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2023.11.12~12.1 細田前衆院議長と保利元文科省のご冥福を祈りつつ、女性差別と闘ってきた本物のキャリア・ウーマンとして、日本における女性差別の根本的な仕組みを解説する (2023年12月2、7日に追加あり)
(1)細田議長と保利元文科省の追悼


   唐津市       2022.11.3朝日新聞       2021.11.4読売新聞

(図の説明:前は引き子の法被も粗末だったのだが、保利氏のご尽力でユネスコ無形文化遺産に指定されて山笠の塗り替え費用が国から出るようになったため、少しは豊かになったらしく、山笠の色に合わせて町毎に統一された引き子の絹の法被が見た目も美しくなった)

1)細田前衆院議長の死去について
 この前の前議員会で衆議院儀長としての元気なお姿を拝見し、「広津さん、頑張ってね」と声をかけて下さっただけに、*1-1のように、メディアが「細田さんが多臓器不全で亡くなった」と報道した時は、「ひどいバッシング続きで苦労が多かったのだろう」と思い、寂しく思った。

 細田さんは、「東京教育大学附属駒場高校→東大法学部→通産省→運輸大臣等を勤めた父・吉蔵氏の議員秘書→1990年衆議院選挙で島根県全県区から初当選→11回連続当選」という絵に描いたようなサラブレッドであり、自らの選挙では苦労することのない人だったし、紳士でもあった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E7%94%B0%E5%8D%9A%E4%B9%8B 参照)。

 そのため、「一部週刊誌で指摘された女性記者へのセクハラ疑惑」というのは、私が経験したのと同様、本当の性格とは真逆の印象を擦り付けるための週刊誌によるあげつらいだと思われる。また、旧統一教会との接点についても、悪い結論ありきのしつこい質問が多すぎるが、「呼ばれて行ったので、リップサービスをした」というのは本当だろう。

 そのため、*1-2のように、自分も経験のある議員仲間は、メディアや野党発の悪評を「またか」と思って気にしておらず、岸田首相は「心から哀悼の誠を捧げたい」「今日までの努力に心から敬意を表す」「様々なご縁で親しくしていただき、先輩としてアドバイスをいただいたことを思い返す」と述べられ、茂木自民党幹事長は「悲しみでいっぱい」と表現され、公明党の山口代表は「自公連立政権をより強固なものにする過程で大きな役割を果たしてもらった」と感謝しておられるのである。

2)保利元文科相の死去について
 保利さんも前議員会で度々お会いし、同じ選挙区(佐賀三区)から出ていたため話が通じやすく、選挙区に関する会合等では親しくお話しすることが多かったため、*2-1・*2-2のように、誤嚥性肺炎で亡くなっていたという訃報に触れた時には寂しさを感じた。

 保利さんは、「東京教育大附属中学・高校→慶應義塾大法学部→日本精工→日本精工フランス社長→父・保利茂氏の死去で1979年衆議院議員総選挙に佐賀県全県区から立候補し初当選→郵政民営化法案採決で反対票を投じて自民党離党→12回連続当選」という慶応ボーイで、大学時代は陸上部だったそうで、スマートなサラブレッドの一生だった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%9D%E5%88%A9%E8%80%95%E8%BC%94 参照)。

 保利さんは、佐賀県全県区から立候補した保利茂氏の選挙を手伝った時、「トラックに荷物を積んで佐賀県中を廻ったが、それでも佐賀方面では殆ど票が入らなかった」とボヤいておられた。佐賀方面は祐徳自動車社長の愛野さん父子の地盤だったからだろうが、金と時間がかかる中選挙区の大変さを垣間見た思いがした。

 なお、2005年9月執行の第44回衆議院議員総選挙(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC44%E5%9B%9E%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E7%B7%8F%E9%81%B8%E6%8C%99 参照)については、保利さんは郵政民営化法案採決で反対票を投じたため自民党の公認を得られず、もともと郵政民営化すべきだと思っていた私が自民党公認を得て佐賀3区で闘った。そして、佐賀県連の応援を受けた保利さんが小選挙区で当選し、私は九州比例で当選したが、総選挙後の特別国会で再提出された郵政民営化法案に保利さんたちは賛成票を投じられたものの、自民党を離党されることとなった。

 郵政民営化すべき理由は、①国営のままでは郵便貯金を使った国の隠れ債務が発生するため、「隠れ○○」をなくして国の債務は全て国債残高に現れるようにすること ②国営では機動的なサービスができず、サービスも行き届かないこと 等の理由による。しかし、保利さんは自民党佐賀県連の要請で反対票を投じておられたため、自民党佐賀県連は無所属で立候補された保利さんを応援し、ネジレ選挙になったのだ。

 その後、2008年に麻生内閣で自民党政調会長に就かれ、2009年8月執行の第45回衆議院議員総選挙では、保利さんが佐賀3区の自民党公認となり、私は九州比例の上位にもならなかったため、みんなの党佐賀3区から立候補して落選したわけである。

3)*2-3の記事で、私がひっかかった場所について
 *2-3は、①元唐津市議宮崎さんは「先生は厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた」「国のため地域のためを最優先に考え、政治家の範を示す実直な人だった」「唐津、佐賀のために頑張っていただき、本当に感謝の思いしかない」 ②熊本市議は「真面目な人柄で『選挙は情』だとよく話していたのが印象深かった」 ③昭和自動車常勤監査役の福岡修さんは「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」 ④曳山取締会の山内総取締は「誠実で温厚な方だった」「曳山の塗り替えなど省庁との橋渡し役として支えていただいた」 等と語られたそうだ。

 もちろんどの人も褒めておられるのだが、①のうち「先生は厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた」と③の「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」というのは、中途半端だったり、徹底しなかったり、厳しくなかったりすれば生き残れないため、当然のことである。

 しかし、男性の保利さんの場合は、「自分にも厳しい方だった」と言ってもらえるが、女性の私の場合は、「妥協しない」「優しくない」という批判が加わるため、女性であることにより、本来必要なことと矛盾した要求がなされるのである。

 また、②については、選挙は本来なら「政策」が一番大切だが、政策に比べるべきものがない場合には情で決めることになるだろう。しかし、情にはいろいろな要素が入っており、その中には女性への偏見や差別も含まれているため、国民は心してそれを廃すべきである。

 なお、④の曳山の塗り替えなどで保利さんが省庁との橋渡し役となっておられたことを、私は現職時代に聞き、それまで高額の費用を町内会が出して町内会費が高かったと言われていたため、無形文化財を支えるために良いことをされたと思っていた。ただし、要求される厳しさと温厚さを両立できるためには、選挙に晒されない秘書がしっかりしていて、憎まれ役を引き受けてくれることが必要なのである。

(2)政治における女性登用と無意識の偏見

 
 2023.3.9日経新聞          2023.6.22日経新聞   2023.6.22西日本新聞

(図の説明:1番左の図のように、世界ではクウォータ制を採用している国が多く、スペインは閣僚の40%以上、フランス・イタリアは下院の公認候補者男女同数・ブラジルも30%以上となっている。その結果、左から2番目と右から2番目の図のように、日本では政治・経済分野の特にリーダー層でジェンダーギャップが大きく、男女平等が進んでいない。1番右の分野別ジェンダーギャップ指数を見ると、政治・経済分野で男女格差が大きく、健康はまあ良いものの、教育は大学以上で専攻選択や大学院進学において男女格差が大きい)

1)日本の政治には女性が少なく世襲議員が多いこと
 岸田政権は、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書 2023年版」で日本が146カ国中125位で、特に政治分野が138位と足を引っ張っている状況を改善するためか、「女性活躍」を掲げて東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を示し、第2次岸田再改造内閣で閣僚の女性比率を30%に近づけるよう引き上げられたが、これには、私も賛成だ。

 しかし、*3-1のように、少子化対策に育児の実態を反映させようと、2児を育てている加藤元国交政務官をこども政策・少子化担当相に起用されたのは、副大臣を経験していない抜擢人事だからではなく、「(世襲国会議員という特殊な立場で)自分の2児を育てただけで少子化の原因を把握でき、少子化を改善できる」と考えているのなら、子育てを馬鹿にしていると思った。本気で少子化対策を考えているのなら、経験豊富な子育て関係の専門家チームが適任である。

 また、首相は、「自民党内に女性議員が少なく、なかなか適任者がいなかった」と漏らされたそうだが、女性5人の閣僚のうち初入閣の3人全員が世襲議員というのも、男性の場合と同様、限られた特殊な経験しかないため問題だ。しかし、自民党の女性議員比率が約1割しかなく、その多くが世襲議員になる理由は、事例を挙げながら以下で詳しく説明するが、根本的には、選挙制度・そこで票を集めやすい候補者の選別と党の公認・メディアの報道の仕方(ここが重要)による国民の投票行動の結果と言わざるを得ない。

 なお、6月に閣議決定された児童手当の拡充などを含む「こども未来戦略方針」の財源確保ができていないとされているが、兆円単位の無駄使いが頻発しているのに、政府が社会保障の歳出削減や他の社会保険から少子化対策財源を出すというのは、社会保障を軽んじていると同時に、現在でも不足している他の社会保険財源の流用にほかならない。また、「子ども真ん中・・」というキャッチフレーズは、「子どもが生まれたら、(特に)母親が犠牲になれ」ということであるため、それなら子どもは作らずに仕事に専念しようという女性を増やすだけであろう。

 その極端な事例が*3-6で、内容は、自家用車内に児童が放置されて死亡するケースが相次ぐ中、このような事を防ぐ目的として埼玉県議会自民党が9月の定例議会に提出した埼玉県虐待禁止条例案(別名:「埼玉のぶっ飛び条例」)だ。

 その内容は、「小学3年生以下の子を自宅等に残したまま外出する(ゴミ捨ても含む)」「18歳未満の子と小学校3年生以下の子だけで留守番させる」「小学生だけで公園に遊びに行かせる」「児童を1人でお使いにやる」「小学校1~3年生だけで登下校させる」を「虐待に当たる」として禁じようとしたものだが、これは子どもを過保護にかつ自由を束縛しながら育ててしまうと同時に、実質的に共働きでは子育てできないようにする条例である。そのため、多くのオンラインによる反対署名で廃案になったが、定例議会に提出する前に、内部で理由を説明して反対できる県議がいなかったのが問題である。

 従って、これらの矛盾に平気でいられるのは、年金等の社会保障に頼る必要のない特殊な環境で育ち、育児・介護を含む家事はこれまでもしなかったし、これからもする予定のない(多くは男性の)議員であろう。

2)「女性ならではの感性」を強調すると問題になる理由
 *3-2は、①岸田政権は新たな布陣で女性登用への消極姿勢を転換した ②男性だけだった自民党4役人事で小渕優子氏を選対委員長に就けた ③首相は自信に満ちた表情で「女性ならではの感性・共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」と語った ④女性登用の象徴的存在で首相が「選挙の顔」と称した小渕氏は「政治とカネ」をめぐる問題がある ⑤今回の内閣改造で首相を含む大臣20人のうち世襲議員は8人 等と記載している。

 世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書」で日本も順位を上げる目的だったとしても、①はよいと思う。しかし、②④のように、小渕優子氏は総額約3億2千万円に及ぶ架空の寄付金を関連団体間で計上したり、支援者向けに開いた「観劇会」の収支を改竄したりして元秘書が政治資金規正法違反(虚偽記載・不記載)で起訴され、罪を認めている。

 私は、何のために架空の寄付金を関連団体間で計上したのか不明であるため、小渕氏の関連団体の虚偽記載・不記載が重い罪なのか否かは判断しかねるが、金額が大きいだけに、元秘書のみに罪を負わせて「自分は全く知らなかった」というのはあり得ないと思った。そのため、謝るよりも前に、何のためにそれを行い、それは重い罪に当たるのか否かについて説明すべきだったのだが、そのような時に、父の時代からの元秘書が一人で罪をかぶって小渕氏には影響が及ばないようにしたのは、考え方によっては世襲議員の特権である。

 このように、最初から億単位の金があり、熟練した父親時代からの秘書がいて当選回数を重ね易いのが世襲議員である。そして、適材適所か否かは問わず、当選回数を重ねれば大臣や党内の重要ポストにも就いていくため、それが地元に還元されることを期待して、地元は弔い合戦と称して世襲議員を立候補させ、先代に続いて応援する。その結果、⑤のように、内閣は首相を含む大臣20人のうち世襲議員が8人ということになるわけである。

 さらに、麻生元首相が2008年9月に最初に小渕優子氏を内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画・公文書管理・青少年問題・食育)として登用した背景には、将来、世襲議員として立候補する自分の息子の面倒をしっかり見てもらいたいという意図があったと言われており、世襲議員同士の助け合いもあるようだ。

 *3-3-1は、⑥首相の「女性ならではの感性や共感力を十分発揮しながら仕事をしていただきたい」「土屋品子復興大臣には、女性ならではの視点を最大限に活かし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらう」という言葉は、「ステレオタイプの助長や無意識の偏見」 ⑦「あくまでも適材適所。我が党の中に女性議員は少ないという指摘があったが、より増やしていかなければいけないという問題意識は認識している」 ⑧「現在活躍している女性議員もそれぞれ豊富な経験を持ち、優秀な人材は沢山いるが、今回は経済・社会・外交及び安全保障の3つの柱を中心に活躍できる方を選んだ」 ⑨「女性ならでは」という表現が意味するのは、「女性は育児をするもの」「女性特有の気配り」ということであり、無意識の偏見をばら撒き追認している ⑩第2次岸田改造内閣は、19の閣僚ポストのうち女性は5人で26%、3割に達せず ⑪男性優位組織の過去の成功体験に基づいた構造を変える必要がある」 としている。 

 *3-2の③と*3-3-1の⑥は、首相は「女性ならではの感性・共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」と語られ、これが「ステレオタイプの助長や無意識の偏見」と言われる」理由は、女性は女性独特の感性や共感力しか持てないという前提があるからだ。

 例えば、現実は、生活者や消費者としての視点は、女性だから持っているわけではなく、多くの場合、男女の性的役割分担によって消費・生活・家計を担当している女性が多く、男性は消費・生活・家計を担当していないから持っていないのである。しかし、これを是としているわけではないため、「女性ならではの感性」を強調することは、⑨のように、「ステレオタイプの助長」になるのである。

 また、「女性ならではの感性」というのは、(私は思いつかなかったため)「女らしさ」で調べてみたところ、i) 淑やか(態度・服装・話し方・声・雰囲気等) ii) 慎ましい iii) 優しくて細やか iv) 感情豊か v) 子供を護ろうとする本能(母性)が強い vi) 本能的(男性のように理屈や理性を先行させない) vii) 嫉妬は女の常(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%95 参照)等が書かれていた。しかし、これは大した教育も受けられず、婚家に入って子を産み育てることに専念させられた時代・階層の女性の話であって、現在は事情が全く異なるわけである。

 例えば、学問や仕事をする上で、慎ましかったり、感情的で本能的であったりすることは、邪魔にはなっても長所にはならない。また、淑やかで優しい話し方などとして、前置きや敬語・謙譲語(使い方の誤りもよく見かける)の多すぎる話し方をされるのも、忙しい時にいらいらさせられ、「要するに何?結論から言って」と思う。つまり、「女性ならではの感性(=女らしさ)」とは、社会的に作られた性(ジェンダー)そのものであって、それをすべての女性に押しつけるのは、論理的で男性よりも優秀な仕事をする女性も多い中、女性蔑視や女性に対する「無意識の偏見」を助長するのだ。

 なお、「嫉妬」という言葉は女偏なので、いかにも女性特有のような印象を与えるが、一夫多妻ならともかく、男性の嫉妬も著しく多い。そのため、文字や日本語(漢字は中国語)の中に潜む女性に対する偏見も洗い出すべきで、これは英語では既に行われているのである。

 結論として、⑦⑧のように、豊富な経験と能力を持つ優秀な女性議員を増やすことは必須で、そのためには、⑩のように、少なくとも3割の女性議員や閣僚はいるべきである。そして、⑪の男性優位組織が日本でも成功していなかったことについては、後で例を挙げて記載する。

3)理工系大学「女子枠」の公平性について
 *3-3-2は、①2024年度入試は理工系学部を中心に「女子枠」を設ける大学が多い ②我国では理工系分野で女子の人材育成が必要 ③東京理科大はダイバーシティー推進に力を入れ、女子の少ない工学系3学部16学科に『総合型選抜(女子)』を設けて理工系分野への女子の進学を後押し ④まず大学全体の入学定員の1.2%弱にあたる各学科3人計48人まで、将来リーダーシップを発揮する人材として意欲・向上心のある女子学生を受け入れ ⑤選考方法は調査書・志望理由書等で書類審査を行った上、面接・口頭試問と小論文を実施 ⑥意欲や目標のある人ほど大学入学後も自分を高め、リーダーシップを発揮する人材になり得る ⑦男女で視点や観点が異なるため、研究で多様な角度からの気づきが出て、良い刺激と技術革新を期待 ⑧理工系女子のロールモデルが少ないため就職や卒業後を心配する保護者がいるが、今は理工系女子は活躍の場が多く企業から引く手あまた ⑨女子の少ない学問分野が女子に不向きなわけではなく、『総合型選抜(女子)』は大学からの歓迎の証しということを高校の先生や父母に知っていただきたい ⑩2024年度入試で東京工大・東京都市大等も女子枠を新設、東京工大は2025年度入試で女子枠を募集人員全体の約14%にあたる143人まで拡大 ⑪国内で最初に女子枠を設けた名古屋工大も2024年度入試で女子枠を拡大 ⑫奈良女子大は2022年度に国内の女子大初の工学部開設 ⑬女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化 と記載している。

 このうち、⑦の「男女で視点や観点が異なるため、研究で多様な角度からの気づきが出る」というのは、岸田首相が言われた「女性ならではの視点を最大限に活かして欲しい」という言葉とどう違うかと言えば、学問では男性と対等かそれ以上の成績を持ちながら(ここが重要)、男女の性的役割分担によって消費・生活・家計を担当している女性の視点を活かせば、「研究で多様な角度からの気づきが出て技術革新に繋がる」ということである。

 それなら、①③④⑤⑥⑩⑪のように、「『女子枠』など作らず、通常の入試で入るのが公平だ」という批判があるが、⑧のように、理工系女子の良いロールモデルが少ないため卒業後の就職や結婚を心配する保護者がいたり、⑨のように、女子の少ない学問分野は女子に不向きだと考える高校教師・保護者・周囲の環境があったりするため、本来は能力があるのに理工系に進学できる学力を備えた女子が少なくなるからである。その例として、⑫のように、女子大には理工系学部のないところが多いし、女子高には男子高と違って理系進学コースのないところが多い。

 しかし、これまでも今も、日本の工業は、素材や部品には(マニアックなくらい)強いが、最終製品に弱かった。その理由は、最終製品は生活環境の中で使われ、性的役割分担の下では多くの最終製品が女性に選択されるため、技術者の中に消費・生活・家計を担当している女性の視点がなければ、生活にマッチしたデザインのよい製品ができないからである。

 このように、②のように、「理工系分野で女子の人材育成が必要」で、⑧のように、「理工系女子は活躍の場が多く、引く手あまた」で、⑬のように、「女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化している」が、女子学生の周囲の認識や女子の一般入試における実力がついて行っていない現実があるため、「女子枠は不公平」とは言えないのである。

4)副大臣26人・政務官28人の計54人は全員男性で女性0だったこと
 *3-4・*3-5は、①副大臣・政務官54人の人事で女性は0 ②首相は「チームとして人選した結果」と説明したが、内閣のチームなら閣僚・副大臣・政務官を合わせた政務三役の構成に目を光らせるべき ③多様な国民の意見を政策決定に公平・公正に反映させるため、政治分野での女性参画の拡大は重要 ④「指導的地位に占める女性の割合を2020年代の可能な限り早期に30%程度」とするとしているが、第4次計画の「2020年30%程度」からは後退 ⑤自民党には衆院21人・参院24人の計45人の女性議員がいるが、推薦名簿に女性を入れない派閥が多かった ⑥閣僚になるには副大臣・政務官として経験を積んで専門性を磨いておくことが有用で、女性を副大臣・政務官に就けることは女性閣僚を増やす道 ⑦女性比率が2割に満たない国会議員構成は変えなければならず、国際的に低い水準にある女性議員の数を増やすことも不可欠 ⑧政治分野における男女共同参画推進法は、政党に男女の候補者が均等になる目標設定を求めるが、衆院議員に占める女性割合は1割 ⑨小選挙区の公認候補は1選挙区1人に限られるため、現職を優先すると大半を占める男性を女性に交代させるのは容易でないが、比例代表なら女性を優先して名簿上位にすることが可能 ⑩政治活動・選挙運動中のハラスメント被害には女性が遭いやすいため、議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」は検討に値する 等と記載している。

 このうち、①②③④⑥⑦⑧⑨については、全く同感だ。また、⑤については、自民党の派閥の多くが副大臣・政務官の推薦名簿に女性を入れなかったのは、何故だろう? 男性の待機組が多いからなのか、女性は標的にされやすいからなのか、その理由が不明である。

 また、⑨に付け加えたいことは、まず比例代表で女性を名簿上位にして当選させ、その後、空いた小選挙区の公認候補にしていけば、現職として活動した後であるため状況がわかっており、小選挙区でも公認すれば当選し易くなるということだ。

 これに対し、「比例代表で女性を名簿上位にすること」や「クオータ制」も女性優遇との批判があるが、⑩のように、女性は、そもそも公認されにくかったり、選挙運動中にハラスメント被害に遭い易かったり、良い政治活動をしてもメディアはじめ一般の人のステレオタイプな女性蔑視や無意識の偏見によって評価されなかったりするため、議席の一定割合を女性にする「クオータ制」は、それがなくても議席の30~40%以下になる性がなくなるまで行う必要がある。

(3)一般社会における女性登用と職場における女性蔑視
 *4-1は、①2022年度の日本の管理職(企業の課長相当職以上)の女性割合は12.7% ②2022年10月時点で従業員10人以上の企業6000社を調査したところ、企業規模別では従業員数10~29人の企業が21.3%と最大 ③300~999人の企業は6.2%、1000~4999人では7.2%、5000人以上では8.2%と大企業の女性管理職割合が低い ④2021年の女性管理職割合で、日本は13.2%で、スウェーデン43.0%・米国41.4%・シンガポール38.1%と主要15カ国最低 ⑤政府は2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標で、2022年から常用労働者301人以上の企業に男女賃金差の公表を義務づけた ⑥厚労省の担当者は「女性管理職の登用は息の長い取り組み」「引き続き登用率の向上を呼びかけたい」と話す 等と記載している。

 また、*4-2は、東大の吉知郁子教授が、⑦雇用は労働者の経済的安定・社会資源の分配・自己確立・成長機会や居場所の提供・孤立防止等の効果を有す ⑧現役世代のセーフティーネットは、良質の雇用確保が最重要課題 ⑨良質な雇用の理想とされてきたのは大企業の正社員で、終身雇用・年功序列・手厚い手当で労働者と家族の生活を支えた ⑩1970~80年代には、男性稼ぎ主が主婦と子ども2人を養う世帯が標準モデルとされ、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度などによりこのモデルを補強した ⑪日本型雇用慣行の標準モデルは、自分自身や家族のケア責任を負わず、仕事に無制限に時間と労力を割ける無限定正社員 ⑫労働者本人は安定雇用と引き換えに長時間労働や転居も伴う頻繁な異動を甘受せねばならなかった ⑬判例は転勤命令を拒否した場合は懲戒解雇も有効とし、長期雇用や高待遇を保証しない企業でも、その解釈は同じ ⑭こうした価値観は健康障害や格差の固定と増大、多様性の阻害といった弊害ももたらした ⑮生活を支えるはずの仕事がストレスを生み、健康を害し生命を失う原因にもなった ⑯女性の労働力率が出産・育児期に落ち込み、出産離職率は約3割に及ぶ ⑰女性が正規雇用で働く割合は20代後半の約60%がピークで、年齢上昇につれて低下するL字を描き、女性労働者の過半数は非正規で働く ⑱晩婚化・非婚化・超高齢化・少子化という不可逆な社会変化が「標準」世帯を過去のものにしている ⑲労働力の先細りや教育水準の高まりを考慮すれば、性別・年齢・婚姻状態を問わず健全な雇用機会を確保することが必要 ⑳日本では男性の有償労働時間が突出して長く世界最長で、その裏返しとして、家事・育児などの無償労働時間は最短で男女格差は5.5倍 等と記載しておられる。

 このうち①の課長は「上層部と社員の橋渡しをする中間管理職」であり、⑨のように、日本企業は「年功序列」「終身雇用」のため課長になるまでの平均勤続年数が20年で40代が中心、外資系企業は経験・能力等の「実力」を重視して活躍できる人材をすぐ戦力として適切な役職に割り当てるため「30歳で中間管理職は当たり前」であり、日本企業よりも管理職の平均年齢が低い(https://www.101s.co.jp/column/middle-management-age/ 参照)。
 
 また、IT導入で現場の情報は上層部に直接伝えることが可能になり、フラットな組織の方が状況変化に素早く対応できるため、上層部と現場社員の橋渡し役である中間管理職は最小限に減らすことが可能だ。そのため、中間管理職を管理職に入れるべきか否かは疑問のあるところだ。

 それにしても、②③のように、従業員10人以上の企業6000社で、課長まで入れても管理職に占める女性割合は2022年度は12.7%にすぎず、企業規模別に見ると従業員数10~29人が最大の21.3%、300~999人は6.2%、1000~4999人は7.2%、5000人以上は8.2%と、大企業で女性管理職の割合が低い。そうなる理由は、男性社員を採用しやすい大企業ほど男性優先で採用し、研修や配置でも男性を優遇しているためで、これは、男女雇用機会均等法違反である。

 そして、④のように、2021年の比較で、女性管理職割合は、日本は主要15カ国のうち最低であるにもかかわらず、⑥のように、厚労省担当者は「息の長い取り組み」「引き続き登用率の向上を呼びかける」などと、やる気のない態度なのである。

 なお、政府は、⑤のように、2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標を掲げ、2022年から常用労働者301人以上の企業に男女間賃金格差の公表を義務づけたが、公表しただけで女性役員比率が上がるわけではない上、300人以下の企業の男女間賃金格差は容認されているのである。しかし、企業規模で分けるべきではない。

 そして、⑦⑧のように、雇用が労働者の経済的安定・社会資源の分配・自己確立・成長機会や居場所の提供・孤立防止等の効果を有し、現役世代のセーフティーネットとして良質の雇用確保は最も重要であるにもかかわらず、女性労働者はその良質の雇用から除外されているのである。

 そして、⑩の「1970~80年代に男性稼ぎ手が主婦と子2人を養う世帯を標準モデルとし、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度等によってこのモデルを補強した」というのは、⑲の教育水準の高まりは戦後の男女平等型教育制度の開始から始まっており、1970~80年代には、既に男性と同じかそれよりも「実力」のある女性も多く生まれていたが、日本企業が良質の雇用機会を与えなかったため、外資系企業で働いていたという事情があり、第3号被保険者制度等は不公平の上塗りでしかなかった。

 しかし、どこで働いても、⑪の「仕事に無制限に時間と労力を割けること」が標準だったため、⑫⑬のように、育児・介護はじめケア労働をする人に対するケア労働罰は確実に存在した。そして、⑯のように、女性の労働力率は出産・育児期に落ち込んで出産離職率は約3割に及び、⑰のように、女性が正規雇用で働く割合は年齢が上がるにつれて低下するL字カーブを描き、女性労働者の過半数は非正規で働かざるを得ない状況になっているのである。

 そのため、⑱のように、静かに非婚化・晩婚化・無子化が進み、その結果として少子高齢化が進行したのであるため、⑲の性別や婚姻状態を問わない健全な雇用機会の確保は、1960~70年代から必要だったのだ。そして、政治が遅れ馳せながらやっと著しい少子化に気づいた時には、既に手遅れだったのである。

 しかし、そう言う私でさえ、近年よく言われる「女性は生理痛が大変で、更年期障害があり、その間に長期育児休暇をとる」というのが本当であれば、やはり女性は戦力にならず、採用・研修・配置で配慮してもやり甲斐がないため、男性を雇いたいと思う。そのため、「すべての女性が、働けないほど生理痛が大変で、更年期障害もあり、それに対する対処方法はない」などという誤った触れ込みをメディアが大々的に行うと、実質的に女性差別を助長することになるのだ。

(4)外国人の登用について
1)政府有識者会議の最終報告書について


  2023.11.21、2023.11.20日経新聞       2023.11.25東京新聞    

(図の説明:左図のように、日本側にニーズがあるため、外国人労働者総数は増えて180万人以上になっているのだが、中央の図のように、技能実習生の所得は高卒非正規より低く、家族帯同もできない。そのため、右図のように、政府の有識者会議が、技能実習から育成労働に変更する新制度案の最終報告書を出したが、就労期間を3年に限定し、対象分野は特定技能と同じに限定し、《日本語能力と技能が要件を満たせば》1年間で転籍可能にするなど、未だ外国人労働者に対する制限の多い人材鎖国状態である)

 *5-1-1は、①厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪が相次ぎ人権侵害の指摘がある ②政府有識者会議は、国際貢献を目的とした「技能実習制度」を廃止し、外国人材の確保と育成を目的とした「育成就労制度」にする最終報告書をまとめた ③基本的に3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成 ④受け入れ職種は介護・建設・農業等の分野に限定 ⑤特定技能への移行には技能と日本語試験の合格という条件 ⑥「転籍」は1年以上働いた上で一定の技能と日本語の能力があれば同じ分野に限り認める ⑦実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日しているので、日本の受け入れ企業と費用を分担する仕組みを導入 ⑧農家は新たな制度に期待しつつ、雇用主の負担が増えることを懸念 ⑨1年以上働いていること等を要件に「転籍」を認めるので人材流出を懸念 ⑩「日越ともいき支援会」には、職場での暴力・残業代未払い・妊娠による雇い止めなど実習生からの相談が多く、今年に入って保護した人数は127人。「海外の若者たちが日本に来てよかったと思う制度にしないといけない」と話す ⑪野村総研の木内エグゼクティブ・エコノミストは、「人権侵害の温床は『転籍』問題で、条件が緩和されることで企業も従来以上に実習生の人権に配慮することになる」「日本企業にとっては人材を確保していくための重要な仕組みだが、企業がコストをかけて技能を習得させる努力をしても転籍されるという問題が出る可能性もあり、その場合は国が支援することも検討材料」 ⑫日本は、賃金が上がらず円安も進んで、待遇や働く環境を改善しなければ実習生が来てくれない状況なので、日本経済を支えてもらう長期の視点で見直す必要がある 等としている。

 これに加えて、*5-1-2は、⑬最終報告書は現行の厳しい転籍制限で「人権侵害が発生し、深刻化する背景・原因となっている」と記載 ⑭政府有識者会議は、「転籍」の制限期間は現行「3年」から「1年」への緩和を原則としつつ、当分1年を超える制限を認める等の「経過措置」の検討を求めた ⑮政府有識者会議が転籍制限期間延長等の経過措置を「検討」としたのは、地方の事業者や自民党内から「人材が都会に流出する」等の声が相次ぎ、「懸念への対応が必要」と判断したため ⑯経過措置の「当分の間」がどれだけ続くかも透明 ⑰技能実習は2023年6月末時点で全国に約36万人在留、特定技能は2023年6月末時点で約17万人が在留 としている。

 日本国憲法は22条第1項で、「何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択 の自由を有する」 と職業選択の自由を保障しており、労働基準法は3条で「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定め、労働組合法は5条2項4号は「何人もいかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われない」とし、職業安定法3条は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない」とし、外国人であることを理由に差別的扱いをしてはならないと規定している。

 しかし、①⑩⑪⑫⑬のように、技能実習生は転籍が制限され、人権侵害が発生しても我慢するか、失踪するかしか方法がなく、これが外国人労働者に対する人権侵害が深刻化したり、待遇や働く環境が改善されない背景・原因となっているため、転籍の自由を認めることは重要である。

 そのため、⑤⑥⑭⑮⑯のように、政府有識者会議が特定技能への移行に技能と日本語試験の合格という条件を設け、「1年」であっても「転籍」に制限期間や「経過措置」の検討を求めたのは、外国人労働者に差別的労働条件を押しつけ、人権侵害する状況を温存することになる。

 これに対し、⑦の「実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日している」というのは、メリットがあるから外国人労働者を受け入れている日本企業が費用を全額負担するのは当然であり、その金額が高すぎるのなら、それこそ日本政府が相手国政府に交渉して下げてもらうべきである。

 また、⑧⑨のように、農家が「雇用主の負担が増える」「転籍で人材流出する」等を懸念しているのであれば、i)農協その他の派遣労働事業者が外国人労働者を雇用し、繁忙期の農家に派遣することによって生産性を上げ、外国人労働者の所得を上げる ii)農業法人が外国人労働者を雇用して大規模な農業を行い、自ら及び外国人労働者の所得を上げる iii)外国人労働者にも独立して日本の農業を担えるという夢を与える 等、外国人労働者を使い捨てしなければ、日本で農業に従事したい外国人は多いと思うし、新しい作物を事業化することも可能であろう。

 そのため、②のように、政府有識者会議が建前と本音の異なる「技能実習制度」を廃止し、「育成就労制度」に移行する最終報告書を纏めたことは評価するが、③のように、「3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成」するには、日本人と同様、働きながら夜間中学・高校に通う方が効率的で、雇用主の負担も少ない。

 さらに、⑰のように、2023年6月末時点で、技能実習約36万人、特定技能約17万人が在留していても、④のように、受け入れ職種を介護・建設・農業等の分野に限定しているため、保育や高齢者の生活援助はじめ政府が思いつかないような多くの産業で外国人労働者を獲得できず、その皺寄せがケア労働をしている女性にかかっていることも忘れてはならない。

2)日本は外国人に「選ばれる国」になれるのか?

   
    Nipponcom       出入国在留管理庁   2022.3.23GlobalSuponet

(図の説明:少し前のデータになるが、左図のように、国籍別技能実習生の数は、2017年にベトナムが1位になっているが、現在は円安と他国の賃金上昇で日本の優位性が下がっている。このような中、中央の図のように、2019年に「特定技能」という在留資格を作ったが、特定の産業分野に限られ、「技能実習」から「特定分野」に移行するのにも要件を課している。その特定分野は、右図のように、細かく制限されているが、これは日本国内で労働力が余っている時ならまだわかるものの、少子高齢化で人手不足の時代には合わない)

 *5-2-1は、①「選ばれる国」になれるか否かは今が正念場で、外国人が歓迎されていると感じる環境提供が必要 ②職場や地域社会で外国人が共生できる教育・福祉の基盤づくりが急務 ③6月に「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やし、永住に道を開いて外国人労働者受け入れ政策は今や転換点 ④日本には総人口の2%、約300万人の外国人が暮らして第2世代も社会に出始めている ⑤日本語がままならないまま社会に放り出されて疎外感を感じ、日本社会に溶け込めない外国人を放置しておくのはリスク ⑥浜松市は外国人家庭を訪問して相談に応じるなどきめ細かな支援で学校に通っていない子を0にしているが、多くの自治体はそこまで手が回らない ⑦日本国憲法は義務教育の対象を「国民」としているが、日本は「すべての者」への教育提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約に批准しており、国籍を問わず子に教育を受けさせるのは政府の責任 ⑧外国人がどこでも教育・福祉を受けられるようにすべき ⑨「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」という制約を取り払って日本の外国人受け入れ制度を議論する時 ⑩日本国際交流センターの円卓会議は、外国人を日本社会の一員とし、対等な社会参加で共生社会を築くことを理念に掲げる「在留外国人基本法」を提唱し、そのための基盤整備、財源確保は国の責務とした ⑪企業も意識を変えて長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人と同等にし、優秀な人材は幹部候補として育て、独立を支援するくらいの度量がないと魅力的な会社に映らない ⑫外国人に選ばれる職場づくりは、多様な人材が活躍できるオープンで創造的な企業風土 ⑬豊かで活力ある経済の維持には、開放的な社会であることが前提 ⑭それは古来より海外との交流を深めることで発展してきた日本の歴史 としている。

 このうち⑨の「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」と言う人は、メディアや国民だけでなく国会議員にも少なからず存在するため驚くのだが、少子化対策に何兆円も使うより外国人の受入制限を緩めた方が、i)どの産業の人手不足もすぐ補える ii)生産年齢人口が増えるため、少子高齢化の諸問題(負担増・給付減)をすぐ解決できる iii)日本に来る外国人は学びや仕事に積極的な人が多いため、日本文化に良い影響を与える iv)人口密度が高すぎたり、若年層が余っていたりする国もあるため、国際貢献になる v)日本が物価高にならず、国際競争力を持てる 等の理由で著しく効果的である。

 従って、①②⑧⑩のように、職場や地域社会で外国人が共生できる教育や福祉の基盤を作り、外国人が歓迎されていると感じる環境を提供して、日本が「選ばれる国」になることは必要不可欠だ。そのため、⑩の日本国際交流センターの「在留外国人基本法」も良いと思うが、私は、外国人差別だけではなく、女性差別・高齢者差別・障害者差別の禁止も含む公民権法を定めるのがBestだと考えている。

 しかし、③のように、「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やしたといっても未だ制限が多すぎ、介護は認めるが生活援助は認めないなど、できないことを挙げればきりが無いのだ。そのため、政府は、やれる仕事のポジティブリストではなく、やれない仕事のネガティブリストを作るべきであり、ネガティブリストを作るに当たってはネガティブな理由・ネガティブにしておくことによる日本経済への影響について国民的な議論をする必要がある。

 そして、④⑤⑥⑦のように、日本には、現在、総人口の2%、約300万人の外国人が暮らしており、次世代も社会に出始めているそうだが、日本語も学校教育も不十分なまま社会に放り出されれば職業選択の幅が著しく狭くなって疎外感を感じ、犯罪を犯さざるを得なくなる。そのため、浜松市はきめ細かな支援で学校に通っていない子を0にしているが、そこまでできない自治体も多いため、「すべての者」への教育提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約(日本も批准)に従って、日本政府の責任で国籍を問わずすべての子に教育を受けさせるべきである。

 さらに、外国人労働者が日本を選んで良かったと思えるためには、⑪⑫のように、企業も長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人男性と同じにし、優秀な人材は幹部候補として育て、将来は独立も支援する必要がある。そして、外国人に選ばれる職場は、多様な人材が活躍しやすい開放的で創造的な職場であり、それは女性にとっても働きやすい職場なのである。 

 なお、⑬⑭のように、日本が豊かで活力ある経済を維持できるためには、新しいことを好む開放的な社会であることが必要で、それは、i)稲作の伝来 ii)青銅器・鉄器・馬の伝来 iii)ガラス・絹織物の伝来 iv)有田焼・唐津焼等の陶磁器製法の伝来 v)明治維新後の産業革命 vi)第二次世界大戦後の大改革 など海外との貿易、海外からの移民・後術者の招聘、黒船に起因した大改革など、世界の中の日本の歴史そのものである。

 *5-2-2は、⑭文科省は海外への留学生を2033年までに年50万人にする目標の実現に向け、給付型奨学金対象者を2024年度に7割増3万人にする方針を固め、国際競争力向上のためグローバル人材の育成を急ぐ ⑮政府の教育未来創造会議は4月、2033年までに日本人留学生を年50万人、外国人留学生を年40万人に増やす提言 ⑯文科省が派遣する留学生の奨学金拡充のため、2024年度予算案概算要求に114億円盛り込む ⑰内閣府の2018年度のアンケートでは、経済的理由や語学力不足で外国留学に消極的な若者が5割超で、2割程度の韓国・米国に比べて消極性が際立つ ⑱高校段階での意欲喚起も重要なので「留学コーディネーター」の高校配置も進める ⑲外国人留学生も受け入れ拡大するため、日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設 ⑳日本の在学者に占める外国人留学生割合は5%で、英国20%、オーストラリア30%と比べて著しく低い としている。

 このうち、⑭⑯のように、文科省が海外留学生を増やして国際競争力を向上させるためグローバル人材の育成を急ぎ給付型奨学金対象者を増やすのは良いが、そのための2024年度予算案概算要求が114億円というのは、産業への補助金が兆円単位であるのに対し、教育投資の金額は渋すぎる。何故なら、教育を充実させれば産業への補助金の方が不要で、(政府が邪魔しなければ)日本がトップランナーになることも可能だからである。

 また、⑰のように、消極的な若者が韓国や米国の2倍以上を占めるのは、日本では教育者の賃金を低く抑えているため、⑱のように、教育者自身のレベルが低いことも影響を与えていると思う。そのため、⑮のように外国人留学生を増やし、消極的な若者が日本国内にいても世界に目を向けるきっかけを作るのは、外国人留学生だけでなく、日本人学生にとっても良いことなのだ。

 なお、⑳のように、日本の在学者に占める外国人留学生の割合も5%で、英国20%、オーストラリア30%と比べて著しく低く、⑲のように、外国人留学生も受入拡大するため、日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設するそうだが、それは良いと思う。ここまでやれば、日本は外国人に「選ばれる国」になれるかもしれないからである。

3)経済に寄与する外国人労働者政策とは?
 *5-3には、①外国人材の技能水準が企業の生産性を左右 ②現政策は非高技能者割合を高める可能性 ③成長企業を外国人材確保で優遇する案もある として、具体的には、④外国人にとっては受入国の人口・経済政策や出入国管理制度が実質的「国境」 ⑤外国人労働者の増加は受入国の労働市場にも影響をもたらし、自国民の働き方も変える ⑥2020~22年の外国人一般労働者の賃金水準は専門的・技術的分野の労働者と技能実習生・特定技能外国人で大きく異なる ⑦高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が少なくない一方、勤続年数は短くボーナス支給割合も低いことから、日本型雇用慣行下の正社員として働く者は少数で専門的職種に就いてジョブ型雇用される者が多い ⑧技能実習生と特定技能外国人の賃金水準の中央値は2020年~22年の間にそれぞれ1.4万円、3.6万円上昇し、特定技能外国人の2022年の中央値(20.4万円)は高卒非正規労働者の所定内給与額の中央値(19.2万円)より高い ⑨転職制限によって需要独占的だった技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場との接続で競争的になりつつある ⑩高技能外国人を雇う事業所は日本人の賃金も高く、非高技能外国人を雇う事業所は日本人の賃金も低い ⑪ダストマン英ロンドン大教授らは、ドイツの労働市場で地域に流入した移民労働者の技能レベルに応じて企業内の生産技術が変化することを実証 ⑫日本でも高技能者向け技術を使って生産性を高めた企業は賃金が高く、非高技能外国人の雇用を増やして労働集約的となった企業は生産性・賃金が停滞した可能性 ⑬三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる製造業分野の中小企業支援調査では、97%の事業所が自社で技能実習を修了した者を特定技能1号とした際に月給額を引き上げた ⑭2018年時点は全技能実習生の約6割が最低賃金1千円未満(2022年時点)の自治体に在留し、2021年以降は全特定技能外国人で最低賃金1千円未満の自治体に在留する者は5割を下回った ⑮その結果、2022年は最低賃金が1千円以上の都府県で非高技能労働者総数に占める特定技能外国人の割合は有意に高かった ⑯多くの先進諸国で経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限する政策をとるが、現在の日本は専門的・技術的分野の人材以外の外国人労働者にも定住への道を開きつつあり、外国人の受け入れでも大規模な「量的緩和政策」に転じている ⑰高技能外国人と非高技能外国人の新規入国者数は2012年にはほぼ同数だったが、2022年には後者が前者の2.3倍となった ⑱現在の日本は非高技能労働者により選ばれ、非高技能者が日本の外国人労働者の多数派となる日は遠くない ⑲こうした傾向が生じたのは、現行政策が外国人の質と量をともに求めても、技術革新に貢献しうる高度人材には日本で就労する魅力が乏しいから ⑳経済成長というマクロの目標に沿う外国人労働政策を目指すべきと考える 等が記載されている。

 私は、公認会計士・税理士として、現在は組織再編によってBig4になっている外資系監査法人及び同税理士法人で働いていたため、海外から日本に進出してきた企業の監査や税務申告を行うことが多く、それをやるためには外資系企業の社長や重要ポストの担当者に話を聞くことが不可決だった。また、日本から海外に進出する企業のために、Big4のネットワークを使って進出国の法制度や税制を調べることも多かったため、日本と海外の事業環境の違いや雇用環境の違いについて、日本系監査法人に勤務して日本系企業ばかりを担当してきた男性公認会計士より知っているだろう。

 その私の目から見て、*5-3の記事は、調査やデータに基づき精緻に書かれている点では評価できるものの、経済産業研究所(日本系企業)に勤務している橋本氏が、労働経済学の中の外国人雇用という視点のみから記載しているため、日本経済全体の状況を現場の視点から因果関係を明らかにしつつ説明することが不十分だと思った。

 例えば、②⑯⑰の「現政策は非高技能者の割合を高める可能性がある」「多くの先進諸国で経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限しているが、日本だけが外国人受入でも大規模な量的緩和政策に転換している」「2022年に非高技能外国人の新規入国者数が高技能外国人の2.3倍になった」というのは、他の先進諸国が日本より前からずっと多くの難民・移民を既に受け入れ、どの産業も日本の農業・製造業・建設業・保育・介護等のように、必要なサービスも提供できなかったり、人手不足で価格が高止まりして国際競争力に乏しいため世界の大競争について行けなかったりして、重要な国内産業を衰退させてしまったことを無視している。

 確かに、⑱⑲のように、「現在の日本は非高技能労働者に選ばれている」とは思うが、「技術革新に貢献しうる高度人材に日本で就労する魅力が乏しい」というのは、外国人にとってのみならず日本人にとっても同じであるため、これら全体に対する日本の解決法は、非高技能外国人労働者の流入を抑えることではなく、日本人を含む全労働者が自己の教育レベルや熟練度を高めたいと思う文化や労働慣行を作ることである。

 そうすれば、③のように、成長企業を外国人材確保で優遇しつつ、非高技能外国人労働者(そもそも、この区分は政府が判断できるものではない)を使い捨てにしなくても、また、④のように出入国管理法で非高技能外国人労働者を閉め出しながら、産業に対しては大量の補助金をばら撒いて国民負担を増やすことばかり考えなくても、⑳の経済成長は進む筈なのである。

 それでは、どの文化や労働慣行がどう変わるのかと言えば、①⑤⑥⑩⑪のように、外国人材の技能水準は企業内の生産技術を変化させ、日本人労働者の技能水準にも影響を与えて企業の生産性を左右するので、外国人労働者の割合が増えれば受入国の文化や労働市場にも影響をもたらして日本人の働き方をも変える。その著しい事例は高給を支払って外国から技術者を招き、技術移転を計った明治初期であり、外国人技術者がいなければ日本が産業革命を起こすことはできなかったし、高技能外国人を雇った事業所は生産のイノベーションを起こして日本人の賃金も高くできたのである。

 なお、⑦のi)高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が多い ii)勤続年数が短い iii)ボーナス支給割合が低い については、まず高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上でなければ日本に来る理由がないからで、これには住居の広さや快適さも含む(例えば米国で広い一軒家に住んでいた人が、東京で狭いマンション《米国ではアパートメントと呼ぶ》にすむのは嫌がる)ため、高技能外国人を東京に招く時の住居費支給額は著しく高くなるのだ。しかし、日本人はそのような住居で我慢しているのである。

 また、ii)の「勤続年数が短い」のは、日本型雇用慣行の終身雇用・年功序列を前提としておらず、職階や年収を上げるためには他企業に移らざるを得ない場合が多いからで、これをジョブ型雇用と呼ぶ。しかし、他企業に移って職階や年収を上げられるためには、受入企業から専門性や熟練度が要求される。そのかわり、専門とかけ離れた部署に次々と転勤させられて専門を磨けないということはないのだ。

 さらに、iii)の「ボーナスの支給割合が低い」については、ジョブ型雇用はジョブに見合った年収があらかじめ決まっているため、それを「12で割って毎月もらってボーナスなし」や「16で割って夏冬のボーナスは月収の2ヶ月分づつ」という具合になり、経営者の気分でボーナスの金額が決まるわけではないため、こちらの方が確実だと私は思う。そのかわり、家族手当や会社所有の社宅・療養施設等はなく、その分は年収に含まれており、日本人も含めて賃金体系が単純になっているのだ。このように、賃金体系が違うと、企業文化やそこで働く人の考え方も異なる。

 なお、⑧⑨のように、転職制限によって需要独占的だった技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場との接続で競争的になり、技能実習生と特定技能外国人の賃金水準が上昇し、高卒非正規労働者の所定内給与額より高くなったというのは、あるべき姿だ。何故なら、日本人と言うだけで生産性の低い労働者に高い賃金を支払えば、それによって皺寄せを被る人が出るのは確実であるため、日本人であっても、専門性を高めたり、熟練したりしなければならないのは当然だからである。

4)日本列島に来た渡来人が日本の産業革命に果たした役割
 現在の人類は全てホモ・サピエンスだ。また、人類のDNAは複雑なので同種の人類は1ヶ所でしか発生せず、現生人類は全て発生したアフリカをいつの時代かに出て他の地域に移り住み、その地域に前からいた他の人類(例:ネアンデルタール人)と混血しながら地球上に広がり、その地域の気候に適応していった人たちだと言える。

 日本については、神武天皇の即位を皇紀元年とし、西暦2023年は皇紀2683年になるため、皇紀元年は西暦では紀元前660年で、これはサマリア陥落(紀元前723年)の63年後である。

 「記紀(古事記、日本書紀)」によれば、紀元前660年に神武天皇が大和(ヤマト)を平定して初代天皇に即位されたが、天皇は古来から「スメラミコト」と呼ばれ、「スメラ」とは「サマリア人」のことで「サムライ」の語源でもあるそうだ。

 また、神武天皇は「ハツクニシラススメラミコト」「カムヤマトイワレビコノミコト」とも呼ばれ、これは日本語では意味不明であるものの、ヘブライ語では意味があり、「神の民であるユダヤ人が集まって建国した最初の栄光ある主」という意味だそうだ(https://nihonjintoseisho.com/blog001/2016/11/21/japanese-and-jews-13/ 参照)。

 そして、*5-4は、①紀元前後の約千年にわたり展開した弥生時代の幕を開けたのは、水田稲作や金属器文化を携えて北部九州沿岸部に現れた朝鮮半島からの渡来人 ②2010年代に登場した核ゲノム分析で、列島在来系と渡来人は、縄文時代以前から海を挟んで同じ遺伝子を共有していたことがわかった ③研究チームは、その理由を「旧石器時代の東アジア沿岸部や島々に両者の元となった集団がいたからではないか」と解釈している ④弥生時代の西日本には想像以上に遺伝的多様な集団が存在していた ⑤弥生文化という特定の文化を、特定の集団だけが独占したとは限らない ⑥先進文化をもたらした渡来人が弥生社会の中核だったとみる説と縄文以来の在来人が主体的に外来文化を取り込んで発展させたとみる説がある ⑦核DNAの分析成果と各地の文化的様相を比較検討すれば人間集団と文化の相関関係がわかる 等と記載している。

 このうち①については、先日、(私の実家近くの)日本最古の稲作跡がある佐賀県唐津市菜畑の末盧館に行ったところ、2600年前の炭化米が見つかったとして展示されていた(http://www.karatsu-bunka.or.jp/matsuro.html 参照)。

 また、②③④は、舟で移動しながら交易や移住をしていたことを考えれば当然と思われるし、実際に、東アジアに住む人々は顔や体型では殆ど区別がつかない。そのため、⑤⑥⑦のように、核ゲノム分析をより広い範囲・多くの検体で行ないつつ、それを文化や言語で補強すれば、先進文化をもたらした渡来人と原住民の関係や集団・技術・文物の伝わり方を科学的に解明できる。

 そして、改革や発展は、開放的でイノベーションの起こりやすい、異文化の交わる場所で起こり易いこともわかる筈である。

・・参考資料・・
<細田議長と保利元文科省を追悼する>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231111&ng=DGKKZO76056290R11C23A1MM8000 (日経新聞 2023.11.11) 細田博之氏 死去 79歳 前衆院議長、先月に辞任
 前衆院議長の細田博之氏が11月10日午前10時58分、多臓器不全のため都内の病院で死去した。79歳だった。東大卒業後、通商産業省(現経済産業省)へ入った。父の吉蔵元運輸相の秘書を経て、1990年衆院選で自民党から出馬し初当選した。当選回数は11回で、2004年に小泉内閣で官房長官、08年に麻生政権で党幹事長を務めた。14年から21年まで清和政策研究会(現安倍派)の会長として党最大派閥をまとめた。21年11月に衆院議長に就き、体調不良を理由に23年10月に辞任した。10月に辞任表明の記者会見を開き、脳梗塞の症状があり治療していると明らかにした。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点について野党から説明を求める声があがっていた。一部週刊誌で指摘された女性記者へのセクハラ疑惑について記者会見で「心当たりはない」と否定した。死去に伴う衆院島根1区補欠選挙は、衆院解散がなければ24年4月になる見通し。

*1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA104DC0Q3A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023.11.10) 岸田首相「心から哀悼の誠ささげる」、細田博之氏死去で
 岸田文雄首相は10日、前衆院議長の細田博之氏が死去したことについて「心から哀悼の誠をささげたい」と述べた。細田氏が官房長官や自民党幹事長など要職を務めたのを踏まえ「今日までのご努力に心から敬意を表したい」と語った。細田氏と同じ中国地方の出身である点や派閥のトップとして意見交換したと発言した。「様々なご縁で親しくしていただき、先輩としてアドバイスをいただいたことを思い返している」と話した。首相官邸で記者団の質問に答えた。額賀福志郎衆院議長は「与野党を問わず数多くの議員から信頼され、尊敬される政治家だった」との談話を発表した。与野党からも反応が相次いだ。自民党の茂木敏充幹事長は「悲しみでいっぱいだ」と表現した。「議長を勇退されて健康回復にお努めだと聞いていた」と語った。細田氏がかつて会長を務めた清和政策研究会(現安倍派)の塩谷立座長は「頼りにしていた存在で残念でならない」と述べた。公明党の山口那津男代表は「自公連立政権をより強固なものにする過程で大きな役割を果たしてもらった」と感謝した。立憲民主党の安住淳国会対策委員長は細田氏が旧通商産業省の職員だったときから接点があったと明かした。「ざっくばらんな人柄で楽しい人で、今時使わないが『ネアカ』な人だった」と振り返った。日本維新の会の馬場伸幸代表は書面のコメントで「選挙制度改革やカジノを含む統合型リゾート(IR)の法制化などに尽力した功績に感謝と敬意を表する」と記した。細田氏が追及を受けてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点などの問題に関する言及も出た。塩谷氏は「基本的には(生前に)記者会見をしたことが説明責任になると思う」と触れた。安住氏は「立法府の最高責任者として説明責任はぜひ果たしてもらいたかった」と指摘した。国民民主党の玉木雄一郎代表は「十分な説明責任を果たされていないという指摘があり、すっきりしない形で終わってしまった」と話した。細田氏は2021年11月に衆院議長に就き、体調不良を理由に23年10月に辞任した。

*2-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231110/k10014254661000.html (NHK 2023年11月10日) 保利耕輔 元文部相が死去 89歳
 文部大臣や自民党の政務調査会長などを歴任した保利耕輔氏が今月4日に亡くなりました。89歳でした。保利氏は昭和54年の衆議院選挙に自民党から立候補して初当選し、連続12回、当選しました。文部大臣や自治大臣、党の国会対策委員長などを務めましたが、平成17年に郵政民営化に反対して離党しました。その後復党し、党の政務調査会長などを歴任しました。そして平成26年の衆議院選挙に立候補せず政界を引退していました。関係者によりますと、保利氏は今月4日に川崎市の病院で亡くなったということです。

*2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1141187 (佐賀新聞 2023/11/10) 保利耕輔元文相死去、89歳、元自民政調会長
 文部相や自民党政調会長を歴任した保利耕輔元衆院議員が4日午後、誤嚥性肺炎のため川崎市の病院で死去した。89歳。衆院議長などを務めた父茂氏の後継として会社員から転身し、1979年に衆院佐賀全県区で初当選。12期務めた。教育行政や農政に詳しく、90年に海部内閣で文部相として初入閣。小渕内閣で自治相兼国家公安委員長を務めた。2005年の郵政民営化関連法案の衆院本会議採決では反対票を投じて造反し、自民党を離党した。翌年復党が認められた。08年に党政調会長に就いた。

*2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1141290 (佐賀新聞 2023/11/11) <保利耕輔さん死去>「芯の通った政治家」 地元唐津でしのぶ声
 唐津市を中心にした地盤で約35年にわたって衆院議員を務めた保利耕輔さんが4日死去した。「保利党」として支えてきた唐津市の関係者に衝撃が広がった。地域の活性化に力を尽くし、芯の通った政治家としての生き方をしのんだ。保利さんの後援会青年部長を務めたのをきっかけに、交友を深めた元唐津市議の宮崎卓さん(78)=唐津市鎮西町。「先生はとにかく厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた。国のため、地域のためにと最優先に考え、政治家の範を示す実直な人だった」と振り返り、「唐津、佐賀のために頑張っていただき、本当に感謝の思いしかない」としのんだ。選挙時に陣営幹部として関わってきた熊本大成市議(74)は、最後に会ったのは今春の県議選だった。党の公認候補の事務所を回ったといい「元気な姿を見ていたから驚いた」と話しつつ、「真面目な人柄で口数は少なかったが、ゴルフの話になると上機嫌に話されていた。『選挙は情』だとよく話していたのが印象深かった」と語った。昭和自動車常勤監査役の福岡修さん(67)は全ての選挙にスタッフとして関わった。「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」と振り返る。保利さんが週末に地元入りする時は付き人も務め、元首相の小渕恵三氏が唐津市を訪れる際、あえて渋滞が激しい時間帯に車を走らせて唐津-福岡間の道路整備の重要性を訴える場面に車内で居合わせたという。「地元の困り事を何とかして伝えたいという思いだったのだと思う。真面目な姿勢が党派を超えた支持につながった」と話す。唐津神社の秋季例大祭「唐津くんち」を運営する唐津曳山(ひきやま)取締会の山内啓慈総取締(74)は「誠実で温厚な方だった。ただただ寂しい」。文化庁長官を唐津に招き、国の重要無形民俗文化財に指定されている唐津くんちの曳山(やま)について熱心に説明するなど「曳山の塗り替えなど省庁との橋渡し役として支えていただいた」。「くんちだけでなく、唐津を本当に愛した方だった。唐津を永遠に見守っていてください」と言葉をかけた。

<政治における女性登用と無意識の偏見>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR9F61RYR9FUTFL01V.html (朝日新聞 2023年9月13日) 女性閣僚最多、政権は刷新感に期待 「世襲ばかり」の側面も
 第2次岸田再改造内閣が13日、発足する。新内閣の閣僚(岸田文雄首相含め20人)のうち女性は過去最多タイの5人と、改造前の2人から倍増。「女性活躍」を掲げる岸田政権は、東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を示し、内閣の女性比率もそれに近づくように引き上げた形だ。だが一方、刷新感を演出した側面も否めない。過去に5人の女性閣僚を据えたのは、2001年4月発足の小泉内閣と14年9月発足の第2次安倍改造内閣。14年は安倍晋三首相が「女性活躍担当相」を新たに設け、直後の朝日新聞社の世論調査では女性の内閣支持率が36%から44%へと回復傾向を見せた。岸田内閣は支持率が30%台で推移する。直近の8月の世論調査では女性の支持率は35%。男性の30%は上回るものの昨年7月の59%と比べれば落ち込んでいる。政権内には女性の支持獲得が政権浮揚のカギ―との見方もあり、年頭に首相が「異次元の少子化対策」を打ち出したのも、そうした思惑が透ける。
●少子化対策に育児反映、副大臣未経験で抜擢も
 首相は今回の内閣改造で、少子化対策に育児の実態を反映させようと、2児を育てる加藤鮎子・元国交政務官をこども政策・少子化担当相に起用した。44歳で閣内最年少。衆院当選5回が入閣の目安とされる中、加藤氏は3回。副大臣を経験していない抜擢人事となった。さらに重要閣僚の外相には自派閥から上川陽子元法相を起用。首相は周囲に「海外では女性外相は多い」と語り、上川氏を含む女性閣僚の登用が政権が取り組む「女性活躍」推進の体現を狙った。政権幹部は「女性閣僚が5人になったことで、刷新感が出るといい」と期待を込める。ただ、自民党内に女性議員が少ない現状を踏まえ、首相は周囲に「なかなか適任者がいなかった」と漏らした。5人のうち今回初入閣した3人は、加藤紘一・元自民党幹事長の娘である加藤氏を含め、いずれも世襲議員。「古い政治」のイメージが広まれば、期待した「刷新感」が薄れてしまう可能性もある。
●ジェンダーギャップ、厳しい政治分野
 ただ、「女性登用」をPRしなければならないほど、日本の現状は厳しい。新たにこども政策・少子化担当相に就く加藤氏は、女性活躍担当相も兼務するが、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書 2023年版」によると、日本は146カ国のうち125位。とりわけ、138位の政治分野が足を引っ張る。6月の主要7カ国(G7)男女共同参画・女性活躍担当相会合では、小倉将信・男女共同参画相(当時)以外の出席者全員が女性で、日本政治の象徴と批判された。自民党内の女性議員の比率は約1割。民間への働きかけはもちろん、足元の状況打開に向け手腕が問われる。一方、政権の掲げる「異次元の少子化対策」は、今後が正念場だ。児童手当の拡充などを盛り込んだ「こども未来戦略方針」は6月に閣議決定。しかし、24年度から3年間で集中的に実施していく「加速化プラン」の具体的な財源確保策は、今年の年末まで先送りされた。政府は社会保障の歳出削減や、社会保険の仕組みを活用した「支援金制度(仮称)」の創設などによって賄う目算だが、痛みや負担増を伴うもので、今後本格化する与党や経済界との調整は難航をきわめそうだ。来年の通常国会には、少子化対策の関連法案の提出も予定する。野党から厳しい質問が飛ぶことも必至だ。こうした状況に、こども家庭庁では複数の幹部が、組閣前から「安定感のある大臣でないと乗り切れない」と漏らしていた。子ども政策自体の評判も芳しくない。子ども連れや妊婦らの優先レーン「こどもファスト・トラック」の全国展開や、子育てしやすい社会づくりに携わる「こどもまんなか応援サポーター」のサッカー・Jリーグとの連携など、本格実施を前にした関連施策がSNS上で批判を浴びた。朝日新聞が7月に実施した全国世論調査(電話)で、少子化対策の取り組みを4択で尋ねると、「評価しない」が「あまり」「全く」を合わせて65%を占めた。2児を育てる新担当相が、どこまで幅広い世代に少子化対策への理解を広げられるかも問われる。

*3-2: https://digital.asahi.com/articles/ASR9F72G8R9FUTFK01H.html?ref=commentplus_mail_top_20230916&comment_id=17922#expertsComments (朝日新聞 2023年9月14日) 女性登用への消極姿勢を転換 支持率上げ解散、首相が描く再選戦略
 岸田政権の新たな布陣がスタートした。岸田文雄首相が女性登用への消極姿勢を転換させたのは、年内でも衆院解散できるよう低迷する支持率を好転させる狙いがある。ただ、新閣僚はそれぞれに重い課題を抱え、その力量が問われる。13日夜、内閣改造を終え、官邸での会見に臨んだ首相は自信に満ちあふれた表情で語った。「女性ならではの感性、共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」。今回、際立つのは女性の積極的な登用だ。内閣では過去最多に並ぶ5人を起用し、改造前より3人増やした。男性ばかりだった自民党4役の人事では小渕優子氏を選挙対策委員長に就けた。首相は周囲に「女性閣僚を増やしたい」と漏らしていた。8月の朝日新聞の世論調査での内閣支持率は33%。女性を増やすことで支持率を好転させたい思惑がある。「女性」を前面に押し出して支持率回復につなげた例はある。安倍晋三元首相は2014年の改造で新たに「女性活躍担当相」を設け、女性議員を充てた。直後の女性の支持率は前月の36%から44%に回復。党中堅幹部は今回の女性登用について「首相はいつでも衆院解散のカードを切れるよう組み立てた」とみる。首相が外遊先での会見で「必要な予算に裏打ちされた思い切った内容の経済対策を実行したい」と語ったことで、秋の臨時国会での補正予算成立後、解散に踏み切るのでは、との臆測も出る。首相も周囲に「解散は常に考えている。人事と経済対策をやってからだ」と語り、当面の世論の動向を慎重に見極める構えを示している。衆院解散は来秋の総裁選での再選戦略と大きく関係している。安倍元首相は14年12月に衆院選を行い、与党を大勝に導くと、翌15年秋の総裁選では無投票で再選を果たし、7年8カ月に及ぶ長期政権の足場を築いた。総裁選までそう遠くない時期に衆院選で勝利したことから、国民から選ばれたばかりの総理総裁を、内輪の権力闘争で代えるわけにはいかない、という理屈が働いた。ただ、今回の人事が支持率好転につながるかどうかは不透明だ。女性登用の象徴的存在で首相が会見で「選挙の顔」とまで称した小渕氏には、「政治とカネ」をめぐる説明責任の問題がくすぶる。ベテラン議員は「過去の問題がクローズアップされた影響がどうなるか」と気をもむ。各派閥の意向に沿った順送り人事の側面も強い。当選4回の衆院議員は、衆院解散の有無にかかわらず、総裁選を無風ですませられるよう各派に秋波を送ったとみて、こう揶揄(やゆ)する。「女性を増やしてごまかした感じだが、実態は『人事処遇したので総裁選よろしくね内閣』だ」
●「世襲」大臣は2人増の8人
 今回の内閣改造で首相を含む大臣20人のうち、実の父か母が国会議員だった、いわゆる「世襲」の大臣は8人で、約1年前に発足した第2次岸田改造内閣の6人から2人増えた。首相は祖父の正記氏、父の文武氏ともに衆院議員で、財務相に留任した鈴木俊一氏は善幸元首相の長男だ。こども政策・少子化相として初入閣した加藤鮎子氏は、岸田派(宏池会)会長だった加藤紘一元官房長官の三女。地方創生相で初入閣の自見英子氏も、元郵政改革担当相の庄三郎氏を父に持つ。

*3-3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/e852bbc5e07d95a1a0958e9be74c20cd5c6d5300 (Yahoo、ハフポスト 2023/9/14) 「女性ならではの感性」はなぜ問題?ステレオタイプの助長や無意識の偏見も
 「女性としての、女性ならではの感性や共感力を十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」ー。9月13日に発足した第2次岸田第2次改造内閣を巡り、岸田文雄首相の記者会見での発言が波紋を呼んでいる。発言は、過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を誕生させた理由について問われた際に出たもので、Xでは「女性ならでは」がトレンド入り。「使い古されたステレオタイプな表現」などと批判されている。では、「女性ならでは」といった表現はなぜ問題なのか。新聞労連の専門チームがまとめた著書「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(2022年)からポイントをまとめる。
●「女性ならではの感性や、あるいは共感力」
 第2次岸田第2次改造内閣では、上川陽子氏(外務大臣)、土屋品子氏(復興大臣)、加藤鮎子氏(内閣府特命担当大臣・少子化対策)、高市早苗氏(同・経済安全保障)、自見はなこ氏(同・地方創生)がそれぞれ就任した。5人の女性閣僚は過去最多タイだが、この数字は第1次小泉内閣(2001年)、第2次安倍改造内閣(14年)と変わらない。岸田首相は9月13日の記者会見で、内閣改造の実施を報告。冒頭、 「新しい時代を国民の皆様と共に創っていく『新時代共創内閣』である」とした上で、女性閣僚をこう紹介した。「こども・子育て政策や女性活躍は、こども・子育ての当事者でもある加藤鮎子さんに担当してもらいます」「土屋品子復興大臣には、女性ならではの視点を最大限にいかし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらいます」。さらに、フジテレビの記者から「5人の女性閣僚を起用した考え」について聞かれると、次のように回答した。「あくまでも適材適所。我が党の中に女性議員は少ないという指摘があったが、より増やしていかなければいけないという問題意識は認識している」「現在活躍している女性議員もそれぞれ豊富な経験を持ち、優秀な人材はたくさんいる。今回、経済、社会、外交・安全保障の3つの柱を中心に政策を進めていくために活躍できる方を選んだ」。「ぜひ、それぞれの皆様に、女性としての、女性ならではの感性や、あるいは共感力、こうしたものも十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」
●ジェンダー表現について
 この「女性ならではの感性」はXでトレンド入りし、ジェンダー平等の観点から発言を疑問視する声も多くみられた。では、岸田首相の発言の問題点は何か。新聞労連の「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」から確認する。このガイドブックは、日本のジェンダー平等に強い危機感を感じている現役の記者たちが執筆。「女性らしさ」などという表現を使ってきたメディアの反省点も踏まえ、ジェンダー表現のリテラシーを社会全体で高めることを目的としている。
●ステレオタイプの助長や無意識の偏見
 まず、岸田首相の発言であった「女性ならでは」という表現については、「『女性ならできて当然』というステレオタイプな考え方を助長する」と指摘している。例えば、育児関連商品の開発談で「女性ならではの発想」、女性管理職について「女性特有の気配り」といった表現がある。しかし、これらの表現は「女性は育児をするもの」、「女性は気配りしなければならない」というステレオタイプな考え方を助長してしまう。そして、たとえ発言した人に差別する意図がなかったとしても、「無意識の偏見をばらまき、追認している」ことにつながるという。これは「マイクロアグレッション(微細な攻撃)」と呼ばれており、「使う側に差別的な意図はなくとも、現状の差別的な状況を追認し、多くの人を苦しめる土台となってきた」と指摘している。つまり、「女性ならでは感性」という岸田首相の発言自体が、現状の差別的な状況を追認し、ステレオタイプな考え方を助長していることになる。
●自分も当事者だという意識
 このようなことから学ぶことは何か。ガイドブックでは、「自分も当事者の視点が必要だ」と訴えている。ジェンダーは性別に関係なく、誰もが当事者となるテーマだからこそ、男性も自分事として考えていかなければならない。また、意思決定の場に女性がいる割合も重要という。ある結果を得るのに最低限必要な数「クリティカルマス」という言葉があるが、組織の中での比率が3割を超えた時に主張が実現すると言われている。日本政府が「指導的地位の女性比率を30%」という目標を掲げているのも、このためだ。なお、第2次岸田第2次改造内閣では、19の閣僚ポストのうち女性は5人。26%で、3割に達していない。ガイドブックの編集チームは「多様な視点が確保されれば、一人一人の『らしさ』が大事にされ、暮らしやすい社会につながる。だからこそ、男性優位組織の過去の成功体験に基づいた構造を変える必要がある」と言及している。

*3-3-2:https://www.asahi.com/thinkcampus/article-100913/?cid=pcsp_top_infeed (朝日新聞 2023.11.8) 理工系「女子枠」、導入する大学の狙いは? 「男女の視点の違いで、現場に技術革新を」
 2024年度入試では、理工系の学部を中心に「女子枠」を設ける大学が多く見られます。「女子だけを優遇するのか?」など批判の声もあるなか、なぜ理工系に女子を増やす必要性があるのでしょうか。総合型選抜(女子)をスタートする東京理科大学に、新しい入試の形を始める背景や、どんな人に入ってもらいたいのか、期待することなどを聞きました。
●意欲と向上心を持つ最大48人を募集
 科学技術の分野で活躍する女子を増やそうと、総合型選抜や学校推薦型選抜で、女子に限定した「女子枠」を設ける大学が増えています。2024年度入試から「総合型選抜(女子)」をスタートする東京理科大学では、どのような経緯で導入を決めたのでしょうか。井手本康副学長はこう話します。「わが国では現在、特に理工系分野で女子の人材育成が必要とされています。そこでダイバーシティーの推進に力を入れている東京理科大学でも、特に女子の少ない工学系3学部16学科に『総合型選抜(女子)』を設け、理工系分野への女子の進学を後押しすることにしました。まずは大学全体の入学定員の1.2%弱にあたる各学科3人、計48人までの範囲で、将来的にリーダーシップを発揮する人材として、意欲や向上心のある女子学生を受け入れたいと考えています」選考方法は、調査書や志望理由書などで書類審査を行ったうえで、面接・口頭試問と小論文を実施します。意欲や目標、数学と理科に関する基礎知識、科学的な観点などから、総合的に見て合否を判断します。「大学入試はゴールではなく、人生で成長していくための通過点の一つです。意欲や目標がある人ほど、大学入学後もより自分を高めていけるでしょうし、リーダーシップを発揮する人材になり得るでしょう。総合型選抜は受験生の志望動機などを重視する選抜方法ですから、『東京理科大学でこれを学びたい』『将来こうなりたい』といった意欲や目標があり、本学の学びを通してそれを高めていける学生を見極め、歓迎したいと考えています」(井手本副学長)
●多様性がさらなる技術革新につながる
 理工系学部の女子が増えることで、大学はどう変わっていくのでしょうか。「私は化学が専門ですが、女性は男性が気づかないようなことに気づいたり、ものの捉え方が少し違っていたりと、男性と女性とでは視点や観点が異なることを日々実感しています。研究をしていく上で大切なのは、さまざまな角度からの気づきです。意欲や向上心のある女子が増えることで学生にもいい刺激になるでしょうし、研究や開発の現場でも今までになかったような技術革新が起こると期待しています」(井手本副学長)。理工系女子のロールモデルが少ないため、就職や卒業後のことを心配する保護者がいますが、今は理工系の女子は活躍の場が多く、企業から引く手あまたの状況にあります。 「女子が少ない学問分野は女子には不向きだというわけではありません。『総合型選抜(女子)』は大学からの歓迎の証しだということを、高校の先生やご父母の方にも知っていただきたいです」(井手本副学長)
●2024年度入試は「女子枠」の新設ラッシュ
 2024年度入試では、東京工業大学、東京都市大学なども女子枠を新設します。東京工業大学は、2025年度入試で女子枠を募集人員全体の約14%にあたる143人まで広げるということでも話題になっています。また、国内の大学で最初に女子枠を設けた名古屋工業大学も2024年度入試で女子枠を拡大するほか、奈良女子大学は2022年度に国内の女子大学では初となる工学部を開設するなど、女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化しています。東京理科大学では、「総合型選抜(女子)」の動向を見つつ「まずはスモールスタートで、効果検証を行いながら、今後は他の学科や女性に限定しない形への展開も検討していきたいという考えもある」と井手本副学長は話します。大学にとって女子枠の拡大は、意欲的な女子が入学することで、理工系分野の活性化を図るだけではありません。「自分は何を学びたいか」という意欲や目標を重視した入試に移行していきたいということが背景にあるようです。

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15746023.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2023年9月20日) 女性起用ゼロ 「活躍促進」は口だけか
 首相官邸のひな壇に、ともに並ぶ二十数人が男性ばかりという光景が、異様だとは想像できなかったのだろうか。過去最多に並ぶ5人の女性閣僚が任命された内閣改造から一転、副大臣26人と政務官28人の計54人の人事では、女性の起用はゼロとなった。岸田首相は改造後の記者会見で、自民党が「女性議員の活躍促進を最重要課題に掲げた」と述べたが、口だけと言われても仕方あるまい。多様な国民の意見を政策決定に公平・公正に反映させるために、政治分野における女性の参画拡大は特に重要である――。20年末に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画にそう記したのは、他ならぬ政府自身である。指導的地位に占める女性の割合は、「20年代の可能な限り早期に30%程度」とするとした。第4次計画の「20年に30%程度」から後退した、この目標にすら逆行するようでは「政治分野が率先してあるべき姿を示す」という計画の文言も空しく響く。首相は「(政務三役を)チームとして人選を行った結果」であり、女性2人を起用した首相補佐官も合わせれば、「老壮青、男女のバランス」はとれているという。しかし、実際に考慮したのは、各派閥の要望であり、派閥間のバランスだろう。自民党には現在、衆院21人、参院24人の計45人の女性議員がいるが、推薦名簿に女性を入れない派閥が多かったようだ。ならば、首相官邸が全体を見渡して調整を加えるのが、本来である。秘書官を含め、首相の意思決定を周辺で支える主要な官邸スタッフが、男性で占められていることが、多様性の意義に思いが至らぬ一因となってはいないか。女性に限らず、閣僚になるには、副大臣や政務官として経験を積み、専門性を磨いておくことが有用だ。女性を積極的に副大臣や政務官に就けることは、女性閣僚を増やす道でもある。国際的にも極めて低い水準にとどまる女性議員の数そのものを、抜本的に増やすことも不可欠だ。衆院議員に占める女性の割合は1割に過ぎず、候補者男女均等法が18年に施行された後も、改善の歩みは鈍い。特に対応が遅れていた自民党はようやく、この6月、「女性議員の育成、登用に関する基本計画」を定め、同党の国会議員に占める女性の割合を、現在の11%から10年間で30%に引き上げる目標を掲げた。看板だけに終わらぬよう、候補者の発掘からキャリア形成への支援まで、体系的な取り組みが問われる。

*3-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1129791/ (西日本新聞社説 2023/9/24) 副大臣・政務官 まさか女性起用ゼロとは
 先日の内閣改造で副大臣、政務官から女性が消えた。社会全体で女性の登用を進めようと呼びかけていたのは、岸田文雄首相ではなかったか。看板倒れも甚だしい。今回の改造で、閣僚には過去最多に並ぶ5人の女性が就任した。副大臣26人、政務官28人の人事は、一転して女性が一人もいなかった。首相は「どの閣僚にどの副大臣、政務官を付けるのか、チームとして人選した結果だ」と説明した。苦しい言い訳にしか聞こえない。内閣のチームと言うなら、閣僚に副大臣、政務官を合わせた政務三役の構成に首相が目を光らせるべきだろう。女性の適任者が見当たらない場合は、民間に人材を求めることもできるはずだ。首相による戦略的な抜てき人事がある閣僚に比べると、副大臣や政務官は自民党の派閥が推薦した議員の中から選ぶ傾向が強い。当選回数や衆院、参院のバランスにも配慮する。今回はそれを踏襲したとみられる。国土交通相の留任にこだわった連立与党の公明党も、女性の政務三役起用は重視しなかったのだろう。政府は2020年に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画で、指導的地位に占める女性の割合について「20年代の可能な限り早期に30%程度」を目標にしている。現状は政務三役73人のうち女性は約7%でしかない。昨年8月の内閣改造時の約18%から大きく後退している。首相は内閣改造をした13日の記者会見で、女性閣僚について「女性ならではの感性や共感力も十分発揮し、仕事をしていただくことを期待したい」と述べ、批判を受けた。性別による偏見、古い役割分担意識を図らずも露呈してしまった形だ。そもそも、女性比率が2割に満たない国会議員の構成を変えなければならない。政治分野における男女共同参画推進法は、男女の候補者ができるだけ均等になることを目指し、政党に目標設定を求めている。自民党は6月、女性の割合を現在の約12%から今後10年間で30%に引き上げる目標を打ち出した。新人女性の衆院選立候補予定者に100万円を提供し、資金面の支援策を拡大する。問題は候補者調整だ。小選挙区の公認候補は1選挙区1人に限られるため、現職を優先する。その大半を占める男性を女性に交代させるのは容易でない。比例代表であれば、女性を優先して名簿の上位にすることができる。議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」は検討に値する。政治活動や選挙運動中のハラスメントは女性が被害に遭いやすい。男性中心の政治風土を改め、女性が力を発揮しやすい環境づくりに与野党で取り組むべきだ。その先頭に立つ自覚を各党のリーダーに求めたい。

*3-6:https://news.yahoo.co.jp/articles/8aca1dea8d63dcf038252e2b00b6d6418d46ec32 (Yahoo 2023/10/9) 「埼玉のぶっ飛び条例」自民党提出の埼玉県虐待禁止条例案に反対するネット署名に賛同が拡大
 小学生3年生以下の子どもを自宅などに残したまま外出することは「虐待」に当たるとして禁じるなどした虐待禁止条例案が、13日に埼玉県議会の本会議で採決が行われることを前に、採決に反対するオンライン署名への賛同が広がっていることが分かった。オンライン署名サイト「change org.」では9日午後2時までに、7万人超が賛同の意を示した。サイトによると、9日だけで1万8000人近くが賛同したとしている。8日には「留守番禁止条例」がSNSのトレンドワードになったが、9日にも「埼玉県虐待禁止条例」がトレンドワードになるなど、関心が集まり続けている。同条例案は、埼玉県議会最大会派の自民党が9月定例議会に提出した。自家用車内に児童が放置されて死亡するケースなどが全国で相次ぐ中、こうした事案を防ぐ目的としている。内容は「小学校1年生から3年生だけでの登下校」や「18歳未満の子どもと小学校3年生以下の子どもが一緒に留守番をする」「小学生だけで公園で遊びに行く」「児童が1人でお使いに行く」などの行為を「虐待」として禁じるもの。6日に県の福祉保健医療委員会で可決された。13日の本会議で採決が予定され、可決される見通しになっている。SNS上には「埼玉のぶっ飛び条例、共働きで子育てをすることを想定すれば現実的ではないことなんて容易に分かるだろうに、そうならない人達が政治を回していることが見えたよね」「何を考えたらこんな条例案を可決しようと思えるんだろう」「埼玉県民の子育て世代を虐待することになるのでは?」など、条例案の内容や、提出した自民党の対応にも批判が相次いでいる。

<一般社会における女性登用について>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73590370U3A810C2EP0000 (日経新聞 2023.8.15) 管理職、女性は12.7% 厚労省調べ 昨年度、国際的には低水準
 企業の課長相当職以上の管理職に占める女性の割合が2022年度は12.7%だったことが厚生労働省の「雇用均等基本調査」で分かった。過去最高を更新したものの、21年度からの上昇幅は0.4ポイントと限定的で、国際比較では低い水準にとどまる。22年10月時点で、従業員が10人以上いる全国の企業6000社を対象に調査した。企業規模別では従業員数が10~29人の企業が21.3%と最大だった。300~999人の企業は6.2%、1000~4999人の企業は7.2%、5000人以上の企業は8.2%といずれも1割に満たなかった。大企業における女性管理職の割合は総じて低い傾向にある。全体の数字でも国際的に低い水準が続いている。労働政策研究・研修機構によると、21年の日本の女性管理職割合は13.2%だった。スウェーデンは43.0%、米国は41.4%、シンガポールは38.1%と欧米など主要15カ国で最も低かった。政府は30年までに東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を30%以上とする目標を打ち出している。22年からは常用労働者301人以上の企業に男女の賃金差の公表も義務づけた。厚労省の担当者は「女性管理職の登用は息の長い取り組みであり、引き続き登用率の向上を呼びかけていきたい」と話す。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231019&ng=DGKKZO75369360Y3A011C2KE8000 (日経新聞 2023年10月19日) 再考 セーフティーネット(下) 雇用の自律的選択こそ必須 神吉知郁子・東京大学教授(かんき・ちかこ 77年生まれ。東京大法卒、同大博士(法学)。専門は労働法、最低賃金などの賃金規制)
<ポイント>
○男性稼ぎ主モデルへの依存は持続不可能
○無限定な働き方が多様性を妨げる要因に
○日々の労働時間予測・管理の可能性重要
 セーフティーネット(安全網)は社会保障制度だけではない。稼働能力のある現役世代にとって、生活保護はほとんど使うことが想定されない最終手段だ。実際に安定した生活基盤を提供する1次的セーフティーネットとして機能しているのは雇用だといってよい。労働力調査(2023年4~6月)によると、就業者約6747万人のうち、雇用されている者は約6067万人と9割に及ぶ。雇用は労働者の経済的生活を安定化させ、社会資源の分配を果たす。同時に能力や技能を発揮して対価を受け取ることで、労働者が保護の客体ではなく主体的に自己を確立し、自尊心や存在意義を確認する場や、成長の機会や人とのつながり、居場所を提供し、孤立・孤独を防ぐ効果も有する。社会にとっては、税や社会保険などのより大きなセーフティーネットを担う基盤ともなる。従って現役世代のセーフティーネットを再考するにあたっては、いかに良質な雇用を確保するかが最重要課題の一つだ。これまで良質な雇用の理想とされてきたのは、大企業の正社員だろう。定年までの長期の雇用保障を前提として、年功的に上昇する基本給に加え、手厚い手当により住宅の取得や教育投資を可能とし、労働者と家族の生活を支えてきた。1970~80年代には、男性稼ぎ主が主婦と子ども2人を養う世帯が標準モデルとされ、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度などによりこのモデルを補強してきた。ではこの失われつつある「古き良き」スタイルに回帰し、拡大を目指すべきか。答えは否、既に不可能だ。晩婚・非婚化、超高齢化、少子化という不可逆な社会の変化は「標準」世帯を遠い過去のものとした。労働力の先細りや教育水準の高まりを考慮すれば、性別や年齢、婚姻状態を問わず、より多様な人々に健全な雇用機会を確保することが必要になる。そのためには、負の側面に目を向けねばならない。日本型雇用慣行における労働者の標準モデルは、自分自身や家族のケア責任を負わず、仕事に無制限に時間と労力を割ける無限定正社員だった。こうした価値観は健康障害や格差の固定と増大、多様性の阻害といった弊害ももたらしてきた。まず労働者本人は、安定雇用と引き換えに、長時間労働や転居も伴う頻繁な異動を甘受せねばならない。法的には19年まで絶対的な労働時間上限がなく、過重労働に歯止めはかからなかった。判例は企業に広範な人事権を認め、転勤命令を拒否した場合には懲戒解雇も有効としてきた。必ずしも長期雇用や高待遇が保証されない企業であっても、その解釈は変わらない。22年度に労災と認定された過労死など(脳心臓疾患、精神疾患)は904件だが、請求件数は3486件にのぼり、健康障害はより多いと考えられる。職場のハラスメントを巡る紛争も増加傾向にある。生活を支えるはずの仕事がストレスを生み、健康を害し生命を失う原因にもなっている。一方、仕事優先の無限定な働き方が求められる労働者には恒常的な他者のケアが難しく、しわ寄せは家族に及ぶ。ケア責任を引き受けるパートナー側の職業生活に制限がかかる。性別役割分業の実態もあり、この影響は女性に大きく出る。女性の労働力率が出産・育児期に落ち込む、いわゆるM字カーブは改善傾向とはいえ、出産離職率はいまだに約3割に及ぶ。また女性が正規雇用で働く割合は20代後半の約60%がピークで、年齢上昇につれて低下するL字を描く。そして女性労働者の過半数は非正規で働いている。日本では男性の有償労働時間が突出して長く、世界最長である(図参照)。その裏返しとして、家事・育児などの無償労働時間は最短で、男女格差は5.5倍に達する。経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の男女格差はほとんど2倍未満だ。長時間無限定労働をスタンダードとする日本型雇用慣行の下では、構造的にワークがライフの、ライフがワークの足かせになってきたのである。もっとも、非正規の処遇が十分であれば、ケアのニーズに合わせた働き方はむしろ多様性の一環と評価できる。例えばパートタイム労働者にフルタイムとの比例的な待遇を保障できれば、格差問題はそれほど深刻ではないかもしれない。だが正社員の本質がフルタイムよりも無限定性にあるとみれば、単純な時間での比較はそぐわない。そして戦後の非正規労働の典型が主婦パートだったため、被扶養者であり家計補助者にすぎないという想定のもと、多くは最低賃金を参照するなど、正社員とは全く異なる制度理念で処遇が決定されてきた。労働契約が有期の場合は、雇用が不安定なため交渉力も弱く、処遇改善の手段をもちえない状況に置かれる。生涯未婚率が高まり単身世帯も増えるなか、様々な事情で働き方に制約のあるすべての人に「セーフ」な雇用機会を保障するには、正社員も含めた働き方の見直しが必須だ。まずは時間外労働を前提とせず、契約で決めた労働時間を守って、十分な生活時間と処遇を確保することだ。労働基準法の上限はいわゆる過労死基準であり、これだけに依拠しては健全な生活は維持できない。休暇も有効だが、自分のケアを他人に任せず仕事と両立でき、共働きやシングルで子育てをしながら持続可能な働き方に転換するには、日々の労働時間の予測、コントロール可能性こそが重要だ。本来的には、時間という貴重な資源の処分がほぼ使用者側に委ねられるという契約解釈自体に再考の余地がある。より労働者の意思を反映した労働条件の決定・変更も課題だ。契約である以上、条件の決定・変更は合意ベースが原則だが、司法判断は使用者の一方的な変更余地を広く認めてきた。特に転勤命令については、労働者の不利益が通常甘受すべき程度かを権利濫用(らんよう)判断の基準としつつ、それが認められたのは家族全員に疾病や障害があり、他に介護者がいないような深刻な場合ばかりだった。現在の社会状況に即して基準を見直し、根本的には変更を望まない労働者の選択が尊重されるべきだろう。また正規・非正規の労働条件格差については、労働契約法などにより不合理な格差が禁止されてきた。しかし昇進や異動といった職務の変更の範囲に正社員との違いがある場合には、特に基本給格差の不合理性は認められないケースがほとんどだ。ここでも正社員の働き方の無限定性がネックとなる。結果的な賃金格差のみならず、評価の仕組みを見直すことが格差是正の手掛かりとなるはずだ。雇用における労働者の自律性確保は、セーフティーネットを自らの手で張ることにつながり、社会保障による再分配では実現できない価値をもつ。過重労働や性別役割分業に依存せず、自律的選択を尊重する雇用のあり方が望まれる。

<外国人の登用について>
*5-1-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231124/k10014267741000.html (NHK 2023年11月24日) 技能実習生制度を廃止 「育成就労制度」に名称変更 最終報告書
 厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪が相次ぎ、人権侵害の指摘があるとして、政府の有識者会議は今の制度を廃止するとした最終報告書をまとめました。新たな制度は人材の確保と育成を目的とし、名称も「育成就労制度」に変えるとしています。技能実習制度は外国人が最長で5年間、働きながら技能を学ぶことができますが、厳しい職場環境に置かれた実習生の失踪が相次ぎ、人権侵害の指摘があるなどとして、政府の有識者会議は今の制度を廃止するとした最終報告書をまとめました。それによりますと、新制度の目的をこれまでの国際貢献から外国人材の確保と育成に変え、名称も「育成就労制度」にするとしています。そして、基本的に3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成します。専門の知識が求められる特定技能制度へのつながりを重視し、受け入れる職種を介護や建設、農業などの分野に限定します。一方で、特定技能への移行には、技能と日本語の試験に合格するという条件を加えます。また、これまで原則できなかった別の企業などに移る「転籍」は、1年以上働いたうえで、一定の技能と日本語の能力があれば同じ分野にかぎり認めることにしています。期間をめぐっては2年までとすることも検討されましたが、制度が複雑になるなどとして盛り込まれませんでした。さらに、実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日していることを踏まえ、負担軽減を図るために、日本の受け入れ企業と費用を分担する仕組みを導入します。有識者会議は早ければ来週にも、最終報告書を小泉法務大臣に提出する方針です。
●農家からは新制度に期待する一方 雇用主の負担増への懸念も
 長年、技能実習生を受け入れてきた茨城県内の農家からは、新たな制度に期待する一方、雇用主の負担が増えることへの懸念の声も聞かれました。東京のホテルやレストランなどにいちごを出荷している茨城県鉾田市の農家では、20年以上、外国人材を受け入れていて、今は技能実習生など10人のインドネシア人が働いています。技能実習制度が国際貢献を目的にしながら実際は人手確保の手段になっていると指摘される中、実態にあわせた形で外国人材の確保と育成のための新たな制度となることについて、「村田農園」の村田和寿代表は「実際には労働力となっていて、その中で育成もしてきたので、実際の形に近づくことはいいことではないか」と新たな制度への期待を語りました。この農園では技能実習生ひとりひとりにアルバムを作るなど、大切に育成しているということで、村田さんは「実習生のおかげで農園の大規模化が進められ、非常に助かっています。なくてはならない存在なので、制度が変わっても雇用を続けたいです」と話しています。一方、新たな制度では、これまで原則できなかった別の企業などに移る「転籍」について、1年以上働いていることなどを要件に認めるとしていて、これが実際に広がれば人材が流出するのではないかと懸念しています。また、現在、技能実習生を新たに受け入れる際には、渡航費用や来日後1か月間の宿泊費や研修費用などで1人あたりおよそ25万円から30万円前後を負担しているということです。これに加え新たな制度では外国人が母国で送り出し機関などに支払っている手数料を受け入れ側も負担するよう求めていて、金銭的な負担はさらに大きくなる可能性があります。村田代表は「プラスで費用がかかるのは農家にとっては痛手になります。ただ、実習生のスキルアップのための研修は必要なので、現地で実習生が払っている費用を明確にするなど、適切な仕組みづくりをしてほしいです。農業が選ばれ、事業者が選ばれる環境は厳しくなっているので、受け入れる側としても改善を続けていきたいです」と話しています。
●支援団体「現場の声を聞きながら新制度を作ってほしい」
 技能実習生を支援している団体は最終報告書の内容について一定の評価をした上で、いかにサポート体制を充実させていくかが引き続き課題だと指摘します。東京 港区のNPO法人「日越ともいき支援会」では、2020年からベトナム人の技能実習生の保護などを行っています。この団体には、職場での暴力や残業代の未払い、妊娠を機に雇い止めされたといった実習生などからの相談があとを絶たず、ことしに入ってシェルターに保護した人数は127人に上るということです。技能実習制度を廃止するという最終報告書がまとまったことについて、団体の吉水慈豊代表は「30年続く中で海外からも批判されてきた今の制度をようやく見直そうという国の姿勢は評価できる」としています。一方で「これまで、パワハラやセクハラ、賃金の未払いなどの問題が生じたときにきちんと対応できる体制が整っていないことが大きな問題だった。新たな制度で認められる転籍についてはハローワークなどが支援するというが、外国人の支援に慣れていないと難しい面もある。支援体制が十分整わないまま新しい制度に向かうのは危険で、職を失ったり、今より早く失踪したりする人が続出するおそれもある」と懸念しています。そのうえで「海外の若者たちが日本にきてよかったと思える制度にしないといけない。現場の声を聞きながら新たな制度を作っていってほしい」と話していました。
●専門家「外国人側と企業側の双方に細心の配慮を」
 最終報告書について、外国人労働者の受け入れの問題に詳しい野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「長い間、人権侵害が指摘される温床になっていたのが『転籍』の問題で、非常に厳しく制限されていたが条件が緩和されることで、企業も従来以上に実習生の人権に配慮することになり、労働環境が非常によくなるきっかけとなるのではないか」と評価します。一方で、外国人側だけでなく受け入れる企業側にとってもメリットのある制度にする必要があるとして、「日本企業にとっては人材を確保していくための重要な仕組みだが、企業がコストをかけて技能を習得させる努力をしても転籍されてしまうという問題が出てくる可能性もある。その場合は、国が、支援するといったことも今後、検討材料になってくるだろう」と指摘します。そのうえで「技能実習制度ができた30年前と現在では、日本の経済的立場が変わり、以前は、国際貢献の観点から実習生を受け入れる立場だったが、賃金が上がらず、円安も進んだ結果、待遇や働く環境などを改善しないと実習生が来てくれない状況だ。今回の見直しは日本経済を支えてもらう仕組みという長期の視点で考える必要がある。具体的な制度設計の中で、外国人側と企業側の双方に細心の配慮をはかるほか、実際に動き出したあと、過重な負担を強いていると判断した場合には、柔軟に制度を見直す姿勢も必要だ」と話していました。

