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2024.11.25~12.4 地球温暖化と環境 (2024年12月6、7、8、9、10日追加)
(1)COP29について


 2024.11.24日経新聞    2024.11.20沖縄タイムス    2024.11.18日経新聞

(図の説明:左図が、COP29で合意されたポイントで、中央の図が、COP29で各国が公表した2035年の温室効果ガス削減目標だ。また、右図は、脱石炭の廃止目標だが、日本は国民の金を拠出すること以外は何の目標も示せず、気候変動について真剣に考えていないことがわかる)

1)米国の「パリ協定」からの離脱可能性と日本の対応

 
 2024.11.7毎日新聞             資源エネルギー庁

(図の説明:左図は、世界の平均気温の上昇で、2024年は1.5℃を超えそうだ。中央の図は、米国が2006年以降に開発を進めたシェール層のシェールガス・シェールオイルの説明で、右図のように、シェールガスの生産開始によって天然ガスの値段は著しく下がったが、変動費は再エネより高く、燃焼時にCO₂を出すことも間違いない)

 *1-1のように、地球温暖化によって2024年の世界平均気温は過去最高で、記録的な猛暑や干ばつ・巨大台風・豪雨・洪水等の災害が世界で多発している。そして、その被害は米国の経済・企業・住民にも影響を及ぼしているが、米国のトランプ次期大統領は、環境規制に否定的なリー・ゼルディン氏を米環境保護局(EPA)長官に起用して、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱しそうである。

 確かに、米国は2006年以降にシェール層の開発を進め、シェールガスやシェールオイルの生産が本格化するに伴って、天然ガス・原油の輸入量が減少し、価格も下がる「シェール革命」を起こしたため、簡単に脱化石燃料とは行かないだろうが、いつまでも化石燃料に固執していると、むしろ米国の産業や技術は世界に遅れるというパラドックスを抱えている(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/1-1-1.html 参照)。

 このような中、アゼルバイジャンで開かれたCOP29の焦点は、*1-2-1・*1-2-2のように、現状では年1000億ドル(約15兆円)の先進国から途上国への金融支援を、先進国側が2035年までに少なくとも年3千億ドル(約45~46 兆円)出すことで合意し、それに加えて官民あわせて1.3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決め、途上国からの任意の支援資金拠出も奨励したが、脱化石燃料についてはCOP28の成果を再確認しただけに終わったそうだ。

 また、EU・(産炭国)オーストラリアは、会期中に石炭火力発電所新設に反対する有志連合を立ち上げたのに対し、日本・米国はこれに入らず、国連傘下の国際的炭素クレジット売買に関する市場創設ルールについて合意して、再エネ導入等による温暖化ガス排出削減効果を取引して炭素クレジットを購入できるようにし、温暖化ガス排出削減効果を取引して削減目標を達成したことにするのでは、自国の温暖化ガス排出削減は進まない。

 その上、日本は石炭火力削減ではG7最下位で、調達量や価格に課題のあるアンモニアへの転換に活路を見いだしているそうだが、これは現実を直視した取捨選択ができていないということである。

2)途上国の対応


日立ソーシャルイノベーション Jccca         日立システム

(図の説明:左図は、COPの変遷で、1997年日本開催のCOP3で温室効果ガスの排出削減を定めた京都議定書が採択され、2015年開催のパリ協定で京都議定書に代わって全ての国が参加して世界共通の長期目標としての2℃目標と1.5℃に抑える努力等が定められた。中央の図は、2020年の主要国CO₂排出量と1人当たり排出量の比較だが、国別では中国・米国・インド・ロシア・日本の順で、1人あたりでは米国・ロシア・韓国・日本・中国・ドイツの順となっており、必ずしも新興国の排出量が少ないわけではない。右図は、人工衛星から森林の状況を把握してCO₂の吸収量を可視化するシステムで、現在はカーボンクレジット創出量の算出に用いられているが、逆にカーボンクレジット喪失量の把握にも使用することができる)

 *1-3-1・*1-3-2は、①COP29では大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と負担軽減を図る先進国が対立 ②再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧に多額の資金を要する途上国は、年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求しており、最後の全体会合でも合意に至った達成感がなかった ③途上国への支援目標は2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった ④インドとや途上国の代表は「合意は私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言 ⑤協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策に繋げる必要 ⑥合意した金額を先進国の公的資金だけで賄うのは厳しく、資金が足りなければ途上国の対策が滞るので、資金の出し手を増やす必要 ⑦温暖化ガスの世界最大排出国である中国や中東産油国などは余力がある筈 ⑧G20は世界の温暖化ガスの約8割を排出し、裕福な国や地域は協力する責任 ⑨民間の投資加速も不可欠 ⑩COP29では2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった 等としている。

 このうち①④⑧の途上国が大量の温室効果ガスを排出してきた先進国に対して責任に見合う拠出を求め、インド代表等が「合意は私たちが直面する課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言しているのは、⑧のように産業革命後と現在のCO₂排出量のみを見ればそうかもしれない。しかし、長い歴史を有する文明の中で、化石燃料を使わず森林を伐採して燃料にしてきたのであれば、CO₂吸収源を減らしてきた効果も大きいと思われるため、これも正確に測定すべきであるし、現在は砂漠でも本来は森林や田園にできる場所であればそうすべきである。

 そのため、②③のように、途上国が再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧のためとして年1兆3千億ドル(約200兆円)の資金を要求し、“先進国”が裕福(?)だという理由で支援目標を年3000億ドル(約46兆円)にすると決めたのでは、気候危機を題材にしたオネダリとバラマキの構図に見える。

 そして、⑥⑩のように、COP29で2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すことを合意した金額でも、一般増税と給付減が続いている“先進国”日本では、当然、公的資金だけで賄うのは厳しいだろう。そのため、⑨の民間投資も含めて資金の出し手を増やす必要があるのだが、⑦の温暖化ガスの大量排出国である中国はじめ米国・インド・ロシア等も、財政に余力があるからではなく、排出量に応じて公平に公的資金を拠出する義務があると思う。

 なお、それを公平に行なう方法は、化石燃料の消費量に応じて炭素税(環境税の1つ)をかけて資金を集めることだが、現在、ガソリンにかかっている税は、i) 本則税(揮発油税・地方揮発油税):28.7円/L ii)石油税(石油石炭税・地球温暖化対策税):2.8円/L iii)暫定税率:25.1円/L iv)消費税:税を合わせた総額の10%であり、「トリガー条項」とは、ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で160円/L超の場合、自動的にガソリン税が“本則税率”のみに引き下げる仕組みとのことだ。

 そのため、*1-4-1のように、国民民主党の要求を受け入れ、自民・公明両党が2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始めるそうだが、それなら必需品である燃料にかかる、i)の本則税(揮発油税・地方揮発油税28.7円/L)を廃止し、ii)の暫定税率25.1円/Lも意味不明であるため廃止して、消費税10%は本体価格に掛けて算出することとし、現在2.8円/Lしか課税されていない石油石炭税・地球温暖化対策税をCO₂はじめ有害物質の排出量に応じて50~60円/Lに引き上げ、再エネ化・電動化・地球温暖化対策等にかかる費用はここから出すのが時代の要請に合っていると同時に、簡素で合理的でもあると思う。

 そして、⑤の途上国支援費や⑩の年1兆3000億ドルのうち官が出す部分は、当然、ここから出すべきだ。

3)ガソリン減税と温暖化対策


   *1-4-3の図1           *1-4-3の図2

(図の説明:左図のように、日本では自動車関係諸税が国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなる。また、右図のように、取得と保有段階で車体課税され、走行段階では燃料に課税される)


   *1-4-3の図3           *1-4-3の図4

(図の説明:左図が、定められた自動車関係諸税の歴史で、一番下が本則税率に対する実際の税率の倍率で、右図には、各自動車関係諸税が国・地方自治体のどこに入るのかが示されている)

 
      *1-4-3の図5           *1-4-3の図6

(図の説明:左図は、日本の自動車関係諸税の他国との比較で著しく大きいし、右図は、購入からリサイクルまで自家用乗用車ユーザーにかかる税負担額で新車購入額の8割にもなる)

 *1-4-2は、①経産省・環境省は、11月25日、現行ペースを継続する「2035年度:2013年度比60%減」「2040年度:73%減」とする案を示した ②2050年実質排出0への温暖化ガス削減と脱炭素技術開発を通じた経済成長の両立を目指す ③「パリ協定」に基づき、政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえ、年内に具体的削減目標を固めて国連に提出 ④両省は2050年に向け、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出0を達成する案を検討する意向 ⑤温暖化ガス次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となり、排出削減強化を求める意見と脱炭素技術普及効果に時間を要する点に配慮を求める意見あり ⑥国立環境研究所のシナリオでは、CO₂回収等の脱炭素技術が2030年以降順調に普及し、再エネ・水素・アンモニア等の脱炭素燃料が広がれば2050年の実質排出0を実現でき、十分普及せずに導入を急げばエネルギー調達コスト等の負担が増大する、現行削減ペースを持続すれば技術導入にかかる2050年までの総費用額は比較的抑えられると分析 ⑦「グリーントランスフォーメーション政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要」という意見も ⑧「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」との指摘も ⑨国連は2035年迄に2019年比60%削減する必要があるし、日本の新削減目標はぎりぎり範囲内 ⑩国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギ 等としている。

 このうち、①②⑤⑨は、環境は経済の足を引っ張るという既得権益を持つ企業の言い分を前提としているため、「環境対応はなるべくゆっくりしたい」という考えが根底にあるが、これまで述べてきたとおり、21世紀の環境対応は経済の足を引っ張るどころか経済の前提であり、それに加えて、日本の場合は、環境対応がコストダウンの要であると同時に、やり方によっては食料自給率・エネルギー自給率の上昇にも資するのである。

 そのため、③の「パリ協定」は先進的だが、④の経産省・環境省は2050年の実質排出0に向けて2030年度目標を直線的に達成する案を検討する意向で、⑧のように、一部委員から「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」などという指摘があるのは、技術革新や普及によるコストダウンを考慮しておらず、この委員は工学系でもなければ経済にも原価計算にも弱いと思われる。そして、⑦の「GX政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めることが重要」と言う委員の意見は重視されていないため、「結論ありき」の事務局とその委員の選抜に問題があることがわかった。

 また、⑩のように、国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギと言いながら、⑥の国立環境研究所のシナリオは、脱炭素技術としてコストアップにしかならないCO₂回収や量と価格で供給に問題のあるアンモニアの使用を前提とし、再エネ・水素の普及に重点を置いてそこに投資することを考えていない点で、「環境対応=コスト負担」という固定観念から抜け出せておらず、とても最先端の環境研究をしているとは言い難いわけである。

 このような中、*1-4-1は、⑪国民民主の要求を受け入れ、自民・公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金軽減策の議論開始 ⑫ガソリン等の燃料油の課税体系は複雑で当初目的とは異なる社会保障等の財源にも流用されている ⑬それらを整理し財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探すべき ⑭53.8円/Lのガソリン税は「本則分28.7円/L」と「特例的上乗せ分25.1円/L」からなる ⑮国民民主は物価高対策として価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」適用を主張 ⑯道路特定財源だったガソリン税は2009年に一般財源化され、2010年に上乗せ分の廃止を決め、財源確保の観点から「当分の間維持」とした ⑰流通過程で消費税も二重に課税されている ⑱財務省の試算で国・地方計年1.5兆円分の税収減に繋がるため、上乗せ分を単純にはやめれない ⑲価格下落で消費が増えれば脱炭素に逆行 ⑳与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしており、税収中立や脱炭素との整合性を考えれば妥当 等としている。

 (1)2)に書いたとおり、⑪⑳のように、国民民主の要求を入れて与党が2025年度税制改正でガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体を見直し、自動車ユーザーに二重課税はじめ不合理な負担をかけないよう簡素化・軽減に手をつけるのに、私は賛成だ。そして、⑬については、自動車関係諸税を整理して簡素化し、二重課税をなくしつつ、脱炭素の流れと矛盾せぬように炭素税(環境税の一種)をかけ、脱炭素のイノベーションを起こす財源とするのが最適解であろう。

 しかし、⑫に関しては、⑯のように、一般財源(1つの大きな財布)化された財源は、社会保障に使われても「流用」ではない。流用とは、厚生年金保険料から国民年金を支払ったり、国民健康保険の目的積立金を子育て支援金に使ったりするような別の財布に手を突っ込んで資金を出すことを言うのであり、国はそうすることに罪悪感を持っていない点が最大の問題なのだ。

 なお、⑭のように、本則分以外に特例的上乗せ分があり、⑯のように、財源確保のために上乗せ分の廃止を当分の間維持したり、⑰のように、他の税金部分にまで消費税をかけたりするのは、明らかに公正・中立・簡素の税の原則から外れているため、⑮の「トリガー条項」の適用を待つまでもなく、速やかに整理すべきだったのである。

 そして、⑱⑲のように、国・地方の税収減に繋がったり、価格下落で化石燃料の消費が増えれば脱炭素に逆行することに関しては、CO₂排出量に応じて炭素税をかけることによって解決でき、これによってCO₂を排出しないEVへの移行も促されて、二重にイノベーションを進める効果があるのだ。

 なお、*1-4-3が、上に図を載せた日本自動車工業会の自動車関係諸税に関する解説だが、私1人でまとめるのは時間がかかりすぎるため、各自で消化してもらいたい。

(2)災害とリスク管理


    BBC       2024.5.1気象庁  2023.9.1WhetherNews  YouTube

(図の説明:1番左の図は1940~2023年の世界平均気温で2024年は過去最高を更新した2023年より高かった。また、左から2番目の図は日本の4月の気温を推移で2024年4月は著しく高くなっている。さらに、右から2番目の図は日本の夏の平均気温偏差で2023年でも1.76℃と高い。1番右の図は日本近海の海水温の変化で、福島県沖から北に向かって著しく高くなっており、この高さは世界でも群を抜いている)

1)2024年は統計開始以来最も暑い年だったこと
 *2-1-2は、①欧州気象当局は「猛烈な熱波や多くの犠牲者を出した嵐が世界各地を襲った2024年が統計開始以来最も気温の高い年となる」と発表 ②EUのコペルニクス気候変動サービスは「今年の世界平均気温は工業化以前(1850~1900年を基準)と比べて摂氏1.5度以上高くなり、この高気温は主に人為的な気候変動による」とした ③パリ協定で200カ国近くが気候変動による最悪の影響を回避するには長期的な気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束 ④英王立気象協会のベントリー最高責任者は「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対し、これ以上の温暖化を制限する行動が急務という厳しい警告を発するもの」とした ⑤国連は「現在の政策のままでは、今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性がある」と警告 ⑥科学者らは「大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、新たな記録が更新されるのは時間の問題」と警告 ⑦ホーキンス教授は「気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になり、世界中の人々に目にもあらわな影響が出る」「炭素排出量ネット0を実現して地球の気温を安定化させることが災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法」 等としている。

 確かに、今年は体感でも暑い年で、10月になっても夏日が続き、11月になると急に寒くなって秋が非常に短かったわけだが、上の①②⑤は、その様子を世界規模で示している。

 そして、COP21のパリ協定では、③のように、200カ国近くが長期的気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束し、④⑥のように、英王立気象協会の最高責任者や科学者らは、COP29での速やかな行動を警告していたが、COP29の成果はCOP21と比較すると新鮮さがなかった。

 しかし、⑦のホーキンス教授の予測どおり、気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になって、既に世界中の人々の目にあらわな影響が出ており、これを止めるためには、炭素排出量ネット0を速やかに実現して地球の気温を安定化させるしかなさそうだ。

2)地球温暖化により、日本でも豪雨災害が頻発していること
 *2-1-1は、①石川県能登半島の記録的豪雨で、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害 ②輪島市の4ヶ所が大雨による洪水リスクの高い区域に立地していた ③輪島市幹部は「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」とし、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した ④他の仮設住宅団地でも床下浸水被害の可能性 ⑤豪雨による死者8人。行方不明者2人、安否不明者5人 としている。

 ①②④⑤については、大規模地震の被害で仮設住宅の建設用地が足りなかったとはいえ、大雨が降れば浸水するような場所に、国・県・市が仮設住宅を建設して住民を何度も被害に遭わせたこと自体が間違いであり、③のように、注意喚起や避難誘導をすればすむという話ではない。

 そのため、近くに仮設住宅の建設用地がなければ、他の自治体であっても安全な場所に仮設住宅を建設するか、宿泊施設を借りるかするのが住民のためであるし、国民も同じ地域に何度も資金援助をしなければならないのでは、たまったものではないのである。

 また、*2-2-1は、⑥国交省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(2023年度版)と国勢調査の人口データ(2000~2020年)から、大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある地域に住む人は全国で約2594万人(2020年)と過去20年間で約90万人増 ⑦気候変動で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える ⑧2020年の日本の全人口は最多だった2010年から約1.5%(約191万人)減ったが、浸水想定エリアの人口は約3%増えた ⑨浸水想定3m以上の地域の人口は約257万人で約7万人増 ⑩浸水5m以上の地域の人口も約26万人に上る ⑪浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で都民の3 割弱 ⑫埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間に20都道県で増加 ⑬2000年の都市計画法改正で、住宅建設が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響 ⑭日本大学の秦教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体があるが、毎年のように水害が起きる中、安全な場所に居住誘導するなど災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべき」と話す としている。

 上の⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫についても、既に大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある「洪水浸水想定区域」が開示されているため、開示以後に移り住んだ人は「回避できる浸水リスクを回避せずに移り住んだ」のであるため自己責任で、その人たちにまで被災時に資金援助をしていては、国民がどれだけ税金を払っても「財源」「財源」と言われて必要な福祉に金が廻らないのだ。

 また、⑬のように、「2000年に都市計画法改正で住宅建設が原則禁止された市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされた」というのも、人口を維持することを住民の安全よりも優先した自治体であるため、その地域で起こった浸水被害まで全国民が支払った税金を使って救済するのは筋が通らない。

 つまり、災害のリスク管理は、基本的にはそこに住む住民自身が行なうべきであり、そのための情報として都市計画法で住宅建設可能地域を指定しているのだから、(その指定が間違っていない限り)⑭のように、自治体が人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的だったり、安全な場所に居住誘導する等の災害リスクを踏まえた土地利用を進めなかったりしたのは、まさに自治体の責任そのものであって国の責任ではないのである。

3)保険料をリスク別に分けるのは名案だが、市区町村別では分け方が粗すぎること
 *2-2-2は、①水害が多発する中、浸水の恐れがある地域に住む人が2020年は全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3m以上の地域 ②東日本台風では水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流して溢れる内水氾濫が原因で武蔵小杉駅周辺のタワーマンション地下が浸水 ③被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価は前年比約2~5%上昇し、利便性が良ければ水害等の災害の影響は一時的 ④2000年の都市計画法改正で住宅等の建築が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で指定した地域は例外扱いとなったのが、浸水の恐れがある地域での人口増の一因 ⑤国交省の水害統計で2013~2022年の10年間の水害被害額は計7兆3千億円で前の10年の約1.4倍 ⑥浸水リスクのある地域で人口が増え、住宅等の資産も集中して、面積当たりの被害額が増加 ⑦水害多発を背景に火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが導入され、これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったのが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化 と記載している。

 このうち①②③④のように、利便性を求めて浸水の恐れがある地域に住む人が増え、被災直後であっても地価は上昇し、都市計画法で住宅等の建築が原則禁止される地域でも自治体の条例で例外扱いできるのでは、「住民も自治体も、浸水リスクは覚悟の上でそこに住んでいるのだ」と言わざるを得ない。

 さらに、⑤⑥のように、人口増に伴って住宅等の資産も集中し、面積当たり被害額も増加するのであれば、その被害は、⑦のように、民間の水災保険でカバーしてもらいたいが、水害の多発を背景に火災保険の水災保険料は高リスク地域ほど高くなるそうで、それは合理的だと思う。

 しかし、同じ市町村内でも地域によって浸水リスクには違いがあるいため、市区町村別に保険料を変えるというのは分け方が粗すぎる。そのため、むしろ浸水の想定リスクに応じて保険料を変え、その結果として安全な場所に居住誘導することになる方が合理的である。

(4)日本における行政の環境意識
1)温室効果ガス削減と電気・ガス・ガソリン補助金について
 *3-1-1のように、約80の国・地域の首脳らが参加したCOP29で、英国を含む一部の国が気候変動対策の国際ルール「パリ協定」に基づく新たな温室効果ガス削減目標を発表し、英国のスターマー首相は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意」「2035年の排出量を1990年比81%削減」など前保守党政権の78%減をさらに高めた発表をして存在感を示したそうだ。なお、英国は、今年の9月に石炭火力を0にし、G7最速で新目標を発表するなど、気候変動対策に積極的な姿勢を示している。

 一方、日本は、(1)の図に示されているとおり、COP29の終了時までに削減目標を公表することができず、(1)3)のとおり、11月25日になってから、経産省と環境省が現行ペースを継続する案を示したが、これはリーダーシップとは程遠い現状維持策である。

 その上、*3-1-2のように、日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻で経済制裁したために高騰した化石燃料価格対策として2023年1月使用分から開始された補助金の終了に踏み込めず、国民が支払った税金から電気・ガス・ガソリンへの補助金を来年1~3月にも再実施することを決めたそうだ。そして、この補助金の額は、これまで投じられた累計額だけでも電気・ガスで約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達しているのである。

 もちろん、国民は燃料価格が抑制されれば短期的には助かるが、もともとトップランナーだった日本の再エネやEVにこの金額を投資していれば、エネルギー自給率は上がり、COP29でもリーダー的な立場に立つことができ、化石燃料価格の高騰に右往左往して無駄使いする必要もなかったことから、無能な現状維持策が如何に国益を害するかが証明されたのである。

2)根拠無き廃炉工程と放射線量暫定基準
 *3-2-1は、①原子力規制委員会前委員長の更田氏は「燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するか正確にはわからず、高線量の中で遠隔作業しなければいけないのが取り出しの難点」とする ②フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器の底を破って外側の格納容器まで広がっているため、建屋の老朽化で放射性物質が漏れ出す恐れ ③東電は「2号機で試験的に3g以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やし、2030年代初めに3号機で大規模な取り出しを始めて1号機に展開」「最初のステップが今年9月に始まった」とする ④開始遅れの原因は関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足で、今回の取り出しには「釣りざお式装置」を使った ⑤当初の計画は1~4号機に計3108体ある核燃料を2021年までに取り出すとしていたが、2021年までに取り出せたのは3、4号機のみ ⑥政府関係者は「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くなく、事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だったため、何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」と明かす ⑦政府は廃炉に必要な技術開発への支援等として毎年100億円以上を企業などに補助しており、最新の見積もりで廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用等はこれに含まれていない ⑧福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的で、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべき としている。

 このうち①については、火星の表面の写真でさえ鮮明に送られてくる時代に、未だに地球上で高線量の放射線を出している燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するかもわかっていないのなら、それは原発関係者の技術レベルが低いか、真実を隠しているかのどちらかである。

 そして、やはり②のように、フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器を破って外側の格納容器まで広がっていることがわかっており、これは事故当初に「圧力容器は壊れておらず、燃料デブリは圧力容器の中にある」と強弁していたこととは、全く違っているのである。

 さらに、③④⑤のように、78億円もの国費を投じて開発したロボットアームの不具合により、東電は今回の取り出しに「釣りざお式装置」を使って2号機からやっと3g以下を取り出し、当初の計画は1~4号機の計3108体の核燃料を2021年までに取り出すというものだったが、2021年までに取り出せたのは3、4号機だけだったのだ。 

 これについては、⑥のように、政府関係者が「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くない」「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だった」「何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」等と明かしているが、これは「廃炉がどうなろうと、線量が高かろうと、原発周辺の避難区域の住民が帰還しさえすれば良い」という考え方であり、全く住民の安全側には立っていない。

 全く住民の安全側に立っていない事例は多いが、*3-2-2も、文部科学省は学校の校庭利用をめぐる放射線量の暫定基準を「定めた時と比べて線量が大幅に減った」という理由で年間20mSV(本来は年間1mSV以下)の目安を撤廃する方針を固めたそうだが、これもまた、子どもがいる住民の帰還をを促すためだけで科学的根拠はなく、住民の安全側には全く立っていない暫定基準なのである。

 なお、⑦のように、政府は廃炉に必要な技術開発支援として毎年100億円以上を企業等に補助し、廃炉費用は8兆円とされ、燃料デブリの最終処分にかかる費用はこれに含まないそうだ。しかし、原発に関することなら、まるで既得権ででもあるかのように「財源」「財源」とは言わずに、私たちが支払った税金から私企業に対し、次々と金を出すのは全くおかしい。

 そのため、⑧のように、「フクイチの廃炉は、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的」というのに私は賛成だ。さらに、海水で薄めれば基準値以下になるなどという科学的根拠とはかけ離れた説明をして流している処理水も、対話や説明の時期はとうに終わっているため、水で冷やしさえすれば良いという発想を早急にやめ、これまでの損害は補償すべきである。

3)プラ生産削減の要否と改善すべきごみ分別収集の不便


 2021.3.21三井住友TAM        2021.5.31Long Life Labo 

(図の説明:左図は、世界の温室効果ガス排出量で、発電・熱生産25%、その他エネルギー9.6%、輸送14%、建築物6.4%で55%と過半数を占め、産業は21%しかない。右図は、日本のCO₂排出量推移と部門別割合で、2019年度は運輸18.5%、エネルギー転換8.0%、家庭14.3%で40.8%を占め、産業34.6%のうち約40%は鉄鋼業からの排出で、プラスチック生産による排出は少ない。ただし、世界は、CO₂の部門別排出量データが少ないようである)


  
  2024.5.28朝日新聞    2024.4.22日経新聞     2022.10.14WWD

(図の説明:左図は、世界のプラスチック使用量は2060年には2019年の3倍になる予測だが、ここで問題になるのは不適切な投棄で海や川にプラスチックを蓄積させることであるため、それをなくせば問題ない筈だ。また、中央の図は、プラ生産削減条約に対する各国の立場だそうだが、EUはじめ賛成している国は、原油由来のプラスチック製品を使わないのだろうか?もちろん、右図のように、切れた漁網や使い終わった漁網を海に廃棄したり、海や川にプラスチックを蓄積させたりすると生態系に悪影響を与えるため、リサイクルやアップサイクルしやすい製品を作ったり、水や土の中で一定時間が経過すれば跡形もなく溶けて肥料になったりするような進歩系の製品が必要であることは間違いない)

  
   2024.10.16PR Times      2021.12.2HATCH   2024.11.14日経新聞

(図の説明:左図が、廃棄資源利用の流れであり、分別を簡単にするためには、容器は同じ材質にする等のリサイクルまで考慮した生産体制が望まれる。また、中央の図が、循環型社会の3R《Reduce・Reuse・Recycle》だが、最終処分時に公害を出さず、最終処分を要するゴミを極力減らすことが必要だ。さらに、右図は、ゴミ屋敷に潜むさまざまな問題だが、ゴミを出しやすくすることで解決するのが最も安価で生活の質を上げるのではないかと思う)

 *3-3-2・*3-3-3は、①プラスチックごみを減らすため100ヶ国超がプラ生産量の削減目標を設定する条約作りを提案 ②EU加盟の全27カ国・スイス・カナダ・オーストラリア・メキシコ・パナマ・フィジー・ケニアなどの約180カ国、国連加盟193カ国の半数超が提案書提出 ③生産規制には中東産油国やロシアが抵抗、日本は一律の生産規制に慎重 ④プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出し、ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こして、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響との指摘も ⑤提案国は「この汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要がある」と主張 ⑥プラスチックの生産規制を巡って厳しい規制を求めるEU側と原料の石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらない ⑦条約案への合意は先送り としている。

 ①②⑤については、「ごみを減らす解決法=生産量の削減」というのは、原因分析を行なわずにいい加減な解決法を出し、環境のためとして市民に不便を強いる行為であるため、このようなことを続けていると「環境⇒不便の強制、経済の足かせ」という認識が広がり、むしろ環境意識が高まらないと考える。

 そのため、③⑥の産油国だけではなく、プラスチック製品を使っている人も、このような提案には賛成しかねるのだ。仮に石油由来のプラスチック製品の生産を規制するとすれば、かわりに木を切り倒して作った紙を原料にしたり、食料のトウモロコシからプラスチックを作ったり、靴下や衣類は絹・綿・麻に昔帰りさせたり、箸は象牙に戻したりするつもりだろうか?それに伴って、別の多くの弊害が起こることは明らかである。

 また、④の「プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出する」というのは、(4)3)の一番上の図のように、発電・エネルギー生産・輸送部門が温暖化ガス排出の約半分を占め、産業部門のうちのプラスチック生産による温暖化ガス排出は多くないため、他の弊害と比較考慮した場合に大きくはない。

 しかし、「ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こし、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響」というのは、ごみをポイ捨てするのが悪いのであるため、徹底的にポイ捨てをなくすシステムを作り、上から2段目の図のような循環型社会を作れば良いのである。

 なお、⑥の化石燃料を産出する国は、原油等を燃料として使わなくなれば、現地で原油由来のプラスチックをはじめさまざまな製品に加工して輸出する必要がある。そのため、それも禁止してしまえば、産地は稼ぐ手段を失う上に、現在、それを使っている人も困るのである。また、そのようなことになって、世界に貧しい人が増えれば、その人たちは誰が養うつもりだろうか。

 従って、⑦の「条約案への合意は先送り」というのは、ひとまずまっとうな判断であり、今後は使用済プラスチックの廃棄に関する徹底した規制とリサイクル・アップサイクルに軸足を移すべきで、課題先進国だった日本は既にそのノウハウがなければならない筈なのだ。

 それでは、日本における循環型社会はどこまで進んでいるかと言えば、*3-3-1は、⑧ごみ屋敷は疾患・認知症等の問題が影響するケースも多い ⑨環境省の調査で、全国1741自治体の38%が「ごみ屋敷」事案を認知している ⑩ごみ屋敷形成の要因の1つに「セルフネグレクト」がある ⑪認知症等で判断能力が低下して物をため込む場合も ⑫身体的・精神的な障害や特性で、ごみを出せない例も ⑬高齢単身世帯の増加等による孤立・孤独も絡み、ごみ屋敷は社会の縮図といえる ⑭総務省の報告書では181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患疑い ⑮問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題 ⑯知的障害を持つ40代男性は、分別ができずに捨てられなかった 等としている。

 ごみのリサイクルは、1995年前後に私が言い出して始まり、それから30年近く経過したが、自治体が集めているせいか、やたら手間をかけて分別させ、資源物や粗大ごみは滅多に集めず、朝8時までに出さなければならないなど、未だに複雑怪奇で不便なままなのである。

 そのため、リサイクルに最大限協力していた私でさえ、分別せずに燃やすごみにして出してしまおうかと思うくらいで、分別し易く出し易くすれば、ゴミ屋敷は減りリサイクル率も上がる。また、地下鉄サリン事件以降は駅等の公共施設にゴミ箱すらないことが多いが、これならポイ捨てしたくなるのも無理はなく、知恵を尽くして捨てる際の利便性を上げることが必要不可欠だ。

 具体的には、⑧⑪⑫⑬⑯のような、単身高齢者・認知症患者・身体的に弱っている人・知的障害者等が、分別できないためゴミを捨てられなかったり、滅多にない収集日に重たいゴミを引きずって行く必要がなくなったりすれば、⑨のゴミ屋敷はかなり減るし、そのための課題解決は簡単なのである。

 また、⑩のやる気をなくして「セルフネグレクト」になる原因はさまざまだが、それを⑭⑮のように、精神疾患や精神上の課題と片付けるのではなく、その根本原因を無くしたり、誰でもゴミを出し易くしたりしつつ、徹底してリサイクル・アップサイクルするシステムにすべきだ。

 30年という期間は、真面目に改善し続けていれば、技術開発・問題解決が十分にできていなければならない期間である。そのため、1つ1つの解決策を細かく書くことはしないが、早急に課題解決すべきであり、そのノウハウは開発途上国にも応用できる筈だ。

4)PFASの世界基準と日本の“暫定目標値”

   
     2023.6.9東京新聞       2024.11.29日経新聞 2023.1.31東京新聞

(図の説明:左図は、PFASの用途と健康への影響で、体内に蓄積されると腎臓癌・脂質異常症・抗体反応の低下や乳児・胎児の成長阻害が起こるとされている。中央の図は、2023年12月公表の国際がん研究機関《IARC》による評価で、PFOAはたばこ・アスベストと同様に最も高い発がん性があるとされ、ストックホルム条約の規制対象となった。しかし、日本は、いつものとおり「毒性評価が固まるまで現状維持」「健康影響は調査中で都内は対象外」という状況だ)


 2024.11.26日経新聞  2024.6.26産経新聞      2024.7.3TBS

(図の説明:左図は、「ストックホルム条約で規制対象となったのはPFASの一部だ」という図だが、どれが、どういう理由で、どの程度危険で、取り扱い上の注意は何か、という情報は伝わっていない。中央の図は、飲料水1LあたりのPFAS目標値であり、日本の50ナノグラム/Lは、米国の4ナノグラム/Lやドイツの4種類合計で20ナノグラム/Lと比較して高い。右図は、中央の図と1週間違いだが、米国の基準値はPFOSとPFOAの合計で4ナノグラム/L、ドイツの基準値はPFOSとPFOA合計で20ナノグラム/Lとなっており、中央の図と異なるため最終確認が必要だ。しかし、日本の基準値が甘いことには変わりがない )

 *3-4-2は、①発癌性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出 ②環境省と国交省が11月29日に水道水の全国調査結果を公表し、2024年度に富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出された ③PFASの代表物質PFOA・PFOS合計で“暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)”超の水道事業はなかった ④岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと“暫定目標値”に近い数値が検出された ⑤現在は“暫定目標値”超でも水質改善等の対応は努力義務止まり ⑥浅尾環境相によると、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げして対応を法的に義務付けるか否かは2025年春に方向性を示す ⑦“暫定目標値”超の事業数は2020年度は11、2021年度は5、2022年度は4、2023年度は3と低減傾向 ⑧PFASには1万種類以上の物質があり、耐熱や水・油をはじく特性から布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤に使われてきた ⑨有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが2021年に輸入・製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された としている。

 これに加えて、*3-4-3は、⑩“暫定目標値”を超えていた例の大半は、汚染源が特定されていない ⑪安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査を継続しなければならない ⑫PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた ⑬自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積する恐れ ⑭沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出 ⑮岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源 ⑯検査を実施していない事業者は取り組みを始める必要 ⑰環境省は、今回の結果について水源切り替え等の対策の効果があったと評価 ⑱検出された例でも、対策で目標値以下にすることができた ⑲国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかける ⑳検出状況に応じて健康調査等の対応を検討する必要があり、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整える必要 としている。

 このうち①②⑨については、有機フッ素化合物(PFAS)とは、(4)4)の上の左図のとおり発癌性等が懸念され、中央の図のとおり有害化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、日本国内では代表物質であるPFOSが2010年・PFOAが2021年・PFHxSがその後に輸入・製造が原則禁止されたものである。

 しかし、②③のように、環境省と国交省の11月29日の水道水全国調査結果で、2024年度にPFASの代表物質PFOA・PFOS合計で暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)超の水道事業はなかったが、富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出されたのだそうだ。

 その日本の“暫定目標値”は、いつまで暫定を続けるのかも不明だが、*3-4-1のように、米環境保護局(EPA)は、PFASの中で毒性の強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を飲料水で4ナノグラム/Lと決め、これは同50ナノグラム/Lの日本の“暫定目標値”を大幅に下回る1割未満の厳しい水準であり、強制力のない目標値は0なのだそうだ。

 また、「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を10ナノグラム/Lと定め、新規制は全米6万6000の水道システムが対象となり、水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定して情報を公開し、基準を超えるPFASが測定された場合は5年以内に削減するよう対応を求めるそうで、基準が甘くて対応も曖昧な日本とは大きく違うが、安全側の目標を定め期限を切って対応するのが、本来は当たり前である。

 しかし、日本では、④⑦のように、岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出され、暫定目標値超の事業数は2020年度には11、2021年度に5、2022年度に4、2023年度に3あったが、⑤のように、暫定目標値超でも水質改善等の対応は努力義務止まりで、浅尾環境相は、⑥のように「対応を法的に義務付けるか否か2025年春に方向性を示す」などと悠長だ。
 
 さらに、⑩は“暫定目標値”を超えていた例の大半は汚染源が特定されていないとするが、⑧⑫のように、PFASは、布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤・半導体・防水加工・自動車の製造過程などで使われており、⑭のように、沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたり、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出されたり、⑮のように、岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源だったりし、*3-4-1のように、沖縄県では過去に米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されたのだから、現在は汚染源の特定が容易な筈である。

 なお、⑬のように、PFASは自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積するため、⑪⑯のように、安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査は継続しなければならないが、既に「ストックホルム条約」で有害な化学物質として規制対象となり、他国の基準は“暫定”ではなく厳しいものになっているので、今更、⑳のように、検出状況に応じて健康調査等の対応を検討するのでは遅すぎ、健康被害の「予防」は疫学調査の結果を受けて速やかに行うべきなのだ。

 また、⑰⑱のように、環境省は検出された例でも対策で目標値以下にすることができた今回の結果を「水源切り替え等の対策の効果があった」と評価しているが、国交省は原発処理水の例など目標値や規制値以下にするために、その物質を含まない水と混ぜる方法を使うことがあるため、その評価は甘い上、食品容器やフライパンのコーティング等の食品とともに摂取される可能性が高い水道水以外のものについては何も述べていないため、本気度が疑われるのである。

 最後に、⑯⑲のように、「今まで検査を実施していない事業者に取り組みを始める必要がある」などとして、国は未検査や回答がなかった自治体に検査を義務付けるのではなく呼びかける程度というのは、公衆衛生に対する意識が低すぎる。

・・・参考資料・・・
<COP29>
*1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1289T0S4A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2024年11月12日) 米国は温暖化対策の歩みを止めるな
 世界の温暖化対策を話し合う第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が始まった。米国のトランプ次期大統領は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱する構えをみせる。世界2位の温暖化ガス排出国である米国は、脱炭素に向けた歩みを止めるべきでない。トランプ氏は米環境保護局(EPA)長官に元下院議員のリー・ゼルディン氏を起用する方針だ。環境規制に否定的で、バイデン政権が取り組んだ脱炭素政策を大幅に見直すとみられる。記録的な猛暑や干ばつ、巨大台風、豪雨、洪水などの災害が世界各地で多発する。温暖化による被害は米の経済や企業、住民にも及ぶ。米国がパリ協定から抜けないよう日本や欧州は説得すべきだ。2024年の世界の平均気温は23年を上回り、過去最高となる見通しだ。COP29の冒頭で、ムフタル・ババエフ議長は「温暖化対策を軌道に乗せる最後のチャンス」と各国に呼びかけた。最大の焦点は、先進国による途上国への金融支援の増額だ。現状は年1000億ドル(約15兆円)だが、途上国は年1兆ドル以上を求める。難色を示す先進国との隔たりは大きいが、少しでも対策を前進させるよう妥協点を探るべきだ。先進国からの技術や資金を前提に、排出削減を進めようと考える途上国は多い。支援額の上積みが進まなければ、世界全体の排出削減の遅れにつながる。米国が資金を打ち切れば、途上国の削減機運をそぐ恐れがある。温暖化は人類共通の課題で、一国の政権交代に左右されては困る。日欧は削減技術や人材育成など途上国支援を打ち出し、議論をリードすべきだ。世界最大の排出国の中国や中東産油国にも資金を出すよう促すことも必要になる。資金力のある国には、相応の責任が求められよう。米国内でも、州や産業界ではトランプ氏の方針とは距離を置く動きが目立つ。脱炭素に積極的なグローバル企業や機関投資家も多い。投資しやすい環境や制度づくりにも知恵を出し、民間資金のさらなる活用に道筋をつけたい。国連環境計画の報告書によると、現状の対策のままでは産業革命前からの気温上昇が最大3.1度に達する。各国は35年までの削減目標を25年2月までに提出する必要がある。削減強化に向けた機運醸成も大きな課題だ。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16091553.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2024年11月25日) 気候資金、年3000億ドルで合意 途上国支援、35年までに COP29閉幕
 アゼルバイジャンのバクーで開かれた国連気候変動会議(COP29)は24日、途上国支援の新たな資金目標として、先進国側が2035年までに年3千億ドル(約45兆円)を出すことで合意し、閉幕した。官民あわせて1・3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決めた。会期は22日までの予定だったが、交渉は難航。24日の明け方まで延長した。途上国の脱炭素化や異常気象による被害対応を支援する「気候資金」は、COP29で最大の焦点だった。先進国は09年、途上国に対し年1千億ドル(約15兆円)の資金を出すことを約束。25年までに新しい目標を決めることになっていた。合意された成果文書では、先進国側からの年1千億ドルの資金を35年までに3倍の年3千億ドルに増やす▽官民含めて35年までに少なくとも年1・3兆ドルの投資を呼びかける▽途上国も任意で資金を出すことを奨励する――などが入った。一方、脱化石燃料をめぐっては、昨年のCOP28での成果文書の確認にとどまった。最近のCOPでは、徐々に脱化石燃料をめぐる表現が強まっていたが、目立った前進は乏しかった。今回は、紛争や分断が続く世界情勢の中で各国が結束できるか試されたCOPだった。パリ協定脱退を示唆する米国のトランプ次期大統領という「不安要素」もあった。会期延長後の23日にも、資金の総額や支援内容などで各国が折り合えず、個別交渉で中断しながら全体会合を進めた。24日未明、ギリギリで着地点を見いだしたが、結束には不安を残す幕引きとなった。(バクー=市野塊、福地慶太郎、合田禄)
■COP29の成果文書の主な内容
 ◆2035年までに先進国側から途上国に年3千億ドルを支援
 ◆同年までに官民で年1.3兆ドルへの投資拡大を呼びかけ
 ◆途上国からの任意の支援資金拠出を奨励
 ◆「化石燃料からの脱却」などを含む昨年のCOP28での成果を再確認

*1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA233TA0T21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月24日) 途上国支援3倍、年3000億ドル以上で合意 COP29閉幕
 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)は24日未明、温暖化対策で先進国から発展途上国向けに拠出する「気候資金」について、2035年までに少なくとも年3000億ドル(約46兆4000億円)に増やすことで合意した。石炭火力発電の廃止時期の明示は見送った。11日に始まった会議は合意文書の採択を経て、24日に閉幕した。22日の会期最終日を大幅に延長した。35年までに世界全体で官民あわせて途上国への支援額を少なくとも年1兆3000億ドルに増やす目標も採択した。今回のCOPでは、現在年1000億ドルが目標の拠出額の増額幅が最大の焦点になっていた。22日が会期最終日だが協議が難航し、24日に入っても協議を続けていた。議長国アゼルバイジャンが22日に先進国から年2500億ドルを草案として提示したが、途上国から低すぎるとの批判が相次いだ。その後に先進国が年3000億ドルへの増額を提案し、島しょ国など一部の途上国の反発が続き、24日未明に「少なくとも」の文言をつけることで決着した。化石燃料の削減については「およそ10年間で脱却を加速する」とした23年の会議の合意文書から大きな進展はなかった。今回のCOP29は12〜13日に開いた首脳級会合で米国や欧州連合(EU)、日本など世界の主要国・地域のトップの欠席が相次ぐなど、例年に比べて合意形成の機運の乏しさが指摘されていた。国連傘下の国際的な炭素クレジットの売買に関する市場創設のルールについても合意した。クレジットは再生可能エネルギーの導入などによる温暖化ガスの排出削減効果を取引できる形にしたもので、政府や企業は削減目標の達成にむけて購入できる。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は気候変動の悪影響が大きくならないように地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標を掲げる。実現のためには世界で35年に19年比で60%の温暖化ガスを減らす必要があり、25年2月までに国連に35年までを見据えた新たな削減目標を提出するよう義務付けている。気候資金は途上国の気候変動対策や温暖化ガス削減の取り組みに欠かせない原資となっている。会期中にはEUや産炭国のオーストラリアが石炭火力発電所の新設に反対する有志連合を立ち上げた。温暖化ガスの排出量が多い石炭火力を増やさないよう呼びかけ、各国に脱炭素の取り組みの強化を求める。日本や米国は入らなかった。そのほか、日本を含む有志国は再生可能エネルギーの活用に欠かせない蓄電池や水素といったエネルギー貯蔵容量を、世界で30年までに22年比6倍の1500ギガ(ギガは10億)ワットに増やすことを目指す誓約をとりまとめた。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241125&ng=DGKKZO85012200V21C24A1PE8000 (日経新聞社説 2024年11月24日) COP29合意後も分断回避へ努力続けよ
 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)で、途上国への支援目標を2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった。防災インフラが未整備な途上国では、地球温暖化に伴う気候災害が頻発する。COP29では年1兆ドル以上の要求に対し、先進国がどう応えるかが焦点だった。紛争や分断が続くなか、結束できるかが試されていた。妥協の産物とはいえ、分裂は避けられた。インドなど途上国の一部は金額を不満として抵抗。協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策につなげねばならない。合意した金額を先進国の公的資金だけでまかなうのは厳しいだろう。資金が足りないと途上国の対策が滞る。世界全体の排出削減の遅れを避けるには、様々な形で資金を集める必要がある。まず出し手を増やす努力を続けたい。温暖化ガスの世界最大の排出国である中国や中東産油国などは余力があるはずだ。20カ国・地域(G20)は世界の温暖化ガスの約8割を排出する。裕福な国や地域は協力する責任があると改めて認識してもらいたい。民間の投資加速も不可欠だ。COP29では、35年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった。省エネルギー設備や再生可能エネルギーの導入支援などは民間資金を集めやすい。国際的な炭素市場のクレジット(排出枠)基準が承認されたことは前進だ。国連が支援する二酸化炭素(CO2)削減事業に国や企業が出資し、成果を排出量の相殺に当てられる。民間投資を促す起爆剤になると期待できる。日本は今回のCOP29では交渉を主導できず、影が薄かった。途上国は資金だけでなく、防災の技術やノウハウも求めている。日本には災害対策の蓄積がある。供与を積極的に進めることで世界に貢献し、存在感を高めたい。世界2位の排出国の米国では、温暖化対策に否定的なトランプ前大統領が返り咲く。来年1月の就任後、国際枠組み「パリ協定」から再離脱すると懸念される。温暖化による被害は米国内でも広がっている。日欧などはパリ協定から抜けないように説得すべきだ。トランプ政権の動向にかかわらず、気候危機は進む一方であり、対策が急務だ。あらゆる手段を総動員することが重要になる。

*1-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1362595 (佐賀新聞 2024/11/25) 【COP29合意】要求届かず渦巻く憤り、資金支援巡り対立鮮明
 国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国の地球温暖化対策を支援する新たな資金目標に合意した。大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と、負担軽減を図る先進国の対立が鮮明となり、会期は2日も延長。最後の全体会合でも合意に至った達成感はなく、要求から程遠い幕切れに途上国の憤りが会場に渦巻いた。
▽隔たり
 「深く失望した」。閉幕予定日の22日に議長国アゼルバイジャンが示した合意文書案に、既に温暖化の深刻な影響下にある小島しょ国グループは怒りをあらわにした。途上国は年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求。再生可能エネルギーの導入など温暖化対策のほか、既に生じた異常気象に伴う災害復旧などに多額の資金を必要とするからだ。債務の増大を避けるため、先進国からの無償供与が大半を占めることを望んだが、示された先進国からの資金は年2500億ドルと要求から懸け離れていた上、資金の貸し付けや投資を含むものだった。特に先進国に起因する温暖化による自然災害に見舞われている低所得国は、自分たちへの割当額を明示するよう強く求めたがかなわず反発。「議長国は他国からのアドバイスを聞き入れないらしい」。各国代表団や非政府組織(NGO)の間に議長采配への不安が渦巻く中、閉幕予定日は早々に過ぎ去った。
▽中断
 延長1日目の朝。「もう文書の改定版はできているらしい」とのうわさが広がった。会合予定を表示する会場のテレビには、夜から全体会合が開かれるとの予告が表示され、成果文書採択への期待が高まった。だが午後に開かれた議長と主要閣僚の会合は紛糾する。2500億ドルを3千億ドルに上積みする案が示されたが途上国の要求には依然遠く、小島しょ国などが会合の中断を要求。先だって開かれた途上国と先進国が協議する場に呼ばれなかったことも怒りに火を付けた。一方の先進国側も「現在の(目標の)1千億ドルが3千億ドルになるのは、かなり踏み込んだ数字だ」(浅尾慶一郎環境相)とアピールしたが、さらなる上積みには慎重姿勢。ただ、途上国側も交渉決裂で何も残らなくなる事態は望まなかった。
▽疲労
 結局、会期を2日延長した閉幕日の24日未明に出た最終的な合意文書案でも支援額の上積みはなかった。疲労が色濃くにじむ中、閉幕の全体会合が開始。アゼルバイジャンのババエフ議長は議題を読み上げると、異議申し立ての確認時間も取らずつちを振り下ろし、採択を宣言した。直後、インド代表は「合意は目の錯覚だ。私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言。会場に拍手が湧き起こった。「先進国が資金と実施手段を提供する義務を果たさないという不公平を強化するものだ」(ボリビア代表)と失望を表明する声も続いた。ただ合意成立により、国際協調に背を向けるトランプ米次期政権の誕生を前に気候変動対策が勢いを失う事態は避けられたとみるのは世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之さんだ。「たとえ不十分だとしても、国際協力をつなぎとめることはできた」

*1-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2572O0V21C24A1000000/ (日経新聞社説 2024年11月26日) ガソリン減税は脱炭素や財源との整合を
 自民、公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始める。10月の衆院選で「手取りを増やす」と訴えて躍進した国民民主党の要求を受け入れ、総合経済対策に検討を明記した。ガソリンなど燃料油の課税体系は複雑なうえ、当初目的と異なる社会保障などの財源にも流用されている。それらを整理し、財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探してもらいたい。1リットル53.8円のガソリン税は、本則分(28.7円)と特例的な上乗せ分(25.1円)からなる。国民民主は物価高対策として、価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の適用を主張。全国平均のガソリン価格が160円を3カ月連続で超えると課税を止め、逆に3カ月連続で同130円を下回れば再開する仕組みだ。2010年に創設されたが、翌年の東日本大震災の復興財源確保のため特例法で凍結してきた。目先の物価高対策に中長期の財政収入にかかわる税を使うのは賛成できない。特にトリガー条項は発動・停止時に価格が大きく変動する。値下がりを見越した買い控えや値上がり前の駆け込み需要が生じ、販売現場の混乱が必至だ。今回の税制改正における検討に意義を見いだすとすれば、あるべき税体系への見直しだろう。もともと道路特定財源だったガソリン税は09年に一般財源化された。10年に上乗せ分の廃止を決めたものの、財源確保の観点から「当分の間維持する」とした経緯がある。それが際限なく続いているうえ、流通の過程で消費税が二重に課されているのも問題だ。ただし上乗せ分を単純にやめればいいわけではない。財務省の試算では国・地方で計年1.5兆円分の税収減につながる。価格下落に伴って消費が増えれば、脱炭素の取り組みにも逆行する。与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしている。税収中立や脱炭素との整合性を考えれば、妥当といえよう。受益者負担の原則に立つなら、ガソリン税は老朽化する道路の補修費や脱炭素支援などの財源に用途を限るのも一案だ。総合経済対策で規模を縮小しつつ延長を決めたガソリン補助金は、一日も早く打ち切るべきだ。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策を、いつまでも続けるのは許されない。

*1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA250KT0V21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月25日) 35年度の温暖化ガス60%減 政府目標案、現行ペース継続
 経済産業、環境の両省は25日、次期温暖化ガスの排出削減目標に関して2035年度に13年度比で60%減、40年度に同73%減とする案を示した。50年のカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)に向けた着実な温暖化ガス削減と脱炭素技術の開発を通じた経済成長の両立を目指す。15年に採択した温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」は世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標をかかげる。協定に基づき各国は25年2月までに新目標の国連への提出が義務づけられている。政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえて年内にも具体的な削減目標の数字を固め、国連に提出する。同日の会合で両省は50年に向けて、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出ゼロを達成する案を検討する意向を示した。現行の削減ペースを持続する道筋となる。22年度は13年度比22.9%減で、政府は目標通りに推移しているとみている。温暖化ガスの次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となっていた。これまでの会合では排出削減の強化を求める意見のほか、脱炭素技術が普及し効果が表れるまでに時間を要する点に配慮を求める声も産業界などからあがっていた。両省は性急に削減すると経済への負担が大きいことも踏まえて、排出削減の上積みを目指す。
国立環境研究所は複数のシナリオに基づき排出量やコストなどを推計した。二酸化炭素(CO2)の回収などといった脱炭素技術が30年以降順調に普及し、再生可能エネルギーのほか水素やアンモニアなどの脱炭素燃料が広がれば、50年の実質排出ゼロを実現できるという。一方、脱炭素技術が十分普及しないなかで導入を急ぐとエネルギー調達コストなどの負担が増大するとも分析した。現行の削減ペースを持続した場合には、技術の導入にかかる50年までの総費用額は比較的抑えられるとした。委員からは「グリーントランスフォーメーション(GX)政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要だ」といった意見が出た。「直線の経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要だ」との指摘もあった。国連は1.5度以内に抑えるには世界全体で温暖化ガスを35年までに19年比60%削減する必要があると分析する。分析には49〜77%の幅があり、日本が基準年とする13年度比に換算すると35年度で58〜81%、40年度で66〜92%となる。新しい削減目標の道筋はいずれも範囲内にあり、政府は1.5度目標の実現に整合するとみる。地球温暖化への危機感は世界で高まっている。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7日、24年の世界の平均気温が産業革命前と同程度の1850〜1900年の推定平均気温と比べて1.55度を超える上昇幅になる見通しだと発表した。初めて1.5度を上回ることがほぼ確実だとしており、対策強化が欠かせない。次期の排出削減目標は、政府が年内にまとめるエネルギー基本計画と表裏一体の関係にある。国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギを握るためだ。次期計画では40年度の電源構成を定める。現行目標で30年度に36~38%と据える再生可能エネルギーの上積みや、化石燃料を使う火力発電の減少が一層重要となる。政府はエネルギー基本計画と排出削減目標を踏まえ、年内に「GX2040ビジョン」をまとめる。脱炭素とエネルギーの安定供給、経済成長の同時実現を政策の柱に据える。カーボンプライシングの本格導入や脱炭素電源への投資の後押しなど対策を急ぐ。

*1-4-3:自動車関係諸税
●9兆円にもおよぶ自動車関係諸税収
 自動車関係諸税は第1次道路整備五箇年計画がスタートした1954(昭和29)年度に道路特定財源制度が創設されて以来、これまで増税、新税創設が繰り返されてきました。現在自動車には9種類もの税が課せられ、ユーザーは多額の自動車関係諸税を負担しています。2024年度の当初予算では自動車ユーザーが負担する税金の総額は国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなります。
●図1.2024年度租税総収入の税目別内訳並びに自動車関係諸税の税収額(当初)
注:1.租税総収入内訳の消費税収は自動車関係諸税に含まれる消費税を除く。 2.自動車関係諸税の消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 3.消費税収には地方消費税収を含む。 資料:財務省、総務省
●図2.2024年度自動車関連税収と税率
注:1.消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 2.税率は2024年5月1日現在。
●図3.道路整備計画に関連した新税創設・増税の経緯
エコカー減税対象車は本則税率適用。 注:税率は2024年5月1日現在。 日本自動車工業会調
●図4.自動車の税金のしくみ(税金および税額は2024年5月1日現在)
*別途、エコカー減税に対する「自動車重量税」の軽減措置が講じられている
○ユーザーの負担
●多種・多額の自動車関係諸税
 自家用乗用車ユーザーの場合、車両価格308万円の車を13年間使用すると、6種類の自動車関係諸税が課せられ、その負担額は合計で約190万円にもなります(自工会試算)。さらに自動車ユーザーは、これらの税金以外にも有料道路料金、自動車保険料(自賠責および任意保険)、リサイクル料金、点検整備等多種・多額の費用を負担しています。
●図5.税負担の国際比較
前提条件: ①排気量2000cc ②車両重量1.5t以下 ③WLTCモード燃費値 19.4km/ℓ(CO2排出量119g/km)④車体価格308万円(軽は144万円)⑤フランスはパリ、米国はニューヨーク市 ⑥13年間使用(平均使用年数:自検協データより)⑦為替レートは1€=¥158、1£=¥186、1$=¥146(2023/4~2024/3の平均)
※2024年4月時点の税体系に基づく試算 ※日本のエコカー減税等の特例措置は考慮せず
※自動車固有の税金に加え、以下のとおり付加価値税等も課税される。(日本の場合は消費税、米国・ニューヨーク市の場合は小売売上税)日本(登録車)30.8万円、イギリス61.6万円、ドイツ58.5万円、フランス61.6万円、米国27.3万円、日本(軽自動車)14.4万円
●図6.自家用乗用車ユーザーの税負担額(13年間)
前提条件: ①2000ccで車体価格308万円(税抜き小売り価格)の乗用車 ②車両重量1.5トン以下 ③年間燃料消費量1,000ℓ ④重量税は車検証交付時または届出時に課税(第1年目は新車に限り3年分徴収) ⑤税率は2024年4月1日現在 ⑥消費税は10%で計算 ⑦リサイクル料金は2000ccクラスの平均的な額
注:1.有料道路料金、自賠責及びリサイクル料金は自動車諸税に準ずる性格を有するため計算上加味した。(自賠責保険は2024年4月1日現在の保険額) 2.有料道路料金は2022年度料金収入より日本自動車工業会試算。 日本自動車工業会調

<災害とリスク管理>
*2-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1326448 (佐賀新聞 2024/9/24) 能登豪雨、浸水想定域の仮設被害、死者8人に、捜索続く
 石川県能登半島の記録的豪雨により、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害が発生、うち輪島市の4カ所が大雨による洪水リスクが高い想定区域に立地していることが24日、分かった。これまでに指摘されていた立地のリスクが現実になった形だ。避難誘導が十分だったかなどの検証が求められそうだ。度重なる被災で入居者の生活再建の遅れが懸念され、県と市は今後の住まいに関する意向を確認する。他の団地でも床下浸水の被害があった可能性があり、県や地元自治体が調査する。輪島市は、浸水した団地の住民らをホテルや旅館などに2次避難させる方向で、県と調整している。県や消防によると、珠洲市大谷地区の土砂崩れ現場で新たに1人が見つかり死亡が確認され、豪雨による死者は8人となった。行方不明者は2人。県によると、連絡が取れなくなっている安否不明者は24日時点で5人。生存率が急激に下がるとされる発生72時間が経過する中、警察や消防などが捜索を続けた。県などによると、24日時点で床上浸水が確認されている仮設団地6カ所は輪島市5カ所と珠洲市1カ所。このうち輪島市の宅田町第2団地、宅田町第3団地、山岸町第2団地、浦上第1団地は洪水浸水想定区域にある。宅田町の2カ所は、付近を流れる河原田川が氾濫して団地一帯が浸水、住宅内にも泥水が流れ込んだ。24日、県のボランティアによる泥掃除や家財片付けが始まった。浸水した団地では、被害拡大後に救助される住民が相次いだ。輪島市幹部は取材に「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」として、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した。県によると、24日午後4時時点で輪島市、珠洲市、能登町の計46カ所の集落で少なくとも367人が孤立状態になっている。輪島市門前町七浦地区では仮設住宅の住民約70人が取り残されている。また、輪島市、珠洲市、能登町で計5216戸が断水している。

*2-1-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/cev903mwz9lo (BBC 2024年11月7日) 2024年は史上最も暑い年になる見通し エルニーニョ終息後も高気温続く、マーク・ポインティング気候変動・環境調査員
 欧州の気象当局はこのほど、猛烈な熱波や多くの犠牲者につながった嵐が世界各地を襲った2024年が、統計開始以来で最も気温の高い年となることが「ほぼ確実」となったとの見通しを発表した。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、今年の世界平均気温は、人類が化石燃料を大量に燃やし始める前の「工業化以前」と比べて摂氏1.5度以上高くなる見込み。こうした高気温は、主に人為的な気候変動によるもので、エルニーニョ現象のような自然要因による影響は小さいという。科学者たちは、来週アゼルバイジャンで開かれる国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)を前に、これを警鐘として受け止めるべきだと指摘している。英王立気象協会の最高責任者、リズ・ベントリー氏は、「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対して、これ以上の温暖化を制限するための行動が急務だという、厳しい警告を新たに発するものだ」と話した。2024年には、10月までの世界気温があまりに高かったため、最後の2カ月間で気温があり得ないほど急降下しない限り、記録更新は防ぎようがないもようだ。実のところ、欧州コペルニクス気候変動サービスのデータによると、2024年は工業化以前と比べて、少なくとも1.55度は気温が高くなる可能性が高い。「工業化以前」とは、1850~1900年を基準にした期間のこと。この期間は、人間が化石燃料を大量に燃焼させるなどして地球温暖化を大幅に促進する以前の時代と、ほぼ一致している。欧州当局の今回の予測によると、2024年は昨年更新されたばかりの1.4度という最高気温を上回る可能性がある。欧州コペルニクス気候変動サービスのサマンサ・バージェス副ディレクターは、「これは地球の気温記録における新しい一里塚になる」と話した。加えて、コペルニクスのデータによると2024年には初めて、1月1日から12月31日までの1年の平均気温が1.5度上昇することになる。これは象徴的な意味を持つデータだ。2015年のパリ協定では200カ国近くが、気候変動による最悪の影響を回避しようと、長期的な気温上昇を1.5度未満に抑えるよう努力すると約束したからだ。ただし、今年に1.5度という上限を超えても、パリ協定の目標が破られたということにはならない。パリ協定の規定は、自然の変動を平均化するため、20年程度の期間における平均気温として定められているからだ。しかし、1年ずつ上限突破が積み重なるごとに、長期的には1.5度のラインに近づいていくことになる。国連は先月、現在の政策のままでは今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性があるという警告を発した。2024年のデータの細かい中身も、懸念材料となっている。2024年初頭の温暖化は、自然現象のエルニーニョ現象によってさらに拍車がかかった。これは、南太平洋で温かい海水が海面まで上昇し、大気中に暖かい空気を押し出される現象だ。直近のエルニーニョ現象は2023年半ばに始まり、2024年4月頃に終息したが、それ以降も、気温は依然として高い状態が続いている。コペルニクスのデータによると、この1週間、世界の平均気温は毎日、この時期の最高記録を更新している。多くの科学者は、エルニーニョ現象の反対で、海面水温が低下するラニーニャ現象が間もなく発生すると予測している。理論的にはこの現象により、来年には地球の気温が一時的に低下するはずだが、その正確な推移は不明だ。英レディング大学のエド・ホーキンス教授(気候科学)は、「2025年以降に何が起こるのか、興味深く見守っていきたい」と話す。しかし、大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、科学者らは新たな記録が更新されるのは時間の問題だと警告している。「気温の上昇によって嵐はより激しくなり、熱波はさらに暑くなり、豪雨はますます極端になる。その結果、世界中の人々に、目にもあらわな影響が出るはずだ」とホーキンス教授は言う。「炭素排出量を差し引きゼロにする『ネットゼロ』を実現し、地球の気温を安定化させることが、こうした災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法だ」

*2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046569.html (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスク地域に2594万人 居住者、20年間で90万人増
 大雨で河川が氾濫(はんらん)した際に浸水の恐れがある地域に住む人は、全国で約2594万人(2020年)と、過去20年間で約90万人増えたことが朝日新聞のデータ分析で分かった。気候変動の影響で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える。分析したのは、全国の3万以上の河川のうち、主に流域面積や洪水時の被害が大きな約3千河川で、河川整備の目標とすることが多い「100年に1回程度」の大雨により浸水が想定されるエリア内の人口。国土交通省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(23年度版)と、国勢調査の人口データ(00~20年)を元に推計した。それによると、20年の日本の全人口は最多だった10年から約1・5%(約191万人)減った一方、浸水想定エリアの人口は20年までの過去20年間で約3%増え、約2594万人となった。うち浸水想定3メートル以上の地域の人口は約257万人で約7万人増えた。浸水5メートル以上の地域の人口は約26万人に上る。浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で、都民の3割弱を占める。埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間で20都道県が増加した。高度経済成長期以降、治水対策により、浸水リスクがある低地の開発が進み、相対的に地価も安価なため、人口が流入した。また、現在は一部規制が強化されたものの、00年の都市計画法の改正で、住宅の建設が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響した。日本大学の秦康範教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体がある一方、毎年のように水害が起きるなか、安全な場所にある空き家を活用して居住誘導するなど、災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべきだ」と話す。
◇市区町村ごとのデータ分析は、デジタル版からアクセス出来ます。

*2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046472.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスクより利便性? 多摩川周辺…近い都心、氾濫後も新築
 水害が多発するなか、浸水の恐れがある地域に住む人が増えている。2020年には全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3メートル以上の想定エリアに住んでいる。なぜリスクのある場所に人は集まるのか。21日に能登半島北部を襲った豪雨では、元日の地震で大きな被害が出た石川県で計27河川が氾濫(はんらん)し、多くの住宅が水に浸(つ)かった。地震で焼失した「輪島朝市」にほど近い輪島市河井町では、近くを流れる河原田川が氾濫。介護職員の50代女性の自宅は地震で壊れ、1カ月前にリフォームを終えたばかりだったが、約1・5メートル浸水し、1階は泥だらけになった。一帯は最大で3~5メートルの浸水が想定され、女性によると、65年ほど前にも約2メートル浸水した。ただ、堤防工事が進んだことや、自宅を50センチかさ上げしたことで安心し、「(浸水想定は)あまり気にしたことがなかった。まさか自分が生きているうちにまた来るとは思わなかった」と振り返った。朝日新聞の分析では、浸水想定エリアの人口は20年までの20年間で石川県を含む20都道県で増えた。特に増加が目立つのが、人口が密集する都市部だ。百貨店などが立ち並び、「にこたま」の愛称で知られる二子玉川駅(東京都世田谷区)から、多摩川を隔てた川崎市の一角。全国で90人以上の死者・行方不明者が出た19年の東日本台風では、多摩川の支流が氾濫し、多くの住宅が水に浸かり、マンション1階の60代の住民が亡くなった。近くに住む60代の男性の自宅も1メートル浸水した。玄関ドアや床下収納から水が一気に入り込み、1階のリフォーム代には総額で約1200万円かかった。この地区は3~5メートルの浸水が想定されている。男性は「50年以上住むが初めてのことで、まさかだった。最近異常な雨が増えているので怖い」。一方、近所では水害後に新しいアパートや戸建てが複数建った。2年前に夫婦で住み始めた女性(38)は、二子玉川で働き、「水害リスクは知っているが、利便性や家賃の安さから選んだ」と話す。東日本台風ではタワーマンションが林立する市内の武蔵小杉駅周辺で、地下が浸水したタワマンもあった。水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流してあふれる内水氾濫が原因だったが、被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価(20年1月時点)は前年比約2~5%上昇。不動産鑑定士の藤田勝寛さんは「水害などの災害が起きると取引は鈍くなるのが一般的だが、利便性が良ければ影響は一時的にとどまるケースが多い」と話す。川崎市は都心へのアクセス性が高く、人口も増加し続けている。朝日新聞の推計では神奈川県内で浸水リスクのある地域に住む人は同市を中心に過去20年間で約25万人増えた。18年7月の西日本豪雨で、災害関連死を含めて75人が亡くなった岡山県倉敷市。推計では浸水リスク地域に住む人は過去20年間で約3万人増えた。多数の犠牲者が出た同市真備地区は川沿いに浸水3メートル以上のエリアが広がり、過去に何度も水害に見舞われてきた。ただ、70年代ごろから市中心部のベッドタウンとして水田の宅地化が進んで人口が急増。水害後に人口が1割ほど減ったが、スーパーなどの商業施設は整っている。地元の不動産業者は「水害によって土地の価格は下落し、価格に魅力を感じて新たに移り住む人はいる」と話す。
■国は住宅建築を制限、地域は衰退懸念
 浸水の恐れがある地域での人口増は、2000年の都市計画法の改正も一因とされる。住宅などの建築が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で指定したエリアは例外扱いとなった。市街化調整区域は街の開発を抑制する区域で、低湿地帯など浸水リスクをはらむ場合も少なくない。19年の東日本台風で洪水被害が発生した場所の約8割を占めたとする国土交通省の調査もある。同省によると、既存集落の維持などを目的に22年度時点で全国で180自治体が条例を制定。地価が比較的安いことなどから居住者が増えている。熊本市中心部まで車で20分ほどの同市南区富合町もそのひとつ。1級河川の緑川や支流の流域にあり、12年に一定の住宅が集まる地域が条例でエリア指定された。一方で、各地で甚大な水害が相次ぎ、国は20年に法改正し、浸水などの災害リスクが高い場所は原則除外するよう規制を強化。当時、富合町自治協議会の会長だった男性(82)は「除外対象になる場所は多く、開発制限されると人口が減って地域が衰退する」と、条例エリアの維持を求める要望書を市に出した。結果的に、市は条件付きで開発を認め、来年4月以降、一部地域で家を建てる場合は浸水しない高さの部屋を設けることを義務づけた。男性は「次々に戸建てが建っているが、垂直避難できる2階建てが増えている」と話す。国も水害対策を進めるために21年に同法など九つの法律を一括改正。ハード事業の促進に加え、避難場所の整備推進や、浸水リスクが高い場所を都道府県が「浸水被害防止区域」に指定し、住宅や高齢者施設の建設を許可制とする仕組みなどを導入した。
■保険料、リスク別に
 水害による被害は拡大傾向にある。国交省の水害統計によると、13~22年までの10年間の水害被害額は計7兆3千億円で、その前の10年間の約1・4倍に膨らんだ。特に19年は東日本台風の影響で約2兆1800億円となり、統計開始以来で最悪となった。浸水リスクエリアで人口が増えたことで、住宅などの資産もより集中し、面積当たりの被害額も増えている。東京理科大マルチハザード都市防災研究拠点の二瓶泰雄教授の調査によると、水害被害額(前後5年、計10年間の平均)は、1960年代は浸水面積1平方キロメートルあたり2億~3億円だったが、2010年は20億円、18年には30億円に増加。さらに、死者・行方不明者数(同)についても、1960~2000年は0・1~0・2人だったが、18年には0・52人と、最大5倍ほどに増えた。二瓶教授は「高齢化が進み、人的被害はさらに増える可能性がある」と指摘する。また、水害の多発などを背景に、火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが10月から導入される。これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化する。

<環境>
*3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083920.html (朝日新聞 2024年11月14日) 温室ガス減、英に存在感 首相、目標引き上げ発表 COP29
 アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動会議(COP29)で、英国が存在感を示している。13日までの首脳級会合では、主要排出国などのトップが欠席する中、スターマー首相が登壇。スピーチに好意的な評価が相次いだ。約80の国・地域の首脳らが参加した会合では、英国を含む一部の国が、気候変動対策の国際ルール「パリ協定」にもとづく、新たな温室効果ガス削減目標を発表した。スターマー氏は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意だ」と宣言。2035年の排出量を1990年比で81%減らすと発表した。前保守党政権でまとめていた78%減をさらに高めた。各国の温室効果ガス削減目標は、次は25年2月までに、35年までの目標を国連に提出することが求められている。英国は主要7カ国(G7)で最も早く新目標を発表。今年9月、国内で稼働する石炭火力をゼロにするなど、気候変動対策に積極的な姿勢を強調している。スターマー氏は他国にも目標引き上げを呼びかけた。2大排出国の米中や、世界の温暖化対策をリードしてきた欧州連合が、軒並み首脳の出席を見送る中、気候変動対策に取り組む姿勢を首相自ら訴えた形だ。英紙ガーディアンは社説で「重要な一歩」と評価。米シンクタンク「世界資源研究所」(WRI)は「気候変動に関するリーダーシップの輝かしい例」と持ち上げた。

*3-1-2:https://mainichi.jp/articles/20241122/k00/00m/020/374000c (毎日新聞 2024/11/22) 電気・ガス、ガソリン…補助金の終わり見えず 事業の出口戦略に注目
 22日に閣議決定された総合経済対策で、10月で終了した電気・ガス料金への補助金を来年1~3月に再実施することが決まった。年内を終了期限としていたガソリン補助金も規模を縮小して延長する。政府は時限措置だった補助金の終了に踏み込めずにいる。暖房需要で電力の消費量が最も増える1~2月は家庭向けで電気は1キロワット時あたり2・5円、ガスは1立方メートルあたり10円を補助する。電気代は標準家庭(使用量400キロワット時)で月1000円の補助となり、ガス代と合わせると計1300円程度の負担軽減になる。3月は電気1・3円、ガス5円に補助額を縮小する。電気・ガス代への補助金は、ウクライナ危機に伴う燃料価格の高騰対策として2023年1月使用分から開始。その後、燃料価格が落ち着いたため24年5月分でいったん終了した。しかし、岸田文雄前政権が酷暑対策として8~10月の限定で電気は最大1キロワット時あたり4円、ガスは同1立方メートルあたり17・5円の補助を復活。今回、またも終了直後に再開が決まった形だ。一方、ガソリン価格を抑制するため22年1月から続いている石油元売りへの補助については、12月から段階的に補助の規模を縮小させるものの、年明け以降も延長する。来年1月中旬のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は約180円、2月中旬には約185円になる見込み。それ以降は月5円程度の価格上昇となるよう補助率を見直す。終了時期は定めていない。10月の衆院選中には公明党が「寒い時期が一番電気・ガス代がかかる」として経済対策に盛り込むよう要求し、石破茂首相も「電気代が上がって困る人には十分な支援を行う」との意向を表明。選挙の結果、衆院で過半数割れし少数与党となった自公と政策協議していた国民民主党も値下げを求めていた。電気・ガスやガソリン代に対する補助金が長期化していることに対し、「市場原理を無視している」「脱炭素に逆行している」といった批判の声が噴出している。だが、酷暑対策で補助金が復活した際には「絶対に冬もやることになる」(経済官庁幹部)と政府内には諦めムードが広がっていた。電気・ガス補助金は問題も指摘されている。会計検査院の調査によると、補助金事業の事務局業務を319億円で受託した広告大手の博報堂が、業務の大部分を子会社などに委託し、さらに別会社に再委託されていたことが判明している。業務委託費率が50%を超える場合は所管する資源エネルギー庁に理由書を提出する必要があるが、書類には委託が必要だとする理由が具体的に記載されておらず、エネ庁にも委託を認めた経緯の記録が残っていなかった。経済産業省の事業では、過去にも新型コロナウイルス禍を受けた中小企業向けの持続化給付金を巡り、事業を受託した一般社団法人が大半の業務を再委託していたことが発覚して問題になったこともある。エネ庁の担当者は「今後、同じように再委託があればどういう形で適切と判断したのかが残るように手続きを検討している」としている。経産省は今回の補助金の再開・延長で必要な予算額を明らかにしていないが、これまで投じられた累計額だけで電気・ガスは約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達している。ガソリン補助金は間もなく開始から3年がたつ。膨大な税金を投じた補助金事業の出口戦略を描けるかにも注目が集まる。

*3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSB041PWSB0ULBH00QM.html (朝日新聞 2024年11月3日) 福島第一原発、根拠なき「2051年廃炉完了」 現実的な工程示せ
*ポイント: 福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的だ。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もある。処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべきだ。
 「燃料デブリが原子炉内のどこにどれぐらい分布するかが正確にはわからない。しかも、高線量の中で遠隔で作業しなければいけない。それが取り出しの難しさだ」。原子力規制委員会の前委員長、更田豊志氏は、燃料デブリの取り出しについて、こう解説する。東京電力福島第一原発の1~3号機には推計880トンの燃料デブリがある。3基とも圧力容器の底を突き破り、外側の格納容器にまで広がっている。放っておけば、将来、建屋の老朽化などで放射性物質が漏れ出す恐れがある。政府と東電は、全て取り出して安全な状態で管理しようとしている。東電の構想では、まずは2号機で試験的に3グラム以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やす。それから、30年代初めに3号機で大規模な取り出しを始め、その後、1号機に展開する。この構想の最初のステップが今年9月に始まった。東電は2号機の原子炉格納容器の側面にある貫通口から取り出し装置を挿入した。カメラの不具合で作業は1カ月以上中断したが10月28日に再開。燃料デブリを装置でつまみ、今月2日に装置ごと格納容器の外側の設備に入れた。線量が基準を下回り容器に収めれば初の取り出し成功となるが、これから続く道のりは深い霧に覆われている。政府と東電は51年までの廃炉完了を掲げている。11年12月の工程表で示したものだ。当時の想定では21年までに燃料デブリの取り出しに着手し、10~15年程度で1~3号機すべての取り出しを終える計画だった。しかし、開始は3年遅れた。主な原因は、関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足だ。ロボットアームはいまも試験中で、今回の取り出しには簡易的な「釣りざお式装置」を使った。原子炉建屋のプールにある核燃料の取り出しも大幅に遅れている。当初の計画では、1~4号機に計3108体ある核燃料を21年までに取り出すとしていた。だが、ガレキの撤去など作業環境の整備に時間がかかり、21年までに取り出せたのは3、4号機だけ。1、2号機はいまも始まっていない。最新の工程表では、当初から10年遅れの31年までにすべての取り出し完了をめざしている。重要作業の遅れが続いても、政府と東電は51年までの廃炉完了という旗はおろしていない。東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は「51年までの完了を目標に仕事を積み上げていくことが大事だ」と強調する。そもそも、なぜ51年までの廃炉完了を目標にしたのか。政府関係者は技術的な根拠はまったくなかったと明かす。「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できないような空気だった。何かしらの数字を出さざるを得なかった」。参考にしたのが1979年に事故を起こした米スリーマイル島(TMI)原発2号機だ。事故から11年後に99%の燃料デブリの取り出しが終わっていた。福島第一原発は1~3号機に燃料デブリがあるため、3倍の時間がかかるとみて、30~40年後(51年まで)の廃炉完了を目標にしたという。だが、TMI原発と福島第一原発は状況が大きく異なる。TMI原発では原子炉圧力容器に水をはった状態で、燃料デブリを取り出すことができた。水は放射線を遮れるうえ、作業時に放射性物質の飛散を抑えられるという、大きなメリットがある。
●取り出し困難な燃料デブリ
 一方、福島第一原発は圧力容器の損傷が激しく、水をはることができない。外側の格納容器まで広範囲に燃料デブリが広がり、TMI原発よりも取り出しの難易度が格段に高いとみられている。そもそも事故を起こしていない原発でも、原子炉に核燃料がない状態から作業を始めて廃炉完了までに30~40年かかるとされる。このため、51年までに廃炉完了とする目標については、多くの専門家が「あり得ない」などと指摘している。政府や東電は廃炉の工程をすぐには見直そうとしていない。専門家の間では、自主的に根拠のある見通しを示そうという動きが出ている。早稲田大学の松岡俊二教授(環境経済・政策学)は22年、福島第一原発の燃料デブリの全量取り出しにかかる期間を試算し、論文を発表した。TMI原発では約132トンの取り出しに4年3カ月かかった。週休2日で作業が年間260日とすると、1日の取り出し量は120キロ。TMI原発より作業が難しい福島第一原発の取り出し量は、1日20キロ、もしくは50キロと仮定した。その場合、全量取り出しにかかる期間はそれぞれ170年、68年という結果だった。松岡さんは「3グラム以下の取り出しに難航している現状を踏まえれば、170年でも相当楽観的な数字だ」という。廃炉作業で出る放射性廃棄物は、事故を起こしていない原発600基分になるとの見方もある。技術コンサルタントの河村秀紀さんらは、福島第一原発の図面などの公開情報をもとに試算した。敷地の放射線量が下がり、自由に出入りできる状態にする場合の放射性廃棄物は約780万トンになるという。日本原子力学会の分科会はこの試算を参考に、汚染された地盤などを残して継続管理とする「部分撤去」のシナリオについて検討した。廃棄物量を試算すると約440万トンとなる。放射性物質が自然に減るのを待つために数十年間の期間を挟めば、さらに約110万トンまで減らせるという。
●地元と対話で探る将来像
 政府と東京電力は福島第一原発の廃炉完了の姿を明確にしていない。更地をめざすのか、一部の施設が残っても完了とみなすのか。ゴールはあいまいだ。福島県は燃料デブリを含む放射性廃棄物をすべて県外で最終処分するよう、繰り返し求めている。だが、処分地探しなどの議論は進んでいない。原発事故を後世に継承できるよう、一部を「遺構」として残すよう求める意見もある。廃炉の費用は東電が出すが、電気代の一部として国民の負担になる。政府は廃炉に必要な技術開発への支援などとして、毎年100億円以上を企業などに補助している。最新の見積もりでは廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用などは含んでいない。さらに膨らむのは確実で、廃炉の将来像は国民全体に関わる問題だ。日本原子力学会の分科会が示すように、将来像や時間のかけ方で発生する廃棄物の量は変わる。技術的な検討だけでは解決できず、社会的な合意形成が重要となる。昨年8月に始まった処理水の海洋放出では、政府は専門家会議での技術やコスト面からの議論を重視した。放出の方向性を固めた後に、地元や漁業者らへ説明して理解を得ようとした。だが、結論ありきの姿勢に幅広い納得は得られず、強い反発を招くことになった。福島では地元の住民や専門家、東電社員らが対話し、廃炉の将来像を探る「1F地域塾」が22年から続く。廃炉作業について助言する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」も今年6月、原発事故の避難指示が出るなどした13市町村で住民の声を直接聞く場を設けた。政府と東電はこうした取り組みを参考に、丁寧な対話を重ね現実的な工程を探るべきだ。

*3-2-2:https://www.asahi.com/special/10005/TKY201108240683.html (朝日新聞 2011年8月25日) 校庭利用の基準「20ミリシーベルト」撤廃へ
 学校の校庭利用をめぐる放射線量基準について、文部科学省はこれまで示してきた「年間20ミリシーベルト」の目安を撤廃する方針を固めた。基準を定めた今年4月と比べて線量が大幅に減ったため。児童生徒が学校活動全体で受ける線量を年間1ミリシーベルト以下に抑えるとの目標は維持するという。目標達成のため、学校で毎時1マイクロシーベルトを測定した場合は除染が必要との考えを示す予定で、26日にも福島県に通知を出す。ただし、校庭利用の制限基準とはしないという。東京電力福島第一原発の事故を受け、文科省は4月、福島県内の学校で毎時3.8マイクロシーベルト以上が校庭で測定された場合、校庭の利用を制限すべきだとの暫定基準を示した。子どもが年間に受ける放射線量が20ミリシーベルトに達しないよう設定された値だったが、保護者らから「上限20ミリシーベルトは高すぎる」との批判が相次いでいた。文科省はこの夏、基準を改めて検討。自治体による校庭の土壌処理も進み、福島県内の学校の線量は現在3.8マイクロシーベルトを大きく下回っていることから、「役割を終えた」としてこの基準を撤廃する考えだ。合わせて、年間被曝(ひばく)量を1ミリシーベルト以下にするとの目標を改めて示す。学校内では局所的に線量が高い場所があるため、こうした場所を把握するための測定や除染も呼びかける。測定方法をまとめた手引も公表するという。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241114&ng=DGKKZO84780400U4A111C2KNTP00 (日経新聞 2024.11.14) ごみ屋敷、精神的支援に軸足、医師とも連携、包括的に対処
 悪臭や害虫の発生などで周囲に大きな影響を与えるごみ屋敷。居住者の自己責任と思われてきたが、疾患や認知症などの問題が影響するケースも多いことが分かってきた。自治体は当事者に寄り添った精神的な支援に軸足を移している。「ごみが壁のようになっていた」。愛知県内に住む自営業の40代女性は実父の家の状態を振り返る。2023年2月、父の入院を機に足を踏み入れると、服やティッシュ箱、缶などが室内にあふれていた。「父は昔から物を全く捨てられない性格。家族が訪ねても、中に入るのを嫌がられ状況がつかめなかった」という。事態に気づいた後は夫と週2回、1年以上通い、8割ほど片付けた。衛生上の懸念や親戚の反発、近隣住民からの苦情もあり、結局は家の解体を決めた。「自分も幼少期から20年ほど住んだ思い出があり、残せるなら残したかった」と複雑な思いもある。環境省の調査によると、全国1741自治体の38%が「22年度までの直近5年度で『ごみ屋敷』事案を認知している」と回答した。ごみ屋敷が形成される要因の一つに、生活への意欲を失い無頓着になる「セルフネグレクト」がある。ほかにも身体的、精神的な障害や特性があってごみが出せない例もある。認知症などにより判断能力が低下し、周りの環境を正しく認識できずに物をため込む場合もあり、事情は様々だ。ごみ屋敷はその居住者だけの問題と捉えられやすいが、実情は異なる。東京都立中部総合精神保健福祉センターの菅原誠副所長は「高齢単身世帯の増加などによる孤立や孤独などの問題も絡んでおり、ごみ屋敷は社会の縮図ともいえる」と話す。8月公表の総務省の報告書によると、181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患やその疑いがあるという。菅原さんは「住環境の改善に加えて支援に精神医学的な知見を入れる必要がある」と説く。当事者への精神的な支援を重視し、手厚く対応する自治体も出てきた。東京都足立区は23年、ごみ屋敷対策のために精神科医を配置した。職員は月1回、悩みや課題を相談できて実際の対応に生かせる。これまでの事例を分析したところ、問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題があることが分かった。ごみ屋敷対策係の小野田嗣也係長は「医療的な助言があると自信になり、現場としてとても助かる」と安堵感をにじませる。20年から3年間対応した70代男性の事例では、医師の指摘で解決に近づいた。当初は男性が区への不満を一方的に話すだけだった。職員が医師に相談すると「(1)自尊心を大切に向き合う(2)ごみ屋敷解決のための『支援』ならできると伝える」と本人の特性を踏まえた助言を得た。男性は支援という言葉に興味を示し、片付けを申し出たという。23年7月に「ごみ屋敷」条例を施行した浜松市の担当者は「制定で法的根拠をもって動けるほか、部署間の連携が取りやすくなった」と話す。看護分野に詳しい専門家などに意見を求められる体制も整えた。当事者への命令や行政代執行の前に相談する。今後は個別の例に対して助言をもらうことも視野に入れる。地域社会での包括的な支援も進む。福岡県の知的障害を持つ40代男性は20年に自宅にたまった不用品を捨てた。民生委員らが手伝ったほか、社会福祉法人は袋や車を提供してくれた。男性は「分別ができずに捨てられなかった」と話す。片付けに参加した自治会長に「いつでも教えるから持ってきて」と言われ、安心して捨てられるようになったという。地域での顔が見える関係作りは問題解決の一手になりそうだ。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD301N40Q4A131C2000000/ (日経新聞 2024年11月30日) プラ生産削減目標、100カ国超提案 条約交渉国の過半
 プラスチックごみを減らす初の条約作りを目指す政府間交渉で、100カ国超がプラ生産量の削減目標を設定するよう提案した。12月1日の交渉期限が近づくなか、生産削減に賛同する国の広がりを示して受け入れを迫る。提案書を出したのは欧州連合(EU)に加盟する全27カ国やスイス、カナダ、オーストラリア、メキシコ、パナマなど。島しょ国のフィジーやアフリカのケニアも加わった。政府間交渉に参加中の約180カ国、国連に加盟する193カ国の半数を超えた。生産規制には中東産油国やロシアが抵抗しており、交渉国間の隔たりが大きい。日本は一律の生産規制に慎重で提案に加わっていない。100を超える国々は11月末までに交渉事務局の国連環境計画(UNEP)に対して文書を提出した。パナマがEU加盟国を含む80を超える国の幹事として提案書を起草した。11月25日に始まった政府間交渉の場で、参加国が追加提出した提案書をもとに日本経済新聞社が集計した。プラのほとんどは石油由来で、生産時に大量の温暖化ガスを排出する。ポイ捨てが原因で海洋などに流出したプラが環境汚染を引き起こしたり、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響を及ぼしたりしているとの指摘もある。こうした汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要があるというのが提案国の主張だ。これらの国は以前からプラの「削減」あるいは「持続可能な生産」への切り替えを掲げてきた。条約をめぐる政府間交渉委員会の全体会合ではロシアや産油国が生産規制について繰り返し反対している。100を超える国々は交渉期限間際に改めて提案書を出すことで、多数の国が生産削減に賛同していることを示すのが狙いとみられる。

