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2022.11.14~ 日本経済が脆弱になる理由は、自らチャンスをつぶすからである
・・工事中ですが・・

(1)気候変動が経済に及ぼす影響
 
 2022.11.12佐賀新聞     2019.7.26毎日新聞       Eplan

(図の説明:左図のように、“先進国”と“発展途上国”の違い、“先進国”間での資金拠出への対応に違いがあるそうだが、科学的根拠に乏しいため、これは当然だろう。日本では、中央の図のように、CO₂を1t排出する度に289円の地球温暖化対策税を徴収しているが、金額の決め方に科学的根拠が乏しい上、その使われ方の内訳が開示されない。世界では、右図のように、欧米でもっと重いCO₂排出税が課されているので、最終税率を世界で合わせた上、その多くを地球温暖化防止のための世界の環境維持活動に拠出する制度にすれば、誰も文句を言えないと思う)

1)気候変動と脱炭素の要請
 約120カ国が参加してCOP27が開幕し、*1-1-1・*1-1-2のように、議長に就いたエジプトのシュクリ外相が「①気候変動は人類にとって現実の脅威」「②(干ばつや洪水など)各国で現在起きていることは私たちの教訓で地球からの警告」「③『約束』の時間は終わり『実行』するときが来た」「④気候変動は世界の優先課題」「⑤排出0に向けての前進が必要」と述べられた。

 また、世界気象機関(以下“WMO”)の報告書は、「⑥温暖化ガスの大気中の蓄積が進んだため、2022年までの過去8年間が(観測)史上最も暖かくなった」という分析を示し、2022年の平均気温は産業革命前を1.15度上回って「パリ協定」で掲げた1.5度目標に近づいていると警告している。さらに、国連のグテレス事務総長は「⑦地球が発する救難信号に行動で応えなければならない」「⑧COP27はそのための場所でなければならない」と、各国に温暖化対策を強化するよう促された。

 そして、⑨途上国は洪水や干ばつなどの温暖化による「損失と被害」への資金援助を求めて先進国との溝が深まり ⑩先進国は2009年のCOP15で、途上国に年間1000億ドル(約15兆円)の資金援助を約束して現在まで目標達成した年はなく  ⑪途上国は「先進国は約束を守っていない」と不満を募らせて先進国に資金支援の拡充を求め ⑫大規模な資金拠出に慎重な先進国と厳しい交渉が予想される中で ⑬ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機で、先進国は石炭回帰等の温暖化対策逆行の動きを見せて、COP27で大きな議論になるとみられるそうだ。

 このうち、①②④⑤は事実なので賛成だが、③の約束が⑩⑪⑫に書かれている先進国から途上国への年間1000億ドル(約15兆円)の資金援助なら明確な計算根拠を示すべきで、気候変動問題を根拠の薄い資金援助の口実には使ってもらいたくないし、それでは実効が上がらないと思う。また、⑬についても、何でもロシアのウクライナ侵攻のせいにすれば解決するわけではなく、天然ガスも化石燃料であるため、安価なロシア産天然ガスに頼りながら再エネへの変換を遅らせてきたことが最も根本的な原因である。

 また、⑨については、「先進国」「途上国」の定義を明確にすべきだ。何故なら、“先進国”でも緑地が多く、環境に気を付けて自然に負荷をかけていない国もあれば、“途上国”でも環境意識が低いため焼き畑農業を続けており、適切な森林や農地の管理をせずに自然に負荷をかけている国もあるからだ。また、エジプト・インド・アラビア諸国・中国のように、現在は“途上国”“新興国”に分類されているが、4大文明の発祥地で、(観測記録のない)古い時代に森林を伐採しすぎて砂漠化させた国もあれば、日本のように、“先進国”と自負しながらも環境意識やジェンダーについては著しい後進国の場合もあるからである。

 そのため、現在、地球環境に負荷をかけている国から、CO₂排出量に応じて地球規模で環境税(地球温暖化対策税)を科学的根拠に基づいて徴収し、緑地帯(森林・藻場・農業地帯)を護っている国・地域にその面積に応じて維持・管理費として正確に資金を流す仕組みを作るのがよいと考える。

 しかし、この際、環境税と排出量取引(各企業・国等が温室効果ガス排出枠を定めて排出枠を超えて排出したところが排出枠以下のところから排出枠を買うことで削減したとみなす制度)を混同する人がいるが、排出量取引は排出枠によって排出量を許可するため、実際はCO₂の排出削減に繋がらず、さらに人為的(勝手)に排出枠を決めるため、科学的合理性もないのだ。

2)温暖化は、本当に現在の“先進国”だけの責任か?
 *1-1-3は、①干ばつや海面上昇の危機にさらされるアフリカの首脳は被害の現状を訴えて先進国の温室効果ガス削減の加速や支援を求め ②ケニアのルト大統領は国内でこの40年で最悪の干ばつで深刻な食料危機が起きているとして「気候変動による損失と被害は、今ある悪夢だ」とし ③アフリカの島しょ国セーシェルの大統領は、「温室ガス排出が極めて少ないのに、被害が最も大きい」という不公平に目を向けるよう求め ④コンゴ共和国の大統領は、アフリカの11カ国を東西に貫く巨大植林プロジェクトを紹介した としている。

 しかし、今後も、干ばつや海面上昇は続くため、そのまま低地に住み続ける選択肢はなかったり、従来のままの農水産物は採れなくなったりする国は多いと思われる。従って、保険金をもらって復旧すればよいのではなく、CO₂を減らす根本的な努力をしつつ、被害にあわない地域に移住したり、気候に合わせた作物に転作したりすることが必要になる。そのため、地球環境税を徴収して、④のような巨大植林プロジェクトを支援したり、国によっては移住・転職・転作等の支援をしたりする必要があるだろう。

 また、*1-1-4は、⑤IPCCは、人間活動による温暖化が「すでに広い範囲で損失と被害を引き起こしている」と指摘し ⑥世界の温室効果ガス排出の8割はG20からで、累積排出量の上位10カ国も(日本を含み)殆どが先進国で ⑦WMOは、1970~2019年に洪水等の気候災害で亡くなった人の9割は途上国で ⑧被害を避けて移住・難民となり、地域が不安定になって紛争にも繋がり ⑨パリ協定で「損失と被害」の条文が盛り込まれたが、これに特化した途上国への資金支援の仕組みは設けられず ⑩アフリカ開催なので途上国は損失と被害に特化した基金の設立を求め ⑪カリブ海の島国バルバドスのモトリー首相は、エネルギー価格高騰で過去最高益を出している化石燃料業界の利益の1割に課税して支援に充てるよう提案し ⑫ドイツ・オーストリア・ベルギー・デンマーク・アイルランド・スコットランドの6の国・地域が損失と被害を支援する資金拠出を表明した 等としている。

 しかし、これまで記載したように、保険金をもらって復旧すればよいのではなく、CO₂を減らすことに貢献している場所に科学的根拠に基づいて支援を行わなければ、誰も納得できないし、CO₂も減らない。そのため、エネルギー価格の高騰で過去最高益を出している化石燃料業界の利益の1割に課税するような懲罰的課税ではなく、化石燃料を使って地球環境に負荷をかけている人や法人に環境回復の負担を負わせるべく環境税を課すのが合理的なのである。

3)日本の環境保護への消極的姿勢
 COP27は、*1-1-5のように、首脳級の対応で姿勢の違いが際立つまま、約2週間の会期の前半を終えて、欧米は焦点の開発途上国支援等をアピールし、日本の岸田首相は参加を見送られたそうだ。日本は、「将を射んとすれば、その馬を射よ」とばかりに、くだらないケチをつけて野党やメディアが叩く形で議員や閣僚の足を引っ張っているが、これが日本の政策が遅れる原因であり、この状態は国民のためにならない。しかし、ふわっとした理由による支援では、誰も納得できない上に効果も小さいため、ここで参加を見送られたのはよかった。

 ただし、被害は、“途上国”だけでなく“先進国”においても既に深刻になっているため、議論したり、やっているふりをしたりしていればすむ時ではなく、効果のある政策を実行すべき時であることに間違いはなく、遅すぎるくらいなのだ。

 そのため、国際基金への拠出は、思いつきの金額の支援ではなく、科学的合理性に基づいて地球環境税を徴収し、環境維持のために働いている場所に、その規模に応じて継続的に配布すべきだ。そうすると、“先進国”であっても、ネットではプラスの援助を受けるところもあるし、中国やインドは“途上国”であっても、ネットでは支出側になる可能性が高いが、そのような科学的思考でリーダーシップを発揮してもらいたいわけである。

(2)武蔵野市で開かれた気候市民会議から
 *1-2-1のように、東京都武蔵野市で「住まいのエネルギー」というテーマで第4回「気候市民会議」が開かれ、前真之東大准教授(建築環境工学)が、①エネルギー支出の把握(紙の伝票がこないWEB検針の人はサイトでチェック) ②エネルギー支出が多いのは冷蔵庫等の年間を通して使う家電や照明、給湯だとして省エネを呼びかけ ③既存住宅の断熱リフォームで最も効果的なのは内窓の設置でマンションでも可 ④電気代の心配がない健康で快適な暮らしに効果が実証されている技術は、断熱・気密・高効率設備・太陽エネルギーの活用だけ とされ、また、各グループの発表では、⑤太陽光発電設置や断熱改修にはまとまった金がかかるため、行政の助成が必要 ⑥断熱性能の低い家を建てた会社からペナルティーを取って助成金に充てたらどうか 等の意見が出たそうだ。

 しかし、日本の温暖化対策は、「小まめに電気を消す」「小まめにエンジンを切る」など「小まめ」という言葉が幅を利かせており、政府は国民の努力と我慢でCO₂を減らそうとしながら、莫大なCO₂を出す石炭火力発電所はせっせとつくり、温排水を排出する原発も延命し、効果のある炭素税導入はせず、住宅断熱の義務化も遅れている。しかし、これでは個人の努力などは簡単に吹き飛んでしまうため、まずは国民の努力を帳消しにする政策を変え、快適な生活を送りながら無意識に省エネできる制度を導入するのがよいと、私も思う。

 具体的には、*1-2-2のように、経産省は、発電コストの低い再エネ普及による火力発電の収益悪化等で大型発電への新規投資が滞っているなどとして、まだ大手電力が天然ガス火力や原子力などの大規模発電所を建設した場合は長期に安定収入を得られる仕組みを導入すると言っているが、これは、「2050年までのCO₂排出量実質0を条件とする」と言いながら、セキュリティー上のリスクが高い集中発電を維持するために、できるだけ要件を緩和した解釈をしているものであり、経産省がこの態度では、日本でエネルギー関連ビジネスが育たないのは当然なのである。その上、燃やしてもCO₂を排出しない水素やアンモニアを燃料に混ぜる設備改修なら石炭火力も補助対象にするというのは、視野狭窄にも程があるのだ。

(3)日本の食料自給率と食料安全保障
 *1-3は、日本の食料自給率と食料安全保障について、①小麦の9割近くを輸入に頼る日本も、各国がウクライナから調達できない分を日本の主要輸入先である米国から手当てするため、しわ寄せが及び ②山崎製パンや日清製粉などが値上げに動いて消費者に影響が出た ③東大の鈴木教授は「海上輸送が滞って輸入困難になれば防衛費を積み増しても国は守れず、国内での穀物の増産に向けた積極的な支援策を急ぐ必要がある」とする ④台湾有事が勃発すれば懸念が現実となり、食料安保リスクへの備えが問われている としている。

 このうち①については、日本が小麦の9割近くを輸入に頼っている理由は、製造業さえあればよいという農業軽視の政策を採って、農業に産業としての工夫をさせなかったからなのだ。例えば、温暖化によって裏作ができる地域は拡大したのに、米だけ作って裏作に小麦を作らない地域は多く、私の出身地の九州では正月に農家が麦踏をしている姿をよく見かけたが、夏は九州より暑い埼玉県でも裏作は行われずに、冬の田んぼは遊んでいる。また、夫の実家の長野県では、春~秋に高原レタスを作って集中的に働き、冬は毎年、温泉はじめ国内や海外旅行に行っていて、私には信じられないくらいだった。

 つまり、農地を十二分に使い、機械化し、従業員を雇い、作物を工夫すれば、農家も休暇をとりながら日本の食料自給率を上げることは可能なのである。

 ②については、小麦粉の価格はそれほど上がっていないのに、パンやラーメンの価格が著しく上がったのは便乗値上げのように見え、私は、「これにはつきあいたくない」と思ったため、国産小麦粉を買って栄養管理しながらパンやケーキを自作し、数kgの減量に成功している。本当は、市販のパンやケーキも、栄養管理まで考えて作ってもらえると助かるのである。

 また、③④については、食料・エネルギー・工業製品の殆どを輸入し、原発の高い場所に大量の使用済核燃料を詰め込んだまま、防衛費だけ積み増しても無意味であろう。

 *1-3は、⑤アジアで小麦の消費が拡大し、食料安全保障上の問題が浮上 ⑥小麦が米と異なるのはアジア域内で自給が難しく輸入依存度が高い点 ⑦ロシアが侵攻したウクライナに頼る国も目立つ ⑧小麦消費量が約10年で2倍になったフィリピンは、ファストフード店「ジョリビー」の店でハンバーガー・スパゲティなどの小麦を使うメニューが並ぶ ⑨小麦は米と違って高温多湿な東南アジアでは生育の難しい地域が多い 等も記載している。
 
 しかし、⑤は現状だろうが、⑥⑨は、高度の高い地域を利用したり、小麦を品種改良したりすれば解決できそうで、⑦は不幸なことではあったが、地球温暖化で小麦はじめ作物の生産適地がより緯度・高度の高い地域にまで拡大するため、産地の編成替えをすればよいと思われる。⑧については、小麦のメニューの方が米のメニューより多いということだが、これは多様なメニューの開発で解決できる筈だ。

(4)補正予算について


2022.11.9日経新聞     2022.5.25北國新聞         2021.12.24時事  

(図の説明:左図が29.1兆円の2022年度第2次補正予算案、中央の図が2.7兆円の2022年度第1次補正予算、右図が107.6兆円の2022年度当初予算で、第2次補正予算案が通れば、合計139.4兆円が支出されることになる。これは、下の図のコロナ最盛期と変わらぬ歳出額である)

 
               2022.2.7全国商工新聞

(図の説明:上の図は、歳出総額・一般会計税収・国債発行額の推移で、2022年度は当初予算までしか掲載されていないが、それでも歳出が税収よりもかなり大きく、差額を国債発行で賄っているため国債残高が増えている)

1)「賢い支出」とは、すぐに“経済効果”が現れる支出とは限らないこと
 *2-1は、政府が8日に閣議決定した2022年度第2次補正予算案は、①各省庁が2023年度概算要求で提示した施策を「先食い」し ②複数年度の支出が前提となる基金の新設や増設が目立ち ③(災害等の不測の事態に備える)予備費が11.7兆円で過去最大で ④「先食い」の事例は、内閣府のGPS実証事業2億円・厚労省の「全ゲノム解析等実行計画2022の推進」事業49億円・環境省の海洋ゴミ対策35億円 ⑤基金事例は、総務省の6G等の研究開発支援662億円・文科省の大学の学部再編を促す3000億円・経産省が2020年度補正で創設した「グリーンイノベーション基金」2兆円に3000億円の額 ⑥財政法は、当初予算の作成後、特に緊要となった経費に限って補正編成を認めているが緊急性はなく、経済効果はすぐには表れない と記載している。

 また、⑦今回の経済対策は与党内で「30兆円が発射台」といった声が相次ぎ、中身より規模を優先させれば緊急性や必要性に乏しい事業が紛れ込む ⑧予備費も「新型コロナ・物価高対策予備費」を3.7兆円増やした上でさらに1兆円の「ウクライナ予備費」を設け、2022年度の予備費総額は約11.7兆円となって過去最大 ⑨3度の補正を組んだ2020年度は、当初も含めた一般会計総額が175.6兆円と過去最大 ⑩2021年度も142.5兆円まで膨らみ、2022年度も補正後139.2兆円と異例の規模が続き ⑪2020~21年度決算では2割弱を使い切れず翌年度に繰り越したり、不用額として国庫に返納したりし ⑫繰り越しが多額になれば、短期的に景気を押し上げる効果は限られる ⑬財政支出のコストへの意識は薄れがちだが、本当に効果的な事業に絞り込む「賢い支出」の徹底には使い道の検証とともに、財政支出が経済効果に直結するかのような発想も見直す必要がある とも記載している。

 私は、このうち①は、④のようにやるなら早い方がよい歳出を補正予算でやっても許されると思うし、無駄遣いのバラマキが兆円単位で存在する時に、その1/10,000の億円単位の科学の導入費用にスポットを当てて問題にするセンスが、日本の経済成長不振の根源だと考える。

 また、②⑤の基金の新増設は、基金にすると毎年の財務省のチェックや会計検査が入りにくいマイナス面はあるものの、「単年度で歳入・歳出を一致させなければならない」というおかしな規則を緩和できるのはプラスだと考える。ただし、本来は、国も複式簿記・発生主義に基づく公会計制度を導入して費用を発生時に把握しなければ事業毎の費用対効果を正確に把握することはできないため、使い道の検証ができず、現在のような呆れた政策やその政策に対する的外れの批判も行われ、その結果として財政状態がさらに悪化するだけで国民に多大な迷惑をかけることになるのである。

 ③⑧の予備費は不測の事態に備えるもので、コロナについては既にワクチンや治療薬が出ているため、兆円単位で過去最大にするのはおかしい。また、「ウクライナ予備費」は、得意がって制裁ばかりしていたお返しをされて1兆円も積まなければならない羽目に陥ったもので、日本の実態をわきまえた上で首尾一貫した批判を行わなければ自業自得になるという国民にとって誠に不幸な事例である。

 ⑥で、財政法は「特に緊要となった経費に限って補正編成を認めている」としているのはよいが、経済効果がすぐ表れないから緊急性がないとは言えないため、a)どれが b)どういう理由で 補正予算にふさわしく、どれがそうでないかを、具体的に示すべきである。 

 しかし、⑦のように、規模ありきで中身は何でもありでは、財政状態がさらに悪化して国民に迷惑をかけるだけだ。⑨⑩⑪のように、2020年度は、当初予算と3度の補正で一般会計総額が175.6兆円と過去最大、2021年度も142.5兆円、2022年度も補正後139.2兆円と異例の規模が続いているのだ。

 ただ、予備費は不測の事態に備えるものなので、足りなくなるよりは多めに積んで余ったら戻した方がよく、⑪⑫のように「2割弱を使い切れず翌年度に繰り越した」「不用額として国庫に返納した」「繰り越しが多額になれば短期的に景気を押し上げる効果は限られる」などと使い残しを批判していると、「不要なことでもいいから、とにかく使ってしまおう」という動機づけになり、財政状態をさらに悪化させて国民に迷惑をかける方に加担することになる。

 なお、⑬の「財政支出のコスト意識は薄れている」というのは本当だが、「財政支出の箍が外れている」と言う方がより適切だと、私は思う。そして、「賢い支出」の徹底には使い道の検証が必要不可欠だが、i) 効果的な事業とはどういう事業か ii) どういう効果があれば「賢い支出」と言えるのか iii) 費用対効果を正確に知るにはどういう会計システムが必要か などについては、批判する人もきちんと定義して首尾一貫した議論を展開すべきだと思う。

2)国債依存は、どういう結果をもたらすか
 *2-2は、①政府は11月8日に経済対策に29兆861億円の2022年度第2次補正予算案を閣議決定し ②規模ありきで積み上げた結果、その約8 割を国債(借金)に頼る ③エネルギー価格の負担軽減策や子育て世帯への支援が柱 ④今年度の国債の新規発行は62兆4,789億円で発行残高は2022年度末に1,042兆4千億円になる見込み と記載している。

 上の①~④は事実を述べただけだが、国債に頼って歳出を続けるということは、歳入の範囲で歳出しているわけではないため、過去に蓄積した財産を食いつぶしながら歳出にあてているということだ。そして、国債発行残高が大きくなると、歳入から返済することはできないため、国は物価を上昇させて実質借金額を目減りさせようとしており、この時、国民が過去に蓄積した預金や国債残高も同じ額だけ目減りするのだ。

 つまり、国民は、物価上昇によって生活費が上がるため、国会を通さず消費課税を受けているのと同じであり、その上、実質預金や実質国債残高も減るため、資産課税までされたのと同じなのである。例えば、物価が10倍になった時には、債務者の実質借金は1/10に目減りしているが、同時に債権者の実質債権も1/10に目減りしており、これが中央銀行である筈の日銀が、物価上昇目標を立て、お札を刷って、物価上昇を計画している理由の1つなのである。

 また、*2-2は、中身で使い方に疑問がある政策は、⑤エネルギー価格の負担軽減策(電気:2兆4,870億円、都市ガス:6,203億円、ガソリン補助金延長:3兆272億円) ⑥これまでのガソリン補助金約3兆2千億円と合わせると、エネルギー価格負担軽減策合計約9兆3千億円 ⑦OECDは価格抑制ではなく、再エネ・省エネ等の構造転換に金を振り向けるように求めている ⑧日本の財政は既に世界最悪で、2021年度の債務残高はGDP比263%・米国132%・ドイツ70%・英国95%等と比べて格段に悪い としている。

 しかし、このようにして国民を貧しくさせながら使う中身は、円安とロシアのウクライナ侵攻で発生した食料高騰対策補助金や⑤⑥のような化石燃料補助金で、化石燃料への補助金は地球温暖化に逆行するその場限りのバラマキだ。

 そのため、⑦のように、価格抑制ではなく再エネ・省エネ等の構造転換に金を振り向けるように求めているOECDのアドバイスが完全に正しく、このようにすれば地球温暖化に逆行する無駄遣いにならない上、その後、長期にわたってエネルギーコストを下げる経済効果が期待できるのだ。そのため、「賢い支出」は、決して⑤⑥ではなく、⑦なのである。

 ⑧も事実だが、日本の2021年度債務残高はGDP比263%で、債務残高のGDP比が95%の英国でトラス首相が減税や低所得者への支援といった公約を実行できずに44日で退任させられたのと比較すれば、日本のいい加減さは際立っているのがわかる筈だ。

3)外貨準備の減少について
 *2-3は、①政府・日銀は行き過ぎた円安・ドル高を抑えるため、9月29~10月27日に6兆3,499億円の円買い介入に踏み切り ②10月末の外貨準備残高は1兆1,945億ドル(約175兆円)と11年3カ月ぶりの低水準となり ③米国債を売って円を買ったため、10月末の外貨準備内訳は米国債などが9,413億ドルと前月比4.5%減った ④過去の円売り介入では、80円/$前後や100円/$前後でドルを買っているため ⑤9~10月の円買い・ドル売り介入の際に140円/$台でドルを売ったとすれば、兆円単位の利益が出たことになる 等としている。

 私は、財務省も、国民に課税ばかりしているのではなく、税外収入を得てもらいたいと思っているので、④⑤のように、80円前後の「日本企業いじめ」に近い円高局面で買ったドルを、140~150円の円安局面で売って兆円単位の利益を出したのは歓迎したい。そのため、①②③は、「Good job!」であって、非難すべきことではないと思う。

 しかし、i) 円高が長く続いたこと ii) 国内の構造改革が進まず iii) 高コスト構造が続いていること 等により、日本のGlobal企業は中国・東南アジア・東ヨーロッパ等の製造コストの安い海外の国・地域に既に製造拠点を移しているため、少しくらい円安になったからといって高コスト構造で経営環境のよくない日本に製造拠点を戻す投資をするとは考えにくい。また、連結会計上はそのGlobal企業の利益となっている海外で稼いだ資金も、わざわざ利益率の低い日本に還流させる必要はないのである。

4)個人消費の伸び悩みについて
 国民の30%を65歳以上が占める中、物価上昇・年金給付減・保険料負担増の政策を続け、25~64歳の生産年齢人口でもフルタイムで働いているのは男女全体の50%程度しかいない日本で、仮に生産年齢人口の賃金が2%上がったとしても、そのGDPに与える影響は高く見積もっても0.7%(2%x0.7x0.5)程度しかない。そして、所得の低い人ほど消費性向が高いため、個人消費に与える現在の給付減・負担増政策の負の影響はかなり大きい筈である。

 このような中、*2-4は、①7~9月期のGDP速報値は実質・季節調整済で前期比0.3%減 ②GDPの過半を占める個人消費は前期比0.3%増に留まり ③マイナス成長転落の主因は外需のマイナス0.7% ④輸入5.2%増で、(主に広告に関連する)サービス輸入が17.1%増 ⑤コロナで交通・宿泊関連等のサービス消費が伸び悩み、耐久財消費財は3.5%減と2四半期ぶりにマイナスだった ⑥住宅投資は0.4%減で5四半期連続のマイナス と記載している。

 このうち、①は事実だろうが、②の個人消費が前期比0.3%増だったというのはむしろ意外で、名目消費額を記載しているのではないか? しかし、物価上昇が続く中で名目消費額を示されても意味がなく、また、給付減・負担増が続く中で実質消費額が増加するわけはないため、今後は、実質に換算して表示して欲しいと思う。

 なお、③のマイナス成長の主因が外需のマイナスというのは開発途上国の生産体制である。また、④の輸入5.2%増で主にサービス輸入の17.1%増が効いたというのは、食料・エネルギーの大半とコロナワクチン・コロナ治療薬も輸入であるため本当かと疑問に思ったが、昨年同期との比較であるため、問題点が隠されているのだろうか。

 ⑤のコロナで交通・宿泊関連等のサービス消費が伸び悩んだのは、政府の無策で長期間経済を止めたからで、止められた業種は所得減が大きい上に、それに追い打ちをかけるように物価上昇しているわけである。従って、食費とエネルギーへの支出で精一杯であり、耐久財消費財や⑥の住宅投資には手が回らないのが実態だろう。

 また、*2-4は、⑧設備投資は1.5%増加 ⑨公共投資は1.2%増加 ⑩コロナワクチンの接種費用を含む政府消費は横ばい ⑪名目GDPは前期比0.5%減、年率換算2.0%減(円安で輸入額が膨らみ、実質よりマイナス幅大) ⑫GDPデフレーターは前年同期比0.5%低下とマイナス続き ⑬日本全体として輸入物価上昇を価格転嫁できていない ⑭家計収入の動きを示す雇用者報酬は名目で前年同期比1.8%増えたが実質では1.6%減り、2四半期連続でマイナスで物価上昇に賃金が追いついていない とも記載している。

 債務は物価上昇すれば目減りするのだから、⑧⑨の設備投資・公共投資が増加するのはわかる。しかし、⑩のコロナワクチン接種費用をいつまでも無料にする必要はなく、政府支出がコロナ最盛期と同じなのはむしろ不自然で、⑪⑫は当然だと思われる。

 日本では、⑬のように、「輸入物価の上昇を価格転嫁すべきだ」「物価上昇に賃金が追いついていない」などという意見が多いが、物価上昇による所得と資産の目減りが継続的に存在し、これに給付減・負担増が追い打ちをかけて個人の実質可処分所得は著しく減少している。そのため、需要が減るのは当然であり、ここで物価上昇分をためらいなく価格転嫁すれば、さらに販売数量が減るだけだ。また、企業も、製造原価が上がり、需要は減少しているため、この波に乗れる業種を除き、賃金アップなどできるわけがないのである。

5)企業は賃上げや値上げができる状況か
 *2-5は、①1,100社強の東証プライム企業の4~9月期決算を集計したところ、全産業の純利益合計は前年同期から5%増え、2年連続で同期間の過去最高を更新した ②資源価格上昇を背景に商社や海運が好調だったほか、大幅な円安が多くの外需企業の業績には追い風になった ③円安や資源価格上昇は、原材料費や物流費などのコストアップに繋がる ④高い市場シェアや製品力を背景に値上げを進めることができた企業の好調が目立った としている。

 このうち、①は、東証プライム企業の全産業純利益合計が前年同期と比較して5%増えたとしても、それは海外子会社を連結する際に円安によって為替換算時に利益が膨れた可能性が高い。しかし、海外子会社で開発・製造・販売を行っている場合、その利益を日本に還流させる理由がないため、過去最高益を更新したからといって日本国内の従業員の賃上げ原資にはならない。

 また、②の資源価格上昇を背景に商社や海運が好調なのは、売上高に一定割合を乗じて手数料をとる仕組みだったからにほかならず、大幅な円安が本当に追い風になったのは一部の外需企業にすぎない。それどころか、多くの企業で、③のように、円安や資源価格上昇が原材料費や物流費などのコストアップに繋がり、これを緩和するために、エネルギー価格負担軽減策として合計約9兆3千億円も、国が補正予算で充当したのを忘れたのだろうか?

 さらに、④の値上げを進めることができた企業は高い市場シェアや製品力を背景にしていたというのも、一部の業種でそれが可能であるにすぎず、すべての業種がそうやって値上げをすれば、(4)4)で述べたとおり、個人需要が著しく減って国民生活が厳しくなると同時に、需給ギャップが大きくなる。そうしたら、また景気対策と銘打って無駄遣いするのでは、歳出ばかりが増える悪循環にしかならないわけである。

 なお、*2-5は、⑤経営者は日本経済が縮小均衡のワナから抜け出すための重要な役割を担っているので、賃上げと値上げの好循環を絶やさないことを求めたい ⑥企業は賃上げと値上げを着実に進めて日本経済の自律的回復を後押ししてもらいたい ⑦社員の生産性を引き上げる人的投資が商品の付加価値を高め、原材料の高騰を転嫁できる値上げにも道が開ける ⑧最高益だったキーエンス(FA用センサーが主力の計測制御機器大手)の平均給与は上場企業トップクラスで、高い報酬は社員のやる気や創意工夫を引き出して広範な値上げを可能にした ⑨企業が将来リスクに備えて稼いだ利益を無駄にため込むようだと、いつまでも停滞から抜け出せない とも記載している。

 このうち⑤⑥は、賃上げと値上げが、日本経済の縮小均衡を止めて自律的回復するための処方箋だとしているが、これは根本的に間違っている。何故なら、値上げすれば(4)4)で述べたとおり、個人需要が減ってますます縮小均衡となり、賃上げどころではなくなるからだ。そして、需給ギャップを政府支出で補えば、政府支出の殆どは(4)1)のように生産性が低いため、日本は歳出ばかりが増え、経済はさらに停滞するしかないからだ。

 なお、⑦については、社員の人的投資をすれば生産性を引き上げたり、商品の付加価値を高めたりすることができる可能性はあるが、それは人的投資した社員をどう使うかに依るため、企業のやり方次第だ。しかし、原材料高騰を転嫁できる値上げにも道が開けるとしているのは「値上げありき」の議論にすぎず、実際には、生産性が上がれば値上げしなくても利益が出る上、賃上げも可能となり、それがまさに生産性向上の目的なのである。

 ⑧のキーエンスは、FA用センサーが主力の計測制御機器大手であるため、コロナ禍でIT化が進んだり、リモートワークが普及したりして、最高益になったという特殊事情がありそうだ。もちろん、こういう企業が、これを機会に高い報酬を払って社員を繋ぎ止め、社員の質を維持向上させて次の生産に備えるのはよいことだが、必需品を作っていても、あらゆる業種が同じとはいかないのである。

 また、⑨の「企業が将来リスクに備えて稼いだ利益を溜めておく」というのは決して無駄ではない。逆に、危機管理ができていなければ、新型コロナによる一時的経済停止に耐えられなかった筈で、使うことばかり促していた人が危機の時に責任をとってくれるわけではないのである。

6)ケインズ経済学と需給ギャップ(GDPギャップ)
 *2-6-1は、岸田首相は補正予算の規模を29兆円とした理由を、①日本経済の需要と供給力の差を示すGDPギャップが、今年(4~6月期に)15兆円ある ②昨年度の7~9月期のギャップが4~6月期より2割以上(3兆円強)膨らんだため、景気の下ぶれリスクに備える意味で金額を上乗せした と説明されたとしている。

 また、*2-6-1は、その反論として、③景気減速で直近GDPギャップ15兆円が昨年と同率で膨らんだとしてもその額は3兆円強で合計29兆円には10兆円も届かず ④昨年度は22兆円のGDPギャップに対し32兆円の規模とし、差額10兆円を今年度のGDPギャップ15兆円にも加えると財務省が示した25兆円と符合し ⑤首相が上乗せした3兆円強も足すと約29兆円になるが ⑥もともとGDPギャップより10兆円も多いのに、さらに景気減速に備えて3兆円強加える必要があるなら説明して欲しい ⑦実際は、経済理論を参考に規模を決めたかのように装っても関係がなく、自民党有力議員が求める「前年度並みの規模」を受け入れるしかなかったのが実情だろう ⑧余計な借金を背負わされる次世代の子どもたちだ としている。

 しかし、日本のGDPギャップは、(4)4)に記載したとおり、物価上昇政策・国民負担増・年金給付減などによって、国民が日本政府によって意図せざる緊縮生活を強いられることによって起こっている部分が大きい。そのため、①②のように、そのGDPギャップを景気対策と称する政府の無駄遣い(バラマキであって賢くない支出)で埋め、さらに増税して財政健全化を計れば、悪循環にしかならない。そのため、③④⑤⑥のように、まず矛盾なく説明して欲しい。

 そして、私も⑦は正しいと思うが、⑧については、余計な借金を背負わされるのは次世代の子どもたちだけではなく、(現在の高齢者も含む)国民全体であることを忘れてはならない。

 ちなみに、ケインズはその経済学で、*2-6-2のように、⑨供給量は需要量(投資および消費)によって制約されるという有効需要の原理を示す ⑩有効需要によって決まる現実のGDPは完全雇用下の均衡GDPを下回り、不完全雇用が発生する ⑪景気が悪いときに政府が歳出削減をすれば、失業率は悪化し、長期的な経済成長も阻害され、結局は長期的な財政状況も悪くなる ⑫大恐慌の解決策として、利子率の切り下げ(金融政策)・社会基盤等への政府投資(財政政策)の2つを取り混ぜることにより経済を刺激する よう説いている。

 そして、1929年9月4日に始まったアメリカ合衆国の株価大暴落に端を発する世界大恐慌後の1933年に大統領になったフランクリン・ルーズベルトが、ケインズ理論を取り入れて大恐慌を克服するために行ったのがニューディール政策であり、失業者への失業手当の給付・生活保護からWPA(公共事業促進局)の設立・失業者の大量雇用、それによる公共施設建設・公共事業を全米に広げたものなのだ。

 つまり、ケインズ理論を応用するにあたって重要なことは、GDPギャップを埋めるために政府が長期間にわたってバラマキを行い続けるのではなく、大きなGDPギャップが生じて失業者が出た場合に、短期的には失業手当や生活保護で支え、政府の財政支出でそのGDPギャップを埋め、その埋め方はバラマキや無駄遣いではなく、公共事業や公共施設の建設に失業者を雇用して将来に役立てるというものなのだ。

(5)円安について

 
 2022.10.22日経新聞    2022.5.21日経新聞    2022.7.29日経新聞

(図の説明:左図は、「企業は、賃上げを物価上昇ではなく、成長期待に基づいて行う」ということを示した図だが、もっと正確に言えば、賃上げしても利益が出て営業を継続できるようでなければ賃上げはできない。しかし、日本では、中央の図のように、他のあらゆる要素を無視し、「欧米より物価上昇率が低いから賃上げしないのだ《?》」とか「物価上昇率が低いから買わないのだ《??》」などという滅茶苦茶な説明をして、日銀が金融緩和を続けている。そして、戦争で物価上昇が始まると、右図のように、「物価上昇以外の脱デフレ指標は低調」などとして日銀は金融緩和を続けているが、これは円安と物価上昇自体が目的だからである)

1)日銀の金融緩和と円安
 今日(2022年11月27日)の円ドル為替レートは139円ちょっとだったが、*3-1が、円安が止まらず、一時150円台/$と1990年以来32年ぶりの安値水準を記録し、その理由は、①インフレ抑制のための米国の大幅利上げと日銀の金融緩和維持による金利差に着目した円売り加速 ②成長力の低下 ③食料・エネルギー・その他の輸入依存 など日本経済の脆弱さがあると記載しているのは事実で、実際には、ユーロ・英ポンド・豪ドル・中国元・韓国ウォンなどと比較しても、円は一人負けの状態である。

 そのような中、日銀は(2%のインフレを目標として)未だに金融緩和を続けており、ロシアのウクライナ侵攻による食料・エネルギー価格の上昇と0金利政策による円の急落で、日本は、現在、2%を大きく超えるインフレ(=物価上昇)になっている。

 また、②については、(4)に記載したとおり、必要な構造改革を行わず、高コスト構造を維持し、金融緩和して名目賃金を全体的に引き下げるだけの政策を採り、消費することに対して懲罰的な消費税導入や負担増・給付減で需要を抑え、需給ギャップがあるからと言って政府が後ろ向きもしくは景気対策と称する膨大な無駄遣いをしてきたため、成長力を低下させ国力を衰退させることになったのである。

 さらに、③のエネルギー・食料・その他の輸入依存構造は、「日本は資源がない国だから云々」という馬鹿の一つ覚えのようなフレーズを繰り返してきたことが改善できなかった理由であるため、日本における貿易収支の赤字と経済の競争力低下は時間が経てば必然の状態であったし、このままの姿勢なら今後とも改善されないだろう。

2)本当の「日本病」は何か
 *3-2は、①150円台/$と円が32年前の水準に下落した ②これは、バブル経済崩壊後の日本経済の地盤沈下を映す ③2018年2月に3.3倍だった定食チェーン「大戸屋」のニューヨーク店舗のしまほっけ定食が、チップ等込みで6000円強と日本の6倍強になり ④その原因の一つは円の名目レート下落 ⑤長期には物価や賃金の伸びの差で、過去30年で米国はそれぞれ2倍前後になったが、日本は横ばい ⑥日銀は2013年から大規模緩和を継続し、2011年の75円/$から半値になった ⑦円安による景気刺激をテコに物価を上げて企業に賃上げを促す筈が描いた姿になっていない としている。

 また、*3-2は、⑧賃金が上がらない「日本病」は物価を上げれば解決するのか ⑨今後5年間の期待成長率は1ポイント上がると給与が0.6%増え、賃上げに最も寄与度が大きい ⑩物価上昇率が1ポイント上がっても、給与は0.1%強しか増えない ⑪緩和や円安で物価をむりやり高めても持続的な賃金上昇に繋がらず、日本経済の成長期待を高める必要がある ⑫1人当たりの生産性はOECD加盟38カ国中28位でポーランド等の東欧諸国と並ぶ低さ ⑬人口減少などを背景にした成長期待の低下が企業の投資不足を生んで生産性が上がらず賃金も上がらない ともしている。

 このうち、①⑥は事実だが、②の日本経済の地盤沈下は、東欧・中国・東南アジア等の新興国が世界競争に参入して地位を築き、その間、日本は寝ていたことにより(これが本当の “日本病”の原因)、バブル崩壊そのものが原因ではない。③については、ニューヨークで「しまほっけ定食」を注文するのは、ニューヨークでおにぎりを買うのと同様、その土地でPopularな食材を求めているわけではないので高価になる面もあって比較しにくい。しかし、④の円の名目レート下落は効いたと思われる。

 ⑤の「長期的に物価や賃金が過去30年で米国はそれぞれ2倍前後、日本は横ばい」いうのは、購買力平価で比べるとどちらも横這いなので米国が豊かになったとは言えないが、物価が上昇すれば債権者の債権と債務者の債務、年金などの定額収入が目減りすることは間違いない。しかし、もともと米国の方が住宅も食料もずっと豊かで、牛乳は1ガロン単位で売っている。

 そのため、日本も牛乳が余って困るのなら、販売単位を1.5Lにして単価を下げたり、スキムミルクをアフリカやバングラデシュの子どもたちに提供したりなど、工夫の仕方はいろいろある筈だ。なお、(4)に記載したとおり、⑦の「円安にすれば景気がよくなる」というのは単純すぎるし、⑨⑩のように、賃上げに最も寄与度が高いのは期待成長率であって物価上昇率ではないため、「物価が上がれば賃金が上がる」というのは考える方がおかしいだろう。

 ⑧は、「賃金が上がらないのが『日本病』で、これは物価を上げれば解決する」というのが誤っているため、私は、何故、皆が同じことを言うかの方がよほど不思議だった。つまり、⑪⑫が正しいのだが、⑬については、人口減少しているか否かは世代やグループによって異なり、人口が増えるグループのニーズは増え、人口が減るグループのニーズは減るのである。そのため、介護・保育・学童保育等の増えるニーズを捉えた産業は供給が足りず、産業の規模も大きくなって成長するが、日本政府は意図的にこれらを抑えるという大失敗を犯してきたわけである。

3)円安が「製造業にプラス」と言わない経営者が多い理由
 *3-3は、①歴史的円安ドル高が大手メーカーの儲けを大きく膨らませている ②海外生産を増やしてきたため、超円安を歓迎する声が経営者からは聞こえない ③建機大手コマツは売上の9割超を北米・中南米など海外が占め、円安を追い風に四半期過去最高の純利益を出した ④トヨタ自動車は円安で営業利益が年450億円押し上げられる ⑤資生堂はこの3年で国内工場を6カ所に倍増させた ⑥円安は輸出競争力が高まる ⑥円安で海外事業の儲けも円換算で膨らみ製造業にとってメリット大 ⑦円安は海外に出た生産拠点が国内に戻るのを促す一因として期待可能 ⑧製造業を潤す筈の円安を危ぶむ声が当のメーカーから相次ぎ上がる ⑨超円安が原材料価格の高騰を一段と加速させている ⑩トヨタ幹部は「円安による物価高で消費者の購買力がそがれ、車の販売にも影を落としかねない」と懸念する 等としている。

 このうち①は、③④はじめ自動車関連企業を頭におき、⑥のように、「円安で輸出競争力が高まる」と考えている点で、ごく一部しか見ていない上に、日本が開発途上国だった昭和の発想だ。現在は、新興国が世界市場に参入して安いコストで安価な製品を製造・販売しており、安いからといって悪くはないため、高コスト構造を変えない日本が一時的に円安になったからといって、⑦のように、海外に生産拠点を移した企業が生産拠点を国内に戻すとは考えにくい。また、販売市場近くで生産した方が、市場のニーズを汲んで製品開発するのに便利でもあるのだ。そのため、⑤の資生堂は特殊なケースで、別の要因があると思う。

 従って、⑨のように、超円安が原材料価格の高騰を一段と加速させ、⑧のように、円安を危ぶむ声がメーカーから上がったり、⑩のように、「物価高で消費者の購買力がそがれて車の販売にも影を落としかねない」と懸念したりし、②のように、超円安を歓迎する声が経営者からは聞こえないのは、むしろ当然なのである。

・・以下、工事中・・

・・参考資料・・
<気候変動と経済>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR061S30W2A101C2000000/ (日経新聞 2022年11月6日) COP27が開幕、議長「気候変動は優先課題」
 地球温暖化対策を話し合う第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)が6日、開幕した。ロシアのウクライナ侵攻を背景にしたエネルギー危機に直面するなか、先進国による途上国支援や2030年までの温暖化ガス排出削減に向けた道筋で合意できるかが焦点となる。COP27の議長に就いたエジプトのシュクリ外相は6日に「気候変動は人類にとって現実の脅威だ」と述べた。COP27で温暖化防止に向けた具体的な成果を出すよう各国に訴えた。記者会見で「気候変動は世界の優先課題だ」と表明。世界では既に温暖化の悪影響がみられるとして「排出ゼロに向けて前進する必要がある」と強調した。ウクライナ政府代表団は6日の全体会議で発言し、ロシアが「全面的な戦争を仕掛けている」と非難した。排出量などの算定が難しくなっていると明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻が気候変動対策での国際協力を「おとしめている」とロシアを批判した。7~8日は首脳級会合を開き、マクロン仏大統領やスナク英首相ら約100カ国・地域の出席を見込む。米国のバイデン大統領は11日に現地に入り、COP27に参加する。14日からは各国の閣僚が集まり、合意に向けた詰めの交渉に入る。世界気象機関(WMO)は6日に公表した報告書で、22年までの過去8年間が史上最も暖かくなったようだとの分析を示した。温暖化ガスの大気中の蓄積が進んでいるためだ。22年の平均気温は産業革命前を1.15度上回るといい、温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」で掲げた1.5度に抑える目標に近づいていると警告した。国連のグテレス事務総長は6日のビデオメッセージで「地球が発する救難信号に行動で応えなければならない」と述べ、各国に温暖化対策を強化するよう促した。そのうえで「COP27はそのための場所でなければならない」と力説した。現状の取り組みでは約2.5度の上昇が見込まれており対策強化に向けた作業計画を議論する。異常気象で被害を受けやすい途上国は、先進国に資金支援の拡充を求めている。大規模な資金拠出に慎重な先進国との厳しい交渉が予想される。

*1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/212384 (東京新聞 2022年11月6日) ロシアのウクライナ侵攻で先進国に石炭回帰の動き、約束不履行に不満募らせる途上国 COP27、エジプトで開幕
 国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が6日、エジプト東部シャルムエルシェイクで開幕した。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機で、先進国が石炭回帰など温暖化対策に逆行する動きを見せる一方、途上国は洪水や干ばつなど温暖化による「損失と被害」への資金援助を求めている。先進国と途上国の溝が深まる中、各国が「脱化石燃料」の動きを維持できるかが焦点となる。開幕式で、議長を務めるエジプトのシュクリ外相は「(干ばつや洪水など)各国で現在起きていることは私たちの教訓であり、地球からの警告だ。『約束』の時間は終わり『実行』するときが来た」と訴えた。今回のCOP27は温暖化による被害が集中する途上国での開催となる。アフリカ北東部の大規模干ばつやパキスタンの洪水被害などは甚大で、途上国の利益を代弁する立場の議長国エジプトは、温室効果ガスを排出する先進国の支援強化を求めるとみられる。また、先進国は2009年のCOP15で、途上国に年間1000億ドル(約15兆円)の資金援助を約束したが、現在まで目標を達成した年はない。途上国は「先進国は約束を守っていない」との不満を募らせており、COP27では大きな議論になるとみられる。議長国エジプトによるとCOP27には約120カ国が参加。7、8日は首脳級会合があり、会期は18日まで。昨年英グラスゴーのCOP26では、各国が産業革命前と比べた今世紀末の気温上昇を1.5度に抑える目標で合意し、石炭火力発電の段階的削減も確認したが、ウクライナ侵攻で先進国では石炭火力に回帰する動きが出ている。

*1-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/944107 (佐賀新聞 2022/11/8) アフリカ首脳「悪夢」訴え、温暖化被害、COP27
 エジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は7日、首脳級会合で演説が始まった。干ばつや海面上昇の危機にさらされるアフリカの首脳は「悪夢だ」と被害の現状を訴え、先進国の温室効果ガス削減の加速や支援を求めた。ケニアのルト大統領は、国内ではこの40年で最悪と言われる干ばつによって深刻な食料危機が起きていると説明。「気候変動による損失と被害は抽象的な議題ではなく、今ある悪夢だ」と述べ、交渉の焦点である被害支援の基金創設などの議論が進むことに期待を示した。インド洋に浮かぶアフリカの島しょ国セーシェルの大統領は、温室ガス排出が極めて少ないのに「被害は最も大きい」と不公平な実態に目を向けるよう求めた。コンゴ共和国の大統領はアフリカ11カ国を東西に貫く巨大植林プロジェクトを紹介した。「アフリカは(温室ガス削減に)深く関与している」と語り、先進国や新興国の対策強化を促した。一方、フランスのマクロン大統領はロシアのウクライナ侵攻に言及し「直面するエネルギー危機への対応のために(温暖化対策の)取り組みを犠牲にすることはない」と排出削減目標を維持する姿勢を強調。途上国側から不満が相次いだことを受け「分断は避けなければならない」と述べ、国際協力の強化を訴えた。

*1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASQCD6336QCBULBH008.html (朝日新聞 2022年11月12日) 温暖化「損失と被害」、だれに責任? COP27、開幕遅らせた対立
 温暖化によって家やふるさと、そして命まで失われてしまったとしたら、だれがその責任を負い、再出発を助けるのか。エジプトで開かれている国連の気候変動会議(COP27)で、主な議題になっているのが、温暖化の影響ですでに起きている「損失と被害」の救済策だ。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2月の報告書で、人間の活動による温暖化が「すでに広い範囲で損失と被害を引き起こしている」と指摘している。世界の温室効果ガス排出の8割は主要20カ国・地域(G20)からだ。これまでの累積排出量の上位10カ国も、日本を含むほとんどが先進国。一方で、世界気象機関(WMO)によると、1970~2019年に洪水などの気候災害で亡くなった人の9割は途上国に偏る。こうした国は、被害から立ち直る前に次の災害が起き、債務だけが膨らむ悪循環に陥りやすい。さらに、被害を避けて移住したり難民になったりして、地域が不安定になり、紛争につながるという指摘もある。損失と被害への支援は30年以上前から訴えられてきた。海面上昇で大きな影響を受ける島国が、被害にお金を出す保険の仕組みを求めたのが最初だ。だが議論は進まなかった。米国などを中心に、先進国が強く反対してきたからだ。(*今回のCOP27の開幕式が遅れたのも「損失と被害」の扱いをめぐった対立でした。各国はどのような主張をしているのでしょうか。後半で解説します) 損失と被害が法的責任に結びつけば、賠償請求に広がり、膨大な金額が必要になる。15年に採択されたパリ協定では、「損失と被害」の条文が盛り込まれたが、これに特化した、途上国に資金支援する仕組みは設けられなかった。今回温暖化の影響を受けるアフリカでの開催ということもあり、途上国は損失と被害に特化した基金の設立を求めた。交渉関係者によると、直前まで交渉が続き、6日の開幕式が1時間半遅れたという。正式な議題になったが、「責任や賠償は含まない」との留保がついた。7日の首脳級会合で、ケニアのルト大統領は「損失と被害は、終わりのない対話のための抽象的なテーマではなく、私たちの日常的な経験であり、何百万人ものケニア人、何億人ものアフリカ人の生きる悪夢だ」と訴えた。カリブ海の島国バルバドスのモトリー首相は、エネルギー価格の高騰で、過去最高益を出している、化石燃料業界の利益の1割に課税し、支援に充てるよう提案した。先進国の一部にも、理解を示す動きが出始めている。ロイター通信によると、少なくともドイツ、オーストリア、ベルギー、デンマーク、アイルランド、スコットランドの6の国・地域が、損失と被害を支援する資金拠出を表明している。ドイツは保険や災害対策の資金に1・7億ユーロ(約245億円)、オーストリアは今後4年間で少なくとも5千万ユーロ(約72億円)を提供する。バルバドスが求める途上国支援の改革案にはフランスも賛同している。ただ、こうした動きはまだ一部にとどまる。日本は今回は損失と被害への資金支援は約束しない。昨年、途上国支援を最大100億ドル(約1・4兆円)に積み増すと表明したばかりで、「防衛や子育てにも巨額の出費が必要で難しい」(自民閣僚経験者)。気候変動による経済的損失は50年に年間1兆ドル(約140兆円)を超えるという試算もある。重要性と資金不足は各国の共通認識になっているが、だれが、どうやって払うのか、既存の仕組みを使うのか、新しい特化した仕組みをつくるのか、一致していない。国連のグテーレス事務総長は「損失と被害を隠蔽(いんぺい)し続けることはできない」と話し、COP27で資金支援の仕組みに向けた期限付きロードマップの合意を求めている。欧州連合の交渉官は11日の会見で、「(これまでの交渉で)新しい資金の仕組みを作ることが正しい、唯一の解決だと合意する準備はできていない」と話した。島国からは、「大排出国である中国とインドも資金を出すべきだ」との声が上がっている。
●過去20年間に気候災害の影響が大きかった国
 1 プエルトリコ
 2 ミャンマー
 3 ハイチ
 4 フィリピン
 5 モザンビーク
 6 バハマ
 7 バングラデシュ
 8 パキスタン
 9 タイ
 10 ネパール
  (2000~19年。NGO「ジャーマンウォッチ」の「世界気候リスク指標2021」から)

*1-1-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/946664 (佐賀新聞 2022/11/12) COP27、首脳の対応割れる、欧米積極、岸田氏は不参加
 エジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は12日、首脳級の対応で姿勢の違いが際立つ展開のまま、約2週間の会期の前半を終えた。欧米は、焦点の開発途上国支援などをアピール。国内対応に追われる岸田文雄首相は参加を見送り、日本は影が薄い。途上国は世界へ発信する好機とみて、被害の深刻さを訴えた。バイデン米大統領は11日、短時間ながら会場入りした。特別に演説時間を割く厚遇で迎えられ「途上国支援の国際基金への拠出を倍増させる」と表明した。会場は満席で、拍手でたびたび演説が中断。「関心の高さを感じた」と交渉関係者をうならせた。欧州勢も序盤の首脳級会合に多数が姿を見せた。ドイツのショルツ首相は、途上国で生じた気候変動被害の支援を巡る「損失と被害」分野に1億7千万ユーロ(約245億円)を拠出すると明言。エネルギー危機で一時的に石炭火力発電への回帰を迫られたが「段階的廃止を堅持する」と強調した。オーストリアやスコットランド、ベルギーも資金支援を打ち出した。中国やインドは首脳級会合を欠席したが、アフリカなどはこの機会を重視。干ばつをはじめ厳しい被害と援助の必要性を相次ぎ訴えた。カリブ海の島国バルバドスの首相は、化石燃料業界への課税で支援費用を賄う構想で注目を集めた。表舞台にトップの姿がない日本。一時は岸田氏の出席を検討したとされるが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題などが重くのしかかった。さらに政府関係者は、資金支援を用意して臨んだ昨年とは異なり、今年は「首相が強くアピールできる材料に欠けた」と明かす。環境団体350.orgジャパンの伊与田昌慶さんは「リーダーシップを示す意思がないことが如実に表れた」と指摘した。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQC45HZ6QC1ULZU001.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2022年11月6日) 知ってますか? 「1.5度の約束」  個人の努力、政策が帳消しに
 世界各地で洪水や干ばつが相次ぎ、メディアは気候変動との関連を指摘しています。でも地球の気温はすでに1度以上上がっており、1.5度で抑えると言われてもピンと来ないし、何をしたらいいか分からない。自分ごとにするには、どうすればいいでしょうか?「家族が一つの部屋に集まって過ごす時間を多くすれば、電気の使用量が減るし、仲良くもなれる」「洗濯物は一度にまとめてやる」
●10代から70代までが参加した気候市民会議
 10月25日夜、東京都武蔵野市で第4回「気候市民会議」が開かれた。7月から11月までの計5回の議論をもとに来春、「市民活動プラン」をまとめる。メンバーは無作為に抽出された41人と公募27人の男女計68人。10代から70代までの幅広い世代から参加している。ゲストティーチャーによる講義、6~7人のグループに分かれての討論、各グループの発表と全体討論という流れで行われた。この日のテーマは「住まいのエネルギー」で、講義をしたのは前真之・東京大准教授(建築環境工学)だった。「電気・ガス代と二酸化炭素(CO2)排出量をムリなく効果的に減らす方法」として、前さんがまず挙げたのは、エネルギー支出の把握。燃料高騰と円安で価格が急騰しており、「特に紙の伝票がこないWEB検針の人はサイトでチェックを」と助言した。またエネルギー支出が多いのは、冷蔵庫など年間を通して使う家電や照明、給湯だとして、省エネを呼びかけた。さらに既存住宅の断熱リフォームで一番効果的なのは内窓の設置で、マンションでも可能という。一方でリフォームが難しい賃貸物件では、遮熱カーテンなどが効果的だと語った。電気代の心配のない健康で快適な暮らしをするために効果が実証されている技術は、「断熱・気密」「高効率設備」「太陽エネルギーの活用」だけだと強調した。各グループの討議を受けた発表では、「太陽光発電の設置や断熱改修にはまとまったお金がかかるので、行政の助成が必要」「断熱性能の低い家を建てた会社からペナルティーを取って助成金に充てたらどうか」「スポーツ施設のトレーニングマシンで発電できるようにすれば、温暖化対策と健康増進に役立つ」などの意見が紹介された。講評で前さんは「まずは、効果が高くて手間がかからないところから無理なく取り組む。その上で広げていけばいいのではないか」と助言。そして「日本では、木造の家の価値が短期間でゼロ査定されてしまいがち。せっかく断熱改修したり、太陽光発電設備を載せたりしてもすぐに壊されかねない。よい家を次の世代に残していくことが、社会的に評価される制度をつくっていくことが大事だ。地球に良いことが一番安く済み、おのずと次の世代に良い家を残すことにつながる。そんな仕組みづくりのきっかけにしてほしい」と締めくくった。
●「自分たちの声」の反映を求めて
 気候市民会議は欧州で始まった。2018年秋、フランスで炭素税の引き上げをきっかけに「黄色いベスト」運動が全土に広がった。市民が求めたのは、気候変動対策に自分たちの声を反映させることだった。くじ引きで選ばれた150人による気候市民会議が設置され、断熱効果のない建物の賃貸や近距離の国内空路、化石燃料の広告などの禁止を提言。これらは昨年8月の「気候とレジリエンス法」に生かされた。英国でも、気候市民会議が50年の「実質ゼロ」に向けた政策提言を議会に提出した。ドイツやデンマーク、フィンランド、オーストリア、スペインなどにも広がっている。日本を含む世界は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることを約束している。気候変動による壊滅的な環境被害を避けるためだ。それには、50年に世界全体の温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にする脱炭素化が必要となる。脱炭素化には社会経済システムの変革が必要であり、市民の協力なしには不可能だ。市民参加によってアイデアを募り、有効なものを政策に反映していくのは、当然の手続きと言える。日本では、20年に札幌市で初めて、気候市民会議が開かれた。昨年は「脱炭素かわさき市民会議」が6回にわたって「移動」「住まい」「消費」について議論し、77の提言を川崎市に提出した。その後も武蔵野市、埼玉県所沢市などが設置し、東京都杉並区も準備を進めているという。日本ではこれまでのところ、市民に気候変動を自分ごととして考えてもらったり、行政側が市民の意向を知ったりすることを主眼に設置されている。市民会議の提言を政策に反映する仕組みはまだできていない。
●無常観が漂う日本人の意識
 「アイデアは個人でやれることが多く、社会的な仕組みについて触れる人が少ないように感じる」
武蔵野市の気候市民会議に参加していたチャールズ・ハッソンさん(33)の言葉が気になった。米ボストン出身で、同市には今年2月から住んでいる。公募を見て、会議に参加したという。「個人の努力は大事だが、気候変動は個人で解決できる問題ではない。我慢せずに、みんなが納得できる仕組みが必要ではないか」。日本の温暖化対策では「小まめ」という言葉が幅を利かせてきた。「小まめに電気を消す」「小まめにエンジンを切る」など、政府は「国民運動」でCO2を減らそうと呼びかけた。その一方で、ばくだいなCO2を出す石炭火力発電所をせっせとつくり、経済的手法として効果が高い炭素税などのカーボンプライシング(炭素価格)導入はできないまま。住宅の断熱の義務化も遅れた。これでは個人の努力など、簡単に吹き飛んでしまう。おかげで、日本は「省エネ後進国」になってしまった。気候変動についての国際的な意識調査が、様々な形で実施されている。日本の特徴として見えるのは、「自分の行動が気候変動に与える影響」を気にする人や、「気候変動による災害を回避できる」と思う人が少ないことだ。「無常観」が漂う。その割に「環境意識が高い」と思っている人は多い。日本を含む世界全体が脱炭素に向かう時、私たちは何をすべきか。まずは、努力を帳消しにするような政策を変えさせる。そして、意識せずに省エネができて、快適な生活を送るための制度を導入させる。先進地域の「いい例」は参考になるはずだ。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221024&ng=DGKKZO65384110T21C22A0MM8000 (日経新聞 2022.10.24) 大規模発電所に20年間収入保証 経産省、電力不足改善へ
 経済産業省は、電力会社が天然ガス火力や原子力などの大規模な発電所を建設した場合、安定した収入を長期に得られる仕組みを導入する。火力は2050年までの二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを条件とする。投資回収期間が長い発電事業の見通しを立てやすくして新設を促し、電力不足の改善を狙う。経産省の審議会で議論し、23年度の導入を計画。運転開始から原則20年間の収入保証を想定する。近年は発電コストが低い再生可能エネルギーの普及による火力発電の収益悪化などで、大型発電への新規投資が滞っている。一定規模以上の蓄電池の新設なども対象とする。CO2排出量の多い石炭火力は対象から外す。稼働済みの発電所を脱炭素化する追加投資も支援する。燃やしてもCO2を排出しない水素やアンモニアを燃料に混ぜる設備改修などであれば、石炭火力も対象とする。火力は新設、既設問わず、50年までの脱炭素化を条件とし、排出削減の実効性が課題となる。電力小売り各社が発電所側に拠出金を渡して設備投資を促す、20年度に新設した「容量市場」を活用する。国の電力広域的運営推進機関が固定収入を得たい発電所を集める新たな入札を始める。電力会社は発電所の建設費用や人件費などをふまえて入札価格を提示。同機関が落札する電源と価格を決める。発電所は落札価格に応じて毎年、同機関から安定収入を得る。落札されなければ、得られない。

*1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221113&ng=DGKKZO65951120T11C22A1MM8000 (日経新聞 2022.11.13) アジア、膨らむ小麦リスク、10年で消費3割増 ロシア依存、安保に影
 アジアで小麦の消費が拡大し、食料安全保障(総合2面きょうのことば)上の問題が浮上している。パンや麺類など食の多様化を背景に消費量は約10年で3割以上拡大。主食のコメに近づいてきた。小麦がコメと異なるのはアジア域内で自給が難しく輸入依存度が高い点だ。ロシアやロシアが侵攻したウクライナに頼る国も目立ち、リスクが高まる恐れが出ている。ロシアの侵攻後、世界輸出の約1割を占めるウクライナ産小麦の出荷が不安定になっている。いったん停止した黒海経由の輸出は7月に再開で両国が合意した。しかし10月29日にロシアが合意停止を発表し、その4日後には撤回するなど混乱が続く。小麦先物はたびたび高騰するなど値動きが激しく、11月中旬に迫る合意の期限が更新されるかも不透明だ。特に影響が大きいのがアジアだ。米農務省によると、アジア主要国の2021年の小麦消費量は約3億3700万トンで10年に比べて34%拡大した。同期間に14%増だったコメを上回る。消費量が大きい中国を除いても1億8900万トンと35%伸びている。小麦消費量が約10年で2倍になったフィリピン。1000店舗以上を展開するファストフード店「ジョリビー」の店に入ると、ハンバーガーやスパゲティなど小麦を使うメニューが並んでいた。同じく2倍に拡大したベトナムでは、米粉を使うフォーだけでなくラーメンを食べる人も増えている。世界ラーメン協会によると即席麺の消費量は85億6000万食と日本を5割上回る。小麦消費の拡大はサプライチェーン(供給網)に変化をもたらす。アジア開発銀行の貿易エコノミスト、ジュール・ヒューゴ氏は「食料供給源が多様化することで、コメが不作になったときのリスクを緩和する助けになる」とみる。ただこれは輸入が滞らないことが前提だ。コメとは違って小麦は高温多湿な東南アジアでは生育が難しい地域が多いとされる。国連のデータによるとマレーシアやベトナム、フィリピン、インドネシアがほぼ全量を輸入に頼る。マレーシアは20%以上をウクライナから、バングラデシュは15%以上をロシアから輸入している。ロシアの侵攻を受けて代替先が必要になった各国が期待したのは、中国と並ぶアジアの小麦生産国であるインドだった。4月にはモディ首相が「世界に穀物を供給できる」と表明したが、インド国内への供給を優先して5月には輸出停止を発表した。肩すかしの格好になった各国は代替調達先の確保に苦労する。貿易でロシア包囲網を築く動きは足並みがそろわない。バングラデシュの現地メディアによると、同国はロシアのウクライナ侵攻後にロシアと約50万トンの小麦輸入を契約し、10月には5万2500トンが届いたとみられる。欧米に比べて割安なロシア産小麦に頼る状況が浮かぶ。小麦の9割近くを輸入に頼る日本も他人事ではない。各国ではウクライナから調達できない分を米国などから手当てする動きがある。米国は日本の主要な輸入先で、しわ寄せは日本に及んでいる。山崎製パンや日清製粉などが値上げに動き消費者に影響が出る。食料安保に詳しい東京大学の鈴木宣弘教授は「国内での穀物の増産に向けた積極的な支援策を急ぐ必要がある。海上輸送が滞って輸入が困難になれば、どれだけ防衛費を積み増しても国は守れない」と警鐘を鳴らす。台湾有事などが勃発すれば懸念は現実となる。ロシアのウクライナ侵攻で浮かび上がった食料安保リスクへの備えが問われている。

<補正予算>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221109&ng=DGKKZO65829470Y2A101C2EP0000 (日経新聞 2022.11.9) 補正予算「水増し」で膨張 先食いや基金、予備費は最大の11兆円 使い道の検証不可欠
 政府の経済対策で「水増し」が際立っている。政府が8日に閣議決定した2022年度第2次補正予算案で、各省庁は23年度の概算要求で提示した施策を次々に「先食い」した。複数年度の支出が前提となる基金の新設や増設も目立つ。災害など不測の事態に備える予備費は22年度に11.7兆円と過去最大に膨らむ。規模に見合う効果すら疑わしい状況にある。先食い・基金・予備費。22年度補正予算案は、予算編成の「査定」を逃れるかのような事例が相次いだ。
●薄れる緊急性
 23年度概算要求に盛り込んだ事業のお金を今年の2次補正予算で確保するものは「先食い」と言える。例えば内閣府は日本版全地球測位システム(GPS)と呼ばれる準天頂衛星システムの実証事業に2億円を計上した。概算要求に入れた事業のうち、実証研究に該当する部分を前倒しした。厚生労働省が49億円を計上した「全ゲノム解析等実行計画2022の推進」事業も、23年度概算要求の前倒しだ。環境省が2次補正で35億円計上した海洋ゴミ対策の一部は、概算要求では金額を示さない「事項要求」だった。概算要求基準の枠から外れる予算を22年度中に確保した形だが、実際には23年度に繰り越して使うことも想定されているという。仮に事業が23年度に実施されるなら、緊急性が高いという説明は難しい。財政法は当初予算の作成後に「特に緊要となった経費」に限り補正編成を認めている。第2次安倍政権以降は「15カ月予算」として、翌年度の当初予算との一体編成が通例となった。概算要求も「補正含み」で求めるのが暗黙の了解となった。概算要求で示される事項要求は、実質的に金額の上限がない。補正への前倒しが進めば予算全体の総額を抑える概算要求基準も形骸化する。
●効果まで時間
 今回の経済対策では与党内では21年度の経済対策の規模を念頭に「30兆円が発射台」といった声が相次いだ。中身よりも規模を優先させれば、緊急性や必要性に乏しい事業が紛れ込みやすい。先食いと並んで目立ったのが、複数年度にわたって補助金を配る基金の新設や積み増しだ。財務省によると、今回の補正で15程度の基金を新設する。総務省は次世代通信規格「6G」などの研究開発支援で662億円を計上して基金を新設する。文部科学省も3000億円の基金を設け、大学の学部再編を促す。経済産業省も20年度補正で創設した、脱炭素技術の開発を支援する2兆円の「グリーンイノベーション基金」を3000億円増額する。基金は独立行政法人などにつくられる。予算上は独法にお金が渡れば執行済みとなる。補助金が企業に届くのはさらに先で、経済効果はすぐには表れない。
●「便利な財布」
 予備費も積み上がる。2次補正では「新型コロナ・物価高対策予備費」を3.7兆円増やしたうえで、新たに1兆円の「ウクライナ予備費」を設ける。22年度の予備費総額は約11.7兆円となり、コロナ対策の予備費が膨らんだ20年度の10.1兆円を超えて過去最大になる。政府が国会の議決なしに使い道を決められる「便利な財布」は膨らむ一方だ。経済対策を裏付ける補正予算の規模は、新型コロナウイルス禍を境に膨張した。3度の補正を組んだ20年度は、当初も含めた一般会計総額が175.6兆円と過去最大となった。21年度も142.5兆円まで膨らんだ。22年度も補正後は139.2兆円と異例の規模が続く。しかし20~21年度は決算で見ると2割弱を使い切れずに翌年度に繰り越したり、不用額として国庫に返納したりした。繰り越しが多額になれば、短期的に景気を押し上げる効果は限られる。日銀の金融緩和の長期化で長期金利の上昇は抑え込まれ、財政支出のコストへの意識は薄れがちだ。本当に効果的な事業に絞り込む「賢い支出」の徹底には使い道の検証とともに、財政支出が経済効果に直結するかのような発想も見直す必要がある。

*2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15469005.html (朝日新聞 2022年11月9日) かさむ国債、政策疑問だらけ 28.9兆円補正予算案決定
 政府は8日、経済対策の裏付けとなる2022年度第2次補正予算案を閣議決定した。一般会計歳出は28兆9222億円。基金や予備費など規模ありきで積み上げた結果、歳入の約8割を国債(借金)にたよる形となった。今年度の国債の新規発行額は過去2番目の規模に膨らみ、財政の一段の悪化は避けられない。エネルギー価格の負担軽減策や子育て世帯への支援が柱となる。経済対策には29兆861億円をあて、歳出のうち国債の利払い費などが約1兆円減ることを見込む。歳入は、税収の上振れを3兆1240億円見込んだほか、21年度の剰余金などを盛り込んだ。ただ、それだけでは足らず22兆8520億円の国債を追加で発行。財務省によると、今年度の国債の新規発行は62兆4789億円に膨らみ、発行残高は22年度末に1042兆4千億円となる見込みだ。具体的な中身をみると、使い方に疑問符がつく政策が少なくない。国債発行がかさむ要因は経済対策の目玉となるエネルギー価格の負担軽減策だ。電気に2兆4870億円、都市ガスに6203億円、ガソリン補助金の延長に3兆272億円を計上。これまで手当てしたガソリン補助金の約3兆2千億円と合わせると、計約9兆3千億円を投じることになる。ある経済官庁幹部は「高級車に乗り、豪邸に住む人ほどガソリン代も光熱費も高く、支援額も大きくなる」と憤る。経済協力開発機構(OECD)など国際機関は各国に、価格抑制ではなく、再エネや省エネなど構造転換にお金を振り向けるように求めている。こうした痛み止め的な政策は、途中でやめられなくなるリスクをはらむ。経済産業省は今回、電気代1キロワット時あたり7円(標準家庭で月2800円)の支援を始め、来年9月には同3・5円にするとしている。鈴木俊一財務相も会見で必要性を認めつつ「経済財政に鑑みれば、巨額の措置を長続きさせるわけにはいかない」と強調した。今回の対策では規模を膨らませやすい基金の創設や積み増しも目立った。経産省は経済安保(9582億円)など5事業で基金を新設し、半導体や脱炭素を促進する基金も積み増した。文部科学省も大学の機能強化(3002億円)など5事業で新たな基金をつくった。基金は多年度で運用するため、チェックが働きにくく、一部で執行率の低さが問題となり、無駄遣いの温床になるとの指摘もある。経済対策をまとめる終盤で自民党の求めに応じるなどし、予備費4兆7400億円を積み増したことも異例だ。日本の財政はすでに世界最悪水準にあり、21年度の国内総生産(GDP)の大きさと比べた債務残高は263%。米国132%やドイツ70%、英国95%などと比べ格段に悪く、歯止めがかからない。
■補正予算案は疑問符のつく事業が並ぶ
【ばらまきになる懸念も】
 ガソリン補助金の延長 3兆0272億円
 電気料金の負担軽減策 2兆4870億円
 都市ガス料金の負担軽減策 6203億円
【本来なら当初予算に計上?】
 出産や子育ての応援交付金 1267億円
 スタートアップ(新興企業)の起業支援 1兆円程度
 学び直しなど「人への投資」 832億円
【基金の創設や増額も多い】
 重要物資の安定供給確保 9582億円
 先端半導体の生産基盤を整備 4500億円
 大学・高専の理系学部創設を支援 3002億円
【予算の繰り越しが懸念】
 防災・減災など公共事業関係費 1兆2502億円
【予備費も創設や積み増し】
 新型コロナ対策などの予備費増額 3兆7400億円
 ウクライナ危機に伴う予備費を創設 1兆円

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221109&ng=DGKKZO65829640Y2A101C2EP0000 (日経新聞 2022.11.9) 外貨準備ピーク比16%減 10月末、円買い介入響く
 外貨準備の減少が続いている。財務省が8日発表した10月末の残高は1兆1945億ドル(約175兆円)と前月から434億ドル(3.5%)減り、11年3カ月ぶりの低水準となった。ピークの2021年8月より16.1%少ない。円買い・ドル売りの為替介入と米金利上昇が響いた。過去の円売り介入や運用収入で膨らんだ外貨準備が急速に縮小している。減少率・額とも最大だった9月に続く過去2番目の大きさとなった。政府・日銀は行き過ぎた円安・ドル高を抑えるため10月21日に円買い介入に踏み切った。すぐに実施を公表しない「覆面介入」だった。介入によるドル資産の売却で外貨準備が減った。財務省は同日を含む9月29~10月27日の介入額が6兆3499億円だったと公表している。10月末の外貨準備の内訳は米国債などの「証券」が9413億ドルと前月比4.5%減った。預金は0.7%増の1370億ドルだった。9月に続き、米国債を売って円を買ったとみられる。03~04年や10~11年は円高の是正のため大規模な円売り・ドル買い介入を繰り返した。買ったドルは外貨準備になる。公表データを遡れる00年4月に3385億ドルだった外貨準備は外債の運用収入などもあり21年8月に4倍の1兆4242億ドルに膨らんだ。22年に入ってから金利上昇による米国債の価値の目減りや円買い介入で急減している。過去の円売り介入では1ドルあたり80円前後や100円前後などでドルを買ったとみられる。9~10月の円買い・ドル売り介入の際に1ドルあたり140円台でドルを売ったとすれば、単純計算で兆円単位の利益が出たことになる。財務省は8日、政府・日銀による7~9月の為替介入の日次実績も発表した。24年ぶりだった9月22日の円買い・ドル売り介入だけだった。金額は2兆8382億円で、1日あたりの規模はデータを公表している1991年4月以降の円買い介入で最大となった。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221115&ng=DGKKZO65987500V11C22A1MM0000 (日経新聞 2022.11.15) 日本のGDP1.2%減 7~9月年率、4期ぶりマイナス成長、個人消費が鈍化
 内閣府が15日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.3%減、年率換算で1.2%減だった。マイナス成長は4四半期ぶり。GDPの過半を占める個人消費は新型コロナウイルスの第7波などの影響で伸び悩み、前期比0.3%増にとどまった。市場ではプラス成長が続くとの見方が大勢を占めていた。QUICKがまとめたGDP予測の中心値は年率1.0%増だった。マイナス成長に転落した主因は外需だ。前期比の寄与度はマイナス0.7%。GDPの計算で差し引く輸入が5.2%増え、全体を押し下げた。特にサービスの輸入が17.1%増と大きく膨らんだのが響いた。内閣府の担当者は「広告に関連する業務で海外への支払いが増えた」と説明した。「決済時期のずれも影響し、一時的だ」との見方を示した。内需も低調で、寄与度は前期のプラス1.0%から0.4%に鈍化した。柱の個人消費は前期比0.3%増にとどまった。コロナの流行第7波が直撃し、交通や宿泊関連などのサービス消費が伸び悩んだ。耐久財は3.5%減と2四半期ぶりにマイナスに沈んだ。家電やスマートフォンなどが物価上昇の影響もあって振るわなかった。内需のもう一つの柱である設備投資は1.5%増で2四半期連続で伸びた。企業がコロナ禍で持ち越した分の挽回も含め、デジタル化や省力化の投資を進めている。住宅投資は0.4%減で5四半期連続のマイナス。建築資材の高騰が影を落としている。公共投資は1.2%増と2四半期連続で増えた。21年度補正予算や22年度当初予算の執行が進んだ。コロナワクチンの接種費用を含む政府消費は横ばいだった。名目GDPは前期比0.5%減、年率換算で2.0%減となった。円安で輸入額が膨らんでおり、実質でみるよりマイナス幅が大きくなっている。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比0.5%低下とマイナスが続く。日本全体として輸入物価の上昇を価格転嫁できていない構図が浮かぶ。家計の収入の動きを示す雇用者報酬は名目で前年同期比1.8%増えた。実質は1.6%減り、2四半期連続でマイナスとなった。物価上昇に賃金が追いついていない。

*2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221120&ng=DGKKZO66143940Z11C22A1EA1000 (日経新聞社説 2022年11月20日) 企業は賃上げと値上げの循環を着実に
 上場企業の業績が堅調だ。2022年4~9月期は最高益を更新した。企業は賃上げと値上げを着実に進め、日本経済の自律的な回復を後押ししてもらいたい。14日までに発表した1100社強の東証プライム企業の4~9月期決算を本紙が集計したところ、全産業の純利益合計は前年同期から5%増え、2年連続で同期間としての過去最高を更新した。資源価格の上昇を背景に商社や海運が好調だったほか、大幅な円安が多くの外需企業の業績には追い風になった。新型コロナウイルス禍からの経済再開が進み、鉄道や空運の業績も急回復した。円安や資源価格の上昇は、原材料費や物流費などコストアップにつながる。4~9月期は高い市場シェアや製品力を背景に、値上げを進めることができた企業の好調がめだった。信越化学工業は世界シェア首位の塩化ビニール樹脂で値上げが浸透し、純利益は78%増えた。コマツは北米などで建機の値上げを進め、75%の最終増益だった。原材料高で全般に業績不調だった食品業界の中でも、高価格商品の好調でヤクルト本社や東洋水産は最高益を更新した。好調な上期決算を反映し、全体の31%の企業が通期の純利益予想を上方修正した。23年3月期通期の純利益合計は、前期比7%増と最高となる見通しだ。とはいえ下期の環境は予断を許さない。最大の懸念は世界経済の減速だ。欧米はインフレを抑えるために、急ピッチの利上げを進めている。中国の景気回復の遅れも気がかりだ。世界経済の成長が鈍化すれば、日本企業の収益にも相応の下押し圧力がかかろう。そこで経営者に求めたいのは、少しずつみえてきた賃上げと値上げの好循環を絶やさないことだ。社員の生産性を引き上げる人的投資が商品の付加価値を高め、原材料の高騰を転嫁できる値上げにも道が開けるからだ。たとえば、最高益だったキーエンスは社員への利益配分にも積極的で、平均給与は上場企業でトップクラスだ。高い報酬は社員のやる気や創意工夫を引き出し、広範な値上げも可能にしている。企業が将来のリスクに備えて稼いだ利益を無駄にため込むようだと、いつまでも停滞から抜け出せない。経営者は、日本経済が縮小均衡のワナから抜け出すための重要な役割を担っている。

*2-6-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15479348.html (朝日新聞社説 2022年11月20日) GDPギャップ論の虚実 大日向寛文
 サギをカラスといいくるめるとはこのことだろう。政府は先月末に経済対策を決めた。岸田首相が説く国費の規模を29兆円とした理由には、合点がいかない。経済対策の検討の最終盤で、首相は財務省が提示した25兆円の案を拒み、更なる上積みを求めた。決着した29兆円は、コロナ禍が猖獗(しょうけつ)を極めていた昨年度(32兆円)に迫る。「規模ありきの経済対策ではないか」と記者会見で問われた首相の答えはこうだった。まず、日本経済の需要と供給力の差を示す需給ギャップ(GDPギャップ)が、「今年(4~6月期に)15兆円ある」とした。そのうえで、昨年度の7~9月期のギャップが4~6月期より2割以上膨らんだことから、「景気の下ぶれリスクに備える意味から金額を上乗せした」という。GDPギャップを政府支出で穴埋めする政策は、戦後世界を席巻したケインズ経済学に基づく。もっともらしく聞こえなくはない。だが、景気減速で直近のギャップ15兆円が首相の懸念どおり昨年と同率で膨らんだとしても、その額は3兆円強だ。29兆円にはまだ10兆円も届かない。会見で語られなかった10兆円の謎を解くカギは、昨年度の経済対策にあるようだ。昨年度は22兆円のギャップに対して、32兆円の規模とした。この差額10兆円を今年度のギャップにも加えると、財務省が示した25兆円とぴたりと符合する。首相が上乗せした3兆円強も足すとほぼ29兆円だ。だとすれば、おかしな理屈である。もともとギャップに基づく規模より10兆円も多いのに、景気減速に備えて3兆円強を加える必要があるなら示して欲しい。経済理論を参考に規模を決めたかのように装っているが、実際は関係がない。支持率低下で政権基盤が揺らぐなか、自民党有力議員が求める「前年度並みの規模」を受け入れるしかなかったのが実情であろう。政治決断の犠牲者は、余計な借金を背負わされる次世代の子どもたちである。ケインズは代表的著書「一般理論」を、「よかれあしかれ危険となるものは、既得権益ではなく観念だ」と締めくくった。不況による失業を防ぐケインズの「観念」が後世に悪用される。何とも皮肉なことではないか。

*2-6-2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BA%・・ (Wikipedia) ケインズ経済学
 ケインズ経済学(英: Keynesian economics)とは、ジョン・メイナード・ケインズの著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)を出発点に中心に展開された経済学(マクロ経済学)のこと。ケインズ経済学の根幹を成しているのは、有効需要の原理である。この原理は、古典派経済学のセイの法則と相対するもので、「供給量が需要量(投資および消費)によって制約される」というものである。これは、有効需要によって決まる現実のGDPは古典派が唯一可能とした完全雇用における均衡GDPを下回って均衡する不完全雇用を伴う均衡の可能性を認めたものである。このような原理から、有効需要の政策的なコントロールによって、完全雇用GDPを達成し『豊富の中の貧困』という逆説を克服することを目的とした、総需要管理政策(ケインズ政策)が生まれた。これは「ケインズ革命」といわれている。またケインズは、財政規律にきわめて熱心であったことも明らかになっている。ケインズ経済学では貨幣的な要因が重視されている。このことは、セイの法則の下で実物的な交換を想定とした古典派とは、対照的である。不完全雇用の原因について、ケインズの『一般理論』では「人々が月を欲するために失業が発生する」と言われている。これは歴史的な時間の流れにおける不確実性の本質的な介在によって、価値保蔵手段としての貨幣に対する過大な需要[注釈 3]が発生し、これが不完全雇用をもたらすとするケインズの洞察を示すものとして知られている。一般論として、経済モデルは不完全で疑わしく、その経済モデルが年単位で実体経済と乖離するようでは有用性に乏しい。また、経済モデルは、その実証性を検証するのに長い月日を要する。ケインズの言葉「長期的には我々はみな死んでいる」は、長期を無視するのではなくて、より優れた経済分析をすべしとの懇願でもある[3]。ポール・クルーグマンも述べるように、財政政策の短期的効果の度合いは、その経済状況に大きく依存する。景気が悪いときに政府が歳出削減をすれば、失業率は悪化し、長期的な経済成長も阻害され、結局は長期的な財政状況も悪くなってしまう。
●理論
 ケインズは、大恐慌(世界恐慌、英語では大不況Great Depression)に対する解決策として、二つの方策を取り混ぜることにより経済を刺激するよう説いた。
   ○利子率の切り下げ(金融政策)
   ○社会基盤等への政府投資(財政政策)
 中央銀行が商業銀行に貸し出す利子率を引き下げることにより、政府は商業銀行に対し、商業銀行自身もその顧客にたいし同じことをすべきであるというシグナルを送る。社会基盤への政府投資は経済に所得を注入する。それによって、ビジネス機会・雇用・需要を作りだし、需給ギャップが引き起こす悪い効果を逆転させる。政府は、国債の発行を通して経済から資金を借用することにより、必要な支出をまかなうことができる。政府支出が税収を超えるので、このことは財政赤字をもたらす。ケインズ経済学の中心的結論は、ある状況においては、いかなる自動機構も産出と雇用を完全雇用の水準に引き戻さないということである。この結論は、均衡に向かう強い一般的傾向があるという経済学アプローチと矛盾・対立する。新古典派総合は、ケインズのマクロ経済概念をミクロ的基礎と統合しようとするものであるが、一般均衡の条件が成立すれば、価格が調整され、結果としてこの目標が達成される。ケインズは、より広く、かれの理論が一般理論であると考え、その理論では諸資源の利用率は高くも低くもなりうるものであると考え、新古典派総合ないし新古典派は資源の完全雇用という特殊状況にのみ焦点を当てるものとした。新しい古典派マクロ経済学の運動は、1960年代末から1970年代初めに始まり、ケインズ経済学の諸理論を批判した。これに対し、ニュー・ケインジアンの経済学はケインズの構想をより厳密な基礎の上に基礎付けることを試みた。ケインズに関するある解釈は、ケインズ政策の国際的調整、国際的経済機構の必要、および国際調整のありようによっては、戦争にも平和にもつながりうることにケインズが力点を置いたことを強調している。(以下略)

<円安の定着>
*3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/935606 (佐賀新聞 2022/10/21) 止まらぬ円安 日本の脆弱さを見過ごすな
 円相場が一時、1ドル=150円台と1990年以来、32年ぶりの安値水準を記録した。インフレ鎮圧へ米国の大幅利上げが続く一方で、日銀が大規模な金融緩和を維持し、金利差に着目した円売りが加速したためだ。しかし円安の背景には、金融政策の違いだけでなく、成長力の低下やエネルギーの輸入依存という日本の脆弱(ぜいじゃく)さがある点を見過ごしてはならない。円急落の直接的な要因は、米国の長引く物価高騰とそれに伴う急速な金融引き締めにある。原油高やウクライナ危機などの影響で米消費者物価は9月、前年から8・2%の上昇と高止まりしたまま。連邦準備制度理事会(FRB)の急ピッチな利上げ姿勢は、当面変わらない見通しだ。物価高に即した金融引き締めは欧州なども同じだが、基軸通貨の急速な金利上昇でドルに資金が集中しやすい環境にある。このためユーロや英ポンド、韓国ウォンなども対ドルで下落している。その中でも円の急落を招いている要因が大規模緩和だ。2%目標を超えるインフレの下でも世界の流れに逆行した緩和を続けており、年初来の下落幅は約35円に及ぶ。政府・日銀は円買いドル売り介入で対抗。鈴木俊一財務相は「過度な為替変動に断固たる措置を取る」とけん制するが、一方で日銀の黒田東彦総裁は「金融緩和の継続」を再三強調し、ちぐはぐさは否めない。介入の効果が限定的なのは、金融政策の変更がかなわぬ手の内を市場関係者に見透かされているからだ。加えて、円安の背景に「国力の衰退」とも言える要因がある点に日本は向き合う必要がある。成長力の低下に財政悪化、そしてエネルギーや食料の輸入依存構造などだ。2022年度上半期の貿易収支が過去最大の赤字になったのは原油など輸入原材料の高騰と円安によるが、日本企業の輸出競争力の低下と無関係ではない。政府の債務残高は国内総生産(GDP)比で約2倍と、主要国最悪の財政状態にある。円の歴史的な下落は「日本売り」の兆候であり警鐘と受け止めるべきだ。円安は原材料の輸入コスト上昇により企業収益を悪化させ、物価を押し上げ、家計を圧迫する。岸田文雄首相は経済対策で痛みに対処すると主張するが、野党が指摘するように金融緩和と円安を放置したままでは「砂漠に水をまくようなもの」だ。円安メリットを引き出すにしても首相が前のめりな訪日観光客の受け入れ拡大は、新型コロナウイルスの再流行リスクと背中合わせである。むしろ為替差益で潤った企業に一層の賃上げや投資を迫る施策が先だ。米ワシントンで先日開かれた先進7カ国(G7)と20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は、ドル独歩高を受け「多くの通貨が大幅に変動した」点に懸念を共有した。ドル建て債務を抱える途上国や低所得国でドル高により返済負担が増したり、資金が流出したりする恐れがあるためだ。しかし歯止めはかかっていない。この現状にG20議長国のインドネシアが、債務を抱える国は「大混乱に陥っている」と指摘した上で、景気への「リスクを無視すべきでない」と訴えたのは当然だろう。世界経済を下押しするリスクの軽減へ、利上げの影響に対する一層の目配りを米国に説くのが日本の役目である。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221022&ng=DGKKZO65367300S2A021C2MM8000 (日経新聞 2022.10.22) 〈1ドル=150円の警告 上〉円安招いた「日本病」 賃金低迷・低成長のツケ
 円が1ドル=150円台と32年前の水準に下落した。バブル経済崩壊後の日本経済の地盤沈下を映す。金融緩和に依存し、問題を先送りしてきた現状に円安が警告を発している。東短リサーチの加藤出社長は、定食チェーン「大戸屋」のニューヨーク店舗のメニュー価格を円換算して驚いた。しまほっけの定食がチップなど込みで6000円強と日本の6倍強。2018年2月に訪れた際にはまだ3.3倍にとどまっていたという。日本人の賃金ではとても普段使いできない値段だ。内外の物価・賃金差が大幅に開いている。原因の一つは円の名目レートの下落で、対ドルでは今年2割強下落した。長期には物価や賃金の伸びの差が大きい。過去30年で米国ではそれぞれ2倍前後になったが、日本はほぼ横ばいにとどまる。日銀は13年からの大規模緩和を継続し、円は11年に付けた1ドル=75円の最高値から半値になった。円安による景気刺激をテコに物価を上げ、企業に賃上げを促すはずが、描いた姿になっていない。円安だけが進む。賃金が上がらない「日本病」は物価を上げれば解決するのか。ゴールドマン・サックス証券は、1982年から20年度までおよそ40年間のデータを使い、労働者の給与全体の8割弱を占める所定内給与がどのような要因で決まるかを分析した。企業が今後5年間の日本経済の成長率をどうみているかについての内閣府のアンケート調査やインフレ率、企業の経常利益伸び率など5項目について調べた。最も寄与度が大きいのは今後5年間の期待成長率で、1ポイント上がると給与が0.6%増える関係がみられた。物価上昇率は1ポイント上がっても給与は0.1%強しか増えない。「所定内給与は固定費となるため、企業は将来の成長に自信がないと賃上げをしない」(ゴールドマンの馬場直彦チーフ・エコノミスト)。この分析は緩和や円安で物価をむりやり高めても持続的な賃金上昇につながらず、日本経済の成長期待を高める必要があることを示す。90年代以降、企業は萎縮して国内投資は減った。国内の生産能力指数は2000年以降、14%低下し、18%高まった米国との差は大きい。デジタル化の投資でも出遅れ、1人当たりの生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中28位と、ポーランドなど東欧諸国と並ぶ低さだ。人口減少などを背景にした成長期待の低下が企業の投資不足を生んで生産性が上がらず、賃金も上がらない。悪循環を断つには企業は付加価値の高い製品・サービスに投資し、自ら需要を掘り起こす必要がある。足元の物価高は経営者の背中を押している。サントリーホールディングスの新浪剛史社長は「(原材料高を吸収できるだけの価格で売れる)イノベーティブな商品やプレミアムブランドをつくっていく。高付加価値の商品で粗利益を稼ぎ、収益性を高める」と語る。政府もデジタル化に対応するためのリスキリング(学び直し)などに重点投資が必要だ。「スキルを付けた人が高い賃金で成長産業に移るように労働市場を流動化させなければならない」(第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミスト)。東短リサーチが先進国を調べたところ、過去10年、最も通貨価値が下がり、最も成長率が低かったのは日本だ。金融緩和は「時間を買う」政策のはずが、その間、改革は進まなかった。大正大学の小峰隆夫教授は「非常時対応の政策から抜け出すべきだ」と指摘する。企業の新陳代謝を促すなど「痛み」を直視する改革も避けて通れない。経済構造を変える取り組みが急務だ。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15452283.html (朝日新聞 2022年10月22日) (1ドル=150円 超円安時代:2)「製造業にプラス」言わぬ経営者 資材高騰・しぼむ購買欲も不安
 歴史的な歴史的な円安ドル高が、大手メーカーのもうけを大きく膨らませている。それなのに、超円安を歓迎する声が経営者からあまり聞こえてこない。製造業が引っ張る日本経済。「円安はプラス」とは必ずしも言えなくなったのはなぜなのか。日本企業のグローバル展開の成功例とされる建機大手コマツ。建機の売り上げのうち北米や中南米など海外分が9割超を占める。円相場が1ドル=122円~136円ほどで動いた4~6月期ですら、円安を追い風に805億円と四半期で過去最高の純利益をたたき出した。7~9月期の決算発表は今月末に迫る。「円安に進めば進むほど、業績にはプラスだ」(東海東京調査センターの大平光行氏)。夏以降のさらなる円急落がどこまで利益を押し上げるのか、市場が関心を寄せる。一般に、製造業にとって円安はメリットが大きい。輸出競争力が高まり、海外事業のもうけも円換算で膨らむからだ。日本の基幹産業、自動車業界も構図は同じだ。最大手のトヨタ自動車は、1ドルあたり1円の円安で、営業利益が年450億円押し上げられると見込む。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは「今の円安水準だと、トヨタは利益を上方修正する可能性がある」とみる。円安は、海外に出た生産拠点が国内に戻るのを促す一因としても期待できる。円安基調となった2014年以降、製造業の国内投資は増える傾向にあった。資生堂はこの3年で国内工場を6カ所に倍増させた。品質とブランドがものを言う主力商品は、ほぼ全て国産化する。トヨタも8月、電気自動車(EV)向けの電池生産を拡大するため、国内に新たに約4千億円を投じると決めた。しかし、製造業を潤すはずの円安を危ぶむ声が、当のメーカーから相次ぎ上がっているのが今の局面だ。「圧倒的に製造業が有利になるといわれるが、収益に与えるメリットは以前に比べて大変減少している」。トヨタの豊田章男社長は9月、円安の影響についてそう語った。日本からの自動車の輸出台数がこの10年間で2割減ったことなどが念頭にある。11年の東日本大震災後、一時1ドル=75円にもなった超円高で、国内の製造業は空洞化の危機にさらされた。トヨタは「石にかじりついてでも国内生産300万台を守る」(豊田社長)として、雇用やサプライチェーン(部品供給網)の維持にこだわってきた。それでも、自動車産業全体では、世界の売れる地域での現地生産が進んだ。為替変動に左右されにくい体質をつくるためだ。
■海外拠点、増やした影響も
 1980年代初め、1ドル=280円ほどまで円安が進んだことがある。インフレを抑え込もうと米国が高金利政策をとり、ドル高を招いた。当時の日本は円安で自動車などの輸出を伸ばし、賃金や投資が増えて国内経済を潤した。ところが、今回の円安では自動車の輸出は増えていない。22年度上半期の輸出台数は、前年比で0・2%減。半導体不足で車を思うようにつくれなかったことが大きいが、海外生産を増やしてきた結果でもある。円安の恩恵がじわじわと縮む一方、負の面は膨らむ。ロシアによるウクライナ侵攻で資材が手に入りにくくなる中で、超円安が原材料価格の高騰を一段と加速させているのだ。トヨタは日本製鉄との鋼材価格の交渉で、過去最大となる2~3割の値上げをのんだ。打撃がより深刻なのは、部品を納める中小企業だ。愛知県にある2次下請けの部品メーカーは、この1年で鉄などの材料費が5割増えた。経営者は「電気代の高騰も痛い。完成車メーカーが仕入れ先を支援すると言うが、我々まではまだ届いていない」と言う。車業界にとってもう一つの気がかりは、消費者への影響だ。トヨタ幹部は、円安による物価高で消費者の購買力がそがれ、車の販売にも影を落としかねないと懸念する。「心配なのは過度のインフレ。グローバルに景気が後退し、車だけではなく、いろんな商品にきいてくるのではないか」。自動車メーカーの「上流」の部品供給網も、「下流」の消費者も、両方が傷んでいる構図だ。今年に入って、トヨタの株価は上がっていない。米国の金利高が景気後退につながり、新車の需要に悪影響をもたらす心配があるからだ。東海東京調査センターの杉浦氏は「株式市場は、この先に来るであろう円安の悪影響まで織り込んでいる」と話す。帝国データバンクの7月の調査では、トヨタのおひざ元で製造業が集積する愛知県の企業646社のうち、円安を「マイナス」と考える企業が59・3%にのぼった。「プラス」と考える企業は、5・6%にとどまった。

<生産性向上の条件>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221021&ng=DGKKZO65293970Q2A021C2KE8000 (日経新聞 2022.10.21) 経済が成長する条件(3) 長期成長の源泉は技術進歩 大阪大学教授 堀井亮
 前回は、設備投資により1人当たりの資本を増やせば経済成長はできるが、それには限界があることを説明しました。資本を増やしすぎると、設備の減価償却や更新費用が大きくなり、生産を増やす効果を上回ってしまうからです。では、米国ではなぜ成長が続いているのでしょうか。経済成長のうち、資本や労働の増加で説明できない謎の部分を、前回紹介した米マサチューセッツ工科大学のソロー教授の名前を取って「ソロー残差」と呼びます。統計を調べると、長期の成長のかなりの部分はこのソロー残差が原因だと判明しました。ソロー残差の正体は何でしょう? ソロー残差は、同じだけの労働者が同じだけの量の資本を使っても、以前より多く生産できることを意味します。同じ設備で同じように仕事しているなら生産は増えないでしょう。ソロー残差があるということは、設備の性能が上がったり、仕事のやり方が改善したりするなど、何らかの形で生産性が上がっているはずなのです。この生産性の上昇を経済学では「技術進歩」と呼びます。長期の経済成長のかなりの部分は技術進歩のおかげです。長期で見れば資本の増加も、技術進歩の結果です。技術進歩がなければ資本の増加も止まり、経済成長率はいずれゼロになります。長期成長の源泉は技術進歩なのです。米国では、産業革命以降150年以上にわたって年率約2%の経済成長が続いています。つまり、その間絶えず技術が進歩してきたということです。年率約2%の経済成長が35年続くと、実質国内総生産(GDP)は約2倍になります。しかし、必ずしも2倍の量のモノを作る必要はありません。例えば、自動車の保有台数が倍になることは想像しづらいでしょう。そうではなく、環境性能や安全性能、自動運転などより価値のあるものを生み出すことでも、実質GDPは増えるのです。これも技術進歩の結果です。日本経済は1990年代以降ほとんど成長していません。技術進歩が進んでいないのです。なぜでしょうか? 次回は技術進歩について解説します。