*5-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/292093 (東京新聞 2023年11月25日) 結論は「丸投げ」…将来の技能実習の焦点「転籍の制限期間」 有識者会議が最終報告 議論の着地点見いだせず
 外国人技能実習制度に代わる新制度を検討してきた政府の有識者会議は24日、新制度「育成就労」の創設を提言する最終報告書を取りまとめた。焦点となっていた別の職場への「転籍」の制限期間は、現行の「3年」から「1年」への緩和を原則としつつ、当分の間は1年を超える制限を認めるなどの「経過措置」の検討を求めた。具体的な内容は盛り込まず、今後の政府・与党の対応に委ねた。政府は提言を基に新制度の詳細を検討し、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する方針。経過措置の内容次第では、転籍制限の緩和が限定的になる可能性もある。最終報告書は、現行の厳しい転籍制限が「さまざまな人権侵害が発生し、深刻化させる背景・原因となっていると指摘されている」と記載。新制度では、就労が1年を超えた上で日本語と技能の一定要件を満たせば、本人の意向での転籍を認めるとした。
◆「必要な経過措置を求めることを検討する」
 一方で、急激な変化を緩和するため「当分の間、受け入れ対象分野によっては1年を超える期間の設定を認めるなど、必要な経過措置を設けることを検討する」よう政府に求めた。設定できる具体的な年数や要件などは示さなかった。新制度案は「人材確保と人材育成」を目的に掲げ、労働者としての受け入れを明確にする。現行制度は「人材育成による国際貢献」を目的にしており、人手不足の現場で労働力の確保に使われている実態との乖離(かいり)が指摘されていた。就労期間は3年とし、一定の専門性を持つ外国人を対象とした「特定技能制度」の水準まで育成。現在は技能実習と特定技能の受け入れ対象分野がばらばらだが、新制度では一致させ、技能実習から特定技能に移行しやすくする。技能実習と特定技能 技能実習は「人材育成による国際貢献」を目的に途上国の外国人を最長5年受け入れる制度で、1993年に始まった。2023年6月末時点で全国に約36万人が在留する。特定技能は、人材確保が困難な産業分野に一定の専門性・技能を有する外国人労働者を受け入れる制度で、19年に開始。技能水準に応じて1号と2号がある。23年6月末時点で約17万人が在留。
◆「人材確保」と「人権保護」
 外国人技能実習制度の見直しを巡り、政府有識者会議が最終報告書で、転籍制限期間の延長などの経過措置を「検討する」と盛り込んだのは、人材確保と人権保護をてんびんにかけるような議論の着地点を見いだせなかったためだ。今後の制度設計では、外国人の人権保護が骨抜きにならないような対応が求められる。一般の有期雇用者と同様に1年での転籍を認めることは、外国人の人権保護を目指した制度見直しの根幹だった。だが、10月に新制度案のたたき台が示されると、実習生を受け入れてきた地方の事業者や自民党内から「人材が都会に流出する」などの声が相次ぎ、有識者会議は「懸念への対応が必要」と判断した。一度は制限期間を「最大2年」に延ばせる例外規定を示したが、賛否が分かれたため削除。「最大2年」の記述すら消えたことで、現行の「3年不可」に近い制限が継続される懸念も残った。経過措置の「当分の間」がどれだけ続くかも不透明だ。自民党内の緩和への根強い慎重論が制度設計に影響する可能性もある。人材確保と人権保護は相反するものなのか。外国人の人権保護を大前提にした上で、地方の不安にどう応えるべきか。政府・与党は知恵を尽くすべきだ。(井上峻輔)

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73560080S3A810C2EA1000 (日経新聞社説 2023.8.13) 〈人手不足に克つ〉「選ばれる国」へ外国人基本法を
日本は外国人に「選ばれる国」になれるのか。今がまさに正念場である。選ばれるには外国人が歓迎されていると感じる環境を提供しなければならない。職場はもちろん、生活する地域社会でも外国人が共生できる教育や福祉の基盤づくりが急務だ。その礎として外国人をどのように受け入れるか、我が国の姿勢を内外に示す外国人基本法を考える時期である。
●疎外感の放置はリスク
 外国人労働者を受け入れる政策は転換点にある。6月に在留資格「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やし、永住に道を開いた。賃金不払いや失踪などトラブルが絶えない技能実習制度を廃止し、新制度に移行する議論も進む。技能実習は国際貢献を名目にしながらも、実質的に外国人を景気変動に伴う一時的な雇用の調整弁として扱ってきた。人手不足が恒常化した今、これでは対応できない。人権侵害が指摘される制度でもあり、早急に廃止して特定技能に一本化すべきだ。複雑になっている在留資格も整理したい。制度のわかりにくさは外国人が日本を避ける理由になりかねないためだ。日本にはすでに総人口の2%に相当する約300万人の外国人が暮らしている。外国人比率が1割ある欧州ほどには社会のあつれきはまだ目立たないが、技能実習の受け入れから30年たち、第2世代が社会に出始めている。なかには日本語がままならないまま社会に放り出され、疎外感を感じている若者もいよう。日本社会に溶け込めない外国人を放置しておくのは、欧州の移民問題のようなリスクを抱えていると考えるべきだ。それが顕在化しないうちに社会的に包摂する手立てを考える必要がある。最も重要なのが日本語教育である。多文化共生を進める浜松市は、外国人家庭を訪問して相談に応じるなど、きめ細かな支援で学校に通っていない子どもをゼロにするようにしている。だが多くの自治体はそこまで手が回らない。外国人に日本語教育が行き届かないのは、自治体やNPO任せにしてきたためだ。憲法は義務教育の対象を「国民」としているが、日本は「すべての者」への教育の提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約を批准している。国籍を問わず、子どもに教育を受けさせるのは政府の責任である。明治の市町村合併は小学校、昭和の大合併は中学校を運営できるよう自治体を強化するのが目的だった。外国人の住民登録がない自治体はいまや全国に3つしかない。外国人がどこにいても一定の教育を受けられるようにするのが令和の公教育のあるべき姿だ。そこでは教育だけでなく、福祉なども含めて外国人受け入れのあり方を一から考えていく必要がある。これまでは移民の是非をめぐる対立から入り口で思考停止に陥っていた。「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」といった制約をいったん取り払い、日本にふさわしい外国人受け入れ制度を議論するときだ。
●共生社会は国の責務
 外国人政策を議論する日本国際交流センターの円卓会議は「在留外国人基本法」を提唱している。外国人を日本社会の一員とし、対等な社会参加で共生社会を築くことを理念に掲げる。そのための基盤整備、財源確保は国の責務とした。賛同できる。各論はさまざま議論があろう。だが、基本法で外国人を歓迎する姿勢を打ち出すことは、人口減少を日本の成長の制約とみている世界に向けて、日本は変わるとのメッセージになるだろう。企業も意識を変えなければならない。長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人と同等にする必要がある。優秀な人材は幹部候補として育て、独立を支援するくらいの度量がないと魅力的な会社に映らないのではないか。外国人を積極的に受け入れる韓国や台湾などとの競争は激しさを増している。外国人に選んでもらえる職場づくりは、多様な人材が活躍できるオープンで創造的な企業風土につながると考えたい。豊かで活力ある経済を維持してゆくには、開放的な社会であることが前提になる。それは古来、海外との交流を深めることで発展してきた我が国の歴史そのものだ。そのDNAを呼び覚ましたい。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73919710W3A820C2EA1000 (日経新聞 2023.8.26) 留学増へ給付型奨学金拡充 来年度7割増3万人に、文科省、国際人材育成急ぐ
 海外への留学生を2033年までに年50万人にする目標の実現に向け、文部科学省は給付型奨学金の対象者を24年度に現在に比べ7割増の3万人にする方針を固めた。国際競争力向上へグローバル人材の育成を急ぐ。政府の教育未来創造会議が4月、33年までに日本人留学生を新型コロナウイルス禍前の年22.2万人から年50万人に、外国人留学生を年31.8万人から年40万人に増やすよう提言した。同省が経済面の支援策などを検討していた。派遣する留学生の奨学金を拡充するため24年度予算案の概算要求に114億円を盛り込む。留学支援の給付型奨学金は現在、交換留学など中短期の留学を支援する「協定派遣型」と、学位取得を目指す「学部学位取得型」「大学院学位取得型」などがある。協定派遣型は月額で最大10万円を支給し23年度は約1万6900人が利用している。24年度はこの受給者を約1万3000人分増やし、3万人を対象にする。最大で月11万8000円を支給する学部学位取得型、月額最大14万8000円の大学院学位取得型の受給者は23年度の600人から700人強に増やす。自治体などと連携して高校を卒業してすぐ海外大に進学する生徒らを支援する。内閣府が18年度に若者約1000人を対象に実施したアンケートによると、経済的な理由や語学力不足などを理由に「外国留学をしたいと思わない」と答える若者は全体の5割を超えた。2割程度の韓国、米国などに比べて消極性が際立つ。学位取得を目的とする留学者数は20年に4万2000人だったが、33年には年50万人のうちの15万人に引き上げたい考えだ。実現すればフランス(10万人)や米国(10万9000人)、ドイツ(12万3000人)を抜く規模となる。文科省関係者は「まずは中短期留学者の支援を充実させ、留学機運を醸成したい」と話す。高校段階での意欲喚起も重要とみており、留学情報の発信やプラン策定などを担う「留学コーディネーター」の高校への配置も進める。外国人留学生も受け入れ拡大へ日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設する。諸外国の動向やデータなどを分析して戦略を練る。同機構によると、日本の在学者に占める外国人留学生の割合は5%。英国の20%、オーストラリアの30%と比べ低い。5月に富山市と金沢市で開催された主要7カ国(G7)教育相会合の閣僚宣言では「G7各国間の国際交流をコロナ前の水準に戻し、それ以上に拡大する」と盛り込まれた。同省はG7とともに東南アジア諸国連合(ASEAN)との大学間共同教育プログラムの策定支援や、これらの国から受け入れる留学生への奨学金を拡充する方針だ。

*5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231120&ng=DGKKZO76206190X11C23A1KE8000 (日経新聞 2023.11.20) 経済教室外国人労働者政策の針路(上) 経済成長に寄与する制度に 橋本由紀・経済産業研究所研究員(東京大経済学部卒、同大博士(経済学)。専門は労働経済学、外国人雇用)
<ポイント>
○外国人材の技能水準が企業の生産性左右
○現政策は非高技能者割合を高める可能性
○成長企業を外国人材確保で優遇する案も
 外国人には受け入れ国の人口・経済政策や出入国管理制度が実質的な「国境」となり、就労の可否や働き方は制度や政策の調整の影響を強く受ける。同時に外国人労働者の増加は受け入れ国の労働市場にも多少の影響をもたらし、自国民の働き方も変えうる。本稿では、これまでの政策の帰結としての日本の外国人労働者の現状を踏まえつつ、これからの外国人労働政策を議論したい。図は、賃金構造基本統計調査を基に2020~22年の外国人労働者(一般労働者のみ)の所定内給与額の推移を示したものだ。専門的・技術的分野の労働者(身分系の在留資格者は含まない)と、技能実習生・特定技能外国人の賃金水準や分布は大きく異なっている。賃金分布の差異に加え在留資格取得に必要な学歴や経験の違いも踏まえると、専門的・技術的分野の外国人と技能実習生・特定技能外国人は異なるグループとみなしうる。前者を高技能者、後者を非高技能者とする分類は、多くの研究が用いる区分にも対応する。まず高技能外国人の雇用状況を確認する。筆者が連合総合生活開発研究所(連合総研)のプロジェクトで行った賃金構造基本統計調査の分析結果を紹介しよう。高技能外国人には賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が少なくない。図に示すように分散も大きい。一方で勤続年数が短くボーナス支給割合も低いことから、日本型雇用慣行の下で正社員的に働く者は少なく、専門的な職種に就きジョブ型で雇用される者が多いと推測される。次に非高技能外国人の雇用をみてみよう。図の技能実習生と特定技能外国人の所定内給与額の中央値は、20年から22年の間にそれぞれ1.4万円、3.6万円上昇し、分散も拡大している。特定技能外国人の22年の中央値(20.4万円)は、高卒非正規労働者の所定内給与額の中央値(19.2万円)よりも高い。かつて技能実習生の賃金は、事業者が立地する地域の最低賃金を目安とした相場が形成され、分散も小さかった。だが現在は、高まった技能に見合う給与を支払う事業者が増えている。転職の制限により需要独占的となっていた技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場と接続されたことで競争的になりつつある。同調査では、外国人を雇用しない企業と比べ、高技能外国人を雇う事業所では日本人の賃金が高く、非高技能外国人を雇う事業所では日本人の賃金が低いことも確認できた。これは因果関係を示すものではない。しかしクリスチャン・ダストマン英ロンドン大教授らはドイツの労働市場を分析し、地域に流入した移民労働者の技能レベルに応じて企業内の生産技術が変化することを実証している。日本でも、高技能者向けの技術を使い生産性を高めた企業では賃金が高く、非高技能外国人の雇用を増やし労働集約的となった企業では生産性や賃金が停滞していた可能性がある。日本商工会議所の調査によれば、23年度に賃上げを実施した中小企業は62%だった。一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる製造業分野の中小企業支援調査では、97%の事業所が自社で技能実習を修了した者を特定技能1号として雇用した際に月給額を引き上げていた。ここで働きや貢献に応じた賃上げが日本人労働者と特定技能外国人で同時になされなければ、特定技能外国人の賃上げは制度の要請によるもので、生産性や業績の向上を伴わない防衛的賃上げである可能性が示唆される。各都道府県の技能実習生と特定技能外国人の在留者数をみると、18年時点では全技能実習生の約6割が、22年時点の最低賃金が1千円未満の自治体に在留していた。21年以降、全特定技能外国人のうち、これらの自治体に在留する者は5割を下回っている。その結果、22年には最低賃金が1千円以上の都府県では、非高技能労働者総数に占める特定技能外国人の割合は有意に高い傾向があった。特定技能制度創設時に懸念された都市部への移動は既に顕在化の兆しがある。多くの先進諸国では、経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限する政策をとる。翻って現在の日本は、専門的・技術的分野の人材以外の外国人労働者にも定住への道を開きつつあり、外国人の受け入れでも大規模な「量的緩和政策」に転じている。そこでは、外国籍者の在留の範囲や期間など線引きに関する議論は後退し、外国人労働政策の新たな課題は求める人材にいかに日本を選んでもらうかとなる。高技能外国人と非高技能外国人の新規入国者数は12年にはほぼ同数だったが、22年は後者が前者の2.3倍となった。現在の日本は、非高技能労働者により選ばれている。この傾向が続けば、非高技能者が日本の外国人労働者の多数派となる日は遠くない。こうした傾向が生じたのは、現行政策が外国人の質と量をともに求めても、技術革新に貢献しうる高度人材には日本で就労する魅力が乏しいからだ。非高技能者にとっても円安により賃金面では日本で働く誘因は低下しているが、門戸の広さや生活環境が評価されて在留者は急増している。10月に公表された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告案は、新制度下での職場変更制約の緩和を提案した。これが実現すれば、非高技能外国人の働きやすさが相対的に高まるため、外国人労働者に占める非高技能者の割合はさらに高まると思われる。では今後の外国人労働政策は何を目指すべきか。政府は制度を順守しない悪質な機関や企業の適正化に重きを置く考え方もある。筆者は、外国人雇用の過程で生じた課題への対処と人手確保に重きを置く方針から、経済成長というマクロの目標に沿う外国人労働政策を目指すべきだと考える。現在の政策は高技能者と非高技能者向けの政策をそれぞれの枠組みの中で適正化しようとする。政策全体の展望は見えにくく、「新しい資本主義」が掲げる人と技術への投資強化や賃上げなどの主要労働政策との直接的な関連付けもない。人材確保のために特定技能外国人の賃金を引き上げる一方で、日本人の賃金を据え置いたり設備投資を控えたりすることは、企業や経済の成長にはつながらない可能性が高い。外国人に「選ばれる国」となるだけではなく、日本人が働き続けたい日本であるためにも、まず必要なことは日本経済の成長である。そこでは、すべての労働者が満足できる水準の所得と活躍機会の提供が不可欠だ。外国人労働政策にも、賃上げや設備投資を進めて生産性を高めた企業を優遇する仕組みを導入することも一案だ。日本的雇用慣行の下で働く正社員を支える存在として外国人労働者を位置け、限定的な機会や処遇しか提供しない非成長企業は選ばれなくなるだろう。

*5-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15753499.html?_requesturl=articles%2FDA3S15753499.html&pn=3 (朝日新聞 2023年9月28日) 「弥生人」像、核ゲノム分析が変える 文化の担い手は?見直し迫られる通説
 「弥生人」とは何者か。縄文時代から日本列島に住む在来の人々と、海外から先進技術を持ち込んだ渡来人が徐々に混血しながら弥生文化を担う――。そんな人類学上の通説だった弥生人観が、近年急速に進む核ゲノムの分析で様変わりしようとしている。
■渡来人と在来人、骨格違うが共通の「縄文的」遺伝子も
 紀元前後の約千年にわたり展開した弥生時代。その幕を開けたのが、水田稲作や金属器文化を携えて北部九州沿岸部に現れた、朝鮮半島からの渡来人だ。彼らは遺跡から出土する骨の形の違いから、前代の縄文人とは姿がまったく異なるとされてきた。背が高くてすっきりした顔立ちの渡来人。対して、がっしりした肢体で彫りの深い在来系。両者は徐々に混じり合いながら現在の日本人を形作ったとされる。この説は「二重構造モデル」と呼ばれ、定説となっている。ところが、2010年代に登場した核ゲノム分析でこれが揺らぎ始めた。ゲノムとはすべての遺伝情報のこと。細胞の核が持つ情報量は、それまで分析対象の主流だったミトコンドリアDNAよりもはるかに多い。不可能と思われてきた古人骨の核の遺伝子分析を最新機器が可能にした。18年、日本人の起源をさぐる通称「ヤポネシアゲノム」プロジェクトがスタート。国立科学博物館の篠田謙一館長(DNA人類学)や、国立歴史民俗博物館の藤尾慎一郎教授(考古学)らが分析を重ねてきた。その結果、意外なことがわかってきた。渡来人の故郷である当時の朝鮮半島にも、縄文人に似た遺伝的要素を持つ人々がいたらしいのだ。つまり、二重構造モデルではまったく異質なはずの列島在来系と渡来人が、実は縄文時代以前から海を挟みつつ同じ遺伝子を共有していたことになる。研究チームはその理由を、はるか旧石器時代の東アジア沿岸部や島々に、両者のもととなった集団がいたからではないかと解釈。「(核ゲノムの分析では)骨の観察だけではわからなかった混血の度合いがわかる。従来、在地の人々に形質の異なる人々が入ってきた構図を描いてきたが、そう単純な話ではないことが見えてきた」と篠田さん。藤尾さんも「二重構造モデルも部分的な見直しが必要ではないか」という。生粋の渡来系と考えられてきた安徳台遺跡(福岡県那珂川市)の骨も縄文的要素を含んでいたことや、多量の出土人骨で有名な青谷上寺地(あおやかみじち)遺跡(鳥取市)の分析を通して混血度合いのかなり異なる人々が幅広くいたことも判明。弥生時代の西日本には想像以上に、遺伝的に多様な集団が存在していたようだ。既存の枠組みにも再考を迫る。九州では骨の形をもとに、渡来系が密集する北部九州から山口県の沿岸部に対し、長崎県を中心にした縄文人直系の在地集団を「西北九州弥生人」として区別してきた。ところが下本山遺跡(長崎県佐世保市)などのゲノム分析で、このタイプにも渡来系要素を持つ「ハイブリッド」な人々がいることが明らかに。こんな例は九州中部や南部にも広がる可能性があるらしい。もはや一概に「西北九州」とまとめることが難しくなったわけだ。弥生文化の担い手は誰か。特定の文化を特定の集団だけが独占するとは限らない。だから、先進文化をもたらした渡来人がそのまま弥生社会の中核だったとみる説と、縄文以来の在来人が主体的に外来文化を取り込んで発展させたとみる説が対立してきた。藤尾さんは「核DNAの分析成果と各地の文化的様相をもっと比較検討していけば、人間集団と文化の相関関係がわかってくるかもしれない」と話す。

<有明ノリは独禁法違反ではありません>
PS(2023年12月2日追加):*6のように、公正取引委員会が有明海のノリ取引に関し、佐賀県有明海漁協と熊本県漁連の独禁法違反を認定して排除措置命令を出す方針を固め、理由は、①全てのノリを漁協や漁連に出荷することを生産者に求める「全量出荷」と呼ばれる慣行があること ②そのための誓約書を提出させていること ③生産者が独自ルートで取引することを制限していること 等が、拘束条件付き取引にあたると判断したからだそうだ。
 しかし、有明海の海苔生産は、i)漁業者全員による海岸のゴミ掃除 ii)佐賀県による森林の育成 iii)佐賀市による海水の養分管理 iv)冷凍網の干し場としての漁港前空き地の利用 v)川に除草剤・農薬・洗剤を流さない 等々、個人の生産者だけではなく地域一丸となった付加価値の高い上質な海苔づくりのための努力があって行なわれている。さらに、佐賀県では(私が衆議院議員時代に提案して)有明海苔をブランド化し、多数の小規模生産者が自由に販売すれば大規模事業者に安く買い叩かれて所得が減り、佐賀県や佐賀市に環流する税金も減るのを防ぐため、つまり有明海苔のブランドと価格を守るために、①②③の“拘束条件”をつけているのである。もちろん、「有明海苔」というブランドに入らない海苔もできるが、これもまとめて等級に分け、買い叩かれず販売するために、なるべく漁協や漁連に集めるようにしている。そのため、この“拘束条件”は独占禁止法違反にあたるものではないと、私は考える。
 なお、良い海苔ができるためには、海苔を生産している海や流れ込む川の水を汚染せず、山から栄養塩が流れてくる必要がある。以前は浅草海苔も採れていたのに今では採れないのは、東京港を行き交う船が東京湾を汚しすぎ、川から流れ込む水の水質管理もできていないからで、消費者が高すぎない価格で海苔を買えるようにするためには、多くの地域で海や川の水質に気をつけて海苔の生産量を増やすのが正攻法なのだ。そして、これは、他の水産物も同じである。

*6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15805375.html (朝日新聞 2023年11月30日) 有明ノリ全量出荷、独禁法違反認定へ 佐賀・熊本に排除命令方針
 有明海のノリ取引をめぐり、九州3県の漁連や漁協に独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いがあるとして公正取引委員会が立ち入り検査をしていた問題で、公取委は、このうち佐賀と熊本の漁協と漁連の違反を認定し、排除措置命令を出す方針を固めた。関係者への取材でわかった。命令の対象となるのは、佐賀県有明海漁業協同組合(佐賀市)と熊本県漁業協同組合連合会(熊本市)。公取委は、両者に処分案を通知しており、意見を聴いたうえで最終的な結論を出す。関係者によると、公取委が問題視しているのは、全てのノリを漁協や漁連に出荷することを生産者に求める「全量出荷」と呼ばれる慣行。誓約書を提出させるなどの方法で生産者が独自ルートで取引することを制限しており、独禁法が禁止する拘束条件付き取引などにあたると判断した。公取委は昨年6月、福岡有明海漁業協同組合連合会(福岡県柳川市)を含む3者に立ち入り検査に入っていた。福岡は問題点を認め、誓約書を廃止するなどの改善計画を公取委に提出。公取委が6月に計画を認め、違反は認定せずに調査を終了していた。一方で佐賀と熊本は取引手法の違法性を否定し、改善計画も提出していない。公取委はこうした点も踏まえ、違反認定に踏み切る方針を決めた模様だ。

<中国産の花粉がないと受粉できない!?>
PS(2023年12月2日追加):ホタテの殻むきを“加工”と呼んで、殻付きホタテを中国に輸出し、殻むき済ホタテを中国から米国に輸出していたのには驚いたが、外国人難民を移民労働者として受け入れれば、無駄な輸送費がかからず、技能レベルの低い人でも日本国内で“加工”でき、働けば日本社会の支え手になる。
 そのような中、*7のように、①「幸水(ナシ)」の授粉に使う中国産の花粉が防疫で輸入停止になり、必要な量の花粉を確保できないため、来年は幸水の減産になるかも ②佐賀県は栽培面積の約4割で中国産の花粉を使用している ③農水省は自給体制を整えるよう求めた ④佐賀県内には花粉を共有して大量に保管する仕組みがない ⑤打開策の1つとして幸水より1週間ほど早く開花する「豊水(ナシ)」の花粉の採取が検討されている 等というのも驚きだった。
 何故なら、「中国産の花粉がなければ植物の受粉ができない」ということはあり得ず、養蜂家にしばらくナシ畑にいてもらって、ナシの蜂蜜も採取すればよいからである。人間が他のナシから花粉を集めて保存したり、受粉したりすれば、それだけ労力とコストがかかってナシの値段が高くなる上、中国産の花粉がなければナシができないようなら、農水省が言うまでもなくナシを自給したことにはならず、輸送コストをかけて化石燃料を使っている。人手が足りないのなら、それこそ外国人労働者を雇えばよいし、アーモンド・レモン・オリーブ等の人手のかからない作物に転換することもできるため、生産コストを下げる工夫もしたらどうかと思った。消費者は、(贈答品でもらわなくても)果物を存分に食べるくらいのことはしたいのだから。

*7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1151968 (佐賀新聞 2023/11/30) 佐賀県産ナシ、花粉不足に 中国で「火傷病」発生→農水省、防疫へ輸入停止、生産者、来年の減産回避へ奔走
 伊万里市などのナシの産地に、深刻な問題が降りかかっている。授粉に使う中国産の花粉が防疫のため急きょ輸入停止になり、来年の生産に必要な花粉の量を確保できない恐れが出てきた。佐賀県では栽培面積の約4割で中国産花粉を使っており、生産量の大きな落ち込みを回避しようと農家やJA、行政が対策に当たっている。農水省は8月30日、中国で火傷病(かしょうびょう)の発生を確認したとして、花粉の輸入を停止した。火傷病は花粉を介して国内に侵入する恐れがあり、同省は中国産の利用実態を調査。農家やJAに在庫があっても使用しないことや、輸入禁止の長期化を見据えて自給体制を整えるよう求めた。ナシは主に人工授粉をして着果させるが、花から授粉用の花粉を採取するのは手間がかかる。産地では高齢化や人手不足も背景に、手に入りやすい中国産を使う農家が増えていった。佐賀県内は全国に先駆けて出荷する早生種「幸水」の施設栽培の割合が多く、早い時期の授粉に間に合わせるため中国産花粉に頼る傾向がある。県によると、2022年の県産ナシで中国の花粉を使ったのは栽培面積の約4割を占め、全国平均の約3割を上回る。県、関係する市、JAによる対策会議はこれまでに3回開かれ、来年の花粉をどう確保するかが重要課題に挙がっている。県園芸農産課は「国が対策を呼びかけた時は自前で花粉を採取できる時期は過ぎていた。また県内には、花粉を共有して大量に保管する他産地のような仕組みもない」と頭を悩ませる。県は農家ができる対策として、授粉の際に花粉を節約したり、各農家のストックを融通し合ったりすることを呼びかける。ただ、こうした取り組みでも不足を補うには至らず、県が9月に行った農家へのアンケートでは、来年必要な花粉が面積で約2割分足りないという試算が出た。一つの打開策として検討されているのが、幸水より1週間ほど早く開花する「豊水」の花粉の採取だ。現在、ハウス豊水の花が咲き始める2月末ごろに向け、関係者が奔走している。約130軒のナシ農家が加入するJA伊万里の担当職員は「不足分を補うには花粉採取用の豊水の木を何十本、何百本と確保しなければならず、生産者に協力を求めるなど調整している。授粉の適期は3~4日しかなく短期勝負。技術的にも難しく、どのくらいの花粉や人手が必要か、詰める作業をしている」と話す。影響をいかに抑え、生産量の減少をゼロに近づけられるか。産地全体で知恵を出し、助け合うことができるかが鍵を握る。
■火傷病 ナシやリンゴなどの果樹が感染し、枝や葉が火にあぶられたように枯れ、木全体に及ぶ場合もある。火傷病菌を根絶できる有効な防除方法が確立されていないため、感染すれば伐採による防除が必要になる。日本での発生は確認されておらず、韓国や中国など約60カ国・地域で発生している。

<吉野ケ里遺跡で青銅器鋳型出土>
PS(2023/12/7追加):*8のように、①吉野ケ里遺跡(佐賀県神埼市)で「細形銅剣(銅矛)」と呼ばれる最も古いタイプの蛇紋岩の鋳型が出土した ②九州北部は日本で最初に青銅器生産を始めた地域 ③このような鋳型は佐賀9遺跡20点、福岡6遺跡30点、熊本2遺跡4点出土 ④鋳型の石材を調べることで朝鮮半島との関わりが考察でき、青銅器生産の技術がどう伝わったかを考える材料になる とのことだ。確かに、日本人は貿易で手に入れたものを国内生産したがるため、青銅器も同じであろうし、遺跡からの出土品も韓国と北部九州で類似しているため、九州北部は韓国を通じてユーラシア大陸と繋がっていたのだと思われる。

*8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1154069 (佐賀新聞 2023/12/5) <吉野ケ里遺跡・青銅器鋳型出土>生産技術伝来解明の材料に 蛇紋岩製「全国でも初の出土例」、「謎のエリア」で発見
 吉野ケ里遺跡(神埼市郡)の北墳丘墓西側にある「謎のエリア」で見つかった鋳型。鋳型に刻まれた形状から、「細形銅剣(銅矛)」と呼ばれる最も古いタイプと判明した。県文化課は「佐賀平野の遺跡の出土例が今回増えたことで、青銅器生産の技術がどう伝わったかを考える材料になる」と指摘する。県によると、このような最古級の鋳型は佐賀の9遺跡から20点、福岡の6遺跡から30点、熊本の2遺跡から4点出土している。福岡にある一つの遺跡から16点が一気に見つかったケースもある。九州北部は日本で最初に青銅器生産を始めた地域であり、その研究を進める材料の一つといえる。今回、全国でも出土例がないという蛇紋岩の鋳型が見つかったことについて、県文化課は「あまり注目されてこなかった石材を調べることで、朝鮮半島との関わりも考察できる」とする。一方、今回の発見で、吉野ケ里遺跡の南側にあったとされる「青銅器工房」が北側にも存在する可能性が出てきた。県文化課は、関連遺物が日吉神社境内跡地から複数見つかったことをその理由に挙げて、「鋳造に使われた土器製容器が見つかった点が大きい。生産設備の近くに捨てられるケースが多いから」とした上で「昭和60年代、鋳型の破片が、今回の出土地点からさらに西側で出土している。どこかからもたらされたというこれまでの考察を改め、製造拠点があったという可能性が高くなった」と述べた。

<日本の15歳、数学的リテラシーに課題>
PS(2023年12月7日追加):*9-1は、①政府は3人以上の子がいる多子世帯は2025年度から所得制限なく子の大学授業料を無償化する方針 ②教育費の負担軽減で子をもうけやすくする ③大学生のほか短期大学・高等専門学校等の学生も含める ④現在、年収380万円未満の世帯は授業料を減免したり、給付型奨学金を出す支援制度がある ⑤政府は、2024年度から年収600万円までの中間層の多子世帯等に授業料を減免すると発表した ⑥今回は、多子世帯は所得制限なく無償化 ⑦政府は近く3.5兆円規模の財源確保策も示す方針だが、社会保障の歳出削減も必要になる としている。
 しかし、①②④⑤⑥については、多子世帯の親に恩恵がある点で「とにかく生んでくれ!」という時代錯誤の政策である。また、子育て支援策が重複してきたため、子の育成を中心に考えて所得制限を設けず国公立大学の授業料を1万円/月以下にし、優秀にもかかわらず親の世帯所得が低いため進学が困難な子には奨学金を支給すればよい。国公立大学に絞る理由は、国公立大学はどの受験生にも英数国社理の試験を課し、大学入学前に常識として必要な最低限の知識を身につけることを促すからである。従って③も、本当に勉強して向上したい人だけを優遇すれば良いという意味でやりすぎだ。さらに、⑦の子育て財源に社会保障の負担増・歳出削減も取り沙汰されているが、社会保障間で融通しようとするのは不合理だ。何故なら、自立して社会を支え、社会を引っ張れる大人を育てるために教育支援をするので、教育支援をしっかり行なえば自立しているべき生産年齢人口の大人に景気対策のバラマキをする必要はないからだ。
 *9-2は、⑧各国の15歳を対象とする2022年学習到達度調査結果を経済協力開発機構が発表 ⑨日本の数学の授業は「日常生活とからめた指導を受けている」と答えた割合が低い ⑩「先生は日常生活の問題を数学でどう解決できるか考えるよう言ったか」は日本36・1%・OECD加盟国平均51・9%で加盟37カ国中36位 ⑪「先生は日常生活で数学がどう役立つか示して見せたか」は日本28・0%で37カ国中最低 ⑫その理由は各大学の個別入試は数式や図形のみを使った従来型の問題が多く、対策を優先すると演習が増えて社会事象とからめた問題に時間をかける余裕がないから ⑬「数学が大好きな教科か」は「そう思わない」が6割でOECD平均より高い ⑭実社会とからめる指導は生徒の関心を呼びやすく、数学が苦手な子の意欲を引き出す効果 ⑮新指導要領で教える内容が増え、教え込むのに手いっぱいで実生活とからめた授業をする余裕がないと感じる教員も多い ⑯事情は中学も同様で都内公立中学校の50代教諭は「教科書には日常生活とからめた問題が多くない」と指摘 ⑰「例えば米国の教科書には関数の学習でハンバーガーのカロリーと脂肪分の関係を考察するものもあり、互いに考えを出し合い探究する学びや実社会の問題を扱う学びを採り入れていかないと数学嫌いはなくならない」 としている。
 日常生活とからめた数のセンスは幼稚園以前から形づくられ、小学校で確立し、中学・高校ではより一般化・抽象化した数学の概念を学ぶのだと、私は思う。例えば、保育園・幼稚園・家庭で、食事の前に「餃子が○個あるけど、みんなが同じ数だけ食べるには、1人何個食べればいい?」「ぶどうは、1人何個食べれば、同じ数だけ食べられる?」など、具体的に数えたり触ったりしながら食べ物を前にして教えれば、幼い子でも数や割り算が頭に入る。小学校では、もう少し学問的に身長・体重・成績などの中央値・平均値・分散・標準偏差等から統計学の基礎を教えられるため、⑨⑩⑪⑭は教え方次第である。そのため、⑮⑯⑰については、指導要領の中に実生活とからめたわかりやすい事例を盛り込んでおけば、先生も生徒も理解し易いだろう。⑫の大学入試の段階は、既に高校で学んだ一般化・抽象化された数学の概念が身についているか否かをチェックするもので、数学と実生活のかかわりは、⑧のように、15歳くらいまでに勉強しておくものだ。なお、⑬の「数学は好きか否か」は、「数学のセンスがなければ論理的・合理的にものを考えることができず、論理的・合理的にものを考えられなければ正しい結論は出せない」と教えておけば、殆どの子どもは数学が好きになろうとするだろう。

*9-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15811208.html (朝日新聞 2023年12月7日) 多子世帯、大学無償化へ 25年度から、所得制限なし 政府方針
 「異次元の少子化対策」をめぐり、政府は3人以上の子どもがいる多子世帯について、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する方針を固めた。所得制限は設けない。教育費の負担軽減で、子どもをもうけやすくする。「こども未来戦略」に盛り込み、月内に閣議決定する。対象は子どもが3人以上の世帯。大学生のほか、短期大学や高等専門学校などの学生も含める方針。入学金なども含む方向で調整している。子どもとしての数え方も今後詰める。年収380万円未満の世帯では現在、授業料を減免したり、給付型奨学金を出す支援制度がある。政府は今春、少子化対策として、24年度から、年収600万円までの中間層の多子世帯などに対象を広げ、授業料を減免すると発表した。今回は多子世帯は原則、所得制限なく無償化すると踏み込んだ。政府は6月に、児童手当の拡充などを盛り込んだ少子化対策の「戦略方針」を決定。当初は事業規模を約3兆円で検討していたが、戦略方針の素案公表の直前の5月31日、5千億円ほどが上乗せされた。この際、岸田文雄首相は「高等教育の支援拡充」などを「私の指示で実施することにした」と表明。これまでその内容は明らかになっていなかった。政府は近く3・5兆円規模の財源確保策も示す方針だが、社会保障の歳出削減なども必要になる。

*9-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRD54V05RCXUTIL02D.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2023年12月5日) 日本の15歳、数学的リテラシーに課題 教諭ら「授業する余裕ない」
 各国の15歳(日本では高1)を対象とする2022年の学習到達度調査「PISA〈ピザ〉」の結果を経済協力開発機構(OECD)が発表した。調査の一環で実施された生徒へのアンケートでは、日本の数学の授業で「日常生活とからめた指導を受けている」と答えた割合が低いとの結果が出た。背景に何があるのか。今月4日、東京都練馬区の都立大泉桜高校の2年生を対象にした「数学Ⅰ・A演習」の選択授業で、新型コロナのPCR検査を題材にした授業が行われた。生徒たちはこれまでの授業で、全員検査の場合と感染疑いのある人にのみ検査した場合のそれぞれの陽性者数などを試算。4日の授業ではこうしたデータを元に、政策としてどちらが妥当かといった点を議論した。検査対象を絞る政策について、生徒からは「無駄な病床を使わなくて済んだ」「感染を広げたのでは」と賛否両論が出た。熱心に議論していた男子生徒は授業後、「おもしろかった。数学は社会とは関係ないと思っていたけど、身近に感じた」。担当した上田凜太郎主任教諭は「データに基づいて判断する力が生徒たちの将来に生きる。価値観や前提によって結論が変わることに数学を通して気づけるのも大きな学び」と狙いを話す。PISAは、多くの国で義務教育修了段階にある15歳時点の学習到達度を測るため、OECDが00年から3年ごとに実施。コロナ禍による1年延期を経て行われた今回の22年調査では、OECD加盟37カ国を含む81カ国・地域が参加した。PISAは毎回、3分野のうち1分野を重点調査しており、今回は数学的リテラシーが対象となった。アンケートで「先生は私たちに日常生活の問題を数学でどう解決できるか考えるよう言った」かを尋ねたところ、「全てまたはほとんどの授業」「授業の半数以上」「授業の半数程度」で指導があったと答えた日本の生徒は計36・1%。OECD加盟国の平均51・9%を下回り、加盟37カ国中36位だった。「先生は日常生活で数学がどう役立つか示して見せた」は計28・0%で、37カ国で最低だった。
●なぜ教育現場で浸透しない? 「大学入試と関係」の声も
 22年度から順次実施されている高校数学の学習指導要領では、日常生活や社会の事象を数理的に捉えて問題を解決する力を養うことが重視されている。ただ、教育現場では浸透しきっていないのが実情だ。都立西高校の森本貴彦教諭は「各大学の個別入試との関係が大きい」。21年に大学入試センター試験に代わって始まった大学入学共通テストの数Ⅰ・Aではキャンプ場から山頂を見上げる際の角度を考える問題や、短距離走での歩数と1歩で進む距離の関係について取り上げた問題などの出題がある。一方、特に各大学の個別入試は数式や図形のみを使った従来型の問題が多いといい、その対策を優先すると演習が増え、「社会事象とからめた問題に時間をかける余裕があまりない」という。数学的リテラシーの日本の結果をみると、成績を6段階に分けたときの上位2層が、前回と比べて統計的に有意に増えた一方、最下位層は11・5%から12・0%と横ばい。アンケートで数学が大好きな教科か尋ねると、そう思わない生徒の割合は6割でOECD平均より高かった。
●順位は上昇、学校への「所属感」向上 でも… 専門家が読むPISA
 実社会とからめる指導は生徒の関心を呼びやすく、数学が苦手な子の意欲を引き出す効果もあるとされる。関東地方の公立高校で数学を教える30代教諭も、各単元ごとに1度は日常の題材を採り入れている。ただ、通常の授業よりも準備などに時間がかかるため毎回扱うのは難しいという。周囲を見ても取り組みが進んでいないと感じる。「新指導要領で教える内容が増えた。教え込むのに手いっぱいで、実生活とからめた授業をする余裕がないと感じている教員も多いと思う」。事情は中学でも同様だ。都内の公立中学校の50代教諭は「教科書には、日常生活とからめた問題が多くはない」と指摘する。自身は独自に開発した教材などを使うが、「多忙で教材が作成できず、教科書に依拠して授業をする教員は多い。その結果、日常生活との関連が弱くなりがちだ」という。西村圭一・東京学芸大教授(数学教育)は「例えば米国の教科書には、関数の学習でハンバーガーのカロリーと脂肪分の関係を考察するものもある。互いに考えを出し合い探究する学びや、実社会の問題を扱う学びを採り入れていかないと、数学嫌いはなくならない」と話す。今回のアンケート結果などを分析した文部科学省の担当者は「残念だ」と受け止める。これまでも高校に入ると計算などの問題演習が増える傾向が指摘されてきたとし、「結果を受け止めて対応を検討したい」と話す。

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2023.10.9~11.4  日本の諸問題 ← 投資の都市偏在、人口の都市偏在、食糧・エネルギー・資源の自給率低迷、輸入依存体質、嫉妬を煽る悪平等主義
(1)ふるさと納税について

 

(図の説明:左図のように、ふるさと納税額は「ワンストップ特例」の導入や税控除額の引き上げで、2015年以降、急速に増えた。また、中央の図のように、1人あたり実質収支が1万円以上の市町村は農水産業が盛んで人口密度の低い過疎地に集中し、まさにふるさと納税の役割を果たしている。その理由は、ふるさとの納税の返礼品である農水産物が豊富だからで、農水産業は収入が不安定で税をとりにくく、必需品であるにもかかわらず自給率が低迷しているため、真のニーズを発掘して農水産業や食品業の振興に貢献してきたことは大きな成果だと言える)

1)頑張った自治体にエールを送りたい
 *1-1-1は、①2022年度のふるさと納税額は9,654億円で3年連続過去最高更新 ②「稼ぎ頭」は人口約400人の和歌山県北山村(住民1人当たり収支122万2,838円)で、返礼品の翌日発送をする ③村は小学校に英語圏の教員を招くなど英語教育を重視し、中学生を海外への語学研修に送り出し、渡航・2週間の滞在費用に寄付を充てる ④2位は北海道東部の太平洋に面する白糠町(104万9194円)で、主力1次産品をふるさと納税の獲得に生かし、町税は10億円足らずだが、イクラ等の返礼品人気から2022年度の寄付額は150億円 ⑤2022年に開校した小中一貫の義務教育学校「白糠学園」の整備に寄付を用い、保育料や18歳までの医療費・給食費無償化、出産祝い金など手厚い ⑥人口1人当たり1万円以上黒字だった自治体は449で、その9割が人口5万人以下 ⑦都道府県全体では佐賀県(2万4549円)が黒字最大 ⑧佐賀県では上峰町(61万5,228円)が突出し、危機的だった町の財政は4月から高校生までの医療費を完全無料化できるほど改善、幅広い公共サービス提供が可能となった ⑨2022年度に最も寄付額を集めたのは宮崎県都城市195億円で、返礼品次第で寄付格差が広がる としている。

 日本は、都市部に製造業・サービス業の集中投資をしてきたため、地方は企業規模が小さく、農林漁業が中心で、高齢化・過疎化が進みがちである。また、i)製造業・サービス業に従事するサラリーマンは所得が安定しており、所得税・住民税を徴収しやすい ii)高齢等で無職になると、所得税はかからず、住民税も小さい iii)企業の法人税・住民税・事業税は本社・工場のある場所で、その規模に応じて支払う という仕組みになっている。

 そのため、②③の和歌山県北山村の徹底した英語教育に寄付額を充てたり、④⑤の北海道白糠町の小中一貫義務教育学校の整備や保育料・18歳までの医療費・給食費無償化に寄付額を充てたり、⑧の佐賀県上峰町のように危機的だった町財政を高校生まで医療費完全無料化できるほど改善して幅広い公共サービス提供も可能になったというのは、大都市には前からあったサービスを、地方はふるさと納税制度による寄付金を使ってやっと行えたということなのである。

 従って、国民が地元農水産物の返礼品や政策によって住民税の支払先を決めることができるふるさと納税額が、①のように3年連続で過去最高を更新し、⑥のように、人口1人当たり1万円以上黒字だった自治体の9割が人口5万人以下だったのは大変良いことだと、私は思う。

 また、⑨の宮崎県都城市はいつも寄付額が上位なので感心していたのだが、製造業・サービス業が少なく農水産業で日本の食糧自給率に貢献している地方が、優れた農水産物の返礼品で寄付を集めたのは、システム的に生じた大きな格差を少し埋め合わせたにすぎない。にもかかわらず、これを「寄付格差が広がる」などと言って批判するのは、頑張って地場産品を磨いた自治体に対し、悪平等主義を振りかざして嫉妬を煽る的外れの行為であり、その根源には「教育」という重要な問題があるのである。

 つまり、後で詳しく書くが、*2-1のように同じ場所でオリンピックを開いて兆円単位の経費を国や都から支出した東京都、*2-2のように同じ場所で万博を開いて作っては壊すだけのパンビリオンの建設費等が約2,300円程度まで上ぶれすると国に援助を求めている大阪府など、無駄遣いの限りを尽くしながら必要なことをしていない大都市が言える苦情は全くない筈だ。

 また、*1-2-1は、⑩佐賀県と県内20市町の2022年度のふるさと納税寄付総額は前年度比18.97%増の416億4,278万円で全国5位 ⑪市町別最多は上峰町の108億7,398万円で全国6位 ⑫県内市町で寄付額が多いのは上峰町108億7,398万円、唐津市53億9,861万円、伊万里市29億2,554万円、嬉野市28億4,415万円、みやき町22億3,625万円で10億円を超えたのは7市7町 ⑬ふるさと納税の収支は県内20市町いずれも黒字 ⑭総務省は2019年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けた としている。

 農林漁業の盛んな佐賀県は、ふるさと納税制度導入当初から県を挙げて頑張ってきたので、⑩⑪⑫⑬は、結果が出て本当によかったと思うし、これからも産品を磨いてもらいたいと思う。

 しかし、総務省は、⑭のように、2019年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けたそうで、地場産品に限るのは良いとしても、その地域が力を入れたい(or急遽売りさばきたい)産物の返礼品にも杓子定規に3割基準を当てはめたり、輸送コストが上がってますます不利になっている遠方の自治体に5割基準を当てはめたりするのは、むしろやりにくさを増すのではないかと危惧している。

2)寄付総額の抑制は必要か
 佐賀新聞が論説で、*1-2-2のように、①2022年度に全国の地方自治体が受け入れたふるさと納税総額は1兆円近くに膨らみ ②生活防衛策として返礼品に期待する人も多く増加傾向が続き ③10月から制度が微修正されたが「生まれ育ったふるさとに貢献」という導入の目的からかけ離れたままで抜本的見直しを求めたい ④寄付としながら「官製通販」と批判されるのも頷ける ⑤ふるさと納税は地域経済の活性化に一役買った面があり、返礼品を扱う地元企業は商品開発に力を入れ、売り上げが伸びた ⑥子育て支援等の課題解決に寄付を集め、対策予算を増やすこともできた ⑦空き家となった実家や墓のある自治体に寄付して管理や掃除を業者に依頼できるケースもある ⑧首長、自治体がやる気を出して新しい政策をつくる素地を育てた ⑨人気が出る返礼品を開発しようと営業戦略の専門家を職員に採用する自治体も出た ⑩都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付して税収が移るゼロサムゲームになっている ⑪寄付で潤う自治体が固定化され、公平性が気になる ⑫寄付総額の約半分は返礼品の会社や仲介サイトの運営企業等の収入になる ⑬それは行政が使っていた筈の税収で、住民サービスの低下に繋がる恐れ ⑭政府は東京一極集中是正を目標に掲げた「地方創生」を2014年に打ち出し、その目標は今も堅持しているが、それでも人口集中が続き、税収が都市に集まる構図は変わらない ⑮国土の均衡ある発展による税収平準化は難しい ⑯自治体の税収格差を是正するには、ふるさと納税ではなく、都市部と地方が意見を交わしながら、納得できる是正策を探ることを提案したい ⑰現行制度は高所得者ほど多く寄付ができ、節税効果が大きく、富裕層は例えば「最大20万円」と定額の上限を設定することは可能ではないか ⑱ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか議論し、個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべき としている。

 この記事は共同通信により配信されたものだが、佐賀新聞が論説に記載している以上、文責は佐賀新聞にあり、1)のように、佐賀県の首長はじめ自治体の行政が頑張っているのに反する。

 また、①⑬については、都市が「税収減で住民サービス低下に繋がる」などと苦情を言うのは、⑭のように、「国が都市に集中投資してきたため生産年齢人口は都市に集まったが、都市は無駄遣いが多くやるべきことをやらなかったのだ」という事実を無視した上、⑪のように、ふるさと納税で頑張った自治体が寄付で潤うことを不公平としている点で、教育に問題がある。

 さらに、ふるさと納税で返礼品があり、自治体がそれを育てている以上、②のように、寄付者が返礼品を生活防衛策に当てるのは自由であり、③の生まれ育ったふるさとは、日本であったり、自分の出身地であったり、配偶者の出身地であったりしても良い筈だ。さらに、少なくとも使い道を選んで寄付できるため、膨大な無駄遣いをされるよりはずっと良いのである。

 また、④のように、「官製通販」になったおかげで、自治体職員が自分の地域の宝物を発見して金に変えるという発想を持てるようになり、⑧のように、首長や自治体の職員がやる気を出して、⑤のように、地域活性化に一役買ったのである。これは、⑯のように、都市部と地方が意見を交わしても決してできないことなのだ。

 また、政策を選んで寄付できたことにより、⑥⑦などの真に求められる財・サービスが開発されたのであり、⑨のように、営業戦略の専門家を職員に採用して人気の出る返礼品を開発しようとする自治体が出たことも、今後の地域活性化に役立つと思われる。

 それで、何がいけないのかと言えば、⑩の「都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付して税収が移るゼロサムゲームになっていること」だそうだが、これについての回答は、1)で述べたとおりだ。また、⑪のように、「寄付で潤う自治体が固定化されたから不公平」というのは、「頑張っている自治体がいつも成功しているから不公平だ」と言うのと同じで、悪平等主義を作った根深い教育の問題である。さらに、⑫については、それをもったいないと思えば寄付を受ける自治体自身が職員を増やすなどして行えばよいため、選択の自由があるわけだ。

 そのため、⑮⑯のように「国土の均衡ある発展による税収平準化は難しい」「自治体の税収格差是正には、都市部と地方が意見を交わしながら納得できる是正策を探ることを提案したい」というのは、ふるさと納税制度の導入前と同じく、公平にならない上に無駄ばかり生むと考える。

 また、⑰の「高所得者ほど多く寄付ができて節税効果が大きいのは問題なので、富裕層は最大20万円のような上限を設定すべき」や⑱の「ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか議論して個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべき」というのは、高所得者は努力して自分に投資し、所得を増やして多く納税している人であることを忘れた成功者叩きであり、これでは国の発展がおぼつかないため、やはり根深い教育の問題と言える。

3)ふるさと納税反対派の悪平等主義に基づく「歪み」論
 *1-1-2は、①ふるさと納税が1兆円に近づき、自治体間格差が広がって税収が流出する都市部の不満が膨らむ ②都市部に税収が偏っているとして、地方が求める地方法人課税の偏在是正にも影響するかもしれない ③歪みを正すため、ふるさと納税の拡大に一定の歯止めを考える時期だ ④住民税の税収は13兆円で寄付額は3兆数千億円まで膨らむ余地がある ⑤賃上げで税収増が続けば寄付額はさらに拡大する可能性 ⑥都道府県と市区町村1788自治体のうち10億円以上集めたのは226自治体で合計6,179億円であり、13%の自治体で全体の2/3の額を集めた ⑦上位の顔ぶれは海産物や肉類などの産地に固定化 ⑧ふるさと納税は返礼品の需要が地場産品の振興を支え、知名度の乏しい産地が消費者に知ってもらう意味は大きかったが、制度開始から15年経ってその役割は果たしつつある ⑨高まった知名度を企業誘致や移住に生かし、ふるさと納税に頼らず、税収を増やす道も探ってほしい ⑩ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、メリットも大きいことに批判がある ⑪規模拡大に歯止めをかけるために考えたいのが、都市部に多い高所得層の利用額への上限 としている。

 このうち①②③④⑤は、これまで国からの集中投資を受け、日本全国の生産年齢人口を吸収しながら無駄遣いばかりしてやるべきことを怠り、食料もエネルギーも他の地域に依存している大都市が言うべきことではなく、無駄遣いを止めて生産性の高い支出に切り替えればよいのだ。

 また、⑥⑦については、「農水産物を生産している、高齢化した過疎地が、よく頑張った」と褒めることはあってもけなすことはない。それどころか、努力もせずにふるさと納税収支を赤字にしている大都市が、妬みがましく苦情を言うことを許す方が、社会に与える影響は悪い。

 なお、⑧⑨については、国が地方に投資して企業誘致や移住が進み、大都市との税収格差がなくなってから言えばよいことで、その目途も立たないのに事実に反する不明確なことを新聞に書くのも、根本は教育の問題である。

 さらに、⑩⑪の「ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、メリットも大きいため、高所得層の利用額に上限をかけたい」というのは、高所得層ほど自己投資した人で、それを助けたのはふるさと等での教育であり、その結果として、高い税率で高額の所得税・住民税や高い社会保険料を支払っているのだということを忘れた主張である。

 また、*1-1-3は、⑫宮崎県都城市は、ふるさと納税の寄付金で、2023年度、大胆な人口減少対策を打ち出し、両事業の予算額は計10億円 ⑬都城市の2022年度寄付受け入れ額は全国最多の195億円で、主要税収である住民税(65億円)の3倍 ⑭市内の返礼品事業者でつくる団体が自費で広告を出すなど官民を挙げた取り組みで、返礼割合を3割以下とする規制が始まった2019年度以降も好調を維持 ⑮寄付を元手に、最大100万円の移住支援金や家賃補助などを用意し、2022年度の移住者は過去最多の435人 ⑯2022年に寄付した人の56%は三大都市圏の住民、累計額の89%は三大都市圏以外の地域への寄付で、制度の狙い通り ⑰上位は北海道や九州の自治体が目立ち、累計寄付額の58%が上位1割に集中 とも記載している。

 このうち⑬⑭については、「いつも全国上位にいる宮崎県都城市の工夫はさすがだ」と素直に褒めればよいのだ。また、⑫⑮の使い道も正しいと思うが、それでも2022年度の移住者は過去最多でも435人しかおらず、努力しなくても人口流入の多い都市圏とは大きく異なる。

 従って、⑯のように、2022年の寄付者の56%は三大都市圏の住民で、累計額の89%は三大都市圏以外の地域への寄付というのは、制度の狙い通りなのである。そして、⑰のように、上位に北海道や九州の自治体が目立つのは、これらの自治体の危機感の表れであろう。

 さらに、*1-1-4は、⑱ふるさと納税は、名目は善意の寄付だが実態は節税手段 ⑲年数千億円の税収が消え、財政の歪みも招いている ⑳利用者が多い大都市の自治体は、住民税収の落ち込みで行政サービスの低下が避けられないとして、制度の見直しを訴えている としている。

 ⑱については、そうしか見えないような人間を育てた教育は著しく悪いし、⑲⑳については、何度も書いているとおり、投資で優遇されてきたため生産年齢人口の割合が高い大都市は、無駄遣いをなくして生産性の高い支出をすれば、行政サービスのコストは賄える筈なのである。

(2)国の投資や人口の偏在、不効率な歳出
1)国の投資の偏在と人口の偏在


  Gakumonmo(日本の工業地帯)    総務省(人口密度)  2023.1.30日経新聞

(図の説明:左図のように、日本では、太平洋ベルト地帯に工業地帯を作るよう集中的に投資がなされてきた。その結果、中央の図のように、これらの地域で人口密度が高くなり、近年は、右図のように東京圏への人口の社会的移動が多くなって、さらなる人口集中が進んでいる。しかし、人口が集中する地域では、地価の高騰・水不足・混雑が起こり、過疎地では水道や鉄道の維持が困難になり、国全体の食料自給率も下がり、税収の著しい偏りが起きている)

 工業地帯を作るための国の投資は、工業地帯そのものの形成だけではなく、原料や製品を運ぶための港湾・鉄道・道路や従業員のための住宅地・店舗・学校・文化施設など多岐にわたる。そのため、その地域はますます便利になって、さらに人を集めるのだが、限度を超えて人口が集まると地価の高騰・水不足・過度の混雑が起きて、工業地帯としての利便性も住環境も悪化する。

 また、世界の経済状況が変わり、日本は、とっくの昔に安い労働力を使って米国に輸出する安価な製品を作る工業地帯(太平洋ベルト地帯)が優位な時代ではなくなっているのだが、未だに経産省・メディア・政治家の中には頭の切り替えができていない人が少なからずいるようだ。

イ)東京オリンピック・パラリンピックの事例から
 *2-1のように、2021年、2度目の東京オリンピック・パラリンピックが東京で開催され、競技会場の建設・改修費や大会運営費を合わせた「大会経費」は開催都市である東京都・組織委・国が分担した。そして、その経費は、招致段階の「立候補ファイル」は7,340億円だったが、最終的には3兆700億円以上となり、そのうち国の負担額は関連経費を含めて1兆600億円以上にのぼって、国の負担額は過疎地も含む国民の税金で賄われることとなった。

 私は、前回の東京オリンピック・パラリンピックのために作られた競技場等の建物は、適時に修繕・改修していれば、立て直す必要はなかったと思うため、別の場所で開催するならまだしも、東京という同じ場所で2度もオリンピック・パラリンピックを開催して競技会場の建設費や改修費を国民の税金から出すことには反対だった。その上、無観客になったため、オリンピック・パラリンピックを開催した効果はさらに低まったと思う。

 そのため、東京で2度もオリンピック・パラリンピックを開催した費用対効果は、今後のためにも、明確に出すべきである。

ロ)大阪万博の事例
 大阪も、これまで国が投資をしてきて人口が集中している地域だが、*2-2のように、2025年に2度目に開催する大阪・関西万博で経費が膨らみ、国の財政支援を検討しているそうだ。

 万博の建設費は、約450億円増の約2,300億円程度まで上振れする可能性があり、建設費負担は、国・大阪府市・経済界で3等分することが閣議了解され、地元の府市両議会は再度増額が生じた場合は「国が責任をもって対応」とする意見書を可決しているが、膨らみ続ける万博費用の全容は未だ見えず、政府は、警備費を全額国負担とし、交付金による財政支援も検討しているのだそうだ。

 しかし、やるべき本質的な投資は山ほどあるのに、作っては壊すだけの建物を建ててお祭りをし、過疎地を含む国民の税金を無駄に費やす価値がどれだけあるのか、2度目の大阪万博にもまた疑問が多いため、今後のためにも、費用対効果のチェックを明確に行って公表すべきだ。

ハ)札幌冬季オリンピック・パラリンピックの事例
 2030年冬季オリンピック・パラリンピック招致をめざしている札幌市は、*2-3のように、2030年の招致を断念し、2034年以降に切り替える方針を固めたそうだ。

 私は、汚職や談合でイメージが悪化したから反対するのではなく、特定の都市で2度以上、オリンピック・パラリンピックを開いて「まちづくりの起爆剤」とし、他の地域の国民も支払った税金を原資とする国の支出を得るのに反対なのである。せっかく最初のオリンピック・パラリンピック時に作った都市インフラなら、その街が適時に修理・改修していくべきであり、再度オリンピック・パラリンピックを開いて2匹目のドジョウを狙うのでは、とても賛成できない。

 さらに、地球温暖化で積雪もままならず、人工雪を降らせて冬季オリンピック・パラリンピックを開催することになれば、さらに支出が増加し、感動は減少するため、札幌は2034年の招致も断念して、より冬季オリンピック・パラリンピックに適した開催地に譲った方がよいと思う。北海道は、冬季オリンピック・パラリンピックの開催よりもやるべきことが多いのではないか?

2)その他の不効率な歳出事例
 1)に書いた事柄は、お祭り騒ぎをして効果の少ない無駄使いをしている例だが、その他にも、*2-4のような無駄使いがあり、それは、従業員の給与を一定以上増やす際に納税額を減らす「賃上げ促進税制」である。

 何故、無駄遣いになるかと言えば、賃金を上げられるためには、賃上げした後も長期にわたって企業の利益が確保されなければならないが、いつまで続くかわからず賃上げの一部しか補填されない減税では、黒字企業であっても賃上げは難しく、法人税を支払っていない赤字企業には恩恵がないからである。

 そのため、賃上げをさせたいのなら、i) 国として生産性を上げるための投資を促す ii) 電力・ガス・燃油等のエネルギー代金を引き下げる iii) 地代(不動産価格・不動産賃貸料)を安くする など、長期にわたって利益を増加させる政策をとるべきなのだ。

 しかし、i)については、生産性を上げるための企業活動はむしろ抑えられて促されず、個人の教育費は著しく高い。また、ii)については、石油ショックから50年を経過してもなお化石燃料にしがみつき、国産の再エネによって電力・ガス等のエネルギー代金を引き下げるためのエネルギー改革やそのための投資は言い訳ばかりして進めず、国富をエネルギー代金として海外に流出させた上、エネルギー自給率を先進国で突出して低い状態においているのだ。

 さらに、iii)の地代については、この10年間、不動産価格や不動産賃貸料を上げる方向の政策を採ってきたため、企業のコストは上がり、日本で製造していては利益が出ない状況になって、国内の製造業は瀕死の状態になっているのである。

 また、地代の高騰理由には、工業地帯への過度な集中もあるが、過疎地であっても中国・インド・東南アジアと比較して地代・エネルギー・人件費などのコストが高すぎる。つまり、一部の人が得をするための無理筋の政策は、あらゆる場所に響いているのだ。

 なお、税収増があるのなら、過剰な国債残高を正常に戻すべく、まず返済するのが筋である。

(3)産業政策について
1)農地の減少と食料自給率低迷の問題点

  
              Sustainable Blands        2023.10.16日経新聞

(図の説明:左図のように、世界の人口は2050年には97億人になり、アフリカ・インド・中国の順で大人口を抱える。また、「食料が十分にあれば」だが、中央の図のような人口構成になると推測される。日本では、右図のように、「少し人口が減った」と大騒ぎしているが、各国が自国民のために食料を囲い込んだ時、食料自給率が38%しかない日本は、国民を養えないだろう。何故なら、その時点では、工業はどの国も発達しているからである)

 (2)1)で述べたとおり、国の投資で工業地帯ができ、港湾・鉄道・道路・店舗・住宅地等が整備されれば、関連企業や生産年齢人口がそこに集まり、住民税・事業税の徴収額が増えるため、地方自治体は、優良農地もつぶして工業地帯にした方が税収増になる。そのため、農地が減って食料自給率はますます下がり、空き地になっても農地に戻すことはないが、それでいいのかが問題である。

 世界の人口は、2050年には97.4億人になると推計されており、今から27年後の2050年には、インド・中国だけでなく東南アジアやアフリカでも工業化が進んで、技術も高度化する。つまり、工業製品は、日本だけでなくどこででも作れるし、コストの安い国が比較優位であるため、そちらに生産が移行して技術が蓄積されるのである。

 しかし、2050年の97.4億人を支える食料が十分にあるかどうかは疑問で、食料不足になれば各国が自国民を優先するのは当たり前であるため、その時の日本は、たった38%の食料自給率で国民を養えるわけがなく、工業製品よりも食料の方が貴重品になるかも知れないわけである。

2)農地減少と食料自給率低迷の解決策は輸入か!
 このような中、*3-1-1は、①日本政府は、有事(異常気象不作・感染症流行、紛争)に食料不足が見込まれる際、代替調達ルートといった輸入計画を提出するよう、商社やメーカー等の大企業に求める ②農水省が食料安保の一環として2024年通常国会への新法提出 ③植物油・大豆等の栄養バランス上摂取が必要で、自給率の低い品目が対象 ④企業に求める計画に潜在的代替調達網・輸入規模・時期を盛り込むよう促す ⑤国内備蓄で対応困難な時、まず企業に計画の提出を要請し、深刻度に応じて要請から指示に切り替え ⑥輸入価格高騰で国内販売困難時は国が資金面で調達支援 ⑦日本の食料自給率はカロリーベース38%、大豆25%、砂糖34%、油類3% ⑧食料安保の確保には官民挙げて安定的輸入体制を築く必要 としている。

 まず、①⑤⑧については、地球温暖化や地球人口増加は、今後30年以上続くのに、政府の対策は足下の異常気象・コロナ等の感染症・ウクライナ紛争による制裁返ししか見ておらず、解決策を輸入ルートの多様化として商社やメーカーに輸入計画の提出を求めている点で落第だ。

 つまり、②の農水省の食料安保新法では国民の命も財産も守れず、そもそも発想が表面的で矮小すぎる。世界の長期人口動態と経済動向を見れば、日本は食料自給率を100%以上にすると決め、食料は輸入するものではなく輸出するもので、そのための計画を商社やメーカー等に求めるべきであり、それは可能なのである。

 また、③⑦のように、栄養バランス上摂取が必要で自給率の低い品目は、種子・肥料・燃料・農機具まで考慮すれば、米麦から大豆・砂糖・油・肉・魚介類(燃油)まで、呆れるほどすべてであるため、⑥も、どこから金を出して、国が資金面で調達支援をするつもりなのか不明だ。

 従って、④の「企業等に求める計画」は、潜在的代替調達網・輸入規模・時期ではなく、農業法人を作っての食糧生産拡大と平時の食糧輸出先でなければならず、化石燃料輸入の仕事をなくす商社は食糧輸出先の開拓のために働くべきである。

3)「適正価格」とは、また値上げか負担増か
 *3-1-2は、①親類から頼まれた田も含めて合計15haを管理する稲作農家の小倉さんは「稲作だけでは『売上-経費= 100万円以下』で給与所得者平均の458万円に遠く及ばない ②農民運動全国連合会は農水省の「食料・農業・農村基本法」見直し案に「価格保障(政府が実勢価格との差額を農家に支払う)」を提言した ③小倉さんは「食は国が支えるべきで国民合意もできる筈だ」と言う ④農産物価格は基本法改正議論で最大の焦点だった ⑤農水省が公表した改正案の中間とりまとめは、スーパーが食品の安売り競争に走って「生産コストが上昇しても価格に反映することが難しい状況」と指摘 ⑥需給で決まる価格に国が口を出すことには懸念もつきまとう ⑦主婦連副会長の田辺氏は「非正規の人や相対的貧困層をどう考えるか」と値上げに慎重 ⑧澤浦さんは「同じレタスでも、有機かどうか、食味や用途、鮮度など様々な組み合わせで価格が決まり、一律には決められない」「農水省の『適正な価格形成』も、価格を一律に決めれば創意工夫して生産し、付加価値を付けて販売している人には足かせ」 としている。

 日本政府の中には、何かと言えば値上げや負担増をしたがる人が多いため、④については容易に想像がついたが、統制経済や配給制度ではあるまいし、⑥のように価格に国が口を出すことは、⑧のとおり、創意工夫をなくさせる。さらに、⑦のように、今でも十分には食べられず、⑤のようなスーパーの安売りに群がる人が多いのは、国民の努力が足りないからではなく、国の政策が悪いからなのである。

 確かに、①の小倉さんのように、高齢農家から頼まれた田も含めて合計15haを管理していても、稲作だけでは100万円以下の所得で給与所得者平均の458万円に遠く及ばないということはある。「それなら、何故、米だけ作って、他の作物は作らないのか」と私は聞いたことがあるが、「米が最も機械化が進んでいて簡単であるため、兼業農家は米がやりやすいのだ」というのが答えだった。

 しかし、兼業農家は副業であるため、これを基準に考えられては困るし、機械化こそ他の作物でも進めればよい。また、15haを管理することができるのなら、圃場をまとめて自動化しやすくし、管理する圃場面積を拡大すればよく、それこそ国や地方自治体が進めるべきことである。しかし、そもそも農業機械は驚くほど高く、今でも「百姓は生かさず、殺さず」を実践しているのではないかと思うが、これは何故だろうか?

 このようにして、日本産農産物の価格を上げれば、消費者は短期的には外国産にシフトせざるを得ず、食料自給率はますます下がることが目に見えているにもかかわらず、なのである。

 なお、②の「価格保障」は国民負担を増やさないためのあらゆる努力をした後ではないし、③の「食は国が支えるべきで国民合意もできる筈だ」というのも、価格保証以外の持続可能で効果的な方法を考えるべきだと、私は思うわけである。 

4)工業について
 「すべての森林や農地を、そのまま保全せよ」とは言わないが、農林漁業では儲からないから税をとれないと考え、国や地方自治体が積極的に規制緩和して優良農地に工業団地を作って工場を誘致しても、空き地になっては食料自給率を下げるだけでプラスにならない。

イ)半導体工場について
 そのような中、*3-2-1は、政府は、①半導体・蓄電池等の重要物資の工場を建設しやすくするため、土地利用規制を緩和し ②森林・農地等の「市街化調整区域」で自治体が工場の立地計画を許可できるようにする ③農地転用手続きにかかる期間を短縮し ④大型工業用地不足が課題の半導体工場建設を後押しして国内投資拡大に繋げる ⑤半導体はじめ戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため、複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設する としている。

 また、*3-2-2は、⑥経済安保の観点から半導体・蓄電池・バイオ関連といった分野が対象で ⑦10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資促進策として税制・予算と合わせて出す ⑧全国の分譲可能産業用地面積は2022年時点で約1万haで、2011年の2/3(経産省) ⑨市街化調整区域開発は、「地域未来投資促進法」の規定を使って例外的に活用 ⑩現在は食品関連物流施設・データセンター・植物工場等に限っているが、これに重要な戦略物資工場を追加する ⑪自治体が地域活性化や環境の観点で問題ないと判断すれば、より柔軟に工場誘致可 ⑫農地の場合、通常なら1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮 ⑬農地の転用には地元の農業委員会などの許可が要るなど規制が複数の省にまたがるケースが多いため、国土交通・農林水産・経産の3省が開発許可手続きを同時並行で進める ⑭半導体工場には広い土地と良質な水が欠かせないため、TSMCが熊本に進出して周辺自治体から土地規制の是正を求める声が上がった ⑮九経連は国・県の権限で農地を速やかに産業用地に転用できる規制緩和策を政府に要請 としている。

 1980年代から90年代の初めまで、日本は半導体製造で世界一だったが、日米半導体協定・大型コンピュータからパソコンへの主要マーケットの変化・経営トップ層の戦略思考の欠如等により、現在では、世界の市場競争に勝って標準となったデファクト製品がなく、電子機器の頭脳となる最先端のロジック半導体工場も存在しない。

 そこで、政府は、①②③④⑥のように、経済安保の観点から半導体・蓄電池・バイオ関連等の重要物資の工場を建設しやすくするため、森林・農地等の「市街化調整区域」で自治体が工場の立地計画を許可できるよう土地利用規制を緩和し、農地の転用手続きにかかる期間を短縮し、大型工業用地不足が課題の半導体工場の建設を後押しして、国内投資の拡大に繋げるのだそうだ。

 また、⑤のように、戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため、複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設し、⑦のように、10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資促進策として税制・予算と合わせて出すそうだ。

 台湾のTSMCが熊本県に進出した九州は沸き、、⑭⑮のように、周辺自治体や九経連から農地を速やかに産業用地に転用できるよう、規制緩和を求める声が上がった。そして、⑧のように、まだ1万haもの分譲可能産業用地があるのに熊本県の優良農地を潰したのは、半導体製造には広い土地と良質な水が欠かせないため熊本県が適地だったほかに、「九州に世界の先端産業を誘致したい」という九州の強い意志があったからである。

 しかし、⑪⑫⑬のように、農地の転用を複雑にし、①⑥⑨⑩のように、対象となる施設を制限した理由は、農地を宅地化しても空き家になったり、農地を工場団地にしても空き地になったりしているケースが少なくなく、使わなくても逆の転用は起こらないため、農地は減る一方だからである。そして、今後は、食料やエネルギーも重要な戦略物資になるため、農地で農業と再エネ発電を行うなど、農業をやっても儲かる仕組みにして食料とエネルギーの自給率を上げることが必要なのだ。

ロ)大学発スタートアップ企業について
 イ)の半導体については、1970年代から必要性がわかっており、パソコンの普及は1990年代から始まり、既に30~50年間も言われてきたことであるため、「今頃、世界に追いつくために、補助金をつけて誘致か」と、情けなく思うばかりで感動はない。

 しかし、*3-3のように、①新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指すスタートアップ企業が全国で増えた ②全国の企業数が5年間で5割増 ③地方の新興企業も5年で5割増 ④長野県は信大発新興が相次いで誕生して8割増 ⑤信大は2017年に知的財産・ベンチャー支援室を開設し、2018年に「信州大学発ベンチャー」の認定を始めて、起業や事業拡大に向けた多彩な支援をする ⑥信大は企業との共同研究が盛んで、特許の出願件数も地方大学でトップクラス ⑦認定企業の一つで2017年創業の精密林業計測(伊那市)が目指すのは地場産業である林業の活性化で、ドローン等を使って伐採に適切な木を判別するなど効率化を進める ⑧地方でも産学官金の支援の輪が広がり、スタートアップを生み育てる「エコシステム」が構築されつつある 等というのは、大いに希望が持てる。

 何故なら、①②③のように、新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指すのは、現場から多様な発想が出るため、④⑤⑥のように、大学と企業が持っている知識や技術を活用して行えば、有望なスタートアップ企業が多く出るからである。

 特に、⑦のように、現在、本当に必要とされている機械を作れば、日本で当たるのは当然だが、世界でも必要とされるため、⑥の特許は世界ベースでとっておくべきだ。そのため、⑧のように、地方でも産学官金の支援の輪が広がり、それぞれが得意分野を出し合うのは良いことだ。

 なお、*3-3で書かれていないことを付け加えると、イノベーションの実現を目指す振興スタートアップ企業が、時代の変化によってこれまでの仕事をなくしたり、事業承継をする人がいなかったりする中小企業と合併すれば、熟練した従業員や製造装置を容易に獲得できる可能性が高い。そのため、マッチする合併の相手探しも、金融機関の重要な仕事になる。

5)エネルギーの変換は遅すぎる上に未だ逡巡
イ)燃料
 *3-4-1のように、第1次石油ショックから50年も経過し、化石燃料の有限性やCO₂による地球温暖化は重要な環境問題であるのに、日本は未だ100%輸入の化石燃料にしがみついている。この間に、1997年12月のCOP3では日本の主導で京都議定書が採択され、2005年2月に発効して、日本は脱炭素技術でも先行していたのだが、経産省はじめ日本のリーダーたちは環境対策に熱心でなかったという事実がある。

 現在は、英シェルがオランダ・ロッテルダム港の北海に面した一角で洋上風力発電を使って欧州最大級のグリーン水素製造を2025年に開始する予定だ。また、中国は、太陽光発電パネルの生産シェアで世界の8割超を占め、風力発電機は中期的には6~8割を握りそうで、EV向け電池の3/4は既に中国企業が生産しており、脱炭素の主力技術は中国にあるのだそうだ。

 また、*3-4-2のように、バイデン米政権は全米7カ所を水素の生産拠点として選定し、70億ドル(約1兆円)の助成で水素の活用を後押しして「水素大国」を目指すそうだが、これは理にかなっている。しかし、そこに三菱重工業のプロジェクトが選定されて、日本への水素輸出を視野に入れるというのは、水素は水と再エネがあればどこででも(月や火星でも!)できるため、馬鹿じゃないかと思う。

 さらに、日本は、安価で大量の水素が手に入らなければ製鉄業が日本に残れず、電池を安定確保できなければ自動車産業は窮地に陥り、脱炭素時代のエネルギー覇権をかけたせめぎ合いが過熱するとして、あわててブルー水素と称する天然ガスや石炭などから取り出された水素も輸入しようとしているが、何を考えているのか呆れてものが言えない。

ロ)EVへの変換
 1997年に京都議定書が採択される前の1995年頃から、「これからはEVと再エネの時代だ」と(私が発端となって)日本でも言っていたのだが、「現実は・・云々」等と後ろ向きな発言をするメディアはじめリーダーは多く、世界で最初にEVを市場投入してうまくいっていたゴーン氏率いる日産はあのようにされたため、日本のEVはさらに遅れた。しかし、その間、ガソリン車の縛りのない国をはじめとしてEVに参入する国は続いていたため、日本はEVでも出遅れたのである。何故、このようなことになるのだろうか?

 そして、日本のメーカーであるスズキも、*3-5のように、インドをEVの輸出拠点に位置づけて環境車の世界展開を加速し、2025年に価格が300万~400万円程度のSUVタイプのEVを日本に輸出し、欧州向けは資本提携するトヨタ自動車への供給を検討するのだそうだ。確かに、インドは、市場の成長余地が大きく、製造業全般で製造原価が日本より2割安く、インド人は優秀であるため、インドでの知見を日本に生かすそうだが、これは、生産性を上げずに製造コストを上げることばかり考えてきた日本政府の反省材料である。

 また、海外市場はEVの立ち上がりが早く、「地産地消」の観点からトヨタやホンダは米国などでの海外生産を進めているため、近い将来、日本の貿易収支に影響が出るのは確実だ。

(4)地方の人口減とその対策について
1)日本の人口は急減し、そのこと自体が問題なのか ← 答えは「No」である


  2017 .4.11Agora   2021.6.25日経新聞        UN

(図の説明:左と中央の図のように、1975年以降の合計特殊出生率は2以下で、2005年には1.27まで落ちたが、日本の人口が減り始めたのは2010年代であり、その理由は寿命が延びたことである。また、中央の図のように、政府は2065年に1億人の人口を維持する目標を立てているが、それは食料・エネルギー・土地等にゆとりがあって初めて幸福を呼ぶことである。さらに、日本では「人口が減ると経済が衰退する」という論調が多いが、右図のように、世界の先進国で人口が1億人を超えているのは日本だけであり、常に景気対策のバラマキをしていなければならないというのも日本だけなのである。何故だろうか?)

 *4-1は、①人口減少のスピードが加速し、速すぎる変化は行政機能を維持する備えが追いつかず、国土管理もできない状況を招く ②住民基本台帳に基づく総人口は昨年1年間に51万人減少 ③日本人は80万人減り、初めて全都道府県で減少 ④外国人が29万人増え、多文化共生の取り組みが重みを増す ⑤東京一極集中は変わらず、首都圏の人口比率は全国の29.3%と上昇が続く ⑥地方の減り方が一段と顕著になり、地方から東京に人を出す余力が失われた ⑦令和臨調は人口の急激な減少に、「変化が速いと対応できず、地域が一気に衰退」と懸念する ⑧人口減少が進む地域で自治体再編・コンパクトシティー化・浸水地域の居住制限・水道やローカル鉄道等のインフラ網再構築等の政策が課題とされて久しい ⑨複数の市町村が共同で行政サービスを担う広域連携が重要となり、自治体のあり方の見直しに踏み込まざるをえないが、住民の理解が得られないため進まない ⑩今必要なのは、人口減少下ではある程度まとまって住む「集住」という方向性を国民全体で共有すること としている。

 上の左図の合計特殊出生率は、現在は1.4前後で推しているが、出産適齢期の女性が減るため急激に減少するのは確かである。しかし、これは、①のように、行政機能を維持する備えが追いつかず、国土管理もできないほど急激に起こったわけではなく、出生率や出生数を見ていればずっと前からわかっていたことだ。

 その上、私は今から30年前の1990年代初め頃から、働く女性は保育所や家事労働支援者の存在が不可欠だと言ってきたのだが、「女性間に不平等を作る」等々の不合理なことを言って無視されてきた。そして、仕事やキャリアを大切にしたい女性の間で、独身化・結婚年齢の高齢化・無子化・単子化などが進んだという経緯があるのだ。

 また、②③④については、家事労働支援者・運転手はじめ多くの分野で外国人労働者を受け入れれば、必要な外国人労働者の増加数は29万人を超えると思うが、*4-5のように、未だ外国人労働者の受け入れに制限をつけ、家事等の無償労働を女性に押しつけようとするから課題解決できないのである。そのため、どうしてそういう発想をするのか、私にはむしろ理解できない。

 なお、⑤⑥のように、東京一極集中が続いて首都圏の人口比率が全国の29.3%(約3割)になり、地方の人口減少が著しいのは、東京に働き口が多いという理由だけではなく、これまで女性が活躍できたのが日本では東京くらいだったため、他の地域には女性蔑視が未だ存在し、行政・司法・学校・病院等の生活の場にも女性差別が存在するからである。

 ただし、東京等のコンクリートで固められた大都会をふるさとにし、自然に遠い狭い家や団地で育った人の割合が増えすぎると、自然の美しさやその力に対する畏敬の念を持たない人の割合が増し、「食料やエネルギーは作るものではなく、輸入するものだ」というのが“常識”になってしまって、困るわけである。

 そのため、私は、⑦⑧⑩の令和臨調等の提言のうち、人口減少が進む地域等での自治体再編や浸水地域の居住制限はあるべきだと思うが、コンパクトシティー化して地方の都会に人を集めれば、さらに食料・エネルギーの生産ができなくなると考える。しかし、水道・鉄道・病院・学校等のインフラを維持できなければ実質的に人は住めないため、散らばって住んでも不便も心配もなく農林漁業に従事できる広域のネットワーク作りが必要なのだ。

 それをやらずに、コンパクトシティー化や集住だけを主張しても、もののわかる住民ほど理解しないだろう。しかし、⑨のうち、市町村が合併しなくても共同で行政サービスを担う広域連携は、行政サービスの効率を上げ、既存の資源を有効に使うため必要である。

2)人口減と水道・病院・鉄道の維持について
イ)水道について
 *4-2は、①水道事業は市町村等が運営し、料金収入で経費を賄う独立採算が原則 ②施設にかかる固定費が多く、給水人口が減れば赤字になる ③給水人口30万人以上の市町村の最終赤字割合は1%だが、1万人未満では23% ④人口減による料金収入の減少と老朽施設の改修費用増加で財務状況が悪化 ⑤全国の水道施設投資額は2021年度1.3兆円と10年前から3割増 ⑥岡山市20.6%、御前崎市46%など水道料金の引き上げが続く ⑦各都道府県は「水道広域化推進プラン」に水道水の販売単価を示す供給単価や給水原価の将来予測を盛り込んだ ⑧宮城県は所有権を維持したまま上下水道・工業用水道の計9事業の運営を民間委託し、浄水場の運転管理・薬品調達・設備の修繕の業務を20年間一括で委託し、民間のノウハウでの事業の効率化に取り組む としている。

 このうち①⑧については、水道事業は市町村等が運営して独立採算で経費を賄ってもよいし、宮城県のように、運営を民間委託して民間のノウハウを入れて事業の効率化や付加価値の増加に取り組むことも可能だ。

 しかし、市町村等の公的機関が運営した場合の欠点は、④⑤⑥のように、普段から固定資産の管理を行っていないため、修繕や改修などの維持管理を適時に行っておらず、急に老朽化したと言って多額の改修費用を要し、それが人口減による料金収入減少の時期と重なって財務状況を悪化させたとして、それを理由に料金引き上げをする点である。

 民間企業の長所は、日頃から固定資産の管理を行い、修繕・改修等の維持管理を適時に行うため、突然、多額の老朽施設の改修費が生じることはないが、欠点は、儲からないことはしないため、②③のように、人口が減って赤字になるような水道は引き受けないことである。

 しかし、民間企業であれば、「水道事業のためにその市町村の固定資産を引き継いだから、その市町村に給水するだけ」ということはなく、⑦のように、水不足で不潔で不便なくらい水を節約している近くの大都市に広域で給水したり、余った水を利用して新たな事業を開始したりすることが容易であり、そうすれば水道料金を上げるどころか下げることも可能だ。

 さらに、私は、水道施設が老朽化しているのなら、これを機会に水道施設と平行して安全な送電網を敷設して送電料をとればよいと考える。その理由は、1)電線の地中化が進む ii)地域の住宅や農地で再エネ発電した電力を、(原発を優先する既存の電力会社の送電網を使わず)集めて売ることができる からで、既存の水道設備に新たな付加価値を加えることができるからだ。それに加えて、通信設備を敷設するのも良いだろう。

 つまり、継続的に、水・エネルギー・通信料という固定費を節約することができれば、その地域の人たちは、可処分所得を増やすことができるのである。

ロ)病院について

 
  2012.12.26Naglly    Global Market Surfer    2010.11.30Todoran

(図の説明:この章は「人口減少で病院の存続が困難になる地域が多い」という論調だが、日本の人口密度は他国と比べて高くはあっても低くはない。例えば、左図の人口密度で色分けした世界地図で、日本は欧米よりも赤色の濃い地域《人口密度の高い地域》が多いが、欧米の医療システムが日本より劣っているわけではない。中央の図のように、2018年の数値で日本の人口密度は336.6人/km₂であるのに対し、米国の人口密度は33.3人/km₂であり、2050年になっても、この趨勢が大きく変わるわけではない。そこで、日本国内の都道府県別人口密度を見ると、右図のように、北海道や東北でも偏差値が著しく低くはなく、米国よりは高いと思われる。そのため、何でも人口減少のせいにするのではなく、合理的な医療システムを作るべきなのである)

 *4-3は、①政府は6月25日、2021年の国土交通白書を閣議決定 ②人口減少で2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性 ③公共交通サービス維持が難しく、銀行・コンビニエンスストアの撤退など生活に不可欠なサービスを提供できない ④地域で医療・福祉・買い物・教育等の機能を維持するには、一定の人口規模と公共交通ネットワークが必要 ⑤2050年の人口が2015年比で半数未満となる市町村は、中山間地域を中心に約3割 ⑥地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる人口規模は1万7500人 ⑦基準を満たせない市町村は2015年53%、2050年66% ⑧2050年には、銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村で0になるリスク ⑨コロナ禍で2020年5月の乗り合いバス利用者は2019年同月比50%減少し、公共交通の核となるバス事業者も経営難 としている。

 ここには解決策が書かれていないが、①のように、政府が閣議決定したわりには、「技術やサービスは現状のまま」という前提であり、変動要因は人口のみとした点で、思考が浅すぎるか、ためにする議論だと思う。

 つまり、②④⑤⑥⑦については、人口が少なくても通常は入院施設のない診療所に通い、深刻な病気の場合は地域の基幹病院にかかれればよい。そして、基幹病院は全市町村に1つ以上ある必要はなく、広域連携して、各診療科に優秀な専門医を置いてある方が望ましいのである。さらに、緊急時には救急車・ドクターカー・ドクターヘリ等を使って、基幹病院に10~15分以内に到着できなければならないが、中途半端な病院を増やすよりは、これらの輸送手段を増やした方が質の高い医療ができる上に安上がりであろう。また、訪問看護や訪問介護制度もあるため、必要な人にはそのサービスがいつでも届くようにすべきである。

 なお、③⑨の公共交通サービスは、2050年になっても安全な自動運転車ができていないわけはなく、自家用車・タクシー・バス・トラック等が自動運転車になっていれば多くの問題が解決するため、国交省が力を入れるべきは、高齢者・障害者や山村・農村・漁村の居住者に配慮した乗り物を作り、道路も乗り物の変化にあわせた安全なものにグレードアップすることである。

 さらに、③⑧の「銀行・コンビニの撤退などで、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる」というのは、i) 銀行は、ATMを使えばどの銀行の通帳も使えて記帳もできるように通帳の規格を合わせて欲しいし ii) 2050年であればインターネットによる安全(ここが重要)な送金もできるようになっているだろう。

 また、私はコンビニが必要不可欠なインフラとは思わないし、現在も離島にはコンビニのないところもあるが、漁協・農協・郵便局等の建物の中に店舗があって、必要なものは買えるようになっている。また、2050年には、アマゾン等の通販もさらに使い安くなっているだろう。

ハ)鉄道について

 
 2022.7.28日経新聞 2020.5.28朝日新聞 2023.5.2読売新聞  2022.9.2Mdsweb

(図の説明:1番左の図は、輸送密度1000人未満の区間で、右下にJR北海道・JR東日本・JR西日本・JR四国・JR九州の赤字額が記載されている。具体的には、左から2番目がJR九州、右から2番目がJR北海道、1番右がJR東日本の赤字路線・区間で、この章では、これらの路線を維持するにはどういう工夫があり得るかを記載する)

 *4-4のように、①人口減少・マイカーシフト等で利用者が減って地方の鉄道会社は経営が悪化 ②赤字路線はバス転換を含めた議論を迫られている ③JR西日本と東日本は相次いで赤字ローカル線の収支を公表し、バスへの転換の意向 ④JR九州は2020年5月に輸送密度(平均利用者数/km/日)2千人未満の線区で収支を公表して対象の12路線17区間全てで赤字 ⑤JR九州は2019年度に輸送密度の減少が著しい6路線7区間の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げたが、具体的アイデアは未提出 ⑥富山市はJR西日本の富山港線の廃線に伴って線路を引き継ぎ、LRTを導入して市内の路面電車と繋いで便数を増やし、公共交通沿線に家を建てたり、部屋を借りたりする世帯に補助金を出して公共交通沿線に人を集めた ⑦また、公共交通の「おでかけ定期券」が高齢者の外出機会を増やせば医療費を年間8億円抑えられる ⑧鉄道施設を自治体所有として鉄道会社の経営を立て直す「上下分離方式」も選択肢の一つ ⑨滋賀県は県内の鉄道・バス路線の維持のため使う「交通税」の議論を始めた 等としている。

 このうち①④は事実だろうが、②③のバス転換は、バスが自動運転でなければバス会社を赤字にする。また、自動運転なら、決まった線路を通る鉄道の方が、誰にとっても安全で早そうだ。

 JR九州は、④⑤のように、最初に輸送密度2千人未満の線区で収支を公表して沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げたそうで、この問題意識が上の1番左の図で赤字が最も小さい理由だろう。具体的アイデアは未提出だそうだが、i) ローカル鉄道の先にある農林漁業地帯の貨物を運ぶ ii) 農林業地帯や自社の広大な敷地で再エネ発電を行い、都市に電力を送電して送電料や電力料を稼ぐ  iii) 列車をEV化・自動運転化して経費を減らす iv) 駅に付属してコンビニ・道の駅・介護施設等を作って副収入を得ながら、駅の雑務を委託して駅員を減らす v) 鉄道と街づくりを同時に考えて沿線に魅力的な街をつくる vi) 別の鉄道会社と相互乗り入れして利便性を増す などを行えば、鉄道維持のための損益分岐点は大きく変わると思う。

 なお、⑥のように、富山市は、富山港線の線路を引き継ぎ市内の路面電車とLRTで繋いで増便数したそうだが、狭い道路で路面電車を増便すれば、混雑して危険性が増すため、私は、これには反対だ。しかし、公共交通の沿線に人を集める政策はよいと思うし、これは富山県だけの問題ではないため、国として進めた方がよいと思った。

 さらに、⑦のように外出機会が増えれば健康維持に貢献するため、「おでかけ定期券」は医療費抑制に有効だとは思うが、外出した先で物価が著しく上がっていれば、外出しても不快にしかならないため、政府の高齢者及び消費者虐待にあたるインフレ政策は間違った政策である。

 そのため、⑧の鉄道施設を自治体所有として鉄道会社の経営を立て直す「上下分離方式」は、他の選択肢がどれも使えない場合に限る選択肢にした方が良いと思われ、⑨の滋賀県の「交通税」は工夫がなさ過ぎ、他の税は何に使っているのか、疑問に思われた。

3)外国人労働者の受け入れについて
イ)日本における外国人労働者の労働条件

  
 2018.10.11朝日新聞 2018.10.12毎日新聞   2021.11.9東京新聞

(図の説明:「特定技能」は、2018年成立の改正出入国管理法で創設され2019年4月に施行された制度だが、1番左の図のように、3年間の技能実習か日本語と技能の試験合格者にしか与えられない。このうち、特定技能1号は、左から2番目の図のように、家族の帯同ができず、在留期限も通算5年までとなてっており、特定技能1号は『さまざまな取り組みをしても人材が不足する分野』として12分野のみが指定されている。その結果、右図のように、日本語と技能試験の合格で資格を技能実習から特定技能1号に変更した人が、2021年の前半だけで約3万人いる。)


     2023.5.23読売新聞     2021.11.9東京新聞 2023.7.31読売新聞

(図の説明:政府は、左図のように、今まで特定技能1号でのみ認められていた②~⑪の9分野を特定技能2号の対象に加えるそうだが、当然のことであるし、人手が足りないのはその9分野と介護だけではないだろう。その上、中央の図のように、技能実習生や留学生が転職したくても、転職しにくくなっている実態があるため、自由を制限している理由を解決すべきだ。また、右図のように、これまで国家戦略特区のみで認められていた外国人家事支援人材の在留を一定条件の下で3年程度延長するそうだが、これも3年程度の延長では慣れた頃に帰国するためあまり役に立たず、政府は『熟練』の意味をどう考えているのか疑問だ)

 現在の日本政治は、「少子化=生産年齢人口減 ⇒ 労働力不足」として、インフレ政策で高齢者の年金を目減りさせ、社会保険料負担は増やしながら、地方ではとっくに人手不足が始まっているのに、経済対策と称するその場限りのバラマキが多く、国民の誰をも幸福にしない。

 そこで、日本で働きたい外国人労働者を労働力不足の分野で受け入れれば、既に育った労働者を獲得できるにもかかわらず、これについては、*4-5-1のように、人権侵害にあたると悪名高かった従来の技能実習制度を改正しようとはしているものの、「1年を超えて就労し、一定の条件を満たせば、転職可能とする」など、労働移動に関する制限が残っており、労働環境の改善効果が限られるので、本気度が疑われる。

