では「19%」の達成企業は540社(33.2%)、「30%以上」は122社(7.5%)にとどまる。現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには、今は男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならない。役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要になる。ただ就業者の半分近くが女性にもかかわらず、管理的職業従事者の女性比率は14.6%(24年版男女共同参画白書)。政府目標の達成には女性社員の育成も求められる。女性役員比率が最も高い(9人中5人)人材サービスのディップの女性役員は全員が社外だ。女性社外役員候補の研修などを担うOnBoardの越直美最高経営責任者(CEO)は「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内の人材」と話す。アステラス製薬は1991年入社の広田里香氏が取締役に就任、サンゲツは97年入社の高木史緒執行役員が取締役に選任された。 *3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998419.html (朝日新聞 2024年7月31日) 男女別学 公立共学化、どうする埼玉 20年ぶり再燃、生徒から存続訴えも かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進み、今では主に残るのは埼玉、群馬、栃木の3県だけになった。そんな埼玉県で、共学化を求める勧告を受けた議論が大詰めを迎えている。約20年前は「存続」と結論づけたが、男女共同参画が進む中で再度対応を迫られた県教育委員会は、8月末までに結論を出す。発端は2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が、県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫る勧告だった。同様の勧告は02年に続いて2度目だが、県内では賛否の表明が相次ぐ。元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は今年4月に記者会見し、「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」と説明。「社会的なリーダーになるためには、高校生活の中で、男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要だ」と強調する。トランスジェンダーの生徒が、将来、履歴書の学校名で性的マイノリティーであることが明かされてしまう懸念も指摘する。これに対し、共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも直後に会見し、「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と反論した。ジェンダーによって傷ついた体験を抱え、安心できる環境を求めて別学を選んだ人もいることや「女子校の方が女子のリーダーを育てやすい」などと指摘し、別学の維持を訴えた。7月下旬には、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出した。女子校2年の生徒(16)は「対話を重ねることで私たちの考え方を知ってもらい、共学化を止めたい」と話した。浦和一女では昨秋、全校生徒が参加する恒例の「討論会」を開き、「男女別学高校の共学化」を議題にすると、発言は反対一色となった。「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」。3年生の一人(17)は議論を振り返り、「埼玉では別学も共学も選択できる(のがいい)。異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」と語る。ただ、ジェンダーをめぐる社会の意識が多様化する中、02年の勧告時とは状況が変わったとの見方もある。前回は、別学校のPTAらでつくるグループが約27万人の反対署名を知事に提出し、県議会では別学維持派が超党派の議員連盟を結成するなど、高校の内外に波紋は広がった。だが、今回はそこまでの大がかりな動きはない。ある県議は「約20年前は県民を巻き込んで盛り上がったが、いまはジェンダー平等などが叫ばれ、社会の空気が明らかに変わった」と話す。 県教委は今年1~3月、別学12校の同窓会や保護者から意見を聞いた。4月19日からは、県内の中高生とその保護者を対象にアンケートを実施し、約7万500件の回答が寄せられた。別学校の生徒3割を含む高校生の回答では「共学化しない方がよい」が6割だった一方、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割で最多だった。県教委は、アンケートはあくまでも「参考資料の一つ」と説明する。各高校の生徒や保護者らの意見を踏まえ、8月中に別学校のあり方をまとめた報告書を公表する。 ■共学化、背景に共同参画・少子化 全国的には、公立の男女別学高校は減っている。戦前は男女別の教育が基本だったが、1947年に男女共学などを定めた教育基本法が施行。連合国軍総司令部(GHQ)主導の教育改革により、多くの公立高校で共学化が進められた。一方で、北関東や東北などでは別学校が残った。GHQの担当者によって地域ごとに温度差があったためで、埼玉では当時、同じ地区に男子校と女子校がある場合は共学化しなくてもいい方針になったとされる。文部科学省の学校基本調査によると、男子のみ、女子のみが通う別学の公立高校は64年度は全体の13%にあたる382校(男子のみ210、女子のみ172)あった。その後は、男女共同参画意識の高まりや、少子化の影響で共学化や統廃合が進んだことなどで、2023年度には全体の1%の45校(男子のみ15、女子のみ30)まで減った。福島県では別学校が約20校あった1993年、県の有識者会議が「男女共同社会が進行するなか、共学化を逐次進めていく必要がある」と答申。03年までにすべて共学化された。01年度に22校の別学校があった宮城県も、10年度までに県立高校をすべて共学化した。県教委によると、「多感な高校時代には男女が共に学び理解し合う環境が望ましい」などとして、当時の知事が主導したという。最近も、少子化に伴う定員割れなどを理由に、和歌山県内唯一の公立女子高が23年度末に閉校。5校の別学があった鹿児島県でも、男子校1校が4月に共学化し、別の男子校1校も26年度から段階的に共学になる予定だ。朝日新聞の調べでは、24年4月現在、別学校があるのは宮城、埼玉、群馬、栃木、千葉、島根、福岡、鹿児島の8県で42校。埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に4分の3が集中する。男女別学高校について、盛山正仁文科相は3月の会見で「男女別学を一律に否定するものではない。それぞれの学校の特色、歴史的経緯等に応じて、設置者において適切に判断されるべきだ」との見解を示している。 ■教育内容が大事、別学にも利点 昭和女子大の友野清文特別招聘研究員(ジェンダー教育学)の話 共学化すれば、男女共同参画社会が進むという単純なものではない。大事なのは、ジェンダー問題に向き合う各学校の教育方針であり、教育の内容だ。志望する生徒がいるのであれば、公立でも別学を選択できる環境を残すことは一定の意味がある。共学の場合でも、男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある。共学の方が「性差」を意識する機会が多く、別学の方がより自分らしく過ごし、学べる面もある。今、文部科学省は公立の普通科高校の個性化・多様化を進めている。別学の議論は、高校のあり方を考えるいい機会だ。埼玉の別学校は伝統を基盤により新しい教育を探れる可能性がある。これから進学する生徒やその保護者の意見を踏まえ、検討する必要がある。 ■憲法は性差別禁止、共学が原則 明治大の斎藤一久教授(憲法学)の話 法の下の平等を定めた憲法14条は、性別による差別を禁止している。憲法に従えば、男女共学が原則だ。性別によって入学を制限する別学校は、憲法違反の疑いがある。一方で、別学が必要だと結論づけるとすると、十分に合理的な理由があるかが論点になる。別学維持を主張する理由として、よく「伝統」が挙げられるが、行事の違いなどは根拠にならない。女子校はリーダーシップを育成できるという意見もあるが、内申書などで、もともとリーダーの資質がある女子を入学させているに過ぎない。公立高校で別学という選択肢が必要な合理的な理由があるなら、小中学校にも必要になってしまう。自宅から最も近い高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば、違憲判断が出るかもしれない。 *3-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS8C3HP6S8CUTNB00RM.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年8月13日) 公立の男女別学は選択肢?不公平? 割れる意見 危機感持つ卒業生も 2023年8月、埼玉県の第三者機関である男女共同参画苦情処理委員が、浦和や浦和第一女子など12校ある県立の男女別高校の共学化を求める勧告を出した。県教委は8月末までに、苦情処理委員への報告をまとめる。共学化か、別学維持か――。報告を前に、共学化をめぐる議論を追った。県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが、「公教育」についての考え方だ。「公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平だ」。共学派推進の市民団体などは昨年8月の勧告以降、会見などで活発に意見を表明してきた。別学校の多くは地域の伝統校で偏差値も高めのため、「選択できるのは学力の高い一部の生徒に過ぎず、そもそも公平性に欠ける」との声が上がる。また、逆に「地域の進学トップ校に行こうとしても、共学という選択肢がない」(県北部の中学3年生)との声もある。なかでも、進学実績で「県内トップ」とされる浦和高校が男子校であることが、男女の教育機会に差を生んでいるという批判は根強い。国内最難関とされる東大の2024年の合格者数をみると、県内の公立高校では浦和が最多の44人。続く共学の大宮の19人と2倍以上の開きがあった。女子校で最も多いのは浦和第一女子と川越女子で2人ずつだった。一方、別学維持を求める署名を7月下旬に県教育委員会へ提出した浦和高校3年の男子生徒(17)は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できている方が選択肢が広がる」と語る。別学が私学だけになると、金銭面で余裕がない人の選択肢が狭まるのではないかとの懸念だ。県によると、県内の高校生に占める私立の生徒の割合は約3割。授業料は県立の全日制が年11万8800円、私立の平均は年約40万3千円だ。文部科学省の調査(21年度)によると、授業料、修学旅行費、学校納付金などにかかる「学校教育費」は、公立高30万9千円、私立高75万円でさらに差が大きかった。一部の私立高生は、国の就学支援金に埼玉県の助成を上乗せすれば授業料平均額相当(年40万3千円)の補助を受けられるが、所得制限で補助を受けられない家庭もあり、物価高騰などで負担が重くなっているという。県教委による男女共学校の保護者らへの意見聴取でも「男女別学は特色ある学校という観点からも意義がある」「地理的に(公立の)男子校しかないのであれば問題だが、そういった状況ではない」などと別学維持を求める意見も挙がる。別学校の同窓会長らは「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と訴えている。ただ、少子化の影響もあり、地域によっては別学校が選ばれなくなっている状況もある。昨年度の県立の別学校(全日制)の入試倍率をみると、春日部1・50倍、川越1・47倍、浦和1・38倍、浦和一女1・37倍など県南部周辺が高かった。一方で、熊谷1・11倍、松山女子1・04倍、松山1・02倍、熊谷女子0・99倍、鴻巣女子0・92倍など、県北部では1倍を割る高校もあった。熊谷女子の卒業生という中学3年の保護者(47)は現状への危機感を口にする。「倍率が1倍を切ったのには驚いた。少子化が進むなか、地域によっては別学校も男女共学化で、より魅力的な学校像を探る時期なのかもしれない」。 高等学校(全日制)の学校教育費の内訳 <公立> <私立> 入学金 1万6千円 7万1千円 授業料 5万2千円 28万8千円 修学旅行費等 1万9千円 2万6千円 学校納付金等 3万2千円 11万5千円 図書・学用品等 5万3千円 6万4千円 教科外活動費 3万9千円 4万7千円 通学関係費 9万1千円 12万9千円 その他 4千円 7千円 合計 30万9千円 75万円 ※文部科学省の22年度「子供の学習費調査」より *3-3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16016631.html (朝日新聞 2024年8月23日) 公立高共学化「主体的に推進」 埼玉県教委、別学12校の方法・時期先送り 埼玉県で伝統校を中心に12校ある県立の男女別学高校の共学化をめぐり、埼玉県教育委員会は22日、「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表した。ただ、共学化の方法や時期、校名などは明記せず、具体的な進め方は先送りした。昨年8月、県の第三者機関の男女共同参画苦情処理委員から「早期の共学化」を勧告され、1年以内の報告を求められていた。同様の勧告を受け、県教委が2002年度にまとめた報告書では「当面維持」としていた。今回の報告書では、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展」など社会の変化に応じた学校教育の変革が求められると指摘。「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」と述べ、「今後の県立高校の在り方について総合的に検討する中で、主体的に共学化を推進していく」と結論づけた。一方、別学校の共学化に当たっては、「県民の意見を丁寧に把握する必要があるため、アンケートや地域別での意見交換、有識者からの意見聴取などを実施していく」とし、具体的な時期などは示さなかった。日吉亨教育長は22日の記者会見で、結果的に別学校を存続させる可能性を含めて「総合的に考える」としつつ、「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」と話した。(杉原里美) ■賛否両派から不満 今回の勧告は「県立の男子高校が女子の入学を拒んでいるのは、女性差別撤廃条約に違反する」という県民の苦情が発端だった。県教委は別学校や共学校の保護者、生徒、市民団体などから意見を聴取。県内の中高生とその保護者を対象に記名式のアンケートも実施した。この間、共学化賛成派と反対派が鋭く対立。賛成派の市民団体「共学ネット・さいたま」が4月に記者会見を開くと、その1週間後に浦和、浦和第一女子など別学4校の同窓会長らが会見を開いて反論した。激しい対立を背景に、報告書は共学化への道筋を明確に示さなかった。勧告は、県立高校の「公共性」の観点から別学校を問題視したが、報告書は別学校に「一定のニーズ」を認め、共学校も選択できることを踏まえ、「男女の教育の機会均等を確保している」と評した。あいまいさが残る報告書に対し、賛否両派から不満の声が漏れた。共学ネット・さいたまの清水はるみ世話人代表(72)は「県教委が主体的に推進するという(報告書の)意義はあるが、具体的な計画が何もない。共学化を進める検討会議を立ち上げてほしい」と注文。男子校の浦和高校同窓会の野辺博会長(71)は「県民の意見を無視した報告書。共学化推進が明記され残念だ。すぐに共学化しないとも受け取れるが、また数年後に同じことを繰り返すのではないか」と反発した。 *3-3-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240826&ng=DGKKZO83007160V20C24A8TYA000 (日経新聞 2024.8.26) 〈多様性 私の視点〉男女賃金差、職業選択が影響 東京大教授 山口慎太郎氏 男女間賃金格差は依然として課題であり、労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響を及ぼしている。この問題を解消するためには、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠だ。男女の異なる職業選択の背景には、仕事に求める要件の違いが大きくかかわっている。男女ともに給与や昇進機会を重視するのは当然として、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向が強い。これには、育児や介護といった家庭内の責任を担う女性が多いことが影響していると考えられる。また、複数の研究は、女性は競争が少なく、リスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差につながっている。さらに、最新の研究によると、仕事の持つ社会的意義を重視する度合いにも男女間で大きな差があることが明らかになっている。世界47ヵ国、11万人を対象とした調査では、女性が仕事の社会的意義をより重視する傾向が強いことが分かっている。アメリカのMBAプログラムに通う学生を対象とした研究によると、社会的意義が非常に高いと感じられる仕事であれば、女性は15%低い賃金を受け入れるが、男性は11%低い賃金までしか受け入れない。このような選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因となっている。こうした選好がどこから生じるのかについては明確な答えは出ていないが、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのかもしれない。この研究結果は、企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆を与える。例えば、女性の少ない金融業界においては、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる。また、政府が公共調達や税制などを通じて、企業の社会的責任(CSR)に対する努力を優遇することで、企業の取り組みを後押しすることができるだろう。 *3-4:http://www.newstokyo.jp/index.php?id=299 (都政新聞 2011年4月20日号) 局長に聞く、会計事務の専門集団、会計管理局長 新田 洋平氏 東京都の各局が行っている事業の内容を、局長自身によって紹介してもらう「局長に聞く」。31回目の今回は会計管理局の新田洋平氏にご登場いただいた。出納事務以外にも、石原知事自身が自らの最大の功績と自負する新公会計制度改革を推進するなど、目立たないながらも重要な業務を担っている。 ●出納事務を通じ都政運営に貢献 ―会計管理局は、その仕事の中身が都民にわかりにくいと思われています。 我々は都民向けの具体的な施策を持つ他局と違い、都民からは見えにくい組織の典型だと思います。各局が施策を実施するのに伴って、例えば工事請負代金などいろいろな支払が生じますが、我々は、そうした支払の実務を担っています。支払事務以外では、都民の皆さんからいただく税金や使用料、あるいは国庫補助金や都債収入などの、収入面での実務も取り扱っています。間接的ではありますが、都民や企業との関わりが深い仕事です。地味で見えにくいのですが重い責任を担っており、各局とペアを組んで円滑な都政運営に努めています。 ―出納事務の責任の重さはわかりますが、それ以外ではどのような仕事を行っていますか。 東京都は、将来に備えて必要な資金を基金として積み立てており、手元資金約3兆8千億円のうち、2兆8千億円が基金となっています。これを遊ばせておくわけにはいかないので、支払までの間に効果的な運用を図っています。21年度実績では3兆8千億円の資金を運用した結果、低金利時代にも関わらず188億円の運用収益をあげています。我々は、交通局、水道局、下水道局などの公営企業を除いた各局のほか、警視庁や東京消防庁も含めた収入支出や資金管理も行っています。一例として、東日本大震災を受けて警視庁や東京消防庁の出番が増えており、緊急な資金対応の必要性も生じています。東京消防庁がハイパーレスキューを福島などの被災地に派遣した際にも、急遽、資金が必要になったということで、深夜に用意しました。 ●公会計制度改革を全国でリード ―新公会計制度の導入は石原都政の大きな目玉ですね。 石原知事自身、3期12年の最大の実績は、「会計制度改革だ」と述べていますが、知事のリーダーシップによって導入した複式簿記・発生主義会計は、貸借対照表などを見れば、官庁会計の専門知識のない一般都民の方でも東京都の財政状況がわかるすぐれものです。例えば、21年度一般会計決算で見ると、都の資産は29兆円で、負債は8兆円です。つまり都の正味財産は差し引き21兆円あり、非常に健全だということがわかります。一方、国は21年度の一般会計決算で、資産は260兆円ありますが、負債は650兆円にも達しており、390兆円もの債務超過の状態にあることがわかります。国家財政は非常に厳しい状況にありますね。 ―行政のトップである首長の理解はどうですか。 各自治体の首長さんとお話しすることがありますが、特に大阪府の橋下知事や町田市の石阪市長は非常に理解が深いですね。橋下知事が就任して、大阪府には膨大な隠れ借金があることが明らかになりましたが、実態をわかってもらうためには従来の官庁会計ではダメだということで、石原知事に協力要請があり、我々もそれに応えてきました。その結果、大阪府では今年度から、東京都の方式に準じた会計制度の試験運用を行っています。都内では町田市が来年度から新公会計制度の導入を目指しています。一方で、各自治体の職員が導入に前向きであっても、首長さんの理解がなければ前に進まないのも事実です。首長さんの認識を変えてもらう必要があることから、昨年、知事から指示を受け、首長向けのパンフレットを作成しました。その中に「置いてきぼりの日本」ということで、世界各国の中で複式簿記を導入している国とそうでない国を色分けした世界地図を掲載したのですが、日本が世界の大きな潮流から取り残されていることがひと目でわかります。知事もこの点を取り上げて、「日本の周辺で複式簿記を導入していないのは、北朝鮮とパプアニューギニアくらいだ」と、機会あるごとに発言しています。 ―公会計制度改革の重要性は、これからも増してきますね。 都民・国民に対する説明責任などを考えれば、抽象的な言葉で語るよりも具体的な数字でわかりやすく伝えることが今後ますます重要になってきます。複式簿記・発生主義会計の導入は、いまや「必要」を超えて「必然」だと思います。もちろん当局の基本的な業務は、最初にお話ししたように出納業務です。先ほどの東京消防庁の例のように毎日、多くの職員が汗をかいているということを是非、都民の皆さんにもおわかりいただければと思います。 *3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16018363.html (朝日新聞 2024年8月26日) 越境入学、元議長が再三要求 担当者の上司らに 千代田区 東京都千代田区立小中学校へ区外から通う越境入学で不正な申請があった問題で、仲介した元区議会議長が保護者から金品を得た2021年度入学のケースでは、区教育委員会側が越境入学を制限していた中で、元議長が再三にわたり区教委幹部らに要求していたことが関係者への取材でわかった。その後、審査を通っていた。このケースを含めた5件で、保護者の勤務地が千代田区内にあるよう装う虚偽の書類などが作成され、申請されたことが判明しているが、区教委は取材に、いずれも「虚偽の認識はなかった」と説明。元議長の働きかけは「審査に影響していない」としている。元議長は嶋崎秀彦氏(64)=区発注工事を巡る汚職事件で有罪判決。複数の関係者によると、元議長は20年秋ごろ、東京都江東区の女性から、子どもが千代田区立中へ越境入学できるよう要望を受けた。自身の支援者である千代田区内の店舗に、女性が店で勤務しているよう装った就労証明書の作成を依頼した。元議長は申請の直前、区教委に申請を許可するよう要求。担当者は、受け入れを制限していることなどを理由にすぐには受け入れなかったが、元議長はその後も上司らに電話するなどし、許可するように求めたという。区教委によると、この区立中では21年度入学で、「保護者の勤務地が区内」という基準での受け入れは運用として取りやめていた。女性は虚偽の証明書を申請資料として提出し、区教委の審査を経て、21年度の入学が許可された。元議長は女性側から銀ダラや最中(もなか)を受け取ったという。千代田区教委によると、同区への越境入学では基準が11項目あるといい、満たす項目があれば審査の対象になる。江東区の女性のケースについては、就労証明書について「虚偽だという認識はなく、その認識の上で適切な事務処理を行った」と説明。就労要件だけではなく「特別な事情」もあったとしたが、どの項目にあたるかは明らかにしなかった。 ■千代田区、受け入れ減少傾向 千代田区にある公立校は小学校が8校、中学校が2校(中等教育学校を除く)。区教委によると、越境入学の受け入れは減少傾向にある。小学校で2012年度に入学が認められたのは86件あったが、23年度には14件と2割弱まで減少。中学校では12年度は64件で、23年度は25件と4割弱になった。千代田区の越境入学の審査基準は11項目あり、どの項目を審査で採用するかは学校ごとに異なるという。11のうち、保護者の勤務先が学区内にあり、共働きなどで放課後の保護などの配慮を必要とする「就労要件」にあてはまるケースが以前は8割以上だったが、就労要件のみでの受け入れを認める学校は減少。20年度は小中合わせて6校あったが、23年度は3小学校になった。中学校は21年度から原則として就労要件のみでの受け入れをしていない。背景には、区立校の人気に加え、区内にマンションなどが建設されて子どもの数が増え、区外を受け入れる余裕が無くなったことがあるという。 <日本のエネルギー基本計画について> PS(2024.9.1追加):*4-1-1・*4-1-2は、①東電HDは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じて大型変電所を新増設 ②AI普及をにらんだ電力インフラの整備が課題でデータセンターが集まる首都圏に変電所新増設計画の半数集中 ③2030年までに全国で18カ所の大型変電所新増設が計画、うち約半数は首都圏 ④工場等の新設時は電力会社に使用量を伝えるが、供給量が足りなければ建設できない ⑤九電はTSMCの新工場建設に合わせて熊本県内2カ所の変電所増強を決定 ⑥北電もラピダスの新工場のため、2027年に南千歳で変電所を新設 ⑦日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少したが、2023年度を底に増加に転じる見通し ⑧データセンターは膨大な計算が必要な生成AI普及でサーバー1台当たり消費電力が10倍近くに増える ⑨日本政府は再エネ豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている ⑩河野氏は自民党総裁選を前に脱原発を修正し、「電力需要の急増に対応するため、原発再稼働を含めて様々な技術を活用する必要がある」「EVの急速な普及で、再エネをこれまでの2倍のペースで入れたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」とした ⑪自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める 等としている。 しかし、日本は「首都直下型地震や富士山の噴火がいつ起こっても不思議ではない」と言われている地震火山国で地熱も豊富なため、データセンターは、⑨の日本政府のように、再エネが豊富な地方に分散させるのが、リスク管理まで含めて合理的である。にもかかわらず、①②③のように、首都圏にデータセンターを増やすため送電網を増強し、④⑤⑥⑦⑧⑩のように、データセンター・半導体生産・EVの普及を口実に原発再稼働や原発新増設を主張するのは、原発推進のための理由の後付けにほかならない。そして、下の図のように、世界では再エネ拡大とともに再エネの価格も下がっており、技術進歩とともにさらに再エネ設置可能面積は増えるのであるから、「エネルギー・ミックス」と称してあらかじめ電源構成を定めそれに固執する馬鹿な日本では、技術進歩しても再エネを増やせず、再エネ価格も下落しないのである。さらに、自民等総裁選に出るという河野氏は、⑪の理由から脱原発を修正されたそうだが、これが選挙時には大手電力会社の応援を受け、多額の寄付金をもらっている自民党の限界だと思われた。 そもそも、*4-2-1のように、巨大IT企業の米アップルは、再エネ100%の取り組みを行なっており、2030年までにサプライチェーン全体で温室効果ガスの排出を「実質0」にすると宣言して、実際にサプライチェーン全体で使用した再エネは前年から倍増したのだ。これに対し、日経新聞等は「コストが課題」などと主張するが、コストなら原発ほど高いものはなく、再エネの方がずっと安い。そのため、1500社以上の半導体・IT企業が集中するシリコンバレー(米国カリフォルニア州サンフランシスコ、サンマテオ、サンホセ、サンタクララ付近の渓谷地帯)には、日本が「原発は安全な安定電源だ」と言って原発に執着していた1990年代始めから、現在と同じ型の風力発電機が並んでいた。私は飛行機からそれを見て通産省(当時)に太陽光発電機器の開発・普及を提案したのだが、「女性の言うことなんか、(どうせ大したこと無いから)聞かなくて良い」と考えた馬鹿が再エネ普及を妨害して日本を遅れさせた事実があるのだ。 さらに、*4-2-2は、⑫全国的にバスや鉄道の廃線が増える中、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている ⑬地方は急速な人口減少等で路線バスの9割以上が赤字で、運転手の確保も容易ではなく、公共交通網の維持が厳しい ⑭大分県玖珠町は、人口減少が続き、高齢化率も約40%と大分県の平均を上回り、郊外ほど移動手段がなく、町民が住み慣れた場所に住み続けられない ⑮そのため、コミュニティーバスの運賃を下げ、自宅前まで迎えに行くデマンド交通への転換を始めて、高齢者の外出を促す 等としている。 このうち⑫⑬については、バスの小型化・EV化・自動運転化を行い、道路や駐車場の屋根に太陽光発電機を設置して発電し、安価に給電するシステム(https://www.shindengen.co.jp/products/eco_energy/ev_wireless/ 、 https://www.audi.jp/e-tron/charging/ach/?utm_source=yahoo&utm_medium=cpc&utm_content=_21278479597_160526617325_698993347831_kwd-317363273911&utm_campaign=02NN_SCH_F01%28AudiChargingHub%7CYSA%7CSEA%29&utm_term=p_%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%20%E5%85%85%E9%9B%BB 参照)にすれば、バス運行の損益分岐点が著しく下がるため、再エネの豊富な地方から始めて事例を見せればよいと思う。また、⑭⑮のように、バスが自宅前まで迎えに行けば高齢者の外出が促されるのは確かだが、他の乗客もいるため、EVを完全自動運転化して高齢になっても自家用車に乗れるようにするのがBestだ。さらに、農林漁業は人口密度の低い地域で行なう産業であるため、その従事者の利便性を無視して「赤字路線は廃止してコンパクトシティーにすれば良い」という主張は、全体を見ていないのである。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2024.2.8Sustech 2023.2.27日経新聞 2022.12.23朝日 2024.5.15日経 (図の説明:1番左の図のように、G7各国は脱炭素電源への転換を推進し、2035年までの電力部門の完全又は概ね脱炭素化に合意しているが、原子力を20~22%も使う不合理な電源ミックス目標を設定しているのは日本だけである。何故なら、左から2番目の図のように、技術が進歩すれば太陽光発電できる場所も広がるため、あらかじめ電源ミックスを定めることなどできないからで、米国の「内訳なし」かドイツ・イタリアの原子力0が正解なのだ。にもかかわらず、右から2番目の図のように、日本は原発に関する諸問題が何一つ解決できず、原発は金食い虫であるのに、原発の運転延長を決め、建て替えや新増設まで検討している。1番右の図は、2040年度の電源構成の見通しを決めるエネルギー基本計画だそうだが、合理性のあるリーダーシップは見られず、未だに費用対効果の悪いバラマキや国富の国外流出が散見されるのだ) ![]() ![]() ![]() Kepco Asuene 2024.8.30日経新聞 (図の説明:左図のように、日本のエネルギー自給率は著しく低いが、これは再エネを増やせばすぐに解決できる。また、中央の図のように、再エネは真剣に普及させれば価格が下がるのは当然なので、「再エネは高い」というのは原発再稼働・新増設の言い訳にすぎない。また、右図の「データセンターへの電力供給のため原発再稼働・新増設が必要」というのも、データセンターは地方の再エネの豊富な地域に分散させるのが地方の活性化と危機管理の上で合理的であるため、原発再稼働・新増設の言い訳であろう) *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240830&ng=DGKKZO83119170Q4A830C2MM8000 (日経新聞 2024.8.30) 送電網、首都圏で集中投資 データ拠点需要増、東電4700億円、AI普及へ安定供給 電力会社がデータセンターや半導体工場の増加に対応して送電網(総合2面きょうのことば)を増強する。東京電力ホールディングスは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じ、大型変電所を新増設する。データセンターが集まる首都圏に変電所の新増設計画の半数が集中しており、安定供給に向けて人工知能(AI)の普及をにらんだ電力インフラ整備が課題となってきた。電力広域的運営推進機関が3月にまとめた各社の開発計画をもとに、日本経済新聞社が電力需要の拡大に対応した大型変電所の新設と増強分をまとめた。30年までに全国で18カ所の新増設が計画されており、そのうち約半数となる8カ所が首都圏となる。容量ベースでも約4割を占める。東京電力パワーグリッド(PG)は27年度までの5年間で産業向けを含む送電設備の増強に約4700億円を投じる。直近5年間と比べ3倍に増やす。6月には24年ぶりとなる大型変電所を千葉県印西市に新設した。東電PG管内では多摩や相模原などでもデータセンターの開発計画が相次ぐ。金子禎則社長は「印西と同規模の集積地が5~6カ所あり、消費需要は33年度までに700万キロワット増える」とみており、エリア内での変電所の増強を進める。発電所で作られた電力は効率良く運ぶために電圧を高めて送電する。変電所は段階的に電圧を下げて顧客に供給する役割を担う。変電所の能力はエリア内の電力需要を基に決めている。工場などの新設時には電力会社に使用量について伝えるが、供給量が足りなければ建設できない。電力会社は需要の増加に合わせて、変圧器や送電線を増強する。半導体工場の誘致を進める九州や北海道でも変電所が不足している。九州電力は台湾積体電路製造(TSMC)が新工場を建設するのに合わせ、熊本県内の2カ所の変電所の増強を決めた。投資額は100億円超となる見通し。北海道電力もラピダスの新工場を見据えて、27年に南千歳で変電所を新設する。日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少が続いてきたが、23年度を底に増加に転じる見通し。電力広域的運営推進機関の試算では33年度までの10年間で消費電力が4%増える。データセンターは膨大な計算が必要な生成AIの普及でサーバー1台当たりの消費電力が10倍近くに増えることもある。変電所の新増設だけでなく、老朽化した設備の更新や再生可能エネルギーへの対応に向けての投資も増えている。消費者の負担を抑えるには電力需要の分散が課題となる。日本政府は再生可能エネルギーが豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA305AX0Q4A730C2000000/ (日経新聞 2024年7月31日) 河野太郎氏、脱原発を修正 AIで電力需要増え「活用必要」 河野太郎デジタル相は31日、茨城県で東海第2原子力発電所(東海村)や高速実験炉「常陽」(大洗町)を視察した。記者団に「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含めて、様々な技術を活用する必要がある」と述べた。自民党総裁選を前に「脱原発」色を修正した。「生成AI(人工知能)が急速に発展し、データセンターのニーズが増えている」と指摘した。電気自動車(EV)の急速な普及に言及した。「再生可能エネルギーをこれまでの10年間の2倍のペースで入れられたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」と話した。「原発再稼働、再エネから核融合に至るまで、色々な幅の中で何ができるようになるか」を検討する必要性があるとの見解を示した。31日にはX(旧ツイッター)でも一連の視察を報告した。日本の電力需要が増加に転ずる予測があることに触れた。河野氏はもともと脱原発を訴え、原発ゼロへの道筋を明確にするよう訴える立場だった。再エネを最優先し、最大限導入することを主張してきた。2021年の前回総裁選に出馬した際は将来の脱原発を目指しつつ「安全性が確認できた原発は再稼働するのが現実的」との姿勢をとった。今回はさらに原発活用の必要性を前面に出した。エネルギーは河野氏が「ライフワーク」と位置づける政策のひとつだ。祖父の一郎氏は当時の経済企画庁長官として1957年の日本原子力発電の設立にかかわった。今回視察した東海第2原発は日本原電が運営している。2011年の東日本大震災で停止して以降、安全対策工事を進めているものの再稼働に至っていない。国際エネルギー機関(IEA)が7月に公表した報告書は「安定した低排出電源の必要性などから、原子力発電が地熱発電とならんで魅力的な存在になりつつある」と指摘する。河野氏も31日の発言で「再生可能エネルギー、それから原発というゼロエミッションの電源で必要な電力需要をまかなうのは日本だけじゃなく、各国がやらなければいけないことだと思う」との認識を表明した。経済成長やEVの浸透などで電力需要は世界的に伸びている。報告書は23年に2.5%だった世界の電力需要の成長率が24年は4%ほどと過去20年で最高水準になる見通しを示している。こうした環境変化も河野氏の発言の背後にあるとみられる。国が基本方針とする「核燃料サイクル」については「予算を投じる以上、効果をきっちり見る必要がある」と語った。岸田文雄首相の自民党総裁の任期は9月末までだ。その前にある総裁選に向け、河野氏は有力な「ポスト岸田」候補のひとりとして名前が挙がる。7月26〜28日の日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査で次の総裁にふさわしい人を聞いたところ5%が河野氏と回答した。最も多かった石破茂元幹事長の24%、小泉進次郎元環境相の15%と差がついている。河野氏は21年の総裁選の党員・党友票で当選した首相を上回った。一方で国会議員票で差をつけられて1回目の投票も決選投票も敗れた。自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める。21年の総裁選は脱原発への懸念から賛同を得られなかった側面がある。原発推進の立場を打ち出すことはエネルギー政策で距離を縮めて、議員の支持を広げることにつながりうる。河野氏は31日、量子科学技術研究開発機構(QST)の那珂フュージョン科学技術研究所(茨城県那珂市)にも足を運んだ。核融合エネルギーの早期実現のために日本と欧州が共同で実施するプロジェクトの進捗を確認した。河野氏は「世界に打って出ていける技術開発は温暖化対策という意味でも、日本経済の未来にとっても大事なことだ」と言明した。 *4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ4G72C7Q4GUHBI016.html (朝日新聞 2022年4月15日) アップル、再エネ100%の供給元倍増 「外圧」うけ日本は20社増 米アップルは14日、同社向けの製品をつくるのに100%再生可能エネルギーを使うサプライヤー(供給元)が213社となり、1年前からほぼ倍増したと発表した。日本企業は9社から29社となった。日本は欧米よりも再エネの普及が遅れているとされる。巨大IT企業という「外圧」が日本企業の環境戦略に変化を与えている。同社の再エネ100%の取り組みに参加する企業は25カ国に及び、主要取引先の大半が含まれる。日本企業では、シャープやキオクシアなどが新たに参加した。欧州の参加企業は11社増えて25社となった。中国でも23社が新たに加わった。年間2億台以上のiPhone(アイフォーン)を売るとされるアップルの存在感は大きく、参加企業は年々増えている。アップルは2030年までにサプライチェーン(部品供給網)全体で温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすると宣言している。昨年同社が供給網全体で使用した再エネは前年から倍増した。現在の取り組みは、年間で300万台近いガソリン車を削減するだけの効果があるという。同社は日本や中国で太陽光発電プロジェクトに投資をしたり、供給元に助言をしたりして、再エネ導入を支援する。アップル担当者は昨年、日本などでの課題として、「コスト効率が良く信頼できる再エネにサプライヤーがアクセスするうえで、世界の多くの地域で政策が障壁になっている」と話していた。同社は日本について今回、企業が発電事業者と直接契約して電気の供給を受ける「電力購入協定(PPA)」と呼ばれるしくみが広がるなど、「クリーン電力の新たな選択肢が増えている」と指摘した。 ●コストが課題 それでも「対応している企業が選ばれる」 電子部品大手の村田製作所(京都府長岡京市)は、2050年度までに会社で使うすべての電力を再生可能エネルギーでまかなう目標を掲げている。しかし、米アップルとの取引にかかわる事業については、30年度までに前倒しで達成できるよう、優先して取り組んでいる。同社の生産子会社の金津村田製作所(福井県あわら市)では、昨年11月、同社の工場として初めて再エネ使用率100%に踏み切った。使う電力のうち自社の発電で13%をまかない、残る87%は再エネ由来の電力を外部から買っている。いずれは自社発電を50%まで高める計画だ。工場内の駐車場の屋根などに太陽光発電パネルを敷き詰め、独自に蓄電システムも開発した。天気や気温などの気象条件と工場の稼働状況を過去のデータとも照らし合わせて分析。翌日に発電できる量と使う電力量を予測して、無駄なく再エネを使っているという。いま工場で発電できる再エネは年間74万キロワット時。二酸化炭素排出量を年間368トン削減できるという。同社の工場は北陸地方に多く立地している。豪雪地帯だと冬場は天候が悪くて太陽光発電が思うように使えない。それでも、再エネ100%にこぎ着けた金津村田製作所のしくみを、ほかの工場にも広げる考えだ。日本では再エネの購入費用が比較的高く、規制なども多いため、調達が難しい傾向にあるとされる。費用面だけでみれば再エネ100%は割に合わない面もある。しかし、同社は売上高に占める海外比率は9割に達している。取引先だけでなく、消費者の環境意識にも目配りが必要だという。担当者は「今後はますます、きちんと対応している企業が選ばれるだろう」と話している。2020年からアップルの再エネの取り組みに参加している素材メーカーの恵和(本社東京)では、グローバル企業の取引先から再エネ利用に取り組んでいるかどうかの調査が増えているという。同社の広報担当者は、「自信を持って『はい』と答えられる」と話す。仕入れ先に対しても、環境や人権関連についての調査をしているという。同社は、アップル向けにディスプレーの光学フィルムを納入している。和歌山県にある工場では、三重県の風力発電所から再エネを購入。アップル向けの製品では再エネ100%を実現しているという。ただ、世界的に資源価格が高騰するなか、「再エネの需要も高まっており、奪い合いになりつつある」といい、コスト面が一番の課題だという。 ●再エネ100%に参加する主な日本の供給元 (かっこ内は供給している主な製品) ・村田製作所(電子部品) ・アルプスアルパイン(同上) ・ヒロセ電機(同上) ・TDK(同上) ・ジャパンディスプレイ(液晶パネル) ・シャープ(同上) ・キオクシア(半導体) ・ソニーセミコンダクタソリューションズ(同上) ・恵和(フィルム) *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240831&ng=DGKKZO83154270R30C24A8MM8000 (日経新聞 2024.8.31) 交通網再生へ計画1000超 自治体、事業者・住民と連携、大分・玖珠町 バス運賃下げ利用者増 全国的にバスや鉄道の廃線が増えるなか、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている。事業者や住民と連携して今後のあるべき姿を示す「地域公共交通計画」の作成数は4月末で1052まで増えた。自治体あたりの作成数が最多の大分県では、計画に基づいたバス運賃の引き下げなどで利用者を増やす動きも出てきた。地方圏では急速な人口減少などで路線バスの9割以上が赤字に陥っている。運転手の確保なども容易ではなく公共交通網の維持は厳しさを増す。国は2020年の法改正で、運営体制や路線網などの再構築に向けたグランドデザインとなる地域計画の作成を自治体の努力義務とした。地域計画は県や市町村のほか、複数の自治体が共同で作成するケースもある。自治体あたりの計画数を都道府県別に見ると大分県が1.11と自治体数を上回って最多となり、広島県、富山県が続いた。大分県は県が主導して東部や中部など6圏域別に計画を作ったほか、多くの自治体が単独でも作成している。県地域交通・物流対策室は「市町村合併もあって広い面積に人口が分散している自治体が多く、交通網の維持への危機感が強い」と説明する。同県玖珠町は21年3月に県と共同で西部圏(日田市・九重町・玖珠町)の計画を作った。同町は人口減少が続くうえ、高齢化率も約40%と県平均を上回る。宿利政和町長は「何とか利用者を増やして公共交通を守りたい。このままでは郊外になるほど移動手段がなくなり、町民が住み慣れた場所に住み続けられなくなる」と話す。地域計画に沿って今年4月には「ゾーン制運賃」を導入した。従来、町のコミュニティーバスと民間の路線バスは、目的地が同じでも運賃が異なるなどの弊害があった。新運賃はJR豊後森駅など中心区域は大人が150円で、区域外は300円とした。大分交通グループの玖珠観光バスは長距離区間で600円を超えることもあったが半額以下になった。コミュニティーバスの運賃も距離に応じて最大200円だったが一律150円となり、4~7月の利用者は前年同期を上回った。宿利町長は「バス会社の減収分は町が補填するうえ、利用者を一定数確保できれば地域計画に基づいた国の補助もある」と強調。「分かりやすい運賃は増加する訪日客の呼び水にもなる」と期待する。玖珠町と同じ西部圏の九重町は、3月に町単独の地域計画も作った。路線バスの幹線から延びる枝線の改善が大きな柱で、10月にはコミュニティーバスのデマンド交通への転換を始める。日野康志町長は「バス停まで歩くのもつらいという高齢者が増えた。自宅前まで迎えに行くデマンド交通で高齢者の外出を促したい」と話す。広島県福山市は県境を接する岡山県笠岡市と共同で3月に地域計画を作った。両市内はバスやタクシーの運転手不足が深刻化しており、交通空白地が広がりかねない。福山市は計画に基づいて交通事業者などと「バス共創プラットフォーム」を設立。ライドシェアなど新たな交通サービス導入の検討を始めた。国は24年度末に1200の地域計画作成を目標とする。東京大学の中村文彦特任教授は「住民の理解を得てこそ持続可能な公共交通を実現できる」と指摘。「遠回りのように見えるかもしれないが、実証運行や体験乗車会などを通じて住民の意見を聞く機会を重ねていくことが実効性のある計画作りにつながる」としている。 <漁業と環境> PS(2024年9月7日):*5-1は、①日本は海藻・海草由来のブルーカーボン創出で先行 ②日立等の産官学連合が下水処理技術を用いた藻場造りの技術開発に乗り出した ③関連技術開発の裾野が広がれば海外での事業拡大に繋がる ④生育中のワカメの全長は約2.5mまで育ち、栄養素を適切に追加供給すればさらに成長がよくなる ⑤下水処理した後に海に放流するきれいな水に含まれる栄養価を高めて周辺の海藻を茂らせる ⑥ブルーカーボンはワカメ・コンブ等の海藻、アマモ等の海草が水中のCO₂を吸収した後に、ちぎれたり枯れたりして海底に長期貯留される仕組み ⑦世界の陸域のCO₂吸収量は年77億トン、海域の吸収量は同102億トン(国土交通省) ⑧場所や季節によっては、栄養が足りず痩せすぎた海となり、海藻がウニなどに食べ尽くされる磯焼けや漁獲量減の要因にもなるため、日立は下水処理の水質制御技術を活用し、処理工程の微生物濃度や送り込む酸素の量などを調節して栄養塩濃度を適切に制御する技術を開発する ⑨水中カメラを使って水中の画像データなどから藻場の生育状況を精度高く計測できるシステムの活用も進める ⑩実際に下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自然界への影響が大きいため、自治体や漁業関係者などとの調整も必要で実現のハードルが高い 等としている。 このうち、①②③④⑤⑦⑨は、始めたのが遅すぎたくらいだが(何故なら、有明海の海苔は既にそれをやっているから)、⑩の「下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自治体や漁業関係者などとの調整で実現のハードルが高い」は、⑧の「海藻がウニ等に食べ尽くされ、磯焼けや漁獲量減の要因にもなっている」ことの解決策にもなる。その理由は、磯焼けの原因となっているウニ等を捕獲してブルーカーボンで育つワカメを自由に食べられる形のケージに入れたり、育ったワカメを収穫して捕獲したウニに餌として与えたりすれば、⑥のように、育ったワカメ・コンブ・アマモなどを海底に放置するのではなく有効に使えるからで、それを思いつかないのは、国交省と水産庁が全く別の組織で相互に連絡すること無くやっているからだろう。 また、動物と植物の両方の性質を持ち、鞭毛を使って動くことができ、CO₂を吸って酸素を吐き出しながら光合成によって成長する、ワカメや昆布と同じ藻類のユーグレナ(和名:ミドリムシ)は、59 種類もの栄養素をバランスよく含むため(https://www.euglena.jp/whatiseuglena/ 参照)、下水処理後の栄養塩を含む水でユーグレナを育てれば、*5-2-1のように、餌代がネックになっている魚介類の養殖で、わざわざ「昆虫」を育てて粉にしなくても低魚粉の飼料作りに役立つ。 さらに、*5-2-2のように、人口増加で拡大する世界の胃袋を満たし、持続可能な食材供給と両立させるため、三井物産がインド・南米・アフリカ等で鶏肉・エビの現地大手企業へ出資して生産段階でCO₂排出が少ないたんぱく資源の供給網を構築しているのはよいが、それを日本国内ではできないというのが情けない。「鶏は牛・豚を使う料理に、美味しくて高脂血症を起こさない優れた代替材料として使える」と思うので、私も最近は鶏肉を多用しているが、その鶏や養殖エビの配合飼料にもユーグレナは使える。つまり、ユーグレナは、59種類の豊富な栄養素を持つため、飼料に使うことで味や品質が向上することが研究によって明らかになっており、食糧と競合しないため持続可能な国産飼料として有効なのだ。従って、「農林水産物やその加工品は輸入しなければならない」という固定観念を捨て去り、日本の資源を余さず使うことで食糧を安価に作り、環境に貢献しつつ食料自給率を高めて輸出もできる体制をつくる必要がある。 ![]() ![]() ![]() ![]() すべて、2024.9.5日経新聞 (図の説明:1番左と左から2番目の図のように、下水処理場から出る窒素・リンを含む処理水と大気中のCO₂を使って海藻がすくすく育ち、同時に海水も浄化される研究が進んでいる。また、右から2番目は、世界で動物性タンパク質のニーズが高まるが、三井物産は、1番右の図のように、鶏とエビに焦点を定めて海外で出資しているそうだ。そして、日経新聞は、同じ日にこれらの記事を掲載しておきながら、育った海藻等を餌にして日本で魚介類の養殖や養鶏を行なうことは思いつかないのが不思議だが、都市出身の人ばかりが記者になっているのだろうか?) *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240905&ng=DGKKZO83243160U4A900C2TB3000 (日経新聞 2024.9.5) 日立、ワカメ育てCO2吸収 下水処理技術で藻場再生、「ブルーカーボン」日本の産官学が主導 海洋生物に二酸化炭素(CO2)を吸収させる「ブルーカーボン」が日本で進んでいる。日立製作所など産官学連合が、下水処理技術を用いた藻場造りの技術開発に乗り出した。日本は海藻・海草由来のブルーカーボン創出で先行している。関連する技術開発の裾野が広がれば、企業の海外での事業拡大にもつながる。大阪府阪南市の沿岸部から約100~400メートルの沖合。等間隔に並ぶブイの間で、試験生育中のワカメが海中で揺れる様子が船上からはっきり見える。日立や月島JFEアクアソリューション、大阪公立大など18の企業や団体、自治体の産官学連合が進める大阪湾でのブルーカーボン創出の実証だ。日立の研究者らが3月に沖合に出て生育中のワカメの全長を測ると約2.5メートルまで育っていた。海水中の栄養素などを変化させない状態の生育状況で「栄養素を適切に追加供給すればさらに成長がよくなる可能性は十分ある」。船上ではこんな声があがった。ブルーカーボンはワカメやコンブなどの海藻やアマモなどの海草が水中のCO2を吸収した後に、ちぎれたり枯れたりして海底に長期貯留される仕組みだ。海藻・海草由来のブルーカーボンの貯留期間は数千年と言われる。国土交通省所管の港湾空港技術研究所によれば世界での陸域のCO2吸収量は年77億トンに対し、海域での吸収量は同102億トンと陸より多い。浅海域だけでも同40億トンある。日本は国土は小さいが、海岸線の長さと海洋面積はともに世界6位とブルーカーボンを手掛ける余地は大きい。これまで海藻の育成手法の開発など海での技術開発が主だったが、舞台が陸にも広がり始めた。今回の産官学の実証では下水処理場を活用する。下水を処理した後に海に放流されるきれいな水に含まれる栄養価を高めることで、周辺域の海藻を茂らせる。ワカメの生育実証をするのは阪南市沖で同市近隣の下水処理施設の放流域だ。通常、下水処理後の放流水は栄養塩と呼ばれる窒素とリンの濃度が低水準で厳格に管理されている。だが、管理が行き過ぎる場合があるという。プロジェクトを統括している日立研究所の脱炭素エネルギーイノベーションセンタの圓佛伊智朗氏は「場所や季節によって、栄養が足りずにやせすぎた海となり、海藻がウニなどに食べ尽くされる磯焼けや漁獲量減の要因にもなっている。栄養塩の適切な制御で豊かな海を実現したい」と話す。産官学連合の技術を結集して実証する。日立は下水処理の水質制御技術を活用。処理工程の微生物濃度や送り込む酸素の量などを調節して、栄養塩濃度を適切に制御する技術を開発する。月島JFEアクアは下水処理水由来の栄養塩類を必要な箇所に届ける放流方式を開発する。KDDIはこれまで水上ドローン技術をブルーカーボン計測に活用してきた。漁船などの船上で海に潜ることなく、水中カメラを使って水中の画像データなどから藻場の生育状況を精度高く計測できるシステムの活用を進める。ただ実際に下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自然界への影響が大きい。自治体や漁業関係者などとの調整も必要で、実現のハードルは高い。現状の海の栄養塩の濃度でワカメがどれほど生育するかを把握し、今後試験場などで栄養塩を増やしてワカメがどれほど育つかなどの基礎実証を進める。ブルーカーボンに関連した製品開発が日本で相次いでいる。東洋製缶グループホールディングスは海藻の養分となる鉄がゆっくりと水中に溶け出すガラスを開発した。これまでに全国60カ所以上の漁港や防波堤に採用された。養殖の難しい沖合でブルーカーボンを創出する開発も始まった。海洋向け建築資材を手掛ける岡部は、深さ30メートル以上でも海藻を育てられる多段式の養殖設備を作った。深度に合わせて海藻の種類を変えられる。産官学で40年までに年100万トン超の吸収量創出を目指すENEOSも、沿岸や沖合での養殖技術の開発を進める。ブルーカーボンを巡っては、環境省が国連に報告する温暖化ガスのインベントリ(排出・吸収量)に海藻・海草由来のブルーカーボンを世界に先駆けて反映した。脱炭素対策の有効な手として注目が集まるなか、ブルーカーボンで削減したCO2量をクレジットとして販売する動きも日本で進んでいる。ブルーカーボンクレジットの認証団体である、国交相の認可法人ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE、神奈川県横須賀市)の発行実績は23年度で2000トン超と、海外と比べて突出している。他のクレジットと比べると規模はまだ小さいが、生物多様性確保などの環境価値が評価され、森林クレジットなどに比べて5倍以上高値で取引されている。上下水道コンサルの東京設計事務所(東京・千代田)は今回の産官学プロジェクトに関係する自治体支援や、ブルーカーボンをクレジット化するためのノウハウづくりを検討する。クレジット化できれば、下水道事業者や沿岸部の漁業者などの参入を後押しできるとみている。JBEの桑江朝比呂理事長は「クレジット創出ノウハウなどに対して海外からの問いあわせが増えている」と語る。実際にJパワーはオーストラリアで現地の大学と組み、実証を進めている。日本として様々なノウハウが確立できれば、関連技術や機器の輸出拡大につながる。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240905&be=NDSKDBDGKKZO8113507003062024QM8000%5CDM1&bf=0&c=DM1&d=・・DTB2000 (日経新聞 2024/6/4) 魚養殖、「昆虫」エサに 価格変動大きい魚粉を代替 安定供給で生産拡大狙う これからの魚は「昆虫」で育つ――。水産養殖の現場で、代表的なエサである魚粉を補う飼料として、たんぱく質が豊富な昆虫からつくる飼料が注目され始めた。昆虫飼料を安定的に供給することで、価格変動の大きい魚粉に頼るよりも養殖現場のコストを抑え、養殖物の生産を拡大しようという動きが広がりつつある。マダイの海面養殖量が日本一の愛媛県から、2024年秋、エサの一部に昆虫飼料を使って育てられた約1万3000尾のマダイ「えひめ鯛」が出荷される見込みだ。愛媛大学と企業の連携による取り組みで、カブトムシなどの仲間にあたる甲虫の一種の幼虫「ミールワーム」を粉末状にして混ぜた飼料を与えてマダイを育てている。通常の養殖のエサはカタクチイワシなどを原料にした魚粉の割合が半分程度とされる。愛媛大の三浦猛教授(水族繁殖生理学)が開発した飼料は昆虫由来などを混ぜることで魚粉を30%程度、将来は20%まで抑えるという。23年には第1弾となる「えひめ鯛」を8000尾出荷し、連携先企業の社員食堂などで提供された。ミールワームの油分の調整やコストを下げるなどの工夫を重ねながら、26年には数十トンの飼料を生産できるテストプラントの設置を計画しているという。三浦教授は「4~5年後には市場への出荷を目指す」と意気込む。矢野経済研究所(東京・中野)が23年にまとめた推計によると、昆虫たんぱく質飼料の国内市場規模(メーカー出荷金額ベース)の見通しは27年度に4億9200万円。まだ普及し始める段階とみられるが、22年度の40倍弱に増える。魚粉の量を少なくした低魚粉飼料は27年度に22年度比7割ほど多い664億1200万円との予測だ。養殖の現場で現在中心的な飼料である魚粉にはカタクチイワシなどが使われるが、カタクチイワシはペルー沖などからの供給が不安定になりやすく、需給によっては価格が高騰する。安定した量の供給と低コストを実現できる代替原料が望まれている。鳥などの残りかすや大豆ミールといった原料が使われているが、近年はたんぱく質が豊富な昆虫に注目が集まる。将来を見越し、企業の動きも活発になってきた。住友商事は昆虫飼料を手がけるシンガポールのスタートアップ、ニュートリションテクノロジーズに出資し、日本の独占販売権を取得した。昆虫飼料はアメリカミズアブ(BSF)の幼虫を粉末状に加工している。現在は観賞魚のエサとして出荷されているが、今後はマダイの海上養殖での活用を検討しているという。30年までに3万トンの輸入販売を目指す。住友商事アニマルヘルス事業ユニットの李建川チームリーダーは「昆虫を使った飼料はサステナブルな取り組み」と話す。世界の人口増加で水産物の需要が高まるなか、養殖は拡大傾向が続く。国際食糧農業機関(FAO)によると、世界の水産物で養殖が占める割合は21年時点で57.7%だった。日本は農林水産省の調べでは21年時点で22.8%。養殖の拡大余地が大きい中で、昆虫由来や低魚粉の飼料の役割は増す。東京海洋大学の中原尚知教授(水産経済学)は「飼料の新たな選択肢が増えていくことは望ましい。今後、輸出できるまで成長した際には原材料の持続可能性や安全性なども求められる」と話す。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240905&ng=DGKKZO83239810U4A900C2TB2000 (日経新聞 2024.9.5) 三井物産、鶏・エビで供給網、インド・南米など3社に出資 持続可能な食材に重点 三井物産が動物性たんぱく質の確保を急いでいる。インドや南米、アフリカなどで鶏肉やエビの現地大手企業へ相次ぎ出資し、生産段階で二酸化炭素(CO2)排出が比較的少ないたんぱく資源の供給網を構築する。人口増加で拡大する世界の胃袋を満たすことと、持続可能な食材供給の両立に商機があると見込み、成長の活路を見いだす。 ●事業利益2倍 「自然資本と調和し、健康に資する食の選択肢を増やす」。堀健一社長は、エビと鶏が経済性と環境対応の両方を満たすたんぱく源と定める。食と農に関する事業の本部長を務めた経験から、「2021年の社長就任時からたんぱく質分野は伸ばしたいと思っていた」とする肝煎り事業だ。26年3月期に動物性たんぱく質事業の純利益を23年3月期比で2倍以上となる300億円超に引き上げる方針だ。市場の成長性は申し分ない。経済協力開発機構(OECD)の調査では33年の鶏肉生産量は1億6000万トンと21~23年の平均と比較して1.4%増加する。牛肉(1.1%増)や豚肉(0.5%増)より高い成長率だ。インドの調査会社フォーチュン・ビジネス・インサイツによると世界のエビ市場は32年に742億ドルと23年比で8割伸びる。鶏や養殖エビは牛や豚よりも飼料効率が良く、1キログラムのたんぱく質の生産で排出される温暖化ガスは牛肉の2分の1~5分の1程度とされ環境負荷が比較的小さい。環境に配慮しながら、増加する人口を支えられることが市場成長を期待できる背景だ。伊藤ハム米久ホールディングスに4割出資する三菱商事やプリマハムに45%出資する伊藤忠商事、畜産に強い丸紅といった同業他社が牛や豚といった食肉で先行する。相対的に存在感の小さい三井物産でも鶏やエビでは入り込める余地があるとの思惑もある。三井物産は26年3月期までに1400億円を動物性たんぱく質事業に投じる計画。既に24年4月までに計1000億円超を投じて鶏肉とエビで3社への出資を決めた。堀社長は「パイプライン(投資候補)はまだまだある」とし、残り400億円を既存案件の出資比率向上や東欧やアフリカなどで交渉が進む新規案件の取得などに振り向ける構えだ。各出資先企業の地産地消を基本としつつ、国際的な供給網構築の足がかりとしてそれぞれを活用していくのが三井物産の事業戦略だ。鶏肉では400億円弱を出資して25年3月期中に持ち分法適用会社にする予定のスネハ・ファームズ(インド)がグローバル展開をけん引する。同社は飼料調達から育成、加工、販売まで鶏肉供給を一貫して手掛け、インドの鶏肉消費の1割に相当する年間2億羽を供給する。三井物産は鶏肉処理機械で国内シェア8割を持つ子会社のプライフーズ(青森県八戸市)などグループ各社と連携し、低温物流や鮮度維持、加工品開発で知見を取り入れ輸出に向けた供給力拡大の下地をつくる。佐野豊執行役員(食料本部長)は「ブラジル、タイといった鶏肉輸出大国に伍する安い鶏肉が出来る」とにらみ、ブロイラー生産量を29年までに現在の2倍の約50万トンまで拡大する計画だ。エビでは24年3月期に20%出資した世界最大のエビ養殖事業者インダストリアル・ペスケラ・サンタ・プリシラ(IPSP、エクアドル)を供給網の核にする。同社の年間輸出量は23万トン超。22年は世界のエビ貿易量の6%を占めた。現在は冷凍状態で米国や日本などに輸出している。今後は同じく35%超出資する世界最大のエビ加工業者ミンフー・シーフード(ベトナム)でエビフライなどに加工して世界に流通させる戦略だ。ファンドを通じて出資するオランダの畜水産種苗事業者とも連携し、より育成効率の高いエビの品種や飼料を開発し、エビ養殖に一貫して取り組む体制の構築も視野に入れる。 ●争奪戦過熱も 堀社長は動物性たんぱく質事業強化の進捗状況について「いいペースで実現しているが、5合目だ」とする。順調に成長しても、26年3月期時点の連結純利益見通し全体の3%を占める事業に過ぎないが、27年3月期以降の次期中期計画でも引き続き注力分野に据える見込みだ。たんぱく質確保は世界中の課題だけに、投資案件の争奪戦が今後過熱する可能性があるのは懸念材料だ。エクアドルは交渉に6年、インドは3年かけたことで他社が入り込む余地がない関係を築けたという。競争が厳しい中で、有望企業を早期に見つける目利き力を磨く。商社ビジネスの基本の徹底が、三井物産の今後の動物性たんぱく質事業の持続可能性を左右する。
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2024,03,07, Thursday
![]() ![]() ![]() ![]() 梅林 アーモンドの花 レンゲの花 蜜蜂 (図の説明:この章を書いているうちに、「梅→アーモンド→レンゲ」の花と季節が進みました。蜜蜂を飼っている友人に言わせると、「蜜蜂は、自分で餌を採ってくるし、巣も自分で掃除するので、犬猫より飼うのが簡単で、蜂蜜もくれる」とのことです。また、「蜜蜂の行動範囲は巣から1~2kmなので、花を選んで蜂蜜を採ることも可能」だそうです) (1)地球環境及び食料・エネルギー自給率の理念から見た歳出改革について 1)研究開発・イノベーション力とヒト・モノ・カネの関係 *1-1-1は、イ)「生産性向上のための構造改革が置き去り」として、①「国民経済計算」確報版で示された日本の2022年名目GDP/人はOECD加盟国中21位でG7最低 ②日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」では、2022年の労働生産性/人はOECD加盟国中31位 ③GDP全体でも人口が日本より3割以上少ないドイツに抜かれて4位 ④労働生産性が2022年に31位まで後退した理由は、日本は就業者比率が高く、欧州はユーロの評価以上に生活水準の高い国があるから ⑤労働生産性の順位こそ深刻に受け止めるべき ⑥日本でGDP/人や労働生産性/人の低迷が起きた理由は、財政・金融政策頼みの経済運営で生産性向上のための構造改革が置き去りにされてきたから 等としている。 このうち①③は事実で、1人当たりGDPはOECD加盟国中21位と決して高い方ではなく、G7で見れば離れて最低なので、日本は先進国とは言えない状態だ。また、総GDPも人口が日本より3割以上少ないドイツに抜かれて情けない限りだが、こうなる理由は、規制で既得権益を守ってイノベーションをやりにくくしている政府や“日本文化”の責任が大きいのである。 また、②④⑤の労働生産性はOECD加盟国中31位で、その理由は「就業者比率が高いから」と説明されているが、生産年齢人口の割合が減少すれば就業者比率は高くなるのが当然であるため、日本は、力仕事やルーチンワークの機械化・生産性の高さに報いる給与体系・組織のフラット化などの生産性を上げるシステムへの移行ができていないのが本質的な原因であろう。 このような中、⑥のように、日本政府は、漫然と莫大な予算を使って国債残高を増やしつつ財政・金融政策頼みの経済運営をして経済にカンフル剤を打っただけで、教育・研究開発・実用化に向けた規制改革をしてイノベーションを起こし易くし、生産性を向上させる取り組みが少なかっただけでなく、部分的には後退までさせていたのだ。 また、*1-1-1は、ロ)「良質なヒト、モノ、カネが国外流出の恐れ」として、⑦良質なヒト、モノ、カネが国を見捨てて流出していく ⑧教育水準の高い人や才能のあるスポーツ選手が実力を発揮した場は欧米 ⑨実際に人口減少の中で日本人の海外永住者数は増加中 ⑩イノベーション不足の国はモノへの投資も海外へ向かう ⑪カネに関しても、日本は0金利を維持して資金流出と円安を招いた ⑪良質のヒト・モノ・カネの流出はさらなる貧困化を招き、一層政府への依存度を高める ⑫既得権益や規制の壁も大きい としている。 このように、生産性の高さに報いない給与体系で、規制により既得権益を守ってイノベーションをやりにくくしていれば、日本で研究しても報われないため、⑦⑧⑨⑩⑪⑫のように、良質なヒト・モノ・カネが国を見捨てて流出し、日本人の海外永住者数が増加している。 実際、⑧のように、教育水準の高い人や才能あるスポーツ選手が実力を発揮した場所は、人の能力を小さく規定せずに能力を存分に発揮させる欧米であり、⑪のように、良質のヒト・モノ・カネが流出する結果、政府への依存度の高い人ばかりが残って国内はさらに貧しくなる。これは、数十~百年単位では、次世代への生物的遺伝も加わるため、大きな違いとなるのだ。 さらに、*1-1-1は、ハ)生活の豊かさまで含めたビジョンが必要 として、⑬生活を豊かにするサービスを市場経済から供給されるサービスに限らず、環境を含む市場外サービスまで拡張し ⑭それらを提供する民間資本・社会インフラ・自然資本・人的資本等の組み合わせを政策目標とし ⑮単なる過去への回帰でない「豊かさ」への戦略を練る必要 等と記載している。 しかし、⑬のように、環境は「市場外サービス」と考えること自体、「昭和的」というより「戦後復興期」の日本の開発途上国時代の発想だと、私は思う。 例えば「生活を豊かにする環境」とは、住居の場合なら、i)都市計画の行き届いた自然が多くて文化的な都市 ii)ゆとりある個人住宅や庭 iii)住宅の断熱性能 iv)水だけでなく湯の出る環境 v)職住接近による可処分時間の確保 など、欧米では市場経済で供給されているが、日本では市場に存在しなかったり、存在しても著しく高価で可処分所得を圧迫するため購入できなかったりするものだ。そのため、同じ名目所得を得ても、欧米の方が生活を豊かにする環境で生活でき、日本は今でも開発途上国の住環境にあるのである。 従って、⑭のうちの自然資本と社会インフラは、国や地方自治体がこれまでに整備しておくべきだったもので、それらが整備されて後に、そこで民間資本や人的資本が活躍できるのだ。そのため、⑮の「単なる過去への回帰でない豊かさ」が必要なのは当然だが、それは公的部門も漠然と前例を踏襲したり、多額の予算をつけたりしていればできるものでは決してないのである。 2)生活の豊かさを増す政策(その1) ← 省エネと再エネの導入 日本は再エネが豊富な国で、エネルギー自給率向上にも役だち、国富の海外流出を抑えられるにもかかわらず、様々な屁理屈をつけて再エネ利用に消極的で、化石燃料や原子力等の従来型集中発電方式を優先してきたため、日本初の技術である再エネの実用化や商用化が遅れた。 そのような中、*1-1-2は、①経産省は2025年度にビル壁や窓等でも発電できるペロブスカイト型太陽光発電を再エネ電力固定価格買取制度(以下“FIT”)に加える ②現行太陽光向け水準を上回る10円/kwh以上に優遇する ③それにより、民間投資を促して日本の再エネ拡大に繋げる ④日本発の技術で開発段階では日本勢に優位性があったが、中国企業は量産を始めて商品化で先行 ⑤ペロブスカイト型普及で都市を発電所にできる 等としている。 このうち①②のように、経産省がペロブスカイト型太陽光発電をFITに加え、現行の太陽光発電以上に優遇して、③のように、民間投資を促して日本の再エネ拡大に繋げるのはよいと思う。しかし、2025年度まで待たなくても2024年度からやればよく、④のように、量産を始めて商品化で先行している中国企業と同じ以下のコストにしたり、断熱窓と組み合わせたり、ビルの壁面らしい色に印刷したりなどして、速やかに高付加価値の製品を作るべきである。 そうすることによって、⑤のペロブスカイト型太陽電池を自然な色や形で都市の色調にマッチさせて普及することができ、電力消費量の多い都市自体を発電所にすることができるのである。 このほか、*1-1-3は、⑥高断熱や複層ガラスによる省エネ性能の高い窓への交換が急増 ⑦背景に冷暖房コスト増で断熱性の高い窓に交換して電気代を抑える需要 ⑧立川市のマンションは、2022年に修繕工事の一環として全136戸の窓ガラスを日本板硝子の省エネガラス「スペーシア」に交換 ⑨スペーシアは2枚のガラス間に0.2ミリメートルの真空層を作って熱の伝導や対流を抑えるもので、厚さは1枚ガラスとほぼ同じで4倍の断熱効果 ⑩夏の電気代が2〜3割減少 ⑪AGCの複層ガラスも4〜5月の販売数が前年比5割増で6月は2倍 ⑫政府は2023年度から省エネ性能の高い窓ガラスや窓枠の交換費用のうち1戸あたり上限200万円まで補助する「先進的窓リノベ事業」を展開しており、政府の補助金も追い風 としている。 化石燃料の輸入を減らし、国富が国外流出するのを防いで、エネルギー自給率を高める方法には省エネもあり、断熱性の高い住まいは国民の生活の豊かさも増す。そのため、⑥⑦は実需であり、⑧⑨⑩⑪のように、中古マンションの大規模修繕工事の際に全戸の窓ガラスを「スペーシア」や「複層ガラス」に交換して電気代を抑えるのは良いし、その際に住民に反対が出ないためには、⑫のように、政府が「先進的窓リノベ事業」として補助するのがよいと思う。 そのため、*1-1-4のように、⑬政府は戸建て・集合住宅のリフォーム工事を対象として住居の窓を断熱性の高いものに改修する工事へ支援制度を延長する方針 ⑭工事にかかる費用の半分(1戸最大200万円)を国が負担 ⑮登録した事業者が施工する場合に適用 ⑯環境省は2024年度予算の概算要求で1170億円を求めた というのは、2023~2024年だけでなく2032年までの10年間くらいは続けて良いと思う。 3)生活の豊かさを増す政策(その2) ← 地球環境と藻場、漁業 イ)大阪湾湾奥部の藻場再生について *1-2-1は、①大阪府が2023年8月にBOIと事業連携協定を締結した ②藻場はCO2を吸収して長期貯留してSDGsに寄与する ③藻場はO₂の供給など水質改善効果も期待でき、魚類など生き物のすみかとなる ④大阪湾全体の湾奥部だけがコンクリート等でできた人工護岸のため「ミッシングリンク」だった ⑤大阪府は「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げたが、i)船舶等の港湾利用に影響を及ぼさない藻場創出技術 ii)海面下の海藻の生育状況確認 iii)企業の所有地に面した護岸と海藻を育成したい人の少なさ が課題だった ⑥大阪湾奥部は大都市圏から流入する河川等の影響で汚濁物質が溜まりやすく水質改善も課題 ⑦2021年12月に大阪市が管理する「大阪南港野鳥園」の護岸にある消波ブロックにワカメを育てる30センチ四方のパネルを設置し、2022年4月にはワカメの繁茂を確認していた としている。 上の②③のように、藻場は、光合成によって水中のCO2を吸収してSDGsに寄与し、同時に水中にO₂を供給し、水中の養分を吸収して、水質を改善する。そのため、藻場は、貝類や魚類の餌場・すみか・産卵場所となり、「港は魚の保育園」とも言われている。 しかし、大阪湾の湾奥部は、④⑥のように、大都市圏から流入する河川等の影響で汚濁物質が溜まり易い上、コンクリート等でできた人工護岸のため藻場がなかったため、大阪府は、⑤のように、「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げたのだそうだ。 そして、2021年12月には、⑦のように、大阪市管理の「大阪南港野鳥園」護岸にある消波ブロックにワカメを育てる30センチ四方のパネルを設置し、2022年4月にはワカメの繁茂を確認していたが、⑤iii)のように、企業の所有地に面した護岸は近づけないため藻場の再生ができていなかったとのことである。本来は、波消ブロックやコンクリート護岸設置で藻場を喪失させた企業は、(それも公害であるため)企業自身が藻場の復元を行なうことを国は義務化すべきだ。 また、⑤i)の船舶等の港湾利用に影響を及ぼさない藻場創出の技術は、海藻の種類を選べば可能であるし、⑤ii)の海面下の海藻生育状況確認は、①のように、大阪府が2023年8月に事業連携協定を締結したBOIのメンバーであるスタートアップが保有する海洋ドローン等で調べるそうだが、近年はカメラも安価になっているため、24時間、毎日、複数のカメラで撮影して画像を送信し続ければ、海藻の生育状況と魚介類の増加状況が時間の経過とともに記録され、有用なデータになると思われる。 ロ)唐津アカウニの資源回復について *1-2-2は、①藻場の磯焼けでアカウニの資源が大きく減少していた ②唐津ブランド・アカウニ資源を回復するため、唐津市内の漁業者とNPO法人「浜-街交流ネット唐津」が長崎県産アカウニの大型種苗を放流した ③これまで佐賀県産の小型アカウニ種苗を放流していたが、小型種苗は生残率が低かった ④今後、収穫までの生残率を定期的に調べて効果的なアカウニ種苗の放流を検証する ⑤NPO代表理事は「アカウニの資源が減り、危機的状況。資源回復の効果を確認していきたい」と語る としている。 しかし、①~⑤については、藻場が減ってアカウニの餌となる海藻が減り、その結果、アカウニが減少しているのであるため、藻場を回復しなければアカウニの種苗を放流しても生残率が低かったり、売り物にならない痩せたウニになったりする。 従って、アカウニの資源回復のためには、餌の海藻を増やす必要があり、餌の海藻は、i)地球温暖化による海水温上昇 ii)原発の温排水による海水温上昇 でこれまでの海藻が育ちにくくなり、残った海藻をウニが食べ尽くして磯焼けになったのであるため、何らかの方法で藻場を再生してウニの餌を増やすか、ウニの種苗を養殖するかしなければ、良質のアカウニを出荷することはできないのである。 このような中、*1-2-3は、⑥唐津市は、唐津市沖に誘致を検討している洋上風力発電事業の有望区域指定を進めるため、副市長をトップとして経済部・漁業・港湾振興部等の横断的体制を立ち上げた ⑦市長は「事業の早期実現は、地域振興・経済波及効果が大いに期待できる」としている ⑧国は、2021年9月に唐津市沖を「一定の準備段階に進んでいる区域」にした ⑨住民からは観光地の景観や沿岸漁業への懸念の声が出ている としている。 洋上風力発電は原発と違って温排水を排出しないため、洋上風力発電機の存在が磯焼けを起こしたり、漁獲物を減らしたりすることはない。むしろ、洋上風力発電機周辺の設計によっては、風力発電機周辺を藻場にして海藻を収穫したり、ウニを放流したりすることも可能である。 しかし、景観(これも重要な環境である)は、洋上風力発電機の設置場所にもよるが、悪くなる可能性が高い。また、洋上風力発電機は洋上に設置するため、建設や維持管理が陸上風力発電機より複雑で高コストになる。そのため、私は、離島・半島はじめ山林・農地等の陸地に設置した方が、低コストで同じ電力を生み出せるのではないかと考えている。 ハ)養殖について *1-2-4は、①ニッスイはサステナブルな食のために養殖技術開発に力を入れ、養殖事業の拡大を長期ビジョンの成長戦略の1つに位置づけている ②任意の時期に産卵させる技術と優れた特性を持つブリを育種で選別し、1年を通して育成スピードが速く高品質なブリの出荷を可能にした ③国内ではギンザケの養殖にも注力し ④環境負荷を低減する研究もして収益安定化に繋げた ⑤2020年には地下海水を利用したマサバの陸上循環養殖の実証実験を開始し、2023年にはバナメイエビの陸上養殖も事業化した ⑥日本は長年天然の水産物の恩恵を受けてきたが、近年縮小する漁業生産を補う養殖の重要度は高まっている 等と記載している。 農業で品種改良や栽培技術の発達があったように、同じ生物である水産物も品種改良や栽培技術の発達ができる筈で、これが軌道に乗れば第五次産業革命と言える(第一次~第四次産業革命については「https://spaceshipearth.jp/fourth-industrial-revolution/」参照)。そして、上の①~⑥は、その重要な過程を示している。 一方、*1-2-5は、⑦有明海の海況悪化で赤潮の発生が長期化し、ノリ養殖の不作が続いている ⑧環境改善のため赤潮発生原因となる植物プランクトンを捕食するスミノエガキの養殖に、佐賀県有明海漁協新有明支所(白石町)の青年部が取り組んだ ⑨スミノエガキは、河口域の低塩分に強く成長も早いため、漁業者の収益向上も期待できる ⑩その取り組みが全国青年・女性漁業者交流大会で資源管理・資源増殖部門最高賞の農林水産大臣賞に選ばれた ⑪スミノエガキは、国内では有明海にのみ生息し、淡水流入による河口域の低塩分化に強く、単年出荷可能(マガキは2年かかる) ⑫カキをかごに入れて海中につるすと、干満に関係なく常時捕食して身入りが良くなった ⑬海況を改善し食べられて収入になるので『一石三鳥』で、マガキと出荷時期が違うため、需要・価格面でも期待できる と記載している。 ⑦~⑬は、確かに頭を使って考えれば、ピンチもチャンスにできる良い例で、有明海の海苔養殖は既に軌道に乗っていたが、有明海の富栄養化も副産物(ここではスミノエガキ)との同時生産で収入増に繋げることができそうだ。 二)農業について i) 政府は基本法改正・食料供給困難事態対策法案・農地法改正案 *1-2-6は、①政府は地球温暖化・国際紛争・物流途絶等を挙げ、食料供給量が大幅に不足するリスクが増大していると指摘 ②国内の食料供給システム強化の新たな農業政策を閣議決定 ③基本理念は「食料安全保障」 ④日本農業は担い手の減少・高齢化の進展・農地の減少等で足腰が弱い ⑤農業を魅力ある産業として若者や都市在住者らの新規就農を促す必要 ⑥IT活用によるスマート農業進展や農地のさらなる集約 ⑦輸出環境整備等による現場の活性化 ⑧生産基盤の一層の強化が不可欠 ⑨日本のカロリーベースの食料自給率は38%で先進国の中で最低 ⑩相対的経済力の低下で、影響世界市場での食料買い付け力も落ちた ⑪政府は基本法改正に併せて食料供給困難事態対策法案と農地法改正案も決定 ⑫困難事態対策法案は、深刻度に合わせて農業者への生産拡大要請など3段階の対応を規定 ⑬国民が最低限必要とする食料が不足する恐れがある場合は、生産転換や割り当て・配給を実施し、罰則も設けた ⑭極端な例は、花卉類を生産している農家にイモ等のカロリーの高い農作物を栽培するように強制するケースも想定 ⑮稲作は国内需要を上回る供給力を持ちながら、減産で価格を下支えしてきた ⑯食料供給の大幅不足が懸念されるというのなら、コメ生産能力のフル活用も考えたい ⑰国内で消費できない分は輸出に回し、いざというときは国内に戻す構想は検討に値するため、日本米のさらなる海外市場開拓に官民の知恵を絞りたい としている。 このうち①⑨⑩は事実であり、③の「食料安全保障」は重要だが、②の食料供給システム強化に関する農業政策は、⑪⑫⑬⑭のように、政府が強制的に花卉類からイモ等への生産転換や割当・配給実施のような第二次世界大戦中や戦後日本に戻ったような政策であるべきではない。 現在、日本の農業は、④⑤のように、高齢化の進展によって担い手が減少し、それに伴って農地も減少して生産力が落ちており、都市在住者・若者だけでなく、女性・外国人労働者・企業の新規就農を促し、農業を(儲かる)魅力ある産業にしていく必要がある。 しかし、日本に耕作放棄地が増えて農業生産力が落ちた理由には、⑮のような減反政策があった。それは、戦後の食糧難時代は米の増産が国全体の問題で、昭和40年代に肥料・農機の導入が進んで技術革新が起こり、米の生産量が大きく伸びたが、食卓の欧米化に伴って米消費量/日本人が減って余剰米が生じるようになり、当時の食管制度による米価調整では農家からの買取価格よりも市場への売渡価格の方が安くなるという逆ザヤが頻繁に起こるようになった。そのため、日本政府は1970年に新規開田を禁止し、耕作面積の配分を行う生産調整を開始したが、この単純な米の減産に補助金を出した政策が失敗だったのだ。 つまり、余剰している米ばかり作らず、ニーズに応じて輸入割合の高い小麦・大豆・野菜・果物・畜産等を行うのは、⑨のようなカロリーベースだけではなく、栄養バランス良く食料自給率を高める方法であるため、私は、水田でも麦や大豆などを作れば、「3万5000円/10アール」の補助金を出したり、加工用米や家畜の飼料米に補助を出したりするのはまあ良いと思うが、⑮のように、単純な米の減産に補助金を出した減反政策は農家のやる気をなくさせ、耕作放棄地を増やしたと思う。 なお、農業の生産力向上には、⑥のIT化によるスマート農業の進展や大規模農機を使うための農地の集約が必要なことは言うまでもなく、⑧の生産基盤の強化も不可欠だ。 従って、⑯⑰の「(i)食料供給の大幅不足が懸念⇒(ii)コメ生産能力フル活用⇒(iii)国内消費できない分は輸出し、いざという時は国内に戻す」という構想は、(i)の食料供給の大幅不足が懸念されるのは米ではないため、(ii)のコメ生産能力フル活用では栄養バランス良く国民の食料自給率を高めることはできない。また、(iii)の輸出は良いが、日本米を食べたい人にしか売れないことを忘れてはならず、輸出できる農産物は米とは限らないため、ニーズのある製品を作って売るために、⑦の輸出環境整備を考える必要がある。 根本的には、「米はじめ穀物を作って腹を満たしさえすればよい」という発想ではなく、栄養学の知識を持って農水産物の本当のニーズを発掘できる人が、農業政策を行う必要があるのだ。 ii) 賢い農業へ ![]() ![]() ![]() ![]() 無肥料で作った蓮根 パクチー パクチー使用のラーメン パクチーサラダ (図の説明:左図は、無肥料で作ったレンコンで、富栄養化したクリークならレンコンを作って毎年収穫すれば、次第に通常の状態に戻るだろう。また、左から2番目はパクチーで、1度植えれば折れた茎からでも根が出て繁茂するたくましいハーブであるため、クリークの縁に植えて定期的に収穫すれば他の植物は生えず料理の使い道も多くて便利だ) 肥料や家畜の餌を輸入して日本で生産したものは、国内の食料自給率に加えるべきではないが、38%といわれる日本のカロリーベースの食料自給率には、それが含まれていることが明らかになった。 そこで、*1-2-9は、①化学肥料の原料価格が高騰 ②化学肥料の主な原料となるリンを含むリン鉱石は、中国・モロッコなどからほぼ全量輸入 ③国と東京都は巨大都市から大量に出る「下水汚泥」からリンを採り出す実験を開始 ④東京都は全国普及を目指して国やJA全農と連携 としている。 上の③④は、これまで邪魔者として捨てて海を富栄養化させていた資源を利用して良質の肥料を作る技術を開発し全国に広げる意図であるため、肥料の国産化にも資して賢い。これによって、①②のように、ほぼ全量を海外依存して交際情勢や円安の影響を受け易く、簡単に高騰していた化学肥料の原料価格が抑えられれば、食料自給率とコストの両面から有用である。 *1-2-7は、⑤佐賀市は清掃工場から出るCO₂を活用し、魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた新しい農業「アクアポニックス」の事業化を目指している ⑥アクアポニックスは魚の養殖と植物の栽培を組み合わせた資源循環型型農業 ⑦魚を養殖した水を水耕栽培で再利用して溶け込んだ窒素やリンを植物が養分として吸収する ⑧水は養殖で再利用するため水槽に戻す ⑨化学肥料をやったり、土を耕したりする必要はない ⑩4月下旬からマスを2千匹規模で養殖し、約40平方メートルの水耕ベッドで葉物野菜を育てる ⑪CO₂を利用することで脱炭素社会への取り組みを強化しつつ野菜の生育促進に役立てる としている。 上の⑥~⑩は、農業と漁業を組み合わせて水を循環させ、化学肥料を不要にする方法で、これならどの地域でもできそうである。また、⑤⑪のように、清掃工場から出るCO₂を活用して脱炭素社会への取り組みを強化しつつ、野菜の生育促進に役立てるのは、これまで捨てていた邪魔者を有用なものとして利用し尽くす点が本当に賢い。 このような中、*1-2-8のように、⑫特定外来生物で水生植物の「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」が、爆発的な繁殖力で佐賀市内のクリークや河川で繁茂を続ける ⑬茎の切れ端からでも再生・繁殖し、長期間の乾燥にも耐え、一度除去しても残った部分から再生する ⑭農地に侵入すれば農地を覆い、農作物の収量・」品質・作業効率の低下を招く ⑮樋門や排水ポンプなどの機能に支障が出かねず、市は水面や根から除去し続けている ⑯対策費は2022年度に7154万円と、この5年間で倍増 等と記載している。 上の⑫~⑯は、市の予算を使って人力で除去しようとした点で賢いとは言えない。