*3-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1366805 (佐賀新聞 2024/12/1) プラ条約、合意先送りへ、生産規制巡り溝埋まらず
 プラスチックごみによる環境汚染を防ぐための国際条約作りを進める政府間交渉委員会は1日、全体会合を開き、ルイス・バジャス議長が、この会合で目指していた条約案への合意を先送りすることを提案した。議長は「私たちの作業は完了からはほど遠い」と述べた。最大の焦点となっているプラスチックの生産規制を巡り、厳しい規制を求める欧州連合(EU)側と、プラスチックの原料となる石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらないことが背景にあるとみられる。韓国での今回の交渉委は条約案を取りまとめる最終会合の位置付けで、各国の代表団が1週間にわたり議論した。だが会期末のこの日までに合意が得られず、今後の交渉も難航が予想される。生産規制を巡っては、パナマやEU、島しょ国など100カ国以上が、条約発効後に開く第1回の締約国会議での国際的な削減目標の採択を提案。中東諸国側は「(条約は)あくまで廃棄物対策に絞るべきだ」と反対している。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN10EIA0Q4A410C2000000/ (日経新聞 2024年4月11日) 米政府、飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満に
 米環境保護局(EPA)は10日、人体への有害性が指摘されている有機フッ素化合物「PFAS」について飲料水における含有基準を決めた。日本が定めた暫定基準値の1割未満に相当する厳しい水準にした。米連邦政府がPFASを巡り、強制力のある基準を定めるのは初めて。PFAS規制を巡る日本の議論にも影響を及ぼす可能性がある。EPAはPFASのなかで毒性が強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を1リットル当たり4ナノ(ナノは10億分の1)グラムと定めた。強制力のない目標値はゼロにした。両物質の合算で同50ナノグラムとする日本の暫定基準を大幅に下回る。「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を1リットル当たり10ナノグラムと定めた。新規制は全米6万6000の水道システムが対象となる。水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定し、情報を公開するよう求める。基準を超えるPFASが測定された場合、5年以内に削減するよう対応を求める。EPAは、新基準に対応が必要となる水道システムを全体の1割程度と推定している。対応費用は全体で年間およそ15億ドル(約2300億円)と見積もった。EPAは新規制で「PFASにさらされる人が約1億人減り、数千人の死亡を防ぎ、数万人の重篤な病気が減る」と理解を求めた。水道を運営する州や自治体に対し、PFAS検査や対応を支援するため約10億ドルを提供する。水道事業者が加盟する非営利団体の米国水道協会(AWWA)は声明を出し「公衆衛生を保護する強力な飲料水基準を支持する」と規制の設定に支持を表明した。新基準に対応するための費用負担はEPAの試算値の「3倍以上になる」と指摘し、多くの地方で水道料金の値上げにつながると懸念を示した。バイデン政権は2021年の発足以来、PFASの規制強化に取り組んできた。EPAは21年10月、飲み水や産業製品、食品などに含まれるPFAS量を調べたり、飲料水の安全基準を引き上げたりするなど3年の工程表を公表した。毒性が強い6種類のPFASを有害物質に指定し、規制の枠組みづくりを進めてきた。直近ではPFAS汚染に企業の責任を問う動きも広がる。23年には、公共水道システムのPFAS汚染の責任を問う訴訟で、製造元の米化学大手スリーエムとデュポンが相次いで巨額の和解金の支払いに合意した。
▼有機フッ素化合物「PFAS」 4700種を超える有機フッ素化合物の総称。数千年にわたり分解されないため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水や油をはじき、熱に強いなどの便利な性質から、消防署で使う消火剤や、フライパンの焦げ付き防止加工まで、幅広い産業品や日用品に使われてきた。PFASのうち「PFOS」と「PFOA」は毒性が高いとされている。自然界に流出すると、土壌に染み込むなどして広範囲に環境を汚染する。環境省が国内の河川や地下水への含有量を調べた結果、2022年度は東京、大阪、沖縄など16都府県の111地点で国の暫定目標値を超えていた。沖縄県では過去にも米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されており、健康被害への不安が根強い。

*3-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1365559 (佐賀新聞 2024/11/29) 2割の水道でPFAS検出、46都道府県、332事業
 発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出されている問題を巡り、環境省と国土交通省は29日、水道水の全国調査結果を公表した。2024年度に富山県を除く46都道府県の332水道事業でPFASが検出された。検査を実施した全国1745水道事業の2割に相当する。PFASに特化し、小規模事業者にも対象を拡大した大規模調査は初めて。PFASの代表物質PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という国の暫定目標値を超えた水道事業はなかったが、岩倉市水道事業(愛知県)と新上五島町水道事業(長崎県)、むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出された。調査は5月下旬から9月下旬に実施。対象は給水人口が5千人超の上水道や101~5千人の簡易水道など。浄水場の出口水や給水栓から出る水の水質を調べた。社宅などで使用する専用水道は現在集計中のため今回の発表に含まれていない。現在は暫定目標値を超えても水質改善などの対応は努力義務にとどまる。浅尾慶一郎環境相は29日の閣議後記者会見で、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げし、対応を法的に義務付けるかどうか25年春をめどに方向性を示すとした。今回調査では「水道法上の測定義務がない」として20年度以降、一度も検査を実施していない水道事業が一定数確認された。20~23年度に暫定目標値を超えた事業数は20年度は11、21年度は5、22年度は4、23年度は3と低減傾向だった。国交省は高濃度で検出された事業者向けに、国内12カ所で実施されたPFASの対応事例集を公表した。PFASは近年、日本水道協会の水道統計でも検査項目の一つとして調べられているが、対象は規模の大きい水道事業などに限定。今回は小規模な簡易、専用水道にも対象を広げた。有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。1万種類以上の物質があるとされる。耐熱や水、油をはじく特性から布製品や食品容器、フライパンのコーティングのほか、航空機用の泡消火剤に使われてきた。有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となっており、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが21年に輸入や製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された。

*3-4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16097877.html (朝日新聞社説 2024年12月3日) 水道PFAS 実態と影響 調査続けよ
 健康への影響が懸念される有機フッ素化合物(総称PFAS〈ピーファス〉)について、水道水の全国調査が公表された。直近では、国の目安である「暫定目標値」を超えた例はなかったが、昨年度までは超えていた例もあり、その大半の汚染源は特定されていない。安心して水道を使い続けられるよう、検査や影響の調査を継続しなければならない。国による水道水の全国調査は初めて。環境省と国土交通省が20~24年度の水道事業者など3755事業の検査状況をまとめた。20~23年度は計14事業で暫定目標値を超え、一方で今年度は9月末時点までで検査した1745事業で暫定目標値超えはなかった。比較的小規模な専用水道は集計中で後日、公表する。PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた。自然界でほとんど分解されず、生物に蓄積する恐れがある。沖縄の米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や、各地の工場周辺でも検出されてきた。それ以外でも、「思いがけない所から検出された例もある」と専門家は指摘する。岡山県では、使用済みの活性炭が置かれた場所が発生源と考えられた。検査を実施していない事業者は、取り組みを始めることが求められる。今回の結果について、環境省は、水源の切り替えなどの対策の効果があったと評価する。検出された例でも対策で目標値以下にすることができた。国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかけていく。検査と対策を進めれば、水道の安全性は高まる。住民への結果の速やかな公表は信頼関係を損なわないために不可欠だ。検出状況に応じて、健康調査などの対応を検討する必要もあるだろう。汚染があった自治体では、水源の井戸の一部使用停止や新たな水源の確保などを進める。血液検査を始めた自治体もある。沖縄県金武町では約3億円かけて新たな送水管を整備した。国は、検査や除去に関して財政や技術面で自治体を支援し、PFASでどんな健康への影響があるのか、調査と研究例の収集を進めてほしい。暫定目標値は、水質基準と違って公表や超えた場合の改善の義務はない。環境省は水質基準にすべきか検討を続けている。過剰な対策は混乱を招きかねないが、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整えなければならない。どんな制度が望ましいのか、国民が安全な水を安心して使えるよう探るのが国の責務だ。

<国際学力調査から>
PS(2024年12月6日追加): *4は、①2023年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)で、算数・数学・理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は小4理科で国際平均を上回ったが、それ以外は下回った ②文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている ③小4は、「楽しい」が算数は前回より7%減の70%・理科は2%減の90%で、「得意」が算数は9%減の56%、理科は5%減の81%  ④中2は、「楽しい」が数学で4%増の60%、理科は横ばいの70%で、「得意」が数学で1%減の39%、理科が2&減の45%となった ⑤理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った ⑥「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差 としている。
 学問は、ドラマや漫画と異なり、その場で「楽しい(満ち足りて愉快な気持ち)」と感じるよりは、(やり方によるが)やっているうちに面白さ(興味をそそられ心引かれること。例:仕事が面白くなった)がわかってくるものであるため、記事のうち「楽しい」の部分と増減部分を除くと、小4では、③のように、「算数が得意」としたのは56%、「理科が得意」としたのは81%で、中2では、④のように、「数学が得意」がとしたのは39%、「理科が得意」としたのは45%と、学年が上がるにつれて「得意」の割合が下がっている。
 これは、①のように、小4理科のみで国際平均を上回り、それ以外は下回ったという結果であり、②のように、文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としているが、苦手意識は学校だけではなく、メディアはじめ社会や家族からも発信されており、子どもは大人の真似をしながら成長し、成長に伴って大人の影響を大きく受けていくため、教師だけでなく、社会人を変える必要があるのだ。
 その証拠は、⑤⑥のように、理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%であるのに対し、中2数学では男子49%、女子28%と大きな差になっていることだ。そして、そうなる理由は、「女の子は理数系は苦手」「女の子は勉強が苦手と言わなければ生意気」「成長すれば、どうせ男の子に負ける」等々、周囲から苦手意識を促すようなことばかり言われて育つからである。私の場合は、社会からはそう言われて育ったが、家族が違ったのだ。
 しかし、いつも感じるのは、TIMSSは中学生までの学力しか調査していないことであり、高校2年生と大学2年生の学力も調査すべきだ。そうすれば、高校で文系と理系を分けている日本の理系学力は驚くほど低く、大学2年生ではさらに低くなるため、OECDでもG20でも最下位に近くなって、教育システムや教え方に関する良い反省材料になると思うのである。


2024.12.6西日本新聞 2024.12.4Goo        2024.9.23Coki

(図の説明:左図は、TIMSS2023の順位と平均得点で、小学4年は算数5位・理科6位、中学2年は数学4位・理科3位と上位にいるが、高校・大学での調査はなく、こちらの方が悪そうだ。また、中央の図は、小学4年と中学2年の数学・理科に関する得意度で、学年が上がると男子の方が女子よりも[得意]と答えた人の割合が上がる。右図は、日本が直面している教育システムの課題について聞いたもので、どの世代も「教員教育の不十分」「時代遅れのカリキュラム」「公的資金の不足」を挙げているのは尤もだが、世代によって割合が異なるのは興味深い)

*4:https://news.goo.ne.jp/article/kyodo_nor/nation/kyodo_nor-2024120401001406.html (Goo 2024/12/4) 平均より上、小4理科のみ 「勉強は楽しい」「得意」の割合
 2023年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)によると、算数・数学と理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は、小4理科で国際平均をそれぞれ6ポイントと16ポイント上回ったものの、それ以外は4〜11ポイント下回った。文部科学省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている。小4では、「楽しい」の割合が算数で前回より7ポイント減の70%、理科は2ポイント減の90%。「得意」は算数が9ポイント減の56%、理科は5ポイント減の81%だった。中2は、「得意」が数学で1ポイント減の39%、理科が2ポイント減の45%、「楽しい」は数学で4ポイント増の60%、理科は横ばいの70%となった。理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った。「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%。「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差があった。

<カネと不倫で足を引っ張るえせ“民主主義”について>
PS(2024年12月7日追加):*5-1-1のように、2024年10月の衆議院議員選挙後に議員数を4倍に増やして“103万円の壁”を突破すべく交渉していた国民民主の玉木代表は、*5-1-2の不倫問題をきっかけとして3カ月間の役職停止処分となった。国会議員・公務員はじめ各界のリーダーになろうとする人は、他の人が身辺を粗探ししても何も出ない生活をしておく必要があるため、「玉木氏は脇が甘すぎた」とは言える。しかし、「処女」「やまと撫子」などの言葉は死語となりつつあり、メディアにおける性の不道徳は不潔で見ていられない程であるのに、玉木氏やトランプ氏の不倫を批判した人たち自身は批判する資格があるのかを私は問いたい。何故なら、民主主義は、政策論争をする限りは有意義だが、個人が聖人のような生活をしてきたか否かに関して粗探しする場になると時間を空費し、独裁主義の方がよほど効率的になるからである。
 また、*5-2-1・*5-2-2・*5-2-3のように、韓国の尹大統領が12月3日夜に、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言されたことには私も驚いたが、尹大統領の「非常戒厳宣言」のおかげで世界中が現在の韓国が置かれている立場を理解したと言える。その「非常戒厳宣言」は、与野党や市民の強い反発で12月4日未明には解除が表明され、その後、韓国与党「国民の力」の韓代表が、尹大統領の「速やかな職務執行停止」を要求したり、野党が尹氏の弾劾訴追案の可決に向けて与党の切り崩しを図ったりしている状況だそうだ。
 しかし、そもそも尹大統領が選挙で大敗し、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が予算案や法律案の通過を次々と阻止して政治の停滞を招く結果となった原因には、i)2023年12月、韓国の国会が尹大統領の妻が株価操作事件に関与したとして「特別検察官」を任命する法案を可決し、尹大統領が2024年1月に拒否権を行使したこと ii) 尹大統領の妻が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる(くだらない)疑惑をかけられ、韓国ソウル中央地検は10月2日に「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」という理由で不起訴処分としたこと 等々、本人の人格否定ができなければ妻の人格を否定すべく粗探しをして中傷に結びつける民主主義とはかけ離れた人権無視の態度があったと思う。さらに、韓国では、大統領になると次は監獄に行くという事態が続いており、このような形で司法が活躍する社会は、とても民主主義国家とは言えないのである。

*5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSCW342QSCWUTFK00FM.html?comment_id=30148&iref=comtop_Appeal4#expertsComments (朝日新聞 2024年11月27日) 「全国の女性を敵に回した」と憤る連合 玉木氏が不倫問題で謝罪
 国民民主党の玉木雄一郎代表は27日、党の支援組織である連合の芳野友子会長と国会内で会談し、自身の不倫問題について「期待と信頼を裏切る結果になったことに心からおわびを申し上げたい」と謝罪した。芳野氏は会談後、記者団に「信頼回復に向けご努力をいただきたい」と述べ、玉木氏の進退については「ご本人が考えることだ。その考えを尊重する」と語った。ただ、不倫問題に対し、連合内では「参院選に影響が出る。全国の女性を敵に回した」との厳しい声も出ている。会談では来年夏の参院選に向けた対応も協議。国民民主、立憲民主党に連合を加えた3者で、原発を含むエネルギーなどの基本政策について協議していくことを確認した。

*5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/352e4eb116d971b16a0a59108237a6445e9718de?page=1 (Yahoo 2024/11/15) 玉木代表の不倫相手“元グラドル”を男性は絶賛、女性は同情…のワケ。「あふれ出るB級感に悲しみを感じる」
 11月11日、国民民主党の玉木雄一郎代表(55)が、香川県の高松市観光大使を務めるタレント・小泉みゆき(39)と不倫関係にあることが、週刊誌『FLASH』の電子版『SmartFLASH』により報じられた。10月27日に投開票が行われた衆議院選挙で28議席を獲得するなど大躍進を見せた国民民主党。その立役者である玉木代表のスキャンダルに多くの有権者から失望の声が寄せられている。ただ、今回の不倫報道にSNSでは玉木バッシングだけではなく、もう一つ別の角度からの声が少なくない。それは不倫相手の小泉の容姿に言及するものだ。そういったコメントを見ていると、男女で意見が大きく異なっている印象を受ける。男女間で小泉に対する声がどのように違うのか考えたい。
●男性からは「この人相手なら、不倫するのも仕方ない」と絶賛も
まず男性の意見は小泉の容姿を絶賛する傾向が強い。目元が大きく、サラサラした髪が特徴的な顔に好感を示す声は少なくない。また、スキャンダルが報じられた記事内では、ボディラインがはっきりと見えるパツパツの服を着た小泉の写真が何枚も添付されており、その妖艶な身体つきに「不倫するのも仕方ない」と玉木の不倫を肯定する声もかなり寄せられていた。小泉があまりに“エチエチ”すぎたがゆえに、玉木の情状酌量を訴える人が続出しているが、実際のところ小泉が男性に魅力的に映るのは理解できる。やはりボディラインがまるわかりの服を着ていると、否応なしに男性の性的興奮を高める。クリクリした目元も“小動物感”を演出しており、男性の支配欲・守ってあげたい欲をより一層駆り立てている印象。小泉は現在39歳ではあるが、そのファッションセンスはとても幼い。どことなく“痛さ”を覚えるが、「痛い」は「天然」「ドジっ子」と変換できる。虚栄心の強い男性からすれば、そういったデメリットを持つ女性のほうが好都合。“自分の思い通りに支配しやすい女性”と想起させ、むしろ安心感を与えるのだろう。隙が多い女性がモテるのはそういった背景が大きい。男性が小泉に惹かれるのも無理もない。
●女性からは「あふれ出るB級感」「権力者に遊ばれて気の毒」
一方、女性のものと思われる声を見てみると、小泉の容姿には否定的。年齢不相応のファッションセンスに嫌悪感を示す人ばかり。中には、40歳手前であるにもかかわらず、腕時計をはじめとしたアクセサリーを身に付けている写真が一切ないことに懐疑的な見解を示す“観察眼の鋭い人”から声も見られた。実際のところ、女性は小泉のビジュアルをどのように捉えているのか。取材するとパンチの利いた声が集まった。「一部でバッシングされてますけど、単純に『容姿に嫌悪感』というより、なんていうか、あふれ出るB級感に悲しみを感じるんですよね。39歳ではもうレースクイーンなどの稼業は無理、これといったキャリアもなくて、玉木程度のショボい権力者に遊ばれて、お飾りのような『観光大使』の職まで奪われそうになっている」(40代女性)。「あのパツパツのTシャツも膝上30センチくらいのミニスカも、今のトレンドとは真逆だし、街で振り返られるぐらい珍しい。いまもその土俵で勝負せざるを得ないのが悲しいです。 でも、手が届きそうな感じがあるほうが、男性はグッとくるのもわかります。本人もわかってやってるはずですよ。あのお顔とボディなら、もっとステキになれるはずなのに」(50代女性)。
●“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い
「もし小泉さんが自力で何かをなしとげていて、生き生きして、自分の好きなものを着てるなら、40でも50でもミニスカでステキに見えますよ。でも、そうじゃないことに、世の女性は気づいてしまっているんです」(50代女性)。各女性の言い分から察すると、今回のスキャンダルを“小泉が男性ウケに振り切ったがために起きた悲劇”と捉えており、“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い。たしかに小泉の容姿を否定しつつも、小泉の“軌跡”を想像して憐れむ声が散見される。つまりは、「男性は容姿に対する表面的な感想」「女性はその容姿から想像される小泉の生き様に関するお察し」に大きく分類できそうだ。
●“不倫両成敗”ではない、女性だけが割を食う哀しさ
男女の見解が異なる背景が見えてきた。ただ、まだまだ釈然としないことがある。今回のスキャンダルを受け、小泉は自身のX、Instagramなどのアカウントを削除。小泉が19年12月から香川県高松市観光大使を務めてきたが、各メディアの取材に対して高松市は「解職も含め検討している」と回答している。また、7年前に退社したものの当時所属していた芸能事務所には小泉の公式プロフィールが残っていたが、12日までにそのページは削除された。小泉は窮地に追い込まれている中、玉木は代表の座を降りずに続投する見通しだ。小泉と同じように玉木も何かしらの責任を取るべきではないか。玉木が今後どのような対応を見せるのかも注目したい。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241207&ng=DGKKZO85315040X01C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.7) 尹氏停職、与党代表が要求 狭まる包囲網、弾劾案採決へ 国防省、司令官の職務停止
 韓国与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は6日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「速やかな職務執行停止」を要求した。野党は尹氏の弾劾訴追案の可決に向け与党の切り崩しを図る。尹氏への包囲網が狭まってきた。韓国メディアによると、最大野党「共に民主党」は弾劾案を7日午後5時に採決したい考えだ。国会は弾劾案を8日未明までに議決する必要がある。韓氏は6日の党会議で、尹氏が軍の防諜(ぼうちょう)司令官に主要政治家を逮捕するよう指示した事実があると説明した。「信頼できる根拠を通じて確認した。政治家を逮捕し、収監しようとする具体的な計画も把握した」と述べた。国家情報院の次長は6日、逮捕リストに韓氏や野党の代表らが含まれていたと国会議員に明らかにした。韓氏は国会議員ではなく、弾劾案への投票権はない。韓氏が尹氏を批判する一方、与党内には尹政権を形だけでも維持し、大統領選までの時間を稼ぐべきだとの意見もある。大統領が弾劾となれば次期大統領選で不利な立場に置かれるとの懸念が渦巻く。与党は6日、断続して議員総会を開いた。党の報道官は同日深夜、弾劾案に反対するという党方針を維持すると明らかにした。7日午前9時に議員総会を再招集するとしている。与党の指導部から尹氏に党内の意見を伝え、尹氏は「議員の話の意味をよく傾聴し、よく考える」と応じたと説明した。与党側は尹氏の対応を見極めているとみられる。聯合ニュースによると、韓氏は6日の尹氏との会談後、党所属議員に「私の判断を覆すほどの言葉は聞いていない」と話したという。与党が弾劾案に反対すれば世論の批判は免れず、造反票が出るかが焦点になる。所属議員の安哲秀(アン・チョルス)氏は尹氏が退陣しないなら弾劾に賛成すると明言した。弾劾案の可決には国会(定数300)の在籍議員の3分の2に当たる200議席以上の賛成が必要となる。108議席を占める与党「国民の力」から8人以上の賛成が要る。警察と検察の当局は6日、非常戒厳を巡ってそれぞれ特別捜査体制を組んだ。警察は120人あまりの専門捜査チームで本格捜査に着手。検察は軍の検察機関と合同で捜査にあたる。国防省は6日、非常戒厳に関わったとされる陸軍の首都防衛司令官、特殊戦司令官、防諜司令官の3人の職務を停止したと発表した。それぞれ別々の場所で待機措置とし、各司令部に職務代理を置いた。国会は終日、騒然とした状況が続いた。午前には野党の政治家や支持団体が集まり、尹氏の弾劾を求めて声を上げた。尹氏は4日未明に非常戒厳の解除を宣言して以降、公の場に姿を見せていない。「尹氏が2度目の非常戒厳宣言を出す可能性がある」といった報道も緊張を高めた。3日の非常戒厳を巡る軍の動きは金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相が指示を出したとの証言がある。国防相の職務を代行している金善鎬(キム・ソンホ)国防次官は「もし戒厳発令の要求があっても、国防省と合同参謀本部はこれを絶対に受け入れない」と明言した。禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は「第二の非常戒厳は許されない。万が一誤った判断があったら国会議長と国会議員はすべてをかけて阻止する。軍と警察は憲法に反する不当な命令に応じずに、制服を着た市民としての名誉を守ってほしい」と呼びかけた。

*5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASSD40D5RSD4UHBI00QM.html?iref=pc_extlink&_gl=1*iw58rc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年12月4日) 尹大統領とは何者か 酒豪の親日家、検察出身で「友達人事」に批判も
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言した。だが、与野党や市民の強い反発を受け、一転、4日未明に解除を表明する事態に追い込まれた。尹氏とは一体、どんな人物なのか。尹氏は1960年、ソウル生まれ。検察トップの検事総長だった2020年12月、捜査妨害や政治的中立性違反などの疑いで、当時の文在寅(ムンジェイン)政権の法相から懲戒処分を受けた。有力な政治指導者がいなかった保守勢力が、「反文在寅の象徴」として尹氏を担ぎだし、22年3月の大統領選では僅差(きんさ)で勝利した。尹氏は政治家としての経験がないため、当初から人脈や指導力が不安視されていた。閣僚や政府高官に次々と検察出身者や大学時代の旧友らを起用した。各国の大使や有力政治家が出席した22年5月の大統領就任式には、検事総長時代にソウルの日本大使館に勤務していた検事を招待し、周囲を驚かせた。
●妻の疑惑に拒否権を行使したことも
 強大な人事権を握る韓国大統領は「王様と帝王を合わせたような権力者」(元大統領府高官)とされる。関係筋によれば、尹氏がある日、側近の閣僚にソウル大学当時の旧友の近況を尋ねた。側近はすぐ、この旧友に連絡を取り、政府関係機関のトップとして起用したという。こうした忖度(そんたく)ともいえる空気が非常戒厳を宣言する背景の一つにもなったと言える。親しい人物を重用する政治の極みが妻、金建希(キムゴニ)氏の存在だった。韓国の国会は23年12月、金氏が株価操作事件に関与した疑いで「特別検察官」を任命する法案を可決したが、尹氏は今年1月、拒否権を行使した。世論の不満が高まり、支持率が2割を切る事態に至り、尹氏は11月の記者会見で陳謝する事態に追い込まれていた。韓国では若者の就職難や不動産価格の高騰などから、政治に対する不信感が増大している。国会で過半数を握る最大野党・共に民主党が、予算案や法律案の通過を次々と阻止し、政治の停滞を招いたことも一因だが、世論の不満は尹氏の「わかりやすい独断政治」に向けられる事態になっていた。
●岸田氏と夜遅くまで酒を飲み交わした
 尹氏は親日家としても知られる。就任直後には、新型コロナウイルスの感染拡大で停止していた羽田・金浦両空港の直行便再開を指示。日本企業に賠償支払い命令が出ていた徴用工問題でも、韓国側が賠償金相当額を肩代わりする解決策を発表。冷え込んでいた日韓関係の急速な改善につなげた。日韓外交筋によれば、石破茂首相が来年1月上旬に訪韓する際、「来年の日韓国交正常化60年を契機に、両国関係をさらに発展させる」ことで合意する方向で調整していたという。尹氏は酒豪でも知られる。23年3月、大統領就任後初めて日本を訪れた際、岸田文雄首相(当時)と遅くまで痛飲した。酒席が終わらず、金建希氏が声を荒らげて止めたという。ソウルでの日本政府関係者を招いた酒席では、お土産に持参された度数40度以上の芋焼酎をいきなり開封し、オンザロックで出席者とともに回し飲みしたとされる。野党側は、混乱を招いた責任を追及するとして、尹大統領に辞任を求めている。弾劾(だんがい)決議案の発議には国会(定数300)の過半数、決議には3分の2の賛成がそれぞれ必要。4月の総選挙で大勝した野党勢力は3分の2に肉薄する議席を確保しており、与党の一部が離反すれば、弾劾が決議される可能性もある。与野党は世論の動向を注視したうえで、今後の方針を判断するとみられるが、低支持率の尹大統領の弾劾を求める声が高まる可能性が強い。非常戒厳に対する国民の反発は強く、決議されれば、最終的に憲法裁判所も弾劾を認める可能性もある。

*5-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSB233WBSB2UHBI022M.html?iref=pc_extlink&_gl=1*1qazrlc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年10月2日) 韓国大統領の妻、検察が不起訴処分に 高級ブランドバッグ授受疑惑で
 韓国のソウル中央地検は2日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の妻の金建希(キムゴニ)氏が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる疑惑をめぐり、不起訴処分(嫌疑なし)としたと発表した。理由について「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」としている。疑惑を追及してきた野党は反発している。金氏は知人の在米韓国人の牧師からバッグを受け取ったとして、請託禁止法違反などの疑いがもたれていた。検察は7月に金氏を事情聴取するなど捜査を進めてきた。金氏の疑惑をめぐっては、国会で多数を占める野党が主導して、政府から独立した特別検察官を任命するための法案を9月に可決したが、尹氏は2日、拒否権を行使した。進歩(革新)系最大野党・共に民主党は2日、尹氏が検察出身であることを念頭に「検察は大統領府が望む結論を出した」と批判した。金氏の疑惑は「金建希リスク」と呼ばれ、尹氏の支持率低迷の理由の一つとされている。金氏はドイツ車の輸入販売会社の株価操作に関与したとされる疑惑ももたれており、検察は捜査を続けている。

<政治雑感>
PS(2024年12月8日追加):*6-1-1のように、6階建マンションの最上階にある猪口邦子参院議員宅から出火し、国際政治学者で東大名誉教授の夫孝氏と長女が亡くなった。しかし、i)最初のテレビの画像では何かが爆発したような燃え上がり方だった ii)出火原因が特定されないのに事件性はないとされた iii)最初は台所からの失火と言われたが、燃え方が激しかったのは応接室だった iv)事件性は外部から侵入して油をまくことに限っている 等の不自然さがあってすっきりしない。猪口氏は、私と同期の2005年の郵政解散で衆議院議員となり、2005年に内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)になられ、私の提言も受けて少子化対策を行って、その結果、合計特殊出生率は2005年の1.26から2015年は1.45まで上がった。少子化の真の原因は、*6-1-2に纏められているとおりだと思うが、2016年以降に合計特殊出生率が下がり始めたのは、物価上昇による生活費の高騰、都市部マンションの高騰、高齢になった時の準備、教育費の高騰など、多くの子を育てる費用を捻出できなくなったことが原因であろう。
 また、*6-2のように、仙台市秋保地区周辺のメガソーラー建設計画については、地元の町内会や温泉組合など10団体が、景観悪化や森林伐採による土砂崩れの懸念のため、郡和子市長に建設中止を要望されたそうだ。私も、自然豊かな景観を悪化させたり、土砂崩れのリスクが増したりするだけでなく、CO₂の吸収源自体を失うことになるため、森林を伐採してメガソーラーを建設するのは止めた方が良いと思う。そのため、これまで作ったメガソーラーも下を放牧地等にして二重に利用したり、今後メガソーラーを作るとすれば農地に併設する形で作ったりし、森林に設置するのは風力発電機にした方が良いと思うわけである。
 さらに、*6-3のように、佐賀平野のクリークののり面劣化が進んでいたため、全703kmの護岸工事を進め、県は東西を走る「横幹線」や支線など約580kmを担当して木柵による護岸工事を行い、国は南北を走る「縦幹線」約170kmを担当して植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどして整備しているそうだ。整備が進めばクリークの貯留容量が増えて災害対策効果向上が期待できるのは良いことだが、せっかくクリークの整備を進めるのなら、水をたたえたクリークのある風景は希少で美しいため、両岸に水をよく吸って根が張り、桜のような花が咲くアーモンドを植えると、公園以上の田園風景になるのに、と思った。


  2023.3.1東京新聞    2023.5.3日経新聞       Zehitomo

(図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で、2005年に最低の1.26を記録してから2015年の1.45までは上昇した。また、中央の図は、合計特殊出生率の推移のみを大きな縮尺にして表したもので、同じ結果が出ている。それでは、生産年齢人口が不足するのかと言えば、右図のように、75歳までを生産年齢人口と考え、それと同時に機械化も進めれば、年金問題と同時に当面の解決はできそうだ)

    
     地域の礎       横尾土木(株)     2024.12.7佐賀新聞

(図の説明:左は、有明海を干拓して農地を広げた筑後川流域の航空写真で、クリークが不規則に曲がりくねっているため、大型機械が入りにくいとのことである。そこで、中央のように、まっすぐにしてクリークを広げ、木材やコンクリートでのり面を補強しており、右は植生を妨げないコンクリートで補強したところだが、水をたたえたクリークのある風景は少ないため、せっかくなら両岸に水をよく吸って根が張るアーモンド《花は桜と同じ》を植えると、さらに美しい田園風景になりそうだ)

*6-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/370859 (東京新聞 2024年12月1日) 「事件性はなく失火」か…猪口邦子参院議員宅、出火原因は未特定 死亡は夫・孝さんと長女と確認
 東京都文京区にある自民党の猪口邦子参院議員(72)の自宅マンションで2人が死亡した火災で、警視庁捜査1課は1日、死亡したのは夫で国際政治学者の孝さん(80)と、長女(33)と判明したと発表した。いずれも死因は焼死だった。出火原因は特定されていないが、事件性はなく失火とみられる。同課は、特に燃え方が激しかった応接室から出火したとみている。室内にストーブはなく、ライターなどの着火物もなかった。外部から人が侵入した形跡や、室内に油をまいた跡も確認されなかった。死亡した2人は台所付近で倒れているのが見つかった。火災は11月27日午後7時10分ごろに発生。6階建てマンションの最上階150平方メートルが全焼した。一家は4人暮らし。猪口氏と次女は外出中で無事だった。28、29日の2日間にわたり実況見分が行われていた。死亡した孝さんは政治学や国際関係論が専門の東大名誉教授。

*6-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD180MY0Y4A111C2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 少子化の真の要因は何か 近藤絢子・東京大学教授(1979年生まれ。東京大経卒、コロンビア大博士(経済学)。専門は労働経済学)
○80年前後に生まれた女性の出産数は微増
○背景に出産後も就業継続できる環境整備
○足元の出生率低下は固定観念離れ分析を
 少子高齢化は日本経済が直面する最大の課題の一つである。選挙のたびに少子化対策が焦点になり「若年層の経済状況の悪化が少子化の元凶である」「若年層の雇用を安定させ、収入を増やせば子供は増える」との主張が繰り返される。若年層の経済状況の悪化と少子化を結びつける議論は、1970年代前半生まれの第2次ベビーブーマー世代が30代を迎えた2000年代ごろから盛んになった。バブル崩壊後の「就職氷河期」によって若年層の収入が減り、非正規雇用が増えたことで少子化が加速しているという論調だ。たしかに第2次ベビーブーマー世代が大学を卒業するころに就職氷河期が始まり、彼らの出産適齢期に第3次ベビーブームと呼べるほどの出生数の増加が起こらなかったのは事実だ。以来、就職氷河期世代が子供を持てなかったために少子化がさらに進行したというのが通説となっている。しかし未婚化・少子化の傾向は氷河期世代が生まれる1970年代からすでに始まっていた。90年代以前は、女性の社会進出が進んで結婚・出産に伴う機会費用が上昇したことが少子化の主な要因とされてきた。事実、バブル期も合計特殊出生率は下がり続けていた。そして第2次ベビーブーマー世代より就職状況の悪かった80年前後生まれの世代では、むしろ出生率は下げ止まっていたのだ。
◇   ◇
 図は、人口動態統計(厚生労働省)の母親の年齢別出生数と国勢調査(総務省統計局)の各歳別人口を用いて、生まれ年別に1人の女性が35歳及び40歳までに産んだ子供の数の平均を示したものだ。就職氷河期世代を「1993年から2004年の間に高校や大学を卒業した世代」と定義すると、生まれ年で1970〜85年生まれに相当し、第2次ベビーブーマーはその最初の5年間にあたる。確かに66年生まれの女性に比べると70〜85年生まれの女性が産んだ子供の数は少ない。しかし出生数の減少は主に66〜70年生まれの間で起きていて、40歳時点の平均出生児数は70年代前半生まれ、35歳時点は76〜77年生まれを底にわずかながら増加に転じている。最も景気が冷え込んでいた2000年前後に大学を卒業したのは1970年代後半生まれ、高校を卒業したのは80年代前半生まれだ。彼女たちはその上の世代よりもさらに厳しい雇用状況にさらされてきたはずだが、1人当たりの出生数は下げ止まっていたのだ。なぜ、この世代で1人当たりの出生数は下げ止まったのだろうか。おそらくは育児休業の期間や育児休業給付金の拡充、保育施設の整備、社会規範の変化などによって、出産後も仕事を続けられるようになったことが大きいのではないか。単なるタイミングの一致を因果関係と解釈することには慎重であるべきだが、若い世代ほど既婚女性の就業率や正規雇用比率が高いのは事実だ。労働力調査(総務省統計局)で1960年代後半生まれと80年代前半生まれを比べると、大卒既婚女性の30歳前後(卒業後7〜9年目)の就業率と正規雇用比率はそれぞれ8.2%ポイントと7.4%ポイント上昇した。他の学歴でも、卒業後7〜9年目の既婚女性の就業率は上昇している。背景には、第1子出産前後での就業継続率の上昇がある。出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、女性が第1子出産後も就業継続する割合は、85〜99年に出産した女性は24%程度で横ばいだったのが、2000年代に入ると上昇し始め、10〜14年には42%、直近の15〜19年では54%に達した。2000年代は、1970年代生まれが30代を迎える時期に相当し、既婚女性の就業率や正規雇用割合が上昇した時期と一致する。もう一つ無視できない要因として、体外受精をはじめ高度生殖医療の普及があるかもしれない。国による不妊治療の助成は2004年に開始され、22年の保険適用に至るまで段階的に拡充された。35歳時点と40歳時点の平均出生児数の差が拡大していることから、30代後半での出産数が増えていることが分かる。ここに高度生殖医療の普及が影響していた可能性がある。もっとも35歳までに産む子供の数への影響は限定的なので、出産後も仕事を続けられる環境整備が寄与した部分は大きいのではないか。2010年代は認可保育所の待機児童が問題となったが、保育所のキャパシティー自体は継続的に拡大していた。それに追いつかないほど就業を続ける母親が増えたことが、待機児童が増えた原因だったのだ。
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 ただし世代内の格差という視点で見ると、経済的に安定している方が子供を持ちやすいことも事実だ。昔から男性は経済力のあるほうが結婚し子供を持ちやすい傾向があるが、近年は女性にも同様の傾向が見られ、しかも若い世代ほどその傾向が強まっている。かつては高学歴でキャリア志向の女性ほど、仕事と家庭の二択に直面して、子供を持つことを諦める割合が高かった。しかし社会規範が変化し共働きが増えると、家庭と両立できるような安定した仕事に就いている女性のほうが子供を持ちやすくなってきたのだ。経済力の指標として、学校を卒業してすぐに正社員の仕事に就いた女性とそうでない女性を比較してみよう。卒業後すぐに正社員にならなかった女性は20代のうちはむしろ既婚率や子供がいる割合が高いものの、これはおそらく因果が逆で、若年妊娠の結果、就職する前に結婚・出産をする女性がいるためだろう。30代に入ると逆転し、正社員だった女性の方が既婚率が高く子供の数も多くなる。学歴別で見ても、30歳代後半以降で同じ世帯にいる子供の数は、大学卒ではやや増加傾向にあるが、高校卒では減少傾向にある。かつては大卒の女性は高卒の女性よりも結婚や出産をしない傾向があったのだが、ちょうど1980年前後生まれのあたりで大卒と高卒の子供の数が逆転した。こうした経済力による世代内格差の出現が「雇用の不安定化が少子化を招いている」という印象につながっているのかもしれない。世代内の経済格差が子供を持てるか否かにまで影響すること自体は看過できない問題だ。しかし近年再び出生率が急激に下がってきている原因は別のところにあるのではないだろうか。近年は人手不足から若年の実質賃金は相対的には上がっている。保育所にも余裕が出てきて育児休業の取得率も上がっているのに少子化は加速しているのだ。新型コロナウイルスによる行動制限で若い男女が出会う機会が失われたことや、医療へのアクセス不安から妊娠を控えた影響もあるだろう。しかし出生率の低下はコロナ禍の前から始まっており、行動制限がほぼなくなった23年以降も回復する兆しがみられない。都市部のマンション高騰、高齢化に伴う将来不安、過熱する教育投資など考えられる要因は幾つかある。何がいま出生率を下げているのか、一度固定観念から離れて考える必要がある。

*6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC248BG0U4A021C2000000/ (日経新聞 2024年10月24日) 仙台・秋保でメガソーラー計画 住民らが市長に中止要望
 仙台市の秋保地区周辺での大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画を巡り、地元の町内会や温泉組合など10団体は24日、郡和子市長に建設中止を要望した。景観の悪化や森林伐採による土砂崩れなどが懸念されるためとしている。秋保小学区連合町内会によると、沖縄県の企業が約600ヘクタールの山林に太陽光パネルと蓄電池の製造工場と、メガソーラーを整備する計画で、3月に地権者向けの説明会を開いた。2027年5月に工事に着手し、31年4月の操業を予定しているという。同会の大江広夫会長は「秋保地区は里山や温泉に代表される自然豊かな地域だ。国の脱炭素の政策は理解できるが、つくる場所を考えてほしい」と話す。

*6-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1370316 (佐賀新聞 2024/12/7) 佐賀平野のり面劣化、護岸工事703キロ必要 クリーク補修81%完了 計画遅れも2028年完了見込み
 のり面の劣化が進んでいた佐賀平野のクリークに関して、整備事業が進展している。佐賀県が2011年に打ち出した翌年度から12年間の整備計画で、総延長約1500キロのうち護岸工事などが必要な区間703キロで、本年度までに約81%にあたる572キロで補修が終了した。若干の遅れはあるものの、一部をのぞき、28年までの事業完了を見込んでいる。県農山村課によると、土がむき出しののり面が水位の上下や浸食で崩落している場所が目立ち、貯水機能や営農に支障をきたすおそれがあった。県では東西を走る「横幹線」や支線など約580キロを担当し、木柵による護岸工事を行っている。南北を走る「縦幹線」約170キロは国が担当し、植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどしてのり面の整備を行っている。県が整備する13地区のうち、佐賀市西部、上峰、神埼市千代田中央の3地区で整備が完了している。残り10地区についても着々と整備が進み、範囲の広い佐賀市川副をのぞいた9地区で28年までの事業完了を見込んでいる。事業完了が12年間の整備計画期間からずれ込む見通しとなった要因としては、旧民主党政権時代の「事業仕分け」で「農業農村整備事業関係予算」が大幅減額となったことなどがあるという。民主党政権前の2009年は5820億円だったが、政権交代後の12年には2187億円まで落ち込んだ。クリークではここ数年、大雨対策で事前放流を行い、約1200万トンの洪水貯留容量を確保している。整備が進めば貯留容量も増え、災害対策への効果向上が期待できる。江口洋久課長は「クリークの事前放流が佐賀の風土として定着してほしい」と話した。

<日本のサイバー・セキュリティーについて>
PS(2024年12月9日追加):*7-1は、①能動的サイバー防御の法整備には一定の条件の下で通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要 ②政府は有識者会議の最終提言を踏まえて、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする ③有識者会議の最終提言は、通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載 ④通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提で、提言は定期的な報告書公表などの適切な情報公開の必要性を訴え、独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集する問題がないかを調べる機能を備えて、憲法や通信の専門家らで構成する見通し ⑤監視対象はi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報で、日本から海外への通信も監視するのはマルウエアに感染した国内サーバーがあるため ⑥「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要とし、メールの中身をすべて見ることは適当でないと明記 ⑦膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないため、検索条件等を絞り、機械的にデータを選別すべきと唱えた ⑧経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向けて協議に応じる義務を課し、使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエア情報の国への登録を義務づける制度も提案 ⑨電力・ガス事業者等がサイバー攻撃に遭うと国民生活への影響が大きいため、重点的に監視対象へ ⑩有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラ等への攻撃も重点 ⑪「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」とした と記載している。
 まず、EUは、個人の人権を大切にし保護する個人主義が根底にあるのに対し、日本は、「防衛や企業のため」と称すれば個人の人権を疎かにすることが許される集団主義・全体主義の発想が根底にあり、それがEUと日本の法律及び運用の違いとなって出て来ているのである。
 そして、日本国憲法は、敗戦後に欧米の指導で作られたため、②のように、「通信の秘密」が憲法に記載されているのだが、日本政府は、①のように、能動的サイバー防御の法整備には通信情報の監視が必要として有識者会議を設定し、その有識者会議は、③のように「通信の秘密は、法律により公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と提言している。そして、憲法との整合性をとるために、④⑪のように、透明性確保や憲法や通信の専門家らで構成する独立の第三者機関のチェックを加えたようだが、“独立の第三者”というのは、メンバーの選び方によってどんな結論でも出せることが、経産省設置の原発推進派だらけの有識者会議や原子力規制委員会の適合性審査を見れば明らかなのである。また、政府が設置した有識者会議は、⑤⑦のように、監視対象をi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報としているが、そもそもサーバーのウイルス感染対策は、それぞれのサーバーが行なうべきで、日本政府にやってもらうべきものではないし、⑥の「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」を見ていただく必要など全く無いのである。
 さらに、⑧⑨⑩のように、国民の重要なインフラを担っていたり、有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラは、サイバー攻撃だけではなく、複合災害や武力攻撃に対するセキュリティーもやっておくのが当然であるため、今更、サイバー攻撃に的を絞って政府が監視するというのは、政府が国民を監視するためのこじつけにしか見えない。
 次に、*7-2は、⑫政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行するEUと比べて限定的 ⑬EUは、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて問題点を幅広く捉える ⑭EUは、デジタル市場法(DMA)と同時に企業に違法コンテンツ排除や偽情報拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定 ⑮EUは、2018年施行の「一般データ保護規則(GDPR)」で、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護 ⑯日本は包括的法整備には至らず、個人データ保護は規制強化に反対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる ⑰EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く設定 ⑱課徴金水準も、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%としたのに対し、EU の制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)と巨額 ⑲日本の経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」とする と記載している。
 EUは、⑬⑭⑮のように、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて、デジタル市場法(DMA)と同時に「デジタルサービス法(DSA)」を制定し、「一般データ保護規則(GDPR)」によって「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護する。しかし、日本は、⑯⑲のように、包括的法整備はせず、規制強化に反対するIT業界に応えて、個人データ保護はEUから大きく遅れているが、経済官庁幹部は「企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」としているのである。
 その結果、⑫⑰のように、EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く限定し、⑱のように、日本の課徴金水準は、EUの制裁金と比較して著しく低い。実際、私は、週刊文春に嘘八百の記事を書かれ、その偽情報が検索サイト上位で拡散されたことによって選挙結果を歪められたのだが、訴訟で人権侵害や侮辱は認められたものの、損害賠償金額は普通の人なら「訴え損」と思う程度の低い金額で、「(女性である)私が一生かかって築き上げた人格に対する誹謗中傷の値段は、たったこの程度か、ふざけるな!」と憤りを覚えた次第なのである。なお、虚偽で他人を陥れる行為は“表現の自由”で護られる範囲にはならず、憲法21条の「表現の自由」の範囲も人権侵害・人格権の侵害・セクハラ等の範囲の進展とともに狭くなっているため、メディアはじめSNSが“表現の自由”を武器に「何を言ってもいいだろ!」と主張できる範囲は、これらを除く範囲であることを忘れてはならない。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241130&ng=DGKKZO85152850Z21C24A1EA1000 (日経新聞 2024.11.30) サイバー防御、「通信の秘密」と両立探る、監視データは選別/定期的に情報公開
 能動的サイバー防御の法整備には平時から通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要になる。政府は29日に有識者会議がまとめた最終提言を踏まえ、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする。提言は重大なサイバー攻撃への対策には一定の条件の下で通信を監視する必要があると提起した。通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載した。監視対象は(1)日本を経由する海外間(2)海外から日本(3)日本から海外――の通信情報を想定する。海外から海外の通信は日本の海底ケーブルを経由するものが多く、中国やロシアなど懸念国のサイバー攻撃に関する情報の入手が期待できる。日本から海外への通信も監視するのはマルウエア(悪意のあるプログラム)に感染した国内サーバーが踏み台となって国内外への攻撃に悪用される場合があるためだ。「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要だと整理した。メールの中身を逐一すべて見るようなことは「適当とは言えない」と明記した。膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないと記した。検索条件などを絞り、機械的にデータを選別すべきだと唱えた。攻撃の標的となりやすいインフラ事業者には事前に同意を得ておくべきだとの考えも示した。経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向け「協議に応じる義務を課すことも視野に入れるべきだ」と書き込んだ。電力・ガス事業者などがサイバー攻撃に遭った場合、国民生活への影響も大きいため、重点的に監視対象とする。有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラなどへの攻撃も重点を置く。基幹インフラ事業者が使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエアの情報の国への登録を義務づける制度も提案した。攻撃の兆候がある相手サーバーに入って無害化する手法は「状況に応じ臨機応変な判断」が必要と指摘した。「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」と盛り込んだ。通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提となる。提言は定期的に報告書を公表するなど適切な情報公開の必要性を訴えた。独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集するといった問題がないかを調べる機能を備える。憲法や通信の専門家らで構成する見通しだ。提言は官民の人材交流や中小企業への対策支援の重要性も説いた。すでに能動的サイバー防御を導入している英国や米国などは情報の取得や処理のプロセスを第三者機関が監視する仕組みをもつ。政府は海外事例を参考に制度設計する。

*7-2:https://mainichi.jp/articles/20240418/k00/00m/020/316000c (毎日新聞 2024/4/18) スマホ新法、EUに比べデジタル規制は「限定的」 日本が遅れる理由
 政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行する欧州連合(EU)に比べると限定的だ。EUは巨大IT企業のビジネスモデルの問題点をより幅広く捉えている。市場支配によって公正な取引がゆがめられるだけでなく、個人データの乱用や偽情報の拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えるためだ。EUはデジタル市場法(DMA)と同時に、企業に違法コンテンツの排除や偽情報の拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定した。また、2018年に施行された「一般データ保護規則(GDPR)」により、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護している。個人データは巨大ITのビジネスモデルの核心だ。日本はこうした包括的な法整備には至っていない。特に個人データ保護の面では規制強化に対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる。DMAは巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、今回のスマホ新法は規制対象の範囲をスマホアプリ市場と狭く設定した。また、課徴金の水準を見ても、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%と定めたのに対し、DMAの制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)とより巨額だ。EUにはデジタル分野でのルール作りを主導することで、米巨大IT企業が牛耳るデジタル市場での影響力を確保する狙いがある。実際にEUの規制によって巨大ITがサービスのあり方の変更を迫られる例が相次いでいる。一方、政府は今後もさまざまなデジタル規制を検討していくとみられるが、ある経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべきだ」と話す。

<マイナ保険証のセキュリティーについて>
PS(2024年12月10日追加):*8-1は、①12月9日から救急患者を受け入れた病院が患者の意識がなく同意がなくてもマイナ保険証で使用中の薬や持病など過去の医療情報を閲覧できるシステムを運用開始 ②救命率向上・治療後生活の質の向上に繋がる可能性 ③例えば心臓・脳の血管が詰まって倒れた救急患者は血液サラサラにする薬を飲んでいると出血を起こしやすいので正確な薬の情報が重要 ④厚労省が開発する新システムは医療者が過去5年分の患者の受診歴・処方された薬剤・診療・健診等の情報と過去100日分の電子処方箋情報等が閲覧可能 ⑤今後はマイナ保険証なしでも名前・生年月日・性別・住所の4情報がわかれば閲覧可能 ⑥消防庁もマイナ保険証を使って救急隊が患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備し119番通報した家族らに患者本人のマイナ保険証を準備しておくよう依頼 としている。
 また、*8-2・*8-3は、⑦政府は国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証廃止を閣議決定 ⑧2024年12月2日から新規の保険証発行ができなくなる ⑨2023年11月のマイナ保険証利用率は4.33% ⑩「何のメリットもない」「顔認証や暗証番号が面倒」「保険証で十分」が患者・国民の声で、世論調査では8割超が存続・延期を求める ⑪保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後に紐づけミス報告 ⑫医療現場でマイナトラブルは多岐 ⑬こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱するので、保団連は患者・国民、諸団体と保険証存続を求める取り組みを推進 ⑭2024年も健康保険証を使い続けることが保険証を残す最大の力 ⑮2023年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率は4.36% ⑯政府はキャンペーンで2024年5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせているが、2024年1月の国民のマイナ保険証利用率は4.60% ⑰推進側の国家公務員のマイナ保険証利用率も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印 ⑱マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を12月に廃止することは大問題 等としている。
 マイナ保険証の問題点について、保団連は、⑪⑫⑬のように、i)紐づけミスが多発していること ii)医療現場でのトラブルが多岐に渡ること iii)こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱する としているが、これらは導入初期のインプットミスと不慣れによるトラブルであるため、導入して時間がたてば解消していくものである。
 しかし、⑨のように、国民全体で利用率が4.33%と低い理由を明らかにしているのが、⑮⑰の国家公務員のマイナ保険証利用率がわずか4.36%と国民全体より低く、「マイナ保険証のメリット無し」という烙印を押していることで、現職国家公務員は、それでも「メリット無し」という柔らかな拒否感を示しているが、実際には被保険者にとってはディメリットの方が大きいのだ。
 そして、そのディメリットとは、マイナンバーカードに載ったマイナ保険証は、一枚のカードですべての情報にアクセスできるため、便利である反面、紛失や悪用が起こった場合には、すべての情報がリスクに晒されることである。従って、最善のセキュリティー対策は、1つのカードに情報を紐付けしすぎないことで、医療情報のように守秘義務を要する情報は、医療の専門家だけが見る保険証をネットワークで繋げば良く、①~⑥は、それで十分解決できる筈なのだ。
 では、政府は、何故、⑦⑧⑯のように、キャンペーンや217億円もの補助金を使ってまで保険証を廃止し、半強制的にマイナンバーカードに保険証を紐付けして、マイナ保険証に変更したがっているのかと言えば、まさに紐付けされたその情報を使いたいからである。例えば、所得と紐付けして公的医療保険でカバーされる割合を変えたり、特定秘密保護法・運転免許証等で特定疾患の患者を排除したりするための悪用で、公務員はそれを知っているためディメリットを感じているのであり、国民もまたうすうすそれを感じているから、⑩の結果になっているのだ。
 そのため、専門家集団である全国保険医団体連合会が保険証廃止に抗議するのであれば、⑭⑱のように、マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を廃止することは大問題として抵抗するのではなく、疾患に基づく差別や保険医療を受ける段階での(大したこともいない)所得差による負担割合の差の問題について、資料を添えて正攻法で抗議するのが良いと思う。

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSD435GVSD4UTFL01DM.html (朝日新聞 2024年12月6日)意識ない救急患者、マイナ保険証で医療情報を閲覧 病院で運用開始へ
 救急患者を受け入れた病院が、患者の過去の医療情報を閲覧できるシステムの運用が9日から始まる。患者の意識がなく、同意がとれなくても、保険証にひもづいたマイナンバーカード(マイナ保険証)があれば、患者が使っている薬や持病などを医療者が把握できるようになる。救命率の向上や、治療後の生活の質を上げることにつながる可能性がある。救急現場では、意識のない患者から得られる情報が乏しいことが、治療法を選ぶ上で大きな障壁になってきた。例えば、心臓や脳の血管が詰まって突然倒れた救急患者では、手術前に血液検査などをしないと危険な場合がある。患者が普段、血液をサラサラにする薬をのんでいると、出血を起こしやすくなり、手術前に中和薬などが必要になるためだ。どの薬をのんでいるかによっても対応が異なるため、正確な薬の情報が重要になる。厚生労働省が開発する新たなシステムでは、医療者が、過去5年分の患者の受診歴や処方された薬剤、診療、健診などの情報のほか、過去100日分の電子処方箋(せん)の情報などを閲覧することができる。9日から順次、病院に導入され、今年度中には救命救急センターがある病院のほとんどで使われる見込みだ。また、今後はマイナ保険証がなくても、名前、生年月日、性別、住所の4情報がわかれば、閲覧できるようにする。総務省消防庁でも、マイナ保険証を使って、救急隊が救急車の中で患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備しており、来年度には全国の消防本部で展開する予定だ。119番通報した家族らに、患者本人のマイナ保険証を準備しておくように依頼していくという。

*8-2:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/information/hokensyonokose/ (全国保険医団体連合会 2024.12) 保険証廃止勝手に決めるな
 政府は、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定(政府は、国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定しました。2024年12月2日からは新規で保険証を発行することができなくなります。2023年11月のマイナ保険証の利用率はわずか4.33%と7カ月連続で低迷しています。厚労省が示した患者総件数に占めるマイナ保険証利用率はわずか2.95%とさらに低い数字です。「何のメリットもない」、「顔認証や暗証番号が面倒」、「保険証で十分」が患者・国民の声です。世論調査で8割超が存続・延期を求めています。保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後も紐づけミスが報告されています。医療現場でマイナトラブルは多岐にわたり、厚労省が対策したトラブルも一向になくなりません。こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱します。保団連は、患者・国民、諸団体とともに、保険証存続を求める取り組みを推進します。「#保険証廃止勝手に決めるな」を掲げて記事を配信します。 2024年も健康保険証使い続けることが保険証を残す最大の力となります。「#保険証廃止勝手に決めるな」の声をSNS等で拡散していきましょう。

*8-3:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-02-29/ (全国保険医団体連合会 2024.2.29) 12月以後の国家公務員マイナ保険証利用率を速やかに公表すべき!
 厚労省は2月29日の医療保険部会で23年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率を公表しました。国家公務員全体でマイナ保険証の利用率がわずか4.36%です。政府は、マイナ保険証使ってみようキャンペーンでは数値目標として5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせています。ところが24年1月の国民のマイナ保険証利用率が4.60%であり、推進側の国家公務員のマイナ保険証も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印を押しています。マイナ保険証利用率が低調なままで健康保険証を12月に廃止することは大問題です。保団連は、厚労省に23年12月以後の国家公務員のマイナ保険証利用率を速やかに公表するよう要望しました。

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2024.10.28~11.24 核と日本
 衆議院議員選挙期間中であり、私が他の事で忙しくもあったため、しばらくブログを書きませんでしたが、再開します。

(1)日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約
 *1は、①日本被団協のノーベル平和賞受賞決定 ②衆院選公示を控え、日本記者クラブの党首討論会で安全保障をめぐる議論が白熱 ③核兵器をめぐる議論で自民党と他党の立場の違いが浮き彫り ④首相(≒自民党)は核抑止力を重視している ⑤立憲の野田代表は、日本は唯一の被爆国で、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容する発言をしている日本のトップでいいのか」「核兵器禁止条約にせめてオブザーバー参加すべき」と述べた ⑥共産党の田村委員長は「核兵器禁止条約を批准すべき」「核抑止は核兵器を使う脅しで、被爆者の願いを踏みにじるもの」とした ⑦公明党の石井代表は、「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」とオブザーバー参加に賛成 等としている。 

 日本は、2度も原子爆弾を落とされた唯一の被爆国で、その上、戦後に「原子力の平和利用」として作られた原発では、自然災害に起因する世界最悪の福島第一原発事故を起こし、未だに解決の道筋も見えない国である。そのため、人類に被爆(外部被曝・内部被曝を含む)という著しい危険をもたらす核兵器の廃絶や脱原発の推進こそが日本に与えられた天命だと、私は思う。

 そのような中、①のように、日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことは、大変、喜ばしいことだった。しかし、②③④⑤⑥のように、日本政府は、安全保障上の“核抑止力”を理由として、核兵器禁止条約に批准するどころか、オブザーバー参加すらしてこなかった。しかし、「核兵器を持つことに依る抑止力」というのは、核兵器を持ちたいと思う人の希望にすぎず、むしろ現実的でないと私は考える。

 そして、本当の核抑止力は、戦後の長期にわたって被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶や平和の尊さを発信し続けたことによって培われ、それがノーベル平和賞を通じてヨーロッパの国によって橋渡しされつつあるのではないだろうか?そのため、⑦のように、日本政府が“橋渡し(具体的に何をしたのか?)”した形跡はないと思うのである。

(2)長崎原爆の被爆者と日本政府の対応

  
2022.7.29民医連   2024.8.7朝日新聞       2024.9.3朝日新聞

(図の説明:左図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地とされず、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれてきた。そして、中央の図の○の「被爆体験者」が、今回の訴訟の原告である。また、右図のように、「被爆体験者」の症状は、「被爆者」と違って放射線の影響ではなく、被爆体験による不安が原因の精神疾患とされてきた。しかし、精神疾患が原因で白血病や癌になるのでないことは常識だ)

1)地元紙の記事から
 長崎原爆に近いエリアの佐賀新聞は、*2-2のように、①長崎地裁は被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出した ②岸田首相は全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表 ③同時に判決を不服として控訴 ④被爆体験者の医療費以外の各種手当は被爆者との差が大 ⑤救済策・訴訟対応とも被爆体験者の反発は強く法廷闘争は続く ⑥国が被爆者認定の在り方を見直す以外に解決はない ⑦国は「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持し、被爆体験者への現行医療費助成は精神疾患とその合併症や胃癌など7種類の癌に限定した上、申請時と年1回の精神科受診を義務化している ⑧広島高裁が援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて新基準に基づく被爆者認定を進めている広島と差が残り、差の原因は「長崎には客観的な降雨記録がないため」とされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果等を根拠に一部援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限り被爆者と認めた ⑨長崎では1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定され、その後、周囲に特例区域が追加されて全体として援護区域は広がったが、線引きは旧行政区画に沿って行われた ⑩原爆由来の放射性物質の影響が行政区画通りに広がる筈がなく不合理であることは明らか ⑪国は画一的線引きではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を調査結果等と突き合わせて精査し判断すべき ⑫被爆体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超えるが、長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった と記載している。

 また、長崎原爆地元の長崎新聞は、*2-1のように、⑬長崎原爆の爆心地から半径12kmの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている ⑭違いは国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうかで、被爆者には「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めている ⑮被爆者は、被爆者健康手帳を交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担され、状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当も受けられる ⑯被爆体験者は、2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)の医療費支給に留まる ⑰長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者は多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島のみに適用され、長崎は対象外になっている 等としている。

ポイント1:被爆エリアについて ← 黒い雨が降った地域だけを加えても不十分である
 日本政府は、⑨⑩のように、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域を指定し、その後、周囲に特例区域を追加したが、旧行政区画に沿って線引きした。しかし、原爆由来の放射性物質が行政区画通りに広がるわけがないため、被爆エリアの定義自体が不合理なのである。また、⑪のように、被爆エリア(≒援護区域)外にいた人の証言・当時の状況・健康被害の状況を疫学的に調査して統計処理したものは、客観的・科学的な根拠そのものなのだ。

 また、⑧の広島高裁は被爆者と認めたものの、本当に「“黒い雨”を浴びた人のみが被爆者か?」と言えば、原発事故で明らかになったとおり、被曝には内部被曝もあるため、放射線量の高い地域で収穫された作物を食べた人やその地域で呼吸していた人も被曝者になる。

 つまり、これまで、日本政府は、i)原爆で焼け死んだ人(熱による焼死) ii)被爆直後に著しい放射線障害を起こした人(強い外部被曝) のみを被爆者として認定していたが、実際は、iii)黒い雨を浴びた人(緩やかな外部被曝) iv)黒い雨が降ったため放射線量の高くなった地域で収穫された作物を食べた人(内部被曝) v) 放射線量の高い地域で呼吸していた人(内部被曝)も健康被害を受けるため、被爆者なのである。

 従って、⑰のように、長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った多くの体験者は被爆者であり、広島のみに黒い雨被害者を被爆者と認めたのは片手落ちであると同時に、直接、黒い雨にあった人のみを被爆者としているのも、未だ不足なのである。

 ちなみに、長崎原爆が投下された時、佐賀市の飛行機工場で尾翼を作っていたという私の母は、真っ青な空にモクモクと黒いキノコ雲が上がり、女学生の友人と「あれは何だ。何だ」と言っていたところ、しばらくして「新型爆弾だ」という情報が入ってきたのだそうだ。従って、佐賀市からでも見えた長崎原爆による「灰(粉塵)」や「黒い雨」は、かなり広い範囲で降ったと推測でき、狭い行政区画や⑬のような爆心地から半径12kmの同心円内に収まっていたわけがない。また、現在、90~100歳代のこのような多くの人たちの貴重な証言は、広く集めて記録しておく必要がある。

ポイント2:被爆者と被爆体験者の定義について
 国は、⑨⑬のように、爆心地から半径12kmの同心円内にいても原爆投下時に国が定める地域(旧長崎市全域と特例区域)の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」に分け、⑭のように、被爆者には、「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には、被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めているのだそうだ。

 違いの根拠は、国は上のi)ii)しか「原爆放射線による健康被害」のある被爆者と認めず、iii)iv)の人は、被爆の影響はないのにうるさく言う「精神的疾患」だとしているからである。

 その結果、⑮⑯のように、被爆者は被爆者健康手帳の交付を受けてほぼ全医療費が公費負担・状況に応じ健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当が支給されるが、被爆体験者は2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)への医療費支給に留まっているのである。そして、これは⑧の広島高裁判決との不均衡や長崎地裁判決の分断による公平性の問題以前に、緩やかな外部被曝や内部被曝の健康への悪影響を認めないという国の頑なな態度の問題なのである。

ポイント3:被爆(外部被曝・内部被曝を含む)の健康への影響について
 国は、⑦のように、「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持しているが、それが医学的に正しいのかと言えば、緩やかな外部被曝や内部被曝の影響を無視しているため、正しくない。また、内部被曝による胃癌等発生が精神疾患によるものであるわけがないため、被爆体験者への現行医療費助成に精神科受診を義務化しているのは、賠償費用を抑えるために意図的にやっているとしか思えない。

 従って、①のように、長崎地裁が被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出したのは、少しは良かったし、②のように、岸田首相が全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表したのは何もしないよりは良かったのだが、被爆者や被曝者の定義を、国は最新の科学に従って見直すことが重要だ。そうすれば、④⑫のように、生存者の数が減っても賠償金額は増えるが、被害者を犠牲にする不公正を続けるよりは、ずっとましであろう。

 そして、③⑤⑥のように、国が被爆者認定の在り方を科学的に見直す以外に納得は得られず、裁判は続き、国の不作為による被害者は増える。そのため、裁判所も、黒い雨が降ったか否かだけではなく、緩やかな外部被曝や内部被爆の健康影響を認め、日本政府に心の問題(≒精神的疾患)などと言わせてはならないのである。

2)全日本民医連(https://aequalis.jp/feature/cherish.html)の見解について

  
    2024.9.9NHK        Radio Active Pollution     玄海原発
                               プルサーマル裁判の会

(図の説明:左図の黄色と黄緑色のエリアが、爆心地から半径12km以内で「被爆体験者」とされた人の住んでいた地域だ。しかし、半径12kmで小さすぎることは、中央の図の福島第一原発事故によって著しく汚染された地域から明らかで、地形・風向き・降雨によって放射性物質の広がり方は異なる。これを、長崎県と風向きが近い玄海原発でシミュレーションした地図が右図であり、半径80kmでも汚染される地域がある。ちなみに、チェルノブイリ原発事故では、移住義務ゾーンが右図の赤・橙・黄緑の地域、移住権利ゾーンが右図の緑色までの地域となっている)

 全日本民医連による*2-3の記事は、①原爆の熱線や黒い雨を浴びながら行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たちが“被爆体験者”で、放射能の影響ではなく原爆体験のストレスで病気になったとされている ②長崎の被爆地は2度にわたって範囲が広がったが、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形 ③図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではなく、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者 ④被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない ⑤被爆体験者には「被爆体験の不安が原因で病気になった」と書かれた「被爆体験者精神医療受給者証」が交付される ⑥こんなおかしな仕組みは放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向でできた ⑦被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はなく、放射能の影響が考えられる癌などは対象外で、例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃癌」になった途端、医療費助成が打ち切られるという矛盾した制度 ⑧長崎民医連は2012~13年に被爆体験者194人を調査し、約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があった ⑨長崎県連事務局次長は「被爆者の認定指針はじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めており、根本的に間違っている」と指摘 ⑩被爆体験者とされる鶴さん(85歳)は、爆心地から東へ7.3kmの旧矢上村で被爆し、同じ村内の隣の集落は被爆地になったが、山の尾根の反対側の鶴さんの集落は被爆地と認められなかった ⑪1945年8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見たが「梅干みたいに赤黒かった」 ⑫父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した 等としている。

 全日本民医連の記事は、①③④⑤⑦のように明確に書いてあるため、よくわかった。そして、⑥⑨は、私の推測と同じだが、これは、水俣病でも福島第1原発事故でも行なわれたことであり、今後起こる原発事故や公害による被害者に対しても行なわれるだろうから、国民は、それも折り込んで意志決定しなければならないのである。

 さらに、長崎民医連は、⑧のように、2012~13年に被爆体験者194人を調査して、その約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があったことを確かめているが、これは、世界の学会誌に掲載された論文だろうか? もしそうでなければ、速やかに体裁を整えて、世界の学会誌に論文を掲載した方が良いと思う。

 なお、被爆体験者とされている⑩⑪の鶴さんは、爆風で舞い上がった大量の放射性物質を含む粉塵がそのまま降ったり、雨に混じって黒い雨となって降ったりすれば、山の尾根の反対側の集落であっても緩やかに外部被曝し、内部被曝もする。そのため、⑫のように、全員ではないが、家族が早逝しているのだろう。

 従って、②の長崎の被爆地は、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形というのは、円形でないから正しくないとは思わないが、あまりに範囲が狭すぎるため、被爆者全員の健康管理をしていないことが明らかだ。ただし、戦争による被害は原爆による被爆だけではないため、被害者全員に補償していたら際限が無く、殆ど補償されていないとも言えるのだ。

(3)衆議院議員選挙におけるエネルギー政策への審判


 2023.8.1東京新聞  2024.9.25西日本新聞     資源エネルギー庁

(図の説明:左図が全国の原発の状況で、再稼働済が11基あり、その中には使用済核燃料貯蔵率が80%以上のものが多い。また、中央の図は、再稼働審査に合格した原発の使用済核燃料保管状況だが、殆どが80%以上である。そして、右図が高濃度放射性物質を陸地で最終処分する方法で、地上から300m以上離れた地下深くで、1000年~数万年も管理しなければならない《https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-02-11.html 参照》わけだが、誰の金で、誰が管理するのか、無責任極まりないのだ)

   
  2022.8.21東京新聞   2023.7.27日経新聞    2024.10.29NOTE

(図の説明:左図は、フクイチ事故原発の汚染水《トリチウムを含む処理水》を海に放出する議論だが、トリチウム濃度が国基準の1/40未満であっても、分量は優に40倍を超えるため総量では基準を超え、第一次産業に損害を与えていることは明白だ。そのような中、中央の図のように、“脱炭素電源オークション”として、原発の新設・建て替え・既存原発の安全対策費やアンモニアを使う火力など、将来性のない電源に対して電気料金から支援金を出す仕組を作ったのは無駄に国民負担を増やすものでしかない。そのようなことの積み重ねが、右図の今回の衆議院議員選挙の結果であり、原発地元の新潟県・佐賀県では全選挙区で立憲民主党が勝ち、福井県・鹿児島県でも自民党の原発推進派が落選する結果となったのである)

1)衆議院議員選挙における候補者の態度
 *3-1-1は、①3年前の前回衆院選から十分な議論もなく原発政策は大きく変化 ②岸田前政権は次世代型原発へのリプレース・最長60年としてきた既存原発の運転期間延長など、福島第一原発事故(以下、“フクイチ事故”)を受けて進めた「脱・原発依存」から大きく舵を切り、なし崩しで原発回帰が進む ③今回の衆院選で議論は低調 ④原発利用については、自民党・日本維新の会・国民民主党が推進の立場で、共産党・れいわ新選組が脱原発、立憲民主党は公約では触れず党綱領に原発ゼロを明記 ⑤薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者は発言内容は違えど運転延長には容認 ⑥原発利用とセットで語る必要のある「核燃料サイクル」も実現が見通せず ⑦高レベル放射性廃棄物を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドもなし ⑧選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が2002年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都町と神恵内村、玄海町の3自治体のみ としている。

 衆議院議員選挙の立候補者が、③のように、脱原発を口にしない理由の第1は、自民党の場合は大手電力会社から寄付だけではなく選挙協力も得ているから、国民民主党・民主党の場合は、大手電力会社の労組から選挙協力を得ているからである。

 また、理由の第2は、経産省はじめ原子力エネルギーを維持したい人の発言力が強く、政治家・候補者・メディアはじめ国民の多くが、これに対抗できる知識や力を持っていないからだ。そのため、政権批判と言えば、国民に賛成されやすい「政治とカネ」論争ばかりになるのだが、これは国民を馬鹿にしすぎているだろう。

 そのような事情から、①②のように、自民党の岸田前政権は選挙で審判を仰ぐことなく、フクイチ事故を受けて進めた「脱原発依存」から、なし崩しで原発回帰を進め、④のように、立憲民主党は党綱領に原発ゼロを明記しているが、公約では触れなかった。

 それでは、よく言われるように原発はコストが安いのかと言えば、後で詳しく述べるとおり、⑥⑦⑧の如く、高レベル放射性廃棄物の処理はできず、リスクが高いのに使用済核燃料を各原発に溜め込んでおり、国が無駄金をばら撒かなければ一歩も前に進まない金食い虫なのである。

 なお、⑤のように、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者が運転延長に容認している理由は、選挙は票数の勝負であるため、候補者の主張に反対の人が多いと得られる票数が減って不利になるからであろう。

 しかし、選挙結果を見ると、*3-1-4のように、原発地元である新潟県・佐賀県では立憲民主党がすべての小選挙区を制し、福井2区でも原発推進派で自民党系の高木氏が落選した。そして、従来は自民党が強かった鹿児島県も、1区立民・2区野党系無所属・3区立民が小選挙区を制し、4区の森山氏(自民党幹事長)だけが自民党なのである。そして、この結果については、「政治とカネ」問題が大きいと言われてはいるが、原発の地元は、他の地域と違って真剣に原発のリスクについて考えていることを忘れてはならない。

 なお、日本の経済団体は、*3-1-5のように、経団連の十倉会長が、⑨自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢を構築し、政策本位の政治を進めることを強く期待 ⑩与党の敗因は政治資金を巡る問題への国民の厳しい判断 ⑪待ったなしの重要課題に原子力の最大限活用を含む とし、日本鉄鋼連盟の今井会長は、⑫安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する としている。

 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬連立与党の枠組みがどうであれ、デフレからの完全脱却に不退転の決意で臨むべき とし、経済同友会の新浪代表幹事は、⑭与野党問わず現実を直視してしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めて欲しい としている。

 つまり、経産省の意向を強く受けている経団連の十倉会長は、⑨⑩⑪のように、問題は「政治とカネ」だけなので、自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢で政策本位の政治を進めることを期待し、原子力の最大限活用は待ったなしの重要課題だ としている。また、日本鉄鋼連盟の今井会長も、⑫のように、原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待する としているのだ。

 しかし、このように日本の経済界の大企業が安定のみを追求して、イノベーションを軽んじた結果、日本は「失われた30年(https://toyokeizai.net/articles/-/325346 参照)」を経験したのだということを、決して忘れてはならない。

 そして、あまりにもパッとしない発言だったため、十倉氏の経歴を調べたところ、1974年東京大学経済学部卒の74歳(学生運動が盛んで、学生が勉強していない時期)で、現在は住友化学株式会社代表取締役会長であり、経団連会長である。しかし、積水化学はペロブスカイト太陽電池を2025年に事業化する(https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/12/news047.html 参照)のに対し、住友化学は大分工場で購入電力を100%再エネ化しただけで、次の大きな利益機会であるペロブスカイト型太陽電池には参入していない。

 また、日本鉄鋼連盟会長で日本製鉄社長の今井氏は、1988年東大院金属工学研究科修士修了、1997年マサチューセッツ工科大博士修了で、旧新日本製鉄出身初の技術系社長で脱炭素化対応(≒電炉推進)にあたってきた人なので、脱炭素の安定電源として原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待するのもわからなくはないが、原発は高コストで温排水を出す電源であるため、SDGsの役に立たない上、コストダウンも難しい。そのため、もっとスマートな代替案を考えて欲しいと思ったのである。

 なお、AGCは、建築用ガラスの性能(遮熱・断熱性)と太陽光発電の性能を併せ持つ建物のガラス部位で発電することによって、カーボンニュートラルに貢献しようとしており、私も使える限り使いたいと思うのだから、これは当たるだろう。

 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬のように、デフレからの完全脱却を求めておられるが、原発等への無駄で膨大な補助金を削らずに新しい財源を確保するためとして国民負担を増やし続ければ、国民の可処分所得が減るためデフレからの脱却などできるわけがないのである。さらに、経済同友会の新浪代表幹事の⑭の発言は、「何が無視できない重要な現実なのか」を知力を尽くして議論していないため、何も言っていないのと同じである。

2)原発は採算性が悪く、巨額で不透明な補助金によってのみ成り立っていること
 *3-1-2は、①原発コストは陸上風力・太陽光より高くなり、海外では採算を理由に廃炉も ②日本政府の試算でも原発コストは上昇 ③年度内に予定されるエネルギー基本計画改定で原発活用方針が盛り込まれれば国民負担増 ④日本政府はフクイチ事故後、原発依存度を可能な限り低減する方針を掲げたが、岸田政権がGX基本方針で「原発の最大限活用」に転換 ⑤エネルギー安全保障・CO₂排出抑制を理由に掲げても、事故の危険性とコスト高騰あり ⑥米国ラザードが発電所新設時の電源別コストを発表し、建設・維持管理・燃料購入費用を発電量で割って算出する原発のコストは陸上風力・太陽光発電の3倍以上 ⑦経産省作業部会の計算でも2030年新設原発の単純コストは11.7円/kwhで、陸上風力・太陽光と同じ ⑧実際には単純なコストだけでなく補助金等の政策経費を含めて算出すべき ⑨太陽光・風力は大量生産で安くなるが、原発は量産効果が働かない ⑩原発活用でも電気代が下がるとは考えられない としている。

 原発は、安価で安定的な電源だと言われ続けてきたが、原発のコストは、本当は、⑧のとおり、電力会社が支払う単純コストだけではなく、国が支払う補助金等による膨大なコストも含めて算出するのが正しい。

 しかし、補助金を加えない単純コストだけを比較しても、①⑥⑨のように、原発は大量生産することができず、太陽光・風力は大量生産できるため、普及して量産効果が出れば出るほど太陽光・風力の方が安くなり、これは最初からわかっていたことである。

 そして、原発を推進したい経産省の作業部会でも、⑦のように、やっと2030年新設原発の単純コストが11.7円/kwhで陸上風力・太陽光と同じになるとしているが、この日本の遅れは、原発には膨大な補助金をつけて推進し、太陽光・風力の普及には消極的だった結果なのである。

 なお、②③⑤⑩のように、原発のコストは、日本政府の試算でも事故の危険性とコスト高騰で上昇している上に、再エネと比較してエネルギー安全保障に資さず、CO₂排出は抑制するが地球温暖化抑制にも公害防止にも資さず、原発の活用で電気代が下がるわけでもなく、エネルギー基本計画の改定で原発活用の方針が盛り込まれれば、むしろ国民負担は増すのである。

 それでも、④のように、岸田政権は、十分な議論もなく、GXを理由として、「原発依存度を可能な限り低減する」という方針を掲げたのだが、思いつきのこじつけで1人前の大人を説得することはできない。

 また、*3-1-3は、⑪CO₂等の温室効果ガス排出を減らす発電所の改修・新設を対象として発電会社が国の補助金を受け取る「長期脱炭素電源オークション」が始まった ⑫補助金原資には電気料金も含まれる ⑬発電会社への補助額等の内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できない ⑭発電会社は施設等の維持費を積算し、経産省が所管する電力広域的運営推進機関の入札に応じて落札できた場合に維持費に相当する国の補助金を受け取れる ⑮個々の落札価格や受取期間は公表されず、資源エネルギー庁の担当者曰く「必要な時が来たら情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」 ⑯原発対象の補助金を受ける中国電力も「経営戦略上、回答を控える」とした ⑰初回2023年度は新設・建て替えに補助対象が絞られ、今月手続きが始まった2024年度から「新規制基準へ安全対策工事が必要な原発」も対象 ⑱龍谷大の大島教授は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めないものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかを公開するのが当然」と語る ⑲NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木理事長は「落札価格が公表されなければ、応札の基本ルールが機能しているのかどうかもチェックできない」と指摘 ⑳国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機がどれだけ補助金を得るのかを、NPO法人「原子力資料情報室」が、「公表されている落札総額を落札総容量で割り、1kw当たり平均落札価格を5万8254円と計算し、これに同原発の容量を乗じて766億円とはじいた ㉑「原子力資料情報室」の松久保事務局長は「殆ど知らされることなく極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘 等としている。

 そもそも、大量の温排水を出す原発を温室効果ガス排出を減らす発電所と認定すること自体が奇妙だが、これは、⑪⑫⑭のように、国民が支払う税金を使った補助金と電気料金から拠出させる支援金を「長期脱炭素電源オークションを通したから」と正当化して、主に原発に配ることが目的だったのだろうと、公認会計士として外部監査の経験を持つ私は推測する。

 そして、再エネを普及させるための補助金は著しく少ないため、⑬のように、補助額の内訳を示すことはできず、⑮のように、資源エネルギー庁の担当者は、個々の落札価格や受取期間を公表せず「資料の作成も取得もしていない」とし、⑯の中国電力もそうするのであろう。⑰の「新設・建て替え」「新規制基準へ安全対策工事」は、原発が対象であることが明らかであることから、私の推測は、さらに裏打ちされたわけである。

 このように、時代に合わなくなったことに対する補助金をなくさずに、時代が求める新しいことをする度に「財源は?」と称して国民負担を増やせば、そのうち国民負担を100%にしても新しいニーズを満たすことはできなくなるだろう。そのため、必要なことは、情報開示した上で国民の審判を受けることだが、国民を馬鹿にしているのか、それが行なわれていないのだ。

 従って、私は、⑱⑲の意見に全く賛成であるし、⑳のように、NPO法人「原子力資料情報室」が、限られた情報からできるだけのことをして、中国電力島根原発3号機に766億円の補助金が渡されたであろうことをはじき出したのはアッパレだと思う。

 さらに、㉑のように、簡単なことを複雑化して国民が事実を把握できないようにし、不透明にしてやりたい放題やることこそ、民主主義から大きくはずれている。そして、こういうことができないようにするためには、国の会計を複式簿記・総額表示に変更して迅速に決算を行ない、政策毎にかかる金額の内訳を示して行政評価できるようにする以外にはないのだ。もちろん、そうされると都合の悪い人は抵抗するだろうが、これは既に殆どの国でやっていることなのである。

3)女川原発の再稼働にかかった費用と再稼働の是非


   2024.10.29Yahoo      2024.10.29毎日新聞  2024.10.29Nippon.Com

(図の説明:左図は、現在の女川原発の様子で、中央の図が、同原発の安全対策のために行なった工事だ。そして、右図が、2024年10月末時点の原発の稼働状況である)

 *3-1-6は、①東北電力が、13年半ぶりにに女川原発2号機を起動 ②事故を起こしたフクイチと同じ「沸騰水型」初 ③被災地及び東日本の原発再稼働初 ④女川原発2号機は東日本大震災で敷地内震度6弱を観測し、約13mの津波が押し寄せて外部電源の多くが失われ、港にあった重油タンクが倒壊し地下室が浸水 ⑤その後、想定される最大クラスの津波に備えて防潮堤の高さを海抜29mにかさ上げし、地震被害を抑えるため原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行って、2020年に原子力規制委員会の審査に合格 ⑥震災後の安全対策工事費用約5700億円 ⑦テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」は再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内の設置が義務で、期限の2026年12月までに約1400億円かけて建設予定 ⑧政府は脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発最大限活用方針 ⑨電力各社は、新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発も地元の理解を得た上で再稼働を目指す ⑩女川町長は「継続的な安全性向上を求める」 ⑪宮城県知事は「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」 ⑫地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できるか課題 ⑬東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減見通しだが、電気料金の値下げに慎重 ⑭武藤経産大臣は「大きな節目になる」 ⑮使用済核燃料は原発建屋内の燃料プールで一時的保管されているが、既に79%に達し、再稼働に伴って今後4年程度で満杯 等としている。

 東北電力女川原発再稼働のためにかかる費用は、⑤⑥のように、i)想定される最大の津波に備える防潮堤の海抜29mへのかさ上げ  ii)地震被害を抑える原子炉建屋内の配管・天井等の耐震補強 iii)テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」であり、i)ii)の安全対策工事に約5,700億円かけたところで、原子力規制委員会は審査に合格させている。また、iii)のテロ等対策費には約1,400億円かかるそうだが、再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内に設置すればよく、建設期限は2026年12月なのだそうだ。

 そこで疑問に思うのは、イ)いつも甘い“想定”の最大津波は本当に29mが上限なのか ロ)実際に29mの津波(ものすごい分量で、勢いのある水の塊)が何度も押し寄せた時に、防潮堤の薄い壁は耐えられるのか ハ)津波が来た時、海水が逆流する内水氾濫は起きないのか である。「津波や巨大地震はない」という甘い“想定”で、原発を低い場所に建てた上に、重要な施設を地下に置いたため、ほんの13年前にフクイチ事故は起き、①②③④のように、女川原発も危ういところだったのだから、忘れたわけはない筈だ。