4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221024&ng=DGKKZO65327940R21C22A0KE8000 (日経新聞 2022年10月24日) 経済が成長する条件(4) 内生的成長と創造的破壊 大阪大学教授 堀井亮
 長期の経済成長は技術進歩で決まりますが、技術進歩は当初、「ソロー残差」と呼ばれ、謎の外的要因と考えられていました。しかし、1990年ごろ米スタンフォード大学のポール・ローマー教授が、経済モデルの中で技術進歩を説明する「内生的成長理論」を開発します(2018年ノーベル賞受賞)。筆者の専門も内生的成長理論です。ローマー教授の代表的な理論モデルによると、研究開発で新しい種類の資本(設備や機械など)が開発されると、多様性が増え技術進歩が発生します。コンピューターやインターネット、人工知能(AI)などの技術が生まれ、それに対応した設備や機械が開発されるといったことです。新しい設備や機械が開発されると、企業は設備投資をさらに進め生産が増えます。1人当たりの資本も増え、経済成長が持続します。技術進歩は多様性の増加だけでなく、様々な形で起こります。コレージュ・ド・フランスのフィリップ・アギオン教授は「創造的破壊」の理論を提唱しました。既存のものより高品質の製品やサービスを開発したり、従来を上回る生産性の技術を開発したりすることで、旧製品や旧技術は市場から駆逐されます。イノベーション(新技術の創造)によって、古いビジネスを「破壊」することで経済全体の技術水準が向上し、経済成長は続くのです。日本の労働者は丁寧な仕事が特徴とされます。与えられた技術で、最大の成果を得るには必要なことです。しかし、内生的成長理論によると、前例通りの仕事で得られる国内総生産(GDP)は前年と同じで、経済成長率はゼロです。前年度比で売り上げを増やす目標を立てた企業を考えます。営業努力でシェアを伸ばせば、目標は達成されます。しかし、提供する製品・サービスの付加価値が変わらなければ、他の企業の売り上げが減るだけで、日本全体の経済成長にはつながりません。では、経済成長につながる仕事とはどのようなものでしょうか。内生的成長理論では、新技術の根幹は「アイデア」にあると考えています。次回はアイデアについて説明します。

<差別は人的資本の無駄遣い>
*5-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/900420 (佐賀新聞 2022年9月18日) 「男女格差」で先進国から取り残される日本、ジェンダー・ギャップ指数を詳しく見て分かったこと、世界ランク146カ国中116位の足元事情
 スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が、各国の男女平等の実現度をランク付けした、今年の「ジェンダー・ギャップ報告」を発表した。日本は146カ国中116位。前年の120位、前々年の121位からは順位を上げたものの、低順位の「常連」になっている。ランキングは政治、経済、教育、健康の四つの分野で算出される。性差によって生まれる格差、不平等を、指数にして可視化したものだ。例えば政治分野の指標の一つである国会議員(衆院)の指数は「女性議員数÷男性議員数」として算出。指数が1になれば「完全平等」で、0に近いほど男女の格差が大きいことを意味する。116位は4分野の結果を総合した順位で、先進7カ国(G7)、東アジア太平洋地域諸国のいずれでも最下位だ。日本は特に政治、経済両面での女性の進出が依然として低調。分野別に現状を探るとともに、先進的に取り組む他国の例も紹介する。
【政治】139位(前年147位)
 前年から順位は上がったものの、指数の数字は0・061から変わらないまま。7月10日投開票の参院選では、候補者に占める割合が戦後初めて3割を超え、当選者も35人で女性比率は28%となった。ただ、ジェンダー・ギャップ報告で使うのは一院制または下院のデータ。日本の場合は衆院のみとなる。その衆院では9・9%と低迷し続け、各国議会でつくる「列国議会同盟」の各国平均の26%を大きく下回る。一方、ランキング上位常連の北欧諸国を中心に、女性議員の比率が高い国々の多くは、選挙の候補者や議席の一定比率を女性に割り当てる「クオータ制」を導入している。日本で女性比率を上げるためには、最大与党の自民党が鍵を握るが、現職は男性が多い。党には現職優先の原則があり「女性を候補にするので次から男性現職は公認しない」というわけにいかず、女性を増やすハードルは高い。指数には閣僚に占める女性の割合も反映されている。岸田内閣の閣僚19人中、女性はたった2人。フランスのマクロン大統領やカナダのトルドー首相は自ら主導して内閣の男女同数を実現した。日本ではそもそも女性議員の数が少なく、女性閣僚を一気に増やすのは容易ではない。
【経済】121位(前年117位)
 今回唯一、順位を下げた。企業の役員・管理職に占める割合の低さが足を引っ張っている。22年度の男女共同参画白書によると、日本は管理職の女性割合が13%。上場企業の一部では改善も見られており、どう波及させるかが課題だ。海外では30%を超える国が多く、フィリピンは50%超、米国やスウェーデンは40%超となっている。企業役員に占める女性の割合を一定以上とするよう法整備し、経済分野でもクオータ制を取り入れた国も少なくない。米国カリフォルニア州では、州内に本社を置く企業に対し、役員に占める女性の割合を一定以上にするよう義務付けたところ、女性役員が増えたという。賃金の差もある。経済協力開発機構(OECD)がまとめたデータによると、日本の女性の非正規労働者を含むフルタイムの賃金は、男性の77%。非正規割合の高さや、出産・育児で離職するなど勤続年数が短い人の多さが要因とみられる。米国は82%、イギリスは87%だ。欧州を中心に、海外では男女別賃金の開示ルールがすでに整備されており、日本でも今夏から、男女の賃金差公表を企業に義務付けた。企業に自主的な見直しを促す狙いで、管理職割合と賃金における格差解消を両輪で進めていく必要がある。
【教育】1位(前年92位)
 一見すると、前年から大幅改善したように見えるが、これにはからくりがある。詳しい理由は分からないが、高等教育(日本では大学)の就学率を「算出できない」として数値が反映されていないためだ。試しに日本の大学進学率をみると、21年度は女子が51・7%で、男子より6・4ポイント低かった。もしデータが反映されていれば、順位は下がっていた可能性がある。また、指数には反映されないものの、日本では理系進学での男女差も目立つ。特に、STEM(科学・技術・工学・数学)分野で女性が少ない。大学入学者に占める女性比率を分野別に調べると、日本は「自然科学・数学・統計学」27%、「工学・製造・建築」16%で、OECD加盟国では最下位だ。こうした現状の背景には「男子は理系、女子は文系」といった性別に基づいた固定観念や偏見が根強くあり、教員や保護者が理系への進学を勧めないことで、女子が理系分野への進学を選択肢から除外してしまうという指摘もある。危機感を持った日本政府は実態調査を進め、女性のSTEM人材育成に本格的に乗り出す方針。
【健康】63位(前年65位)
 前年から横ばい。生まれる子どもの男女割合と、元気に暮らせる「健康寿命」の男女差がものさしとなっている。健康分野は、医療が発達した先進国の間では差がつきにくい。健康寿命は日本が男性72・68歳、女性75・38歳。女性の状況が変わらなくても、男性の健康寿命が変動すると、計算上では指数が悪化したように見えることもある。
▽専門家はこう見る
 今回のジェンダー・ギャップ指数の結果を受け、専門家2人に話を聞いた。
(1)東京工業大の治部れんげ准教授(男女平等政策)の話
 日本は、文化的に共通項のあるアジアの中でも、改善が遅れている現状を直視するべきだ。経済分野を見ると、年金基金などの機関投資家では、ジェンダー多様性を重視する動きが広がっている。現状を放置すれば、女性役員や管理職が少ない上場企業は株主から見放されてしまうだろう。政治分野では、当選圏に届く候補者を出せる与党の取り組みが不可欠だ。男女格差解消の優先度が低くなっている現状を変えるためには、投票で関心の高さを示すなど、有権者側も行動することが必要だ。この指数には、乳児や妊産婦死亡率など健康、人権に関する指標が少ない。他の国際機関の調査とも比較し、複合的に分析すれば、「意思決定層に女性が足りない」という日本の課題がより理解できるはずだ。
(2)各国の女性施策に詳しい笹川平和財団の堀場明子主任研究員の話 
 日本の順位がなかなか上がらないのは、簡単に言うと他の国が日本以上に頑張っているからだ。ヨーロッパの一部の国や国連などが発展途上国に経済援助をする際、ジェンダー平等、意思決定層への女性の参画に取り組むことを条件にしている。このため、発展途上国では政府や企業などで意思決定層への女性の参画がかなりのスピードで進んでいる。外圧がない日本は「座して待っている」状態で「気が付いたら万年最下位グループ…」というわけだ。今後、政治、経済で日本の格差改善を促進するためには、クオータ制導入などで、ある程度強制的に男女均等にしていく必要がある。そうしないとなかなか変わらない。

*5-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221123&ng=DGKKZO66223170T21C22A1MM8000 (日経新聞 2022.11.23) わたしの選択(2)出産で収入6割減「母の罰」 男性育休で「子も仕事も」
 米ニューヨーク市に住むシーラ・フェデルさん(40)は2016年、長男出産を機に大卒後に勤めた職場を辞め、専業主婦になった。18年には長女が産まれ、キャリアの空白はさらに延びた。職場結婚した夫はこの間、順調にキャリアを積み重ねた。このほど長男が就学し、広告会社に再就職したが立場は契約社員だ。「また1から振り出しのように感じる」
●日独は深刻に
 子を産んだ女性の所得が減る現象を、社会学者は「母の罰(マザーフッド・ペナルティー)」と呼ぶ。出産を機に退職や時短勤務を選び、下がった給与は長期に回復しない。出産をちゅうちょさせるのには十分だ。米プリンストン大などによると、米国で出産5年後の母親の収入は34%減るが、ドイツや日本は同6割減とさらに深刻だ。夫が働き妻が子育てする役割分担意識や、子が3歳になるまで母親が育てるべきだという「3歳児神話」も根強い。「Rabenmutter(カラスの母)」。ドイツではフルタイム勤務の母親はひなの世話をしない薄情なカラスにたとえられてきた。ただ低出生率が定着していたドイツは変わりつつある。一時1.2台まで落ち込んだ合計特殊出生率は、2021年に1.58と50年前の水準に回復した。新型コロナウイルス禍からの反動増もあったが、出生数も約80万人と24年ぶりの多さだ。日本の21年の出生数は81万1622人とコロナ前から5万人減り、22年は初の80万人割れとの推計もある。人口で日本の7割程度の独が、統計で遡れる1950年以降初めて出生数で日本を上回る可能性が出てきた。
●手当では不十分
 「子供かキャリアか」の2択を迫る慣習は深刻な少子化を招いた。独政府が00年代以降に取り組んだのは、父親は仕事、母親は家庭という文化にメスを入れることだ。重視したのは「母親の早期復職と父親の育休取得の同時促進」(労働政策研究・研修機構の飯田恵子氏)だった。育児休業を「両親休暇」と名付け、税財源で所得保障も拡充。15年生まれの子の父親の育休取得率は35.8%と過去最高だ。出生率低下に悩む多くの国が育児手当を拡充している。ただ手当だけでは「出生率は上昇しない」と英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのマティアス・ドゥプケ教授らはみる。出生率を上げるには育児手当よりも、女性の育児負担を減らす保育サービスなどの方が3倍の費用対効果があると分析した。母親ばかり重荷を背負う社会では、女性は出産に後ろ向きになる。ドゥプケ氏らは欧州19カ国のデータを分析し、出生率が高い国ほど男性の育児参加率が高く、低出生率国では女性が出産に消極的であることを導いた。「1人だけで育児するなら、女性はキャリアを追求できなくなると考える」(ドゥプケ氏)。中国や韓国などアジア各国で受験戦争が過熱し、米国では学生ローンの返済が社会問題だ。教育費は高騰し、女性も主要な働き手として家計を支えなければ立ち行かない。「母の罰」を克服し、女性に偏る負担を社会でいかに分担するかが、少子化がもたらす国力低下を脱する一歩になる。

*5-1-3:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000362.000019290.html (アクセンチュア株式会社 2022年10月18日) アクセンチュア、「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」で世界第1位を獲得
 アクセンチュア(NYSE:ACN)は、多様性と受容性に富んだ職場環境を持つ上場企業100社を認定するリフィニティブの「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」(以下、D&I指数)で世界第1位を獲得しました(過去5年間で3度目)。D&I指数はリフィニティブが持つESG(環境・社会・ガバナンス)データをもとに算出され、アクセンチュアがトップ100に選出されたのは今回で7年連続です。(ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス: https://www.refinitiv.com/en/financial-data/indices/diversity-and-inclusion-index )
アクセンチュアの最高経営責任者(CEO)であるジュリー・スウィート(Julie Sweet)は次のように述べています。「アクセンチュアのインクルージョン&ダイバーシティへのたゆみない取り組みがリフィニティブ社に評価されたことを誇りに思います。多様な人材が自分らしく活躍できることは、アクセンチュアのビジネスの成長、継続的なイノベーションに不可欠なものであり、お客様、コミュニティ、すべての関係者のために360°バリューを提供する源泉です」。ロンドン証券取引所グループの子会社であるリフィニティブが作成したこのD&I指数は、職場における多様性や受容性に関する指標に対し、企業の相対的な実績を透明かつ客観的に評価するものです。リフィニティブは全世界で11,000社を超える企業の公開データを調査しました。対象企業は「多様性」、「受容性」、「人材開発」、「ニュースや社会問題」の基本4項目における24の評価基準によって順位付けが行われました。アクセンチュアの最高リーダーシップ兼人事責任者のエリン・シュック(Ellyn Shook)は、次のように述べています。「このような高い評価を得ることができた背景は、72万1,000人の社員が豊かな多様性を持ち、職場への帰属意識を高めているからです。アクセンチュアにとって社員の多様な経歴、視点、経験は、競争力の源泉であり、イノベーションの原動力となっています」。アクセンチュアが推進している多数の活動や取り組みの中で、今回、リフィニティブのD&I指数で取り上げられた項目は下記の通りです。
 ・柔軟性のさらなる向上:アクセンチュアでは以前から社員に在宅勤務や短日短時間勤務などの柔軟な勤務制度が整っています。さらに空間や場所を超え、アクセンチュアの独自のメタバースである「Nth Floor」などを使った新しいコラボレーションも導入しています。(Nth Floor: https://www.accenture.com/us-en/about/going-beyond-extended-reality 英語のみ)
 ・人材育成:アクセンチュアは、社員のスキルアップと未来の競争力の維持に向けた強いコミットメントを継続し、22年度には社員の学習・開発機会に11億ドルを投資しています。
 ・公平性と包括性:アクセンチュアには、事業を展開するすべての国に12万人のLGBTQ プライド・アライ(Ally・支援者)がおり 、全世界で90以上のプライド・ネットワークを構築しています。アクセンチュアは、社員構成のジェンダーバランス向上に取り組んでおり、現在、世界の全従業員の47%(日本では37.5%)、採用者の47%(日本では新卒入社の52.5%)が女性です。
 ・アクセシビリティの向上:アクセンチュアは、世界32か所に障がい者を支援するアクセシビリティ・センターを設置し、それぞれの職務で活躍するためのツール、テクノロジー、サポートを提供しています。世界中の3万5,000人以上の社員が障がい者支援ネットワークに参画し、職場で障がい者に寄り添う支援をしています。
 ・多様性に富んだ経営陣:アクセンチュアの経営陣は、女性の最高経営責任者(CEO)をはじめとするジェンダーバランスのとれたメンバー、また4大陸からの多様なメンバーで構成されています。 アクセンチュアは、2022年の「働きがいのある会社®」トップ10に9カ国(全従業員の76%)で選出され、日本でも第9位に選出されています。ほかに日本では、2021年に日経WOMAN「女性が活躍する会社BEST100」総合第1位、日経DUAL「共働き子育てしやすい企業ランキング」第3位に選出されました。また性的マイノリティに対する取り組みを評価する「PRIDE指標2021」において6年連続「ゴールド」を受賞しています。グローバルにおいてはフォーチュン誌の「世界で最も賞賛される企業」で業界第1位、ブルームバーグ社の「Gender-Equality Index(男女平等指数)」で最高得点を取得するなど、人材への取り組みと関心が高いことが評価されています。さらにダイバーシティインク社の「Top 50 Companies for Diversity(多様性のある企業トップ50)」で第1位に選ばれ、2023年に殿堂入りが決定しました。アクセンチュアのインクルージョン&ダイバーシティの詳細については、こちらをご参照ください。( https://www.accenture.com/jp-ja/about/inclusion-diversity-index )
*アクセンチュアについて
 アクセンチュアは、デジタル、クラウドおよびセキュリティ領域において卓越した能力で世界をリードするプロフェッショナル サービス企業です。40を超える業界の比類のなき知見、経験と専門スキルを組み合わせ、ストラテジー&コンサルティング、テクノロジー、オペレーションズサービス、アクセンチュア ソングの領域で、世界最大の先端テクノロジーセンターとインテリジェントオペレーションセンターのネットワークを活用して提供しています。アクセンチュアは72万1,000人の社員が、世界120カ国以上のお客様に対してサービスを提供しています。アクセンチュアは、変化がもたらす力を受け入れ、お客様、社員、株主、パートナー企業や社会へのさらなる価値を創出します。アクセンチュアの詳細は http://www.accenture.com/us-en を、アクセンチュア株式会社の詳細は http://www.accenture.com/jp をご覧ください。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15439411.html (朝日新聞 2022年10月7日) 美容師の夢、日本でやっと 在留資格の壁、「戦略特区」で活路
 今月、東京都内で外国人美容師が働けるようになった。資格は取れるのに働けない――。外国人にとって、実はそんな矛盾が長年続いてきた。新たな制度で一歩を踏み出そうとする女性がいる。劉雨ティン(リュウユティン)さん(28)は今春、ハリウッド美容専門学校(港区)を卒業し、日本の美容師免許を手にした。免許は、都道府県指定の養成施設を卒業し、国家試験に合格すれば取得できる。国籍の規定はない。なのに、美容師として働く在留資格は原則として得られない。「日本の美容はお客さんを可愛く、笑顔にできると思うんです」。聞き取りやすい日本語でそう話す劉さんは中国・江蘇省出身。本来なら日本で働けなかったが、「国家戦略特区」のおかげで道が開けた。都が国に申請し、今月から「日本語能力などの要件を満たした外国人は最長5年、美容師としての在留資格を得られる」ことになった。大手美容室チェーンの内定を得た劉さんは、11月にも働けるようになる。2015年、劉さんは初めて日本を旅行で訪れた。日本のファッションが大好き。流行の発信地、東京・南青山で美容室に入った。身ぶり手ぶりで「まっすぐな前髪に」と伝えると、「ナチュラルで私に似合う形にしてくれて驚いた」。なんだか自分に自信が持てたという。そして思った。日本の美容技術を学んで私もたくさんの人を幸せにしたい、と。3年後、劉さんは本当に東京にやって来た。高給の鉄道会社員という身分を捨てて。日本語学校で学び、専門学校で学び、新制度ができて東京で働けることになった。ところが道が開かれたのは、美容の世界に限られている。韓国に住む女性(24)は3年前、割り切れない思いを胸に東京を離れた。日本の国費留学生として服部栄養専門学校(渋谷区)に入り、2年学んで栄養士の資格を得たが、それをいかして日本で働くための在留資格は得られない。「日本の国費で留学したのに、働けないのはなぜ」と思いながら帰国した。語学を生かそうと、今、韓国の外国語大学で日本語を学ぶ。「日本は病院や老人ホームで栄養士が足りないと聞く。専門知識を学んだ外国人が働けないのは日本にとっても問題では?」と疑問を投げかける。服部栄養専門学校では、コロナ禍前は毎年、中国や韓国、台湾からの留学生20~30人が学んでいた。栄養士資格を取れるが日本では働けず、帰国していった。「高度な知識と技術なのにもったいない」と言う同校の担当者は、美容師の就労解禁に「栄養士に波及してほしい」と期待を寄せる。
■栄養士や保育士、資格取れても働けず
 はり師やきゅう師、柔道整復師もそうだ。毎年、数人の留学生が入る日本医学柔整鍼灸専門学校(新宿区)の担当者も「資格を取ったなら働いてほしいが、国の仕組みだからどうしようもない」。政府は外国人労働者の在留資格を大きく三つ設けている。(1)医師や研究者などの「専門的・技術的分野」の人材(2)飲食料品製造や農業、介護など人手不足が深刻な職種(3)技術を学ぶ名目で働く技能実習生――だ。該当しなければ、たとえ資格を取得しても在留資格は与えられない。出入国在留管理庁の担当者は、美容師や栄養士などは「『専門的・技術的分野』と見なされてこなかった」と説明する。外国人労働者の問題に詳しい丹野清人・東京都立大教授(労働社会学)に、政府の政策について尋ねると、「日本人の雇用を奪わないことを第一条件としてきた」と指摘した。在留資格は、高度な専門職や外国料理のシェフなど「文化的な背景を持ち、日本人にはできない仕事」や、介護職など人手不足の分野が対象になったという。また、就労できないのに外国人が取得できる資格が多い理由は「永住者や日本人の配偶者ら、すでに就労制限のない外国人を想定したのでは」とみる。都内に住む外国人は約55万人で10年前の1・4倍。国別では中国(39%)が最多で、韓国(15%)、ベトナム(7%)、フィリピン(6%)と続く。丹野さんは「日本人の職が外国人に奪われれば必ず批判が起きる。まずは都内限定で専門技術を持つ外国人に働いてもらう制度は合理的」と今回の特区適用を評価した上で、「慎重に外国人を受け入れ、成功とみれば拡大してみれば良いのでは」と話す。美容業界は成長の可能性も見すえる。美容室チェーン「TAYA」を展開する田谷(渋谷区)の新藤和久・人事総務本部長はインバウンド需要への対応と海外展開の足がかりの効果を挙げる。劉さんが憧れたように、近年「日本の美容技術」への注目は高いという。「海外進出した時は、現地でスタッフになってもらえるかもしれない。一緒に日本の美容を世界展開できれば」と期待する。

| 経済・雇用::2021.4~ | 04:34 PM | comments (x) | trackback (x) |
2022.9.29~10.7 最近の話題から (2022年10月17、20、21、23日、11月3、4、10日に追加あり)
(1)安倍元首相の国葬、旧統一教会、日韓トンネルなど
1)安倍元首相の国葬儀に参列して


  2022.9.28東京新聞    2022.9.27NNJnews      2022.9.28FNN

(図の説明:左図は国葬儀の全貌、中央の図が動画による安倍元首相のピアノ演奏、そして右図が一般献花に訪れた人である)

 私も元衆議院議員ということで招待状が来たので、佐賀県まで夫妻で選挙応援に来ていただいた安倍元首相の国葬に参列した。元職の中には、招待状が来たこと自体をTVで批判していた人もいたが、国葬儀と決まった以上は招待状の送付段階で差別する方が不適切であるため、特に世話になっておらず、思い出もない人は自らの判断で参列しなければいいだけではないかと思う。

 その国葬は、*1-1-1のように、9月27日に日本武道館で行われ、国内及び各国・地域・国際機関の代表4,183人が参列し、私が集合場所の第一議員会館から武道館までバスで移動した時には一般献花に訪れた人の長い列が見え、午後6時までに約2万3000人が献花したそうだ。

 安倍元首相への銃撃事件で警護の不備が浮き彫りになった警察当局は、今回は北海道や福岡など道府県警からの応援も二千数百人含む2万人規模の大規模な警備だったそうだが、数さえ多ければよいわけではないと思う。

 その国葬は午後2時に始まり、遺骨を乗せた車が都内の私邸から到着し、国歌演奏と黙とうに続いて安倍氏の生前の映像が流れた。

 その生前の映像では、*1-1-2のように、安倍元首相がグランドピアノで「花が咲く」を弾いておられ、全曲を弾いた後に「もう一回、行く?」と話しかけられた時は、かなり練習し暗譜して間違いなく弾かれたものの、決してうまいとは言えない演奏だったため、「もう一度はいい」と思われるタイミングで、微笑みと拍手を誘った。その後、BGMにその「花は咲く」のピアノ演奏を使用して生前を忍ぶ約8分間の映像が流され、さまざまな場面が映し出されたのは、さすがの構成だったと思う。また、19発の弔砲は、ひどく悲しげなかすれた音で鳴った。

2)安倍元首相の「国葬」に関する海外メディアの報道
 国葬をめぐっては、野党が批判を強めて反対のデモも起き、海外メディアは、*1-1-5のように、①AP通信:「国葬をめぐって日本が分裂している理由は、与党が超保守的な旧統一教会と癒着しているから」 ②ロイター通信:「岸田首相は旧統一教会と自民党の繋がりを断つと約束したが、党と政権への影響は計り知れない」 ③米ニューヨーク・タイムズ:「(旧統一教会をめぐる問題を指摘した上で)国葬を岸田政権による一方的な押し付けととらえる国民の追悼の念は薄れている」 ④英フィナンシャル・タイムズ:「岸田政権の支持率が急落している中、「岸田首相の苦境は彼のリーダーとしての時間が限られ、日本の首相の不安定な時代に戻るかもしれないという懸念を抱かせた」 等と報道している。

 また、*1-1-3のように、⑤CNNテレビ:「安倍元総理大臣は最も長く総理大臣を務め、日本の世界的注目度を高めた。参列できなかった市民が朝早くから献花をしようと訪れている」「多くの人が多額の国費が議会に諮ることなく使われたことに不満を持ち、食べるのに苦労している人もいる中で税金の使い方に問題があるとの意見もあって一日中抗議している」 ⑥欧州メディア:「国葬に関する国民の賛否が分かれている」 ⑦AFP通信:「世論調査では約60%の日本国民が『国葬』に反対」 ⑧韓国連合ニュース:「国葬」に反対する市民グループの集会の様子を詳しく紹介した上で「『国葬』による日本国内の世論の分裂が『国葬』当日に最もはっきりと示された」 と報道した。

 このような中、海外の首脳級は元職14人を含む50人前後が参列したがG7の首脳は1人も参列せず、G7の首脳も変わっている上に現職首脳はG7で頻繁に会っているためまあよいとは言うものの、日本メディアは、くだらないことでも政治家を叩きさえすれば権力に抗しているというポーズをとることが、このように世界での日本の地位を弱めていることに早く気づくべきである。

 なお、台湾の代表3人は他の海外からの参列者と同様に献花を行い、その際、会場で「台湾」とアナウンスされたが、私は「台湾には『中華民国』という正式名称があるため、そうアナウンスすればよかったのに」と思った。

 これについて、中国は「台湾は中国の不可分の一部で、『1つの中国』の原則は国際社会における普遍的な共通認識だ。日本は両国間の4つの政治文書の原則を順守し台湾独立分子に政治的な工作を行ういかなる舞台や機会も与えるべきではない」としているが、これは、日本の曖昧さの弱点を突いてはいるものの、独立国に対する内政干渉だと思う。

3)議員と旧統一教会および関連団体との関係
 2)の①②③④に書かれているとおり、日本のメディアは、安倍元首相が殺害された当初から、殺害の不当性や警備の甘さよりも、旧統一教会と国会議員との関係について長時間を割いて指摘してきたが、これが国葬をめぐって日本国民を分裂させた大きな理由となった。しかし、個人的な批判ばかりが多くて、日本の首相が1年毎に交代し、役に立つ構造改革ができない時代に戻るのは困ったものである。

 自民党は、*1-2-1のように、旧統一教会及び関連団体と自民党議員との接点を調べたそうだが、「会合への祝電・メッセージ等の送付」は会合に誘われれば普通はするものだ。また、広報誌のインタビューや対談に応じたり、関連団体の会合に出席したり、挨拶したりも、頼まれればするのが普通だ。そして、旧統一教会がどのようにして金を集めたのか、それが罪に当たるのか否かは、国会議員ではなく警察はじめ司法が調査すべきものだろう。

 *1-2-2は、⑨日韓トンネルは旧統一教会創始者の文鮮明氏が1981年に提唱し、教団や友好団体が推進 ⑩玄界灘を望む佐賀県唐津市名護屋城跡から南に約1.5kmの山中にコンクリートで固めた大きな穴があり ⑪日本と韓国を海底トンネルで結ぶ日韓トンネル構想は両国を全長200キロを超えるルートで繋ぐ計画で ⑫日本の閣僚からは「荒唐無稽」との声も上がるが、計画推進のための会合には国会議員らも参加 ⑬日韓トンネル構想の事業を担うのは旧統一教会の友好団体、国際ハイウェイ財団 ⑭日韓トンネルは九州北部から長崎県の壱岐・対馬を通って韓国南部までを最短約235kmで結ぶ ⑮総事業費は10兆円と試算 ⑯2010年以降は「日韓トンネル推進会議」が各地に立ち上がり ⑯2011年に徳島県議会が、13年に長崎県対馬市議会が、日韓トンネルの早期建設や着工を求める意見書を衆院に送付した ⑰2015年に設立大会が開かれた「日韓トンネル実現九州連絡会議」の会長は九州大学元総長が務める 等としている。

 私は、九州が浮揚するには近くの中国・韓国と密接な関係になるのが有効だと思っていたので、2005年に衆議院議員に立候補した時、日韓トンネルを推奨し、後に国際ハイウェイ財団の福岡集会で挨拶もしたが、これは旧統一教会創始者の文鮮明氏が提唱したからでは決してない(だいたい、そういうことは知らなかった)。にもかかわらず、「日韓トンネル推奨=統一教会と関係あり=金をもらったか、選挙で手伝ってもらった」などとして日韓トンネルの計画自体がおぞましいものであるかのように言うのは、意図的であり的外れも甚だしいのである。

 しかし、その後の日韓関係、日本の外交能力、リスク管理能力、防衛能力、メディアの世論形成に鑑みれば、日本が大陸と海で切り離されていることは防衛のためには非常に重要であり、日韓トンネルで陸続きにするのはむしろ危険だという結論に達した。

(2)防衛費増額で日本を護れるのか
1)国の財政状態について
 
        財務省          2020.12.22読売新聞 2021.11.20日経新聞 

(図の説明:左図は、国の一般会計における歳出と税収の推移で、最近になるほど差が大きくなっており、箍が外れた感がある。中央の図は、2021年度の一般会計予算で、2020年度にコロナ対策として長期間経済を止めたので税収は減少し、コロナ関係の歳出が5兆円ある。2021年度は、当初予算のほかに経済対策として右図の補正予算が組まれており、コロナ関連と銘打っての無計画で生産性の低い歳出が増加している)

 財務省は、*2-1-1のように、2022年8月10日、国の借金(=国債+借入金+政府短期証券)が、2022年6月末時点で1,255兆1,932億円で、同3月末からも13.9兆円増え、0歳児から最長高齢者まで含めた国民1人あたり約1,005万円の借金になったと発表したそうだ。

 債務の膨張が止まらないのは、2021年度の税収が67兆円で税外収入が5兆5,647億円しかないのに、当初予算106兆6,097億円(うち新規国債発行43兆5970億円)、補正予算35兆9,895億円(うち新規国債発行22兆580億円)というように、借金を原資にした歳出が多く、物価高対策を盛り込んだ2.7兆円規模の22年度補正予算も財源の全額を赤字国債で賄ったからである。

 これにより、日本の債務残高はGDPの2倍を超えて先進国中最悪になったが、これは、成長力に繋がる「賢い支出」をするのではなく、その場限りのバラマキが多かったため、税収増にも税外収入増にも繋がらなかったことによる。

2)防衛費増額について

  
2022.9.5日経新聞 2022.3.18日経新聞 2022.8.12京都新聞 四国経済産業省 

(図の説明:1番左の図が防衛費増額のイメージだが、何から何を護るのに、どういう武器を使い、そのために必要な自衛官は何人かという根本的戦略がないため、省庁間で整合性のない行動をとっている。また、左から2番目の図のように、『武器だけで国を護ることはできない』という認識に至ったのはよいが、実際には経済安全保障の対象は先端技術だけなので、右から2番目と1番右の図のように、食料とエネルギーの自給率低迷が放っておかれたままになっている)

 防衛省は、*2-1-2のように、台湾有事を睨んで、2023年度予算概算要求でGDP比1%の上限を撤廃して2%も視野に入る過去最大の防衛費を計上したそうで、日米で進む外交・安全保障の基本戦略「統合抑止(Integrated Deterrence)」の考え方によるとしている。

 しかし、名目がそうでも実質はGDP比2%を視野に戦略なき装備品購入計画になっている点が問題である。何故なら、仮に台湾有事への対応が主な増額理由なら、台湾を独立国と認める外交努力を行い、食料・エネルギー・工業製品は外国依存ではなく自給率を高め、ミサイル等の武力攻撃に対応できない原発や使用済核燃料は早急に安全な場所に処分しなければ、実際に戦うことはできないからである。

 そのため、*2-1-3のように、何とかごまかしながら5年で防衛費を倍増し、世界3位の「軍事大国」になっても、高額だが決して使えない装備に金をかけただけになりそうなのだ。

3)2022年版防衛白書について
 2022年版防衛白書は、*2-2-1のように、防衛費の増加や敵基地攻撃能力の保有などの国家安全保障戦略改定に向けて検討する防衛力強化への前向きな記述が入り、その前提となる周辺国への情勢認識の記述が強められたそうだ。

 しかし、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)を念頭に、5年以内の防衛力抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」というのは、NATO諸国とは異なる平和憲法を持つ日本にとっては、単なる予算獲得手段としか思えない。

 「防衛費は国防の国家意思を示す大きな指標」と言っても、武器さえあれば戦争ができるわけではなく、日本の場合は、台湾有事への対応にも明確な大義名分がなく、武器以外の準備は全くしていないのが実情だ。

 さらに、*2-2-2のように、中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本の安全保障環境が厳しさを増し、2021年10月に中ロ両軍の艦艇が日本列島を一周して、2022年5月には中ロ両軍の爆撃機が日本周辺を長距離にわたって共同飛行しても、日本は抗議を含めて何の対応もできなかったのである。

(3)原発推進に固執した経産省と日経新聞の罪

 
 2022.9.10日経新聞   2022.9.10日経新聞  2022.9.1Goo 2022.9.5西日本新聞

(図の説明:1番左の図のように、ミサイル技術も進歩し、発射の兆候は察知しにくく、弾道が途中で変化するので迎撃もしにくくなっているが、左から2番目の図のように、日本は核廃棄物の最終処分場所も決まっておらず、使用済核燃料は原発近くの高所にあるプールに溜めてあるのだ。そして、右から2番目の図のように、24基の原発が廃炉になるのは喜ばしいことだが、このような無防備な状態を無視して、1番右の図のように、『安全性が増す』などと称して次世代原発に前のめりになっているのは、国民を護ることを考えていない証拠である)

1)戦時における原発と使用済核燃料の危険性
 (多分)ロシア軍は、*3-1-1のように、ザポリージャ原発とその周辺で、IAEAの専門家が滞在する中で、原発を狙って砲撃をしかけ、主要な外部電源との接続が途絶して予備の送電網に頼るなどの危うい状況が続いた。しかし、「戦争があっても原発だけは攻撃されない」というのは、超楽天的な希望にすぎない。

 日本の場合は、*3-1-2のように、北朝鮮がミサイル技術を高めて弾道弾の4割を変則型にしたため、ミサイルの軌道が読みにくくなり、迎撃が困難になった。しかし、どこの国でも、武器を作る以上は相手国の迎撃をかわすよう進歩させるのが当たり前であるため、これは当然のことであろう。そのため、どこまでやってもいたちごっこであり、旧式の武器は維持・管理・処分に困るわけである。

2)放射性廃棄物の処分について
 日本では、*3-2のように、原発等から出る様々な廃棄物の最終処分場が決まっていないにもかかわらず、政府(特に経産省)が原発再稼働拡大に前のめりで、外交・防衛との整合性はもちろん考えておらず、リスク管理が0点である。

 そもそも他国を制裁して戦争を仕掛ける前に、放射性廃棄物は人間の手の届かない離れた場所に処分しておくべきだ。フクイチ事故を起こしてもそれをやらず、「(ただCO2を出さないというだけで)他国が原発を使うから日本も原発活用!原発活用!」などと騒ぎたてているのは、何も考えておらず神経が麻痺している。

3)“改良型”の新原子炉なら安全か 
 (これまでの怠惰が祟って)電力需給が逼迫する中、政府の政策転換を契機として、三菱重工・日立製作所などが、*3-3-1のように、安全性を高めた改良型の新原子炉を関電、北電、四電、九電など電力会社4社と共同開発して、2030年代半ばの実用化を目指すそうだ。

 この革新軽水炉は既存の加圧水型軽水炉を改良して自然災害や大型航空機の衝突などテロに対して対策を講じるもので、①地下式構造で被害を受けにくくし ②格納容器の外壁を強化し ③破損の確率を既存炉の100分の1未満に減らし ④炉心溶融が起きても溶融核燃料を「コアキャッチャー」でためられるようにして放射性物質を原子炉建屋内に封じ込め ⑤炉心冷却のための電源も充実して事故の影響を発電所敷地内に留め ⑥原発の技術伝承を計る のだそうだ。 

 しかし、自然災害や大型航空機衝突等のテロ対策を講じただけでは、武力攻撃には全く対応できない。さらに、①②③④⑤は、原発事故を0にするものではない上、膨大な熱エネルギーを作り出し、それを海水で冷やしながら稼働させて、食料の宝庫である海を温めることには、何ら変わりがないのだ。

 さらに、万一、事故を起こせば、食料の宝庫である農地を汚染して使い物にならなくするため、そういうリスクのある原発を、⑥のように、原発技術の維持存続自体を目的として多少の改良をし、国民の金をつぎ込んでも国益にならないことには全く変わりがない。

 このような中、日経新聞は、*3-3-2のように、しつこく、⑦エネルギーの安定供給と脱炭素の両立へ国が前面に立ち、あらゆる手段を動員する総力戦で臨むべきだ ⑧2050年の電源構成に占める再エネ比は7割に留めて残り3割は原発活用を国主導で行い、脱炭素への移行期間の電力安定供給や資金確保に万全を期すべき 等と記載してきた。

 しかし、東海発電所が1966年7月に営業運転を開始してから既に56年が経過しているのに、国の補助金がなければ原発を開発も稼働もさせることができず、放射性廃棄物の処理方法も決まっていないのでは、原発は実用的なエネルギー源としてとっくの昔に落第している。

 一方、太陽光発電の補助金制度は、最初は普及目的で1993年にスタートし、2005年に一旦停止した後、2008年度に再開されたが、普及が進んで設置費用が下がったことにより、2013年度までという短期間で終了している(https://nakajitsu.com/column/52080p/ 参照)。

 従って、費用対効果・エネルギー自給率向上によるエネルギー安全保障・脱炭素・脱放射性物質・脱温排水のいずれをとっても太陽光を始めとする再エネの方が優れていることが明らかで、“安定供給”を名目として人為的で勝手なエネルギーミックスを決め、原発を優先することは税金の膨大な無駄遣い以外の何物にもならないのである。

 なお、玄海原発の立地自治体である佐賀県でも、*3-4のように、現在稼働している玄海原発について佐賀新聞社が県民世論調査したところ、「目標時期を決めて停止」と回答した人が最多の40.3%で「即時停止」の4.6%と合わせて44.9%に達し、「運転継続」の31.0%を上回ったそうだ。そして、原発新増設や運転期間延長には慎重な意見が根強いそうで、これは当然の結果だろう。私は、危険なので「即時停止」したい方だが、「目標時期を決めて停止」するとすれば、3、4号機が40年に達する時が潮時で、使用済核燃料も速やかに搬出すべきだと考える。

(4)日本経済の現状と再エネ投資の有用性
1)貿易赤字と円安の理由
 *4-1のように、2022年1~8月の貿易収支通算は12.2兆円の赤字で、通年では2014年の12.8兆円を上回って過去最大になりそうだが、その理由は、円安(8月の為替レート:$1≒135円)と資源高で輸入額は大幅に増えたが、円安の輸出押し上げ効果が小さく、輸出が伸び悩んだからだそうだ。

 しかし、これは、今から30年前の1992年頃、日本企業が円高と高コスト構造で国内生産を諦め、世界市場に参入したばかりで人件費等のコストが安かった東欧や中国に進出しはじめた頃から「国内産業の空洞化」として予想され、それを食い止めることもなく現在に至っているものである。そのため、このままなら、貿易赤字と財政赤字の双子の赤字が日本経済の趨勢となり、その結果として、円安はさらに進むだろう。

 にもかかわらず、例えば新型コロナでは、科学的根拠もないのにワクチンを害悪視して学校を休校にし、経済は長期間停止させ、結局、マスクからワクチン・治療薬のすべてを輸入に頼り、ワクチン代は全額を国が支払った。そして、経済を止めた代償として、国はまたまた膨大なバラマキを行ったのである。この中で、その後の日本経済にプラスとなる「賢い支出」は1つもなく、これが、ワクチンや治療薬を生産して売った欧米諸国とそれらを高い価格で買っただけの日本の現在の景気の差を作っているのだ。

 このように、既に国内産業が空洞化している日本は、世界の貿易量が回復しても「工業製品を輸出する」という経済モデルは成り立たなくなっており、日本の消費者でさえ日本製にこだわらなくなっている(価格と品質の総合で負けている)ため、いつまでも「円安になれば輸出が伸びる」「海外経済が回復すれば外需を取り込める」と考えるのは、現状認識が甘すぎるのである。

 このような中、資源高と円安で化石燃料の輸入による国富の海外流出が見過ごせない状態なのに、未だに化石燃料と原発に補助金を出し、再エネによる国産エネルギーへの転換に投資しないのは、自分の国の現状を把握して長所を活かす行動をしていない状態なのだ。

2)再エネ導入の方法と効果
 私は、*4-2-1のような東京都の戸建住宅まで含んで太陽光パネル設置を義務化し、住宅メーカーが設置義務を負うとする政策に賛成だ。しかし、マンションを含み新築に限ってしまえば、中古住宅を購入して改装した場合は太陽光パネルの設置が義務づけられないため、太陽光パネルの耐用年数(20~30年)より長く居住できる住宅の売買には太陽光パネルの設置と省エネを義務化するのがよいと思う。

 また、東京都だけでなく、全国の自治体で同様に義務化すれば、地球環境によく、地域の富が他地域に電気代として流出するのを防ぎ、災害時の停電被害を最小にすることが可能だ。

 従って、再エネは脱炭素時代の主力電源であることに間違いはなく、*4-2-2のように、2050年の電源構成に占める再エネ割合7割というのは、ビルや住宅への太陽光発電設置を義務付ければ低すぎる目標になる。また、産業用電力には、余った太陽光電力や風力・地熱発電など多くの再エネが考えられるため、再エネに投資する方が原発に延々と補助金を出すよりも、ずっと環境によく「賢い支出」になる。

 さらに、荒廃農地だけでなく営農中の農地でも、風力発電をしたり、倉庫やハウスに太陽光発電機器を設置したりすることによって、電力を自家消費したり、副産物として販売したりすることが可能になり、農業所得を増やすことに貢献できる。そのため、いつまでも「再エネは不安定」などと言って思考停止しているのではなく、蓄電池の大容量化やコスト低減を行い、エネルギーのイノベーションを加速すべきなのである。

3)再エネへの移行資金
 *4-3は、①脱炭素社会の実現はクリーンエネルギー発電を増やすだけでなく ②CO2を多く出す産業の排出抑制が必要 ③国・企業・個人の金を脱炭素社会移行に回す仕組みを整えたい ④政府の見通しは、今後10年間で官民あわせて150兆円の投資が必要 ⑤再エネ普及や蓄電池開発を成長戦略と位置づけ有効な金の使い方を検討すべき ⑥採算が不透明で民間が負いにくい投資リスクは、まず国が引き受けて民間資金の呼び水の役割を果たすべき ⑦新たな国債の償還財源を確保するためカーボンプライシングを早く実行して欲しい ⑧経営者は脱炭素戦略を示し、実行方法を株主と協議すべき ⑨企業が排出抑制を進めるには機動的な資金調達も必要で、銀行や資産運用会社も体制を整えるべき 等と記載している。

 私は、①~⑨に大きな異論はないが、③の国の資金や⑦の国債償還財源は、まず原発や化石燃料に対する補助金をなくし、電源は同じ土俵で競争させることから始めるべきだ。その上で、各企業は、有価証券報告書や計算書類で自社のSDGsへの対応を開示し、投資家や消費者はそれを吟味しながらNISA等の投資対象を決めるのがよい。何故なら、SDGsは利益率を我慢して行うべきものではなく、SDGsを行うことが利益率を上げる時代に既に入っているからである。

(5)日本政府が国民生活を軽視する政策に傾くのは何故か?

  
   Gen Med          厚労省       2021.8.23日経新聞

(図の説明:左図は高齢者人口及び高齢者割合の推移だが、何歳以上を高齢者と定義するかによって変わる。しかし、中央の図のように、人口ピラミッドの変化はずっと前から言われていることで、ある年に生まれた人の人数はその年が終われば判明するため、今頃になって騒いでいる人は近未来のことを考えていなすぎる。なお、「人口が減るから困る」という論調は、世界人口が産業革命以後に等比級数的に増加し、世界ではむしろ人口過多の方が問題になり始めていることを無視しており、視野が狭すぎると言わざるを得ない)

1)公的年金の引き下げ
 公的年金は、*5-1のように、平成17年3月まで「物価スライド制(実質年金額を維持するため、物価変動に応じて年金額を改定する制度)」だったが、制度変更により平成17年4月から「マクロ経済スライド制(年金財政の均衡を保つことができない場合、年金額の伸びを物価の伸びより抑える制度)」という誰にとっても意味不明の言葉を使った国にとって都合の良い制度に変更され、2022年4月から0・4%引き下げられた(https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/hagyo/bukkaslide.html 参照)。

 国民年金は、もともと月額6万5千円未満という生活費にも足りない金額しか支給していないため、さらに引き下げれば生活できなくなる。また、この10月から一定以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担も1割から2割に引き上げられたため、介護保険料を払えずに年金の差し押さえを受ける人も全国で2万人を超え、生活破綻している高齢者が多いそうだ。

 しかし、この年金制度は、「現役世代が保険料を納めて高齢者を支える『賦課方式(仕送り方式)』で維持されているため、年金額を抑えて制度を維持する必要がある」という説明を何度も聞いたが、実際には、1985年に最初の男女雇用機会均等法が制定されたのと時期を同じくして制度変更を行い、サラリーマンの専業主婦など年金保険料を支払わない人にまで給付対象を広げて、積立方式から賦課課税方式に変更し、専業主婦を優遇したのである(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/07/s0702-2a.html 参照)。

 さらに、団塊の世代が生産年齢人口だった時は支払われる年金保険料の方が支給される年金よりずっと多かったため、発生主義で積み立てておけば大きな問題は生じなかった筈だが、日本政府は現金主義でものを考え、余れば目的外の大きな無駄遣いをし、今後は年金給付に必要な原資が足りなくなるから減額するという、その場限りのお粗末な発想をしているわけである。

 この状況では、公的年金に対する信頼などは持つ方が悪いかのようだが、そうなると賦課課税方式による年金保険料は税金と同じになり、国民負担率があまりに高くなる。つまり、保険は保険として約束どおりに支払う姿勢がなければ、信用できる保険にはならないのだ。

2)日銀の物価上昇政策
 日銀は、*5-2のように、「2%の物価上昇率」を政策目標に掲げ続けているが、そもそも中央銀行の役割は、金融政策によって物価の安定を図り、通貨の信用や国民の財産を護ることであるため(https://www.nikkei4946.com/knowledgebank/visual/detail.aspx?value=215 参照)、中央銀行が物価上昇を政策目標に掲げること自体が世界でも異常なのである。

 異常である理由は、日銀は、「現在の物価上昇は資源高や円安による輸入物価の上昇による影響が大きく、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇には至っていないから」と説明しつつ、物価の安定を図って通貨の信用や国民の財産を護るどころか、年金や賃金の実質価値を密かに毎年2%づつ下げて国民生活を犠牲にし、皆が貧しくなるようにしながら国会審議のいらない課税によって政府財政の大赤字を帳消しにしようとしているからである。

 そして、日銀は、「超低金利政策による景気の下支えを優先する」として大規模な金融緩和策を維持し続けることを決めたが、FRBは世界標準の金融政策を採って0.75%の大幅利上げを決定しているため、市場では運用に有利な金利の高いドルを買って円を売る動きが定着した。資金の海外逃避は労働力の海外移動よりも容易であるため、日本と他国の金利差が広がれば、このように円安が加速し、円安が続くのは当然のことなのである。

3)医療費について


2022.10.6日経新聞  2022.6.24日経新聞  2021.1.21毎日新聞  2022.9.21厚労省 

(図の説明:1番左の図は、健保組合の保険料は年50万円に上るとしているが、私はDINKSで働いてきたため、夫婦それぞれがこれ以上の保険料を扶養家族もないのに支払ってきた。そのため、退職後“に仕送りを受けている”などと言われるのは論外だ。また、左から2番目の図のように、「現役世代が減る」としているのも、国の子ども政策の悪さと職場の多様性のなさせいであり、国民に責任はない。さらに、右から2番目の図が所得判定だが、高齢者なら200万円の所得は豊かな方に入るというのも、生活感がなさすぎる。最後に、1番右の図のように、退職後の後期高齢者だけが入る保険を作れば公費や現役世代からの支援が必要になるのは当然である)

 高齢になると病気やけがで医療機関を受診する機会が増えるが、その理由は、身体に備わっている健康維持機能が衰えるからで、これは遅かれ早かれ誰にも平等に起こるものである。

 そのような中、日常生活をするだけでもやっとの年金しかもらっていない人は、医療費負担を重いと感じるわけだが、現行制度は、年齢等によって加入する医療保険制度が異なり、窓口で自己負担する割合も異なる。病気やケガをして病院にかかった時の医療費窓口負担割合は、(所得によって異なるが)0~6歳:2割、7~69歳:3割、70~74歳:原則2割、75歳以上等で後期高齢者医療制度に加入する人は、2022年10月から、一般所得者等1割、一定以上の所得がある人2割、現役並み所得のある人3割に変更された。

 厚労省は、後期高齢者医療制度の窓口負担を見直した理由を、①75歳以上の後期高齢者の医療費は約5割を公費で負担し、約4割が現役世代の負担(支援金)によって支えられている ②令和4年以降は他の世代より突出して人口の多い団塊の世代が75歳以上になるため、医療費がさらに増大して現役世代の負担が大きくなることが懸念される ③こうした中、現役世代の負担を少しでも減らし、全ての世代が安心して医療を受けられる社会を維持するため 等としている。

 ただし、医療機関や薬局で支払った医療費が、同一月内で一定額を超える場合は、超えた金額を払い戻す「高額療養費制度」を設けて年齢や所得に応じて窓口負担額の上限を決め、2割負担となる人は外来のみなら月18,000円、外来と入院を合わせた場合は月57,600円が上限額となるそうだ(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202209/1.html 参照)。

 また、*5-3-1は、④2021年度は健康保険組合の半数超で収支が赤字で ⑤赤字が続けば保険料率を上げざるを得ず ⑥赤字要因は医療費増加と65歳以上の高齢者医療への拠出金の増加で、特に75歳以上の後期高齢者が増加し ⑦現役が支払う保険料の4割が高齢者に「仕送り」され ⑧給付と負担の見直しが急務で ⑨健保組合に加入する会社員の場合、社会保険料は医療保険9.0%、介護保険(40~64歳)1.8%、厚生年金18.3%の合計約29%となり、現状は給付が高齢者に、負担は現役世代に偏っており ⑩後期高齢者の保険料引き上げだけでなく、給付抑制も議論する必要がある としている。

 しかし、後期高齢者医療制度は私が衆議院議員時代に作られたが、⑦の“仕送り制度”が決まった時から、私は反対していた。何故なら、年齢によってかかる病気の種類や頻度は変わり、これは平等であるため、年齢によって加入する医療保険を変えれば、病気にかかりにくくて治りやすい生産年齢人口のみが入っている健康保険は、支払保険料の方がずっと多くなり、大きな黒字となるからだ。従って、働いていた期間に入っていた医療保険に退職後の高齢者も入り続けなければ、保険制度が成立しないのである。

 そのため、①のように、75歳以上の後期高齢者医療費は約5割を公費で負担し、約4割を現役世代が負担することになったわけだが、人為的に4割・5割などと決めた数字にズレが起こるのは当たり前で、団塊世代の多くは、生産年齢人口時代に十二分に保険料を支払っているため、「仕送りした」などという生意気なことを言われたり、④⑤⑥⑩のようなことを言われる筋合いはないのである。日経新聞には、保険の仕組みがわかる人もいないのか?

 また、②の令和4年以降は団塊の世代が75歳以上になるため医療費が増大する ③現役世代の負担を少しでも減らす などというのも、上の図のように前からわかっていたことなので、団塊の世代が保険料を支払っていた期間に積立てるなどの準備しておかなかった政府(特に厚労省)の責任以外の何物でもない。

 従って、⑨⑩については、政府が責任をとって、保険料の支払者にも保険金の受給者にも迷惑をかけない形で解決すべきであり、それには適正な薬価の設定や税外収入を増やして福祉財源に充てる等を行うしかないのだ。

 そのような中、*5-3-2のように、「人口の高齢化が進んで医療費が膨らみ、今の社会保障制度は恩恵が高齢者に偏る」などとしているのは、考えの浅い妬みの論理でしかなく、本末転倒の議論でもある。もちろん、全世代が安心して暮らせる「全世代型社会保障」の実現は必要だが、それには介護保険料を全世代で負担し、給付も全世代が受けられるようにするなどの高齢者に犠牲を強いない方法を考えるべきである。

 なお、*5-3-3のように、“一定以上の所得”というのが食料・エネルギー等の必需品の物価上昇が広がる中、年金収入とその他所得の合計が単身世帯で年200万円、複数なら320万円というのは、医療・介護関係費用を支払っても生活できる収入ではない。

(6)リーダーの多様性のなさによって歪む政策
1)女性差別(ジェンダー・ギャップ)によって歪んだ政策

  
2022.7.14朝日新聞 2022.8.12佐賀新聞       2022.4.17日経新聞

(図の説明:左図のように、世界経済フォーラムの男女平等ランキングで、日本は116位と、G7最下位であるのみならず、アジアでも低迷している。また、中央の図のように、特に政治・経済におけるリーダーの登用で男女格差が大きく、その結果、右図のように、大卒女性が高卒男性と同じくらいという、同じ学歴でも年収の差が大きい状態だ)


 私は、上の(2)~(5)で、政府・行政が作った政策のうち、環境を軽視している政策、費用対効果が悪すぎる歳出、社会保障や福祉の軽視など、女性の方が積極的に発言したり、活動したりしている課題について述べた。そして、このように歪んだ政策が多い理由は、女性の方が環境や生活に関わる政策に感受性が高かったり、会計管理能力が磨かれていたり、差別を嫌ったりするのに、各界のリーダーには女性が著しく少ないからだと思う。

 そして、2022年のジェンダー・ギャップ指数(世界経済フォーラムが国別に男女格差を数値化した指数)では、*6-1のように、日本は調査対象となった世界146カ国中116位、G7最下位で、そのうち政治(139位)・経済(121位)で特にジェンダー・ギャップが大きく、教育(1位)・医療(63位)はジェンダー・ギャップが比較的少ないとされている。

 こういう結果になった理由は、①1979年に女性差別撤廃条約が国連総会で成立し、1985年に日本は女性差別撤廃条約に批准したが ②同1985年に最初の男女雇用機会均等法ができた時には女性を補助職として女性差別を正当化し ③同1985年にサラリーマンの専業主婦を3号被保険者として年金制度で優遇し ④1999年に男女雇用機会均等法の努力義務規定を禁止規定に変えると、多くの女性を非正規雇用化して労働法による保護対象からはずした など、実質的には男女平等を実現させない方向への行動をとってきたからである。

 しかし、このようにしてジェンダー・ギャップを頑固に温存してきたことは、女性に対する重大な人権侵害であったと同時に、女性がリーダーとして活躍した方が多面的な検討を行えるため経済発展が促されるにもかかわらず、それを放棄してきたということなのである。

2)障害者差別
 国連の障害者権利委員会は、*6-2のように、日本政府への審査を踏まえ、障害児を分離した特別支援教育の中止と精神科の強制入院を可能にしている法律の廃止を求めたそうだ。

 私は、前から特別支援教育と称して障害児を分離教育するのは、障害児とされた児童に対する差別であり人権侵害であると同時に、その児童から普通教育を受けて生活力を身につける機会を奪うため、問題だと思っていた。その上、日本の“障害児”の定義は、世界でも広い方なのだ。

 そのため、これを教育現場の人手不足を理由に実現しないのであれば、生産年齢人口に景気対策として莫大な金額の無駄な補助金を使っていることや、生活力が身につかなかった“障害者”を生涯ケアし続ける費用をどう捻出するのかについても同時に考える必要がある。

 さらに、精神科の強制入院を可能にしている法律廃止の実現に、仮に病院団体の反発などのハードルがあるとすれば、それは病院の利益のために障害に基づく差別を行い、強制入院による自由剝奪等の人権侵害を容認するという重大な問題である。

 そのため、他国と比べて異例の規模となる約100人の障害者やその家族が日本から現地に渡航し、国連の勧告が障害者権利条約に基づいて行われたことは、当事者が頑張ったのだと思う。

3)外国人差別

 2021.5.28日経新聞     2022.3.23GlobalSaponet    2022.6.9日経新聞

(図の説明:左図のように、日本は難民申請数は多いが難民認定率が欧米とは比べ物にならないくらい低く、入国管理庁はとても先進国とは思えない人権を無視した扱いをしている。また、中央の図のように、外国人労働者として入国した人は、問題の多い技能実習生が多く、その人たちが資格外活動もしている。さらに、右図のように、外国人は非正社員の割合が高く、外国人の正社員と比較しても著しく給与が低いが、生産年齢人口の割合が減ると言って騒いでいる日本が、このままでよいわけがない)

 *6-3のように、「不法滞在」という言葉は移民に罪があるような印象を与え差別的であるため、国連では使わないことになっており、米国のバイデン政権も「alien(在留外国人)」「illegal alien(不法在留外国人)」という呼称を禁じ「noncitizen(市民権を持たない人)」「migrant(移民)」「undocumented(必要な書類を持たない)」という言葉を使う方針で、日本でも法務省政策評価懇談会の篠塚力座長はこの点を指摘しておられたそうだ。

 が、政治・行政、NHKをはじめとするメディアでは、「不法滞在」等の差別的な言葉が未だによく使われており、日本は女性・高齢者・障害者だけでなく、外国人に対しても差別の多い鈍感な国と言わざるを得ないのである。

 しかし、現在、日本政府も「我が国に入国・在留する全ての外国人 が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見を無くし、日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する共生社 会の実現を目指す」という目標は掲げているため、一般国民も外国人労働者・移民の受け入れを渋ったり、差別・偏見を持ったりするのではなく、公平・公正な態度にすべきだ。

・・参考資料・・
<安倍元首相国葬・旧統一教会・日韓トンネル>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA251XU0V20C22A9000000/ (日経新聞 2022年9月27日) 安倍元首相の国葬、4200人参列 首相経験者は戦後2例目
 政府は27日、日本武道館(東京・千代田)で安倍晋三元首相の国葬を執り行った。国内の政財界や各国・地域・国際機関の代表ら4183人(速報値)が参列した。一般献花に訪れた人は午後6時時点でおよそ2万3000人だった。首相経験者の国葬は戦後2例目で1967年の吉田茂氏以来55年ぶり。国葬は午後2時すぎに始まった。遺骨を乗せた車が都内の私邸から到着し、葬儀副委員長の松野博一官房長官が開式の辞を述べた。国歌演奏と黙とうに続き安倍氏の生前の映像を流した。葬儀委員長である岸田文雄首相は追悼の辞で「あなたが敷いた土台の上に持続的ですべての人が輝く包摂的な日本、地域、世界をつくっていく」と語った。衆参両院議長、最高裁長官、友人代表の菅義偉前首相が順番に立った。菅氏は安全保障法制などに触れて「難しかった法案を全て成立することができた。どの一つを欠いても我が国の安全は確固たるものにはならない」と功績を強調した。天皇、皇后両陛下と上皇ご夫妻が派遣された弔問の使者が拝礼した。秋篠宮ご夫妻や次女、佳子さまら皇族が供花された後、参列者が献花した。海外の首脳級は元職14人を含む50人前後が参列したとみられる。米国はハリス副大統領、インドはモディ首相、オーストラリアはアルバニージー首相が来日した。中国は全国政治協商会議副主席の万鋼氏、韓国は韓悳洙(ハン・ドクス)首相を派遣した。政府は会場に近い九段坂公園に一般向けの献花台を設けた。朝から長い列ができ午前10時の予定を30分早めて受け付けを始めた。政府は国葬への賛否が割れていることを踏まえ、国民や地方自治体に弔意を求めなかった。官公庁や学校は休みとせず、コンサートやスポーツなどのイベントも自粛を求めなかった。

*1-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/52f18ef1e11fda6c67ff417c8a4be82158bfa1ad (Yahoo、スポニチ 2022/9/27) 安倍元首相国葬始まる 生前自ら演奏の「花が咲く」流れ…ネット涙「切なく響く」「だめだ、もう涙腺崩壊」
 7月の選挙応援演説中に銃撃され、死去した安倍晋三元首相(享年67)の国葬が27日午後2時すぎ、東京・北の丸公園の日本武道館で始まった。遺骨を抱えた昭恵夫人が入場。遺骨は葬儀委員長の岸田文雄首相、自衛隊の儀仗(ぎじょう)隊長、隊員へと手渡され、式壇の中央に置かれた。その後、松野博一官房長官が「ただいまより安倍晋三・国葬儀を執り行います」と開式の辞を述べた。君が代の斉唱は求められず、自衛隊による演奏のみが流され、その後1分間の黙とうがささげられた。さらに、安倍元首相の生前をしのぶ約8分間の映像が流され、「全身全霊をかけて挑戦する覚悟であります」と決意の演説をする場面などが映し出された。映像のBGMには、安倍元首相自らの「花は咲く」のピアノ演奏を使用。ツイッターには「安倍さんのピアノ演奏『花は咲く』が切なく響く…」「安倍ちゃんのピアノからだ 黙祷から涙止まらん」「安倍さんのピアノをバックにこれまでの軌跡 だめだ、もう涙腺崩壊です」と、感傷に浸るツイートがあふれた。安倍元首相の遺骨はこの日午後、昭恵夫人に抱えられ、東京・富ヶ谷の自宅から、海上自衛隊の儀仗隊に見送られて出発。奏楽は家族の意向で行われず、静かな出発となった。柩車は途中で防衛省を経由し、見送りを受けた後に到着した。岸田首相と自衛隊による堵列(とれつ)が出迎え、19発の弔砲が鳴らされた。国葬は210超の国と地域、国際機関からの要人約700人を含め、国内外合わせ約4300人が参列し、午後2時から開始。秋篠宮ご夫妻ら皇族も参列された。葬儀委員長の岸田文雄首相、友人代表の菅義偉前首相らが追悼の辞を行う。首相経験者の国葬は、67年10月31日の吉田茂元首相以来55年ぶりとなる。警察は全国から最大2万人を動員、威信をかけた警備に当たった。都内では首都高などで午後9時まで交通規制が行われる。会場近くでの一般献花には、朝から多くの人が訪れ、開始時間は30分前倒しされ、午前9時半から始まった。安倍元首相は2期の政権で、日本憲政史上最長の通算8年8カ月、首相を務めた。7月8日、奈良市内で参院選の応援演説中に背後から銃撃され、搬送先の病院で死亡が確認された。岸田首相は国葬の実施を閣議決定したが、国会での審議を経ずに決定した過程などに国民の意見は分かれ、この日も東京・日比谷公園で抗議デモが行われた。

*1-1-3:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220927/k10013839041000.html (NHK 2022年9月27日) 安倍元首相「国葬」海外の反応は?
 安倍元総理大臣の「国葬」をめぐる海外メディアなどの反応をまとめます。
●英 トラス首相「英国との温かい友情 永遠の遺産として残る」
 イギリスのトラス首相は、27日、自身のツイッターに日本語と英語の両方で、「安倍元首相の長年にわたる英国との温かい友情は、今日の日英両国の緊密な友好関係の中に、永遠の遺産として残ります」と投稿し、イギリスと良好な関係を築いてきた安倍元総理大臣に哀悼の意を表しました。
●インド モディ首相「心の中に生き続けることでしょう」
 インドのモディ首相は、自身のツイッターに日本語で「安倍さんは偉大な指導者、稀有な人物であり、印日友好に確信を持ってくれている人でした。安倍さんは何百万人もの人々の心の中に生き続けることでしょう」と投稿し、良好な関係を築いてきた安倍元総理大臣に対して哀悼の意を示しました。また、インド外務省によりますと、モディ首相は国葬の後、安倍元総理の妻の昭恵さんと面会し、弔意を伝えたということです。
●米CNNテレビ 日本武道館の近くから中継
 アメリカのCNNテレビは、会場となった日本武道館の近くから特派員が中継し「安倍元総理大臣は最も長く総理大臣を務め、日本の世界的な注目度を高めた。朝早くから参列できなかった市民が献花をしようと訪れている」などと述べました。そのうえで「多くの人たちは、多額の国費が議会にはかることなく使われたことに不満を持っている。食べるのに苦労している人もいるなかで、税金の使い方に問題があるとの意見もある。人々は一日中抗議している」として国葬をめぐって国民の賛否が分かれていることを伝えています。
●欧州メディア 「国葬」国民の賛否が分かれていると伝える
ヨーロッパのメディアは、安倍元総理大臣の「国葬」をめぐって、日本では、国民の賛否が分かれていると伝えています。このうちロイター通信は27日、日本で「国葬」が行われるのは1967年以来だとしたうえで「元総理大臣の殺害がきっかけとなり、与党の多くの議員と旧統一教会とのつながりが明らかになった」と伝えました。またフランスのAFP通信は27日「世論調査では、およそ60%の日本国民が『国葬』に反対している」と伝えました。そしてイギリスの公共放送BBCは、26日の記事に「なぜ安倍元総理大臣の『国葬』は論争になっているのか」という見出しをつけ、多額の費用に反対の声が上がっているとする一方「彼ほど長期にわたって総理大臣を務めた人はいない」と報じました。
●韓国メディア 日本国内の世論の分裂を伝える
 韓国メディアは、一部のテレビ局が会場近くに設けられた献花台の前から中継したほか、安倍元総理大臣の「国葬」をめぐって日本の世論が大きく割れていることに焦点を当てて伝えています。このうち、通信社の連合ニュースは「国葬」に反対する市民グループの集会の様子も詳しく紹介したうえで「『国葬』による日本国内の世論の分裂は『国葬』当日に最もはっきりと示された」と報じました。また、革新系のキョンヒャン(京郷)新聞は「旧統一教会との関係や『国葬』の妥当性をめぐって世論が好意的ではない中で行われた」と伝え、SNSのハッシュタグでは「安倍さんありがとうございました」と「最後まで国葬に反対します」の2種類が多く登場していると指摘しています。
●台湾メディア「代表3人が献花 会場で『台湾』とアナウンス」
 安倍元総理大臣の「国葬」について、台湾の主要なメディアはいずれも東京から中継したり日本の報道を引用したりして詳しく伝えています。TVBSなど各テレビ局は、台湾の代表3人がほかの海外からの参列者と同様に献花を行い、その際、会場で「台湾」とアナウンスされたことを強調しています。日本の一部メディアの「台湾を国扱いするものだとして中国が反発するのではないか」という見方について、台湾の日本に対する窓口機関「台湾日本関係協会」の周学佑 秘書長は27日午前の記者会見で「台湾と日本の間の基本的な人情や義理について中国が抗議する理由は何もないと思う」と述べました。
●中国 “台湾の参列者の献花 機会与えるべきでない”
 中国外務省の汪文斌報道官は27日の記者会見で安倍元総理大臣の「国葬」で台湾からの参列者が献花を行ったことについて問われ「台湾は中国の不可分の一部で、『1つの中国』の原則は国際社会における普遍的な共通認識だ。日本は、両国の間の4つの政治文書の原則を順守し台湾独立分子に政治的な工作を行ういかなる舞台や機会も与えるべきではない」と述べ、日本側をけん制しました。

*1-1-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/fc9ae1bd0641b5889ab142513b6cc1500feff382 (Yahoo、時事通信 2022/9/25) 迫る安倍氏国葬、厳戒態勢 2万人動員、応援も 「信頼回復の第一歩」と幹部・警視庁
 27日に迫った安倍晋三元首相の国葬は、警護の不備が浮き彫りになった7月の銃撃事件以降、警察当局が臨む初めての大規模警備となる。警視庁幹部は「信頼回復の第一歩だ」と意気込み、万全を期す構えだ。同庁関係者によると、警備態勢は2万人規模に上り、5月にバイデン米大統領らが来日した日米豪印4カ国(クアッド)首脳会議の約1万8000人を上回る見通しだ。「警察の存在意義そのものが問われる」(大石吉彦警視総監)という警備には、北海道や福岡など道府県警からの応援も二千数百人を見込む。同庁幹部は「想定外があってはならない。無事に完遂させる」と気を引き締めており、東京都内の主要ターミナル駅などには既に部隊が配置された。海外要人の来日本格化を前に、24日には羽田空港(東京都大田区)と都心を結ぶ首都高速道路で、爆発物など不審物の捜索を実施した。銃撃事件の検証では、過去の警護計画を安易に踏襲したと指摘された。別の幹部は「前例踏襲にならないようチェックを徹底している」と語り、従来の大規模警備にとらわれることなく、態勢に不備がないか計画を点検していると強調する。国葬をめぐっては、野党が批判を強め、実施反対のデモも起きるなど逆風も吹いており、同庁幹部は「『自分が正義だ』という攻撃者の心理が生まれかねないムードだ」と危惧する。前兆を捉えにくい組織的背景のない個人の凶行を警戒し、不審なインターネット上の書き込みや、銃や爆発物の原材料の購入に関する情報収集も強化している。国葬当日は、複数の団体が反対デモを予定し、会場となる日本武道館近くの九段坂公園には一般向けの献花台も設置されるなど、周辺には多くの人が訪れるとみられる。このため、大勢の警察官を配置し、群衆に紛れた危険人物の察知やトラブル防止にも力を入れる。東京・富ケ谷の安倍氏の自宅で遺骨を乗せ、会場に向かう葬儀車列の警備も余念がない。生前ゆかりのあった場所周辺も数カ所経由するとみられ、幹部は「沿道も厳重に警備する。もう何もあってはならない」と語気を強めた。 

*1-1-5:https://digital.asahi.com/articles/ASQ9W006PQ9VUHBI034.html (朝日新聞 2022年9月27日) 「国葬めぐり、なぜ日本が分裂?」 海外メディアが相次ぎ報道
 安倍晋三元首相の国葬をめぐり、世論が二分されている背景などについて、海外メディアの報道が相次いでいる。AP通信は「国葬をめぐって、なぜ日本が分裂しているのか」との見出しの記事を配信し、「与党が超保守的な旧統一教会と癒着していることが、葬儀への反対を大きくしている」と報道。ロイター通信は「岸田(文雄)首相は旧統一教会と自民党のつながりを断つと約束したが、党と政権への影響は計り知れない」と伝えた。米ニューヨーク・タイムズも、旧統一教会をめぐる問題を指摘したうえで、国葬を「岸田政権による一方的な押し付け」ととらえる国民にとって、「追悼の念は薄れているようだ」と伝えた。また、安倍元首相の評価についての分析として「(安倍元首相は)国際舞台では称賛されたが、国内ではそれ以上に分裂が激しく、右傾化政策に反対した人々がいま、無数の不満を口にしている」と指摘している。エリザベス女王の国葬が行われたばかりの英国。BBCは、女王の国葬には参列しなかったインドのモディ首相が安倍元首相に敬意を表するために日本を訪れると指摘した。安倍政権による安全保障政策をめぐっては、論争を引き起こしたとする一方で、識者の見方も踏まえ、ワシントンや、中国に対して懸念するアジアの多くの国々からは歓迎されたとの見方を示した。一方、英フィナンシャル・タイムズは、岸田政権の支持率が急落している現状に注目し、「岸田首相の苦境は、彼のリーダーとしての時間が限られ、日本の首相の不安定な時代に戻るかもしれないという懸念を抱かせた」と指摘した。

*1-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022090801115&g=pol (時事 2022年9月9日) 旧統一教会および関連団体との接点・関係 自民
1、会合への祝電・メッセージ等の送付   97人 氏名公表せず
2、広報紙誌へのインタビューや対談記事などの掲載   24人 氏名公表せず
3、旧統一教会関連団体の会合への出席
(1)議員本人ではなく、秘書が出席した会合   76人 氏名公表せず
(2)議員本人が出席したが、あいさつ等はなかった会合   48人 氏名公表せず
(3)議員本人が出席し、あいさつした会合   96人
 【衆院】逢沢一郎▽赤沢亮正▽東国幹▽池田佳隆▽石橋林太郎▽石原宏高▽石原正敬▽伊東良孝▽稲田朋美▽井林辰憲▽井原巧▽大岡敏孝▽尾崎正直▽小田原潔▽鬼木誠▽菅家一郎▽神田憲次▽北村誠吾▽工藤彰三▽熊田裕通▽国場幸之助▽小寺裕雄▽小林茂樹▽小林鷹之▽小林史明▽坂井学▽佐々木紀▽柴山昌彦▽島尻安伊子▽鈴木馨祐▽関芳弘▽高木宏寿▽高鳥修一▽高見康裕▽武田良太▽武村展英▽谷川とむ▽田野瀬太道▽田畑裕明▽塚田一郎▽土田慎▽土井亨▽中川貴元▽中川郁子▽中曽根康隆▽中西健治▽中根一幸▽中野英幸▽中村裕之▽中山展宏▽西野太亮▽萩生田光一▽鳩山二郎▽平井卓也▽深沢陽一▽古川康▽細田健一▽宮内秀樹▽宮崎政久▽宮沢博行▽務台俊介▽宗清皇一▽村井英樹▽盛山正仁▽保岡宏武▽柳本顕▽山際大志郎▽山田賢司▽山本朋広▽若林健太
 【参院】青木一彦▽生稲晃子▽石井浩郎▽井上義行▽猪口邦子▽上野通子▽臼井正一▽江島潔▽加田裕之▽加藤明良▽北村経夫▽古賀友一郎▽小鑓隆史▽桜井充▽佐藤啓▽高橋克法▽豊田俊郎▽永井学▽船橋利実▽星北斗▽舞立昇治▽三宅伸吾▽森屋宏▽山本順三▽若林洋平▽渡辺猛之
(4)議員本人が出席し、講演を行った会合   20人
 【衆院】赤沢亮正▽甘利明▽石破茂▽伊東良孝▽大岡敏孝▽小田原潔▽北村誠吾▽木原稔▽佐々木紀▽谷川とむ▽中谷真一▽中山展宏▽古川康▽宮沢博行▽務台俊介▽山際大志郎▽義家弘介
 【参院】井上義行▽猪口邦子▽衛藤晟一
4、旧統一教会主催の会合への出席   10人
 【衆院】逢沢一郎▽上杉謙太郎▽木村次郎▽柴山昌彦▽萩生田光一▽穂坂泰
 【参院】磯崎仁彦▽井上義行▽三宅伸吾▽森雅子
5、旧統一教会および関連団体に対する会費類の支出   49人(うち、政治資金規正法上、要公開の対象議員は24人)
 【衆院】青山周平▽池田佳隆▽伊藤信太郎▽伊東良孝▽井上信治▽上野賢一郎▽大岡敏孝▽奥野信亮▽小田原潔▽鬼木誠▽加藤勝信▽神田憲次▽木村次郎▽高木啓▽高木宏寿▽武田良太▽田畑裕明▽寺田稔▽中川郁子▽萩生田光一▽平井卓也▽平沢勝栄▽松本洋平
 【参院】上野通子
6、旧統一教会および関連団体からの寄付やパーティー収入   29人(うち、政治資金規正法上、要公開の対象議員は4人)
 【衆院】石破茂▽下村博文▽高木宏寿▽山本朋広
7、選挙におけるボランティア支援   17人
 【衆院】岸信夫▽木村次郎▽熊田裕通▽斎藤洋明▽坂井学▽高鳥修一▽田畑裕明▽田野瀬太道▽中川貴元▽中村裕之▽深沢陽一▽萩生田光一▽星野剛士▽若林健太
 【参院】北村経夫▽小鑓隆史▽船橋利実
8、旧統一教会および関連団体への選挙支援の依頼、および組織的支援、動員等の受け入れ   2人
 【衆院】斎藤洋明
 【参院】井上義行            (敬称略)。

*1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ945GMFQ92TIPE006.html?iref=com_rnavi_arank_nr03 (朝日新聞 2022年9月4日) 日韓トンネルは「教祖の悲願」 賛同者に大物政治家、教団の狙いとは
 玄界灘を望む佐賀県唐津市。かつて豊臣秀吉が朝鮮出兵の拠点とした名護屋城跡から南に約1・5キロの山中に、周りをコンクリートで固めた大きな穴がぽっかりと開いている。穴の上にかかる看板には「日韓トンネル唐津調査斜坑」と日韓2カ国語で書かれていた。日本と韓国を海底トンネルで結ぶ「日韓トンネル」構想は、両国を全長200キロを超えるルートでつなぐ計画。「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の創始者、故・文鮮明氏が1981年に提唱し、教団や友好団体が推進してきた。日本の閣僚からは「荒唐無稽」との声も上がるが、計画推進のための会合には国会議員らも参加していた。記者が訪ねた8月中旬、人の気配はなかった。付近の住民によると、もともとこの辺りは牛の放牧場だった。近くに住む80代の男性は「本工事に向けて、機械を入れるトンネルと聞いている。コロナ禍以前は時折バスが何台も来て、視察をしていたようだ。非現実的な計画で、実現するかどうかはあまり関心がなかった。これまで地元とのトラブルなどはなかったと思う」と話す。
●「日本を陸続きに…」 関係者が語った教祖の悲願
 日韓トンネル構想の事業を担うのは、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の友好団体の一般財団法人「国際ハイウェイ財団」(東京)。1982年に設立された前身の団体のトップには、教団の日本での初代会長を務めた久保木修己氏が就任した。教団の資料や財団によると、日韓トンネルは、九州北部から長崎県の壱岐と対馬の両島を通り、韓国南部までを最短約235キロで結ぶ。総事業費は10兆円と試算する。斜坑がある佐賀県唐津市の土地は広さ約19万4千平方メートル。斜坑の建設費は約21億7500万円で、調査費は約45億6600万円としている。斜坑はトンネル本体の工事に向け、地質調査などを目的に試掘したもの。86年に起工し、2007年までに直径6メートルの坑道を約540メートルまで掘り進めた。所有する敷地の境界に達し、それからは中断しているという。掘り進んだ土地は10年、教団から財団に寄付されている。かつて財団の元幹部はトンネルについて「教祖の悲願」と表現し、「日本(と韓国)を陸続きにして島国でなくするという文鮮明師の考え方に基づく」と、朝日新聞記者らに説明した。構想を後押しする動きは、国内でじわりと広がっていた。10年以降は「日韓トンネル推進会議」が各地に立ち上がった。また衆院事務局によると、11年に徳島県議会が、13年に長崎県対馬市議会が、日韓トンネルの早期建設や着工を求める意見書を衆院に送付した。17年には東京都内で「日韓トンネル推進全国会議」の結成大会が開かれた。財団が共催し、教団の友好団体「UPF(天宙平和連合)―Japan」「平和大使協議会」が協力に名を連ねた。会場では、朝日新聞記者が取材していた。財団の徳野英治会長(当時)が「新幹線に乗って東京からソウルにまいりましょう」と呼びかけると、大きな拍手が起きた。徳野氏は当時、教団の日本の会長でもあった。大会には自民党の国会議員も出席していた。当時、幹事長特別補佐を務めていた武田良太衆院議員は「二階(俊博)幹事長もご招待いただいたが、国会中で日程調整がつかず、私が代わりをさせていただく」と述べ、「この夢を必ずや実現していきたい」。参院憲法審査会長だった柳本卓治・元参院議員は「日韓トンネルで、心だけではなく本当に往来ができるように実現を図っていかなければならない」とあいさつした。元官房長官で、当時日韓議員連盟幹事長だった河村建夫・元衆院議員がビデオメッセージを寄せ、日韓トンネルについて「究極の日韓融合の一つの大きな指標だと我々も認識している」と話した。日韓トンネルに関して名前が出てくるのは、政治家だけではない。15年に設立大会が開かれた「日韓トンネル実現九州連絡会議」の会長は、九州大学の元総長が務める。推進会議の地方組織の会合では、民間閣僚だった元総務相やJR九州元社長らが講演していた。日韓を結ぶ海底トンネルは、過去に日韓首脳の間で話題になったこともある。財団は「過去、日韓の首脳がその意義を認め、賛同の意を何度も表明した国際プロジェクト」と説明する。一方、斉藤鉄夫国土交通相は8月26日の会見で「(国土づくりの方向性を示す)国土形成計画において、日韓トンネル構想を検討したことはない。ちょっと荒唐無稽な構想だと思っていた」と述べた。地元はどうか。
●試掘坑の見学ツアー 「寄付の口実として利用」指摘
 佐賀県によると、単に穴を掘るだけでは県の許認可対象となる「開発行為」には当たらない。一定範囲以上の森林伐採があれば森林整備課で法令に沿った対応をするが、今のところそうしたこともないという。唐津市の峰達郎市長は8月26日の会見で「民間団体が私有地で活動していると理解している。市は一切関与していない」と述べた。さらに「報道で出るたびに、看板に『唐津』の文字が入っていることにちょっと違和感を持っている。できれば看板は取り外してほしいという個人的な気持ちはある」と漏らした。教団が14年に記者に配布した資料には、「日韓トンネル早期実現のために全ての教会員が協力している」「教会と信徒が100億円を超える寄付を行い、財団が調査と建設の事業を担ってきた」などと記していた。ただ、日韓トンネルが絡んだ献金をめぐっては、教団に損害賠償を求める訴訟も過去には起きている。80年代、複数の訴訟で代理人を務めた「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人の山口広弁護士は「教団は献金を集める名目として日韓トンネル計画を利用してきた。政治家や学者らが関与すれば社会的な信用を与えることになり、献金を助長するおそれがある。即刻手を切るべきだ」と批判する。教団がトンネル資金のために借りた金の名義貸しをさせられたとして、元信者が約1億8千万円の損害賠償を求めた訴訟を担当した平田広志弁護士(福岡県弁護士会)は「旧統一教会は、信者らを頻繁に試掘坑の見学ツアーに連れて行った。日韓トンネル計画は、統一教会が意義深い活動をしている印象を信者らに持たせ、活動資金を寄付させる口実として利用された」と語る。財団は、朝日新聞の取材に「多くの団体、個人から貴重な寄付金をいただき、実現に向けての調査、研究、用地確保などを行ってきた」と説明する一方、日韓関係の悪化や日本の経済不況を挙げて「1990年ごろ以降は寄付金募集も決して容易ではない状況にあることは認めざるをえない」とする。さらに「教団批判に注力している弁護士らが、教団に被害を及ぼすことを目的に日韓トンネルを持ち出し、事実に反する内容を繰り広げている」とも主張している。教団は「資金集めのための運動ではない。そのように言われることは大変遺憾だ」と回答した。
●河村元官房長官「計画、趣旨には賛同」
 17年の「日韓トンネル推進全国会議」結成大会に参加した経緯などについて、河村建夫氏は取材に「自分は教団の支援は一切受けていないし、日韓トンネルは教団が推進している計画だと知っていたので積極的に参加したくなかったが、教団から支援を受ける地元山口県の市議に頼まれたのでビデオメッセージを送るだけにした。計画自体は日韓友好につなぐ夢として趣旨には賛同している」と語った。武田良太氏は「無回答」とし、柳本卓治氏は期限までに回答がなかった。

<防衛費増額で日本を護れるのか>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220811&ng=DGKKZO63369280R10C22A8MM8000 (日経新聞 2022.8.11) 国の借金、初の1人1000万円 6月末、総額最大の1255兆円
 財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券を合計したいわゆる「国の借金」が6月末時点で1255兆1932億円だったと発表した。3月末から13.9兆円増え、過去最多を更新した。国民1人あたりで単純計算すると、初めて1000万円を超えた。債務の膨張に歯止めがかからず、金利上昇に弱い財政構造になっている。企業の業績回復に伴い、2021年度の税収は67兆円と過去最高を更新した。一方、新型コロナウイルス対策や物価高対策などの歳出は増え続けている。低金利が続き利払いは抑えられているが、歳出の増加が税収の伸びを上回り、債務が膨らむ構図になっている。7月1日時点の総務省の人口推計(1億2484万人、概算値)で単純計算すると、国民1人あたりで約1005万円の借金になった。およそ20年前の03年度は550万円で、1人あたりでみると2倍弱に増えた。物価高対策を盛り込んだ2.7兆円規模の22年度補正予算は財源の全額を赤字国債でまかなった。財務省は22年度末には、借入金や政府短期証券を含めた国の借金が1411兆円まで増えると推計している。日本の債務残高は国内総生産(GDP)の2倍を超え、先進国の中で最悪の水準にある。成長力を底上げして税収増につなげる「賢い支出」を徹底する必要がある。

*2-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220905&ng=DGKKZO64040950V00C22A9MM8000 (日経新聞 2022.9.5) 防衛費を問う(1)日米「統合抑止」への変革、日本、台湾有事にらみ概算要求最大 戦略・制度も欠かせず
 日本の防衛が歴史的な転換点を迎える。防衛省は8月末、2023年度予算の概算要求で過去最大の防衛費を計上した。国内総生産(GDP)比で1%の上限を撤廃し、2%も視野に入る。大幅に増やす防衛費は何が必要なのか。課題をみる。「統合抑止(Integrated Deterrence)」。日米で進む外交・安全保障戦略擦り合わせのキーワードだ。5月、日米防衛相会談ではオースティン国防長官が促し、事務方の交渉でもこの言葉が軸になっている。統合抑止は米国が新たに打ち出した安全保障の基本戦略で、これまでの軍事力だけではなく、同盟国の能力、サイバーや宇宙の領域を幅広く活用する。米軍単独では中国の脅威に対処できない危機感がある。過去最大となった防衛省の概算要求は、その第一歩だ。これまで日本の防衛費論議は国民総生産(GNP)比1%枠が象徴する「数字ありき」の議論や、どんな装備品を購入するのかの「買い物計画」に偏りがちだった。米国とより連携を深めるなら米国と補完し合う形で装備品を調達し、戦略や制度も見直さなければならない。年末に国家安全保障戦略など3つの政府文書を改定するのもそのためだ。特に台湾有事の対応が問われる。
●「0発対1250発」
 第1段階の統合抑止で最も重要なのはミサイルになる。米国は過去の条約の制約で現在、中距離ミサイルを持たない。日本から中国に届く中距離ミサイルは日米ともに保有していない。条約の対象外だった中国は1250発以上を持つとされる。「0対1250」の圧倒的不均衡の修正が急務だ。日本の防衛省は今回の概算要求で一つの策を示した。相手の射程外から攻撃できる長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」だ。国産の「12式地対艦誘導弾」の射程を1000キロメートルに伸ばす改良費に272億円を計上した。1000発以上を量産する案が取り沙汰されている。政府・自民党内では22年度に沖縄県・石垣島に陸上自衛隊の駐屯地を新設し、ミサイル部隊を置く構想がある。構想通りに配備すれば沖縄の在日米軍基地や台湾に近く、中国側に届く。米国の統合抑止への目に見える関与といえるが、中国の反発も必至だ。米中対立のはざまに入る覚悟もいる。統合抑止は装備だけではない。インフラや制度、組織も日米がともに使えなければ機能しない。「本州にある航空自衛隊の基地を米軍の戦闘機に使わせてほしい」。今夏、米シンクタンク、ランド研究所が実施した机上演習でこんな場面があった。台湾有事の仮想シナリオで米軍幹部が自衛隊幹部に要請した。台湾周辺の米戦闘機は沖縄の在日米軍基地に集中する。中国の攻撃前に分散しなければ、簡単に壊滅しかねない。日本が退避場所を提供できるかが米軍の生命線になる。
●指揮系統は別々
 自衛隊組織の見直しも大事だ。米国が参加する北大西洋条約機構(NATO)や米韓同盟には「最高司令部」や「連合司令部」がある。トップは米軍の司令官だ。日米には統合司令部はなく指揮も別々だ。米韓や日米には朝鮮半島有事にどう協力して対処するかを規定する「共同作戦計画」があるが、日米の間で台湾有事に向けた計画は完成していない。装備や人員の配置、輸送や補給手段などを具体的に定めなければ統合作戦は動かせない。陸海空3自衛隊を束ねる統合幕僚長を務めた折木良一氏は「米国との窓口を担う統合司令官をつくるのが基本中の基本だ。危機になると統合幕僚長は防衛相や首相官邸など文官を補佐する仕事に追われる」と指摘する。統幕長は有事に(1)3自衛隊の統括(2)首相や防衛相への説明(3)在日米軍やインド太平洋軍司令部との調整――をすべて担う。同時並行でこなすのは非現実的だ。南西諸島には全長300メートル以上の米空母が寄港できる港湾設備はない。最新鋭戦闘機が発着できる堅固で長い滑走路も見当たらない。港や空港は国土交通省の所管だ。国・地方あわせて15兆円の公共投資予算で防衛向けは1900億円。従来の防衛費の概念に入らない他省庁の予算は多い。日本は戦後、自らは一度も紛争に巻き込まれたことがない平和国家だった。防衛費増を危険視する向きもあるが、軍事に傾斜する中国や北朝鮮、ロシアが近くにあり安保環境は厳しさを増す。必要な備えがなければ、攻撃は抑止できない。平和を守るには有事をにらんだ備えがいる。

*2-1-3:https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/263975 (山陰中央新報論説 2022/9/5) 防衛費概算要求 軍拡競争に陥る恐れ
 ロシアによるウクライナ侵攻や台湾を巡る米中の緊張など国際情勢が激しく動く中で、日本はどういう役割を果たしていくのか。問われるのは根本的な外交・安全保障戦略の在り方だ。2023年度予算の概算要求で、防衛省は過去最大の5兆5947億円を計上した。ただ、それにとどまらず「5年以内に防衛力を抜本強化する」という岸田政権の方針に沿って、金額を示さない「事項要求」を多数盛り込んでいる。政府関係者は1兆円程度が上積みされ、当初予算は最終的に6兆円台半ばになるとの見通しを示している。毎年1兆円の増額を続ければ5年で防衛費は倍増し、世界で米中に次ぐ3位レベルの「軍事大国」になる計算だ。しかし、大幅な増額は周辺国を刺激し、軍拡競争に陥ることにもなりかねない。米国と同盟関係にある一方、中国と地理的に近く、両国と深い経済関係を持つ日本が果たすべき役割は、紛争を起こさないための対話を進め、地域の緊張緩和に取り組むことではないか。専守防衛を基本とし、「平和国家」の理念を掲げてきたからこそ周辺国から得られてきた信用もある。その貴重な「資源」を放棄するのか。真の安全保障のための戦略と防衛態勢はどうあるべきか。国会でも真正面から議論し、針路を定めていくよう求めたい。岸田文雄首相は5月の日米首脳会談で防衛費の「相当な増額」を表明。6月の経済財政運営の指針に「防衛力の抜本強化」を明記した。一方、自民党は参院選公約で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国内総生産(GDP)比2%以上を目標としていることを挙げ、大幅増額を訴えた。これまでGDP比1%程度だった防衛費を倍増すれば自民党の要求を実現するものになる。政府は年末までに外交・安保政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書を改定する。焦点は防衛費の増額と、相手国の領域内を攻撃できる敵基地攻撃能力を改称した「反撃能力」の保有を認るかだ。防衛省の概算要求は事項要求の柱として、相手の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」の強化を挙げた。反撃能力の保有が決まれば転用が可能な装備だ。安保戦略改定の議論を先取りし、既成事実化するものと言える。このほかにも攻撃型の無人機の導入や、最新鋭戦闘機の追加取得などを列挙した。専守防衛との整合性が問われよう。配備を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策としてはイージス・システム搭載艦2隻を建造する。従来のイージス艦よりも大型で最新鋭の装備を搭載する計画だ。「焼け太り」ではないか。厳しい財政事情の中で財源はどうするのか。今でも隊員が不足している自衛隊に運用が可能なのか。課題は尽きない。多岐にわたる事項要求について防衛省幹部も「初めてのことで手探りだった」と語る。額を増やすために「かき集めた」のが実情ではないか。「増額ありき」で主導してきた政治の責任は重い。「抑止」のための反撃能力だと主張しても、相手国には攻撃力と映り、結局は軍拡競争に陥る「安全保障のジレンマ」が待っている。対立の構図から脱して、対話の道を開いていく国家戦略こそが求められる。

*2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15365763.html (朝日新聞 2022年7月23日) 防衛力強化、理解求める記述増 「1人当たりの国防費」比較・敵基地攻撃能力「解説」 防衛白書
 2022年版防衛白書は、防衛費の増加や敵基地攻撃能力の保有など、岸田政権が年末の国家安全保障戦略などの改定に向けて検討する防衛力強化について、前向きな記述が入った。前提となる周辺国に対する情勢認識の記述を強めるなど、国民の理解を得たい思惑が垣間見える。防衛費をめぐっては、5月の日米首脳会談で岸田文雄首相が「相当な増額」を打ち出した。自民党は参院選で「NATO(北大西洋条約機構)諸国の国防予算の対GDP(国内総生産)比目標(2%以上)も念頭に、5年以内に防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」と公約に明記した。例年、防衛費の各国との比較は掲載しているが、今年は自民公約と連動するように、NATO加盟国がGDP比2%以上の国防支出の達成で合意していることを書き込んだ。さらに、「(国民)1人当たりの国防費」の主要国比較も新たに掲載した。日本の4万円に対し、米国21万円、中国2万円、ロシア9万円、韓国12万円、英国10万円などとなっており、増額に向けて国民の理解を求めたい意向が透ける。岸信夫防衛相は22日の記者会見で、こうした記載について「防衛費は国防の国家意思を示す大きな指標となる。国民のみなさまに防衛費の現状についてご理解を深めて頂けるように初めて記述した」と話した。日本を攻撃しようとする外国のミサイル基地などをたたく敵基地攻撃能力についても、「急速に変化・進化するミサイル技術への対応」と題した「解説」を新たに設けた。「迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命や暮らしを守り抜くことができるのかといった問題意識のもと、あらゆる選択肢を検討」していると説明。従来の国会答弁も紹介し、「『先制攻撃』を行うことは許されないとの考えに変更はない」と強調した。
■周辺国の情勢認識、表現強化
 防衛力強化の必要性の根拠となる周辺国の情勢認識については、年末の国家安全保障戦略などの改定で本格的に議論されるが、白書でも先行して表現を強めた。ロシアは前年の「注視」から「懸念を持って注視」と変えた。海洋進出や台湾への軍事的圧力を強める中国は「わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念」、核・ミサイル開発を進める北朝鮮は「わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」という表現を踏襲したものの、それぞれ「こうした傾向は近年より一層強まっている」という一文を加えた。特に中国については昨年よりも3ページ多い34ページを割いて詳報し、強い警戒感を示している。日本周辺での活動を「急速に拡大・活発化」させてきたことを踏まえ、「活動の定例化を企図しているのみならず質・量ともにさらなる活動の拡大・活発化を推進する可能性が高い」と懸念を示し、「強い関心を持って注視していく」必要性を訴えた。
■中国「強烈な不満」
 防衛白書について、中国外務省の汪文斌副報道局長は22日の定例会見で、「中国の脅威を誇張し、台湾問題で中国内政に干渉している」などとして「強烈な不満と断固とした反対」を表明。日本側に厳正な申し入れを行ったと明らかにした。汪氏は、白書が「反撃能力」について記述したことなどについて「日本がますます平和主義や専守防衛から遠ざかるのではないかと懸念されている」と訴えた。
■表紙はAIアート
 2022年版の防衛白書は、表紙にAI(人工知能)アートをあしらった。手がけたのは、テクノロジーアーティスト集団「ライゾマティクス」。防衛省として、先端技術を活用するとの意思を示したという。従来は艦艇や戦闘機などの写真を採用することが多かったが、昨年は人気の墨絵アーティストによる騎馬武者の墨絵を採用するなど、「イメージチェンジ」を図っている。今回は、AIに「ハイブリッド化した安全保障上の挑戦に革新的なアイデアと最先端技術で打ち勝つ」というコンセプトをキーワードとして入力。AIが生成した原画を加工した。ライゾマティクスに依頼したのは、省内に設置された「防衛白書事務室」。防衛省事務職員と陸海空の自衛官の計6人で構成する。約500ページに及ぶ防衛白書は、防衛省・自衛隊の任務や防衛政策の説明から世界の国々の軍事動向まで多岐にわたり、「海外の安保関係者も、新版が出るたびに分析している」(防衛省幹部)と言われている。一般の人にも手にとってもらうため、安全保障の専門家だけでなく、出版社や広告会社にも意見を求めた。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220723&ng=DGKKZO62845750S2A720C2EA1000 (日経新聞社説 2022.7.23) 中ロ連携の深化に危機感示した防衛白書
ロシアのウクライナ侵攻は力による一方的な現状変更であり、アジアを含む国際秩序の根幹を揺るがしている。政府が22日に公表した2022年版の防衛白書はこんな危機意識を示し、防衛力を早急に強化すべきだと説いた。中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本の安全保障環境は厳しさを増しており、白書が示した認識はおおむね妥当だろう。政府は年末の国家安保戦略の改定に向け、防衛費の増額などに関する議論に本格的に乗り出す。国民にその必要性を丁寧に説明し、有効な手立てを検討してもらいたい。岸信夫防衛相は巻頭で国際社会がいま「戦後最大の試練」を迎えていると言明した。ロシアのウクライナ侵攻はその一因だが、ロシアが東アジアでも軍事活動を活発にしているのは気がかりだ。白書がとりわけ注目したのはロシアと中国の軍事協力の深化で、「懸念を持って注視する」と記した。両軍の艦艇10隻は21年10月、日本列島をほぼ一周する異例の行動をみせた。今年5月には両軍の爆撃機が日本周辺を長距離にわたって共同飛行した。米国は中国との競争を重視する方針を掲げながらも、当面はウクライナ支援に力を割かざるを得ない。日本が果たすべき役割はその分、重みを増す。中ロが期せずして同じタイミングで挑発的な行動に出る可能性も排除できない。政府はそうした事態も念頭に、備えを怠ってはならない。先の参院選で自民党は防衛費の増額を訴えたが、使い道を具体的に明らかにしなかった。厳しい財政状況で増額が必要ならば、政府・与党は早期に道筋を示して国民の理解を得るよう努めるべきだ。白書は中国に関して昨年と同じ表現で「安全保障上の強い懸念」を示した。台湾との軍事バランスが中国有利に傾き、その差は広がっていると指摘した。台湾有事が日本と無縁ではないとの認識は浸透しつつある。日本経済新聞社の世論調査でも、現行法で、あるいは法改正をしてでも台湾有事に備えるべきだと9割以上の人が回答している。白書はミサイル発射を繰り返す北朝鮮を引き続き「重大かつ差し迫った脅威」と位置付けた。台湾、朝鮮半島いずれの有事への備えでも米国や友好国との共同軍事訓練の拡充は有効だ。現行法に抜け穴がないかも点検すべきだ。