しかし、それだけ水生植物が繁茂するというのは、佐賀市内のクリークや河川が富栄養化している証拠であるため、(i)富栄養化を利用して有益な植物(例:ハス)を育てる (ii)除去した「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」を焼却して肥料に使う (iii)「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」を食べる有用生物をクリークに放す 等の人手や予算をできるだけ使わず、富栄養化したクリークや河川を利用する方法を考えた方が良いと思われた。 3)膨大すぎる原発のリスクとコスト イ)フクイチの廃炉・汚染水・処理水について ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.8.21東京新聞 2023.8.24日経新聞 2023.8.21西日本新聞 (図の説明:1番左と左から2番目の図のように、ALPS処理水を汲み上げた海水で薄めてトリチウム濃度を基準値以下にし、海水に放出するのが処理水放出の流れだ。そして、右から2番目の図のように、今後数十年に渡ってこれを続け、予算措置を続けるそうだが、リスクを風評と断じる点や膨大な予算を使っても平気な点が、原発に対する場合の異常性なのである。一方、1番右の図のように、漁業者は、IAEAの包括報告書でALPS処理水の安全性への理解が深まったそうだが、下に記載したとおり、それで科学的安全性が担保されたとは言えないのである) *1-3-1は、①2011年のフクイチ事故で、2号機取水口付近のピットから高濃度汚染水が海へ流出 ②おがくず・新聞紙・吸水性ポリマー等が大量に投入したが止水できず、乳白色の入浴剤で流れる経路を調べるなどの「ローテク」ぶり ③放射能の脅威を前に日本の土木技術やロボット技術は敗北し、この技術レベルでは安全神話なくして地震国での原発推進は難しい ④東電は2024年1月末、2023年度内としていたフクイチのデブリ取り出し開始を三たび延期すると発表 ⑤1~3号機に推計880トンものデブリがあるが、どこにどのような状態で存在するかもわからず ⑥廃炉の「最終形」に関わる議論は進まず、多額の金を投じて「全量取り出す」前提で技術開発 ⑦世界的な核融合フィーバーだが、発電技術は進化したか としている。 また、*1-3-2も、⑧フクイチで“処理水”の海洋放出が始まったが、廃炉作業の終わりが見えない ⑨「処理水」とは汚染水をALPSに通して大半の放射性物質を取り除き、トリチウム濃度を500ベクレル/リットル(国の放出基準の1/40)未満となるように海水で希釈したもの ⑩東電はALPS処理水を分析してトリチウム以外の29の放射性物質濃度が放出基準を下回っているか確認 ⑪さらに海水で希釈してトリチウム濃度を薄めて基準未満かを確認 ⑫この水を蒸留させるなどして測定の邪魔になる不純物を取り除いた後に、放射線を受けると発光する試薬を使って光量から濃度を換算 ⑬東電・国・福島県が周囲の海水をモニタリングし、トリチウム濃度が放水口近くで700ベクレル/リットル、沖合10㎢で30ベクレル/リットルを超えると放出停止 ⑭水産庁が放水口の南北数キロに設置した刺し網で捕獲したヒラメなどのトリチウム濃度を測定し、放出停止する異常値は確認されていない ⑮東電によると処理水放出は30年ほど続く見込みで年間22兆ベクレルを上限に廃炉完了の目標時期である2051年までに終える見込み ⑯廃炉作業の「本丸」である燃料デブリは計約880tあるが事故から13年が経っても1gも取り出せていない 等としている。 このうち、①②③や事故時の説明については、私も意外なほどローテクで知識が乏しいのに驚かされたし、③の安全神話は現在でも形を変えて存在しており、「裏付けのないことでも、信じれば救われる」と考える日本人が多いのにも呆れたが、何故、そうなっているのだろうか? そして、⑤⑯のように、やっと推計約880tあることがわかったというデブリは、どこにどのような状態で存在するのか未だわからず、事故から13年経っても1gも取り出せずに、④のように、東電は2023年度内としていたフクイチのデブリ取り出し開始を三度延期している。 また、燃料デブリを冷やして汚染水となり、⑧⑨⑩⑪のように、ALPSに通して大半の放射性物質を取り除いてトリチウム濃度を500ベクレル/リットル(国の放出基準の1/40)未満となるように海水で希釈した “処理水”の放出は、⑮のように、年間22兆ベクレルを上限に廃炉完了(目標:2051年)まで30年ほど続くとのことだが、事故から13年経ってもデブリ取り出しができない状況で、⑥のように、多額の金を投じて「全量取り出す」前提の廃炉では、膨大な予算の無駄遣いと海の汚染による水産業への打撃がひどくなりすぎるのである。 これに対しては、⑬⑭のように、「東電・国・福島県が周囲の海水をモニタリングして、トリチウム濃度が放水口近くで700ベクレル/リットル、沖合10㎢で30ベクレル/リットルを超えると放出を停止するから大丈夫」「水産庁も放水口の南北数kmに設置した刺し網で捕獲したヒラメ等のトリチウム濃度を測定して異常値は確認されていないから大丈夫」等の主張がされる。 しかし、私は、中国政府の「『基準値を満たすこと』『検出下限値未満であること』と『存在しないこと』は別である」という主張の方が科学的に正しく、希釈した分だけ体積の増えた“処理水”に含まれる核種の総量は変わらないため、「海洋放出によって海洋環境や人体に予期せぬ被害がある」とする方が保守的な安全性評価だと思う。また、原子力の平和利用での協力を進める中心機関であるIAEAは、特別な利害関係があり第三者ではないため、独立性を持ってモニタリングできていない可能性が高いと考えるのが監査の常識である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_001548.html、https://www.unic.or.jp/info/un/unsystem/specialized_agencies/iaea/ 参照)。 このような中、廃炉に膨大な無駄遣いをし、水産業に打撃を与え、中国から海洋汚染の賠償金請求までされては、日本国民の暮らしはますます貧しくなるため、廃炉の「最終形」に関わる議論を海洋も含む環境を壊さない形で早急に進めるのが、科学的で現実的である。 なお、⑫の「ALPS処理水を蒸留させるなどして測定の邪魔になる不純物を取り除いた後に、放射線を受けると発光する試薬を使って光量から濃度を換算する」というのは、蒸留した水は核種も含めて何も含まないため、科学的どころか意味がない。 このように、非科学的で核種や放射線に対して無神経な国が、「核融合なら、環境や人の健康を守りながら扱うことができる」と考えるのは甘すぎるため、⑦の世界的な核融合フィーバーに日本が乗るのは、無駄使いが多すぎる上に危険極まりないのである。 ロ)能登半島地震と志賀原発について ![]() ![]() ![]() 2024.3.25東京新聞 2024.1.25日経新聞 2021.1.21 中日新聞 (図の説明:左図のように、能登半島地震で志賀原発の敷地は12cm動き、3.96~4.74cmの沈下も起こったが、今回は原発事故にはならなかった。しかし、中央の図のように、避難路を含む道路が寸断され、全半壊した住宅も多かった。東日本大震災では、右図のように、原子力災害からの復興に2020年までに既に6~7兆円かかっており、これからも大きな金額がかかる予定だ) *1-3-4は、①北陸電力は、能登半島地震後に志賀原発敷地が地震前と比べて平均4cm沈下と発表 ②測量した11カ所の沈下幅は4.74~3.82cmで隆起した地点はない ③原子炉を冷却する海水の取水口に近い物揚げ場は3.96cm沈下 ④敷地全体が西南西方向に平均12cm移動 ⑤敷地内の地面に段差や割れを約80カ所で確認、担当者は「舗装が変形したためで敷地内の断層が動いた形跡はない」と説明 ⑥能登半島地震で半島北側の沿岸一帯が隆起し、輪島市西部では最大4m隆起 ⑦志賀原発から1km北の岩ノリの漁場が数十cm隆起 ⑧志賀2号機は新規制基準適合性審査中で、北陸電は「地震で原発北側の輪島市付近の断層が動いた場合20cm以下の隆起が起きるが、冷却水の取水に影響はない」と主張 としている。 また、*1-3-5は、⑨志賀原発が立地する半島西側は活断層が存在 ⑩今回動いたエリアの脇にある半島西側の志賀町沖断層で、地震が発生し易くなった ⑪今回の地震で北陸一帯の断層帯に地震を起こしやすくする力がかかり、マグニチュード7クラスの大地震発生リスクが高くなった ⑫次の地震で心配なのが志賀原発だが、北陸電の広報担当者は「原子炉建屋は基準地震動600ガルまで耐えられ、今回の地震による地盤の揺れは600ガルよりも小さく、2号機については1000ガルまで耐えられるので原子力施設の耐震安全性に問題はない」と説明 ⑬現行技術水準では活断層の全容が捉えがたく安心もできない ⑭原発に及ぶ地震の脅威は揺れ以外にもあり、メートル単位で上下・水平方向にズレが生じれば、計算するまでもなく原発はもたない ⑮志賀原発は2012年に直下に断層があると指摘されたが、原子力規制委員会は直下断層の活動性を否定する北陸電の主張を妥当と判断 ⑯原発が止まっていても核燃料がプールで保管されているため、災いの元凶になる核燃料の扱いを早急に議論すべき 等としている。 上の①②③のように、北陸電力の発表では、「能登半島地震後、志賀原発の敷地が地震前と比べて平均4cm(3.82~4.74cm)沈下し、隆起した地点はない」とのことだが、⑥⑦のように、能登半島北側の沿岸一帯は隆起し、志賀原発から1km北の岩ノリの漁場で数十cm、輪島市西部では最大4mの隆起が確認されている。 また、④⑤のように、北陸電力の敷地全体が西南西方向に平均12cm移動し、敷地内の地面に段差や割れを約80カ所で確認されているが、北陸電力の担当者は、「舗装が変形したためで敷地内の断層が動いた形跡はない」と説明しており、影響に関する過小評価が目立つのである。そして、このような小さな安全神話の積み重ねが大きな安全神話となって、⑧のように、「新規制基準に適合」と判断されるのが危ないのだ。 さらに、北陸電力の広報担当者は、⑫のように、「原子炉建屋は基準地震動600ガルまで耐えられ、今回の地震による地盤の揺れは600ガルよりも小さく、2号機については1000ガルまで耐えられるため、原子力施設の耐震安全性に問題はない」と説明し、⑮のように、「直下に断層がある」と指摘されても直下の断層の活動性を否定し、原子力規制委員会も北陸電力の主張を妥当と判断しているのだ。 しかし、⑨⑩⑪のように、志賀原発が立地する能登半島西側に活断層が存在し、今回動いたエリアの脇にある志賀町沖断層で地震が発生し易くなっており、今回の地震で北陸一帯の断層帯に地震を起こしやすくする力がかかってマグニチュード7クラスの大地震発生リスクが高くなっている上に、⑬のように、現行技術水準では活断層の全容が捉えがたいため、活断層に関しても北陸電力は過小評価になっており、これでは、科学的とも安全側に保守的とも言えないのである。 そのため、当然、⑭のように、原発直下でメートル単位の上下・水平方向にズレが生じれば、計算するまでもなく原発はもたず、数十cm単位のズレでも、⑯の核燃料プールが傾いたり、ひびが入ったりして水がこぼれ、保管されている大量の使用済核燃料が爆発する等の災いが起きるため、早急な議論が必要であることは間違いないのだ。 ハ)政策決定手法の転換へ *1-3-3は、①未だ被災者に大きな影響を与え続けているフクイチ事故から13年 ②この間に世界のエネルギー状況は大きく動いた ③化石燃料依存リスクが鮮明になった ④発電コストや建設費の増大で原子力発電は停滞 ④価格低下した太陽光・風力発電は急拡大 ⑤目指すべきは高コスト・高リスクの大規模集中型電源から低コストの再エネを主とする分散型システム ⑥自公政権のエネルギー政策はこの流れに逆行 ⑦日本政府や電力会社は、水素やアンモニアを利用して「CO₂を出さない火力」を目指すことに注力しているが、高コストの手法は気候変動対策にならない ⑧日本は限られた資金や人材の多くを原発や不確実な将来の新技術に投じ、日本国内の再エネ市場は他国に比べて大きく見劣り ⑨今になって大規模な洋上風力発電の開発を進めようにも風車は輸入 ⑩経産省が指名した委員による委員会で、役所のシナリオに沿って政策を決める非民主的な手法を見直して、科学とデータに基づき、多くの市民や専門家の意見を聞いて民主的政策議論を進める「政策決定手法の大転換」も重要 としている。 この記事には、必要な論点がすべて書かれていると、私は思う。例えば、①については、原発事故さえなければ既に回復できていた筈の農林漁業地域に未だに帰還困難区域を作らざるを得ず、超長期避難者も多い。また、②③④⑤は、私が1995年前後に初めて再エネ推進を提言した時から言っていたことだが、それを世界はやっと現実として認識したのだ。 にもかかわらず、⑥のように、自公政権のエネルギー政策は世界の流れに逆行し、⑦のように、日本政府や電力会社は水素やアンモニアを利用して「CO₂を出さない火力」を目指しているが、この方法は化石燃料より高コストになることが避けられない。従って、⑧⑨のように、使えない技術の開発に限られた資金や人材を投入して再エネ技術を疎かにしたのは、日本の経済成長を低め、円安を促進する効果しかなかった日本政府の誤った政策判断なのである。 なお、このような誤った政策が進められた背景には、⑩のように、経産省がやりたいことを先に決め、経産省が指名した委員からなる委員会で、経産省のシナリオに沿って政策を決めてきたことがある。その中で、民主的に選ばれた筈の政治家は、自分の頭では考えられなかったためか、経産省の言いなりになった方が身の安全を守れるためか、ともかく経産省の言いなりになったのだ。そのため、このような手法を見直して、多くの市民や専門家の意見を集め、科学とデータに基づいて政策を決定するという当たり前の手法への大転換が必要なわけである。 二)日本列島の成り立ち・断層・玄海原発 ![]() ![]() 2023.7.23現代ビジネス BS朝日 (図の説明:左図は、ユーラシア大陸の一部だった日本列島が、太平洋プレートの沈み込みに伴って大陸から引き剥がされ、島を形作っていく様子だ。このように、大陸が切り離されて間に海ができる様子は、現在では、右図のアフリカ大陸の大地溝帯に見ることができる。つまり、日本海や瀬戸内海は、地溝帯に海水が流れ込みながら、次第に広がったものだろう) ![]() ![]() ![]() ![]() 2021.9.6Economist 国土地理院 2024.1.15長州新聞 2024.3.30佐賀新聞 (図の説明:1番左の図は、太平洋プレートがユーラシアプレートに沈み込み、フィリピン海プレートや北米プレートとせめぎ合いながら、日本列島に力をかけている様子だ。この力によって、日本列島の各地点は、左から2番目の図のように、2011~2022年に矢印の方向に移動し、矢印の長さが移動距離・矢印の方向が移動方向を示している。このように、測定地点により移動距離や移動方向が違うため、歪みが蓄積して耐えられなくなった時に地震が起こって地形を変化させる。また、右から2番目の図は、現在わかっているとされる日本列島とその周辺海域の活断層及び原発の位置だが、「海底の活断層はわかっていない」として殆ど表示されていない。なお、1番右の図は、佐賀県と周辺の活断層を示したもので、海底の断層は表示されていないが、名護屋浦・串浦・外津浦・仮屋湾・伊万里湾は、地形から見て断層そのものではないかと思う) *1-3-6は、①九電は3月8日に原子力規制庁との会合で、玄海原発3、4号機の基準津波を修正する方針 ②政府の地震本部が2022年に公表した日本海南西部の海域活断層長期評価を踏まえて検討した結果、想定される津波が既存値を上回ることが分かったから ③日本海南西部海域活断層長期評価では対馬南西沖断層群と第1五島堆断層帯が連動したケースで想定される津波の高さ6.37m、低さマイナス2.65mで、現行基準津波(高さ3.93m、低さマイナス2.6m)を超えるが、基準地震動への影響はない ④玄海原発は高さ約11m、取水位置の低さ(マイナス13.5m)で想定される津波に対して余裕があり、追加工事はない としている。 上の①~④は、津波に関して余裕があってよかったとは思うが、地震については不明だ。 *1-3-7の佐賀県内首長原発アンケートでは、i)玄海原発の運転継続について、玄海原発立地町の脇山玄海町長だけが「賛成」・15市町長が「条件付き賛成」・反対0 ii)原発の今後に在り方については、16市町長が「将来的に廃止」 iii)原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場を受け入れる市町長は0 とのことである。 運転継続について「どちらともいえない」とした深浦伊万里市長は、「事故が発生すれば取り返しがつかないことになるため基本的に反対だが、電力は企業活動や市民生活を支える基礎的なインフラで安定的な供給は不可欠であり、原発を止められない現実がある」とされている。しかし、太陽光発電による電力は既に余剰が出て捨てており、大規模集中型発電より分散型発電の方が大規模停電のリスクも小さいため、電力の安定供給は既に原発稼働の口実にはならなくなっている。それより、原発事故時は、どこにどれだけの期間、避難しなければならないのか、それは可能なのかを検討すべきであろう。 また、「条件付き賛成」を選んだ首長は、条件として「電力事業者・国の責任で安全性を追求し、可能な限り情報公開に努める(村上嬉野市長)」、「使用済核燃料の処理方法について国の責任で対策を講じる(江里口小城市長)」などを挙げられたそうだが、原発には大きなリスクがあり、100%の安全を保証した人は1人もいないし、使用済核燃料の処理は1mmも進んでいないことを思い出すべきである。 さらに、原発の今後で「将来的に廃止」を選択した首長は、「カーボンニュートラルの実現に向けて取り組む(向門鳥栖市長)」「再エネ導入を進めて原子力への依存度を下げていく(松尾有田町長)」「能登半島地震を踏まえ、南海トラフ地震を含めた対策を一から見直すことも重要課題で、代替エネルギーの研究も加速させるべき(岡みやき町長」」などの見解を示されたそうだが、再エネは遠い未来に実現可能な技術ではなく、既に実用化されている原発よりずっと安価な技術であり、街作りと一緒に行なえばモダンで効果的な街ができるのである。 能登半島地震では北電志賀原発周辺で道路の寸断・家屋倒壊等が相次ぎ、避難と屋内退避の実効性が問われたため、*1-3-8では、佐賀県内の首長に原発重大事故時の避難ルートについて質問し、iv)7市町長が現行の避難計画を「見直す必要がある」と回答、他の12首長は「(規制委の)今後の議論を注視したい(坂井英隆佐賀市長)」という意見が多かった v)松尾鹿島市長は「避難が現計画で対応できるかなど再検討の必要がある」とされた とのことである。 日本の“避難”は、我慢しても1週間しかいられないような体育館や公民館等の劣悪な環境であるため、原発事故時の長期間の避難には全く向かない。そのため、「原発事故に遭いたくなければ、原発立地地域やその周辺には住まない方が良い」という悪循環の選択になりそうだ。 (2)人口構成と高齢化社会対応から見た歳出改革→高齢者への給付減・負担増ではない 1)公的年金目減りの原因であるマクロ経済スライドについて ![]() ![]() ![]() 2023.9.30日経新聞 2022.6.25日経新聞 2024.1.19時事わ (図の説明:左図のように、物価上昇率の体感と統計には11.4%の差があるが、これは、中央の図のように、食料品などの単価は安いが頻繁に買わざるを得ない必需品の物価上昇が激しいからである。しかし、「マクロ経済スライド」が適用され、右図のように、年金改定率が2.7%に抑えられたため、所得が低いので食料品等の購入割合が高くなっている年金受給者の体感物価との差は12%以上になるのだ) *2-1-1は、①物価と賃金の上昇で2024年度の公的年金額は前年度比で2.7%増だが、0.4%分目減り ②年金財政の安定のための「マクロ経済スライド(直近1年間の物価変動率と過去3年度分の実質賃金変動率を元に改定し、物価と賃金の伸びよりも年金支給額を抑える)」で物価と賃金の伸びに届かず ③マクロ経済スライドの影響で、国民年金は実質年3600円、厚生年金は同1万1500円ほど目減り ④厚労省の審議会では財政に余裕のある厚生年金が基礎年金に資金支援して給付水準抑制を前倒しで終了する案が出た ⑤就労を促進して高齢者の手取り収入を増やす方向の改正も議論 ⑥一定の所得のある高齢者の年金支給を減額する在職老齢年金制度も見直しを求める声が強い 等としている。 また、*2-1-2も、⑦公的年金の2024年度支給額は、マクロ経済スライドで実質価値減少 ⑧名目賃金上昇率3.1%が、前年の物価上昇率3.2%より低く、労働者数の減少と高齢化の影響により「マクロ経済スライド」が2年連続で発動され、0.4%分を差し引いた2.7%のプラス改定 ⑨本来は物価が上がっても買えるものが減らないように給付(支出)を引き上げる必要があるが、保険料(収入)は賃金が上がれば増え下がれば減るため、物価上昇が賃金上昇を上回ると支出が収入を上回って年金財政が悪化するため、物価上昇率と名目賃金上昇率の低い方を改定率計算に使用 ⑩少子高齢化の日本で将来世代の年金を確保するには、さらなる措置が必要で、その影響を織り込んで給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」としている。 このうち、①②⑦⑧⑨⑩は、「マクロ経済スライド(尤もらしい名称だが、経済学にこの言葉はない)」によって、年金財政が悪化しないように物価上昇率と名目賃金上昇率の低い方と労働者数の減少を年金改定率の計算に使い、年金のプラス改定分は「物価上昇率3.2%>名目賃金上昇率3.1%」より0.4%低い2.7%となるということである。 その結果、③のように、ただでさえ所得代替率の低い国民年金・厚生年金の実質価値は目減りし、さらに所得代替率(年金を受け取り始める時点《65歳》の年金額が、現役世代男性の平均手取り収入額《ボーナス込み》と比較した時の割合)が下がるのである。 しかし、前年の物価上昇率3.2%は、上の左図の2023年9月30日における3.3%に近いが、この時の体感物価指数は14.7%であり、体感と統計との間に11.4%の差がある。その理由は、上の中央の図のように、食品等の頻繁に買うものの物価上昇が大きいからであり、年金生活者が買うのは耐久消費財ではなく食品等のエンゲル係数に直結する品目の割合が高いため、年金生活者の体感物価指数は14.7%以上で、年金プラス改定分より12%以上高い。そして、これが、「マクロ経済スライド」と呼ぶ、反対運動を起こさせずにこっそり年金を引き下げるやり方なのだ。 それでは、「マクロ経済スライド」を導入しなければ年金財政が悪化して年金制度を維持できないのかと言えば、支払われた保険料を積立方式できちんと積立てて運用し、保険料を支払った人にのみ、支払額に応じて年金を支給すればそのようなことはなかった筈だ。しかし、日本政府はそれをせず、団塊の世代が受給する段になって慌てているというお粗末さなのである。 また、「少子高齢化≠労働力の減少」であるにもかかわらず、少子高齢化を年金支給額引き下げの口実にしているが、女性に対する結婚罰・妊娠罰・子育て罰を1970~80年代に廃止しておけば、著しい少子化は起こらなかった筈で、政府の政策は40~50年遅れているのだ。 そして、④のように、厚生年金に入って高い保険料を支払った人の積立金を基礎年金に流用するなどという議論を厚労省の審議会で行なっているそうだが、保険であれば流用は禁物で、足りなければ税金から支出すべきである。 その税金を原資とする財源は、エンゲル係数が高くて食べるものまで節約している高齢者からむしりとるのではなく、*2-1-5のように、経産省が最先端半導体の量産を目指すとしてラピダスに税金から2024年度までに累計9200億円もの支援をするようなことをやめて作るべきである。何故なら、半導体という30年以上も前から必要性が言われてきた産業に、今頃、国が多額の支援を行なわなければならないような企業に将来性はなく、仮に将来のニーズを満たす企業なら、税金ではなく民間銀行の貸し付けや社債・株式の発行で資金調達すれば良いからだ。 従って、労働者数の減少と年金の所得代替率の低さから、⑤のように、高齢者の就労を促進したり、年金保険料の支払期間を延ばしたりするのは良いが、⑥のように、(著しく低く、いつなくなるかわからないけれども)一定の所得があるからといって高齢者の年金支給額を減らすのは、結局は高齢者層の購買力を無くさせ、次の時代に本当に必要とされる製品の開発を妨げることになるのだ。 2)物価上昇と賃上げについて *2-1-3は、①2023年7月の消費者物価指数は変動の大きな生鮮食品を除く総合指数で前年同月比3.1%上昇、エネルギーも除けば4.3%上昇 ②物価の上昇圧力が続き、食品・日用品の値上がりが家計を圧迫して消費を下押し ③16カ月連続で日銀が掲げる2%の物価目標を上回る ④7月にはハンバーガー前年同月比14.0%上昇、プリン27.5%上昇、宿泊料15.1%上昇、携帯電話通信料10.2%上昇 ⑤外食は1.8%増とプラスを維持したが、5月(6.7%増)から伸びを縮めた ⑥サービス消費は新型コロナ禍からの正常化で回復期待が高かった割に動きが鈍い ⑦値上げが目立つ品目ほど消費が減少し、総務省の家計調査で2人以上世帯の6月の消費支出は実質前年同月比4.2%減で経済成長に水 ⑧2023年4~6月期実質GDPは季節調整済前期比年率6.0%増と高い成長率だが、牽引役は復調した輸出等の外需で、個人消費は物価高で前期比0.5%減 ⑨2023年の賃上率は30年ぶり高水準だったものの物価上昇に追いつかず、2024年以降に賃上げが息切れすれば家計の購買力低下を通じて再びデフレ圧力 ⑩実際、コロナ禍前の2019年10~12月期と足元を比較すると雇用者報酬は実質3.5%減と物価上昇に賃金が追いつかず消費は伸びていない ⑪日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばしている 等としている。 上の①については、変動が大きいからといって生鮮食品を除いたり、エネルギーを除いたりすれば、それらの購入割合が高い世帯(低所得でエンゲル係数が高く、政府が最も注視しなければならない世帯)の体感消費者物価指数が、統計とはかけ離れた数値になる。 また、②⑦のように、総務省の家計調査で2人以上の世帯の2023年6月の消費支出が実質前年同月比4.2%減だったのは、物価が4.3%上昇し、賃金・年金を含む国民全体の所得が増えなかったことを考慮すれば当然の結果である。 私も、④⑤⑥のように、著しく物価上昇した商品やサービスは、どうしても仕方のない場合を除いて購入しないよう工夫したが、そもそも前年度はコロナ禍で経済を止めていたため、前年同月と比べれば少しは伸びる状態だったのである。 にもかかわらず、日銀は、③のように、2%の物価上昇目標を掲げて国民の資産と政府や企業の債務を目減りさせている。そして、これによって、政府や企業の実質借入金額を物価上昇分だけ目減りさせ、それと同時に金利も「名目金利 - 物価上昇」であるためマイナスにしている。つまり、実質預金は物価上昇分だけ目減りすると同時に、実質金利もまたマイナスになっており、これは、通貨の安定を通して国民の財産を護るべき中央銀行として、おかしな行動なのである。 しかし、これらの政策の結果、⑧のように、2023年4~6月期の実質GDPは季節調整済で前期比年率6.0%増と高い成長率になったが、その牽引役は復調した輸出等の外需で、物価高によって実質で貧しくなった国民の個人消費は前期比でも0.5%減となっているのだ。 「物価を上げれば、それ以上の賃上げができるのか?」と言えば、物価上昇分をすべて賃上げに充てても、生産性向上がなければ最大で物価上昇分までの賃上げしかできない。そのため、⑨⑩のように、コロナ禍前の2019年10~12月期と足元を比較すれば、雇用者報酬は実質3.5%減と賃金上昇は物価上昇に全く追いつかず、2023年の賃上率は30年ぶりの高水準でも物価上昇に追いつかず、2024年以降に賃上げが息切れすれば家計の購買力低下を通じて再びデフレ圧力となるのだ。そして、これも、こっそり賃金を引き下げる政策の一環なのである。 なお、⑪によれば、「日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばしている」そうだが、米国は生産性の高い産業に労働移動し易いシステムで、外国人や移民も加わって新技術を作ったり、新技術によるイノベーションを起こしたりするのが早い。これは、政府主導で、外国を模倣しながら、30~50年遅れのイノベーションもどきを起こそうとしている日本とは、気質と土壌が全く違うと言わざるを得ないのだ。 3)医療・介護について ![]() ![]() ![]() 2023.12.6山陰中央新報 2023.12.26日経Xテック 2023.6.9東洋経済 (図の説明:左図は、政府が社会保障分野で検討する“改革”項目だが、「介護のケアプラン作成の有料化」は見積もりを有料化するのと同じく社会常識からかけ離れており、「金融資産を考慮した支払能力判定」が行なわれれば金融資産は日本で所有すべきでなくなる。また、中央の図は、2024年度の診療報酬改定の基本方針だが、時代のニーズが変わっているのだから、持続可能性は厚労省管轄の予算内だけで考えるべきではない。さらに、右図は、令和2年度に支出される医療費の推計で、70歳以上の人が医療費の51%《半分以上》を使い、特に75~85歳の医療費が高くなっている。この図は、世代毎の医療費支出と人口を掛け合わせて産出したものだが、個人についても、75歳以上の退職後高齢者になってから生涯医療・介護費の半分以上を支出するのが普通であるため、在職中に入る医療保険は大幅な黒字の筈である) ![]() ![]() ![]() 2024.4.3日経新聞 2024.4.3日経新聞 経済産業研究所 (図の説明:左図は、内閣府による医療・介護費のGDP比予測だが、高度医療が医療・介護費を膨らませると仮定している点が誤りであるし、出生率を上げれば実質成長率が上がると仮定している点も、世界を見ればわかるとおり事実ではなく少子化対策への流用を誘導しているにすぎない。中央の図は、2020年と2060年の各国の実質GDP/人の予測だが、日本より人口の少ないスイス・ノルウェー・スウェーデン・ドイツの実質GDP/人《国民1人1人の豊かさを示す》は日本より高く、これらは研究開発に熱心で社会保障も整っている国だ。また、右図は、OECD各国の政府債務残高《GDP比》と実質経済成長率の関係で、単なるバラマキによって政府債務残高を増やした日本は、政府債務残高が多い割に実質経済成長率が低いという当然の結果が出ている) ![]() ![]() ![]() 社会実情データ 保団連 ダイアモンド (図の説明:人生の終盤に年金・医療・介護費が増えるため、高齢化すれば社会保障費が増えるのは当然で、左図が、65歳以上の人口割合と社会保障支出/GDPの関係だが、日本は他国と比較して高齢化の割に社会保障支出が少ない国である。また、中央の図のように、1980年と比較して直近の社会保障支出/GDPが減っているのは日本だけであり、先進国中最低になっている。さらに、右図のように、先進国中、日本だけが「社会保障支出/GDP<公共事業支出/GDP」であり、日本の社会保障支出/GDPは現在でも決して大きくない。つまり、「全世代型社会保障」と称して高齢者に負担を押しつける政策は、根本的に間違っているのである) *2-1-4は、①医療・介護給付費は65歳以上人口がピークアウトする2040年度頃から急激に増加 ②医療・介護利用の多い85歳以上人口が継続的に増すため ③2025~60年度の平均実質成長率は、i)0.2%の「現状維持」 ii)1.2%の「長期安定」 iii)1.7%の「成長実現」で試算 ④医療・介護給付費のGDP割合は、「現状維持」で2060年度13.3%と2019年度より6割贈、「成長実現」で9.7%と2割弱増 ⑤社会保障制度維持にはデジタル化による効率化やGDP成長率の引き上げが急務 ⑥医療技術革新が加速すれば給付費は一段と膨らみ、高額医薬品の登場による医療費拡大が従来の2倍ペースだとGDP比は「現状維持」で2060年度に16.1%で 2019年度の2倍 ⑦岸田首相は「実質1%を上回る成長で力強い経済を実現し、医療・介護給付費のGDP比上昇に対する改革に取り組む」と強調 ⑧政府は2023年12月公表の改革工程素案に介護サービスを利用する際の2割負担の対象者を2024年度に拡大すると盛り、与党からの反対等で見送った ⑨政府は社会保障の歳出改革で少子化対策による実質的負担増を回避すると主張するが、介護負担拡大の先送り等が続けば実現は遠のく ⑩実効性ある社会保障改革に繋げるには試算の妥当性検証も必要 等としている。 上の右図のように、普通の人は75歳以降に生涯医療費の半分以上を使い、特に85以上で医療・介護関係の支出が増えるが、これは誰にでも言えることである。 そのため、①②は事実だが、③の成長率の試算については、iii)の1.7%の「成長実現」が合計特殊出生率1.8程度まで回復、「全要素生産性(TFP)」がバブル期並みの1.4%の上昇という条件を設定していることに、私は意図的なものを感じた。 何故なら、女性の教育や能力が向上して職業選択の自由度が高まれば、結婚・出産・子育てのみを人生の最終目標にする女性割合は著しく減るため、いくら児童手当を支給したり、教育を無償化したりしても、外国人を閉め出して日本人だけでやる限り、合計特殊出生率が1.8程度まで回復することはないからである。また、金融緩和をしただけのバブル期に、「全要素生産性(TFP)」が1.4%上昇したというのも疑わしい。 そのような中、④のように、医療・介護給付費の対GDP比を下げようとすれば、⑤⑦のように、GDPを増やすためGDP成長率を上げることは重要だ。しかし、GDP成長率の引き上げ方法は、デジタル化による効率化だけではなく、⑥の先進的な医療・介護機器や医薬品の開発による医療技術の革新を国内で起こし、それを世界市場に投入する方法もある。そうすれば、それを使用することによって、一時的には医療給付費が膨らむが、日本のGDPが増えたり、医療・介護費の合計が減ったりする効果もある。その良い例が、米国のコロナワクチンだ。 にもかかわらず、政府見解にはいつも優れた医療・介護機器や医薬品の開発とその世界市場投入によるGDP成長率向上・国民の福利増進の視点が抜けている。効果が高く副作用の少ない優れた新薬のために医療費給付が一時的に高額になっても、副作用が大きく効果の薄い旧来型の治療法を保険適用から外せば、国民は先端医療を享受しながら、医療・介護費用の節減を正攻法で行なうことができて歳出改革に繋がるのに、である。つまり、現在は、政府(厚労省・財務省)自身がそれを邪魔して、GDP成長率向上を阻害していることになる。 また、⑧のように、政府は2023年12月公表の改革工程素案に介護サービスを利用する際の2割負担の対象者を2024年度に拡大すると盛ったが、確かに高齢になっても働いて現役並みの所得を得ている人もいれば、年金のみで生活しなければならず食費やエネルギー代にも事欠いている人もいる。そのため、「原則は全員3割負担で、所得に応じて医療・介護費の自己負担額合計が一定上限額を超えない範囲」とするのが公平で適切だろう。 しかし、日本政府は、現在は高齢者に関しては生活保護程度の所得でも高所得と看做しているため(ここが大きな問題)、1年間の医療・介護費支払上限額は、医療・介護費が生活費を圧迫しないよう所得の5%以下と低く設定し、いろいろな意味で個人情報保護の怪しい「マイナ保険証」で受診しなくても、窓口で自己負担分だけ支払えば済むようにすることが条件になる。 なお、⑨のように、政府は、高齢者に対する医療・介護給付の削減を社会保障の歳出改革と称しているが、医療保険料・介護保険料として支払った保険料を少子化対策に使うのは目的外の流用である上、日本の医療・介護制度を支えるのは“生産年齢人口”に当たる15~65歳の日本人男性だけでなくても良い。そのため、いくら屁理屈をこねても流用は合理化できないし、現役世代の負担が重いといっても、殆どの人が同じ経過を辿って死ぬため不公平はなく、高齢者はいつまで現役並みの所得を得られるかわからないので貯蓄は必要なのである。 さらに、⑩については、政府がこれまで行なってきた政策を正当化するためか、原因分析や予想が甘すぎる点が散見され、確かに仮定・原因・試算等の妥当性の検証も必要だと思われる。 上のほか、*2-1-6も、⑪バラマキをやめ財政を「平時」に戻す必要 ⑫「賢い支出」を追求して財政健全化と成長の両立をめざすべき ⑬内閣府は2060年度までの社会保障費と財政状況の長期推計を初めてまとめ、社会保障費の急増で財政が持続可能でなくなる危うい未来が浮かんだ ⑭毎年度の社会保障費を高齢化による伸びの範囲内に収め、給付の抜本改革や消費税を含めた負担の議論もすべき ⑮新型コロナウイルス禍の危機対応で膨張した財政の規律を取り戻す必要 ⑯歳出改革で4兆円削り、税収が5.3兆円上振れしても、基金の乱立等で新たな歳出が3年前の試算に比べて7.5兆円増え、効果を薄める ⑰首相は財政健全化の決意を行動で示すべき ⑱成長を実現し、将来の歳出を減らすため、DX等で生産性を高める賢い支出は欠かせない 等としている。 このうち⑪⑫⑮⑰は賛成だが、⑬⑭のように、歳出改革と言えば、「持続可能性のため社会保障費を削減するか、消費税増税が必要」と主張するのは、国民不在・省益優先の行政の代弁であり、日経新聞の悪い点である。しかし、こういうことを言うメディアは、ほかにも多い。 特に、社会保障のうちの医療・介護保険制度は、*2-1-7のように、高齢化社会のニーズに対応して作った優れた制度であり、中身を濃くしながら充実することはあっても、数値だけを見て削減するような数合わせに終始してはならないものだ。 日経新聞は、日頃から、著しい金食い虫である原発は熱心に推進し、⑱のように、ラピダスのようなDX企業への補助金も兆円単位であっても成長を促す「賢い支出」としているが、関連性まで含めた経済の仕組みがわかっていないのではないか? また、生産に資するのではなく、破壊に資する武器を作る兆円単位の支出が「賢い支出」とは、どう考えても言えないと思う。 つまり、首尾一貫した主張をすべきなのは、政治家だけではなく、メディアも同じであり、責任ある大人であれば、誰でも同じなのである。なお、⑯については、複数年での予算の使用を可能にし、毎年、費用対効果を検証しながら翌年の予算を決められるシステムにすれば、基金の乱立は不要であり、国会議員始め国民にとって透明で賢い使い方になる。 4)少子化対策について *2-2-1・*2-2-2は、①政府は、児童手当や育児休業給付など少子化対策の拡充のため、2024年度からの3年間で年3.6兆円の予算を確保する ②「医療保険料からの支援金制度」で初年度6000億円、段階的に金額を増やし2028年度には年1兆円集める ③他は歳出改革で1.1兆円、既定予算の活用で1.5兆円確保する ④首相は「2028年度拠出額は加入者1人当たり月平均500円弱」「社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、今春以降の賃上げで負担率の分母が増えるため、実質的な負担増にならない」とする ⑤支援金は、サラリーマンの場合は給料から天引きされる医療保険料に上乗せし、75歳以上の後期高齢者も含む全世代が負担する ⑥実際の1人当たり負担額は個人毎に差が出て所得の高い人ほど負担額が増える としている。 また、*2-2-3は、⑦野党から、「支援金は事実上の子育て増税」と批判 ⑧立憲の山井氏は「所得階層別の負担額を出してほしい」と迫り、加藤こども政策相は「年収別拠出額は数年後の賃金水準等に依るため、現時点では一概に申し上げられない」と繰り返した ⑨少子化対策の最大の争点は財源確保策 ⑩立憲の早稲田氏は「給付と負担の関係が明白な社会保険の考え方に到底見合わない。租税でまかなわれるべき」と指摘し、加藤氏は「(医療保険等の)社会保険制度はともに支え合う仕組み。支援金制度も少子化対策で受益のある全世代・全経済主体で支える仕組み」と答弁 ⑪岸田首相も衆院本会議で「少子化・人口減少に歯止めをかけることで、医療保険制度の持続可能性を高める」と強調 ⑫本会議では国民の田中氏が「こども誰でも通園制度を拡大していく考えはあるのか。保育士等の賃金・労働条件を改善し、質の高い保育の提供に必要な人材を確保すべき」との指摘 としている。 しかし、日本の最高法規で法体系の頂点に立つ日本国憲法は、第25条で「1項:すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する 2項:国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めている。 また、第 26 条で「1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する 2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。 義務教育は、これを無償とする」と定めている。 そして、それらに使うために、第30条で「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と定め、国民から税を徴収しているのだ。 つまり、子育ての中の保育や義務教育の無償化や(年齢を問わず)すべての国民に対する医療・介護・公衆衛生の増進は、憲法で保障された国民の権利であり、国はそれを実現するために国民から税を徴収しているのだ。そのため、優先順位の低い事に無駄使いした挙げ句、「少子化対策のためだから、国民負担を増やす」とか「財源を探す」などという議論にするべきではなく、③のように、優先順位の低い歳出をカットして必要な財源を確保し、憲法で定められた国民の権利を保障すべきなのである。 従って、子育てのための支援を増やしたり、教育無償化したりするのは良いが、それを①のように、少子化対策と位置づけるのはそもそも問題の本質から外れているし、②のように、その財源の一部を医療保険料から流用すれば、全国民に対する公衆衛生の向上・増進を阻害して憲法違反となるのである。 なお、④⑤⑥のように、首相は「2028年度拠出額は加入者1人当たり月平均500円弱」「社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、今春以降の賃上げで負担率の分母が増えるため、実質的な負担増にならない」等とされたそうだが、「500円弱」というのは働いていない人まで含む人口で割って出した金額で実際の負担額は人によって異なるため誤解を生み、社会保障の歳出改革で社会保険料の伸びを抑えれば、医療・介護はさらに疎かになって、国民の健康や公衆衛生の増進に逆行するのである。 そのため、⑦⑧のように、野党が「支援金は事実上の子育て増税」「所得階層別の負担額を出すべき」と反論するのは尤もだが、優先順位が高いにもかかわらず、これまでサボっていたことをするのに追加負担を求めるのは、どの所得階層の国民であっても許し難いのだ。 従って、⑨の財源は、⑩のように、税で賄われるべきであり、加藤氏の説明はこれまで明確だった事をわざと混同させて煙に巻いている。また、⑪の岸田首相の「少子化・人口減少に歯止めをかければ、医療保険制度の持続可能性を高める」というのも、児童手当や育児休業給付で少子化が止まるという証拠はなく、現在いる人材も本当に必要な場所で有効に使っているわけではない上、医療保険等の社会保障を支えるのは日本人の生産年齢人口(15~65歳とされる)の男性でなければならないとも決まっていないため、その場しのぎの言い訳にすぎないのである。 5)外国人労働者について ![]() ![]() ![]() (図の説明:左図は、外国人労働者の在留資格・在留可能期間・在留者数を示したもので、在留期間を短く区切って滞在者数を制限し、医師・看護師・介護福祉士・保育士・美容師等の資格の相互承認はしておらず、生産年齢人口に対して雇用機会が不足している時の体制のままになっている。また、中央の図のように、外国人労働者の給与は技能実習を終えた特定技能でも日本人の高卒非正規程度で外国人差別が存在しており、日本が「選ばれる国」になるのを妨げている。このように、熟練した頃には強制的に母国に返すため、右図のように、特定技能や技能実習の外国人は限られた数になり、人手不足が補えないのだ) ![]() ![]() ![]() (図の説明:そこで、左図のように、日本政府は特定技能の受入上限を「2024~28年に82万人」と増やしたが、職種は殆ど男性で日本人ばかりの政治家・行政官が思いつく範囲に留まるため不十分だ。このような中、中央の図のように、自国の所得水準との差が縮まれば日本で働く魅力は薄れるため、所得水準の差の大きな国が外国人労働者の供給源として有望なのだが、右図のように、日本の難民受入数は2023年に300人程度と先進国の中で桁違いに低く、他国を批判する割には困っている時に助けない「《大金を払わなければ》好かれない国」となっている) まず、日本国憲法は前文で、「全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する」「いずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる」と定めている。 そして、*2-3-1は、①政府は外国人労働者の在留資格「特定技能」の受け入れ枠を提示し、2024年度からの5年間で現行の2倍以上の82万人を受け入れる ②内訳は国交省所管分18.2万人・経産省所管分17.3万人・厚労省所管分17.2万人 ③数字は業界毎に成長率・需要等から不足人数を出し、人材確保や生産性向上の努力で解決できる分を差し引いて算出 ④急速な少子高齢化に見舞われる地方からは悲痛な声が上がっていた ⑤厚労省発表の2023年10月の外国人労働者は約200万人で、JICAは年平均1.24%の成長を2040年に達成するには674万人の外国人労働者が必要と推計 ⑥政府は特定技能だけでなく技能実習に代わる「育成就労」と合わせて受け入れ数を増やす方針 ⑦円安や低下した賃金水準は日本が「選ばれる国」になる足かせ ⑧外国人の職場への順応や生活環境の支援策を整えることが重要 ⑨移民統合政策指数の2020年版の総合評価で日本の順位は56カ国中35位で、韓国に後れをとる 等としている。 このうち③の「業界毎に成長率・需要等から不足人数を出し、人材確保や生産性向上の努力で解決できる分を差し引いて外国人労働者の必要数を算出する」というのは、国内のイノベーションを計りながら、雇用との調和を維持しようとするするもので良いと思う。 しかし、外国人労働者が必要な分野は、②の国交省・経産省・厚労省だけではなく、文科省・農水省・環境省・防衛省等の分野にも及ぶため、人手不足が経済の足をひっぱらないためには、①の82万人ではなく、④⑤を考慮して必要とされる分野は躊躇なく追加すべきである。 また、⑥の2019年に始まった特定技能制度は、人手不足が著しいとされた特定分野に限って一定の専門性と日本語能力を持つ外国人材を受け入れる制度だが、それでも「1号」の在留期間は最長5年で家族は帯同できず、「2号」になって初めて家族を帯同できるが、就労している限り更新の上限がないという条件の悪さである(https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/visa/2685 参照)。 そして、特定技能1号の取得方法には、i)分野毎に用意された技能試験と日本語能力試験に合格 ii)職種と作業内容に関連性のある技能実習を良好に3年間終了する の2つがあるが、技能実習制度には問題が多発しているため、日本政府が2024年2月9月に技能実習制度廃止と育成就労制度(特定技能への移行を目指す制度)創設を決定したものの、改正法施行は2025年~27年と消極性をあらわにするゆっくりした進展なのである。 このように雇用条件が悪ければ、⑦のように、円安や低下した賃金水準で他国との賃金格差が縮まれば日本は「選ばれる国」にならない。また、⑧のように、外国人のみに職場や生活環境への順応を求めれば、外国人の日本での生活しにくさは著しいものになる。これらの結果として、⑨の2020年版移民統合政策指数総合評価で日本の順位は56カ国中35位になり、言葉の特殊性は日本と同レベルの韓国にも後れをとっているのである。 難民については、*2-3-2が、⑩出入国在留管理庁が自国で迫害を受ける恐れがあるとして2023年に303人(申請者数のわずか2.2%)を難民認定したと発表 ⑪内訳は、2021年の政変後に退避したJICA職員が多いアフガ二スタン237人、軍政による弾圧が続くミャンマー27人、エチオピア6人など ⑫難民認定申請者数は1万3823人で、スリランカ3778人、トルコ、パキスタンの順 ⑬難民認定制度とは、難民を「人種・宗教・国籍・政治的意見・特定の社会的集団の構成員であることを理由に迫害される恐れがあって国外に逃れた人」と定義し、出入国在留管理庁の調査官が面接等で審査 ⑭日本の難民認定数は年間1万人超の国がある欧米と比べて著しく少なく、基準が厳しすぎるため「難民鎖国」との批判がある と記載している。 このうち⑩⑪⑫⑬は事実だが、⑭のように、日本の難民認定数は欧米先進国と比較して著しく少なく、基準が厳しすぎて「難民鎖国」そのものである。しかし、気候変動等によって食料や土地の支配権を巡る争いが頻発するようになれば、移住を余儀なくされる人も増えて難民は増加する。その時に、難民を軽蔑して排除するような国が「国際貢献している国」と評価されるわけはなく、大金を払わなければ「好かれる国」にも「選ばれる国」にもならないだろう。 それでは、難民になる人は労働者としてレベルが低いのかと言えばそうではなく、いろいろな点で日本人より優れた人も多い。そのため、私は、難民鎖国は早急に止めた方が良いと考える。 わかり易い例を挙げれば、*2-3-3の日本を代表する指揮者で“世界のオザワ” の小澤征爾氏は、満州国奉天に生まれ、大陸で生まれ育ったことが日本人離れした活躍の源で、戦後は立川に住まいを移して中学3年生の時に齋藤秀雄(桐朋学園で多数の著名指揮者や弦楽器奏者を育てた大功労者)に弟子入りし、23歳でブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、1961 年にニューヨーク・フィルハーモニックの副指揮者に抜擢された。 その後、輝かしい活躍をされたのだが、最初は敗戦後の開発途上国であった日本の一青年が国際指揮者コンクールで優勝できる先進国のFairな審査があり、その結果を受けて機会を与えたボストンフィル、ニューヨーク・フィル、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルなどがあって、小澤征爾氏は世界をはじめとして日本でも活躍できたのである。そして、このような人は多い。 そのため、日本もFairな態度で広い母集団から人材を選ぶことが必要不可欠であり、そうすれば、結果として日本だけでなく世界のためにもなるだろう。 そして、*2-4は、⑮職に就いていないが仕事を希望する「働き手予備軍」は2023年に411万人と15歳以上の3.7%に留まり、その割合は20年で半減 ⑯予備軍が減ったのは景気回復で女性・高齢者の働く環境整備が進んだため ⑰一般労働者は1.0%増でパートの伸びが際立ち、女性・高齢者の労働参加が進んで人材プールが細った ⑱国立社会保障・人口問題研究所によれば、生産年齢人口はピークの1995年と比較して2023年に15%減だが、その間に就業者は約400万人増 ⑲「M字カーブ現象」もほぼ解消 ⑳日本は1960年代後半に「ルイスの転換点」を過ぎたが女性・高齢者を含めて新たな転換を迎える可能性 ㉑人手不足で採用できず、非正規の時給引き上げが続けば、低採算の事業は撤退をせざるを得ない 等としている。 このうち⑮⑯⑱⑲は良かったと思うが、⑰⑳については、女性・高齢者が短時間勤務を希望したとしても、短時間の正規雇用として雇用を安定化させつつ、社会を支えることもできるのに、未だパート中心で「ルイスの転換点」にも達していないことには落胆させられる。 しかし、㉑の低採算で人手不足の産業が不要な産業ばかりでは決してないことは、高くて必要なものも買えなかったり、必需品の多くを輸入依存していたり、日本企業でさえ安価な労働力を求めて海外に生産拠点を移し国内の産業が空洞化していたりする状況を見れば明らかだ。 そのため、本格的に外国人労働者を受け入れ、安価に国内生産できる製品を増やし、さまざまな製品やサービスを開発・提供すべき時であることは間違いないだろう。 ・・参考資料・・ <歳出改革の理念1←地球環境と食料・エネルギー自給率> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240221&ng=DGKKZO78623090Q4A220C2KE8000 (2024.2.21 日経新聞) 生産性停滞 要因と対策(上) 「豊かさ」への新たな戦略探れ 宮川努・学習院大学教授(56年生まれ。東京大経卒、一橋大博士(経済学)。専門はマクロ経済学) 木内康裕・日本生産性本部上席研究員(73年生まれ。立教大院修了。専門は生産性に関する統計作成・経済分析) <ポイント> ○生産性向上のための構造改革が置き去り ○良質なヒト、モノ、カネが国外流出の恐れ ○生活の豊かさまで含めたビジョンが必要 2023年末、日本の国内総生産(GDP)や生産性に関する国際的順位が公表された。「国民経済計算」確報版で示された22年の1人当たり名目GDPは、経済協力開発機構(OECD)加盟国中21位と主要7カ国(G7)で最低となった。また日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2023」では、22年の1人当たりの労働生産性はOECD加盟国中31位となった。円安が要因とはいえ、GDP全体でも人口が日本より3割以上少ないドイツに抜かれ、4位に転落した。日本の経済的地位の低下を嘆く報道は恒例行事と化した感がある。しかし当面の順位にこだわるだけでは、日本が直面している問題の解決にはならない。本稿では日本経済の国際的地位を念頭に置きながら、労働生産性の向上を含めた日本の選択肢について述べたい。1人当たりGDPや労働生産性などの経済的豊かさに関する指標の国際順位が調査により異なるのはなぜか。1人当たりGDPも労働生産性も分子はGDPだが、それを割る分母の指標が異なる。1人当たりGDPでは人口、労働生産性では労働者数や労働時間数で割っている。さらに影響が大きいのはドルに換算する際の為替相場の違いで、内閣府の順位ではその時々の為替レートを使うため最近の円安が大きく影響する。一方、日本生産性本部の指標ではドル換算時に購買力平価を使う。購買力平価は日米の生活水準を同じくするレートで計算されており、00年は1ドル=155円、22年は同98円とむしろ円高になっている。つまり現在の日本の財・サービスは品質が良く、米国ではより高く売れるということだ。それでも労働生産性が22年に31位まで後退しているのは、日本の就業者比率が高く、欧州でユーロの評価以上に生活水準の高い国があるからだ。従って労働生産性の順位こそ深刻に受け止めるべきだろう。長年にわたる1人当たりGDPや生産性の低迷はなぜ起きたのか。筆者らは21世紀初頭から生産性の国際比較をしてきたが、この間アベノミクスに代表される財政・金融政策頼みの経済運営により、生産性向上のための構造改革が置き去りにされてきたと感じる。かつて政府は「世界最高水準のIT(情報技術)社会の実現」という目標を掲げた。だが依然マイナンバーの普及が十分でなく、ライドシェア一つ実現できていない社会を世界最高水準のIT社会と呼べるだろうか。実際、労働生産性の順位は10年代半ばごろから急落している(図参照)。構造改革を労働強化とする批判も生産性向上が進まない一因だが、新技術の習得に努めなければ経済的な豊かさどころか安全性も維持できなくなりかねない。筆者らが日本経済の課題の一つとして生産性向上を唱え始めたころは、日本経済はいずれリバウンドするという期待があった。だが当初の予想を上回る長さの低迷から考えると、この流れを直線的に延長していけば、予想される未来は「緩やかなアルゼンチン化」だ。地球の反対に位置しながら、経済成長の分野で両国は奇妙な縁がある。産業革命を経て先進国化した欧米諸国の次に先進国入りをするのはどの国かということが議論された際に、候補として挙げられたのが日本とアルゼンチンだ。その後は大方の予想を裏切り日本がアルゼンチンよりも経済的に成功したが、21世紀に入り日本はアルゼンチンの後を追うように坂を転がり続けている。世界銀行のデータでは、1995年から22年の労働生産性順位の変化を見ると、日本は28位から45位、アルゼンチンは44位から55位へとともに順位を落としてきた。アルゼンチン化の特徴の一つは、良質なヒト、モノ、カネが国を見捨てて流出していくことだ。ヒトに関しては、日本の教育水準の高さは先進国でも群を抜いている。スポーツでも、両国とも野球の大谷翔平やサッカーのメッシという百年に一度ともいわれる才能のある選手を輩出している。しかし彼らが実力を発揮した場は欧米だ。日本であれば二刀流というイノベーション(革新)は十分に許容されなかったのではないか。実際、人口が減少するなかでも、日本人の海外永住者数は増え続けている。イノベーション不足の国ではモノへの投資も海外へ向かう。従来型ビジネスで稼ぐには、日本企業は低金利で調達し収益性の高い海外で投資した方が有利だ。最後のカネに関しては、アルゼンチンは何度も資本流出により経済危機に見舞われた。日本でもその兆候は見え始めている。22年から欧米が金利を引き上げたのに対し、日本はゼロ金利を維持しており、資金の流出と円安を招いている。良質のヒト、モノ、カネの流出はさらなる貧困化を招き、皮肉にも人々は一層政府への依存度を高めることになる。だが政府自身に経済を活性化する機能はない。最終的にアルゼンチンのように肥大化して身動きがとれなくなった政府に徹底した「ノー」を突き付けるような状況が日本に訪れる可能性は否定できない。「緩やかなアルゼンチン化」から逃れる方法はあるのか。一つは従来型の成長戦略をより強い形で実行していくことだろうが、実現性が低いかもしれない。既得権益や規制の壁も大きな理由の一つだ。加えて長年の経済低迷の影響で、90年代までに社会人としての経験がない世代には、改革後の成長のイメージが浮かばず説得力に欠けるのだ。いわゆる氷河期世代以降は成長期の体験が乏しく、停滞する日本経済だけを見てきた。彼らにとって、日本は経済活力や科学技術の面で世界的に優れた国ではない。こうした世代には、経済的豊かさを優先した世代のシナリオは魅力的でなく、生活の豊かさまで包含したビジョンが必要だろう。1月18日付本欄で滝澤美帆・学習院大教授が紹介した日本生産性本部の生産性を含む包括的な豊かさの指標を探る試みも昭和的な成長志向の修正を企図している。だがより経済学的、政策的なアプローチは、パーサ・ダスグプタ英ケンブリッジ大名誉教授が「生物多様性の経済学」で示した「資本アプローチ」だ。資本アプローチは、人々の生活を豊かにするサービスを市場経済から供給されるサービスに限らず、環境を含めた市場外のサービスにまで拡張してとらえ、それらを提供する基盤となる民間資本、社会インフラ、自然資本、人的資本などの組み合わせを政策目標として考える。このアプローチが定着するには時間がかかるだろうが、これまで経済的豊かさの指標として君臨してきたGDPも将来はより包括的な豊かさを取り入れたものへと変化していくだろう。GDPや生産性の低迷をきちんと受け止めることは大切だが、単なる過去への回帰ではない「豊かさ」への戦略を練る必要がある。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240308&ng=DGKKZO79073400Y4A300C2MM8000 (日経新聞 2024.3.8) 曲がる太陽電池を優遇 経産省、電力買い取り額上乗せ 経済産業省は再生可能エネルギーの電力を高く買う固定価格買い取り制度(FIT)で、軽くて曲がる次世代の太陽光発電装置「ペロブスカイト型」を優遇する。2025年度にも同型による発電をFITに加え、通常の太陽光発電より高く買い取る。新技術への民間投資を促し、日本の再生エネの拡大につなげる。経産省はペロブスカイト型の買い取り額を、現行の太陽光向けの水準を上回る1キロワット時あたり10円以上で調整する。ペロブスカイト型の太陽電池はビル壁や窓など今まで設置できなかった場所でも発電できる。日本発の技術で、耐久性といった開発段階の品質では日本勢に優位性がある。一方、中国企業は量産を始めており商品化で先行する。FITでの優遇で、日本勢の関連ビジネスの競争力を高める。国土の狭い日本では太陽光パネルを設置できる余地が狭まっており、各地で林地開発のトラブルも相次ぐ。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部のビルの壁面といった新たな発電場所を開拓できる。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC231FM0T20C23A5000000/ (日経新聞 2023年8月17日) 省エネ窓にリノベ、家計守る 高断熱ガラス売り上げ2倍 省エネ性能の高い窓に交換する世帯が急増している。大手メーカーの高断熱や複層ガラスの売り上げは前年比2倍の伸びで、冬場に向けて増産の動きもある。背景には冷暖房コストが増すなか、断熱性に優れた窓に交換して電気代を抑えたい需要の高まりがある。修繕工事の一環で全136戸の窓ガラスを日本板硝子の省エネガラス「スペーシア」に、2022年に交換した東京都立川市のマンション。住民の後藤和夫さんは「夏の電気代が2〜3割減った」と語る。スペーシアの3月以降の売り上げは、前年同期比約2倍と好調だ。スペーシアは2枚のガラスの間に0.2ミリメートルの真空層をつくることで、熱の伝導や対流を抑える。厚さは1枚ガラスとほぼ同じだが、4倍の断熱効果がある。施工費用などを除いたガラスのみで、1平方メートルあたり約5万円で注文できる。スペーシアは1997年の開発以来、通常のガラスと比べて価格が数倍高いこともあり、販売は思うように伸びなかった。電気代の上昇が家計を圧迫するなか、断熱性能の高い窓ガラスへの交換需要が増えている。東京電力ホールディングスや中国電力など大手7社は6月、火力発電所に使う液化天然ガス(LNG)価格の上昇などを理由に家庭向け電気料金を1〜4割程度値上げした。7月から電気料金は下がっているが、依然として高水準のままだ。AGCの複層ガラスも4〜5月の販売数が前年比で5割増え、6月は2倍に伸びている。工場の稼働はフル生産しているが、納期は1カ月以上先になる場合もあるという。秋以降に設備投資して、最大15%程度の増産を検討する。建築ガラスアジアカンパニー日本事業本部の古賀潔氏は「節電のために窓を交換する世帯が増えている」と指摘する。政府の補助金も追い風となっている。政府は23年度から省エネ性能の高い窓ガラスや窓枠の交換費用のうち、1戸あたり上限200万円まで補助する「先進的窓リノベ事業」を展開している。予算枠は約1000億円で、3月31日から交付申請を受け付けている。8月16日時点で申請額は予算の5割を超える。22年度の補助制度と比べて補助額の上限が大きいため、高額でも断熱性に優れた窓ガラスへの交換を後押ししているとみられる。「補助金の枠を使い切ってしまう可能性は十分ある」。LIXILの瀬戸欣哉社長は指摘する。同社では想定の6〜8倍の注文があり、4月の取替窓の販売は10倍に伸びた。瀬戸社長は「断熱性のある窓に交換する需要はこれからも大きくなるだろう」とみる。記録的な猛暑が続く中、より手軽に窓回りの断熱性能を高めるグッズを購入する消費者も増えている。ホームセンター大手のカインズでは、「断熱カーテンライナー」の販売が好調だ。ニトリでも通販サイト内の節電グッズ特集で遮熱性能のあるレースカーテンや遮熱窓シートなどを紹介している。 *1-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0641G0W3A001C2000000/ (日経新聞 2023年10月8日) 断熱窓への改修補助金、経済対策で延長へ 政府 政府は住居の窓を断熱性の高いものに改修する工事への支援制度を延長する方針だ。工事にかかる費用の半分ほどを国が負担する仕組みで、エネルギー消費が増える冬場を見越して対応を促す。10月中にまとめる経済対策に盛り込む。制度は2023年度から始まった。戸建て・集合住宅のリフォーム工事が対象で、登録した事業者が施工する場合に適用する。事業者を通じて手続きする。断熱窓は窓枠を二重にしたりガラスに熱を通しにくく加工したりしたものを指す。補助額は1戸あたり最大で200万円で、窓の性能やサイズなどで変わる。10月上旬時点での申請額は予算規模のおよそ7割に達した。この秋に取りまとめる経済対策で国内投資の促進策として制度延長を打ち出す。環境省は24年度予算の概算要求で1170億円を求めた。予算が足りなくなる可能性があると判断し前倒しで23年度補正予算案に計上する見通しだ。住宅内の熱の出入りは7割が窓を通じているとされる。断熱にすれば冬場で3割ほどの電力を抑えられる効果があるという。 *1-2-1:https://bizgate.nikkei.com/article/DGXZQOLM113VK011092023000000 (日経新聞 2024/1/31) NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム:SDGs 海洋保全 脱炭素:大阪湾護岸に「藻場」創出 大阪府、海洋保全で官民連携、ブルーオーシャン・イニシアチブと事業連携 兵庫県とアライアンス設立 大阪府が大阪湾の護岸に海藻などの「藻場(もば)」を創出するため、民間企業との連携を強めている。一般社団法人ブルーオーシャン・イニシアチブ(BOI)と2023年8月に事業連携協定を締結。2024年1月には兵庫県と「大阪湾ブルーカーボン生態系アライアンス(MOBA)」を設立した。2025年の大阪・関西万博で藻場創出の取り組みを国内外に発信する。藻場は海の生物多様性を増すほか、二酸化炭素(CO2)を吸収して長期で貯留できるため、持続可能な開発目標(SDGs)達成に寄与するとして注目を集めている。官民連携を通じて藻場を生み出すための様々な課題を解決する。 ●「ミッシングリンク」解消目指す 海藻類が育つ藻場はCO2の吸収源となるほか、魚類など生き物のすみかとなる。酸素の供給など水質改善の効果も期待できる。しかし、大阪湾のうち北は大阪市から南は貝塚市までの「湾奥部」(海岸線延長約180㎞)は大半がコンクリートなどでできた人工護岸で藻場はほぼ存在しない。一方、泉佐野市以南の湾南部や西部には海藻が自生しており、淡路島や兵庫県南部を含めた大阪湾全体で見ると「湾奥部だけが藻場がない『ミッシングリンク(連続性が欠けた部分)』になっている」(大阪府環境農林水産部環境管理室環境保全課の田渕敬一課長補佐)という。大阪府は湾奥部に藻場を創出することで、大阪湾全体を藻場や干潟などの回廊でつなぐ「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げ、その実現には主に3つの課題があるとみている。第1の課題は船舶などの港湾利用に影響を及ぼさず藻場を創出する技術だ。第2の課題は海藻が海面下にあるため生育状況を確認するための費用がかかる点だ。第3の課題は護岸の多くは企業の所有地に面していて近づけないうえ、海藻を育成したい人が限られること。大阪府はこれらの課題を解決するための事業に着手した。 ●湾奥部でワカメを育成 大阪湾奥部は大都市圏から流入する河川などの影響で汚濁物質がたまりやすく、水質改善が課題となっている。そこで傾斜型の護岸に海藻が定着しやすい技術を確立して藻場を創出し、そこから周辺の護岸に広げていくことを目指している。2021年12月には大阪市が管理する「大阪南港野鳥園」の護岸にある消波ブロックにワカメを育てる30センチ四方のパネルを設置した。徳島県鳴門市産のワカメの胞子がパネルについて大きくなる仕組みで、漁礁工事の日本リーフ(兵庫県南あわじ市)が公募で事業者に選ばれた。府はこの事業にかかった経費の半額を補助金として支給。ワカメは順調に育ち、2022年4月にはワカメが繁茂していることを確認できた。護岸に面した事業所を所有する企業とも連携する。2022年にENEOS堺製油所(堺市)の護岸で環境省のモデル事業として海底にブロックを設置してワカメを育てた。波が想定より小さく、ワカメは育たなかったが、府は知見を生かして他の方法で藻場創出を支援する。 ●スタートアップなどの技術に期待 大阪府は2023年8月に一般社団法人のBOIと事業連携協定を締結した。2022年12月に設立されたBOIは海のサステナビリティ(持続可能性)実現に向け、産官学民の関係者が協力して活動している。具体的には、①長崎県対馬市と連携した海洋プラスチックごみ削減②魚類などの海洋資源保全と関連事業の活性化③ブルーカーボンクレジットの推進など海洋に関する気候変動対応――の3分野を中心に、「海の万博」といわれる2025大阪・関西万博を経て、SDGsの期限である2030年を目指し活動を推進する。大阪府は連携を通じてBOIに「MOBAリンク構想」に参画してもらい、海藻などの生態系に関する技術やノウハウを有する企業とのネットワークを構築し、湾奥部における藻場創出を加速する。例えば、BOIのメンバーであるスタートアップが保有する海洋ドローンなどの技術を活用して海中を「見える化」し、海藻の生育状況を調べることなどを想定。国内の他の地域で実績がある海藻の育成技術などの提供にも期待する。BOIのメンバーであるNPO法人ゼリ・ジャパンが2025大阪・関西万博で設けるパビリオンやイベントでMOBAリンク構想を国内外に発信する。例えば、来場者が大阪湾の海藻の周りに魚などが生育している様子を水中ドローンの映像で体感するイベントなどを想定する。 ●兵庫県とのアライアンスで会員募集 大阪府は2024年1月、兵庫県と「大阪湾ブルーカーボン生態系アライアンス(MOBA)」を設立した。具体的な活動内容として①取り組み状況の情報発信や普及啓発②ブルーカーボン生態系創出の取り組みを活性化③会員の連携による新たな事業の創出④藻場の創出が生物多様性などに与える影響の把握――などを予定。大阪湾MOBAリンク構想の実現に向けて、MOBAの活動に賛同する企業や団体、研究機関、行政機関などの会員を募る。2025年の大阪・関西万博で事業の認知度を高め、2026年度からSDGsの達成期限である2030年にかけて藻場の創出を加速させる。 *1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1195380 (佐賀新聞 2024/2/17) アカウニの資源回復へ大型種苗放流 唐津市の漁業者とNPO法人、収穫までの生存率を検証 唐津ブランド・アカウニの資源を回復しようと、唐津市内の漁業者とNPO法人「浜-街交流ネット唐津」が6日、アカウニの大型種苗を放流した。生残率を検証するため、今回は種苗を小型から大型に変えた。魚やウニのすみかとなる藻場の磯焼けで、近年はアカウニの資源が大きく減少している。これまでは佐賀県内で生産されている小型アカウニの種苗を放流してきたが、小型種苗は魚の食害を受けやすく、生残率が低いという。山口県の報告書によると、放流して1年後の平均生残率は殻径1センチ以下で9・5%、1・6センチ~2センチで52・4%、2センチ以上で80・5%。今回は長崎県の種苗センターから3センチサイズを調達し、市内の沿岸に放流した。今後は収穫までの生残率を定期的に調べ、効果的なアカウニ種苗の放流を検証していくという。NPOの千々波行典代表理事は「唐津を代表するアカウニの資源が減り、危機的な状況が続いている。資源回復の効果を確認していきたい」と語る。 *1-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1205735 (佐賀新聞 2024/3/7) 洋上風力発電推進へ庁内組織立ち上げへ 唐津市 唐津市は7日、佐賀県が唐津市沖に誘致を検討している洋上風力発電事業を巡って、有望な区域への指定を進めるため副市長をトップとした庁内組織を立ち上げる方針を示した。経済部、漁業や港湾振興の部署など横断的な体制を立ち上げていくという。同日の市議会一般質問で伊藤泰彦議員(清風会)が質問した。峰達郎市長は「事業を早期に実現することは地域振興、経済波及効果が大いに期待できる」とし、「『一定の準備段階に進んでいる区域』から『有望な区域』へ整備されるよう推進体制を構築し、地元の理解を賜り、早期に次のステップに進めるよう尽力したい」と答弁した。国は2021年9月、唐津市沖を第1段階の「一定の準備段階に進んでいる区域」に整理した。次の段階として、利害関係者を特定した上で、法定協議会の設置について了解を得る必要がある。県と市は候補海域と隣接した五つの離島や相賀、湊地区などで説明会を開く一方、住民からは観光地の景観や沿岸漁業への懸念の声が出ている。峰市長は取材に対し、「待ったなしの状況で、集中的にアクションを起こしていきたい。地元住民の不安に対し、一歩踏み込んで説明していかないといけない」と語った。 *1-2-4:https://bizgate.nikkei.com/article/DGXZQOLM21AEA021122023000000 (日経新聞 2024/1/9) NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム:ニッスイ、積み重ねた養殖技術への誇り、水産資源を守り未来につなげる ニッスイは、2022年4月に長期ビジョンを発表し、中期経営計画に着手、同年12月には社名を変え、新たな成長に向けてスタートを切った。ミッションに掲げる「新しい"食"の創造」の実現のひとつとして、養殖技術開発に力を入れる。ニッスイが目指す持続的な水産業の未来とは。中央研究所大分海洋研究センターの取り組みを追った。 ●天然資源への負荷を低減する サステナブルな養殖技術 ニッスイは、2022年4月にミッション(存在意義)を「海で培ったモノづくりの心と未知を切り拓く力で、健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい"食"(Innovative Food Solutions)を創造していく」と定義した。時代や環境の変化に応じて"食"の新たな可能性を追求し、社会課題を解決していくことがグループの使命であると宣言した。環境負荷を抑えて高品質な養殖魚を持続的かつ安定して出荷するには、養殖技術を高めることが欠かせない。ニッスイが養殖事業の研究開発を担う中央研究所大分海洋研究センターを設置したのは、1993年のことだ。大分県佐伯市にあるこの研究所では、現在、養殖に関する基礎研究から事業化に向けた応用研究まで、約30人の研究員と支援員がそれぞれの研究分野に取り組んでいる。 ●人工種苗・育種技術の高度化により 年間を通じて高品質ブリを提供 大分海洋研究センター研究員の山下量平氏は、現在ブリ養殖の中心メンバーとして基礎研究から事業化に向けた応用研究までを担っている。ニッスイのブリ養殖の歴史は、04年にブリの養殖会社を事業譲受して黒瀬水産を設立したことから始まった。翌05年には、大分海洋研究センターで親魚から採卵し、受精卵から一貫して人の手で管理するブリの人工種苗の開発に着手した。一般的なブリの養殖では、「モジャコ」と呼ばれる天然の稚魚を取り、大きく育ててから出荷しているが、産卵後成熟後期の夏以降にブリがやせてしまい、周年にわたって品質の良いブリを生産するのは困難だった。そこで、ブリの産卵時期は年1回だが、任意の時期に産卵させることができれば、周年を通して安定したサイズ・品質のブリができると考え、成熟誘導技術の開発を進めた。この任意の時期に産卵をさせる成熟誘導技術と、育種による優れた特性を持つブリを選別し次世代につなげることの組み合わせで、1年を通して育成のスピードが速く高品質のブリの出荷が可能となった。22年度には、黒瀬水産が出荷する「黒瀬ぶり」の全量が人工種苗によるものとなり、23年には年間200万尾の出荷を目指している。山下氏は「長年蓄積してきた高度な養殖の知見・技術によって、高度な養殖が実現するとともに、成熟誘導や種苗生産技術の開発により時期をずらしながら種苗を生産することで、完全養殖ブリの周年出荷が実現しました。世界を見てもこの養殖技術はニッスイの強みだといえます」と話す。ただ、生き物が相手なだけに、研究は困難の連続だ。現在は完全養殖を始めてから5世代目の育成を進めているが、養殖環境下で遺伝的な多様性を確保しながら改良を続けているという。「人工種苗100%の完全養殖を実現したことで、現在では年5回、時期をずらしながら種苗を生産できるようになりました。今後は成長性や安定した品質はもちろん、環境負荷の軽減も考えていかなくてはなりません」と山下氏は話す。その解決のために、飼料や魚の性質の改良を進め、環境負荷を低減する研究にも取り組んでいる。選抜育種と人工種苗の技術を磨いたことで、高品質なブリを夏場でも出荷できる強みにもなった。差別化した安定供給できる商品を増やしていくことは、水産市況の変動の影響を低減して、収益の安定化にもつながっている。 ●養殖技術を拡大し 新しい"食"の創造に貢献 ニッスイは養殖事業の拡大を長期ビジョン・中計の成長戦略のひとつに位置づけており、国内ではブリ以外にはギンザケの養殖にも注力している。ギンザケの場合は、淡水で約1年稚魚を育成してから、生育に適した海水温になった時期に海上のいけすに収容し、半年間飼育してから出荷される。大分海洋研究センターでは、ギンザケの稚魚が早く海水に適応できるようにする研究などにも取り組んでいる。また、ニッスイでは近年注目度が高まっている陸上養殖にも着手しており、20年に地下海水を利用したマサバの陸上循環養殖の実証実験を開始している。23年4月には「閉鎖式バイオフロック法」を用いたバナメイエビの陸上養殖を事業化した。世界的には人口増加や健康志向の高まりなどを受け、水産物の需要は右肩上がりに増加しているが、漁獲量自体は増えておらず、その増加分を補っているのが養殖だ。日本はかつて水産大国といわれ、長年天然の水産物の恩恵を受けてきたが、近年縮小する漁業生産を補う養殖の重要度は高まっている。水産資源の枯渇や持続可能性への懸念が指摘されるなか、効果的な漁業管理など適切な処置による漁業資源の維持や再生が重要になっている。食の安全や環境負荷の低減などの観点からも、ニッスイが養殖の研究開発を続ける意義は大きい。「ニッスイが取り組む以上、高いレベルの品質を維持して安全・安心を提供しないといけない。新しい"食"を創造するために研究開発を重視する方針を会社として守り続けているからこそ、今の養殖事業があります。養殖の研究は私にとってライフワークであり、人生を懸けて取り組むことにやりがいを感じています」と山下氏は語った。 *1-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1210627(佐賀新聞 2024/3/16)スミノエガキ養殖、海況改善へ 基幹のノリ漁不作で取り組み 佐賀県有明海漁協新有明支所青年部 有明海の海況が悪化して赤潮の発生が長期化するなどし、基幹漁業のノリ養殖の不作が続いている。環境改善へ、赤潮の発生原因となる植物プランクトンを捕食するスミノエガキの養殖に、佐賀県有明海漁協新有明支所(白石町)の青年部が取り組んでいる。河口域の低塩分に強く成長も早いため、漁業者の収益向上も期待できるという。取り組みが評価され、3月上旬の全国青年・女性漁業者交流大会で資源管理・資源増殖部門最高賞の農林水産大臣賞に選ばれた。スミノエガキは国内では有明海にのみ生息し、夏に大雨が降った後に産卵するなど淡水の流入による河口域の低塩分化にも強いとされる。成長が早く、マガキの養殖が一般的に出荷まで2年かかるのに対し、単年出荷が可能という。昭和30年代ごろまで養殖が盛んだったが、ノリ養殖の発展とともに衰退していた。有明海のノリ養殖は海況の悪化で生産が不安定になっており、新有明支所では色落ち被害が起き、2021、22年度の生産量は例年の半分以下に落ち込んでいる。同支所青年部(15人)はサルボウなど二枚貝の減少が要因の一つと考え、県有明水産振興センターからの提案を受け、スミノエガキの養殖に着手した。22年度は天然のスミノエガキを10~12月の2カ月半、はえ縄式の養殖施設でかごに入れて海中にカキを垂下したところ、むき身の肥満度が5%向上し、グリコーゲン量も1・3倍に増加した。海底では干潮時にプランクトンを捕食するが、海中につるすと潮の干満に関係なく常時捕食でき、身入りが良くなった。年明けにも再度養殖し販売した。23年度は単年養殖に取り組み、塩田川河口域で天然採苗にも成功して、間もなく収穫期を迎える。24年度は作業を軽減する機器を導入して、さらに養殖に取り組む予定という。取り組み開始時に部長を務めた木下祐輔副部長(35)は「海況を改善し、食べられて、収入にもなり『一石三鳥』。3、4月が旬で、3月中旬に終わるマガキと出荷時期が違うため、需要や価格面でも今後期待できるのでは」と話している。 *1-2-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1208602 (佐賀新聞 2024/3/13) 農業基本法改正 有事対応と活性化同時に 国際紛争の激化や気候変動などに対応する新たな農業政策を展開するため、政府は農政の在り方を示す食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定した。今国会で成立させ、食料供給システムの強化を図りたい考えだ。1999年の同法施行から実に25年になり、この間、国内外の情勢は大きく変化した。時代にふさわしい内容にするのは当然だ。打ち出した基本理念は「食料安全保障」。具体的には「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。有事に対応した備えは重要だ。だが足元を見ると、担い手の減少や高齢化の進展、農地の減少などによって日本農業の足腰が弱っていることは明白だ。ここを修復しない限り、どんな理念を掲げても内容を伴うことは難しいのではないか。農業が魅力ある産業となり、若者や都市在住者らの新規就農が促されなければならない。ITの活用によるスマート農業の進展や農地のさらなる集約、輸出環境の整備などによって現場を活性化させ、生産基盤の一層の強化に取り組むことが不可欠だ。これまでも取り組んできたが、今回の改正を機に改めてその重要性を認識し、取り組みを加速させたい。政府は今回の農政転換の背景として、地球温暖化の進行や、物流の途絶などを挙げ、食料供給量が大幅に不足するリスクが増大していると指摘した。確かにウクライナ危機による穀物相場の高騰や中東情勢の緊迫化による海運の混乱は、海外依存度が高い日本のアキレス腱(けん)をまざまざと見せつけた。日本のカロリーベースの食料自給率は38%で先進国の中で最低だ。専門家の間では相対的な経済力の低下などが影響し、世界市場での食料買い付け力が落ちてきたとの指摘もある。政府は基本法改正に併せて、食料安保政策を具体的に進める食料供給困難事態対策法案と農地法改正案も決定。困難事態対策法案は、気候変動に伴う穀物類などの主要産地の生産不安定化などを想定し、深刻度に合わせ、農業者への生産拡大要請など3段階の対応を規定した。国民が最低限必要とする食料が不足する恐れがある場合は、生産転換や割り当て・配給を実施し、実効性を担保するために違反や拒否には罰則も設けた。極端な例としては、花卉(かき)類を生産している農家に、イモなどカロリーの高い農作物を栽培するように強制するケースも想定できる。こうした対応を取らざるを得ないような状況は緊急事態だろうが、私権を制限することになるだけに、必要性や具体的な内容を丁寧に説明しなければならない。なぜここまでの想定をしなければならないのか、国会で十分に議論を尽くしてほしい。日本農業は潜在力を十分に発揮できているだろうか。稲作は国内需要を上回る供給力を持ちながら、減産で価格を下支えしてきた。食料供給の大幅不足が懸念されるというのなら、コメ生産能力のフル活用も考えたい。国内市場は縮小しているが、国内で消費できない分は輸出に回し、いざというときは国内に戻す構想は検討に値するのではないか。まずは日本米のさらなる海外市場開拓に官民の知恵を絞りたい。 *1-2-7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1210513 (佐賀新聞 2024/3/16) 魚の養殖×野菜栽培、新たな農業模索 水を循環、CO2も活用 熊谷組が佐賀市で実証事業 佐賀市は、市清掃工場(高木瀬町)周辺で、ゼネコンの熊谷組(本社・東京)が実証事業を始めると明らかにした。清掃工場から出る二酸化炭素(CO2)を活用しながら、魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた新しい農業「アクアポニックス」の事業化を目指す。アクアポニックスは、魚の養殖と植物の栽培を組み合わせた循環型農業。魚を養殖した水を、水耕栽培で再利用し、溶け込んでいる窒素やリンを植物が養分として吸収する。水は再び、養殖で使用するため水槽に戻す。化学肥料をやったり、土を耕したりする必要もなく、資源循環型のシステムとして注目を集めている。市バイオマス産業推進課によると、同社は既に佐賀市などから2人を雇用。4月下旬からマスを2千匹規模で養殖し、約40平方メートルの水耕ベッドで葉物野菜を育てる。CO2を活用することで脱炭素社会への取り組みを強化しながら、野菜の生育促進に役立てる。実証事業は6人体制で、少なくとも3年間実施する。量や質の確保、他社との差別化、販売ルートの確保などの観点で検証する。市は「資源循環の取り組みとして互いに共感することが多く、佐賀市のフィールドを選んでいただいたと感じている」と話す。 *1-2-8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1205171 (佐賀新聞 2024/3/7) 爆発的繁殖力の外来水生生物 佐賀市、除去作業に苦慮 5年間で対策費倍増、農業被害も 爆発的な繁殖力で農業被害などをもたらす特定外来生物で水生植物の「ナガエツルノゲイトウ」や「ブラジルチドメグサ」が、佐賀市内のクリークや河川で繁茂を続けている。水位を調整する樋門や排水ポンプなどの機能に支障が出かねず、市は水面や根から除去し続けているが抜本的な解決策はない。対策費は2022年度に7154万円と、この5年間で倍増。一度除去しても残った部分から再生する力があり、堂々巡りの状況に市は苦慮している。ナガエツルノゲイトウは南米原産の多年生の浮遊植物で、長く折れやすい茎を持っている。河川やクリークに群生し、茎の切れ端からでも再生、繁殖するほか、長期間の乾燥にも耐える。一度農地に侵入すれば、農地を覆い、農作物の収量や品質、作業効率の低下を招く恐れもある。市内では2010年に初めて確認された。ブラジルチドメグサは15年に初確認。南米産の多年生の浮遊植物で扁平(へんぺい)な葉が特徴で、ナガエツルノゲイトウ以上に生育が速い。生育面積は把握できる農業用水路だけでも約10万平方メートルに拡大。ブラジルチドメグサが本年度初めて高木瀬地区で確認されるなど、まちなかにも広がっている。市農村環境課には農家から「ポンプの周りに繁茂し、支障が出ている」との相談が寄せられている。市は重機や人力で除去を行ったり、繁茂の激しい地区では、水路ののり面にコンクリートを張り付けたりと対策を行っている。一見、きれいに片付いたと思っていても、翌年にはびっしり繁茂したケースも。繁殖力の強さが、担当者を悩ませる。対策費も膨らんでいる。事業費(決算額)は、18年度の3540万円が22年度は7154万円と倍以上になった。市幹部の一人は「小中学校の給食費値上げ分を補助する費用を上回る額」とし、厳しい財政状況の中で対策事業が大きな負担となっていると指摘する。除去の相談が増えるのは例年、春先から。市は地元の協力も広げていこうと、「切れ端を回収する」「根から取り除く」といった市民への周知も始めた。市環境政策課は「繁茂が小規模な段階で、効果的に除去できるよう考えていきたい」とする。 *1-2-9:https://www.asahi.com/articles/ASS316T7WS29OXIE058.html (朝日新聞 2024年3月3日) 首都の「下水」が化学肥料に 東京都、全国普及へ国やJA全農と連携 化学肥料の原料価格が高騰し、国内農業に影を落としている。ほぼ全量を輸入に頼っている現状から抜け出そうと動き出した実験の現場は、農業に縁遠そうな東京。国と東京都は、巨大都市から大量に出る「下水」に目を付けた。農林水産省によると、化学肥料の主な原料となるリンを含むリン鉱石が国内では産出されないため、中国やモロッコなどからリン酸アンモニウムなどの形で必要量のほぼ全てを輸入している。しかし、ウクライナ危機や世界的な穀物需要の増加を受け、2022年に国際価格が急騰した。財務省貿易統計によると、リン酸アンモニウムの輸入価格は、同年7月には前年同時期の2・4倍に。23年以降、いったん下落したが、なお不安定な状況が続く。安定確保策として国が目を付けたのが、東京の「下水汚泥」だった。 *国と東京都は、下水汚泥から化学肥料の原料を取り出す実証実験を始めました。記事では、東京都が民間と共同開発した独自技術や、JAと組んで目指す全国普及について紹介します。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78735540U4A220C2TYC000 (日経新聞 2024.2.25) <サイエンスNextViews>危ういテクノロジー頼み 廃炉・温暖化、現実直視を 編集委員 矢野寿彦 原子炉3基が立て続けに炉心溶融(メルトダウン)した2011年の東京電力福島第1原子力発電所の事故。今も脳裏に焼き付く1枚の画がある。2号機取水口付近のピット(作業用の穴)から高濃度汚染水がじゃばじゃばと海へ流れ出る様子を伝えていた。おがくずや新聞紙、おむつに使われる吸水性ポリマーなどが大量に投入されるが、なかなか止水できない。流れる経路を調べるために使ったのは乳白色の入浴剤。あまりの「ローテク」な対応にあぜんとした。放射能の脅威を前に日本が誇ってきたはずの土木技術やロボット技術は敗北した。有事にはまったく使い物にならなかった。原子力ムラが築いた「安全神話」はもってのほかだが、この技術レベルでは安全神話なくして地震国での原発推進は難しかったともいえる。あれからまもなく13年。東電は24年1月末、23年度内に予定していた福島第1原発のデブリ(溶け落ちた核燃料)取り出し開始を三たび延期すると発表した。原子炉への貫通部が堆積物で埋め尽くされており、現状では英社と開発中のロボットアームが使えないことが判明したという。解せないのは3度目の延期ではない。釣りざお式という別の方法で24年10月ごろに数グラムの試験採取を目指すとしたことだ。過去に炉内調査で実績があるとはいえ、この方式は本格的な採取に移行できた場合に使うことを想定していないという。工程表にある「デブリ採取に着手」ありきと批判されても仕方ないだろう。1~3号機には推計880トンものデブリがあるという。どこにどのような状態で存在するかもわかっていない。すべてを取り出すことが技術的に可能なのか。無理だとしたら廃炉の「最終形」をどうするか。