 その原発に、電力の全消費者が支払う電気料金から支出される支援金を約5,700億円もかけて弥縫策のような工事を行い、さらに約1,400億円かけるテロ等対策は未完成で、完成したところで武力攻撃には無力なのに、原子力規制委員会は審査に合格させたのである。そのため、消費者である国民は、二重・三重に馬鹿にされ踏みにじられているのであり、政策をチェックして選挙に行くこともなく、ぼんやり(or熱狂して)野球ばかり見ている場合ではない。

 そして、政府は、電力の全消費者が支払う電気料金から支援金を支出する理由として、⑧のように、「脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発を最大限活用する方針」「生成AIの普及による電力消費の増大」等を掲げているが、前にも書いたとおり、原発は、脱炭素は実現できても海に温排水を排出しているため地球温暖化防止の役には立たず、漁業に多大な迷惑をかけて食糧自給率を落とし、集中電源は、北海道胆振東部地震やウクライナ戦争で明らかになったとおり、エネルギー安定供給にもむしろ資さないのである。

 しかし、「電力の全消費者が払う電気料金から安全対策費に関わる支援金が出る」などといううまい話は滅多にないため、⑨のように、電力各社は新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発でも再稼働を目指しているが、いくら安全性を重視しても「事故0」はなく、原発事故は巨大事故に繋がるため、地元が理解しないのは当然なのだ。

 そのような中、⑩⑪の女川町長・宮城県知事の「継続的な安全性向上を求める」「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」というのは、原発維持や安全対策工事の経済効果を見ているのかも知れないが、無理な要求である上に視野が狭くもある。

 また、宮城県知事は「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」としているが、住民が避難して何処へ行き、どういう生活をし、誰が生活の面倒を見て、原発事故の収拾費を出すのは誰かを考えるべきだし、⑮のように、原発建屋内の燃料プールで“一時(本当は長期)”保管されている使用済核燃料は、既に容量の79%に達しており、再稼働すれば4年程度で満杯となるのであり、これは原発のリスクをさらに増している。

 その上、⑫のように、地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できないのは能登半島地震で経験済で、そもそも事故や災害が起きたら避難しなければならないような場所に住宅地等があること自体、「一寸先は闇」なのである。

 なお、⑬のように、東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減の見通しだが、電気料金の値下げはせず、⑭のように、武藤経産大臣は「大きな節目になる」と言われているが、どういう節目になると言うのだろうか。 

4)再エネ・EVのエネルギー自給率向上・食糧自給率向上・地方創生との相乗効果

  
 2022.1.13MoneyPost        Panasonic        PRTimes
 
(図の説明:左図のように、建物を透明な太陽電池で覆うと、太陽光のエネルギーが電力に変換される分だけ環境への放熱が減るため、発電と温暖化防止の両方を実現できる。しかし、建物に無様な太陽光発電装置をつけるわけにはいかないため、中央の図のように、ガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池が開発された。また、右図のように、瓦型の太陽電池もあるため、住宅はもちろん城や寺などの伝統ある建物で使うと面白い)

  
         AGC         トヨタイムス  2019.7.20日経BP

(図の説明:左図のように、AGCもサンジュールという建材一体型太陽光発電ガラスを生産し始めており、様々なデザインがある。また、中央の図のように、トヨタは、街の景観に馴染ませながらビル壁面等で発電できる、レンガや板の模様を出せる太陽光パネルを作った。さらに、右図のように、駐車場や道路で発電できる太陽光発電もある)

  
  アグリジャーナル   国際環境経済研究所       ナゾロジー

(図の説明:左図は、農業と風力発電のコラボレーションで、様々な設置方法が考えられる。また、中央の図は、温室に設置した透明な太陽光発電だが、日本のガラス室やハウスの設置面積は42,000haあるため、コストが見合って太陽光発電できればかなりの発電規模になるそうだ。さらに、右図は、シリコン型太陽光パネルの下で放牧されている羊だが、パネルが太陽光をエネルギーに変換しながら太陽光を遮るため、その分涼しくなって羊の成育がよくなったそうだ)

イ)ペロブスカイト型太陽電池について
 *3-2-1は、①日本発のペロブスカイト型太陽電池の投資ラッシュが中国で開始 ②中国の新興6社が工場建設の計画で内外から流入する投資マネーが生産を後押し ③中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う ④中国・江蘇省無錫市で極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場完成が近づき、「世界初のGW(100万キロワット)級の生産基地」へ ⑤福建省アモイ市では大正微納科技が100MW級の工場を建設中で2025年に量産開始、発明した桐蔭横浜大学宮坂特任教授の教え子、李鑫氏が最高技術責任者 ⑥日本発の技術だが宮坂教授は技術の基本的な部分に海外で特許取得しておらず、量産で中国企業先行 ⑦太陽光から電気への変換効率は2009年の発明当時は3.8%で実用化に遠かったが、現在は最高26%台まで上昇し理論変換効率(33%)上限に近い ⑧カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍) ⑨日本勢は積水化学工業が25年の事業化を目指してシャープ堺工場の一部取得を検討 ⑩パナソニックホールディングスは2026年に参入方針 ⑪中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保する意志 ⑫ペロブスカイト型は、曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるため、発電効率もシリコン型と比べて優位 ⑬大正微納の馬晨董事長兼総経理は「ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わる」と話す 等としている。

 上の図のように、様々に工夫された太陽電池は、⑬のとおり、都市部の建物の外壁・ガラス・瓦などの建材や道路・駐車場と一体化させれば、街そのものを発電所に変化させることができる。そして、太陽光エネルギーのうち電力エネルギーに変換された分は、熱エネルギーとして放射されないため、二重に地球温暖化防止に役立つと同時に、電力の自給率向上・防災・分散型発電にも資するのである。

 そのため、上の図の瓦型やガラス型だけでなく、トヨタの板目模様やレンガ模様を印刷したペロブスカイト型太陽電池のようなものをビルやマンションの壁面に貼り付ければ、街の景観を保ちながら、スマートに太陽光発電をすることが可能である。

 しかし、日本という国は、仮に研究で先を行っても、⑥⑦のように、「太陽光から電気への変換効率が悪い」等々の思いつく限りの欠点を並べられて、「世界特許をとらない」「市場投入が遅い」「大規模生産できない」「製品が高い」などの結果となるのであり、世界競争時代に勝つための製造業の基本がわかっていない。しかし、欠点は、⑫のように、ペロブスカイト型は曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるので発電効率もシリコン型と比べて優位であったり、設置可能面積が広かったり、製品を改良したりして、解決が可能なのである。

 その点、中国は、①②③④⑤のように、可能性を見いだせば、短所を改良しながら、大規模投資・大規模生産・市場投入するため、手頃な価格で販売することが可能で、近年は、日本人も中国製の製品を使うようになっている。特に、EVと太陽光発電は、米国が過去の製品を護るための保護主義に陥っている中で、中国の1人勝ちになりそうだ。

 なお、カナダの調査会社プレシデンス・リサーチは、⑧のように、「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍)としているが、スマートな建材一体型太陽電池の種類が増えれば、世界中で現在の建材に替えて使えるため、24億ドル(約3400億円)どころではないだろう。

 このような中、⑨⑩のように、積水化学が、2025年の事業化を目指してフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発中で、パナソニックは、建材としてのガラスの代替を目指して建材ガラス基板にペロブスカイト層をインクジェット塗布して作る手法を使って2026年に参入するそうだ。しかし、日本政府も、過去の製品に固執して腰が重いため、⑪のように、中国企業の方が、日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打って世界シェアを確保しそうなのである。

ロ)蓄電池について
 米大統領選において、何故か大差で勝利したトランプ前大統領は、「メキシコ・その他の国々からの輸入車に新たな関税を課す」「EVを推進する多くの既存政策を撤回する」としていたため、就任初日に、環境保護局(EPA)及び運輸省の自動車関連規則撤廃に着手する計画を示しているそうだ。

 しかし、米国のゼロエミッション輸送協会は、「今後4年間は、これらの技術が今後何世代も米国の工場で米国の労働者によって開発・採用されるのを確実にする上で極めて重要だ」として、時間稼ぎできたことを喜んでいるようである(https://jp.reuters.com/markets/global-markets/BMDUUSY2RJJWFBLYLTOCFNGFCQ-2024-11-07/ 参照)。

 そのような中、*3-2-2は、①米テスラは、ヤマダホールディングスの全国1000店ある店舗で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダは住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込む ②天候によって発電量が変わる太陽光電力の需要と供給を調整するには蓄電池を増やす必要がある ③テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量13.5kwhと大きく、競合国内メーカーと比べて容量当たり単価が安い ④米欧では既に複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっている ⑤太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電し、足りない時に販売して収入を得る仕組みで、電力の需給バランスも調整できる としている。

 これに加えて、*3-2-3は、⑥経産省は、2025年度にも再エネ発電と蓄電池を併用する事業者の発電量に応じて上乗せして交付する補助金額を現状の2倍程度に拡充し、海外に比べて遅れた蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げる ⑦日本の再エネは太陽光の普及が特に進み、昼間に電気が余って発電停止が頻発 ⑧電気を溜めるのが解決策だが蓄電池が高くて使えていない 等としている。

 このうち②⑦は、2012年7月に再エネ固定価格買取制度(FIT)が始まった当初から問題になっていたのに、それから12年後の現在でも⑤を説明しなければならず、④のように、米欧では、とっくに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっているのに、日本では、⑧のように、「蓄電池が高くて使えない」などと何の問題解決もできていないのが異常である。そして、何故そうなったのかが、最も重要だ。

 そして、③のように、米テスラの蓄電池の方が国内メーカーよりも容量当たりの単価が安い上にデザインも優れ、①のように、ヤマダが全国1000店ある店舗で米テスラの蓄電池の注文を受け、住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込むというのは、家電に対する国内メーカーの衰退の著しさを感じた。何故そうなったのか。

 また、⑥のように、経産省は、再エネ発電・蓄電池併用の事業者への補助金を2倍程度に拡充し、「海外に比べて遅れた」蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げるそうだが、「どんなイノベーションも、海外より遅れる」という我が国の状況をなくすためには、海外と比較して太陽光発電や蓄電池の普及が遅れた理由を追求し、それを解決することが最も重要であろう。

ハ)地方創生と再エネについて


     JA苫前     2022.8.24日経BizGate      長崎大学 

(図の説明:左図は、広大な農地と風力発電の組み合わせ、中央の図は、牛の放牧と風力発電の組み合わせであり、風力発電からの電力収入を副収入とすることによって、国際競争力のある価格で農業生産を行なうことが可能だ。また、右図は、風力発電と養殖の組み合わせで、さまざまな組み合わせが考えられるが、どれも、再エネ収入を地方創生に活かしながら、食料・エネルギーの自給率向上にも資する点で優れている)

 *3-3は、①石破政権は、人口減・社会的基盤維持等の地方が抱える課題解消をめざし、首相官邸で閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合 ②2025年6月に纏める「骨太の方針」に今後10年間を見据えた具体的施策を盛り込む ③柱は、i)安心して働き暮らせる地方の生活環境 ii)東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散 iii)付加価値創出型の新しい地方経済 iv)デジタル・新技術の徹底した活用 v)「産官学金労言」の連携と国民的機運の向上 ④首相は11月中に纏める経済対策に関して「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出等の取り組みを支援する」と強調 ⑤首相は倍増方針を示した地方創生交付金に関し「金額だけ増やしても意味がない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った ⑥首相は、2014年9月発足の第2次安倍改造内閣で初代地方創生相を務め、2014年12月に決定した長期ビジョンに「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んで、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが地方の環境は依然厳しい ⑦首相は11月8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければ先の展望はない」とした ⑧国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した将来推計人口は、2056年に1億人を割って9,965万人になり、2070年に8,700万人 ⑨総務省住民基本台帳人口移動報告では、2023年の東京圏は転入者数が転出者数を上回って28年連続転入超過、地方は人口流出が続く ⑩首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動は、10年間で全国33の道県で男性より女性が多く転出」とし、婚姻率上昇を念頭に若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えた としている。

 このうち①②⑤は良いと思うが、④については、農林水産業の高付加価値化は、例えば中食にまでして利便性を高めるような高付加価値化は良いが、価格のみを上げて贈答品で貰いでもしない限り果物も食べられないような国になっては、国民が困る。また、観光産業も、サービスは変わらないのに価格だけが上がるような高付加価値化では、国民が貧しくなって困るので重点化の内容が重要である。

 また、首相は、⑥⑧のように、第2次安倍内閣で地方創生相を務められ、「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込まれて、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとされたが、人口減は止まらなかった。しかし、戦後のベビーブームで増えすぎた人口が減るのは自然現象だろうと、私は、思う。

 そして、⑨⑩のように、東京圏でのみ転入者数が転出者数を上回り、地方は人口流出が続いて、特に若年世代の人口移動は男性よりも女性の方が多く転出する社会的増減が起こっているため、首相は、婚姻率を上昇させる目的で、若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えられたのだそうだ。しかし、「人口を増やすために婚姻率を上昇させよう(『生めよ増やせよ』論に近い)」などという発想自体が、女性に嫌われ、より自由で行動を縛らない東京に女性が転出するのだということを決して忘れてはならない。

 1953年生まれの私の経験では、進学・就職・結婚年齢だった1970年~80年代は、東京でも女性差別・女性蔑視の発言・行動が横行していたため、多くの女性が活路を求めて日本から海外に出て行き、日本に残った人も東京の外資系企業に勤務するなどして活路を開き、そういう女性たちの行動や実績が男女雇用機会均等法制定に繋がって、東京では女性差別・女性蔑視を緩和させたのである。

 しかし、その私でも埼玉県で活動すると、「女性は、科学的知識のない人、専門家でない人、細かい人、やさしくあるべき人、お茶くみやお酌をする人、男性の後ろにいるべき人」等のジェンダーまるだしの言葉や態度に不快な思いをすることが多い。そのため、もっと田舎で「科学的知識のある女性」や「専門家である女性」のサンプル数が少ない場所では、状況はさらに悪いだろう。つまり、女性は、「女性に対して差別や偏見の残っている地域に住んで無駄な苦労をしたくない」と思っているのであり、可能であれば差別や偏見の少ない地域に移動するのである。

 そのため、⑦のように、首相が「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない」と思われるのであれば、まず「人口を増やすために、婚姻率を上昇させよう」などという「生めよ増やせよ」論を止め、女性が周囲からの敬意を感じながら自由に働ける地方創生をすべきである。

 また、首相は、③のように、柱を5つに分解されているので、この柱に従って意見を述べる。
i)「安心して働き暮らせる地方の生活環境」について
 女性差別のない職場・生活物資の調達・保育・教育・医療・介護などの日常生活に必要な財・サービスは、安心して働き、暮らしていくために必要不可欠なインフラだ。そして、女性は、自分に苦労が降りかかってくるこれらの点をしっかり比較して住む場所を決めているのであるため、未だに不合理な点が多いのは早急に改めるべきである。

ii)「東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散」について
 東京に一極集中する理由には、便利さ・多い職業の選択肢・給与水準の高さ・子の教育における選択肢の多さなどがあるが、東京は、首都直下型地震や水害のリスクが大きく、東京で育った子は、自然に関する暗黙知が少ないという問題もある。そのため、優良企業が地方に分散し、地域住民に条件の良い職場を与えられれば、その効果は多くの分野に波及すると思われる。

iii)「付加価値創出型の新しい地方経済」について
 付加価値を創出しない産業はこれまでも続いて来なかったが、いち早く新しい時代のニーズを捕らえれば、付加価値率は高くなる。

 それでは、「新しい時代に顕著になったニーズは何か?」と言えば、a)環境と両立する経済 b)地球規模の人口増加に備えるエネルギー・食糧自給率の向上 c)共働きを前提とした家事の外部化 d)国内で少子化が起こる原因の正確な分析とその解決 e)災害による被害の最小化 などであり、これらを同時に解決できるのが、地方への人口分散なのである。

 しかし、地方への人口分散を促すには、④のように、地方でも日常生活に不可欠なサービスを維持向上させ、新技術を活用した高付加価値型の企業を増やさなければならないのだ。

iv)「デジタル・新技術の徹底した活用」について
 “デジタル化”は、2000年代の始めから盛んに言われていることなので、「新技術≒デジタル化」という論調は、他の先進技術を知らないことを意味する。また、セキュリティー・通信の秘密・個人情報の保護などは、デジタル化を口実に犠牲にして良いものではないが、日本ではしばしばそれが混同される点が問題だ。

 その他の新技術には、農業や水産業における品種改良、医療における癌の免疫療法や幹細胞・IPS細胞を使った再生医療などの生物系の新発見を応用したものも多いが、日本政府は化学療法を優先するなど、生物系の新発見・新発明への理解が乏しい。そして、これは、生物系の理論を学習することを疎かにしてきた中等教育・高等教育の問題だと思う。

v)「『産官学金労言』の連携と国民的機運の向上」について
 “産官学”の連携はよく言われてなじみがあったが、これに“金(金融)”を加えたのは、設備投資をして生産性を上げるには何らかの形で金融の関与が不可欠であるため納得だ。

 “労”については、人口減と人手不足の中、政府が景気対策を行なって無理に雇用を作らなければならないような人材を生み出さないためには、基礎教育・再教育の充実とやる気の育成が重要である。

 “言”については、メディアはじめ言論人の役割が大きいが、近年は、馬鹿でもわかるカネ・女・数合わせ・犯罪・スポーツに関する報道ばかりが多く、メディアの構成人が生物・物理・化学等の科学的知識に乏しいためか、国民に対して教育効果を発揮できていないのが現状だ。

(4)先端技術と教育
1)高級カメラを超えたスマホカメラ
 *4-1は、①シャオミやアップルのスマホカメラ機能が大幅に向上 ②レンズの改良と画像補正技術を磨いて高級コンパクトカメラに匹敵する写真を撮影可能 ③日経新聞は複数機種で撮り比べた ④アップルは「iPhone16 Pro」に光学5倍の望遠カメラを搭載して画像処理で撮影後の色調編集を実現 ⑤シャオミは「Xiaomi14 Ultra」にライカと共同開発した4つのレンズを搭載して、光学で5倍、デジタルで最大120倍のズームが可能 ⑥サムスンは「Galaxy S24」に背景加工機能搭載 ⑦ソニーの「Xperia 1 6」は暗所でも撮影できる ⑧シャープの「AQUOS R9」もライカ製レンズを搭載 ⑨スマホ本体の台数は2028年に2024年比8%の成長に留まるが、スマホ向けのカメラモジュール市場は47%の成長見込み ⑩日経新聞が、シャオミ・アップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べたところ、ズームアップした場合には高校生10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と言った ⑪デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うが、リアルと加工の境目はどこかという課題が内在 等としている。

 最近のカメラはどれも、画像を引き伸ばした時に解像度の低下が少ないので感心していたが、①②④⑤⑥⑦のように、スマホカメラも望遠機能を搭載し、デジタルなら画像処理して最大120倍のズームまで可能で、撮影後の色調編集もできるそうなので、さらに感心した。しかし、私自身は自分のスマホで写真や動画を撮影するのは最小限に留めており、その理由は、写真や動画はメモリーを食うため、その他の機能まで使えなくなっては困るからである。

 なお、ドイツのレンズはカールツァイスもライカも良いと言われているが、シャオミもシャープもライカのレンズを搭載しており、日本のレンズは、高いのに品質がついていっていないのか、全く影を潜めているのが気にかかる。

 また、日経新聞が、③⑩のように、シャオミやアップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べ、ズームアップした場合の感想を聞いたところ、高校生10人全員が「(中国の大手スマホメーカー)シャオミの写真が一番きれい」と言ったそうで、隔世の感がある。

 そして、⑨⑪のように、デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うため「リアルと加工の境目はどこか」という課題が内在するが、スマホ向けカメラモジュール市場は2028年に2024年比47%成長の見込みなのだそうだ。

 それでは、日本のカメラメーカーはどこに活路を見いだしたら良いのかと言えば、i)日本で最終製品を作る自動車のドライブレコーダーや自動運転に使用する ii)中古のビルやマンションも増えたため、大規模修繕時にドローンで写真を撮れば要修理箇所がわかるようにする iii) 写真で公共インフラのチェックをし、要修理箇所をもれなく把握できるようにする 等に可能性が大きいのではないかと思う。

 しかし、これらをやるためには、「官僚主義を廃し、時代に合う規制に変更し、無駄な支出を減らす」という強い意識が必要であるため、日本もイーロン・マスク氏を政府効率化省のヘッドに頼みたいくらいだ。

2)農林水産業について
イ)果樹園のケース
 *4-2は、①中央果実協会が果樹産地の担い手育成等事例発表会を開いた ②大分県は2023年までの10年間で200人が新規就農 ③県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進めて成果を上げた ④園地の確保・未収益期間の長さが就農の壁で、果樹の担い手は2020年までの20年で半減、60歳以上が8割 ⑤果樹価格や輸出攻勢に魅力を感じる人が増えて反転攻勢の好機 ⑥果樹の新規就農者確保には積極的誘致が重要で、DM等で働きかけ農家以外の人や異業種法人の参入が増えた ⑦就農者が小規模園地で1~2年経験を積む間に育苗や園地整備を推進し、その園地に加えて整備された園地も渡して未収益期間を削減 ⑧就農者に渡すため園地を集約するには、地権者らへの説明を丁寧に進める取り組みも不可欠 ⑨広島県世羅町の光元組合長は、47haの大規模梨園をジョイント仕立て(https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450008/p581138.html 参照)とリモコン式草刈り機を導入して維持 としている。

 果樹だけでなく農家全体が担い手不足で、④のように、60歳以上の担い手が8割になったというのは、労働の割に収益性が低いことから尤もだが、農家の子も職業選択の自由があるため、農業に魅力を感じる人の中から新たな担い手を探さなければならない。従って、⑥のように、DM等で働きかけて農家以外の人や異業種法人からも新規就農者を確保するのは良いと思う。

 そして、⑤のように、果樹価格の上昇や輸出可能性に魅力を感じる人は多いだろうが、果樹をはじめとして農産物の価格が上がりすぎると、農産物も存分に食べられないほど相対的に国民が貧しくなるため、食品価格の値上げには慎重であるべきだ。

 そのため、⑦⑧⑨のように、梨園を47haと大規模化してジョイント仕立てにし、未収益期間を短くし、リモコン式草刈り機等も導入して生産性を上げられたのは良いと思うし、大規模化による生産性の向上は、新規就農者に渡すために複数の農家の土地を集約できたからこそ可能だったのである。

 これに加えて、瀬戸内海沿岸地域なら、レモンやオリーブ等、現在ニーズが高まっていて、手間が少なく、温暖化した気候により適した作物を作り、園地に風力発電機を置いて副収入を得たり、草刈りを草食の家畜に任せたりすれば、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスがより良くなるだろう。

 そして、①②③のように、大分県が、県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進め、2023年までの10年間に200人が新規就農にこぎつけたことは、大きな成果だったと思う。

ロ)水産業の養殖のケース


               2018.7.23流通研究所

(図の説明:最新データではないが、左図のように、世界では漁船漁業による漁獲高は一定で、海面及び内水面養殖業による漁獲高が著しく増えている。また、国別では、右図のように、中国・インドネシアの漁獲高が著しく増えている)


  2018.7.23流通研究所    2017.11.24海と日本   2024.11.17JAcom

(図の説明:これも最新データではないが、左図のように、日本では遠洋漁業・沖合漁業の漁獲高が著しく減少し、沿岸漁業は少し減少して、海面養殖業は増加している。そのため、日本は遠洋漁業を減らして他国で捕獲したり養殖したりした魚介類の輸入に変更した可能性がある。また、中央の図のように、産業革命後100年間の海水温上昇は、2017年のデータで世界は0.53℃であるのに対し、日本近海は、日本海側で1.20~1.70℃、太平洋側でも0.70~1.10℃と世界平均より高く、これには地球温暖化だけではなく原発の影響も考えられる。さらに、右図のように、2024年7月における日本近海の海面水温は、平年より3~5℃も高いところが多く、 先入観のない科学的原因分析と解決が必要である)

 *4-3は、①陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階 ②丸紅はノルウェーのプロキシマーシーフードと共同で「閉鎖循環式」を採用、電力の15%は敷地内太陽光発電で賄ってサーモンを養殖 ③NTTグループはCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来はこの藻を飼料に使って環境負荷を軽減しながらエビを養殖 ④技術力・資金力を持つ大企業の大量生産が水産供給網を変えつつある ⑤陸上養殖する理由は、i)地球温暖化・乱獲の影響で天然魚の水揚げ不安定 ii)海面養殖は水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権で新規参入困難 ⑥そのため、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 ⑦国内の陸上養殖サーモンは三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んで参入 ⑧世界の漁業・養殖業生産量は2022年に2億2,322万tで10年前と比較して25%増 ⑨海面養殖は48%増と急増だが、適地が限られ中長期拡大は難しい ⑩陸上養殖の世界市場は2029年に2023年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増 等としている。

 このうち、②は、餌やふんで汚れた水をバクテリア分解と散水で浄化して再利用し続ける「閉鎖循環式」を採用している点が技術進歩している上、商社がノルウェーの水産企業で高い養殖技術を持つプロキシマーシーフードと共同で取り組んだ点が、情報力や販売ルートを活用してシナジー効果を出していて面白い。また、⑦のように、商社の三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んでサーモンの陸上養殖に参入している。

 しかし、養殖は餌の調達とその価格が問題であるため、③④のように、NTTグループがCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来は、この藻を飼料としてエビを養殖するというように、技術力・資金力のある大企業が本業で培ってきた能力を活かしてなら、研究開発し大量生産することも可能だろう。

 なお、(3)4)ハ)の「長崎大学」の画像は、離島を利用して沖合養殖と洋上風力発電を行い、養殖産業と洋上風力発電産業の共生の扉を開いて社会実装を検討しているもので、三井物産環境基金の助成を受けているそうだ。確かに、これまで漁業に使われていなかった離島や洋上風力発電機の下を使えば漁業権の問題が起こりにくく、洋上風力発電機の設置も容易になり、発電機の下ではさまざまな養殖を行なうことができる。また、島で加工することも可能であるため、多くの問題が一挙に解決するだろう(https://www.mitsui.com/jp/ja/sustainability/contribution/fund/results/1229586_13007.html 参照)。従って、⑨のように、「海面養殖は適地が限られる」と考えるのは、時期尚早である。

 さらに、世界人口が増え、良質の蛋白質を求めるようになれば、水産資源への依存は不可欠であるため、⑧⑩のように、世界の漁業・養殖業の生産量は2022年に10年前と比較して25%増、陸上養殖の世界市場は2029年に2023年と比較して88%増となり、今後も増えることが予想される。そして、日本の場合は、洋上風力発電と結びつければ、海面・海中・海底を使った養殖の可能性が増すのである。

 また、⑤のように、陸上養殖する理由は、i)地球温暖化や乱獲による天然魚水揚げの不安定化 ii)海面養殖における水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権による新規参入の困難性 であり、⑥のように、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 とされているのである。

 しかし、*4-3-2は、i)について、地球温暖化による環境変化のみに責任転嫁がなされすぎた結果、現象の中に矛盾が多いとし、令和2年発行の水産白書は、サケ・サンマ・スルメイカの不漁の原因が、海水温・海洋環境変化・外国船による漁獲の影響等で、日本の乱獲や水産資源管理の問題は書かれていないとしている。が、日本では、漁師の数も漁獲高も減少しているため、私には、漁師の乱獲が不漁の原因とは思えないのだ。従って、観念的ではなく、他の原因も含めた正確な原因分析を行ない、それに基づいた解決策を考えるべきである。

 ii)については、それもあるかも知れないが、陸上養殖する場合は広い土地と堅固な設備を要し、維持費も高そうなので、iii)をクリアするには、これまで漁業者が使ってこなかった離島や沖合の風力発電機付近に養殖設備を作るのも有力な案だと思う。


3)教育投資は最優先の課題なので、財源は他に先んじて確保されるべき

 
 2022.5.2日経新聞    Kidsdoor Tokyo      大学入学年齢

(図の説明:左図のように、日本の人口100万人あたりの博士号取得者数は先進国の中で低い方だ。また、中央の図のように、高等教育の学部学生数は中国が飛び抜けて多く、これらは今後の経済を左右するだろう。また、右図のように、日本は大学入学年齢が飛び抜けて若く、高校卒業時に大学に進学した後は再教育では大学が使われないことを意味しており、大学に入っても早くから就職活動を開始するため、落ち着いて勉強する時間は少ないと思われる)

  
           2024.4.20日経新聞      2023.3.29東京新聞 

(図の説明:中央の図は、教員の人気低迷が続き、採用倍率が下がっていることを示しているが、教員の質の確保は倍率向上だけが解決策ではないだろう。また、左図のように、政府は教員の確保に向けた政策として働き方改革を挙げているが、自己管理しながら働き甲斐を感じて積極的に働く人材こそが指導者にふさわしいと思われる。また、管理職でない教員の待遇については、働いた時間を正確に記録し、それに対する残業手当をつけつつ、教員でなければできない仕事とそれ以外の仕事を分けていき、効率性を高めるのが良いと思うし、教科担任制は科目によっては対象年齢をもっと下げても良いくらいである。なお、右図は、3歳以上では100%近い子どもが幼稚園か保育園に通っていることを示しており、幼児教育を充実させれば、時代に合わせて多くのことを無理なく教えられることがわかる)

 1947年5月3日に施行された日本国憲法は、「第26条:①すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する。②すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」と定め、同年にこれを反映する教育基本法が定められた。

 そして、教育基本法は、2006年に発展的改正が行なわれ、日本国憲法の精神にのっとって、教育の目標として「第2条:①学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培い、健やかな身体を養う ②個人の価値を尊重し、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養い、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養う ③正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んじ、公共の精神に基づいて主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う ④生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養う ⑤伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」と定め、そのほかに「生涯学習の理念」「教育の機会均等」「幼児教育」「社会教育」「政治教育」等が書かれており、必要な理念は述べられている。(https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html 参照)。

 そのような中、*4-4は、イ)資源が少なく少子高齢化が進む日本に公教育の充実は重要 ロ)長時間労働や教員不足で屋台骨が揺らぎ、大幅な教員の増員が不可欠 ハ)教育投資は未来への投資で、財源確保に向け国民的納得の得られる議論を本格化すべき 二)公立学校教員は教員給与特措法に基づいて残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われるが、文科省は教員増や勤務時間の削減を進めつつ上乗せ分を13%に増やすとして年1千億円規模の増額を求め、財務省は文科省案では働き方改革が進まず教員不足は解消されないとして時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した ホ)労働環境が厳しいままでは、教員のなり手は大きく増えないと考える教育関係者が多い へ)いじめ・不登校など多くの問題を抱える中で教員らを増やさず労働時間を減らすのは難しい ト)日本の小中学校教員の仕事時間は、中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあって、国際的に見ても長い チ)過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある としている。

 教育基本法の中の①②④のように、「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度・真理を求める態度・創造性」等を教育段階で養っていれば、イ)の「日本に資源が少ない」という問題は既に解決できており、既存の資源を減らすこともなかったであろう。そして、それは数少ない“エリート”だけでできるものではなく、一般国民が高い意識を持って現場からアイデアを出していかなければならないものであるため、公教育の充実は必要不可欠で、その内容は教育基本法に沿った質の高さが求められるのである。

 また、ハ)の教育投資は1947年以降は必要不可欠な投資だったのであり、それをやるために新しく財源を確保すべきという話ではない。つまり、既存の事業に対し漫然と行なってきた無駄な補助金よりも優先して教育投資を行なえば、その効果は想像以上なのである。

 このような中、ロ)二)ホ)チ)のように、「公立学校教員は長時間労働だが残業代ではなく基本給の4%を一律上乗せした給与」「(少子化しているのに)教員不足で大幅な教員増が不可欠」「過酷な労働環境を嫌って志願者が減って教員不足が常態化」等としている。

 つまり、「教育の充実=教員の増員←給与体系の問題」という側面でしか捉えておらず、最も重要な「教育の目標」である「国民の質の向上(=教育の質の向上)」が語られないのだ。そして「教育の質」から見れば、へ)の「いじめ・不登校などの多くの問題」をいつまでも解決できないのは教員の質の問題であり、数の問題ではないと思われる。

 また、いつまでも同じことをやっている「労働時間」の問題も、中等・高等学校は地方自治体立であるため、それを解決するのは各自治体と教員の意志であり、ひいては教員の質の問題になる。私は、教員も一般企業と同様、働いた時間に応じて残業時間を記録し、残業時間に応じて残業手当を支給すればよいし、残業が多いのに成果が上がらないのであれば、正確に原因分析をして事実に基づいた解決策を考えるべきだと考える。

 さらに、ト)には「中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあるため、日本の小中学校教員の仕事時間は国際的に見ても長い」と書かれているが、学校毎に素人の教員が監督をする部活動を置いて生徒の役に立つのかが問題であるし、そもそも部活動ばかりしていても「学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養う」教育はできないのである。

 最後に、「複雑な家庭環境」は教員だけで対応できるものではないため、学校から自治体の援助に繋げ易いルートが必要であるし、「過度な要求をする保護者」とはどういう保護者か知らないが、学校教育が保護者(一般に教育の素人)の教育まで担わなければならないことも当然あるため、それに耐える教員の質と仕組みが必要なのである。さらに、近年は当然のクレームまで「カスハラ」のジャンルに入れて自ら進歩の道を閉ざす社会的風潮があるが、適切な判断でそれを止めなければ、日本はますます遅れていくと思う。

(5)女性の人権・職業選択の自由・職業教育


 第一生命経済研究所 2023.11.25日経新聞    2023.9.30日経新聞 

(図の説明:左図は、1990年1月~2022年7月の生鮮食品と生鮮食品を除く食品の価格水準の推移で、1990年1月と比較して2022年7月は生鮮食品が36%、生鮮食品を除く食品が33%上がっている。なお、食品は貧しくなっても節約には限度があるため、エンゲル係数(食料費/消費支出)の分子になっている指標である。また、中央の図は、2022年1月~2023年10月までの物価上昇率で、頻繁に買う品目《食料品等》ほど物価上昇率が高く、4年弱で10%近くも物価上昇している。また、右図は、2018年半ば~2023年半ばの体感物価上昇率と統計上の物価上昇率の差であり、統計上の物価上昇率との間に11.4%もの差がある。そのため、物価上昇率は、全体で薄めたり、生鮮食品を除いたりして出すのではなく、生鮮食品も含めて頻繁に購入するものについては、分類して出したり、全体で出したり、戦後の長期累積で出したりするべきだ)

1)所得税・住民税における年収の壁について
              <所得税・住民税の計算方法>

     財務省            Miney Foward         Ten Navi

(図の説明:左図は、給与所得者の所得税額の計算で、給与収入からそれを得るための必要経費である給与所得控除を差し引き、残った所得から基礎控除等の人的控除を差し引いた課税所得に、累進税率になっている税率をかけて税額を出す。しかし、人的控除のうち、子の扶養控除は児童手当の開始とともに廃止されるべきものであったし、配偶者控除は夫婦それぞれの基礎控除の充実と同時に廃止すべきだ。また、中央の図は、個人住民税には全国一律の均等割と所得割があることを示しているが、地方税には、そのほか法人住民税・事業税・固定資産税・都市計画税・不動産取得税・自動車税・地方消費税・森林環境税などもあるため、物価上昇で税収が増える筈の税目もあり、また努力次第でふるさと寄付金も入るのだ。さらに、右図は、住民税の配偶者特別控除一覧だが、夫や妻の所得によって配偶者の寄与度が変わるわけではないのに、夫と妻の所得によって配偶者控除の額が複雑怪奇に分けられるようになり、累進税率で所得税額が決まっていることなど全く無視した公正・中立・簡素から外れた制度となっている)

 2024年11月21日の新聞に「自公国が103万円の壁引き上げ明記」と書いてあるが、途中には、*5-1-2・*5-1-3のように、①「基礎控除等を103万円から178万円に拡大」という公約を掲げた国民民主が衆議院選挙で躍進 ②国民民主は「最低賃金上昇率1.73倍に合わせて上げるべき」と提起 ③現在は、被用者は給与所得控除55万円と基礎控除48万円をたした年103万円まで非課税だが、178万円に上げると年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減る ④控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられ、その後約30年間据え置かれた ⑤政府は国民民主の訴え通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算 ⑥一律10%で課す地方税収の減少は4兆円程度と所得税減収よりも大 ⑦減税額は所得の多い人ほど大きくなるが、減税率は低所得者ほど大きい ⑧控除額引き上げは被扶養者の労働時間を延ばして収入増と労働時間確保の効果 ⑨年収の壁も労働者不足を招く原因 ⑩2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の1/3に相当する巨額の財源を、国民民主は税収の上振れ・予算の使い残し・外国為替資金特別会計の剰余金を充てると説明 等の議論があり、その議論は今も続いている。

 このうち②については、国民民主が103万円から引き上げるべきとした178万円は、最低賃金の上昇を基に計算した数字であり、最低賃金の引き上げは給与引き上げを促す象徴的意味が含まれているため妥当か否かに議論があるが、そもそも103万円の壁にひっかかるため労働時間を制限する人は最低賃金に近い人であるため、⑧⑨を考慮するとともに、今後は、給与引き上げも最低賃金の引き上げに続くと仮定すれば妥当である。そして、①は、膨大な無駄使いをしながら、こっそり国民負担を増やし続けた政府への国民の怒りの結果なのである。

 なお、所得税の「給与所得控除」は事業者の必要経費にあたる給与所得者の必要経費で、「基礎控除」は個人の生活費等の納税者の事情を加味して無理なく納税できるよう皆に対して設けられたものであるため、物価上昇すればどちらも上げるのが当然で、④のように、1995年までは物価上昇に合わせて引き上げられてきたのだ。

 その後、1995~2012 年までは物価上昇が0近傍であったため、これらの控除金額は据え置かれたが、2013年以降は(5)の一番上の左と中央の図のように、日銀の金融緩和で物価が上昇し始めたので、本来なら物価上昇に応じて上げるべきだったものである。さらに、一番上の右図のように、体感インフレ率は2023年だけで11.4%の差があるため、2013年以降の累積では、(正確な資料はないが)国民民主が出した1.73倍に近いと思われる。

 その上、③の「被用者の給与所得控除55万円」というのは、2018年度の税制改正で2020年分から38万円だった基礎控除額を48万円に引き上げた際に、給与所得控除の最低額を65万円から55万円に引き下げたもので、物価上昇による必要経費増とは逆向きの変更だったのである。従って、65万円の給与所得控除を112万円(65x1.73)にし、38万円だった基礎控除は66万円(38x1.73)にするのが物価上昇に見合った引き上げ額だが、きりの良さと⑦も考慮すれば、最低給与所得控除85万円、基礎控除額90万円くらいが適切であろう。

 また、同じく2018年度の税制改正で、公的年金等控除は、2020年分から基礎控除が一律10万円引き上げられた代わりに10万円引き下げられ、改正前120万円だった金額が公的年金にかかる雑所得以外が1000万円以下なら110万円、1000~2000万円なら100万円、2000万円超なら90万円と物価上昇に反して引き下げられたものであり、現在の控除額を前提としても1.73倍にするのが妥当だ。

 これに対し、⑤のように、政府は「控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減になる」などとして躊躇しているが、政府は、物価上昇で国民生活を圧迫しながら名目上増えた税収を享受していたのであるため、物価上昇に応じて本来なら引き上げるべきだった控除の財源は増えた税収に決まっている。さらに、皆の基礎控除額を上げるのだから配偶者控除は廃止すべきで、そのために児童手当を払っているのだから子の扶養控除も廃止すべきなのである。

 そして、⑥のように、一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と所得税の減収より大きく、*5-1-4のように、自治体の財政が苦しいとして全国知事会長を務める宮城県の村井知事が強い言葉で懸念を表明されているが、上記の理論は地方税も同じである。

 さらに、そもそも全地方自治体の個人住民税を「一律10%(市町村民税の所得割6%、県民税4%)」としたのは2007年からであり、「全地方自治体の税率を同じにしなければならない」という地方税法自体が地方自治に反するため、各地方自治体が自由に住民税率を決められるようにすべきだ。そして、自治体の経営努力の結果が、税率引き下げ・福祉の充実等を通して「住民の移動」という形で現れるようにすべきなのである。

2)社会保険料における年収の壁の問題点
                 <年収の壁の存在とその影響>

   2022.8.12PRESIDENT      2024.11.7日経新聞       Ten Navi

(図の説明:左と中央の図のように、年収100万円以上になると住民税が課税され、103万円以上で所得税も課税になる。また、年収106万円以上で51人以上の企業なら社会保険料が発生し、130万円以上になると全企業で社会保険料がかかる。さらに、150万円以上になると配偶者特別控除が減少し始めるため、働いても手取りの減る領域が存在する。さらに、年金収入に対する所得控除は120万円だったが、物価上昇にもかかわらず2020年分から110万円減らされた)

 日本国憲法は、25条で「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めており、これに基づいて「社会保険」、「公的扶助」、「社会福祉」「公衆衛生」等の社会保障制度が整備されている。

 しかし、社会保障制度の負担は、世帯単位なのか個人単位なのかも一貫せず、国民のためにならないご都合主義の制度設計も頻発したため、社会保障の負担をしない人・加重な負担をして見返りのない人・そもそも制度から漏れている人など、社会保障制度の矛盾が見過ごせなくなり、信頼を失っているのだ。そのため、「そもそも社会保障は、世帯単位なのか、個人単位なのか」という根源的な問題から出発する必要があろう。

 そのような中、*5-1-1は、①「年収の壁」には「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」がある ②103万円を超えると、企業が配偶者手当を打ち切るケースが多い ③「106万円の壁」は51人以上の企業に勤めるパート労働者の年収が約106万円に達すると社会保険に加入する義務が生じて、社会保険加入前より手取りを増やすには年収約125万円まで働く必要がある ④年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある ⑤年収150万円以上で配偶者特別控除が段階的に減らされて夫の税負担が増える と記載している。

 また、*5-2は、⑥厚労省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃方向 ⑦企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃し、週20時間以上の労働時間要件のみ残して「約106万円の壁」廃止 ⑧200万人が新たに年金・医療の社会保険料対象 ⑨社会保険加入で、医療保険で傷病手当金等の手当が厚くなり、厚生年金加入で老後の低年金リスクを軽減し、加入者増により将来世代の年金受給水準を改善する効果 ⑩改正の背景は最低賃金上昇 ⑪今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しで、学生除外要件も残すが、企業規模要件と賃金要件はなくなって、5人以上の個人事業所も全ての業種が対象 と記載している。

 まず、社会保険料に関する「年収の壁」について述べると、①③⑥⑦⑧⑨の「106万円の壁」は、従業員50人以下の企業に勤めるパート労働者は社会保険料を支払う必要が無く、老後は低年金で、就業時の傷病手当もないのが、そもそも問題である。

 そのため、「新たに200万人が年金・医療の社会保険料対象となって将来世代の年金受給水準を改善する」という以前に、本人への社会保障を手厚くし、他の労働者との公平性を保つためにも、「106万円の壁」は廃止するのが筋だ。しかし、⑪のように、5人未満の個人事業所が対象にならなければ、ここで働く労働者は、依然として社会保障の対象外に置かれるのである。

 なお、「106万円の壁」を廃止したことによる手取りの減少を社会保険加入前まで戻すには、年収約125万円まで働く必要があるそうだが、⑩のように、最低賃金は上昇しているのだから働けば良いし、それもできなければ労働時間を週20時間以内に抑えれば良いだろう。

 従って、④の「年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある」というのは、年収にかかわらず年金・医療・介護等の社会保証は必要であるため、社会保障制度が世帯単位であれば世帯の誰かが代表して支払うし、個人単位であれば個人が社会保険に加入して所得(≒負担力)に応じて負担するのが合理的であろう。

 最後に、①⑤の「103万円の壁」「150万円の壁」のうち、「103万円の壁」は、本人に所得税がかからない年収上限であり、これを178万円まで上げるかどうかの議論が、現在、行なわれているのである。また、「150万円の壁」は、配偶者である夫か妻の配偶者特別控除を満額(38万円)受けられる被扶養者の年収上限のことだが、仮に「103万円の壁」が「178万円の壁」になれば、②や「150万円の壁」は不要になるので、廃止すれば良い。

3)選択的夫婦別姓制度について


             平和政策研究所       2020.12.29  2024.9.17 
                            日経新聞   産経新聞

(図の説明:1番左の図は、1979年女子差別撤廃条約以降の選択的夫婦別氏制度をめぐる経緯で、左から2番目の図は、2022年内閣府調査による姓の変更に関する意識調査だ。また、右から2番目の図は、夫婦の氏に関する各国の法制で、1番右の図が日本で旧姓の通称使用が通用する範囲だが、通称が堂々と広く通用できなければ通称使用には不便が残るのである)

 *5-3-1は、①立民が、議論の場である衆院法務委員会委員長ポストを獲得し、導入賛成の公明・自民内の一部議員を取り込む考え ②公明は、衆院選公約で「選択的夫婦別姓制度導入推進」と明記 ③国民民主・共産などは導入賛成 ④立民中堅は、「夫婦同姓を見直すことは家族観・社会のあり方に大きな影響を与えるため、丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘 としている。

 上の①②③④によると、国会は党議拘束がなければ多くの議員が選択的夫婦別姓制度に賛成するようで、これには「『選択的』夫婦別姓制度だから、強制ではない」という説得の効果があると思うが、「姓(氏)」に関する利害関係は、結婚する両性だけにあるのではなく、子の利益・氏の存続・外部からの判別可能性も含むものである。

 そのような中、*5-3-2は、氏の歴史として、⑤徳川時代は農民・町民に氏はなく ⑥明治8年2月13日の太政官布告で氏の使用が義務化され、その時は妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制で ⑦明治31年民法(旧法)成立で、夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する夫婦同氏制へ ⑧昭和22年改正民法750条で夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する夫婦同氏制へ ⑨同791条で嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は、離婚の際の父母の氏、非嫡出子は母の氏 と記載している。

 歴史を見ると、確かに、⑤のように、徳川時代は農民・町民など平民には氏がなく、明治時代になってから、⑥のように、太政官布告で氏の使用が義務化され、この時は、中国・韓国と同じく妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制度だったが、その意味は、子は婚家のものだが、「腹は借り腹」で妻は婚家の一員ですらないということなのである。そして、現代でも、台湾はそうだし、日本でも「女は子を産む機械」「嫁して3年子無きは去る」などと言う人がおり、その考え方が根本にあると考えられる。

 しかし、これでは余りに妻や母の立場が不安定で男女不平等であるため、日本では明治31年成立の旧民法で、⑦のように、「夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する」とする夫婦同氏制が施行され、その分だけ中国や韓国よりも妻や母の立場が法的安定性を持ったのである。

 そして、⑧のように、昭和22年改正の戦後民法は、750条で「夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する」とする男女平等の夫婦同氏制を施行し、⑨のように、同791条で「嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は離婚時の父母の氏、非嫡出子は母の氏」とした。つまり、非嫡出子だけは母の氏を使うよう義務化されたのであり、日本の夫婦別氏制度は儒教の影響による男女不平等の流れをくむもので、その発想は今も残っているため要注意なのだ。

 なお、*5-3-2は、⑩「選択的夫婦別氏制」の議論は女性の社会進出や男女平等推進の社会的気運の中で起こった ⑪2021年10月に最高裁大法廷で夫婦同姓を定めた民法規定は合憲という判決が出され、制度の在り方は国会で論じ判断されるべきと明言 ⑫内閣府の2021年世論調査では、結婚での改姓が多くの人に「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴と認識 ⑬夫婦同氏は新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとってセーフティネットの役割 ⑭選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失して安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする可能性 ⑮子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果 ⑯夫婦が別氏を選択することで子供の氏の選択という新たな課題 ⑰子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益 ⑱夫婦の名字・姓が違うことによる夫婦間の子どもへの影響の有無について、69%の人が「子供にとって好ましくない影響」と回答 としている。

 1995年頃、最初に言ったのが私であるため知っているのだが、⑩⑪は事実である。私がそれを言った理由は、結婚で姓を変えると、i)仕事のキャリアが中断する ii)(女の子だけの場合)実家の姓が残らない iii)離婚したのに、その姓で有名になった前夫の姓を使わざるを得ない人がいる iv)女性だけ離婚が表面に出るのは不公平 などの理由からだった。

 そのため、⑫の内閣府の世論調査で、結婚での改姓が「新たな人生の始まり」や「夫婦の一体感」の象徴と認識する人が多かったり、⑬のように、新婚期に初めて価値観をすりあわせて夫婦アイデンティティを形成するなどというのは、回答者に改姓しない男性が多く含まれていたり、そういう状態で結婚した男女は考えが甘かったりするのだと思う。

 ただ、⑭のように、選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失するのは確かに困る。しかし、家族名としての氏が消失すると夫婦のアイデンティティが形成されないようなら、その結婚は誤りであるため、結婚前に結婚しない決断をした方が良かったのだ。

 しかし、子どもは親を選べず、自分の親が互いに相手をけなし合っているのではなく尊敬しあっていることが自分の存在を肯定する要素であるため、⑮⑯のように、両親が同氏で自分も同じ姓であることが確かに家族への帰属意識や安心感を持たせる効果がある。また、⑰のように、子の氏を「早期かつ安定的に決定すること」が子の利益であり、⑱のように、夫婦の名字・姓が違うのは子にとって好ましいことではないだろう。

 文化を含めた諸外国との比較について、*5-3-2は、⑲英・米は氏の変更は基本的に自由・豪・仏は同氏、別氏、結合氏のどれも可・独は同氏が原則で別氏・結合氏も可・中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可・伊は夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏・韓国は別氏が原則 ⑳日本の氏は家族全員が同じ氏を世代を超えて受け継ぐので、中国・韓国と同じ「身分規定の認識としての名前」に相当 ㉑韓国は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序を重視、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味が氏にある ㉒別氏を選択する夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない ㉓日本は夫婦同氏制を原則とすべきだが、日常生活における不利益は解消されるべきで、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の旧姓の通称使用拡大と法制化が望ましい ㉔選択的夫婦別氏制導入は氏に関する男女不平等の是正にはならない 等としている。

 ⑲のように、英・米のように氏の変更が基本的に自由というのも、氏の意味を考えた時に疑問に思うが、豪・仏・独は同氏が原則で別氏・結合氏が可能であり、やはり原則は同氏なのである。また、伊は、夫は自分の氏で妻は自分の氏または結合氏と日本より男女不平等に見える。

 なお、⑳㉑のように、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、韓国は妻だけ別氏が原則で同じ氏を世代を超えて受け継ぎ、氏には始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味があるのだそうだ。そのため、儒教を基にする国で妻の別氏が原則の国は、むしろ男女不平等で結婚における妻・母の立場の法的安定性が低く、㉔のように、選択的夫婦別氏制度の導入は男女不平等の是正にはならないのである。

 さらに、*5-3-2は、㉒のように、「別氏の夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない」と記載しているが、確かに他のカップルが夫婦別氏の場合、私の経験では、長期間その2人が夫婦であることに気がつかなかったという不便があったが、自分の場合は、逆に配偶者の属性が知られないためステレオタイプな偏見を持たれず、自由に仕事をできるメリットがあった。

 そのため、私も、今は、㉓のように、「日本は夫婦同氏制を原則とし、家族名としての氏は残したまま、日常生活においては氏を変更する個人の旧姓の通称使用を法制化し、拡大するのが良い」と考えており、法制化のやり方は、民法750条「1項:夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」に「2項:婚姻の際に定める氏が旧姓と異なる者は、旧姓を通称として使用することもできる」と加え、これに伴って戸籍法16条も変更することになる。

4)主体的に家事をせず、エンゲル係数の意味もわからない男性の「群盲象を撫ず」発言
 *5-4は、①エンゲル係数(食費/消費支出)が日本で急伸し、G7で首位 ②身近な食材が値上がりして負担が家計へ ③実質賃金が伸び悩み、仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった ④食費割合の高い65歳以上の高齢者割合が2024年29.3%とトップ、エンゲル係数が高くなり易い土台がある所に物価高が直撃 ⑤生活の質の劣化懸念 ⑥スーパーで表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」、コメも大幅値上がり ⑦「庶民の味」の食材ほど上昇が激しい ⑧総務省消費者物価指数(2020年=100)で2023年の上昇率は5年前と比べて鶏肉12%、イワシ20%、サンマ1.9倍 ⑨日本のエンゲル係数は2022年で26%、2024年7~9月期は28.7%まで上昇 ⑩大和総研の矢作主任研究員は「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」 ⑪家計調査(総世帯)で食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、2023年15.8%と10年前より3%高い ⑫SOMPOインスティチュート・プラスの小池上級研究員は「係数上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべき」 ⑬小池上級研究員は「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」 等と記載している。

 このうち①②④⑥⑦⑧⑨⑪は、統計数値であるため事実だろう。

 しかし、③の「仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯が家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった」というのは、エンゲル係数の分子である「食費」しか見ていないため誤りだ。何故なら、共働きでなければ所得が減るため、分母の「消費支出」がさらに小さくなり、相対的に節約に限度のある食費の割合が高くなるからだ。わかり易く言えば、所得が減れば、子どもの塾や習い事を止めさせ、夫の小遣いを減らして、家族の食費を確保するしかないのだ。

 また、⑩は、「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」とまるで中食(調理食品)が悪であるかのような言い方をしているが、栄養士が監修し、生産現場に近い場所で加工調理されてくる中食(調理食品)は、材料が新鮮なうちに加工され、調理時に捨てる部分は運ばないので運賃や家庭ごみが減り、残渣は生産現場で餌や肥料にアップサイクルできるのだ。

 そして、最も重要なことは、⑬の「効率よく働く」を個人レベルでなく、社会レベルで達成しているのであり、共働き夫婦の家事の時短だけではなく、単身者や食事を自分で作れない高齢者に食事を提供することによって、要支援者にかかる支援時間を減らしているのである。

 なお、小池上級研究員は、⑬で、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと悠長なことを言っておられるが、家事は外部委託すれば自給1,500円程度の仕事であり、週40時間、月4週間働けば24万円(1,500円/時間x40時間x4)稼げる仕事であることをご存じだろうか。そして、それに保育や介護が加われば、さらに高くなるのである。

 そのため、共働きで家事も負担している場合の日本の妻は、「給与+24 万円」の働きをしているため、家事を負担していない男性とは異なり、いつも最大の効率で働くことを考えているのであり、それでも睡眠時間は世界1短いのだ。そのため、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと言うのは、「自分を基準に考えて、何をとぼけたことを言っているのか」と思われた。

 結論として、⑫のとおり、「エンゲル係数の上昇は、生活レベルの低下が原因」にほかならないのである。

・・参考資料・・
<日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約>
*1:https://digital.asahi.com/articles/ASSBD3QDFSBDUTFK004M.html (朝日新聞 2024年10月12日) 核禁条約、際立つ消極姿勢 「核共有」言及で問われる被爆国のトップ 衆院選公示を15日に控え、与野党の政策論議が熱を帯びてきた。日本記者クラブの12日の党首討論会では、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が決まったことを受け、安全保障をめぐる議論が白熱。とくに核兵器をめぐる議論では、自民党と他党との立場の違いが浮き彫りになった。相手を指名して質問する討論会の前半。立憲民主党の野田佳彦代表は石破茂首相を指名し、議論の口火を切った。「昨日、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。日本は唯一の被爆国であり、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」。そして、こうたたみかけた。「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容するような発言をしている日本のトップでいいのか」
●地位協定改定、野田氏「後押ししてもいい」
 野田氏が突いたのは、核抑止力を重視する首相の持論だ。首相は就任直前の9月下旬に米シンクタンクに寄稿した論文で、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを踏まえ、「米国の核シェア(共有)や核の持ち込みも具体的に検討せねばならない」と強調した。野田氏はこの主張に疑問を示し、「(核兵器の保有や使用などを全面的に禁じる)核兵器禁止条約にせめて、オブザーバー参加するべきだ」と訴えた。共産党の田村智子委員長も首相を指名して「条約を批准するべきだ」と迫った。首相は「核廃絶の思いは全く変わらない。そこに至るまでの道筋をどうやって現実にやっていくか」と説明。だが、過去にウクライナが核兵器を放棄したことがロシアのウクライナ侵略を招いた背景にあるとの主張を展開し、「核抑止力から目を背けてはいけない。現実として抑止力は機能している」と強調した。核禁条約への態度をはっきりと示さない首相に対し、田村氏は「核禁条約に背を向けている」と批判。「核抑止は、いざとなれば核兵器を使うという脅しで、被爆者の願いを踏みにじるものだ」と指摘した。安倍、菅、岸田政権は核禁条約を批准せず、オブザーバー参加も見送ってきた。しかし、自民党と連立を組む公明党は「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」(石井啓一代表)とオブザーバー参加に賛成の立場。今回、日本の条約批准を訴えてきた日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことも、オブザーバー参加すら拒む自民党の消極姿勢を際立たせている。自民中堅は「政府は核禁条約から逃げ続けている。被団協とは正反対の姿勢で、政権浮揚には全くならない」と手厳しい。首相は討論会で「今までの政府の立場との整合性もあり、政府の長として軽々なことは言わない。抑止力を認めながら、核兵器の廃絶が本当に両立可能なのか。検証は必要だ」と述べるにとどめた。一方、首相は、就任後トーンダウンさせていた持論の日米地位協定の改定について「必ず実現する」と踏み込んだ。この日の討論会でも、自身が防衛庁長官だった2004年の沖縄国際大での米軍ヘリ墜落事故について改めて言及。「あの時の衝撃を忘れられない。沖縄県警が全く触れられず、機体も全部回収された」と振り返った。地位協定改定に消極的な米国との交渉を念頭に「相手のある話なので、どんなに大変かよく分かっている」としつつも、「これから党内で議論し、各党とも議論を進める」と意欲を見せた。野田氏も日米地位協定改定については「石破さんもおっしゃっているならば、私どももそれは後押しをしてもいいと思う」と協力する姿勢を示した。首相はもう一つの持論の「アジア版NATO」については「仕組みとして機能しないと思わない」と強調。「まず議論から始めなければ、何を言っても結実はしない」と述べ、自民党内での議論を進める考えを示した。
●「減税」「給付」主張の野党 財源は語らず
 各党が力を入れる経済政策についても論戦が交わされた。立憲の野田氏は、アベノミクスの「副作用」を克服していく必要があると主張。その点をどう認識しているか、首相に問うた。首相は「実質GDPはほとんど上がらず、実質賃金は下がりすらしたこともある。突き詰めれば、コストカット型の経済ということだった。これから先は、付加価値をつけて、それにふさわしい対価をきちんと得られ、個人消費が上がっていかない限り、デフレ脱却はあり得ない」と強調した。国民民主党の玉木雄一郎代表は、首相が「倍増する」とした地方創生の交付金の効果を疑問視した。首相は「全く効果を発現しなかったものもある。徹底して検証し、効果的な地方創生に使っていく」と答えた。各党の党首からは、負担減を軸とした政策を掲げる発言が相次いだ。共産の田村氏は中小企業への直接支援を訴えた。立憲の野田氏は、税金控除と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入を掲げ、「本当に困っている方に的を絞った対策だ」と主張。国民の玉木氏は、賃金上昇が継続するまで「金融緩和と積極財政を続ける」と明言し、ガソリン税に上乗せされている旧暫定税率の廃止も訴えた。一方、こうした施策の裏付けとなる財源や負担について、各党首とも積極的には語らなかった。公明の石井氏は、日本維新の会が公約に掲げる高齢者医療費の負担増について、「後期高齢者の窓口負担が3割になると、急激な負担増になる」と指摘した。維新の馬場伸幸代表は、すべての国民に一定額を支給する「ベーシックインカム」制度の導入を挙げ、「いろんな形で所得補償をしていく」と述べた。れいわ新選組の山本太郎代表は、首相に対して「消費減税に踏み切るべきだ」と迫った。首相は「消費税は景気にほとんど影響されない。社会保障の財源にあてなければいけない」と述べ、消費減税は「今のところ考えていない」と明言した。経済界からも早期導入を求める声が上がる「選択的夫婦別姓制度」についても議題になった。導入の是非を問われた首相は「議論を引き延ばすつもりはない。自民党内できちんと結論を得たい」と述べた。法案を党議拘束を外して採決することには「あまり賛成ではない」と述べた。維新の馬場氏は「戸籍制度をきちんと守っていくことを前提に賛成だ」と、家族同姓制度は維持したうえで、旧姓の通称使用を広げる考えを示した。
●自民非公認候補、推薦の公明「地元の判断」と釈明
 自民派閥の裏金事件を受け、「政治とカネ」の問題にどう向き合うのかも論戦になった。首相の後ろ向きな姿勢を浮き彫りにしようと、党から議員に渡され使途公開の義務がない政策活動費について、国民民主の玉木氏が切り込んだ。「政策活動費を使わない、使う、の方針を示していただきたい」と切り出し、自民党の公約を逆手に取って、こう追及した。「公約には廃止を念頭に見直すという言葉がある。廃止を公約に掲げた選挙で政策活動費を使うのはあまりにも矛盾だ」。これに対し、首相は「政策活動費自体は合法だが、どう見ても違法の疑いがある使い方はしない」と強調し、使途公開にも難色を示した。廃止については「遠い先のことではなく」としつつ、「国会においてもきちんと議論したい」と具体的な時期は示さなかった。煮え切らない首相の答弁に、玉木氏は「使い道を公開しない限り、違法か適法に使ったかはわからない」と、過去に刑事事件になった元自民議員の例を挙げて、首相の姿勢を批判した。政治とカネの問題への姿勢をめぐっては、自民と連立を組む公明にも疑問の目が向けられた。公明は公約で「クリーンな政治の実現」を前面に打ち出しているにもかかわらず、自民が非公認とした裏金問題に関与した2人を推薦。その矛盾を突いたのが、関西の小選挙区で公明党との「すみ分け」を解消し、初めて全面対決する維新の馬場氏だ。推薦した理由を問われた公明の石井氏は「当初は自民が公認しない方については、自民からの推薦の要請がないから、推薦は多分ないとの前提で考えていた」などと説明し、司会者が「発言をまとめてください」と促される場面も。その後の主催者との質疑でも「党本部が『この人はだめだ、あの人はだめだ』と上から命令をするわけではない」と、あくまでも地元の判断だと強調するなど苦しい釈明に追われた。公明が候補を擁立する小選挙区や、比例区での票を積み上げるため、推薦したとの見方がもっぱらだ。与党が防戦に追われる中、追い風に乗り切れない野党の姿も露呈した。政権批判票をまとめるためには、野党の候補者一本化が必要だが、公示日まであと3日と迫っても党同士の協議は進んでいない。それでも立憲の野田氏は「限られた時間だが、最後まで粘り強く、対話のチャンスがある限りはやり続けていきたい」と語るのみ。これに対し、共産の田村氏は、いらだちをのぞかせてこう訴えた。「裏金を暴いて追及の先頭に立ってきたのは共産だ。共産の候補者を降ろすことを前提として、裏金議員との対決というふうに話が進むのはいかがなものか」


<被爆者の定義>
*2-1:https://nordot.app/1210406327982293009 (長崎新聞 2024/9/22) 「新たな救済策」で何変わる? 長崎の被爆体験者…手当など被爆者と大きな格差 広島との分断も
 長崎原爆の爆心地から半径12キロの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている。根本的な違いは、国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうか。被爆者には認める一方、体験者については否定し、被爆体験に起因する「精神的疾患」だけを認める形だ。このため救済策に大きな格差がある。被爆者には被爆者健康手帳が交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担される。状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当、葬祭料など各種手当も受けられる。一方で、体験者は2002年度開始の支援事業により、精神科受診を前提に、精神疾患やその合併症(がん7種が昨年度追加)の医療費支給にとどまる。手当は一切ない。こうした被爆者との差に加え、体験者は原爆由来の「黒い雨」を巡る広島との分断にも直面。長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者も多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島だけに適用され、長崎は対象外だ。岸田文雄首相が今回示した救済策によって体験者も精神科受診が不要となり、医療費助成の対象疾病が被爆者とほぼ同じになる。一方で手当はないままだ。被爆80年近くがたち、全国の被爆者は約10万7千人で、最も多い37万人台(1980年代)から3割弱に減った。これに伴い国の被爆者援護費も減少。当初予算ベースで2023年度は約1188億円と、ピーク時の01年度から約470億円減った。一方、県内の被爆体験者(第2種健康診断受診者証所持者)は今年7月末現在で5111人。体験者への医療費助成については、23~25年度予算の概算要求で毎年12億円程度となっている。

*2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1327282 (佐賀新聞 2024/9/26) 「被爆体験者」救済策 これが「合理的解決」か
 国が指定した援護区域外で長崎原爆に遭ったため、被爆者と認められない「被爆体験者」の救済策を岸田文雄首相が自ら発表した。年内に全ての体験者を対象に医療費助成を拡充し、被爆者と同等にするという。現状より前進ではあるが医療費に限った措置であり、各種手当も支給される被爆者との格差は依然として大きい。そもそも体験者の願いは、戦争の「特殊の被害」(被爆者援護法)を受けた被爆者認定そのものであることを忘れてはならない。首相は同時に、体験者の一部を被爆者と認めた長崎地裁判決を不服として控訴する方針も表明、期限の24日に実行された。首相は「長崎原爆の日」の8月9日、現地で体験者と初めて面会し「合理的に解決するよう指示する」と明言した。これが「合理的解決」なのか。程遠い。救済策、訴訟対応ともに体験者側の反発は強く、法廷闘争はこれからも続く。国が被爆者認定の在り方を根本から見直す以外に、解決への道筋はないことを知るべきだ。被爆体験者に対する現行の医療費助成は、精神疾患とその合併症や、胃がんなど7種類のがんに対象を限定。しかも申請時や毎年1回、精神科を受診することが必要だ。救済策では、対象疾病の制限や精神科の受診要件を撤廃する。その点では被爆者並みとなるが、放射線に起因する疾病に罹患(りかん)していることなどを条件に、被爆者に支給される各種手当は対象外のままだ。これは国が、被爆体験者には精神的な悩みは認められるが、被爆者と違って放射線の影響はないとの立場を堅持しているからだ。その姿勢を改めて鮮明にしたと言え、体験者側の反発も当然だ。これでは、広島高裁が3年前、援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて、新基準に基づく被爆者認定を進めている広島との格差は残り続ける。この差は、長崎には客観的な降雨記録がないためとされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果などを根拠に、一部ではあるが援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限って被爆者と認めた。長崎の援護区域は、爆心地から南北約12キロ、東西約7キロの極めていびつな形だ。爆心地から遠くにいた人が被爆者認定され、より近くにいた人が体験者にとどめられたという例も少なくない。もともとの国の区域指定に問題があると言わざるを得ない。長崎では、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定された。その後、周囲に特例区域が追加され、全体として援護区域は広がったが、こうした線引きは旧行政区画に沿って行われた。原爆由来の放射性物質の影響が、行政区画通りに広がるはずがなく、不合理であることは明らかだ。国は画一的に線引きするのではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を、これまでの調査結果などと突き合わせて精査し、個別に判断すべきだ。長崎県によると、体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超える。長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった。時間がない。体験者に「国に見捨てられた」と感じさせてはならない。

*2-3:https://www.min-iren.gr.jp/?p=45956 (全日本民医連 2022年7月29日) 被爆体験者ってなに?
 長崎には“被爆体験者”という聞き慣れない言葉がある。原爆の熱線や黒い雨を浴びながら、行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たち。放射能の影響ではなく、原爆体験のストレスで病気になったというのだ。「被爆体験者の“体験”って、いったいなに?」と話すのは長崎市香焼町の津村はるみさん(76歳)。1945年8月9日の原爆投下、生後19日の津村さんは布団ごと吹き飛ばされた。庭で洗濯物を干していた曾祖母は熱線を浴び、背中が真っ赤になった。母は乳がんや子宮がんを患い、津村さん自身も50歳の時に甲状腺がんを手術。「少しでも体調が悪いと、がんではないかと不安になる」と言う。長崎の被爆地は当初、旧長崎市と隣接する村の一部だった(図のピンク)。2度にわたって範囲が広がったが(青と緑)、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形だ。図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではない。ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれる。被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない。一方、被爆体験者に交付されるのは「被爆体験者精神医療受給者証」で、受給者証には「被爆体験の不安が原因で」病気になったと書いてある。放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向で、こんなおかしな仕組みができた。被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はないが、放射能の影響が考えられるがんなどは対象外。例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃がん」になった途端、医療費助成が打ち切られる矛盾した制度だ。津村さんは爆心地から南へ約9・7kmの旧香焼村で被爆したが、被爆地ではないため被爆体験者。「受給者証をもらうためには精神科の受診が必要だが、抵抗がある。そもそも私たちは精神病なのか。どうして被爆者と認めてくれんとかな」。
●こんなこと許されるか
 爆心地から半径12km圏内で被爆した全ての人を被爆者として認めてほしいー。「長崎被爆地域拡大協議会」(以下、協議会)は2001年から、長崎民医連や長崎健康友の会と協力して、国や県、市に要望してきた。長崎民医連は12~13年、被爆体験者194人を調査、約6割に下痢、脱毛、紫斑など放射線による急性障害があった。県連事務局次長の松延栄治さんは「被爆者の認定指針をはじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めている。これは社会保障政策も同様で根本的に間違っている」と指摘する。同じ被爆地でも、広島に被爆体験者はいない。広島高裁は昨年7月、広島で放射性物質を含む黒い雨を浴びた原告84人全員を被爆者と認める判決を出した。原告には爆心地から30km圏内の人もいた。厚労省は判決を受け被爆者認定指針を見直す方針だが、長崎の被爆体験者は対象外とした。協議会副会長の池山道夫さん(80歳)は長崎健康友の会副会長も務める。「広島も長崎も同じ原爆。何が違うのか。こんなことが法治国家として許されるのか」と怒る。協議会は高裁判決を踏まえ、12km圏外の原爆被害の実態調査を始めることを決めた。
●梅干みたいな太陽
 長崎市平間町の鶴武さん(85歳)は、爆心地から東へ7・3kmの旧矢上村で被爆。同じ村内の隣の集落は被爆地だが、山の尾根の反対側に当たる鶴さんの集落は認められなかった。「祭りも運動会も一緒にやってきた。なぜ分断されるのか」と言う。8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見た。「梅干みたいに赤黒かった」。父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した。「緑の手帳ばもらっているが、ピンクをもらえれば人として安心する。※ 広島は認めて、なぜ長崎は認めないのか、不思議か。私たちには先がない。生きているうちに原爆手帳を」と訴える。
●「壁を突破したい」
 協議会会長の峰松巳さんは95歳。長崎市深堀町に一人で暮らしている。「高齢化で子どもを頼って引っ越す会員も増えているが、県外に移住すると受給者証は返還しなければならない。こんな酷い制度を変えるために活動している」と語る。峰さんの11人の兄弟姉妹のうち、4人は幼くして早逝。その後も白血病や肺炎で3人が亡くなったが、誰も被爆者とは認められなかった。「放射能の影響を小さく見せたい米国の意向で、日本政府は被爆地域を狭く限定している」と憤る。協議会の山本誠一事務局長(86歳)は、原爆で一緒に吹き飛ばされ9歳で亡くなった友人が忘れられない。この友人は原爆投下から下痢が続き、60日後に突然亡くなった。一緒に運動してきた仲間が、受給者証を交付された半年後にがんになり「手帳は使えない」と無念のうちに亡くなったことも。「何度打ち砕かれても、多くの人の支えで運動を続けてきた。民医連や友の会をはじめ、皆さんと一緒に壁を突破したい」と山本さん。4年前に心筋梗塞の手術をし、3本のステントが体内に残る。「まだ、死ぬわけにはいかないのです」。
※被爆者に交付される被爆者健康手帳の表紙はピンク色、被爆体験者精神医療受給者証は緑色

<衆院選と原発・エネルギー政策>
*3-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/224cf2459efb29b2e698decc9df4c9aa11c37c8f (Yahoo、毎日新聞 2024/10/23) 議論深まらぬ原発政策 原発立地でも「選挙戦では触れもしない」
 3年前の前回衆院選から原発政策は大きく変わった。岸田前政権は次世代型原発へのリプレース(建て替え)や、最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めるなど、十分な議論がないまま、福島の事故を受けて進めてきた「脱・原発依存」から大きくかじを切った。なし崩しで進む原発回帰だが、今回の衆院選でも議論は低調なままだ。「原発の20年延長の話は、もう夏前には終わった感じ。衆院選では話題になっていない気がする」。九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市で飲食店を経営する40代女性は振り返る。川内原発では、1号機は7月に原則40年とされる運転期間を超え、国内で4基目となる最長20年の延長期間に入った。2025年11月には2号機も40年を超える。運転延長を巡っては、20年の知事選で「安全性の検証」を訴えた塩田康一氏が初当選。22年に九電が原子力規制委員会に運転延長を申請すると、23年10月には市民団体が約4万6000人の署名を集め運転延長の是非を問う県民投票条例制定を求める直接請求をするなど議論の盛り上がりを見せた。だが、県議会は条例案を否決。同年11月には原子力規制委が延長を認可し、翌12月には、薩摩川内市の田中良二市長や塩田氏が相次いで容認した。今年7月の知事選では、原発について目立った議論が交わされることなく、産業振興などを訴えた塩田氏が延長反対を掲げた新人に大差を付けて再選。今月20日には薩摩川内市長選が告示されたが、田中氏以外の立候補はなく、あっけなく無投票再選が決まった。衆院選では、原発の利用について、自民党、日本維新の会、国民民主党などが推進の立場なのに対し、共産党、れいわ新選組は脱原発を掲げる。立憲民主党は、公約では触れていないが党綱領に原発ゼロを明記する。だが、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する、自民と立憲の候補者は発言内容は違えど、いずれも運転延長に容認の立場で、大きな争点となっていない。市民団体「川内原発建設反対連絡協議会」の鳥原良子会長は「立地する地元では、原発関連の仕事に就いている人も多く、争点にしたくないだろうけど、選挙でしっかり考えを示すべきだ」と注文する。福島の事故後、玄海原発(佐賀県玄海町)の2基を含め原発4基が再稼働している九州電力管内は、全国でも電気料金が低く抑えられている。ただ、原発賛成の立場を取る市民からも「安全性について『わかりにくい』『不安だ』という声はある。市民に理解してもらうよう説明してほしい」との声が上がる。一方、原発利用とセットで語る必要がある「核燃料サイクル」も、実現が見通せないままだ。原発から出る使用済み核燃料を再処理し、核燃料として再び原発で使う計画だが、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場ではトラブルが続き、1997年の完成予定だったのが27回も延期されている。再処理工場が稼働できたとしても、再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドも立たない。最終処分場に絡んでは5月、玄海町が原発立地自治体として初めて、選定調査の第1段階である「文献調査」受け入れを表明。脇山伸太郎町長は「国民的議論の喚起」を求めた。だが、安全性や風評被害への懸念は強く、どの自治体も簡単に手を挙げられないのが現状だ。選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が02年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、玄海町の3自治体にすぎない。国内で原発が稼働して半世紀超。使用済み核燃料は各地にたまっており、原発利用の賛成、反対を問わず最終処分場整備は避けては通れない問題だ。だが、脇山氏の願いとは裏腹に、県内の選挙区でも議論は深まっているとは言い難い。玄海町の調査受け入れに積極的に関わった町議会原子力対策特別委員会の岩下孝嗣委員長は「選挙戦では政治資金の話ばかりで原発政策には触れもしない。(放射性廃棄物の処理など)『バックエンド対策』はまだ国民全体がよそ事のような感じだ。エネルギー安全保障など、本来国にとって大事な政策をもっと訴えてほしい」と求めた。

*3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/348660 (東京新聞 2024年8月21日) 原発コストは太陽光発電の何倍?アメリカの最新試算でわかった驚きの数字 次期基本計画でどうする日本政府
 原子力発電のコストが上昇している。米国の最新の試算では、既に陸上風力や太陽光より高く、海外では採算を理由にした廃炉も出ている。日本政府の試算でもコストは上昇傾向だ。年度内にも予定されるエネルギー基本計画(エネ基)の改定で、原発を活用する方針が盛り込まれれば、国民負担が増えると指摘する専門家もいる。
岸田文雄首相(資料写真)
◆岸田政権は「原発を最大限活用」
 政府は福島第1原発事故後、エネ基で原発の依存度を「可能な限り低減」する方針を掲げてきた。しかし岸田文雄政権発足以降、2023年のGX基本方針などで「原発を最大限活用」と転換。エネルギー安全保障や二酸化炭素の排出抑制を回帰の理由に掲げるが、事故の危険性に加え、コスト高騰のリスクもはらむ。米国では23年、民間投資会社ラザードが発電所新設時の電源別コスト「均等化発電原価(LCOE)」を発表。原発のコストの平均値は、陸上風力や太陽光発電の平均の3倍以上だった。経年比較でも原発のコストは上がり続け、14年以降、太陽光や陸上風力より高くなった。均等化発電原価 発電所を新設した場合のコストを電源種類別に比較する指標。建設、設備の維持管理、燃料購入にかかる費用を発電量で割って算出する。日本では、1キロワット時の電力量を作るのに必要な金額で比較することが多い。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)の国際的指標として使われる。単純なコストだけでなく、補助金など政策に関連する費用を含めて算出する場合もある。国内では、経済産業省の作業部会がLCOEを計算。21年の調査では30年新設の想定で、原発のコストは1キロワット時あたり最低で11.7円。前回15年、前々回11年を上回った。一方、陸上風力や太陽光のコストは21年でみると、原発とほぼ変わらなかった。
◆専門家「再稼働でも再エネ新設と同程度」
 東北大の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授(環境政策論)は、「原発の建設費用は1基あたり1兆~2兆円」と説明。コスト上昇の要因として、事故対策費用がかかる上、量産が難しいことを挙げる。「最近の原発は事故対策を強化した新型炉が中心で、技術が継承されておらず、高くつく。太陽光と風力は大量生産で安くなったが、この効果が原発では働きにくい」と指摘する。経産省はエネ基の改定に合わせ、年内にも最新のLCOEを発表する見通し。明日香氏は「今年は21年と比べ、原発新設のコストが上がるのが自然。再稼働でも再エネ新設と同程度という調査もある。政府は原発の活用を進める上で、はっきり『安いから』とは言わないだろう」とみる。
◆原発活用でも「電気代下がるとは考えにくい」
 海外でも日本と同様に、原発推進にかじを切る国は増えている。しかし、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「近年はコスト高で原発の廃炉や計画断念、建設遅延が相次いでいる」と指摘。実際に国内の原子力研究者らでつくる研究会のまとめでは、米国で11年以降、13基が経済的な理由で閉鎖された。松久保氏は「国内も、原発の活用で電気代が下がり、国民の負担軽減になるとは考えにくい」と話している。

*3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/360944 (東京新聞 2024年10月18日) 「原発も対象」巨額の新補助金、詳細なぜ「黒塗り」…集めた電気料金も原資 島根3号機に年700億円試算も
 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を減らす発電所の改修や新設を対象に、発電会社が補助金を受け取れる国の制度が今年から始まった。補助金の原資には市民が払う電気料金も含まれる。しかし発電会社への補助額など内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できないようになっている。
◆23社の52電源に総額4102億円が
 この制度は「長期脱炭素電源オークション」。1月に入札が行われた。発電会社は施設などの維持費を積算し、経済産業省が所管する電力広域的運営推進機関(OCCTO)の入札に応じる。落札できた場合、維持費に相当する補助金を受け取れる。補助額は各社の落札価格が基になる。OCCTOによると、初年度の2023年度の募集は最大1000万キロワットで、23社計52電源が総額4102億円で落札した。水力発電やバイオマス発電、蓄電池のほか、原発では唯一、中国電力の島根3号機(131万キロワット)が含まれる。
◆価格の情報公開請求には「非開示」
 個々の落札価格や受取期間は公表されていない。東京新聞は個別の落札価格などについてOCCTOに情報公開請求をしたところ、「非開示」となった。「事業者の経営方針や事業活動の情報と考えられ、公表対象ではない」とした。制度を設計した経産省資源エネルギー庁への情報公開請求では、文書不存在を理由に「不開示」だった。同庁の担当者は「必要な時が来たら(OCCTOに)情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」とする。原発を対象に補助金を受ける中国電力にも尋ねたが「経営戦略上、回答を控える」とした。
◆支払いを拒めないのに負担させられる
 初回の2023年度は新設や建て替えに補助対象が絞られたが、今月手続きが始まった2024年度からは「新規制基準への安全対策工事が必要な原発」も対象となる。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めない税金のようなものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかが分かるよう公開するのが当然だ」と語る。NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「落札価格が公表されなければ、応札価格が低い順から落札するという基本ルールが機能しているのかさえチェックできない」とも指摘。この懸念について、エネ庁の担当者は「OCCTOを信頼するしかない」と話した。長期脱炭素電源オークション 発電した電気(キロワット時)を売買する卸電力市場に対し、発電能力(キロワット)を取引する容量市場の一つ。再生可能エネルギー拡大の影響で、卸電力市場での電気価格が低下し、大手発電会社が保有する大規模電源の投資回収見込みが不確実になったことが導入の背景にある。発電会社が電源維持のために必要な金額をキロワット単価で応札し、低い順から落札。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)実現に向け、毎年400万〜600万キロワットを調達し、化石燃料から脱炭素電源への移行を目指す。ただ初回は将来の脱炭素化を条件にLNG火力も参加した。
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◆落札すると人件費など20年間保証
 脱炭素電源の発電会社を対象とする補助金で、個別の落札価格などが公表されておらず各社が得る金額は不明だ。国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機はどれだけの補助金を得るのか。NPO法人「原子力資料情報室」が公開情報で試算すると、年間700億円を超えた。この制度では、発電会社はまず年間の固定費(建設費や人件費など)に当たる金額をキロワット単価で応札する。落札すると、固定費分が収益の一部として原則20年間保証される。ただ実際の売電収入と合わせると収益の二重取りとなるため、売電後の利益の9割を還付する。
◆「国民の理解が得られるとは到底…」
 同NPOは今回、公表されている落札総額を落札総容量で割り、1キロワット当たりの平均落札価格を5万8254円と計算。これに同原発の容量を乗じ、766億円とはじいた。補助金を受け取れる「制度適用期間」も非公表のため、原則通り20年だと計1.5兆円。OCCTOによると、落札電源の3分の1が20年を超える受け取り期間に設定している。ここから還付金が発生するが、補助が巨額なのは変わりない。同NPOの松久保肇事務局長は「ほとんど知らされることなく、極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘する。

*3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241028&ng=DGKKZO84404960Y4A021C2EAF000 (日経新聞 2024.10.28) 自民独占 8県どまり 小選挙区、前回より6県減、新潟・佐賀は立民が独占
 自民党は27日に投開票した衆院選の小選挙区で、山形、群馬、熊本など8県の議席を独占した。前回2021年衆院選の14県から6県減らした。自民党派閥の政治資金問題などが影響した。立憲民主党が新潟、佐賀両県、日本維新の会が大阪府のすべての小選挙区を制した。自民が独占したのは、山形、群馬、富山、鳥取、山口、徳島、高知、熊本の8県。徳島、熊本両県は今衆院選で新たに加わった。独占が崩れたのは、青森、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、島根、愛媛の8県だ。滋賀県は維新、そのほかの選挙区はすべて立民が議席を奪った。岐阜4区では立民の元職、今井雅人氏が自民前職を破った。福井2区は政治資金収支報告書に不記載があり、自民から公認されずに無所属で出た高木毅元復興相が落選した。滋賀1区は前原誠司元外相とともに国民民主党を離党した後、教育無償化を実現する会を経て維新に移った斎藤アレックス氏が議席を得た。島根1区は細田博之元衆院議長の死去に伴う24年4月の補欠選挙で当選した立民前職の亀井亜紀子氏が議席を維持した。和歌山1区は自民新人、山本大地氏が競り勝った。23年補選では維新の林佑美氏が当選していた。2区は今回無所属で出馬した旧安倍派「5人衆」のひとりで、参院からくら替えした世耕弘成元経済産業相が議席をとった。党が追加公認をすれば和歌山県も自民の独占県になる。立民は新潟県5小選挙区すべてで前職と元職が議席を得た。同県2区では政治資金問題を巡り自民から公認を得られず無所属で出馬した細田健一氏が議席を逃した。佐賀県も前回衆院選に引き続き立民がすべての議席を独占した。維新は大阪の全19選挙区で勝利した。維新は21年衆院選まで公明党が議席を持ってきた大阪府と兵庫県の6選挙区で初めて候補者を立てた。大阪府の4選挙区はすべて維新、兵庫県の2選挙区は公明が議席を獲得した。維新はこれまでの党の看板政策である「大阪都構想」への協力を得るため公明現職のいる小選挙区への擁立を見送ってきた経緯がある。23年4月の統一地方選で大阪府議会に加え、大阪市議会でも過半数を獲得し、候補者の擁立に踏み切った。

*3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241029&ng=DGKKZO84423330Y4A021C2EP0000 (日経新聞 2024.10.29) 経団連「政策本位の政治期待」 自公中心、安定訴え
 経団連は28日、自民党と公明党の与党が過半数を割った衆院選の結果について十倉雅和会長の談話を発表した。「自民党・公明党を中心とする安定的な政治の態勢を構築し、政策本位の政治が進められることを強く期待する」と訴えた。与党の敗因に関して「政治資金を巡る問題に国民が厳しい判断を下した」との認識を示した。「待ったなしの様々な重要課題に直面している」と主張し、成長と分配の好循環や原子力の最大限活用、賃上げへの環境整備などに迅速に取り組むよう求めた。日本商工会議所の小林健会頭は談話で「連立与党の枠組みがいかなるものであれ、デフレ経済からの完全脱却などに不退転の決意で臨むべきだ」と唱えた。経済同友会の新浪剛史代表幹事は「与野党問わず現実を直視した上でしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めてほしい」と要求した。業界団体では日本鉄鋼連盟の今井正会長(日本製鉄社長)が「安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する」とのコメントを発表した。石破茂首相は連立政権の枠組みの拡大など野党の協力を引き出す道を探る。自民党内で連携を模索する声がある日本維新の会や国民民主党は衆院選で消費税の減税を提起した。経団連の十倉氏は22日の記者会見で「暮らしをよくするために消費税を下げるというのはやや安直な議論ではないか」と批判した。