<原発推進に固執した経産省と日経新聞>
*3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15407450.html (朝日新聞 2022年9月5日) 原発周辺での砲撃続く IAEA6人滞在中 ザポリージャ
 ロシア軍が占領するウクライナ中南部ザポリージャ原発とその周辺では、国際原子力機関(IAEA)の専門家が滞在する中、4日も砲撃が続いた。ロシア側とウクライナ側は互いに原発を狙って攻撃をしかけていると主張。3日には主要な外部電源との接続が途絶し、予備の送電網に頼る危うい状況が続いている。ロシア国防省は4日、ウクライナ軍が同原発を攻撃するため、ドローン8機を使用したと発表した。8機はいずれもロシア軍により撃退されたとしている。一方、ロシアの独立系の調査報道サイト「ザ・インサイダー」は、2日から3日の夜にかけてロシア軍の多連装ロケット砲が原発に隣接する場所から発射されているとする動画を、4日公表した。「ロシアは送電線を破壊してウクライナへの送電を止め、ロシアへの送電を狙っている」との見方を示している。現在、原発には6人のIAEA専門家が滞在。今週中にも2人が「常駐」する態勢に移行して原発の監視と支援を担う。IAEAのグロッシ事務局長は3日の声明で、「原発周辺の状況に強い懸念を抱いているが、我々がそこに滞在し続けることが最も重要だ」と述べ、可能な限り職員の常駐を続ける考えをあらためて示した。市民生活にも影響が出ている。ウクライナのメディアは4日、原発の地元エネルホダル市の市長の話として、人道支援物資を運ぶトラックが砲火で届かない状況が2日間続いていると伝えた。

*3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220911&ng=DGKKZO64235330R10C22A9MM8000 (日経新聞 2022.9.11) 北朝鮮弾道弾 「変則型」4割 新型の迎撃困難に、日米韓、抑止が急務
 北朝鮮がミサイル技術を高め、迎撃が難しくなってきた。2019年以降に発射した弾道弾を分析すると、迎撃が難しい変則軌道が少なくとも4割弱、兆候を読みにくい固体燃料が7割強を占めた。16~17年から一変した。核搭載できる様々な飛距離の新型を開発し、日米韓の隙を突く。「核は絶対的な力であり、朝鮮人民の大きな誇りだ」。金正恩(キム・ジョンウン)総書記は8日の演説でこう述べ、核・ミサイル開発への決意を強調した。最高人民会議は同日、核兵器の使用条件などを定めた法令を採択した。北朝鮮は22年前半だけで28発以上の弾道ミサイル(総合2面きょうのことば)を発射した。最多だった19年の年間25発を上回る水準だ。韓国政府系の研究機関は北朝鮮は1月以降の発射で最大870億円を費やしたと分析する。北朝鮮の推定国内総生産(GDP)の2%に相当する。制裁で厳しい経済状況の北朝鮮が開発を急ぐのはなぜか。発射するミサイルの変化を追うと狙いが浮かぶ。防衛省や韓国軍の発表をもとに分類し、16~17年の40発と19年以降の70発を比べた。変化が顕著なのが燃料だ。17年までは液体燃料型が大多数を占めていたのが直近は固体燃料型が主軸になった。「スカッド」や「ノドン」といった旧型に代わり、ロシアや米国が開発し配備するミサイルと類似した「KN23」や「KN24」が登場した。固体燃料は発射前の数日以内に注入する必要がある液体燃料と比べ、情報収集衛星などで発射の兆候を探知しにくい。一度充填すると保存できない液体燃料と異なり燃料付きで保管できる強みもある。日米韓に察知されずに奇襲しやすくなる。北朝鮮はトンネルに隠した鉄道貨車から撃つといった手法も試みた。弾道を巡る技術開発も進む。17年までは放物線状の通常軌道ばかりだった。19年以降は3分の1超が途中で向きを変える変則軌道の発射だと分析された。左右方向に向きを変える例も出てきた。日米韓の軍事拠点への打撃力確保を意図する。韓国軍が射程110キロメートルとみる新型弾は軍事境界線付近から韓国のソウルや米韓軍が基地を置く平沢(京畿道)に届く可能性がある。KN23は佐世保(長崎県)や岩国(山口県)の在日米軍基地を圏内におさめる。北朝鮮は開発の動きを止めない。金正恩氏は21年の朝鮮労働党大会で、5年間の方向性として「固体推進の大陸間弾道ミサイル(ICBM)」と「戦術核」などを示した。ICBMは米本土などを狙う長距離ミサイルだ。これまで北朝鮮のICBMは新型の「火星17」を含め液体燃料だった。固体燃料型を配備すれば素早く核ミサイルを撃てるため米国への脅威が高まる。もう一方の戦術核は開発が進む短距離弾への核弾頭の搭載を意味する。弾頭の小型化には高度な技術が必要になる。このため日米韓の専門家には北朝鮮が7回目の核実験に踏み切るとの観測がある。北朝鮮は核・ミサイルの技術を高めて優位に立とうとする。防衛大の倉田秀也教授は「在韓・在日米軍は核を持たない。戦術核で脅せば米軍に介入をちゅうちょさせ、戦争の初期段階で主導権を握れると考えている」と指摘する。日米韓の対応は遅れている。日本は年末までの国家安全保障戦略の改定で敵の軍事拠点への「反撃能力」の保有などを検討する。それでも発射時点で日本を狙うミサイルを特定するのは難しい。倉田氏は「米国を扇の要に日米韓で共同対処する体制構築が必要だ」と話す。米韓とともに北朝鮮に核・ミサイルの使用をためらわせる抑止策を立てることが急務になる。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220911&ng=DGKKZO64235680R10C22A9EA2000 (日経新聞 2022.9.11) 原子力政策転換の行方(5)核のごみ 先送りの連鎖 EU、処分場とセットで議論 早期解決、原発活用へ必須
 原子力発電所の再稼働拡大の検討に着手した政府にとって、議論が欠かせないのが「バックエンド」と呼ばれる放射性廃棄物の処分のあり方だ。日本では原発などから出る様々な廃棄物の最終処分場が決まっていない。政府は原発の「最大限活用」を強調するが、核のごみ問題や、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策は宙に浮いたままだ。2011年に事故を起こし、廃炉作業が進む東京電力福島第1原発。東電は8月25日、22年後半に取りかかる計画だった2号機の溶融燃料(デブリ)取り出しの時期について1年半程度延期すると明らかにした。デブリは1~3号機の内部に880トンある。処分先は決まっておらず、取り出し作業を順調に進められるのかも見通せない。東電は廃炉などに関連して福島第1で32年ごろまでに約78万立方メートルの廃棄物が出ると試算する。敷地内に一時的な保管施設を建設中だ。将来は最終処分場に移す考えだが、場所は未定のまま。東電は「国と東電、福島県などが協議して決める」と説明するが、議論は進んでいない。原発事故による放射性廃棄物は原発敷地外にもある。事故で飛散した放射性物質によって汚染された土壌やがれきだ。その量は約1400万立方メートルにもなると見込まれている。処理を担う環境省は福島第1周辺の1600ヘクタールの敷地を中間貯蔵施設にしている。45年までに福島県外に運ぶ約束だが、持ち出し場所は見えていない。商用原発からもがれきや使用済み制御棒といった放射性廃棄物が生じる。廃炉を決めた原発や検討中のものは福島第1を除いて18基ある。20年10月に北海道の寿都町などが文献調査に応募した最終処分場は、使用済み核燃料を再処理した際に生じる「ガラス固化体」を埋めるためのものだ。原発の解体時に出る放射性廃棄物などのほとんどは対象外で、電力会社は別に最終処分場を探さなければならない。海外では原発の活用拡大と処分場はセットで検討が進む。欧州連合(EU)は7月、環境面で持続可能な事業を定めた「EUタクソノミー」で原発をグリーンな事業と認定した。その要件として、原発から出る高レベル放射性廃棄物の処分施設の具体的な計画をつくることを求めた。日本は廃棄物の処分を進める主体が縦割りになっている課題がある。大学や研究施設から出る放射性廃棄物は文部科学省などが所管する。商用炉は電力会社、福島の中間貯蔵施設は環境省などと担当が分かれ、関係官庁が放射性廃棄物の処分で密に連携し、全体像を描こうとする様子はない。バックエンドにはサイクル政策の問題もある。使用済み核燃料を再利用するため加工する日本原燃の再処理施設は25年間も完成延期を繰り返す。総事業費は14兆円にも上るが、事業化のメドはたたない。再処理施設が稼働しないため、電力各社は使用済み核燃料を各原発の敷地内にため込む。関西電力は自社の原発が立地する福井県に対し23年までに搬出先の県外候補地を確定すると約束した。青森県むつ市の中間貯蔵施設の活用を探ったが同市の宮下宗一郎市長は核燃サイクルの行方が不透明なことを指摘する。「むつ市は核のゴミ捨て場ではない」と慎重な姿勢を崩さなかった。福島の廃炉などを巡る費用は数十兆円に上るとの試算もある。足元では資源高で電気代も高止まりする。原発の議論を先送りしてきた結果、多くの課題が残されたままになっている。とはいえ原発を止めたままでは日本のエネルギー安定供給は成り立たない。カーボンゼロとエネルギー供給を両立させるためには原発をどう稼働させていけるかを考える必要がある。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220930&ng=DGKKZO64742970Z20C22A9TB1000 (日経新聞 2022.9.30) 三菱重工、改良型の新原子炉 4社と開発、2030年代実用化に道 政府の政策転換が契機
 三菱重工業は29日、安全性を高めた新型原子炉「革新軽水炉」を関西電力など電力会社4社と共同開発すると発表した。革新軽水炉は既存の原発技術を改良し、次世代原子力発電所の中では実用化に最も近いとされる。2030年半ばの実用化をめざす。日立製作所なども新型原子炉の開発に取り組む。各社が実用化を急ぐのは、政府の政策転換が契機だ。運転開始から30年以上たつ原発が過半を占める実情もある。三菱重工や関電、北海道電力、四国電力、九州電力の電力4社が実用化をめざす革新軽水炉は既存の加圧水型軽水炉(PWR)を基に改良する。出力は120万キロワット級。安全性を高める。自然災害や大型航空機の衝突などテロに対して対策を講じる。地下式構造で被害を受けにくくし、格納容器の外壁を強化し、破損の確率を既存炉の100分の1未満に減らす。東日本大震災の教訓を生かす。仮に炉心溶融が起きた場合でも溶け出した核燃料が外部に漏れないよう原子炉容器の下に備えた「コアキャッチャー」でためられるようにし、放射性物質を原子炉建屋内に封じ込める。炉心冷却のための電源も充実することで事故が起きても影響を発電所敷地内にとどめられるという。今回の新型原発は安全性の面で最も実用化に近いとされる。既存原発と基本構造が近く、既存軽水炉をもとに原発事故後に定められた新規制基準に対応する。他の次世代原発は規制の面が壁になる。例えば小型モジュール炉の場合はコンパクトな設計にするために既存軽水炉と異なる構造で、それに見合う規制が新たに必要になる。三菱重工などの背中を後押しするのが政府の方針転換だ。電力需給が逼迫するなか原発の新増設・建て替えを想定しない震災以降の方針を転換して次世代原発の開発・建設を検討する。ウクライナ危機を受けたエネルギーの安全保障問題も大きく響いている。政府の方針転換を踏まえ、産業界でも具体化に向けた動きが出始めた。三菱重工が既存の技術を基にした新型原発を開発を急ぐのは、残された時間は少ないという事情もある。稼働から30年以上経過する原発は運転可能なベースで国内にある33基の過半の17基になる。原子炉等規制法で定められた運転期間は原則40年間で、60年までの延長が認められているものの、40年以降は稼働原子炉が急減する見通しだ。新増設が具体的にどこまで進むかはまだ見えないが、政府内で想定される候補地の一つが関西電力美浜原発(福井県美浜町)だ。1、2号機は廃炉作業が進行中で、残る3号機も稼働から40年超がたった。関電も「新増設や建て替えがおのずと必要になる」との立場で、東日本大震災前には1号機の後継について自主調査も始めていた。原発の技術伝承が難しくなっているという側面もある。三菱重工にとり原発新設は09年に北電が運用を始めた「泊3号」以来。ただ建設を含めると20年近くのブランクがある。納入済みの24基(合計出力約2000万キロワット)ではほぼすべて主体となってEPC(設計・調達・建設)のノウハウを積んできたが、「なんとか踏みとどまれているが技術伝承は厳しくなっている」(三菱重工の泉沢清次社長)。供給網の維持にも課題がある。三菱重工によると原発供給網のうち原子力に特化した技術を持つ企業は約400社以上あるが、11年以降は厳しい経営状態が続き、事業撤退を決める会社が拡大傾向にある。川崎重工業は原子力事業を手がけ、日本初の商業用原発である日本原子力発電の東海発電所向けなどに蒸気発生器を提供した実績もあった。ただ11年の震災を機に人員が1割に減ったことも響き、2021年に撤退した。日立や東芝などが手掛ける沸騰水型軽水炉(BWR)を採り入れる電力会社の動きも注目される。東京電力ホールディングスの小早川智明社長は9月中旬の記者会見で、「まずは(休止中の)柏崎刈羽原子力発電所7号機の再稼働に向け安全最優先で諸課題に取り組む」と発言した。原発新設が進むかは自治体の了承もカギだ。原発は法律上、安全審査を通過すれば稼働できるとされているが、安全審査を通っても再稼働していない原発が現状7基ある。電力会社が各都道府県や立地自治体と安全協定を結び、自治体に「拒否権」があるからだ。岸田文雄首相は「国が前面に立ってあらゆる対応をとる」と話すが、事故リスクを抱える地元自治体とどう折り合いをつけるかが重い課題になる。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220926&ng=DGKKZO64610670V20C22A9MM8000 (日経新聞 2022.9.26) 原発、国主導で再構築を 再生エネ7割目標に、エネルギー・環境、日経緊急提言 「移行期」の安定と脱炭素両立
 日本経済新聞社はエネルギーの安定供給と脱炭素の両立へ国が前面に立ち、あらゆる手段を動員する総力戦で臨むべきだとする緊急提言をまとめた。2050年の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率7割を目指す。原子力発電所の活用の体制を国主導で再構築し、脱炭素への移行(トランジション)期間の安定供給や資金確保に万全を期す必要がある。世界はロシアによるウクライナ侵攻など、地政学リスクの増大に伴うエネルギーの供給不安と、地球温暖化との関係が指摘される異常気象の増加という「2つの危機」に直面している。提言は論説委員会と編集局が検討チームをつくり、専門家らと議論を重ねてまとめた。2つの危機への対処が国家の将来を左右するとの認識の下、12のテーマについて取るべき道筋を示した。エネルギー危機を克服し、脱炭素を着実に進めるためには、国の強いリーダーシップが不可欠だ。そのためにエネルギー・環境政策を統合的に立案・遂行する司令塔となる「総合エネルギー・環境戦略会議」(仮称)を首相直轄下に置くことを提案した。そのうえで温暖化ガスの排出ゼロを実現するまでの移行期間のエネルギー安全保障を確保しながら、脱炭素時代の最適なエネルギーの組み合わせ(エネルギーミックス、総合・経済面きょうのことば)を追求する必要がある。脱炭素時代の電源構成はコストや供給の安定性を考慮しながら、再生エネ比率7割の高みを目指すべきだ。残り3割は原発と温暖化ガスを排出しない「ゼロエミッション火力」で確保する。ただ、足元で再生エネの比率は約2割にとどまる。データセンターの増加などで電力需要は増えるとの試算もある。再生エネ比率6~7割は発電量を4~5倍に増やす計算となり簡単ではない。実現には太陽光や風力、地熱などあらゆる再生エネを伸ばす政策的な措置が必須となる。新築住宅への太陽光発電パネルの設置義務化や、洋上風力発電の入札対象区域の拡大などが求められる。原発は再生エネを補完する脱炭素電源である。しかし、東京電力福島第1原発の事故から11年が経過しても原発に対する不信感は払拭できていない。安全や透明性の確保を前提に活用すべきだ。原発事業は巨額の建設・運営費や事故時の損害賠償リスクを考えると、事業会社が全責任を負う現行の国策民営の仕組みには限界がある。推進に最適な形態の検討が欠かせない。再稼働に事実上、必要な地元の同意を得る交渉に国が前面に立つことなども提起した。新増設について政府がいつまでに何基が必要か、工程表を示すことも求めた。火力発電は段階的に減らして脱炭素化する。移行期間の設備の維持・更新についても必要な資金供給の枠組みを整えなければならない。温暖化ガスの排出量が多い石炭火力は新設せず、脱炭素化の時期を可能な限り前倒しする。燃焼させても温暖化ガスを出さない水素やアンモニアとの混焼や、二酸化炭素(CO2)の回収技術との組み合わせを義務付け、50年までに排出実質ゼロへ移行する。脱炭素を成長戦略に位置付けるには資金の役割がカギを握る。黒字化が見通しにくい高難度の技術研究などに国が投資し民間資金の呼び水となるマネーの循環をつくることがポイントになる。鉄鋼や化学など温暖化ガス排出の多い産業の脱炭素を促す資金供給も重要になる。移行期間の産業や技術の脱炭素化を促すには「移行金融」が大きな役割を果たす。日本が先頭に立ち、移行の定義や情報開示、効果検証の仕組みをつくり、アジア各国の金融・市場当局と連携すべきだ。原則全ての上場企業に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく開示を促す。2000兆円に及ぶ個人金融資産の大半を占める預貯金の活用を促すため、移行金融を支える債券を少額投資非課税制度(NISA)の投資対象に加えることも提唱する。資金の循環には財源の確保が不可欠だ。「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」の償還財源として活用するためにもCO2に値付けするカーボンプライシングの導入議論をまとめ、実行に移さなければならない。省エネルギーは既存の技術を使うことができ、費用対効果が高い対策である。大規模ビルだけでなく、中小ビルや住宅も省エネ基準を満たすよう義務化するなど、さらなる深掘りを求める。エネルギー・気候変動政策の国民理解を促すため、住民参加型の対話の場を設けることも促している。

*3-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/927133 (佐賀新聞 2022/10/3) <佐賀県民世論調査>玄海原発3、4号機の今後「目標時期決め停止」最多40% 「運転継続」は31%
 佐賀新聞社が実施した県民世論調査で、九州電力玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の今後について「目標時期を決めて停止」と回答した人が最多の40・3%だった。「即時停止」を求める4・6%と合わせると44・9%になり、「運転を継続」の31・0%を上回った。政府は電力の安定供給に向けて原発の新増設や運転期間の延長を検討する方針を打ち出しているが、原発立地県の県内では慎重な意見が根強いことがうかがえる。玄海原発の今後について地域別に見ると、「運転を継続」とした割合は玄海町が7割を超える一方、玄海原発から半径30キロ圏内(UPZ)に位置する唐津市と伊万里市ではいずれも2割台だった。支持政党別では、自民党支持層は継続と停止が4割ずつと拮抗きっこう。立憲民主党や社民党、共産党などの支持層と支持政党がない人は、停止を求める意見が継続を上回った。「継続」の回答者からは「電力不足が懸念される現状では、安全面を考慮しながら運転を継続すべき」のほか、「日本はただでさえ資源がなく、原発は増やすべき」と電力の需給逼迫ひっぱくへの不安などを背景に増設を求める声もあった。「停止」の回答者からは「もし玄海原発で福島の様なことが起これば、家にも故郷にも住めなくなる」「地震大国の日本にはリスクが大きすぎる」など、東京電力福島第1原発事故を踏まえ、安全性に疑問を呈す意見が相次いだ。今後の原発依存度については「下げるべき」が31・5%と最多で、「ゼロにすべき」の14・7%を合わせると脱原発の意見が46・2%となり、「高めるべき」の9・1%、「現状維持」の27・1%を合わせた36・2%を10ポイント上回った。山口祥義知事は9月の県議会一般質問で「佐賀県においては、原子力発電はその依存度を可能な限り低減し、再生可能エネルギーを中心とした社会の実現を目指すべき、との考えに変わりはない」と答弁している。

<日本経済の現状と再エネ投資>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220916&ng=DGKKZO64378870V10C22A9EP0000 (日経新聞 2022.9.16) 貿易赤字最大、輸出増鈍く、8月2.8兆円、資源高打撃 産業構造変化で円安の恩恵薄れる
 8月の貿易収支は過去最大の赤字となった。1~8月の通算は12.2兆円の赤字で、通年でも2014年の12.8兆円を上回って過去最大を更新する可能性がある。円安と資源高が重なり輸入額が大幅に増えた一方、円安の輸出押し上げ効果は限定的で輸出は伸び悩んでいる。新型コロナウイルス禍からの回復基調に乗り遅れたまま、先行きには不透明感も漂う。8月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆8173億円の赤字となった。比較可能な1979年以降、単月として過去最高となった。輸出額は前年同月比22.1%増の8兆619億円、輸入額は49.9%増の10兆8792億円だった。原粗油の輸入通関単価は円建てで87.5%上昇し、輸入額全体を押し上げた。8月の為替レートは1ドル=135円08銭と前年同月に比べ22.9%の円安・ドル高だった。内閣府が15日試算した輸出入数量指数の季節調整値をもとに足元の貿易の動きをみると、輸出は前月比3.2%低下と落ち込んだ。米国向けは13.0%上昇と好調だったが、欧州連合(EU)向けが15.5%低下し、アジア向けも7.4%落ち込んだ。急激なインフレなどで欧州の景気に陰りが出ている上、ゼロコロナ政策を掲げる中国の一部都市で厳しい行動制限がなされている影響が出ているとみられる。コロナ禍からの回復で、日本の輸出は出遅れ感がある。オランダ経済政策分析局がまとめる世界の貿易量は今年6月時点でコロナ前の19年平均を9.5%上回るまで回復している。日本の輸出は今年8月になっても19年平均を3.8%下回る。サプライチェーン(供給網)の途絶で自動車生産が滞るなどの要因が重なり、海外経済が回復する流れを外需経由でうまく取り込めていない。為替レートが円安に振れても輸出が伸び悩む背景の一つに国内製造業の生産基盤が弱体化したことも大きい。経済産業省の製造工業生産能力指数(15年=100)は7月時点で95.2とコロナ前(19年平均)を3.0%下回る。国内製造業の生産能力はリーマン・ショック以降、設備投資の手控えや海外移転などで縮小が続いており、能力指数は1984年ごろの水準まで落ち込んだ。円安による単純な輸出拡大効果を狙える産業構造ではなくなりつつある。「円安は企業収益の拡大などで経済全体には最終的にプラス効果がある」とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は指摘する。財務省・内閣府がまとめた7~9月期の法人企業景気予測調査では、急激な資源高にもかかわらず企業全体の今年度の経常利益は0.9%増とプラスの見通しだ。今後は企業の稼ぎがどこまで経済全体に循環するかが重要となってくる。米欧各国が利上げにかじを切る中、海外経済の先行きは不安感が強い。中国もゼロコロナ政策を維持する見通しで、アジア全体の供給網も途絶リスクが継続する。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「貿易赤字の局面は長引くだろう。22年や22年度は過去最大の赤字額となる可能性が高い」とみる。政府ではインバウンド本格再開に向け水際規制を大幅緩和する検討も進む。貿易統計にはあらわれないサービス関連の国際収支がどう動くかも焦点となる。

*4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15433880.html (朝日新聞 2022年10月3日) 太陽光パネル義務化案 戸建ても対象、情報発信丁寧に ネットワーク報道本部・笠原真
 新築建物に太陽光パネルの設置を義務づける制度づくりに東京都が動いている。戸建て住宅まで含む仕組みは全国初だ。年末の都議会に条例改正案を提出し、成立すれば2025年4月から始める。義務は、戸建て住宅の場合、建築主ではなく大手住宅メーカーが負う。各社に発電量のノルマが課され、それをクリアするだけの太陽光パネルを販売物件に設置する。メーカーを対象にすることで、太陽光パネルを含め省エネ住宅の普及が進むと都は期待し、都内の太陽光発電導入量を61万キロワット(19年度)から200万キロワット(30年度)に増やせると見込む。都が5月に意見を公募したところ、約3700件が集まり、賛成56%、反対41%だった。設置費は一般的な戸建てで約100万円だ。都は「初期費用は売電や節電を通じ10年で回収可能」などと強調する。だが都内の住宅価格は上昇が続く。「さらに負担が増せば住宅購入を諦める人が出る」(大手住宅メーカー担当者)という心配の声はある。都は、初期費用をゼロにするリース事業者や住宅購入者に対し、何らかの支援をする方針だ。義務の対象となる建物は最大で年約2万5千棟。耐用年数が20~30年とされるパネルの大量廃棄時期を見据え、都はリサイクルの課題を検討する協議会も先月設立した。実は、新築建物へのパネル義務化は京都府や群馬県で先行例があるが、戸建て住宅は対象外だ。国も昨年「30年までに新築住宅の6割にパネル設置」という目標を定めたが、地域ごとに日照量が異なる事情もあり、全国的な義務化には踏み込まなかった。
■東京都の取り組みに熱視線
 国全体と比べれば都内は地域差が小さいうえ、都の制度案は、メーカーが立地条件を考慮し、パネル設置に適した住宅を柔軟に選べる仕組みになっている。空き地の少ない都内で太陽光パネルの普及を進めるには屋根の有効活用が現実的だ。東京都は全国最大の電力消費地。「30年までに温室効果ガス排出量を00年比で半減させる」という、国より高い目標を設定しているが、20年度時点の削減率は3・7%にとどまる(速報値)。運輸部門で二酸化炭素排出量が50・7%減った一方、住宅など家庭部門では逆に32・9%も増えており、現状への危機感は強い。前真之・東京大准教授(建築環境工学)は「東京都ほど環境政策の立案能力がある自治体は他にない。全国に広まるかは都の取り組み次第」と言う。同様の義務化方針を9月に表明した川崎市の担当者は「都が住宅メーカーの理解を得られれば我々も追従しやすい」と熱い視線を送る。意見公募では「台風に耐えられるのか」といった声が寄せられた。適地が想定通りに確保できるのかという疑問も専門家から上がる。家計、景観、環境、防災、電源構成。生活に身近な論点が多岐にわたる。都は、都民や事業者の理解が得られるよう制度の作り込みと丁寧な情報発信に努める必要がある。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220926&ng=DGKKZO64596570U2A920C2M12400 (日経新聞 2022.9.26) 再生可能エネルギー 導入拡大へあらゆる適地を掘り起こす
 再生エネは脱炭素時代の主力電源である。これを最大限伸ばす必要がある。国は第6次エネルギー基本計画の策定作業において、2050年の電源構成に占める再生エネを5~6割とする参考数値を示した。これに甘んじることなく、6割を超え、7割の高みを目指すべきだ。12年度に始まった固定価格買い取り制度(FIT)の後押しもあり、20年度の電源に占める再生エネ比率は11年度比で2倍近い19.8%に増えた。ただし、50年時点の電力需要は電力を大量に消費するデータセンターの増加など情報化の進展や電動車の普及などにより足元の1.3~1.5倍に増えるとの試算もある。再生エネ比率6~7割の達成には発電量ベースで20年度実績の4~5倍の再生エネ導入が必要となる。しかし、拡大をけん引してきた太陽光発電は足元で、単年度の導入量は減少傾向にある。発電コストも21年には14年比で4分の1の水準まで低下したが、ここ数年は下げ止まり、むしろ上昇している。再生エネ7割はこれまでの方策の延長線上では実現が難しい。社会経済構造の転換を大胆に進めつつ、利用が遅れている太陽光発電の適地を掘り起こし、風力発電や地熱発電などあらゆる再生エネを伸ばす政策的措置が必要となる。導入適地を最大限活用するとともに、需要家側のさらなる省エネの取り組みや技術革新と組み合わせて再生エネ比率7割に近づける。
●新築住宅への太陽光発電パネルの設置義務化を
 まず、住宅だ。科学技術振興機構によれば、住宅屋根は全国で9900平方キロメートル分の利用可能面積がある。新築住宅への太陽光パネルの設置を原則、義務化してはどうか。50年までに住宅屋根の30~50%に置き、8000万~1億3000万キロワットの出力を確保する。太陽光発電システムの設置には1戸あたり100万~200万円の費用がかかる。政府・自治体による導入補助や減税措置などの支援策が欠かせない。制度づくりにあたっては地域や立地条件の違いも考慮する必要がある。政府は30年までに国・地方公共団体が保有する設置可能な建物や土地の半分に太陽光パネルを導入し、40年に100%とすると定めている。現状は進んでいる自治体でも20%程度とされ、この徹底と導入の加速を求める。工場や倉庫、工業団地、商業施設の屋根・土地についても、太陽光パネルの設置可能面積は7600平方キロメートルと、住宅に迫る規模がある。この積極活用を促し、4500万~5000万キロワットの出力を確保する。全国に28万ヘクタール存在する荒廃農地も活用すべきだ。荒廃農地のなかでも、農地として再生利用が困難とされる19万ヘクタールの土地について農地の認定を解除したうえで太陽光発電の設置場所にも使えるようにする。農地に支柱を立てて太陽光パネルを置き、農作物栽培を続けながら上部空間で発電する営農型は農業経営の改善にもつながる。農地利用の拡大へ転用許可などの規制緩和を徹底し、農地活用で1億8000万~2億キロワットの出力を確保する。
●洋上風力発電は入札対象区域の拡大を
 海に囲まれた日本において洋上風力発電は大きなポテンシャルがある。この活用を促すために、海外の風力発電プロジェクトに比べると小規模にとどまる、1件あたりの入札対象海域を拡大する。地元調整や送電線確保などに国が初期段階から関与する「日本版セントラル方式」を最大限活用する。国の洋上風力産業ビジョンは40年までに3000万~4500万キロワットの洋上風力の導入計画を掲げる。この最大値である4500万キロワットの目標を達成したうえで、入札対象区域の拡大などにより50年までに導入規模を上積みする。4000万キロワット超の陸上風力とあわせ、風力全体で出力1億キロワット規模の導入を目指す。再生エネの導入拡大には時間や天候によって出力が変動する場合の供給安定策が欠かせない。日射や風の予測と発電量予測を高精度化し、需給調整に役立てる。再生エネの適地が多い地域と大消費地を結ぶ基幹送電線の整備を急ぐ。北海道と東北・本州をつなぐ海底直流送電線や東日本と西日本をつなぐ周波数変換所の増強を優先し、完成の前倒しを検討する。
●地熱発電の完成までの時間短縮へ
 地熱発電は安定出力が見込める再生エネである。日本は米国、インドネシアに次ぐ世界3位の資源量がありながら、導入量はトルコやケニアを下回る10位にとどまる。国は30年度の導入目標を150万キロワットとしFIT支援の対象に位置付けながら、FIT導入後の稼働は10万キロワット程度にとどまる。地熱発電は完成までに10年単位の時間がかかる。この短縮に取り組まねばならない。地熱資源の調査や開発など初期段階から国と企業が緊密に連携し、案件組成を迅速化する。現状で3~4年かかる環境アセスメントを2年程度に半減するために、行政手続きの効率化を追求する。地熱に加え、水力やバイオマス発電などをあわせて6500万キロワット程度の出力を目指す。
●蓄電池の開発・産業化を国の重点に
 蓄電池は再生エネの出力変動の調整に大きな役割が期待されている。家庭、業務・産業、電力ネットワークの各場面で蓄電池導入を促進すべきだ。30年度時点で家庭用の導入コストは工事費含め20年度比4割に、業務用は4分の1へコストを下げる必要がある。政府は電池産業の育成を重点分野に位置付け、電池の大容量化やコスト低減に取り組まねばならない。イノベーションはエネルギー転換の成否を左右し、脱炭素時代の国家や企業の力を分ける。この認識の下、総額150兆円のGX(グリーントランスフォーメーション)資金を長期的視野に立って効果的に投じる必要がある。折り曲げることができる「ペロブスカイト型」太陽電池や、浮体式洋上風力発電など、脱炭素技術の開発と早期実装へ産官学が連携し、産業化を国が支援する。
●エネルギーの地産地消へスマートシティ拡大を
 大型発電所から発電した電気を送電線で遠隔地の大消費地に送る「大規模集中発電」から、再生エネや蓄電池、電気自動車(EV)などを組み合わせて、発電した場所で電気を消費する「分散型」の電力システムへの移行は、災害などへの耐久力を高め、安定供給にも寄与する。政府の国家戦略特区を活用した「スーパーシティ」や、民間が主導するスマートシティなど、地域単位での地産地消モデルの拡大を後押しする。
●透明性の確保へ、事業者に地域との対話を義務付け
 再生エネ事業を規制する自治体条例が増加している。20年度時点で130を超す自治体が規制を導入し、岡山県や兵庫県のように県全体で導入する例もある。再生エネと地域の共生へ、事業者に住民との対話を義務付け、透明性ある形で工事や運営について説明する必要がある。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220916&ng=DGKKZO64380790W2A910C2EA1000 (日経新聞社説 2022.9.16) 脱炭素への移行に資金の好循環確立を
 脱炭素社会を実現するためには、クリーンエネルギーを使った発電を増やすだけでなく、製鉄など二酸化炭素(CO2)を多く出す産業の排出抑制がどうしても必要だ。多額の資金も投じなければならない。国や企業、個人のお金を脱炭素社会への移行に回す仕組みを整えたい。政府の見通しでは、2050年に温暖化ガス排出実質ゼロを目指すうえで、今後10年間で官民あわせて150兆円の投資が必要となる。再生可能エネルギーの普及や蓄電池の開発などを成長戦略と位置づけ、有効なお金の使い方を検討する必要がある。採算が不透明で民間が負いにくい投資のリスクは、まずは国が引き受け、民間資金の呼び水としての役割を果たすべきだ。新たな国債の発行も選択肢のひとつとなる。償還財源を確保するためにも、CO2に値付けするカーボンプライシングの議論に早く結論を出し、実行してほしい。国が先導するとはいえ、技術の評価や商用化は、民間に委ねたほうが効率的に進む。150兆円の多くの部分は、企業や個人のお金で賄う必要がある。手元に300兆円の現金・預金を持つ日本企業は、かねて株主から投資を増やすよう求められてきた。今こそ経営者は脱炭素戦略を具体的に示し、実行への手立てを株主と協議すべきだ。企業が排出抑制を進めるには、機動的な資金調達も必要だ。銀行は融資に機動的に応じる体制を整えるべきだ。資産運用会社も、企業が脱炭素に必要な資金を調達するための債券を投資対象として検討してほしい。2000兆円の個人金融資産も、脱炭素を後押しする力となりうる。岸田文雄首相は、少額投資非課税制度(NISA)の拡充に取り組む方針だ。目先の議論の中心は制度の簡素化や株式投資枠の拡大だが、脱炭素移行を目的とするさまざまな債券を対象に加えることも、一案ではないか。こうした「移行金融」を根づかせるために、銀行や運用会社が脱炭素技術を評価するための専門性を高めることが欠かせない。個人も含め、地球温暖化の深刻さを改めて認識すべきだ。日本が「移行金融」の取り組みを強めれば、国際的な注目が増し、外からの投資も呼び込める。それを技術開発に生かすなど資金の好循環を確立したい。

<日本が生活系の政策を軽視するのは何故か>
*5-1:https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/158451 (中國新聞社説 2022/4/23) 年金引き下げ 抜本的見直し議論せよ
 人生100年時代を支える制度と言うにはあまりに心もとない。今月から0・4%引き下げられた公的年金のことである。引き下げは2年連続。賃上げが抑えられていることが理由である。保険料を40年間、満額納めた人が受け取れる国民年金の月額は、前年度比で259円減って6万4816円となる。コロナ禍のご時世だ。「このくらい我慢せねば」と思うお年寄りもいるかもしれない。だがロシアのウクライナ侵攻などによる原油高に、20年ぶりの円安が重なって物価は上がっている。今後も続く可能性がある。物価高の一方で減額が続けば暮らしはさらに傷む。納得できない人も増えてこよう。年金は老後の生活を支える「財布」である。政府はほころびを改め、年金増額につながる経済対策にも取り組まなくてはならない。年金制度は現役世代が保険料を納めて高齢者を支える「賦課方式(仕送り方式)」で維持されている。現役世代が減る中、負担をこれ以上増やせない事情も分かる。しかし「原資がない」だけでは問題は何も解決しない。特に気になるのは物価が急に上がる、現在のような局面である。年金の増減を決めるのは、物価ではなく賃金の変動率にならうのが現行ルールだからだ。企業が今の原材料高を乗り越えて賃上げ増を実現できるならいい。しかし賃上げできなければ、物価は上がっているのに年金は減額される事態が恒常化されかねない。安倍政権下の経済政策で株価は上昇したが、企業は利益をため込むだけで賃金上昇につながらなかったことを忘れてはなるまい。賃上げが進まず、年金の目減りが続けば、しわ寄せは現役世代にも及ぶ。年金に対する信頼が低下すれば、制度そのものが崩壊の危機に見舞われる。にもかかわらず岸田政権の経済対策はばらまきが目立つ。ご破算になった、年金生活者への5千円給付がその最たる例だろう。その場しのぎでは、日本経済の再生どころか満足な賃上げすら難しいのではないか。2022年度の年金制度見直しの柱はシニア労働者の拡大である。平均寿命が延びる時代にはうなずける点も多い。だが高齢者に長く働いてもらうことで保険料を多く納めさせ、行き詰まった年金財政を立て直そうというのならば都合が良すぎる。物価が上がればそれに伴って年金額も増え、下がれば減るという制度ならば納得もいこう。しかし現実の仕組みはそうはなっていない。加えて、現役世代人口の減少や平均寿命の延びに応じて年金額を抑える「マクロ経済スライド」の導入で、30年後の受取額は今より2割も目減りするのが現実なのだ。国民年金だけでは今でも厳しいのに、10月からは一定以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担も1割から2割に引き上げられる。介護保険料を払えず、年金の差し押さえを受けた人も全国で2万人を超えている。年金額を抑えて制度を維持しても、国民生活が破綻してしまっては意味がないだろう。年金制度を信頼に足る仕組みに改めるべきだ。今夏には参院選も控えている。各党は抜本的な年金見直し案を公約に掲げ、議論を戦わせてもらいたい。

*5-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/44ebb91592db58d85b172cd79ce68677ebcedece (Yahoo、毎日新聞 2022/9/22) 日銀、金融緩和策維持を決定 持続的物価高に至らずと判断
 日銀は22日に開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持することを決めた。政策目標に掲げる2%の物価上昇率は、4月から5カ月連続で達成しているものの、資源高や円安による輸入物価の上昇による影響が大きく、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇には至っていないと判断した。超低金利政策による景気の下支えを優先する。21日には米連邦準備制度理事会(FRB)が0・75%の大幅利上げを決定。市場では運用に有利な金利の高いドルを買って円を売る動きが定着し、為替相場は円安傾向が続いている。日米の金利差がさらに広がったことで、円安が一段と加速する可能性がある。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA034A10T01C22A0000000/ (日経新聞 2022年10月5日) 健保組合、21年度は半数超赤字 高齢者医療へ拠出金重く
 全国に約1400ある健康保険組合の半数超で、2021年度は保険料収入から医療費などの給付を差し引いた収支が赤字だったことが明らかになった。前年度の33%から急増した。医療費の増加に加え、65歳以上の高齢者医療への拠出金が膨らみ、大企業の組合でも赤字が相次ぐ。赤字が続けば保険料率を上げざるを得ず、給付と負担の見直しが急務になる。健保組合は従業員と勤務先が毎月払う健康保険料をもとに、医療費の支払いなどの保険給付、健康診断などの保健事業を担っている。主に大企業の従業員と家族ら約2900万人が加入する。6日に公表予定の1388組合の決算見込みによると、21年度は全体の53%にあたる740組合が赤字となった。20年度の33%から大きく上がった。全組合の収支を合計すると825億円の赤字で、約3千億円の黒字だった前年度から大幅に悪化した。合計が赤字になったのは8年ぶりだ。赤字要因の一つに、現役世代が入る健保組合から65歳以上の高齢者医療への拠出金がある。収入が乏しい高齢者を支えるためだが、75歳以上の後期高齢者の増加とともに医療費が伸び、拠出金が膨らむ。21年度は保険料収入が前年度比1%増の約8.2兆円だったのに対し、拠出金は約3.6兆円と3%増えた。現役が払う保険料の4割が高齢者に「仕送り」されている形だ。拠出金は後期高齢者医療制度ができた08年度に比べると、1兆円以上増えた。健康保険組合連合会は25年度には約4兆円になると試算する。比較的余裕がある大企業の組合でも赤字が相次いでいる。日本生命保険の健保組合は21年度に20億円を超える赤字だった。赤字は14年度以来で、過去最も大きい。当面は保有資産を取り崩して対応するが、保険料率の引き上げも検討する。新型コロナウイルス禍で20年度に受診控えが起き、21年度は反動で医療費が増えた面もある。日立製作所の健保組合は受診が急増し、21年度の収支が赤字になった。トヨタ自動車も赤字だった。健保組合は独立採算で、赤字が続けば保険料率を上げざるを得ない。21年度は決算ベースで3割弱の組合が料率を上げた。労使折半する保険料率は21年度の平均で収入の9.23%と過去最高の水準にある。被保険者1人当たりの保険料は年49.9万円で、08年度比では約11万円増えた。料率は中小企業の従業員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の10%前後に近づく。健保組合の支出につながる医療費は伸びが続く。厚生労働省が9月に公表した21年度の概算の医療費は44.2兆円で、前年度から4.6%増えた。健保組合全体の保険給付費は8.7%増の4.2兆円だった。社会保険料は現役世代の大きな負担だ。健保組合に加入する会社員の場合、介護保険の平均料率である1.77%と、厚生年金の18.3%を加えると29.3%になり、収入の3割近くに当たる額が公的な保険料に回る。現状の医療は給付が高齢者に、負担は現役世代に偏っている。10月からは一定の所得がある後期高齢者の窓口負担が2割に上がったが、現役世代の保険料などを抑制する効果は25年度で830億円にとどまる。政府は「全世代型社会保障」の実現を掲げ、負担と給付の見直しに向けた議論を始めた。年末までに結論を出す。後期高齢者の保険料引き上げなどを検討するが、高齢者の反発も予想される。給付を抑える仕組みも議論する必要がある。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221006&ng=DGKKZO64919470V01C22A0EP0000 (日経新聞 2022.10.6) 社会保険負担、格差見直し急務 健保組合の半数超が赤字 現役世代、保険料膨張続く
 社会保険の負担が会社員などの収入を圧迫している。人口の高齢化が進んで医療費が膨らみ、健康保険組合による保険料の引き上げが相次ぐ。今の社会保障制度は恩恵が高齢者に偏る。政府が掲げる「全世代型社会保障」の実現には、高齢者にも一定の負担を求め、医療費などの給付を抑える改革が欠かせない。会社員らの現役世代による社会保険の負担は膨らみ続けている。健康保険組合の加入者が労使折半で負担する保険料は2021年度に1人あたり年49.9万円と、08年度比で約11万円増えた。40歳になると介護保険の保険料も払う。健康保険の料率に介護保険の平均料率である1.77%と、厚生年金の18.3%を加えると29.3%になる。収入の3割近くに当たる額が公的な保険料に回っている。背景には国全体で見た医療費の伸びがある。厚生労働省が9月に公表した21年度の概算の医療費は44.2兆円で、前年度から4.6%増えた。健保組合全体の保険給付費は4.2兆円と、8.7%増えた。健保組合の加入者は現役世代だが、その中でも平均年齢が少しずつ上がり、必要な医療費が増えている。高額な薬剤や治療法の登場といった医療の高度化も医療費の増加につながり、保険料が上がる要因になる。給付費の元手となる保険料は大きな伸びが見込めない。現役世代の人口が減っているうえに、収入も伸び悩んでいるためだ。保険料算定の基準となる標準報酬月額は21年度の平均で約37.7万円と、前年度比0.3%増にとどまる。医療費や高齢者医療への拠出金の伸びに見合うだけの保険料が入らないと、健保組合は料率を上げざるを得ない。平均料率はすでに9.23%と、中小企業の従業員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の10%前後に近い。健保組合が赤字に耐えられず解散すれば、加入者は協会けんぽに移る。協会には1兆円規模の国費が投入されており、加入者が増えると国費負担も増す。将来世代に負担のつけ回しが起きる。負担の世代間格差の是正は急務だ。10月からは一定の所得がある後期高齢者の窓口負担が2割に上がった。ただ、現役世代の保険料などを抑制する効果は25年度で830億円にとどまる。政府は全世代型社会保障の実現に向けた議論を始めており、年末までに結論を出す。後期高齢者の保険料引き上げなど反発が予想される大胆な改革案にも踏み込む必要がある。

*5-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221003&ng=DGKKZO64814460T01C22A0PE8000 (日経新聞社説 2022.10.3) 高齢者医療の改革を続けよ
 75歳以上の高齢者が支払う医療費の窓口負担割合が10月から一部変更になり、一定以上の所得がある約370万人が1割負担から2割負担に引き上げられた。年金収入とその他所得の合計が単身世帯で年200万円、複数なら320万円以上あると対象になる。食料品などの物価上昇が広がるなかで負担増を求めることになるが、2025年9月末までの3年間は毎月の負担増を最大で3000円に抑える配慮措置が実施される。政府や自治体はこうした措置も対象者に丁寧に説明し、負担増への協力を求めてほしい。今回の負担増は高齢者の医療を支える現役世代の負担を軽くするのが狙いだ。75歳以上の医療費は患者負担を除いた費用の5割を税金、4割を医療保険を通じて現役世代が支払う支援金、1割を高齢者の保険料で賄う。高齢者の増加で医療費が膨らむと、現役世代の負担が重くなっていく。ただ今回の改革で現役世代の重荷を軽くする効果は限定的だ。支援金の総額は21年度の6.8兆円が25年度に8.1兆円に増える見通しだが、この伸びを抑える効果は25年度時点で830億円しかない。大企業会社員の場合、労使折半後の現役1人あたりの保険料軽減効果は月にわずか33円だ。効果が小さいのは負担増の範囲が小幅だからだ。今回の対象者は75歳以上の約20%。現役並み所得があって3割負担がすでに適用されている人は約7%なので、今後も約73%は1割負担が続く。さらに1カ月あたりの医療費負担の上限額は見直しの対象外だ。2割負担の対象者でも外来受診のみの場合で1万8000円、入院があっても世帯で5万7600円と、これまでと変わらない。2割負担の対象者を広げるとともに、所得だけでなく資産に着目して能力に応じた負担を求める改革が急務だ。薬や検査の重複を減らす仕組みづくりなど医療の効率化も欠かせない。現役世代の負担を抑える改革をこれで打ち止めにしてはならない。
にしてはならない。

<リーダーの多様性のなさによって歪んだ政策>
*6-1:https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61c2aaebe4b0bb04a62b19cd (Huffingtonpost 2022年7月13日) ジェンダーギャップ指数2022、日本は116位。政治・経済分野の格差大きく、今回もG7最下位、世界経済フォーラム(WEF)が国別に男女格差を数値化した指数。日本は調査対象となった世界146カ国のうち116位だった
 世界経済フォーラム(WEF)は7月13日、男女格差の大きさを国別に測って比較する「ジェンダーギャップ指数2022」を発表した。日本は調査対象となった世界146カ国のうち116位だった。156カ国のうち120位だった前年からわずかに順位をあげたが、主要7カ国(G7)では引き続き最下位となった。特に衆院議員の女性割合の少なさなど政治参加分野の格差は引き続き大きかった。また経済分野については前回(117位)より順位を下げた。
●経済、政治の格差大きく
 WEFは世界の政財界のリーダーが集う「ダボス会議」を主催する国際機関。ジェンダーギャップ指数は、「経済」「教育」「医療へのアクセス」「政治参加」の4分野のデータで、各国の男女格差を分析した指数。4分野の点数は、いくつかの小項目ごとの点数で決まる。小項目を集計する際は、標準偏差の偏りを考慮したウェイトをかけている。 ただし、4分野の点数から算出される総合点は、4分野の平均になっている。スコアは1を男女平等、0を完全不平等とした場合の数値で、数値が大きいほど男女格差の解消について高い評価となる。日本は今年も経済(121位)と政治(139位)で格差が大きく、順位が低かった。一方で教育(1位)や医療(63位)では、格差はない、もしくはほとんどないと評価されている。
■政治分野
 「政治参加」については、以下の3つの小項目で評価される。
・国会議員(衆院議員)の女性割合(133位、スコア0.107)
・女性閣僚の比率(120位、0.111)
・過去50年の女性首相の在任期間(78位、0)
2018年に成立した「政治分野における男女共同参画推進法」では、男女の候補者ができる限り均等となることを掲げ、各政党に男女の候補者数について目標を定めるよう努力義務を課している。しかし、この法律が成立して初めて迎えた2021年の衆院選では、当選者に占める女性の割合はわずか9.7%にとどまり、前回(2017年)を下回った。政府は、2025年までに国政選挙の候補者に占める女性の割合を35%にする目標を掲げているが、衆院選でこの目標を達成したのは共産と社民のみだった。なお、衆院議員の女性割合で評価されるジェンダーギャップ指数には関連しないが、今回の参院選(7月10日投開票)では181人の女性候補が立候補し、35人が当選した。候補者全体の割合で見ると33%、当選者全体で見ると28%となりいずれも過去最多に。一方で政党別で見ると差があり、候補者について「2025年までに35%」という政府目標を達成したのは立憲、国民、共産、れいわ、社民の5党にとどまった。
■経済分野
「経済的機会」分野は、以下5つの小項目で評価される。
・労働参加率(83位、スコア0.750)
・同一労働での男女賃金格差(76位、0.642)
・収入での男女格差(100位、0.566)
・管理職ポジションに就いている数の男女差(130位、0.152)
・専門職や技術職の数の男女差(-)*スコア、順位の記載なし
 経済分野については、前回(117位)より順位を下げた。労働参加率や管理職ポジションに就いている数の男女差のスコアが下がったことが背景にある。経済的な権利についての男女格差をめぐっては、世界銀行が世界190カ国・地域の職場や賃金、年金など8つの分野で男女格差を分析した調査もある。3月に発表された最新の調査で、日本は前回の80位タイから103位タイに大きく順位を下げた。移動の自由や年金制度では格差がないとして満点の評価だったが、職場の待遇や賃金などで低い評価となった。一方、男女の賃金格差の是正に向けては、具体的な政策も動き出している。厚生労働省は7月8日、従業員が301人以上の企業に対し、男女間の賃金格差の開示を義務付ける「女性活躍推進法」の省令改正を施行した。岸田文雄首相は1月の施政方針演説で「世帯所得の向上を考えるとき、男女の賃金格差も大きなテーマ。この問題の是正に向け、企業の開示ルールを見直します」と言及していた。格差を可視化し、是正に向けた取り組みを促すことが狙いだ。
●1位はアイスランド、世界の傾向は
 今回のジェンダーギャップ指数2022で1位となったのはアイスランドで、13年連続で「世界で最もジェンダー平等が進んでいる」と評価された。2位以降はフィンランド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデンが続いた。上位5カ国の顔ぶれは前回と同じだった。世界全体の傾向についてWEFは、新型コロナウイルスの感染拡大後、ジェンダー格差が広がったが、それを縮小する動きは力強さに欠いていると指摘。労働力の中で格差が広がっており、「生活費の危機的な高騰が女性に強い打撃を与えると予想されている」と分析した。
*ジェンダーギャップ指数とは
 各分野での国の発展レベルを評価したものではなく、純粋に男女の差だけに着目して評価をしていることが、この指数の特徴だ。ジェンダーギャップを埋めることは、女性の人権の問題であると同時に、経済発展にとっても重要との立場から、WEFはこの指数を発表している。

*6-2:https://www.sankei.com/article/20220909-DFB5Z26PRBJ7BPXAWZIMIMLOPQ/ (産経新聞 2022/9/9) 特別支援教育中止など要請 国連委が日本政府に勧告
 国連の障害者権利委員会は9日、8月に実施した日本政府への審査を踏まえ、政策の改善点について勧告を発表した。障害児を分離した特別支援教育の中止を要請したほか、精神科の強制入院を可能にしている法律の廃止を求めた。勧告に拘束力はない。さらに実現には教育現場の人手不足や病院団体の反発などのハードルの存在も指摘される。特別支援教育を巡っては通常教育に加われない障害児がおり、分けられた状態が長く続いていることに懸念を表明。通常学校が障害児の入学を拒めないようにする措置を要請したほか、分離教育の廃止に向けた国の行動計画策定を求めた。精神科医療については、強制入院は障害に基づく差別だと指摘。強制入院による自由の剝奪を認めている全ての法的規定を廃止するよう求めた。勧告は障害者権利条約に基づいており、日本への勧告は平成26年の条約締結後、初めて。審査は8月22~23日、スイス・ジュネーブで日本政府と対面で行われた。審査では、他国に比べ異例の規模となる約100人の障害者や家族らが日本から現地に渡航していた。

*6-3:https://webronza.asahi.com/national/articles/2022091200002.html?iref=comtop_Opinion_06 (朝日新聞 2022年09月16日) まるで入管の「広報」だった。NHK「国際報道2022」の問題点、「国際報道」の名が泣くミスリードの多さ(児玉晃一 弁護士)
 NHK-BS1で2022年8月31日午後11時45分から放送された「国際報道 2022」を見て驚きました。SPOT LIGHT〈不法滞在の長期化 日本の入管に密着〉と題する特集が、入管当局からの情報のみに依拠したような内容だったのです。放送後、私は個人として番組宛てに抗議文を送りました。他の人々や団体からも意見が寄せられたようで、NHKは9月12日の同番組で「8月31日の放送について様々なご指摘をいただきました。情報を追加してお伝えします」と〈在留資格のない外国人 現状と課題〉を放送。その中で、滞在者の人数など内容の一部について「誤解を与える伝え方をした」と謝罪しました。しかし、「国際報道」という番組名とはおよそかけ離れた8月31日の放送は、「誤解を与えた」という程度ではなく、より深刻な問題をはらんでいたと考えます。改めて、その問題点を指摘したいと思います。
●誤った印象与えた「不法滞在」という言葉
 まず、特集のタイトルにあった「不法滞在」という用語についてです。番組中、この用語は何度も無批判で繰り返し、使われていました。ですが、これは、国連では常に移民に罪があるような印象を与えるため差別的なので使わないことになって久しい言葉です。法務省政策評価懇談会の篠塚力座長もこの点を指摘しています(注1)。米国バイデン政権も2021年4月に、移民・関税執行局と税関・国境警備局にこれまで使用されてきた「alien」(在留外国人)や「illegal alien」(不法在留外国人)といった呼称を禁じ、代わりに「noncitizen」(市民権を持たない人)や「migrant」(移民)、「undocumented」(必要な書類を持たない)という言葉を使う方針を示しました(注2)。2021年12月21日に出入国在留管理庁が公表した「現行入管法上の問題点」1ページでは、「我が国に入国・在留する全ての外国人 が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見を無くし、日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する共生社 会の実現を目指す」とされています(注3)。差別・偏見をなくすためには、国連あるいは米国の例にならい、出入国在留管理庁が率先して、差別・偏見を助長するような「不法滞在者」「不法入国者」などの用語を用いず、「非正規滞在」と呼ぶべきです。今回の報道は、そのような問題意識を全く持つことなく、出入国在留管理庁の用いる「不法滞在」という用語を無批判に用いています。これでは「国際報道」の番組タイトル名が泣きます。
注1)2022年2月28日法務省政策評価懇談会(第66回)会議資料会議
資料1-2 5ページhttps://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho05_00034.html
注2)https://courrier.jp/news/archives/242206/
注3)https://www.moj.go.jp/isa/content/001361884.pdf
●「非正規滞在者が増加」と強調した誤り
 8月31日の番組では、2021年1月1日のデータをもとに「不法滞在者」が5年前(2016年62818人)に比べて2万人増え、約8万人となったということが強調されていました。ですが、入管庁が公表したデータによれば、2022年1月1日時点での「不法残留者」は66759人で、2021年に比べ16109人、19.4%減少しています(注4)。2016年と比較しても、約4000人、約6%増えたに過ぎません。2022年のデータは3月29日には公表されていました。それなのに、8月31日の放送で2021年のデータを使った理由について、9月12日の番組では「2022年は在留資格を失った外国人の一部の内訳が揃っていなかったため、データの揃っている2021年の数字を使うこととし」たと釈明していました。しかし、入管庁の公表データでは一部の内訳が揃っていない、ということはなく、8月31日の放送は総数を示しただけで内訳は関係ありませんでした。さらに、もう少し長い時間軸で見れば、2016~21年だけのデータで「増加」とすることにも疑問があります(以下、人数のデータは2021年版「出入国在留管理」日本語版44ページによる)。非正規滞在者は、1993年には約30万人いました。そこからすると番組が指摘した2021年の82868人でも3分の1以下ですが、こうした数字は示されませんでした。また、退去強制手続について米国やEUと比較していたにもかかわらず、非正規滞在者の人数には触れていません(ちなみに、2019年における米国の非正規滞在者は1030万人とのことで、まさに桁違いです=注5)。このようなデータの選び方・使い方は視聴者に「不法滞在者の増加が深刻だ」と感じさせる「印象操作」ではないでしょうか。さらに2016年から21年までに非正規滞在者が2万人増えた原因についても言及がありませんでした。この点について、2021年2月16日に行われた法務省政策評価懇談会での出入国在留管理庁当局は次のように述べています。「私どもの見立てといたしまし ては、近年、政府全体で観光立国実現に向けた取組が進められてきた結果、外国人入国者数が大幅に増加した。これが不法残留者数の増加に少なからず影響しているものと考えております」。「技能実習制度の技能実習1号ロ又は技能実習2号ロという在留資格から不法残留になった者が3割以上の増加になってございますので、御指摘の技能実習生の失踪者からの不法残留問題というのは事実として存在することだと理解してございます」(2021年2月16日、法務省政策評価懇談会議事録より)。つまり、観光立国で入口を緩めたために短期滞在が増えたことと、経済を支えるための歪んだ政策で本来就労を目的としないはずの技能実習・留学生を受け入れた結果、在留期限を過ぎた滞在(オーバーステイ)が増加したことが理由なのです。こうした要因分析もせずに、単に人数の増加だけを強調する報道姿勢は、公正なものとはいえないでしょう(注6)。
注4)本邦における不法残留者数について(令和4年1月1日現在)出入国在留管理庁
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00003.html
注5) https://www.americanimmigrationcouncil.org/research/immigrants-in-the-united-states 
注6)オーバーステイが増えたのは国策の結果だった(2021年3月31日、児玉晃一 note)
●家族の結びつき省みない事例紹介
 番組では、非正規滞在となったタイ国籍の女性が婚約者と日本で暮らしたいと訴えていた事例と、受刑歴のあるブラジル国籍の日本滞在20年におよぶ、妻子のいる男性の事例をとり上げていました。番組全体のトーンから、非正規滞在で強制送還されるのが当然なのに「ごねている」という印象を与えるようなとり上げ方でした。ですが、市民的政治的権利に関する国際規約(自由権規約)17条は、家族生活への恣意的干渉を禁止し、同23条1項は家族の保護を、同2項は「婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をしかつ家族を形成する権利は、認められる。」としています(注7)。番組が取り上げたような事例は、ヨーロッパ人権裁判所の判決例や規約人権委員会の意見からすると、強制送還が当然違法とされるべきケースです(注8)。ここでも「国際報道」という視点が欠けているように思います。
注7)市民的政治的権利に関する国際規約
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html
注8)2021年4月21日衆議院法務委員会で参考人として発言した際に利用した資料(2021年4月23日児玉晃一 note)の資料⑨「犯罪歴のある外国人と家族の保護裁判例」
https://note.com/koichi_kodama/n/ndd29c4a00456
●「強制送還」をめぐる不正確な表現
 さらに、番組では、「強制的に退去強いることなし」という表現が使われていましたが、これは明らかに事実に反します。下表は、入管庁の2020年版「入管白書」59ページからの引用です(注9)。名古屋出入国在留管理局に収容中の2021年3月6日に亡くなったスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)についての調査の報告書では「一度、仮放免を不許にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要あり」とされており、収容を強制送還に追い込む手段としていることを当局が行っていたことが明らかになっています(注10)。さらに、帰国費用が自己負担となっており、その準備ができないことが非正規滞在の長期化の原因であると述べられていましたが、入管法52条4項は「退去強制令書の発付を受けた者が、自らの負担により、自ら本邦を退去しようとするときは、入国者収容所長又は主任審査官は、その者の申請に基づき、これを許可することができる。」としており、法律は国費送還が原則なのです。その原則を曲げて本人負担させようとした結果、様々な事情で帰国を拒否している人達が送還に応じず、非正規滞在の期間が長期化するのは、当然のことです。なおフランスでは庇護希望者に対し、チケットや帰国後の助けとなる費用を渡しているとのことです(注11)。このような国際比較の観点も、番組にはありませんでした。番組では強制送還に従わない場合に罰則がないとも述べられていました。これは、2021年廃案になった入管法案審議の際にも出入国在留管理庁が繰り返し述べていたことと同じです。ですが、オーバーステイだけでも入管法70条による罰則はあります。この点に言及せず、命令に従わない場合の罰則がないことだけを述べるのはミスリードです。そもそも、国連の恣意的拘禁作業部会は、2018年2月7日付改訂審議結果第5号は次のように述べています。「移住者による非正規入国・滞在は犯罪行為と見なされるべきではない。よって非正規の移住を犯罪行為と見なすことは、自国の領土を保護し非正規移住者の流入を規制するに際して国に認められる正当な利益として許される限度を超える。移住者を、国家あるいは公共の治安および/または公衆衛生の維持の観点からのみ犯罪者と認定し、または犯罪者として扱ったり、判断してはならない」。番組の中で、このような国連文書を一顧だにしなかったことは大いに疑問です。以上のとおり、8月31日「国際報道2022」の出入国在留管理庁の言い分に沿った情報のみに依拠した内容は、「国際報道」の名に値するものではありませんでした。残念です。番組の名に恥じない、国際的な視点に立った報道を望みます。
注9)2020年版「入管白書」https://www.moj.go.jp/isa/content/001335866.pdf
注10)「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局 被収容者死亡事案に関する調査報告書」58ページhttps://www.moj.go.jp/isa/content/001354107.pdf
注11)国際人権ひろば No.140(2018年07月発行号)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2018/07/post-201814.html
注12)国連恣意的拘禁作業部会 審議結果第5号(移住者の自由の剥奪)第10パラグラフ

<ジェンダー平等へ←国税庁や裁判所の旧さをなくすべき>
PS(2022/10/17追加): *7-1・*7-2のように、「①寺田総務相が事務所を置くビルの一部を所有する妻に2012~21年合計2688万円(267万円/年)の賃料を支払っていたのが身内への政治資金の支払いで疑問」「②人件費から源泉徴収していなかったので脱税」と一部の週刊誌が書き、立憲民主党も「③証明できる書類がないのではないか」と質問したため、寺田総務相は「④適正価格だ」「⑤妻は会社社長で扶養家族でない」「⑥経済的に別の主体なので合法的な行為」「⑦(納税証明書は妻の)個人情報で、適正に申告して納税していることは税理士が確認した」と説明された。
 寺田総務相の奥さんは、池田勇人元総理の孫・池田行彦元外相の姪で、会社社長でもあるため、寺田総務相の扶養家族ではなく、寺田総務相が事務所を置く東京都内のビルの一部を所有して267万円/年の賃料を受け取っている状況は容易に想像できる。そのため、①は10年分まとめて書くことによって必要以上に誇張しており、寺田総務相の④⑤⑥の回答は正しいと思う。また、②も、業務委託契約に基づいて報酬を支払う場合の源泉徴収範囲は限定されているため、源泉徴収していないから直ちに脱税とは言えないし(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2792.htm 参照)、その範囲は、税務申告を行う税理士や監査を行う公認会計士がアドバイスするので間違いはない筈で、いちゃもんに見える。また、③についても、⑤⑥のように、奥さん(私人)は別の経済主体で扶養家族ではないため⑦は正しいし、税理士は資格をかけて代理人として確定申告しているため間違ってもいないだろう。
 では、何故、このような事例が極悪なことをしたような言い方をされるのかと言えば、例えば、税理士の妻が代理人として弁護士の夫の確定申告を行い、報酬をもらったところ、同一世帯内での支払いであるとして否認され、最高裁まで行って弁護士・税理士夫妻が負けた事例がある。しかし、夫婦であっても、税務上は個人単位で申告しており、経済的にも独立採算である夫婦は多いため、税理士が申告しても無償と看做すのは税務署も裁判所も旧すぎるわけである。そのため、私は、このような事例で変ないちゃもんをつけられないようにするには、税法・政治資金規正法等の改正が必要で、これを機に寺田総務相や自民党にはそれをお願いしたいわけだ。

*7-1:https://nordot.app/950930751189532672?c=39546741839462401 (共同通信社 2022/10/7) 総務相、妻に賃料支払い問題なし 「価格適正、脱税でない」
 寺田稔総務相は7日の記者会見で、自身の政治団体が、事務所を置くビルの一部を所有する妻に賃料を支払っていたことに関し「何ら問題ない。価格も適正だ」と述べた。で脱税と報じられたことに触れ「事実に反する。誠に遺憾だ」と語った。法的措置などは現時点で考えていないとした。既に岸田文雄首相に報告。首相から「適正な処理ならそれでよい。説明してほしい」と指示されたと明らかにした。寺田氏は妻について、会社社長を務めており、自身の扶養家族ではないと強調。と主張し、身内への政治資金の支払いを疑問視する声を否定した。

*7-2:https://mainichi.jp/articles/20221015/ddm/005/010/132000c (毎日新聞 2022/10/15) 妻の納税証明を総務相提出拒否 事務所賃料支払い
 寺田稔総務相は14日、自身の政治団体が妻に事務所の賃料を支払っていたことを巡り、立憲民主党が要求していた妻の納税を証明する書類の提出を拒否する意向を文書で伝えた。「(妻の)個人情報だ。適正に申告し、納税していることは既に税理士が確認している通りだ」と回答した。立憲の山井和則国対委員長代理は記者団に「証明できる書類がないのではないか」と述べ、17日からの衆院予算委員会で追及する意向を示した。これに関連し、自民党の世耕弘成参院幹事長は記者会見で「しっかりと(寺田氏)本人が説明することが重要だ」と語った。寺田氏は12日、2012~21年に政治団体が事務所を置くビルの一部を所有する妻に計2688万円を支払い、妻は納税したと税理士が確認したとの文書を立憲に提出。立憲は十分な証明にならないとして証拠書類の提示を求めていた。

<無駄遣いのオンパレードと日本の弱体化は、何故、起こるのか>
PS(2022年10月20、21日追加):*8-1-1・*8-1-2のように、ガソリン・電気(多くが化石燃料で発電)・ガス料金の値上がりを、またまた“緊急策”として補正予算で巨額の補助金を計上して抑えようとするのは、放漫財政であるだけでなく環境維持にも逆行する。また、“困窮する層に的を絞ったきめ細かいやり方”というのは、恣意的に線を引いて複雑化する上に不自然な分断を作るため、私は、電力会社の再エネ賦課金を廃止するのがよいと思う。何故なら、他の電源には賦課金などは課しておらず、それどころか補助金を使って市場ではなく政治が時代に逆行する不合理な電源の選択をしているからである。そのため、送電線敷設に予算を使った方が、財政支出によって景気を保ちながら金利を上げることができ、エネルギー自給率の向上にも資するため、その後はエネルギー価格高騰に右往左往する必要がなくなり、経済効果が大きい。にもかかわらず、政府は、電気料金・ガス料金・ガソリン・灯油に環境に逆行しながら負担軽減策を導入し、電気料金は電力会社各社に支援金を支払う形で利用者負担を減らす支援制度にするそうなのだ。何故、これほど無駄遣いばかりの政策を行うかについては、「これらの企業関係者に選挙を手伝ってもらったから」くらいしか理由を思いつかないから参るわけである。
 また、*8-1-3のように、政府は「原子力ムラ」である経産省の審議会「総合資源エネルギー調査会」を通して原発政策を転換し、再稼働加速・運転期間延長・新型炉建設の検討をするそうだが、原発の課題や方策については何の科学的・経済的検討も解決策の提示もしておらず、またまた“緊急避難的に”“外国でやっているから”という理由なのであり、この調子では決して安全第一にはならず、再度「安全神話」を作るだけだと言わざるを得ない。
 なお、「再エネは安定電源でないため、原発をベースロード電源にする必要がある」という反論もよく聞くが、*8-2-1の住商やオリックス等のように大型蓄電池を送電線に繋げば再エネを主力電源化することは可能だし、「EVも化石燃料で発電した電力を使えばCO₂削減にならない」という思考停止の反論をする人もいるが、これらは工夫もせずに現状維持を主張しているにすぎないため、次の発展に繋がらないのだ。従って、国は、終わりかけたエネルギーに補助し続けるより、送電線・蓄電池・EVなどの将来に向けた投資に補助した方がよいわけである。また、*8-2-2のように、地方自治体は、ごみのリサイクル率を高めて処理経費を削減したり、草木類を別に回収して堆肥やチップとして資源化したり、ごみ焼却熱で発電したりもしており、工夫次第で税外収入を増やしながら財政支出を削減することは可能なのである。
 今、自民党の宮沢税制調査会長が、*8-3-1のように、「自動車重量税に適用する『エコカー減税』を2023年度税制改正で見直しておられるそうで、その内容は、①税優遇の適用基準を厳しくして対象車種を絞り ②国が定める燃費基準の達成度合いが低いHVの減税幅を縮め ③EVには高い税優遇を維持する 方向とのことだ。しかし、2010年に世界初のEVを市場投入した日産自動車は、ゴーン元会長逮捕で後退し始めており、あまりに遅すぎた。何故なら、2000年代に①②③のようなことをしていれば、Excellentだったが、既にEVというだけではなく、高齢者・障害者も自由に自動車を利用することができ、運賃や保険料を安くできる自動運転という付加価値も加えて税優遇した方がよい時代になっているからである。
 一方、*8-3-2のように、仏ルノーは日産自動車への43%の出資比率を引き下げ、両社が出資比率を15%に揃える協議を行っており、また、EVとエンジン車を別会社にして本体から切り離し、EV新会社には日産も出資を検討しているそうだ。つまり、これは、ゴーン元会長の解任以降、日産が赤字決算となって業績がV字回復する見込みのない「お荷物子会社」になったため、ルノーにとっては、静かに日産とエンジン車という「リスク」を切り離し、エンジン車の会社は次第に縮小するチャンスなのである(https://maonline.jp/articles/is_exit_from_renault_dominance_lucky_for_nissan221013 参照)。つまり、世界では、得意技を活かして伸ばせなければ魅力のない会社となり、得意技もない魅力もない会社とお情けで提携関係を持ち続ける会社はないため、日本政府や日産もモタモタしていれば、他の電動車に強い会社と提携し直される可能性が高いのだ。

*8-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15450152.html (朝日新聞社説 2022年10月20日) 電気ガス代軽減 弊害大きい手法やめよ
 ガソリンに続き、電気やガスの料金でも、広く値上がりを抑え込む政策が検討されている。緊急策だとしても、巨額の補助の割には効果が薄く、弊害が大きい手法だ。困窮する層に的を絞ったきめ細かいやり方に改める必要がある。電気・ガス料金は、この1年で2~3割上がったケースが多く、来年春にも大幅な値上げが見込まれる。政府は、その前に負担軽減策を導入しようと検討を急いでいる。物価高対策では、まずガソリンや灯油への補助が1月に始まり、先月には岸田首相が電気料金で対策をとる考えを示した。さらに与党の声に押される形で都市ガスも加わり、LPガスでの導入を求める声も出ている。対象は広がる一方だ。確かに、代替の利かない必需品の急騰は、余裕のない家計や事業者にとって負担が重い。何らかの対策は必要だ。だが、すべての利用者を対象にした一律の価格抑制は、恩恵が富裕層や好業績の企業にも及び、値上がりを通して自然に消費が抑えられる市場の働きが損なわれる。省エネや脱炭素化も妨げる。使われる公金も、ガソリン補助だけで年末までに3兆円に達する。朝日新聞の社説はこうした点を繰り返し指摘し、手法の変更を求めてきた。経済産業省の審議会でも、ガソリン補助の延長を漫然と繰り返すことに、批判が多く出ている。ところが政府は、「激変緩和策」のはずのガソリン補助の出口を示さないどころか、同様の手法を電気・ガスにも広げようとしている。いったん始めるとなかなかやめられない危うさを理解しているのだろうか。電気やガスでは、これからの冬の供給に不安があるのを忘れてはならない。状況次第では大がかりな節約が求められる。政府自身が「節電ポイント」への支援など節電・節ガスを促す準備をしているはずだ。その時期に使用料金を大きく抑えれば、ブレーキとアクセルを同時に踏むちぐはぐな状況になりかねない。物価高は多くの分野に広がっているが、個々の商品価格に政府が介入し続けることには限界がある。政府は9月に、住民税非課税世帯への5万円の現金給付を決めたが、生活に困る人は他にも多い。支援を本当に必要とする対象を見定め、速やかにお金を配る仕組みの重要性は、コロナ禍以降たびたび指摘されてきた。いまだにそれを整えようとせず、場当たり的な対処を続けるのなら、怠慢のそしりを免れない。そろそろ具体的な検討を真剣に進めるべきではないか。

*8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15445632.html (朝日新聞 2022年10月15日) ガス代も負担軽減策 電気代は来年早期に開始 自公党首合意 財政支出さらに拡大
 岸田文雄首相(自民党総裁)は14日、公明党の山口那津男代表と首相官邸で与党党首会談を行い、政府が月内にまとめる総合経済対策で、電気料金に加えてガス料金にも負担軽減策を導入する方針で合意した。必要な費用は臨時国会に提出予定の補正予算案に計上する。すでに実施済みのガソリンや灯油の価格抑制策の継続も確認した。エネルギー高騰対策で財政負担が大きく膨らむことになる。両党首は会談で、来年春以降の急激な電気料金の上昇に備え、電力会社各社に支援金を支払う形で利用者の負担を減らす新たな支援制度で合意。激変緩和の幅は段階的に縮小するとしつつ、来年1月以降できるだけ早いタイミングで開始をめざすとした。ガスについては「値上がり動向、事業構造などを踏まえ、電気とのバランスを勘案した適切な措置を講じる」ことを確認。都市ガスを対象に負担軽減策を導入する方針で一致した。ガソリンなどの燃油価格の抑制策では「来年1月以降も補助上限を調整しつつ引き続き実施」するとしつつ、「その後、補助を段階的に縮減する一方、高騰リスクへの備えを強化する」ことで合意した。首相は会談後、記者団に「国民生活に高い効果のある具体的な政策を積み上げ、中身も規模も国民に納得していただける思い切った経済対策をしていきたい」と語った。会談では、子育て支援策も経済対策に盛り込む方針で一致。妊娠時から出産・子育てまで一貫して相談に応じて支援につなぐ「伴走型相談支援事業」や、0~2歳児の親への経済的支援としてオムツなどの商品で使えるクーポン券を発行する方向で調整している。

*8-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15449126.html (朝日新聞社説 2022年10月19日) 原発政策転換 議論の幅が狭すぎる
 原発が抱える数々の難題を脇に追いやり、推進に好都合な点ばかり訴える。そんな「結論ありき」の議論で、重大な政策転換を進めていいのか。課題や方策について多角的に検討を尽くすことが、政権の最低限の責務である。政府はこれまで、11年前の福島第一原発事故の教訓を踏まえて、原発は「可能な限り依存度を低減する」としてきた。ところが、岸田首相は8月、再稼働の加速、運転期間の延長、新型炉建設の検討を指示した。この「原発復権」に向けた地ならしの舞台になっているのが、経済産業省の審議会「総合資源エネルギー調査会」だ。年末までに結論を出すという。そこでの議論では、原発推進を前提にした意見が大勢を占める。原発を動かせば電力供給の安定化につながる、温室効果ガスを出さず脱炭素化に役立つ、といった利点の強調がほとんどだ。早速、政策での支援の強化も検討されている。だが原発は、事故対策はもちろん、放射性廃棄物の処分や核燃料サイクルの行き詰まり、将来の経済性低下など、長年の懸案が山積みだ。そうした点については表面的な議論に終始し、中身は深まらない。なぜこれほど、議論の幅が狭くなってしまうのか。審議会の議題と人選は経産省が決めている。委員の多くは、原子力研究者や電力業界と関わりが深い有識者、経済人だ。原発に懐疑的な視点から意見を述べる人はごく一部しかいない。これで十分な調査と審議ができるのか、極めて疑わしい。通り一遍の議論で、推進官庁の提案にお墨付きを与えるだけの役回りになるのではないか。審議会でも、慎重派委員から「国民各層とのコミュニケーション、結果ありきでないオープンな議論が必要」との意見が出た。政府は指摘を真摯(しんし)に受け止め、熟議ができる環境を整えなければならない。4カ月での新方針決定というのも、あまりに急だ。エネルギー問題は激動期にあり、複雑さを増している。原発の位置づけは、電気の使い方を将来にわたって左右する大きなテーマだ。安定供給や脱炭素の効果だけでなく、課題やコストとリスク、他の選択肢との比較など、さまざまな観点から検討を重ねることが欠かせない。審議会を含め、さまざまな専門家をバランスよく集め、透明性を確保した議論の場が必要になる。かつて、産官学の「原子力ムラ」が政策を主導するなかで「安全神話」が広がり、11年前の惨事に行き着いた。異見を排除した閉鎖的な議論が何をもたらすか。深く顧みるべきだ。

*8-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61089980U2A520C2TB2000/ (日経新聞 2022年5月25日) 大型蓄電池、送電線と直結、電力調整、法改正が追い風 住商やオリックス参入
 送電線と直結して発電所のように使う「系統用蓄電池」に参入する企業が相次いでいる。住友商事は2023年度内に北海道で電気自動車(EV)の電池を束ねたシステムを稼働する。オリックスなども23年度以降の参入を目指す。関連法制の改正や電力の需給調整力を売買する新市場の開設を新たな商機ととらえ、技術革新を急ぐ。住友商事は日産自動車と共同出資するフォーアールエナジー(横浜市)と協業し、北海道千歳市で22年度にも出力6000キロワットの大型蓄電池の建設を始める。約700台分のEV電池をひとつにまとめて蓄電池とみなす。23年度に稼働する。住商は鹿児島県薩摩川内市の廃校の跡地で系統用蓄電池の実証実験をしてきた。22年4月には福島県浪江町で実証機を稼働し、北海道での設置は17~18年ごろから検討してきた。実用化のめどが立ったため、運用を決めた。今後、北海道の他の地域や東北、九州などにも広げ、26年度までに計10万キロワットの導入を目指す。オリックスは関西電力と共同で参入する。開発する蓄電池の出力は数万キロワットの見通しで、23年度以降の稼働をめざす。オリックスが出資する地熱発電大手の米オーマット・テクノロジーズは系統用蓄電池も運用している。オリックスと関電はオーマットの知見も生かして日本市場を開拓する。ENEOSは北海道室蘭市の室蘭事業所で23年度内に稼働する方針だ。一般的な家庭用蓄電池換算で数千台に及ぶ大型蓄電池を計画しており、22年内にも建設を始めるとみられる。ミツウロコグループホールディングスも22年末に北海道で運用を始める。企業の参入が相次ぐ背景には電気事業法改正や電力市場の整備がある。政府は3月に電気事業法改正案を閣議決定し、23年4月の施行をめざす。改正案では今まで曖昧だった系統用蓄電池の役割を明確にした。送電線に接続され、売電する電力の合計が1万キロワットを超える蓄電池を「発電事業」と位置づけた。今の法律は蓄電池を単体で送電線につなげるケースを想定していない。電力市場の広がりも追い風だ。系統用蓄電池の収益確保の手段として期待される市場は大きく3つある。電力の需給を調整して報酬を得る「需給調整市場」と電力の供給力を売買する「容量市場」、翌日の電力量を取引する「卸電力市場」だ。企業が特に期待するのは需給調整市場だ。市場は調整力を提供するまでのスピードなどを基準に5つに区分される。今は15分以内に対応できる調整力までだが、24年からは10秒以内や5分以内に対応できる調整力のやりとりが始まる。系統用蓄電池は瞬時に電力を調整できるため、短い時間での調整を求める市場の開設は追い風になる。容量市場は将来の発電能力を売買しており、20年からオークションが始まった。一定の出力を確保できる系統用蓄電池が増えれば、電力小売事業者は数年先の夏や冬の電力需要期をにらみ、あらかじめ必要な電力を手当てしやすくなる。卸電力市場は30分ごとに電力を取引する。最近では発電所のトラブルなどが起きると市場価格もすぐ急騰しがちだ。系統用蓄電池を使えば、市場価格が安い時間帯に電力を買ってためておき、高い時間帯に売るというビジネスに応用できる。日本の電力需給は不安定だ。3月には季節外れの寒波で、東京電力ホールディングスと東北電力の管内で初の電力需給逼迫警報が出た。4月になると東北電など複数の大手電力が再生可能エネルギーの発電事業者に太陽光発電の出力を抑えるよう要請し、わずか1カ月で需給環境が一変する極端な事態に陥った。電力ガスなどエネルギー関連の法制度に詳しい西村あさひ法律事務所の松平定之弁護士は「太陽光などの再生エネのさらなる導入と送電網の安定性とのバランスをとるためにも蓄電池は不可欠だ」と指摘する。蓄電池をもっと普及させないと電力の安定供給はおぼつかないままだ。蓄電池の課題は高コストだ。今のエネルギー基本計画によると、産業用蓄電池の発電コストは19年度時点で1キロワット時当たり約24万円。政府は30年度時点で同6万円程度まで下げる目標を掲げるが、コスト減への工程表は定まっていない。各社は系統用蓄電池に参入するが、実際に市場が動き出さなければ収益を特定するのは難しい。送電線の空きが少ないのも難点だ。蓄電池から電力を送りたくても、空きがなければ送れない。国の機関は送電線の容量を現在の約2倍に増やすには3兆8000億~4兆8000億円の投資が必要とみる。誰がいつ、どのように投資するかは未定だ。企業の参入意欲を冷え込ませないためにも、電力システムの抜本的見直しが欠かせない。

*8-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221015&ng=DGKKZO65156810U2A011C2L83000 (日経新聞 2022/10/15) (データで読む地域再生)ごみ処理 八王子市、焼却熱で発電、環境配慮の新施設
 首都圏の自治体では、埼玉県鶴ケ島市の近隣市町がごみの分別収集徹底や効率的な処理でコスト削減に取り組んでいる。神奈川県座間市は家庭から出る可燃ごみのうち、草木類を分けて収集することでごみ処理量の削減につなげた。東京都八王子市や栃木県矢板市などでは、環境に配慮した高効率処理施設の建設が相次いでいる。埼玉県鶴ケ島市と毛呂山町、鳩山町、越生町の4市町は埼玉西部環境保全組合を組織し、共同でごみ処理に取り組んでいる。同組合は効率的にごみを処理するため、現在の処理施設が稼働する前からごみの分別や適正な処理方法について計画を立てた。各市町ごとのごみ排出傾向を徹底的に分析し、2026年度までに1人あたりの家庭ごみの排出量で2%前後、事業者系ごみで5%程度の削減を目標に定める。23年4月には約190億円を投じた最新鋭のごみ処理施設、埼玉西部クリーンセンター(同県鳩山町)が稼働する。ごみ処理能力は1日当たり130トンと現在の高倉クリーンセンター(鶴ケ島市、同180トン)を下回るが、同組合の担当者は「リサイクル比率を高めてごみ処理経費を削減し、組合の自主財源を多く確保できるようにしたい」と話す。神奈川県内の市町村でごみ処理費用の削減率が2番目に大きかった座間市は1人あたりのごみ排出量が最も少ない。可燃物や不燃物などの分別協力が定着し、21年度の家庭系可燃ごみの排出量は約1万9300トンと、前年度比7.8%減った。市によると、21年度から可燃ごみにまとめられがちな草木類を別に回収し、堆肥やチップとして資源化していることも削減につながった一因という。連携協定を結ぶ小田急電鉄の廃棄物管理サービス「WOOMS(ウームス)」を活用。草木類の収集は可燃ごみと同じ日だが「収集車が草木類のある集積所をウームスのシステムにデータ入力し、草木類専用の後続車が最短ルートで収集している」(市の担当者)という。環境省の一般廃棄物処理実態調査によると、神奈川県の20年度の1人あたりのごみ事業経費が11年度比で7.3%減と、関東・山梨の8都県で唯一減少した。神奈川のごみ事業費が県全体で減った要因は県内の7市町村がごみ袋を有料化し、分別を本格化したためという。ただ、横浜市、川崎市はまだ有料化しておらず、大都市部のごみ処理コスト削減の取り組みは今後本格化するとみられる。千葉県や栃木県、東京都、茨城県は1人あたりのごみ事業経費は高めで、削減の取り組みは道半ば。東京都では八王子市内の可燃ごみを焼却処分する館クリーンセンター(同市)が1日、本格稼働した。旧清掃工場跡地に169億円を投じて整備。屋外にはビオトープ(植生物の生息帯)や散策路を整備し、ごみの焼却時に発生する熱を使ってタービンを回転させ、発電する環境配慮型施設にした。焼却炉を2基備え、1日あたりの処理能力は計160トン。ごみ焼却熱で発電した電力は施設や八王子市役所などで利用する。栃木県矢板市では、近隣市町との広域行政組合が運営する処理施設の設備が老朽化していたため、環境性能を高めた広域処理施設、エコパークしおやを矢板市内に建設。19年に本格稼働した。同施設ではごみ焼却時の熱を利用して発電し、その電力を利用して施設内でフィットネスジムや入浴施設を運営している。焼却後の灰は埋め立てなどに再利用している。粗大ごみとして持ち込まれたが、再利用できる椅子や机、棚といった家具を無償で譲渡する抽選会を開催するなど、ごみの削減に努めている。

*8-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221015&ng=DGKKZO65175800V11C22A0EA2000 (日経新聞 2022年10月15日) 「エコカー減税、基準厳しく」 自民税調会長車種絞り込み検討
 自民党の宮沢洋一税制調査会長は14日、日本経済新聞とのインタビューで、自動車重量税に適用する「エコカー減税」制度を2023年度税制改正で見直すと明らかにした。税優遇の適用基準を厳しくして対象車種を絞り、国が定める燃費基準の達成度合いが低いハイブリッド車(HV)などの減税幅を縮める。電気自動車(EV)は高い税優遇を維持する方向だ。自動車重量税は車検の際に支払う。エコカー減税制度では燃費性能が高い自動車の税を減免する。現行制度の期限が23年4月末に迫っており、どう見直すかが焦点の一つだった。今の制度では、燃費基準を達成した車種は初回の車検時に免税となる。基準を75%達成すれば50%の減税、60%達成なら25%減税と、燃費性能によって差をつけている。宮沢氏は「(自動車メーカーには)燃費を常に改善してもらわないといけない。基準を少し厳しいものにしていくことになると思う」と述べた。HVやガソリン車で免税、減税のハードルを上げメーカーの技術革新を促す。EVは現在の免税措置を続ける案がある。燃費に応じ購入額の1~3%を課税する「環境性能割」を減免する基準もより厳格にする方針だ。自動車関連税制の抜本改革は23年度改正では見送る考えだ。宮沢氏は「EVを含めたモビリティー全体の税のあり方を考えないといけない」と語り、走行距離に応じて課税する案も含め、制度の見直しを中長期で進める必要性を強調した。温暖化ガスの排出に金銭負担を求める炭素税などのカーボンプライシング(CP)は「どういう債券や国債が発行され償還するかという話になって初めて税の出番になる」と説明。23年度改正の導入を見送る意向だ。政府は脱炭素分野の財源として「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」(仮称)を検討中だ。宮沢氏は一連の詳細な設計が年末までに決まらないとの見通しも明らかにした。国際的な税逃れを防ぐ制度改正にも着手する。経済協力開発機構(OECD)で法人税負担の最低税率を15%とする仕組みが大枠で合意されたことを受け、23年に国内の法整備を進める。詳細なルールを巡り22年末まで国際交渉が続く。交渉がまとまる前提で国内法の改正案を「来年の国会にできれば出したい」と述べた。導入後は低税率国に子会社を置く日本の親会社に対し、日本の税務当局が最低税率との差分を課税できる。企業誘致などを狙い、各国が法人税引き下げを競う「底辺への競争」に歯止めをかけると期待されている。法人事業税の外形標準課税についても「何らかの手当てはしなければいけない」と話した。資本金1億円超の企業が課税対象で、経営が悪化した企業を中心に1億円以下に減資する例が相次いでいる。「外形標準課税逃れのような行為が散見される」と指摘した。

*8-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221019&ng=DGKKZO65255540Z11C22A0MM8000 (日経新聞 2022.10.19) ルノー「日産と関係対等に」
 仏ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は17日、日本経済新聞の取材に応じ、日産自動車との提携関係を「より対等にする必要がある」と述べた。両社はルノーから日産への43%の出資比率を引き下げる交渉をしている。日仏連合は経営危機に陥った日産をルノーが1999年に救済して発足し、ルノーが運営の主導権を握ってきた。世界3位の自動車連合の経営形態が転換点を迎える。ルノーは日産株を43%保有する筆頭株主で、日産も15%のルノー株を持つ。だが、仏会社法の規定で日産が保有するルノー株には議決権がなく、日産はかねて規模で劣るルノーが優位な資本関係の見直しを求めていた。両社はルノーが日産株の一部を手放し出資比率を15%にそろえることを軸に協議を進めている。ルノーの出資比率が40%未満に下がると、日産のルノー株には議決権が生まれる。デメオ氏は日産株の売却について「機微に触れる話だ。コメントできない」とした。そのうえで「日産との議論はとても建設的だ。非常に複雑で様々な議題があるが、解決策を見つけようとしている」と述べ、協議が進んでいることは認めた。ルノーは15%を出資する筆頭株主のフランス政府とも日産との交渉などについて協議している。日産幹部によると、仏政府は現時点で引き下げに反対の姿勢は示していないようだ。ルノーは99年、約6000億円を投じて日産に37%を出資した。カルロス・ゴーン被告を日産の最高執行責任者(COO)として送り、完成車や部品などの5工場を閉鎖した「日産リバイバルプラン」などのリストラで経営を立て直した。2016年には日産が三菱自動車に34%を出資し日仏連合は3社に拡大した。仏政府は14年に特別法を設けて2年以上株式を保有する株主に2倍の議決権を与えた。ルノーの経営への関与を強めたうえで、日産の経営に介入する懸念が生じた。ゴーン元会長が18年に逮捕されてルノーが経営統合を提案し、両社の関係がぎくしゃくしたため、資本関係の見直しは棚上げされた。ルノーはトヨタ自動車など他の自動車大手に比べて規模が小さい。電気自動車(EV)の開発や生産には巨額の費用がかかるため、保有する日産株を売却して資金を捻出する必要がある。仮に3割の日産株を売却すると、18日の終値では6000億円弱の資金が手に入ることになる。デメオ氏は両社の提携関係について「これまでは片方が勝って、片方が負けるという状況があった。連合の新たな幕を開けることに意味がある」と述べた。日産は幹部人事にルノーの指名権があるなどルノー優位の提携関係に不満を募らせていた。ルノーは2月、EVとエンジン車をそれぞれ別会社にして本体から分離する計画を発表した。EVの新会社には日産が出資を検討しており、デメオ氏は「(EVの専門会社を設けることで)より多くの製品開発が実現でき、日産にも利益をもたらすだろう」と話した。

<防衛費増額で継戦能力向上が見込めるのか>
PS(2022年10月23日追加):*9-1は、①政府が防衛力の抜本的強化を目指して有識者会議をスタートさせ ②年末までに数回会合を行って年内に改定する「国家安全保障戦略(NSS)」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」に反映させ ③2月上旬には提言をまとめて「中期防衛力整備計画(中期防)」を来年度予算に反映させる ④防衛力の抜本的強化は継戦能力向上と敵基地攻撃能力保有が焦点 ⑤自民党内ではNATO諸国の国防費予算GDP2%以上と同様、日本も防衛費を5年以内にGDP比2%以上とすることを求める声が強まり ⑥2022年度当初予算GDP比1%の5.4兆円の防衛費を5年間でGDP比2%まで引き上げるには毎年約1兆円程度ずつ増額していく必要 ⑦安易な国債発行は将来にわたる国民の負担増で、将来の成長期待の低下を通じて企業の設備投資を抑制し、経済の潜在力を低下させる ⑧受益者である企業と国民が相応の負担をする法人税引き上げと個人所得税引き上げを行って財源とするのが妥当 等と記載している。  
 このうち、①②③④については、北朝鮮を標的にした敵基地攻撃能力の保有とNATO諸国の国防費予算GDP2%以上に合わせることが目的だそうだが、今後、本当に必要な防衛力の検討がなされていない。また、⑤⑥は、日本はGDPが大きいため、GDP比を同じにすれば平和国家であるにもかかわらず防衛予算はNATO諸国よりずっと大きくなるため、比率ではなく支出額とその目的適合性を検討すべきだ。さらに、無人化・自動化が進んでいる現在、人件費・糧食費は減って当然であるし、海洋国家日本で陸上自衛隊の経費が最も大きいというのも変である。従って、⑧のように、防衛予算の増額で企業と国民が受益者になるというのは甘い幻想に過ぎず、そうなるためには、正確な目的設定とそれに沿った政策間の整合性・査定が必要なのである。なお、⑦のように、安易な国債発行を行えば国債の返済と利払いで予算の多くが占められる結果となり、社会保障等の国民の生命を守る歳出を削減したり、0金利政策を変更できずに国民の財産を毀損したりすることになる。つまり、歳入・歳出・国債残高を通じて、すべては繋がっているのだ。
 このような中、岸田首相は「政府全体の資源と能力を総合的かつ効率的に活用した防衛体制の強化を検討する」と強調しておられるが、省庁間の政策ベクトルの方向を揃えることは必要不可欠なので、そのための関係省庁の関連費用を「国防関係予算」から支出するのはアリだろう。
 現実には、(国際法規違反と非難しても)戦争となれば兵糧攻めは定石であり、ウクライナはクリミア橋を爆破し、ロシア軍は、*9-2-1・*9-2-2のように、電力インフラを主な標的として40発のミサイルとイラン製の突入自爆型無人ドローン「シャヘド」を16機発射し、これに対してウクライナ軍がミサイル20発とシャヘド11機を撃墜したものの、南部ザポロジエやオデッサ、ミコライフ、西部リウネ、フメリニツキー、東部ハリコフなどの各州で電力等の重要インフラが損傷したそうだ。このうち、ザポロジエ原発の安全は最も心配だが、原発で集中発電しているリスクの大きさが改めて明白になった形だ。
 バイデン米大統領は、*9-3のように、「世界は冷戦が終わって以来初めて『世界最終核戦争』の危機に晒されており、ウクライナ侵攻のプーチン氏にとっての『出口』を模索中」と言われたそうだが、現在は、核戦争以前に原発を自爆させることも容易であり、その世界への悪影響は著しく大きいのである。