根幹に関わる議論が一向に進まないまま、多額のお金を投じて「全量取り出す」を前提に技術開発が進む。「地球沸騰」なる言葉がしっくりくるほど深刻化する気候変動の対策において、テクノロジーの進化で困難は乗り越えられると楽観するのも危うい。ここ数年、世界的な核融合フィーバーだが、発電に向けて技術は進化したのだろうか。それほどのブレークスルーは見当たらない。20年ほど前、日本とフランスが繰り広げた国際熱核融合実験炉(ITER)の誘致合戦を取材した。その際、核融合の世界にはこんなジョークがあることを知った。「あと50年、あと50年と言われ続けて50年」。太陽が膨大なエネルギーを生み出す核融合反応を地上で再現し安定的に発電するのは、永遠に「夢の技術」というわけだ。テクノロジーには原罪のように未知なる災禍の種子が蓄積されており、不可避的に突如はじける。仏思想家のポール・ヴィリリオ氏は著書「アクシデント 事故と文明」で技術文明が事故を発明する、と説いた。技術がもたらした危機は技術の力によって克服できる。こうしたテクノロジーの万能性への信仰は、廃炉にしろ温暖化対策にしろ、リスク回避の本質から目を背けていることになる。 *1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15880553.html (朝日新聞 2024年3月7日) (東日本大震災13年)原発 処理水、安全どう保つ 東京電力福島第一原発では処理水の海洋放出が始まり、敷地内のタンクが増え続ける状況が変化した。だが廃炉作業は足踏みが続き、終わりは見えないままだ。 ■放出作業、完了まで約30年 専門家「外部のクロスチェック必要」 処理水の海洋放出は、昨年8月24日に始まった。初年度の2023年度は、敷地内で保管しているタンクの水3万1200トンを4回に分けて放出する計画。24年度は、7回にわけて約5万4600トン分を流す。処理水は、汚染水を多核種除去設備(ALPS〈アルプス〉)に通し、大半の放射性物質を取り除いた後、トリチウムの濃度を1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)未満となるよう海水で希釈したもの。海底トンネルを介して沖合約1キロにある放水口から海に流す。処理水として放出するには、含まれる放射性物質が基準未満であることを確認する必要がある。ALPSではトリチウムを除去できないため、東電はまず、ALPSに通した後の水を分析し、トリチウム以外の29の放射性物質の濃度が放出基準を下回っているか確認する。さらに海水で希釈してトリチウムの濃度を薄める。放出直前の分析では、トリチウム濃度が基準未満かを確認。この水を蒸留させるなどして測定の邪魔になる不純物を取り除いた後、放射線を受けると発光する試薬を使い、光量から濃度を換算するという。第三者による分析は、日本原子力研究開発機構(JAEA)が担う。放出後も、東電や国、福島県が周囲の海水のモニタリングをする。東電は、トリチウム濃度が放水口近くで1リットルあたり700ベクレル、沖合10キロ四方で同30ベクレルを超えると放出を止めることにしている。これまでの分析結果は同22ベクレルが最大値で、すべて下回っている。海産物については、水産庁が放水口の南北数キロに設置した刺し網で捕獲したヒラメなどのトリチウム濃度を測定している。これまで、放出を停止するような異常な値は確認されていない。福島第一原発周辺の放射線測定を続けている小豆川勝見・東京大助教(環境分析化学)は、放出開始後の昨年10月に沿岸の海水や魚について、トリチウムを含む複数の核種の測定をして、異常値は検出されなかったという。「処理水の放出は1、2年で終わることではなく、これから何十年と続く。いつまで緊張感を維持して作業を続けていけるかが課題。外部の専門家などによるクロスチェックが必要ではないか」と話す。東電によると、処理水の放出は30年ほど続く見込み。年間22兆ベクレルを上限に、廃炉完了の目標時期とする51年までに終えるよう放出のシミュレーションを示している。今も福島第一原発には、汚染水をALPSに通した後の水を保管するタンクが1千基以上ある。処理水の放出によって保管する水の量が減り始めたとはいえ、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を冷やす水に地下水や雨水が加わることで汚染水は発生し続けている。汚染水対策はこれからも続く。 ■停滞する廃炉、見通し立たず 燃料デブリ取り出し、3回延期 今年度の廃炉作業では、汚染配管の撤去などは進んだものの、原子炉建屋の内部について大きな進展はなかった。作業の延期もあり、先行きはまだまだ見通せない。最も難航しているのは、廃炉作業の「本丸」といわれる溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しだ。1~3号機で計約880トンあると推計されているが、事故から13年が経とうとしている今も、1グラムも取り出せていない。まず2号機で数グラム程度の試験的な取り出しを始める予定だが、東電は今年1月、今年度中の着手を断念すると発表した。デブリを取り出すロボットアームの動作精度不足などが理由で、延期は3回目。当初は2021年の予定だった。改良に時間がかかることから、今年10月までに「釣りざお式装置」を使って取り出しをはじめる方針に切り替えた。ただ、釣りざお式で採取できるのは限られた範囲だけで、大規模な取り出しには役に立たない。ロボットアームを使った取り出しも24年度末までに着手するとしているが、不透明だ。本格的なデブリの取り出しについては、使用済み燃料の移動が済んでいる3号機から始める計画。廃炉のための研究や技術開発、助言をする原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が工法を検討している。NDFはこれまで、現状のままデブリ取り出し作業を進める「気中工法」と、原子炉建屋全体を鋼鉄の構造物で囲って建屋ごと水没させてから取り出す「冠水工法」を検討していたが、コンクリートなどの「充填(じゅうてん)材」を流し込み、固めてから掘削装置を使って削り出す「充填固化工法」を新たに検討するという。専門家でつくる小委員会が、三つの案の実現可能性などを整理した提言を近くまとめる予定だ。1号機については、使用済み燃料の取り出しに向け、建屋全体を覆う大型カバー設置の準備を進めているが、設置完了目標は23年度中から25年夏ごろに延期された。1号機では、原子炉圧力容器を支える台座の下部が全周にわたってコンクリートが失われ、鉄筋がむき出しになっていることが判明している。東電は、耐震性は保たれており、仮に原子炉圧力容器が沈み、格納容器に穴が開いたとしても敷地境界での被曝(ひばく)線量は「極めて軽微」と評価する。ただ、時間とともに老朽化が進むため、楽観はできない。 *1-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1205783 (佐賀新聞 2024/3/8) 福島原発事故13年 原発のリスク再認識を いまだに被災者に大きな影響を与え続けている東京電力第1原発事故から13年になる。この間に大きく動いた世界のエネルギーを取り巻く状況を見つめ、原発が抱えるリスクを改めて心に刻む日としたい。目指すべきは、高コスト、高リスクの大規模集中型電源から、しなやかで低コストの再生可能エネルギーを主とする分散型システムへの転換だ。この間のエネルギーを巡る動きを特徴付けるものの一つは化石燃料依存のリスクが鮮明になったことだ。石炭などからの二酸化炭素(CO2)がもたらす気候危機は「地球沸騰時代」と言われるまでに深刻化した。ロシアのウクライナ侵攻の影響で化石燃料価格は急騰、エネルギー関連の輸入額は三十数兆円に上り、多くの企業や市民が高騰の影響を受けている。一刻も早い脱炭素電源の実現が求められる。もう一つの特徴は急速に価格が低下している太陽光や風力発電の急拡大と発電コストや建設費の増大が招いた原子力発電の停滞だ。国際シンクタンクの調査によれば、原発の電力が世界の総発電量に占める比率は1996年の17・5%をピークに減少傾向が続き、2022年には9・2%で過去40年間で最低だった。多くの国が低コスト、低リスクで、導入までの時間が短い再生可能エネルギーを増やし、変動する電源を安定的に利用する技術や政策の実現を急いでいるのは当然だ。だが、自公政権のエネルギー政策はこの流れに逆行してきた。岸田文雄首相は気候変動対策としての原発推進を打ち出した。だが、気候危機対策では短期間に大幅なCO2排出削減が求められ、「今後10年が気候危機の将来を左右する」といわれる。新設はもちろん再稼働にも長期間を要する原発を重視する気候危機対策は非合理的だ。1基で100万キロワットを超える大規模な電源が自然災害によって一瞬にして失われることの影響の大きさを原発事故は教えた。能登半島地震で北陸電力志賀原発の再稼働の見通しがまったく立たなくなったことからも、原発が電力の安定供給に貢献するとの言説も疑わしい。日本政府や電力会社は、水素やアンモニアを利用して「CO2を出さない火力」を目指すことに注力している。だが、高コストで技術的課題が山積するこの手法が有効な気候変動対策となり得ないと指摘されている。限られた資金や人材の多くを原発や不確実な将来の新技術に投じたため、日本国内の再エネ市場は、他国に比べて大きく見劣りする結果となった。今になって大規模な洋上風力発電の開発を進めようにも、風車は輸入に頼るほかない状況で、小さな日本の市場が海外の投資家や企業から見向きもされなくなる懸念が示されている。政府は間もなく、エネルギー基本計画の見直しに着手する。世界の主流から後れを取った日本のエネルギー政策を根本から見直し、大転換を実現する最後のチャンスと言えるかもしれない。そのためには、経済産業省が指名した委員による委員会で、役所のシナリオに沿って政策を決めるという非民主的な手法を見直し、科学とデータに基づき、多くの市民や専門家の意見を聞きながら民主的な政策議論を進める「政策決定手法の大転換」も重要だ。 *1-3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/317278 (東京新聞 2024年3月25日) 志賀原発の敷地が平均4センチ沈んでいた 能登半島地震で 北陸電力は「影響はない」と説明 北陸電力は25日、能登半島地震後に志賀原発(石川県志賀町)の敷地内を測量した結果、地震前と比べ平均4センチの沈下を確認したと発表した。北陸電はオンラインの記者会見で「変動は小さく(安全確保に)影響はない」と説明した。 ◆隆起した地点はなかった 北陸電によると、測量した11カ所の沈下幅は4.74センチ~3.82センチで、隆起した地点はなかった。原子炉を冷却する海水の取水口に近い物揚げ場は3.96センチの沈下だった。また、敷地全体が西南西方向に平均12センチ動いていた。敷地内の地面に生じた段差や割れを約80カ所で確認。ほとんどが土を盛ったり埋め戻したりした場所で発生していた。担当者は「舗装が変形したためで、敷地内の断層が動いた形跡はない」と話した。能登半島地震では半島北側の沿岸一帯が隆起し、輪島市西部では最大4メートルに上った。地元住民によると、志賀原発から1キロほど北の岩ノリの漁場が数十センチ隆起したという。志賀2号機は新規制基準への適合性の審査中。北陸電の申請内容では、地震で原発北側の輪島市付近の断層が動いた場合、20センチ以下の隆起が起きると想定し、その場合でも冷却水の取水に影響は出ないと主張している。 *1-3-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/307026 (東京新聞 2024年2月3日) 断層上にある志賀原発は「次の地震」に耐えられるか 能登半島地震で高まった巨大地震発生リスク マグニチュード(M)7.6を記録し、200人余が犠牲となった能登半島地震。発生から1カ月たつ中、拭い去れない危惧がある。次なる地震だ。先月、半島北側の断層が大きく動いた影響で、周辺の断層も動く可能性があると指摘されている。懸念が強まるのが北陸電力志賀原発(石川県志賀町)。立地する半島西側は活断層が少なからず存在する。現状にどう向き合うべきか。 ◆震度5強以上の発生確率「平常時の60倍」 「いずれ志賀原発の近くでも大きな地震が来るんじゃないか」。能登半島の東端に位置し、先月の地震で甚大な被害が生じた珠洲市の元市議、北野進氏はそう語る。この3年ほど、能登半島は群発地震が活発化した。地震の規模が少しずつ大きくなっていたところに今回の大地震に見舞われた。そんな経緯がある中、志賀原発差し止め訴訟の原告団長も務める北野氏は「次の地震」に気をもむ。先の地震から1カ月を過ぎ、余震の数は減った。ただ気象庁は1月末に「今後2〜3週間程度、最大震度5強程度以上の地震に注意を」と呼びかけ、その発生確率は「平常時の60倍程度」と付け加えた。 ◆周囲100キロ以内で「地震活動は活発に」 研究者らも懸念を示す。先の地震は能登半島の北側で東西約150キロにわたって断層が活動したとされる。東北大の遠田晋次教授(地震地質学)が周辺の断層に与えた影響を計算したところ、今回動いたエリアの両脇、具体的には能登半島東側の新潟・佐渡沖、半島西側の志賀町沖の断層で今後、地震が発生しやすくなったという結果が出た。遠田氏は「佐渡島周辺や志賀町沖などで体に感じないほどの小さな地震が増えている。何らかのひずみが加わったサインだ」と解説する。「今後の地震の発生時期や規模は分からないが、陸地を含めて周囲100キロ以内の地震活動は活発になっており、しばらく警戒が必要だ」と説く。 ◆「流体」今回の地震のトリガーに? 「流体」の存在も気にかかるところだ。能登半島で起きた近年の群発地震は、地下深くから上昇した水などの流体が原因とされる。断層帯にある岩盤の隙間に流体が入り込み、潤滑油のように作用することで断層がずれやすくなったと考えられてきた。「流体が今回の地震のトリガーとなった可能性がある」と話すのは金沢大の平松良浩教授(地震学)。 今後も流体が断層活動を引き起こすのか。 ◆「地震を起こしやすくする力がかかった」 平松氏は「現時点では分からない」との見方を示す一方でこう続ける。「今回の地震によって、能登半島の西側を含め、北陸一帯の多くの断層帯に地震を起こしやすくする力がかかったことが分かっている。マグニチュードで7クラスの大地震発生のリスクは相対的に高くなった」。次なる地震で心配なのが志賀原発だ。立地するのは能登半島の西側。地震が起きやすくなったとも。原発の周辺は、活動性が否定できない断層が少なくない。北陸電の資料を見ると、原発の10キロ圏に限っても陸に福浦断層、沿岸地域に富来(とぎ)川南岸断層、海に兜岩沖断層や碁盤島沖断層がある。次なる地震に原発は耐えられるか。北陸電の広報担当者は、地震の揺れの強さを示す加速度(ガル)を持ち出し「原子炉建屋は基準地震動600ガルまで耐えられ、今回の地震による地盤の揺れは600ガルよりも小さかった。さらに2号機については1000ガルまで耐えられると新規制基準の審査に申請している。原子力施設の耐震安全性に問題はない」と話す。 ◆「想定を超えた」北陸電の言い分 北陸電の言い分はうのみにしづらい。そう思わせる過去があるからだ。同社が能登半島北側の沿岸部で想定してきた断層活動は96キロの区間。だが先の地震では、政府の地震調査委員会が震源の断層について「長さ150キロ程度と考えられる」と評価した。なぜ想定を超えるのか。「海底の断層を調査する音波探査は、大型の船が必要。海底が浅い沿岸部は、調査の精度が落ちる。近年は機器が改良され、小型化されたが、特に日本海側は調査が行き届いていない」 ◆現行の技術水準では全容捉えがたく こう指摘するのは新潟大の立石雅昭名誉教授(地質学)。陸の断層も「地表に見える断層が数キロ離れていても、地下で一つにつながっているかもしれない」。現行の技術水準では捉えがたい活断層の全容。それだけに安心もできない。志賀原発周辺で注目すべき一つは、北に約10キロの距離にある富来川南岸断層。この断層の全容は見方が割れる。北陸電の資料では陸域を中心に長さ9キロと書かれる一方、研究者からは、海まで延びる可能性を指摘する声が上がってきた。脅威の程度が捉えづらいこの断層。再評価を求めるのが名古屋大の鈴木康弘教授(変動地形学)だ。 ◆地表のずれとたわみ、志賀町内に点在 先の地震後に志賀町内を調べ、富来川南岸断層とみられる地表のずれやたわみが点在しているのを確認した。「1970年代から推定されていたが、今回の痕跡でより確度が高まった」。鈴木氏は「今後の活動が必ずしも迫っているとは思わない」と慎重な見方を示しつつ、「先の地震では、能登半島北西部の沿岸の断層がどのような動きをしたのかは分かっていない。今までの知見に頼らず、断層の評価を検討し直す必要がある」と語る。志賀原発の近くにあり、多大な影響を及ぼしかねない富来川南岸断層。同様に再検証が必要なのが、原発の西4キロの海域で南北に延びる兜岩沖断層という。北陸電の資料によれば、「活動性が否定できない」とされ、長さは4キロとある。 ◆「計算するまでもなく原発はもたない」地盤がズレたら… 鈴木氏は「本当にこの長さか。今回の地震で、沖合に長い断層があることで隆起が起きることが改めてわかった。原発付近も海岸に同様の隆起地形があることから、長い断層がないと説明できない」と訴える。原発に及ぶ地震の脅威でいえば、揺れ以外にも思いを巡らせる必要がある。地盤のズレもだ。元東芝原発設計技術者の後藤政志氏は「メートル単位で上下や水平方向にズレが生じたら、計算するまでもなく原発はもたない」と指摘する。原発は、揺れの大きさに対して耐震設計基準が示されている一方、地盤のズレなどにより「原子炉建屋が傾いたり、損壊したりすれば壊滅的な被害となる」。配管にズレが生じると取水できず、核燃料を冷却できなくなる可能性もある。 ◆手放しで安心できぬ規制委の判断 志賀原発は2012年、直下に断層があり、これが動いて地盤のズレが生じうると指摘された。原子力規制委員会は昨年、直下断層の活動性を否定する北陸電の主張を妥当と判断した。ただ、手放しで安心できるかといえば、そうではないと後藤氏は説く。「周囲の断層が起こす地震によって、直下断層の動きが誘発される恐れもある」。地震リスクの懸念が拭い去れない志賀原発。いま、何をすべきか。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「原発が止まっているとはいえ、核燃料がプールで保管されている。金属製のキャスクに移すなどの対策が必要ではないか」と述べ、災いの元凶になりうる核燃料の扱い方について早急に議論するよう求める。地震リスクは他の原発にも潜むとし「現状で動いている原発も止めた上で断層の再評価など規制基準の見直しが必要だ」と訴える。 ◆デスクメモ 被災した方々を考えると、次の地震が起こらないよう願うばかり。ただ核燃料は、まだ志賀原発に。プールは揺れやズレに耐えられるか。搬出すべきか。それは可能か。事が起きた時、被災地に残る方々が避難できるのか。願うばかりでは心もとない。どう備えるかの議論も必要では。 *1-3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1206413 (佐賀新聞 2024/3/8) 玄海原発3、4号機 基準津波を修正へ 九州電力が政府の調査結果を反映 九州電力は8日、原子力規制庁との会合で、玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の基準津波を修正する方針を明らかにした。政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が2022年に公表した日本海南西部の海域活断層長期評価を踏まえて検討した結果、想定される津波が既存値を上回ることが分かったという。7月をめどに原子炉設置変更許可を申請する見通し。地震本部が公表した日本海南西部の海域活断層長期評価では、九電が玄海原発3、4号機の再稼働に当たって検討したものとは異なる断層の評価が指摘されている。このうち、対馬南西沖断層群と第1五島堆断層帯が連動したケースでは、想定される津波の高さが6・37メートル、低さはマイナス2・65メートルとなり、現行の基準津波(高さ3・93メートル、低さマイナス2・6メートル)をいずれも超える値となった。一方、基準地震動への影響はないという。今後は、基準津波の修正に関する原子炉設置変更許可を申請するが、玄海原発の敷地の高さは約11メートルであることや、取水位置などの低さ(マイナス13・5メートル)も想定される津波に対して余裕があることから、現時点で設備面での変更や追加工事は発生しない見通しだという。 *1-3-7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1206983 (佐賀新聞 2024/3/10) <佐賀県内首長原発アンケート>玄海原発運転継続、15市町長「条件付き賛成」 最終処分場は全員「受け入れず」 佐賀新聞社が佐賀県内の知事と市町の首長を対象に実施した原子力政策に関するアンケートで、玄海原発(玄海町)の運転継続について15市町長が「条件付きで賛成」と回答した。反対はゼロだった。原発の今後に在り方に関し、「将来的に廃止」としたのは16市町長だった。原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場は全員が受け入れない考えを示した。玄海原発の立地町の脇山伸太郎玄海町長は、運転継続に唯一「賛成」と回答した。「国のエネルギー基本計画にのっとって、エネルギーミックスによる原発の割合を維持していくべき」という認識を示した。山口祥義知事は賛否の選択肢は選ばなかった。「原発への依存度を可能な限り低減し、再生可能エネルギーの導入を進める取り組みを積極的に行うべき」としつつ「一定程度、原発に頼らざるを得ない現時点においては、県民の安全を何よりも大切に、玄海原発と真摯(しんし)に向き合い続けていく」と回答した。「条件付き賛成」を選んだ首長は、その条件として「電力事業者、国の責任で安全性を追求し、可能な限り情報公開に努めてもらうこと」(村上大祐嬉野市長)、「使用済み核燃料の処理方法について国の責任で対策を講じること」(江里口秀次小城市長)などを挙げた。「どちらともいえない」とした深浦弘信伊万里市長は「事故が発生すれば取り返しがつかないことになるため基本的に反対の立場だが、電力は企業活動や市民生活を支える基礎的なインフラで安定的な供給は不可欠であり、原発を止められない現実がある」との認識を示した。原発の今後で「将来的に廃止」を選択した首長からは、「カーボンニュートラルの実現に向けて取り組む」(向門慶人鳥栖市長)、「再生可能エネルギーの導入を進めて原子力への依存度を下げていく」(松尾佳昭有田町長)などの見解が示された。原子力政策全般の課題に関し、岡毅みやき町長は能登半島地震を踏まえて「南海トラフ地震を含めた対策を一から見直すことも重要課題。代替エネルギーの研究も加速させるべき」と回答した。「住民の不安払拭(ふっしょく)のためにより一層の情報公開」(松田一也基山町長)「住民や近隣市町に課題を丁寧に説明し、安心して生活を送れるように努めてほしい」(永淵孝幸太良町長)といった注文もあった。アンケートは、官製談合事件で内川修治市長が逮捕、起訴されて不在の神埼市を除く20首長が回答した。 *1-3-8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1206979 (佐賀新聞 2024/3/10) <佐賀県内首長原発アンケート>7市町長、玄海原発の避難計画見直し「必要」 能登半島地震で課題浮上 東京電力福島第1原発事故から13年になるのに合わせ、佐賀新聞社は佐賀県の山口祥義知事と各市町の首長に、九州電力玄海原発(玄海町)の在り方や原子力政策に関するアンケートを実施した。元日の能登半島地震を受けて原発の重大事故時の避難ルートなどが課題に挙がる中、7市町長が現行の避難計画を「見直す必要がある」と回答した。他の自治体の首長も、見直しの動きを注視している姿勢がうかがえた。アンケートには首長20人が回答した。官製談合事件で内川修治市長が逮捕、起訴された神埼市は、市長不在として無回答だった。能登半島地震では北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の周辺で道路の寸断や家屋倒壊などが相次ぎ、避難と屋内退避の実効性が改めて問われた。原子力規制委員会は、住民避難などをまとめた原子力災害対策指針の見直しに着手している。アンケートで避難計画の見直しを「必要」としたのは、多久、武雄、鹿島の3市長と吉野ヶ里、みやき、有田、江北の4町長。横尾俊彦多久市長は「あらゆるリスクや課題を想定し、万全を期した対策を充実することが最重要」、松尾勝利鹿島市長は「避難が現計画で対応できるかなど再検討の必要がある」とした。他の12首長は「その他」を選び、原子力災害対策指針の見直しの動向を踏まえて「(規制委の)今後の議論を注視したい」(坂井英隆佐賀市長)といった意見が多かった。「現行の計画のままでよい」はゼロだった。武広勇平上峰町長は選択しなかった。玄海原発が立地する玄海町の脇山伸太郎町長は「新たな指針などが示された後、検討を加え計画の見直しが必要な場合は修正する」との考えを示した。隣接自治体の峰達郎唐津市長は「必要性に応じ、市民の生命と財産を守るために速やかに対応する」と答えた。山口知事は「(規制委の)議論の結果など、能登半島地震から得られた意見や気付きを検証し、避難計画の実効性を高めていく」と回答した。 <歳出改革の理念2←人口構造と高齢化社会≠高齢者への給付減・負担増> *2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240120&ng=DGKKZO77825980Z10C24A1EA1000 (日経新聞 2024.1.20) 公的年金、来年度2.7%増 0.4%分目減り 物価伸びより抑制 物価や賃金の上昇を受けた2024年度の公的年金額は前年度比で2.7%増額となり、1992年度以来32年ぶりの伸びとなった。年金財政の安定のために支給額を抑える「マクロ経済スライド」により、物価の伸びには届かなかった。同スライドはデフレ下で何度も発動が見送られており、抑制の長期化で将来の給付額が想定より減る懸念が高まっている。厚生労働省が19日、24年度の支給額を発表した。4、5月分をまとめて支給する6月の受け取り分から適用する。自営業者らが入る国民年金は40年間保険料を納めた場合、68歳以下の人は1人当たり1750円増の月6万8000円になる。厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯は、6001円増の月23万483円になる。モデル世帯は平均的な収入(賞与を含む月額換算で43万9千円)で40年間働いた夫と専業主婦のケースを指す。年金額は直近1年間の物価変動率と過去3年度分の実質賃金の変動率をもとに、毎年4月に改定する。23年度は厚生年金で月22万4482円、同年度に67歳以下の人の国民年金で月6万6250円だった。支給額は2年連続で増えたが物価や賃金の上昇分に届いていない。物価や賃金の伸びよりも支給額を抑えるマクロスライドの影響で、国民年金は実質年3600円ほど、厚生年金では同1万1500円ほど目減りする。24年度の物価や賃金を反映した改定率は3.1%だった。23年の物価上昇率(3.2%)と20~22年度の名目賃金変動率(3.1%)を考慮し賃金が物価を下回ったため賃金の変動率を採用。そこからマクロスライドによる0.4%分の抑制分を差し引き、最終的な改定率は2.7%となった。公的年金は現役世代から集めた保険料を高齢者に給付する仕組みのため、少子高齢化が進むと年金財政の維持が難しくなる。このためマクロスライドで支給額を抑えている。だが物価や賃金が下落するデフレ下では発動しないルールのため、2004年に導入されてからの20年間で4回しか発動されていない。支給額の抑制が想定より遅れると、マクロスライドを発動させる期間が長期化し、将来の給付水準が過度に低下する。特に基礎年金の抑制は現行のままなら、46年度まで続く見通しだ。この結果、現役男性の平均手取り収入に対する年金額の比率を示す基礎年金の「所得代替率」は、19年度の36.4%から46年度には26.5%と約3割も低下する見通しだ。25年は5年に1回の年金制度改正の年にあたり、24年中に具体的な改革案が示される。厚労省の審議会では財政に余裕のある厚生年金が基礎年金に資金支援して、給付水準の抑制を前倒しで終了する案が出た。就労を促進して高齢者の手取り収入を増やす方向の改正も議論されている。一定の所得のある高齢者の年金支給を減額する在職老齢年金制度も見直しを求める声が強い。老後の収入を充実させるために、個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)など私的年金の活用促進も重要になる。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員はマクロスライドについて「抑制期間の長期化を防ぐために、賃金や物価の下落局面でも毎年スライドを発動させるための議論が必要だ」と指摘する。 *2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15842823.html (朝日新聞 2024年1月20日) 公的年金、実質目減り 物価上昇率下回る2.7%増 来年度 公的年金の2024年度の支給額は、物価や賃金の上昇を反映して23年度より2・7%増えることが19日、決まった。増額は2年連続。ただし、物価上昇率よりは低く、将来世代に向けて今の年金を抑制する措置も2年連続で発動され、実質的な価値は下がる。年金額は毎年度、物価や賃金の変動を反映して、改定される。今回は、名目賃金の上昇率3・1%が、前年の物価上昇率3・2%より低く、賃金の変動幅に応じて改定される。さらに労働者数の減少や高齢化の影響による「マクロ経済スライド」も2年連続で発動されるため、0・4%分を差し引いた2・7%のプラス改定となる。上昇率は1992年度の3・3%に次ぐ高さとなった。支給額は人によって異なるが、自営業者やパート・アルバイトの人らが入る国民年金の月額(40年加入の1人分)だと、前年度より1750円増えて6万8千円。24年度中に69歳以上になる人なら、1758円増えて6万7808円。年額で初めて80万円を超えた。会社員や公務員などの厚生年金では、「平均的な給与で40年間働いた夫と専業主婦の妻の2人分」のモデル世帯で計算すると、前年度より6001円増えて、23万483円になる。本来、年金はインフレで物価が上がっても、買えるものが減らないように給付(支出)を引き上げる必要がある。ただし、年金の「お財布」に入る保険料(収入)は、賃金が上がれば増え、下がれば減る。もし物価上昇が賃金上昇を上回ると、支出が収入を上回り、財政が悪化してしまう。今回の改定では、物価の上昇率(3・2%)と、名目賃金の上昇率(3・1%)を比べ、低い方の賃金を改定率計算に用いた。少子高齢化の日本で、将来世代の年金を確保するには、さらなる措置が必要になる。保険料を払う現役世代は減り続ける一方、年金を受け取る人たちの高齢化が進む。その影響を織り込んで給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」だ。今回の改定では、この分で0・4%マイナスになる。この仕組みは04年の年金改正で導入されたが、デフレ下では十分に機能せず、今回がようやく5回目の発動となった。 *2-1-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240120&be=・・=DEA2000 (日経新聞 2023/8/19) 続く物価高、消費に影 生鮮・エネ除く指数4.3%上昇、食品高止まり、宿泊料伸び拡大 賃上げは追いつかず 物価の上昇圧力が続いている。7月の消費者物価指数は生鮮食品とエネルギーを除く総合指数が前年同月比4.3%上昇し、伸び率は再拡大した。食品や日用品の値上がりは家計を圧迫し、消費は伸び悩む。物価上昇と賃上げの好循環はなお遠く、景気回復の勢いも弱まりかねない。総務省が18日発表した7月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.1%上昇した。伸び率は6月の3.3%から縮んだものの、日銀が掲げる2%の物価目標を16カ月連続で上回る。価格が変動しやすい品目をさらに除いた指数をみると、物価上昇はむしろ勢いを増す。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比4.3%プラスで、2カ月ぶりに伸びを拡大した。消費者物価は2023年度の後半にかけて鈍化するとの見方もあるが、現時点ではまだピークアウトしたとは言えない状況にある。最大の要因は、全体の6割を占める食料の高止まりだ。7月はハンバーガーが前年同月比で14.0%上昇した。10%超えは13カ月連続。プリンは27.5%プラスで、6月の12.6%から伸び率が拡大した。米欧に遅れた価格転嫁の波が続いている。宿泊料は15.1%プラスと、6月から10ポイントほど伸び率を拡大した。インバウンド(訪日外国人)の回復などによる需要の高まりに、政府の観光支援策「全国旅行支援」が今夏以降に各都道府県で順次終了したことが重なった。ほかのサービスも上昇に弾みがついた。携帯電話通信料は10.2%プラスと統計上さかのぼれる01年以降で過去最高の伸び率となった。NTTドコモが7月から新料金プランを投入したことが背景にある。日銀は7月、23年度の生鮮食品を除く物価上昇率の見通しを2.5%に引き上げた。4月の段階では1.8%とみていた。物価上昇率が11カ月連続で3%を超えて推移するなど、物価高が想定を超えて続いている。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「日銀も市場関係者もウクライナ侵攻による輸入物価上昇のインパクトを読み違えた」とみる。過去の物価高局面と異なり「一度ではコストを転嫁しきれず、複数回値上げする動きを読み切れなかった」と説明する。長引く物価高で消費への下押し圧力は強まっている。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の6月の消費支出は実質で前年同月比4.2%減った。マイナスは4カ月連続だ。品目別に見ると、物価上昇の大きな要因となっている食料が3.9%減で、9カ月連続のマイナスとなった。プリンやハンバーガーといった値上げが目立つ品目ほど消費は細っている。6月の実質消費支出はそれぞれ15.4%、13.5%減った。逆に、電気代は燃料価格の低下や政策効果による価格下押しで支出が5.9%増えている。外食は1.8%増とプラスを維持するものの、5月(6.7%増)から伸びを縮めた。サービス消費は新型コロナウイルス禍からの正常化で回復期待が高かったわりには動きが鈍い。勢いを欠く消費は経済成長に水を差す。23年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は季節調整済みの前期比年率6.0%増と高い成長率となったものの、けん引役は復調した輸出などの外需だった。個人消費は物価高を受けて前期比0.5%減に沈んだ。23年の春季労使交渉の賃上げ率は30年ぶりの高水準だったとはいえ、物価の伸びには追いついていない。24年以降に賃上げが息切れすれば、家計の購買力の低下を通じて再びデフレ圧力が強まるとの懸念がにじむ。実際、コロナ禍前の19年10~12月期と足元を比較すると、雇用者報酬は実質で3.5%減っている。高止まりする物価に賃金が追いつかず、消費はほとんど伸びていない。日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばす。秋以降は物価上昇が加速する恐れもある。政府が実施しているガソリンや電気・都市ガスの価格抑制策は延長措置がなければ、ともに9月分で終了する予定だ。第一生命経済研究所の新家義貴氏はガソリン価格抑制の補助金事業が終われば、10月以降の生鮮食品を除く消費者物価指数を0.5ポイント押し上げるとみる。総務省は電気・都市ガスの価格抑制策が7月の物価の伸びを1ポイントほど押し下げたと推計する。対策が終われば、単純計算で1.5ポイントの上昇圧力となるリスクがある。高い物価上昇率は金融政策の議論にも影響を与える。日銀は物価の安定には「まだまだ距離がある」(植田和男総裁)とみて、金融緩和を続けている。ただ、物価上昇の勢いがこのまま衰えなければ、現状の金融緩和策の見直しが焦点となる。 *2-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240403&ng=DGKKZO79748190S4A400C2EA2000 (日経新聞 2024.4.3) 医療・介護費、40年以降急増 60年度にGDP比6割増、政府が初試算、DXで効率化急務 内閣府は2日、2060年度までの社会保障費と財政状況の試算を公表した。医療と介護の給付費の国内総生産(GDP)に対する割合は40年度以降に上昇ペースが速まる。社会保障制度を維持するにはデジタル化による効率改善や成長率引き上げなどが急務となる。内閣府によると社会保障と財政に関する60年度までの長期推計をまとめたのは初めて。同日の政府の経済財政諮問会議に資料を提示した。岸田文雄首相は会議で「実質1%を上回る成長により力強い経済を実現するとともに、医療・介護給付費のGDP比の上昇基調に対する改革に取り組む」と強調した。試算結果をみると医療・介護の給付費は65歳以上人口がピークアウトする40年度ごろから増加の勢いが増す。高齢者人口の全体数が減少に転じても、医療や介護の利用が多い85歳以上の人口は継続的に増えるためだ。国立社会保障・人口問題研究所による最も実現性が高いケースの推計では40年の1006万人が60年には2割弱多い1170万人になる。試算は25~60年度までの平均実質成長率について(1)0.2%ほどの現状維持ケース(2)1.2%ほどの長期安定ケース(3)1.7%ほどの成長実現ケース――の3シナリオに分けてまとめた。給付費は現状維持ケースで最も高くなる。医療と介護を合わせた名目GDPに対する割合は60年度に13.3%と19年度より6割上がる。成長実現ケースでも60年度に9.7%と2割弱の増加が避けられない。医療の技術革新が加速すれば給付費は一段と膨らむ。試算では高額医薬品などの登場による医療費の拡大が従来の2倍ペースにあたる年率2%で進む場合、GDP比は現状維持ケースで60年度に16.1%まで高まり、19年度の2倍近くなる。経団連の十倉雅和会長ら諮問会議の民間議員は試算を基に成長率などの数値目標を定め、実現に必要なこの先3年程度の政策パッケージをまとめるよう求めている。社会保障制度の健全性を保つには歳出改革が必須条件となる。内閣府は毎年度の社会保障費を高齢化による伸びの範囲に収め、医療の高度化による増加をカットする改革を実施した場合の姿も示した。この改革を徹底する前提で成長実現ケースにあてはめると、60年度の給付費はGDP比8.2%と19年度と同水準には抑えられる。歳出改革は足元でもおぼつかない状況で、将来も続けられるかは見通せない。政府は23年12月公表の改革工程素案に介護保険サービスを利用する際の2割負担の対象者を24年度に拡大すると盛ったものの、与党からの反対などを受けて見送った。政府は社会保障の歳出改革を通じて少子化対策による実質的な負担増は回避すると主張する。介護負担拡大の先送りのような事例が続けば実現は遠のく。現役世代の負担が重いままでは結婚や出産をためらわせる要因にもなりえる。歳出抑制につながる施策の一つはデジタルトランスフォーメーション(DX)による医療・介護サービスの効率化だ。マイナンバー保険証での受診を促して投薬情報を共有しやすい体制をつくることなどが挙げられる。社会保障費の削減につながる民間投資の後押しも欠かせない。介助ロボットや認知症予防策などが普及すれば長期的な介護費抑制につながる。内閣府は成長実現ケースを達成すれば1人当たりの実質GDPは60年に9.4万ドルと米国や北欧に肩を並べられるとの試算も示した。逆に現状維持ケースでは6.2万ドルと先進国で最低水準に落ち込む。社会保障改革は日本の豊かさを左右する。試算の前提には甘さも見える。成長実現ケースは合計特殊出生率が1.8程度まで回復し、企業の技術進歩や労働者の能力向上などを示す「全要素生産性(TFP)」がバブル期並みの1.4%の上昇を続けるという条件ではじき出した。出生率が1.8を上回っていたのは1984年が最後だ。2022年は1.26と17年ぶりの低水準まで落ち込んだ。TFPは内閣府の推計で13年度以降、一度も1%に達していない。11月の米大統領選でトランプ前大統領が再選すれば対中関税の引き上げなど保護主義的な政策が広がって目先の成長率も落ち込みかねない。実効性のある社会保障改革につなげるには試算の妥当性を点検する作業も必要になる。 *2-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240403&ng=DGKKZO79743040S4A400C2TB1000 (日経新聞 2024.4.3) 〈TODAY〉ラピダス、AI半導体注力、「後工程」に補助金535億円 素材・装置と連携 最先端半導体の量産を目指すラピダスは、人工知能(AI)半導体向けに次世代の「後工程」技術を開発する。複数の異なる機能を持つチップを集約し、性能を高める。経済産業省がラピダスの後工程の技術開発に535億円を補助する。国内の装置メーカーや素材メーカーとも連携し、官民で半導体の技術開発を進める。組み立て作業である後工程の技術開発では、日本が競争力を持つ素材や製造装置の技術が不可欠だ。台湾積体電路製造(TSMC)などに回路の微細化では先行されるが、後工程の分野でリードできれば国内半導体産業の底上げにつながる。小池淳義社長は2日に開いた記者会見で「日本には優れた装置や素材メーカーがあるが、(研究開発の)出口となる半導体メーカーがなかった。力を合わせて日本から世界に貢献できる半導体をつくりたい」と語った。経産省は同日、2024年度にラピダスに対し最大5900億円を支援すると発表した。ラピダスは25年4月に試作ラインを稼働させ、27年から線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端半導体を量産する計画だ。国の支援は回路をつくるための「前工程」向けが中心だったが、今回、後工程を初めて支援する。半導体はこれまで回路線幅を微細化して性能を高めてきたが、コストや物理的な課題から限界に近づいている。ラピダスは機能の異なる複数のチップを1つの基板に集積する「チップレット」などの技術開発を進める。小池社長は「コスト低減と性能向上の2つを実現できる」と話す。ラピダスが後工程に注力する背景には、AI向けの半導体の需要拡大がある。AI向け半導体には演算や記憶といった機能が求められる。複数の半導体を1つの基板に収めることができれば、効率よく相互に連動させられる。必要な機能を担うチップを入れ替えるだけで性能を高められる。同社はドイツの研究機関、フラウンホーファー研究機構と連携し、ウエハーの研磨技術やチップの接合、素材開発などの要素技術を取り込む。省電力素材に優れる国内の素材メーカーや装置メーカーとも連携する。試作品開発ではラピダス工場に隣接するセイコーエプソンの小型液晶パネルの製造拠点を活用する。後工程分野は台湾や韓国メーカーも注力している。TSMCは独自技術を使って、米エヌビディアのAI半導体の製造を受託。世界の素材メーカーと技術を開発し、性能改善を図る。韓国サムスン電子も24年度に横浜市に先進後工程の研究拠点を設置する予定だ。経産省はラピダスへの支援を経済安全保障上、重視している。半導体はサプライチェーン(供給網)が途絶するリスクがあり、日本で最先端品を生産できれば国内産業の安定につながる。斎藤健経産相は2日の記者会見で「日本産業全体の競争力の鍵を握る。経産省としても成功に向けて全力で取り組む」と話した。ラピダスは27年の量産開始までに5兆円の資金が必要だとしている。国からは24年度までに累計で最大9200億円を受けるが、追加の資金調達が必要となる。同社幹部は「中長期的には民間の金融機関からの資金調達や、新規株式公開(IPO)を検討する」と話す。 *2-1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240404&ng=DGKKZO79769220T00C24A4EA1000 (日経新聞社説 2024.4.4) 「賢い支出」で財政健全化と成長の両立を ばらまきの発想をやめ、一刻も早く財政を「平時」に戻す必要がある。一方で、将来に向けた投資まで絞り込めば成長の芽を摘んでしまう。「賢い支出」を追求し、財政の健全化と成長の両立をめざすべきだ。内閣府は2日、2060年度までの社会保障費と財政状況の長期推計を初めてまとめた。そこから浮かび上がるのは、社会保障費の急増で財政が持続可能でなくなる危うい未来だ。実質でみた25~60年度の成長率が現状と同じ平均0.2%ほどで推移した場合、名目の国内総生産(GDP)に対する医療と介護を合わせた給付費の割合は13.3%に達する。19年度の8.2%を6割も上回る水準だ。医療の技術革新が給付費をさらに膨らませる可能性がある。内閣府は高額医薬品などの登場で、GDP比が60年度に16%超まで上昇するケースも想定する。このままでは社会保障制度を維持できなくなる。いまから手を打たねば間に合わない。毎年度の社会保障費を高齢化による伸びの範囲内に収めるだけでなく、給付の抜本改革や消費税を含めた負担の議論からも逃げるべきでない。なによりまず、新型コロナウイルス禍の危機対応で膨張した財政の規律を取り戻す必要がある。政府の有識者会議が3月末に示した25年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)に関する見通しでは、基金の乱立などで新たな歳出が3年前の試算に比べ7.5兆円増える。せっかく歳出の改革で4兆円削ったり、税収が5.3兆円上振れしたりする見込みなのに、その効果を薄めてしまう。25年度にPBを黒字化する目標を達成できるかどうかはなお微妙だ。岸田文雄政権の危機感は乏しい。コロナ後の23年度も大型の補正予算を組み、6月には効果がはっきりしない所得税減税に踏み切る。首相は財政健全化への決意を行動で示すべきだ。もちろん、支出を抑えるだけでは経済全体が縮む。成長を実現し、将来の歳出を減らすためにも、デジタルトランスフォーメーション(DX)などで生産性を高める賢い支出は欠かせない。その際に必要なのが、根拠に基づく政策立案(EBPM)の視点である。しっかりとしたデータで効果を検証する仕組みを日本にも根づかせなければならない。 *2-1-7:https://toyokeizai.net/articles/-/677510?display=b (東洋経済 2023/6/9) 医療・介護費が減る「公的制度」意外に知らぬ活用術、せっかくの制度をきちんと利用しない手はない 定年後に必要となる生活費の中で、人によって大きく異なるのが医療費と介護費です。そのため、将来設計を考えるときに心配になりがちですが「公的制度を優先して、足りない分は貯金で補う」方針をすすめるのが、経済ジャーナリストの頼藤太希氏です。頼藤氏が医療費と介護費の公的制度について解説します。 ●70歳未満は生涯の医療費の半分も支払っていない これまで何度となく、病院や薬局のお世話になってきたことでしょう。しかしもし今70歳未満ならば、まだ生涯の医療費の半分も支払っていないといったら、驚く方もいるかもしれません。厚生労働省「医療保険に関する基礎資料」(2020年度)によると、1人あたりの生涯医療費はおよそ2700万円。そして、そのうち約半分は70歳未満、もう半分は70歳以上でかかっています。つまり、70 歳以上の医療費は1350万円くらいかかるのです。高齢になると、病気やケガをしやすくなるものです。入院・退院を繰り返したり、治療に時間がかかったりするのは、仕方のないことかもしれません。もっとも、1350万円をすべて自費で負担する必要はありません。健康保険があるため、70歳以上の医療費は原則2割負担、75歳以上の医療費は1割負担となるからです(所得によっては2割・3割負担もあり)。そのうえ、毎月の医療費が自己負担の上限を超えた場合は、高額療養費制度を利用することで超えた分が戻ってきます。また、医療費だけでなく介護費用がかかる場合もあります。自分の介護より前に、親の介護にお金がかかる人もいるでしょう。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(2021年度)によると、介護費用の平均は、一時費用が74万円、毎月の費用が8.3万円。また、平均的な介護期間は5年1カ月ですので、すべて合計すると約580万円かかる計算です。しかし、介護費用も公的介護保険によって1~3割の負担で済みます。さらに、介護費用が高額になった場合は「高額介護(予防)サービス費」や「高額医療・高額介護合算療養費制度」といった制度を利用することで抑えることができます。そして何より、親の介護の費用であれば親の収入・資産から出すこともできるでしょう。病気になったり、介護が必要になったりした際に保険金が受け取れる民間の医療保険や介護保険もありますが、公的な医療保険や介護保険は意外と充実しています。医療費や介護費はもちろんかかるのですが、一度に支払うお金はそれほど高額ではありません。普段から貯蓄をきちんとしていれば、十分まかなえる金額です。それに、民間の介護保険では、所定の要介護状態になっても保険会社独自の基準を満たさない場合には保険金が受け取れないケースもあるのです。いざ介護が始まったというときに介護保険が利用できないのでは、保険料の無駄です。まずは公的な制度を活用することを優先しましょう。 ●「高額療養費制度」で自己負担を減らす 日本では「国民皆保険」といって、原則すべての国民が健康保険制度に加入します。病気やケガで医療機関にかかるとき、保険証を提示すると医療費の自己負担額は最大でも3割で済みます。しかし、3割負担であっても、入院や通院が長引けば医療費の負担が大きくなってしまいます。この負担を減らせる制度が高額療養費制度です。高額療養費制度は、毎月1日から末日までの1カ月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、その超えた分を払い戻してもらえる制度です。自己負担額の上限は、年齢が70歳未満か70歳以上か、所得の水準がいくらかによって変わります。例えば、年収180万円の70歳未満の方が入院・手術などをして、1カ月の医療費が100万円かかり、3割負担で30万円を支払ったとします。こんな場合でも、高額療養費制度の申請をすればこの方の自己負担限度額は5万7600円で済みます。残りの約24万円は、後日払い戻されます。さらに、過去12か月以内に3回以上自己負担額の上限に達した場合は「多数回該当」となり、4回目から自己負担限度額の上限が下がります。先の年収180万円の方なら、自己負担限度額は4万4400円になるのです。先に医療費を立て替えるのが厳しい場合は「限度額適用認定証」を申請することで、自己負担分だけの支払いだけで済ませることもできます。なお、マイナンバーカードを保険証として利用する「マイナ保険証」で受診すれば、限度額適用認定証の申請手続きをしなくても自己負担分だけの支払いですみます。 ●対象外の費用もあるので要注意 ただし、高額療養費制度には対象外の費用もあります。例えば、入院中の食事代、差額ベッド代、先進医療にかかる費用などです。入院中の食事代は「標準負担額」といって、基本的に1食あたり460円です。もしも1カ月入院したら約4万円かかります。差額ベッド代とは、希望して個室や4人までの少人数部屋に入院した場合にかかる費用です。金額は人数や病院によっても異なりますが、中央社会保険医療協議会の「主な選定療養に係る報告状況」(令和3年7月)によると、差額ベッド代の1日あたり平均徴収額は6613円。個室は8315円と高いのですが、2人部屋は3151円、3人部屋は2938円、4人部屋は2639円と、金額に開きがあります。先進医療とは、厚生労働大臣が認める高度な技術を伴う医療のことです。先進医療の治療費は健康保険の対象外なので、全額自己負担です。もっとも食事代や差額ベッド代は確かにかかりますが、そこまで高い金額ではありません。貯蓄をしっかりしておけば、十分まかなえる金額です。また、先進医療の費用は、がんの陽子線治療や重粒子線治療などは数百万円しますが、数万円から数十万円で済む治療もあります。そして厚生労働省「令和4年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」によると、先進医療を受けた患者数は2万6556人ですから、日本の人口(1億2500万人)で割ると先進医療が必要になる確率はわずかに0.02%です。この費用をあえて医療保険やがん保険で用意する必要はないと考えます。介護サービスを利用し、1カ月の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、その超えた部分が戻ってくる「高額介護(予防)サービス費」という制度があります。高額介護サービス費の上限額は住民税の課税される世帯(現役並み所得者がいる世帯)で14万100円、住民税非課税世帯で2万4600円となっています。高額療養費制度の医療費と同様に、介護費用の負担も一定の上限額までにできる、ありがたい制度です。 ●高額医療・高額介護合算療養費制度も活用 とはいえ、長期間にわたって医療費と介護費がかかり続けると、家計の負担が大きくなってしまいます。そんなときに利用したいのが高額医療・高額介護合算療養費制度です。高額医療・高額介護合算療養費制度は、同一世帯で毎年8月1日~翌年7月31日までの1年間にかかった医療費・介護費の自己負担額の合計額(自己負担限度額)が上限を超えた場合、その超えた金額を受け取れる制度です。高額療養費制度や高額介護サービス費制度を利用すれば自己負担は減りますが、ゼロになるわけではありません。高額医療・高額介護合算療養費制度を利用することで、その自己負担をさらに軽減できます。高額医療・高額介護合算療養費制度の自己負担限度額は、世帯の年齢や所得によって異なります。年間の医療費・介護費を計算して、制度が利用できるか確認しましょう。高額医療・高額介護合算療養費制度の申請は、公的保険の窓口で行います。国民健康保険や後期高齢者医療制度の場合はお住まいの市区町村、協会けんぽや健康保険組合などの場合は勤務先を通じて申請を行います。ただし、高額療養費制度・高額介護サービス費制度の対象外となっている費用は、高額医療・高額介護合算療養費制度でも対象外です。例えば、高額療養費制度では入院時の食事代や差額ベッド代、高額介護サービス費制度では要介護度別の利用限度額を超えた費用などは自己負担になります。高額介護サービス費の自己負担の上限額は、本人の所得で決まる場合と世帯の所得で決まる場合の2つのパターンがあります。そこで、同居している家族が住民票の世帯を分ける「世帯分離」をすることで、介護費用を削減できる場合があります。なお、世帯分離をしても、同居を続けてかまいません。世帯分離とは、同居している家族が住民票の世帯を分けることです。世帯分離をすることで、介護費用を削減できる場合があります。例えば、介護サービスを受ける親を世帯分離して、親単独の世帯にすれば、世帯としての所得が大きく減るため、高額介護サービス費の自己負担を大きく減らせる、というわけです。 ●世帯分離をしても、別居する必要はない 介護サービスを受けている親(住民税非課税)が、住民税の課税される世帯と同世帯にしていた場合、高額介護サービス費の負担限度額は月額4万4400円になります。しかし、世帯分離をして親だけの世帯になった場合、高額介護サービス費の負担の上限額は「世帯全員が住民税非課税」にあてはまるので、月額2万4600円となります。さらに、仮にこの親の前年の年金年収とその他の所得金額合計が80 万円以下だったとしたら、負担の上限額は月額1万5000円になります。同じ介護サービスを受けていても、負担が月約2万~3万円、年間で約24万~35万円ほど減らせることになります。高額介護サービス費は、最も負担の重い世帯で月額14万100円の負担になっています。ですから、高所得者の方こそ、世帯分離を検討するといいでしょう。なお世帯分離をしたからといって、別居する必要はありません。世帯分離は介護費用の削減にとても役立つ方法なのですが、高額療養費制度や高額介護サービス費の「世帯合算」はできなくなります。高額療養費制度や高額介護サービス費は、世帯ごとにかかった費用を合算して申請できます。しかし、たとえ同居していても、世帯分離をすれば親と子で別の世帯になりますので、合算できなくなります。とくに、2人以上介護している場合には、世帯分離がかえって損になる可能性があります。損得をトータルで考える必要がありますので、詳しくはお住まいの自治体にご相談ください。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78285980W4A200C2PD0000 (日経新聞 2024.2.7) 少子化支援金、首相「1人あたり月500円弱負担」、医療保険料に上乗せ 歳出改革・賃上げ推進 岸田文雄首相は6日、少子化財源確保のために医療保険料に上乗せする新たな「支援金制度」の負担額が平均で1人当たり月500円弱になるとの見通しを表明した。実質的な負担増にならないとも強調した。個人ごとにみると負担は首相の説明通りにならない場合もある。政府は2024年度からの3年間で年3.6兆円の予算を確保して、児童手当の増額など少子化対策の充実に充当する。その財源のうち1兆円を「支援金制度」で賄う。首相は6日の衆院予算委員会で「粗い試算」として「支援金の総額を1兆円と想定すると、28年度の拠出額は加入者1人当たり月平均500円弱となると見込まれている」と語った。これまで1人当たりの負担水準を明らかにしていなかった。立憲民主党の早稲田夕季氏に答弁した。実際の1人当たりの負担額は個人ごとに差が出る。会社員らが加入する健康保険組合では定率で保険料を上乗せして支援金を集める見通し。加入する健康保険組合や年収によって個人の負担額は変わる公算が大きい。たとえば、22年度の医療保険料率は中小企業が主な対象となる全国健康保険協会(協会けんぽ)は平均で10%。大企業が中心の健康保険組合連合会(健保連)は9.26%と異なる。被保険者の平均年収も21年度時点で協会けんぽ272万円、健保連は408万円と差がある。日本総研の西沢和彦理事の試算によると、医療保険の加入者(家族を含む)1人あたりの支援金の平均額は協会けんぽでは月638円となる。健保組合は月851円、後期高齢者医療制度で月253円になるという。所得が高い人はこの負担額がさらに増える。予算委では野党から「組合の種類や所得によって、(支援金の負担額が)上がっていくということを言わないと不誠実だ」との批判が出た。首相は支援金を導入しても、社会保障分野の国民負担率を上げない方針を示す。社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、今春以降の賃上げにより負担率の分母が増えるとの訴えだ。6日の予算委でも「実質的な負担は全体として生じない」と語った。その実現は見通せない。歳出改革では政府が23年12月にまとめた28年度までの工程表で早くもほころびが見えている。介護保険サービスを利用した際の自己負担について、政府は24年度から2割負担の対象者を広げる方針だった。現行は原則1割となっている。対象拡大は自民党などの反発を受けて、27年度以降に先延ばしとなった。賃上げ頼みの仕組みも課題だ。国民民主党の玉木雄一郎代表は6日の予算委で「賃上げはどれくらいを見越しているのか」と首相に問いただした。仮に歳出改革が計画通りに進んでも、賃上げが実施されない企業で働く人は支援金の実質負担が発生するケースがあり得る。日本総研の西沢氏は「実質的な負担は生じないという説明は誤解を生む。『500円弱』の数字が独り歩きする説明では国民の理解が得にくいのでは」と指摘する。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240207&c・・=DPD0000 (日経新聞 2024.2.7) 少子化支援金、首相「1人あたり月500円弱負担」 医療保険料に上乗せ 歳出改革・賃上げ推進、財源1兆円「支援金」で捻出 26年4月から徴収 政府は24年度からの3年間で年3.6兆円の予算を確保し、児童手当や育児休業給付など少子化対策の拡充に充てる。その財源のうち1兆円を「支援金制度」で捻出する。そのほかは歳出改革で1.1兆円、既定予算の活用で1.5兆円を確保する。支援金はサラリーマンの場合は給料から天引きされる医療保険料に上乗せして集める。75歳以上の後期高齢者も含む全世代で負担する。低所得者には負担軽減策を設ける。26年4月から徴収が始まる。初年度は6000億円を集め、段階的に金額を増やし28年度に年1兆円の確保をめざす。使い道や政策への充当割合などを明記した関連法案を今の通常国会に提出する。 *2-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15903977.html (朝日新聞 2024年4月4日) 少子化対策、財源巡り攻防 徴収の「支援金」野党批判 政権、負担明示せず 政権の少子化対策「子ども・子育て支援法等改正案」の国会審議が本格化している。3日の衆院特別委員会では、財源の一つで医療保険料とあわせて徴収する「支援金」について、「ごまかしで事実上の子育て増税」などと野党の追及が相次いだ。「(支援金の)所得階層別の負担額を出してほしい」。立憲民主党の山井和則氏がそう迫ったが、加藤鮎子こども政策相は「年収別の拠出額は数年後の賃金水準などによるため、現時点で一概に申し上げられない」と繰り返すばかりだった。2日に衆院で審議入りした法案。最大の争点は財源確保策だ。法案には児童手当の大幅な拡充などを盛り込んだ。少子化対策全体では年3・6兆円規模で、うち1兆円を支援金で賄う想定。ただ、政府は医療保険ごとの加入者1人あたりの平均額の試算を出した一方、所得に応じた負担は提示せず「2021年度の医療保険料月額の4~5%程度」という月額の「目安」を示すのみで、野党の批判が強まっていた。少子化対策の財源を、税ではなく医療保険とあわせた形で徴収することにも批判が殺到。立憲の早稲田夕季氏は「給付と負担の関係が明白である社会保険の考え方には到底見合わない。租税でまかなわれるべきものだ」と指摘した。加藤氏は「(医療保険などの)社会保険制度はともに支え合う仕組み。支援金制度も、少子化対策で受益がある全世代・全経済主体で支える仕組みだ」と答弁。岸田文雄首相も2日の衆院本会議で「少子化、人口減少に歯止めをかけることで医療保険制度の持続可能性を高める」と強調していた。論点には充実策の実効性も挙がる。保護者の就労要件を問わずに保育所などを利用できる「こども誰でも通園制度」については現在、子ども1人あたり月10時間までで試行的に運用中だ。2日の本会議では「今後拡大していく考えはあるのか。保育士などの賃金や労働条件を改善し、質の高い保育を提供するための必要な人材を確保すべきだ」(国民・田中健氏)といった指摘があった。首相は「試行的事業の状況等も踏まえながら、今後検討していく。引き続き、処遇改善も行っていく」と応じた。政府は今国会での法案成立を目指すが、「現段階ではこの法案にもろ手を挙げて賛成するということは極めて難しい」(維新・音喜多駿氏)などと意見が出ている。野党との対立がさらに激化する可能性もある。 *2-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240307&ng=DGKKZO79039740X00C24A3EA2000 (日経新聞 2024.3.7) 特定技能、窮余の拡大 人手不足で上限枠2.4倍82万人に 煩雑な申請など足かせ、待遇改善急務 政府は外国人労働者の在留資格「特定技能」の受け入れ枠を自民党に提示した。2024年度からの5年間で現行の2倍以上の82万人を受け入れる。同じく人手不足に直面する他国との人材争奪はますます激しくなる。日本が「選ばれる国」となるための支援策を整えることが急務となる。政府が6日までに自民党の部会に受け入れ枠を広げる方針を示し、了承された。内訳は建設業など国土交通省の所管分で18.2万人となる。製造業など経済産業省の所管では17.3万人、介護を含む厚生労働省の所管を17.2万人とした。それぞれの数字は業界ごとに成長率や需要などから不足人数をはじき、人材確保や生産性向上の努力で解決できる分を差し引いて算出した。急速な少子高齢化に見舞われる地方からは悲痛な声が上がる。福岡県鉄構工業会は4日、特定技能に関する要望書を小泉龍司法相に提出した。「最先端技術の導入などの取り組みをしても必要な人材確保が困難な状況だ」と訴えた。厚労省が発表した23年10月の外国人労働者はおよそ200万人だった。国際協力機構(JICA)などは年平均1.24%の成長を2040年に達成するには、674万人の外国人労働者が必要だと推計する。政府は特定技能だけでなく、技能実習に代わる非熟練労働者の新制度「育成就労」などと合わせて受け入れ数を増やしていく方針だ。それでも日本社会の機能を維持するのには足りない。政府は特定技能制度が始まった19年に34.5万人の受け入れ枠を設定した。実際の在留者数は23年11月時点でおよそ20万人にとどまった。伸び悩んだのは新型コロナウイルス禍の影響が大きかった。介護や農業など海外で試験を受けて入国する労働者の受け入れが滞った。外国人雇用に詳しい杉田昌平弁護士は「コロナ禍で送り出し国での試験実施が遅れ、運用の確立や制度の浸透が不十分だった」と指摘する。コロナ禍のせいだけにもできない。行政側の対応や、受け入れ企業の負担が大きい現状にも課題がある。宿泊分野で外国人材紹介を手掛けるダイブ(東京・新宿)の菅沼基氏は入管への申請数の増加を要因に挙げる。「申請結果が出るまでの時間が長く入国待ちや変更待ちの人が多数いる」と話す。特定技能の場合、技能実習とは異なり受け入れ窓口である監理団体が存在しない。受け入れ企業が実習や日本語教育の支援を自社で賄うケースもある。日本は諸外国と外国人材の獲得を競わなければならない。オーストラリアや韓国は外国人労働者を獲得する政策を積極展開する。円安や相対的に低下した賃金水準は、日本が「選ばれる国」になるための足かせとなりつつある。賃金面で魅力を高める努力とともに、外国人の職場への順応や生活環境の支援策を整えることが重要だ。特定技能で来日した労働者を国籍別に見るとベトナムが最も多く、インドネシアやフィリピンなどが続く。文化や慣習の異なる東南アジアが中心になっている。勤務上のトラブルが発生した場合の支援体制や、日本語の学習環境の整備は欠かせない。日本人との共生には、自治体と地域の企業が一体となってバックアップに取り組む体制が求められる。各国の共生政策を比較する移民統合政策指数(MIPEX)の2020年版の総合評価で見た日本の順位は56カ国中35位にとどまった。スウェーデンが1位で、アジアでは18位の韓国に後れをとっている。 特定技能の受け入れ枠拡大を巡り、自民党の部会で目立った異論は出なかった。外国人材に頼らなければ地方経済が回らなくなりつつある現状を映している。 ▼特定技能制度 一定の専門性と日本語能力を持つ外国人材を受け入れる制度で19年に始まった。海外から入国する場合は、技能と日本語の試験に合格すれば最長5年在留できる「1号」の資格を得られる。さらに条件を満たせば在留資格の更新に制限がない「2号」になれる。家族を帯同でき将来は永住権も申請できる。現在は人手不足が著しい12の分野が対象。政府は新たにタクシーやバスの運転手である「自動車運送」や列車乗務員の「鉄道」など4分野を追加し16分野とする計画だ。 *2-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1215816 (佐賀新聞 2024/3/26) 入管庁の難民認定、最多303人、23年、アフガンが大半 出入国在留管理庁は26日、自国で迫害を受ける恐れがあるとして、2023年に303人を難民認定したと発表した。22年から101人増え、最多を更新。うち237人がアフガニスタン国籍で、関係者によると、21年の政変後に退避した国際協力機構(JICA)の職員らが多くを占める。難民認定申請者数は1万3823人で、22年の3倍超と大幅に増えた。入管庁によると、難民認定者303人の内訳は、アフガンが最多で、軍政による弾圧が続くミャンマーが27人、エチオピアが6人など。アフガンでは22年も日本大使館の元職員や家族らが多く認定されている。申請者数は、17年の1万9629人に次いで2番目に多い。スリランカが3778人で最も多く、トルコ、パキスタンが続いた。入管庁は「新型コロナウイルスの水際対策が終了し、来日者数の回復に伴い申請者も増えた」と分析している。23年に成立した改正入管難民法で新設され、紛争避難民らを難民に準じる形で在留を認める「補完的保護」は、申請を受け付けた23年12月から今年2月末までに1110人が申請。647人が認められ、ウクライナ避難民が644人、23年4月に軍事衝突があったスーダンが3人だった。「定住者」の在留資格を付与する。難民と認めなかったものの、23年に人道的配慮から在留を認めたのは1005人。ミャンマーなど本国の情勢を踏まえた許可が大半を占めた。難民認定を巡っては、年間1万人を超える国がある欧米と比べ、日本は認定数が少なく、基準が厳しいとの指摘がある。難民認定制度 外国人から申請を受け、難民条約が定義する難民に該当するかどうかを判断する。条約は人種や宗教、国籍、政治的意見、特定の社会的集団の構成員であることを理由に迫害の恐れがあり、国外に逃れた人を難民と定義し、出入国在留管理庁の調査官が面接などで審査する。認定されると「定住者」の在留資格を付与。不認定の場合は審査請求ができる。日本では、制度が開始した1982年から2023年までに1420人を条約上の難民と認定。欧米と比べ少なく「難民鎖国」とも批判される。 *2-3-3:https://www.nippon.com/ja/features/c03707/ (Nippon.com 2024.2.9) 小澤征爾:“人間力”で「世界のオザワ」に上り詰めたカリスマ指揮 柴田 克彦 《日本を代表する指揮者・小澤征爾さんが2月6日死去した。“世界のオザワ” の冥福を祈るとともに、敬意を込めて2018年に公開した記事を改めてお届けする》世界のクラシック音楽界で頂点に立つ指揮者の1人、小澤征爾。“音楽エリート” ではなく、苦労しながら努力と行動力、そして人間的魅力で世界に嘱望されるまでに至ったマエストロの軌跡を振り返る。 (2018年6月12日に公開した記事を再掲致します) 2002年1月1日、小澤征爾はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「ニューイヤー・コンサート」に登場した。60年もの歴史を誇り、約60カ国にテレビ中継されるこの世界的風物詩を指揮する初めての日本人だった。彼は、米国ビッグ5の名門、ボストン交響楽団の音楽監督を約30年にわたって務め、この年の秋からオペラ界の頂点、ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任することになっていた。さらには、世界最高峰の2強、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とウィーン・フィルの定期演奏会にレギュラーで登場する数少ない指揮者の1人だった。これらは全て、西洋の文化であるクラシック音楽の分野で日本人が達成するには、あまりにハードルが高い、正真正銘の偉業である。無論、小澤以外に成し遂げた日本人指揮者はおらず、裾野に近づいた者さえごく限られる。 ●日本人離れの行動力の原点 小澤征爾は、1935年9月1日、満州国の奉天(現・中華人民共和国の瀋陽)に生まれた。山梨の貧しい農家の出で、苦学の末に歯医者となった父・開作は23歳の時に満州へ渡り、長春で歯科医を開業。その地で征爾の母となる若松さくらと結婚した。だが開作は、アジア民族の一体化を理念とする政治活動に没頭し、政治団体「満州国協和会」の創立委員として奉天に移り住んだ。そこで生まれた三男は、開作が知遇を得た陸軍大将・板垣征四郎から「征」、関東軍参謀・石原莞爾から「爾」を取って「征爾」と命名され、6歳の年まで満州で過ごした。大陸で生まれ育ったこと、さらには父譲りの行動力が、小澤の日本人離れした活躍の源にあるのではないか…そう思えてならない。小澤はいわゆる “音楽エリート” ではなかった。音楽との出会いは5歳のクリスマスに母が買ってくれたアコーディオンで、ピアノを始めたのが10歳の時。一家は41年に帰国して立川に住まいを移していた。もちろん当時、家にはピアノがなく、後に親戚から譲り受けた際も、兄たちが横浜から立川まで3日かけてリヤカーで運んだ。ピアニストになる夢はあっても、スタートがあまりに遅い。そんな折の49年12月、日比谷公会堂における日本交響楽団(現・NHK交響楽団)のコンサートで、ロシア出身のピアニスト、レオニード・クロイツァーがピアノを弾きながら指揮をする演奏を聴いて、初めて指揮に強い魅力を感じた。そして母さくらの遠縁に音楽教育者・チェロ奏者の齋藤秀雄(1902~74年)がいることが分かり、弟子入りを志願する。中学3年生の時だった。 ●生涯の師、友との出会いを経て2大巨匠の下へ 人生とは巡り会い。小澤の道のりをたどるとそれを痛感させられる。齋藤秀雄は、桐朋学園で多数の著名指揮者や弦楽器奏者を育てた大功労者だ。彼は小澤の生涯の師となった。もう1人、齋藤の指揮教室で巡り会ったのが山本直純(1932~2002年)。後にコマーシャルの「大きいことはいいことだ」のフレーズで名をはせた指揮者にして、映画『男はつらいよ』のテーマ音楽を手がけた作曲家である。小澤は最初、兄弟子にあたる山本に指揮を教わった。1952年小澤は斎藤が開設に関わった桐朋女子高等学校音楽科に入学、55年桐朋学園短期大学に進学した。やがて、「音楽をやるなら外国へ行って勉強するしかない」と強く思うようになった小澤に向かって、山本は「音楽のピラミッドがあるとしたら、オレはその底辺を広げる仕事をするから、お前はヨーロッパへ行って頂点を目指せ」と言って後押しした。そしてそれは実現した。59年2月、持ち前の行動力を発揮し、スクーターと共に貨物船で単身渡仏した23歳の小澤は、同年ブザンソン国際指揮者コンクールに挑んだ。実は応募の締め切りを過ぎていたのだが、つてを頼って紹介してもらった米国大使館の職員の口利きで参加がかない、見事優勝。これが飛躍の第1歩となった。まずは審査員だった巨匠シャルル・ミュンシュの一言でボストン交響楽団が毎夏米国マサチューセッツ州で主宰するタングルウッド音楽祭に参加し(60年)、それを機に、61 年レナード・バーンスタイン率いるニューヨーク・フィルハーモニックの副指揮者に抜てきされた。またヘルベルト・フォン・カラヤンの弟子を選出するコンクールにも合格。そこで小澤は、20世紀後半の指揮界を二分するカラヤン、バーンスタイン両雄の薫陶を受けることができた。このような経験を持つ指揮者は、世界でも恐らく小澤しかいない。 ●「N響事件」を経て新日本フィル結成へ 小澤征爾は天才ではなく、努力の人である。「勉強、勉強、また勉強」が彼の生き方。そして小澤を知る者は、「彼ほど人懐っこく、人間に対する愛情が深く、義理固い人はいない」と言う。日々の努力にそうした人柄が加わったからこそ、良き巡り会いが生まれたに違いない。ただ日本では順風満帆ではなかった。1962年には、契約を結んだNHK交響楽団からボイコットされる「N響事件」が起きた。同年6月から半年間の指揮契約を結んでいたが、楽員から27歳の小澤に対し「生意気だ」「態度が悪い」などの感情的反発が生まれていたのだ。そこで翌年「小澤征爾の音楽を聴く会」が開催され、発起人に、浅利慶太、石原慎太郎、井上靖、大江健三郎、曽野綾子、武満徹、谷川俊太郎、團伊玖磨、中島健蔵、黛敏郎、三島由紀夫ら、驚きのビッグネームが並んだ。これも小澤の吸引力のなせる業だろう。しかし彼は事件を機に日本に見切りをつけ、世界にのみ目を向けた。事件は結果的に “世界のオザワ” 誕生を導いたといえる。72年には、縁あって首席指揮者を務めていた日本フィルハーモニー交響楽団が、フジサンケイグループからの支援を打ち切られる。急きょ米国から帰国した小澤は何とか存続を図ろうと奔走し、天皇陛下へ直訴までする。同年日本芸術院賞を受賞していたが、その授与式で「自分だけ賞をもらいましたが、今一緒にやっているオーケストラは大変な状況なんです」と思わず言ってしまったのだ。結局当時の “財団法人日本フィル” は解散(注:裁判闘争を続けながら自主運営団体として継続し、現在は公益財団法人として活動中)、小澤は山本直純と共に新日本フィルハーモニー交響楽団を結成する。その後長い間、日本では基本的に新日本フィルしか指揮せず、同楽団を起用した山本の公開テレビ番組「オーケストラがやって来た」に再三出演するなど、義理堅さを発揮した。 ●クラシック界の頂点に駆け上がる 世界における快進撃の始まりは、「N響事件」の翌年、1963年にシカゴ交響楽団が主宰する「ラヴィニア音楽祭」に急きょ代役で出演し、成功を収めたことだった。64年には同音楽祭の音楽監督に就任(68年まで)。65年にはトロント交響楽団の音楽監督に就任した(69年まで)。66年には「ザルツブルク音楽祭」ならびにウィーン・フィル、さらにはベルリン・フィルの定期演奏会にデビュー。70年には「タングルウッド音楽祭」の芸術監督(2002年まで)、サンフランシスコ交響楽団の音楽監督(76年まで)に就任した。そして73年、ボストン交響楽団の音楽監督に就任し、2002年まで約30年間に及ぶ米国では異例の長期体制を築いた。79年パリ・オペラ座、80年ミラノ・スカラ座、88年ウィーン国立歌劇場にデビューし、オペラでも世界最高峰の舞台で活躍。2002年のウィーン国立歌劇場の音楽監督就任(2010年まで)に至る。膨大なディスクも録音し、中でも冒頭で言及した「ニューイヤー・コンサート2002」のライブCDは、日本で80万枚(世界で約100万枚)というクラシック界では空前絶後のセールスを記録した。94年にはタングルウッドにその名を冠した「セイジ・オザワ・ホール」が建てられた。日本での活動も徐々に活発化した。87年に齋藤秀雄の門下生を主体とする「サイトウ・キネン・オーケストラ」の活動を開始。同楽団は世界から一流と目される存在となった。90年には水戸室内管弦楽団の芸術顧問に就任。92年には「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」(2014年から「セイジ・オザワ松本フェスティバル」)の総監督に就任し、同音楽祭は垂涎の内容で人気を集めた。98年には長野冬季オリンピックの開会式で、世界5大陸を結ぶベートーヴェン「第九」を指揮。2000年には若手音楽家を育成する「小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト」を始めた。 ●“人間力”で最高の音楽を引き出す 指揮者は、自ら音を出さない不思議な音楽家だ。実際に音を出すのは、おのおのが一家言持つ100名ものプロフェッショナル演奏家集団である。彼らに意を伝え、持てる能力を発揮させ、1つの音楽を形作るには、技術や知識以上に人間的な魅力やカリスマ性を必要とする。指揮法を体系化した齋藤秀雄譲りのバトン・テクニックは素晴らしい。しかし彼の本領は、人柄に努力と経験が加わった “人間力” に尽きる。小澤のカリスマ性を示すエピソードがある。2015年、新日本フィルの創設期を共にしたティンパニ奏者の山口浩一が亡くなる直前、小澤は彼を見舞いに訪れた。山口はほとんど意識がなく、周りで見守る人たちが「分かったら手を握って」と言うと、辛うじて握り返す程度だった。ところが小澤が声をかけると、パッと目を開け、会話までしたという。1986年2月13日、東京文化会館における小澤指揮/ボストン交響楽団によるマーラーの交響曲第3番は、筆者にとってこれまで経験した最高のコンサートだった。終始引き付けられた末の深い感銘を、30年以上たった今でもありありと思い出す。この体験は生涯まれな “ギフト” だった。小澤の音楽は熱い。彼はきっと同様の感銘を皆に与えてきたであろう。ここ数年は健康状態を鑑みながら活動している。今秋には83歳を迎える小澤。だがまだまだギフトを与え続けてほしいと願わずにはおれない。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240407&ng=DGKKZO79852220W4A400C2EA2000 (日経新聞 2024.4.7) 働き手「予備軍」、20年前から半減 昨年411万人に、女性・高齢者の就業進む 人手不足、事業再編迫る 日本の働き手が枯渇してきた。今は職に就かず仕事を希望する働き手の「予備軍」は2023年に411万人で15歳以上のうち3.7%にとどまり、割合は20年で半減した。女性や高齢者の就業が進み、人手の確保は限界に近い。企業を支えた労働余力は細り、非効率な事業の見直しを迫られている。現場の人手不足を敏感に映すのが時給の動きだ。労働政策研究・研修機構が毎月勤労統計をもとに集計したパートタイムの時間あたり給与は、23年10~12月期に前年同期比3.8%増だった。新型コロナウイルスの影響があった時期を除くと15年以降で最も高い。一般労働者は1.0%増で、パートの伸びが際立つ。コロナの影響が薄れたことによる景気要因だけではない。より大きいのは、女性や高齢者の労働参加が進み、人材のプールが細ったという構造要因にある。総務省がまとめた労働力調査によると、15歳以上で職に就かず仕事を探していないが、就業を希望する人は23年に233万人と20年前に比べて297万人減った。職探しをしている完全失業者の178万人と合わせた「予備軍」は411万人で15歳以上の人口の3.7%にあたる。03年の8.0%に比べて半分以下の水準だ。予備軍が減ったのは景気回復とともに、女性や高齢者が働く環境整備が進んだためだ。国立社会保障・人口問題研究所によると、15~64歳の生産年齢人口はピークだった1995年に比べ23年は15%減ったが、就業者は20年間で約400万人増えた。足元では結婚や子育てで女性が職を離れ、30代の就業率が下がる「M字カーブ現象」もほぼ解消した。大和総研の田村統久氏は「働き手の減少を女性や高齢者で補うのは限界に近い」と指摘する。英国の経済学者、アーサー・ルイス氏は農村で余った労働力が工業部門に吸収されて成長する中で、ある時点で余剰労働力がなくなる「ルイスの転換点」の考え方を示した。転換点を過ぎれば賃上げの圧力が強まる。日本は1960年代後半に過ぎたと見られているが、女性や高齢者という観点で新たな転換を迎える可能性がある。企業も戦略の転換を迫られる。低金利による借り入れ負担の軽減と、非正規で働く女性や高齢者の活用はコスト低減の柱だった。低収益の事業でも存続しやすくなり、景気回復下でも賃金が上がらないデフレの色合いを強めた。日銀のマイナス金利解除に伴い、金利には上昇圧力がかかる。人手不足で採用ができず、非正規の時給引き上げが続けば、低採算の事業は選別し撤退をせざるを得なくなる。 <男女別学と教育について> PS(2024年4月15日追加): 国連の女子差別撤廃条約を持ち出すまでもなく、日本国憲法が第3条で「すべて国民は、等しく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」と教育の機会均等を定めている。そして、西日本では、男女別学だった公立校は日本国憲法施行と同時に男女共学に変更され、その恩恵によって私の今がある。 しかし、*3-1・*3-2のように、未だに男女別学の公立高校が存在する埼玉県で、市民グループ「共学ネット・さいたま」が、①公立校としての公共性 ②ジェンダー平等 ③性の多様性 の三つの観点から県立高校の共学化を求め ④埼玉県男女共同参画苦情処理委員が2023年8月に埼玉県教育長に対して共学化を勧告したところ、埼玉県教育委員会は「名門2校(浦高と浦和第一女子)」の卒業生に対し聞き取りを実施し ⑤i)伝統維持 ii)選択肢の確保 を強調する反対意見が多数を占め、男女の機会均等などを訴える賛成派はわずかだった とのことである。 具体的な反対意見には、⑥男子校の埼玉県立浦和高校同窓会は「浦高」は埼玉唯一の全国ブランドで別学を維持しないと文化が壊れる」と別学維持を求めて大野元裕知事に意見書を渡した ⑦女子側“トップ校”の浦和第一女子高同窓会は事前に集めた卒業生アンケートで「500件のうち483件が共学化に反対」「女子校出身者の方が理系選択が多い」「女子校は男女の性差にとらわれることなく能力や個性を発揮できる」などの意見があった ⑧勧告後に始まった共学化反対のインターネット署名は2万件を超えた としている。 しかし、④のように、卒業生に聞き取りを行えば、男女共学高校で教育を受けた経験がなく、自らの過去を肯定したいという動機も重なって、反対意見が出るのは当然だが、卒業生(過去の在学生)の意見を根拠に男女別学を維持するのは、日本国憲法に反して意図的であり、本末転倒だ。また、⑤の伝統維持についても、その長い伝統は男女の性別役割分担や女性差別・女性蔑視に基づく伝統であるため、女子差別撤廃条約・日本国憲法及び①②に反しており、「伝統維持=女性差別・女性蔑視の維持」になっている。そのため、このような教育制度・社会意識の下では埼玉県に赴任する子育て家庭は父親だけの単身赴任になり、埼玉県の人口10万人あたり医師数は全国最下位で、人口の割に高校のレベルも上がらない。ちなみに、私は、子供を作らないと決めてから埼玉県にマンションを買ったが、その理由は東京・神奈川と比較してかなり安かったからで、住民(男性だけでなく女性も)にも女性蔑視があるのは不愉快に感じている次第だ。 なお、⑥については、その“全国ブランド”の恩恵に預かるのは男子生徒だけであり、このようにして男女別学かつ男性優遇の中で育った男性が女性の能力を過小評価して職場や社会でも女性を差別し、社会進出を阻んでいることを忘れてはならない。また、簡便のために東大で比較すると、浦和高校は、文I:4人(浪人3)・文II:9人(浪人6)・文III:5人(浪人3)・理I:13人(浪人6)・理II:13人(浪人7)・理III:0・合計:44人(浪人25)など、理系や職業に結びつく学部への合格者が多い(https://www.inter-edu.com/univ/2024/schools/336/jisseki/ 参照)が、女子側“トップ校”の浦和第一女子高校は、文I:1人(浪人1)・文II:2人(浪人2)・文III:3人(浪人2)で、文系でも現役で法律・経済学部に合格した女子生徒はおらず、理系学部に合格した女子生徒は現役・浪人合わせて全くいないため、⑦は根拠なき主張だ(https://www.inter-edu.com/univ/2024/schools/374/jisseki/ 参照)。さらに、浪人割合が高いのは、高校までの勉強では東大に入れず、予備校での浪人生活があって初めて東大に合格したということである。これに加えて、卒業生が“全国ブランド”と考えている浦和高校も理IIIの合格者は0で、これは高校だけで頑張っても中高一貫校で勉強した人には追いつけないことを意味する。その中高一貫校は男女別学の私立が多く、学費も高いため、東大合格者は所得や出身校で偏り、地方出身者が減って、多様な視点の源であるリーダーの多様性もなくなった。国・埼玉県及び他の地方自治体は、これでよいのだろうか? *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS4B420XS4BUTNB004M.html (朝日新聞 2024年4月11日) 男女別学県立高の共学化を 市民団体が改めて早期実現訴え 男女別学になっている県立高校の共学化を求める市民グループ「共学ネット・さいたま」が10日、県庁で会見し、改めて共学化の早期実現を訴えた。共学ネットは、「公立学校としての公共性」「ジェンダー平等」「性の多様性」の三つの観点から、県立別学校の問題点を指摘。「別学は選択肢の一つ」という代表的な反対意見に対し、「別学と共学の選択肢がある生徒は事実上学力の高い一部の生徒だけで、大半の生徒は選択していない」と反論した。県立の別学校をめぐっては、県男女共同参画推進条例に基づく苦情の申し出を受け、苦情処理委員が2023年8月、県教育長に対し、共学化を勧告。男子校の県立浦和高校の同窓会は別学維持を求め、大野元裕知事に意見書を渡している。 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1209922 (佐賀新聞 2024/3/15) 県立高、共学化勧告に波紋、伝統か機会均等か、埼玉 「名門」卒業生が反対 男女別学の県立高校は早期に共学化すべきだ―。昨年夏、埼玉県教育委員会が県の男女共同参画苦情処理委員から受けた勧告が波紋を呼んでいる。県教委は「名門」2校の卒業生への聞き取りを実施。伝統維持や選択肢の確保を強調する反対意見が多数を占め、男女の機会均等などを訴える賛成派はわずかだった。8月までの報告を求められた県教委の対応に注目が集まっている。「『浦高』は埼玉唯一の全国ブランド」「別学を維持しないと文化が壊れる」。今年1月、県内屈指の「名門男子高」とされる浦和高(さいたま市)での聞き取りには、大学生から80代までの約110人が参加した。議論は3時間に及び、反対意見が噴出。「選択肢を残すべきだ」と声が上がる中「優れた教育を受ける権利を否定するべきではない」といった賛成意見は少数だった。女子高側の「トップ校」浦和第一女子高(同市)では、同窓会の栗原美恵子会長ら約10人が出席し、事前に集めた卒業生のアンケートを紹介。500件のうち483件が共学化に反対した。集まった意見は「女子校出身者の方が(進路での)理系選択が多い」「女子校は男女の性差にとらわれることなく能力や個性を発揮できる」など。栗原会長は「伝統や愛着ではなく、女子校が男女共同参画に成果を上げている点を見てほしい」と訴えた。県教委によると、県立高137校のうち男女別学は男子校5校、女子校7校の計12校ある。勧告は別学があった宮城、秋田、福島3県で2016年度までに全校が共学になったことなどに言及し、対応を求めた。勧告した男女共同参画苦情処理委員は、知事が委嘱した弁護士らで構成。発端は22年4月に寄せられた「男子校が女子の入学を拒むのは、国連の女子差別撤廃条約に反する」との申し出だった。条約は女子に男子と平等の権利を確保することを目的に、女子に対する差別を撤廃するための適当な措置を取るよう求めている。日本も1985年に批准した。同様の勧告は2002年にもあった。県教委は報告書に「各校が特色ある学校づくりに向けて主体的に取り組む中で、共学化を検討する可能性もある。その場合は支援したい」と記載。ただ共学化は大きくは進まなかった。今回の勧告後に始まった共学化反対のインターネット署名は2万件を超えた。県内の共学校の関係者も賛同し、議論は広がりを見せている。県教委は全別学校で聞き取りを実施。日吉亨教育長は1月の記者会見で「意向に応じて場を設定した。中学生や在校生へのアンケートを交えながら、多角的に意見を聞きたい」と話した。 <政治資金の寄付とその恩恵は・・> PS(2024年4月21、22《図》日):*4-1-1・*4-1-2は、①自民・公明両党は自民派閥の政治資金問題を受けた再発防止策として、政治資金収支報告書のデジタル化と外部監査導入を打ち出す方針 ②公明党は、i)国会議員関係政治団体収支報告書のオンライン提出義務化 ii)政治資金の透明性向上のため外部監査・第三者機関活用 iii)収支報告書虚偽記入は政治団体代表者が会計責任者の選任や監督に関して「相当の注意」を怠れば50万円以下の罰金 iv)罰金刑を受けた議員は公民権停止 とした ③首相と与党は、i)議員本人を含め罰則強化 ii)収入を含めた外部監査充実 iii)デジタル化による透明性向上を打ち出す見通し ④公明党は今回の問題のきっかけとなった政治資金パーティーを巡り、パーティー券購入者の情報開示基準を現行の20万円超から5万円超に引き下げるよう求め、自民党内は「特定政党との繋がりを明かしたくない人もいる」との慎重論が根強く、野党はパーティーの廃止を主張 ⑤政党から政党幹部ら政治家に支出する政策活動費については、公明党は使途公開義務付けを主張し、自民党は使途公開を含めて反対論があがる ⑥公明党は国会議員の関係政治団体から寄付を受けた「その他の政治団体」の資金に関する透明性の確保策も盛り込んだ ⑦国会議員関係政治団体は1件1万円超の経常経費と政治活動費を政治資金収支報告書に明細まで記載しなければならず、資金管理団体等の「その他の政治団体」は経常経費の記載は不要で政治活動費も1件5万円以上と基準が緩い ⑧公明党案は批判に配慮して国会議員関係政治団体から年間で一定以上の寄付を受けた政治団体は、国会議員関係政治団体と同等の公開基準とするように要求 ⑨自民党の渡海政調会長は20日、政治資金規正法の今国会中改正の実現を巡って「会期を延ばしてもいいから徹底的にやるべき」と話し、自民党独自案は23日にも方向性を示すことになると言明したが、「公職選挙法の連座制と同じものは作れない」と述べた としている。 国会議員の「事務所費問題」がクローズアップされた2007年に政治資金規正法改正法が成立し、その時は自民党衆議院議員として改正案の議論に私も参加していたため、政治資金を寄付した寄付者が裏切られたり、寄付を受けた議員が本当は他の意図があるのに政治資金規正法違反で叩かれたりしないように、「議員関係の政治資金収支報告書を複式簿記に変更して網羅性・検証可能性を確保し、適正性の意見表明ができる公認会計士監査(独立性のあるプロによる外部監査)を導入すること」を提案した。しかし、成立した改正法は、イ)国会議員関係の政治団体は「国会議員関係政治団体」と法律上明確に定義する ロ)この範囲の政治団体の収支報告の適正の確保及び透明性の向上のため一定の義務を課す という非常に限定されたものであったため、外部監査も政治資金規正法への準拠性の表明に留まった(https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/pdf/35246.pdf 参照)。 そして、イ)のように、国会議員関係の政治団体のみに限ったため、代表者が政党・派閥・地方議員・後援会長等の「その他の政治団体」は、⑦のように緩い基準になり、今回の不記載が合法的に起こったのである。これに対し、①②③⑤⑥⑧のように、自民・公明両党は、自民派閥の政治資金問題を受けた再発防止策として、i)国会議員関係政治団体収支報告書のオンライン提出義務化 ii外部監査・第三者機関活用 iii)収支報告書虚偽記入に対する代表者の罰金 iv)罰金刑を受けた議員の公民権停止等を検討しているそうだが、i)ii)iii)は、国会議員関係の政治団体収支報告書に限定している点で不足であるし、iv)は標的にした議員叩きのツールとして使われることもあるため注意すべきである。 また、国会議員関係の政治団体収支報告書限定では不足である理由は、例えば*4-2-1・*4-2-2・*4-2-3・*4-2-4のように、政権与党に寄付して政策を歪めることにより恩恵を受けたい企業や個人は、国会議員関係の政治団体に寄付しなくても、政党・県連・首長・地方議員等に寄付することも可能で、それが政策を歪めていないことを証明できるためには、取引の全てを網羅性・検証可能性のある複式簿記で記帳し、外部監査人の適正意見をつけて速やかに開示し、少なくとも7年間は保存する必要があるからだ。 なお、④のように、公明党は今回の問題のきっかけとなった政治資金パーティー券購入者の情報開示基準を現行の20万円超から5万円超に引き下げるよう求め、自民党内は「特定政党との繋がりを明かしたくない人もいる」との慎重論が根強く、野党はパーティーの廃止を主張しているそうだが、金額を細かくしても従業員の名前を使って小分けすれば匿名で寄付することができるため、私は政治資金パーティーを廃止し、かわりに民主主義のコストとして国が議員秘書の数を増やし、議員個人にも相当の交付金を出すのが良いと考える。何故なら、その方が歪んだ政策に何兆円も歳出してイノベーションを止められるより、国民にとって2~3桁安上がりだからだ。 さらに、政権与党である自民党は情報も人材も豊富な筈なのに、自民党の機関誌は共産党の赤旗のように資金源になれていない。そのため、自民党は機関誌の内容を充実して販売代金を党の収入に充てればよいと思うし、有権者や後援会員などに集まりたい人がいる場合は、飲み食いや権力の誇示が主目的のパーティーではなく、報告会や研修会を開いて集まった人の意見を吸い上げつつ、それなりの会費を徴収すれば良いと思う。そして、それは、有能な人が議員になっていれば可能であるため、議員の資質の評価にも役立つだろう。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.12.25西日本新聞 2023.12.18 2024.1.15静岡新聞 2024.4.20日経新聞 読売新聞 (図の説明:1番左の図のように、「政治とカネ」問題が起こる度に政治資金規正法が限定的に改正されてきたが、正確な情報を国民に開示するという積極的姿勢はなく、この姿勢は国の予算の使い方でも同じだ。現在の政治資金の報告の仕組みは、左から2番目の図のとおり、抜け穴が多い。また、右から2番目の図のように、日本以外の先進国の公表時期は提出から「48時間以内」「20営業日以内」のインターネット公開と迅速だが、日本は翌年の秋という桁外れに遅い時期であり、これも国の決算と同じで問題である。そして、1番右の図のように、公明党が政治資金規正法改正案を出しているが、①対象を国会議員関係団体に限定した点 ②政治資金パーティーを温存した点 ③プライバシー保護として寄付者の氏名を出さない点 等が不十分である) *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240420&ng=DGKKZO80164480Z10C24A4EA3000 (日経新聞 2024年4月20日) 政治資金報告、デジタルに、規正法改正、与党で調整 外部監査を導入 自民、公明両党は自民党派閥の政治資金問題を受けた再発防止策として政治資金収支報告書のデジタル化や外部監査の導入を打ち出す方針だ。政治資金規正法の改正案に盛り込むことをめざし調整する。与党で案をまとめたうえで野党と内容を詰める。公明党は19日の政治改革本部で規正法改正案の要綱を決めた。自民党幹部は来週初めにも規正法改正に向けた独自案をまとめる方針を示した。同党は当初取りまとめに慎重な見方もあった。公明党の要綱は国会議員が関係する政治団体の収支報告書のオンライン提出を義務付けると定めた。政治資金の透明性向上へ外部監査や第三者機関の活用を明記した。収支報告書の虚偽記入があった場合の対応も記した。政治団体の代表者が会計責任者の選任や監督に関して「相当の注意」を怠ったときは50万円以下の罰金を科す内容も加えた。罰金刑を受けた議員は公民権が停止され、選挙に立候補できなくなる。いずれの措置も岸田文雄首相(自民党総裁)が主張する方向性と一致する。首相は規正法の改正に関して(1)議員本人を含めた罰則強化(2)収入を含めた外部監査の充実(3)デジタル化による透明性の向上――を軸に議論を進めるよう党内に指示している。自民党幹部は首相が示す方針は与党案でも打ち出すとの見通しを示す。公明党の案のうち首相が立場を明らかにしていない項目は擦り合わせが必要になる。公明党は今回の問題のきっかけとなった政治資金パーティーを巡り、パーティー券購入者の情報開示基準を現行の20万円超から5万円超に引き下げるよう求めた。自民党内は「特定政党とのつながりを明かしたくない人もいる」などと慎重論が根強い。政党から政党幹部ら政治家に支出する政策活動費について公明党は使途公開の義務付けを主張する。自民党は使途公開を含めて反対論があがっている。立憲民主党など野党は廃止を主張する。公明党は国会議員の関係政治団体から寄付を受けた「その他の政治団体」の資金に関する透明性の確保策も盛り込んだ。国会議員関係政治団体は原則、1件1万円超の経常経費と政治活動費を政治資金収支報告書に明細まで記載しなければならない。一方で資金管理団体など「その他の政治団体」は経常経費の記載は不要で、政治活動費も1件5万円以上と基準が緩い。立民は自民党の茂木敏充幹事長の国会議員関係政治団体から別の政治団体に2022年までの10年間でおよそ3億2000万円が寄付されたと国会で追及した。新藤義孝経済財政・再生相についても同様の資金移動があり、使途の大半がわからないとただした。公明党案はこうした批判に配慮し、国会議員関係政治団体から年間で一定以上の寄付を受けた政治団体は、国会議員関係政治団体と同等の公開基準とするように要求した。次期衆院選をにらみ、透明性のハードルをあげる実績づくりを狙う。自民党はいまだ独自案をつくっていない。公明案をどこまで受け入れるかが与党案のとりまとめに向けた調整のポイントとなる。公明党の山口那津男代表は16日の記者会見で、衆院3補欠選挙の投開票日の28日までに与党の基本的な考え方をまとめるのが望ましいとの認識を示した。与党内の調整が終われば野党との協議に入る見込みだ。立民などは政策活動費の廃止や企業・団体献金の禁止など自民党にとってさらに受け入れにくい案を取り入れるよう主張する可能性が高い。与党協議に時間がかかると、それだけ野党との話し合いに残された時間が少なくなる。与党の調整のスピードは首相が掲げる今国会中の規正法改正を左右する。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2028W0Q4A420C2000000/ (日経新聞 2024年4月20日) 政治資金規正法改正、23日にも自民案 渡海政調会長 自民党の渡海紀三朗政調会長は20日、政治資金規正法の今国会中の改正の実現を巡り「会期を延ばしてもいいと思う。徹底的にやるべきだ」と話した。党の兵庫県連との会合後に記者団に話した。規正法の自民党独自案については23日にも方向性を示すことになると言明した。自民案について「原則は透明性と説明責任をどう担保していくかだと思う」と言及した。会計責任者だけでなく政治家自身も処分可能にする「連座制」を例に挙げて、「公職選挙法の連座制と同じものは作れない」と述べた。「議論し国民に理解してもらい、現実の政治活動に支障がないようにやっていかないとならない」と説明した。28日投開票の衆院補欠選挙の情勢は「たいへん厳しいと聞いている」と語った。「今回の政治資金にまつわる一連の不祥事が選挙に反映されている」と分析した。 *4-2-1: https://digital.asahi.com/articles/ASS4L3GMGS4LULFA012M.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2024年4月18日) 減税の恩恵受けた企業はどこ? 政府は非開示、法人コードは毎年変更 政策減税で毎年8兆円超の税収が減っているにもかかわらず、減収に見合った効果が得られているか検証する仕組みは整っていない。総務省は毎年秋、所管省庁が新設や期限の延長を求めている租税特別措置(租特)の効果を点検する。昨年は36項目のうち、19項目でこれまでの効果について、32項目で将来の効果について、それぞれ説明や分析が不十分だと指摘した。とりわけ昨年末に「延長」と「拡充」が決まった賃上げ減税は、過去の減税効果が示されていないなどとして、「分析・説明の内容が著しく不十分」だと厳しい評価がくだった。財務省も昨秋、有識者を交えて賃上げ減税の政策効果を検証したが、減税が賃上げに寄与しているかどうか、はっきりとは確認できなかった。こうした事態に、上村敏之・関西学院大教授(財政学)は、「減税の政策効果を検証するために必要なデータが開示されていないことが一番の問題だ」と指摘する。賃上げ減税の効果を検証するには、減税が適用されなかった企業よりも、適用された企業の方が賃上げをしていることを示さなければならない。だが、どの企業が減税の恩恵を受けているかの情報は非開示となっている。財務省が法律に基づき、租特の適用状況を毎年まとめている報告書には、項目ごとに上位10社の適用額だけは示されているが、アルファベットと6桁の数字で作る「法人コード」で表されるだけで、具体的な企業名はわからない。しかも法人コードは、守秘義務を理由に過去の実績から企業名が推測できないよう、毎年変えられている。ほかに開示されているのは、業種ごとや資本金の規模ごとにまとめた減税の適用件数や合計額にとどまる。22年度の自民党税制改正大綱では透明性を高めようと、減税を受ける大企業に対して賃上げ方針の公表を義務づけたが、具体的な賃上げ額や減税額の公表までは求めなかった。かつては、抜本的な見直しを検討した時期もあった。10年に法人税関連の租特について定めた透明化法を策定した民主党の鳩山政権は、報告書に企業の実名を記す方向で検討を進めていた。当時、財務副大臣を務めた峰崎直樹元参院議員によると、経済界や経済産業省からの強い反発にあい、党内の意見集約もできず断念したという。峰崎氏は「どの企業が減税の恩恵を受けているかわからなければ、成果が出ているかもわからず、国会の審議などで追及もできない」と話す。そこで朝日新聞が、研究開発減税の適用額上位10社について、有価証券報告書などの公表資料と照らし合わせて分析した。22年度の適用額トップ企業は、トヨタ自動車とみられることがわかった。その額は914億9925万円で、研究開発減税全体の1割強を占める。トヨタの法人コード「DI07300」は、賃上げ減税も80億5209万円で、2番目に多く優遇を受けていた。研究開発費に毎年1兆円規模を投じるトヨタは減税規模も他企業を大きく上回り、22年度までの10年間で連結ベースの減税額は累計9千億円を超える。トヨタは朝日新聞の取材に「研究開発税制は日本企業のイノベーションを加速し、競争力強化を後押しする、一つの有効な制度だ」とコメントした。しかし、トヨタ以外の上位10社を公表資料から特定することはできなかった。 *4-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1228542 (佐賀新聞 2024/4/18) ガソリン補助金 「賢い支援」に転換急げ ガソリン補助金の出口が見えない。4月末に期限を迎えるが、政府は7度目の延長を決めた。 だがガソリン、灯油の価格を抑えるために投じた補助金は6兆円を超えている。持続可能性や効率の面から疑問が生じるのは当然だろう。所得、地域、業種にかかわらず一律に支援する方式から早く転換すべきだ。原油高は続いているが、財政資金は無尽蔵ではない。低所得世帯や過疎地に支援対象を絞り込んでほしい。生活を支える補助金だからこそ、効率的で長続きする「賢い支援」に切り替えねばならない。ガソリンなどの燃油価格を抑えるため、補助金が導入されたのが2022年1月のことだ。原油の国際市況が値上がりしたためで3月末までの時限措置のはずだった。しかし2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、資源価格は一層高騰した。ロシアのエネルギー資源を利用できなくなり、原油や天然ガスは中東、米国、オーストラリアなどからの調達に変更してきたが、円安や中東情勢の悪化の影響もあり、原油価格は依然高い。補助金は石油元売りに渡し、店頭の値段を一定水準に抑える仕組みだ。最近のガソリンの小売価格は175円程度だが、補助金がなければ200円近くになるという。生活に直結する補助金は導入よりも打ち切るタイミングが難しい。消費者にとっては負担増になってしまうからだ。縮小や廃止のタイミングをあらかじめ検討しておくべきだという意見は、導入前から政府内にもくすぶっていた。だが政府はいたずらに期限延長を繰り返してきた。ガソリン補助金は特定の業種や所得層に対象を限らない支援だけに影響も大きい。内閣支持率や選挙をめぐる思惑が働いたのだろうか。運送業の大半は中小企業であり、公共交通機関が少ない地域では家庭も車に頼らざるを得ない。ガソリン補助金は暮らしを支えてきた面がある。政府は5月の使用分を最後に、電気・ガス代への補助金を打ち切る。液化天然ガス(LNG)などの価格が落ち着いたためだという。ガソリン補助金も縮小や廃止の方向をできるだけ早く決め、車のユーザーや家庭に周知してほしい。見直しの基本は補助金の支援対象を農漁業や物流・運輸などに限定することだ。車に頼らざるを得ない地域と、交通網が張り巡らされた都市部で差があるのも当然だろう。灯油は寒冷地への支援に絞ったらどうか。零細企業や低所得層への配慮は欠かせないが、高級車に乗る富裕層には不要だ。業種の選定や所得による絞り込みの仕組みをつくるのに時間がかかるなら、一律支援の目安となるガソリン価格の水準を引き上げる移行措置を考えてほしい。補助金の規模を圧縮できるはずだ。補助金を漫然と続ければ、省エネやエコカーへの乗り換えに弾みがつかず、結果的に化石燃料への依存が続く負の効果を生みかねない。直接の恩恵が車のユーザーに限られる補助金を見直し、省エネや脱炭素を加速させる政策に財源を振り向けるべきではないか。エネルギー分野以外にも子育て、教育、奨学金など政府の手助けが必要な分野は多い。ガソリンの巨額補助金の見直しは、財政資金の公平で有効な使い道を考えることにほかならない。 *4-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240416&ng=DGKKZO80041660V10C24A4EP0000 (日経新聞 2024.4.16) 佐賀・玄海町の核ごみ調査、地元団体が受け入れ請願 原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査を巡り、佐賀県玄海町の飲食・宿泊などの3団体が調査の受け入れを求める請願を町議会に提出した。町によると、原発立地自治体で文献調査に関する請願が出されたのは初めてという。 町議会は今後、原子力対策特別委員会で請願を審議する予定で17日に同特別委を開く。請願を提出したのは玄海町の旅館組合と飲食業組合、防災対策協議会の3団体で、4日付で受け付けた。脇山伸太郎町長は「重く受け止めている。まずは議会での議論を見守りたい」とのコメントを発表した。 *4-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1229932 (佐賀新聞 2024/4/20) 核のごみ最終処分場選定調査 原発立地自治体の責務か 九州電力玄海原子力発電所が立地する東松浦郡玄海町で、地元3団体が高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場選定に関する文献調査の受け入れを求める請願書を町議会に提出した。難問である核のごみ処分について議論をする上で「一石を投じた」意義は否定しないが、一部の請願書の「原発立地自治体の責務」という表現には強い違和感を覚える。過疎地がさらなる核のリスクを自ら背負う義務があるとは言い難い。核のごみは強い放射線を出し続けるため、国は地下300メートルより深い岩盤に埋める地層処分の最終処分場を国内1カ所に造る計画で、場所の選定を進めている。現在、北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)の2町村が第1段階の文献調査に応じて作業が進み、今年2月、次の段階となる概要調査に進むことが可能とする報告書案が公表された。長崎県の対馬市議会は昨年9月、調査受け入れ促進の請願を採択したが、市長は反対し、応募しなかった。今回、玄海町議会で文献調査受け入れを求めた請願の審議は、原発立地自治体では初めてとなる。町議10人のうち過半数が賛同する見通しで、全議員で構成する25日の特別委員会、26日の本会議で採択される公算が大きい。これを受けて脇山伸太郎町長がどう判断するかが焦点となる。請願書は町の旅館組合、飲食業組合、建設業者でつくる防災対策協議会が個別に提出した。東日本大震災を経て、老朽化した玄海原発4基のうち1、2号機が廃炉となり、原発関連の作業員が減って需要が大幅に減り、コロナ禍も重なって経済的打撃を受けている現状を訴えている。長年、原発産業に依存してきた町は福島第1原発事故後、「脱原発依存」に官民さまざまに取り組んできた。原発関連施設の固定資産税収入などもあり、県内で唯一、国から地方交付税の配分を受けていない不交付団体で、町の財政は比較的安定している。文献調査を受け入れた場合、国から最大20億円が交付される。再び「原発マネー」による経済活性化の方策へと進むのが、長期的に見て地域のためになるのか。原発によらないまちづくりの障壁が何であるかはいま一度検証し、深い議論を望みたい。玄海町をはじめ、隣接する唐津市も日常的にリスクに向き合っている。原発による電力を生み出し、使用済み核燃料からの「核のごみ」を排出する責任を問われるなら、電力の大消費地である都市部にも受益者として責任の一端はあろう。立地自治体が原発の全てのリスクを背負う義務はなく、これ以上の負担を負わせるべきではないと考える。最終処分場の選定に関し、山口祥義知事は従来、玄海原発などエネルギー政策で「佐賀県は相当の役割を果たしている」と指摘し、「新たな負担を受け入れるつもりはない」と主張、県内での建設に反対の立場を示してきた。今回も同様の考えを表明している。原発に対する賛否を超えて、知事の考え方は一定支持を得られるのではないか。核のごみの放射能レベルは時間とともに減少するものの、数万年から10万年は生活環境から隔離する必要があるといわれている。当該世代はもちろん、人類として予測が難しい時間軸である。文献調査受け入れが最終処分場候補地決定とすぐになるわけではない。地震が頻発する日本列島でもある。今回の一石を重く受け止め、長期的に向き合わざるを得ない原発のありようをあらためて考える機会にもしたい。 <賢くない支出から賢い支出へ> PS(2024年4月24、25、26、27《図》日追加):*5-1-1は、①民間事業者から大型投資に向け、政府側により長期の計画策定を求める声があり、経産省は2035年脱炭素目標の先の電源構成の議論を始めて2024年度中に2040年度の構成を定める ②太陽光・風力といった再エネと原子力の活用が主要な論点 ③「エネルギーへの投資の難しさは将来どの技術が伸びてくるかが分からないところ」と水素事業に携わる国内大手商社幹部が指摘 ④国内では再エネが急速に普及する一方、石炭等の火力発電が主力電源として残る ⑤太陽光・風力発電の出力制御で都内の再エネ事業者から「原発再稼働を見通せず、出力制御される再エネは投資判断が難しくなった」という声も ⑥日本の電源構成は2022年度実績で脱炭素電源は再エネ21.7%、原子力5.5% ⑦政府の現行エネルギー基本計画は2030年度に再エネ36~38%、原子力20~22%に増やす目標 ⑧菅政権時に日本は2050年までにCO₂等の温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を表明 ⑨政府は再エネ・原発への投資や新技術開発が進むよう制度を整えて支援に乗り出してきた ⑩電力投資は大規模で投資回収は数十年単位で考える必要があるが、2050年の脱炭素社会に向けた具体的な数値目標や電源構成が不透明な現状では将来の利益を見通せず、再エネ事業者も原発事業者も新たな投資を決断しづらい ⑪天然資源に乏しい日本でこのまま脱炭素が進まない状態を放置すれば、エネルギー安全保障の観点でも問題が生じる ⑫現在、電源の7割を頼る火力発電に使う石炭などの化石燃料は多くを輸入に依存 ⑬太陽光や風力の発電に用いる中核部品も中国や欧米企業の製品に頼らざるを得ない ⑭再生エネの新技術に関する国内産業を育成し、供給網を強化して、輸入に過度に依存しない体制を整える必要 ⑮原発の再稼働や新増設に道筋をつけることも欠かせない ⑯再エネ新技術では日本発のペロブスカイト型太陽電池や浮体式洋上風力発電があり、政府は明確な目標設定を年度内に検討 ⑰原発の再稼働や新増設を促す追加策も不可欠 ⑱政府はこうした背景を踏まえて2040年度電源構成を含めた長期見通しを示して民間投資を後押しする狙い 等としている。 しかし、②⑨⑮⑰⑱は、CO₂という温暖化ガスを排出しないという1点のみで再エネ発電と原子力発電を同一視し、「地球温暖化対策に貢献する」として意図的に読者をミスリードしている点が、大きな間違いである。何故なら、地球温暖化対策なら、もともとはなかったところに膨大な熱エネルギーを発生させ、余った熱エネルギーを海に捨てている原発は、地球温暖化防止に貢献するどころか温暖化を促進しているからである。一方、太陽光・風力等の再エネ発電は、地球にもともと存在するエネルギーを熱エネルギーに変換させずに電力に換えているため、本当に地球温暖化防止に貢献しているのである。また、⑩については、投資が膨大で数十年どころか数万年かかっても政府補助がなければ廻らないのは原発だけであり、太陽光・風力等の再エネは、⑤のように、原発再稼働で出力制御されなければとっくに採算がとれ、規模拡大すれば安価にもなるからだ。さらに、⑪のように、馬鹿の一つ覚えのように「日本は天然資源に乏しい」と主張する人が多いが、日本には太陽も当たらず、風も吹かず、水流もないとでも言うのだろうか? そして、エネルギー安全保障は、③④⑫のように、化石燃料を他国より高い値段で輸入し続け、水素でさえ輸入しようとし、その負担は国民に押しつければよいと考えてきた大手商社や政府(特に経産省)に問題があるのであり、安全保障全体から見ても武力行使されれば無防備な原発を北西の風が多い日本海側に並べておくなどもってのほかなのだ。 そのため、政府が、⑥⑦のように、現在は5.5%しかない原子力発電を2030年度に東日本大震災前と同じ20~22%に増やす目標をたて、⑧の「2050年までのCO₂等の温暖化ガス排出を実質ゼロ」に関して故意に目的をすり替え、①⑱のように、民間事業者からの原発への大型投資を促すなどというのは国民不在の無責任な態度でしかない。もともと太陽光発電は日本発の技術で日本がトップランナーだったのに、政府やメディアが逆風を吹かせた結果、⑬のように、中核部品を中国や欧米企業の製品に頼らざるを得ない羽目になったのである。その上で、⑭のように、再エネの新技術に関する国内産業を税金を使って育成し、供給網を強化し、輸入に過度に依存しない体制を整えるのでは、国債残高ばかりが膨らんで経済は停滞するのが当然だ。なお、⑯の日本発ペロブスカイト型太陽電池は、ビルや住宅に自然な形で組み込まれるように、最初は補助金をつけてでも普及させるべきで、決してシリコン型太陽光発電機器の二の前にするべきではない。また、浮体式洋上風力発電も風レンズ風車や養殖施設併設型等の工夫された付加価値の高い日本発の機器があり、電気は創って使う時代になりつつあるため、政府は「省庁や大企業の既得権維持」という狭い視野ではなく、省庁の枠を越えたイノベーティブな判断をすべきである。 つまり、分散発電を推進しつつ、発電された電力を特定の場所に集めるには、*5-1-3の耐用年数40年を過ぎた水道管更新時に、耐震化しながら、電線を地中化し、各建物で発電された電力を集めれば良いし、ここに国費を投入すれば賢い支出になる(ただし、この頃、“節水”と称して水の勢いを弱くする蛇口が多いが、これは、掃除や食器洗いに必要な水の分量が同じである以上、タイパ(タイムパフォーマンス)を悪くして、人を疲れさせるだけである)。このようにして各地で集めた電力を遠くへ送電するには、*5-1-2のように、いつまでも「開かずの踏切」のままにして国民の生産性を下げている鉄道を高架化し、そこに送電線も通して、運賃と同時に送電料も取れるよう投資すればよい。つまり、既にある連続した土地を、管轄する省庁を問わずに共用できれば、それぞれを安価に改良することができ、賢い支出になるのである。 なお、原発は、*5-2-1・*5-2-2のように、地震の多い日本では危険な施設であり、原発が事故を起こせば取り返しのつかないことになるのは明らかだ。そのため、いつまでも国の膨大な補助金がなければ廻らない危険施設は、早急に廃止するのが国民のためであり、何度も同じ事故が起きなければそれを理解できないということは、まさかないだろう。 原発については、電源立地地域対策交付金・広報・調査等交付金・核燃料サイクル交付・原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業交付金・原子力発電施設等立地地域特別交付金・福島特定原子力施設地域振興交付金・エネルギー構造転換理解促進事業を活用した事業・原子力発電施設立地地域共生交付金(運転年数30年超の原子力発電施設が所在す道県へ)・原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事業等、多くの補助金が支払われている上、原発の維持管理のために多数の人を雇っており、これが立地地域・周辺地域や経産省にとって既得権となっているが、これらの財源は、国民が支払った税金と電気料金である(https://www.enecho.meti.go.jp/committee/disclosure/dengenkoufukin2/ 参照)。 そのような中、*5-3-1のように、佐賀県玄海町の町内3団体は、それだけで国から20億円の文献調査交付金が交付される「文献調査」を求める請願書を町議会に提出したが、この交付金も税金で国民が負担していることを忘れてはならない(https://digital.asahi.com/articles/ASP1H6V6ZNDTIIPE01R.html 参照)。そこで、*5-3-2は、⑲佐賀県玄海町議会は原発から出る高レベル放射性廃棄物最終処分場選定の文献調査受け入れを求める地元3団体の請願をスピード採択する ⑳人口約4900人の玄海町は今年度当初予算約100億円の6割を原発関連収入が占め、佐賀県内唯一の「不交付団体」で財政に窮してはいない ㉑賛同町議は「原発立地自治体として責任を果たさなければいけない」「原発自治体で真っ先に手を挙げたかった」と語り、全国の原発立地自治体の手挙げに繋がることを期待 ㉒町旅館組合・町飲食業組合・町内の建設業者で作る町防災対策協議会は、請願理由を「原発立地自治体の責務」「文献調査での地質の把握」とした ㉓反対派町議は「文献調査は原発立地自治体の責務ではない」と反発 ㉔町民には反発の声が広がらず、町議会前で「危険原発と永久処分場」等ののぼりを掲げたのは、佐賀県唐津市や福岡市など町外の4人だった と記載している。 このうち、⑳については、現在の佐賀県玄海町は原発関連収入で「不交付団体」となっており、財政に窮してはいないものの、原発が廃止され、原発から出る高レベル放射性廃棄物が他の自治体の最終処分場に移されれば、原発の雇用・旅館宿泊・飲食・建設ニーズをはじめ原発関連の交付金もなくなるため、⑲㉑㉒のように、町旅館組合・町飲食業組合・町内建設業者などの地元3団体が「原発立地自治体の責務」「文献調査での地質の把握」等として請願を行ない、スピード採択に至るのだと思われる。それで、㉓のような町内の声が広がらない理由は、「原発は危険で、自分にはメリットがない」と感じる人は既に町外に引っ越しており、玄海町に住んでいる殆どの人は原発によるメリットを受けているためで、㉔のように、町議会前で「危険原発と永久処分場」等ののぼりを掲げたのは、危険性と負担を押しつけられる割にはメリットの少ない唐津市・福岡市など町外の人だ。が、事故時の汚染地域の広さや原発の維持管理・最終処分の負担を考えれば、狭い立地地域の判断のみで原発の立地・維持管理・最終処分場の誘致を決めるのはむしろ問題なのである。 しかし、既に大量に存在する使用済核燃料や廃炉時に出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場は速やかに決めるべきであり、最終処分場は人間の生活環境から遠く離れ、酸素が少なく物質が変化しにくいという理由で、地表から300m以上深い地層に処分することに、現在は、なっている。が、地表から300m以上深い地層に処分すれば全く管理不要というわけでもなく、施設の建設費やその維持管理費はかかるため、有人島も含めて合計14,121の離島がある日本の場合は、人間の生活環境から300m以上離れ、漁業等に支障の無い無人島を使った方が施設の建設費や維持管理費がずっと安価ですむと、私は思う。そして、都道府県別の離島数は、1位長崎県1,479(うち無人島1,407)、2位北海道1,472(うち無人島1,466)、3位鹿児島県1,256(うち無人島1,225)等であり、このうち長崎県対馬市は昨年4月に調査受け入れを求める地元の動きがあり、市議会が同9月に請願を採択したが、対馬市は国境離島であるとともに漁業も盛んな地域であるため、私も対馬市長と同様、もったいないし不向きだと思っていた。しかし、漁業等に利用されておらず、本土に近い無人島なら適地は多く、建設コストを最小にするには、(石炭はもう使わないため)軍艦島のような既に放棄された地下施設のある場所が良いと思われる。 そして、原発はこれだけ多くの問題を抱えているのに、*5-4は、㉕政府は2035年頃までの最大10年間の計画のうち前半の2024年度からの5年間で200億円を核融合研究に投じる ㉖従来はトカマク型という大型炉に特化してきたが、今後はレーザー方式など複数方式の支援も手厚くする ㉗2035年までに原理実証して2050年頃の実用化を目指す ㉘文科省は「発電に限らず、ロケットエンジン向けや熱利用等の様々な用途への応用を視野にチームを作る」とする ㉙核融合はCO2が発生せず、1gの燃料から石油8t分のエネルギーを生み出す ㉚実用化できれば脱炭素を進めながら生成AIやEV普及に伴う電力消費の急増に対応しやすくなる ㉛核融合により放出エネルギーが投入エネルギーを上回る「エネルギー純増」が2022年に世界で初めて達成された ㉞半世紀以上の研究の歴史があるが未だ実用化できていない 等としている。 核融合・核融合と言う人は多いが、㉞のように、半世紀以上研究しても未だ実用化できない技術が、㉗のように、2050年頃には実用化でき、㉚のように、生成AIやEV普及に伴う電力消費の急増に間に合って役立つとは思えない。アメリカは、広い砂漠があり、リスクをとって実験することもでき、科学的論理性に長けた国であるため、原爆・原発・ロケット・コンピューター・インターネット・AI・バイオ医薬品等も世界で最初に開発した国だ。そのため、㉖のように、核融合原発も開発・実用化することが可能かも知れないが、アメリカで開発された核分裂型の原発を猿マネして地震・津波の多い日本でそのまま使い、大変な事故を起こしたのがフクイチ原発事故である。さらに、核分裂を使う現在の原発でさえ、暴走し始めると人間の手には終えずに広い範囲に迷惑をかけまわっているのに、㉛のように、放出エネルギーが投入エネルギーを上回る核融合原発が暴走したらどうなると思っているのか。また、㉘のようにロケットエンジンに核融合を使って、打ち上げに失敗したら地球の広い範囲が汚染されるが、これらもまた、安全神話と“風評被害”で乗り切るつもりだろうか。さらに、㉙は、核融合はCO₂が発生せず、1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを生み出すとしているが、発生する莫大な熱エネルギーを冷やした熱は地球を暖めないとでも言うのか。つまり、ここまで非科学的・非論理的な日本という国が、㉕のように、核融合研究に数百億円投じても無駄使いになるだけなのである。そして、その数百億円は、ただでさえ足りない高齢者の医療・介護保険制度から流用する金額より大きいのだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.8.1東京新聞 2018.4.19朝日新聞 2024.4.22佐賀新聞 2023.2.14福井新聞 (図の説明:1番左の図のように、既に使用済核燃料貯蔵率の高い原発が多い上、それを水中で貯蔵して冷却する使用済燃料貯蔵プールは原発に近い高い位置にあるため、地震によるひび割れや倒壊の危険性が高い。また、左から2番目の図のように、現在、高レベル放射性廃棄物の最終処分場は、ガラス固化体にして金属容器に入れ、人が近づかない地下300m以深に保管する形が好ましいとされており、右から2番目の図のように、北海道寿都町・神恵内村と佐賀県玄海町が国から20億円の交付金が得られる文献調査を受入れているが、1番右の図のように、日本には本土から300m以上離れた離島(無人島も)は多く、無人島から入る形で海底の地下に最終処分場を建設すれば300m以深である必要は無いため、安価で維持管理もしやすいと思われる) *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240416&ng=DGKKZO80041590V10C24A4EP0000 (日経新聞 2024.4.16) 再エネ・原発 拡大どこまで、30年度目標、達成なお遠く 電源構成で道筋示す 経済産業省は国際公約となる2035年の脱炭素目標のさらに先を見すえた電源構成の議論を始める。24年度中に40年度の構成を定める。民間事業者からは大型投資に向け、政府側により長期の計画策定を求める声があった。太陽光や風力といった再生可能エネルギーと原子力の活用が主要な論点となる。「エネルギーへの投資の難しさは将来どの技術が伸びてくるかが分からないところにある」。水素事業に携わる国内の大手商社幹部は現状の課題を指摘する。日本国内で再生エネが急速に普及する一方で、石炭などの火力発電は主力電源として残る。太陽光や風力による発電を止める出力制御が問題となり、都内の再生エネ事業者からは「原発の再稼働を見通せず、その調整弁として出力制御される再生エネは投資判断が難しくなっている」といった声も聞かれる。日本の電源構成は22年度の実績で、脱炭素につながる電源は再生エネが21.7%、原子力が5.5%にとどまる。現行の政府のエネルギー基本計画では30年度に再生エネを36~38%、原子力を20~22%に増やす目標をかかげる。達成までの道のりは遠い。前の菅義偉政権時代に日本は50年までに二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を表明した。政府は再生エネや原発への投資、新技術の開発が進むよう制度を整え、支援に乗り出してきた。それでも、現場には脱炭素への機動的な投資に踏み出しにくい構図が残る。電力への投資は大規模で、投資回収は数十年単位で考える必要がある。50年の脱炭素社会に向けた具体的な数値目標や電源構成が不透明な現状では、将来の利益を見通せず、再生エネ事業者も原発事業者も新たな投資を決断しづらい。天然資源に乏しい日本でこのまま脱炭素が進まない状態を放置すれば、エネルギー安全保障の観点でも問題が生じると指摘される。足元で電源の7割を頼る火力発電に使う石炭などの化石燃料は多くを輸入に依存する。太陽光や風力の発電に用いる中核部品も中国や欧米企業の製品に頼らざるを得ない。再生エネの新技術に関する国内産業を育成し、供給網を強化して、輸入に過度に依存しない体制を整える必要がある。原発の再稼働や新増設に道筋をつけることも欠かせない。再生エネの新技術では、日本発の曲がるほど薄い新型太陽電池「ペロブスカイト」や、深い海域にも設置できる浮体式の洋上風力発電などがあげられる。国土が狭いため、既存の太陽光や風力の平地での適地が限られる日本において、再生エネ拡大の切り札とされる。政府はペロブスカイトや浮体式洋上風力といった新技術に関しても、明確な目標設定を年度内に検討する。原発の再稼働や新増設を促す追加策も不可欠となる。政府はこうした背景をふまえ、40年度の電源構成を含めた長期見通しを示して民間投資を後押しする狙いだ。 *5-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240416&ng=DGKKZO80024680V10C24A4TLH000 (日経新聞 2024.4.16) 開かずの踏切 解決の道険し、立体交差に費用と時間 遮断機が下りた時間が長い「開かずの踏切」が、なかなか解消されない。都市部では過密ダイヤでラッシュ時にほとんど開かない状態が続く。遮断時間が長いと通勤通学や物流など交通の障害となるうえ、事故にもつながる。開かずの踏切の現状と解決策をグラフィックスで探る。開かずの踏切とは、朝晩など混み合う時間帯に1時間のうち40分以上閉まっている踏切を指す。国土交通省によると全国に539カ所あり、東京都に288カ所、大阪府に81カ所、神奈川県に76カ所など大都市圏に集中している。最も遮断時間が長いのは、京急線品川駅近くの踏切(東京・品川)で58分。京王線明大前駅(同・世田谷)でも57分と、1時間で3分しか開かない。関西ではJR阪和線鳳(おおとり)駅(堺市)や近鉄大阪線長瀬駅(大阪府東大阪市)が52分。愛知県では近鉄名古屋線蟹江駅(蟹江町)で51分だ。愛知では踏切による渋滞が激しい場所が多い。開かずの踏切は、通勤通学や物流に大きく響く。緊急車両の通行にも支障をきたす。渋滞が続けば二酸化炭素(CO2)排出量も増える。踏切待ちによって発生するトータルの経済損失は年間1兆5000億円との試算もある。世界の主要都市と比べ、東京の踏切の多さは突出している。東京23区の踏切は米ニューヨークの約13倍、パリの約90倍だ。全国には3万2000超あり、踏切大国で知られるインドと同水準だ。欧米では早くから馬車が発達したため、鉄道は建設当初から高架上を走り、踏切は少ない。解決策は限られる。鉄道か道路を高架化・地下化して立体交差にするのが抜本策だが、莫大な費用と時間がかかる。3月には東京都が開かずの踏切が最も多い西武鉄道の一部区間での立体交差事業に着手したが、完成は13年後。事業費は2660億円を見込む。解消への道のりは遠い。 *5-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20240314-OYT1T50009/ (読売新聞社説 2024/3/14) 災害時の断水 水道管の耐震化なぜ進まない 大きな地震が起きるたびに、老朽化した水道管が損傷し、断水が繰り返されている。各地で遅れが目立つ水道管の耐震化を急がねばならない。能登半島地震で大きな被害が出た石川県の奥能登地方では、今も断水が続いている。住民は食事や衛生面で不便を強いられ、病院などの運営にも支障が出ている。石川県の水道管の耐震化率は36%で、全国平均の41%よりも低い。街の中心部だけでなく、山あいに点在する集落につながる水道管も至る所で破損し、復旧に時間がかかる要因となっている。道路の寸断で、復旧にあたる作業員も現場到着に困難を極めた。今回の断水は、ひとたび水道網が破壊されたら、容易には立て直せないことを浮き彫りにした。日本の水道網は、高度経済成長期に集中的に整備され、現在では耐用年数の40年を過ぎた水道管も多い。国は、地震が起きても壊れにくく、つなぎ目が外れにくい水道管への更新を推奨しているが、切り替えが進んでいない。水道事業は主に市町村が担っている。人口減や節水技術の向上で料金収入が減る一方、住民の負担になる大幅な値上げは難しく、各地で苦境にある。水道管の更新費用も捻出できない状況だ。道路や 橋梁きょうりょう なども老朽化が深刻だが、水の確保は人の命にかかわる。地震は今後も、いつどこで起きるかわからない。水の安定供給を維持するためには、各自治体がいかに水道事業の効率化を図り、財政基盤を強化できるかがカギを握る。香川県は2018年、県内ほぼ全域の水道事業を統合した。業務の一元化で経費を削減し、設備の更新費用などに充てている。組織の規模を生かし、災害時には早急な人員派遣も可能になる。宮城県は水道事業の運営を民間に委託している。各地域で実情に見合う方法を検討してほしい。限られた予算を有効に活用するためには、どのエリアから水道管の耐震化を進めていくのかという判断も重要になる。大阪府堺市は、災害時に避難所となる学校や、被災者を受け入れる病院に水を送る水道管を優先的に耐震化している。福島県会津若松市は、AI(人工知能)で水道管の劣化度を調査し、その結果を基に更新の順番を決めている。水道行政は4月、厚生労働省から、道路を担当する国土交通省に移管される。道路工事の際、水道管の耐震化も併せて行うなど、一体的な整備につなげるべきだ。 *5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS4K7RSNS4KULBH00ZM.html (朝日新聞 2024年4月18日) 地震後に伊方原発3号機の出力2%低下、規制庁「安全には影響ない」 四国電力は18日、前日夜に発生した豊後水道を震源とする最大震度6弱の地震後、運転中の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の発電機出力が約2%低下したと発表した。地震の影響とみられる。原子力規制庁によると、安全への影響はないという。四国電によると、3号機では水平方向に33ガル(ガルは揺れの勢いを示す加速度の単位)を観測したが、自動停止する設定値190ガルを下回ったため、運転を継続している。17日夜の地震後、タービンに送る蒸気の加熱装置のタンクの水位計に不具合があり、発電効率が落ちたことで発電機出力が下がったという。四国電が原因を調べている。廃炉作業中の1、2号機に異常はないという。 *5-2-2:https://mainichi.jp/articles/20230110/k00/00m/040/069000c (毎日新聞 2023/1/10) 南海トラフ地震後 1週間以内のM8級、発生率は100~3600倍 近い将来起きる可能性の高い「南海トラフ地震」が発生すると、さらに続けて巨大地震が起きる確率は平常時より大きく高まり、1週間以内の場合は100~3600倍になるなどとする試算結果を、東北大と京都大、東京大の研究チームが10日付の国際学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表した。チームによると、これまで連続発生する確率の具体的な試算はなかったといい、連続発生を想定した備えが重要だと指摘している。太平洋側の駿河湾から日向灘にかけて延びる海底地形の南海トラフ沿いでは、100~150年間隔で巨大地震が繰り返し発生している。近代では、1944年の昭和東南海地震の2年後に南海地震が起きた。また、1854年には安政東海地震の約32時間後に南海地震が発生したことを示す記録が古文書に残る。このように、トラフ沿いの異なる場所を震源域とする巨大地震が連続する傾向がある。一方、1707年の宝永地震のように、震源域が分かれずトラフ一帯が震源域となった事例もある。福島洋・東北大災害科学国際研究所准教授(地震学)らは、地震の国際的な統計にある巨大地震の連続発生事例と、過去の南海トラフ地震のうち確度が高い1361年以降の履歴を基に、南海トラフ地震が連続発生する確率を最初の地震からの経過時間別に試算した。その結果、地震の規模を示すマグニチュード(M)8級の巨大地震が連続発生する確率は、最初の地震から6時間以内=1~53%(平常時の1300~7万7000倍)▽1週間以内=2・1~77%(同100~3600倍)▽3年以内=4・3~96%(同1・3~29倍)――となった。数値の幅が広いのは、地震の履歴が多くないためという。気象庁は、南海トラフ地震の想定震源域でM6・8以上の地震が発生し、それに連続して「後発」の巨大地震発生の可能性が高まったと評価した場合、「南海トラフ地震臨時情報」を発表して警戒を促すことにしている。研究結果について福島さんは「連続して発生する確率は時間を変えてもさほど上昇しておらず、地震直後に起きる可能性が高いことが示された。臨時情報への対応の必要性を裏付けるもので、迅速な対応ができるよう日ごろからの備えや訓練が重要だ」と話している。 *5-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1230734 (佐賀新聞 2024/4/22) <玄海町核ごみ請願>住民説明会なくスピード採決へ 町議ら「原発政策、町民は理解」 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、玄海町の町内3団体が町議会に提出した「文献調査」を求める請願書は、25日に議会特別委員会で採決される。調査を受け入れた北海道の2町村では、町や議会の判断前に住民説明会を開催している。玄海町では今のところ予定はなく、「原発政策を町民は理解していて、説明会をやる必要はない」との意見もある。原発立地自治体ならではのスピード感で判断へ進もうとしている。原発が立地する自治体で調査に向けた具体的な動きが出たのは今回が初めて。先行する北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村も、原発とは無縁ではなく、共に北海道電力の泊原発の30キロ圏にある。町に応募の意思があった寿都町は町主催で説明会を開催。神恵内村は商工会が請願を村議会に提出し、議会側の求めで、国や原子力発電環境整備機構(NUMO)が説明会を開いた。神恵内村の担当者は「原発との長い付き合いから安全性もリスクも浸透しているが、地層処分はあまり知られていなかった」と振り返る。2020年当時、村の人口は800人弱で、4地区で計5回の説明会に267人が参加。ほとんど反対意見はなく、それも参考に議会で採決されたという。議会での審議は、委員会への付託から2週間強の期間で行われた。それに対し玄海町では、委員会付託から10日間で採決される見通し。説明会の予定はなく、17日の特別委員会でも早期開催を求める意見は出なかった。特別委の岩下孝嗣委員長は17日の審議終了後、「私たちは町民から付託を受けており、大多数の理解は得ていると思う」と話した。前副町長で区長会会長を務める鬼木茂信さん(73)は、1980年代から延べ数千人の町民が使用済み核燃料の再処理工場の建設が進む青森県六ケ所村などを視察していることを引き合いに「(事業の)中身は分かっていて、町民からあえて説明会を、という声は上がらないかもしれない」と推測する。採決前に説明会を開く必要性について脇山伸太郎町長は「委員会が判断することで、コメントできない」と述べるにとどめた。市長が文献調査を受け入れなかった長崎県対馬市では、推進派、反対派それぞれから請願が出された経緯がある。文献調査に反対している宮﨑吉輝町議は「関心があれば反対請願も出るはず。町民は『もう言っても一緒』と思っているのかもしない」と厳しい表情を見せる。町内の男性(86)は、国が2017年に公表した処分場の適性を示す科学的特性マップで町周辺が「好ましくない地域」に分類されていることを挙げ「(議会は)町民から選ばれているとはいえ、対応が早すぎる」と批判。「せめて町長には多くの町民の声を聞いてほしい」と訴える。 *5-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15918448.html (朝日新聞 2024年4月23日) 「20億円ほしいわけでは」「原発立地自治体の責任」 核ごみ文献調査、賛同の佐賀・玄海町議は 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定をめぐり、佐賀県玄海町議会は25日、文献調査受け入れを求める地元3団体の請願を特別委員会で採決する。九州電力玄海原発が立地する町での議論は、請願の背景、採決までのスピード、少ない町内の反発など、これまで文献調査を議論したどの自治体とも違う異質の展開となっている。現在、国内で文献調査に応じたのは、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村だけ。長崎県対馬市では昨年4月に調査受け入れを求める地元の動きが表面化し、市議会は同9月に請願を採択したが、市長が同月拒否して頓挫した。これら3市町村に共通するのは、財政難に悩む自治体事情だ。文献調査を受け入れて国から20億円の交付金を得られることの是非も問われた。一方、人口約4900人の玄海町は今年度の当初予算約100億円のうち6割を原発関連収入が占め、貯金に当たる基金は187億円(2022年度末)ある。佐賀県内で唯一、財政が豊かとされる「不交付団体」だ。「20億円がほしくて手を挙げたわけじゃない。冗談で、資源エネルギー庁に20億円いらんと言ったら(先方は)なんと言うやろ、と同僚議員とも話した」。町議の1人はこう明かす。「原発立地自治体として、責任は果たさないといけない。全然、関係なかところに処分場つくるわけなかやん。だから原発自治体で真っ先に手を挙げたかった」とも語り、全国の原発立地自治体の手挙げにつながることを期待した。実際に、請願文の内容もこの町議の考えと重なる。請願は、町旅館組合と町飲食業組合、町内の建設業者11社でつくる町防災対策協議会が1~3月に提出。請願の理由を「原発立地自治体の責務」「能登半島地震があり、九州でも地震が偶発的に発生している。玄海原発の立地の安全を再確認するためにも、文献調査で地質を把握することが必要」などとした。 ■「反対活動、町で数人だけ」 反対派の町議は「文献調査は原発立地自治体の責務じゃない」と反発。請願の根拠のおかしさを指摘した。「文献調査で原発の安全を再確認する」との請願については、推進派の町議からも「これでいいのかと思う部分はあるが、思いは伝わるのでは」との声が漏れる。国が17年に公表した「科学的特性マップ」でも、玄海町は、地下に石炭があり、ほぼ全域が「好ましくない」地域に分類されている。ほぼ全域が「好ましい」地域だった対馬市や寿都町とは対照的だ。それでも町民の間では反発の声が広がっていない。17日、町議会前で「危険原発と永久処分場」などののぼりを掲げたのは、佐賀県唐津市や福岡市など町外の4人だった。玄海町は、プルトニウムとウランをまぜた核燃料を使うプルサーマル発電を国内で初めて認めたほか、福島第一原発事故後に原発の運転再開を全国で初めて認めた自治体だ。原発反対派の80代の町民男性は「今、町内で表だって原発反対の活動に参加できるのは2、3人だけ」と明かす。朝日新聞の取材では、町議全10人のうち7人は文献調査に賛成している。特別委のメンバーは議員全員で、25日の特別委、翌26日の本会議ともに、請願は採択される見込みだ。町議会で請願が付託され、一連の動きが表面化した15日からわずか10日での採決となる。町議会が請願を採択すれば、脇山伸太郎町長の受け入れ判断が問われることになる。脇山町長はこれまで「町のほうから調査に応募する考えはない」と文献調査に慎重だったが、賛成派の町議は「『議会の意見を聞いて判断する』と言っている。変わってきた」と自信をにじませる。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240423&ng=DGKKZO80188840S4A420C2TJK000 (日経新聞 2024.4.23) 核融合 複数方式を支援へ、政府、まず5年で200億円 発電への道進む後押し 政府は核融合の研究に2024年度からの5年間で約200億円を投じる。従来はトカマク型という大型の炉に特化してきたが、今後は米国で研究が進むレーザー方式などほかの炉型の支援も手厚くする。35年までに原理実証し、50年ごろの実用化を目指す。日本発の破壊的イノベーション創出を目指す大型研究開発プロジェクト「ムーンショット型研究開発制度」に核融合発電が加わり、3月から研究テーマの募集を始めた。6月に締め切り、支援対象を決める。今回の研究支援は35年ごろまでの最大10年間の計画で、前半5年間で200億円を投じる。文部科学省の担当者は「発電に限らず、ロケットエンジン向けや熱利用など様々な用途への応用を視野にチームをつくる」と話す。核融合発電は太陽の中で起きている反応を再現する。燃料をセ氏約1億度のプラズマ状態にして、原子核をくっつけたときに発生するエネルギーを発電に利用する。二酸化炭素(CO2)が発生せず、1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを生み出す。実用化できれば、脱炭素を進めながら、生成AI(人工知能)や電気自動車(EV)の普及に伴う電力消費の急増に対応しやすくなる。半世紀以上の研究の歴史があり、日米欧など主要国の多くは核融合を実現している。ただ、小規模かつ一瞬にすぎない。発電に結びつけるには、高温のプラズマを長時間にわたって安定して維持するために、高温や放射線に耐える材料の開発などが必要になる。従来、日本では磁力を使って核融合を制御する「磁場閉じ込め方式」のトカマク型を中心に支援してきたが、最近注目が高まっているレーザー方式などの研究も募る。トカマク型はドーナツ状の炉の周囲に強力な磁力を流してプラズマを制御する。装置は大型になるが安定して電気を送れる。トカマク型の国際熱核融合実験炉(ITER)は日米欧中などが協力し、フランスで07年に建設が始まった。投入量の約10倍のエネルギーの取り出しを目指すが、発電しない。日本はITERの成果を生かした原型炉の開発を目指してきた。核融合実験装置「JT-60SA」の運転を23年に始めたが、発電する原型炉の完成は50年ごろだ。欧州も同時期の発電目標を掲げるが、より早期の実用化を目指した動きが海外で活発になっている。英国は40年までに発電できる原型炉を建設する計画で、中国は発電能力を備えた試験炉「CFETR」の建設に着手しており、40年代に発電実証する。民間では米国などのスタートアップが多額の資金を投資家から集めて、30年代の発電を目指す。米コモンウェルス・フュージョン・システムズは、ITERに比べて体積が40分の1ほどのトカマク型発電炉を計画している。ビル・ゲイツ氏などが出資し、調達額は20億ドル(約3000億円)超と最大だ。民間企業で初めてセ氏1億度のプラズマを達成した英トカマク・エナジーなどもある。有力な技術として急浮上したのが、レーザー方式だ。燃料の液滴を四方八方からレーザーで一気に圧縮・加熱し、核融合を起こす。出力の調整や小型化がトカマク型よりも容易だ。世界をリードするのは米エネルギー省傘下のローレンス・リバモア国立研究所だ。放出されるエネルギーが投入エネルギーを上回る「エネルギー純増」を22年に世界で初めて達成した。レーザーを的確に液滴に当てて核融合を起こす技術に優れている。同研究所のジョン・エドワーズ研究顧問は「企業などと協力して30年代には発電も含めた要素技術を実験するプラントを造りたい」と話す。エクスフュージョン(大阪府吹田市)はレーザーに強い大阪大学の技術をもとに、30年代の発電の実証を目指す。一方、安定した発電には高出力のレーザーを1秒間に10回程度照射する必要があり、開発は道半ばだ。もう一つ注目されているのは、磁場閉じ込め方式の一種である「磁場反転配位型」と呼ばれる手法だ。中性子が出ず、安全性がより高いという。この手法で世界をリードするのが米ティーエーイー・テクノロジーズで、グーグルや住友商事などが出資し、累計調達額は12億ドルを超える。日本では日本大学と筑波大学発スタートアップであるリニアイノベーション(東京・港)が開発に取り組む。いずれの方式も一長一短があり、これから開発競争が本格化する。 <高齢者・障害者を差別するのが解決策である筈がない> PS(2024年5月31日追加):*6-1は、①2019年4月に池袋で高齢ドライバーの車が暴走して11人が死傷した事故で妻子を亡くした松永さんら遺族が5月29日に運転していた飯塚受刑者(92歳)と面会した ②飯塚受刑者は「早く免許を返すように伝えて下さい」とした ③松永さんは、「こうならない未来はなかったのか」と改めて悲しみを覚えた ④高齢者の免許返納後の移動支援等、再発防止体制を社会全体で考えてほしいと語った としている。 結論から言って、私は、高齢ドライバーの車が起こした事故で妻子を亡くしたからといって、すべての高齢者の運転を禁止する権利はないと思っている。理由は、i)生物年齢と老化の進捗は人によって異なる ii)自動車免許は遊びで持っているのではなく、運転禁止は仕事からのリタイアや外出禁止と同じ効果になる人が多い iii)仕事からのリタイアや外出禁止は、高齢者の生活権を奪い、社交を封じて健康を害させ、認知症を増やす などである。そのため、池袋での事故から現在まで、裁判を通して、①②③のように、高齢者の運転が悪いことででもあるかのような世論形成がなされたのには大きな違和感を感じた。そのような中、高齢者・障害者の運転を禁止せず生活権や移動権を守りながら交通安全を保つ方法は、*6-2のような自動運転技術であるため、その方向に頭を使って欲しい。自動運転技術を進化させた中国は、*6-3のように、自動車だけでなく道路や社会も一体化した自動運転に取り組んでおり、自動運転技術を高めるためには誰が考えてもそうなるのに、日本は高齢者・障害者に運転を禁止することが解決策ででもあるかのように言っている点が、時代のニーズに合わず、将来性に乏しいのである。 ![]() ![]() ZMP ITmedia (図の説明:左図のうち、レベル1・2の自動運転は既に実用化されているが、問題は、その機能を搭載している車種が、極めて少なく、高価で、かつ農機具・建機・商用車等には搭載されていないことだ。しかし、日本は課題先進国であるため、レベル3・4・5も速やかに市場投入する政策にすれば、将来のニーズを先んじて実用化できるのに、何に関しても時間と金ばかり使って進捗の遅いのが欠点なのである) *6-1:https://www.sankei.com/article/20240529-LHZIJVG7CRPOFAOTLCG54NVGSY/ (産経新聞 2024/5/29) 池袋暴走事故の松永拓也さんら遺族、飯塚受刑者と面会 「面会受けた勇気無駄にしないで」 平成31年4月に東京・池袋で高齢ドライバーの車が暴走し、11人が死傷した事故で、妻子を亡くした松永拓也さん(37)ら遺族が29日、車を運転していた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三受刑者(92)=禁錮5年の実刑確定=と初めて面会した。刑務官に連れられ、車いすで面会室に入った飯塚受刑者は、うまく言葉が出ない状態だったというが、松永さんらの目を見て問いかけに応じていたという。松永さんは妻の真菜さん=当時(31)=の父、上原義教さん(66)とともに飯塚受刑者が収監されている刑務所の面会所に入り、約50分間にわたり面会。飯塚受刑者は「世の中の高齢者や家族に伝えたいことは」との問いかけには、「早く免許を返すように伝えてください」と答え、最後には2人が面会に訪れたことに対し「ありがとうございました」と絞り出すように話したという。松永さんは今年、遺族の心情を刑務所職員が聞き取って受刑者に伝える「被害者等心情聴取・伝達制度」を利用。飯塚受刑者に再発防止への思いや面会の希望を伝え、4月に面会に応じる旨の返答を受け取った。飯塚受刑者と顔を合わせたのは令和3年の刑事裁判以来。当時、法廷で飯塚受刑者の姿を見て、誰も被害者や遺族、加害者にならない世界はなかったのかと感じたという松永さん。面会後の記者会見では、「今までで一番近い距離で会話をすることができた」と振り返り、月日を経て面会室でアクリル板を挟んで向き合い、「こうならない未来はなかったのか」と改めて悲しみを覚えたという。また、高齢者の免許返納後の移動支援など、再発防止のための体制を社会全体で考えてほしいと語り、「彼が面会を受けたという勇気を無駄にしないで」と訴えた。 *6-2:https://toyokeizai.net/articles/-/742707 (東洋経済 2024/3/24) カギは「LLM」、完全自動運転を目指す大実験の中身、半導体チップも自前で開発するTuringの挑戦 2022年11月にOpenAIが公開したAIチャットボット「ChatGPT」は、多くの企業の業務プロセスで利用されるほど、一気に身近な存在となった。この技術の基となるLLM(大規模言語モデル)は、AIの能力を大幅に向上させ、まるでAIが「脳」を持っているかのごとくふるまうことを可能にした。そんなLLMを、自動運転に応用させようとしている日本企業がある。2021年に創業したTuring(チューリング)だ。Turingは「We Overtake Tesla(テスラを追い越す)」をミッションに掲げ、完全自動運転のEV開発を進める。山本一成CEOは、過去にコンピュータ将棋プログラム「Ponanza」を開発。山本氏と共同で創業した青木俊介CTO(最高技術責任者)は、アメリカのカーネギーメロン大学で博士号を取得し、自動運転システムの開発・研究に従事してきた。2024年2月には、生成AIの基盤モデルを開発する事業者向けに経済産業省などが行う支援事業に、唯一「製造業」の企業として採択された。今回の助成を受け、約7.4億円相当のGPU(画像処理半導体)の計算資源も活用し、開発を進める。 ●レベル5の完全自動運転を目指す 自動運転はその段階に応じてレベル1~5に分けられる。現状、多くの市販車はレベル2などが中心で、アクセルやブレーキ、ハンドルの機能が部分的に自動化されている段階だ。Turingが目指しているのはレベル5。あらゆる条件下ですべての運転操作を自動化する、完全自動運転だ。その実現に向けて、なぜLLMに目を付けたのか。これまで自動運転の手法は大きく2つあった。1つは、レーザー光を車体に取り付け、その周囲に反射させる「LiDAR(ライダー)」という技術で、周りにある物体を3次元で認識する手法だ。センサーベースの高精度な3次元の地図をあらかじめ作成しておき、車のセンサー情報と合わせて、今どの辺にいるかを観測する。この手法は、ロボット掃除機などにも使われている。2つ目は、2010年後半に普及した、カメラと深層学習のAIモデルを組み合わせた手法だ。複雑なセンサーや事前の地図情報の取得を必要とせず、画像認識ベースで周囲の障害物の有無や位置情報などを全部調べることができる。ただ、これらの手法では完全自動運転を目指すうえで限界があった。TuringでAI開発全般のマネジメントを行う山口祐氏は「従来の手法でも9割程度は実現できるが、道路では子供の飛び出しや、見たことないような標識などが当然のようにいろんなところで出てくる」と話す。完全自動運転では、このような稀なケースにも完璧に対応しないといけない。視覚情報だけでの対処には限界があり、人間が普段運転しているときに頭で考えるような、幅の広い認知・思考能力などが必要になるという。そこでTuringが考えたのが、LLMの活用だった。Turingでは、まず言語を理解するLLMから画像や音声なども認識するマルチモーダルへ、そして空間把握や身体性を認識するAIを経て、完全自動運転AIへの発展を目指す。 ●難しい場面でも人間に近い選択が可能 Turingは昨年、OpenAIのLLM「GPT-3.5 Turbo」を使って車を制御する実験に取り組んだ。例えば車のカメラが前方の状況を撮影し、ドライバーが「○○してください」などと話すと、それを音声認識技術でテキストに起こしてGPT-3.5 Turboに渡す。GPT-3.5 Turboは、撮影された画像やテキストの情報に基づいて、目的地までの経路などに関するパスを出し、計算する。TuringのLLMを活用した自動運転の実験の様子この実験では赤色、青色、黄色のカラーコーンを設置して、「バナナと同じ色のコーンに行って」と抽象的な命令を出しても、正解を選ぶことができた。また、トロッコ問題のようにどの進行方向を選んでも犠牲者が出てしまうような場面では「どっちに行ってもけがをするので、一旦停止します」と動かない状態になった。複雑な状況を解釈できるマルチモーダル生成AIや高速な半導体、車体制御まで行える自動運転AIシステムなどがそろえば、将来的にはこのような倫理的な判断もできるようになる。「われわれ人間は、運転中に稀なシチュエーションに遭遇しても、運転していないときに学習した経験などを応用して対応できる。それと同じ対応を目指すには、非常に広範な知識や常識のようなもの、さらに思考能力が必要になってくる」。ただ、英語圏で学習したGPTなどは、日本の交通環境に関する情報や交通常識が欠落している。自動運転で活用する以上、国ごとの交通常識などを身に付ける必要がある。Turingでは、マルチモーダル開発ツール「Heron」で学習を行う同社独自のLLMの開発を続ける。LLMで完全自動運転を達成するためには、それ専用の半導体チップも必要となってくる。そこでTuringは2023年12月、半導体チップと車載用LLMアクセラレーターを開発するチームを発足させた。 ●TuringのLLMを活用した自動運転の実験の様子 半導体の自社製造を決めた背景には、車ならではの制約があることが大きい。例えばスマホでChatGPTを使う場合、基本的にはネットワークを介して通信を行う仕組みになっており、応答までに数秒のラグがある状態だ。チャットボットの応答なら数秒のラグがあっても問題ないが、時速100km(1秒間で約30メートル)で進むような車では、そのラグは致命的となる。また、車は夏場に70℃を超えたり、冬には氷点下になったりすることもある。このような環境下では、普通のサーバー用の半導体チップはまるで動かない。さらにGPUに使われるメモリーは振動や電磁波に弱く、通常のGPUでは運転中の振動により壊れてしまう。エヌビディアも車載向けGPUなどを出しているが、サーバー向けのハイエンドなGPUに比べると性能が10分の1になってしまうという。これでは自動運転で1秒間に10回など推論させるとなると、スピードが追いつかない。そうした欠点を埋めるためにも、自分たちで専用の半導体を作るしかないという決定に至った。 ●世間に受け入れられるためのハードル Turingが開発している半導体は、同社が作るAIモデルでしか動けないが、推論が速いという。既存技術の積み重ねで開発を進めており、具体的な性能の検証段階に入っている。技術的な達成度合いを高めていったところで、完全自動運転が世間に受け入れられるためには、乗り越えなければならないハードルがある。倫理観の問題だ。この先AIの精度がさらに向上しても、数学的に「100%」の正解を実現するのは難しく、自動運転での事故も0にできるとは言えない。「例えば、人間による運転よりもAIだと事故率が10分の1になったらどうかなど、社会的に許容されるラインはどこになるのかを常に考えている。技術の積み重ねや法整備などに関する議論を進めつつ、世間の人に丁寧に説明していく必要がある」(山口氏)。Turingは、完全自動運転EVの量産開始の目標時期を2030年と定める。山口氏はこれを「スマホみたいな車」と表現する。かつてAppleは、iPhoneをハードウェアだけじゃなく、ユーザー体験を考えたようなソフトウェアまで一貫して作ったことで、世界的な普及に成功した。Turingも、EVとAIモデルを垂直的に統合したかたちで開発を進め、自動車業界での革命を見据えている。 *6-3:https://wisdom.nec.com/ja/series/tanaka/2022072201/index.html (次世代中国 2022.7.20) 方向転換する中国の自動運転、「クルマ単体」から道路、社会と一体化した「車路協同」へ 自動運転技術の進化にともない、中国の政府や企業が自動運転に取り組む方向性の変化が明確になってきた。一言でいえば、クルマ単体での自立した自動運転の実現を目指す姿勢から、「道路の智能化」を加速し、クルマと道路が一体となった「車路協同」路線への転換である。その背景には、米国を中心に広がってきた「クルマ単体」での完全な自動運転の実現を目指す動きが、なかなか商業化のメドが見えないという状況がある。その点、道路を中心とした社会インフラの整備は、中国の政治体制、メーカーと政府の協力関係など、自国の強みを活かしやすい。早期の社会実装による効果が大きく、営利化が見込めるとの読みがある。さらに言えば、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)ですべてのモノが情報ネットワークでつながる時代を見据え、信号機との連動や渋滞情報、駐車スペースの利用状況共有など都市の「交通管理」と自動運転を結びつけ、インテリジェント化した移動のシステムを実現し、政府の総合的な統治能力を高めたいとの思惑がある。 <教育について> PS(2024年6月24日追加):*7-1のように、「優れた人材を育てなければ国が衰える」として、中央教育審議会特別部会委員の伊藤慶応義塾塾長が国立大値上げの提案をされたのは、問題意識と解決策が逆であるため驚いた。伊藤氏は、①18歳人口が2040年に82万人まで減少する ②高等教育の質向上が必須 ③内容は、教養・判断力・議論力・人間性・語学力・設備更新・少人数教育等々で高水準の教育には最低でも学生1人当たり300万円必要 ④質向上のためには同じ条件で競い合わせ、研究・教育の質が低い大学が淘汰される必要がある とされている。 このうち、①については、18歳人口が2040年に82万人まで減少したとしても、下の左図のように、大学入学者が18~19歳に著しく集中しているのは日本だけで、他国は幅のある状況から見れば、社会に出て問題意識を持った後に大学で学び直したり、留学生を受け入れたりすることも盛んなのだと思う。また、②③については、高等教育の質向上が重要であることには賛成だが、国公私立の別を問わずに、その半分を学生が負担しなければならない理由はなく、国公立は設置主体の負担割合が大きくても問題はない筈だ。そもそも、「格差是正」と称して、私立の授業料に国公立の授業料を揃えたことによって、中央の図のように日本の大学進学率が低くなり、大学院進学率はさらに低くなったのだ。そして、これにより、まともな経済成長が抑えられてきたことは、右図の中国や米国と比較すれば明らかである。 それでは、④の質向上のために競い合わせる「同じ条件とは何か」について考えると、入試科目に理系・文系の重要科目を含み、入試時点で受験生にとっての負担は重いがバランス良く知識を持たせる国公立大学は、授業料が安くても同じ条件と言える。何故なら、政治・経済・法律を論じるにも、生物・物理・化学・生態系等の基礎知識は必要不可欠だからで、その例は、*7-2のように、日本の排他的経済水域内にある南鳥島近海に希少金属資源を発見しても、経済成長や安全保障に繋げる発想のわかない政治・経済・法律学者を作らないためである。また、*7-3のように、発癌性の指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が各地の浄水場や河川で検出されたり、フライパンのコーティングや食品包装に幅広く使われていても、人体への影響がピンとこない政治・法律・経済学者を作らないためでもある。つまり、環境と経済は対立するものではなく相互作用しながら発展していくものだが、その相互作用の仕方は入試科目に理系・文系科目をバランス良く含めて大学入試までに勉強させておかないと、考えることができないのだ。 ![]() ![]() ![]() 大学入学年齢国際比較 大学進学率国際比較 高等教育学生数国際比較 (図の説明:左図は各国の大学入学年齢で、日本はとりわけ18~19歳に集中している。また、中央の図は大学進学率の国際比較で、日本はOECD諸国だけでなく他の先進国と比較しても高くない。さらに、右図のように、研究開発を進めて経済成長の盛んな米国や中国と比較して日本の高等教育学生数は著しく少なく、これは、今後の経済成長に大きく影響すると思われる) *7-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15965480.html (朝日新聞 2024年6月24日) 東大、値上げ案の波紋 授業料「2割増」、物価高で財務悪化 国立大の授業料をめぐる動きが活発化している。東京大学が2割増額する案を検討していることが表面化し、賛否両論がぶつかり合うなか、議論は他の国立大にも広がっている。なぜ今こうした動きが起きているのか。値上げは他の国立大にも波及するのか。 ■世帯年収450万円未満の学生も14% 「教育・研究環境の国際化やデジタル化を進めるため、2割値上げする案を検討している」。21日夜にオンラインで開かれた、藤井輝夫総長が東大生と意見を交わす「総長対話」。学生からは、値上げとセットで示された授業料減免の内容などについて質問が相次いだ。また、「値上げせずに済むように国に予算増を求めるべきだ」などと反対する意見が続いた。国立大の授業料は、文部科学省令に基づき各大学の判断で「標準額」から20%まで増額できる。東大は標準額と同じ53万5800円。2005年度から据え置いてきた。東大は今回、学部も大学院も20%増額し、64万2960円にする案を検討している。対象は来年度の入学者からで、在学生は対象外だ。値上げとセットで、授業料全額免除の対象を現在の「世帯年収400万円以下の学部生」から「同600万円以下の学部生・院生」まで拡大し、「同600万~900万円の学部・大学院生」も状況を勘案して一部免除することも検討している。7月中旬にも値上げを正式発表する考えだ。全国86国立大のうち、学部の授業料を標準額から引き上げているのは、東京工業、東京芸術、千葉、東京医科歯科、東京農工、一橋の6大学。東大が値上げすると7大学目となる。東大は世界の研究機関と競うために、研究施設・設備の整備などに巨額の資金を必要としている。一方、教職員の人件費や研究費に充てる国からの運営費交付金は、法人化した04年度の926億円から減少し、22年度は830億円。収入源を増やそうと産学連携や寄付金獲得などに力を入れ、この間に収入額は2067億円から2937億円に増えた。だが、最近の光熱費や物価の高騰で、支出が一気に年数十億円も増加。財務状況が悪化するなかで、「聖域」としてきた授業料の値上げに踏み切ろうとしている。東大の収入全体からみれば、22年度の「授業料、入学料、検定料収入」は5%(149億円)にとどまる。値上げでの増収は約29億円と見込まれ、財務上の効果は限定的だ。しかし同大幹部は「使途に制約がある寄付金や共同研究の資金などと違って何の『ヒモ』もついていない。授業料収入は、大学にとって一番使いやすいお金だ」と明かす。値上げを検討する背景には、東大生には裕福な家庭の出身者が多いという事情がある。東大が21年度に実施した調査によると、世帯年収が950万円以上の学生は54%と半数を超える。学内には「値上げの影響は限定的」との見方がある。一方で、世帯年収450万円未満の学生も14%いる。5月にあった東大の学園祭で値上げ反対を訴えた学生の中には、授業料免除を受けている女性もいた。「東大生が全員、恵まれているわけではない」。免除には成績要件があり、「審査でいつ免除が打ち切られるかわからない不安がある」。東大が値上げとセットで検討している授業料減免の対象拡大案に、同様の要件が付けられることを心配している。日本学生支援機構の有利子奨学金を借りる文系学部4年の男子学生も、厳しい生活を送る。入学後にアルバイトを始めたが、体調を崩すなどして収入が減少。物価高騰もあって食費を削った結果、入学時から4キロも体重が減った。妹も一人暮らしで私立大に通う。実家の母が夕飯をレトルトカレーにしていると知り、家族に食費を削らせていると申し訳なく感じたという。大学院進学をめざしているため、値上げされれば自分も対象になる。大学院入試に向けて勉強中で、就職活動はしていない。「この時期に値上げを決められても、進路変更は難しい」(増谷文生、山本知佳) ■電気代や人件費、他大学も苦境 値上げの動きは他の国立大に波及するのか。 旧帝大に取材したところ、7大学のうち東大を除く北海道、東北、名古屋、京都、大阪、九州の6大学の総長がそろって「具体的な検討をしていない」と答えた。このうち九州大の石橋達朗総長は5月下旬の会見で、現時点での値上げの検討を否定したうえで「大学はいま非常に苦しい状況。電気代や実験道具の値上げ、人件費上昇などがあり、授業料値上げも考慮に入れなければならない」とも述べた。広島大の越智光夫学長は5月下旬の会見で「2年以上前から授業料をどうするか検討している。上げる、上げないも含めて調整している」。西日本のある国立大の学長は「値上げはしたいが、周辺の国立大が上げない限り踏み切れない」と明かす。こうしたなか、国立大学協会の永田恭介会長(筑波大学長)は6月7日に緊急記者会見を開き、国立大の財務状況について「もう限界」とする声明を発表。運営費交付金の増額を訴えた。永田会長は「中長期的に、学生と国が授業料をどのような割合で負担するのか、しっかりと国全体で議論しなくてはならない」と強調した。(伊藤隆太郎、副島英樹) ■優れた人材育てなければ国衰える 国立大の値上げ提案 慶応塾長・伊藤公平氏 少子化が一段と進む2040年以降の大学のあり方を検討している中央教育審議会の特別部会でも値上げの議論がある。委員の伊藤公平・慶応義塾塾長は、国立大授業料を現標準額の約3倍にあたる150万円程度に引き上げるべきだとの資料を出し、議論を呼んだ。真意を聞いた。 ◇ 特別部会は今年度中に提言をまとめる。高等教育の質向上のための改革案を示し、必要な費用に対する自己負担額を150万円と示したのだが、後半の数字だけが独り歩きした感がある。東大の値上げの議論とは関連性は全くない。 ――なぜ値上げが必要なのか いま18歳人口は約106万人。40年には82万人まで減るという推計もある。科学技術の発展や人工知能(AI)の浸透などの中で社会水準を向上させ続けるためには、高等教育の質向上が必須。優れた人材を育てなければ国力は衰える。教養や判断力、議論する力、AIを使いこなす人間性や語学力。留学や設備更新も必要だし、論文添削や少人数教育には人件費がかかる。40年以降、高水準の教育には最低でも学生1人当たり300万円は必要と考え、受益者負担という視点から半額負担を提案した。一方、国立なのだから公費補助の充実は不可欠だ。 ――経済的理由で国立大を目指す人もいる 給付型奨学金制度を拡充するなどの「アクセス保障」が欠かせない。払える人は払う。少しでも苦しい人には家計の状況に応じた制度を用意する。学費の個人負担が減るバウチャー(クーポン)制度の導入も一考すべきだ。こうした政策の実現のため、公財政支出を増やさねばならない。 ――教育費無償化を求める声も 二つの意味で反対だ。財政に余裕がある自治体のみが実施すれば、他の地域の空洞化が進む。もう一つは、研究・教育の質が低い大学が淘汰(とうた)されず健全な競争にならない。日本の大学は約800校。国公立・私立ともに緩やかに淘汰が進むだろう。8割近くの大学生が通う私立は私立で頑張る。ただ、質の向上のためには同じ条件で競い合わせる必要がある。(聞き手・大内悟史) ■使途、学生や社会に丁寧な説明を 小林雅之・桜美林大特任教授(高等教育政策)の話 大規模大は収入が多い一方で設備費や光熱費、人件費など支出も多い。東大が値上げで収入を増やしたいと考えるのは、支持はできないがやむを得ない判断だ。他にも内々に検討している大学は多いだろう。各国立大が一斉に値上げへと動く可能性もある。だが、国立大の大きな使命は、住む地域や家計状況に関わらず、高等教育の機会を提供することだ。やむを得ず値上げをする場合でも返済不要の奨学金や授業料減免の拡充をセットで行うよう強く求めたい。米国には授業料が年1千万円と高額な有力大もあるが、そうした大学でも9割の学生が経済的支援を受けている。値上げするのであれば、何に使うのか、学生や社会に丁寧に説明することも重要だ。 ■値上げ難しい地方、軽視しないで 石原俊・明治学院大教授(社会学)の話 国は本来、国立大への運営費交付金の減額分を元に戻すべきだ。今の減額や物価上昇が続くなら東大の授業料値上げは選択肢の一つだが、日本を代表する大学の動きは影響が大きい。地方国立大にも影響が及び、授業料を値上げできない大学との差が広がりかねない。大学の将来像をめぐる慶応の伊藤塾長の提言も頭ごなしに否定はできない。ただ、授業料値上げが難しい中小規模の地方国公立大も、公務員や教員などの確保に不可欠だ。国公立大は、東大のような国際競争にさらされる有力大学だけでなく、地域を代表する中堅の大学、規模が小さい大学を軽視してはならない。私立大も、首都圏などの大規模私学だけでなく地方の中小私学を見捨ててはならない。 *7-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO81574570R20C24A6EA5000/ (日経新聞 2024年6月22日) 南鳥島近海に希少金属 コバルトなど2.3億トン、日本財団・東大 日本財団と東京大学は21日、日本の排他的経済水域(EEZ)内にある南鳥島(東京都)周辺の深海にコバルトやニッケルなどのレアメタル(希少金属)を含む鉱物資源があるという調査結果を発表した。資源量は約2億3000万トン以上と推計され、コバルトは国内消費量の約75年分、ニッケルは約11年分に相当するとみる。2026年以降に企業を集めて商業化を目指す。東京大学の加藤泰浩教授らは16年、南鳥島沖の海底でマンガンやコバルト、ニッケルを含む「マンガンノジュール」という球状の鉱物を大量に見つけていた。日本財団と共同で24年4~6月に岩石などを採取する装置や遠隔操作型の無人潜水機を使い、水深5200~5700メートルの海底を100カ所以上探査した。すると約1万平方キロメートルの範囲にマンガンノジュールが約2億3000万トンあるのが確認できた。採取したマンガンノジュールを詳しく調べ、コバルトの資源量を約61万トン、ニッケルは約74万トンと試算した。加藤教授は「マンガンノジュールの密度が高く、相当にいい物がある。産業育成のために開発につなげたい」と話す。マンガンノジュールは鉄やマンガンの酸化物でできている。人のこぶしくらいの大きさで、マンガンを約20%、コバルトやニッケルを1%以下含む。大昔に海に沈んだ魚の骨の周りに数百万~数千万年かけて金属がくっついてできたとされる。日本財団などは1日あたり数千トン規模のマンガンノジュールを採取する実証試験を25年に始める計画だ。採取したマンガンノジュールは金属の精錬を担う国内企業に提供する予定だ。26年以降に日本財団が中心となって企業を集めて共同事業体を作り、商業化を目指す。 *7-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1266923 (佐賀新聞 2024/6/22) 政府、水道水のPFAS全国調査、汚染の実態確認へ 発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が各地の浄水場や河川で検出されている事態を受け、政府が水道水の全国調査に乗り出したことが22日、分かった。汚染の実態把握が急務と判断した。PFASに特化し、小規模事業者にも対象を拡大した大規模調査は初めて。政府関係者が明らかにした。今後進める水質目標の見直しに生かす。政府が5月下旬、47都道府県の担当部署や国認可の水道事業者などに文書で要請した。PFASの健康影響については確定的な知見がなく、政府は水道水や河川の暫定目標値について、代表的な物質PFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)としている。PFASは水や油をはじき、熱に強い特徴があり、フライパンのコーティングや食品包装など幅広く使われてきた。自然環境では分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれる。米軍や自衛隊基地、化学工場周辺で検出される事例が多い。環境省が38都道府県の河川や地下水を対象にした2022年度の調査では、16都府県で目標値を超えた事例があった。今回の調査対象は、水道の蛇口から出る水などで20~24年度に検出された最大濃度や、関連する浄水場の名前など。目標値を超えた場合の対応や、検査していない場合は理由や今後の実施予定についても回答を求める。期限は9月末。岡山県吉備中央町の浄水場では、目標値の28倍となる1リットル当たり1400ナノグラムのPFASが検出。取水源の上流近くに野ざらしで保管された使用済み活性炭から流出した可能性が高い。政府関係者は「工場などが上流になくても、下流で高濃度になる可能性が否定できない状況だ」と危機感を強めている。PFASは近年、日本水道協会の水道統計でも検査項目の一つとして調べられているが、対象は給水人口が5千人超と規模の大きい水道事業などに限定。今回は小規模な簡易、専用水道にも対象を広げた。国土交通省によると、給水人口5千人超の水道事業の数は23年3月末時点で約1300。5千人以下の簡易水道は約2380、社宅などの専用水道は約8170ある。PFAS 有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。1万種類以上の物質があるとされる。耐熱や水、油をはじく特性から布製品や食品容器、フライパンのコーティングのほか、航空機用の泡消火剤に使われてきた。有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となっており、国内ではPFOSが2010年、PFOAが21年に輸入や製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された。 <厚生年金の企業規模要件撤廃> PS(2024年6月27日追加):私は、*8のように、厚生年金加入の「企業規模要件」を撤廃するのに賛成だ。その理由は、短時間労働者の厚生年金加入を拡大して年金財政に資するというよりは、多くの人が保険料を労使折半することの恩恵を受け、退職後の生活不安をなくすことが必要だからだ。しかし、その期待が裏切られないためには、厚労省はじめ日本年金機構は集めた年金資金を適切に運用し、年金保険料を払えばそれだけ給付額が増えて払い損にならないという仕組にすべきである。そうすれば、年金保険料を支払うことに抵抗感はなくなるし、中小企業も、保険料支払いの支援を受けるよりは、人手不足時代でAI使用・デジタル化を進めれば省力化可能な時代であるため、労使折半で保険料を負担できる雇用者数にして事業を進めれば良いと思う。 *8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1269144 (佐賀新聞 2024/6/26) 厚生年金、企業規模要件を撤廃へ、パートら130万人加入 厚生労働省は、パートら短時間労働者の厚生年金加入を拡大するため、勤務先の従業員数が101人以上(10月からは51人以上)と定めている「企業規模要件」を撤廃する方針を固めた。職場の従業員数にかかわらず厚生年金に加入できるようにし、将来受け取る年金額を手厚くする狙い。対象は約130万人に上るとみられる。関係者が26日、明らかにした。厚労省の有識者懇談会が、企業規模要件に関し「撤廃の方向で検討を進めるべきである」と明記した報告書を7月1日に取りまとめる。これを踏まえ、厚労省が施行時期を検討し、2025年通常国会に関連法改正案の提出を目指す。現在、短時間労働者が厚生年金に加入するには、企業規模に加え(1)週の労働時間が20時間以上(2)月給8万8千円以上―といった要件を全て満たす必要がある。これらのうち企業規模の撤廃を優先する。撤廃により保険料を労使で折半することになり、新たな費用や事務負担が増えるため、中小企業への支援策も検討する。個人事業所で働く人の厚生年金加入も推進する方針。現在は従業員5人以上の「金融・保険」など17業種に限り加入義務が生じる。これを宿泊業や飲食業にも拡大する方向で調整する。対象人数は約30万人を見込む。厚労省は、将来の年金給付水準を点検する財政検証の結果を7月3日に公表。企業規模要件の撤廃による給付底上げ効果についても試算する。厚生年金 会社員らが対象の公的年金。加入者は2022年度末時点で約4618万人。保険料は労使が折半して支払う。納めた保険料に応じ、将来受け取れる額が変わる。厚生労働省によると、平均的な給与で40年間働いた夫と専業主婦のモデル世帯で、現在の受給額は月23万483円。自営業者や無職の人らは国民年金に加入する。