*3-1-6:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241029/k10014622291000.html (NHK 2024年10月29日) 宮城 女川原発2号機が再稼働 福島第一原発と同タイプで初
 東北電力は29日夜、宮城県にある女川原子力発電所2号機の原子炉を起動し、東日本大震災で停止して以来、13年半余りを経て再稼働させました。事故を起こした東京電力福島第一原発と同じタイプの原発で、このタイプでは初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。東北電力女川原発2号機は、13年前の巨大地震と津波により外部電源の多くが失われ、地下の設備が浸水するなどの被害が出ましたが、その後、防潮堤を海抜29メートルの高さにかさ上げするなどの安全対策を講じて、2020年に原子力規制委員会による再稼働の前提となる審査に合格しました。その後、安全対策の工事や国の検査などが終わったことを受けて再稼働することになり、女川原発2号機の中央制御室では、29日夜7時に、東北電力の運転員が核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く操作を行い、原子炉を起動させました。東北電力によりますと、作業が順調に進めば夜遅くにかけて原子炉で核分裂反応が連続する臨界状態になり、11月上旬には発電を開始する見通しだということです。女川原発2号機は、事故を起こした東京電力福島第一原発と同じBWR=「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、このタイプの原発では東日本大震災のあと初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。また、国内でこれまでに再稼働した12基の原発はすべて西日本に立地していて、東日本にある原発の再稼働は初めてです。政府は、脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け原発を最大限に活用する方針で、12月には同じ「沸騰水型」の中国電力島根原発2号機の再稼働が計画されています。また、電力各社は、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発や、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発など東日本を含む各地の原発についても、今後地元の理解を得た上で再稼働することを目指しています。
●女川町長 “緊張感と責任感持って慎重に対応を”
 女川原発が立地する自治体のひとつ、女川町の須田善明町長は「原子炉の起動は一番の大きな山とは言えるが、送電接続をもって再稼働であり、プロセス全体の安全面の確認が完了するまで状況を注視していく。東北電力に対しては営業運転の段階までしっかりと工程を進め、作業では点検などを着実に実施し、安全上の不備がないよう緊張感と責任感を持って慎重に対応するよう求めている。引き続き進捗状況などの分かりやすい情報提供や、現在の枠組みにとどまることのない継続的な安全性向上を求める」とするコメントを発表しました。
●宮城県知事 “安全最優先で作業を”
 女川原発2号機が再稼働することについて、宮城県の村井知事は午前中に開かれた定例の記者会見で「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい。少しでも異常があった場合にはためらうことなく作業を止めて、県民に積極的に情報公開をしてほしい」と述べました。そして、「事故後被災した原子炉としては初めての再稼働で、他の原発と違って非常に注目度が高いと思っている。私もこの前、視察をしてきたが、本当にここまでやるのかと驚くほどの対応をしていた。安全度は極めて高まったと思っているが、なお油断することなくしっかり対応していただきたい」と述べました。その上で事故が起きた場合に備えてまとめた住民の避難計画については「いざというときに計画のとおり住民が動いてくれるのか、動作がちゃんとするのか。訓練をしながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要だと思っている」述べました。
●13年前の被害とその後の対策
 女川原発2号機は、東日本大震災の際に、敷地内で震度6弱の揺れが観測され、約13メートルの津波が押し寄せました。周辺環境に放射性物質が漏れることはありませんでしたが、原発に電気を送り込む外部電源の多くが鉄塔の倒壊などで失われたほか、敷地の下の港にあった重油タンクが倒壊したり、「熱交換器」と呼ばれる設備がある地下室が浸水したりするなどの被害が出ました。このため、東北電力は再稼働に向けて、2013年から地震や津波などの際の事故に備えた安全対策工事を進めてきました。具体的には、想定される最大クラスの津波に備えて、防潮堤の高さを海抜29メートルにかさ上げしたほか、地震による被害を抑えるための原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行いました。さらに、事故が起きても、原子炉を7日間冷やし続けられる量に当たるおよそ1万トンの水をためられる貯水槽の設置や、ケーブルを入れる管を燃えにくい素材で覆う工事など、さまざまな面で安全対策を講じてきたということです。こうした対策で、東北電力は13年前のレベルの地震や津波にも耐えられるとしています。安全対策工事をめぐっては、東北電力は当初、完了時期を2016年3月と発表していましたが、追加工事などを理由にその後7回の見直しが行われ、ことし5月下旬にようやく完了に至りました。震災後の安全対策工事にかかった費用は、約5700億円にのぼるということです。また、テロなどに備えるための「特定重大事故等対処施設」は、再稼働に必要な原発の工事計画の認可から5年以内の設置が義務づけられていて、期限となる再来年12月までに、約1400億円かけて建設する予定だということです。
●再稼働で600億円程度のコスト削減か
 東北電力によりますと、82万5000キロワットの出力がある女川原発2号機が発電を再開することで、年間で一般家庭の約162万世帯分の電気を賄うと試算されています。東北電力が供給する電力量の構成は、火力発電が67%を占めていますが、今回の再稼働で火力発電所で使っていた燃料費の削減につながり、来年度は、今年度の燃料価格に基づく試算で600億円程度のコストが抑えられる見通しだということです。ただ、東北電力では再稼働に伴って電気料金の値下げをするかについては慎重な姿勢を示しています。昨年度、最終的な利益が2261億円と過去最高となりましたが、その前年度までの2年間はロシアによるウクライナへの侵攻で、天然ガスなどの燃料価格が高止まりしたことなどから赤字となり、自己資本比率が低い水準が続いています。このため東北電力は悪化した財務基盤の立て直しが必要だとしていて、経営の効率化の進捗などを総合的に判断したうえで、電気料金が値下げできるか検討するとしています。
●武藤経産相「大きな節目になる」
 女川原発2号機が再稼働することについて、武藤経済産業大臣は29日午前、「大きな節目になる」と述べました。11月上旬には発電を開始する見通しについては、「東日本における電力供給構造のぜい弱性や電気料金の東西格差、経済成長機会の確保という観点からも、再稼働の重要性は極めて大きい。東日本としては震災後、初めての原子炉起動で大きな節目になり、安全最優先で緊張感をもって対応してほしい」と述べました。そのうえで、新潟県にある柏崎刈羽原発の再稼働については、「地元の不安の声や地域振興の要望を踏まえながら、再稼働への理解が進むよう政府をあげて取り組んでいきたい」と述べました。
●再稼働の背景
 脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け、政府は原子力発電を最大限に活用する方針で、安全性の確保を前提に地元の理解を得た上で、東日本大震災のあとに運転を停止している原発の再稼働を進めていくことにしています。再稼働の背景にあるのは、1つは日本の化石燃料への依存です。国内の電力供給は約7割が火力発電に依存していて、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、サプライチェーンの混乱によって供給不安の問題も出ました。政府としては、原発の活用で化石燃料への依存度を下げ、エネルギーの安定供給につなげたい考えです。もう1つは、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げる中で、脱炭素電源を増やしていく必要があるためです。今後、国内でも電力需要が増加していく可能性も指摘されています。生成AIの普及が急速に進む中で、不可欠なデータセンターや、半導体の製造工場などの建設が拡大するとみられ、こうした施設は大量の電力を消費します。全国の電力需給を調整しているオクト=電力広域的運営推進機関によりますと、東日本大震災後、省エネや節電の進展などを背景に、全国の電力需要は減少傾向にありました。しかし今後、電力需要は上昇に転じ、9年後の2033年度にはデータセンターなどの新増設によって約537万キロワットの需要が増える見込みだとしていて、政府はこうした需要に応えるためにも、原発の再稼働を進めていく必要があるとしています。
●使用済み核燃料 4年程度で満杯に
 原発の運転で出る使用済み核燃料は、青森県六ヶ所村にある再処理工場に運ばれる計画となっていますが、完成時期が遅れているため、全国の原発に留め置かれた状態が続いています。用済み核燃料は、原発の建屋の中にある燃料プールで一時的に保管されていますが、東北電力によりますと、女川原発2号機ではすでに燃料プールの管理容量の79%に達していて、再稼働に伴って今後4年程度で満杯になる見通しです。このため、東北電力は使用済み核燃料を女川原発から搬出するまでの間、金属製の容器に入れて保管する乾式貯蔵施設を敷地内に設置し、2028年3月に運用を開始する計画です。ただ、原発の立地自治体からは、再処理工場の完成が遅れる中で、施設内に長期間にわたって使用済み核燃料が留め置かれるのではないかという懸念も出ています。
●原子力規制委も態勢強化
 国内で初めて「BWR」=「沸騰水型」の原発が再稼働するのにあわせて、検査を行って運転を監視する原子力規制委員会も、態勢を強化しています。これまで再稼働してきた「PWR」=「加圧水型」とは内部の設備が異なるほか、運転操作にも異なる部分があるため、検査官には、検査や運転の監視にあたってそれぞれのタイプに合わせた対応が求められるということです。検査官の中には「BWR」の検査に携わった経験のない職員もいて、原子力規制委員会では、検査官に改めて知識を確認してもらおうと、研修を増やして態勢を強化しています。2023年秋以降、原発の中央制御室を模したシミュレーターを使って、トラブルが起きやすい起動の手順を確認する研修をこれまで9回開催し、約30人の検査官が受講したということです。原子力安全人材育成センター原子炉技術研修課の白井充課長は「BWRとPWRはシステムの構成や動きが異なるため、検査官がそれぞれに対応できるようにしている。起動やトラブル対応などを重点的に学習してもらった」と話していました。
●「PWR」と「BWR」 全国の稼働状況は
 東京電力福島第一原発の事故のあと新たに作られた規制基準の審査に合格し再稼働したのは、女川原発2号機で13基目です。国内には33基の原発がありますが、これまでに再稼働した12基はいずれも西日本に立地しているほか、事故を起こした福島第一原発とは異なる「PWR」=「加圧水型」と呼ばれるタイプでした。一方、福島第一原発と同じ「BWR」=「沸騰水型」と呼ばれるタイプは国内に17基あり、東北電力や東京電力など東日本にある原発の多くがこのタイプですが、再稼働したのは女川原発2号機が初めてです。女川原発以外では、柏崎刈羽原発6号機と7号機、東海第二原発、島根原発2号機がすでに新しい規制基準の審査に合格していて、このうち島根原発2号機は12月に再稼働する計画となっています。ただ、柏崎刈羽原発は地元の了解が得られておらず、東海第二原発は避難計画の策定などが課題となっていて、「BWR」の再稼働がどこまで進むかは見通せない状況です。
●専門家に聞く「PWR」「BWR」の ”違い”
 「PWR」と「BWR」。なぜこうした違いが生じているのか。経緯や安全性について、原子力規制庁の元幹部で長岡技術科学大学の山形浩史教授に聞きました。
Q.「BWR」と「PWR」は安全性に違いはあると考えていますか。
 『BWR』は、原子炉を覆っている格納容器が『PWR』に比べて小さいという特徴があります。福島第一原発の事故では、炉心が溶けるという、設計では考えていなかったような事態が起こりました。小さい格納容器では余裕がなくて、事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなって、蒸気と一緒に放射性物質が放出されました。福島第一原発の事故以前の対策では、炉心が溶けるというような事態を考えた場合には、格納容器が小さい『BWR』は不利であったということになります
Q.福島第一原発の事故後に行われてきた対策について、どのように考えていますか。
 事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなりそうになったら、弁を開けて蒸気を放出させるという対策を新しく要求しています。ただし、そのまま放出すると蒸気と一緒に放射性物質が放出されてしまいますので、水などに放射性物質を吸着させます。こうした対策を『BWR』には特別に要求をしています。ですから、新しい規制基準を満足していれば、『PWR』と同等、またはそれに近いレベルまで安全性を高められたということになります
Q.世界では「PWR」が主流、国内では「BWR」と「PWR」が半々となっています。「BWR」と「PWR」は、コスト面で違いがあると考えていますか。安全面、コスト面ともに大差ないと思います。原子力発電所はもともと原子力潜水艦の技術が使われています。原子力潜水艦が『PWR』だったので、地上も同じ『PWR』から始まりました。先行したものが技術や審査の実績が積み上がってくるので、電力会社としてもそちらのほうが経営面でのリスクが少ないということになるかと思います。日本の場合は『PWR』と『BWR』の両方ありますが、電力会社が、昔からPWR系のアメリカのメーカー、BWR系のアメリカのメーカーのどちらとつきあいがあったのかで分かれたのだと思います。
Q.なぜ「BWR」のほうが再稼働が遅くなったのでしょうか。
 新規制基準が施行された日に電力各社が『PWR』の審査の申請をしました。『PWR』はフィルター付きベントの設置が求められていなかったため、新しい検討要素がなく対応が早くなったのではないかと考えられます。最初に鹿児島県の川内原発の審査が進み、1つ前例ができるとほかの『PWR』の審査も進むようになりました。少し遅れて『BWR』の申請が出され、技術力のある東京電力の柏崎刈羽原発の審査が進みました。しかし、テロ対策の不備があり、東京電力の事情で大きく遅れたということだと思います。東京電力を追うように審査が進んだ東北電力の女川原発、中国電力の島根原発が再稼働することになったのだと思います。
Q.「BWR」の再稼働にあたって、事業者にはどのようなことが求められますか。
 『BWR』にはフィルター付きベントという安全装置がありますが、これ使う時は放射性物質が少なからず出ます。そういうことがあるかもしれない。それを起こさないために今何をするのか。そういうことをしっかり考えてほしいです。周辺地域に対しての影響というのは大きなものがあります。これを肝に銘じて安全対策に取り組んでいただきたいと思います。
●避難計画の課題
 宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大な事故が起きた際には、住民を安全に避難させることができるかが課題となります。元日に起きた能登半島地震は、地震や津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」となった場合の課題を改めて突きつけました。1つ目は住民の避難路の確保です。能登半島地震では地震による土砂崩れなどの影響で道路が通行止めになって避難できず、孤立した集落も多く見られました。宮城県によりますと、牡鹿半島では住民が避難に使う3つの県道には、あわせて92か所で土砂崩れなどの危険性がある「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」があります。さらに、巨大津波が発生した場合には、2つの県道であわせて14か所が、津波による浸水で通行できなくなるおそれもあります。課題の2つ目は、被ばくを避けるため、まずは自宅など建物の中にとどまる「屋内退避」についてです。国の指針では原発で重大な事故が起きた際、原則、半径5キロ圏内の住民は即時に避難し、5キロから30キロの住民は自宅などに屋内退避するとされています。しかし、能登半島地震では住宅をはじめ多くの建物が倒壊しました。専門家からは仮に倒壊しなかった場合でも、巨大地震のあとは、倒壊の危険性がある自宅にとどまり続けることは困難だと指摘されています。こうしたことについて宮城県は、国や関係機関などと連携してヘリコプターや船などあるゆる手段を使って住民を避難させるなどとしていますが、「複合災害」が起きたときの避難計画の実効性を、いかに高めていくのかが問われることになります。
●再稼働反対の人たちが抗議活動
 29日午前中、女川原発のゲート前には、再稼働に反対する団体などから約30人が集まりました。プラカードや横断幕を掲げ、「周辺住民の被ばくや生活の破壊を全く顧みず、私たちの声を全く無視した再稼働を許すことはできません」などと訴えました。また、東北電力の樋口康二郎社長への申し入れとして、能登半島地震から避難への不安が大きくなり、避難計画を示されても安心できないことや、東京電力福島第一原発の事故の復旧に見通しが立たず立ち入ることができないふるさとがある状態で、同じようなことがあってはならないなどと訴えました。そして、ゲートの方向に向かって「再稼働するな」などと声をあげていました。抗議を行った団体は申し入れ書をゲート前で提出したいと東北電力側に打診しましたが断られたため、郵送したということです。女川から未来を考える会の阿部美紀子代表は「原発は避難を強いるほど危険な代物で必要ない。東北電力は地元の人に聞くと逃げることは大変困難だと身をもって感じるはずだ」と話していました。
●住民“安全に避難できるのか“
 原発周辺の住民からは、地震や津波と原子力災害が重なる複合災害が起きた時に安全に避難できるのか、心配する声があがっています。女川原発がある牡鹿半島の牡鹿地区の行政区長会、会長を務める鈴木正利さんは29日の再稼働について「すでにそこにできていて、動いたことのある原発なので、今さらどうすることもできないし、賛成でも反対でもない」と話しました。その上で原発が半島部分にあるため、東日本大震災やことしの能登半島地震の経験も踏まえて、もし事故が起きた時に住民が安全に避難できるかが重要だと話します。震災では、鈴木さんが住む牡鹿半島の先端にある鮎川地区には8メートルを超える津波が襲い、半島のあちこちが土砂崩れや津波による浸水などで通行止めとなりました。このため車による避難は難しく、震災の時、港が流されてきたがれきなどで使えなくなった経験から、国や自治体が考える船を使った避難も簡単ではないと指摘します。また、天候によってはヘリコプターによる避難も難しく、現実的なのは地区にあるコンクリート造りの集会所に退避することだと言います。東日本大震災の時には集会所に最大300人の住民が避難したということで、鈴木さんは放射線から身を守れるよう気密性を高めた防護施設に改修するよう求めています。鈴木さんは「震災では港は転覆した船や養殖いかだ、魚網などであふれ使えなかった。この集会所は地域の中心にあり、お年寄りも歩いて来られる場所にある。放射線から身を守る施設に改修してもらえれば、ここで何日か安全に避難できる」と話していました。
●経団連 十倉会長“エネルギー自給率向上などに貢献を期待”
 経団連の十倉会長は「安全性の確認と地元の理解が得られ、原子炉が起動し、再稼働への大きな一歩が踏み出されたことを歓迎する。ここに至るまでの関係者のご尽力に心から敬意を表したい。引き続き、円滑に営業運転が開始されるよう、準備を着実に進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「国際的に遜色のない価格での安定した電力供給は国民生活と企業活動の基盤であり、女川原子力発電所2号機が、エネルギー自給率の向上とカーボンニュートラルの双方に資する電源として、大いに貢献することを期待する」としています。
●同友会 新浪代表幹事“経営者として 再稼働を心から歓迎”
 経済同友会の新浪代表幹事は、「震災によって多大な被害を受けた立地地域の自治体をはじめ、関係各位の尽力に敬意を表する。半導体事業、データセンター、生成AIなどにより、今後、電力需要の大幅な増加が見込まれる。また、わが国のエネルギー自給率向上や脱炭素化の取り組みに際しては原子力発電は非常に重要な手段の一つでありわれわれ経営者としても再稼働を心から歓迎する」というコメントを発表しました。そのうえで「世界で最も厳しいとされる新規制基準の審査に合格した原子力発電所については、立地地域を含め、広く社会のステークホルダーに対して丁寧でわかりやすい説明と信頼醸成に努め、早期に再稼働が進むことを期待している。第7次エネルギー基本計画策定の議論が進められているが原子力発電所の再稼働を含め、安定的なエネルギーの確保はわが国の未来にかかわる重要なテーマである。この取り組みを進めるため、さまざまなステークホルダーとの熟議を含め、経済同友会としても責任ある対応を進めていきたい」としています。
●日商 小林会頭“電力価格安定や脱炭素などに向け再稼働不可欠”
 日本商工会議所の小林会頭は「立地地域をはじめ関係者の尽力に深く感謝と敬意を表するとともに大いに歓迎したい。東北電力におかれては、安全の確保を最優先に再稼働、営業運転再開に向けた取り組みを進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「電力の価格安定と需要増加への対応、脱炭素の推進に向けて、原子力発電所の再稼働は不可欠である。女川原発2号機に続き、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6・7号機など安全が確保された原発の早期再稼働に向け、地元理解の促進など政府が前面に立った取り組みを期待する」としています。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240920&ng=DGKKZO83568530Z10C24A9FFJ000 (日経新聞 2024.9.20) 日本発の次世代太陽電池、中国が量産先手、「ペロブスカイト」新興6社が工場計画、新市場覇権狙う
 日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト」の投資ラッシュが中国で始まった。少なくとも中国の新興6社が工場を建設する計画で、国内外から流入する投資マネーが生産を後押しする。中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う。中国・江蘇省無錫市で、極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場の完成が近づく。2023年4月に着工し、同社によるとペロブスカイト型として「世界初のギガワット(GW、100万キロワット)級の生産基地」となる。敷地面積は約1153平方メートルで、生産ラインのほか研究センターや倉庫なども備える。ここから南へ約1000キロメートルに位置する福建省アモイ市では大正微納科技が100メガワット(MW)級の工場を建設中で、25年には量産を始める。ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の教え子である李鑫氏が最高技術責任者(CTO)を務める。各社の公式発表によると、中国では少なくとも6カ所でペロブスカイト型の建設プロジェクトが進行中だ。江蘇省昆山市では、中国太陽電池大手の協鑫集団(GCLグループ)傘下の昆山協鑫光電材料が23年12月に起工した工場の建設が進む。急速な技術発展と市場拡大を期待してマネーが流入している。太陽光から電気への変換効率をみると09年の発明当時はわずか3.8%で、実用化に程遠い水準だった。これが試作品レベルとはいえ現在は最高26%台まで上昇し、理論変換効率(33%)の上限に近づく。カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は32年に24億ドル(約3400億円)と22年の26倍に成長する。協鑫光電には寧徳時代新能源科技(CATL)、騰訊控股(テンセント)、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどが出資した。大正微納には、みずほフィナンシャルグループと深圳力合科創集団が共同設立したベンチャーキャピタル(VC)の瑞穂力合基金などが資金を投じた。瑞穂力合の高級投資総監、張一欧氏は「当社の出資を通じて日本と世界市場の開拓につなげてほしい」と語る。日本勢では、積水化学工業が25年の事業化を目指し、シャープ堺工場(堺市)の一部取得を検討している。パナソニックホールディングス(HD)は26年に参入する方針だ。自社開発したペロブスカイト型太陽電池と、住宅の建材を組み合わせ「発電するガラス」としての用途を開拓する。日本発の技術だが、発明した宮坂教授は技術の基本的な部分について海外で特許を取得しておらず、量産では中国企業が先行した。中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保しようとしている。「曲がる」点が最も注目されるペロブスカイト型だが、発電効率でも一般的なシリコン型と比べた優位性が高い。大正微納の試験では、ペロブスカイト型は年間の合計発電量でシリコン型を大幅に上回った。曇天や早朝、夕暮れなどの弱い光でも発電できるためだ。同社の馬晨董事長兼総経理は「中国では広大な土地に太陽光電池を敷き詰める集中型が一般的だった。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わるだろう」と話す。課題は山積している。生産面ではパネル基板に太陽光を吸収するペロブスカイト層を薄く均一にコーティングする難易度が高く、大型パネルを安定的に量産するのが難しい。このためフィルムに比べて表面に付着させやすいガラス基板の量産が先行する見通しだ。ただガラス基板では「軽く」「薄く」「曲がる」というメリットが失われる。フィルムを使ったパネルを大型化することが開発の焦点となる。
▼ペロブスカイト型太陽電池 太陽光を吸収するためにペロブスカイトと呼ぶ薄膜材料を使う太陽電池のこと。ペロブスカイトは八面体の結晶構造を持つ化合物。ロシアの科学者ペロブスキー氏が天然鉱物から発見し、その名前にちなんで命名された。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84313960U4A021C2MM8000 (日経新聞 2024.10.24) テスラ、蓄電池を全国販売 ヤマダと連携、1000店規模 家庭の再エネ需要に布石
 米テスラはヤマダホールディングスの店舗で家庭用蓄電池(総合2面きょうのことば)を販売する。全国1000店の家電量販店で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダの住宅や太陽光発電設備と組み合わせる。蓄電池と量販の大手が連携し、家庭での再生可能エネルギーの需要を取り込む。太陽光発電は家庭で発電した電力を国が決めた価格で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を契機に導入が一気に広まった。2023年度までの日本の住宅用太陽光の設置件数は累積で330万件ある一方で、蓄電池の累計出荷台数は産業用を含めても93万台にとどまっていた。国は30年度に再生エネの普及率で36~38%の目標を掲げ、太陽光発電は14~16%程度を占める主要な電源だ。天候によって発電量が変わる太陽光の供給と電力需要を調整するには蓄電池を増やす必要がある。家庭に蓄電池が普及すれば再生エネの安定供給につながる。テスラが家庭用蓄電池「パワーウォール」を全国規模の小売店経由で売るのは初めて。これまでは同社が認定する施工店経由の販売が中心だった。ヤマダは全国に約1000店の直営店を展開しており、まずは25日に開店する神奈川県平塚市の店で販売を始める。年内にヤマダの大阪市内や松江市の店でも実機を展示して販売を始め、沖縄を除く全国に順次広げる。施工はテスラの認定施工会社が担う。テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量に当たる13.5キロワット時と大きく、競合の国内メーカーと比べて容量当たりの価格が安い。ヤマダでの販売価格は工事費などを含めて208万7800円。シャープやニチコンなど競合の大容量商品(工賃込み)の市場価格と比べて、容量当たりの価格は3割以上安い。日本で現在販売している家庭用蓄電池は米国で生産したものを輸入している。ヤマダは国内の家電市場が伸び悩むなか、電気自動車(EV)や住宅、家具といった非家電領域を開拓し、再成長を目指している。蓄電池を巡っては日本で新たな市場が拡大する見通し。米欧ではすでに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」と呼ばれる電力ビジネスが広がっている。太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電しておき、電力が足りない時にためた電気を販売して収入を得る仕組みだ。市場に余剰電力があるときには蓄電して、電力の需給バランスも調整できる。テスラも米国ではVPPを展開し、世界の設置台数は累計で75万台超ある。日本では沖縄県の一部でサービスを導入しており、設置台数が増えれば全国への展開も視野に入れる。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83771040Z20C24A9NN1000 (日経新聞 2024.9.30) 再エネ・蓄電池の併用支援 経産省、補助金を増額
 経済産業省は2025年度にも、再生可能エネルギーの発電と蓄電池を併用する事業者への支援を拡充する。発電量に応じて上乗せして交付する補助金の額を現状の2倍程度に増やす。海外に比べて遅れる蓄電池の普及を後押しして、再生エネの有効活用を広げる。日本の再生エネは太陽光の普及が特に進んでいる。昼間に電気が余る傾向があるため、発電を停止する事態が頻発している。電気をためるのが解決策だが、蓄電池の導入コストが高く再生エネの発電事業者の多くが活用できていない。経産省はこうした状況を踏まえ、蓄電池を活用する「FIP」と呼ばれる再生エネの発電事業者を対象に、交付する補助金の額を現状から増やす。他の事業者に比べて発電量1キロワット時あたり1円程度上乗せしている交付額を、2円程度に増額する。FIP事業者に対する現在の上乗せ額は初年度が1円程度で、徐々に支援規模を縮小しながら数年間上乗せが続く仕組みになっている。初年度を含めて3~5年程度、現状の金額から倍増する案がある。詳細は24年度末までに専門家の意見を踏まえて詰める。例えば2018年度に事業用の太陽光発電を始めていた場合、国のベースの支援額は1キロワット時あたり18円だが、陸上風力は20円、洋上風力は36円だった。ベースの支援額は再生エネの種類や事業開始年度で異なる。 

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84687330Y4A101C2EA3000 (日経新聞 2024.11.9) 政府、地方創生に5本柱 閣僚会議が初会合 東京一極集中是正やデジタル活用 首相「付加価値を創出」
 政府は8日、首相官邸で地方創生策を検討する閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合を開いた。石破茂政権は地方創生を看板政策に掲げる。人口減や社会的な基盤の維持など地方が抱える課題の解消をめざす。2025年度予算案で関連交付金を倍増する計画だ。首相が本部長を務め、全閣僚で構成した。副本部長には林芳正官房長官と伊東良孝地方創生相が就いた。25年6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、今後10年間を見据えた具体的な施策を盛り込む見通し。(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境(2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散(3)付加価値創出型の新しい地方経済(4)デジタル・新技術の徹底した活用(5)「産官学金労言」のステークホルダーの連携と国民的な機運の向上――を柱に据えて議論する。首相は商工会議所や行政、教育機関、金融機関、労働組合、地方新聞社・テレビ局からなる有識者会議の立ち上げを表明した。地方が直面する問題などを検証して政策立案に生かす。11月中にまとめる経済対策に関し「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出などの取り組みを支援する」と強調した。倍増方針を示した地方創生の交付金については「金額だけ増やしては何の意味もない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った。地方創生は首相にとって思い入れのある政策だ。14年9月に発足した第2次安倍晋三改造内閣で初代の地方創生相を務めた。同年12月に決定した長期ビジョンには「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んだ。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが、地方を取り巻く環境は依然として厳しい。首相は8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければこの先の展望はない」と述べた。「地方創生2.0」を掲げて改めて政策をてこ入れする。10月28日の記者会見では「日本創生」を訴え「地方と都市が結びつくことにより日本社会のあり方を大きく変える」と呼びかけた。国立社会保障・人口問題研究所が23年に発表した将来推計人口によると、56年には1億人を割って9965万人になり、70年には8700万人になる見通しだ。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、23年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は転入者数が転出者数を上回り、28年連続で転入超過を記録した。地方の人口流出が続く。首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動をみると10年間で全国33の道県で男性より女性の方が多く転出した」と説明した。婚姻率の上昇を念頭に、若者や女性に選ばれる地方の実現を訴えた。経済産業省は閣僚会議の設置を受けて各地域の経済産業局長らが出席する会議を開き、地方企業の声を集める。8日の会議で設備投資などの現状を報告した。

<先端技術と教育>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83766580Z20C24A9TB2000 (日経新聞 2024.9.30) スマホ、高級カメラのみ込む、小米やiPhone、画質大幅アップ 加工技術の「リアル」争点
 中国の小米集団(シャオミ)や米アップルのスマートフォンのカメラ機能が大幅に向上している。レンズの改良と画像補正技術を磨き、数十万円するような高級コンパクトカメラに匹敵する写真が撮れるようになった。ただ、日本経済新聞が複数機種で撮り比べをしたところ、リアルと加工の境目はどこかという課題も見えてきた。「驚異的な新しいカメラで魅力的な写真の体験ができる」。日本時間9月10日にアップルが開いた新製品の説明会で、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は新型iPhoneのカメラ機能の向上についてこう強調した。新機種「iPhone16 Pro」ではアップル史上最長の焦点距離をもつ光学5倍の望遠カメラを搭載した。画像処理を活用し、撮影後の細かな色調の編集を実現した。スマホ各社はカメラ性能を高めた新機種を国内で相次ぎ発売している。2023年のスマホ出荷台数で世界3位のシャオミは5月、旗艦モデル「Xiaomi14 Ultra」を発売した。独高級カメラメーカーのライカと共同開発した4つのレンズを搭載し、光学で5倍、デジタルズームで最大120倍のズームができる。韓国サムスン電子は4月に発売した旗艦モデル「Galaxy S24」は、撮影後の背景を簡単に加工できる機能を売り物とする。ソニーグループ傘下のソニーが6月に発売した「Xperia 1 6」は暗所でもきれいに撮影できるのが強みだ。7月発売のシャープの「AQUOS R9」もライカ製のレンズを搭載する。各社がカメラ機能に力を入れる背景にはスマホ市場の成熟化がある。データ処理速度など基本性能の差異化が難しいなか、カメラはインスタグラムなどSNSに写真を投稿する層をつなぎとめるのに欠かせない機能として重要度を増している。米調査会社IDCによるとスマホ本体の台数は28年に24年比で8%の成長にとどまる見通し。それでもスマホ向けカメラモジュール市場は、調査会社のグローバルインフォメーションとマーケッツアンドマーケッツによれば、同期間で47%の成長が見込まれる。キヤノンやニコンなどカメラメーカーにとってはスマホの進撃は脅威だ。カメラ映像機器工業会(CIPA)によればデジカメの総出荷額は08年の2兆円超から、足元では7000億円台に沈む。国内では08年にアップルが初めてのスマホを発売し、市場シェアを奪ってきた。調査会社のMM総研(東京・港)は「人工知能(AI)など技術向上でスマホのカメラ機能の向上は間違いなく続いていく」と指摘。コンパクトデジカメに続き、高級デジタル一眼などカメラメーカーの主力の領域をのみ込む可能性もある。実際にスマホカメラの性能はどれだけ高性能なのか。日本経済新聞では今回、シャオミとアップルの最新機種と、比較対象としてユーザーの評価が高い日本の大手カメラメーカー製の高級コンパクトデジカメ(19年発売、価格20万円前後)を使い、東京都千代田区の日経本社ビルから直線距離で約5キロメートル離れた東京スカイツリーを撮り比べした。スマホ、デジカメともスカイツリーの全景は新聞の印刷には十分すぎる高い水準の写真が撮れた。こだわりのあるカメラ愛好家やプロのカメラマンでなければ、3枚に大きな違いを感じないだろう。次に、ズームアップして撮影したところ、明らかな差が出た。シャオミのスマホでは地上450メートルに位置する「天望回廊」とその下の鉄骨部分がクッキリと写った。それと比べるとデジカメはコントラストが低く、ややかすみがかって見える。アップルはデジカメに比べ色合いで青みが薄れた。何をきれいと感じるかは人それぞれだが、SNSを活発に利用する高校生10人に3枚の印象を聞いたところ、10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と答えた。シャオミのズーム写真の秘密を探るため、別の対象も撮影してみた。最大ズームで路上にいる人物に焦点をあてたところ視覚障害者用の黄色のブロックの凹凸が塗りつぶされたように平たんになった。ビル屋上の看板は絵の具で描いた絵画のようになった。シャオミ日本法人でスマホなどの製品開発に携わる安達晃彦プロダクトプランニング部本部長は「実用的に撮影できるのは30倍まで。最大120倍まで撮影が可能だが、デジタル処理感が強くなる」と加工感を認める。一般的にデジタルズームでは画像を引き伸ばす際に解像度の低下が起きる。それをなんらかの機能で補うのがメーカー各社の技術の見せどころになるが、そこには「現実を写しているのか、現実を作り替えているのか」という問題が内在している。楽しむことを優先するなら加工は積極的に肯定されるが、記録を優先するなら不安が残る。そして、リアルと加工の揺れ幅はAIの普及で大きくなっている。シャオミやアップルなどのスマホメーカーに限らず、カメラメーカーの最新デジタルカメラにもAIによる補正機能が搭載されるようになっている。プロの写真家で組織する日本写真家協会では、生成AIによる作成物は写真ではなく「画像」と見なしているが、ノイズ処理や色の補正を含めたAIのテクニックまでは線引きできていないという。会長の熊切大輔氏は「業界で議論されないまま技術だけが発達してしまった。ルールを決めていく必要がある」と話す。

*4-2:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/260594 (日本農業新聞 2024年9月24日) 果樹産地の担い手確保 優良事例を発表 中央果実協会
 中央果実協会は24日、果樹産地での担い手育成などに関する事例発表会をオンラインで開いた。大分県農林水産部は、2023年までの10年間で200人が新規就農者したと紹介。園地の確保や未収益期間の長さが就農の壁となる中、県主導で園地の基盤整備や技術習得の支援を同時並行で進め、成果を上げているとした。同協会は、果樹の担い手は、20年までの20年で半減し、60歳以上が8割を占めていると説明。一方、果樹の価格や輸出の攻勢などに魅力を感じている人らが増えているとし、反転攻勢へ大きな好機を迎えているとの考えを示した。大分県農林水産部の河野雅俊氏は、07年から行う基盤整備の取り組みを紹介した。果樹の新規就農者の確保へ「積極的な誘致が重要」として、ダイレクトメールなどを活用して働きかけを展開し、特に農家以外の人や異業種の法人などの参入が増えていると報告。経営展開のシミュレーションを示して、参入を円滑に進めているとした。就農者が1、2年間、小規模な園地で経験を積む間、並行して育苗や園地整備を推進。その後、その園地に加えて、整備された園地も渡すことで、未収益期間の削減につなげているとした。就農者に渡すための園地を集約するには、地権者らへの説明などを丁寧に進める地道な取り組みも不可欠として、「最低でも1、2年は必要」とも指摘。同じ目標を持ったチームを県や市町村、JAや生産者で作り上げることも重要とした。世羅幸水農園(広島県世羅町)の光元信能組合長は、47ヘクタールの大規模な梨園を維持する仕組みを紹介。ジョイント仕立てを導入し、リモコン式草刈り機の活用なども進めているとした。

*4-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84307860T21C24A0TB3000 (日経新聞 2024.10.24) 陸上養殖サーモン大量出荷 NTT、エビ国内大手に、丸紅など4商社でノルウェー輸入に迫る
 海ではなく陸地で魚介類を人工的に育てる陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階に入る。丸紅が販売するサーモンが10月中にも店頭に並ぶほか、NTTグループは2025年3月にもエビを出荷する。技術力と資金力を持つ大企業による大量生産で、水産のサプライチェーン(供給網)が変わり始めた。9月下旬、富士山の麓にある静岡県小山町の養殖場では出荷を1カ月後に控えた数百匹の魚が遊泳していた。丸紅がノルウェー企業のプロキシマーシーフードと共同で取り組んできた国産アトランティックサーモンが、いよいよ首都圏のスーパーなどで生鮮食品として販売される。プロジェクトの起点は2020年に遡る。プロキシマーはオスロ証券取引所に上場する水産企業で、高い養殖技術を持つ。丸紅は販売代理について協議。22年に10年間の国産陸上養殖サーモンの独占販売契約を結んだ。まずは25年末までに計4700トンを富士山麓から出荷する計画で、27年には国内最大規模の年5300トンに増やす。全てすしネタに使うと仮定すると3億貫分に相当する量だ。
●資本力生かす
 なぜ陸上養殖なのか。天然魚は地球温暖化や乱獲の影響で水揚げが安定しない。海面養殖は水温や寄生虫といった自然環境の影響があるほか、漁業権が必要で新規参入が難しい。大手企業が資本力を生かして大規模に生産するには陸上養殖が最適なのだ。環境負荷の軽減に寄与する利点も大きい。プロキシマーは今回、「閉鎖循環式」と呼ぶ仕組みを採用した。餌やふんで汚れた水をそのまま排水せず、バクテリア分解と散水で浄化し再利用し続ける。さらに航空輸送を伴わない分、サーモン1キロあたり12キログラムの二酸化炭素(CO2)排出削減効果も見込める。施設の運営に必要な電力の15%は敷地内の太陽光発電設備で賄う予定だという。単純な生産コストは海面養殖に比べて割高だが、大規模生産による効率化や消費地までの輸送時間短縮による鮮度の向上、環境負荷軽減などを総合的に考慮すると、十分に収益性を確保できる。プロキシマーのヨアキム・ニールセン最高経営責任者(CEO)は「想定通りの魚の質に仕上がっている。数年後には同規模の養殖場を新たに建設したい」と、既に日本での増産が視野に入っていることを明かす。国内の陸上養殖サーモン事業は三井物産、三菱商事、伊藤忠商事もそれぞれ別のパートナーと組み参入。いずれも今後3年程度で本格出荷が始まる見込みだ。各社が公表する年間生産量(計画値)は4商社合計で2万1300トンと、今の主要供給元のノルウェーからの輸入量(約3万トン、生鮮・冷蔵)に迫る。自給率向上に一役買うだけでなく、追加の設備投資で生産量がさらに上乗せされれば輸出産業に育つ可能性もでてくる。大手商社だけではない。通信各社も陸上養殖に注目する。大企業としての資本力を生かせるだけでなく、情報サービスで既に生産者や卸売・小売事業者と接点があり、有利な立ち位置にいるためだ。「水産業の工業化と標準化をなし遂げたい」。NTTグループ子会社で陸上養殖を手掛けるNTTグリーン&フード(東京・千代田)の久住嘉和社長は意気込む。静岡県磐田市にある敷地面積1万3000平方メートルのスズキの部品工場跡地に巨大なエビ養殖場を建設中だ。12月稼働、来年3月にも初出荷を見込む。8月に関西電力から買収した磐田市内のエビ養殖場と合わせ26年度には年産約200トンとなる。水産大手のニッスイが年産110トンの陸上養殖施設を稼働済みだが、それを超えてエビ陸上養殖で国内最大手に浮上するとみられる。陸上養殖のエビは臭みがなく、病気などを防ぐ薬品の使用量が少なくすむ。また、NTTグループの研究所ではCO2を効率的に吸着する藻の研究を進めている。将来、この藻を飼料に使って環境負荷の軽減につながる養殖事業に育てる考えだ。ソフトバンクはあらゆるものがネットにつながるIoT技術を駆使して養殖が難しいとされるチョウザメの養殖実証に乗り出した。日常の食卓には上らないが、卵のキャビアは高値で取引される。
●世界市場9割増
 世界の漁業・養殖業生産量は22年に2億2322万トンで10年前に比べ25%増えた。天然魚などの海面漁業の生産量はほぼ横ばい。海面養殖業は48%増と急増しているが、適地が限られるため中長期な今後の拡大は難しいとされる。人類の胃袋を満たす伸びしろは陸上養殖だ。調査会社のグローバルインフォメーションによると陸上養殖の世界市場は29年に23年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増する。日本にとっては、食の安全保障の観点からも陸上養殖の重要性は増している。政府は食用魚介類の自給率を32年度に94%に引き上げることを目指している。23年度は50%台だった。背景には中国など近隣諸国・地域との漁獲競争が激しくなっているほか、気候変動でサンマやスルメなど身近な水産物がとれにくくなっている危機感がある。これまでの日本の養殖は小規模事業者が多く、生産性の向上が課題だった。大企業の本格出荷で構図が変わる。消費者の選択肢が広がるだけでなく、水産大国ニッポンの復活も見えてくる。

*4-3-2:https://suisanshigen.com/2020/06/20/article24/ (水産資源管理 2020年6月20日) 過去最低と最高の水揚げ量 この違いは何か?
●世界全体と日本の水揚げ量の傾向は逆
 農林水産省から2019年、そしてFAO(国連食糧農業機関)から2年ごとに出される世界全体の水揚げ量(2018年)が発表されました。日本の水揚げ量は、416万㌧と1956年以降の比較しうる数量で過去最低を更新中。1980年代の1,200万㌧台から滑り落ちるように減少が続き止まりません。ところで、これまで主な減少要因とされてきたマイワシの水揚げ量は、減少要因どころか2011年の震災以降10万㌧台を回復し、2019年は50万㌧を超え、減少を続ける水揚げをかろうじて支える位置付けになっています。つまり、マイワシの減少が、日本の水揚げ量が減り続ける原因ではなかったのです。一方で、世界全体の水揚げ数量は、引き続き右肩上がりを続けています。2018年は天然と養殖で合計2億1千万㌧(海藻類3千万㌧含む)と過去最高を更新中です。天然と養殖物は、ほぼ半々。ただ、天然物の漁獲に関しては、主に北米、北欧、オセアニアなどの漁業先進国が、サステナビリティを考えて漁獲をセーブしているので、今後は養殖物の比率が増えて行くことでしょう。ただし、サーモンを始め養殖魚の多くはエサを必要とするので、その供給が課題です。
日本と世界の傾向がなぜこんなにも違うのか?その原因と明確な答えを出し続け、皆さんに水産資源管理の大切さに気付いていただきたいというのが、当サイト(魚が消えて行く本当の理由)の目的です。
●成長乱獲と加入乱獲そして投棄が同時多発
 小さな幼魚を獲ってしまえば魚は大きくなりませんし、産卵する親が減れば産まれる卵の量は減ってしまいます。また漁獲した魚を小さかったり、産卵後で痩せていたりで価値が無いため投棄してしまえば資源は減少します。残念ながら日本で、様々な魚で同時に起こってしまっている現象です。その結果が、様々な魚種、そして全体でも過去最低という水揚げ量につながっています。
●魚と海水温
 海水温の高い低いが、水産物の資源量に影響を与えるのは当然です。農作物の収穫量も気温に影響されるのと同じです。しかしながら、日本では魚の資源が減少した理由について、海水温の上昇を安易に使いすぎています。そしてそれは「矛盾」という形で現れます。資源量に水温の影響があるなら、より漁獲量を減らして資源量の維持を図る予防的アプローチがされるべきです。しかし、供給が減ることで魚価が上がり、よりたくさん獲ろうとする力が働いて資源を潰してしまう例があちらこちらにあります。そしてとどのつまりが、環境の変化に対する責任転嫁。地方の深刻な衰退につながっています。令和二年発行の水産白書にサケ・サンマ・スルメイカの不漁に関するコラムがあります。不漁の原因は、海水温、海洋環境の変化、外国船による漁獲の影響などが出ていますが、日本が獲り過ぎてしまったこと、水産資源管理に問題があったことは何も書かれていません。 現実的には、主に資源管理の問題で、資源状況が悪化して不漁になっているのです。かつてのノルウェー、現在の中国はそれに気づき対策を取っています。
○スルメイカの例:海水温の上昇ではなく、東シナ海の産卵場での海水温の低下が不漁の原因として挙げられています。海水温は低いのではなく高いので問題になっているのではないでしょうか?(漁師のつぶやき)。
○マイワシの例:水温が低い寒冷レジームで増えると言われています。現在資源量が増加していますが海水温は下がってきているのでしょうか?
○サンマの例:水温が高いため日本の沿岸に魚群が来る量が減っていると言われています。ところで、上記のサンマとマイワシの漁場も時期もほぼ同じです。同じ海域でも水温がサンマには高くてマイワシには低く影響しているのでしょうか?
○イカナゴの例:水温の上昇が資源量が激減した主な理由とされていますが、一方で青森で激減した理由は海水温が低いからと矛盾しています。また、緯度が高く海水温の上昇を日本同様もしくはそれ以上影響を受けているノルウェーの2019年の資源量と漁獲量は皮肉にも大幅に増えています。
○ニシンの例:水温の上昇が資源減少の主な理由の一つとされてきました。しかし、2019年は1.5万㌧と過去10年の平均より2.5倍増加しています。北海道は水温が低下したのでしょうか?。
○カツオの例:海水温が高いことに影響を受けるなら、南太平洋から回遊して来るカツオの量は減少していますが、増えるはずではないでしょうか?
●クジラが食べる影響 クジラはどこに多いのか?
 クジラは、大量の魚を食べます。アラスカなどで群れでニシンを追い込んでひとのみにする映像をご覧になった方もいるでしょう。IWC(国際捕鯨委員会)からの脱退で調査捕鯨を止めた海域は南氷洋で、そこでは最も多くクジラが生息しています。日本の周りばかり魚をたくさん食べてしまうクジラがいるのではありません。クジラはエサになる水産資源が豊富な海域に来ます。ちなみに、太平洋と大西洋、そして南氷洋に生息するクジラの推定生息数を比べてみましょう。最も資源量が多いミンククジラでは、日本の周りを含む太平洋(推定約2.4万頭)より、大西洋の方がはるかに推定生息数が多い(推定約14.5万頭)ことが分かります。南氷洋はさらに多い(推定51.5万頭)です。つまり、クジラが食べる影響についても、日本だけ特別に影響があるわけではないのです。かえってノルウェー、アイスランドなどの方が影響が多いことが予想できます。しかし魚の資源量では、マダラ、マサバ、ニシンなど同じ魚種でもそれらの国々の方が資源量が多く、サイズも大きいという逆の現象が起きています。その違いこそが、まさに科学的根拠に基づく水産資源管理が行われているか否かなのです。

*4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083074.html (朝日新聞社説 2024年11月14日) 教育への投資 財源確保へ本格議論を
 資源が少なく少子高齢化が進む日本にとって、公教育の充実は極めて重要だ。だが長時間労働や教員不足によって、屋台骨が揺らいでいる。現状の打開には教員らの大幅な増員が不可欠だ。教育への投資は、未来への投資である。財源確保に向けて、国民的納得の得られる議論を早急に本格化する必要がある。教員のなり手不足に対処するとして、文部科学省が来年度予算の概算要求に盛り込んだ給与制度の改正案について、財務省が真っ向から対立する案を示した。公立学校の教員には、教員給与特措法(給特法)に基づき、残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われている。文科省は、教員増や勤務時間の削減を進めながら上乗せ分を13%に増やすなどとして、年1千億円規模の増額を求めた。一方、増額を抑えたい財務省は、時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した。文科省案では働き方改革は進まず、教員不足は解消されないとする。確かに、給特法の枠組みの下で給与を増やしても、労働環境が厳しいままでは、なり手は大きく増えないと考える教育関係者は多い。働き方改革の実行を強く迫る財務省案を評価する意見もある。だが、いじめや不登校など多くの問題を抱える中、教員らを増やさずに労働時間を減らすのは難しい。1人当たりの業務量が減らなければ、持ち帰り残業や残業隠しといった問題が増えるとの指摘もある。財務省案だけで状況が好転するとは思えない。日本の小中学校教員の仕事時間は、国際的にみても特に長い。中学校には部活動があり、複雑な家庭環境の子や、過度な要求をする保護者への対応などもある。過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある。いじめや不登校は早期対応が大切なのに、一人ひとりの子どもと十分に向き合う余裕がない教員が多い。改善に必要なのは、教員やスクールカウンセラーなどの充実だ。政府は、省庁間の綱引きに終わらせず、社会の未来を左右する教育政策の優先度を上げ、どう財源を確保すべきか、トータルな議論を深めてもらいたい。働き方改革を強力に推し進める仕組みの構築も急務だ。教育委員会が教員の健康を守る役割を果たせていないなら、第三者が目を光らせる仕組みの導入を検討してもよい。学校現場に意識改革を促し、教員が心身ともに余裕を持って能力を発揮できる環境を整備しなければならない。

<女性の人権・職業選択の自由・職業教育>
*5-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA067I30W4A101C2000000/ (日経新聞 2024年11月7日) 103万円だけじゃない「年収の壁」 働き控えの要因に、「103万円の壁」ポイント解説①
 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党が掲げて話題となっている「103万円の壁」だけでなく、106万円や130万円といった壁もある。それぞれの内容を知ることが働き方や経済政策を考えるカギになる。まずは税の壁だ。パート労働者の年収が100万円を超えると住民税、103万円を超えると所得税がかかる。所得税は基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円あるため合計額の103万円までは税金がかからない。課税されるのは103万円を超えた部分だけなので、税負担が発生しても年収が増えれば手取り自体は増えていく。一見すると「壁はない」ように映る。ところが、実際には年収が103万円を超えないように働く時間を抑える人が少なくない。103万円を超えると企業が配偶者手当を打ち切るケースが多く、世帯収入が減るのを避けようとするためだ。19歳以上23歳未満のアルバイト学生は103万円を超えると特定扶養控除がなくなって親の税負担が一気に増える。この影響を避ける狙いもある。106万円と130万円は社会保険料の壁だ。51人以上の企業に勤めるパート労働者なら年収が約106万円に達すると、社会保険に加入する義務が発生して保険料を払わなければならない。年収130万円以上になると企業規模に関係なく加入する必要がある。年収106万円で社会保険に入ると、年15万円程度の社会保険料の負担が発生する。105万円までで働くのをやめた場合よりも手取りが減ってしまう。加入前よりも手取りを増やすにはおおむね年収125万円になるまで働く必要があり、負担感が大きい。年収150万円の壁は配偶者特別控除に関係する。この金額を超えると配偶者特別控除が段階的に減り始める。手取りは働いた分だけ増えるものの、夫の税負担が増えるため働き控えの一因となる。

*5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/74fb418a8a406caff427548b8fef9561179c72eb (Yahoo 2024/11/8) 基礎控除等の「103万円の壁」が178万円に拡大した場合の影響とは?国民民主党の躍進で話題のテーマを解説
 令和6年10月に行われた衆議院選挙で国民民主党が躍進しましたが、国民民主党が掲げていた公約の1つに「基礎控除等を103万円から178万円に拡大(※)」というものがあります。基礎控除等の額が実際に上がるかどうかは今後の話ですが、今回はいわゆる103万円の壁が178万円に移動した際に起こり得る変化について解説します。
●103万円から178万円に引き上げる根拠は?
 国民民主党が基礎控除等を103万円から178万円に引き上げようとしている根拠として、最低賃金上昇率があります。バブル崩壊後、平均年収はほぼ横ばいなのに対し、最低賃金については約30年前の1995年から1.73倍になっています。現在の基礎控除等の103万円を1.73倍すると約178万円となりますので、178万円の数字には一定の根拠が示されています。
●控除額の引き上げによる変化1:所得税の減税効果
 国民民主党は、基礎控除等を103万円から178万円に拡大した場合、大きく3つの効果があるとしています。1点目は、所得減税の効果です。所得控除等の額が大きくなれば、その分だけ課税所得金額は減りますので、算出される所得税は小さくなります。減税「額」は所得が多い人ほど大きくなりますが、減税「率」で考えた場合、控除額の拡大は低所得者ほど恩恵があるとしていますので、働いている人にとっては一定の節税効果が期待できます。
●控除額の引き上げによる変化2:被扶養者の労働時間の確保
 2点目は、扶養されている人の労働時間を調節できるようになる効果です。所得税では、扶養している配偶者や子どもの数に応じて、配偶者控除や扶養控除を適用できますが、扶養対象者となる人の所得金額が一定以上になると控除を適用できなくなります。扶養されている人の中には、扶養の枠を超えないよう労働時間を調整している方もいますので、103万円の壁が働く時間を短くしている要因の1つとされています。基礎控除等が178万円まで拡大すれば、扶養対象のまま働ける時間も長くなりますので、控除額の引き上げは節税効果だけでなく、労働時間を延ばすことで収入を増やす効果もあります。
●控除額の引き上げによる変化3:労働者不足の解消
 3点目は、最近社会的な問題となっている企業の労働者不足の解消です。現役世代の人口減少も、労働者不足となっている業界が増えている要因ですが、年収の壁も労働者不足を招いている要因です。世の中にはパートやアルバイトをしている人もいらっしゃいますが、働いている人が家族の扶養となっている場合、扶養対象者に収まる範囲で働きます。最低賃金の引き上げが話題となっていますが、時給が上昇すれば103万円に達するまでに要する時間は短くなりますので、被扶養者が年間で働ける時間は時給が上がるほど少なくなります。国民民主党の玉木代表によると、学生などをアルバイトとして採用している企業は、1人当たりの労働時間が減少したことで、年末の忙しい時期に働ける人を確保できないことが問題となっていると指摘しています。減税に関する施策は基本的に労働者に対するものが多いですが、103万円の壁については労働者側だけでなく、雇用側にとってもメリットがある話です。103万円の壁が動くかどうかは国会で議論されることになると思いますが、もし国民民主党の主張がそのまま通れば、多くの方が節税効果等を享受できる可能性が高いです。

*5-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241113&ng=DGKKZO84751960T11C24A1EP0000 (日経新聞 2024.11.13) 103万円の壁ポイント解説(4)178万円案、財源課題 国民民主「消費活発に」
 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党は衆院選公約に基づき、所得税がかかり始める「課税最低限」を103万円から178万円に上げるよう求め、与党と協議している。所得税は収入から一定額を除いた金額に税率をかける。会社などに勤める人は給与所得控除55万円と基礎控除48万円を足した年103万円までが非課税となる。控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられていた。その後はおよそ30年間、103万円のまま据え置かれている。国民民主は最低賃金の上昇率1.73倍にあわせて上げるべきだと提起する。178万円への引き上げによって年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減ると見積もる。政府は国民民主の訴える通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算する。一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と、所得税の減収よりも大きくなる計算だ。2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の3分の1に相当する巨額の財源について、国民民主は税収の上振れや予算の使い残し、外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金を充てると説明する。玉木雄一郎代表は「7兆円分、国民の『手取り』が増えれば、消費も活性化し、企業業績も上がり法人税収も消費税収も増える」と主張する。政府の試算ほど税収は減らないとの考えも示す。年収の高い人ほど減税額が大きくなるとの批判については、「今、払っている税金と比較した場合の『減税率』は明らかに所得の低い人ほど大きくなる」と反論している。

*5-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16085774.html (朝日新聞 2024年11月17日) 「103万円の壁」引き上げ、地方悲鳴 税収減「たちどころに財政破綻」
 国民民主党が実現を訴える「103万円の壁」の引き上げに対し、地方自治体で懸念や反発が広がっている。実施で生じるとされる税収の減少が、苦しい自治体財政を直撃しかねないためだ。「国民民主のおっしゃる通りやった場合は、たちどころに財政破綻(はたん)するだろう」。強い言葉で懸念を表明したのは、全国知事会長を務める宮城県の村井嘉浩知事だった。13日の記者会見で「税収が減れば結果的に住民サービスが下がる。非常に心配している」と語った。国民民主の訴えは、所得税の非課税枠「103万円」の引き上げとともに、地方税である住民税の非課税枠も引き上げを求めるものだ。政府は、税収減は国と地方あわせて7兆~8兆円となり、うち地方税分は4兆円程度と試算した。村井知事は、政府試算を前提に推計したとして、県と県内35市町村の住民税関連で約620億円の税収減になると発表。「私が総理ならば首を縦に振らない」と語った。総務省によれば、神奈川県や仙台市など、少なくとも30以上の県や市が、税収減への懸念を表明している。多くは、実施するなら減収分を穴埋めする措置が必要だと訴えているという。国民民主は、自治体の懸念に対する解決策を示していない。玉木雄一郎代表は7日、記者団に対して「(解決するのは)政府・与党の責任だ。我々は予算の全体像はわからない」と述べた。それでも、過半数割れした与党は、政権運営に必要な協力を得るために国民民主の要求を無視できない。今後本格化する協議の行方を、関係者は固唾(かたず)をのんで見つめている。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84689270Z01C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.9) 「106万円の壁」撤廃へ 厚生年金の対象拡大 厚労省が調整 週20時間以上に原則適用
 厚生労働省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃する方向で調整に入った。配偶者の扶養内で働く人が手取り収入の減少を意識する「106万円の壁」はなくなる。労働時間要件は残る見通しで、週20時間以上働くと原則として厚生年金に入ることになる。同省は企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃する方針も固めている。賃金要件の月8.8万円は、年収換算で106万円程度となる。実現すると200万人が新たに対象になる試算だ。25年は5年に1度の年金制度改正の年にあたる。厚労省は近く開く審議会で要件の見直しについて議論して、年末をめどに詳細を詰める。25年の通常国会で改正法案を提出する考えだ。賃金要件はこれまで、年金や医療の社会保険料を払うため手取りが減ることから、就業時間を短くするなど労働者の働き控えにつながるとの指摘がされていた。ただ、社会保険に加入することで、労働者は将来受け取る年金を増やすことができるほか、医療保険の保障として、傷病手当金など手当が手厚くなるメリットがある。改正の背景には近年の最低賃金の上昇がある。24年度の最低賃金の全国加重平均は1055円で、23年度から51円上昇した。週20時間働くと月額賃金が8万8000円を上回る地域が増えており、厚労省は将来的に賃金要件が事実上不要になると判断した。今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しだ。学生除外要件も残す。企業規模要件と賃金要件はなくなり、さらに5人以上の個人事業所は全ての業種が対象になる方向だ。現行制度では、配偶者の扶養内で働くパート労働者は、従業員51人以上の企業で週20時間以上、月額賃金8.8万円以上、学生ではないといった要件を満たすと、厚生年金に入る必要がある。厚生年金に加入することで老後の低年金リスクを軽減できるほか、加入者が増えれば将来世代の年金の受給水準を改善する効果も期待できる。

*5-3-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241113-OYT1T50280/?utm_source=webpush&utm_medium=pushone (読売新聞 2024/11/14) 「夫婦別姓」で揺さぶりかける立憲民主、自民・公明の一部取り込み図る…衆院法務委員長ポスト獲得で議論主導
 立憲民主党が、選択的夫婦別姓制度の導入に向けた議論で自民党に揺さぶりをかけている。議論の場となる衆院法務委員会の委員長ポストを獲得したことで国会での議論を主導し、導入に賛成する公明党や自民内の一部議員を取り込みたい考えだ。立民の辻元清美代表代行は13日、党ジェンダー平等推進本部の会合で、選択的夫婦別姓を導入する法案の早期提出を目指す考えを示し、「公明や自民の一部の人にも呼びかけて、国民運動として実現に向け進めていきたい」と意欲を示した。立民の野田代表は選択的夫婦別姓導入の布石として、衆院法務委員長に立民の西村智奈美衆院議員を就けた。委員長は委員会開催や議事進行などで大きな権限を持つ。野田氏は8日に党のX(旧ツイッター)に投稿した動画で、法務委員長ポストを「どうしても取りたかった」と説明。選択的夫婦別姓について、「野党は全部、一致・協力できると思うし、公明も多分賛成で、非常に効果的な委員会だ」と期待感を示した。選択的夫婦別姓を巡り、自民内では、保守派を中心に反対論が根強いものの、9月の党総裁選に立候補した小泉進次郎・前選挙対策委員長や河野太郎・元デジタル相が肯定的な姿勢を示すなど、賛否は割れている。公明は衆院選公約で「導入を推進」と明記しているほか、野党では国民民主党や共産党などが導入に賛成の立場だ。野田氏は与野党の賛成派をまとめれば、衆院で過半数を確保し、導入のための法案を可決することも可能だとみている。11日のテレビ番組では「少なくとも来年の通常国会の冒頭には(法案を)出せるよう環境整備をしたい」と語った。立民内には、自民に参院での法案可決、成立を迫るため、「来年度予算への賛成を交換条件とすることも可能だ」(ベテラン)との意見も出ている。ただ、夫婦同姓を見直すことは家族観や社会のあり方に大きな影響を与えるため、立民中堅は「丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘した。

*5-3-2:https://ippjapan.org/archives/7266 ( 2022年9月6日) 日本における「氏」の役割と今後の方向性 —選択的夫婦別氏制の検討—
※IPP-Youth政策情報レポートは、若手研究者および学生等の政策研究グループである「IPP-Youth政策研究会」がまとめたレポートです。
第一章 はじめに
 近年、わが国の「家族」の在り方が大きく変わってきている。例えば、過去30年で世帯構造の構成は大きく変わった。いわゆる「標準家族」とされていた「夫婦と未婚の子のみの世帯」は39.3%(1989年)から29.1%(2018年)に減少している(厚労省2018)。他方で「単独世帯」は20.0%から27.7%に、「夫婦のみの世帯」も16.0%から24.1%に上昇している。その背後には、晩婚化・非婚化、少子化、離婚の増加、世代分離など、様々な要因がある。また1997年以降、「共働き世帯」数が「男性雇用者と無業の妻」世帯数を上回り、その後も増加を続けている。高度経済成長期に大衆化した「夫は仕事、妻は家庭」という家族モデルも過去のものとなりつつある。それに伴い、夫婦の氏の在り方を含む家族に関わる様々な制度・政策について、改革を望む声が多くのメディアに取り上げられるようになった。私たちは改めて、それらの課題を見つめなおす重要な時を迎えている。本稿では、昨今活発化している選択的夫婦別氏制を巡る議論に着目し、日本社会において「氏」の果たす役割と重要性を考察することを通して、今後の「氏」の在り方に関する方向性について検討したい。以下では、まず第二章においてわが国における「氏」をめぐる歴史的経緯を紹介し、第三章で日本において「氏」が夫婦・家族関係に与える影響について考察し、第四章で日本における「氏」の特徴と役割について検討する。そして以上の議論を踏まえて、第五章において具体的な制度の方向性について検討していきたい。
第二章 「氏」に関する歴史的経緯と現状
第一節 歴史的経緯と法制度の現状
 まず、日本における「氏」の歴史をさかのぼってみる。江戸時代、氏を持つことは武士の特権であり、庶民は公には氏をもっていなかった。しかし、「屋号」という形で「家」を示す名称は広く使用されていた。それが、明治3年の太政官布告にて庶民にも氏の使用が許され、明治8年には氏の使用が義務化された。当初、妻の氏は実家の氏を用いること(夫婦別氏制)とされたが、既に夫婦同氏の意識や慣行が庶民の間で広まっており、妻が夫の氏を称することが慣習化していったと言われている(『明日への選択』編集部 2021、法務省HP)。明治31年の民法成立時、江戸時代に発達した「家制度1」が民法の中で規定され、家を同じくすることにより、同じ氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。戦後の民法改正に伴い、「家制度」は廃止され、夫婦は、夫または妻の氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。改正民法は、旧民法以来の夫婦同氏制の原則を維持しつつ、男女平等の理念に沿って、夫婦は、その合意により、夫または妻のいずれかの氏を称することができるとした(法務省HP)。2022年現在、下記の通り夫婦は婚姻の際に同一の姓を称し(民法第750条)、子は親の氏を称することとされている(同法第791条)。
 ■ 民法(明治二十九年法律第八十九号)抄
 (夫婦の氏)
 第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
 (子の氏)
 第七百九十一条 嫡出である子は父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚した
         ときは、離婚の際における父母の氏を称する。
       2 嫡出でない子は、母の氏を称する。
第二節 選択的夫婦別氏制をめぐる経緯
 「選択的夫婦別氏制」についての議論は、女性の労働参加率の上昇に代表される女性の社会進出や、男女平等を推進する社会的気運の中で起こってきた。1979年に国連総会において女子差別撤廃条約が採択され、1985年に日本が当該条約に批准した。翌年には労働基準法の改正とともに男女雇用機会均等法が制定された。このような法制度の改革を背景として、1991年の法制審議会民法部会(身分法小委員会、以下単に「民法部会」)において夫婦別姓についての審議が開始された。1994年から1996年にかけて議論が重ねられ、1996年に選択的夫婦別氏制が明記された「民法の一部を改正する法律案要綱2」が答申された。しかし、その後、国民各層からの反対を受けて本法律案の国会提出は断念された。その後、表立って目立った動きはなかったが、2015年に最高裁大法廷にて夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が出て以降、各所で議論が再燃している。2021年には自民党内において選択的夫婦別氏制の賛成派と反対派の議論が活発化し、関連する議員連盟が成立した。同年10月には最高裁大法廷にて、夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が再度出されたが、その制度の在り方については、国会で論ぜられ判断されるべき事柄であることも明言された。10月末日に行われた衆院選においても、各党が氏のあり方についての公約を掲げ、国民が注目する論点の一つとなった。
第三章 選択的夫婦別氏制度が家族に与える影響
 我が国における選択的夫婦別氏制の導入に関する議論は、主に個人の権利と法律の観点から行われることが多く、家族への具体的な影響を扱った論考はあまりない。本章では、夫婦と子供のアイデンティティの観点から、選択的夫婦別氏制の影響を論じる。
第一節 「夫婦アイデンティティ」への影響
 まず、「夫婦アイデンティティ」に着目して考えてみる。夫婦アイデンティティとは、「私たちはこのような夫婦である」という感覚を指す(Emery et al. 2021)。夫婦は、結婚前は別々の個人であったが、結婚後は生活様式や外部との関わり方にある程度の共通性が生じてくる。そうした共通性に対する自覚と、それが一貫して続いているという認識が夫婦アイデンティティの要素である。夫婦アイデンティティが安定している時、夫と妻が共に「わたしたち」として物事を判断しやすく、夫婦の関係へのコミットメントが高まりやすい。一方で、何らかの事情により、共有していた価値観や信念、優先事項に疑問が生まれると、夫と妻が物事の判断基準を個人の内に求めるようなる。そうすると、「わたしたち」感が揺らぎ、関係を維持する力が弱まるという。安定した夫婦アイデンティティを形成するためには、夫婦が互いに適応していくことが必要となる。夫婦としての家庭生活と友人関係や仕事のバランス、日常生活や性生活の取り決め、互いの実家との関わり方、子供を産む時期や人数などに関して話し合い、ルール作りをしていくことが適応につながる(野末 2015)。しかし、夫婦の互いへの適応は、決して容易なことではない。互いに適応するためには、夫婦が互いの生活や考え方をすり合わせる必要があるが、元々夫婦はそれぞれ別々の考え・習慣をもった家庭で育った他人である。そのため、日本人同士の夫婦でも「異文化結婚」と言ってよいほど、夫婦や親としての役割観、男女の性質に関するイメージ、家事や子育ての仕方、人間関係のパターンなどあらゆることが異なっている(野末2019)。一方で、夫婦という関係は特別視されるため、他の関係以上に相手への期待が高い。その期待と現実の間に生まれた葛藤を解決できない場合、失望や怒りを覚えたり、結婚自体を後悔したりすることもある(野末2015)。夫婦アイデンティティの形成とは、夫婦の違いを前提に互いの立場をすり合わせ、夫婦という連体として物事の進め方とその根底にある考え方、情緒的な支え合いの在り方を調整していくことだと言えよう。このように見ると、夫婦アイデンティティは結婚後即座に安定するものではなく、少なくとも新婚期をかけて、葛藤をはらみながら徐々に醸成されるものだと言える。そうだとすれば、夫婦同氏は夫婦アイデンティティ安定にとって、重要な役割を果たしている可能性が高い。内閣府が2021年に実施した世論調査によれば、「婚姻によって、ご自分の名字・姓があいての名字・姓に変わったとした場合、どのような感じを持つと思いますか。(〇はいくつでも)」という質問に対し、54.1%が「名字・姓が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と回答しており、39.7%が「相手と一体となったような喜びを感じると思う」と回答した(図1、内閣府2022)。この調査結果からは、結婚にともなう改姓が、「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴として認識されていることがわかる。すなわち、夫婦同氏は、新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとって、葛藤があっても自分たちは結びついているという感覚を与えるセーフティネットの役割を果たしている可能性があるのである。他方で、選択的夫婦別氏制を導入した場合、婚姻時に全ての夫婦が同氏か別氏かの選択をする必要が生じる。また、制度的には「家族名としての氏」が消失することになる。仮説的にではあるが、選択的夫婦別氏の導入は、日本の夫婦が安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする一因となる可能性が提起される。
第二節 子供への影響
 次に、子供への影響を考えてみる。選択的夫婦別氏制の導入を検討する際に、避けて通れないのが「子供の氏」の検討である。多くの場合、子供は両親の結婚時には生まれていないか声をあげられるほど成熟していない。そのため、夫婦にとっての「個人の尊厳」を優先するあまり、子供の利益は軽んじられる可能性が高く、配慮が必要である。子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果がある。他方で、夫婦が別氏を選択することで、子供の氏の選択という新たな課題が生じることが指摘されている(篠原 2021、『明日への選択』編集部2021)。篠原(2021)は、夫婦同氏制の改正を目指す場合、子の氏の決定の仕組みについての検討が必須となると指摘している。氏が個人のアイデンティティの基盤を成すとすれば、子供のアイデンティティの基盤となる氏を決定する仕組みの整備は、「子供の利益」の観点から求められる。いかなる仕組みとなるとしても、子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益となる。子供の氏の決定が、夫婦アイデンティティの不安定化を招くことのないよう、慎重な制度設計が必要となるだろう。世論も夫婦別氏が子供に与える影響については懸念を抱いている。内閣府(2022)の世論調査において、「夫婦の名字・姓が違うことによる、夫婦の間の子どもへの影響の有無について」、約7割(69%)の人が「子供にとって好ましくない影響あると思う」と回答している。家庭内で父母が子供に対して情緒的安定を保障することは重要な家族機能であるが、夫婦が別氏であること(片方の親と氏が異なること)や、子供の氏の決定に関する事柄が、子供の情緒的安定を損ねるようなことは防ぐべきである。夫婦アイデンティティの形成、そして子供を含めた家族アイデンティティの形成に対して、選択的であろうと夫婦別氏が与える負の影響についての考慮はあってしかるべきである。国際結婚した家族など、同氏でない家族でも十分な夫婦・家族アイデンティティを形成しているという意見もあるが、次章で扱うように、氏のはたらきは各国の文化によって異なる。国際結婚など特異な文化的前提を持つ例外をもって、夫婦同氏のはたらきを軽視するのは拙速である。その影響範囲が正確に想定できない事柄については、できるだけ小さな変更で対応することが望ましい。
第四章 日本における「氏」の特徴と機能
 我が国では、各国と比較して、選択的夫婦別氏制を導入していないことが時代遅れのように語られることがある。しかし、各国の文化によって「氏」の意味合いは異なる。したがって、選択的夫婦別氏制度の導入を検討するにあたり、「氏」や家族に関わる文化の影響を考察しておく必要がある。本章では、日本における「氏」が示す内容と、その機能について論じる。
第一節 文化による「氏」の意味の違い
 各国の夫婦の氏に関する制度を見てみると、イギリス・アメリカは氏の変更は基本的に自由であり、オーストラリア・フランスは同氏、別氏、結合氏(双方の氏をつなげた氏)のいずれも可、ドイツは同氏が原則で別氏・結合氏も可、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、イタリアは夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏、韓国は別氏が原則となっている。夫婦別氏が可能な国もあるが、氏のあり方は国の文化によって異なる点に着目する必要がある。まず、氏が意味するものにおいて違いがある。名前に関する人類学の議論によれば、名前には①「身分規定の認識としての名前」と②「自由な創造物としての名前」の二種類がある(上野 1999)。上述した中では、少なくとも中国・韓国の氏は氏族名・家族名を表し、①の「身分規定の認識としての名前」に相当する。対して、英米は氏の変更が自由であることから、②の創造物としての性質を持つと考えられる。日本の氏も世代を超えて受け継がれること、家族全員が同じ氏を名乗ることから、①の「身分規定の認識としての名前」に相当するといえる。ただし、同じ「身分規定の認識としての名前」としての氏を持っていても、中国・韓国と日本の氏が表す集団の性格は異なる。隣国の韓国や中国は原則別氏だが、それは血統を重要視しており、歴史的にも生家の氏を名乗り続けることが当然とされているためである。特に、韓国の場合は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序が重視され、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表すという意味が氏にはある(仲川 2016、上野 1999)。一方、日本の氏も古くは「家(イエ)」を表し、代々継承されるものではあるが、「家」は祖先祭祀の単位ではない。上野(2003)によれば、日本では韓国のような縦の親族組織(単系親族組織)は部分的にしか存在せず、祖先祭祀の単位は「家族」である(上野 2003)。日本の「家」の性格は、財産の共有範囲や経営共同体のまとまりであるとされる。百姓身分においてすら、そのような「家」が戦国時代(16世紀)に成立し、武士の前以外では「苗字」に相当するものが使用されていた(坂田 2016)。それが、明治民法の成立を契機に、「家」に所属していた家産の所有権が家長に移されたことで(宇野 2016)、氏の表す範囲が現在の「世帯」に相当する家族へと変化したと考えられる。つまり、日本の氏は、明治以前はその氏が示す「家」への、明治以降は主に世帯としての家族への帰属を表す身分関係を表示する役割を持っていたのである。ただし、韓国のように完全な縦の親族関係を示すものではなく、生活を共にする共同体としての「家」「家族」を指示していたと考えられる。このように、氏に関係する制度は、各国の異なる歴史的背景や文化を反映している。そのため、他国の状況は日本に夫婦別氏を導入する理由にはならない。
第二節 日本における氏の身分関係表示機能
 では、氏のはたらきに関わる日本の文化的特質とはどのようなものか。それは、日本人に特徴的な「うち」と「そと」の区別である。日本人は、「うち」と「そと」の中間にいる人々から氏で呼ばれることにより、その人々が持つ結婚・家族に関わる規範・期待を自分の行動に反映してきた。多くの関係する研究において、日本人の人間関係のあり方は、人々の親密さの距離に応じて三層に分類されている。その三層とは、①「内」である親しい身内や仲間の世界、②「中間」である遠慮や義理や体面がからむ知人の世界、③「外」である遠慮も義理も働かない無縁の他人の世界の三層である(岩田 1982)。このうち、①の親しい身内や仲間の世界は明確に「うち」であり、互いに無理を言っても許され、私的に立ち入ったことをうちあけても許される。一方、③の無縁の他人の世界は明確に「そと」であり、互いに期待を持っておらず、裏切られることもないので、遠慮することなく粗野な行動を取ることもできるという。注目したいのは、②の知人の世界である。②の関係は、互いに名前や地位を知り、個人的な接触によってある程度人柄を知っている顔見知りのような関係である(岩田1982)。あるいは直接には知らなくとも何らかの既存のネットワークで支えられた範囲の人間関係といわれる(中根1972)。そこではある種の「道義的期待」が相互に形成され、この期待を裏切らないであろうという相手に対する一種の信頼感が形成される。そして、こうした「道義的期待」が、義理や遠慮として表れる日本人の「責任意識」の中核をなすという(岩田1982)。ここで重要なのは、この②の知人関係では、氏で呼びあうことが一般的だということである。橘(2010)は、誰に対してもファーストネームで呼びかける文化のある英語圏等と比較して、「日本人のコミュニケーションは良くも悪くもお互いが一定の心の距離を保ち、相手から離れた遠いところにおいて行われる」と述べている。つまり、日本人は氏で呼び合うことによって互いの距離を測り、「うち」と「そと」を区別しているのである。日本人の人間関係における以上のような特徴は、日本において氏が果たす「身分関係表示機能」の重要性を浮き彫りにする。②の知人関係にある人々は互いに氏で呼び合い、その人間関係は日本人の責任意識の元となっている。つまり、日本人は②の知人関係にある人々に、家族への帰属を示す氏で名乗ったり呼ばれたりするとき、家族または夫婦に関する規範の遵守を期待されていると感じ、その期待を行動の基準とする可能性が高い。具体的には、夫婦間の貞操や家族の生活保障に関する権利義務などについての規範の遵守が期待されると考えられる3。選択的夫婦別氏制の導入により、氏から家族名としての性質が失われる場合、家族に関わる規範の遵守を期待される機会が減る。まず、別氏を選択する夫婦は、共通の氏という、②の知人関係にある人から見て、婚姻関係にあるか否かを判別する最もわかりやすい要素をはじめから持たないことになる。また、同氏を選択する夫婦も、同一の氏で名乗り呼ばれたとしても、その氏が家族名として扱われる機会は減る。例えば、結婚式や葬儀などの冠婚葬祭において、従来は「○○家・△△家式場」「◆◆家斎場」などのように案内されたが、選択的夫婦別氏制度の導入により個人名に置き換えられていくだろう。それに応じて、参席者も冠婚葬祭を家族というより個人の行事として受け取ることが考えられる。このように、別氏でも同氏でも、選択的夫婦別氏制度により全ての夫婦は規範遵守を期待される機会が減りうる。それにより、日本人の家族に関する規範意識や行動は大きく左右されるだろう。以上のように、夫婦の氏が持つ意味は各国の文化によって異なり、氏に関係する制度は単純に国家間で比較することができない。また、人々が氏で呼び合うことが一般的な日本社会においては、氏が家族への所属を表すかどうかは、人々が家族に関する規範の遵守を期待されたと感じる機会の多さと関係している。そして、選択的夫婦別氏制度の導入はその機会を減らす可能性が高い。選択的夫婦別氏制度を検討するにあたり、これらの点を考慮に入れる必要がある。
第五章 具体的な政策の方向性—旧姓の通称使用の法制化—
 第三章及び第四章で考察した氏の果たす役割を踏まえて、日本においては夫婦同氏制を原則とすべきであると考える。ただし、日常生活における不利益は解消されるべきであり、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の尊厳を最大限尊重する方法を検討すべきである。家族にかかる法制度は人々の生活のあり方、国家のあり方に影響し得る重要な事柄であるため、中長期的な影響が定かでない中においては、できるだけ小さな変更で現実にある課題を解決することが望ましい。具体的な方向性としては、旧姓の通称使用の拡大、さらには法制化を支持する。参考までに、旧姓の通称使用を拡大する場合と、選択的夫婦別氏制を取り入れる場合の差異について整理する。表2の通り、旧姓の通称使用を拡大する場合、旧姓を通称使用する人は実質的に二つの氏を使い分けることになる。ただし、家族名としての共通の氏は保持されるので、家族としての身分表示機能は保たれる。当然、子供も家族共通の氏を持つこととなる。選択的夫婦別氏制を導入する場合、個人の氏は一つであり、家族で見れば別氏家族は家庭内に氏が二つ存在することとなる。また、子供の氏についても検討が必要となる。旧姓の通称使用拡大と選択的夫婦別氏制導入の主な違いは、氏が家族名としての役割を持つかどうか、という点である。以下では、選択的夫婦別氏制に関する主な論点に対して、旧姓の通称使用の拡大を支持する立場から考察する。
①個人のアイデンティティの喪失について
 夫婦同氏制は、改氏によって個人のアイデンティティを喪失させる場合があると指摘されている。氏名は人格の重要な一部であり、選択的夫婦別姓を取り入れることにより人格権を保護することが可能となるという(太田・石野 2010)。先述した通り、内閣府(2022)の世論調査によると、「(結婚に伴い)名前が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と答えた人の割合は54.1%、「相手と一体となった喜びを感じると思う」と答えた人は39.7%である。他方で、「今までの自分が失われてしまったような感じを持つと思う」と回答した人は9.7%、「名字・姓が変わったことに違和感を持つと思う」と答えた人は25.6%である(図1)。この結果から、5割以上の人は結婚時に氏が変わることを肯定的に捉えていることがわかる。ただし、少数であれアイデンティティの喪失を感じる人が存在しているのも事実である。太田・石野(2010)によれば、結婚による改姓が人格面で個人のアイデンティティの感覚と強く関連するのは、「自己の同一性を形成しにくい女性」とされている。自己の同一性の安定には、主に青年期までの親子・家族関係が重要である。人格面のアイデンティティについては、夫婦別氏制度による補完機能を強調するよりも、家族支援の課題として考える方が、該当する人のウェルビーイングに資するのではないかと考える。もちろん、個人のアイデンティティを尊重することは重要であるが、社会制度の変更を伴う場合は、社会として守っていくべき家庭や子供の福祉との比較衡量を慎重に行うべきである。個人のアイデンティティの尊重を過度に重視した結果、家庭が軽視されたり、子供の福祉が損なわれたり、ひいては社会の混乱が引き起こされることがあってはならない。既に実施されている旧姓の通称使用拡大によって大半の課題が解決するのであれば、それで十分ではないだろうか。
②社会生活上の不便・不利益について
 婚姻時の改氏によって、社会生活上の不便・不利益が生じることは明らかであり、この点についてはできる限り解決する必要がある。従来、女性は職業活動を行うことが少なかったため、あまり問題として認識されてこなかったが、女性の社会進出に伴い、その課題が浮き彫りとなった。男女を問わず、婚姻して氏を改める人が不便・不利益を被らないようにすることは、当然必要なことである。こうした改氏による不便・不利益は、旧姓使用の拡大・法制化により対応可能である。現在、旧姓使用可能な領域は拡大を続けており、パスポートや運転免許証、マイナンバーカード・住民票では旧姓併記が可能となった。各種国家資格や免許についても、令和4年6月現在、大半の国家資格や免許で旧姓使用が可能となっている4(内閣府男女共同参画局 2021)。確かに、従来の法制化を伴わない旧姓使用の拡大については、効果に疑問が呈されてきた。主に、①旧姓使用を許可する企業や団体により、旧姓を使用できる範囲が異なること、②社会保険や年金、納税など、戸籍名が必要な場合は旧姓を通称として使用できないこと、の2点が懸念されている(鈴木2016、富田2020)。しかし、これらの懸念は旧姓使用の法制化により解消しうる。①の各企業や団体による旧姓使用を認める範囲の違いは、法制化によって旧姓使用の適用範囲を定めることにより、基準を明確にできる。また、②に関して、戸籍名が必要となる法的手続きの問題は、旧姓使用の法制化に旧姓の戸籍への併記を含めることで対応できるという議論もある。以上のことから、旧姓使用を法制化することで、家族名を保持したまま、社会生活上の不便・不利益を最大限解消することができるのではないかと考える。
③男女不平等の解決策となるか
 婚姻に際し氏を変える人の大半は女性であるため、選択的夫婦別氏制の導入により、男女の実質的不平等を解消することができるという意見がある。現行の同氏制は、制度だけ見れば夫婦の同意によって夫または妻の氏を選択するという男女平等の発想に基づくものになっている。内閣府の世論調査(2022)では5割以上の人が婚姻時の改氏に対して肯定的な意見を持っている。つまり、必ずしも強制的に改氏しているわけではなく、両者が納得したうえで肯定的に氏を改めている人も多くいるということである。そして、選択的夫婦別氏制の導入は必ずしも氏に関する男女不平等の是正にはならないという点を強調したい。例えば、仮に選択的夫婦別氏制が導入され、意に沿わない改氏をしなくて済むようになるとしよう。しかし今度は、子供の氏をどうするかという問題が生じる。子供の氏を決める際に、男女間の不平等が形を変えて現れる可能性は十分にあるだろう。実質的不平等を解決するためには、社会生活上の不便・不利益の解消が重要である。旧姓の通称使用法制化によって、氏を改める者とそうでない者との不平等感も薄まることが期待される。
第六章 おわりに
 内閣府は「家庭は、子どもが親や家族との愛情によるきずなを形成し、人に対する基本的な信頼感や倫理観、自立心などを身に付けていく場でもある」(内閣府2004)としている。冒頭で述べた通り、世帯構造の構成は近年大きく変わってきているが、家庭が社会の安定と発展に果たす役割が重要であることに変わりない。家族に関わる制度は、人々の日々の生活に直結するものであると同時に、社会のあり方にも大きく影響を及ぼすものである。そのため、日本の社会にとってどのような選択が最善なのか、国会はもちろんのこと、国民の間でも丁寧に議論を重ねて方向性を見出す必要があるだろう。夫婦の氏に関わる制度の在り方については、既に旧姓の通称使用拡大が積極的に行われている。日本の文化や社会風土を踏まえれば、さらなる不便・不利益の解消にむけては旧姓使用の法制化など、夫婦同氏を原則とした対策を検討すべきではないか、というのが本稿の立場である。本稿が、日本における氏制度の在り方を検討する際の一助となれば幸いである。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241117&ng=DGKKZO84854750X11C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.17) エンゲル係数 日本圧迫、G7で首位 時短優先、割高でも中食
 消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」(総合2面きょうのことば)が日本で急伸し、主要7カ国(G7)で首位となっている。身近な食材が値上がりし、負担が家計に重くのしかかる。実質賃金が伸び悩むなかで仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は、家事の時短のため割高な総菜など中食への依存が強まる。支出に占める食費の割合が高くなりやすい高齢者の急増も係数急伸の背景だ。生活の質の劣化が懸念される。「スーパーの買い物でレジに立つのが怖い」。東京都の40代女性はこぼす。表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」。最近はコメも大幅に値上がりした。「計算すると、食費の割合が30%を超えている」。家計調査(総世帯)によると、日本のエンゲル係数は2022年で26%。経済協力開発機構(OECD)のデータから計算した米英独仏の同時点の水準を上回る。24年7~9月期は28.7%まで上昇するなど傾向は変わらない。係数が20%を下回る米国は、医療費などの負担が極端に重く、相対的に食費の割合が低くみえる面もある。外食機会の多さ、なかでもファストフードの利用頻度が高いかなど各国の食生活にも左右され、単純比較はしにくい。三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「エンゲル係数には各国の食文化も影響する。最高水準だから日本が貧しいとは言えない。ただ、『上がり方』に日本の課題がにじむ」とみる。日本のエンゲル係数は他国より上昇が急ピッチだ。「所得が伸び悩む一方、高齢化の進展も早い」(上野氏)のも要因だ。OECDによると、日本は可処分所得の伸び率がほかの先進国に比べて低迷しているうえ、65歳以上の高齢者の割合はトップで、24年は29.3%を記録した。エンゲル係数が高くなりやすい土台があるなか、物価高が直撃。値上がりの率でみると、「庶民の味」とされる食材ほど上昇が激しい。総務省の消費者物価指数(20年=100)で23年の数値を5年前と比べると、上昇率は鶏肉12%、イワシ20%、サンマにいたっては1.9倍だ。24年前半も同様の傾向が続いた。大和総研の矢作大祐主任研究員は「女性の社会進出の加速も食費の負担増の一因になったのでは」とみる。20代後半や30代前半女性の正規雇用率はこの10年間で約14ポイント上昇した。正社員同士の共働き世帯にとっても、仕事と家事の両立が改めて課題となる一方、働き方改革は道半ばだ。その結果、「割高でも総菜といった中食などに依存せざるを得ない世帯は増える」(矢作氏)。実際、家計調査(総世帯)では食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、23年は15.8%と10年前より3ポイント高い。こうした現状についてシンクタンクのSOMPOインスティチュート・プラスの小池理人上級研究員は「事情が異なる米国のような水準を目指す必要はない」としながらも、「係数の上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべきだ」と話す。生活の質を保つ策はあるのか。小池氏は企業や政府も含めた「実質賃金の継続的な上昇と生産性向上の取り組み」の必要性を指摘する。矢作氏は「生産性の真の意味合いの整理から始めるべきだ」と訴える。効率よく働くことで長時間労働を是正すれは、短い時間で今と同じかそれ以上の所得が得られる。時間的な余裕が増えれば割高な中食に頼らなくてもすむ。自炊を楽しむこともできる。エンゲル係数の急伸は食にとどまらず、働き方を含めた日本人のライフスタイルのあり方を問いかけている。

| 経済・雇用::2023.3~ | 10:44 PM | comments (x) | trackback (x) |
2024.9.16~10.7 日本の年金・医療・介護制度について
(1)公的年金の財政検証と年金改革