    
2022.9.5日経新聞  東京新聞     2021.1.10Yahoo    2021.10.23JCP

(図の説明:1番左の図が「防衛費増額のイメージ」で、GDP比2%という数字が目標になっているだけで、5年後に本当に必要か否かの検討がされていない上、米軍基地再編費は除かれている。また、左から2番目の図が、NATO諸国と日本の防衛費のGDP比で、NATO諸国の目標であるGDP比2%より小さいとしているが、右から2番目の図のように、日本のGDPは世界で3~4番目に大きいため、単純に比率を同じにすれば防衛費も世界で3~4番目に大きくなるのである。それを示したのが1番右の図だが、政策の連携がされていないため、憲法に反してまで世界で3~4番目に大きな防衛費を使っても機能しないのが日本の根源的問題なのである)

   
 2022.1.4朝学ナビ             Clearing Mod

(図の説明:左図は、2022年度予算案のポイントで、歳出は約107兆円で10年連続過去最大だが、日本経済は低迷しているので歳出内容をチェックすべきだ。また、約5兆円の防衛費も過去最大で、右図のように無駄が多いのに拡大圧力が強い。そのような中、約36兆円《歳出全体の約1/3》の社会保障費が大きすぎるとして圧縮圧力が強いが、本当に国民の生命・財産を第1に考えるなら、国民全体が関係する社会保障費の圧縮は極めて慎重で合理的根拠に基づかなければならない筈である。国債費も過去最大で24兆円あるが、国債残高は増加しているため、利払い負担は増える一方である。右図は、防衛関係費の内訳で、人件費・糧食費が約45%、隊別では陸上自衛隊38.2%が最大だが、少子化で偵察衛星・無人機・ミサイル・無人ドローンの時代に兵員数は多い必要がないと思われるため、人件費・糧食費は半減させてよいだろう。また、装備品の購入単価が著しく高く、高額予算の割には大したことができていないため、もっと安上がりで効果的な方法を考えるべきである)

*9-1:https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/fis/kiuchi/1003 (NRI 2022/10/3) 本格化する防衛力増強、防衛費増額と財源の議論 執筆者:木内 登英、エグゼクティブ・エコノミスト
●防衛力の抜本的な強化に向けた有識者会議がスタート
 日本の防衛力の抜本的な強化を目指す政府が、その検討を本格化させている。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が9月30日に初会合を開いた。年末までに数回の会合を行い、2月上旬をメドに提言をまとめる。その議論は、年内に改定する「国家安全保障戦略(NSS)」、「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」の3文書に反映される。さらに、「中期防衛力整備計画(中期防)」は来年度予算に反映される。2013年に改定された「国家安全保障戦略(NSS)」、2018年に改定された「防衛計画の大綱(防衛大綱)」は概ね10年程度で改定されることが想定されている。また、「中期防衛力整備計画(中期防)」は5年間の計画だ。この3つを同時に改定することは、日本の防衛政策の大きな転機となることは間違いないだろう。有識者会議はその見直しのプロセスに国民目線を反映させる役割を担っている。
●脆弱な継戦能力の向上と「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有が焦点に
 同会議の初会合に内閣官房国家安全局が提出した資料では、「国際秩序は深刻な挑戦を受けている」、「2025年には中国の軍事的影響範囲は西太平洋全体に及び、米中の戦力バランスも中国側に傾く」との見方を示し、国防上の危機感を強調している。防衛力の抜本的な強化では、継戦能力の向上と敵のミサイル拠点をたたく「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有が、2つの大きな焦点となる。弾薬は最大2か月ほどしかもたないといった試算があるうえ、精密誘導弾についても数日しかもたないとの指摘もあり、脆弱な継戦能力の向上が焦点となる。また、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有は北朝鮮を念頭に置いたものだ。北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃するには技術的に限界があることから、抑止力として浮上しているのが、この「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有だ。8月末に公表した来年度予算案の概算要求で防衛省は、敵基地攻撃能力にも使える射程が長い「スタンド・オフ・ミサイル」の量産などを既に盛り込んでいる。しかし攻撃するには、まず相手の着手を認定する必要があり、その前に攻撃すれば国際法違反の先制攻撃となってしまう、あるいは相手が先制攻撃と受け止めてさらに攻撃の度を増すリスクがあるなどの課題があり、実際の運用には大きな課題を抱えている。その中で、保有するだけで十分な抑止力を発揮できるのかが焦点となるだろう。
●防衛費増額は数字ありきではなく省庁横断、官民協力が重要
 岸田首相は防衛費の抜本的強化を打ち出す一方、「必要な防衛力の内容の検討、予算規模の把握、財源の確保を一体的かつ強力に進めていく」との3点セットを示してきた。単純に防衛費の積み増しを求める声も自民党内には強まる中、こうした方針は重要であり評価できる。自民党内では、北大西洋条約機構(NATO)諸国が国防費予算をGDPの 2%以上とすることを目指していることを念頭に、日本でも防衛費を5年以内にGDP比2%以上とすることを求める声が強まっている。2022年度当初予算で防衛費はGDP比1%の5.4兆円だった。これを5年間でGDP比2%まで引き上げるには、単純計算で毎年約1兆円程度ずつ増額していくことが必要となる。しかし数字ありきではなく、いかに効率的に防衛力を強化することができるかを検討すべきだ。岸田首相は「政府全体の資源と能力を総合的かつ効率的に活用した防衛体制の強化を検討する」と強調している。単純に防衛庁の予算を増額するのではなく、省庁横断で防衛力強化に取り組むために、各府省庁の関連費用を「国防関係予算」として創設することが検討されている。例えば防衛費の規模に関して、政府は海保経費や科学技術費、インフラ整備費などを含めた考え方を検討している。NATOの基準に従って、日本の海保に当たる沿岸警備隊にかかる費用も防衛費に含めることも検討しているのである。「官民の研究開発や公共インフラの有事の活用」も検討されている。従来は行われてこなかった軍民両用(デュアルユース)である。有事に自衛隊が使いやすい空港、港湾などが想定されている。与党内では、他省庁に計上されていた予算を防衛費予算に付け替えることで、防衛費を形だけ膨らませることになってしまうことを警戒する向きもある。しかし、省庁横断で、そして官民協力で防衛力強化に取り組むことにより、いたずらに予算が増加することを抑制しつつ、効率的な防衛力の向上を図ることは重要なことだ。
●国債発行で賄えば経済の潜在力を低下させ将来の防衛力低下も
 さて、防衛力強化、防衛費増額で大きな課題となるのはその財源の問題である。政府内では、法人税率引き上げによる財源確保、あるいはそうした財源の確保ができるまでの「つなぎ国債」の発行、あるいは通常の国債発行、などが検討されている。厳しい国際情勢を踏まえれば、防衛費の増額は一時的な措置となる可能性は低いことから、恒久財源を確保することが望まれる。安易に国債発行で賄えば、それは将来にわたる国民への負担増となり、世代間の負担の公平性の問題以外に、将来の成長期待の低下を通じて、企業の設備投資の抑制などをもたらし、経済の潜在力を低下させる。それは、将来に向けての防衛力の強化という方針に逆行してしまうだろう。また、財源の確保ができるまでの「つなぎ国債」で決着しても、結局は財源の確保ができずに、なし崩し的に通常の国債発行で借り換えられてしまう可能性もあるだろう。従って、当面は「つなぎ国債」で資金を賄うとしても、財源はしっかりと確定させておく必要がある。
●法人税引き上げと個人所得税の引き上げの組み合わせも選択肢か
 仮に年間5兆円規模の恒久財源を消費税率引き上げで確保する場合には、消費税率を2%ポイント引き上げる必要が生じる。ただし増税による財源確保で、現在主に検討されているのは法人税の増税である。バイデン米政権が主導する形で、世界の法人税率引き下げ競争に歯止めが掛かってきたことが、その検討の背景にある。法人税収は2021年度に13.6兆円に達した。その税率は国と地方の実効税率ベースで29.74%である。5兆円の防衛費増額分を法人税率引き上げで賄う場合には、実効税率を37.4%まで8%ポイント近く引き上げることは必要な計算となる。これはおよそ20年前の水準まで法人税率を戻すことを意味するものだ。ただし、国際的な税制の環境が変わって法人税率が引き上げやすくなったから、法人税率引き上げで防衛費増額分を賄う、つまり、取りやすいところから取るという発想は必ずしも妥当ではない。防衛力の強化で誰が利益を得るのか、という受益者を特定し、受益者に相応の負担を求めるとの考え方が重要なのではないか。有事の際に国内の生産施設や内外の物流施設が被害にあえば、企業活動に甚大な支障が生じる。この観点から、企業が相応の負担をするのは適切だろう。他方で、防衛力の強化によって国民の生命が守られるのでれば、国民もその受益者であり、相応の負担を求められるべきではないか。東日本大震災後の復興特別税と同様に、法人税引き上げと個人所得税の引き上げの組み合わせで財源を確保することも、検討すべきではないか。
(参考資料)
「防衛力有識者会議、12月上旬メド提言 安保戦略に反映へ」、2022年10月1日、日本経済新聞電子版
「省庁横断「国防費」提言へ 首相「政府全体の能力活用」-政府内、財源に法人税案」、2022年10月1日、日本経済新聞電子版
「防衛費増、財源論が本格化 法人増税案、復興債が先例」、2022年10月1日、日本経済新聞
「安保戦略、有識者が初会合」、2022年10月1日、朝日新聞 
「防衛費、枠組み議題に 海保経費など一括算入で懸念」、2022年10月1日、産経新聞

*9-2-1:https://www.yomiuri.co.jp/world/20221022-OYT1T50090/ (読売新聞 2022/10/22) ロシアの重要インフラ攻撃、米欧は「民間人巻き込む無差別攻撃」と非難…安保理
 国連安全保障理事会は21日、ウクライナのエネルギー関連施設を含む重要なインフラ(社会基盤)へのロシアの攻撃を巡り、緊急会合を開催した。米欧は民間人を巻き込む無差別攻撃として非難した。会合は、フランスとメキシコが要請した。フランスの国連大使は「ロシアはウクライナの都市を無差別に攻撃することで、ウクライナ国民の士気をくじこうとしている」と批判した。米国などは、ウクライナへの攻撃にイラン製の無人機(ドローン)が使用されたと強調した。英仏独の3か国は21日、イラン製無人機の使用疑惑の調査を国連に求める書簡を国連事務総長と安保理に提出した。国連は「加盟国からの情報は分析する用意がある」(事務総長報道官)との立場だ。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は会合で、露軍によるイラン製ドローンの使用を否定。英仏独の書簡に触れ、「調査すれば、国連事務局との関係を見直す」とけん制した。

*9-2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/92a26b4e49c0025737b3d33ba4aedb45dcbdfb17 (Yahoo、産経新聞 2022/10/23) ロシア、電力インフラ攻撃継続 南部では複数集落を放棄
 ウクライナ軍参謀本部は22日、ロシア軍が電力インフラを主な標的として40発のミサイルとイラン製の突入自爆型ドローン(無人機)「シャヘド」16機を発射したと発表した。うちミサイル20発とシャヘド11機を撃墜したが、南部ザポロジエやオデッサ、ミコライフ、西部リウネ、フメリニツキー、東部ハリコフなどの各州で電力などの重要インフラが損傷したとした。また、同参謀本部は22日、ロシアが一方的に併合を宣言した南部ヘルソン州を流れるドニエプル川の西岸地域で複数の集落を露軍が放棄したと指摘した。露軍は同川の西岸地域に位置する州都ヘルソン市で市街戦の準備を進めるとともに、同川の東岸地域に防衛線を構築し、実効支配する南部クリミア半島方面へのウクライナ軍の前進を防ぐ思惑だとみられている。電力など民間インフラへの攻撃について、ウクライナは戦争のルールを定めた国際法規違反だと非難。ゼレンスキー大統領は22日のビデオ声明で、停電の復旧作業が進んでいるとした上で、国民に節電を要請。「停電の中でさえも、ウクライナ国民の生活はテロ攻撃を行うロシアよりも文明的だ」と述べ、国民に団結と忍耐を呼び掛けた。ロシアはクリミアと露本土を結ぶクリミア橋で8日に起きた爆発を「ウクライナのテロ」だと主張し、「報復」として10日からウクライナ各地の電力インフラなどにミサイルやドローンによる大規模攻撃を開始。ウクライナのエネルギー当局は19日時点で、約40%の電力インフラ施設が破壊されたと発表していた。東・南部の戦線で劣勢に立つロシアは橋での爆発を口実に電力インフラを攻撃し、ウクライナ軍の兵員・物資輸送を妨害するとともに、国民の戦意をくじく狙いだとする観測が強い。

*9-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/80d8d5d85de0d6b67c26ae5e759be47a29ab7581 (Yahoo、時事 2022/10/7)冷戦以来初の「世界最終核戦争」の危機に 米大統領
 米国のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は6日、世界は冷戦(Cold War)が終わって以来初めて「世界最終核戦争」の危機にさらされているとして、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領にとってのウクライナ侵攻の「出口」を模索していると述べた。バイデン氏はニューヨークで開かれた民主党の資金調達イベントで、人類が世界最終戦争の危機にさらされるのは1962年のキューバ危機以来だと述べた。専門家はプーチン氏が使うとすれば小型戦術核の可能性が最も高いとしているが、バイデン氏は限定された地域への戦術攻撃であろうと、大惨事の引き金になりかねないと警告した。バイデン氏は「プーチン氏が戦術核兵器や生物・化学兵器を使う可能性に言及するのは、冗談で言っているわけではない。ロシア軍の戦果は期待を大きく下回っていると言えるからだ」との見解を示した。また、プーチン氏による核の脅しは「冗談ではない」として、「われわれはプーチン氏にとっての出口を見極めようとしている。彼はどこに出口を見いだすだろうか?」と語った。

<不合理な防衛費使用の果てに>
PS(2022年11月3、4日追加): 韓国軍の合同参謀本部は、北朝鮮が11月3日午前7時40分頃、首都ピョンヤン郊外から日本海に向けて長距離弾道ミサイル1発を発射し、飛行距離約760km、高度約1920kmで、マッハ15で飛行したと発表した。これについて、*10-1-1は、①ミサイル発射で宮城・山形両県等にJアラートが発令され、住民に避難が呼びかけられ ②一時は日本列島を越えて落下したという情報もあったが ③午前9時頃、ミサイルは日本上空を通過していないというニュースが流れ、政府が日本海に落下と修正した と記載しているが、北朝鮮から7時40分頃に発射されたマッハ15のミサイルの飛行ルートを、日本政府が午前9時過ぎに初めて確認したとすれば、多額の防衛費をかけても満足に守備もできないことが明らかであるため、これまで使った多額の防衛費はどこに消えたのかと思う。
 一方、*10-1-2は、④北朝鮮は、2022年3月24日にも大陸間弾道ミサイルを発射して北海道・渡島半島の西方約150kmの日本のEEZ内に落下させており ⑤今回のミサイルが通常軌道で発射されれば米国全土に到達する可能性があり ⑥落下海域は過去の北朝鮮による発射で最も日本列島に近く ⑦岸田首相は「許されない暴挙で断固非難する」と強調し、「制裁を含む対応を日米、日米韓で実施したい」とされたが ⑧ミサイルの領域(領土・領海)内への落下や我が国の上空通過が想定されなかったためJアラートやエムネットは作動させなかった とする。しかし、⑦の制裁が効くのは、日本に大きく依存している国だけなので、いつまでも制裁が効くと考えるのは甘い。そのため、日本の領土・領海・領空を侵したり、侵さなくてもEEZ内に落下させたりすれば漁業者や航行する船舶に危険が及ぶので応酬するとあらかじめ言っておき、演習を兼ねて反撃すればよいと思う。相手も演習なら、こちらもそれを迎撃する演習をして問題ないし、日本は能力が低すぎて迎撃できないのを特定秘密にしているわけではあるまい。
 ただし、迎撃能力が低くてミサイルを完全には迎撃できないことも十分に考えられるため、その場合は、*10-2のように、原則40年・最長60年としていた原発の運転期間を運転開始30年後から10年以内毎に建物・原子炉の劣化具合を“審査”すれば60年超運転することを可能にしたり、小型原子炉は比較的安全だから新設して原発を維持しようなどと言うのは無謀な計画すぎる。そもそも、構築物のうち耐用年数の長い競技場用の鉄骨鉄筋コンクリート造スタンドでも耐用年数は45年で、コンクリート敷・ブロック敷・れんが敷・石敷舗装道路は15年、爆発物用防壁・防油堤は25年、放射性同位元素の放射線を直接受けるもの15年、塔・柱・がい子・送電線・地線・添加電話線36年、送電用地中電線路25年などが通常の耐用年数なのに(http://tool.yurikago.net/583/yurikago/ 参照)、強い放射線を直接受け、高圧に耐えなければならず、事故時には被害甚大になる原発だけは60年を超えて使用できると考えること自体、非科学的で、セキュリティーに甘く、著しく非常識なのである。
 上記のように、防衛費・原発や生産年齢人口への景気対策と称するバラマキには莫大な予算をつけながら、国民の命に直結する介護については、「介護全体にかかる費用が2022年度に13.3兆円と2000年度の介護保険制度創設時と比較して約3.7倍になったため、給付と負担の見直しが必要」として、*10-3のように、⑨介護サービス利用時の原則2割負担への引き上げは見送るが ⑪65歳以上の介護保険料を引き上げる議論を始め ⑩(65歳以上が支払う保険料は既に創設時の2倍超の6000円超だが)現行サービス維持には65歳以上の介護保険料を2040年には月額平均9,000円程度(現在の1.5倍)にする必要があるとし ⑪現在は国の目安で所得に応じて9段階、平均月6,014円、年間所得320万円以上の最も高額な人は月10,224円だが ⑬さらに高所得の階層を作って10段階以上とし負担額を引き上げられないかを探る などとしている。
 が、65歳以上の人の多くは、生産年齢人口時代の所得よりも大きく減った年金所得から介護保険料や医療保険料を事業主負担なく全額自費で支払っているため、生産年齢人口の人より可処分所得がずっと少なく、⑪のように、年間所得320万円以上が所得の多い人に当たり、月10,224円(年間12万円以上)もの介護保険料を支払っているのである。にもかかわらず、⑪⑫⑬のように、さらに65歳以上を標的にして介護保険料を引き上げたり、⑨のように、介護サービス利用時の負担を引き上げたりするというのは、高齢者に対する福祉・生活・人権を考慮していない。
 その上、介護保険制度は、高齢者だけのためにあるのではなく、親等の介護のため離職を余儀なくされそうな生産年齢人口や自らが生産年齢人口でも病気や出産のため介護を受けたい人が、家族に負担をかけずに尊厳を持って介護を受けられることを目的に作ったものなので、65歳という年齢で分けること自体が著しくナンセンスなのである。そのため、「給付と負担の見直し」は、介護を受けることができる年齢制限をなくし、所得に応じて負担額を決めるのが妥当で、そうすれば薄く広い負担となって高齢者に過度の負担をかけずにすむのだ。なお、プロによる介護は、共働き・高齢化社会の進展に伴ってニーズが増えるのは当然であり、政治・行政が不適切(ここが重要)な節約をしなければニーズは次第に大きくなるのが自然であり、高度サービス産業として発達することによって、あとに続く国にノウハウの輸出ができる筈だったのだ。

*10-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/0c91e16ff4281c7f651be8d99b5818b12e302fe9 (Yahoo、毎日新聞 2022年11月3日) Jアラート発令、宮城・山形などで緊張走る 「予測の精度上げて」
 北朝鮮のミサイル発射により宮城と山形両県などに3日朝、全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令され、住民に避難が呼びかけられた。一時は「日本列島を越えて落下」という情報もあり、県庁や漁業関係者に緊張が走った。両県などによると、午前10時現在で被害の情報はないという。宮城県はJアラート発令直後の午前7時50分に危機管理警戒本部を設置した。県庁5階の復興・危機管理部には職員が慌ただしく出入りし、情報収集にあたった。午前8時50分ごろまでに、操業中の漁船に被害がないことを確認。県警や消防にも被害情報は入っていない。午前9時ごろには「ミサイルは日本上空を通過していない」とのニュースが流れたが、千葉伸・県危機管理監は報道陣に「政府からの正式な連絡がまだなので、通過したと想定して県内に落下物などがないか確認にあたる」と話した。防災担当者らによる会議後、復興・危機管理部の佐藤達哉部長は「Jアラートに驚いた県民は多いと思うが、落ち着いた行動が大事だ」と呼びかけた。一時は上空を通過したとの情報もあり、漁業関係者が警戒を強めた。県漁業協同組合気仙沼総合支所の男性職員(60)は「ここ最近頻繁に起きているので、正直な所『またかや』と思った」と話し「政府には北朝鮮にけん制をするよう発信を続けてほしい」と要望した。政府が日本海に落下と修正したことに対しては「二転三転するのも困るので、予測の精度は上げてほしい」とため息をついた。一方、日本三景の松島では、紅葉シーズンに加えて全国旅行支援などもあり、大勢の観光客が滞在していた。大阪府岸和田市から修学旅行に来ていた高校の男性教諭は「出発の直前にアラートがなり、宮城上空を通過したと知りびっくりした」と驚いた様子。すぐに落下との情報が入り、生徒らも落ち着いて行動したといい、予定通り遊覧船に乗船した。栃木県から幼い子どもら家族4人で旅行に来ていた30代の男性は「一瞬怖いと思ったが、結局何も起きず、Jアラートに慣れすぎて、あまり緊急性を感じなくなってしまっている」と本音を漏らした。JR東日本によると、午前7時50分ごろから、東北新幹線の小山―盛岡駅間▽上越新幹線の高崎―新潟駅間▽北陸新幹線の飯山―上越妙高駅間で、それぞれ安全確認のため一時運転を見合わせた。午前8時6分に運転を再開したが、一部に遅れが生じた。JR東日本東北本部によると、宮城県内の在来線でも約20分の遅れが発生した。

*10-1-2:https://mainichi.jp/articles/20220324/k00/00m/030/365000c (毎日新聞 2022/3/24) 北朝鮮弾道ミサイル、米本土到達の可能性 通常軌道で発射なら
 防衛省は24日、北朝鮮が午後2時33分ごろに弾道ミサイル1発を発射し、午後3時44分ごろ、北海道・渡島半島の西方約150キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとみられると発表した。韓国軍合同参謀本部によると発射地点は平壌の順安(スナン)付近と推定され、飛行距離は約1080キロ、最高高度は約6200キロ。飛行時間(約71分)と最高高度はいずれも過去最高で、日本政府は新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級とみて警戒を強めている。日本の船舶・航空機などへの被害は確認されていない。防衛省は、通常よりも高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射したと分析。2017年11月に発射されたICBM「火星15」の飛行時間約53分、最高高度約4500キロを大きく超えており、「新型のICBM級ミサイルと考えられる」とした。今回のミサイルが通常軌道で発射された場合、米国全土に到達する可能性がある。落下海域は過去の北朝鮮による発射で最も日本列島に近いとみられ、北朝鮮のミサイル技術の進展を裏付けた。発射は日米韓などを強くけん制する狙いとの見方が出ている。韓国軍は対抗して地対地ミサイルなど計5発を発射した。岸田文雄首相は24日、訪問先のベルギー・ブリュッセルで記者団に「許されない暴挙で断固非難する」と強調。「国連安全保障理事会決議に違反する」とし、制裁を含む対応を日米、日米韓で実施したい考えだ。現地の主要7カ国(G7)首脳会議でも取り上げる意向を示した。日本政府は、国家安全保障会議(NSC)の関係閣僚会合を首相官邸で開き、松野博一官房長官や岸信夫防衛相らが情報を分析。経済制裁を担当する鈴木俊一財務相も出席した。北朝鮮に対しては北京の大使館ルートを通じて厳重抗議し、松野氏は記者会見で「一方的に挑発をエスカレートさせている」と非難した。一方で政府は今回、全国瞬時警報システム(Jアラート)や緊急情報ネットワーク(エムネット)は作動させなかった。松野氏は会見で「ミサイルの領域(領土・領海)内への落下や、我が国の上空通過が想定されなかったため発出しなかった」と説明した。北朝鮮のミサイル発射は今年に入って11回目。北朝鮮は2月27日、3月5日に順安からICBM級の新型ミサイルを発射。16日にも同じ順安からミサイルを発射したが、この時は発射直後に爆発して失敗した。

*10-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15463756.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2022年11月3日) 原発運転、60年超も可能案 規制庁提示、30年以降10年ごと審査
 原則40年、最長60年とする原発の運転期間のルールに代わり、原子力規制庁は2日、運転開始から30年を起点にして10年を超えない期間ごとに建物や原子炉の劣化具合を審査する案を示した。経済産業省が検討する運転期間の延長方針が前提で、この案では60年超の運転が可能になる。原子力規制委員会は、年内にも原子炉等規制法(炉規法)の改正案の骨子をまとめる方針。現行の「40年ルール」は2011年の東京電力福島第一原発の事故後に導入された規制の柱の一つ。運転開始40年を前に原子炉容器の劣化などを調べ、規制委が認めれば1回だけ60年まで延ばせる仕組みだ。これとは別に、運転30年から10年ごとに事業者の運用や管理などの評価もなされる。規制庁の案では、これらを合わせる形で運転開始30年から審査を始める。以後10年を超えない期間ごとに事業者による原子炉の劣化評価や長期施設管理の計画を規制委が審査する。審査をクリアすれば、60年超の原発も稼働できるという。運転期間の延長は、8月のGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議での岸田文雄首相の指示を受け、経産省が検討。10月に規制委に対し、現在は炉規法で規定されている運転期間を利用政策側(経産省)の法律で規定し直す方針を説明した。規制委の山中伸介委員長は「運転期間は利用側で決めること。規制委が意見を述べるべきではない」と発言。制度の見直しを規制庁に指示していた。

*10-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA3121A0R31C22A0000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2022年11月1日) 介護保険料、高所得者の引き上げ議論 抜本改革は尻込み
 厚生労働省は31日、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の介護保険部会を開き、65歳以上が毎月支払う介護保険料の引き上げに向けた議論を始めた。所得が高い人を対象に検討する。3年に1度の制度改正では目玉の一つだった介護サービス利用時の原則2割負担への引き上げは見送る公算が大きい。膨張する費用が課題となる中、抜本改革には尻込みの状況だ。介護保険制度の次回の改定時期である2024年度に向け、厚労省は本格的な議論に着手している。介護全体にかかる費用は22年度に13.3兆円(予算ベース)と00年度の制度創設時から約3.7倍になった。介護保険の「給付と負担」の見直しが必要になっている。65歳以上が支払う保険料は既に創設時の2倍超の6000円超になった。現行のサービス内容などを維持する場合、65歳以上の介護保険料は40年に月額平均9000円程度と現在の1.5倍になるとの試算を厚労省は示している。ただ高齢者全体で一律に負担増を求めるのは難しいとの指摘は多い。31日の部会で厚労省は「負担能力に応じた保険料設定についてどう考えるか」と議論を促した。介護保険料は自治体が決めている。国が目安をつくり、所得に応じて9段階の基準を示している。平均は月6014円で、最も高額なのは年間所得320万円以上の人で月1万224円だ。厚労省はさらに高所得の階層をつくって10段階以上にし負担額を引き上げられないか探る。自治体によっては既に先行して階層を増やすところもあり、厚労省は参考にして制度設計する。国が段階を増やせば、現在の国の目安と同等に9段階で運用するほとんどの自治体が追随する見通しだ。所得の低い人の保険料を引き下げる案もある。ただ、この見直しによる増収効果はそれほど大きくないとみられる。介護保険を巡っては制度維持に向けて抜本的な改革が待ったなしの状況だ。俎上(そじょう)に載るのが、サービスを利用した場合の利用者負担を原則1割から2割に引き上げる改革案だ。3年前の前回改定時も高齢者の負担増への懸念から先送りした。今回も既に議論は下火になっている。現在は原則1割負担だ。所得に応じて2割を支払っている人もいるが要介護(要支援含む)認定の人の5%程度、3割の人が4%程度にとどまる。原則2割にすれば一定の効果がある。介護サービスを受ける人は75歳以上の後期高齢者が多く、厚労省は原則2割負担は家計への影響が大きいとみている。介護以外の社会保障制度改革との見合いもあるようだ。医療保険制度でも後期高齢者の保険料引き上げが検討されている。後期高齢者が医療と介護の双方で負担増となるのは理解を得にくいと厚労省はみている。厚労省はサービス利用時の2割負担について、所得の高い人に絞って対象の拡大を図る方向だ。31日の部会では後期高齢者の医療保険制度で2割負担の対象者が所得上位30%である点を紹介した。厚労省は議論を踏まえ、年末には介護保険制度の改革に向けた意見をまとめる方針だ。24年度の実施を目指している。小手先の見直しにとどまらず、制度全体を見据えた議論が欠かせない。

<環境汚染に熱心な国、日本>
PS(2022年11月10日追加):環境NGOの国際ネットワーク「気候行動ネットワーク」が、*11-1のように、①国際協力銀行や日本政策投資銀行などが石炭・石油・天然ガスに2019~21年に平均で約106億ドル(約1・6兆円)と世界最多の投資を行い ②日本政府はCO2を出さないとしてNH3を石炭に混ぜる方式を海外に輸出しようとしているのは「偽りの対策」だ として、日本を化石賞に選んだそうで、私も賛成だ。何故なら、今から石炭・石油に投資するのは気候変動対策に逆行する上、自然エネルギーでH2 を作れば安価に国産のクリーンな燃料ができるのに、わざわざ化石燃料を輸入してH2 を作り、燃やせば窒素酸化物が出る燃料を作るのは、コストを上げてクリーンさを放棄する方法だからである。
 また、経産省が、何が何でも原発を稼働させようと、*11-2のように、③「原則40年、最長20年延長」の現行規定を維持する案 ④運転期間の上限を設けない案 ⑤「原則40年、最長20年延長」を維持しつつ停止期間を運転期間から除く案 ⑥停止期間を除外せず運転開始から30年を起点に10年を超えない期間毎に建物や原子炉の劣化具合を審査していく案 を検討しているそうだが、前のめりで、安全性の確認を規制委が担うとしても、目視でどれだけ正確に確認できるかは疑問で、安全第一とは言えない。何故なら、運転休止中も配管・ケーブル・ポンプ・弁などの設備・部品は劣化するし、原子炉のように交換できないものもあるからで、私も原則40年の運転期間をゆるめることは認められないし、これを強行すれば日本政府は国民を守る責務を放棄していると思うが、それでもここまで原発が好きなのは何故か?
 さらに、*11-3のように、⑦佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画で、防衛省が「駐屯地予定地以外の隣接する土地も購入する」 ⑧「駐屯地からの排水は西側と東側の樋門(ひもん)から分散して行う」と文書化した ⑨防衛省は排水を海水と混ぜて塩分濃度を調整し空港西側の樋門から放流する案を複数示したが、組合員への説明会で追加の説明を求める声が上がって東側樋門からも放流するように要望が出ていた ⑩海水との混合に関してもノリ養殖に影響が出ないように調整する比重の数値を明示した そうだが、⑦により、漁業などは放棄して土地を売却したい人の要望で話を進めたことが明らかだ。また、⑧の西側と東側の樋門から分散して排水しても汚染水が広がるだけで意味はなく、⑨の排水を海水と混ぜて規定内にしても大量に流すことに違いはない。さらに、⑩は比重を重くしてノリ養殖に影響が出ないようにすれば、汚染物質が底に溜まって貝やヒラメなどの海産物に悪影響を与える。つまり、海は下水処理場ではなく、水産物という食料を確保するには自然を護ることが大切で、クリーンにした処理水しか流せないのである。全員、何か勘違いしていないか?

*11-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQCB2RCPQC9ULBH00G.html (朝日新聞 2022年11月10日) 日本に化石賞 化石燃料投資「1.6兆円で世界最多」 COP27
 国連の気候変動会議(COP27)で、温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」に9日、日本が選ばれた。環境NGOの国際ネットワーク「気候行動ネットワーク」(CAN)が選んだ。化石燃料への公的資金の投資額が世界最多となったことなどを理由にした。受賞の根拠となったのは、米NGO「オイル・チェンジ・インターナショナル」が8日に公表した調査結果。国際協力銀行や日本政策投資銀行などによる石炭や石油、天然ガス事業への投資額が、2019~21年の年平均で約106億ドル(約1・6兆円)になり世界最多だったという。投資額の多い国はカナダ、韓国、中国、米国と続く。さらに、日本政府が、燃やしても二酸化炭素を出さないアンモニアを石炭に混ぜて発電する方式を海外に輸出しようとしていることは「偽りの対策」で、「石炭発電を延命させるものだ」と批判。途上国の「損失と被害」の支援ではなく、破壊の元となる化石燃料に公的資金を使っているとしている。化石賞はCOPの期間中ほぼ毎日発表されるが、COP27ではこの日が初めて。日本はこれまでも毎年のように受賞している。

*11-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15468995.html (朝日新聞 2022年11月9日) 原発の運転延長、世論意識し調整 経産省が2案、「停止中除外」有力
 最長60年と定めている原発の運転期間について、経済産業省は8日の原子力小委員会で、三つの案を示した。経産省は小委員会での議論もふまえ、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除外することで延ばす方向で最終調整している。原発の運転期間は、2011年の東京電力福島第一原発事故後に原子炉等規制法(炉規法)が改正され、原則40年、最長20年延長できると定められた。この日の原子力小委員会で、経産省は今の規定を維持する案のほか、運転期間を延ばす2案を示した。一つは運転期間の上限を設けない案。もう一つは「原則40年、最長20年」の骨格を維持しつつ、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除く案だ。経産省の資料では、除外案について、「事業者が予見しがたい、他律的な要素による停止期間」を運転期間に含めず、20年の延長期間に追加すると説明。具体例として、再稼働に必要な原子力規制委員会の審査や、運転を差し止める司法判断で停止している期間などを挙げた。経産省内では、この案が最有力となっている。背景にあるのが、世論への配慮だ。「上限撤廃」は無制限に運転を続けるとの印象を与えかねない。原発事故の教訓で生まれた制度だけに、一切なくなるとなれば大きな反発を生む可能性もある。小委員会の議論でも「原子力の利用のみを徹底することはやや行きすぎと思われる」との意見が出た。委員長の山口彰・原子力安全研究協会理事も「国民から理解していただくことが前提」と述べた。一方で、経産省は除外する期間の詳細は示していない。すでに40年超の運転を始めている関西電力美浜3号機(福井県)の場合、審査の申請から再稼働まで6年ほどかかった。こうした期間が候補となりそうだ。北海道電力泊1~3号機は審査が10年近く続いている。今後、運転開始から40年を迎えて延長する場合、20年に加えて10年前後を追加で延ばせることになる可能性がある。いずれの案でも、安全性の確認は規制委が担う。すでに停止期間は除外しない前提で、運転開始から30年を起点に10年を超えない期間ごとに建物や原子炉の劣化具合を審査していく案を示している。
■「事故の教訓ないがしろ」 市民団体
 原発の運転期間の延長には、安全性への懸念が根強くある。全国の約100の市民団体やNGOなどは7日、国会内で集会を開き、原則40年の規定を維持するよう規制委に申し入れた。反対する3663人分の署名も提出した。声明では「老朽原発を動かすことは極めて大きな危険を伴う。交換できない部品も多く、点検できる範囲も限定的だ」と強調。運転期間の規定を炉規法から削除することは「福島原発事故から得た教訓をないがしろにし、国民を守るべき責務を放棄するものだ」と批判する。経産省は、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除外する方向だ。停止中は核燃料から出る中性子による原子炉の劣化がないとしているが、声明では「運転休止中も、配管やケーブル、ポンプ、弁などの設備・部品が劣化する。原則40年を運転期間とする規定をゆるめることは到底認められない」としている。

*11-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/945269 (佐賀新聞 2022/11/10) <オスプレイ 配備の先に>防衛省、漁協要望に踏み込んで回答 予定地以外の土地購入、排水は分散放流 協定見直し会議で回答提示
 佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画で、防衛省が「駐屯地予定地以外の隣接する土地も購入する」「駐屯地からの排水は西側と東側の樋門(ひもん)から分散して行う」と従来の説明より踏み込んだ対応の確約を文書化していたことが9日、分かった。県有明海漁協が自衛隊との空港共用を否定した協定の見直しに応じることを決めた1日の幹部会議で、県を通して示されていた。県は、協定見直しの可否を判断する漁協全15支所の代表者らによる検討委員会が1日に開かれるのを前に、漁協から要望を聞き取り、防衛省に対して「回答書」として明文化するよう求めていた。防衛省が取得を目指す駐屯地予定地31ヘクタールは全て漁協南川副支所の所有だが、ここを含む空港西側一帯の約90ヘクタールは早津江、大詫間、広江の3支所にも地権者がいる。これまでは予定地以外の土地に関し「駐屯地開設ごろの売却の可能性や範囲について地権者の考えを伺いたい」としてきたが、回答書では「予定地を購入後、隣接する土地も購入する」と明記した。漁協が重要視していた駐屯地からの排水対策を巡っては、防衛省は排水を海水と混ぜて塩分濃度を調整し空港西側の樋門から放流する案を複数示していた。それでも夏に開いた組合員への説明会では追加の説明を求める声が上がり、東側樋門からも放流するよう要望が出ていた。防衛省は、排水場所の変更について「議論のテーブルにのせる」という表現でにとどめていたが、回答書では「分散して排水する」と確約。海水との混合に関してもノリ養殖に影響が出ないように調整する比重の数値を明示した。その上で今後も組合員向けに説明会を開いていくとした。また、防衛省は「駐屯地に米軍の常駐計画はない」とする考えも回答書に記載した。夏の説明会で組合員から米軍についての考えを文書化するよう求められていた。山口知事は9日の県議会一般質問で、漁協が抱えるさまざまな懸念について、防衛省に「口約束ではなく文書化を迫った」と答弁し、回答書の存在を明らかにした。回答書は1日付で、県の担当者が検討委員会に示した。検討委員会で漁協は、空港建設時に県との間で結んでいた協定について「空港を自衛隊と共用できる」と変更することに応じた。

| 外交・防衛::2019.9~ | 04:57 PM | comments (x) | trackback (x) |
2022.7.28~8.6 日本が、何でも他国に後塵を拝して、産業の育成に失敗するのは何故か? (2022年8月8、10、11、14、15、18、25、29日、9月1、3日追加)

2021.3.19Tepco   EV充電器住宅用  EV充電器公共施設用  EV充電器高速道路用
                              2021.8.23読売新聞    
(図の説明:1番左の図はEV用充電器の設置場所の分類で、左から2番目は住宅に設置されたEV用充電器、右から2番目は公共施設に設置されたEV用充電器で、1番右は高速道路に設置されたEV用充電器だ。しかし、もっと便利なのは、駐車したら自動で充電できるEV用充電器で、駐車場で太陽光発電すれば充電料金は安くできる)

(1)自動車の電動化と自動運転について
1)EVの普及
 中国のEV大手BYDが、*1-1-1のように、日本の乗用車市場に進出し、2023年から主力の3車種を皮切りに、新型車を順次発売していくことについて、私は歓迎だ。何故なら、日本は、1995年頃からEV普及を目指していたのに、未だにEVの車種が少なく、自動運転のレベルは低く、スマートでもないのに価格だけは高止まりさせたまま、充電も不便で、世界の中でも日本市場におけるEV普及が遅れているからである。

 従って、これらの課題を解決していれば、日本の消費者に受け入れられることは間違いない。何故なら、商用車では既にSBSホールディングスや佐川急便などの物流大手が中国製の小型商用EVの大量導入を決めているのに、日本の自動車メーカーは、①乗用車新車全体で見ればEVの販売は1%にすぎず ②まだEVへのシフトに抵抗しており ③日本の自動車産業の足元が揺らぐほどのインパクトではないと油断しており ④環境や高齢者・障害者への対応を疎かにするという低い志でいる からである。

 アジア勢では韓国の現代自動車も、今年、EVなどで12年ぶりに日本進出を果たしたそうだが、それなら、地方自治体は、これらの自動車を日本国内で生産させるよう尽力すべきだ。何故なら、そうすれば、何でも輸入ではなく、地方に良質の生産拠点と雇用が生まれるからである。

 また、*1-1-2のように、世界の公共交通機関で中国製電気バス採用が拡大しているが、日本では路線バスをEV化する動きがあっても国産の選択肢はない。その理由は、水素バスの価格を高止まりさせたまま、水素の充填設備もいつまでも高価なものにして設置数が増えなかったため、世界に水素バスの潮流を作ることができなかったからである。

 そのため、2021年12月に、京都市と京阪電鉄が市内の循環バスに4台のEVバスを導入するイベントを開いたが、導入したのは中国EV大手の比亜迪(BYD)製で、大阪府の阪急バスも今年4月から中国製を路線に投入し、国内の自治体が脱炭素に向けてEVバスを導入する際も中国製を選ばざるを得ないのだそうだ。また、BYDは、COP26に合わせ、技術改良で高速充電も可能になったEVバスを、グラスゴー市の交通局に計120台以上卸したとのことである。

 さらに、政府のEVバス導入補助金も補助対象の8種類のうち7種類は中国メーカーで、唯一の日本企業も製造は中国に委ねており、日野自動車が近く市場投入を控える小型バスもBYDに製造を委託するため、まるで国民の税金由来の補助金を中国企業に提供してEVバスの開発・導入を進めてもらっているような実態になっているのである。

2)充電と蓄電池
 *1-2-1は、①王さんが愛車のEVで迎えに来てくれ、車は中国EVメーカー「小鵬」の小型SUV「G3」で、外観は欧州車を思わせるデザイン ②小鵬は2018年からEV販売を始めた新興メーカーで、アリババ集団なども出資して2020年にニューヨーク証券取引所に上場し、1870億円調達して急成長 ③王さんがG3を購入したのは昨年10月で、補助金による1万元(約17万5千円)の割引があり、支払いは約17万元(約300万円) ④EVのため、車が動く時も殆ど音がしない ⑤この1年で約2万km走行したが充電代は小鵬から付与されたポイントで賄えた ⑥ショッピングモールの駐車場に小鵬設置の急速充電器があり、90%まで充電するのに43分 ⑦「小鵬」は新車購入者に自宅に設置する小型充電器を無料提供 ⑧高層ビル地下駐車場にも小鵬の充電スポットがある ⑨一般の充電スポットならショッピングモールなど中心部に何カ所もあり、料金を自己負担すればいつでも充電できる と記載している。

 私は、①について、最近の中国製・韓国製はデザインがよく、日本製にはなかった工夫もあると思っている。また、②のように、新興メーカーを伸ばす協力があるのもよく、③は環境と自動車産業の育成に配慮する中国政府の肝いりだ。また、④は、EVが持つ利点である。さらに、競争の激しい市場で自社のEV販売を伸ばすには、⑤⑥⑦⑧のような作戦が必要で、⑨のように、一般の充電スポットならショッピングモールなどに何カ所もあり、料金を自己負担すればいつでも充電できる状態は羨ましい。日本も、ショッピングモールやマンションの駐車場などに急速充電器を設置すれば、EVの販売が伸びると思う。

 そのような中、*1-2-2は、⑩2021年11月19日に始まった広州国際モーターショーで展示車1020台のうち約1/4の241台がEV・PHV等の新エネルギー車 ⑪800vの高圧充電設備5分間の充電で200km以上走れる『極速充電』も開発 ⑫中国自動車大手広州汽車が初展示したEV「AION LX Plus」は走行距離1008km ⑬3~5分間で充電済みのバッテリーに取り換える「交換式」も ⑭2021年9月時点で198社のEVメーカーが中国にあり、150社は2018~2020年に誕生し、5社倒産 ⑮中国EVの約9割は大都市で、ガソリン車は台数制限でナンバーをとりづらく、EVはナンバーをとりやすいよう政策誘導しているから ⑯他の地域は充電スタンドが都市部ほどなく、EVより車両価格が安くガソリン車より燃費が良いHVのニーズが根強い ⑰中国のEVでは事故が目立つが、日産は50万台以上販売しているEVリーフで重大事故は一度も起こしておらず、「80年以上この事業をやってきて培われた安全性・耐久性・信頼性は、一朝一夕でコピーされるものではない」 と記載している。

 このうち⑩は、EVにおける中国の勢いを示し、それには⑮やEVへの補助金などの中国政府の環境改善のための政策誘導がある。また、日本でEVの欠点としてしばしば取り上げられる走行距離の短さや充電スポットの問題は、その気になればすぐ改善できるもので、その例が⑪⑫⑬なのだ。そのため、⑯の中国の他地域でEVが普及するのも時間の問題である。

 また、中国は人口が多く、スタートアップの意欲やそれに対する協力があるため、その結果が⑭に出ており、倒産割合は少ない方だと思う。そのような中、⑰のように、「中国のEVは事故が目立つが、日産EVリーフで重大事故は一度もない」などと言っているのは、油断がすぎるだろう。何故なら、安全性ならスウェーデンのボルボが一番だし、そのような自動車会社とEVを安価に作れる中国メーカーが手を結ぶのはよくあることだからである。

(2)地方の鉄道について

   
2022.7.29日経新聞 2022.7.29中日新聞 2022.7.18鉄道News 2022.7.31西日本新聞

(図の説明:1番左の図のように、輸送密度が500人未満/日、1000人未満/日の赤字路線が全国の地方に広がっているが、鉄道が廃線になればその地域の人口はさらに減るだろう。左から2番目はJR東日本の2000人未満/日の路線で、非常に多い。右から2番目は中国地方の1000人未満/日の路線、1番右は2000人未満/日のJR九州の路線だ。なるべく廃線を避けるには、鉄道会社が列車の運行コストを極限まで下げたり、駅近のまちづくり計画を立てて商店や住宅地などの建設を行ったり、鉄道網を使って乗客の輸送以外のサービスを行ったりする方法もある)

 西日本新聞は、*1-3-1で、①乗客の減少で赤字ローカル鉄道が存続の危機に立ち ②人口減少で経営環境がさらに厳しくなり ③「地域の足」の将来像を描くのは沿線自治体や鉄道事業者の責務だが ④国も支援策を用意して積極的に議論に加わるよう求めたい ⑤国交省有識者検討会の地方鉄道再構築に関する提言も、「国は存続が危ぶまれる特定線区の沿線自治体か鉄道事業者の要請を受けて線区ごとに協議会を設け、存続や廃止の前提なしに協議して3年以内に結論を出す」と国の主体的な関与を盛り込んだ と記載している。
 
 また、佐賀新聞は、*1-3-2で、⑥廃線圧力が高まれば、自治体が反発を強める可能性があり ⑦広島県は「貴重な移動手段がなくなれば地域の衰退が加速する」「輸送密度千人未満など、存廃協議の目安は廃止を目的としたものに見える」と懸念を示し ⑧7月25日の検討会では「自治体が協議に応じなかったのは廃止前提という危機感があったからだ」など、関係者が予断を持たずに議論のテーブルに着く重要性を訴える声が多く ⑨人口減が加速する中、コストを抑えながら乗客を増やすのはハードルが高く ⑩国鉄から転換したバスは運行回数が減ったり、値上げされたりしたケースも少なくない ⑪地域の現場では交通維持に向けた工夫も と記載している。

 さらに、佐賀新聞は、*1-3-3では、⑫人口減少・高齢化・マイカー普及等で地方の鉄道経営は長年「右肩下がり」にあり、新型コロナ感染拡大で利用者が減って一層苦しくなった ⑬鉄道事業者、沿線自治体・国が協力して地域を支える交通手段としての最適解を探る時 としている。

 私も、③④⑬のように、「鉄道事業者、沿線自治体・国が協力して最適解を出すべきだ」と思うが、最適解は前提条件を変えれば変化する。例えば、上記①②⑨⑫は、「人口減→乗客の減少→コスト高→赤字の拡大」という前提だが、産業を誘致して生産を開始すれば、人口減ではなく人口増になる。しかし、人口が増加しても乗客の減少が起こる可能性はある。ただ、コストは列車を再エネ由来の電動にし、自動運転化すれば下がるし、鉄道の敷地に地方で生産した再エネ電力の送電線を敷設して送電料をとったり、列車に地方からの貨物を積んだりして稼げば、乗客が減少しても赤字になるとは限らない。つまり、鉄道の「連続した敷地」という先祖から受け継いだ膨大な資産を無価値にすることなく、如何に賢く使って稼ぐかも⑪の工夫に入るわけである。
 
 ただ、⑤⑥⑦⑧のとおり、「現状で赤字→存続や廃止が前提」となっていれば、自治体は協議に応じたくないのが当然であるため、国は一石四鳥になる上記の政策を打ち出すのがよいと思う。なお、バス事業者も赤字では運航できないため、⑩のように、バスも運行回数が減らしたり値上げしたりするケースが少なくなく、“現状”を固定することに無理があるのだ。

(3)日本の人材・リスキリング・人への投資について
1)日本の労働市場の問題点
 私も、*2-1の①日本の問題は新自由主義が原因ではない ②賃金が停滞する原因は労働市場の歪み という星教授の意見に賛成だが、③企業の新陳代謝滞り技術革新の不足招く については、「新陳代謝」という言葉は「古いものを捨てて新しいものと入れ替えさえすればよい」という意味になるため単純すぎると思う。何故なら、古いからこそ組織がしっかりし、暖簾の価値が上がることも多いからで、ここは「時代に先んじて(もしくは、合わせて)イノベーションを行い続けることができない会社は、去らねばならない」と言い換えたい。

 岸田政権が掲げる「新しい資本主義」は、首相官邸HPによると、「分配なくして次の成長はないため、大切なのは成長の果実をしっかり分配することで、次の成長が実現するには成長と分配の好循環が重要で、そのためにあらゆる政策を総動員する」と記載されている(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seisaku_kishida/newcapitalism.html 参照)。

 しかし、*2-1は、④6月に閣議決定された実行計画は、世界経済の様々な問題が1980年代以降台頭した新自由主義の弊害で、その解決のために新しい資本主義を構築せねばならないとし ⑤新自由主義は成長の原動力の役割を果たしたが、その弊害が今や顕著になっているとするが、⑥気候変動問題・経済的格差・経済安全保障リスク・都市への人口集中などが、すべて新自由主義により引き起こされたわけではなく ⑦これらの問題が、新しい資本主義が強調する官民連携により解決される道筋も明らかではなく ⑧日本の経済停滞・少子化と人口減少・世代間負担格差・地方の衰退・子供の貧困という問題も新自由主義の弊害ではない と記載している。

 このうち④⑤⑥については、気候危機は環境維持を考慮していなかったために起こり、経済安全保障リスクは世界の状況変化を無視して金さえ出せばモノが買えると思っていたために起こり、都市への過度の人口集中は無駄のない計画的な国土利用をしなかったために起こったものであるため、新自由主義によって起こされたのではないと、私も思う。また、競争すれば結果として経済格差が生じるが、競争がなければよりよい財やサービスを生み出すことができず、経済成長もしないため、競争の結果として起こる一定の格差は受容すべきであり、そうしなければ頑張る人ほど国内で仕事をしなくなるだろう。

 また、⑦の官民連携については、EV・再エネ・ワクチン・医薬品の事例を見ればわかるとおり、官はイノベーションを応援するのではなく、イノベーションの足を引っ張る行動が多い。その理由は、日本の官は新しい可能性を見極めて全体として育てる能力に乏しく、過去からの古い規制で縛るためで、これが規制緩和(or規制改革)した方が経済成長する原因なのである。

 さらに、⑧は、日本の経済停滞の原因は、(これまでこのブログに記載してきたとおり)政策ミスによる散財が多い上、世界人口は爆発寸前で日本の食料・エネルギー自給率は極めて低いのに「少子化と人口減少」が問題などと言い、地方には投資せず移民鎖国までして地方経済の衰退を招いたことにある。その上、社会保障については、そのような保障がなかったため自助努力してきた高齢者との間に世代間負担格差があるなどと盛んに言いたて、「離婚の進め」をしてシングルマザーを増やし、女性の賃金は低く抑えて、子どもの貧困割合を増やしているのである。

 なお、*2-1は、⑨人手不足でも賃金が上がらない理由は、市場の需給で賃金が決まらない日本の労働市場の問題で ⑩看護や介護など政府の価格規制がある産業で賃金が停滞し ⑪他産業でも賃金が上がらないために人手不足が生じ ⑫賃金を一度上げると下げられないので、人手不足でも企業は賃金を上げず ⑬これらは、規制や社会慣習によって労働市場が十分働いていないことが理由で ⑭日本の労働市場が正規と非正規、フルタイムとパートタイムに分断されて二重構造になっていることも賃金を停滞させる要因で ⑮賃金が停滞したのは市場での競争にさらされるパートタイム労働者ではなく、市場からある程度隔離されたフルタイム労働者で ⑯厚生年金・所得税等で妻の年収が一定額を超えなければ夫が配偶者控除等をとれるため女性の所得抑制が促され ⑰行き過ぎた資本主義より資本主義の不徹底が問題なのは労働市場に限らず ⑱既存の大企業が不十分な生産性向上でも生き残ることができ、イノベーションの源泉であるスタートアップが参入しにくいことがイノベーション不足の原因で ⑲この意味で、日本に必要なのは新しい資本主義ではなく、普通の資本主義だ とも述べている。

 私も、⑩⑪のように、看護や介護など政府の規制が強い産業で賃金が停滞して人手不足が生じ、⑫⑬のように、正規労働者の賃金は下げられず、労働者が余っても解雇できず、労働者にとっても退職すると損をする制度であるため、全体の生産性が低くなるのだと思う。

 また、労働法に護られていない非正規やパートタイムは、⑨⑭⑮のように、市場での競争にさらされ人手不足の折に賃金の停滞こそなかったが、常にフルタイム労働者より低い賃金で福利厚生も乏しく、日本の労働市場を正規と非正規、フルタイムとパートタイムに分断して二重構造にしているのは日本の労働市場を歪めている大きな原因で、⑯⑰⑱⑲は、事実であると思う。

2)「公正な移行」とリスキリング
 *2-2は、①ILOは2030年までに石油など化石エネルギー分野で約600万人の雇用が失われるとし ②欧州は官民一体で再エネへの労働移動を進めており ③日本も自動車エンジン産業の裾野は広く、対岸の火事ではなく ④ENEOSは2023年10月に和歌山製油所を閉鎖して約450人の従業員は配置転換などで雇用を維持するが、協力会社の約900人は見通しが立たず ⑤仁坂和歌山県知事は「モノカルチャー経済のところなので、地域に死ねというのか」とENEOSに雇用対策を強く要請 としている。

 しかし、日本における時代の変化は、1997年に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)から明確になっており、それから既に25年経過しているため、①は展望できた筈である。そのため、②の労働移動は欧州より早く準備していても不思議ではなく、③のように、いつまでもガソリン車に頼って手を打たなかったことが問題なのだ(https://www.pref.kyoto.jp/tikyu/giteisyo.html 参照)。

 ④については、ENEOSは既に定款で石油会社ではなく、エネルギー等を販売する会社になっているため(https://www.hd.eneos.co.jp/ir/stock/pdf/article_teikan.pdf 参照)、その範囲で雇用を吸収することは可能かも知れないが、⑤のように、和歌山県がモノカルチャー経済のままにして、ENEOSが製油所を閉鎖すれば地域が死ぬ状態にしておいたのは、産業のセキュリティーを考えていない点で和歌山県の失敗である。そもそも、産業構造変化への対応や失業対策は、国や地方自治体の仕事であって民間企業の仕事ではない。

 また、*2-2は、⑥温暖化ガス排出削減のパリ協定に基づいて主要国は2050年に「カーボンニュートラル」を達成する目標で ⑦ILOは2030年までに世界の石油精製ビジネスで約160万人が仕事を失うと試算し ⑧原油採掘で140万人、石炭火力発電で80万人が失業する可能性があり ⑨日本国内の石油産業で働くのは元売りの製油所からガソリンスタンドのアルバイトまで含めて約30万人なので、これだけならマクロ経済への影響は限定的だが ⑩日本の産業構造は自動車の環境対応が最大の不安要因であり ⑪LCAの広がりで火力発電比率の高い日本は製造時の電力消費でCO2を多く排出して国際競争で不利であるため ⑫再エネ導入が進まなければ国内自動車産業70万~100万人の雇用に影響し ⑬新車すべてがEVになれば車の駆動装置に関わる雇用約31万人が仕事を失い ⑭欧州は脱炭素をめぐる雇用対策と産業振興をセットにした「公正な移行」を進め ⑮英政府はシェル・BP・民間最大労組ユナイトと連携して石油採掘プラントの技術者らに再エネのスキルを身に付けさせるリスキリングを始動し ⑯エネルギー転換にはスキルの再配置が重要で、関連産業が協力して労働移動を促進し ⑰日本は省庁の縦割りで、欧州のような総合戦略をまとめ切れていない とも記載している。

 このうち、⑥は日本なら遅すぎるくらいの決定であるため、⑦⑧⑨⑩⑪⑫⑬の準備は、欧州よりも早く行っていて当然であったし、それだけの時間的余裕もあった筈だ。にもかかわらず、⑭⑮⑯のように、欧州を見て初めて同じことをしようと思いつき、⑰のように、省庁も議員も総合戦略をまとめ切れない点が、日本の大きな欠点なのである。何故、そうなるのだろうか。

3)「人への投資」に100社超連携
 このような中、*2-3は、①日本の主要企業が、社員のリスキリング(学び直し)で連携する協議会を8月に設立し ②経産省と金融庁が支援して100社超の参加をめざし ③社員が相互に兼業・副業する仕組みを設けたり、共同で学び直しの場を提供したりすることを検討して「人への投資」拡大に繋げ ④意欲的な企業が知見を持ち寄って取り組みが遅れている企業の人材戦略に刺激を与える連携をめざし ⑤デジタル技術などを集中的に学び直し、企業内でイノベーションを起こしたり、成長分野に転職したりしやすくする必要があり、リスキリングは企業や社員の成長力向上に欠かせない 等としている。

 しかし、②は経産省と金融庁が誘導したのだろうが、①③④⑤のように、企業内でイノベーションを起こしたり、成長分野に転職したりしやすくするようなKeyとなる技術を、グループ企業ならともかく競合他社と協力してリスキリングするのは困難だ。そのため、大学や公的機関における学び直しやスカウト等による転職があるので、ここまで民間企業に頼って支援しても本物のリスキリングはできないように思われた。

(4)脱炭素から脱公害へ
1)生態系の保全
 *3-1は、①2021年のG7で合意され、2022年12月にカナダで開かれるCOP15での採択が検討されている2030年までに陸と海のそれぞれ30%を保全する国際目標があり ②世界は食料、医薬品、エネルギー等として、約5万の野生種から便益を得ているが ③将来も利用できる野生生物は34%に留まり ④全漁獲量の1/3は乱獲状態で ⑤木材等も含めた違法取引は最大年間2千億ドル(約27兆円)で ⑥日本はこれまでに陸の20.5%、海(領海と排他的経済水域)の13.3%を保護地域に指定したが ⑦企業等が持つ水源林・里山・緑地公園・河川敷等の自然が守られている場所も生物多様性保全に役立つ地域に位置づけ ⑧海は漁業等との両立が引き続きの課題だが ⑨取り返しがつかなくなる前に生態系の損失を食い止めて回復させず、このまま陸や海の資源を使って枯渇させることは未来の世代に対する背信だ と記載している。

 このうち①の陸と海の30%を保全する国際目標には賛成だが、30%でよいのかは疑問だ。何故なら、漁業の多くは②③の野生生物利用にあたるが、その野生生物が枯渇しないためには、④のような乱獲規制だけでなく、山川海と繋がった環境の保全が必要だからだ。また、⑤の木材も、計画的に利用しながら山の保全を行うことは、水源維持や生態系保全に重要なのだ。

 そのため、⑥⑦はよいが、日本は⑧のように国内漁業者に対して漁業規制をしすぎる。それよりも、山川海と繋がる環境を健全に維持することによって、ウナギやサケが産卵しやすくしたり、汚染水や温排水を川や海に流さないようにするなど、漁獲高が減った理由を正確に調査して改善することが重要で、外国漁船の乱獲も規制すべきだ。そして、⑨の生態系を維持できずに陸や海の資源を枯渇させることは、未来の世代だけでなく現在の世代にとっても背信なのである。

2)海への汚染水放出について
イ)フクイチの汚染水海洋放出


2021.4.14日経新聞                     2021.3.10毎日新聞 

(図の説明:左図が、フクイチ汚染水の海洋放出日程で、中央の図が、各国のトリチウム濃度規制値だ。また、右図が、2021年2月13日のフクイチの様子で、多額の予算を使って凍土壁を作ったのに、未だに汚染水を出し続けているところにも計画の甘さと杜撰さを感じるのだ)

 世界には三大漁場と呼ばれる魚種の多い優良漁場があり、それはノルウェー沖、カナダのニューファンドランド島沖、三陸の金華山沖で、この三陸・金華山沖は親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかることに加え、三陸沿岸に連なるリアス式海岸や多くの島々の点在が魚の絶好の住処となって、非常に豊富な種類の魚介類が水揚げされる。このリアス式海岸は山が海の間近まで迫り、森のミネラルを含んだ山の水が絶えず海に流れ込むため、世界有数の植物プランクトン発生地となっており、プランクトンを食べて育つ海産物にとって極上の環境が整っている(https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10452000b/-kanko/1001/20130225195847.html 参照)。

 それに加えて、海産物加工にも工夫が凝らされており、宮城県産の海産物は美味しいため、私も原発事故前は優先して購入していたが、原発事故後は日本海産か西日本産のものを優先して購入している次第だ。

 このような中、*3-2-1は、①原子力規制委は、フクイチ事故以降、タンクに保管してきた処理水を海洋放出する設備の工事計画を認可し ②認可は、環境影響評価をIAEAが求める方法でやり直す必要が生じたため2ヶ月遅れたが、2023年4月の放出開始を目指し ③2023年夏~秋には既存タンクが満杯になって新設場所も限られ、タンクは廃炉作業の妨げになり ④着工前に福島県等の地元の了解を得る必要があるので、地元の理解や工期短縮に力を入れる ⑤フクイチでは冷却等のため毎日約130tの汚染水が出ており ⑥東電は専用装置で大半の放射性物質を浄化処理し、敷地内のタンクに溜めてきた と記載している。

 このうち①②③⑥は、事故を起こした原発側の都合にすぎないため、万難を廃して処理水と称する汚染水を海洋放出する理由にはならず、④の地元の了解がなければ海洋放出できないのは当然である。また、この“処理水”が本当にトリチウムしか含まないのかについても、⑤のように、未だに毎日約130tの汚染水を出している技術力と不誠実さから見て疑わしい。

 また、*3-2-1は、⑦処理水にはトリチウムなどの放射性物質が含まれ、海水で100倍以上に希釈してトリチウムの濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1にして放出し ⑧トリチウムの海洋放出は国内外の原子力施設で実施しているが ⑨全国漁業協同組合連合会等が反対しており ⑩政府は風評被害に対応するため、300億円の基金創設を決めて漁業後継者を育てる支援策も検討しており ⑪中国・韓国等の近隣諸国は懸念を示している とも記載している。

 ⑦⑧については、海水で100倍以上に希釈してトリチウム濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1にして放出するから安全で、トリチウムの海洋放出は国内外の他の原発でも実施しているとする点が納得できない。何故なら、薄めてその分だけ分量を増やせば、海洋放出する総量は変わらず、事故を起こしていない他の原発とは比較にならないからである。

 さらに、国際的飲料水の基準は、EUは100Bq/L以下、アメリカは740Bq/L以下、WHOは10,000Bq/L以下、オーストラリアは76,103 Bq/L以下、日本は規制値なしで、100Bq/L以下なら飲んでもよいとは思わないが、日本は飲料水の規制値がなく、排水のみ60,000Bq/L以下(アメリカは37,000Bq/L以下)とし、フクイチは1,500Bq/L以下を目標としているそうなのだ(https://synodos.jp/fukushima-report/22597/ 参照)。

 そのため、海洋放出が終わるまで、私は三陸以北の魚介類を購入しないことになるが、⑨の全国漁業協同組合連合会等の反対は当然で、「薄めれば総量が同じでも無害」などという非科学的なことを言いつつ、⑩のように、政府が風評被害などとして無視したり、新しい漁業後継者を育てればよいと考えたりしているのは論外だ。そのため、⑪の中国・韓国等近隣諸国の懸念は意地悪ではなく、北部太平洋の海産物を食べている国の意見ではないかと思う。

 さらに、*3-2-1は、⑫今年後半にも原子炉容器内で核燃料が溶けて固まったデブリの取り出しに着手する ⑬事故から30~40年かかる廃炉作業が本格化する中、タンクで敷地が埋まり、放射性廃棄物の管理といった作業スペースの確保などが課題になっていた ⑭更田豊志委員長は7月22日の記者会見で、タンクが減れば作業スペースをとれるとして「大変意義がある」と指摘し ⑮足元では電力不足が懸念され、脱炭素の効果もある原発について岸田文雄政権は「最大限の活用」を掲げている ⑯原子力全体の信頼回復のためにも、処理水の放出や廃炉作業が重要 とも記載している。

 しかし、⑫⑬⑭は事故を起こした原発側の都合にすぎず、⑮は電力不足を名目に、なし崩し的に原発再稼働を行おうとしており、⑯は無理にでも汚染水を海洋放出したり原発再稼働したりすれば国民は原発が安全だと思うだろうなどと、国民を馬鹿にしているのである。なお、現在の日本では、原発由来の電力よりも食料の方が貴重品になりつつあることも忘れてはならない。

 そのため、*3-2-2が、⑰「処理水」放出案認可は責任を取れる判断か ⑱処理水に含まれる放射性物質トリチウムなどが健康被害をもたらす可能性は否定できない ⑲東電がトリチウム以外は除去したと説明してきた処理水に基準値を超えるヨウ素やルテニウムなどの放射性物質が存在していたことも明らかになっている ⑳不安が拭えない根本に、これまでの不誠実な対応のツケがあるということを政府や東電はまず自覚せねばならない 等と記載しているのに、全く賛成である。

ロ)原発新増設と建て替え
 原発関連企業等でつくる「日本原子力産業協会」が、7月22日、*3-2-3のように、原発の新増設やリプレース(建て替え)を求める提言を発表し、①原発のサプライチェーン(供給網)維持のために新増設や建て替えが必要で ②再稼働や新増設の見通しが不透明なため、原発事業から撤退する企業が出ており ③技術維持や人材確保のため新増設や建て替えを国のエネルギー計画に明記するよう求め ④昨年秋に同協会が会員企業に実施したアンケートで「新設でしか継承できない技術がある」「学生や若手技術者を育成するためのプロジェクトが必要」との意見が出た としている。

 申し訳ないが、公害の多すぎる原発は滅び行くエネルギー源である。そのため、①のように、無理に原発の新増設や建て替えを行って、②③④のように、技術継承や人材確保を行えば、石炭と同様、そこに入った学生の仕事人生が終わるまで、国民は原発と付き合わなければならなくなる。これは、原子力の研究室にとっては有難いことかもしれないが、赤字財政で理系人材に乏しく、国土の狭い日本には、重すぎる負担なのだ。

 また、*3-2-3は、⑤フクイチ事故を受けて国民の原発への不信感は根強く ⑥政府は「新増設や建て替えは現時点で想定していない」とし ⑦国内では凍結が続くが ⑧ウクライナ危機でエネルギー安定供給が揺らぎ、「原発復権」の機運が政府・与党内で高まった とも記載している。

 これまで明らかになった原発の技術力の乏しさ、リスク管理の甘さ、運用の不誠実さから考えて、⑤⑥⑦は当然であり、⑧のように、ウクライナ危機に乗じてなし崩し的に原発の復権を計るのが無思慮なのである。ウクライナ危機では、ロシア軍がチェルノブイリ原発やザポリージャ原発に陣を置き、ウクライナ軍が攻撃できなかったのを忘れたのか。都合の良いところだけをピックアップするのも、原子力ムラの習わしだったが・・。

ハ)自衛隊の汚染水放出
 佐賀県有明海漁協は、7月14日、*3-3-1のように、佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画を巡り、佐賀県との間で結んでいる自衛隊との空港共用を否定した協定を条件付きで見直すことを、正式に文書で県に伝えたそうだ。山口知事が2018年8月に防衛省からの要請を受け入れて漁協に協定の変更を申し入れていたように、周辺から外堀を埋められて妥協したのだと思うが、もともと品質のよかった有明海苔のブランド化を提案し、すばらしく育った佐賀県産有明海苔を誇りに思って毎年購入していた私にとっては、誠に残念なことである。

 何故なら、①漁協・佐賀県・防衛省の3者で検討状況を確認する実務者協議の場を設置することを求め ②佐賀空港建設時に佐賀県・漁協間で結んだ協定について、i)駐屯地からの排水対策 ii)土地価格の目安 iii)駐屯地候補地以外の土地取得に関する考え方 の三つを示すことを条件に見直したとしても、駐屯地からの排水管理は都合の悪いことがあれば特定秘密にできるため実効性がなく、佐賀空港建設時に佐賀県と漁協との間でせっかく結んでいた先見の明ある自衛隊との空港共用を否定する協定を、土地の売却価格を条件に変更することになるからである。

 こうなると、自衛隊基地の拡張のため、宝の海が安心して使用できない海となり、有明海ブランドは負のブランドとなって、漁業者が廃業し、漁獲高が減り、漁業収入全体も減って、食料自給率は下がる。つまり、平等に、あちこちの海をつぶせばよいわけではないのである。

 また、*3-3-2は、③排水対策では淡水と海水を混ぜて流すというが、干潮で海水がない時、どういう対策を取るのか答えが出てこなかった ④土地価格は防衛省が地権者にこの正式な金額を出してこれでどうかというもの ⑤西南部地区は(昨季のノリ漁が)悪かったし、漁期が始まる9月になったら話す余裕はない とも記載している。

 このうち③の排水は、「自衛隊の排水と淡水・海水を混ぜて流す」という意味だろうが、これも「薄めて基準値以下にすればよい」という程度の発想でしかなく、猛毒だったり、有害だったりする場合は総量が問題なのである。そのため、水俣病を忘れたかのように、食料を生産している入口が狭くて浅い内海に流すべきでは決してないのだ。

 また、⑤は西南部地区のノリ漁が悪かった理由を正確に調査し、改善するか、ノリ漁を諦めるかしかないが、有明海に自衛隊の排水を流せば、西南部地区だけでなく有明海全体が汚染される可能性があるため、④の土地売買に負けて妥協すべきではない。西南部地区がノリ漁を諦める場合は、佐賀空港に近い場所なら別の産業を考えればいいではないか。その方がずっと着実だ。

3)ふるさと納税と地方の産業


       2021.8.3ふるさと納税ガイド        2021.9.25日経新聞     

(図の説明:左図は、2008年の開始時から2020年までのふるさと納税受入額の推移で、著しく伸ばすことができた。中央の図は、2020年の都道府県別受入金額と受入件数で、当初の目的どおり地方の農林漁業地帯で多くなっており、佐賀県も約337億円の受入額がある。右図は、受入金額を段階別に色分けした地図で、農林漁業地帯でふるさと納税に熱心な北海道・九州で色が濃くなっており、これも当初の目的どおりだ)

 「上のように、原発と自衛隊からの排水をなくせば、迷惑施設を置いた見返りとして入る交付金をもらえないではないか」と言いたい人もいると思うが、迷惑施設を置いて見返りとしてもらっている交付金よりも農林漁業をはじめとする普通の産業で稼ぐ金の方がずっと大きい。

 話を地方自治体に入る税金に限っても、農林漁業から入る住民税は多くないかもしれないが、地域の産業を育て地方を活性化する狙いで2008年に始まったふるさと納税の受入額は、2020年には佐賀県で約337億円あり、この50%が地方自治体の収入になったとしても168.5億円の税収になった。これは、原発から入ってくる交付金よりずっと大きいし、原発が事故が起こせば、住民がその地域に住めなくなる上に、農林漁業はじめすべての産業を失うのである。

 そのような中、*3-4は、①ふるさと納税額が2021年度は8,302億円と前年度から23%増え ②寄付の順位は、1位:北海道紋別市152億円、2位:宮崎県都城市(146億円)、3位:北海道根室市(146億円)で ③寄付による2022年度の住民税控除額は5,672億円と前年度に比べて28%多くなり ⑤2019年度の制度改正で返礼品を寄付額の3割以下の地場産品に限り、全経費を5割以下と定めている としている。

 2021年度のふるさと納税受入額が2020年度からさらに23%も増えたのは喜ばしいことで、それぞれの地域が競って産業を創出するのも、全体を上げるよい効果だと思う。

(5)男女不平等について
1)ペロシ氏の中華民国(=台湾)訪問は、勇気ある行動であること

  
 2022.8.4日経新聞      2020.4.11産経新聞    2012.7.11AFPBB

(図の説明:左図は、ペロシ米下院議長の中華民国訪問を受けて中華人民共和国軍が演習を行う地域で、中央の図は、両国の中間線である。なお、右図は、尖閣諸島と両国の関係だ)

 *4-5-1は、①大統領継承順位が副大統領に次ぐ2位のペロシ米下院議長が8月3日に台湾を訪問して蔡英文総統と会談し ②ペロシ氏は「米台の団結を明確にするため訪問した」「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と語り ③米国は「一つの中国」政策を尊重しつつも「台湾への関与を放棄しない」と強調した ④蔡氏は謝意を示して「民主主義の防衛線を守る」と語り ⑤猛反発する中国の王毅国務委員兼外相は、「中国の平和的台頭をぶち壊すことは完全に徒労で必ず頭を打ち付けて血を流す」とペロシ氏を非難し ⑥台湾を囲む形で軍事演習に乗り出し ⑦軍事演習場所は台湾の「領海」と重なり ⑧G7外相は中国の「威嚇的な行動、特に実弾射撃演習や経済的威圧を懸念する」との共同声明を出した と記載している。

 私は、⑤のように、中国がペロシ氏を狙う可能性を示唆したにもかかわらず、①②の行動をとったペロシ米下院議長はサッチャー元英首相と同じくらい偉いし、勇気があるため、米国初の女性大統領は、単に女性というだけでなく、ペロシ氏くらいの人がよいと思った。また、④のように、蔡氏も首尾一貫しており、尊敬できる。

 ただし、③の米国が尊重する「一つの中国」は、*4-5-4のように、第二次世界大戦後、中国本土で敗れた蔣介石が「中華民国(=台湾)」を設立し、「中国を代表する政府は中華民国だ」として「一つの中国」政策を打ち出したものである。

 しかし、国際連合での中国の代表権をめぐって中華人民共和国を支持する国が増加したため、米国のニクソン政権が中華民国に中国の代表権と安全保障理事会常任理事国の地位を放棄して、一般加盟国として国連に残る道を蔣介石に勧めたが、蔣介石が妥協せず、1971年のアルバニア決議後に中華民国が国際連合を脱退し、その後、李登輝総統の時代に憲法改正と民主化へ歩みだしたものである。

 そのため、「一つの中国」とは、もともと中華人民共和国が主張するような中華人民共和国による中華民国の併合ではなく、中華民国による中華人民共和国の併合であり、この計画は1971年に頓挫していると言える。そのため、第三国が中華民国という独立国に対し、国際連合に加入していないことを理由に、勝手に「一つの中国」を主張するのはおかしい。

 にもかかわらず、⑥⑦のように、中華人民共和国はペロシ氏の中華民国訪問を受けて中華民国を囲む形で軍事演習に乗り出し、その軍事演習場所は中華民国の「領海」と重なった。これは、米国や日本の「一つの中国」政策からすれば一国なのだから矛盾がないため、⑧のように、G7外相は中国に対して「威嚇的な行動、特に実弾射撃演習や経済的威圧を懸念する」という共同声明しか出せないが、他国の“懸念”とは言っただけのものであり、意味のある発言ではない。

 また、*4-5-2は、⑩バイデン米大統領と習近平中国国家主席が電話協議したように、衝突回避が最も重要で ⑪双方は台湾を念頭に置く危機管理メカニズムの構築を真剣に考えるべきで ⑫米民主主義は三権分立でバイデン大統領に議会を代表するペロシ氏の行動を止める権限はなく ⑬バイデン氏が「一つの中国政策」維持を明言した以上、中国側は危険な軍事的威嚇に踏み切るべきではなく ⑭最近、中国は「台湾海峡は国際水域ではない」と主張し始め、米側はこれを否定して、国際法で認められる航行を続ける構えだが ⑮偶発的な衝突がいつでも起きうる状況なので ⑯米中首脳は、顔を突き合わせた会談で腹を割って話し合う必要がある とも記載している。

 ⑩⑪⑬は、米国は中華民国を見捨てても中華人民共和国との衝突回避が最も重要だとしているのであり、⑫は、ペロシ氏の中華民国訪問はさほど価値がないとし、⑭は、中華人民共和国が中華民国を既に併合したかのような行動をとっても、⑮のように衝突が起きればそれは偶発的なものにすぎないとする。また、⑯のように、米国と中華人民共和国の首脳が中華民国の首脳抜きで顔を突き合わせ腹を割って話し合えば問題は解決するなどとしている点で支離滅裂だ。

 さらに、沖縄タイムスは社説で、*4-5-3のように、⑰ペロシ米下院議長の台湾入りをきっかけに、台湾周辺で米国と中国の軍事的緊張が高まり ⑱中国軍はペロシ氏が訪台した2日夜から台湾周辺で演習や実弾射撃を始め ⑲中国軍の動きを受けて米軍は、沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ「第1列島線」近くに原子力空母ロナルド・レーガンや強襲揚陸艦2隻を配置し、艦載輸送機が嘉手納に飛来したのも確認され ⑳米軍嘉手納基地では同基地所属でない外来のKC135空中給油機21機が駐機しているのも確認された 等と記載した。

 沖縄の地方紙だけあって話が具体的だが、中華民国を併合したい中華人民共和国にとって⑱は必然的な行為であり、中華民国の独立を護ろうとすれば⑰⑲⑳も当然のことになるため、付近が戦場になりそうで緊張している沖縄には大変なことだが、それが米軍基地の意味である。そして、それは、日本の自衛隊基地であっても同じだろう。

2)世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数」から見える日本の現状

 
2022.7.13中日新聞 2022.7.14福井新聞        内閣府 

(図の説明:左図は、男女格差報告の総合に関する主な国の順位で、中央の図は、日本の項目別ジェンダー・ギャップ指数だ。また、右図は、男女別学歴別年収の推移で、管理職が多くなる世代で男女格差が大きくなる状況がわかる)

 *4-1・*4-2は、①WEFが、「ジェンダー・ギャップ指数」を発表し ②日本は146ヶ国中116位で ③G7(ドイツ10位・米国27位・イタリア63位など)だけでなく、東アジア太平洋地域諸国のいずれでも最下位で ④総合評価上位5ヶ国は2021年と同じアイスランド・フィンランド・ノルウェー・ニュージーランド・スウェーデンで ⑤女性の政治進出が活発なルワンダは6位で ⑥最下位はアフガニスタンで ⑦地域別では北米が最も男女格差が小さく、次に欧州で格差が小さく ⑧インド等の南アジアで格差が最も大きく ⑨日本と同水準の国は、西アフリカのブルキナファソ(115位)、インド洋のモルディブ(117位)など としている。

 また、*4-1・*4-2は、男女格差の内容を、日本の評価が著しく低いのは政治・経済で、⑩政治分野だけでみた順位は139位の世界最下位圏で、「女性のいない民主主義」表現する政治学者もおり ⑪経済は管理職の女性の少なさや男女間所得差が順位を下げ ⑫日本女性の賃金は男性より22.1%低く、G7中男女格差が最も大きく ⑬日本は性別役割分担意識が根強いため、順位が低迷したままであり ⑭多様な人が力を発揮できる社会の実現には男女格差の解消が急務で ⑮ジェンダー平等は多様な人の声が反映される社会の第一歩 とも記載している。

 上の①~⑨は事実であり異論の余地がないが、⑥⑧⑨のように、南アジア・東アジア・アフリカで女性蔑視が多いのは、仏教(紀元前6世紀発祥)・儒教(紀元前500年頃発祥)・イスラム教(紀元600年頃発祥)の影響だろう。その結果、ペロシ氏に対する中国や日本における批判も、どこか女性政治家を馬鹿にしていると感じた。しかし、21世紀の現在、生物学はじめ他のあらゆる文明が進歩したのだから、誰のためにもならない女性蔑視は早急にやめるべきである。

 誰のためにもならない理由は、日本の政治に欠けているのが、i)公害問題や生態系維持等の環境意識 ii)安全で栄養バランスの良い食料生産を行う意識 iii)物価の安定など家庭生活を脅かさない政策 iv)社会保障等の家庭への支援であり、これらは日本では女性が担当し意識することが多いため、まさに⑩⑪⑬が原因で意思決定時に欠け易いからである。

 また、女性が意見を言った時に男性と対等に相手をしてもらえるためには、馬鹿にされないだけの知識・経済力とそれに基づく独立性がなければならない。しかし、⑫のように、女性の賃金が男性より22.1%も低く、女性蔑視の文化が残って入れば、女性の発言力はそれだけ乏しくなる。その結果、⑮のように、多様な人による多面的な声を政治に反映することができず意思決定が歪むため、ジェンダー平等は多様な人の声を反映させる社会の第一歩なのである。

 これに加えて、*4-3は、⑯性差による差別をなくすジェンダー平等実現は、行政施策や企業活動で待ったなしの課題で ⑰女性が男性と対等に意思決定の場に加わるのは当然の権利であり、多様な価値観の反映で政策や事業に歪みが少なくなる点でも重要で ⑱組織中で意思決定に変化をもたらすのに必要な割合は3割とされるが、長野県の現状は3割さえ遠い ⑲民間企業を含めると女性管理職割合は全国を大きく下回り ⑳教育現場のジェンダー平等は、女性は指導的な立場に向かないという無言のメッセージになりかねず、子どもの意識に影響を及ぼすため、特に大切 等と記載している。

 ⑯⑰⑱⑲は全くそのとおりで、⑳についても、幼い頃から刷り込まれる「女性は指導的な立場に向かない」という先入観は、大人になっても常識や美意識となって残ってしまうため、早急に全体を変える必要がある。

3)文系男子の視点が多い少子化論議
イ)間違い探し


     厚労省         2018.6.10朝日新聞     2017.4.11AGORA

(図の説明:中央の図のように、第二次世界大戦直後は合計特殊出生率が4.0を超えており、「団塊世代」で2.0を下回り、1995年に1.5、2005年に1.26まで下がったので、左図のような人口ピラミッドになった。従って、2021年に62万8205人の自然減があるのは当然である。しかし、右図のように、人口減が始まったのは2007年くらいからで、それまでは合計特殊出生率が2.0を下回っても人口は増加した。その理由は、長寿命化して一世代の期間が延びたため、人口維持に必要な合計特殊出生率が2.0よりも著しく低くなったからにほかならない)


  2018.6.4東洋経済    内閣府   2021.7.4大野研究室 2021.8.23日経新聞

(図の説明:1番左の図は、日本の人口と実質GDPの関係で、実質GDPは人口が増えたから上がったのではなく、豊かな暮らしを求め、それを実現することによって上がったことがわかる。左から2番目の図は、名目経済成長率の推移なので物価上昇が激しい時には成長率が高く出るが、これも豊かさを求める過程で高く出て成熟するにつれ低くなる。右から2番目の図は、購買力平価《真の豊かさ》による雇用者一人当たりGDPの推移で、現状維持に汲々として改革を怠れば現状維持もできずに順位を下げることがわかる。1番右の図は、過去2000の世界人口の推移で、産業革命と医療の普及で近年になって人口が著しく増えたが、地球が養える人口には限りがあることを忘れてはならない)

 *4-4-1・*4-4-2は、①厚労省は、6月3日、合計特殊出生率が2021年1.30だったと発表し ②2021年の出生率1.30は過去4番目に低く ③合計特殊出生率1.5未満は「超少子化」水準、1.3未満はさらに深刻で ④厚労省は15~49歳の女性人口減少・20代の出生率低下・結婚減少を理由に挙げ ⑤米国は2021年に約366万人が生まれ、出生率は1.66と前年1.6より上昇した ⑥フランスも2021年の出生率は1.83 ⑦日本の出生から死亡を引いた自然減は62万8205人と過去最大で ⑧日本の終戦直後は合計特殊出生率4.0を超えていたが、「団塊世代」が2を割り込み、1995年に1.5を下回って2005年に過去最低の1.26を記録し ⑨人口を維持には2.06~2.07が必要 と記載している。

 このうち①②④⑤⑥⑦は、事実かそれに近く、間違いではない。しかし、⑨は、上の段の図を見ればわかるとおり、戦後すぐの頃は、⑧のように、結婚・出産ラッシュと医学の普及による乳児死亡率の低下によって、(一般の人が成人まで育たない子がいることを前提として続けていた)合計特殊出生率4.0の状態の下で「団塊世代」が生じたため、国が子ども2人の家族計画を奨励していたことによって生じた。しかし、人口動態を見る限り、合計特殊出生率が2.0人以下になっても日本の人口は増え続け、2005年頃にやっと減り始めたのである。

 また、国の家族計画の効果もあり、日本の人口は増えすぎることなく2005年頃の1億3000万人くらいを上限として増加が止まった。そのため、③の「合計特殊出生率1.5未満は超少子化で、1.3未満は深刻」が事実かと言えば、これまでは日本の適正人口(1億人?)に向かって、最初は政策的に、その後は自然に、人口の調整が進んだのだと言える。

 また、*4-4-1・*4-4-2は、⑩日本は男性の育休取得率が2020年度で12.7%に留まり ⑪結婚に至らない理由に経済的不安定さもあり ⑫日本は国境を越える人口移動が乏しく、将来の人口規模は出生率でほぼ決まり ⑬自然減は労働力や経済力の低下を招き、現役世代が支える構図の社会保障制度の維持が困難になって社会全体の活力を低下させる としている。

 それでは、今後も適正人口に向かって自然に人口調整が進むのかと言えば、子育てに適した住居の広さ・養育費・教育費・周囲の支援がなければ子育てはできないが、都市に過度な人口集中をさせたままでは、適切な広さの住居・生活費・周囲の支援を得ることが難しいため、自然減が過度に進むだろう。また、⑪は、子育ての基盤作りができないため事実だろうが、⑩については、諸外国を見ても多様な方法がある。

 しかし、上の段の1番右の図のように、世界には未だ人口調整に入っていない地域もあり、世界人口は爆発的に増加し続けていて、これを止めなければ生存競争としての戦争が起こる。

 一方で、日本は、食料・エネルギーの殆どを外国に依存し、国内の製造業による輸出高も減少の一途を辿っているが、これは、⑬のように、人口の自然減が労働力や経済力の低下を招いたのではない。日本が不振である理由は、イノベーションを嫌い、⑫のように、外国人労働者を迎え入れることもなく、原価を高止まりさせて既存産業の競争力さえもなくしたからである。

ロ)本当は・・

  
2022.7.13日経新聞            2022.7.31日経新聞

(図の説明:左図は、2021年の国別男女平等度の順位で、中央の図は、平等度の高い先進国はコロナ禍で出生率が上がったが、家事負担が女性に偏っている日本や韓国はむしろ出生率が下がったことを示すグラフだ。また、右図の左側は、先進国では男女平等と出生率に正の相関関係があることを示すグラフで、同じく右側は、年収の低い男性は年収の高い男性と比較して、《教育費の関係か》近年になるほど子どもの数が少なくなっている傾向を示すグラフだ)

 *4-4-3は、①先進国の8割で2021年の出生率が2020年に比べて上昇し ②男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧では回復の兆しが見え ③そうでない日本や韓国では反転できず ④2020年~2021年の国別出生率の差とジェンダー格差を示す指標には相関関係があり ⑤長い時間をかけてジェンダー格差をなくしてきた北欧では家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく女性に負担が偏りにくいが ⑥家庭内の家事・育児時間の男女差が4~5倍ある韓国と日本は、女性の出産意欲がコロナ禍で一段と弱まり ⑦直近では、男性の年収が低いグループの子供の数が高いグループの半分以下になり ⑧共働きで世帯収入を増やすことは出生率を底上げするが ⑨日本は女性の就業率が7割と比較的高いが出産に繋がりにくいのは、家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さなどの多岐にわたる原因があり ⑩保育の充実といった支援策に加えて男女格差是正から賃金上昇の後押しまで、あらゆる政策を打ち出していく覚悟が必要になる と記載している。

 このうち、①②③④⑤⑥は、右図の左側で示されているとおり、家庭内での家事・育児時間の男女格差が減ってジェンダー平等が進んだ国ほど出生率が改善したということを示すために述べたものだと思うが、i)2020年と2021年のみを比較している点で特殊すぎること ii)サンプルとなる年数が少なすぎること などにより、今一つ説得力に欠ける。また、「女性の社会進出が出生率を下げた」というジェンダー平等への反対論に応えるためか、ジェンダー平等を出生率の回復と結び付けて述べているが、これは男性の視点を意識した論述だと思う。本当は、ジェンダー平等は、女性に対する差別・セクハラ・人権侵害の問題としてとらえるべきである。

 また、⑦⑧は尤もだが、⑨については、男女雇用機会均等法改正で女性差別そのものや妊娠・子育てにおける女性に対する不利な扱いを禁じたのに、労働基準法にも男女雇用機会均等法にも護られない労働者を作るために非正規雇用という区分を作り、女性に高い割合で非正規雇用労働を押し付けている点が、日本社会はあくどい。

 さらに、日本では、コロナ禍で夫婦とも在宅勤務が増えても夫に家事・育児を頼れない状況だったそうだが、これは家事・育児に関する子ども時代からの教育や情報量の違いによる。そのため、⑩の「保育の充実」「頼れる家政婦の存在」など、働く女性の雇用の安定・賃金の上昇・その他の支援がなければ、将来の計画を立てる人ほど出産はできないのである。