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2024,02,04, Sunday
![]() ![]() ![]() 2024.1.30TBS 2023.1.12佐賀新聞 2023.2.5佐賀新聞 (図の説明:左図のように、麻生副総裁が上川外務相を褒めたつもりが、名前を間違ったり、『女性外務相は初』と誤ったり、『美しくないおばさん』と言ったりして物議を醸している。しかし、根本的には、日本全体に蔓延する女性蔑視や高齢者に対する年齢揶揄の習慣がある。そして、この発言の土壌として、1年前のデータだが、中央の図のように、国会議員・地方議員・首長などの政治リーダーに占める女性の割合が著しく低く、女性リーダーはアウトサイダーであるという古ーい“常識”がある。そのため、生活関連の政策が多く、女性議員の存在が重要だと思われる地方議会でさえも、右図のように、女性ゼロ議会が少なくなく、ゼロでなくても女性議員の割合が50%どころか30%を超える議会も希な状況なのだ) (1)女性初の首相は、巧妙に隠された差別にも気づいて闘った人であって欲しいこと *1-1-1・*1-1-2・*1-1-3は、①自民党の麻生副総裁が講演で「そんなに美しい方とは言わんけど、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう。俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」と語った ②立憲の田島氏は、参院本会議で同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただした ③上川氏の「どのような声もありがたく受け止めている」という答弁にも波紋が広がった ④ライターの望月さんは「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が前提になっており、女性の登用をうたいながら、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだ麻生氏ら男性たちが握り続けている現実を映している」とみる ⑤東大の瀬地山教授は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相なら容姿に言及することはなく、女性だけ美醜の評価を加えられる」「政治の世界で女性はアウトサイダーという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出る」とした ⑥次の首相候補との声も上がり始め、20人の推薦人を集めて総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい ⑦共産党の田村委員長も、上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語った ⑧麻生氏は上川外相の容姿を揶揄した発言を撤回し、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた としている。 麻生副総裁の発言の①のうち、「英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取る」については、私は、できない人よりはできる人の方が良いが、それは政治家の仕事というよりセクレタリーの仕事で、政治家の実力を評価したことにはならないと思う。しかし、「女性」と言えば「語学力」「コミュニケーション能力」で評価したり、「おしゃべり」と悪口を言ったりするのは、まさに女性の実力を内容で評価しない女性蔑視の第1だ。 また、「そんなに美しい方とは言わんけど」という発言について、⑤のように、東大の瀬地山教授が「男性の外相なら容姿に言及することはなく女性だけ美醜の評価を加えられる」とされているのは本当だが、より根本的には、「能力のある女性は美しくなく、美しい女性は能力が無い」という一般社会の女性蔑視に、麻生氏も同調しているか、おもねたところがあると思う。 さらに、「俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」という言葉には、④のように、「(現在、リーダーの多くを男性が占めているため)男性の方が能力が上で、男性が評価する立場だ」という女性蔑視が確かに感じられるが、現在、リーダーの多くを男性が占めている理由は、日本では、*3-1のように、教育段階から女性差別して男性に下駄を履かせているからで、*3-2のように、同性の中にも大きな個人差がある。それでも、日本の一般社会は、*3-2の「執筆した論文数が男性より多い有能な女性の中に美人はいない」と言うのだろうか? なお、「おばさん」という言葉には、「おじさん」という言葉と同様、年齢に対する揶揄が感じられ、敬意は感じられない。 しかし、②のように、立憲の田島参議院議員が同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただしたり、⑦のように、共産党の田村委員長が上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語ったりしたのは、確かに、国会議員の中に女性が増えた効果である。しかし、田島氏の質問に対し、③のように、上川氏が「どのような声もありがたく受け止めている」と答弁されたことについては、上川氏はわかっていないか、もしくは、わざと焦点をずらしてごまかしたと思う。 もちろん、上川氏が、⑥のように、次の首相候補との声も上がり始め、麻生氏に限らず、男女の議員の中に敵を作れば誰もが一票の投票権を持つ民主主義社会で首相になることはできないというジレンマを抱えていることは理解する。 が、国会議事堂の中央広間には4つの台座があり、既に板垣退助(自由民権運動を起こし、日本で最初の政党である自由党党首)、大隈重信(日本で最初の政党内閣の総理大臣)、伊藤博文(日本で最初の内閣総理大臣)の3つの銅像が立っており、4つ目の台座には、日本で女性初の首相が銅像として立ってもらいたいと、私は思っている。そして、その功績は、日本であらゆる女性差別をなくし、最初の女性内閣総理大臣になったというくらいであって欲しく(https://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/gijidou/3.html 参照)、そうでなければ他の銅像と釣り合いがとれない。 (2)女性の実力が公正に評価されない巧妙な差別の事例 *1-2は、①保利耕輔氏は謹厳実直が服を着たような人だった ②群れたがる同僚議員を尻目に夕方は自宅に直行して本や資料を読みふけった ③「予算獲得の陳情団に、普通の国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるが、保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問した」というのが古川衆院議員の佐賀県知事の時の思い出 ④2003年に農相を打診されると教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞 ⑤党憲法改正推進本部長の時には「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増したが、結党時の資料を探し出して「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた ⑥目立つことを嫌い、手柄を誇らず、常に筋を通す と記載している。 このうち⑤の「(結党時の資料を示して)全否定ではなかった」とまで言えたのはよかったが、国民の意識や時代の変化にもかかわらず、結党時と同じことを言うのではまだ弱いと思う。 また、③については、同じ選挙区から出ていたので意義があるわけだが、“本題もそこそこに地元の噂話を聞きたがる普通の国会議員”とは誰のことか?他の地元国会議員に失礼だと思うが、本題は自分発のテーマだったり、毎年似たようなものだったりするため、内容を根掘り葉掘り聞かなくてもわかる議員も多いだろう。 なお、*1-2は追悼文であるため褒めるのが当然ではあるが、①については反対しないものの、②は家で本や資料を読んでおられたとは限らないため、私は「どうしてそれがわかるのか?」と思った。さらに、④の「農相を打診されたが、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞」については、保利氏は教育勅語を諳んじていて、よくその話をしておられたため、教育基本法改正は戦後世代に任せた方がよいと私は思ったし、地元には「農相になればいいのに・・」と言う人が多かったのである。 しかし、私が*1-2で最も問題だと思ったのは、⑥の「目立つことを嫌い、手柄を誇らず・・」という褒め方(≒価値観)である。何故なら、世襲ではない一般の人が目立つことを嫌えば、そもそも国会議員になろうとは思わないし、当然のことながら当選もしないからだ。また、実績(=手柄)を言わなければ内容で評価することができないため、性別・年齢・学歴等の情報からステレオタイプで常識的・観念的な評価をするしかない。 そして、特に女性には謙虚さのみを押しつけ、いかにも女性はくだらない噂話が好きであるかのように言う日本独特の女性蔑視の価値観こそが、政治の世界でも、*3-1と同様に、ジェンダーギャップを大きなままにし、*3-2のように、本当は少数精鋭で生き残っている女性研究者の執筆論文数は男性を上回るのに、それを隠して表に出させず、しばしば手柄を横取りして、女性差別を維持する仕組みにしているのである。 (3)地方議会の担い手不足と女性差別 *2-1は、①議員の担い手不足で、地方議会の空洞化が止まらない ②首長が議会ぬきで補正予算等を決める専決処分が多発 ③災害時等の非常時に限る仕組みのタガが緩み、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ ④4年毎の統一地方選で議員が無投票で決まる割合が右肩上がり ⑤議員は多様な住民の声を取り込む役割を担う ⑥専決処分多発のきっかけはコロナ禍だったが、コロナが落ち着いても「物価高対策のため」等として減らない ⑦議会が機能を十分果たすための改善策は通年制 としている。 また、*2-2は、⑧2018年施行の候補者男女均等法効果で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分ではない ⑨200以上の地方議会で女性0、2割前後で伸び悩む議会も ⑩女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要 ⑪達成には選挙制度の抜本的改革が不可欠 ⑫1人区は無投票が多く現職有利になるため都道府県議選では止めるべき ⑬定数が多いと、党派も多様で女性や若い世代も立候補しやすい ⑭市町村議選では「制限連記制」が選択肢の一つ ⑮「クオータ制」も導入した方がよく、女性候補の多い政党には政党助成金を優遇するなどの方法も ⑯少子化進行は女性議員が少なかったことが大きな要因で、女性が増えれば政策が刷新される ⑰保護者に持ち帰らせていた使用済おむつを保育所で処分するよう求める動きも、女性議員らの議会質問で始まった ⑱生活に身近な議題を扱う市町村の議会に女性や若い世代は不可欠 ⑲海外には地方議会で女性が増えてから国政に波及した例も多く、日本も地方議員を増やせば国会に繋がる可能性 等としている。 このうち②は事実だろうし、③⑥の「災害時等の非常時に限る仕組みが、議会の監視をすりぬける手段となる」のは国の緊急事態条項も同じなので、⑦のように、議会の開催を短く制限しないようにするのは、国の場合も同様である。 また、⑤の「議員には多様な住民の声を取り込む役割がある」というのも事実で賛成だが、①の「議員の担い手不足で地方議会の空洞化が止まらない」は、⑧⑨⑩のように、人口の半数以上を占め生活系の知識が豊富な女性議員が地方議会に著しく少ないことを解決すべきだと思う。 しかし、④のように、4年毎の統一地方選では現職(男性)議員が無投票で再選される割合が右肩上がりに増えているそうで、そこに気の利いた女性が立候補しても、古い価値観で誹謗中傷されたり、家族も含めて妨害されたりして、著しく当選しにくい実情がある。そのため、⑪⑫⑬⑭⑮のいずれかの方法又はその組み合わせで、女性が立候補するのは当たり前、議会に女性が30~50%いるのも当たり前という状況を作るべきだ。 なお、⑰の「保護者に使用済おむつを持ち帰らせていた」というのには、「タイパ(時間あたりの成果)の高さが必要不可欠な共働き女性に何をさせているのか!」と私も思ったが、確かに⑯のとおり、これでは2人目を産む人は少なくなり、少子化が著しく進行するのは当然だろう。そのため、これに対し、女性議員の議会質問で保育所での処分が始まったのは期待通りであり、⑱のとおり、生活に身近な議題を扱う市町村議会に女性議員は不可欠なのである。 最後に、⑲のように、「地方議員を増やせば国会に繋がる可能性がある」という点については、国会議員選挙での公認獲得や選挙応援にあたって地方議員の役割は大きい上に、国民も女性議員の能力を具体的に見ることができるため、地方議員に女性が増えれば国会議員にも女性が増えるだろう。 (4)学術会におけるジェンダー不均衡の発生理由 *3-1は、日米の研究チームが、論文の著者名から性別を推定する方法を開発し、日本・韓国・中国・その他(主に欧米)で1950~2020年に発表された約1億本の論文データを解析したところ、①どの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米より大きい ②個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数は、日本は女性が男性より42・6%少なく、中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少ないため、日本の性差が最も大きい ③女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)のが原因の1つ ④研究論文の共同著者となっている場合も少ない ⑤論文が引用された回数は、日本は女性が男性より19・9%低く、中国・韓国では逆に女性が高い ⑥男性研究者主導論文を過多に引用し、女性研究者主導論文を過少に引用する傾向が日中韓でみられる ⑦女性研究者主導論文の過少引用は日本が最も強い ⑧この問題は国際的な社会課題であり、論文の査読や研究者の雇用などでも起こる としている。 このうち①は、日中韓が儒教国で女性差別が根強いことから尤もだ。しかし、②は、1975年に第1回世界女性会議で女性の地位向上のための「世界行動計画」が採択され、1979年に国連総会で女子差別撤廃条約が採択されて1981年に発効し、1995年に北京で世界女性会議が開催されたりしたのに対応して、中国・韓国はまじめに改善してきたのに対し、日本は政治的・公的活動、経済的・社会的活動における差別撤廃のため、まともに対応しなかったのが原因であることを、私は現場で比較しながら見ていたためよく知っている。 また、③のように、「女性はキャリア年数が短い」とよく言われるが、この統計方法は、結婚で女性が姓を変更すると別人としてカウントするのも理由の1つではないかと思われた。 しかし、④のように、共同著者となる機会が少なく、⑤⑥⑦⑧のように、日本の女性研究者は論文の引用回数が男性研究者より少ないのなら、実力で研究者として昇進する道が閉ざされるため退職せざるを得なくなることも、女性のキャリア年数が短くなる原因の1つだ。そして、多くの男性に思い当たるふしがあると思うが、これが隠された巧妙な差別の結果なのである。 *3-2は、⑨日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は男性より女性の方が多く世界の傾向と逆 ⑩日本の研究者全体に占める女性割合は約2割(総務省2016年調査では15.3%)で米国やEU28カ国の約4割と比較して低い ⑪2011~2015年の研究者1人当たり論文数は、日本の女性が1.8本で男性の1.3本よりもやや多く、他国・地域と異なる ⑫1996~2000年では、より男女差が大きいのが日本の特徴 ⑬エルゼビアは「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいため、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている としている。 ⑩の日本の研究者全体に占める女性割合は約2割で、米国やEU28カ国の約4割と比較して半分というのは、優秀な人の割合が同じであれば、女性は他国と比較して2倍の狭き門をくぐらされて生き残っていることになる。ということは、退職させられた女性研究者の多くが、本来なら新しい付加価値を作れる人だったため、日本社会はもったいないことをしたということだ。 従って、そのような狭き門でも生き残っている女性研究者が、⑨のように、世界とは逆に、直近5年間に執筆した論文数は男性研究者より多く、⑪⑫のように、最近はやや多い程度だが、四半世紀前はさらに狭き門だったため執筆論文数の男女差がより大きかったというのは頷ける。そのため、⑬のエルゼビアの原因分析は、事実に基づいており、公正中立だと思う。 (5)治る病気は治すべき ← 日本で再生医療による治療が遅れる理由 *4-1は、①1型糖尿病(インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が壊れて高血糖状態になる病気)の患者は、生涯インスリン補充が必要 ②20歳以降は行政による医療費助成が終わり、自己負担が重くなる ③20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生する ④佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワークが、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に4月から月額最大3万円の医療費支援を始める ⑤国内の1型糖尿病患者は10~14万人 としている。 しかし、*4-2は、⑥成熟した膵島細胞は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因 ⑦出生前後に増殖する膵島細胞ではMYCL遺伝子が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞に活発な自己増殖を誘発できる ⑧体内でMYCLを発現誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植してモデルマウスの糖尿病を治療した ⑨これにより、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となりうる としている。 1型糖尿病は、①のように、現在は治らない病気であるため、生涯にわたってインスリンの補充が必要だが、これでは患者のQOL(Quality of life)が低すぎ、人生における選択が制限される。さらに、治療には健康保険と高額医療費制度が適用されて当然なのに、②③のように、20歳以降は行政による医療費助成が終わり、月1万~3万円程度の自己負担が生じるというのが、そもそもおかしいのである。 そして、④のように、佐賀市の認定NPO法人が佐賀県在住の25歳までの患者に月額最大3万円の医療費支援を始めるというのは、(何もしないよりは良いが)部分的援助にしかならないため、まず治療に健康保険と高額医療費制度を適用するのが当然と言える。 次に、⑥のように、成熟した膵島細胞は自己複製能を持たないが、⑦のように、出生前後にはMYCL遺伝子が発現して膵島β細胞が活発な自己増殖するため、⑧のように、体内でMYCLの発現を誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植したりすれば、1型糖尿病を治療でき、これは糖尿病のモデルマウスで既に証明されているのだ。従って、⑨のように、糖尿病を根治する人間の治療法にもなり得るため、これらを素早く実用化すべきである。 MYCL使用法は糖尿病を根治できるため、生涯にわたってインスリンを補充する必要が無く、根治後の患者は普通の生活ができるためQOLが高い。それと同時に、医療保険の視点からは、患者に生涯に渡ってインスリンを補充するよりもずっと安くつき、ビジネスとしても、⑤のように、国内だけで10~14万人の1型糖尿病患者がおり、世界では著しく多くの患者がいるため、市場は十分大きく、トップランナーと2番手以下では利益率の差も大きいのだ。 そのため、再生医療の基礎研究ではトップランナーの日本で再生医療による治療法が普及しない理由は、「政治・行政・経営・メディアの無知と不作為によって、優れた種を発見して速やかに育てることができないから」と言わざるを得ない。 ![]() (6)日本でEVと再エネが遅れた理由 日本は、1997年に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)で「地球環境京都宣言」をとりまとめ、それが「京都議定書」として採択された。京都議定書は、CO₂(二酸化炭素)やCH₄(メタン)等6種類の温室効果ガスを先進国が排出削減することを定めており、その有力なツールがEVや再エネなのである。 しかし、日本は、1990年代に、世界に先駆けてEVや太陽光発電機を実用化したにもかかわらず、「EVは音がしないから危ない(!!)」「充電設備が少ない(!)」「発電を化石燃料でするため、EVも地球温暖化に資さない(!!)」「再エネは出力が安定しないから使えない(!)」「太陽光発電は撤去が困難(!!)」等々、考えれば解決策はあるのに、工夫のない変なケチをつけてEVや再エネを普及させなかった経緯がある。 その結果として、*5-1のように、①JAIAが発表した2024年1月のEV輸入販売台数は2カ月連続で増加 ②そのうち2割が中国EV大手のBYD ③独メルセデス・ベンツ等の欧州勢もEV車種を揃えて顧客の選択肢を増やし、輸入EVは販売贈 ④BYDは2023年1月に日本の乗用車市場に参入し、2車種のEVを展開して販売台数は前年同月比約6倍 ⑤BYDの最先端安全装置等が人気で高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い ⑥BYDは、2024年春もセダンEV「シール」を日本に投入 ⑦2025年末までに国内販売拠点を100カ所まで増やして拡販方針 ⑧輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開 ⑨輸入EVは独VWの「ID.4」や独アウディの「Q4 e―tron」など欧州メーカーを中心に売れている ということになった。 このうち①②④⑥は、前年との比較で増加してシェアを増やしたということなので絶対数は多くないが、BYDのEVはスマートで安価であるため、私も好きだ。その上、⑤のように、最先端の安全装置等がついている等の工夫があれば、高級車からの乗り換えや60代以上の高齢者も多くなるのは理解できる。そのため、⑦のように、日本国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販してもよさそうである。 ③⑨の欧州勢のEVは自動車として安心感があるだけでなくスマートでもあるが、値段も高いため、普通の人は買換時期にでもならなければ乗り換えないだろう。しかし、⑧のように、輸入車全体で17ブランドが118モデルのEVを日本で展開するというのは、選択肢が増えて楽しみだ。 一方、日本メーカーは、「京都議定書」から30年近くも経過したのに、PHEVを含めなければ日産3車種、三菱・トヨタ・ホンダ・マツダ各1車種のEVしかない。地球環境に貢献しつつエネルギー自給率を上げるための技術開発をする時間的余裕は十分にあったため、遅れをとって利益機会を逃したのは、もったいなかったわけである。充電設備や水素ステーションは、スーパー・コンビニ・職場・マンション等の駐車場やガソリンスタンドに設置すれば便利だろう。 さらに、*5-2は、⑩太陽光パネル撤去積立金が災害リスクのある斜面に立地する全国1600施設(500kw以上)で不足の恐れ ⑪放置や不法投棄に繋がらないよう適正処理の仕組み作りが不可欠 ⑫2012年開始の固定価格買い取り制度による買い取り期間は10kw以上・20年間で、2032年に買い取り期間が終了し始めて売電価格が大幅下落 ⑬パネル寿命も25~30年程度 ⑭政府は事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を2022年に開始したが、算出根拠が平地での撤去・廃棄費で、割高になる傾斜地は考慮外 ⑮小野田早稲田大学教授:「短期間の検討で立地条件までは議論が及ばず、一部で撤去費が十分でない可能性はある」 ⑯松浦京都大学名誉教授:「排水路等が管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性もあるため、撤去だけでなく植林等が不可欠」 ⑰神戸市:2020年に5万㎡以上の設備新設時に廃棄費の積み立てを義務付け、長野県木曽町:条例で原状回復を制定 ⑱環境省:リサイクル設備を導入する事業者に費用の半分を上限に補助金を出して処理能力を向上させる ⑲丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立して中古パネルの買い取り販売を始めた としている。 このうち⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰については、「固定価格買い取り制度による買い取り期間が終了して売電価格が下がったり、パネルの寿命が尽きたりすれば、太陽光パネルは廃棄」という前提であるため不足だし、「傾斜地に立地すると撤去積立金が不足し、放置や不法投棄に繋がる」というのも不道徳で、かつ工夫がなく、もったいない話である。 何故なら、⑱⑲のように、中古パネルはリサイクルやアップサイクルすることができ、傾斜地は風力発電を設置しつつ放牧するなどのより有効な跡地利用もでき、そうしなければせっかく金をかけて整備した傾斜地や太陽光パネルがあまりにもったいないからである。 (7)付加価値向上・生産性向上と賃金の関係 1)GDP4位転落が改革加速の呼び水か ![]() ![]() ![]() 2022.7.25東洋経済 Wedge Online 2022.1.22 Financial Star (図の説明:左図のように、名目GDPで日本は世界4位に転落しているが、経済規模や順位は為替レートによって大きく変化するのでさほど問題ではなく、日本は他国と異なり30年間も横這いだったのが問題なのである。しかし、国民の豊かさは、中央の図の「1人当たり実質購買力平価GDP」が最もよく表し、これも日本は横這いでアジアの中でも4位に落ちた。また、右図のように、世界の「名目1人当たりGDP《名目しか出ていなかったため使用》」の順位は、1995年の9位から2000年の2位を最高に、その後は次第に下がって2020年には24位に落ちている) *6-1-1は、①日本の2023年名目GDPが世界4位に転落する見通しで、米国に次ぐ2位を2010年に中国に譲り、3位もドイツに明け渡す ②米欧との金利差拡大で2023年末141円/$台と大幅に円安が進み、GDP規模が目減りした要因が大 ③ドイツ経済はマイナス成長に喘いで「欧州の病人」と指摘されており、GDPだけで一喜一憂の必要はない ④日本の成長力底上げも進まない ⑤購買力平価で計算した日本の名目GDPはまだドイツを上回る ⑥今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべき ⑦為替相場次第で順位が変わるため、順位より潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべき ⑧2000年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準に ⑨日本のGDP/人は世界で30位程度と低迷 ⑩全体の規模では経済大国の一角に見えても、実力では見劣りすることを真剣にとらえるべき ⑪対日経済審査後の声明でIMFは「所得税減税等の経済対策は的が絞られていない」等の理由で「妥当でなかった」と評し、痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田政権には厳しい指摘だった ⑫OECDも、人手不足等を展望して、定年制廃止による高齢者就労拡大、女性・外国人の雇用促進を日本に提唱 ⑬労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要 ⑭環境が変化する中で政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべき ⑮成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要 としている。 私は、⑥のように、「転落して初めて改革を加速しよう(転落するまでは、さぼっていてよい)」と考える日本人の発想自体が、④のように、日本の成長力が低く、⑧のように、2000年にドイツ(現在の人口約84百万人)の2.5倍だった日本の名目GDPが四半世紀で同等まで落ち、⑨⑩のように、日本のGDP/人が世界で30位程度と低迷し続けている原因だと考える。 何故なら、時代の変化によって人々のニーズは刻々と変化するので、時代のニーズに適応したり、新しいニーズを提案型で示したりして、高い付加価値のある財・サービスを提供していくためには、政府も民間も日頃から改革し続けている必要があるからだ。 また、①②③⑦のように、名目GDPは為替相場次第で順位が変わるため、⑤のように、購買力平価で計算したGDPを見るのが、為替相場の変動による揺れを廃した本当の豊かさの比較になるが、⑨⑩のように、日本のGDP/人は購買力平価で計算しても世界30位程度と低迷しており、全体のGDPでは経済大国の一角でも、「国民1人当たりGDP」という実力では見劣りするのだ。 そして、*6-1-2のように、一国の経済水準は「GDP総額」ではなく、「国民1人当たりGDP」で比較するのが世界の常識で、日本は2000年の世界第2位から下落を続けて現在は先進国の下の方になっているのだが、経済の話となると株価・景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金等の数字が取り上げられ、国民にとっては最も重要で日本政府にとっては都合の悪い「購買力平価による国民1人当たりGDP」が取り上げられることはないのだ。 さらに、「国民1人当たりGDP(名目ベース)」を主要国と比較して日本の立ち位置を確認すると、バブル期最後の1990年が8位(1990年末のドル円相場:160円/$)で、2000年に過去最高の2位(2000年末のドル円相場:115円/$)となっているため、ドル円相場で割ったドルベースによる国際比較では、2000年が日本経済のピークになっている。 そして、2000年以降の日本経済の低迷は、(理由を詳しくは書かないが)「どの政権も日本経済の凋落を止めることができなかったから」と総括するのが適切で、再度バブルを到来させた政策は、国民にとっては誤りの繰り返しにすぎない。 なお、*6-1-1の⑪⑫⑬⑭⑮については、日本の現状に関してよく分析しており、日本人が頼んで言ってもらったのではないかと思うほど的確な分析であるため、私もそのとおりだと思うし、日本政府はそのようにして欲しいと考えている。 2)再度バブルを起こした金融緩和政策の弊害 ← バブルでは実質賃金は上がらないこと ![]() ![]() 2024.1.19北海道新聞 2023.10.1日経新聞 (図の説明:左図のように、前年比・年平均の生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、高度成長期・バブル期の1980年代に著しく高く、その後は消費税の導入時や税率引き上げ時以外は0%近傍を推移していたが、2021~2023年にかけてコストプッシュ・インフレにより著しく上がった。また、右図のように、物価上昇率は、生鮮食品やエネルギーなどの頻繁に購入する財・サービスを含む体感と生鮮食品を含まない統計との差が大きいと言われているが、これは事実だ) ![]() ![]() ![]() 2024.2.6日経新聞 2024.1.10中日BIZ 2023.7.21Daily Tohoku (図の説明:中央の図のように、実質賃金《名目賃金/物価水準》が前年同月比0以下の実質賃金減少局面では、左図のように、実質消費が落ち込む。そのため、右図のように、消費者物価指数が高くなると、実質GDP成長率は低くなるのである) 「金融緩和して円の価値を下げる」というのは、財・サービスの価値を計る尺度の価値を下げるということだ。わかりやすく例えれば、「これまで80cmとしていた長さを今後は1mと呼ぶ」と変更すれば、3,776mの富士山の高さは、実際は全く変わらないのに4,720m(3,776m/0.8)と言われるようになる。それと同様に、価値を変更しなかったドルと円の関係である為替相場は円安になり、価値の変わらない財・サービスの値段と株価は相対的に上がったのだ。 ただし、この大きな流れの中で変わらないものがあり、それは名目価値で示された借金や預金の金額だ。そのため、物価が上昇すれば借金や預金の価値が目減りし、それによって借金をしていた人は得をし、預金をしていた人は同じだけ損をするという所得移転がある。そして、借金には、国債・社債・借入金・住宅ローンなどの負債、預金には銀行預金や貸付金などがあるのだ。 そのような中、円の価値を下げると借金のある人が得をして預金のある人が損をし、それらの人の間でこっそり所得移転が行なわれているのだが、それでは通貨の信用がなくなるため、中央銀行の役割には「通貨価値の安定」があり、他国の中央銀行はそれをやっているのである。 一方、日本の中央銀行である日本銀行は、「通貨の安定」ではなく「2%のインフレ目標」を掲げて金融緩和をし続けてきたため、為替相場では円安が進んで輸入品の価格が上がり、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁返しで資源価格自体も上がったため、日本の消費者物価はコストプッシュ・インフレで著しく上がったわけである。 そして、これらの政策の結果はやってみなくても経済学の理論からわかる筈だが、日本政府と日本銀行がやってみた結果、やはり、*6-2-1・*6-2-2のように、実証されたのだ。 つまり、*6-2-1は、①2023年分の毎月勤労統計調査速報で働き手1人あたり実質賃金は前年比2.5%減 ②名目賃金は物価の伸びに追いつかず ③1990年以降で減少幅は、消費増税のあった2014年(2.8%減)に次ぐ大きさ ④昨年の正社員の賃上げ率は名目賃金にあたる現金給与総額が1.2%増 ⑤消費者物価指数は3.8%増 ⑥40代男性は「給料は上がったが、値上げに追いつかず家計は楽にならない。食費を削り暖房器具の利用を控えるなどでやりくりしている」と語る ⑦50代主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す ⑧家計が圧迫されている状況が顕著 ⑨春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率が低めだったため基本給等の「所定内給与」が1.2%増でかなり低い ⑩現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにならず、今年中に実質賃金をプラスにすることは無理 等としており、名目賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、実質賃金が下がり続けていることを示している。 このうち②④⑤⑨は、主として円の価値低下と制裁返しによる輸入品の価格高騰によって物価が上がって消費者物価指数が3.8%増になっているのであるため、消費者が支払う金額の多くが海外に流出して国内に残らず、名目賃金を物価上昇分まで引き上げることができず、企業の中でも輸出が少ないため円安の恩恵を受けにくく、価格転嫁もしにくい中小・零細企業の賃上げ率が低いため、賃上げ率が1.2%増に留まっているのである。 その結果、①③のように、名目賃金は決して物価の伸びに追いつかず、働き手1人あたり実質賃金が「前年比2.5%減」など、大きく減少し続けるのだ。 その上、日本は、退職して年金暮らしの人口割合も高いため、⑥⑦⑧のように、家計が圧迫され、食費を削ったり、暖房器具の利用を控えたりなど、必需品の購入さえ抑えなくてはならない状況になった家計が多く、(7)1)で述べた「購買力平価(≒実質)による1人当たりGDP」は確実に下がって、国民は貧しくなったのである。 そして、国民を貧しくして移転された所得は、日本政府や企業を負債(国債・社債等)の目減りを通じてひっそり潤しているため、⑩はわかっていても、日本銀行と政府は、金融緩和をし続けるのだ。解決策は他にあるのに、無駄使いの限りを尽くしながら、こういうことをする政府を、国民は信用してよいのだろうか? また、*6-2-2は、⑪総務省の2023年家計調査で、2人以上の世帯が使った金は実質で前年より2.6%減 ⑫物価高が家計に打撃を与え ⑬支出の3割を占める食料は前年より2.2%減り、特に魚介類・乳製品の落ち込みが大きかった ⑭家具・医薬品・小遣い・仕送りも減 ⑮外食は10.3%、宿泊料は9.3%増 ⑯物価の影響を含めた名目支出は1.1%増 ⑰財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる ⑱2023年12月の支出は、実質前年同月より2.5%減 ⑲名目では0.4%増えたが、家賃等の住居費をのぞけば前年同月より0.5%減 ⑳家計が節約志向を高めている様子がわかる 等としている。 実質所得が2.5%減少しているのだから、⑪⑫⑱のように、実質消費も前年より2.6%減少し、物価高が家計に打撃を与えたことは明らかだ。そして、⑯のように、物価の影響を含めた名目支出は1.1%増えたのに、⑬のように、食料でさえ前年より2.2%減り、特に価格の高い魚介類・乳製品の落ち込みが大きく、⑰⑲⑳のように、まさに財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスは減り、家計は節約志向を高めざるを得ないわけだが、これは体感と一致している。 従って、当然、⑭のように、家具・医薬品・小遣い・仕送りも減少しているが、⑮の外食や宿泊料が10%前後増加しているのは、外国人観光客の増加に依るところが大きいのではないか? 3)国民を豊かにする持続的賃上げは、どうすれば実現できるか これまでよりも賃金を上げて国民を豊かにするには、民間企業の場合は、「売上高(A)ー売上原価(B)ー販売費・一般管理費(C)ー金融費用(D)ー税金(E)=純利益(F)」のうちの純利益(F)が黒字であることが必要だ。そのため、(A)~(D)のそれぞれに関して、(F)を増やす方法を記載する。 (A) 売上高を増やす方法 売上高は、「販売単価x販売数量」であるため、i)付加価値を上げて販売単価を上げる ii)価値は変わらないが値上げする iii)販売数量を増やす の3つの方法がある。 i)の事例は、(5)で述べた再生医療で副作用をなくしながらこれまで治せなかった病気を治すようなもので、付加価値が高く、最初に開発すれば販売単価が高くても世界で売れるため、販売数量も伸びる。(6)のEVも、再エネ電力は国内自給でき、燃料代を安くすることも可能で、静かで乗り心地が良く、環境負荷を下げるため、ガソリン車より高くても売れる。これが、消費者も納得する単価のつけ方で、それによる増益分は持続的賃金アップに回すことができる。 ii)の「価値は変わらなくても値上げする」事例は、政府が盛んに提唱している方法だが、これでは全体として次々と物価が上がるだけで、すでに実証されたとおり賃金を物価以上に上げることはできないため、実質賃金が下がって販売数量が減り、1人1人の国民は貧しくなる。 iii)の販売数量は、日本だけでなく世界も見据えた現在と将来のニーズに合った製品を提供すれば、世界でシェアを上げて販売数量を増やすことができ、日本は先進国として有利な立場にある。国内だけを見ても、人口が増える年齢層のニーズは高い。 具体例を挙げれば、*6-4-1の介護や訪問介護のニーズは、現在でも高く、人手不足で、近未来には世界各国でニーズが増すことが人口構造や生活様式の変化を見れば明らかである。そのため、「介護は無駄遣い」と言わんばかりに、政府が工夫もなくサービスの対価としての介護報酬を他産業よりも低く抑え、介護サービスの提供体制そのものの維持を危うくさせているのは、再生医療やEVと同様、有望産業の芽を摘んでいることにほかならない。ちなみに、施設で過ごすよりも、ホームヘルパーの手を借りながら自宅で過ごす方が、QOL(Quality of life)が高いのは言うまでもない。 また、*6-4-2のように、客が理不尽な要求をする「カスハラの防止」を条例化する意見が出ているが、客のクレームには合理的なものと不合理なものがあり、不合理なものを前面に出して合理的なクレームまでシャットアウトすると、製品やサービスを改善して付加価値を上げる有効な手段を失う。タクシーやバス運転手の名札義務化は、人手不足で客を無視する対応が増えたバブル期に始まったもので、それなりの効果を出していた。 さらに、最近、うちの富士通製の新しいデスクトップPCがキーボードの上に倒れて画面が割れたので、富士通に電話で修理の依頼をしようとしたところ、電話は全く繋がらず、そのPCを買ったコジマを介して富士通にPCの修理をしてもらったら、画面を取り換えただけで新品を買うのと同じくらいの金額を請求されて呆れた。 呆れた理由は、「新品を買え」と言わんばかりの態度で修理に消極的だったことで、「日本の製造業はここまできてしまったのかー」と思っていたところ、富士通の英子会社が開発し、イギリス全土の郵便局に導入された会計システムで、残高より実際の窓口の現金が少なかったため、イギリス各地の郵便局長らが2000年以降15年にわたり、横領等の罪に問われて収監されたり多額の弁償を強いられたりする冤罪事件が起こっていた。 PCが計算した理論値と窓口の現金額の違いの理由は、(英国発の厳しい監査法人PWCが)監査すればすぐに特定でき、このような冤罪事件を起こす必要はなかった筈だが、日本にとっては、日本企業がこのようなお粗末な製品を作るようになった理由が大きな問題なのである。それは、過度に企業と労働者を守って顧客を疎かにする文化の発生で、この状況は1990年代の共産主義経済が市場主義経済と比較してよい製品を作れなかった時代とよく似ているのだ。 (B) 売上原価を減らす方法 会社には、モノを仕入れて売る事業と、モノを生産して売る事業の二通りがある。 モノを仕入れて売る事業の場合は、「売上原価」は仕入単価が低いほど減少するため、自社の従業員の賃金を上げるためには、仕入単価を下げる方法がある。しかし、輸入品が多く、円安で海外からの仕入単価が上がっている場合はそれができないし、下請けいじめもよくない。 モノを生産して売る事業の場合は、「製造原価」の引き下げを通して「売上原価」を下げることになる。(6)のEVの事例では、部品点数がガソリン車の1/3であるため、組み立て工数が少なく、人手を減らすことができるので、従業員1人当たりの生産性を上げて「製造原価」を下げることができる。そのため、従業員1人当たりの賃金を持続的に上げることができるのだ。 しかし、迅速に1人当たりの生産性を上げて持続的賃上げができるためには、過去の技術にしがみつく必要性をなくすことが重要だ。それには、イ)国民の教育を充実して技術やニーズをキャッチする力を養う ロ)研究力・普及力を上げる ハ)労働の流動性を高めて将来性のある部門に移動し易くするなど、我が国の教育・研究や労働慣行を見直す必要がある。 (C) 販売費・一般管理費を減らす方法 「販売費・一般管理費」は、事業活動費用のうち原価に入らないもので、「販売費」は営業スタッフの給与や交通費・広告宣伝費・配送料・出荷手数料など、「一般管理費」は総務・経理等間接部門の人件費・通信費・消耗品費・原価に含まれない事務所の家賃や水光熱費などである。 そのため、「売上原価」「製造原価」だけでなく「販売費・一般管理費」も人件費を含んでおり、賃金を上げるには「販売費・一般管理費」のうち人件費以外の部分を減らす方法と従業員1人当たりの生産性を上げる方法がある。 (D)金融費用を減らす方法 「金融収益」は預金や有価証券等の受取利息・配当金など財務活動から得られる収益、「金融費用」は支払利息など資金調達にかかった費用で、(D)はそれをnet(純額)で示している。 財務体質の良い企業は金融収益の方が金融費用より多くなるが、借入金等の負債の多い企業は金融費用の方が多くなる。そのため、財務体質を良くして運用を工夫すれば、金融収益が多くなってnetの金融費用が減り、賃上げにプラスになるが、生産性を上げるための投資をすれば一時的に財務体質が悪化し、本当に生産性が上がるのでなければ賃上げすることはできない。 (E)税金を減らす方法 日本国憲法が第30条で「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と定めているため、企業は「売上高(A)‐売上原価(B)-販売費・一般管理費(C)-金融費用(D)」の「税引前純利益」に税法を適用して計算された法人税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払う。 税引前に利益が出ず、法人税法による税務上の赤字である欠損金が発生している企業の場合は、法人税額が0になるだけでなく、その欠損金を翌期以降に10年間繰り越し、翌期以降の利益と相殺することができる。また、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の中小企業に限り、前事業年度に繰戻し還付を請求することも可能だ。 住民税には全企業に均等割があり、事業税には資本金1億円超の企業に「資本割」「付加価値割」の「外形標準課税」があるため、欠損金があっても一定の税金は支払わなければならない。また、住民税・事業税には欠損金の繰り越しや繰り戻し還付制度はない。 そのため、税引前に利益が出ている企業も含め、税金の計算を誤って、本来なら支払う必要の無い税金を支払ってしまう羽目にならないよう、(税務署は払いすぎは指摘してくれないため)税額の計算時には税理士に相談することが推奨される。 なお、個人も同様に、所得税法・住民税法・事業税法等に従って、年間所得に対する所得税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払っている。しかし、現在の日本は、国も地方自治体も会計すら正確にできず、無駄が多くて生産性の低い税金の使われ方が多いため、常により生産性の高い使い方にシフトさせる努力が必要で、それを可能にするためには国際基準の複式簿記による公会計制度の導入が不可欠である。 4)日本の賃金と労働市場の流動姓 *6-3は、①日本の賃金は四半世紀にわたって伸び悩んだ ②労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い ③転職に中立な社会保障・税制の整備を急ぐべき 等と記載している。 このうち、①については、事実なので賛成だが、②については、例えば欧米のような雇用流動姓の高い社会は、日本の年功序列型終身雇用のように「能力があってもなくても一定の年齢までは少ないながらも一定の昇給があり、低くはあるが所得が補償される」ということはない。 さらに、欧米先進国で4半世紀の間に賃金が2~4割上昇した理由は、不景気の業種では簡単にレイオフを行なって仕事のある業種や成長業種に労働移動させるため、各個人の生涯所得が増えるとは限らない。一方、日本はできるだけ正規社員のレイオフは行なわず、社内失業もないように従来の事業に固執するため、これが経済成長を妨げ、全体の賃金を低迷させることとなった。 労働市場が流動的になると、能力のある人は所得の高い仕事に転職する機会も多いが、そうでない人は失業の可能性がある個人差の大きな社会となる。そのため、③の転職に中立な社会保障(失業・年金・医療・介護)や税制の整備は必要不可欠だ。 また、*6-3は、④日本経済の行方を左右するのは賃金 ⑤日本で真に求められているのは経済の衰退を止めて成長軌道に乗せること ⑥その方法はデフレからの完全脱却で、賃金と物価の好循環を作ること とも記載している。 しかし、これまで書いてきたとおり、賃金上昇の源泉は、付加価値をつけて稼ぐ力と労働生産性を上げて生産コストを下げる力である。つまり、付加価値を高め、労働生産性を上げれば、企業は利益を増やし、投資をして生産性を高め、従業員の賃金も上げられるのである。 これに対し、④⑤⑥は、物価と賃金を短絡的に結びつけ、物価を上げれば賃金が上がって経済が成長軌道に乗るかのような主張を行なっており、実際の経済はそういう順番で進むわけではないため、ミスリードである。 さらに、*6-3は、⑦問われるのは賃上げの持続性 ⑧賃金の決定要因は労働需給バランスで人手不足なら賃金は上がる ⑨物価と賃金の間には正の相関関係があるが、日本は長期にわたって物価上昇に賃金が無反応だった ⑩賃金は労働生産性に依存するが、日本の労働生産性は長期にわたって低迷し、賃金を停滞させている ⑪労働市場構造は、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度のため、経済全体の賃金が低下した としている。 このうち⑦の持続的賃上げは、国の一時的な補助金や号令で達成できるのではなく、各企業が付加価値を上げ、生産コストを下げて、本当に経済が軌道に乗らなければできないものである。 また、⑨の物価と賃金の正の相関関係は、鎖国状態の国で無理やり賃金を上げれば、物価も少しは上がるかもしれないが、現代は鎖国状態にはなく、世界市場で自由競争が行なわれている時代だ。その中で、⑩のように、日本の賃金が1990年代から長期にわたって低く抑えられた理由は、i)共産主義諸国や開発途上国が安い賃金で世界市場に参入して製品を輸出し始めたこと ii)日本でも働く女性の割合が増えて労働力供給が増えたこと iii)団塊ジュニア世代が就職時期を迎えて労働力供給が増えたこと iv) 日本企業は、世界市場での競争に勝つために、販売市場が近くてコストの安い地域を世界中で探して製造業を移転させたこと などに依るのである。 それに加えて、⑧の賃金の決定要因は、労働流動性の高い社会であれば労働需給バランスだけなので、人手不足になれば賃金が上がり、人手が余れば賃金は低く抑えられるが、日本は雇用流動姓の低い社会であるため、賃金が労働生産性と比較して高くなると、日本企業も海外の労働者を使って海外で生産することを選び、日本の製造業が空洞化した面も大きい。 なお、⑪の日本の労働市場構造のうち、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度で、経済全体の賃金が低下したのは、やはり不健全な労働市場の状態だと言わざるを得ない。 日本企業が非正規雇用を増やした理由は、1990年代の不景気の時に新規の正規採用を抑え、1997年の男女共同参画基本法改正で性別による差別が禁止された時に女性を非正規社員として、労働者に対する差別をなくさなかったことが原因である。 そのため、私は“非正規(労働法で守られない被差別労働者)”という雇用形態は、(本人が希望する場合を除いて)法律で禁止すべきであり、それが、日本国憲法27条1項の「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」や同14条の「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」にも合致する方法だと思う。 ・・参考資料・・ <女性初の首相は、隠された女性差別とも闘って変える人であるべき> *1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15854885.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年2月3日) 容姿発言、上川氏対応に波紋 「毅然と対応して欲しかった」「女性のサバイブ、難しい現実」 自民党の麻生太郎副総裁(83)が2日、上川陽子外相(70)の容姿を揶揄(やゆ)するなどした発言を撤回した。この問題をめぐっては、「どのような声もありがたく受け止めている」という上川氏の反応にも波紋が広がっている。「毅然(きぜん)と対応して欲しかった」との指摘があがる一方で、「責めるべきは麻生氏の側だ」と擁護する声もある。どう考えればいいのか。麻生氏は1月28日の講演で「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」「そんなに美しい方とは言わんけれども」と語った。上川氏は30日の会見で「様々なご意見があると承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と述べ、麻生氏の発言への論評を避けた。これにSNSなどで様々な議論がわき起こった。「この同調圧力の強い日本社会で、同じ境遇にある女性たちも、大臣と同じような対応をしなければならないと感じてしまうリスクはないか」。2日の参院本会議で、立憲民主党の田島麻衣子氏が上川氏にただした。上川氏は「ありがたく」の表現はやめたうえで、「使命感を持って一意専心、努力を重ねていく」と述べ、正面から答えなかった。「外相として世界に間違ったメッセージを発信した」(立憲の蓮舫参院議員のX)との批判もあがっている。「百合子とたか子 女性政治リーダーの運命」の著書がある政治学者の岩本美砂子・三重大学名誉教授(67)は「女性が政界でサバイブする(生き残る)のは、まだまだ難しいという現実の表れ。女性の割合がせめて3割になれば」と言う。衆院の女性比率は10%、参院は27%。世界経済フォーラム(WEF)が昨年発表したジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中、過去最低の125位。政治分野では138位に沈む。一方で「次の首相候補にとの声も上がり始めた。政界での立ち位置の影響もある」とも指摘する。麻生氏は政権の中核で、昨年9月の内閣改造で上川氏の登用を推した経緯もある。今秋には自民党総裁選も迫る。「20人の推薦人を集め総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい」とみる。国際人権法の学者で、SNS上のグループ「全日本おばちゃん党」を立ち上げたこともある谷口真由美さん(48)は、社会における女性の立場をおもんぱかる。「女性たちは、セクハラ発言などを受け流すのが度量だとたたき込まれてきた。麻生氏のような発言にさらされ続けると、感覚がまひしてしまう」。谷口さんは2021年、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗氏(86)が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と述べた問題で、当事者側に立った経験もある。森氏が名指しした日本ラグビー協会で、理事を務めていたからだ。「渦中にある当人は自分の思いを言語化しにくい。周りの自民党議員が、代わりに批判して支えて欲しい」と願う。そのうえで上川氏に注文をつける。「首相候補の女性として、一挙手一投足が注目される存在になった。今後は、前にも後ろにもたくさんの女性たちがいることを意識して発言して欲しい」。元自民党衆院議員の金子恵美(めぐみ)さん(45)は「若手の男性議員は、今回の麻生氏のような発言のおかしさに気づき、同調して笑わなくなりつつある。『麻生節』で済まされる時間はもう長くない」と語った。麻生氏は2日、上川氏に関する発言を撤回したコメントの中で、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた。 *1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/307000 (東京新聞 2024年2月2日) 「なぜ抗議しないのか?」 麻生太郎氏に「おばさん」と呼ばれた上川陽子外相の答弁で議事が紛糾 上川陽子外相は2日の参院代表質問で、自民党の麻生太郎副総裁から「おばさん」と呼ばれたことに抗議しないのかを問われ、「世の中にはさまざまな意見や考えがあることは承知している」と述べるにとどめた。質問に正面から答えていない上川氏の答弁に対し、野党側が抗議し、議事は一時中断した。麻生氏は同日夜「表現に不適切な点があったことは否めず、指摘を真摯に受け止め、発言を撤回したい」とのコメントを発表した。麻生太郎氏へのルッキズム批判に当の本人、上川陽子外相が発言「どの声もありがたく」 ◆「信念に基づき、政治家としての職責を果たす」 立憲民主党の田島麻衣子氏は代表質問で、麻生氏の発言を問題視しなかった上川氏の対応について「同じ境遇にある女性たちも同じように対応しなければならないと感じるリスクはないか」「問題があるとすれば何か」「なぜ大臣は抗議をしないのか」と質問を重ねた。上川氏はこれらの問いに直接答えず「初当選以来、信念に基づき、政治家としての職責を果たす活動にまい進してきた」と説明。現在は紛争解決や平和構築の分野で女性参画を進める「女性・平和・安全保障(WPS)」の定着に向け、力を注いでいるとも語った。その上で「使命感をもって一意専心、(日本人初の国連難民高等弁務官を務めた)緒方貞子さんのように脇目もふらず、着実に努力を重ねていく考えだ」と強調し、「田島議員、ぜひWPS、一緒に頑張りましょう」と締めくくった。 ◆「慎むべきなのは当然」岸田首相の「一般論」 岸田文雄首相は一般論として「性別や立場を問わず、年齢や容姿を揶揄(やゆ)し、相手を不快にさせるような発言を慎むべきなのは当然のことだ」と述べた。上川氏の答弁に対し、立民の議院運営委員会理事が「質問に答えていない」と抗議。与野党の理事が議場内で協議した結果、自民理事が上川氏側に複数回にわたって再答弁を求めたが、上川氏は応じず、約10分間議事が中断した。田島氏は本紙の取材に「上川氏から十分な答弁がなく、がっかりした。たとえ外相でも、女性は抗議できないという自民党の限界が示された」と語った。共産党の田村智子委員長も記者会見で上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべきではないか」と語った。 *1-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15851259.html (朝日新聞 2024年1月30日) 容姿言及、麻生氏に批判 女性差別/「評価する側」前提 自民党の麻生太郎副総裁が、上川陽子外相について「そんなに美しい方とは言わんけれども」などと述べた。上川氏の外交手腕を評価する文脈だったが、「女性差別の姿勢が見て取れる」「今までの暴言の中でも最悪」と批判が広がっている。今回の発言は28日、福岡県芦屋町での講演の中であった。「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」としたうえで、「そんなに美しい方とは言わんけれども、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」などと語った。上川氏の名前も「カミムラ」と誤った。ライターの望月優大(ひろき)さんは取材に「上川氏を褒める文脈であっても、外相としての手腕を語るうえであえて容姿に触れるのは、不必要かつ不適切。女性への差別的な姿勢が見て取れる」と話す。さらに望月さんは「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」という部分に着目し、「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が、当然の前提になっている」とみる。「女性の登用をうたいながらも、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだに麻生氏ら男性たちが握り続けている現実も映している」。東京大学の瀬地山角教授(ジェンダー論)は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相についてであれば、容姿に言及することはない。女性だけ美醜の評価を付け加えられる。女性が社会で生きていくうえでのしんどさがうかがえる発言だ」と話す。瀬地山氏は、昨年9月に上川氏ら5人の女性が閣僚に就いた際、岸田文雄首相が「女性ならではの感性や共感力も十分発揮していただくことを期待したい」と述べた問題との共通性を指摘する。「政治の世界で、女性は周縁にいるアウトサイダーだという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出てくる」。麻生氏は問題発言を繰り返しながら、要職にとどまり続けている。副総理兼財務相だった2018年5月には、財務省の前事務次官のセクハラ問題をめぐり、「(女性に)はめられた可能性は否定できない」と答弁して撤回。「セクハラ罪っていう罪はない」との発言も問題になった。共産党の小池晃書記局長は29日の会見で「麻生さんは暴言を繰り返しているが、今までの中でも最悪じゃないか」として撤回・謝罪を求めた。 *1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240202&ng=DGKKZO78174220S4A200C2EAC000 (日経新聞 2024.2.2) 保利耕輔さん(元自民党政調会長) 筋を通す「まっとうな保守」 謹厳実直が服を着たような人だった。ほとんど酒を飲まない甘党ということもあり、群れたがる同僚議員を尻目に夕方には自宅に直行し、本や資料を読みふけった。文相時代には高校野球の始球式の練習をしすぎて腕が上がらなくなり、痛みをこらえて投げた。予算獲得の陳情団が上京すると、ふつうの国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるものだ。「保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問してきた」というのが、古川康衆院議員の佐賀県知事のときの思い出だ。役職を断ることでも知られた。2003年に農相を打診されると、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞した。08年には自民党政調会長に指名されたが、「あれもこれもの政策なんかわからん」と難色を示した。仲のよい園田博之氏を会長代理にすることを条件にようやく引き受けた。当選同期だった麻生太郎自民党副総裁の弁を借りると「まっとうな保守」。そうした人柄がよく発揮されたのが、党憲法改正推進本部長のときだ。民主党政権に対抗しようと「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増していた。いまの憲法は米国の押し付けだ、と全否定する考え方だ。本当に自主憲法が党是なのか。党本部の薄暗い倉庫に自ら足を運ぶと、結党時の資料を探し出した。書いてあったのは「現行憲法の自主的改正」。全否定ではなかったとして、党のホームページの憲法に関する記述を「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた。14年に政界を退く際、後継指名はしなかった。衆院議長を務めた父・茂氏と合わせて「70年も保利と投票用紙に書いてもらった。この先も、とは言えない」と語っていたそうだ。目立つことを嫌い、手柄を誇らない。常に筋を通す。大島理森元衆院議長は「ポピュリズムとはいちばん遠いところにいる政治家だった」と惜しんだ。 =2023年11月4日没、89歳 <地方議会の担い手不足と女性> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240204&ng=DGKKZO78220590U4A200C2MM8000 (日経新聞 2024.2.4) 地方議会、止まらぬ空洞化、首長「専決」数、10年前水準 担い手不足も顕著 地方議会の空洞化がとまらない。審議を担う議員のなり手不足は深刻になる一方だ。首長が議会ぬきで補正予算などを決める専決処分(総合2面きょうのことば)の多発も目につく。2012年の法改正で一定の歯止めをかけたはずが、コロナ禍で急増し、その後の戻りも鈍い。非常時に限るはずの仕組みのタガが緩んだままになれば、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ。 空洞化を端的に示すのは担い手不足だ。4年ごとの統一地方選で議員が無投票で決まる割合は右肩上がり。23年は改選定数1万4844人の14%(2080人)に達した。財政難や人口減少で定数は減っているにもかかわらずだ。地方自治は首長、議員それぞれを有権者が直接選ぶ二元代表制で成り立っている。とりわけ議員は地域に住んでいることが要件で、多様な住民の声を取り込む役割を担う。議会の力が弱まれば、首長のブレーキがききにくくなる。過去には例えば鹿児島県阿久根市で10年に市長が職員の賞与半減などの政策を次々と独断で進める騒ぎがあった。災害などの緊急時に限り、議会を通さずに予算や条例などを決められる「専決処分」の仕組みが抜け穴になった。当時の片山善博総務相は違法と断じ、歯止めに動いた。12年に改正した地方自治法は専決処分を議会が事後的に承認しない場合、首長が「必要な措置」をとって議会に報告するよう定めた。副知事や副市町村長の選任は専決できないようにした。抑制効果はすぐ表れた。10~12年に市町村合計で年平均1万件を超えていたのが、13年以降は8千件から9千件台半ばに落ち着いた。そのタガが再び緩んでいる懸念がある。きっかけはコロナ禍だった。感染が広がった20年は19年から5割以上増えて1万3千件を超えた。休業する飲食店への協力金などの補正予算が目立った。流行当初の混乱を考えればやむを得ない面はある。18、19年とゼロ件だった千葉県は5件になった。「命にかかわるのでその場で必要なことのみ専決していった」という。問題はその後だ。コロナが比較的落ち着いた22年もデータがそろう都道府県と市で計4500件超と19年より16%多い。22、23年の件数がコロナ前より多いある県は「物価高対策のため」と説明する。近年は疑問符がつくケースも散見される。21年は兵庫県明石市長が全市民への金券配布を専決し、翌年に問責決議を受けた。23年4月には広島県の安芸高田市長が良品計画の出店計画に関する費用を専決で計上した。議会は承認せず、6月に議員提出の修正案を可決した。自治体議会研究所の高沖秀宣代表は「緊急でない例もある。閉会中なら臨時会を開くなどすべきだ」と指摘する。コロナ禍で緊急事態宣言などを繰り返した首都圏でも神奈川県は件数が減った。議会局の担当者は「議会軽視ととられないよう、なるべく臨時会を開いて議決してもらった」と話す。どうすれば議会が機能を十分果たせるのか。ひとつの改善策として広がるのが通年制だ。予算編成などの時期だけ定例会を開くのと異なり、首長の招集を待たずに必要な議案を随時、議論できる。似た仕組みとして定例会年1回制もある。三重県が13年に採用し、翌14年以降は選挙期間を除いて専決処分はゼロだ。通年制などの導入例は全国で100を超えて徐々に増えている。もちろん計約1800の自治体の数に照らせばまだ少ない。地方自治は「民主主義の学校」と称される。それも首長と議会の健全な緊張関係があってこそだ。改革のネジを改めて巻き直す必要がある。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=2024・・=DMM8000 (日経新聞 2023/11/2) 女性増、国会に波及も 駒沢大学教授 大山礼子氏 4月の統一地方選で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分とは言えない。2018年施行の候補者男女均等法の効果が徐々に出て増えたのだと思うが、いまだ200以上の議会で女性がゼロだ。2割前後で伸び悩む議会もある。女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要がある。達成には選挙制度の抜本的な改革が不可欠と考える。都道府県議選では1人区をやめるべきだ。無投票が多く現職に有利になる。定数が多いと党派も多様になり、女性や若い世代も立候補しやすくなる。市町村議選では(複数の候補者に投票できる)「制限連記制」が選択肢の一つだ。「クオータ制」も導入した方がいい。女性候補が多い政党に対して政党助成金を優遇するなどの方法が考えられる。首長や議会が自ら動き、女性の立候補につなげた地域もある。女性議員が半数近い兵庫県小野市では役員に女性を登用した自治会に補助金を出す取り組みなどが功を奏した。女性管理職を増やした県もある。こうした動きの積み重ねも一定の効果は期待できる。そもそも少子化の進行は女性議員が少なかったことが大きな要因だ。子育て中の女性への支援などが手薄だった。女性が増えれば政策が刷新される。保護者が持ち帰っていた使用済みおむつを保育所で処分するよう求める動きも、始まりは女性議員らの議会質問だ。生活に身近な議題を扱う市町村などの議会に女性や若い世代は不可欠だ。女性が増えると若い世代なども増え、多様性のある議会につながる効果もある。議会運営もオンライン化や定例日開催など変化が生まれている。投票率も伸びる。東京都武蔵野市では特に20~30代の投票率が飛躍的に上がった。女性がいることで政策面の期待が高まり、政治への関心が上がったのだろう。有権者が地方議員を自分たちの代表と思えるようになったのではないか。海外では地方議会でまず女性が増え、国政に波及した例も多い。日本も地方議員を増やせば国会にもつながる可能性はある。 <学術会のジェンダー不均衡> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS1D55X1S1DPLBJ003.html (朝日新聞 2024年1月16日) 学術界のジェンダー不均衡、日本が最も大きく 約1億本の論文を解析 日本は、研究者のキャリアの長さや研究論文の引用などで学術界のジェンダーギャップ(性差)が大きく、中国と韓国に比べても後れをとっていることが浮かび上がった。日米の研究チームが1950~2020年に出版された約1億本の論文データを解析した。研究チームの米ニューヨーク州立大バファロー校の増田直紀教授(ネットワーク科学)は「日本の学術界のジェンダーギャップを改善するには、研究職を長く続けられるようにすることが重要。子育てで女性が研究を中断しなくてすむような取り組みや、大学で女性教員を増やすなど、様々な試みをさらに進めてほしい」と指摘している。同校や神戸大、東京工業大、京都大でつくる研究チームは、論文の著者名から性別を高い精度(90%以上)で推定する方法を開発。日本と韓国、中国、「その他(主に欧米)」で、研究者のキャリアと論文の引用・被引用回数などについて性差がないかを調べた。その結果、いずれの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米などより大きかった。個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数をみると、日本では女性が男性より42・6%少なかった。中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少なく、日本の性差が最も大きく出た。女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)ことが原因の一つと推測されるほか、研究論文の共同著者となっている場合が少ないことも背景にあるとみられる。年平均でみると、発表論文数はいずれの国でも性差はほとんど見られなかった。論文が引用された回数の指標をみると、日本では女性が男性より19・9%低かったが、中国と韓国では逆に女性の方が高かった。さらに詳しく分析すると、男性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が男性)を過多に引用し、女性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が女性)を過少に引用する傾向が日中韓でみられ、とりわけ女性主導論文の過少引用は日本が最も強かった。研究チームの中嶋一貴・東京都立大助教(計算社会科学)は「学術界のジェンダー不均衡をビッグデータから定量的に分析する社会的意義がある研究をできた。この問題は国際的な社会課題で、論文の査読や研究者の雇用などでも起こりうる。今後も、様々な角度からデータ分析し、世に問う研究に取り組みたい」と話している。研究成果が国際専門誌(https://doi.org/10.1016/j.joi.2023.101460別ウインドウで開きます)に掲載された。 *3-2:https://newswitch.jp/p/8732 (NewSwitch、日刊工業新聞 2017年4月20日) 日本の女性研究者は少数精鋭!日本の研究論文数、女性が男性上回る、直近5年に執筆した論文数、エルゼビア調べ 日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は、男性より女性の方が多く、世界的な傾向と逆転している―。こんなデータをオランダの学術論文出版社、エルゼビアが明らかにした。人文社会系を含む同社の論文データベース(DB)による分析だが、日本の女性研究者の“少数精鋭ぶり”がうかがえるといえそうだ。これは同社の調査報告「世界の研究環境におけるジェンダー」で明らかになった。それによると、日本の研究者全体のうち女性の占める割合は約2割(総務省2016年調査では15・3%)。米国や欧州連合(EU)28カ国の約4割と比べて、女性の活躍度はかなり低い。しかし2011―15年の研究者1人当たりの論文数は、日本の女性が1・8本で男性の1・3本よりもやや多く、他国・地域と異なる傾向だった。論文数は96―2000年ではより男女差が大きく、日本の特徴として挙げられる。エルゼビアではこの結果を「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいだけに、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている。調査は同社の論文DB「スコーパス」を活用。著者ファーストネームを基に、ソーシャルメディアの記載などから性別を導き、国別の傾向を分析した。 <再生医療:治る病気は治せばよいのに> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1189121 (佐賀新聞 2024/2/5) インスリン補充、生涯必要 1型糖尿病の佐賀県内患者支援 佐賀市のNPO、20~25歳対象、月3万円、ふるさと納税活用 幼少期をはじめ幅広い年代で突然発症し、生涯にわたってインスリン補充が必要となる1型糖尿病の患者は、行政による医療費助成が終わる20歳以降は自己負担が重くなる。佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」は若者を切れ目なくサポートしようと、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に、4月から月額最大3万円の医療費支援を始める。全国で初めての取り組み。1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓の細胞が壊される病気で、主に注射によるインスリン補充が1日に4~5回必要になる。「小児慢性特定疾病」の一つで、18歳未満で発症した人は20歳までは医療費の助成が受けられる。20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生し、出費を抑えるために治療の質を落とすケースも少なくないという。同法人はこうした現状から、20歳以上の患者や、18歳過ぎの発症で「小慢」の対象にならなかった患者について、25歳まで支援する体制を整えた。自己負担から所得に応じた一定額を差し引いたうち、月3万円を上限に助成する。財源は、佐賀県の企業版ふるさと納税を通じた寄付で賄う。昨年7月から昨年末までに1千万円を超える金額が集まり、支援の開始時期を今春に決めた。対象となる県内の患者は30人ほどを見込む。国内の1型糖尿病患者は10万~14万人とされる。同法人の岩永幸三理事長(61)は「治らない病気でありながら国の難病に指定されず、経済的な事情で望む治療を受けられない患者がいる。われわれだけでは人手や資金に限りがあり、取り組みが全国に広がることを期待したい」と話す。 *制度や寄付の問い合わせは日本IDDMネットワーク、電話0952(20)2062。 *4-2:https://www.amed.go.jp/news/release_20220214-01.html (東京大学日本医療研究開発機構 2023年2月14日) 成熟膵島細胞を増やすことに成功―糖尿病の根治に向け、新たな再生治療法の可能性を発表― ●発表者 山田 泰広(東京大学医科学研究所 附属システム疾患モデル研究センター 先進病態モデル研究分野 教授) 平野 利忠(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野 大学院生) ●発表のポイント ・成熟した膵島細胞(注1)は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因となっています。本研究は、出生前後に増殖する膵島細胞でMYCL遺伝子(注2)が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞(注3)に活発な自己増殖が誘発できることを見出しました。 ・体内でMYCLを発現誘導する、あるいはMYCLにより試験管内で増幅させた膵島細胞を移植することで、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。 ・本研究成果による試験管内での膵島細胞の増幅や、遺伝子治療(注4)による生体内での膵島細胞の増殖誘導は、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となることが期待されます。 ●発表概要 ・平野利忠大学院生(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野)、山田泰広教授(同分野)、京都大学、愛知医科大学らの研究グループは、出生前後に増殖する膵島細胞で高発現するMYCLに着目し、MYCLを働かせることで生体内外の成熟膵島細胞に活発な自己増殖を誘発できることを明らかにしました。また、MYCLによる自己増殖の誘導には、遺伝子発現状態の若返りが関与することを示しました(図1)。さらにMYCLの発現により増殖した膵島β細胞は糖に応答してインスリン(注5)を分泌し、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。 ・本研究は、MYCL遺伝子により体外で増幅させた膵島細胞を再び体の中に戻す細胞移植療法や、MYCL遺伝子治療による体内での膵島細胞増幅技術の開発といった、膵島細胞の再生医療開発への応用が期待されます。本研究成果は2022年2月10日(英国時間)、英国医学誌「Nature Metabolism」(オンライン版)に掲載されました。(以下略) <SDGS:EVと再エネの遅れは何故起こったのか> *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78288850W4A200C2TB1000 (日経新聞 2024.2.7) 輸入EV販売、1月11%増 BYDシェア2割 日本自動車輸入組合(JAIA)が6日発表した1月の電気自動車(EV)の輸入販売台数(日本メーカー車除く)は、前年同月比11%増の1186台となり2カ月連続で増加した。そのうち約2割を中国のEV大手、比亜迪(BYD)が占めて存在感を高めた。独メルセデス・ベンツなど欧州勢もEV車種をそろえており、顧客の選択肢が増えたことで輸入EVの販売が伸びている。BYDの販売台数は前年同月比約6倍の217台だった。同社は2023年1月に日本の乗用車市場に参入し2車種のEVを展開している。主力車種は多目的スポーツ車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」だ。最先端の安全装置などが人気で、高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い。ただ、同社の担当者は「輸入EV全体をみると販売台数はかなり少ない。BYDの認知度もまだまだ低いので高めていく必要がある」と語った。同社は24年春にもセダンEV「シール」を日本に投入し、25年末までに国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販する方針だ。輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開している。JAIAは各メーカーのEV販売台数を公表していないが、輸入EVでは独フォルクスワーゲン(VW)の「ID.4(アイディー4)」や同アウディの「Q4 e―tron(キュー4イートロン)」など欧州メーカーを中心に売れている。JAIAの担当者は「欧州メーカーなどが多様なグレードのEVを揃えたことで販売が安定してきた」とした。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78285620W4A200C2CM0000 (日経新聞 2024.2.7) 太陽光パネル、撤去難題、30年代以降、相次ぎ「引退」へ 傾斜地作業は費用割高に 事業終了後の太陽光パネルの撤去積立金が少なくとも災害リスクがある斜面に立地する全国1600施設(500キロワット以上)で不足する恐れが浮上している。放置や不法投棄につながる可能性もあり、適正処理へ向けた仕組み作りが不可欠だ。2012年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)による買い取り期間は10キロワット以上で20年間。32年には各地の施設で買い取り期間が終了し始め、売電価格が大幅に下落する見通し。パネル寿命も25~30年程度とされ、各自治体は発電所の維持管理や更新を怠る事業者の増加を懸念する。高まる不安を払拭しようと政府は再エネ特措法を改正し、事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を22年に開始した。しかし、水準の算出根拠は解体事業者らへのアンケートを基とした平地での撤去・廃棄費。作業難易度が上がるため割高になるケースが多い傾斜地は考慮されていない。制度設計時の議論に参加した早稲田大学の小野田弘士教授は「データが限られる中、短期間での検討であったため立地条件までは議論が及ばなかった。一部で撤去費が十分でない可能性は否定できない」と指摘する。日本経済新聞の調べでは傾斜地に立地する施設は土砂災害(特別)警戒区域など、災害リスクが高いエリアだけでも全体の18%に上る。急な傾斜地での作業は公共事業の予定価格算出に使う賃金水準でみると平地に比べ3割高い(山林砂防工と普通作業員の全国平均を比較)。太陽光開発大手リニューアブル・ジャパンの撤去工事費の試算でも3割程度上振れする。資源エネルギー庁新エネルギー課は「傾斜地では発電効率が高くなることで売電収入も上がり平地より積立額が多くなる場合もある」とするものの、日経が傾斜地の発電効率の高さについて尋ねたところ「データはなく検証はしていない」と回答した。費用不足で放置された場合、災害も誘発しかねない。京都大学の松浦純生名誉教授は「排水路などが管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性がある。撤去に加え、植林などが不可欠」と話す。第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、30年に再生可能エネルギーを3倍に拡大することに130カ国が賛同した。日本でその中核を担う太陽光の持続可能性を高めることは社会的責務といえる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の試算では使用済みパネル排出量は36年に年17万~28万トン。大量廃棄に備え、撤去や事業終了後の対応を促す狙いを盛り込んだ条例を制定する自治体も出始めた。神戸市は「多額の費用がかかる撤去や災害時のパネル飛散などに対応する」(環境保全課)ため、20年、5万平方メートル以上の設備新設時に、廃棄費の積み立てを義務付けた。長野県木曽町も原状回復を条例で定めた。適正処理を促すには規制だけでなく、事業終了後のコスト低減や再利用などを促す取り組みも必要となる。環境省はリサイクル設備を導入する事業者に対し費用の半分を上限に補助金を出し、処理能力を向上させる。丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立し、中古パネルの買い取り販売を始めた。環境エネルギー政策研究所の山下紀明主任研究員は「太陽光は今後も重要な電源のひとつ。FIT後を見据えた『備え』に力を入れ、将来の懸念を払拭する努力が欠かせない」と指摘する。 <付加価値向上・生産性向上と賃金の関係> *6-1ー1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK097RF0Z00C24A2000000/ (日経新聞社説 2024年2月10日) GDP4位転落を改革加速の呼び水に 2023年の日本の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ世界4位に転落する見通しになった。米国に次ぐ2位を10年に中国に譲り、こんどは3位も明け渡すことになる。米欧との金利差の拡大などを背景に大幅な円安が進み、GDPの規模が目減りした。ドイツ経済は目下マイナス成長にあえぎ「欧州の病人」とも指摘される。逆転は為替変動の要因が大きく、それだけで一喜一憂する必要はない。とはいえ日本の成長力の底上げは進んでいない。今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべきだ。ドイツ連邦統計庁が公表した23年の名目GDPを同年の平均為替相場で換算すると約4兆4500億ドル。日本の統計は同年9月までしか出ていないが、ドイツに並ぶには15日発表の10〜12月期のGDPが前年同期より3割増える必要がある。可能性は極めて低い。円相場は23年末に1ドル=141円台と年初より10円ほど下落した。逆にユーロは対ドルでやや強含み、日独逆転を生んだ。だが購買力平価で計算した日本の名目GDPはなおドイツを上回る。為替相場次第では再逆転も起きうる。順位自体より、潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべきだ。00年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準になった。日本の1人当たりGDPは世界で30位程度と低迷する。全体の規模では経済大国の一角にみえても、実力では見劣りすることを真剣にとらえねばならない。国際通貨基金(IMF)は年1回の対日経済審査後の声明で、昨年秋に決めた所得税減税などの経済対策について、的が絞られていないなどの理由で「妥当ではなかった」と評した。痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田文雄政権には厳しい指摘だ。経済協力開発機構(OECD)も人手不足などを展望して定年制廃止による高齢者就労の拡大、女性や外国人の雇用促進を日本に提唱した。労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要だ。物価や賃金の上昇が始まり、日銀も超金融緩和策の正常化に動き出している。環境が変化するなかで政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべきだ。成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要がある。 *6-1ー2:https://toyokeizai.net/articles/-/605668?display=b (東洋経済 2022/7/25) 「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される、1人当たりGDPは約20年前の2位から28位へ後退 日本は、アメリカ・中国に次ぐ「世界3位の経済大国」とよく言われます(2008年までは世界2位)。ここでの3位は、GDPの「総額」の順位です。しかし、一国の経済水準は、GDPの「総額」ではなく、「国民1人当たり」で比較するのが、世界の常識です。日本の2021年の1人当たりGDPは3万9340ドルで、世界28位です(IMF調査)。2000年には世界2位でしたが、そこから下落を続け、世界3位どころか、先進国の中では下のほうになっています。経済の話題になると、景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金といった数字がよく取り上げられますが、これらは経済の一部分に光を当てているに過ぎません。総合評価としてもっとも大切なのに日本ではあまり注目されていないのが、1人当たりGDPです。日本や主要国の1人当たりGDPはどのように推移してきたのでしょうか。そこから日本にはどういう課題が見えてくるでしょうか。今回は1人当たりGDPを分析します。なお文中のGDPデータは、IMFの統計によるものです。 ●日本はもはや「アジアの盟主」ではない まず、1人当たりGDPを主要国と比較し、日本の立ち位置を確認します。グラフは、日本・アメリカ・中国・ドイツ・シンガポール・韓国の1990年から2021年の1人当たりGDP(名目ベース)の推移です。よく「バブル期が日本経済のピークだった」「バブル崩壊後の失われた30年」と言われますが、1990年は8位で、2000年に過去最高の2位でした。国際比較では、2000年が日本経済のピークだったと見ることができます。2000年以降の日本経済の低迷については、「小泉・竹中改革が日本を壊した」「民主党政権は期待外れだった」「アベノミクスが日本を復活させた」といった議論があります。ただ、この20年間、日本の順位はどんどん下がっており、「どの政権も日本経済の凋落を食い止めることはできなかった」と総括するのが適切でしょう。 *6-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857909.html (朝日新聞 2024年2月7日) (ニッポンの給料)上昇すれど、物価に追いつかず 昨年実質賃金2.5%減、2番目の減少幅 厚生労働省は6日、2023年分の毎月勤労統計調査(速報)を発表し、物価を考慮した働き手1人あたりの「実質賃金」は前年比2・5%減だった。名目賃金が物価の大幅な伸びに追いつかず、減少は2年連続。減少幅は比較可能な1990年以降では、消費増税のあった14年(2・8%減)に次ぐ大きさだった。昨年の春闘では、正社員の賃上げ率(連合集計)が30年ぶりの高水準だったことなどもあり、名目賃金にあたる現金給与総額は、1・2%増(月額32万9859円)と3年連続で増加。しかし、実質賃金の計算に使う消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は3・8%増と、上昇率が大きかった。厚労省の担当者は「今年の春闘でベースアップの水準がどれくらい上がるかを注目したい」と語る。また、昨年12月分(速報)の実質賃金は、前年同月比1・9%減だった。前年割れは21カ月連続だ。武見敬三厚労相は同日の会見で「経済の好循環によって国民生活を豊かにしていくためにも実質賃金の上昇が必要だ」と強調。賃上げしやすい環境整備や三位一体の労働市場改革の推進に取り組む考えを示した。 ■食費削減・暖房も… 買い物客でにぎわう東京都練馬区にあるスーパー「アキダイ」。昨年は食品メーカーからの仕入れ価格の上昇や光熱費の高騰の影響で、1年間で約1千品目を値上げした。鉄道会社に勤める40代の男性は「給料は上がったものの、全く値上げに追いつかず家計は楽になっていない」と語る。昨年は定期昇給で月給が約5千円上がったが、コロナ禍での業績悪化によって抑えられた賞与は元の水準には回復していない。食費を削るほか暖房器具の利用を控えるなど、「何とかやりくりしている」と苦笑した。50代の主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す。夫はシステムエンジニアで、昨年給料は上がっていない。数年前に2人いる子どものうち1人が離れて暮らすようになり、いまは3人暮らし。だが、「家計簿を見ると、4人暮らしのころより、今の方が食費が高い」と肩を落とした。連合総合生活開発研究所が昨年12月に公表した報告書によると、首都・関西圏の企業に勤める2千人へのアンケートで、1年前と比べて賃金の増加が物価上昇より「小さい」と回答したのは約6割に上り、家計が圧迫されている状況が顕著になっている。 ■プラス化は物価減速後 野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストの話 基本給などの「所定内給与」が、1・2%増とはかなり低い印象だ。春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率は低めだったためとみられる。今春闘の賃上げ率は、昨年より若干高めになると思うが、それでも今年中に実質賃金をプラスにすることは明らかに無理だ。現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにはならず、そうなるのは2025年の後半だと思う。物価上昇率が賃金上昇率より高いので国民の生活は圧迫されている。働き手が賃上げが不十分だと判断すれば、消費が落ち込み、物価上昇率の低下が進む。そうなれば、実質賃金がプラスになるのが少し早まるだろう。 *6-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857906.html (朝日新聞 2024年2月7日) 消費支出、3年ぶり減 前年比実質マイナス2.6% 家計調査 総務省が6日発表した2023年の家計調査によると、2人以上の世帯が使ったお金は月平均29万3997円だった。物価変動の影響をのぞいた実質で、前年より2・6%減った。物価高が家計に打撃を与え、3年ぶりに減少に転じた。支出の3割を占める食料は、前年より2・2%減った。大半の品目で消費が減り、とくに魚介類や乳製品の落ち込みが大きかった。ほかに家具や医薬品、小遣いや仕送り金も減った。一方、外食は10・3%、宿泊料は9・3%増えた。コロナ禍の行動制限が解けて、外出する機会が増えたためだ。理美容サービスも2・2%伸びた。物価の影響をふくめた名目の支出は1・1%増えた。財布から出てゆくお金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる。足元の消費も厳しい。23年12月の支出は、実質ベースで前年同月より2・5%減った。10カ月連続で前年水準を下回った。名目では0・4%増えたが、家賃などの住居費をのぞけば前年同月より0・5%減り、6カ月ぶりのマイナスになった。家計が節約志向を高めているようすがわかる。 ■ギョーザ購入、浜松首位奪還 総務省はこの日、都道府県庁所在地と政令指定市の品目別購入額も公表した。宮崎、宇都宮、浜松の3市で毎年、激しい争いを繰り広げるギョーザの年間購入額1位は、3年ぶりに浜松市に軍配が上がった。2位は宮崎市(前年1位)、3位は宇都宮市(同2位)だった。 *6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240205&ng=DGKKZO78180240S4A200C2KE8000 (日経新聞 2024.2.5) 経済教室:賃上げの持続性(下) 労働市場の流動化こそ王道 宮本弘曉・東京都立大学教授(1977年生まれ。ウィスコンシン大博士。専門は労働経済学。IMFなどを経て現職) <ポイント> ○日本の賃金は四半世紀にわたり伸び悩み ○労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い ○転職に中立な社会保障・税制の整備急げ 日本経済の行方を左右するのは賃金だ。日本では2022年春から物価が上昇し、約40年ぶりのインフレとなっている。生活必需品やサービスの価格が上昇するなか、賃金が伸び悩むと、国民生活は厳しさを増す。日本は過去30年間にわたり、低物価、低賃金、低成長、そして高債務の「日本病」に苦しんできた。日本で真に求められているのは経済の衰退を止め、再び成長軌道に乗せることだ。デフレから完全に脱却し、日本経済を新しいステージに移行させるには、賃金と物価の好循環が欠かせない。変化の兆しはある。厚生労働省によると、23年の春季労使交渉では賃上げ率が平均3.6%と1994年以来の3%台を記録した。日本経済新聞社によれば、冬のボーナスも75年の調査開始以来最高だった。24年も賃上げが期待される。しかし問われるのは賃上げの持続性だ。国民の間では「賃上げは一時的」との見方もある。果たして持続的な賃上げは可能なのか。賃上げの持続性を考える際には、そもそも賃金がどのように決まるのかを理解する必要がある。賃金の決定要因としては、主に労働需給のバランス、物価、労働生産性、労働市場の構造の4つが挙げられる。 第1に賃金は労働サービスの価格であり、その需要と供給のバランスにより決定される。労働への需要が供給を上回れば、すなわち人手不足であれば賃金は上がり、逆であれば賃金は下がる。日銀短観の雇用人員判断DIによると、人手不足感は歴史的な高水準にあり、賃金上昇が期待できる。ただし労働需給のバランスが賃金に与える影響は、90年代後半から弱まっていることが指摘されており、今後、労働需給と賃金の関連性が強まるかどうかが注目される。また人口減少に伴う人手不足が賃金に与える影響も注視が必要だ。 第2に賃金と物価は相互に連関するが、両者の間には正の関係がある。日本では長期にわたり、物価が上昇しても賃金が有意には反応しない状況が続いていたが、足元では物価上昇が賃金に影響を与えるように状況が変わりつつある。 第3に経済学では賃金は労働生産性に応じて決まると考えられている。労働生産性が上がれば賃金も上昇するが、日本の労働生産性の伸び率は長期にわたり低迷しており、これが賃金の停滞につながっている。 第4に雇用者の構成の変化も重要だ。日本では過去30年で雇用形態が大きく変化した。非正規雇用者が雇用者全体に占める割合は84年には約15%だったが、今は4割近くまで上昇した。非正社員の賃金は正社員の7割程度であり、相対的に賃金が低い非正社員の割合が高まることで、経済全体の賃金が低下している。 これらの要因は、異なる時間軸で賃金に影響を与える。前者の2つはどちらかといえば短期的な影響を及ぼし、後者の2つは中長期的に賃金に影響する。日本の賃金の推移を振り返ると、97年をピークに減少が続いている。月給はピーク時と比べて1割低く、時給は近年上昇に転じているが、ピーク時とほぼ変わらない水準にある。これは25年に及ぶ日本の賃金低迷が長期的かつ構造的な理由によるところが大きいことを意味する。なお、四半世紀の間に、米国や英国など他の先進国では賃金は2~4割上昇している。本来、賃金は上がるものなのだ。持続的な賃上げのためには、人件費の増加分を価格に転嫁できる環境整備や最低賃金引き上げが重要だ。だが王道は、労働生産性を向上させるとともに、労働市場の二極化などの構造問題に対応することだ。これらを同時に達成できるのが労働市場の流動化である。経済全体の生産性を向上させるには、個々の企業や労働者が生産性を高めるとともに、経済全体の新陳代謝を促進することが欠かせない。労働市場の流動化は、適材適所とスムーズな労働の再配分を通じて、これらを実現できる。実際に、データは労働市場が流動的な経済ほど生産性が高く、その結果、賃金が高い傾向を示している(図参照)。また労働市場が流動的であれば、同一労働同一賃金がマーケットメカニズムにより達成されうる。労働市場の流動性を高めるには、労働移動を妨げる制度や政策の見直しが必要だ。社会保障や税制の改革により転職に中立な環境をつくることが求められる。政府が23年の「骨太の方針」で転職に不利な退職金優遇税制の是正を盛り込んだことは評価に値する。また一定の所得を超えると税や社会保障負担が発生する「年収の壁」は撤廃すべきだ。流動的な労働市場では、人的投資の軸は企業から労働者へとシフトする。労働者の自己啓発投資を促すため、個人の人的投資にかかる費用を課税対象所得から控除する「自己啓発優遇税制」の導入を検討すべきだ。また解雇ルールを明確化して、意欲と能力をもつ若者が活躍できるよう環境を整える必要がある。解雇の金銭補償の実現も重要だ。さらに、労働市場の流動性を妨げている日本的雇用慣行からの脱却を急ぐべきだ。終身雇用や年功賃金などの日本的雇用慣行は、経済・社会構造の変化に伴い時代遅れとなっている。古い体質の雇用慣行の維持や雇用の硬直化は生産性を下げる要因だ。特に賃金体系は働きに見合う報酬を受け取れる仕組みに変えるべきだ。「賃金=生産性」となれば、あらゆる世代が雇用機会に恵まれるし、若年層の所得向上も期待できる。生産性の向上には中長期の成長戦略が欠かせない。多くの企業が画期的な構想で成果を上げつつある。政府は、こうした民間蓄積の成果を最大限に活用するための方策を考えるべきだ。日本経済には変化の兆しがみられる。長年のデフレからの脱却も視野に入ってきた。重要なのは、デフレという穴から出た世界が、単にインフレの世界ではなく新しいステージだと認識することだ。日本経済は人口構造の変化、技術進歩、グリーン化といったメガトレンドの変化に直面しており、インフレだけでなく、これらの変化に適応できる経済を構築することが欠かせない。これは今後数十年の日本のグランドデザインが求められているということだ。包括的かつ大胆な改革パッケージが必須だ。とりわけ、人口が減少し急速に高齢化していく日本では、こうした状況でも国民が安心できる環境をつくることが求められている。高齢化を伴う人口減少下でも強い経済を構築することは可能だ。高齢者が様々な形で社会活動に参加し、生産的に貢献する構造に組み直すことができれば、経済社会のバランスシートは大きく改善する。長寿雇用戦略や健康増進産業の推進、給付と負担のバランスのとれた全世代型社会保障などやれることはまだたくさんある。また将来悲観の払拭のためにも、成長に配慮した財政健全化が欠かせない。人々が「明日は今日より素晴らしい」と感じる社会にしていくことが、持続的な賃上げにもつながると考えられる。 *6-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1191990 (佐賀新聞 2024/2/10) 介護報酬改定、訪問サービス減額は疑問だ 2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題としたのが特徴だ。サービスの対価として介護事業者に支払う報酬を増やし、24年度に2・5%、25年度に2・0%の職員のベースアップ(ベア)を目指す。 介護職員の平均賃金は全産業平均より月約7万円低い。22年には介護の仕事を辞める人が働き始める人を上回る「離職超過」に陥り、多くの事業者が人材確保に頭を痛めている。改定では介護報酬全体で1・59%増額するうち、0・98%分を賃上げに充てる。職員の処遇改善を優先するのは妥当な措置だろう。もっとも、今年の春闘では連合が5%以上の賃上げを目標に掲げており、介護職員のベアが想定通りに実現したとしても、他産業との格差が広がる懸念はある。人材流出に歯止めをかける効果を上げられたかどうか、現場の実態を調べて検証することが欠かせない。事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービスの提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は国民に対し、処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設系サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスでは引き下げられる点だ。訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスで、年100万人以上が利用する。家族にとっても、訪問介護を使うことで仕事との両立が実現できているケースは少なくない。訪問介護の担い手となるホームヘルパーは人手不足が続き、有効求人倍率は約15倍に上る。平均年齢は50代半ばと高齢化。ヘルパー不足による倒産や事業の休廃止も増えている。基本報酬を引き下げると、こうした状況が加速しないか。厚生労働省は報酬減額の理由として、事業者の経営実態を調査したところ、訪問介護分野全体の収益が大幅な黒字だったことを挙げている。処遇改善に取り組む事業者に報酬を上乗せする加算を拡充するので、加算を取得すれば経営にダメージはないと説明する。だが介護現場では、この調査は実情を反映していないとの指摘がある。集合住宅に併設され、その入居者を中心に訪問する事業者の場合、同じ建物内で多数の利用者にサービスを提供して効率よく収益を上げている。訪問介護の収益率は、こうした事業者の存在により高めの結果が出ている可能性があるという。一方で中山間地を含む郡部など、広い範囲に点在する利用者宅をカバーするような、地域に密着した小規模事業者の経営状態は厳しい。ひとくくりに基本報酬を引き下げるのは乱暴ではないか。同一建物を中心にサービスを展開する事業者に対しては、報酬を減額算定する仕組みを強化して対応すべきだ。高齢化は急速に進み、重度の要介護高齢者の増加が見込まれている。在宅介護や在宅医療の役割がより重要になるが、訪問介護による日常生活支援はその基盤でもある。基本報酬引き下げでサービス提供が手薄になり、「介護難民」が増えることにならないか心配だ。 *6-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857944.html (朝日新聞 2024年2月7日) 「カスハラ」防止条例検討へ サービス業、労組など要望 東京都 客が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を検討している東京都の検討部会が6日、「条例化が望ましい」との意見を示した。これを受け、都が条例化へ検討を進めることになる。都によると、カスハラ防止を目的にした条例は全国的に例がないという。部会は商工団体や労働組合の代表者、大学教授、都幹部らがメンバーで昨秋から検討を続けている。条例化については、カスハラ防止の周知啓発を進める法的根拠として施行を望む意見が出た。業界ごとに異なる事情も勘案し、罰則付きではなく機運醸成や啓発が中心の「理念型」を推す意見も出された。こうした声を軸に今後、業界ごとのガイドラインなどの対策と合わせて、条例の中身が検討されることになる。カスハラは接客業界で広く問題化しており、タクシーやバス運転手が名札義務化をやめるなどの動きがある。サービス業従事者の多い東京で対策強化を望む声が労働組合の連合東京などから上がっていた。 <日本における避難民・移民の受入れについて> PS(2024年2月19日追加):*7-1は、①ウクライナから日本への避難民2098人のうち日本での定住を望む人が39・0%(818人)に急増 ②うち1799人が日本国内で1年働ける「特定活動」の在留資格あり ③最新の国別受入数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人 ④日本財団は延べ約2千人に最長3年間・年100万円の生活費を支援 ⑤首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋に10代の娘2人と来日し、目の不自由な夫も呼び寄せて日本で人生の新しいチャプターを始めると決めた ⑥就労には日本語が欠かせない場合が多いが、殆ど話せない人が3割、簡単な日本語のみが4割 ⑦日本政府は紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する制度を始め、対象者には定住資格が与えられ、日本語習得や生活支援が始まる 等としている。 また、*7-2は、⑧イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザ南端のラファを激しく空爆 ⑨エジプトとの境界にあるラファにガザの全人口230万人の半数以上がひしめく ⑩避難民の多くはシェルターやテントの劣悪な環境で暮らし、安全な飲み水や食料が殆どない ⑪イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じた ⑫アメリカのバイデン大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない」と発言 ⑬人々はどこに行けばいいのかと困っている ⑭米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいる ⑮検問所に近いのにラファでは支援物資が不十分 等としており、2月19日のNHKの報道は、⑯イスラエル軍が南部のナセル病院で2月15日~18日に作戦を続けた結果、WHOが「ナセル病院は1週間の包囲と作戦で既に病院として機能しておらず、約200人の患者の少なくとも20人は緊急転院して治療を受ける必要がある」と訴えた としている。 ウクライナもガザも大変な状況だが、日本のメディアは悲惨さを情緒的に伝えるだけであり、これでは良い解決策は出て来ない。さらに、NHKはチャンネルや時間帯が余っているのに、「政治とカネ」以外の国会中継をまともに行わず、「政治は金まみれで汚い」という悪いイメージを国民に植え付けて民主主義を後退させている上、国民が本質的な問題点を深く考える機会を奪っている。民放は、これに加えて放送時間の1/3が広告であるため、「これが、記者や番組制作者の限界なのか?」と思う次第である。 そのような中、日本では人手不足が叫ばれているのに、上の③のように、最新のウクライナからの受入人数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人と10~100万人単位であるにもかかわらず、日本は、①のように、現在、避難民が2098人おり、そのうち日本での定住を望む人が818人に“急増”し、②のように、1799人にのみ日本国内で1年間だけ働ける「特定活動」の在留資格を与えているとのことである。つまり、日本は、避難民や移民の受入れが極めて少なく、かつ期間限定・就業限定なのである。もちろん、日本に来たばかりの時期は就業困難な人もいるため、④のような生活費支援も必要で、支援額はむしろ少なすぎると思うが、⑥の日本語力については、大部分の日本人が英語でコミュニケーションでき、日本語を話さなくてもできる仕事で日本語は不要であるため、日本語を就労要件にするのは発想が旧すぎると思う。例えば、⑤の美容師のケースでは、日本のやり方を研修した上で外国の美容師資格を持つ者にも日本における就労資格を与えれば十分稼げる。ちなみに、私は、フランス語は全く話せないが、旅行中にパリの美容室に入って英語で必要事項を話した後、黙って座っていたら日本より素敵な髪型にしてもらえたし、ODAでキルギス(旧ソビエト連邦)に行った時に見つけたスカートは、(裏地はついていなかったが)スタイルが抜群で気に入ったため、25年以上も大切に身につけていた。そのため、欧米における洋風スタイルの伝統の重さを実感しており、⑦のように、紛争から逃れた人に難民・移民として定住資格を与えるのは必要不可欠であると同時に、日本にとっても有益だと考えているのだ。 そして、私が疑問に思うのは、パレスチナ自治区のガザ地区は面積365 km²(福岡市よりやや広い)、人口約222万人(福岡市は164万人)と過密な状態で、1947年に国連がパレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分ける決議を採択し、イスラエルが1948年に独立を宣言して以降、火薬庫になっているのに(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/plo/data.html 参照)、どの国も自国への避難民・移民の受入れは表明せず、⑧⑨⑩のように、イスラエルのみを批判し、狭い場所で共存し続けることを強要している点である。疑問に思う理由は、広い国・人手不足の国でさえパレスチナ難民を受入れないのに、狭い土地で「共存せよ」と言うのはイスラエルとってもパレスチナにとっても無理だと思うからだ。そのため、⑪⑫⑭のように、イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦拡大を命令し、バイデン米大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない(最短でも6週間)」と発言しておられるが、“民間人の安全を確保する計画”は迅速に作る必要がある。何故なら、⑬⑮のように、検問所に近いのにラファで支援物資が不十分で、避難民はどこに行けばいいのかわからず、⑯のように、2月15日~18日にはナセル病院が既に病院として機能しなくなっている状態だからだ。そのような中、日本は人手不足の国であり、農林水産業・建設業・運送業・介護・観光業・軽工業等で特に労働力が足りないため、人口が減少している地域でガザの住民を入植させればよいと思う。大陸で揉まれながら4大文明の近くで生活し、アラビア語ができ、小麦・オリーブ・家畜の生産に慣れており、我慢強い人々の能力やスキルは、使い方によっては日本人以上なのだから。 *7-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS2L6GN3S28ULLI001.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2024年2月19日) ウクライナ避難者、日本への定住希望が急増 「できるだけ長く」4割 ウクライナから日本に避難している人のうち、日本での定住を望む人が、この1年で24・7%から39・0%に急増したことが、日本財団が定期的に実施しているアンケートからわかった。反転攻勢がうまくいかずに戦争が長期化するのを目の当たりにし、「状況が落ち着くまでは、しばらく日本に滞在したい」と答えていた人の多くが帰国を諦めたとみられる。日本に住むウクライナからの避難者は2月14日現在で約2100人。日本財団はこれまで、延べ約2千人に年100万円の生活費を支援。18歳以上を対象に、生活状況や意識を計5回アンケートしてきた。朝日新聞は、日本財団と契約を結び、日本財団からアンケート結果のデータ提供を受けて内容を分析した。第5回アンケート(1022人回答、昨年11~12月実施)で、「できるだけ長く日本に滞在したい」と答えた人が急増し、その1年前の第2回アンケートで24・7%だったのが、39・0%と1・6倍になった。これまで40%前後で最も多かった「状況が落ち着くまで」様子を見ようという人を初めて上回った。 ●「日本で人生の新しいチャプター始める」 首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋、10代の娘2人と来日した。「ミサイルが自宅近くに落ちるのを経験した娘は日本に慣れ、もう戻りたくないと言った。目が不自由な夫も呼び寄せ、日本で人生の新しいチャプター(章)を始めると決めました」 ただ、定住への課題は大きい。アンケートでは、働いていない人は52・8%と半数を超え、働いている人でも4分の3はパートタイムだった。就労には、日本語が欠かせない場合が多いが、ほとんど話せない人が3割、簡単な日本語のみという人が4割だった。 ●専門家「経済的な自立策を話し合える場が必要」 財団による生活費支援は原則として最長3年間で、来年には期限という人が出始める。日本政府は昨年12月、紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する「補完的保護対象者」制度を始めた。対象者は定住資格が与えられ、日本語の習得や生活支援が新年度から始まる。明治学院大教養教育センターの可部州彦(くにひこ)研究員(難民の就労支援)は「戦争が長びくなか、日本での生活を設計する人が増えている。子どもが教育を受けるには資金がどれくらい必要で、就労するにはどんな技能や資格がいるのか。それぞれのライフステージに合わせた経済的な自立策を具体的に話し合える場が必要だ」と話した。 *7-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/ceqjw22lv7go (BBC 2024年2月13日) ラファの避難者ら、イスラエルの地上作戦におびえる 国際社会は攻撃の抑制求める パレスチナ自治区ガザ地区ラファで、人々がパレスチナ人がイスラエル軍の地上作戦におびえている。同軍は12日未明にかけ、ガザ南端のこの都市を激しく空爆した。国連やアメリカなどはイスラエルに対し、多くの民間人を殺傷する地上作戦は実施しないよう警告している。エジプトとの境界にあるラファには、ガザの全人口230万人の半数以上がひしめている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が始まる前はラファの人口は25万人程度だったが、ガザ各地から避難者が押し寄せている。避難住民の多くは、にわか作りのシェルターやテントの劣悪な環境で暮らしている。安全な飲み水や食料はほとんどない。そのラファをめぐり、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は先週、軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じたと明らかにした。11日夜から12日未明にかけては、イスラエル軍がラファを空爆した。ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエル軍の空爆とラファでの人質救出作戦により、一晩で少なくとも67人が殺害されたという。現地にいる医師のアフメド・アブイバイドさんは、イスラエル軍の空爆が絶え間なく至る所で続いていると、BBCに電話でメッセージを送った。人々は「どこに行けばいいのかと困っている」状態だとした。こうした状況を受け、国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官は12日、ラファへの攻撃は「子どもや女性を大半とする非常に多くの民間人が死傷する恐れがあり、恐ろしいことだ」と警告。ガザへの「わずかな」人道支援は現在、エジプトが管理するラファ検問所を通過して運び込まれており、それが停止する恐れもあるとした。昨年10月7日のハマスによるイスラエル南部の襲撃では1200人以上が殺害され、250人以上が人質として連れ去られた。一方、ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエルとの戦闘が始まってから、2万8100人を超えるパレスチナ人が殺害されている。 ●「立ち止まって考えるべき」 アメリカのジョー・バイデン大統領も12日、イスラエルのラファでの作戦について、民間人の「安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきではない」と発言した。バイデン氏は先週、イスラエルによるガザへの報復作戦を「度を越している」と異例の厳しい言葉で批判していた。バイデン氏はこの日、ヨルダンのアブドラ国王と会談。終了後、米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいると述べた。イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相も、ラファでのさらなる行動の前に、イスラエルは「立ち止まって真剣に考える」べきだと主張。欧州連合(EU)の外交を取り仕切るジョゼップ・ボレル外交安全保障上級代表は12日、ガザで「あまりに多くの人々」が殺されているとし、イスラエルへの武器の提供をやめるよう同国の友好国などに求めた。BBCにメッセージを送った前出の医師アブイバイドさんは、ガザ南部ハンユニスのナセル病院で勤務していた。しかし、イスラエル軍の空爆で自宅が破壊され、父親は脊髄を損傷。ラファへの避難を余儀なくされたという。ところが現在、ラファからも移動しなければならない可能性に直面している。アブイバイドさんは、どこに行けば安全なのか分からない状態だと話した。「軍の地上作戦が市内でまもなく始まるかもしれず、人々はとてもおびえている」。アブイバイドさんはまた、ラファでは人々の間で多くの病気が見られ、「投薬や治療を受けられる可能性が著しく低下」していることで状況は悪化しているとした。ラファにいる別の医療関係者は、「友人など会う人すべてが、インフルエンザ、コレラ、下痢、疥癬(かいせん)、そして新たにA型肝炎などにかかっていて、どんどん悪くなっている」とBBCに述べた。ラファで避難生活を送っているアボ・モハメド・アティヤさんは、12日未明にかけて空爆があったとき、テントの中で家族と寝ていたとBBCに説明した。「突然(中略)ミサイルがあちこちに撃ち込まれ、発砲があり、飛行機もあちこちに飛んできた。路上のテントと人々の頭上でこうしたことが起きた」。ガザ中部ヌセイラット難民キャンプから避難してきたというアティヤさんは、ヌセイラットではイスラエル軍からの退避指示があったが、この夜のラファでは事前の警告はなかったと非難した。「言ってくれればラファからどこへでも避難していた」。「もう安全な場所はない。どこも安全ではなく、病院さえも安全ではない。人々は死にたいと思っている」 ●支援物資が不十分 検問所に近いにもかかわらず、ラファには十分な支援が届いていない。現地の男性はBBCに、人々は何日も支援を待っており、届いても水の供給は不十分だと話した。ラファの女性は、「水が見当たらず、十分な量を手に入れることができない。水不足で喉がカラカラだ」と述べた。ガザ最大の人道支援組織の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトップは12日、現地の秩序が崩壊しつつあると述べた。ハマスが運営する地元警察のメンバーらが殺害されたり、身の危険を感じて支援物資輸送車の警護に消極的になったりしているという。「地元警察がいなかったため、トラックや輸送車列が略奪に遭い、トラックは何百人の若者らに破壊された」。避難者の中には、飲食物の確保をめぐる不安より、次に何が起こるかわからない恐怖の方が大きいという人もいる。イブラヒム・イスバイタさんは、「以前は食べ物や水や電気の不足について考えていた。でも今は、この先どうなるのか、どこに行けばいいのかが分からずトラウマになっている。これが現在の私たちの日常だ」とBBCに話した。ラファから移動しなければならなくなったら、彼の家族はどこへ行こうと考えているのか。そう問われると、イスバイタさんは「実際のところ、まったく分からない」と答えた。 <GX移行債の支出対象について> PS(2024年2月21,22《図》日):*8-1-1・*8-1-2は、①財務省が新国債「GX経済移行債」の初回入札を実施 ②初年度2023年度に1.6兆円、10年間で20兆円規模を発行予定 ③2050年の温暖化ガス排出実質0に向け産業構造転換を後押しする資金調達 ④海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広い ⑤初年度に製鉄工程の水素活用に2,564億円割り当て ⑥消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素・次世代原子力発電の開発も支援対象 ⑦次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶の技術開発も後押し ⑧EV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大に計4,800億円程度補助 ⑨省エネ性能の高い住宅機器導入・EVを含む低燃費車の購入補助事業に2000億円強充当 ⑩2023年度の1.6兆円からは「燃料アンモニア事業」は除外 ⑪資金使途が多岐で海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声 ⑫政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせて150兆円超の投資に繋げる ⑬環境への貢献度の高さを重視し、通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』の水準が注目された ⑭応募者利回りは0・740%で直近の償還期間10年国債と比べグリーニアムによる利回り差は殆どなかった ⑮償還には2028年度から導入する化石燃料輸入企業への賦課金等を充てる としている。 これらの記述の中には、「環境保護は経済活動には邪魔なものであるため、環境保護に追加コストがかかるのは当然である」「環境保護目的なら利回りの低い債権でも売れる筈である」という、日本が開発途上国時代に振りかざしていた前提が色濃く残っている。 しかし、現代は、環境を悪化させる経済活動は許されず、環境を保護しながら高い利回りを上げることが求められる時代であり、その視点から見ると、⑩のアンモニア混焼は、環境保護が中途半端な上に、コストを上げるため、広く普及することのない技術だ。また、⑨のEV以外の低燃費車も、エンジンとモーターの両方を使うため、環境保護が中途半端なだけでなく、部品点数が多くて労働生産性は上がらずコストダウンも進まず、国内で産出しない化石燃料を使い続けるため貿易収支の改善にもエネルギー自給率の向上にも役立たない。さらに、⑥の中の次世代原発は、地震・火山国で面積の狭い日本に置く場所などなく、使用済核燃料の保管場所も限られるため普及できず、無駄な支出となる。このように、政府も民間も、将来の稼ぐ力を高める技術に投資しなければ、労働生産性は上がらず、貿易収支も改善せず、国民をより豊かにすることのできない、単なる無駄使いになるのである。 そのため、①②③のように、財務省が産業構造転換を後押しする資金調達のため「GX経済移行債」を発行し、⑮のように、化石燃料輸入企業への賦課金等を償還に充てることとしたのは良いが、⑬のように、「環境への貢献度が高いから通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』が生じる」と考えたのは甘すぎるため、結果として、⑭のように、グリーニアムによる利回り差がなかったのは当然なのだ。 しかし、日本で遅れている⑨の省エネ性能の高い住宅機器の導入補助金や、⑦の次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶技術など、普及すれば環境保護・生産性向上・貿易収支改善・エネルギー自給率向上に役立つ技術への補助金や投資は、国民をより豊かにすると同時に税収も増やすため、無駄使いにはならない。 なお、⑤の製鉄工程の水素活用2,564億円、⑥の消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素、⑧のEV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大4,800億円の補助は、1990年代末~2000年代始めならスタート段階で必要だったが、現在なら遅れた企業の甘やかしすぎである。今は企業の実質借入金額が年々減っていく時代であるため、国民に負担をかけず自らやればよい。従って、⑫の政府の20兆円の呼び水は10年でもその半額でよく、ましてや病気や要介護状態で働けない高齢者の預金を目減りさせながら負担増まで押しつけるのは論外である。 そして、これが、④⑪のように、海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広すぎて、海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声がある理由であり、私もその批判は正しいと思う。 このような中、太陽光発電は、*8-2-1のように、窓ガラスやビルの壁面などで使える建材一体型の太陽光発電パネルが普及段階に入っており、都市が発電所となって、82.8ギガワット発電できる可能性が高い。そのため、これもまた「高すぎて普及できず、他国に後れをとった」などという事態にならないようにすべきで、まずはビル・マンションの新築や改装工事で義務化したり補助金をつけたりすればよいと思う。 また、*8-2-2のように、フランスは、太陽光発電の適地を増やすため、80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付け、駐車場・農地等に設置する太陽光発電を再エネ拡大の突破口にするそうだ。さらに、*8-2-3のように、青森県つがる市は、再エネ発電促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため2014年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づいて、農地で国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」を稼働させて一般家庭約9万世帯分の電力を供給しているそうだが、風力発電機は田畑に陰を作らずに発電できるため、農地に適している。そのため、農地で再エネ発電をする場合には、「農業の戸別所得補償」のかわりに再エネ発電機設置補助金をつければ、発電能力を著しく大きくできると考える。 ![]() ![]() ![]() 2019.12.9HATCH 2022.10.29政治ドットコム 2022.7.29日経新聞 (図の説明:左図のように、都市への人口流入により、過疎地では全国平均より高齢者比率が高く若年者比率は低くなっている。また、中央の図のように、高齢者比率が高くなるほど、空き家比率も高くなる。その結果、このままでは、過疎地は、鉄道・バス・水道等が赤字となり、インフラの維持も難しくなっていく) ![]() ![]() ![]() 2023.2.9政治ドットコム 白書・審議会データベース 2021.11.6日経新聞 (図の説明:左図のように、過疎地で頑張っていた高齢者がついに農業を辞めると、次世代のいない農家で耕作放棄地が増え、中央の図のように、農業総産出額は名目値でも漸減している。また、右図のように、燃油代・餌代の高騰で良質な蛋白源である漁業の産出額も著しく減少しているが、日本は製造業も振るわないため、「食料は輸入に頼ればよい」という考えは甘い) *8-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240211&ng=DGKKZO78400190Q4A210C2EA4000 (日経新聞 2024.2.11) 14日 財務省、「GX移行債」初入札、脱炭素加速、市場どう評価 財務省は14日、新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」の初回入札を実施する。同日は10年債を、27日には5年債をそれぞれ8000億円予定する。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的とした国債の発行は世界初の試みで、10年間で20兆円規模を計画する。正式名称は「クライメート・トランジション利付国債」。2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロに向けた産業構造転換を後押しする資金を調達する。初年度の23年度は1.6兆円を発行する。海外では太陽光のような再生可能エネルギーの発電などに資金の使い道を絞る「グリーンボンド」が普及する。今回は化石燃料を主体とした経済・社会構造からの「トランジションボンド」と区別し、幅広い使途とする。初年度1.6兆円について、政府は製鉄工程の水素活用に2564億円を割り当てる。既存の製鉄は石炭を大量に使い二酸化炭素(CO2)を多く排出する。代わりに水素を使う製鉄技術の確立をめざし、日本製鉄やJFEスチールなどの取り組みを後押しする。消費電力を抑える「光電融合」といった次世代半導体の開発、金属部品などの熱処理に用いる工業炉の脱炭素、次世代原子力発電の開発も支援対象となる。具体的な支援先は未定だが、次世代の太陽電池や洋上風力発電、水素発電、次世代航空機・船舶といった技術開発も後押しする。電気自動車(EV)などに使う蓄電池と、パワー半導体の国内生産の拡大には計4800億円程度を補助する。省エネ性能の高い住宅機器の導入や、EVを含む低燃費車の購入補助といった事業には2000億円強をあてる。資金使途が多岐にわたり、海外投資家からは見せかけの環境対応にすぎない「グリーンウオッシュ」を懸念する声も聞かれる。日本のGX戦略は火力発電の燃料をアンモニアに転換するプロジェクトが含み、「石炭火力の延命」との見方がつきまとう。このため23年度発行の1.6兆円の使途から「燃料アンモニア事業」を除外した。財務省と経済産業省は1月中旬から投資家向け広報(IR)のため欧米各国を回った。財務省幹部は関心の高さを感じたという。SMBC日興証券の浅野達シニアESGアナリストは「グリーンウオッシュへの心配の声は小さくなった。むしろ初物としてのご祝儀相場に乗り遅れまいと需要が高まり、通常の国債より利回りが低くなる『グリーニアム』の水準が注目される」と話す。グリーニアムはグリーンとプレミアムの造語で、環境への貢献度の高さを重視して利回りが低く(債券価格は高く)なることを指す。政府にとっては通常より低いコストで資金調達できる。初回のプレミアムが高くても油断はできない。続く24年度は1.4兆円、その後に残る最大17兆円の発行を控える。「市場から日本のGX政策への信認としての適切なプレミアムを維持できるかが焦点となる」(浅野氏)。政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせ150兆円超の投資につなげる。脱炭素技術はどれが普及するか見通せず、企業が予見可能性をもって投資に踏み切る環境づくりは欠かせない。資金の使い道や脱炭素の効果を広く開示し、安定的な資金調達をめざす。償還には企業のCO2排出に課金する「カーボンプライシング」の2つの手法を用いる。まず化石燃料の輸入企業に燃料のCO2排出量に応じて賦課金を28年度に導入する。もうひとつは排出量取引で政府が電力会社に排出枠を有償で割り当てる仕組みを33年度に始める。 *8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS2G62BQS2GULFA00N.html (朝日新聞 2024年2月14日) GX経済移行債8000億円を初入札 幅広い使途、環境債とは別物 財務省は14日、脱炭素化と経済成長をうたう政策の財源にする「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債」の入札を初めて実施した。募集額は8千億円で、償還期間は10年。27日にも償還期間5年のGX債の入札を実施し、年度内に計1・6兆円の移行債を発行する。欧州で幅広く発行されている、再生可能エネルギーなどへの投資に使途を限定した「環境(グリーン)債」とは異なる。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的としており、使い道は幅広い。調達したお金は、二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を製鉄に使う技術や、電力消費の少ない次世代半導体などの、研究開発の補助金などに使われる。さらに、次世代原子炉の開発やCO2排出を抑えた火力発電などへの投資、経済安全保障上の重要物資と位置づける半導体や蓄電池の供給を安定させるための補助金にも使われる。政府は今後10年間でGX債を20兆円発行し、これを呼び水に150兆円超の官民投資につなげるねらいがある。償還には、化石燃料を輸入する企業に対する賦課金などを充てる。課金制度は28年度から導入する。環境への配慮や社会貢献を使い道とする国債は、同じ発行条件の国債と比べて利率が低く、価格が割高になる「グリーニアム」がつくことがある。ただ、この日の入札でついた応募者利回りは0・740%で、直近の償還期間10年の国債と比べ、利回りの差はほとんどなかった。SMBC日興証券の小路薫・金利ストラテジストは、「事前の予想と比べ、軟調な結果だった」と指摘。業者間の入札前取引の際にグリーニアムが大きく出た反動で、需要が抑えられた可能性があるとして、「投資家が利回りの低さをどの程度まで許容できるかは、まだ流動的だ」と述べた。 *8-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21C8P0R21C23A2000000/ (日経新聞 2024年1月10日) カネカ、壁面用発電パネル生産3倍 ビルが都市発電所に カネカはビル壁面などで使える建材と一体にした太陽光発電パネルの年間生産量を2030年までに現在の約3倍に増やす。都心部ではパネル設置場所が限られており、窓ガラスやビル壁面に潜在需要がある。建材一体型の普及により、現在の国内の太陽光発電能力に匹敵するとの試算もある。ビル群が都市発電所として電源の一翼を担う可能性がある。カネカは窓ガラスなどに使える建材一体型発電パネルを大成建設と共同開発した。自社開発した高性能の太陽電池をガラスの間に挟んで窓ガラスや外壁材として使える。兵庫県豊岡市の既存工場の生産能力を段階的に高める。新工場建設も視野に入れる。30年に現状の3倍となる年産30万平方メートル(東京ドーム6.4個に相当)に増やす。同社の太陽光パネルは住宅向けが中心で現状の売上高は100億円前後だ。カネカは大成建設との共同開発品以外にも複数の商品発売を計画しており、30年に建材一体型のパネルだけで現在のパネル全体と同等の100億円まで増やす考えだ。インドの調査会社IMARCによると世界の建材一体型太陽光の市場規模は、28年までに22年比3倍近い548億米ドル(約8兆円)に達する見通しだ。太陽光パネルは中国メーカーが世界供給の7割を占める。国内勢はカネカや長州産業、シャープなどに限られているが、建材一体型のような付加価値商品で先行する。太陽光発電協会(東京・港)によると今後、建材一体型太陽光発電が導入可能な立地の総数を発電能力に換算すると82.8ギガワット(設備容量ベース)ある。日本国内で稼働している太陽光発電の導入実績(87ギガワット、22年度末)の95%に相当する規模が見込まれる。建材一体型パネルは単体の太陽光パネルと比べて数倍以上コストがかかるが、脱炭素を進めたい企業が持つビルの壁面などに商機がある。環境省が24年度から建材一体型の太陽光発電設備の設置費用について、最大5分の3を補助する制度を導入する予定で今後の普及への期待は高い。AGCも自社開発品の増産検討に入った。同社は2000年から発電ガラスを提供しており、これまでに約250件の施工事例を持つ。24年上期までの工場の稼働率は100%に近い水準だという。30年に向けて生産能力が不足する可能性があり、AGCは工場新設を視野に生産体制の見直しを進めている。ビル用では現在は新築向け商品が中心だが、今後は既存の建物に後付けできる商品の発売も検討する。建材一体型太陽光パネルを巡っては、カネカや積水化学工業などが開発中の「ペロブスカイト」型太陽電池も普及を後押しする技術として注目されている。軽くて曲げられるといった特徴があり、建材を使って発電する場合のコストが下がる可能性もある。政府も補助金を出し官民あげて実用化を急いでいる。 *8-2-2:https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC097NM0Z00C24A2000000 (NIKKEIGX 2024年2月19日) 太陽光適地不足、「併設」で打開 フランスは駐車場義務化 再生可能エネルギーの拡大に向け、太陽光発電の適地が不足していることが世界各地で課題となっている。フランスは80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付けた。駐車場や農地、水上などに設置する「デュアルユース太陽光発電」が再生エネ拡大の突破口になりそうだ。 *8-2-3:https://mainichi.jp/articles/20210515/k00/00m/040/064000c (毎日新聞 2021/5/15) 青森の農地に国内最大の風力発電所 風車38基、9万世帯分の出力 1年を通して強い風が吹き抜ける青森県つがる市の農地に、2020年4月から国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」が稼働している。高さ約100メートルになる風車38基の総出力は一般家庭約9万世帯分の12万1600キロワット。年間約18万トンの二酸化炭素(CO2)削減効果が見込まれる。同発電所の建設は、再生可能エネルギー発電の促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため14年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づき、農地を大半の用地として17年に着工。作付けの繁忙期を避けながら、約2年半かけて完成した。同法による市への協力金はメロンの栽培など農業振興に活用され、「エコな作物」として付加価値も期待される。風車6基が建つ菰槌(こもづち)地区で農業を営む長谷川藤行さん(77)は「ここは夏の寒暖差もあり、メロンなどの作付けにはとてもいい。農業の適地でエネルギーも日々作られ、うれしい」という。市では、政府が昨年末の「グリーン成長戦略」で導入拡大の方針を示した洋上風力発電の計画も進む。運営する「グリーンパワーインベストメント」(東京都港区)事業開発本部の力石晴子・対外連携推進グループ長(36)は「再生エネルギーは地域を強くする。より良い環境を地元の方々と作っていきたい」と話す。 <古代人の親子関係でもわかる時代の現代民法嫡出推定> PS(2024年2月26、27《図》日追加):*9-1のように、人のDNAも全部読めるようになり、最近は遺跡に埋葬された古い人骨に含まれるDNAからでも埋葬された人の血縁関係がわかるようになって、人類の移動経路や文化がより科学的に証明されつつある。それ自体が素晴らしいことだが、ここで強調したいのは、*9-2のように、それでも民法772条は「嫡出の推定」という規定を置き、「妻が婚姻中に懐胎した子は原則として夫の子と推定」「婚姻成立の日から200日を経過後or婚姻解消・取消しから300日以内に生まれた子は、婚姻中の懐胎と推定」など、婚姻関係と妊娠期間を前提とする推定をしており、DNA分析での事実認定はしないことにしている。そのため、実際の親子関係と異なる推定をされた場合に関係者全員が納得できず不幸な思いをしているため、民法722条1項の推定はそのまま、その推定に異議がある場合は関係者の誰からでも要求してDNA解析を実施し、親子関係を明らかにできるよう変更すべきだ。 ![]() ![]() ![]() すべて、*9-1より (図の説明:左の図は、岡山県津山市にある小規模集団の首長の墓《古墳時代》の血縁関係で、父親とその子である異母姉妹が葬られており、母親は実家の墓に入るため葬られていない。また、中央と右の図は、和歌山県田辺湾岸の磯間岩陰遺跡《古墳時代》にある漁民の墓地で、三浦半島の男性との婚姻関係が明らかになっている) *9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78735340U4A220C2TYC000 (日経新聞 2024.2.25) DNAが導く考古学、古墳時代の血縁解き明かす 遺跡を発掘して歴史を解き明かす考古学で墓は有力な手がかりだ。近年、埋葬人骨に含まれる微量のDNAを解析して埋葬された人々の血縁関係を突き止めることが可能になり、注目を集める。収められた土器や装身具から分かるその人の社会的地位などと合わせて分析すると、権力の継承や人の移動が見えてくる。岡山県津山市に三成四号墳という前方後方墳がある。前方部の石棺には30~40代の男性と20~30代の女性が埋葬され、古墳時代の小規模集団の首長の墓とみられる。このほど、国立科学博物館の神澤秀明研究主幹らが2体の人骨の奥歯から細胞の核に含まれるDNAを抽出し、配列を詳しく調べると、この2人は夫婦ではなく親子だとわかった。後方部の石棺には高齢女性と女児が埋葬されていたが、女児は前方部の石棺の男性の子だった。先の女性とは姉妹ということになるが、2人は母が異なっていた。つまりこの古墳には父と腹違いの娘2人が埋葬されており、母たちは埋葬されていないということだ。古墳時代の埋葬人骨の関係を「ここまで詳しく特定できたのは初めて」と、古墳時代の社会構造を研究している岡山大学の清家章教授は話す。古墳時代や平安時代には、同じ墓に入るのは基本的に血族のみだった。結婚後も実家との結びつきが強く、夫婦も死後はそれぞれ実家の墓に入った。また当時は多産多死社会で、死別や再婚も多かったようだ。DNAの解析結果はこうした見方と符合する。庶民の墓についてはどうだろうか。和歌山県の田辺湾岸にある磯間岩陰遺跡は古墳時代の漁民の墓地で、8つの石棺に12体の人骨が埋葬されている。山梨大学の安達登教授らがこれらのミトコンドリアDNAを解析したところ、ほぼ全ての石棺に母方の血縁者同士が埋葬されていたが、一人だけ誰とも母方の血縁関係がない中年男性がいた。この男性の石棺には15歳の少年が先に葬られていたが、彼はほかの石棺の女性たちと母方の血縁関係にあった。男性が女性の誰かの夫で、少年が二人の間の息子だと考えるとつじつまが合う。なぜこの男性は実家の墓に戻らず、配偶者の実家の墓に葬られたのだろう。ヒントは彼らの埋葬方法にある。ほかの遺骨がまっすぐ足を伸ばしているのに対し、2人は膝を曲げ足を開いた形で置かれている。石室の底には貝殻とサンゴが敷かれ、海岸によくある穴だらけの磯石が置かれていた。いずれもこの地域の墓にはみられない特徴だ。実はこれらの特徴を備えた墓が、遠く神奈川県の三浦半島にある。田辺湾岸で作られた鹿の角の釣り針が三浦半島に伝わっており、当時から人の交流があったことがわかっている。男性はおそらく三浦半島から田辺湾岸にやってきて、ここで結婚して息子をもうけたが先立たれ、出身地の方法で埋葬したのだろう。自身が死んだときは実家は遠すぎて戻せず、同じ墓に埋葬されたのではないか。そんな仮説が浮かび上がり、調査が続いている。古墳時代より前の弥生時代の人骨も解析されている。鳥取県東部にある青谷上寺地遺跡からは100体分以上の人骨が出土しており、このうち13体について神澤研究主幹らが核のゲノムを解析した。その結果、現代の本州に住む日本人よりも縄文人寄りの人から、逆に渡来人寄りの人まで幅広く含まれていることがわかった。弥生時代の青谷上寺地には、現代の東京よりもっと多様な人々が暮らしていたらしい。「おそらく広い地域におよぶ交流が頻繁にあったのだろう」(神澤氏)。青谷上寺地は北陸や四国で産出する様々な素材を使って弥生時代の装身具「管玉」を作る職人の町だった。作った管玉は九州北部でも見つかっている。DNAの多様さは交易のハブだった当時の姿を反映しているのかもしれない。考古学に核DNAの解析が用いられるようになったのはここ5年ほどだ。血縁関係という重要な情報を明らかにするDNA解析は「今後、研究における基本的な手段になるだろう」と清家教授は話している。 *9-2:https://xn--ace-yc4g407bukbg65emna7a.com/index.php?%E6%B0%91%E6%B3%95772#:~:text=・・・%80%82 (弁護士法人エースより) 民法772条 (嫡出の推定) 第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。 2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。 注1:婚姻関係にある男女から生まれた子を「嫡出子」といいます。婚姻中に懐胎した子は、嫡出子と推定されます。「婚姻成立から200日経過後に生まれた子」又は「婚姻の解消から300日以内に生まれた子」は嫡出子と推定されます。 注2:民法772条に該当する「推定される嫡出子」の場合、認知届は不要です。 ・推定される嫡出子(推定が及ぶ場合)とは、772条に該当する子供のことをいいます。 ・推定が及ばない場合とは、772条には該当するが、その期間中、妻が夫の子を妊娠することが事実上不可能な場合を言います。例えば、夫が海外滞在中で、肉体関係がないにも拘わらず、妻が妊娠をした場合などがこれにあたります。 ・推定されない嫡出子とは、772条に該当しない嫡出子のことをいいます。例えば「授かり婚」のように、婚姻成立前に妊娠し、婚姻成立から200日以内に産まれた子供は、婚姻関係にある男女から産まれたので嫡出子には該当しますが、772条における「推定」の適用はないので、推定されない嫡出となります。 ・二重の推定が及ぶ嫡出子とは、前婚の父性推定と後婚の父性推定とが重複する場合の嫡出子、つまり前夫との婚姻解消300日以内かつ現夫と婚姻成立200日経過後に産まれた子ということになります。この場合、773条の父を定めることを目的とする訴えによって父子関係を決めます。 <赤松良子さんの死去を悼む> PS(2024年2月29日、3月4日追加):*10-1-1のように、女子学生が極めて少なかった時代の東大卒で、1961年にさつき会(東大女子同窓会)を設立され、1963~67年にさつき会の代表理事を務められ、1979年には国連総会で採択された女子差別撤廃条約に国連公使として賛成票を投じられ、それが1981年に発効した翌年の1982年に担当の局長に就任して男女雇用機会均等法の成立に尽力された赤松良子さんが、2月6日に94歳で死去されて1つの時代が過ぎたことを感じざるを得なかった。ただ、1985年制定の第一次男女雇用機会均等法は差別の禁止が努力義務にされたため、女性を「補助職」という結婚退職を前提とする単純労働に就かせることによる女性差別が残り、これが(私が中心となって)1997年に採用・昇進・教育訓練等で禁止規定にするまで続いた。その第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの1つ目は、*10-1-2の1986年の年金制度改革であり、「サラリーマンの専業主婦は保険料負担をせず、国民年金をもらえる」という第3号被保険者の創設である。これは、フルタイムで働く女性を不利に扱い、パートの非正規社員として働く主婦の年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健康保険の保険料が発生し手取りが減ることによって女性が働かないことを奨励する現象を、現在でも生んでいる。また、第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの2つ目は、1980年に三浦友和と結構して山口百恵が引退し、1986年に森進一と結婚して森昌子が引退して2つの才能が消えたことを著しく褒めて報道し、神田正輝と結婚しても歌手を続けた松田聖子は叩かれ続けたようなアホなメディアによる世論の誘導だった。これらの結果、未だに日本では女性蔑視がなくならず、*10-1-3のように、2024年2月にあった日本弁護士連合会の次期会長選挙で東京弁護士会所属の渕上玲子氏が当選し、法曹三者で初めて女性がトップに就いたのだそうだ。確かに、司法には「男性優位」の価値観が残っており、それは裁判結果にも出ている。ちなみに、公認会計士協会は、2016年に関根愛子氏を初の女性会長にしている。 そして、現在でさえ、*10-2-1のように、公的学童保育は待機児童が多い上に利用時間や利用学年に制限が多く、これが共働き世帯の「小1の壁」になっているそうだ。これに対し、企業などが運営する民間学童には、預かり時間が柔軟で学習塾・習い事などのプラスアルファ機能を併せ持ち、親世代からの支持を伸ばしているところもあるそうだが、その一方で、*10-2-2のように、民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れ、保育料とは別に料金を徴収して「付加的保育」と呼ばれる様々なサービスを提供しようとすると、「福祉的観点から“平等”でない」として保育料以外のサービス料を認めない自治体が多いとのことである。しかし、“平等”として最低の保育サービスしか受けられなければ、母親が退職して子のケアに専念するか、子を諦めるかの二者択一にしかならないため、いくら児童手当をもらっても、保育料が無償化されても、少子化は進むだろう。このように、日本は、未だに「子持ちの女性は専業主婦かパートの非正規労働者であるべき(⁇)」という前提を維持し続けているのだ。さらに、*10-2-3のように、岸田首相は「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」と強調されるが、新年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬は引き下げられた。そして、「働く女性は家族の介護はできない」ということを考慮すれば、介護保険制度は必要不可欠であり、特に住み慣れた家で介護を受けられるためQOLの高い訪問介護は重要なのだが、女性が多い介護職の報酬は2021年8月の月給制の月額平均で26万5,216円であり、これは2020年の全産業平均賃金30万7,700円より約4万円も低く、3Kになりがちで責任の重い介護職の労働対価として見合わないのである。そのため、介護人材の不足で介護保険制度の維持にかかわるわけだが、それでも介護職の報酬を全産業平均より高くしない理由は、介護職に女性が多く、「女性のケア労働は、無償か男性の労働以下である」という女性蔑視の固定観念が残っているからだ。 *10-3は、①全国漁協の役員に占める女性割合は2021年度で約0.5%(非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人)に留まる ②19都道府県で女性役員は0 ③理由は「力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないから」 ④「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えがある ⑤船や漁協に女性用トイレがない ⑥女性に適した漁具の開発がない ⑦女性・若者・外国人などの新しい力を入れなければ立ちゆかなくなる ⑧世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や限られた漁獲物の価値向上のためのマーケティング・商品開発など活躍する余白はある ⑨これまでのやり方に固執せず、機械化・マニュアル化・データ活用党で誰もが参加しやすい漁業の方策を探るべき としている。 しかし、①②の状況であるため、女性が全漁連会長になったことはなく、③については、沿岸漁業・養殖漁業は夫婦で従事しているケースが多いのに、女性が表に出ないだけである。また、④は、いい加減にやめるべき迷信であり、⑤は、小さな船なら個室トイレがあれば女性用と男性用を分ける必要も無い。さらに、⑥は、女性に適した漁具というより、魚群探知機(https://sea-style.yamaha-motor.co.jp/tips/gps/001/ 参照)の機能を上げ、力仕事の部分を自動化すれば、誰にとっても容易で生産性の高い漁業になるのだ。しかし、それができるためには、それらの機器を備えた漁船が漁業収入で購入できる価格であることが必要なのだが、日本は先進機器や新しい漁船が高価すぎて普及できないのである。その結果、⑦⑧⑨のように、多様性があった方が漁業の付加価値も上げられるにもかかわらず、多様な人が参加しにくく、生産性も低いため持続可能性さえ危ぶまれる漁業になっているのだ。そして、これは漁業だけの問題ではなく、国民全体の食料の問題なのである。 *10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK072ER0X00C24A2000000/ (日経新聞 2024年2月7日) 赤松良子さん死去、女性活躍の道開く 均等法の立役者 7日死去したことが分かった赤松良子さんは、男女雇用機会均等法の成立に尽力し、「均等法の母」と呼ばれる。小さな体にあふれるエネルギーで、女性の社会進出の道を開いた。大阪の画家の家に生まれ、津田塾と東大で学んだ。大卒の女性を採用するところがほとんどないなか、「婦人少年局」のある労働省に進んだ。男女平等に働きたいと思っても、壁の多かった時代。強みとなったのは、役所の外にも活躍の場を求めたことだ。多くの論文を執筆し、さまざまな人脈を広げた。国際感覚にも優れ、海外研修で欧米の働く女性の状況を見て回った。年齢や分野を問わず、国内外に多くの友人を持つ人だった。緻密で論理的、それでいて明るくユーモアもある。1960年代、女性の「結婚退職制」による解雇を無効とした判決が出ると、赤松良子ならぬ「青杉優子」のペンネームで、雑誌に喜びの評論を書いた。本領を発揮したのが、均等法だ。日本は国連の女子差別撤廃条約への批准を目指しており、そのための国内法整備が必要だった。国連公使として条約に賛成票を投じた赤松さんが82年、担当の局長に就任。経済界の根強い反対に対し、国際社会の流れを説き、根回ししてまわった。一方で、条文の多くが努力義務にとどまり、労働側の反発も強かった。妥協した法律とすることは、本人にとっても重い決断だったろう。「小さく産んで大きく育てる」「ゼロと1は違う」との思いは、その後の改正で結実した。退官後も、非政府組織(NGO)などの立場から活動を続け、生涯現役を貫いた。とりわけ、経済分野よりさらに遅れる政治分野の女性参画に力を入れてきた。「100までやる」と周囲に公言していた。原点には、かつて小学校も卒業できなかったという母親への思いがあっただろう。春には母親の郷里である高知に行く計画も温めていたという。好きな言葉に「長い列に加わる」をあげる。婦人参政権などを求めて戦前から活動してきた市川房枝・元参院議員や藤田たき・元津田塾大学長ら先人の努力に自らも加わり、後輩たちが後に続くのを励ましながら、笑顔で歩き抜けて行った。 *10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240226&ng=DGKKZO78690640S4A220C2TCS000 (日経新聞 2024.2.26) 年金の主婦優遇は女性差別 多くの若い女性が会社員の夫に養われる専業主婦に憧れを抱く時代は確かにあった。高度成長ただ中の昭和37年(1962年)。大映映画「サラリーマンどんと節 気楽な稼業と来たもんだ」に、こんな場面がある。田舎のしょうゆ問屋のひとり娘が商社の支社に勤める若手社員と見合いをし、女友達にこう自慢するのだ。「あたしはサラリーマンの生活に憧れちゃうな。ホワイトカラーは現代のチャンピオンよ!」。折しもその前年、すべての国内居住者が公の年金制度に入る皆年金体制が整えられ、昭和61年(86年)の制度改革で「サラリーマン世帯の専業主婦も国民年金の強制加入対象とし、健康保険の被扶養配偶者が保険料を負担せずに医療給付を受けているのと同様に、独自の保険料負担は求めない」(厚生労働省年金局の資料から抜粋)ことにした。保険料を払わなくとも国民年金をもらえる第3号被保険者の誕生である。3号という呼び方がいかにも昭和的ではないか。ちなみに自営業、農業、学生、無職の人など勤め人以外の人(1号)が月々払う年金保険料は1万6520円(免除・猶予制度あり)。専業主婦も夫が1号なら3号には分類されず、この額を払わねばならない。いま3号でも離婚して無職のままならやはり1号になり、保険料の支払い義務が生ずる。事ほどさように奇っ怪な制度だ。3号は制度開始当初の1093万人から721万人(2022年度末)に減ったが、その98%、709万人が女性だ。主婦の年金問題といわれるゆえんである。問題の核心は、パート社員として働き、年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健保の保険料を払わねばならなくなり、手取りがかえって減る「年収の壁」だ。一定規模の企業で働く非正規社員が雇い主と常用的使用関係にあれば厚生年金に入る「106万円の壁」もある。これらの問題を浮かび上がらせたのがコロナ後に顕著になったサービス業の人手不足。3年あまりの鎖国状態を解きインバウンドをどっと招き入れたのだから当然である。飲食、宿泊、交通などを支える働き手がコロナ前の水準には戻ってこず、サービスが滞った。客室が空いていても清掃が間に合わず、泣く泣く予約を断ったホテルがある。経営者がパート・アルバイトの採用を増やそうと時給を上げると、年収の壁に当たるまでの「距離」が近くなり、従業員がさらに就労時間を減らす矛盾にも直面した。いわば厚労官僚の不作為が生んだ人手不足であろう。何とかできないか、という岸田官邸の意を受けて同省が23年10月、苦し紛れに始めたのが「年収の壁・支援強化パッケージ」だ。パート社員が繁忙期に残業するなどして年収130万円以上になっても、一定条件をみたせば夫の扶養にとどまれるようにした。だがサービス業の経営者から歓迎する声はさほど聞かれない。むしろ「問題の実態と複雑な背景をかんがみれば、実効性が十分に発揮されるか不透明だ」(経済同友会「年収の壁タスクフォース」座長の菊地唯夫ロイヤルホールディングス会長)などと、取り繕いを喝破する声が目立つ。従業員側も「政府の支援があっても年収を増やさない」と答えた女性が37%いた(23年12月の本紙ネット調査の結果から)。政権が閣議決定した「女性版骨太の方針2023」は支援パッケージが当座の策であるのを認め、3号制度を見直すよう厚労省に求めている。ところが厚労相の諮問機関、社会保障審議会・年金部会の議論はまことに低調だ。専業主婦に保険料支払いを求めたり消費税の増税論議に火がついたりと、新たな負担論が俎上(そじょう)に載るのを官邸が封印したためでは、といぶかる声が政府内にはある。3号問題は主婦優遇の是正という観点から語られることがもっぱらだが、角度を変えると700万人もの女性を、自立を阻む制度に押し込めて「差別を助長している面がある」(西沢和彦日本総合研究所理事)実態がみえてくる。彼女たちの就労意欲は旺盛だ。内閣府の分析によると、6歳未満の子供をもつ母親の就業率はこの20年間に倍増した。にもかかわらず夫に扶養される立場にとどめ置かれれば、家庭内でおのずと従属的になり、外で働く意欲が弱められ、企業に雇われても低い収入に甘んぜざるを得ない。少なからぬ主婦が差別的な扱いを受け入れているのだ。海外を見わたしても同様の制度をもつ国はない。厚労省退官後にスウェーデン大使としてストックホルムに駐在した渡邉芳樹氏は「日本には3号という難しい問題がある」と、同国の年金改革をリードしたヘドボリ社会相に打ち明けたらこう言われた。「夫婦でも互いに依存せぬよう自立を重視して税制を個人単位にするのが基本。わが国は社会保障も個人単位にした」。英エコノミスト誌は日本の年収の壁を紹介し、主婦の職場復帰が思うに任せない要因を探った特集記事を載せた。3号の廃止を求めているのは連合だ。そのために、所得比例と最低保障の機能を組み合わせた新しい年金制度への衣替えを提唱している。この改革案を真面目に議論する責務が社会保障審にはある。夫への依存を前提にした昭和の年金をいつまでも引きずるのは、みっともない。女性が真に自立するカギは、令和の年金改革である。 *10-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15871849.html (朝日新聞社説 2024年2月25日) 女性初トップ 法曹の景色 変えるとき 法律家が性別に関係なく、のびやかに活動する環境づくりのきっかけにしてほしい。今月あった日本弁護士連合会の次期会長選挙で、東京弁護士会所属の渕上玲子(ふちがみれいこ)氏が当選した。女性の会長は初めてで、裁判所、検察庁を合わせた「法曹三者」でも、これまで女性がトップに就いたことはなかったという。「女性が日弁連のトップになることで景色を変えることが私の責任だ」と述べた。法律家には、法と正義に根ざして社会の課題や紛争を解決し、少数者の人権を守る役割がある。内なる多様性が求められるのは当然のことだ。ところが、女性が法曹になる道は、他の多くの専門職と同様、阻まれてきた歴史がある。初の女性の弁護士誕生は1940年、女性の裁判官、検察官が生まれたのは終戦後の49年になってからだ。今はどうか。「弁護士白書23年版」によると、裁判官と検察官(それぞれ簡裁判事、副検事を除く)、弁護士の女性の割合は、28%、27%、19%。着実に増えてきたとはいえ、半数には遠く及ばない。特に弁護士は、国家公務員である裁判官や検察官に比べて、育児休業など仕事と生活の両立のための制度を使いにくい壁がある。ただ近年、企業や官庁・自治体が弁護士の採用に積極的になり、働き方の選択肢は増えた。企業内弁護士でみると、女性は4割を超えている。日弁連は性別を問わず育児中の会費の免除などを制度化してきた。働きやすくする工夫をさらに考えてほしい。責任の特に重い立場に就く女性の割合は法曹三者とも少ない。最高裁裁判官は現在、15人中3人。しかも、これまでいずれも弁護士や行政官などの出身で、地裁、高裁の裁判官からは出せていない。1970年代には、司法研修所の教官らが女性の司法修習生に「女性は裁判に向いていない」などと差別的な発言をし、裁判官訴追委員会にかかったことさえあった。「男性優位」の価値観が残っていることはないか、裁判所は折に触れて自問すべきだ。近年の最高裁の重要判例をみても、婚外子の国籍や相続、女性の再婚禁止期間、性同一性障害の当事者の権利など、家族や性のあり方をめぐる問題が少なくない。さまざまな属性、背景の人が意思決定に関わることが望ましい。司法試験という門はだれにも開かれていると、若い世代に知ってもらうことも重要だ。法教育の一環で中学、高校などに出向き、法曹の活動を地道に伝え続けている人もいる。広がってほしい。 *10-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240229&ng=DGKKZO78825040Y4A220C2L83000 (日経新聞 2024.2.29) 共働き世帯「小1の壁」崩せ 首都圏、学童待機児童の対策急務、墨田区、3クラブ新設 定員3000人に増 首都圏で小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)に希望しても入れない児童が増えている。2023年度の待機児童数は東京都、埼玉・千葉の両県で全国の4割を占めた。保育施設での待機児童解消が進む中、今度は小学校に上がると子どもの預け先がなくなる「小1の壁」が深刻になっている。こども家庭庁の調査によると、23年5月時点で全国の学童の待機児童は約1万6300人。東京都が約3500人と最多で、埼玉県の約1900人が続いた。共働き世帯が比較的多い首都圏で対策が急務だ。東京都墨田区は24年度予算案に学童クラブ関連経費を約1億5600万円計上した。25年4月ごろまでに3つの公立学童クラブを新設し、区内全体の定員を約3000人にまで増やす。同区では毎年全体の6割の児童が学童クラブの利用を希望。立地などで希望施設の偏りがあり、実際に入れなかった児童は23年度当初時点で約120人に上った。さいたま市は西区の栄小学校など4校で24年度から「さいたま市放課後子ども居場所事業」を始める。保護者の就労などの要件を必要とせず、午後5時まで遊べる利用区分を設けた。保護者が就労や求職活動をしている場合は午後7時まで利用できる。さいたま市の幼児・放課後児童課の担当者は「パート勤務をしている保護者などからは、夏休みをはじめとした長期休業期間のみ放課後児童クラブを利用したいという声も多く、様々な家庭のニーズに対応できる仕組みが必要だ」と話す。公立学童は経済的な負担が少ない一方、利用時間や学年などに制限があり、保護者の就労状況によっては利用できない場合もある。そこで自治体が注目するのが企業などが運営する民間学童だ。預かる時間は柔軟に対応し、独自のサービスを提供する学童が増えてきた。ネクスファ(千葉県柏市)が運営する学童は学習塾の機能も併せ持つ。塾を利用する場合は夕方から算数や国語、英語などを学ぶ。社会課題について調べたり発表したりといった場も設ける。4月には新たに流山市に教室を設け、多くの共働きの子育て世帯が流入している地域で事業の拡大をめざす。工作やプログラミングなどプラスアルファの体験を盛り込み、親世代からの支持を伸ばしているのは習い事一体型の学童保育だ。ウィズダムアカデミー横浜上大岡校(横浜市)にはランドセルを背負った子どもたちが笑顔で集まってくる。ただ見守るだけでなく、子どもたちが自宅で過ごすようにほっとできる環境をつくり出すため挨拶にも工夫をこらす。性別や学年、家庭環境も異なる子どもたちが楽しく過ごすために、力を入れているのが月ごとに選べるアクティビティーだ。ピアノや書道など定番の習い事からプログラミングや理科実験教室まで、保育時間中に様々な体験ができる。習い事や教室をこれまでどおり続けたいという場合は習い事の付き添いにも対応する。平日は送迎ができないという理由で習い事を諦めている家庭も多い。同校は「家庭では家族の会話をゆっくり楽しむ時間にしてほしい」とし、子どもの成長をともに見守る二人三脚のパートナーとなりつつある。全国の学童への登録児童数は23年度、過去最高を更新した。需要が高まる中、学童は子どもが家庭の代わりに過ごす居場所であるだけでなく、学びや成長ができる場所としての役割も求められている。 *10-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78736650U4A220C2EA5000 (日経新聞 2024.2.25) 民間保育園「学び」競う、待機児童減で定員割れに 学研HD・JPHDが体操や英会話 民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れている。保育の受け皿の拡大や就学前の子どもの数の減少で保育園に入れない「待機児童」が減少。地域によっては保育園が入園希望者を取り合う構図も出てきた。運営各社は体操教室や英語教育などで魅力を高め、収益的に経営が成り立つ子供の数を確保する「持久戦」を迫られている。こども家庭庁は毎年1度、待機児童数を調査している。最新の2023年4月時点のデータによると、待機児童の数は2680人と17年の2万6081人をピークに9割ほど減少した。こども園を含む保育所などの数は22年比345カ所増の3万9589カ所。定員に対する充足率は89%と全体としては「定員割れ」の状態だ。待機児童問題が深刻だった時代は、施設を開けば定員が埋まった。現在はサービスの質を上げなければ入園希望者を集められなくなっている。保育各社は保育料とは別に料金を徴収して様々な保育サービスを提供し始めた。学研ホールディングス(HD)は一部の園で22年度から体操教室を始めたほか、23年度には英会話プログラムも始めた。43施設中、埼玉や神奈川県内など26施設で提供している。週1回1時間のレッスンで、月6300円。外国人講師のビデオ通話で保育所とつなぎ、保育士が子どもたちの様子を見ながらサポートする。最大手のJPホールディングスは、英語や体操、ダンス、音楽などが習えるサービスを用意。ポピンズも、英語やアートなどの習い事プログラムのほか、アフリカの国立公園や水族館とオンラインでつなぎ、陸や海の動物の生態系を学べるプログラムを導入した。AIAIグループは、22年4月から運動プログラムと算数講座をセットにしたカリキュラムを提供している。運動は映像に映った講師のマネをして10分ほど体を動かす。運動後に机に座って、図形や引き算などの問題をプリント中心に解いていく。保育士が見回り、ヒントを出したり、丸付けしたりする。「付加的保育」と呼ばれるこうしたサービスは、保育園が立地する自治体によっては提供しにくいケースがある。認可保育所は、法律上で児童福祉施設とされる上、主に自治体からの補助金で運営されている。福祉的な観点から「平等」が重視され、保育料とは別にサービス料金をとる付加的保育を認めない自治体が多いからだ。こうした事情から、学研HDの英会話プログラムは保育時間外に実施し、講師などの派遣は外部に依頼。希望する保護者が直接、講師を派遣する事業者と契約する形をとっている。認可保育所と異なり、幼稚園や認可外保育所は比較的に自由に教育サービスを提供でき、預かり時間後も英会話やサッカーなどの課外授業を充実させている施設が多い。横浜市や川崎市のように認可保育所で付加的保育を認める自治体もある。JPHDなど保育各社は付加的保育が認められている自治体でのみ提供している。認めていない自治体では保護者が希望していても認可保育所での習い事は受けられない。保育大手の幹部によると、付加的保育を認めていない自治体から「保育所は福祉施設であり教育を施す場所ではない」「家庭の経済状況によって保育内容に差が出るため容認できない」と言われたこともあるという。日本経済新聞社が23年10月に実施した「サービス業調査」を通じて大手保育事業者に聞き取ったところ、同5月1日時点で「定員割れしている施設がある」と回答した企業は全体の52.8%(19社)にのぼった。定員割れしている施設数が「100施設以上」と答えた企業も2社あった。AIAIグループの貞松成社長兼最高経営責任者(CEO)は「待機児童の減少を受け、保護者が保育所を選ぶ時代になっている。魅力向上のために付加的保育が必要だ」と話す。収益的に経営が成り立たない場合、民間企業が事業撤退し、結果として子供の受け皿が不足する逆戻りの事態も懸念される。子どもの政策に詳しい日本総研の池本美香上席主任研究員は「これまでの政策が待機児童解消に重点が置かれており、保育内容の議論が置き去りにされた。習い事の質のチェックや、経済的な背景による教育格差などこども家庭庁が率先して実態調査し議論すべきだ」と話す。 *10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15 (朝日新聞 2024年2月26日) 訪問介護報酬、実態に見合う改定か 新年度から基本報酬引き下げ、「加算」は手厚く 「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」。岸田文雄首相がこう強調する新年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに反発が広がっている。現場からは「在宅介護は崩壊する」との声も。 ■「セットで考えて」国は強調 訪問介護の基本報酬はなぜ引き下げられたのか。厚生労働省は二つの理由をあげる。一つは、訪問介護で介護職員の賃上げにあてる「加算」を手厚く配分したことだ。今回の改定では賃上げのため報酬全体を1・59%増という、例年を大きく上回る水準で引き上げた。このうち介護職員の賃上げに0・98%分、残る0・61%分は「介護職員以外」の処遇改善に配分。介護職員の賃上げは報酬への「加算」で対応すると決めた。加算は、職場環境の改善や研修の実施などの要件を満たせば基本報酬に上乗せできる制度。今回、職員のうち介護職員の割合が高い訪問介護では、全サービスで最も高い加算率(最大24・5%)を設定。一方、基本報酬の増減を左右する0・61%分は、事務職など介護職以外が多いサービスに手厚く配分された。もう一つが訪問介護の収支差率(利益率)の高さだ。基礎データとなる「経営実態調査」で訪問介護は2022年度決算が7・8%と、全サービス平均の2・4%を大きく上回った。特別養護老人ホームがマイナス1・0%、介護老人保健施設が同1・1%で赤字となる中、訪問介護は「かなり良かった」と同省はみる。訪問介護サービスは総費用も大きいため、「収支差率の全体を眺め、調整した」(同省担当者)結果、訪問介護の基本報酬は引き下げることになったと説明する。ただ厚労省は、加算を取得していない事業所が新たに取得できれば、基本報酬が下がっても報酬全体では11・8%増になるモデルケースも例示。みとりや認知症関連の加算も充実したとし、「改定は基本報酬だけでなく、全てをセットで考えてほしい」と強調する。加算がとれなければ報酬は減る。同省によると、従来の処遇改善加算を取得できていない訪問介護事業所は約1割、約3千事業所。同省は、3種類あり複雑化した処遇改善加算を統合し、手続きも簡素化して取得を促す。取得が難しい小規模事業者には「伴走型で相談できる仕組みをつくりたい」としている。 ■「高い利益率」根拠に疑義 しかし、厚労省の説明には反論が出ている。引き下げの根拠とした利益率の高さ(7・8%)について、元になった厚労省の経営実態調査のデータに疑問の声があがる。現場関係者の団体などは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった集合住宅に併設され、効率よく訪問ができるタイプの訪問介護事業者の利益率が高いため、全体の数字が押し上げられていると指摘。地域を一軒一軒まわる事業者とは経営状況がまったく異なるとし、カテゴリーをわけて検討すべきものだ、と国を批判する。さらに、経営が厳しい小規模事業者はこの種の調査に応じる余裕がないとし、結果は実態を反映していないとする。経営実態調査では、延べ訪問回数別の分析がある。それによると、訪問回数が月「2001回以上」の事業所は利益率が13%台なのに対し、「201~400回」では1%台と、大きな開きがある。全体として、集合住宅併設型や都市部の大手事業所といった訪問回数が多い大規模な事業所の利益率が高く、小規模事業所が苦しい傾向をうかがわせるデータだ。処遇改善加算を含む全体で考えればプラスだという説明にも異論が相次ぐ。そもそも取得には様々な要件があり、小規模事業所にとって事務負担の重さも指摘される。厚労省は事務負担を軽くして取得を促すとしているが、どの程度効果があるかは未知数だ。さらに、改定後に最も高い区分の加算を取得しても、基本報酬の減額と相殺され、収入が減ってしまう場合がある。NPO法人「グレースケア機構」代表の柳本文貴さんは、事業所の訪問介護事業の23年分の実績をもとに現行と改定後の報酬を試算。処遇改善加算分では年間約144万円の増収だったが、基本報酬引き下げで年間約222万円のマイナスに。全体では年約78万円の減収となった。柳本さんは「厚生労働省が『処遇改善を含めるとプラス』と強弁するのはおかしい。頑張って処遇改善に取り組み、すでに上位の加算を取っている事業所は収入減になるだけだ」と話す。 ■現場は反発「終わりのはじまり」 「基本報酬引き下げは暴挙」。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」(上野千鶴子理事長)、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」(樋口恵子理事長)など5団体は2月初め、引き下げに抗議し、撤回を求める緊急声明を公表した。2400を超す個人・団体から賛同を得た、としている。呼びかけ団体となった「ケア社会をつくる会」世話人の小島美里さんは記者会見で、「在宅介護の終わりのはじまり」と強い危機感を表明した。事業者や介護家族などからも抗議は相次ぐ。NPO法人「サポートハウス年輪」理事長の安岡厚子さんは、ヘルパー不足が原因で昨年春、訪問介護事業所の休止を余儀なくされた。「(介護職員の)地位向上に国が本気で取り組んでいればこんなことにはならなかった」と語り、引き下げは「言語道断」だとする。公益社団法人「認知症の人と家族の会」前代表理事の鈴木森夫さんは、介護を担う家族の介護離職防止のために訪問介護は不可欠で、「(引き下げは)介護のある暮らしを崩壊させる」と訴える。訪問介護員(ホームヘルパー)は介護が必要な高齢者宅で調理などの生活援助や身体介護を担う。介護福祉士や、所定の研修を修了した人らが務める。人材が不足し、有効求人倍率は15・53倍(2022年度)。若い世代が入らず、60代以上が約4割。年収は施設などの介護職員より約17万円少ない(介護労働安定センターの介護労働実態調査、22年度)。東京商工リサーチによると、23年の訪問介護事業者の倒産は67件。調査開始以降で最多だった。(編集委員・清川卓史) ■「基本給」増額すべきだった 川口啓子・大阪健康福祉短大特任教授(医療福祉政策)の話 ヘルパーの介護を受け、最期を自宅で迎えたいと考える人は多く、国も在宅介護を進めようとしている。だが報酬は不十分で、介護業界の中でも特に人手不足が深刻だ。事務手続きが煩雑で負担が大きい「手当」にあたる処遇改善加算ではなく、「基本給」の基本報酬を増額するべきだった。担い手は高齢化が進み、利用者や家族からのハラスメントも後を絶たない。事業者は人材紹介会社に多額の紹介料を払って人材を確保している。経営基盤となる基本報酬の減額が誤ったメッセージとなり、人手不足に拍車が掛かる懸念がある。 *10-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1202912 (佐賀新聞 2024/3/2) 漁協役員に占める女性0・5%、19都道府県はゼロ、農水省調査 全国の漁協役員に占める女性の割合が2021年度は約0・5%にとどまったことが2日、農林水産省の調査で分かった。19都道府県では女性役員が1人もいない。力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないのが現状だが、後継者不足が深刻となる中、識者は「漁業や地域の活性化のため、若い世代や女性など多様な担い手が必要だ」と指摘する。調査は、海沿いの39都道府県と琵琶湖がある滋賀県の計40都道府県で、知事が認可した沿海地区の漁協が対象。848漁協の21年度の業務報告書を基に集計した。それによると、848漁協の役員計8346人のうち、女性は21県に計41人。非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人だった。都道府県別で人数が最も多いのは広島と熊本の5人。続く福井、徳島、鹿児島が4人、岩手など3県が2人、残る13県は1人だった。熊本県は県の男女共同参画計画に基づき、県内の漁協に対し女性リーダーの育成や積極的な女性登用を働きかけている。アサリを専門とする広島県廿日市市の浜毛保漁協では、役員6人のうち2人が女性だ。福井県の雄島漁協(坂井市)は組合員の約半数が海女で役員10人中4人が女性。全5地区のうち4地区から女性を1人ずつ選んでいるという。徳島県で女性役員がいたのは比較的小規模な漁協で、正組合員の女性の割合も2割以上だった。鹿児島県では、水産会社の女性役員が監事に就いている漁協があった。農水省によると、漁業就業者はこの20年ほどで半減し、22年は約12万3千人。このうち女性は約1割に過ぎない。漁業とジェンダーに詳しい東海大の李銀姫准教授は女性の少なさについて、重労働であることに加え「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えが各地にあるといった文化的背景を説明。船や漁協に女性用トイレがない、女性に適した漁具の開発がないなど、環境が整っていないところもあるという。しかし高齢化や過疎化は深刻で、李准教授は「漁村の景観や食文化などの資源も活用して新たななりわい『海業』をつくり、地域を活性化させる必要がある」と指摘。そのためにも多様な視点は重要で「女性や若い人たちが入りやすくすることは、漁業の持続性につながる」と話している。元水産庁審議官で大日本水産会の高瀬美和子専務の話 漁業者は高齢化し、後継者や人手不足にも悩まされている。女性だけでなく若者や外国人など新しい力を取り入れなければ、いずれ立ちゆかなくなる。世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や、限られた漁獲物の価値を高めるためのマーケティングや商品開発など、活躍する余白はまだまだあるはず。これまでのやり方に固執せず、機械化やマニュアル化、データ活用などで、誰もが参加しやすい漁業の方策を探っていくべきだ。