  
  2024.9.2日経新聞   2024.9.16日経新聞       年金Hacs

(図の説明:左図のように、労働参加が進めば人手不足が解消し、社会保障の担い手も増える。しかし、中央の図のように、2023年の高齢者就業率は50%超にすぎない。また、右図のように、2号保険者に扶養されている配偶者は年金保険料を払わずに基礎年金を受給できるが、これは他の被保険者との間で不公平を生んでいる。そのため、転勤の多い2号被保険者の配偶者で就業できない人は、2号被保険者とその雇用主に保険料を支払ってもらう仕組みに変更すべきだ)

1)公的年金の財政検証結果について
 *1-2-1は、①公的年金の「財政検証」結果が発表され、政府は年金水準維持のため年末にかけ制度改正を本格的に議論 ②i)高成長実現ケースは所得代替率56.9% ii)成長型経済移行・継続ケースは57.6% iii)過去30年投影ケースは50.4% iv)1人あたり0成長ケースは45.3% v)5人未満の個人事業所にも厚生年金を適用すれば60.7% vi)週10時間以上働く全ての労働者まで厚生年金適用を拡大すれば61.2% ③国民年金(基礎年金)支払期間5年延長は見送る ④企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やす ⑤人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」 ⑥厚生年金積立金の活用により、基礎年金調整期間を厚生年金と一致させる ⑦基礎年金の保険料納付期間を40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長 ⑧在職老齢年金撤廃 ⑨厚生年金保険料上限引き上げ 等としている。

 また、*1-2-2は、⑩一定の経済成長で少子高齢化による給付水準低下は2024年度比6%で止まる ⑪成長率が横ばいで2割近く下がる ⑫高齢者の就労拡大が年金財政を下支え ⑬指標は「所得代替率」で「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す ⑭厚労省がめざす「中長期的に一定の経済成長が続く成長ケース」で、2037年度の所得代替率は57.6%、給付水準は2024年度から6%低下 ⑮最も悲観的なマイナス成長ケースでは国民年金積立金が2059年度に枯渇して制度が破綻 ⑯高齢者・女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がり、積立金が2019年想定より70兆円ほど増えて前回より改善 ⑰60代就業率は2040年に77%と推計(2022年から15%高い) ⑱将来出生率は1.36としたが、2023年の出生率は1.20 ⑲1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は2001~22年度の平均がマイナス0.3% ⑳年金制度の安定には就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援や外国人労働者の呼び込みが必要 ㉑財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも示し、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースで2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円となり男女差が縮小 等としている。

 このうち、①のように、年末にかけて年金制度改正を本格的に議論するのは良いが、厚労省は、⑬のように、いつまで「40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻」をモデル世帯とする「所得代替率」を使うつもりなのだろうか? このような世帯は既に少数派で、女性の労働参加を促しながら専業主婦世帯をモデルとするのは自己矛盾している。その上、年金は個人単位で考えなければ働く女性が損をし、㉑のように、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースであっても2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円と年金受給額に男女差が存在するのは、同様に働いても男女間に賃金格差があり、女性の方が在職年数も短くなりがちであることに依るのだ。しかし、これをこそ早急に改めるべきである。

 そのため、②の“所得代替率”は、夫婦で稼いできた世帯のケースも出さなければ、多くの世帯にとってどうなるのか不明である。また、経済成長率についても、1人当たりGDPを比較すれば、*1-2-3のように、「子だくさん≒女性の教育水準が低く、働いていないか、低賃金⇒貧乏」であり、⑤⑱の「将来出生率が高くなれば、年金の所得代替率を高くできる」という仮説に基づいた“マクロ経済スライド”は誤りなのである。

 また、②⑩⑪⑭のように、経済成長の大きさで年金給付水準を下げるのも、経済成長するか否かの原因が国民にあるわけではなく、厚労省・経産省・農水省・文科省のこれまでの政策にあるため、間違った政策の責任転嫁である。仮に国民に責任の一端があるとすれば、それは、メディアを通した情報で政策の誤りを見抜けず政治家を選んだことに依るが、実態は政治家よりも行政庁の方が強いのである。

 さらに、⑲の実質賃金上昇率には、生産性向上と生産性向上に資する産業の育成が必要だが、EV・再エネ・再生医療・介護サービスなどを見ると、これから発展する産業を抑える経産省・厚労省、物価上昇を促す財務省、生産性も上がらないのに賃金上昇を叫ぶ政治など、高コスト構造で日本企業が海外に生産拠点を移すことはあっても、将来性ある企業が日本で育ったり、海外企業が日本に生産拠点を移したりすることは、余程の補助金でもつけなければなさそうだ。

 しかし、高齢者の就労については、平均寿命の伸びによって年金受給期間が伸びており、⑫⑯のように、高齢者や女性の就労拡大は年金財政を下支えをしているため、私は、③⑦⑧の国民年金(基礎年金)支払期間の5年延長と在職老齢年金撤廃はやればよいと思うが、健康寿命も伸びているため、年齢による差別(例:役職停止・定年・労災保険の加入年齢制限)の廃止と同時に行なうべきである。そうやって、⑰の60代就業率を100%にしなければ、結局は年金支払期間の延長も受給開始年齢の繰り上げもできないだろう。

 また、女性の就労については、年金制度の安定だけでなく本人の老後生活の安定のためにも、④のように、企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やすのは当然のことであるし、⑳のように、長期就労や就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援が必要であることも言うまでもない。また、外国人労働者の呼び込みも重要である。

 なお、物価と賃金の上昇が続く場合には、⑨の厚生年金保険料の上限引き上げは当然のことになるが、⑥の「基礎年金に厚生年金積立金を活用する」というのは目的外使用だ。そして、これまでも、年金積立金が要支給額(=要積立額)という発生主義で認識されず、キャッシュフローだけを見て余っていると勘違いし流用されてきたのが、必要な積立金の不足原因であるため、同じことを繰り返して欲しくない。このように流用を重ねた結果、⑮のように、「年金制度が破綻した」と言って「緊急事態条項」を発動し、契約に基づいて年金保険料を支払ってきた国民が受給権を制限されてはたまったものではないのである。 

2)世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係

 
            すべて、*1-2-3の統計メモ帳より

(図の説明:左図のように、合計特殊出生率とGDP/人はマイナスの相関関係があるが、アンゴラ・赤道ギニア・ミャンマー・北朝鮮・モルドバはその例外だ。また、GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、中央の図のように、産油国・資源国でGDPの割に合計特殊出生率が高いが、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない国である。さらに、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率が1.3未満の国を拾うと、東アジア・東ヨーロッパの新興国に集中しており、西ヨーロッパ諸国に「成熟した国」とは何かを学ぶべきである)


               人口ピラミッド 
  アフリカ    ブラジル・中国・フランス・日本      世界とヨーロッパ

(図の説明:左図は、アフリカの人口ピラミッドでエチオピア・ナイジェリア・ルワンダ・ザンビアのようなピラミッド型は、多産多死型の国である。中央の図は、多産多死型の国が少産少死型に移行する過程を示しており、ブラジルは1985年頃まで、中国・日本も1950年代まで多産多死型の国だった。右図が、今後の世界とヨーロッパの人口構成を示しており、次第に少産少死型となって、2100年頃には生まれた人が高齢まであまり亡くならないことが予想されている)

 *1-2-3は、①190の国・地域で合計特殊出生率とGDP/人の相関をグラフにした ②GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人は反比例 ③途上国の人口増大問題解決にはGDP/人を上げるのが正しい ④アンゴラ・赤道ギニアはGDP/人が比較的高いが出生率も高く、その理由は石油収入が必ずしも国民の貧困解消に結びついていない、GDP/人の増加で出生率が低下するまでに10年ほどかかるなど ⑤GDPが低いのに出生率も低いのがミャンマー・北朝鮮・モルドバで、ミャンマー・北朝鮮は圧政国家、モルドバは経済状態悪化 ⑥GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、GDPの割に出生率の高い国はカタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・イスラエル・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナと多くが産油国・資源国で、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない ⑦日本と他の先進国を比較するため、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率1.3未満の国をGDP/人が高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人と東アジアと東ヨーロッパに集中 ⑧成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべき としている。

 このうち、①②③④⑤⑥は、合計特殊出生率とGDP /人の相関を調べた点が、大変、面白い。そして、日本政府が言う「出生率が上がれば、GDPが上がる」というのは、GDP全体 は少し上がるかも知れないが、GDP/人(国民1人1人の豊かさ)については事実でないことがわかる。

 それでは、何故、②のように、GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人が反比例するのかと言えば、GDP/人が数千ドル以下の途上国は産業革命以前で、食糧/人が乏しく教育・医療も普及していないからだ。そのため、③のように、途上国の人口増大問題解決には、GDP/人を上げる(≒食糧《栄養》・教育・医療を普及させる)のが正しい解決策になるのである。

 また、④⑥の赤道ギニア・カタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナ等の産油国・資源国は、GDP/人は比較的高いが出生率も高く、その理由は、資源からの収入が必ずしも国民の豊かさに結びついていなかったり、宗教上の理由で女性の自由や権利が著しく制限されて女子教育が普及していなかったりするからだ。さらに、アンゴラのように、長期の内戦で経済が疲弊し人口も減少して、復興によってGDPが増加し、食糧・教育・医療が普及して出生率が低下するまでに数十年の歳月がかかることもある。

 なお、⑤のように、GDPが低いのに出生率も低いミャンマー・北朝鮮は圧政国家で、同モルドバは経済状態の悪化が原因としているが、⑦の日本・韓国・シンガポール・マカオ・香港などの東アジア諸国も、未だに儒教由来で個人(特に女性)の権利を軽視する国々であり、組織(会社・世帯など)のために個人(特に女性)を犠牲にすることを厭わないどころか尊ぶ風潮の残っている全体主義・集団主義国家(反対用語:個人を大切にする民主主義国家)である。

 さらに、スロベニア・チェコ・スロバキア・ハンガリー・リトアニア・ラトビア・ポーランド・ベラルーシなどの東ヨーロッパ諸国は、社会主義という全体主義国家から市場経済社会に加わって日が浅く、社会主義的価値観を持つ国民も多く残っている上に、未だに国民生活が豊かとは言えない状態なのであろう。

 そのため、⑧の「成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶ」とすれば、それはまさに第二次世界大戦敗戦後に欧米先進国から日本に与えられた日本国憲法(1946年11月3日公布、https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/174 参照)に書かれている理念そのものであるため、解釈改憲などをして後戻りさせること無く、その理念を実行すれば良かったのだ。

3)非正規労働(特に女性)と低賃金・低年金

 
  2024.9.20東洋経済 2023.12.10日経新聞 2023.10.2読売新聞 2021.3.30日経新聞  

(図の説明:1番左の図は、2018年の相対的貧困率で年齢が上がるごとに貧困率が上昇し、中でも1人になった女性の貧困率が上がっている。また、左から2番目の図は、日本の男女間賃金格差で先進国平均の2倍だ。そして、右から2番目の図は、働く女性が増加してM字カーブは解消されつつあるが、子育て後は非正規の仕事しかないため、正規雇用率はL字カーブになることを示している。さらに、1番右の図は、上が年齢階層別正規雇用率で、下は大卒以上の女性の労働力率だが、日本は先進国の中で著しく低いことを示している)

 *1-3-2は、①2023年は共働き世帯が1200万を超え、専業主婦世帯の約3倍 ②保育所増設・育児休業拡充等の環境整備が進んで仕事と家庭を両立しやすくなったことが背景 ③社会保障・税制は専業主婦を前提にしたものが多く改革が急務 ④2023年の15~64歳女性の就業率は73.3%で、この10年で10.9%の伸び ⑤2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%だが、55~64歳で31%、65歳以上は59% ⑥共働き女性の働き方は、週34時間以下の短時間労働が5割超 ⑦年収は100万円台が最多で100万円未満がその次 ⑧短時間労働が多い理由の1つは「昭和型」の社会保障・税制による専業主婦優遇 ⑨配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は49%で減少 ⑩共働きが主流で各業界で人手不足が深刻さを増す中、官民をあげた制度の見直しが不可欠 としている。

 また、*1-3-1は、⑪年金受給月額が10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性は7割弱、「50歳」女性は6割弱になる ⑫どちらも女性の老後が安心というレベルでない ⑬高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある ⑭50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代で、今から働くのは難しいが、働いたり、キャリアアップしたりすることが老後の生活に大きく影響 ⑮女性の低年金は、非正規雇用が多く世帯中心に考え個人単位の生活を想定しなかったことが原因 ⑯国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大は年金財政改善のためで、非正規雇用の老後生活という視線がない ⑰「男女の賃金格差で女性の低年金は当然」という考え方もあるが、男女の賃金格差自体が社会的に認められない ⑱現在働く女性の老後は、現在の高齢女性より数字上は良いが、国民の実感とは距離 ⑲「低年金の人は生活保護に」という考え方は、年金制度は維持できるが、生活保護給付費が増加するため持続可能性が低い ⑳年金を巡る政策は、現在の雇用政策と結びつけて考えるべき 等としている。

 このうち、①②③④は、そのとおりであるため、社会保障は、夫婦子2人の専業主婦世帯を標準にするのではなく、個人を中心として共働き世帯の生涯所得を出すべきだ。そうすれば、⑥⑦のように、子育てを原因としてやむを得ず正規から非正規に転換することが、生涯所得の減少にどれだけ影響するのか(=女性にとっての結婚・子育ての機会費用)が明確にわかり、それは出産費用の無償化や結婚・出産祝い金の金額とは2~3桁違うため、教育水準が高くなるほど少子化する原因が特定できて、的確な解決策が出る筈である。

 なお、⑧⑨のように、短時間労働が多い理由が、社会保障・税制と雇用における配偶者手当による専業主婦優遇というのは正しいだろうが、⑤のように、2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%、55~64歳では31%、65歳以上では59%と年齢が上がるにつれて所得を得る仕事をする妻の割合が減るが、その理由は、昭和の“規範”の中で生かされ、現在も女性差別・年齢差別が存在している中、65歳以上の女性の雇用は著しく厳しいという社会構造にある。

 そして、この状態は、男女雇用機会均等法による均等待遇義務化以前の影響が色濃く残っているからであり、専業主婦に甘んじざるを得なかった妻たちの責任とは言えないため、⑩のように、官民をあげた制度の見直しをするとしても、年金制度の変更は、少なくとも国が男女雇用機会均等法によって男女の均等待遇を義務化した2001年以降に就職した世代からにすべきだ。何故なら、各業界の人手不足は深刻だが、企業の我儘を満たすのが改正目的ではなく、(金銭だけではない)負担と給付の公平性を正すのが最も重要な改正目的だからである。 

 さらに、男女の雇用が均等ではなく賃金格差が大きいため、⑪⑫⑱のように、年金受給月額10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性で7割弱、「50歳」女性でも6割弱になるそうだが、物価が高騰している中で、「20万円未満の年金で老後は安心」などと思う人はいないため、「高齢者は裕福だ」と言っているのがどういう背景を持つ人なのかは、よく見ておくべきである。
 
 つまり、⑬の「高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある」というのは、いかにも「年金額が低いのは本人の責任」とでも言っているかのようだが、高齢女性は、頑張って働いても男女間賃金格差が大きかった上に、女性が働く環境も整っていなかったため、結婚や子育てで退職させられることの多かった世代であることを忘れてはならない。

 にもかかわらず、⑭は、「50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代」などと1986年施行の最初の男女雇用機会均等法以降に就職した女性だけが結婚・出産による退職が多かったかのように記載している。しかし、男女雇用機会均等法もない中で働き、均等法を作ることから始めさせられた均等法以前の世代の苦労を無視しているのを許すわけにはいかない。何事も、常識や法律になった後で行なうのは容易であり、先端で常識にし、法律にした世代の方がよほど大変だったのであり、より偉いのだから、その苦労には正当に報いるべきなのである。

 なお、⑮のように、女性の低年金は政府が個人の幸福を追求しなかったことが原因であり、⑯のように、国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大も年金財政改善のためであって国民の老後生活維持・改善という視点ではない。つまり、それは、日本が未だ個人の自由や幸福を尊重する民主主義国家ではなく、国家や組織の論理を優先する全体主義・集団主義国家であり、特に女性・高齢者・外国人から搾取することに罪悪感を感じない国だということなのである。

 そして、⑲のように、「低年金のため、生活できない人は生活保護になる」と書かれている年金・医療・介護はじめ社会保障については、1947年5月3日施行の日本国憲法25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に定められている。そのため、「年金制度を維持するために、生活保護給付費が増加するのは云々」という議論は憲法違反である。

 従って、⑳の年金を巡る政策は、雇用政策と結びつけて考えるべきなのは当然のことで、それは、組織の便法のためではなく、憲法第13 条に「すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と書かれているとおり、あくまで個人である国民の福利の増進のために行なわなければならないのだ。

4)年金の手取り額について


       厚労省        2024.2.27沖縄タイムス   介護保険料の支払方法

(図の説明:左図のように、政府は「マクロ経済スライド」という他国に例を見ないおかしな手法とインフレ政策によって、国民に気づかれないように年金支給率を低下させているが、そうでなくても年金収入は不十分であるため、中央の図のように、高齢者が困窮し、生活保護受給世帯に占める高齢者の割合が増えている。その上、右図のように、65歳以上《第1号被保険者》になると少ない年金収入から介護保険料を徴収し、健康保険と一緒に天引きされる40~64歳《第2号被保険者》まで含めても40歳以上からしか保険料を徴収しないため、年収が減り、介護の必要性が増してから介護保険料を徴収するという保険として誤った制度になっているのだ)


    2024.8.29Diamond          2023.2.27、2024.4.5そよかぜ

(図の説明:左の3つの図は、額面年金収入200万円の人の社会保険料控除後の年金手取額順位で、ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市だ。しかし、介助が必要になった場合に支給されるサービスは、右から2番目の図のように支援と介護に分かれており、給付財源は公費50%《国37.5%、地方12.5%》、介護保険料50%《第1号被保険者23%、第2号被保険者27%》だが、要支援の一部は地方負担であるため、高齢化率の高い地方ほど保険料が高い割に支援はなかなか受けられない状態になっている。ちなみに、右図のように、要支援は25~50分、要介護2~4では50~110分程度のサービスしか受けられないが、これで何ができるのか疑問だ)

 *1-4は、①年金定期便記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではない ②年金手取り額は、「額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」である ③所得税・住民税は同じだが、国民健康保険料・介護保険料は自治体により計算式や料率が異なるため、年金手取り額は住む場所で違う ④高齢化の進捗で国民健康保険料・介護保険料は上がっている ⑤22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円、妻は基礎年金のみ、額面年金収入200万円のケースで、手取額ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市・2位は長野市・3位は鳥取市である ⑥国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は約5万円 ⑦介護保険料が最も高いさいたま市と最も低い山口市との差額は約3万円 と記載している。

 年金のように支給額が小さい場合には、控除される税金や社会保険料が大きな割合を占め、可処分所得が非常に小さくなるため、①②③は重要な視点だ。

 また、④については、高齢化の進捗だけが理由ではないが、国民健康保険料・介護保険料が上昇して、確かに年金生活者は負担しきれなくなっている。そのため、⑤⑥⑦のように、手取額ワースト1位大阪市、ベスト1位名古屋市のように可処分所得の違いが比較でき、国民健康保険料の差額が年間約5万円、介護保険料の差額が年間約3万円もあることが示されたのは新鮮だった。

 しかし、地域によって物価水準が異なるため、購買力平価で比べると、むしろ2位の長野市や3位の鳥取市の方が1位の名古屋市より生活にゆとりがあるかも知れない。さらに、ここでも22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収600万円、妻は基礎年金のみという厚労省のモデル世帯しか示されていないのはわかりにくく、年功序列型賃金体系の下で勤務年数が短いため生涯所得が小さくなりそうな大学院卒の個人や夫婦についても示してもらいたい。

5)年金改革の課題

    
2024.7.3朝日新聞   2019.7.15毎日新聞   2024.7.3朝日新聞 2024.9.23日経新聞

(図の説明:1番左の図は、厚労省の年金財政検証で使われた1959年生まれと2004年生まれの人が65歳時点で受け取る成長型経済移行・継続と過去30年投影ケースの年金額で、成長型経済移行・継続ケースは名目年金額は増えるが物価はそれ以上に上昇するだろう。また、左から2番目の図は、2017年末の男女別厚生年金受給月額分布で、女性は厚生年金を受給している人でも最頻値が9~10万円と下方に偏っている。さらに、右から2番目の図のように、厚労省は未だ会社員と専業主婦世帯を「モデル世帯」としてこれしか試算しておらず、女性の就労を家計補助の位置づけとしか捉えていないが、この発想が保育・学童保育・介護制度の不十分さに繋がり、ひいては女性の年金受給額を下げている。そして、1番右の図は、共働きと専業主婦世帯の年金額だが、共働きの合計が専業主婦世帯《片働き世帯》と大して違わないのがむしろ不自然だ)

 *1-1-1は、①厚労省は公的年金の財政検証結果を公表して、制度改正の提案を5つ示し、「年金額分布推計」も出した ②将来の出生率等の人口動態や経済成長に関する想定をいくつか置き、各ケースの片働き夫婦のモデル年金を出し、所得代替率は2024年度で61.2%だった ③少子高齢化のため、マクロ経済スライドで所得代替率を下げている ④前回の財政検証ではスライド調整が27~28年続き、所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースもあったが、今回の成長型経済移行・継続ケースではスライド調整期間は13年間で57.6%までしか下がらない ⑤女性・高齢者の労働参加が進み、2012年から2022年にかけて生産年齢人口は約600万人減ったが、就業者数は約400万人増えた ⑥25~34歳女性の就業率は70.7%から82.5%に、55~64歳女性の就業率は54.2%から69.6%に上昇し、男性は高齢者の就業率上昇が顕著で60~64歳は72.2%から84.4%、65~69歳は48.8%から61.6%に急上昇した ⑦積立金運用も好調 ⑧労働参加の進展は前回財政検証時の想定を超えた ⑨労働参加の拡大で公的年金の支え手が増える ⑩被用者保険の適用を巡るムラの解消は急ぐべき ⑪在職老齢年金は速やかに撤廃すべき ⑫女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額分布は、上の世代より受給額が増える ⑬財政検証は所得代替率だけでなく、人生設計を支援する情報提供も行なうべき 等としている。

 これに加えて、*1-1-2は、⑭現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円、女性は同16.4万円で2人が夫婦の場合は世帯で月38万円 ⑮金額は物価上昇の影響を除いて算出しているため、今の賃金や消費額と比較可能 ⑯2023年の家計調査で65歳以上・夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額25万959円 ⑰食費・交通費・通信費で4割、教養娯楽費1割・光熱水道費1割 ⑱住居費1割弱・保健医療費1割弱だが、都心の賃貸物件に暮らすと家賃負担が支出の大部分を占め、病気になると医療費急増 ⑲夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」が受け取る年金額は月33万円で、「共働き世帯」より苦しい ⑳月33万円を年間換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度 ㉑これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進む前提 ㉒女性・高齢者が労働参加すれば、担い手が増え、年金額も増える ㉓女性・高齢者の働く意欲を後押しすべき 等としている。

 このうち①は良いが、②は片働き夫婦のモデル年金のみを出している点で、時代遅れかつ不十分である。その上、片働き夫婦なら2024年度の所得代替率は61.2%あるかも知れないが、共働き夫婦の所得代替率はずっと低いため、苦労して働いても働き損になりそうなのである。

 また、③のように、「少子高齢化を原因として、マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」というのは、要支給額で年金積立金を計上しなかったため、(前からわかっていた)人口構成の変化によって積立金が不足したのを、少子高齢化に責任転嫁しているため率直さに欠ける。また、ただでさえ少ない年金支給額の積立金不足に関し、「マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」という解決策しか思いつかないのは、為政者として失格でもある。

 さらに、④については、成長型経済に移行・継続しても賃金上昇率より物価上昇率の方が低くなるには、イノベーションによる生産性向上が欠かせないが、イノベーションの種は環境・高齢化・家事の外部化にあるにもかかわらず、政府は、再エネ・EV・自動運転・再生医療・保育・介護等の推進には消極的で、片働き世帯の維持・原発新増設・化石燃料の延命などに積極的なのだから、これではイノベーションを起こして生産性を上げることはできないのである。

 私も⑤⑥⑧⑨のように、女性・高齢者の労働参加が進めば公的年金の支え手も増えるため、多様な労働力は多様なニーズ発掘に繋がることと合わせ一石二鳥だと思うが、⑩⑪⑫のように、女性・高齢者が働くことにペナルティーを科すような制度は早急に止め、被用者保険の適用を巡るムラも解消して、働けば報われる社会を作るべきである。また、⑬のように、所得代替率だけでなく人生設計に資する情報提供を行い、将来の年金受給額と不足額を予測可能にすべきだ。

 なお、⑦のように、積立金運用も好調だったそうだが、金融緩和による株高が背景であれば、その持続可能性は低い。

 また、⑭⑲は共働き夫婦の合計年金受給額が月38万円、夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯(片働き世帯)」が受け取る年金額は月33万円としているが、片働き世帯が共働き世帯より苦しいのは当然であり、むしろ差が小さすぎると、私は思う。⑮については、具体的な計算方法が不明であるため、コメントを控える。

 さらに、⑳は月33万円を年間換算すると400万円程度で現在の20代後半の男性の平均年収程度としているが、2人で生活している世帯が1人で生活する世帯より生活費がかかるのは当然であるため、何故、それで良いのかわからない。また、⑯⑰⑱に、2023年の家計調査の結果が出ているが、現在30歳の男性が65歳で年金を受け取る35年後の物価は現在の数倍になっていると予測されるため、どうしても節約できない食費の比重が高くなり(=エンゲル係数が高くなり)、娯楽費を減らさざるを得ないのは明らかだろう。

 しかし、どちらにしても言えることは、㉑㉒㉓のように、年金制度のためにも、女性・高齢者本人のためにも、女性・高齢者の働く意欲を後押しして労働参加を進めることは必要である。

(2)現在でもOECD平均の6割しかない日本の公的年金の所得代替率をさらに下げるとは!

 
       2024.1.19Jiji           2024.1.19NHK

(図の説明:上の左右の図のとおり、2024年度は、金融緩和と戦争によるインフレの結果、物価上昇率は3.2%、賃金上昇率は3.1%だが、年金改定率は2.7%であり、賃金上昇率は物価上昇率に追いついておらず、“マクロ経済スライド”を適用した年金改定率は賃金上昇率以下であり、これが年金の所得代替率を下げる仕組みだ)

 
 2024.7.29テレ朝  2015.3.3ニッセイ基礎研究所 2022.12.8ニッセイ基礎研究所

(図の説明:左図のように、2024年度の“モデル世帯《妻に収入なし》”の所得代替率は現役男子の平均手取り収入の61.2%となっているが、「妻には収入がない」と仮定しているため、実際の世帯の所得代替率よりも高く表示されている。つまり、共働き世帯の所得代替率は、夫婦の所得合計を分母にしなければ正確ではないのだ。その上、「経済成長したか否かや出生率で所得代替率が変わる」などとしているが、これが賦課方式《自転車操業方式》による年金制度の欠陥なのである。そして、中央の図のように、OECD諸国の公的年金の所得代替率《同じ計算式で比較》は平均65.9%であり、日本の40.8%は韓国の45.2%より低いが、右図のように、出生率は日本より韓国の方が低いため、日本の年金制度は制度とその運用に不備のあることが明らかだ)

1)世界から見た日本の公的年金について
 *2-2は、①公的年金の財政検証結果で、給付水準は目標の「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った ②「所得代替率50%以上の維持」が100年安心の根幹 ③外国人や女性も含め、働く人が将来700万人余り増えて保険料収入が増加することを見込む ④モデル世帯の給付水準は若い人ほど低く、老後の暮らしは心もとない ⑤「出生率や経済成長の想定が甘い」との指摘がある ⑥政府内には目標をぎりぎりクリアして安堵感 ⑦「50%以上の維持」は年金の受給開始時の状況に過ぎず、「マクロ経済スライド」の影響で年齢を重ねる毎に給付水準低下 ⑧政府はNISAなどで老後への備えを呼びかけ ⑨日本総研西沢理事は「若者の結婚・出産への意欲は低下しており、検証の想定に願望が含まれている」と批判 ⑩実質賃金は減少が続くが、プラスと仮定している ⑪外国人労働者増加も見込む ⑫武見厚労相は「国民年金保険料納付期間5年延長案の必要性は乏しい」と見送りを表明 ⑬与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説 ⑭厚労省は一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃し、パートなど短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方針 等としている。

 これに加えて、*2-1は、⑮公的年金財政検証結果は、5年前と比べると改善傾向だが、給付水準低下が当面続くことも示した ⑯政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩めて「支え手」を広げ、年金制度の安定をめざす ⑰老後に備えた自己資産形成の重要性も呼びかけ ⑱基礎年金は満額で月6.8万円だが、少子高齢化が進むとさらに給付水準が下がる ⑲「就職氷河期世代」が年金に頼る時期が近づき、少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要 ⑳単身世帯の所得代替率は、日本32.4%、OECD加盟国平均50.7%で、日本はOECD平均の6割程度 ㉑企業規模要件を廃止し、5人以上の全業種個人事業所に厚生年金加入を適用すると、90万人が新たに厚生年金加入対象 ㉒賃金・労働時間の要件を外し、週10時間以上働く全員を対象にすると新たに860万人が厚生年金に加入し、所得代替率が3.6%上昇 ㉓「マクロ経済スライド」を基礎年金に適用する期間を短くすると、所得代替率は3.6%上昇 ㉔厚生年金保険料の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると所得代替率は0.2~0.5%上昇 ㉕基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担も増すため、財源確保が必要になり、増税論に繋がり易い 等としている。

 このうち①②④⑥⑦⑮については、モデル世帯(被用者の夫と専業主婦の妻)の年金所得代替率が現在は現役男子の平均手取り収入の61.2%で、30年後も50%以上であるとしても、1人あたりでは、現在は31%、30年後は25%となる。そして、現在の31%は、⑳の32.4%に近く、年金制度は100年安心かも知れないが、年金生活者の生活は安心ではないということなのだ。

 一方、OECD加盟国の平均は50.7%/人で、日本人はOECD平均の6割程度の年金しか受給できていない。何故だろうか? 政府・メディアは、インフレ政策をとり、“マクロ経済スライド”を適用してまで、年金を減額しなければならない理由を、⑤⑨⑱のように、「出生率が低い」「少子高齢化が進んだ」「経済成長しなかった」等と言い訳しているが、それが理由なら日本より条件の悪い国は多かった筈で、他国が日本と違うのは、国際会計基準に従って要支給額で年金積立金を積み、適格な運用を行なって、年金資金の目的外使用をしていないことなのである。

 そこで、まずは「年金の要支給額を積み、適格な運用を行なって、目的外使用をしない」ということが名実ともに保証されなければ、いくら国民負担を増やされても国民にとっては見返りがないのだ。また、③⑪⑯のように、外国人・女性・高齢者等に「支え手」を広げて保険料収入を増加させることは必要だが、その目的が「支え手」を広げるだけで、その「支え手」の将来の年金受給を考えていなければ「支え手」の年金受給時には今と同じことが起こるのである。

 なお、女性の「支え手」を増やすためには、⑭㉑㉒のように、企業規模要件を廃し、個人事業所にも厚生年金加入を適用し、賃金・労働時間の要件を緩和して週10時間以上働く人全員を対象にして、パート等の短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方法がある。

 さらに、高齢の「支え手」を増やすためには、*2-3のように、65歳又は75歳まで働くことを前提として労働関係法令を一斉に見直し、高齢者が働くためのインフラを整える必要があり、単に国民年金保険料の支払期間を40年から45年に延長するだけでは、政府及び厚労省の無駄使いを尻拭いするための負担にしかならないため誰も納得しないだろう。

 そのため、単に「支え手」を増やすことしか考えていない場合は、⑫⑬のように、内閣支持率が下がるため、年金保険料の納付期間延長や厚生年金の適用拡大はできない。

 そのほか、政府は、⑧⑰のように、NISA等を使った老後に備えた自己資産形成も呼びかけているそうだが、⑩のように、インフレ政策で実質賃金減少が続く中、子育てや介護のために所得が減ったり、マイホーム取得に莫大な費用を要したりすれば、老後の備えまでは手が回らなくなるため、少子化・非婚化はますます進むと思われる。

 従って、「日本で本当に困っている人」というのは、⑲の「就職氷河期世代」や災害被害者だけではなく、多くの普通の国民もそれに当たるのだ。

2)「会計ビッグバン」と退職給付会計
 *2-4は、①日本が1990年代後半から進めてきた会計ビッグバンを加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい ②20年余りの改革で残った主要項目の1つだったリース資産に関する会計基準改正がASBJから発表された ③新基準では中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する ④新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS) ⑤欧米の主要な官民の市場関係者は2001年からIFRSづくりを本格的に始めた ⑥日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた ⑦IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める ⑧官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい 等としている。

 レンタル・リース・購入の違いは、誰が所有権を持っているかであり、購入は購入者に所有権が移転するが、レンタルとリースはレンタル会社やリース会社が所有権を持っている。

 しかし、リースのうち、i)解約不能リース期間のリース料総額の現在価値が、現金で購入する場合の90%以上 ii) 解約不能リース期間が耐用年数の75%以上 の2要件を満たす場合は、殆ど購入と同じであるため、ファイナンス・リースとして、会計上、オンバランス化していた。

 オペレーティング・リースは、上の要件を満たさないリースで、定められた契約期間中に所定のリース料を払って機器を使用し、途中で機器が故障した場合は貸主が修理代を負担して、契約が満了すれば返却するという、契約期間中に機器を借りているだけの取引だ。

 そして、リースといってもレンタルに近いものからファイナンス・リースまで、契約にはグラデーションがあるため、会計ビッグバンを主導した私でさえ、③のように、新基準で中途解約可能なものまで含め全リースの資産・負債をオンバランス化するのはやりすぎだと思う。国際会計基準(IFRS)は合理的であるため、多分、リース取引のグラデーションに応じて判断することになっていると思う。

 それよりも早く行なうべきだったのは、国際会計基準に定められている退職給付会計の年金への適用である。それは、企業が行なっている厚生年金基金と同じ考え方で、年金給付の要支給額を現在価値で割り引いた数理的評価額を年金に適用し、必要な積立金を積み立てておくもので、これが行なわれていれば、人口構成の変化によって年金支給額を変える必要などなかったのである(https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/taikyu-4_3.pdf 参照)。

(3)高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係

 
  2020.9.23GemMed    2019.3.7日生基礎研究所   2021.6.28NiponCom

(図の説明:左図は、1950~2040年の年齢階層別高齢者人口と総人口に占める高齢者人口の割合だが、高齢者人口の割合は「高齢者」の定義によって変わる。中央の図は、男女別の65歳時点の平均余命と健康余命で、どちらも80歳前後までは健康である。また、健康余命も女性の方が長いため、女性の方が退職年齢が低いのは女性差別の結果にほかならない。右の図は、男女の年齢階層別就業率で、60~64歳でも70%程度、70~74歳は30%程度、75歳以上では10%程度しかないが、これは健康余命が80歳前後であることを考慮すれば少なすぎる)

 *3-1は、①財政検証結果、経済条件が良い場合でも公的年金の給付水準は2030年代後半まで下がり続ける ②給付水準は順調に行っても夫婦2人で現役世代の5~6割 ③老後の生活資金を公的年金だけに頼るのは限界 ④重要性が増すのは、企業年金・個人年金などの任意で加入する私的年金 ⑤公的年金以外の所得がない高齢者世帯が4割強を占め、所得代替率が50~60%の公的年金に依存 ⑥総務省がまとめた2023年の家計調査で無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字で貯蓄等を取り崩して生活 ⑦厚労省は2025年の公的年金制度改正に合わせ、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進める ⑧政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積立可能にする ⑨与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべき」という主張もある 等としている。

 このうち①②③⑤⑥は事実だろうが、そもそも夫婦2人で現役世代の5~6割というのは、1人分に換算すれば2.5~3割しかないため、(2)1)に記載したとおり、OECD平均の6割しかなく、あまりに少ないのである。

 そこで、④⑦⑧のように、企業年金・個人年金等の私的年金の重要性が増し、政府は、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進め、加入開始年齢の上限を引き上げて退職後も積立可能にするそうだが、勤務していた期間にはそのような制度がなくて積み立てていなかったのに、退職後になって積立できる人は非常に少ないと思われる。そのため、⑨のように、「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てろ」と言うのは無理がある。 

 特に、現在は第二次世界大戦敗戦後79年しか経過しておらず、焼け跡から這々の体で立ち上がって経済成長まで漕ぎ着けた高齢者が多く残っているのであり、苦しい暮らしの中で子どもを教育したため、大した老後資金は残っていない人が多いのだ。

 また、団塊の世代も、戦後、急に出生率が上がって貧しい世の中で幼少期を過ごし、学校も職場も混み合っていて競争が激しく、最初はゆとりのなかった世代なのである。そのため、「公的年金だけで老後を暮らせるというのは幻想だ」というよりも「公的年金以外に老後資金がある」と考える方が幻想なのだ。つまり、「若返ったら、刷新感が出る」と安易に考えていること自体が、軽薄なのである。

 *3-2は、⑩「65歳以上とされる高齢者の年齢を引き上げるべき」との声が経済界から上がる ⑪政府内では「人手不足解消や社会保障の担い手増加に繋がる」と期待 ⑫SNSを中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も ⑬高齢者の年齢は法律によって異なり、年齢引き上げの動きが出れば60歳が多い企業の定年や原則65歳の年金受給開始年齢引き上げに繋がる ⑭見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた ⑮定義見直しには踏み込まなかったが、社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要との考えを示した ⑯経済財政諮問会議の民間議員は、「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言 ⑰経済同友会の新浪代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた ⑱日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめた ⑲内閣府幹部は「元気で意欲ある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリングの徹底が重い課題 等としている。

 2020年代になって団塊の世代が退職し始め、働き方改革も実行され始めると、少子化も手伝って人手不足状態となった。そのため、⑩のように、「高齢者の定義を65歳より引き上げるべき」との声が経済界から上がり、⑯のように、経済財政諮問会議の民間議員が「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言し、⑰のように、経済同友会の新浪代表幹事が「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べ、⑱のように、日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめている。

 私は、上の中央の図のように、健康余命が男女とも80歳前後であることを考えれば、日本老年学会の「75歳以上が高齢者」というのが妥当だと考える。また、健康には個人差もあるため、経済同友会代表幹事の新浪氏の「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」というのに賛成だ。また、仕事があれば働き続けた方が、規則正しい生活ができ、刺激もあるため、健康寿命が長いというのはずっと前から言われていることだ。

 そのため、⑪のように、人手不足解消と社会保障の担い手増加だけを目的とするのはいかがなものかと思うが、⑫の「死ぬまで働かされる」といった警戒感は当たらない。何故なら、働きたくいない人は、(生活ができれば)何歳であっても仕事を辞めればよく、働きたい人が働けるようにするだけだからである。

 ただし、働きたい高齢者が働けるようにするためには、⑬のように、企業の定年と年金受給開始年齢を同時に引き上げ、⑲のように、「高齢者は労災が多い」「高齢者はリスキリングの徹底が必要」などという偏見をなくし、⑭⑮の中の高齢者の定義の見直しこそが重要なのだ。それなくして、「社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要」等というのは、虫が良すぎる。

 *3-3は、⑳総務省は65歳以上の高齢者に関する統計を公表 ㉑2023年の65歳以上の就業者数は2022年に比べて2万人増の914万人で20年連続増加 ㉒高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52% ㉓定年延長する企業が増え、高齢者の働く環境が整って高齢者の働き手が人手不足を補う ㉔年齢別就業率は60~64歳74%、70~74歳34%、75歳以上11.4%といずれも上昇 ㉕2023年就業者中の高齢者は13.5%で7人に1人 ㉖65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8% 等としている。

 しかし、⑳㉑のように、65歳以上の就業者数が20年連続で増加しても、㉒㉔のように、60~64歳の就業率は74%、65~69歳の就業率は52%、70~74歳の就業率は34%にすぎず、75歳以上の就業率は11.4%に減る。

 そして、就業率が下がる理由は、働けないからではなく、㉓のように、人手不足を補うため定年を延長する企業が増え、㉕のように、就業者中の高齢者が7人に1人となっても、㉖のように、65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8%で、正規社員としては60~65歳止まりの企業が多いからである。これでは、高齢者の働く環境が整ったとは言えないため、まず年齢による差別をなくすよう法律改正しなければ、高齢者が気持ちよく働くことはできないのだ。

(4)社会保障の支え手拡大について
1)高齢者と女性による支え手の拡大
 *4-1は、①今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象 ②65歳以上の人の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」撤廃案は、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要 ③「第3号被保険者制度」の廃止論には厚労省が慎重 ④対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しく、厚生年金に入る要件を緩めることで第3号被保険者を減らす方向 と記載している。

 このうち①は良いが、②の高齢者に関しては、75歳以前の定年禁止or定年廃止はじめ関係する労働法制の改正が必要だ。しかし、既に退職させられた人も多く、年金を受給することが前提の割り引いた賃金で、再雇用されたり、他の企業で働いたりしているため、公正性の観点から「在職老齢年金制度」撤廃案は不可欠であろう。

 また、③の「第3号被保険者制度」は早急に廃止し、働いている人は社会保険料を支払うことにした方が公正だと思う。しかし、所得税は、2020年の基礎控除額改正時から物価は5~6%高騰しているため、全員の基礎控除額を50万円(48万円x1.05)以上にするのが妥当である。また、給与所得控除額の最低額も、引き下げるどころか物価上昇に合わせて引き上げるべきであり、2020年と比較すれば58万円(55万円x1.05)以上にすべきである。住民税についても、同じだ。

 しかし、④のように、政治や政府(厚労省)が第3号被保険者制度廃止に後ろ向きである理由は、政治家こそ普段からの妻の支えなく当選するのが難しい職業であり、厚労省はじめ官庁も残業や転勤が多く共働きに適さない職場環境にあるからだ。しかし、そのような環境の中で、女性政治家や女性官僚は、なるべく夫に迷惑をかけないようにしながら仕事をしているため、人手不足の現在、政治や官庁こそ率先して変化すべきである。

2)外国人材による支え手の拡大

 
     Rise for Business          2024.2.16Diver Ship 

(図の説明:左図は、在留資格の変遷と在留外国人及び外国人労働者数の推移で、右図は、在留資格別の外国人労働者の推移だ)

  
   FUNDINNO   2023.10.23日経新聞    2023.6.19朝日新聞 

(図の説明:左図は、技能実習や特定技能評価試験から特定技能1号・2号に移行する過程だが、受入可能な分野には、女性が主として担っているHouse Keeping・保育・看護等の分野が入っておらず、1号の場合は在留期間5年で家族の帯同も許されていない。中央の図は、高卒の日本人と技能実習生の賃金を比較したもので、手数料まで含めれば同年代では、ほぼ同水準だそうだ。右図は、G7における2022年の難民認定数と認定率で、日本は著しく少なく、このような外国人の入国に対する態度の違いが、生産拠点の国外化→産業の流出→経済成長率の鈍化及び食料自給率の低下に繋がっていることは間違いない)

 *4-2は、①政府がめざす経済成長達成には、2040年に外国人労働者が688万人必要で97万人不足する ②国際的人材獲得競争が激化する中、労働力確保には受入環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要 ③為替相場変動の影響を加味していないため、不足数は膨らむ可能性 ④2019年年金財政検証の「成長実現ケース」に基づき、GDPの年平均1.24%の成長を目標に設定 ⑤機械化・自動化がこれまで以上に進んでも、2030年に419万人・2040年に688万人の外国人労働者が必要 ⑥今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定したが、3年を超えて日本で働く割合が高くなれば不足数は縮小 ⑦政府は2027年を目途に技能実習に代わる「育成就労」を導入し、特定技能と対象業種を揃えて3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替え易くする ⑧課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だが、中小零細企業が自前で教育するのは容易でないため、官民で環境整備に努める必要 等としている。

 このうち、①④⑤から、2019年の年金財政検証における「成長実現ケース」に基づけば、機械化・自動化が進んでも、2040年代には700万人近くの外国人労働者が必要であり、100万人近くの外国人労働者が不足することがわかる。

 そして、⑥⑦のように、日本の外国人労働者は、原則として来日3年で帰国する前提であるため、政府が2027年を目途に「技能実習制度」に代えて「育成就労制度」を導入し、3年間の育成就労後に(限定は多いが)特定技能に切り替え易くしたところだが、切り替え後もまだ、外国人労働者を生活者として日本社会に包含するわけではない。

 しかし、3年や5年で習得できる技術は初歩的なものでしかないため、例えば、多くの外国人労働者が働いている建築現場や介護現場は、熟練労働者が著しく少なく、日本の産業自体の質が落ちて競争力を失っている。そのため、3年などという限定なく日本で働けるようにすれば、外国人労働者の不足数が縮小するだけではなく、熟練労働者が増えて産業の質も上がるのだ。

 また、②③のように、為替相場が円安に傾けば、日本で得られる賃金は母国通貨への換算時に安くなる上、国際的な人材獲得競争も激化しているため、労働力確保のためには外国人労働者の受入環境の整備と来日後の労働条件や生活条件が重要な要素になる。それには、⑧のように、外国人に日本語能力を求めるだけでなく、外国人労働者の存在を当然のものとして、その長所を活かしながら、日本社会が包含する体制を整える必要がある。
 
 *4-3は、⑨日本にいる一般的外国人の社会統合政策は長年なかった ⑩「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人がいるが、明確な根拠はない ⑪西欧諸国では、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆ど ⑫中央政府・受け入れ自治体・外国人本人の間できめ細かな仕組みができている ⑬日本で外国人の多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけて欲しいということ ⑭日本にいる外国人に対して政策的支援がなければ、当然、厳しい状況に置かれる ⑮移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れるほど最悪の政策はない ⑯日本の組織に協力したため迫害を受ける恐れが高まったケースがアフガニスタンで起きたが、海外の日本大使館・国際協力機構・NGO等で働いていた現地職員の退避・受入態勢が整えられていない 等としている。

 確かに、⑨のように、日本にいる一般的外国人の社会統合政策はない。また、⑩のように、「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人も多いが、賃金はその人の生産性によって決めるものであるため、外国人の方に高い賃金を払わなければならない場合もある。そして、その人の生産性に従って決めた賃金は公正で、それが上昇しても雇用主が傾くことはないのである。

 そして、⑪⑫のように、外国人を多く受け入れている西欧諸国では、難民でも移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆どで、中央政府・受入自治体で受入体制ができているそうだ。

 日本でも、労働力不足で外国人を多く受入れている自治体が求めているのは、⑬のように、国が予算をつけて受入体制を作ることだそうで、これにより、中等教育まで終わった地方出身者が首都圏に集まって首都圏で働き、首都圏で税や社会保険料を納めるのと同じ効果が生じる。そのため、⑭の日本に来た外国人労働者に政策的支援を行なうことの費用対効果は良いのである。

 なお、⑮のように、建前上は「移民政策をとらない」と言いながら、実際には多くの外国人を受け入れて使い捨てにするほど最悪の政策はない。これでは、いくらODAで国民の金をばら撒いても、日本の評判を下げることによって経済上・外交上に悪影響が広がり、かえって高いものにつく。その顕著な例が、⑯のアフガニスタン人に対する扱いで、日本人の根拠無き優越感と利己主義によってチャンスをピンチに変える所業だったのである。

 *4-4-1は、⑰各国の間で留学生の獲得競争が激しくなった ⑱教育政策の枠を超え、就職や定住促進策と一体で留学生の受け入れを進めなければ日本は後れをとる ⑲日本は、国内の大学・大学院で学ぶ留学生の増加に成功していない ⑳日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることを止め、大学の受け入れ増に本腰を入れるべき ㉑直面している課題は3つで、i)留学先としての日本の魅力低下 ii)日本では学位(修士、博士)の評価が低い iii)留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていない ㉒留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすくすることが重要だが、これは教育政策の範囲を超える ㉓留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は消極的すぎる ㉔日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要 等としている。

 これに関して、*4-4-2は、「全国の私立大学の 53.3%で入学者数が定員割れとなったため、教育効果の客観的把握と情報開示で『大学の供給過剰』を是正すべき」という結論になっているが、私は文部科学省の「18 歳で入学する日本人を主と想定する従来モデルから脱却し、大学を留学生やリカレント教育に活用する」という目標の方が有用だと思う。

 何故なら、せっかく投資して作った建物や教授陣等の大学組織を壊すのは簡単だが、現在の日本経済のニーズに沿った教育内容に改善・変化させた方が、付加価値が高くなるからである。

 そのような中、⑰⑱は、「各国間で留学生の獲得競争が激しくなり、教育政策の枠を超えて就職や定住促進と一体で留学生受入を進めなければ日本は後れをとる」としているが、私もそのとおりだと思う。

 また、⑲㉑㉒のように、留学生が国を選ぶ際に重視する要因は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすいことが重要だそうだが、留学生にとっても就職・昇進の機会が均等でなく、移民可能性も低ければ、留学先として魅力が低くなるのは当然である。これは、日本人が海外の留学先を選ぶ時も同じであるため、よくわかる。

 さらに、日本では、学位の評価が低く、これらの留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないため、「日本国内の大学・大学院は留学生の増加に成功していない」と述べられており、大学側もグローバル社会が求める科学・技術や文系学問に科目をシフトする必要はあるとは思うが、日本人学生にとっても状況が同じであるため、尤もだ。

 なお、㉓のように、留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は確かに低すぎる。何故なら、世界には母国に大学が足りなかったり、戦争中だったりして、日本に留学したいと考える学生が多い上に、日本にとっては良質の労働力や両国の架け橋となる人材を確保するまたとないチャンスだからである。つまり、このような積極的な学生たちに奨学金を出す方が、時代遅れの産業にドブに捨てるような補助金をつけるよりも、産業のイノベーションにとってずっと効果的なのである。

 そして、㉔のように、日本の若者もグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々がいることを知り、彼らと協働できることが重要である。反対に、他国の価値感も知らずに、何が何でも日本が一番と思っているようでは、支え手としても期待できない。

 そのため、⑳のように、日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることは止めた方が良い。日本語学校は、日本の大学への進学や日本での就職のための予備校的位置づけであり、専門学校は学校によっては就職に必要なことを教えるが、大学の留学生増加のために本腰を入れる方が望ましいのである。

・・参考資料・・
<公的年金の財政検証と年金改革について>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240902&ng=DGKKZO83128000Q4A830C2KE8000 (日経新聞 2024.9.2) 財政検証と年金改革の課題(上) 就業率大幅上昇で財政改善、玉木伸介・大妻女子大学短期大学部教授(56年生まれ。東京大経卒、ロンドン大修士(経済学)。専門は公的年金、資産運用)
<ポイント>
○労働参加の拡大で公的年金制度は若返り
○被用者保険の適用を巡るムラの解消急げ
○財政検証は人生設計支援する情報提供も
 7月3日、厚生労働省は公的年金の財政検証結果を公表するとともに、制度改正の提案(オプション試算)を5つ示した。また今回の新しい試みとして「年金額分布推計」も出された。財政検証とは5年に一度、今後100年間の公的年金を巡るお金の出入りを様々な想定の下で予測し、所得代替率を試算することを柱とする作業だ。将来の出生率などの人口動態や国民所得の伸び(経済成長)に関する想定をいくつか置き、各ケースの高齢者の給付水準(片働き夫婦のモデル年金)を出す。これを各想定下での平均的な現役労働者の可処分所得で割ったものが所得代替率であり、2024年度は61.2%だ。少子高齢化で支え手が減る中で、保険料率を固定しているため、給付は少しずつ削らねばならない。毎年、物価や賃金(保険料はおおむね賃金に比例)の変動率に劣後させるマクロ経済スライドという仕組みにより、所得代替率を下げていく制度設計になっている。これをいつまでやるかと言えば、給付が下がり、今後100年間の年金財政のバランスが確保可能と判断できるまでだ。この期間をスライド調整期間という。現行制度では、1階(基礎年金)と2階(報酬比例部分)の今後100年間のバランスをそれぞれ確保できるまで、スライド調整が続くことになっている。今回の財政検証の大きな特徴は、前回(19年)に比べスライド調整期間が短くなった、すなわち給付の実質価値の引き下げを早めに終えて、より高い所得代替率で安定させても、100年間の年金財政がバランスを失わないという結果になったことだ。これは朗報だ。具体的な数値を見てみよう。前回、スライド調整が27~28年間続いて所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースがあった。これと似た今回の成長型経済移行・継続ケースでは、スライド調整期間は13年間に短縮され、水準も57.6%までしか下がらない。少子高齢化が進んでいるのに、そんなうまい話があるのかといぶかる向きもあろう。だがこれには極めて強力な理由、すなわち日本人がより多く働きだしたことがある。積立金の運用が好調なことも背景にある。12年から22年にかけ、15~64歳の生産年齢人口は約600万人減っている。これに対し、就業者数は13年の6326万人から23年には6747万人へと10年間で約400万人も増えた。特に女性や高齢者の労働参加が進んでいるからだ。13年から23年にかけ、25~34歳の女性の就業率は70.7%から82.5%、55~64歳の女性では54.2%から69.6%に上昇した。男性は高齢者の就業率上昇が顕著で、60~64歳では72.2%から84.4%、65~69歳では48.8%から61.6%に急上昇した。劇的とも言える社会的な変化だろう。こうした労働参加の進展は、前回財政検証時の想定の「労働参加が進むケース」を超えたものだ。図では前回の同ケースの就業者数の想定を破線で示したが、実績(太い実線)はこれを上回る。発射台が高くなっているから、今回の「労働参加漸進シナリオ」でも、40年時点では6375万人と、前回の一番上のケースの6024万人を上回る就業者数が見込まれる。労働参加の拡大は支え手を増やすが、これは現役世代が増えるのと同じ効果を年金財政に対し有する。いわば日本の公的年金制度は労働参加の拡大により若返ったのだ。この若返り傾向がすぐに終わるかしばらく続くかは、自らの働き方に関する国民の選択次第だ。ここまでが現行制度を前提とする財政検証作業の結果の柱だ。これに対し、現行制度を変えていく議論の出発点として、いくつかの提案(オプション試算)が示された。そのうち個々人の働き方との関係が深いものを2つ見てみよう。一つは適用拡大である。適用とは、被用者保険(年金では厚生年金保険)の加入者にするということだ。具体的には、雇われて働いている第1号被保険者(一部の短時間労働者など)や第3号被保険者(パートに出ている専業主婦など)を第2号被保険者(保険料を労使折半)にすることだ。第2号被保険者になれば、基礎年金に加えて報酬比例部分を受給でき、働いて保険料を払った分だけ将来の給付を増やす道が開ける。ところが現行制度では被用者保険の適用に関し、看過し難いムラがある。同じ働き方でも、雇い主がどんな主体であるかにより差がある。例えば週20~30時間の短時間労働者の場合、企業規模が小さいと被用者保険が適用されない。個人事業主に雇用されているとフルタイムでも適用されないことがある。なるべく多くの人が被用者保険に入ることで、こうしたムラを減らしていくのが適用拡大だ。適用のムラがあると、同じ労働でもそのコストとして事業主負担のあるものとないものが生じてしまう。一物二価だ。事業主負担のない「安い労働」があれば、雇う側は労働生産性を上げる努力をしなくなる。適用拡大は、安い労働をなくして日本経済の効率向上を促すものでもある。以前よりはコスト増の価格転嫁がしやすくなっているという経済環境の変化をとらえて、早急に進めるべきだ。また被用者保険の適用がない人々の中には経済的に弱い人もいる。こうした人々に被用者保険のより強力な安全網を及ぼす(包摂する)という発想も必要だ。適用拡大には、事業主負担を回避したい企業の抵抗や個々人の心理的なものなど様々な摩擦があるが、なるべく大胆に拡大すべきだ。もう一つは在職老齢年金の見直しである。現行制度では65歳以降も就労していると、報酬比例部分がカットされる可能性がある。特に、65歳までもそれ以降も正社員の平均的な賃金(年収500万円程度)以上で働く人は、カットが大きくなる(場合によっては全額)可能性がある。現行制度は65歳以降の就労に対するペナルティーであり、今の時代に合わない。年金制度への信頼確保のためにも、速やかに撤廃すべきだ。最後に今回の新たな試みである年金額分布推計に触れる。財政検証はマクロ試算であるのに対し、年金額分布推計はミクロ試算だ。具体的には平均を求める財政検証の枠組みの中で、個々人の年金加入履歴(誰が制度間を移動するかなど)をシミュレーションし、将来の年金額の分布を推計する。推計からは、女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額の分布は、上の世代よりも受給額が増える方向にシフトすることが分かる。相対的に高い給付を受ける人の比率が上がり、低年金者の比率が下がる。こうした推計作業は、将来に不安を感じている若年層に対し、合理的なライフプランニングを支える有力な情報提供になり得る。財政検証についてはとかく所得代替率に目が行きがちだが、人々のライフプランニングを支援する貴重な情報も数多く提供されている。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240923&ng=DGKKZO83625000S4A920C2TLF000 (日経新聞 2024.9.24) 夫婦で月38万円 老後の年金十分?「不足」なら自助努力、制度の改革必須
 2024年は公的年金の財政状況をチェックする5年に1度の財政検証の年にあたる。厚生労働省はこのなかで将来の給付水準の見通しを示した。現在30歳の夫婦が65歳になった時にもらえる年金額は2人あわせて月38万円。果たして、この金額でぜいたくはできるのだろうか。厚労省が7月に公表した財政検証によると、現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円。女性は同16.4万円。この2人が夫婦の場合は世帯で月38万円となる。金額は物価上昇の影響を除いて算出しているので、今の賃金や消費額との比較が可能だ。23年の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額で25万959円だ。内訳を見ると、食費や交通・通信で計4割、教養娯楽や光熱水道が1割ずつ、住居と保健医療がともに1割弱を占める。支出額だけなら月10万程度を貯蓄に回すことができる。都心の賃貸物件に暮らす場合、家賃負担が支出の大部分を占める可能性が高い。病気になって医療費が急増する可能性もある。余裕がある暮らしを送れるかは定かではない。夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」だと、受け取る年金額は月33万円だ。老後の資金繰りは共働き世帯よりも苦しくなる。もっとも月33万円を年間で換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度に相当する。ぜいたくはできないが、一定の水準は確保したとも言える。 
●経済成長が前提
 これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進むという前提を置く。公的年金制度は現役世代が払う保険料を高齢者に仕送りする仕組みだ。女性や高齢者が労働参加すれば、保険料を納める担い手が増える。これによって年金額も増える。ところが、過去30年と同じ経済状況が続く場合は年金額は増えない。共働き夫婦で月25万円、モデル世帯では月21万円となる。24年のモデル世帯の支給額は23万円なので、これよりも減ってしまう。老後に関する政府の23年の調査では「全面的に公的年金に頼る」と回答した人が26.3%、「公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組み合わせる」と回答した人が53.8%いた。2019年には「老後資金2000万円問題」が提起された。公的年金だけでは余裕がある生活を送るには不十分と考え、自助努力で老後の資金を確保する人が増えている。金融相談を手掛けるブロードマインドの柴田舜太氏はファイナンシャルプランナーの立場から資産形成セミナーを午後7時から開いている。9月中旬のセミナーには30人強が参加した。柴田氏がまず説明したのが、政府が個人の資産形成として活用を促進する少額投資非課税制度(NISA)と個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)だ。さらに国内外の株式や債券に投資するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の分散投資手法についても個人が参考にすべき点を解説した。若いうちから少額を積み立てればまとまった資産になる。「時間」を味方につけた長期分散投資の効用を説いた。個人の備えと同時に、行政にできることはまだまだある。年金財政の状況は夫が会社員で妻が専業主婦のモデル世帯で判断してきた。夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。年金のモデル世帯は古いものさしとなってしまった。 
●働く意欲後押しを
 公的年金制度にはいわゆる「年収の壁」など女性の労働参加の選択に影響を及ぼす制度が今も存在する。配偶者の扶養下で生活するため保険料を払わずに済む半面、年金は基礎年金だけになり老後の生活が厳しいものになるリスクもはらむ。年金を受け取りながら働き、月収との合計額が多いと年金の一部、または全額が支給停止になってしまう在職老齢年金も廃止や見直しが俎上(そじょう)にのぼる。高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘がある。男女の賃金格差の是正も課題の一つだ。国際的に見ても開きが大きい男女の賃金格差を是正し、時代に合った年金の制度改正を後押しする労働環境をつくる必要がある。日本の人口は56年に1億人を割る。現役世代が減れば年金額が減るため、不安を感じる人は多いだろう。老後の基盤を手厚くするためにも、年内に方針が固まる年金制度の見直しに注目が集まる。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15973877.html (朝日新聞 2024年7月4日) 年金見直し、実現度は 「財政検証」試算を公表
 公的年金の「財政検証」の結果が3日、発表された。年金水準を維持するため、政府は、年末にかけて制度改正の中身を本格的に議論する。厚生労働省は、議論に向けて制度を見直した場合の「試算」も公表。取材に基づき、見直し対象となっている各項目の実現度を星の数で示した。国民年金(基礎年金)の支払期間を5年間延長する案は見送る。政府は厚生年金の加入対象者を増やす方針は固めており、さらなる制度改正の項目としてどのような政策を選択するのかが今後の焦点だ。(高絢実)
■公的年金将来見通しの試算4ケース
〈1〉高成長実現ケース/所得代替率56.9%
〈2〉成長型経済移行・継続ケース/57.6%
〈3〉過去30年投影ケース/50.4%
〈4〉1人あたりゼロ成長ケース/45.3%
■被用者保険の適用拡大(★★★)
 政府は、厚生年金の加入対象となるパートなどの短時間労働者を増やす方針だ。現在は従業員101人以上の企業のみが対象の「週20時間以上働き、月収8万8千円以上」という基準を、企業規模に関わらず適用する。5人以上の個人事業所で働く、農業や理美容業などの人も現在は適用されないが、業種を問わず対象にする方針。現状だと、労働参加が進んだ「成長型経済移行・継続ケース〈2〉」でも所得代替率は2037年度に57.6%となり、24年度から3.6ポイント減。一方、政府方針の適用拡大=表A=では58.6%に。加えて賃金の条件を撤廃、または最低賃金が2千円程度まで上昇した場合=B=は59.3%、さらに5人未満の個人事業所にも適用=C=すると60.7%で下げ止まる。週10時間以上働く全ての労働者まで拡大=D=すると61.2%となり、24年度と同水準を維持できる。
■マクロ経済スライド、調整期間一致(★★)
 人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みは「マクロ経済スライド」と呼ばれる。財政収支が均衡するまでゆっくり「調整」(抑制)していく。国民共通の基礎年金は、低年金の人にとってより重要だ。だが、その調整期間は、基盤の弱い国民年金の財政状況で決まるため、長引いてしまう。そこで、厚生年金の積立金の活用によって調整期間を一致させる。そうして基礎年金の調整期間を早く終わらせることで、基礎年金の給付を引き上げる案だ。ケース〈2〉で3.6ポイント増の61.2%、ケース〈3〉で5.8ポイント増の56.2%まで引き上がる。基礎年金が充実するため収入の少ない人への恩恵が大きいだけでなく、生涯の平均年収が1千万円を超える人を除き、厚生年金の加入者でも年金額が引き上がる。基礎年金の半額を賄う国庫負担が増え、〈3〉で2050年度以降に1.8兆~2.6兆円になると試算された。
■国民年金の納付期間5年延長(―)
 国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を、現行の40年(20~59歳)から、45年(20~64歳)に延長する案。ケース〈2〉では64.7%(7.1ポイント増)、〈3〉では57.3%(6.9ポイント増)となる。国庫負担は徐々に増え、2069年度以降に1.3兆円増の見通し。
■在職老齢年金の撤廃(★★)
 65歳以上で働いている人の場合、賃金と厚生年金(報酬比例部分のみ)の合計が50万円を超えると、年金の一部またはすべてがカットされる。この「在職老齢年金」の仕組みを撤廃すると、働く高齢者の給付が増える一方、そのための年金財源が必要となり、将来世代の厚生年金の給付水準は、ケース〈3〉で0.5ポイント低下する。高齢者の労働参加が期待される一方、高賃金の人の優遇策だという指摘もある。
■標準報酬月額の上限見直し(★★)
 厚生年金の保険料は、月々の給料などを等級(標準報酬月額)で分け、保険料率(労使折半で18.3%)を掛けて算出する。現行の上限は65万円で到達者は全体の6.2%。この上限を引き上げ、75万円(上限到達者の割合4.0%)、83万円(同3.0%)、98万円(同2.0%)にする案を試算した。保険料収入が増え、ケース〈3〉で所得代替率が0.2~0.5ポイント改善する。
■将来の見通し、4ケース試算 厚労省
 公的年金の将来見通しについて、厚生労働省は4ケースを試算した。上から2番目の「成長型経済移行・継続ケース」は、労働参加が進み、経済成長が軌道に乗る想定。現役世代の手取りに対する年金額の割合を示す「所得代替率」は、2024年度の61・2%から57・6%(37年度)と下落幅が抑えられる。3番目の「過去30年投影ケース」は、50・4%(57年度)に落ち込む。平均的な会社員と配偶者の「モデル世帯」の年金は、年齢でどう変わるのか。一覧にまとめた。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000 (日経新聞 2024.7.4) 年金目減り、就労増で縮小 1.1%成長なら6% / 横ばいだと2割、厚労省試算、出生率の想定高く
 厚生労働省は3日、公的年金制度の中長期的な見通しを示す「財政検証」の結果を公表した。一定の経済成長が続けば少子高齢化による給付水準の低下は2024年度比6%で止まるとの試算を示した。成長率がほぼ横ばいのケースでは2割近く下がる。高齢者らの就労拡大が年金財政を下支えし、いずれも前回の19年検証から減少率に縮小傾向がみられた。財政検証は年金制度が持続可能かを5年に1度、点検する仕組みだ。年金をもらう高齢者が増え、財源となる保険料を払う現役世代が減るなか、給付水準がどこまで下がるか確認する。政府・与党は検証結果を受けて年内に給付底上げ策などの改革案をまとめる。今回は経済成長率や労働参加の進展度などが異なる4つのケースごとに給付水準を計算した。指標とするのは「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す「所得代替率(総合2面きょうのことば)」だ。4ケースのうち厚労省が「めざすべき姿」とする中長期的に一定の経済成長が続く成長ケースでは37年度の所得代替率が57.6%となり、給付水準は24年度から6%低下する。成長率をより高く設定した高成長ケースでは39年度に同7%減の56.9%となる。成長ケースの方が高いのは、前提となる賃金上昇率が低い分、「賃金を上回る実質的な運用利回り(スプレッド)」が大きくなるためだ。過去30年間と同じ程度の経済状況が続く横ばいケースでは57年度に同18%減の50.4%になる。もっとも悲観的なマイナス成長ケースになると国民年金の積立金が59年度に枯渇し、制度が事実上の破綻となる。5年前は6ケースを試算した。経済成長率などの前提が異なるため単純比較はできないが、所得代替率は最高でも51.9%だった。今回の横ばいケースに近いシナリオでは政府が目標とする50%を割り込んだ。給付水準の低下率は今回より大きい傾向が示された。改善した要因は高齢者や女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がったことと、積立金が19年想定より70兆円ほど増えたことだ。成長ケースの前提条件には実現のハードルが高いものもある。60代の就業率は40年に77%と推計しており、22年から15ポイント上げる必要がある。将来の出生率は1.36としたが、23年の出生率は1.20だった。1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は01~22年度の平均がマイナス0.3%だった。出生率は早期の回復が見込みにくい。年金制度の安定には就労拡大につながる仕事と育児の両立支援や新たな年金の支え手となり得る外国人労働者の呼び込み強化といった取り組みが要る。年金の給付水準は当面、低下が続くため、あらかじめ老後資産を形成しておく重要性が増す。単身者や非正規雇用の人が低年金にならないよう給付水準の底上げへの目配りも欠かせない。財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも初めて示した。24年度は男性が14.9万円、女性は9.3万円。成長ケースでは59年度に男性が21.6万円、女性は16.4万円となり男女差が縮小する。

*1-2-3:https://ecitizen.jp/Gdp/fertility-rate-and-gdp (統計メモ帳) 世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係
 合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係について相関をグラフにしてみた。まず、数字の得られる190の国と地域で散布図を描いてみた(図1)。国連による人口予測では、アフリカの人口増加が突出しているが、アフリカ諸国の多くは、貧乏で子だくさんの国が多い。グラフから見ると一人当たりGDPが数千ドルになるまでは出生率とGDPは反比例している。途上国の人口増大の問題の解決には、発展途上国の一人あたりのGDPをあげるというのが正しいアプローチである。図1のグラフではずれた位置にあるのが、一つはアンゴラ、赤道ギニア、もう一つはミャンマー、北朝鮮、モルドバである。アンゴラ、赤道ギニアは、一人当たりGDPは比較的高いが出生率も高い。その理由としては、GDPが高いのは原油の生産によるもので、アンゴラはつい最近まで、長期にわたる内戦により経済は極度に疲弊していたこともあり、石油収入が必ずしも国民の貧困解消にまで結びついていないか、GDPの増加によって出生率が低下するまでには10年ほどの期間がかかるということなので、その期間がまだ来ていないと言うことになる。一方、GDPが低いにもかかわらず出生率も低いのが、ミャンマー、北朝鮮、モルドバである。ミャンマー、北朝鮮は、圧政国家であり政治が経済を犠牲にしている国である。モルドバは、ソ連崩壊によって貧困化した国であり、資源供給などロシアに依存する面が多く、ロシア通貨危機等により経済が混乱、度重なる自然災害や沿ドニエストル紛争の影響もあって経済状態が悪化している国である。次に、一人当たりGDPが1万ドル以下の国及び赤道ギニアを除いて作成したの が図2である。GDPの割に出生率の高い国を拾うとカタール、ブルネイ、バーレーン、アラブ首長国連邦、イスラエル、サウジアラビア、オマーン、ガボン、ボツワナということになり、多くが産油国になる。一人当たりGDPというのは石油生産も含んでいるため必ずしも国民の生活の豊かさを示していない面もある。ボツワナは、ダイアモンド、銅等の鉱物資源に恵まれて他のアフリカ諸国と対照的に急速な経済発展を遂げたが、一方でエイズの影響が大きい。国連のUNAIDS(国連合同エイズ計画)によると15歳から49歳までの人の23.9%がエイズに感染しているということである。そのため、出生率は高いものの人口の増加率は高くない。国連の資料によると増加率は年1.23%である。最後に、日本を他の先進国と比較したいので産油国を除いてグラフを作成した。合計特殊出生率が1.3未満の国を一人当たりGDPが高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人となっている。東アジアと東ヨーロッパに集中している。東欧諸国では、人口が減少している国が多く、世界で人口増加率の低い順に、ウクライナ -0.72%、ブルガリア -0.59%、ロシア -0.55%、ベラルーシ -0.53%となっている。今後は、日本と韓国がその仲間入りをするであろう。日本では、不況対策のためにいろいろな政策が考えられているが、大型の公共投資をするしても、総人口の減少が加速すれば、過去のような経済の成長や拡大はもはや起こらないだろう。成熟した国であるイギリスをはじめとした西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべきであろう。なお、合計特殊出生率については、国際連合経済社会局が作成したWorld Population Prospects The 2006 Revision HighlightsのTABLE A.15を使用した。一人当たりのGDP(購買力平価PPP)についは、 世界銀行の資料を主に使用し、世界銀行の資料で数字が得られない場合には、IMF、CIAの資料の順で使用した。

*1-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240906/pol/00・・lpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月9日) 女性の「低年金」 改善されるのか、坊美生子・ニッセイ基礎研究所准主任研究員
 今年7月に、5年に一度の公的年金の財政検証を政府が公表しました。今後、女性の年金を巡る状況は改善されるとしました。ニッセイ基礎研究所准主任研究員の坊美生子さんに聞きました。
●女性の老後はこれから良くなる?
――これから女性の年金をめぐる状況は改善されるという財政検証は、実感とはあわない気がします。
◆将来的に、世代が下れば低年金は解決していくであろうという話と、たとえば今、50歳の女性が老後にどういう状況になるかは同じ問題ではありません。財政検証ではそうした個人の視点が不足しています。財政検証をみると、現在の高齢者(65歳以上)の女性と、今、50歳の女性が65歳以上になった時をくらべると、年金水準は改善はします。たとえば年金受給月額が10万円に満たない人の割合は、現在「65歳」の女性では7割弱に上りますが、「50歳」だと6割弱に減ります。しかし、それは女性の老後が安心になるというレベルではありません。高齢女性にとって厳しい状況が続くことも確かです。厳しい老後にならないためには、今、頑張って働く必要があることに変わりはありません。
――50歳の女性が今から働くのは難しいのではないですか。
◆たしかに難しいのですが、私としては、50歳を過ぎても、健康上の問題などがなければ、がんばって働いてほしいと思います。 専業主婦などで、長く働いていないと一歩踏み出すのは難しいとは思います。しかし、非正規でも働けるならば働いたほうが、自身の年金を確保するためにはよいのです。そうしたからといって、老後に自立できるレベルにまでなるとは限りませんが、女性が少しでも自分の生活を守り、人生をコントロールできるようになってほしいと思います。もちろん、現在働いている人も、50歳を過ぎても、新しいチャレンジをして、賃金を上げる挑戦をしてほしいと思っています。今、しっかり働いたり、キャリアアップしたりすることが、老後の生活に大きく影響します。現在、50歳の女性はいわゆる結婚・出産退職がまだ多かった世代です。「当時の社会規範に従って、若い時に仕事を辞めたのに、今さら働けと言われても」と思う女性もいるかもしれませんが、現実問題として、ご自身の老後、特に、夫と死別したり子が独立したりして、「おひとりさま」になった後のことを考えれば、やはり50歳になっても、働くことを選択肢から外してはいけないと思います。
●女性の非正規の人は
――女性の低年金は非正規雇用の問題と関係します。
◆2000年代に入って非正規雇用が増えてきても、政策を作る政府の関係者には、非正規は、稼ぎ頭の夫の家計補助として、パートで働いている主婦だ、という意識が強かったのではないでしょうか。世帯単位で考えれば、正社員で働いている夫の賃金・年金があるから問題はないという考え方です。しかし実際には、夫婦が2人とも非正規で同じように家計を担っている、あるいは単身で非正規という人は多くいます。そうした人たちへの対応が遅れてきたのではないでしょうか。世帯を中心に考えてきて、個人単位の生活を想定していなかったことも、女性の低年金の問題が目に入らなかった理由ではないかと思います。
――現実には、非正規は例外でも、家計補助のためだけでもなくなっています。
◆ですから年金を考えるうえでも非正規雇用は無視できない要素です。近年、国が進めてきた厚生年金の適用拡大は大きな政策ですが、年金財政を改善する必要に迫られたためにやっている側面が強いと感じます。財政目線ではなく、非正規雇用の人たちの老後の生活をどうするかという、一人一人の生活者の視線はまだ薄いと感じています。
――女性の低年金は男女の賃金格差が背景にあります。
◆男女の賃金格差があるから、女性の年金が低いのは当然のことで、男女の賃金格差は年金の問題ではない、という考え方もあります。しかし、「男女の賃金格差が大きいのは当然」という考え方は、もはや社会的に認められないでしょう。政府は大企業の男女の賃金格差の公表(2022年7月の女性活躍推進法の厚生労働省令改正。従業員301人以上)を義務づけました。公表する際の注釈欄で、原因を分析している企業があります。自分たちで問題を認識するようになっていることは大きな進歩です。
●リアルに伝えなければ
――今の女性は、老後は今の高齢女性より良くなると言われて納得するでしょうか。
◆数字の上では良くなっていくのですが、国民の実感とは距離があります。本当は、財政検証のような数字と、国民の意識をつないで説明するのは政治家の仕事です。数字が実際の生活にどう反映するかを話してくれる人はいないのか、と思います。国民の反発を恐れて、政府が悪い情報を出しにくいという事情もあります。政治家も年金の話をするのは怖いのかもしれません。しかしおカネの話ですから、リアルに伝えないと、国民も必要な備えができないし、年金制度に対する信頼も結局、低下してしまいます。
――低年金には生活保護で対応すればいいという考え方もあります。
◆75歳以上になると、男性も女性も多くの方は体が弱り、働いて稼ぐことが難しくなってきます。ですから、もっと若い時に、あなたの老後はこうなりますと示して、備えてもらわなければなりません。「低年金の人は生活保護に回せばよい」という考え方だと、年金制度を維持することができたとしても、社会全体の仕組みとしては、生活保護の給付費が増加し、持続可能性は低くなります。将来の年金の話をする時には、今の働き方にさかのぼって論じるべきです。年金を巡る政策も、今の雇用政策ともっと結びつけるべきです。特に女性については、若い世代でも、低年金のリスクがあることが分かったので、女性の働き方が、もっと骨太になるように、女性の雇用政策を強化していくべきです。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240918&ng=DGKKZO83520370X10C24A9EP0000 (日経新聞 2024.9.18) 共働き、専業主婦の3倍に 1200万世帯超す、保育所増、育休整備進む 社会保障なお「昭和型」
 夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。保育所の増設や育児休業の拡充など環境整備が進み、仕事と家庭を両立しやすくなってきたことが背景にある。ただ、社会保障や税の制度には専業主婦を前提にしたものがなお多く、時代に合わせた改革が急務となる。総務省の労働力調査によると、夫婦とも雇用者で妻が64歳以下の共働きは23年に1206万世帯と前年より15万増えた。さかのぼれる1985年以降で最多となった。夫が雇用者で妻が働いていない専業主婦世帯は最少の404万で前年より26万減っている。男女雇用機会均等法が成立した1985年時点で専業主婦は936万世帯で、共働きの718万世帯を上回っていた。90年代に逆転し、2023年までに専業主婦世帯は6割減り、共働きは7割増えた。23年の15~64歳の女性の就業率は73.3%に達し、この10年で10.9ポイント伸びた。男性の就業率は84.3%で伸びは3.5ポイントにとどまる。専業主婦世帯の割合を妻の年代別に見ると、23年に25~34歳で22.0%、35~44歳で22.9%、45~54歳で21.8%と3割を下回っている。55~64歳では30.8%と3割を超え、65歳以上では59.2%に上る。若年世帯で専業主婦は少数となっている。働く女性が増えた背景には、男女雇用機会均等法が施行され、男女ともに長く仕事を続けるという価値観が一般的に広がったことが挙げられる。同時に保育所の整備やテレワークの普及といった仕事と家庭を両立しやすい環境づくりも進展した。「人手不足のなかで、企業が女性の採用・つなぎとめを進めている」(ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員)といった側面もある。子どもが増え、教育や住居などの費用負担が高まり、子育てが一段落ついたところで共働きに転じる動きも見られる。近年の物価高がそうした動きを強めている可能性もある。共働きの女性の働き方では、週34時間以下の短時間労働が5割超を占める。25歳以上の妻で見ると、どの年代でも短時間が多い。年収は100万円台が最多で、100万円未満がその次に多い。短時間労働が多い理由の一つに、「昭和型」の社会保障や税の仕組みがいまだに残っていることがある。例えば、配偶者年金があげられる。会社員らの配偶者は年収106万円未満といった要件を満たせば年金の保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる。第3号被保険者制度と呼ばれる。第3号被保険者の保険料はフルタイムの共働き夫婦や独身者を含めた厚生年金の加入者全体で負担している。専業主婦(主夫)を優遇する仕組みとも言え、「働き控え」を招くと指摘されている。会社員の健康保険に関しても、保険料を納める会社員が養っている配偶者らを扶養家族として保障している。専業主婦(主夫)を扶養している場合は1人分の保険料で2人とも健康保険を使えるようになっている。配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は減少傾向にある。23年は事業所の49.1%で、18年と比べて6.1ポイント下がった。税制にも配偶者控除があり、給与収入が一定額以下であれば、税の軽減を受けられる。「働き過ぎない方が得だ」といった考えが残る要因とも言える。共働きが主流となり、各業界で人手不足が深刻さを増すなか、制度の見直しは欠かせない。夫婦が働きながら育児に取り組むためには、企業の長時間労働の是正や学童保育の受け皿の拡大なども急がれる。官民をあげた取り組みが不可欠となる。