 具体的には、*4-5-1は、①新しい技能実習制度は、特定技能に統合せず3年間の就労が基本 ②日本語や技能試験に合格すれば2019年創設の「特定技能1号」に移行可 ③特定技能と同様、受け入れ人数の上限を定めて対象業種を一致させる ④転職は同職種に限定して基礎的技能検定と日本語試験の合格が条件 ⑤来日に多額の手数料を払う外国人が多いため、受け入れの初期費用を転職先企業も一部を負担する(案) ⑥転職のマッチングは受け入れ窓口の監理団体・監視機関・ハローワークが担当 ⑦外国人が日本人と同等に、労働者の権利を持って活躍できるよう実効性の高い制度にし、働く場として「選ばれる国」になるべき 等と記載している。

 このうち①の新しい技能実習制度は、日本で3年働いて一人前になった頃に、やはり外国人労働者を母国に返す前提であるため、従来の技能実習制度と同様、本人にとっても雇用主にとっても不本意で、雇用主は育てても自社のためにはならないため、技能実習生は低賃金の使い捨て労働者にされることになるのである。

 また、②③については、日本語や技能試験に合格すれば「特定技能1号」に移行可能で、技能実習から特定技能へ移行すれば8年間日本に滞在できることになるが、やはり8年後には外国人労働者は母国に帰らざるを得ず、対象業種は増やしても12業種と制限があり、家族の帯同はできないわけである。在留期間が無期限で家族帯同もできる「特定技能2号」も、政府案では対象業種を11業種になるが、やはり分野が制限され、外国人労働者の労働を制限したがっていることに間違いはなく、これは、国内の労働力が余っている時の体制のままである。

 なお、日本人でも最初は基礎的技能がなく、障害があったり不登校だったりしたため日本語の読解や計算もできない人が少なくない。一方、外国人でも日本まで来て働こうとする人は、日本人より目的意識を持ち、仕事に真面目であることが多いため、④のように、i)転職は同職種に限定 ii)基礎的技能検定と日本語試験の合格が条件 等としているのは外国人差別であり、差別された人は、当然、不愉快に思うだろう。

 しかし、⑤の来日に多額の手数料を払う外国人が多いことについては、そもそも“多額”すぎてはいけないため上限規制が必要だ。また、宿舎や家具などの初期費用を最初の受け入れ企業が提供しているのであれば転職したら返すのが当たり前であるため、外国人労働者がそういう不利益を甘受しても転職したくなるような職場環境を作っているのなら、それを改善すべきである。

 さらに、⑥の転職マッチングは、受け入れ窓口の監理団体・監視機関・ハローワークでもできるだろうが、リクルート社などの確かな転職斡旋団体が行った方がよいと考える。むしろ、そうでなければ、⑦のような「外国人が日本人と同等に労働者の権利を持って活躍でき、日本が働く場として『選ばれる国』」にはなれないだろう。

ロ)外国人の家事サービスなど
 *4-5-2のように、政府は外国人材の受け入れや女性活躍を後押しするため、人手不足の外国人の家事代行サービスを広げ、①家事代行従事者の在留を一定条件の下で3年程度延長 ②マンション管理会社が利用者との契約を仲介できる制度導入 ③外国人の家事代行サービスは2017年から東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・愛知県・千葉市にある国家戦略特区で始まっていた ④母国で家事代行の国家資格を取得したフィリピン人が炊事・洗濯・掃除等を担う ⑤最低限の日本語能力・1年以上の実務経験が求められ、2022年度末約450人を受け入れ ⑥在留期間は最長5年 ⑦サービス提供数は年10%以上伸び、需要に供給が追いついていない ⑧家事代行サービスの国内市場規模は2017年698億円から2025年に2000億円以上に拡大 ⑨需要を見込むのは共働き世帯が多く入居する都市部の高層マンション等 ⑩フィリピン人による英会話指導付き家事代行サービスを展開する事業者も と記載している。

 人手不足の家事サービス分野で外国人の活用を広げるのは良いが、①⑥のように在留期間が最長5年・一定条件下でも3年程度の延長では、条件を満たす人でも最長8年しか働けない。しかし、監督なしで家事を任せられるためには、日本の家事に詳しい信頼できる人であることが必要で、そのためには、②の仲介業者等が日本の家事に関する研修をしたとしても、日本の家庭料理や分別回収開始から何年経っても複雑なゴミ出しを任せたり、幼児が信頼してなついたりできるためには、少なくとも数年が必要なのである。

 従って、④⑤のように、母国で家事代行国家資格を取得したフィリピン人で、最低限の日本語能力と1年以上の実務経験があっても、頻繁に人が入れ変わるのは御法度であり、このように在留可能期間を短期間に定めているのは、家事を馬鹿にしていると同時に、家事サービスの普及も邪魔している。そのため、この調子では、女性の家事負担を軽くすることはできないだろう。

 なお、子育てしながらの共働き・産後や病気療養中の人・高齢者などの介護や生活支援のために家事サービスが必要であることは、私は1990年代から言っており、実需であるため本物のニーズが大きい。そのため、⑦⑧のように、家事サービス提供数は年10%以上伸び、国内市場規模は2017年の698億円から2025年に2000億円以上に拡大し、今後も増えることは明らかだ。

 にもかかわらず、③のように、外国人の家事サービスは2017年から東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・愛知県・千葉市にある国家戦略特区のみでしか行われず、⑨のように、需要を見込むのは共働き世帯が多く入居する都市部の高層マンションだけ というのも、実情を把握していない人たちの発想である。

 さらに、共働きや単身世帯の家事支援はもちろん必要だが、生活支援や介護もその多くが“家事”であるため、産後・病気療養中・高齢者等の介護や生活支援にも家事サービスは不可欠だ。そのため、人手不足の中で生産性を上げながら生活支援や介護の仕事をしていくには、チームの中に日本語が不得意だったり、介護福祉士の資格を持たなかったりする人がいても、そういう人には日本語や資格のいらない仕事を任せて、工夫しながら全体をこなすことは可能だ。

 なお、人手不足で外国人の受け入れを増やした方が良い分野は、家事サービスだけではない。そのため、必要な分野が躊躇なく外国人の受け入れを増やせる改革が必要なのである。

4)イスラエル・パレスチナ問題について

 
 2022.4.14  2023.10.8 2023.10.29日経新聞    2023.10.15中日新聞  
 Daiamond   読売新聞

(図の説明:イスラエル・パレスチナ問題は、約2,600年前にユダ王国がバビロニアに征服されて住民のヘブライ人がバビロンに連行されたバビロン捕囚に始まるが、1番左・左から2番目の図のように、第二次世界大戦後や19世紀以降の歴史しか記載していない年表が多い。そのため、右から2番目の戦闘は、イスラエルだけが非人道的であるかのような誤解を生んでいるのだが、その背景には、1番右の図の相関図があり、「ここで中途半端な対応をすれば自国がなくなる」というイスラエルの深刻な状況があることを忘れてはならない)

イ)ハマスのイスラエル侵攻とイスラエル軍反撃の経緯
 *4-6-2・*4-6-3・*4-6-4・*4-6-5は、①10月7日、ハマスがイスラエルに侵攻して約1400人を殺害し、222人を人質にして衝突開始 ②10月22日、イスラエル軍はイスラム組織ハマスの壊滅を目指しガザ地区北部住民に対し退避要求 ③10月22日、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区のジェニンでモスクの地下につくられた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊 ④10月21・22日、2週間の空爆と完全封鎖によるガザの人道危機に対応するため国連等による支援物資搬入 ⑤ガザ地区に10月21日、人道支援物資を積んだトラック20台が隣国エジプトから初めて入ったが、ガザの人口約220万人の1%向けの1日分 ⑥国連を交えた当事者間の交渉の末、10月22日午後、第2陣のトラック17台がエジプトからガザに入った ⑦国連安保理は、10月18日、議長国ブラジルが提出した「戦闘中断」を求める決議案を否決・米国が「イスラエルの自衛権への言及がない」として拒否権を行使 ⑧10月26~27日、EUはガザへの人道支援を優先するためイスラエルとイスラム主義組織ハマス双方に戦闘中断を要請する文書を採択し、「国際人道法に従ったイスラエルの自衛権を強く支持する」とのイスラエルの反撃への支持は明記 ⑨ドイツは「戦闘中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」と慎重な姿勢を示したが、米国の呼びかけで妥協 ⑩10月26日、アラブ主要9か国外相は、国連安全保障理事会に即時停戦を求める共同声明を発表 ⑪10月26日、イスラエルのガザ空爆が続き、ガザの保健当局は今月7日以降の死者は7,028人と発表 ⑫10月27日、国連総会は、イスラエルとイスラム組織ハマス衝突をめぐる緊急特別会合でアラブ諸国が起草した即時停戦・人道回廊設置・人質解放等を求める決議案を投票全体の2/3にあたる121カ国が賛成、米国・イスラエルは反対、日本は棄権で採択 ⑬10月27日夜、イスラエル軍はイスラム組織ハマスが実効支配するガザ空爆と地上作戦を拡大させ、10月28日に戦車も投入して全面的な地上侵攻に向け一段と圧力を強めた ⑭10月27日夜、イスラエル軍はハマス地下拠点約150カ所を空爆し、「10月7日の奇襲を指揮したハマス司令官の1人を殺害した」と発表 ⑯10月28日、イスラエル軍はガザ北部の住民に対し南部に避難するよう改めて呼びかけ ⑰10月27日以降、ガザでは通信障害が深刻 等としている。

 このうち①の衝突開始については、⑦⑧で米国やEUが述べているとおり、イスラエルにも自衛権があるため、今後、同じことが起こらないようにするためには、②のように、イスラエル軍がハマス壊滅を目指すのは当然であろう。そして、ガザ地区北部の一般住民に対しては、②⑯のように退避要求もしているが、ハマスとガザ地区の住民は家族や親戚ではないのだろうか?そのため、⑨のように、ドイツが「戦闘中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」というのも、私は理解できる。

 しかし、⑩⑫のように、アラブ主要9か国の外相は、国連安保理に即時停戦を求める共同声明を発表し、国連総会は、緊急特別会合でアラブ諸国が起草した即時停戦・人道回廊設置・人質解放等を求める決議案を、投票全体の2/3にあたる121カ国の賛成で採択している。

 イスラエルは、「そんなことには、かまっていられない」とばかりに、③⑪⑬⑭⑰のように、モスクの地下に作られた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊し、ハマスが実効支配するガザ空爆と地上作戦を拡大させ、ハマスの地下拠点約150カ所を空爆し、ガザでは10月7日以降の死者が7,028人となり、通信障害が深刻とのことである。

 それでは、「どうやって、これを解決するのか」と言えば、ロ)で述べる「歴史が生んだ難問」を両方が納得できる形で解決しなければならない。

 そこで考えるべきは、イスラエルの人口密度も418人/km²で高いが、ガザ地区の人口密度は6,018人/km²で東京都全体の6,425人に迫り、1947年にパレスチナを分割してイスラエルが建国された時とは比べものにならないくらい人口が増えて、人口密度も高くなっているということだ。その上、パレスチナ自治区の人口ピラミッドは、1950年頃の日本と同様、年齢が低いほど人口の多い「富士山型」で、子供や若者の比率が高く、住民の半数近くが20歳未満であるため、これからも人口が増加するということだ。

 そのため、国連は、④⑤⑥のように、とりあえず人道支援物資を運んだり、戦闘中断を要請したりすればよいのではなく、パレスチナ人に新天地を与え、過密になった地域からパレスチナ人を移動させ、そのための費用を提供しなければならないのだと思う。

 それでは、「どこに移動させればよいか」については、まずは同じイスラム教文化の国が考えられるが、国土が広い上に地球温暖化でシベリアに耕作可能地帯が増えるロシアや、*4-7のように、既に建設中の建物が販売不振でデフォルトを起こして空いており、国土の広い中国も候補にあげられる。

 日本の場合は、イスラム教原理主義には対応しかねるが、生産年齢人口が減って人手不足ではあるため、九州・四国・東北・北海道等が外国人労働者として受け入れ、農業・建設業・その他パレスチナ人が得意とする仕事に従事させることは可能なわけである。

ロ)イスラエル・パレスチナ戦争の背景と解決策の提案
 *4-6-1は、歴史が生んだ「世紀の難問」と題して、パレスチナ自治区ガザを実効支配している「ハマス」が、10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けて始まったイスラエル・パレスチナ間の大規模な戦闘の背景を述べている。

 具体的には、①紀元前10世紀頃、ヘブライ人(後のユダヤ人)の王国がパレスチナにでき、紀元前6世紀に新バビロニアに滅ぼされて住民が捕らわれの身になった ②2世紀前半、古代ローマがユダヤ人を聖地エルサレムから追放し、ユダヤ人は世界各地に散らばった ③第2次大戦中、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツによるホロコーストがあり、ポーランド・アウシュビッツ収容所等で約600万人のユダヤ人が殺害された ④パレスチナ問題の背景には、2千年を超えるユダヤ人の苦難がある ⑤国を滅ぼされ、土地を追われ、民族が離散し、苦難の歩みを続けて安住の地を求めてきたユダヤ人にとって、イスラエル国家建設は歴史的悲願だった ⑥第2次大戦直後の1947年に国連総会決議でイスラエルの建国が決まり、パレスチナの地をユダヤとアラブに分割して聖地エルサレムは国際管理下に置くことになった ⑦1948年に国連決議に基づきイスラエルが独立を宣言し、イスラエルが建国されてユダヤ人が集まった ⑧住んでいたアラブ人約70万人は自宅を追われて「パレスチナ難民」になった ⑨これを認めない周辺のアラブ諸国は宣戦を布告し、一斉にイスラエルに攻め込んで1973年までに4度の戦火を交えた ⑩独立国家を求めるパレスチナの抵抗は今も続く ⑪1967年に、イスラエルはエジプトのガザ地区、ヨルダンの東エルサレムとヨルダン川西岸などを占領 ⑫パレスチナ人は占領に不満を強め、1987年12月にガザから反イスラエル闘争の「インティファーダ」が始まった ⑬この抵抗の中核として生まれたのがイスラム組織のハマス ⑭パレスチナ人の代表として国際社会で認められていたのは1964年創設のパレスチナ解放機構(PLO) ⑮PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相が1993年9月に「オスロ合意」に調印し、ガザとヨルダン川西岸を自治区とし、聖地エルサレムの帰属や難民の扱いはその後の話し合いで決めるとした ⑯イスラエルのラビン首相は1995年、和平に反対するユダヤ教徒委に暗殺され、1996年にはハマス等による自爆テロが頻発 ⑰和平交渉は2000年に決裂してガザとヨルダン川西岸全土で自爆テロが繰り返される第2次インティファーダが巻き起こった と記載している。

 現在、①②③④⑤について記載している記事はあまりないが、私は「日本人とユダヤ人」「大和民族はユダヤ人だった」等の本から、ユダヤ人は本当に2千年超の期間、イスラエル国家の建設を信じて待っていたと考える。それが、⑥⑦のように、1947年に国連総会決議でイスラエル建国が決まり、イスラエルにユダヤ人が集まった理由でもある。

 一方、⑧⑨⑩のように、そこに住んでいたアラブ人約70万人は自宅を追われて「パレスチナ難民」となり、独立国家を求めるパレスチナの抵抗が現在も続いているわけだが、パレスチナは7世紀にイスラム教が勃興し、638年にエルサレムがイスラム教勢力によって征服され、パレスチナが急速にイスラム化したものである(https://www.y-history.net/appendix/wh0101-055_1.html 等参照)。

 つまり、今となっては、ユダヤ人にとってもパレスチナ人にとっても、その地域が「ふるさと」になっているのだが、ユダヤ人の方が先住民であり、2千年超も祖国への帰還を待っていた人々である上、その地域は、今では仲良く共存して暮らすには狭すぎ、人口密度が高くなりすぎた。そのため、新しく農耕・漁労・貿易等々が可能になる地域、人口密度が低い地域、生産年齢人口の割合が少ない地域等に、今回は、パレスチナ人が移住するのがFairだと思うのだ。

 そうすれば、⑪⑫⑬⑭⑮⑯のような血で血を洗う闘いは終わり、狭い場所を取り合って闘うのではなく、新しくて広い場所に移動して生産に携わることができ、そうした方が建設的で家族を幸福にもできるだろう。

(5)大都市への過度の人口集中の不合理
1)海面上昇するとどうなるのか


       2018.9.11リアナビ      2016.1.13Gigazine 2022.1.15Gigazine
(図の説明:左図は、現在の東京江東5区で、海抜0m地帯が広がり、海面や河川の水面よりも低い地域に住宅やビルが建設されているので水害の危険性が高い。中央の図は、南極西岸の棚氷だけがすべて溶けた場合の約5m海面上昇時に東京が水没する地域を示しているが、溶けるのは南極西岸の棚氷だけではないため、実際はこれよりも深刻になる。右図は、海面が7m上昇した場合の日本を中心とする極東地域の地図で、沿岸や離島の多くの地域が水没し、それに伴って領海や排他的経済水域も減る)

 上の左図のように、現在でも、江東5区は海抜0m地帯が広がり、海面や河川の水面よりも低いため水が抜けにくく、マンションやビルの高層階に「垂直避難」しても浸水が長く続けばライフライン(電気、ガス、水道、トイレ)の断絶や食料不足で生活が困難になる。(https://v3.realnetnavi.jp/column/p/p0295.php 参照)。

 それに加えて、*5-1は、英国南極観測局が、①地球温暖化の進行で、温室効果ガスの排出を減らしても、21世紀中は南極西岸の棚氷が溶けるのを止められず ②棚氷がすべて溶ければ世界の海面が最大約5m上昇し ③スパコンの予測モデルで、産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑えても棚氷が溶ける結果は変わらない ④南極西岸アムンゼン海の棚氷分析で氷が溶けた速さは20世紀の3倍 ⑤棚氷がすべて溶ければ世界の海面を最大5.3m上昇させる量 ⑥既に「ティッピングポイント(転換点)」に至っている恐れ ⑥チームのケイトリン・ノートン博士は「何十年も前に気候変動への対策が必要だった」と指摘 等と記載している。

 このうち①②④⑤については、地球温暖化では南極西岸の棚氷だけでなく、北極・グリーンランド・南極の他地域の氷も溶けるため、「海面が最大約5m上昇する」というのはかなり甘い見積もりなのだ。

 その上、この5m上昇というのは、現在でもしばしば起こっている台風や線状降水帯による洪水や高潮を考慮していないため、水害という視点のみから考えても、東京の海抜20m以下の地域に地下鉄・上下水道等のインフラを作るのは、安全性・経済性の両面で無駄だいうことになる。

 さらに、③の産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑えても棚氷が溶ける結果は変わらないというのも、0℃の氷1gを溶かして0℃の水にするのに必要なエネルギーは約80calだが、0℃の水を1℃に上げるのに必要なエネルギーは1calであるため、これまでは大量の氷が緩衝材になって海水温の上昇を抑えていたが、氷がなくなればこれまでよりずっと早く海水温が上昇し、海水の膨張までを考慮すれば、大変、深刻な状況になっているということだ。

 なお、海水温上昇の原因には、CO₂の増加や使用済核燃料の空冷による地球の気温上昇だけでなく、海水温自体の上昇もある。そして、海水温自体の上昇の原因には、海底火山の爆発もあるが、人間が使った原発を冷やすことによって出た原発温排水もあるため、化石燃料だけでなく原発もまた、地球の気温上昇や海水温の上昇に影響を与えていることを忘れてはならない。

 そのため、⑥の「何十年も前に気候変動への対策が必要だった」というのは、化石燃料の話だけではなく、原発も同じで、速やかに卒業すべきエネルギーなのである。

2)首都直下型地震が起こった場合について
イ)東京に資源を集中させるのは、経済性とリスク管理の視点から不合理
 *5-2-1は、①2023年9月1日で関東大震災から100年経過 ②人・モノ・機能を集積した首都に直下型大地震は必ず来る ③関東大震災で最も大きな人的被害を出したのは火災 ④陸軍の工場跡地で大勢を巻き込んだ火災旋風が知られ、台風シーズンだった ⑤人口集中した東京での「複合災害」は大きなリスク ⑥隅田川・荒川等主要河川の堤防が決壊すれば下町は大水害 ⑦真夏の地震なら酷暑も脅威 ⑧感染症蔓延下でも避難所の密回避は困難 ⑨首都直下型地震は国の中枢を直撃する ⑩巨大地震のリスクが非常に高い地域に中央政府・立法・司法の機能がこれほど集積しているのは異例 ⑪1つの地震が国の存亡にかかわる恐れ ⑫リスク分散が危機管理の基本だが、首都のリスク管理は不十分 ⑬改めて首都機能の移転・分散を具体的に検討すべき ⑭首都機能分散を含め大胆な事前復興計画を立てれば、日本のグランドデザインにも繋がる ⑮首都東京はどうするべきか防災に留まらない国民的議論があるべき ⑯リスク分散が重要なのは企業も同様 ⑰都内の本社機能が停止して企業全体の事業活動が滞り、倒産の危機に至る可能性も ⑱偽情報を見極める力もつけるべき 等と記載している。

 一定の間隔で直下型大地震が起こっていることを考えれば、①②③④⑤は事実である。

 その上、⑥及び上の左図のように、現在は、東京江東5区等で海抜0m地帯が広がり、海面・河川の水面より低い地域に住宅やビルが建設されて、堤防と強力なポンプによる排水で都市機能を維持しているため、堤防が決壊すれば街は5~10mの水につかる大水害に見舞われ、堤防の修復が終わって排水が完了するまで水は引かない。しかし、これには、かなりの時間がかかるのだ。

 また、停電したコンクリートの街に人口が密集していれば、⑦のように、夏なら酷暑も脅威であり、清潔な水や栄養バランスのとれた食事を入手できずに、人が密集し続ければ、⑧の感染症蔓延もすぐ起こるのである。

 さらに、⑩⑪は大きな問題で、例えば1920年 (大正9年1月)~1936年 (昭和11年11月) の17年間で建設され、第70回帝国議会(昭和11年12月)から使用されている国会議事堂は、風格のある建物ではあるが耐震性が低いため、肝心な時に国会を開けないだろう。従って、⑫⑬⑭⑮のように、首都機能は、標高が高くて人口が少なく、緑の多い場所に最新の建物を建設して移転し、リスク分散も行うよう議論を始めるのが賢明だと、私は思う。

 企業も、⑯⑰のように、本社・工場を安全で通いやすい場所に移転させ、リスク分散すると同時に、データは必ずバックアップして、どのような災害が起こっても、またサイバー攻撃されても壊れないシステムにしておかなければならない。⑱については、日本人は、一見常識的な嘘には疑わず騙され、偽情報を見極めるのが下手な人が多いように思われる。

ロ)首都直下型地震発生時の東京・神奈川・埼玉・千葉の災害拠点病院について
 首都直下地震発生時に関して、*5-2-2は、①国は首都直下地震で最大14万6千人が死傷すると予測 ②1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)で災害時に重傷者の治療を担う災害拠点病院の63%で受入可能患者数が平時を下回り、平時の1割未満とした病院も22%ある ③災害時は道路の寸断・交通の機関マヒで病院に着けない職員が大量に出て、発災6時間以内に集まれる医師数は平時の36%、72時間以内でも73%しかいない ④施設の耐震性・病室のスペース・道路の狭さが問題 ⑤建物の火災・倒壊で多くの重傷者が搬送されても治療を受けられない可能性も ⑥政府の地震調査委員会によると、マグニチュード7程度の首都直下地震の30年以内の発生確率は70%程度で医療体制の強化は喫緊の課題 としている。

 また、*5-2-3は、⑦1都3県にある災害拠点病院の約4割が災害派遣医療チーム(以下“DMAT”)を災害現場に派遣したことがない ⑧都道府県指定の災害拠点病院は、1チーム以上のDMATの保有が求められている ⑨2023年3月時点で約1770チーム・約1万6,600人が登録しており、5年毎の更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要 ⑩DMATチーム数は、「3」が11%、「2」が22%、「1」が53%、「0」も5%ある ⑪災害現場への派遣回数は「0」が最多の37%で「1」の21%が続く ⑫派遣経験のない神奈川県の私立病院は「DMATを派遣すれば担当業務の補完要員が必要で、時間外勤務が発生するので、人件費分の支援がないと派遣は難しい」とする ⑬埼玉県内の病院は「希望者はいるが何年も待っており、退職・異動による欠員補充もままならない」とする ⑭DMAT事務局は「都市部は病院数が多く、県単位で受講枠が決まっているため、順番が回ってこない病院もある」と説明している そうだ。

 このうち①⑥の「マグニチュード7程度の首都直下型地震の30年以内の発生確率が70%程度で、最大14万6千人が死傷する」というのは、近いうちにかなり確実に起こる大地震で、多くの人が死傷するということであるため、医療面からの準備も喫緊の課題である。

 しかし、②③④⑤のように、災害時に重傷者の治療を担う災害拠点病院の受入可能患者数は平時より著しく下回り、その理由は、i) 道路の寸断や交通機関のマヒなどで病院に着けない職員が大量に出る ii) 病院の耐震性・病室のスペース・道路の狭さ等に問題がある 等が挙げられている。しかし、機械設備・器具の故障・停電による機器の停止などの影響もあると思われる。

 そのため、病院の耐震化を進めたり、すべての道路を広くして災害時でも救急車両や消防車が通れるようにしたり、災害医療に関わる医師やスタッフの住居を病院近くに置いたりする必要があるのだが、東京はじめ首都圏では、これにも著しい時間と金がかかるのだ。

 その上、⑧のように、都道府県指定の災害拠点病院は1チーム以上のDMATの保有が求められ、災害医療にあたるにもその経験が必要だが、⑩のように、DMATチーム数は「3」が11%、「2」が22%、「1」が53%、「0」も5%で、⑦⑪のように、災害現場への派遣回数は「0」が37%、「1」が21%であり、殆ど災害現場で活動したことがないと言っても過言ではない。

 その理由には、⑨⑬⑭のように、5年毎の更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要があるが、順番が回ってこないため希望者が何年待っても研修を受けられないこともあり、これはDMAT事務局が本気で取り組んでいないからと言える。

 また、⑫のように、人件費分の支援がないとDMATを派遣できないと言う病院もあるが、災害に対応して普段は利益にならないことができるためには、設備やスタッフにゆとりが必要であるため、医療関係者の善意に甘えるのではなく、設備や人件費などの支援が必要である。

 全体としては、東京はじめ首都圏の過度の過密状態を解消し、迅速に必要な道路・病院・医療スタッフ等の住居を配置することが必要で、それを進めることができるためには、やはり都市部への過度な人口集中を止めるよう国土計画を作り直すことが必要なのである。

<ふるさと納税>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231007&ng=DGKKZO75103120X01C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.7) ふるさと納税、稼ぎ頭は400人の村、「黒字」自治体3倍 和歌山県北山村、英語教育の原資に
 ふるさと納税による全国の自治体への寄付額が2022年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新した。都市部では税金の流出が膨らみ、返礼品競争にも批判はあるが、財政基盤の弱い自治体には貴重な財源だ。各市区町村の住民1人当たりの収支をみると「稼ぎ頭」は人口約400人の和歌山県北山村だった。総務省の「ふるさと納税に関する現況調査」から22年度の市区町村ごとの実質収支を算出した。受け入れた寄付額から他の自治体に寄付として流出した控除額と、寄付を得るのにかかった経費を差し引いた。人口1人当たり1万円以上の「黒字」だった自治体数は449で経費を把握できる16年度の約3倍。うち9割が人口5万人以下だった。黒字が最も大きかったのは和歌山県北山村で122万2838円に達した。紀伊半島の山あいにあり、同県とは接さず奈良県と三重県に囲まれた全国唯一の飛び地の村。人口は全国有数の少なさで過疎が進む。ふるさと納税の収益を高めた背景には村に自生する絶滅寸前のかんきつ類「じゃばら」の復活劇があった。特産化へ唯一残る原木から作付面積を広げた。01年に自治体では当時異例の楽天市場で果実や加工品のネット通販を始めたことが突破口となり、生産者が34戸に増えた。顧客目線をふるさと納税にも生かし、17年には返礼品の翌日発送を始めた。村は小学校に英語圏の教員を招くなど英語教育を重視。中学生になると海外への語学研修に送り出すが、渡航や2週間の滞在中の費用に寄付を充てる。「外から人を呼び込む」(地域事業課)ためにも寄付を活用し、渓谷などの大自然を楽しめる体験型観光を拡充する計画もある。2位は北海道東部の太平洋に面した白糠町(104万9194円)。同町も主力の1次産品を町自ら電子商取引で扱ってきた営業感覚をふるさと納税の獲得に生かす。町税は10億円足らずだが、イクラなど返礼品の人気から22年度の寄付額は150億円に迫り全国の市区町村で4位。棚野孝夫町長は「子や孫のために使い道を考える」と強調する。22年に開校した小中一貫の義務教育学校「白糠学園」の整備にも寄付を用いた。町は保育料や18歳までの医療費、給食費を無償とし、出産祝い金なども手厚い。転入ゼロだった子育て世帯を18~22年度は各10世帯前後呼び込んだ。都道府県全体では佐賀県が2万4549円で最も黒字が大きい。全20市町のうち上峰町が61万5228円で突出する。返礼品にそろえたブランド牛や米の人気に加え、20年に町が公開したご当地アニメ「鎮西八郎為朝」の反響も寄付に結びついた。危機的だった町の財政は4月から高校生までの医療費を完全無料化できるほどに改善。「幅広い公共サービスの提供が可能となった」(武広勇平町長)。15年を経た制度は課題も多い。22年度に最も寄付額を集めたのは宮崎県都城市で195億円。返礼品次第で寄付格差が広がる。仲介サイトへの手数料など経費負担も増す。総務省は10月、寄付額の5割以下とする経費の基準を厳しくした。新基準に沿って返礼品の内容など経費の適正化が進めば黒字の自治体は増える可能性がある。京都府は府内市町村と募った寄付を分け合う制度を10月に導入して府全体の底上げを狙う。ふるさと納税に詳しい慶応大学の保田隆明教授は「都市住民の関心を地方に向ける趣旨は実現できている。各自治体は産業育成や交流・関係人口を増やすための『投資』にもつなげてほしい」と話す。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230904&ng=DGKKZO74136280T00C23A9PE8000 (日経新聞社説 2023.9.4) ふるさと納税のひずみ正せ
 ふるさと納税が昨年度9654億円と1兆円に近づいた。規模拡大に伴い、寄付額の自治体間の格差が広がり、税収が流出する都市部の不満も膨らむ。ひずみを正すため、ふるさと納税の拡大に一定の歯止めを考える時期だ。ふるさと納税は住民税の一部を寄付する制度だ。住民税の税収は13兆円で、単純計算なら寄付額は3兆数千億円まで膨らむ余地がある。賃上げで税収増が続けば、寄付額はさらに拡大する可能性がある。そこで目立ってきたのが寄付額の自治体間の格差だ。都道府県と市区町村の1788自治体のうち、10億円以上集めたのは226自治体で計6179億円。13%の自治体で全体の3分の2の額を集めたことになる。1億円未満の自治体は703と全体の4割に上った。上位の顔ぶれは海産物や肉類などの産地に固定化されつつある。ふるさと納税では返礼品の需要が地場産品の振興を支えている。知名度の乏しい産地が消費者に知ってもらう意味は大きい。ただ制度開始から15年たち、その役割は果たしつつあるのではないか。高まった知名度を企業誘致や移住に生かし、ふるさと納税に頼らず、税収を増やす道も探ってほしい。規模の拡大に歯止めをかけるために考えたいのが、都市部に多い高所得層の利用額に上限を設けることだ。ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、寄付総額に占める比率も高いとされる。高所得層のメリットが大きいことにはかねて批判がある。政府は所得階層別の利用率や寄付額をデータで示し、改善を図るべきだ。ふるさと納税は都市と地方が互いに支え合う枠組みだ。都市部の不満が限度を超えれば制度の持続性に疑念が生じる。都市部に税収が偏っているとして、地方が求める地方法人課税の偏在是正にも影響するかもしれない。ふるさと納税は税の使い道を自ら選び、納税者意識を高める意義がある。ひずみを改め、本来の意義が見直されるようにしたい。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC121R40S3A710C2000000/ (日経新聞 2023年8月6日) ふるさと納税、潤う地域に偏り 寄付累計4兆円のひずみ、ふるさと納税 15年の中間決算㊤
「ふるさとを元気に」を目指すふるさと納税が始まって15年がたった。これまでの寄付額は累計で4兆円を超え、9割が地方の自治体に渡った。受け入れ先の自治体や農産物生産者らを活気づけたが、制度のひずみも根強くある。理想のふるさと納税に向け、何が課題かを探る。最大数百万円の移住支援金、全ての子どもの保育料無償化――。宮崎県都城市は2023年度、大胆な人口減少対策を次々と打ち出した。両事業の予算額は計10億円。財源の大部分を賄うのはふるさと納税による寄付金だ。同市はふるさと納税の恩恵を最も受ける自治体の一つだ。22年度の寄付受け入れ額は全国最多の195億円。主要税収である住民税(65億円)の3倍の財源を調達した。同市は14年、特産の「肉と焼酎」に特化した返礼品戦略を打ち出した。「最大の目的は地域のPR」(野見山修一・ふるさと産業推進局副課長)として、当初は寄付額に対する返礼の割合を約6割と高く設定。地域色豊かな特産品とともに「お得な自治体」というイメージを全国の寄付者に印象づけた。市内の返礼品事業者でつくる団体が自費での広告を出すなど官民を挙げた取り組みで、返礼割合を3割以下とする規制が始まった19年度以降も好調を維持している。自治体別の寄付受け入れ額で全国10位以内に入るのは9年連続で、全自治体で最も長い。寄付を元手に人も呼びつつある。最大100万円の移住支援金や家賃補助などを用意した22年度の移住者は過去最多の435人で、対策を強化した23年度は前年度以上の反響があるという。野見山氏は「都市から地方への金や人の流れが生まれている。人口を10年後にプラスに反転させたい」と意気込む。ふるさと納税は08年度の開始当初から全国の好きな自治体に寄付でき、返礼品を受け取れる仕組みだったが、存在感は小さかった。確定申告が必要で手続きの煩雑さなどから、14年度までは年間寄付額が数十億〜数百億円で推移した。潮目が変わったのは15年度だ。確定申告が不要になる「ワンストップ特例」の導入や税控除額の引き上げで、寄付額が同年度に1000億円を突破。返礼品にも注目が集まり、16年度以降、一気に伸びた。22年度の寄付額は過去最高の9654億円で、08〜22年度の累計寄付額は4.3兆円に達した。累計額の89%は三大都市圏(首都圏1都3県、大阪府、愛知県)以外の地域への寄付だ。22年に寄付した人の56%は三大都市圏の住民。「都市と地方の税収格差の是正」という点では、制度の狙い通りの状況になっている。地方は等しく潤っているわけではない。累計の寄付額を都道府県別(都道府県と域内市区町村の合算)にみると最多が北海道の5700億円で、宮崎、佐賀が続く。7道府県が2000億円以上を集めた。一方、広島や山口、徳島など7県は300億円未満で、最少は富山の105億円だった。人口や事業者の減少など課題は地方共通にもかかわらず、北海道や九州の自治体に比べて中四国や北陸地方の自治体への寄付は乏しい。市区町村別でも上位は北海道や九州の自治体が目立ち、累計寄付額の58%が上位1割に集中した。一方、22年度は2割は寄付額よりも住民税控除額が大きい「赤字」だった。ふるさと納税の自治体支援を手がける事業者は「北海道でも海産物の返礼品がある沿岸自治体は好調で、内陸部は苦戦している」と打ち明ける。ビジネスセンスを生かし活性化する地域が出る一方、どこかが税収を奪われるのは制度の仕組み上、避けられない。ただ消費者が好む返礼品の有無で差がつきやすい現状には不満も消えない。

*1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15716093.html (朝日新聞社説 2023年8月13日) ふるさと納税 ゆがみ拡大 放置するな
 名目上は善意の寄付だが、実態は節税の手段になっている。年数千億円の税収が消え、財政のひずみも招いている。そんな不合理や不公正が広がるのを、これ以上放置してはならない。
「ふるさと納税」の利用が増え続けている。昨年度の寄付総額は9654億円で、この3年間で倍増した。背景には、返礼品の競争や仲介サイトの宣伝がある。「ふるさとやお世話になった自治体を応援するため、自分で納税先や使い道を決められるようにする」というのが制度の趣旨で08年に始まった。菅義偉前首相が総務相の時に旗を振り、官房長官時代には、枠の拡大と手続きの簡略化で利用拡大の道を開いた。それとともに、さまざまなゆがみも膨らんだ。最大の問題は、巨額の税金の流出だ。利用者にとって、寄付が枠内なら自己負担は2千円で済む。残りは、利用者が住む自治体の住民税や国の所得税が減ることで相殺されるからだ。その分がすべて寄付先の自治体の手元に残るのなら国全体での収入は変わらないが、そうではない。寄付額の3割が返礼品の費用に、2割が運営業者の手数料などに使われている。膨大な税収が動く中で、その約半分が寄付者や業者の利益に回る仕組みが、合理的だろうか。しかも、利用できる枠は、高所得者ほど大きい。所得の再分配に穴を開ける制度が野放しにされるのは、看過できない。利用者が多い大都市の自治体は、住民税収の落ち込みで行政サービスの低下が避けられないとして、制度の見直しを訴えている。税収減の一定範囲は国が穴埋めしているが、その分も結局は国民負担だ。「ふるさと」への貢献という理念も、実際にはかすんでいる。仲介サイトはまるで商品カタログのようなつくりで「お得な通販」感覚をかき立てる。見返り目当ての人が多く、有名な地場産品をもつ自治体に寄付が集中する傾向も鮮明だ。本来の趣旨からかけ離れた現状を正すには、返礼品の廃止や利用枠の大幅縮小など、制度の根本からの変更が不可欠だ。自治体が対価を払って税収を奪い合う仕組みは持続できない。地域への愛着や寄付金の使い方への共感を基本においた形に改めることが必要だ。しかし、政府の腰は重い。最近、経費算定基準を厳格化したものの、抜本的な見直しは避けている。小手先の対処では、ルールの抜け穴を探す自治体・運営業者との「いたちごっこ」も終わらないだろう。広がる弊害を前に見て見ぬふりを続ける無責任さを自覚すべきだ。

*1-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1084401 (佐賀新聞 2023/8/4) 佐賀県内ふるさと納税416億4278万円 2022年度 過去2番目、全国で5位
 佐賀県と県内20市町の2022年度のふるさと納税寄付総額は前年度比18・97%増の416億4278万円で、過去最高だった18年度の424億4094万円に次ぐ額になった。都道府県順位は5位で前年からひとつ順位を上げた。市町別の最多は上峰町の108億7398万円で全国6位に入った。寄付総額の増加は3年連続。18年度以降、424億4094万円-266億4284万円-336億6568万円-350億47万円と推移していた。全国順位は2位-3位-2位-6位だったので2年ぶりに順位を上げた。県内市町で寄付額が多いのは最多の上峰町に続き(2)唐津市(53億9861万円)(3)伊万里市(29億2554万円)(4)嬉野市(28億4415万円)(5)みやき町(22億3625万円)の順。10億円を超えたのは7市7町で、21年度を上回ったのは6市4町だった。上峰町は前年度の2・39倍の寄付を集め、2年ぶりの最多。全国順位も20位から6位に上げて3年ぶりの10位以内に入った。そのほか伸び率が高かったのは江北町の78%増、多久市の59%増、白石町の58%増、吉野ヶ里町の38%増など。ふるさと納税の収支は、寄付額から経費と他自治体に住民が寄付したことに伴う住民税控除額を差し引くと大まかに算出できる。県内20市町はいずれも黒字で、最多は上峰町の60億2200万円余りだった。29億4000万円近い唐津市を含め10億円以上の黒字となったのは3市2町。地方交付税不交付団体は住民税控除額の75%が交付税補てんされるため、実質黒字はさらに増える。ふるさと納税で総務省は、過熱する寄付金集めを抑制するため19年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けた。ことし10月からは経費に「ワンストップ特例」の事務費を含め、他県産の熟成肉を地場産品と認めないなど、さらに厳格化する。新たな対応を迫られる自治体もある。

*1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1121980 (佐賀新聞論説 2023/10/06) ふるさと納税 まず寄付総額の抑制を
 2022年度に全国の地方自治体が受け入れたふるさと納税の寄付総額は1兆円近くに膨らみ、利用者は約900万人という規模にまでなった。生活防衛策として返礼品に期待する人も多く、増加傾向は続きそうだ。この10月から制度が微修正されたものの「生まれ育ったふるさとに貢献」という導入の目的からかけ離れたままだ。抜本的な見直しを求めたい。ふるさと納税は、2千円を自分で負担すれば、所得に応じて設定される上限額まで、肉類や海産物など自治体の返礼品を仲介サイト経由で受け取ることができる。寄付と銘打ちながらも「官製通販」と批判されるのもうなずける。制度は08年度に始まった。利用促進のため寄付できる額を増やす一方、金券など過剰な返礼品や過熱するお得感競争を背景に、返礼割合を寄付額の3割以下にするなど運用を厳格化。今回は5割以下とされている経費の対象範囲を拡大した。この結果、返礼品の量を減らしたり、必要な寄付額を上積みしたりする「実質値上げ」の例が目立つようになったという。ふるさと納税は地域経済の活性化に一役買った面がある。返礼品を扱う地元企業は商品開発に力を入れ、売り上げが伸びた。子育て支援などの課題解決のために寄付を集め、対策予算を増やすこともできた。空き家となった実家や墓のある自治体に寄付すれば、管理や掃除が業者に依頼できるケースもある。首長、自治体がやる気を出して新しい政策をつくる素地を育てたと評価できる。その半面、人気が出る返礼品を開発しようと、営業戦略の専門家を職員に採用する自治体も出てきた。高齢化や人口減少に直面する中で、優先すべき政策なのか疑問だ。都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付し、税収が移るゼロサムゲームになっている問題もある。寄付で潤う自治体が固定化されつつあり、公平性の観点から気になる。それでも国から地方交付税を受ける自治体は、税収減の75%を交付税で補塡ほてんされる仕組みがあるので、影響はある程度緩和される。財政に余裕がある不交付団体には穴埋めがなく大幅な減収となる。豊かな自治体には不利な仕組みと言える。寄付総額の約半分は返礼品の会社や、仲介サイトの運営企業などの収入になる。本来は行政が使っていたはずの税収であり、住民サービスの低下につながる恐れがある。政府は東京一極集中の是正を目標に掲げた「地方創生」を14年に打ち出し、その目標は今も堅持している。それでも人口の集中が続いており、税収が都市に集まる構図は変わっていない。国土の均衡ある発展による税収の平準化は難しい。自治体の税収格差を是正するには、ふるさと納税ではなく、都市部と地方が意見を交わしながら、納得できる是正策を探ることを提案したい。現行制度は、高所得者ほど多く寄付ができ、節税効果が大きいという問題もある。返礼品の廃止はすぐにできないとしても、富裕層については例えば「最大20万円」と、定額の上限を設定することは可能ではないか。ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか、まず議論してほしい。それに合わせ、個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべきだ。

<投資と人口の偏在>
*2-1:https://mainichi.jp/articles/20220621/k00/00m/050/111000c (毎日新聞 2022/6/21) 実は3兆円超え?試算も 東京五輪「1.4兆円」に関連経費含まれず
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は21日、総額1兆4238億円に上る大会経費の最終報告を公表した。新型コロナウイルスの感染拡大による大会の1年延期などで組織委の「赤字」も懸念されたが、組織委は発表で「これまでの増収努力や不断の経費の見直しなどにより、収支均衡となった」と説明した。
●大会経費に統一定義なく
 競技会場の建設、改修費や大会の運営費を合わせた「大会経費」は開催都市である東京都と組織委、国が分担する。都が招致段階で公表した「立候補ファイル」では7340億円だったが、組織委は開催決定から3年3カ月後の2016年12月、大会経費を1兆5000億円(予備費を除く)と初めて公表した。その後も毎年12月に予算を公表し、おおむね1兆3500億円程度で推移。新型コロナによる大会の1年延期を織り込んだ20年12月の第5弾(V5)予算こそ1兆6440億円に膨らんだが、原則無観客開催になり、チケット収入や警備費用など収入、支出ともに減少したため、最終的にはコロナ前の予算から微増にとどまった。だが、五輪経費を巡る「不透明さ」は常につきまとい、時には政治問題化した。「五輪関連予算・運営の適正化」を公約にして16年7月に初当選した小池百合子都知事は、都政改革本部を設置。本部内の「五輪・パラリンピック調査チーム」は16年9月、開催費用の総額が3兆円を超える可能性を指摘した。その前年、組織委の森喜朗会長(当時)は「最終的には2兆円を超すことになるかもしれない」、舛添要一都知事(同)も「大まかに3兆円は必要」と述べていた。
●東京五輪・パラリンピック大会経費の推移
 組織委は「過去大会を含めて大会経費の範囲には統一的な定義が存在しない」とする。今大会でも「大会に直接必要な経費」としており、開催都市の道路整備や施設のバリアフリー化などは「五輪が開催されなくても必要」として計上しなかった。このため、どこまでが五輪経費で、どこまでが五輪経費ではないのか不明確なまま、開催準備は進んだ。だが、世論の反発をくみ取る形で、五輪経費の全体像を明らかにしようとする動きもあった。都は18年1月、既存体育施設の改修や輸送インフラ、都市ボランティアの育成など総額8100億円を「大会関連経費」として公表した。当時、最新だったV2予算の1兆3500億円に積み上げると、五輪経費は2兆1600億円に膨れ上がった。国の会計をチェックする会計検査院は19年12月、1500億円とされている国負担額が、関連経費を含めて1兆600億円以上になる試算を公表した。都と会計検査院の数字を足すと、五輪経費の総額は3兆700億円以上になる。会計検査院と都は今後、改めて大会関連経費を算出する予定だが、都関係者は「内部の人間同士で、これ以上突っ込まないのでは」と見る。五輪経費の全体像は見えないまま、6月30日で組織委は解散し、残されたチェックの主体は国と都だけになる。政治ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「東京五輪で一番欠けていたのは情報公開。税金がどのように使われたのか知るには、予算以上に決算段階での検証が大事になる。会計検査院と都が関連経費も出した後、改めて国会や都議会でカネやレガシー(遺産)も含めて大会を総括すべきだ」と指摘した。

*2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15761213.html (朝日新聞 2023年10月7日) 万博資金繰り、焦る吉村知事 膨らむ経費、地元反発に危機感 経産相らと面会、対応協議
 2025年開催の大阪・関西万博の準備で膨らむ経費に、大阪府や国が財政負担のあり方で頭を抱えている。地元の理解を得たい吉村洋文知事は6日、西村康稔経産相らと対応を協議。府は、国からの財政支援を得られないか検討しているが、政府にとっては国費の負担がさらに増す恐れがあり、調整は難航している。「我々、大阪府市も責任者。会場建設費については、それぞれ負担をして、万博を成功させようというのが基本の考え方だ」。吉村知事は同日、東京都内で西村氏のほか、自見英子万博相らと相次いで面会した後、記者団にこう語った。万博の建設費が約450億円増の約2300億円程度まで上ぶれする可能性があり、面会では、どの費目が増額するのか今後詳細に確認することなどを協議したという。吉村知事が万博の費用負担をめぐって奔走するのは、膨らみ続ける万博の経費に対し、地元の反発が強いためだ。建設費の負担は、国、大阪府市、経済界で3等分すると閣議了解されており、府市の負担はさらに150億円程度増えかねない。建設費が増額すれば、20年に続いて2度目。地元の府市両議会は1回目の上ぶれを受け、再度増額が生じた場合は「国が責任をもって対応」とする意見書を可決している。府幹部は「このままでは府民、市民が納得しない」と危機感を示す。とはいえ、そもそも万博誘致を主導したのは、吉村知事が共同代表を務める日本維新の会。増額分の負担軽減を求めれば、与野党からの批判も避けられない。そこで府が検討しているのが、交付金による財政支援だ。建設費の増額分に予算を充てる分、万博の機運情勢や環境整備にかける事業に交付金を活用すれば、費用負担は3等分との大枠は維持しつつ、府・市の負担を軽減できるためだ。別の府幹部は「普段から府財政は厳しいので、がめつく国の交付金を取りに行く。交付金メニューはたくさんあるので、こちらから提案していかないと通らないだろう」と話す。(野平悠一、岡純太郎)
■政府、「助け舟」に交付金検討
 膨らみ続ける万博の経費は、政府にとっても頭の痛い問題だ。会場建設費の上ぶれ分については、国、大阪府市、経済界で3等分すると閣議了解しており、負担割合を変更する考えはない。一方で、警備費や機運醸成といったソフト面での支援について、国の負担も検討している。というのも、8月末に岸田文雄首相が万博の準備遅れを「胸突き八丁の状況」と発言し、政府も本腰を入れ始めたからだ。首相は、2025年春の開幕に向けて周囲に「絶対に間に合わせないといけない」と話し、全力を尽くす考えを示す。こうした首相の方針もあり、西村康稔経済産業相が警備費を全額国が負担する方針を表明。さらに「助け舟」として、政府内で交付金による財政支援も検討している。複数の政府関係者によると、岸田政権の看板政策の一つ「デジタル田園都市国家構想」で創設された交付金の活用論が政府内で浮上している。経産省関係者は「万博は国家事業。開催地の大阪を支えることは当然だ」といい、交付金を用いて大阪の負担軽減を図りたい考えだ。だが、この交付金は、デジタル化により、観光や地方創生につながる取り組みを支援するために創設されたもの。関係閣僚の一人は「交付金の趣旨に反する。絶対に無理だ」と反対姿勢で、調整は難航している。膨らみ続ける万博費用の全容はいまだに見えず、国の財政負担に世論の理解がどこまで得られるかも不透明だ。首相周辺は「もともと維新がやりたいと言って招致したのに……」と恨み節を漏らす。

*2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15761296.html (朝日新聞 2023年10月7日) 五輪汚職の影、機運しぼむ 札幌30年招致断念へ
 2030年冬季五輪・パラリンピック招致をめざしている札幌市は30年の招致を断念し、34年以降に切り替える方針を固めた。東京大会での汚職・談合でオリパラのイメージが悪化する中、招致に不可欠となる地元の高い支持率を現時点で得るのは難しいと判断した。秋元克広市長が11日に日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長と会談して断念の意向を表明するとみられる。6日の記者会見で秋元氏は、12日にある国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で「30年大会の開催地決定のプロセスについて議論がある」との見通しを示した。山下会長とは、東京大会の事案の状況を踏まえて「招致を実現するために、どう進めていくべきかを議論する」と語った。秋元氏にとって、30年招致断念の選択肢は早い段階から持ち合わせていたものだ。札幌市の都市インフラは1972年の冬季五輪を機にできたが、老朽化が進む。2015年に就任した秋元氏は、五輪を「まちづくりの起爆剤」と位置づけて招致を推進してきた。しかし、20年からのコロナ禍で市民の招致機運を盛り上げる機会を失った。昨年3月に実施した意向調査では賛成が反対を上回ったが、東京五輪汚職が発覚した昨夏以降は不招致推進デモが頻繁に起きるなど「逆風」が続いた。今年4月の市長選で秋元氏は3選を果たしたが、五輪反対派の2候補が4割強の票を獲得した。秋元氏は昨年12月にIOCが大会の開催地決定の時期を先送りしたことを受けて、「異例」の招致活動の休止に踏み切った。逆風の下、市がとったのが、30年の旗は掲げたまま、34年大会への切り替えも否定しない「両にらみ作戦」だ。北海道新幹線の札幌延伸が30年度末とされていることもあり、市とともに招致を進めてきた地元経済界では「札幌延伸が完了した後の34年大会の方が経済効果は大きい」との声も強まっていた。
■JOC弱気、IOC冷淡
 昨年12月に札幌市とJOCが招致に向けた積極的な機運醸成活動の当面の休止を発表してから、JOCの山下会長が後ろ向きな発言をすることが目立つようになった。今年2月の定例記者会見では「30年招致はより厳しい状況になっていく」。6月の会見では「今の状況で30年は厳しい。特効薬はない」と認めた。複数の関係者によると、山下会長は今年に入ってからバッハ会長を訪ね、30年招致が難しくなった旨を伝えた。そのことで、バッハ会長の怒りを買ったという。IOCは、その前後から、過去に「蜜月」だったJOCに対する冷淡さが目立ち始めた。「札幌」の名前が会見で言及されることが減った。取って代わるように26年冬季五輪招致で敗れたスウェーデンが2月、唐突に30年大会招致に名乗りを上げ、フランスも意欲を表明した。最近、IOCの事務方から漏れ伝わるのはスウェーデンの好評価だ。前回は国内世論の支持率が伸び悩み、政府の財政保証にも手間取ったが、ここに来て政府支援に希望が見えてきたという。札幌が34年大会以降に照準を切り替えるとしても、34年は米ソルトレークシティーが有力視される。02年に冬季五輪を開いた実績、地元の支持率も高いことから、「本命」と評価されている。山下会長は6日、アジア大会が行われている中国・杭州で「今、お話しできることは何もない。昨年12月の記者会見から状況は大きく変わっていないという認識だ」と話すにとどまった。
■札幌冬季五輪・パラリンピック招致の動き
 <2014年11月> 上田文雄市長(当時)が26年大会の招致を表明
 <15年4月> 市長選で招致推進派の秋元克広氏が初当選
 <18年9月> 胆振東部地震発生。招致目標を2030年に切り替え
 <20年1月> JOCが市を30年大会の国内候補地に決定
 <22年3月> 市の招致意向調査で賛成が過半数を占める
 <8月> 東京地検特捜部が汚職事件で大会組織委の元理事を逮捕
 <11月> 東京五輪の運営業務を巡る談合事件で東京地検特捜部が電通などを家宅捜索
 <12月> 市とJOCが積極的な機運醸成活動を休止。大会計画案の見直しを表明
 <23年2月> 東京地検特捜部が東京五輪の運営業務を巡る談合事件で元組織委次長らを独占禁止法違反容疑で逮捕
 <4月> 市長選で秋元氏が3選
 <6月> 再発防止策を盛り込んだ大会見直し原案を公表
 <7~9月> オリパラの市民説明会や公開討論会を実施
 <10月> 大会見直し案の最終案まとまる

*2-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231012&ng=DGKKZO75189330S3A011C2EA1000 (日経新聞社説 2023.10.12) 札幌五輪の意義改めて精査を
 五輪を取り巻く社会情勢は、この数年で激変した。今後の招致のあり方について、改めて慎重かつ徹底的な議論が必要だ。札幌市が2030年冬季五輪・パラリンピック招致を断念した。秋元克広市長と日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長が11日に会談し、その後の記者会見で発表した。今後は34年以降の開催の可能性を探るという。30年招致が困難なのは、関係者の間では以前から共通認識だった。最も影響が大きかったのが東京五輪を巡る一連の不祥事である。札幌市は市民の不信を払拭しようと説明会や対話事業を行ってきたものの「理解が十分広がっていない」(秋元市長)状況が続いていた。山下会長も「拙速な招致は好ましくない」と述べた。もっとも、34年も有力なライバル都市が名乗りを上げており、国際オリンピック委員会(IOC)が札幌を重視しているといわれた従前とは競争環境も様変わりしている。財政面についても、東京五輪に続いて大阪・関西万博も後から費用が膨らんだことから、札幌でも将来の経費増に対する懸念が根強い。今回の仕切り直しを経ても、招致のハードルが依然高いことに変わりはない。札幌市は今後、招致計画を練り直す見通しだ。その際はなぜ招致活動を続けるのか、そこにどんな意義があるのかを、とことん精査すべきだ。それなくして広く理解を得ることは難しいだろう。市民の意向を正確にくみ取る調査の実施も欠かせない。五輪をバネに地域をもり立てること自体は否定されるものではない。ただ、昔ながらの地域振興が目的の前面に出てくるようなら支持は広がるまい。34年までは10年以上ある。その間、日本社会は様々に変貌していくはずだ。それでも変わらず説得力を持ち得る「札幌五輪」とは、どのような大会であるべきなのか。その明確な青写真を開催都市として示せるかが、今後の招致を左右する。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231015&ng=DGKKZO75288500V11C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.15) 賃上げ減税 効果に限界、中小企業6割が対象外、赤字体質の脱却重要に
 政府・与党が年末にかけて詰める2024年度の税制改正で、従業員の給与を一定以上増やす際に納税額を減らす「賃上げ促進税制」の拡充が論点になっている。税負担を軽くしても賃上げや投資に回っていないとの不満が背景にある。賃上げの流れを効率的に加速する対策が重要になる。「税収増などを国民に適切に還元する」。10月末にもまとめる経済対策を巡り岸田文雄首相はこう話す。どの税金を「減税」するかの詳細はこれからだが、こだわりを持つ一つが賃上げ税制だ。原型となる税制は13年度に導入した。21年には14万件程度が適用を受けた。法人税を年2000億~4000億円ほど減免してきた。一方で厚生労働省の賃金構造基本統計調査をみると、パートタイムなどを除く一般労働者の賃金の上昇率は安倍晋三元首相のアベノミクスを支えに伸びた時期を除き、データのある21年度まで1.5%を下回る状況が続く。財務省、経済産業省はこれまでの対策に「効果があったとはいえない」とみる。2つの要因が指摘されている。1つ目は現行の仕組みの弱点だ。納めるべき法人税から差し引く形式のため税優遇は黒字の企業にしか効果がない。大企業で法人税を納めていない赤字法人は21年度に大企業で25.8%あり、資本金1億円以下の中小企業でみると61.9%にのぼる。日本企業の99%超を占める中小に恩恵が及ばなければ賃金の底上げにつながらない。経産省は解消策を提案している。赤字などの理由で法人税の納税額が少なく、賃金を上げた優遇を受けられる分を控除しきれない決算期があった場合、繰り越しを認める制度を中堅・中小企業向けに導入する案だ。黒字になった際にその分を差し引く。ただ日本には単に業績が悪いだけでなく、納税を避けるために経費を膨らませ、あえて赤字を選ぶ中小があるとの指摘もある。制度を導入しても黒字化しないと優遇は受けられない。中小の赤字体質が改善できるかが重要になる。2つ目は優遇策の適用期間だ。経産省はこれまで2年ほどで延長を繰り返してきた制度を6年間延ばす案を持つ。財務省は賃上げ税制など租税特別措置(租特)は「短期集中でこそ効果がある」との立場だ。2~3年が一般的で、5年超は異例だが、経産省は期間が短いと企業が中長期の視点で使いにくいとみる。制度の拡充議論の背景には社員を資本と捉え、教育費用などをコストでなく投資とみなす「人的資本経営」の広がりがある。充実すれば生産性が上がるとの考え方だ。日本企業の人的投資は主要先進国でなお低い水準にある。10~14年の企業の職場内訓練(OJT)を除く研修費用の国内総生産(GDP)比は0.1%にとどまる。米国は2%、フランスは1.8%、英国、ドイツは1%強だ。賃上げ税制には職業訓練費を一定額積み増した場合に法人税の優遇額を増やす規定がある。賃上げも含めた「人への投資」を手厚くして成長力を底上げする狙いがある。企業の意識にも変化の兆しがある。連合の調査によると23年の賃上げ率は3.58%と約30年ぶりの高水準だった。政府はこの流れの加速を目指すが、税によるインセンティブにどこまで効果があるかは検証余地がある。財務省が国会に提出する租特に関する報告書はどの企業が活用したかや、どう使ったかは明確ではない。行政事業レビューなどに基づき情報が開示される予算の歳出に比べると透明性で見劣りする。政策減税の議論には客観的なデータを使った効果の検証が欠かせない。

<農地の減少と食料自給率>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA297ZX0Z20C23A9000000/ (日経新聞 2023年10月1日) 有事の食料輸入計画、商社などに要請へ 政府が新法
 政府は商社などを念頭に、有事に食料不足が見込まれる際に代替調達ルートといった輸入計画を提出するよう求める方針だ。異常気象による不作や感染症の流行、紛争といった有事を想定し、重要な食料を確保する見通しを明確にする。農林水産省が2日に開く「不測時における食料安全保障に関する検討会」で示し、年内にも方向性をまとめる。食料安全保障の一環として、農水省が2024年の通常国会への提出を目指す新法へ盛り込む。植物油や大豆など栄養バランスの上で摂取する必要があるものの自給率が低い品目を対象とする見通しだ。企業に求める計画には潜在的な代替調達網のほか、輸入規模、時期などを盛り込むよう促す。対象は商社やメーカーといった大企業を想定する。国内の備蓄で対応が難しくなったときに、まず企業に計画の提出を要請する。有事の深刻度に応じて要請から指示に切り替えることも検討する。輸入価格が高騰し、国内での販売が難しい場合は国が資金面で調達を支援することも視野に入れる。新法では食料安保面での有事対応の司令塔役として、首相をトップとする「対策本部」の新設を定める。食料輸入計画の策定要請は同対策本部の権限の一つに位置づける。日本の食料自給率はカロリーベースで38%と主要7カ国(G7)で最も低い。特に大豆は25%、砂糖は34%、油類は3%にとどまる。食料安保の確保には官民を挙げて安定的な輸入体制を築く必要がある。新法には国内で在庫が偏在する場合の対応として、業務用と民間用の在庫の融通や出荷量の調整などを要請することも対策本部の権限として盛り込む見通しだ。不測時に備え、農水省が平時から卸企業やメーカーなどに民間在庫の報告を求めることも検討する。作付面積や貿易統計から主要な作物の在庫は把握できるが、パンやうどんといった加工品の在庫の全容をつかむことは難しいからだ。

*3-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15764380.html (朝日新聞 2023年10月12日) 農業の現場と基本法改正:2 「適正価格」検討、懐疑の声も
 千葉県成田市や栄町の水田地帯。収穫期を控えた7月中旬、稲作農家の小倉毅さん(63)は、雑草が生えていないか、田んぼの様子を見て回っていた。今秋、33回目の収穫期を迎える。できるだけ農薬を使わないのがモットーだ。「もう耕せない」と高齢の親類から頼まれた田んぼも多く、計15ヘクタールを管理する。「展望はないよ。機械が古いけど投資もできない」。売り上げから経費を引いて手元に残るのは、稲作だけでは100万円以下という。給与所得者平均の458万円に遠く及ばない。小倉さんは農民運動全国連合会という団体で活動している。連合会は6月、農林水産省の「食料・農業・農村基本法」の見直し案に対し「価格保障」を提言した。政府が実勢価格との差額分を農家に支払うよう求めるものだ。「農家は細る一方。食は国が支えるべきで、国民合意もできるはずだ」と小倉さんは言う。農産物の価格は、基本法の改正議論で最大の焦点だった。農水省が5月に公表した改正案の中間とりまとめでは、スーパーが食品の安売り競争に走り、「生産コストが上昇しても価格に反映することが難しい状況を生み出している」と指摘。「適正な価格形成」に向けた仕組みづくりの検討を農水省の責務と定めた。これらを受けて農水省が動く。8月に生産・販売・流通に関わる16団体の幹部らを集めて「適正な価格形成に関する協議会」を立ち上げた。だが、需給で決まる価格に国が口を出すことには懸念もつきまとう。あいさつで同省の宮浦浩司・総括審議官は「まずは関係者間で議論できる土俵作りをしたい」と述べ、慎重に議論する考えを示した。主婦連合会副会長の田辺恵子氏も「非正規雇用の人や相対的貧困層をどう考えるのか」と話し、値上げに慎重な対応を求めた。実は農水省は今春、コストの高騰を価格に転嫁する仕組み作りを進めていた。畜産や酪農の関係者を集めた省内の会議で「飼料サーチャージのような仕組みができないか」と打ち出していたのだ。燃料価格を航空運賃などに上乗せする「燃料サーチャージ」が念頭にあった。しかし、この会議は「生産者とメーカーの取引だけに着目しても小売価格に反映することは難しい。単純に反映しても、消費減退を招く」として導入の議論は先送りされた。こうした動きに、現場からも懐疑的な声がある。群馬県昭和村の野菜農家、澤浦彰治さん(59)は、コンニャクや有機野菜の栽培で試行錯誤を繰り返し、親から継いだ農業の規模を拡大してきた。240人を雇い、「小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール」(ダイヤモンド社)などの著書もある。澤浦さんは「同じレタスでも、有機かどうか、食味や用途、鮮度など様々な組み合わせで価格が決まる。一律には決められるものではない」と言う。農水省の「適正な価格形成」に向けた取り組みにも、「ありがたいことだが、価格について一律に決めても、創意工夫して生産し、付加価値を付けて販売している人には逆に足かせになる可能性がある」とみている。

*3-2-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023100400652 (信濃毎日新聞 2023/10/04) 半導体工場誘致へ規制緩和 森林や農地も立地可能に
 政府は4日、半導体や蓄電池など重要物資の工場を建設しやすくするため、土地利用の規制を緩和する方針を明らかにした。岸田文雄首相は同日、首相官邸で開いた官民連携の会合で「土地利用の規制について、国家プロジェクトが円滑に進むよう柔軟に対応していく」と表明した。森林や農地など開発に制限がある「市街化調整区域」で、自治体が工場の立地計画を許可できるようにする。農地の転用手続きにかかる期間の短縮も図る。10月中にまとめる経済対策に盛り込む方針。半導体などを巡っては大型工業用地の不足が課題となっていた。工場建設を後押しし、重要物資の供給体制を強化する。国内投資の拡大につなげる狙いもある。首相は、半導体をはじめとした戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため「複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設する」とも述べた。規制緩和には経済産業省や国土交通省など複数省庁が関与する。市街化調整区域に指定されている農地の場合、行政手続きが各省庁の管轄でそれぞれ発生するため、これまで約1年かかっている。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA02BH40S3A001C2000000/ (日経新聞 2023年10月3日) 半導体工場の立地規制を緩和 政府、農地・森林にも誘致
 政府は12月にも半導体など重要物資の生産工場の誘致に向け土地規制を緩和する。農地や森林など開発に制限がある市街化調整区域で自治体が建設を許可できるようにする。大型工業用地の不足に対応する。税制や予算とあわせて規制改革で国内投資を促す。経済安全保障の観点から半導体や蓄電池、バイオ関連といった分野が対象となる。岸田文雄首相が4日、民間企業や閣僚を集めて首相官邸で開くフォーラムで円滑な土地利用に向けた規制改革に取り組むと表明する。10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資の促進策として税制・予算と合わせて打ち出す。経済産業省によると全国の分譲可能な産業用地面積は2022年時点でおよそ1万ヘクタールある。11年の3分の2ほどに減った。新たに土地を確保するにも用途指定を変更する手続きなどに時間がかかる問題点が指摘されてきた。市街化調整区域の開発は、地域特性を生かした事業を展開する企業を支援する「地域未来投資促進法」の規定を使って例外的な活用を認める。いまは食品関連の物流施設やデータセンター、植物工場などに限り、政府が自治体に開発許可を認めている。関係各省の省令や告示を改正し、これに重要な戦略物資の工場を加える。自治体が地域活性化や環境の観点で問題ないと判断すればより柔軟に工場を誘致できるようになる。手続きに時間がかかる農地の場合は、通常なら1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮する。農地の転用には地元の農業委員会などの許可が要るなど規制が複数の省にまたがるケースが少なくない。このため国土交通、農林水産、経産の3省が連携して開発許可の手続きを同時並行で進める。半導体の工場にはまとまった土地と良質な水などが欠かせない。円安や安定したサプライチェーン(供給網)のため生産拠点を国内に回帰させる動きがある一方、条件に合う工業用地の供給は限られる。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本に進出し、周辺の自治体からは土地規制の是正を求める声が上がっていた。九州経済連合会は国や県の権限で農地を速やかに産業用地に転用できるような規制緩和策を政府に要請した。企業が土地を確保できず進出を断念したケースもこれまでにあったという。TSMC新工場の周辺は半導体関連のサプライヤー企業の集積が相次ぐ。工業用水の確保や道路など物流網の構築は待ったなしの状況にある。熊本県の蒲島郁夫知事は8月、官邸で首相に社会資本整備に関する「緊急要望」を手渡した。政府は機動的なインフラ整備に向けて関係府省が横断で複数年にわたり支援する枠組みを創設する。23年度補正予算案への費用計上に向け調整する。為替相場は円安が続き、日本国内で投資しやすい環境が整う。地方に工場の立地を促し、地域の雇用確保や周辺産業を含めた賃上げにつなげる。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75276130T11C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.14) 地方の新興企業、5年で5割増、産業活性化に貢献 長野県、大学軸に起業支援
 独自性のある技術やサービスで成長を目指すスタートアップが全国で増えている。新興企業支援会社のデータベースでは、全国の企業数が5年間で5割増えた。地元大学発の新興が相次いで誕生する長野県は8割増と大きく伸ばす。地方でも産学官金の支援の輪が広がっており、スタートアップを生み育てる「エコシステム(生態系)」が構築されつつある。東証グロース上場のフォースタートアップスが作成した「STARTUP DB(データベース)」に登録されている2000年以降創業の企業を対象に、23年6月末の登録数を18年と比較した。登録は新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指す企業が対象。全体の登録数は1万5692社で東京都の企業が66%を占めるが、東京以外の自治体の合計登録数も5年で49.5%増と東京と同じ伸びを示した。増加率4位の長野県は信州大学の積極性が目立つ。17年に知的財産・ベンチャー支援室を開設。18年には「信州大学発ベンチャー」の認定を始めた。現在の認定企業は17社で、起業や事業拡大に向けた多彩な支援を受けられる。信大は企業との共同研究が盛んで、特許の出願件数も地方大学でトップクラス。支援室長の松山紀里子准教授は「有望な技術が大学のどこにあるかを把握しており、起業を後押ししやすい」と説明する。認定企業の一つで17年創業の精密林業計測(伊那市)が目指すのは地場産業である林業の活性化だ。担い手不足が深刻になるなか、ドローンなどを使って伐採に適切な木を判別するなど効率化を進める。農学部の特任教授でもある加藤正人社長は「特許取得などで大学の支援を受けており経営もしやすい」と話す。金融機関も支援に前向きだ。22年には長野県が音頭を取り、八十二銀行グループや投資会社などが「信州スタートアップ・承継支援ファンド」を設立。これまでに信大発企業を含めた9社に出資した。奈良県は18社と登録は少ないが増加率は2倍でトップ。就職時の若者の県外流出に悩む奈良市は、独自の起業家育成プログラムを通じて「新興企業のエコシステムをつくりたい」(産業政策課)。7年目の今年のプログラムには6社が参加する。在宅の縫製士をネットワーク化し、高付加価値で小ロットの仕事を発注するヴァレイ(上牧町)の谷英希社長は1期生。「情報不足の奈良でモヤモヤしていたが、プログラムを通じてビジョンを形にできた」と振り返る。16年の会社設立から委託先は約300カ所に増え、年商は1億円を超える。現在は高校生への講演などにも熱心だ。伸び率6位の愛知県は自動車など基幹産業が安定していることで、逆に「新興企業不毛の地」とも言われてきた。クルマの電動化など変革の波が押し寄せるなか、大村秀章知事は「スタートアップで産業構造を変えたい」と意気込む。県が20年に開いたインキュベーション施設には300近い企業が集まる。24年秋には国内最大級の育成拠点「ステーションAi」も開く。スタートアップ育成は国をあげての課題でもある。政府は22年に「5か年計画」を策定。27年度の新興企業への投資額を10倍超の10兆円規模にすることを目指す。日本総合研究所の井村圭マネジャーは「農業や製造業の効率化など地域の課題に取り組む新興企業が増えることで産業の高度化につながる」と強調。「今後も既存企業を巻き込んで地域全体の革新につながるような支援に力を入れる必要がある」としている。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231009&ng=DGKKZO75118950Z01C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.9) エネルギー選択の時 石油危機50年(1) 脱炭素、覇権争い過熱 日本、産業存亡の剣が峰
 1973年の第1次石油危機から50年となった。第4次中東戦争に併せて産油国が発動した石油戦略は消費国にエネルギー転換を迫るきっかけになった。ロシアのウクライナ侵攻とパレスチナの衝突再燃に直面する今日の世界は、50年前から何を学ぶべきだろうか。オランダ・ロッテルダム港の突端、北海に面した一角で工事の準備が始まった。国際石油資本(メジャー)の英シェルが計画する、欧州最大級のグリーン水素の製造工場の予定地だ。洋上風力発電を使い、2025年にも生産を開始する。
●中国に主力技術
 関連企業団体の水素協議会によれば23年5月時点で計画中の水素プロジェクトは1千件超にのぼる。1年前比で5割増えた。30年までに3200億ドル(約47兆円)の投資が見込まれる。ウクライナ侵攻後、欧州起点に広がったエネルギー危機と脱炭素のうねりは、世界に構造転換を迫る。変革の奔流から見えてくるのは技術で先行し、優位に立つ国家と企業の大競争だ。別の数字がある。国際エネルギー機関(IEA)によると、太陽光発電パネルの生産シェアは中国が世界の8割超を占める。風力発電機は中期的に6~8割を握る。電気自動車(EV)向け電池の4分の3は中国企業が生産する。脱炭素の主力技術はすでに中国の手中にある。供給網を確保する経済安全保障や資源外交の重要性は、深まる分断の下で、石油の世紀と変わらないどころか、むしろ重みが増す。安価で大量の水素が手に入らなければ製鉄業は日本に残れない。電池を安定確保する道が閉ざされれば自動車産業は窮地に陥る。脱炭素時代のエネルギー覇権をかけたせめぎ合いが過熱するなかで、日本も国の存亡をかけて立ち位置をみつけなければならない。
●中東依存減らず
 そこに至る道筋をどう描くのか。そのためには50年前を振り返ってみることだ。エネルギー転換の決断を迫られた73年は、23年の相似形とも言えるからだ。石油危機は高度経済成長に終わりを告げた。田中角栄首相の秘書官として危機対策にあたった小長啓一元通商産業(現経済産業)次官は「中東産の安い石油を臨海部のコンビナートに運ぶことで成し遂げた重化学工業主導の高度成長の転換点だった」と証言する。石油危機後、政府は石油の調達先を中東以外に広げる脱中東、エネルギー利用を石油以外に広げる脱石油、そして徹底した省エネルギーに着手した。これらは成果をあげた。国の政策に基づいて電力会社が原子力発電所を建設する「国策民営」の下で、原発が次々と稼働した。単位あたりのエネルギー消費を示す、製造業のエネルギー消費原単位は90年までに73年比でほぼ半減し、世界屈指の省エネ大国になった。ところが原発事故で振り出しに戻った。石油の中東依存度は22年度に95%と、石油危機時の78%を上回る。11年の東京電力福島第1原発の事故で原発は信頼を失い、化石燃料依存度は9割近くに達した。73年の教訓は成果を誇るのではなく、その後の失速の原因と対策を知ることだ。これが脱炭素時代のエネルギー選択に欠かせない。

*3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231015&ng=DGKKZO75285630U3A011C2EA3000 (日経新聞 2023.10.15) 米、水素生産1兆円助成 三菱重工も対象 7拠点選定
 バイデン米政権は13日、全米7カ所を水素の生産拠点として選定したと発表した。70億ドル(約1兆円)を助成し、温暖化ガスを排出しない次世代エネルギーとして期待される水素の活用を後押しする。経済の脱炭素化を促して「水素大国」を目指す。三菱重工業のプロジェクトも選定され、日本への輸出を視野に入れる。水素は燃焼しても温暖化ガスを出さない。長距離トラックや工場の熱源といった電化が難しい分野での活用が期待されている。バイデン大統領は13日、北東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで「米国で製造業を振興する計画の一環だ」と演説した。2024年に大統領選挙を控え、クリーンエネルギー政策の成果と雇用創出をアピールする狙いもある。選挙の「激戦州」にある水素計画も支援対象に含めた。選定されたのはカリフォルニア州やテキサス州、ペンシルベニア州など16州にまたがる7カ所の「水素ハブ」。1カ所あたり10億ドル前後の公的資金が投じられる。

*3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231019&ng=DGKKZO75391490Z11C23A0MM8000 (日経新聞 2023年10月19日) スズキ、インド製EV日本へ 25年にも、世界供給拠点に 輸出モデル転機
 スズキはインドを電気自動車(EV)の輸出拠点に位置づけ、環境車の世界展開を加速する。2025年にも日本に輸出し、欧州向けでは資本提携するトヨタ自動車への供給を検討する。インドは市場の成長余地が大きく、製造コストも日本より安い。EVは供給網や各国の産業政策のあり方を一変させ、日本の輸出モデルも変容を迫られている。スズキのEV自社生産はインドが初めて。日本の自動車大手は研究開発や人材などの経営資源が豊富な国内工場で技術を確立し、生産モデルを海外に移転するのが一般的だった。トヨタや日産自動車は国内から始めていた。スズキはEVの中核工場をインドに位置づける格好で異例だ。インドから25年にも日本に輸出・販売するのは価格が300万~400万円程度の小型多目的スポーツ車(SUV)タイプのEVとなる。西部グジャラート州の工場に新ラインを設け、24年秋から生産する。生産は子会社のマルチ・スズキが担う。生産能力は年25万台を想定し、EVのほかガソリン車も生産。スズキは26年に静岡県で軽自動車のEV生産を始める計画で、インドの知見を日本に生かす。EV需要が大きい欧州にも輸出する。小型タイプのSUVの販売に加え、資本提携するトヨタにもOEM(相手先ブランドによる生産)供給する検討に入った。トヨタも欧州でEVのラインアップの拡充を急いでいた。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、インドの製造業全般で原価は日本より2割安い。スズキは現地の乗用車市場でシェア4割を占める最大手で、低コスト生産のノウハウを蓄積している。スズキ幹部は「(輸出先の)欧州などで中国産EVとの価格競争は激しくなる」と話す。世界でシェアを伸ばす中国勢に対抗できるコスト競争力をインドで磨く。日本は円安の影響で輸出競争力が高まっているものの、スズキはインドが最適なEV輸出拠点とみる。インドはEV市場としても有望だ。EV販売台数は23年1~6月にシェアは1%以下と、小さいながら前年同期比6倍と勢いがある。英調査会社グローバルデータによると、EVシェアの23年予測はタタ自動車が70%で突出。外資では中国・上海汽車集団系のMGモーター(10%)が上位だ。EV未発売のスズキは巻き返しが急務だった。海外市場のEVの立ち上がりは早い。「地産地消」の観点からトヨタやホンダは米国など海外でのEV生産計画を進めている。将来、日本の自動車輸出が伸び悩み、貿易収支にも影響が出る可能性がある。

<地方の人口減と影響>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230727&ng=DGKKZO73087590X20C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.27) 人口の急減しのぐ地域社会の確立急げ
 人口減少のスピードが一段と加速している。速すぎる変化は行政機能を維持するための備えが追いつかず、国土の管理もままならない状況を招きかねない。急激な人口減少をしのいでいける地域社会の確立は待ったなしである。住民基本台帳に基づく総人口は昨年1年間に51万人減少した。新型コロナウイルスの影響が和らいで外国人が29万人増え、多文化共生の取り組みが重みを増す。日本人は80万人減り、初めて全都道府県で減少した。それでも東京一極集中は変わらず、首都圏の人口比率は全国の29.3%と上昇が続いている。これらは地方の減り方が一段と顕著になり、地方から東京に人を出す余力が失われたことの表れにほかならない。日本人の減少率を都道府県別にみると、前年より1%以上減ったところが昨年の12県から21道県に増えた。従来は東北に目立ったが今年は北陸、四国、九州でも広がった。来年は半数を超えよう。民間の提言組織、令和国民会議(令和臨調)は人口の水準以上に急激な減り方に警鐘を鳴らす。ゆっくり減るなら地域社会も適応しやすいが、変化が速いと対応できず地域が一気に衰退するとの懸念だ。大切な視点である。政府は近く新たな国土計画をまとめる。原案では、2050年に人の住む地域が今より2割減るとの想定から「国土の管理主体を失い、再生困難な国土の荒廃をもたらす」と危惧する。災害や食料安全保障などのリスクも高まり、危機感を訴えるのはよいことだ。ただ対策は物足りない。公共サービスを維持するため、10万人を目安に形成する「地域生活圏」という構想は生煮えで、だれがどう担うのか、よくみえない。複数の市町村が共同で行政サービスを担う広域連携が重要になるが、これは自治体のあり方の見直しに踏み込まざるをえないだろう。人口減少が進む地域で、自治体再編、コンパクトシティー、浸水地域の居住制限、水道やローカル鉄道などインフラ網の再構築といった政策が課題とされて久しい。進まないのは住民の理解が十分に得られていないことにある。今必要なのは、人口減少下ではある程度まとまって住む「集住」という方向性を国民全体で共有することだ。それが浸透して初めて各分野の政策が前に進む。新たな国土計画はこうしたメッセージを伝える一助にしたい。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73560020S3A810C2EA1000 (日経新聞 2023.8.13) 水道代が各地で値上げ 利用者減、老朽化重く 「30年後に3倍」試算も 効率化欠かせず
 水道の値上げ実施や検討が相次いでいる。人口減に伴う料金収入の減少と老朽施設の改修費用増加で財務状況が悪化している。現状の経営を続けた場合、30年後に利用者への販売単価が3倍になると試算した地域もある。抜本的な経営改善には値上げ以外の効率化や改善策も欠かせない。岡山市は2024年度、水道料金を平均20.6%引き上げる方針だ。市の試算では31年度の料金収入が23年度比で5%減る一方、資材価格の上昇で投資額は当初想定より1割程度膨らむ。31年度までに生じる281億円の資金不足を値上げで補う。早ければ11月に料金改定の条例案を市議会に提出する。市民負担を考慮し値上げ幅は圧縮した。5月には有識者らでつくる市の審議会に25.3%の値上げ案を提示したが、施設改修などの費用の一部を企業債でまかなうよう計画を見直した。浜松市も値上げの検討に入った。人口減などに加え「電力値上げで送水などの電気料金の負担が増え経営を圧迫している」(同市担当者)。静岡県御前崎市は23~29年度の間に複数回に分け21年度比で平均約46%引き上げる。水道事業は市町村などが運営し、料金収入で経費をまかなう独立採算を原則としている。施設にかかる固定費が多く、給水人口が減れば赤字に陥りやすい。給水人口30万人以上の場合は最終赤字の市町村などの割合は1%だが、1万人未満では23%と経営は厳しさを増す。施設の老朽化も経営を圧迫する。水道施設への全国の投資額は21年度で1.3兆円と10年前から3割増加。相模原市など18市町に給水する神奈川県は今後30年間で改修に約1兆円の投資が必要とみる。いったん料金を引き上げても、人口がさらに減る中で経営体質が変わらなければ一層の値上げが将来必要になる。各都道府県は3月末までにまとめた「水道広域化推進プラン」に、水道水の販売単価を示す供給単価や給水原価の将来予測を盛り込んだ。何も対策を取らず毎年の赤字を料金収入で補おうとする場合、山梨県内の42年度の供給単価は22年度の1.5倍になる。地域によって試算方法は異なるが、青森県の十和田市などを含む上十三地区は30年後に現在の3倍、大分県の佐伯市などを含む南部地区では50年後に7倍強に膨らむ。抜本的な経営効率化を目指す動きも出ている。宮城県は22年度、所有権を持ったまま上水道と下水道、工業用水道の計9事業の運営を民間に委託するコンセッションに乗り出した。浄水場の運転管理や薬品の調達、設備の修繕といった業務を20年間一括で委託する。民間のノウハウを生かして事業の効率化に取り組み、20年で337億円の経費削減を見込む。厚生労働省によると、水道のコンセッション導入は宮城県のみにとどまる。導入ノウハウがまだ乏しいほか、生活に不可欠な水道の「民営化」への住民の抵抗感を懸念する向きもある。各地で検討が進む効率化策が経営統合を含む事業の広域化だ。香川県は18年度に全国で初めて実質的に県全域で水道事業を統合した。国は運営費の削減などが期待できるとし、都道府県に各地域での検討を働きかけるよう促している。ただ県内での広域統合を目指した奈良県と広島県では、奈良市や広島市など中心都市が統合への参加を見送った。人口が比較的多い中心都市では市の単独経営に比べ料金が上がる懸念があるなど難しさが残る。控除され、居住地の自治体にとっては減収となる。人口が多い政令市や東京23区の多くは「税の受益と負担の原則に反する」として制度と距離を置いていた。寄付の増加による税収流出の広がりを受け、減収を補うため返礼品の拡充で寄付集めにかじを切る大都市は増えている。京都市は受け入れ額が前年度比52%増の95億円で、全自治体で7番目に多かった。料亭のおせちや旅行クーポンなど「京都ブランド」を生かした返礼品を増やし、約3000品目をそろえる。「返礼品を通じて市内事業者を支援する」とする名古屋市では、市内に本社があるMTGの「リファ」ブランドのシャワーヘッドや愛知ドビーの「バーミキュラ」のホーロー鍋などが人気で、2.9倍の63億円を集めた。政令市と東京23区の計43市区では、8割で受け入れ額が増えた。神戸市の87%増、堺市の5.6倍など全国の増加率を上回る伸びも目立った。京都市の受け入れ額はほぼ同時期の寄付実績を反映した流出額(23年度の住民税控除額)を上回り、ふるさと納税が広がった15年度以降で初めて「黒字」になった。他の42市区は「赤字」が続き、このうち9割は21年度より拡大した。全国での寄付拡大のあおりを受けた形だ。寄付による流出額は横浜市が全国最多の272億円で、赤字は268億円と18%増えた。地方交付税で流出額の75%は補塡されるが、それでも最終的に60億円超の減収になる計算だ。東京23区など交付税の不交付団体には補塡もない。松本剛明総務相は1日の閣議後の記者会見で「ふるさと納税は個人住民税の一部を自主的に自治体間で移転させる仕組み。結果として住民税の控除額が(寄付の)増収額を上回る自治体は出てくる」と述べ、流出は制度上やむを得ないとの認識を示した。23区でつくる特別区長会は住民サービスに影響が出かねないとして、制度の廃止を含む抜本的な見直しを国に求めている。制度の副作用は他にもある。自治体が寄付集めにかけた経費は22年度で4517億円と前年度から17%増えた。寄付額に対する規模は46.8%と、総務省が上限に定める5割ギリギリだった。経費の約6割は地場産品である返礼品の調達費用で、地域の事業者の収益になる。残りの約4割については、返礼品の送料や寄付仲介サイトの手数料など地域との関連が薄い事業者に回りやすい。経費が増えるほど自治体の税収として地域に還元されるはずの財源が失われる。総務省は地域に回る金額を増やすため、経費の規定を見直す。10月から寄付受領証の送料などを対象に加える。自治体側も新たな経費分の規模縮小などを迫られるが、「返礼品がないと寄付は集まらない」(九州の自治体)との声は多い。明治大学の小田切徳美教授は「返礼品に頼るのではなく、寄付したくなるような事業を掲げていくことが必要だ」と指摘する。地域活性化という制度の趣旨に沿った改善が国と自治体には求められる。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2390A0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月25日) 市町村66%、病院存続困難に 人口減少巡り国交白書
 政府は25日、2021年の国土交通白書を閣議決定した。人口減少により2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性があるとの試算を示した。公共交通サービスの維持が難しくなり、銀行やコンビニエンスストアが撤退するなど、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる懸念が高まる。地域で医療・福祉や買い物、教育などの機能を維持するには一定の人口規模と公共交通ネットワークが欠かせない。人口推計では50年人口が15年比で半数未満となる市町村が中山間地域を中心に約3割に上る。試算によると、地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる境目となる人口規模は1万7500人で、これを下回ると存続確率が50%以下となる。基準を満たせない市町村の割合は15年の53%から50年には66%まで増える。同様に50年時点で銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村でゼロになるリスクがある。新型コロナウイルス禍は公共交通の核となるバス事業者の経営難に拍車をかけた。20年5月の乗り合いバス利用者はコロナ前の19年同月比で50%減少し、足元でも低迷が続く。白書は交通基盤を支えられないと「地域の存続自体も危うくなる」と警鐘を鳴らす。

*4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15585482.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2023年3月19日) どうするローカル鉄道:1 論点は
 鉄道のローカル線が岐路を迎えています。人口減少やマイカーシフトで利用者が減っていたところにコロナ禍が追い打ちをかけ、鉄道会社の経営が悪化しました。赤字路線は今後、バスへの転換を含めた議論を迫られます。地域交通の問題とどう向き合うべきか、考えます。
■集客へ企画次々、でも遠い赤字解消 JR九州「日常から乗る人、増やさないと」
 JR西日本と東日本は昨年、相次いで赤字ローカル線の収支を公表した。バスなどへの転換の意向も示し、注目を集めた。JRの上場4社のうち、その先駆けとなったのはJR九州だ。2020年5月、1日1キロあたりの平均利用者数(輸送密度)が2千人未満の線区で、収支を初めて公表した。対象となった12路線17区間全てが赤字だった。一部の路線では、国鉄民営化後の約30年間で輸送密度が9割落ち込んでいた。管内に大都市の福岡があるが、ローカル線の赤字を補うことは容易ではない。同社は19年度、輸送密度の減少が著しい6路線7区間の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げた。目的は「鉄道の持続可能性を高める」こと。年数回の協議では、乗客を増やすための企画を出し合い、実際に取り組んでいる。佐賀県内を走る筑肥線では、イルミネーション列車の運行が実現した。鹿児島県と宮崎県をまたぐ吉都線では、沿線の幼稚園児が乗る貸し切り列車を走らせた。いずれも数百人ほどの乗客で、収入は10万~15万円ほど。1億~3億円規模の赤字の解消にはほど遠い。JR九州の担当者は「状況を好転できてはいない」と認める。事態の打開には「イベントではなく、日常から乗る人を増やさないといけない」と話すが、具体的なアイデアはまだ出ていないという。検討会では、バスなどへの転換については議論していない。にもかかわらず、一部の自治体からは検討会の開催すら拒まれている。担当者は「赤字ローカル線は経営課題の一つ。国も問題意識を持って動いている中で、私たちの考え方を整理していかないといけない」と話す。
■LRT生かし、まちづくり 乗客増の富山、医療費抑制の試算も
 公共交通を生かしたまちづくりで成功している地方都市がある。立山連峰を望む人口約40万人の富山市の中心部では、ライトレール(LRT)と呼ばれる次世代型の路面電車が走っている。JR西日本の富山港線の廃線にともない、線路を引き継いでLRTを導入。市内の路面電車とつなぎ、便数も大幅に増やした。利用者は増えた。LRTで市役所に来ていた女性(72)は「数年前に車を手放したので、出かける時には(LRTを)使います」と話す。また、夫の転勤で移り住んだという30代の女性も「引っ越す前は地下鉄に慣れていたので、車社会に不安を感じていた。来てみたら街中での買い物や子どもの習い事にLRTが利用できて便利です」と話していた。富山市は、公共交通を軸にした「コンパクトシティー」を掲げ、公共交通の沿線に新たに家を建てたり、部屋を借りたりする世帯に補助金を出している。こうして、公共交通の沿線に自然に人が集まって暮らすようになってきた。さらに、公共交通が高齢者の外出機会を増やすという効果も生まれている。65歳以上が中心部に行く場合、運賃を100円にする「おでかけ定期券」がある。市と京都大学などの調査によると、定期券を持っている人は持っていない人に比べて出かける頻度が高く、歩数も多い。市全体の医療費を年間8億円抑えることにつながる、という試算もある。前富山市長の森雅志さんは言う。「公共交通を軸にしたまちづくりをすると訴えた時、『なぜ今さら路面電車なのか』という声もあった。しかし、1人1台の車社会は質の高い暮らしとは言えない。街中の本屋に行き、映画を見て、食事をする。人と人との出会いが生まれる。公共交通は社会の公共財なのです」
■たどり着いた「上下分離」 5年かけ議論、負担増を直視 滋賀
 ローカル線の運営見直しの選択肢の一つに「上下分離方式」がある。固定費が多い鉄道施設を自治体が所有することで、鉄道会社の経営を立て直す方法だ。滋賀県を走る近江鉄道は沿線自治体との議論を重ね、この上下分離方式にたどり着いた。1896年創業の近江鉄道は「ガチャコン」の愛称で親しまれ、県東部から大阪、京都へ通勤客らを送り出す。ただ、乗客は減り、2022年3月期決算まで28期連続の営業赤字となっている。民間企業だけで維持するのは困難と判断し、自治体に協議を申し入れたのは16年。「自治体からは当初、『本当に赤字なん?』と思われていた。信頼関係がなかった」。担当した服部敏紀・総合企画部長は話す。県と沿線10市町に経営状況を知ってもらう勉強会から始め、18年12月に本格的な協議がスタートした。ときに怒号も飛んだが、議論の羅針盤となったのは第三者による評価だ。県などは外部の調査会社に委託し、鉄道、バス、BRT(バス高速輸送システム)、LRT(次世代型路面電車)の四つを比べた。BRTとLRTは初期投資で100億円以上かかる。バスは30億円もかからず、毎年の赤字額は4.3億円で鉄道より8千万円少なかった。一見有望に見えるが、運転士は人手不足で、運行の維持には懸念があった。もう一つの調査で、交通インフラとしての効果を数字で示した。もし鉄道を廃止すれば、代わりに病院や学校への送迎にバスを使うことになり、渋滞に対応するための道路整備も必要になる。鉄道の維持に年6.7億円が必要なのに対し、こうした代替手段には年19億~54億円かかると試算された。「鉄道にかかる費用は仕方がないと思ってもらえたのだろう」と服部さんは話す。協議は約5年かけ結論に至った。24年度からの転換が決まり、地元は数億円の負担が見込まれる。服部さんは「地域にこの鉄道が必要なのか、関係者が自問自答できた」と言う。
■公共交通維持へ、「交通税」議論
 公共交通の維持費を誰が負担するか、も大きな論点だ。滋賀県は県内の鉄道・バス路線の維持のために使う「交通税」の議論を始めた。実際に導入されれば、全国初となる。使い道は、運行費用や設備投資への補助が想定される。個人県民税や法人事業税などに上乗せする「超過課税」という手法が考えられるという。公共交通が県民の足となっていることを踏まえ、広く負担してもらえるようにする。「鉄道は事業者による営利事業とされるが、道路の場合は傷めば税金で補修される。同じ社会インフラとして位置づけ、みんなで支えることも考えるべきだ」。県の担当者は、税金を使う理由をこう説明する。公共交通の整備や維持に公費を使うことは、諸外国でも珍しくない。県によると、交通税が導入されているフランスでは、法人などに対し、従業員の給与総額の数%を上限に税金をとる。ドイツや英国、米国でも、道路の利用やガソリンの購入時などに税を徴収しているという。
■「鉄道である必要ない」「安易な廃線には疑問」
 アンケートは、ローカル鉄道が走る道府県の住民や鉄道ファンの方々からも寄せられました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/173/で読むことができます。
 ●国が責任を持って JR3島会社は民営化の際、経営安定基金の運用益で赤字を補填(ほてん)する話であったが、政府による低金利政策のために、それが成り立たなくなった。路線存続に関わるほどの赤字分は、国が責任を持って税金を投入するか、北海道と四国は再度国有化するべきである。(三重、男性、60代)
 ●私たちの選択の結果 鉄道は私たちの財産。軽々に廃止すべきではありませんが、ローカル線の厳しい数字を目の当たりにすれば、廃止やむなしかと思います。道路への投資を最優先にし、私たちが利用しないという選択をした結果ではないでしょうか。(広島、男性、70代)
 ●線路は公道と同じに 上下分離方式にかえ、線路は公道と同じ扱いにする。運行は民間に委託し赤字分を沿線自治体が負う。ヨーロッパでの路面電車などはそのような運用形態で公共交通を維持している。沿線民の心には自分たちの足は自分たちで守るという意識があるのだろう。(埼玉、男性、60代)
 ●鉄道が残っていれば 利用者が少ないからと、ローカル鉄道を安易に廃線にすることが本当に正解なのか疑問。私が住む町でも十数年前に廃線になった。その後、町に新興住宅地ができ、若い人が増えた。通勤や通学の送迎で道路の渋滞がすごい。今になり、遅延のほとんどない鉄道が残っていれば、と語る人は多い。(福岡、女性、40代)
 ●鉄道である必要はない 利用者の少ない場所は維持費、環境などを考えても代替交通機関を利用するべきだ。そもそも本数も少なく、ピンポイントの運行ならば鉄道である必要はないと思う。高齢化も進んでいる中、駅までの足などを考えても、バスなどで地域をまわる方がメリットがある。(東京、女性、30代)
 ●乗客は高校生とオタク 趣味で稚内から那覇まで、JR、私鉄、3セク、公営鉄道の線路を乗りつぶした「乗り鉄」です。ローカル線の主な乗客は高校生と鉄道オタクです。ほとんどの路線に並行して税金で造った道路があり、ビジネスの観点では競争は無理です。バス転換はやむを得ないと思います。(東京、男性、60代)
 ●矮小化すべきでない ローカル鉄道の存廃にだけ焦点をあてる近視眼的な見方に強烈な違和感を覚えた。地方交通の問題はローカル鉄道に矮小(わいしょう)化すべきではない。人口密集回避、国土保全、リスク分散の観点から「地方」を位置付けるべきである。(富山、男性、60代)
 ●街のグランドデザインを 街や集落のグランドデザインを、若い住民の意見を採り入れて検討していく必要がある。古くからの住民は、街や駅前がにぎわっていた情景を思い浮かべがちだと思うが、10年、20年後の財政負担を担う人たちの意見を重視すべきだ。(東京、男性、60代)