・・参考資料・・
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220726&ng=DGKKZO62893710W2A720C2EA1000 (日経新聞社説 2022.7.26)中韓勢の参入が問うEV化への覚悟
 中国電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)が日本の乗用車市場に進出する。2023年から主力の3車種を皮切りに、新型車を順次発売していくという。日本の消費者に受け入れられるかは未知数だが、日本車メーカーも油断してはいられない。BYDの計画からは日本市場を攻略しようという強い意志がうかがえる。国内の販売店と契約し100以上の実店舗を構える。複数の自動車ローンやサブスクリプション(継続課金)方式での提供も取りそろえるという。世界的に見れば日本市場におけるEVの普及は遅れている。直近では日産自動車などが新型車を発売した影響で、1~6月のEV販売台数が前年同期の2.1倍となった。それでも乗用車の新車全体で見れば1%にすぎない。BYDは2年近く前から日本参入の時期を見計らっていたもようだ。ビーワイディージャパンの劉学亮社長は日本参入を決めた理由について「自然な流れ」と多くを語らないが、日本でEVシフトへの機運がいまひとつ高まらないことと無関係ではなかろう。今のうちに参入すれば日本車の牙城を崩すことも不可能ではないと判断したと推察できる。アジア勢では韓国の現代自動車も今年、EVなどで12年ぶりに日本進出を果たしたばかりだ。外資の参入は消費者の選択肢を増やし競争を促すという点では歓迎すべきだ。中韓勢の挑戦を奇貨として、日本勢には足元のEV戦略を見つめ直してもらいたい。新規参入組の当面の販売台数は限られるかもしれない。日本の自動車産業の足元が揺らぐほどのインパクトではないだろう。ただ、商用車ではすでにSBSホールディングスや佐川急便など物流大手が中国製の小型商用EVの大量導入を決めている。日本車メーカーもお手並み拝見とばかりに侮ってはいられまい。かつては日本勢も欧米では後発の苦労を強いられながら、徐々に品質を高めて市民権を得たことを忘れてはならない。現在はEVや自動運転など、新技術が競争軸となる100年に1度の変革期にさしかかっている。新興勢にとっては逆転を狙う好機といえる。ドイツではフォルクスワーゲンの社長が事実上更迭された。EVシフトへのかじ取りを巡る混乱が背景にあるという。日本勢にもEV戦略への覚悟を問いたい。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220726&ng=DGKKZO62898330W2A720C2MM0000 (日経新聞 2022.7.26) EVバス、世界で快走、中国製席巻 日本、水素出遅れ
 公共交通機関での電気バス採用が世界で拡大している。そのほとんどが中国製だ。日本でも路線バスを電気自動車(EV)化する動きはあるが、国産の選択肢すらない。日本は水素バスの開発に重点を置き、EV対応が遅れた。二酸化炭素(CO2)などの排出を実質ゼロにするゼロエミッション化は、自動車分野でも後じんを拝している。2021年12月、京都市と京阪電鉄は市内の循環バスに4台のEVバスを導入するイベントを開いた。導入したのは中国EV大手の比亜迪(BYD)製だ。出席した閣僚経験のある政治家はツイッターで「日本企業にも奮起を促したい」とつぶやいた。関西では、大阪府の阪急バスも今年4月から中国製を路線に投入している。国際エネルギー機関(IEA)によると、21年に販売されたEVバスは約9万台だった。先行して導入するのは中国と欧州だ。21年11月に英国グラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)でも、市内の主要地と会場をEVバスが結んだ。COP26に合わせ、BYDはグラスゴー市の交通局に計120台以上のバスを卸したという。高速充電も技術改良で可能になり、軽油で走るバスと比べても性能に遜色がなくなった。BYDは世界で5万台以上のバスを普及させるなどシェアを拡大している。IEAはEVバスが30年には300万~500万台になり、全体の16%ほどを占めると予想する。製造・供給で優位に立つのはBYDなど中国メーカーだ。安い価格と技術力で圧倒する。日本の主要メーカーはEVバスを量産化できておらず、劣勢だ。国内の自治体などが脱炭素に向けてEVバスを導入する際も中国製などを選ばざるを得ない。政府のEVバス導入補助金もハイブリッド車などを除くと補助対象8種類のうち7種類が中国メーカーだ。唯一の日本企業の1社は北九州市のスタートアップだが、現状は製造を中国に委ねている。日野自動車が近く市場投入を控える小型バスも、自社開発ではなくBYDに製造を委託する。国や日本の自動車メーカーは水素を燃料とするバスの開発に注力してきたことが裏目に出ている。水素は燃料充填の時間が短く、荷物や人を乗せて重くなっても航続距離が長い。バスなどの大型車には「EVよりも水素が向いている」という説明だった。経済産業省などが17年に発表した水素基本戦略では「20年度までに100台程度、30年度までに1200台程度の導入」の目標を掲げた。だが蓋を開けると、世界では水素バスではなく、EVバスが席巻している。COP26では自動車の脱炭素化に向けた有志連合にメルセデス・ベンツやBYD、フォードなど20以上の国・地域や企業が参加したが、日本からはゼロだった。自動車分野の脱炭素の流れに、政府も日本メーカーも乗り遅れている。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASPCZ4GF4PCWUHBI015.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2021年12月3日) 「2万キロ走って充電タダ」 中国でEV乗ったら 思わぬ落とし穴も
 10月下旬の日曜日、午前5時45分。まだ薄暗い中国南部の広州市内の路上に、濃いグレーのスポーツ用多目的車(SUV)が現れた。この日私は、なじみの日本式焼き鳥居酒屋の主催するゴルフ大会に参加することになっていた。店のオーナーの一人、王思琪さん(30)が愛車の電気自動車(EV)で、私ともう一人の友人を迎えにきてくれた。王さんの車は中国のEVメーカー「小鵬」の小型SUV「G3」。小鵬は2018年からEV販売を始めたばかりの新興メーカーだが、中国のネット大手アリババ集団なども出資。2020年に米ニューヨーク証券取引所に上場して約1870億円を調達するなど、急成長している。G3の外観は欧州車を思わせるようなデザインで、中国では若者や女性に人気がある。フロントガラスが運転席の上部まで延びていて、日光が差し込んで車内はかなり明るい。後部座席の片側を前方に倒せばゴルフバッグ三つを楽に載せられ、セダンより車高があるので大人3人が座ってもゆったりとした空間がある。王さんがG3を購入したのは昨年10月。補助金による1万元(約17万5千円)の割引もあり、支払ったのは約17万元(約300万円)だった。似た車種でいうと、中国で売られているトヨタの「RAV4」のエントリーモデル(ガソリン車)と同等の値段だ。内燃機関(エンジン)がないEVのため、車が動くときもほとんど音がしない。時速100キロに達するまでの時間は8秒台と、世界最大手の米テスラ(モデル3は同3・3秒)などのようには速くはないが、初心者にはむしろ安心して運転できるようだ。運転は性格が出るというが、王さんは慎重なタイプなのか高速道路でもほとんど車線変更せず、常に制限速度より控えめ。大会に参加するほかの車より到着は少し遅れたが、安全運転で同乗者はみな安心して乗ることができた。王さんは、広州市南部の番禺区から市中心部まで片道約35キロの通勤も、毎日この車で往復しているという。どうしてEVを買ったのだろう。日本や欧米のメーカーではなく、なぜ中国ブランドにしたのか――。そんな疑問が頭に浮かび、質問を投げかけたら、「充電も便利で、料金もほとんどタダ。なによりお金が節約できるから」と言うのだ。中国でEVの充電代は、ガソリン代よりずっと安いのは知っていた。しかし、まさか無料とはどういうことか。王さんは言う。「車を買ったあとのコストが安いんです。この1年で約2万キロ走行したけれど、充電代はほぼ小鵬から付与されたポイントでまかなえました」。詳しく聞いてみると、小鵬のEVを買って同社の充電スポットを利用すれば、年間3千キロワット時までの急速充電が毎年無料になるのだという。G3は1キロワット時で約7・8キロ走れる仕様になっているので、確かに計算上は3千キロワット時で約2万3400キロ走ることができる。中国の充電スポットはどんなところだろう。面倒ではないのだろうか――。こんな疑問が次々と浮かび、今度は充電にも同行させてもらうことにした。11月中旬、王さんと充電スポットがある番禺区のショッピングモール前で待ち合わせした。車に乗せてもらい、車載の液晶パネルを見ると、残り走行可能距離は「153キロ」と表示されている。
●EVの充電を体験
 G3はフル充電で最大520キロ走れる仕様だが、王さんはバッテリーの寿命を延ばすため90%までしか充電しない。さらに、ガス欠ならぬ「電欠」になって車が動かなくなったらレッカー移動しなければならないので、怖いから残り100キロ余りになったら充電するようにしている。毎回350キロ程度走ったら充電スポットに行くサイクルだ。ショッピングモールの駐車場に入ると、小鵬が設置した急速充電器が四つあり、そのうち3カ所が空いていた。「平日はほぼ待たずに充電できます」と王さん。壁に沿った充電器の差し込み口に向かって前向きに駐車し、黒いケーブルの先のソケットを車の左前方の差し込み口につなげると、充電が始まった。スマホに入れた小鵬のアプリと車のシステムは連動しており、スマホの画面を見ると90%まで充電するのに「50分」と表示されている。充電量はスマホで操作できる。王さんの自宅は、ここから徒歩10分くらいと近い。しかし帰宅しても、ゆっくりする間もなく戻らなければならないので、充電中は帰らない。出勤する前に充電に立ち寄り、車の中でSNSの返信を書いたり、動画を見たりして過ごすことが多い。ショッピングセンターにあるスターバックスでソファに座り、コーヒーを飲みながら待つこともある。この日は、注文したコーヒーをしばらく待ち、取材を始めたら、聞きたい質問を終える前にスマホのアプリに「充電完成」を告げられてしまった。実際にかかった時間は43分。36・3キロワット時を充電し、49・06元(約850円)と値段が出ているが、この金額は「年3千キロワット時」までだと課金されない仕組みだ。王さんは「11カ月半で3千キロワット時を使い切り、最後の半月だけ自分で充電代を払った」という。初年度の自己負担額は数千円程度だった。
●自己負担は年数千円 貯金に回せた
 「小鵬のEVを選んだ理由の90%は、充電代がかからないから」。王さんは、節約が理由だと迷わず言った。充電は時間帯によって電気代が異なり、この日と同じ条件で計算すると3千キロワット時分の4050元(約7万円)が節約できたことになる。もし、小型SUVのガソリン車を買っていたら――。1リットルあたりの燃費が12キロだったとすると、現在のガソリン高では年1万3300元(約23万円)の燃料代がかかる。王さんは結果的に、その分を貯金にまわすことができた。王さんは日本に留学し、3年間を過ごしたことがある。2019年から始めた焼き鳥居酒屋は、コロナ禍前までは多くのお客が来て、順調だった。しかし、今は日本からの出張者がいないので、その時に比べると経営は楽ではない。「だから、充電代がかからないのは、心理的にもプラス面が大きいんです」。小鵬によると、年3千キロワット時の顧客への付与は、今年8月以降に新車を購入した人向けには年1千キロワット時に減らした。「(新エネ車1台あたりの)政府の補助金が減ったため」と説明する。ただ同社は新車購入者には、自宅に設置する小型充電器(充電時間は満タンで7時間前後)を無料で提供している。電気代は午前0時から同8時までは安くなる。「コードをつないで、この時間帯に充電予約すれば、G3をゼロから満タンに充電しても22元(約390円)しかかからない」としてコスト安を強調する。小鵬は、赤字経営を続けながらも、顧客を囲い込むためにお金を注いでいる。21年4~6月期決算は、売上高が前年同期の6・4倍に急増したが、最終損益は約200億円の赤字とマイナス幅が大幅に拡大。今年7月には香港証券取引所にも上場して約2千億円を調達したが、生産能力の拡張や顧客囲い込みの販促費にお金を使い、黒字転換はできていない。こうした赤字覚悟の手法は、珍しくない。出前のデリバリーサービスや中国版ウーバーなどでも、新興企業が乱立する最初の時期は値引き合戦が過熱し、赤字は当たり前で「お客の囲い込み」を優先させることが多い。小鵬の充電ポイント贈呈も、他社と差別化し、顧客を囲い込むためなので、いずれはなくなるかもしれない。王さんは、EVのデメリットも感じている。「週2、3回、充電に行くのは確かに面倒。週1回くらいなら、もっと便利なんだけど」。ガソリン車なら1回の給油で600~700キロ走る車種が多く、給油の頻度は半分ですむ。
●充電スポット 街を出ると少なく不便
 小鵬が無料で提供してくれる自宅用の小型充電器は、自宅マンションの駐車場の使用権(約350万~400万円)を購入し、許可を得ないと取り付けられない。しかし、王さんの駐車場は賃貸のため設置できない。夜に充電して朝起きたら完了している、という電気自動車の便利さを享受することができない。出先で思い通りに充電できないこともある。王さんは以前にゴルフ場近くの小鵬専用ではない充電スポットで、昼過ぎに充電して帰ろうとした。事前に充電スポットを調べて訪れたが、5~6台のスペースはすべて埋まっていた。しかもよく見ると、何台ものガソリン車がまぎれて駐車していて、EV用の充電場所を占拠していた。思いも寄らぬ展開。しかも、その車は充電しているわけではないので、すぐには戻ってこない。「ゴルフ場がある郊外や地方都市ではほかの充電スポットは近くにはなかった。途中で電気がなくなるのが怖くて、待つしかなかった」。結局、夕方まで充電場所が空かず、しかも渋滞する夕方のラッシュ時に重なり、「自宅に着いたら午後9時ごろになっていた」。都市部でEVを利用するには不便はないというが、地方などを長距離走るには現時点ではEVは向いていない。ただ、長距離を運転するときは、一緒に住む姉のガソリン車を利用するようにしているといい、「普段の生活スタイルからすると、私の要求を十分満たしてくれている」という。充電を終え、王さんが経営する焼き鳥居酒屋まで約40分の道のりを乗せてもらった。職場から約500メートルのところにある高層ビル地下駐車場にも、小鵬の充電スポットがある。また、一般の充電スポットならばショッピングモールなど中心部には何カ所もあり、料金さえ自己負担すればいつでも充電できる。思った以上に「EV生活」は便利だな、というのが正直な感想だ。充電スポットを促進する業界団体によると、6月時点で広東省に公共の充電器が約14万3千台、上海には約8万9千台設置されているという。EVの販売台数が伸びれば、充電スポットもさらに増えてもっと便利になるのだろう。中国では、EVなどの新エネルギー車の新車販売が急速に伸びている。中国自動車工業協会によると、1~10月の新エネ車の販売台数は254万台を超え、約90万台だった前年同期から一気に2・8倍に急増した。年後半になるにつれて新エネ車の販売台数が増え、10月は38万3千台に。新エネ車だけで、過去最低だった日本の10月の新車販売台数(軽自動車を含む)全体の27万9341台を上回った。1~10月の中国の新車販売全体に占める新エネ車の割合は、昨年1年間の5・4%から2倍以上の12・1%に急拡大している。世界最大の自動車市場で、売れた新車のおよそ8台に1台は新エネ車だったことになる。1~9月のメーカー別のEV販売トップ10は、2位だった米テスラを除き、残りすべてが中国メーカーだった。トップだった上汽GM五菱(ブランドは五菱)は、昨年発売した日本円で40万円台からの格安小型EV「宏光ミニEV」が大ヒット。約28万台に達した。比亜迪(BYD)や小鵬なども大きく売り上げを伸ばしている。一方、2020年の日本のEV新車販売台数は約1万5千台で、乗用車の販売台数の約0・6%だった。中国政府は昨年、2035年に新車販売のすべてをEVなどの新エネ車やハイブリッド車(HV)にする方針を打ち出した。これまでEVを作る自動車メーカーやEVを購入する消費者に幅広く補助金を出し、ガソリン車からの転換を後押ししてきた。構造が複雑なガソリン車やHVが得意な日本や欧米勢に追いつくのはなかなか難しいため、部品が少なく参入が比較的容易なEVへの参入を促し、国際競争で優位に立つという国家戦略もある。ただ、新エネ車1台(走行距離300~400キロ)あたりの国の補助金は2018年の4万5千元(約80万円)から2021年には1万3千元(約23万円)に減っており、中国でもEVメーカーの自助努力が求められる時代に入りつつある。

*1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASPD37QZ6PD2ULFA01Y.html?iref=comtop_list_01 (朝日新聞 2021年12月6日) 日本は置いていかれる?きらびやかなEVショー、記者が感じた寂しさ
 中国では電気自動車(EV)がたくさん走っている。と知ったような顔で記事を書いているが、中国でEVを買ったこともなければ、日本ではガソリン車しか運転したことがない記者2人(奥寺、西山)。中国EVのリアルを理解したい。そう考えて、2人は中国人の助手2人とともに、11月19日から始まった広州国際モーターショーを初日に訪れた。広東省は中国の自動車産業の一大集積地で、昨年300万台以上を生産した。その省都・広州市中心部にある大きな展示館が会場となっていた。事前に主催者のウェブサイトなどを調べたところ、展示車1020台のうち、約4分の1にあたる241台が電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの新エネルギー車だという。昨年より約100台も新エネ車が増え、その様相はもはや「EVショー」だ。「800ボルトの高圧充電設備により、5分間の充電で200キロ以上走れる『極速充電』を開発した」。中国のEVメーカー、小鵬汽車(本社・広州)の展示スペースは記者(奥寺)が到着した時にはすでにむっとした暑さを感じるほどの人出だった。小鵬は2019年にEV販売を始めた新興企業だが、発表会場は通路に100人を超す記者らがあふれている。小鵬として4車種目となる新型SUV(スポーツ用多目的車)のEV「G9」がステージの真ん中でスポットライトを浴びていた。極速充電への驚きの声やざわつきが止まらない中、記者のすぐ横で、米ビジネスニュース放送局のCNBCが中継を始めた。エンジ色のスーツに身をまとった英国出身のリポーターが、G9を紹介している。放送後、「小鵬はニューヨーク証券取引所にも上場しているので、米国での関心も高い」と話してくれた。
●次々と… 驚くラインナップ
 次に驚いたのは、中国EVの「走行距離」だ。走行距離1008キロ――。中国の自動車大手・広州汽車(本社・広州)が初展示したEVの「AION LX Plus」は、そんな世界初の数字を掲げていた。EVの欠点は充電スポットの少なさと、走行距離がガソリン車に比べて短いことだ。中国でも充電スポットの数は急速に増えているが、走行距離がどこまで伸びるかの関心はとりわけ高い。すでにEVを出しているメーカーでもほとんどは400~600キロあたりが主流。そんな中で同社幹部は記者が訪れた発表会で「走行距離の新たな基準を作った」と胸をはった。充電スポットが心配? いや、もはや充電は古い。高級EVを手がける中国の蔚来汽車(NIO)が展示した1回の充電で1千キロ走れる新モデル「eT7」。ただ他と違うのは、1時間以上かけて車載バッテリーを充電する方法だけでなく、3~5分間で充電済みのバッテリーに取り換える「交換式」があることだ。展示会場では「電池交換」の実演に多くの人が見入っていた。私たちは4人で日本企業や話題の中国EVメーカーなどを手分けしてまわり、10~20分ごとに展示ブースをはしごしていた。それだけで手いっぱいだったのだが、一通り取材を終え、まわりを見渡して驚いた。社名を聞いたことも、ロゴを見たこともない中国のEVメーカーが数え切れないくらい出展していたのだ。「零跑」というロゴが目に入った。中国で人気のゆったりとしたSUVが複数展示され、丸みを帯びた可愛いタイプのコンパクトカーが目を引いた。記者(奥寺)は初めて見たので、スタッフに会社のことを聞いたら、浙江省杭州に本社があるという。そして、「私たちは監視カメラで世界シェア第2位の会社で、15年にEVに参入しました」という。よく聞くと、監視カメラ大手の「浙江大華技術」(ダーファ・テクノロジー)がつくったEVメーカーだった。同社は、トランプ前米政権からウイグル族など少数民族の監視に使われているとの理由で、禁輸リストに追加された会社でもあった。スタッフから「テスラの(SUVの)モデルYと同じ電池を使用している」とも売り込まれた。自動運転や安全技術でカメラの技術は役に立つと思うが、従来のガソリン車ではこうした新規参入はほとんどないので、驚いた。このように唐突とも思える、他業種からの参入組は中国で非常に多い。白いコンパクトなEVを展示していた軽橙時代は、IT大手テンセントでゲーム開発をしていた創業者がつくったメーカーだ。今回は展示がなかったがいま経営危機で話題の不動産大手、中国恒大集団はEVに参入し、将来の主力事業にしようとしている。女性を主な顧客に見据え、独フォルクスワーゲンの往年の名車であるビートルのような車を売る欧拉(オーラ)、戦闘機のようにごつい見た目の約1千万円のEVスポーツカーを売る沙竜(サルーン)、EVで世界初の高級ミニバンを売りにした嵐図汽車……。中国の調査会社によると、今年9月時点で198社のEVメーカーが中国にあるが、うち18~20年の間に150社が誕生している。
●隆盛の裏では
 展示ブースからは見えない事実もある。新たなブランドが生まれる一方で、すでに消えたブランドもある。明らかになっているだけで昨年EVメーカー5社が倒産。16年に香港で誕生した拝騰汽車は独BMWや米テスラ、米グーグル、アップルなどから人材を引き抜き、19年にはEVの量産に入ると宣言して注目されていた。だが今年になって南京市の工場が破産し、量産は絶望的な状況だ。EVメーカーの生と死が隣り合わせの中国では、きょうみたメーカーが来年また展示をしているかはわからない。目立つ中国勢に比べ、静かだったのが日本勢だ。記者(西山)が訪れたトヨタ自動車、日産自動車の発表会で目玉としてお披露目したのはハイブリッド車(HV)。ホンダが22年春に発売する電動SUV「e:NP1」の実車を初めて展示したり、EVの新たなコンセプトカーを発表したりしたぐらい。日産の高級ブランド・インフィニティは展示車すべてがガソリン車だった。3社とも中国でのEVの投入は発表済みで、たまたま広州モーターショーのタイミングでEVの世界初披露がなかっただけともいえるが、少し寂しい感じは否めなかった。こうした情勢を見ると、日本勢はEVで大きく出遅れているのは明らかだ。モーターショーが来年にかけての市場を見通すとするならば、差はまだ広がるかもしれない。やはり出遅れている日本は今後、追いつくことはどんどん難しくなっていくのだろうか。日産の合弁相手である東風汽車で副総裁を務める山口武氏に話を聞く機会があり、日本勢はどう追いつこうとしているのか聞いてみた。「中国企業のイノベーションはものすごい速さで、力をつけてきている。あぐらをかいてはいられない」としつつ、市場を冷静にみる必要があるとも語ってくれた。
●大都市中心の市場拡大 重大事故も
 どういうことか。電気自動車が中国で売れているとはいえ、その約9割は1級、2級都市といわれる大都市中心。こうした都市では普通の自動車を買おうと思っても台数制限で普通のナンバーがとりづらく、EVならナンバーをとりやすいよう政策誘導されている。他の大多数の地域ではいまだガソリン車中心だ。充電スタンドも都市部ほど整備されておらず、電気自動車よりも車両価格が安く、ガソリン車より燃費が良いハイブリッド車のニーズはいまだ根強いという。結果にも表れていて、中国における20年のトヨタの新車販売は、前年より1割あまり多い約180万台となり、過去最高を更新。ホンダも同年、過去最高の162万台を販売し、好調を維持している。さらに山口氏が強調したのが安全性だ。実は中国のEVでは事故が目立ち始めている。記者がある中国のネット上の調査をみると、昨年120件超の発火事故が起きたとされ、死亡者も複数出ている。山口氏は日産は50万台以上販売しているEVのリーフで重大事故は一度も起こしていないと強調した上で、「80年以上この事業をやってきた中で培った安全性や耐久性、信頼性が我々の強み。一朝一夕でコピーされるものではない」。確かに説得力はあると思った。ただHVが売れているからと安心は出来ない。中国における1~10月のEVなどの新エネ車販売は254万台を突破し、新車全体に占める新エネ車の割合は、昨年1年間の5・4%から12・1%となった。事故が多いという印象が広がらない限りは、中国の人々の間で中国メーカーのEVを選ぶ価値観が根付くのではないか。中国企業の勢いがすさまじい今回のモーターショーを歩いてみて、そんな不安は完全にはぬぐえなかった。日本企業がEVのビッグウェーブに間に合い、うまく乗り切れるのか。毎年開かれるモーターショーはその指標となることは間違いない。

*1-3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/963532/ (西日本新聞社説 2022/7/28) 地方鉄道の危機 国の積極関与が不可欠だ
 乗客の減少で、赤字ローカル鉄道が存続の危機に立つ。人口減少で経営環境がさらに厳しくなるのは間違いない。「地域の足」の将来像を描くのは沿線自治体や鉄道事業者の責務である。国も支援策を用意し、積極的に議論に加わるよう求めたい。国土交通省の有識者検討会がまとめた地方鉄道の再構築に関する提言も、国の主体的な関与を盛り込んだ。それによると、国は存続が危ぶまれる特定線区の沿線自治体か鉄道事業者の要請を受け、線区ごとに協議会を設ける。存続や廃止の前提なしに協議し、3年以内に結論を出すとしている。地域戦略として鉄道を存続させる判断もあれば、専用道を走るバス高速輸送システム(BRT)やバスに転換し、利便性を向上させる選択も想定される。第三セクターや鉄道施設を地元が所有する上下分離方式への移行、BRTへの転換は先行事例がある。これらを参考に、利用者の立場で地域の最善策を検討してほしい。国交省は来年度から協議を始める方針だ。JRの場合、1キロ当たりの1日平均乗客数を示す「輸送密度」が千人未満の線区が協議会設置の目安となる。国鉄分割民営化の前後では原則、輸送密度4千人未満の線区がバスや三セクへの転換対象だった。JRは2千人を下回れば、経営努力だけで利便性や持続性の高いサービスを保つのは困難と主張する。千人未満の線区が極めて厳しい状況なのは確かだろう。新型コロナ禍の影響が限定的だった2019年度は、輸送密度が千人未満のJR線区は全国で100程度あった。九州では20年の熊本豪雨で一部不通が続く肥薩線(八代-隼人)、吉都線(吉松-都城)、日南線の一部(油津-志布志)などが該当する。もちろん、鉄道の価値は乗客の多寡や収支だけでは測れない。国内外から誘客する観光資源として活路を開く赤字ローカル線もある。その一つが福島県会津若松市と新潟県魚沼市を結ぶJR只見線だ。10月に11年ぶりに全線で運転を再開する。豪雨で鉄橋が流された不通区間は被災前の輸送密度がわずか49人だった。運転再開は上下分離方式への移行と、年約3億円の維持管理費の地元負担が決め手になった。地元が復旧を望む肥薩線では、被災前に年9億円あった赤字の扱いが焦点だ。国の支援を拡充し、赤字路線復旧のモデルとしてほしい。コロナ禍でJR各社の経営が悪化し、赤字ローカル線問題が急浮上したように見えるが、国や地域が対応を先送りしてきたのが実態だろう。鉄道は国土を支える重要な交通インフラである。鉄道による貨物輸送は産業や暮らしを下支えしている。こうした基幹となる鉄道網をどう守るかについても国は検討を急ぐべきだ。

*1-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/891305 (佐賀新聞 2022/7/26) 「表層深層」地方鉄道 廃線圧力も、進むか対話、交通網再編の動き活発に
 経営が厳しい地方鉄道の存廃を国主導で協議することになった。ただ乗客を増やし、鉄路を維持するのは容易ではない。廃線圧力が高まれば、自治体が反発を強める可能性もあり、事業者との対話が進むかどうかは見通せない。各地では、地域交通の再編を模索する動きも活発化している。
▽衰退
 「貴重な移動手段がなくなれば、地域の衰退が加速する」。国土交通省の有識者検討会のヒアリングで採算重視の切り捨てにくぎを刺していた広島県。湯崎英彦知事は25日、「輸送密度千人未満」など存廃協議の目安について「いかにも廃止を目的としたものに見える」と懸念を示した。国鉄改革では、当時の不採算路線を含め全体で収支が釣り合うよう制度を設計。債務のほとんどを国が肩代わりし、JRは引き継いだ不動産で駅ビル事業を成功させた。ところが新型コロナウイルス禍で大都市の運賃収入が落ち込み、設計はほころびが目立ち始めた。地方には、分割民営化の枠組みが正しかったのか検証を求める声もある。JR関係者は「普段は乗らないのに廃止には反対する」と不満げだ。廃線反対の申し入れで来訪した自治体幹部に移動手段を聞いたら「車」と言われたといい「赤字路線だらけでは食べていけない」と漏らす。
▽縦割り
 25日の検討会では「自治体が協議に応じてこなかったのは廃止前提という危機感があったからだ」など、関係者が予断を持たず、議論のテーブルに着く重要性を訴える声が多かった。ただ人口減が加速する中、コストを抑えつつ乗客を増やすのはハードルが高い。ある自民党議員は「乗客がわずかな路線を続けろというのは現実的ではない」と指摘する。国交省幹部は、学生が下校後、駅で1時間以上待たされる例を挙げ「不便なのに鉄道があるからバスが参入しない。何が便利なのか話し合ってほしい」と話す。もっともバス転換には懸念もある。国鉄から転換したバスは運行回数が減ったり、値上げされたりしたケースも少なくなかった。国交省は鉄道維持でも、バスなどへの転換でも事業者らに財政支援する方針だ。鉄道予算は2022年度当初で1千億円余りだが、ほとんどは整備新幹線向け。道路予算は2兆1千億円あるものの、縦割りのため融通が難しく「支援に回せる予算は少ない」(幹部)。
▽工夫
 地域の現場では、交通維持に向けた工夫が広がる。阿佐海岸鉄道は昨年12月、徳島、高知両県間で道路、線路の両方を走る「デュアル・モード・ビークル(DMV)」の営業運行を開始。世界初とあって観光客が増え、約3カ月で年間平均収入の1・7倍に当たる約1千万円を稼いだ。鳥取県は今年5月、通勤手段をマイカーから鉄道へ切り替えるなどした企業に10万円の奨励金を出すといった県民運動を開始。滋賀県は全国初の「交通税」導入を目指している。県税への上乗せを想定し、公共交通維持に充てる計画だ。ローカル線を抱える市長の一人は「維持費のかかる線路は公設とし、運行は民間に任せる役割分担以外に道はない」と語り、都市部路線の収益に課税し、地方の維持費に充てるよう提案する。中山間地域では道の駅を拠点に、自動運転の電気自動車が役場や診療所を巡るサービスが始まっている。政府関係者は「鉄道やバスにこだわらず、自動運転を含め交通網の在り方を考えるべき時期に来た」と話す。

*1-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/891723 (佐賀新聞論説 2022/7/27) 苦境のローカル鉄道 地域交通の最適解を探ろう
 苦境にあるローカル鉄道の在り方を議論してきた国土交通省の有識者検討会は、利用が著しく落ち込んでいる路線を対象に、存廃やバスへの転換を協議する場の国による設置を柱とした提言をまとめた。鉄道事業者、沿線自治体そして国が協力し、地域を支える交通手段としてどのような形が最適か、先々を見据えた「解」を探る時だ。人口減少に高齢化、マイカーの普及などで地方の鉄道経営は長年「右肩下がり」にあったが、新型コロナウイルスの感染拡大で利用者が減り、一層苦しくなっている。国交省によるとJR旅客6社の総営業距離のうち、1キロ当たりの1日平均乗客数を示す「輸送密度」が4千人に届かない割合は、2020年度で6割に上った。4千人未満は旧国鉄改革時に、採算難から「バス輸送への転換が適当」とされた低い水準だ。さらに半分の2千人未満が全体の4割を占める。提言が「コロナ感染症が収束してもローカル鉄道の危機的状況は解消されず、これ以上の問題先送りは許されない」と指摘したのはもっともだ。この状況を踏まえた提言の特徴は、国による「特定線区再構築協議会(仮称)」の設置にある。平常時の輸送密度が千人未満、複数の自治体にまたがるなど広域調整が必要―などの目安に当たる線区について、事業者か自治体の要請を受けて国が協議会を設置。路線の存続が可能かどうかをはじめ、バス高速輸送システム(BRT)など代替手段への転換を検討し、3年以内に結論を出すとの案を示した。乗客減で赤字が慢性化した路線について事業者は、これまでも自治体や住民との協議を望んできたが「鉄道がなくなると地域が廃れる」などと抵抗感が強く、話し合いの場を設けられないことが少なくなかった。提言は、客観的な基準を示した上で国が主体的に協議の場を設置する仕組みで、事態の具体的な進展が期待できるだろう。一方、自治体では「廃線が加速しかねない」と不安を感じるかもしれない。そもそもJRのような広域事業者は、都市部路線や不動産事業の利益で赤字線区の穴埋めが可能と理解されており、釈然としない面があろう。この自治体と事業者間の認識の食い違いについて提言は、情報開示の不足が一因と指摘した。JR西日本は不採算路線の収支を今年初めて公表したが、経営難が続く北海道や四国などに比べて後手に回った感は否めない。事業者は、都市部の路線もコロナの長期化で採算が悪化している点など、自治体や利用者の理解を促す情報提供に一段と力を入れるべきだ。苦境路線の「解」は一様でない。駅に公共施設を併設し利便性を向上させる施策や、自治体が鉄道施設を保有し事業者は運行に専念することでコスト減を図る「上下分離(公有民営)方式」への移行、鉄道に代わるBRTへの転換などがある。その際に国の支援が重要なのは言うまでもない。提言は財政面をはじめ、地元の合意を条件に国の認可なく値上げできる運賃制度の導入や、BRT専用道の整備時などに多様な支援を国に要請した。法整備を含めた早急な具体化が求められる。滋賀県のように新たな税財源を検討している自治体もある。地域交通を支える手だてのさらなる拡充を望みたい。

<人材>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220728&ng=DGKKZO62937640X20C22A7KE8000 (日経新聞 2022.7.28) 「新しい資本主義」の視点(中) 志すべきは「普通の資本主義」、星岳雄・東京大学教授(1960年生まれ。MIT博士。専門は金融・日本経済。UCSD、スタンフォード大を経て現職)
<ポイント>
○日本の問題は新自由主義が原因ではない
○賃金が停滞する原因は労働市場のゆがみ
○企業の新陳代謝滞り技術革新の不足招く
 参院選の勝利を受け、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」はその実行過程に入る。6月に閣議決定された実行計画は、世界経済の様々な問題について1980年代以降台頭した新自由主義の弊害であり、解決のために新しい資本主義を構築せねばならないと説く。新自由主義は成長の原動力の役割を果たしたと認める一方で、その弊害が今や顕著になっているという。だが気候変動問題、経済的格差、経済安全保障リスク、都市への人口集中などがすべて、新自由主義により引き起こされたわけではない。またこれらの問題が、新しい資本主義が強調する官民連携により解決される道筋も明らかではない。そしてもっと重要な論点は、日本が直面してきた経済停滞、少子化と人口減少、世代間の負担格差、地方の衰退、子供の貧困といった問題も新自由主義の弊害なのかということである。本稿では、日本が直面する最重要の問題の一例として、人手不足でも賃金が上がらないことを取り上げ、その理由として経済学的研究が示す要因を確認する。そこから見えてくるのは新自由主義の問題ではなく、市場の需給で賃金が決まる古典的な労働市場とは大きく違う日本の労働市場の姿である。世界的インフレと急激な円安による物価高が家計を圧迫するなか、賃金がなぜ上がらないのかが問題視されている。だがコロナ禍以前から日本では「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」ということが経済学者の間で議論されてきた。2017年の玄田有史・東大教授の編さんによる研究書に収められた論文の多くは、その理由として日本の労働市場が経済学の教科書的なモデルとかけ離れている点を指摘する。例えば近藤絢子・東大教授は、(1)看護や介護など政府による価格規制がある産業で賃金が停滞し、(2)他の産業では人手不足なのに賃金が停滞しているというよりは賃金が上がらないために人手不足が生じている、そして(3)賃金は一度上げると下げられないのでたとえ人手不足でも企業は賃金を上げない――と論じる。いずれも資本主義の行き過ぎによるものではなく、政府の規制や社会の慣習により労働市場が十分に働いていないという指摘だ。日本の労働市場が正規と非正規、フルタイムとパートタイムなどに分断され、二重構造になっていることも賃金を停滞させる要因である。筆者はカナダ・トロント大のフィリップ・リプシー教授と編さんした「The Political Economy of the Abe Government and Abenomics Reforms」(21年)の一章でアニル・カシャップ米シカゴ大教授と共に、ここ30年ほどの間に日本の賃金がなぜ労働需給に反応しなくなり、物価も景気に反応しなくなったのかを分析した。まず、毎月勤労統計調査の「きまって支給する給与」の額をその月の総労働時間数で割った時間あたり賃金を、フルタイム労働者とパートタイム労働者について計算した。その賃金が失業率で測られる労働市場の状況にどれだけ反応するかをみると、失業率が低下するとき、パートタイムの賃金は上昇するのに対し、フルタイムの賃金はそれほど上昇しないことがわかった。つまり労働需給が逼迫すると、パートタイム労働者の賃金は上昇するが、フルタイム労働者の賃金はあまり反応しないのである。図は論文のグラフを21年まで更新したもので、フルタイム、パートタイムおよび全労働者の平均賃金の推移を示す。90年代末から10年代半ばまで、フルタイムの賃金が名目でほとんど変わらなかった一方、パートタイムの賃金は水準こそ低いが緩やかに上昇したことがわかる。賃金が停滞したのは、市場での競争にさらされたパートタイム労働者ではなく、市場からある程度隔離されたフルタイム労働者だったのだ。北尾早霧・東大教授と東大大学院の御子柴みなも氏の最近の論文「Why Women Work the Way They Do in Japan: Roles of Fiscal Policies」も、日本の労働市場の二重構造に注目する。特に既婚女性の多くが非正規で低賃金の職に就く理由が、配偶者に対する税制や社会保障制度上の条件付き優遇措置にあることを示す。厚生年金に加入する夫(第2号被保険者)に扶養される女性は、第3号被保険者として社会保険料を納付する義務がない。さらに第2号被保険者が死亡した場合、扶養されていた配偶者に遺族年金が支給される。こうした優遇措置があるため、主婦は夫の扶養家族にとどまれるように、自身の年収を低く抑えようとする。所得税法上も妻の年収が一定額を超えない限り、夫は配偶者控除を利用できるので、女性の所得抑制が促される傾向がある。北尾教授らの計算によれば、これらの優遇措置を撤廃すれば女性の労働参加率は12.5%上昇し、平均所得も27.7%増加する。低所得の配偶者を助けようとする政策が、労働市場の機能をゆがめて、女性そして非正規労働者の賃金が抑えられる結果を招いている。賃金が上がらない理由には、日本の労働者・労働組合が賃上げを要求しないという文化的要因もあるようだ。リクルートワークス研究所が20年に実施した「5カ国リレーション調査」によると、入社時に自分から希望の賃金額を伝えたり、会社からの提示後に自分の希望を伝えたりした人の比率は、希望がかなわなかった場合も含め24%にすぎない。米国では68%、フランス、デンマーク、中国ではそれ以上である。また賃金の決定に最も影響を与える要因を会社との交渉、労働市場の相場、会社の人事制度、上司の主観、個人の成果などから選んでもらう問いで、日本では24%が「わからない」と答え、次に多いデンマーク(8%)の3倍になっている。日本で賃金が停滞しているのは、新自由主義の下で株主に行き過ぎた分配がなされているからではない。資本主義的な労働市場とは違った形で賃金が決定されたり、伝統的な家族像にフィットするような低所得の配偶者を助けようという政策があったり、労働者が能力や貢献に応じた賃金を要求しにくい文化だったりと、資本主義が十分に浸透していないからである。行き過ぎた資本主義よりも、資本主義の不徹底が問題なのは労働市場に限らない。岸田政権が強調するイノベーション(技術革新)の不足も、既存大企業が不十分な生産性向上でも生き残ることができ(低い退出率)、イノベーションの源泉であるスタートアップが参入しにくい(低い参入率)ことに原因がある。日本の開廃業率を高め、経済のダイナミズムと成長を促す必要があるという指摘は正しい。ただし、そのためにまず必要なのは現状以上に厳しい市場環境ですべての企業が付加価値の増進を目指すことだ。この意味で、日本に必要なのは新しい資本主義ではなく、普通の資本主義なのだろう。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220726&ng=DGKKZO62864380V20C22A7TL5000(日経新聞 2022.7.26) 脱炭素、いざリスキリング、欧州で進む「公正な移行」、日本は政策構想なく 
 世界的な脱炭素のうねりは労働市場も揺るがす。国際労働機関(ILO)によると、2030年までに石油など化石エネルギー分野で約600万人の雇用が失われるという。欧州は官民一体で再生可能エネルギーへの労働移動を進める。資源小国の日本も自動車エンジン産業の裾野は広く、対岸の火事ではない。この波を越えていく政策構想は描けているか。石油元売り大手、ENEOSホールディングスは23年10月、和歌山製油所(和歌山県有田市)を閉鎖する。約450人の従業員は配置転換などで雇用を維持するが、協力会社の約900人は見通しが立っていない。有田市の製造品出荷額の9割以上を占めるだけに仁坂吉伸・和歌山県知事は「ある意味でモノカルチャー経済のところ。地域に死ねというのか」と同社に雇用対策を強く要請した。
●世界の石油精製 雇用160万人消失
 温暖化ガス排出削減のパリ協定に基づき、主要国は50年に実質的な排出ゼロ「カーボンニュートラル」を達成する目標で歩調を合わせた。ILOは30年までに世界の石油精製ビジネスで約160万人が仕事を失うと試算しており、ENEOS和歌山製油所はその一部だ。原油の採掘では140万人、石炭火力発電では80万人が失業する可能性がある。日本国内の石油産業で働くのは元売りの製油所からガソリンスタンドのアルバイトまで含めて約30万人とされる。約6700万人の就業人口の1%に満たず、これだけならマクロ経済への影響は限定的だ。ただし、カーボンニュートラルで雇用が減るリスクがあるのは化石エネルギー関連にとどまらない。日本の産業構造をみると、自動車の環境対応が最大の不安要因といえる。「再生エネルギー導入が進まなければ、国内自動車産業の70万~100万人の雇用に影響が出る」。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は21年の記者会見で警鐘を鳴らした。車の走行時だけでなく、製造工程から最終的に廃車になるまで総合的に環境性能を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」が広がっている。火力発電の比率が高い日本は製造時の電力消費によってCO2を多く排出するとみなされ、国際競争で不利になりかねない。政府は35年までに国内で販売される新車をすべて電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などとする方針を掲げた。神戸大学の浜口伸明教授の試算によると、車のパワートレイン(駆動装置)にかかわる雇用は約31万人。新車すべてがEVになれば、多くが仕事を失う可能性がある。「中国や欧州のEV化の加速を肌身で感じていたが、コロナ前までまだ10~15年は仕事があるとみていた」。21年に破産したエンジン向けアルミニウム鋳造設備メーカー、大阪技研(大阪府松原市)の大出竜三元社長は振り返る。主要取引先のホンダが想定外に早くEVへとかじを切り、大阪技研はついていけなかった。欧州は脱炭素をめぐる雇用対策と産業振興をセットにした「公正な移行」を進めている。英国政府は21年、北海油田の石油ガス産業と「北海移行協定」を締結。洋上風力発電や水素製造など再生エネに共同で最大160億ポンド(約2兆6000億円)を投じる。
●英国の官民連携 洋上風力へ7万人
 英政府はこのほど石油メジャーのシェルやBP、民間最大労組ユナイトと連携し、石油採掘プラントの技術者らに再生エネのスキルを身に付けさせるリスキリング(学び直し)を始動させた。24年までに石油ガスと洋上風力の技能資格の共通化を進める。北海移行協定には、今後10年で石油ガスの雇用が約5万人減り、洋上風力は約7万人増えるという具体的なシナリオがある。グレッグ・ハンズ・エネルギー担当閣外相は「エネルギー転換にはスキルの再配置が重要。関連産業が協力して労働移動を促進する」と政策の意義を強調する。スペインでも政府とエネルギー会社が協定を結んで石炭から再生エネへの転職を支援する。欧州連合(EU)は21年、化石エネルギー産業からの労働移動のため175億ユーロ(約2兆4000億円)の基金を設立している。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まりフェローは「日本は省庁の縦割りで、欧州のような総合戦略をまとめ切れていない」と指摘する。地元産の摘果ミカンによるバイオエタノール製造か、バイオマス発電か――。ENEOS和歌山製油所の跡地転用はまだアイデア出しの段階だ。設備の撤去や土壌浄化に数年を要することもあり、中小取引先には廃業を検討する動きも出ている。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220725&ng=DGKKZO62860570V20C22A7MM0000 (日経新聞 2022.7.25) 「人への投資」100社超連携、ソニーやキリン、相互に兼業も
 ソニーグループやキリンホールディングス、SOMPOホールディングスといった日本の主要企業が、社員のリスキリング(学び直し)で連携する協議会を8月に設立することが明らかになった。経済産業省と金融庁が支援し、100社超の参加をめざす。社員が相互に兼業・副業する仕組みを設けたり、共同で学び直しの場を提供したりすることを検討し「人への投資」の拡大につなげる。官民共同で設立するのは「人的資本経営コンソーシアム」。人への投資は岸田文雄政権が掲げる経済政策「新しい資本主義」でも重視される。具体策は手探り状態の企業が多い。意欲的な企業が知見を持ち寄り、取り組みが遅れている企業の人材戦略に刺激を与えるような連携をめざす。協議会の参画企業はまずリスキリングの先進的な事例の共有や協力を検討する作業部会を設ける。参加企業間で相互に兼業人材を受け入れたり、リスキリングのメニューを共同開発したりすることも視野に入れる。リスキリングは企業や社員の成長力向上に欠かせない。デジタル技術などを集中的に学び直し、企業内でイノベーションを起こしたり、成長分野に転職したりしやすくする必要がある。企業が成果を適切に評価し、処遇することも求められる。例えば自動車部品最大手の独ボッシュは、世界40万人の全社員のリスキリングを試みている。独自の教育施設を整備し、ソフトウエアやデータ分析などに精通した人材を育成。クルマの電動化や自動運転など成長市場を開拓するための教育に注力する。兼業や副業を通じて獲得した多様な能力や経験は、本来の所属先にも新たな刺激やアイデアをもたらす可能性を秘める。協議会には人的投資の情報開示のあり方を協議する作業部会もつくる。政府は企業に対し、従業員の育成費用や育児休業取得率、男女の賃金格差といった多様性を示す指標など、人への投資にかかわる経営情報を開示するよう求める方針だ。企業は具体的な数値目標や事例の公表を迫られる。国内外の投資家が企業価値を判断する際、人への投資の実績に着目し始めている。実際にどの項目をどう開示すればよいか悩む企業担当者も多いとみられる。協議会では効果的な開示手法の情報共有も想定する。企業の採用活動でも人への投資は無視できない要素となっている。兼業・副業の容認などに着目して企業を選ぶ学生もおり、企業の開示の重要性は増している。発足メンバーにはアセットマネジメントOneといった投資会社も入る方向だ。協議会で、参加企業の最高経営責任者(CEO)と投資家が意見交換できる場をつくり、資本市場の視点でどのような人的投資が望ましいか学べる環境も整える。日本は人への投資で米欧に大きく後れを取る。厚生労働省の推計では、国内総生産(GDP)に占める企業の能力開発費の割合は2010~14年の平均で0.1%だった。米国や欧州は90年代から1~2%で推移する。経済協力開発機構(OECD)によると、仕事に関連するリスキリングへ参加する人の割合は日本で35%と、50%前後の米国や英国に比べて低い。

(脱炭素から脱公害へ)
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15370473.html (朝日新聞社説 2022年7月28日) 生態系の保全 未来への責任を果たす
 2030年までに陸と海のそれぞれ30%を保全する―。「30by30」と呼ばれる国際目標がある。どんな施策を講じてこれを達成し、貴重な生態系を守るか。日本も確実にその役割を果たさねばならない。目標は、昨年の主要7カ国首脳会議で合意され、今年12月にカナダで開かれる生物多様性条約締約国会議(COP15)での採択が検討されている。生物多様性と生態系の現状を科学的に評価する国際組織(IPBES)が今月上旬にまとめた報告書によると、世界は食料、医薬品、エネルギーなどとして、約5万の野生種から便益を得ている。だが、将来も食べたり利用したりできる野生生物は34%にとどまると推測。全漁獲量の3分の1は乱獲というべき状態にあり、木材なども含めた違法な取引は最大年間2千億ドル(約27兆円)近くに及ぶという。人類の「持続可能性」が問われる数字だ。報告書が指摘するように、価値観の転換と社会の変革が求められる。「30by30」に向けて、国内では関係省庁が具体策を詰める作業を進めている。30%は高い数字だが、これまでに陸域の20・5%、海域(領海と排他的経済水域)の13・3%が保護地域に指定されており、この拡大をめざす。企業などが持つ水源林、里山、緑地公園、河川敷といった自然が守られているところを取り込み、生物多様性の保全に役立つ地域に位置づける。海は漁業などとの両立が引き続きの課題だ。数字をただ積みあげて30%に近づけるのではなく、継続して管理し、着実に生態系を守る制度にすることが大切だ。企業や地域住民が進んで協力しようと思える「メリット」を提供することも必要になろう。気候変動対策との調整という課題もある。保全区域が太陽光発電や風力発電の適地とされることは十分考えられる。場所の決め方、区域指定を解除する要件、それにかわる新たな区域の指定に関する手続きなど、柔軟に対応できる仕組みを用意しておくことも欠かせない。取り返しがつかなくなる前に有効な手を打ち、生態系の損失を食い止め、回復させていく。今に生きる私たちの責務だ。このまま陸や海の資源を使い、枯渇させることは、未来の世代に対する背信に他ならない。気候変動対策と同じく、それぞれの国・地域の戦略、今日まで自然の恵みを享受してきたところとそうでないところとの対立など、難題が待ち受ける。政府には、目標の達成に早期に道筋をつけ、国際社会で議論をリードすることを期待したい。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220723&ng=DGKKZO62845640S2A720C2EA1000 (日経新聞 2022.7.23) 規制委が処理水放出の計画認可 設備着工、近く地元判断 東電、来春実施へ猶予なく
 原子力規制委員会は22日、東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、タンクに保管してきた処理水を海洋放出する設備の工事計画を認可した。2023年夏~秋には既存のタンクが満杯になる見通しで新設場所も限られるため、23年4月の放出開始を目指している。認可が想定より2カ月遅れ、工程に余裕がなくなっているが、タンクは廃炉作業の妨げになっており、地元の理解や工期の短縮に力を入れる。2カ月遅れたのは、東電が実施した放出に伴う環境への影響の評価について、国際原子力機関(IAEA)が求める方法でやり直す必要が生じたため。東電は当初、6月の着工を予定していた。23年4月の完成に向けて2カ月ほど工期を短縮する必要があり、具体的な工事計画を練り直す。東電が8月と見込む着工の前には福島県など地元の了解を得る必要がある。福島第1原発では冷却などのために毎日約130トンの汚染水が出ている。東電は専用装置で大半の放射性物質を浄化処理し、敷地内に1000基を超えるタンクを設置し処理水をためてきた。東電は22年後半にも原子炉容器内で核燃料が溶けて固まったデブリの取り出しに着手する。事故から30~40年かかる廃炉作業が本格化する中、タンクで敷地が埋まり、放射性廃棄物の管理といった作業スペースの確保などが課題になっていた。更田豊志委員長は22日の記者会見で、タンクが減れば作業スペースをとれるとして「大変意義がある」と指摘した。規制委は5月に放出の設備計画について事実上の合格証である「審査書案」をとりまとめ、一般の意見を募った。寄せられた1200を超える意見を踏まえて審査書を決定し、計画を認可した。
処理水を巡っては21年4月に当時の菅義偉首相が2年後をめどに海洋放出する方針を決めた。処理水にはトリチウムなどの放射性物質が含まれる。計画では海水で100倍以上に希釈して、トリチウムの濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1にして放出する。トリチウムの海洋放出は国内外の原子力施設で実施されており、更田氏も繰り返し「環境影響は起こりえない」との見解を示している。地元関係者や近隣諸国などが放出に反対しており、対策を講じてきた経緯がある。国と東電は漁業者に対して「関係者の理解なしに(処理水の)いかなる処分も行わない」と公表している。全国漁業協同組合連合会などが反対している。政府は風評の影響に対応するため、300億円の基金創設を決め、漁業後継者を育てる支援策も検討している。近隣諸国は懸念を示している。中国外務省の汪文斌副報道局長は22日の記者会見で「日本(政府)は各方面の関心を顧みず、無責任を極めており、断固として反対する」と発言した。そのうえで「もし日本が自分の意思を押し通し、危険な一歩を踏み出すのなら、無責任な行動に代償を払うことになり、必ず歴史に汚点を残すだろう」と主張した。韓国は外務省が「日本に海洋放出の潜在的影響に対する憂慮を伝え、必要な情報提供を求める」とのコメントを出した。こうした状況もあり、政府はIAEAに検証を依頼した。第三者の厳しい目でチェックしてもらい、放出計画の科学的な安全性や実施体制などのお墨付きを得る狙いがある。グロッシ事務局長やIAEAが派遣した専門家はこれまでのところ放出に関して「問題はない」と明言している。IAEAは放出の前にも改めて報告書を公表する。足元では電力不足が懸念され、脱炭素の効果もある原発について岸田文雄政権は「最大限の活用」を掲げる。原子力全体の信頼回復のためにも、処理水の放出や廃炉作業が重要になっている。

*3-2-2:https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/192505 (中國新聞社説 2022年7月24日) 「処理水」放出案認可 責任取れる判断なのか
 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出計画を原子力規制委員会が認可した。「設備の安全性や緊急時の対応に問題がない」ことを理由に挙げている。認可を受け、東電は来春をめどに放出開始を目指すが、放射性物質を含む処理水を海に流すことには賛成できない。処理水を保管する千基余りのタンクは来秋には満杯になるという。廃炉作業に支障が出かねないとして菅政権が昨春、海洋放出を決めた。認可はその決定に対する技術的な「お墨付き」であり、放出を既定路線化したい政府の思惑も透けて見える。処理水に含まれる放射性物質トリチウムなどが健康被害をもたらす可能性は否定できない。それが確認されなくても風評被害を招くことは避けられまい。地元の漁業者を含め、全国漁業協同組合連合会が激しく反対している。政府や東電が放出計画を強引に進めることなどあってはならない。高濃度の放射性物質を含む汚染水を、多核種除去設備(ALPS)で浄化したものが処理水である。計画では国基準値の40分の1未満になるよう大量の海水で薄め、海底トンネルを通して沖合1キロに放出する。ただALPSでトリチウムは除去できない。政府は「原発の排水にも含まれている物質」と危険性の低さを強調するが、体内に蓄積される内部被曝(ひばく)の影響まで否定できるものではない。そもそも通常運転の原発からの排水と、メルトダウンした核燃料(デブリ)に触れた福島第1原発の汚染水では事情が全く異なる。東電がトリチウム以外は除去したと説明してきた処理水に、基準値を超えるヨウ素やルテニウムなどの放射性物質が存在していたことも明らかになっている。不安が拭えない根本に、これまでの不誠実な対応のツケがあるということを政府や東電はまず自覚せねばならない。「関係者の理解なしに海洋放出は行わない」と約束もしている。ならば漁業者らの反対を押し切って計画を強行することが許されるはずもなかろう。宮城県の村井嘉浩知事が規制委の認可に対し「海洋放出以外の処分方法の継続検討を求めていく」としたのももっともだ。東電は周辺地域にさらに負担をかけるとして、原発敷地外での保管には消極的という。だからといって海洋放出が許される理由にはならない。新たな敷地探しや洋上保管なども選択肢として検討すべきではないか。規制委の認可に韓国は「潜在的影響」への憂慮を示し、責任ある対応を日本政府に求めることを決めた。中国は「無責任」と激しく反発している。原発事故による輸入規制は13カ国・地域まで減っているが、海洋放出をすれば再び規制を強化する国が増えかねない。風評被害の克服に取り組んできた福島の人たちに冷や水を浴びせることにもなろう。福島第1原発事故に由来するセシウムが北極海にまで広がっていた事例も報告されている。人体に静かに蓄積され、長期間にわたり被害を及ぼしかねないことを踏まえれば、海洋放出の判断には慎重を期すべきだ。子や孫やその先の世代に影響が出ても、その時に今回の認可の責任を取れる人は誰もいないことを忘れてはならない。

*3-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15365762.html (朝日新聞 2022年7月23日) 「原発新増設や建て替え必要」 原子力産業協会が提言
 原子力発電に関連する企業などでつくる「日本原子力産業協会」は22日、原発の新増設やリプレース(建て替え)を求める提言を発表した。同協会は、こうした提言を出すのは初めてとしている。原発のサプライチェーン(供給網)維持のために新増設や建て替えが必要だと訴えている。東京電力福島第一原発事故を受けて、原発への国民の不信感は根強い。政府は新増設や建て替えは「現時点で想定していない」とし、国内では凍結が続く。だが、ウクライナ危機によってエネルギーの安定供給が揺らぎ、「原発復権」の機運が政府・与党内で高まっている。原発の「最大限活用」を掲げる岸田政権について、同協会の新井史朗理事長は同日、「原子力に対して強い期待を述べられている」と評価した。提言は、再稼働や新増設の見通しが不透明なため、原発事業から撤退する企業が出ていると説明。技術の維持や人材確保のために新増設や建て替えを国のエネルギー計画に明記するよう求めている。昨年秋に同協会が会員企業に実施したアンケートでは、「新設でしか継承できない技術がある」「学生や若手技術者を育成するためのプロジェクトが必要」との意見が出たという。

*3-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/783543 (佐賀新聞 2021/12/14) <オスプレイ>漁協「条件付き協定見直し」回答 空港の協定巡り佐賀県に文書、防衛省含む実務協議求める
 佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画を巡り、佐賀県有明海漁協は14日、県との間で結んでいる自衛隊との空港共用を否定した協定を条件付きで見直すことを、正式に文書で県に伝えた。提示した条件について、県と防衛省の3者で検討状況を確認していく実務者協議の場を設置することも求めた。漁協の西久保敏組合長が県庁に山口祥義知事を訪ねて文書を手渡した。漁協が11月末の幹部会議で決定した事項を記したもので、空港建設時に県との間で結んだ協定について、(1)駐屯地からの排水対策(2)土地価格の目安(3)駐屯地候補地以外の土地取得に関する考え方-の三つを示すことを条件に見直す、とする内容。山口知事は2018年8月に防衛省からの要請を受け入れ、漁協に協定の変更を申し入れていた。文書を受け取った後、山口知事は記者団の取材に応じ「西久保組合長からは『3年間、ずっとボールを持ったままで申し訳なかった』とおわびの言葉があったが、3年間もつらい思いで検討を続けていただき、改めて感謝を申し上げた」と面談の様子を説明した。漁協から要請された協議の場の設置については「課題を共有して条件を解決していく実務者レベルの場をつくっていきたい」と応じる構えを見せた。三つの条件はいずれも防衛省が対応する内容のため、山口知事は「遅くならないうちに、私自身が防衛省に(漁協の考えを)伝えなければならない」と、近く防衛省幹部と面談する意向を示した。「示された条件の解決については、私がしっかり防衛省と向き合って頑張りたい。『ボールが戻ってきた』という感じだ」と述べた。

*3-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/891680 (佐賀新聞 2022/7/27) <オスプレイ 配備の先に>協定見直しの3条件回答 西久保組合長一問一答 「干潮時の排水対策出なかった」
 佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画を巡り、佐賀県有明海漁協の検討委員会は、自衛隊との空港共用を否定した協定を見直す条件として、「駐屯地からの排水対策」など3項目について防衛省から回答を受けた。西久保敏組合長の一問一答は次の通り。
-検討委の内容は。
 排水対策では淡水と海水を混ぜて流すというが、干潮で海水がない時、どういう対策を取るのか答えが出てこなかった。(ノリ漁への影響を)漁業者は気にしている。今日の説明では組合員を納得させる材料が不足している。
-九州防衛局によると、説明した内容を15支所に持ち帰って再度検討してもらい、見直すかどうか判断をされる見立てだった。
 その前に検討委で排水問題を説明してもらわないと。決められない。
-もう1回、検討委を開き、今日の説明より詳しい手続きを書いたものを示してもらって、15支所に投げるのはその後か。
 うーん、多分、そういう風になるのではないか。
-土地価格の目安と、駐屯地候補地以外の土地取得に関する考え方は、報告を聞いて終わりか。
 そう。価格は防衛省が地権者にこの正式な金額を出してこれでどうかというもの。うちが安い高いという話ではないから。
-ノリ漁期に始まる前に方向性をと言われていたが、間に合いそうか
 うーん、防衛省の考え次第。西南部地区は(昨季のノリ漁が)悪かったし、漁期が始まる9月になったら話す余裕はない。検討委を開く話はできない。
-結論としては協定見直しの手続き入りはまだということか
 まだまだだ。
-次の検討委の日程は決まったか。
 決まっていない。

<男女不平等について>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220713&ng=DGKKZO62562890T10C22A7MM0000 (日経新聞 2022.7.13) 男女平等、日本116位 格差指数、G7で最下位 政治分野はアフガン下回る
 世界経済フォーラム(WEF)は13日、男女平等がどれだけ実現できているかを数値にした「ジェンダー・ギャップ指数」を発表した。調査した146カ国のうち、日本は116位だった。改善の必要性が長年指摘される政治や経済分野で指数が上昇せず、主要7カ国(G7)で最低となっている。WEFは経済、教育、健康、政治の4分野で男女平等の現状を指数化。完全に実現できている場合を1、まったくできていない場合をゼロとして毎年分野ごとと総合評価のランキングを発表している。総合評価の上位5カ国は21年と同じ顔ぶれで、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデンだった。女性の政治進出が活発なルワンダは6位に入った。最下位はアフガニスタンだった。地域別では北米が最も格差が低く、次に欧州が続いた。インドなどの「南アジア」で格差が最も大きかった。日本は2021年の発表では156カ国中120位だった。22年のG7各国の順位はドイツが10位、米国が27位、イタリアが63位などで、日本は大きく引き離されている。日本と同水準の国は西アフリカのブルキナファソ(115位)、インド洋のモルディブ(117位)などだ。日本の評価が著しく低いのは政治が理由だ。女性の議員数、閣僚数が圧倒的に少なく女性の首相も誕生していない。政治分野だけでみた順位は139位で世界の最下位圏をさまよう。女性の権利を制限していると指摘されるアフガニスタン(107位)やサウジアラビア(132位)も下回る。家庭との両立に困難を感じ、政界入りをためらう女性がいると指摘されている。家事は女性が担当するものという意識や社会構造が進出を妨げているのも一因だ。世界では議席や候補者数に占める女性の最低の割合を定め、効果を上げている事例もある。女性議員の割合は衆院の3月時点のデータを基にしており、10日投開票の参院選の結果は反映していない。次に評価が低かったのは経済の項目だ。管理職に就く女性の少なさや男女の所得に差があることが順位を下げた。企業が多様性のある判断をしにくくなるほか日本で働く魅力も下がる。海外の優秀な人材が日本に集まらなくなる恐れも強まる。

*4-2:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202207/0015507300.shtml (神戸新聞社説 2022/7/28) 男女平等の遅れ/改善に向け具体的行動を
 各国の男女平等の度合い示す「ジェンダー・ギャップ指数」の2022年版で、日本は146カ国中116位だった。先進7カ国(G7)、東アジア太平洋地域諸国のいずれでも最下位となった。多様な人が力を発揮できる社会の実現に向け、男女格差の解消は急務である。問題意識を共有し、具体的な行動につなげねばならない。指数は、スイスに拠点を置くシンクタンク、世界経済フォーラムが06年から毎年公表している。政治、経済、教育、健康の4分野で女性の進出状況を数値化する。日本は旧来の性別役割分担意識が根強く、順位は低迷したままだ。中でも、政治と経済の分野で重大な意思決定に関わる女性が極めて少ない。政治では、女性の権利抑圧を強めるアフガニスタンよりも順位が低かった。国会議員の女性割合は衆院で1割に満たず、岸田内閣の女性閣僚は19人中、2人にとどまる。今回の参院選では女性候補者が戦後初めて3割を超えたものの、与党の消極姿勢が目立った。この現状を「女性のいない民主主義」と表現する政治学者もいる。変えていくには、思い切った政策が求められる。候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」を導入する国は、今や120カ国を超える。日本も検討を始めるべきだ。経済分野は、前年より指数が悪化した。コロナ禍では、多くの国で女性の方が経済的な打撃を受けた。日本は景気回復が遅れたこともあり、働く女性が減ったほか、もともと低い管理職の女性比率が下がった。見過ごせないのは、日本の女性の賃金が男性より22・1%低く、G7の中で最も男女格差が大きいという問題だ。女性管理職の少なさや勤続年数の短さが要因とされる。女性が力を発揮するための環境整備が追いついていない証しといえる。政府は7月、従業員300人超の企業に対して男女の賃金格差の開示を義務付けた。全社員、正社員、非正規社員のそれぞれについて、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を公表させる。実際の数字が出るのは来春以降になりそうだ。賃金格差を「見える化」することで、改善につなげる必要がある。国際的にも企業の男女平等に関する取り組みは重視されている。各企業は、何が女性登用の障壁となっているのかを検証し、職場風土や人材育成のあり方、評価制度などをいま一度見直してほしい。ジェンダー平等は、多様な人の声が反映される社会の第一歩である。格差解消に取り組む政党や企業に対して、有権者や消費者が前向きな評価をすることも重要になる。

*4-3:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022072800040 (信濃毎日新聞社説 2022/7/28) ジェンダー平等 残念な現状をどう変える 【8・7知事選】
 性差による差別をなくすジェンダー平等の実現は、行政施策や企業活動において待ったなしの課題である。女性が男性と対等に意思決定の場に加わるのは当然の権利であり、多様な価値観の反映により政策や事業のゆがみが少なくなる点でも重要だ。今知事選で、候補の金井忠一氏、阿部守一氏、草間重男氏とも男女共同参画に積極的だ。金井、阿部両氏は、男女の役割分担意識の解消や、政策決定への女性の参画を公約に掲げている。積年の課題であり、厳しい時代を切り開く鍵でもある。その道筋を具体的に語ってほしい。組織の中で、意思決定に変化をもたらすために必要な集団の割合は3割とされる。直近のデータから見えてくるのは、3割さえ遠い長野県の残念な現状だ。県職員の管理職に占める女性の割合は1割に満たない。増えてはいるが、全国平均に届かない。民間企業を含めると、女性管理職の割合は全国を大きく下回る。男女共同参画を率先するために、まず県組織から改善に取り組まなくてはいけない。教育現場のジェンダー平等は、子どもの意識に影響を及ぼす点でより大切になる。県内の小学校の女性教員は6割を超え、中学で4割強、高校で3割強。だが管理職となると、小学校で3割に届かず、中学、高校とも1割強にとどまる。女性は指導的な立場に向かないという無言のメッセージになりかねない。県の審議会などの女性委員は、近年4割台で推移している。専門分野の人材を育成し、県が努力目標とする5割を達成したい。地域においても偏りは著しい。女性の公民館長は8%弱。福祉や防災の要となる区長・自治会長は女性が1・5%しかいない。性別による役割分担意識をどう解消していくのか。上意下達や前例踏襲の組織運営など、自治会のあり方そのものを見直す必要がある。県は市町村と連携して実効性ある啓発に取り組んでほしい。金井、阿部両氏が公約に挙げる賃金や雇用の男女格差の是正は、ジェンダー平等の大事な足掛かりになる。女性が多い保育士や介護士の待遇を改善することは、ケア労働に携わる男性を増やすことにもつながるだろう。男性の育児休業の取得促進も、ケアの権利を保障する側面がある。力を入れてほしい。

*4-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA02A7D0S2A600C2000000/ (日経新聞 2022年6月3日) 21年の出生率1.30 少子化対策見劣り、最低に迫る、6年連続低下
 厚生労働省は3日、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が2021年は1.30だったと発表した。6年連続で低下し、出生数も過去最少だ。新型コロナウイルス禍後に出生数を回復させた欧米と比べて対策が見劣りする上、既存制度が十分使われず、支援が空回りしている。このままでは人口減少の加速に歯止めがかからない。出生率は05年の1.26が過去最低。21年の1.30は前年より0.03ポイント低下し、過去4番目に低い。1.5未満が「超少子化」水準で、1.3未満はさらに深刻な状態とされる。出生数は81万1604人と前年比2万9231人減で6年連続で過去最少だった。厚労省は15~49歳の女性人口の減少と20代の出生率低下を理由に挙げる。結婚の減少も拍車をかけた。21年は50万1116組と戦後最少でコロナ禍前の19年比で10万組近く減った。婚姻数の増減は出生数に直結する。コロナ下の行動制限の影響で出会いが減少したことが影響したとみられる。コロナ下で出生数が減る現象は各国共通だが、欧米の一部は回復に向かっている。米国は21年に約366万人出生し7年ぶりに増えた。出生率も1.66と前年の1.64から上昇した。フランスも21年の出生率は1.83で、20年の1.82から上がり、ドイツも21年の出生数は増加する見通しだ。手厚い少子化対策が素早い回復を促した。野村総合研究所のまとめでは、フランスや英国などは不妊治療の費用を全額助成する。日本は長く不妊治療への支援が限定的だった。22年4月から不妊治療への保険適用が始まったが、仕事との両立に悩むカップルは多い。治療しやすい環境が伴わなければ、保険適用の効果は限定的になる。子育て環境の面でもスウェーデンは両親で合計480日間の育休を取得できる。90日は両親それぞれに割り当てられ、相互に譲渡できない。取得しないと給付金を受け取る権利を失う。日本は男性の育休取得率が20年度で12.7%にとどまる。制度を整えるだけで、取得促進が後手に回った。ミスマッチも目立つ。94年の「エンゼルプラン」で仕事との両立や家庭支援など施策に取り組むと表明したが、多くは子どもを産んだ後の支援だった。前段階となる婚姻を促す若年層への経済支援は限定的だった。中京大の松田茂樹教授は「若い世代の雇用対策と経済支援が必要」と話す。結婚に至らない理由に経済的な不安定さがあるといい、「正規雇用でも賃金が不十分な人が多い。若い世代のキャリア形成支援が結婚、出産に結びつく」と指摘する。出生から死亡を引いた自然減は62万8205人と過去最大になった。国立社会保障・人口問題研究所の予想を上回る速さで進む出生減が主因だ。想定以上の少子高齢化が進めば日本の社会基盤が揺らぎ、世界の経済成長に取り残されていく。

*4-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA032RT0T00C22A6000000/ (日経新聞 2022年6月4日) 合計特殊出生率とは 人口維持には2.06~2.07必要
▼合計特殊出生率 1人の女性が生涯のうちに産む子どもの数の平均。15~49歳の女性が産んだ子どもの数を、それぞれの年齢別の人口で割って合算する。専門家によって用法に違いはあるが、1.5未満が「超少子化」とされ、1.3未満はさらに深刻な区分となる。日本は終戦直後は4.0を超えていた。1947~49年生まれの「団塊世代」が20代後半になった75年に2を割り込み、低下傾向が続く。95年に1.5を下回り、05年には過去最低の1.26を記録。近年は1.3台で推移する。人口を維持するには2.06~07が必要とされる。日本は国境を越える人口移動が乏しく、将来の人口規模は出生率でほぼ決まる。先進国を中心に各国も低下基調にある。結婚や出産に対する価値観の変化や子育て費用の増加などが背景にある。ただ保育関連政策を手厚くしたスウェーデンなどは日本より高い出生率を保つ。少子化は将来の人口減に直結する。労働力や経済力の低下を招くほか、現役世代が支える構図の社会保障制度の維持が困難になり、社会全体の活力を低下させる。

*4-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220731&ng=DGKKZO63058800R30C22A7MM8000 (日経新聞 2022.7.31) 出生率反転、波乗れぬ日本、先進国の8割上昇、夫在宅でも妻に負担偏重
 先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した。新型コロナウイルス禍で出産を取り巻く状況がまだ厳しい中で反転した。ただ国の間の差も鮮明に現れた。男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れを変えられていない。経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国のうち、直近のデータが取得可能な23カ国の21年の合計特殊出生率を調べると、19カ国が20年を上回った。過去10年間に低下傾向にあった多くの国が足元で反転した格好だ。21年の出生率に反映されるのは20年春から21年初にかけての子づくりの結果だ。まだワクチンが本格普及する前で健康不安も大きく、雇用や収入が不安定だった時期。スウェーデンのウプサラ大学の奥山陽子助教授は「出産を控える条件がそろい、21年の出産は減ると予想していた。それでも北欧などでは産むと決めた人が増えた」と話す。理由を探るカギの一つが男女平等だ。20年から21年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると相関関係があった。世界経済フォーラム(WEF)の22年版ジェンダーギャップ(総合2面きょうのことば)指数で首位だったアイスランドの21年の出生率は1.82。20年から0.1改善し、今回調べた23カ国で2番目に伸びた。19年まで出生率の落ち込みが大きかった同2位のフィンランドは2年連続で上昇し、21年は0.09伸びて1.46まで回復した。奥山氏は「長い時間をかけてジェンダー格差をなくしてきた北欧では家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく、女性に負担が偏りにくい」と指摘。コロナ禍で在宅勤務が広がるなか「男性の子育ての力量が確認された」という。日本は状況が異なる。「第2子を期待したが諦めた」。埼玉県に住む30代の共働き世帯の女性は肩を落とす。コロナ禍で夫婦とも在宅勤務が増え、夫が家事・育児に加わり2人目の子を持つ余裕ができると考えた。結果は「頼れないことがわかった」。自宅で何もしない夫のケアまで上乗せされ、逆にコロナ前より負担が増えたという。先進国の中でもジェンダー格差が大きい日本と韓国の出生率はいずれも0.03下がった。韓国は出生率0.81と深刻で、日本も1.30と人口が加速的に減る瀬戸際にある。家庭内の家事・育児時間の男女差が4~5倍ある両国は女性の出産意欲がコロナ禍で一段と弱まった恐れすらある。ジェンダー格差とともに少子化に影を落とすのは収入だ。東京大学は男性を年収別のグループで分けて40代時点における平均的な子供の数の推移を調べた。2000年以前は差が小さかったのに対し、直近は年収が低いグループの子供の数が高いグループの半分以下になった。十分な収入を確保できない状況が続けば育児は難しい。共働きで世帯収入を増やすことは出生率を底上げする。先進国で女性の社会進出は少子化の一因とされ、1980年代には女性の就業率が上がるほど出生率は下がる傾向にあった。最近は北欧諸国などで経済的に自立した女性ほど子供を持つ傾向があり、直近5年では女性が労働参加する国ほど出生率も高い。日本は女性の就業率が7割と比較的高いにもかかわらず出産につながりにくい。家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さといった多岐にわたる原因が考えられる。保育の充実といった支援策に加え、男女の格差是正から賃金上昇の後押しまであらゆる政策を打ち出していく覚悟が必要になる。

*4-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220804&ng=DGKKZO63171260U2A800C2MM8000 (日経新聞 2022.8.4) 米下院議長「米台は団結」 25年ぶり訪台、蔡総統と会談、中国、島囲み軍事演習
 ペロシ米下院議長が3日、訪問先の台湾で蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談した。ペロシ氏は「米台の団結を明確にするため訪問した」と述べ、台湾の民主主義を支える考えを強調した。蔡氏は謝意を示し「民主主義の防衛線を守る」と語った。訪問に強く反発する中国は、台湾を取り囲む形で軍事演習に乗り出す。ペロシ氏は3日夜、次の訪問先である韓国に到着した。米下院議長の訪台は1997年のギングリッチ氏以来、25年ぶり。米下院議長は大統領の継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職だ。ペロシ氏は会談で「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と語った。中国本土と台湾が不可分だとする中国の立場に異を唱えないが、台湾の安全保障には関与する米国の「一つの中国」政策を尊重し「台湾への関与を放棄しない」と強調した。蔡氏は「自衛力を高め、台湾海峡の平和と安定に努力する」と述べた。ペロシ氏は会談後の共同記者会見で、米台の貿易協定が近く実現する可能性があるとの見方を示した。台湾積体電路製造(TSMC)などの半導体工場を補助金を出して誘致する米の新法については「米台の経済交流の扉を開くものだ」とアピールした。台湾は先端半導体の生産で世界の9割を占める。台湾メディアは蔡氏が3日開いた昼食会に、ペロシ氏に加え、TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が出席したと報じた。ペロシ氏は2日夜に台北に到着。中国への配慮から滞在を短時間にとどめるとの見方もあったなか、一晩を過ごしたのは台湾が歴訪先の他のアジア諸国と「同格」と示す狙いがあったとみられる。ペロシ氏の訪台を受け中国は猛反発している。王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は3日の異例の談話で「中国の平和的台頭をぶち壊すことは完全に徒労で、必ず頭を打ち付けて血を流す」とペロシ氏を非難した。台湾の国防部(国防省)は3日、中国軍機27機が防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表した。うち22機が台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を、台北に近い北側で越えた。中国人民解放軍は即座に対抗措置に動いた。2日夜から、海空軍やロケット軍、サイバー攻撃を担う戦略支援部隊などが台湾の北部、西南部、東南部の空海域で統合演習を実施している。4日から7日にかけては台湾を取り囲む6カ所で軍事演習を始める。演習場所は複数の箇所で台湾の「領海」と重なるうえ、台湾海峡の中間線上でも実施する。96年の台湾海峡危機の際の演習エリアは4カ所だったが、今回は2カ所増やした。台湾本島から約20キロメートルの空海域も指定されている。主要7カ国(G7)外相は3日、中国の「威嚇的な行動、特に実弾射撃演習や経済的威圧を懸念する」との共同声明を出した。中国による飛行禁止区域設定を受け、ANAホールディングスは、5日と6日の羽田―松山(台北)便について、通常とは別ルートでの対応を検討する。バンコク便や香港便にも影響が生じる可能性がある。日本航空(JAL)も同様の対応をとる。日本郵船は台湾海峡の通航回避を検討するよう注意喚起を出した。

*4-5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220804&ng=DGKKZO63170780T00C22A8EA1000 (日経新聞社説 2022.8.4) 米中は台湾めぐる危機管理の構築急げ
 ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、蔡英文総統との会談で「米国は台湾と団結する」と訴えた。反発する中国は、台湾を取り囲むように6カ所の海・空域を一方的に設定し、4日から軍事演習を予告するなど緊張が高まっている。バイデン米大統領と習近平・中国国家主席が電話協議で意見交換したように、衝突回避こそが最も重要だ。双方は、台湾を念頭に置く危機管理メカニズムの構築を真剣に考えるべきである。米下院議長の訪台は初めてではない。1997年、下院議長だったギングリッチ氏が台北入りし、当時の李登輝総統に会った。中国は反発したものの自制し、半年後のトップ訪米で対米関係を軌道に戻した。今回との違いは、ペロシ氏がバイデン民主党政権の与党幹部で、大統領職の継承順位が副大統領に次ぐ地位にある点だ。当時、野党共和党の重鎮だったギングリッチ氏とは重みが異なるというのが中国側の言い分である。とはいえ、米民主主義の三権分立により、バイデン氏に議会を代表するペロシ氏の行動を止める権限がないのは明らかだ。バイデン氏が「一つの中国政策」維持を明言した以上、中国側は危険な軍事的威嚇に踏み切るべきでない。台湾封鎖を想起させる周辺部での軍事演習が数日間、実施されれば、台湾の人々の対中感情はさらに悪化する。国際的な対中圧力が強まるのは必至で、中国にとっても利は少ない。最近、中国は「台湾海峡は国際水域ではない」と主張し始めた。米側はこれを否定し、国際法上、認められる航行を続ける構えだ。今後は中国軍機が台湾海峡の中間線を無視する行動を頻繁にとる可能性もある。偶発的な衝突がいつでも起きうる状況だ。米中首脳は今こそ、顔を突き合わせた会談で腹を割って話し合う必要がある。見解の相違はあるだろう。それでも欠如している危機管理の仕組みづくりは不可欠だ。まずは11月、インドネシアのバリ島で開く20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)を利用した直接会談が考えられる。米中は、ロシアのウクライナ侵攻でも立場を大きく異にする。両国には率直な対話を通じて、早期の和平に道筋を付ける責任がある。ウクライナと台湾をめぐる問題は、今後の世界経済の安定にとっても極めて重要だ。

*4-5-3:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1002339 (沖縄タイムス社説 2022年8月4日) [米下院議長の訪台]緊張緩和の努力 今こそ
 ペロシ米下院議長の台湾入りをきっかけに、台湾周辺で米国と中国の軍事的緊張が高まっている。中国軍はペロシ氏が訪台した2日夜から台湾周辺で演習や実弾射撃を始めた。これに対し米海軍は、周辺海域に空母打撃群を派遣、台湾軍も警戒態勢を強化するなど軍事的威嚇がエスカレートしている。ペロシ氏は大統領権限の継承順位で副大統領に次ぐ2位の位置付けだ。下院議長による訪台は1997年にもあったが、当時は野党だった。今回は与党で重みが違う。新疆ウイグル自治区などでの中国政府による人権弾圧を批判してきたペロシ氏の訪台計画について、中国は当初から猛反発していた。バイデン大統領もリスクがあることをペロシ氏に直接伝えた。中国軍が訪台阻止を目指して行動に出たり、ミサイル発射など台湾の安定を損なう動きに出たりする懸念を表明したとみられる。訪台の結果、中国軍は台湾を囲む六つの海空域で実弾を使用した軍事演習を予定するなど、さらなる軍事的圧力を強めている。このタイミングでの訪台が適切だったのか。米中両国は、7月末に電話による首脳会談を実現するなど安定した関係を模索していた。しかし今月、ともに国際会議に出席する王毅国務委員兼外相とブリンケン国務長官について中国外務省は「会う予定はない」とした。緊張が高まる今こそ、両国は対話の道を閉ざすべきではない。
   ■    ■
 台湾に近い与那国町では、近海での偶発的な衝突を懸念する漁協が、周辺海域での操業について漁業者らに注意を呼びかけた。演習予定海域については水産庁などから情報提供はあったものの、不安は尽きない。台湾近海での演習は爆発音が聞こえることもあるといい、緊張感が高まる。米軍嘉手納基地では、同基地所属でない外来のKC135空中給油機21機が駐機しているのが確認された。多数の給油機が同時期に集結するのは異例だ。訪台に関係した動きとみられる。中国軍の動きを受けて米軍は、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」の近くに原子力空母ロナルド・レーガンや強襲揚陸艦2隻を配置。艦載輸送機が嘉手納に飛来したのも確認された。米軍基地が集中する県内では有事への懸念が高まり、外来機増加による騒音被害も心配だ。県民の不安と基地負担を取り除く外交努力は、日本政府の責務でもある。
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 台湾を巡る情勢の安定は、アジア太平洋地域の安全保障に直結する。バイデン政権は三権分立制度の下、ペロシ氏の判断で訪台したとして、政府の関係構築とは切り離して対応する方針だ。高まった緊張を緩和し、米中は危機時の連絡体制の確立を急ぐ必要がある。ペロシ氏は4日に来日し、岸田文雄首相との会談も調整している。日本を含む関係国の安全保障に直結する危機であり対話が重要だ。

*4-5-4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E3%81%A4%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%9B%BD (Wikipediaから一部抜粋) 一つの中国
●中華人民共和国が主張する「一つの中国」
 かつて、国際連合安全保障理事会常任理事国であった中華民国は、中華人民共和国と『中国唯一の正統政府である』との立場を互いに崩さなかった。1949年から中華人民共和国側が国際連合総会に「中国代表権問題」を提起し、長きに亘って否決された。しかし、1971年のアルバニア決議後に中華民国が国際連合を脱退、新たに加入し常任理事国となった中華人民共和国が提唱する「一つの中国」の概念が国際社会に宣布された。中国大陸に存在する政権は世界でただ一つだけあって、台湾は中国の一部分であり、中華人民共和国政府が全中国を代表する唯一の合法的政府である。中国大陸と台湾島は一つの中国であり、中国の主権と領土の分割は許さない。現在まだ統一が達成されていないことに、双方は共に努力すべきで、一つの中国の原則の下、対等に協力し、統一を協議する。一つの国家として主権と領土の分割は認めず、台湾の政治的地位は一つの中国を前提として一国二制度の適用を検討する。2005年には、台湾「独立」阻止を念頭に反分裂国家法を制定した。2022年現在はこの原則により、中華人民共和国と国交を結ぶ国は中華民国と正式な国交を結ぶことができない。また、中華民国と正式な国交を結ぶ場合は、中華人民共和国と断交しなければならない。
●中華民国の反応
 中華民国も過去に「中国を代表する政府は、中華民国である」との立場から「一つの中国」政策を打ち出していた。
○蔣介石時代
 蔣介石は双十協定で分裂の解消に失敗してから国共内戦の延長としてしか両政府の関係を定義できず、「漢賊不兩立 (漢賊並び立たず)」との主張を繰り返した。アメリカや日本から「二つの中国」を検討するよう説得されても、反発し続けた。しかし1960年代を中心に相次いだアジア・アフリカ諸国の独立により、国際連合の中国代表権をめぐって中華人民共和国を支持する国が増加していた。アメリカのリチャード・ニクソン政権は、「中国代表権と安全保障理事会常任理事国の地位を放棄して、一般の加盟国として国連に残る」という道を蔣介石に勧めた。しかし蔣介石が妥協しなかった(あるいはアメリカの最後通告の後に妥協を決断したが、遅過ぎて間に合わなかったとの説もある)ため、1971年に国連における「中国代表権」を失った(いわゆるアルバニア決議)。また、国内的には、中華民国憲法の本文を形式上維持しつつ、中国大陸で選出された国会議員の任期を無期限に延長することで、中国の正統政府であることを誇示しようとした(「法統」)。
○蔣経国時代
 中華人民共和国の鄧小平は改革開放政策を打ち出し、毛沢東時代のように資本主義の中華民国を敵視せず、「台湾解放」という従来の姿勢を転換し、「平和統一」「一国二制度」を呼び掛け始めた。しかし、当時の中華民国政府は、強権的だった蔣介石の死後、重しがとれたことで民主化要求が抑え切れないという不安定な状況にあった。そのため、蔣経国総統は中華人民共和国の呼びかけに応えることをためらい、「不接觸、不談判、不妥協的(接触しない、交渉しない、妥協しない)」という「三不政策(三つのノー政策)」を掲げた。その一方で、敵対政策を転換する必要性も徐々に認識され、老兵(中華民国国軍の退役兵士)の要請を受けて中国大陸の家族・親戚を訪問することも解禁して密使の沈誠を北京に派遣して大陸部工作指導チーム設置などを指示した。
○李登輝時代
 1990年以降、基本方針は大きく変化していく。1990年には行政院大陸委員会と海峡交流基金会と国家統一委員会が設置され、1991年に国家統一綱領を定める。「一つの中国」の意味を曖昧にしつつ、「法統」を放棄して事実上の法理独立、つまり憲法改正と民主化へ歩みだした。しかし「一つの中国」を原則として否定もできなかったため、中華民国憲法増修条文には「統一前の需要により、憲法を以下のように修正する」との一文を前文に挿入した。1999年の李登輝総統による「特殊な国と国の関係」発言に至ると、中華人民共和国側はこれを「両国論(二国論)」と呼び、「一つの中国」を放棄したものと解釈して強く反発した。

<日本のインフレ政策も文系男子の発想>
PS(2022年8月8日追加):*5-1は、①現在の物価上昇は過去と比較して幅広い品目が値上がりしているが、上昇率は6月に9.1%の米国、8.6%のユーロ圏と比較して低水準 ②デフレ脱却には物価・賃金とも安定的に上昇していくことが必要 ③課題は労働生産性向上だが、実質賃金の伸びは労働生産性の伸びを下回っている ④企業収益が高水準で個人消費・設備投資は持ち直しているため、日本経済は「スタグフレーション」ではない ⑤ロシアのウクライナ侵攻による資源高等で日本の物価上昇率は6月までの3ヶ月連続で2%を超えたが、2006~2008年頃と比べると家電・住宅設備等が幅広く値上がりしている ⑥総体としてデフレ脱却に向けて十分とは言えず ⑦国内では中小企業の価格転嫁が遅れて輸入インフレに留まり ⑧GDPデフレーターは、米国では既にプラスに転じたが、日本はマイナス続きで「需給ギャップ」が2021年もマイナスのまま ⑨白書は「外的要因に起因する一時的物価上昇ではなく、企業収益改善が賃金上昇に繋がり、個人消費や設備投資が増加する中で経済全般の需給が持続的に改善していく好循環を実現する必要がある」「企業が賃金を決める際に、物価上昇や労働生産性の伸びなどのマクロ経済動向を重視していないことが懸念」とした と記載している。
 このうち①は、前にも述べたとおり、米国・ユーロ圏は経済成長した結果として賃金が上昇したため、そうでない日本の物価上昇率を米国やユーロ圏と単純に比較して低水準だとするのは生活者の視点がなく、これは、家計を妻に任せきりにしている日本人男性の欠点である。また、生活者視点の欠如によって、②⑥⑦のように、デフレ脱却(=インフレ)や価格転嫁自体を目標とする政策を採っているのも、経済学的に正しくない。なお、③はまあ正しいが、労働生産性以上の賃金を支払うと、企業は持続可能でなくなる。④については、現在の日本は⑤の資源高等によるコストプッシュインフレで輸入インフレの状態であるため、国富が外国に流出し、個人消費が次第に落ち、それに伴って設備投資も減るのは、再エネ設備導入などのイノベーションを推進する新規設備投資でもなければ時間の問題である。また、⑧のGDPデフレーターが米国はプラスに転じたのに、日本はマイナス続きなのは、コロナ禍でも米国はワクチン・治療薬の開発を行って世界に販売し収入に結び付けたのに対し、日本は経済を停止し、ワクチン・治療薬を輸入することしかしなかったからである。そして、このような1つ1つは小さな事象の連続が、⑨の日本で「企業収益改善→賃金上昇→個人消費・設備投資増加→需給ギャップ改善」とならない理由なのである。つまり、ミクロ経済とマクロ経済は別物ではなく、ミクロの多変数の行動が積分され集積したものが、マクロ経済を形作るのだ。
 さらに、*5-2は、⑩4月の物価上昇率は2.1%になったが、主因はウクライナ危機が影響する資源高で賃金上昇を伴う経済の好循環が物価を安定的に高める流れではない ⑪高インフレが続く米欧と異なり、日本の物価上昇は長続きしないとの見方が市場で多い ⑫デフレ下では企業の売り上げが伸びず、賃上げ・設備投資に慎重になって経済が停滞する悪循環に陥る ⑬デフレ脱却は経済・金融政策の大きな目標で ⑭総務省が発表した4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年同月比2.1%上昇し、エネルギーの上昇率が19.1%で全体を1.38%押し上げ、電気代上昇率は21.0%、ガソリン代上昇率は15.7%だった ⑮食料品は全体で4.0%上昇し、食料油の上昇率36.5%が目立つ ⑯照明器具(11.3%)、電気冷蔵庫(16%)などインフレの波は全般に及びつつあるが ⑰企業が原材料価格高騰を販売価格に上乗せしにくく、日本経済のデフレ体質は根深い 等を記載している。
 しかし、⑩⑪⑬は物価を上昇させ“デフレ脱却”させること自体を目的としている点で、中央銀行は役割を放棄しており、政府も正しい経済政策を採っていないと言わざるを得ない。また、⑫もデフレだから企業の売り上げが伸びないのではなく、自由貿易の下で必要とされるものを世界競争に勝てる価格で作って売らないから売り上げが伸びないのであり、その結果、賃金も上げられないのである。そのような中、⑭⑮のように、必需品のエネルギーや食料が物価上昇しているのだから、消費者はそれらを優先して買わなければならない結果、⑯も買い控えが起こり、⑰のように、企業は原材料価格高騰を販売価格に上乗せすれば売り上げが落ちるため価格を上げにくいという状況になっているのである。つまり、他国は待っていてくれないため、正攻法で経済を活性化させなければ、長期的には破綻するしかないということなのだ。

*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220729&ng=DGKKZO63008780Z20C22A7MM0000 (日経新聞 2022/7/29) 経済財政白書 脱デフレ「賃上げ必要」、物価上昇、品目幅広く
 山際大志郎経済財政・再生相は29日の閣議に2022年度の経済財政報告(経済財政白書)を提出した。今の物価上昇局面は過去に比べ幅広い品目が値上がりしていると分析した。それでもインフレ圧力は米欧より弱い。「デフレ脱却には物価と賃金がともに安定的に上昇していくことが必要」と指摘し、労働生産性の向上を課題にあげた。白書は、日本経済について不況下で物価上昇が進む「スタグフレーション」には陥っていないとの見方を示した。「企業収益が高水準にあり、個人消費や設備投資は持ち直しの動きが続いている」ことなどが理由だ。足元のインフレは海外や過去の局面と比較、検証した。ロシアのウクライナ侵攻で拍車がかかった資源高などにより、日本の物価上昇率は6月まで3カ月連続で2%を超えた。消費増税の影響を除けば約30年ぶりの伸びだ。同様に資源高だった06~08年ごろと比べると、今は家電や住宅設備などが幅広く値上がりしているのが特徴という。1年前より価格が上がった品目数の割合から下がった品目数を引いた割合は22年5月に45%に達した。前回局面は最高でも32%だった。総体としては「デフレ脱却に向けて十分とはいえない」と評価した。物価上昇率は6月に9.1%の米国、8.6%のユーロ圏に比べるとなお低水準にある。国内では中小企業の価格転嫁が遅れて「輸入インフレにとどまっている」と分析した。政府が脱デフレの判断で消費者物価と並ぶ材料に位置づける指標は低迷している。国内の幅広いモノやサービスの値動きを示す「国内総生産(GDP)デフレーター」はマイナス続きだ。経済の需要と潜在的な供給力の差である「需給ギャップ」は21年もマイナスのままだった。米国は既にプラスに転じている。賃金動向を示す単位労働コストは米国が21年10~12月期に前年同期比4.5%上がったのに対し、日本の伸びは0.5%にとどまる。賃金はスタグフレーションの回避や脱デフレに向けたカギを握る。白書は「外的要因に起因する一時的な物価上昇ではなく、企業収益の改善が賃金上昇につながり、個人消費や設備投資が増加する下で経済全般の需給が持続的に改善していく好循環を実現する必要がある」と説く。実質賃金の伸びは2000年以降、労働生産性の伸びを下回る。投資によって生産性をより高めつつ、生産性に見合った賃金上昇も進めるには、省エネルギーの取り組みなど経済構造の転換も求められる。白書は、企業が賃金を決める際に物価上昇や労働生産性の伸びなどマクロの経済動向を重視していないことに懸念を示した。「データやエビデンスを踏まえ、適正な賃上げの在り方を官民で共有していくことが必要」と訴えた。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20220729&be=NDSKDBDGKKZO6100395021052022EA4000・・・ (日経新聞 2022/5/21) 需要不足、脱デフレの壁、4月物価、7年ぶり2%上昇 資源高が押し上げ
 4月の物価上昇率が2.1%となり、7年1カ月ぶりに政府・日銀の2%目標に達した。主因はウクライナ危機も影響する資源高だ。政府が脱デフレの目安として重視する需要の強さは不十分で、賃金上昇を伴う経済の好循環が物価を安定的に高める流れにはなっていない。高インフレが続く米欧と異なり、国内は物価上昇が長続きしないとの見方が市場では多い。デフレ下では企業の売り上げが伸びにくい。賃上げや設備投資に慎重になり、経済が停滞する悪循環に陥りやすい。デフレ脱却は経済・金融政策の大きな目標だ。総務省が20日発表した4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年同月に比べ2.1%上がった。2%に乗るのは消費増税の影響があった2015年3月(2.2%)以来となる。エネルギーの上昇率は19.1%に達し、全体を1.38ポイント押し上げた。電気代は21.0%、ガソリンは15.7%上昇した。ロシアのウクライナ侵攻で原油や天然ガスなどの供給不安が高まっている。エネルギー価格が上がると輸送費の高騰などで他品目も値上がりしやすい。食料品は全体で4.0%上昇し、7年1カ月ぶりの伸びとなった。食料油(36.5%)などが目立つ。照明器具(11.3%)や電気冷蔵庫(16%)などインフレの波は全般に及びつつある。結果としてインフレ率は2%に到達した。経済の現状を点検するとデフレ脱却を果たしたとは言い切れない姿が浮かぶ。政府は脱デフレの目安として4指標を重視してきた。そのひとつが消費者物価で、今回ようやく目標の2%に達した。他の3指標(GDPデフレーター、需給ギャップ、単位労働コスト)は十分に上向いていない。GDPデフレーターは、消費者物価だけでなく、企業の設備投資や公共投資なども含む国内総生産(GDP)ベースの総合的な物価の動きを示す。22年1~3月期まで5期連続のマイナスとなった。日本経済新聞が民間エコノミスト10人に聞いたところ、全員が4~6月期もマイナスが続くとの見方だった。輸入価格の上昇分の転嫁が十分に進まなければマイナスになる。企業が原材料価格の高騰を販売価格に上乗せしにくい状態を示しており、マイナス基調は日本経済のデフレ体質の根深さを映す。需給ギャップは労働力や設備の量など経済の潜在的な供給力を需要が上回ればプラス、下回ればマイナスになる。家計や企業が旺盛に消費や投資に動く活況ならプラスに、逆に皆が節約志向になるような状況ならマイナスになりやすい。内閣府の直近の21年10~12月時点の推計では3.1%減、金額にして10兆円を超す需要不足(マイナス)の状態にある。国際通貨基金(IMF)は日本は22年通年でマイナスとの見通しを示している。高インフレの米国などがプラスで推移しているのとは対照的だ。単位労働コストは国全体の賃金の動向を示す。22年1~3月期まで2期続けて伸び率はゼロ%台にとどまる。日本経済は1990年代からの経済の低迷でデフレがしみつき、先進国でも突出して物価が上がらない状態が続いてきた。家計は将来、モノの値段が上がるという見通し(インフレ期待)を持ちにくく、企業はそうした消費者心理を踏まえて値上げに及び腰になる。その循環でインフレがなかなか定着しない。物価上昇が2%の節目を超えた今回も需要不足などの壁は厚いままだ。市場では原油高などが落ち着けば物価は再び低迷するとの見方が多い。日本経済研究センターがまとめたESPフォーキャスト調査によると、23年の物価上昇率は再び0%台に逆戻りする。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏は「物価の上昇は定着しない。資源価格高や円安などを理由とした物価上昇であり、いずれ押し上げ効果は一巡する」と話す。

<経済学も総合的学問で、理系に適すること>
PS(2022年8月10、11日追加):*6-1-1・*6-1-2・*6-2は、①東工大・東京医科歯科大が国内トップクラスの理工・医療分野の研究力を融合させ ②政府が年間数百億円を支援する「国際卓越研究大学」の指定を目指し ③その背景には、2022年のアジア大学ランキングでトップ10に入ったのは東大(6位)のみで、日本の大学の国際評価は下落傾向という大学側の危機感もあり ④統合手法としては、両大学を一つにする方式・運営法人のみを統合する方式が想定され ⑤東工大と東京医科歯科大の「医工連携」が実現すれば医療機器開発力などの向上が期待でき ⑥「科学技術指標2021」では自然科学系の注目度の高い論文数で日本は過去最低の10位と、日本の研究活動の国際的地位の低下が進んでいることが浮き彫りになった と記載している。
 生物学等の理論が飛躍的に進歩している中、③⑥は経済成長を妨げる深刻な事実で、日本は一般の産業と比べて特に医療機器や薬剤の開発が遅れているが、これは専門分野を細かく分けて多様な分野からのアプローチを阻害しているために起こる面がある。そのため、①②⑤の選択は正しいと思うが、目的を達成するには、④は、両大学の運営法人のみでなく、通学する場所や講師陣も統合して、学生や研究者が自由に交流し情報交換できるようにした方が効果的だ。
 ただ、日本で遅れているのは医歯薬工学だけでなく経済学もであり、*6-3は、⑦円安・ドル高は米国の金融引き締めで起こり ⑧前に米国を高インフレが襲った1970~80年代の経験も踏まえると、「不況下のドル高」になる可能性があり ⑨米国のインフレが鎮まらなければ、行き過ぎた金融引き締めが急激な景気後退に繋がって世界的金融不安に陥る事態もあり ⑩日銀は打つ手が限られる中、金融緩和に迫られているため ⑪日本の金融政策も米国のインフレ次第 等と記載している。
 つまり、日本の経済学は、⑦⑨⑩のように、“経済の専門家”とされる人の視界に入らない事象は一定である与件と仮定し、欧米の経済学者が過去に欧米企業の行動や欧米消費者の行動を基に作った“公式”をあてはめてものを考え、現実との接点は、⑧のように、歴史に求めているだけなのだ。しかし、本当は、一定であると仮定されている事象は、地球環境の制約・人口からの制約・化石燃料の制約・食糧の制約・世界的大競争の始まり・太陽光発電の発明・地殻変動への認識・宇宙や生物学に関する著しい理論的進歩等によって大きく変化しているため、これらを一定と仮定して論じると、⑩⑪のように政策作成上の大きな間違いを犯したり、チャンスを逃したり、論文なら世界では相手にされなかったりする。そのため、何かの要素が変化した場合の他の要素の変化率を調査で求め、その要素を変化させた場合の他の変化を多変量解析(https://www.intage.co.jp/glossary/056/ 参照)でコンピューターを使って予測することが必要なのだが、これは理工系の素養があって初めてできることなのだ。従って、合併後の新大学には、理系の試験で合格者を決める経済学の研究分野も創設したらいかがかと思う。
 なお、イノベーションには、*6-4-1のような3Dプリンターによってコストダウンした住宅建築で安価な住宅を提供したり、*6-4-2のような新築建物に太陽光パネルの設置を義務化して電気料金を安くしつつ環境維持を図るような賢いものが多いため、景気は単純に循環するのではない。そして、そのような賢いイノベーションは、課題を総合的に解決するというミッションから生まれるため、まずは課題を総合的に把握できることが重要なのだ。
 このような中、日経新聞は8月11日、*6-5のように、⑫東工大と東京医科歯科大は、一橋大・東京外語大と4大学連合を結んでいる ⑬両大学トップは統合の未来像や間接部門を効率化する組織の在り方など改革の工程表を語ってほしい ⑭工学系・医学系の学生がともに医療用ロボットなどの先端技術の基礎を学び、研究者を育てる試みだ ⑮どこを改善すれば長寿社会を支える世界水準の「医工連携」を実現できるのか ⑯国立大の基盤的経費である運営費交付金や私学助成は頭打ちの傾向にある ⑰研究力を底上げするために政府は国公私立の設置形態を超えた連携や再編を促しているが、必ずしも国際競争力強化に繋がっていない ⑯世界に目を向ければ研究者による論文引用回数の上位ランキングで中国が台頭し、日本は大きく順位を落としている ⑰有力大の統合構想の課題を検証する機会ともしたい と記載した。
 私は、⑫のように4大学連合を結んでいるのなら4大学とも統合して総合大学にすれば、法律・経済・外国語も選び抜かれた教授陣にすることができると思う。また、学生は教養時代は同じキャンパス、専門に進んでから別のキャンパスに通うことにすれば現在の建物もかなり利用できる。さらに、東京外語大とも合併するのなら、東京外語大の中に学科をすべて英語で学べるコースを作れば留学生を受け入れ易く、将来留学したい日本人学生も受け入れることができる。明治時代とは異なり、現在は外国語だけできれば仕事ができるという職種は少なく、外国語(特に英語)を使ってビジネスや研究をしなければならないことが多いため、そのニーズは多いだろう。
 また、⑬⑯については、1つの大学になれば間接部門は1つでよいため、異なる場所はクラウドで管理しながら人員削減は可能で、東工大を中心としたチームを作って最小の人数で現在以上のサービスができるシステムを作れば、それは他大学や他産業でも使うことができる。また、⑭⑮については、ロボット化だけでなく、東工大・一橋大のチームが協力して東京医科歯科大の診療システムを「診療→カルテ記載=請求書・処方箋発行=会計処理」のように、医師が電子カルテを記載すれば同時に会計処理まですべてできるシステムを作れば、会計処理が正確になって監査にかかる時間や監査費用を抑えられる上、そのシステムは他大学や民間でも使用することができる。さらに、日本は検診や検査が普及しているため検査機器の開発は重要だし、検査結果から医師に対して病因の候補リストを出すところまではコンピューターでできる筈だ。最後に、⑯⑰については、誰にとっても役立つものを作って特許を取得すれば運営費や大学発奨学金の足しになるし、世界が注目するニーズの高い研究をすれば国際競争力は自然とつくものである。