*1-4:https://diamond.jp/articles/-/349523?utm_source=wknd_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20240901 (Diamond 2024.8.29) 「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング2024【年金年収200万円編】(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)
 住む場所によって年金の手取り額が異なる――。この衝撃の事実は、意外と知られていない。では、実際にどのくらいの差があるのか。過去にも本連載で取り上げ、大きな反響を呼んだ『「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング』について、国民健康保険料や介護保険料の改訂を反映した「最新版」を作成した。年金年収「200万円編」と「300万円編」の2回に分けてお届けする。まずは「200万円編」をご覧いただこう。
●住んでいるところで、年金の「手取り額」が異なる驚愕の事実!
 リタイア後に受け取る年金額は、「ねんきん定期便」で知ることができる。その際に注意したいのは、ねんきん定期便に記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではないこと。年金収入にも、税金や社会保険料がかかるのだ。「年金から税金や社会保険料が引かれるのですね!知らなかった」と言う人が少なくないが、もっと驚くべき事実は、「年金の手取り額は住んでいる場所によって異なること」である。筆者は手取り計算が大好きな、自称“手取リスト”のファイナンシャルプランナー(FP)だ。本連載でも「給与収入の手取り」、「パート収入の手取り」、「退職金の手取り」など、さまざまな手取り額を試算している。今回は、47都道府県の県庁所在地別の「年金の手取り額ランキング」をお伝えする。同じ年金収入で手取り額に結構な差が発生することを仕組みとともに解説しよう。年金の手取り額は、次のように算出する。「年金の手取り額=額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」。同じ年金収入で手取り額が異なる要因は、意外にも税金ではなく、社会保険料にある。ちまたでは「住民税は、自治体によって高い、安いがある」と言われているが、これは都市伝説であり、事実と異なる。住民税は、全国どこに住んでいても原則として同じ(均等割の非課税要件など細かい部分で違いはあるが、所得にかかる税率は変わらない)。所得税も同様に、どこに住んでいても計算方法は同じだ。ところが、国民健康保険料と介護保険料は自治体により保険料の計算式や料率が異なり、手取り額に結構な差が発生する。そして、高齢化が進んでいるため、国民健康保険と介護保険の保険料が上がり続けていることも見逃せない。国民健康保険料は毎年見直され、介護保険料は3年に1回の見直しされ、今年がそのタイミングだ。最新の保険料が公表されたので、本連載では「額面年金収入200万円」と「額面年金収入300万円」の二つのケースについて、50の自治体の手取り額を試算した。今回と次回(9月12日(木)配信予定)の2回にわたって、ランキング形式で紹介する。
●「額面年金収入200万円」ってどんな人? 50の自治体の手取り額を徹底調査!
 ランキングを見る前に、今回の調査方法と試算の条件について説明しておこう。額面年金収入200万円のケースは、22歳から60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円の人を想定した。そういう人が65歳から受け取る公的年金の額(老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計)が200万円という水準。イメージとしては、定年退職前の額面年収が800万円くらいの人だ。一方、次回紹介する額面年金収入300万円のケースは、公的年金に加えて企業年金や、確定拠出年金(DC)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、退職金などの年金受取があり、合計で300万円になる人を想定した。ランキング対象は、合計50の自治体。46道府県の県庁所在地と東京都内の4区だ。東京都は23区がそれぞれ独立した自治体なので、東西のビジネス街と住宅街の代表として、千代田区、墨田区、新宿区、杉並区を調査した。国民健康保険料と介護保険料は、ダイヤモンド編集部が各自治体にアンケート調査を依頼し、その保険料データを基に筆者が税額を計算して手取り額を算出した。なお、期日までに未回答だった自治体については市区のウェブサイトを参照の上、それぞれのケースの保険料を算出している。試算条件は、60代後半の年金生活者で、妻は基礎年金のみ。夫の手取り額を試算し、「少ない順番」でランキングしている。それでは、結果をご覧いただきたい。
●ワースト1位は大阪市! 年金の手取り額は?
 まず、ワースト1位から25位まで見てみよう。表には、額面年金収入200万円に対する「手取り額」、「社会保険料の合計額」、「税金」、「手取り率(収入に対しての手取りの割合)」を掲載している。税金がゼロであることに注目したい。今回の50の自治体のケースでは、200万円の年金収入(公的年金扱いになる国の年金や企業年金などの合計)から社会保険料を差し引き、配偶者控除を受けると、所得税、住民税ともにゼロとなった。過去にも何回か実施しているランキングだが、大阪市は不動のワースト1で手取り額が少ない。大阪市の財政状況が良くないことが影響しているのだろう。2位から25位までは、数千円の差で過去のランキングと順位が入れ替わっている。ワースト1の大阪市の「手取り率」は89.8%。これをいったん記憶してほしい。筆者はFPになったばかりの頃(28年前)に、自治体によって国民健康保険料の差があることに気が付き、いくつかの大都市の保険料を定点観測していたのだが(変わり者のFPだ)、当時から大阪市は東京23区や横浜市に比べて、ダントツに保険料が高かったことを記憶している。国民健康保険料は、所得割(所得に応じて計算)と応益割(収入がなくても一律に定額がかかるもの。被保険者の数に応じてかかる均等割や世帯ごとにかかる平等割など)の合計額で算出される。このうち、所得割は総所得に料率を掛けて計算する。年金収入だけの人なら「公的年金等の収入-公的年金等控除額-住民税の基礎控除43万円」を指す。以前は、所得ではなく住民税に料率を掛けて算出する自治体があり、東京23区がそうであった。「住民税方式」だと、扶養家族が複数いたり、所得控除が多かったりすると、住民税が少なくなり、それに連動して保険料も安くなる。ところが、15年くらい前に「住民税方式」を採用する自治体はほぼなくなり、代わりに「総所得方式」を採用することになったのだ。扶養控除は反映されないため、扶養家族のいる人にとっては、保険料の負担増につながっている。ともかく、国民健康保険料の計算は複雑。自身のケースを試算したい場合は、お住まいの自治体のウェブサイトで確認しよう。親切な自治体は、保険料シミュレーターを掲載しているので、活用するといい。では、ワースト26位から50位も見てみよう。
●手取り額が多いのはどの自治体? 手取り率の違いは?
 ワーストランキング下位、つまり「手取り額」の多い自治体は、1位名古屋市、2位長野市、3位鳥取市という結果になった。とはいっても数千円の差があるくらいだ。ワースト1位の大阪市の手取り額は、179万5225円。手取り額が最も多いワースト50位の名古屋市は、186万5110円で、その差は6万9885円だ。額面の年金額が同じでも約7万円の手取り額の差が出る結果となった。収入200万円に対する7万円は、3.5%。大きな「格差」といってもいいだろう。手取り率にも注目したい。ワースト上位3位までは89.8~91.4%で、ワースト下位3自治体では93.2~93.3%となっている。年金収入が200万円くらいの人は、手取り率が概算で90%前後と覚えておくといいだろう。
●国民健康保険料と介護保険料 手取りを左右する「格差」は大きい!
 最後に、国民健康保険料と介護保険料のワースト3とベスト3を見てみよう。国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は、約5万円。2倍近い差となっている。介護保険料が最も高いさいたま市と最も少ない山口市との差額は、約3万円という結果になった。年金の手取り額の多寡だけでリタイア後の住まいを決めることはできないが、自治体によって、国民健康保険料と介護保険料が異なることは知っておきたい。額面年金収入が異なると、社会保険料負担割合も変わってくるため、手取り額ランキングの結果は違ったものとなる。

<老後資金について>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.4) 老後資金の底上げ急ぐ 年金、OECD平均の6割、パート加入要件緩和 自己資産づくり促す
 厚生労働省が3日公表した公的年金の財政検証結果は5年前に比べて改善傾向がみられたものの、給付水準の低下が当面続くことも示した。政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩め、「支え手」を広げることで制度の安定をめざす。老後に備えて自己資産を形成する重要性も呼びかける。厚生年金に入っていない自営業者らが加入する国民年金(基礎年金)は現在、満額で月6.8万円だ。この給付水準は少子高齢化が進むにつれ、さらに下がっていく。やむなく非正規雇用になった人が多い「就職氷河期世代」は現在50歳前後で、生活資金を年金に頼る時期が近づきつつある。少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要性が増している。日本の年金水準は国際的に見ても低い。現役世代の収入に対する年金額の割合である「所得代替率」を経済協力開発機構(OECD)の基準でみると一目瞭然だ。単身世帯の場合、日本は32.4%で欧米などOECD加盟国平均の50.7%の6割程度の水準にとどまる。今回の財政検証は5つの改革案を実施した場合の効果を試算した。1つは厚生年金に加入する労働者を増やす案だ。10月時点の加入要件は(1)従業員51人以上の企業に勤務(2)月収8.8万円以上――など。このうち企業規模の要件について政府は撤廃する方針を固めている。財政検証結果によると、企業規模の要件を廃止し、さらに5人以上の全業種の個人事業所に適用した場合、新たに90万人が厚生年金の加入対象となる。成長ケースの試算では基礎年金の所得代替率を1ポイント押し上げる効果があった。賃金や労働時間に関する要件を外して週10時間以上働く全員を対象にすると、新たに860万人が加入することになる。このときの所得代替率は3.6ポイント上がる。財政検証は基礎年金を底上げする別の改革案も試算した。「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金水準を抑制する仕組みについて、基礎年金に適用する期間を短くする案では所得代替率が3.6ポイント上昇する効果がみられた。厚生年金を引き上げる案もある。厚生年金の保険料は月収などから算出する「標準額」に18.3%をかけた金額を労使折半で負担する。この標準額の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると、横ばいケースの所得代替率は0.2~0.5ポイント改善する。改革案には反発もある。基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担が増すため、財源確保が必要になる。増税論につながりやすく、実現には政治的なハードルが高い。基礎年金の抑制期間短縮案も、保険料納付の延長案も、新たに必要な財源はそれぞれ年1兆円を超える。権丈善一慶大教授は「税を含めた一体的な会議体で議論をするのが妥当ではないか」と指摘する。

*2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1273939 (佐賀新聞 2024/7/4) 【年金財政検証】「100年安心」綱渡り、心もとない老後の暮らし
 政府は、公的年金について5年に1度の「健康診断」に当たる財政検証の結果を発表した。給付水準は目標とする「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った。ただモデル世帯の給付水準は現在若い人ほど低くなり、老後の暮らしは心もとない。出生率や経済成長の想定が甘いとも指摘され、政府が掲げる金看板「100年安心」は綱渡りとなる可能性をはらむ。
▽公約
 「将来にわたって50%を確保できる。今後100年間の持続可能性が改めて確認された」。林芳正官房長官は3日の記者会見で財政検証の評価を問われて、こう述べた。100年安心は小泉政権が2004年に実施した年金制度改革で、事実上の公約となった。現役世代の平均手取り収入に対する給付水準(所得代替率)の「50%以上の維持」が根幹部分となっている。今回、目標をぎりぎりでクリア。政府内には安堵感が広がる。経済成長が標準的なケースで厚生年金のモデル世帯の給付水準は33年後に50・4%となり、前回検証の類似したケースと比べても改善した。外国人や女性も含め働く人が将来700万人余り増え、保険料収入が増加すると見込んだことなどが要因に挙げられる。
▽働き続ける
 ただ「50%以上の維持」は、年金の受給開始時の状況に過ぎない。給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」などの影響で、年齢を重ねるごとに給付水準は低下する。モデル世帯について5歳刻みの推移を見ると、現在65歳の人の給付水準は61・2%だが、80歳になると55・5%に下がる。若い世代ほど給付水準が低くなる特徴もある。現在50歳の人は、受給開始時の65歳で56・7%、80歳になると50%を割る。現在30歳なら65歳で50・4%、80歳では46・8%に落ち込む。このため政府は新たな少額投資非課税制度(NISA)など老後への備えを呼びかけている。厚生年金に加入せず国民年金(基礎年金)だけに頼る人はさらに厳しい。埼玉県深谷市の塗装業片平裕二さん(49)は「年金は当てにできない」と言う。子ども3人を育て家計に余裕はなく貯蓄は難しい。「健康でいられる限り働き続けるしかない」と話した。
▽願望
 検証の前提条件を疑問視する声もある。女性1人が産む子どもの推定人数の出生率は23年が過去最低の1・20だったのに対し、1・36と想定。政府が少子化対策を策定したとはいえ、日本総合研究所の西沢和彦理事は「若者の結婚や出産への意欲は低下しており、検証の想定には願望が含まれている」と批判した。他にも実質賃金は減少が続くのにプラスと仮定しているほか、外国人労働者の増加や株高も見込む。どれか一つでも目算が狂えば、受給開始時の50%割れが現実味を帯びる。焦点は制度改革に移る。ただ武見敬三厚生労働相は3日、国民年金保険料の納付期間5年延長案に関し「必要性は乏しい」と見送りを表明した。実施するには、自営業者らの保険料が計約100万円増え、巨額の公費も必要。与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説した。厚労省は、パートら短時間労働者の厚生年金の加入拡大を進める。一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃する方針で、保険料を折半する中小企業は反発する。マクロ経済スライドの見直しも国庫負担増が課題となるなど、年末に向けた議論は曲折が予想される。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000&ng=DGKKZO81842610U4A700C2MM8000&ue=DMM8000 (日経新聞 2024.7.4) 「65歳まで納付」案見送り
 厚生労働省は2025年の年金制度改正案について、国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現行の40年から45年に延長する案を見送ると決めた。他の改革案で一定の給付底上げ効果が見込めるとわかり、負担増への反発も考慮し判断した。厚労省は3日に公表した財政検証結果で、支払期間を65歳になるまで5年延長した場合の給付水準などの見通しを示した。一定の経済成長が進むケースでは将来の年金の給付水準が12%上がる効果が見込まれた。一方で、保険料負担は5年間で100万円ほど増すため「低所得者の負担が大きい」との指摘が出ていた。長期的に年1.3兆円の追加財源も必要で、自民党内に慎重論があった。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83770730Z20C24A9PE8000 (日経新聞社説 2024.9.30) 「会計ビッグバン」を加速し意見を世界に
 企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。20年余りの改革で残った主要項目のひとつだった基準改正が13日、日本の会計基準をつくる企業会計基準委員会(ASBJ)から発表された。企業が事業用に借りる建物や設備などリース資産に関する会計処理だ。企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。現在も中途解約できず購入に近いリースについては、貸借対照表に計上されている。新基準では、中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する。2027年度から適用が始まる。約1万社が対応を求められ、自己資本比率が半減する例も予想されるなど影響は大きい。丁寧な説明が必要だ。商船三井が新基準を踏まえた見込み資産量と総資産利益率(ROA)目標の開示を始めたのは参考になる。新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS)だ。同基準では19年にリースのオンバランス化が始まった。日本の会計処理が異なると企業の信頼が下がりかねなかっただけに、国際標準に合わせるのは賢明な措置だ。欧米の主要な官民の市場関係者は01年からIFRSづくりを本格的に始めた。折しも日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた。日本はIFRSを改革の先導役と位置づけ、当初から基準設定の議論に専従者を送り、その決定に基づき日本基準の改革を進めてきた。資産価値の変動が財務諸表に反映されやすくなったことなどは、IFRSの影響を受けている。今後は企業買収に関する会計処理なども、国際的な視点で検討を進めてほしい。IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める。今ではIFRSをそのまま使う日本の大企業も増えており、官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい。会計の知見を備えた人材の育成や国際会議での意見発信に、官民が一段と取り組むべきだ。

<高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842330U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 公的年金頼み限界
 老後の生活資金を公的年金だけに頼るのには限界がある。財政検証結果によると公的年金の給付水準は経済条件が良いシナリオでも2030年代後半まで下がり続ける。順調にいっても夫婦2人で現役世代の5~6割という給付水準だ。重要性が増しているのは企業年金や個人年金といった任意で加入する私的年金で自己資産を厚くし、老後の生活資金を補完することだ。公的年金以外の所得がない高齢者世帯は足元で4割強を占める。30年間で10ポイントほど減ったとはいえ、所得代替率が50~60%にすぎない公的年金になお依存する傾向がある。総務省がまとめた23年の家計調査によると無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字だった。貯蓄などを取り崩して生活するケースが多いことがうかがえる。厚生労働省は財政検証結果を受けた25年の公的年金制度改正に合わせ、私的年金制度の改革に取り組む。具体的には加入者自らが運用商品などを選び、その成果によって受け取る年金額が変わる企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の拡充を進める。イデコは原則60歳までは引き出せないものの、掛け金の全額が所得税の控除対象となり、運用益は非課税となるなど税控除のメリットが大きい。政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積み立てて資産を増やせるようにする。与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべきだ」という主張も出始めている。

*3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301634 (佐賀新聞 2024/8/15) 高齢者の定義年齢に引き上げ論、人手不足解消、警戒感も
 65歳以上と定義されることが多い高齢者の年齢を引き上げるべきだとの声が経済界から上がっている。政府内では人口減少による人手不足の解消や、社会保障の担い手を増やすことにつながるとの期待が高まる一方、交流サイト(SNS)を中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も広がる。高齢者の年齢は法律によって異なる。仮に年齢引き上げの動きが出てくれば、60歳が多い企業の定年や、原則65歳の年金受給開始年齢の引き上げにつながる可能性がある。見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた。定義見直しには踏み込まなかったものの、社会保障や財政を長期で持続させるためには高齢者就労の拡大が重要との考えを示した。骨太方針の議論の中で経済財政諮問会議の民間議員は「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべきだ」と提言。経済同友会の新浪剛史代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた。背景には働き手不足への危機感がある。内閣府の試算では、70代前半の労働参加率は45年度に56%程度となる姿を描く。経済界以外からも提案があった。高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会は6月、医療の進歩などによる心身の若返りを踏まえて75歳以上が高齢者だとした17年の提言が「現在も妥当」との検証結果をまとめた。SNSでは「悠々自適の老後は存在しない」などとネガティブな反応が目立つ。低年金により仕方なく働く高齢者も少なくない。内閣府幹部は「元気で意欲のある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリング(学び直し)の徹底などが重い課題となりそうだ。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83491810W4A910C2MM8000 (日経新聞 2024.9.16) 働く高齢者、最多の914万人 昨年、4人に1人が就業
 総務省は16日の「敬老の日」にあわせ、65歳以上の高齢者に関する統計を公表した。2023年の65歳以上の就業者数は22年に比べて2万人増の914万人だった。20年連続で増加し、過去最多を更新した。高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52%と2人に1人が働いている。定年を延長する企業が増加し高齢者が働く環境が整ってきた。高齢者の働き手が人手不足を補う。年齢別の就業率は60~64歳は74%、70~74歳は34%、後期高齢者の75歳以上は11.4%といずれも上昇し、過去最高となった。23年の就業者数のなかの働く高齢者の割合は13.5%だった。就業者の7人に1人を高齢者が占める。65歳以上の就業者のうち、役員を除く雇用者を雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員が76.8%を占めた。産業別では「卸売業、小売業」が132万人と最も多く、「医療、福祉」が107万人、「サービス業」が104万人と続いた。「医療、福祉」に従事する高齢者の数は増えた。13年からの10年間でおよそ2.4倍となった。15日時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者人口は前年比2万人増の3625万人と過去最多だった。総人口に占める割合は前年から0.2ポイント上昇の29.3%で過去最高を記録した。65歳以上人口の割合は日本が世界で突出する。人口10万人以上の200カ国・地域で日本が首位に立った。

<社会保障の支え手について>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842300U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 高齢者の就労後押し 「働き損」制度の撤廃試算
 今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象にした。一定の給与所得がある高齢者の年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」の撤廃案だ。現行制度では65歳以上の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金額が減る。これが高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘があった。撤廃した場合、厚生年金部分の所得代替率は横ばいケースで29年度に0.5ポイント下がる。所得の高い高齢者の就労を後押しする一方で、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要になるためだ。年金水準の低下と引き換えに、就労拡大を進める案となる。人手不足対策としては、会社員らの配偶者が年金保険料を納めずに基礎年金を受け取る「第3号被保険者制度」の廃止論もある。この制度があるために労働時間を保険料負担が発生しない範囲にとどめる人がおり、就労拡大を妨げる一因になるからだ。厚労省は撤廃に慎重な姿勢を崩していない。対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しいとみている。しばらくはパート労働者が厚生年金に入る要件を緩めることで、第3号の対象者を減らしていく方向だ。財政検証結果によると第3号の対象者は40年度に現在の半分近くに減る見通しだが、それでもなお371万人が残る。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81840020T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 外国人材、40年に97万人不足 推計、前回から倍増
政府がめざす経済成長を達成するには2040年に外国人労働者が688万人必要との推計を国際協力機構(JICA)などがまとめた。人材供給の見通しは591万人で97万人が不足する。国際的な人材獲得競争が激化するなか、労働力を確保するには受け入れ環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要となる。22年に公表した前回推計は40年時点で42万人が不足するとしていた。今回はアジア各国から来日する労働者数が前回推計よりも減ると見込んだ。為替相場変動の影響は加味しておらず不足人数は膨らむ可能性がある。推計では政府が19年の年金財政検証で示した「成長実現ケース」に基づき、国内総生産(GDP)の年平均1.24%の成長を目標に設定した。機械化や自動化がこれまで以上のペースで進んだとしても30年に419万人、40年に688万人の外国人労働者が必要と算出した。前回推計は674万人としていた。海外からの人材供給の見通しも検討した。アジア各国の成長予測が前回推計時より鈍化し、出国者数は減少すると推測した。この結果、外国人労働者は30年に342万人、40年に591万人と前回推計より減った。必要人数と比べると、30年に77万人、40年に97万人不足する。外国人材を確保する方法の一つは来日人数を増やすことだが、少子化に悩む韓国や台湾も受け入れを拡大している。もう一つは来日した外国人に長くとどまってもらうことだ。今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定した。3年を超えて日本で働く割合が大きくなれば不足数は縮小する。政府も動き出している。27年をめどに技能実習に代わる新制度「育成就労」を導入。特定技能と対象業種をそろえ、3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替えやすくする。こうした政策面の変化は今回の推計には反映されていない。課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だ。経営に余裕のない中小零細企業が自前で教育するのは容易でない。自治体主導で複数の企業が学習機会を設けるなど、官民で環境整備に努める必要がある。

*4-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240909/po・・aign=mailpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月10日) 「日本にいる外国人」への政策は 国境管理と社会統合政策、橋本直子・国際基督教大学准教授
外国人の入国をどうするかという国境管理と、入国した後、日本でどう暮らすかという二つの側面があります。国際基督教大学准教授の橋本直子さんに聞きました。
   ◇ ◇ ◇
――受け入れ後の政策はあまりみえません。
◆難民として受け入れられたわけではない、日本にいる一般的な外国人への社会統合政策は、長年ほぼなかったと言えます。 最近できた「特定技能」については、少し政策が進みましたが、一般的な外国人の受け入れ後の研修は、日本が長年やってきた難民への生活オリエンテーションの経験からもっと学べる部分があります。今後、日本が外国人の受け入れを増やすのは既定路線です。しかし、受け入れ後の実態や日本社会への影響は十分把握されていません。たとえば、外国人を入れると賃金が下がると言う人がいますが、明確な根拠はありません。まずデータが必要です。
●居場所はあるか
――政策の空白ですね。
◆西欧諸国では長年の苦い経験を経て、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが、実質的に義務付けられている国がほとんどです。そのために、中央政府、受け入れ自治体、外国人本人の間で、きめ細かな仕組みが作られています。日本にはそのような工夫が欠けています。日本でも外国人が多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけてほしいということです。日本にいる外国人に対して政策的な支援がなければ、当然、厳しい状況におかれます。すると、国内から、「入国させるな」というような排外的な主張が出てきます。国境をどう管理するかは、既に国内にいる外国人との共生がうまくいっているかが、おおいに影響します。日本社会のなかで外国人に居場所があり、そのことが国民にきちんと理解されることが重要です。
●「移民政策はとらない」
――日本は「移民政策をとらない」ことになっています。
◆特殊な定義に基づく「移民政策」をとらない建前があるから、社会統合政策を長年やってきませんでした。「いつかは帰る出稼ぎ労働者だから」、国はなにもやらない、自治体や企業、NGOやNPOに任せておけというのが、この30年ぐらいの日本でした。移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れることほど、最悪の政策はありません。欧州が1970年代から犯した過ちを繰り返してきました。2018年ごろからようやく日本でも動きだしたかな、というのが現在地だと思います。
●現地職員をどうする
――海外にある日本の大使館や国際協力機構、NGOなどで働いていた現地職員の退避と受け入れの態勢が整えられていません。
◆日本の組織と協力したために迫害を受けるおそれが高まるケースはアフガニスタンで問題になりましたが、今後も起きえます。こうした人たちをどのような立場で日本に受け入れるかは空白状態です。これでは、優秀な現地職員は日本の組織では働かない方がよい、となってしまいます。一刻も早い整備が必要です。

*4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83485820V10C24A9CK8000 (日経新聞 2024.9.16) 留学生受け入れの課題 就職・定住一体で進めよ、浜名篤・関西国際大学長
 各国の間で留学生の獲得競争が激しくなっている。関西国際大学の浜名篤学長は教育政策の枠を超え、就職・定住の促進策と一体で留学生の受け入れを進めないと日本は後れをとりかねないと指摘する。少子高齢化や景気回復で労働力不足が深刻化している。政府は特定技能制度で一定の専門性がある労働者を受け入れ、家族の帯同や無制限のビザ更新にも道を開いた。同制度による来日は増えている。他方、日本国内の大学や大学院で学ぶ留学生の増加には必ずしも成功していない。2023年5月現在の外国人留学生は27万9000人と新型コロナウイルス禍による減少から回復している。だが、このうち大学セクター(大学院・大学・短期大学・高等専門学校等)は約半分の14万人規模にとどまる。日本語教育機関が約9万人と32%を占めるが、コロナ禍中の留学待機者が大挙して来日したことが背景にあり、今後は減る見込みという。日本語学校や専門学校を含めた「水増し」の尺度で考えることはやめ、大学への受け入れ増に本腰を入れるべきだ。筆者は国際教育に力を入れる地方中小大学の学長であり、高等教育研究者として大学政策の国際比較に取り組んできた。本稿では海外調査で得た知見も踏まえ、日本の留学生政策の課題を考える。直面している課題は3つある。第1は、留学先としての日本の魅力低下だ。かつて円高の時代には、母国への仕送りを目的にアジア諸国から日本に留学する人が相当数いたと思われる。現在の日本では給与水準がお隣の韓国を下回るケースが多い。日本学生支援機構の調査結果から留学生の卒業後の進路を見ると、22年度に大学を卒業した約1万6000人のうち、日本で就職したのは38%にすぎない。進学者(21%)を含めても6割弱しか正規ビザを更新できていない。第2に、日本では学位(修士、博士)の評価が低い。台湾では公務員と教員の7割以上が修士以上の学位を取得しており、学位を得ると昇給・昇進が早くなる。公務員は週1日、大学院通学のための休暇が認められる。利用する人が多く、政府高官が「業務に支障をきたすことがある」と嘆くほどだ。留学生大国といわれる英国では1年で修士の学位が取得できる。このため留学生は学部ではなく大学院を選ぶ傾向がある。先ほどの学生支援機構の調査によると、卒業後に日本で就職・進学してとどまる割合は修士課程修了では49%、博士課程修了では34%に低下する。院卒者の処遇と就業機会が不十分だからだろう。第3に、留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないことがある。カナダの教育テクノロジー企業アプライボードの調査によると、留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位には学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)などが並ぶ。つまり就職しやすくすることが重要であり、これは教育政策の範囲を超える。各国はこうした点にも目配りして留学生の獲得を競っている。まず、日本と同様に18歳人口減少に苦しむ韓国を見てみよう。20年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の統計によると、世界の留学生に占める韓国のシェアは13位で、中国や日本を下回った。そこで教育部(日本の文部科学省に相当)は23年8月に「留学生教育競争力引き上げ方案」を公表。22年で16万7000人の留学生を27年までに30万人に増やし、「世界10大留学強国」を目指すとした。「方案」には大学・企業・地方自治体の連携を前提にした具体的な戦略が盛り込まれている。地域ごとに「海外人材に特化した教育国際化特区」を指定し、地域の発展戦略とも連携させて留学生の誘致を進めるのはその一例だ。学業支援では在学中のインターンシップなどの機会を大幅に増やし、多くの分野の仕事に触れる機会を提供する。いつ、どこでも韓国語を学べるようテキスト・授業のデジタル化を進め、韓国語能力試験TOPIKもコンピューターで実施する方式にする。就職支援も強化し、中小企業などに就職する場合の特典の付与なども検討する。留学生獲得は人口減少国に限った政策ではない。人口増が続くマレーシアは私立大学の新設認可の条件に「留学生10%以上」という条件を付け、20年に国全体の留学生割合10%を達成した。25年までに25万人の受け入れを目標にしている。日本はどうか。40年の高等教育のあり方を議論している中央教育審議会の特別部会は8月に中間まとめを公表した。そこでは「留学生や社会人をはじめとした多様な学生の受け入れ促進」の重要性を指摘しているが、大学などに努力を求めるだけで具体策はみられない。中間まとめは40年の大学入学者数を留学生を含めても22年度比で2割減と試算する。せめてその半分、1割相当の留学生を獲得する発想がほしい。留学生比率に関する現在の政府目標(33年に学部で5%)は消極的すぎる。日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化、価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要だ。留学生の受け入れは教育上の課題であるとともに、喫緊の社会課題であり産業政策や労働政策、地域振興と一体で進めることが欠かせない。文科省の所管事項と矮小(わいしょう)化せず、法務・厚労・経済産業の各省や自治体も含め、国を挙げて取り組むことが必要だ。具体的には、日本で学位を取得した留学生がフルタイムで就職すれば就労ビザを出すことを制度化してはどうか。文科省が進める地域の「産官学プラットフォーム」を活用して有償インターンシップの機会を設け、収入の確保と就職のミスマッチ防止につなげてもよい。留学ビザの審査期間短縮も有効だ。留学生獲得を巡る国・地域間の競争は激化している。アニメやポップカルチャーをきっかけに日本に関心を持つ海外の若者がいる間に真に有効な施策を講じないと手遅れになる。そんな危機感を強くしている。

*4-4-2:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107061 (日本総研 2024年1月17日) 「私立大学の過半が定員割れ」が示唆するわが国の課題 ―教育効果の客観的把握と情報開示で「大学の供給過剰」是正を―
 今年度、全国の私立大学の 53.3%において、入学者数が定員割れとなったことが明らかになった。現実には、地方の中小私立大学ほど経営が悪化し、公立大学化を模索する動きが後を絶たないが、それでは税金を使って、減る一方の学生の奪い合いをしているだけで、問題の本質的な解決とはならない。世界最悪の財政事情にあるわが国にとってはなおのこと、適切な対応ではない。少子化は今に始まった話ではない。しかしながら、文部科学省は 2018 年に中央教育審議会においてとりまとめた「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」において「18 歳で入学する日本人を主に想定する従来のモデルからの脱却」を目標に据えた。これは「留学生頼み」「リカレント頼み」で、国全体としての大学の定員の縮小には手を付けずにすむと見立てたものであったが、その後の現実は厳しい。わが国全体として研究力の低下が近年著しいなか、わが国を選ぶ留学生は思うようには伸びておらず、社会人のリカレント需要を合わせても、国全体としての大幅な「定員割れ」を埋められる学生数を集めるには到底至っていない。大学の定員は「まず学費の安い国公立大学から、都市部の大学から埋まる」現実があり、とりわけ地方の中小私立大学が厳しい調整圧力に晒される結果となっている。しかしながら、地方にも大学は必要であり、入学定員の適切な設定は、国公立大学も含む各大学の教育の成果を維持するうえでも必要なはずである。大学の定員の適正化に、国全体として取り組む必要がある。現状のように「当事者である大学任せ」では、各大学とも学生の定員減が教員数の削減につながるため後ろ向きとなりがちな実態があり、国が果たすべき役割は大きい。諸外国ですでに取り組まれているように、高等教育の客観的な評価を行う枠組みを確立して、その結果を各大学ごと、学部ごと、専攻ごとに、全国で横並びで公表し、「志願者による選別」を促すことで、国全体としての定員の適正化につなげるべきである。わが国の高等教育の機能を維持し、質の向上を図りつつ、大学の供給過剰状態を是正していくことは、わが国社会の活力を維持し、経済の生産性を高めていくうえでも、喫緊の課題であるといえよう。

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2024.7.5~8.27 技術革新が産業と経済発展のKeyである ← どの方向の技術革新が求められるのか (2024年9月1、7日追加)
 このところ多忙だったため2ヶ月近くもかかりましたが、やっと工事完了となりました。四葉

(1)経済におけるイノベーション(技術革新)の重要性


2022.7.25東洋経済 2023.12.25読売新聞 キャノン・グローバル研 2024.6.13日経新聞

(図の説明:1番左の図は、主要国の1990~2021年までの名目1人当たりGDPの推移で、左から2番目の図は、2022年の主要国名目1人当たりGDPだが、この2つから、日本は名目でも著しく順位を下げたことがわかる。また、右から2番目の図は、購買力平価による1人当たりGDPの推移で、購買力平価による日本の伸びも他国と比較して緩やかだ。1番右の図は、人口増加率とイノベーションの関係で、OECD諸国ではこの2つに相関関係のないことがわかる)

 *1-1は、①経済停滞の原因はイノベーションの欠如 ②技術革新はミクロで、人口動態とは無関係 ③民間企業が主役だが金融や国も役割重要 として、具体的に、④2023年にドイツ(人口は日本の2/3)とGDPが逆転し、日本経済の凋落が続いている ⑤2025年にはインドにも抜かれて日本のGDPは世界5位となる見通し ⑥生活水準と密接な関係を持つ名目GDP/人は、2000年は世界2位、2010年18位、2021年28位まで転落した ⑦購買力平価ベースでは世界38位で、アジアの中でもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に及ばない ⑧GDP/人の水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではなく、「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP) ⑨全要素生産性上昇はイノベーション(技術革新)に依る ⑩日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である ⑪OECD諸国のグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率は相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係がある ⑫日本経済の将来を考えると、人口減少を言い訳にせず、民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要 ⑬日本で生じている人口減少は省力化イノベーションを促す ⑭高齢者増加は高齢者特有の財・サービス提供や介護のハイテク技術活用等を必要とする ⑮日本が抱える人口減少や高齢化の課題は、イノベーションを生みだす素地である ⑯経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくため金融機関の果たす役割も重要 ⑰政府が時代の変化に対応できなければイノベーションを阻害して国力低下を招く と記載している。

 上の①~⑰は、全くそのとおりで賛成だ。つまり、国内で誤りを100万回述べても、結果として統計上に表される事実は変わらないため、これまで人口減少を経済停滞の原因として語ってきた無能な政治家・官僚・メディア関係者・経済学者は、誤った情報を無批判に垂れ流し、国民をミスリードして貧しくさせた責任をとって、意志決定する第一線から退くべきである。

 特に、⑥のように、1人当たりの名目GDPは2000年の世界第2位から2021年には世界第28位まで転落し、⑦のように、購買力平価ベースでは、世界38位となってシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)にも及ばなくなったのだ。

 その理由は、政府の無駄使いによって、日本の国債残高の対GDP比が251.9%と世界第2位のイタリア143.2%を大きく引き離して世界第1位となり、財務省はじめ日本政府は「国民全体が貧しくなれば文句は出ないだろう」と考えて金融緩和を続け、これに他国への制裁返しも加わって、著しい物価上昇を引き起こすことによるステルス増税を行なってきたからで、ここに国民の生活や福利の向上という理念は全く見られないのである。

 また、⑧⑨⑩のように、GDP/人の水準を決めるのは、全要素生産性(TFP)であり、全要素生産性上昇はイノベーションに依るのに、(後で詳しく述べるが)日本政府は現状維持に汲々としてイノベーションを阻害する政策をとり、経済を停滞させる政策が多かったのだ。何故か?

 その上、⑪のように、人口増加率の高さは先進国ではイノベーションとは相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係があるのに、各国の人口動態や日本の食料自給率・地球の食料生産力を考えることもなく、「人口減少が問題だ」と叫んできたリーダーは、無知というより故意であろう。何のために、そういうことをしたのだろうか?

(2)イノベーションの具体的事例
1)環境は、イノベーションの宝庫だったこと

   
 2023.7.3、2023.8.25日経新聞            2024.7.5日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、既に再エネ技術はあるのに、新規再エネ導入容量で日本は停滞し、炭素価格《=環境意識》はアジア各国より見劣りする。また、左から2番目の図のように、建物の断熱・設備の省エネ・再エネ・EV利用によって安全で環境にも財布にもやさしいエネルギー政策ができるのに、これらの技術進歩は遅遅としている。そして、右から2番目と1番右の図のように、再エネと比較して危険性が高く、2050年頃にやっと発電の実証実験ができるとされている核融合発電に膨大な国費を投入しているのだ)

 *1-2-1は、①政府が環境政策の長期的な指針である第6次環境基本計画(以下“計画”)を閣議決定 ②現代社会は気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面と指摘 ③人類活動の環境影響は地球の許容力を超えつつある ④計画は天然資源の浪費や地球環境を破壊しつつ「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘 ⑤経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めつつ「新たな成長」を実現する考え ⑥GDP等の限られた指標で測る現在の浪費的「経済成長」に代わって計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング」を最上位に置いた成長 ⑦計画は森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調 ⑧これを社会変革の契機としたいが、根本的な変革の実現は容易でない ⑨最初の計画ができて30年、この間の経済停滞も深刻だが、日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れ ⑩長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできた ⑪計画の実現には環境省の真価が問われるが、現実は極めてお寒い状況 ⑫計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」と、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘 ⑬首相をはじめ政策決定者や企業のトップが悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが必要 等と記載している。

 今頃になってではあるが、①③⑦のように、政府が人類の活動の環境への影響が地球の許容力を超えることを認め、環境政策の第6次環境基本計画を閣議決定して、森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調したのはよかった。しかし、⑨⑩のように、経産省をリーダーとする既得権益に変革を阻まれ、既に最初の計画から30年も経過した結果、日本は停滞の30年を過ごした上、トップランナーだった筈の環境政策も世界に大きな後れをとったのである。

 ただし、②の「気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面としている」というのは、生物は絶滅と進化を繰り返すものであるため現状維持が何より重要とは限らないし、プラスチック汚染は、環境を汚していないものまで過度に禁止して国民に不便を強いるより、ゴミの分別回収を(いつまでも複雑怪奇で不便なままにしておかず)簡単にして、再利用を進めればよいと思われる。

 なお、日本政府が、人間に直接被害を与える放射性物質や化学物質による環境汚染には無頓着で、気候変動については30年前から指摘しているのに、未だ中途半端な対応しかしていないのは何故だろうか。

 さらに、④⑤⑥が、新たな成長かと言えば、GDPを増やす方法は、需要者のニーズにあった製品やサービスを提供することであるため、環境や国民の年齢層を無視した製品やサービスしか提供しなければ、需要が減ってGDPも落ちるのが当然である。また、浪費したものは蓄積されないため、いつまでも進歩のない貧しいままの生活が続くのだ。

 つまり、国民の「ウェルビーイング」の1要素である国民1人あたりGDPを増やして国民を豊かにするためにも、ニーズに合った技術革新が必要で、無理に化石燃料を浪費して地球環境を破壊しても、国民を豊かにすることはできないのである。

 その上、日本の場合は、化石燃料を輸入に頼って国富を外国に流し、国民を貧しくしているため、エネルギーを再エネに変更すれば、国産エネルギーに替わって国富が流出しないという大きなメリットがある。さらに、東京大と日本財団の調査チームが、*1-2-2のように、南鳥島沖のEEZ内等に、レアメタルを含む「マンガンノジュール」が大量に存在することを発表したが、日本政府の動きは鈍く、未だ国内用にも輸出用にも採取していない状態なのだ。

 この調子では、⑧のような社会変革はいつまで経ってもできず、⑪⑫⑬のように、環境省だけではなく、首相はじめ政策決定者・企業のトップ等の今後の数年間の取り組みが重要なのだが、省エネや再エネへの資金投入はケチケチしながら、*1-2-3のように、危険な上に大量の熱を発生する核融合に多額の資金を投入するようなことが、日本政府の大きな無駄使いなのである。

2)EV・再エネ・バイオは特にイノベーションのKey技術だったこと
 *1-3-1のように、経産省も、①失われた30年の状態が今後も続けば、2040年頃に新興国に追いつかれる ②特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ ③日本経済停滞の理由は企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたから ④このままでは賃金も伸び悩み、GDPも成長しない ⑤今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある ⑥停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要 ⑦スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もある ⑧政府も一歩前に出て大規模・長期・計画的に投資を行う具体策を検討 等としているそうだ。

 このうち③は事実で正しいが、現在は、④のように、生産性の向上よりも高い賃上げを連呼して労働コストを上げ、円安と物価上昇により原材料費・エネルギー・不動産のコストも上げているため、問題意識とその解決策が逆である。そのため、このような状態が今後も続けば、①⑤のように、名目GDPでもインドに抜かれて世界5位となり、実質GDPはますます減少して、2040年頃には新興国に追いつき追い越されるというのが正しい展望だろう。

 そのような中、経産省は、②⑥のように、「停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要」とし、「特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ」としているそうだ。しかし、エネルギー分野では、日本がトップランナーだったEV・再エネで経産省がバックラッシュを行なってイノベーションを妨げ、バイオ分野でも、日本がトップランナーだった再生医療と免疫療法で厚労省が高すぎる(有害無益な)ハードルを作って進捗を妨げたため、イノベーションを進めてきた先端企業の方が淘汰される結果となったわけである。

 これらの総合的結果として、*1-3-3のように、抗生物質も、原料物質はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在では抗生物質原料のほぼ全量を中国等の国外に依存している状況で、国産化するのに、またまた、政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を新たに設けなくてはならばいそうだが、その原資は国民の税金なのである。

 さらに、イノベーションの源泉は研究開発であるため、⑦のように、スタートアップ・大学・研究所が連携することも重要だが、大企業もイノベーションに繋がる技術開発をせずに、旧来型の技術を護る意志決定だけをしていればよいわけでは決してない筈だ。

 そのため、*1-4のように、「教育環境の改善は待ったなしだが、国からの運営費交付金が減って財務状況が厳しい」等として、東京大学が学部学生で現在は入学料282,000円・授業料年間535,800円の授業料を2割上げる検討をしているそうだが、⑧のように、政府が時代遅れだったり的外れだったりする大規模・長期・計画的な投資を行うより、大学への進学率を上げてイノベーションを担える母集団を増やし、イノベーションの基礎となる教育・研究を充実する方が重要なので、充実した教育・研究を行なうに十分な交付金や研究費を大学に支給すべきなのである。

 なお、東京大学は授業料全額免除の対象を世帯収入年600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げるとしているそうだが、世帯収入が600万円であっても、535,800円の授業料は夫婦と子1人で自宅通学の場合以外は負担が重すぎる上、親と学生の進路希望が異なるケースでは、世帯収入は学生にとっては何の意味もなく、学生の方が親よりも次の時代を見ている場合も少なくない。そのため、国公立大学の授業料は、下げたり無償化したりすることはあっても、上げるのは論外なのである。

3)技術革新の効果と研究者の処遇
 *1-3-2のように、小野薬品工業の売上高は、2014年に癌治療薬「オプジーボ」を発売してから、2023年度までに3.7倍に伸びたそうだ。オプジーボをはじめとする免疫療法は、自己の免疫に働きかけて癌を攻撃させる治療法であるため、標準治療と呼ばれる従来型の癌治療法(薬物療法・手術療法・放射線療法)と異なり、治療を受ける人への副作用が著しく少なく、身体的負担も少なくてすむのが特徴だ。

 これが技術革新の効果であり、現在はオプジーボが当初の1/5の薬価になったため、小野薬品が困ったと書かれている。しかし、免疫に働きかける治療法なら理論的にはどの癌にも効く筈であるため、対象となる癌の種類を増やす研究をすれば、皆にとってハッピーな結果になる。そのため、国は、このような技術革新を推進すべきなのであり、間違っても免疫療法を“標準治療”の下位に位置づけるべきではない。

 また、このような技術革新を促す研究は容易ではないため、研究者に特許料を支払うことを惜しんではならないし、そういうことをすれば、日本で、もしくは日本企業と研究開発をしたい研究者はいなくなるという覚悟をすべきである。

(3)観光への投資について
1)国立公園の魅力向上について
 岸田首相は、*1-5-1のように、①2031年までに全国に35カ所ある国立公園で民間を活用した魅力向上に取り組む ②環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大に繋げる ③地方空港の就航拡大に向け、週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示 ④インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る ⑤2030年に訪日客数6000万人・消費額15兆円が政府目標 ⑥地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策を重点的に取り組む ⑦オーバーツーリズム対策として観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島・高山・那覇等の6地域を加える 等とされた。

 私は、これまで大切に維持してきた日本の国立公園を観光に活かすのに賛成だが、適正な入場料を徴収して環境を保全し、大自然を美しく保たなければ、観光地としての魅力もなくなる。そのため、①②はセットであり、高級リゾートホテルだけでなく、長期間滞在できるようなホテルや民宿も必要だと思う。

 また、③の地方空港の就航拡大も重要だが、「地方空港に降り立てば、空港に新幹線が乗り入れており、地域内を容易に移動できる」というような利便性も重要な付加価値だ。日本の空港は、何故か、国際空港と国内空港が分かれていたり、空港と鉄道が接続していなかったりして、移動に労力を使わせ、旅行者やビジネスマンに不便な思いをさせているのが現状なのだ。

 それでも、④のように、インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入るそうだ。しかし、山国で面積は九州よりも小さく、人口は約897万人と日本の1/14のスイスは、年間平均観光客数が2500万人、のべ宿泊客数は5500万人で、観光産業収入は2021年に170億スイスフラン(177.07円/スイスフランx170億スイスフラン≒3兆円)であるため、⑤の日本の目標は、スイスと比較すればまだ低い。

 私も、*1-5-2の観光列車ユングフラウ鉄道に乗ってユングフラウヨッホに行ったことがあるが、日本人の利用客数が年間10万人以上もいるだけあって、列車の乗換駅にカタカナで「←ユングフラウヨッホ」と書かれていたのには参ったほどだ。

 ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3,454mに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅で、麓のクライネシャイデック駅から、スイスの美しい景色を眺め、山の中を繰り抜いたトンネルを通過すると、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登りきり、頂上では欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできる。私が最初に地球温暖化を意識したのは、鉄道で登ってきた地元の老夫婦が「この氷河はどんどん短くなっているのですよ」と言った時だった。なお、帰りは、ハイキングコースを降りることもでき、高齢者や障害者でも観光を楽しむことができるようになっていて、観光地としての配慮が行き届いている。

 また、私は、*1-5-3の標高4,478mのマッターホルンにも1990年代に行ったが、ツェルマット(その時からガソリン車禁止だった)からゴルナーグラート鉄道(ツェルマットの街とゴルナーグラート山頂を結ぶスイスの登山鉄道)で展望台まで上り、帰りはハイキングを楽しむこともできるようになっている。スキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園で、納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されていたが、最近の科学で「ヨーロッパ最古」の納屋が発見されたのだそうだ。

 一方、日本では、*1-5-4のように、「富士山の麓の観光地でオーバーツーリズムが深刻化している」等として、山梨県富士河口湖町では富士山を隠す黒い幕を設置したり、富士吉田市ではマナー悪化の解決策として人気スポットの有料化を検討していたり、通りの商店から「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」という苦情が出たり、市街地以外の場所でも駐車場やトイレ不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入り等の観光客のマナーの悪さが問題となっているそうだ。

 しかし、これらは、観光地としての準備不足に依るところが大きいため、地元の議員や観光協会・商工会議所の会員が、スイスのユングフラウヨッホやマッターホルン等に視察に行き、周囲はどのような整備をしているか等を調査研究して、観光地として長期的に地元の立地を活かす方法を考えた方が良いと思う。

 ⑥⑦の地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策については、山だけでなく海や川もあり、火山・断層・温泉にも事欠かず、食材が豊富な日本であれば、全国の地域がその特色を活かして観光客を分散受け入れすることができるだろう。そうすれば、スイス並みなら単純計算で42兆円(≒3兆円x14)の観光収入があってよい筈なのだ。それには、オーバーツーリズム対策としての補助金よりも、観光客を分散誘致できる交通体系と地域作りが重要だろう。

2)訪日外国人旅行者向け「二重価格」について
 *1-5-5は、①地方自治体で訪日外国人旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」検討の動き ②観光資源維持のための財源確保が狙い ③実際に導入する場合は本人確認に手間やコスト ④清元姫路市長は「市民と訪日外国人旅行者との2種類の料金設定があっていいのではないか」とした ⑤大阪市の横山市長も「有効な手の一つ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向き ⑥京都市の松井市長は、地元住民の公共交通料金を観光客より低くする市民優先価格の導入を公約に掲げて当選 ⑦二重価格や外国人からの金銭徴収制度は外国人に対して不公平な印象や歓迎していない印象を与える と記載している。

 私も、①について、市民の税金で賄っている施設であれば、市民の入場料を安くしたり、無料にしたりする合理性はあるが、訪日外国人旅行者というだけで日本人との間に二重価格を設定する合理性はないと考える。そのため、②の観光資源維持の財源確保は、全員から入場料を取り、維持管理費を支払っている日本人集団の入場料を割引するのが筋であろう。それなら、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートの提示で、住所を確認すれば③は解決する。

 なお、④については、姫路城は姫路市の所有にはなっているが、修復費は国が出しているため、姫路市民だけを割引するのも変である。⑤⑥についても、所有者が誰か、管理費・修繕費を出しているのは誰かによって、その財源となっている集団に入場料の割引をするのは合理性があるのだ。しかし、⑦のように、外国人と日本人に二重価格を設定したり、外国人からのみ金銭を徴収したりするのは、確かに、外国人に対して不公平であり、訪日外国人を歓迎していない印象を与える。

(4)日本の農業について

  
    農業白書         ミノラス           農水省

(図の説明:左図は少し古い資料だが、日本では今でも小麦の消費量に対して生産量が著しく少ないため、消費量の多くを輸入している。また、中央の図のように、米と麦の国民1人あたり年間消費量は、「小麦は一定」「米は著しく減少」だが、その理由は、栄養指導の効果と他の食品から栄養をとることが可能な現在の経済状況がある。そして、右図は、米・小麦・肉類の生産量だが、米は減ったと言っても余り気味、小麦や肉類はその多くを輸入依存という状況だ)


2022.9.26日経新聞  2023.7.27読売新聞            農水省

(図の説明:左図のように、2020年の小麦の自給率は15%程度にすぎない。また、これらの結果、中央の図のように、日本のカロリーベースの食料自給率は、他の先進国と比べても低迷し続けており、右図のように、2022年度では、生産額ベースの食料自給率は58%あるものの、カロリーベースの食料自給率は38%にすぎないのである)

1)「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内改定について
 令和6年改正後の食料・農業・農村基本法(以下、「同法」)は、第1条で「食料・農業・農村に関する施策について、食料安全保障確保等の基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、食料・農業・農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする」と述べている(https://www.maff.go.jp/j/basiclaw/attach/pdf/index-12.pdf 参照)。

 また、同法第2条は「食料は、人間の生命維持に欠かせないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることに鑑み、将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態)の確保が図られなければならない」としている。

 価格に関しては、同法第23条で「国は、食料価格形成に当たり、食料の持続的供給に要する合理的な費用が考慮されるよう、食料システムの関係者による理解の増進、合理的費用の明確化促進、その他必要な施策を講ずる」とし、第39条で「国は、農産物の価格形成について、消費者の需要に即した農業生産を推進するため、需給事情及び品質評価が適切に反映されるよう、必要な施策を講ずる。国は、農産物価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずる」としている。

 そして、政府は、*2-1-1のように、「食料・農業・農村基本計画」を2024年度内に改定して食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めたそうだが、食料の需要者である国民は、物価上昇で実質賃金が下がり、年金も“マクロ経済スライド”によって所得代替率が下がり続けてエンゲル係数が上がっているため、これ以上値上げすれば、いくら合理的費用を明確化しても国民が良質な食料を合理的な価格で入手することはできないと思われる。

 一方、エネルギーや農業資材も輸入に頼って円安・戦争による価格高騰の打撃を受けているため、同法第42条の「国は農業資材の安定的な供給を確保するため、輸入に依存する農業資材及びその原料について、国内で生産できる良質な代替物への転換の推進、備蓄への支援その他必要な施策を講ずる。国は、農業経営における農業資材費の低減に資するため、農業資材の生産及び流通の合理化の促進その他必要な施策を講ずる。国は、農業資材価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずるものとする」は重要だ。

 これらの要請を同時に満たすイノベーションの例が、同法第45条「国は、農業と農業以外の産業の連携による地域の資源を活用した事業活動を通じて農村との関わりを持つ者の増加を図るため、これらの事業活動の促進その他必要な施策を講ずるものとする」という地域資源を活用した事業活動の促進で、農地への風力発電設置、小水力発電設置、ハウスへの太陽光発電設置によるエネルギーの自給や地域資源を使った飼料・肥料の生産等である。

 なお、*2-1-1は、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直しが必要としているが、同法第22条は「国は、農業者・食品産業事業者の収益性向上に資するよう海外需要に応じた農産物の輸出を促進するため、輸出を行う産地の育成、農産物の生産から販売に至る各段階の関係者が組織する団体による輸出のための取組の促進等により農産物の競争力を強化するとともに、市場調査の充実、情報の提供、普及宣伝の強化等の輸出の相手国における需要の開拓を包括的に支援する体制の整備、輸出する農産物に係る知的財産権の保護、輸出の相手国とのその相手国が定める輸入についての動植物の検疫その他の事項についての条件に関する協議その他必要な施策を講ずるものとする」と定めており、食料自給率を上げたり、農林水産物の輸出を促進したりすれば、人口が減少しても生産インフラを縮小する必要はない筈である。

 また、農業を担う人材の育成や確保については、同法第33条で「国は、効率的かつ安定的な農業経営を担うべき人材の育成及び確保を図るため、農業者の農業の技術及び経営管理能力の向上、新たに就農しようとする者に対する農業の技術及び経営方法の習得の促進その他必要な施策を講ずるものとする」と定め、第34条で女性の参画促進、第35条で高齢農業者の活動促進も定めているが、これだけで十分ではないだろう。

 *2-1-2は、①東京都の出生率が1を割り、都知事選では子育て支援・少子化対策が大きな争点の一つになっているが、住宅費が極めて高い東京で多くの子を育てられる広い家を持つのは普通の人には無理で出生率が他地域より低いのは当然 ②人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ無意味 ③生活環境の良い地方で働いて家族を形成する選択肢の提供が必要 ④有力候補者の政策が、水・食料・エネルギーという生存に不可欠な資源は金さえ出せばいつでも買える前提 ⑤国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるべき ⑥日本は高度成長期以来積み上げてきた貯金を食いつぶし、衰弱の局面にある ⑦食料・エネルギーの海外依存を続ければ富の国外流出も大きく、これらを自給する体制を立て直すこと・地域における雇用機会の創出・人口再生力の回復は一体である ⑧国の形のグランドデザインを問う論争が必要で、日本に残された時間は長くない と記載しており、完全に賛成である。

 つまり、農業・食品・エネルギー関係の人材は、都市からの移住や外国人の移住でも賄うべきなのだ。

2)穀物を燃料にすれば、世界の栄養不良と地球温暖化が解決するというのか
 *2-2-1は、①国際社会のフードセキュリティーは「飢餓0」 ②具体的にはi)飢餓の終了 ii)食料安全保障達成と栄養状態改善 iii)持続可能な農業促進 ③その結果、i)全ての人が食料を得られる ii)誰も栄養不良に苦しまない iii)小規模農家の生産性向上・所得向上で食料安全保障と栄養状態改善 iv)フードシステムが持続可能 ④改正基本法は輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格形成、環境と調和のとれた食料システムの確立を新たに追加 ⑤日本は、1951年には全就業者数の46%が第1次産業に従事、2022年は3%に減少し、必要な食料は食品の生産性向上と輸入によって調達し、餓死者・栄養不良人口は少ない ⑥問題はiv)の持続可能性 ⑦少数の生産者と大量輸入で今後の食料安全保障は確保されるか ⑧食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメ ⑨コメの国内生産を守るため、コメをエタノールの原料としてはどうか ⑩米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している 等と記載している。

 このうち、①~③の国際社会のフードセキュリティーには賛成だ。しかし、④のうちの「輸出で食料供給能力を維持すれば、国内の自給力が維持される」という説はあまりに甘いと思った。何故なら、栽培品目を変えれば、必要な圃場の形・灌漑方法・農機の種類・施肥の方法等が変わるため、慣れないことをすれば生産性が著しく落ちるからである。

 また、⑤⑥⑦のように、現在の日本は、少数の生産者の生産性向上と大量輸入によって必要な食料を調達でき、栄養不良の人口は少なくてすんでいるが、工業化はどこの国でも進むものの、食料生産できる農地には限りがあるため、世界人口が増加している中、このままでは日本も今後の食料安全保障を約束することはできないし、世界の「飢餓0」も達成できないと思われる。

 そのような中、突然、⑧のように、「食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメだ」というのは、コメだけ食べて栄養バランスが保てるわけではないため、結論がおかしい。その上、⑨のように、食品であるコメを、酒ではなくエタノールの原料としたり、⑩のように、同じく食品であるトウモロコシ・サトウキビからエタノールを作ってガソリンに添加して使用するなど、世界の「飢餓0」に貢献するどころか逆のことをしつつ、さらに地球温暖化防止にも資さない提案をするのは、何を考えているのかと思う。

3)農地規制を撤廃すれば、食料自給率が向上するのか
 *2-2-2は、①食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民1人1人が入手できる状態」という国連食糧農業機関(FAO)の定義では、食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、食料の利用・摂取までサプライチェーンの全てが確保されることで、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障が脅かされるのかを分析しなければならない としており、これには完全に賛成だ。

 また、*2-2-2は、②国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきたが、自給率は食料安全保障への評価を表さない ③食料自給率は市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果で、消費者に選ばれた国産品の割合が現在の38%ということ ④これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う とも記載している。

 しかし、③の「現在の食料自給率38%は消費者が選んだ食品の組み合わせの結果」というのは正しいが、製造業はどの国でも20~30年の時間差で近代化でき、世界人口は増え続けているため、日本も食料輸入力をいつまでも高く保ち続けることはできず、食料の62%を輸入に頼っていれば、日本人は良質な食料を合理的な価格で安定的に入手することもできなくなり、結果として、②の食料安全保障も保たれなくなるであろう。

 また、④についても、これまで述べてきたとおり、消費者ニーズのあるものを生産性を高くして生産すれば国民負担増にならないが、問題は、何が何でもコメコメと言い、何かやろうとする度に補助金をばら撒く農業政策にある。

 さらに、*2-2-2は、⑤国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しく、食料自給率向上が目的化して豊かさが犠牲になるのでは本末転倒 ⑥食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきでない ⑦平時と異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要で、「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定して、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者に増産を求める とも記載している。

 このうち、⑤⑥については、日本は開発途上国でないため、先進国同士の食料自給率を比較すると、カナダ・オーストラリア・米国・フランスはカロリーベースで100%以上、ドイツも84%を自給しており、日本の38%は著しく低い。もちろん、国境を閉ざさなくても、国内生産の食料が輸入食料に質と価格の総合で勝てばよいわけだが、現在は国内生産は価格が高いため生産額ベースの自給率は高いが、経済活動の結果は価格で世界に負けているのである。

 なお、⑦については、(4)2)で述べたとおり、有事の際にあわてて“政府が重要とする食料”を“必要物資”と指定して生産者に増産を求めても、大したものを供給できるわけがないため、これは絵に描いたモチ、つまり安全神話にすぎない。

 これに加えて、*2-2-2は、⑧食料安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーはじめ国家安全保障の一環として総合的な法体系の中で議論すべき ⑨有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保 ⑩農業を担う労働力は高齢化が進んで農業労働人口は急速に減少し、農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性も、2020年の61万8千円と比べて2022年の58万3千円は低下 ⑪農業従事者の減少と高齢化は農地の荒廃に繋がり、2022年で約430万haある耕地面積の利用率は91%で1割近い農地が利用されず ⑫日本農業の持続的発展には、農地の維持・保全と効率的利用が最優先の課題 ⑬高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されており、100haを超える規模の経営も珍しくないが、その多くは分散した農地を合わせての100haで、多くが借地であるため区画整理等の基盤整備を自由に行えない とも記載している。

 ⑧については、全く賛成だが、⑨の有事に備える農業生産力が平時は別のものを作っていても維持・確保できるというのは、上に書いたとおり、安全神話にすぎない。

 また、⑩⑪⑫⑬は事実だが、小規模でも自分の土地を持って現在農業を行なっている人から無理に農地を取り上げて農地の大規模化を進めることは、資本主義国の日本ではできない。そのため、農業の労働生産性を上げることを目的として、高齢化して離農する人から次第に農地を集め、現在は「分散した農地を合わせて」ではあるが、次第に大規模化してきたわけである。もちろん、今後、区画整理等の基盤整備を行なって大規模な農業機械を導入し、生産性を上げる必要があることは言うまでも無い。

 さらに、*2-2-2は、⑭農地の効率的利用を妨げているのは農地法で、農地を耕作する農業者か農地所有適格法人でなければ農地を取得できない ⑮一般の株式会社は、賃借は可能だが農地取得はできず、基盤整備などの長期投資が困難 ㉒経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべき ⑯農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件なので、農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づける等の新たな制度が必要 とも記載している。

 このうち⑭⑮については、本当に農業をする気のある株式会社なら、子会社か関連会社として農地所有適格法人(https://www.pref.kagoshima.jp/ag02/sangyo-rodo/nogyo/keiei/06002005.html 参照)を作ればよいため、それも行なわずに農地を取得したいというのは、農地取得後に土地の使用目的を変換することを意図しているのではないかと思われる。そして、それでは、⑯の「有事にも国民を飢えさせない」という食料安全保障は達成されないのだ。

 例を挙げれば、一般株式会社であるICT会社・農機会社・食品会社・建設会社・銀行等が、子会社か関連会社として農地所有適格法人を作り、従業員を交代で農業に従事させることによって、もとの事業との間にシナジー効果を出すこともできるだろう。

 最後に、*2-2-2は、⑰質の高い国内農産物と世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障 ⑱肥料・飼料など、多くの生産資材も輸入に依存するため、国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱 ⑲国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる ⑳シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている ㉑最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる とも記載している。

 しかし、⑰は今後も続けられるとは限らず、⑱については、あまりに輸入に頼りすぎているため、これらも考慮すれば食料自給率38%も怪しくなる。もちろん、⑲⑳㉑のように、国際市場の動向を詳しく分析したり、貿易相手国と友好関係を維持したりすることは重要だが、おんぶにだっこされてばかりではまともな交渉はできず、“平和維持のため”と称して相手の言いなりになり、国民には我慢を強いるしかなくなることを忘れてはならない。

4)武蔵野銀行の試み

 
   耕作放棄地でのスマート放牧      耕作放棄地のオリーブ園化  オリーブ

(図の説明:左図は《耕作放棄地に限る必要はないが》放牧して餌代と人手を節約しつつ、健康な牛を育てる方法。中央の図は、耕作放棄地をオリーブ園に変えたケース。右図はオリーブ)

 *2-3は、①武蔵野銀行の新入行員が、同行アグリイノベーションファームで田植えをした ②農業は埼玉県経済の柱の1つで、同行は農業関連の融資も手掛ける ③同行は新たな産業の創造・高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦・23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる ④同行は、田の面積を9500㎡に増やし、その2割を新入行員が田植えして、残りは実証実験としてドローンで種まきする ⑤農業の大変さを身をもって体験することで、農業の課題に当事者意識を持って向き合う人材を育成できる 等と記載している。

 農業は、②のとおり、埼玉県の経済で重要な位置を占めるので、銀行が農業関連の融資も手掛けてイノベーションを進めることは重要だが、従来の不動産担保による融資では農業への融資金額は限られる。そのため、①③④⑤のように、行員が農業に参加することで身をもって農業の課題と可能性を知り、融資や企業とのマッチング等の側面から解決策を考え実行していくことは、銀行にとっても地域にとっても有益である。従って、研修の終わりには、新人に農業や農業融資に関するレポートを書かせ、できの良いものは取り入れることがあって良いだろう。

 このほか、他業種の従業員が農業に関わると有益な事例は、(4)3)にも述べたとおりで、ICT企業や農機企業の従業員の場合なら、屋内で緻密な作業ばかりしていると心身の健康に悪いが、時々、農業に従事することで日の光を浴びながら力仕事をして心身の健康を回復しつつ、農業の課題である省力化・スマート化の方法等について具体的に考えることによって、事業間のシナジー効果が生まれる。

 また、食品会社の従業員が農業に関わると、農業に従事することによって外で仕事をして心身の健康を保ちつつ、原料である農産物の改良や原料の使い方の無駄を省く方法を考えるなど、事業上の課題解決にも結びつけられる。

 さらに、建設会社の場合であれば、農業体験することによって心身の健康を保ちながら、農業の省力化やスマート化に対応する農業施設や農業の基盤整備について考えることができる。

5)ふるさと納税反対論への反論 ← 地方の視点から


 2024.7.26佐賀新聞     2024.7.26佐賀新聞       22年度受入順

(図の説明:左図はふるさと納税寄付額の推移で、順調に伸びているのは良いことだと思う。中央の図の右側に、ふるさと納税の課題として「好みの返礼品やポイント還元率で返礼品を選ぶ」と書かれているが、公平なルールの下で競争原理が働いて自治体・生産者・仲介業者の努力が反映されているため、批判には当たらない。また、「寄付が一部の自治体に集中する」という批判も、住民税を徴収しにくい第一次産業地帯に集中しているのだから、自治体の努力に応じて住民税の偏りの是正が行なわれているのであり、良いことだ。その結果として、右図のような受入額の順位になっているのであり、下位に位置する都道府県は良識ある工夫をすれば良いだろう)

 *2-4-1・*2-4-2・*2-4-3によれば、ふるさと納税に関する主な反対論は、①返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向がある ②ネットショッピング感覚で、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中し、地方を活性化する理念と乖離している ③魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出る ④手数料の寄付額に占める割合が47%に達する ⑤都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満がある ⑥仲介サイトで各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競う ⑦自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資である などである。

 このうち、⑤の都市部の自治体の不満は、住民税の徴収方法を知っていれば、本末転倒であることがわかる筈である。

 住民税には、企業等が負担する「法人住民税」と個人が負担する「個人住民税」があり、それぞれに「道府県民税」と「区市町村民税」がある。計算方法は、所得割(前年の所得に税率を掛けて計算)と均等割(一定の所得がある人全員が均等に負担)の合計で、税率は地方税法で全国一律10%(道府県民税2%、市民税8%)と定められているが、自治体の条例によって増減もできる(https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/49732/ 参照)。

 また、住民税の使途は、福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等)、教育(小・中学校、図書館等)、土木(道路、公園、下水道事業等)、消防(消防、救急、防災等)、衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等)等の主として住民に身近な行政サービスである。

イ)住民税が多く集まる地方自治体は何処か
 住民税は、課税所得の多い個人や利益の多い企業が集まる地域で豊富に集まる。

 そのため、住民税が多く集まる地域は、「集積の外部経済」を効かせて生産性を上げるために、インフラ・技術・労働・情報を優先的に集めた地域になる。日本は、国策として集中を進め、優先的にインフラを整備して労働・技術・情報を集めて製造業関係の企業を立地させたため、そこに生産年齢人口にあたる労働者が集まり、その他のサービスも整ったという経緯があるのだ。ただし、現在は、集めすぎによる外部不経済も起こっている。

 従って、利益の多い企業や課税所得の多い個人は、現在は、これらの優先的に開発された地域に多く流入しており、そうでない地方自治体や農林漁業中心の地方自治体からは、生産年齢人口の労働力が流出しているのである。そして、これは、個々の地方自治体の努力の結果ではない。

 それでは、「農業は不要な産業なのか」と言えば、世界人口の増加、新興国や開発途上国における製造業の発展、食料安全保障を考えれば、上に述べてきたように、不要どころか重要な産業なのである。

ロ)住民税の使途の偏在
 住民税の使途は、以下のとおりだ。
i) 福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等)
  より多く福祉を必要とする人は、元気に働いて多くの住民税を支払っている健康な生産年齢人口の大人ではなく、子ども・高齢者・病気で所得のない人などである。そして、その割合が高いのは、国策で優先的にインフラを整備し、労働・技術・情報を集めた地域以外の地域なのだ。

ii) 教育(小・中学校、図書館等)
 小・中・高の公教育を受けている生徒も、地方自治体がその資金を出しているが、所得がないため住民税は支払っていない。

iii) 土木(道路、公園、下水道事業等)
 優先的にインフラを整備した地域は既に整っているが、そうでない地域は現在も整備されておらず、整備中である。

iv) 消防(消防、救急、防災等)
 消防や防災のニーズは何処でもあるが、救急の出番は高齢者の割合が高い地域で多そうだ。

v) 衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等)
 ごみの分量は、飲食店は多くなるなど個人によって異なるため、ごみ処理が無料である必要はなく、無料であることより、さっと取りに来る利便性の方が好ましいと、私は思う。しかし、保健・病院・水道事業は、優先的にインフラを整備されなかった地域でも必要であるため、その地域の住民の負担は重くなる。

 そのため、ふるさと納税は、地方出身で都会で働いていた私が、税理士として申告書を書きながら住民税の偏在に気づき、提案してできたものである。それに対し、②のように、「農林漁業を中心とした返礼品が人気の一部自治体に寄付が集中する」とか、⑤の「都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満」などというのは、背景を無視した利己的な反論である。つまり、それは、国策によってもともと住民税には偏在が生じているという背景を無視した主張なのだ。

 また、③の「魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出ることがいけない」というのも、努力もせず棚からぼた餅を期待することをよしとするもので、それでは日本の衰退は必然である。さらに、①のように、比較可能でお得感の強い自治体を選べるからこそ、返礼品やその展示の仕方に工夫が促され、通販でも十分に売れる商品も出て地方を活性化させるのである。

 確かに、私も、④の手数料の寄付額に占める割合が47%というのは高い割合だとは思うが、商品開発費・広告宣伝費・販売費まで含んでいると考えれば、その支出は地方自治体の判断であり、高すぎるとも言えないだろう。

 なお、仲介サイトで返礼品を比較できるのは、寄付者にとってだけでなく、出品者にとってもよいことだと、私は思う。そのため、⑥⑦のように、「サイトが寄付に応じたポイント付与を競い、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっている」として、総務省が「特典ポイントは、本来の趣旨とずれている」と指摘し、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張していることに関し、私は、総務省が箸の上げ下ろしにまで口を出すと、護送船団方式という最低の速度でしか進まないシロモノができあがるため、出品する自治体の判断に任せた方が良いのではないかと思う次第である。

6)業務用野菜の国産増について
 *2-5は、①農水省は輸入依存の加工・業務用野菜国産シェア奪還に向け、9月から品目別商談イベントを開く ②国産への切り替えが期待できる野菜で、産地・流通業者・実需者の橋渡しをする ③国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割 ④同省は、タマネギ・ニンジン・ネギ・カボチャ・エダマメ・ブロッコリー・ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定 ⑤プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く としている。

 上の④は典型的な日本の野菜であるため、①~③のように、農水省が「重点品目」に指定して音頭をとらなければ輸入品が選択されるというのがむしろショッキングだが、日本産は高いので業務用では特に輸入依存になるのだろう。

 そのため、⑤の冷凍技術や安価な栽培方法など、質だけではなく価格も含めて競争力をつけるしかないと思う。

(5)金融緩和と物価高
1)赤字財政と金融緩和政策


   社会実績データ       2024.4.20佐賀新聞     2024.7.21西日本新聞

(図の説明:左図のように、2023年の消費者物価指数は、1970年と比較すれば37%、2012年と比較すれば13%程度の上昇をしているが、この割合は体感より低い。また、中央の図のように、よく言われる前年や2~3年前との物価比較は、預金・債権などの資産の目減りを無視しているため、大きな意味がない。そのため、右図のように、消費者物価指数は実質GDPより低いが、これは実質所得と実質資産の目減りを反映して、国民が消費を抑えているからである)


2024.5.9日経新聞    2023.1.20毎日新聞       2024.7.5日経新聞

(図の説明:左図のように、実質賃金はマイナスが続いているが、その理由は生産性が向上していないからである。また、中央の図のように、物価上昇にもかかわらず公的年金は一定である上、介護保険料の負担が著しく増えたため、高齢者の実質可処分所得は著しく減少した。そのため、右図のように、実質消費支出は減っており、その代わりに増えたのが公的支出なのだが、これは生産性を向上させるものではなくバラマキが多いのである)

 *3-1-4は、①総務省発表の6月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数は107.8で前年同月と比べて2.6%、生鮮食品を含む総合指数は2.8%上昇 ②政府が電気代・ガス代等の負担軽減策を縮小したことで電気代・ガス代が値上がり ③日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている ④エネルギー上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した ⑤電気代13.4%と大幅上昇・都市ガス代3.7%上昇で、生鮮食品を除く消費者物価指数の伸びを0.47ポイント押し上げた ⑥電気代は5月に再エネ普及賦課金の上昇で16カ月ぶりにプラス 等と記載している。

 また、*3-1-2は、⑦財務省が発表した税収は72兆761億円と4年連続過去最高 ⑧インフレ環境の継続で名目GDP成長率のプラスが定着し、税収の増加傾向は続く ⑨金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的 ⑩歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要 ⑪内閣府による2023年度名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスで2022年度の2.5%プラスから上振れ ⑫円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与して法人税収は15兆8606億円で前年度から6.2%伸び、所得税収は22兆529億円で2.1%減少し、消費税収は23兆922億円で0.1%増加 ⑬日銀の金融政策修正等の影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇し、国債利払費の増加が財政圧迫の可能性 ⑭新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる 等と記載している。

 このうち①は、2024年6月の消費者物価指数は2020年と比べれば生鮮食品を除く総合指数は107.8で7.8%の上昇だが、上の段の左図のように、アベノミクス開始時点(2012年末)と比較すれば12.8%程度、バブル崩壊前の1988年と比較すれば22.8%程度の物価上昇をしており、その分、国民の購買力が下がって、資産と所得が政府・企業にステルス移転したのである。

 その結果、⑦⑧⑫のように、税収が上振れし、国が赤字国債を発行して無駄遣いしてきた穴埋めがなされた。そして、この間に、バブルの反省をし、本物の改革を断行するために、景気対策として再エネの普及等に役立つインフラ整備をしてきたのなら、その後の生産性が上がるため我慢もできるが、そうではなく、⑪のように、名目国内総生産が上振れしただけなのだ。

 それにもかかわらず、⑥のような馬鹿を言い、“景気対策”と称してバラマキしつつ、⑩の歳出構造は改革していないため、今後の生産性向上も財政再建もおぼつかないのである。

 これに加えて、ロシアに対する制裁返しで輸入に頼りきりの燃料価格が上昇したため、②③④⑤のような燃料費上昇による物価上昇が加わったのだが、この偶発的な事件を、③のように、あたかも「日銀の物価安定目標2%を超える上昇」と言っている点も呆れる。何故なら、中央銀行の役割は、物価を安定させ、通貨の価値を維持して国民の財産を護ることであって、物価上昇目標をたてて、国民からのステルス増税に加担することではないからだ。

 経済学では、「ジョンブル(典型的に真面目なイギリス人の名前)も2%の利子率には満足できない」と言うように、2%以上の実質金利があるのは当然なのだが、日本は、⑨⑬のように、いつまでも「金利ある世界が現実となれば国債利払費の増加が財政圧迫の可能性」などと言わざるを得ず、⑭をはじめとして無駄使いばかりが多いため、将来性に欠けるのである。

2)国の歳出改革について

     
2023.2.16日経新聞 2022.12.23読売新聞 2023.11.11北海道新聞 2023.12.22日経新聞  

(図の説明:1番左の図は、日本の財政状況で主要国最悪になった。左から2番目の図は、2023年度当初予算で114兆3,812億円だが、これに右から2番目の補正予算13兆1,992億円が加わり、合計127兆5,804億円となった。1番右の図は、2024年度当初予算で112兆717億円だが、これに補正予算が加わるかどうかは現在のところ未定だ)

 上の左図のように、日本における政府債務の対GDP比は258.2%であり、これはイタリアを優に超えて主要国最悪になっており、その5割を日銀が保有している。こうなった理由は、日銀が公開市場操作(貸出金利の引き下げ)や「買いオペ」等の手段で政策金利を引き下げ、金融緩和を行なって資金の供給量を増やし、景気を良くして物価を上昇させようとしてきたからである。

 しかし、金融緩和はカンフル剤にすぎないため、経済構造改革をして生産性を上げることなく金融緩和を長期間続けたことによって、政府債務は増え、円の価値が下がって、円安や悪い物価上昇、株価の上昇などが起こっているわけだ。

 それでは、「借金だらけの政府支出は、どういうところになされたのか?」と言えば、2023年度は中央の2つの図のように、社会保障費(36兆8,996億円)が最も大きい。しかし、これは憲法に規定されていたり、国民との契約に基づいて支払われたりするもので、高齢化に伴って増えることはあっても、減らしてよいようなものではない。

 次に大きな支出は、国債費(当初予算25兆2,503億円)と国債元利払い(補正予算1兆3,147億円)の計26兆5,650億円で、2023年度末には普通国債の累積残高が1,068兆円に上る国債の償還分と利払い費の合計である。元本の返済と利払い費を合計して表示する公会計基準はわかりにくくて良くないが、国債残高が少なければ元本の返済と利払い費の合計も少ないことは明らかだ。なお、金利が上がれば国債の利支払い費も増えるが、特殊な事情でもない限り、安い金利の資産を持ち続けたい人はいないのである。

 3番目に大きな支出は、地方交付税(当初予算16兆3,992億円)である。これは、地方自治体が再エネ発電をしたり、産業振興をしたりして、国への依存度を下げれば下がるものだ。

 4番目に大きな支出は、防衛費と防衛力強化資金(11兆2,415億円=当初予算6兆8,219億円+3兆,3806円+補正予算1兆390億円)である。防衛費は細かく分けて1つ1つの項目を小さく見せているが、総額では2023年度に11兆2,415億円を支出している。そのため、11兆円以上の支出の費用対効果を検証すべきだが、私は、原発等の危険施設を残したまま、食料も燃料も殆ど輸入に頼りつつ、どんな理由があろうと決して戦争などできるわけがないため、日本における防衛費の費用対効果は著しく低いと考えている。

 5番目に大きな支出は、公共事業費(7兆3,622億円=当初予算6兆600億円+補正予算1兆3,022億円)だが、古くなった設備の更新や再エネ電力の送電線等のニーズを満たし、インフラという観点から生産性の向上に資しているのかは大いに疑問だ。

 右から2番目の補正予算で、2023年度には、そのほか、i)低所得者世帯への7万円給付1兆592億円 ii)ガソリン・電気・ガスの補助延長7,948億円 iii)次世代半導体研究開発基金6,175億円などが支出されており、ii)の7,948億円はロシア・ウクライナ戦争に加担したことによる費用(=防衛費の一部?)に入るだろう。

 1番右の2024年度当初予算における歳出・歳入の内訳は、2023年度に36兆8,996億円だった社会保障費が37兆7,193億円に増え、26兆5,650億円だった国債費も27兆90億円に増加している。地方交付税交付金は、16兆3,992億円から17兆7,863億円に、防衛費は11兆2,415億円から7兆9172億円に減少しているが、補正予算を組めば、2024年度の歳出はさらに増加する。

 しかし、2024年度当初予算の中には、教育・研究開発費及び公共事業費は現れないくらい小さな割合だ。教育や研究開発がイノベーションの基となり、公共事業改革がインフラの面で生産性を上げる必要条件であることを考えれば、生産性を上げるための本質的なことはせず、金をバラマキ続けてきたことが、イノベーションを妨げ、日本の停滞を招いたのだと言えるだろう。

 ところで、今日(8月14日)、岸田首相は来月の総裁選立候補を見送ると発表された。私は、岸田首相の原発推進には全く賛成できない(これは首相を変えれば変わる問題ではない)が、NISAを制限でがんじがらめの制度から、非課税期間無期限化・非課税上限額拡大を行なって、より投資しやすい新NISAに変換されたことは、長銀出身の首相らしいと思って評価している。

 しかし、メディアは、この間、政治資金規正法違反報道や首相の進退・衆議院解散など、誰かを貶めて首を切ることばかりを興じて報道し、視聴率の高い時間帯に野球・馬鹿笑いの番組を長時間配置するなど、まともな政策論議をして見せることによって国民(子供を含む)に深く考えさせることができなかった。これは、教育の問題に端を発しながら、民主主義を担うべき国民の劣化を促している。

3)メディアの主張する歳出改革について
 *3-1-1は、①政府が6月に公表した骨太の方針案は、財政拡張路線からの転換 ②自民党の積極財政派に配慮して2022年以降は避けていた国・地方の2025年度のPB黒字化目標を3年ぶりに明記 ③内閣府試算では2025年度PBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収める等の歳出改革を続ければ黒字化可能 ④2025~30年度予算編成方針は「PB黒字化を後戻りさせず、債務残高のGDP比を安定的に引き下げる」 ⑤2030年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らみ、元本償還も含む国債費は2024年度では一般会計の2割超 ⑥利払い費が膨らめば社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる ⑦金利上昇しても、インフレで名目成長率が底上げされれば税収も増え、財政健全化に繋がる ⑧経団連の十倉会長は経済財政諮問会議で「PB目標は単年度で考えるのではなく、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべき」とした ⑨小泉政権で策定した2006年骨太方針は社会保障費を毎年2200億円圧縮する等の数値目標を明記し、2011年度黒字化を打ち出した 等としている。

 また、*3-1-3は、⑩政策の優先度を見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要 ⑪PBは税収増で上ぶれし、大型補正予算を組まなければ2025年度には小幅なプラス ⑫金利が上昇すれば国債利払いも増加 ⑬無駄な支出と赤字抑制に最大限努めるべき ⑭閣議了解された概算要求基準は「施策の優先順位を洗い直し予算を大胆に重点化」とする ⑮物価や人件費上昇で歳出拡大圧力が強い ⑯少子高齢化対応はじめ、重要な政策課題も多い ⑰防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱い ⑱「重要政策」を優遇する特別枠と金額を明示しない「事項要求」対象が広い ⑲賃上げ促進・官民投資拡大・物価高対策などが例示されている ⑳物価高で苦しむ家計や事業者を支えると言うが、対象を広げれば財政悪化 ㉑各省庁は予算要求の段階で費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべき ㉒安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図 等としている。

 このうち①は、賛成だが、②④については、補正予算を組めば実現できない。また、⑩⑬⑭㉑を本当の意味で行なうためには、日頃から費用対効果の高い賢い支出を選び続けていく行政評価可能な複式簿記による公会計制度を採用しておくべきで、現在それをやっていないのは、*3-4に書かれているとおり、主として日本とアフリカだけなのだ。これについては、⑧のように、経団連の十倉会長が経済財政諮問会議で少し触れられているが、民間企業は、当然のこととして、月次でそれを行なっているのである。

 また、③⑨のように、歳出改革と言えば「高齢者の社会保障費の伸びを抑える」案しか出ないのは、実際の高齢者の生活を見ておらず、観念的な政策決定をしているからである。

 さらに、⑤⑥については、いつまでも0金利政策を続けるわけにいかないことは明らかで、これまで0金利政策をとっていた間に必要な改革をし、国債残高は減らしていなければならなかったのであり、既に過去の蓄積を使い果たして時間切れになったということだ。しかし、未だに⑦⑪のように、「インフレで名目成長率が底上げされれば税収が増えて財政健全化に繋がる」と言っているのは、国民の生活については全く考えていないということだ。

 なお、⑫の「金利が上昇すれば国債利払いも増加する」や⑮の「物価や人件費上昇で歳出が拡大する」というのは当然であるため、⑲の賃上げ促進政策と官民投資拡大、⑳の物価高対策と日銀のインフレ目標は矛盾した政策なのである。

 確かに重要な政策課題は、⑯の少子高齢化対応だけではないのに、⑰の防衛費増額は、日本の財政状態から見て大幅すぎる。また、㉒のように、無駄使いとバラマキを繰り返した挙げ句、「足りなくなったら安定財源の確保として消費税を上げれば良い」と考えるのも、国民の生活について全く考慮しておらず、どういう人にこういう発想が浮かぶのか、むしろ疑問である。

4)金利正常化と円高について

  
家づくりコンサルティング      2022.6.21トウシル     2022.6.22SMBC  

(図の説明:左図は長期金利《名目》の推移で2016年から0近傍が続いているが、実質金利はここから物価上昇率を差し引いたものであるため、さらに低く、消費者が節約せざるを得ないのは当然なのだ。また、中央の図は、主要国の金利だが、日本は突出して低いため投資が外国に出るのも当然なのである。右図は、日本人がどこに投資するかを考えている様子だ)

  
 2024.6.25日経新聞     2022.10.21三井住友アセットマネージメント

(図の説明:左図は1900年からの対ドル為替レートと日本・米国の物価の推移で、第2次世界大戦敗戦後の著しいインフレとその後のインフレ停止は、物資不足による物価高から預金の引き出しが集中したこと等により、幣原内閣がインフレ抑制と資産差し押さえの目的で旧円から新円への切替えを行い、旧紙幣は一部を除いて無効にしたからで、国民から見ればひどいことをしたものだ。右図は、1971年以降のドル円相場であり、1973年に変動相場制に移行した後、日本の貿易黒字拡大に伴って次第に円高となり、1995年4月19日の79.75円/$と2011年10月31日の75円32銭/$が円の対ドル高値であり、これを受けてアベノミクスが始まったのである)

 *3-1-5は、①円相場は2024年4月29日に1ドル160円24銭、2024年6月22日に再度1ドル159円80銭台の円安になり、米金利上昇とドル買いを誘った ②政府・日銀の円買い為替介入を受けて、円は151円台まで上昇した ③その後、日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進み、輸入企業のドル調達もあって円の下落基調が続く と記載している。

 また、*3-2-1は、④低い政策金利が円安・インフレの弊害を招き ⑤日銀は、金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げた ⑥金利全般が上昇して住宅ローンや企業の借入金利に影響が出るが、2%台半ばにある物価上昇率を勘案すれば実質的金利は依然マイナス ⑦目標とする2%以上のインフレが27カ月続く ⑧石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国は、円安が輸入コスト増に直結して物価上昇の引き金になる ⑨GDPの5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは物価高による節約志向が原因 等としている。

 さらに、*3-2-2は、⑩日銀は7月末の金融政策決定会合で「追加利上げ」と「量的引き締め」を決めた ⑪国も企業も家計も、これから金利の規律と向き合う ⑫インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然 ⑬日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことはなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む ⑭公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された ⑮日経平均株価は2日に史上2番目の下落 ⑯日本国債発行残高は1082兆円で日銀が53%を保有するが、巨大な買い手がいなくなれば金利は急騰する ⑰財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望し、ある大手銀行は「長期金利が1.2%になれば国債買いに動くが、現在は1%を切っており動く地合いではない」とする 等と記載している。

 このうち、①②③は、1ドル160円前後から151円前後まで動いたから円高になったとは思わないが、1ドル75~80円/$の時に円売りドル買い介入して得ていたドルを、150~160円/$の時に円買いドル売り介入して売れば、財務省は膨大な為替差益を実現することができて税外収入を得られる。しかし、これは過去の蓄積の食い潰しにすぎないため、そう威張れるものではない。

 また、④のように、低い政策金利が円安・インフレの弊害を招いたことは事実だが、⑤のように、日銀が金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度に引き上げても、⑥⑦のように、物価上昇率が2%なら実質金利は-1.75%程度になるため、住宅ローンの借り手・企業の借入・公的債務への国民からの所得移転は続いているのである。つまり、一般消費者の生活への配慮なき主張だ。

 なお、円の為替相場が下がれば、⑧のように、エネルギー・食料・原材料の多くを輸入に頼っている日本では、「円安=輸入コスト増」となり、さらなる物価上昇に繋がるため、これらを総合した結果、⑨のように、GDPの5割超を占める個人消費は、物価高によって節約せざるを得ず、消費は不本意ながらマイナスが続いているのである。

 つまり、低金利政策を長くとって貨幣価値を下げれば弊害の方が多くなるのであり、日本は、⑫⑬のように、1995年以降政策金利が1%を超えたことがなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込んでいるそうだが、インフレ率が2%で推移するのなら政策金利は少なくとも4%程度まで上げなければ実質金利2%は実現しないのである。

 そのため、名目2%程度の金利では、⑩⑪の「追加利上げ」と「量的引き締め」を行なったことにはならず、国・企業・家計が金利の規律と向き合うことにもならない。従って、⑭のように、公表翌日に円相場は148円/$台までしか上がらず、⑮のように、日経平均株価が「史上2番目の下落」をしたのは、これまで円の価値が下がっていたため、円で計られる株価は上がっていたが、それが円の価値の回復に伴ってその分だけ修正されたにすぎない。

 なお、⑯のように、「日本国債発行残高1082兆円のうちの53%を、日銀が保有している」というのもすごいが、その日銀が引けば債権価格が下がって金利は急騰するだろう。しかし、⑰のように、長期金利が1.2%でも実質金利がマイナスである以上、民間にとって日本国債は持ち損になるのである。