*4-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231023&ng=DGKKZO75489820S3A021C2PE8000 (日経新聞社説 2023.10.23) 技能実習の轍を踏まない制度に整えよ
 外国人労働者の受け入れのあり方を検討する政府の有識者会議が、廃止される技能実習制度に代わる新制度の素案を提示した。1年を超す就労など一定の条件を満たせば転職ができるようにする。技能実習は賃金不払いなどの問題が絶えず、転職が原則できないことで多くの失踪者を生み、人権侵害にあたると批判されてきた。労働環境を改善するとともに、転職を容認するのは当然である。新たな制度は3年間の就労を基本とする。日本語や技能の試験に合格すれば、2019年に創設した在留資格「特定技能」に移行できる。特定技能と同じように受け入れ人数の上限を定め、対象業種も一致させる。新制度と特定技能を一体的に運用する形になる。本来は特定技能に統合した方がわかりやすいが、長期就労ができるよう熟練技能者に育成する道筋を示した点は評価できる。最も重要なのは技能実習と同じ轍(てつ)を踏まないことだ。外国人が日本人と同等に労働者の権利を持ち、活躍できるよう実効性の高い制度に整えるべきだ。転職は同じ職種に限定し、基礎的な技能検定と日本語試験の合格を条件とした。ハードルが高くなりすぎないよう配慮が必要だ。学習や受験の機会を与えない企業をチェックする仕組みも要る。外国人受け入れの初期費用を転職先の企業も一部負担する案を示したが、両社が納得できる負担割合を決めるのは難しいのではないか。長く働いてもらえるよう待遇改善に努めるのが本筋だろう。転職のマッチングは受け入れ窓口の監理団体のほか、監視機関やハローワークが担うという。ノウハウが乏しいため、職業紹介会社の活用も検討する必要がある。監理団体は企業と癒着するケースもあり、許可を与える要件を厳格にすることが欠かせない。不適格な団体を排除する審査基準を明確に示してほしい。来日時に支払う多額の手数料が負担となる外国人は多い。素案では受け入れ企業に一定の負担を求める考えを示した。手数料のさらなる高騰につながらないよう監視する必要もあるだろう。手数料の透明化や海外の悪質な送り出し機関の排除は政府が取り組むべき課題だ。日本語学習や生活の支援は自治体とNPO任せにしてきた。今度こそ政府が前面に立たなければ、働く場として「選ばれる国」の実現は遠のく。

*4-5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA27D510X20C23A6000000/ (日経新聞 2023年8月6日) 外国人の家事代行を拡大へ 政府、在留延長や仲介制度
 政府は外国人の家事代行サービスを広げる。従事者の在留を一定の条件のもとで3年程度延長したり、マンション管理会社が利用者との契約を仲介できる制度を導入したりする。外国人材の受け入れや女性活躍を後押しする。外国人による家事代行は2017年から国家戦略特区で始まった。母国で家事代行の国家資格を取得したフィリピン人が炊事や洗濯、掃除などを担う。最低限の日本語能力や1年以上の実務経験などが求められ、22年度末でおよそ450人を受け入れた。新型コロナウイルス禍で外国人の入国は減った。家事代行をする外国人の在留期間は最長5年と定められている。20年に入国制限が始まった時より前に家事代行を目的に入国した外国人には現行の最長5年に加えて3年程度の在留延長を認める。マンションの管理会社などがサービスを仲介できるようにもする。今は政府の指針に基づき利用者が家事代行業者と直接契約しなければならない。内閣府や法務省などは23年度中にも指針の解釈を変更し、利用者と事業者が契約を結ぶ際に第三者の法人による仲介を認める。管理会社を通じて契約を得られるようになれば代行業者は同じ建物でまとまった顧客を獲得できる。1日のうちに同じ建物の世帯や近接した地域で順番を組んで効率よくサービスできるようになる。外国人の家事代行を認める特区は東京都や神奈川県、大阪府、兵庫県、愛知県、千葉市にある。22年度はおよそ17万回の利用があった。利用世帯数は5400世帯ほどで17年度の9倍程度に増えた。経済産業省が野村総合研究所に委託した調査によると、家事代行サービスの国内市場規模は17年の698億円から25年に少なくとも2000億円程度に拡大する。需要を見込むのは、共働き世帯などが多く入居する都市部の高層マンションなどだ。フィリピン人による英会話指導付きの家事代行サービスを展開する事業者もある。家事代行サービスの普及は女性活躍の推進に資するとの見方もある。内閣府が22年11月から23年1月に実施した調査によると、育児での配偶者との役割分担で家事代行などの外部サービスを利用したいかの質問に「利用しながら家事をしたい」の回答が74.1%に達した。19年の前回調査より40.6ポイント上昇した。大手のベアーズでは利用者の半数は30〜50代で子育てをしている共働き世帯が占める。世帯年収は800万〜1千万円が多い。都心部でみるとマンション世帯の利用が大半という。業界は人手が不足する。サービス提供数は年10%以上で伸びており、需要に供給が追いついていない状況が続く。ベアーズでは月2500人のスタッフが稼働し、うち240人がフィリピン人だ。

*4-6-1:https://www.at-s.com/sp/news/article/national/1343644.html?lbl=861 (静岡新聞 2023.10.25) 歴史が生んだ「世紀の難問」…イスラエル、パレスチナの争いはなぜ始まった ユダヤ人の苦難、アラブ側の抵抗、わずかに光が差したことも…共同通信記者が基礎から解説
 日本から9千キロ以上離れた中東のイスラエル、パレスチナで大規模な戦闘が続いている。発端はパレスチナ自治区ガザを実効支配している「ハマス」というイスラム組織が、10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けたことだった。イスラエル側は報復攻撃に乗り出し、これまでに計7千人以上が命を落とした。犠牲者には幼い子どもや、紛争とは関係のない観光客も大勢含まれている。そもそもイスラエルとパレスチナはなぜ対立しているのか。争いの火種はいつ埋め込まれたのか。長い歴史をひもとき、背景を探った。
▽イスラエル建国とパレスチナの抵抗
 イスラエルとパレスチナが紛争を続ける「パレスチナ問題」の発端は、第2次大戦直後の1948年にまでさかのぼる。イスラエルが建国されてユダヤ人が集まってきたことで、もともとそこに住んでいたアラブ人約70万人が自宅を追われ、難民となってしまったのだ。そうしたアラブ人は「パレスチナ難民」と呼ばれている。イスラエルの占領に反発し、独立国家を求めるパレスチナの抵抗の歴史が今に続いている。まず第2次大戦後の歴史を見てみよう。イスラエルの建国を決めたのは、1947年の国連総会決議だ。パレスチナの地をユダヤとアラブに分割し、聖地エルサレムを国際管理下に置くと決めた。1948年、決議に基づいてイスラエルが独立を宣言したが、これを認めない周辺のアラブ諸国は宣戦を布告し、一斉にイスラエルに攻め込んだ。これが第1次中東戦争と呼ばれ、その後、双方は1973年までに4度の戦火を交えることになった。中でも1967年の第3次中東戦争をイスラエルは「奇跡」と呼ぶ。わずか6日間で圧勝し、エジプトのガザ地区、ヨルダンの東エルサレムとヨルダン川西岸などを占領したためだ。パレスチナ人が占領に不満を強めていた1987年12月、ガザから反イスラエル闘争の「インティファーダ」が始まった。投石するパレスチナ人と圧倒的武力で抑え付けるイスラエル側―。この抵抗の中核として生まれたのがイスラム組織のハマスだ。住民への福祉事業も実施し、貧困層を中心に根強い支持を得ていった。
▽はかなく消えた「希望の光」
 一方、パレスチナ人の代表として国際社会で認められていたのが1964年創設のパレスチナ解放機構(PLO)だ。イスラエルと秘密交渉を進め、PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相が1993年9月、歴史的な「パレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)」に調印。ガザとヨルダン川西岸を自治区とし、聖地エルサレムの帰属や難民の扱いはその後の話し合いで決めることにした。インティファーダは収束し、パレスチナ国家樹立に希望の光が差した。だが和平の機運は長続きしなかった。ラビン首相は1995年、和平に反対するユダヤ教過激派に暗殺され、1996年にはハマスなどによる自爆テロが頻発した。和平交渉は2000年に決裂し、ガザとヨルダン川西岸全土で自爆テロが繰り返される第2次インティファーダが巻き起こった。和平交渉はその後もアメリカ政府の仲介などで繰り返されたが、いずれも頓挫した。国際社会はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を提唱しているが、実現の見通しはない。
▽ガザは「天井のない監獄」
 ハマスは2006年、自治区の評議会選で圧勝したが国際社会に承認されず、2007年にガザを武力制圧した。イスラエルはガザとの境に壁を建設して封鎖。人の出入りも制限されたガザは「天井のない監獄」と呼ばれている。イスラエルはヨルダン川西岸の占領地でユダヤ人入植地を建設し、事実上の領土拡張を続ける。国際法違反だと非難する国際社会の声を無視し、パレスチナ人の住宅をブルドーザーで押しつぶしている。イスラエルとハマスは2006年、08~09年、12年、14年、21年と戦闘を重ね、多くの犠牲を生んだ。一方で2020年以降には、アラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国がパレスチナ問題を置き去りにしたままイスラエルと国交を正常化した。
▽ユダヤ人、苦難の2千年
 歴史的経緯から極めて特殊で複雑な状況にあるイスラエル。日本の四国程度の面積の2万2千平方キロに、約950万人が暮らす。その約74%がユダヤ人だ。パレスチナ問題の背景には2千年を超えるユダヤ人の苦難が横たわっている。紀元前10世紀ごろ、ヘブライ人(後のユダヤ人)の王国がパレスチナにできたが、紀元前6世紀、新バビロニアに滅ぼされ、住民は一時とらわれの身になった。さらに2世紀前半、古代ローマがユダヤ人を聖地エルサレムから追放し、世界各地に散らばった。ディアスポラ(離散)と呼ばれる。辛酸は近現代でも続いた。ヨーロッパのユダヤ人はキリスト教社会で差別に直面。19世紀のロシアでの迫害もあり、国家樹立に向けた意識が高まった。第2次大戦後には、独裁者アドルフ・ヒトラーが率いたナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の実態が明らかになり、ポーランド・アウシュビッツの収容所などで約600万人が殺害されたといわれる。国が滅ぼされ、土地を追われ、民族離散の悲劇に見舞われ―。苦難の歩みを続け、安住の地を求めてきたユダヤ人にとって、イスラエル国家建設は歴史的悲願だった。▽閉じられていたふたが…。イスラエルとパレスチナの憎しみの連鎖に終わりが見える兆しはない。今からちょうど50年前の1973年10月6日、ユダヤ暦の祝日にエジプトとシリアがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けたのが第4次中東戦争の始まりだった。今回、ハマスがイスラエルを奇襲したのは10月7日、ユダヤ暦の祝日だった。「開戦日」を合わせた攻撃だったとみられている。東京大の鈴木啓之特任准教授は「今回のハマスの奇襲は閉じられていた問題のふたを暴力的に開けた」と指摘。パレスチナ問題の解決に取り組む必要性を改めて強調した。
【そもそも解説 「パレスチナ」って?】
 東地中海とレバノン、シリア、ヨルダン、エジプトに囲まれた地域。イスラエル領を除くと地中海沿岸のガザ地区と、主に乾燥した丘陵地帯のヨルダン川西岸から成る。ガザ地区の面積は福岡市より少し広い365平方キロ、西岸は三重県と同じくらいの5655平方キロ。パレスチナ中央統計局によると人口は約548万人。パレスチナ人は「パレスチナ地方出身のアラブ人」の意。西岸のラマラに、治安や行政権限を持つパレスチナ自治政府の議長府が置かれている。議長はアッバス氏。イスラエルの公用語はヘブライ語だが、パレスチナはアラビア語。宗教は住民の約92%がイスラム教、約7%がキリスト教。独自の通貨は持っておらず、イスラエルの通貨シェケルが使われている。
【ちょっと深掘り 中東の周辺国の動きは?】
 パレスチナ人はアラブ民族で、大半がイスラム教を信仰している。アラブ諸国に加え、ペルシャ民族のイランもイスラム教の国でパレスチナ支持だ。ただ近年、アラブ諸国は中東でのイランの影響力を警戒し、「イランの敵」であるイスラエルに接近、パレスチナ問題はほぼ棚上げにされていた。今回のイスラエルとハマスの戦闘で、イスラエルへの怒りが再び民衆に広がっている。アラブ諸国はイスラエルと4回交戦したが、1979年にエジプト、1994年にヨルダンがイスラエルと平和条約を締結。2002年、アラブ諸国はパレスチナ国家樹立などが実現すれば和平を進めるとの案を採択した。2003年のイラク戦争でイスラム教スンニ派のフセイン政権が崩壊し、イラクにシーア派政権が樹立された。これに伴いシーア派大国であるイランの力が強まり、中東にシーア派の勢力圏を形成した。イランと敵対するイスラエルは危機感をスンニ派のアラブ諸国と共有した。2020年にアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンがイスラエルと国交を正常化。大国サウジアラビアも正常化交渉に乗り出した。イスラエルのネタニヤフ首相は今年9月の国連総会一般討論で「サウジとの歴史的な和平は間近だ」と演説した。イランの核兵器開発を恐れるアメリカは、イスラエルとアラブの関係改善が「イラン包囲網」になるとして融和を歓迎した。パレスチナ問題は事実上、置き去りにされていた。ただ今回のイスラエル軍とハマスの戦闘で、パレスチナ人の犠牲が連日伝えられ、中東各国は衝撃を受けた。サウジはイスラエルとの正常化交渉を保留。イランもパレスチナに連帯し、中東に広がっていた融和の機運は一気に消えた。

*4-6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRBQ6JJNRBQUHBI017.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2023年10月22日) イスラエル、ガザ北部住民に再び退避を警告 地上戦へ「攻撃を増加」
 イスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエル軍は22日、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区の北部の住民に対して改めて退避を要求し、地上戦など「次の段階」への準備として攻撃を増やしていると明らかにした。2週間にわたる空爆と完全封鎖で深まっているガザの人道危機に対応するため、国連などによる支援物資の搬入は2日連続で22日も行われた。ガザ市周辺では21日午後、イスラエル軍機がビラをまいた。「北部にとどまることは命を危険にさらす。南部へ退避しない者はテロ組織の仲間とみなされる可能性がある」と記されていた。同軍は13日、地区の北半分に住む約110万人に対し、南側への退避を要求。依然として北部にとどまる住民が多く、改めて警告した。イスラエル軍のハガリ報道官は22日の会見で「戦争の次の段階で(敵からの)リスクを減らすため、北部にあるハマスの拠点への攻撃を増やしている」と述べた。ガザ北部での作戦について、地元紙ハアレツは21日、地上作戦の準備として、空軍が過去数日間にガザ地区北部一帯の高層ビルを破壊したと報じた。ハマスが監視や狙撃に使うのを防ぐ狙いだという。イスラエル人行方不明者の捜索のため、ガザ地区の境界線付近での越境作戦も続けているという。軍トップのハレビ参謀総長も21日、前線に展開する部隊の司令官らと面会。「我々はガザ地区に入る。ハマスの工作員とインフラを破壊する作戦任務に入る」と決意を語った。「ガザは複雑な密集地だ。敵は多くのものを用意しているが、我々も準備している」と述べ、市街戦に備えていることを示唆した。この間も空爆は依然続き、ガザ保健省によると、死者は4651人に上っている。
●国連5機関「支援物資は十分にはほど遠い」
 イスラエル軍は22日、ヨルダン川西岸地区のジェニンでも、モスクの地下につくられた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊したとしている。人道危機が深刻化するガザ地区には21日、人道支援物資を積んだトラック20台が隣国エジプトから初めて入った。国境検問所を管理するエジプトとガザを封鎖するイスラエルが米国の仲介で合意し、実現した。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、20台のうち13台の積み荷は医療関係の物資で、外科治療の薬や医療資材、慢性病の薬など。5台は缶詰やパック詰めの食料で、残る2台は「2万2千人のわずか1日分」の飲料水ボトル4万4千本で、ガザの人口約220万人の1%向けの1日分でしかない計算だ。世界保健機関(WHO)や世界食糧計画(WFP)など、国連の5機関は21日に連名で声明を発表。同日の搬入は「小さな始まりに過ぎず、十分にはほど遠い。大規模で継続的なものでなければならない」として、22日以降も規模を拡大して続けるよう求めた。追加搬入については決まっていなかったが、国連を交えた当事者間の交渉の末、AFP通信によると、22日午後になって、第2陣としてトラック17台がエジプト側からガザ側に入ったという。
     ◇
●米国が国連安保理の決議案、イスラエルの自衛権を明記
 イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの軍事衝突をめぐり、米国は21日、イスラエルの自衛権について明記した、独自の国連安全保障理事会の決議案を各理事国に示した。ロイター通信が報じた。ロイターによると、決議案では、イスラエルには国連憲章に基づく自衛権があると主張。また、ハマスへの支持を鮮明にするイランに対し、「地域の平和と安全を脅かすハマスなどの組織への武器供給」をやめるよう要求した。一方で、激しさを増しているイスラエルとハマスの軍事衝突についての停戦などには触れていないという。安保理は18日、10月の議長国ブラジルが提出した、戦闘の「中断」を求める決議案を否決。「決議案にはイスラエルの自衛権についての言及がない」として、米国が拒否権を行使していた。

*4-6-3:https://www.yomiuri.co.jp/world/20231027-OYT1T50222/ (読売新聞 2023/10/27) イスラエル・ハマス双方に戦闘中断要請、EU首脳会議採択…慎重姿勢のドイツが妥協に転じる
 欧州連合(EU)は26~27日、ブリュッセルで首脳会議を開き、パレスチナ自治区ガザへの人道支援を優先するため、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの双方に戦闘中断を要請する文書を採択した。27か国首脳が署名した文書は「国際人道法に従ったイスラエルの自衛権を強く支持する」とイスラエルの反撃への支持を明記。ガザの人道危機に深刻な懸念を表明し、「人道回廊の設置や(戦闘)中断を含む必要な措置を通じ、支援を要する住民に援助が届くよう要請する」と盛り込んだ。戦闘中断については、フランスやスペインなど多数が支持する一方、ドイツなどは「中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」と慎重な姿勢を示していた。米国が戦闘中断呼びかけに傾く中、妥協に転じた。これにより、欧米はイスラエルの攻撃を支持しつつ、地上侵攻の前にガザの人道危機への対応を求めることで足並みをそろえた。一方で、アラブ主要9か国の外相は26日、国連安全保障理事会に即時停戦を求める共同声明を発表した。イスラエルによるガザ空爆は続き、ガザの保健当局は26日、今月7日以降の死者は7028人に上ると発表した。イスラエル軍によると、ハマスからイスラエルに発射されたロケット弾も7000発を超えた。イスラエル軍は26日、ガザへの攻撃で、ハマスの情報局ナンバー2のシャディ・バルード氏を殺害したと発表した。7日のイスラエルへの奇襲を計画した一人としている。イスラエル政府はガザに連れ去られた人質を少なくとも224人、うち外国籍の最多はタイの54人と発表した。

*4-6-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN26DSX0W3A021C2000000/ (日経新聞 2023年10月27日) 国連総会、ガザ停戦決議案巡り会合 中東・アジアが主導
 国連総会は26日、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突を巡る緊急特別会合を開いた。会合冒頭ではイスラエルとパレスチナが互いに非難を繰り広げた。27日にはアラブ諸国が起草した、即時停戦や人道回廊の設置、人質解放などを求める決議案を採決する見通しだ。7日のハマスによる攻撃で衝突が始まって以来、同議題で初の総会の会合となった。会合に先立ち、アラブ諸国を代表してヨルダンがパレスチナ自治区ガザなどでの停戦決議案を出した。イスラエル、ハマス両者への直接的な非難は盛り込んでいない。総会の決議は多数決で採択される。法的拘束力はなく、国際社会の意思を示すことが主眼だ。今回、開催を要請したのはアラブ諸国とロシア、バングラデシュなどアジア諸国だ。背景の一つには安全保障理事会の機能不全がある。安保理の決議は法的拘束力がある。同様の決議案が何度も提案されたものの、米国やロシアといった常任理事国が拒否権を行使するなど、採択に至っていない。もう一つがイスラエルと、同国への支援姿勢を鮮明にする米国への反発の広がりだ。イスラエル軍の空爆でガザの市民の犠牲が増え続けている。空爆停止を求める国際社会の声は強まり、25日には国連のグテレス事務総長がガザの人道危機を巡り「(イスラエル軍の攻撃は)明白な国際人道法違反だ」と述べた。米国も人道的観点から戦闘の一時停止の検討を求めている。26日には各国代表の演説が始まった。最初はパレスチナのマンスール国連大使で、時折声を詰まらせながら多くのガザ市民が犠牲になっている現状を訴え「これは戦争ではなく民間人に対する攻撃であり、犯罪だ」と主張した。「虐殺を止め、人道支援を届けるためにこの決議案に投票してほしい」と語気を強めた。一方、イスラエルのエルダン国連大使は「これはパレスチナ人との戦争ではなく、ハマスとの戦争だ」と強調した。アラブ諸国が提案した決議案にハマスを批判する文言が含まれていないことに対し「恥辱だ」と非難した。停戦決議案を提出したヨルダンのサファディ外相は終始イスラエルを激しく非難し、「安保理が責任を果たさないため、代わりに我々が決議案を提出する。イスラエルがこの決議案を無視することは誰もが知っているが、それでも投票して欲しい」と呼びかけた。フランシス国連総会議長は「ハマスの攻撃は残忍であり、容認できない。同様にイスラエル軍による罪のないパレスチナ自治区ガザ住民への攻撃も深く憂慮する。自衛権は無差別な報復を合法的に許可するものではない」と双方を非難した。人道支援の重要性も強調した。

*4-6-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231029&ng=DGKKZO75689720Z21C23A0MM8000 (日経新聞 2023/10/29) ガザ地上作戦拡大 イスラエル「戦争の新たな段階」 空爆、地下拠点150カ所
 イスラエル軍は27日夜(日本時間28日未明)、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへの空爆と地上作戦を拡大させた。28日にかけて戦車も投入し、全面的な地上侵攻に向け一段と圧力を強めた。イスラエルのガラント国防相は28日、「我々は戦争の新たな段階に入った」と述べた。ガザでの作戦は新しい命令があるまで続くと主張した。「新たな段階」の意味は明らかにしていない。イスラエル軍は28日午前、前夜にハマスの地下拠点約150カ所を空爆したほか、7日の奇襲を指揮したハマス司令官の1人を殺害したと発表した。海上からもガザを攻撃したという。イスラエルメディアによると、軍のハガリ報道官は28日午前、地上作戦を継続中だと説明した。「前進している」と述べ、作戦が成果をあげていると主張した。ハマス幹部の殺害で自らに有利になっていると強調した。ハマスは27日夜、ガザ北部ベイトハヌーンや中部ブレイジでイスラエル軍と「激しい戦闘」が起きていると明かした。ハガリ氏は27日の会見で「地上軍の作戦は今夜、拡大する」と表明した。規模は不明だが、イスラエル側はなお全面的な地上侵攻ではなく、準備段階という立場を取っているもようだ。イスラエルは13日以降、複数回にわたり、夜間を中心に地上部隊をガザに送り込んだ。人質の捜索や本格的な侵攻に備えたハマスの拠点破壊などが目的で、25~26日には戦車も投入したが、すぐに撤収させていた。地上作戦の「拡大」を宣言した今回は長時間、ガザ内部での作戦を続ける可能性がある。イスラエル軍は28日、ガザ北部の住民に対し、南部に避難するよう改めて呼びかけた。ガザでは27日以降、通信障害が深刻になっている。パレスチナの通信事業者は同日、空爆で電話やインターネットが「完全に停止した」と明らかにした。民間人の避難やけが人の救出も難しくなっているとみられる。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は28日、ガザの拠点や職員と連絡が取れないと明らかにした。イスラエル軍は27日、ハマスがガザ北部にあるシファ病院の地下に拠点を築き、病院の職員や患者を「人間の盾」に利用していると主張した。ハマスは声明で「噓だ」と否定した。

*4-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231026&ng=DGKKZO75590470V21C23A0EA1000 (日経新聞 2023.10.26) 中国不動産・碧桂園「デフォルト該当」 ドル建て債、金融機関が通知
 中国不動産最大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)のドル建て債の利払いを巡り、債券の事務手続きを担う金融機関が債権者に対し「デフォルト(債務不履行)に該当する」と通知したことが25日、わかった。米ブルームバーグ通信が報じた。碧桂園は18日に米ドル債の約1540万ドル(約23億円)分の利払いの猶予期限を迎えたが、複数のメディアが支払いを確認できないと報じていた。ブルームバーグによると、米ドル債の事務を担当するシティコープ・インターナショナルが25日までに、期限内に利払いをしなかったことがデフォルトに該当すると債権者に伝えた。碧桂園の海外債券がデフォルトすれば初めてとなる。リフィニティブによると、同社のドル建て債の発行残高は99億ドル(約1兆4800億円)にのぼる。日本経済新聞は利払いやデフォルトについて碧桂園に問い合わせたが、返答を得られていない。碧桂園は18日、「期限内に返済義務の全ては履行することができない見込みだ」と声明を出していた。利払いの有無については明らかにしなかった。デフォルトは通常、当該企業の発表や格付け会社の認定で周知される。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月末、碧桂園の長期格付けをデフォルトに近い状態を示すCaに格下げした。碧桂園は8月に「クロスデフォルト」が起こる可能性についても開示した。1回でも不払いが発生すると他の債券もデフォルトしたとみなす仕組みだ。今回の米ドル債が正式にデフォルトと認定されれば、他の債券にも連鎖が起こる可能性がある。碧桂園は6月末時点で1兆3642億元(約27兆9000億円)の負債を抱え、販売不振により資金繰り難に陥っていた。最大手がデフォルトを起こせば不動産業界全体の信用不安が深まり、中国経済の足かせになりかねない。

<大都市への過度の人口集中の不合理>
*5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15775405.html (朝日新聞 2023年10月24日) 南極溶けるの、止められない 温室ガス削減でも、海面5メートル上昇か 西岸の氷、英チーム予測
 地球温暖化の進行によって、温室効果ガスの排出を減らしても今世紀中は南極西岸の棚氷が溶けるのを止められないおそれがあると、英国南極観測局の研究チームが発表した。すべて溶ければ将来的に世界の海面を最大約5メートル上昇させる可能性があるという。チームはスーパーコンピューターを使った予測モデルで、南極西岸のアムンゼン海の棚氷を分析。今後の温室効果ガスの排出ペースに応じて五つのシナリオをあてはめたところ、産業革命以降の気温上昇を1・5度以内に抑えたとしても棚氷が溶けるという結果は変わらなかった。20世紀に氷が溶けた速さの3倍という。棚氷は、大陸を覆う氷床が海に張り出した部分で、溶ければ大陸を覆う氷床が海に流れ出しやすくなる。この地域には南極の1割の氷があるといい、正確な試算はしていないとしながら、世界の海面を最大5・3メートル上昇させうる量だという。南極では、今年9月に冬の海氷面積が観測史上最小になるなど、温暖化の影響が顕著に現れている。対策を強化しても悪化を止められなくなる「ティッピングポイント(転換点)」に至っているおそれがある。チームのケイトリン・ノートン博士は「私たちは西南極の氷の融解をコントロールできなくなってしまった。何十年も前に気候変動への対策が必要だった」と指摘した。一方、「化石燃料への依存を減らす努力を止めてはならない。海面水位の変化が遅ければ遅いほど、政府や社会は適応しやすくなる」と話した。論文は英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに掲載された。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74073330R30C23A8EA1000 (日経新聞社説 2023.9.1) 大震災100年、首都防災の死角減らせ
 人とモノと機能が集積した東京を揺さぶる大地震は、必ずまた来る。10万人を超す犠牲者を出した関東大震災から、1日で100年だ。改めて教訓に学び、令和の首都防災の死角を減らしていく契機にしたい。丸の内の路面には深い亀裂が口を開け、日本橋や銀座も焦土と化した。関東大震災直後の東京都心の惨状は、直下型地震の脅威をまざまざと伝える。
●リスク増す複合災害
 関東大震災でもっとも大きな人的被害を出したのは火災だ。陸軍の工場跡地で大勢を巻き込んだ火災旋風がよく知られるが、これは実は台風シーズンだったことと関係している。列島付近を進む台風による強風の影響で、火勢が大きく増したとされるのだ。地震に別の災害の影響が加わるこうした「複合災害」は、人口集中に歯止めがかかっていない東京では従来に増して大きなリスクになっている。例えば関東大震災以降、都心で震度6クラス以上の揺れは起きていない。仮に隅田川や荒川など主要河川の堤防が破損した場合、人口の多い下町は大水害にも見舞われることになる。真夏の地震なら、近年の酷暑も別次元の脅威となろう。感染症のまん延下では、避難所での密回避が難しい現実も私たちは目の当たりにした。複合災害への対応は緒に就いたばかりだ。早急に対策を具体化していく必要がある。東京での直下型地震が特別なのは、国の中枢を直撃する点だ。政府は業務継続計画(BCP)を策定しており、各省庁も個別のBCPを持ってはいる。ただ、未体験の直下型地震がどれだけのダメージを霞が関の官庁街に与えるかは読み切れない部分もある。手元のBCPが通用しない可能性もあるだろう。そもそも巨大地震のリスクが非常に高い地域に、中央政府や立法、司法の機能がこれほど集積していること自体が異例だ。1つの地震が国の存亡にかかわる恐れすらある。リスク分散が危機管理の基本であることに照らせば、首都のリスク管理は十分とは言えない。コロナ禍でも東京一極集中の問題は顕在化した。改めて、首都機能の移転や分散を具体的に検討すべきではないか。それは、復興の青写真を事前に描いておくことで再建を円滑にする「事前復興」とも関連する。関東大震災では、発生前に東京市長だった後藤新平がまとめていた都市計画が土台となり、迅速な復興が図られたといわれる。首都機能の分散を含め、大胆な事前復興計画を立てる。それは今後の日本のグランドデザインにもつながるだろう。首都東京はどうあるべきか。防災分野にとどまらない国民的議論があっていい。リスク分散が重要なのは企業も同じだ。大手を中心にBCPの策定は進みつつあるが、それでも大地震が来れば本社機能に大きな損害が出るのは避けられまい。都がまとめた被害想定では、都内の本社機能が停止することで企業全体の事業活動も滞り、倒産の危機に至る可能性が指摘されている。中小企業ではBCP自体が未策定のところも少なくない。震災から会社をどう守るか、これを機に見つめ直したい。
●偽情報を見極める力を
 SNS時代だからこそ、情報への接し方は極めて重要だ。関東大震災の直後に発行された雑誌「震災画報」は、混乱の中で「別の大地震が来る」「首相が暗殺された」などと様々なデマが流れたと報じている。とりわけ朝鮮人に関する流言が大量虐殺を招いたことは「軽信誤認の大罪悪」だと強く批判している。最近の震災でも流言は飛び交っている。人工知能(AI)で偽画像を簡単に作れる時代である。今後の災害では、さらに手の込んだデマが流れることを前提として備えなければならない。災害に遭って不安が高まると、流れてくる情報に飛びつき真偽不明のまま周囲に広めてしまいがちだ。だが偽情報は時に人命に直結する。まずは一旦立ち止まる習慣を身に付けることが重要だ。誰がいつ発信したのか。独立した別々の情報源から流れているか。そうした背景を確認し、冷静に真偽を判断する。普段からネット情報に接する際に必要な姿勢でもあろう。学校現場でも、子供向けの情報リテラシー教育に一層力を入れる必要がある。関東、阪神、東日本。この100年、大震災のたび私たちは苦難に直面し、同時に多くの教訓を得てきた。次代の日本を守るため、それらを総動員して備えたい。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74074490R00C23A9MM8000 (日経新聞 2023.9.1) 災害拠点病院、首都直下地震で機能不全、「通常診療確保できない」6割 関東大震災きょう100年
 首都直下地震の発生時、1都3県の災害拠点病院(総合2面きょうのことば)の6割で、受け入れ可能な患者数が平時を下回ることが日本経済新聞の調べで分かった。発災6時間以内に集まれる医師の数が通常の3割強にとどまることも判明した。国は首都直下地震で最大14万6千人が死傷すると予測する。医療の広域連携の強化が欠かせない。1日で関東大震災から100年。日経は東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県が指定する計167の災害拠点病院に調査(7~8月中旬)を実施し、107病院から回答を得た。災害拠点病院は災害時に必要な医療機能を備え、地域の救命医療の要となって重傷者の治療を担う。調査によると、災害時に受け入れ可能な患者数を推計している病院は73病院。このうち63%が通常時の受け入れ患者数を下回ると答えた。平時の1割未満とした病院も22%あった。都内のある大学病院は受け入れ患者数を通常の3%にあたる50人とした。担当者は「施設の耐震性が不安だ。周辺道路も狭く救急車両が入れるか分からない」と明かす。北里大学メディカルセンター(埼玉県北本市)の受け入れ患者数は通常の15%。外科の丸山正裕医師は「1月に患者の受け入れ訓練をした。病室にベッドを増やすスペースがないなど課題山積だ」と話す。2.2倍と答えた日本赤十字社医療センター(東京・渋谷)も「被害が長期化すれば1.5倍が限界」とみる。受け入れ患者数が限られる要因の一つが職員不足だ。災害時は道路の寸断や交通機関のマヒなどで病院にたどり着けない職員が大量に出る。調査では75病院が職員の参集率を予測していた。発災6時間以内に医師が集まる割合は平均36%。手術を担う外科系医師は33%でさらに低い。要救助者の生存率が急激に下がる72時間以内の平均も医師は73%だった。看護師は病院近くの寮に住む場合も多く、参集率の平均は発災6時間以内で45%、72時間以内で78%と医師より高いが平時並みの体制が整うのはさらに先だ。建物の火災や倒壊で多くの重傷者が搬送されても治療を受けられない可能性がある。政府の地震調査委員会によると、マグニチュード7程度の首都直下地震の30年以内の発生確率は70%程度。医療体制の強化は喫緊の課題だが、災害拠点病院の指定要件を定める厚生労働省地域医療計画課は「災害時に受け入れる患者数の適正水準は示せていない」と述べるにとどまった。川崎市立井田病院は通常の4.9倍の患者に対応できると回答した。発災1時間後には47%の職員が参集可能と予測。8月から病院近くに家を持つ医師に手当を支給し、災害時の早期参集などにつなげる。鈴木貴博副院長は軽傷者の治療や医薬品の確保についても「地元医師会や薬局と連携を進める」と語る。医療の遅れは首都機能回復や経済復興に大きな影を落とす。行政や病院は医師らが早期に集まり医療を提供できる体制づくりを急ぐ必要がある。域外の病院や自治体との連携強化も重要になる。

*5-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74068990R30C23A8CM0000 (日経新聞 2023.9.1) 拠点病院4割、災害チームDMAT「派遣ゼロ」、現場での救命、対応力に懸念 研修・訓練の拡充欠かせず
 1都3県にある災害拠点病院の約4割が、災害派遣医療チーム(DMAT)を災害現場に派遣した実績がないことが日本経済新聞の調査で明らかになった。DMATは被災地での救命医療や広域搬送などを担うが、病院間の活動実績には大きな差がある。DMATは2005年、阪神大震災の教訓などを踏まえ厚生労働省が発足させた。専門的な研修を受けた4~6人の医師・看護師・業務調整員でチームを編成。発災48時間以内に災害現場に駆けつけ、自治体や消防、自衛隊などと連携しながら人命救助にあたる。都道府県が指定する災害拠点病院には1チーム以上のDMATの保有を求められている。23年3月時点で約1770チーム、約1万6600人が登録。5年ごとの更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要がある。日経は1都3県の計167災害拠点病院を調査し、107病院から回答を得た。DMATのチーム数は「1」が最も多く、回答病院の53%を占めた。「2」は22%、「3」は11%で、「0」の病院も5%あった。最多は国立病院機構災害医療センター(東京都立川市)の7チーム。11年の東日本大震災や16年の熊本地震などでは数日ごとにチームを入れ替えながら災害現場や被災地の病院で活動に従事した。都内のある私立病院のチーム数は「0」。登録資格を持つ医師が21年に病院を離れた後、チームを編成できない状態が続く。都救急災害医療課は「異動や退職など病院が意図していない要因の場合、指定を外したりしない」と説明。新たな医師の資格取得を促すという。災害現場への派遣回数は「0」が最も多く37%で、「1」の21%が続いた。派遣経験がない神奈川県の私立病院は「DMATを派遣すれば担当業務の補完要員が必要になり、時間外勤務が発生する。人件費分の支援がないと派遣は難しい」と明かす。藤沢市民病院(神奈川県藤沢市)は12回の派遣実績がある。DMATの担当者は「登録資格がある職員が増えたことで通常業務を離れやすくなった。DMATは経験が糧になる」と話す。日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)の派遣実績は8回。DMATの一員として活動する本村友一医師も「研修は役に立つが災害現場で起きるのは応用問題。経験値は大切」と災害派遣の重要性を指摘する。自由回答で目立ったのは、DMAT事務局が運営する登録制度への注文だ。DMATの養成研修は4日間の日程で実施し、筆記と実技試験の合格者に隊員登録証を発行し資格を与える。だが受講者は医師、看護師、業務調整員合わせて年間1500人程度。埼玉県内の病院は「希望者がいるが何年も待っている。退職・異動による欠員の補充もままならない」と訴える。DMAT事務局(災害医療センター内)は「都市部は病院数が多く、県単位で受講枠が決まっているため順番が回ってこない病院もある。現在の体制で研修を増やすのは難しい」と説明する。救急医療に詳しい野口英一・戸田中央メディカルケアグループ災害対策特別顧問は「医療機関の需要に応じて柔軟に養成研修を実施できるような仕組みを国や自治体が連携して構築する必要がある」と指摘する。病院がDMATを被災地に派遣しやすい環境の整備も欠かせない。

| 経済・雇用::2023.3~ | 01:20 AM | comments (x) | trackback (x) |
2023.8.17~9.18 日本の経済・財政政策及び環境政策について (2023年9月23日、10月1、3日に追加あり)
(1)日本の財政 ← インフレ政策だけで経済成長し、再建できるわけはないこと


  3023.1.22産経新聞      2021.7.21Monoist       総務省

(図の説明;左図のように、日本の名目GDPは、日本よりも人口の少ないドイツの名目GDPと比較して、2012年には大きな差があったが、2022年には殆ど差がない。この間、日本では金融緩和が続けられ、イノベーションがつぶされたが、ドイツでは逆に脱原発やEV化を計画的に行った。また、中央の図のように、日本における実質GDPは、1991年から1999年までは名目GDPより小さかったが、2000年以降は名目GDPより実質GDPの方が大きい。これは、1991年に崩壊したバブルの後始末が1999年頃までかかり、2000年以降にやっと正常軌道に乗ったからである。さらに、右図は、1995年~2021年の名目GDP成長率と実質GDP成長率の推移であり、殆ど同じ動きをしているが、少しはイノベーションが進んだ1999年以降2009年までは実質GDP成長率の方が大きかったのである)

1)名目600兆円経済だから何か?
 *1-1-1は、「内閣府が発表した4~6月期のGDP速報値で、物価変動の影響を除いた実質季節調整値が3四半期連続プラス成長・前期比1.5%増・年率換算6.0%増だった」と大喜びで書いているが、2022年は上の左図のように、コロナによる経済停止で日本は著しくGDPが下がっていたため、2022年と比較すればもとに戻りつつある現在、GDPが増えるのは当然である。

 さらに悪いのは、個人消費が弱くなっているため、前期比年率で内需はマイナス1.2ポイント、外需はプラス7.2ポイントと輸出に頼って全体を上げており、これは、国民は貧しくなり、先進国に輸出することで稼いでいる開発途上国型経済に戻りつつあるということなのである。

 そして、これは、インフレで実質賃金を下げた上に、65歳以上には100%公的年金生活世帯が24.9%、80~100%公的年金生活世帯が33.3%もいるのに、年金給付額を下げ社会保険料を上げて可処分所得を減らし、インフレ政策で物価を上げたことが原因である。

 そのため、実質GDPが560.7兆円とコロナ前のピーク2019年7~9月期の557.4兆円を超えても国民が貧しくなったことに間違いはなく、需要の大半を占める消費が物価高で落ちて、耐久消費財の白物家電も下押し要因となり、その結果、設備投資も伸びなかったのだ。

 そのような中、*1-1-2は、①日銀は長期金利が0.5%の上限を一定程度超えるのを容認すると決めた ②日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服してインフレの下で新たな成長に向かいつつある ③政府と日銀が慎重な経済運営を続けるなら、名目国内総生産(GDP)600兆円超の思ってもみなかった視界が開ける ④物価が上がりだして名目GDPが押し上げられた ⑤GDPだけでなく、企業の売り上げ・利益・働く人の給与明細・株価・政府の税収などの目に見える経済活動は「名目」で表示される ⑥デフレ脱却が大きな影響を及ぼすのは企業行動 ⑦大企業は、1990年度から2021年度にかけ、売上高が5%増に留まる中で、リストラによって利益を捻出し経常利益を164%伸ばした ⑧企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させた ⑨インフレ到来で2022年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えてバブルの頂点だった1989年以来の高い伸び、中堅・中小企業も合わせた全規模でも売上高は8.7%増えた ⑩売り上げ増の手応えをつかんで、企業は国内で設備投資のアクセルを踏み出し、2023年度の設備投資は名目ベース100兆円台に乗せて過去最高となる勢い ⑪今回の物価上昇のきっかけはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的インフレでコロナ禍からの回復や人手不足も手伝って国内にも価格転嫁や賃上げの波が及んだ ⑫賃金の伸びは物価の上昇に追いつかず、実質賃金は14カ月連続の減少 ⑬消費者物価上昇率は民間エコノミストの予想を平均すると、2023年7~9月期が前年比2.76%で賃金の伸びが物価を上回れば2023年度下期に実質賃金は増加に転じる ⑭家計の所得が消費を後押しする好循環に入るチャンスが巡ってきた ⑮バブル崩壊後、30年あまり続いた光景が変わるにつれ、財政・金融政策も正常化を探る動き ⑯その際に政府・日銀が心すべきは、経済の好循環に水を差さぬこと ⑰政府はインフレの受益者で、税収の自然増が財政を下支えしている 等と記載している。

 このうち、①②は、「日銀の金融緩和(長期金利0.5%の上限)のおかげで、日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレ下で新たな成長に向かいつつある」と主張しているが、上の中央の図のように、この記事が“デフレ”と呼んでいる2000年以降の実質GDPは名目GDPより高い。つまり、「インフレになれば経済成長する」という説自体が正しくないのだ。

 また、③の「政府と日銀がこのまま低金利政策を続ければ名目GDP600兆円超の視界が開ける」というのは、単に尺度となる貨幣価値下がったから同じ実体経済が大きく表されただけである。わかりやすく言えば、1mの長さを現在の半分と決めれば、地球の赤道は(約4万kmではなく)約8万kmになるのと同じだ。そのため、貨幣価値が下がって物価が上がれば、④のように名目GDPが上がるのは当然のことなのである。

 また⑤⑥は、低金利で金利より高い物価上昇が続けば実質金利はマイナスになるため、金を借りた方が得をして金を貸した方が損をする。そのため、預金を持っているよりも、何でもいいから利益を生むものに投資した方がよいということになるが、これが日本企業の投資利益率が低い理由だと再認識した。そのため、私は、日本企業にはなるべく投資しないことにする。
 
 さらに、⑦の「大企業は1990年度から2021年度にかけ、リストラで利益を捻出し経常利益を164%伸ばした」というのは、リストラのやり方には問題が多かったと記憶しているが、利益が出ずいらない部門を整理すればリストラは必要になる。そのため、そういうことが多い時期には、国が財政支出をしてインフラ整備を進め、失業者を吸収するのが定石なのである。

 従って、⑧の「企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させた」というのは、時と場合とやり方に依るのだ。

 なお、⑨の「インフレ到来で2022年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えてバブルの頂点だった1989年以来の高い伸び、中堅・中小企業も合わせた全規模でも売上高は8.7%増えた」というのは、今もバブルになりかかっているため、そのうち整理が必要になると思う。

 そのため、⑩の「企業が売り上げ増の手応えを掴んで、国内で設備投資のアクセルを踏み出し、2023年度の設備投資は名目ベース100兆円台に乗せて過去最高となる勢い」というのは、一部はイノベーションのための本物の設備投資かもしれないが、物価上昇による売上増部分は、近いうちに数量で調整されるため、喜びすぎない方がよいだろう。

 なお、⑪のように、今回の物価上昇のきっかけはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的インフレが主であるため、コストプッシュインフレで、かつ物価上昇分は輸入代金として海外に流出している。そのため、企業に残っているのは、低金利による借り得の部分だけであり、⑫のように、賃金の伸びが物価の上昇に追いつかず実質賃金が14カ月連続減少するのは必然なのだ。

 また、⑬の「消費者物価上昇率は民間エコノミストの予想を平均した」というのも、あまりに意図的で正確ではなく、2023年7~9月期の消費者物価上昇率が前年比2.76%というのは低すぎる。そのため、賃金の伸びが物価を上回って実質賃金が増加に転じ、⑭のように、家計所得が消費を後押しする好循環に入ることはないと思われる。

 従って、⑮⑯⑰については、財政・金融政策が正常化を探るのは当然のことだが、⑰のように、政府はインフレの受益者で、税収自然増が財政を下支えしているだけでなく、インフレで国債実質残高も目減りするメリットがあるため、今となっては、政府は、国民を犠牲にしてもこの状況を変えるのは期待し難いわけである。

2)名目と実質の差が意味すること
 日経新聞は、*1-1-3で、①内閣府発表4~6月期GDP速報値は、名目成長率が前期比年率プラス12.0%でインフレが日本経済の名目値を押し上げた ②デフレで長らく低迷していた名目GDPが世界的な物価上昇を契機に動き出した ③コロナ禍の時期を除けば1990年4~6月期(プラス13.1%)以来の伸び ④企業の売上高・賃金・株価等は名目値なので、インフレによる経済規模拡大で経済指標も上昇する ⑤名目成長率を項目別にみると、個人消費は名目前期比0.2%減だが、インフレの影響で実質は0.5%減 ⑥設備投資は実質横ばい、名目0.8%増 ⑦GDPデフレーターからみた物価上昇率は前年同期比3.4%と3四半期連続プラスで現行基準で遡れる1995年以降最高 ⑧過去の基準も含めて1981年1~3月期以来 ⑨GDPデフレーターの上昇要因は、輸入物価上昇の一巡による押し上げ効果と価格転嫁による国内物価上昇 ⑩賃金も安定的に上昇すれば、日本経済の脱デフレに向けた道筋が本格化する と記載している。

 日経新聞は、④のように、「企業の売上高・賃金・株価等は名目値でインフレによる経済規模の拡大で経済指標も上昇する」として名目値を重視しているが、それは指標となる数字上のことにすぎない。実際には、消費(=実需)は実質でしか行えないため、必ず実質による修正が入るのである。その結果、②とは違って“デフレ”と経済低迷は無関係だったり、⑤の個人消費は実質0.5%減だったり、その結果、⑥の設備投資は実質横ばいだったりという事実があるのだ。

 従って、⑩の賃金の安定的上昇も、企業が実質利益を安定的に上昇させることができなければ起こらず、金融緩和によるインフレ政策だけでは無理なのだ。

 佐賀新聞は、*1-1-4で、⑪内閣府が発表した2023年4~6月期のGDP(季節調整済)速報値は、物価変動を除く実質で前期比1.5%増、年率換算6.0%増 ⑫半導体の供給制約の緩和で自動車などの輸出が伸びた ⑬輸入の減少が統計上プラスに寄与した ⑭物価高の影響でGDPの約6割を占める個人消費は低調 ⑮景気実感に近いとされる名目GDPは前期比2.9%増で、年率換算は12.0%増 ⑯物価高を反映して20年7~9月期(年率22.8%増)以来の高い伸びで、金額も過去最高の590兆7千億円に達した ⑰4~6月期の実質を項目別に見ると、個人消費は前期比0.5%減で、外食・宿泊は伸びたが食料品や白物家電が相次ぐ値上がりの影響で落ち込んだ ⑱設備投資は0.0%増 ⑲輸出は3.2%増 ⑳輸入は4.3%減で、輸入の減少はGDPを押し上げる要因 等と記載している。

 ⑪の2023年4~6月期のGDP(季節調整済)速報値が実質で前期比1.5%増、年率換算6.0%増だったというのも、コロナ禍からの回復途上であることを考えれば当然である。

 また、⑬のように輸入減が統計上プラスに寄与したり、⑰のように個人消費は前期比0.5%減で外食・宿泊は伸びたが食料品・白物家電が値上げの影響で落ち込んだりした結果、⑱の設備投資は0・0%増でしかないのだから、経済の拡大は数字上のトリックにすぎない部分が多い。

3)物価上昇率以上の賃金上昇はない 左 実質所得はプラスにならない


   2022.11.18日経新聞        2023.7.3日経新聞    2023.8.19日経新聞

(図の説明:1番左の図は、前年同月と比較した場合の物価上昇率で、消費税増税によって物価上昇し、国民の節約によって《国民が貧しくなって》元に戻ることを繰り返してきたが、それでも日経新聞は、2020年に3.6%物価上昇したのを「物価の伸び」などと表現している。そして、中央の2つの図のように、必需品でエンゲル係数の高い食品の値上げが8%以上、牛乳の値上げは10~20%に達し、貧しい人ほど物価上昇による負担が大きい結果となった。そして、今回も1番右の図のように、収入以上の支出はできないため、国民は節約して不便になりながら、物価だけは元の水準近くに戻るだろう)

 内閣府発表の2023年4~6月期GDP速報値は、*1-1-5のように、年率換算6.0%増加、GDP成長率は名目年率12%、実質年率3.7%になったが、外需に一時的に支えられ、個人消費・設備投資の内需が弱かった。

 そのため、メディアは、賃上げや投資の実行へ官民で策を練るべきとしているが、日本は、イノベーションや構造改革で生産性を上げない限り、物価上昇率以上に賃金を上げて実質所得をプラスにすることはできないというのが私の結論であるため、以下に、その理由を記載する.。

 i) サービス輸出で訪日外国人のインバウンド消費が堅調だったのはよいが、サービス輸出には観光だけではなく、高度な医療・介護サービスを外国人に提供する付加価値の高いサービスもある。しかし、この10年以上、政府は医療・介護費用を削減することしか思いつかず、日本社会の成熟化を活かした高度な医療・介護サービスを作ることができなかったため、日本は既にこの分野で高度とは言えなくなっていること

 ii) モノを輸出するには良いものを安価に作る必要がある。しかし、新興国はイノベーション等で品質も磨いているが、日本はイノベーションを嫌い、高コスト構造を変えず、わずかな改良しかしなかったため、日本製は品質より数倍高価になり、競争力が落ちていること

 iii) 年率6%成長のうち輸入減の貢献は4.4%分で輸入は4.3%減だったそうだが、輸入の数量減は内需の弱さを映しており、これは、実質所得が目減りして個人消費がマイナスになるからだが、(リーダーが余程の馬鹿でない限り)やってから失敗し、時間と金を無駄遣いしなくても容易に想像できたこと

 iv) 高コスト構造を変えないため、企業は名目利益増加の多くを人件費以外のコスト増に費やさざるを得ず、実質所得がプラスになるほどの賃上げはできないが、これは、*1-1-6や*1-1-7のように、結果として表れていること

 v) 実質所得がマイナスで、預金や債券も目減りし、国民の財産や所得が政府や企業に移転して消費は以前より少なくなるため、内需を当てにした民間設備投資は減ること

 vi) *1-1-6に「日銀が掲げる2%の物価目標」と書かれているが、日銀の2%物価目標自体が国民の目を欺きながら国民の財産や所得を政府や企業に移転する目的であるため、日銀は中央銀行の役割を果たしていないこと

4)年金世帯は物価上昇で必ずマイナスになる

  
    Hacs          厚労省            厚労省

(図の説明:左図が年金制度の概要で、国民年金は65歳以上になれば全員もらえるが、サラリーマンの専業主婦だけはその原資を支払っておらず、制度導入時からその不公平は指摘されていた。しかし、それでも、団塊の世代が支える側にいた時は年金原資が豊富だったので、厚労省は年金原資を使って無駄遣いの限りを尽くし、団塊の世代が支えられる側になる時に『制度が維持できない』として、中央の図の物価スライド制を導入する制度改正をしたのである。物価スライド制のKeyは、右図のように、賃金や物価の上昇時にそれより低い年金支給額上昇にすることによって、年金受給者が気付かぬように年金の所得代替率を下げていくもので、この改正は『高齢者は豊かだ』というデマをメディアを通じて大々的に流すことによって行われた。本当は、年金原資を発生主義で積み立てておくべきだったのだが、現在もそれは行われていない)

 
       総務省          2020.7.21時事    2022.1.31ビジネス日経

(図の説明:65歳以上を“高齢者”と定義して退職させれば、左図の折れ線グラフのように2021年には29.1%が高齢者であり、その後も高齢者の割合は増えていく。そして、中央の図のように、2019年は高齢者の48.4%で公的年金か恩給が総所得の100%を占め、同じく12.5%で公的年金か恩給が総所得の80~100%を占めるのである。従って、右図のように、高齢者の貧困率はうなぎ上りに上がっているのだ)

 年金世帯は、下の段の左図のように、2021年の数字で全世帯の約30%であり、そのうち総所得の100%を公的年金・恩給で賄っている世帯が(2019年の調査だが)48.4%、80~100%を公的年金・恩給で賄っている世帯が12.5%、60~80%を公的年金・恩給で賄っている世帯が14.5%であるため、年金支給額は年金世帯の所得を通して、個人消費に占める割合が大きい。

 *1-3-1も、①世帯主が65歳以上世帯の2022年の1ヶ月平均支出は21万1,780円で全体の39% ②年金暮らし世帯がGDPの15%に影響 ③賃上げの恩恵を受けにくい高齢者の消費活性化がデフレ脱却を左右 ④日本の2022年名目GDPは556兆円で5割は個人消費 ⑤GDP全体の15%程度を年金世帯の消費が担っている 等と記載している。

 このうち①について、平均で21万1,780円/月支出するのは、生活保護の基準となる最低生活費(神奈川県横浜市の場合:185,490円、https://seikatsuhogo.biz/blogs/140 参照)に近く、都市部ではぎりぎりの生活水準で、年金生活者にはこれ以下の人が半分はいるのである。

 また、③の「高齢者は賃上げの恩恵を受けにくい」のは、上の段の中央及び右図のように、「マクロ経済スライド」が導入されたことで、物価上昇と賃上げの恩恵は年金世帯には一部しか及ばないため、物価上昇率を加味すると実質年金支給額はマイナスになるということである。

 つまり、物価上昇は実質年金支給額をマイナスにすることで、②④⑤のように、高齢者に消費を減らさせ、GDPには悪影響を与え、下の段の右図のように、高齢者の貧困を増やすのである。

 しかし、日経新聞は、これがGDPを押し下げることしか問題にせず、新世代の高齢者が自由に所得を使えれば高齢化した国で必ず必要になる高齢者向けのサービス(医療・介護・生活支援を含む)が磨かれることについて全く触れていない。これらのサービスを磨くことは、政府が生産性の低い金の使い方をするよりずっと将来のためになるのに、である。

 なお、*1-3-1は、「65歳以上の無職世帯夫婦の金融資産は1,915万円で、全世帯平均より636万円も金融資産が多い」とも記載しているが、長期間溜めればそれだけ金融資産が多くなるのは当然だが、少ない年金の足しにしたり、夫婦に医療・介護が必要になった時の備えとすべき流動資産なのである。そのため、1,915万円の金融資産というのは、足りなくなる確率の方が高い金額だ。

 *1-3-2は、2023年1月20日、⑥来年度の公的年金額は3年ぶりの増額改定だが、「マクロ経済スライド」の適用で物価高騰に追いつかず実質0・6%の目減り ⑦長期的に年金財政を維持して将来世代の支給水準を確保するための対応 ⑧食料品・光熱費等の値上がりが続く中で年金頼みの高齢者にさらなる痛手 ⑨公的年金制度は現役世代が払う保険料等で高齢者への給付を賄う「仕送り方式」 ⑩高齢者は消費期限が近い「見切り品」の食料品購入が中心で、冬はエアコンなどの電源をオフにして凌ぐ 等と記載している。 
 
 つまり、⑨のように、「仕送り方式(賦課課税方式)」を前提として、⑦のように、「長期的に年金財政を維持して将来世代への支給水準を確保する」として「マクロ経済スライド」を肯定しているが、仕送り方式だから世代間で人口が変動すると年金原資が余ったり、足りなくなったりするのだ。これが、企業会計の年金給付会計のように発生主義で年金原資を積み立てておけば問題は生じず、その考え方はFASB83により1985年には既に世界で認知されていたのである。

 そのため、⑥のように、「マクロ経済スライド」の適用で年金額を実質目減りさせたり、⑧や⑩のように、物価高騰の皺寄せを高齢者に押し付けたりするのは、仕方がないのではなく悪意であると言える。

 なお、*1-3-3は、⑪政府は2023年3月に物価高対策等として予備費から2兆2,226億円を支出すると閣議決定 ⑫「地方創生臨時交付金」に1兆2,000億円 ⑬自治体を通じたLPガス利用者等の負担軽減や低所得世帯へ一律3万円の給付 ⑭低所得世帯の子ども1人につき5万円の給付を実施 ⑮家畜の餌となる配合飼料の価格高騰対策965億円 ⑯輸入小麦の政府売渡価格激変緩和策310億円 ⑰農業用水利施設の電気料金対策34億円 ⑱飼料対策は価格安定制度とは別に8,500円/t支給 ⑲新型コロナ対策として病床確保する医療機関への交付金向けに7,365億円 等としている。 

 しかし、⑪~⑲は、賢い歳出を続けていれば防ぎ得た事象についてその一部を補填しているにすぎず、高齢者に恩恵があるのはそのうちのごく一部であり、本来はこういう事態が起こらないようにすべきであり、また、(1つづつ詳細には書かないが)それはできた筈なのである。

 佐賀県統計分析課がまとめた2023年7月の佐賀市消費者物価指数(2020年を100)は、*1-3-4のように、全体では104.9と4.9%上昇し、うち家事・家具用品は114.7と14.7%上昇、食料は111.9と11.9%上昇など、必需品の物価上昇率が著しく高い。そのため、家計が感じた佐賀市民の消費者物価上昇率は10~15%程度となるが、私が住む埼玉県の場合は体感消費者物価上昇率が20%以上になるため、家計は全体ではなく必需品の消費者物価上昇率を感じていることになる。これは、必需品でなければ高すぎるものは買わないため、当然と言える。

5)“異次元金融緩和”の本当の目的は何だったのか
 *1-2は、①日銀は、2013年1~6月の金融政策決定会合の全議事録を公表 ②この議事録はデフレ脱却のため大規模な金融緩和を掲げて2012年12月に誕生した第2次安倍政権の意向で変わる日銀の姿を示す ③日銀出身の白川総裁時代は「物価目標を『2%』と定めて大規模緩和する」という政権の方針に日銀は抵抗 ④白川総裁は、総選挙の大勝という「民意」を背にした安倍政権の圧力に屈して2013年1月の会合で物価上昇率2%の目標を決定 ⑤投票権を持つ政策委員たちから「目標達成は難しい」とする意見が相次いだ ⑥同年3月、白川氏の後任として安倍政権に起用された財務官僚出身の黒田総裁は着任後すぐ大規模緩和に着手 ⑦黒田総裁は「人々の『期待』に働きかけてデフレを脱却するため、市場に流す金の量を2倍に増やし、2年程度を念頭に2%の物価目標を目指す」と決定 ⑧佐藤審議委員は、大規模緩和の考え方が根本的に誤っている可能性を指摘 ⑨「2%の物価目標」は今も達成されていない 等としている。

 このうち、①②は良いが、⑥⑦の「大規模緩和して市場に流す金の量を2倍に増やせば、人々の期待によってデフレを脱却できる」という考え方は、あまりにも国民や経済を甘く見ているし、根本的に誤りである。

 しかし、④については仕方がないとしても、③⑤⑧の「物価目標を『2%』と定めて大規模緩和する」という安倍政権の方針に、日銀が抵抗したり、委員が反対したりした言葉は、「○○は難しい」とか成功する可能性も一部は残したような曖昧な言い方であるため、経済や金融の専門家にしては、経済の素人に対して、誤解させずに理由を説明する義務を果たせていない。

 そして、私の予想通り、散々な迷惑を国民にかけても、⑨のように「2%の物価目標」は今も達成されていないが、そもそも「コストプッシュインフレでもいいから、ともかく物価上昇させて政府の実質債務を減らそう」という考え方自体が、日本国憲法前文に書かれている国民の福利を完全に無視しているのだ(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)。

6)歳出の正常化について
 *1-4は、①政府は来年度予算編成の基本方針をコロナ禍以降に膨張した歳出について平時に戻していくと決め ②各省庁の予算要求に制限をかける概算要求基準も閣議了解し、配分にメリハリをつけつつ全体の規模を抑える方針だが、例外や抜け穴が目立つ ③最たるものは政権が2倍近くへの拡大を打ち出した防衛費で、防衛費大幅増は今年度予算から始まって他の重要分野や財政健全化にしわ寄せを及ぼしつつある ④子ども政策財源も防衛費増と同様に別枠で、政府は幅広い「歳出改革」による捻出を当て込む ⑤各省庁の裁量性が高い経費の一律1割減を求めた上で、削減額の3倍分までの要求を「重要政策」として約4兆円の特別枠で認める ⑥歳出の「正常化」への試金石は、高騰したガソリンや電気・ガス料金の補助金の扱い ⑦社会保障など他の分野も物価高や賃金上昇に応じた増額を求める声は強まっている ⑧身の丈に合わない予算増を無理に続ければ政策資源の配分を歪めるため、減らせる予算の徹底的な洗い出しが必須の筈 ⑨先進国で最悪水準の借金が積み上がっている ⑩この状況を漫然と続けるのは将来世代への背信 等と記載している。

 ①については、日本はコロナでそこまで経済を止める必要はなく、感染症が流行すればワクチンや医薬品を製造・輸出する科学技術力があって当然の先進国なのだが、厚労省は適切な指導ができなかったため、歳出が膨張しただけで歳入は増えなかった。

 また、日本は膨らんだ予算を縮小するのに、②⑤のように、各省庁の予算要求を一律10%減らすなどめくらめっぽうの乱暴なやり方しかできず、それを補うため削減額の3倍までを「重要政策」として特別枠を認めるなど、かえって無駄遣いを含む歳出を増やす状況である。

 これについては、国際公会計基準(IPSAS)に従い、複式簿記を使用して、速やかに財務書類を公表して各年度の財政政策の影響を国民に報告するとともに、予算委員会では、前年度の財務書類を基にして次年度予算を審議することが解決策になる。

 この際は、当然、省庁毎ではなく事業毎の行政コスト(国民にとっての受益と負担)も計算し、政策について反省しながら、効果の高かった政策を残し、無駄遣いの多かった政策は止める等の作業を繰り返せば、国の歳出生産性は次第に上がるのである。ただし、国や地方自治体で「『効果が高い』とは何か」については、民間企業と全く同じではないため、事前に十分な議論をして定義を決めておく必要がある。

 これらを念頭に考えれば、③④については、より良い代替案のある無駄遣いが多額で、それを、⑦のように、ただでさえ生活が苦しい高齢者予算から一部でも引き出すのは論外である。

 また、⑥の高騰したガソリンや電気・ガス料金への補助金のうち、ガソリンはハイブリッド車の使用で消費が1/2程度に減っているため、価格が2倍になってもあわてる必要はない筈だ。また、電気・ガス料金も、輸入化石燃料に頼り続けてきたから上昇しているのであるため、1995年頃から言っている環境対応をさっさと行っていれば問題はなかった筈である。

 そのため、⑧のように、時代に合わない補助金はかえって資源配分を歪めるので、地球温暖化対策に逆行する予算は真っ先に減らすべきだ。そして、日本政府が内容の検証もせず不適切な政策を採り続けたことにより、日本は、⑨のように、先進国最悪の借金を抱えたが、これは、⑩のように将来世代への背信であるだけではなく、現在及び過去の国民に対する背信でもあり、大変迷惑な行為なのである。

(2)気候変動について
 今年の夏は7月からものすごく暑かったため、私は電気料金度外視で夜もエアコンをつけっぱなしにしていたが、エアコンをつけることさえ節約している年金生活者も決して少なくないため、この電気料金高騰の中でどう過ごされていただろうか。

 そのような中、WMOとEUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、*2-1のように、2023年7月の世界平均気温が観測史上最高となる見通しと発表し、太古の気候を探る研究者は「地球の平均気温は約12万年ぶりの最高気温を記録した」と警鐘を鳴らしたのだそうだ。

 12万5000年前の「エエム紀」の平均気温は現在の工業化前(1850~1900年)と比較してセ氏0.5~2.0度ほど高かったが、今年6月の世界平均気温は工業化前を1.5度以上上回り、国連のグテレス事務総長は「地球の沸騰が始まった」と警告した。

 ただ、12万5000年ぶりの暑さが「エエム紀」と異なるのは、*2-2のように、人間の活動が地球環境に多大な影響を及ぼして起こったことで、そのため現代を「人新世」とする議論が国際地質科学連合で大詰めを迎えているのだそうだ。確かに、現在は人口が多く、影響の大きな公害を出す技術も使うため、注意を怠れば地球に不可逆的な変化をもたらす。

 従って、*2-3のように、IPCCは第6次統合報告書を纏め、温暖化対策の緊急性を強く訴えたが、今年は日本がG7の議長国だったため、G20と連携して積極的な対策を加速すればよかったのに、原発も禁止した「パリ協定」以下の成果しか出さず、意識の高さに違いが見られた。

 さらに、アジア等の途上国で石炭火力への依存度が高ければ、日本は再エネ・蓄電池・省エネ投資等で手伝えばよいのに、*2-5のように、自国でもそれを十分に行わず、石炭火力にアンモニアを混ぜたり、石炭火力から出るCO₂ を貯留したりなど、コストが上がって量にも限りがある提案をし、原発回帰に走ったのは情けない。

 このような結果、*2-4のように、台風の豪雨や線状降水帯が頻繁に発生し、過去最多の雨量を記録するケースも目立っているが、この原因も地球温暖化である。そのため、その原因をなくすか、災害時には短期間の避難ではすまないため安全対策として移転するかしかないだろう。

(3)原発と予算

   
   2023.8.7東京新聞    2023.8.8東京新聞   2024.8.24東京新聞

(図の説明:左図のように、「廃炉作業を行うために、タンクを減らして新しい設備を作る必要がある(科学的根拠ではない)」として、中央の図の仕組みで処理水の海洋放出が始まった。処理水の放出口は、右図のように、陸から1kmしか離れていない水深12mの場所にあるため、汚染物質の濃度は放出口付近及び潮流に乗って東北の太平洋沿岸で高くなると思われる)

1)アルプス処理水の放出について

 *3-2-1は、フクイチの原発処理水は、2023年8月24日午後1時頃放出開始で、①タンクの水を約1200倍の海水で希釈した処理水を22日夜に採取してトリチウム濃度を調べ ②トリチウム濃度は計画の基準1500ベクレル/リットル(国の放出基準の40分の1)を下回り ③トリチウム以外の放射性物質濃度が基準未満であることは確認済 ④原発内のタンクには大半の放射性物質を除去する「多核種除去設備(ALPS(アルプス))」を通した水が約134万トン溜まっており ⑤今年度はこのうち約3万1200トンを放出する計画 ⑥1回目の放出は約17日間かけて約7800トンを流し ⑦放出開始から1カ月程度は、沖合約1キロ先の放水口の周辺で海水を毎日採取し、トリチウム濃度を調べる としている。

 このうち①②より、希釈する前の処理水は180万ベクレル/リットル(=1500ベクレル/リットルX1200=国の放出基準の30 倍)で、⑤⑥⑦より、1回目の放出で約17日間で14兆400ベクレル(=180万ベクレル/リットルX7800X1000 )のトリチウムを海岸から1kmしか離れていない放水口より放出し、⑤より、今年度内に56兆1,600億ベクレル(180万ベクレル/リットルX 31,200X1000)のトリチウムを同じ放水口から放出することがわかる。

 ここでおかしいのは、i) 希釈して薄めれば何でも濃度基準以下にはなるが、それでよいわけがなく、総量で議論すべきこと ii) (理由を長くは書かないが)“国の濃度基準”を満たせば健康被害を起こさないという科学的根拠もないこと iii)海岸から1kmしか離れていない水深12mの浅い放水口から放出すると、(海流の影響があるので詳しい調査が必要だが)汚染物質の濃度は放水口付近や東北の太平洋沿岸で濃くなると思われること である。

 また、そもそも④の「多核種除去設備(ALPS(アルプス))を通した水が約134万トンも溜まっている理由は、事故で溶け落ちた核燃料に地下水が流れ込むのを防ぐために凍土壁を作り、冷却液を循環させて年間十数億円もかけているのに地下水の流入を防ぐことができず、陸側に遮水壁も作ったがそれでも原発建屋に雨水・地下水が流入するのを防げていないからである。

 そのため、③は当然であって欲しいが、それも危うく、「国の濃度基準さえ満たせば、科学的で安全である」と考えていること自体が非科学的であるため、安全にも疑問があるわけだ。

 しかし、*3-2-2も、⑧岸田首相は、「漁業が継続できるよう、政府が全責任を持って対応する」と「風評被害」を恐れる漁業者に強調した ⑨順調に進んでも30年に及ぶのに誰が・どう責任を取り続けるのか ⑩フクイチでは、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため大量の冷却水をかけている ⑪そこへ地下水や雨水が加わって「汚染水」が毎日約90トンずつ出続ける ⑫その「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたものが「処理水」である ⑬政府は、一昨年、濃度を国の基準値未満に薄めた上で海底トンネルで沖合一キロの海に流す方針を決めた ⑭原発構内には1000基を超える「処理水」タンクが林立し、廃炉作業の妨げになるとしている ⑮ALPSを用いても放射性物質はわずかに残り、30年間放出し続ければ膨大な量になる ⑯全国漁業協同組合連合会の坂本会長は「科学的な安全と社会的な安心は異なり、科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるものではない」と強い懸念を表明した 等と記載している。

 このうち、⑧⑯の「風評被害」という言葉は、「根拠のない間違った情報や意図的なデマで生じる経済的損害」という意味だが、⑮のように、国の濃度基準を満たしていても30年間放出し続ければ膨大な量になる。そのため、「濃度が基準以下であれば安全」と考えていること自体が科学的でないため、言葉の使い方も間違っているのだ。

 また、⑨のように、「誰が・どう責任を取り続けるのか」も不明で、放出の意思決定をしていない国民の税金や電力料金で責任をとるのなら論外である。さらに、⑩のように、未だに事故で溶け落ちた核燃料を冷やすために大量の冷却水をかけなければならないのであれば、「冷却水をかけて冷やせばよい」と判断したこと自体に問題があったわけだし、⑪のように、未だに地下水や雨水が流れ込んでいるのなら東電や経産省の工事に問題がある。

 そのため、⑫の「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたという「処理水」がどこまで安全かも疑問になるし、⑬のように、「濃度を国の基準値未満に薄めれば沖合一キロの海に流し続けても安全だ」ということこそ、科学的根拠がない。

 さらに、⑭の「原発構内にある1000基を超える“処理水”タンクが廃炉作業の妨げになる」というのは単なる場所不足による時間切れにすぎず、科学的根拠にはならない。そして、廃炉作業も、いつから始めていつ終わるつもりだろうか?

2)国の責任のとり方について
イ)国内の状況
 *3-3-1は、西村経産相がフクイチの処理水放出が始まるのを前に小売業界団体の幹部と面会し、①福島県産水産物等の風評被害が懸念されるので積極的に販売に取り組むよう求め ②都内で開かれた風評対策・流通対策連絡会で小売関連6団体の幹部に処理水の海洋放出後も福島県産の販売継続を要請 ③日本チェーンストア協会の三枝会長は「放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱う」と応じ ④小売業界は消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望し ⑤具体的には、国際機関等の第三者による安全性の厳格な確認・処理水が基準を満たしているかの監視結果の迅速な公表・水産物の検査体制の徹底を求めた ⑥地元漁業者らは処理水の放出により風評被害で売れ行きが落ち込むのではとの懸念を訴え ⑦全漁連の坂本会長らが自民党水産部会に参加して処理水放出に伴う中国・香港の輸入規制を巡り、販路拡大への支援を求めた ⑧中国は処理水放出に反発して日本産水産物の規制を強め ⑨岸田首相は放出と風評被害に「国が全責任を持つ」と強調 ⑩復興庁は処理水処分に伴う対策として水産物・水産加工品の販売支援事業41億円、漁業人材の確保で21億円を24年度概算要求で要求する と記載している。

 また、*3-3-2は、⑪イトーヨーカ堂が、真っ先に処理水放出後も「東日本大震災で被災した生産者を応援していく」とし ⑫イオンも国際基準より厳しい放射性物質の自主検査を実施しながら、関東圏などの総合スーパーで継続販売する方針 ⑬ヤオコーも「商品の見直しはせず販売を継続する」 としている。

 ⑨の岸田首相の「国が全責任を持つ」との発言を受けてか、西村経産相がフクイチ処理水放出が始まる前に、①②のように、都内で開かれた“風評”対策・流通対策連絡会で小売関連6団体幹部に処理水の海洋放出後も福島県産の販売継続を要請し、③④のように、日本チェーンストア協会の三枝会長が放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱うので消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望されたそうだ。ただ、首相・経産相はじめ小売業界幹部は全員男性で、産業振興には熱心でも食品の安全性にはあまり興味がなく、科学に疎い人たちであることを忘れてはならない。

 また、⑤の「国際機関等の第三者による安全性の厳格な確認・処理水が基準を満たしているか」については、政府の言う「食品中の放射性物質の基準値」は、厚労省薬事・食品衛生審議会等の議論を踏まえて設定されたもので、食品の国際規格を策定しているコーデックス委員会(FAO《国連食糧農業機関》とWHO《世界保健機関》の合同委員会)が指標としている年間許容線量1ミリシーベルトを基にしている。しかし、これは、外部被曝を前提とした一般人の許容範囲であり、食品として体内に入る場合は至近距離から被曝するため影響がずっと大きいのだ。

 さらに、フクイチの近くは、基準値以下であっても単一の食品のみに放射性物質が含まれているのではなく、多くの食品に基準値以下の放射性物質が含まれ、その上いろいろな場所で外部被曝もするため、それらを総合するとかなりの被曝量になる筈だが、政府は総合値を表示していないのである。(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/risk_commu_2021_002/assets/comsumer_safety_cms203_220311_02.pdf 、http://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/basic_knowledge/additional_exposure_dose.html 参照)、

 また、IAEAも「日本政府及び東京電力が公表したデータの裏付けを行うために、処理水及び環境中の放射性物質のモニタリングをIAEAと第三者の研究所が独立した立場で実施する」としているが、IAEAには、日本政府が多額の金を出して多くの職員を送っており、また原子力推進機関でもあるため、公正な第三者機関にはなり得ないのである(https://www.iaea.org/ja/topics/response/fu-dao-di-yi-yuan-fa-niokeruchu-li-shui-nofang-chu、https://www.tokyo-np.co.jp/article/261656 参照)。

 このような中、⑪⑫⑬のように、イトーヨーカ堂は真っ先に「生産者を応援する」としたが、東日本大震災後も被災地近くの食品を置き続けたのが消費者を敬遠させた理由なのだ。また、イオンが国際基準よりも厳しい放射性物質の自主検査を実施するのはよいが、私は関東圏にいてもフクイチ事故後は日本海側の水産物しか買っていない。ヤオコーは「商品の見直しをしない」 とのことだが、西部地域や外国製の食品も多いので、それらを選ぶことになるだろう。

 このように頼りない政府に対する消費者の自己防衛策を、政府はじめ生産・販売関係者は、①②⑥⑨のように、「風評被害:根拠のない間違った情報や意図的なデマで生じる経済的損害」と呼ぶが、意図的・組織的に間違った情報やデマを流しているのはどちらだろうか。

 なお、⑥のように、地元漁業者も「処理水放出による風評被害」と表現しているが、本当に、「売れ行きが落ち込む理由は、風評だ」と思っているのだろうか。

 また、⑦⑧のように、全漁連の坂本会長らが自民党水産部会で処理水放出に伴う中国・香港の日本産水産物に対する輸入規制強化を巡って販路拡大への支援を求められたそうだが、それならIAEAやFAO・WHOの地元である米国で販売すればよい。何故なら、米国は肉食が中心で他の食品から内部被曝を受ける機会が少なく外部被曝もしない場所であるため、水産物を口に合うように美味しく加工済・調理済にした製品を輸出すれば売れると思うからである。

 そのため、⑩の復興庁の水産物・水産加工品販売支援事業41億円は、米国や米軍などに販売する水産物加工品製造設備の設置に使ったらどうか。

ロ)中国の禁輸
 *3-3-3は、①8月24日にフクイチ処理水の海への放出が始まり、少なくとも今後30年続く ②中国政府は日本産水産物輸入を同日から全面的停止と発表 ③香港も同日から10都県(福島・東京・千葉・栃木・茨城・群馬・宮城・新潟・長野・埼玉)の水産物禁輸を開始 ④対象は「食用の水生動物を含む水産品」で冷蔵・冷凍とも魚類・貝類・海藻に適用 ⑤2022年の水産物輸出額は中国871億円が1位、香港755億円が2位 ⑥東電は24日午前、海水で希釈した処理水のトリチウム濃度の測定結果を発表したが、国の放出基準の1/40を大きく下回った ⑦東電の小早川社長は「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とコメント ⑦岸田首相は首相官邸で「科学的根拠に基づいて専門家同士がしっかりと議論を行っていくよう中国政府に強く働きかける」と語った としている。

 このうち①は、(3)1)に書いたとおり、放出される放射性物質は全体ではかなりの量にのぼるため、どこからでも輸入でき、自前で漁獲もしている中国が、②④のように、日本産水産物輸入を全面的に停止しても不思議ではないが、放出口の位置と海流によって計測ポイント毎の放射性物質濃度は日々変化し、漁獲海域毎に水産物汚染の度合いは異なる筈である。

 また、③のように、香港も、同日から10都県(福島・東京・千葉・栃木・茨城・群馬・宮城・新潟・長野・埼玉)の水産物禁輸を開始したそうだが、福島・東京・千葉・宮城はわかるが、栃木・茨城・群馬・長野・埼玉は海のない県なので、フクイチ処理水が水産物に与える影響は殆どないと思う。また、新潟は日本海側であるため、海流から考えてかなり後にならなければフクイチ処理水の影響は出ないだろう。なお、海流は逆向きだが神奈川の方がフクイチに近く、水産業の盛んな県である。

 そこで、⑦のように、日本政府は「希釈して薄めて濃度が基準以下になれば科学的根拠に基づいている」という態度を崩さないため、中国が必要な計測ポイントに計測機器を設置し、ポイント毎の放射性物質の濃度を測って報告して欲しい。現在は、計測機器さえ設置すれば自動的に計測して通信することが可能であるため、簡単だと思う。そして、専門家(原子力の専門家だけでなく公衆衛生の専門家も含む)が、データに基づいて議論できる環境を整えるべきである。

 2022年の水産物輸出額は、⑤のように、中国871億円が1位、香港755億円が2位であるため、⑥⑦のように、東電が海水で希釈した処理水のトリチウム濃度測定結果を発表し、「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とコメントしている。しかし、これが電気料金や税金で賄われるのでは、日本国民は二重三重のパンチを受けるのである。

3)廃炉について

  
  2019.12.27、2023.8.25日経新聞   2022.9.11日経新聞   2022.9.1Goo

(図の説明:1番左の図のように、2019年の廃炉工程表改定でプールからの使用済核燃料の取り出し時期が遅れた。そして、左から2番目の図のように、2023年8月現在でも、デブリ取り出し・使用済核燃料取り出しの両方が始まっていない。さらに、右から2番目の図のように、核廃棄物の最終処分場も決まっていないが、1番右の図のように、24基の原発は既に廃炉が予定されているため、仕事は同時に進めればよい筈だ)

 *3-4-1は、①原発処理水海洋放出は廃炉に向けた第一歩 ②処理水を放出しなければ取り出したデブリを保管する場所が確保できない ③今後はデブリ取り出しが難事業 ④放射線量が非常に高く人が近づけないデブリは1~3号機全体で推計880tあるため作業は遠隔操作 ⑤ロボットアームを使い2号機から着手する ⑥東電等によれば1回目で取り出すのは数グラム程度だが、それすら実際に出来るか不明 ⑦日本原子力学会フクイチ廃炉検討委員会の宮野委員長は「政府が示す廃炉計画は具体的な見通しがあるわけではなく、最も難しいデブリ取り出しの手法が描けなければ廃炉の見通しも立たない」と指摘 ⑧原発内部からの溶融燃料取り出しは、政府目標の30年後廃炉完了も見通せていない ⑨国は廃炉について最終的な形を明らかにしていない ⑩政府はデブリ回収に6兆円・廃炉全体で8兆円の費用試算を2016年に公表したが、さらに増えそう ⑪事故賠償や除染も含めると事故後12兆円を既に支出 ⑫費用総額は廃炉の最終的な形も大きく左右し、負担は国民に跳ね返る 等と記載している。
 
 また、*3-4-2は、⑬東電は8兆円もの廃炉費用を捻出できる力が弱く、経営再建の道筋が描けない ⑭2023年度内に最難関とされるデブリの取り出し作業が始まるが、炉内の正確な状況が分からず、取り出す工法も手探りで費用が想定より膨らむ可能性 ⑮廃炉総額約8兆円のうち約6兆円がデブリへの対処 ⑯東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用も全額負担し、賠償も半分払う ⑰東電は新電力への顧客流出で収益基盤が揺らいだまま ⑱原発再稼働が進まなければ、国主導でグループの経営体制の見直しを迫られる可能性 ⑲東電の小早川社長は「財務基盤が安定しなければ、廃炉や賠償などの責任を果たせない」と厳しい表情で語った ⑳廃炉作業を進めるためにも、早期に稼ぐ力を示すことが不可欠 等と記載している。

 このうち、①②は、原発処理水を海洋放出する科学的根拠には全くならず、処理水の貯留に限界があるのも最初からわかっていたため、貯留のために膨大な予算を使った挙句に見切り発車して処理水を海洋放出する方法を採用した理由を、まず明らかにすべきである。

 その上で、③のように、「推計880tあるデブリは取り出しが難事業だ」と言ったり、④⑤⑥⑦⑧⑨のように、「デブリは放射線量が高くて人が近づけないためロボットアームで取り出すが、それも実際に出来るかどうか不明だ」「デブリ取り出し手法が描けなければ廃炉の見通しも立たない」等と言っているのはあまりにも遅すぎ、人間は核燃料を扱うことはできないという事実を意味している。そのため、「原発を維持する」「新しい核融合原発を作って地球上に太陽を作る」などと言うのは、後始末もできない危険物を作って稼働させるという無責任な行為だ。

 また、⑩⑪⑫のように、事故の賠償や除染も含めると事故後12兆円を既に支出しており、政府は2016年にデブリ回収に6兆円、廃炉全体では8兆円の費用試算を公表したが、それらが多様な形ですべて国民負担になる。しかし、他に重要な予算は多いのに、それは削られるため、何を考えてどう予算を決めてきたのかを聞きたい。

 なお、⑬⑭⑮⑯は、「デブリの取り出し作業が最難関で取り出す工法も手探り」「東電は8兆円もの廃炉費用を捻出できる力が弱く、経営再建の道筋が描けない」「東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用も全額負担し、賠償も半分払う」等としているが、それらは原発稼働を決めた時点で覚悟しておくべきことだったため、今さら泣き言を言ったり国民に追加負担を求めたりはして欲しくない。

 私は、東電社員にはレベルの高い人や、良い仕事をする人も多いと思うが、⑱のように、未だに原発にしがみつき、⑳のように、廃炉作業の目途も立たないようなら、既に経営体の体はなしておらず、人材の有効活用もできていないと思われる。

 従って、東電の経営体制は見直した方が良いが、経産省を中心とした国主導では、⑲のように、「財務基盤を安定させ廃炉や賠償などの責任を果たすために国民負担を追加する」という解決策しか思いつかないため、今後の生産性向上に役に立つ電力会社の改革はできず、新たに匙を投げた顧客が、⑰のように、東電から他の電力会社に流出すると思う。

4)非科学的で不合理な原発回帰論

  
2022.11.29、2022.9.30日経新聞   2022.10.2産経新聞   2022.11.29日経新聞   

(図の説明:1番左の図のように、経産省は既存原発の再稼働と60年超の運転期間延長、次世代原発の開発と建設を計画しており、その理由を、左から2番目の図のように、運転可能原発の過半数が既に30年超を経過しており、右から2番目の図のように、原発の40年運転を厳守すると2060年代には稼働できる原発がなくなり、60年まで運転期間を延長しても2080年代に稼働できる原発はなくなり、1番右の図のように、運転期間延長だけでは原発の縮小が避けられないからとしている。しかし、これは原発運転時の高コストの負担や事故時の膨大なリスクと後処理費用の負担、膨大な核廃棄物の処理費負担、技術の不確実性・不安定性など、原発のあらゆる短所に目をつぶった不合理で強引な行動計画である)

   
2022.9.5西日本新聞    2023.2.9、2023.2.11東京新聞    2023.7.27日経新聞

(図の説明:1番左の図が経産省の言う次世代型原発だが、既存原発の改良型なら既存原発と同じ問題が残り、冷却材にNaを使うもんじゅは何年経っても成功しなかった。また、高温ガス炉や核融合炉も爆発のリスクがある上、超高温を発生してタービンを回すシステムはエネルギーロスが多く、冷却時に多量の熱を外部に出すのである。そのため、原発は経済合理性《リスクも金額に換算する》によって自然淘汰されるべき電源だが、左から2番目と右から2番目の図のように、政府は、原発の運転期間を伸ばし、建て替えまで選択肢に入れている。その上、1番右の図のように、原発由来の電力を使わない消費者からまで強制的に原発のコストを徴収すると、政府が介入することで市場を歪めて筋の悪い発電方法を残すことになり、目的不明である)

 これまで書いてきたように、原発は、1966年に日本で最初の商業運転を始めてから57年が経過してなお、平時でも立地地域に税金を投入してやっと運営しており、使用済核燃料の処分先が決まらないばかりか、災害でコントロールを失えば大きな事故となり、莫大な税金を投入しなければ事故処理すらできないシロモノであることが明るみに出て、「原発はコストが安い」という主張は真っ赤な嘘であったことが判明した。

 そうすると、次は「電力の安定供給」「脱炭素社会の実現」「ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化」など、その場限りの思いつきの説明をしているが、災害時にも安定的に電源を供給できるのはむしろ再エネによる自家発電の方なのだ。再エネは燃料電池や蓄電池で電力を溜めれば過不足なく電力を供給でき、戦争や災害時も原発のようにコントロール不能の状態に陥ることなく、国内の資源からクリーンな電力が得られる。そのため、化石燃料はもとより、原発も、既に再エネに完敗しており、原発回帰は筋の悪い政策なのである。

イ)原発回帰ありきのパブリックコメントと有識者会議
 *3-1-1・*3-1-2は、①政府は、原子力基本法に原発活用による電力安定供給や脱炭素社会実現を「国の責務」と明記 ②原子力の安定的な利用を図る観点から60年を超える運転を可能にして、原発回帰を鮮明にした ③電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」で通常国会に提出 ④「原則40年、最長60年」としていた運転期間を原子炉等規制法から電気事業法に移管し、上限維持の上で行政処分や裁判所の仮処分命令などで停止した期間を運転期間の計算から除外できるとした ⑤原発建替・60年超運転等の原発推進策を盛り込んだ政府基本方針はパブリックコメントに4000件近くの意見が寄せられ、多くが原発に反対する声だった ⑥政府が公表した意見公募結果には「フクイチ事故は人間が原発をコントロールできない証明」「将来世代に重大な危険を呼び込む」など政府に再考を求める意見が並んだ ⑦しかし、政府は大筋を変えず閣議決定した ⑧原発に否定的意見に対する政府の回答は、ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化で電力安定供給が危機的状況と強調するのみで ⑨脱炭素効果のある再エネとともに原子力の活用を図るとの説明を繰り返し ⑩原発建替は「廃炉が決まった原発敷地内」とした ⑪原発に否定的な委員からも国民的議論を求める意見が相次いだが、方針決定まで国民の声は聞かなかった ⑫西村経産相は「原子力利用政策の観点でまとめ、安全規制の内容は含まれないため問題ない」と説明 ⑬経産省有識者会議委員も務めたNPO法人原子力資料情報室の松久保事務局長は「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めた。政策決定の手法として許されない」と批判 ⑭政府が原発推進策を盛り込んだ基本方針を閣議決定した日、市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が主催して、永田町の首相官邸前で約100人が抗議行動を展開し、冷たい雨の中で「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせた ⑮国際環境NGO「FoE Japan」事務局長の満田夏花さんは「原子力産業の生き残りのため将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせる民意を無視した閣議決定に断固反対」と強調した と記載している。

 このうち、①は、電力の安定供給には、再エネと蓄電池を組み合わせて普及させれていれば原発は不要であったため、原子力基本法に「国の責務」などと記載して、民間会社の特定の発電方法である原発にいつまでも税金をつぎ込むと、市場を歪めて最善の発電方法が選択されなくなる。そして、脱炭素社会には、原発ではなく再エネ利用のためのインフラを速やかに整備した方が、エネルギーの変動費を0にして産業に役立ち、エネルギー自給率も上げ、温室効果ガスを発生させず、冷却熱を環境に放出しないため温暖化対策としてもBetterなのである。

 そして、これは、原子力村の住民とそこから金を得ているメディアや政治家以外なら誰でもわかることであるため、⑤のように、パブリックコメントに多くの反対意見が寄せられ、⑥のように、「人間は原発をコントロールできない」「将来世代に重大な危険」などの政府に再考を求める意見が並んだのだ。

 また、⑪のように、原発に否定的な委員からも国民的議論を求める意見が相次いだのに、政府は方針決定まで国民の声を聞かず、⑦のように、大筋を変えずに閣議決定したのだそうだ。そのため、⑮の「原子力産業の生き残りのために、将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせる民意を無視した閣議決定」というのは、正しいだろう。

 そして、政府は、⑧のように、ウクライナ情勢を言い訳にし、⑨のように、脱炭素効果を主張するが、それらは再エネや省エネ設備の導入というよりよい選択肢があったため、説得力のある説明にならないのである。さらに、③のように、電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」にして通常国会に提出すると、野党の追及が十分にできず、国民の理解も進まないため、国民の反対を無視して突破するには都合が良いものの、民主主義の原理から大きく外れるのだ。

 つまり、⑫で西村経産相が「原子力利用政策の観点でまとめた」と説明しておられるとおり、原子力利用政策が先にあり、そのために形だけ、有識者会議を開いたり、パブリックコメントを集めたりしたが、その結果を反映する意図はなかったのだと思われる。

 また、②の「60年を超える運転を可能にした」というのは、前にも書いた理由で、科学的根拠がない上に過去よりもリスクが増す方向への政策転換であり、フクイチ事故後の政策転換として不適切である。また、④の「原則40年、最長60年の運転期間から行政処分・裁判所の仮処分命令等で停止した期間を除外できる」としたのも、科学的根拠がなく、過去よりもリスクが増す方向への政策転換なのである。

 これに加えて、⑩の「原発建替は廃炉が決まった原発敷地内」としたのも、武力攻撃に抵抗力のない原発を日本海側に林立させている状態を継続させる決定であり、災害からのセキュリティーも考えていなければ、防衛費増との整合性も全くない。そのため、⑬の「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めた。政策決定の手法として許されない」との批判は正しく、「多面的な意見を吸い上げて纏めていれば、矛盾だらけではないスマートな結論を出せたのに」と思われる。 

 最後に、⑭の政府の閣議決定の日、市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」主催で永田町首相官邸前で約100人が抗議行動をし、冷たい雨の中、「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせられたのは、感心すると同時に敬意を表する。