    
2020.8.7日経新聞 2021.10.1毎日新聞 2022.8.10産経新聞 2022.1.24Yahoo 

(図の説明:1番左の図のように、主要国のうち中国の研究論文数は等比級数的に伸びているが、これは中国が生産基地になっていることと積極的に優秀な研究者を招聘していることによる。また、左から2番目・3番目の図のように、引用数の多い論文数でも中国は飛躍的に伸びており、日本は順位を下げ続けている。その結果、日本の世界に対する貿易収支は、1番右の図のように、研究も生産も振るわないことから近年は赤字の年が多い)

*6-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220809&ng=DGKKZO63286020Y2A800C2EA1000 (日経新聞 2022.8.9) 東工大・医歯大、統合協議へ、10兆円ファンドの支援対象「卓越大学」指定めざす
 東京工業大と東京医科歯科大が統合へ向けた協議を始める。国内トップクラスの理工・医療分野の研究力を融合させ、政府が「10兆円ファンド」の運用で年数百億円を支援する「国際卓越研究大学」の指定を目指す方針だ。日本の大学の国際評価は下落傾向にあり、統合協議の背景には大学側の危機感の高まりもある。関係者によると2大学の法人を統合して1つの大学となり、名称も変更する案が浮上している。2大学は教育環境や研究力が国内最高水準にあるとして文部科学省が特別に支援する「指定国立大学法人」で、指定国立大同士の統合は実現すれば初めてとなる。1881年設立の東京工業大は大学院を含め約1万人の学生がいる。2030年までに世界トップ10の理工系総合大学となる目標を掲げている。東京医科歯科大は1928年設立で学生数は約3千人。新型コロナウイルスのゲノム解析などで国内の研究をリードしている。統合の狙いの一つは国際卓越研究大学への指定だ。選ばれると10兆円規模の大学ファンドの運用益をもとに1校あたり年数百億円の支援を受ける。高い研究力や年3%の事業成長を条件に公募され、23年度にも最初の支援先が決まる。東工大は理工系で国内トップクラスの研究力をもつが「卓越大に選ばれるためには研究分野が広くない点が弱み」(文科省幹部)という指摘があった。東京医科歯科大との「医工連携」が実現すれば、医療機器開発力などの向上が期待できる。統合は経理や人事といった管理部門の効率化にもつながる。日本の大学の国際評価は伸び悩んでいる。英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)による22年のアジアの大学ランキングでトップ10に入ったのは東大(6位)のみだった。THEは「日本の全体的な順位が下落傾向にある」と指摘した。大学内では「国際競争力の低下は研究費や優秀な人材獲得に大きなマイナス」(国立大元学長)という懸念が強い。少子化が進むなかで大学の再編・統合や機能強化を求める声も強まっている。国は1つの大学法人が複数の大学を運営できるように19年に国立大学法人法を改正。名古屋大と岐阜大が20年に運営法人を統合させた例などがある。

*6-1-2:https://www.sankei.com/article/20220808-UVNWDVTP5JPXRBZJIT3KOWB5MY/?outputType=theme_nyushi (産経新聞 2021/8/8) 東工大と東京医科歯科大が統合に向け協議へ
 東京工業大と東京医科歯科大が統合に向けた協議を始めることが8日、関係者への取材で分かった。いずれも国立大で、理工系と医療系の国内トップレベルの研究力がある両大学が統合することで、政府が年間数百億円の資金を支援する「国際卓越研究大学」の認定を目指す方針という。関係者によると、両大学は近く、統合に向けた協議を始める方向で調整している。統合の手法としては、両大学を一つにする方式や、運営法人のみを統合する方式などが想定されているとみられる。両大学はいずれも国内最高水準の研究力があるとして特別に国が支援する「指定国立大」に指定される10大学の一つ。指定国立大学同士が統合した例は過去にない。取材に対し、東京工業大は「現時点では、公表できる内容はありません」、東京医科歯科大は「現段階ではお答えする内容はございません」と回答した。両大学のホームページによると、東京工業大は創立から約140年の歴史がある理工系の総合大学。東京都目黒区や港区、横浜市緑区にキャンパスがあり、大学生と大学院生の計約1万500人が学んでいる。東京医科歯科大は昭和3年に「東京高等歯科医学校」として設置された。東京都文京区などにキャンパスがある。

*6-2:https://www.sankei.com/article/20210810-4MMXUCZJZFOWPPJ4SL2EIEVE24/?outputType=theme_nyushi (産経新聞 2021/8/10) 日本の注目論文は過去最低10位 国際的地位低下
 文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は10日、日本などの世界主要国の科学技術に関する研究活動を分析した「科学技術指標2021」を公表した。自然科学系の注目度の高い論文数で日本は前回から順位を1つ下げて過去最低の10位となり、日本の研究活動の国際的地位の低下が進んでいることが改めて浮き彫りになった。同研究所は2017~19年の3年間に、科学誌に掲載された自然科学の論文数を分析。他の論文に多く引用される注目度の高い論文を示す指標「Top10%補正論文数」を算出した。論文は国をまたいだ複数の研究者の執筆による国際共著が多いため、国ごとの論文への貢献度に対応して数値を補正している。それによると、対象期間の1年あたりの平均で日本は3787本の10位。前回(16~18年)の9位から順位を下げ、10年前(07~09年、5位)に比べても大きく後退している。また、全論文数で日本は今回4位で、10年前の3位から下がった。今回の1年平均は6万5742本で、10年前の6万5612本からほぼ横ばいだが、世界各国の論文数は増加傾向にあり、日本のシェアが低下している。逆にこの10年間での中国の台頭が顕著で、「Top10%補正論文数」、全論文数ともに米国を抜いて1位となった。研究者数では日本は3位の68万2千人(20年)で、前年比0・5%増。一方で中国は210万9千人(19年)と1位で、前年比でも13・0%増と成長を続けている。19年の研究開発費は米国が68・0兆円で首位。中国54・5兆円、日本18・0兆円と続くが、対前年比では米国8・2%増、中国12・8%増に対し、日本は0・5%増とこちらも停滞がみられる。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220809&ng=DGKKZO63278640Y2A800C2ENG000 (日経新聞 2022.8.9) 不況下のドル高、再来か、日銀、消えぬ円安リスク
 円安・ドル高の流れは再び強まるのか。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ減速を先読みして一服していたが、FRBは根強いインフレ圧力を前に景気を犠牲にしてでも金融引き締めを続ける覚悟だ。前回、高インフレが米国を襲った1970~80年代の経験も踏まえると「不況下のドル高」になる可能性がある。日銀を苦しめる円安再燃のリスクは消えない。7月に1ドル=139円台と約24年ぶりの安値をつけた円相場。8月に入り130円台まで上げたあと、5日は7月の米雇用統計で労働市場の過熱が鮮明になると円売りが膨らみ、一時135円台に戻した。7月下旬にパウエルFRB議長が利上げ減速に言及すると米長期金利が低下し円高・ドル安圧力がかかったが、流れに変化もみえる。FRBはインフレ鎮圧まで引き締めをやめるつもりはない。求人数の伸びはやや鈍ったが、なお失業者数の1.8倍に及ぶ。このギャップが賃金に強い上昇圧力をもたらし、サービス価格を押し上げる。景気を冷やして求人を減らさない限り、インフレは収まらない。FRBは景気の軟着陸を主張するが、サマーズ元財務長官や国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミスト、ブランシャール氏は「大量の失業を伴わずに求人を減らせる可能性は極めて低い」として不可能だと断じる。米大統領経済諮問委員会(CEA)のファーマン元委員長はインフレ率を1ポイント押し下げるのに失業率を年5ポイントほど上げる必要があるとはじく。問題はもはや「景気が軟着陸するのかどうか」ではなく「景気後退はどの程度ですむのか」に移りつつある。景気停滞と高インフレが併存するスタグフレーションも現実味を帯びる。ドルはどう動くのか。70~80年代の米国のスタグフレーション期を振り返ろう。70年代を通してドルは低位で推移した。金とドルの交換停止を表明した71年のニクソン・ショックの余韻もあった。当時のFRBは物価上昇が鈍りそうになるとすぐに利上げの手を緩め、インフレの根治につながらなかったことも影響した。状況が変わったのはボルカー氏がFRB議長に就いた79年以降だ。悪性インフレの退治へ猛烈な金融引き締めに動いた。政策目標を金利から資金量に切り替えて市場へのマネー供給を絞り、短期金利を急騰させた。ドルの主要通貨に対する強さを示すドル指数(名目実効為替レート)は反転し、80年と81~82年に景気後退を経験しつつも上昇を続けた。前年同月比でみると、ドル指数の上昇率と短期金利はピークがほぼ重なる。米ゴールドマン・サックスによると、伝統的な理論では高インフレは通貨価値を下げるのが定説だという。ただし市場が中央銀行のインフレ制御能力を信じる場合、短期的には利上げ予想がインフレ率と通貨に正の相関を生む。ボルカー時代の米国はまさにこのケースに当てはまる。ドル高はインフレ鎮圧後も「強いアメリカ」を掲げたレーガノミクス下で続き、やがてドル高是正を狙った85年の「プラザ合意」へとつながる。今回のFRBの金融引き締めの勢いはすでにボルカー期以来の強さだ。80年代ほどではないにせよ、ドル高が続く可能性は十分にある。消えない円安リスク。日銀には資源高が収まれば問題ないという空気もある。日本の場合、物価高の主因は資源高であり、あくまで円安は「添え物」だからだ。だが、日本は米国などよりも原料高が国内価格に反映されるまでに時間がかかる。みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は「少なくとも今後半年分くらいは過去の資源高を反映する値上げのパイプラインが残っている」と語る。欧州のエネルギー危機が日本に及ぶリスクも残り、円安は物価高と絡み頭痛の種であり続ける。米国のインフレが鎮まらなければ、行き過ぎた金融引き締めが急激な景気後退につながり、世界的な金融不安に陥る事態もありうる。世銀は「70年代のスタグフレーションからの回復には先進国の急激な利上げを必要とし、新興・発展途上国の金融危機を引き起こす主因となった」と警戒する。この場合も、米国へのマネー還流を背景にドル高は続きそうだ。ただし投機的な円の売り持ち高も解消され、円に関しては対ドルで上昇に転じる可能性もある。日銀は今度は打つ手が限られるなか金融緩和に迫られる。日銀の黒田東彦総裁はこのまま静かに来年4月までの任期を終え、2%インフレの持続的な達成を後進に託したいのかもしれない。円安を「ドルの独歩高」のせいだとして静観した黒田氏。金融政策の行方もまた、米国のインフレ次第だ。

*6-4-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1564303.html (琉球新報 2022年8月10日) 3Dプリンターで住宅建築 新興企業「車を買える値段で」
 兵庫県西宮市の新興企業「セレンディクス」が、3Dプリンターで造るコンクリート製の小型住宅を発売した。24時間以内の完成が可能で、価格は330万円。グランピング施設や災害時の仮設住宅などとしての活用を想定する。将来は「車を買える値段で住宅を提供し、人類を住宅ローンから解放したい」との理想像を描き、さらなる研究開発を進めている。同社は電気自動車(EV)のベンチャー企業の創業経験を持つ小間裕康社長(45)と、東南アジアで高級コンドミニアム建築を手がけていた飯田国大最高執行責任者(COO)(49)が「世界最先端の家を造ろう」と意気投合し、2018年に設立した。

*6-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220809&ng=DGKKZO63267220Y2A800C2L83000 (日経新聞 2022.8.9) 太陽光パネル義務化を最終答申
 東京都の環境審議会は8日、新築建物への太陽光パネルの設置義務化などを含む環境確保条例の改正に関する最終答申をとりまとめた。2030年までに温暖化ガスの排出量を00年比で半減する「カーボンハーフ」の達成に向け、再生可能エネルギーの普及や省エネの加速などを求めた。最終答申を受け、都は条例改正に向けた基本方針を9月上旬メドに策定する。

*6-5:ttps://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220811&ng=DGKKZO63367100R10C22A8EA1000 (日経新聞社説 2022.8.11) 国際競争力高める大学統合に
 国立大学法人の東京工業大と東京医科歯科大が、統合に向けた協議を始めると発表した。早ければ、2024年春の統合実現を目指すという。両大学は世界の有力大学と競い技術革新のけん引役を担う「指定国立大」に選ばれている。起債などの経営裁量が与えられた指定国立大同士の統合構想は初めてだ。それぞれが強みを持つ工学、医学の学際的な研究を深化させ、将来その成果を広く社会に還元してほしい。国際競争力を高める大学の統合・再編の先駆事例となることを期待したい。今回の統合協議の背景には、政府の10兆円規模の「大学ファンド」の創設があるとされる。運用益を研究力に秀でた大学に傾斜配分する仕組みだ。だが、ファンドの支援対象になることだけが統合の目的ではあるまい。両大学は一橋大、東京外国語大と4大学連合を結んでいる。その一環として「医用工学コース」を開設した。工学系、医学系の学生がともに医療用ロボットなどの先端技術の基礎を学び、研究者を育てる試みだ。これまでの連携の成果と課題は何なのか。どこを改善すれば長寿社会を支える世界水準の「医工連携」を実現できるのか。両大学のトップは、統合の未来像や間接部門を効率化する組織の在り方など改革の工程表を語ってほしい。近年、国立大の基盤的経費である運営費交付金や私学助成は頭打ちの傾向にある。大学ファンドは財政投融資などを原資に、卓越した研究大学に限って資金を配分する。各大学が配分の査定指標となる研究実績を競い合う構造だ。一方、世界に目を向けると研究者による論文の引用回数の上位ランキングで中国が台頭し、日本は大きく順位を落としている。研究力を底上げするために政府は国公私立の設置形態を超えた連携や再編を促している。だが、必ずしも国際競争力の強化につながっていない。有力大の統合構想の課題を検証する機会ともしたい。

<安全保障と財源・産業など>
PS(2022年8月14、15日):*7-1は、①政府は2023年度予算概算要求基準を閣議了解し、防衛費の扱いについては「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定に合わせ、年末までの予算編成過程で検討するとしたが ②少子化をはじめ社会保障、脱炭素など予算を割くべき優先課題は山積し ③財源が限られて安易な借金頼みは許されないため ④防衛費の増額には冷静な議論を求めたい ⑤一方、政府は6月には「骨太方針」に「5年以内の防衛力抜本強化」を盛り込み、自民党はNATOと同じGDP比2%以上を掲げて大幅な国防予算の上積みを求め ⑥各省庁による要求総額が9年連続100兆円超の緩さで予算の膨張が強く懸念される 等としている。
 日本政府は賢くないバラマキを繰り返してきたため、②③⑥のように、9年連続で100兆円超の歳出を行っても経済は盛り上がらず、国民生活も不安だらけで、借金だけが積みあがった。その最たるものは、生産性を向上させるのではなく破壊力を向上させる防衛費だが、④⑤のように憲法も状況も異なるNATOと同じならよいという増額では機能しないため、私も冷静な議論を行って必要最小限にして欲しいと思う。何故なら、防衛装備にだけNATOと同じ金額を支出しても、*7-2-1・*7-2-2のように、食料自給率が38%しかなく(それも肥料・農薬・農機具は輸入品?)、「食料の潜在生産能力」は太平洋戦争時と同様にイモ類を中心に作付した場合に限って満腹感だけは得られるという程度で(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012_1.html 参照)、エネルギーも殆ど輸入であれば、①のような議論をして武器だけ増やしても決して戦争はできず、無駄遣いが増えるだけだからである。
 また、日本では、原油・天然ガス等化石燃料価格上昇・エネルギー自給率向上・脱炭素等を名目にして「安全が確認された原発の再稼働を急ぐべき」という原発再稼働推進が行われているが、*7-3-1は、⑦地震大国の日本で原発の耐震性は不十分で ⑧武力攻撃にも対応できず ⑨原発は国防問題そのもの としており、私もこれに賛成だ。何故なら、具体的には*7-3-2のように、日本と戦争をするなら、日本海側の原発をミサイルで破壊して原発内部に保管されている使用済核燃料を自爆させれば、広島・長崎以上の放射性物質が吹き出して、日本の食糧生産地帯が汚染され、住民も住めなくなって、戦争遂行どころではなくなるからである。
 このような中、*7-4-1は、⑩関西電力の森社長が「燃料価格高騰で、原発の必要性が高まった」とし ⑪関電は大飯原発3・4号機、高浜原発3号機を福井県内で既に稼働させ ⑫森社長は「使用済核燃料搬出問題は最大の経営課題で2023年末までに決着をはかる」とし ⑬政府が今冬までに動かすと表明した原発9基のうち5基は関電で ⑭福井県は美浜3号機等を再稼働させる条件として関電が使用済核燃料搬出先の候補地を示すことを挙げている としている。
 このうち、⑩⑪⑬のように、原発をさらに稼働させようとしながら、⑫⑭のように、未だに使用済核燃料の処理も考えていないのは無責任極まりなく、他国から爆撃されれば自爆する場所や一般の人が容易にアクセスできる場所に搬出・保管されても困る。従って、早急にその解を出してから、原発再稼働の話をするのが筋だろう。
 一方、*7-4-2は、西村経産大臣が、⑮「来夏以降の電力安定供給に向け原発のさらなる再稼働が重要」と強調して、現状で再稼働が見込めない原発の運転にも意欲を示し ⑯再稼働に向けた地元同意に向け「国も前面に立って理解、協力を得られるように粘り強く取り組む」とし ⑰西村氏の発言は安全審査を通過しても自治体の同意を得られず再稼働に至っていない7基や審査で合格していない原発も稼働させる必要があるとの認識を示したもので ⑱小型モジュール炉などの次世代原発についても言及した と記載している。
 しかし、コスト・マネジメントは、地震・津波等の自然災害や武力攻撃のリスクも含めた総費用でコストを最小にするように計画するもので、当面の運転費用のみでコストを評価すべきではない。この点で原発は既に落第で、これは、⑱の小型モジュール炉でも同じだ。さらに、⑮⑯⑰のように、「電力が足りないから、自治体の同意を得られない原発や審査で合格していない原発も、国が前面に立って自治体の理解・協力を得て稼働させる」などというのは本末転倒も甚だしい。一方、自治体の方は、*7-5-1のように、広大な農地や自然を生かしたり、柔軟な発想と戦略で企業を呼び込んだりして、地域経済を活性化させ住民税の税収を増やしたところもある。そして、それができるためには、原発などない安全でクリーンな地域であること、通信等のインフラが整っていること、社会環境もよいことなどが必要条件になるため、経産省には早くこちらの仲間になれるように知恵を出してもらいたいのだ。
 なお、*7-5-2は、米議会下院は、⑲気候変動対策を盛り込んだ歳出・歳入法案を可決して再エネへの移行加速と国内への生産回帰を促し ⑳太陽光パネル・風力タービン・蓄電池など脱炭素に必要な製品への税額控除を導入する 等と記載しており、私は日本もこうすればよいと思う。今は、経済安全保障や食糧・エネルギー安全保障が重視されている時期であるため、地方自治体はこのチャンスを活かして必要なインフラを整え、新産業を創出するのがよいからだ。

     
2022.5.11日経新聞 2022.2.26西日本新聞   2022.8.13日経新聞  

(図の説明:1番左の図が経済安保推進法の概要・左から2番目が経済安保推進法のポイントだが、半導体等先端技術・サイバー攻撃からのインフラ防護、特許の非公開しか言っていない。また、右から2番目は西村経産相の発言のポイントだが、原発再稼働・次世代炉の研究開発は武力攻撃や自然の大災害にも耐えうる原発にして初めて議論の遡上に乗るものだ。一方、地方自治体には、1番右の図のように、原発のような激しい公害をもたらさないクリーンな産業で法人住民税収を増やしたところもあり、こちらの方が産業として将来性がある)


               すべて農林水産省
(図の説明:左図は、諸外国と日本の食料自給率の推移で、日本は1960年代から一貫して下がり続けて現在は38%だが、欧米諸国はそこそこ自給できており、輸出もできている国がある。中央と右の図は、戦時にどこまで自給できるかという「食料の潜在生産能力」でイモ類ばかり生産すれば必要なカロリーは満たせるとするが、栄養バランスが悪すぎる上、タネ・肥料・農機具にも輸入品が多く、戦時は労働力が限られるため、これでも絵に描いたモチになりそうだ)

*7-1:ttps://www.saga-s.co.jp/articles/-/894064 (佐賀新聞論説 2022/8/1) 来年度予算 防衛費増は冷静な議論を
 政府は、2023年度予算の概算要求基準を閣議了解した。岸田文雄首相が増額を表明した防衛費の扱いが最大の焦点で、要求金額は明示せず年末までの予算編成過程で検討することとした。深刻な少子化をはじめ社会保障、脱炭素など予算を割くべき優先課題は山積する。一方で財源は限られ、安易な借金頼みは許されない。急激な軍備拡大は東アジアの緊張をかえって高める恐れもある。防衛費の増額には冷静な議論を求めたい。首相は5月の日米首脳会談で、中国の軍事的脅威やロシアのウクライナ侵攻を念頭に、防衛費の「相当な増額」を伝達。政府は6月、経済財政運営の指針「骨太方針」に防衛力の「5年以内の抜本強化」を盛り込んだ。一方で自民党は、北大西洋条約機構(NATO)が国内総生産(GDP)比2%以上の国防予算目標を設けている点を挙げて、今の目安である1%程度から予算の大幅な上積みを求めている。ただ政府は、外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を年末にかけて予定しているため、防衛予算の具体化もその作業に合わせる格好となった。このほか要求基準では首相が掲げる「新しい資本主義」の実現へ、「人への投資」「スタートアップ(新興企業)」などの施策に「重要政策推進枠」を設けて優遇。防衛費に加え、新型コロナウイルス、原油・物価高、少子化、脱炭素関連も金額を明示しない「事項要求」を認め、予算編成過程で検討するとした。今後の状況が見通しにくかったり、政策がまだ固まっていなかったりするためだが、要求の基本方針がこの緩さでは予算の膨張が強く懸念される。8月末が締め切りの各省庁による要求総額は、9年連続で100兆円を超える見込みだ。焦点の防衛費を巡っては内容・額だけでなく多面的な議論をすべきであり、その一つが財源だ。首相は「内容と予算と財源を3点セットで議論する」としているが、他方で故安倍晋三元首相をはじめ自民党には国債発行で賄うとの主張が強くある。しかし、これは受け入れ難い。スウェーデンは国防予算の増額に際して、たばこや酒の増税を打ち出した。財源の裏付けがあって当然だ。予算の透明性も向上させるべきだ。防衛費は近年、査定の緩い補正予算で上積みが常態化。21年度は5兆3千億円余りの当初予算に、過去最大の約7700億円が補正で追加された。この「抜け道」的な手法を続けては安全保障政策への国民の信頼が損なわれよう。防衛費の「GDP比」については整理が必要だ。防衛省は21年度で0・95%と説明するが、NATO基準で海上保安庁予算などを加えると1・24%になると認めている。2%以上を目指す場合、どう算出するかで今後の道筋は大きく異なる。あいまいで都合のいい使い分けは許されない。予算の要求基準が膨張含みとなった背景には、コロナ禍でも税収が好調な点などがあろう。内閣府の試算ではこの結果、25年度とした財政健全化の収支黒字化目標の達成が視野に入るという。だが、これは実質2%程度の高い成長を前提にした甘い試算だ。主要国で最も厳しい財政状況は相変わらずで、予算編成の手綱を緩める余裕はないはずだ。

*7-2-1:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/855240 (京都新聞社説 2022年8月11日) 食料自給率 輸入依存を見直さねば
 わずかに改善したものの、なお食の基盤のもろさは否めない。農林水産省が発表した2021年度の食料自給率(カロリーベース)が、前年度より1ポイント上昇し、38%となった。食料安全保障の重要性が増しており、輸入依存を見直し、生産者を支え、育てる政策実施が急務だ。食料自給率は、国内の食料消費を国産でどの程度賄えているかを示す指標だ。農林水産業が有する食料の潜在生産能力を表しているとも言える。自給率は20年度に18年度と並ぶ過去最低の37%に落ち込んだ。わずかに上昇に転じたのは、新型コロナウイルス禍で低迷していた外食需要が持ち直し、自給率の高いコメの消費が上向いたためという。政府が手厚い補助金を出し、コメからの転作を支援する自給率の低い小麦や大豆の生産量が増えたのも影響したとみられる。ただ農水省によると、1965年度は73%だったのに、食生活の洋風化やコメ離れなどから長期的に低落し続けている。2012年度以降は40%を割り込んだまま横ばいで推移。海外では自給率を主に金額に換算した生産額ベースで算出しており、単純には比較しにくいが、日本の38%は先進国では突出した低水準という。食生活の変化に日本の農業が十分対応できていないと言えよう。このままでは政府が掲げる「30年度に45%」の達成は難しい。気候変動や世界人口の増加、コロナ禍に、ウクライナ危機も加わり、世界的に穀物や飼料、化学肥料の価格が高騰し、食料供給が混乱している。各国がそれぞれ自国内での消費を優先する動きが強まり、日本がこれまで通り食料輸入を続けられるとは限らない。食料の多くを輸入に頼る日本にとって不測の事態に備える自衛策として自給率向上は避けて通れない。だが、日本農業の基礎体力の低下は著しい。担い手は22年に約122万5千人と、10年と比べて4割減り、それも65歳以上が7割と高齢化が目立つ。農地面積も減り続け、国内生産の縮小に歯止めがかからない。自給率は一朝一夕には改善できない。政府が付加価値の高い農林水産業分野の支援に限らず、穀物など基礎的な食料を守っていくことこそ肝要だ。政府は今秋にも食料・農業・農村基本法の見直しに着手するが、担い手育成や農地集約、ITを活用したスマート農業の導入を急ぐ必要がある。現状打破には生産者支援と併せ、「国産国消」へ向け国民の意識改革も欠かせない。

*7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220814&ng=DGKKZO63422560T10C22A8EA1000 (日経新聞社説 2022.8.14) 農政の抜本見直しで食料安保を強めよ
 ウクライナ危機による穀物相場の高騰を受け、食料や肥料の多くを輸入に依存する日本の危うさが浮き彫りになった。国民への食料の安定供給を確保するため、政策を抜本的に見直すべきときだ。
日本の農業は離農などで田畑が減り、食料自給率は38%と主要国の中で著しく低い水準に落ち込んでいる。そこをウクライナ危機による混乱が直撃した。国際相場の影響で輸入小麦などの価格が上がり、加工食品の値上げが相次いだ。輸入に頼る飼料用トウモロコシや肥料も上がり、農業経営を圧迫している。これから重要になるのが、コメを中心にしてきた農業と農政の大転換だ。政府は小麦や大豆、トウモロコシなどの本格的な生産振興に取り組む必要がある。現行制度は、田んぼに水を入れずにこれらの作物を作れば、手厚い補助金が出る仕組みになっている。需要が減り続けるコメの転作が課題になってきたからだ。実態を見れば、転作作物という中途半端な位置づけでは生産を増やせないのは明らかだ。小麦などを食料安全保障にとっての戦略作物と考え、栽培面積の拡大を含めて正面から推進すべきだろう。いずれも広い土地を使う作物のため、農地の保全にも寄与できる。コメに関しては、ブランド化を進めて値崩れを防ぐ従来の路線はすでに限界に達している。生産効率を高めて値ごろ感を出さなければ、国内の消費喚起も輸出の拡大も、ともに実現は難しい。国内で確保しにくい食料の輸入を続ける努力も大切だ。完全な自給は現実的でなく、多様な食生活を守るには海外産も欠かせないからだ。主な農産物の輸出国と安定した関係を保つとともに、必要な食料を調達できる経済力を維持することが不可欠になる。一方、政府は当面の対策として肥料価格の上昇分の一部を補填することを決めた。急激なコスト増によって農業経営が暗礁に乗り上げるような事態を避けるため、丁寧な対応を求めたい。最近の農政はスマート農業の普及や農協改革、新規就農の促進などに注力してきた。そうした個々の措置も大事だが、いま必要なのは食料政策の全体構想だ。政府は農政の基本方針を定めた食料・農業・農村基本法を見直すための作業を秋にもスタートさせる。長期的な視点で新たな食料政策を構築してほしい。

*7-3-1:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20220803/biz/00m/020/009000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20220807 (毎日新聞 2022年8月7日) 「原発は国防問題」9月公開映画の元裁判長が語る、映画「原発をとめた裁判長」に込めた思い(上)
 「原発は国防問題です」。2014年5月、関西電力大飯原発の運転差し止め判決を出した福井地裁の元裁判長、樋口英明さん(69)はこう語る。樋口さんを主人公とする映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」が9月10日から全国で順次公開となる。果たしてどんな映画なのか。「国防問題」とはどういう意味か。樋口さんと映画監督の小原浩靖さん(58)に、この映画に込めた思いをオンラインで聞いた。11年3月の東京電力福島第1原発の事故以降、原発の運転を認めない司法判断は全国で9件ある。その先駆けとなったのが樋口さんの判決だ。樋口さんは「映像の力はすごく大きい。多くの方に私の考えを訴えられるのではないかと思い、映画の話をお受けしました」と話す。樋口さんの8年前の判決は衝撃的だった。地震大国の日本で、原発の耐震性は不十分だとして運転を差し止めたからだ。映画では「日本で頻発する地震に原発は耐えられない」とする科学的立証を“樋口理論”と呼ぶ。地震が来ても原発は必要な耐震性を備えていると電力会社は主張し、多くの人が信じている。ところが「原子力規制委員会の新規制基準が定める耐震性は極めて低い。世界一厳しいというのは地震に関しては当てはまらない」というのが樋口さんの主張だ。原発の耐震設計基準に外部電源などが含まれず、非常用電源も現実に起こりうる地震に照らすと十分でないという。
●脱原発と再エネ推進
 映画は判決当時はもちろん、17年に裁判官を退官後、全国で原発について講演する樋口さんの姿を描く。福島県の被災地で一度は離農したものの、農場に日本最大級の営農型太陽光発電を備え、農業を再開した若手営農者の活動も伝える。脱原発と再生可能エネルギーの推進がメインテーマだ。ところが脱原発と再エネ推進の道のりは決して平たんでない。足元では世界的な原油高とウクライナ侵攻から天然ガスなどエネルギー価格が上昇。日本では安全が確認された原発の再稼働を急ぐべきだという議論がある。この点に話題が及ぶと、樋口さんは「エネルギーが足りないから原発を動かそうとする保守政治家は間違っています。東電の株主代表訴訟で13兆円余の損害賠償を認めた東京地裁判決が示したように、原発事故が起きたら我が国の崩壊につながりかねません。原発をエネルギーや環境問題でとらえるのは筋違いです。それよりはるかに大きな問題で、私は国防問題と思っています」と、語気を強めた。「私は革新系の元裁判官と思われていますが、保守系の人間です。原発の問題は地震だけではありません。ウクライナ侵攻を見てもわかるように、原発を攻められたらどうしようもない。日本の存続にかかわります。だから原発を止めることが国防の第一なんです。外交交渉も防衛予算もいりません」と、樋口さんは主張する。
●クラウドファンディングに支援集まる
 商業ベースに乗らないこの映画はクラウドファンディングを活用し、8月9日までに製作費の一部に当たる300万円を集めることを目標にしている。8月6日時点で254人から約275万円が集まったという。このほか文化庁に映画製作の補助金を申請したところ、文化芸術活動への支援として600万円の助成が認められた。小原さんは「映画のタイトルだけで、まだ見てもいない映画に、これだけ多くの方が意義を感じ、支援してくださるのには驚きました。原発推進の国策を批判する映画なのに、国費で支援してくれる文化庁も、捨てたものではありません。原発に興味がない方にも見ていただき、原発にはこんな問題があるのだと気付いていただきたい」と話している。

*7-3-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/195474?rct=world (東京新聞 2022年8月12日) ザポロジエ原発への攻撃で安保理会合 IAEA「重大な結果招きかねない」と警告 原子炉緊急停止も
 ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発への攻撃を受け、国連安全保障理事会は11日、公開会合を開いた。オンラインで出席した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、攻撃の影響で原子炉1基が緊急停止したと述べ「大規模な核施設近くでの軍事行動は非常に重大な結果を招きかねない」と警告、専門家による現地調査の実施を求めた。会合はロシアの要請で開催。グロッシ氏は、攻撃により配電盤付近で数回の爆発が発生、原子炉1基が配電網から切り離されて保護システムが作動し緊急停止したと説明した。原発の安全性に差し迫った脅威はないものの「状況はいつでも変わりうる」と指摘した。同原発には5日から攻撃が相次いでおり、ロシアとウクライナは相手側によるものだとして非難し合っている。会合ではロシアが「ウクライナは自国民であるシフト交代中のスタッフを砲撃して脅した」などと主張。ウクライナは「ロシアの撤退と施設の返還こそが核の脅威を取り除く唯一の道だ」と訴えた。米国は同じ国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に触れ「ロシアの行動がNPTが進む中で起きているのが特に腹立たしい」と非難した。

*7-4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15381941.html (朝日新聞 2022年8月9日) 使用済み核燃料搬出「最大の経営課題」 関西電力・森望社長
 関西電力の森望社長が就任後初めて報道各社のインタビューに応じ、燃料価格の高騰が続く中、原発の必要性がより高まっているとの認識を示した。使用済み核燃料の搬出問題は「最大の経営課題」と位置づけ、2023年末までに決着をはかるとした。関電は現在、大飯原発3、4号機、高浜原発3号機の3基を福井県内で稼働させている。政府が今冬までに動かすと表明した原発9基のうち5基が関電だ。森氏は「燃料価格高騰、(電力)需給の逼迫(ひっぱく)など足元の状況を振り返ると原子力の必要性はよりいっそう高まっている」と語った。ただ、今月12日に発送電再開予定だった同県内の美浜原発3号機は、放射性物質を含む水漏れで延期に。運転開始から40年を超す老朽原発だが、森氏は「古いからといってそういうこと(トラブル)が起こっているのではなく、(これまでと)同じ安全水準が維持されている」と述べた。県は美浜3号機などを再稼働させる条件として、関電が使用済み核燃料の搬出先の候補地を示すことをあげていた。期限は来年末だが、目立った進展は見られていない。森氏はこの課題について「お約束しているものだから、なにがなんでも実現する」とした。元役員による金品受領や役員報酬の減額補填(ほてん)を巡る問題も決着していない。大阪第二検察審査会は1日、元会長らを起訴相当などと議決し、「電気利用者への裏切り行為」などと指摘した。検察の再捜査次第では元役員が起訴される恐れもある。森氏は「経営に携わった人間が告発を受けていることは重く受け止めなければならない」とした上で、金品受領問題を受けて作成した業務改善計画を進めると述べるにとどめた。

*7-4-2: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220813&ng=DGKKZO63409360S2A810C2EA4000 (日経新聞 2022.8.13) 〈岸田改造内閣 閣僚に聞く〉西村経産相、来夏にらみ原発稼働拡大、地元の理解「国が前面」 冬には9基、電力確保急ぐ
 西村康稔経済産業相は12日、日本経済新聞社などのインタビューに答えた。原子力発電所の活用を巡り「来夏以降の電力安定供給の確保に向けて原発のさらなる再稼働が重要だ」と強調した。現状で再稼働が見込めていない原発の運転にも意欲を示した。再稼働に向けた地元同意に向けて「国も前面に立って理解、協力を得られるように粘り強く取り組む」と述べた。国内に原発は33基ある。25基が再稼働を国に申請し、17基が原子力規制委員会の安全審査を通過した。うち10基は地元の同意も得ていったんは再稼働し、現在は7基が運転している。政府は冬に向けて稼働を9基まで増やす方針を示している。西村氏の発言は、安全審査を通過しても自治体の同意を得られないといった理由で再稼働に至っていない7基や、審査で合格していない原発も稼働させる必要があるとの認識を示したものだ。東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に関しては「当然、一定の規模を持つ柏崎刈羽の再稼働も重要だ」と指摘した。東電には「抜本的な組織改革に真摯に取り組んでもらいたい。地域、社会からの信頼回復に全力を挙げて取り組んでもらいたい」と求めた。同原発では2021年にIDカードの不正な利用や侵入検知装置の不具合などの不祥事が相次いで判明。規制委が核燃料の移動を禁止し事実上、運転できない。不祥事の検査結果がまとまり、地元の同意を得るまで再稼働の行方は見通せない。足元の電力需給に関しては「この夏は安定供給を確保できる見通しが立っているが、冬に向けては厳しい見通しがある」と説明した。原発の運転再開と休止中の火力発電所を着実に稼働させることで「見通しも改善されてきている」との認識を示した。小型モジュール炉(SMR)など次世代原発のあり方についても言及した。「研究開発、人材育成、原子力サプライチェーンの維持強化など将来を見据えた取り組みもしっかり進めたい」と述べた。一方で新増設は「想定していない」と従来の政府方針を引き継いだ。経産省の審議会は9日に次世代原発の技術開発に関する工程表案をまとめたが、現状の政府方針と矛盾する部分がある。日本企業が権益を持つ極東の資源開発事業「サハリン1」と「サハリン2」に関して「権益を維持する方針に変わりはない」と話した。

*7-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220813&ng=DGKKZO63414540T10C22A8MM8000 (日経新聞 2022年8月13日) 法人住民税575市町村増収、熊本・合志、4.9倍で実質トップ 北海道・更別、過疎対策へIT集積
 立地企業数や業績に連動する法人住民税を10年間で増やした市町村が全国の3割にあたる575に達した。税制改正や新型コロナウイルスの影響を受け1143市町村の税収が低迷するなか、従来型の団地整備だけでなく、広大な農地や自然など「地方の弱み」を逆に生かす、柔軟な発想と戦略で企業を呼び込み域内経済を活性化させた。企業が立地自治体に納める法人住民税の税収を調べた。法人住民税は資本金と従業員数から出す均等割と法人税額を基にした法人税割で計算する。2010年度と20年度の市町村税収を比べると、全国平均は7.2%の減少だった。一方で直接徴収しない東京23区を除く1718市町村のうち33%が税収を増やした。震災復興の影響が大きかった福島県広野町(5.5倍)、同県葛尾村(5.1倍)を除く実質トップは熊本県合志市で4.9倍に伸ばした。群馬県明和町(4.8倍)が続く。大規模な工業団地を整備し、企業を呼び込んだ。熊本は県主導で半導体関連の集積を進めた。1982年に「熊本テクノポリス建設基本構想」を公表し推進役を担う財団や技術開発基金などを相次ぎ創設した。83年に知事に就任した細川護熙県政下で団地開発・誘致が加速した。合志市は県と連携し80年代後半ごろから誘致や地場企業育成に取り組み、構想の一翼を担った。団地整備などのハード面に加え2億円を上限に用地取得費の20%を補助するなどソフト面も整備し興味を持つ企業に担当者が出向き利点をPRした。結果、人口は12%増え、税収増加分で道路や学校などの整備も進む。隣接する菊陽町にも台湾積体電路製造(TSMC)が進出を予定する。県と合志市は工場立地の需要がさらに高まるとみて、それぞれ新たな工業団地の造成を目指す。4.8倍となった群馬県明和町には域内消費の拡大もあり、コストコが23年、町内に進出する。企業の増加は地域の生活利便性も高める。ただ、大規模開発を伴う企業誘致はリスクも伴う。1960年代以降「国土の均衡ある発展」として、企業は立地の分散化を進めたが、バブル崩壊やグローバル化の進展で縮小・撤退し、地域に大きな影響を与えた。こうした教訓を基に、ありのままの土地や自然環境で誘致を目指す新たな形も生まれている。過疎指定を受ける北海道更別村は先端技術を持つ企業の集積で税収を2.8倍とした。取り組みは2016年、4つの台風が相次いで北海道に上陸・接近し、村内の多くの畑が浸水被害を受けたことがきっかけだ。「20~30年後も豊かで持続可能な村」(西山猛村長)を目指し、実証フィールドの拠点としてサテライトオフィスを整備した。農地を実験場として使えることも利点となり、IT(情報技術)企業など5社が入居する。高速通信規格「5G」などの通信インフラも整い、21年には東京大学がサテライトキャンパスを設けた。村はさらなる集積の呼び水となることを期待する。北海道ニセコ町も税収が3.2倍に増えた。外国人旅行者からの高い注目を背景に観光や不動産関連企業からの税収が大きいが、町庁舎や観光施設の省エネに取り組み、国の「環境モデル都市」の指定を受けたことなどでクリーンなイメージに共感した食品関連業も集まるようになった。茶専門店を展開するルピシアが工場や本社を構えたほか八海醸造(新潟県南魚沼市)が19年にウイスキーの蒸留会社を設立し雇用を創出した。

*7-5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220814&ng=DGKKZO63422670T10C22A8EA2000 (日経新聞社説 2022.8.14) 米、脱炭素・生産回帰を加速 IT大手課税を財源に、歳出・歳入法が今週にも成立
 米議会下院は12日、気候変動対策を盛り込んだ歳出・歳入法案を可決した。再生可能エネルギーへの移行加速と国内への投資回帰を促す。再エネの国内供給網の構築は、エネルギーの安全保障の意味も持つ。歳入面では巨大企業の法人税の最低税率を設定し、IT(情報技術)大手などへの課税を強化する。バイデン大統領が今週にも署名し、成立する。歳出は法案原案では4300億ドル(57兆円)規模。太陽光や風力などの発電や設備投資への税額控除を延長・拡充する。法案は太陽光パネルや風力タービン、蓄電池など脱炭素に必要な製品への税額控除も導入する。中国や東南アジアへの依存を減らし、米国への生産回帰を進める狙いだ。太陽光や風力の発電を手掛ける米パターン・エナジーのマイク・ガーランド最高経営責任者(CEO)は「米国生産と、中国などからの輸入の間でバランスを取らなければいけない」と話す。風力などは大型設備が必要で、輸送費の観点からも国内の生産基盤の再構築が重要という。住宅向け太陽光発電を扱う米サンノバ・エナジー・インターナショナルのジョン・バーガーCEOも「米中対立が深まるなか、再生エネの分野で中国に過度に頼らない米国内の供給網が不可欠だ」と指摘する。太陽光パネルはかつて米国が高シェアだった。中国などアジア各国に押され米国内の基盤が弱った。米シンクタンクのエナジー・イノベーションなどによると、2030年の温暖化ガス排出量の削減幅は従来政策のままなら05年比で2~3割だが、法案成立で約4割に拡大する。30年に5割削減の目標に向け前進する。歳入面での法案のポイントは、巨大企業の法人税の15%の最低税率の設定だ。大企業が税控除の活用などで、実効税率を低く抑えている現状を問題視した。日本の国税庁にあたる米内国歳入庁(IRS)も機能を強化する。企業の自社株買いにも1%課税する。法案全体でみれば財政支出を大きく上回る歳入増が見込まれ、財政健全化の効果が大きい。米議会は法案修正後の予算規模を明らかにしていないが、米ペンシルベニア大学の試算では10年間で政府債務が2640億ドル削減される。バイデン政権は家庭の医療費とエネルギー代が減らせるとしてこの法案を「インフレ抑制法案」と呼ぶが、疑問の声もある。23~24年は歳出額と歳入額がほぼ拮抗する見通しのためだ。米紙ニューヨーク・タイムズは多くのエコノミストが物価高への効果は小幅なうえ、実感できるまで数カ月から数年はかかると予想していると指摘した。野党・共和党は、今回の法案が物価上昇にほとんど効果がないとして反発した。政府の支出が増え、徴税強化で米国民の生活を圧迫すると批判を強めている。

<核と安全保障>
PS(2022年8月18日追加):日本では、*8-1-1・*8-1-2・*8-1-3・*8-1-4に書かれているように、2022年8月15日の終戦の日は、平和外交を薦める記事が多く見られるが、日本国憲法9条が掲げる平和主義は尊いと思うし、私も賛成だ。しかし、その方法に関しては、「外交努力を重ねる」「外交に力を注ぐ」「不断の努力」くらいしか書かれておらず、“外交努力”はこれまでもやってきたため、具体的に何が足りないのかを指摘しなければ改善はないだろう。
 そして、まず、8月15日を「敗戦の日」とせず「終戦の日」とし、言葉をマイルドにすることによって失敗の原因を追究しないことが、「科学的・合理的思考の欠如」という同じことを何度も繰り返す原因になっていると、私は思う。
 また、東シナ海周辺の安全保障環境について、日本のメディアは、①ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発した中国が台湾への軍事圧力を強めた ②中国人民解放軍が発射した弾道ミサイルのうち5発が日本のEEZ内に落下した ③中国は軍事圧力を常態化させる構えを見せている 等の論調が多いが、中国は計画的に台湾を併合しようとしているため、①の「ペロシ米下院議長の台湾訪問が刺激になって中国が反発した」と言うのは、(パブロフの犬ではあるまいし)中国に対しても馬鹿にした失礼な態度だ。そのため、このように、根拠もなく他国を馬鹿にする態度は、「不断の努力」としてやめるべきである。一方、台湾は「中国に併合されまい」と頑張っているのであるため、「台湾を孤立させない」というペロシ米下院議長の判断は正しく、「中国が猛反発する中で訪台したため、情勢が緊迫化した」などというおかしな批判をした日本のメディアに対し、ペロシ米下院議長に同行したタカノ下院議員が、*8-3のように、「中止すれば『訪台できるどうか中国の感情次第』になる」「悪しき前例になるのを避けた」と反論されているのは、全くその通りだと思う。なお、②③については、日本が「(諦めずに)尖閣諸島は、日本の領土だ」と主張する限り、中国とは利害対立関係になるため、(外交上必要なこともやっていないと思うが)外交だけでは解決しないことが既に明らかになっている。
 それでは、2022年版防衛白書がロシアと中国の軍事動向の警戒レベルを引き上げ、「オーストラリア・韓国・英国・フランス・ドイツは日本の約2〜3倍だ」と強調して、自民党が防衛費をGDP比1%から2%程度に引き上げることを念頭にしているのは正しいのかと言えば、日本は食料自給率・エネルギー自給率がこれらの国とは比べ物にならないくらい低く、武力攻撃を想定していない原発には使用済核燃料が多量に詰め込まれていて、「隙だらけ」と言うより「隙のない場所がない」という状態であるため、防衛費のみを増額しても戦えないため抑止力にはなり得ず、さらに「東アジアの安定」と言っても、単なる「現状維持」ではなく、どういう状態で安定させたいのかが重要であるため、ここを明確にしなければ防衛方針が固まる筈がないのである。
 そのような中、*8-2-1のように、2022年8月6日、広島は被爆77年の原爆の日を迎え、*8-2-2のように、松井広島市長が条約批准を訴え、国連のグテレス事務総長が広島市の平和記念式典で「核の先制不使用」と「締約国が最終兵器のない世界に向けたロードマップを策定するため初めて集った」と核兵器禁止条約をアピールしたが、日本政府は未だ条約批准の目途が立たず、唯一の被爆国としての役割も果たせていない状態なのである。

*8-1-1:https://kahoku.news/articles/20220815khn000004.html (河北新報 2022年8月15日) 終戦から77年 平和再構築へ外交力発揮を 社説(8/15)
 日本にも近い将来、戦争が迫り来るかもしれない。この半世紀近く、今年ほど、そんな危機感を抱いてこの日を迎えたことはなかっただろう。ロシアのウクライナ侵攻から間もなく半年になる。欧米や日本などによる制裁の効果は限定的だ。子どもを含む多くの罪のない市民が犠牲になり、国土が焦土と化しても、停戦への道筋は依然として見通せない。日本を含む東シナ海周辺の安全保障環境も緊迫化している。ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発した中国が台湾への軍事圧力を強め、4日の軍事演習では、中国人民解放軍が発射した弾道ミサイルのうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。中国は軍事圧力を常態化させる構えを見せている。ロシアのウクライナ侵攻では国連の機能不全ぶりが露呈した。第2次大戦後、曲がりなりにも保ってきた「法による支配」が有名無実化し、「力による支配」が再び台頭しつつある。だが、断じてそれを許すわけにはいかない。緊張感が増す国際情勢を受け、政府、自民党は防衛力の増強に前のめりだ。来年度の防衛費要求額は過去最大だった2021年度の5兆4898億円を大きく上回りそうだ。自民党内からは国内総生産(GDP)比1%から2%程度に引き上げることを念頭に、6兆円代半ばを求める声が強まっている。敵基地反撃能力を改称した反撃能力は、国内に被害がなくても、敵が攻撃に着手したと認められれば攻撃可能とする。専守防衛の原則を逸脱するとの懸念の声がある。原則の逸脱と言えば、文民統制(シビリアンコントロール)も揺らぎつつある。来年度予算要求を決定する防衛省内の調整で、査定を受ける側だった制服組自衛官を中心とする統合幕僚監部が査定する側に加わったという。防衛力を増強することで、他国の軍事強化の連鎖を招く「安全保障のジレンマ」に陥りはしないか。その危険性を危惧する。日本世論調査会が実施した全国世論調査で、戦争回避に最も重要な手段は「平和に向け日本が外交に力を注ぐ」が32%で最多だった。戦争放棄を掲げた日本国憲法順守の24%が続き、軍備の大幅増強は15%にとどまった。これまでの原則がなし崩し的に守られなくなった先に、何が待ち受けているのか。国民が冷静に見極めている結果と言えよう。ならば、国際平和の原則に立ち返り、日本は国際秩序を立て直すために血のにじむような外交努力を重ねるべきではないか。日本は来年、国連の非常任理事国となる。16~17年以来12回目で、国連史上最多だ。国連改革を含め、日本が戦後、連綿と培ってきたはずの外交力の真価が、今こそ問われている。

*8-1-2:https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022081599701 (福島民報 2022年8月15日) 【終戦の日】世界の平和考えたい(8月15日)
 きょう十五日、七十七回目の終戦の日を迎えた。ロシアによるウクライナ侵攻で、戦争の痛みと無情さを改めて思い知らされた。複雑な国際社会の中で、自国のみが平和であり続けることは困難な現実も突き付けられた。戦後国家の礎となった人々に鎮魂の祈りをささげるとともに、日本と世界を見つめ、平和を求める声を高めていきたい。ロシアの苛烈な攻撃とウクライナの決死の抗戦が始まって半年になる。米欧は武器の供与によってウクライナを後押しし、日本は人道的立場で資金協力した。後方支援がなければ、ウクライナは持ちこたえられない。民主主義と専制、覇権主義の戦いともいわれる中での支援の意味を、頭で理解はしても、戦っているのは生身の人間であることを忘れてはならない。民主と主権、領土を守る持久戦を支える一方で、武器による加勢は止めどなく死者を増やす。米などの関係国はインフレ、エネルギーなどの内政問題を抱え、支援疲れも指摘されている。ウクライナ情勢に対する世界の関心が弱まれば、停戦への道も遠ざかってしまう。日本をはじめ、国際社会は一刻も早く糸口を見いだしてほしい。手をこまねいている間に、多くの子どもや市民が巻き添えになっていく。不安定な国際情勢下、岸田政権は防衛力の抜本的な強化を打ち出した。防衛費は、過去最高だった今年度の五兆四千五億円を上回る規模を目指している。集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法によって、自衛隊と米軍の一体化が進む。米国と対立する中国が対台湾軍事演習で、沖縄近海に複数の弾道ミサイルを撃ち込み、日本を威嚇するなど、東アジアの緊張は確かに高まってはいる。しかし、歯止めのない防衛力の増強は専守防衛の一線を越えかねない。慎重な検討が必要なのは言うまでもない。日本世論調査会の全国調査で、日本が今後、戦争をする可能性があると、48%が答えた。他国同士の戦争に巻き込まれる、あるいは他国から侵攻を受けるとの見方が大半だった。戦争回避に最も重要な手段は「外交に力を注ぐ」が最多の32%を占め、戦争放棄を掲げた日本国憲法の順守が24%と続いた。軍備の大幅増強は15%にとどまった。戦力不保持と交戦権の否定をうたい、平和を希求してきた日本にふさわしいのは、むしろ和平や国際協調への役割だろう。政府は肝に銘じた議論を進めるべきだ。国民、県民は動向を厳しく見ていかねばならない。

*8-1-3:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=161198 (南日本新聞社説 2022年8月15日) [終戦記念日] 平和外交に徹する時だ
 戦争の現実をいま、目の当たりにしている。ウクライナ各地でミサイルが飛び交い、建物は炎を上げて崩れ落ち、灰色の街が広がる。ロシア軍に破壊された学校など教育施設は2000カ所を超えたという。
遺体を埋めるための穴が掘られている。命が助かっても家族は引き裂かれ、地下のシェルターに身を潜める人たちがいる。為政者の野心や権勢欲の犠牲になるのは罪のない市民である。日本を取り巻く安全保障環境も悪化している。中国は軍備拡張を急速に進め、台湾周辺で軍事活動を活発化させる。北朝鮮の核・ミサイル能力は飛躍的に向上した。先月末の全国世論調査によると、日本が今後、戦争をする可能性があるとした人は半数近くに上り、年々増えている。若年層ほど戦争の脅威を感じていることも明らかになった。太平洋戦争の終結から77年を迎え、緊迫する東アジア情勢にどう対処するのかが問われている。日本を再び戦場にしてはならないという強い意志を持ち、国際社会の中で進むべき道を考えたい。
●国防力偏重を懸念
 先月、閣議報告された2022年版防衛白書は、ロシアと中国の軍事動向の警戒レベルを引き上げた。北朝鮮には「重大かつ差し迫った脅威」と警戒感を示した。米中対立の最前線になっている台湾情勢の記述は昨年から倍増し、軍事的緊張が高まる可能性に触れた。国民1人当たりの国防費も各国と比較し掲載した。オーストラリア、韓国、英国、フランス、ドイツはいずれも日本の約2〜3倍と強調。こうした記述からは防衛費の大幅増額など国防力強化への思惑がうかがえる。防衛費については、北大西洋条約機構(NATO)が掲げる国内総生産(GDP)比2%の目標を初めて記載。自民党が4月末に岸田文雄首相に提出した提言とほぼ同じ内容だ。23年度予算の概算要求基準では、防衛費は予算額を示さず事業内容だけの要求を認めた。年末に改定する「中期防衛力整備計画」(中期防)に合わせて必要な予算を見積もる。岸田首相は「相当な増額」を明言しているが、防衛費増額が抑止力を高め、東アジアの安定につながるのか疑問が残る。中国や北朝鮮はどう受け止めるのか。脅威が増したと捉え、軍拡競争に拍車をかける恐れがないとは言い切れまい。国民の意見も分かれる。6月下旬の共同通信の世論調査では「今のままでいい」が36.3%と最も多く、GDPの「2%までの範囲で増額」が34.1%、「2%以上に増額」は13.7%だった。多額の税金が投入されるだけに国民の理解が欠かせないのは当然だ。政府は相手領域内でミサイル発射を阻止する「反撃能力」の保有も検討している。防衛白書は「先制攻撃とは異なる」との見解を示すが、自衛隊と米軍の一体化が進む中、緊張感を高めては元も子もない。日本は戦後、憲法の平和主義に基づく外交を貫いてきた。ロシアが一方的に占拠した北方領土の返還を巡る交渉でも首脳対話による解決を目指した。こうした外交姿勢は、多大な犠牲を生んだ太平洋戦争の反省が礎になっているに違いない。国防力重視に偏りすぎれば、戦後77年間の歩みを逆戻りしかねない。
●戦争のない時代に
 ロシアの侵攻から間もなく半年になる。しかし終結の見通しは立たず、死傷者は日ごとに増え続ける。戦争がひとたび起きれば、引き返すことは困難で泥沼化する証しだろう。日本も戦時中、各地が空襲被害に遭い、広島と長崎への原爆投下では20万人以上が犠牲になった。日中戦争以降の日本人戦死者は軍人と一般国民合わせて約310万人にも上る。「戦争は非情なものだ。どんなに勉強したくてもできない。したいことがまだたくさんあったのに。戦争のない時代に生まれたかったということをのちのちの人に伝えてほしい」(宮良ルリ著「私のひめゆり戦記」)。1945年、学徒出陣の壮行会であいさつに立ち、こう話した沖縄県八重山出身の青年は戦線で最期を遂げた。著者の宮良さんは戦争が終わった後、共に教師を志していた青年の言葉が胸の奥深くに残っていたことに気づいたという。戦争のない時代に生まれたかった-。ウクライナ市民の叫びにも聞こえるし、国の平和を願い戦死した一人一人の思いを代弁しているようにも思う。決して忘れてはなるまい。台湾有事が実際に起きた時、日本はどう対処するのか。南西諸島や本土への影響を最小限に食い止める手だてはあるのか。有事への備えと同時に、国際社会に平和外交を浸透させ、戦争を未然に防ぐことこそ、日本の役割である。

*8-1-4:https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1610092 (福井新聞論説 2022年8月15日) 終戦の日 「不断の努力」誓う機会に
 ロシアによるウクライナ侵攻が長期戦の様相を呈し台湾周辺での中国の大規模な軍事演習を目の当たりにする中、日本は戦後77年の「終戦の日」を迎えた。310万人もの戦没者に鎮魂の祈りをささげる日でありながら、ウクライナでは戦争による死傷者が後を絶たない。先の大戦の犠牲者を悼みつつ、今も戦火にさらされている人々の苦難に思いをはせたい。1999年5月にオランダ・ハーグで開かれた100カ国以上による非政府組織(NGO)の国際平和市民会議。北大西洋条約機構(NATO)軍によるユーゴスラビア空爆が続いているさなか「日本の憲法9条を手本にした戦争禁止決議を各国議会が採択する」よう訴える提言がなされた。作家の故井上ひさしさんは「日本国憲法が世界の目標になった」と評価した。この会議から23年。憲法9条の精神は日本国内でも存在感が薄れつつあるのではないか。ウクライナ侵攻は無論、「台湾危機」を巡る米中の対立、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への懸念など、日本を取り巻く安全保障環境は険しさを増す一方だからだろう。こうした情勢を背景に、岸田文雄首相は10日の改造内閣発足を受けた記者会見で「年末に向けた最重要課題の一つが防衛力の抜本強化だ」と会見の冒頭で訴えた。強化の一環として政府や自民党が掲げるのは「敵基地攻撃能力」を言い換えた「反撃能力」がある。加えて、首相は憲法改正を宿願とした安倍晋三元首相の不慮の死を受けて早期の改憲発議に意欲を隠さない。自民党の改憲案は9条に自衛隊を「必要な自衛措置を取るための実力組織」として明記することを柱にしている。安倍氏が持論としてきた「自衛隊違憲論」を解消するためとしている。だが、こういった改憲対応が周辺国に受け入れられるのか、立ち止まって熟慮する必要があろう。日本への警戒心が高まれば、軍備拡張の理由になりかねず、果てしない軍拡競争へと陥る恐れもある。気になるのは、防衛省の2023年度予算を決定する省内調整で、制服組が査定側に加わったとされる報道だ。これまでは背広組の防衛官僚が陸海空自の要望を精査し、財務省への要求を決めてきたという。現場主義は理解できるものの、制服組の権限が強化されれば、旧軍の暴走を許した戦前の反省がないがしろになる可能性も否めない。改憲論議の行方次第では「世界の目標」とされた9条の輝きが損なわれる事態にもなりかねない。憲法が掲げる平和主義の尊さを胸に刻み、自由と権利を守るため憲法が一方で求める「不断の努力」を誓う機会としたい。

*8-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/897586 (佐賀新聞 2022/8/6) 広島被爆77年、埋まらぬ溝、市長ら「核禁止批准を」
 広島は6日、被爆77年の原爆の日を迎えた。被爆地では繰り返し、日本政府に核兵器禁止条約の批准を求める声が上がった。一方、地元広島選出の国会議員として期待された岸田文雄首相は「核保有国の対応を変えさせないと、厳しい現実は変わらない」として即時批准を否定。昨年の菅義偉前首相の「考えていない」から実質的な変化はなく、条約を「希望の兆し」と評価したグテレス国連事務総長らとの溝は埋まらなかった。「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」(平和記念式典)での平和宣言で松井一実広島市長は、昨年に続き条約批准を訴えた。グテレス氏も首相の目の前で「締約国が最終兵器のない世界に向けたロードマップを策定するため、初めて集った」と条約をアピール。一方、首相は式典で条約に一言も触れなかった。被爆者団体代表らとの面談で首相は、批准の要望に対し「大変重要な条約だ」としつつも「同盟国の米国を変えるところから始めないといけない」と述べ、核保有国と非保有国の橋渡し役として核拡散防止条約(NPT)体制の維持・強化を図ると強調した。面談後、広島被爆者団体連絡会議の田中聡司事務局長(78)は「核保有国との交渉のテーブルを一生懸命つくることが橋渡しだ。目に見える形でやっていない」と批判。広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長(80)も「プロセスが違うと言いたかったんだろう。被爆者が生きている間に核兵器がなくなるのか」と懸念した。6日に市内の集会で被爆証言した小倉桂子さん(85)は「首相の話は多くの被爆者を落胆させた。私たちが核廃絶へ一歩一歩踏み出せるよう、死にものぐるいで頑張らなくては」と力を込めた。

*8-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/897544 (佐賀新聞 2022/8/6) 国連総長「先制不使用」に初言及、核戦争「断じて許容できない」
 国連のグテレス事務総長が6日、広島市の平和記念式典で核兵器保有国に「核の先制不使用」を約束するよう呼びかけたのは、事務総長として初めてだったことが分かった。国連当局者が明らかにした。グテレス氏は同日、広島市で記者会見し、核の脅威の高まりに改めて危機感を表明し、核戦争は「断じて許容できない」と強調した。グテレス氏は記者会見で、保有国が「先制不使用」政策を導入するための議論が、来年5月に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)で進展することに期待感を示した。日本政府に対しては、停滞する核軍縮を動かす上で「大きな役割がある」と指摘した。

*8-2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/195914 (東京新聞 2022年8月15日) 再び原発「新増設」?原子力政策に転換の兆し 岸田政権「現時点で想定せず」だが脱炭素背景に地ならし
 岸田政権の重要課題の一つが、ウクライナ危機で顕在化したエネルギー問題。電力の需給逼迫も重なり、岸田文雄首相は原子力の最大限活用を掲げ、既定路線の原発再稼働を「政治主導」のアピールに使うなど前のめりな姿勢となっている。東京電力福島第一原発事故後に封印された「原発の新増設」方針の復活への準備も着々と進んでおり、原子力政策は新たな局面を迎える可能性が出てきた。
◆原発活用「待ったなしだ」と経団連会長
 「原発の再稼働とその先の展開策などの具体的な方策について、政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」。岸田首相は7月27日、2050年の脱炭素(カーボンニュートラル)社会の実現に向けた取り組みを議論する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」の初会合で関係閣僚に指示した。経済界では「その先の展開策」に、原発の新増設がテーマになることへの期待が膨らむ。会議メンバーの十倉雅和経団連会長は初会合後、原発活用は「待ったなしだ」と話した。実行会議の2週間後、岸田首相は内閣改造を実施し、GX実行推進を兼務する西村康稔経済産業相が新たに就任。西村氏は会見で「原発の新増設・リプレース(建て替え)は現時点では想定していないというのが政府の方針」としつつ、脱炭素に向け「原子力を含めたあらゆる選択肢を追求する」と含みを持たせた。
◆自民公約から消えた「依存度を低減」
 ウクライナ危機を受け、自民党は7月の参院選公約から、これまで明記してきた「可能な限り原発依存度を低減」を消した。脱炭素の実現には、発電時に温室効果ガスを排出しない原発は不可欠な電源という位置づけを明確にもした。政府は、原発の新増設に向けた下地をつくる議論も進めている。8月9日には経産省資源エネルギー庁の審議会「原子力小委員会」で、次世代原発の導入に向けた技術工程表の骨子案を提示。最新技術を導入した大型の革新軽水炉を30年代に建設・運転開始するという目安を示した。経産省の担当者は工程表骨子案を「作業部会の委員の意見を踏まえた中間報告」とし、「原発新増設は想定していない」という政府方針の転換ではないとする。ただ、福島第一原発事故後、具体的に次世代原子炉の導入時期が示されたのは初めてだった。
◆「政治決断」へ月内のGX実行会議で進展の可能性
 福島事故時には、8原発11基の新増設計画が進んでいた。民主党政権は着工していた東電東通原発1号機(青森県)など3原発3基の建設を認めたものの、他の計画は中断して宙に浮いたままとなっている。自民党政権は、この方針を引き継いできた。岸田内閣が昨年10月に閣議決定した中長期的な指針「第6次エネルギー基本計画」では、多くの有識者が求めた原発の新増設方針を盛り込まず、「必要な規模を持続的に活用する」と明記し「新型炉の研究開発を進める」とするにとどめた。次世代原子炉の技術工程表などは基本計画に沿っているというのが、政府の立場だ。政府が原発の新増設方針を掲げるとなると、首相の「政治決断」が避けて通れない。それが必要となる項目は早ければ、8月中にあるGX実行会議の2回目の会合で示される。

*8-3:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1565467.html (琉球新報 2022年8月12日) 訪台中止なら、あしき前例に 米議員、対中で日米韓連携強化を
 ペロシ米下院議長の台湾訪問に同行したマーク・タカノ下院議員が11日、共同通信の電話インタビューに応じた。中国が猛反発する中で訪台し情勢が緊迫化したとの批判について「中止すれば『訪台できるどうかは中国の感情次第』になる」と述べ、あしき前例になるのを避けたと反論。対中抑止へ日米韓の連携強化が急務だとして日韓に関係改善を促した。日系3世のタカノ氏はペロシ氏と同じく民主党所属。下院退役軍人委員長の要職を務め、昨年11月にも超党派の米議員団の一員として訪台した。日米交流にも積極的に取り組み、政権与党の有力議員としてバイデン政権を支えている。

<経営の最適化に資する公会計制度《交通・エネルギー政策から》>
PS(2022年8月25日追加):8月20、21日に長崎市で開催された国際公会計学会に、Zoomで参加した。下の図のように、現在、殆どの地方自治体は総務省の統一的基準である単式簿記・現金主義会計を使っており、これは民間企業の複式簿記・発生主義会計と異なり、資産・負債を含む正確な情報を迅速に公開することができず、検証可能性もない。ただ、東京都だけが2006年から複式簿記・発生主義に基づく新公会計制度を全国に先駆けて導入し、正確な事業別費用対効果分析も容易になって無駄の削減に貢献している。一方、国は世界に大きく遅れて国際基準に基づく公会計制度を導入していないが、予算審議に間に合わせて資産負債を含む監査済の正確な前年度決算の開示を行うのは、主権在民の国として当然のことである(http://www.hi-ho.ne.jp/yokoyama-a/chihoujichitai.htm#20140523 参照)。
 また、今年の国際公会計学会は長崎市で開催されたため、田上長崎市長の「100年に1度のまちづくり」という興味深いお話を聞くこともできた。長崎港は1571年開港以来、日本全体としては鎖国していた江戸時代も含めて約450年間国際貿易を行っていた港で、国際性が半端ではない。しかし、*9-1のように、未だ新幹線も通っておらず、観光客のアクセスにも時間がかかり、現在は西九州新幹線(武雄温泉⇔長崎)の開業に合わせて長崎駅付近が新しく生まれ変わろうとしているところなのだ。この西九州新幹線(武雄温泉⇔福岡)は、佐賀県内では「現在より停車駅が減る上、時間短縮効果は小さく、メリットが少ないのに費用負担は大きい」という反対があるため、それこそ事業別の費用対効果分析を行って、効果の大きい地域とこれまで新幹線すら通していなかった国が費用負担するのが筋だろう。なお、佐賀県の南側を通す場合は、私は、九州佐賀国際空港を停車駅にするのが、21世紀の国際化を見据えた計画になると考える。
 このような中、日経新聞は、*9-2-1のように、①政府は電力の安定供給と脱炭素の実現に向け、原発の再稼働や運転延長、次世代型の建設などの検討に入る ②現時点で安定供給と脱炭素の目標を両立できる電源は原発以外にない ③ウクライナ危機もエネルギー調達の課題を浮かび上がらせた ④原発の稼働が少ない状況は、電力の安定供給を危うくしている ⑤日本は東日本大震災前、総発電量の3割ほどを原発に頼っていたが、2020年度は4% ⑥6月下旬には強い節電要請が出て、電力各社は古い火力発電所を稼働して凌いでいるが、トラブルのリスクが拭えない ⑦英国は2030年までに最大8基、フランスも2050年に向け大型原発を最大14基建設する方針 ⑧LNG輸入のうち1割ほどがロシアからの日本も欧州と共通点がある ⑨日本政府は2030年度の温暖化ガス排出量を2013年度から46%減らす目標を掲げており、達成には発電量のうち再生エネ36~38%、原発20~22%に高める必要がある 等と記載している。 
 しかし、地球温暖化(⇒海水温の上昇)の原因は炭素だけではなく、原発や使用済核燃料を冷やすための温排水もだ。そのため、⑤⑨のように、温暖化ガス排出量を減らす目標をかざして、2020年度は4%しかない原発由来の電力を20~22%までも増やそうとしていること自体に科学的合理性がない。さらに、②④のように、「安定供給と脱炭素の目標を両立できる電源は原発以外にない」などという言い訳を続けた結果が、日本の太陽光発電その他の再エネが進まなかった理由なのである。その上、③のウクライナ危機では、原発の危険性を学ばなかったのだろうか?そのような中で、①⑥⑧のように、電力不足を煽ってなし崩し的に原発再稼働や運転延長を行うのは安全どころか事故の危険性を高める行為で、次世代型の建設に使う資金があったら分散発電用の送電線等インフラ投資に廻した方がよほど賢い。さらに、⑦の英国・フランスと異なり、日本列島は地震・津波・火山噴火などの災害が多い地域的特色がある上に、情勢が不安定なアジアに位置しているのだ。そのような場所で、原発近くの高い位置に多くの使用済核燃料を詰め込み、武力攻撃には無力の状態で、どうして再稼働や新増設が可能なのか、情緒的で楽観的な主張ではなく、理路整然とした合理的な説明を聞きたいものである。
 なお、毎日新聞は社説で、*9-2-2のように、⑩フクイチ原発事故の反省を政府は忘れたのか ⑪最長60年と定められた原発の運転期間延長も検討する ⑫次世代原発は従来より耐震性を強化し、炉心を冷却する手段を増やすなど安全性を高めるというが、事故のリスクは0でない ⑬原発運転後に発生する高レベル放射性廃棄物の処分方法も見通しが立たない ⑭日本はフクイチ事故で、エネルギー供給を原発に依存する危うさを学び、事故やトラブルが起きれば影響は甚大・長期で原発回帰が安定供給につながるとは限らない 等と記載している。
 私は、⑩~⑭は全くその通りで、事故のリスクが0でない原発を、どの地域が誘致して稼働させるのか見たいものである。フクイチ原発事故で安全性の限界は既に明らかになっているため、原発事故のコストは、国民全員ではなく、それを承知で誘致した自治体が負担すべきだ。
 このような中、*9-3は、⑮中国は、太陽光発電の世界生産シェア8割だが、カーボンニュートラルを宣言した各国の需要増と発電効率の高いタイプの量産が可能になったことで大手各社が増産投資を競っている ⑯計画・建設中の生産能力追加分は原発を毎年340基新設するのに等しい規模 ⑰採算より規模拡大を優先する投資競争は新たな淘汰の引き金にもなり、収益より規模を重視した投資競争は淘汰を通じて業界の勢力図を塗り替える可能性 ⑱値下げ圧力は経済面の米中対立で習近平指導部を側面支援する可能性 等と記載している。
 ⑮のように、中国は太陽光発電の世界生産シェアが8割と突出しており、⑯のように、計画・建設中の生産能力追加分が原発を毎年340基新設するのに等しい規模になるというのは素直にすごいと思うし、原発に固執して無駄遣いしている日本とは違うとも思う。また、中国の電力単価はこれによって下がるため、製造業のコストダウンが行われて世界の工場としての地位がますます強固になり、⑱のように、習近平指導部を側面支援することも明らかだ。そして、ここで、⑰のように、投資競争による淘汰や業界勢力図の塗り替えを心配するのは、大企業を護ってスタートアップ企業を成功させない、むしろ自由主義市場経済から遠い発想なのである。


                        Amebro  2011.4.20NewTokyo
(図の説明:左図は、総務省基準による地方公会計と企業会計の違いだ。地方公会計は毎日仕分けするのではなく、期末にまとめて仕分けする出納整理期間があることで決算が遅くなり、複式簿記でないため検証可能性もない。中央の図は、東京都の新公会計制度で、すべてのコストを明確化し、資産・負債も浮き彫りにすることで無駄を削減している。右図は、国際会計基準による公会計制度を導入している国で、未だ導入していないのは日本とアフリカの数か国にすぎない)

  
  2021.8.9BBC              2022.8.23日経新聞

(図の説明:左図は、世界の平均海面水位の上昇で、その原因を、①化石燃料由来のCO2による地球温暖化《⇒海水温上昇》としているが、実際には、②原発からの温排水排出 ③海底火山の噴火 による海水温の上昇もあり、このうち①②が人間を起因とするものだ。中央の図は、現在の中国の発電割合で、右の図のように、中国の太陽光各社は、現在、投資に積極的である)

  
      2022.8.25日経新聞            2022.8.15東京新聞

(図の説明:左図のように、日本の首相は、電力逼迫を理由として、なし崩し的に原発再稼働・運転期間の延長・次世代炉の開発・建設を指示し、経団連はこれを喜んでいるが、さらに環境を悪化させ、莫大な金を使って、高レベル放射性廃棄物を増やすことになる。中央の図が、来夏以降の再稼働を目指す原発で、右図が新増設が計画される原発だそうだが、日本は原発事故も2度起こさなければ目覚めないのだろうか。とんでもないことだ)

*9-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/905744 (佐賀新聞 2022/8/23) <鉄路の行方 第4章・新幹線開業前夜(1)>「100年に1度」変わる長崎 再開発、転出歯止めへ期待
 到着と同時に2階のホームから港が望める。JR長崎線の終着駅・長崎駅は、西九州新幹線(武雄温泉-長崎)の開業に合わせて新しく生まれ変わった。ホームの先に県庁と県警本部が移転しているが、駅から海が見えるように建物の配置が工夫され、港町・長崎の新幹線への期待が伝わる。1カ月後、ここから新幹線の1番列車が走り出す。在来線駅と新幹線駅が並び、船の帆を思わせる白い大きな膜屋根が包む。光を透過する屋根で日中は明るい空間を作り出し、夜は夜景に一役買う。長崎市は駅中心に「100年に1度」と言われる都市の変革期を迎えている。旧駅に隣接していた車両基地を早岐駅(佐世保市)に移転し、新駅から浦上駅まで約2・5キロの在来線を高架化(約529億円)して踏切による市街地の分断を解消した。その上で駅周辺の約19・2ヘクタールで土地区画整理事業(約154億円)に取り組み、一体的な開発を推し進めている。
     ■
 7月に推計人口が40万人割れした長崎市。近年、転出超過数が市町別で2年連続の全国ワーストを記録するなど危機感がある。市長崎駅周辺整備室の松尾英幸室長(50)は「交流人口を増やして経済を回す。若者が外に出ないように魅力的な町にする。そして駅に来た人を旧市街地に送るポンプの役割もある」と再開発の狙いを語る。駅西側は西口駅前広場が完成。21年にコンベンション施設「出島メッセ長崎」(約216億円)と外資系の高級ホテル「ヒルトン長崎」ができ、新たな交流拠点が動き出している。一方、メインとなる駅東側は「今も工事が最盛期」(同室)。本工事と並行し、バス、タクシーの仮設の乗降場の整備が進む。JR九州も既存の商業施設アミュプラザに加えて、商業、ホテル、オフィスなどが入る13階建ての新駅ビルを建設中。既存施設を大きく上回る規模で23年秋の全面開業に向け、早朝から夜遅くまで工事の音が響く。東口全体の整備終了は25年を予定している。
     ■
 駅前の大黒町自治会長の片岡憲一郎さん(75)は20代の頃、のぼり旗を立てたトラックで中心部を回るなど地元青年会で新幹線の誘致運動に関わった。戦前、にぎわいをもたらした上海航路の復活も願い「上海につなぐ長崎新幹線を」と訴えたという。8月上旬、開業ムードを高める小旗が駅前商店街に並んだ。「ようやく来た」と歓迎する半面、様変わりする駅周辺に不安も抱く。「想像していた以上に変化が大きい」。(宮﨑勝)
   ◇    ◇
 九州新幹線長崎ルートは1973年の整備計画から約半世紀が経過し、武雄温泉-長崎間が9月23日に開業する。連載「鉄路の行方~地域と交通」の第4章は、開業直前の長崎・佐賀の沿線の準備状況や期待の声、課題に光を当てる。全8回の予定。

*9-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220825&ng=DGKKZO63733110V20C22A8EA2000 (日経新聞 2022.8.25) 首相、再稼働7基追加 エネ安保で活用にカジ 
 政府は電力の安定供給と脱炭素の実現に向け、原子力発電所の再稼働や運転延長、次世代型の建設などの検討に入る。東日本大震災後、安全審査や地元同意のハードルで再稼働は遅れてきたが、現時点で目標を両立できる電源は他にない。ウクライナ危機もエネルギー調達の課題を浮かび上がらせた。再生可能エネルギーを含めた供給網を早急に整える必要がある。日本は東日本大震災前、総発電量の3割ほどを原発に頼っていた。東京電力の福島第1原発での事故を受けてすべての原発が稼働を止め、原子力規制委員会による安全審査に合格した原発から再稼働を進めてきた。しかし審査を通過した17基のうち、現在稼働するのは6基のみ。審査が10年近くの長期にわたり、結論の出ない原発もある。2020年度の総発電量のうち原発の割合は4%にとどまる。原発の稼働が少ない状況は、電力の安定供給を危うくしている。夏場の電力は夕方に逼迫する傾向にあり、季節外れの猛暑に見舞われた6月下旬には強い節電要請が出た。電力各社は古い火力発電所を稼働してしのいでいるが、トラブルのリスクは拭えない。石炭や液化天然ガス(LNG)に頼る電源構成は、ロシアによるウクライナ侵攻で問題が浮き彫りになった。原油や天然ガス価格は高騰し、ロシアからパイプラインで天然ガスを輸入する欧州の指標価格のオランダTTFは、8月中旬に1メガワット時当たり250ユーロ台と、侵攻直後の3月より高い値段をつけた。欧州ではエネルギー安全保障の観点から原発の活用にカジを切る国が出てきた。英国は30年までに最大8基を新設する方針を掲げた。フランスも50年に向け大型原発を最大14基建設する方針だ。日本の状況も欧州と共通点がある。LNG輸入のうち1割ほどがロシアからだ。日本の商社が出資するLNG開発事業「サハリン2」から有利な価格で調達しているが、ロシア次第で供給が途絶する恐れがある。原発は化石燃料を使わずに安定して電力を供給できる。発電時には二酸化炭素(CO2)をほぼ排出しないことから、各国とも「脱炭素」を両立できる電源として意識せざるを得ない。日本政府は30年度の温暖化ガス排出量を13年度から46%減らす目標を掲げている。達成には発電量のうち再生エネを36~38%に、原発を20~22%に高める必要がある。建設中の原発を含めて、電力会社が稼働を申請した27基すべてが運転しなければならない計算だ。さらに温暖化ガスの排出を50年に実質ゼロにする目標は、原発の再稼働だけでは不十分との見方が多い。政府は再生エネを主力電源として伸ばす方針だが、天候に左右される特性などを考えれば、火力以外に安定した電源が必要になる。岸田文雄首相が表明した「運転期間の延長など既設原発の最大限活用」は再生エネへの移行を見据えたつなぎとして有力な手段といえる。いずれ寿命となる既存の原発の後継としては、安全性や経済性の高い次世代型原発の開発が欠かせない。もっとも、新設や再稼働は簡単には進まない。公明党は7月の参院選で将来的に原発に依存しない社会をめざすと掲げた。新設にも慎重な姿勢だ。政府が新設を打ち出しても、電力会社の投資判断につながるかは不透明だ。東京電力柏崎刈羽原発はテロ対策の不祥事で信頼が失墜している。使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル事業も未完成のまま停滞が続く。高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分場もめどはついていない。原発をめぐる後始末の部分にも、政府は道筋を付けなければならない。

*9-2-2:https://mainichi.jp/articles/20220825/ddm/005/070/068000c (毎日新聞社説 2022/8/25) 原発新増設へ方針転換 福島の反省を忘れたのか
 2011年に起きた東京電力福島第1原発事故の反省を、政府は忘れてしまったのか。岸田文雄首相が、次世代原発の開発・建設の検討を指示した。「原発の新増設とリプレース(建て替え)は想定していない」という事故以来の政府方針を大きく転換するものだ。最長60年と法律で定められている原発の運転期間の延長についても検討する。50年に温室効果ガス排出実質ゼロを目指す政府の会議で表明した。岸田政権は、脱炭素化の実現には、発電で二酸化炭素(CO2)を排出しない原発の活用が欠かせないとの立場を取っている。近年、老朽化した火力発電所の休廃止が相次ぎ、エネルギーの供給力不足が指摘されている。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によって、世界的にエネルギー調達が不安定になり、電力逼迫(ひっぱく)の恐れが高まっているのは確かだ。そうした現状を理由に、自民党は今年の参院選公約には「可能な限り原発依存度を低減」という文言を盛り込まず、「最大限の活用を図る」と原発回帰の姿勢を強めている。しかし、今回の方針転換には疑問が多い。政府のエネルギー基本計画は、原発の新増設・リプレースに言及していない。国民の理解を得るための議論を欠いたまま唐突に打ち出された形だ。次世代原発は、従来の原発よりも耐震性を強化し、炉心を冷却する手段を増やすなど安全性を高めたものだというが、事故のリスクはゼロではない。「核のごみ」と呼ばれる原発運転後に発生する高レベル放射性廃棄物の処分方法についても、見通しは立たないままだ。日本は福島の事故で、エネルギー供給を原発に依存する危うさを学んだはずだ。ひとたび事故やトラブルが起きれば、影響は甚大で、長期に及ぶ。原発回帰が安定供給につながるとは限らない。再生可能エネルギーを含めた多様な供給源を構築すべきだ。福島の事故以降、原発の安全性への不安は根強く残る。国民不在の方針転換は、政治への信頼を失わせるだけだ。

*9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220823&ng=DGKKZO63658170S2A820C2FFJ000 (日経新聞 2022.8.23) 中国、太陽光の増産過熱、新設工場の能力、原発340基分 高効率の新型量産
 太陽光発電の世界生産シェア8割を握る中国の大手各社が増産投資を競っている。カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出実質ゼロ)を宣言した各国の需要増に加え、発電効率が高いタイプの量産が可能になったためだ。計画・建設中の生産能力の追加分は、原子力発電所を毎年340基新設するのに等しい規模に上る。ただ採算より規模拡大を優先する投資競争は新たな淘汰の引き金にもなりかねない。「出荷量を毎年倍増させる」。江蘇省常州市の中堅太陽光発電メーカー、億晶光電科技(イージン・フォトボルタイク・テクノロジー)の唐駿総裁はこう宣言する。2021年の出荷量は2.6ギガワット。これを22年に5ギガワット、23年に10ギガワットと毎年倍増させる。1ギガワットはおよそ原子力発電所1基分に当たり、23年には毎年原発を10基新設するのに相当する規模のパネルを供給することになる。太陽光発電は典型的な装置産業で、生産規模を増やすほど単価当たりのコストが下がる。規模の利益を追求する戦略だ。太陽光発電パネル(モジュール)は発電素子「セル」が中核となる。21年まではコスト競争力に優れるp型のセルが圧倒的な主流だったが、理論上の発電効率がより高く、n型と呼ばれるセルが22年から低価格で量産できるようになった。顧客の需要が一気にシフトする可能性があり、各社は他社に乗り遅れまいと投資を積み増している。最大手の隆基緑能科技(ロンジソーラー)は浙江省嘉興市など4カ所で計100億元(約2000億円)超を投じて新工場を建設中。江蘇省などで工場建設中の天合光能(トリナ・ソーラー)は6月、青海省で新たに年産10ギガワットのセルやパネルなどの工場を着工し、25年末までに完成すると発表した。業界3位の晶澳太陽能科技(JAソーラー)は安徽省やベトナムなどで計170億元超を投じている。長城国瑞証券の6月時点での集計によると、計画・建設中の工場(n型の代表的な生産手法が対象)の年産能力は計340ギガワットにのぼるという。政府系研究所の電力規画設計総院によると、中国の21年の発電能力は計2380ギガワット、このうち太陽光は307ギガワットだった。計画・建設中の工場がすべて完成した後は、21年の発電能力を超える太陽光発電パネルが毎年出荷される計算だ。太陽光発電は好材料が目白押しとなっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、50年に太陽光は世界の発電量の33%を占め、風力(35%)に次ぐ存在となる見通し。中国太陽光発電産業協会(CPIA)の2月の発表によると、世界の太陽光発電の新設量は25年には300ギガワットを超える見通し。このうち中国は3割強を占める。国内外で大きく需要が伸びる見通しで、世界の生産シェアの8割超を占める中国メーカーにとって恩恵は極めて大きい。市場拡大を背景にスタートアップも参入する。台湾積体電路製造(TSMC)とオランダのNXPセミコンダクターズの合弁会社出身の技術者が21年に創業した中能創光電科技(キャンドゥ・ソーラー・フォトエレクトリック・テクノロジー)。導電体となる銀ペーストの使用量を減らし発電量1ワット当たりのセル製造単価を0.2元減らせる生産技術を開発した。広東省深圳市のエンゼル投資家(個人の資金でスタートアップに投資・支援する人)と投資ファンド5社から出資を受け、「近く1ギガワットの量産ラインを新設する予定」(黄強董事長)。中国企業の激しい投資競争は、供給増を通じて太陽光パネルの価格を世界的に押し下げる見通しだ。その値下げ圧力は経済面での米中対立で、習近平(シー・ジンピン)指導部を側面支援する可能性がある。米国のトランプ前政権は18年にセーフガード(緊急輸入制限)を発動し、バイデン政権も22年2月に延長した。今月12日には米議会下院が、再生可能エネルギーへの移行加速と国内への投資回帰を促す歳出・歳入法案を可決した。太陽光パネルの輸入に占める中国製品の比率は21年にほぼゼロとなった。ただ一部の中国製品は東南アジアを経由して米国に流出していると指摘される。米政府が保護姿勢を強める太陽光パネル産業も中国の投資競争の影響を免れない。米ホワイトハウスを脅かす中国の太陽光各社だが盤石ではない。太陽光発電は性能による差別化が困難で、コモディティー(汎用品)化しやすい。技術革新のサイクルも早く、10年に中国企業として初めて世界首位になった尚徳電力(サンテックパワー)は13年に経営破綻した。12年に世界首位になった英利緑色能源(インリー・グリーンエナジー)は14年に経営危機に陥った。太陽光発電はカーボンニュートラルを背景に長期的な需要拡大が確実だ。とはいえ激しい投資競争は各社の体力を消耗させる。中国の調査会社Windによると、21年12月期は中国本土の株式市場に上場する太陽光発電パネルメーカー11社のうち6社の最終損益が赤字だった。収益よりも規模を重視した投資競争は、淘汰を通じて業界の勢力図を塗り替える可能性がある。

<上場JRと大手私鉄の収益分析>
PS(2022年8月29日追加):*10は、①JR上場4社と大手私鉄15社の第1四半期連結決算(6月末)が出揃い、19社全てが最終黒字を達成 ②JR東とJR西はコロナ後初の運輸部門(鉄道、バスなど)の黒字化で、JR東海は3回目、JR九州は2回目の黒字達成 ③大手私鉄と同じく不動産・ホテル事業が鉄道事業に並ぶ柱となっているJR九州を除き、他の部門で運輸事業の赤字を埋められなかったのが過去2年のJRの苦境原因 ④大手私鉄15社は阪急・阪神HD約168億円、近鉄グループHD、東武鉄道等の8社が50億円以上の連結最終黒字達成 ⑤空港輸送はコロナで苦戦の京成・南海電鉄も含めて全社が営業黒字達成 ⑥不動産事業は引き続き堅調 ⑦物流部門は好調 ⑧関東圏は定期利用の減少率が高く、関西圏は定期外利用の減少率が高い ⑨通学定期は感染状況に応じて利用の増減があり、通勤定期は2年半殆ど変化しなかった ⑩定期外利用と密接なレジャー・ホテル部門は阪神タイガース・宝塚歌劇団を運営する阪急・阪神HDGと東京スカイツリーを運営する東武鉄道が収益源にした 等と記載している。
 このうち①は、民間大企業は4半期毎に3か月以内に連結決算を終了して事業に関する「Plan→Do→Check→Action」を行い、綿密に事業計画を練っているということだ。また、③④⑥は、鉄道事業と街づくりを一体的に行えば、鉄道会社はそのメリットを活かして不動産事業やホテル事業で稼ぐことができるという事例だ。さらに、⑦の物流部門は、インターネット通販の発展で消費者は日本のみならず世界の製品を買うことができるようになったため、今後、ますます好調になることが予想される。なお、②⑤と⑧⑩の定期外利用の減少は、新型コロナによる入国者数制限や国内移動制限等による観光需要の激減とその回復過程であり、⑧⑨の関東圏では通勤定期は2年半変化しないのに定期利用の減少率が高いのは、通学定期が感染状況に応じて休校や遠隔授業の影響を受けたからだろう。ただし、新型コロナによる入国者数制限や移動制限は極めて特殊な状態であるため、今後の鉄道事業計画を立てるにあたっては、コロナに一喜一憂することなく、地方自治体が地元の鉄道会社と連絡を取り合って、21世紀型の街づくり・企業誘致・スタートアップの支援等の成功例を参照しつつ、地域の事情に合わせて行うのがよいと思われる。

 
               すべて*10より
(図の説明:左図のように、JR各社の連結営業損益は、新型コロナによる移動制限で2020年に大赤字に転落し、2022年になって少し回復の兆しが見えた。また、私鉄各社は、中央の図のように、2022年にはすべて営業利益を出しており、セグメント《部門》別では不動産からの利益が確実だ。さらに、右図では、新型コロナによる入国制限や移動制限時に運輸・レジャーによる利益がマイナスとなり、不動産からの利益で支えている。ただ、今後は、鉄道の連続した土地を利用して送電線を敷設したり、高架下を貸し出したりして利益を出す方法も考えられる)

*10:https://diamond.jp/articles/-/308691?utm_source=daily_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20220829 (Diamond Online 2022.8.29) JR・私鉄19社が最終黒字に転換、アフターコロナの「新たな課題」とは
JR上場4社、大手私鉄15社の第1四半期連結決算が出そろった。目下、感染第7波の影響が全国に波及しているが、感染が増加傾向にありながらも比較的、状況が落ち着いていた今期は19社全てが最終黒字を達成した。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
●JR上場4社は運輸事業の赤字を段階的に縮小
 JR上場4社の最終黒字は、JR東日本が約189億円、JR西日本が約470億円、JR東海が約579億円、JR九州が約69億円だった。鉄道事業の費用は必ずしも四半期ごと等分されないため参考値ではあるが、JR東日本とJR西日本はコロナ以降で初めて運輸セグメント(鉄道、バスなど)が黒字化した。JR東海は2020年度第3四半期、2021年度第3四半期以来3回目、JR九州は2021年度第3四半期以来2回目の達成となる。各社の2019年度から今年度までのセグメント別営業損益の推移を見ると、3年をかけて運輸事業の赤字を段階的に縮小し、黒字転換にこぎ着けたことが分かる。大手私鉄のビジネスモデルと同様に、不動産・ホテル事業が鉄道事業に並ぶ柱となっているJR九州を除き、他のセグメントで運輸事業の赤字を埋めきれなかったのが過去2年のJRの苦境の要因だ。鉄道事業の実情を知るために、4社の旅客営業収入をコロナ前(対2019年度第1四半期)と比べると、概ね7割前後の水準まで戻ってきている。一昨年度は2~3割、昨年度は同3~5割の水準だったことを考えると、旅客需要は長い時間をかけながら回復傾向にあるといえるだろう。ただ事業者ごとに利益率が異なるため、利用が同じペースで戻ってきても利益には開きが生じる。収入の8割以上を東海道新幹線の売り上げが占めるJR東海は、旅客運輸収入の落ち込みという観点で見れば、コロナ禍当初は他の3社より深刻だったが、営業赤字は比較的少なかった。利用が同程度に回復した現在、JR東海の運輸セグメント営業利益は2019年度同期の39%で、JR東日本の14%、JR西日本の16%、JR九州の24%に差を付けている。第1四半期の好調な成績を足掛かりに各社は、初めての行動制限のない夏休み・お盆の夏季輸送に臨み、本格的な利用回復の足掛かりにしたいと期待してきたが、7月に入って本格化した第7波の到来が水を差した格好だ。JR西日本の月次情報によれば、これまで特に利用が落ち込んでいた中・長距離(新幹線・在来線特急など)の定期外運賃収入は6月にコロナ前の68.1%の水準まで回復していたが、7月(速報値)は62.1%、8月(1~21日までの速報値)は61.4%となっており、一歩後退したまま足踏みしている。ただ過去最大規模の感染拡大が進行する中においても2020年、2021年のような大幅な落ち込みは発生していない。コロナがどのように収束あるいは定着するかは見通せないが、(感染防止の観点から良いか悪いかは別として)コロナを警戒しつつも状況に応じて外出するスタイルが続くようなら、状況は好転していくはずだ。それを占うためにも、第7波の直接・間接の影響が表れる第2四半期決算に注目したい。
●大手私鉄15社で8社が50億円超の最終黒字
 続いて大手私鉄15社の状況だが、阪急・阪神ホールディングスの約168億円を筆頭に、近鉄グループホールディングス、東武鉄道、京浜急行電鉄、東京メトロ、京阪ホールディングス、東急、小田急電鉄の8社が50億円以上の連結最終黒字を達成した。業績回復の主要因は営業利益の回復だが、特別利益として京急が95億円、京阪HDが約44億円の固定資産売却益を計上している。また近鉄は、業績好調な物流事業の関連会社「近鉄エクスプレス」の投資利益約69億円を営業外収益に計上している。近鉄GHDは今年7月、同社を株式公開買い付けによって連結子会社化しており、今後は物流事業の利益が本体に直接上積みされることになる。
●回復著しいのが鉄道やバスなどの運輸セグメント
 営業利益の回復をセグメント別に見ると、特に回復著しいのが鉄道やバスなどの運輸セグメントだ。事業規模が小さい西日本鉄道が約7800万円、航空需要の落ち込みで空港線が苦しい京急が約2億円の赤字を計上した以外は、同じく空港輸送で苦戦を強いられている京成電鉄、南海電鉄も含めて全社が営業黒字を達成した。鉄道の不調を支える不動産事業も引き続き堅調である。また西鉄は近鉄と同様、グループの物流部門が業績好調で、物流セグメント(図中は「その他」)は約54億円の営業黒字を計上しており、結果的に営業利益、純利益ともコロナ前の2019年度第1四半期を上回る業績となった。鉄道利用の回復の実態を探るために各社の旅客運輸収入を比較してみると、京成や南海など空港アクセス路線を運営する事業者を例外として、関東圏は定期利用の減少率が高く、関西圏は定期外利用の減少率が高い傾向にあることが分かる。例えば2022年度第1四半期の東急電鉄の定期外収入は2019年度同期比92%だが、阪急電鉄は83%。一方、定期収入は東急が72%なのに対し、阪急は89%だ。また関東9社では東武の83%が最大だったが、関西4社の最小は南海の84%だった。ただし増減の傾向は東西で大差ない。定期利用を通勤と通学に分解(一部の事業者は非公開)すると、通学定期は感染状況に応じて利用の増減があるのに対し、通勤定期は東急電鉄が65~70%、阪急電鉄が概ね85~89%で推移しており、2年半ほとんど変化がない。路線間の減少率の差は沿線住居者の業種や職種、年齢層などが影響していると思われる。感染状況にかかわらず増減がないということは、コロナが収束しても定期利用者は戻ってこないと考えるのが自然だろう。そうなると鉄道事業復活の道は定期外利用の回復しかないということになる。
●アフターコロナの課題は定期外利用の更なる拡大
 アフターコロナの定期利用はコロナ以前の70~80%程度しか戻らないという説は、各社の見立てからしても、実際のデータから見てもおおむね確かなようだ。だが、定期外利用がどこまで回復するかは「通説」が存在しない。長期的にコロナ前に近い水準に戻ると見ている事業者がある一方、利用は戻らないと判断して輸送力の削減を決断した事業者もある。そうした中、コロナ以前と比較した定期外収入が、空港アクセスを担う京成、京急、南海、名鉄を除けば、東急の92%を筆頭に、概ね80%超の水準まで回復したという事実は重要だ。大手私鉄では概ね、輸送人員の6割を占める定期旅客が4割の収入をもたらしてきた。定期利用者は割引率が高く、利用時間帯が集中(ラッシュ)するため、事業者からすれば効率の良い個客ではなかった。それが一定程度、減少し、収益源の定期外利用が微減にとどまるのであれば、コロナがもたらした地殻変動は決して悪いばかりの話ではない。いずれ避けられなかった人口減少社会への対応が一気に進んだと捉えることもできる。最後に、定期外利用と密接なかかわりを持つレジャー・ホテルセグメントだ。2020年度第1四半期は近鉄GHDが約214億円、西武ホールディングスが約143億円という巨額の営業損失を計上したが、今期は近鉄GHDが約7億円の赤字まで縮小、西武HDは1000万円の黒字に転じた。赤字の縮小だけでなく、収益源にまで立て直した事例もある。阪神タイガースと宝塚歌劇団を運営する阪急・阪神HDGと、開業10周年を迎えた東京スカイツリーを運営する東武鉄道だ。両社とも不動産部門を超える利益を生み出すに至っており、観光需要の回復は都市型施設が先行していることがうかがえる。大手私鉄15社のセグメント別連結営業損益を四半期ごとに合算してみると、興味深いトレンドが浮かんでくる。最初の緊急事態宣言が発出された2020年度第1四半期、東京の感染者数が初めて1日1000人を超えた2020年度第4四半期、同じく1日1万人を超えた2021年度第4四半期に底があり、回復と下落が繰り返されていることが見えてくる。ところが感染者数や死者など数字の上では被害は大きくなり続けているのに対し、下落幅は小さくなり、回復のペースも上がっているように思える。第7波がどのように位置づけられるかは非常に興味深い所だが、新たな下落が起きても黒字をキープできる日が来たならば、それが鉄道におけるアフターコロナの始まりなのだろう。