5)金利正常化と株安について
 *3-2-3は、①内外の株価や円相場の不安定な動きが続くが、日銀と市場との対話が不十分 ②日銀がさらなる利上げ姿勢を示したことが円の急伸を招いた ③世界で日本株の下落が際立ったのは、ハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れ等の米国要因に円の急伸が重なったから ④日銀が7月末金融政策決定会合で利上げを決めた直後、FRBが9月利下げの可能性を示唆し日米金融政策の方向性の違いが強く意識された ⑤日銀の内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しした ⑥経済・物価が想定通りに推移して円安を背景に物価の上振れリスクに注意する必要性が判断材料となったが、説明が首尾一貫していない ⑦日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に市場との対話を見直してほしい 等としている。

 日経新聞は、①②⑦のように、「株価下落は日銀の市場との対話不足にある」と主張しているが、「(配当+譲渡損益)/株価」は債権の金利と株式のリスクを加味した値に落ちつくため、金利を上げれば株価が下がるのは当然のことだ。そして、投資家は、それも織り込み済でファンドにするなどしているため、日銀と市場の対話が不十分だったとは、私は思わない。

 しかし、メディアの指摘を受けて、⑤のように、日銀の内田副総裁が火消しを行なったため、⑥のように、首尾一貫性がなくなった。なお、日本の経済と物価は、米国とは違ってディマンドプル・インフレになっているのではなく、ウクライナ戦争と円安を背景として輸入物価の値上がりで起こるコストプッシュ・インフレになっているため、④のように、日銀が利上げを決め、FRBが利下げの可能性を示唆するという方向性の違いがあっても、おかしくはない。

 つまり、これまで日本政府が行なってきた政策と、その結果として起こっている経済状況が株価下落の原因であるため、日本株の下落原因を、③のように「米国要因」に求めるのは、米国への責任転嫁になると思う。

 また、*3-2-4は、⑧日本株のボラティリティーが高まり、急激な下げへの警戒が残る ⑨避難先銘柄は食品や小売り、住宅関連等の業種 ⑩総菜製造のフジッコや製粉会社のニップン等はベータ値が0.05程度で、市場全体の値動きに対する感応度は極めて小さい ⑪内需中心で業績が安定している企業や財務レバレッジの低い企業のボラティリティーが小さくなる ⑫食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期まで10期連続の営業増益 ⑬営業地盤を地方に置く銘柄も、業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先 ⑭大規模ホームセンターのジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落した時にむしろ株価上昇 ⑮外国人持ち株比率が高いとボラティリティーは高い ⑯日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されている ⑰ディフェンシブ性の高い銘柄は市場シェア拡大が期待できるとしてヘルスケアや投資指標面での堅実な公益株 としている。

 私は、⑧のように、日本株のボラティリティーが急に高まったとは思わないが、⑨⑩⑫⑭のように、避難先銘柄が、食品・小売り・総菜製造・製粉・ホームセンターであることには、消費者の行動から納得できるし、面白いと思った。何故なら、食品の節約には限度があるが、節約する場合には惣菜・小麦粉・液卵を使ったり、ホームセンターで買い物したりというように、これらは節約時にむしろ需要が増す業種だからである。

 また、⑪⑬⑮のように、内需中心だったり、借入金の割合が低かったり、営業地盤が地方にあったり、外国人持ち株比率が低かったりして、為替・金利・グローバルな景気に左右されにくければ、企業のボラティリティーが小さいのも納得できる。

 ⑯のように、日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されているというのは、利率が高くてリスクは低い方が良いに決まっているが、興味深い。ここで、⑰のように、ディフェンシブ性の高い銘柄が、市場シェアの拡大が期待できるヘルスケアと堅実な公益株というのも尤もだが、日本政府は、高齢化や女性の社会進出で需要が伸びるヘルスケアの業種や地球環境を護りながらエネルギー・食料の自給率を高める業種を軽んじている点が合理的でない。 

6)家計と日本経済
 *3-2-5は、①内閣府発表の2024年4~6月期GDPは、前期比の年率換算で実質3.1%増だが、前期からの反動要因が大きい ②景気の弱さは主にインフレの長期化による家計圧迫に原因があるため、大規模財政出動や日銀の追加利上げ牽制は打開策にならない ③政策対応は物価抑制・低所得世帯等への家計支援に力を入れる時期 ④4~6月期プラス成長の最大要因はGDPの約半分を占め、景気のエンジン役である個人消費が5四半期ぶりに増加へ転じたためだが、前期の自動車認証不正問題の悪影響の反動で4~6月期の消費が大きめに出た ⑤総務省の家計調査から長引く物価高に節約で対抗し、食品等の必要なものに絞って金を使う家計の実情が浮かび上がる ⑥定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから先行きの消費改善を予想する声があるが、減税は一時的で、全世帯の3割を占める高齢世帯に賃上げは無縁 ⑦円安が是正され物価が落ち着くまで消費は低空飛行 ⑧他のGDP主要項目は、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加して全体のプラスに貢献 ⑨円安による輸出企業の好業績や認証不正問題からの回復が投資増に ⑩今後は日銀の政策変更による金利上昇や株価・円相場の影響が避けられないが、相場の荒い変動は投資手控えに繋がる ⑪輸出から輸入を差し引いた外需は、2四半期連続のマイナスでGDPの足を引っ張る要因 ⑫訪日客需要は堅調だったが、中国の成長減速等から輸出の伸びは輸入の伸びを下回った ⑬この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方 ⑭米景気や利下げの行方が株価の波乱要因で円相場にも影響 ⑮その場しのぎの減税や電気・ガス代の補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道 としている。

 上の①②④⑤⑥⑦は全くそのとおりで、久々に正確な記事に出会ったような気がするが、特殊な理由でGDPが前期より増加した四半期の数値を4倍して年率に換算するのは粉飾に近い。

 また、③については、物価抑制・低所得世帯等への家計支援のうち物価抑制は必要だが、低所得世帯等への家計支援は、i)“低所得世帯”の範囲が狭く、金額も小さいため殆ど意味がない ii) 所得税・住民税・社会保険で既に所得の再配分は終わっている iii)“低所得世帯”の定義を広くしてさらに配分すると二重・三重の不正確な配分となり、バラマキになる と思う。

 そのため、⑮も含め、分配を考えるなら負担力主義で正確に計算する所得税を利用し、所得税制に不完全な部分があれば、それを改正するのが正攻法だ。さらに、電気・ガス代の補助よりも、再エネを利用しやすくする補助の方が、単に国の債務を増やすのではなく、地球温暖化防止に資しながら、日本のエネルギー自給率向上にも役だつ。

 そのため、政府が迅速にEV・再エネに舵をきる方向性を示していれば、⑧の企業は設備投資の方向性を早い時期に決めることができ、設備投資を増やして景気回復と生産性向上の両方を達成できた筈だ。そうすれば、ガソリン車を合格させるための⑨のような認証不正問題を起こす必要も無く、日本が景気対策の膨大なバラマキで世界1の債務国になる必要もなかったのである。

 ⑩については、今後は日銀による政策金利の上昇が株価や円相場に影響することもあるだろうが、投資するからには、投資信託等を使って専門家に任せるか、自分自身が勉強してリスク管理を行なう必要がある。

 また、⑪⑫のように、「輸出から輸入を差し引いた外需がマイナス(貿易赤字)で、訪日客需要だけが堅調だった」というのは、日本のグローバルな製造業は円高とコスト高で既に中国はじめ新興国に出てしまい、日本国内で製造した製品を輸出する“加工貿易”には比較優位性がなくなってしまったということだ。しかし、製造業が衰退して良いわけはないため、飛躍的に付加価値や生産性を高くする研究を行ない、できた製品は速やかに社会実装して、さらに進歩させる仕組みが必要なのである。

 つまり、⑫⑬⑭のように、いつまでも「日本の景気が米国や中国に大きく左右される」などという責任転嫁の姿勢はよくないし、それを卒業するには、足下ばかり見てその場しのぎの政策を積み重ねても、無駄が多すぎてマイナスにしかならないということだ。

(6)国民生活を考慮しない政策がまかり通る理由
                 ← 男女の教育格差と女性の社会的地位の低さ


2024.8.23朝日新聞   2022.8.1MarkeTRUNK     2023.11.2日経新聞

(図の説明:左図は、全国にある公立の男女別学高校数で、2024年4月には42校に減っているものの、その3/4が関東に集中している。そして、教育格差とアンコンシャスバイアスによって、中央の図のように、男女雇用機会均等法の存在にもかかわらず、民間企業の管理職に占める女性の割合は著しく低い。そして、これが、右図のように、欧米と比較して日本の男女間賃金格差が大きくなっている理由だ)


            2022.8.1MarkeTRUNK         2023.6.21日経新聞  

(図の説明:左図は、民間企業の雇用者の各役職に占める女性割合についての目標と現状を示したものだが、もともとは2020年までにすべて30%にするという「202030」というのが目標だった。しかし、目標をたてても実践しなかったため、日本の男女平等度ランキングは、右図のように、世界で125位という先進国だけでなく、アジアでも低い方になったのである)

1)未だに男女別学を主張する人々
 *3-3-3は、①かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進んだ ②2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫った ③元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は、今年4月に記者会見して「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調 ④共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも「公立の別学校も選択肢の一つとすべき」と反論 ⑤7月下旬、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出 ⑥浦和一女で「討論会」を開いて「男女別学高校の共学化」を議題にすると「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」等、共学化反対一色になった ⑦埼玉県内の中高生と保護者を対象にアンケートを実施したところ、別学校の生徒3割を含む高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割 ⑧1947年に男女共学等を定めた教育基本法が施行され、多くの公立高校で共学化が進められた ⑨全国的には公立の男女別学高校は減っているが、北関東や東北などで別学校が残り、2024年4月現在、別学校があるのは宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島の8県42校で、埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に3/4が集中している ⑩共学の場合でも男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある ⑪法の下の平等を定めた憲法14条は性別による差別を禁止しているため男女共学が原則で、自宅から最も近い公立高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば違憲判断が出るかもしれない 等としている。

 このうち①は、⑧⑪の教育基本法や憲法に基づいて、本来なら1947年に行なわれなければならなかったことであるにもかかわらず、⑨のように、公立の別学校が宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島で42校も残っており、埼玉・群馬・栃木に32校とその3/4が集中しているのである。そして、これは、この地域におけるジェンダー平等の遅れを物語っている。

 このような中、②のように、2023年8月、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫ったのは評価できる。しかし、③で市民グループ「共学ネット・さいたま」が「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」としたのには賛成だが、元高校教諭らが「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調したのは失望だ。何故なら、男女格差はそのような考え方の教諭によって教育によって社会的に作られるものが多く、本当は、社会のリーダーになるためには、男女にかかわらず男性優位を前提としない感性を持って働くことが必要だからである。

 日本でも、⑩のように、確かに「男子の方が、共学校でも発言機会が多い」という場面はある。しかし、社会に出れば男女別にリーダーになる昇進競争をするのではないため、女子生徒も、共学校の中で実力を発揮する訓練をし、堂々と発言する練習もして、職場では男女別ではない競争に静かに勝たなければならない。

 従って、④⑥⑧のように、浦和第一女子・川越女子の同窓会長が公立の別学校を支持し、浦和一女の生徒が討論会で「電車の中で怖い思いをした」「異性がいると不安」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」などと言っているのでは、「浦和一女の“伝統”とは、どういう伝統か」とむしろ聞きたくなるのであり、ジェンダー平等に大きく立ち後れていると言わざるを得ないのだ。

 しかし、男女別学高校の討論会で「男女共学の方に賛成だ」と言うのは、男女共学高校に通った経験が無く、異性に変な関心を持っているとの誤解を受けかねず、学校の方針に逆らって内申書の評価を下げることにもなりかねないため、実質的に不可能だろう。そのため、⑦のように、埼玉県内の中高生と保護者のアンケートでは、高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割になっているのだと思われる。

 なお、男女別学を嫌う親は埼玉県内の公立高校に子どもを通わせておらず、高い学費を支払って東京都の私立中高一貫校に通わせたり、そもそも埼玉県に住んでいなかったりするため、アンケートの母集団に入らない重要な集団がいることを忘れてはならない。そのため、高校生やその保護者にアンケートをとったり、⑤のように、広い世界を知らない高校生が県庁を訪れて男女別学の維持を求める要望書を提出したりするのは無意味であり、「高校生は、そんなことをする暇があったら周囲に異性がいようといまい集中して勉強した方が良く、それも修養の1つだ」と、私は思うわけである。
 
 また、*3-3-4は、⑫県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが「公教育」に関する考え方 ⑬公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平 ⑭進学実績で県内トップとされる浦和高校が男子校で男女の教育機会に格差を生んでいる ⑮東大の2024年の合格者数は、埼玉県内の公立高校では男子高の浦和が最多44人、続いて共学の大宮が19人、女子校の最多は浦和第一女子と川越女子で2人ずつ ⑯別学維持を求める署名を7月下旬に県教委に提出した浦和高校3年の男子生徒は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できる方が選択肢は広がる」 等としている。

 私は、⑫⑬⑭⑯に、全く賛成である。⑮については、どういう“伝統”ある学校かは知らないが、首都圏にあって人口の多い県でありながら、浦和第一女子高校は2名(理1:1名、理2:1名)、川越女子高校は2名(文学部:1名、法学部:1名)と、男子高の浦和高校、共学校の大宮高校と比較して東大への合格者数が著しく少ない。この男女格差は、教育格差によって形成された部分が大きい上に、男女別学を嫌う親は埼玉県に住まないため、遺伝格差も出ているかも知れない。埼玉県は、それでいいのか?

 さらに、*3-3-5は、⑰埼玉県教委は「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表したが、共学化の方法や時期・校名は明記せず具体的な進め方を先送りした ⑱県教委は、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展等の社会の変化に応じた学校教育の変革が求められる」「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」とした ⑲日吉教育長は、「結果的に別学校を存続させる可能性を含めて総合的に考える」「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」とした ⑳曖昧さが残る報告書に、賛否両派から不満の声が漏れた 等としている。

 私は、⑰は「主体的に共学化を推進する」と言いながら、⑳のように、先送りしてうやむやにしようとする消極性があると思う。しかし、青少年期の教育は1年1年が重要な位置を占めるため、親は裁判に訴えるのではなく、他の地域に引っ越すか、子の数を制限して私立や塾に通わせざるを得ず、この教育インフラの差は企業誘致や不動産価格に響いていると思う。

 また、⑱のうち、学校教育の変革は「外圧によって仕方なく」ではなく自ら率先して行なって欲しいし、私は、高校の3年間、男女が協力するだけでなく、同じ教育を受けた場合の女性の実力を男性が身をもって知ることは、社会に出た後に男性が女性を上から目線で見る男性優位のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくすのに最も効果的だと思っている。そのため、⑲の公立高校の共学化は、一刻の猶予もなく速やかに行なうべきなのだ。

2)日本における男女間賃金格差の原因
    ← 日本には「ガラスの天井」以前に「壊れたはしご」すらない女性が多いこと
 *3-3-1は、①ガラスの天井=十分な能力があるにもかかわらず、性別・人種等の要因で昇進が妨げられること ②壊れたはしご=女性が昇進するために上るはしごが元々壊れており、1段目から男女格差が生じていること ③はしごの1段目はグループ長・主任などファーストレベルの管理職 ④第一段階の地位に就く女性割合の低い構造が女性の昇進を阻むハードル ⑤男女の昇進格差をなくすには壊れたはしごを生み出す構造を見直すべき ⑥日本政府は2003年に「あらゆる分野の指導的地位の女性割合が2020年までに30%程度に到達することを目指す『202030』目標」を発表した ⑦役職に就く女性割合は、現在、目標の30%に届かない ⑧EUはジェンダー平等推進に取り組んできたが、管理職に就く女性比率に関して加盟国間で大きな差があり、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意 ⑨EU域内の上場企業は、2026年6月末までに、社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成できない企業は場合によって罰則対象 ⑩男女共同参画局の調査で、日本の女性役員割合は12.6% ⑪2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国中でも韓国・中国・ASEAN諸国より低順位 ⑫2022年3月にエコノミストが発表したガラスの天井指数で日本は29ヶ国中28位 ⑬OECD調査で日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位 ⑭ガラスの天井が生まれる要因にアンコンシャスバイアス(「女性は仕事より育児をすべき」「女性に力仕事は任せられない」等の無意識の偏見・思い込み・根拠なき決めつけ)がある ⑮女性に対する偏見・思い込みが組織に根付いていると、女性の昇進が妨げられる ⑯アンコンシャスバイアス解消には自分に無意識の偏見があることを自覚する必要 ⑰物事を判断する際に偏見が働いていないか検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除く第一歩 等としている。

 *3-3-1の記述は、①②③④のように、「ガラスの天井」と「壊れたはしご」を明確に定義し、⑤のように、「壊れたはしご」を生み出す構造を見直すことが、男女の昇進格差をなくすのに不可欠だとしている点が優れているが、日本には、非正規社員や限定正社員など、壊れたはしごすら見えない働き方をしている女性が多い。

 そして、⑮⑯⑰のように、正社員であっても、女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると昇進が妨げられるため、そのアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を解消するには、自分に無意識の偏見があることを自覚し、物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが必要であるとしている点も正しい。

 しかし、⑭のように、アンコンシャスバイアスとは「無意識のうちに持っている偏見・思い込み・決めつけである」という定義には賛成だが、その事例の中に「女性に力仕事は任せられない」とあるのは説明不足だと思う。何故なら、オリンピック競技でも、例えばウエイトリフティングの記録は男子の方が重いバーベルを持ち上げ、女子でもトランスジェンダーが記録を出し、100m競争をしても同様だからだが、それでは女性に力仕事はできないのかと言えば、現在では、機械を使ったり、工夫したりして、力任せではなく頭を使って、効率的に同じ以上の結果を出すこともできるからである。

 なお、「仕事より育児をすべき」というのは、日本では子どものいる男性には言わないにもかかわらず、独身や子どものいない女性にまで言う人が少なくない。しかし、これは仕事の能力とは関係のない場合が多いため、女性に対する単なるハードルだったり、セクシャルハラスメントだったりするのである。そして、このような女性の昇進を妨げるためのバイアスは挙げればキリが無いが、これらが意識的又は無意識的に女性の昇進を妨げ、その結果として、日本では、⑥⑦のように、日本政府が2003年に「202030」を目標にしたにもかかわらず、役職に就いている女性割合は30%にも届かず、これがさらなるバイアスを生んでいるのである。

 また、⑩⑪⑫⑬のように、日本の女性役員割合は12.6%にすぎず、2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国でも韓国・中国・ASEAN諸国より低く、ガラスの天井指数は日本は29ヶ国中28位で、日本の男女間賃金格差は38ヶ国中ワースト3位だが、どうしてそういうことになるのかは、こちらが聞きたいくらいだ。

 一方、EUは、⑧⑨のように、ジェンダー平等推進に取り組んできたが、加盟国間で管理職に就く女性比率に大きな差があるため、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意し、域内上場企業は2026年6月末までに社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成しなければ場合によっては罰則対象になるそうだ。加盟国のESG経営を通して経済にプラスになることでもあるため、TPPもEUに合わせたら良いと思う。 

 また、*3-3-2は、⑱日経新聞の集計で女性役員のいない東証プライム上場企業は69社で全体の4.2% ⑲政府は2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定 ⑳現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならず、役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要 ㉑就業者の半分近くが女性なのに、管理的職業従事者の女性比率は14.6% ㉒政府目標達成には女性社員の育成も必要 ㉓「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材 等としている。

 日本政府は、⑲のように、2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定しており、現在は、⑱⑳のように、女性役員のいない東証プライム上場企業が69社・全体4.2%あり、現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務めている2500以上のポストを女性のために空けなければならず、役員の数を増やして女性を登用するには3800近いポストの新設が必要なのだそうだ。しかし、本来なら、空けて2020年までにやっておくのが筋である。

 さらに、㉑のように、管理的職業従事者の女性比率が14.6%しかいないそうだが、男女雇用機会均等法は1999年の改正で「採用・配置・研修・退職で男女差別をしてはならない」と男女差別禁止を義務化している。そのため、それから25年後(四半世紀後)の現在になっても、㉒のように、「政府目標達成には女性社員の育成も必要」などと言っているのは、この間、様々な手練手管を使って均等法違反をしてきたということにほかならない。

 なお、㉓は、「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材」としているが、見せかけの女性役員割合の増加ではなく、本当に企業文化を改革して業績を上げるには、現在の上司が想像できる範囲外の社内人材である必要があると、私は思う。

 *3-3-6は、㉔男女間賃金格差は労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響がある ㉕問題解消には、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠 ㉖男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然だが、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向 ㉗育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多いことが影響 ㉘複数の研究が女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差に繋がる ㉙世界47ヵ国・11万人を対象とした調査で、女性は仕事の社会的意義をより重視する傾向 ㉚アメリカのMBA学生を対象とした研究では社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない ㉛この選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因 ㉜選好理由は、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのか ㉝この研究結果は企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆 ㉞女性の少ない金融業界は、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる 等と記載している。

 このうち㉔には賛成だが、㉕については、日本では、i)男女差別のない雇用機会(採用)があるか ii)給与や昇進機会の実質的男女平等があるか iii)結婚・子育てが不可能なほど、転勤・残業が多くないか iv)長く働くことができ、老後生活の安定が保てるか などが、女性の職業選択の条件になっていると思う。

 これらの条件に照らせば、㉞の「女性が少ない」という日本の金融業界は、総合職なら過度の転勤があり、そうでなければ昇進機会が著しく限られて給与も上がらないため、能力の高い女性の選択肢には入りにくいのである。しかし、日本の金融機関が女性を補助職としてしか採用していなかった時代でも、私が監査で行っていた外資系の金融機関は、1980年代から日本企業に行けなかった優秀な女性を多く採用しており、管理職の女性も多かった。

 また、㉖の「男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然」というのはそのとおりだが、「女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する」というのは、「女性は仕事より家事を重視する」というアンコンシャスバイアスに基づいている。

 具体例として、「公認会計士」という同業種で比較すれば、男女とも本人の同意なき転勤はない。また、通勤時間が長過ぎれば、それに時間と体力を奪われて十分な仕事ができないため、仕事で競争に敗れるのは男女とも同じなのだが、家事分担の多い女性の方が余計に効く。また、柔軟性ばかり気にする人は、仕事の能力で競争に敗れて昇進しないものの、MBA取得目的の留学や出産目的の休職も認められており、監査法人が語学留学させてくれることも多い。

 そして、㉗の「育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多い」については、そのために(私が経産省と)1990年代後半に介護保険制度を作り始めて2000年には介護保険制度が創設され、現在は40歳以上の人が介護保険料を払っているため、家族が介護しなくても十分な介護を受けられるようにしてもらいたいのだ。本当は、働く人全員に介護保険料を払って貰いたいのだが、現在は40歳以上の人のみであるため、介護保険料は高いのに必要な介護や生活支援の1/4~1/2くらいしかなされていないのは論外で、さらに保育や学童保育も税金を使って整備してきたにもかかわらず、未だ不十分なのは何をやっているのかと思う。

 また、2002年に香港で行なわれた世界会計士会議に出た時、シンガポールの女性会計士が世界会計士会議に来ていて「子どもが2人いて、フルに働いており、現在マネージャーです」と言っていたので、「子どもが2人もいて、どうやってフルに働いているのですか」と聞いたところ、「フィリピン人の家事労働者を2交代で回して家事を全部やってもらっている」という答えだった。日本の場合は、「女性間の差別だ」と言うおかしな論調があったり、家事労働に従事する外国人労働者を制限したりしており、働く女性が子を育てるには犠牲が多すぎるのである。

 さらに、㉘の「女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向がある」というのは、ハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンでなければ採算が合わないのは男女とも同じだが、現在の日本では、女性が仕事で昇進しようとすると、さまざまな嫌がらせや間接差別のため、男性よりハイリスクになることが多いようである。 

 なお、㉙㉚の「女性は仕事の社会的意義をより重視する」「社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない」というのは女性に対して失礼であり、男女とも「儲かりさえすれば公害を出して社会に外部不経済を与えても、何をしても良い」という発想は、教育を通じて止めさせて欲しい。また、給与は能力の反映であるべきで、「社会的意義の高い仕事だから、給与は低くて良い」などということは全くなく、むしろ社会的意義の高い仕事ほど給与は高くなければならない筈である。

 以上から、㉛の「女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む」という男女の選好の違いは、現在の日本では、公共部門は採用されれば男女差別が少なく、金融部門はガラスの天井・壊れたはしごが存在する上、中には壊れたはしごすら見えない女性も多くいるという現実があるからだと言える。そして、㉝のように、選択肢の多い能力の高い女性は合理的な職業選択をするが、その選好理由は、㉜の「女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響している」のではない。

・・参考資料・・
<経済における技術革新の重要性>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81334460S4A610C2KE8000 (日経新聞 2024.6.13) 日本経済復活の条件(上) 人口より技術革新、将来左右、山口広秀・日興リサーチセンター理事長(1951年生まれ。東京大経済学部卒。元日銀副総裁。13年から現職)、吉川洋・東京大学名誉教授(1951年生まれ。エール大博士(経済学)。専門はマクロ経済学)
<ポイント>
○経済停滞の原因はイノベーションの欠如
○技術革新はミクロで、人口動態と無関係
○民間企業が主役だが金融や国も役割重要
 日本経済の凋落(ちょうらく)が続いている。2023年には人口が日本の3分の2のドイツと55年ぶりに国内総生産(GDP)が逆転した。25年にはインドにも抜かれ、日本経済は世界5位となる見通しだ。私たちの生活水準に密接な関係を持つ1人あたりGDPの順位低下はさらに劇的だ。00年には名目ベースでルクセンブルクに次ぎ世界2位だったが、10年に18位、21年には28位まで転落した。購買力平価ベースでは世界38位だ。アジアでもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に遠く及ばない。1人あたりGDPの水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではない。労働者一人ひとりにどれだけの資本ストックが装備されているかを表す「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP)だ。資本・労働比率の高低は、工事現場でクレーンやブルドーザーを使い働いているか、それとも1人1本のシャベルやツルハシで働いているかの違いに相当する。全要素生産性の上昇は、ハード・ソフト両面を含む広い意味での技術進歩によりもたらされるが、イノベーション(技術革新)と言い換えてもよい。資本ストックの増強も多くの場合、新しい製品や品質改良、あるいは生産工程における生産性向上を伴うから、全要素生産性の上昇と同様にイノベーションの成果といえる。結局1人あたりGDPの上昇をもたらすのはイノベーションだ。失われた30年といわれる日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である。日本でイノベーションが振るわなかったのは人口の減少が原因であり仕方がないとの指摘があるが、イノベーションの本質を理解しない誤った考え方だ。イノベーションというコンセプトを経済学の中に定着させたシュンペーターは、それがどこまでも「ミクロ」であることを強調した。イノベーションの担い手は、マスとしての人口を相手にしていないのだ。例えば新しい時代を切り開いた米国のハイテク企業4社(GAFA)の時価総額は12年から22年にかけて385%上昇したが、この間の米国の人口増加はわずか6.2%だ。人口とイノベーションは別物である。経済協力開発機構(OECD)諸国についてみると、世界知的所有権機関(WIPO)が公表するグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率との間には相関関係がない(図参照)。OECDに加盟していない途上国の場合にはむしろ明確な負の関係、すなわち人口増加率が低い、あるいは減少している国の方がイノベーションが活発であるという傾向がみられる。イノベーションはどこまでもミクロで、マクロの人口動態と直接の関係はない。日本経済の将来を考えるとき、人口減少を言い訳にしてはいけない。民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要だ。「もう買うものがなくなった」との声も聞かれる。既成のプロダクトへの需要が飽和点に達したということだが、それは飽和点を打ち破るための新しいプロダクトの創造の夜明け前ということだ。実際、多くの企業で新しいプロダクトの開発が進められている。こうした成果が1人あたりGDPの向上につながるのだ。1707年創業で、伊勢神宮土産の定番として名高い「赤福餅」を手掛ける老舗和菓子店は、数年前から消費者の嗜好の変化に対応すべく新しい洋菓子を開発している。これはまさにイノベーションだが、その背景には人口の減少とは別の「時代の変化」がある。ある漁網メーカーでは需要が落ち込むなか、サッカーのゴールネットの品質向上に力を注ぎ、漁網づくりの技術を使い六角形のネットを開発した。ゴールの瞬間、ボールが一瞬止まったように見える効果を劇的に演出することに成功した。あるアルコール飲料メーカーは、缶ビールの蓋を開けた瞬間にキメ細かい泡が吹き出て、ジョッキで飲む生ビールのような風味を味わえる製品を開発した。「泡を出さない」缶ビールから「泡を出す」缶ビールへと発想が転換され、缶内側の加工方法の変更など新しい工夫が集積された結果だ。日本で生じている人口減少はそれ自体が省力化のイノベーションを促すことは間違いないし、そうした例は数多くみられる。今後人口減少が加速するなか、こうした省力化のためのイノベーションの必要性は一層高まると考えられる。さらに高齢者の増加に対しては、高齢者特有の財・サービスの提供のほかに、介護のためのハイテク技術の活用などが求められる。現にそうした活用は広がっているし今後利用の余地は広がっていく。1つや2つのイノベーションでは済まない。日本が抱える人口減少や高齢化という課題は、イノベーションを生みだす素地になっている。経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくために、金融機関の果たすべき役割も重要だ。企業がいわゆる「死の谷」を乗り越えてイノベーションを事業化するには、金融面での支援が欠かせない。これまでは新陳代謝促進に向けて、リスクテイクとリスク回避の適切な使い分けも十分でなかった。金利のある経済の到来で、金融機関のリスクテイク能力の果たす役割は大きくなっている。イノベーションの主役は民間企業だが、国も無縁ではない。政府が時代の変化に対応できずに国力の低下を招いた例としては、04年度に始まったスーパー中枢港湾政策がある。コンテナ取扱個数でみた世界の港湾ランキングで、1980年にはトップ20に4位の神戸をはじめ3港がランクインしていた。しかし21年にはトップ40にランクインする港はない。日本はハブ(中核)機能を失った。一方、成功例もある。例えば00年代に入ってから急増した海外からのインバウンド(訪日外国人)だ。ビザ(査証)免除や発給要件の緩和、観光庁の設立、統計整備、ICT(情報通信技術)を利用したインバウンド消費の把握など、政府による必要な施策を積み上げた成果だ。国費の投入はそれほど大きくはない。「ワイズスペンディング(賢い支出)」ならぬ「ワイズアクション」が奏功した。もちろん国の施策だけではなく、外国人向け高級ホテルの建設、外国人のニーズに対応した新たな商品やサービスの提供、外国人との対話に対応できるスマホによる翻訳機能の開発といった様々な革新的なアイデアが功を奏した結果でもある。まさに官民が協力し、ツーリズムにおけるイノベーションが起きた。人口減少が続くなか、今後のイノベーションの発展については、とかく悲観的な見方が多い。しかし実際には、ミクロレベルのプロダクトイノベーションを含めたイノベーションの動きはすでに始まっている。

*1-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1274461 (佐賀新聞 2024/7/5) 新しい環境基本計画 社会の根本変革への契機に
 政府が環境政策に取り組む際の長期的な指針となる第6次の環境基本計画が閣議決定された。
現代社会は、気候変動、生物多様性の損失、プラスチックに代表される汚染の三つの危機に直面していると指摘。人類の活動が環境に与える影響について、地球の許容力を超えつつあるとした。
「目指すべき文明・経済社会の在り方を提示」するというのが計画の触れ込みである。この点に関し計画は、天然資源を浪費し、地球環境を破壊しながら「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘。経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めながら「新たな成長」を実現するとの考えを打ち出した。国内総生産(GDP)など限られた指標で測る現在の浪費的な「経済成長」に代わるものとして計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング(高い生活の質)」を最上位に置いた新たな成長だ。計画は、森林などの自然を「資本」と考えることの重要性や、地下資源文明から、再生可能エネルギーなどに基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調した。今のような経済成長を無限に続けることはできず、人類は地球の限界の中で活動を行うべきだとした点は、これまでにないものとして評価できる。これを社会変革への契機としたい。だが、根本的な変革の実現は容易ではない。最初の基本計画ができてから今年で30年。この間の経済の停滞も深刻だが、同時に日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れを取った。長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできたからだ。計画の実現には環境省の真価が問われるのだが、現実は極めてお寒い状況だ。水俣病患者団体などとの懇談の場で、職員が団体メンバーの発言中にマイクを切断して厳しい批判にさらされた。環境省が登録に多大な努力を傾けた世界自然遺産、北海道・知床半島の中核地域では、携帯電話基地局の設置工事を不透明な手続きで認可した。気候危機対策上、重要なエネルギー政策やGX(グリーントランスフォーメーション)政策は経済産業省主導で進み、環境省の声が十分に反映されているとは言い難い。こんな状況では市民の信頼を得た環境政策によって、社会変革をリードすることはできない。環境政策はもはや、環境省だけの仕事ではない。変革実現のためには、岸田文雄首相のリーダーシップと勇気が不可欠なのだが、この点でも期待薄だ。首相の日常の言動からは、深刻化する環境問題への関心も危機感もまったく感じられない。基本計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」だと、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘した。首相をはじめとする政策決定者や企業のトップが、悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが求められる。それなしには基本計画が打ち出した新たな経済も社会も実現せず、計画は単なる紙切れに終わるだろう。その結果、われわれは劣化した環境と貧困や食料難などの社会問題が深刻化し、安全や安心とはほど遠い社会を、次世代に引き渡すことになってしまう。

*1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1266377 (佐賀新聞 2024/6/21) レアメタル含む岩石2億トン、南鳥島沖、25年採取目指す
 小笠原諸島・南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内の深海底に、レアメタル(希少金属)を含む球状の岩石「マンガンノジュール」が2億トン以上あることが確認されたと、東京大と日本財団の調査チームが21日発表した。2025年以降、民間企業などと共に商用化を目指した試験採取を始める計画だという。21日に記者会見した加藤泰浩東京大教授は「経済安全保障上、重要な資源だ。年間300万トンの引き上げを目標にしている。海洋環境に負荷をかけないようにしつつ開発を進めたい」と話した。チームは今年4~6月、水深5200~5700メートルの海底を100カ所以上調査。遠隔操作型無人潜水機(ROV)で、約1万平方キロメートルに高密度に分布しているのを確認した。計約2億3千万トンあると推計される。一部を採取して分析したところ、レアメタルのコバルトは、国内消費量の約75年分に相当する約61万トン、ニッケルは約11年分の約74万トンあると試算された。25年以降、海外の採鉱船などを使い1日数千トンの引き上げを目指す実験をするとともに、民間企業などと商用化に向けた体制構築に取り組む。マンガンノジュールは、岩石の破片などを核とし、海水などの金属成分が沈着してできる。海底鉱物資源として期待されており、東京大や海洋研究開発機構などが16年に、同じ海域に密集していることを明らかにしていた。今回の調査では古代の大型ザメ「メガロドン」の歯を核としたマンガンノジュールも複数見つかった。

*1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81872280U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.5) 核融合、多国間協力に壁 実験炉ITER 完成8年先送り、米中、独自開発進める 日本は2国間を強化
 日本、米国、中国、ロシアなど「7極」が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)の完成が、当初の2025年から早くても33年に先送りとなった。多国間協力が順調に続くかは見通せない。米国や中国は独自開発も進めており、核融合発電(きょうのことば)の実現に向けた戦略が日本にとって重要になる。核融合は太陽と同じ反応を地上で再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを生み出せる。ただ、技術的なハードルが高く、膨大な開発資金が必要なことから、国際協力を軸に開発が進んできた。
●部品不具合響く
 それが日本、欧州連合(EU)、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参加するITERだ。ITERは核融合で生じるエネルギーを発電に利用できるかどうかを確かめる研究施設で07年にフランスで建設が始まった。投入量の10倍のエネルギーを取り出す成果を目指す。当初は18年の完成を目指していたが、25年に切り替えた。しかし、25年の完成についても、新型コロナウイルスの感染拡大による作業の遅れや部品の不具合で遅延する可能性がここ数年報じられてきた。3日、ITERは部品の不具合などを理由に完成の遅れは8年になると発表した。仏紙によると、総事業費は遅延などを受けて250億ユーロ(4兆3000億円)近くに達する見通しだ。これまでの想定より50億ユーロほど増える。開発の遅れの背景には多国間協力の複雑さがある。ITERでは各国が担当している部品を製造し、「物納」してフランスで組み立てる方式をとる。今回、不具合があったのは核融合を起こす中心部である真空容器だ。真空容器の外側に取り付けられるサーマルシールドと呼ばれる熱を遮蔽する板の冷却用配管に亀裂が見つかったという。部品の製造を担った韓国が納入した時点で、設計との誤差があった。ITERは溶接で誤差を補えるとみていたが、フランスの規制当局は認めなかった。ほかにも真空容器の壁の素材を作業員の安全のために変更する方針で、組み立て作業をやり直す。バラバスキ機構長は3日の記者会見で「プロジェクト全体の遅れを最小限に抑える」と説明した。
●国際連携の象徴
 東西冷戦終結の前後に構想が固まったITERは国際宇宙ステーション(ISS)などと同様に、壮大な科学プロジェクトを国際連携で進める象徴だった。ITERには米国などと急速に関係が悪化する中国やロシアも参加しており、今後、協力が続くかは不透明な面もある。ITERの遅れは各国の核融合開発の戦略に影響を与える。ITERは当初50年代の核融合発電の実現を見据えたプロジェクトだったが、海外を中心に早期の実用化を見据えた動きが活発になっている。米国や中国は40年代に発電する炉の建設を目指している。中国は発電能力を備えた試験炉の建設にすでに着手している。米国はITERとは別の方式で核融合を起こす実験装置を国立研究所が持ち、22年に世界で初めて投入量を上回るエネルギーの「純増」に成功している。日本などはITERの成果をもとに原型炉を建設して、50年代の発電を目指してきた。今もITERとの協力を開発の中心に据えているものの、2国間協力にもかじを切り始めている。日米両政府は4月の首脳会談に合わせて、核融合に関する共同声明をまとめた。両国の企業や研究機関の人材の交流や研究施設の相互利用などを盛り込んだ。核融合施設に部品を納入する企業を中心に国が産業界と連携し、世界的なサプライチェーン(供給網)の構築を目指すことも盛り込まれた。日本は米国との協力強化に先立ち、23年12月にEUとも核融合の推進に関する声明を出している。米国や欧州など西側諸国との協力を強化することで実用化にこれ以上の遅れが生じないようにする狙いがある。

*1-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15920162.html (朝日新聞 2024年4月25日) 2040年、日本は新興国並み 半導体やバイオ投資、成長のカギ 経産省見通し
 「失われた30年」の状態が今後も続くと、2040年ごろに新興国に追いつかれ、海外より豊かでなくなる――。経済産業省が24日、こんな見通しを明らかにした。半導体やバイオ医薬品の開発などに思い切って投資しないと、国が貧しくなって技術の発展も遅れ、世界と勝負できなくなるおそれがあるという。今後の経済産業政策の指針とするため、経産省が課題や展望をまとめた。経産省は日本経済が停滞した理由として、企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたと指摘。このままでは賃金も伸び悩み、国内総生産(GDP)も成長しないとみる。今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある。停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要だとする。とくに半導体や蓄電池、再生可能エネルギー、バイオ産業への積極投資が成長のカギを握る。スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もあると指摘。それに伴って、所得を伸ばしてゆくという筋書きだ。経産省は「政府も一歩前に出て、大規模・長期・計画的に投資を行う」とし、具体策を検討する。岸田政権が6月にもとりまとめる「骨太の方針」に反映し、具体策を来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。これまでも経産省は半導体産業への巨額の支援を実行してきた。21~23年度は計約3・9兆円の予算を計上。今回示した見通しは、政策の正当性を主張し、今後も続けさせる目的もあるようだ。今月9日に開かれた財務省の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会では、経産省が主導する半導体支援などの産業政策について、「財政的に持続可能なものではない」などとの意見も出た。増田寛也分科会会長代理は「強力な財政的出動の効果は、厳密に検証しなければいけない」と話す。今後、経産省と財政再建をめざす財務省で綱引きがありそうだ。

*1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15958978.html (朝日新聞 2024年6月15日) オプジーボの先へ:下 「特許の壁」乗り越え、挑む海外展開
 小野薬品工業の売上高は、2014年にがん治療薬「オプジーボ」を発売してから、23年度までで3・7倍に伸びた。一方でその間、オプジーボによる二つの壁に直面した。ひとつは、価格が高いとの批判だ。いまは、さまざまながんの治療薬として認められているが、日本では当初、患者が少ない皮膚がんの一種(メラノーマ)の治療薬として売り出した。投じた研究開発費なども考慮して採算が取れるよう、国が決めた薬価は100ミリグラム約73万円だった。ところが、翌15年に患者が多い肺がんに使えるようになると、1人当たり年3500万円かかり、米英の2~5倍などとして批判にさらされた。「公的医療保険制度を崩壊させかねない」などとして、国は16年、当時は2年おきだった薬価改定を待たず、半額にする緊急値下げを決めた。その後も引き下げが続き、今は当初の5分の1だ。当時社長の相良暁は「自分の体を切られるぐらいのつらさがあった」。だが、こうも考えたという。「自分でコントロールできることと、できないことがある。コントロールできないことにいくら思い悩んでたって変わらない。だから、できることに専念する」。もうひとつは、共同研究をした京都大学特別教授の本庶佑との訴訟だ。本庶は18年、オプジーボにつながる研究でノーベル生理学・医学賞を受賞。その後の20年6月、契約通りの特許使用料を得られなかったなどとして、約262億円を払うよう小野薬品を訴えた。「対応を間違ったら、小野薬品のレピュテーション(評判)が悪くなってしまう。社員やその家族にも迷惑をかける」。相良はリスクを感じ、21年に和解に応じた。本庶に解決金などで50億円を支払い、若手の研究者を支援するための基金として230億円を京大に寄付することにした。だが、本庶と結んだ特許料の契約の内容を変えることには応じなかった。製薬会社に限らず、企業は大学などと組み、さまざまな研究や開発に取り組んでいる。成功すれば目立つが、失敗することも多い。企業はそのリスクを負って資金を出している。「研究が大きな成功につながったら、もともとの契約を変更して上乗せしてしまうと、産学連携に禍根を残すのではないか」。この裁判は自分たちだけの問題ではないと考えていた。この先に待ち構えるのは、製薬業界にはつきものの「特許の壁(パテントクリフ)」だ。オプジーボの特許は、国内では7年後の31年に切れる。ほかの薬の特許切れも迫り、価格の安い後発薬(ジェネリック)が出れば、会社の売り上げは大幅に落ち込む可能性がある。この4月に社長の座を滝野十一(56)に譲り、会長になったのは、オプジーボのその先を考えてのことだ。海外での経験が豊かな滝野とともに海外展開に本腰を入れる。手始めに米国のバイオ医薬品ベンチャーを約24億ドル(約3765億円)で買収することを決めた。2年後には自社開発したリンパ腫の薬を米国で売り出す計画だ。この会社が持つ欧米での販路を生かす。相良が社長に就く前後の2000年代、国内外で製薬会社の合併が相次いだ。「変わり者」の小野薬品にも声はかかったが、乗る気はなかった。17年に300年を迎えた会社の歴史の重みを感じ、「未来に引き継いでいかなあかん、名前をなくしちゃあかん」。思いは強い。人体の仕組みの解明や人工知能の高度化といった技術の進展で、薬の作り方は変わり続ける。「真のグローバルファーマになることに、真剣に本気になって取り組む」。特許の壁も乗り越え、自前で生き残るため、海外に挑む。=敬称略

*1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81874780V00C24A7MM8000 (日経新聞 2024.7.5) 抗生物質も脱中国 薬の安定供給へ国産化 明治や塩野義、政府が支援
 抗生物質の原料のほぼ全量を中国など国外に依存している状況を変えようと官民が国産化に動く。輸入が途切れれば十分な医療を受けるのが難しくなるためだ。政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を2024年度にも新たにつくる。抗生物質は抗菌薬ともいい、細菌や体内の寄生虫を殺したり、増えるのを抑えたりする薬。抗生物質がなければ細菌性感染症の治療や手術ができない。院内感染が増える恐れもある。世界保健機関(WHO)は各国に十分な量の抗生物質を確保するように呼びかけている。抗生物質の市場規模は400億~500億ドル(6.4兆~8兆円)とされる。WHOは「地球規模の公共財」と呼ぶ。抗生物質の最終製品は日本国内でも製造するが、原料物質である「原薬」はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在はほぼ全量を国外に依存する。手術などでよく使う「ベータラクタム系」の抗生物質の原薬はほぼ100%を中国から輸入する。19年には中国の工場の操業が停止した影響で、国内で抗生物質が品薄になり、手術を延期した例もあった。政府は22年、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に指定した。現在は複数のメーカーが国内で原薬製造の設備投資を進める。厚労省は明治ホールディングス系のMeiji Seikaファルマと、塩野義製薬系のシオノギファーマが率いる2つの事業を支援し、設備投資を2件合計で約550億円補助することを決めた。本格的な供給開始は25年度以降だが、現状では大規模なロットで効率生産する中国産には価格面で対抗できない可能性が高い。採算が合わないと判断したメーカーが再び撤退する恐れがあるため、厚労省は国産原薬が継続的に使われるための制度を整備する。具体的には原薬メーカーや供給先の製薬会社への補助や、国が製品を買い取る形で原薬メーカーに一定額を支払う制度などを検討する。抗生物質の原薬の輸入単価は5年間で数倍になり、安定供給へのニーズは高い。各国も確保に取り組んでいる。米国は23年、国防生産法を活用して重要な医薬品の国内生産に向けた投資拡大を表明した。英国は抗生物質の開発を促すため、メーカーに固定報酬を支払う「サブスクリプションモデル」を24年に本格導入した。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81579030R20C24A6CM0000 (日経新聞 2024年6月22日) 東大、授業料2割上げ提案、学長「教育改善待ったなし」 「進学機会に格差」の声も
 東京大の藤井輝夫学長は21日、学生との意見交換の場である「総長対話」を開き、授業料を2割上げる検討案を示した。世帯収入に応じた経済的支援の拡充も併せて検討中だとしたが、一部の学生や教員は「進学機会の格差拡大につながる」と反対している。20年間据え置いてきた授業料の値上げに踏み切れるのか。財務状況が厳しい地方国立大はトップ大の動向を注視している。「国からの運営費交付金が減る中、設備の老朽化や物価、光熱費、人件費の増大などに対応しなくてはならない」「教育環境の改善は待ったなしだ」。藤井学長は同日夜、オンラインで開催された総長対話で、画面越しに学生にこう訴えた。授業料収入はグローバル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に充てると説明した。文部科学省の省令は国立大の授業料の標準額を年53万5800円とし、最大で20%まで引き上げられると定めている。関係者によると、藤井学長が示した検討案は、現在標準額としている授業料を上限である年約10万円増の64万2960円とする内容。「経済的に困難な学生の支援を厚くするのは必須」とした上で、授業料全額免除の対象について、現在は世帯収入年400万円以下の学部生としているところ、同600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げることなども話したという。同600万~同900万円の学生についても、状況を勘案して一部免除とするとも述べた。導入時期については「学生の皆さんの意見も踏まえてさらに検討を進めたい」と明言しなかったという。値上げには賛否がある。ある東大教授は「充実した教育や研究には費用がかかる。現状では全く足りていない」と理解を示す。一方で学生や教員の一部は「格差の拡大につながる」「大学院への進学に影響を及ぼす」などと反対する。学生らは14日、国からの運営費交付金の増額などを求める要望書を文科省に提出した。総長対話に臨んだ学生も「値上げされれば、首都圏出身者が多いといった学生の偏りが助長されかねない」と主張。別の学生は経済支援について「状況を勘案するというが、支援が適用されるかどうか判別がつかない場合は進学を諦める層がいるのではないか」と疑問を投げかけた。約2時間続いた対話は値上げ反対の声が大半だった。教養学部学生自治会が5月下旬に実施した学生アンケートでは、回答した2000人超の学生のうち、9割が値上げに反対だった。東大の2021年度の調査で、学部生の保護者の世帯年収は1050万円超が4割を占めた。関東出身は55%と半数を超える。授業料が上がれば、地方の学生などのアクセスがますます困難になるとの懸念は根強い。地方国立大も東大の判断を固唾をのんで見守る。近畿地方のある国立大学長は「地方大は東大より厳しい経営環境にある。授業料を上げられるなら上げたい」と漏らす。一方で九州地方のある国立大幹部は「地方は都市部と比べて家庭の平均収入が低く、授業料を上げれば、門戸を狭めてしまう恐れがある。値上げを決めて『悪目立ちしたくない』という思いもあり、すぐには難しい」と複雑な胸の内を明かす。標準額からの引き上げは19年に東京工業大が初めて実施。同省によると、現在標準額を超える授業料を設定しているのは東京芸術大や一橋大、千葉大など計7大学で、すべて首都圏にある。この幹部は「京都大や大阪大、東北大などの旧帝大が追随するかどうかが、国立大に値上げの波が広がるポイントではないか」と予想する。国立大を取り巻く環境は厳しさを増している。物価高などで研究や教育のコストが高まる一方、基盤的経費である国からの運営費交付金は減少傾向にあるためだ。国立大学協会は7日、国立大の財務状況が「もう限界だ」とする声明を出し、運営費交付金の増額に向けた社会の後押しを求めた。同協会の永田恭介会長(筑波大学長)は「(20%の)上限までの引き上げについては、各大学の裁量に任せるほかない」としつつ国立大一律での値上げは難しいとの見解を示している。文科省幹部は標準額や上限の変更について「現時点では検討していない」と述べるにとどめた。

*1-5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA192VJ0Z10C24A7000000/ (日経新聞 2024年7月19日) 首相「国立公園35カ所の魅力を向上」 高級ホテル誘致へ
 岸田文雄首相は19日に首相官邸で開いた観光立国推進閣僚会議で、2031年までに全国に35カ所ある国立公園で、民間を活用した魅力の向上に取り組むと言及した。環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大につなげる。地方空港の就航拡大に向け週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示した。「秋に予定する経済対策を念頭に取り組みを加速してほしい」と述べた。首相はインバウンド(訪日客)について「2024年は過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る勢いだ」と明らかにした。政府は30年に訪日客数6000万人、消費額15兆円の目標を掲げる。首相は、地方への誘客促進と、訪日客の急増に対応するオーバーツーリズム対策に重点的に取り組む方針を示した。地方の空港では航空便の燃料不足により新規の就航や増便ができない問題が表面化している。オーバーツーリズム対策として、観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島(香川県)や高山(岐阜県)、那覇(沖縄県)など6つの地域を加えると表明した。成果を踏まえ対策の参考となる指針を年内にまとめるよう求めた。日本政府観光局(JNTO)が19日に発表した訪日客数によると1〜6月は1777万人ほどで、同期として過去最高だった19年の1663万人ほどを上回った。

*1-5-2:https://www.jiji.com/jc/v4?id=swiss14070005 (時事 2024年7月21日) イノベーション立国スイス~山と湖とハイテクと~
●伝統の観光地にも革新
 日本とスイスは2014年、国交樹立150周年を迎えた。幕末に日・スイス通商条約を締結して以来の関係だが、観光面での結び付きの強さで知られる。アルプス有数の観光列車ユングフラウ鉄道は利用客数で日本人は年間10万人以上と1、2位を争う。ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3454メートルに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅として、「欧州の頂上」と呼ばれる。ふもとのクライネシャイデック駅から、登山者に難攻不落と恐れられた断崖絶壁の「アイガー北壁」を眺めたり、山の中を繰り抜いたトンネルを通過したりしながら、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登っていくが、空気が薄くなり徐々に息苦しくなる。3000メートルを越えた辺りからは、頭がぼんやりし、めまいも覚える。隣に座っていた男性の「酸素を多めに取り込んだ方がいいですよ」とのアドバイスに従い、深呼吸を繰り返すと少し楽になった。ほうほうの体で頂上駅に到着すると、頂上には晴れ間が広がり、雪に覆われた峰々の間に形成された欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできた。 頂上駅には、日・スイスの友好関係の象徴として、富士山五合目簡易郵便局から寄贈された日本の赤い郵便ポストが置かれ、公式のポストとして現役という。1912年にユングフラウ鉄道が開通した伝統観光地にも競争力を維持するために「革新」が求められているという。同鉄道マーケティング担当者のシュテファン・フィスターさんは「新しい要素があれば、再訪してもらう理由になる」とリピーター開拓の必要性を訴える。鉄道工事の様子などを再現したアトラクション施設を開設したり、急増するインド人観光客に合わせてインド料理レストランをオープンしたりと営業努力に余念がない。さらに、日帰り観光を望むアジアからの観光客のニーズを見据え、「開業以来の100年で最大のイノベーション」という、観光拠点グリンデルワルトから頂上までの所要時間87分を45分に大幅短縮するロープウェー建設の計画も進んでいる。

*1-5-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOLM120N70S2A211C2000000/ (日経新聞 2023年1月12日) スイスの人気観光地 アルプス最古の集落で驚きの歴史
 1865年、英国人のエドワード・ウィンパーが、ヨーロッパのアルプスを象徴するマッターホルンを制覇した。標高4478メートル、独特な形状を持つ険しい頂きは、スイス南部でイタリア国境に接するヴァレー州ツェルマットの背後にそびえている。マッターホルン登頂という画期的な成功によって、ヨーロッパ全域で登山が盛んになった。ただ、その快挙も、このスイスの村にとっては長い歴史の1ページにすぎない。「クルトゥーアヴェーゲ」(文化の道)と名づけられた新しいハイキングトレイルでは、この名高いリゾートの"別の顔"に出会うことができる。このトレイルの整備は10年計画で進められており、今後6年間で、6つの集落を通るおよそ20キロメートルのルートがつながる予定だ。かつてツェルマットの農村地帯に欠かせなかった、牧歌的な牧草地にたたずむ数百年前のカラマツ材の納屋は、トレイルの見どころになっている。「ツェルマットは、毎年、何百万人もの旅行者でにぎわいますが、町の中心から15分ほど歩けば、500年前の暮らしに触れることができます」。ヴァレー州のツム・ゼーを目指して歩きながら、トレイルの共同設立者である民俗学者のヴェルナー・ベルワルド氏は話す。現在、トレイルの5つの区間のうち2つの区間がハイカーに開放されている。ツム・ゼーは、この開放された区間にあり、居住者がほとんどいない集落のひとつだ。世界屈指のスキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年の間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園だった。納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されており、人々がこの地方特有の気候を生き抜くために不可欠な建物だった。この地方はアルプスを越える主要な塩の交易路の中継地点であったにもかかわらず、中世後期(1300~1500年ごろ)の生活を記録した文書はほとんど残っていない。名高いマッターホルンの山頂からわずか10キロメートル弱の地点にある、トレイルの設立者たちは、科学技術と数世代にわたる地元の知識を駆使して、この歴史の空白を埋めようと取り組んでいる。
●ツェルマットの昔に思いをはせる
 クルトゥーアヴェーゲとして案内標識のある最初のトレイルが開通したのは2019年だった。ツェルマットの中心部からツムットまで標高差約300メートルを登る、距離にして3.2キロメートル強の道のりだ。その途中には、注目スポットとして説明看板が設置された14の「ステーション」が設けられている。そのひとつは、数百年前の羊小屋で、この地方の方言では家畜小屋を意味する「ガディ」と呼ばれている。岩壁の張り出し部分にへばりつくように建つカラマツ材の納屋には、複数の中世の住宅の梁(はり)と窓が再利用されている。中間地点の雑木林を抜けると、石が積まれた場所がある。これは、古い牛小屋の跡だ。トレイルで最もぞっとするようなコース(現在は安全のためロープが張られている)の最後にあるのは、オオヤマネコを捕獲するために作られた250年前の石造りのわなだ。ツェルマット地域では、2つしか発見されていない。2021年に開通したクルトゥーアヴェーゲの第2区間は、登山道というより、のんびりとした村の散策路に近い。このトレイルは、1300~1600年ごろに建てられたツムットの家畜小屋、住居、納屋(きのこ型の支柱がある穀物用の納屋)の間を縫うように続いている。ある家畜小屋は、ツェルマットの農業社会を支えた女性たちに関する展示スペースに転用されている。地元在住のオトマール・ペレン氏が監督した展示では、昔の写真に、ヴァレー州の主要穀物であるライ麦の束や牛の飼料などを「ツチフラ」と呼ばれる籐(トウ)で編んだ背負いかごで運ぶ女性の姿がある。「ツェルマットの人々は、1950年代まで穀物と牛で生計を立てていました」と、トレイルの創案者であるルネ・バイナー氏は話す。彼は、地元の歴史協会である「アルツ・ツェルマット協会」の会長で、ツェルマットの発足に関わった旧家の子孫でもある。
●ほぼ自給自足の暮らしだった集落
 2023年夏に開通予定の第3区間では、ハイカーは4つの集落(フーリ、フレッシェン、ツム・ゼー、ブラッテン)を通る4.8キロメートルの道を下り、ツェルマットの起源となった土地を歩くことができる。まとめてアロレイトと称されるこうした集落は、独立を放棄して、ウィンクルマッテン、ツムット、イム・ホフ(今日のツェルマットの旧市街)に加わった。1791年、これらの集落は、古い方言で「牧草地のそば、または上」を意味する「Zer Matt(ツェル・マット)」というひとつの共同体に統合された。1891年にフィスプ~ツェルマット間の鉄道が通るまで、ツェルマットの集落は、ほぼ自給自足で暮らしていた。だが、この鉄道によって観光業が盛んになると、納屋の多くが放棄された。拡大する氷河を避けるため「レゴのように」解体された納屋もあったことを、フレッシェン近くの家畜小屋を調査している際に、ベルワルド氏が話してくれた。この家畜小屋には、近くのイム・ボーデンにあった住居の資材が再利用されている、とトレイル整備チームは確信している。イム・ボーデンは、14~19世紀のヨーロッパの小氷河期に、ゴルナー氷河に飲みこまれてしまった集落だ。この区間の最後は、香り高い松林を歩き、20世紀初頭のティーハウスに到着する。教師の職を引退後にアマチュア歴史家に転向したクラウス・ユーレン氏によれば、このティーハウスは英国人観光客向けに建てられた多くの店のひとつだという。女性たちが経営するこうした店は、1927年までツェルマット観光のピークシーズンだった夏に、土産物や軽食、高山植物の花束などを販売し、ツェルマットの山岳高級レストランの先駆けとなった。
●「ヨーロッパ最古」の納屋を発見
 クルトゥーアヴェーゲの実現には、科学が重要な役割を果たしてきた。バイナー氏は長い間、ツェルマットの集落は納屋や住居に刻まれた年代よりも古い、と推測していた。だが、それを証明するには、動かぬ証拠が必要だ。そこで、"樹木の探偵"、マルティン・シュミッドハルター氏の助けを借りた。年輪年代学者のシュミッドハルター氏は、スイスアルプスの非常に辺ぴな集落で、木造建造物が建設された年代を特定する調査に20年間携わってきた。「通常、樹木は冬に伐採し、翌年の夏に家屋の建設に使用します」と、シュミッドハルター氏は説明する。シュミッドハルター氏は、2012年からクルトゥーアヴェーゲの現場調査を本格的に開始した。現在のツェルマット~ツムット間のトレイルにある複数の建物から、鉛筆ほどの木材サンプルを採取し、分析作業に取りかかった。顕微鏡下で木材の年輪を算出したデータに対してコンピュータープログラムを実行すると、心電図に似たグラフが大量に出力される。これらの結果から、樹木の誕生と死の時期を特定できる。この調査では、2つの驚くべき発見がもたらされた。まず、ツェルマットの町を見下ろす見晴らしのよい高原に残る納屋が、700年以上前のヨーロッパ最古の納屋であることが、2019年に判明した。クルトゥーアヴェーゲ最初のトレイルにあるヘルブリッグ・シュターデルという納屋のデータから、この集落の誕生は1261年にさかのぼると確認されたのだ。ヨーロッパの年輪年代学の研究者たちは、「ツムットはアルプス最古の集落である」というシュミッドハルター氏の2つ目の主張にも同意した。それまでは、同じヴァレー州にあるゴムス谷のミュンスターがアルプス最古の集落とされていた。第3区間は完成間近で、あと2つの区間の整備が残っている。このため、クルトゥーアヴェーゲ沿いでは、もっと多くの発見が期待される。地域の歴史がさらに明らかになる可能性が、トレイルの設立者たちを後押ししている。「まだ、すべてが解明されたわけではありません」とベルワルド氏は話す。「だからこそ、興味津々なのです」

*1-5-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS7M2VZ9S7MUZOB004M.html (朝日新聞 2024年7月21日) 富士山と五重塔の名所、大混雑で入場料徴収も? 観光公害で市が検討
 富士山のふもとの観光地でオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化している。富士山を隠す黒い幕が設置された山梨県富士河口湖町だけでなく、隣接する富士吉田市でもマナー悪化の問題に直面し、人気スポットの有料化などの対策が検討されている。連日、多くの外国人観光客が詰めかける市中心部の「本町通り」(国道139号)。両脇に延びるレトロな商店街と、その先の富士山を写真に収められることで人気の「映えスポット」だ。だが、本町通りは片側1車線。周辺の路地では、団体客を降ろすワゴン車が頻繁に一時停止し、車の通行を妨げていた。通りの商店からは「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」との苦情も出ていた。
●訪日客急増、市街地のほかの場所でも問題に
 そこで市は6月1日、通りに面した土地に有料駐車場をオープンした。事業費は1億8千万円。敷地内にトイレも設け、車の乗降場所としても周知を図る。コロナ禍を経て急増した外国人観光客によって市内は活気づく一方、市街地のほかの場所でも駐車場やトイレの不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入りなど、観光客のマナーの悪さが問題となっている。市は5月下旬に会議を開き、課題を洗い出して対策を講じることを確認した。中でも対応が急がれているのが、新倉山浅間公園だ。園内のデッキからは富士山を背に「五重塔」と呼ばれる園内の忠霊塔が一緒に撮影でき、桜の名所としても人気だ。ここで訪日客が急増している。市によると、コロナ禍前の2019年度の入園者は約54万人だったが、23年度は約2・4倍の約130万人となった。園内のトイレはごみやペーパーで便器が詰まる被害が頻発し、ペットボトルのポイ捨ても散見された。市の担当者は「当面は観光客の流れを抑制し、清掃やごみ処理をさらに徹底しなければならない」と指摘する。
●混雑緩和へ、公園とデッキつなぐ乗り物も検討
 そこで浮上するのが、公園で入場料を徴収する構想だ。市幹部は「強制ではなく任意の『協力金』という形も考えられる。いずれにしても前向きに検討したい」と明かす。園内のデッキにつながる398段の階段が混雑し、高齢者や障害者がたどり着くのが困難だったとの声も上がっている。市は、観光客をデッキに誘導する乗り物を新設して混雑緩和を目指す検討も始めた。現在、エレベーター、エスカレーター、スロープカーの3種類が候補に挙がっている。小林登・経済環境部長は「観光客と市民の共存を第一に考えたい。実現したいが、市民に負担をかけるのは避けたい」とし、財源や効果を考慮して判断する。

*1-5-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA216960R20C24A6000000/ (日経新聞 2024年7月17日) 訪日客向け二重価格、関西自治体が検討 納得感カギに
 地方自治体でインバウンド(訪日外国人)旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」を検討する動きが広がってきた。観光資源を維持するための財源を確保する狙いがある。実際に導入する場合は本人確認に手間やコストがかかる課題がある。外国人を歓迎していないとも受け取られかねないため、丁寧な制度設計が欠かせない。「市民と外国から訪れる人と2種類の料金設定があっていいのではないか」。兵庫県姫路市の清元秀泰市長は6月中旬、世界遺産で国宝の姫路城(姫路市)の外国人入場料を引き上げる案に言及した。外国人を30ドル(約4760円)、市民を5ドルにする構想を披露した。現在の18歳以上の入場料は国籍問わず千円で、いまの為替水準なら外国人は4倍超になる計算だ。清元市長は文化財として保護していくための費用に充てる必要性を指摘する。これを受けて大阪市の横山英幸市長も記者団に「有効な手の一つだ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向きな考えを示した。京都市の松井孝治市長は地元住民の公共交通料金を観光客より低くするという市民優先価格の導入を公約に掲げて当選した。国籍によって区別する二重価格については「差別する合理性がどこまであるのか」と疑問を呈する。海外では二重価格を採用している国も多い。たとえばエジプトのピラミッドは地元やアラブ諸国の観光客と、そのほかの観光客の価格差は9倍だ。インドやネパールでも導入されている。二重価格以外でも、対策の財源を確保しようとする動きがある。大阪府の吉村洋文知事は府内を訪れる訪日客から数百円程度を徴収する制度を導入する意向を示す。二重価格や外国人から別途お金を徴収する制度には課題がある。一つは外国人に与える印象や不公平さの問題だ。日本人と差をつければ訪日客を歓迎していないと受け取られる可能性がある。横山市長は「2025年に万博があるから、海外の方に後ろ向きにとられないメッセージの出し方をしなければいけない」と語る。博覧会国際事務局(BIE、本部パリ)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長は4月に来日した際、大阪府が検討する徴収金について「潜在的な来場者は歓迎されていないと感じる」と懸念を示した。府が設置した有識者会議でも「なぜ外国人のみに負担を求めるのか、租税条約や(法の下の平等を定めた)憲法14条を踏まえて整理してほしい」との声が出た。負担を重くすればネガティブに受け止められて訪日客増加の流れに水を差す可能性もある。今は円安を背景に日本で割安に消費できることが訪日客の増加につながっている面があるが、円高に振れれば訪日客の負担感は重くなる。運用面のハードルもある。二重価格を導入する場合、日本に住む外国人と訪日客を見分ける仕組みが欠かせない。人員の負担が増えたり、新たなシステムを導入したりする必要も出てくる。観光産業では足元の人手不足が深刻で、追加で人員を雇うのは容易ではない。立教大学の西川亮准教授は「導入する場合は外国人を差別しているように受け止められ、日本の良さが伝わらなくなってしまうのは避けなければいけない」と指摘する。「『日本文化を知ってもらうためのガイドツアーを提供する』とか『普段公開していないエリアを見ることができる』など、体験の質を上げるために価格に差があるという説明がきちんとできるかどうかが重要だ」と指摘する。

<日本の農業と食料安全保障>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81345960S4A610C2EP0000 (日経新聞 2024.6.13) 農業基本計画、年度内に改定 政府、価格転嫁へ法制化も
 政府は12日、「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の会合を首相官邸で開いた。今後の農政の中長期の指針となる「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内の改定、食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めた。岸田文雄首相は価格転嫁に加えて、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直し、森林組合や伐採業者といった林業経営体の集約の促進について、それぞれ25年の通常国会で法制化を目指すよう指示した。基本計画は改定に向けて今夏にも議論を始める。従来の計画では自給率の目標のみを掲げていた。改正食料・農業・農村基本法が5月に成立したのを受け、自給率に加えて目標に据える「その他の食料安全保障の確保に関する事項」の具体案を検討する。価格転嫁を巡っては、生産者や加工業者、小売業者間での価格交渉をしやすくするため、価格に占める肥料や燃料、輸送費などサプライチェーン(供給網)全体のコスト構造を整理し、費用が上がった場合に交渉を促すような仕組みを想定している。政府は今後の農林水産業の政策の全体像を示した。今国会での成立を目指す「食料供給困難事態対策法案」について、食料供給が困難な事態の定義などを定める基本指針を25年中に策定することも盛り込んだ。

*2-1-2:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/244147 (日本農業新聞 2024年7月8日) [論点]東京都知事選に思う 国の政策論議とは別物 法政大学教授 山口二郎
 本稿の執筆時点で、東京都知事選挙の選挙戦は終盤を迎えている。自治体の首長の選挙なので、東京の税金をいかにして東京都民の福祉のために使うかが政策のテーマである。それはあまりにも当然のことなのだが、豊かな大都市で住民のためのサービスを競うという形の政策論議に、これからの国全体の政策論争が引きずられることには、危うさを感じる。
●特殊な東京の事情
 東京都における出生率が1を割り、子育て支援、少子化対策が大きな争点の一つになっている。もちろん、これらの政策を拡充することは必要だが、東京の出生率が他の地域より低いのは当然である。住宅費が極めて高い東京で、たくさんの子どもを育てるための広い家を持つことは、普通の人には無理である。人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ、無意味である。東京に住みたい人の自由は尊重するが、雇用機会のためにやむを得ず東京に集まる若い人々に対し、生活環境の良い地方で働き、家族を形成するという選択肢を提供することが必要となる。もう一つ気になることがある。有力な候補者の政策が、平穏無事な自然環境と経済状況を前提としていることである。都知事候補者に農業や食料のことを考えろというのは、ないものねだりである。それにしても、水、食料、エネルギーという人間の生存に不可欠な資源はお金さえ出せばいつでも必要なだけ買えるという前提がこれからも続くと楽観すべきではない。日本がシンガポールのような都市国家であれば、都知事選挙の政策論争はそのまま国政のそれに重なるだろう。しかし、日本は大都市だけでなく、山地、農地、離島などを抱えた多様な国土を持っており、さまざまな職業を持つ人が各地に定住して、社会を構成している。それが日本という国の魅力でもある。
●〝土台〟を守るには
 従って、国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるはずである。今の日本は、高度成長期以来積み上げたさまざまな貯金を食いつぶし、衰弱の局面に入っている。最近の円安はその象徴である。食料とエネルギーの海外依存を続ければ、富の国外流出も大きくなる。これらを自給する体制を立て直すことと、地域における雇用機会の創出、人口再生力の回復は、一体の課題である。国政では、岸田文雄政権が迷走を続け、自民党内からも退陣を求める声が出てきて、政局は混迷を深めている。岸田氏あるいは次の首相の下で、遠からず解散、総選挙が行われるに違いない。その時には、国の形のグランドデザインを問う論争が必要である。日本に残された時間は、そう長くない。

*2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81826740T00C24A7KE8000 (日経新聞 2024.7.4) 食料安全保障の論点(中) コメの工業利用で生産守れ、三石誠司・宮城大学教授(60年生まれ。神戸大博士(経営学)。専門は経営戦略、アグリビジネス経営。宮城大副学長)
<ポイント>
○国内農業は従事者減で持続可能性が課題
○米国などは穀物をエタノール原料に活用
○コメの食用以外の用途開拓し官民支援を
 肥料・飼料や生産資材の高騰で、食料安全保障への関心が高まっている。その確保を理念に位置づけた改正食料・農業・農村基本法も5月に成立したが、取り組みが問われるのはこれからだ。そこで食料安全保障をめぐる国内外の状況を俯瞰(ふかん)してみたい。食料安全保障は通常「フードセキュリティー」と訳されるが、厳密には同じではない。国際社会におけるフードセキュリティー概念は、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づく。17のゴールを定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール2「飢餓をゼロに」に、フードセキュリティーが含まれている。具体的には第1に飢餓を終わらせること、第2に食料安全保障の達成と栄養状態の改善、第3が持続可能な農業の促進――である。これら3つが達成された場合に想定される成果として、世界食糧計画(WFP)が定めた内容は4つある。(1)全ての人々が食料を得られ(2)誰も栄養不良に苦しまず(3)小規模農家が生産性と所得向上により食料安全保障と栄養状態を改善し(4)フードシステムが持続可能であること――である。これは1996年の世界食糧サミットで、フードセキュリティー成立のための4要件(食料の入手可能性・アクセス・活用・安定性)として示されていたものを精緻化している。この目標の達成に向けた対策の対象となるのは、通常なら途上国、それも食料の供給不安が高い国や、自国だけでは食料調達に困難を生じる国、栄養不良人口が多い国などである。当該国政府と協力しながら、国際機関・国際社会がどう支援するかが中心となる。したがって、世界の多くの国は日本にフードセキュリティーの問題など存在しないと認識しているのが現実であろう。しかし、決してそのようなことはない。途上国とは異なる、日本のような先進国型のフードセキュリティーについて議論することも重要である。さて、日本にとっての食料安全保障とは「日本人が必要とする食料の安定供給を確保すること」だ。改正前の基本法では「将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」(第2条)と定められていた。今回の改正により、この部分は「将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう)の確保が図られなければならない」という形に修正されている。食料に限らず世界的に、安全保障の概念自体が国家から個人レベルに拡大していることを受けたものだ。さらに改正基本法では、輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格の形成、環境と調和のとれた食料システムの確立などが新たに追加されている。また多面的機能の発揮では「環境への負荷の低減」を追加。農業の持続的な発展および農村の振興は「農村の人口の減少その他の農村をめぐる情勢の変化」や「地域社会の維持」を踏まえた形に修正されている。全体として、1999年制定の旧基本法の構成を維持しつつ、その後の四半世紀の環境変化を反映した表現が各所で追加された形と理解してよいだろう。食料安全保障をめぐる物理的・社会的・心理的環境は各国で異なり、一律の物差しでの判断は難しい。それでも、栄養不良人口の増減などの大きな変化を見ながら、一定の流れをとらえることは可能である。日本における切り口のひとつは、産業別就業者数の推移が示している。1951年当時、全就業者数の46%が第1次産業に従事していた。これが2022年にはわずか3%へと減少。今や日本は完全に第3次産業中心の国になった。過去70年以上の間に、全体の就業者数が1.9倍に増加し、第1次産業従事者は8分の1に減少したにもかかわらず、餓死者や栄養不良人口は途上国と比較すれば極めて少ない。必要な食料は国内関連分野の生産性向上と、購買力を背景とした輸入により調達してきた。これは、先述したWFPの(1)~(3)に相当する。問題は(4)の持続可能性である。総人口約1億2500万人で食料自給率が38%(22年度)なら、単純計算で4750万人分の食料を自給できる。1次産業従事者が205万人なので、生産者1人で23人の人口を支える構図だ。圧倒的少数の生産者と大量輸入で、今後の食料安全保障は確保されるのか。これこそが目を背けてはいけない点である。ウクライナ危機以降、これまでの食料システムを支えてきた暗黙の前提が顕在化した。それは「世界が安定し、貿易に支障がない限り」である。人々は何となく意識していたが、ようやく国内生産の本当の重要性を肌で感じ始めている。日本の場合、食料安全保障上の最大の問題となる農作物はコメである。減少を続けるコメの国内生産を守るために取り得る選択肢は「流れに任せる」か「個別対応を積み重ねる」か、「少し異なる視点からコメを捉えなおす」かである。現状は個別対応の積み重ねだ。国・地方自治体・民間企業・JA・地域共同体などが、生産を守るために苦労して対応しているのが実情であろう。しかし農家の高齢化が進む一方、新たな就農者も増えていない。こうした現実も直視すべきである。流れを変えるには一定の仕掛けが必要だ。一案だが、コメの国内生産を守るために食用以外の用途をもう一度、真剣に考えてみたらどうか。工業用原料としてのコメ、より具体的にはエタノール原料としての可能性である。例えば米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している。かつて米国のトウモロコシは需要の9割が国内飼料用であったが、現在は需要の約半分が工業用需要、その8割がエタノール需要である。米国もブラジルも、自分たちの土地に最適な作物を作り、食用以外にも徹底活用している。これに対して日本では、まだコメの活用は食用と飼料用中心である。日本では年間700万トン以上のコメを生産可能だ。食用に限らず、工業用利用を徹底的に検討した方がよい。道が開ければ、インフラとしての水田を生かして農家は思い切りコメを作り、国内需要に振り向けられる。それを官民あげて支援することが、国内で完結した食料安全保障の確保につながる。バイオエタノールに限らず、コメを原材料としたバイオマスプラスチックなど、新産業の構築までを視野に入れて工業利用を検討すべきである。それができて日本はコメの潜在力をすべて活用したことになる。
改正基本法は輸出による食料供給能力の維持を掲げる。しかし輸出はあくまで有利な価格の時や「パック米」など付加価値を付けた製品を中心とすべきであり、安値での原材料輸出競争に自ら参入する必要などないといえる。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81854730U4A700C2KE8000 (日経新聞 2024.7.5) 食料安全保障の論点(下) 農地規制撤廃で効率向上へ、本間正義・アジア成長研究所特別教授(51年生まれ。アイオワ州立大博士。専門は農業経済学。東大名誉教授)
<ポイント>
○食料自給率向上、目的化なら国民負担増
○農地法の所有規制は長期的投資の妨げに
○輸入確保へ自由貿易や平和維持に努力を
 ウクライナ戦争や中東紛争で地政学的な不安定さが増すなか、食料安全保障への関心が高まっている。5月に改正された食料・農業・農村基本法も食料安全保障を前面に押し出した。改正法では、食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人が入手できる状態」と定義している。これは国連食糧農業機関(FAO)の定義に沿ったものだ。FAOが言う食料安全保障は食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、さらには食料の利用・摂取にいたるまで、マクロからミクロに及ぶ食料のサプライチェーン(供給網)のすべてが確保されることだ。したがって、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障がおびやかされるのかを分析しなければならない。現在の日本の食料安全保障体制に対する国際的な評価は悪くない。英エコノミスト誌の関連組織であるEconomist Impactが、世界113カ国を対象に世界食料安全保障指数(GFSI)を公表している。「手頃な価格」「入手可能性」「品質と安全性」「持続可能性と適応」という4つのカテゴリーで、68項目の要因に基づいて計測したものだ。日本はこの指数で113カ国中の第6位(2022年)。図1に12~22年の指数の推移を中国・韓国との比較で示したが、一貫して日本が上位にある。国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきた。だが本来、自給率は食料安全保障への評価を表すものではない。食料自給率は、市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果だ。消費者に選ばれた国産品の割合が、現在の38%という自給率だ。これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う。国家の安全保障で軍備拡張を基本とすれば、防衛費が増えて国民生活が犠牲となることに似ている。国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しい。食料自給率の向上が目的化し、豊かさが犠牲になるのでは本末転倒だ。従来の基本法では、約5年ごとに農政の指針を示す食料・農業・農村基本計画で、食料自給率の目標を設定していた。改正基本法でも自給率が目標の中心であることに変わりはない。しかし食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきではない。一方で、平時とは異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要だ。改正基本法に合わせて6月に成立した「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定し、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者にも増産を求める。しかし、それだけで不測時に対応できる体制になるとはいいがたい。そもそも食料の安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーをはじめとする国家安全保障の一環として、総合的な法体系の中で議論すべき問題だ。有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保だが、農業を担う労働力の減少と高齢化が著しい。図2に示すように、2000年に240万人いた基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)は、23年に116万人まで減少した。数だけでなく、その中身が問題だ。75歳以上の割合は2000年では13%だったが、23年には36%を占める。65歳以上では70%を超える。一方、50歳未満の従事者は11%でしかない。また新規就農者は22年で4万6千人ほどいるが、多くが定年帰農などの高齢者であり、50歳未満は1万7千人に満たない。なかでも土地や資金を独自に調達して営農を始めた新規参入者は全体で4千人以下だ。農業労働力の弱体化は労働生産性の向上を遅らせ、他産業との格差を拡大する。農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性は、22年で58万3千円にとどまる。農業労働人口が急速に減少しているにもかかわらず、20年の61万8千円と比べても低下した(23年度「食料・農業・農村白書」)。農業従事者の減少と高齢化は、農地の荒廃につながる。22年で約430万ヘクタールある耕地面積の利用率は91%で、1割近い農地が利用されていない。日本農業の持続的発展のためには、農地の維持・保全と効率的利用は最優先すべき課題だ。高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されているといわれ、100ヘクタールを超える規模の経営も珍しくない。しかし、その多くは分散した農地を合わせての100ヘクタールだ。また多くが借地であり、区画整理など、自由に基盤整備を行えるわけではない。農地の効率的利用を妨げているのが農地法だ。農地を耕作する農業者か、一定の要件を満たした法人(農地所有適格法人)でなければ農地を取得できない。賃借は可能だが、一般の株式会社は農地が取得できず、基盤整備などの長期投資が困難になっている。原則耕作する人しか農地を所有できないということは、例えれば、サッカー競技場の所有権がそこでプレーするサッカー選手にしかないのと同じだ。このような規制は撤廃し、経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべきだ。農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件だ。農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づけるなどの新たな制度が必要だ。現在、日本の食卓は多彩で、それを支えるのは国内生産と輸入だ。質の高い国内農産物と、世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障だ。肥料や飼料など、多くの生産資材も輸入に依存する。国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱だ。国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる。かつて、シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている。最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる。

*2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1086Y0Q4A610C2000000/ (日経新聞 2024.6.12)武蔵野銀行、新入行員が田植え 生産者目線で課題を理解
武蔵野銀行はこのほど、さいたま市内の田んぼで新入行員による田植えを実施した。農業は埼玉県経済の柱の一つで、同行は農業関連の融資も手掛けている。自ら田んぼに入って農業の苦労や楽しさを知ることで、顧客の目線に立ったきめ細やかな課題解決策を提案できる可能性がある。
新入行員96名が6日、同行の武蔵野銀行アグリイノベーションファーム(さいたま市)で田植えを行った。田んぼに足を取られながらもペアで協力し、1苗ずつ丁寧に植えていった。長堀和正頭取も田植えの作業に汗を流した。同行は新たな産業の創造、高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦、23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる。田んぼの面積を昨年比約3倍の9500平方メートルに増やし、そのうち約2割を新入行員が田植えした。残りは実証実験としてドローンで種まきをした。収穫量は合計で3700キログラムを見込み、販売も行う予定だ。人材育成も体験の目的の一つ。長堀頭取は「農業の大変さを身をもって体験することで、担い手不足などの課題にも当事者意識を持って向き合える。今後携わる仕事にも役立つ」と期待を込める。実地で知った課題を地域経済の活性化に結びつける。

*2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81837430T00C24A7TB1000 (日経新聞 2024.7.4) ふるさと納税新方針で波紋 さとふる、楽天で賛否割れる 仲介サイトでポイント付与禁止
 ふるさと納税の仲介サイトでポイント付与を禁止する総務省の方針について、サイト運営大手のさとふる(東京・中央)など2社は日本経済新聞の取材で賛成する方針を示した。競合の楽天グループはすでに反対意見を表明しており、大手の反応が分かれた格好だ。消費者の関心が高いふるさと納税を巡る制度変更に事業者が揺れている。仲介サイトは多くの自治体の情報をまとめて載せ、希望する返礼品を手軽に探せる手段として定着している。ポイントがつく点も人気の理由だ。だが、総務省は6月25日、ポイントを付与する仲介サイトを通じ、自治体がふるさと納税を募ることを2025年10月から禁止すると発表した。いち早く反応したのが楽天Gだ。6月28日、仲介サイト「楽天ふるさと納税」上に方針撤回を求める声明を出し、賛同者を集めるオンライン署名も始めた。三木谷浩史会長兼社長はX(旧ツイッター)に「地方に恩返しという思いをぶっ潰そうとしている。断固反対する」と投稿した。ほかの大手に聞き取り取材したところ、さとふるは「今後の健全な発展につながる整備と考えている」と賛成する意向を示した。「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京・品川)はポイント付与を終了しており、制度変更にも賛成した。「ふるなび」を運営するアイモバイルは賛否を明らかにしなかった。総務省が制度変更を決めたのは、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっているとみるためだ。松本剛明総務相は7月2日の記者会見で「ポイント付与による競争が過熱している。ふるさと納税の本旨にかなった適正化をめざす」と理解を求めた。同手数料は寄付額の1割前後とされる。総務省によると、22年度は全国で4517億円の経費がかかり、寄付額に占める割合は47%に達する。ポイント付与を禁じ、自治体に残る寄付額を増やす狙いがある。一方、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張した。お金に色をつけることは難しく、原資に関する双方の言い分は平行線をたどる様相を強めている。ふるさと納税は地域活性化などを目的に08年度に始まった。名称は「納税」だが、税制上は寄付として扱う。22年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新し、08~22年度の累計では約4兆3000億円に上る。楽天Gなどは成長領域とみて経営資源を注いできた。ポイント還元による集客ができなくなれば、サイトの利便性向上や掲載情報の充実など、別の付加価値を競う必要性が高まる。さとふるは手続きの簡素化や配送体制強化を検討している。

*2-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1287476 (佐賀新聞 2024/7/25) ふるさと納税、初の1兆円超え、利用者、過去最多1千万人規模に
 ふるさと納税制度による寄付総額が2023年度に初めて1兆円を超えたことが25日、分かった。寄付で居住自治体の住民税が軽減される。利用者も増加し、過去最多の1千万人規模に達する見通し。返礼品の品目充実や、仲介サイトによる特典ポイントが寄付を後押しする形となっている。物価高騰下の節約志向も追い風となった。総務省が来週にも自治体別の寄付額を含めて集計を公表する。特典ポイントに関して総務省は「本来の趣旨とずれ、過熱している」と指摘。来年10月からポイントを付与する仲介サイトの利用を自治体に禁じる方針で、寄付の動向に影響する可能性もある。返礼品は和牛や海産物、果物などが人気で、自治体も寄付獲得を目指して品目を拡充している。仲介サイトの運営業者によると、物価高が続く中、近年は日用品を選ぶ利用者も増えている。ふるさと納税制度が始まった08年度の寄付総額は81億円だったが、寄付上限の引き上げなどで人気が集まり、18年度に5千億円を突破。返礼品を「寄付額の30%以下の地場産品」に規制した影響で一時減少したが、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要もあって再び増加に転じ、22年度は9654億円だった。一方、総務省は自治体間の過度な競争を抑止する見直しを重ねており、23年度は年度途中で返礼品の調達や経費に関するルールを厳格化した。ふるさと納税は、自治体を選んで寄付すると、上限内であれば寄付額から2千円を差し引いた分、住民税と所得税が軽減される。都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向にあり、不満が出ている。
*ふるさと納税 生まれ故郷など地方を活性化するため2008年度に始まった。自己負担分の2千円を除いた額が住民税、所得税から差し引かれる。控除額には上限があり、所得や世帯構成などに応じて変わる。豪華な返礼品を呼び水とした自治体の寄付獲得競争が過熱。19年6月からは返礼品は「寄付額の30%以下の地場産品」とし、ルールを守る自治体だけが参加できる制度に移行した。返礼品を含む経費は寄付額の50%以下に抑える必要がある。