ロ)根拠薄弱な原発政策の転換
 *3-1-3は、①巨大地震・津波で世界最悪の原発事故を起こして12年経過しても、事故収束の見通しは立たない ②当時の民主党政権は「2030年代に原発稼働0を可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とし ③自民党政権下でも「原発依存度は可能な限り低減」としていた原発政策を、岸田首相は大した議論もせずに大転換して原発最大限の活用を掲げた ④世界のエネルギー情勢を無視した「先祖返り」のエネルギー政策は、根拠薄弱で将来に禍根を残す ⑤「ロシアのウクライナ侵攻が一因のエネルギー危機や化石燃料使用による気候危機に対処するため原発の活用が重要」というのが転換の根拠だが、フクイチ事故は大規模集中型の巨大電源が一瞬で失われるリスクの大きさを示した ⑥小規模分散型の再エネを活用する方がこの種のリスクは小さく気候危機に対して強靱 ⑦フランスでは熱波で冷却できずに多くの原発が運転停止を迫られ、原発が気候危機対策に貢献するという主張も根拠薄弱 ⑧気候危機対策には2025年頃に世界の温室効果ガス排出を減少に向かわせ、2030年までに大幅な削減を実現することが求められるが、原発の新増設も再稼働もこれに貢献せず、再エネ急拡大が答えであることは世界の常識 ⑨岸田首相の新方針は時代遅れの原発に多大な政策資源を投入し、気候危機対策の主役である再エネ拡大のための投資や制度改革には見るべきものがない ⑩この12年間で安全対策等のため原発コストは上昇し再エネコストは急激に低下 ⑪原発の運転期間を延ばせばさらなる老朽化対策が必要になるから、原発の運転期間延長も発電コスト削減効果は限定的 ⑫米ローレンスバークリー国立研究所等の研究グループは、蓄電池導入や送電網整備、政策の後押しなどにより日本で2035年に再エネの発電比率を70~77%まで増やせると分析 ⑬日本のエネルギー政策に求められるのは、この種の科学的成果や世界の現実に関するデータを基礎に熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めること ⑭いくらそれらしい理屈と言葉を並べても、科学的根拠が薄く決定過程に正当性のないエネルギー政策は机上の空論に終わる 等としている。

 このうち①⑥⑦⑧⑩⑪は事実で、地震・津波のリスクを無視して世界最悪の原発事故を起こした上、エネルギー自給率が著しく低く、化石燃料高騰で国民も産業も苦しんでいる日本こそ、②のように、あらゆる政策資源を投入して2030年代に原発稼働0を可能にしなければならなかったし、できた筈なのである。

 しかし、③のように、自民党政権下で「原発依存度は可能な限り低減」として後退し、岸田首相はさしたる議論もないまま原発の最大限の活用に大転換したが、まさに④⑨のとおり、世界のエネルギー情勢を無視して時代遅れの原発に後ろ向きの多大な政策資源を投入し、気候危機対策の主役である再エネ投資や制度改革には見るべきものがないという将来に禍根を残すエネルギー政策なのである。

 なお、⑤の「ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料価格が高騰し、原発の活用が不可欠になった」という政策転換根拠もよく聞くが、化石燃料価格の高騰は、中東産油国が原油価格を70%引き上げた1973年(今から50年前)のオイルショック以来続いているのだ。また、ロシアのウクライナ侵攻による化石燃料価格高騰は、ロシアに対する日本の金融制裁に対する制裁返しであるため、これは、自給率が低いくせに制裁ばかりした国の末路と言える。

 そのような事情の中でも、エネルギー変換を拒み、大量の化石燃料を輸入して国富を流出させ続け、地球温暖化まで招き、化石燃料価格が高騰したからと言っては化石燃料に補助金をつけてエネルギー変更を拒んできた“政策”は、製造業を国内で成り立たなくし、国内にあった産業を外国に追いやってしまった原因の1つであることを忘れてはならない。

 また、⑤の「フクイチ事故は大規模集中型の巨大電源が一瞬で失われるリスクの大きさを示した」というのも事実であるため、原発は安定電源というのも合理性も説得力もない。

 つまり、⑫の米ローレンスバークリー国立研究所等のグループが言うとおり、現在ある技術を最大限に活用しない技術は開発して、蓄電池導入・送電網整備を政策の後押しで行えば、日本は2035年には再エネ発電比率(≒エネルギー自給率)を70~77%まで増やせると、私も思う。

 そして、⑬⑭のように、日本のエネルギー政策に求められるのは、科学的成果や世界の現実に関するデータを基礎に、熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めることで、いくら尤もらしい理屈や言葉を並べても、科学的根拠が薄く決定過程に正当性のないエネルギー政策は机上の空論に終わるだろう。

5)政府の水産事業者向け支援策について
 2)イ)に、私が「復興庁の水産物・水産加工品販売支援事業41億円は、米国等に販売する水産物加工品製造設備の設置に使ったらどうか」と書いてから、日本政府は、*3-5-1のように、中国への輸出依存から転換するための販路開拓等で、①国内消費拡大・生産持続対策 ②風評影響への内外での対応 ③輸出先の転換対策 ④国内加工体制強化対策 ⑤迅速で丁寧な賠償 など合計1007億円の水産事業者向け支援策にをまとめたそうだ。

 このうち、②の“風評”という言葉使いは賛成しかねるし、①の国内消費拡大は、どの海域で獲れた汚染されていない水産物かどうかによって良し悪しが異なる。また、③の輸出先転換でホタテ等の一時買い取り・保管・新規販路開拓支援も、とりあえず買い取って長期間保管し、他の場所に販路を求めるというのでは、汚染されていない水産物かどうかによって評価が全く異なるのである。しかし、⑤については、未だに汚染水が増えている現状では、処理して海に放出しているとしても、東電や政府はそうするしかないだろう。

 しかし、④の「中国に依存している水産物の加工を国内に呼び戻す」として、*3-5-2のように、「加工も中国頼みで、輸出したホタテを中国でむき身に“加工”した後、米国に3万~4万トン輸出していた」というのは、ホタテの殻をとってむき身にするのは加工と呼ぶほどのことではないし、殻つきのホタテを中国の加工場まで運び、そこでむき身にして米国に輸出すれば余分なエネルギーがどれだけかかったかと思われ、呆れた。

 私が書いた「水産物を美味しく加工済・調理済にした製品を輸出すれば売れる」というのは、「日本食キャンペーン」をして日本食として売るのではなく、例えばホタテ(牛肉でも豚肉でもないため、ヒンズー教徒もイスラム教徒も食べられる)であれば、ホワイトシチュー・カレー・ハンバーグ・ギョウザ・シュウマイ・燻製等の相手が好む料理に加工して輸出することを意味していた。ここで注意すべきは、水産物は、日本だけで食べられている食材ではないことである。

 また、中国向けナマコは、干して輸出し、中華料理に使うのが主だったと思うが、中華料理も世界で食べられている料理であるため、その原料として販売したり、調理済にして販売したりすることを意味していた。そのため、商社や食品加工会社の出番なのであり、栄養士の監修の下、美味しくて健康的な料理にして販売すれば、日本らしい付加価値の高い食材になるわけだ。

 ここで、「建設資材が高騰し機械も電気代も値上がりする中、加工は現実的な対策か」「仮に加工施設を国内に設けても、働き手の確保は簡単でない」という声があるが、こういう問題に対する環境整備こそ政府が行うべきであり、現在は、この高コスト構造に負けない付加価値をつけなければ海外販売はできないわけである。

(4)化石燃料と予算
1)日本が遅れる理由は何か
 1990年頃から気候変動に関する指摘があり(発端が私だから詳しいのだが)、1992年に気候変動枠組条約が採択されたが、発効は2年後の1994年だった。また、1997年のCOP3では、日本が主導して京都議定書を採択したが、抵抗も多く、その発効は8年後の2005年であり、気候変動に関する歩みは遅々としていた。しかし、2015年にCOP21でパリ協定が採択され、これは翌年の2016年に発効した。

 京都議定書とパリ協定の大きな違いは、i) 京都議定書が2020年までの枠組みであるのに対し、パリ協定は2020年以降の枠組みであること ii) 京都議定書は先進国(日本、米国、EU、カナダ等)のみに温室効果ガス削減目標を示していたが、パリ協定ではすべての締約国が対象になったこと である。

 しかし、iii) 京都議定書は「目標達成」を義務としていたが、パリ協定は「温室効果ガスの削減・抑制目標を策定・提出すること」を求めているだけで目標達成を義務とはしていないこと 及び、iv) 2020年以降は、温室効果ガスの削減に関しては世界共通の「2度目標(努力目標1.5度以内)」のみが掲げられていること である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page22_003283.html、https://www.asahi.com/sdgs/article/14767158 参照)。

 このような中、*4-1は、「IPCCが2023年20日に公表した統合報告書でこれまで以上に危機感を打ち出し、その一方で、人類は温室効果ガスを大幅に削減する手段をすでに手にしていると指摘し、この10年間の行動が人類と地球の未来を決めるとした」と記載している。しかし、これは30年前からわかっていたことで、そのために、建材一体型の再エネ機器やEV等の温室効果ガス削減手段を開発してきたのである。

 *4-1は、具体的に、①温室効果ガス排出量が増えるほど温暖化が進むと強調 ②世界で稼働・計画中の化石燃料インフラを使い続けると気温上昇が2度を超える ③「パリ協定」で各国が提出する温暖化対策目標を達成しても2.8度上昇する可能性 ④温暖化が進むほど損失・被害拡大 ⑤水害や海面上昇は堤防などの治水対策で一定のリスクは減らせる ⑥国連のグテーレス事務総長はCOP28までに、G20リーダーのすべてが野心的な新目標を約束することを期待し、温暖化に大きな責任を負う先進国は、2040年までに実質排出0を前倒しするよう求めた ⑦G7の米英独加は2035年に電源の脱炭素化目標を掲げ、仏は2021年に91%を脱炭素化済 ⑧日本は2021年に2030年度の46%削減、2050年の実質排出0を掲げ、2040年の目標はなし ⑨IEAは「世界で導入された再エネは昨年最大4億400万kwで2019年から倍増の見通し」とする ⑩EUは昨年5月に再エネ強化目標「リパワーEU」を決め、2030年時点の再エネ比率を40%から45%に引き上げた ⑪米国はエネルギー安保と気候変動対策の約3700億ドルを含む「インフレ抑制法」が成立し、2030年までに40%前後排出減 ⑪日本の再エネの導入ペースは鈍い ⑫COP28ではパリ協定の下で初めて各国の削減目標の進み具合の評価が行われ、2025年までに新たな目標を提出することになるが、環境省幹部は「まだ何も手が付いていない」と言う ⑬2月閣議決定の「GX実現に向けた基本方針」は、今後10年間で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出するが、発電量に占める再エネ比率を2030年度36~38%と変更なし ⑭大排出源の石炭火力発電燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円を投じるが、技術的に未確立でコストも高く、石炭火力の延命との批判 ⑮日本のGX基本方針には真剣さや迫力がない ⑯「脱炭素経済」移行に遅れれば日本の産業競争力は引き続き低下 ⑰水素・アンモニアの混焼は「見せかけの脱炭素化」と見られ、世界の投資家から理解を得られない と記載している。

 このうちの①④は、科学的に考えれば当然のことである。また、②③のように、気温が上昇すれば、⑤についても、大きく海面上昇すれば、海抜の低い地域は堤防等でリスク軽減するのに費用対効果が著しく悪くなり、ちょっとした豪雨で内水反乱や水害を起こすようになるため移転を余儀なくされ、日本も居住可能地域が狭くなるということだ。

 そのため、⑥のグテーレス事務総長の要請は尤もであり、⑦⑩⑪のように、日本を除くG7各国は早めの電源脱炭素化目標を掲げて実行し、⑨のように、IEAも「世界で導入された再エネは2019年から倍増」としているが、日本は、⑧⑪⑬のように、2040年の目標はなく、2023年2月の閣議決定「GX実現に向けた基本方針」で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出してもなお、再エネ発電比率は2030年度36~38%と変更せず、再エネ導入ペースを意図的に遅くしているのである。

 また、⑭の石炭火力発電燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円も投じるなど寄り道のための無駄遣いも多く、目標を定めて資源を集中しないため、日本のGX基本方針には⑮のように真剣さや迫力がなく、⑰のように「見せかけだけの脱炭素化」になるのだ。

 そして、この調子では、⑯のように、「脱炭素経済」への移行に大きく遅れ、国民に無用の負担を押し付けて生活を圧迫しつつ、エネルギー自給率は相変わらず上がらず、日本の産業競争力は他国と比べてさらに低下し続けて、リーダーシップどころではなくなるわけである。

 何故、我が国の政府はこのような対応しかできないのか? 私が最初に気候変動に関する指摘をしてから30年以上経過するため、その間に見てきて感じたことを書けば、日本政府は必要な情報を総合して纏めることによって合理的な目標を定めることができず(当然、重要性によって順位をつけ、不要なものは除くべき)、何でも混沌とさせたまま、後戻りしたがったり、「ミックス」にしたがったりするからである。

 つまり、日本政府(縦割りに固執した省庁まで含む)は、科学を基礎にしてはじき出した目的に資源を集中させることができず、何でも「ミックス」にして認めることによって政敵を作らないことを重視し、その結果、最も重要な本来の目的を見失うとともに、本来の目的を達成するための国民負担を無視するからである。

 そして、この最も根本的な原因は、初等・中等・高等教育における理系科目の軽視と、空気を読んで狭い範囲の周囲にのみ同調することを教える文化にあるだろう。

2)化石燃料価格引き下げ目的の有害補助金について
 *4-2-1は、①世界銀行は「各国政府が自国産業に出す補助金のうち、環境に有害なものが世界で年間計7兆ドル(約1千兆円)を超える」と公表し ②使い方を見直して環境保護に活用するよう訴え ③補助金のマイナス面に警鐘を鳴らした ④これには不十分な規制で産業を利する「暗黙の補助金」も含む ⑤通常の補助金にも国民生活に不可欠なものがあり、全てを環境保護に振り向けるのは難しい ⑥エネルギー分野では化石燃料価格引き下げにつながる補助金を問題視 としている。

 このうち①②③は全くその通りで、世界銀行は良いことを言うと思う。しかし、④の「暗黙の補助金」については具体例が書かれていないためよくわからないが、例えば、原発に関る種々の補助金、放射性物質や排ガスを出す機器への規制の緩さ等が挙げられるだろう。

 また、⑤の「環境保護に振り向けるのが難しい国民生活に不可欠な補助金」の具体例も書かれていないのでわからないが、例えば農林漁業関係の補助金の一部はそれに当たると思う。

 何故なら、いつまでも農業機械・漁船・トラック・航空機等に化石燃料を使い、「燃油価格が高騰したから補助が欲しい」「コストが合わないから漁に行けない」等々は、私が聞いただけでも20年くらい同じことを言い続けているため、とっくに電動農機・電動船・電動トラック・電動航空機に変更して国内産の再エネ電力でそれを動かしていていい時期だからである。そのため、この20年間、日本政府は膨大な無駄遣いをしながら、何をしていたのかと思う。

 つまり、⑥については、最初は仕方がないため燃料に補助するものの、化石燃料価格の引き下げに繋がる補助金は早々に新機器買い替えのための補助金に変え、とっくの昔に新機器への移行を終えていなければいけない時期であり、化石燃料への補助金ではなく、むしろ炭素税を課して移行を促すべきだったのである。

 また、*4-2-2は、⑦政府は「9月末まで」としていたガソリン補助金を年末まで延長する方針 ⑧補助の長期化は国民負担を増やし脱炭素に逆行 ⑨8月28日時点の価格(全国平均)は185.6円/lと統計開始以降の最高値 ⑩店頭価格上昇の背景は原油価格の高止まり ⑪産油国は減産によって原油相場を維持 ⑫ロシアも原油輸出を減らす方針 ⑬円安・ドル高の進行もガソリン価格を押し上げ ⑭政府が原油高によるガソリン・軽油・灯油等の価格高騰を抑えるため始めた石油元売りへの補助金は、2022年夏は40円/l前後で、現在は10円/l程度 ⑮ガソリン高は家計の負担増に繋がり、特に地方の家計に響く ⑯補助金の長期化は自然な市場メカニズムの働きを抑える副作用もあるため ⑰「補助金の一部を再エネ・省エネ関連の建設費に投じて将来的な光熱費低減に繋げるべき」との指摘もある 等と記載している。

 このうち⑦は、⑪⑫の産油国の減産と⑬の円安で、⑨⑩のように原油価格が高止まりしていれば、それがこれまでの日本政治のツケであっても、今となっては仕方がない。しかし、⑧のように、出口はなく長期化して脱炭素に逆行すると同時に、現在及び将来の国民負担が増えるのだ。

 なお、⑭のように、政府が石油元売りに補助金を出すのは変であり、むしろ⑮のように負担増になった家計がガソリンなどの燃油を購入する際に補助すべきだ。そして、早急に燃油依存を止めるため、ドイツのようにガソリンスタンドに充電設備設置を義務付けたり、充電設備設置に補助したりすべきである。

 そのため、私は、⑰の「補助金の一部を再エネ・省エネ関連の建設費に投じて将来的な光熱費低減に繋げるべき」との指摘に賛成である。そして、1997年のCOP3で京都議定書の採択を主導した日本なら、2000年になったらすぐにそれを開始していなければならなかったし、集中してやれば今のように借金を増やすことなくできた筈なのだ。

(5)再エネと予算
1)ペロブスカイト型太陽電池への期待

  
  2023.9.7Yahoo    2019.12.20Smart Japan   2022.1.13Money Post

(図の説明:左図が、積水化学工業が開発したペロブスカイト型太陽電池ガラスだが、完全に透明にできていない点で改良の余地がある。中央の図は、外壁タイプとシースルータイプの太陽電池の説明だが、外壁なら煉瓦のような模様を印刷できたり、ガラスなら透明ガラスや色ガラスにできたりしなければ、建材としての実用化には遠い。しかし、右図のように、赤外線や紫外線を使って発電し、可視光線は完全透過して、遮熱と発電を同時に行えるガラスも既にできている)

 *5-1-3は、①「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めており ②太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使うため、重さがシリコン型の10分の1 ③薄いフィルム状で折り曲げられ、建物の壁・EVの屋根など場所を問わず自由に設置可能 ④日本で原料を確保しやすいため、国内でサプライチェーン構築可能 ⑤政府は2030年までに普及させる方針で、国内企業を支援 ⑥積水化学工業や東芝が2025年以降の事業化に向け開発を急ぐ ⑦ペロブスカイト型太陽電池は水分に弱いが、積水化学は封止材の技術を使って保護し、耐久性を10年相当に高めた ⑧事業化に欠かせない変換効率も高めた ⑨JR西日本がJR大阪駅北側に2025年の開業を目指す「うめきた駅」に設置する予定 ⑩室内光や曇り・雨天時等の弱い光でも発電可能なため、屋内向け電子商品などにも使われる可能性 ⑪経済波及効果は2030年までに約125億円、2050年までに約1兆2500億円 等と記載している。

 このうち、②③④の性質によって、「ペロブスカイト型」太陽電池は、①のように、注目に値すると私も思う。そのため、⑤のように、政府が2030年までに普及させる方針で国内企業を支援するのは、脱炭素化・エネルギー自給率の向上・脱公害という意味で、大変良いと思う。

 しかし、⑥⑦のように、積水化学工業や東芝などの民間企業が、2025年以降の事業化に向けて、得意技を使って開発を急いでいるのはさらに期待でき、⑨のように、JR西日本が「うめきた駅」に設置することを既に決めているのも頼もしい。なお、⑧の変換効率については、設置可能面積が著しく広いため、シリコン型ほど高める必要はないのではないか?また、⑩のように、室内光や弱い光でも発電でき、電子商品が充電不要になると便利であるため、⑪の経済波及効果は、もっと大きいと思う。

 *5-1-1によると、積水化学工業は、量産で先行している中国勢を追い上げる形ではあるが、強みの耐久性を生かして屋外での需要を開拓しているそうで、量産時期が「2030年まで」というのは少し遅いものの、期待はできる。

 なお、積水化学工業が液晶向け封止材等の技術を応用して液体や気体が内部に入り込まないようにできるのなら、真空複層ガラスの内部を透明なペロブスカイト型太陽電池にし、省エネと発電の両方を行う複層ガラスを作って、公共施設だけでなく、民間のビル・マンション・住宅も標準仕様にして欲しい。中古のマンションやビルの場合は、大規模修繕工事の時に一斉に採用すればよいと思うが、耐久性が10年程度では短すぎるため、もっと長く持つ太陽光発電複層ガラスができれば、ニーズは著しく高くなるだろう。

 また、パナソニックは、*5-1-2のように、2023年8月に、透明なガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を開発し、それはインクジェット塗布製法でガラス基板上に発電層を直接形成するものだそうだ。そして、それを、レーザー加工技術と組み合わせれば、サイズ・透過度・デザイン等の自由度を高めることが可能なのだそうで、大いに期待する。しかし、これなら複層ガラスのペロブスカイト型太陽電池でステンドグラスさえできそうであるため、ウクライナの教会の改修等に利用すれば面白いし、宣伝効果もあると思う。

2)省エネ・創エネ・脱炭素住宅へ
 *5-1-4は、東京都が、①大規模マンションについては断熱性等の環境性能開示制度を既に設けており ②2025年度から、新築の戸建て・中小規模のマンションやビルも事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明することを義務付け、都の評価基準を満たしているか契約前に説明し、買い手が環境に配慮した物件を選び易くする ③2025年度に始める新築戸建てへの太陽光パネル設置義務化と合わせて省エネ住宅普及に繋げる ④説明義務を負うのは都内で年間2万平方メートル以上の物件を供給する事業者で、大手住宅メーカー等の50社程度を想定し、都内の年間供給棟数の半数程度が対象 ⑤建物自体の環境性能のほか、EV用充電設備の設置状況が都の基準を満たしているかも説明させる ⑥パネルの設置義務も供給棟数の多い50社程度が対象で、新築物件の半数程度が対象になる見通し ⑦都内全体で毎年4万キロワット程度の発電能力を生み出せる と記載している。

 東京都は全国で唯一、都立高校入試に男女別定員があり、同じ高校の入試でも男女の合格ラインが違って女性の合格ラインの方が高くなっており、2024年春の入試からこれを全面廃止するという教育面では著しくジェンダー平等から遅れた地域だが、環境については、*5-1-4のように、先進的な規制をした。

 具体的には、②⑤⑥のように、事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明することを義務付けたり、EV用充電設備の設置を推進したり、太陽光パネルの設置を義務づけたりしており、良いと思う。

 しかし、①②④のように、対象物件や事業者を規模で分けると、③の省エネ・⑦の創エネ・⑤の脱炭素効果が中途半端になる上、買い手が環境に配慮した物件を選ぶ時には、建物の規模や事業者の規模、新築か中古かが重要な要素になる。そのため、分けるより、全新築物件・全中古物件に説明義務を課し、中古物件のリノベーションも進めた方が良いと、私は思う。

 なお、この規制は、東京都だけでなく、国が徹底した省エネ・創エネ・脱炭素を国内の全建築物の建築基準に入れるのが良い。何故なら、そうすれば、電力コストが下がり、エネルギー自給率は上がり、災害に強い電力システムができて、脱炭素も進むからである。

3)EVについて
イ)EVバスはBYDから(!?)
 *5-2-1は、①2023年3月に、西東京バスや神奈川中央交通などがEVバスを採用 ②「EVバスはディーゼルバスより音や揺れが少なく乗客に好評」と西東京バスの担当者は語る ③EVバスは、中国のBYDから購入している ④ディーゼルバスは大型2300万円程度、EVバスは4000万円台 ⑤政府は2023年度のEVバス補助率を導入費用の最大1/2に高め ⑥政府や自治体の補助金で一般バスよりも安く導入できるケースもあって、燃料費は少ない ⑦日本バス協会は2023年を「EVバス普及の年」と位置づけ、2030年までに累計1万台を導入する目標 ⑧バス充電に使う電力を発電する際まで含めるとEVバスもCO₂を排出するが、ディーゼルバスの半分で済み、脱炭素効果が大きい ⑨1回の充電に5時間かかるが、EVバスの電気代は「ディーゼル燃料の2/3程度 と記載している。

 このうち②は当然だが、最初は、「EVは音がしないから危ない」「EVは振動しないから自動車らしくない」等々、長所を短所として批判する驚くべき(呆れる)記事が日本のメディアには氾濫していた。そのため、日本国内ではEV化が進まず、③のように、日本のバス会社も中国のBYDからEVバスを購入しなければならない事態になっているのだ。

 また、⑧のように、「発電時にCO₂を排出する」という批判も散見されてきたが、それは、発電を化石燃料か原発に限定するから起こることで、再エネ発電に変えれば完全に脱CO₂・脱排気ガス・脱公害にできるのである。そのため、「何故、そういう前向きな代替案が出ないのか」が、日本の論調の問題点なのだ。

 さらに、④のように、ディーゼルバスは大型2300万円程度、EVバスは4000万円台と、構造は簡単であるのにEVバスの価格をより高く設定し、「環境志向すれば高くなる」という論理にしているが、構造が簡単な自動車を大量生産すればより安くできる筈である。ただし、国内だけでなく世界での販売を視野に入れて生産しなければ大量生産しても需要がないため、価格を高く設定すれば他国に敗退するしかないという循環になっているわけである。

 そのような中、⑤⑥のように、政府はEVバスの補助率を高め、政府と自治体の補助金で一般バスよりも安く導入できるケースもあり、燃料費はEVバスの方が少ないため、①⑦のように、西東京バスや神奈川中央交通などがEVバスを採用し、日本バス協会は2030年までに累計1万台を導入する目標を立てたそうだ。

 しかし、⑨のように、EVバスの電気代はディーゼルバスの燃料より安く、CO₂を排出しない発電方法も多いため、早急に大量生産して「補助金不要」の状態にしてもらいたい。何故なら、日本では、EVもまた、本格的に推進し始めてから既に25~30年も経過しているからである。

ロ)新EVも外国製(!?)
 *5-2-2のように、①スウェーデンのボルボは日本に投入する3車種目のEVの「ボルボEX30」を11月中旬に日本で発売する ②値段は税込み559万円から ③最大の特徴は機械式立体駐車場でも使えるよう小型化したこと ④EX30は全長4235mm、全幅1835mm、全高1550mmと最も小さい ⑤最大航続距離は480kmで急速充電器を使えば約26分で充電残量を10%から80%にできる ⑥日本法人の不動社長は「日本から要望し続けてようやく実現したサイズで、日本の道路・車庫事情に最もフィットする一台」と話した ⑦大型車が好まれる欧米では苦戦が見込まれていたが、予想に反して売れ行きは好調 ⑧小型化で部品数が減り、従来のEVより100万円以上安く、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買える と記載している。

 このうち⑥の「日本の道路・車庫事情に最もフィットする」のが、③④の「立体駐車場対応」の「小型サイズ」であることは事実だが、道路を狭いままにして小型サイズでなければ運転しにくくしているのは、都市計画のない街づくりの結果であるため、日本の街づくりや道路づくりは再考すべきだ。

 しかし、「日本からの要望で実現したサイズ」が、⑦のように、欧米でも売れ行きが好調なのは、どの国にも小路はあるため、小型車の方が運転しやすく、燃費も良いからであろう。

 また、②⑧のように、「部品数が減って安くなり、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買える」というのは、庶民の自動車の買い替えには必要条件であり、この値段ならボルボ車でも買える。ただし、私自身は、①のようなSUV(Sport Utility Vehicle、スポーツ用多目的車)ではなく、流線形のスマートなEVの方が好みだ。

 なお、⑤のように、「最大航続距離480km」では少し不安が残り、5分で900km走れる充電ができるようになれば十分なのだが、「急速充電器約26分で充電残量10%から80%」というのは、現在なら良い方だろう。

4)車の畜電池について
イ)リチウム電池
 *5-3-1は、①リチウムの精製・分離は環境負荷が高いため、環境規制が緩くて労働コストの安い中国に依存し、豪州のリチウム輸出先は9割が中国だった ②豪州には完成車メーカーはなく ③現政権は脱炭素に意欲的で、EV国家戦略を公表し、EV関連産業育成やリチウム等の重要鉱物資源国内加工を後押し ④米フォード・モーターが自動車を製造していたジーロングはEV向け電池工場の建設予定地に変貌し、米企業傘下の電池スタートアップ、リチャージ・インダストリーズが工場の立ち上げを計画 ⑤年間生産能力は最大30GWH、EV約30万台分の電池を供給予定 ⑥2025年に生産開始して2550人の雇用創出予定 ⑦豪州は近年、山火事等の自然災害が深刻化し、気候変動対策を求める声が強まる ⑧アルバニージー首相は化石燃料に依存する経済から「再エネ超大国」への転換を目指す 等と記載している。

 つまり、①のように、リチウム精製・分離の環境負荷が高いため、豪州は輸出の9割を中国に依存していたが、②のように、完成車メーカーがないため、③のように、現政権は、EV関連産業育成やリチウム等重要鉱物資源の国内加工を後押しし、④⑤⑥のように、ジーロングの米フォード・モーター自動車製造跡地に米企業傘下の電池スタートアップが年間生産能力最大30GWHの電池工場と2550人の雇用創出を予定しているとのことである。

 これには、⑦のように、豪州で山火事等の自然災害が深刻化して気候変動対策を求める声が強まり、⑧のように、アルバニージー首相が「化石燃料依存型」から「再エネ超大国」への転換を目指している背景があるそうだ。 

 一方、*5-3-2は、⑨日本の官民は、カナダでEV向け重要鉱物の探鉱・加工・蓄電池生産を含む供給網を構築する ⑩カナダ政府も補助金等で支援し、両国が協力して供給力を高める ⑪これにより、北米での日本企業のEV販売増に繋げ、経済安全保障を強化する ⑫西村経産相が9月21日にカナダを訪問し、ウィルキンソン天然資源相らと蓄電池供給網に関する協力覚書を結ぶ ⑬協力内容はJOGMEC等によるカナダでのニッケル・リチウム等の探鉱 ⑭カナダ政府は現地に進出する日本企業を補助金等で支援する ⑮米国の税額控除対象になるには、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国のFTA締結国から調達し、電池部品の5割を北米で製造・組み立てする等が要件 ⑯日本にとっては供給網の強化も見込める 等と記載している。

 このうち、⑮の米国における税額控除対象要件のために、⑨⑫⑬のように、カナダでEV向け重要鉱物の探鉱・加工・蓄電池生産を含む供給網を構築し、これを⑩のように、カナダ政府も補助金等で支援して、⑪のように、北米での日本企業のEV販売増に繋げ、経済安全保障を強化するのはわかる。

 しかし、*5-3-3のように、2020年8月には、日本のEEZでコバルト・ニッケル等のリチウム電池に不可欠なレアメタルの採掘成功が報告されているのに、未だにほぼ全てを輸入に頼って量産化の目途も立てないのはどうしたことか。採掘・精製・分離の環境負荷や労働コストが高すぎると言うのなら、先進国である豪やカナダのように課題解決して、積極的に国内(EEZも含む)で探鉱・加工・蓄電池生産をすべきである。

 なお、カナダ政府は、⑭のように、現地に進出する日本企業を補助金等で支援し、米国政府は、⑮のように、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国のFTA締結国から調達し、電池部品の5割を北米で製造・組み立てすること等を税額控除対象の要件としているが、日本政府はこういうことは何も行わずに、⑯のように、輸入先の多角化を喜んでいるだけなのだ。この調子では、国民負担が増えるばかりで国民が豊かになれないのは当然と言わざるを得ない。

ロ)全固体電池
 *5-3-4は、パナソニックホールディングス(HD)が、①ドローン等向けの小型の全固体電池を2020年代後半に量産する方針を明らかにし ②3分程度でドローン用電池容量の8割を充電でき、同じ充電に1時間を要するリチウムイオン電池と比べ利便性が高い ③数万回充放電ができ、一般的リチウムイオン電池の約3000回を大きく上回る ④全固体電池はEVの次世代車載電池としてトヨタ自動車も2027〜28年に実用化する方針 とのことである。

 ②③のように、3分程度で電池容量の8割を充電でき、数万回充放電ができるのはよいが、家電でも家庭用蓄電池・コードレス掃除機・ガーデンライトソーラー等々、電気の残量を気にせず使いたい蓄電池はいくらでもあるため、開発し始めてから数年経つのに、①のように「2020年代後半(2025年以降)の量産」などと言っているのは遅すぎる。そのため、これでは他国に抜かれても文句は言えまい。

 トヨタも「次世代EV車載電池としての全固体電池は2027〜28年に実用化」などとしているが、これも遅すぎて、EVはリチウム電池の世界になりそうなのである。

(6)組織再編について
イ)M&Aの使い方
 *5-4-1は、①日本企業同士(イン・イン型)のM&Aが全体の63%を占めた ②相乗効果が見込みやすい国内の事業再編が活発になった ③円安で海外企業を買うハードルが上がって潮目が変わる可能性 ④日本企業同士のM&Aで目立ったのは大手企業が国内投資ファンドと組んで株式を非公開化する動き ⑤東芝はJIPや日本企業20社超の支援を受けて株式非公開化を決めた ⑥半導体材料大手のJSRは政府系ファンドJICによる約1兆円買収を受け入れ ⑦半導体材料の国際競争力を高めるため、国の関与の下で積極投資しやすい環境を整える ⑧経営者の高齢化が進み事業承継目的のM&Aも広がった ⑨2010年代の日本企業のM&Aはイン・アウト型が中心だった ⑩脱炭素社会をにらみ再エネ開発会社の再編も増えた ⑪経産省の「企業買収における行動指針(案)」は企業価値向上に繋がる真摯な買収提案を合理的な理由なく拒まないよう求める ⑫日本は主要先進国の中でも、経済規模に比べてM&Aが少ない 等と記載している。

 日本では、組織再編の1つであるM&Aに他社やファンドへの「身売り」イメージが強いため、⑫のように、日本の経済規模と比較してM&Aが少ない。そのため、⑪のように、経産省が「企業価値向上に繋がる真摯な買収提案を合理的な理由なく拒まないよう求める」という行動指針(案)を出すほどなのだが、本当は、i)企業の成長のため、他社の買収や合併を行って自社にない技術や販売網を獲得する ii)新規事業への出資や事業拡大のため、ベンチャー企業を作る iii)後継者のいない企業が事業承継する 等の前向きな目的を持つM&Aも多く、M&Aは企業価値向上の一つの手段となる。

 そこで、i)の自社にない技術や販売網を獲得するには、①の「イン・イン型」でも⑨の「イン・アウト型」でもよく、ii)のように、お互いの長所を出しあってベンチャー企業を作ってもよいが、⑤の東芝の場合は、⑨の「イン・アウト型」で高すぎる買い物をして大損を出し、公開情報によって不必要なところまで叩かれたため、自らがJIPや日本企業20社超の支援を受けて株式を非公開化することになったという経緯がある。

 そのため、②のような国内企業同士の事業再編の方が、お互いをよく知っているため相乗効果の予測がし易いという長所があるが、国内企業同士では大胆な改革が進みにくいという短所もある。また、⑥⑦のように、国の関与の下で積極投資するという政府系ファンドによる買収が、本当に半導体材料の国際競争力を高めるかどうかについては疑問が多い。

 なお、⑩のように、脱炭素社会を睨んでの再編も増えたそうだが、その例としては、ソニーと本田の折半出資で設立されたソニー・ホンダモビリティ(株)のように、高付加価値のEVを共同で開発・販売し、モビリティ向けのサービスも提供することを目的として作ったジョイントベンチャーがあり、発電や送電についても、お互いの得意技を活かした提携やジョイントベンチャーがあり得るわけである。

 最後に、iii)のように後継者がおらず、⑧のような経営者の高齢化が進んだ企業で事業承継にM&Aを使うのも良い解決策だが、このほかにマネージング・バイアウトという方法もある。 

ロ)そごう・西武買収のケース
 *5-4-2は、①ヨドバシは米ファンドと組んでそごう・西武を買収 ②西武池袋本店・そごう千葉店・西武渋谷店等に出店方針 ③ヨドバシは百貨店中心部に家電売場を設けて集客力を高め、経営再建に繋げる計画 ④西武池袋本店は低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設ける ⑤ヨドバシは人口減の中で効率良く集客でき、インバウンドを見込める都市部での競争力強化が課題 ⑥JR池袋駅や千葉駅近くに店舗があるそごう・西武の資産は魅力 ⑦ストライキ決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満は根強く、労使の信頼関係にはしこり ⑧豊島区や地元の商工会議所もヨドバシの西武池袋本店出店に納得せず ⑨一部の高級ブランドはヨドバシの出店計画に難色、ヨドバシの出店形態によっては百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性 としている。

 私は池袋駅まで40分くらいの場所に住んでいるため、池袋駅に直結した西武池袋本店(以下“西武デパート”)と東武百貨店池袋店(以下“東武デパート”)の両方の顧客だが、東武東上線を利用するので東武デパートの方が改札口に近く便利である。また、食品については、東武デパートの方が安くて品質も良いように思う。

 しかし、衣類は西武デパートの方が良いので、衣類を東武デパートで買ったことはない。ただし、東武東上線は有楽町線や副都心線と直通運転しているため、本当に良い衣類を探したい場合は、有楽町線で銀座に出たり、副都心線で新宿三丁目や渋谷に出たりすれば、選択肢が増える。そのため、西武デパートは、Young向けの細身サイズ(これが“標準”か)の衣類ばかり置いて特色を出さなければ、競争に負けると思われる。

 このような中、2022年度のそごう・西武の業績は、営業利益は25億円と3期ぶりの黒字、純利益はマイナス131億円の赤字で、経営の足を引っ張っているのは3000億円を超える有利子負債だとされている。しかし、①②③のように、ヨドバシカメラが米ファンドと組んでそごう・西武を買収し、百貨店の中心部に家電売場を設ける」という話が飛び込んできた時、私は顧客としてショックだった。

 ショックだった理由は、ヨドバシカメラは量販店で高級イメージがなく、百貨店のイメージとは逆だからである。そのため、⑨のように、一部の高級ブランドがヨドバシの出店計画に難色を示したり、百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性があったりするわけだ。また、池袋駅や街のイメージも変わるため、⑧のように、豊島区や地元商工会議所もヨドバシの西武池袋本店出店に納得しないことが起きるのだろう。 

 しかし、当面の解決策としては、④⑥のように、一階にヨドバシ専用の狭い入口をつけ、低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設けるのなら、百貨店の高級イメージを壊すことなく、駅に直結した家電量販店ができて便利だと、私は思う。そのため、⑤のようなインバウンド客だけでなく、住民も取り込めるのではないだろうか。

 もちろん、⑦のように、ストライキの決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満・不信が根強いのはわかるし、西武デパートの専有面積が狭くなるのも残念だが、それは一等地にある西武デパートを、容積率が増すように建てなおせば解決するのではないか?

 ただし、根本的には、豊島区が、全体として雑然とした池袋駅周辺の街を、緑が多くて整然とした品のある街づくりに変貌させることが重要だ。また、池袋駅も、昔の渋谷駅に負けず劣らず迷路のような長い通路を歩かせて疲れさせる駅であるため、駅ビルを建てなおしてどちら側にも簡単に行けるようにすれば、客足は伸びると思われる。

・・参考資料・・
<日本の財政と人口減>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73596380V10C23A8MM0000 (日経新聞 2023.8.15) GDP年率6.0%増 4~6月実質、3期連続プラス 輸出復調、消費は弱含み
 内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比1.5%増、年率換算で6.0%増だった。プラス成長は3四半期連続となる。個人消費が弱含む一方で、輸出の復調が全体を押し上げた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率3.1%増で、大幅に上回った。前期比年率で内需がマイナス1.2ポイント、外需がプラス7.2ポイントの寄与度だった。年率の成長率が6.0%を超えるのは、新型コロナウイルス禍の落ち込みから一時的に回復していた20年10~12月期(7.9%増)以来となる。GDPの実額は実質年換算で560.7兆円と、過去最高となった。コロナ前のピークの19年7~9月期の557.4兆円を超えた。輸出は前期比3.2%増で2四半期ぶりのプラスとなった。半導体の供給制約が緩和された自動車の増加がけん引した。インバウンド(訪日外国人)の回復もプラスに寄与した。インバウンド消費は計算上、輸出に分類される。輸入は4.3%減で3四半期連続のマイナスだった。マイナス幅は1~3月期の2.3%減から拡大した。原油など鉱物性燃料やコロナワクチンなどの医薬品、携帯電話の減少が全体を下押しした。輸入の減少はGDPの押し上げ要因となる。内需に関連する項目は落ち込みや鈍りが目立つ。GDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%減と、3四半期ぶりのマイナスとなった。コロナ禍からの正常化で外食や宿泊が伸び、自動車やゲームソフトの販売も増加した。一方で長引く物価高で食品や飲料が落ち込み、コロナ禍での巣ごもり需要が一巡した白物家電も下押し要因となった。設備投資は0.0%増と、2四半期連続プラスを維持したものの、横ばいだった。ソフトウエアがプラスに寄与したが、企業の研究開発費などが落ち込んだ。住宅投資は1.9%増で3四半期連続のプラスだった。公共投資は1.2%増で、5四半期連続のプラスだった。ワクチン接種などコロナ対策が落ち着き、政府消費は0.1%増と横ばいだった。民間在庫変動の寄与度は0.2ポイントのマイナスだった。名目GDPは前期比2.9%増、年率換算で12.0%増だった。年換算の実額は590.7兆円と前期(574.2兆円)を上回り、過去最高を更新した。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比3.4%上昇し、3四半期連続のプラスとなった。輸入物価の上昇が一服し、食品や生活用品など国内での価格転嫁が広がっている。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230731&ng=DGKKZO73135260Y3A720C2TCS000 (日経新聞 2023.7.31) 600兆円経済がやって来る、特任編集委員 滝田洋一
 日銀は7月28日、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を柔軟にし、長期金利が0.5%の上限を一定程度超えるのを容認すると決めた。日銀は高まるインフレ圧力に負けたのだろうか。いや、逆だろう。日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレの下で新たな成長に向かいつつある。政府と日銀が慎重な経済運営を続けるなら、思ってもみなかった視界が開けるはずだ。601.3兆円。内閣府は7月20日、2024年度の名目国内総生産(GDP)の見通しを発表した。600兆円といえば、15年に当時の安倍晋三首相が打ち出した新3本の矢の第1目標である。15年度の名目GDPは540.7兆円。22年度も561.9兆円と21兆円あまりの増加にとどまる。それが23年度には586.4兆円と前年度比24兆円あまり増え、24年度には600兆円に乗せる。物価が上がりだしたことで、名目GDPが押し上げられるのだ。GDPばかりでない。企業の売り上げ、利益、働く人の給与明細、株価、政府の税収。目に見える経済活動は物価を含む「名目」だ。デフレ脱却が大きな影響を及ぼすのは企業行動である。1990年度から2021年度にかけて、大企業は売上高が5%増にとどまるなか、経常利益を164%伸ばした。リストラで利益を捻出したのである。企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させてきた。インフレの到来でその舞台は一変した。22年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えた。日銀全国企業短期経済観測調査(短観)によれば、バブルの頂点だった1989年以来の高い伸びである。中堅、中小企業も合わせた全規模でも、売上高は8.7%増えた。売り上げ増の手応えをつかんだことで、企業は国内で設備投資のアクセルを踏み出した。23年度の設備投資は名目ベースで100兆円台に乗せ、過去最高となる勢いだ。日本経済団体連合会は4月、27年度に115兆円という設備投資目標を掲げたが、前倒しとなってもおかしくない。今回の物価上昇のきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的なインフレ。コロナ禍からの回復や人手不足も手伝い、国内にも価格転嫁や賃上げの波が及んだ。もちろん、いいことずくめではない。賃金の伸びは物価の上昇に追いついていない。家計のインフレへの不満はここに根差す。5月には物価上昇を差し引いた実質賃金が前年同月比0.9%減少した。実質賃金は14カ月連続の減少。でも減少幅は1月の4.1%減よりぐっと縮まった。春の賃上げ幅が拡大したからだ。連合の集計によると、23年の春闘の平均賃上げ率は3.58%。1993年以来、30年ぶりの高水準になった。7月20日の経済財政諮問会議。有識者である民間議員は「プラスの実質賃金となるよう、賃上げの流れを拡大すべきだ」と提案した。資料に記されたグラフが目を引く。名目賃金の前年比の増加率は22年度上期の1.6%強が、下期には2.0%強に。名目賃金の伸びがこの調子で高まれば、23年度下期にかけ2.5%を上回る姿が描ける。一方、消費者物価上昇率は、民間エコノミストの予想を平均すると、23年7~9月期が前年比2.76%。10~12月期は2.29%と日本経済研究センターは集計する。予想通り賃金の伸びが物価を上回るようなら、23年度下期にも実質賃金は増加に転じる。民間議員がクギを刺すように物価の不確実性は高い。政府によるきめ細かな物価対策は欠かせない。それにしても、家計の所得が消費を後押しする好循環に入るチャンスが巡ってきたのは確かだろう。バブル崩壊後、30年あまり続いた光景が変わるにつれて、財政、金融政策についても正常化を探る動きが出てきている。その際に政府・日銀が心すべきは、経済の好循環に水を差さぬことである。防衛費や少子化対策予算と絡み増税が議論されるが、足元の税収は出世魚のように増加中だ。22年度は当初見積もりの65.2兆円に対し、決算では71.1兆円と6兆円近く上振れした。経済が名目で拡大しだしたからだ。23年度税収の当初見積もりは69.4兆円。前年度の71.1兆円より少ない予想は、政府の名目成長率見通しと整合的ではない。名目成長率見通しの4.4%と同率で税収が増えるなら、23年度の税収は74.2兆円になる勘定。5兆円近い上振れが見込まれる。政府はインフレの受益者であり、税収の自然増が財政を下支えしているのである。デフレ脱却と経済の好循環実現は、岸田文雄内閣の看板政策である少子化対策との関係でも欠かせない。経済停滞のしわ寄せを、特に低所得世帯が被ってきたからだ。35~39歳で配偶者のいる男性の比率を07年と17年で比べると、年収100万~249万円の所得層で低下が目立つ。年収200万~249万円の層を例にとるなら、有配偶者の比率は45.3%から36.2%に低下している。経済産業省はそんなデータを示す。少子化に歯止めをかけるには、真っ先に経済を軌道に乗せ働く人の所得を引き上げる必要がある。バブル崩壊後の日本は経済が軌道に乗りかけると、財政政策か金融政策かでブレーキを踏み、経済を失速させてきた。その轍(てつ)を踏まぬよう細心の注意が必要だ。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73595470V10C23A8EAF000 (日経新聞 2023.8.15) 名目成長、12%に加速、4~6月、物価高で押し上げ
 インフレが日本経済の名目値を押し上げている。内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、名目成長率が前期比年率でプラス12.0%となった。デフレで長らく低迷していた名目GDPが、世界的な物価上昇を契機に動き出しつつある。新型コロナウイルス禍の経済低迷の反動が出た2020年7~9月期(プラス22.8%)以来の高い伸び率となった。コロナ禍の時期を除くと、1990年4~6月期(プラス13.1%)以来の伸びとなる。年換算の実額は590.7兆円となり、コロナ流行前である19年度の水準に比べ33.9兆円多い。企業の売上高や賃金、株価などは名目値であるため、インフレによる経済規模の拡大が進めば、こういった経済指標も上昇しやすくなる。名目成長率を項目別にみると、個人消費は前期比0.2%減だった。インフレの影響で実質は0.5%減と名目より深く落ち込んだ。設備投資は実質でみると横ばいだったが、名目は0.8%増だった。設備投資のコストが高まっている可能性がある。GDPデフレーターからみた物価上昇率は前年同期比3.4%と、3四半期連続でプラスとなった。伸び率は前の期から加速した。伸び率は現行基準で遡れる1995年以降で最も高い。過去の基準も含めて比較すると1981年1~3月期以来の伸び率になる。前期比では1.4%の上昇だった。GDPは輸入を控除項目として全体から差し引く。物価動向を示すGDPデフレーターも同様に輸入物価の影響を全体から差し引いて計算する。資源高で急激に輸入物価が上昇した場合、輸入デフレーターが全体にマイナス寄与するため、GDPデフレーターも落ち込みやすい。実際にロシアのウクライナ侵攻による資源高で22年4~6月期、7~9月期は2四半期連続でデフレーターがマイナスになった。ここに来てデフレーターが上昇しているのは、輸入物価の上昇が一巡したことによる押し上げ効果のほか、価格転嫁が進み国内物価も上昇していることを示す。賃金も安定的に上昇してくれば、日本経済の脱デフレに向けた道筋が本格化する。後藤茂之経済財政・再生相は同日の記者会見で、今後の景気については所得の改善や企業の高い設備投資意欲を背景に「緩やかな回復が続くことが期待される」との見方を示した。一方で「物価上昇の影響や海外景気の下振れリスクには引き続き十分注意が必要だ」と指摘した。

*1-1-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1090961 (佐賀新聞 2023/8/15) 実質GDP、年率6・0%増、4~6月、3期連続プラス
 内閣府が15日発表した2023年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動を除く実質で前期比1・5%増、年率換算は6・0%増だった。市場予想(年率プラス3%程度)を大きく上回り、3四半期連続のプラス成長となった。半導体の供給制約の緩和で自動車などの輸出が伸びた。ただ輸入の減少が統計上プラスに寄与した面も大きく、物価高の影響でGDPの約6割を占める個人消費も低調だった。実質GDPの伸び率は、20年10~12月期(年率7・9%増)以来の大きさだった。景気実感に近いとされる名目GDPは前期比2・9%増で、年率換算は12・0%増となった。物価高を反映して20年7~9月期(年率22・8%増)以来の高い伸びとなり、金額も過去最高の590兆7千億円に達した。4~6月期の実質を項目別に見ると、個人消費は前期比0・5%減。外食や宿泊は伸びたが、食料品や白物家電が相次ぐ値上がりの影響などで落ち込んだのが響いた。設備投資は0・0%増にとどまった。住宅投資は1・9%増、公共投資は1・2%増だった。輸出は3・2%増だった。自動車の伸びに加え、統計上は輸出に区分されるインバウンド(訪日客)消費の伸びが寄与した。一方、輸入は4・3%減だった。原油や医薬品などが減った。輸入の減少はGDPを押し上げる要因になる。こうした結果、GDP全体への影響度合いを示す寄与度は、個人消費や設備投資などの「内需」がマイナス0・3ポイント、輸出から輸入を差し引いた「外需」がプラス1・8ポイントとなり、外需がGDPを大きく押し上げた。国内総生産(GDP) 国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額。内閣府が四半期ごとに公表し、景気や国の経済力を表す代表的な指標とされる。個人消費や企業の設備投資といった「内需」と、輸出から輸入を差し引いた「外需」で構成する。実際の価格で計算した名目GDPと、物価変動の影響を除いた実質GDPがある。前年や前四半期と比べた増減率を「経済成長率」と呼ぶ。

*1-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230816&ng=DGKKZO73624790V10C23A8EA1000 (日経新聞社説 2023.8.16) 内需の弱さ直視し賃金・投資増の歯車回せ
 内閣府が15日発表した2023年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は季節調整済みの前期比の年率換算で6.0%増加した。3%程度だった市場の事前予想を大きく上回り、3四半期連続のプラス成長となった。日本経済は回復の歩みを続けている。名目値は物価高もあって年率12%と2ケタ成長を記録した。実質値は1~3月期の成長率も従来の年率2.7%から3.7%に改定され、GDPの水準は今回、年換算で560兆円台と新型コロナウイルス禍前を上回った。だが「高成長」を額面どおりに受け止められない面もある。外需の一時的な押し上げに支えられ、個人消費や設備投資は力強さに欠けた。内需に弱さが残る現実を直視し、賃上げ継続や投資の着実な実行へ官民で策を練るべきだ。外需のうち輸出は前期比3.2%増とプラスに転換した。統計上、サービス輸出に含まれる訪日外国人のインバウンド消費が堅調だったのは心強い。半面、モノの輸出増には半導体の供給制約の解消といった要因も効いており、海外経済の盤石ぶりを示すわけではない。中国向けの輸出減速には警戒が必要だ。輸入は4.3%減だった。GDP統計では海外から買った分を取り除くので輸入減は成長を押し上げる。年率6%成長のうち輸入減の貢献は4.4%分に及ぶ。輸入の数量減は内需の弱さを映す面もある。個人消費は前期比で0.5%減と3期ぶりにマイナスとなった。事前には小幅増の市場予想が目立った。所得が物価ほどには伸びず、実質でみた所得が目減りしていることが大きい。積極的な賃上げが24年以降も続くかは予断を許さない。構造的な賃上げの機運を絶やさぬよう、官民は一致して取り組むべきだ。設備投資は1~3月期の前期比1.8%増から減速し、0.03%増と横ばい圏にとどまった。日本政策投資銀行の調査では、大企業の23年度の国内設備投資計画は前年度比21%増と、計画値としては1980年代以降で3番目に高い伸びとなった。企業が強気の投資計画を着実に実行に移すには、安定した経済や市場環境の維持が欠かせない。日銀は7月に長短金利操作の運用を柔軟にしたが、債券や外国為替市場は不安定さを抱える。日銀は市場安定へ市場との綿密な対話や情報発信に一層努めてほしい。

*1-1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230819&ng=DGKKZO73729570Z10C23A8EA2000 (日経新聞 2023.8.19) 続く物価高、消費に影 生鮮・エネ除く指数4.3%上昇、食品高止まり、宿泊料伸び拡大 賃上げは追いつか
 物価の上昇圧力が続いている。7月の消費者物価指数は生鮮食品とエネルギーを除く総合指数が前年同月比4.3%上昇し、伸び率は再拡大した。食品や日用品の値上がりは家計を圧迫し、消費は伸び悩む。物価上昇と賃上げの好循環はなお遠く、景気回復の勢いも弱まりかねない。総務省が18日発表した7月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.1%上昇した。伸び率は6月の3.3%から縮んだものの、日銀が掲げる2%の物価目標を16カ月連続で上回る。価格が変動しやすい品目をさらに除いた指数をみると、物価上昇はむしろ勢いを増す。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比4.3%プラスで、2カ月ぶりに伸びを拡大した。消費者物価は2023年度の後半にかけて鈍化するとの見方もあるが、現時点ではまだピークアウトしたとは言えない状況にある。最大の要因は、全体の6割を占める食料の高止まりだ。7月はハンバーガーが前年同月比で14.0%上昇した。10%超えは13カ月連続。プリンは27.5%プラスで、6月の12.6%から伸び率が拡大した。米欧に遅れた価格転嫁の波が続いている。宿泊料は15.1%プラスと、6月から10ポイントほど伸び率を拡大した。インバウンド(訪日外国人)の回復などによる需要の高まりに、政府の観光支援策「全国旅行支援」が今夏以降に各都道府県で順次終了したことが重なった。ほかのサービスも上昇に弾みがついた。携帯電話通信料は10.2%プラスと統計上さかのぼれる01年以降で過去最高の伸び率となった。NTTドコモが7月から新料金プランを投入したことが背景にある。日銀は7月、23年度の生鮮食品を除く物価上昇率の見通しを2.5%に引き上げた。4月の段階では1.8%とみていた。物価上昇率が11カ月連続で3%を超えて推移するなど、物価高が想定を超えて続いている。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「日銀も市場関係者もウクライナ侵攻による輸入物価上昇のインパクトを読み違えた」とみる。過去の物価高局面と異なり「一度ではコストを転嫁しきれず、複数回値上げする動きを読み切れなかった」と説明する。長引く物価高で消費への下押し圧力は強まっている。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の6月の消費支出は実質で前年同月比4.2%減った。マイナスは4カ月連続だ。品目別に見ると、物価上昇の大きな要因となっている食料が3.9%減で、9カ月連続のマイナスとなった。プリンやハンバーガーといった値上げが目立つ品目ほど消費は細っている。6月の実質消費支出はそれぞれ15.4%、13.5%減った。逆に、電気代は燃料価格の低下や政策効果による価格下押しで支出が5.9%増えている。外食は1.8%増とプラスを維持するものの、5月(6.7%増)から伸びを縮めた。サービス消費は新型コロナウイルス禍からの正常化で回復期待が高かったわりには動きが鈍い。勢いを欠く消費は経済成長に水を差す。23年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は季節調整済みの前期比年率6.0%増と高い成長率となったものの、けん引役は復調した輸出などの外需だった。個人消費は物価高を受けて前期比0.5%減に沈んだ。23年の春季労使交渉の賃上げ率は30年ぶりの高水準だったとはいえ、物価の伸びには追いついていない。24年以降に賃上げが息切れすれば、家計の購買力の低下を通じて再びデフレ圧力が強まるとの懸念がにじむ。実際、コロナ禍前の19年10~12月期と足元を比較すると、雇用者報酬は実質で3.5%減っている。高止まりする物価に賃金が追いつかず、消費はほとんど伸びていない。日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばす。秋以降は物価上昇が加速する恐れもある。政府が実施しているガソリンや電気・都市ガスの価格抑制策は延長措置がなければ、ともに9月分で終了する予定だ。第一生命経済研究所の新家義貴氏はガソリン価格抑制の補助金事業が終われば、10月以降の生鮮食品を除く消費者物価指数を0.5ポイント押し上げるとみる。総務省は電気・都市ガスの価格抑制策が7月の物価の伸びを1ポイントほど押し下げたと推計する。対策が終われば、単純計算で1.5ポイントの上昇圧力となるリスクがある。高い物価上昇率は金融政策の議論にも影響を与える。日銀は物価の安定には「まだまだ距離がある」(植田和男総裁)とみて、金融緩和を続けている。ただ、物価上昇の勢いがこのまま衰えなければ、現状の金融緩和策の見直しが焦点となる。

*1-1-7:https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/fis/kiuchi/0808_2 (NRI 2023/8/8) 春闘の妥結と比べて見劣りする実際の賃上げ率:実質賃金の安定的上昇は2025年半ば以降か:長期インフレ期待の安定回復は日銀の責務(6月毎月勤労統計)、木内 登英
●期待外れの賃金上昇率
 労働省が8月8日に公表した6月分毎月勤労統計で、賃金上昇率は期待されたほどには上昇しなかった。現金給与総額は前年同月比+2.3%と、前月の同+2.9%から低下した。残業代やボーナスなどを除く、より変動の小さい所定内賃金も、前年同月比+1.4%と前月の同+1.7%から低下した。この結果、実質賃金は前年同月比-1.6%と前月の-0.9%から下落幅が拡大し、15か月連続での下落となった。賃金上昇率が物価上昇率に追いつかない状況がなお続いており、潜在的な個人消費への逆風が収まっていない。厚生労働省の発表では、今年の春闘で、主要企業の賃上げ率(定期昇給分を含む)は+3.6%と30年ぶりの高水準となった。6月の毎月勤労統計には、春闘での妥結がほぼ反映されているとみられるが、実際の賃上げ率はそれをかなり下回っている。平均賃金上昇率と概ね一致するのは、定期昇給分を含む賃上げ率全体ではなく、ベースアップ部分である。定期昇給分は個人ベースで見れば賃金増加につながるが、企業の人件費全体の増加率を決めるのはベースアップ部分である。退職者と新規雇用者が同数であれば、定期昇給分は人件費全体には影響しない。ベースアップは連合の発表では+2.3%であった。この水準は6月の現金給与総額の前年比上昇率と一致するが、通常は、ベアと近い動きを示すのは、残業代やボーナスなどを除く、より変動の小さい所定内賃金であり、それは6月に+1.4%に過ぎなかった。ベアを公表する企業が必ずしも多くないことから、その集計には誤差が大きいこと、厚生労働省の数字がカバーするのは、従業員5名以上と、零細企業も含むことが両者の差を生んでいるのだろう。零細企業の賃上げ率は主要企業よりも低かったことが考えられる。
●実質賃金が安定的に上昇に転じるのは2025年半ば以降か
 企業の人件費全体や個人所得全体の増加率を決めるのが、定期昇給分を含まないベアであり、それを幅を持って1%台半ばから2%程度とした場合、消費者物価上昇率がその水準まで低下するにはなお時間がかかる。さらに、物価上昇率の低下を反映して、来年の春闘のベアは比較的高水準ながらも、1%台半ばなど、今年の水準を下回ると予想される。物価上昇率が緩やかに低下していっても、賃金上昇率も低下していくため、なかなか両者の逆転は起きないのである。物価上昇率が安定的にベアを下回り、実質賃金が上昇に転じるのは、消費者物価上昇率が0%台半ば程度まで低下する局面であり、それは2025年半ば以降になると予想される。
●日本では長期インフレ率が上振れ
 米国などと比べて日本では、個人の長期のインフレ期待が大幅に上振れていることが注目される。国際決済銀行(BIS)の計算では、2020年末から3%ポイントも上振れ、足元で+5%に達している(図表1・2)。欧米の中央銀行とは異なり、2%の物価目標にこだわる日本銀行が、物価上昇率が上振れる中でも金融政策を修正せず、長期のインフレ期待の上振れを容認してきたことが、大きく影響しているのではないか。この点から、今後、欧米での物価上昇率は比較的迅速に低下する可能性がある一方、日本では、物価上昇率の低下が遅れるリスクがあるだろう。2%の物価目標達成のために、長期のインフレ期待の大幅上昇は望ましい、との意見もあるが、その考えは危険ではないかと思われる。日本経済の実力から乖離した、足元の物価上昇率の大幅上振れや長期のインフレ期待の大幅上振れは、日本経済の安定を損ねかねない。例えば、企業の長期のインフレ期待は個人ほど上昇していないと考えられる中、企業が賃金の大幅な引き上げに慎重な姿勢を崩さず、その結果、この先の賃金上昇率が個人の高い長期インフレ期待に追いつかないことが考えられる。それが明らかになれば、個人は消費を一気に控えるようになるリスクがある。
●YCC柔軟化に留まらず本格的な政策修正を
 賃金上昇を伴う持続的、安定的な2%の物価目標達成にはなお距離がある、と日本銀行は繰り返し述べている。こうした判断は正しく、足元の物価上昇率が一時的に上振れていると言っても、短期的に2%の物価目標を達成することは確かに難しいと思われる。しかし、政治的圧力のもとで日本銀行が10年前に導入を余儀なくされたこの2%の物価目標には、そもそも妥当性はなかった。日本経済の実力を踏まえれば高過ぎることは今も変わらない。日本銀行は2%の物価目標にこだわらずに、日本経済と国民生活の安定のために中長期の物価安定を確保する姿勢をより強く打ち出すべきだろう。その一環として、先般決めたイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化に留まらずに、マイナス金利解除など、より本格的な政策修正に早期に乗り出すべきではないか。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15705085.html?iref=pc_ss_date_article (朝日新聞 2023年7月31日) 異次元緩和への道、不安と高揚 10年前の日銀政策決定、議事録公表
 日本銀行は31日、2013年1~6月の金融政策決定会合の全議事録を公表した。今に続く大規模金融緩和を始めた時期にあたる。過去に例のない規模の緩和に踏み出す高揚感があった一方、失敗のリスクを指摘する意見も出ていたことが明らかになった。当時、日銀が掲げた2%の物価上昇目標は今も達成されず、様々な懸念は現実になっている。(山本恭介、土居新平)。日銀は年2回、10年が経った会合の議事録を半年分ごとに公表している。今回の議事録が描き出すのは、物価が下がり続けるデフレから脱するため、大規模な金融緩和を掲げて12年12月に誕生した第2次安倍晋三政権の意向に沿って変わっていく日銀の姿だ。日銀出身の白川方明(まさあき)総裁(当時、以下同)は13年1月の会合で、政権の求めに応じ物価上昇率2%の目標を決めた。同年3月、白川氏の後任として安倍政権に起用された財務官僚出身の黒田東彦(はるひこ)総裁は、着任後すぐ大規模緩和に着手した。日銀の金融政策の大転換期にあたり、極めて重要な議事録となる。白川総裁時代、物価目標を「2%」と明確に定めて大規模な緩和をするという政権の方針に、日銀はあらがっていた。しかし総選挙での大勝という「民意」を背にした政権の圧力に最後は屈する。
日銀は13年1月21、22日の会合で、2%の物価目標を盛り込んだ政府との共同声明を受け入れることを7対2の賛成多数で決めた。
■委員から異論
 だが、議事録によると、投票権を持つ政策委員たちからは、目標達成は難しいとする意見が相次いでいた。反対票を投じたエコノミスト出身の佐藤健裕審議委員は「実現の難しい目標値を設定して中央銀行の信認が失われることを懸念する」と指摘。やはり反対したエコノミスト出身の木内登英審議委員は「当面1%の物価上昇率ですら、なお達成の目途が立っておらず、2%はあまりにも高い」と述べた。賛成した委員からも、「非常に難しいのは事実であることは認める。だから時間がかかるだろう」(経済学者出身の白井さゆり審議委員)といった声があった。出席者は、政権への注文も忘れなかった。電力業界出身の森本宜久審議委員は「構造改革の着実な実行と財政規律への取り組みを推進されることを期待する」と語った。政府代表として出席していた山口俊一財務副大臣は「機動的な財政政策や成長戦略の実施に取り組む」とは約束した。ただ、「2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現すべく、不退転の決意を持って、積極・果断な金融政策運営をお願いしたいと考えている」と日銀に改めてクギを刺した。
■目立った賛同
 黒田総裁初となる13年4月3、4日の会合。黒田氏は「量・質ともにこれまでと次元の違う金融緩和をおこなう必要がある」と宣言した。人々の「期待」に働きかけてデフレを脱却するため、市場に流すお金の量(マネタリーベース)を2倍に増やし、2年程度を念頭に2%の物価目標を目指すと決めた。「黒田バズーカ」第1弾だ。会合では、黒田氏への賛同が目立った。「安倍自民党総裁の、日銀に2~3%のインフレ目標の達成をめざす大胆な金融緩和を求めるという趣旨の発言によって、デフレ脱却と日本経済回復の期待が生まれた」(経済学者出身の岩田規久男副総裁)。「次を期待させぬよう十分(市場と)コミュニケーションをとっていくことが特に必要」(金融機関出身の石田浩二審議委員)。緩和の効果になお疑問を呈する声もあった。「量を調節することで、インフレ期待や現実のインフレ率を中央銀行があたかも自在にコントロールできるかのような考え方があるとすれば、政策効果のあり方について重大な誤解があると言わざるを得ない」。佐藤審議委員は、大規模緩和の考え方が根本的に誤っている可能性を指摘した。木内審議委員も「非常に大きな不確実性があり、達成までの道筋に関して納得性の高い説明をすることが難しい。政策に対する信認の低下を招き政策効果が減じられるリスクがある」と強い懸念を示していた。あれから10年経って明らかになったのは、物価目標や大規模緩和に対する当時の懸念は杞憂(きゆう)ではなかったということだ。物価目標を達成できないまま、日銀は異例の追加緩和策を相次ぎ導入し、国債や株の保有額は異例の規模に膨らんだ。確かに企業業績は回復し、株価は上がった。ただ、円安の加速は物価高につながり、人々の暮らしを直撃している。大規模緩和を主導した黒田氏は今年4月に退任し、金融政策の手綱は経済学者の植田和男氏が握ることになった。植田氏は就任後3回目となる7月28日の会合で、債券市場がゆがむなどの緩和の副作用を減じる政策修正に初めて動いた。植田氏は会見で、賃金上昇を伴った2%の物価上昇には「まだまだ距離感がある」と語った。異例の緩和をいつまで続けるのか、「出口」はまだ見えていない。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73562150T10C23A8MM8000 (日経新聞 2023.8.13) 年金世帯、脱デフレ左右 消費シェア4割 不安払拭なら資産循環
 賃上げが30年ぶりの高水準となり、消費の押し上げ効果への期待が高まるなか、高齢化社会ならではの課題が浮かび上がってきた。国内の消費支出は65歳以上世帯が4割を占め、年金暮らしの世帯が国内総生産(GDP)の15%に影響する。賃上げの恩恵を受けにくい高齢者の消費活性化がデフレ脱却を左右する。「将来を考えるとなかなか思い切ってお金を使えない」。横浜市の70代の男性はこう話す。孫へのプレゼントなどには財布のひもは緩むが、大きな買い物は控えがちだ。消費支出に占める高齢者の存在感は高まっている。世帯主が65歳以上の世帯の2022年の1カ月平均の支出は21万1780円だった。全体に占める割合は約39%になる。少子高齢化に伴い、20年前のおよそ23%からほぼ倍になった。団塊世代の65歳到達が一巡したことなどから10年代後半から頭打ち傾向にあるものの、団塊ジュニア世代が高齢者になる30年代からは伸びが再加速する可能性がある。持ち家を借家とみなした場合に想定される家賃を除いた消費額をもとに第一生命経済研究所の星野卓也氏が試算したところ、年金暮らしと考えられる平均年齢74.5歳の無職世帯の消費額は22年に33%を占めた。日本の22年の名目GDPの実額は556兆円で、5割を個人消費が占める。GDP全体の15%程度を年金世帯の消費が担っていることになる。消費者物価指数は生鮮食品を除く総合の上昇率が6月まで10カ月連続で3%を超えた。今年の春季労使交渉の賃上げ率は連合の最終集計で3.58%と30年ぶりの水準だ。ただ賃上げの恩恵は年金世帯には及ばず、物価高で年金支給額は実質的に減る。22年の物価上昇などを受け、既に年金を受け取っている68歳以上の人は23年度の支給額が前年度比1.9%増と、3年ぶりに増える。物価の伸び以上に年金額が増えない仕組みになっており2.5%の物価上昇率を加味すると実質的にマイナス圏に沈む。日本総合研究所の西岡慎一氏は物価が今後2%伸びても給付を抑制する「マクロ経済スライド」の発動で受給済みの人の年金の伸びは1%程度にとどまると試算する。この場合、60歳以上で無職の世帯の消費は0.2ポイント押し下げられるという。一方で高齢世帯は金融資産が多い。日銀の資金循環統計によると23年3月末の家計の金融資産は2043兆円と、過去最高だった。19年の全国家計構造調査では、65歳以上の無職世帯の夫婦の金融資産は1915万円で、全世帯平均より636万円も多い。65歳以上世帯の金融資産の7割弱は現預金だ。物価高では現預金の価値が目減りする。今年は日経平均株価がバブル崩壊後最高値となるなど株高で「貯蓄から投資」の機運がある。多くの人が一定の知識を持って適切に資産形成できれば支えになりうる。問題は将来の不安からお金を使おうとする意欲がそがれていることだ。生きている間に必要になる生活費や医療費が見通しにくいと手元の資産を使って積極的に消費しようという気持ちになりにくい。人口に占める65歳以上の比率は20年時点で日本が28.6%と突出する。ドイツが21.7%、米国16.6%、韓国15.8%だ。そもそも米国に比べ日本は消費意欲が弱い。適切に資産形成したり、ライフスタイルにあわせながら可能な範囲で働き続けたりと解はいくつもある。高齢者が過度に不安にならずに消費できる前向きな社会観をつくれるか。需要不足を脱しきれない日本がデフレに後戻りしないためのポイントの一つになる。

*1-3-2:https://mainichi.jp/articles/20230120/k00/00m/040/283000c (毎日新聞 2023/1/20) 年金増、物価高騰追いつかず 「キャリーオーバー」、高齢者負担増も
 来年度の公的年金額は3年ぶりの増額改定となった一方、物価高騰などには追いつかず、実質的には0・6%の目減りとなる。長期的に年金財政を維持し、将来世代の支給水準を確保するための対応だが、食料品や光熱費などの値上がりが続く中、年金頼みの高齢者にとってはさらなる痛手になりそうだ。急激な物価高騰の一方で、年金額が実質的に0・6%目減りするのは、年金額を抑制する「マクロ経済スライド」が適用されるためだ。公的年金制度は、現役世代が払う保険料などで高齢者への給付をまかなう世代間の「仕送り方式」で運営されている。
●来年度から年金額はこう変わる
 現役世代(20~64歳)は2020年の約6900万人から、40年には約1400万人減の計約5500万人になる見通し。一方、高齢者は約3600万人から約3900万人に増え、ピークを迎える。少子高齢化で現役世代が減り、高齢者が増えれば年金財政が悪化の一途をたどる。年金財政を長期的に維持するため、04年の年金改正で導入されたのがマクロ経済スライドだった。しかし、想定外のデフレ長期化で、実際には適用されない事態が続いていた。マクロ経済スライドは賃金や物価の伸びが下がった場合は適用されない。過去約20年で適用がわずか3回にとどまった結果、現在の高齢者の給付水準が想定よりも高止まりし、国民年金の給付水準は47年度には現在より3割減るなど、将来世代へのしわ寄せが懸念される。こうしたマクロ経済スライドの機能不全を補うため、18年に導入されたのが「キャリーオーバー(繰り越し)制度」だ。デフレなどで適用できなかった場合でも、翌年度以降にカット分を繰り越して、物価や賃金が上昇したタイミングで一気に差し引く仕組みだ。
●年金額改定のイメージ(67歳以下の場合)
 今回の賃金上昇分は2・8%。本来なら年金額も同程度の引き上げになるところだが、繰り越し制度が実施され、21、22年度にカットされなかった分を含むマイナス0・6%分が一気に差し引かれることになった。「今の高齢者にとっては厳しい措置だが、将来の現役世代の年金水準を保つためには必要不可欠の対応」。厚生労働省幹部は理解を求めるが、繰り越し分が積み重なった結果、一度に差し引かれる年金額が大きくなれば、高齢者の負担感が増す恐れもある。年金問題に詳しいニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員は「『雪だるま式』に繰り越した分を次々積み重ね、一気に差し引くキャリーオーバーの仕組みは生活への影響が大きい。物価や賃金の変動に関わらず、マクロ経済スライドを部分的にでも常に適用するなどの方法を模索すべきだ」と指摘する。
●エアコンオフ、風呂や食事減らしても…
 高齢者は年金の実質目減りをどう受け止めるのか。「年金の目減りで、さらに生活は苦しくなりそう」。千葉県八千代市で1人暮らしをする高橋芙蓉子さん(80)はため息をつく。現在の厚生年金額は月10万円ほど。家賃が4万円弱かかり、以前から切り詰めた生活を送っていた。そこに物価高とともに、来年度からは年金の目減りも追い打ちをかける。食料品は消費期限が近い「見切り品」の購入が中心で、冬はエアコンなどの電源をオフにしてしのいでいる。東京都世田谷区の斉藤美恵子さん(76)は、介護保険料などを差し引くと月6万円ほどしか手元に残らない。34歳で離婚後、体の弱い母親や子どもの面倒を見ながら、パートなどで働いてきた。「お風呂の回数や食事を減らして何とかやっている。病気になったらどうすればいいのか」。公的年金制度を巡っては、「財政検証」に向けた議論が今後進む。2004年に導入された仕組みで、「年金の健康診断」として、5年ごとに実施される。24年にとりまとめ、25年通常国会で年金関連改正法案の提出を目指す方針だ。少子高齢化で年金制度の「支え手不足」が懸念される中、次期改正に向けては国民年金(基礎年金)の保険料納付期間の延長が焦点になる見通し。現行は20歳以上60歳未満の「40年間」となっている納付期間を、65歳までの「45年間」に延ばすことなどが検討される。将来世代の年金をどうやって確保するのか。模索が続く。
●公的年金改定率の推移
 ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員は「少子化や平均寿命が延びた影響を考えると、年金水準を下げないと財政バランスが取れない」と話す。厚生年金の保険料率は04年から段階的に引き上げられ、17年に現在の18・3%に固定された。中嶋氏は「今の年金受給者は現役時代に、今より低い料率で保険料を納めていた。その分を年金水準の抑制で補っているとも考えられる」と指摘。マクロ経済スライドを適切に実施することで、世代間の不公平感の解消を進めるよう求める。一方で、低年金者への手当ても課題になる。中嶋氏は「賃金変動率より年金額が低ければ、相対的に貧困に陥る高齢者は増える。低年金で、かつ資産もない高齢者には、公的年金制度ではなく、福祉的な制度でサポートすべきだ」と話す。
●マクロ経済スライド
 長期的に年金財政を維持し、将来世代の一定の給付水準を確保するための仕組み。現役世代の減少と平均余命の延びに応じ、毎年4月の改定時に物価や賃金の上昇幅よりも年金額を抑制する。少子高齢化で保険料を支払う現役の人口が減る一方、高齢者への支給は膨らむことから、2004年の制度改革で導入された。

*1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230328&ng=DGKKZO69647960Y3A320C2MM0000 (日経新聞 2023.3.28) 物価高対策2.2兆円 政府、予備費から支出決定
 政府は28日、2022年度予算に計上した新型コロナウイルス・物価高対策の予備費から2兆2226億円を支出すると閣議決定した。22日に決めた追加の物価高対策などの原資とする。国が地方に配る「地方創生臨時交付金」に1兆2000億円を充てる。自治体を通じ、LPガス利用者などの負担軽減や低所得世帯への一律3万円の給付を実施する。自治体の対応とは別に、政府も低所得世帯の子ども1人につき5万円の給付を実施する。この経費に1550億円を支出する。家畜のえさとなる配合飼料の価格高騰対策に965億円、輸入小麦の政府売り渡し価格の激変緩和策に310億円、農業用水利施設の電気料金対策に34億円を充てる。飼料対策は、1~3月期のコスト上昇分の一部を補填する。畜産農家が生産コスト削減などに取り組むことが前提となる。既存の価格安定制度とは別に1トンあたり8500円を支給する。小麦価格の激変緩和は特別会計の事業として実施している。特会の経費が不足しており、一般会計から繰り入れる。新型コロナ対策として、病床を確保する医療機関への交付金向けに7365億円も支出する。年度末の申請増加に備えて積み増す。22年度予算の一般予備費から655億円の支出も決めた。ロシアの侵攻を受けるウクライナの復旧・復興支援や物資提供の経費などとする。コロナ・物価高予備費は22年度に当初と補正で計9兆8600億円を計上した。一般予備費は計9000億円とした。今回の支出後の残額はそれぞれ2兆7785億円、3742億円となる。ほかに第2次補正予算で計上したウクライナ予備費が1兆円残っている。

*1-3-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1096241 (佐賀新聞 2023/8/24) 佐賀市消費者物価 17カ月連続100超え 7月物価高騰続く
 佐賀県統計分析課がまとめた7月の佐賀市消費者物価指数(2020年を100)は104・9と、前月比で0・6%上昇、前年同月比で3・3%の上昇となった。昨年3月以降、17カ月連続の100超えとなっており、物価高騰が続いている。項目別にみると、光熱・水道、被服および履物が前月からわずかに下落し、教育は前月と同じだった。ほとんどの項目でわずかに上昇し、家事・家具用品114・7、食料111・9、教養娯楽108・1だった。野菜や海藻、通信などの値上げ幅が目立っている。

*1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15704189.html (朝日新聞社説 2023年7月31日) 概算要求基準 歳出「正常化」できるか
 政府が、来年度の予算編成に向けた基本方針を決めた。コロナ禍以降、膨張した歳出について「経済が正常化する中で、平時に戻していく」という。当然であり、かけ声倒れに終われば財政の持続性が問われる。具体的な道筋を示すべきだ。各省庁の予算要求に制限をかける概算要求基準も閣議了解した。配分にメリハリをつけつつ全体の規模を抑える役割があるはずだが、相変わらず例外や抜け穴が目立つ。歳出の肥大化が続く懸念が強い。最たるものは、政権が2倍近くへの拡大を打ち出した防衛費を、別枠扱いにした点だ。安定財源を確保しないまま「見切り発車」したのを、予算要求のルールでも追認した。防衛費の大幅増はすでに今年度予算から始まり、他の重要分野や財政健全化にしわ寄せを及ぼしつつある。身の丈に合わない予算増を無理に続ければ、政策資源の配分をゆがめる。弊害を直視し、再考すべきだ。防衛費増と、同様に別枠にした子ども政策の財源について、政府は幅広い「歳出改革」による捻出を当て込んでいる。であれば、減らせる予算の徹底的な洗い出しが必須のはずだ。ところがこの点で、概算要求基準は従来の方式から踏み込まなかった。各省庁に裁量性が高い経費の一律1割減を求めたうえで、削減額の3倍分までの要求を「重要政策」の特別枠で認める。枠は計約4兆円で「新しい資本主義」関連など対象が広い。これで大きな財源をひねり出せるのか、疑問が大きい。歳出の「正常化」への試金石は、高騰したガソリンや電気・ガス料金の補助金の扱いだ。兆円単位の巨費を投じてきたが、秋に期限を迎える。政府は、物価高の激変緩和措置を段階的に縮小・廃止し、影響が大きい層への支援に絞る方針を示した。物価動向が見通しにくい中で、低所得者層への支えは必要だが、一律の補助金をいつまでも続けるわけにはいかない。与党の反発も予想される中、方針を貫けるのか。社会保障など他の分野でも、物価高や賃金上昇に応じた増額を求める声は強まっている。合理的な範囲にとどめられるか。首相の指導力が問われる。20年度以降、コロナ禍や物価高への対応で、政府の歳出は数十兆円規模で膨らんだ。先進国で最悪水準の借金が、さらに積み上がっている。この状況を漫然と続けるのは、将来世代への背信にほかならない。政策の必要性や優先度を厳しく見極め、真に大切な政策を始めるときは安定財源を確保する。そうした当たり前の財政運営に、立ち戻る時である。

<気候変動について>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230731&ng=DGKKZO73196930R30C23A7MM0000 (日経新聞 2023.7.31) 地球「12万年ぶり暑さ」 7月平均気温、古気候学者、温暖化に警鐘 米1.5億人に高温警報
 世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2023年7月の世界の平均気温が観測史上で最高となる見通しだと発表した。観測記録のない太古の気候を探る研究者は「地球の平均気温はおよそ12万年ぶりの最高気温を記録した」と温暖化の進行に警鐘を鳴らす。数十万年前の地球の気候を研究するのが古気候学だ。米地質調査所(USGS)によると、地層や岩、年輪、サンゴ、アイスコア(氷床のサンプル)に保存される地質学的、生物学的な情報を分析し、過去の気候を推察する。例えばアイスコアの場合、古気候学者は数千年以上かけて何層にも積み重なった氷や雪の層を採取し、中に含まれる気泡やちりを解析する。気泡にははるか昔の大気サンプルが保存されており、地球の平均気温と比例する二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの濃度や当時の雨量までわかる。こうしたデータに基づいた気候モデルを作成し、遠い過去の地球の気候を再現する。米シラキュース大学で古気候学と古生態学を研究するリンダ・アイバニ教授は「地球は過去80万年間、およそ10万年の周期で温暖化と寒冷化を繰り返してきた」と話す。12万5000年前、地球は2つの氷河期の間に位置する間氷期と呼ばれる状態にあり、「直近で地球が最も温暖となった時期だ」という。局所的な異常気象や猛暑日を古気候のモデルと一概に比較することは難しい。ただ、観測を続ければ長期的な傾向がわかる。アイバニ氏は「過去10年間の年間平均気温は毎年のように最高記録を更新した」と指摘。「間違いなく12万5000年ぶりの暑さだ」と断言する。間氷期は「エエム紀」とも呼ばれる。南極の氷床サンプルに基づいた気候モデルを見ると、エエム紀の平均気温は工業化前(1850~1900年)と比べ、セ氏0.5~2.0度ほど高かったことがわかる。気候モデルによると、今年6月に世界の平均気温が工業化前の平均気温を1.5度以上、上回った。米西部アリゾナ州フェニックスでは7月に入り、セ氏42度以上の猛暑日が10日以上続いた。フェニックスではあまりの暑さでサボテンも枯れ始めている。7月28日には米国全体で1億5000万人以上が高温警報の対象となった。バイデン米大統領は27日の演説で「(連日の猛暑もあり)気候変動の影響を否定できる人はもういないだろう」と述べた。熱波は欧州やアフリカでも広がっており、国連のグテレス事務総長も同日、「地球の沸騰が始まった」と警告した。事態はさらに悪化する恐れもある。アイバニ氏は大気中のCO2濃度がここまで高いのは350万年ぶりだと説明し、「大気中の温暖化ガスを見る限り、まだまだ温暖化は続くだろう」と強調した。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73569050U3A810C2TLH000 (日経新聞 2023.8.15) 地球史に人の時代現る、「人新世」、環境に大きく影響
 人間活動が地球環境に多大な影響を及ぼすようになった現代を「人新世(じんしんせい)」とする議論が大詰めを迎えている。2024年にも専門家がつくる国際地質科学連合が、地球史に新たな年代を加えるかを決める。地球史と人間の関係を3つのグラフィックとともに考える。地球の歴史は海の誕生や生物の盛衰、気候変動などが節目になってきた。歴史を塗り替えた事件の1つに小惑星の地球衝突がある。白亜紀に栄えた恐竜が絶滅し、新たな章を刻んだ。こうした過去の出来事を地層に残る痕跡からひもとき、地質年代と呼ぶ時代区分に整理してきたのが地球史だ。現代は直近の氷期が終わった1万1700年前から続く新生代第四紀完新世の真っただ中にあった。だが2000年代から始まった人新世の議論は「もはや現代は完新世とは別の時代だ」とする考えに基づく。地球の環境にとって、今の人間の営みは決定的な変化をもたらしているというわけだ。人間の力は大きくなりすぎたのだろうか。19世紀までの産業革命以降、地球は温暖化している。工業社会の進展は豊かな社会を築いたが、深刻な環境問題も招いた。各地の地層からは、人間が地球環境を変えてきた証拠が見つかっている。1950年ごろを境に、化石燃料を燃やした煤(すす)や化学物質、核実験から生じた放射性物質のプルトニウムなどが増えていた。こうした痕跡は地層に残るいわば「科学技術の化石」だ。人間の振るまいが目立つ1950年以降を新たな地質年代と地質学者らが考えるのも自然な流れなのかもしれない。国際地質科学連合の作業部会は7月、人新世の始まりを象徴する場所に、カナダのクロフォード湖を選んだ。湖底の堆積物は地球の変化を克明に記録しているという。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230326&ng=DGKKZO69601710V20C23A (日経新聞社説 2023.3.26) IPCC報告が示す温暖化対策の緊急性
 温暖化による気象災害や食料危機、紛争などの悪化を防ぐための時間は、わずかしか残されていない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第6次統合報告書は、温暖化対策の緊急性を強く訴えた。報告書は気候変動をめぐる今後の国際交渉の土台となる。日本は主要7カ国(G7)議長国として真剣に受け止め、中国を含む20カ国・地域(G20)とも連携して対策を加速する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内にとどめる目標を掲げる。だが、報告書によると気温は既に1.1度上がっており、2030年代前半にも1.5度に達する可能性がある。気温が目標を超える期間を短くとどめ、下降に向かわせることが重要だ。それには世界の温暖化ガス排出を25年までに減少に転じさせ、35年の世界の排出量を19年比で約60%減らさねばならないという。パリ協定のもと、各国は25年までに35年の新たな削減目標を提示することになっている。報告書の数値は重要な指標となろう。日本の現行目標は30年度の排出量を13年度比で46%減らし、50%減をめざすというものだ。国際社会から一層の上乗せを求められる可能性がある。見直しの検討を怠ってはならない。報告書は21年10月までのデータに基づいており、ロシアのウクライナ侵攻の影響は含まない。現実にはエネルギーの安定供給を確保するため、化石燃料の利用減を先延ばしする動きもある。石炭火力発電への依存度が高いアジアの途上国などでは、再生可能エネルギーへの転換や省エネの投資が不足している。パリ協定の目標達成は困難を伴う。だが、諦めるわけにはいかない。IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らすとともに「報告書は希望へのメッセージでもある」と強調した。再生エネルギーや蓄電池のコストは劇的に下がった。水素製造・利用技術や、火力発電所から出る二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留する技術の開発も進む。日本は化石燃料依存を減らしつつ、こうした技術の普及へ積極的な役割を果たすべきだ。実績を積み上げ、被害や損害の軽減につなげることが大切だ。

*2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1093420 (佐賀新聞 2023/8/19) 豪雨被害 内水氾濫対策の強化急げ
 近畿を縦断するように北上した台風7号のように今年も各地で豪雨による災害が相次いでいる。線状降水帯が頻繁に発生し、過去最多の雨量を記録するケースも目立つ。これらの要因に挙げられるのが、地球温暖化だと言えるだろう。国連のグテレス事務総長は7月末に「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告した。その証拠に7月の世界の平均気温は過去最高だった。気温上昇による台風の大型化、一度に降る雨の量が増える傾向が続くことを前提に、水害防止対策を強化しなければならない。台風7号の対応では、台風が来る2日ぐらい前から、対応を時系列で定めている「タイムライン」の運用を始めた自治体もある。早め早めに避難所を開設し、高齢者らの避難を呼びかけるという予防的な対応を普及させることが不可欠だ。東海道・山陽新幹線や在来線の一部区間では15日、事前に運休を知らせる「計画運休」を実施した。この結果、突然の運転取りやめによる混乱は回避できたと評価できる。一方、東海道・山陽新幹線は16日、静岡県内の豪雨のため半日程度の運転見合わせを余儀なくされた。土砂崩れや、盛り土区間での路盤の崩壊などを警戒してのことであり、安全確保のためやむを得ない措置だろう。ただ、今後は温暖化に伴って豪雨の増加も想定される。突然の運休を増やさないためにも、さらなる土砂崩れの防止対策や路盤強化策の検討も必要ではないか。秋田県で7月に記録的な大雨があり、秋田市では「内水氾濫」が発生して床上浸水する住宅が相次いだ。内水氾濫とは、下水道や水路の排水能力を超える豪雨のため低い場所に雨がたまることを意味する。河川の堤防が切れて浸水する「外水氾濫」とは対策が異なる。国土交通省によると、2020年までの10年間の水害被害額は約4兆2千億円あり、内水氾濫はうち3割を占める。東京都では被害総額の8割超が内水氾濫だ。都市部では、農地のように雨水を地下に浸透させる土地が少ないため、氾濫の被害が増える傾向があると分析できる。対策としては、下水道を更新して排水能力を高めることや、雨水を地下に一時的にためる施設を造るハード対策が中心となる。公園や緑地を整備して地下に浸透させる量を増やす方法もある。ただ、これらの対策には多くの時間や予算がかかることが難点だ。このため自衛策も重要となる。まずは内水氾濫によって浸水する地域を示す自治体のハザードマップを見て、自分が住んだり働いたりする地域が浸水しやすい場所かどうかを把握することから始める。未策定の自治体に対しては、早期の作成を要望する。次に水に漬かっては困る非常時用の発電機やコンピューターなどは、地下や1階に置かないようにする。地下街や地下室に水が浸入しないように止水板や土のうを備え、緊急時に備えた訓練も必須である。車を運転する場合に備えて、アンダーパスのように水がたまりやすい場所の情報を集めておくことも必要だ。内水氾濫の対策に時間がかかる場所については、土地をかさ上げして安全度を高めて住むようにする。それも難しい場所は、居住を避けることも選択肢としたい。

*2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230820&ng=DGKKZO73739880Q3A820C2MM8000 (日経新聞 2023.8.20) 石炭火力、依存断てぬ世界 廃炉超す新設、猛暑も影 迫るCO2許容量
 世界の石炭依存に歯止めがかからない。最大の消費国の中国は足元の石炭火力発電(3面きょうのことば)の量が過去5年を大きく上回る。コロナ禍からの経済の回復に猛暑が重なり、電力需要が膨らむ。欧州もウクライナ危機で天然ガスの供給不安に直面し、なりふり構わず石炭に回帰する動きが出た。総じて石炭火力は新設ペースが廃炉に勝り、脱炭素の目標はかすんでいる。二酸化炭素(CO2)排出量で世界の3割を占める中国は電源の過半を石炭に頼る。フランスの衛星データ会社ケイロスによると、7月の1日あたりの石炭火力発電量は1年前と比べ14.2%増えた。宇宙からのCO2観測に基づく推計だ。1年前の6月に上海のロックダウン(都市封鎖)を解除した。年明けには厳しい移動制限を強いるゼロコロナ政策を撤廃した。段階的な経済の正常化で電力需要が増加傾向にある。さらに今夏は熱波が襲う。北京の気温が6月として観測史上最高のセ氏41.1度に達するなど記録的な暑さで、冷房が欠かせなくなっている。脱炭素で足踏みするのは中国だけではない。国際エネルギー機関(IEA)の7月の報告書によると、石炭需要は22年に世界2位のインドで8%増えた。インドネシアは36%増えて世界5位の消費国になった。世界全体も23年に過去最高を更新する見込みだ。石炭は低コストで安定調達しやすい。新興国はもちろん、先進国も有事には頼みの綱とする。脱炭素の旗振り役だったドイツも例外ではない。ウクライナ危機でロシアからのガス供給が滞り、ハベック経済・気候相は「状況は深刻」と石炭火力の稼働を増やした。フランスも再稼働に動いた。日本は電源の30%前後を占める状態が続く。11年に原子力発電所の事故が起き、依存度が5ポイントほど高まった。削減の道筋は見えていない。米調査団体グローバル・エナジー・モニターによると、世界の石炭火力は出力ベースで新設分が廃止分を上回る。新設は日本を含むアジアで多いほか欧州のポーランドやトルコでもある。新設の5割を占める中国は廃止ペースの鈍化も目立つ。新設による効率化を考慮しても温暖化ガスの排出量が相対的に多いことは変わらない。依存を断てなければツケは早々に回ってきかねない。温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定は産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える目標を掲げる。この一線を超えると熱波や豪雨などのリスクが劇的に高まる。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は3月の報告書で、1.5度目標の達成に許容できる温暖化ガス排出量は残り4000億トンとの試算を改めて示した。現状の年400億トンの排出ペースが続くと10年ほどで限界に達する。国連のグテレス事務総長は「気候の時限爆弾が針を進めている」と危機感をあらわにした。各国・地域が無策なわけではない。英シンクタンクのエンバーによると、世界の再生可能エネルギー発電量は00年から22年にかけて3倍になった。直近10年だけでも1.8倍に拡大した。中国も太陽光や風力の出力増が著しい。立命館大学の林大祐教授は「00年代以降に大気汚染対策、新興産業として国家的に育成してきた」と指摘する。問題は成長する経済を再生エネだけでは支えきれていないことだ。世界全体で石炭による発電量も10年で15%増え、ほぼ右肩上がりが続く。温暖化のもたらす熱波が、温暖化を招く化石燃料への依存を深める。そんな悪循環の構図も足元で浮かぶ。残り10年の猶予がさらに短くなる懸念さえちらつく。