| 男女平等::2019.3~ | 04:15 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2024,01,07, Sunday
(1)能登半島地震の発生とその規模
![]() ![]() ![]() ![]() 2024.1.6 Whether News 2024.1.7日経新聞 2024.1.4日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、今回の能登半島地震の震央分布は陸から海に渡って長く、ここに断層のあることがわかる。また、左から2番目の図のように、この地震では、日本全国が揺れた。そして、右から2番目の図で震源が一点であるかのように書かれているのは誤りだが、日本海側の地震は、津波が大陸に反射して共振しながら何度も押し寄せるのというのは本当だ。さらに、1番右の図のように、日本には地震・火事に弱くて「著しく危険な」密集市街地が、関東・関西を中心として《いつまでも》広く分布している) 今年は元日から、*1-1-2の「阪神大震災」を上回るM7.6の「能登半島地震」が発生し、1月6日20時までに合計1071回(最大震度5弱以上が14回)揺れ、徐々に地震の回数が減少していくとは考えられるが、数週間~数ヶ月後にM5〜6クラスの余震が発生する事例もあるそうだ。 そもそも、能登半島周辺では2020年から人的被害を伴う震度5強以上の地震が5回起き、地震活動は特に2020年12月から活発化して震度1以上の地震が500回超確認され、2023年5月には地震調査委が「地震活動は当分続くと考えられる」と評価し、国は防災対策の強化を呼びかけていたそうだ。そして、2023年5月5日のM6.5 がこれまでの最大だったが、それでも志賀原発は廃炉にすることなく、使用済核燃料をリラッキングして、もともと1,050体だった使用済核燃料の貯蔵容量を1,749体に増やしており、これはあまりに不合理で驚きなのである。 今回の能登半島地震では、震度7だったのが石川県志賀町、震度6強だったのが石川県七尾市垣吉町・能登島向田町、輪島市鳳至町・河井町、珠洲市三崎町・正院町・珠洲市大谷町、穴水町大町、震度6弱だったのが新潟県長岡市中之島、石川県志賀町富来領家町・末吉千古、七尾市本府中町・袖ヶ江町、中能登町末坂・能登部下、登町宇出津で、津波の高さは当初は「1.2m以上」と発表されていた。 しかし、*1-1-4のように、石川県志賀町赤崎漁港は潮位計がないため津波の高さがわからず、建物の外壁に残された津波の痕跡や周辺に流れ着いた漂流物から津波は陸地を4.2mほど駆け上がり、輪島市の鹿磯漁港では約3.9m隆起し、鹿磯漁港から約5km北にある輪島市門前町五十洲の漁港でも約4.1m隆起し、隆起が4mを超えるところも複数あったのだそうだ。 そのような中、*1-1-1は、①激しい揺れの要因は浅い震源 ②阪神大震災を上回る地震の規模 ③地震調査委は地下深くの水(流体)の関与 ④今回の地震は、北西と南東方向からプレートを押す力が働き、断層が上下にずれる「逆断層」によって引き起こされた ⑤震源が浅いと揺れが地表に伝わり易く、居住地に近いので大きな被害を引き起こしやすい としている。 しかし、M7.6の能登半島地震は、震度7を観測した石川県志賀町で2826ガルと東日本大震災で震度7だった宮城県栗原市の2934ガルに匹敵し、輪島市では最大4mの地表隆起と約1.2mの西方向への水平移動があり、今回の地震の活動領域は長さ約130kmと広い。 この地震メカニズムについて、地震調査委は地表面の隆起や震源の移動が確認されているので、水のような地下の流体が関係しているとする。また、東京工業大の中島教授(地震学)も「地下の水が上昇して断層に入り、滑りやすくなって地震が発生した可能性が高い」とするが、地下に流体がある理由は不明である。私は、地下の水でこれだけ広範囲に激しい地震や隆起があるとは思えず、原発の存在を正当化するため原因を過小評価しているのではないかと思う。 なお、*1-1-3によると、日本海側は地震発生から津波到達までの時間が短く、直後に輪島港で津波第1波とみられる海面変動を観測したが、津波が早く到達する理由は日本海側の断層の位置にあり、北陸から北海道の日本海側にかけて陸と海にまたがる断層や沿岸に近い断層が多いため、こうした断層で地震が起きると陸の近くで津波が発生するからだそうだ。 また、日本海側の津波は、朝鮮半島やロシア側の大陸で反射して数時間後に再び日本列島に到達するため長時間に及び、波が干渉して次第に大きくなる。東大地震研が文科省の委託を受けて実施した日本海側の地震・津波に関する調査報告書は、避難が難しいため「公共施設の建設・移転の際は、自然災害を考慮したより安全な土地利用を進めていく必要がある」としている。 (2)地震後の対応の遅さと鈍さ *1-2-1のように、石川(14ヶ所)・富山(1ヶ所)・新潟(1ヶ所)の3県にある医療機関で、停電や断水などの被害が生じているそうだが、いざという時の最後の砦となるべき医療機関で、またもや停電・断水が起こって機能不全になったというのは、もはや同情できない。 既にドクターヘリが運用開始されており、自衛隊ヘリもあるため、近隣の県からでも救助の手は差し伸べられる筈だが、それもせずに住民に我慢を強い、何度大災害が起こっても改善せずに同じことを繰り返し、後手にまわっては国民に犠牲を強いるのが、日本の悪い点である。 また、*1-2-2のように、1月6日午後2時時点で、七尾市の2万1500戸、輪島市の1万戸など14市町の計6万6千戸が断水したまま、全国から給水車が駆けつけても道路状況が悪くて給水に充てる時間が十分に確保できなかったり、電線も切れて石川県内の停電が輪島市約9800戸・珠洲市約7400戸・能登町約3200戸・穴水町約2600戸あるそうで、斎藤経産相は1月5日の会見で停電が続く理由を「道路被害の状況が想定以上に厳しい」とされたそうだ。 しかし、*1-4-2のように、志賀原発の避難ルートとして「のと里山海道」があり、それが複数カ所で陥没して、一時、全面通行止めになったのである。そして、石川県の激震地である輪島市・穴水町・七尾市は原発30キロ圏内で、近隣住民は速やかに避難できなければならない筈だったが、それもできず、避難計画はやっぱり“絵空事”だったわけである。それでも政府を信頼し続けるとすれば、(それも自由だが)馬鹿と言わざるを得ず、同情も今一つである。 ちなみに、*1-4-1のように、原子力規制委員会は2023年12月27日に東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)に出していた事実上の運転禁止命令解除を決定し、今後は新潟県等の地元自治体の同意があれば再稼働できるそうだ。そのため、避難が“絵空事”でなければ、新潟県も原発事故時には避難者を受け入れる準備が整っている筈なのだ。従って、災害時に避難者を受け入れることもできる筈なのに、今回の地震で行く場所を失った人は受け入れないのだろうか? そして、これは、*1-4-3のように、2023年には原発4基を稼働させている九電とその周辺地域についても、全く同じである。 今回の能登半島地震では、*1-2-3のように、1週間経っても道路の寸断による孤立状態が各地で続き、ヘリコプターなどで救援物資が複数回搬入されて物資不足の状況は脱したが、電気も水も途絶えて携帯電話も通じないため情報が入らない避難所もあるのだそうだ。しかし、戦争中のウクライナでさえ携帯電話を使えるのに、日本はどうなっているのかと思われた。 (3)日本は主要な活断層を対象外にして、何故、「原発容量3倍」に賛同したのか *1-3-1は、①地震調査委員会が1月2日に臨時会を開き、最大震度7の能登半島地震の分析や今後の動向を検討 ②主要な活断層については長期評価を公表しているが、今回地震のあった断層は対象外だった ③委員長は「(長期評価は)慎重にやっており、非常に時間がかかる」「(評価していない断層で大きな地震が起きたことは)非常に残念。もっと早く評価しておくべきだった」と話した としている。 しかし、(1)で書いたように、2020年から能登半島周辺で人的被害を伴う震度5強以上の地震が5回起き、震度1以上の地震は500回超あり、かつ地震調査委は2023年5月に「地震活動は当分続くと考えられる」と評価していた。 そして、志賀原発のある石川県志賀町では震度7を観測して2826ガルの揺れがあり、輪島市では最大4mの地表隆起と約1.2mの西方向への水平移動があったのだから、ここに主要な活断層があると認識していなかったのなら、地震学者を止めた方が良いくらいである。つまり、①②③は、科学者として、客観的に、重要性や危険性を警告しなかった(orできなかった)ことの言い訳にすぎないのだ。 そして、*1-3-2・*1-3-3のように、UAEで開かれた国連気候変動会議(COP28)で、日本は「温室効果ガス排出の実質0を達成する上で、原子力は重要な役割を果たす」とし、「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」との宣言に賛同した(正しくは、米国を通してむしろリードした)のである。 これに伴って、日本政府はエネルギー政策の中長期の方向性を示す「エネルギー基本計画」(21年閣議決定)の「原発への依存度を可能な限り低減」を変更して「原発回帰」にかじを切り、「脱炭素化のためのGX政策で再エネとともに原発を最大限活用する」として新規建設方針も盛り込み、現在は発電量の10%以下である原発を、2030年度には20~30%に引き上げるとする方針を正当化した。 そして、これに先立って、2023年5月に成立したGX脱炭素電源法では、根拠もなく原発の60年超運転を可能にし、東電フクイチ事故以降は「想定していない」としてきた次世代原発への建て替えも進める方針を示していたのである。 政府関係者は、しつこく「原発は脱炭素への安定電源だ」と称する。しかし、今回の地震・津波でも明らかなように、集中電源は電線や変電所が作動しなくなると停電の範囲が広い。そのため、決して「安定電源」ではなく、地震・津波等の災害や戦争の際には最も危険な設備になる。 さらに、「原発回帰にかじを切ることは、むしろ再エネを遅らせる(NPO法人原子力資料情報室の松久保肇事務局長)」というのは事実であり、このような屁理屈をつけて不合理な現状を維持するため汲々としてきたことが、日本の経済成長を妨げ、(他国とは違って)経済を現状維持に留まらせ、国民負担ばかり増やす羽目になった本当の原因なのである。 なお、政府は次世代原発開発で他国と連携強化をしたいのだそうだが、次世代原発であっても日本に置く場所はない。そのため、他国のまねをして原発にこれ以上の無駄金を出す余裕は、日本にはないことを深く認識すべきである。 (4)政治資金について 2023年11月末から、派閥の政治資金パーティー収入のうちノルマ超の部分が、派閥と議員双方の政治資金収支報告書に記載されず、金の流れは、①そのまま議員の手元に残った ②全額を会派に渡した後、ノルマ超過分だけ戻された の2ケースがあると騒がれ始めた。 しかし、その後のマスコミ報道を見ていると、リクルート事件(1985年始めにリクルート社の江副会長がリクルートコスモスの未公開株を、政治家・官僚・経済界・マスコミ界の実力者にばらまいた事件で、リクルートが政治家に多額の献金を行なっていたことや政治家主催のパーティ券を大量に購入していたことをきっかけに、政党助成法が制定され、公職選挙法も改正された)の古い例を持ち出して、それと同じく国会議員を辞職させる意図ある報道が目についた。 そのため、私は、公認会計士・税理士としての知識・経験と自民党衆議院議員だった経験を基に、ここでは本質をつく議論をしたい。 1)パーティー券収入を裏金にすべき理由は何か? ![]() ![]() ![]() 2023.12.4毎日新聞 2023.12.21日経新聞 2023.12.4毎日新聞 (図の説明:左図のように、ノルマを超えた派閥のパーティ券収入を派閥の収支報告書にも議員の収支報告書にも記載しない運用が続いていたが、これは、中央の図のように、使い方によっては、政治資金規正法だけでなく、公職選挙法や税法にも触れる恐れがある。また、右図のように、パーティ券収入は他の派閥にもあり、阿部派と同じ取り扱いをしていた派閥もあるようだ) 私が自民党衆議院議員時代の2007年に、私も参加して政治資金規正法が改正され、国会議員が関係する政治団体(国会議員関係政治団体)は収支報告書の透明性向上のため、i)収支報告書に明細の記載と開示を義務づけ ii)登録政治資金監査人による政治資金監査も義務化された(https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/kspamph19/index.html 参照)。 しかし、iii)政治資金に関する会計帳簿は未だに単式簿記のままであるため、収入・支出の網羅性・検証可能性がない iv)そのため登録政治資金監査人の意見表明は会計帳簿・明細書・領収書等・領収書等を徴し難かった支出の明細書・振込明細書・振込明細書に係る支出目的書が保存されていたか否かで留めており、適正意見の表明はしていない v)この義務は国会議員関係の政治団体のみに課しており、地方議員の政治団体は昔のままである 等が、改善されていないため、これらが今後の改善点になる。 ちなみに、政治資金監査の対象となった事項について、すべて確認できた場合の政治資金監査報告書のひな形は「https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.soumu.go.jp%2Fmain_content%2F000624899.docx&wdOrigin=BROWSELINK」であり、会社法計算書類における独立監査人の監査報告書は「https://www.saisoncard.co.jp/credictionary/accounting/kansa_71.html」で、計算書類の監査の方が文面は簡単だが、監査証明の中身は濃いため比較されたい。 そのような中、*2-1は、①自民党安倍派の会計責任者が、2023年12月18日に東京地検特捜部の事情聴取で政治資金パーティー収入の政治資金収支報告書不記載を認めた ②「裏金」に関する違法性の認識もあったため、特捜部は派閥側収支報告書不記載で会計責任者を政治資金規正法違反容疑で立件する ③安倍派では当選回数等に応じたパーティー券の販売ノルマがあり、超過分を議員に還流させていた ④還流分は、派閥・議員双方の収支報告書に記載されず、裏金になった ⑤裏金は公訴時効内の2018~22年(5年間)で計約5億円 ⑥現在の安倍派の会計責任者は2018年分からで、2017年分まで担当した前任からの申し送りがあった ⑦政治資金規正法は収支報告書の提出義務を会計責任者に課し、会計責任者との共謀が認められる場合は議員本人も刑事責任を追及される ⑧安倍派にはパーティー収入総額と収支報告書記載額を管理する二重帳簿があった ⑨安倍派では数十人が還流分を収支報告書に記載していない ⑩1人当たりの不記載額は多いケースで約5000万円で、多額となった議員を優先して本人からも事情を聴き、不記載の経緯や認識を確認する と記載としている。 また、*2-2は、⑪東京地検特捜部は安倍派から約4800万円のキックバックを受け、政治資金収支報告書にウソの記載をした疑いで池田衆院議員と会計責任者を逮捕 ⑫池田容疑者は2018~22年(5年間)に派閥から受け取った約4800万円のキックバックも含めて全部で1億円あまりの収入があったが、柿沼容疑者と共謀して池田容疑者側の収支報告書には5300万円ほどの収入とした ⑬特捜部は2023年12月に池田容疑者が住む議員宿舎や議員会館事務所等を捜索し、虚偽記載の額が突出して多く、証拠隠滅の恐れもあると判断し、逮捕に踏み切った ⑭池田容疑者はこれまでの任意聴取に関与を否定 ⑮安倍派では、ノルマを超えた分の収入を派閥に納めず、中抜きしていた議員も十数人いて、この分も含めた事実上の「裏金」は2022年までの5年間で6億円規模にのぼる と記載している。 このうち、①②については、政治資金収支報告書不記載の事実があったのだろうが、それが起こる背景は、iii)のように、政治資金に関する会計帳簿が単式簿記で収入・支出の網羅性・検証可能性がないため、意図的な操作が容易にでき、すべての取引を記載する習慣が会計責任者についていないことに依る。これは、私が衆議院議員だった時、私は公認会計士・税理士なので明確に区別して記載するが、(特に男性の)秘書はそうでない人が多くて苦労したため事実である。そして、ここから言える教訓は、会計責任者になる秘書は、会計事務所か銀行出身の女性にすれば、正確な経理をするということだ。 また、③については、当選回数等に応じたパーティー券の販売ノルマがあることやノルマよりも多く集金した議員にノルマ超過分を還流させることは、法律で禁止されていないため合法である。私の場合は、集金ノルマがあってもそれに到達しない方なので、ノルマ超過分が還流されることもないが、ノルマがある以上は超過できた人はむしろ偉く、超過した人に環流させるのは自然ではないかと思う。 しかし、何故、ノルマを超過するほど多く集金することができるのか、それは政策立案に反映されているのではないかという疑問は残り、もしそうなら、それが問題である。 また、④の「還流分は、派閥・議員双方の収支報告書に記載されず裏金になった」というのは、双方が正確に記載しておけば法律上の問題はないのに、何故、記載しなかったのかについては、v)キックバックすると不平等と批判されるかと思った(内部事情) vi)不公平なキックバックをしていた(内部事情) vii)どこが多額の寄付をしたかについて知られるとまずかった(外部への見栄え) 等が考えられる。 このうちv) vi)については、不公平で意図的なキックバックをしたのでければ、内部で説明すれば文句を言う人はいないため、本来は記載しても問題なかった筈だ。しかし、vii)については、それを明確にするために、政治資金規正法を改正して収支報告書の透明性を向上させたのであるため、これを欺く不法行為である。 さらに、⑤⑥⑧⑨のように、「不記載にして裏金にする」「二重帳簿を作る」などというやり方は稚拙だが、⑦のように、「会計責任者に責任を課し、共謀が認められれば議員本人も刑事責任を追及される」というのも、自分を基準にして考えれば、「とにかく議員に引責辞任させたい」という意図が見え見えなのである。 何故なら、私の場合、中央では、本会議・委員会・部会への出席や政策立案等で大変忙しく、地元では、式典や催し物に出たり、挨拶廻りと社会調査を兼ねて1軒1軒要望を聞いて廻ったりしていたため、公認会計士・税理士でも衆議院議員時代に自分の収支報告書を作ったり見たりする時間は無く、会計作業は全て会計責任者である秘書に任せて、その秘書には登録監査人から必要なことをアドバイスしてもらっていたからである。 なお、⑩の「不記載額の多いケースは約5000万円」というのは大きな金額だが、金額の大きさで不法行為性が決まるものでもない。 2)それでは、どう改革すべきか *2-3は、①岸田首相は自民党派閥による政治資金規正法違反事件を受けて、党内に総裁直属機関「政治刷新本部(仮称)」を新設し、月内に中間とりまとめを行うと表明 ②新設機関には外部有識者も招いて議論 ③首相は派閥の政治資金パーティーに党の監査を実施し、収支を現金ではなく原則振り込みにする案に言及 ④「政治資金規正法改正という議論もあり得る」と述べた ⑤同本部の最高顧問に自民党の麻生副総裁と菅前首相を充てる意向 としている。 このうち①②の政治刷新本部を新設し、外部有識者も交えて月内に中間とりまとめを行うのはよいが、③のように、政治資金パーティーに党の監査を実施し、収支を現金でなく原則振り込みにするだけでは、「刷新したふり」になる。何故なら、「現金ではなく、原則振り込み」というのは、監査証跡を残して自分をはじめ利害関係者を守るのに必要不可欠だからで、今までやっていなかったことが著しく遅れているだけだからである。また、今回の事例に関する「党の監査」は独立性がないため信頼性が低く、公認会計士等の外部監査人による監査なら独立性がある。 また、⑤の政治刷新本部の最高顧問に自民党の麻生副総裁と菅前首相を充てるのは実行力が高くて良いと思うが、内部者だけでは出る知恵が限られ、信頼性も低くなるため、公認会計士協会の公会計関係理事など会計や監査に詳しい外部専門家を入れるべきだ。 そして、やるべきことは④の政治資金規正法の改正だが、今回の改正に必要なのは、やみくもに議員を連座させるようにすることではなく、政治資金の会計を網羅性・検証可能性のある複式簿記に変更し、外部監査人に通常の監査をさせて、正確な会計が行なわれる環境を作ることだ。そうすれば、議員や会計責任者が意図的に特定の取引を隠せる土壌がなくなり、正確な会計を行う環境が制度的に整備されるため、政治資金収支報告書の透明性が確保されるからである。 ところで、私は自分で政治資金パーティーを開いたこともあるのだが、熟練した秘書を多く抱え秘書に全てを任せられる古参議員ならそれも簡単だろうが、新人議員は秘書も慣れておらず数も少ないため議員自身も大きく関与しなければならず、ただでさえ忙しいのに大変だった。 そのため、政治とは別の世界から多様な人材を集められるためには、議員自身が政治資金集めばかりしていなければならない状況をこそ変えるべきなのである。そして、その民主主義のコストは、政治資金を出してくれた相手に慮って政策を歪められたり、無駄な国費の支出をされたりするより数桁安いことを忘れてはならない。 3)国会議員に支払っている現在のコストとそれに対する世論について *2-4は、まず「今回の参議院選挙は自民党が圧勝し、多くのタレント議員が誕生した」と書いている。確かに、参議院全国区は日本全国で有名なタレントが票を集めやすいため、タレント出身の議員が誕生しやすい。しかし、一般人やタレントの視点も有用ではあるが、タレント議員ばかり多くては政策立案は進まない。 また、*2-4は、①憲法49条は国会議員の報酬を「両議院の議員は、・・国庫から相当額の歳費を受ける」、国会法35条は「議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない歳費を受ける」と規定している ②国会議員の歳費は総額2187万8000円/年(基本給1552万8000円、期末手当635万円) ③文書交通費(現在の名称:調査研究広報滞在費):1200万円/年(領収書公開不要、第2の給与とも呼ばれ様々な用途に使用可、1200万円の所得を一般人が稼ぐには約1700万円の収入が必要 ④議員歳費と調査研究広報滞在費の合計:3887万8000円 ⑤JR特殊乗車券・国内定期航空券交付(北海道選出議員の例:羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円) ⑥3人分の公設秘書給与2100万円(政策秘書900万円、第1秘書700万円、第2秘書500万円と仮定) ⑦委員会で必要な旅費・経費・手当・弔慰金等 ⑧政党からの支給 0~1000万円 ⑨会派に対して支払われる「立法事務費」780万円/人(1人会派でも政治団体ならアリ) ⑩政党交付金の一部が各議員に支給 ⑪合計:6000万~7000万円程度 ⑫政党からは役職に応じて黒塗りの車 ⑬議員宿舎の賃料は周辺相場の2割程度 としている。 しかし、上記は、「国会議員は必要以上に儲けている」という印象を与えようとしている。例えば、①②の報酬については、「公務員」は、国会議員・大臣・裁判官はじめ立法・行政・司法に属するすべての職員を含むが、省庁のトップである大臣が一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない歳費を受けるのは当然であり、そういう役職の人が黒塗りの車に乗るのも普通だが、それは政党からの支給ではなく、各省庁の車だからである。 また、国会議員については、任期が短期間で当落に関するリスクが高いため、リスクまで考慮すれば、一般職の国家公務員の給与より少なくない歳費を払っても、一般職公務員・一般企業のサラリーマン・研究者・医師・弁護士・公認会計士等から国会議員に転じる人は少ないのが実情だ。そして、国のリーダーになる人のレベルがそれではまずいことは、日本の政策や経済成長率を見れば明らかである。 さらに、③の文書交通費(現在の名称:調査研究広報滞在費)1200万円/年については、「領収書の公開が不要だから、第2の給与とも呼ばれる」などと書かれているが、それは下衆の勘繰りだろう。何故なら、地元で会合のお知らせビラを全戸に配れば、(選挙区によって戸数は異なるが)最低でも「10円(印刷費)x15~30万件=150~300万円」の費用がかかり、これを1年に4~8回行なえば1200万円はなくなり、活動する議員ほど懐は寂しいからである。しかし、一般人は、そういう儲からない活動はしない。 そのため、私の場合は、③の文書交通費は全額を自分の政治資金団体に寄付し、事務所費・私設秘書給与・政治活動費に使っていて、全く透明だった。そして、⑥のように、公設秘書は3人しかいないため東京事務所と地元事務所に1~2人配置すれば終わりで、それでは2ヶ所の事務所が廻らないので、どうしても私設秘書が最低2~3 人は必要だったのである。本当は公設秘書の数を10人くらいまで増やし、実体調査をして政策立案までできる必要があるのだが・・。 また、⑦の委員会で必要な旅費・経費・手当・弔慰金等は、会社で言えば出張旅費のようなものであるため、役にたつ委員会活動の一部である限り、無駄使いではない。 さらに、⑤の「JR特殊乗車券・国内定期航空券交付(北海道選出議員の例:羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円))というのは嘘だ。私は、九州の佐賀県が地元だったので、毎週(金~月曜日、4回/月)地元に帰るのに、飛行機に乗ることが不可欠だったが、使える旅費交通費には20万円という上限があったため、ファーストクラスどころかビジネスクラスにも乗れず、エコノミークラスを使っても足りずに自前で出す部分があった。従って、JR等の他の旅費は、全て自分持ちになったため、出張旅費は、領収書を持って行けば実費で精算してくれる一般企業の方が、社員に負担をかけず合理的だと思っていた。 なお、選挙の時に公認料として、⑧のような政党からの支給0~1000万円を貰える人もいる。そのため、政党から公認されるか否かは、票だけでなく金の面でも重要なのだ。 それに加えて、政党政治を推進するためとして、国は政党に、⑨の「立法事務費」780万円/人や⑩の「政党交付金」を支給しているが、これは無所属の人にとっては著しく不利なのだ。そのため、むしろ議員本人に支給し、政党や派閥へは議員から会費として支払うようにすべきで、*2-5は、第1条2項を「前項の立法事務費は、議員に対して交付するものとする」に改正する必要があると思う。 また、⑫の政党の黒塗りの車は、一般議員の場合は賃料を払って借りており、⑬の議員宿舎は、確かに新しくて便利な場所にあるが、一般企業に例えれば赴任者のための社宅である。そのため、議員宿舎の賃料は、満額ではなく2割程度を支払えば、現物給与には当たらない(https://www.resus.co.jp/topics/554/ 参照)。 以上により、議員の収入は、⑪の「6000万~7000万円/年」ではなく、②の「2187万8000円/年(これも寄付して政治活動費に使う人もいる)」か、それ以下なのである。 (5)地球温暖化とその対策 ← COP28を中心として ![]() ![]() ![]() 2023.1.24日経新聞 2023.8.25日経新聞 (図の説明:左図のように、各国の再エネ発電導入容量は中国が飛び抜けて1位で、日本はブラジル・インド・ドイツ以下の6位である。また、各国の太陽光発電容量は、日本は3位だが、中国はその7倍以上で1位だ。また、中央の図のように、東京都は家庭部門のCO₂排出削減に遅れが目立つそうで、建物の売買に、右図の項目の説明義務を課すそうだ。確かに、そういう内容の保証書がついていれば、選択するのに便利である) ![]() ![]() 資源エネルギー庁 Zerofit Navi (図の説明:再エネだけが国内で自給できるエネルギーだが、左図のように、日本の発電に占める再エネ割合は18.0%にすぎず、輸入化石燃料が75.8%も占めている。また、輸入燃料である原子力は東日本大震災後しばらく0%だったが、最近は再稼働する原発もあり6.2%になった。また、右図は、エネルギー自給率の国際比較だが、日本は輸入燃料を好んで使うため、自給率が11.8%にすぎず、34位で、これではエネルギー安全保障にほど遠いわけである) 1)気候変動に対する世界の認識と日本 *3-1-1は、①国連のグテレス事務総長は「地球のバイタルサイン(生命兆候)は破綻しつつある」と温暖化対策の遅れに危機感を持ち、「世界はパリ協定の目標から何マイルも離れている「1.5度目標達成には全ての化石燃料停止が必要」「再エネは安価になり、利用拡大すべき」と主張 ②チャールズ英国王も「世界の気候変動対策は軌道から大きく外れている」「地球は私たちのためのものではなく、私たちが地球のもの」と強調 ③COP28は、開幕初日の11月30日に、気候変動で被害を受けた途上国支援基金の内容で合意 等としている。 国連のグテレス事務総長は、①のように、地球温暖化対策の遅れに危機感を持ってくれるので助かるのだが、これに付け加えると、 1gの水の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量は1calであるのに対し、0℃の氷1gをとかして0℃の水にするのに必要な熱量は80calであるため、極地に氷が残っている現在は氷バッファーになって海水温の上昇が緩やかだが、極地の氷が減れば減るほど海水温の上昇は激しくなる。 また、チャールズ英国王は、②のように、「地球は私たちのためのものではなく、私たちが地球のもの」と強調され、キリスト教を信仰し、ケンブリッジ大学で考古学・人類学・歴史学を専攻された人らしい見識だと思うが、私は「生物のいない惑星はいくらでもあるため、地球は人間や生物がいなくなっても全く困らないが、地球環境が変化して生態系が著しく変わると困るのは人間の方である」と思う。 その手始めに起こった「地球沸騰化」と呼ばれる異常な高温は、日本を含む世界中に影響し、農業や漁業資源の変化を通して食料供給を変え、人間の生存可能性に悪影響を与えている。そのため、③のように、COP28の開幕初日に気候変動で被害を受けた途上国支援基金の内容で合意したのはよかったが、実は、地球温暖化の被害者は開発途上国の人だけではないのである。 具体的には、*3-1-3のように、日本では、青森県で養殖ホタテが高水温で大量死を起こしたり、京都の「聖護院かぶ」が生育不良になって廃棄処分が増えたりしており、これらはまだ作物の転換や品種改良で回復できる範囲ではあるが、「研究速度が気温の上昇に追いつかない状況」なのだそうだ。 それに加えて、温暖化で線状降水帯が1.5倍発生しやすくなり、カナダで大規模な山火事が発生し、韓国・インド・リビアで水害が相次ぎ、米国では猛暑で140人以上が亡くなり、太平洋の海水温が高くなって空気中に熱を発散する「エルニーニョ現象」でさらに気温が上がり、世界でも干ばつや豪雨が続いて、ついにIPCCが「今後10年間の選択と対策が数千年先まで影響を持つ」と警鐘を鳴らした。 なお、COP28に先だち、*3-1-2は、④IEAが「化石燃料の世界的需要が2030年までに減少に転じる」とした ⑤消費国が石油の安定確保に主眼を置いてきた時代は変わったため、日本も政策転換を急ぐべき ⑥IEAは再エネ過小評価との批判もあったが、「電力に占める再エネ比率は30%から50%に増え、移動手段もEVの新車販売が10倍に増える」とした ⑦深刻化する気候危機で化石燃料依存からの脱却は一刻を争い、省エネ・国産再エネが広がればエネルギー安全保障策になる ⑧国内の太陽光発電は東日本大震災後に急増したが、未利用地・住宅・工場・施設の屋根上など設置の余地はまだ大きい ⑨洋上風力発電も海域調査や漁業者らとの調整を進める必要がある ⑩送電網や蓄電設備の充実も急務 ⑪再エネ電力を背景にしたEV転換が次世代の鍵 ⑫経済活動への炭素課金(カーボンプライシング)も有効な手段 としていた。 このうち、④のIEAの「化石燃料の世界的需要が2030年までに減少に転じる」という主張は世界的には正しいのかも知れないが、日本の場合は、1973年のオイルショックで原油価格が著しく上昇した後も、⑤のように石油の安定確保に主眼を置いて膨大な国富を産油国に流し、エネルギー自給率を下げた上で、今頃になって「政策転換を急ぐべき」とか、⑦のように「省エネ・国産再エネが広がればエネルギー安全保障策になる」などと言っているが、それは、あまりに反応が鈍く無思慮なのである。 また、⑥のように、IEAは「電力に占める再エネ比率が30%から50%に増え、移動手段もEVの新車販売が10倍に増える」としたそうだが、日本の場合は屁理屈を言って止めていなければ既に再エネ大国になっていた筈で、⑧のように、従来型太陽光発電機器の設置余地もまだ大きく、*3-2-3のように、窓ガラスやビルの壁面で発電する建材一体型の太陽光発電パネルや高性能電池も開発されたため、自然エネルギー由来の再エネの可能性は著しく大きいのだ。 そのため、日本は、再エネを推進すれば、国富を流出させず、エネルギー自給率を向上させ、エネルギー安全保障も高められる。また、⑨のように、漁業者にとってマイナスになる洋上風力発電に固執しなくても、いやと言うほどある地熱を利用したり、能登半島はじめ半島や山間部に陸上風力発電の適地も多いため、⑩の送電網や蓄電設備を充実させたりして再エネを展開することは容易なのである。 さらに、今頃になって、⑪のように、「再エネ電力を背景にしたEV転換が次世代の鍵」などと言っているが、日本は1997年12月のCOP3で採択され、2005年2月に発効した京都議定書の時から、再エネ・EVを推進して最初は世界最先端だった。従って、今までもたもたしていた理由を究明して改善することが、産業の再生に最も必要なことである。 なお、⑫のカーボンプライシングについては、排出権取引のように、企業や事業所が既に「排出枠」を既得権として持っていることを前提としてそれを売買する取引ではなく、CO₂の排出量に応じて環境税を課すことで、CO₂の排出を抑えつつ、環境税収入を自然エネルギー由来の再エネ普及に使うのが良いと、私は2005~2009年の衆議院議員時代から主張していた。しかし、これは、経産省関係者や経済団体の反対で実現されなかったのである。 2)日本が2030年までに再エネを3倍にすらできないのは、何故か? 上の図の下の段に書いたとおり、再エネだけが日本国内で自給できるエネルギーなのに、日本の発電に占める再エネの割合は18.0%にすぎず、輸入化石燃料が75.8%だ。また、輸入燃料で動く原発は東日本大震災後0%が続いたのだが、最近、再稼働させて6.2%になった。その結果、日本のエネルギー自給率は11.8%にすぎず、いくら基地を増やして武器ばかり揃えても、エネルギー安全保障にも食料安全保障にもほど遠く、原発は武力攻撃に著しく弱いのである。 また、太陽光発電機を最初に作ったのは日本であるにもかかわらず、上の図の上の段に書いたとおり、各国の再エネ発電導入容量は中国が飛び抜けて1位で、日本はブラジル・インド・ドイツ以下の6位になっている。また、各国の太陽光発電容量も、中国がダントツの1位だ。 そして、*3-2-1のように、COP28では世界の再エネ設備容量を2030年までに3倍にすることに日本も含む100カ国以上が賛同したにもかかわらず、日本の再エネは2022年時点の約87ギガワットを2030年に2倍程度の約160ギガワットにしかしない見込みなのだ。 また、石炭火力発電の廃止を目指す脱石炭連盟に日本は加入せず、*3-2-2のように、岸田首相はUAEのドバイで開催されたCOP28の首脳級会合で演説し、アジアの脱炭素化を主導する考えを表明されたが、その内容は、「排出削減対策が未対応の石炭火力について新規の建設を終了する」「既存施設には、アンモニアや水素の混焼しながら石炭を燃やす量をできるだけ減らす」止まりであり、これでアジアの脱炭素化を主導されては困るわけである。 それでは、何故、日本政府はこういうエネルギーミックスにしたがるのかについて考えると、①意志決定する上層部に文系が多く、物理・化学に弱い ②「エネルギーは熱を介して作るものだ」と思い込んでいる ③太陽光発電や風力発電より、原子力発電や火力発電の方が「メカが複雑だから高度だ」と思っている ④既存の大手企業が従来の方法を使いたいと考えている ⑤環境(生物・生態系に関する学問)については考慮しない ⑥既存の大手企業から協力や政治献金がある などが考えられる。 そのため、教育段階で、文系の人にも理系教育を決して疎かにせず、日本文化としてもチャレンジ精神を養い、「現状維持が良いことだ」などとは間違っても教えないことが重要である。 ただし、東京都は、建物の売買時、建物の断熱性能・設備の省エネ性能・再エネ設備の設置状況・EV充電設備の整備状況・建物や駐車場の日当たりに関する説明義務を課すそうで、確かに、そういう内容の保証書が付いて売買価格に反映されていれば、選択が容易である上に、自然と建物の性能が上がる。 また、*3-2-3のようなビル壁面などで使える建材一体型太陽光発電パネルもできたので、東京都等の都市部や住宅地など、導入可能な立地総数を発電能力に換算すると82.8ギガワットで、現在、国内で稼働している太陽光発電の導入実績の95%に相当する規模になるそうだ。 ・・参考資料・・ <能登半島地震について> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240103&ng=DGKKZO77402910T00C24A1NN1000 (日経新聞 2024.1.3) 浅い震源、激震誘発 M7.6「阪神」上回る、揺れ200回超、地下水関係指摘 輪島で最大4メートル隆起 能登半島地震は国内7回目となる震度7を観測した。激しい揺れの要因は浅い震源と、阪神大震災を上回る地震の規模だ。震度1以上の揺れは2日午後6時までに200回を超えた。政府の地震調査委員会は同日、地殻変動の状況などを踏まえ「一連の地震活動は当分続くと考えられる」との見解を公表した。能登半島では2020年末から群発地震が続き、地震調査委は地下深くの水(流体)の関与を見方として示している。専門家は今回も同様の可能性を指摘する。「震源が浅く、地震の規模も大きいことで激しい揺れが起きた」。1日の地震発生後の記者会見で気象庁担当者は説明した。今回の地震は、地球の表面を覆う岩板(プレート)内部の大陸側で起きる「内陸型」。北西と南東方向から押す力が働き、断層が上下にずれる「逆断層」によって引き起こされた。内陸型は震源が浅いことが多い。今回の震源は深さ16キロで、04年の新潟県中越地震(13キロ)、1995年の阪神大震災(16キロ)と同じように浅かった。震源が浅いと揺れが地表に伝わりやすいうえ、居住地に比較的近く、大きな被害を引き起こしやすい。規模も大きかった。能登地方でのマグニチュード(M)7.6は記録が残る1885年以降で最も大きかった。マグニチュードが1大きくなると地震のエネルギーは32倍になる。今回の地震は阪神大震災(M7.3)の約2.8倍のエネルギーがあった計算になる。震源の浅さと地震の規模が相まって、大きな揺れに結びついた。地震の瞬間的な揺れの激しさを示す加速度の単位「ガル」でみると、震度7を観測した石川県志賀町の揺れの最大加速度が2826ガルを記録。東日本大震災で震度7だった宮城県栗原市の2934ガルに匹敵する大きさだった。大きな地震であったことは地殻変動のデータからもうかがえる。国土地理院は2日、輪島市で最大約4メートルの地表の隆起を観測したと発表した。水平方向では同市で基準点が西方向に約1.2メートル動いていた。津波が広範囲に及んだのも今回の地震の特徴だ。気象庁によると、今回の地震の活動領域は長さ約130キロメートル。直近3年間に能登地方で観測された地震の領域(30~40キロ四方)と比べて「はるかに広がった」(気象庁)。東京大の加藤愛太郎教授(地震学)は「断層が大きく滑り、海底面付近のかなり浅いところまで破壊されたことで津波が発生した」と分析する。震源の真上は陸地だったが、断層の動きが沖合まで広がったため、日本海側の多くの地点で津波が観測された。能登地方では20年以降、人的被害を伴う震度5強以上の地震が5回起きた。地震活動は特に20年12月から活発化し、震度1以上の地震が500回超確認された。地震調査委は23年5月に「活動は当分続くと考えられる」との評価をまとめ、国は防災対策の強化を呼びかけていた。能登地方の地震メカニズムについて、調査委は地表面の隆起や震源の移動が確認されていることから、水のような地下の流体の移動が関係している可能性を指摘した。東京工業大の中島淳一教授(地震学)は「地下の水が上昇して断層に入り、滑りやすくなったことで地震が発生した可能性が高い」と指摘する。地震波の分析では、深さ20~30キロのところに水がたまっているといい、10~15キロ付近まで上昇すると地震を起こす原因になるとみられる。地下になぜ流体があるのかなど不明な点も少なくない。中島教授も「M7を超える群発地震は世界でも観測事例がほぼないのではないか」と話す。今後も比較的大きな地震が連続する可能性があるとみて警戒を呼びかける。同庁は今後1週間ほどは最大震度7程度の地震の恐れがあるとして注意を求めている。加藤教授は「地震活動は依然として高いレベルにある。今回、流体が断層をすべりやすくして、より大きな破壊を起こした可能性があり、今後も引き続き大きな地震に注意が必要だ」と話している。 *1-1-2:https://weathernews.jp/s/topics/202401/060205/ (Weather News 2024.1.6) 令和6年能登半島地震 地震活動の状況まとめ(6日20時) 回数減少も急に強い揺れ 1月1日に石川県能登地方で発生したM7.6 最大震度7の地震(令和6年能登半島地震)から5日がたち、地震回数は徐々に減少傾向となっています。一方で、今日6日(土)は3日ぶりに震度5強の地震が発生。過去にあった近い規模の地震では、1か月後に最大余震が発生した事例もあり、油断ができません。 ●6日(土)20時までの地震活動の状況をまとめます。 1日(月)16時以降の震度1以上の地震の回数を集計すると、1日が358回、2日が387回、3日が135回、4日が65回、5日が79回、6日が47回(20時まで)となっています(5日までは気象庁の報道発表、6日は速報値による集計)。累計回数は1071回、うち最大震度5弱以上の地震は14回となっています。3日(水)午後以降は震度5弱以上を観測する地震が発生していませんでしたが、今日6日(土)5時26分におよそ3日ぶりに最大震度5強を観測する地震が発生しました。 記事冒頭の図でわかるとおり、震源域は1日(月)の頃から大きくは変わっておらず、石川県西方沖〜佐渡島の西にかけての約150kmの範囲に集中しています。体に感じない地震を含めて集計し、規模と時系列を表した散布図(MT図)をみると、マグニチュード4程度以下の地震は徐々に減少傾向ではあるものの、依然としてM5前後の地震が散発的に起きていることがわかります。 ●本震—余震型の傾向か 1か月後に最大余震発生した事例も 能登半島周辺で2020年から続いている地震活動では、これまでの最大は2023年5月5日のM6.5 最大震度6強の地震でしたが、今回のM7.6の地震はその30〜60倍程度のエネルギーということになります。日本周辺で発生した地震でみても、深発地震を除けば2011年3月の東北地方太平洋沖地震の一連の活動以来の規模といえます。地震活動の状況からは、過去数年間に能登半島周辺で発生していた群発的な地震活動型とは違い、従来から他の地域でもよくみられる本震—余震型の傾向がみられます。今後も徐々に地震の回数が減少していくと考えられます。ただ、強い余震がいつまで続くかは予測することができません。過去の本震—余震型の地震をみても、数週間から数ヶ月たった後にM5〜6クラスの余震が発生しているものもあります。今回の地震の規模に近い事例をみると、1983年に発生したM7.7の日本海中部地震、1993年に発生したM7.8の北海道南西沖地震では、ともに本震のおよそ1か月後に最大余震が発生しています。これまでに建物がダメージを受けていた場合、余震によって倒壊するなどのおそれがありますので、引き続き安全な場所で過ごすようにしてください。 ●震源地:石川県能登地方、規模(マグニチュード):M7.6、震源の深さ:16km ●各地の震度(震度6弱以上) ■震度7: 【石川県】志賀町香能 ■震度6強: 【石川県】七尾市垣吉町 七尾市能登島向田町 輪島市鳳至町 輪島市河井町 珠洲市三崎町 珠洲市正院町 珠洲市大谷町 穴水町大町 ■震度6弱: 【新潟県】長岡市中之島 【石川県】志賀町富来領家町 志賀町末吉千古 七尾市本府中町 七尾市袖ヶ江町 中能登町末坂 中能登町能登部下 能登町宇出津 この地震により、一時は石川県に大津波警報が、北陸地方などに津波警報が発表されていましたが、いずれも時間の経過に伴う減衰により解除されています。観測された津波の高さは、最大の輪島港で「1.2m以上」と発表されていますが、現時点では能登半島周辺の正確な津波の高さはわかっていません。国内で震度7を観測するのは2018年の胆振地方中東部の地震以来で、そのほかには熊本地震、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震、新潟県中越地震など、いずれも大きな被害をもたらしたものばかりです。石川県内で震度7を観測するのは観測開始以来、初めてでした。 *ウェザーニュースアプリでお天気アラームを設定すると、今いる場所の天気・台風・地震・津波などの情報をいち早くプッシュ通知で受け取れます。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240107&ng=DGKKZO77490270X00C24A1EA2000 (日経新聞 2024.1.7) 津波、1分で沿岸到達 陸と海またぐ断層が影響 日本海特有の備え不可欠 能登半島地震では2011年の東日本大震災以来となる大津波警報が出た。被害が深刻な石川県珠洲市で地震発生から1分で津波が沿岸に達した可能性がある。日本海側は地震発生から津波到達までの時間が短い特徴があり、太平洋側と異なる備えの必要性が改めて浮き彫りになった。最大震度7の地震は1日午後4時10分ごろ発生。直後に能登地方の輪島港で津波第1波とみられる海面変動を観測した。東北大災害科学国際研究所の今村文彦教授らの研究グループは、国土地理院や米地質調査所(USGS)のデータをもとに津波が押し寄せた状況をシミュレーションした。珠洲市で約1分以内、富山市で約5分以内に津波が達していたとの結果が得られた。早く到達する要因は日本海側の断層の位置にある。北陸から北海道の日本海側にかけ、陸と海にまたがる断層や、沿岸に近い位置にある断層が多く存在する。こうした断層で地震が起きると陸の近くで津波が発生する。東日本大震災のように沖合で発生するケースと比べ、短時間で津波が沿岸に達する。1993年、日本海側で発生した北海道南西沖地震で、奥尻島に地震後まもなく第1波が到達。死者・行方不明者が200人を超えた。能登半島地震をもたらした断層も能登半島から日本海にまたがり、震源は沿岸付近だった。東京大地震研究所の佐竹健治教授は「海岸の真下に近い断層が動き、地震発生と同時に津波が到達したと考えられる」と話す。日本海側の津波は、長時間に及ぶ特徴もある。佐竹教授によると、この地域で規模の大きな津波が起きると、朝鮮半島やロシア側の大陸で反射し、数時間後に再び日本列島に到達する。大陸と日本列島に囲まれている日本海は、太平洋側と比べて津波の「逃げ道」が限られ、長く続きやすい。今回の津波注意報が全て解除されたのは、約18時間後の2日午前10時だった。東日本大震災などがあったことから、巨大な津波は太平洋側という印象を持たれがちだが、日本海側でも十数年に1度の頻度でマグニチュード(M)7程度の地震が発生し、新潟県や秋田県などで津波の被害が生じている。東大地震研が文科省の委託を受けて実施した日本海側の地震・津波に関する調査報告書は、避難が難しい点をとらえ、根本的な解決は難しいとしつつ「公共施設の建設・移転の際には、自然災害を考慮した、より安全な土地利用を進めていく必要がある」とした。津波が早期に襲来しやすいという地域の特性を踏まえ、揺れがあった場合には、津波注意報や警報を待たずに避難し始めるなどの対応が欠かせない。 *1-1-4:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240105/k10014310811000.html (NHK 2024年1月5日) 石川県 志賀町で津波4m超遡上か 輪島市では4m以上地盤が隆起 今月1日の能登半島地震で研究者のグループが現地を調査した結果、震度7の揺れを観測した石川県志賀町では、津波が4メートルを超える高さまで陸地を駆け上がったとみられるほか、輪島市の海岸沿いでは4メートル以上地盤が隆起していたことがわかりました。東京大学地震研究所の石山達也准教授らのグループは、地震発生翌日の今月2日から能登半島北西部の沿岸を調査してきました。その結果、志賀町の赤崎漁港では、建物の外壁に残された津波の痕跡や周辺に流れ着いた漂流物から、津波が陸地を4メートル20センチほど駆け上がったとみられることが分かりました。海岸付近の津波の高さは、潮位計がないためわかっていませんが、一般的には駆け上がった高さの半分以下とされています。また、今回の調査では沿岸の複数の地点で地盤の隆起が確認され、赤崎漁港では、25センチほど盛り上がっていました。一方、北に10キロほど離れた地点では隆起した地点が3メートルを超えるところが複数あり、輪島市の鹿磯漁港ではおよそ3メートル90センチでした。さらに、鹿磯漁港からおよそ5キロ北にある輪島市門前町五十洲の漁港では、およそ4メートル10センチに達するなど4メートルを超えるところが複数ありました。大きく隆起した漁港でも津波が駆け上がった痕跡がありましたが、建物には到達していなかったということです。石山准教授は「海岸の隆起が小さかった場所では津波が駆け上がって人家があるところまで達したと考えられる。さらに調査を進めたい」と話しています。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240103&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO77402910T00C24A1NN1000&ng=DGKKZO77402960T00C24A1NN1000&ue=DNN1000 (日経新聞 2024.1.3) 医療機関が停電や断水 石川・富山・新潟 厚生労働省は2日、能登半島地震を受け、石川・富山・新潟の3県の計16カ所の医療機関で停電や断水などの被害が生じていると明らかにした。石川県が最も多く、14カ所に上る。厚労省によると、人工透析ができなくなっている施設もあるようだ。同省は1日の能登半島地震の発生を受け、2日に同省災害対策本部の会合を開いた。武見敬三厚労相は医療機関や社会福祉施設の被害状況の把握を指示した。現地の情報集約などのため同省の職員6人を被災自治体の災害対策本部に派遣する。武見氏は職員に「先手先手の対応をし、被災者の救助に全力をあげて取り組むとともに、一刻も早く国民の生活が回復するよう全力を尽くしてほしい」と話した。 *1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS165R1PS16PTIL008.html (朝日新聞 2024年1月6日) 「何をするにも厳しい」水も電気も届かず、長引く避難生活に募る不安 半島北部にある石川県輪島市の市役所では5日、米谷起代志さん(83)が2リットルのペットボトル5本に給水車の水を入れていた。計10キロとなったバッグをかかえ、約1キロ先のアパートに持ち帰るという。「車を持ってないから、水も食べ物も歩いてもらいに行くしかない。何をするにも厳しい」。県内では6日午後2時時点で、七尾市の2万1500戸、輪島市の1万戸など14市町の計6万6千戸ほどが断水したままで、全国から給水車が駆けつけている。ただ、輪島市で給水車1台を活動させた愛知県岡崎市によると、道路の状況が悪く、大渋滞が発生。補給やガソリン確保の移動に時間がかかり、給水に充てる時間が十分に確保できないという。派遣する複数の自治体によると、特に輪島市や珠洲(すず)市で給水がままならないという。輪島市の坂口茂市長は、避難所の環境について「電気と水がない。暖が取れないし、衛生面も悪い」と窮状を訴える。経済産業省によると、6日午後2時時点で県内の停電は約2万3200戸。輪島市が約9800戸と最も多く、珠洲市約7400戸、能登町約3200戸、穴水町約2600戸など。電線が切れるなどしたためだ。北陸電力は他の大手電力会社の応援を得て約960人態勢で復旧作業を続けるものの、倒木などで入れない地域があり、作業は困難を極めているという。斎藤健経産相は5日の会見で停電が続く理由を問われ、「道路被害の状況が想定以上に厳しい」と強調。病院や福祉施設、避難所の復旧を優先していると説明した。真冬に暖を取るために必要な灯油やガソリンなどの不足も深刻だ。被害が大きい半島北部の6市町では6日時点で、69ある給油所のうち半分以下の28店舗のみが営業を再開。残り41店舗は損壊などで営業を停止していたり、連絡がつかなかったりしている。消防車や救急車などの緊急車両に限って供給する給油所もあり、一般向けの給油所には長蛇の列ができている。道路が復旧した地域では大型車で燃料を運び入れている。石油元売り大手「出光興産」は大型車が通れない道路では、ドラム缶に燃料を詰めて小型トラックで運び、さらに渋滞を回避するため、ヘリコプターを使った物資供給も検討している。国土交通省によると、県内の高速道路や主要な道路は復旧が進むものの、国道や県道の99区間(6日夕時点)が通行止めだ。復旧を担う同省の緊急災害対策派遣隊「テックフォース」は2日時点で31人だったが、日ごとに増やして6日は394人に。ただ、そもそも道路の幅員が狭く、大規模な工事を行うクレーンなどの重機を運び込めていない。半島北部はより深刻で、被災状況の調査すら終わっていないのが現状だ。同省幹部は「復旧の見通しを立てられない」。重機の海上輸送も検討している。道路の寸断などで孤立したり支援が必要だったりする半島北部の集落は6日午後2時時点で、少なくとも40弱。県全体の避難者は約3万人に上り、自宅にとどまって支援を待つ人もいる。馳浩知事は5日の対策会議後、こう強調した。「物資については大体拠点までは届いているが、いわゆるラスト1マイル、そこから先へ十分に届いているか確認が必要だ」 ●迫る感染症の影 「今の対策では限界」 津波で大きな被害を受けた石川県珠洲(すず)市の沿岸部。近くの住民ら約200人が避難する特別養護老人ホーム「長寿園」は、6日午前も電気や水が復旧していなかった。割れた窓ガラスをブルーシートで覆い、布団にくるまったりして寒さに耐えている。頼りは10台ほどの灯油ストーブだけ。「夜は底冷えして、体調不良になる人が日ごとに増えてきた」。職員の竹平佳代さん(43)は避難生活の長期化を心配する。カップ麺や菓子パンなどは届いているが、硬いものを食べられない高齢者も多い。備蓄のゼリーやレトルトのおかゆを手でもみ、軟らかくして提供しているが、それさえも底をつきかけている。断水の影響で、トイレは水が流れなくなった。災害用に設置した簡易トイレは和式で、足腰が弱い高齢者には使えない。今はポリ袋に排泄(はいせつ)してもらい、職員が処理をしているが、水で手を洗うこともできない。感染症対策は備蓄していたマスクと消毒液だけ。「今の対策では限界がある」と竹平さんは嘆く。感染症が広がる心配はすでに高まっている。県によると、穴水町では一つの避難所で新型コロナウイルスの感染者3人が確認された。輪島市内でも体調不良の報告が増えていて、コロナやインフルエンザの疑いのある人が出ているという。想定を上回る人が集まり、物資不足が問題になる避難所もある。輪島市の鳳至(ふげし)公民館には当初、約300人が身を寄せた。備蓄していたおかゆやパンなどは150人分で、1食分を2人で食べてもらうしかなかった。水は500ミリリットルのペットボトルを200本ほど備えていたが、薬を飲む高齢者を優先した。「普段は高齢者が多い地区だけれど、時期が時期だから、帰省してきた家族がまるごと避難所に来た」と館長の七浦正一さん(76)。避難していた女性(67)は「いつまでこんな生活が続くのか。家にも戻れないし、先のことを考えるだけでつらくなるだけだよ」と話した。公民館では6日に電気が復旧したが、断水は続いているという。金沢地方気象台によると、能登地域では7日夕から8日にかけて大雪が見込まれ、避難所では不安が高まっている。珠洲市は支援物資の輸送を増やすよう県に要請。国とは避難所の電気の復旧を優先するよう調整しているが、泉谷満寿裕(ますひろ)市長は「路面状況が悪く、除雪車を出せたとしてもまともに動かせないだろう。ようやく物資を届ける体制が整い始めたが、積雪が妨げになる可能性がある」と懸念する。 *1-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASS1662WNS16PTIL00F.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2024年1月6日) 「孤立集落」で孤独感を増す避難者たち 「自分の状況が分からない」 能登半島地震では、道路の寸断による孤立状態が各地で続く。石川県が「孤立集落」と公表する地区に5日午後、記者2人が入った。避難所近くで6日朝まで車中泊しながら、身を寄せる人たちの声を聞いた。向かったのは輪島市東部の町野地区。迂回(うかい)路となった県道はいたるところに亀裂や陥没があった。道沿いは倒壊したままの民家が並ぶ。約300人が避難する東陽中学校にたどり着いたのは午後4時ごろ。付近の家屋の倒壊は一段とひどく、瓦や柱、生活用品などが散乱していた。惣田登志樹さん(71)の自宅も倒壊し、1階リビングにいた妻が家屋に閉じ込められた。近くの人に数人がかりで助けてもらったという。「まだ救出できていない人がいるかもしれないと思うと、心が痛みます」と、沈痛な面持ちで話した。市によると、この避難所はヘリコプターなどで救援物資が複数回搬入され、物資不足の状況は脱した。だが、電気も水も途絶え、携帯電話は通じない。多くの人が「情報が入らないのが一番心配だ」と話す。家族5人で避難する男性(35)は「自分たちがどういう状況かわからないのが本当に不安」と口にした。地区の被害は正しく把握されているのか、救助は進んでいるのか――。そうした情報を発信も受信もできない。情報入手はラジオだけが頼りだ。体育館入り口に置かれたラジオの前には、常に数人が集まって耳を傾けていた。5日午後5時ごろ、ラジオのアナウンサーが県内各地で孤立状態となっている地区の名前を伝えていた。その一つに「町野地区」が読み上げられると、「まだ何も変わっとらんのか」「こりゃダメだわ」などと、失望の声があがった。日没を過ぎると、暗闇に包まれた。雨も降り、気温は一気に下がった。学校の外では、倒壊した家屋の木材をドラム缶に入れ、たき火で暖をとる人たちがいた。避難所には灯油ヒーターが数台あるが、体育館全体を暖めるには足りない。50代男性は「たき火の周りで知った顔と談笑すると、ストレス発散にもなる」と話した。午後9時ごろ、多くの人が避難所に戻った。だが、熟睡はできない。余震が一日に何度も襲う。6日午前5時半ごろには大きな余震が。続々と避難者が目を覚まし、建物の外に出てくる。「慣れっこになった人もいるかもしれないけど、私はまだ怖い」。60代女性がつぶやいていた。輪島市内には、7日から雪の予報も出ている。女性(66)は「自宅は全壊は免れたが、傾いている。雪が積もったら潰れてしまう」と嘆く。6日朝、避難者が集まって「ストーブをなるべく使わない」と決めた。使えるのは夜の決まった時間にして、灯油の消費を抑えるためだ。話し合いに参加した女性(77)は「計画停電ならぬ、計画ストーブです」。降雪に備えて雪かきの当番なども決めた。輪島市によると、この避難所は孤立状態を脱したが、復旧に不可欠な大型車両や重機は通れず、住民の不安も募る。娘と一緒に避難する女性(48)は言う。「そもそも『孤立集落』という名称が嫌だ。あなたたちは取り残されている、と毎回言われているように感じて、孤独感が増す」 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240103&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO77402910T00C24A1NN1000&ng=DGKKZO77402950T00C24A1NN1000&ue=DNN1000 (日経新聞 2024.1.3) 断層、長期評価の対象外 政府の地震調査委員会(委員長・平田直東大名誉教授)は2日、臨時会を開き、最大震度7を記録した能登半島地震の分析や今後の動向について検討した。国は主要な活断層について長期評価を公表しているが、今回地震のあった断層は対象外だったと明らかにした。平田委員長は「(長期評価は)慎重にやっており、非常に時間がかかる」とした上で評価していない断層で大きな地震が起きたことについて「非常に残念だ。もっと早く評価しておくべきだった」とも話した。世界でも有数の地震大国の日本では各地に断層が存在し、リスク評価が追いついていない側面が浮き彫りになった。今後、政府の長期評価のあり方も問われそうだ。 *1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15808171.html (朝日新聞 2023年12月3日) 「原発容量3倍」日本も賛同 世界全体 22カ国、COP28で宣言 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動会議(COP28)にあわせ、「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」との宣言が2日発表され、日本を含む22カ国が賛同した。温室効果ガスの排出を減らす対策の一環として、米国が呼びかけていた。 賛同したのはほかに、英国やフランス、韓国、COP28議長国のUAEなど。「温室効果ガス排出の実質ゼロを達成する上で、原子力は重要な役割を果たす」とした。世界原子力協会によると、世界の原発は436基。発電電力の約10%をまかなっている。原発は発電時に温室効果ガスを出さず、電源の脱炭素化に期待する声がある。国際エネルギー機関(IEA)は、気温上昇を産業革命前より1・5度におさえるには、50年までに2倍以上の容量が必要としていた。日本は東京電力福島第一原発の事故後、原発への依存度をできる限り低減するとしていたが、岸田文雄政権は「原発回帰」にかじを切った。脱炭素化のためのGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策では、再生可能エネルギーとともに原発を「最大限活用する」とし、新規建設方針も盛り込んだ。エネルギー基本計画では、現在は1割以下の発電量に占める原発の比率を30年度に20~22%に引き上げるとする。しかし、再稼働したのは12基にとどまり、到達は難しい。新増設はさらにハードルが高い。政府関係者は、原発が脱炭素への安定電源になることや、輸出による関連産業の振興につながると説明。「賛同しない理由はない」と話した。一方、日本は原発事故を経験し、今も避難を余儀なくされている人がいる。環境NGO「350.org ジャパン」の伊与田昌慶さんは「必要な脱炭素化を加速させるために、危険な原子力を利用する余地はない」と非難した。 *1-3-3:https://mainichi.jp/articles/20231202/k00/00m/030/195000c (毎日新聞 2023/12/2) 「原発3倍」宣言、なぜ日本も賛同? 気候変動に役立たぬと批判も アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では全締約国による交渉と並行し、有志国が気候変動対策強化に関する独自の宣言などを公表する場面が目立つ。米国は2日、日本など21カ国と世界全体の原子力発電の設備容量(発電能力)を3倍にすることを目指すと宣言した。国際原子力機関(IAEA)によると2022年末時点で稼働中の原発は31カ国で411基で、発電設備容量は約3・7億キロワット。バングラデシュなど途上国での計画が進み、10月公表の予測では50年までに約2・4倍の8・9億キロワットに増えると見込む。日本政府はエネルギー政策の中長期の方向性を示す「エネルギー基本計画」(21年閣議決定)で、原発への依存度を「可能な限り低減する」と明記。だが、5月成立のGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法で原発の60年超運転を可能にし、東京電力福島第1原発事故以降、「想定していない」としてきた次世代原発のリプレース(建て替え)も進める方針を示した。脱炭素社会の実現に向け、運転中にCO2を排出しない原発を活用していく姿勢に転換した。だが、足元では発電電力量に占める原発の割合は5・6%(22年度速報)にとどまる。原発事故を受けた安全対策工事の長期化や地元同意などがハードルとなり、原発の再稼働が思ったようには進んでいないためだ。国のエネルギー基本計画に盛り込んだ30年度の原発比率20~22%との目標もほど遠い。そうした中での今回の有志国による宣言は、政府のエネルギー政策の方向性と符合する。 日本が宣言に参加したことに「原発の導入には計画から20年はかかり、今直面している気候変動への対策として役に立たない。むしろ脱炭素を遅らせる」(NPO法人原子力資料情報室の松久保肇事務局長)など批判は多い。政府は宣言に何を期待するのか。それは、次世代原発の開発などでの他国との連携強化だ。次世代原発の開発競争は欧米を中心に激化しており、国内では三菱重工業が電力大手と革新軽水炉開発に取り組んだり、日立製作所などが小型軽水炉の開発を進めたりしている。電気自動車(EV)の普及や新興国の経済成長などで世界の電力需要は今後急増し、原発市場も拡大が見込まれる。こうしたことを機会と捉え、「日本企業の技術や製品を世界に売り込むことにつなげたい」(経済産業省幹部)とする。経済界も前向きだ。経団連の十倉雅和会長は11月20日の記者会見で、有志国による原発活用について「非常によく理解できる話だ。再生可能エネルギーの普及・開発を図るのは当然だが、変動電源であり、地形的な理由で全ての国ができるわけでもない。原発も全ての国ができるわけではないが、原発を増やしていくのは人類の英知だ」と話した。 *1-4-1:https://www.yomiuri.co.jp/science/20231227-OYT1T50075/ (読売新聞 2023/12/27) 柏崎刈羽原発の運転禁止命令、原子力規制委が解除…テロ対策で「改善が見込める」 原子力規制委員会は27日午前、東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)に出していた事実上の運転禁止命令の解除を決定した。不備が指摘されてきたテロ対策について「自律的な改善が見込める」と判断した。2年8か月ぶりに再稼働に向けた準備が再開されることになり、今後は、新潟県など地元自治体の同意が焦点となる。同原発では2021年1月以降、侵入検知設備の不備や、所員によるIDカードの不正利用など核物質防護上の問題点が相次いで発覚。規制委は同年4月、原子炉等規制法に基づき核燃料の移動を禁ずる是正措置命令を出した。東電は、侵入検知設備の誤作動対策や、生体認証装置の拡充などの対策を実施。同原発内に社長直属の部署を新設し、社員の意識や行動を定期的に監視する仕組みも整えた。規制委は今年5月の時点では、監視体制などで改善が不十分として命令解除を見送っていたが、規制委事務局の原子力規制庁は今月6日、「是正が図られている」とする報告書案を公表。これを受け、規制委の山中伸介委員長らは同原発を視察したり、東電の小早川智明社長から意見を聞いたりして命令解除の是非を議論してきた。東電は今後、同原発の再稼働に向けて、新潟県と、立地自治体である柏崎市、刈羽村の同意を得るとしている。両市村長が再稼働におおむね容認の姿勢を示す一方、花角英世知事は態度を明らかにせず、地元同意の先行きは不透明だ。花角知事は、規制委の命令解除後に再稼働の是非を判断し、県民の意思を確認する流れを示している。県民の意思を確認する方法は、「信を問う方法が責任の取り方としてもっとも明確だ」と繰り返し、出直し知事選の可能性も否定していない。 *1-4-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/8a2a49784efa6d034a8f7108de9956ec0136b705 (Yahoo 2024/1/7) 能登半島地震・志賀原発 避難ルート「のと里山海道」は一時全面通行止め 避難計画は“絵空事”だった 元日に発生した能登半島地震で、北陸電力志賀原子力発電所については当日中に「異常なし」と発表された(後に訂正)。だが、原発事故があった際の避難ルート「のと里山海道」は複数カ所で陥没、一時、全面通行止めになった。石川県の激震地・輪島市や穴水町、七尾市は原発30キロ圏内だ。地震大国・日本で「原発震災」が再び起これば、近隣住民の避難はやはり困難を極める。 * * * 「志賀原子力発電所をはじめ、原子力発電所については現時点で異常がないことが確認をされております」。1月1日の地震後、最初の会見。林芳正官房長官は現地の被害状況より前に、原発の様子に言及した。地震が起きるたびに、日本、いや世界中の関心が集まってしまうからだろう。 ■激震地が30キロ圏内 能登半島西岸の石川県志賀町に北陸電力志賀原発がある。原発から約9キロ離れた同町内の観測点では震度7、原発では震度5強を記録した。激震地の輪島市や、穴水町、七尾市などは30キロ圏内になる。志賀原発には、東京電力福島第一原発と同じ沸騰水型で、1号機(54万kW、1993年営業運転開始)、2号機(135.8万kW、2006年営業運転開始)の2基がある。2011年の東電の事故後、運転は止まったままだ。2号機は、2014年から再稼働に向けて新規制基準の審査が進んでいたが、まだ合格していなかった。使用済み燃料プールには計1657体の核燃料を保管している。13年近く冷やされ続けているので、すぐに心配になる事態は起きなさそうだ。ただし、北陸電力によると、一部の変圧器で配管が壊れて油漏れが発生し、外部電源の一部が使えなくなっているという。多重の安全策の一部を欠き、安全のレベルは下がっている。2007年に震度7相当の揺れに襲われた東電柏崎刈羽原発で、基礎の杭に損傷が見つかったと同社が公表したのは、地震から14年後のことだった。その後、建屋の建て替えへと追い込まれた。志賀原発も、今後の調査でまだ損傷が見つかるかもしれない。(以下、略) *1-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1172469 (佐賀新聞 2024/1/6) 玄海原発3号機、運転開始40年へ安全運転 再エネ主力電源化へ技術開発を 九州電力・池辺和弘社長 九州電力玄海原子力発電所(東松浦郡玄海町)3号機は、3月に運転開始から30年を迎える。九電の池辺和弘社長は佐賀新聞のインタビューで、玄海3号機の今後について「40年に向けて安全安定運転を続けていく」とし、延長の方針は現時点で「決まっていない」と述べるにとどめた。家庭向け電気料金に関しては資材高騰をにらみつつ今年も維持する意向を示した。(北島郁男) ●運転開始40年が近づく川内原発1、2号機(鹿児島県)は20年延長による60年運転が認可され、国では原発の60年超の運転を可能にする法律が成立した。玄海3号機の今後の運転計画をどう考えているか。 これから40年に向けて安全安定運転を続けていく。40年の前には特別点検をし、その結果によってその先どうするかを決める段取りだと思う。まだ先なので(延長認可の申請や特別点検は)何も決まっていない。運転開始から30年の後、改正後の原子炉等規制法が施行される2025年6月までに、新たな規制制度に対応する長期施設管理計画の認可をもらえるよう準備する。 ●3、4号機の耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)に関し昨秋、数値を見直した原子炉設置変更許可申請の補正書を規制委に提出した。新しい規制に沿った許可が必要な4月20日までに審査は間に合うか。 原子力規制委が審査書案を出し、委員から反論はなかったというから、もうそろそろではないか。4月には間に合うと思っている。 ●高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査に関し、長崎県対馬市長は応募しない意向を表明した。使用済み核燃料の処分場が必要な「核燃料サイクル」の道筋がいまだに立っていないことを、どう考えるか。 23年4月、最終処分に関する国の基本方針が改定され「国が前面に立ってやる」となった。そこがスタートで、これから日本各地で、人口も減っていく中でどうまちづくりをしていくのかという議論が始まり、手が挙がってくると思う。悲観的には考えていない。 ●九電としては青森県六ケ所村の再処理工場に使用済み核燃料を搬出するのが前提だ。 再処理工場の稼働は24年度上期のできるだけ早い時期とされ、それが稼働しないと玄海から持っていけない。現在は(使用済み燃料貯蔵プール内の間隔を詰めて保管量を増やす)リラッキングが3分の2は終わっている。乾式貯蔵施設も設置を計画している。 ●23年は九電の原発全4基が稼働した。火力発電の燃料費が抑えられ、24年3月期の連結純利益を過去最高の1300億円と見通す。電気料金の値下げは考えていないか。 九州は電気料金が全国的に見て安い水準。今後は資材や工事費が上がっていくと思うので、電気料金が上がらないように努力する方が先だ。自己資本比率は15%くらいしかないので内部留保を積み重ねないといけない。一律の料金の値下げは当面ないと思う。 ●24年は「再生可能エネルギーの主力電源化」に取り組むとしている。再エネ導入を拡大するのか。 拡充していく。主力電源化とは技術開発だと思う。太陽光は夜間や雨では発電せず、それで主力電源というわけにはいかない。電池や揚水、風力発電などの技術開発が大事で、これらを通して主力電源化したい。再エネ(23年11月末時点で約267万キロワット)は30年度に500万キロワットの目標に向かって進めていく。 ●一方で、原発が稼働し、再エネ事業者に一時的な発電停止を求める出力制御が23年度上半期で60回に上った。再エネを有効活用する手段や構想はあるか。 オール電化推進や、出力制御防止に向けた料金プランを作ろうと思うのが一つ。(遠隔操作で細かく調整する)オンライン制御や家庭向けのポイント付与などに取り組んでいるが、究極的には企業誘致だと考える。企業が昼間に電気を使ってくれれば捨てなくて済む部分が増える。地方自治体と力を合わせ、佐賀県も誘致活動をいろいろしているので協力したい。安く、二酸化炭素を出さない電気があることをPRしたい。 <裏金にすべき理由は何か?> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231219&ng=DGKKZO77067050Z11C23A2CM0000 (日経新聞 2023.12.19) 安倍派パーティー「裏金」 会計責任者、立件へ 、違法性認める供述 地検、派閥側捜索へ詰め 自民党安倍派(清和政策研究会)の会計責任者が東京地検特捜部の事情聴取に対し、政治資金パーティー収入を巡る政治資金収支報告書への不記載を認めたことが18日、関係者への取材で分かった。「裏金」について「記載しなければいけないと分かっていた」とも供述し、違法性の認識があったと説明しているという。特捜部は派閥側の収支報告書の不記載について、会計責任者を政治資金規正法違反容疑で立件する方針を固めた。安倍派の裏金の規模や慣例となった実態を解明するため、近く派閥側の関係先を家宅捜索する方針だ。安倍派では当選回数などに応じたパーティー券の販売ノルマがあり、超過分を議員に還流させていた。還流分は派閥・議員側双方の収支報告書に記載されず裏金となっていたとされる。裏金は同法の不記載・虚偽記入罪の公訴時効(5年)にかからない2018~22年の5年間で計約5億円に上るとみられる。安倍派の収支報告書の不記載額は収入と支出を合わせて約10億円に達する可能性がある。特捜部はこれまでに安倍派の会計責任者を複数回、事情聴取した。関係者によると、会計責任者は「パーティー収入の一部を不記載としてきた」と収支報告書の収入から除外していたことを説明。記載が必要だったとの認識も示したという。収支報告書によると、現在の安倍派の会計責任者は18年分から務める。関係者によると周囲に「キックバックの手法は長年続いており、引き継がれてきた」という趣旨の説明をしている。17年分までを担当した前任から申し送りがあったとみられる。政治資金規正法は収支報告書の提出義務を会計責任者に課している。会計責任者との共謀が認められれば議員本人も刑事責任を追及される可能性がある。具体的な報告・了承や指示があった場合に限られ、立件のハードルは高いとされる。特捜部は臨時国会が閉会した13日以降に捜査を本格化した。安倍派にはパーティーの収入総額と、収支報告書に記載する額を管理するための二重帳簿があったとされる。こうした客観証拠や会計責任者の事情聴取を踏まえ、不記載額の特定を進めている。安倍派では数十人が還流分を収支報告書に記載しておらず、議員側の事情聴取も進める。1人当たりの不記載額は多いケースで約5000万円に上る。裏金が多額となった議員を優先して本人からも事情を聴き、不記載の経緯や認識を確認するとみられる。 *2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/aa54af4ad9edde84f77dfaa4cec4bf270fdaa86b (Yahoo 2024/1/7) 速報】池田佳隆衆議院議員と秘書を逮捕 “裏金”4800万円めぐり虚偽記載か 安倍派政治資金事件 自民党・安倍派の政治資金パーティーをめぐる事件で、東京地検特捜部は、派閥から約4800万円のキックバックを受け、政治資金収支報告書にウソの記載をした疑いで、池田佳隆衆院議員と会計責任者を逮捕した。この事件で逮捕者が出るのは初めて。政治資金規正法違反の疑いで逮捕されたのは、衆院議員で安倍派の池田佳隆容疑者と会計責任者の柿沼和宏容疑者の2人。池田容疑者は柿沼容疑者と共謀し、2022年までの5年間に派閥から受け取った約4800万円のキックバックも含め、全部で1億円あまりの収入があったにもかかわらず、池田容疑者側の収支報告書には、5300万円ほどの収入とウソの記載をした疑いがもたれている。特捜部は2023年12月、池田容疑者が住む議員宿舎や議員会館事務所などを捜索しているが、虚偽記載の額が突出して多いことや、証拠隠滅の恐れがあるなどと判断し、逮捕に踏み切ったものとみられている。関係者によると、池田容疑者はこれまでの任意聴取に関与を否定していたという。安倍派では、ノルマを超えた分の収入を派閥に納めず、中抜きしていた議員も十数人いて、この分も含めた事実上の「裏金」は、2022年までの5年間で6億円規模にのぼるとみられている。 *2-3:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240104-OYT1T50150/ (読売新聞 2024/1/5) 政治改革へ自民の新設機関、最高顧問候補に麻生副総裁と菅前首相…首相が意向示す 岸田首相(自民党総裁)は4日、首相官邸で年頭記者会見に臨んだ。首相は、自民党派閥による政治資金規正法違反事件を受けた政治改革の実現に向け、党内に新設する総裁直属機関で月内に中間とりまとめを行うと表明した。新設機関は「政治刷新本部(仮称)」で来週にも設置し、外部の有識者も招いて議論すると明らかにした。首相は「党の先頭に立って、政治への信頼を回復すべく取り組みを進める」と強調し、派閥の政治資金パーティーに関して党による監査実施や、収支を現金ではなく原則振り込みにする案に言及。「政治資金規正法改正という議論もあり得る」とも述べた。この後、首相はBSフジの番組に出演し、同本部の最高顧問に自民党の麻生副総裁と菅前首相を充てる意向を示した。事務総長には木原誠二幹事長代理を起用する方向だ。年頭記者会見では、能登半島地震への対応について、「避難の長期化も懸念される中、被災者の生活となりわいを支えていく息の長い取り組みが求められる」と訴えた。 *2-4:https://toyokeizai.net/articles/-/604812 (東洋経済 2022/7/22) 国会議員が得る「お金」がどれほどか知ってますか、文書通信交通滞在費の問題は継続して議論が必要 今回の参議院選挙は自民党が圧勝しました。多くのタレント議員が誕生しましたが、一部の議員には当選後の会見を拒否する姿勢が見られました。公人である以上、自らの言葉で有権者に説明する責任がありますが本人の姿が見えないのは残念なケースです。落選しない限り参議院議員は6年間の職位が保証されます。今回は、あらためて注目される国会議員の報酬について解説します。 ●議員報酬は高いのか 憲法では国会議員の報酬を次のように規定しています。憲法49条「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける」。国会法35条「議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く。)より少なくない歳費を受ける」。さらに、歳費法によって歳費、旅費および手当等の支給についても細かく規定されています。いったい、いくらになるのでしょうか?国会議員の歳費は月額129万4000円と定められています。年額で1552万8000円になります。ここに、期末手当(賞与)として年額635万円が加算されますので、総額2187万8000円が基本ベースです。昨今問題視されている「文書通信交通滞在費」(現在は「調査研究広報滞在費」に名称変更)が1200万円(月額100万円×12カ月)が支給されます。領収書の公開などが不要であるため、第2の給与とも呼ばれさまざまな用途に使用されているのが実情です。領収書による精算が必要ありませんからブラックボックスです。1200万円(月額100万円×12カ月)もの領収書も必要ないお金を一般人が稼ぐにはいくら必要でしょうか。所得税で40%控除されることを踏まえれば、約1700万円(月額141万円×12カ月)の収入が必要になります。次に、「立法事務費」780万円(月額65万円×12カ月)を加算してみましょう。立法事務費は会派に対して支払われますが、1人会派だとしても政治資金規正法上の政治団体として届け出ていれば認められます。また、まったく活動していなかったとしても立法事務費の使い道を第三者が確認する術はありません。使途公開の必要のない月額65万円を一般人が稼ごうとするとどうなるのでしょうか。所得税で40%控除されることを踏まえれば、1296万円(月額108万円×12カ月)程度の収入が必要です。基本ベース2187万8000円+1700万円=3887万8000円(議員歳費+文書通信交通滞在費)に1296万円(立法事務費)を加算すると、5183万8000円となります。さらに、JR特殊乗車券・国内定期航空券の交付や、3人分の公設秘書給与や委員会で必要な旅費、経費、手当、弔慰金などが支払われます。くわえて、政党交付金の一部が、各議員に支給されます。これらを踏まえて国会議員1人当たり、年間にどれだけのお金がかかっているのか試算してみましょう。 ●参議院議員A氏(北海道選出)のシミュレーション ○基本給1552万8000円(月額129万4000円) ○期末手当635万円 ○文書通信費1200万円(月額100万円) ○立法事務費780万円(月額65万円) ○JR特殊乗車券、国内定期航空券。北海道選出の議員であれば羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円) ○秘書給与2100万円(政策秘書900万円、第1秘書700万円、第2秘書500万円と仮定) ○政党からの支給 0~1000万円程度 合計:6000万~7000万円程度と推測 政党からは役職に応じて黒塗りの車もあてがわれます。議員会館の賃料は無料、議員宿舎には格安で居住することができます。2014年に賃料引き上げを行いましたが、周辺相場の2割程度で借りることができます。24時間体制の警備が施されセキュリティーは万全です。部屋から緊急通報のボタンを押せば秒速でスタッフが駆けつけます。 ●政治献金はどのくらい? 政治活動には多額の出費が必要であることから、政治家は政治献金を募ることになります。企業が行う企業献金と、個人が行う個人献金に分かれます。企業献金には癒着につながりやすいという指摘があります。また、政治家個人への献金は禁止されていることから、政治団体(一政治家が1つだけ指定できる資金管理団体や後援会など)を通じて献金することになります。日本国籍を持つ個人献金のみ可能で、一政治団体に対して年間150万円まで可能です。政治資金パーティーによる政治献金もあります。資金管理団体には、個人献金や政治資金パーティーの収益が入り、政党支部には政党本部や企業献金が入ります。日本経済新聞電子版(2021年12月3日配信)によれば、国会議員の資金管理団体と関係する政党支部が2020年に集めた政治資金をめぐり、議員1人当たり実収入の平均額は3103万円で、2019年から28.9%減少したことが明らかにされています。「アメリカ」の下院・上院では支給額にかなりの差が生じます。下院は「議員代表職務手当」が支給されます。この手当から、交通費、通信費、秘書給与その他の経費を支出します。その額は1億2000万~1億8000万円と差があります。アメリカ合衆国議会議事堂があるワシントンから選挙区までの距離、事務所賃貸料等の個人差が生じているためです。上院は「秘書・事務所費用会計」として、事務費から秘書給与までの経費すべてを支出します。その額は約2億4000万~4億円程度です。両院とも秘書給与を流用できますが、充当されるのは、下院で8000万円程度、上院では2億~3億円です。秘書の人数も下院なら5名程度、上院で30~40名と開きがあります。 ●不適切な経費請求が発覚し、厳格化されたイギリス 「イギリス」の上院は貴族院として世襲により構成されてきましたが、現在は削減され無報酬を踏襲しています。下院は基本給に手当が加わりますが、各議員が実費精算することから内容が異なります。英国下院は約1126万円、「秘書雇用手当」が3人で平均約1300万円程度です。手当や使いみちは詳細に公開され、誰でも閲覧できるようになっています。2009年に多くの不適切な経費請求が相次いで発覚しました。イギリスの新聞、『デイリー・テレグラフ』は、全国646人の議員のうち、200人以上の不適切な経費請求を明らかにします。議員は国民から強い反発を受けました。その後、ルールが厳格化され、現在では公開が義務づけられています。「ドイツ」の議員報酬は1466万円で欧州では2位、世界全体でも8位の高額議員報酬です。個人で秘書を雇った場合はその人件費として最大23万9000ユーロ(約3100万円)が支払われます。秘書の数は制限がありませんが近親者の雇用を禁じています。平均6~7名です。「フランス」は1085万円で、これは世界14位のランクです。秘書の雇用に関しては、上院で約952万円、下院で929万円が支給されます。人数は上院6名、下院では5名まで可能で半数はパートです。