<新型コロナへの政府対応のまずさ>
PS(2022年9月1日):*11-1-1は、岸田総理大臣は「負担が増えている」とする医療現場と自治体の要請を受け、8月24日に新型コロナ感染者の「全数把握」を見直す方針を明らかにした。その理由は、①感染症法が新型コロナと診断した医師に患者全員の氏名・年齢・連絡先等の情報を「HER-SY(開始当初に入力項目は約120あり、最も入力項目が少ない重症化リスクの低い患者はこれまでに7項目に絞った)」を使って「発生届」として保健所に提出するよう義務づけ ②保健所等が「発生届」をもとに健康観察・入院先調整を行っているが ③「第7波」の感染者急増で入力・確認作業が医療機関や保健所の業務負担となり、医療現場から「コロナ患者対応に集中させてほしい」という声が高まっていた からで、その結果として、④国や自治体は「発生届」を集計して全国・地域毎の感染状況を把握してきたが、今回の見直しにより自治体の判断で「発生届」を必要とする対象を高齢者と重症化リスクの高い人等に限定できるようにした ⑤対象外になった人は感染者総数と年代別人数を把握して感染者数の集計は続けるが ⑥対象外の人が自宅療養中に体調が悪化しても気付きにくくなる ⑦厚労省は発熱外来や保健所業務が極めて切迫した地域で都道府県から届け出があった場合、「発生届」の対象を限定する措置を実施可能にする ⑧定点となる医療機関を指定して定期的に報告を求める「定点把握」は、具体的な制度設計に時間が必要なことから第7波が収まった後で検討する としている。
 これに対し、⑨全国知事会会長の平井知事は「知事会としては『早く全数把握を見直してほしい』と求めていたので感謝するが、この対応が感染対策を緩めるものだと国民に誤解されないようPRして欲しい」と述べ、 *11-1-2は、⑩東京・神奈川・埼玉県は、当面全数把握を続ける方針を決め、その理由を、⑪発生届がなく健康観察の対象とならない感染者が重症化した際の入院調整の混乱と感染動向分析の困難 ⑫現時点で一般医療の制限を伴うフェーズでない ⑬1人1人の健康状態を把握して必要な医療につなげる重要な機能がある ⑭政府が全国一律で全数把握を見直した場合の対応を見たい ⑮ワクチン接種記録と電子カルテが統合されていない現状が入力作業する医師に何度手間をかけるのか考えてほしかったこと 等としている。一方、*11-1-3は、佐賀県は⑯「県陽性者登録センター」を8月27日に開設し、自主検査などで陽性になった人が自身でインターネットにより陽性者登録ができるようにし ⑰これは、i) 県内在住 ii) 65歳未満 iii) 無症状か軽症  iv) 高血圧、肥満、糖尿病などの基礎疾患がない人に限り ⑱本人確認資料や検査結果の画像などを添えて登録申請し ⑲佐賀大の医師が申請内容を確認して診断し、患者の発生届を保健所に提出する としている。
 このうち、①③⑦は、「泣きが入ったから規制を緩めた」というだけの話で、科学的根拠が示されていない。また、②④⑤のように、“重症化リスクの高い、低い”を保健所が決めるのも、年齢と生活習慣病の有無という単純な基準を使って分けているだけで個人差を無視しているため、⑥⑪のようなことが起きるのである。従って、感染者全員の届け出がある間に、「重症化リスクが高いとされた人とその他の人の間の重症化の差は、本当はどこまであったか」について厚労省が定量的に追跡調査する必要があったのだが、それがなされていないため、科学的ではない単なる観念的な分類に終わっているのだ。
 それでは、本当はどう解決すべきだったかについては、医療は、⑫のように、新型コロナ患者を診るために一般医療の制限をしなければならなかったり(人口に対して医師数が著しく少ない開発途上国ではあるまいし)、発生届がなければ感染者が重症化しても入院すらできなかったりするのが問題なのであり、これは⑬のように、「1人1人の健康状態を把握して、必要な医療に繋げるため」と称して治療の専門家でない保健所を通していることが問題なのだ。そのため、新型コロナ確認から3年後の今やるべきことは、病院に行って検査に基づき医師の診断を受けて治療し早く治すようにすることで、そのためには厚労省が馬鹿なことを言って承認しなかった*11-3の塩野義製薬の「ゾコーバ」はじめ「モルヌピラビル」「パキロビッド」等の抗ウイルス薬が既にあるし、何度もワクチンを接種して、接種証明書も持っている。
 さらに、全数把握については、⑧⑩⑭⑮を見ると、感染者の全数把握をすることとワクチン接種記録や電子カルテを統合することが新型コロナ騒ぎの目的になっているようだが、感染症と生活習慣病を混同するほどわけがわからず、非科学的で患者の立場に立った医療を行おうとしない政府や地方自治体が患者のプライバシーに入り込むことこそ、差別や人権侵害の温床になる。佐賀県の場合は、⑯のように「県陽性者登録センター」を開設し、⑰⑱のように、“重症化対象外”の人はインターネットにより自分で陽性者登録ができるようにし、⑲のように、佐賀大の医師が申請内容を確認して診断することとしており、希望者だけが登録するため人権侵害の問題は軽減されるが、医師が診断すれば十分で患者の発生届を保健所に提出することは不要である。
 そのため、⑨の全数把握については、*11-2-1の「特定医療機関を選んで定期的に感染者数の報告を求める『定点調査』」では統計が恣意的になって全体を代表しないため(何を考えているのかな)、むしろ*11-2-2のように、「地方自治体が下水から新型コロナウイルス等を自動的に検出するシステム」にし、ウイルス量が増加した地域で全数検査することにすれば、クラスター防止や収束に役立つと思う。


          2022.8.24NHK             2022.8.24時事
(図の説明:左と中央の図のように、新型コロナの全感染者の保健所への届出提出を医師に義務付けて事務負担が多く、見直しが求められたため、コロナの全数把握を見直すことになった。そして、右図のように、感染者の全数届け出を都道府県判断にし、陽性者の待機期間短縮を検討する等としているが、いずれも場当たり的ではなく方針と科学的根拠を明示して行うべきである)

 
    2022.2.11読売新聞    2022.8.20東京新聞    2020.6.8GemMed

(図の説明:左図のように、新型コロナによる死者数の累計は3年間合計で2万人であり、それまで1年間にインフルエンザで亡くなっていた人の数より少ない。また、中央の図のように、2022年8月の1週間平均重症者数は60人、死者数は250人くらいだ。これらは、右図の人口10万対年間死亡数を1億人対に直した場合の悪性新生物30万人《300X1000》、不慮の事故4万人《40X1000》、自殺2万人《20x1000》と比較して著しく少なく、騒ぎすぎではないかと思う)

*11-1-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220824/k10013785761000.html ( NHK 2022年8月24日) 新型コロナ「全数把握」見直しへ 理由は? 変更点は?
 新型コロナ対策をめぐり、岸田総理大臣は24日、感染者の「全数把握」を見直す方針を明らかにしました。厚生労働省は、早ければ今月中にも運用を開始したいとしています。なぜ見直すのか、見直しで何が変わるのか、そして「負担が増えていた」という医療現場や自治体の受け止めなどについてまとめました。
【なぜ変わるのか】
 新規感染者の「全数把握」は医療機関が作成した患者の「発生届」をもとに行われています。感染症法は、新型コロナウイルスを診断した医師に対し、すべての患者の氏名や年齢、連絡先などの情報を、「発生届」として保健所に提出するよう義務づけています。国や自治体は「発生届」を集計して全国や地域ごとの感染状況を把握してきたほか、保健所などが「発生届」をもとに健康観察や入院先の調整を行っています。「発生届」の提出は国が導入した「HER-SYS(ハーシス)」と呼ばれるシステムを使用して行われますが「第7波」で感染者が急増し、入力や確認の作業が医療機関や保健所の業務負担となっていました。医療現場からは、コロナ患者対応に集中させてほしいと、見直しを求める声が高まっていました。
【変更点は】
 今回の見直しでは、自治体の判断で「発生届」が必要とする対象を、高齢者や重症化リスクが高い人などに限定できるようにしました。若者など対象外となった人についても感染者の総数と年代別の人数を把握するとしています。感染者数の集計は続けられることになるため、感染状況は引き続き把握できますが、「発生届」の対象外の人が自宅療養中に体調が悪化しても気付きにくくなるなどの懸念もあります。厚生労働省は発熱外来や保健所の業務が極めて切迫した地域では、都道府県から届け出があった場合「発生届」の対象を限定する措置を順次、実施可能にするとしています。一方、定点となる医療機関を指定して定期的に報告を求める「定点把握」については具体的な制度設計に時間が必要なことなどから第7波が収まった後で、検討する方針です。
【見直しの経緯は】
 「HER-SYS」のシステムの運用はおととしから始まり、開始当初に入力項目はおよそ120ありました。
入力項目はこれまでに段階的に削減され、現在、最も入力項目が少ない重症化リスクの低い患者については、◇氏名、◇性別、◇生年月日、◇市区町村名、◇電話番号◇医療機関からの報告日、◇症状の有無などといった診断類型の7つの項目まで絞りました。しかし、いわゆる「第7波」で感染拡大が続く中、医療現場や自治体などからさらに見直しを求める声が相次いだ状況を受け、先の内閣改造で新たに就任した加藤厚生労働大臣と全国知事会の会長を務める鳥取県の平井知事らがオンラインで会談。平井知事は全数把握について「必要性は理解しているが、現場は夜遅くまで入力作業をしなければならない。これまでも入力項目を緩和してもらったが さらに踏み込んでほしい。第7波が終わってからではなくすぐに取り組んでほしい」と直ちに見直すよう要望しました。さらに日本医師会からも同様の要望が寄せられました。これを受けて加藤大臣は、先週の国会審議で「医療機関の負担を減少しながら、全数把握の目的・機能をどのように残していくのか、専門家や医療現場から話を聞きながら検討している状況だ」と述べ、速やかに対応する考えを示していました。
【厚労相 ”速やかに届け出の受付を始める”】
 加藤厚生労働大臣は24日夜、厚生労働省で開いた記者会見で「届け出た都道府県は、日ごとの感染者数の総数と年代別の総数を毎日公表していただくことを前提に、厚生労働大臣が定める日から届け出の対象を▽65歳以上▽入院を要する方▽重症リスクがありコロナの治療薬の投与や酸素投与が必要と医師が判断する方▽妊婦の方に限定できるようする」と述べました。そのうえで関係する省令の改正について、24日の厚生労働省の審議会で了承が得られれば、25日に省令を公布し速やかに都道府県向けの説明会を実施して届け出の受け付けを始める考えを示しました。厚生労働省は、届け出を受けて事務手続きを進め、早ければ今月中にも運用を開始したいとしています。また加藤大臣は「全国ベースでの見直しについては今後の感染状況の推移などを見極めたうえで検討していきたい」と述べました。
【医療機関からは負担軽減に期待の声】
 感染が拡大した7月中旬以降、連日70人から100人の患者を診察している東京・世田谷区にあるクリニックの発熱外来では、24日も発熱外来には発熱やのどの痛みなどの症状を訴える患者が検査を受け、薬を処方してもらっていました。このクリニックでは1日50件以上の発生届を入力する日もあり、24日も看護師が診察の合間や昼休みに、陽性になった人の名前や電話番号、基礎疾患があるかなどの入力作業をしていました。入力には1件当たり5分ほどかかり、クリニックでは1日3時間前後を作業に費やしているとということです。「クリニックプラス下北沢」の長谷啓院長は「看護師も受付も常に走り回っているような状況で、発生届にも時間と人員が取られていたが、少しでも負担が軽減されると現場としては期待している」と話していました。一方、「患者の中には若い人や基礎疾患のない人で軽症だったのに状態が悪くなる人もゼロではなかったので、届け出の対象ではない人も健康観察をしながらケアが必要な人を見極めていきたい」と話していました。
【見直し受け 各知事の反応は】
 全国知事会の会長を務める平井知事は、山際担当大臣と会談し政府が感染者の全数把握を見直す方針を決めたことについて「知事会の要求に応えていただいたことに感謝する。ただ、この対応が感染対策を緩めるものだと国民に誤解されないようしっかりPRしてほしい」と述べました。これに対し、山際大臣は「感染が収まらない中、どう社会経済活動を止めずに前に進むかは難しい課題だが、お盆や学校再開の影響などを議論しながら有効な対策をどう打つか、さらに密に自治体と連携していきたい」と述べました。会談のあと平井知事は、記者団に対し「知事会としては『早く全数把握を見直してほしい』と先月末から求めていたので、首を長くして待っていた。きょう示されたことは評価に値する」と述べました。東京都の小池知事は24日午後、都庁で記者団の取材に応じ「総理大臣が発表したということだがもう少しよく確認していかなければならない。都は他県の何千件もの届け出も手続きしているなどの状況もあり、緊急で手を挙げるというところに今、至っているわけではない」と述べ、政府の方針をよく確認したうえで都の対応を判断する考えを示しました。そのうえで「根本の問題は電子カルテと「HER-SYS」が連動していないなどのシステムの問題だ。国はこれからも続くかもしれない感染症に備えるという大きな観点の戦略が必要なのではないか」と指摘しました。大阪府の吉村知事は「全数把握が保健所や医療機関の負担になっているのは間違いなく、負担を軽減したいという思いがある。重症化のリスクが高い人を守ることが重要で、見直しには賛成だ」と述べました。一方で「報告の対象から外れた人たちの医療費の公費負担がどうなるのかや、宿泊療養施設への入所や配食サービスなどの支援の手続きをどのように行うのか、仕組みが分からないと判断しづらい」と述べ、具体的な見直しの内容を確認したうえで、対応を検討する考えを示しました。

*11-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/198291 (東京新聞 2022年8月26日) 東京に続き神奈川・埼玉も「全数把握」維持 「矛盾にあふれた制度」政府見直し案に苦言続々
 政府が打ち出した新型コロナウイルスの全数把握見直しについて、神奈川、埼玉の両県は26日夜、会議を開き、当面見直しは行わず、現在の全数把握を続ける方針を決めた。東京都の小池百合子知事もこの日あらためて全数把握を続ける意向を表明した。政府は早ければ9月中旬にも全国一律で全数把握を見直すことを検討しているが、首都圏の知事からは政府の見直し方法に疑問が相次いだ。かねて見直しを国に求めてきた神奈川県は「政府が課題を整理するまでは全数把握を続ける」と決めた。対策本部会議では、氏名や連絡先を記載した発生届がない自宅療養者に「悪化した際の入院調整をすることは困難」などの課題が指摘された。黒岩祐治知事は会議で「首相が見直しを明言した際に私は『歓迎したい』と言ったが、矛盾にあふれた制度と言わざるを得ない」と語った。埼玉県の大野元裕知事も「当面は見直しをしない」と表明した。高齢者ら重症化リスクが高い感染者のみが発生届を出すようにした場合、発生届がなく健康観察の対象とならない感染者が重症化した際の入院調整が混乱したり、感染動向が分析しづらくなると指摘。「現時点では一般医療の制限を伴うフェーズに至ってなく、発生届を限定する状況ではない」と説明した。小池都知事は会見で「一人一人の健康状態を把握し、必要な医療につなげる重要な機能がある」と当面、現在の全数把握を継続する考えを表明。一方、政府が全国一律で全数把握を見直した場合の対応は「国がどういう形で決めるのか(見たい)。現場に混乱を来さないようにお願いしたい」と明言を避けた。政府の入力システムの煩雑さを指摘し「今、最も必要なことから優先順位を決めていく、戦略的な大本営が必要ではないか」と述べた。感染者の情報管理システム「HER-SYS(ハーシス)」のほか、ワクチン接種記録システム(VRS)や電子カルテが統合されていない現状については「(入力作業をする医師にとって)何度手間なのか。考えてほしかった。使いやすく安心できるデータが積み重ねられることを期待する」と、政府システムの抜本的な改善を求めた。

*11-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/907228 (佐賀新聞 2022/8/26) <新型コロナ>陽性者登録センター 8月27日開設、佐賀県サイト申請可能に
 佐賀県は25日、新型コロナウイルスの感染拡大で業務が逼迫(ひっぱく)する医療機関の負担軽減策として導入を決めていた「県陽性者登録センター」を27日に開設すると発表した。自主検査などで陽性になった人が医療機関に足を運ぶことなく、インターネットで陽性者登録ができる。午前9時から受け付ける。薬局での無料検査や購入した抗原検査キットでの検査で陽性となり、(1)県内在住(2)65歳未満(3)無症状か軽症(4)高血圧、肥満、糖尿病などの基礎疾患がない-のすべてに該当する人が対象。「研究用」として販売されている国の審査を経ていない未承認のキットは対象外となる。県ウェブサイト内の専用フォームから、本人確認資料や検査結果の画像などを添えて登録申請する。佐賀大の医師が申請内容を確認して診断し、患者の発生届を保健所に提出する。申請は24時間可能だが、担当医師(1日1人)の業務時間は1日数時間となる。感染者の全数把握見直しについて、山口祥義知事は発生の届けを重症化リスクが高い人に限定する方針を示しており、新たな方針に合わせてセンターが発生届を提出する対象者も見直す。県ウェブサイトでは、受け付け開始に合わせて申請手順も公開する。

*11-2-1:https://nordot.app/935853343681429504?c=39546741839462401 (47ニュース 2022/8/26) コロナ定点調査9月にも試行へ 特定医療機関で、政府検討
 新型コロナウイルスの感染状況を把握する手法として、政府が9月半ばにも、特定の医療機関を選んで定期的に感染者数の報告を求める「定点調査」を試行する方向で検討していることが26日、関係者の話で分かった。全ての感染者個人の情報を発生届で報告する従来の全数把握方法から、長期的に定点調査への切り替えも視野に入れる。一方、政府は全数把握について、緊急避難的に都道府県判断で発生届を高齢者らに限定できる方針を打ち出し、さらに全国一律に見直す方向で検討している。当面は定点調査の試行と、発生届の対象を絞りながら感染者総数は把握する二つの仕組みが共存する見込み。

*11-2-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220828/k10013791281000.html (NHK 2022年8月28日) 下水からコロナ感染の広がり把握 選手村で去年調査 北海道大学
 下水から新型コロナウイルスを検出する研究を進めている北海道大学などの研究チームが、東京オリンピック・パラリンピックの選手村で採取した下水のデータを調べたところ、ウイルスの検出率と選手村での陽性者数の傾向がほぼ一致し、感染の広がりを高い精度で把握できることがわかりました。北海道大学大学院工学研究院の北島正章准教授などの研究チームは、去年行われた東京オリンピック・パラリンピックの期間中、毎日、選手村で下水を採取し、下水に含まれる新型コロナウイルスの量を調査しました。その結果、下水からのウイルスの検出率が上がると、ほぼ一致して選手村での陽性者数も増え、感染の広がりを高い精度で把握できることがわかったということです。選手村では毎日、選手や関係者が抗原検査を受けていましたが、下水の調査の方が2日早く、ウイルス量の増加を検知できたとしています。北島准教授は、「新型コロナウイルスの疫学調査を下水で行えることがより明らかになった。クラスターの防止や収束に役立ててもらいたい」と話しています。

*11-3:https://scienceportal.jst.go.jp/explore/review/20220722_e01/ (Science Portal 2022.7.22) 国内初コロナ飲み薬、「緊急承認」見送り 塩野義製薬、第7波で期待の一方慎重論多く継続審議に(内城喜貴 / 科学ジャーナリスト 共同通信客員論説委員)
 新型コロナウイルス感染症「第7波」の急拡大が全国的に続いている。そうした中で厚生労働省薬事・食品衛生審議会の医薬品第二部会と薬事分科会の合同会議が20日夜開かれた。この日の審議議題は塩野義製薬が開発した国内初の新型コロナ飲み薬である「ゾコーバ」の「緊急承認」を認めるかどうかだった。2時間以上に及ぶ熱を帯びた議論の結果、審議を継続することになった。同社は臨床試験(治験)の最終結果を11月にも提出する予定で、改めて審議される。新開発の薬を速やかに使えるよう5月に創設された緊急承認制度の初適用は見送られ、国産初の軽症者向け飲み薬の実用化は実現しなかった。
●海外飲み薬は投与しにくく
 身近なクリニックで診断・処方でき、自宅でも服用できる軽症者向けの新型コロナ飲み薬は、治療の遅れによって重症になる患者を減らして医療現場の負担も軽減できる。厳しい行動制限をせずに日常生活に戻るための鍵になるとも期待されていた。現在、軽症者にも使える飲み薬としては米製薬大手メルクの「モルヌピラビル」と同ファイザーの「パキロビッド」が「特例承認」されている。特例承認は海外での治験データを前提に、国内治験データも加味して承認する制度だ。モルヌピラビルはウイルスの設計図であるRNAの複製を妨げる働きがある。パキロビッドはウイルスが体内で増殖するのを防ぐ効果が期待される。いずれも抗ウイルス薬だ。だが、2剤とも外国製で調達量に一定の制限があり、適用の対象は重症化リスクがある高齢者や基礎疾患がある患者だ。パキロビッドは高血圧や脂質異常症の薬など「併用禁忌」の薬が30種以上もあるという問題もあった。このほか軽症者向け治療薬としては英製薬大手グラクソ・スミスクラインなどが開発した「ソトロビマブ」があるが、点滴で投薬する必要がある。モルヌピラビルは長径2センチ以上あり、高齢者は飲みにくいという指摘もある。政府は約160万人分を確保したが、厚労省などによると、投与されたのは7月中旬時点で約23万人。政府はパキロビッドも約200万人分を確保したが、高齢者中心の投与者の多くは併用禁忌薬も飲んでいることから投与者はわずか約1.5万人にとどまるという。
●承認を前提に100万人分を基本合意
 こうした中で開発が進んでいた塩野義製薬のゾコーバは国内産で手軽に服用できる飲み薬として政府内部のほか、臨床医や感染症の専門家の間でも実用化への期待は大きかった。薬は動物実験や「第Ⅰ相」「第Ⅱ相」「第Ⅲ相」の3段階の臨床試験データを厳密に審査し、安全性や効果が確認されて初めて承認される。医薬品の審査は多くの場合1年程度かかる。新型コロナの国内拡大が続いて対応を迫られた政府は海外で開発され、先行して流通している医薬品を対象に審査を簡略化できる特例承認の制度を用いて新しい薬やワクチンを承認してきた。しかしこの制度でも国産の新薬は対象外で、ワクチンの承認では欧米より承認が2~5カ月程度遅れた。このため政府は新たな制度を急いだ。それが緊急時にワクチンや治療薬などを速やかに薬事承認する緊急承認制度だ。5月13日に同制度の新設を盛り込んだ改正医薬品医療機器法が国会で成立した。この制度は、国民の生命に重大な影響を及ぼす恐れがある病気のまん延を防ぐことが目的で、治験完了前の中間段階でも安全性が確認され、臨床上意義のある評価指標で有効性が「推定」できれば実用化を認める、としている。感染状況を踏まえた緊急性も考慮される。塩野義製薬は今年2月に国内初の軽症者向け飲み薬としてゾコーバの承認を厚労省に申請。その際は比較的迅速な審査が期待できる「条件付き早期承認制度」の適用を要望した。しかし、同制度は希少疾患などの患者数が少ない医薬品を対象としているため、緊急承認制度が成立した後の5月下旬にこの制度の適用を申請した。政府はゾコーバの実用化に期待し、承認を前提に塩野義製薬と100万人分購入の基本合意をしている。
●治験の初期段階の評価は微妙
 ゾコーバは塩野義製薬が北海道大学と共同で開発した低分子の経口薬、つまり飲み薬で開発番号は「S-217622」。この新薬は新型コロナウイルスが増殖する時に必要な「3CLプロテアーゼ」という酵素を選択的に阻害し、ウイルスの増殖を防ぐとされる。同社は2月7日に治験の第Ⅱ相のうち69例を対象にした「2a」の、その後428例を対象にした「2b」のそれぞれデータを公表している。「速報」とも言える69例データでは、投与4日目(3回投与)後のウイルス量(力価)は偽薬と比べ(投与用量などにより)60~80%減少。臨床症状も改善が見られ、一方重篤な副反応はなかったという。公表データによると、第Ⅱ相「2b」は軽症・中等症の428例(日本人419例、韓国人9例)が対象。428人を低用量投与、高用量投与、偽薬(プラセボ)投与の3群に分け、1日1回、5日間投与した。その結果は、低用量と高用量の2群は偽薬群と比べウイルス力価は有意に減少した。臨床効果について症状をスコアにしたところ、初回投与から120時間(6日目)までの変化量はゾコーバの2群は偽薬群と比べに減少したが、「統計学的有意」な差までには至らなかった。この中で鼻水、喉の痛み、咳、息切れという呼吸器症状だけでは有意差があった。しかし12症状改善の総合評価では偽薬群と比べ明確な差は出せなかった。治験の初期段階の評価としては微妙だった。
●「『BA.5』にも効果」と塩野義製薬
 7月に入り、国内のではオミクロン株の派生型の「BA.2」から感染力が約1.3倍強いとされる「BA.5」への置き換わりが進んだ。国立感染症研究所によると、8月第1週にはほぼ全てBA.5に置き換わる見通しだ。塩野義製薬は14日に「ゾコーバはBA.4やBA.5に対しても高い抗ウイルス活性を確認した」と発表した。細胞レベル(イン・ビトロ)での試験データで、同社は「繰り返される変異株に対しても速やかに評価を実施して公衆衛生上有益な情報を提供する」などとコメントした。ゾコーバの緊急承認を巡る審議は6月22日の医薬品第二部会の会合で有効性の評価で賛否両方の意見が出てまとまらず一度継続審議になっている。その後、第7波が急拡大。7月20日に広く審議結果が注目される中、公開で行われた。
●審議会合で賛否の意見2分
 20日午後6時から始まった合同会義にはオンライン参加も含め30人以上が参加した。まず、医薬品医療機器総合機構(PMDA)代表が審査報告書の内容を説明した。「ウイルス量が減少する傾向が認められることは否定しないが、効能・効果に対する有効性が推定できるとは判断できず、第Ⅲ相の結果を踏まえて改めて検討する必要がある」「社会的観点からより早期に使用可能とする検討も可能と考える」。相いれないような2つの評価の併記に審査の難しさが読み取れた。審議で3人の参考人はいずれも示されたデータでも緊急承認の要件である「有効性の推定」はできる、などと指摘。「新設された緊急承認制度の意義を考えると早期診断や早期治療に有効」「既存の2剤に使用制限がある中で治療の選択肢が増えることは有益」などと発言した。症状改善の効果が明確にならなかった理由として「臨床試験中に(流行株が)デルタ株から(軽症者が多い)オミクロン株に代わり症状が大きく変化したことも影響した」との解説も聞かれた。しかし、参加した委員からは緊急承認に反対や慎重な意見が相次いだ。「動物実験では胎児に影響する催奇形性リスクが示されている」「(私は)示されたデータからは有効性を推定できない」「低用量と高用量で反応にあまり差がないのはおかしいのでは」「ゾコーバも一緒に使えない薬が多くある」などだ。動物実験での催奇形性を挙げた反対意見に対し、承認済みの外国製飲み薬にも同じような報告があることを指摘する意見が出るなど、議論は熱を帯びた。「評価対象の症状の中でも発熱や呼吸器症状への効果はあるようだ」として感染者が急増する中で新たな治療手段につながる緊急承認に前向きな声は聞かれたものの反対、慎重な意見の方が多かった印象だ。意見は多様だったが議論の流れは「第Ⅲ相の結果まで待つべきだ」に傾いた。最後は薬事分科会の太田茂会長が「データから有効性は推定されないとの意見が多くを占めた。(現在進んでいる)第Ⅲ相の結果を待って改めて審議したい」と締めくくって継続審議が決まった。
●治療の決め手なく、医療現場から不安や戸惑いも
 第7波の猛威は凄まじく、ゾコーバの緊急承認が見送られた翌21日。全国の新規感染者は、3万人を超えた東京都をはじめ多くの県で過去最多を記録し、総計では18万人を超えた。使用上の制限が比較的少ないとされるゾコーバは多くの臨床医のほか、政府や保健行政の関係者からは期待されていた。政府部内ではPMDAの審査報告書に「社会的観点からより早期に使用可能とする検討も可能」との表現があることから第7波の急拡大の現実を考慮されて緊急承認される、との楽観的見方が多かった。厚労省からは後藤茂之厚労相が緊急承認後の記者対応を準備していたとの話も伝わった。医療現場でも審議会での議論と同じように、早期承認を待ち望む声と慎重な意見が入り交じる。「詳しいデータが論文などで出ないと現場で使えるか判断がつかない」と明言する意見がある。その一方で連日大勢の感染者を診断、診療している現場の医師からは「治療の決め手がない現在、審議継続には正直がっかりした」「示されたデータから私は使用できると考えていた。何のための緊急承認の枠組みを作ったのか」といった戸惑いや今後の診断、診療に不安を訴える声も少なくない。審議会会合の議論ではゾコーバの効果評価で一致できなかった。治験の最終結果を待つべきとの結論は説得力がある。ゾコーバは承認されれば多くの人が服用すると見込まれるだけに、慎重な判断と審議継続の結論は妥当と言うべきだろう。
●政府、いまだ「出口戦略」を描けず
 審議から離れて現在のコロナ禍の現実に目を向ける。想定を超える第7波の急拡大を受けて医療現場は再び逼迫(ひっぱく)しつつある。PCR検査も依然「いつでも誰でも受けられる」体制は整っていない。自宅で簡単に感染の有無をチェックできる抗原検査キットも入手しにくい。ゾコーバの緊急承認は見送られた。医療現場は依然治療の「切り札」を見いだせないまま患者対応に奮闘している。政府はコロナ禍の収束をいまだ見通せず、「出口戦略」を描けないでいる。

<経済を支える人材←科学技術は教育から>
PS(2022年9月3日追加):*12-1は、「『科学技術力の低下』になぜ危機感を覚えないのか」と題し、①世界的にインパクトのある自然科学分野の論文数で日本はこの20年で4位から10位に転落 ②トップ1%補正論文数が世界に占める比率は1位:中国27.2%・2位:アメリカ24.9%で日本は1.9%しかなく、NISTEPの注目度の高い「トップ10%補正論文数」でも日本は世界10位から12位に低下 ③科学技術行政は重点政策から抜けたが ④科学技術力が国力の大きな構成要素であることは明らか ⑤新型コロナ対応もワクチン・治療薬がすべて外国企業依存 ⑥国内の塩野義製薬が国産治療薬の承認を目指しても薬事審議会で緊急承認が得られず ⑦半導体も日本企業に最先端の半導体を生産する能力がなく ⑧“科学技術力=国力”と考えて至急強化すべきで ⑨日本は人口でGDPは何とか3 位を保つが、科学技術力は米中にまったく太刀打ちできず ⑩日本の科学技術力低下の原因は質の高い論文の生産性の低さ(日本の大学・企業の生産性の低さに起因)にある ⑪日本の労働生産性は世界34位の$78.000とアメリカの半分で、ドイツ、イギリスにも太刀打ちできず ⑫日本企業や日本人の持つ年功序列・リスクを取らない文化・チームワーク重視のため周囲を過度に忖度する文化・個人の責任と権限が明確化されない組織が日本の労働生産性が低い原因で ⑬ノーベル賞受賞者は若手時代のアイデアに基づく研究だったが、日本の研究機関は若手研究者の自由な発想を認めない 等としている。
 このうち④⑧⑩⑪には全く賛成で、①②⑤⑦⑨が現在の日本の研究力だが、③については、「文部化科学大臣が変わったから科学技術行政は重点政策から抜けた」とは言えないと思う。何故なら、⑥は製薬会社の研究者が悪いわけではなく厚労省の無理解と不作為が問題だからで、⑫は行政や企業だけでなく日本では初等教育からメディアが発信する情報に至るまで多くの人が持っている文化であり、その文化はチームワークのみを重視して周囲を忖度させ(そして、これを“空気を読む”と呼ぶ)、個性を育まない教育をしてきたことによって生まれたものだからである。しかし、世界で注目される論文は、前に誰かが言ったことをなぞったような内容の論文ではなく、これまで誰も言わなかった皆が「あっ」と思うような論文であり、それは個性を大切にして自由な発想をさせた場合にのみ生まれるものなのだ。この点、⑬の「ノーベル賞受賞者は若手時代のアイデアに基づいて研究した」というのは正しいが、それは当時の若手の話であり、現在の日本の若手はむしろ初等・中等教育で自由な発想を認めず過度に空気を読む教育を受け、その結果、社会全体が個性を殺して皆と同じことをするのが美徳であるかのように思っている。そのため、文科省には、初等・中等教育段階から個性ある才能を大切に伸ばし、それと同時に自由と責任の関係をしっかり教える教育をすることが望まれる。
 このように、日本では第一線で活躍している“生産年齢人口”の多くが、チームワークを重視して“空気”を読みすぎる教育を受け、個性ある才能を伸ばしていない現在、*12-2のシンガポール・タイ・英国のように、外国で教育を受けて先端知識や技術を持つ高度人材を、高給を払い、優遇して、獲得するしかないだろう。明治時代には日本もこれを行っていたが、現在は、世界の大競争の中で教育を疎かにしてきた結果、システマチックに海外で教育を受けた高度人材を獲得しなければ追いつかなくなったということだ。
 しかし、日本で足りないのが高度人材だけではないことは、国内では第1次産業も第2次産業も廃れ、食料自給率は37%まで落ちて、輸出より輸入の方が多いため円弱状態になっていることから明らかである。しかし、需要者は値段の割にさほどでもない物を慈善事業で買いたいとは思わない(=競争力がない)ため、国内産業を充実させるには、*12-3の外国人労働者も必要不可欠で、そのためには外国人労働者にとって中長期的に魅力的で選ばれる国になるための行動が、今まさに求められている。

*12-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/49b2bec05a8aebe891872c5d5dcb6f452e674b16 (東洋経済 2022/8/21) 「科学技術力の低下」になぜ危機感を覚えないのか 日本の地位は20年あまりで4位から10位に陥落
 8月9日、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は「科学技術指標2022」を発表した。世界的にインパクトのある自然科学分野の論文数で、日本の地位はこの20年あまりの間に、4位から10位に陥落した。論文のシェアは1位の中国が27.2%、2位のアメリカが24.9%であるのに対し、日本はたったの1.9%。国内の科学技術力の低下に歯止めがかからない。その翌日、岸田文雄首相は内閣改造を行った。記者会見で喫緊の課題として挙げたのが、防衛力の抜本的な強化、経済安全保障の推進、「新しい資本主義」の実現による経済再生、新型コロナウイルス対策の新たな段階への移行、そして子ども・少子化対策の強化の5つだ。そこに「科学技術力の強化」という文言は出てこなかった。科学技術行政を所管する文部科学大臣には新任の大臣が当てられ、重点政策から抜け落ちてしまった。
■科学技術力こそ国力
 科学技術力が国力の大きな構成要素であることは、日本が直面している課題をみれば明らかだ。ロシアのウクライナ侵攻にみるアメリカを始めとするNATO(北大西洋条約機構)の圧倒的な軍事力と、人工衛星を使ったロシア軍の情報収集能力の高さ。これらの基礎となっているのは、科学技術力であることは言うまでもないだろう。新型コロナへの対応をみても、現時点において日本は、ワクチンや治療薬はすべてアメリカのファイザー社やモデルナ社、メルク(MSD)社、ドイツのビオンテック社、イギリスのアストラゼネカ社など、外国の製薬企業、バイオ医薬企業に依存せざるを得ない。国内では塩野義製薬が国産の治療薬の承認を目指すが、8月19日時点において薬事審議会でも緊急承認は得られていない。自動車や電機メーカーが調達に苦しんでいる半導体についても、日本企業に最先端の半導体を生産する能力はほとんどなく、日本政府が台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に巨額の補助金をつけて、熊本に工場を建設してもらう始末である。科学技術力は、防衛でも、経済でも、新型コロナウイルス対応でも、大きな役割を担っている。“科学技術力=国力”と考えて至急強化していかないと、防衛力の強化も、経済安全保障の推進も、新型コロナウイルス対応もすべて絵に描いた餅になってしまうのである。NISTEPが発表した「科学技術指標2022」の内容は衝撃的である。他の論文によく引用され、注目度の高い論文である「トップ10%補正論文数」では、日本地位は世界10位から12位に低下。より重要度の高い「トップ1%補正論文数」では、日本は過去最低の10位に落ちた。簡単にこの数字の意味を解説しておきたい。これは、化学、材料科学、物理学、計算機・数学、工学、環境・地球科学、臨床医学、基礎生命科学の8分野から発表された論文を集計、共著論文は、例えば日米の2大学の共著なら日本2分の1、アメリカ2分の1とカウントして論文数を補正したもの(補正論文数)によって、ランク付けをしている。質の高い論文は各国の研究者に頻繁に引用されるため、引用数の多いものは質が高いと評価される。その、トップ1%補正論文数のランキングの時系列での変化をみると、日本の低下ぶりに驚く。1998~2000年には、1位アメリカ、2位イギリス、3位ドイツに次いで4位だった。ところが、2008~2010年には、アメリカ、イギリス、中国、ドイツ、フランス、カナダに次いで7位に落ちた。そして、今回発表された2018~2020年は、中国、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、イタリア、カナダ、フランス、インドに次いで10位である。日本のトップ1%補正論文数が世界に占める比率は、たった1.9%に過ぎない。ちなみに、中国は27.2%、アメリカは24.9%、イギリスは5.5%、ドイツは3.9%であるから、科学技術力でも米中2大大国体制が築き上げられている。日本はGDPこそ人口の多さから何とか3位を保っているものの、科学技術力では、米中にまったく太刀打ちできないことが、白日の下にさらされたのである。
■低下の原因は「生産性」の低さ
 同資料では、日本の科学技術予算の伸びが低い、研究者数の伸びも低いことが問題だと述べているが、そこに示されている数値を客観的に見る限り、日本の科学技術力の低下の原因はそこではなく、「科学技術予算や研究者数に比べて成果物である質の高い論文数が少ない」という生産性の低さにあるのではないか。日本の研究開発費、研究者数は、今でも堂々たる3位である。2015年基準、OECD購買力平価換算の2020年の数字で比較するなら、日本は18兆円、アメリカは67兆円、中国は58兆円。ドイツは13兆円。イギリスについては2020年の数字がないので、2019年の数字で見ると5.3兆円しかない。米中には完敗だが、トップ1%補正論文数で上位にランクしているドイツやイギリスより、投下されている金額は大きい。研究者の数では、日本は2020年に69万人、アメリカは2019年に158万人、中国は2020年に228万人、ドイツは2020年に45万人、イギリスは2019年に38万人である。これも米中には完敗であるが、ドイツ、イギリスを大きく上回っている。こうした数字を見ると、いかに日本の科学技術研究の生産性が低いかがわかる。今の生産性のまま科学技術予算を増額していっても、ただ死に金が増えるという事態になりかねないのである。科学技術力低下の原因は、日本の大学や企業における生産性の低さに起因する。日本全体の労働生産性の低さと同じ結果になっている。2019年の世界銀行のデータによれば、日本の1人あたりの労働生産性(GDPを就業者数で割ったもの)は世界34位の78000ドルである。労働生産性が高い国には人口の少ない国が多いのだが、アメリカはそのなかで5位の136000ドル。ドイツは17位の105000ドル。イギリスは24位の94000ドルだ。おおざっぱに言えば、日本の労働生産性はアメリカの半分となり、ドイツ、イギリスにも太刀打ちできなくなっているということだ。その理由として識者が挙げているのが、経済が成長しないから、IT化が進んでいないから、政府が生産性の低い企業を温存しているから、といった要因だが、最大の要因は日本企業、日本人の持つ文化ではないかと思う。年功序列とリスクを取らない文化、チームワーク重視のため周囲の人の気持ちを過度に忖度する文化、個人の責任と権限が明確化されず、誰が責任者かわからない組織のあり方が、日本人の生産性を低下させている。本来、組織というものは、個々の構成員に明確に責任と権限が与えられ、各人が自分の能力で与えられた課題を解決するよう作られるべきである。こうなっていれば、各人は自分の与えられた役割について、自分で決断し実行することができ、きわめて効率的に仕事を進めることができる。
■世界と対極にある日本の組織
 組織に入っても、各人の役割や責任、権限は不明。何となく全員で仕事を進めていく。仕事の出来、不出来の評価もハッキリせず、組織内での年功と人間関係で各個人の評価が決まる。年功が絶対的で、若手の意見は取り入れられない。おそらく研究機関でも同じことが起こっているのではないか。若手の研究者が研究所に入ると、先輩研究員の下働きから始めさせられ、彼らが革新的なアイデアを持ち、新しい研究をやってみたいと思っても、組織の壁に跳ね返される。若手研究者が予算を取りたいと思っても、説明資料の作成、関係部署への根回しを命じられる。これに膨大な時間を費やすることになり、肝心の研究時間が少なくなる。先輩研究員が若手の研究者の意見を聞いても、その革新性がよくわからないから、とりあえず年功序列で予算を配分する。こうして若手研究者のやる気はそがれていく。ノーベル賞受賞者も、その表彰の対象がほとんど若手時代の斬新なアイデアに基づいた研究であったという事実があるにもかかわらず、日本の研究機関は若手研究者の自由な発想を認めない。研究機関という、本来個人の能力だけで評価されるべきフィールドであるにもかかわらず、責任と権限の不明確な日本的組織のもと、年功序列の考え方が支配している。これを変えるためには、研究機関への研究成果に基づいた徹底した実力主義の導入が望ましい。これまでのような年功序列は廃止し、徹底した実力主義で人事を行い、研究予算の割り当てを決める。こうした改革を進めるためには、研究機関のマネジメントは研究者ではなく、専業の人間に任せた方がよいだろう。こうした改革は大学や研究機関の常識を覆すもので、大きな抵抗が予想される。しかし、こうした抜本的改革なくしては、研究開発予算がムダに使われ、そこで勤めている研究者が腐ってしまうという悪循環が続いていくだけだ。

*12-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220902&ng=DGKKZO63968120R00C22A9FFJ000 () シンガポール、高度人材獲得へ新ビザ、月収300万円、長期滞在可
 シンガポールは2023年1月、月収3万シンガポールドル(約300万円)以上を条件に、複数の企業での同時勤務を認め、通常より長い5年間の滞在を認める新たなビザ(査証)を導入する。国境をまたぐ高度人材の獲得競争で先手を打ち、新型コロナウイルスによる打撃からの経済回復にはずみをつける狙いだ。シンガポールが新設するビザは、過去1年の固定給あるいはシンガポールで勤務後の固定給が3万シンガポールドル以上の人材が対象だ。取得要件のハードルが高いかわりに、滞在可能期間は通常の専門職ビザの2~3年より長くする。複数の企業で同時に働けるようになる。配偶者も「LOC」と呼ばれる承諾証を得れば、シンガポールで働くことができる。高収入を得る能力がある外国人材に特別待遇を与え、働く場所としてシンガポールを選んでもらう狙いだ。月収が3万シンガポールドルに達しなくても、需要の多い人材には5年間の長期滞在を認める。不足気味のテック人材、顕著な実績がある研究者、学者、スポーツ選手などだ。これには最先端の知識や技能を持つ人工知能(AI)の専門家やプログラマーらが該当するとみられている。タン・シーレン人材開発相は8月29日「天然資源に恵まれないシンガポールにとって、人材が唯一の資源だ」と述べ、戦略的な外国人材の獲得が重要だと強調した。ビザ発給のための審査期間は現状の3週間程度から10営業日以内に短縮するとも発表した。企業がシンガポールの国外から迅速に人材を送り込めるようにする。シンガポールがこうした「エリートビザ」を設ける背景には、各国が高度人材の獲得にしのぎを削っている現状がある。タイは9月、電気自動車(EV)や医療など重要分野に高度人材を求め、期間10年の長期ビザを導入。英国は5月、世界のトップ大学の卒業生を対象に就職先を事前に確保しなくても申請、取得できるビザを新設した。シンガポールのリー・シェンロン首相は8月21日の年次演説で、英国の新たなビザを引き合いに「シンガポールには他国に後れを取る余裕がない」と述べ、危機感をあらわにした。世界では、新型コロナの感染拡大で一時厳しく制限されていた国境を越えた移動も以前の状態にほぼ戻り、優秀な人材の国境を越えた移動が再び活発になってきた。シンガポールは国民のリスキリング(学び直し)にも力を入れている。海外の高度人材を受け入れ、その技能の移転を促すことで、国民の能力の底上げにつなげる。一方、国内でも充足できる水準の海外人材については、むやみに増やすことはしない方針だ。専門職向けビザの取得に必要な最低月収額は1日、それまでの4500シンガポールドルから5000シンガポールドルに引き上げた。要件の月収額は年齢が上がればあがるほど高まる。40代半ばの応募者は月収が日本円換算で100万円以上でないと、ビザは発給されない可能性が高い。高所得の優秀な海外人材を厳選するシンガポール政府の思惑が透ける。シンガポールの新方針は、高い報酬を得るグローバル企業の幹部社員や最先端のIT(情報技術)能力を持つ外国人材にとって、働き方の自由度が高まる利点がある。だが、給与水準で見劣りする日本企業にとっては、社員をシンガポールに派遣するうえで障害となるかもしれない。

*12-3:https://digital.asahi.com/articles/ASQ2372X3Q23UHBI019.html (朝日新聞 2022年2月4日) 外国人材、2040年に「今の4倍必要に」 JICAなどが初の試算
 2040年に政府がめざす経済成長を達成するには外国人労働者が現在の約4倍の674万人必要になり、現状の受け入れ方式のままでは42万人不足するとの推計を国際協力機構(JICA)などがまとめ、3日に公表した。外国人労働者の需給に関する長期的な試算は初めてといい、今後の議論の出発点として役立つとしている。調査研究をしたのは、JICAや日本政策投資銀行グループの価値総合研究所など。政府のシナリオから40年の国内総生産(GDP)の目標を、15年比36%増の704兆円と設定。国内の労働人口の減少や、人手を補う自動化などの設備投資が促進されると仮定した上で、目標達成には30年に419万人、40年に674万人の外国人労働者が必要になると推計した。厚生労働省によると、21年10月末時点の国内の外国人労働者は約172万7千人で、うち約35万人が日本で技能や技術を学ぶ目的の「技能実習」、約33万人が留学生によるアルバイトなど「資格外活動」の在留資格で働いている。40年の成長目標を達成するには、現在の約4倍が必要となる計算になる。一方、日本に主に労働者を送り出している中国やベトナムなどアジア13カ国の人口動態や経済成長率、来日外国人の滞在年数の平均などを分析。これらの国々の経済成長や少子化で労働者の獲得競争の激化が予想され、需要に対して30年に63万人、40年には42万人が不足すると推計した。JICAの北岡伸一理事長は3日にオンラインで開かれたシンポジウムで「外国人労働者にとって中長期的に魅力的な、『選ばれる』日本になるための行動がいま必要だ」と述べた。

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2022.7.4~13 憲法の変更と防衛・社会保障・財源 (2022年7月20、23、24、27日追加)
 
2022.1.24東京新聞  2022.6.20日経新聞      2022.7.4日経新聞

(図の説明:1番左の図は、憲法に関する主な政党の主張で、左から2番目の図が、今回の参議院議員選挙における憲法に関する各党の公約だ。また、右から2番目と1番右の図が現在の予想獲得議席で改憲派《改憲項目は異なる》が優勢だそうである)


    2022.5.28沖縄タイムス      2022.6.18時事   2022.6.30時事 

(図の説明:左図が、今回の参院選における防衛関連の自民党公約、中央の図が、主要政党の物価高・経済対策、安全保障、憲法に関する公約で、右図が、財政政策に関する各党の公約だ)

(1)参院選の争点となっている憲法の変更について
1)各党の公約
イ)与党の公約
 憲法の変更(「改正」「改悪」は言葉の中に是非を含むため、私は使用しない)に関する各党の公約は、*1-1と上図のように、自民党は、①9条に自衛隊の明記 ②緊急事態条項の新設 ③参院の合区解消 ④教育の充実 である。また、与党である公明党は、⑤デジタル社会での個人情報保護や環境保全の責務など憲法施行時に想定されなかった新理念や憲法改正でしか解決できない課題があれば加憲 ⑥憲法9条は堅持して自衛隊の憲法明記については引き続き検討 ⑦緊急事態発生時の議員任期延長は議論 としている。

 しかし、①は、明記されていなくても国際法で自衛権の行使は認められ、「どこまでが自衛か」という論点の方が重要で、「どこまで行っても、何をやっても、自衛だ」と解釈する方が日本にとってマイナス面が大きいと思う。

 また、②は、「(政府の放漫経営で)日本が破綻して社会保障が続かなくなり、それが緊急事態とされて、私権の制限に至る」ということも大いにあり得る上、日本国憲法第25条「①すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。② 国はすべての生活部面について社会福祉・社会保障及び公衆衛生の向上・増進に努めなければならない」は常に疎かにされてきたため、国の利益のために国民の私権制限を正当化させるような憲法に変えてはならないのだ。

 ③は、憲法を変更しなくても公職選挙法を改正すれば済み、④は憲法だけでなく教育基本法にも定められているため、これまで実行しなかった部分があれば、その理由を明確にして、全力で実行することが必要なのであって、改憲すべき事項ではない。

 さらに、⑤の個人情報保護は、(デジタル社会か否かを問わず)憲法第21条で「1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障する」「2項:検閲をしてはならない。通信の秘密を侵してはならない」と定められているため、既に個人情報は保護されている筈だ。そのため、具体的な不足事項があれば個人情報保護法を改正すればよく、環境保全も既に環境基本法があるため守ればよく、法律に不足があれば改正して罰則もつければよいのである。

ロ)日本維新の会と国民民主党など改憲推進政党の公約
 日本維新の会は、⑧教育無償化 ⑨統治機構改革 ⑩憲法裁判所の設置 ⑪9条改正 ⑫緊急事態条項制定 とし、国民民主党は、⑬緊急事態条項の創設 ⑭議員任期の特例延長規定創設 ⑮憲法9条については自衛権範囲や戦力不保持などを規定した9条2項との関係などの論点から具体的な議論 とする。

 このうち、⑧は④と同様で、⑨は具体的に「何が、どう不便なので、統治機構をどう改革して、憲法にどう記載するか」を説明しなければ議論にならないし、必要性もわからない。さらに、⑩は、憲法裁判所という特殊な裁判所を作らなくても現在の裁判所で判定すればよく、それが公正にできないようなら憲法裁判所を設置しても同じかそれ以下であろう。

 また、⑬は②と、⑮は①と同様であるし、⑭は両院があるため、一緒に解散してしまって議員が誰もいないという場面はなく、政府もあるため不要だと思う。

ハ)立憲民主党・日本共産党・れいわ新選組など改憲反対政党の公約
 立憲民主党は、⑯憲法9条に自衛隊を明記する自民党の案は、交戦権の否認などを定めた9条2項の法的拘束力が失われるので反対 ⑰内閣による衆議院解散の制約、臨時国会召集の期限明記、各議院の国政調査権強化、政府の情報公開義務、地方自治の充実について議論 とする。

 私は、⑯⑰には賛成だが、臨時国会がなかなか召集されなかった際は、政策に関する建設的な議論ではなく、個人の誹謗中傷を予算委員会でしつこく言いたてていた時期であったため、「そういうゲスな質問ばかり繰り返して時間の無駄をしない」というマナーも重要だと思った。

 日本共産党は、⑱前文を含む全条項を護り、特に平和的・民主的諸条項の完全実施 ⑲自衛隊は憲法9条との矛盾を自衛隊の解消を段階的に行うことで解決 とする。また、社民党も、⑳日本国憲法は徹底した平和主義を貫き「世界でも先進的」なので改悪に反対で、社会に行き詰まりが目立つのは憲法の理念を活用しない政府の責任なので、憲法理念を暮らしや政治に活かして国民生活を再建 とする。

 私も、⑱⑳のように、現行憲法を護って平和的・民主的諸条項を完全に実施した後に、「やはり不足がある」というのなら改憲の議論をしてもよいと思うが、現行憲法が施行された当初から自主憲法の制定を党是として改憲のチャンスを伺い、「改憲勢力の数さえそろえば、改憲のポイントが違っても、ゆるい協力で言われたことを全部を改憲する」などという政党は、現行憲法のよさを理解していないため改憲の発議をする資格がないと思う。

 しかし、⑲については、明記されていなくても自衛権の行使は国際的に認められているため、「どこまでが自衛か」という論議の方が重要だろう。

 れいわ新選組は、自民党の改憲4項目は憲法改正を要するものではなく、第25条などの完全に実現できていないものを実現する としているが、確かにまだ実現できていないものを実現する方が先だと思う。

2)自民党の方針について
 現在の政権党である自民党は、*1-2-1のように、①憲法9条1項、2項を維持したまま自衛隊を憲法に明記するか、9条2項を削除して自衛隊の目的・性格を明確化するかの2案があり ②選挙できない事態に備えて国会議員の任期延長・選挙期日の特例を設けるか、政府への権限集中・私権制限を含めた緊急事態条項を憲法に規定するかの2案もあり ③47条を改正して両院議員の選挙区及び定数配分は人口を基本としながら、行政区画や地勢などを総合的に勘案して、都道府県をまたがる合区を解消し、参院選は改選毎に各都道府県から1人以上選出可能となるよう規定し ④教育の重要性を憲法上明らかにするため、26条3項を新設して国が教育環境の整備を不断に推進すべき旨を規定する という状況だそうだ。

 そして、*1-2-2のように、自民党の茂木幹事長は、6月20日、「参院選後、できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案し、発議を目指したい」「(自民、公明、日本維新の会、国民民主などの改憲勢力が参院選で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するのが前提で)主要政党間でスケジュール感を共有し、早期に改憲を実現したい」と述べられたそうだ。

 しかし、参院選で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得したとしても、それぞれの政党は改憲したいポイントが異なるため、協力をとりつけるためにそれらの全部をともかく改憲項目にするようなら、憲法を愚弄すること甚だしいのである。

3)各メディアの意見
 メディアは、*1-2-3・*1-2-4のように、参院選の主要争点の一つに憲法改正が挙げられ、ロシアによるウクライナ侵攻が憲法論議に影響しているが、①改憲を主張する政党は憲法を変えないことによる不具合は何かを具体的に説明し ②改憲でしか問題が解決しない理由を明確にしなければならず ③選挙期間中に議論を深めて欲しい ④選挙結果によっては日本国憲法の重大な岐路になる可能性があるため、どんな国を目指すのか、危機を煽るのではなく熟議や歴史に耐えうる憲法論議を各党に望む としており、賛成だ。

 また、合区解消・教育無償化は、教育基本法や公職選挙法で対応可能なので改憲の必要性はなく、緊急事態条項は、大規模災害や武力攻撃発生時を例に挙げて政府の権限を強めることと説明されているが、いざとなったら私権を制限して個人の権利尊重や立憲主義の理念を根本から変える運用もできるため要注意なのである。

4)参議院議員選挙における改憲情勢
 7月10日投開票の参院選は、*1-3-1・*1-3-2・*1-3-3のように、自民・公明両党が改選124に欠員補充1を加えた125議席の過半数63議席を超える勢いで、立憲民主党は伸び悩み、日本維新の会は伸長する見通しだそうだ。自民党が1人区で強いのは、長期にわたって政権政党であるため、予算配分で支持を得たり、個人的に集票力があったり優秀だったりする人を候補者にし易いからで、有権者に政策に賛成する人が多いからではない。

 共同通信社の参院選トレンド調査でも、*1-2-3のように、投票先未定の有権者に何を最も重視して投票するかを聞くと、「物価高対策・財政政策」が46.1%の最多で、「憲法改正」は1.8%に留まり、「改憲に賛成だから、自民党に投票する」という人が多いわけではないことが明らかになっている。

 今回の参院選では、改憲論議に前向きな自民・維新・国民民主・公明の4党が非改選で84議席を持ち、この4党の無所属・諸派を含めて82議席以上となって、改憲の国会発議に必要な総議員の3分の2(166議席)維持が視野に入るそうだ。ただし、政党毎に改憲したいポイントは異なるのに、これらをまとめて改憲の国会発議ができるのかという疑問は残る。

 自民党は憲法9条への自衛隊明記と緊急事態条項の創設を中心として4項目の条文イメージを掲げ、茂木幹事長は報道各社のインタビューで「参院選後できるだけ早いタイミングで憲法改正原案の国会提出と発議を目指したい」と述べられた。

 しかし、緊急事態条項の創設について、私自身は(1)1)に記載したとおり、立憲民主党の「緊急事態条項の創設は、国民の権利保障や立憲主義に逆行する」というのに賛成で、国民の生存権を保障する社会保障は疎かにしながら、外交や経済での事前準備もなく、防衛費だけをGDPの2%まで増やして戦争の準備をされては困るため、9条の改憲もやめた方がよいと思う。

 いずれにしても、*1-3-4のように、有権者は国の形や改憲発議の可能性まで考慮して投票先を決めなければならないことになっているのだ。

(2)改憲に関する憲法学者と法律家団体の見解
1)憲法学者、東京大学石川教授の見解
 東京大学の石川教授は、*2-1のように、①ウクライナへの軍事支援で兵器ビジネスが活性化している現在、9条2項の存在意義は大きい ②9条は国防の手段を定めた条文ではなく、軍事力を統制して自由を確保する立憲主義の統治機構を構築するための条文 ③国家は、9条があっても安全供給義務を免れるわけではなく、憲法の許容範囲で政治的・経済的・社会的安全を確保しなければならない ④9条が立憲主義を挫折させた帝国主義・軍国主義を吹き飛ばしたので、それを不用意に動かすと不可逆的改正になりかねない ⑤自衛隊明記の名の下に9条の中身を変えるのは、自由のシステムを壊すだけに終わる可能性がある ⑥政治家には、条文の改正によって既存の制度の何が損なわれるのか、新しい制度が機能するのかを見定める責任がある ⑦国防国家に逆戻りして軍拡競争に巻き込まれていくことを恐れる ⑧公職選挙法の改正で足りる規定を、自縄自縛を解く突破口として利用しようというのは姑息 ⑨問われているのは、異質なものと共存する世の中を選ぶのか、異質なものを排除して仲間内だけで気持ちよく生きるか、という文明的な選択 ⑩上滑りの改憲論ではなく、尊皇攘夷の排外主義を立憲主義に切り替えた伊藤のような文明観を持ってまっとうな憲法論議を深めることが大切 としておられる。

 石川教授の説明は、確かに、⑩のように上滑りではなく、⑨のように、異質なものを排除することもなく文明的であり、深く考えた跡が見られるので気持ち良い。また、①②③はなるほどと思わされ、④⑤⑥⑦⑧は、私が何となく恐れていたことを具体的な言葉にしておられる。

 従って、上滑りの改憲論議が議員・候補者・メディア等を通して頻繁に行われ、学生や生徒が深い憲法観を持てなくなりつつある現在、石川教授が「50分、10コマ」くらいの日本国憲法に関する講義を動画配信したらよいと思われる。そして、中学・高校では、公民の時間に、石川教授などの動画による憲法の講義を視聴し、憲法のテキストも読んでディスカッションしながら、現代政治の仕組みとそれを支える制度について考えを深めるようにすればよいと思う。そして、このような動画の使い方は、他の教科にも応用できることである。

2)憲法に基づく政治を求める法律家団体の見解
 改憲を阻止する法律家団体は、*2-2のように、①岸田首相は在任中の改憲に強い意欲を見せ、憲法 9条への自衛隊明記への執念を表明した ②7月10日の参院選は重大な選択を主権者である市民に求めている ③自衛隊が憲法に明記されれば、憲法9条は死文化して歯止めなき軍拡と武力行使が可能になる ④国民主権と基本的人権の尊重という憲法の体系を破壊して軍事の論理が人権や民主主義に優先する国となる危険がある ⑤敵基攻撃論は先制攻撃と紙一重である ⑥安倍元首相や維新の会は「核共有」の議論を始めるべきとして核兵器禁止条約に背を向け、日本が堅持してきた非核三原則も捨て去ろうとしている ⑦5月23日の日米首脳会談でウクライナ危機を口実に力には力で対抗することが宣言され、これは憲法 9条が掲げる「外交による平和の実現」をかなぐり捨てるものである 等と記載している。

 また、自民党は、i)敵地攻撃能力を保有し、攻撃対象を敵国中枢に拡大する ii)防衛予算を 5年以内にGDP比2%に増やす iii)日米軍事同盟のさらなる強化と核抑止力を強化する iv)核持ち込み禁止を見直す などの専守防衛政策転換を求める提言を岸田首相に提出し、日本維新の会も安倍元首相が民放番組で核共有の議論を促すとすぐに賛成して、v) GDP比2%への防衛費増額 vi)中距離ミサイル等の装備拡充 vii)核共有等の拡大抑止議論の開始 viii)専守防衛の見直しなどを打ち出した とのことである。

 しかし、日本が敵基地攻撃能力保有や核共有を実施すれば他国も軍事力を増強して果てしない軍拡の応酬と相互不信を生み、日本の軍事力増強はむしろ安全保障環境を危機に陥れそうである。そのため、地域のすべての国を包み込む安全保障と非軍事的支援の枠組みを作るのが唯一の平和への道で、憲法 9条はそれを指し示す役割を担っているというのは正しそうだ。

 さらに、軍事費を増大させれば、次は、生活に必要な福祉を削って社会保険料や消費税を上げるという話が出てくるが、防衛費倍増分の 5兆円があれば、大学授業料の無償化・児童手当の高校までの延長と所得制限撤廃・小中学校の給食無償化 (合計約 3.2兆円) をしても余り、年金受給者に対して一律年12万円受給額を増加させる (約 5兆円) ことも可能である。そして、コロナ禍や物価高騰でさらに苦しくなっている国民は、こういう財政支出の方を望んでいるのだ。

(3)社会保障と国民生活

  
   2022.6.30時事      2022.6.27産経新聞     2022.6.28時事

(図の説明:左図は、財政政策に関する各党の主な公約で、中央と右の図が、社会保障関連の公約である)

1)各党の公約
 *3-1のように、各党の公約は、自民党は、①全ての世代が安心できる持続可能な年金・医療・介護等の全世代型社会保障構築に向けて計画的な取組み ②出産育児一時金の引上げなど出産育児支援を進めて仕事と子育てを両立できる環境をさらに整備 ③健康長寿・年齢に関わらない就業、多様な社会参加等で長生きが幸せと実感できる「幸齢社会」を実現 とし、公明党は、④社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築 ⑤公的価格引き上げによる医療・介護・障がい福祉の人材確保策強化 ⑥高齢者の所得保障充実に向け、高齢者が働きやすい環境整備と基礎年金の再配分機能強化を検討 としている。

 このうち、①の「安心」できるためには、生活できる年金と頼りになる医療・介護が確実に支給されることが必要であるため、「持続可能性」を口実に負担増・給付減ばかりしていれば逆になる。また、全ての世代が安心できる全世代型社会保障構築は重要だが、そのために高齢者と働く世代を対立させ、計画的に高齢者への支給を減らすのは、現在でも不十分な社会保障がさらに不十分になるため、工夫が足りず賛成できない。

 また、②の「出産育児一時金の引上げ」については、出産を保険適用にすれば済む上、一時金を少々もらっても出産で正規雇用の仕事を失い子育て後には非正規の仕事しかなければ全くPayしないため、出産しても正規雇用の仕事を失わないように仕事と子育てを両立できる環境を整備するか、子育て後に正規雇用の仕事に不利なく復職できるようにすべきである。

 しかし、*3-3-3のように、1990年代には共働き世帯と専業主婦世帯数が逆転したにもかかわらず、「M字カーブ」が続き、現在は「L字カーブ(女性の正規雇用率は20代後半に5割を超えてピークに達し、その後は正規雇用率が一貫して下がること)」が問題になっている。その理由は、出産後の女性に事実上非正規雇用の選択肢しかないからで、これは、女性の経済的自立、社会での活躍、労働力確保、社会保険料の徴収などの観点からよくない。

 そのため、「非正規雇用」という労働基準法でも男女雇用均等法でも護られない低賃金での不安定な働き方の許容をやめるべきである。また、③の健康長寿・年齢に関わらない就業はよいが、「多様な社会参加」という名目で高齢者や女性に低賃金労働や無償労働を強いるのは不公正で、長生きが幸せと実感できる社会にもならないため、内容をよく吟味すべきだ。

 なお、公明党は、④社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築 ⑤公的価格引き上げによる医療・介護・障がい福祉の人材確保策強化 ⑥高齢者の所得保障充実に向け、高齢者が働きやすい環境整備と基礎年金の再配分機能強化を検討 としている。

 このうち④は①と同じであり、⑤は公的価格引き上げを負担増・給付減で賄えば、高齢者に負担が偏るため、全世代が所得に応じて薄く広く負担する必要がある。また、国有資源からの収益を充てることも考えるべきだ。さらに、⑥については、定年制の廃止や定年年齢の延長と年金給付年齢の引き上げをセットで行えば、高齢者の所得保障と社会保障充実の両立が可能だろう。

 一方、立憲民主党は、⑦年金切り下げに対抗して低所得の年金生活者向けの手厚い年金生活者支援給付金 ⑧政府がコロナ禍で行う後期高齢者医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げ撤回 ⑨公立・公的病院の統廃合や病床削減に繋がる「地域医療構想」の抜本的見直し とし、日本共産党は、⑩物価高騰下での公的年金の支給額の引き下げ中止 ⑪年金削減の仕組み廃止と物価に応じて増える年金 ⑫75歳以上の医療費2倍化を中止・撤回 としている。

 また、社民党とれいわ新選組は、⑬75歳以上の医療費窓口負担の引き上げ中止と後期高齢者医療制度の抜本的見直し ⑭非正規労働拡大に歯止めをかけて正規労働への転換と雇用の安定実現 ⑮労働者派遣法の抜本改正と派遣労働の制限 ⑯社会保険料の国負担を増やして国民負担軽減 ⑰年金支給は減らさず、保険料の応能負担も含めた制度改革 ⑱介護・保育従事者の月給10万円アップして全産業平均との差を埋める とする。
 
 このうち⑦は、現在の高齢者については、老齢年金給付額の引き上げが必要で、将来の高齢者については、正規雇用への転換による厚生年金等への加入が重要だと思う。そのため、⑭⑮⑰の非正規から正規への転換がKeyになる。また、⑧⑫⑬の後期高齢者医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げについては、高齢者であっても3割負担してよいが、1カ月あたりの医療費割合を年金手取り額の5%以内に抑える等の上限を設ければ、生活できなくなるほどの医療費をとられることはなく、大病をしても負担に上限があるため安心できるだろう。

 また、⑩⑪⑰は、今でも暮らせない人が多い年金であるため、当たり前のことだ。さらに、⑨は、コロナ禍であろうとなかろうと、公立・公的病院の機能はあるため、数合わせでギリギリの病床数になるまで統廃合や病床削減をしてよいわけがなく、そのような計画は「地域医療構想」の名にも値しない。

 日本維新の会は、⑲現在の年金に代わって、すべての国民に無条件で一定額を支給する「ベーシックインカム」を導入して持続可能なセーフティーネット構築 とし、国民民主党は、⑳「給付付き税額控除」を導入し、マイナンバーと銀行口座を紐付けて「プッシュ型支援」を実現して「日本型ベーシックインカム」創設 としている。

 しかし、⑲⑳のように、「ベーシックインカム」「日本型ベーシックインカム」と名付けてマイナンバーと銀行口座を紐付け、すべての国民に無条件で一定額を支給するというのは、すべての国民に無条件で一定額を支給する必要はない上、「ベーシックインカム」とマイナンバー・銀行口座を紐付けて国民の管理を行うのも、自由主義の国の倫理に反すると思う。

2)物価上昇は実質賃金や実質年金給付の減額であること
 *3-2-1は、「総務省が6月24日に発表した5月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が101.6で前年同月比2.1%上昇し、生鮮食品も含む総合指数では2.5%上昇したが、生鮮食品とエネルギーをともに除いた総合指数では0.8%上昇した」と記載している。しかし、消費者にとっては、食品とエネルギーが最も節約しにくい支出であるため、これらを除いた物価指数を示されても意味がない。

 さらに、ロシアに対する金融制裁等の制裁によって飛躍的に上がった食料やエネルギー代は、必需品を供給している国の方が制裁に強く、制裁・制裁と大騒ぎした国の方が実際には大きな制裁を受けたという結果を示しているが、この物価上昇を緩めるためにガソリン補助金等を拡大するなど生産性が低くて気候危機や自給率向上に逆行する補助金を出すのは、投資と違って戻らない歳出増加になるのである。

 また、食料やエネルギー価格の上昇が貧しい人にほど大きな打撃を与える理由は、*3-2-2のように、高齢層はじめ収入が限られる人ほど、食費や光熱費などの節約できない支出の支出全体に占める割合が大きいからである。そのため、「4月の消費者物価指数が前年同月比2.5%上がって30年ぶりの伸びになった」などと「伸びた」という言葉を使うのは無神経にも程があり、物価上昇が国民生活や需給バランスに与える影響もわかっていない。

 そのため、*3-2-3のように、参院選の一番の争点に「物価高」が浮上しているのは自然なことだが、改憲に前向きな4党で2/3の議席を得れば改正の発議が可能になることから、「憲法改正」も主要なテーマとして考えなければならないわけである。


3)社会保障の負担と給付
 書き終わらないうちに参議院議員選挙が終わってしまったが、朝日新聞社説は、*3-3-1に、①各政党は公約の柱に、子ども・子育て支援策の充実を掲げるが、国民負担のあり方に関する言及が殆どない ②2040年代まで現役世代は減り続け、2025年に「団塊の世代」が全て75歳以上になる ③現在は約130兆円の社会保障給付費が、2040年度には190兆円に達すると推計される ④給付抑制や利用者負担増で支出を抑えるか ⑤税金や社会保険料の負担を引き上げて収入を増やすか と記載した。

 また、⑥与野党とも言及するのは余力ある高齢者に応分の負担を求め、元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうこと ⑦高齢者の負担を増やし過ぎれば、必要な医療や介護サービスを受けられなくなったり、家族介護や仕送りなどの形で現役世代の負担になったりする可能性もある ⑧高齢者に負担を求めれば解決するような言説は楽観的すぎる とも記載している。

 さらに、⑨振り返れば、政府・与党は経済成長をあてにして本格的な給付と負担の議論を避けてきたが、社会保障給付の伸びと税収の開きは大きくなるばかり ⑩野党の多くは富裕層への課税強化を訴え、消費税の減税や廃止を主張するが、それで増え続ける社会保障費を賄えるか ⑪手厚い保障と高負担の国もあれば自助を中心に据えた国もあり、日本がそのどちらともつかない状況にある と記載している。

 このうち①②は本当だろうが、③はどの項目の支出がどれだけの額になるのかを詳細に調べる必要がある。そして、調べた結果として、④の負担増・給付減ではなく、(いくらでもある)無駄を排することが必要なのだが、それもやらずに、⑤の税金や社会保険料の負担増を行っても、これまでと同様、無駄遣いが増えるだけで社会保障利用者の便宜は図られないのである。

 また、⑥の元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうのはよいが、「余力ある」高齢者といっても何を基準にどの範囲を「余力」と考えるのかは厳密な議論が必要で、⑦のように、高齢者の負担を増やし過ぎれば必要な医療・介護が受けられなくなって、一世代前のように、家族が介護や仕送りをしなければならなくなる。そのため、⑧のとおり、高齢者と若者を対立させて高齢者に負担増を行えば解決するかのような言説は思考停止である。

 政府・与党の⑨の経済成長が上手くいかなかっ理由は、i)大胆な金融緩和で日本経済を底上げしている間に、ii)機動的な財政政策とiii)民間投資を喚起する成長戦略を行う筈だったアベノミクス「3本の矢」が、ii)は本質的な投資に至らずに著しい無駄遣いが多く、iii)は岩盤にドリルで穴をあける改革は中途半端で積極的な民間投資を喚起できなかったため、経済成長に至らなかったことである。

 なお、高齢者に対する医療・介護等の社会保障は比較的新しい市場で、今後とも伸びる市場なのだが、この必要なサービスを無駄遣い扱いして抑えてきたことも、日本が経済成長できなかった理由の1つだ。にもかかわらず、社会保障の中での奪い合いが目立ち、「本格的な給付と負担の議論」と言えば、⑪のように、イ)手厚い保障と高負担の国 ロ)自助を中心に据えた国 もあり、日本がそのどちらともつかない状況とする点が誤りなのである。

 本当は、イ)ロ)のどちらでもない第三の方法が存在し、それはサウジアラビアやロシアのような国有資源を持つ国である。しかし、日本は、国の管轄下である海底に資源が多く存在し、自然エネルギーも豊富で国有地で発電することも可能であるのに、政府は「資源のない国」として国富を海外に流出させることしか考えず、真剣に資源開発もしてこなかったのである。

 そのような考え方の政府の下では、給付の伸びと税収の開きは大きくなるばかりで、所得税との二重課税になるにもかかわらず、⑩の消費税は減税・廃止どころかさらなる増税しかできず、高齢者関連のサービス市場も育たないわけである。

 佐賀新聞は、*3-3-2のように、⑫日本が抱える多くの困難は人口減少・少子高齢化が原因 ⑬土台の揺らぐ社会保障制度の安定化は焦眉の急 ⑭財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合って重要な論点まで行き着かず ⑮安全網として不可欠な社会保障は、給付と負担のバランスで成り立ち、給付を増やせば全体として負担が増す ⑯負担は分かち合いで、高齢者も含む今の大人が痛みを避ければツケが確実に子や孫に回る ⑰2040年に高齢者人口がピークの約3900万人に増え、年金・医療・介護の社会保障費がかさむが、働いて保険料を払う現役世代は約7500万人から1500万人減る ⑱これに備えるのが政府の「全世代型社会保障」 ⑲高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代に回し、少子化を止める ⑳元気な高齢者や女性にもなるべく働いてもらい、社会保障の支え手を増やす と記載した。

 この中での課題の捉え方の問題は、⑫の人口減少と少子高齢化は日本が抱える困難の原因で、⑯の高齢者も含む今の大人が痛みを避ければツケが確実に子や孫に回るから、⑬の社会保障制度の安定化のために、⑲の高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代に回して少子化を止めることが必要 ということだ。

 何故なら、「親孝行」という言葉はあるが「子孝行」という言葉がない理由は、子が生まれると大多数の人は本能が働いて「自分が護らなければならない」と強く感じるのだが、親に対してはそういう本能が働かないため、人類は、文明の力で親や老人を大切にする習慣を作ってきたからである。そして、年金・介護の役割を家族で行うと、それを担当する家族の負担が大きすぎるから、年金制度・介護保険制度として社会化したのであって、⑯⑲はおかど違いの指摘も甚だしいのである。もしくは、家族が老人の世話をしていた昔に戻したいのか?

 また、⑫⑰は「日本が抱える多くの困難は人口減少・少子高齢化が原因で、2040年には高齢者人口がピークになり、現役世代は1500万人減る」としているが、今でも失業者の吸収のために景気対策に汲々とし、金融緩和で失業者の発生を防ぎ、それでも非正規雇用という条件の悪い労働を強いられている人が多いのであるため、景気対策をしなくても失業者や劣悪な労働条件下で働かされる人がいなくなるようにする方が先なのである。

 その上、(日本人労働者を護るために行っているのだが)外国人労働者や難民への人権侵害や差別的待遇は文明国とは言い難い状況であるため、まともな待遇をする方が先であろう。

 なお、⑭の「財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合って重要な論点まで行き着かない」のは困ったことだが、⑮の「安全網として不可欠な社会保障は、国民への給付を増やせば国民負担が増す」というのは、目的外の無駄遣いがあることを無視し、第三の方法も考えていないため、狭い範囲の算術だけで思考停止が過ぎる。

 私も、⑱の「全世代型社会保障」は必要で、例えば65歳以下でも遠慮なく介護サービスを受けられ、そのかわり介護保険料も所得のある全世代が所得に応じて広く薄く負担する制度にすべきだし、そうすれば第二子以下の出産もしやすくもなると思う。しかし、⑳の元気な高齢者や女性にも働いてもらうのはよいが、半人前の非正規労働者として使って搾取することは許されないし、それでは、社会保障の支え手も増えないのである。

4)医療保険制度について


      国立癌研究センター      厚労省      日本腎臓学会

(図の説明:左図は、年齢階層別人口10万人当たりの癌の罹患率で、50才を過ぎる頃から等比級数的に増える。また、中央の図は、年齢階層別の糖尿病有病率と予備軍の割合で、癌と比較すれば増え方は滑らかだが、年齢が上がるにつれやはり有病者が増えている。さらに、右図は、年齢階層別のCKD《慢性腎臓病》患者の割合で、これも年齢が上がるにつれて有病者が等比級数的に増える。そして、これらの現象が起こる理由は、人間には死がセットされており、年齢が上がるにつれて健康を維持する機能が衰えるからだと言われている)

 日経新聞は、*3-4-1で、①日本医療が少子高齢化を乗り越えるには、負担と給付の発想転換が必要 ②「団塊の世代」全員が75歳以上になる2025年以降は医療費の膨張が加速 ③現役世代の負荷を緩和するため、マイナンバーを活用して金融資産等の保有状況を考慮した負担を検討 ④資産のある高齢者にもっと負担してもらう ⑤高齢者の医療費窓口負担は70~74歳は2割、75歳以上は1割が原則だが、今後は現役世代と同様に3割負担を原則とすることも課題 ⑥会社員らの健康保険組合は加入者の賃金水準が新型コロナ前に戻らない中、高齢者医療を支えるため毎年3兆円超拠出 ⑦府推計では2040年の医療給付費は68.5兆円と2020年度の約1.7倍に増え、20~64歳の現役人口は2割近く減少 と記載している。

 このうち、②は事実だが、⑦のように、現役人口を未だに20~64歳と決めつけているのは思考停止だ。何故なら、上の図のように、50才を超える頃から癌・糖尿病・腎臓病をはじめとする成人病の罹患率が上がり始めるが、80歳超でもどの病気でもない健康な人が3/4~2/3はおり、個人差が大きいからである。さらに、働き続けて頭や身体を使っている人の方が健康でいられる確率は高い。しかし、病気への罹患率が高齢になるほど上がるのは事実で、若い頃は誰しも保険料を払ってもあまり病院に行く必要がなかったわけである。

 そのため、本来はリスクの高い人とリスクの低い人が同じ医療保険に加入していることにより、保険制度は成立する。しかしながら、(私は現職だったので反対したが)2008年の制度変更で病気になるリスクの低い若い人が多い被用者保険は65歳の定年退職時に脱退させ、退職後の65~74歳の間は前期高齢者として国民健康保険に加入させ、75歳以上になると後期高齢者として後期高齢者医療保険に入れる仕組みにして、入る医療保険を年齢で分けたから、国民健康保険と後期高齢者医療保険は、(当然のことながら)大きな赤字になったのである。

 そのため、令和4年度のケースでは、赤字補填のために被用者保険と公費から前期高齢者が入る国民健康保険に6.7兆円、後期高齢者が入る後期高齢者医療保険に17兆円拠出している。そして、③の「現役世代の負荷」、⑥の「会社員らの健康保険組合が高齢者医療を支えるため毎年3兆円超拠出」などというのはこのことを言っているわけだが、本来は、若い頃に入っていた保険に生涯入り続ける方が、えいやっと決めた意図的な金額を被用者保険や公費から拠出するよりも保険の理論に合っているわけである(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html 参照)。

 従って、①③④の「マイナンバーを活用して金融資産等の資産のある高齢者にもっと負担してもらう」というのは、若い頃は病院にも行かず多額の医療保険料を支払ってきた高齢者に対して二重三重の負担を強いるものであり、公正性に欠ける。そして、そのような意図があるから、「マイナンバーを活用して金融資産等の保有状況を考慮」することによって保険料を何重にも負担させられてはたまったものではないし、*3-4-2のように、個人情報が漏れたり悪用されたりする可能性もあるため、マイナンバーカードは作らない方がよいことになる。

 なお、⑤の「高齢者の医療費窓口負担」については、私は現役世代と同じ3割負担を原則としてよいと思うが、上の図の通り、高齢になると病気になる確率が上がり、同時に介護も必要になったり、収入が年金に限られていたりするため、年齢にかかわらず医療費の上限を収入の5%として医療費・介護費が生活費を圧迫しないようにすべきだ。そして、このような事態は誰にでも起こり得るため、不公平でも不公正でもなく、それこそが保険の役割である。

 また、*3-4-1は、⑧フランスでは医薬品について有効性や安全性だけでなく、疾病の重篤度、治療の特性、公衆衛生への影響などの医療上の有用性の観点で評価し、(一般患者なら一律70%給付の日本と異なり)給付率は5段階あって、抗がん剤など他で代替できない薬は100%給付、重要度が下がるにつれ65%、30%、15%、0%と給付率が下がり、有用性が低い薬ほど患者負担が重い ⑨治療法の評価も見直しが必要で、例えば内視鏡手術が開腹手術より早期退院できるなら、病気治療だけでなく「日常生活により早く戻る」という便益も提供される ⑩特別な治療法を選択した患者に追加的な自己負担を求める考え方も検討すべき ⑪こうした改革を進める前提として保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を禁止するルールは見直し、柔軟に併用できるようにしたほうがよい とも記載している。

 このうち、⑧⑨⑩については、フランスの場合は、政府の選択が正しいと信頼できるのかもしれないが、日本の場合は、「抗がん剤」のような副作用の大きな薬剤の方が免疫療法よりもよく、「抗がん剤」は他で代替できない薬だとしていたり、内視鏡手術が開腹手術に及ばない場合もあるのに「日常生活により早く戻れる便益がある」等々としているように、政府(厚労省)の選択に信頼が置けないのである。そのため、まず、⑪のように、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を可能にし、医師と患者が合意して行われた保険外診療で成果を出したものは、原則としてその価格で次々と保険診療化するというのが最も変な恣意性の入らない方法だろう。

・・参考資料・・
<憲法>
*1-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/07/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「憲法」
●自由民主党
 みんなで憲法について議論し、必要な改正を行うことによって、国民自身の手で新しい“ 国のかたち” を創る。改正の条文イメージとして、自衛隊の明記などの4項目を提示しており、国民の幅広い理解を得るため、改正の必要性を丁寧に説明していく。衆参両院の憲法審査会で提案・発議を行い、国民が主体的に意思表示する国民投票を実施し、改正を早期に実現する。
●立憲民主党
 憲法9条に自衛隊を明記する自民党の案は、交戦権の否認などを定めた9条2項の法的拘束力が失われるので反対する。内閣による衆議院解散の制約、臨時国会召集の期限明記、各議院の国政調査権の強化、政府の情報公開義務、地方自治の充実について議論を深める。
●公明党
 憲法施行時には想定されなかった新しい理念や、憲法改正でしか解決できない課題が明らかになれば、必要な規定を付け加えることは検討されるべき。憲法9条は今後とも堅持する。自衛隊の憲法への明記は引き続き検討を進めていく。緊急事態の国会の機能維持のため、議員任期の延長についてはさらに論議を積み重ねる。
●日本維新の会
 2016年に公表した憲法改正原案「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」の3項目に加えて、平和主義・戦争放棄を堅持しつつ自衛のための実力組織として自衛隊を憲法に位置づける「憲法9条」の改正、他国による武力攻撃や大災害、テロ・内乱、感染症まん延などの緊急事態に対応するための「緊急事態条項」の制定に取り組む。
●国民民主党
 緊急時における行政府の権限を統制するための緊急事態条項を創設し、いかなる場合であっても立法府の機能を維持できるよう、選挙ができなくなった場合に、議員任期の特例延長を認める規定を創設する。憲法9条については、自衛権の範囲や戦力の不保持などを規定した9条2項との関係などの論点から具体的な議論を進める。
●日本共産党
 日本国憲法の前文を含む全条項をまもり、とくに平和的民主的諸条項の完全実施を目指す。憲法9条改憲に反対をつらぬく。自衛隊については、憲法9条との矛盾を、9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かって段階的に解決していく。「自衛隊=違憲」論の立場を貫くが、党が参加する民主的政権の対応としては、自衛隊と共存する時期は、「自衛隊=合憲」の立場をとる。
●れいわ新選組
 いま、憲法を変える必要はない。自民党の改憲4項目はいずれも憲法改正を必要とするものではない。憲法は、最高法規であり、権力者を縛る鎖であり現行憲法の条文のうち25条などまだ完全に実現できていると言えないものの実現をまずは行う。緊急事態条項を加える憲法改正は有事に政府への権限集中を認めるという危険があり、行うべきではない。
●社会民主党
 徹底した平和主義を貫くなど「世界でも先進的」と言われており、改悪には反対。いま憲法を変える必要はなく、社会にさまざまな行き詰まりが目立つのは、憲法が原因ではなく、憲法の理念を活用しようとしない政府の責任だ。憲法理念を暮らしや政治に活かして、国民の生活を再建することに全力をあげる。
●NHK党
 憲法改正の発議を行い、国民投票を実施することは国民にとって貴重な政治参加の機会。そのため国会においては憲法審査会の開催など、憲法改正に関する議論をするよう積極的に促していく。国会閉会中の国会召集の要求に対して国会が開かれない問題への対策として、憲法 53 条などの改正を提案していく。

*1-2-1:https://www.sankei.com/article/20171221-IV26S36DVFJPXEZHVVBN62COYY/ (産経新聞 2017/12/21) 自民の改憲4項目「論点取りまとめ」要旨
【自衛隊】自衛隊が日本の独立、平和と安全、国民の生命と財産を守る上で必要不可欠な存在だとの見解に異論はなかった。改正の方向性として(1)9条1項、2項を維持し、自衛隊を憲法に明記するにとどめるべき(2)9条2項を削除し、自衛隊の目的・性格をより明確化する改正を行うべき-の2通りが述べられた。「シビリアンコントロール(文民統制)」も明記すべきだとの意見もあった。
【緊急事態】(1)選挙ができない事態に備え、国会議員の任期延長や選挙期日の特例を憲法に規定(2)政府への権限集中や私権制限を含めた緊急事態条項を憲法に規定-の2通りがあった。現行憲法で対応できない事項について憲法改正の是非を問う発想が必要と考えられる。
【合区解消・地方公共団体】47条を改正し(1)両院議員の選挙区および定数配分は人口を基本としながら、行政区画や地勢などを総合的に勘案(2)都道府県をまたがる合区を解消し、参院選は改選ごとに各広域地方公共団体(都道府県)から少なくとも1人が選出可能-となるよう規定する方向でおおむね一致。その基盤となる市町村と都道府県を92条に明記する方向で検討している。
【教育充実】教育の重要性を理念として憲法上明らかにするため、26条3項を新設し、国が教育環境の整備を不断に推進すべき旨を規定する方向でおおむね一致。89条は私学助成禁止と読めるため、条文改正を求める意見もあった。

*1-2-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1536457.html (琉球新報 2022年6月20日) 参院選後、早期に改憲発議 「早いタイミングで」と茂木氏
 自民党の茂木敏充幹事長は20日、報道各社のインタビューで、参院選後の早期に憲法改正の国会発議を目指す考えを表明した。「選挙後できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案し、発議を目指したい」と述べた。自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党などの改憲勢力が参院選で、改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得するのを前提にした発言だ。先の通常国会で改憲論議に前向きだった政党を念頭に「主要政党間でスケジュール感を共有し、早期に改憲を実現したい」とも主張した。早期改憲を目指す理由については、安全保障環境などが大きく変化していると指摘した。

*1-2-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1541904.html (琉球新報社説 2022年7月1日) 参院選・憲法 論点示し議論を深めよ
 6月22日に公示された参院選の主要な争点の一つに憲法改正が挙げられる。戦争放棄の第9条を掲げ平和主義を基本原則とする憲法の重みが今ほど増している時はない。ロシアによるウクライナ侵攻は憲法論議にも影響しているとみられる。改憲を主張する政党は、憲法を変えないことによる不具合は何かを具体的に説明し、憲法を改めることでしか問題は解決しない理由を明確にしなければならない。選挙期間中に議論を深めてほしい。共同通信社の参院選トレンド調査で、投票先未定の有権者に何を最も重視して投票するか聞くと「物価高対策・財政政策」が46・1%で最多だったのに対し、「憲法改正」は1・8%にとどまった。暮らしの問題が切実なのと同様に、憲法問題も日本の針路に関わる重要な議論だ。自民党の茂木敏充幹事長は「選挙後早いタイミングで改憲発議を目指す」と明言し、今回の参院選が大きな節目となる可能性がある。各党は論点を示し、有権者の関心を引き上げなければならない。自民党は憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の新設、参院選「合区」解消、教育無償化・充実強化―の党改憲4項目をまとめている。だが、合区解消と教育無償化は、教育や選挙制度に関する法律で対応が可能だ。憲法を変えなければならないという説明が足りていない。緊急事態条項は、大規模災害や武力攻撃発生時などの有事の際に政府の権限を強める内容だ。私権制限を伴うため個人の権利尊重や、法によって国家権力を縛る「立憲主義」といった、憲法の理念を根本から変えることになる。岸田文雄首相は4項目を「喫緊の課題」として早期実現を目指す。ただ、トレンド調査では岸田首相の下での憲法改正に「賛成」44・8%、「反対」44・7%と賛否が拮抗(きっこう)した。「喫緊」とは言えず、徹底した論議が必要だ。公明は自衛隊明記について「検討を進める」と従来より踏み込んだ。野党は、日本維新の会が武力攻撃を受けた際の緊急事態条項創設などを掲げる。国民民主党は9条改正の議論を進めるべきだと主張する。これに対し、立憲民主党の泉健太代表は改憲の優先度が低いとして、慎重な憲法論議を訴えた。共産党と社民党は9条改正反対の立場だ。沖縄選挙区で事実上の一騎打ちとなる伊波洋一氏と古謝玄太氏でも賛否は分かれる。伊波氏は「基本的人権や地方自治、平和主義など現行憲法の理念の実現が先だ」として改憲に反対の立場をとる。古謝氏は「自衛隊をきちんと憲法に位置付け『自衛隊違憲論』を解消すべきだ」として9条改正が必要だとする。改憲発議に必要な3分の2以上の議席獲得という数の論理ありきでなく、冷静な議論が必要である。

*1-2-4:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/828084 (京都新聞社説 2022年7月3日) <7・10参院選> 憲法の改正 重大な岐路関心寄せねば
 参院選の投開票日まで1週間。身近な物価高の対策に目が向きがちだが、結果によっては、施行から75年を迎えた日本国憲法の重大な岐路になる可能性がある。昨秋の衆院選に続き、参院でも憲法改正に積極的な勢力が国会の発議に必要な「3分の2以上」を超えれば、改憲の動きは加速するとみられるからだ。戦後、平和と繁栄を築いてきた日本の土台たる最高法規の書き換えは、国の行く末を大きく左右する。有権者は選択材料として、各党の憲法への主張を十分に吟味してほしい。公約などから自民、公明の与党に加え、日本維新の会、国民民主党が改憲勢力とされる。自民は公約に、安倍晋三政権下でまとめた9条への自衛隊の明記や緊急事態条項の新設など4項目を掲げる。日本維新の会も従来の改憲項目(教育無償化など)に加え、自衛隊明記と緊急事態条項設置を追加し、実質的に歩調をそろえた。一方、立憲民主党は「論憲」を標榜(ひょうぼう)し、衆院解散権の制約などは検討項目とするが、自衛隊の明記には反対する。共産党と社民党は護憲の立場で、れいわ新選組は憲法順守を訴える。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵略など国内外の情勢変化に加え、衆院選で改憲勢力が議席を増やしたことも受け、先の通常国会では衆院憲法審査会の開催が過去最多の16回を数えた。自民内からは「ソフトな印象の岸田文雄首相の誕生もあり、改憲環境は整ってきた」との声が聞かれる。岸田氏は「改憲の党是を成し遂げる」とし、茂木敏充幹事長は「選挙後できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会に提案したい」と公言する。選挙序盤の世論調査では与党が改選議席の過半数を上回り、維新も議席倍増以上の勢いがあるという。茂木氏の言葉は現実味を増しているようにみえる。それだけに、いま一度、憲法の意義を見つめ直し、改憲の必要性や優先度を考えたい。自民公約の緊急事態条項は、災害や感染症など不測の事態時に、内閣が国会抜きで法と同等の「緊急政令」を制定できるようにする内容だ。国民の私権制限や、選挙を行えない時の議員任期延長も可能にする。事実上、憲法を停止して内閣に白紙委任する形になる。既に緊急事態発生時の法整備が進む中、本当に必要なのか。憲法には、衆院解散後に非常事態があれば、参院が緊急集会で予算や議案を可決できる規定もある。自衛隊が国民に定着する中、憲法への明記は各種世論調査で賛否が半ばしている。9条改正の先に、専守防衛を転換し、自民が「反撃能力」と言い換えた敵基地攻撃能力の保有を目指すなら一層慎重な議論が欠かせない。国内外に多大の犠牲を強いた無謀な戦争の反省に立ち、強大な政府権力に制限をかけて国民を守るのが憲法の本質だ。それを変え、どんな国を目指すのか。力の縛りを解き放つマイナスは考えたか。危機をあおるのではなく、熟議や歴史に耐えうる憲法論議を各党に望む。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220704&ng=DGKKZO62285940U2A700C2MM8000 (日経新聞 2022.7.4) 自公、改選過半数の勢い 参院選情勢、立民伸び悩み、維新は伸長 改憲勢力3分の2視野
 日本経済新聞社は1~3日、7月10日投開票の参院選について世論調査した。取材を加味して情勢を探ると、自民、公明両党は改選124に欠員補充1を加えた125議席の過半数63を超える勢いだ。立憲民主党は伸び悩み、日本維新の会は伸長する見通しとなった。参院は3年ごとに半数ずつ改選し、今回から総定数が248となる。自公は非改選で70議席を持つため、参院の過半数(総合・経済面きょうのことば)は55議席で届く。調査は選挙区と比例代表でそれぞれ回答した人の1割前後が投票先を決めておらず、情勢は投票日まで流動的な要素が残る。自民、維新、国民民主党に公明を加えた4党は非改選で84議席を持つ。この4党の改憲論議に前向きな「改憲勢力」が無所属・諸派を含めて82議席以上とりうる。国会発議に必要な総議員の3分の2(166議席)維持が視野に入りつつある。自民は全体の勝敗に影響する32の1人区(改選定数1)のうち6割で当選が有力となっている。宮城や新潟、山梨など4割は立民など野党と競り合う状況だ。改選定数2~6の複数区は大半の選挙区で1議席を確保する公算が大きい。唯一接戦の京都も自民がやや上回る。千葉や東京、神奈川の各選挙区で2人目の当選も狙える情勢になっている。自民の比例は前回2019年参院選の獲得議席への上積みがみえてきた。選挙区と比例代表の合計で19年の57議席から伸びしろがある。60以上になれば非拘束名簿式の現行制度で01年と13年に続く3回目となる。立民は先行する1人区が接戦区を含めて青森や長野などにとどまる。今回の選挙で野党が候補者を一本化した1人区は11選挙区。16年と19年は全選挙区で統一候補をたて、野党系がそれぞれ11勝、10勝した。共闘体制が限定的になり、政権批判票が分散したことで情勢が厳しくなった。立民は複数区の東京や千葉、福岡では各1議席の獲得を見込む。北海道は自民と立民が3議席目を競り合う。比例代表と合わせて改選23を維持できるか微妙な情勢にある。公明は擁立した7選挙区全てでの議席確保が濃厚だ。比例代表とあわせ14議席前後となりそうだ。維新は改選6議席から2桁台への勢力拡大が見えつつある。選挙区は大阪で議席を確保するほか神奈川、兵庫に加え、京都でも当選圏内入りをめざす。比例代表も改選議席3からの積み増しをうかがう。国民民主は接戦の山形や愛知で現職がややリードするものの大分は追う展開となっている。共産党は比例を中心に議席獲得をめざす。選挙区は改選定数4の埼玉や同6の東京で議席獲得を争う。れいわ新選組も東京で1議席をかけて維新などと接戦を展開する。社民党やNHK党は比例代表で議席獲得の可能性がある。