<原発と予算>
*3-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230118 (東京新聞 2023年2月9日) 原発回帰の姿勢、より鮮明に 政府の法改正案判明「国の責務」
 原発活用に向けて政府が通常国会に提出する関連法の改正案が8日、分かった。原子力利用の原則を定めた原子力基本法には、原発活用による電力の安定供給の確保や脱炭素社会の実現を「国の責務」と明記。これまで上限としてきた60年を超える運転を可能にする運転期間の規制は「原子力の安定的な利用を図る観点から措置する」とし、原発回帰の姿勢を鮮明にした。電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」で、政府が自民党会合で示した。今月下旬にも閣議決定した上で、通常国会に提出する。「原則40年、最長60年」としてきた運転期間は、原子炉等規制法から電気事業法に移管。上限を維持した上で、2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、安全規制への対応や行政指導、後に取り消された行政処分や裁判所の仮処分命令などで停止した期間を、運転期間の計算から除外できるとした。原子力基本法に、国や事業者が安全神話に陥り、福島第1原発事故を防げなかったことを真摯に反省することを基本原則として盛り込んだ。

*3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230548 (東京新聞 2023年2月11日) パブコメでは多くが反対、各地の説明会は途中…でも原発推進を閣議決定 「将来世代に重大な危険」声を無視
 原発の建て替えや60年超運転などの原発推進策を盛り込んだ政府の基本方針は、意見公募(パブリックコメント)に4000件近くの意見が寄せられ、その多くが原発に反対する声だった。しかし、大筋は変わらないまま、10日に閣議決定された。岸田文雄首相の検討指示から半年足らずでの原子力政策の大転換は、一貫して国民の声に向き合っていない。
◆与党内の声には配慮 「敷地内」の1点修正
 「東京電力福島第一原発事故は、人間が原発をコントロールできないことの証明だ」「将来世代に重大な危険を呼び込む」。閣議決定後に政府が公表した意見公募の結果には、政府に再考を求める意見が並んだ。政府の会議で基本方針を決定した後の昨年12月末から約1カ月間実施した意見公募に寄せられたのは計3966件。政府は、類似の意見をまとめて356件の意見内容と回答を明らかにした。原発に否定的な意見に対する政府の回答は、ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化によって電力の安定供給が危機的な状況だと強調。脱炭素効果のある再生可能エネルギーなどとともに、原子力の活用を図るとの説明を繰り返した。意見公募終了後、基本方針の大きな修正は、原発関連では1点のみ。福島事故後に政府が想定してこなかった原発の建て替えについて、対象となる場所を「廃炉が決まった原発」から「廃炉が決まった原発の敷地内」と詳しくした。これは、与党内の原発慎重派の意見に配慮した側面が強い。
◆国民の声聞かず 「被災者をばかにしている」
 基本方針は経産省の複数の有識者会議で内容を検討。原発に否定的な委員からは国民的な議論を求める意見が相次いだが、方針の決定までに国民の声を聞くことはなかった。昨年末に基本方針を決めた後、経産省は1月中旬から経済産業局などがある全国10都市で説明会をスタート。これまでに名古屋市、さいたま市、大阪市、仙台市の4カ所で開き、3月上旬まで続く。説明会が終わらない中での閣議決定に対し、原発事故被害者団体連絡会の武藤類子共同代表=福島県三春町=は10日の記者会見で「何のための意見交換会なのか理解できない。被災地の福島県では開催せず、被災者をばかにしている」とあきれて見せた。
◆「結論ありきで強引。政策決定の手法として許されない」
 規制当局にも反対意見がくすぶる。基本方針は原発を活用する前提として、原子力規制委員会による厳格な審査や規制を掲げる。今月8日の規制委定例会で、原子炉等規制法(炉規法)に規定された「原則40年、最長60年」とする運転期間の定めを経産省所管の法律に移すことに対し、石渡明委員が「必要性がない」と反対。新たな規制制度が決定できるかは不透明になった。西村康稔経産相は閣議決定後の会見で「(基本方針は)原子力利用政策の観点でまとめており、安全規制の内容は含まれていないので問題ない」と説明し、今後も関連法の改正など手続きを進める意向を示した。経産省の有識者会議の委員も務めたNPO法人・原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めている。政策決定の手法として許されない」と批判する。
◆首相官邸前では反対の声こだま
 政府が原発推進策を盛り込んだ基本方針を閣議決定した10日、東京・永田町の首相官邸前で約100人が抗議行動を展開した。冷たい雨の中、「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせた。市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が主催。環境団体や労組など6団体のメンバーらがマイクを握った。国際環境NGO「FoE Japan」事務局長の満田夏花さん(55)は「原子力産業の生き残りのために、将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせることになる。民意を無視した閣議決定に断固反対」と強調。全国労働組合連絡協議会副議長の藤村妙子さん(68)は「福島第一原発の事故から何も学んでいない。老朽原発の稼働は絶対に許されない」と憤った。

*3-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1002105 (佐賀新聞 2023/3/10) 事故後12年の原発政策 根拠薄弱な方針転換だ
 巨大地震と津波が世界最悪クラスの原発事故を引き起こした日から12年。われわれは今年、この日をこれまでとは全く違った状況の中で迎えることになった。「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とした民主党政権の政策は、自民党政権下で後退したものの、原発依存度は「可能な限り低減する」とされていた。岸田文雄首相はさしたる議論もないままこの政策を大転換し、原発の最大限の活用を掲げた。今なお、収束の見通しが立っていない悲惨な事故の経験と、この12年間で大きく変わった世界のエネルギーを取り巻く情勢とを無視した「先祖返り」ともいえるエネルギー政策の根拠は薄弱で、将来に大きな禍根を残す。今年の3月11日を、事故の教訓やエネルギーを取り巻く現実に改めて目を向け、政策の軌道修正を進める契機とするべきだ。ロシアのウクライナ侵攻が一因となったエネルギー危機や化石燃料使用がもたらした気候危機に対処するため、原発の活用が重要だというのが政策転換の根拠だ。だが、東京電力福島第1原発事故は、大規模集中型の巨大な電源が一瞬にして失われることのリスクがいかに大きいかを示した。小規模分散型の再生可能エネルギーを活用する方がこの種のリスクは小さいし、深刻化する気候危機に対しても強靱(きょうじん)だ。昨年、フランスでは熱波の影響で冷却ができなくなり、多くの原発が運転停止を迫られたことは記憶に新しい。原発が気候危機対策に貢献するという主張の根拠も薄弱だ。気候危機に立ち向かうためには、25年ごろには世界の温室効果ガス排出を減少に向かわせ、30年までに大幅な削減を実現することが求められている。原発の新増設はもちろん、再稼働も、これにはほとんど貢献しない。計画から発電開始までの時間が短い再エネの急拡大が答えであることは世界の常識となりつつある。岸田首相の新方針は、時代遅れとなりつつある原発の活用に多大な政策資源を投入する一方で、気候危機対策の主役である再エネ拡大のための投資や制度改革には見るべきものがほとんどない。この12年の間、安全対策などのために原発のコストは上昇傾向にある一方で、再エネのコストは急激に低下した。原発の運転期間を延ばせば、さらなる老朽化対策が必要になる可能性もあるのだから、原発の運転期間延長も発電コスト削減への効果は極めて限定的だろう。透明性を欠く短時間の検討で、重大な政策転換を決めた手法も受け入れがたい。米ローレンスバークリー国立研究所などの研究グループは最近、蓄電池導入や送電網整備、政策の後押しなどにより日本で35年に再エネの発電比率を70~77%まで増やせるとの分析を発表した。これは一つの研究成果に過ぎないとしても、今、日本のエネルギー政策に求められているものは、この種の科学的な成果や世界の現実に関するデータを基礎に、熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めることだ。いくらそれらしい理屈と言葉を並べ立てたとしても、科学的な根拠が薄く、決定過程に正当性のないエネルギー政策は、机上の空論に終わるだろう。

*3-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15726692.html (朝日新聞社説 2023年8月28日) 原発支援強化 経済性あったはずでは
 政府が原発の新たな支援策の検討を始めた。再稼働を資金面で後押しする内容で、採算性が低い原発の温存や国民負担の増大につながる懸念がある。既存原発は経済的だというこれまでの説明とも矛盾する。導入ありきで進めるようなことは、あってはならない。経済産業省が審議会に案を示した。脱炭素電源への新規投資を支援する「長期脱炭素電源オークション」の対象に、再稼働前の既存原発を加える。従来は再生可能エネルギーや原発などの新設と建て替えが主な対象で、既設は火力発電の低炭素型への改修に限っていた。オークションは来年初めに始まる。入札で選ばれると、事業者は建設費や人件費など固定費分の収入を原則20年間得られる仕組みだ。元手は小売会社が払うが、電気料金を通じて国民全体の負担となる。福島第一原発の事故以降、原発の安全対策が強化され、大手各社が再稼働に向けて投じた工事費は計約6兆円にのぼる。今回の案は、安全対策投資の回収を保証し、電力会社側の事業リスクを軽くする狙いだ。電力の脱炭素化や長期的な供給力を確保するための仕組みは必要だろう。ただし、手厚く支援する以上、対象は相応の効果が見込めるものに絞るべきだ。この点で、既存原発を加える案には疑問が多い。経産省はこの制度の検討時、「既存電源の最大限活用のみでは不十分」と審議会で訴えていた。新規電源とは言えない既存原発の再稼働も対象にすれば、制度の趣旨から大きく外れる。原発依存を長引かせ、新技術導入を妨げることにならないか。そもそも政府と電力大手はこれまで、「安全対策工事をしても(既存の)原発には経済性が十分ある」として再稼働を進めてきたはずだ。多額の工事費を投じる方針も各社が経営判断で決めており、そのコストは通常の事業の中でまかなうのが筋だろう。後になって公的な支援を入れるのは理解に苦しむ。経産省が7月末に案を示したのも唐突だ。5月末に成立した原発推進の法改正で「安全投資などの事業環境整備」が盛り込まれたのが根拠だという。だが、法改正の検討段階や国会審議では、具体的な手法は説明しなかった。「原発復権」に向けた政権の政策転換に関心が高まった時には議論を避け、法改正を押し通した後に「次の一手」を繰り出すのでは、不信感を持たれて当然だ。審議会では、市場制度のあり方をはじめ、広い視点で徹底的に議論してほしい。疑問を置き去りにした「見切り発車」を繰り返すことは許されない。

*3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR8S3DMKR8RULBH00J.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2023年8月24日)福島第一原発の処理水問題、原発処理水のトリチウム濃度、基準を下回る 午後1時ごろに放出開始
 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出計画で、東電は24日午前、海水で薄めた処理水を分析した結果、トリチウムの濃度は、計画の基準1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)を下回ったと発表した。
●「理解」得られた?東電の説明は 処理水放出始まっても廃炉見通せず
 トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準未満であることは確認済みで、東電は24日午後1時ごろに放出を始める。会見した東電福島第一廃炉推進カンパニーの処理水対策責任者、松本純一氏は「一段と緊張感を持って対処したい。直接操作にあたる運転員のほか、情報は速やかに発信できるよう準備を整えている。遺漏なきよう実施したい」と述べた。東電によると原発内のタンクには、大半の放射性物質を除去する「多核種除去設備」(ALPS(アルプス))などを通した水が約134万トンたまっている。今年度は、このうち約3万1200トンを放出する計画。1回目の放出では約17日間かけて約7800トンを流す。放出開始から1カ月程度は、沖合約1キロ先の放水口の周辺で海水を毎日採取し、トリチウム濃度を調べる。東電は、22日午前の政府の関係閣僚会議での正式決定を受けて放出の準備を開始。タンクの水を約1200倍の海水で希釈した処理水を22日夜に採取し、トリチウム濃度を調べていた。海水で希釈した処理水は「上流水槽」にたまる。処理水を入れ続けると、あふれて隣の「下流水槽」に流れ込む。下流水槽の底部には、放水口に続く海底トンネルの入り口があり、処理水は自然に放水口から海へ出ていく仕組みという。

*3-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/271966?rct=editorial (東京新聞社説 2023年8月23日) 処理水放出 「全責任」を持てるのか
 東京電力福島第一原発にたまり続ける「処理水」が、海に流される。「風評被害」を恐れる漁業者に対し、岸田文雄首相は「漁業が継続できるよう、政府が全責任を持って対応する」と強調するが、順調に進んでも三十年に及ぶ大事業。誰が、どう責任を取り続けるというのだろうか。福島第一原発では、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため、大量の冷却水をかけている。そこへ地下水や雨水が加わって、「汚染水」が毎日約九十トンずつ出続けている。その「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたものが「処理水」だ。原発構内には千基を超える「処理水」のタンクが林立し、廃炉作業の妨げになるとして、政府はおととし、濃度を国の基準値未満に薄めた上で、海底トンネルで沖合一キロの海に流す方針を決めた。ALPSを用いても、放射性物質はわずかに残り、三十年間放出し続ければ膨大な量になる。風評被害を恐れる漁業者の不安はぬぐえていない。政府と東電は八年前、福島県漁業協同組合連合会との間で「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束を交わした。全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長=写真右端=は二十一日、首相=同左端=と面談し、「海洋放出に反対であることには、いささかも変わりない」とした上で「科学的な安全と社会的な安心は異なるもので、科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるものではない」と強い懸念を表明した。約束を反故(ほご)にしての放出開始。いくら首相が「責任を持つ」と繰り返しても、にわかに信じられるものではないだろう。海洋放出の実施については、まだまだ説明と検討が必要だということだ。これほどの難題を抱えつつ、あたかも別問題であるかのように、政府が「原発復権」に舵(かじ)を切るのも全く筋が通らない。日本の水産物輸出先一位の中国は先月から税関検査を強化。七月の輸入量は前の月に比べ、三割以上減少した。拙速な放出開始は将来にさらなる禍根を残す。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230824&ng=DGKKZO73837360U3A820C2EA2000 (日経新聞 2023.8.24) 経産相、福島産の積極販売を要請 小売6団体幹部に
 西村康稔経済産業相は23日、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の放出が24日にも始まるのを前に小売業界団体の幹部と面会した。福島県産の水産物などの風評被害が懸念される中、積極的に販売に取り組むよう求めた。政府の支援策と合わせ、漁業者が事業を継続できる環境を整える。「これからも変わらず三陸常磐ものの取り扱いをしてもらえるようにお願いする」。都内で開かれた風評対策・流通対策連絡会。西村経産相は小売り関連の6団体の幹部に、処理水の海洋放出後も福島県産などの産品の販売継続を要請した。西村氏は「消費者の不安などの声も届くと思うので課題があれば言ってほしい」と連携を呼びかけた。日本チェーンストア協会の三枝富博会長は「放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱う」と応じた。小売業界は消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望した。具体的には国際機関など第三者による安全性の厳格な確認、処理水が基準を満たしているかの監視結果の迅速な公表、水産物の検査体制――の徹底を求めた。政府は22日の関係閣僚会議で気象などの条件が整えば24日に放出すると決めた。東京電力ホールディングス(HD)は同日朝に放出の可否を判断し、問題なければ午後1時にも開始する。処理水の放出で地元の漁業者らは風評被害で売れ行きが落ち込むのではとの懸念を訴えている。23日の自民党水産部会には全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長ら漁業関係者が参加した。処理水放出に伴う中国や香港の輸入規制を巡り、販路拡大への支援を求める声が出た。中国は処理水放出に反発し、日本からの水産物の輸入規制を強めている。足元では日本でとれたホタテなど一部の水産物は人件費の安さからいったん中国にわたって殻をとるといった加工後に米国などに輸出されている。輸出維持のため、加工地を日本に戻す支援が必要との主張もあった。岸田文雄首相は放出と風評被害に「国が全責任を持つ」と強調する。政府は不安の払拭のため小売事業者に協力を求めたのに加え、首都圏や福島など東北地方でイベントを開いて水産物などの魅力向上にも努める。23日には復興庁が24年度の概算要求で水産業などへの支援事業を拡充する方針が明らかになった。処理水の処分に伴う対策として水産物や水産加工品の販売支援事業では41億円、漁業人材の確保では23年度当初予算比で14億円増の21億円をそれぞれ要求する。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230824&ng=DGKKZO73838100U3A820C2MM8000 (日経新聞 2023.8.24) 小売り大手、福島産の販売方針変えず ヨーカ堂「生産者を応援」 原発処理水きょう放出
 セブン&アイ・ホールディングスなど小売り大手は、24日以降に東京電力福島第1原子力発電所の処理水が海洋放出された後も福島県産水産物の販売を続ける。イオンは放射性物質の自主検査をしながら、関東圏などの総合スーパーで継続販売する方針だ。販売継続で風評被害を防ぎつつ、フェアを通じて需要を喚起する動きもある。セブン&アイ傘下のイトーヨーカ堂は23日、処理水の放出決定を受けて「東日本大震災で被災した生産者を応援していく」とし、福島県産の販売を続ける考えを示した。食品スーパーのライフコーポレーションやヤオコーなども販売を継続する。ヤオコーは「(福島産を減らすなど)商品の見直しはしない」という。イオンは22日、関東圏などの総合スーパーで福島県産を継続販売すると発表。同時に放射性物質トリチウムの含有量について、国際基準より厳しい自主検査を実施し、サイトで結果を公開する方針を明らかにした。

*3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15724835.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2023年8月25日) 福島第一、処理水放出 国産全水産物、中国が禁輸 日本政府抗議、撤廃求める
 東京電力は24日、福島第一原発の処理水の海への放出を始めた。増え続ける汚染水対策の一環で、少なくとも約30年は放出が続く。これを受けて中国政府は24日、日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止すると発表した。香港も同日から10都県の水産物禁輸を始めた。東電は24日午前、海水で希釈した処理水のトリチウム濃度の測定結果を発表した。計画で定める1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)を大きく下回った。ほかの放射性物質の濃度も希釈前に基準未満と確認しており、午後1時過ぎから放出を始めた。放出から約2時間後、沖合1キロ先の放水口周辺の海水を採取する船が原発から出港。1カ月程度は毎日、10カ所で海水のトリチウム濃度を測り、翌日公表する。東電の計画では、今年度はタンク約30基分にあたる計3万1200トンを4回に分けて放出する。トリチウムの総量は約5兆ベクレルで、年間の放出上限22兆ベクレルの4分の1以下。1回目は7800トン分で約17日間かけて流す。これに対し、中国外務省は24日、「断固たる反対と強烈な批判」を示す報道官談話を発表した。その後、中国税関総署が日本を原産とする水産物の輸入を暫定的に全面停止すると公表。対象は「食用の水生動物を含む水産品」。魚類や貝類のほか海藻なども幅広く適用され、冷蔵・冷凍ともに禁輸になるとみられる。中国は原発事故後、福島など10都県からの食品輸入を禁止してきた。さらに、7月から放射性物質の検査を厳格化し、日本産の鮮魚などは実質的に輸入が止まっていた。農林水産省によると、2022年の中国への水産物の輸出額は871億円。全体の約2割を占める最大の輸出先だ。香港も同年の輸出額は755億円で中国に次ぐ2位だった。岸田文雄首相は24日、首相官邸で「科学的根拠に基づいて専門家同士がしっかりと議論を行っていくよう、中国政府に強く働きかける」と語り、中国側に冷静な対応を求めた。外務省の岡野正敬事務次官は同日、中国の呉江浩大使に電話で抗議し、全面禁輸措置の早期撤廃を強く要求した。首相は「水産事業者が損害を受けることがないよう、万全の態勢をとっていく」とも強調した。東電の小早川智明社長は「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とのコメントを出した。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230825&ng=DGKKZO73874580V20C23A8MM8000原発処理水放出を開始 (日経新聞 2023.8.25) 「廃炉」目標まで30年、デブリなど難題
 東京電力福島第1原子力発電所の事故から12年を経て、原発処理水の放出が24日始まった。廃炉に向けて一歩踏み出したものの、原発内部からの溶融燃料(デブリ、総合2面きょうのことば)の取り出しという最難関作業が待ち受ける。政府が目標とする30年後の廃炉完了は見通せない。東京電力ホールディングス(HD)は24日午後1時すぎ、原発敷地内にたまる処理水の海洋放出を始めた。23年度は全体の2.3%に当たる3万1200トンを4回に分けて放出する。24日に始めた初回分は7800トン程度を17日間程度かけて流す。51年までの廃炉期間内に放出を終える計画だ。処理水は放出前に海水と混ぜて、薄めた処理水に含まれる放射性物質トリチウムの1リットルあたりの濃度が国の安全基準の40分の1(1500ベクレル)未満であることを確認した。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は24日の声明で、IAEA職員の現場での分析で、トリチウム濃度が「1リットルあたり1500ベクレルの上限濃度をはるかに下回っていることが確認された」と指摘した。政府と東電は漁業への風評被害を防ぐため、監視データを定期的に公表して安全性を国内外に示す。基準を上回る濃度のトリチウムが検出されれば、すぐに放出を止める。東電は25日、環境省は27日にデータを公表する。西村康稔経済産業相は放出開始後に都内で記者会見し「データを透明性高く公表して安全安心を確保し、漁業者の生業継続支援に取り組みたい」と述べた。処理水の放出は長い道のりの一歩にすぎない。今後はデブリの取り出しという難事業が控える。処理水を放出できなければ、取り出したデブリを保管する場所が確保できない。放出が進めばタンクが減るため、廃炉計画の具体化に欠かせない過程だ。デブリはメルトダウンで原子炉から溶けた核燃料が金属やコンクリートと一体化したものだ。1~3号機全体でデブリは推計880トンあるとされる。放射線量が非常に高く、人が近づけない。それゆえ取り出し作業は遠隔操作になる。英企業や三菱重工業などが開発したロボットアームを使い2号機から着手する。東電などによると、1回目で取り出すのはわずか数グラム程度にとどまる。それすら実際に出来るのかどうかは分からない。日本原子力学会・福島第1原子力発電所廃炉検討委員会の宮野広委員長は「政府が示す廃炉計画は具体的な見通しがあるわけではない。一番難しいデブリの取り出しの手法が描けないと廃炉の見通しも見えない」と指摘する。国などは福島第1原発の廃炉作業には事故の発生後30~40年かかるとしている。事故後12年を経て残りは30年程度だ。国は廃炉について最終的な形を明らかにしていない。更地となるのか、ある程度の廃棄物が残るのかによって地元の受け止めも大きく変わる。費用も課題だ。政府はデブリ回収に6兆円、廃炉全体で8兆円との費用試算を16年に公表したが、さらに増える可能性が高い。事故賠償や除染も含めると既に事故後12兆円を支出している。費用総額は廃炉の最終的な形も大きく左右する。負担は国民に跳ね返るだけに国は丁寧な説明が求められている。

*3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73914760V20C23A8TB0000 (日経新聞 2023.8.26) 東電、廃炉費用8兆円 処理水放出も収益低迷、再建遠く
 東京電力ホールディングス(HD)は福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出を始め、2051年までの完了を掲げる廃炉作業はようやく前進した。8兆円に上る廃炉費用を捻出するだけの稼ぐ力はまだ弱く、経営再建への道筋を描けないでいる。政府が海洋放出を24日に決め、東電幹部は安堵した。「今夏での決着は廃炉を進める上で大きな意義がある」。敷地内の保管タンクは利用率が98%に達し、限界に近づいていたためだ。19年度の福島第2の廃炉決定に続き、約10年間議論してきた懸案がようやく解消したが、社内には楽観的な空気はない。23年度内には最難関とされるデブリの取り出し作業が始まる。廃炉総額約8兆円のうち約6兆円がデブリへの対処につぎ込まれる。炉内の正確な状況は分からず、取り出す工法も手探りで費用は想定より膨らむ可能性が高い。東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用は全額負担し、賠償も半分程度を支払う。まずは20年代半ばに年3000億円の経常利益を稼ぐ目標を達成しなければ支払いは難しくなってくるが、この10年間で達成したのは16年3月期の1度のみ。23年3月期は資源高で2853億円の赤字となり、道のりは険しい。東電は域外への電力販売や再生可能エネルギー事業の強化などを行ってきたが収益を底上げするほどには至っていない。首都圏中心に約2100万件もの顧客を抱えるが、新電力への顧客流出で収益基盤が揺らいだままだ。東電の火力比率は21年度で77%と沖縄電力に次いで高く、今後も資源高で利益が左右されやすい。過去5年で東電HDの純現金収支は1.2兆円の赤字と大手電力で最も悪い。東電にとって、「経営再建には柏崎刈羽しかない」(幹部)。原発1基で1400億円の収支改善につながるだけに経営の最優先事項として取り組んできたが、いまだ先行きは不透明だ。東電は10月に柏崎刈羽7号機の再稼働を目指したが、テロ対策の不備で原子力規制委員会から運転を禁じられたままだ。原発関連の重要書類の紛失などの不祥事も止まらず、立地自治体も不信感をあらわにし、地元同意も遠のいた。金融機関の姿勢も厳しくなってきている。収益力低下に対応するため、東電は財務基盤の強化を進めてきた。4月にも金融機関から4000億円を新規に借り入れたが、「柏崎刈羽が動かない状況では新規融資は難しい」との声もある。中部電力や日立製作所、東芝との原子力事業の提携や、東電の小売りや再生エネ子会社の外部資本の受け入れ論……。単独では経営再建が難しく、中部電と火力事業を統合したように原発や小売事業でも再編案が度々浮上してきた。原発再稼働が進まない状況が続けば、国主導でグループの経営体制の見直しを迫られる可能性がある。「財務の基盤が安定しなければ、(廃炉や賠償など)福島への責任を果たせない。(計画から)大きく外れている状況は改善しなければならない」。23年3月期に大幅赤字になったことを受けて、東電の小早川智明社長は厳しい表情でこう語っていた。廃炉作業を進めるためにも、早期に稼ぐ力を示すことが不可欠だ。

*3-5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15733888.html (朝日新聞 2023年9月5日) 水産業支援策、5本柱 消費喚起や販路開拓など公表
 東京電力福島第一原発の処理水の海への放出で中国が日本の水産物を全面禁輸したことを受け、政府は4日、水産事業者向けの支援策をまとめた。中国への輸出依存から転換するための販路開拓など5本柱からなり、従来の計800億円の基金に加え予備費から新たに207億円を充てる。岸田文雄首相は同日夜、記者団に「水産業を守り抜くということで、政府、東電がしっかりとそれぞれの責任を果たしていきたい」と述べた。支援策は「『水産業を守る』政策パッケージ」と題して、(1)国内消費拡大・生産持続対策(2)風評影響に対する内外での対応(3)輸出先の転換対策(4)国内加工体制の強化対策(5)迅速かつ丁寧な賠償――の5本柱としている。(1)では、国内消費を促すための「『国民運動』の展開」を掲げた。岸田首相は「国民の皆様にも理解と支援をお願いしたい」として、水産物の消費などを呼びかけた。(3)では、輸出が急減しているホタテなどの一時買い取り・保管や海外を含めた新規の販路開拓を支援する。飲食店でのフェアなどを通じて海外市場を開拓していく考えだ。(4)では中国に依存している水産物の加工を国内に呼び戻すため、加工用機器の導入や人材活用などを後押し。海外輸出を進めるため、国際的な衛生管理の手法であるHACCP(ハサップ)の認定手続きも支援する。

*3-5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15733855.html (朝日新聞 2023年9月5日) 「脱・中国依存」高い壁 国内に加工施設案「現実的なのか」 水産業支援
 中国が日本の水産物を全面禁輸としたことを受け、政府が4日に発表した水産事業者支援策では「輸出先の転換」「国内加工体制の強化」などを柱に「脱・中国依存」をめざす。新たな輸出先として欧米や東南アジアを念頭に置くが、実現のハードルは高い。農林水産省によると、中国への水産物の輸出額は871億円(2022年)で、全体の2割を占め、国・地域別では1位だった。22年のホタテの生産量は51・2万トンで、このうち中国に14・3万トンを輸出。ナマコは5100トンのうち中国向けに1900トンを輸出した。香港向けを含むと、この数字はさらに増える。加工も中国頼みだ。同省は輸出したホタテを中国でむき身に加工した後、米国に3万~4万トンが輸出されていると推定。今回の支援策では、日本国内で加工するための施策も含めた。現場の受け止めは複雑だ。北海道網走市で水産物加工会社を営む根田俊昭さんは「建設資材が高騰し、機械も電気代も値上がりする中、現実的な対策なのか」と疑問を投げかける。仮に加工施設を国内に設けても、働き手の確保は簡単ではないという。「人手がないのに、『カネを出すからすぐ作れ』と言われて、できるのか」と話す。政府は欧米の飲食店などで「日本食キャンペーン」も開く方針だ。岸田文雄首相は、輸出先の開拓を対策とした理由に「世界の和食ブーム」を挙げる。しかし、実際に需要の掘り起こしにつながるかは未知数だ。日本産食品の輸出先は中国を始めとするアジア諸国が中心だ。欧米は市場規模は大きいが、食文化の違いが足かせになっていた。一般的に欧米の衛生規制はアジア向けよりも厳しく、対応に時間がかかる可能性がある。長崎県の養殖・加工業者「橋口水産」の橋口直正社長は、中国の全面禁輸によって「億単位の損失が見込まれている」と話す。ブリの約95%を海外に輸出しており、うち約2割が中国だった。現地でのイベントに出店したり、SNSでPRしたりしてきた。「これから伸ばしていこうとしていた矢先だった」と橋口社長。11月から本格的な出荷シーズンが始まり、さらに影響を受けることが予想される。

<化石燃料と予算>
*4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15587145.html (朝日新聞 2023年3月21日) 1.5度目標、ここが正念場 国連パネル報告「水害・海面上昇、適応に限界」
 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が20日公表した統合報告書でこれまで以上に危機感を打ち出した。一方で、温室効果ガスを大幅に削減する手段をすでに手にしているとも指摘。この10年間の行動が、人類と地球の未来を決めるという。
■再エネ活用「まだ達成の道ある」
 報告書は、改めて温室効果ガス排出量が増えるほど温暖化が進むことを強調。世界で稼働または計画中の化石燃料インフラを使い続けると、気温上昇が2度を超える恐れがあるという。2度は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で掲げる目標だが、各国が提出している温暖化対策目標を達成しても2・8度上昇に達する可能性が大きいとする。IPCCはこれまでも警告を発してきた。しかし現実と落差がある。新型コロナからの回復で景気が復調。ウクライナ侵攻などによるエネルギー危機で欧州を中心に各地で一時的に石炭火力を稼働させる動きがある。国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の二酸化炭素(CO2)排出量は過去最多になった。米環境NGO「世界資源研究所」は「今後数年間で化石燃料からの抜本的なシフトがなければ、世界は1・5度の目標を吹き飛ばす」と危機感をあらわにする。報告は温暖化が進むほど、「損失と被害が拡大する」と危機感を示す。食糧や水不足が増えるが、感染症の世界的流行や紛争などと重なるとより事態は難しくなる。水害や海面上昇は堤防などの治水対策で一定のリスクを減らせるが、「適応」には限界がある。すでに熱波や豪雨などの極端現象が増え、陸や海の生態系に相当な被害をもたらした。世界の食糧生産に悪影響を及ぼし、酷暑の増加で死亡率が増えているという。一方で、報告書は「まだ達成の道はある」と希望を残す。再生可能エネルギーや省エネ対策など100ドル以下の対策を活用するだけで、2030年までに排出量を半減できるという。対策は「政治の関与、制度、法律、政策、資金や技術によって可能になる」としている。規制・経済的手段として、二酸化炭素排出への価格付け(カーボンプライシング)や、化石燃料への補助金の撤廃などに言及した。
■「先進国は目標前倒しを」 遅れる日本
 国連のグテーレス事務総長は主要国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を年内に更新するよう呼び掛けた。「年末の国連の気候変動会議(COP28)までに、すべての主要20カ国・地域(G20)のリーダーが野心的な新しい目標を約束することを期待する」。温暖化に大きな責任を負っている先進国には、2040年までに実質排出ゼロを前倒しするよう求めた。先進7カ国(G7)のうち、米英独加は35年に電源の脱炭素化の目標を掲げ、仏は21年に91%を脱炭素化した。日本は21年に30年度の46%削減、50年の実質排出ゼロを掲げるが、40年に向けた目標はない。IEAによると世界で導入された再エネは昨年、最大4億400万キロワットで19年から倍増する見通し。EUはロシアのウクライナ侵攻後の昨年5月に再エネを強化する目標「リパワーEU」を決め、30年時点でのエネルギー消費に占める再エネ比率を40%から45%に引き上げた。米国では昨年8月、エネルギー安全保障と気候変動対策の約3700億ドルを含む「インフレ抑制法」が成立。30年までに40%前後の排出減を試算している。一方、日本での再エネの導入ペースは鈍い。IEAの試算では19年に810万キロワットで、22年は最大でも980万キロワット。27年時点も同710万キロワット。COP28では、パリ協定のもとで初めて各国の削減目標の進み具合の評価が行われ、25年までに新たな目標を提出することになる。環境省幹部は「正直、まだ何も手が付いていない」と頭を抱える。国立環境研究所の増井利彦氏は「35、40年の目標を出さないと日本の地位、信頼性が失われる」と指摘する。2月に閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」では、今後10年間で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出する。だが、再エネについては発電量に占める比率を30年度に36~38%にする目標を変えていない。大排出源である石炭火力発電の燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円を投じる方針だが、技術的に未確立でコストも高く、「石炭火力の延命」(NGO)との批判が根強い。諸富徹・京都大大学院教授(環境経済学)は「欧州や米国は、IPCCが言う1・5度などの実現に沿った政策づくりを進めており、それによって経済成長も実現しようとしている。だが、日本のGX基本方針からは、そのような真剣さや迫力がまったく感じられない。『脱炭素経済』への移行に遅れれば、日本の産業競争力は引き続き低下していく恐れがある」と指摘する。また環境や社会問題に配慮するESG投資に詳しい夫馬賢治・ニューラル社長は「水素やアンモニアの混焼はグリーンウォッシュ(見せかけの脱炭素化)とみられ、世界の投資家から理解を得られない」と指摘する。(関根慎一、編集委員・石井徹)
     ◇
 国連広報センターは今年も、メディアと共同で、気候変動への行動を呼びかけるキャンペーン「1・5度の約束――いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を行う。現時点で、朝日新聞を含む日本メディア127社が参加表明している。20日、発表した。期間は年内いっぱいで、国連総会が開かれる9月18~25日を集中推進期間とし、参加各社が記事や番組、イベントなどで気候変動の現状や対策を発信する。

*4-2-1:https://www.saitama-np.co.jp/articles/33695/postDetail (埼玉新聞 2023/6/29) 環境に有害補助金、年1千兆円超、世界銀行「保護に活用を」
 世界銀行は29日までに、各国政府が自国産業に出す補助金のうち、エネルギーや農業、漁業の分野で環境に有害なものが世界で年間計7兆ドル(約1千兆円)を超えるとの試算を公表した。使い方を見直して環境保護に活用するよう訴えている。補助金のマイナス面に警鐘を鳴らす狙い。ただ、不十分な規制で産業を利している「暗黙の補助金」も試算に含めているほか、通常の補助金にも国民生活に不可欠なものがあり、全てを環境保護に振り向けるのは難しい面もある。エネルギー分野では、化石燃料の価格引き下げにつながる補助金を問題視する。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230903&ng=DGKKZO74127350S3A900C2EA4000 (日経新聞 2023.9.3) 6日 エネ庁、ガソリン価格調査公表、高止まり、補助金は副作用も
 資源エネルギー庁は6日、レギュラーガソリンの店頭価格調査の結果を発表する。円安の進行などで最高値を更新するとの見方が多い。政府は9月末までとしていたガソリン補助金を、年末まで延長する方針だ。補助の長期化は最終的に国民負担を長引かせ、脱炭素にも逆行するとの見方がある。エネ庁は原則、毎週月曜に全国の給油所の店頭価格を調べ、水曜に発表する。8月28日時点の価格(全国平均)は1リットル185.6円と、統計開始以降の最高値を15年ぶりに更新した。6日発表の価格(4日時点)は、円安による原油の仕入れ価格上昇を映して「小幅に上がる」との見方が強い。店頭価格上昇の背景には、ガソリンの原料となる原油価格の高止まりがある。アジア市場で指標となる中東産ドバイ原油の価格は、8月28日時点で1バレル86ドル台半ばと6月初めに比べて21%高い。産油国は減産によって原油相場を維持している。サウジアラビアは7月から続けている日量100万バレルの自主減産を、9月も実施すると決めた。ロシアも9月の原油輸出を減らす方針を示した。供給懸念が意識され、原油相場の先高観は強い。円安・ドル高の進行もガソリン価格を押し上げている。8月28日時点の円相場は1ドル=146円台半ばと、約9カ月半ぶりの円安水準だ。原油は主にドル建てで取引する。円安によって輸入価格が上がれば、ガソリンの価格にも反映されやすい。政府が石油元売りに支給している補助金が、6月から段階的に減っているのも大きい。補助金は22年1月、原油高によるガソリンや軽油、灯油などの価格高騰を抑えるために始まった。同年夏には1リットルあたり40円前後を支給していたが、高騰が収まった現在の補助額は10円程度だ。ガソリン高は家計の負担増加につながる。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は、仮にガソリンの価格が1リットル168円から195円まで上がり、そのまま1年間推移した場合、家計の年間負担増は総額で8780億円に達すると試算する。ガソリン価格の高止まりは特に地方の家計に響く。「自家用車を使う人が多い地方では、都市圏に比べて負担が大きくなる」(斎藤氏)。製油所からの輸送距離が長い長野県や山形県、鹿児島県などでは、平均価格がすでに1リットル190円を超えている。急激なガソリン高に対する批判を受け、政府は9月末に終了を予定していた補助金を年末まで延長する方針を示した。10月中に全国平均のガソリン価格が1リットル175円程度になるよう、段階的に拡充する。13日発表分以降の店頭価格は緩やかに下がるとみられる。ただ、補助金によるガソリン価格の引き下げが経済活動に及ぼす効果は限られるとの見方も強い。石油製品市場に詳しい伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリーの伊藤敏憲代表は、仮にガソリン価格が10円程度抑えられたとしても「一般消費者の負担額は月間で300~400円の減少にとどまり、消費を喚起する効果はほとんどない」と語る。補助金の長期化には副作用もある。ガソリン価格の高騰が需要を抑えたり、よりガソリン消費が少ない車への買い替えを促したりする、自然な市場メカニズムの働きを抑える可能性があるためだ。エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は「足元の高騰を考えると補助金の拡充はやむをえないものの、補助金政策が長引けば最終的に国民自身の負担になる」とした上で「補助金の一部を再生可能エネルギー・省エネ関連の建設費に投じることで、将来的な光熱費低減につなげるべきだ」と指摘する。

<再エネと予算>
*5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230818&ng=DGKKZO73688770Y3A810C2EA2000 (日経新聞 2023.8.18) 積水化学、曲がる太陽電池量産 30年までに 100億円投資
 積水化学工業は2030年までに次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」の量産に乗り出す。軽くて折り曲げられる同電池では中国勢が量産で先行するが、積水化学は強みとされる耐久性を生かして屋外での需要を開拓し、中国勢を追い上げる。ペロブスカイト電池は太陽光パネルで主流のシリコン製と比べ、重さは10分の1程度と軽く、折り曲げやすい。ただ、水分に弱く耐久性に課題があり、現在ではスマートフォン向けなど用途の広がりに欠ける。積水化学は液晶向け封止材などの技術を応用し、液体や気体が内部に入り込まないよう工夫。10年程度の耐久性を実現している。100億円以上を投じて製造設備を新設し、30年時点で年数十万平方メートルのペロブスカイト型太陽電池を生産する。発電量は数十メガワット。フィルムに結晶の膜を塗布しロール状に巻いて連続生産する。すでに30センチメートル幅のフィルムでエネルギー変換効率15%を達成した。シリコン型の20%以上に及ばないが、技術開発を進めて変換効率をさらに高めていく。より効率の良い1メートル幅での生産の準備を進めており、コスト競争力も高める。太陽光パネルの分野では、かつてシリコン型の開発・実用化でも日本勢が先行していたが、中国勢の攻勢で多くが撤退に追い込まれた。同様の事態を避けるため、日本政府は4月、ペロブスカイト型太陽電池の普及支援を打ち出し、公共施設で積極的に設置するなど需要を創出したり、量産技術の開発や生産体制の整備を支援したりする。ペロブスカイト型の技術支援はエネルギーの安定供給も背景にある。主な原料のヨウ素の世界シェアは日本が2位で国内で調達しやすく、供給網が寸断された場合に備えることもできる。積水化学は政府の支援策によっては生産量を増やす可能性もある。日本は山間部が多いなど、従来型太陽電池に適した立地が少なくペロブスカイト型の市場性は大きいと言われている。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。

*5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/0df32a5bc122ac8c2934cd8234646f0255df848d (Yahoo、スマートジャパン 2023/9/7) 「発電する窓」をペロブスカイト太陽電池で実現、パナソニックが実証へ
 パナソニックは2023年8月、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発したと発表した。今後、技術検証を含めた1年以上にわたる長期実証実験を、神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)内のモデルハウスで実施する。ペロブスカイト太陽電池は、軽量かつ柔軟に製造可能という特徴を持ち、ビルの壁面や耐荷重の小さい屋根、あるいは車体などの曲面といった、さまざまな場所に設置できる次世代太陽電池として期待されている。また、塗布などによる連続生産が可能であること、レアメタルを必要としないなどのメリットも持つ。パナソニックではこれまでに、従来の結晶シリコン系の太陽電池と同等の発電効率を有し、実用サイズ(800平方センチメートル四方)のモジュールとして世界最高レベルという17.9%の発電効率を持つペロブスカイト太陽電池を開発している。今回開発したガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、これらの成果を生かし、ガラス基板上に発電層を直接形成したもの。同社独自のインクジェット塗布製法と、レーザー加工技術を組み合わせることで、サイズ、透過度、デザインなどの自由度を高め、カスタマイズにも対応可能だという。
パナソニックでは今後の実証の結果などをふまえ、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池をさまざまな建築物そのもののデザインと調和する「発電するガラス」として展開していく方針だ。

*5-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BIZ0U3A410C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023年5月12日) 曲がる次世代太陽電池、ビル壁面で発電 25年事業化へ
 次世代の「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めている。薄いフィルム状で折り曲げられるため、場所を問わず自由に設置しやすい。原料を確保しやすく、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすい利点もある。政府は2030年までに普及させる方針を打ち出し、国内企業を支援する。35年には1兆円市場に育つとの試算もある。積水化学工業や東芝が25年以降の事業化に向け開発を急ぐ。ペロブスカイト型太陽電池は太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使う。重さが従来のシリコン型の10分の1。折り曲げられるため、建物の壁や電気自動車(EV)の屋根などにも設置できる。一方で水分に弱いため、実用化には高い発電効率を維持しながら、耐久性が課題となる。「実用化できる基準には達した」。積水化学はこれまで1日ももたずに壊れてしまったペロブスカイト型の耐久性を10年相当に高めた。液晶向けで培った液体や気体などが部品の内部に入り込まないようにする封止材の技術を使い、太陽電池を保護した。シリコン型の耐久性は約20年であり、R&Dセンターのペロブスカイト太陽電池グループ長の森田健晴氏は「耐久性を高められなければ、事業化には致命的だ」と話す。事業化に欠かせない発電の変換効率も高めた。30センチメートル幅で変換効率15%(シリコン型は20%以上)を達成した。薄いペロブスカイト型はシリコン型よりも熱を逃がしやすく、変換効率の低下につながる電池の温度上昇を抑えられる。今後は実用に近い1メートル幅での開発を目指す。積水化学は東京都下水道局森ヶ崎水再生センターなど複数の拠点で実証実験を実施しており、設置方法を含む実用化を検討している。現状では発電する薄膜に欠陥が生じやすいほか、歩留まりも悪く、製造コストはシリコン型に劣るという。今後は軽さを生かして物流コストなどを抑えることで、設置までの全体のコストでシリコン型に対抗する。25年度に事業化する方針であり、JR西日本がJR大阪駅北側に25年の開業を目指す「うめきた(大阪)駅」に設置予定だ。ペロブスカイト型は敷地を確保しにくい都心での発電が可能となる。室内光や曇りや雨天時など弱い光でも発電可能なため、屋内向けの電子商品などに使われる可能性がある。実験レベルでは高い変換効率を達成しており、耐久性やコスト面で改善が進めば、中国勢が優位に立つシリコン型に対抗しうる太陽電池として期待が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年から「グリーンイノベーション基金」で次世代太陽電池の開発に約500億円の予算を確保している。30年度までに一定の条件下での発電コストをシリコン型と同等の1キロワット時14円以下の達成を目指す。経済波及効果は30年までに約125億円、50年までには約1兆2500億円を見込む。東芝もグリーンイノベーション基金に採択された企業の1つだ。26年度ごろの事業化を目標に掲げる。広い面積にペロブスカイト層を均一に塗布する独自技術を開発し、703平方センチメートルの大面積で変換効率16.6%を達成した。現在の耐久性能を明らかにしていないが、耐久性の向上と低コストな製品の開発を進めているという。カネカはNEDOが補助するペロブスカイト型だけでなく、シリコン型と2層で重ねる「タンデム型」の開発も進めている。設置済みのシリコン型をタンデム型に置き換えることで、発電効率を高める狙いだ。同社が開発した結晶シリコン太陽電池はトヨタ自動車の新型プリウスのプラグインハイブリッド車(PHEV)などで採用された実績がある。素材開発から量産まで一気通貫で自社で担える強みを生かす。ペロブスカイト型は09年に桐蔭横浜大学(横浜市)の宮坂力特任教授が発明した。だが海外で特許取得をしていなかったことや、各国政府の研究開発支援の充実で、海外との開発競争は激化している。21年にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設した。中国でも大型パネルの量産が始まっている。ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。価格もシリコン型に比べ高額だ。日本企業がコストや性能で優れた製品を量産できれば勝機はある。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。
●国内で供給網、エネルギー安保でも注目
 政府がペロブスカイト型太陽電池の開発を後押しする背景にエネルギー安全保障がある。現在主流のシリコン型は原料であるシリコンの供給を中国に依存しており、有事の際に生産が止まるリスクがある。ペロブスカイト型は太陽光の吸収材料に日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素を使う。他の原材料も国内で確保しやすいため、国内でサプライチェーンを完結できる可能性がある。株式市場では関連銘柄としてヨウ素メーカーにも注目が集まっている。ガラス最大手AGC子会社の伊勢化学工業が国内シェアの30%を、K&Oエナジーグループが15%を占める。ペロブスカイト型が普及した場合、国内のヨウ素使用量はどれくらい増えるのか試算してみた。ペロブスカイト層の厚さを1マイクロメートルとし、ペロブスカイト結晶の密度から単位面積当たりのヨウ素量を計算すると、1平方メートルあたり数グラムとなる。国内の0.5メガワット以上の太陽光発電施設が占める面積と同程度、ペロブスカイト型が設置されると仮定すると、ヨウ素の必要量は数十トン程度と、国内の年間生産量の1%に満たない。日本発のペロブスカイト型太陽電池は市場規模の成長力とエネルギー安保の両面から実用化への期待が高い。一方で関連企業の業績への影響は未知数であり、銘柄選びには冷静な見極めが必要だ。

*5-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230825&ng=DGKKZO73877020V20C23A8MM0000 (日経新聞 2023.8.25) 東京都、住宅メーカーに省エネ効果の説明義務、購入時の判断基準に
 東京都は住宅の省エネ化を加速する。新築の戸建てや中小規模のマンションについて、2025年度から事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明するよう義務付ける。都の評価基準を満たしているか契約前に説明し、買い手が環境に配慮した物件を選びやすくする。大規模なマンションについては断熱性などの環境性能の開示制度を既に設けており、より小さな物件に網を広げる。25年度に始める新築戸建てへの太陽光パネル設置義務化と合わせ、省エネ住宅の普及につなげる。延べ床面積2000平方メートル未満の中小規模のマンション、戸建ての注文住宅や分譲住宅について事業者に説明義務を課す。同じ規模のビルも対象とする。説明義務を負うのは都内で年間2万平方メートル以上の物件を供給する事業者で、大手住宅メーカーなど50社程度を想定する。都内の年間供給棟数の半数程度が対象となる見通しだ。事業者に幅広く説明義務を課すのは「自治体初とみられる」という。23年度中に制度の詳細を固め、都民や事業者への周知を始める。25年4月1日以降に建築確認が完了する物件が対象となる。建物自体の環境性能のほか、電気自動車(EV)用の充電設備の設置状況が都の基準を満たしているかも説明させる。都は事業者への訪問調査などを通じ、説明義務を果たしているかどうか確認する。年度ごとの履行状況も事業者に報告を求める。履行状況は都のホームページで公表する。対応が不十分な事業者には都が指導、助言して改善を促す。都内の新築着工棟数のうち2000平方メートル未満の物件は全体の98%にのぼり、その9割を住宅用途が占める。都内で排出される二酸化炭素(CO2)の3割は家庭由来だが、事業所など産業分野に比べて削減の取り組みは遅れ気味だ。東京都によると、家庭からのCO2排出量は21年度の速報値で1729万トンで2000年度に比べて34.8%増加した。都内全体では00年度比で9.2%減っており、家庭部門の排出削減は脱炭素の大きなカギを握っている。パネルの設置義務も供給棟数の多い50社程度が対象で、新築物件の半数程度が対象になる見通しだ。都内全体で毎年4万キロワット程度の発電能力を生み出せるという。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73587900U3A810C2TEB000 (日経新聞 2023.8.15) EVバス、導入相次ぐ 補助金・燃料費減が後押し、30年までに1万台目標
 全国で電気自動車(EV)バスの導入が相次いでいる。3月には京王グループの西東京バス(東京都八王子市)や神奈川中央交通などが採用した。業界団体は2030年までに累計1万台の導入目標を掲げる。「ディーゼルバスよりも音や揺れが少ないと乗客に好評だ」。EVバス3台を運行している西東京バスの担当者はこう語る。バスは中国のEV大手の比亜迪(BYD)から購入した。
自動車検査登録情報協会によると、国内で稼働するEVバスは22年3月末に約150台だったが、さらに23年4月末までの直近1年超で100台以上が納車されたようだ。3月だけで少なくとも10社が運行を開始した。背景には脱炭素の動きを受けた政府や自治体の補助金がある。政府は22年度までEVバスの導入費用の最大3分の1を補助してきた。一般的なディーゼルバスの価格は大型で2300万円程度なのに対し、EVバスは4000万円台。自治体の補助金も併用すると、一般のバスよりも安く導入できるケースも想定される。補助金でコストを抑えられるほか、従来型のバスに比べてエネルギー費(燃料費)を減らせることも普及を後押ししている。新型コロナウイルス禍からの経済再開も影響している。「人流の回復を受けてEVバスの導入を本格化した」(富士急行)など、これまで控えてきた車両更新をきっかけにする会社も目立つ。EVバスは脱炭素の効果が大きい。2台を運行する神奈川中央交通によると、一般的にEVバスは走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。EVバスの充電に使う電力を発電する際まで含めるとCO2を排出することになるが、ディーゼルバスが走行時に排出する量の半分で済む。バスを走らせる費用も安い。1回の充電に5時間ほどかかるが、EVバスの電気代は「ディーゼル燃料を使う場合の3分の2ほど」(導入した事業者)だという。追い風も吹く。政府は23年度の補助率を導入費用の最大2分の1に高めた。補助予算も前年度の約10倍にあたる100億円規模に引き上げた。日本バス協会は23年を「EVバス普及の年」と位置づけ、30年までに累計1万台の導入を目指すとしている。国内のバス台数の5%程度だが、導入が加速する可能性もある。今後の課題は補助金依存からの脱却だ。現在、日本向けにEVバスを大量供給できるのはBYDとEV商用車開発のEVモーターズ・ジャパン(北九州市)の2社程度だ。乗用車のように国内外のメーカー間での価格競争はまだ起きていない。トルコの商用車メーカーのカルサンやジェイ・バス(石川県小松市)が23~24年度に販売を開始する計画などもある。補助金が減額された場合でも、競争力のある価格を実現できるかが導入のスピードを左右する。

*5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15725527.html (朝日新聞 2023年8月26日) ボルボ新EV、日本好みに 小型化実現
 スウェーデンのボルボ・カーズは24日、電気自動車(EV)の新型SUV(スポーツ用多目的車)「ボルボEX30」を11月中旬に日本で発売すると発表した。税込み559万円から。最大の特徴は、日本法人の要望に応えて、機械式立体駐車場でも使えるよう小型化したことだ。EX30は日本に投入する3車種目のEVで、全長が4235ミリ、全幅が1835ミリ、全高が1550ミリと最も小さい。日本は国別の売り上げで上位10位以内に入る重要市場のため、日本で利用者が多い機械式立体駐車場に収まるサイズにした。日本法人の不動奈緒美社長は朝日新聞の取材に「日本から要望し続けてようやく実現したサイズ。日本の道路・車庫事情に最もフィットする一台だ」と話した。サイズを日本に合わせたため、大型車が好まれる欧米では苦戦が見込まれていたが、予想に反して売れ行きは好調だという。米国では6月に販売を始め、すでに想定を上回る9千台の受注があった。不動氏は「米国でも欧州でも、大都市では日本と同じニーズがあったのではないか」とみる。最大航続距離は480キロで、急速充電器を使えば約26分で充電残量を10%から80%にできる。小型化で部品数が減ったため、従来のEVより100万円以上安く、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買えるという。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73915390V20C23A8TEZ000 (日経新聞 2023.8.26) 豪州、車電池で産業育成 EV国家戦略公表、リチウム加工促進、再エネ投資に1.4兆円基金
 オーストラリアが電気自動車(EV)関連産業の育成に取り組んでいる。現政権は脱炭素に意欲的で、今年、EV国家戦略を初めて公表したほか、リチウムなど重要鉱物資源の国内加工も後押しする。国内産業を化石燃料や鉱物資源の産出から、付加価値の高い産業へ多様化する狙いがある。「この豪州初の電池工場は、産業界が長らく求めてきた聖杯だ」。5月、豪州南東部ジーロングを訪れたマールズ副首相兼国防相は強調した。かつて米フォード・モーターが約900人を雇用し自動車を製造していた同地は、EV向け電池工場の建設予定地へと変貌をとげようとしている。米企業傘下の電池スタートアップ企業、リチャージ・インダストリーズが工場の立ち上げを計画する。年間の生産能力は最大で30ギガ(ギガは10億)ワット時で、EV約30万台分の電池を供給できる。2024年5月ごろまでに着工し、25年から生産を始める予定だ。2550人の雇用創出を見込む。豪州は自動車産業の「空白地帯」だ。17年にトヨタ自動車などが工場を閉鎖し、豪州で生産する完成車メーカーはない。高い賃金や年100万台程度の小さな市場規模、市場の大きな国から遠いといった背景により、完成車メーカーが戻るのは容易ではない。だがEVシフトを呼び水に、電池製造やリサイクルなど関連産業を育成する機運が高まっている。転機となったのが22年5月の労働党政権の誕生だ。国として30年までの温暖化ガス排出削減目標を05年比43%減と定めたほか、エネルギーや鉱業など排出量の多い企業の削減義務を強化するなど脱炭素を推し進めた。豪州では近年、山火事など自然災害が深刻化し、より踏み込んだ気候変動対策を求める声が強まっている。国は150億豪ドル(約1.4兆円)規模の基金を立ち上げ、EV技術などへの投資を後押しする。豪州は天然ガスや石炭を産出しているが、アルバニージー首相は国内電源や輸出で化石燃料に依存する経済から「再生可能エネルギー超大国」への転換を目指す。4月に公表した初のEV国家戦略では「豪州には部品や電池などEV供給を支える製造業を育成する能力がある」と関連産業の発展に自信をにじませた。伊藤忠総研の深尾三四郎上席主任研究員は「豪州にはEVシフトでも傷む雇用がなく、むしろ新たな雇用を創出する」と指摘する。豪州は脱炭素に欠かせない資源も豊富だ。米地質調査所(USGS)によると、豪州は電池材料に使うリチウム鉱石生産の47%を占め、埋蔵量も24%とチリに次いで2番目に多い。EV普及に伴って、リチウムの世界需要は40年に20年から40倍に増える見通しだ。チリは4月にリチウム生産を国有化する方針を打ち出しており、カントリーリスクが相対的に低い豪州への関心が高まっている。既に米テスラやフォードが豪州の鉱山会社、ライオンタウン・リソーシズとリチウムの供給契約を締結している。だが実現には課題も多い。リチウムを電池材料として使うための不純物を除く精製・分離の工程は環境負荷が高い。そのため、環境規制が緩く労働コストも安い中国に依存してきた。豪州のリチウム輸出の9割は中国へ向かう。米ホワイトハウスによると、中国は世界のリチウムの6割の精製を担う。政府は6月に公表した重要鉱物資源戦略で海外からの投資の誘致方針を示した。国内での精製・分離を目的とした設備投資などへの助成金枠として5億豪ドルを充てる。テスラなど完成車メーカーも豪州に加工能力の増強を求めている。豪州にとっても国内で資源の付加価値を高められれば、より高く売れるメリットがある。世界で脱炭素の流れが強まる中、豊富な埋蔵資源をもつ豪州の強みを国内産業への発展につなげられるか。EVシフトは大きな転機となりそうだ。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA131IQ0T10C23A9000000/ (日経新聞 2023年9月14日) 日本、カナダでEV電池供給網 北米販売を後押し、両政府合意へ
 日本の官民がカナダで電気自動車(EV)向けの重要鉱物の探鉱、加工、蓄電池の生産を含むサプライチェーン(供給網)を構築する。カナダ政府も補助金などで支援し、両国が協力して供給力を高める。北米での日本企業のEV販売増につなげるほか、経済安全保障を強化する。西村康稔経済産業相が21日にもカナダを訪問し、ウィルキンソン天然資源相らと蓄電池のサプライチェーンに関する協力覚書を結ぶ。想定する協力内容はまず、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などによるカナダでのニッケルやリチウムなどの探鉱だ。カナダは重要鉱物の埋蔵は多いものの、技術力や人材面など生産能力に課題を抱える。米地質調査所(USGS)によると、カナダのリチウムの埋蔵量は中国の半分程度で世界有数の規模だ。その半面、生産量でみると中国の2%ほどにとどまる。日本と協力することで生産量を増やす。日本の素材・電池メーカーが、カナダで採掘した重要鉱物の加工や、その鉱物を材料に使う蓄電池の生産工場を建てることを視野に入れる。西村氏の訪問にはパナソニックホールディングスやトヨタ系のプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)といった電池メーカーや、商社などが同行する。カナダ政府は現地に進出する日本企業を補助金などで支援する構えだ。産業育成や雇用創出に期待する。カナダでの電池生産は米国での日本メーカーのEVの販売促進につながる。米国はインフレ抑制法(IRA)で、EVの新車などを購入する消費者に最大で7500ドル(約110万円)を税額控除している。日本車は現在、対象に選ばれていない。対象になるには、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国の自由貿易協定(FTA)締結国から調達するほか、電池部品の5割を北米で製造・組み立てするなどの要件がある。カナダで調達や加工をすることで、条件が満たしやすくなる。日本にとっては供給網の強化も見込める。日本は現在、中国やチリなどからリチウムを輸入している。一部の国に依存するのは供給途絶のリスクが大きい。とりわけ蓄電池の生産はエネルギーや気候変動政策の観点で競争力に直結する。西村氏はシャンパーニュ革新・科学・産業相とエング国際貿易相と、人工知能(AI)やクリーンエネルギー、量子といった産業技術に関する覚書にも署名する。量子コンピューターの研究開発では経産省所管の産業技術総合研究所と、カナダ国立研究機構(NRC)の協力を盛り込む。日本は冷却に必要な冷凍機など素材分野で強みを持つ。

*5-3-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200821-OYT1T50273/ (読売新聞 2020/8/21) 日本EEZでコバルトやニッケル採掘に成功…リチウム電池に不可欠なレアメタル
 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は21日、日本の排他的経済水域(EEZ)でコバルトやニッケルを含む鉱物の採掘に成功したと発表した。リチウムイオン電池に不可欠なレアメタル(希少金属)で、中国依存度が高く、国産化が課題となってきた。採掘場所は、南鳥島南方沖の海底約900メートル。7月に経済産業省の委託事業として、レアメタルを含む鉱物「コバルトリッチクラスト」を約650キロ・グラム掘削した。JOGMECの調査では、同海域には、年間の国内消費量でコバルトは約88年分、ニッケルは約12年分あるという。コバルトやニッケルは、電気自動車などに使うリチウムイオン電池に不可欠な材料だ。希少性が高く、日本は国内消費量のほぼ全てを輸入に頼っている。超高速の通信規格「5G」時代を迎えて、通信機器への活用も急増し、世界的に取引価格が上昇している。国産化は国内産業の競争力強化にもつながる。経産省は「掘削成功は、レアメタルの国産化に向けた大きな一歩」とし、量産に向けて掘削技術の検証などを進める方針だ。

*5-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF127F90S3A910C2000000/ (日経新聞 2023年9月12日) パナHD、全固体電池を20年代後半量産 ドローン用など
 パナソニックホールディングス(HD)は12日、ドローン(小型無人機)など向けに開発中の小型の全固体電池を2020年代後半に量産する方針を明らかにした。実用化できれば、3分程度でドローン用の電池容量の8割を充電できる見込み。同様の充電に1時間程度を要する現状のリチウムイオン電池に比べ、利便性が大幅に高まるとした。パナソニックHDがこれまで社内向けに開催していた技術展示会を報道陣や取引先企業に初めて公開し、全固体電池について説明した。金属材料の組成など詳細は明らかにしなかったが、想定する充放電回数は数万回とした。一般的なリチウムイオン電池の回数とされる約3000回を大きく上回る。全固体電池は電気自動車(EV)の次世代車載電池として期待されている。トヨタ自動車は27〜28年にも実用化する方針。パナソニックHDの小川立夫グループ最高技術責任者(CTO)は全固体電池の車載向けへの転用は、自動車メーカーと緊密に連携する必要があるとし「自社単独でできるものではないため、コメントできない」と述べた。展示会では木質繊維を使い強度を高めたプラスチック素材や、太陽光を電気に変換せずにそのままエネルギーとして使い水素を製造する装置なども披露された。

*5-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73591180U3A810C2EA2000 (日経新聞 2023.8.15) M&A、日本企業間で8割増 上期6.8兆円、株価底上げへ国内事業再編が活発 円安、海外買収難しく
 日本企業同士のM&A(合併・買収)が増えている。今年上期の買収額は約6兆8000億円で前年同期比8割増えた。株価の底上げに向けて、より相乗効果が見込みやすい国内での事業再編が活発になってきたためだ。円安で海外企業を買うハードルも上がっており、海外に成長を求めてきたM&Aの潮目が変わる可能性がある。金融情報会社リフィニティブによると1~6月の日本関連のM&A全体は約10兆8000億円と2割弱増えた。このうち「イン・イン型」と呼ぶ日本企業同士のM&Aは日本関連のM&A全体の63%を占めた。通年で75%だった2009年以来の高水準だった。件数でもイン・イン型は前年同期比3%増の1828件で、件数全体に占める割合は76%だった。09年当時はリーマン・ショック後の不透明感から「イン・アウト型」と呼ぶ日本企業による海外M&Aが急減した。半面、国内企業の再編が増えたことでイン・イン型の比率が上がった。損害保険ジャパンと旧日本興亜損害保険が経営統合を決めたのも同年だ。23年1~6月はイン・アウト型も約3兆2000億円と3割増えたが、イン・イン型の伸びが上回った。日本企業同士のM&Aで目立ったのは大手企業が国内投資ファンドと組んで株式を非公開化する動きだ。東芝は日本産業パートナーズ(JIP)や日本企業20社超の支援を受けて株式非公開化を決めた。買収額は約2兆1000億円。物言う株主(アクティビスト)を含む複雑な株主構成を整理し、出資企業と連携して再成長を目指す。半導体材料大手のJSRは政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)による約1兆円買収を受け入れた。半導体材料の国際競争力を高めるため、国の関与のもと、積極投資しやすい環境を整える。経営者の高齢化が進むなか、事業承継目的のM&Aも広がった。オリックスによる通販化粧品大手ディーエイチシー(DHC、東京・港)の買収は約3000億円で、承継目的のM&Aでは過去最大級だった。10年代の日本企業のM&Aはイン・アウト型が中心だった。人口減少による国内市場の縮小をにらみ、海外に成長を求める傾向が強かった。日銀の大規模緩和のもと、国内金融機関から買収資金を低コストで調達できたことも大きい。もっとも、海外子会社をうまく経営できない企業も多く、巨額の減損損失を計上する企業も相次いだ。日本企業はこうした経験をふまえ「より相乗効果を発揮しやすい国内再編に注力するようになった」(JPモルガン証券の土居浩一郎M&Aグループ責任者)。東芝やJSRのように、生き残りに向けて戦略的に買収を受け入れる企業も出てきた。脱炭素社会をにらみ再生可能エネルギー開発会社の再編も増えている。NTTのエネルギー子会社は国内火力発電最大手JERAと組み、カナダの年金基金傘下にあったグリーンパワーインベストメント(GPI、東京・港)を約3000億円で買収した。豊田通商はソフトバンクグループ(SBG)からSBエナジー株式の85%を1200億円で取得した。1ドル=140円台まで進んだ円安がイン・アウト型のM&Aのハードルを高めている面もあるが、国内企業同士のM&Aは今後、一段と活発になる可能性がある。要因の一つが株式市場からの圧力だ。東京証券取引所が今年3月末、上場企業に資本コストや株価を意識した経営を要請した。1倍割れの低PBR(株価純資産倍率)に沈む企業に対する市場の目は厳しくなっており対応を迫られている。「M&Aによる業界再編は収益性向上のための有力な手段となる」。政策面の追い風も吹く。経済産業省が策定中の「企業買収における行動指針(案)」は企業価値向上につながる真摯な買収提案を、合理的な理由なく拒まないよう求めている。7月にはニデック(旧日本電産)が工作機械メーカーのTAKISAWAへ買収提案し、同意が得られなくてもTOB(株式公開買い付け)を実施すると明らかにした。日本は主要先進国のなかでも、経済規模に比べてM&Aが少ないとされる。国内再編を軸にM&Aが身近になれば、結果的に国際競争力の強化にもつながりそうだ。

*5-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74073420R30C23A8EA2000 (日経新聞 2023.9.1) ヨドバシ、そごう・西武主要3店に出店 都心需要に的、労使しこり、再建に影 高級ブランドが難色
 そごう・西武を買収する米ファンドと連携する家電量販大手のヨドバシホールディングス(HD)は西武池袋本店(東京・豊島)やそごう千葉店(千葉市)などそごう・西武の主要3店舗に出店する方針だ。百貨店内の中心部に家電売り場を設けて集客力を高め、経営再建につなげる。1日付でそごう・西武を買収するフォートレス・インベストメント・グループと組み、ヨドバシは西武池袋本店とそごう千葉店の別館にあたる「ジュンヌ館」へ出店する計画だ。西武渋谷店(東京・渋谷)への出店も検討する。出店時期や規模は今後詰めるが、西武池袋本店では低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設ける考えだ。ヨドバシはそごう・西武の主要な売り場に入り、経営再建と自らの成長の両立を狙う。ヨドバシは都市部の駅前立地を軸に全国で24店舗を展開する。売上高規模でヤマダデンキやビックカメラに次ぐ3位に入る。人口が減るなか、効率良く集客でき、インバウンド(訪日外国人客)を見込める都市部での競争力強化が課題だった。特にビックカメラは千葉市や東京・豊島などの主要都市に店舗を構える。シェア向上にはJR池袋駅や千葉駅近くに店舗があるそごう・西武の資産は、収益力向上に直結する魅力があった。交渉過程でヨドバシは当初は西武池袋本店内の大部分に家電量販を出店する考えだったが、そごう・西武の労働組合や豊島区などの反発を考慮して計画を修正した。「1階と地下1階の売り場はほしかったが、メインは百貨店に譲った」(ヨドバシ首脳)。譲歩してまでもそごう・西武の買収にこだわったのは、都市部の家電量販店競争で勝ち残りに欠かせないピースだったためだ。ヨドバシは百貨店内に家電量販の売り場を設けることで従来は百貨店を利用していない若年層などの来店を促し、そごう・西武の収益力を高める。ヨドバシ首脳は「百貨店に負けないくらい品ぞろえには自信がある。地域の方々に喜んでもらえる店にしたい」と話す。ヨドバシが一筋縄に戦略を実行できるかどうかは不透明だ。売却に関してセブン&アイ・ホールディングスはステークホルダー(利害関係者)の理解を十分に得られなかった。ストライキ決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満は特に根強い。寺岡泰博中央執行委員長は8月31日、今後はフォートレスに対して「引き続き雇用維持と事業継続を求めていく」と述べた。労使の信頼関係にしこりが残ったままだ。豊島区や地元の商工会議所もヨドバシの西武池袋本店への出店に対して依然として納得していない。ヨドバシHDの出店形態によっては百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性もある。すでに一部の高級ブランドはヨドバシの出店計画に難色を示しているとされる。高級ブランドとの調整は難航が予想される。

<中国不動産不況の突破口は・・>
PS(2023年9月23日):*6-1のように、中国政府が2020年夏に不動産会社に対する融資規制を強化し、金融機関の貸し渋りに直面した恒大集団は、2023年6月末で債務超過額約13兆円(=6442億元X20.32円/元)・販売できない開発用不動産(住宅開発用の土地使用権と建設途中のマンション)約22兆円(=1兆860億元 X20.32円/元)となり、住宅価格下落が本格化すればさらなる評価減で債務超過拡大が避けられず、*6-2のように、マンション建設など3千個のプロジェクトで約28兆円(=1兆4千億元 X20.32円/元)の負債がある中国最大の不動産開発会社碧桂園も社債利子を払えない状態で、*6-3のように、中国主要不動産11社で開発用不動産は約130兆円(=約6兆3500億元X20.32円/元)あり、評価額が3割下落すれば資本が枯渇して債務超過に転落するそうだ。また、11社合計で203兆円(=10兆元X20.32円/元)超の負債(建設・資材会社等への買掛金25%、住宅購入者への契約負債33%)があり、中国政府は、建設業者や建材メーカー等の幅広い取引先に悪影響を与え、社会不安に繋がる法的整理には慎重で、政策金利引き下げ・住宅購入規制緩和等で住宅市場の活性化を狙うが、未完成のまま放置されているビル群も多く、消費者は引き渡し不能を恐れて未完成物件の購入をためらい、効果は限られるそうだ。
 庶民が買える価格まで住宅価格を下げなければならなかったのは理解できるが、「不動産不況も規模が違う」というのが私の印象で、未完成のまま放置されている建設中のマンションが多く、代金支払済の消費者に引き渡しもできず、建設・資材会社の買掛金も払えないというのでは問題が大きすぎる。しかし、現在の中国では、土地は国有で私的所有はできず、開発に土地使用権を購入する仕組みなので、政府が特定の場所を選んで土地の所有権を売却し、その金で建設中マンションの一部を購入して庶民向けの賃貸住宅を建設すれば問題は解決するのではないか?私が上海旅行をした時には、中国の人が「あそこはフランス租界、ここは日本疎開だったんだ」とむしろ誇らしげに日本語で語っているのを聞いたことがあり、中国にとって「租界」は悪い思い出の方が多いかもしれないが、その国の自由を認めたことによって多様で先進的な文化が育まれたメリットもあった。そのため、土地を売った特定の場所は特区にして租界のようにし、例えば、フランス疎開・ロシア租界・ドイツ疎開などができればフランス風・ロシア風・ドイツ風の街づくりをするし、日本疎開ができれば日本風の先進的な街づくりをして、それぞれの国から移り住む人がいれば、いろいろなノウハウが集まって面白いと思うわけである。

   
2023.8.27ZakuZaku  2022.10.12日経ビジネス 2023.9.1日経新聞 2021.7.2日経新聞

(図の説明:左の2つの写真は工事が途中で止まった開発用不動産、右から2番目の図は、2023年6月末で中国の主要11社の開発用不動産が11社の資本合計の3倍超あることを示す貸借対照表である。また、1番右の図は、習近平国家主席が2021年7月1日に天安門広場で開催された中国共産党創立100周年祝賀記念式典で行った演説の骨子で、これまでの100年で貧困問題を解決してややゆとりのある小康社会を建設したことには賛成だが、これからの100年で豊かな中国社会を築くには、政府が力づくで経済《社会現象である》を変えようとすると、きしみが生じてむしろ逆効果になることを述べておきたい)

*6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM280K60Y3A820C2000000/ (日経新聞 2023年8月28日) 中国恒大、22兆円の開発用地が重荷 債務超過拡大も
 経営再建中の中国恒大集団の債務超過額が6月末時点で6442億元(約13兆円)に膨らんだ。負債総額は2兆3882億元(約48兆円)にのぼり、販売のめどがつかないまま抱える1兆860億元(約22兆円)の開発用不動産が重くのしかかる。住宅価格の下落が本格化すればさらなる評価減につながり、債務超過の拡大は避けられない。恒大が27日発表した2023年1〜6月期連結決算は最終損益が330億元の赤字だった。中国の不動産規制(きょうのことば)が導入された2020年夏以降、業績が急激に悪化した。中国上場企業として過去最大の4760億元の最終赤字となった21年12月期と比べて赤字額が1割以下に縮小したのは、住宅用地など開発用不動産の評価減を21億元にとどめたためだ。21年12月期には3736億元の評価減を計上した。6月末の資産総額1兆7440億元のうち6割を占めるのが、将来の住宅開発のために中国各地で仕入れた土地(使用権)や建設途中のマンションなどの開発用不動産だ。評価額は合計で1兆860億元にのぼる。仮に中国の住宅価格が1割下がれば、単純計算で1000億元を超える評価減となる。在庫負担を軽減するために住宅を安売りすれば、保有資産の評価損がさらに膨らむ悪循環を招く。恒大は開発用不動産の評価減を主因とした度重なる赤字計上で債務超過が拡大した。理論上の株式価値は実質ゼロとなっており、28日に香港取引所で約1年5カ月ぶりに再開した恒大株の取引は前回終値に比べ87%安で始まり、79%安で取引を終えた。恒大は28日に予定していた外貨建て債務の再編協議を9月下旬に延期した。債権者への提案には最長12年の債券や関連会社の株式への転換を盛り込む。同社の有利子負債(6247億元)のうち外貨建ての割合は26%に限られ、仮に債権者と合意できても抜本的な経営再建には力不足だ。膨大な開発用不動産は業界共通の課題だ。中国不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は22年末で8838億元にのぼる。住宅上昇局面では虎の子だった開発用不動産が、住宅不況で一転して経営再建の最大のお荷物となっている。さらなる評価減のリスクがぬぐえず、不動産各社の債務超過額が膨らみ続ける懸念がある。中国政府は20年夏、不動産会社に対する融資規制を強化した。負債比率などによって資金調達の規模を制限する「3つのレッドライン」を設定し、金融機関の貸し渋りに直面した恒大などが経営難に陥った。中国政府は建設業者や建材メーカーなど幅広い取引先に悪影響を与え、社会不安につながりかねない法的整理には慎重姿勢を崩していない。中国は人口減社会に入り、長期的にも住宅需要の急回復は見込めない。抜本的な解決を先送りすれば中国景気のさらなる減速を招き、世界経済に影響を及ぼしかねない。

*6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/20c44aaeec00fc89aeadee41547c4ff91f3646ae (Yahoo 2023/8/11) 中国不動産最大手に債務不履行の兆候…「恒大集団以上の衝撃」
 中国最大の不動産開発会社が社債の利子を払えない事件が起き、中国の不動産危機が再び高まっている。デフレの兆しを見せている中国経済を揺るがす雷管になりかねないとの懸念が出ている。売上高基準で中国最大の不動産開発会社である碧桂園(カントリーガーデン)の不渡りへの懸念により、中国の不動産市場が急速に冷え込んでいる。ロイター通信などが10日報道した。これに先立つ7日、同社は2社に対する社債の2250万ドルの利払いを履行できなかった。会社の規模に比べて少ない金額を定められた時期に返済できないほど資金難が深刻であり、会社側は今後の償還計画も明らかにしていない。碧桂園が今後30日間の猶予期間内に利払いができなければ不渡りとなる。2021年、大型不動産開発会社である恒大集団(エバーグランデ)が債務の元利金を償還できず不渡りになり、中国の不動産市場はバブルがはじけ急速に沈滞した。碧桂園は昨年末基準でマンション建設など3千個のプロジェクトと関連して1兆4千億元(1990億ドル)の負債がある。来月には58億元の債務満期が到来し、利子4800万元を払わなければならない。また、34億元相当の債務について返済か延長を決定しなければならないオプションもかかっている。2024年末までに中国国内で24億ドル、海外で20億ドルの債務を返済しなければならない。市場では碧桂園の不渡りへの懸念が急速に広がり、同社の社債価格は暴落している。香港証券市場に上場された株式も、8日に前取引日に対し14.4%暴落するなど、昨年末と比較すれば株価が70%も下落した。ドル建ての中国ハイイールド債券(信用格付けの低い会社が発行した債券)は、今年に入って最低の1ドル当たり平均67セント前後で取引され、碧桂園問題が伝染する様相を呈している。ブルームバーグ・インテリジェンスは9日「碧桂園には恒大集団よりも4倍も多いプロジェクトがあり、支払い不能事態も恒大集団の崩壊よりもさらに大きな衝撃を中国住宅市場に加えるだろう」と見通した。特に、碧桂園は恒大問題の際に当局が不動産市場の崩壊を防ぐために取った資金支援などの最大受恵者となり、これまで市場を支えてきたが、資金難に陥り市場の崩壊が憂慮される。碧桂園は今年上半期の6カ月間、売上1280億元(約2.4兆円)で30%の減少を記録した。碧桂園は中国のすべての省でマンションなどの工事を進行中だが、特に60%がいわゆる3・4等級の中小都市で進行中だ。大都市とは異なり、中小都市では需要の不足で不動産低迷がさらに深刻だ。政府が保証する中央中国不動産有限会社も最近、債務の利払いを定時ではなく猶予期間中に履行した。7月には大連ワンダグループの子会社と政府が保証する遠洋(シノオーシャン)グループも猶予期間の最後に利払いを行なった。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74074560R00C23A9MM8000 (日経新聞 2023.9.1) 中国主要不動産11社、開発用地3割評価減なら債務超過 政策効果は限定的
 中国の不動産開発会社に債務超過リスクが浮上している。主要11社の6月末の開発用不動産(開発用地)は約6兆3500億元(約130兆円)にのぼる。単純計算ではこの評価額がおよそ3割下落すれば現在の資本は枯渇し、債務超過に転落する。開発用不動産は住宅開発のために仕入れた土地使用権や建設途中のマンションを指す。日本経済新聞が2022年の販売上位10社に中国恒大集団を加えた11社の6月末の開発用不動産を集計したところ、合計約6兆3500億元だった。不動産開発会社は入札や相対で開発用地を仕入れ建設会社に建設を発注する。引き渡しまで物件を自社のバランスシート(貸借対照表)上に保有するため、住宅価格の下落局面では評価減のリスクにさらされる。主要11社の6月末のバランスシートは資産総額約12兆3300億元に対し、負債総額が約10兆3400億元。差し引き約1兆9900億元が資本となっている。資産のおよそ半分を占める開発用不動産の評価が32%下がれば資本不足で債務超過に転落する計算だ。主要11社が保有する開発用不動産は経営再建中の恒大が最多で1兆859億元にのぼる。恒大は2021年12月期に3736億元、22年12月期に16億元、23年1~6月期に21億元の評価損を計上した。これが巨額の最終赤字の主因となり、6月末に6442億元の債務超過となった。不動産最大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は6月末時点で2544億元の資産超過だった。ただ8436億元と資本の3倍を超える開発用不動産を抱え、リスクをはらむ。1~6月期決算は恒大と碧桂園の2社が最終赤字、4社が減益、5社が増益と分かれた。資産をどう評価するかは経営陣と監査法人の裁量が大きい。恒大以外は目立った評価減を計上しなかった。11社で計10兆元を超える負債は建設・資材会社などへの買掛金が25%、住宅購入者を対象にした契約負債が33%を占める。中国政府は政策金利引き下げや住宅購入規制の緩和などで住宅市場の活性化を狙う。ただ消費者は引き渡し不能を恐れて未完成物件の購入をためらうようになっており政策効果は限られている。

<ジャニーズ問題と日本のタレント>
PS(2023年10月1、3日追加):旧ジャニーズ事務所は、*7-2のような故ジャニー喜多川元社長の性加害問題があったため、*7-1のように、現在のジャニーズ事務所は被害者への補償に専念し、所属タレントのマネジメント等の業務は新会社に移管する方向で検討しているそうだ。これには、9月7日の会見後、ジャニーズ所属レントを用いるスポンサー企業の間で事務所の人権尊重やガバナンスの不十分さに対する批判が相次ぎ、所属タレントとの契約見直しの動きが止まらず、経団連の十倉会長が9月19日の定例記者会見で「日々研鑽しているタレントの活躍の機会を奪うのは違う」と述べたことがある。しかし、*7-2のように、ジャニー氏個人の問題や隠蔽した組織の問題のみならず、知りながら沈黙していたマスメディアや芸能界の問題は大きいという指摘もある。
 私が、ここでこの問題に触れる理由は、日本の歌謡界や芸能界のレベルの低さは開発途上国より劣ると思うからで、その年にどういう歌が流行ったのか知るため年に一度見る紅白歌合戦では、音楽や歌と言うより数でごまかして運動しているチームばかりが多くて心に響くものがなく、歌謡曲は何十年も女性蔑視丸出しだからである。そのため、*7-2の内容を読むと、こういうのを「枕芸者(芸がないため、性で売っている芸者)というのかな」「他の事務所はどうなのか」と思われたからである。現在のファンは、それしか知らないから、それで満足しているのではないか?そのため、ジャニーズ事務所の所属タレントのマネジメント等の業務を新会社に移管するのなら、例えば、ソニーやヤマハなどの会社が出資して本物の芸術を売れるタレントを本気になって発掘したり、育てたりして欲しいと思うわけである。
 10月2日、*7-3のように、ジャニーズ事務所は、①所属タレントのマネジメント業務を手掛ける新会社を設立し ②新会社(資本構成未定)がタレント業務に必要な知的財産を引き継いで創業家一族は経営に関与せず ③新会社は「エージェント会社」としてタレントと契約を結び仕事獲得等を請け負う ④旧ジャニーズ事務所は10月17日に社名を「SMILE-UP」に変更して被害者への補償手続きを順次進め、被害者救済終了後に廃業する ⑤チーフコンプライアンスオフィサーに企業のリスク管理に詳しい山田弁護士を就任させる 等の立て直し策を発表した。
 このうち①は良いし、②は、1~2日で決まる筈がないため未定で当然だ。また、⑤ように、チーフコンプライアンスオフィサーに企業のリスク管理に詳しい弁護士が就任すれば、ガバナンスについても弁護士と相談しながらやれば間違いない。ただ、④のジャニーズ事務所の被害者への補償額は見積もりでもいいから算定され、新会社へは負担が生じないことが明らかにならなければ、新会社に出資する人や会社は困るわけである。そのため、被害者を早く確定して(例えば10月末で締切など)、各人の機会費用まで含めた損害額を計算し、それを合計して全体の見積額を出す必要があるが、組織再編におけるリスク管理は公認会計士の方が得意である。なお、⑥のように、「新会社の経営陣に喜多川氏が築いたシステムで育ったタレントが就くのは問題があり、スポンサー離れが続く可能性がある」という指摘もあるが、それでは被害者に責任を負わせることによって被害を受けても沈黙を強いるということになるため、人権侵害の上塗りになる。その上、経営陣にタレントもいなければ、具体的な新会社の今後の発展はおぼつかないと思われた。

 
2023.9.15中日新聞 2023.10.3日経新聞     2023.10.2日刊スポーツ

(図の説明:9月7日の会見の後、左図のように、ジャニーズ事務所のタレントを起用した広告停止や契約非更新が相次いだが、タレントに非があるわけではないため、タレントとの個人契約に切り替えた会社もあった。そして、10月2日の会見で、中央と右図のように、役員と従業員が出資してタレントとエージェント契約を結び、タレントのマネジメントや育成を行う新会社を立ち上げ、旧ジャニーズ事務所は10月17日付けで社名変更して被害者の補償に専念し、補償完了後は廃業することになった。これは、マネージド・バイアウト方式の組織再編だが、タレントの今後の世界進出のためには、資本力があって文化に関わる事業を行ってきた世界企業の出資や協力もあった方がいいと、私は思う)

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231001&ng=DGKKZO74912850R01C23A0EA2000 (日経新聞 2023.10.1) ジャニーズ、補償と経営分離 マネジメント新会社、社名を公募へ 藤島氏は出資せず
 ジャニーズ事務所が会社を再編する方針を固めたことが30日、わかった。新会社を立ち上げ、所属タレントのマネジメントなどの業務を移管する。現在のジャニーズ事務所は故ジャニー喜多川元社長による性加害の被害者への補償に専念する。新会社の社名はファンから公募で決める方向で検討しているもようだ。新会社にはジャニーズ事務所前社長の藤島ジュリー景子氏は出資せず、業務にも携わらないとみられる。現在のジャニーズ事務所の社名の変更も検討している。民放各社から「補償とマネジメントを行う組織の分離を検討すべきだ」との声が上がっていた。芸能事務所としての業務と補償を明確に分離する。ジャニーズ事務所は9月7日に会見を開き、喜多川氏による元所属タレントらへの性加害を事務所として初めて認めた。被害者には法的な枠組みにとらわれず補償する意向も示した。引責辞任した藤島氏は代表取締役にとどまり、藤島氏が全株式を保有する株主構成やジャニーズという社名も当面維持するとした。これらの対応について、所属するタレントを広告などに用いるスポンサー企業の間では人権尊重の視点やガバナンス(企業統治)が不十分だとして批判が相次いだ。CM放映の中止など起用を見直す動きが広がった。事態を打開しようと、同事務所は今後1年間、所属タレントの広告や番組出演で得た出演料について受け取らず、タレント本人に支払う方針を示した。ただ、契約見直しの動きは止まらなかった。帝国データバンクによると、テレビCMなどにジャニーズの所属タレントを起用した上場企業65社のうち、半数にあたる32社が起用方針を見直した。経団連の十倉雅和会長は9月19日の定例記者会見で「日々研さんしているタレントの活躍の機会を奪うのは少し違うのではないか」と述べ、所属タレントの救済策を検討すべきだと指摘した。日本商工会議所の小林健会頭も社名について「継続しないほうがいい」と述べた。ジャニーズ事務所は2日、今後の経営方針について会見を開く。被害者への補償の具体策とあわせて再編案についても説明する見通し。

*7-2:https://diamond.jp/articles/-/328852 (Diamond 2023.9.8) 「ジャニー氏は1万円を渡して…」ジャニーズ性加害問題、もし今の法律で裁かれていたら?
 ジャニーズ事務所の性加害問題について「外部専門家による再発防止特別チーム」が「調査報告書」を発表したのは2023年8月末。この中で、故・ジャニー喜多川氏による長年にわたる性虐待の実態が、被害者からの証言の形で記されていた。しかし、いわゆる「男性も性被害者」として認める法改正がなされたのは17年になってからのことだ。法改正が遅れたことによる影響を改めて振り返ってみたい。
●衝撃的な「ヒアリング結果」
 「調査報告書」では、ジャニー氏による性加害は1950年代から2010年代半ばまで続いていたものであり、被害に遭った少年が多数いることが認定された。また、その原因は4つ「ジャニー氏の性嗜好異常」「メリー氏による放置と隠蔽」「ジャニーズ事務所の不作為」「被害の潜在化を招いた関係性における権力構造」と指摘されている。ジャニー氏の個人による問題と、隠蔽した組織の問題の両方があり、さらにその背景には「マスメディアの沈黙」「業界の問題」があったという指摘を、マスコミや業界関係者は重く受け止めなければならないだろう。被害の一端を知りながら、あるいは薄々勘づいていながら、ほぼ全ての人が何も行動を起こさなかったのだ。調査報告書の中で、特に読む人に衝撃を与えたのが、性加害についての「ヒアリング結果」だろう。この中では具体的にどのような被害があったのかについて、匿名の証言が列挙されている。「ジャニー氏は1万円を渡してきたので、これは売春のようだと思った」「私が被害を受けている間、周囲のジャニーズJr.たちは見て見ぬふりをしていた」といった証言が悲痛である。性犯罪については、近年大きな変化があった。23年7月、性犯罪に関する刑法が改正され「不同意性交等罪」や「性交同意年齢の引き上げ」があったことが大きく報道されている。ただ、今回のポイントは「男性が性被害にあった場合」への対処の遅れに注目したい。
●「強姦罪」から名称変更された意味
 男性の性被害に関して言えば、6年前の17年の時点で大きな改正があった。それは、従来の「強姦罪・凖強姦罪」が「強制性交等罪・凖強制性交等罪」に名称変更されたという点だ。ネット上で「罪名を変更しても厳罰化しなければ意味がない」というコメントを見かけたことがあるが、これは単なる名称変更ではない。それまでの刑法では、暴行や脅迫を用いて膣性交(女性器への男性器の挿入)を行うことを「強姦罪」としていたが、改正後は膣性交だけではなく、口腔性交と肛門性交の強要が同等に裁かれることとなったからだ。この改正が「男性も被害者に」と報道されたのは、このためである。また、「強姦」は「女性を姦淫する」という意味であるため、名称が変更され、やや違和感のある罪名となったのである(23年の改正で、不同意性交等罪に改められた)。2017年以前は、口腔性交や肛門性交の強要は「強制わいせつ罪」であり、懲役6月~10年の罪だったため、男性に対する性犯罪は女性に対する性犯罪よりも「軽く」捉えられていたと言える。そんな状況だったのが、17年の改正で「強制性交等罪(旧強姦罪)」の量刑が、懲役3年以上から懲役5年以上に引き上げられることで、厳罰化が進んだのである。
●男児複数人への性加害、懲役20年のケースも
 「調査報告書」を見ると、口腔性交をされたという証言は多く、中には肛門性交をされたという証言もある。これらは、現在の基準であれば懲役5年以上の「不同意性交等罪(17年7月~23年7月12日までは強制性交等罪)」となる。22年の裁判で、男児に対する性的暴行で逮捕された元ベビーシッターの男に対して懲役20年が言い渡された。この事件の被害児童は20人、強制性交等罪での立件が22件、強制わいせつ罪が14件と報道されている。仮定の話に意味はないが、現在の基準で故・ジャニー喜多川氏が裁かれていたとすれば、相当重い懲役となったはずである。しかし、ジャニー氏の存命中にこの問題が発覚していてもどうであったか……。故・ジャニー喜多川氏の加害行為は、わかっている範囲で1950年代から2010年代半ばという。17年の法改正より前の被害については、口腔性交・肛門性交の強要は「強制わいせつ罪」だった。もちろん、そもそも被害申告できなかった人が多いので刑事事件になった可能性は低いが、それでも法改正がもっと早く行われていれば、「男性の性被害」に関する意識の変化はそれだけ早かったかもしれない。
●13~15歳の被害が多いのはなぜか
 また、もう一つのポイントは性交同意年齢だろう。調査報告書を見ると、被害に遭った年齢は10代前半に集中している。「13~14歳時」「14~15歳時」「中学1年頃」「中学2年頃」といった証言が多い。23年の刑法改正まで、日本の性交同意年齢は男女関係なく13歳だった(法改正後は16歳に引き上げ)。13歳未満の者に対しては、性的行為をした時点でアウトだが、13歳に達していた場合、「暴行・脅迫」が用いられたどうかが問われていた(23年の改正前刑法)。「調査報告書」の中では、ジャニー氏が性的行為に及んだ際に明確な暴行や脅迫があったとは記されていない。だからといって、彼の行為が「同意のある性行為」だったと考える人は、今やほぼいないだろうが、これらについて「被害」を立証することは、当時の法律や認識では難易度が高かっただろう。「嫌ならなぜ抵抗しなかったのか」「男の子なのだから逃げようと思えば逃げられたはずだ」と言われてしまったであろうことは容易に想像できる。23年の法改正では性的同意年齢が16歳に引き上げられ、「経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって不利益を憂慮させること」も、「不同意性交等罪」を成り立たせる事由の一つとされた。この条件が当時もあったのであれば、ジャニー氏による加害行為は訴えやすかったはずだ。
●時効の問題
 23年の改正では、性犯罪の時効についても変更があった。不同意性交等罪(改正前は強制性交等罪・凖強制性交等罪)は10年から15年、不同意わいせつ罪(改正前は強制わいせつ罪)は7年から12年に時効が引き上げられた。ただし改正以前に行われた行為については、時効はそれぞれ10年、7年のままである。※ただし改正以前の事件でも改正までに時効を迎えていなければ、改正後の時効が適用される。口腔性交と肛門性交の強要が強制性交にあたるようになったのが2017年だが、強制性交等罪にあたる被害については、そもそも2017年の法改正以降しか問うことができないということだ(それ以前の口腔性交、肛門性交の強要は強制わいせつ罪なので、さかのぼれるのは2016年までだ)。ジャニー喜多川氏は19年に亡くなっているが、死去の直前まで加害行為があったとすれば、被疑者死亡ながら時効を迎えていない被害もあるのだろう。「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は9月4日の会見で刑事告発を行う考えを明らかにしているが、告発を行う人がいるのであれば、この期間(時効が過ぎていない期間)での被害なのではないか。性被害は被害申告までに時間がかかる場合が多く、特に子どもの頃の被害は被害に気づくまでにも時間がかかるといわれる。23年の法改正では、未成年の被害は、成人を迎えるまで時効がストップされることになったが、それでも、最大で33歳までに被害を申告しなければ時効となる。今回、被害を打ち明けた当事者の人々の中には、40~50代以上も多い。これをどう考えるかは、今後社会に向けても問われることとなりそうだ。
【追記】27段落目:※ただし改正以前の事件でも改正までに時効を迎えていなければ、改正後の時効が適用される
(2023年9月27日9:50 ダイヤモンド編集部)