*2-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1288102 (佐賀新聞 2024/7/26) ふるさと納税1兆円】買い物感覚、被災地応援も、自治体間の格差解消課題
 ふるさと納税の2023年度の寄付総額が1兆円を突破した。地域を応援するという趣旨で08年度に始まり、好みの返礼品を選べる仲介サイトの普及もあって寄付が急増。被災地を応援するといった使い方もある。ただネットショッピング感覚での利用により、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中。自治体間の格差解消が課題となっている。
▽理念
 「ここまで利用が広がるとは思っていなかった」。総務省幹部は1兆円突破に驚きを隠さない。政府の理念は、納税者が故郷やお世話になった地域などを寄付先に選んでその使われ方に関心を持ち、自治体では選ばれるまちづくりの意識醸成を通じて地域活性化につなげる―というものだ。大手仲介業者トラストバンクが今月実施した調査によると、寄付を通じ「知らなかった自治体を知った経験」が「ある」と答えた人は72・2%に上った。「特定の地域のファンになった経験」が「ある」は52・7%だった。能登半島地震では、被災地を支援しようと、返礼品を受け取らない寄付も広がった。仲介サイトでは、被災者を励まそうとする寄付者のコメントも掲載。返礼品なしで、前年度の約10倍に当たる約14億7千万円が集まった石川県珠洲市の担当者は「非常にありがたい。復旧復興に役立てたい」と話す。
▽不満
 利用が拡大する中で、理念との乖離も目立つようになった。仲介サイトでは各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競っており、返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向が強まっている。総務省は、来年10月からは自治体に対し、ポイントを付与する仲介サイトの利用を禁じる。別の総務省幹部は「仲介業者の節度を期待していたが、見過ごせなくなった」と打ち明ける。制度は、地方に寄付が回っていくことで、都市部との税収格差を是正する目的もあった。実際、横浜市、名古屋市など大都市の税収減は大きく、不満が高まっている。ただ、地方に恩恵が広く行き渡ったわけでもない。22年度の寄付額全体の6割が上位1割の自治体に集中。和牛や海産物といった人気の返礼品の有無が左右する。多額の寄付を集める自治体が、子育て支援などを充実させて周囲から移住者を吸い寄せているとも指摘される。政府関係者は「地方の自治体間でも勝ち負けが鮮明になっている。不満をため込む地域は少なくない」と説明。格差是正の役割は果たし切れていないと認める。

*2-5:https://www.agrinews.co.jp/news/index/248722 (日本農業新聞 2024年7月28日) [シェア奪還]業務用野菜の国産増へ 9月、品目別商談会 農水省
 輸入に依存する加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けて、農水省は9月から品目別の商談イベントを開く。国産への切り替えが期待できるタマネギやカボチャ、ブロッコリーなどで、産地と流通業者、実需者の橋渡しをし、国産野菜の利用拡大を後押しする。国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割を占める。国産への切り替えを進めるため、同省は4月に「国産野菜シェア奪還プロジェクト」を立ち上げた。イベントは、同プロジェクトの一貫で開く。生産者や流通事業者、加工・冷凍メーカー、小売りなどの参加を想定。事業者間のマッチングを促す。同省は、国産への切り替えが期待できる品目として、タマネギ、ニンジン、ネギ、カボチャ、エダマメ、ブロッコリー、ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定。イベントは重点7品目から始め、ニーズに応じて品目を増やしていく。他にも、同プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く。加工・業務用野菜の国産利用を増やすには、産地間の端境期に収量をどう確保するのかが課題だ。同省は「冷凍保存などで、年間を通じて安定的に供給する体制づくりが重要」(園芸流通加工対策室)とみる。

<物価高を進めた日本の金融緩和>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240728&be=NDSKDBDGKKZO81327・・ue=DMM8000 (日経新聞 2024/6/12) 財政、拡張路線に転機 骨太方針、「基礎収支25年度黒字化」復活 金利ある世界意識
 政府が11日に公表した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)原案は財政拡張路線からの転換がにじむ内容となった。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の2025年度黒字化目標を3年ぶりに明記し、「金利のある世界」を見据えて財政健全化に目配りした。成長投資と歳出改革の両立を探る。原案はPBについて「25年度の国・地方を合わせた黒字化を目指す」と盛り込んだ。もともと18年の骨太方針で打ち出した方針であるものの、自民党の積極財政派に配慮して22年以降は明示を避けていた。政府は目標自体は堅持しているとの立場をとりつつ、昨年の骨太方針も「これまでの財政健全化目標に取り組む」という曖昧な書きぶりにとどめていた。目標年度の提示は財政健全化への姿勢を従来より踏み込んで示すことになる。25年度の黒字化を目標としてきた現行計画は達成が視野に入りつつある。内閣府が1月に発表した試算によると25年度のPBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収めるなどの歳出改革を続ければ今のところ黒字化が可能な範囲にあるという。原案は後継計画として6年間の「経済・財政新生計画」を示した。25~30年度の予算編成の基本方針とする。PB黒字化への前進を「後戻りさせることなく」、債務残高のGDP(国内総生産)比を安定的に引き下げると記した。
●成長と両立必須
 背景にあるのは、日銀によるマイナス金利政策の解除だ。骨太原案は「金利のある世界への移行」をにらみ、利上げによる国債の利払い費増加に「懸念」を訴えた。内閣府は30年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利が1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らむと見積もる。元本償還も含む国債費は24年度は一般会計の2割を超す。利払い費が膨らめば、社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる。第2次以降の安倍晋三政権による「アベノミクス」は超低金利政策を背景に高成長を求める財政運営だったといえる。金利が成長率よりも低いため利払い費は軽く、財政規律が緩む一因になったとの指摘がある。一方で、金利が上昇してもインフレによって名目成長率が底上げされれば税収も増えるため、財政健全化につながるとの見方もある。「賢い支出」を徹底したうえで成長につながる投資は必要になる。利払い費の増加を警戒した今回の書きぶりは財政再建を進めるために、成長率などの経済前提に慎重な立場をとったことがうかがえる。原案が言及した実質成長率は1%だった。向こう6年間の計画期間や人口減が加速する30年代以降について「実質1%を安定的に上回る成長を確保する必要がある」と強調した。その上で「さらに高い成長の実現をめざす」とも書き込んだ。目標設定の土台となったのは内閣府が4月に初めてまとめた社会保障や財政に関する60年度までの長期推計だ。長期金利が名目成長率を0.6ポイントほど上回る財政面に厳しい設定で将来推計をはじいたところ、実質成長率が平均1.2%でも社会保障費が膨らむと57年度ごろにPBが赤字に陥るという試算となった。国と地方のGDP比の債務残高も40年度ごろに下げ止まり、60年度に180%ほどまで再上昇する絵姿を示した。金利が成長率を上回る状況が常態化すれば、安定成長を続けるだけでは財政健全化はおぼつかないことになる。PBの一定の黒字幅を確保し続けるには、実質1%成長の持続と歳出改革の両方に取り組まなければならない。財政規律に傾斜した今回の骨太原案には不安要素もある。次世代半導体の量産に向けて「必要な法制上の措置」を検討するとした点だ。企業の投資計画の予見可能性を高めるために「必要な財源を確保しながら」複数年度の支援を実施する方針だが、財源確保の具体策は定まっていない。
●米でも利払い増
 新たな経済・財政計画にも解釈の余地が残る。経団連の十倉雅和会長は4日、民間議員を務める経済財政諮問会議でPB目標は「単年度で考えるのではなくて、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべきだ」と語った。景気変動があれば、単年度の赤字は許容するとの考えがのぞく。原案の調整過程では単年度赤字の含みをもつ「黒字基調」の使用に前向きだった内閣府と慎重な財務省との間でさやあてがあった。結果として「黒字基調」は使わなかったものの、単年度赤字でPBが遠のく可能性はある。財政健全化の計画は頓挫の歴史を繰り返してきた。小泉純一郎政権で策定した06年の骨太方針では社会保障費を毎年2200億円圧縮するなどの数値目標を明記し、11年度に黒字化すると打ち出した。その後の麻生太郎政権はリーマン危機への対応などで数値目標を棚上げした。民主党政権ではPB黒字化の実現を「遅くとも20年度までに」とずらした。18年に策定した現行目標「25年度黒字化」も大型の補正予算を組めば達成は難しくなる。利払い費の負担増は日本だけの問題ではない。米政府の対GDP比の財政赤字は23年度に6.3%と22年度から0.9ポイント悪化した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げで利払い費が増えたことが背景にある。財政赤字は中長期で拡大する見通しだ。中東情勢の緊迫が続き、台湾有事を心配する声も強まっている。「金利ある世界」に向けて財政余力を確保しておくことは地政学リスクや首都直下型地震のような大災害に対応するためにも急務となる。

*3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81839890T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 税収最高もかりそめの改善 昨年度72兆円、物価高が押し上げ、予算不用額は高止まり 歳出構造の改革不可避
 財務省は3日、2023年度の国の一般会計の決算概要を発表した。企業の好業績やインフレを背景に税収は72兆761億円と4年連続で過去最高となった。金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的ともいえる。いまのうちに歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要がある。税収は22年度の71兆1373億円を上回り、2年連続で70兆円を突破した。インフレは名目成長率を押し上げて税収にもプラスに働く。内閣府によると23年度の名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスだった。22年度の2.5%プラスから上振れした。23年度補正予算段階では69兆6110億円と22年度実績を下回ると見込んでいた。法人税の納税制度が変わった影響で還付が増えたことなどから年度前半の伸びは鈍かった。23年4月~24年4月の累計の税収は59兆5193億円と前年同期を2兆円程度下回っていたが、5月分の法人税収が伸び、大幅に上回る結果となった。法人税収は15兆8606億円で、前年度から6.2%伸びた。想定よりもおよそ1.2兆円上振れした。1991年度(16.5兆円)以来の高水準で、5月分は7兆4867億円と過去最高だった。円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与した。所得税収は22兆529億円で、2.1%減少したが、想定をおよそ0.8兆円上回った。企業の賃上げの動きの広がりで給与所得が増えた。消費税収は23兆922億円で0.1%増加し、過去最高となった。年度前半に還付金が増えたことなどが減収要因となったが、国内消費は堅調に推移した。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「24年度は定額減税が減収要因になるが、インフレ環境の継続とともに名目GDP成長率のプラスが定着する中で、税収の増加傾向は続くだろう」と分析する。ただ足元では日銀の金融政策修正などの影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇している。今後は国債の利払い費の増加が財政を圧迫する可能性がある。税収が伸びているうちに歳出構造改革を進める必要がある。現状は心もとない。予算計上したが結果として使う必要のなくなった不用額は6兆8910億円だった。赤字国債発行を取りやめたが、過去最大だった22年度の11.3兆円に次ぐ規模だ。不用額の大きさは予算の見積もりが精緻になされたかや、無駄な支出を計上していなかったかの目安になる。新型コロナウイルスの感染が広がる前まではおおむね1兆~2兆円台で推移してきたが、コロナ禍を機に大規模な補正予算が組まれるようになり金額も拡大した。その年度に使われなかったお金としては次年度への繰越金もある。不用額は繰り越しても使われる見込みがないお金とも言える。そもそも無駄な予算計上だった可能性を否定できない。新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる。岸田文雄首相は年金受給世帯などへの給付金を計画しており、財源として24年度補正予算の編成を念頭に置いている。政府は高成長の実現や歳出改革の継続によって25年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化が視野に入っているとする。税収の上振れが次の経済財政試算にどの程度反映されるかに左右されるが、黒字化がより近づく可能性もある。税収の上振れは与党などからの経済対策を求める声につながりやすい。大規模な補正予算を編成すればPB黒字化は困難になる。予算の平時化に向けては「今回の補正予算が試金石になる」(財務省幹部)。規模ありきで不要な支出を積み増す慣行から脱却できるかが問われる。

*3-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998370.html (朝日新聞社説 2024年7月31日) 国の予算編成 手を緩めず歳出改革を
 政府が来年度予算編成にあたっての要求基準を決め、各省庁の作業が始まった。財政健全化の目標が来年度で達成できるとの試算も示したが、楽観できる状況ではない。政策の優先度を厳しく見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要がある。歴代政権は20年ほど前から、国・地方の「基礎的財政収支」の黒字化をめざしてきた。政策経費を新しい借金なしでまかなえることを意味する。財政再建に向けた「最初の一歩」の目標だ。新しい試算は、基礎的収支が税収増で上ぶれし、今の目標の25年度には小幅なプラスになるとした。ただ、近年恒例の大型補正予算を年度途中に組まないのが前提で、実現性は依然不透明だ。
財政全体をみれば、金利の上昇で国債の利払いも増える見込みだ。気を緩めず、無駄な支出と赤字の抑制に最大限努めなければならない。足元では物価や人件費の上昇が続き、歳出拡大の圧力が強まっている。少子高齢化への対応をはじめ、重要な政策課題も多い。各省庁は予算要求の段階で、費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべきだ。閣議了解された概算要求基準も、「施策の優先順位を洗い直し、予算を大胆に重点化する」とうたう。各省庁の要求額に制限をかける仕組みだが、昨年同様、「例外」や抜け穴が多く、かけ声で終わる懸念がぬぐえない。防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱いにした。安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図が強まる。「重要政策」を優遇する特別枠と、金額を明示しない「事項要求」の対象も広い。賃上げ促進や官民投資拡大、物価高対策などが例示されているが、歳出膨張に十分歯止めをかけられなかった昨年の繰り返しになる恐れがある。政府が昨年から掲げる「歳出の平時化」がどこまで本気なのか。まず試されるのが、岸田首相が先月唐突に打ち出した今秋の経済対策だ。物価高で苦しむ家計や事業者を支えるというが、政治的アピールを優先し、対象をいたずらに広げれば、規模が水膨れし財政悪化を招くだろう。そもそも今の予算編成の手法は、中長期で財政の持続性を保つ視点が薄い。概算要求基準の対象は当初予算だけで、継続的な事業を補正予算に回すことが常態化している。補正も含めた通年や数年単位で歳出に一定のたがをはめ、その中で配分を適切に見直す仕組みを考えるべきだ。

*3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240719&ng=DGKKZO82181150Z10C24A7MM0000 (日経新聞 2024.7.19) 消費者物価6月2.6%上昇 電気・ガス代押し上げ
 総務省が19日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が107.8となり、前年同月と比べて2.6%上昇した。政府が電気代やガス料金などの負担軽減策を縮小したことで、電気代やガス代が値上がりした。前月の2.5%上昇から伸びが拡大した。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.7%の上昇だった。2年10カ月連続で前年同月を上回った。依然として日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている。エネルギーの上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した。電気代が13.4%と大幅に上昇し、生鮮食品を除く指数の伸びを0.47ポイント押し上げた。都市ガス代も3.7%上昇した。電気代は23年1月に始めた補助金の影響でマイナスの推移が続いたものの、5月に再生可能エネルギー普及にかかる賦課金が上昇し16カ月ぶりにプラスに転じていた。政府補助は5月使用分で半減となり、6月のCPIから押し下げ効果が縮小した。電気代の上昇は2カ月連続。6月の政府補助による電気代の押し下げ効果はマイナス0.22ポイントだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.2%上昇した。生鮮食品を含む総合指数は2.8%上がった。食料は3.6%の上昇だった。オレンジの原産国での天候不良が不作を招いた影響で果実ジュースが32.1%上昇した。さくらんぼも15.7%上がった。昨年夏や今季の収穫期における猛暑が影響した。食料の上昇幅は前月の4.1%からは縮小した。猛暑による影響でルームエアコンの需要が拡大し、家庭用耐久財は3.9%上昇した。宿泊料も19.9%伸び、前月の14.7%から上昇幅が広がった。全品目をモノとサービスに分けたうち、サービスは1.7%上昇だった。前月は1.6%で上昇幅は拡大した。外食は2.8%上昇して、前月から横ばいだった。

*3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81585450S4A620C2MM0000 (日経新聞 2024.6.22) 円一段安、159円後半 米景況感上振れでドル買い
 21日のニューヨーク外国為替市場で対ドルの円相場が下落し、一時1ドル=159円80銭台とおよそ2カ月ぶりの円安・ドル高水準を付けた。同日発表の米企業の景況感が市場予想を上回り、米金利上昇(債券価格の下落)とドル買いを誘った。米S&Pグローバルが21日発表した米国の6月の購買担当者景気指数(PMI、速報値)は総合が54.6と前月から0.1ポイント上昇し、2022年4月以来2年2カ月ぶりの高さになった。米景気が好調を維持し、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ転換に時間がかかるとの見方から、米金融市場ではPMI公表後に米金利上昇とドル高が進んだ。円相場は4月29日に34年ぶり円安水準となる1ドル=160円24銭を付けたあと、政府・日銀の円買い為替介入を受けて151円台まで上昇した。ただ、その後は日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進んでいるほか輸入企業によるドル調達もあり、円の下落基調が続いている。PMIの調査期間は6月12~20日。総合指数は好不況の分かれ目となる50を1年5カ月続けて上回る水準で推移している。21日発表の6月のユーロ圏のPMIは総合指数が前月から低下しており、米景気が他国・地域よりも底堅い様子を映した。米PMIの内訳をみると、サービス業の指数は55.1と0.3ポイント上昇し、2年2カ月ぶりの高水準だった。53.7への低下を見込んでいた市場予想を上回った。個人消費がなお堅調で、サービス業の新規受注が拡大している。

*3-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1292925 (佐賀新聞 2024/8/2) 日銀が追加利上げ、金利正常化を明確にせよ
 日銀は、政策金利の追加利上げと国債買い入れの減額計画を決定した。後者は予告通りだが、利上げを予想した市場関係者は直前まで多くなかった。異次元緩和を終えながら、日銀が金利正常化の意図をあいまいにしてきたためだ。依然低い政策金利が円安とインフレの弊害を招いている。金利修正を明確にすべきだ。日銀は金融政策決定会合で、政策金利である短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げることを決めた。異次元緩和を3月にやめ、マイナス金利を解除して以来の利上げとなる。一方、長期国債の買い入れは現状の月6兆円程度から、2025年度末をめどに3兆円程度へ半減することを決めた。前回6月の会合で減額方針を決定していた。国債購入による長期金利抑制は異次元緩和のもう一つの柱であり、買い入れ減額は国債保有を減らす「量的引き締め」となる。追加利上げと相まって金利全般が上昇し、住宅ローンや企業の借入金利に影響が出てこよう。しかし、2%台半ばにある足元の物価上昇率を勘案すれば、実質的な金利水準は依然マイナスであり極めて低い。金利上昇による経済への影響を、過度に警戒する局面ではあるまい。むしろ懸念すべきは、植田和男総裁をはじめ日銀の姿勢と情報発信だ。賃上げを伴った好循環を理由に異次元緩和を終え、目標とする2%以上のインフレは27カ月続く。それでもまだ望ましい物価上昇ではないと、正常化への金利見直しに慎重姿勢を崩していないからだ。市場参加者はもとより、物価高の苦境にある国民には理解し難い。日銀は今回、当面2%前後の物価上昇が続くとの見通しを公表。その度合いに応じて政策金利を上げていく考えを明らかにしたのは、一歩前進と言えるだろう。最近の円安は、米国の金利高止まりだけが原因ではない。低金利修正に腰の引けた日銀の姿勢に、正常化は遅れると市場参加者が見込んだ点が為替相場に反映している。石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国では、円安が輸入コスト増に直結し、物価上昇の引き金となる。帝国データバンクの食品メーカー調査によると、春からの急激な円安を受けて、秋に再び値上げラッシュが襲う見通しという。国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは、物価高による節約志向が原因だ。金融政策が円安を通じて、かえって消費と景気の足を引っ張っている「逆効果」を日銀は直視すべきである。日銀の金融政策を分かりにくくしている原因が、2%目標の硬直的な運用にあるのは明らかだ。13年に政府との共同声明に明記されて以来、日銀の政策運営を縛ってきた。柔軟で機動的な政策運営を可能とするため、政府と日銀で見直しに着手する時だろう。日銀は今回の利上げを物価の上振れリスクなどに対応するためと説明するが、額面通りに受け取る市場関係者は少なかろう。それよりも円安と物価懸念から金利修正を暗に求めた政府・与党関係者の発言が影響した、との見方に説得力がある。緩和要求が常だった政府・与党から利上げ発言が出てくること自体、異例である。それだけ日銀の政策運営がずれている証拠と理解したい。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB096MG0Z00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月4日) 脱・日銀依存で戻る規律 日本経済は変わるか、金利が動く世界へ
 日銀が7月末の金融政策決定会合で追加利上げと「量的引き締め」への具体策を決めました。日本経済は脱・日銀依存へとさらに一歩踏み出します。連載企画「金利が動く世界へ」は、戻ってくる金利の規律が政府、企業、家計にどんな変化をもたらそうとしているのかに迫りました。日銀が追加利上げを決断し、同時に国債保有を圧縮する「量的引き締め」も開始した。日本経済は中央銀行による金利コントロールから、市場原理による「金利が動く世界」に戻る。国も企業も家計も、これからは金利の規律と向き合うことになる。「インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然だ」。7月末に追加利上げに踏み切った日銀。日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことがないが、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む。超低金利が続くとみていた市場にはサプライズとなり、公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された。一方で日経平均株価は2日に史上2番目の下落幅を記録。市場は揺れながら「金利が動く世界」へ向かう。早期安定の試金石は、まさに中銀の統制を解く債券市場にある。日本国債の発行残高は1082兆円。日銀はその53%を保有する「池の中の鯨」だ。巨大な買い手がいなくなれば、金利は急騰リスクを抱える。財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望する。民間銀行などは日本国債の9%を現在保有するが、約10年前は39%(317兆円)と最大のプレーヤーだった。「国内銀行だけで200兆円は国債を買える。ただ、長期金利の最終水準がみえてこないと買いに行けない」。あるメガバンク首脳はそう思案する。確かに民間銀行に国債を買い入れる余力はある。ただ、金利が上昇し続ければ保有国債に含み損が発生する。ある大手銀行は長期金利が1.2%になれば本格的な国債買いに動く腹づもりだが、現在は1%を切っており「動く地合いではない」。最大の問題は国債取引の人の厚みもノウハウも薄れていることだ。ある大手銀は日本国債の取引担当がわずか2人。30年前は10人超いたものの、金利が動かなくなってチームを縮小した。国債取引で中核的な役割を果たす「国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー)」も、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)が資格を返上したほか、欧州系のアール・ビー・エス証券(当時)なども撤収した。1998年の資金運用部ショック、2003年のVaRショックと、かつて国債市場は金利急騰で大混乱したことがあった。当時と異なるのは、国債のトレーダーも運用機関も層が薄くなり、金利急変動の耐性がないことだ。長期金利は経済の好不調に合わせて上下動するのが自然な姿だ。日銀が国債の大量購入で長期金利を人為的に抑えつけると、世界のマネーフローは為替相場でしか調整できなくなった。極端に開いた日米金利差で発生したのが歴史的な円安だった。「円売りが連鎖してキャピタル・フライト(海外への資本逃避)になれば、1ドル=300円も冗談でなくなる」。ある自民党議員は海外投資家に真顔でそう脅された。円売り連鎖という目先の苦境は遠のいた。とはいえ、秩序だった市場を取り戻さなければ、次なるリスクを抱え込む。S&Pグローバル・レーティングなど主要格付け機関は、財政悪化にもかかわらず日本国債の格付け見通しを「安定的」と据え置いている。その理由は、皮肉にも日銀による巨額の国債買い入れ策があったからだ。民間主体で国債相場を支えきれないなら、財政悪化はそのまま国債格下げリスクとなる。邦銀の格下げにも直結し、日本企業のドル調達難という新たな危機となる。中央銀行頼みのツケはすぐにはなくならない。市場のプレーヤーの厚みを取り戻す必要がある。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0979Q0Z00C24A8000000/ (日経新聞社説 2024年8月9日) 日銀の市場との対話は十分だったか
 内外の株価や円相場の不安定な動きが続いている。様々な要因が絡み合うなかで、日銀がさらなる利上げに積極的な姿勢を示したことが「予想外」との反応を生み、円の急伸を招いた。日銀と市場との対話は本当に十分だったといえるのか。市場の安定を確保するためにも問題がなかったかを改めて点検し、丁寧な意思疎通を心がけてほしい。世界で日本株の下落が際立ったのはハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れといった米国の要因に円の急伸が重なったためだ。日銀が7月末の金融政策決定会合で利上げを決めた直後、米連邦準備理事会(FRB)が9月に利下げに動く可能性を示唆し、日米金融政策の方向性の違いが強く意識されたことも大きい。日銀の内田真一副総裁は7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しに動いた。市場の動向とともに企業や消費者の心理に変化がないか細心の注意を払うのは当然としても、説明が首尾一貫していないように聞こえる。日銀は8日、利上げを決めた会合での「主な意見」を公表した。経済や物価がおおむね想定通りに推移しているとの見方に加え、円安を背景に「物価の上振れリスクには注意する必要」との認識が判断材料となったことがわかる。正副総裁らが会合前に情報を発信する機会が限られたこともあり、日銀が円安のリスクへの懸念をより強めていることは市場には十分に伝わっていなかった。事前に市場にすべてを伝える必要はないものの、結果をみれば、市場との対話が円滑だったとはとても言えまい。日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に、市場との対話を見直してほしい。一方、市場の落ち着きを前提にすれば、金融政策の正常化を封印するのは適切な判断ではない。主要国で日本だけが金融緩和を長く続けた。そのことが円売り取引の膨張を許し、円急伸の遠因となった側面は否めない。投機資金の動きや影響を注視しつつ、望ましい政策のあり方を探ってほしい。経済や物価の動きに応じて金融緩和の度合いを調整していく試みは、長い目でみた経済成長と市場の安定のためにも欠かせない。だからこそ日銀には、入念な市場との対話と精緻な情勢分析を通じ、適切な政策運営につなげる不断の努力を強く求めたい。

*3-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB058TK0V00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月12日) 日本株激動、「避難先」銘柄は 相場低連動・還元策に注目
 日本株のボラティリティー(変動率)が高まり、急激な下げへの警戒は残る。荒れ相場の駆け込み寺となる銘柄は何か。相場全体の値動きに対する感応度や配当利回りなどの指標でスクリーニングしたところ、食品や小売り、住宅関連などの業種が浮かび上がった。QUICKのデータを使い、東証株価指数(TOPIX)採用で時価総額100億円以上、予想配当利回りが2.5%以上などの条件を満たす銘柄を抽出し、対TOPIXのベータ値(60カ月)が低い順に並べた。新型コロナウイルス禍の影響を考慮し、短期(180日)のベータ値が平均より低いことも条件とした。ベータは個別株と相場全体の動きの相関を表す値。TOPIXなどの指数と同じ動きなら「1」となる。1より小さくなるほど感応度が小さく、相場の調整局面で下値抵抗力を発揮する。内需中心で業績が安定している企業のほか、財務レバレッジの低い場合などに小さくなりやすい。投資家からの関心を表す指標とも解釈できるため、外国人持ち株比率と一定程度の負の相関があるとされる。「世界が本格的なリセッションに向かうのであれば、低ベータ銘柄への投資が有効になる」(野村アセットマネジメントの石黒英之チーフ・ストラテジスト)。リストで目立つのが食品銘柄だ。総菜製造のフジッコや製粉会社のニップンなどはベータ値が0.05程度。市場全体の値動きに対する感応度が極めて小さい銘柄群といえ、日経平均が連日で大幅下落した8月1日からの3営業日も株価下落率は日経平均(20%)より10ポイント以上小さかった。業績の安定性も注目される。食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期(2024年3月期)まで10期連続の営業増益だった。液卵事業は「今年に入って販売数量が前年を上回り回復傾向にある」(同社)といい、25年3月期の営業利益は前期比12%増と過去最高を計画する。営業地盤を地方に置く銘柄にも注目だ。業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先になる。茨城県や千葉県などの関東圏で大規模ホームセンターを展開するジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落したときにむしろ株価が上昇しやすいという珍しい特徴を持つ。ジョイ本田株は8月5日までの3営業日で6%安にとどまった。このほか栃木県に本社を置くドラッグストアチェーンのカワチ薬品、北関東を中心にスーパーマーケットを展開するエコスといった小売銘柄もベータ値が低い。
リスクオフ局面では投資家の関心が配当に集まりやすいため、還元実績や財務体質に注目することも重要だ。福岡県などを地盤に住宅建材・設備をてがけるOCHIホールディングスは、24年3月期まで13期連続で増配中だ。今期から「連結配当性向30%以上」との目標を新たに導入し、積極的な還元姿勢を打ち出している。化粧品のノエビアホールディングスも23年9月期まで12期連続で増配している。株主還元を含めたキャッシュマネジメントに注力し、自己資本利益率(ROE)は過去5期平均で13.2%と、同業他社に比べて高い。足元の配当利回りは4%台と、東証プライム市場の平均(約2.6%)を上回っている。
●米国株、公益・ヘルスケアに資金シフト
「ディフェンシブ株をポートフォリオに加えるのは今からでも遅くない」。米モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏は8月初めの相場急変を受けて投資家向けリポートにこう記した。ディフェンシブ株に対する景気敏感株のリターン優位は4月頃にピークをつけたと指摘。過去のリスクオフ局面に照らし合わせれば、ディフェンシブ株への資金シフトはここからある程度時間をかけて進むとみる。日本株に比べ株価の振幅が小さい米国株市場でも物色はディフェンシブ性の高い銘柄に向かっている。S&P500種株価指数が直近の高値をつけた7月16日からの騰落率をみると、上位にはヘルスケアや公益株が多く並ぶ。業績の変動が小さく、相対的に配当利回りが高いことなどがリスクを回避したい投資家からの関心を集めている。ヘルスケアでは医療施設運営のHCAヘルスケアやユニバーサル・ヘルス・サービシズ、産業用品大手スリーエムのヘルスケア部門として4月に分離上場したソルベンタムなどに買いが集まっている。英バークレイズが7月下旬、「市場シェア拡大が期待できる」などとしてHCAヘルスケアの目標株価を376ドルから396ドルに引き上げるなど、4〜6月期決算発表を経て好業績を再評価する動きも出ている。
公益ではエジソン・インターナショナル、エバーソース・エナジーなど電力会社が高い。予想配当利回りが4%前後、予想PER(株価収益率)が14〜16倍台と、割高感のあるテック株などに比べた投資指標面での堅実さに注目が集まっているようだ。市場全体の値動きに対する感応度であるベータ値が低い銘柄が物色されていることも特徴だ。米国防総省を主要顧客とする防衛企業のノースロップ・グラマン、ニューヨーク市に電気やガスなどのインフラを供給するコンソリデーテッド・エジソンは、対S&P500のベータ値(60カ月)が0.3程度と小さい。その中で米国では日本と異なり消費株が敬遠されていることには注意が必要だ。「労働市場が軟化し、米国の投資家は消費株をリスク視している」(米ゴールドマン・サックスのチーフ米国株ストラテジスト、デイビッド・コスティン氏)。失業率の上昇や賃金上昇の鈍化によって消費意欲の減退が予想され、スナック食品のケラノバなど一部の銘柄を除けば軟調な消費株が目立つ。ヨガウエアなどスポーツ用品のルルレモン、美容小売りのアルタ・ビューティーの株価は3週間で約2割下落した。

*3-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301927 (佐賀新聞 2024/8/16) 力強さ欠く景気 物価抑え家計を支援せよ
 内閣府が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)は、前期比の年率換算で実質3・1%増だった。2四半期ぶりのプラス成長だが落ち込んだ前期からの反動要因が大きく、景気は依然力強さに欠けると言えよう。不安定な株価や円相場、海外経済への懸念から先行きの不透明感も拭えない。このため経済対策による大規模な財政出動を求めたり、政策正常化へ向けた日銀の追加利上げをけん制したりする声が出てくると見込まれる。だが、景気の弱さは主にインフレ長期化による家計の圧迫に原因があり、これらは打開策とならない。政策対応としては物価抑制と、低所得世帯などへの家計支援に力を入れるタイミングだ。4~6月期がプラス成長となった最大の要因は、GDPの約半分を占め景気のエンジン役である個人消費が、5四半期ぶりに増加へ転じたためだ。しかし内容を見ると楽観できる状況にはない。前期の1~3月期は自動車の認証不正問題の悪影響が濃く表れ、その反動で4~6月期の消費が大きめに出たとみられるからだ。総務省の家計調査などからは、長引く物価高に節約で対抗し、食品など必要なものに絞ってお金を使う家計の実情が浮かび上がる。定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから、先行きの消費改善を予想する声はある。だが減税は一時的に過ぎず、全世帯の3割を占める高齢世帯は賃上げにほとんど無縁である。円安が是正され、物価が落ち着くまでは消費の低空飛行が続くと見ておいてよいのではないか。ほかのGDP主要項目では、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加し全体のプラスに貢献した。円安による輸出企業の好業績や、認証不正問題からの回復が投資増につながったとみられる。だが今後は日銀の政策変更による金利上昇に加え、株価や円相場の影響が避けられまい。相場の荒い変動は投資手控えにつながる点を警戒したい。一方で、輸出から輸入を差し引いた外需は2四半期連続のマイナスとなり、GDPの足を引っ張る要因に働いた。統計上の輸出に当たるインバウンド(訪日客)需要は堅調だったとみられるが、中国の成長減速などから輸出全体の伸びは鈍く、輸入の伸びを下回った。中国は不動産不況が引き続き景気に影を落とす見通しだ。その上で、この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方と言えるだろう。インフレ退治の金融引き締めにもかかわらず底堅く成長してきたが、最近の統計は雇用の冷え込みを示唆。連邦準備制度理事会(FRB)は9月にも利下げへ転じる見通しで、米国経済は軟着陸できるかどうかの分水嶺(れい)にあるためだ。米景気や利下げの行方が株価の波乱要因となり得るだけでなく、円相場に影響する点は改めて言うまでもあるまい。岸田文雄首相の退陣表明により、秋に予定される経済対策をはじめ政策運営の先行きは見通しにくい状況となった。しかし力強さを欠く景気の現状を見れば、その場しのぎの減税や電気・ガス代補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道であることは明らかだろう。次期政権には、その点に正面から取り組んでもらいたい。

*3-3-1:https://www.profuture.co.jp/mk/recruit/strategy/40122 (MarkeTRUNK 2022.8.1) ガラスの天井の意味は。壊れたはしごとは違う?女性やマイノリティのキャリアアップの障壁
 ガラスの天井とは、十分な能力を持つ女性やマイノリティが、不当に昇進を制限されることだ。日本は女性の社会進出に関して諸外国に遅れを取っており、多様化する社会においては早急な課題解決が求められる。ガラスの天井の意味や壊れたはしごとの違い、解決のためのキーワードなどを見ていこう。
●ガラスの天井、壊れたはしごの意味
 ガラスの天井とは、女性の社会進出における問題を喩えた言葉である。男女が平等に働ける社会を実現するうえで、ガラスの天井は大きな課題とされている。
また、壊れたはしごも女性の働き方に関わるキーワードだ。ここでは、ガラスの天井や壊れたはしごの意味、日本政府が掲げる目標、諸外国における男女の働き方について解説する。
○ガラスの天井とは
 ガラスの天井(=グラスシーリング)とは、十分な能力があるのにもかかわらず、性別や人種などの要因によって昇進が妨げられる状態を表す。目には見えない障壁をガラスに喩えた言葉で、特に女性やマイノリティが不当な扱いを受ける場合に用いられる。ガラスの天井を初めて使用したのは、企業コンサルタントのマリリン・ローデンだ。のちにウォールストリート・ジャーナル紙の紙面でも用いられ、ガラスの天井の概念が世間に広く浸透した。1991年には、アメリカ連邦政府労働省が公的な場面でガラスの天井を使用している。また、2020年のアメリカ大統領選で史上初の女性副大統領が誕生し、ガラスの天井が破られたと話題になったニュースは記憶に新しいだろう。
○壊れたはしごとは
 壊れたはしごとは、女性が昇進するために上る階段(はしご)は元々壊れており、1段目から男女格差が生じていることを意味する。ここでの1段目とは、グループ長や主任のようなファーストレベルの管理職を指す。壊れたはしごの概念が提唱されるまで、女性の社会進出を阻む要因はガラスの天井であると考えられていた。しかし近年の調査では、そもそも第一段階の地位に就く女性の割合が少ない構造となっていることが、女性の昇進を阻むハードルだと結論づけられている。上級職レベルで女性の昇進を改善しても、上級職に到達できる女性の数が少ないため、根本的な解決にはつながらない。昇進における男女格差をなくすためには、壊れたはしごを生み出す構造自体を見直す必要があるのだ。
○政府は「女性管理職比率30%」を掲げているが・・
 女性の社会進出における課題を問題視し、政府は2003年に「『2020年30%』の目標」を発表した。これは、あらゆる分野の指導的地位に就く女性の割合が、2020年までに30%程度に到達することを目指すものである。目標達成のためにさまざまな施策が実施されているが、その成果は期待を上回るほどではない。役職に就く女性の割合を確認すると、1989年から徐々に上昇してはいるものの、現状は目標の30%に届いていないことが読み取れる。2020年には女性の参画拡大に関する成果目標が見直され、「第5次男女共同参画基本計画」において以下の基準が定められた。現状値を2025年の目標値まで引き上げるために、今後も女性の活躍を促す施策の実施が検討されている。
■「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標
グラフ:「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標
参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」
○EUでは上場企業の役員の男女均衡義務化
 2022年6月、EUは上場企業における役員比率の男女均衡を義務付けることに合意した。EUはこれまでにもジェンダー平等の推進に取り組んでいたが、管理職に就く女性の比率に関しては加盟国の間で大きな差があった。新たに合意されたルールでは、取締役に登用する男女の最低割合が定められている。域内の上場企業は、2026年6月末までに社外取締役の40%以上、または全取締役の33%以上に女性を登用しなければならない。基準を達成できない企業には理由や対策の報告が求められ、場合によっては罰則の対象となりうる。
●調査でわかる日本の現状
 実際のところ、日本における男女の社会進出にはどれくらいの格差があるのだろうか。各種調査を参考にして、日本の現状を把握しよう。
○女性管理職の比率、日本は10%台
 男女共同参画局の調査によると、日本の女性役員割合は12.6%となっている。過去数年間における女性役員数は増加傾向にあるが、諸外国に比べるとまだまだ低いことがわかるだろう。
   諸外国の女性役員割合(2021年の値)
    フランス    45.3%
    イタリア    38.8%
    スウェーデン  37.9%
    イギリス    37.8%
    ドイツ     36.0%
    カナダ     32.9%
    アメリカ    29.7%
    中国      13.8%
    日本      12.6%
    韓国      8.7%
参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」
 諸外国の女性役員割合が高くなっている背景には、クオータ制の導入が影響している。クオータ制とは、女性の登用割合を役職ごとに規定し、基準を満たすことを義務化するものだ。発祥であるノルウェーをはじめ、クオータ制は各国における女性役員割合の増加に大きく貢献した。
○ジェンダー・ギャップ指数は156か国中120位
 世界経済フォーラム(WEF)は、男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数を毎年発表している。2021年は156か国を対象に調査が行われ、日本の総合スコアは0.656、順位は120位であった。これは先進国の中でも最低レベルの結果である。アジア諸国の中では、韓国や中国、ASEAN諸国よりも順位が低く、ジェンダー平等に関して日本が遅れを取っていることが読み取れる。
参考:内閣府男女共同参画局「共同参画」2021年5月号
○ガラスの天井指数では29か国中28位
 2022年3月に経済週刊誌エコノミストが発表したガラスの天井指数において、日本は29か国中28位であった。ガラスの天井指数はエコノミストが2013年から毎年発表しているもので、男女間の賃金格差や育休取得状況などの10項目を元に順位が決められる。日本以外には、スイスやトルコ、韓国が下位を占めており、これらの4か国の順位は10年間変動していない。エコノミストは、「女性が家族と仕事の選択を迫られる日本と韓国が下位にとどまっている」と指摘している。
参考:The Economist「The Economist’s glass-ceiling index」
○男女間賃金格差、38か国中ワースト3位
 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位であった。具体的には、男性の賃金の中央値を100とした場合、女性の賃金の中央値は77.5となっており、22.5ポイントの差が開いている。以下の表は、主要各国の男女間賃金格差をまとめたものだ。各国の値を見ると、日本における男女間の賃金差が大きいことがわかるだろう。
    国名  女性賃金の中央値  男女賃金格差
  OECD加盟国平均 88.4    11.6ポイント 
  イタリア     92.4    7.6ポイント
  フランス     88.2    11.8ポイント
  英国       87.7    12.3ポイント
  ドイツ      86.1    13.9ポイント
  カナダ      83.9    16.1ポイント
  米国       82.3    17.7ポイント
  日本       77.5    22.5ポイント
 参考:東京新聞「男女の賃金格差、開示を義務化へ 主要国でも格差大きい日本、女性の働きにくさ要因」
●解決のためのキーワード
 ガラスの天井を解決するためのキーワードとして、「アンコンシャスバイアス」や「ESG経営」が挙げられる。多様化が進む現代で企業が生き残るためには、ガラスの天井を取り払い、女性の社会進出を支援する取り組みが不可欠だろう。ガラスの天井を取り除くためには、アンコンシャスバイアスに気づくこと、そしてESG経営を行うことが有効である。女性やマイノリティが働きやすい社会を作るために、ガラスの天井の解決につながるヒントを確認しておこう。
○アンコンシャスバイアスの気づき
 ガラスの天井が生まれる要因として、アンコンシャスバイアスの存在が指摘されている。アンコンシャスバイアスとは、無意識のうちに生じる偏見や思い込み、根拠のない決めつけなどを意味する。たとえば「女性は仕事よりも育児をすべきだ」、「女性に力仕事は任せられない」などは、アンコンシャスバイアスの代表例だ。女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると、ガラスの天井の発生につながり、女性の昇進が妨げられてしまうだろう。アンコンシャスバイアスを解消するためには、自分の中に無意識の偏見があることを自覚しなければいけない。自分の言動に対する相手の反応を観察し、無意識のうちに他者を傷つけていないかどうかをチェックしよう。物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除くための第一歩である。
関連記事:アンコンシャスバイアスの具体例は?仕事上で気をつけたい対策
○ESG経営の取り組み
 ESG経営とは、以下の3つの領域を考慮して経営を行うことを意味する。
・ Environment:環境
・ Social:社会
・ Governance:企業統治
 昨今は、ESGを投資の基準にするESG投資が注目を集めており、ESG投資額は世界中で増加傾向にある。ESG経営を理解するために、キーワードである「ESG」と「ダイバーシティ&インクルージョン」について見ていこう。
■ESG
 ESGとは、投資家が企業投資を行う際の判断基準のひとつである。近年は環境や社会の持続可能性が懸念されており、ESGへの取り組みが企業の長期的な成長につながるという見方が強い。
関連記事:ESGとSDGsとの違いとは?意味や背景、人事として取り組めることを解説
ESGには世界共通の基準や定義が存在しないが、一般的には以下の3つで構成される。
  ・ E:自然環境に配慮すること
  ・ S:自社が社会に与える影響を考えること
  ・ G:企業における管理体制が整っていること
 内閣府男女共同参画局の資料では、半数以上の投資家が企業の女性活躍情報を投資判断に活用していることが明らかになった。女性活躍情報には女性役員比率や女性管理職比率などが含まれており、女性の昇進とESG経営の関係性の深さがうかがえる。
参考:内閣府男女共同参画局「女性活躍情報がESG投資にますます活用されています~すべての女性が輝く令和の社会へ~」
■ダイバーシティ&インクルージョン
 ダイバーシティ&インクルージョンとは、組織において多様性が認められ、個々が強みを発揮できていると実感できる状態を指す。企業イメージの向上につながることや、ライフワークバランスに対する意識の高まりなどの理由から、企業ではダイバーシティ&インクルージョンの実現が求められている。また、組織として多様性を認め合う環境整備を推進することは、ESG経営の一環としても重視されている。ESG経営に取り組むのであれば、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方に基づいた企業運営が不可欠なのだ。
関連記事:インクルージョンとは?ダイバーシティとの関係や推進のためのポイント
●まとめ
 ガラスの天井とは、性別や人種などの見えない障壁によって、女性やマイノリティの昇進が妨げられることである。さまざまな調査からもわかるとおり、日本では女性の社会進出に関して諸外国から遅れを取っている。また、壊れたはしごも女性の昇進に関するキーワードだ。壊れたはしごとは、ファーストレベルの管理職に就く女性が少ない構造こそが女性の昇進を阻んでいる、という考え方を意味する。女性にとって働きやすい社会を実現させるためには、ガラスの天井や壊れたはしごの解決が不可欠だ。女性の昇進の妨げとなりうるアンコンシャス・バイアスの解消、女性の活躍につながるESG経営などに取り組み、ガラスの天井のない組織づくりを始めよう。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240820&ng=DGKKZO82880910Q4A820C2EA1000 (日経新聞 2024.8.20) 女性役員ゼロなお69社 プライムの4% 政府目標期限、来年に 前年度からは半減
 女性役員がいない東証プライム上場企業は69社で、全体の4.2%であることが日本経済新聞社の集計でわかった。政府が女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)で掲げた「女性役員ゼロ企業0%」の目標期限は2025年に迫っている。24年3月末と23年3月末時点で東証プライムに上場する1628社を対象に、23年度(23年4月期から24年3月期)の有価証券報告書「役員の状況」記載の男女別役員数から算出した。最も数の多い3月期決算企業は、6月末の株主総会での役員選任を反映している。女性役員ゼロの企業は前年度の146社(9.0%)から半減。ドラッグストア運営のGenky DrugStoresで3人が社外取締役に就くなど81社が新たに「ゼロ状態」を解消した。政府は23年6月にまとめた女性版骨太の方針で「30年までに女性役員比率30%以上」の目標を掲げた。同年12月の閣議決定では「25年までに女性役員比率19%」を中間目標に設定している。女性役員の数自体は3083人で全体の16.2%と前年度比で2.6ポイント増えたが、企業単位では「19%」の達成企業は540社(33.2%)、「30%以上」は122社(7.5%)にとどまる。現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには、今は男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならない。役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要になる。ただ就業者の半分近くが女性にもかかわらず、管理的職業従事者の女性比率は14.6%(24年版男女共同参画白書)。政府目標の達成には女性社員の育成も求められる。女性役員比率が最も高い(9人中5人)人材サービスのディップの女性役員は全員が社外だ。女性社外役員候補の研修などを担うOnBoardの越直美最高経営責任者(CEO)は「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内の人材」と話す。アステラス製薬は1991年入社の広田里香氏が取締役に就任、サンゲツは97年入社の高木史緒執行役員が取締役に選任された。

*3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998419.html (朝日新聞 2024年7月31日) 男女別学 公立共学化、どうする埼玉 20年ぶり再燃、生徒から存続訴えも
 かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進み、今では主に残るのは埼玉、群馬、栃木の3県だけになった。そんな埼玉県で、共学化を求める勧告を受けた議論が大詰めを迎えている。約20年前は「存続」と結論づけたが、男女共同参画が進む中で再度対応を迫られた県教育委員会は、8月末までに結論を出す。発端は2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が、県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫る勧告だった。同様の勧告は02年に続いて2度目だが、県内では賛否の表明が相次ぐ。元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は今年4月に記者会見し、「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」と説明。「社会的なリーダーになるためには、高校生活の中で、男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要だ」と強調する。トランスジェンダーの生徒が、将来、履歴書の学校名で性的マイノリティーであることが明かされてしまう懸念も指摘する。これに対し、共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも直後に会見し、「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と反論した。ジェンダーによって傷ついた体験を抱え、安心できる環境を求めて別学を選んだ人もいることや「女子校の方が女子のリーダーを育てやすい」などと指摘し、別学の維持を訴えた。7月下旬には、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出した。女子校2年の生徒(16)は「対話を重ねることで私たちの考え方を知ってもらい、共学化を止めたい」と話した。浦和一女では昨秋、全校生徒が参加する恒例の「討論会」を開き、「男女別学高校の共学化」を議題にすると、発言は反対一色となった。「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」。3年生の一人(17)は議論を振り返り、「埼玉では別学も共学も選択できる(のがいい)。異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」と語る。ただ、ジェンダーをめぐる社会の意識が多様化する中、02年の勧告時とは状況が変わったとの見方もある。前回は、別学校のPTAらでつくるグループが約27万人の反対署名を知事に提出し、県議会では別学維持派が超党派の議員連盟を結成するなど、高校の内外に波紋は広がった。だが、今回はそこまでの大がかりな動きはない。ある県議は「約20年前は県民を巻き込んで盛り上がったが、いまはジェンダー平等などが叫ばれ、社会の空気が明らかに変わった」と話す。
県教委は今年1~3月、別学12校の同窓会や保護者から意見を聞いた。4月19日からは、県内の中高生とその保護者を対象にアンケートを実施し、約7万500件の回答が寄せられた。別学校の生徒3割を含む高校生の回答では「共学化しない方がよい」が6割だった一方、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割で最多だった。県教委は、アンケートはあくまでも「参考資料の一つ」と説明する。各高校の生徒や保護者らの意見を踏まえ、8月中に別学校のあり方をまとめた報告書を公表する。
■共学化、背景に共同参画・少子化
 全国的には、公立の男女別学高校は減っている。戦前は男女別の教育が基本だったが、1947年に男女共学などを定めた教育基本法が施行。連合国軍総司令部(GHQ)主導の教育改革により、多くの公立高校で共学化が進められた。一方で、北関東や東北などでは別学校が残った。GHQの担当者によって地域ごとに温度差があったためで、埼玉では当時、同じ地区に男子校と女子校がある場合は共学化しなくてもいい方針になったとされる。文部科学省の学校基本調査によると、男子のみ、女子のみが通う別学の公立高校は64年度は全体の13%にあたる382校(男子のみ210、女子のみ172)あった。その後は、男女共同参画意識の高まりや、少子化の影響で共学化や統廃合が進んだことなどで、2023年度には全体の1%の45校(男子のみ15、女子のみ30)まで減った。福島県では別学校が約20校あった1993年、県の有識者会議が「男女共同社会が進行するなか、共学化を逐次進めていく必要がある」と答申。03年までにすべて共学化された。01年度に22校の別学校があった宮城県も、10年度までに県立高校をすべて共学化した。県教委によると、「多感な高校時代には男女が共に学び理解し合う環境が望ましい」などとして、当時の知事が主導したという。最近も、少子化に伴う定員割れなどを理由に、和歌山県内唯一の公立女子高が23年度末に閉校。5校の別学があった鹿児島県でも、男子校1校が4月に共学化し、別の男子校1校も26年度から段階的に共学になる予定だ。朝日新聞の調べでは、24年4月現在、別学校があるのは宮城、埼玉、群馬、栃木、千葉、島根、福岡、鹿児島の8県で42校。埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に4分の3が集中する。男女別学高校について、盛山正仁文科相は3月の会見で「男女別学を一律に否定するものではない。それぞれの学校の特色、歴史的経緯等に応じて、設置者において適切に判断されるべきだ」との見解を示している。
■教育内容が大事、別学にも利点
 昭和女子大の友野清文特別招聘研究員(ジェンダー教育学)の話 共学化すれば、男女共同参画社会が進むという単純なものではない。大事なのは、ジェンダー問題に向き合う各学校の教育方針であり、教育の内容だ。志望する生徒がいるのであれば、公立でも別学を選択できる環境を残すことは一定の意味がある。共学の場合でも、男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある。共学の方が「性差」を意識する機会が多く、別学の方がより自分らしく過ごし、学べる面もある。今、文部科学省は公立の普通科高校の個性化・多様化を進めている。別学の議論は、高校のあり方を考えるいい機会だ。埼玉の別学校は伝統を基盤により新しい教育を探れる可能性がある。これから進学する生徒やその保護者の意見を踏まえ、検討する必要がある。
■憲法は性差別禁止、共学が原則
 明治大の斎藤一久教授(憲法学)の話 法の下の平等を定めた憲法14条は、性別による差別を禁止している。憲法に従えば、男女共学が原則だ。性別によって入学を制限する別学校は、憲法違反の疑いがある。一方で、別学が必要だと結論づけるとすると、十分に合理的な理由があるかが論点になる。別学維持を主張する理由として、よく「伝統」が挙げられるが、行事の違いなどは根拠にならない。女子校はリーダーシップを育成できるという意見もあるが、内申書などで、もともとリーダーの資質がある女子を入学させているに過ぎない。公立高校で別学という選択肢が必要な合理的な理由があるなら、小中学校にも必要になってしまう。自宅から最も近い高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば、違憲判断が出るかもしれない。

*3-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS8C3HP6S8CUTNB00RM.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年8月13日) 公立の男女別学は選択肢?不公平? 割れる意見 危機感持つ卒業生も
 2023年8月、埼玉県の第三者機関である男女共同参画苦情処理委員が、浦和や浦和第一女子など12校ある県立の男女別高校の共学化を求める勧告を出した。県教委は8月末までに、苦情処理委員への報告をまとめる。共学化か、別学維持か――。報告を前に、共学化をめぐる議論を追った。県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが、「公教育」についての考え方だ。「公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平だ」。共学派推進の市民団体などは昨年8月の勧告以降、会見などで活発に意見を表明してきた。別学校の多くは地域の伝統校で偏差値も高めのため、「選択できるのは学力の高い一部の生徒に過ぎず、そもそも公平性に欠ける」との声が上がる。また、逆に「地域の進学トップ校に行こうとしても、共学という選択肢がない」(県北部の中学3年生)との声もある。なかでも、進学実績で「県内トップ」とされる浦和高校が男子校であることが、男女の教育機会に差を生んでいるという批判は根強い。国内最難関とされる東大の2024年の合格者数をみると、県内の公立高校では浦和が最多の44人。続く共学の大宮の19人と2倍以上の開きがあった。女子校で最も多いのは浦和第一女子と川越女子で2人ずつだった。一方、別学維持を求める署名を7月下旬に県教育委員会へ提出した浦和高校3年の男子生徒(17)は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できている方が選択肢が広がる」と語る。別学が私学だけになると、金銭面で余裕がない人の選択肢が狭まるのではないかとの懸念だ。県によると、県内の高校生に占める私立の生徒の割合は約3割。授業料は県立の全日制が年11万8800円、私立の平均は年約40万3千円だ。文部科学省の調査(21年度)によると、授業料、修学旅行費、学校納付金などにかかる「学校教育費」は、公立高30万9千円、私立高75万円でさらに差が大きかった。一部の私立高生は、国の就学支援金に埼玉県の助成を上乗せすれば授業料平均額相当(年40万3千円)の補助を受けられるが、所得制限で補助を受けられない家庭もあり、物価高騰などで負担が重くなっているという。県教委による男女共学校の保護者らへの意見聴取でも「男女別学は特色ある学校という観点からも意義がある」「地理的に(公立の)男子校しかないのであれば問題だが、そういった状況ではない」などと別学維持を求める意見も挙がる。別学校の同窓会長らは「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と訴えている。ただ、少子化の影響もあり、地域によっては別学校が選ばれなくなっている状況もある。昨年度の県立の別学校(全日制)の入試倍率をみると、春日部1・50倍、川越1・47倍、浦和1・38倍、浦和一女1・37倍など県南部周辺が高かった。一方で、熊谷1・11倍、松山女子1・04倍、松山1・02倍、熊谷女子0・99倍、鴻巣女子0・92倍など、県北部では1倍を割る高校もあった。熊谷女子の卒業生という中学3年の保護者(47)は現状への危機感を口にする。「倍率が1倍を切ったのには驚いた。少子化が進むなか、地域によっては別学校も男女共学化で、より魅力的な学校像を探る時期なのかもしれない」。
高等学校(全日制)の学校教育費の内訳
          <公立>    <私立>
  入学金     1万6千円    7万1千円
  授業料     5万2千円    28万8千円
  修学旅行費等  1万9千円    2万6千円
  学校納付金等  3万2千円    11万5千円
  図書・学用品等 5万3千円    6万4千円
  教科外活動費  3万9千円    4万7千円
  通学関係費   9万1千円    12万9千円
  その他      4千円       7千円
  合計     30万9千円      75万円
※文部科学省の22年度「子供の学習費調査」より

*3-3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16016631.html (朝日新聞 2024年8月23日) 公立高共学化「主体的に推進」 埼玉県教委、別学12校の方法・時期先送り
 埼玉県で伝統校を中心に12校ある県立の男女別学高校の共学化をめぐり、埼玉県教育委員会は22日、「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表した。ただ、共学化の方法や時期、校名などは明記せず、具体的な進め方は先送りした。昨年8月、県の第三者機関の男女共同参画苦情処理委員から「早期の共学化」を勧告され、1年以内の報告を求められていた。同様の勧告を受け、県教委が2002年度にまとめた報告書では「当面維持」としていた。今回の報告書では、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展」など社会の変化に応じた学校教育の変革が求められると指摘。「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」と述べ、「今後の県立高校の在り方について総合的に検討する中で、主体的に共学化を推進していく」と結論づけた。一方、別学校の共学化に当たっては、「県民の意見を丁寧に把握する必要があるため、アンケートや地域別での意見交換、有識者からの意見聴取などを実施していく」とし、具体的な時期などは示さなかった。日吉亨教育長は22日の記者会見で、結果的に別学校を存続させる可能性を含めて「総合的に考える」としつつ、「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」と話した。(杉原里美)
■賛否両派から不満
 今回の勧告は「県立の男子高校が女子の入学を拒んでいるのは、女性差別撤廃条約に違反する」という県民の苦情が発端だった。県教委は別学校や共学校の保護者、生徒、市民団体などから意見を聴取。県内の中高生とその保護者を対象に記名式のアンケートも実施した。この間、共学化賛成派と反対派が鋭く対立。賛成派の市民団体「共学ネット・さいたま」が4月に記者会見を開くと、その1週間後に浦和、浦和第一女子など別学4校の同窓会長らが会見を開いて反論した。激しい対立を背景に、報告書は共学化への道筋を明確に示さなかった。勧告は、県立高校の「公共性」の観点から別学校を問題視したが、報告書は別学校に「一定のニーズ」を認め、共学校も選択できることを踏まえ、「男女の教育の機会均等を確保している」と評した。あいまいさが残る報告書に対し、賛否両派から不満の声が漏れた。共学ネット・さいたまの清水はるみ世話人代表(72)は「県教委が主体的に推進するという(報告書の)意義はあるが、具体的な計画が何もない。共学化を進める検討会議を立ち上げてほしい」と注文。男子校の浦和高校同窓会の野辺博会長(71)は「県民の意見を無視した報告書。共学化推進が明記され残念だ。すぐに共学化しないとも受け取れるが、また数年後に同じことを繰り返すのではないか」と反発した。

*3-3-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240826&ng=DGKKZO83007160V20C24A8TYA000 (日経新聞 2024.8.26) 〈多様性 私の視点〉男女賃金差、職業選択が影響 東京大教授 山口慎太郎氏
 男女間賃金格差は依然として課題であり、労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響を及ぼしている。この問題を解消するためには、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠だ。男女の異なる職業選択の背景には、仕事に求める要件の違いが大きくかかわっている。男女ともに給与や昇進機会を重視するのは当然として、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向が強い。これには、育児や介護といった家庭内の責任を担う女性が多いことが影響していると考えられる。また、複数の研究は、女性は競争が少なく、リスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差につながっている。さらに、最新の研究によると、仕事の持つ社会的意義を重視する度合いにも男女間で大きな差があることが明らかになっている。世界47ヵ国、11万人を対象とした調査では、女性が仕事の社会的意義をより重視する傾向が強いことが分かっている。アメリカのMBAプログラムに通う学生を対象とした研究によると、社会的意義が非常に高いと感じられる仕事であれば、女性は15%低い賃金を受け入れるが、男性は11%低い賃金までしか受け入れない。このような選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因となっている。こうした選好がどこから生じるのかについては明確な答えは出ていないが、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのかもしれない。この研究結果は、企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆を与える。例えば、女性の少ない金融業界においては、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる。また、政府が公共調達や税制などを通じて、企業の社会的責任(CSR)に対する努力を優遇することで、企業の取り組みを後押しすることができるだろう。

*3-4:http://www.newstokyo.jp/index.php?id=299 (都政新聞 2011年4月20日号) 局長に聞く、会計事務の専門集団、会計管理局長 新田 洋平氏
 東京都の各局が行っている事業の内容を、局長自身によって紹介してもらう「局長に聞く」。31回目の今回は会計管理局の新田洋平氏にご登場いただいた。出納事務以外にも、石原知事自身が自らの最大の功績と自負する新公会計制度改革を推進するなど、目立たないながらも重要な業務を担っている。
●出納事務を通じ都政運営に貢献
―会計管理局は、その仕事の中身が都民にわかりにくいと思われています。
 我々は都民向けの具体的な施策を持つ他局と違い、都民からは見えにくい組織の典型だと思います。各局が施策を実施するのに伴って、例えば工事請負代金などいろいろな支払が生じますが、我々は、そうした支払の実務を担っています。支払事務以外では、都民の皆さんからいただく税金や使用料、あるいは国庫補助金や都債収入などの、収入面での実務も取り扱っています。間接的ではありますが、都民や企業との関わりが深い仕事です。地味で見えにくいのですが重い責任を担っており、各局とペアを組んで円滑な都政運営に努めています。
―出納事務の責任の重さはわかりますが、それ以外ではどのような仕事を行っていますか。
 東京都は、将来に備えて必要な資金を基金として積み立てており、手元資金約3兆8千億円のうち、2兆8千億円が基金となっています。これを遊ばせておくわけにはいかないので、支払までの間に効果的な運用を図っています。21年度実績では3兆8千億円の資金を運用した結果、低金利時代にも関わらず188億円の運用収益をあげています。我々は、交通局、水道局、下水道局などの公営企業を除いた各局のほか、警視庁や東京消防庁も含めた収入支出や資金管理も行っています。一例として、東日本大震災を受けて警視庁や東京消防庁の出番が増えており、緊急な資金対応の必要性も生じています。東京消防庁がハイパーレスキューを福島などの被災地に派遣した際にも、急遽、資金が必要になったということで、深夜に用意しました。
●公会計制度改革を全国でリード
―新公会計制度の導入は石原都政の大きな目玉ですね。
 石原知事自身、3期12年の最大の実績は、「会計制度改革だ」と述べていますが、知事のリーダーシップによって導入した複式簿記・発生主義会計は、貸借対照表などを見れば、官庁会計の専門知識のない一般都民の方でも東京都の財政状況がわかるすぐれものです。例えば、21年度一般会計決算で見ると、都の資産は29兆円で、負債は8兆円です。つまり都の正味財産は差し引き21兆円あり、非常に健全だということがわかります。一方、国は21年度の一般会計決算で、資産は260兆円ありますが、負債は650兆円にも達しており、390兆円もの債務超過の状態にあることがわかります。国家財政は非常に厳しい状況にありますね。
―行政のトップである首長の理解はどうですか。
 各自治体の首長さんとお話しすることがありますが、特に大阪府の橋下知事や町田市の石阪市長は非常に理解が深いですね。橋下知事が就任して、大阪府には膨大な隠れ借金があることが明らかになりましたが、実態をわかってもらうためには従来の官庁会計ではダメだということで、石原知事に協力要請があり、我々もそれに応えてきました。その結果、大阪府では今年度から、東京都の方式に準じた会計制度の試験運用を行っています。都内では町田市が来年度から新公会計制度の導入を目指しています。一方で、各自治体の職員が導入に前向きであっても、首長さんの理解がなければ前に進まないのも事実です。首長さんの認識を変えてもらう必要があることから、昨年、知事から指示を受け、首長向けのパンフレットを作成しました。その中に「置いてきぼりの日本」ということで、世界各国の中で複式簿記を導入している国とそうでない国を色分けした世界地図を掲載したのですが、日本が世界の大きな潮流から取り残されていることがひと目でわかります。知事もこの点を取り上げて、「日本の周辺で複式簿記を導入していないのは、北朝鮮とパプアニューギニアくらいだ」と、機会あるごとに発言しています。
―公会計制度改革の重要性は、これからも増してきますね。
 都民・国民に対する説明責任などを考えれば、抽象的な言葉で語るよりも具体的な数字でわかりやすく伝えることが今後ますます重要になってきます。複式簿記・発生主義会計の導入は、いまや「必要」を超えて「必然」だと思います。もちろん当局の基本的な業務は、最初にお話ししたように出納業務です。先ほどの東京消防庁の例のように毎日、多くの職員が汗をかいているということを是非、都民の皆さんにもおわかりいただければと思います。

*3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16018363.html (朝日新聞 2024年8月26日) 越境入学、元議長が再三要求 担当者の上司らに 千代田区
 東京都千代田区立小中学校へ区外から通う越境入学で不正な申請があった問題で、仲介した元区議会議長が保護者から金品を得た2021年度入学のケースでは、区教育委員会側が越境入学を制限していた中で、元議長が再三にわたり区教委幹部らに要求していたことが関係者への取材でわかった。その後、審査を通っていた。このケースを含めた5件で、保護者の勤務地が千代田区内にあるよう装う虚偽の書類などが作成され、申請されたことが判明しているが、区教委は取材に、いずれも「虚偽の認識はなかった」と説明。元議長の働きかけは「審査に影響していない」としている。元議長は嶋崎秀彦氏(64)=区発注工事を巡る汚職事件で有罪判決。複数の関係者によると、元議長は20年秋ごろ、東京都江東区の女性から、子どもが千代田区立中へ越境入学できるよう要望を受けた。自身の支援者である千代田区内の店舗に、女性が店で勤務しているよう装った就労証明書の作成を依頼した。元議長は申請の直前、区教委に申請を許可するよう要求。担当者は、受け入れを制限していることなどを理由にすぐには受け入れなかったが、元議長はその後も上司らに電話するなどし、許可するように求めたという。区教委によると、この区立中では21年度入学で、「保護者の勤務地が区内」という基準での受け入れは運用として取りやめていた。女性は虚偽の証明書を申請資料として提出し、区教委の審査を経て、21年度の入学が許可された。元議長は女性側から銀ダラや最中(もなか)を受け取ったという。千代田区教委によると、同区への越境入学では基準が11項目あるといい、満たす項目があれば審査の対象になる。江東区の女性のケースについては、就労証明書について「虚偽だという認識はなく、その認識の上で適切な事務処理を行った」と説明。就労要件だけではなく「特別な事情」もあったとしたが、どの項目にあたるかは明らかにしなかった。
■千代田区、受け入れ減少傾向
 千代田区にある公立校は小学校が8校、中学校が2校(中等教育学校を除く)。区教委によると、越境入学の受け入れは減少傾向にある。小学校で2012年度に入学が認められたのは86件あったが、23年度には14件と2割弱まで減少。中学校では12年度は64件で、23年度は25件と4割弱になった。千代田区の越境入学の審査基準は11項目あり、どの項目を審査で採用するかは学校ごとに異なるという。11のうち、保護者の勤務先が学区内にあり、共働きなどで放課後の保護などの配慮を必要とする「就労要件」にあてはまるケースが以前は8割以上だったが、就労要件のみでの受け入れを認める学校は減少。20年度は小中合わせて6校あったが、23年度は3小学校になった。中学校は21年度から原則として就労要件のみでの受け入れをしていない。背景には、区立校の人気に加え、区内にマンションなどが建設されて子どもの数が増え、区外を受け入れる余裕が無くなったことがあるという。

<日本のエネルギー基本計画について>
PS(2024.9.1追加):*4-1-1・*4-1-2は、①東電HDは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じて大型変電所を新増設 ②AI普及をにらんだ電力インフラの整備が課題でデータセンターが集まる首都圏に変電所新増設計画の半数集中 ③2030年までに全国で18カ所の大型変電所新増設が計画、うち約半数は首都圏 ④工場等の新設時は電力会社に使用量を伝えるが、供給量が足りなければ建設できない ⑤九電はTSMCの新工場建設に合わせて熊本県内2カ所の変電所増強を決定 ⑥北電もラピダスの新工場のため、2027年に南千歳で変電所を新設 ⑦日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少したが、2023年度を底に増加に転じる見通し ⑧データセンターは膨大な計算が必要な生成AI普及でサーバー1台当たり消費電力が10倍近くに増える ⑨日本政府は再エネ豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている ⑩河野氏は自民党総裁選を前に脱原発を修正し、「電力需要の急増に対応するため、原発再稼働を含めて様々な技術を活用する必要がある」「EVの急速な普及で、再エネをこれまでの2倍のペースで入れたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」とした ⑪自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める 等としている。
 しかし、日本は「首都直下型地震や富士山の噴火がいつ起こっても不思議ではない」と言われている地震火山国で地熱も豊富なため、データセンターは、⑨の日本政府のように、再エネが豊富な地方に分散させるのが、リスク管理まで含めて合理的である。にもかかわらず、①②③のように、首都圏にデータセンターを増やすため送電網を増強し、④⑤⑥⑦⑧⑩のように、データセンター・半導体生産・EVの普及を口実に原発再稼働や原発新増設を主張するのは、原発推進のための理由の後付けにほかならない。そして、下の図のように、世界では再エネ拡大とともに再エネの価格も下がっており、技術進歩とともにさらに再エネ設置可能面積は増えるのであるから、「エネルギー・ミックス」と称してあらかじめ電源構成を定めそれに固執する馬鹿な日本では、技術進歩しても再エネを増やせず、再エネ価格も下落しないのである。さらに、自民等総裁選に出るという河野氏は、⑪の理由から脱原発を修正されたそうだが、これが選挙時には大手電力会社の応援を受け、多額の寄付金をもらっている自民党の限界だと思われた。
 そもそも、*4-2-1のように、巨大IT企業の米アップルは、再エネ100%の取り組みを行なっており、2030年までにサプライチェーン全体で温室効果ガスの排出を「実質0」にすると宣言して、実際にサプライチェーン全体で使用した再エネは前年から倍増したのだ。これに対し、日経新聞等は「コストが課題」などと主張するが、コストなら原発ほど高いものはなく、再エネの方がずっと安い。そのため、1500社以上の半導体・IT企業が集中するシリコンバレー(米国カリフォルニア州サンフランシスコ、サンマテオ、サンホセ、サンタクララ付近の渓谷地帯)には、日本が「原発は安全な安定電源だ」と言って原発に執着していた1990年代始めから、現在と同じ型の風力発電機が並んでいた。私は飛行機からそれを見て通産省(当時)に太陽光発電機器の開発・普及を提案したのだが、「女性の言うことなんか、(どうせ大したこと無いから)聞かなくて良い」と考えた馬鹿が再エネ普及を妨害して日本を遅れさせた事実があるのだ。
 さらに、*4-2-2は、⑫全国的にバスや鉄道の廃線が増える中、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている ⑬地方は急速な人口減少等で路線バスの9割以上が赤字で、運転手の確保も容易ではなく、公共交通網の維持が厳しい ⑭大分県玖珠町は、人口減少が続き、高齢化率も約40%と大分県の平均を上回り、郊外ほど移動手段がなく、町民が住み慣れた場所に住み続けられない ⑮そのため、コミュニティーバスの運賃を下げ、自宅前まで迎えに行くデマンド交通への転換を始めて、高齢者の外出を促す 等としている。
 このうち⑫⑬については、バスの小型化・EV化・自動運転化を行い、道路や駐車場の屋根に太陽光発電機を設置して発電し、安価に給電するシステム(https://www.shindengen.co.jp/products/eco_energy/ev_wireless/ 、 https://www.audi.jp/e-tron/charging/ach/?utm_source=yahoo&utm_medium=cpc&utm_content=_21278479597_160526617325_698993347831_kwd-317363273911&utm_campaign=02NN_SCH_F01%28AudiChargingHub%7CYSA%7CSEA%29&utm_term=p_%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%20%E5%85%85%E9%9B%BB 参照)にすれば、バス運行の損益分岐点が著しく下がるため、再エネの豊富な地方から始めて事例を見せればよいと思う。また、⑭⑮のように、バスが自宅前まで迎えに行けば高齢者の外出が促されるのは確かだが、他の乗客もいるため、EVを完全自動運転化して高齢になっても自家用車に乗れるようにするのがBestだ。さらに、農林漁業は人口密度の低い地域で行なう産業であるため、その従事者の利便性を無視して「赤字路線は廃止してコンパクトシティーにすれば良い」という主張は、全体を見ていないのである。

  
  2024.2.8Sustech    2023.2.27日経新聞 2022.12.23朝日 2024.5.15日経

(図の説明:1番左の図のように、G7各国は脱炭素電源への転換を推進し、2035年までの電力部門の完全又は概ね脱炭素化に合意しているが、原子力を20~22%も使う不合理な電源ミックス目標を設定しているのは日本だけである。何故なら、左から2番目の図のように、技術が進歩すれば太陽光発電できる場所も広がるため、あらかじめ電源ミックスを定めることなどできないからで、米国の「内訳なし」かドイツ・イタリアの原子力0が正解なのだ。にもかかわらず、右から2番目の図のように、日本は原発に関する諸問題が何一つ解決できず、原発は金食い虫であるのに、原発の運転延長を決め、建て替えや新増設まで検討している。1番右の図は、2040年度の電源構成の見通しを決めるエネルギー基本計画だそうだが、合理性のあるリーダーシップは見られず、未だに費用対効果の悪いバラマキや国富の国外流出が散見されるのだ)


     Kepco              Asuene      2024.8.30日経新聞 

(図の説明:左図のように、日本のエネルギー自給率は著しく低いが、これは再エネを増やせばすぐに解決できる。また、中央の図のように、再エネは真剣に普及させれば価格が下がるのは当然なので、「再エネは高い」というのは原発再稼働・新増設の言い訳にすぎない。また、右図の「データセンターへの電力供給のため原発再稼働・新増設が必要」というのも、データセンターは地方の再エネの豊富な地域に分散させるのが地方の活性化と危機管理の上で合理的であるため、原発再稼働・新増設の言い訳であろう)

*4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240830&ng=DGKKZO83119170Q4A830C2MM8000 (日経新聞 2024.8.30) 送電網、首都圏で集中投資 データ拠点需要増、東電4700億円、AI普及へ安定供給
 電力会社がデータセンターや半導体工場の増加に対応して送電網(総合2面きょうのことば)を増強する。東京電力ホールディングスは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じ、大型変電所を新増設する。データセンターが集まる首都圏に変電所の新増設計画の半数が集中しており、安定供給に向けて人工知能(AI)の普及をにらんだ電力インフラ整備が課題となってきた。電力広域的運営推進機関が3月にまとめた各社の開発計画をもとに、日本経済新聞社が電力需要の拡大に対応した大型変電所の新設と増強分をまとめた。30年までに全国で18カ所の新増設が計画されており、そのうち約半数となる8カ所が首都圏となる。容量ベースでも約4割を占める。東京電力パワーグリッド(PG)は27年度までの5年間で産業向けを含む送電設備の増強に約4700億円を投じる。直近5年間と比べ3倍に増やす。6月には24年ぶりとなる大型変電所を千葉県印西市に新設した。東電PG管内では多摩や相模原などでもデータセンターの開発計画が相次ぐ。金子禎則社長は「印西と同規模の集積地が5~6カ所あり、消費需要は33年度までに700万キロワット増える」とみており、エリア内での変電所の増強を進める。発電所で作られた電力は効率良く運ぶために電圧を高めて送電する。変電所は段階的に電圧を下げて顧客に供給する役割を担う。変電所の能力はエリア内の電力需要を基に決めている。工場などの新設時には電力会社に使用量について伝えるが、供給量が足りなければ建設できない。電力会社は需要の増加に合わせて、変圧器や送電線を増強する。半導体工場の誘致を進める九州や北海道でも変電所が不足している。九州電力は台湾積体電路製造(TSMC)が新工場を建設するのに合わせ、熊本県内の2カ所の変電所の増強を決めた。投資額は100億円超となる見通し。北海道電力もラピダスの新工場を見据えて、27年に南千歳で変電所を新設する。日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少が続いてきたが、23年度を底に増加に転じる見通し。電力広域的運営推進機関の試算では33年度までの10年間で消費電力が4%増える。データセンターは膨大な計算が必要な生成AIの普及でサーバー1台当たりの消費電力が10倍近くに増えることもある。変電所の新増設だけでなく、老朽化した設備の更新や再生可能エネルギーへの対応に向けての投資も増えている。消費者の負担を抑えるには電力需要の分散が課題となる。日本政府は再生可能エネルギーが豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA305AX0Q4A730C2000000/ (日経新聞 2024年7月31日) 河野太郎氏、脱原発を修正 AIで電力需要増え「活用必要」
 河野太郎デジタル相は31日、茨城県で東海第2原子力発電所(東海村)や高速実験炉「常陽」(大洗町)を視察した。記者団に「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含めて、様々な技術を活用する必要がある」と述べた。自民党総裁選を前に「脱原発」色を修正した。「生成AI(人工知能)が急速に発展し、データセンターのニーズが増えている」と指摘した。電気自動車(EV)の急速な普及に言及した。「再生可能エネルギーをこれまでの10年間の2倍のペースで入れられたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」と話した。「原発再稼働、再エネから核融合に至るまで、色々な幅の中で何ができるようになるか」を検討する必要性があるとの見解を示した。31日にはX(旧ツイッター)でも一連の視察を報告した。日本の電力需要が増加に転ずる予測があることに触れた。河野氏はもともと脱原発を訴え、原発ゼロへの道筋を明確にするよう訴える立場だった。再エネを最優先し、最大限導入することを主張してきた。2021年の前回総裁選に出馬した際は将来の脱原発を目指しつつ「安全性が確認できた原発は再稼働するのが現実的」との姿勢をとった。今回はさらに原発活用の必要性を前面に出した。エネルギーは河野氏が「ライフワーク」と位置づける政策のひとつだ。祖父の一郎氏は当時の経済企画庁長官として1957年の日本原子力発電の設立にかかわった。今回視察した東海第2原発は日本原電が運営している。2011年の東日本大震災で停止して以降、安全対策工事を進めているものの再稼働に至っていない。国際エネルギー機関(IEA)が7月に公表した報告書は「安定した低排出電源の必要性などから、原子力発電が地熱発電とならんで魅力的な存在になりつつある」と指摘する。河野氏も31日の発言で「再生可能エネルギー、それから原発というゼロエミッションの電源で必要な電力需要をまかなうのは日本だけじゃなく、各国がやらなければいけないことだと思う」との認識を表明した。経済成長やEVの浸透などで電力需要は世界的に伸びている。報告書は23年に2.5%だった世界の電力需要の成長率が24年は4%ほどと過去20年で最高水準になる見通しを示している。こうした環境変化も河野氏の発言の背後にあるとみられる。国が基本方針とする「核燃料サイクル」については「予算を投じる以上、効果をきっちり見る必要がある」と語った。岸田文雄首相の自民党総裁の任期は9月末までだ。その前にある総裁選に向け、河野氏は有力な「ポスト岸田」候補のひとりとして名前が挙がる。7月26〜28日の日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査で次の総裁にふさわしい人を聞いたところ5%が河野氏と回答した。最も多かった石破茂元幹事長の24%、小泉進次郎元環境相の15%と差がついている。河野氏は21年の総裁選の党員・党友票で当選した首相を上回った。一方で国会議員票で差をつけられて1回目の投票も決選投票も敗れた。自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める。21年の総裁選は脱原発への懸念から賛同を得られなかった側面がある。原発推進の立場を打ち出すことはエネルギー政策で距離を縮めて、議員の支持を広げることにつながりうる。河野氏は31日、量子科学技術研究開発機構(QST)の那珂フュージョン科学技術研究所(茨城県那珂市)にも足を運んだ。核融合エネルギーの早期実現のために日本と欧州が共同で実施するプロジェクトの進捗を確認した。河野氏は「世界に打って出ていける技術開発は温暖化対策という意味でも、日本経済の未来にとっても大事なことだ」と言明した。

*4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ4G72C7Q4GUHBI016.html (朝日新聞 2022年4月15日) アップル、再エネ100%の供給元倍増 「外圧」うけ日本は20社増
 米アップルは14日、同社向けの製品をつくるのに100%再生可能エネルギーを使うサプライヤー(供給元)が213社となり、1年前からほぼ倍増したと発表した。日本企業は9社から29社となった。日本は欧米よりも再エネの普及が遅れているとされる。巨大IT企業という「外圧」が日本企業の環境戦略に変化を与えている。同社の再エネ100%の取り組みに参加する企業は25カ国に及び、主要取引先の大半が含まれる。日本企業では、シャープやキオクシアなどが新たに参加した。欧州の参加企業は11社増えて25社となった。中国でも23社が新たに加わった。年間2億台以上のiPhone(アイフォーン)を売るとされるアップルの存在感は大きく、参加企業は年々増えている。アップルは2030年までにサプライチェーン(部品供給網)全体で温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすると宣言している。昨年同社が供給網全体で使用した再エネは前年から倍増した。現在の取り組みは、年間で300万台近いガソリン車を削減するだけの効果があるという。同社は日本や中国で太陽光発電プロジェクトに投資をしたり、供給元に助言をしたりして、再エネ導入を支援する。アップル担当者は昨年、日本などでの課題として、「コスト効率が良く信頼できる再エネにサプライヤーがアクセスするうえで、世界の多くの地域で政策が障壁になっている」と話していた。同社は日本について今回、企業が発電事業者と直接契約して電気の供給を受ける「電力購入協定(PPA)」と呼ばれるしくみが広がるなど、「クリーン電力の新たな選択肢が増えている」と指摘した。
●コストが課題 それでも「対応している企業が選ばれる」
電子部品大手の村田製作所(京都府長岡京市)は、2050年度までに会社で使うすべての電力を再生可能エネルギーでまかなう目標を掲げている。しかし、米アップルとの取引にかかわる事業については、30年度までに前倒しで達成できるよう、優先して取り組んでいる。同社の生産子会社の金津村田製作所(福井県あわら市)では、昨年11月、同社の工場として初めて再エネ使用率100%に踏み切った。使う電力のうち自社の発電で13%をまかない、残る87%は再エネ由来の電力を外部から買っている。いずれは自社発電を50%まで高める計画だ。工場内の駐車場の屋根などに太陽光発電パネルを敷き詰め、独自に蓄電システムも開発した。天気や気温などの気象条件と工場の稼働状況を過去のデータとも照らし合わせて分析。翌日に発電できる量と使う電力量を予測して、無駄なく再エネを使っているという。いま工場で発電できる再エネは年間74万キロワット時。二酸化炭素排出量を年間368トン削減できるという。同社の工場は北陸地方に多く立地している。豪雪地帯だと冬場は天候が悪くて太陽光発電が思うように使えない。それでも、再エネ100%にこぎ着けた金津村田製作所のしくみを、ほかの工場にも広げる考えだ。日本では再エネの購入費用が比較的高く、規制なども多いため、調達が難しい傾向にあるとされる。費用面だけでみれば再エネ100%は割に合わない面もある。しかし、同社は売上高に占める海外比率は9割に達している。取引先だけでなく、消費者の環境意識にも目配りが必要だという。担当者は「今後はますます、きちんと対応している企業が選ばれるだろう」と話している。2020年からアップルの再エネの取り組みに参加している素材メーカーの恵和(本社東京)では、グローバル企業の取引先から再エネ利用に取り組んでいるかどうかの調査が増えているという。同社の広報担当者は、「自信を持って『はい』と答えられる」と話す。仕入れ先に対しても、環境や人権関連についての調査をしているという。同社は、アップル向けにディスプレーの光学フィルムを納入している。和歌山県にある工場では、三重県の風力発電所から再エネを購入。アップル向けの製品では再エネ100%を実現しているという。ただ、世界的に資源価格が高騰するなか、「再エネの需要も高まっており、奪い合いになりつつある」といい、コスト面が一番の課題だという。
●再エネ100%に参加する主な日本の供給元
(かっこ内は供給している主な製品)
・村田製作所(電子部品)
・アルプスアルパイン(同上)
・ヒロセ電機(同上)
・TDK(同上)
・ジャパンディスプレイ(液晶パネル)
・シャープ(同上)
・キオクシア(半導体)
・ソニーセミコンダクタソリューションズ(同上)
・恵和(フィルム)

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240831&ng=DGKKZO83154270R30C24A8MM8000 (日経新聞 2024.8.31) 交通網再生へ計画1000超 自治体、事業者・住民と連携、大分・玖珠町 バス運賃下げ利用者増
 全国的にバスや鉄道の廃線が増えるなか、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている。事業者や住民と連携して今後のあるべき姿を示す「地域公共交通計画」の作成数は4月末で1052まで増えた。自治体あたりの作成数が最多の大分県では、計画に基づいたバス運賃の引き下げなどで利用者を増やす動きも出てきた。地方圏では急速な人口減少などで路線バスの9割以上が赤字に陥っている。運転手の確保なども容易ではなく公共交通網の維持は厳しさを増す。国は2020年の法改正で、運営体制や路線網などの再構築に向けたグランドデザインとなる地域計画の作成を自治体の努力義務とした。地域計画は県や市町村のほか、複数の自治体が共同で作成するケースもある。自治体あたりの計画数を都道府県別に見ると大分県が1.11と自治体数を上回って最多となり、広島県、富山県が続いた。大分県は県が主導して東部や中部など6圏域別に計画を作ったほか、多くの自治体が単独でも作成している。県地域交通・物流対策室は「市町村合併もあって広い面積に人口が分散している自治体が多く、交通網の維持への危機感が強い」と説明する。同県玖珠町は21年3月に県と共同で西部圏(日田市・九重町・玖珠町)の計画を作った。同町は人口減少が続くうえ、高齢化率も約40%と県平均を上回る。宿利政和町長は「何とか利用者を増やして公共交通を守りたい。このままでは郊外になるほど移動手段がなくなり、町民が住み慣れた場所に住み続けられなくなる」と話す。地域計画に沿って今年4月には「ゾーン制運賃」を導入した。従来、町のコミュニティーバスと民間の路線バスは、目的地が同じでも運賃が異なるなどの弊害があった。新運賃はJR豊後森駅など中心区域は大人が150円で、区域外は300円とした。大分交通グループの玖珠観光バスは長距離区間で600円を超えることもあったが半額以下になった。コミュニティーバスの運賃も距離に応じて最大200円だったが一律150円となり、4~7月の利用者は前年同期を上回った。宿利町長は「バス会社の減収分は町が補填するうえ、利用者を一定数確保できれば地域計画に基づいた国の補助もある」と強調。「分かりやすい運賃は増加する訪日客の呼び水にもなる」と期待する。玖珠町と同じ西部圏の九重町は、3月に町単独の地域計画も作った。路線バスの幹線から延びる枝線の改善が大きな柱で、10月にはコミュニティーバスのデマンド交通への転換を始める。日野康志町長は「バス停まで歩くのもつらいという高齢者が増えた。自宅前まで迎えに行くデマ