これらの情報を比較すると、アメリカが突出しているように見えますが、すべて使途明細書の提出がなければ1セントも支払いがされない後払い方式です。アメリカは政党に依存しない個人活動が主流だからです。欧州は政党・会派中心ですが日本もそれに近いと言えます。 ●毎回先延ばしになる議員特権議論 2021年10月31日の衆議院選挙後に「満額」が振り込まれたことにより文書通信交通滞在費をめぐる問題は、連日メディアで報道されました。しかし、「使途の明確化や情報公開」など重要な要点には触れられずに先送りされました。与野党ともに「日割り」にするだけで決着をつけようとする姿勢が強く見受けられました。継続した議論が求められます。前の国会で各党は「使途公開」を口にしていました。ところが成立したのは当選した月の支給額を「日割り計算」にする改正だけです。使途公表や国庫返納はなんら盛り込まれていません。さらに、文書通信交通滞在費から調査研究広報滞在費に費目が変更されただけでした。その後、JR無料パスの違法使用、パパ活疑惑などがあり、国民からは「議員特権を廃止すべき」という厳しい声が上がりました。国民の血税で活動している以上、国会議員にかかる諸費については透明性を持たせる必要があります。しかし、政治家は自らが当選に有利になることでないかぎり前向きには議論しません。政治システムを変える法案を提出することもありません。当然のことながら不利になるシステムに変更されることもありません。実現させようなどと思っていないからでしょう。国会議員の本務は、国会で政策を議論し、必要な法律を策定することです。選挙区のお祭りや盆踊りに顔を出したり、運動会に参加したりすることが本筋ではないのです。議員は国の代表ですから、相応の報酬があることはもちろん理解できます。しかし、税金によって支払われる以上、議員の仕事に見合うかどうかを国民1人ひとりが注視しなければなりません。参議院選挙後の臨時国会は8月3日に召集されます。 *2-5:https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=328AC1000000052_20150801_000000000000000 国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律 第一条 国会が国の唯一の立法機関たる性質にかんがみ、国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費の一部として、各議院における各会派(ここにいう会派には、政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第六条第一項の規定による届出のあつた政治団体で議院におけるその所属議員が一人の場合を含む。以下同じ。)に対し、立法事務費を交付する。 2 前項の立法事務費は、議員に対しては交付しないものとする。 第二条 立法事務費は、毎月交付する。 第三条 立法事務費として各会派に対し交付する月額は、各議院における各会派の所属議員数に応じ、議員一人につき六十五万円の割合をもつて算定した金額とする。 第四条 前条の所属議員数は、毎月交付日における各会派の所属議員数による。 2 立法事務費の交付日において、議員の任期満限、辞職、退職、除名若しくは死亡、議員の所属会派からの脱会若しくは除名又は衆議院の解散があつた場合には、当月分の立法事務費の交付については、これらの事由が生じなかつたものとみなす。一の会派が他の会派と合併し、又は会派が解散した場合も、また同様とする。 3 各会派の所属議員数の計算については、同一議員につき重複して行うことができない。 第五条 各会派の認定は、各議院の議院運営委員会の議決によつて決定する。 第六条 各会派は、立法事務費の交付を受けるために、立法事務費経理責任者を定めなければならない。 第七条 各議院の議長は、立法事務費の交付に関し疑義があると認めるときは、議院運営委員会に諮つて決定する。 第八条 この法律に定めるものを除く外、立法事務費の交付に関する規程は、両議院の議長が協議して定める。 <気候変動対策について> *3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231202&ng=DGKKZO76627250S3A201C2NNE000 (日経新聞 2023年12月2日) 国連総長「地球、破綻しつつある」 COP28 温暖化対策遅れに危機感 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)は1日、首脳級会合が始まった。国連のグテレス事務総長は演説で、「地球のバイタルサイン(生命兆候)は破綻しつつある」と温暖化対策の遅れに危機感を示した。(1面参照) グテレス氏は世界の気温上昇を産業革命前より1.5度以内に抑える2015年のパリ協定に触れ「世界はパリ協定の目標から何マイルも離れている」と指摘。「今、行動すれば最悪の混乱を避けられる」と述べた。1.5度目標を達成するには「最終的に全ての化石燃料の燃焼を停止した場合にのみ可能だ」と主張し、化石燃料の廃止を訴えた。再生可能エネルギーはかつてないほど安価になっているとして、利用を拡大すべきだとの立場を強調した。チャールズ英国王も、世界の気候変動対策が「軌道から大きく外れている」と指摘した。温暖化ガスの排出量が世界規模で増えていることに触れ「COP28が真の変革に向けた重要な転機となることを心から祈る」としたうえで「地球は私たちのためのものではなく、私たちが地球のものなのだ」と強調した。開幕初日となった11月30日には、気候変動で干ばつや洪水などの被害を受けた途上国を支援する基金制度の内容で合意した。初日の会合で参加国が一定の成果を出したかたちだ。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、基金をめぐる合意について「我々は最も脆弱な市民を守るための決定的な一歩を踏み出す」と指摘。「ドバイでの会合が歴史を作ることができると信じている」と強調した。COP28ではパリ協定の目標達成に向けた対策の進捗を世界全体で検証する「グローバル・ストックテイク(GST)」が行われる見通し。GSTは今回のCOPを皮切りに、5年ごとに実施される。このほか、温暖化ガス排出削減などの重要課題で実効性のある合意に至れるかが焦点となる。 *3-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15796373.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2023年11月20日) IEA報告書 脱化石燃料へ転換急げ2023年11月20日 化石燃料の世界的な需要が2030年までに減少に転じる――。国際エネルギー機関(IEA)が、そんな見通しを示した。消費国が石油の安定確保に主眼を置いてきた時代が、はっきりと変わりつつある。日本も政策の転換を急ぐべきだ。IEAは50年前の石油危機を受けて、当時の西側先進国がエネルギー安全保障での協力のためにつくった組織だ。各国に石油備蓄を義務づけ、供給不安時に協調する。化石燃料の大半を海外に頼る日本にとっても重要な機関とされてきた。一方で、「再生可能エネルギーを過小評価している」との批判もあった。その組織が先月の報告書で、各国の現行政策に基づく最も手堅い予測として、化石燃料の需要減を見込んだ。エネルギー供給全体に占める割合でも、22年の80%が、30年には73%に下がるという。一方で、電力に占める再エネの比率は30%から50%近くに増える。移動手段でも、電気自動車の新車販売が、10倍に増える見通しだ。深刻化する気候危機をみれば、化石燃料依存からの脱却は一刻を争う。省エネとともに、代替として国産の再エネが広がれば、新たなエネルギー安全保障策にもなる。国内の太陽光発電は東日本大震災後に急増したが、未利用地のほか、住宅や工場、施設の屋根上など設置の余地はなお大きい。洋上での風力発電も、海域での調査や漁業者らとの調整を進める必要がある。送電網や蓄電設備の充実も急務だ。運輸・交通面での脱炭素化も迫られる。日本はハイブリッド車で先行したが、燃費は良くてもガソリンを使い続ける以上、一時的な解決策にとどまる。再エネ電力を背景にした電気自動車への転換こそが次世代の鍵を握ることは、自動車業界も、すでに自覚しているはずだ。社会・産業を広く脱炭素化するには、インフラの整備に加えて、経済活動への幅広い炭素課金(カーボンプライシング)が有効な手段だ。国際水準の炭素価格を設ければ、競争力のある技術の開発や製品化にもつながる。政府が導入方針を示す今の枠組みは、開始時期や予想される価格水準が不十分だ。見直しを求めたい。脱炭素化できるかどうかだけではなく、そのスピードも重要だ。関連投資は急増しており、脱炭素化は制約ではなく、成長の機会にもなる。日本は来年からエネルギー基本計画の改定作業を始めるが、積年の遅れを取り戻さなければならない。 *3-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15808101.html (朝日新聞 2023年12月3日) (COP28)沸騰化、地球むしばむ ホタテ大量死、世界では山火事・水害・干ばつ 中東ドバイで開催されている国連の気候変動会議(COP28)では、世界のリーダーが集い、温暖化対策を議論している。世界の平均気温が史上最高を更新する今年、「地球沸騰化」とも呼ばれる異常な高温やその影響が日本を含む世界中で爪痕を残している。11月下旬、青森県の陸奥湾に面する蓬田漁港。午前3時すぎ、ホタテ漁師の中川八千雄さん(67)は漁船の上で、ホタテの稚貝をカゴに移し替える作業をしながら、ため息をついた。「3割ほど死んでる。こんなことは初めてだ」。口が開いたり成長が止まったりして「へい死」した稚貝がいくつも見つかった。37年の漁師人生で最もひどい状況だ。原因はホタテが苦手な高水温。稚貝は26度を超えると衰弱して死ぬこともある。今年は、猛暑や海洋熱波により、水温が上昇し始める時期が早く、陸奥湾では7月下旬に水深15メートルで23度を超え、その状態が2カ月余り続いたという。9月上旬には最高水温が平年より4度以上高い場所もあった。県内の生産量の約半分を占める平内町漁業協同組合販売課長の小塚達典さん(42)によれば、稚貝の9割がへい死した地点もあるという。「人間なら熱湯につかっているのと同じ。漁業者から『来年に売るものがない』という声も聞く」。京都の冬の味覚「千枚漬け」にも夏の酷暑が響く。原料となる良質な聖護院かぶの産地で知られる京都府亀岡市。農家の男性(54)は畑の一角を指さして「あの圃場(ほじょう)の収穫は諦めました」と語った。4アール分のカブを生育不良で廃棄するという。今年は暑すぎて発芽が出そろわない。種まきの時期が初めの分は大きく育たず、変色したり、特有の「滑らかな肌」も失われたりした。「欲しい時にカブがなかった」。千枚漬けの老舗「大安(だいやす)」(京都市)によると、例年は9月からの千枚漬けの販売が、10月末までずれ込んだという。九州大学の広田知良教授(農業気象学)によると、長年、品種改良や農業技術によって単位面積当たりの農作物の収量は増えてきた。しかし最近は減少傾向の作物もあるという。「研究速度が、気温の上昇に追いついていない状況だ」。今夏の日本の平均気温は過去最高を更新。気象庁の担当者も「予報を大きく超えた信じられないような高温」と断じた。東京大などの研究チームの解析によれば、地球温暖化の影響がなければ他にどんな悪条件が重なっても、ほぼ起こりえない猛暑だったという。各地で豪雨被害をもたらした線状降水帯も、温暖化によって1・5倍発生しやすくなっていた。世界でも気候災害が相次ぎ、カナダでは日本の半分の面積を焼く山火事が発生。韓国やインド、リビアでも水害が相次ぎ、米国では猛暑で140人以上が亡くなった。さらに、今年発生したエルニーニョ現象によって高温の傾向が強まる可能性が指摘されている。世界的にも干ばつや豪雨が続き、国際ブドウ・ワイン機構のまとめでは、ブドウの収穫減によって世界のワイン生産量は過去60年で最少になる見通しという。11月も例年に比べて高温の状況が続き、欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、17日には世界の平均気温が初めて、産業革命前から2度以上高くなったという。国連によると、各国の現状の削減目標を達成したとしても、今世紀末には気温上昇は3度近くになる。深刻な熱波が起きる確率は現状5年に1回程度だが、3度上昇すると5年に4回になるという研究もある。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「今後10年間の選択と対策が数千年先まで影響を持つ」と警鐘をならす。 *3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASRD273TFRD2ULBH00G.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2023年12月2日) 世界の再エネ容量、30年までに3倍へ 日本など100カ国以上賛同 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連の気候変動会議(COP28)では2日、世界の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍にすることに、日本も含む100カ国以上が賛同した。2日まで開かれた首脳級会合では、中東情勢をめぐる波乱もあった。再エネ3倍の目標は、議長国のUAEが参加国に呼びかけていた。誓約書では、気温上昇を産業革命前から1・5度に抑えるためには、再エネの世界全体の設備容量を、現在の約3600ギガワットから、1万1千ギガワットに上げる必要があると指摘。エネルギー効率(省エネ)も2倍にすることをめざす。「化石燃料に依存しないエネルギーシステムへの世界的な移行を、前倒しで推進しなければならない」と主張。各国が再エネや省エネに関する計画をつくり、温室効果ガス削減目標に反映することも求めた。日本も再エネの導入量を引き上げる必要がある。日本の再エネは22年時点で約87ギガワット、30年には2倍程度の約160ギガワットにする見込みだが、世界に対する貢献量は少ない。伊藤信太郎環境相は「各国がそれぞれ3倍ということを言っているわけではない」と話すが、次のエネルギー基本計画の議論に影響を与えそうだ。一方この日は、米国が、石炭火力発電の廃止を目指す脱石炭連盟に加入した。英国とカナダ主導で立ち上げた枠組みだ。米国は中国、インドに次ぐ「石炭火力大国」だが、ケリー米気候変動特使は「世界中で排出対策の取られていない石炭火力の段階的廃止を加速する」とコメントした。日本は加入していない。 ●交渉の裏で戦争の影も 国際協調が必要な温暖化対策だが、前日に再開したパレスチナ・ガザ地区での戦闘は交渉にも影を落とした。COPに参加したイスラエルのヘルツォグ大統領は首脳演説をせずに、インドや欧州連合(EU)などと二国間会談を展開。同氏のX(旧ツイッター)によると、「(イスラム組織)ハマスがあからさまに停戦協定を破った」などと主張したという。イラン国営通信によると、同国のエネルギー相は、イスラエルがCOPに参加することに抗議し、会場から去ったという。2年後のCOP30の議長国となるブラジルのルラ大統領は、温暖化対策費をはるかに上回る巨額の資金が、世界で戦争や軍事に充てられていることを嘆いた。「力を結集すべき時に、世界が戦争に向かっているとは」 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK01B120R01C23A2000000/ (日経新聞社説 2023年12月2日) アジアの脱炭素へ協力深め世界に貢献を 岸田文雄首相はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)の首脳級会合で演説した。アジアの脱炭素化を主導する考えを表明した。気候変動対策の行方を左右するのは世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約6割を占めるアジアの取り組みだ。日本の脱炭素技術や省エネルギーのノウハウを積極的に移転し、削減に貢献すべきだ。アジアは日本と同様、電源に占める石炭火力発電の割合が高い。太陽光や風力の適地が少なく、再生可能エネルギーの大幅な拡充は難しい。首相が触れたアンモニアや水素の活用は日本が技術開発で先行する。現実的な選択肢だ。日本は特殊な国債を出し、世界銀行とアジア開発銀行の信用リスクを補完する。融資余力を合計90億ドル規模ほど広げるという。だがインドや東南アジアだけでも年間5000億ドルが必要とされ、欧米の支援を含めても足りない。民間投資も大幅に増やす必要がある。政府は日本企業の事業展開を促す支援策づくりを急ぐべきだ。アジアでは、補助金や税優遇といった政策も十分ではない。日本が主導するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じ、政策ノウハウの提供や人材育成を進めることも重要になる。まず何よりも、国内の脱炭素をより進めることが不可欠だ。日本はガソリンや電気、ガスへの補助金など脱炭素に矛盾する取り組みも目立つ。国際社会から二枚舌とみられかねない状況だ。演説では、排出削減対策が未対応の石炭火力について新規の建設を終了することも表明した。既存施設については言及しなかった。世界の潮流は脱化石燃料だ。アンモニアや水素の混焼を使いながらも、石炭を燃やす量をできるだけ減らす姿勢を見せてほしい。日本は2013年度比でCO2を約20%削減した。30年度に46%という目標の半分近くで「さらに高みを目指す」という。しかし、各国の中央銀行や金融当局で構成する気候変動リスク等に係る金融当局ネットワークなどの分析によると、進捗状況は主要7カ国(G7)の中で最も遅れている。最新の空調機器や製造装置への更新、住宅への太陽光パネル設置、建物の断熱性向上など、まだできることは多い。脱炭素技術の普及も進めながら削減実績を積み上げることが重要になる。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK01B120R01C23A2000000/ (日経新聞社説 2023年12月2日) アジアの脱炭素へ協力深め世界に貢献を 岸田文雄首相はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)の首脳級会合で演説した。アジアの脱炭素化を主導する考えを表明した。気候変動対策の行方を左右するのは世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約6割を占めるアジアの取り組みだ。日本の脱炭素技術や省エネルギーのノウハウを積極的に移転し、削減に貢献すべきだ。アジアは日本と同様、電源に占める石炭火力発電の割合が高い。太陽光や風力の適地が少なく、再生可能エネルギーの大幅な拡充は難しい。首相が触れたアンモニアや水素の活用は日本が技術開発で先行する。現実的な選択肢だ。日本は特殊な国債を出し、世界銀行とアジア開発銀行の信用リスクを補完する。融資余力を合計90億ドル規模ほど広げるという。だがインドや東南アジアだけでも年間5000億ドルが必要とされ、欧米の支援を含めても足りない。民間投資も大幅に増やす必要がある。政府は日本企業の事業展開を促す支援策づくりを急ぐべきだ。アジアでは、補助金や税優遇といった政策も十分ではない。日本が主導するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じ、政策ノウハウの提供や人材育成を進めることも重要になる。まず何よりも、国内の脱炭素をより進めることが不可欠だ。日本はガソリンや電気、ガスへの補助金など脱炭素に矛盾する取り組みも目立つ。国際社会から二枚舌とみられかねない状況だ。演説では、排出削減対策が未対応の石炭火力について新規の建設を終了することも表明した。既存施設については言及しなかった。世界の潮流は脱化石燃料だ。アンモニアや水素の混焼を使いながらも、石炭を燃やす量をできるだけ減らす姿勢を見せてほしい。日本は2013年度比でCO2を約20%削減した。30年度に46%という目標の半分近くで「さらに高みを目指す」という。しかし、各国の中央銀行や金融当局で構成する気候変動リスク等に係る金融当局ネットワークなどの分析によると、進捗状況は主要7カ国(G7)の中で最も遅れている。最新の空調機器や製造装置への更新、住宅への太陽光パネル設置、建物の断熱性向上など、まだできることは多い。脱炭素技術の普及も進めながら削減実績を積み上げることが重要になる。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77565030R10C24A1MM8000 (日経新聞 2024.1.11) ビル壁面で発電、生産3倍 カネカ 高性能電池、ガラスと一体 カネカはビル壁面などで使える建材と一体にした太陽光発電パネルの年間生産量を2030年までに現在の約3倍に増やす。都心部ではパネル設置場所が限られており、窓ガラスやビル壁面に潜在需要がある。建材一体型の普及により、現在の国内の太陽光発電能力に匹敵するとの試算もある。ビル群が都市発電所として電源の一翼を担う可能性がある。カネカは窓ガラスなどに使える建材一体型発電パネルを大成建設と共同開発した。自社開発した高性能の太陽電池をガラスに挟んで窓ガラスや外壁材として使える。兵庫県豊岡市の既存工場の生産能力を段階的に高める。新工場建設も視野に入れる。30年に現状の3倍となる年産30万平方メートル(東京ドーム6.4個に相当)に増やす。同社の太陽光パネルは住宅向けが中心で現状の売上高は100億円前後だ。カネカは大成建設との共同開発品以外にも複数の商品発売を計画しており、30年に建材一体型のパネルだけで現在のパネル全体と同等の100億円まで増やす考えだ。インドの調査会社IMARCによると世界の建材一体型太陽光の市場規模は28年までに22年比3倍近い548億米ドル(約8兆円)に達する見通しだ。太陽光パネルは中国メーカーが世界供給の7割を占める。国内勢はカネカや長州産業、シャープなどに限られるが建材一体型のような付加価値商品で先行する。太陽光発電協会(東京・港)によると、今後建材一体型太陽光発電が導入可 <能登半島地震で顕在化した地方の働き手不足> PS(2024年1月13日追加):石川県の馳知事が、*4-1-1のように、「(能登半島地震の復興に)数兆円規模の補正予算の編成を1カ月以内にお願いしたい」と述べられたそうだが、国民は東日本大震災の復興特別税を2013年から2037年までの25年間も所得税に2.1%加算して支払っており、負担に感じている。そして、そもそも復興とは、既得権のように四半世紀も続けるものではなく、10年以内に2度と同じことが起きない形で行なうべきものである。そのため、*4-1-2の仮設住宅建設も、何度も同じことを繰り返して避難しなくてすむよう、津波や激しい地震が発生する地域は避けるのが税金を払っている国民に対するマナーであろう。そして、今後、同じことを繰り返した場合には2度と補助せず、財源は今後起こる震災まで含めて復興税もしくは一般税から出すようにすべきである。 なお、*4-1-3のように、石川県はじめ日本各地により安全で人口の減っている地域は少なくないため、金沢・加賀・輪島等が大切であったとしても、“復旧”として同じ場所に同じものを作る必要はなく、これを機会に都市計画をしっかりやるべきだ。また、インフラは全国で老朽化が進み、適切な修繕や補修をしないと災害時のリスクも高まるのは事実だが、本来は普段から補修・代替等をしているべきなのである。予算や人手の足りない市区町村では修繕が必要な橋梁の6割が未着手で、地方のインフラ対策は急務だそうで、その理由は、①高齢化で社会保障費が膨らみ公共事業に回す余裕がない ②市町村全体の25%にあたる437市町村でインフラ整備にあたる技術系職員を1人も確保できていない ③土木部門の職員数の減少率は市町村全体の職員数の減少率より大きい ④専門知識のない事務職員が対応して外部委託費等でコストがかさむ 等と説明されているが、これは自治体の規模・職員の採用方針・給与体系に問題がありそうだ。 確かに能登半島地震を見ても、避難者には高齢者の割合が高く、ガザ地区で避難している人に子どもの割合が高いのと対照的である。しかし、これは50年も前から生じていた現象で、居住地の仕事・子育て環境が日本の若者にとって魅力的でなかったことによって生じたものである。そのため、その張本人であるドメドメした(domestic:国内しか見ていないこと)おじいさんたちの提言を基に、*4-2-2のように、i)人口動態の基調が変わらない限り、1億2400万人の日本の人口は2100年に6300万人に半減する ii)人口が急激に減ると社会や経済は縮小と撤退を強いられる iii)高齢化率が4割で高止まりする超高齢社会が続いて格差と対立が深刻化する iv)インフラやサービスの機能停止で地方社会は消滅の危機になる v)提言はこうした縮小と停滞を避けるため人口減のペースを緩和させ、8000万人の規模で安定させる必要性を訴えた vi)外国人労働者の受け入れは高技能者に絞る vii)2060年までに合計特殊出生率2.07の必要がある viii)2040年頃までに出生率1.6、2050年頃までには1.8に上昇することが望ましい ix)出生率1.26の日本にとって容易ではないが、決して不可能ではない筈で、政府は提言も参考に戦略を作って欲しい x)子どもを持つか否かは個人の選択で、目標が独り歩きして出産を強要するような風潮が生まれないようにするのは当然 等と言っても、内容に筋の通らないことが多いのである。 具体的には、i)は誤りだ。何故なら、生物は直線的に増えたり減ったりするものではなく、ゆとりが増えれば増加したり、減少速度が落ちたりするものだからだ。そのため、ix)のように、出生率1.26である現在の日本は、人の住んでいる場所が混み合いすぎてゆとりがない結果が出ているとも言える。そのため、ii)も誤りで、iii)の「超高齢社会が続くと対立する」というのは、高齢者福祉と少子化対策を二項対立させることによって政府やメディアが作ったものにすぎない。そして、これまで書いてきたとおり、高齢化が格差や対立の原因ではないし、iv)の過疎状態とvi)の外国人労働者受け入れ拒否は、日本における働き手不足の解決や地球の人口爆発と矛盾している。さらに、家畜ではあるまいし、v) vii) viii)のように、人為的に出生率をコントロールすることなどできないし、やるべきでもない。そして、x)はそのとおりだが、記事の論調全体が外国人労働者や移民を廃した上で、日本国民の出産を強要しているのである。 それに対し、*4-2-1のOECDの提言は、人口減の日本で働き手を確保するために、定年廃止、同一労働・同一賃金の徹底、年金の受給開始年齢引き上げ、就労控えを招く税制の見直し等により、高齢者や女性の雇用を促すよう訴えており、働く能力や意欲や価値観が生物年齢や性別によって画一的であるわけではないことから、全く尤もである。 *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77563200Q4A110C2EP0000 (日経新聞 2024.1.11) 石川知事、能登地震で補正数兆円要請 政府に 石川県の馳浩知事は10日の年頭記者会見で、能登半島地震からの復興のため政府に「数兆円規模の補正予算の編成を1カ月以内にお願いしたい」と述べた。能登はアクセスが脆弱な半島で、高齢化率が5割を超える地域もある。「こうした要件も踏まえた補正予算をお願いしたい」と訴えた。3月16日には北陸新幹線の敦賀延伸が控える。「金沢や加賀の観光地、人の交流を絶やすことは考えていない。こうした経済活動を通じても石川県を、能登を支えてほしい」と話した。 *4-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15837104.html (朝日新聞 2024年1月13日) 津波は怖い、でも適地がない 仮設着工、くらし再建のジレンマ 能登地震 能登半島地震の石川県内の被災地で、生活再建に向けた第一歩として、仮設住宅の建設が始まった。建設用地は津波の浸水想定区域に含まれるものの、県は適地がないとして着工。避難生活のいち早い解消のため、災害リスクのある場所に住み続けざるを得ないジレンマが生じている。珠洲市にある小学校2校のグラウンドで12日、仮設住宅の建設位置を決めるため、杭を打ち込むなどの作業があった。市内では計65戸が1~2カ月後の完成めざして着工されたが、水道や電気をいつ通せるか分からず、入居時期は未定だ。この日、輪島市内でも2カ所で計50戸の建設がスタート。2月上旬以降に完成する見通しで、75歳以上の高齢者や障害のある人を優先して入居させるという。ただ、珠洲市は2カ所とも、輪島市では1カ所が、市のハザードマップで津波の浸水想定区域に入っている。建設する県は11日、「両市とリスクについて相談している」と説明。「浸水区域を避けるとなると実際に土地がない。警戒・避難の体制を充実させるなどの対策を講じる」として着工を決めた。仮設住宅が建設される珠洲市の正院小学校に避難している男性(77)は、1人で暮らしていた自宅が倒壊した。「仮設に入れてもらわんと困るわ。津波は怖い。でも、入れてもらえるだけありがたい」と話す。一方、県内17市町では、建設型の仮設住宅とは別に、自治体が民間の賃貸住宅を最大2年間借り上げて提供する「みなし仮設住宅」の入居希望者の受け付けも始まっている。住宅の再建支援に必要な罹災(りさい)証明書の申請受け付けは、すでに始まっている。珠洲市では9日に罹災証明書の申請受け付けが始まると、住民が朝から列を作った。同市若山町に住む谷内田進さん(65)は、自宅が地震で大きく傾き住めなくなった。「住み慣れた土地を離れたくはない。再建に時間はかかるが、できるだけ早く罹災証明書を発行してほしい」と話す。市によると、市内にある約6千世帯のほぼすべてから罹災証明書の申請があると見込まれ、住民からの申請を待たずに、全世帯を対象に調査を実施する方針だ。輪島朝市で大規模火災が発生した輪島市では、すでに罹災証明書の申請受け付けを始めており、全世帯を対象にした調査に近く着手する。ただ、罹災証明書をいつ発行できるかめどは立っていない。市税務課の担当者は「できる限り早く発行したいが、調査を始めても1カ月ですべて終わらせるのは難しいのではないか」と明かす。被災者の生活再建は、住まいに大きく左右される。早急な住まいの再建のため、自治体はどうすればいいのか。関西大の山崎栄一教授(災害法制)は「被災者生活再建支援制度に基づく最大300万円の支援金に加え、復興基金などを生かし、自治体独自の施策として支援金を出すべきだ」と語った。(小島弘之、宮島昌英、岩本修弥、寺沢知海) ■福祉避難所、開設進まず 高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、難病患者、医療的ケアを必要とする人など特に配慮が必要な人のための「福祉避難所」の開設が進まず、過酷な状態に置かれている。施設が損壊、人手も物資も足りないのが原因で厳しい状況が続く。朝日新聞の調べでは、福祉避難所の開設数(12日現在)は、石川県七尾市3(予定数は24)▽輪島市4(25)▽珠洲市0(7)▽志賀町2(8)▽穴水町1(3)▽能登町2(5)で、予定の2割弱だ。輪島市は福祉避難所を設置する協定を市内25の高齢者施設などと結び、施設の一部に受け入れる計画を立てていた。また、職員不足の時は他事業所からの派遣などで対応するとしていた。特別養護老人ホーム「あかかみ」も協定を結んだ施設の一つ。人員不足で福祉避難所の開設は難しいと判断した。もともとの利用者が95人。職員約120人も被災し、勤務できるのは70人ほど。それでも、認知症といった事情がある高齢者22人を受け入れた。ほかにも十数人から希望があるが、断らざるを得ない。施設長の森下進さんは「家族らが受け入れ先を探しているが、どこも厳しい」と話す。北陸学院大の田中純一教授(災害社会学)は「平時から少ない職員数でぎりぎりの対応をしている地域。一刻も早く国が広域連携体制をとるべきでスピードの鈍さは否めない」と話す。 ■高齢者400人、移送へ 石川県内外の病院や施設に 能登半島地震で被災した高齢者施設をめぐり、厚生労働省は12日、石川県の4市町の入所者400人以上を県内外の病院や他の施設に移送する計画だと明らかにした。同県のほか、愛知、富山両県への搬送を予定。断水の長期化などで災害関連死の懸念が高まる中、大規模な避難を進める。移送を計画しているのは、石川県輪島市、珠洲市、七尾市、穴水町の10施設で、特別養護老人ホームや有料老人ホーム、認知症グループホームなど。同県2市町の障害者施設でも、二つのグループホームから17人が避難を予定している。400人以上のうち、すでに200人以上の高齢者は自衛隊や災害派遣医療チーム「DMAT」が搬送を終えた。同省によると、移送予定人数は11日夜時点の集計という。 *4-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77562860Q4A110C2EP0000 (日経新聞 2024.1.11) 老いるインフラ、地方で放置深刻、修繕必要な橋、6割未着手 脆弱な予算・職員響く 能登半島地震は道路やダムなどの施設に大きな打撃を与えた。インフラは全国的に老朽化が進み、適切な修繕や補修をしないと災害時のリスクも高まる。予算や人手が足りない市区町村では修繕が必要な橋梁のうち6割が未着手で、地方のインフラ対策は急務だ。国土交通省によると、地震の影響により石川県と富山県を結ぶ幹線の能越自動車道で崩落や段差などが生じて3区間が通行止めとなった。国道も9日時点で、富山や新潟など3県の4路線29区間で路面が陥没するなどして通行が再開されていない。車が走行できずに物流網が寸断され、孤立状態になる地区が相次ぐ。河川やダムにも被害が及んだ。新潟や富山など4県が管理する河川では43水系72河川で護岸の損傷や堤防のひび割れなどが確認された。石川県のダム2カ所も損傷した。大規模な地震で地盤ごと崩れれば新しいインフラでも被害は免れないが、老いた施設ほど危険なことに変わりはない。国交省の調べでは、2040年に建設から半世紀以上が経過する施設は橋梁で75%、港湾で66%、トンネルで53%に上る。インフラは建設後50年が寿命とされる。東洋大の根本祐二教授は「適切な時期に修繕や補修などを実施しなければ、災害リスクが高まる恐れがある」と警告する。とりわけ地方のインフラに危機が忍び寄る。全国点検で修繕が必要と判断されたにもかかわらず、着手できずに放置された施設が多く残るためだ。全国の道路や橋などでは5年に1度の点検が義務化されている。国交省が23年末にまとめた調査によると、政令指定都市を除く市区町村が管理する施設のうち橋梁の60.8%、トンネルの47.4%は修繕していなかった。国管理で未着手なのは橋梁だと37.7%、トンネルだと31.5%で、地方の取り組みの遅れが目立つ。海岸や港湾の一部施設も同じ傾向にある。市区町村の堤防・護岸などで修繕に未着手の割合は85.9%で、国管理の78.4%を上回る。道路施設ほどの開きはないものの、深刻な状況だ。地方自治体で必要な予算や職員を確保できず、インフラを維持管理する体制が脆弱になっていることが背景にある。総務省によると、市町村の歳出で道路や橋などの整備に充てる土木費は21年度に6兆5000億円程度で、ピーク時の1993年度から43%減った。高齢化で社会保障費が膨らみ公共事業に回す余裕がなくなっている。インフラ整備にあたる技術系職員も不足したままだ。市町村のうち全体の25%に相当する437市町村は1人も確保できていない。土木部門の職員数の減少率は市町村全体の職員数の減少よりも大きい。広島県の安芸太田町は技術系職員が数十年にわたりいない。担当者は「募集はしているが応募がない」と話す。専門知識がない事務職員が対応せざるを得なく、外部委託費などでコストがかさんでいるという。政府はインフラの損傷が生じてから手を打つのではなく、その前に修繕する「予防保全」への転換を急いでいる。国交省が所管するインフラを予防保全した場合、2048年度の維持管理・更新費は、事後対応より5割ほど縮減できる見込みだ。公共事業で整備するインフラは学校や公営住宅などの公共施設と、道路や橋などの土木施設が半分ずつを占める。東洋大の根本教授は、公共施設は機能集約や統廃合で予算を削減できると主張する。一方で代替できない土木施設は「財源に余裕あるのならしっかり手当てしていく必要がある」と指摘する。 *4-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240112&ng=DGKKZO77599940S4A110C2EA2000 (日経新聞 2024.1.12) OECD、日本に定年制廃止提言 働き手確保へ女性活躍を 経済協力開発機構(OECD)は11日、2年に1度の対日経済審査の報告書を公表した。人口が減る日本で働き手を確保するための改革案を提言した。定年の廃止や就労控えを招く税制の見直しで、高齢者や女性の雇用を促すよう訴えた。成長維持に向け、現実を直視した対応が求められる。日本の就業者数は今後、急速に細る。OECDは23年に外国人も含めて6600万人程度と推計した。出生率が足元の水準に近い1.3が続けば、2100年に3200万人に半減する。OECDは高齢者や女性、外国人の就労底上げなどの改革案を実現すれば出生率が1.3でも2100年に4100万人の働き手を確保できると見込む。出生率を政府が目標とする1.8まで改善できれば5200万人超を維持できるという。高齢者向けの具体策では、定年の廃止や同一労働・同一賃金の徹底、年金の受給開始年齢の引き上げを提示した。OECD加盟38カ国のうち、日本と韓国だけが60歳での定年を企業に容認している。米国や欧州の一部は定年を年齢差別として認めていない。日本で定年制が定着した背景には、年功序列や終身雇用を前提とするメンバーシップ型雇用がある。企業は働き手を囲い込むのと引き換えに暗黙の長期雇用を約束することで、一定年齢での定年で世代交代を迫った。職務内容で給与が決まる「ジョブ型雇用」は導入企業が増える傾向にある。岸田文雄首相は23年10月の新しい資本主義実現会議で「ジョブ型雇用の導入などにより、定年制度を廃止した企業も出てきている」と述べた。OECDは年功序列からの脱却などを指摘するが、大企業を中心にメンバーシップ型の雇用は根強い。マティアス・コーマン事務総長は11日の都内での記者会見で「働き続ける意欲が定年制で失われている」と強調した。政府の新しい資本主義実現会議では、高齢者がスキルに見合った待遇を受けられることも念頭に、ジョブ型導入の事例集の作成を急いでいる。定年制の抜本的な見直しについては、政府の公の議論の俎上(そじょう)には載っていない。厚生労働省の22年の調査によると、日本企業の94%が定年を設けている。うち7割が60歳定年だ。政府は65歳までの雇用確保を義務づけ、21年度からは70歳までの就業機会の提供を努力義務にした。パーソル総合研究所の21年の調査では70歳以上まで働き続けたいと希望する60代従業員は4割以上おり、就労意欲がある。働き方が変わる中で、定年の仕組みをどうしていくかの議論が重要な局面になりつつある。報告書は、公的年金を支給する年齢水準についても平均寿命の延びに追いついていないと主張した。現在は65歳となっている標準的な受給開始年齢の引き上げを求めた。同一労働・同一賃金の徹底で、正規と非正規の労働者の待遇格差をなくすことにも言及した。女性の就労促進では年収が一定額を超えると手取りが減る「年収の壁」をなくすよう提起した。女性の働き手に占める非正規の割合は5割と、男性の2割に比べて高い。第3号被保険者や社会保険料控除など、女性の就業調整につながる税制などの抜本的な見直し案を示した。外国人労働者の誘致では差別防止や、高い技能をもつ外国人労働者の配偶者が日本で就労しやすくすることを提案した。働き手の減少は日本の経済力の衰えに直結し、社会保障の維持もいっそう難しくなる。政府や企業は問題を真摯に受け止めて早急に対応する必要がある。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77563480Q4A110C2EA1000 (日経新聞社説 2024.1.11) 人口危機に立ち向かう戦略策定を急げ 岸田文雄政権は問題提起をしっかり受け止め、すみやかに行動に移すべきだろう。民間有志による人口戦略会議が公表した人口危機に関する提言のことである。三村明夫・前日本商工会議所会頭を議長とする同会議には、経済界、労働界、学識者などの有志28人が参加。人口減が進むなかで持続可能な社会をつくるための提言をまとめ、2100年を見据えた長期的な国家戦略の策定と推進を首相に求めた。人口動態の基調が変わらない限り、1億2400万人いる日本の人口は2100年には6300万人に半減すると推計されている。あまりにも急激な人口減少に直面する社会や経済、地域がはたして持続可能なのか、多くの国民が不安を抱いているはずだ。ところが今の日本は危機に正面から向き合っていない。人口危機への対策を総合的に議論する場すら政府や国会に存在しないのだ。人口が急激かつ止めどなく減り続けると、社会や経済はひたすら縮小と撤退を強いられる。高齢化率が4割で高止まりする超高齢社会が続き、格差と対立が深刻化。インフラやサービスの機能停止で地方社会は消滅の危機に陥る。提言はこうした縮小と停滞を避けるため、人口減のペースを緩和させ、8000万人の規模で安定させる必要性を訴えた。外国人労働者の受け入れは高技能者に絞りつつ、経済全体の生産性を高める改革によって、2050~2100年に年率0.9%程度の実質国内総生産(GDP)成長率を維持する想定だ。実現するには60年までに合計特殊出生率が2.07に到達する必要がある。そのためには40年ごろまでに出生率が1.6、50年ごろまでに1.8に上昇することが望ましいと分析している。出生率1.26の日本にとって容易ではないが、決して不可能ではないはずだ。政府は提言も参考に戦略をつくってほしい。子どもを持つかは個人の選択であり、目標が独り歩きして出産を強要するような風潮が生まれないようにするのは当然のことだ。人口危機に立ち向かう戦略は政官民が問題意識を共有して、長期間にわたって粘り強く推進する必要がある。政府は戦略の立案・推進体制を整え、国会議員は政争の具とせずに超党派で法制化するべきだ。民間や地域も含め、国民的な議論を深めるときだ。 <活断層の長期評価と住民の安全> PS(2024/1/18追加):*5-1は、①M7.6の能登半島地震の震源となった断層は未知のものではなく、政府有識者検討会が2014年に公表した活断層だった ②政府の地震調査委員会もこの断層を把握していたが、「長期評価」をせず広く周知されていなかった ③少なくとも異なる三つの断層がずれ動き、既知の活断層がずれて周辺の地盤が破壊された可能性が高い ④能登半島沖は産業技術総合研究所の調査で珠洲沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた ⑤政府の地震調査委は「調査には時間が必要」とする ⑥能登半島地震が既知の海底活断層で起きたのなら、地震調査委員会は存在を把握しながら危険性を地域住民に伝えていなかった としている。 このうち①②③は、M7.6の能登半島地震が起きた後で、「政府有識者検討会が2014年に公表した活断層だった」「地震調査委員会もこの断層を把握していたが、『長期評価』をせず広く周知させていなかった」などとしている点が、危機管理の基本(最悪の事態に備えること)を忘れている。また、⑤⑥について、政府の地震調査委は「調査には時間が必要」ともしているが、阪神大震災から29年も経っているのに海底活断層が未調査(安全であることも確認されていない)というのは悠長すぎ、未調査なら最悪の事態に備えて原発立地や使用済核燃料の保管も止めるべきだ。その上、④については、「産業技術総合研究所の調査で珠洲沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた」としているが、*5-4のように、志賀原発は能登半島地震で、i)使用済核燃料プールの水がこぼれた(激しい地震で燃料プールの水がこぼれるのは自然だが、プールに罅は入っていないか?) ii)冷却ポンプも一時止まった iii)外部電源を受ける変圧器が損傷して油が漏れた iv)周辺に自治体や国が設けた放射線量測定設備の一部でデータが送れなくなった v)北陸電力は、地震による津波の影響を「敷地内に海水を引き込んでいる水槽の水位変動は確認できなかった」としていたが、実際には約3メートル上昇していた vi)変圧器から漏れた油の量も最初の発表の5倍以上だった vii)2016年に有識者会合が「敷地内の断層は活断層と解釈するのが合理的」と評価したが、北電の反論で原子力規制委員会が同社の見解を認めていた などの事実があり、北電は活断層や地震・津波のリスクをできるだけ小さく見せようとしていることがわかるのだ。そして、これは、確かに全国の原発に共通する問題である。 また、*5-2は、⑥政府や石川県は、能登半島地震で震源となった海底活断層を地震動の予測に反映していなかった ⑦海底活断層の影響は他の地域でも殆ど反映されていない ⑧能登半島の北の海底を沿うように走る「F43」「F42」を含む海底活断層は、国土交通省が東日本大震災を受けて平成26年にまとめた報告書等に取り上げられ津波のリスク想定に活用されてきたが、政府の地震調査委員会の「地震動予測地図」には加味されなかった ⑨海底活断層は「陸上に強い揺れをもたらすものではない」というイメージが一部にあり、従来の予測に殆ど反映されなかった ⑩周辺の海底活断層が予測に反映されていないケースは他にもあり、例えば新潟県・佐渡も周辺に海底活断層が集中しているが、地震調査委の長期評価の対象になっておらず、地震動予測にも反映されていない としているが、⑥~⑩のように、海底活断層は地震動の予測に反映せず、国土交通省が東日本大震災後の報告書で津波のリスク想定に活用しても政府の地震調査委は「地震動予測地図」には加味しなかったというのは、非科学的である上、根拠もなく住民を安心させ、何の準備もしていなかった点で、故意か業務上過失致死罪にあたりそうだ。そのため、こういうところも厳しくすべきである。 さらに、*5-3は、⑪能登半島地震は半島沖の活断層によって引き起こされた ⑫活断層は1995年の阪神大震災で広く知られるようになり、政府の地震調査研究推進本部ができるなど調査・研究体制の整備が進んだ ⑬海域の活断層が起こす地震の切迫度等に関する評価は陸域の後回しとなり、警戒感が高まらないうちに今回の地震が起きた ⑭能登半島沖の活断層は2007年の能登半島地震を機に調査が進み、複数の断層が計100km以上にわたって延びているとの研究成果もあったが、「長期評価」は陸域の活断層から進めて海域はわずかで順番にやっている最中だった ⑮海域の活断層の評価は2022年に公表した日本海南西部(九州、中国地方の北方沖)のみ ⑯地震本部が公表した2020年から30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した「地震動予測地図」では、関東から四国地方にかけての太平洋側が26%以上で能登半島は3%程度 ⑰(作成時に)能登半島沖に活断層があるという情報が入っていないので結果的に評価が低くなった可能性 等としている。 このうち、⑪⑫は事実だろうが、⑬は根拠もなく「海域の活断層が起こす地震の切迫度は低い」としている点で非科学的すぎる。また、⑭の「順番にやっている最中だった」というのも、能登半島の地震の「2018年頃から地殻内地震が増加傾向、2020年12月から地震活動が活発化、2023年5月頃からさらに活発化、2024年1月1日のM7.6の地震」という経過から見て、優先順位が高かった筈だし、評価順や評価速度に関するアドバイスをするのも地震学者の責任であろう。さらに、⑯の地震本部が公表した「地震動予測地図」では、関東から四国地方にかけての太平洋側が26%以上で能登半島は3%程度であり、⑰のように、作成時に能登半島沖に活断層があるという情報が入っていなかったというのは不完全すぎる。そのため、⑮の2022年公表の日本海南西部海域活断層評価も、意図的に不完全なのではないかと思われるわけである。 ![]() ![]() ![]() 国土地理院 2022.3.25地震本部 2024.1.15産経新聞 (図の説明:ユーラシア大陸の一部だった日本列島が大陸から切り離されて日本海ができ、瀬戸内海もできていった経緯を考えれば、海底にも無数の断層があり、その断層が陸地の断層と同じく火山や地震の源となることは容易に想像できる。そして、現在も、日本列島は、左図のように、時々刻々と動いているため、歪みの溜まった地域で歪みが修正される際に地震が起こるのだ。そのような中、中央の図の日本海側の活断層は異常に少なく表示されている上、四国電力伊方原発付近の断層は説明書きで見えない。さらに、右図のように、海底の活断層が起こす地震のリスクが無視されていたのは、地球表面のでき方に関する活きた研究材料が身近にあるにもかかわらず、非科学的すぎる) *5-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/302805 (東京新聞 2024年1月15日) M7.6は「想定されていた」 能登半島地震の活断層は「未知」でもなかった? 周知や対策は 最大震度7、マグニチュード(M)7.6を観測した能登半島地震。震源となった断層(震源断層)は未知のものではなく、政府の有識者検討会が2014年に公表した活断層だったとの見方が専門家の間で有力になってきた。政府の地震調査委員会もこの断層を把握していたが、地震の切迫度などを調べる「長期評価」をしておらず、広く周知されていなかった。 *長期評価 活断層で発生する地震やプレートの境界で起きる海溝型地震を対象に、地震の規模や「30年以内に何%」といった発生確率を予測。政府の地震調査委員会が検討し、現在114の主要活断層や6地域の海溝型地震などについて発表している。南海トラフ地震だけ他の地震と確率を出す計算方法が異なり、地震学者らから「水増し」の問題が指摘されている。 ◆政府の地震調査委「調査に時間が必要」 「99%、調べていた断層が動いたと言える」。今回の地震について、東北大の遠田(とおだ)晋次教授(地震地質学)は語る。筑波大の八木勇治教授(地震学)も地震計のデータ解析から「少なくとも異なる三つの断層がずれ動いた。既知の活断層がずれて、周辺の地盤が破壊された可能性が高い」と話す。地震調査委は震源断層は約150キロとするが、既知の断層だったかは「調査に時間が必要」としている。能登半島沖は、産業技術総合研究所の調査で珠洲(すず)沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた。 ◆地震起きたら「M7.6になる」との想定が現実に 政府の有識者検討会は13〜14年、日本海側全体の海底活断層を調査。海底地形のデータなどから60カ所について、活断層が動いた場合に起こる地震や津波の程度を予測する「断層モデル」をつくり、公表した。今回の震源域には「F42」「F43」という断層モデルがあり、1日の本震後に起きた余震の震源域とほぼ重なる。検討会は、F43で地震が起きた場合はM7.6になると想定していた。地震調査委が発表する主要な活断層の「長期評価」は当初、陸域の活断層に限っていた。17年からは海底活断層も加えて調査している。評価を終えたのは九州・中国地方北方沖のみ。能登半島沖は評価に向けた検討が始まったばかりで、強い地震に遭う確率を色別で示した「全国地震動予測地図」に反映されていない。地震調査委の平田直(なおし)委員長は2日の会見で「もう少し早くに(海域の活断層の)評価をやるべきだった。残念だ」と語っていた。 ◆記者解説 住民にとっては「ノーマーク」再び 政府の地震調査委員会が所属する地震調査研究推進本部は、1995年の阪神淡路大震災の反省から設けられた。神戸周辺の活断層の存在は専門家の間では知られ、地震が懸念されていたが、地元自治体の対策が不十分で、住民にも危険性が伝わっていなかった。能登半島地震が既知の海底活断層で起きたとすれば、調査委は存在を把握しながらも、危険性を地域住民にしっかり知らせることができておらず、反省が生かされたとはいいがたい。日本の沿岸全体で海底活断層の評価が終わるまでには、まだまだ時間がかかる。その間は調査委の情報として周知されず、住民にとっても「ノーマーク」となるリスクをはらむ。調査委が中間評価という形でも、どこに活断層があるかを広く知らせることは急務だ。 *5-2:https://www.sankei.com/article/20240115-XDJ3IXFKTZIGBPAZ5MKBVXJSBM/ (産経新聞 2024/1/15) 見過ごされた海底活断層「F43」のリスク 同種地震の予測にも課題 最大震度7の強い揺れが観測された能登半島地震で震源となったとみられる2本の海底活断層について、政府や石川県が地震動(地震による強い揺れ)の予測に反映していなかったことが15日、分かった。県の被害想定や対策にも影響した可能性がある。海底活断層の影響は他の地域でもほとんど反映されておらず、専門家は早急な対応を求めている。《冬の夕刻、能登半島北方沖を震源とした地震が発生する》。石川県の「地域防災計画」に挙げられた大地震のシナリオの一つは、今回の地震とよく似ている。だが、被害の想定は実際よりもかなり小さい。県は「ごく局地的な災害」として、死者7人、負傷者数211人と予測していたが、実際の能登半島地震では15日時点で222人の死亡が確認され、千人以上が負傷した。東北大災害科学国際研究所の遠田晋次教授によると、この想定には、実際に震源になったとみられる海底活断層が考慮されていなかった。能登半島の北の海底を沿うように走る「F43」「F42」と呼ばれる2本の海底活断層。F43を震源とする地震は、事前に予想された規模もマグニチュード7・6と、今回の地震におおむね合致する。これら2本を含む海底活断層は、国土交通省が東日本大震災を受けて平成26年にまとめた報告書などに取り上げられ、津波のリスク想定に活用されてきた。だが、全国の地震による揺れを予測・分析する政府の地震調査委員会の「地震動予測地図」には加味されなかった。海底の活断層については、「陸上に強い揺れをもたらすものではない、というイメージが一部にあった」(遠田氏)といい、従来の予測にはほとんど反映されてこなかったという。周辺の海底活断層が予測に反映されていないケースはほかにもある。例えば新潟県・佐渡も周辺に海底活断層が集中しているが、地震調査委の長期評価の対象になっておらず、地震動予測にも反映されていない。遠田氏は「このままでは、同じことがまた起きてしまう。早急に取り組むべきだ」と指摘する。地震調査委は平成29年4月、海底の活断層について将来の地震発生確率を評価するための分科会を設置。令和4年、日本海南西部(九州・中国地方沖)側の海域活断層についての長期評価が公表された。だが、他の地域は未公表のままだ。産業技術総合研究所名誉リサーチャーの岡村行信氏によると、海底活断層は掘削による調査が難しく、活動周期や最終活動時期といった地震予測に必要な情報の信頼性が陸上の活断層に比べ落ちるといったハードルもある。ただ、岡村氏は「難しいが、不可能な話ではない。海底の活断層も当然、予測に組み込むべきだ」と強調した。 *5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1178396 (佐賀新聞 2024/1/17) 【活断層評価】阪神で注目も海域後回し、能登地震前、警戒高まらず 能登半島地震は、半島沖に延びる活断層によって引き起こされた。活断層は1995年の阪神大震災で一般に広く知られるようになり、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)ができるなど調査、研究体制の整備が進んだ。だが海域の活断層が起こす地震の切迫度などに関する評価は陸域の後回しとなり、警戒感が高まらないうちに今回の地震が起きた。専門家からは「後手に回った感は否めない。早急に進めなければ」との声も上がる。 ▽悔い 「ノーマークではなかったというところが、非常に悔いが残る」。政府の地震調査委員会のメンバーでもある西村卓也京都大教授(測地学)は、こう漏らした。能登半島沖の活断層は、2007年の能登半島地震を機に調査が進み、複数の断層が計100キロ以上にわたって延びているとの研究成果もあった。しかし、地震の規模や発生確率を予測する地震本部の「長期評価」は、陸域にある活断層の評価から進めており、海域の評価はわずかだ。西村氏は「研究者によっては(海域の活断層に)非常に問題意識を持っていたと思うが、順番にやっている最中だった」と話す。 ▽批判 都市直下で起きた地震で多くの被害を出した阪神大震災を機に、活断層の怖さが広まった。研究者は震災以前から活断層に注目していたものの、その危険性が住民に伝わっていなかった。予知に主眼を置いたそれまでの対策にも批判が集まり、調査研究を防災に生かすことを狙いに地震本部は発足した。地震本部はこれまで、主に陸域にある114カ所の「主要活断層帯」と、東日本大震災を引き起こした日本海溝沿いや南海トラフ、相模トラフなど各地の海溝型地震の長期評価を公表。一方、海域の活断層の評価は22年に公表した日本海南西部(九州、中国地方の北方沖)のみだ。 ▽先手 地震本部が公表している、2020年から30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した「地震動予測地図」。関東から四国地方にかけての太平洋側が26%以上となっているのに対し、能登半島は3%程度だ。「(作成時に)能登半島沖に活断層があるという情報が入っていないので結果的に評価が低くなった可能性がある」(西村氏)。東日本大震災を受け、プレート境界で起こる海溝型地震に目が向きがちだったと指摘する専門家もいる。日本海側の津波防災に向け、海域の活断層を評価した国土交通省の調査検討会は、能登半島沖に今回の震源とほぼ一致する活断層のモデルを想定していた。東北大の遠田晋次教授(地震地質学)は「津波想定としては良かったが、地震による揺れの予測に用いていなかったのは反省すべき点だ」と話す。遠田氏は「何かが起こるたびにそれが注目されるというのを繰り返している。自然は不意を突いてくるので、先手先手でやっていかなければならない」と強調。「新幹線の線路やビルの真下で活断層がずれることによる被害など、過去に起きたことがないことも想定して対策を検討しなければいけない」と警鐘を鳴らした。 *5-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15840955.html (朝日新聞社説 2024年1月18日) 地震と原発 幅広い視点で教訓導け 能登半島地震は、原子力防災にも多くの課題を突きつけた。電力会社や政府、自治体は幅広い視野で検証し、何が教訓か考える必要がある。北陸電力志賀原発では、使用済み燃料プールの水がこぼれ、冷却ポンプも一時止まった。外部電源を受ける変圧器が損傷し、油が漏れた。周辺に自治体や国が設けている放射線量の測定設備の一部は、データが送れなくなった。いずれも原因や影響を詳細に調べなければならない。地震による津波の影響について、北陸電力は当初、敷地内に海水を引き込んでいる水槽の「水位変動は確認できなかった」としていたが、約3メートル上昇していた。変圧器から漏れた油の量も最初の発表の5倍以上だった。相次ぐ訂正に、経済産業省から正確な情報発信を指示された。慎重になるあまり発表が遅れてはならないが、誤情報は住民に不安を与え、被害の過小評価は重大な結果を招きかねない。他の電力会社も含め、教訓にすべきだろう。志賀原発は、敷地内の断層の評価をめぐり、2号機の再稼働の審査が長引いている。2016年に有識者会合が「活断層と解釈するのが合理的」と評価したが、北陸電力が反論し、原子力規制委員会が昨年、同社の見解を認めたところだった。一方、規制委は10日に、今回の地震の知見を収集するよう原子力規制庁に指示した。地震の審査を担当する委員は「いくつかの断層が連動して動いている可能性がある。専門家の研究をフォローし、審査にいかす必要がある」と発言しており、丁寧な分析と検討が求められる。活断層や地震の連動、揺れの想定や施設への影響など、今回の地震が浮き彫りにした課題は、志賀原発にとどまらず全国の原発に多かれ少なかれ共通する。今回の震源の近くには、かつて珠洲原発の立地も検討されていた。教訓を引き出し、規制や防災に役立てなければならない。今回の地震では、道路の寸断による半島の孤立も改めて問題になった。四国電力伊方原発や東北電力女川原発なども半島にある。原発事故が起きた場合に、避難や救援を妨げかねない。家屋の激しい損壊状況をみれば、放射線を避けるための屋内避難もできない恐れがある。規制委は原子力災害対策指針の見直しを検討するというが、緊急対応や避難対策の課題を掘り下げてほしい。地震大国での原発のリスクが、改めてあらわになった。政府は、原発の活用に前のめりの姿勢を改めるべきだ。 <地盤隆起で漁港が消えても、土地の使い道はありそう> PS(2024年1月20日追加):*6-1・*6-2のように、能登半島地震による地盤隆起で輪島市の黒島漁港では漁港内の海水がなくなって海岸線が波消ブロックより沖に移動し、大沢漁港では水の引いた港内に漁船が残され、鹿磯漁港では約4mの隆起を確認するなど、石川県内の15港で隆起が確認され、能登半島周辺のこの6000年間で最大規模の隆起の可能性があって、海底の断層はもしかしたら6~7mのずれができているかもしれないのだそうだ。しかし、隆起すれば土地が増えるため、道路を4車線にできたり、海抜0m地帯で養殖(例:エビ・カニ・ウ二etc.)をできたりなど、復旧するよりもできた土地を利用した方が良いと思われる。漁港は海に面した先の方に造り直せばよいし、隆起の状況やそれに関する説明も観光資源になると思われる。 ![]() ![]() ![]() 2024.1.16LivedoorNews 2024.1.12TV朝日 2024.1.16Yahoo (図の説明:左図は、漁港が完全に陸地となった黒島漁港だが、できた空き地を利用して道路を4車線に拡幅したり、養殖池を作ったりできそうだ。中央の図は、約4mの隆起を確認した鹿磯漁港だが、漁船はひどく壊れているようには見えない。また、右図が能登半島における地面の隆起だが、能登半島はこのような隆起の繰り返しでできた半島なのだそうだ) *6-1:https://news.livedoor.com/article/detail/25709868/ (LivedoorNews 2024.1.16) 海が消えた漁港、沖に移動した海岸線 能登上空から見た地盤隆起 能登半島地震による地盤の隆起で、石川県輪島市や珠洲市の漁港に大きな被害が出ている。上空から輪島市門前町黒島町の海岸を見ると、黒島漁港の中には海水がなくなり、海岸線は消波ブロックよりも沖合にあった。同市大沢町の大沢漁港では、水の引いた港内に漁船が残されていた。県によると、15日現在で県内の8割を超える58の漁港に地震による被害が出ており、そのうち15港で隆起が確認されている。漁船172隻以上が転覆したり、海に流出したりした。 *6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/223644639f0d636fdbc26fb813a4880e305bcc8d (Yahoo、テレビ朝日 2024/1/16) 能登半島地震で起きた地面隆起 6000年間で最大か 能登半島地震で起きた地面の隆起が、能登半島周辺では、およそ6000年の間で最も大規模だった可能性があることが現地調査で分かりました。 ○産業技術総合研究所 地質調査総合センター 宍倉正展グループ長 「過去6000年間の3回と比べても今回の地震の4メートルという隆起は最も大きいものであった可能性があります」 産業技術総合研究所の宍倉正展グループ長らは、8日に、輪島市の鹿磯漁港で調査を行い、およそ4メートルの隆起を確認しました。地震が起きると浅い海底が隆起し、階段状の地形を作ります。去年までの調査で、輪島市の海岸ではおよそ6000年の間に出来たとみられる3段の階段状の地形が確認されていましたが、いずれも隆起の規模は2、3メートル程度でした。今回の地震でできた4段目の隆起量が最も大きい可能性があるということです。 ○産業技術総合研究所 地質調査総合センター 宍倉正展グループ長 「海岸の隆起という現象を30年余り研究してますけれども、非常に私も驚きました。沖合で海底の断層がもしかしたら(さらに大きい)6メートル7メートルといったずれができているのかもしれない。それが海岸に反映されると4メートルぐらいになってるのかもしれないと想像してますね」 宍倉氏は、今後も能登半島北岸の状況を確認して、今回の隆起の全体像を明らかにしたいとしています。 <政治資金規制法改革のポイント> PS(2024年1月21、22日追加):*7-1は、①派閥の政治資金収支報告書は専門職による監査制度の対象外 ②派閥の代表者に政治家が就く必要もない ③透明性を高めるルール見直しが必要 ④派閥は「その他の政治団体」に分類 ⑤「その他の政治団体」で会計ルールが最も厳格なのは国会議員関係政治団体で人件費を除く1万円超の経費の領収書提出が必要で、第三者の会計監査を受ける義務もある ⑥監査制度は2006~07年に発覚した「事務所費問題」を契機に2009年分国会議員の収支報告書から導入 ⑦(登録政治資金)監査人は公認会計士・税理士・弁護士といった専門職 ⑧政治家が代表を務める資金管理団体は次に厳格な収支報告を求められ、人件費を除く5万円以上の全ての経費について2008年分から領収書添付が義務 ⑨派閥の政治団体は収支報告書では5万円未満の経費の領収書提出は不要で、監査を受ける義務もない ⑩政治団体代表は政治家である必要がなく、安倍派と二階派は事務局職員が代表で会計責任者 ⑪政治資金規正法には収支報告書に不記載・虚偽記入といった問題があった場合、政治団体の代表者の責任を問う規定がある ⑫日大の岩井名誉教授は「トップに事務員を置けば政治家はさらに追及されにくくなる」と指摘 等としている。また、*7-2は、⑬自民党派閥の政治資金パーティー事件は、第三者が政治団体の収支を点検する体制の脆弱さを浮き彫りにした ⑭米英は一定の調査権限を持つ独立機関を抱えるが、日本では権限の弱い監査人による支出のチェックに留まる ⑮自民党刷新本部は、派閥の在り方と政治資金の透明化がテーマ ⑯2007年に「国会議員関係政治団体」として届けられた政治団体を第三者が監査する「登録政治資金監査人」制度が生まれたが、対象は国会議員が代表の政党支部や資金管理団体等に限られ、支出の整合性のチェックが主な業務で、収入のチェックは義務付けられていない ⑰米国は政治資金の流れを「連邦選挙委員会」と呼ばれる独立機関が監視し、政治資金収支報告書の提出後、48時間以内にインターネットで公表する ⑱神奈川大の大川教授は「監査対象の団体や項目を増やすとともに、中長期的には強い第三者性を帯びた組織を整えるべきだ」と話した としている。 論点をまとめると、①③④⑤⑥⑦⑧⑨⑪⑬⑭⑮⑯は、「政治資金収支報告書のうち監査対象となる範囲」で、現在は国会議員関係の政治団体だけが対象だが、公金の流れるところに監査は必要なのである。そのため、国会議員だけでなく、地方議員や派閥の政治資金収支報告書にも登録政治資金監査人の監査は必要だ。また、有効な監査をするには、網羅性・検証可能性のある複式簿記を用いた会計処理を行い、外部監査人が適正と判断すれば連帯責任を持つ方式にすべきで、そうすれば監査人は代表者に「虚偽記載はしていない」という確認書をもらうため、代表者は監査人にも責任を負うと同時に、適正意見を得ている限りは粗探しによるバッシングから守られる。つまり、改善に必要なのは、適切な会計基準と監査基準なのである。 また、②⑩のように、派閥の代表者に政治家が就いていない場合、代表者でも会計責任者でもなければ責任追及できないためよく考えたと思うが、⑫のように、「政治家の責任が軽すぎる」とか「連座制にすべき」という主張もある。ただ、私も公認会計士なので「83会」の会計責任者をしていたが、同じく公認会計士の政策秘書に任せて83会の会計は殆ど見ていない。一般の民間企業では、社長より経理部長の方が会計に詳しく、社長が経理ばかりしていれば会社は伸びないのと同様、代表が会計責任者より経理に詳しいわけではないため、不意を突くような非難や責任追及は避けるべきである。そのため、会計責任者が責任を持ち、登録政治資金監査人が政治家に虚偽記載の有無について確認書をとって注意喚起しながら監査をすればよいと思われる。 さらに、⑭⑰⑱は、「米英は一定の調査権限を持つ独立機関を抱え、日本では権限の弱い監査人による支出のチェックに留まる」「中長期的には強い第三者性を帯びた組織を整えるべきだ」としているが、外部監査人の権限は、会計基準と監査基準を変更すれば強くなる。むしろ、日本で政治家の監査だけを行なう独立機関を作れば、他の業種を知らずに政治の世界だけ見てきた監査人が殆どになるため、政治の世界の出来事が当たり前になって、会計検査院と同様、重要な異常性に気づかなくなるだろう。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2023.12.18読売新聞 2024.1.15静岡新聞 2012.2.13日経新聞 2017.6.2日経新聞 (図の説明:国会議員関係の政治団体は、1番左の図のように、提出前に公認会計士・税理士・弁護士等の登録監査人の監査を受けて政治資金収支報告書を提出する。しかし、左から2番目の図のように、網羅性・検証可能性のない単式簿記会計を使用し、かつ、収入は監査の対象外という状況であるため、複式簿記による会計を使用して通常の外部監査を行なえば総務省の調査は不要である。ただし、公表時期も、民間企業や他国と比較してあまりに遅い。なお、右から2番目の図のように、日本は人口100万人あたりの国会議員の数が少なく、1番右の図のように、議員1人あたりの公設秘書数も少ないため、議員1人あたりの公設秘書数を増やし、議員が「寄付集め」に翻弄されずに調査や政策立案に専念できる状態を作った方が国益のためになると思う) ![]() ![]() 2024.1.19静岡新聞 2023.12.13日テレ (図の説明:左図の政治資金規正法違反事件は、ノルマ超過分を環流したりプールしたりしたことが問題なのではなく、派閥と議員側がノルマ超過分を政治資金収支報告書に記載しなかったことが問題なのである。また、パーティー等で寄付を集めなければならない理由は、右図のように私設秘書の給料や政治活動費を捻出する必要があるからで、まるで金を横領しているかのように言って国会議員を叩いても、《理由を長くは書かないが》本当の民主主義は達成できない) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231226&ng=DGKKZO77259570V21C23A2CM0000 (日経新聞 2023.12.26) 派閥資金、報告制度に緩さ、会計、外部監査不要 代表は政治家に限らず 自民党派閥の政治資金規正法違反事件は、派閥の会計処理へ監視が届きにくく責任も曖昧な実態を浮き彫りにした。派閥の収支報告書は専門職による監査制度の対象外で、収支報告に一定の責任を負う代表者に政治家が就く必要もない。裏金づくりの慣例は長年表面化しなかった。透明性を高めるためのルール見直しが求められる。政治資金規正法は政治上の主張を行ったり、公職の候補者を支持したりする団体を政治団体と規定する。「政党・政党支部」、政党の資金援助を目的とする「政治資金団体」、「その他の政治団体」の3つに大別される。派閥は政策研究のためにつくられた集団という位置づけで、議員の後援会などと同様にその他の政治団体に分類される。ある議員秘書は「派閥団体は政治資金の処理を巡る規制があまり厳しくない部類に属する」と話す。その他の政治団体のうち、会計ルールが最も厳格なのは国会議員関係政治団体だ。代表者が議員だったり、特定候補者を支援したりする団体が該当する。人件費を除く1万円超の経費について領収書の提出が必要で、第三者の会計監査を受ける義務もある。監査制度は2006~07年に相次いで発覚した「事務所費問題」を契機に、国会議員との関わりの深い団体の資金の透明化を図る狙いで09年分の収支報告から導入された。監査人は一般的に、公認会計士や税理士といった専門職が務める。政治家が代表を務める資金管理団体は次いで厳格な収支報告を求められている。人件費を除く5万円以上の全ての経費について、08年分から領収書の添付が義務となった。資金管理団体の多くは国会議員関係政治団体にも重複して区分されている。派閥の政治団体は特定の議員とつながりが深いとはみなされず、いずれにも該当しない。収支報告では5万円未満の経費の領収書の提出は不要で、監査を受ける義務もない。収支報告の精密さと使途の公開を巡るルールは比較的緩い。派閥は領袖の名前を冠して安倍派(清和政策研究会)などと呼ばれる一方、政治団体の代表は必ずしも政治家である必要はない。家宅捜索を受けた安倍派と二階派(志帥会)の代表は事務局職員だ。2派閥では会計責任者も同じ人物が務めている。規正法には収支報告書に不記載・虚偽記入といった問題があった場合、政治団体の代表者の責任を問う規定がある。会計責任者の選任・監督で相当の注意を怠ったと認定されれば50万円以下の罰金が科される。代表者と会計責任者の兼務は法令上問題ない一方、代表者に選任・監督責任を問う条項は適用されない。日本大の岩井奉信名誉教授(政治学)は「代表者の責任を定めた規定は形骸化している。トップに事務員を置けば政治家はさらに追及されにくくなる」と指摘する。安倍派ではパーティー収入のノルマ超過分を議員に還流させ、派閥・議員側の収支報告書に記載しない運用が続いていた。裏金は18~22年の5年間に約5億円に上る。同派の裏金は東京地検特捜部の捜査を通じて初めて発覚した。規正法は「政治とカネ」の問題が起きるたびに改正を繰り返してきた。総務省によると、規制内容の修正を伴う改正は1990年代以降で8回あった。岩井名誉教授は「規正法は問題が起きるたび対症療法で改正を繰り返してきたが、『抜け道』はなお多い。改正にあたっては第三者機関を設けその意見を反映させるなど、外部の視点を取り入れた抜本的な見直しが必要だ」と話した。 *7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1177300 (佐賀新聞 2024/1/15) 【政治資金規正法】緩い監視体制、浮き彫りに、米英には独立の調査機関 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る事件は、第三者が政治団体の収支を点検する体制の脆弱さも浮き彫りにした。米英は一定の調査権限を持つ独立機関を抱えるが、日本では権限の弱い監査人による支出のチェックにとどまる。識者は監視の緩さを指摘し、欧米のような見張り役の必要性を訴える。 ▽抜け穴 「国民から疑念の目が注がれ、極めて深刻だ」。11日に自民党本部で開かれた「政治刷新本部」の初会合で、本部長を務める岸田文雄首相が危機感をあらわにした。刷新本部は派閥の在り方のルール策定を主要議題に据える。政治資金の透明化もテーマで(1)パーティー券購入者の公開基準を現行の「20万円超」から引き下げ(2)銀行振り込みの導入(3)違反者への厳罰化を見据えた政治資金規正法改正―といった案が浮上。ただ既に幅広い意見が混在し、着地点は見いだせない。野党からは「全く期待できない」「新たな抜け穴づくりをするだけ」と厳しい声が飛ぶ。 ▽片側 現行の規正法は、政治資金の流れを外部から把握できる仕組みが十分でない点も問題とされている。閣僚らによる不透明な事務所費問題を受け、2007年、「国会議員関係政治団体」として届けられた政治団体を第三者が監査する制度が生まれた。「登録政治資金監査人」と呼ばれる税理士や公認会計士が点検する仕組みだが、対象は国会議員が代表の政党支部や資金管理団体などに限られ、派閥は対象外。加えて、支出の整合性のチェックが主な業務で、収入のチェックまでは義務付けられていない。ある元衆院議員は「収入の不記載に気づくことができない。片側しかチェックしない、中途半端な制度だ」と批判する。 ▽網 米国では、政治資金の流れを「連邦選挙委員会」と呼ばれる独立機関が監視する。違法と疑われる行為が確認されれば、当事者への聴取や現地調査を通じて情報を収集。行政罰としての過料を科すこともできる。情報開示のスピードにも格段の差がある。日本では各年の政治資金収支報告書が翌年の秋に公開されるのが一般的だが、米国では提出を受けてから48時間以内にインターネットで公表される。国会図書館の資料などによると、英国では政府から独立した「選挙委員会」が政治資金の流れをチェックする。違法行為を察知した際には調査を実施。捜査機関への情報提供も認められている。神奈川大の大川千寿教授(政治学)は「日本の制度は緩い。監査対象の団体や項目を増やして網を広げるとともに、中長期的には強い第三者性を帯びた組織を整えるべきだ」と話した。 PS(2024年1月25日追加):*8-1は、①多くの被災者が避難所暮らしの中、政府は生活再建・インフラ復旧政策を纏めるが、過去の災害で巨額の公費が地域再生に直結しなかった例もある ②人口減時代の地震大国・日本の復興のあり方を探る ③政府の支援パッケージは、i)) 避難所などの環境改善や住まいの確保など生活再建 ii) 中小、農林業、観光業など生業再建 iii) インフラなどの災害復旧が柱 ④被害額は暫定2兆625億円で東日本大震災(16.9兆円)・阪神大震災(9.6兆円)に次ぐ ⑤国が巨額予算で復興を後押しして有効活用されたと言い難い事例は、東日本大震災後に計4600億円以上を投じた「土地区画整理事業」で津波被災の土地をかさ上げして整備したが、大規模工事に時間がかかり多くの人が故郷を離れて21市町村で28%に当たる282haの土地が未利用 ⑥「元通り」にした地域も人口減が止まらない ⑦国立社会保障・人口問題研究所の推計では2070年の日本の人口は8700万人で、災害前の姿を前提に復興を進めるべきか問われる としている。 ①②は⑦を考慮すれば尤もで、地震・津波・雪・豪雨災害の多い地域に住む人は、何度も被災したり、避難生活をしたりしなくてよいよう、安全な場所に引っ越した方がお互いのためである。また、④のように、災害が大きいため白紙の土地となり、復興にも巨額の予算を投じることができる場合は、国・地方自治体は「復旧(災害前の状態に戻すこと)」にこだわることなく、この機会に今後の土地利用計画を示し、将来に向けて模範的・合理的な工事を進めるべきで、そうすれば戻って来る人も、他の地域から移住してくる人も増える筈である。にもかかわらず、⑤の「土地区画整理事業」による津波被災地のかさ上げは、陸前高田市のかさ上げ地のように、かさ上げ高が襲った津波の高さに達しないため多額の金を投じても危険性は除去されず、大きな無駄使いになってしまったのだ。さらに、⑥のように、「元通り」にすれば危険性は全く除去できないため、戻る人が少なく人口減になるのは当然である。 また、*8-2は、⑧2020年7月の豪雨で実施された「なりわい再建支援事業」を基に中小企業の施設・設備の復旧に1件最大15億円補助する ⑨被災自治体の企業が対象で工場・店舗・生産機械等を復旧させる場合に費用の3/4を補助する ⑩輪島塗など地域の伝統産業の事業再開を後押しするため、災害支援枠を設けて需要開拓・新商品開発・人材育成に助成する ⑪アーケードや街路灯の復旧など商店街の再生も支援する ⑫観光支援は新潟県を含む北陸地方への宿泊費やツアー代金の一部を公費で負担する ⑬心のケアセンターを新設して近親者を亡くしたり、トラウマや孤独を抱えたりした人をケアし、仮設住宅に入居した人の見守り・相談支援にも取り組む ⑭住宅が被災した世帯を対象に最大300万円(全壊の場合)の被災者生活再建支援金を迅速に支給し、被災家屋の解体は半壊住宅も住民の自己負担ゼロで可能とする ⑮住まいの確保に、プレハブだけではなく居住性の高い木造の応急仮設住宅も建設する ⑯廃棄物処理施設の早期復旧に向けた支援や生活ごみ・し尿を離れた地域まで運んで処理する経費を支援 ⑰のと鉄道は国と事業者がバスによる代替輸送の調整をし、自治体が管理する道路・河川・漁港の復旧工事は要請に応じて国が代行 としている。 このうち⑧⑨の被災自治体の企業を対象とする「なりわい再建支援事業」は必要ではあるが、その補助要件を工場・店舗・生産機械等を“復旧”とすれば、生産性向上の機会を失う。また、⑩の輪島塗・加賀友禅等の伝統産業の事業再開も重要だが、現在の手仕事のままでは高価すぎる上に、食洗機対応ではなく、手入れも非常に大変だ。そのため、せっかく災害支援枠を設けるのなら生産性を向上させて問題解決もした方がよく、そのための機械や人材を導入すべきだ。 しかし、⑪のアーケードや街路灯の復旧など商店街の再生支援については、震災前には人出が多く、儲かっていた商店街なのだろうか。というのは、現在は日本全国の商店街が閑散としたシャッター街になっており、それには理由があるからで、その理由とは、共働き女性が増えれば駅近や駐車場付きのスーパーなど短時間で買い物ができる場所が便利であり、高齢者が多ければ即日配達してくれるスーパーが便利など、消費者のニーズが変わったからである。そのため、これも復旧ではなく、土地利用計画・都市計画あっての復興をすべきだ。また、⑫の観光支援についても、近場のホテルや旅館に二次避難所を作り、⑮のような作っては壊す仮設住宅建設は最小限に抑え、宿泊費やツアー代金の公費補助をなくした方が合理的だと思う。そうすれば、⑯⑰のように、基礎的インフラがずたずたで、食料や水にも乏しく、不衛生な場所に長期滞在する必要はなくなるからである。また、⑬の心のケアについては、将来の見通しが立って不安がなくなれば解決する実質的・物理的なものが多く、心の問題ではないと思われる。しかし、⑭の住宅が被災した世帯を対象に最大300万円(全壊の場合)の被災者生活再建支援金を迅速に支給し、被災家屋の解体は半壊住宅も住民の自己負担ゼロで可能とするのは必要かも知れないが、高齢者の割合が高いことを考えれば、再度、同じ場所に家を建てることは不可能で不合理だ。そのため、安全な場所に高齢者向きの集合住宅を建てて、現在所有している土地と交換するのがよいと思う。 これに加えて、*8-3は、⑮のように、「1月中に2023年度予算の一般予備費から1000億円を上回る規模の追加支出を閣議決定する」としている。能登半島地震は2023年度に起こった災害であるため、まず2023年度予算の一般予備費から支出するのは妥当だが、下の1番右の図のように、これまでの無駄使いで我が国の国債残高は次第に高くなり、対GDP比で主要国の2倍以上になっているものの、これ以上の負担贈・給付源は不可能であるため、災害であっても無駄遣いせず、将来に役立つ計画的な支出をしてもらいたい。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2024.1.25、2024.1.25、2024.1.9日経新聞 財務省 (図の説明:1番左の図のように、地域の災害リスクが明らかになった上に産業や住宅の再建が遅れれば、避難していた住民も帰還せず再建困難になるため、リスクを除去して新しい魅力を追加する街作りを迅速に行うべきである。そのため、金や時間の無駄使いをしている場合ではない。左から2番目の図で無駄使いになり易いのは仮設住宅と旅行者支援で、近隣の宿泊施設を二次避難場所にした方が合理的だ。また、「なりわい」も復旧するのではなく、時代の変化に適応した復興をさせなければその産業や地域の魅力が増さず、災害リスクを越えて帰還したり移住して来たりする人は減る。さらに、インフラも復旧ではなく、災害に適応した改善をすべきだ。しかし、財源は、右から2番目の図のように、2024年度も予備費を使うそうだが、その基には東日本大震災で不使用になった復興財源を充ててもらいたい。現在の日本の国債残高は、1番右の図のように、GDP比で飛び抜けて世界最悪で、これ以上の負担贈・給付減はできない状況だ) *8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240125&ng=DGKKZO77936350V20C24A1MM8000 (日経新聞 2024.1.25) 能登地震、人口減下の復興、生活再建など支援策まとまる 教訓生かしニーズ合致を 能登半島地震の復興が動き出す。多くの被災者がなお避難所暮らしを強いられる中、政府は生活再建やインフラ復旧の政策をまとめる。過去の災害では巨額の公費が地域再生に直結しなかった例もある。人口減時代の地震大国・日本で復興のあり方を探る。政府の能登半島地震支援(総合2面きょうのことば)のパッケージが25日、公表される。(1)生活再建(2)生業再建(3)災害復旧――が柱となる見通しだ。被害の全容は不明だが、野村総合研究所の木内登英氏は23日までの状況をもとに暫定的な被害額を2兆625億円と推計した。単純比較できないが東日本大震災(16.9兆円)や阪神大震災(9.6兆円)の政府試算に次ぐ規模となる。過去の震災で国は巨額予算で復興を後押しした。だが、すべてが有効活用されたとは言い難い。東日本大震災後に計4600億円以上を投じた「土地区画整理事業」。津波被災の土地をかさ上げして整備したが、大規模工事に時間がかかり多くの人が故郷を離れた。国土交通省の調べでは、21市町村で28%に当たる282ヘクタール、東京ドーム60個分の土地が未利用。住民ニーズと施策のズレが浮き彫りになった。「元通り」にした地域も人口減が止まらない。阪神大震災の神戸市長田区の人口集中地区は2010~20年で約7%減少。東日本大震災の宮城県気仙沼市は71%も減った。国立社会保障・人口問題研究所の推計で、70年に日本の人口は8700万人まで減る。過去の教訓を踏まえ、災害前の姿を前提に復興を進めるべきかが問われる。災害時は国や自治体の「公助」に加え、助け合う「共助」、当事者の「自助」も欠かせないが、平穏な暮らしを奪われた被災者にどこまで負担を求めるかは難しい。1998年に成立した被災者生活再建支援法は当初、住宅全壊世帯の「家財道具調達」に最大100万円を補助し、私有財産である個人の住宅再建は対象外だった。2007年の法改正で使途制限を廃止。補助枠も現在は最大300万円だ。納税者が減り、社会保障費がかさむ時代に公費頼みは限界がある。常葉大の重川希志依名誉教授(都市防災)は「手厚い公助は耐震化などの備えを阻害する面もある。まずは地震保険加入など自助を急ぐべきだ」と話す。米国では05年のハリケーン「カトリーナ」被害の際、民間から資金を集めた財団が約1万戸の住宅を再建・提供。寄付文化とも通底する「共助」の仕組みが注目された。「災害列島」と呼ばれる日本。想定される南海トラフ地震の経済被害額を国は最悪220兆円と推計する。兵庫県立大の井上寛康教授は「戦略的な備蓄や代替先の確保などの備えで供給網への打撃を抑え、経済被害を軽減できれば復興の負担も軽くなる」と訴える。 *8-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1181454 (佐賀新聞 2024/1/22) 中小企業復旧に最大15億円、能登地震支援の政府案 能登半島地震の被災地支援策をまとめた政府の政策パッケージ案が22日、判明した。中小企業の施設と設備の復旧に1件当たり最大15億円補助する方向だ。観光支援では新潟県を含む北陸地方への旅行費用の一部を補助する。被災者の心のケアに向けた取り組みも本格化する。地震発生から3週間。政府は週内にも正式に決定し、復旧・復興を加速させる。石川県によると、地震の死者は22日午後2時時点で233人が確認された。安否不明者は22人。施設復旧への補助金は、2020年の7月豪雨で実施された「なりわい再建支援事業」を基にする。被災自治体の企業が対象で、工場や店舗、生産機械などを復旧させる場合の費用について、4分の3を補助する。輪島塗など地域の伝統産業の事業再開を後押しするため、災害支援枠を設け、需要開拓や新商品開発、人材育成に助成する。アーケードや街路灯の復旧など、商店街の再生も支援する。旅行支援は宿泊費やツアー代金の一部を公費で負担する。3~4月、金額に上限を設けた上で、宿泊費の50%程度を補助する方向で調整している。被害が大きい能登地域は、復興状況を見ながら、旅行客の呼び込み策を今後検討していく。被災者支援では、心のケアのセンターを新設。近親者などを亡くしたり、トラウマや孤独を抱えたりした人をケアする。仮設住宅に入居した人の見守りや、相談支援にも取り組む。住宅が被災した世帯を対象にした最大300万円(全壊の場合)の被災者生活再建支援金も迅速に支給。被災家屋の解体では、全壊だけでなく半壊住宅も住民の自己負担ゼロで可能とする。住まいの確保も「喫緊の課題」と位置付けた。応急仮設住宅は、プレハブだけではなく、居住性の高い木造も建設する。廃棄物処理施設の早期復旧に向けた支援のほか、生活ごみやし尿を離れた地域まで運んで処理する経費を支援する。のと鉄道は、一部区間で運転再開の見込みが立たないため、国と事業者がバスによる代替輸送の調整をする。自治体が管理する道路や河川、漁港の復旧工事は、要請に応じて国が代行する。 *8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA22AOB0S4A120C2000000/ (日経新聞 2024年1月23日) 能登半島地震:北陸割」で観光需要喚起へ 能登半島地震で政府支援策 政府は能登半島地震の被災地支援パッケージの原案をまとめた。中小企業の施設と設備の復旧に補助金を出す。1件あたり最大15億円で調整する。観光業の支援は新潟県を含む北陸地方への旅行者向けに割引を設ける。岸田文雄首相が本部長を務める非常災害対策本部で25日にも被災者の生活となりわいを再建するための政策パッケージをまとめる。1月中に2023年度予算の一般予備費から1000億円を上回る規模の追加支出を閣議決定する。①避難所などの環境改善や住まいの確保など生活再建②中小、農林業、観光業など生業再建③インフラなどの災害復旧――の3つを柱として盛り込む。被災自治体の中小企業を対象に工場や店舗、設備などを復旧させる費用を補助する。20年7月豪雨の際の「なりわい再建支援事業」をもとに制度設計する。旅行業の支援は16年の熊本地震の「ふっこう割」を参考に宿泊費などを公費を使って割り引く。金額に上限を設けたうえで5割ほどを補助する見通し。被害が大きかった能登地方は復興状況を踏まえ、より手厚い需要喚起策を検討する。住宅が被災した世帯には最大300万円の「被災者生活再建支援金」を迅速に支給する。全壊だけでなく半壊も含めて住民の負担なしで被災家屋の解体が可能になる。輪島、珠洲両市などの被災地でニーズに沿った応急仮設住宅を供与する。大規模災害復興法に基づく「非常災害」に指定したことを踏まえ、自治体が管理する道路や河川、漁港の復旧工事を国が要請に沿って代行する。
| 資源・エネルギー::2017.1~ | 04:19 PM | comments (x) | trackback (x) |
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