*7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231003&ng=DGKKZO74950020S3A001C2EA1000 (日経新聞 2023.10.3) ジャニーズ、補償後に廃業。新会社に知財移管へ ガバナンスなお不透明
 ジャニーズ事務所は2日、性加害問題からの立て直し策を発表した。所属タレントのマネジメント業務を手掛ける新会社を設立、同事務所は被害者救済に専念し終了後に廃業する。新会社はタレント業務に必要な知的財産を引き継ぎ、創業家一族は経営に関与しない。新会社の資本構成は明らかになっておらず、ガバナンス(企業統治)が機能するかなお不透明だ。ジャニーズ事務所は17日付で社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更し、被害者への補償手続きを順次進める。法令順守に向けて、チーフコンプライアンスオフィサー(CCO)に企業のリスク管理などに詳しい弁護士の山田将之氏が就任。全ての事業活動で子どもの保護と安全を確保するグループの人権方針も策定した。創業者の故ジャニー喜多川氏から性加害を受け、補償を要求した人は9月30日時点で325人いる。2日に記者会見した東山紀之社長は「自分たちでジャニーズ事務所を解体する」と述べた。同事務所は9月の会見で、引責辞任した創業家出身で前社長の藤島ジュリー景子氏が代表権を持ったまま、全株式を持つ株主構成を見直さず、「ジャニーズ」という社名も当面維持するとしていた。所属タレントを広告に起用するスポンサー企業から人権尊重の視点やガバナンスが不十分との指摘が相次いでいた。前回の会見から1カ月足らずでの方針転換となった経緯について、東山社長は「内向きだったと批判されても当然。喜多川氏と完全に決別する」と述べた。ジャニーズの名称を使ったグループについても変更する。藤島氏は関連会社を含めて代表取締役を退任する。新会社は1カ月以内に立ち上げる。藤島氏は出資せず、取締役にも就任しない。資本金は検討中で役員や従業員が出資する。社長は東山氏が兼任し、社名はファンクラブの公募で決める。社外取締役の起用も検討する。新会社は所属する個人のタレントやグループが会社と個別に契約を結ぶ「エージェント会社」とする。エージェント会社はタレントと契約を結び、仕事獲得などを請け負う形をとる。ハリウッドなどでは一般的な契約方法で、国内では吉本興業ホールディングスが、所属タレントが反社会的勢力の会合に参加した「闇営業」問題などを受けて19年に導入した。同事務所が再建に向けて選んだのは「第二会社方式」と呼ばれる手法だ。水俣病の原因企業のチッソは水俣病特別措置法に基づき、11年に事業部門を100%子会社のJNC(東京・千代田)に分社し、チッソは補償業務に特化した。同事務所は広告起用の見直しが相次ぐ所属タレントの活動継続と、被害者の救済を両立する狙いがある。外部の専門家チームは8月末に公表した報告書で、喜多川氏による性加害は半世紀以上に及び、被害者は数百人に及ぶとした。今後は補償額がどの程度まで膨らむか、その原資が焦点となる。非上場企業のジャニーズ事務所は、主要な経営指標を公表していないが、民間調査会社によると売上高は800億円程度。稼ぎ頭はファンクラブ収入だ。「嵐」や「Snow Man」など15グループだけで会員数は累計1100万人超になる。年会費は4000円で、総額500億円前後に上る計算だ。このほか東京都内の所有ビルなどの資産価値は計1000億円程度とみられる。企業の人権侵害を巡る視線の厳しさが増す中、「ジャニーズ離れ」に歯止めがかかるかは不透明だ。帝国データバンクによると、テレビCMなどにジャニーズ所属のタレントを起用した上場企業65社のうち、半数にあたる33社が起用方針を見直した(9月30日時点)。所属タレントを起用した広告や販促物の展開を停止している日産自動車は2日、「事務所が発表した改革や再発防止の取り組みを注視しながら、適切な対応を取っていく」と述べるにとどめた。スポンサー企業は過去との決別の是非について資本構成で判断するとされるが、新会社の構成は明らかになっていない。企業のガバナンス問題に詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授は「現状ではスポンサー離れを食い止めることはできない」との見方を示す。日本リスクマネジメント学会理事長で関西大学の亀井克之教授(リスクマネジメント論)は「新会社の経営陣に喜多川氏が築いたシステムで育ったタレントが就くのは問題がある。スポンサー離れが続く可能性がある」と指摘する。

| 財政 | 02:48 PM | comments (x) | trackback (x) |
2023.7.6~19 日本の経済・財政とジェンダー平等 (2023年8月7、16日に追加あり)
(1)日本経済の現状 ← 経常黒字半減・物価上昇・実質賃金減少
1)家計苦境の実態
 *1-1-1は、①国の2022年度一般会計税収が71兆1,373億円と過去最高を記録 ②理由は円安の重なった物価上昇による消費税増収と所得税・法人税の増収 ③多額の防衛費や少子化対策費を歳出する岸田首相にとっては好材料 ④税収増は家計苦境の裏返しでさらなる負担は受け入れ難い ⑤2022年度消費者物価指数は前年度比3.2%増で食品・電気・ガス、サービス関連まで値上げが及んだ ⑥それと連動して2022年度の消費税収は過去最高の23兆792億円に達した ⑦景気に左右されにくく物価の影響を受けやすい消費税の特徴が表れ、税収の確かさから社会保障を支える消費税の役割を再認識できた ⑧家計から見れば物価上昇に消費課税増のダブルパンチ ⑨消費税は逆進性があり、家計の重荷は深刻 ⑩多くの人は収入増がインフレに追い付かず、実質賃金は13ヶ月連続で減少 ⑪2022年度は円安による輸出企業の業績上振れで法人税も14兆9,397億円と増収 ⑫岸田政権による血税の使途と財政運営が厳しく問われるのは当然 等と記載している。

 このうち①②④⑤⑥⑧⑩は、日銀が「2%の物価目標」を達成しようと低金利政策を続ける理由だが、「物価目標」とは、(欧米先進国を見ればわかるとおり)過熱したインフレを抑制して国民の生活を護るために上限として設定するものであるため、日銀の物価目標は本来の使い方とは逆なのである。

 にもかかわらず、日銀が「2%の物価目標」を継続する真の目的は、③のような際限のない政府歳出によって積みあがった多額の国債(国債の所有者から見れば財産)を目減りさせ、⑪のように、輸出企業の業績を上振れさせ、実質賃金を減少させることなのだ。少し考えればわかるとおり、金融緩和を続けて名目賃金が上がっても、構造改革して生産性を上げなければ実質賃金を上げることはできず、次第に円の価値が下がって円安になるのは明白である。

 また、⑦は「消費税は、景気に左右されにくく、物価の影響を受けやすいから、税収が確かで社会保障を支える役割を再認識できる」とするが、所得税・法人税等の所得に応じて増減する税は、ビルト・イン・スタビライザー(財政自体に備わっている景気を自動的に安定させる装置)の役割を備えているが、景気に左右されない消費税は、その逆だ。また、⑨のように、逆進性があることで、所得が低くて消費性向の高い層ほど重い税となるため、家計の重荷がより深刻になる税である。

 従って、所得の低い層に恩恵の多い社会保障を支える税として消費税を挙げること自体が目的と矛盾しており、⑫のように、既得権を振りかざした無駄の多い税の使途こそ厳しく検証すべきだが、これはずっと前からそうだったのであり、岸田政権に限った話ではない。

2)社会保障・消費税・医療費など
イ)社会保障と消費税について
 *1-1-2は、①岸田首相が消費税等の議論を封印し、政府税調も「中期答申」で増減税等の具体的改革の方向性を示さなかった ②終身雇用や専業主婦世帯が主体と考えられた旧態から働き方や人生設計が多様になった ③デジタル化やグローバル化が進んだ ④税制も経済成長を促す発想で組み直す必要がある ⑤社会保障や財政の持続可能性にも配慮して負担や歳出を見直すことは妥当 ⑥「消費税は社会保障給付を安定的に支えるため、果たす役割は今後とも重要」とだけ記した ⑦税調では現行10%からの引き上げが必要とする議論も出たが、答申は税率や時期等の具体論を避けた ⑧所得税は働き方の違いで不公平が生じないよう給与・退職金・年金への税負担のバランスをとるよう促したが、具体的手法の言及がない ⑨問題は政治が与野党とも次の選挙に影響するとして税や社会保険料など安定財源の確保で真剣な議論から逃げていること ⑩財源を曖昧にして給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任 等と記載している。

 ①⑤⑥⑦⑨のように、(新聞には消費税がかからないためか)新聞は消費税増税を進める論調が多いが、本当は記者も生活者で社会保障の受給者でもあるため、社会保障の不適切な見直しや消費税増税は自らにも負担になる筈なのである。

 また、②の終身雇用が保障されたのは、ずっと前から大企業に勤めている男性正社員だけだった。さらに、専業主婦世帯が主体だったわけでもなく、正社員として働いている女性の割合が少なかったとしても、少ないからと言って不公正・不公平を無視してよいわけではなく、その少人数の女性が苦労して切り開いたからこそ現在があるため、言葉には気を付けるべきである。

 デジタル化やグローバル化は、③のとおり、確かに進んで生産性向上がやりやすくなったが、「税法」や「出入国管理及び難民認定法」が、デジタル化・グローバル化・少子高齢化に合い、④の経済成長を促すものになっているとは言い難い。

 なお、⑧の所得税等は働き方の違いで不公平が生じないようにすべきだが、現在はまだ過渡期で、女性に専業主婦を強要する社会システムや終身雇用を前提とした賃金体系が残っているため、具体的手法の言及は難しかっただろうとお察しする。

 しかし、⑩の「財源を曖昧にして給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任」というのは、日本国憲法第25条「第1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。第2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」や同第26条「第1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。第2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」等の憲法に記載されていることについては、他を削り優先順位を高くして行うべきであるため、負担増という話にはならない筈である。

ロ)医療費と消費税について


   世界の専門医年収比較    日本の医療系専門職年収  日本の平均年収トップ10

(図の説明:左図は世界の専門医年収比較だが、日本は決して高い方ではない。また、中央の図は医療系専門職の年収で、《どうやってこの数値を出したのかは不明だが》さほど高くない。そして、右図の記者と比べて医師は間違ったことをすると取り返しのつかないことになるリスクを常に引き受けている割には高くない。そのため、医療系の人は、職種や業態別の平均年収を把握し、それを他の職種の同等の人材と比較したデータを自分たちで作って公表した方がむしろ有利だと思われる)

 *1-1-3は、①年間45兆円に上る医療費が物価高を反映させる形で一段と膨らむ可能性 ②物価高で医療機関の経費が増えているのは確かだが、医療費を増やせば患者負担や国民の保険料負担が重くなる ③政府は医療の持続性確保から、丁寧かつ慎重に検討して欲しい ④保険医療は診療報酬という公定価格のため、光熱費・設備費・委託費等の経費増加分を医療費に転嫁できない ⑤2022年4月改定の診療報酬はその後の物価上昇分を勘案しておらず、日本医師会等は2023年度中に補助金で緊急措置を実施した上、2024年4月の次期改定で物価水準を反映するよう求めた ⑥産業界の労使交渉では賃上げと生産性向上をセットで議論するのが一般的で医療従事者の賃上げを考える際も業務効率化の方策を同時に検討すべき ⑦岸田政権は社会保障等の改革で国民負担を抑制して新たな少子化対策に要する負担増分を相殺する方針を閣議決定 ⑧この施策との整合性から国民負担を増やす診療報酬増額は安易に行うべきでない ⑨医療従事者の賃上げはデータに基づく議論も必要 ⑩医師や看護師、事務員等の職種別給与データ提出を医療法人に求め、処遇実態を把握した上で賃金水準のあり方を検討して欲しい 等と記載している。

 このうち①②③は、産業界には「物価上昇に見合った賃上げを」と言いつつ、医療費については「患者負担や国民の保険料負担が重くなる」等として反対するのは変である。何故なら、物価を上げれば、それ以上の賃上げをしなければ実質賃金が下がるのは、誰でも同じだからだ。

 また、医療は消費税について非課税取引であるため、支払消費税をすべて事業者がかぶっており、それも苦しくなった原因の1つだ。その上、④のように、保険医療は公定価格であるため、光熱費・設備費・委託費等の著しい経費増加分を医療費に転嫁することができないわけである。

 そのため、⑤の日本医師会の要望は尤もと思われるし、⑥の医療界の生産性向上は、マイナンバーカードにひもづけてセカンド・オピニオンもとれなくすればよいというものではない。そのため、これらは第三者が勝手に決めるのではなく、その専門家が検討すべきことなのである。

 ⑦⑧の「社会保障等の改革で国民負担を抑制」「国民負担を増やす診療報酬増額は行うべきでない」ということについては、高齢者の割合が増えて今までどおりの治療をすれば医療・介護費が増えるのは当然であるため、治療方法や職務分担を合理化したり、薬価を下げる仕組みを入れたりするしか方法はないだろう。

 なお、⑨⑩は、「医師・看護師・事務員等の職種別給与データ提出を見て医療従事者の賃金水準のあり方を検討したい」ということだろうが、上の左図の通り、日本の医師の賃金水準は世界の中で高い方ではないため、賃金水準をこれ以上低くすると優秀な人が日本で働かなくなり、その結果、日本の医療の質が落ちて国民が困る事態になるのである。

3)企業物価と消費者物価の上昇

  
 2022.6.24日経新聞      2023.6.23日経新聞      2023.5.16日経新聞

(図の説明:左図は、1990~2022年の消費者物価指数前年同月比変動率、中央の図は、2022年5月~2023年5月の生鮮食品を除く消費者物価指数の前年同月比変動率で、どちらも前年同月比で2~3%の物価上昇になっている。そのため、1990~2023年の累積消費者物価上昇率は著しく大きい。また、右図は、2018~2023年の輸入物価指数と企業物価指数の前年同月比であるため、累積物価上昇率はこれよりずっと大きい)

イ)企業物価の上昇
 *1-2-1は、①日銀が発表した2023年4月の企業物価指数は前年同月比5.8%の上昇で公表された品目の8割超で価格が上昇し、②食品等の川下品目での価格転嫁が当面続き ③円相場は136円/ドル程度で円安による直接的押し上げ圧力は一服して、輸入物価指数のうち石油・石炭・天然ガスはマイナス9.0%、金属・同製品もマイナス7.5%だが ④電力・都市ガス・水道の前年同月比上昇率は25.8%で(それでも、電力・ガス料金は2月以降は政府の価格抑制策が効いて、0.7%程度全体の上昇率を押し下げた) ⑤これまでのコスト高で複数回に分けて値上げに踏み切る企業もあり価格転嫁による押し上げ圧力は継続しており ⑥消費者物価指数(生鮮食品を除く)も前年同月比3.1%上昇と高水準で推移している ⑦日銀は物価上昇率が23年度半ばに2%を下回るとの見方を示し ⑧植田総裁は「(2%の物価目標を達成すると)安心して言えるところまで到達していない」として大規模緩和を維持する方針 等としている。 

 このうち①③④に示される数字は、2022年4月との比較であるため、2020年4月と比較すればかなりの上昇率になる。そして、②⑤のように、生活必需品である食品等の価格転嫁や複数回に分けた値上げで価格上昇は当面続き、⑥のように、最も上昇率の高い生鮮食品を除いても消費者物価指数は前年同月比3.1%上昇と高水準で推移しているのだ。

 にもかかわらず、⑦⑧のように、物価上昇率が2023年度半ばに2%を下回るとの見方から「2%の物価目標を達成すると安心して言えるところまで到達していない」として、植田日銀総裁は大規模緩和を維持する方針だそうだが、実質所得を下げ、実質資産を目減りさせて国民を貧しくしながら、日銀は「2%の物価目標」を何のために設定しているのか、それと日銀の役割との整合性はどうなのかについて明確に説明すべきだ。

ロ)消費者物価の上昇
 *1-2-2・*1-2-3は、①2023年5月の消費者物価指数は生鮮食品を除き104.8(2020年を100とする)で1981年の第2次石油危機4.5%以来の高い上昇率 ②生鮮食品を除く食料は9.2%プラスで1975年の9.9%以来の上昇幅 ③食品・日用品の店頭価格の上昇が続いてPOSデータによる日次物価の前年比上昇率は6月28日時点で8.7% ④大手が価格改定して中堅企業が続く追随型値上げの傾向 ⑤原材料価格・物流コスト上昇で、アイスクリーム10.1%・ヨーグルト11.3%・洗濯用洗剤が19.9%・宿泊料9.2%上昇 ⑥日銀の物価目標2%を上回る状況が続いている ⑦原材料高を商品価格に反映する動きはウクライナ危機をきっかけに広がり ⑧値上げしてもPOSでみた売上高は大きく落ちないメーカーもある ⑨インフレが定着しつつあり、値上げによる客離れは深刻化していない可能性 ⑩2023年6月は28日までの平均で生鮮卵42%・ベビー食事用品26%・水産缶詰21%上昇など幅広い商品で2桁の値上げ ⑪日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘されてきた 等と記載している。

 まず、⑪のように、日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘したり、値上げを「物価の伸び」と表現したりして、コストプッシュインフレであっても良い物価上昇であるかのような表現が目につくが、日本は食料・資源・エネルギー等の自給率が低いため、輸入物価の上昇は富の海外流出増にほかならないことを忘れてはならない。

 その中で、①②の原油の輸入単価が上がって他の財・サービスに波及した「第二次石油危機以来の高い物価上昇率」は、政府にとっては名目税収増と実質債務減という大きなメリットがあるが、国民にとっては実質収入減と債権や預金の目減りに加え、物価上昇というマイナスの効果しかない。さらに、物価上昇は消費性向の高い低所得層にほど重いステルス課税になるのである。

 例を挙げれば、③⑩の食品・日用品等の生活必需品は、値上がりしても買わないわけにはいかない。そのため、裕福でも貧乏でもさほど購入金額の差が出ないが、収入以上の支出はできないため、⑧のように、値上げしても売上高は落ちないが、それは節約によって販売数量が減り、売上金額全体はさほど変動がない状態なのである。そして、「節約せざるを得ない状態になった」というのは、「国民を前より貧しくした」ということなのである。

 にもかかわらず、④⑤⑨のように、物価上昇がまるで良いことであるかのような書き方が散見されるが、この物価上昇は、⑦のように、ウクライナ危機と円安により輸入物価が上がったことによって起こったコストプッシュ・インフレである。そのため、値上げ分の富は海外に支払ってしまって国内で廻すことができなくなるのであり、欧米のディマンド・プル・インフレのように景気が過熱して起こったものではないのだ。

 従って、⑥の日銀の「物価目標2%」を上回ったからといって全くめでたいわけではないのに、(故意か過失か)メディアはこれを完全に無視している。そもそも「物価目標2%」というのは、ディマンド・プル・インフレが過熱して困る場合に、金融を引き締めて(=公定歩合を上げて)物価上昇を2%以内に抑制するためのものである。

4)実質賃金の減少と実質消費支出の減少
イ)実質賃金の減少
 *1-3-1は、①厚労省の2023年4月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)によると、名目賃金(現金給与総額)は1.0%増、物価変動を考慮した実質賃金/人は前年同月比3.0%減少 ②実質賃金の減少は13カ月連続で、物価の伸びに賃金上昇が追いつかない ③物価上昇率が4.1%に達し実質賃金のマイナス幅は3月より広がった ④厚労省は「まだ交渉中の労使があるから結果が十分に反映されていない」と言う ⑤就業形態別現金給与総額は正社員等の一般労働者1.1%増で36万9468円、パートタイム労働者1.9%増で10万3140円 等としている。

 日本政府は、「国民は名目賃金しか意識しないため、物価が上昇しても名目賃金が上がれば喜んでいるだろう」と思ったようだが、国民は激しいインフレを第二次世界大戦後とバブル期の2度経験し、賃金が上がってもそれ以上に物価が上がれば生活が苦しくなることがわかっているため、そうはいかない。

 また、金融緩和による円安とウクライナ危機をきっかけとした輸入物価上昇によるインフレであれば、それはコストプッシュ・インフレにほかならず、日本の場合は海外に支払う金が増えるため、物価上昇分の全てが賃金に回るわけがない。従って、①②③は、日本の経済構造から見て必然で、④のように厚労省がいくら待っても物価上昇以上の名目賃金上昇はないのである。

 従って、名目賃金上昇も、⑤のように物価上昇と比較すれば小さいが、第二次世界大戦後やバブル期よりも深刻なのは、2022年10月1日現在の65歳以上の人口割合は29.0%、75歳以上の人口割合は15.5%になっており、年金支給額が“物価スライド”で減らされた上に医療・介護関係費用が負担増で可処分所得が減っているため、人口の3割近い人がさらなる節約を強いられ、景気がよくなるどころではないことなのである。

ロ)実質消費支出の減少
 このようにして、*1-3-2のように、①総務省の4月の家計調査で2人以上の世帯の消費支出は30万3076円と実質で前年同月比4.4%減少し ②マイナスは2カ月連続で ③食料、通信など生活関連の品目や教育への支出が減って消費を押し下げた そうだ。

 しかし、①②③の数字は、より生活の苦しい1人暮らしの高齢者世帯を除いているため、まだ甘く出ている方なのである。

(2)G7とジェンダー平等
1)G7男女共同参画・女性活躍担当相会合について
 G7の男女共同参画・女性活躍担当相会合が2023年6月24、25日に日光市で開かれ、*2-1のように、①企業の女性役員登用や成長分野への就業を進めて賃金格差を解消することで女性の経済的自立を進める方向で一致した そうだ。

 その共同声明では、②女性役員登用 ③成長分野や報酬の高い分野への女性の労働移動促進 ④女性の起業支援 等を具体策で示し、⑤家事・育児・介護等の女性に偏る無償労働は「女性がフルタイムで働く能力や指導的地位に就く能力を損なう」と指摘し ⑥家族への公的支援を強化し ⑦男性の無償労働への参加を増やすための施策を求め ⑧女性や性的少数者(LGBTQIA+LGBTを含めた多様な性)の人々の人権と尊厳が完全に尊重・促進・保護される社会の実現に向けた努力を継続する」 とのことである。

 しかし、ジェンダー平等や賃金・男女格差の解消をテーマに取り上げた時、日本では⑧のように、必ず“性的少数者の尊重”を持ち出すが、これは間違っている。何故なら、②③④の女性が高い地位に就いたり、報酬の高い分野で働いたりするのは、働く以上は当然のことだが、これと生物学的性と性自認間に相違のある障害者としての性的少数者とは次元が異なるからである。

 もちろん障害者の人権も無視してはならないが、男女差別と性自認の問題を混同するような文化自体が、日本のジェンダーギャップ指数が146ヶ国中125位と下から数えた方が早く、男女間賃金格差は22.1%と大きく、企業の女性役員比率は11.4%と小さく、無償労働が女性に偏っている状況を作った理由だからでもある。

 また①については、「まだそんなことを言っているのかな」と思うくらい当たり前のことだが、⑤⑦は、(男性がやろうと女性がやろうと)体力を決して簡単ではない無償労働にとられ、フルタイムで働いて指導的地位に就いていく能力を損なうのは同じである。そのため、⑥の保育所・学童保育・学校教育の充実・介護の社会化・家事労働の担い手確保等の公的支援が最も重要なのだ。

 なお、会合に参加した他国の担当相や団体の代表者9人はすべて女性で、日本だけが男性だったことについては私も変な感じがしたが、女性なら誰でもいいわけではなく、男女平等の強い信念とリーダーシップを持つ女性の方が指摘が的確になってよいと思われた。

2)日本の「ジェンダー・ギャップ指数」について
 *2-2・*2-3は、①日本は世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で146ヶ国中125位で過去最低 ②政治分野138位・経済分野123位と長年指摘されている両分野で指数が悪化 ③「教育」は47位、「健康」は59位 ④政治分野における男女平等はサウジアラビア(131位)を以下で世界で最も低い圏内 ⑤経済分野も女性管理職比率(133位)が低く、男女の所得格差・昇進を阻む「ガラスの天井」が存在 ⑥リーダー層になるにつれ働く女性が減る構造 ⑦政府は東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を掲げた ⑧教育は大学以上の進学率が加わって前年の1位から47位に大きく下がり、全体の順位を下げた ⑨多様性がイノベーションを生むのは世界の共通認識で、投資家は組織の意思決定者に多様性を求め、取締役会が男性ばかりの日本企業にノーを突きつける と記載している。

 このうち⑨の「多様性がイノベーションを生む」は、需要の主役抜きで議論しても多角的な意見が出ないため正しい結論に至らないことは日本の政策を見れば明らかだ。また、日本企業は国内に洗練された消費者を持ちながら、(既に存在する製品の製造過程を細かく改善するのは得意だが)需要に合わせて最終製品を企画し製造するのは不得意であることからも実証済である。
 
 そして、これは、発言権や意思決定権のある女性(製品によっては高齢者)が組織内にいることでしか解決できないため、世界の投資家が組織の意思決定者に多様性を求めるのは尤もだ。

 ③⑧の「教育は大学以上の進学率が加わって前年の1位から47位に大きく下がった」というのは、今まで大学以上の進学率を加えていなかったのかと残念に思うが、同じ大学でも学部によって男女の割合が偏っており、製造・経済・経営等のビジネスに必要な学部に女性が少ないことは、⑤⑥の女性管理職比率の低さやリーダー層になるにつれて女性割合が減る構造を変えるべき母集団に女性が少ないことを意味するため、初等・中等教育の進路指導から変える必要がある。

 そのため、⑦の「政府が東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を掲げた」は悪くないが、女性の多くは中小企業で働くため、東証プライム上場企業の女性役員比率だけでは不足で、会社法にも女性役員比率に関する規制を入れた方がよいと思う。

 また、②④の「政治分野は138位でサウジアラビア(131位)以下の世界で最も低い圏内」というのは、日本の政策が生活や環境を軽視しており、エネルギー・食糧の自給率は低く、社会保障は必要なものも作らず、既にある有用なものも削ることしか考えつかない一方で、無駄なバラマキが多いため世界最高水準の債務残高を抱えたという結果を出したわけである。

 ④については、サウジアラビア等の資源国は、これまでは資源の輸出により、女性を活用しなくても財政が潤っていたが、今後、最終製品の製造によって世界市場で勝つためには、やはり女性を教育して意思決定権のある場所につけていく必要があると思われる。

 このように、①の世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で日本は146ヶ国中125位と過去最低になったが、その理由は、他国はまともに女性活躍の素地づくりに取り組んできたが、日本はやっているふりが多かったからだと言える。

3)女性役員比率について
 *2-4は、①政府は東証プライム市場へ上場する企業に2025年をめどに女性役員を最低1人選任するよう促す女性活躍・男女共同参画の重点方針を決定し ②女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標も盛り込んだが ③いずれも努力義務で罰則は設けない ④岸田首相は女性活躍と男女共同参画に関する会議で「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組みを進める」と述べ ⑤年内に東証の上場規則に数値目標に関する規定を設けることを想定している と記載している。

 このうち①②は悪くないが、もともとは「202030」と言って、2003年に政府が「2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合が30%になるようにする」と女性管理職比率の数値目標を定めたが達成できず、断念したものだ。

 202030を達成できなかった理由は、「社会構造等の阻害要因」「現行女性活躍推進法は努力目標で罰則がないこと」「強制力がなく実効性のない法律で企業が目標を達成することは難しいこと」などが挙げられている(https://www.qualia.vc/glossary/203030.html 参照)。

 しかし、①は「東証プライム市場に上場する企業」という狭い範囲のみの規制であり、②③は、女性役員比率を2030年までに30%以上にするという先延ばしした目標を盛り込んではみたものの、やはり努力義務で罰則を設けないため達成は期待できそうにない。

 そのため、④の「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組み」を進めるためには、私は、⑤の東証の上場規則に数値目標を設けるだけでなく、会社法の役員構成にも女性役員比率に関する規制を設ける必要があると思う。

4)年収の壁について

  
  2023.3.16静岡新聞       2023.2.21朝日新聞     2023.6.28Yahoo

(図の説明:左図の103万円・106万円・130万円・150万円が年収の壁である。実は、住民税が発生する100万円の壁もあるが、住民税は税率が低いため世帯の手取りは下がらないそうだ。中央の図は、年収500万円で妻が所得税非課税の103万円まで1.7万円/月の配偶者手当をもらえる夫と2人暮らしの妻の年収が変化した時の世帯の手取りの変化を示したグラフだが、扶養手当の停止や社会保険料負担の開始で妻の年収が138万円になるまで世帯の手取りはむしろ減少している。そのため、右図のように、政府が従業員に手当を払った企業に助成して手取りの減少を抑えようとしているが、これは不公平に不公平を重ねるバラマキであろう)

     
               2023.6.29読売新聞

(図の説明:上図のように、政府が意図しているのは社会保険料の発生によって起こる106万円の壁の緩和だが、社会保険料の支払いは将来の年金受給額増加や労災保険・失業保険の受給権発生など見返りのある支払いであるため、手取りの減少がすべて払い損になるわけではない。また、他の労働者は女性も含めて応能負担しているため、その人たちが支払った税金から助成金を出すのは不公平の上塗りにしかならない)

 *2-5は、①配偶者に扶養されるパート従業員が社会保険料負担の発生を避けるため働く時間を抑える「年収の壁」に関する政府の対策案が分かった ②保険料穴埋めの手当を払った企業に対し最大50万円/人助成する ③従業員の負担を解消し労働時間を延長しやすくして、人手不足緩和を狙うため ④飲食業・観光業を中心にコロナ禍後も働き手が戻らず、営業に支障が出ている所もあるので、個人の収入確保と経済を円滑に回す環境整備である ⑤「年収の壁」見直しは人手不足に悩む企業側が求めた ⑥抜本対策は、先送りして2025年の法案提出を目指す年金制度改革で議論する ⑦現在、従業員101人以上の企業で働くパートは年収106万円以上になると配偶者の扶養を外れ、厚生年金等の保険料を負担して手取りが減るが、扶養されている間は国民年金の「第3号被保険者」として保険料を払わずに将来の年金が受け取れる ⑧対策案では所定労働時間の延長などで生じた保険料の全部または一部を、企業が手当として従業員に払うことができる仕組みを作り、手当は賃金に含めない特別扱いとするため、手当による保険料増は生じない ⑨手当の仕組みを後押しするため、政府は既存の助成金を拡充して企業に支給する ⑩それを、手当・賃上げ原資・企業が負担する社会保険料に充ててもらう ⑪扶養に入っている従業員だけでなく単身者も対象とする ⑫企業が3年以内に労働時間を延長する計画を策定し、実際に延長した従業員も助成対象に加える 等としている。

 このうち①②③⑧⑨⑩⑪は、上の図の説明に書いたとおり、社会保険料の支払いは将来の年金受給額増加や労災保険・失業保険受給権の発生など見返りのある支払いであるため、手取りの減少がすべて払い損になるわけではなく、他の労働者は女性も含めて応能負担しているため、その人たちが支払った税金から助成金を出すと、不公平を上塗りしてバラマキすることになる。

 第1の不公平は、男女雇用機会均等法が施行され、男女共同参画・女性活躍を推進している時代に、女性が働かないことを奨励する配偶者手当を出す企業があることだが、これは従来からの慣習を変えていないだけだろうから、配偶者手当を廃止して個人の基本給を上げればよい。

 第2の不公平は、女性が働こうと思えば働ける現在でも、⑥⑦の国民年金3号被保険者が存在することである。何故なら、日本年金機構は「配偶者である2号被保険者が加入している被用者年金制度(厚生年金保険・共済組合等)の保険料・掛金等の一部を基礎年金拠出金として毎年度負担しているから、3号被保険者は自分で保険料を納付する必要はない(https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/sango.html 参照)」と記載しているが、共働きの2号被保険者は2人とも保険料や掛金を支払っており、家事労働は共働きの2号被保険者も同様に行っているからである。

 第3の不公平は、社会保険料の負担が生じる年収が企業規模によって異なる点で、これでは国民の安全を支える保険の役割を果たさない。そのため、社会保険料は所得税が発生する年収からすべての人が負担するように所得税と一致させ、所得税が発生する年収を基礎控除を物価上昇に伴って引き上げることによって変えればよいと考える。

 しかし、現在でも、女性であることによって働こうと思ってもうまく働けなかったり、賃金を低く抑えられたりするという第4の不公平が確かに存在する。しかし、それこそ、1947年施行の日本国憲法「第27条1項:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」や1986年施行の男女雇用機会均等法に従って変えるべきなのである。

 なお、④⑤⑫のように、この施策は、飲食業・観光業を中心にコロナ後も働き手が戻らず営業に支障が出ているため、人手不足に悩む企業が求めて労働時間を延長しやすくするために行うそうだが、人手不足に悩んでいるのなら、思い切って賃金を上げたり、正規雇用に変更したりするまたとない機会だ。そのための生産性向上のツールは出揃ってきており、日本人労働者が足りなければ外国人労働者を雇用すれば、誰にも迷惑をかけないばかりか、むしろ感謝される。

(3)気候変動と国土利用計画
1)気候変動について

   
      2021.10.27Amita      2023.3.21毎日新聞  2023.3.21日経新聞

(図の説明:左図のように、世界の平均気温は1850年以降に急速に上がり始め、特に高度経済成長期の1970~1980年以降の上昇が著しい。そのため、右図のように、IPCC報告書は「人間活動による温暖化は疑う余地がない」としている。そして、中央の図は、「世界平均気温上昇による極端な気象現象の発生回数が多くなる」としているが、まさにそのとおりになっている。しかし、今は極地の氷が残っているため、海水温の上昇はまだ緩やかに抑えられているのだ)

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2023年3月、*3-1のように、第6次統合報告書をまとめ、温暖化対策の緊急性を強く訴えたそうだ。

 内容は、①温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内に留める目標を掲げたが ②気温は既に1.1度上がって2030年代前半にも1.5度に達する ③そのため気温が目標を超える期間を短く留めて下降に向かわせることが重要 ④それには世界の温暖化ガス排出を2025年までに減少に転じさせ、2035年の世界の排出量を2019年比で約60%減らす必要 ⑤IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らした 等である。

 確かに、⑤のように、近年は世界で熱波・干ばつ・洪水などの異常気象による被害が拡大しているが、日本では、*3-2-1・*3-2-2に書かれているとおり、梅雨前線に暖かく湿った空気が大量に送り込まれて線状降水帯が発生し、それが停滞して集中豪雨となったり、観測史上最大の降水量となったりする頻度が増した。

 これによって、川の氾濫・がけ崩れ・ダムの緊急放流が起こったり、それが終わったら観測史上最高の気温になったりもしているため、①②③④は喫緊の課題なのだが、日本政府は、目標なき妥協が多く、気候変動への対応を急いでいるようには見えないし、被害を最小にするための土地利用計画の見直しも行っていない。

2)国土利用計画について
1)サウジアラビアの未来都市

 
2023.7.19西日本新聞  「ザ・ライン」      2029年冬季アジア大会誘致地域  

(図の説明:左図が、日本・サウジアラビアと日本・アラブ首長国連邦首脳会談のポイントだが、アンモニアをクリーンエネルギーの中に入れたことで、日本の意識の遅れがわかる。中央と右の図は、サウジアラビアが構想している未来都市だ)

 岸田首相が訪問されたサウジアラビアは、*3-3-1のように、①世界最大の石油輸出国でも脱炭素時代を見据えた大改革を進め ②サウジ北西部砂漠地帯にスマートシティー(長さ170km、幅200m、高さ500m)「ザ・ライン」を建設中で ③これが一つの街になって将来は900万人が住み ④このスマートシティーは道路も車もなく高速鉄道で移動し ⑤石油ではなく再エネですべて賄い ⑥未開発の山岳地帯を会場に2029年冬季アジア大会を招致し ⑦岸田首相はサウジのムハンマド皇太子との会談で2016年合意の「日・サウジ・ビジョン2030」へのさらなる支援を表明し ⑧日本はクリーンエネルギー・脱炭素技術で協力し ⑨日本企業の投資への関心も高く、1ヵ月前に同行の呼びかけをしたが約30社集まった のだそうだ。

 このうち①⑤は、未来を考えれば当然と言えるが、②③④の長さ170km・幅200m・高さ500mの砂漠地帯に一直線に建設されているスマートシティーは私の想像を超えるもので、i)人間の自然な欲求を満たさないと思うが、どうして一直線にするのか ii)どうして500mの高さが必要なのか iii) どうして道路も車もなく、高速鉄道で移動するのか iv) 2022年のサウジアラビアの人口は3,218万人だが、そのうち900万人をこのスマートシティーに住まわせるのか など疑問が尽きない。しかし、仮に海水面が60~100cm上がるとすれば、現在の平野部は海に沈む地域が多いため、都市の移転か建物による対応が必要になることは確かである。従って、⑥のように、未開発の山岳地帯を有効活用することも重要だろう。

 また、⑦の日本がサウジアラビアに支援を表明するのは良いし、⑨の日本企業のサウジアラビアへの投資の関心が高いのも良いと思うが、その内容が、⑧の脱炭素技術協力と称してアンモニアの利用を推奨したり、中国の影響力を意識して負けずに接近するだけというのであれば、サウジアラビアとは桁違いに日本の構想は小さいと言わざるを得ない。

2)中国、深圳の未来都市
 *3-3-2は、①中国広東省深圳西部の宝安を走る高速道路「G107」周辺の再開発に向けてドローン専用高速道路が提案され ②プロジェクトは「サステナビリティ」「テクノロジー」「グリーン建築」等をテーマに、ドローン・自動運転等の最先端テクノロジーと自然を融合させた近未来の都市を提示し ③排気ガスを出した12車線の高速道路は4車線ずつの2つの道路として筒状の空中トンネルに格納して大気汚染を解決し ④人々はその空中トンネルの上の緑の歩道を歩いて都市と自然が一体化した暮らしを実現し ⑤こうした環境に配慮したスマートシティ構想は深圳以外の世界中で進んでおり ⑥ドローンを活用した新たな空中物流インフラを構築できれば地上のトラック輸送・物流を大幅に削減でき、オフィスビルを貫くドローン専用高速道路が人々の目を引く ⑦ドローンが安全・効率的に飛び回って輸送インフラとしての機能を果たすには、ドローン輸送を前提とする都市計画が必要 等と記載している。

 私も、⑥⑦のように、ドローンを安全・効率的に使用して物流改革を行うには、ドローンの通り道となる高速道路とドローン輸送を前提とする都市計画が必要だと考えていた。つまり、誤って落下しても、間違っても下を通る人や物の上に落下しない仕組みにすべきなのである。

 また、①②③④⑤の排気ガスを出していた道路は、筒状の空中トンネルに格納しなくても、EVかFCVに置き変えれば排気ガスは出ない。それを筒状の空中トンネルに入れてしまえば、移動中に周囲の景色を見ることができなくなって、精神的にむしろマイナスだろう。また、道路を高架にして建物の中も通し、その高速道路の上をドローンが飛んで、人・車椅子・自転車などは緑豊かに都市計画された地上を歩いた方が良いと、私は思う。

 しかし、ダイナミックにドローン専用高速道路等を提案し、そこから改良を重ねていくのも、長期的には無駄遣いにしかならない対症療法ばかりしているよりはずっと良い。

3)日本の未来都市は? ← みんなで考えよう


      2021.8.14日経新聞      2021.11.6日経新聞   2021.9.7論座

(図の説明:左図のように、都道府県別農業産出額は北海道・栃木県・鹿児島県・青森県・千葉県・熊本県・宮崎県が頑張っている。また、中央の図のように、漁業産出額は1980年前後をピークに低下の一途を辿り、右図のように、林業も低迷しているが、これらは、日本政府が第1次産業を軽視してきた結果である。これによって、日本の食料自給率やエネルギー自給率は著しく低くなり、恵まれた国土を十分に活かすことなく、地方自治体の税収や自立力が低下している)

   
2021.7.2日経新聞     2021.7.10日経新聞       2021.5.21日経新聞

(図の説明:左図は、2009年と2019年を比較した場合の個人住民税の増減比較で、20%以上増加している県に沖縄県・宮城県・熊本県・北海道などの大都会以外も入っているが、正確に比べるには、法人住民税・事業税・地方消費税を加えた住民1人当たりの地方税収額の比較が必要だ。住民1人当たりの地方税収額を比較すると、法人の本社・工場がある地域の法人住民税・事業税が多く、そこで働く従業員等の個人住民税も多いため、その地域の地方税収が大きくなる。従って、既に国家資本を集中投下し、法人の本社・工場が多数存在する地域が潤沢な税収を得ることになるが、そういう地域は食料やエネルギーを殆ど生産していないと言っても過言ではない。また、中央の2つの図は、全国のごみ処理費用がうなぎ上りであるのに対し、1人あたりのごみ排出量が少ない市町村があるという話だが、そうなる理由が大切である。右図は、脳卒中が少なく老衰による死亡が多い都道府県で医療費が少ないという表だが、これに介護費を加えるとさらに著しい差が出る。しかし、「老衰」とされるものには、病気の見逃しや放置も含まれるため、少なくさえあればよいという見方は禁物だ)

 このような中、*3-3-3は、①戦後から今日まで東京圏へ人口・企業の集中 ②2022年都道府県別転入超過率は埼玉県0.35%・神奈川県(0.30%)・東京都(0.27%)・千葉県(0.14%)で、東京圏全体では10万人弱転入超 ③東京都の所得/人は575.7万円(19年度)で全国平均の約1.7倍で2位の愛知県366.1万円を引き離しており ④東京都の上場企業本社数(22年7月)は2122社で全国の約54% と記載している。

 このうち①④については、上の図の下の段に書いたとおり、国家資本を集中的に投下した首都圏に企業の本社・工場が多数存在しており、その結果、②のように、生産年齢人口の勤労者が多く流入するため、③のように、東京都の所得/人は全国平均の約1.7倍と高くなり、この地域が潤沢な税収を得ることになるのである。

 しかし、2019年の県庁所在地公示地価は、東京23区601,300円/㎡、名古屋183,100円/㎡、福岡150,100円/㎡、佐賀39,200円/㎡と著しく異なり、これは住居費のみならず、すべてのコストに反映されるため、東京都の生活コストは全国平均の約1.7倍どころではない筈だ。

 また、*3-3-3は、⑤小中学生時点で東京圏以外に居住し調査時点で東京圏に居住する回答者は他のタイプと比べて所得水準が高く、人的資本水準の高い人材が経済合理的判断から都市に移動 ⑥近年、先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となる研究が目立つ ⑦「労働年齢人口」の伸び率の低さは「1人当たり県内総生産」の伸び率の低さと関連 ⑧日本の地域及び全国の経済成長には社会移動だけでなく人口構造変化への対策が重要 とも記載している。

 このうち⑤については、地域内で比較的人的資本水準の高い人材が都市に移動する傾向は確かにあるが、所得水準は同一勤務先の同一職階であれば同じ筈であるものの、女性にはガラスの天井(もしくは、コンクリートの天井)が用意されている上、高校の同窓生を優遇する習慣があるため、地方出身者は職階を上がるのも大変になるのだ。

 また⑥については、先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となるのは、既に人口や産業が集中しすぎているため、土地をはじめとするすべてのコストが上がっていて高コスト構造になり、中国はじめ新興国における生産コストにかなわないからである。

 さらに、既存の都市にはまとまった空地が少ないため、サウジアラビアのように、未利用の砂漠や山岳地帯に未来都市を作るようなダイナミックな構造改革はできず、日本ではちょっと変えるのに数十年もかかることになる。そのため、首都移転したり、新しい産業都市を作ったりする先進国や新興国が多いのだ。

 しかし、⑦の「『労働年齢人口』の伸び率の低さは『1人当たり県内総生産』の伸び率の低さと関連するから」といって、「高齢者は早く逝くことを推奨する」というのは、文明の進歩に逆行しており、先進国や福祉国家の名にも値しない。もし生産年齢人口が足りなければ、女性・高齢者の使用に加えて、生産年齢人口の外国人労働者も招けばよい。つまり、⑧の社会移動に、国内移動だけではなく、国際間移動を加えればよいのである。

 *3-3-3は、⑨「まち・ひと・しごと創生法」は「地方創生」を国の重要な政策として位置づけ、自治体に様々な取り組みを求め、自治体が計画を立案して、国がその計画を支援する形だが ⑩自治体の自主財源比率が低く ⑪財政面での国と地方の関係も人口の東京一極集中を助長した ⑫地方版総合戦略策定にあたって多くの自治体が国からの地方創生関連交付金を基に東京都に本社がある業者に外部委託した ⑬税収の地域間格差が比較的少ない地方消費税率引き上げなどでの自主財源強化が検討に値する とも記載している。

 このうち⑨⑫の地方版総合戦略策定に多くの自治体が、国からの地方創生関連交付金を基に、東京都に本社がある業者に外部委託したというのは、東京に本社のあるコンサルティング・ファームなら国内の他地域だけでなく海外の事例も容易に参照できるという点で優れているが、その地域の事情に詳しいわけではないため、地方自治体が主体となってコンサルティング・ファームや地域の大学を使うのがよいと思う。そして、それもできないのであれば、地域主体の地域創生などとてもできないため、⑪は仕方がないということになろう。

 地方財政についても、⑩のように、自主財源比率が低すぎることはよくわかるが、⑬のように、地方消費税率を引き上げただけでは、大きな財源にはならない。そのため、農林漁業・再エネ発電・企業誘致など、地域の特色を活かして法人住民税・事業税及びそれにかかわる個人住民税を確保する必要がある。

 なお、*3-3-3は、⑭町村などの過疎地域では既に高齢化が進み、実際の人口分布以上に地方議員の年齢階層が高齢者に集中し ⑮地域の現場で長期的展望に立って政策を進める若手政治家が不足 ⑯日本の地方議員は大企業で働く会社員や常勤公務員と比較して経済的に恵まれず、人口減少が進む町村で成り手不足が一層深刻化 ⑰勤め人が地方選挙に出る選択は、家族を養うこととの両立が難しく就労世代が政治に関わりにくい ⑱議員定数に年齢枠や女性枠を設ける「クオータ制」導入や地方議員の報酬増を検討すべき ⑲中長期的には東京以外にも様々な人材・産業が集積する拠点を整備する方向性が望ましい としている。

 確かに、地方創生をこなし、教育・保育・医療・介護などの諸制度を的確に運用するには、地方議員の質と量が重要である。そのため、⑮ほど「若手でなければ、長期的展望に立てない」とは思わないが、⑭のように、人口分布に比例した男女比・年齢層になるのが多面的なニーズをくみ取るためには必要だと思う。

 そのためには、⑯⑰は事実であるため、⑱のように、地方議員定数に年齢枠や女性枠を設けたり、議員の報酬増を検討したりすることは不可欠である。しかし、それにもまして重要なのは、くだらないことで誹謗中傷したり、足を引っ張って喜んだりするのも止めることで、そうでなければ有用な人材を議員にして住民のために継続的に働いてもらうことはできない。

 最後に、⑲については、過密で高コスト構造で不便になった東京以外の地域にも、中長期的視点で産業や人材が集積する場所を作ることは重要である。それには、自然条件・災害・気候変動・海面上昇なども考慮して、これまでは人口の少なかった地域に首都機能を移転したり、スマートシティーを作ったりするのが、恵まれた国土を無駄なく使う方法であると、私は考える。

・・参考資料・・
<日本経済の現状 ← 経常黒字半減・物価上昇・実質賃金減少>
*1-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1065635 (佐賀新聞 2023/7/4) 税収過去最高 家計の苦境に目を向けよ
 国の2022年度の一般会計税収が、71兆1373億円と過去最高を記録した。円安の重なった物価高で消費税が増え、所得税、法人税も伸びたためだ。防衛費や少子化対策に多額の追加歳出を計画する岸田文雄首相にとっては、政権運営の好材料かもしれない。しかし税収増は家計の苦境の裏返しであり、さらなる負担は受け入れ難い点に目を向けねばならない。政府の当初予算時点の税収見積もりは65兆2350億円だった。70兆円台は初めてで、3年続けて過去最高を更新した。税収を押し上げた大きな要因は物価上昇だ。22年度の消費者物価指数は、石油や輸入原材料の高騰に円安が拍車をかけ、前年度比3・2%と約30年ぶりの伸びとなった。値上がりは食品から電気・ガス、サービス関連にまで及び、連動して消費税額も膨らんだ結果、22年度の消費税収は過去最高の23兆792億円に達した。19年10月に税率を10%へ引き上げた効果などが続き最高だった前年度に比べ、約1兆2千億円も多かった。景気に左右されにくい一方で、物価の影響を受けやすい消費税の特徴が表れた形だ。税収の確かさから、社会保障を支える消費税の役割を再認識することができよう。だが消費税収の好調を喜んではいられない。家計にしてみれば、物価上昇に課税増のダブルパンチとなったからだ。新型コロナウイルス禍からの経済回復があり単純比較はできないものの、前年度からの増収分は0・5%程度の税率引き上げに匹敵する。消費税は所得の低い世帯ほど負担感の重い「逆進性」がある点を考えれば、家計の重荷は深刻ととらえるべきだろう。基幹税では所得税も22年度は伸び、前年度より1兆円超多い22兆5216億円だった。物価高に伴う賃上げや、企業から株主への配当増が税収につながったとみられる。ここで留意すべきは十分な賃上げが大企業などに限られ多くの人は収入増がインフレに追い付かない状況である。物価動向を反映した実質賃金は、4月まで13カ月連続で減少している。22年度はコロナ禍からの立ち直りや円安による輸出企業の業績上振れで、法人税も14兆9397億円と増収だった。物価高が収まらない中で、配当など株主還元に比べて見劣りする賃上げの充実が引き続き課題である。岸田政権による血税の使途と財政運営が厳しく問われるのは当然だ。税収増の結果、22年度は2兆6294億円の決算剰余金が生じた。政府は防衛力強化の財源の一つに年7千億円の剰余金を想定しているが、多額の剰余金の発生は、もう一つの財源であり与党に抵抗感の強い増税の先送り論につながる可能性があろう。しかし議論すべきは「先送り」でなく、今以上の家計負担が困難な点である。防衛増税を実施するにしても課税余地のある企業向けを軸にすべきだし、財源に不安のない規模へ防衛費を縮減するのが理にかなっている。税収増を受け政府、与党で歳出拡大の声が高まることも戒めたい。今年の「骨太方針」はコロナ沈静化を受けて歳出を「平時に戻していく」と明記。国と地方を合わせた基礎的財政収支を25年度に黒字化する財政健全化の目標を維持した。歳出増はその方針を揺るがしかねない。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230701&ng=DGKKZO72407730R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.1) 政府税調まで消費税論議から逃げるのか
 中長期を見据えた税制の提言というには、看板倒れの内容だ。政府税制調査会(首相の諮問機関)が4年ぶりにまとめ、岸田文雄首相に提出した「中期答申」のことだ。前回の10倍の約260ページの分量ながら、増減税など具体的な改革の方向性を何ら示さなかった。答申を受け取る立場の岸田首相が少子化対策の財源を巡り、消費税などの議論を封印している。だが、各界の有識者から税制の将来について率直な意見を集める政府税調は、政治への忖度(そんたく)と一線を画すべきだ。逃げ腰と言わざるを得ない。中期答申は昭和・平成時代の税制改革を回顧し、最近の経済と社会の構造変化を総括した。終身雇用や専業主婦世帯が主体と考えられた旧態から働き方や人生設計が多様となり、デジタル化やグローバル化が進む。税制も経済成長を促す発想で組み直す必要がある。新型コロナウイルス対策などで悪化した財政の立て直しにも目配りが欠かせない。政府税調は「公平・中立・簡素」の原則に加えて、税の「十分性」の重視を掲げた。社会保障や財政の持続可能性にも配慮し、負担や歳出を見直すことは妥当といえる。だが、個別の税制をどう変えるかの記述はない。消費税に関しては社会保障給付を安定的に支える観点で「果たす役割は今後とも重要」とだけ記した。税調では現行10%からの引き上げが必要とする議論も出ていたが、答申は税率や時期などの具体論を避けている。所得税を巡っては働き方の違いで不公平が生じないよう、給与や退職金、年金への税負担のバランスをとるよう促した。そこは適切な指摘としても、具体的な手法への言及はない。「基幹税としての財源調達機能を適切に発揮する」と、原則論の確認にとどまる。税制改正の具体像を決めるのは政治家であり、中期答申は議論の下地となる考え方を提示するというのが政府税調の認識という。問題は、政治が与野党そろって、次の選挙に影響するとして税や社会保険料など安定財源の確保で真剣な議論から逃げていることだ。財源を曖昧に給付だけを増やすのは将来世代に対して無責任だ。専門家の立場から将来の負担のあり方で見識を示し、踏み込んだ議論を喚起する。それが政府税調に求められる役割ではないか。問題先送りを続ける政治に、あえて歩調を合わせる必要は全くない。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230702&ng=DGKKZO72416970R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.2) 医療費の物価反映は慎重に
 年間45兆円に上っている医療費が物価高を反映させる形で一段と膨らむ可能性が出てきた。政府が6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に「次期診療報酬改定で必要な対応を行う」と明記された。物価高で医療機関の経費が増えているのは確かだが、医療費を増やせば、患者負担や国民の保険料負担が重くなることを軽く見るべきではない。政府は医療の持続性を確保する観点から、丁寧かつ慎重に対策を検討してほしい。保険医療は診療報酬という政府が定める公定価格で提供されるので、医療機関や薬局は光熱費や設備費、委託費など経費の増加分を患者の医療費に転嫁できない。2022年4月に改定された今の診療報酬にはその後の物価上昇分が勘案されていないため、日本医師会などは23年度中に補助金で緊急措置を実施した上で、24年4月の次期改定で物価水準を反映するよう求めている。賃上げが重要なのは医療従事者も例外ではない。ただその原資や経費の増加分すべてを診療報酬の増額で賄う考え方で国民の理解を得られるだろうか。産業界の労使交渉では賃上げと生産性向上をセットで議論するのが一般的だ。医療従事者の賃上げを考える際も、業務効率化の方策を同時に検討すべきだ。岸田文雄政権は社会保障などの改革で国民負担を抑制し、新たな少子化対策に要する負担増分を相殺する方針を閣議決定している。この施策との整合性を考えても、国民負担を増やす診療報酬の増額は安易に行うべきではない。医療従事者の賃上げにはデータに基づく議論も必要だ。医師や看護師、事務員など職種別給与データの提出を医療法人に求め、処遇実態を把握した上で賃金水準のあり方を検討してほしい。新型コロナウイルス対策の病床確保料などで医療機関の収支が改善した点にも留意が要る。物価反映が国民の理解を得るにはプロセスを踏んだ議論が欠かせない。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230516&ng=DGKKZO71023830V10C23A5EP0000 (日経新聞 2023.5.16) 企業物価上昇、なお5%台、4月、食品などで価格転嫁続く 資源高・円安の影響は一服
 日銀が15日発表した4月の企業物価指数は前年同月比5.8%の上昇だった。伸び率は4カ月連続で鈍化し、1年8カ月ぶりに5%台まで低下した。資源高や円安の影響が和らいだことで、市場には「今夏には5%を割る」との見方もある。ただ食品などの川下の品目での価格転嫁は当面続きそうだ。輸入物価指数(円ベース)は2年2カ月ぶりに前年同月比でマイナスになった。足元で円相場は1ドル=136円程度で推移しており、円安の直接的な押し上げ圧力には一服感が出ている。輸入物価指数の石油・石炭・天然ガスはマイナス9.0%、金属・同製品もマイナス7.5%になった。電力やガス料金には2月以降、政府の価格抑制策が効いている。企業物価指数の電力・都市ガス・水道の前年同月比上昇率は、25.8%と3月の26.8%から鈍化した。日銀によれば抑制策で0.7%程度、企業物価指数全体の前年同月比上昇率を押し下げている。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「早ければ(企業物価指数の前年同月比上昇率が)6月に5%台を割り込む可能性がある」と話す。ただこれまでのコスト高を受け、「複数回に分けて値上げに踏み切る企業もあり価格転嫁による押し上げ圧力は継続している」と指摘する。輸送用機器や生産用機器では、部品などの材料価格や物流費の上昇を価格に反映する動きが目立った。飲食料品は小麦などの原材料高を価格転嫁する動きが続いている。鉄鋼もこれまでのエネルギーコスト高が影響し前年同月比で上昇した。政府の抑制策で価格が抑えられている一方、事業用電力では燃料価格の上昇や託送料金の引き上げなどを価格に反映する動きもみられた。日銀は「コスト上昇分も含めた川下への価格転嫁の動きなどを注視していく」としている。4月分は公表されている品目のうち8割超で価格が上昇した。足元では消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)でも前年同月比3.1%上昇と高水準での推移が続く。企業物価指数はCPIの先行指標ともされる。高止まりが続けば、CPIにも上振れの要因として波及しやすくなる。日銀は物価上昇率が23年度半ばには2%を下回るとの見方を示している。植田和男総裁は「(2%の物価目標を達成すると)安心して言えるところまで到達していない」として大規模緩和を維持する方針だ。価格転嫁が継続してCPIを押し上げれば、先行きの物価動向や政策運営にも影響を与える可能性がある。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2274H0S3A620C2000000/ (日経新聞 2023年6月23日) 消費者物価、5月3.2%上昇 食品や宿泊が伸び高止まり
 総務省が23日発表した5月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.8となり、前年同月比で3.2%上昇した。プラスは21カ月連続で、高水準での推移が続く。食品といった生活必需品や宿泊料の値上がりが全体を押し上げ、物価上昇の品目も増えた。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の3.1%を上回った。再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げや燃料価格の下落があった電気代が押し下げ、4月の3.4%からは伸び幅が縮小した。日銀の物価目標である2%を上回る状況が続く。生鮮食品を含む総合指数は3.2%上昇した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は4.3%上昇し、プラス幅が前月から0.2ポイント拡大した。伸びの拡大は12カ月連続となる。第2次石油危機の影響で物価が上昇した1981年6月の4.5%以来41年11カ月ぶりの高い上昇率となった。品目別では生鮮食品を除く食料が9.2%プラスだった。75年10月の9.9%以来47年7カ月ぶりの上昇幅となる。原材料価格や物流コストの上昇で、アイスクリームが10.1%上昇した。4月に価格改定のあったヨーグルトも11.3%伸びた。日用品も値上げが続き洗濯用洗剤が19.9%上がった。宿泊料は9.2%伸びた。政府の観光支援促進策「全国旅行支援」の効果が続く一方で、新型コロナウイルス禍からの経済社会活動の正常化で観光需要が増えて価格が上昇した。17.1%マイナスだった電気代を中心にエネルギーは8.2%低下した。都市ガス代も1.4%上昇と4月の5.0%プラスから伸びが縮小した。総務省の試算では、電気・都市ガス料金の抑制策と全国旅行支援をあわせた政策効果は、生鮮食品を除く総合の前年同月比伸び率を1.0ポイント押し下げた。単純計算すると、政策効果がなければ前年同月比で4.2%の上昇だったことになる。生鮮食品を除く総合を構成する522品目のうち前年同月より上がったのは438品目、変化なしは43品目、下がったのは41品目だった。4月は433品目が上昇しており、物価上昇の裾野が広がっている。日本経済研究センターがまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では4〜6月期の生鮮食品を除く総合の前年同期比が3.24%プラスで、前回調査から0.31ポイント引き上げた。2024年4〜6月期も同2.01%伸びると予測する。足元では再び進行する円安が輸入価格の上昇圧力にもつながり、物価は高止まりが続く可能性がある。

*1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230703&ng=DGKKZO72422720T00C23A7NN1000 (日経新聞 2023.7.3) 食品・日用品の大手値上げ、中堅に波及 店頭価格8.7%上昇、原材料高の転嫁広がる
 食品や日用品の店頭価格の上昇が続いている。POS(販売時点情報管理)データに基づく日次物価の前年比伸び率は6月28日時点で8.7%となった。昨年秋以降、業界大手を中心に価格改定に踏み切り、中堅企業などが追いかける「追随型値上げ」が多くの商品で広がっている。デフレが長く続く日本では値上げで売り上げが落ち込むリスクが強く意識され、価格転嫁を避ける傾向があった。ウクライナ危機をきっかけに原材料高を商品価格に反映する動きが広がり、潮目が変わりつつある。日経ナウキャスト日次物価指数から分析した。この指数はスーパーなどのPOSデータをもとにナウキャスト(東京・千代田)が毎日算出している。食品や日用品の最新のインフレ動向をリアルタイムに把握できる特徴がある。217品目のうち価格が上昇したのは199品目、低下は16品目だった。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月に価格が上昇していたのは130品目にとどまっていた。全体の前年比伸び率も当時は0.7%だった。足元ではヨーグルトや冷凍総菜などの値上げ幅が拡大している。ヨーグルトの値段は22年夏までほぼ横ばいだったが、11月に6%上昇し、今年4月以降はその幅が10%となった。この2回のタイミングでは業界最大手の明治がまず値上げを発表し、森永乳業や雪印メグミルクなどが続いた。その結果、江崎グリコなどシェアが高くないメーカーも値上げしやすい環境になり、業界に波及した。冷凍総菜も昨年6月は4%程度の上昇率だったが、11月に9%まで加速し、23年6月は15%まで上がった。味の素冷凍食品が2月に出荷価格を上げたことが影響する。ナウキャストの中山公汰氏は「値上げが大手だけでなく中堅メーカーに広がっている」と話す。ナウキャストによると、値上げをしてもPOSでみた売上高は大きく落ちていないメーカーもみられる。インフレが定着しつつあり、値上げによる客離れがそこまで深刻化していない可能性がある。品目の広がりも鮮明だ。ウクライナ侵攻が始まった直後は食用油が15%、マヨネーズが11%と、資源価格の影響を受けやすい商品が大きく上昇する傾向にあった。23年6月は28日までの平均で生鮮卵が42%、ベビー食事用品が26%、水産缶詰が21%の上昇になるなど幅広い商品で2ケタの値上げがみられる。日本は米欧に比べて価格転嫁が遅れ気味だと指摘されてきた。食品価格の上昇率を日米欧で比べると米国は昨年夏に10%強まで加速したが、足元は6%台に鈍化した。ユーロ圏は今年3月に17%台半ばまで高まり、5月は13%台に鈍った。日本は昨夏が4%台半ば、昨年末は7%、今年5月に8%台半ばと上げ幅が徐々に高まってきた。直近では瞬間的に米国を上回る伸び率になった。帝国データバンクが主要食品企業を対象に調査したところ7月は3566品目で値上げが予定されている。昨年10月が7864件と多かったが、その後も幅広く価格改定の表明が続く。昨年、一時的に10%を超えた企業物価指数は足元で5%台まで伸びが鈍化しており、資源高による川上価格の上昇は一服しつつある。それでも昨年からの仕入れ価格上昇や足元の人件費増を十分に価格転嫁ができているとは限らず、値上げに踏み切るメーカーは今後も出てくると予想される。日本のインフレも長引く様相が強まっている。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71652180W3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.6) 4月実質賃金、3%減 13カ月連続マイナス 物価高続く
 厚生労働省が6日発表した4月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比3.0%減った。減少は13カ月連続となる。名目にあたる現金給与総額は1.0%増の28万5176円だった。物価の伸びに賃金上昇が追いつかない状態が続いている。実質賃金のマイナス幅は3月の2.3%減から広がった。実質賃金の算出で用いる物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)の上昇率が4.1%に達しており、3月の3.8%から拡大した影響が出た。現金給与総額の増加は22年1月から続いており、16カ月連続となる。新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化に伴う動きだ。現金給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は1.1%増、残業代などの所定外給与は0.3%減だった。今年の春季労使交渉では物価高を背景に賃上げ率は30年ぶりの高水準となっている。4月の速報段階では「まだ交渉中の労使があることなどから結果が十分に反映されていない」(厚労省)という。就業形態別に現金給与総額を見ると、正社員など一般労働者は1.1%増の36万9468円、パートタイム労働者は1.9%増の10万3140円だった。1人当たりの総実労働時間は0.3%減の141.0時間だった。業種別では不動産・物品賃貸業が14.3%増となったほか、飲食サービス業も6%を超える伸びだった。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71652190W3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.6) 消費支出、4月4.4%減 2カ月連続マイナス
 総務省が6日発表した4月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は30万3076円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比4.4%減少した。マイナスは2カ月連続。食料、通信など生活関連の品目や教育への支出が減り、消費を押し下げた。下落幅は21年2月の6.5%減以来2年2カ月ぶりの大きさとなった。

<G7とジェンダー平等>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15670995.html (朝日新聞 2023年6月26日) 賃金、男女格差「解消を」 性的少数者尊重も言及 G7担当相声明
 主要7カ国(G7)男女共同参画・女性活躍担当相会合が24、25日に栃木県日光市で開かれ、企業の女性役員登用や成長分野への就業を進め、賃金格差を解消することで女性の経済的自立を進める方向で一致した。ジェンダー平等で遅れる日本にとって、議論を踏まえた取り組みが急がれる。男女間の賃金格差はG7共通の課題で、共同声明は「是正には包括的アプローチが必要」と強調。女性役員の登用▽成長分野や報酬の高い分野への女性の労働移動の促進▽女性の起業支援――などを具体策で示した。また、家事や育児、介護など女性に偏る無償労働は「女性がフルタイムで働く能力や指導的地位に就く能力を損なう」と指摘。家族への公的支援を強化するほか、男性の無償労働への参加を増やすための施策を求めた。今月公表された各国の男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ報告書」で、日本は146カ国中125位。男女間の賃金格差は22・1%、企業(東証プライム上場)の女性役員の比率は11・4%でともにG7各国では最下位。無償労働時間は女性が男性の5・5倍長く、男女差はG7で最大との統計もある。会合の議長を務めた小倉将信・男女共同参画相は今後の対応について、会見で「女性起業家の支援などを着実に進める。男性の家事育児への参画促進のための施策に取り組みたい」と述べた。会合に参加した他国の担当相や団体の代表者9人はすべて女性。日本だけが男性だったことについて、小倉氏は「女性だけが主張しても実現しえない。非常に強い熱意を持つ男性リーダーが一緒に行動を起こさないと実現しない、というのが共通認識だった」とした。また、共同声明では性的少数者に関して、女性や「LGBTQIA+(LGBTを含めた多様な性)の人々の人権と尊厳が完全に尊重され、促進され、保護される社会の実現に向けた努力を継続する」とした。LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「LGBTQIA+の問題がジェンダーの課題であると強力に示された。政府は今後、国内での平等に向けた取り組みを具体的に進めていくべきだ」と話した。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230621&ng=DGKKZO72075270R20C23A6MM0000 (日経新聞 2023.6.21) 男女平等、日本125位 過去最低 政治や経済分野悪化
 世界経済フォーラム(WEF)は21日、男女平等がどれだけ実現できているかを数値にした「ジェンダー・ギャップ指数」を発表した。調査した146カ国のうち、日本は過去最低の125位だった。政治や経済分野での指数が悪化し、前年調査(116位)より順位を落とした。主要7カ国(G7)では最低水準となった。調査は「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で男女平等の現状を指数化している。完全に実現できている場合は1、まったくできていない場合をゼロとして各分野ごとに指数化し、総合評価のランキングを毎年発表している。日本の順位を分野別にみると「政治」が138位、「経済」が123位となった。改善の必要性が長年指摘されている両分野で指数が悪化した。国内での教育格差が相対的に小さいことや、男女の健康に大きな差がないと判断されたことから「教育」は47位、「健康」は59位となった。日本の評価が特に低いのは政治における男女平等だ。女性の議員数や閣僚数が他の国・地域と比べて大幅に少ないことに加え、これまでに女性の首相が誕生していないことなどが指数や順位に織り込まれた。女性の権利を制限していると指摘されるサウジアラビア(131位)を下回り、世界で最も低い圏内にある。経済の項目でも低い評価が目立つ。女性管理職の比率が低いことや、男女の所得に依然として差があることなどが響いた。政府は東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を2030年までに30%以上にする目標を新たに掲げ、多様性の確保を急ぐ。WEFは教育における日本の男女平等は99%以上達成できていると分析した。ただ、今回は大学以上の進学率が加わったことで、順位は47位と前年(1位)から大きく下がった。全体の順位が下がった一因にもなったと考えられる。総合評価が高かったのはアイスランドやノルウェー、フィンランドなどだ。アイスランドでは男女平等の達成率が90%を超えた。最下位はアフガニスタンだった。WEFは世界で男女平等が実現されるのは131年後の2154年だと試算する。男女平等の度合いは新型コロナウイルス感染拡大前の水準までには回復した一方で、「進展のペースは鈍化している」としている。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230622&ng=DGKKZO72100240S3A620C2EA1000 (日経新聞 2023.6.22) 男女平等、達成率68% 政治・経済の壁なお 世界の格差指数 日本、過去最低の125位
 世界経済フォーラム(WEF)が21日発表した2023年の男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中125位と過去最低になった。政治分野の低さが変わらず、経済分野は女性管理職比率の低さが足を引っ張る。世界全体でも格差はなお残り、WEFはこの差を埋めるにはあと131年必要だと指摘する。調査は経済、教育、健康、政治の4分野に関する統計データから算出する。男女が平等な状態を100%とした場合、世界の達成率は68.4%。WEFは現状では世界での男女平等実現は2154年になると指摘する。格差が目立つのは経済、政治の両分野。差を埋めるには経済で169年、政治で162年かかるという。国別にみると、首位は14年連続のアイスランドで91.2%。日本は64.7%、最も低い146位のアフガニスタンは40.5%だ。地域別では欧州や北米が高く、WEFは東アジア・太平洋地域の歩みが10年以上停滞しているとみる。ニュージーランドなどは上位だが、韓国(105位)や中国(107位)などは課題を抱える。リポートでは労働人口に占める女性の割合が4割を超す一方、上級指導職の女性割合が10ポイント近く低い点も指摘。昇進を阻む「ガラスの天井」が依然存在するとした。日本も政治(138位)や経済(123位)の低さが目立つ。経済は女性管理職の比率が133位にとどまるのが大きく影響している。働く女性がリーダー層になるにつれ減る構造がある。23年版男女共同参画白書によれば、日本の就業者に占める女性の割合は45%で米国(46.8%)と大差なく、韓国(43.2%)より高い。だが管理職に占める女性比率は12.9%で米国(41.0%)を下回り、韓国(16.3%)より低い。民間企業の場合、係長級で24.1%いる女性が課長級で13.9%、部長級は8.2%に減る。キャリアの階段が細くなる背景に何があるか。ロールモデルが身近にいないことや硬直的な働き方、家事・育児負担の偏りなどが指摘されるが、そのままでは企業の成長は期待できない。政府は女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)で、東証プライム上場企業は25年をめどに女性役員を最低1人起用、女性役員比率は30年までに30%以上の目標を掲げる。ヒントはある。キリンホールディングスは入社後10年ほどまでに多くの業務を担当し、プロジェクトリーダーなどに挑戦する「早回しキャリア」で女性管理職育成を急ぐ。各段階で切れ目なく支援をし、「管理職手前」の層を厚くする。結果的に改善への早道になる。経済で多様性がイノベーションを生むのはすでに世界の共通認識だ。投資家は組織の意思決定者に多様性を求め、取締役会が男性ばかりの日本企業にノーを突きつける。ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングのロッシェル・カップ社長は「欧米に比べて日本は政策や慣行、法律などを変えるのに消極的だ。リーダーは具体的な行動を起こす必要がある。現状維持優先の態度はますます遅れにつながる」と強調する。

*2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA128CD0S3A610C2000000/ (日経新聞 2023年6月13日) 女性役員比率30%目標に 政府「女性版骨太の方針」決定
 政府は13日、女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)を決定した。東証プライム市場へ上場する企業に2025年をめどに女性役員を最低1人選任するよう促す。女性役員比率を30年までに30%以上とする目標も盛り込んだ。いずれも努力義務で罰則は設けない。岸田文雄首相は同日の女性活躍と男女共同参画に関する会議で「全ての人が生きがいを感じられ、多様性が尊重される持続的な社会の実現のため取り組みを進める」と述べた。近くまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。目標達成のためプライム上場企業に行動計画をつくるよう推奨する。年内に東証の上場規則に数値目標に関する規定を設けることを想定している。東証プライム上場で女性役員比率が30%を超える企業は22年7月末時点で2.2%にとどまる。女性役員が1人もいない企業の比率は18.7%だった。優良なスタートアップ企業に占める女性起業家の比率を33年までに20%以上とする目標も掲げた。「Jスタートアップ」と呼ばれる新興企業が対象で、経済産業省を中心に23年5月時点で選定した238社の女性起業家比率は8.8%だった。

*2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1062235 (佐賀新聞 2023/6/28) 年収の壁、企業助成50万円、従業員の保険料穴埋め、年内にも
 配偶者に扶養されるパート従業員が、社会保険料負担の発生を避けるため働く時間を抑える「年収の壁」に関する政府の対策案が分かった。保険料を穴埋めする手当を払った企業に対し、従業員1人当たり最大50万円を助成。従業員の負担解消につなげ、労働時間を延長しやすくすることで人手不足緩和を狙う。関係者が28日明らかにした。飲食業や観光業を中心に、新型コロナウイルス禍後も働き手が戻らず、営業に支障が出ている所もある。個人の収入確保とともに、経済を円滑に回す環境整備を進める。政府内の調整を経て最終決定し、年内にも対策を開始。時限措置とする。「年収の壁」見直しは人手不足に悩む企業側が求め、岸田文雄首相が2月に「対応策を検討する」と踏み込んだ。抜本的な対策は先送りし、2025年の法案提出を目指す年金制度改革の中で議論する。現在は、従業員101人以上の企業で働くパートの場合、年収106万円以上になると配偶者の扶養を外れる。厚生年金などの保険料を自ら負担し、手取りが減る。扶養されている間は国民年金の「第3号被保険者」として、保険料を払わず、将来の年金が受け取れる。対策案では、所定労働時間の延長などで生じた保険料の全部または一部を、企業が手当として従業員に払うことができる仕組みをつくる。手当は賃金に含めない特別扱いとし、手当による保険料増は生じない。手当の仕組みを後押しするため、政府は既存の助成金を拡充し、1人当たり最大50万円を企業に支給。手当や賃上げ原資、企業が負担する社会保険料に充ててもらう。基本給を増やしたかどうかで助成額が変動する。扶養に入っている従業員だけでなく、単身者も対象とする。企業が3年以内に労働時間を延長する計画を策定し、実際に延長した従業員も助成対象に加える。年収の壁 会社員や公務員の扶養に入る配偶者がパートなどで働くと、一定以上の年収で社会保険料が発生したり税の優遇が小さくなったりする。この額の境目が「壁」と呼ばれる。保険料の場合、勤め先の従業員数規模などに応じて106万円や130万円が境となり、手取りが減る。106万円の壁では、年収が約125万円になると手取りが106万円に戻る。税は、年収が150万円を超えると所得税の配偶者特別控除の満額を受けることができない。

<気候変動と国土利用計画>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230326&ng=DGKKZO69601710V20C23A (日経新聞社説 2023.3.26) IPCC報告が示す温暖化対策の緊急性
 温暖化による気象災害や食料危機、紛争などの悪化を防ぐための時間は、わずかしか残されていない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第6次統合報告書は、温暖化対策の緊急性を強く訴えた。報告書は気候変動をめぐる今後の国際交渉の土台となる。日本は主要7カ国(G7)議長国として真剣に受け止め、中国を含む20カ国・地域(G20)とも連携して対策を加速する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内にとどめる目標を掲げる。だが、報告書によると気温は既に1.1度上がっており、2030年代前半にも1.5度に達する可能性がある。気温が目標を超える期間を短くとどめ、下降に向かわせることが重要だ。それには世界の温暖化ガス排出を25年までに減少に転じさせ、35年の世界の排出量を19年比で約60%減らさねばならないという。パリ協定のもと、各国は25年までに35年の新たな削減目標を提示することになっている。報告書の数値は重要な指標となろう。日本の現行目標は30年度の排出量を13年度比で46%減らし、50%減をめざすというものだ。国際社会から一層の上乗せを求められる可能性がある。見直しの検討を怠ってはならない。報告書は21年10月までのデータに基づいており、ロシアのウクライナ侵攻の影響は含まない。現実にはエネルギーの安定供給を確保するため、化石燃料の利用減を先延ばしする動きもある。石炭火力発電への依存度が高いアジアの途上国などでは、再生可能エネルギーへの転換や省エネの投資が不足している。パリ協定の目標達成は困難を伴う。だが、諦めるわけにはいかない。IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らすとともに「報告書は希望へのメッセージでもある」と強調した。再生エネルギーや蓄電池のコストは劇的に下がった。水素製造・利用技術や、火力発電所から出る二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留する技術の開発も進む。日本は化石燃料依存を減らしつつ、こうした技術の普及へ積極的な役割を果たすべきだ。実績を積み上げ、被害や損害の軽減につなげることが大切だ。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE102J80Q3A710C2000000/ (日経新聞 2023年7月10日) 停滞した梅雨前線に水蒸気が流入、九州の大雨の要因に
 九州北部では7月に入ってから断続的に線状降水帯が発生し、10日は土砂崩れによる家屋被害や河川の氾濫が相次いだ。梅雨前線が九州付近に長くとどまり、太平洋高気圧の縁を回るように大量の水蒸気が流れ込んでいることが要因とされる。この時期は同様のメカニズムで豪雨が起こりやすく、気象庁は注意を求めている。気象庁気象研究所によると、7月に「3時間降水量が130ミリ以上」の豪雨が起きた頻度は、2020年までの45年間で約3.8倍に増えた。梅雨の時期に起きた集中豪雨の多くは、積乱雲が発達して連なる線状降水帯を伴うものだという。6月下旬〜7月上旬の梅雨時期は、日本の南側から張り出した太平洋高気圧の縁を回るようにして暖かく湿った空気が大量に梅雨前線に送り込まれやすくなる。とくに今年は上空の偏西風が弱いことなどから梅雨前線が九州付近に停滞。7日午後からは九州北側の対馬海峡の周辺にとどまり、雨雲のもととなる大量の水蒸気が流入し続けた。17年の九州北部豪雨でも九州の北側に梅雨前線が停滞し、線状降水帯が発生した。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE151YT0V10C23A7000000/ (日経新聞 2023年7月15日) 秋田大雨で河川氾濫 秋田駅前が冠水、16日新幹線運休
 発達した梅雨前線の影響により秋田県で15日、記録的な大雨となった。秋田市ではJR秋田駅前など市街地が冠水した。夜時点で14市町村に避難指示が出され、最高の警戒レベル5に当たる「緊急安全確保」も6市町村で発令された。秋田市添川地区の住宅が土砂崩れに巻き込まれ、4人が軽傷を負った。同市には避難所が開設された。秋田県は同日、15市町村への災害救助法の適用を決定した。秋田新幹線は運休が相次ぎ、16日は盛岡-秋田間で始発から終日運転を見合わせる。17日も見合わせる見通しだ。大雨で川の水位が上昇し、同県五城目町の内川川や秋田市内の太平川などで氾濫が発生した。八峰町の水沢ダムと秋田市の旭川ダムでは午後、大雨により貯水しきれなくなった水を下流に流す「緊急放流」が始まった。同県内での午後5時時点までの24時間降水量は秋田市で最大287.5㍉、男鹿市で244.0㍉、藤里町で237.0㍉、八峰町で219.0㍉など7カ所で観測史上最大となった。八峰町では既に7月の平年1カ月分を超えた。朝鮮半島から東北を通って日本の東に延びる前線に暖かく湿った空気が流れ込み、前線は16日にかけて東北に停滞し、活発な状態が続くとみられる。16日午後6時までの24時間予想雨量は多いところで東北北部で120ミリ、東北南部で100ミリの見込み。

*3-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15690019.html (朝日新聞 2023年7月17日) 脱・石油、サウジが見る夢 首相中東歴訪
 岸田文雄首相の中東3カ国歴訪が始まった。いずれも日本が石油やガスの供給元として依存するペルシャ湾岸諸国だが、「脱石油」時代に向けて、国の姿を変え始めている。湾岸諸国は、日本に何を期待しているのか。日本は、この地域にどう関与するのか。
■全長170キロスマートシティー・外交で存在感
 岸田首相がまず訪れたサウジアラビア。世界最大の石油輸出国ながら、脱炭素時代を見据えた大改革を進めている。サウジ北西部の赤茶けた砂漠地帯に、うっすらと浮かぶ1本の直線。衛星写真がとらえた線は長さ170キロ。幅200メートル。道路ではない。これ自体が一つの街になるという。サウジの国政を取り仕切るムハンマド皇太子が2021年に発表したスマートシティー「ザ・ライン」の建設現場だ。将来的に900万人が住み、道路も車もなく、高速鉄道などで移動。石油ではなく、すべてを再生可能エネルギーでまかなう計画だ。ムハンマド氏は「自然を守り、人類の生存可能性を高めるモデルを作る」と語った。サウジでは、石油依存からの脱却を図る社会改革が進行中だ。その指針が、ムハンマド氏が副皇太子時代の16年に発表した「ビジョン2030」。産業の多角化や教育・医療改革、女性の社会参加などを含む野心的な内容だ。世界が脱炭素へ向かう中、良くも悪くも原油価格次第という産業構造の転換は、サウジにとっての喫緊の課題だ。振興を目指す新産業は再生可能エネルギーや観光、文化、スポーツなど多岐にわたる。すでに観光ビザの発給を始め、自動車ラリー、eスポーツなどの国際イベントを誘致。未開発の山岳地帯を会場に29年冬季アジア大会も招致した。サウジは中東地域で唯一のG20(主要20カ国)メンバーで、アラブ圏、イスラム圏の盟主的な存在だ。近年はその枠を超えて、外交面での影響力も高まっている。ウクライナ侵攻では、昨年3月の国連総会でロシア非難決議に賛成しつつ、ロシア制裁を強める欧米とは距離を置く。主要産油国でつくる「石油輸出国機構(OPEC)プラス」のメンバーであるロシアとの関係を重視し、親米国家ながら、米バイデン政権の原油増産要請をはねつけた。一方、ロシアとウクライナの間で捕虜交換も仲介するなど、バランスをとる姿勢が目立つ。3月には、中国の仲介で、敵対関係にあったイランと7年ぶりに外交関係の正常化で合意。敵対から和解へ、中東各地で進む流れを主導する。安全保障面で後ろ盾となってきた米国は、中東での存在感を低下させている。サウジは外交攻勢によって独自に安保環境を整え、脱炭素時代に向けた国造りに資源を集中させたい考えとみられる。新構想には、すでに中国や韓国が投資や技術面での協力を表明しているが、日本への期待も高そうだ。
■日本、支援に前のめり 中国の影響力警戒
 日本の首相のサウジ訪問は、20年1月の安倍晋三元首相以来で約3年半ぶり。岸田首相は昨夏に中東訪問を模索したが、新型コロナ感染で見送った。外務省幹部は「突出した国力を持つサウジを含む中東への訪問は、これ以上遅らせることはできなかった」と話す。背景には、中東での中国のプレゼンスの高まりがある。岸田氏はサウジのムハンマド皇太子との会談で、16年に合意した両国の協力に関する「日・サウジ・ビジョン2030」へのさらなる支援を表明する。その柱に掲げるのが、クリーンエネルギーや脱炭素技術の協力だ。首相周辺によると、日本企業の投資への関心も高く、同行の呼びかけが1カ月前だったにもかかわらず、約30社が集まったという。岸田氏は16日、日本を発つ前に「グローバルなエネルギー安全保障と現実的なグリーン・トランスフォーメーション(脱炭素化)の実現に向け、緊密な連携を確認したい」と記者団に語った。会談では、アニメなどの日本文化、観光、教育などでの交流の推進で一致する見通し。岸田氏は両国間の幅広い分野での連携強化により、サウジの中国への接近に歯止めをかけたい考えだ。ただ、中東情勢の専門家のなかには「サウジとの連携を強める国際社会の中で日本は周回遅れだ」と指摘する人もいる。中国の影響力がさらに高まれば、日本のエネルギー政策にも影響しかねないと懸念する。岸田氏はまた、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を呼びかける。日本は今年、主要7カ国(G7)の議長国を務めており、首相周辺は「日本は中東やグローバルサウスと西側をつなぐポジションにあり、それを生かすことが重要だ」と話す。ムハンマド氏との信頼関係の構築も重視する。サウジは「中東全体を動かすパワーを持つ」(外務省幹部)ため、現在37歳の同氏との関係は、将来にわたる日本の国益につながると踏む。ただ、18年にトルコで起きたサウジ人記者殺害事件をめぐっては、ムハンマド氏の関与が疑われ、米国が問題視している。
■<考論>存在感低下、技術や投資で関与を 日本エネルギー経済研究所理事・保坂修司氏
 日本の石油輸入量の9割以上を占める中東の安定は、日本の経済安全保障という観点から重要だ。ウクライナ戦争を引き金にしたエネルギー危機で、世界的に中東の重要性は高まっているが、近年、中東での日本の存在感は低下している。湾岸諸国は、石油依存からの脱却をめざす。石油を売ったお金を石油以外の分野に投資し、経済を多角化すべく、急速に改革を進めている。首相が訪れる3カ国が日本に期待するのも、「脱炭素」に向けた協力や投資だろう。注目されている水素技術は、日本にも先端技術がある。こうした分野で協力関係を構築していくべきだ。安く安定的に石油やガスを供給できる地域は、今後も中東以外は考えにくい。首脳レベルでの関係強化は欠かせない。中東の人口は増加が見込まれ、経済的にも潜在力を秘めている。紛争が多く、政情不安に陥りやすい地域であるため、(企業が進出に)二の足を踏むのもわかる。ただ他国や他国企業も、一定のリスクをとって関与し続けている。日本側にもそうした姿勢が必要だ。

*3-3-2:https://ideasforgood.jp/2016/09/14/drone_baoan/ (Ideas For Good 2016年9月14日) 世界初、ドローン専用の高速道路?深圳が描く未来都市
 約1,500万人の人口を抱え、今や中国はおろか世界を代表する経済都市として「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでになった中国広東省の深圳で、また新たな一大プロジェクトが始まろうとしている。深圳の西部にある宝安(Bao’an)を走る高速道路、「G107」周辺地域の再開発プロジェクトにおいて、その全容は明らかにされた。宝安地区の再開発に向けてAvoid Obvious Architectsらが提案したのは、世界で初めてとなるドローン専用の高速道路だ。ニューヨークのマンハッタンよりも長く、30kmに渡って宝安地区を横切るG107は、同地域を都市化が進むウォーターフロントエリアと自然が残されたままの内陸エリアに分断し、都市の持続可能な発展を妨げる要因となっている。都市における高速道路の役割を再定義するところから始まった同プロジェクトは、「サステナビリティ」「つながり」「テクノロジー」「シェアリングエコノミー」「社会創造」「グリーン建築」の6つをテーマに置き、ドローンや自動運転といった最先端のテクノロジーと自然を融合させた近未来の都市の在り方を提示するものとなっている。大量の排気ガスを排出していた12車線の高速道路は、4車線ずつに分かれた2つの道路として筒状の空中トンネルの中に格納され、大気汚染の問題が解決される。そしてその空中トンネルの上に敷き詰められた緑の歩道を人々は歩き、都市と自然が一体化された暮らしを実現する。こうした環境に配慮されたスマートシティ構想は深圳以外にも世界中で進んでいるが、今回提示された都市ビジョンの中でひと際人々の目を引いたのは、何といってもオフィスビルを貫くドローン専用の高速道路の存在だ。現在、ドローンは産業分野での活用が期待されているテクノロジーの一つだが、その中でも特に関心が寄せられているのが、輸送・物流分野における革命だ。ドローンを活用した新たな空中の物流インフラを構築することができれば、地上のトラック輸送・物流を大幅に削減することができ、利便性はもちろん環境面におけるプラス効果も期待できる。しかし、ドローンが空中を安全かつ効率的に飛び回り、輸送インフラとしての機能を果たすためには、ドローン輸送を前提とする都市計画が必要となる。そこで今回提案されたのが、ドローン専用の高速道路なのだ。ドローンの輸送導線を考慮したビル設計を行うことで、効率的な輸送インフラが実現し、テクノロジーと利便性、環境へ配慮が一体化した都市が実現するというわけだ。今回プロジェクトを提案した香港とニューヨークに拠点を置く建築デザイン会社のAvoid Obvious Architectsは、今回のプランを段階的に実現し、2045年までにこの自然とテクノロジーが融合した未来都市を完成させる計画だ。今から約30年後の2045年、世界の都市はテクノロジーと共にどのような進化を遂げているのか。そして、そこで私たちはどのような暮らしをしているのか。想像するだけで夢は膨らむが、その未来を現実にするための最初の一歩は、既に始まろうとしている。

*3-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230628&ng=DGKKZO72254030X20C23A6KE8000 (日経新聞 2023.6.28) 地方経済をどうするか(下) 自治体財源・議会の改革カギ、浦川邦夫・九州大学教授(うらかわ・くにお 77年生まれ。京都大学博士(経済学)。専門は応用経済学、福祉政策)
<ポイント>
○過度な都市集積は成長にプラスと限らず
○地方消費税率上げなどで自主財源強化を
○地方議会での年齢枠・女性枠導入も一案
 戦後から今日に至るまで程度の差はあるが、日本の地域格差のほぼ一貫した特徴として、東京圏、とりわけ東京都への人口・企業の集中の傾向が挙げられる。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」を基に、2022年の人口移動の状況を確認すると、都道府県別の転入超過率は埼玉県が0.35%と最も高く、神奈川県(0.30%)、東京都(0.27%)、千葉県(0.14%)が続く。東京圏全体で10万人弱の転入超過だった。東京都の転入超過率は前年に比べて最も大きく上昇(0.23ポイント)しており、コロナ禍でやや沈静化していた東京一極集中の傾向が再び鮮明になりつつある。政府統計によると、東京都の1人当たり所得は575.7万円(19年度)と全国平均の約1.7倍で、2位の愛知県の366.1万円を大きく引き離す。東京都の上場企業本社数(22年7月)は2122社で、全国の約54%を占める。東京都の高い所得水準や多様な企業の存在は地方から多くの人材を引きつける。筆者は10年代前半に9千人規模の調査を用いた共同研究で、回答者の幼少期以降の地域移動のパターンと現在の所得水準の関係を検証した。小中学生時点で東京圏以外の地域に居住し、調査時点で東京圏に居住する回答者(地方から都市への移動経験を持つ回答者)は、他の移動タイプ(移動経験なしを含む)の回答者と比べ、一般に所得水準が高い傾向が確認された。これは、もともと人的資本の水準が高い優秀な人材が自己の選択により経済合理的な判断から都市に移動するとしたトルコ・コチ大学のインサン・ツナリ氏らの分析を支持する結果だ。都市の最適な人口規模を考えるうえで「ヘンリー・ジョージの定理」が知られる。住民の効用を最大化させるような最適な人口規模がどのような条件下で達成されるかについて、都市集積のベネフィットとコストの差に注目した定理だ。東京圏など特定地域に労働や資本が集まることは、規模の経済や集積の経済を通じて日本全体の平均的な生産性を高める効果が期待される。一方で、過度の集積は混雑や騒音などによる地域住民の生活環境の悪化をもたらし、出生率の低迷や福祉水準の低下につながりうる。大規模災害や環境汚染に対する脆弱性への対応も重要な論点だ。立正大学の西崎文平氏は、20世紀後半以降のデータを基に大都市集中と経済成長の関係に関する各国の先行研究を調べた。その結果、近年は主に先進国で人口や産業の集中度と経済成長がマイナスないし非有意の関係となる研究が目立つと指摘した。すなわち経済規模が一定水準を超えて成熟した国については、大都市への集中が成長にポジティブな影響を与え続けるとは一概にはいえない。「県民経済計算」を用いたアジア成長研究所の戴二彪氏の分析は、「労働年齢人口」の伸び率の低さが「1人当たり県内総生産」の伸び率の低さと関連している点を指摘する。このことは、日本の地域経済成長および全国の経済成長に対し、社会移動に加え、出生数の減少や高齢化など人口構造変化への対策が本質的に重要なことを示唆する。14年制定の「まち・ひと・しごと創生法」は、人口減少・高齢化・労働力不足などの地域的課題を解決すべく「地方創生」を国の重要な政策として位置づけ、自治体に様々な取り組みを求める。具体的には、各自治体が地方創生に関する計画を立案し、国がその計画を支援する形が採られた。だが現状の社会経済指標(人口移動、経済成長など)を踏まえると、全体としての取り組みには課題が残る。ここでは、必要とされる視点やとるべき方策について主に2点指摘したい。第1に地域のあり方を決める主役はその地域の住民であることから、地方創生に向けた取り組みは自治体ができる限り自主財源(地方税など)を駆使して実施する形が望ましい。しかし現行の自主財源比率は7割を超える自治体もある一方で、過疎地では2割を割り込む自治体もある。財源の多くが国の判断に左右されやすい状況下で、毎年の歳入・歳出規模が決定される構造が自治体には定着している。財政面での国と地方の関係性も、人口の東京一極集中を助長した一因だ。宮崎雅人・埼玉大教授は地方版総合戦略の策定にあたり、多くの自治体が国からの地方創生関連交付金を基に、東京都に本社がある業者に外部委託した点を指摘する。地域政策の経済効果が地元の経済にどの程度還元されているかを検証する手法として産業連関分析があるが、使用財源を明確にした形での経済効果の検証が求められる。自主財源を高める措置としては、税収の地域間格差が比較的少ない地方消費税の税率引き上げなどが検討に値する。第2に町村など人口が少ない地域では既に高齢化が相当進んでいるが、実際の人口分布以上に政治家(地方議員)の年齢階層が高齢者に集中しているという問題への対応が必要だ。総務省の「地方選挙結果調」によると、19年4月実施の統一地方選で当選した全国約1万5千人の地方議員のうち、39歳以下は7%で、町村議に限れば3%を下回る(表参照)。地域の現場で長期的な展望に立って政策を進める若手政治家が非常に不足しているといえる。他方、無投票で当選・再選を果たす地方議員は増加傾向にある。19年統一地方選の無投票当選率は市議選では2.7%にとどまるが、町村議選では23.4%にのぼる。人口減少が進む町村では成り手不足が一層深刻化しており、立候補者が定数に至らないこともある。日本の地方議員は、大企業で働く会社員や常勤の公務員に比べて必ずしも経済的に恵まれているとはいえない。会社員の立候補者が選挙運動のための休暇をとることや、議員に就任した一定期間後に従前の職または同等の給与が得られる地位に復職できる制度は海外諸国と比べて不十分だ。企業の勤め人が地方選挙に出るという選択は、家族を養うこととの両立が難しく、結果として就労世代の住民が政治の現場に関わりにくい状況にある。地方創生にかかる政策の推進を正面から支援するには、議員定数の中に年齢枠や女性枠などを設ける「クオータ制」の導入や地方議員の報酬増を検討すべきだ。東京圏への人口・産業集中をさらに進めるべきか、あるいは地方分権を進めて自立した経済圏を持つ複数の都市を中心とした多極化を目指すべきか、国と地域の望ましい将来像に対して様々な議論がある。短期的には人口が集中する東京圏の生活環境(子育て、教育など)の改善が重要な課題だが、中長期的には東京以外にも様々な人材・産業が集積する拠点を整備する方向性が望ましい。特にコンテンツ、ソフトウエア・システム開発、研究開発、デザイン、芸術などの創造的な産業は、IT(情報技術)を駆使して空間的な距離を克服しやすいことから、地方での立地のさらなる増加を目指すべきだ。