*1-3-2:https://mainichi.jp/articles/20220622/k00/00m/010/292000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20220623 (毎日新聞 2022/6/22) 参院選、憲法改正の行方は 前向きな4党 「83議席」の攻防
 与野党は選挙戦で、岸田文雄首相が意欲を見せる憲法改正を巡っても、論戦を交わす。自民党は憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設を含む4項目の条文イメージを掲げる。改憲に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主の「改憲4党」が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席(166議席)を得られるかが焦点で、4党が3分の2以上の議席を獲得するには計83議席を得る必要がある。首相は4項目に関し「極めて現代的な課題だ」と強調。自民の茂木敏充幹事長も20日、報道各社のインタビューで、憲法改正に関し「参院選後できるだけ早いタイミングで改正原案の国会提出と発議を目指したい」と述べた。改憲4党は緊急事態条項のうち国会議員の任期を延長する改憲について、必要性があるとの認識で一致している。一方、立憲民主党は緊急事態条項の創設について「国民の権利保障や立憲主義に逆行する」(泉健太代表)と反対。首相の衆院解散権制約や臨時国会の召集期限の設定を例に挙げ、「論憲」を主張する。共産、社民両党は9条改憲に反対する。れいわ新選組は、改憲の優先度は低いとしており、NHK党は改憲論議に前向きだ。また、自民総裁の岸田氏は勝敗ラインを「非改選議員も含めて与党で過半数」と設定している。自民、公明両党の非改選は計69議席で、今回の選挙で過半数(125議席)維持に必要な数は計56議席になる。自民は単独で2016年参院選で56議席、19年参院選は57議席を獲得しており、自公両党で56議席確保は高い壁ではない。自民党内には「自民単独で過半数を目指すべきだ」(麻生太郎副総裁)など、目標の上方修正を促す声がある。茂木氏も20日のインタビューで「与党で改選議席の過半数(63議席)獲得も含めて一議席でも多く積み重ねていきたい」と語った。

*1-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15337269.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2022年6月28日) 参院選 憲法 数集めでなく熟議を
 憲法は、国のあり方を定める最高法規である。幅広い国民の理解のうえに、与野党をこえた丁寧な合意形成が不可欠だ。発議に必要な数を集め、期限を切って結論を急ぐようなら、議論の土台を崩すことになる。今回の参院選の結果は、日本の針路を大きく左右する可能性をはらんでいる。安全保障をめぐっては、戦後の抑制的な政策を維持するのか、敵基地攻撃能力を含む防衛力の抜本的な強化にかじを切るのかが、問われている。憲法に対する各党の姿勢も、重要な論点のひとつだ。自民党は自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を引き続き公約に掲げ、「早期の実現」をうたう。統治機構改革などを優先していた日本維新の会が、自衛隊を明確に位置づける9条改正と緊急事態条項の創設を加えたことで、共通点が広がった。国民民主党も緊急事態に議員の任期を特例で延長する規定の創設など、憲法論議に積極的だ。一方、公明党は与党だが、違憲論解消のための自衛隊明記は検討事項にとどめ、賛否を明らかにしていない。野党第1党の立憲民主党は「論憲」の立場から、衆院の解散権の制約などの議論は深めるとしながら、自民の9条改正案には、戦力不保持・交戦権否認を定めた2項の法的拘束力が失われるとして、反対を明確にする。共産党は9条だけでなく、「前文を含む全条項」を守るとした。各党の議論が集約されつつあるとは、とてもいえないのが現状だ。そもそも自民の4項目は4年前、任期中の改憲に意欲を示し続けた安倍元首相の下でとりまとめられた。その後、進展がみられないのは、中身よりも、憲法を変えること自体を目的とするような態度が、野党の不信や警戒を招き、国民の支持も得られなかったためだ。岸田首相は日本記者クラブでの党首討論会で、維新が求めたスケジュールの明示には応じなかったが、「中身において、(改憲発議ができる)3分の2が結集できる議論を進めていきたい」と語った。「安倍改憲」の頓挫を直視し、「改憲ありき」を繰り返してはならない。コロナ禍やロシアのウクライナ侵略が、改憲の追い風になるとの見方もあるかもしれない。確かに、パンデミックへの備えや日本の安全保障のために何が必要かの議論は重要だ。ただ、法改正では対応できないのか。改憲が求められるなら、どの条文をどうするのか。そうした具体論を欠いたままでは、国民の理解が広がることはあるまい。熟慮と議論を重ねて共通認識を導く。憲法論議こそ、とりわけ熟議が求められることを忘れてはならない。

*1-3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/186958 (東京新聞 2022年7月1日) 改憲勢力、9条改正に踏みこむか 有権者は投票で意思を示そう
 「真正面から9条改正でやってくるんじゃないですか」。参院選の最中に会った護憲の立場の野党関係者が警戒感を持って語った言葉が気になった。岸田文雄首相も「(改憲勢力が)内容で結集できるよう議論を進めていく」と訴える。参院選後、改憲論議はどうなるのだろうか。戦後日本の平和主義の大枠を定めてきた9条の扱いが、ヤマ場を迎つつある。
▽ウクライナ侵攻で風向き変化
 今回の参院選(10日投開票)は「憲法改正の是非」が主要な争点に挙げられている。衆院は「改憲勢力」に位置付けられる自民党と日本維新の会、公明党、国民民主党の4党が、国会での改憲発議に必要な3分の2以上の議席を占めている。参院も6月22日の公示前勢力でぎりぎり3分の2を超えていた。今回の選挙でこのラインを確かなものにすれば、改憲を政治日程に乗せる動きが具体化しそうだ。与野党ともに憲法を巡る訴えを強めるのは、こうした背景がある。岸田政権では通常国会の会期中、衆院でほぼ毎週、憲法審査会が開かれた。選挙情勢を踏まえると、参院選後は当面、落ち着いた政治環境にもなるとみられる。改憲勢力が好機と受け止めるとは当然だ。こうした中、自民党はどのような改憲原案を検討してくるのだろうか。自民党は安倍政権下で、緊急事態条項の創設などと並んで、9条への自衛隊明記を盛り込んだ「改憲4項目」をまとめた。だが党内では、9条改正はハードルが高いとして、緊急事態条項の中の「国会議員の任期延長ならやりやすいのでは」(党幹部)と、9条回避を唱える議員も少なくなかった。風向きが変わったのは、今年2月からのロシアによるウクライナ侵攻からだ。「防衛力の抜本的強化」(首相)が喫緊の課題となる中で、9条改正に再び焦点が当たってきた。
▽足並みそろえる自・維・公
 首相は5月3日、改憲推進派の大会で、9条改正について自民党改憲案4項目に関し「早期実現が求められる」とビデオメッセージを寄せた。維新は5月18日、戦争放棄を定めた9条1項、戦力不保持と国の交戦権否定をうたった2項を残したまま「9条の2」を新設し自衛隊を明記する点で、自民党案と共通する「条文イメージ」を発表した。あまり注目されなかったが、公明党も踏み込んだ。5月の衆院憲法審で北側一雄副代表が、首相や内閣の職務を規定した72、73条に自衛隊を明記するという、これまでにない具体的な案を示したのだ。公明党は参院選公約でも、従来の「慎重に議論」から「検討を進める」へと表現を進めた。9条明記で自民と維新、公明は足並みをそろえつつあると言っていい。
▽憲法の理念実現が先
 こうした動きに、主要野党は反対の論陣を張る。立憲民主党の西村智奈美幹事長と、共産党の小池晃書記局長は、6月26日のNHK討論番組で、生活や暮らしで実現されていない憲法の理念があるとして、その実現こそが求められると歩調を合わせた。社民党の福島瑞穂党首は護憲を訴えて声をからす。筆者は先日、「立憲デモクラシーの会」に加わる杉田敦法政大教授(政治理論)に話を聞く機会があった。改憲は国論を二分するため、相当な政治的エネルギーが必要となり、政治の空白を招いてしまう。内外の重要課題が山積している中で、そのような無責任なことをするべきではない、という話だった。だが、改憲への動きは参院選後を見据え、強まりつつあるように見える。自民党の茂木敏充幹事長は同じNHK番組で「できるだけ早いタイミングで改憲原案を国会で可決したい」と述べ、選挙後に主要政党間で改憲への日程感の共有を進める考えを示した。維新の藤田文武幹事長も、21年衆院選で議席を伸ばしたことが、改憲論議を進めるきっかけになったとして、早期改憲への意欲を強調した。ここから浮かぶのは、秋の臨時国会以降、自民、維新両党が中心となって改憲原案の作成を進め、来年の通常国会で衆参両院の憲法審査会に提出し、議論を進める日程感だ。自民党幹部は「最速で通常国会の会期末には発議もあり得る」と話す。このような展開になった時に、われわれはどのように受け止めればいいのか。ウクライナでの戦争は続いており、防衛力を確かなものにするためにも、自衛隊の明記は必要だと考えるのか。それとも、社会保障や教育の充実など、もっとやるべきことはあるとして、憲法理念の実現を求めていくのか。日本の未来を決めるのは一人一人の有権者だ。どのような未来がいいのか、しっかりと頭に描いて10日の投票で意思を示そう。

<憲法学者と法律家団体の見解>
*2-1::https://digital.asahi.com/articles/DA3S15283962.html?iref=pc_shimenDigest_opinion_01 (朝日新聞 2022年5月3日) (インタビュー)これからの立憲主義 東京大学教授・石川健治さん(いしかわけんじ 1962年生まれ。東京大学教授。著書に「自由と特権の距離(増補版)」、編著に「学問/政治/憲法 連環と緊張」など)
 明治憲法下でスタートした立憲主義のプロジェクトは一度挫折を味わうが、敗戦を経て日本国憲法の下で再開して75年を迎えた。ロシアがウクライナを侵攻し、国際秩序を揺さぶる中、国内では改憲論が勢いづく。日本の立憲主義の現状をどう見るか。憲法学者の石川健治・東大教授は、読み解くかぎは「文明」だという。
―今年は明治憲法の施行(1890年)から132年でもあります。明治憲法下の立憲主義をどう評価されますか。
 「明治時代の首脳たちは、文明国になるためには、権力分立と権利保障を備えた立憲主義の体制が必要だという認識を持っていました。当時の日本は、西洋列強の圧力の中で国家としての生き残りを懸けており、富国強兵・殖産興業(軍部主導の軍国主義と官僚主導の開発主義)に注力していましたが、国防目的だけではない観点を、彼らはもちあわせていました」「伊藤博文が特にそうです。文明国であることを認めさせて不平等条約の改正を促進するもくろみは、もちろんありました。しかし、憲法というのは、ヨコのものをタテに翻訳すれば済むような、簡単な話ではありません。社会に定着するかどうかが勝負です。伊藤は、広大な新世界に連邦制かつ共和制の憲法体制を実現したアメリカ人の実験精神に触発されつつ、立憲主義を日本という古い土壌に定着させるよりどころを求めてヨーロッパをめぐりました。伊藤の文明へのコミットメントは本物です。彼が中心になって起草した憲法には、天皇制をてこにした文明化の実験という側面があったわけです」
―伊藤が目指したようなかたちで立憲主義は定着していくのでしょうか。
 「残念ながら、近代日本の国のかたちは、立憲主義だけでなく、君主主義、軍国主義、開発主義、植民地主義の合成物として、伊藤の死後1910年ごろに固まることになり、その後はそれらの間で綱引きが行われることになります。大正デモクラシーと呼ばれたのは、立憲主義が他に比べて相対的に優勢だった時期で、それを支えていたのが東京帝大教授の美濃部達吉の憲法学でした。政界官界のみならず宮中をも支配し、昭和天皇自身もその考え方を支持していました。その理屈の力で、公権力の分立・均衡と、私人の権利保障とを支えていたわけです」
     ■     ■
―35年、美濃部の天皇機関説は「国体に反する」と右翼や軍部の激しい攻撃を受け、美濃部は公職を追われ、著書は発禁処分となります。
 「満州事変が、軍国主義が優勢に転ずる決定打となりました。これを契機に、大正デモクラシーは終わり、最後の防波堤だった美濃部学説が社会的に抹殺されると、歯止めがなくなってしまったのです。翌36年に起きた2・26事件は天皇機関説事件の論理的帰結です。国体の本義と呼ばれた国家イデオロギーが私生活にも入り込み、異論を言うことを許さない社会になっていきます」
―天皇機関説事件について、明治憲法の実質的な改正だったとみる見解もあります。
 「憲法は条文のかたまりではなく制度のかたまりです。条文の字面ではなく、それが演出している制度の実体をみなくてはなりません。やがて近衛文麿首相を総裁とする大政翼賛会が結成され、国民総動員体制が確立されますが、その実体は、立憲主義を捨て、国防目的の国家に切り替えた憲法革命です。ワイマール憲法の条文を改正しないで立憲主義を否定した、いわゆるナチスの手口も、判例変更によって修正資本主義を決定づけたニューディール期のアメリカもまた、同様ですね」
―軍国主義の下で破滅の道を歩んだ日本は再び、日本国憲法の下で立憲主義のプロジェクトをスタートさせました。特徴はどこにあったのでしょうか。
 「敗戦と日本国憲法の制定によって、かつて立憲主義の足を引っ張った植民地主義や軍国主義が切り離されました。君主主義も象徴天皇制に後退し、国民主権にかわりました。75年間もの長きにわたって立憲主義の体制が維持された秘訣(ひけつ)は、そこでしょう」「例えば、改憲論議の焦点となっている9条2項には、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』とあります。ここでいう『その他の戦力』の禁止とは、かつて富国強兵・殖産興業という形で、軍国主義と開発主義が癒着して形成された、軍産複合体の禁止を意味しているのです。ウクライナへの軍事支援によって、兵器ビジネスが活性化している現在、その今日的意義は依然として大きいというべきでしょう」
     ■     ■
―9条について、理想主義に過ぎ、「お花畑」と揶揄(やゆ)する言説があります。どうお考えですか。
 「議論の次元が間違っていると思います。9条は、国防の手段を定めた条文ではありません。軍事力を統制し自由を確保する、立憲主義の統治機構を構築するための条文です。しかし、国家は国民の税金で運営されている以上、国民に安全を供給する義務があります。9条があるからといって、国家が安全供給義務を免れるわけではありません」「憲法によって許容される範囲内で、あの手この手を使って、政治的・経済的・社会的な安全を確保しなくてはなりません。もし仮に、放射能の脅威なしに生存する権利の主張が強まって、反原発の条文を憲法におくことになったとしても、それによって、国家がエネルギー政策そのものを免除されるわけではないのと同じです」
―自衛隊を9条に明記するという改憲案をどう見ますか。
 「戦後、国内では9条が自由のシステムを作ってきました。日本の立憲主義を挫折に追い込んだ帝国主義・軍国主義が、すべて9条によって吹き飛ばされたのです。その意味で9条の統制はよく効いてきた。それを不用意に動かすのは不可逆的な改正となりかねません。問われているのは戦後築いてきた自由のシステムをどう考えるかという問題です。自衛隊明記という名の下に9条の中身を変えることは、自由のシステムを壊すだけに終わる可能性があります。条文だけでなく制度のメカニズムをみて欲しいと思います」「憲法を機能させるのは、『権力への意志』を押し返す、『憲法への意志』です。平和主義へのコミットメントが、戦後一貫して、憲法を支える国民的地盤であったことを軽視すべきではありません。9条に代わる制度を支える『意志』がこの社会になければ、改憲論議は空理空論に過ぎず、せっかく作った新しい条文も、絵に描いた餅に終わってしまいます。政治家には、条文の改正によって既存の制度の何が損なわれるのか、新しい制度が本当に機能するのかを見定める責任があります」
―ウクライナ侵攻に乗じるかのように、敵基地攻撃能力や核共有、防衛費の対GDP(国内総生産)比2%以上の拡大などを主張する議論が生まれています。「国防国家に逆戻りし、軍拡競争に巻き込まれていくことを恐れています。しかも、軍事面だけでなく、軍拡競争を可能にする財政の仕組みがすでに生まれていることに注意すべきです。アベノミクスです。これは、かつて高橋是清蔵相が戦費調達システムとして編み出した、新規国債の日銀引き受けと大胆な財政支出に、機能が酷似しています。財政と戦争は常につながってきたということは記憶にとどめておく必要があります。しかも、国防国家が国民の命を救うかといえば、必ずしもそうではなかったことを歴史が示しています」
     ■     ■
―永田町では、憲法改正それ自体が自己目的化した政治家たちの議論が繰り返されています。その一つが大災害時などの緊急事態に衆院議員の任期を延長できるようにすべきだという主張です。必要性がよくわかりませんが、どのように見ていますか。
 「その時々の権力にとっては、むしろ都合が悪い、自縄自縛の仕組みを作る文明的な営みが、憲法の制定や改正の作業です。公職選挙法の改正で足りる規定を、自縄自縛を解く突破口として利用しようというのは、姑息(こそく)です」
―立憲主義のプロジェクトを進めるうえで何が肝心ですか。
「問われているのは、異質なものと共存する世の中を選ぶのか、異質なものを排除して仲間内だけで気持ちよく生きるか、という文明的な選択ではないでしょうか。例えば、国内では性的な少数者の権利を認めて一人ひとりが生きやすい社会にするのか。国外では体制の異なる国と外交でうまくやりながら平和な秩序を作る努力を重ねていくのか。国内外ともに、すべての論点がこの一点につながっており、その選択こそが喫緊の課題です。上滑りの改憲論ではなく、尊皇攘夷(じょうい)の排外主義を、立憲主義に切り替えた伊藤のような文明観を持ちながら、まっとうな憲法論議を深めることが大切ではないでしょうか」

*2-2:http://www.news-pj.net/topics/136758 (NPJ 2022年6月20日) 改憲を阻止し、命と平和を守る憲法に基づく政治への転換を求める法律家団体のアピール
 改憲問題対策法律家 6団体連絡会
  社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一
  自由法曹団 団長 吉田 健一
  青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野  格
  日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
  日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
  日本民主法律家協会 理事長 新倉  修
はじめに
 7月10日に投開票を迎える参議院選挙は、専守防衛政策を転換し、軍備を増強し、憲法 9条を「改正」して戦争をする国に日本を変えるのか、それとも専守防衛政策を徹底し、憲法 9条を活かして日本が非軍事的に平和を創造するあらゆる努力を続ける平和主義の立場を堅持するのかという重大な選択が主権者である市民に求められています。私たち改憲問題対策法律家 6団体連絡会 (法律家 6団体) は、改憲にNO ! 憲法蹂躙の政治に終止符を ! の審判を下すことを広く市民に呼びかけます。
1 9条改憲に NO !
 岸田文雄首相は、在任中の改憲に強い意欲を見せており、施政方針演説でもその方針を明言するとともに、憲法記念日にも憲法 9条への自衛隊明記への執念を表明しました。こうした岸田首相の方針に呼応するかのように、衆議院憲法審査会で改憲ありきの異常な審議が続きました。国民生活の福利のために注力すべき予算審議の時期にあえて憲法審査会を開催しました。また、改憲を望む国民世論は極めて低いにもかかわらず衆議院の憲法審査会の毎週開催を強行しました。自民党、公明党、維新の会、国民民主党などは、積極的に改憲論議を展開してきました。特に、ウクライナ侵攻を契機として自民党、維新の会は「憲法9条では国を守ることはできない」と述べ、憲法 9条を「改正」し自衛隊を明記する必要性を強調しました。自衛隊が憲法に明記されれば、憲法9条は死文化し、歯止めのない軍拡と武力行使が可能となります。平和主義の理念が葬られることは、国民主権と基本的人権の尊重という憲法の体系そのものも破壊し、軍事の論理が人権や民主主義に優先する国となる危険があります。
2 国民 (市民) の命と生活を犠牲にする戦争する国にNO !
 憲法 9条違反の政治が自公政権のもとで進んでいます。岸田首相は、敵基地攻撃能力を保有と軍事力の抜本的強化を繰り返し宣言しています。敵基攻撃論は、国際法上違法とされる先制攻撃と紙一重であり、攻撃対象を「指揮統制機能」に拡大すれば、国際人道法違反にも問われかねないものです。 5月23日の日米首脳会談では、ウクライナ危機を口実に「力に対して力で対抗する」ことが宣言されていますが、これは憲法 9条が掲げる「外交による平和の実現」をかなぐり捨てるものです。また、安倍晋三元首相や維新の会は「核共有」の議論を始めるべきと述べ、核兵器禁止条約に背を向け、日本が堅持し続けてきた非核三原則まで捨て去ろうとしています。自民党は、① 敵地攻撃能力の保有並びに攻撃対象を敵国中枢に拡大 ② 防衛予算を 5年以内にGDP比 2% ③ 日米軍事同盟のさらなる強化と核抑止力の強化 ④ 核持ち込み禁止の見直しなど、専守防衛政策の転換を求める提言を岸田首相に提出しました。日本維新の会も、安倍元首相が民放番組で核共有の議論を促すとすぐさま賛成し、① 防衛費増額GDP 2% ② 中距離ミサイル等の装備拡充 ③ 核共有等の拡大抑止の議論開始 ④ 専守防衛の「必要最小限」の見直しなどを打ち出しています。しかし、専守防衛政策を捨ててこれ以上軍事力を増大させることは、日本や近隣諸国の安全保障環境を危機に陥れかねません。日本が敵基地攻撃能力を保有し、核共有を実施し軍事力を倍増させることは、必然的に周辺国の疑心暗鬼を招き他国も軍事力を増強することにつながります。軍事力に頼る抑止論は、果てしない軍拡の応酬と相互不信を生むだけであり、近隣諸国の緊張関係を亢進し軍事衝突の危険を逆に増すことになります。むしろ地域のすべての国を包み込む安全保障と非軍事的支援の枠組みを作ることこそ唯一の平和への道であり、憲法 9条はそれを指し示す役割を担っています。さらに、軍事費を増大させることは、私たちの生活のために必要な福祉予算を削る、あるいは消費税を大増税するということを意味します。防衛費倍増 5兆円があれば、大学授業料の無償化、児童手当の高校までの延長と所得制限の撤廃、小中学校の給食無償化 (合計約 3.2兆円) をしてさらに余りがでます。また、年金受給者に対してその受給額を一律年12万円増加させる (約 5兆円) こともできます ( 6月 3日東京新聞調べ) 。ただでさえコロナ禍や近時の物価高騰で悩まされている市民は、こうした財政支出こそ望んでいるはずです。 私たちは、軍事力に依存した政策にきっぱりとNOを突きつけなければなりません。
3 「政策要望書」を一致点とした野党共闘こそ求められている
 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合 (市民連合) は、 5月 9日、平和・暮らし・気候変動・平等と人権保障の 4つの柱からなる「政策要望書」を発表し、立憲民主党、共産党、社民党、沖縄の風、碧水会の 3党 2会派はこの要望書を口頭にて確認しました。この確認された「政策要望書」には、「憲法が指し示す平和主義、立憲主義、民主主義を守り、育む」という理念が記されるとともに、「非核三原則を堅持し、憲法 9条の改悪、集団的自衛権の行使を許さない、辺野古新基地建設は中止する」という目標が掲げられており、私たちの主張と一致しています。さらに「政策要望書」は、「すべての生活者や労働者が性別、雇用形態、家庭環境にかかわらず、尊厳ある暮らしを送れるようにする」、「原発にも化石燃料にも頼らないエネルギーへの転換を進め (る)」「すべての人の尊厳が守られ、すべての人が自らの意志によって学び、働き、生活を営めるように人権保障を徹底する」としています。これらは、いずれもコロナ禍の中で苦しめられてきた市民の命と暮らしを第一に据えた政策であり、私たち法律家 6団体が求めてきたことと一致します。 私たちは、立憲野党がこの「政策要望書」を共有し、参議院選挙を共同して闘うよう決意したことを大いに歓迎するともに、この政策に基づき自公政権の下で破壊された憲法秩序と人権保障を回復する政治を実現し明文改憲を阻止することを強く期待します。
4 参議院選挙で勝利し改憲を阻止し、平和を創造する政治への転換を
 7月10日の参議院選挙を終えると、その後 3年間は国政選挙はなされないと言われています。改憲勢力は、これまで選挙直前には「改憲」の主張を一時的に隠しますが、選挙直後には再び改憲を声高に叫んできました。仮に改憲勢力へ改憲に必要な 3分の 2の議席を与えてしまうと、この 3年のうちに改憲発議がなされる危険も決して杞憂とは言えません。 その意味で、この参議院選挙は、軍事優先の国家づくりにストップをかけることができるか否か、東アジアの平和構築を図ることができるか否かの重大な選挙であると言えます。いうまでもなく、平和なくして命や人間の尊厳は守れません。きたる参議院選挙では、改憲勢力である自民、公明、維新にNO ! の審判を下すよう呼びかけます。そして、参議院選挙が、命を守り平和を創造する政治への転換となるよう、私たち法律家もみなさまとともに行動することを宣言します。

<社会保障と国民生活>
*3-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/02/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「社会保障」
●自由民主党
 全ての世代が安心できる持続可能な年金・医療・介護などの全世代型社会保障の構築に向け、計画的に取組みを進める。出産育児一時金の引上げなど、出産育児支援を推し進め、仕事と子育てを両立できる環境をさらに整備する。健康長寿、年齢にかかわらない就業や多様な社会参加などによって長生きが幸せと実感できる「幸齢社会」を実現する。
●立憲民主党
 年金の切り下げに対抗し、当面、低所得の年金生活者向けの年金生活者支援給付金を手厚くする。政府がコロナ禍で行う後期高齢者の医療費窓口負担割合の1割から2割への引き上げを撤回する。公立・公的病院の統廃合や病床削減につながる「地域医療構想」を抜本的に見直す。
●公明党
 社会保障を支える人を増やし、全世代型社会保障の構築を進める。公的価格の引き上げなどにより、医療・介護・障がい福祉等の人材確保策を強化する。高齢者の所得保障の充実に向けて、高齢者が働きやすい環境整備とともに基礎年金の再配分機能の強化に向けた検討を進める。
●日本維新の会
 現在の年金に代わって、すべての国民に無条件で一定額を支給する「ベーシックインカム」などを導入し、持続可能なセーフティーネットを構築する。医療費の自己負担割合は、年齢ではなく、所得に応じて負担割合に差を設ける仕組みに変更する。
●国民民主党
 給付と所得税の還付を組み合わせた新制度「給付付き税額控除」を導入し、尊厳ある生活を支える基礎的所得を保障する。マイナンバーと銀行口座を紐付けて必要な手当や給付金が申請不要で自動的に振り込まれる「プッシュ型支援」を実現する。これらの組み合わせで「日本型ベーシックインカム」を創設する。
●日本共産党
 物価高騰下での公的年金の支給額の引き下げを中止する。年金削減の仕組みを廃止して、物価に応じて増える年金にする。〝頼れる年金〟への抜本的な改革として、基礎年金満額の国庫負担分にあたる月3.3万円をすべての年金受給者に支給し、低年金の底上げを行う。75歳以上の医療費2倍化を中止・撤回させる。
●れいわ新選組
 社会保険料の国負担を増やして、国民の負担を軽減する。年金支給は減らさない。保険料の応能負担も含めた制度の改革を提案していく。介護・保育従事者の月給について、全産業平均との差を埋めるため、月給10万円アップが必要。
●社会民主党
 75歳以上の医療費窓口負担の引き上げを中止し、後期高齢者医療制度を抜本的に見直す。非正規労働の拡大に歯止めをかけ、正規労働への転換を進め、雇用の安定を実現する。労働者派遣法を抜本改正し、派遣労働は一時的・臨時的な業務に厳しく制限する。
●NHK党
 持続可能な社会保障制度のためには、社会保障費の削減を目指すべきであると考える。高齢者の医療費の自己負担を3 割に引き上げることをタブー視しない。年金の支給開始年齢の引き上げの検討をすべき。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62009960U2A620C2MM0000 (日経新聞 2022.6.24)消費者物価2.1%上昇 2カ月連続2%超
 総務省が24日発表した5月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が101.6となり、前年同月比2.1%上昇した。上昇率は2カ月連続で2%を超えた。資源高により電気代やガソリン価格などエネルギー関連が大きく上昇し、原材料高で食料品の上昇も目立った。家庭用の耐久消費財にも上昇が波及した。4月は携帯電話の料金値下げの影響が薄まったことで、7年1カ月ぶりに2%を超えて2.1%の上昇となっていた。5月の生鮮食品も含む総合指数は2.5%上がった。生鮮食品とエネルギーをともに除いた総合指数は0.8%の上昇となった。それぞれ上昇率は4月と変わらなかった。品目別に見ると、エネルギー関連が17.1%上昇した。4月(19.1%上昇)に続いて高水準の伸びとなった。ガソリン補助金拡大の影響で上昇率は鈍化した。エネルギーだけで総合指数は1.26ポイント高まった。電気代は18.6%、ガソリンは13.1%上がった。生鮮食品以外の食料は2.7%上がり、上げ幅は4月(2.6%)をやや上回った。上げ幅は7年2カ月ぶりの大きさ。原材料価格の高騰で、食パン(9.4%)やハンバーガー(7.6%)が上がった。調理カレー(11.4%)、ポテトチップス(9.0%)などの上昇も目立った。食用油は36.2%の大幅な上昇になった。生鮮食品は12.3%上がり、4月(12.2%)から伸びがやや加速した。たまねぎは2.3倍となり、キャベツ(40.6%)なども大きく上昇した。生鮮魚介(12.2%)も上昇が続いており、まぐろは16.6%上がった。家庭用耐久財にも上昇が波及してきた。5月の上昇率は7.4%で前月(5.0%)より伸びが大きくなった。中国の都市封鎖で物流が滞ったことや半導体不足により、ルームエアコン(11.0%)が上昇した。電気冷蔵庫(15.8%)やソファ(8.8%)も上がった。天然ゴム価格上昇の影響で、自動車タイヤ(3.2%)も上がった。インフレは、年内は続く公算が大きい。日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト37人の経済見通し「ESPフォーキャスト調査」によると、物価上昇率は4~6月期が前年同期比2.08%、7~9月期が2.11%、10~12月期が2.17%となっている。電気代や食品価格は、燃料高や小麦の国際価格上昇が時間をかけて反映される。他の主要先進国に比べると物価上昇はまだ鈍い。米国は5月に8.6%と3カ月連続で8%を超えた。ユーロ圏は8.1%、英国は9.1%と高水準だった。政府は電気などエネルギーや食料品の価格上昇を抑える政策を実施する。事業者が節電した場合には電力会社が実質的に電気代を下げる制度を導入する。食料価格抑制のため、飼料や肥料の価格高騰対策もとる。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62004470U2A620C2EA2000 (日経新聞 2022.6.24) 〈指標で読む参院選争点〉物価高「2.5%」高齢層ほど痛み、食費・光熱費割合大きく
 国民生活を揺さぶる物価高が参院選で論戦の争点になっている。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.5%上がり、消費増税の影響があった時期を除くと1991年12月以来30年ぶりの伸びになった。インフレへの警戒感は高齢層で際立ち、参院選では各党が対策を競う。CPIは変動の大きい生鮮食品を除く総合指数でも前年同月比2.1%上昇し、消費増税の影響があった2015年3月(2.2%)以来、7年1カ月ぶりに2%を超えた。日本経済研究センターがまとめた民間予測の平均では、22年中は2%台で推移する。各党とも物価高対策を訴えるのは、多くの人が選挙に足を運ぶ高齢層でインフレの「痛み」が強まっているからだ。総務省がまとめた前回19年参院選の投票率は48.80%。年代別では60歳代が63.58%、70歳代以上が56.31%と平均を上回る。30歳代の38.78%、40歳代の45.99%と対照的だ。高齢層はインフレに強い警戒感を抱く。内閣府がまとめる消費動向調査によると、5月の消費者態度指数(原数値)は1年前に比べて1.1ポイント下がった。年齢別では30歳代や40歳代が1ポイント超改善したのに対し、60歳代は2.2ポイント、70歳代以上は2.8ポイント下がった。高齢層は収入が限られるうえに、支出に占める食費や光熱費の割合が大きい。そのため、高齢者ほど近い将来にさらに物価高が進むと感じている。同調査によると60歳代の61%、70歳代以上の57%が「1年後も5%以上の物価上昇」と回答する。30歳代(40%)や40歳代(49%)を上回る。各党の公約をみると、具体的な対策で違いがある。自民党は激変緩和措置として、ガソリンなどの燃油価格を補助金で抑えると訴える。公明党は新たな政労使合意で賃上げを目指すとした。野党はほぼそろって消費税の軽減を打ち出した。立憲民主党は時限的に税率を5%に下げるとするほか、日本維新の会も食品などに適用されている8%の軽減税率を3%に下げると主張する。国民民主党は消費減税とともに、ガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」の凍結解除による負担減を訴える。共産党は減税とともに、後期高齢者の医療費負担増の中止を主張する。れいわ新選組、社民党、NHK党も税率引き下げや廃止を公約に盛る。物価高は欧米でも政治情勢に影響している。5月の消費者物価は米国が8.6%の上昇で、約40年ぶりの高さとなった。上昇率はユーロ圏が8.1%、英国も9.1%と日本を大きく上回る。暮らしの負担感は政治への不満につながりやすい。19日投開票されたフランス国民議会決選投票では、マクロン大統領が率いる与党連合が議席を大きく減らし、過半数を下回った。インフレ対策を掲げる野党に票が集まった。米国も11月の中間選挙に向けて、インフレ対策が最大の争点だ。このため各国政府も悪影響の緩和に躍起だ。フランスはガソリン1リットル当たり15ユーロセントを割り引き、ドイツもガソリン販売価格を抑える措置を打ち出す。バイデン米大統領もガソリンへの一時的な課税停止を議会に要請した。経済協力開発機構(OECD)によると、独、仏、イタリアでの資源高対策にかかる政策コストは国内総生産(GDP)比で1%に達する見込みだ。OECDは「対象を絞らない支援策は財政コストが高く、省エネルギーの推進や脱炭素への投資を損なう恐れがある。数カ月以上継続すべきではない」と強調する。英国は低所得の800万世帯に照準を絞り1200ポンド(約20万円)の支援策を公表し、効率の高い施策にしようとしている。

*3-2-3: https://mainichi.jp/articles/20220623/k00/00m/010/251000c (毎日新聞 2022/6/23) 「改憲」影潜め…参院選のメイン争点に「物価高」 有権者の関心高く
 22日に公示された参院選の一番の争点に、「物価高」が浮上してきた。公示前日の与野党9党の党首討論会でも、ほとんどの党首が「最も訴えたいこと」として触れた。一方、改憲に前向きな4党で3分の2の議席を得れば改正の発議が可能になることから「憲法改正」も主要なテーマと言われてきたが、街頭演説で触れられる機会は少ない。主婦ら有権者からも「物価高への対応を投票先選びの参考にしたい」と声が上がるなど、今の生活に密着する課題への関心は高まっている。専門家は「政治は物価高を克服する対策を具体的に示し、有権者もその内容を比較して」と語る。「物価高やインフレ、政権が何も手を打たないから物の値段が上がってみんなが大変な思いをしている。『(ウクライナの)戦争のせいだから我慢をしてください』って。人ごとですよ」(東京選挙区の野党候補者)。「何もしなければ(ガソリン1リットル当たり)210円くらいまで上がっているものを(政府の対策で)170円になんとか抑え、小麦の価格にしても(上昇を)2割3割でなんとか抑えている」(自民党の首相経験者)。公示日の22日に東京都内であった各党の街頭演説。与野党問わず、多くの候補者や応援で訪れた党幹部が物価高や上がらない賃金を俎上(そじょう)に載せ、有権者に訴え掛けた。物価高は深刻だ。商品やサービスの価格がどのくらい変動したかを示す4月の全国消費者物価指数(2020年=100、天候不良などで変動の大きい生鮮食品を除く)は、去年の同じ月に比べ2・1%上昇し、101・4だった。上昇率が前年を上回るのは8カ月連続で、消費増税の影響を除けば08年9月の2・3%以来、約13年半ぶりの高い水準だ。品目別では、食料(生鮮食品を除く)2・6%▽電気代21%▽ガス代17・5%――など、軒並み前年の同じ月よりも高くなった。東京・上野のアメ横商店街の食料品店主は「3月ごろから物価高を実感し始めた。最初は輸入品で、4月以降は国産品にも広がった」と振り返る。帝国データバンクが6月、約1700社を対象にインターネットで調査したところ、4月以降に値上げを「実施済み」「今後する予定」と回答した企業は約7割に上った。飲食料品企業では、その割合が9割に達した。有権者の関心も高い。夫と年金生活を送る東京都杉並区の女性(70)は「野菜も肉もほとんど全てが値上がり。日銀の偉い人が『家計が値上げを許容している』と言っていたが、許容なんてしていない。すでに食費は切り詰めていて、買い控えもできない。どうにかしてほしい」と訴える。大阪府吹田市の男性会社員(42)は「生きていくのに必要な食材費や光熱費は上がっているのに、給料は上がらない」と嘆き、「資本家のためではなく、まじめに働く人が苦しまない資本主義を実現してくれる政治家に1票を投じたい」と、物価高への対応を投票先選びの材料とするつもりだ。こうした関心に、各党も敏感に反応している。公示前日の21日、与野党9党首の討論会。冒頭に「一番訴えたいこと」を聞かれ、9党首中7党首が物価という単語を使って「物価高騰から暮らしを守る」などと訴えた。憲法改正は、1党が「9条を変えさせない」と述べるにとどまった。その後、各党首がそれぞれ1人を指名してテーマを決めて討論する場面でも、1巡目では6党首が物価を選び、憲法改正で議論した党首はいなかった。フランスでは、19日にあった国民議会(下院)総選挙の決選投票で与党連合が過半数を大きく割り込んだ。その背景には物価高騰への有権者の不満があったとされる。日本でも物価高がメインの争点に浮上した背景について、政治ジャーナリストの角谷浩一さんは「国民の目の前にある分かりやすい不安だからだろう。物価を下げるという話に反対する有権者はほとんどおらず、各党がテーマに掲げやすい」と分析。改憲は「有権者それぞれで考えが分かれ、党の主張が全ての有権者に届くわけではない」と違いを指摘した。そのうえで「大切なのは、物価高でも困らない程度までサラリーマンの給料を引き上げたり、セーフティーネットを充実させたりするなどの具体的な政策に踏み込んで議論を深められるか。参院選は3週間近くあるので、各党が物価高の先に描くビジョンを明確に示してほしい」と注文した。

*3-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15348104.html (朝日新聞社説 2022年7月8日) 参院選 社会保障改革 「負担」の合意形成急げ
 人口減少と高齢化が進む日本で、年々膨らむ社会保障の費用をどう賄い、制度を維持するか。選挙の時こそ、国民の負担のあり方について語るべきなのに、各政党の公約に具体的な言及はほとんどない。大事なテーマを素通りする姿勢が、いつまで続くのだろうか。参院選では各党とも、子どもや子育て支援のための施策の充実を公約の柱に掲げる。「手厚い少子化対策・子育て支援を実現」(自民党)、「チルドレン・ファースト」(立憲民主党)――。少子化に歯止めがかからないなかで、重要な施策であることは間違いない。ただ、そうした政策が効果を上げても、2040年代まで現役世代は減り続ける。一方、25年には「団塊の世代」が全て75歳以上になり、高齢化は加速する。現在、約130兆円の社会保障給付費は40年度に190兆円に達するとも推計される。給付の抑制や利用者の負担増で支出を抑えるのか。それとも、税金や社会保険料の負担を引き上げて収入を増やすのか。与野党ともに言及するのが、余力のある高齢者に応分の負担を求めることと、元気なうちは働ける環境を整えて制度の担い手になってもらうことだ。大事な取り組みだが、それで生み出せる財源には限りがある。高齢者の負担を増やし過ぎれば、必要な医療や介護サービスを受けられなくなったり、家族介護や仕送りなどの形で現役世代の負担になったりする可能性もある。実際、10月から、75歳以上でも一定以上の所得がある人の医療費窓口負担の割合を2割に増やすにあたって、限られた年金での生活に配慮し対象者を絞り込まざるをえなかった。高齢者に負担を求めれば解決するかのような言説は楽観的すぎる。振り返れば、この間、政府・与党は経済成長をあてにして、本格的な給付と負担の議論を避けてきた。しかし、社会保障給付費の伸びと税収の開きは大きくなるばかりだ。これ以上の先送りは許されない。にもかかわらず、与党は具体策を示していない。政権党として無責任としかいいようがない。野党の多くは富裕層への課税強化などを訴えるが、一方で消費税の減税や廃止を主張する。それで増え続ける社会保障費を賄えるのだろうか。給付と負担のバランスをどこでとるか。答えは一つではない。手厚い保障と高負担の国もあれば、自助を中心に据えた国もある。問題は、日本がそのどちらともつかない状況にあることだ。めざす方向と選択肢を示して、合意形成をはかる。それが政治の役割だ。

*3-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/880949 (佐賀新聞 2022/7/6) 参院選―社会保障 未来に責任感はあるか
 参院選の論戦は終盤に入ったが、社会保障の議論が一向に深まらない。日本が抱える多くの困難は、人口減少・少子高齢化が原因だ。土台の揺らぐ社会保障制度の安定化は焦眉の急と誰もが感じる。にもかかわらず、子ども・子育て支援を含め、財源の手当て抜きに給付拡大ばかりを与野党が競い合い、重要な論点まで行き着いていない。人の一生につきまとう「生老病死」の苦悩を和らげる安全網として不可欠な社会保障は、給付と負担のバランスで成り立つ。給付を増やせば必ず全体として負担が増す。そして負担は分かち合いだ。高齢者も含む今の大人が痛みを避ければ、そのツケが確実に回り、子や孫が給付削減や負担増で苦しむことになる。有権者の耳に優しい「ばらまき」で目の前の選挙を有利に戦えたとしても問題解決は遠のくばかりだ。この国の未来に最も責任感があるのはどの政党、候補者か。残りの論戦で目を凝らしたい。2040年には高齢者人口がほぼピークの約3900万人に増え、年金、医療、介護の社会保障費がかさむ。一方、働いて保険料を払う現役世代は今の約7500万人から1500万人も減る。これに備えるのが政府の「全世代型社会保障」だ。眼目は二つ。高齢者に偏る社会保障からの恩恵を若者・子育て世代にも回し、少子化を止める。元気な高齢者や女性にもなるべく働いてもらい、社会保障の支え手を増やす―。現実的な対策の方向として妥当だろう。これに対し、各党はどんな公約を掲げたか。自民党は、出産育児一時金引き上げ、児童手当拡充などを表明した。立憲民主党は、4月から公的年金が0・4%引き下げられた年金生活者への支援金給付などを主張。野党各党と与党の公明党は教育無償化で声をそろえる。日本維新の会と国民民主党は最低所得を保障する「ベーシックインカム」導入も唱えた。これらの実現には多額の予算が必要だ。現状でも40年の社会保障給付費は18年度比1・6倍の190兆円に達する予想だが、財源はどうするのか。消費税は社会保障や少子化対策に使うと法律で決まっているが、立民など野党はその減税や廃止を主張。与党は減税こそ否定はするが、岸田文雄首相は「10年程度は上げることは考えない」と言う。消費税に依拠して40年問題へ対処することをためらう点では、与野党に実は大差はない。選挙中に増税派と受け止められたくないからだろう。所得税なども含め税収が不足なら、必要な政策は国債発行による借金に頼るほかない。しかし新型コロナウイルス禍で20年度の新規国債発行は空前の100兆円超となり、21年度の国の長期債務は1千兆円を超えた。子ども政策充実を巡り野党側は「未来への投資は国債を発行してもいい」と言うが、どうだろうか。子どものための借金と言っても、将来返済するのは当の子どもたちだろう。これでは、社会人になっても多額の奨学金返済で困窮する元苦学生と同様にならないか。50年の日本は現役世代1・2人で高齢者1人を支える「肩車型社会」だ。今の若者たちは自分の年金が目減りする上、お年寄りの医療や介護を支え、さらに親世代の借金返済も担う未来が待つ。若者こそ自らと、まだ選挙権もない弟妹たちのため投票所へ行ってほしい。

*3-3-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/de21721f6097b93e91d659e258084a62ee75dccc (Yahoo 2022/7/6) 女性の働き方が「極めて特殊」と指摘される日本…課題だった「M」は消え、浮かび上がる「L」が意味する深刻な格差とは?
 共働き世帯と専業主婦世帯の数が逆転したのは1990年代のことです。社会に出て働く女性が増えてきました。ただし、就業の「中身」についてはもっと検討が必要だという声を労働関係の専門家から聞くことがあります。どういうことでしょうか。女性の働き方についてよく聞く言葉に「M字カーブ」があります。出産や育児を機に一度仕事をやめて、再び働き始める――。そんな女性の働き方を表す用語として広く知られています。20代に上昇した労働力率が出産・育児期にあたる30代に落ち込み、再び上がる様子が「M」の字に似ていることから、M字カーブと呼ばれてきました。長年、女性の継続就業を阻む壁の解消が課題とされてきましたが、働く女性の増加などでM字の谷が浅くなってきました。近年、M字カーブは徐々に解消されつつあります(図表参照)。
●新たに登場した「L字カーブ」とは?
 代わって最近、登場したのが「L字カーブ」という言葉です。2020年に、政府の文書(政府の有識者懇談会「選択する未来2.0」中間報告)に初めて登場しました。女性の正規雇用率が20代後半に5割を超えてピークに達した後、一貫して下がり続ける様子を指した言葉です(図表参照)。内閣府の担当者は「保育の受け皿の拡大などで『M字』は解消されつつあるが、出産後、非正規雇用の選択肢しか事実上残されていないのは問題だ」とした上で、「こうした状況をわかりやすく伝えたいと、担当大臣と相談して『L字』と名付けた」といいます。ちなみに、この時の担当大臣は西村康稔経済再生担当大臣です。このL字、正直、M字のようにわかりやすくありません。年齢別の正規雇用率を線で結ぶと、への字形のカーブが表れます。への字の頂点にくるのが20代後半で、以降、正規雇用率は年齢とともに下降します。この「へ」の字形のカーブを左に90度回転させた形が「L」の字に似ていることから「L字カーブ」と名付けたようです。しかし、個人的には「への字カーブ」と言った方がピンときます。女性の経済的自立や社会での活躍、人口減社会における労働力確保の点などから、女性の就業率が各年齢層で上がり、M字カーブが解消の方向にあるのを歓迎する声は強いのですが、「M字が解消されたからといって問題解決というわけではない」という声を聞きます。就業率が上昇したといっても、その中身は「非正規雇用」が中心で、低賃金で不安定な働き方となりやすいからです。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220624&ng=DGKKZO62003870U2A620C2MM8000 (日経新聞 2022.6.24) 医療再建(下) 迫られる負担の「脱・年齢」 給付のメリハリ欠かせず
 日本の医療が少子高齢化を乗り越えるには負担と給付の発想を転換する必要がある。だが改革の動きはあまりに鈍い。「マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みを検討する」。政府が経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に記した文言だ。といっても今年の骨太方針ではない。安倍晋三政権が2015年に閣議決定したものだ。「団塊の世代」の全員が75歳以上になる25年以降は医療費の膨張が加速する。現役世代の負荷を緩和するため、資産のある高齢者にはもっと負担してもらう。こんな問題意識があった。ところが25年が迫ってきても実現する気配はない。厚生労働省の社会保障審議会が16年末に「金融資産を正確に把握する仕組みがない現状では尚早」と課題を指摘しただけ。政府がその後、マイナンバーを活用した資産把握の実装を急いでいるようにもみえない。閣議で「検討する」と決まった改革が実際には「検討しただけ」で尻すぼみになる。霞が関文学の典型だ。高齢者の医療費の窓口負担は70~74歳は2割、75歳以上は1割が原則だが、今後は現役世代と同様に3割負担を原則とすることも課題だ。そのうえで年齢に関係なく、所得や資産の状況から支援が要る人だけ負担割合を1~2割に下げる。こんな負担の全世代型改革を進める必要がある。会社員らの健康保険組合は加入者の賃金水準が新型コロナウイルス前に戻らない中で、高齢者医療を支えるために毎年3兆円超を拠出している。22年度は全体の7割にあたる963組合が赤字予算を組んでいる。現役世代の苦境は今後さらに深刻になる。政府の推計では40年の医療給付費は68.5兆円と20年度の約1.7倍に増える一方、20~64歳の現役人口は2割近くも減ってしまうためだ。荷を軽くするには給付の取捨選択も避けられない。今は有効性と安全性が確認された治療法や医薬品はすべて公的保険でカバーしている。今後は医療上の有用性などの視点で保険適用の可否を判断すべきだ。例えばフランスでは医薬品について有効性や安全性だけでなく、疾病の重篤度、治療の特性、公衆衛生への影響など医療上の有用性の観点で評価している。一般患者なら一律で70%給付の日本と異なり、給付率は5段階ある。抗がん剤など他で代替できない薬は100%給付だが、重要度が下がるにつれて65%、30%、15%、0%と給付率が下がる。有用性が低い薬ほど患者負担が重くなる。治療法の評価も見直しが要る。例えば、同じ病気の治療で内視鏡手術の患者が開腹手術の患者よりも早期に退院できるなら、それは病気の治療だけでなく「日常生活により早く戻る」という便益も提供されていることになる。特別な治療法を選択した患者には、追加的な自己負担を求める考え方も検討すべきだ。こうした改革を進める前提として、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を禁止するルールは見直し、柔軟に併用できるようにしたほうがよい。国民皆保険を守るためにも聖域を廃した改革が必要だ。

*3-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15354299.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2022年7月13日) マイナンバー 地方交付税ゆがめるな
 ものごとが進まないときに必要なのは、真の原因に向き合うことだ。政府がそれを怠り、筋違いの促進策に熱を上げる。あきれざるをえない光景だ。政府が、自治体ごとのマイナンバーカードの交付率を、地方交付税の額に反映させる方針を打ち出した。住民がカードを取得した率が高い自治体には、交付税の配分を増やす。先月閣議決定した「デジタル田園都市国家構想」の基本方針に盛り込まれた。この方針には「交付率を普通交付税における地域のデジタル化に係る財政需要の算定に反映することについて検討」と書かれている。カードを使ったデジタル施策の費用に充てるために配分を増やすという理屈のようだが、到底納得できない。そもそも政府はマイナンバー制度の目的の一つに、「様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力が大幅に削減される」ことをあげてきたはずだ。カード普及でコストが増えるのであれば、「行政の効率化」との説明はウソだったことになる。システムや関連機器などの初期投資が一時的にかさむことは考えられる。その経費の支援ならば補助金を出すべきで、交付税に差をつけるのは筋違いだ。交付税は、すべての自治体が一定の行政サービスを行う財源を保障するために、国が自治体の代わりに徴収し、財源の不均衡を調整するものだ。この「地方固有の財源」を、国策の推進に用いるのは、明らかに交付税の精神に反する。なぜここまで理の通らないことをしようとするのか。政府は今年度末までにほぼ全国民にマイナンバーカードを交付する目標を掲げる。だが、6月末の交付率は約45%に過ぎない。総務省は5月分から、全市区町村の交付率を高い順に並べた表を公表し始めた。今回の方針について、政府は表向き「政策誘導ではない」(金子総務相)という。だが、交付税をてこに、自治体に圧力をかける目的があるとみられても仕方がないだろう。マイナンバーカードの普及を図るため、政府は多額のポイントを配布している。健康保険証を将来的に原則廃止し、このカードに一元化するという。行政のデジタル化の基盤としてカードを広めたいとの意図は分かる。ただ、取得が進まないのは、国民がカードの利点を実感できず、個人情報が漏れたり悪用されたりするのではという不安も払拭(ふっしょく)されていないからではないか。根本的な問題の解決こそが求められていることを、政府は心すべきである。

<私も変だと思った安倍元首相の警護>
PS(2022年7月20日追加): 安倍元首相が、*4-1のように、 2022年7月8日、奈良市で参院選の街頭応援演説中に銃撃された事件に私は衝撃を受けたが、その警備の問題点について、テロ対策・要人警護・施設警備の専門家が、*4-3のように、①警察の警護体制の甘さが各方面から厳しく指摘され ②安倍氏が演説していた場所は、ガードレールに囲まれた場所で逃げ場がなく、このような場所に安倍元総理を立たせたのが誰か、警察は調べるべき ③SPが1人として安倍氏のすぐ後ろに「ボディーガード」として立たず、腕の届く位置にもいなかった ④安倍氏の周囲にはSPが7人ほど配置されていたが、誰一人背後まで警戒をしている様子はなく、背後から銃を持った犯人に対象者から約3mの距離まで入り込まれたのは、VIPを警護するプロの世界では考えられないレベルの失策 ⑤警護要員はみな内向きに配置され、安倍氏と同じ方向を見て背後に注意を払っていない ⑥安倍氏は背後から至近距離で発砲され、犯人は初弾を外して2発目を発射するまでに2.5秒ほどの間隔があったが、SPがまともに反応し始めたのは2発目が発射された後 ⑦プロの警護要員なら次弾発射まで1~2秒も時間があればいろいろなことができた筈 ⑧警護対象者を護らず、何人もの警官が犯人に飛びかかったのは疑問 ⑨今回の失敗は、日本警察の警護能力の低さの証明と世界中の警察や軍で「絶対にやってはならない失敗の手本」になる と書いておられた。
 私も安倍元首相殺害現場の映像を見た時から、どこか不自然なものを感じていたが、それはまず、③のように背後が空いていた上、④⑤のように、SPらしき人が申し合わせたように皆同じ方向を見て誰も背後を見ていなかったからである。さらに、⑥のように、犯人が初弾を外した音がした時も、背後を振り向いたのは安倍元首相だけだった。②については、私は「背後に街宣車を置くか、建物内で応援演説すればよかったのに」と思っていたが、プロの警護要員から見れば、このような場所に安倍元総理を立たせること自体が高リスクだったようだ。また、①⑦⑧⑨についても、全くそのとおりだ。
 そのため、*4-2のように、警察庁がこの事件が起こった背景についての「検証・見直しチーム」を発足させたそうだが、警察庁もまた責任を問われるべき立場にあるため、独立した第三者の手で問題点を洗い出して責任の所在を明確にすべきだろう。これは要人の殺害事件であり、⑧のように、事件勃発後に何人もの警官が犯人に飛びかかって、一生懸命に警備していたふりをしても意味がないのだから。
 そのような中、*4-4のように、安倍元首相銃撃事件の奈良市消防局による無線記録の全容が判明したところ、11月8日午前11時32分に出動命令が出て、⑨(銃撃から約3分後の8日午前11時35分)「高齢男性、拳銃で撃たれ、心肺停止状態」 と言っているが、通報した人は安倍元総理と言わずに高齢男性と言ったのか、これが第一の疑問である。また、⑩(銃撃から約8分後の同40分)隊員が安倍元首相の心肺蘇生を試み、「ドクターヘリ出動させます」 ⑪(銃撃から約11分後の同43分)現場から「救急車内に収容しました」 ⑫(銃撃から約21分後の午前11時53分頃)ドクターヘリが合流地点に到着し、救急車も銃撃から約25分後の同57分に着いて、受け渡しが完了した後に搬送先が決まり、「ヘリにあっては橿原の医大、橿原の医大となりました」(銃撃から約40分後の午後0時12分) としているのは、銃撃直後に被害者の名前と場所を明確にして直ちに現場にドクターヘリ(そのために作ったのだから)を呼び、同時に搬送先病院を決めて迅速に運ぶこともなく、⑬(銃撃から約43分後の午後0時15分)にやっとドクターヘリが離陸して奈良県立医大病院(奈良県橿原市)に搬送した というのだから、要人救命の意思がなかったように見えるし、これなら亡くなるのが当たり前だと思われた。
 そして、*4-5のように、山上容疑者(41)が事件直前に出した手紙には、安倍氏襲撃を決意したかのような文章が記されていたそうだが、母親が寄付した団体への不満を晴らすには安倍元首相の殺害は的外れすぎるし、安倍氏を護る体制は申し合わせたように抜け穴だらけだったため、山上容疑者はケネディ米元大統領狙撃事件のオズワルドのような利用のされ方をしたのではないかと、私には思われた。

  
2022.7.14日経新聞      2022.7.20時事        2022.7.20時事

(図の説明:左図は、安倍元首相銃撃事件後の消防のやり取り、中央の図は、事件現場の様子、右図は、安倍元首相の警備の問題点だ)

*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/885000 (佐賀新聞論説 2022/7/14) 安倍元首相警護 失態の原因、徹底究明を
 安倍晋三元首相が奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、逮捕された無職の山上徹也容疑者は演説が始まって間もなく歩道から車道に出て、安倍氏の背後に近づいた。警視庁のSP(警護官)や奈良県警の警察官が配置されていたが、交流サイト(SNS)の動画などを見ると、誰も声をかけたり、制止したりしていない。山上容疑者はショルダーバッグから手製の銃を取り出して発砲。さらに距離を詰め、安倍氏が振り向きかけた時、再び発砲した。最初の発砲音で警護要員が動き出し、安倍氏を守ろうとして防弾仕様のケースを掲げたが、間に合わなかった。2発目の銃撃が致命傷を与えたとみられている。制服警察官を目立つように配置する「見せる警備」もなく、今なお国政に影響力を持つ首相経験者の警護としては後方ががら空き状態になるなど、いくつも「穴」が指摘されている。警察庁は「検証・見直しチーム」を設置し、警視庁や奈良県警から当時の状況を詳細に聞き取り、8月に検証結果と要人警護の見直し案をまとめるとした。選挙は民主主義の基盤であり、政治家が有権者と触れ合い、交流する重要な機会だ。事件は、その安全をいかに守るかという重い課題を社会に突き付けた。山上容疑者の動機や背景など全容解明を急ぐ一方で、失態の原因を徹底究明し、国民に説明する必要がある。山上容疑者は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信し、多額の寄付をして家庭が崩壊したことに恨みを募らせ、旧統一教会と安倍氏がつながっていると思ったから狙ったなどと供述。「昨年春ごろから手製の銃を作り始めた」「当初は教祖を殺そうとした」とも話している。先祖供養などを名目に高額の美術品や宝石を売りつける「霊感商法」が社会問題化したこともある旧統一教会は記者会見し、母親は信者で家庭が経済的に破綻したことも把握していると説明した。ただ今のところ、安倍氏と教会側のつながりははっきりしていない。容疑者は自宅で手製銃の試作を繰り返して殺傷力を高めるなど、強い殺意と計画性がうかがわれるが、今回の警護で最大のミスは、警護要員の誰一人として、安倍氏に近づく容疑者に気付かなかったことだ。さらに1発目から2発目の発砲までに3秒ほどあったが、この間に安倍氏に覆いかぶさったり、伏せさせたりすることもなかった。警察庁の検証・見直しでは、こうした現場の対処がポイントになるだろう。また首相経験者の警護計画は特段の事情がない限り、都道府県警から警察庁に報告しない。今回も奈良県警から報告はなかったが、事前に警察庁の担当部署がチェックすることも検討する。要人警護の中でも、選挙時のそれは特に難しいといわれる。街頭演説の場所に不審者がいないか、不審物がないかなどをあらかじめ警察が確認するが、演説は次々に場所を移して行われるため、全ての地点で十分下見をしている余裕はない。加えて、警察は警護対象者を見ず知らずの人から引き離したいが、できるだけ多くの人と接したい対象者はそれを嫌うとされる。だが今回のような取り返しのつかない事件を二度と起こしてはならず、守る側と守られる側が意見を交わす場を設けることも考えたい。

*4-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022071400018 (信濃毎日新聞社説 2022/7/14) 安倍氏の警備 第三者による検証が要る
 選挙で街頭演説をする政治家に暴力が向けられる事態は、民主主義の根幹を脅かす。命を奪う凶行をなぜ防げなかったのか。徹底した検証が必要だ。安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件で、警察庁が警備の問題点を調査する「検証・見直しチーム」を発足させた。現場の警備態勢のほか、警察庁の関与のあり方についても検証する。奈良市の現場は四方を車道に囲まれ、遮る物がない場所だった。逮捕された男は、街頭演説に立った安倍氏の背後から車道に歩み出て近づき、およそ7メートルの地点で1発目を、さらに2メートルほど近寄って2発目を撃っている。警視庁の警護官(SP)1人と奈良県警の複数の警察官が警護にあたっていたという。しかし、がら空きに近い背後から男が接近するのを許し、最初の銃撃後ただちに安倍氏の身の安全を確保する行動も取っていない。銃声がしたら瞬時に警護対象者を伏せさせ、覆いかぶさったり、周りを囲んだりして守るのが要人警護の基本とされる。2発目までに3秒ほど間隔があり、対処できて当然だと警視庁警備部の元幹部は指摘している。警察庁次長を筆頭とする検証チームは奈良県警や警視庁から聞き取りをして調査を進めるという。けれども、警察庁もまた重大な失態の責任を問われるべき立場にある。身内の警察組織内部で調べれば済む問題ではない。現場の警備態勢の詳細を警察は明らかにしていない。警備の手の内をさらせない事情はあるとしても、透明性を欠くやり方では公正さを担保できない。独立した第三者の手で問題点を洗い出し、責任の所在を明確にすべきだ。もう一つ、注意深く見ていかなくてはならないことがある。暴力を防ぐことを理由にした警備の強化が、批判の声を上げる人の排除につながらないかだ。2019年の参院選では、首相だった安倍氏の街頭演説にやじを飛ばした人たちが警察に排除された。表現の自由の侵害と断じる判決を札幌地裁が出している。この判決が今回の事件に影響したという見方があるが、的外れだ。言葉による批判と暴力は明確に区別されなければならない。政権当時からの安倍氏への激しい批判が事件を誘発したかのような見方にも同じ危うさがある。政治的な思惑で事件が利用され、言論を封じる公権力の行使が正当化されていかないか。警戒を怠らないようにしたい。

*4-3:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70984 (JBpress 2022.7.17)要人警護の歴史に残る大失態、プロが指摘する安倍氏銃撃現場の問題点、あり得ない場所で演説、SPたちの鈍い反応(丸谷 元人:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・危機管理コンサルタント)
 2022年7月8日、安倍晋三元総理が奈良・西大寺での選挙応援演説中に凶弾を受け、命を落とした。この事件は、多くの日本国民に衝撃を与えたのみならず海外のマスコミにも大きく取り上げられたが、同時にその直後から、警察の警護体制の甘さが各方面から厳しく指摘されている。本稿では、米国の民間軍事会社で対人警護や対テロ戦等の訓練を受け、海外のハイリスク地帯における石油施設の警備や大手企業エグゼクティブらの要人警護オペレーションを実際に担当してきた者として、また、各国の軍・警察出身の警護要員や米シークレットサービス出身者を含むプロたちと現場で共に汗をかいた者として、2022年7月10日の段階までに得られた事件発生時の映像等の情報を元に、今回の襲撃事件を許してしまった警察の警護体制を考察してみたい。
●逃げ場のない場所とボディーガードの不在
 事件の映像を見て最初に驚いたのが、安倍氏が演説していた場所だ。安倍氏は当時、ガードレールに囲まれた中洲のような場所で演説をしていた。これはつまり、警護対象者(以下、対象者)に対する攻撃があった場合、SPたちが対象者の肩を掴んでその場所から脱出させる際の大きな障害となる。また、爆発物を投げ込まれた場合でも、対象者は自分を囲むガードレールという障害物のせいで、容易にその爆発物から逃れることすらできなくなる。このような「逃げ場のない場所」に対象者を絶対に配置してはならないわけだが、安倍元総理をこんな場所に立たせたのが誰なのかは、警察でも調べるべきであろう。次に挙げるべき問題点は、SPらの配置である。特に、SPが一人として安倍氏のすぐ後ろに「ボディーガード」として立っていなかったことは大きな問題だ。通常、ボディーガードは対象者の右か左のすぐ後方に立つものであり、その位置は「手を伸ばせば対象者を掴める距離」でなければならない。なぜなら、襲撃があった際には対象者の体を素早く押さえ込んで倒したり、あるいはその肩を掴みつつ、より安全な方向に向けて脱出させねばならない。場合によっては対象者と犯人の間に自分の身を割り込ませ、身代わりとなって刃物や銃弾を受けなければならないからだ。しかし今回、SPは誰も安倍氏から腕の届く位置に立っていなかった。つまり、担当SPはボディーガードとしての基本的な役割を果たしていなかったのである。もし右か左の背後にSPが立っていれば、犯人は安倍氏を直接狙えなかったであろうし、弾丸の何発かは安倍氏の代わりに、防弾チョッキを着ていた(はずの)SPに当たっていたであろう。
●SPたちの鈍い反応
 もう1つの大きな問題は、安倍氏の周囲にいたSPたちの反応の鈍さである。いくつかの動画からは、背後から至近距離で発砲されたのに、銃声に驚いたSPたちはその方向に振り向いただけで、即座に対象者を守るための行動に移らなかった様子が見てとれる。しかもこの時、犯人はその初弾を外してくれており、2発目を発射するまでに2.5秒ほどの間隔があったが、SPたちがまともに反応し始めたのは安倍氏を死に至らしめた2発目が発射されたのとほぼ同時であった。プロの警護要員であれば、次弾発射まで1~2秒も時間があればいろいろなことができたはずだ。大声を上げて犯人に飛びかかったり、その射線を遮るだけでも犯人の手元を狂わせるだけの心理的効果はあるからだ。しかし彼らは全く動かなかった。この反応の鈍さは、弁護の余地がないくらいにひどいものである。SPたちは安倍氏に対する群衆からの野次に加え、鈍器・刃物程度の攻撃は想定していたであろうが、まさか銃で撃たれるとまでは想像していなかったのかもしれない。しかしこれはまさに「平和ボケ」が取り返しのつかない事態を招くのだという良い例である。グローバル化した今の時代、日本だけが安全だとか、犯人は銃や爆弾を使うまい、などと勝手に想定してはならない。セキュリティの世界においては「脅威は常に自分の想定の数歩先を行っている」と考えるべきなのだ。
●十分な周辺警戒をしていなかったSP
 ちなみに当時、安倍氏の周囲にはSPが7人ほど配置されていたというが、誰一人背後まで警戒をしている様子はない。その結果、まさにその背後から銃を持った犯人に対象者から約3メートルの距離まで入り込まれている。奈良県警は、犯人の姿を確認したのは一発目が発射された後だったと言っているが、つまり犯人が約3メートルの距離に接近するまで、警察官らは誰一人その脅威に気づかなかったというわけだが、こんなことは普通、VIPを警護するプロの世界では考えられないレベルの失策である。そもそも、殺傷力のある武器を持った犯人を対象者の位置から10メートル以内に入れた段階で、警護任務はほとんど失敗である。その武器が刃物であっても状況は同じだ。例えば、刃物を隠して群衆に紛れていた犯人が、10メートル先で周辺警戒するSPの隙をつく形で、その背後にいる対象者に向かって走り始めたとしよう。SPは恐らく、犯人が駆け寄る靴の音や群衆から上がる小さな悲鳴などによって最初に異変を察知するであろうが、その段階ですでに1秒ないし2秒は経過しており、その時点で犯人との距離は5~6メートルにまで縮まっている。そこでSPは初めて犯人の姿を確認し、武器の種類を見て素手で対応するか、或いは拳銃を抜くかの判断をしつつ、同時に対象者と犯人の間に体を割り込ませ、スーツをめくって腰のホルスターから拳銃を抜くわけだが、その頃には犯人は既にSPの目と鼻の先まで来ているであろう。そうなるとSPは、向かってくる犯人に対して自ら体当たりでもする必要があるが、それでも10メートルという距離がSPにより多くの時間を与えるため、対象者を守る確率は大きくなるだろう。こうして犯人との距離をとることは、銃犯罪に対抗する上でも極めて有効だ。仮に犯人が拳銃を持っている場合でも、10メートルも離れれば命中精度がかなり落ちることが予測できるし、今回の事件で使われたような銃身の短い散弾銃であれば、発射直後に弾丸がバラけるため、10メートルという距離があればやはりターゲットへの命中はかなり困難になる。事実、今回の犯人は安倍氏から約5メートルの位置で初弾を発射したようだがそれは命中しておらず、そこからさらに数歩進んだ約3メートルの距離で放った2発目で初めて安倍氏に致命傷を与えている。つまり、今回もしSPたちが背後までしっかりと警戒し、この犯人の挙動が怪しいと感知することができていれば、そしてそこでしっかりと犯人に声掛けをして距離を取っていさえすれば、安倍氏は命を落とさずに済んだ可能性は極めて高い。
●海外の要人警護のプロによる指摘
 元英国ロンドン警視庁刑事部長として長年北アイルランドや海外において数多くのテロ事案や誘拐事案を担当し、現在は筆者が経営するリスクコンサルティング会社の顧問を務めるピーター・ガルブレイス氏も、「今回の警護チームによる最大の失敗は、犯人を安倍氏のすぐ背後まで簡単に侵入させたことだ」と指摘する。「映像を見る限り、警護要員はみな内向きに配置され、群衆に向かって語りかける安倍氏と同じ方向を見ており、安倍氏の背後にある潜在的な脅威に対して注意を払っていたようには見えません。今回警護チームには、脅威を早期に特定して無力化するための機会が十分にあったはずですが、残念ながらそれらは見過ごされました。犯人はそんな彼らの隙を突く形で安倍氏に接近し、致命的な攻撃を行うことができたのです」。ガルブレイス氏は、2013年に10人の日本人がイスラム過激派に殺害されたアルジェリア事件の際には現場での対テロ作戦を担当し、また極めて優れた功績を残した警察官にのみ授与される英国女王警察勲章(QPM)に加え、凶悪な国際テロリストの逮捕・引き渡しの功により「スペイン国家憲兵功労十字章」をも授与された人物だ。現在は欧州や中東諸国の軍・警察機関に誘拐人質交渉や犯罪予防、テロ対策の指導をも行うなど、英国でも指折りのセキュリティ専門家であるが、「犯人と安倍氏の間にもっと距離さえあれば、今回の悲劇は起きなかっただろう」と語る。「一般的に、手製の銃器は工場で製造されたものと比べて遠距離での精度が劣ります。しかし、犯人が安倍氏の数メートル背後にまで接近できたこと、そして銃自体が2発発射可能な構造であったため、1発目を外した後にさらに続けて2発目を発射できたことが犯人の成功に繋がったのでしょう」(ガルブレイス氏)
●丸裸になってしまった安倍氏
 さらに、当社のパートナー企業である米民間軍事会社「トロジャン・セキュリティ・インターナショナル社」の代表で、英海兵隊特殊部隊「特殊舟艇隊(SBS)」出身のスティーブン・マスタレルズ氏は、安倍氏が倒れた後の犯人の身柄確保についても首を傾げる。「2発目の射撃で安倍氏が被弾した後、何人ものSPが犯人に向かって走り出すのが見えましたが、あれは間違いです。SPの本来の仕事は対象者を守ることです。犯人の押さえ込みは1人か2人で十分であり、その他のSPは全員が安倍氏を取り囲んで、さらなる襲撃の可能性に備えつつ、同時に周囲のより安全な脱出路の確保を行い、また必要に応じて救命救急に対応するために動かねばなりません」。この点は筆者も全く同感で、映像を見た瞬間、なぜ犯人に何人もの警官が飛びかかる必要があるのだろうという疑問を持った。そんなことをすれば、その間に安倍氏はほとんど丸裸になってしまうわけで、実際に安倍氏の警護はこの時かなり手薄になっていたようだ。倒れる安倍氏の周囲は、心配する支持者や自民党関係者らが囲んでいたが、もしその中にもう1人の「バックアップ」としての刺客が紛れ込んでいたら、安倍氏はそこでも確実にやられていたであろう。因みにこのマスタレルズ代表もまた、現在も麻薬カルテルの凄まじい殺し合いが横行する中南米や、テロと紛争が多発するアフリカといった危険地帯でVIP警護を行う現役のプロであり、筆者に最新の要人警護技術や対テロ戦闘、さらに市街戦の訓練を叩き込んでくれた恩師でもある。そんな氏の経営する会社は、グリーンベレーやネイビー・シールズといった米軍特殊部隊や、英豪仏独蘭といった欧州諸国の陸海軍特殊作戦部隊に加え、連邦捜査局(FBI)、麻薬取締局(DEA)のような法執行機関に対して高度な対人警護や対テロ戦の訓練を提供し、さらに実際にイラクやアフガニスタンでも数々のオペレーションを行った実績を有している。マスタレルズ氏は、過去数十年のキャリアの中で、自身のクライアントからは1人の犠牲者も出さなかったことを誇りとしているが、それらの警護任務中にチームの仲間を失った経験もあるようだ。そんな修羅場を抜けてきたプロの指摘は重い。他にも、安倍氏が倒れた後、天理市長が周辺の人たちに向かってAEDを探してくれと叫んでいるシーンがあったが、もしSPがAEDや救命救急装備の準備さえしていなかったとしたら、これはこれで大問題だ。海外の警護チームであれば、対象者が負傷した場合に備えて、こういう救命救急装備の一式は必ず用意しているし、訓練も受けている。さらに、対象者の持病なども把握し、発作等が起きた場合には最寄りの専門医のところに救急搬送を行える体制を整えてから警護を開始するのが普通だ。今回の警護チームが危機にうまく連携できなかったのには、それなりの理由もあるだろう。例えば、安倍元総理の奈良入りは事件前日に急遽決まったそうであるが、これではあまりに準備期間が短すぎる。幹部の中には、人数を配置していれば大丈夫だと考える人もいるかもしれないが、現場はそう簡単にはいかないものだ。いくら毎日警護の訓練や実任務についているようなベテランの警護チームであっても、日によっては当直明けや休暇中のメンバーもいるだろう。その穴を埋めようとするあまり、かつて一緒に仕事をしたことのない同僚や、ベテランSPと新人SPを不適切な割合で混ぜた急ごしらえのチームを作った結果として、普段なら絶対に考えられないような連携ミスが生じてしまう可能性は十分にある。前出のガルブレイス氏も「英国には『自己満足は敵である』という言葉がありますが、いくら警察官を多く配置したところで、そこに適切な警護チームが配置されていなければほとんど無意味です」と指摘する。いずれにせよ、SPたちは全てが後手に回り、とてもではないがプロの警護要員らしからぬ対応しか見せられなかった。
●某県警SPの技量レベル
 一方で、筆者は今回の彼らの対応については、それほど驚かなかったし、寧ろ正直なところ「なるべくしてこうなった」といった感想を持った。なぜなら筆者はかつて、ある地方の県警SPたちと同じ場所で警護の仕事をしたことがあったからだ。数年前のことであるが、筆者が所属していた企業の地方オフィスを大臣クラスが視察するという話が持ち上がった。当時、同社のセキュリティ・マネージャーであった筆者は念のためということで、警備対策要員として受け入れ側チームの一員に加えてもらい、現地入りしたことがあった。大臣の訪問は夕方ということになっていたため、筆者自身は半日前に現場入りし、午前中から数時間かけてオフィスの建物周辺を歩き回り、フェンスの状況や周辺の茂み、近隣住宅の状況を入念にチェックした。また隣接する駐車場も定期的に巡回し、停車車両のナンバーや中にいる人物、助手席や後部座席に置かれている荷物の様子をも徹底的に確認し、さらに自社オフィスがある建物内でも、使われていない部屋や倉庫、階段の裏、裏口などに加えてボイラー室の中まで何度も入念にチェックをし、同時に海外にある監視センターから現場をCCTVで遠隔監視しているチームに対しても、不審な人影があれば直ちに連絡をもらえるように依頼をしていた。さらに、その地方オフィスは南側が全面ガラス張りであったので、万が一の狙撃に備えて、どこからなら角度的にもっとも狙いやすいかという確認を行ったが、これは犯罪者やテロリストからの狙撃のみばかりではなく、逆にVIPやその一行、あるいは社員らが猟銃などを所持したまま立て籠った犯人に人質にとられた場合、警察の狙撃チームに情報を共有することにもつながる。その一方、大臣警護を担当する県警SPの担当者らが到着したのは、大臣が来る30分ほど前であった。彼らは建物の中をちらっと見回しただけで、セキュリティ・マネージャーである旨を告げて自己紹介した筆者に対して、警備上の質問は一切せず、その後はそのまま入口付近に立って大臣一行の到着を待ち始めたため、筆者は拍子抜けをしてしまった。彼ら県警SPの動きは、確かに何らかのマニュアルに沿ったもののようには見えたので、ある程度の訓練はされていることは間違いないと思ったが、しかし動きに柔軟性や注意深さが足りないと感じた。警護オペレーションとは、対象者の性別や年齢、体格や性格、性質、人数、持病の有無、使用する車両の種類や道路状況、季節や気温、天候、時間帯、建物の構造など様々な条件によって変化するのであり、それらに対して柔軟に対応することが求められるわけだが、この時のSPたちが周囲の環境にそこまで配慮しているようには思えなかった。もちろん、全てのSPがこのようなレベルにあると言いたいのでは決してない。筆者の個人的な知り合いの中にも、高い技能や豊富な経験を持たれた極めて有能なSP出身の民間警護要員は確かにおられる。しかし、筆者が目撃した地方の県警SPや、今回の事件現場のSPらの動きを見る限り、警察SPの全体的な底上げと体制強化が喫緊の課題であることに疑いの余地はない。また以前あるテレビ番組で、そこに出演していた元SPという人が、「我々SPは1年に1回、米海兵隊でイヤというほど射撃をするんです」と話していたので、興味を持って見ていたところ、その弾数がわずか「300発」だと聞いてびっくりしたことがある。筆者自身は、海外のハイリスク地域に住んでいた際、いつどこで誰に襲われるかもしれないという環境であったせいもあり、最低でも毎週500発(つまり毎月2000発以上)は射撃をしていたため、1年に1回程度の射撃では、いざという時には決して役に立たないだろうと感覚的に感じたものであった。銃器というのは、自分の体の一部になるまで触れてドリルを行い、また射撃を繰り返すことで初めて上手に使えるようになるものだ。特に、どこからともなく突然向かってくる脅威に対して、わずか数秒のうちに状況判断をして、そこから拳銃を抜き、正確な射撃まで行うという厳しい対応が求められるSPにとって、年にたった数回、わずか数百発の射撃しかさせてもらえないというのはあまりに少なすぎて気の毒なくらいだ。(以下略)
[筆者プロフィール] 丸谷 元人(まるたに・はじめ)
 1974(昭和49)年、奈良県生れ。オーストラリア国立大学卒業、同大学院修士課程中退(東アジア安全保障)。オーストラリア戦争記念館の通訳翻訳者を皮切りに、パプアニューギニアでの戦跡調査や、輸送工業事業及び飲料生産工場の設立経営、さらにそれに伴う各種リスク対策(治安情報分析、要人警護等)を行った後、西アフリカの石油関連施設におけるテロ対策や対人警護/施設警備、地元マフィア・労働組合等との交渉や治安情報の収集分析等を実施。また、米海兵隊や米民間軍事会社での各種訓練のほか、ロンドンで身代金目的の誘拐対処訓練等を受ける。さらに防衛省におけるテロ等の最新動向に関する講演や、一般企業に対するリスク管理・危機管理に関するコンサルティングに加え、複数のグローバルIT企業における地域統括セキュリティ・マネージャー(極東・オセアニア地区担当)やリスク/危機管理部門長等を歴任。現在、日本戦略研究フォーラムの政策提言委員として、『週刊プレジデント』や月刊誌『VOICE』『正論』などへの執筆をも行う。著書に『The Path of Infinite Sorrow: The Japanese on the Kokoda Track』(豪Allen & Unwin社)、『ココダ 遥かなる戦いの道』『日本の南洋戦略』『日本軍は本当に「残虐」だったのか』『学校が教えてくれない戦争の真実』(ハート出版)、『なぜ「イスラム国」は日本人を殺したのか』(PHP研究所)等がある。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220714&ng=DGKKZO62596540U2A710C2CE0000 (日経新聞 2022.7.14) 安倍氏銃撃後、緊迫50分 奈良市消防局の無線全容、11時35分「男性、心肺停止状態」 11時48分「頸部に銃創。心静止」
 安倍晋三元首相が参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、現場で救命活動に当たった奈良市消防局の無線記録の全容が判明した。「高齢男性、拳銃で撃たれ、現在CPA(心肺停止)状態と思われます」(銃撃から約3分後の8日午前11時35分)――。出動命令から救急車に収容、ドクターヘリへの搬送までの生々しいやりとり、約50分にわたる緊迫した救命の実態が浮かび上がった。事件は8日午前11時32分に発生。花火を打ち上げたような大きな銃声が響き渡り、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で演説していた安倍元首相が路上に崩れ落ちた。その直後に「救急指令、加害事故、出動せよ」と消防本部が命令。「西大寺東町2丁目において発砲事件」(同34分)、「CPA状態と思われます」(同35分)と追加情報を出すと、最初の隊が現場に着き「自民党の参議院候補の演説会場です」(同37分)と報告した。すぐに隊員が安倍元首相の心肺蘇生を試みた。「ドクターヘリ出動させます。ドクターヘリ出動させます」(同40分)。救急車からヘリに受け渡す地点は、現場から南東に直線で約700メートルの平城宮跡歴史公園に。同43分に現場から「救急車内に収容しました」。約2分後に救急車が合流地点に向けて出発した。この後、消防本部が数回にわたり、救急車に呼びかけ。同48分、救急車から「頸部(けいぶ)、頸部に銃創あり。初期波形にあっては、心静止。挿管・ルートの方、実施したいと思います」と報告があった。安倍元首相の首、左上腕部の計2カ所に銃弾が命中した傷があり、救急車内で気道を確保し酸素を送る処置が取られた。現場の情報が入り乱れ「加害者にあっては警察と捜査していますが行方不明です」(同51分)、「犯人、犯人確保済み、逮捕済みです」(同)とのやりとりもあった。午前11時53分ごろにドクターヘリが合流地点に到着。救急車も同57分に着き、受け渡しが完了した後、搬送先が決まった。「ヘリにあっては橿原の医大、橿原の医大となりました」(午後0時12分)。午後0時13分に飛び立ち、奈良県立医大病院(奈良県橿原市)に搬送された。同20分に到着し、胸部の止血や大量の輸血の処置が行われたが、安倍元首相は午後5時3分、死亡が確認された。

*4-5:https://mainichi.jp/articles/20220719/k00/00m/040/417000c (毎日新聞 2022.7.19) 銃撃前日「決意表明」の手紙か 旧統一教会批判の男性宛てに書き残し
 安倍晋三元首相(67)が奈良市で街頭演説中に銃撃され死亡した事件で、山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検=が事件直前に出した手紙には安倍氏襲撃を決意したかのような文章が記されていた。10代の頃から母(69)が入信した宗教団体を恨み、団体の活動を安倍氏が支援したと解釈した容疑者。ツイッターや第三者のブログ、手紙に書き連ねた積年の団体への思いから、安倍氏殺害という凶行に駆り立てたものが浮かび上がる。「あの時からこれまで、銃の入手に費やして参りました」。山上容疑者が、団体の活動に批判的なブログの男性管理人(71)=松江市=に宛てた手紙には、こんな一文がある。さかのぼること約1年7カ月。男性のブログには2020年12月16日、ある書き込みがなされていた。「復讐(ふくしゅう)は己でやってこそ意味がある。不思議な事に私も喉から手が出るほど銃が欲しいのだ。何故だろうな?」。山上容疑者が記したとみられる。手紙はブログの言葉を引用し、母の入信した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が家庭崩壊をもたらした経緯に言及。「安倍(元首相)の死がもたらす政治的意味、結果、最早(もはや)それを考える余裕は私にはありません」と本文を結び、安倍氏銃撃を決意したことを示唆していた。山上容疑者は21年春ごろから手製銃の密造を始め、22年2月ごろまでに完成させたとされる。奈良県内の山中で試射を繰り返し、殺傷能力などを高めたとみられる。計画の着手は7月7日だった可能性がある。夜、岡山市で安倍氏が登壇予定の演説会を狙った。手紙は会場に向かう直前、近くのコンビニエンスストアにあるポストに投函(とうかん)された。この時は、警備体制などで断念、翌8日に奈良市で事件を起こした。手紙の文面を見た国際医療福祉大の橋本和明教授(犯罪心理学)は、強固な政治的思想よりも団体への不満を晴らしたいとの思いが見て取れると指摘する。「本人も本当に襲撃を実行できるのか、不安があったと思う。自分自身の背中を押す『決意表明』という意味で書いたのではないか」。奈良県警は、山上容疑者が安倍氏の岡山訪問を3日に把握したとみている。6日にはJR奈良駅で岡山行きの片道切符を購入。手紙は印字されたもので、県警が自宅から押収したパソコンからは、手紙と同じ文面の文書データが見つかり、6日深夜に最後の保存がされていた。安倍氏を銃撃の対象に据えたのはなぜなのか。山上容疑者は「母が団体にのめり込んで破産した。団体が家族をめちゃくちゃにした」と供述しており、19年10月には来日した団体最高幹部、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を愛知県内で火炎瓶で襲撃しようとしたと説明。この頃始まった山上容疑者のものとみられるツイッターにも「憎むのは統一教会だけだ」と投稿していた。手紙には「(安倍氏は)本来の敵ではないのです。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人に過ぎません」とあった。ジャーナリストの大谷昭宏さんは「韓総裁襲撃は難しいと悟った容疑者が、団体の悪質性を世に知らしめるターゲットとして安倍氏を選んだに過ぎない」と事件の構図を描く。銃撃前に手紙を投函したことについては「逮捕されてしまえば、自分の主張が世に伝わるかは分からない。背景には団体の問題があると社会に書き残したかったのではないか」と指摘する。ツイッターには団体への強い恨みの他に、母についての複雑な心境もつづられていた。親族によると、父は山上容疑者が4歳の頃に自殺し、一つ違いの兄は幼い頃に小児がんを患って右目を失明している。投稿では、家庭環境に触れた上で、母が大病を患う兄を気にかける様子を記し「オレは努力した。母の為(ため)に」と書かれていた。「オレは母を信じたかった」とも投稿され、母を慕う子の心情が吐露されていた。一方、「こんな人間に愛情を期待しても惨めになるだけ」と見限るような記述もあり、愛憎が交錯していた。甲南大の園田寿名誉教授(刑法)は「家族全体が団体にズタズタにされてしまったと考える中で、母も自分と同じ被害者なのだと山上容疑者は考えていたのでは」と心境を推察する。その上で母を含めた家庭環境についての投稿を重ねていたことについて「文章を書くことで自身を客観的に見て、抱える心の苦しみを昇華しようとしたのではないか。周囲に相談できる人がおらず孤独だったからこそ、思いの丈を書きとどめたと考えられる」と語った。

<日本のセキュリティーと原発・経済安保>
PS(2022年7月23日追加):福島民報が論説で、*5-1-1のように、「フクイチ事故を巡る株主代表訴訟の東京地裁判決は旧経営陣の賠償責任を認め、これは国内の原発事業者に重い意味を持つ」とし、その判決理由を、①政府の地震調査研究推進本部が2002年に公表した長期評価に基づいて、東電子会社は福島第一原発に最大15.7mの津波が到達すると試算して上層部に報告したが ②旧経営陣側は一貫して地震予測の「長期評価」は信頼性を欠くとし ③判決は「長期評価は専門家によって真摯に検討され、相応の科学的信頼性がある」と認定して注意義務を怠り津波対策を講じなかった不作為を旧経営陣側に認め ④廃炉・除染・避難者への支払い等に巨費を投じる東電に対して13兆3210億円の賠償を旧経営陣側の個人に科し、⑤これは事故の結果責任を厳しく見積もる覚悟を経営陣に迫るもので ⑥「事故が起きれば国土の広範な地域と国民全体に甚大な被害を及ぼし、わが国の崩壊に繋がる」と示した懸念は、仮定でも想定でもなく実際に起きた災禍だ ⑦エネルギー危機に直面して原発回帰への動きが強まっているが、窮状を打開する現実的な選択肢なら、安全管理への信頼性が司法の場で今なお問われている現実も踏まえた議論を求めたい と記載している。
 太平洋側で大津波が来ることは古くから記録に残っているため、①のように、地震調査研究推進本部が長期評価を2002年に公表したのが遅すぎるくらいで、②③のとおり、それを無視するのは考えたくないことを想定外にする不作為そのものである。そして、その不作為の結果として、④の高額のコストを株主だけでなく、(恩着せがましく)電力需要者にも課し、⑥のように、国土の広範な地域を汚染して国民に甚大な被害を与えてきたのだから、汚染された地域の国民や電力需要者も提訴してよいくらいだ。そして、使用済核燃料の最終処分や事故の後始末も終わらないうちに、⑦のように、エネルギー危機と称して原発回帰を急ぐのは、どさくさに紛れさせてセキュリティーを無視することそのものである。
 北海道新聞も社説で、*5-1-2のように、⑦東京地裁は旧経営陣が当時の知見を踏まえて巨大津波の発生があり得ると認識し、津波対策を取っていれば原発事故は防げたと判断し ⑧対策の先送りに終始した旧経営陣の怠慢を厳しく指弾しており妥当な内容で ⑨安全性への疑問により札幌地裁から運転差し止め判決を受けた北海道電力を含め、全国の原発事業者は判決を重い警鐘として受け止めるべきで ⑩判決は「原子力事業者は最新の知見に基づき過酷事故を万が一にも防ぐ社会的責務がある」と指摘しており ⑪国も無関係ではなく、住民らが集団で国を訴えた別の訴訟では先月、最高裁が津波の規模は想定外で防ぎようがなかったと国の責任を免じる判断をしたが、東電幹部の責任感を欠く姿勢の背景には、安全をうたい原発を推進してきた国の存在がある 等と記載しており、私も、⑪のとおり、(科学ではない)安全神話を唱えて原発を推進してきた国も決して無関係ではないと思っている。
 さらに、原発燃料も輸入品であるため、*5-2のように、日本の排他的経済水域内に存在するエネルギー資源や海洋鉱物を採取して使う海洋科学技術を開発推進することが、経済安全保障の観点から極めて重要な施策である。にもかかわらず、経産省が資源・エネルギーは輸出するどころか自国に存在するものも採取せず、輸入さえすればよいと考えているのは著しい思考停止状態であり、何故、こうなるのかが重要なKeyである。


  2022.7.11産経新聞     2022.7.14神戸新聞     2013.8.26エネ百科

(図の説明:左図は、フクイチ事故を巡る株主代表訴訟の東京地裁における原告・被告の主張、中央の図は、同事故を巡る3つの判決の比較で、右の列が株主代表訴訟の東京地裁判決である。また、右図が、全量輸入している日本のウラン購入先で、現在もあまり変化していない)

*5-1-1:https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022071498726 (福島民報論説 2022/7/14) 【東電株主代表訴訟】安全意識厳しく問う
 東京電力福島第一原発事故を巡る株主代表訴訟で、旧経営陣の賠償責任を認めた十三日の東京地裁判決は、国内の原子力事業者にとっても重い意味を持つ。「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」といった指摘は東電の現経営陣のみならず、自戒として安全意識を問い直す姿勢を広く共有する必要がある。大きな争点でもあった地震予測の「長期評価」について、旧経営陣側は一貫して信頼性を欠くとしてきた。当時は原発の安全神話があったとはいえ、国策下、国と一体で原子力政策を進めてきた旧経営陣におごりはなかったか。長期評価を、地裁がどう判断するかが注目された。政府の地震調査研究推進本部が二〇〇二(平成十四)年に公表した長期評価に基づき、東電子会社は福島第一原発に最大一五・七メートルの津波が到達すると試算し、上層部に報告した。旧経営陣側は、長期評価は信頼性を欠くと反論した上、試算を対策に取り入れるべきかの検討を土木学会に依頼中の段階で事故が発生したため、結果を待たずに対策を取る合理性はなかったと訴えた。判決は主張を退け、「長期評価は専門家によって真[しん]摯[し]に検討され、相応の科学的信頼性がある」と認定し、注意義務を怠り、津波対策を講じなかった不作為を厳に認めた。廃炉や除染、避難者への支払いなどに巨費を投じる会社としての東電に対し、十三兆三千二百十億円もの賠償を個人に科したのは、安全で健全な稼働に果たす責任の重大さと、事故が起きた場合の結果責任を自ら厳しく見積もる自覚や覚悟を経営陣に迫るものだ。東電の旧経営陣側の多くの主張が退けられた結果に対し、公共的事業を担う他の経営陣に萎縮が生まれる、といった見方も司法関係者にあるようだ。ただ、「ひとたび事故が起きれば、国土の広範な地域と国民全体に甚大な被害を及ぼし、わが国そのものの崩壊につながりかねない」と判決で示した懸念は、仮定でも、想定される危険でもない。福島第一原発事故で実際に起きた災禍であり、現実問題として肝に銘じるべき教訓だ。経営陣側が控訴した場合、判断は維持されるのか、変わるのかは見通せないが、高い危機管理意識が要求される事実は動かない。エネルギー危機に直面し、原発回帰への動きが強まっている。窮状を打開する現実的な選択肢というのであれば、安全管理への信頼性が司法の場で今なお問われている、もう一方の現実を踏まえた議論を求めたい。

*5-1-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/705372 (北海道新聞社説 2022/7/14) 東電株主訴訟 原発事業者に重い警鐘
 2011年3月の東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁が東電旧経営陣の責任を認め13兆円余を東電に賠償するよう命じる判決を言い渡した。旧経営陣が当時の知見を踏まえて巨大津波の発生はあり得ると認識し、津波対策を取っていれば原発事故は防げたと判断した。対策の先送りに終始した旧経営陣の怠慢を厳しく指弾しており、妥当な内容である。原発事故で旧経営陣の民事上の責任を認めた司法判断は初だ。原発事業体を率いる経営トップらの責任の大きさを示したと言える。原発事故がひとたび起きれば国民と国土に深刻な被害を及ぼす。安全性に疑問があるとして先に札幌地裁から泊原発の運転差し止め判決を受けた北海道電力を含め、全国の原発事業者は判決を重い警鐘として受け止めるべきだ。旧経営陣が巨大津波の到来を予見できたか、対策を取れば事故は防げたか―が争点だった。原告側は政府機関が02年に公表した地震の「長期評価」に基づけば巨大津波は予測でき、取締役の注意義務を果たして対策を取れば事故は回避できたと主張した。旧経営陣側は長期評価には十分な予見性がなく、対策を取らなかったのは合理的だと反論した。これに対し判決はまず、「原子力事業者は最新の知見に基づき過酷事故を万が一にも防ぐ社会的責務がある」と指摘した。その上で、多くの専門家の議論を経た長期評価は「相応の科学的信頼性がある」と認め、にもかかわらず津波対策を取らなかった旧経営陣を「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」と断じた。注目すべきは、08年に対策先送りの判断を下した武藤栄元副社長を「著しく不合理で許されない」と特に厳しく批判した点だ。提訴から約10年、多くの証拠が調べられ、裁判長は原発の視察も行った。丁寧な審理が説得力ある判決を導いたと言えるだろう。国も無関係ではない。住民らが集団で国を訴えた別の訴訟では先月、最高裁が津波の規模は想定外で防ぎようがなかったと国の責任を免じる判断をした。だが東電幹部の責任感を欠く姿勢の背景には、安全をうたい原発を推進してきた国の存在がある。政府には原発再稼働に積極的な姿勢が目立つ。しかし今回の判決は原発事故の代償が廃炉や除染、被災者への賠償など広範で巨額になることを改めて示した。脱原発こそ国の取るべき道である。

*5-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1552892.html (琉球新報 2022年7月20日) 首相に経済安保強化を提言 次期海洋計画へ有識者
 政府の「総合海洋政策本部参与会議」の田中明彦座長=国際協力機構(JICA)理事長=は20日、岸田文雄首相を官邸に訪ね、経済安全保障の観点から海洋鉱物やエネルギー資源、海洋科学技術の開発推進に重点的に取り組むよう求める意見書を提出した。首相は「意見を踏まえ(来年に策定する)次期海洋基本計画の具体化を進める」と応じた。意見書は、次期基本計画も引き続き「総合的な海洋の安全保障」が主要テーマだと強調。中国海警局の船が繰り返す領海侵入などを念頭に「わが国周辺海域を取り巻く情勢は緊迫化している」と指摘した。海洋基本計画は5年ごとに策定、次期改定は来年の予定だ。

<日本のセキュリティーとコロナ・経済安保>
PS(2022年7月24日追加):*6-1-1は、①新型コロナの国内感染者が7月21日午後8時現在で、新たに18万6246人が確認された として、厚労省専門家組織の専門家から、②今後も多くの地域で感染者の増加が続く ③これまで新規感染者の急増から遅れて重症者・死亡者が増加する傾向にある ④既に強い行動制限を検討する時期にあるのではないか」との意見が出たそうだ。また、他県に先行して6月下旬から感染拡大が始まった鳥取県では、⑤家庭