<原発は温暖化対策にならないこと>
PS(2023年8月7日追加):*4-1のように、東京・埼玉・千葉・横浜・水戸・静岡等で危険な暑さが続き、宇都宮・前橋も厳重警戒だが、内陸である埼玉県の暑さは東京・千葉・横浜を上回る。この極端な高温増加の背景にはCO₂の排出など人間活動による地球温暖化の影響が大きいが、コンクリートとアスファルトで覆った街やエアコンが吹き出す熱も影響が大きいだろう。
 CO₂排出による地球温暖化を阻止するには再エネが一番だが、政府は脱炭素化に向けた基本方針として原子力基本法で「原発事業者が安全投資と安定的な事業ができる環境を整備する施策を国が講じる」と決め、*4-2-1・*4-2-2のように、電力会社が既存原発の再稼働に投じた巨額の安全対策費を再エネ由来の新電力と契約している消費者にまで負担させる制度導入を検討するとのことである。しかし、原発のコストは、原発にかかる全ての支出を合計して出すべきであるため、いつまでも政府や再エネ事業者から拠出を受けなければならないような原発のコストはとんでもなく高いのである。また、大手電力会社を護るために再エネ事業者に犠牲を強いているため、イノベーションも進まない。さらに、原発は大量の温排水を出して海水温を上げているため、地球温暖化阻止に役立っているかどうかも、本当は疑わしいのである。
 このような中、*4-3のように、1974年に運転を始めた関西電力高浜原発1号機が、「原則40年」の運転期間を延長して12年ぶりに再稼働し、事故時の避難計画の実効性や使用済核燃料の扱いなど課題は残ったまま、設計は古く、コンクリートやケーブルの劣化も懸念されるのだそうだ。関電の大飯・美浜原発、日本原電の敦賀原発が林立する福井県の若狭湾沿いは、もともとは好漁場だったのだが、事故が起こればフクイチどころではない日本海沿岸の汚染になるにもかかわらず、そこで40年ルールを形骸化させたことは住民の安全と食糧自給率を無視した対応だ。仮に避難路が使えたとしても、どこにどれだけの期間避難し続けたらよいと思っているのか。それに加えて、使用済核燃料の中間貯蔵施設や最終処分場確保も見通せないのである。
 なお、*4-4-1のように、フクイチのアルプス処理水を海洋放出するにあたり、“風評対策”として300億円が2021年度補正予算に計上されたそうだが、これも国民の税金から支出する原発のコストだ。そして、これは水産物の販路拡大支援のために使われるぞうだが、サバ・イワシ等の冷凍しても市場価格が落ちにくい水産物は買い取って冷凍保管し市況が回復してから販売、マダイ・ヒラメ等の冷凍に向かない水産物はネット販売経費助成や企業の食堂で提供する補助金に使うそうだ。しかし、この政策は、「国民が忘れるのを待つ」という意味で国民に対して不誠実であることこの上ない。仮に「基準値以下なら蓄積することなく、全く無害である」と主張するのなら、国の補助金など使わず、無害だと主張する東電はじめ原発関連企業や経産省の食堂で毎日提供すればよいだろう。処理水排出期間中、それを続けても他の国民と比較して癌や心疾患の発生率に有為の差がなければ無害だったと言える。なお、魚介類は、人間と違って超多産多死で生存期間が短いため、抵抗力のある個体だけが生き残り、蓄積も少ない。そのため、処理水を流しても平気な魚介類がいるからといって、人間もそうとは限らない。
 このような中、中国電力と関西電力は、*4-4-2のように、山口県上関町に「中間貯蔵施設」建設を検討し始め、2011年のフクイチ事故後に原発建設が中断して財政逼迫している上関町と6基が稼働して使用済核燃料貯蔵プールが5~7年でいっぱいになる関電との思惑が一致し、経産省も政府の方針に沿ったものであることを示唆しているそうだ。つまり、原発を立地すれば国の交付金などの原発マネーが入り、使用済核燃料の中間貯蔵や最終処分にも税金を使うのだ。しかし、四国沖の広い領域で南海トラフ地震が予想されているのに、活断層そのものである瀬戸内海の入り口にあたる上関町に原発関連施設を作るというのは安全性に疑問があり、町が10年持たないのなら周辺市町村と合併して地域振興を考えるのが町民や国民に迷惑をかけない方法だ。なお、空冷式であれば温排水は出ないが、その熱は空気中に発散するのである。


    2023.8.7毎日新聞          埼玉県汗        上関町

(図の説明:左図のように、地球温暖化によって猛暑や豪雨の頻度が上がり、中央の図のような対応策が考えられている。そのような中、原発は地球温暖化対策の解にはならず、右図の山口県上関町は原発の立地だけでなく、中間貯蔵施設の立地でさえ危ない場所である)

*4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/268361 (東京新聞 2023年8月7日) <熱中症予報・7日>「危険」は東京都心、さいたま、千葉、横浜、水戸、静岡 「厳重警戒」は宇都宮と前橋
 首都圏では7日、熱中症について、東京都心とさいたま、千葉、横浜、水戸、静岡の各市で「危険」、宇都宮、前橋の両市で「厳重警戒」と予測されている。「危険」は「外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。運動は原則中止」とされ、高齢者の熱中症は「安静状態でも発生する危険性が大きい」と警告されている。各地の熱中症予報は、本紙が前日夜に環境省熱中症予防情報サイトを確認し、時間帯別の暑さ指数のうちで最も高い水準を選んだ。予測は定期的に修正され、情報サイトで公開されている。
◆予防には冷房、水分・塩分補給、休憩を
 熱中症は、汗をかくなどの体温の調整機能のバランスが崩れ、どんどん身体に熱が溜まってしまう状態で、最悪の場合、死に至る。気温や湿度が高いときや、脱水、二日酔いや寝不足、激しい運動などによって引き起こされる恐れがある。予防には、暑い場所を避け、水分・塩分をこまめに補給し、積極的に休憩をすることが大切だ。屋内で熱中症になるケースも多いため、エアコンで十分に室内を涼しくすることが重要。省エネとの両立では設定温度は28度が目安になるが、状況次第では実際の室温が28度まで下がらないこともある。室温を測りながら、体調に合わせて快適な温度まで下げることが望ましい。
◆極端な高温、背景に地球温暖化
 熱中症の発症リスクは35度以上の猛暑で特に高まる。地球温暖化によって極端な高温の起きやすさや深刻さは増している。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年に公表した最新の評価報告書では、人間の活動によって起きた気候変動で、極端な高温の頻度や強度が増加してきたとの見方が示されている。発電所や車、工場などあらゆる分野で温室効果ガスを出し続けてきたことの影響が既に現れているという。日本では、熱中症による死亡が1000人を超えた2018年7月の記録的な猛暑について、気象庁気象研究所などの研究チームは、温暖化の影響がなかった場合に発生した確率は「ほぼ0%」と推定。世界の気温上昇を1.5度に抑える国際的な目標を達成しても、日本の猛暑日の観測は今の約1.4倍になると予測した。

*4-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/265526 (東京新聞 2023年7月26日) 原発再稼働費を消費者が負担 電気料金で新電力と契約でも
 経済産業省は26日、電力会社が既存原発の再稼働のために投じた巨額の安全対策費を、電気料金を通じて消費者から回収できるようにする制度の導入を検討すると明らかにした。脱炭素に貢献する発電所の新設を支援する制度の対象に、既存原発を加える。導入されれば、再生可能エネルギー由来を売りにする新電力と契約している消費者も、再稼働費用を負担することになる。政府は2月、原発の「最大限活用」を盛り込んだ、脱炭素化に向けた基本方針を決定。5月に改正した原子力基本法は、原発事業者が安全投資と安定的な事業ができる環境を整備する施策を、国が講じるとした。制度は「長期脱炭素電源オークション」で、脱炭素化と電力安定供給の両立を目指し、来年1月に導入する。電力小売事業者から拠出金として集めたお金を発電事業者に分配し、運転開始から20年間の収入を保証することで、投資を促す。再生可能エネルギーや、CO2の排出を新技術でゼロにする火力発電所のほか、原発の新設や建て替えなどを対象としている。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230727&ng=DGKKZO73083220W3A720C2EP0000 (日経新聞 2023.7.27) 経産省、原発安全対策費を支援 再稼働後押し 原資は電気代
 経済産業省は26日の有識者会議で、原子力発電所の再稼働に欠かせない安全対策費の支援策を検討する方針を示した。温暖化ガスの排出削減につながる新規の発電所への支援制度の対象に追加する方向だ。電力会社の巨額負担を減らし、政府が目指す原発の活用促進につなげる。政府は2024年1月に、原則20年にわたって電力会社などに固定収入を保証する「長期脱炭素電源オークション」という新制度を始める。これまで支援対象を水素やアンモニアを燃料に使う火力発電所や大規模蓄電池、新設・建て替えの原発などと定めていた。経産省は26日に開いた会合で、この対象に既存の原発を含めることを検討する方針を示した。実現すれば、大手電力が進める原発の再稼働に向けた安全対策費用の負担が減る。原発の安全対策費は電力11社の総額で5兆円超が必要とされる。例えば関西電力は安全対策に1兆円程度かかるとみており事業者にとって巨額の費用負担がのしかかる。こうした支援の原資は電力の小売会社から集める。国の認可法人の電力広域的運営推進機関がオークションを開いて小売りから資金を集め、発電企業に配る仕組みだ。電力会社が消費者の電気料金を通じて捻出する仕組みが想定される。結果として、幅広い利用者が再稼働の費用を負担することになる。6月には東電など大手電力7社が家庭向け電気料金を値上げしたが、さらなる負担増につながる可能性がある。再生可能エネルギーの導入が進むなか、火力発電所は再エネのバックアップとしての役割が強まっている。ただ火力の採算性は悪化しており、将来供給力が不足する恐れがあった。経産省は必要な電源投資が不足しかねないとの問題意識から、支援対象の拡大を目指す。岸田政権は原発再稼働を掲げているが、現在までの再稼働実績は10基にとどまる。資源エネルギー庁によると30年度に原発で電源の2割程度をまかなう目標の達成には少なくともさらに15基の再稼働が欠かせず、ペースを加速する必要がある。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15704188.html (朝日新聞社説 2023年7月31日) 高浜原発稼働 不安と疑問、抱えたまま
 1974年に運転を始めた関西電力高浜原発1号機(福井県高浜町)が、12年ぶりに動き出した。「原則40年」の運転期間を延長しての再稼働であり、事故時の避難計画の実効性や、使用済み核燃料の扱いなど、重い課題は残ったままだ。不安と疑問を禁じ得ない。高浜1号機は、定期検査中に東日本大震災が起き、運転停止が続いた。東京電力福島第一原発事故を踏まえて原発の運転は原則40年とされ、「1回だけ最長20年延長可」の例外規定が設けられた。高浜1号機にもこれが適用され、原子力規制委員会の審査を経て、16年に延長が認可されていた。だが、半世紀前につくられた原発は設計自体が古い。原子炉の停止期間を含め、コンクリートやケーブルの劣化も懸念される。40年ルールには、原発依存度を低下させることに加え、そうした老朽化に伴うリスクを減らす意味もあったはずだ。しかし、政府は20年延長の例外規定を次々と適用してきたうえに、前国会の法改正では60年を超える運転を可能にし、ルール自体を形骸化させている。事故の教訓を投げ捨てる姿勢と言わざるをえない。「原発復権」の中での再稼働は、老朽化以外にも様々な未解決の難題を突きつける。高浜原発がある福井県の若狭湾沿いは、関電の大飯、美浜両原発、日本原電の敦賀原発も立地する「原発銀座」だ。事故の想定と対応は複雑になる。地形上も避難路が限られるなかで、計画通りに退避できるのか。住民の不安は根強い。「発電後」の問題もある。関電は福井県に対し、県内3原発にたまり続ける使用済み核燃料について、県外に中間貯蔵施設を確保すると約束してきた。最終的に今年末を期限としたが、候補地のメドが立っていなかった。ところが関電は先月、高浜原発分の一部を再処理工場があるフランスに搬出すると公表し、それをもって「約束はひとまず果たされた」と説明した。だが、この搬出分は3原発にある総量の5%に過ぎず、関電の詭弁(きべん)に驚く。県民から反発がでるのも当然だ。しかも、関電は9月にも高浜2号機を再稼働する。さらに同3・4号機の20年間の運転延長も申請中だ。無責任と言うしかない。問題の構図は、すべての原発に共通する。背景には、使用済み燃料を再処理する核燃料サイクル政策の行き詰まりがある。さらに、最後に残る高レベル放射性廃棄物などの最終処分場の確保も見通せていない。電力業界と政府は、高浜原発が示す現状を直視すべきだ。

*4-4-1:https://mainichi.jp/articles/20211126/k00/00m/040/252000c (毎日新聞 2021/11/26) 福島第1原発処理水 海洋放出の風評対策に300億円 補正予算案
 東京電力福島第1原発でたまり続ける処理水の海洋放出を巡り、経済産業省は26日、水産物の風評被害に対応する基金のために、2021年度補正予算案に300億円を計上すると発表した。水産物の販路の拡大などを支援する。原発事故による風評被害への対策に国費が投入されることになる。政府と東電は23年春から処理水を海に流す方針を示している。経産省は、補正予算案が成立すれば、基金の管理や運営を担う団体を公募し、22年3月までに基金を創設したい考えだ。基金の事業では処理水の海洋放出に伴う風評被害が起きた場合、漁協などがサバやイワシなど冷凍しても市場価格が落ちにくい水産物を買い取って冷凍保管し、市況が回復してから販売することを想定している。その際、冷凍保管にかかる費用や買い取り資金を借りた場合の利子を補助する。一方、マダイやヒラメといった冷凍に向かない水産物では、ネット販売にかかる経費を助成したり、企業の食堂で提供するのに補助金を出したりすることなどを検討している。基金の対象は福島県産だけでなく、全国の水産物になる。経産省は、基金の費用を22年度の当初予算に計上する方針だったが、放出前から風評被害が生じる可能性があることから、前倒しした。風評被害による損害そのものへの賠償は、東電が別の制度で実施する。経産省の担当者は「基金の運用益だけで事業が回るとは想定していない。政府には風評の影響に対応する責務があり、国費を投入することになる」と説明する。処理水の放出には30~40年かかるとみられており、経産省は基金の残高が不足すれば追加の拠出も検討する。一方、漁業関係者らは、海洋放出に反対している。

*4-4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASR826R2LR82PLFA00G.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2023年8月2日) 背水の関西電力、「原発マネー」に頼る町 両者を結んだ中国電力
 中国電力と関西電力が共同で山口県上関(かみのせき)町で検討をはじめた「中間貯蔵施設」の建設。施設確保に苦戦する関電、財政が逼迫(ひっぱく)する町など、それぞれの思惑がうずまく。一方、国が描く核燃料サイクルにとっては、急場しのぎの面も垣間見える。中国電が関電と中間貯蔵施設の共同開発に踏み切ったのはなぜか。「事業者間でしっかり連携してほしいということは、国もずっと言い続けていることだ」。原発政策を担う経済産業省の幹部は、今回の動きが政府の方針に沿ったものであることを示唆する。原発を保有する大手電力はそれぞれ使用済み燃料の保管場所を確保する必要がある。だが、中間貯蔵施設をつくるには地元との調整や費用など課題が多い。用地確保は特にハードルが高い。「全国にそう何個もつくれるわけがない」(同幹部)ため、政府は共同利用するなど融通策をとるよう促してきた。大手電力でつくる電気事業連合会も「事業者間の連携・協力をより一層強化する」との方針を掲げている。複数の関係者は、こうした背景に加えて、中国電と関電の利害が一致したとも指摘する。中国電は大手電力の中でも経営規模は中位。中間貯蔵施設を単独で建設し、運営するのは「財務面で難しい」(大手電力関係者)ともされる。隣接地域の九州電力や四国電力と組もうにも、両社は自前で原発敷地内に貯蔵場所を確保している。一方の関電は、経営規模が売上高ベースで中国電の倍以上。福島第一原発事故で事実上国有化されている東京電力に代わって、電力業界の盟主となったが、中間貯蔵施設の確保に苦戦していた。施設の規模は未定だが、中国電は、関電の使用済み核燃料の貯蔵量の方が多くなることも「可能性としてはある」とする。6基が稼働している関電の原発では、使用済み核燃料を貯蔵する原発内のプールがあと5~7年でいっぱいになる見通しだ。関電は2030年ごろに2千トン規模の中間貯蔵施設の確保を目指すが、実現の糸口はつかめていなかった。「確保できていないとあふれる。貯蔵しきれない、というわけにいかない」。ある関電幹部は、差し迫った状況をこう語る。関電は自社の3原発が立地する福井県に対して、県外に中間貯蔵の施設を確保すると約束してきたが、先送りを繰り返してきた。21年には約束の「最終期限」を23年末とし、守れなければ、稼働中の美浜3号機と高浜1号機、9月にも再稼働予定の同2号機の計3基を運転しないとする方針を示した。背水の関電は6月、高浜原発で出た使用済み核燃料のごく一部をフランスへ搬出すると表明。関電側は「約束はひとまず果たされた」との認識を示した。しかし、約束が果たされたかどうかの「ボール」は福井県側の手中にある。県議会では「詭弁(きべん)だ」「小ばかにしている」と反発が広がった。杉本達治知事は「総合的に判断したい」と態度を留保している。知事の判断次第では、ようやく再稼働にめどをつけた原発3基を止めざるを得なくなる。関電は上関町の中間貯蔵施設について、調査前であることなどから「まだ正式に中間貯蔵の計画地といえるものではない」とする。保守系のベテラン県議は「候補地に手を挙げてくれればありがたい」と取材に述べた。一方、杉本知事はこの日、記者団の取材は受けないと回答した。(岩沢志気、小田健司、吉田貴司)
●原発マネーに期待した上関町の財政逼迫
 中間貯蔵施設を町内に建設する計画を提案された山口県上関町。報道陣の取材に応じた西哲夫町長は、「町議会の判断を仰ぎたい」と受け入れの是非の明言は避けたが、前向きな姿勢は随所ににじんだ。「このまま何もせずに町が10年もつかと言ったら相当厳しい」「交付金や固定資産税が入れば、町の財政が安定するのは間違いない」「安心できる施設だと思う」。そもそも、この日の中国電幹部の町訪問のきっかけを作ったのは、町側だ。町では、1982年に上関原発の計画が浮上し、2009年に中国電が敷地造成などの準備工事に着手。だが、11年の東京電力福島第一原発事故後、建設は中断した。町税収入が2億円に満たず、国の交付金や関連税収など「原発マネー」に期待していた町の財政は逼迫(ひっぱく)した。昨年12月、西町長は中国電力幹部に着工の見通しを尋ねたが、今年2月の返答は「現時点で着工の見通しは立っていない」だった。「原子力が1ミリも前に進まず、町を生かさず殺さずの状態でええんか」。こう考えていた西町長は今年2月、西村康稔経済産業相と面会。上関原発の建設について「早く目鼻をつけてほしい」と求め、交付金の増額を要望した。西村経産相は「上関町には長年ご迷惑をおかけしている。重く受けとめている」と語ったが、原発建設が進む確約は得られなかった。そうした中で、西町長が頼ったのが中国電だった。今年2月、中国電に新たな地域振興策を要請。この日がその「回答」だった。地域振興策として、中間貯蔵施設を提案されたことに、西町長に驚きはなかった。実は、かつて町側にも誘致案があったからだ。「中間貯蔵施設を選択肢の一つとして考えたい。議員も勉強しておいてもらえんか」。19年、当時の柏原重海町長が町議らに伝えた。当時、町議長だった西町長らは使用済み核燃料が乾式貯蔵される日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)を視察した。「よその核燃料を受け入れるなんてとんでもない」。視察前、原発推進の議員らの間にも否定的な見方があったが、貯蔵施設を見て「なんだ、倉庫じゃないか」と懸念が消えたという。中間貯蔵施設の核燃料は空冷式のため温排水も出ない、との説明も受けた。「まさしく百聞は一見にしかず」と、西氏は当時の柏原町長に報告していた。この40年で人口が3分の1ほどの2310人に減り、高齢化率が6割に迫る町は、中国電に何度も頼ってきた。中国電は07~10年度に24億円、震災後の18年に8億円、19年に4億円を町に寄付している。一方、中国電の経営は急速に悪化している。同社は火力発電に大きく依存しており、ウクライナ危機や円安による燃料費高騰などで赤字を計上。カルテル問題も重なり、町への寄付金や支援は見こめない状況だ。中間貯蔵施設を建設する自治体には、建設に向けた調査段階から交付金が出る。調査から知事の同意まで最大で年1・4億円、知事の同意後の2年間は最大で年9・8億円だ。建設や運転段階では貯蔵量などに応じて交付金が出る。ある町議は言う。「中間貯蔵施設なら、まだ原発をあきらめていないという理屈も成り立つし、国の交付金や核燃料税による財源も確保できる。中国電も町も、良い落としどころを見つけたということではないか」。ただ、原発計画の賛否を巡る対立は40年超に及び、中間貯蔵施設への激しい反対運動も予想される。2日朝、町役場前で中国電幹部の進入を阻止しようと住民らが集まり、「町の分断を続けるのか」と訴えた。

<高レベル放射性廃棄物の最終処分場について>
PS(2023年8月16日追加):原発の使用済核燃料から出る高レベル放射性廃棄物は、最終処分場で地層処分(人間の管理に委ねなくて済むよう地下深くの安定した岩盤に閉じ込めて人間の生活環境から隔離して処分すること)になっており、日本では「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」で地表から300メートル以上深い地層に処分すると定められている(https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/hlw/hlw01.html 参照)。
 そして、現在、最終処分場はなく、文献調査の候補地になるだけで最大20億円の交付金が国から入るため、*5の長崎県対馬市などのように、①土建業等の4団体が文献調査の推進を求める請願を市議会に提出し ②市民団体・漁協が出した反対の請願は不採択になり ③市議会特別委員会が国の「文献調査」を推進する請願を賛成多数で採択して市長に国に応募するよう迫ったりしている。市長は、これまで文献調査について慎重な姿勢を崩さず、「手をあげて『20億円もらったからもうやめる』という考えはない」と定例議会で述べていたが、④政府やNUMOは歓迎し ⑤岸田政権は「核のごみ」最終処分場の選定に全面関与する方針を打ち出し ⑥改正原子力基本法は「国が地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛けをする」と明記し ⑦経産省幹部は「北海道の寿都町と神恵内村に加えて対馬でも一歩進んだのは大きく、この動きが他の自治体にも広がってくれればいい」とし ⑧NUMO関係者は「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか。国家のエネルギー政策は重い。『入り口』である文献調査は受け入れるべきではないか」と言っているそうだ。
 しかし、①の文献調査候補地になっただけで最大20億円の交付金をもらえるというのは、原発がいかに高コストかを示しており、②の土建業の積極性も国からの文献調査費や最終処分場建設費の流れが明らかだ。しかし、対馬市は対馬海峡の流れの速さに鍛えられた魚が美味しく、養殖マグロも肉質がよくて美味しいと高評価を得ている地域であり(https://nagasaki-keizai.jp/report/report-report/1270 参照)、国境離島でもある。そのため、ここに高レベル放射性廃棄物の最終処分場を作ることは、地域の長所を打ち消すと同時に、セキュリティー上も問題が多いのである。従って、④⑤⑥⑦は税金を無駄遣いしながら地域資源を台無しにする行為であり、予算も人材も不足している食料自給率の小さな国で税金を使うのなら、このような無駄遣いではなく活きた使い方をすべきなのである。活きた使い方とは、例えば再エネ開発や送電線の敷設、漁業・観光の振興であって、間違ってもそれを邪魔する行為ではない。
 なお、最終処分場は、国境離島ではない無人島で既に施設のある場所(例えば「軍艦島」など)もしくは排他的経済水域内の数千m以上の深海などが安価でかつ必要な条件を満たしているが、それを可能にするためには、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」で地表から300メートル以上深い地層に処分するという規定を、まず変更する必要があるだろう。

*5:https://digital.asahi.com/articles/ASR8J5645R8JTIPE00L.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2023年8月16日) 核のごみを問う、長崎・対馬市議会、「核のごみ」最終処分場の調査「推進」請願を採択
 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場をめぐり、長崎県の対馬市議会特別委員会は16日、国の選定プロセスの第1段階「文献調査」を推進する請願を賛成多数で採択した。市議会が比田勝尚喜市長に対し、国に応募するよう迫った形だ。北海道2町村に続く応募自治体となるか、注目される。特別委では、土建業などの4団体が6月に議会に提出した、文献調査の推進を求める請願について採決し、9票対7票の賛成多数で採択した。風評被害などを懸念する漁協などが出した、反対の請願は不採択となった。最終処分場の選定プロセスは3段階あり、文献調査は過去の論文などから処分場の候補地にふさわしいかを調べる。応募した自治体には、約2年間で最大20億円の交付金が国から入る。対馬市は人口減が進み、基幹産業の漁業や土建業は衰退が続く。このため、地元経済界などから、交付金がもらえる文献調査への応募を求める声が上がった。これに対し、市民団体や漁協が反対の請願を6件出して対抗するなど、島を二分する事態に陥っていた。今後の焦点は、比田勝市長の判断に移る。文献調査は、市長が応募を決めなければ始まらないからだ。市議会は9月12日に開会予定の定例会で、正式に推進の請願を採択する見通し。市長は16日、「特別委での議論・採決を踏まえて、さらに熟慮する」とコメントするにとどまった。早ければ9月議会で判断を示すとみられる。市長はこれまで文献調査について慎重な姿勢を崩していない。5月の定例会見で「手をあげて『20億円もらったからもうやめる』という考えはない」と述べていた。一方で、6月の市議会一般質問では「市議会での議論や市民の意見を参考にして判断する」と語った。
●NUMOは歓迎
 一方、今回の結果について、政府や処分場計画を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)は歓迎する。岸田政権は「核のごみ」最終処分場の選定に全面関与する方針を打ち出している。5月末に成立した改正原子力基本法では、国が「地方公共団体その他の関係者に対する主体的な働き掛け」をすると明記された。経済産業省幹部は「(すでに文献調査を受け入れている)北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村に加えて、対馬でも一歩進んだのは大きい。この動きが他の自治体にも広がってくれればいい」と話す。ただ、対馬市については世論が二分していることから、「まずは地域で丁寧に議論を深めていただくのが重要」(西村康稔経産相)との姿勢を保ってきた。NUMO関係者は、市議会特別委の結論を強調し、「これで市長が反対したら、請願で示された『民意』はどうなるのか。国家のエネルギー政策は重い。『入り口』である文献調査は受け入れるべきではないか」と話す。

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2023.6.5~28 G7と先進技術・環境・エネルギー・農業・核問題から (2023年7月2、4日に追加あり)
(1)先進技術の導入と国の財源のひねりだし
1)少子化対策について

  
 2023.3.31東京新聞      2023.5.24佐賀新聞    2023.6.1東京新聞

(図の説明:左図が今後3年間で取り組む主な子育て政策だそうで、大切なものも多いが、整理すべき項目も少なくない。また、中央の図の児童手当拡充では第3子以降の金額が加算されているが、これは不要で、全員の義務教育無償化や公立大学の授業料減額に充てた方がよいと思う。一方、高齢者の医療費・介護費に関して自己負担割合を増やしたり、介護保険の給付やサービスを抑制したりするのは、マクロ経済スライドと称して年金支給額は下げ、一方で介護保険料は上げていることを考慮すれば、明確な高齢者いじめとなっている)

 政府は、*1-1-1のように、こども未来戦略会議で「こども未来戦略方針」の素案を示し、①児童手当は親の所得にかかわらず、子が高校を卒業するまで受け取れるようにする ②3歳~高校生まで一律1万円で、第3子以降は0歳から高校生まで3万円支給する ③2024年度中の実施をめざし予算は2024年度からの3年間に年3兆円台半ば ④予算倍増時期は、こども家庭庁予算を基準に2030年代初頭までの実現をめざし ⑤予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵する ⑥16歳以上の子を養育する世帯主が受けられる扶養控除は給付との兼ね合いが検討課題 ⑦親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度」を創設し ⑧夫婦とも育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げて育児休業給付金も増やす 等としている。

 このうち①②は、児童手当を配るなら「親の所得にかかわらず0歳~高校卒業まで」とするのが公平だが、「第3子以降は3万円支給」は「生めよ増やせよ論」であるため不要で、もしそこまで予算が余っているのなら、国民負担を増やさず他に使えばよいだろう。

 また、③④の「年3兆円台半ば」というのも、イ)子を産み育てるためのネックは何か ロ)本当に子育てを支援するには何が必要か ハ)その支援でどういう効果があるか 等の吟味が行われておらず、「始めに額ありき」で無駄遣いが多くなりそうだ。

 そして、⑤のように、少子化対策の予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵するそうだが、年齢を問わず人を大切にするのではない哲学とその哲学に基づく日本の政策はスウェーデンとは全く異なる。

 ⑥については、「高校生の子を養育する世帯主が児童手当の給付を受けても扶養控除をなくすべきでない」という意見が多いが、これは所得税の計算方法を知らないか、欲の皮が突っ張りすぎているかであるため、所得税の計算方法を把握してからコメントすべきだ。

 また、⑦の「希望する親が就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる」のは当然のことだ。何故なら、幼な子を持つ親は、そのインフラがなければ、一日中子と向き合って家に引きこもっていなければならず、買い物にも行けず、就職活動もできないため、社会的動物である普通の人なら欝になるのが当たり前だからである。

 しかし、⑧については、夫婦一緒に育休を取得する必要はなく、28日程度の短期間の育休をとっても、その間に子が成長して手がかからなくなるわけではないため、現行の育児休業制度に関して取得状況や取得による効果を検証し、本当に必要な支援に集中する必要があろう。

2)少子化対策の財源について
 *1-1-2は、①政府は「異次元の少子化対策」の財源は示さず「年末までに結論を出す」とした ②医療保険料の上乗せ(年1兆円程度)や社会保障費の歳出削減(年1兆円強)を検討中 ③医療・介護を利用する高齢者の負担増 ④消費税増税は否定し、安定財源は2028年度までに確保、その間「こども特例公債」を発行 ⑤診療報酬・介護報酬抑制は医療・介護の人材不足に拍車をかけ、「医療・介護が崩壊する」との反発もある ⑥財政制度等審議会は「後期高齢者医療費窓口負担の原則2割化」「介護保険2割負担の範囲拡大」を提案 ⑦高校生扶養控除(現行16〜18歳の子1人につき所得額から38万円控除)の見直し方によっては児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性 ⑧2010年に中学生までの子ども手当創設に合わせて15歳以下の扶養控除は廃止 等を記載している。

 ⑦⑧については、毎月1万円(年間12万円)の児童手当は所得税率31.6%(=12万円/38万円)以上の人ならもらう額より手取り減の方が大きいが、所得税率を31.6%以上支払う人というのは、その他の所得控除額を差し引いた後で所得が900万円以上(所得税率33%)残る人である。一方、配偶者控除は、1000万円以上の人は0になるため、900万円以上あっても児童手当をもらえるならよしとすべきである。そして、900万円以下の人なら手取りの減少額がもらう額より小さいため、児童手当の目的に合っているのだ。

 しかし、②③⑥のように、総額だけを見てめくらめっぽう社会保障費を削減するやり方では、ただでさえ所得が少なくて生活の限界に達している高齢者にさらなる負担増・給付減を強いる上、⑤の診療報酬・介護報酬の抑制が医療・介護の人材不足に拍車をかけて医療・介護の崩壊に繋がることはコロナ禍で既に明確になっているため、ゆとりを増やすことはあっても減らすことがあってはならないのである。

 このような中、④のように、安定財源には消費税増税しか思いつかない“有識者”や新聞が多いため、まず新聞にも消費税をかけるべきである。そして、発行した「こども特例公債」の返済には、以下に述べるような人を幸せにしながら行う歳出改革や税外収入の確保が必要である。

3)医療改革
イ)ゲノム創薬と治療
 厚労省は、*1-2-1・*1-2-2のように、①約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積し ②蓄積したデータを一元管理し ③個人情報を保護しながら産業界や学術界が幅広く利用できるようにし ④創薬・難病診断・癌治療に繋げ ⑤産学共同事業体に参画する組織に利用資格を持たせ ⑥企業からはデータ利用料を取り、研究機関や大学は無料として ⑦得た知見を協力した医療機関とも共有し ⑧創薬等を通じて研究成果を癌や難病患者の治療に生かし ⑨1人1人の遺伝的特徴や体質に合わせて病気を治療できるようにし、早期発見や予防も可能にして、世界最高水準のゲノム医療を実現させ ⑩ゲノム情報の保護は十分に図られ、不当な差別が行われないようにすることを理念に掲げて 新組織を設立するそうだ。

 このうち、①の約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積するのは、各国で行って現生人類のゲノムの分布状況がわかれば、人類の発祥・交雑・移動・感染症耐性等を、科学的・定量的に把握することが可能になり、創薬・診断・治療だけでなく人類史の研究にも非常に役立つ。

 しかし、②のように、厚労省がデータを一元管理し、③⑤⑥⑦のように、産業界・学術界・協力医療機関等に幅広く利用させるのは、ゲノムという個人情報の利用が主目的と思われ、④⑧⑨の創薬・難病診断・癌治療はそのための建前のように見える。

 何故なら、ロ)のように、アクセスできる情報量が2倍になれば誤謬発生のリスクは2乗になるのに、あまり訓練しておらず、守秘義務も理解していない人にデータをインプットさせるなど、かなりのリスクを無視して保険証とマイナンバーカードの1本化を急いでおり、そのやり方には、⑩のような、医療情報やゲノム情報を通じた差別を禁じ、人権を大切にする発想が全く見られないからである。

 また、癌治療を例にとれば、本当に副作用が少なく治癒可能な治療を目指せば、いつまでも放射線治療や薬物療法(化学療法)を「標準治療」とするのではなく、速やかに免疫療法を「標準治療」としてその薬剤の安価な製造を推進すればよいのに、いつまでも著しい副作用を持つ薬物療法を「標準治療」として、多くの患者や家族に避け得べき苦痛を与えているからである。

 さらに、新型コロナ感染症の例では、日本はワクチンすら作れず、抗ウイルス薬ができても厚労省が承認せず、経済に打撃を与えるまで国民を引きこもらせて運動不足にし、精神的苦痛も与えて高齢者の死亡を増やしたが、これらは人権を大切にする発想からかけ離れているのだ。

ロ)健康保険証とマイナンバーカードの一本化は高リスク
 日本政府は、*1-2-3のように、「行政のデジタル化を進める」として、改正マイナンバー法を成立させ、2024年秋に現行の健康保険証を廃止する予定だそうだが、マイナンバーカードと保険証を一体化すれば、それだけ不正・誤謬の入り込む確率が上がる。つまり、本人にとって便利なことは、どういう動機を持っている人にとっても便利であるため、健康保険証とマイナンバーカードは別々にデジタル化を進めるのが無難なのだ。

 そして、「行政のデジタル化」は、マイナンバーカードで進め、「医療・介護のデジタル化」は、よく訓練を受けて守秘義務も理解している専門家だけがアクセスできる保険証(デジタルでよい)を使って分けるのがよいと思う。

4)再エネの先端技術
イ)ペロブスカイト型太陽電池について


             すべて2023.4.3日経新聞

(図の説明:ペロブスカイト型太陽電池は、左図のように、コストが安くてビルの壁面等々いろいろな場所に設置できるため、中央の図のように、実用化を進めている企業が多い。また、右図のように、世界市場は急拡大する予想だ)

 日経新聞は、*1-3-1で、①太陽光・風力・水素・原子力・CO2回収の5つの分野で注目される11の脱炭素技術の普及時期を検証 ②G7気候・エネルギー・環境相会合は浮体式洋上風力発電と並び「ペロブスカイト太陽電池等の革新的技術の開発推進」と共同声明に記した ③ペロブスカイト型は薄く、軽く、曲げられ、壁面や車の屋根にも設置できる ④材料を塗って乾かす簡単な製造工程なので価格は半額にできる ⑤ペロブスカイト型の2030年の設置可能面積は東京ドーム1万個分、発電能力600万キロワット(原発6基分) ⑥日本発の技術だが量産で先行したのは中国企業 ⑦基礎的部分の特許を国内でしか取得しなかったので、海外勢は特許使用料を払う必要がない ⑧従来の太陽光パネルも開発・実用化で先行したのは京セラ・シャープの日本勢で一時は世界の50%のシェアを持ったが、国等から補助を受けた中国企業が低価格で量産し市場の8割超を握って日本勢の多くは撤退した 等と記載している。

 このうち、①②③④⑤⑥は事実だろうが、⑦は、「特許を国内でしか取得しなかった」という点で、あまりに価値がわからず、世界で売るつもりもなかったと言わざるを得ない。何故なら、この状況なら、日本企業であっても、ペロブスカイト型太陽電池は国内ではなく海外子会社で製造した方が有利で、⑧ともども、せっかく機器を製造してエネルギーを自給できるチャンスだったのに、自らそのチャンスを投げすてているからである。

 しかし、ビルや住宅に取り付けて太陽光発電し、都市自体を仮想発電所にするには、ペロブスカイト型太陽電池は重要なアイテムになるため、安価で良いものができれば外国製でも買わざるを得ず、日本の技術はここでも置いてきぼりになりそうだ。そして、この調子では、財源をひねり出せそうにないのである。

ロ)蓄電池について
 *1-3-2は、①一般家庭が1ヵ月に使う電気200万戸超の太陽光発電電力(石油火力発電換算で200億円分)が使われず捨てられ ②九電は今年度、出力制御で受け入れない電力が最大7億4000万kwhに達すると発表 ③蓄電池に電気を溜め、電気が必要となる時間帯や市場で高く売れる時間帯に放電する取り組みが始まった ④住友商事は北海道千歳市で約700台のEV電池を使って大型蓄電所として北電の送電網に接続する ⑤トヨタは東電HDと提携し、新品EV電池を大型蓄電システム化して送電網に繋ぎ、再エネ電力を有効活用する実証を始める ⑥NTTは再エネ電源を確保するため、その電力子会社がJERAと再エネ会社を3000億円で買収する ⑦4月のG7環境大臣会合で、2035年に温暖化ガスを2019年比60%削減が確認され、異次元の再エネ導入に踏み込まないと達成不可能な数字 ⑧日本のEVは昨年やっと新車販売の2%に達したが、日本全体が保有する自動車のわずか0.25% ⑨EVグリッドは燃料費のかからない究極の国産エネルギー、再エネを限りなく無料に近づける挑戦 等と記載している。

 このうち①②は事実だろうが、まだ解決せずに同じことを言っているのが呆れるのである。また、③④⑤⑥のように、蓄電池に電気を溜めて必要な時間に放電するのは、太陽光発電を導入した当初から言っていた当たり前のことなのに、⑦のように、今年のG7環境大臣会合の結果としての異次元の再エネ導入として、今頃あわてているのはむしろ驚きだ。

 また、⑧のEVも、2000年代前半には実用化され市場投入もされていたのに、散々、EV普及の足を引っ張った挙句、まだ「日本の普及率は自動車全体の0.25%しかない」等と言い、今頃になって⑨のようなことを言っているのは恥ずかしくないのかと思う。今なら、「EVには蓄電池だけでなく、ペロブスカイト型太陽電池をモダンに搭載して、発電しながら走るEVに」と言うのが、やるべきことであろう。

 *1-3-3は、⑩南オーストラリア州は再エネ普及で世界の先頭を走り ⑪太陽光・風力の発電量は州の年間需要157億kwhの約6割に相当し、2030年にすべての需要を賄って2050年には需要の5倍の供給能力を備えて輸出を見据える ⑫米テスラ等の蓄電大手が商機とみて同州に相次ぎ進出し、再エネ・蓄電池関連投資は60億豪ドル(約5500億円)超 ⑬日本で再エネ90%、残り10%を水素火力発電で補う場合、蓄電池が大量に必要で蓄電池が現在の価格なら日本の発電コストは2倍になる ⑭IEAは世界の脱炭素シナリオも2050年の再エネ比率を8~9割とみる ⑮電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギ ⑯有望なのはEVの活用で ⑰シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは岩石を熱してエネルギーをためる技術を開発し、コストを従来の蓄電池の1/5にした ⑱蓄電コストをどこまで下げられるか、脱炭素時代の電力は蓄電を制するものが覇者となる と記載している。

 このうち、⑩⑪⑫は、日本の農林漁業地域でも全く同じことができ、オーストラリアより前からそう言っていたのに、「日本には適地が少ない」「日本には国産エネルギーはない」等々の変な理屈を重ねて変革しなかったことが他国より遅れた原因であるため、こういうことを言っていた人は、重大な責任を感じるべきなのである。

 また、⑬のように、日本でやると何でもコスト高で、その結果、従来のやり方を踏襲するばかりで何も進まず現在に至っているが、コストを下げるのは工夫次第で、例えば、大量の蓄電池が必要でも、i) 原料を海底から採掘して国産化したり  ii) 安価な材料に変更したり  iii) 蓄電池ではなく水素を作って保存し、水素発電でバックアップしたり など、方法は多いのだ。

 そして、その国の事情に合わせて方法を組み合わせれば、⑭のIEAの世界の脱炭素シナリオ(2050年の再エネ比率を8~9割)は容易に達成できる筈で、それこそ高コストの上に激しい公害が発生する原発の出番などはない。

 従って、⑮⑯の電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギというのは事実で、EVの活用が有望というのは一つの選択肢だが、⑰のような他の方法もあれば、水素にして保存する方法もあるため、⑱の蓄電コストは工夫次第で下げられるのだ。そして、工夫がなければ、日本がまた敗退するのも明確なことである。

ハ)列車と送電線について ← インドの列車事故から


    2023.6.3ANN      2023.6.4TBS       2023.6.5日テレ  

(図の説明:左・中央・右図のように、日本のTV各局がインドのオディシャ州で起き、275人の死者を出した列車事故について報道しており、原因は、列車の進路を制御する電子連動装置の不具合のようだ。しかし、3日たっても重機で列車を釣り上げて対応した様子がない)

 インドのアシュウィニ・ヴァイシュナヴ鉄道相が、*1-4-1のように、「インド東部オディシャ州で起きて死者275人・負傷者1175人を出した列車事故は、列車の進路を制御する電子連動装置の変更がおそらく原因だろう」との見方を示されたそうだ。

 また、インド鉄道委員会のジャヤ・ヴェルマ=シンハ氏は、「2本の旅客列車が、青信号の下、時速130kmの速度制限を守って走ってきて本線ですれ違う筈だったが、1本の急行旅客列車が誤った信号で支線に入るよう指示を受け、支線にいた貨物列車に衝突して、脱線した車両が対向線路の旅客列車に衝突して起こった」「電子連動装置に問題はなく、信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだが、事故原因調査委員会がいずれ明らかにする」とされている。

 そして、モディ首相は、「責任者を厳正に処罰する」としておられるが、広島G7サミットでクアッド首脳会合に出席した後、*1-4-2のように、南太平洋のパプアニューギニアで太平洋島しょ国首脳と会合を開き、太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に気候変動対策・食糧安全保障・デジタル技術などでの支援を打ち出して「我々は多国間で島しょ国とのパートナーシップを強化する。自由で開かれたインド太平洋を支持する」と言っておられたため、その影響で誤った信号が出されたのでなければよいがと思う。

 いずれにしても、インドの鉄道はまだ古そうなので、高架にして燃料電池列車か新幹線か超電導リニアを走らせるように、国土計画を作り直してはどうかと思われた。なお、この時、鉄道線路に沿って送電線を敷設すれば、一度の工事で地方の再エネで発電した電力を大量に使う地域に送ることができるため、日本のインフラ関係企業がこれらのアドバイスを行い、インドの若者を雇用して、インドで製造するように手配し、受注すればよいのではないだろうか?

(2)G7気候・エネルギー・環境相会合から


  2023.3.21日経新聞       2021.8.9BBC       2023.6.2日経新聞

(図の説明:左図のように、産業革命前と比較して陸地の気温は既に2度上昇しており、中央の図のように、原因は温暖化ガスの排出という人為的なものだ。そのため、世界は温暖化ガスを排出しない再エネを急拡大しているが、公害や排気ガスを排出しないという要請も当然あるのだ)


 2021.3.9中日新聞     2021.8.4Jetro        2023.2.28日経新聞

(図の説明:左図のように、2020年までの発電比率とその後の推計で、各国は著しく再エネ比率を伸ばしているが、日本だけが意図された低迷状態にある。また、中央の図の太陽光発電コストは設備容量が増えるに従って低減しており、これが装置産業の大原則だ。なお、右図のように、太陽光発電機器の種類が増えるにつれて、太陽光発電できる場所も広がる)

1)気候・エネルギー・環境相会合の全貌
 G7気候・エネルギー・環境相会合は、*2-1のように、①自動車分野の脱炭素化は2035年までに2000年比でCO₂排出量を50%削減する進捗を毎年確認することで合意したが ②欧米が求めていたEVの導入目標ではなくHVも含めた脱炭素化を目指すことになり ③石炭火力発電廃止の時期は明示せず、化石燃料のCO₂排出削減対策が取られない場合は段階的廃止で合意し ④ ⑤環境分野ではレアメタルなどの重要鉱物は、G7各国が中心となってリサイクル量を世界全体で増加させること ⑥プラスチックごみによるさらなる海洋汚染を2040年までに0にする目標が盛り込まれ ⑦西村環境大臣は「共同声明で気候変動や環境政策の方向性を示すことができ、今後はこの方向性に沿った具体的な対策を進めていくことが重要」述べられた と記載している。

 このうち①②は、世界でEVの普及が進む中、欧米各国が「EVの導入目標を定めるべきだ」と主張したのに、日本はHVが多いとして反対したり、既存のエンジン車で活用できる「合成燃料」の技術開発を強調したりしたのは、日本のガラパゴス化の始まりである。何故なら、EVの方が、部品点数が少ないため、コスト低減しながら生産性を上げ易い上に、操作性もよく、気候・エネルギー・環境のどれをとっても優れているからだ。そのため、これからはEVが世界で選択され、欧米各国が「日本は困った国だが、まあ、ご勝手に」を考えたのが目に見えるようなのだ。

 また、工場などから排出されたCO₂を原料に合成燃料を製造すれば排出量を実質0にできるともしているが、わざわざCO₂をエンジン車の合成燃料に使用して都市で排気ガスを出すより、農地・山林・農業用ハウス等に撒いた方が植物の成長がよくなることは多くの研究が示している。

 さらに、③の石炭火力発電は、段階的廃止に向けて期限を設けるのが正道であるのに、日本が「アジア各国の現状」などと称して廃止時期を明示せず、「(コストをかけて)CO₂排出削減の対策が取れない場合のみ段階的に廃止する」と主張したのは、方向が誤っている。

 再エネについては、ペロブスカイト型太陽光発電パネルを普及させるなどして原発1000基分に相当する1テラワットまで拡大させるのが、最もコストが安く、電力需要地でスマートにまとまった電力を得られる。そのため、2030年までに洋上風力発電を原発150基分に相当する150ギガワットにする必要がどこまであるのか、海の環境破壊を防止するためにも、慎重に進めた方がよいと思われた。

 EVのバッテリーや半導体材料となるリチウム・ニッケル等の重要鉱物は、中国との間で獲得競争が激しく、経済安全保障上の観点からも安定確保に向けてG7で1兆7000億円余りの財政支出を行って鉱山の共同開発などを支援するそうだが、日本政府は自国の排他的水域内にある重要鉱物や天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりして税外収入を増やそうとはせず、高いコストを支払って資源を輸入し、それによって他国との関係を保とうとしている。しかし、これは、国民を犠牲にしていると同時に、あまりに安易だ。

 しかし、「プラスチックごみは、海洋汚染を引き起こす」として2040年までに0にする目標にしたそうで、リサイクルしたり、ゴミとして回収し燃やしつつ発電もして、土壌や海洋に廃棄していないプラスチックまで禁止して国民を不便にする必要は全くないのに、自国民を犠牲にすることについては非常に積極的で、私には全く意味不明だった。

2)G7で強く打ち出された再エネへの移行
 G7広島サミットの共同声明で採択された気候変動・エネルギー分野は、*2-2-1のように、①再エネへの移行を強く打ち出し ②「パリ協定」で掲げた産業革命前からの気温上昇を1.5°に抑える目標達成に向けて太陽光発電を現在の3倍以上に増やす目標を掲げるなど世界の再エネ移行を進める土台を作り ③首脳会議でグローバルサウス(新興国・途上国)への再エネ移行支援が入ったが ④先進国はパリ協定で気候変動対策として年間1千億ドルを支援すると約束したが、果たしていない ⑤再エネのコスト低減、中国に依存するレアアース等の重要鉱物の供給網確保を示した「クリーンエネルギー経済行動計画」も別に採択した ⑥脱化石燃料では「段階的廃止」を打ち出したが、天然ガスへの公的投資を容認するなど抜け道も多い としている。

 また、*2-2-2は、⑦世界で太陽光等の再エネ導入が急拡大し ⑧IEAは2024年の再エネ発電能力が約45億kwh(2021年の化石燃料に匹敵)になる見通しを公表 ⑨再エネ発電能力は2024年に全電源の5割規模だが、火力等に比べて稼働率が劣るため実際の発電量は5割以下 ⑩再エネは24時間は発電できないが、原発4500基分 ⑪安定電源としての活用には太陽光に比べて導入が遅れる風力の拡大など電源構成の多様化と送電網整備が課題 ⑫再エネ導入は、中国・EUが牽引役で米国・インドも存在感を増す ⑬日本の出遅れは鮮明 ⑭各国は燃料を他国に依存せずに済むとみて、再エネ導入を急いだ ⑮再エネの発電は天候に左右されやすく、変動があるため、発電量の安定には火力や蓄電池を組み合わせる必要 としている。

 このうち、①②③はよいことだが、④の年間1千億ドルもの支援は、単なる金銭的援助ではなく、(1)4)ハ)で述べたインドの事例のような、再エネ移行と国土計画・鉄道・送電線の設置等を組み合わせ、最小のコストと労力でスマートに先進国に追いつく計画と助言が必要だ。

 また、⑤については、(2)1)で述べたように、日本政府も、自国の排他的水域内にある重要鉱物た天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりできるようにすべきだ。

 が、⑥のように、いつまでも化石燃料にしがみついたり、*2-2-3のように、原発にしがみついて再エネ発電事業者に対して出力制御を求めたりしているのが、日本で発明された太陽光発電や風力発電等の再エネが、⑦⑧⑨⑫⑬⑭のように、世界で急拡大し、これを中国・EUが牽引して米国・インドも存在感を増しているのに、日本が出遅れている原因そのものである。

 そして、これには⑩⑪のように、「再エネ発電は天候に左右されやすくて変動があるため、発電量の安定には火力発電を組み合わせる必要がある」「安定電源としての活用には太陽電源構成の多様化が必要」などと言って、いつまでも蓄電池や送電網の整備を行わなわず、無駄遣いのバラマキばかりしてきたことが、日本が債務残高だけはとびぬけて世界一だが、高コスト構造や生産性の低さは変えられなかった原因なのだ。

3)原発推進法とは!
イ)原発の課題は残ったまま、脱炭素も進まず
 原発は1966年に商用運転を開始して57年にもなるが、原発立地地域には、今でも国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われており、保存されている使用済核燃料には核燃料集合体1体当たり25万円程度の使用済核燃料税が支払われ、多額の原発投資による固定資産税収入もあって、これらは全て国民が負担している(https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_hyogo34/02/0224_jre/index.htm 参照)。そして、原発は、現在でも課題が多く残っており、未だ解決されていないのだ。

 このような中、安全性や経済性の問題に加え、増え続ける使用済核燃料や核燃料サイクルの失敗といった課題が解決されないまま、原発推進関連法が国会で成立し、「原発依存を減らす」から「原発を最大限活用する」に政策が大きく転換された。

 *2-3-1は、その具体的内容を、①エネルギーの安定供給と脱炭素化対応を理由に ②60年超の稼働を可能にした ③政府は原発が実際にどれだけその役割を果たせるか、なぜ原発を「特別扱い」するかについては答えず、「あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返しただけだった ④運転期間上限は導入時には「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されたが、政府は「安全規制ではなく利用政策上の判断」と主張した ⑤今回の転換は経済産業省の主導で進み ⑥フクイチ事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」も大きく揺らぎ ⑦政府は再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ と記載している。

 玄海原発立地地域の佐賀新聞は、さらに詳しく、*2-3-2のように、⑧原発推進を明確にした「GX脱炭素電源法」が成立した ⑨フクイチ事故後に導入した「原則40年、最長60年」の運転期間規定を原子炉等規制法から電気事業法に移り、運転延長を経産相が認可することで60年超の運転を可能にした ⑩原子力基本法では、原発活用による電力の安定供給や脱炭素社会の実現を新たに「国の責務」とするなど原発に関する重大な政策転換をした ⑪気候危機対策として原発に過大な投資をすることも合理的ではなく、エネルギー政策の失政の歴史にさらなる1ページを加える ⑫オープンで公正な議論を通じて見直しを進めるべきだった ⑬気候危機対策では電力の脱炭素化が急務で、多くの国がそれを進める中、大きく後れを取ってきたのが日本である ⑭1kwhの電気をつくる時に出るCO₂はG7中最大だが ⑮各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発拡大ではない ⑯日本の遅れは脱石炭・再エネ・省エネのすべてが進んでいないことが原因 ⑰原発の運転期間延長や革新的な原子炉の開発などの政府が進めようとしている原発推進策が短期間でのCO₂の大幅削減に貢献しないことは明白 ⑱多くの政策資源や資金が原子力に投入されることで、短期的な排出削減に最も効果的な再エネの拡大や省エネの推進が滞る懸念がある ⑲このままでは化石燃料への依存が続き、安価な電力の安定供給もCO₂排出削減も実現せず、早晩、政策の見直しを迫られる ⑳既得権益と前例にこだわり、正当性も科学的根拠も欠くこのような政策が、いとも簡単に通ってしまうことが日本のエネルギー政策の大きな問題 等と記載している。

 ②⑨の原発の運転期間について、日本は「原則40年、最長60年」を10年毎に安全レビューを受けることによって60年超の稼働を可能にしたが、米国は「原則40年、最長60年」のまま、フランス・イギリスは「運転期間の上限規定なし、10年毎に安全レビューを受けることによって運転延長可能」、カナダは「サイト毎に規定」、韓国は「運転上限に関する規定なし」である(https://eneken.ieej.or.jp/data/8397.pdf 参照)。

 つまり、日本は原発についてのみフランス・イギリスの制度を真似したのだが、フランス・イギリス・カナダ等は固定資産の耐用年数を会計上も税法上も決めておらず、全ての固定資産について実態に合わせて会社が選んだ耐用年数を使用することができる。しかし、それでも適切な耐用年数を設定するため、問題が起きないのである。

 一方、日本は利益の状況に合わせて固定資産の耐用年数を決めるのを防ぐため、税法で固定資産の耐用年数を決めており、会計上も同じ耐用年数を使うことが多い。そして、もし法律で耐用年数を決めていなければ、日本政府や経産省は、①③④⑤⑥⑦に示されるように、科学的根拠が乏しくても、何とかかんとか言って運転期間を恣意的に変えてしまうリスクがあるため、私は、日本では「原則40年」を変えない方がよいと思っていたのだ。

 また、⑧⑰のように、気候危機対策としての脱炭素が目的なら原発を推進する必要はなく、⑪⑬⑭⑮に書かれているとおり、電力の脱炭素化が急務なのであり、各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発ではなく、これらの進んでいないことが日本の遅れの原因なのである。

 にもかかわらず、①⑩⑪⑱⑲のように、電力の安定供給と脱炭素社会の実現には原発活用が必要不可欠と強弁して原発の推進を「国の責務」とし、原発に無駄な投資をすることで、本来ならCO₂の排出削減に最も効果的な再エネの拡大・送電線の敷設・給電スポットや蓄電池の整備・省エネの推進にまわせた筈の資金が減り、その結果、⑲のように、いつまでも化石燃料への依存が続いて安価な電力供給もCO₂排出削減も実現しない。そのため、⑫のように、オープンで公正な議論を通じて見直しを進めれば、各分野の専門家から熟慮した意見が出て、③のような、お粗末なことにはならなかった筈である。

ロ)フクイチから出た汚染水について←「その場しのぎ」の繰り返しでは・・
 *2-3-3は、①汚染水の大元は原子炉建屋へ沁み込む地下水や雨水で ②大量の地下水の噴出は建設が始まった1960年代から問題だった ③安定した岩盤の上に原発を建て、海上から楽に資材を運搬するため、地面を20メートル以上掘り下げたことが原因で ④地下水の発生と排水は運転を開始した後も続いた ⑤2011年のフクイチ事故で地下水はデブリの放射性物質を含み汚染水になった ⑥東電は直後は海に流したが、国内外から酷評されて汚染水と放射性物質を概ね抜き取った処理水を地上タンクに溜めた ⑦2013年にタンクからの水漏れが問題になった ⑧国と東電は建屋に入る前の地下水を海に流すため、2015年に「処理水は関係者の理解なしには処分しない」と漁業者に約束した ⑨実際はタンクが敷地に満杯になるまでには「理解」が進むだろうと楽観視していた ⑩3年後に処理水に取り除かれた筈のストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚した ⑪福島県内の除染で出た汚染土も原発近くの双葉・大熊両町の“中間貯蔵施設”に溜め ⑫当初は最終処分場にする筈だったが、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束し ⑬除染土の県外搬出を法律に明記したが見通しは立たない ⑭国は各地で原発の再稼働・新増設を進めるが、増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理等の深刻な問題から目をそらしている ⑮東電や国の対応は「その場しのぎ」だ としている。

 このうち③の20メートル以上の岩盤があったのに、「海上から楽に資材を運搬するため」に地面を20メートル以上も掘り下げ、予備電源まで低い場所に置いていたのは、地下水の問題もさることながら、この地域は大地震・大津波の発生可能性が高いことを無視した判断だったし、①②④は、この間に地下水や雨水が沁み込むのを止める工事をしなかったのだろうか?

 そして、これらのリスクを無視した判断の連鎖が、2011年の大津波によるフクイチ事故に繋がり、その後、多額の国費を使って国民に負担をかけているのである。

 にもかかわらず、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のように、フクイチ事故でデブリにふれた地下水が放射性物質を含む汚染水になり、最初はそれを海に流したが、国内外の酷評を受けて放射性物質を概ね抜き取ったとされる“処理水”を地上タンクに溜め、タンクが敷地いっぱいになる頃には国民もフクイチ事故や放射性物質のことを忘れているだろうと楽観視していたが、タンクから水が漏れたり、処理水にストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚したりしたのは、当事者は放射性物質に慣れて鈍感になっていると同時に、国民の命をないがしろにしている。

 また、⑪⑫⑬の福島県内の除染で出た汚染土についても、、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束しても、わざわざそれを受け入れて最終処分場を作らせる自治体があるわけがないため、フクイチ近くの双葉町か大熊町に密閉された施設を作って封じ込めるのが最も低コストで合理的でもあったのに、⑮のように、その場しのぎの言葉を繰り返したのは、国民を馬鹿にしていたと言わざるを得ない。

 さらに、⑭の増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理は、本土から離れた場所にある無人島から入る最終処分場を作るか、密閉した容器に入れて3000m以上深い日本海溝の窪みに投棄or保管するなど、安価で合理的な方法が考えられるにもかかわらず、国はこれらの深刻な問題を解決しないをまま、各地で原発の再稼働・新増設を積極的に進めており、その調子で「言うことを信じよ」と言っても無理があるのだ。

ハ)原発の発電コストは安いか?
 「原発は発電コストが安い」と言われてきたが、上に書いたとおり、原発が他の発電方法と違うのは、i)保存されている使用済核燃料に使用済核燃料税がかかって電気料金に加算され ii)国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われ iii)平時もトリチウムを含む排水を出し iv)事故時は除染や汚染水の処理に多額のコストがかかってそれを国民が負担し v)高レベル放射性廃棄物の処理で多額のコストがかかることは確実で vi)国民が税金か電気料金かでそれらを支払うため電力会社内の原価計算に現れないステルス・コストも著しく多い ということだ。

 それに加えて、*2-3-4は、電力会社内の原価計算でも、①東電の公表資料から、原発の発電コストは火力等の市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がり ②東電が委員会に提出した資料では東電が他社から購入する火力等の電力の市場価格は20.97円/kwh ③東電の原発にかかる発電コストは34.25円/kwh ④2020年4月~23年4月の卸電力市場の平均価格は14.82円/kwhであるため、仮に原発を全基再稼働しても原発の発電コストは市場価格平均を上回り ⑤政府は原発が再稼働すれば電力料金の抑制に繋がると説明するが、原発は燃料代が安くても維持費が高いため、電気料金の抑制効果は殆どないと見るべき としている。

 なお、①~④のように、既に作ってしまった原発は稼働させなくても維持費はかかるのだが、電力会社の原価計算に現れないステルス・コストまで加えれば、原発の発電コストは著しく高い。そのため、⑤のようにはならず、最も安価で、地球環境によく、エネルギー自給率を高められるのが再エネとなって、原発の新増設などあり得ないわけである。

二)事実に基づかない発言が多く、やることが中途半端で徹底しない日本
 *2-3-5は、①ドイツは1986年のチェルノブイリ原発事故で原発支持だった国民の意見が変わり、社会民主党と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と脱原発で基本合意して2002年に脱原発法を制定した ②福島の原発事故後、メルケル首相が「日本でも原発事故が防げないなら、ドイツでも起こりうる」として「脱原発が妥当」と結論づけた ③日本では「ドイツが脱原発できるのは、原発大国フランスから電力を輸入しているからだ」という論調が多かったが、実際にはフランスの方が輸入超過だった ④「ドイツは褐炭の依存度が高く、気候変動対策に逆行する」との指摘も聞くが、ショルツ政権は2030年までに石炭火力廃止、自然エネルギー80%にする目標を持っている ⑤目標を定めて道筋を示せば、新たな技術や仕組みも開発される ⑥日本はフクイチ事故から12年で原発回帰にかじを切り ⑦最大の問題は長期的ビジョンを持たず、短期的利益を優先し、業界の既得権益を守ること ⑨先日も関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧して公正競争を妨害した と記載している。

 このうち①②は、さすがに理論の国ドイツだと思うが、緑の党党首もメルケル首相(物理学者)も優秀な女性であるため、こういう思い切った判断をして進めることができたのだろう。それに対し、私も日本のメディアで③の論調をよく見かけたが、実際にはフランスの方が輸入超過だったとは、本当にさすがである。

 また、④⑤については、ショルツ首相も2030年までに石炭火力を廃止して自然エネルギーの割合を80%に引き上げることを目標としており、何とかかんとか言って未だに石炭火力発電所を建設している日本とは大きく異なる。そして、政府がしっかりした目標を提示すれば、民間企業も、安心して新技術の開発に投資したり、組織再編して商品化し、新しい販売網を築いたりすることができるため、イノベーションも進む。

 一方、フクイチ事故を起こした日本は、⑥のように、12年で原発回帰にかじを切り、⑦のように、安い電力を供給して産業の生産性を上げたり、エネルギー自給率を上げたりするという長期的ビジョンを持たずに、“足元では”などと言って常に短期的利益を優先し、大企業の既得権益を守るため、いつまでも状況が改善しないのである。

 ⑨の関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧していた事件も、大手電力会社の送配電網しかなく、新電力もその送配電網を使って送電しており、送電子会社が大手電力会社の支配下にあるため必然的に出てきたことだ。

 これについては、2015年6月に電力自由化の一環として電気事業法が改正され、2020年4月から送配電部門の中立性を確保するため、法的分離(送配電部門を発電・小売部門と別会社にすること)による発送電分離が行われたが、法的に別会社になっても大手電力の支配下にあれば中立性が保たれない。そのため、中立性を保つには、資本や役員関係も分離し、送配電会社が複数存在するようにして、送電条件を市場競争に委ねなければならないのだ。

(3)G7広島サミットと農業


          Sustainable Brands           農林水産省

(図の説明:左図は世界人口の推移で、2020年以降はアフリカで最も増える予想だが、これは「それだけの人口を養う食料があれば」の話だ。また、中央の図のように、アフリカは未だ日本の第二次世界大戦前後までと同じピラミッド型《多産多死型》の人口構成をしている。なお、食料の枯渇は戦争の始まりになるが、日本の食料自給率は令和3年度で38%と次第に低くなってきており、これは他のG7諸国より著しく低く、世界の食糧事情への貢献もしていない)

1)食料安全保障に関する首脳宣言の全貌
 G7広島サミットは、*3-1のように、食料・農業分野は農相会合の結果を受けて首脳宣言を発表し、①ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料安全保障が悪化しているとして「深い懸念」を表明し ②ロシアが世界有数の農業大国であるウクライナを侵攻したことで、食料供給体制が脆弱な国の食料安保が脅かされていると批判し ③G7としてそうした国への支援を続けていくと表明し ④食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるとして ⑤既存の農業資源を活用した生産性向上や技術革新、環境に配慮した持続可能な農業の推進を提起し ⑥学校給食等を通じた健康的な食料確保の重要性も提起し ⑦不当な輸出制限措置回避の重要性も表明して、G20参加国にも要請した そうだ。

 このうち、①②③のロシアの行動は、日本はじめG7各国が行った“制裁”のお返しであるため、ウクライナから食料を輸入していた第三国にとっては大きなとばっちりだが、古くからある「目には目を」の論理には沿っており、G7も含めた戦争と破壊の開始が原因と言わざるを得ない。

 また、④については、G7の中で食料自給率が38%と最も低く、食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるのは日本自身であるため、G7で話し合う前に効果的な行動をすべきだったのは日本である。さらに、⑤の「環境に配慮した持続可能な農業の推進」も、自然を利用して行う産業が自然環境に大きく依存するのは当たり前であるため、「今さら」感が否めない。

 なお、「既存の農業資源を活用した生産性向上」が具体的に何を指すかは不明だが、仮に米の消費が減ったから、(稲作を減らすのではなく)米の消費を奨励するのなら、それは栄養面から考えて時代錯誤だ。また、「技術革新による生産性の向上」は重要で、それには自動化・大規模化・需要の多い作物への転作が必要だが、それを妨げる補助金制度は頑固に残っているのだ。

 「栄養や食物に関する指導は小学生時代から始める」という意味で、⑥の学校給食等を通じた健康的な食料確保は重要だが、これも日本国内で地域差が大きい。その上、⑦のように、「不当な輸出制限措置回避の重要性」も表明したそうだが、G20参加国に要請する前に日本のような気候の恵まれた国で食料自給率がたった38%と輸出より輸入が著しく超過するような政策は止め、足りない国に輸出できるようにするのが最重要課題であろう。

 さらに、*3-1は、G7首脳は首脳宣言とは別に世界の食料安全保障強靭化に向けた「広島行動声明」を出して、⑧世界は「現世代で最も高い飢饉のリスクに直面」していると警告して危機対応の必要性を訴え ⑨飢饉回避のために民間等からの人道・開発支援への投資増加が必要と強調し ⑩農業貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿うよう明記し ⑪全ての人が栄養価の高い食料に安定的にアクセスできることが不可欠だと指摘し ⑫女性や子どもを含む弱い立場の人々や小規模零細農家への支援強化 ⑬既存の国内農業資源の公正かつ適切な利用等の行動を求めた とも記載している。

 ⑧は事実だが、恵まれた気候を持っているのに海外からの食料に大きく依存している日本から⑩⑬を言うのはおこがましすぎる。また、⑨⑪の飢饉回避と全ての人の栄養価の高い食料への安定的にアクセスには、国毎に過度な人口増を抑えて適正人口を保つことが必要で、そのためには教育や産業基盤への投資が重要になるため、まず政府が人道・開発支援を行い、民間投資の呼び水にするのが通常の順番だ。それに加え、⑫のように、小規模零細農家への支援を強化し続ければ、自動化・機械化による生産性向上は望めず、その結果、教育の行き届いた豊かな暮らしも健康的な食料確保もできないため、どこかで現状を突破をさせる必要があるのである。

2)日本は食料安全保障の〝弱者〟のままでいいのか?
 *3-2は、①G7農相会合の共同声明は周囲を海に囲まれ食料の大半を輸入に頼る食料安全保障の「弱者」である日本の意向を反映した ②自国生産の拡大と持続可能な農業を両立する方針をG7で共有した ③日本の農業は、少子高齢化で農家・農地の激減という恒常的課題を抱える ④G7には米国・カナダ等の食料の輸出大国も多いため、輸入国の生産拡大をG7の議題にすることはタブーだった ⑤日本の輸入依存度低減に直結する自国生産拡大は、食料安保に不可欠 ⑥G7は途上国も含めた食料輸入国の自国生産拡大を容認 ⑦ウクライナ危機後の食料供給不安定化・頻発する気象災害・世界的人口増加で、G7内でも食料不足にある現状認識が広がった ⑧生産拡大と持続可能な農業の両立という条件で環境意識の高い欧米の合意を得た ⑨「日本は小規模農家が多く、どう(生産性を拡大)していくかは、イノベーション(革新)が重要になっていく」と野村農水相は強調した と記載している。

 このうち①は、「海に囲まれているから、食料の大半を輸入に頼らざるを得ず、食料安全保障の弱者である」としている点で誤りだ。何故なら、広い排他的経済水域に囲まれているからこそ、水産業による食料生産もでき、良質のたんぱく質を入手することが容易な筈だからで、これが細ったのは、環境を壊し、工夫もなく漁船の燃費を高止まりさせていることが原因だからだ。

 また、②⑤⑥⑧は当たり前のことで、④については、ドイツ・イタリアを含むG7の要請ではなく、日本が勝手に忖度していたのであり、⑦によって、日本が認識を新たにしたにすぎない。

 さらに、③については、農家・農地を激減させたのは、農家を生かさず殺さずにし続けて農業を魅力のないものにしてしまった日本の農業政策の失敗であり、少子高齢化の時代でも他のG7諸国は農家や農地を激減させてはいない。日本の農業政策の失敗の本質は、⑨のように、小規模農家を小規模のまま補助することによって、大規模化しなければできない自動化・機械化等の生産性向上をもたらすイノベーション(革新)をやりにくくしてきたことなのである。

3)農水省の食料・農業・農村基本法改正案について
 *3-3は、①農水省が食料・農業・農村基本法改正に向け、緊急時の食料増産等を柱とする「中間取りまとめ」を公表した ②1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが実現せず、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機等の食料確保が脅かされる事態が起き ③こうした状況変化を受けて農水省が法改正を議論し始め、2024年の通常国会に改正案提出を予定 ④焦点の1つは緊急時に政府全体で意思決定する体制を整え、農産物輸入急減時に不足が予想される農産物を増産できるようにすることで ⑤どこでどんな作物を作るべきかを政府が生産者に指示することなどを念頭に置き ⑥買い占め防止や流通規制等もテーマとなる ⑦混乱を避けるため、行政命令を発動する基準を明確にし、生産・流通の制限で不利益を被る業者への補償も用意しておく必要 ⑧国民1人1人の「食品アクセス」改善に平時から取り組むことを提起した点は評価できる ⑨日本は大量の食品を廃棄する一方、生活困窮世帯には食べ物が十分に行き届いていない ⑩輸入に支障が生じたときの影響を和らげるため、小麦・大豆・飼料作物など輸入に頼る作物の増産も盛り込んだ ⑪そこで必要になるのが水田の一部の畑への転換で ⑫食料の余剰を前提としてきた農政から、不足も視野に入れた農政に変わることがいま求められている と記載している。

 が、①②の1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが、実際の食料自給率が次第に下がった理由は、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機ではなく、「食品は輸入すればよい」と軽く考えて農業の構造改革を怠り、耕作放棄地を増やし、優良農地をつぶして宅地等にしたためであり、「国の長期計画が欠けていたから」にほかならない。

 また、③の法改正の議論はよいが、④⑤のように、国が生産物を決めて強制的に増産する共産主義に酷似した制度は、(理由を長くは書かないが)成功したためしがない。その理由は、国が強制力を発揮する場合は、まさに⑥⑦のように、規制を強化して国民の行動を制限し、⑦のように、事業者に補償することしか思いつかないからである。

 従って、国民が食料不足に陥ることなく豊かに暮らし続けられるためには、日本の気候や環境をフル活用して農林漁業を振興し食料自給率を100%以上にすることが必要で、それは⑩⑪のような転作をはじめとした工夫次第でできる。また、⑧のように、国民が心配なく食品にアクセスできるようにするためには、そのための国土計画や適切な人材配置が必要であり、少子化で労働力が不足するのであれば、外国からの移民や難民も使って目的を達成すればよいだろう。

 なお、⑨のように、大量の食品を廃棄するのは、生活困窮世帯に食べ物が十分に行き届いているか否かを問わず、その食品を作った人に対して傲慢この上ない態度である。そして、日本で⑫のように食料が余剰していたことなどなく、足りないからこそ海外からの輸入超過が続いてきたのだが、これまでは製造業が輸出超過だったため食品の輸入超過を続けることが可能だったのだということを忘れてはならない。

4)日本で新たに作られるようになった作物

 
        野菜の原産地           保存蚕品種の原産地

(図の説明:左図は、現在、日本で普通に作られている野菜の原産地と伝来時期を示したものだ。また、右図は、保存種の蚕の原産地で、もともとは原産地によって特徴が異なっていたが、次第に混血させて長所を集めた蚕が広がっているとのことである)

   
   アーモンドの花      レモンの花      オリーブの実

(図の説明:左図は、アーモンドの花と実、中央の図は、レモンの花と実、右図は、オリーブの実で、少し前まで日本では作られず輸入に頼っていたが、近年、作られるようになった作物だ)

 現在は日本で普通に作られている野菜や蚕も、古代・中世・近代・現代等の時代毎に日本に伝来し、品種改良を重ねて定着したものだ。そのため、新たにアーモンド・レモン・オリーブなどが栽培され始めたのも食生活の変化とともに自然の流れで、これからも、気候変動とともに栽培できる作物が多様化することは容易に推測できる。

イ)アーモンド
 サクランボ・モモ等の果物生産が盛んな山形県で、*3-4-1のように、アーモンド栽培が注目を集めており、アーモンドは①果樹の手入れが簡単で ②乾燥させると1年中販売でき ③農家の冬場の収入源にもなる ため、県産ブランドとしての知名度向上と販路拡大を目指すそうである。

 アーモンドの女王と呼ばれる高級種は山形県のブランドになるだろうが、アーモンドの花は桜の花に似ており、食べられる実がなる点で桜よりよいため、(私は桜のかわりにベランダの植木鉢に植えているが)耕作放棄地に植えるだけでなく、並木に使ってもよさそうだ。

ロ)レモン
 さわやかな酸味で、幅広い料理や飲み物に使われるレモンも、*3-4-2のように、通年で温暖な瀬戸内海地域産だけでなく、近年は近畿・首都圏にも栽培地が広がりつつあるそうだ。もぎたての国産レモンは、皮に防腐剤等がついておらず、安心して皮まで食べられるので、私も近年は国産レモンに切り替えている。

 また、私は佐賀県太良町にふるさと納税をして返礼品としてマイヤーレモンを沢山もらった時に、マイヤーレモンの皮ごとレモンジャムを作ったところ、まろやかな酸味に適度な苦みも加わって美味しかった。また、その時に採取した種を植木鉢に撒いたところ、芽を出して埼玉県の冬を元気で越し、今では1mくらいの木になっている。

 そのため、*3-4-3のように、ポッカサッポロフード&ビバレッジのようなレモン事業を行っている会社が、2019年4月から国産レモンの生産振興を目的として広島県でレモンの栽培を開始し、レモン商品の開発やレモンに関する研究を行い、消費者が使い易くて健康に良いレモン商品の提案を行ってくれるのは有難いと思う。

ハ)オリーブ
 オリーブ生産の98%以上は地中海に面した国々で、日本国内に出回っているのはイタリア・スペイン等の輸入品が大半で国産は1%未満だが、国内産地は、香川県の小豆島はじめ、近年は静岡県・大分県等にも広がっているそうだ。

 このような中、*3-4-4・*3-4-5は、①民間企業・農家・団体等が相次いでオリーブ栽培に参入し ②オイルだけでなく、瓶詰・葉を使った茶・化粧品などの加工品も増え ③オリーブの収穫は年に1度で木が強くて作業が少なくて済み ④降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適している と記載している。

 確かに、地中海沿岸が主産地のオリーブなので、④のように、降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適しているのだろうが、多くのタネを撒くと降水量の多い場所でも病気にならず元気に育つものが出てくるため、そういう個体を選んでいけば、③のように、木が強くて降水量の多い場所にも適したオリーブの品種ができるだろう。

 そして、①のように、民間企業・農家・団体等がオリーブ栽培に参加して生産量を増やし、②のように、加工品の種類を増やせばよいと思うが、価格が外国産の倍以上するのでは、いくら健康によいといっても日本産でなければならない理由はなくなる。そのため、価格も世界競争に耐えられるものにすべきなのである。そのためには、オリーブ園で風力発電による電力を副産物にする方法があるのではないか?

 なお、私は料理用の油もオリーブオイルを使うため、オリーブオイルを多く使うことになり、スペイン産を選んでいる。しかし、スペイン産は品質はよいが、干ばつでオリーブの収穫量が半減し、世界的な供給不足と円安があいまって販売価格が上がるのが気になっている。

4)ふるさと納税について
 朝日新聞は、*3-5のように、①「ふるさと納税」の仕組みは歪んでおり、貴重な税収を失わせている ②総務省は自治体間競争の過熱を抑えるため、ふるさと納税の返礼品調達費を寄付額の3割以下、送料・事務費を含めた経費総額を5割以下にするルールを定めたが ③2021年度に136市町村が5割を超える経費を費やし、集めた金の半分以上が税収以外に消えた ④総務省が5割規制の対象にしている経費は、受領証明書送料等の寄付後の経費は対象外だが、上位20自治体で合計63億円が「寄付後」に生じていた ⑤松本総務相は「寄付金の少なくとも半分以上が寄付先地域のために活用されるべき」と説明しており、寄付後の費用も対象に含めるべき ⑥5割基準でも寄付後の費用を対象にした上で、継続的な違反自治体は利用から除外すべき ⑦ふるさと納税は、返礼品を手に入れるため、自らが暮らす自治体の行政サービスにかかる費用負担の回避を認める制度 ⑧地方自治の精神を揺るがす ⑨高所得者ほど恩恵が大きく格差を助長する欠陥もある ⑩財政力の弱い地方を中心にふるさと納税に期待する自治体があるのは事実だが、都市と地方の税収格差是正にしても、返礼品となりうる特産品の有無で寄付額が左右される仕組みは望ましくない ⑪ふるさと納税で多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市の地方交付税減額の妥当性が裁判でも争われてきたが、こうした問題が起きたのも制度自体が歪んでいるから ⑫全国では、ふるさと納税により2021年度だけで4千億円近い税収が失われた ⑬経費ルールの中身や運用を見直すに留まらず、制度の存続を含めて根本からの再考を急ぐべき と記載している。

 この記事に欠けている発想は、i) 都市部は地方で教育費をかけて育てた子を、住民税を支払う年齢になってから受け入れることで得をしていること ii) 地方はその子を育てた住民税支払額の少ない老親を医療・介護等で支えていること iii) 都市部に住民税を支払う年齢の大人が集中する理由は、(東京で2度もオリンピックを開いた例のように)国が都市部に投資を集中してきたからにほかならないこと iv) 都市部で住民税を支払う年齢の大人を機関車に例えれば、地方がすべて客車では引っ張りきれないこと v) そのため、返礼品となる特産品を作った地方を優遇することで競争させていること vi) 地方も地方交付税を待つだけでなく、よい特産品を作るよう自助努力して欲しいこと というふるさと納税制度を提案した私の思いである。

 そのため、①⑦⑬は、「ふるさと納税制度は、歪んでいるから廃止すべきだ」という結論が先にあって、②③⑥⑪⑫の返礼品調達費・経費総額ルールやルール違反等々を持ち出しているが、そもそも集めた寄付金や税金を何に使うかは、その地方自治体の判断に任せられるべきで、それこそが⑧の地方自治の精神である。そのため、「特産品を育てるために、返礼品や返礼品の送料・受領証明書の送付料にどれだけ使うか」も地方自治体の判断に任せればよく、本来は⑤を言うことも不要だ。

 また、④についても、税務申告書の送付料をとる税務署がないのと同様、受領証明書の送料くらい地方自治体が出してよいと思うし、⑨の「高所得者に有利で格差を助長する」という記述は、(必ず誰かが言う安易な反対論だが)教育して高所得者になるような人を出した地方には住民税収が全く入らず、そういう努力をしなかった居住自治体にのみ住民税が全額入る方がよほど不公平なのである。

 従って、上のiv) v) vi) に照らし、⑩の財政力の弱い地方自治体も、国が少ない地方交付税で援助し続けるのを待つだけでなく、都市の住民が欲しがる人気返礼品(=特産品)を作るくらいの努力はして欲しいので、特産品を返礼品にすることは理にかなっているのだ。つまり、過度の結果平等は悪平等になって意欲を失わせ、すべてを沈滞させるということである。

(4)G7における核の議論について
1)核軍縮に関する「広島ビジョン」
 G7首脳は、*4-1・*4-2のように、「1945年の原爆投下で広島・長崎の人々が経験した甚大な苦難を想起させる広島に集い、全ての者の安全が損なわれない核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認する」という「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発表し、内容は①核兵器による威嚇禁止と核兵器不使用(G7の核兵器は侵略抑止・戦争/威圧防止など防衛目的) ②世界の核兵器数減少 ③現実的で実践的な責任あるアプローチを通じて達成される「核兵器なき世界」という究極の目標に向けコミットメントを再確認 ④核戦力とその規模に関する透明性促進 ⑤核分裂性物質の生産禁止条約の即時交渉開始 ⑥包括的核実験禁止条約発効も喫緊 ⑦核兵器なき世界は核不拡散なくして達成できず、北朝鮮に核実験・弾道ミサイル発射を含む挑発的行動の自制要求 ⑧G7は原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると認識 ⑨民生用プルトニウム管理の透明性維持 ⑩民生用を装った軍事用生産や生産支援に反対 ⑪広島・長崎での核兵器使用の理解を高めて持続させる ⑫核兵器による威嚇や使用は許されないと改めて表明 などだそうだ。

 G7サミットを広島で開催し、⑪のように、広島・長崎での核兵器使用への理解を高めたのはよかったと思うが、①②④⑤⑦については、「核兵器による威嚇禁止、核兵器の不使用、核兵器数の減少」には賛成するものの、批判の対象がロシア・イラン・北朝鮮だけであり、「G7の核兵器は、侵略抑止や戦争・威圧の防止等の抑止力である」「核戦力とその規模に透明性があれば良い」というのは、一方的すぎて無理がある。何故なら、全員が廃棄するのでなければ、ロシア等も核兵器を廃棄したくないだろうからである。

 また、③の「核兵器なき世界は、『現実的で』『実践的な』『責任ある』アプローチを通じて達成される」というのも、そう言い始めてから何年経っても大した進展がないため、それらの言葉は、核兵器なき世界を進めないための言い訳として使われているように思う。

 「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指す」というのは、*4-5のように、2016年10月28日に国連総会第一委員会(軍縮)が核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択した時、日本政府はこの決議に反対し、岸田外務大臣(当時)が「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指すという我が国の基本的立場に合致しないから」と釈明された時に使われた言葉だ。

 一般には、「日本は核兵器保有国ではないが、米国の核兵器によって間接的に守られているため、核兵器禁止条約に賛成できない」という説明がよくされるが、それでは、本当に日本は米国の核兵器によって守られるのか、『現実的で実践的な責任ある』どのようなアプローチを、その時点から現在までに行ってきたのか、核兵器禁止条約に賛成するよりもそのアプローチの方が功を奏したのか、について具体的な説明が必要だ。

 また、日本が核兵器禁止条約に賛成すれば、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し、その亀裂を深める」という説明も意味不明であるため、その理由を明快に説明して欲しい。実際には、核兵器が使用されれば距離の離れた場所でも人間が住めない状態になるため、⑥の包括的核実験禁止条約発効だけでなく、核兵器の禁止と廃棄が必要なのであり、それを提唱するにあたって、日本は歴史的に Best Person になっているのだ。

 なお、⑧については、G7のフランスでパリ協定が締結され、脱炭素エネルギーに原子力エネルギーは含まない旨が明記されたし、ドイツはG7広島サミットの最中に脱原発を完了した。そして、原子力の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると主張しているのは主として日本なのであり、実際には原発は低廉どころか著しくコストがかかり、それを税金や電力料金として国民に負担させているのである。

 何故、原爆を2度も落とされ、フクイチで世界最悪の原発事故を起こして周囲に激しい公害を撒き散らしながら、日本は原子力エネルギーにしがみつくのかについては、⑨⑫のようなことを言いつつ、⑩のように、民生用を装いながらいつでも軍事用生産に切り替えられる体制にしておきたいのではないかと思われる。しかし、核兵器が必要となる時などあってはならないため、それこそ大きな無駄遣いだ。

2)「広島ビジョン」で核軍縮はできるのか?
 *4-3は、①G7首脳が被爆地広島で「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示した ②各国首脳は広島平和記念資料館(原爆資料館)を見学し、被爆者と面会した ③この訪問を「核兵器のない世界」の実現への機運を高める契機とすべき ③G7は米・英・仏の核保有国と米国の「核の傘」に守られている日・独・伊・カナダで構成 ④岸田首相はG7首脳の訪問を「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」と評した ⑤G7首脳は「広島ビジョン(核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進)」をまとめた ⑥中長期的には核拡散防止条約体制を立て直す努力が要る ⑦この条約は世界の安定に寄与するだけでなく、米国との戦力の均衡を維持する点でロシアにもメリットがあるはず としている。

 私は、小学校の修学旅行で長崎を訪れた時に、平和公園や長崎原爆資料館を見学し、信じられないような光景の絵・展示物・その解説を見て、その惨状に驚いたことがある。そのため、①②のように、G7首脳が広島原爆資料館を見学して被爆者の話を聞き、「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示したのは理解できるし、よかったと思う。

 しかし、③のように、「『核の傘』に守られているから」とか、④のように、「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」とか、⑤のように、「核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進」のような核兵器廃絶の本質とは異なる悠長なことを言っていては、これまでどおり、核兵器廃絶は進まないと思う。

 また、⑥の「中長期的に核拡散防止条約体制を立て直す努力」というのも、現在、核兵器を保有している国の核兵器保有は認めるが、非核保有国が核兵器開発することは認めないということであるため、不公平すぎて守られず、努力しているふりで終わりそうだ。

 なお、⑦の「核拡散防止条約がロシアと米国との戦力均衡を維持して世界の安定に寄与する」という説もあるが、“戦力均衡”を目的とする限り、どちらのグループも相手より大きな軍備を持って優位な形で均衡したいと思うため、核軍縮ではなく軍拡への道を進むことになると思う。

3)法の支配に基づく国際秩序とは?
 「法の支配に基づく国際秩序」は国際法に基づく国際秩序を指すが、国際法にはi) 条約・慣習法等の様々な基本原則が存在し ii) 歴史的には主権尊重・主権平等・国家の自己保存権・国家独立の原則・国家の交通権・不干渉義務等の原則が基本的権利義務として捉えられてきた。

 また、1970年に国連総会友好関係原則宣言は、iii) 国際社会の基本的原則(武力不行使・紛争の平和的解決・国内問題不干渉・相互協力・人民の同権と自決・国際法の適用における平等の原則等)を掲げ iv) 法の前の平等とは「慣習法は全ての国に、条約は全ての締約国に無差別に適用すること」と明記した(https://hiro-autmn.hatenablog.com/entry/2015/05/21/155750 参照)。

 そのような中、*4-4は、G7広島サミットは「G7広島首脳共同声明」を発表し、①ロシアによるウクライナ侵攻を「可能な限り最も強い言葉で非難」し ②ウクライナ支援を継続すると明記し ③「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持・強化する」と強調し ④現実的・実践的な取り組みによって「核兵器のない世界」の実現をめざすことも表明し ⑤覇権主義的な動きを強める中国も念頭に「力による一方的な現状変更の試みに反対する」とした 等と記載している。 

 iii) iv)によれば、独立国である以上、その国の人民に自決権があるため、国の大小にかかわらず、他国への内政干渉や武力行使は許されない。そのため、平等に国際法を適用しても、①のように、ロシアはウクライナへの侵攻に対する非難を免れないが、日本のメディアには、ロシアのウクライナ侵攻以前に、ロシアを馬鹿にしたり、ロシアに対し内政干渉的な発言をしたり、プーチン大統領をけしかけるような発言が多かったりしたのは事実である。また、②のウクライナ支援は、本来なら国連の仲裁で紛争を解決することによって行われるべきだ。

 また、④については、(4)2)に記載したとおりだ。

 なお、③の「法の支配」は国際法を指し、個別の国が勝手に作った法律が他国を支配できるわけではない。そして、排他的経済水域(領海基線の外側200海里までの海域やその海底で、イ)天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利 ロ)人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権 ハ)海洋の科学的調査に関する管轄権 二)海洋環境の保護及び保全に関する管轄権 が沿岸国に認められている。

 一方で、大陸棚も領海基線から外側200海里までが原則だが、例外的に地質的・地形的条件等により国連海洋法条約の規定に従って延長することが可能で、その大陸棚を探査したり、天然資源開発のため主権的権利を行使したりすることも認められている。そのため、日本の排他的経済水域内で中国が自国の大陸棚だと主張している海域については、日本と中国の両方で主権が認められ解決不能になっている(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/zyoho/msk_idx.html 参照)が、このような規定では日本も中国の大陸棚上になってしまうだろう。

 さらに、中華民国(台湾)が独立国であれば、台湾についても、iii)の国内問題不干渉・人民の自決・国際法適用における平等が守られなければならないが、1つの中国を認めるのであれば、中華人民共和国として国内問題への不干渉や人民の自決権が守られなければならない。そのため、⑤の「力による一方的な現状変更の試みに反対する」という曖昧な主張は、単に問題を先送りしただけで何も意味していないのである。

・・参考資料・・
<先進技術導入の仕方と財源>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551430S3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.2) 児童手当・育休給付上げ 少子化対策素案 予算、30年代に倍増
 政府は1日のこども未来戦略会議で少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を示した。毎月支給する児童手当は所得制限を撤廃し、支給の期間を拡充する。2024年度中の実施をめざすと明記した。必要な予算は24年度からの3年間に年3兆円台半ばとする。当初見込んだ3兆円ほどから上乗せした。予算を倍増する時期は、こども家庭庁予算を基準に30年代初頭までの実現をめざすと明示した。岸田文雄首相は予算規模に関して「経済協力開発機構(OECD)トップ水準のスウェーデンに達する」と述べた。政府は与党と調整し、6月中にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。児童手当は親の所得にかかわらず、子どもが高校を卒業するまで受け取れる。3歳から高校生まで一律1万円となる。第3子以降の場合は0歳から高校生まで3万円が支給される。一方、16歳以上の子どもを養育する世帯主が受けられる扶養控除は、給付との兼ね合いを検討課題とした。親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設を盛った。両親が就労していないと利用できない現在の制度を改める。24年度から本格実施を見据えて準備する。育児休業の給付金も増やす。夫婦ともに育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げる。25年度からの実施をめざす。

*1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/253941 (東京新聞 2023年6月1日) 異次元の少子化対策に年3兆5000億円…財源は? 高齢世代は負担増、子育て世代の手取りが減る可能性 
 政府は1日、「こども未来戦略会議」を開き、「次元の異なる少子化対策」の素案を公表した。児童手当は所得制限撤廃をはじめとする拡充策を2024年度中に実施することを盛り込んだ。24年度から3年間の集中期間に必要となる追加予算は年3兆5000億円に上るが、財源確保の具体策は示さず、「年末までに結論を出す」と先送りした。政府は医療保険料の上乗せに加え、社会保障費の歳出削減を検討しており、医療や介護を主に利用する高齢世代の負担増につながる可能性がある。岸田文雄首相は1日の未来戦略会議で「少子化対策の財源はまず徹底した歳出改革等で確保することを原則とする」と強調した。素案では、児童手当の拡充は減額や不支給となる所得制限を撤廃し、支給期間を「中学卒業」から「高校卒業」までに延長。第3子以降は月額3万円に給付を増やす。育休制度では25年度から、給付金の手取り10割相当への引き上げ(最大28日間)を目指す。財源確保策として、医療保険料の上乗せを念頭に「支援金制度(仮称)」の創設や「徹底した歳出改革」を行うとして、消費税などの増税は否定。安定財源は28年度までに確保し、その間は「こども特例公債」を発行するとしたが、具体的な国民負担の規模は明らかにしなかった。政府は、医療保険料への上乗せで年1兆円程度、社会保障費の歳出改革でも5年かけて年1兆円強を確保することを検討している。歳出改革では公費支出の削減を図る考えで、来年度に改定される診療報酬や介護報酬の抑制などが想定されるが、医療や介護の人材不足に拍車をかけかねず、与党には「医療・介護が崩壊する」との反発もある。高齢者の自己負担増や医療・介護のサービス削減などで負担増となる可能性もある。財務相の諮問機関の財政制度等審議会は5月、社会保障の歳出改革案として「後期高齢者の医療費窓口負担の原則2割化」や「介護保険の2割負担の範囲拡大」などを提案している。政府は素案を「戦略方針」として決定し、6月策定の経済財政運営の指針「骨太方針」に反映させる。
◆「高校生の扶養控除を整理」するとどうなる?
 少子化対策の素案には児童手当の拡充策とともに、「高校生の扶養控除との関係をどう考えるか整理する」との注釈が入った。拡充策である高校生への新たな給付と、既にある税負担軽減を同時に受けられる家庭が出るために浮上した論点だ。だが、控除の見直し次第では児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性があり、与野党などから早くも反発が起きている。扶養控除は子どもや親などの親族を養っている場合に税負担を軽くする仕組み。現行は16〜18歳の子ども1人につき所得額から38万円が控除されている。所得税は所得が高いほど税率も高くなるため、控除による税負担の軽減効果は高所得者の方が大きい。一方、児童手当は所得にかかわらず一定額が給付されるため低中所得者により手厚い支援となる。2010年には当時の民主党政権が「控除から手当へ」との方針のもと、中学生までの子ども手当(現児童手当)の創設に合わせ、15歳以下が対象の年少扶養控除を廃止した経緯がある。拡充策が実現すれば、高校生のいる世帯は児童手当と税負担軽減が併存する。このため、扶養控除がない中学生までとのバランスを踏まえる必要があるというのが政府の考え方だ。扶養控除の見直しには反対論も強い。子育て支援団体が1日に国会内で開いた集会では、与野党議員から「可処分所得を削ってはいけない」「新たな税負担を求めないと言っていたのに実質的な増税だ」と批判が噴出。控除廃止による課税所得の増加で高校無償化の対象から外れる恐れがあるなどの懸念も出た。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA218FR0R20C23A4000000/ (日経新聞 2023年6月4日) 全ゲノムデータ、一元管理へ新組織 創薬・治療に貢献
 厚生労働省は2025年度にも全ゲノム(遺伝情報)のデータを一元管理する新組織を設立する調整に入った。蓄積したデータを患者の診断や治療の質の向上に役立てる。個人情報を保護しつつ産業界