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2021.8.14~28 地方の重要性 (2021年8月29、30日、年9月1日追加)
  
      2021.7.16日経新聞      2021.7.16日経新聞 2021.8.13日経新聞

(図の説明:左と中央の図は都道府県別人口増減率で、今でも関東圏と福岡県・愛知県に集中し続けており、例外は沖縄県だ。その理由は、国策として関東・東海に集中投資して工業地帯を作ったこと、関東圏に若者を吸収する大学が多いことなどが理由であり、地方がさぼっていたからではない。沖縄県は、近年、地の利を生かして観光に力を入れ、出生率も低くないため、人口が増えている。右図は、最近、移住等に力を入れて人口を増やした市町村で、企業誘致を進めて働く場所を増やしたり、東京への通勤圏になったり、若者の支援に力を入れたりしているのだ)


    2021.7.2日経新聞       2021.7.2日経新聞    2021.8.13日経新聞

(図の説明:左図は、都道府県の住民所得は生産年齢人口の数と正の相関関係があるというグラフで、主たる稼ぎ手が生産年齢人口であることを考えれば当然だ。しかし、中央の図のように、農林漁業で個人所得を増やして個人住民税を増やした町村、区画整理・宅地造成で転入者を増やして個人住民税を増やした町村もある。ただ、沖縄県与那国島の自衛隊駐屯地誘致による個人住民税の増加は、新しく稼ぎだした所得というより所得移転によるものと言える。なお、右図のように、政府は「地域おこし協力隊」「地域活性化起業人」「テレワークの推進」などで移住促進計画を打ち出しているが、主たる産業の地方移転や筋の通った地方産業の活性化がなければ、ボランティアと腰掛に終わると思う)

(1)農業の高付加価値化による地方の産業高度化へ
1)カイコから新型コロナワクチン
 新型コロナについて、政府(特に厚労省)及び厚労省専門家会議は、2021年8月になっても「人流を減らす」しか言えていないが、*1-1-1は、①九大は世界的なカイコの研究機関で、2020年6月26日、カイコで新型コロナウイルスのスパイク蛋白質を生成できることを確認してワクチン候補となる蛋白質を開発することに成功したと発表し ②このスパイク蛋白質を注射したマウスに抗体ができるか否かの実験を2020年内に終わらせる方針で ③昆虫工場による大量生産により数千円で接種できるワクチンの臨床研究開始を来年度にめざす としている。

 その後、この研究は、どうなったのだろうか。結果を出すのが遅すぎると他のワクチンが世界中に出回り、それよりよほど品質がよくて安価であることを証明できない限り、販売するに至らずもったいないことになる。そして、この技術を実用化しなければ、農業を高度化・高付加価値化する1つのよい機会が失われてもったいないのである。

 なお、*1-1-2のように、遺伝子組換えカイコを使って新しい絹や医薬品の原料を作る研究が進んでおり、ヒト型コラーゲンを生成する遺伝子組換えカイコを作り、既に化粧品などに製品化しており、将来的には安全で安価な医薬品の製造も視野に入れているそうだ。私は、遺伝子組換えカイコが作る蛋白質で安全・安価な診断薬の原料となる抗体だけでなく、新型コロナの抗体も作ることができると考える。

2)米からコレラワクチン作成
 東大の清野特任教授と幸特任研究員らは、*1-2のように、コレラの毒素を構成する部品からワクチンに使える無害な部分の遺伝子を組み込んだコメからできたワクチンの安全性をヒトで確かめたそうだ。米粒の中にワクチンの成分が入っており、すりつぶしてコメの粉末を飲むとワクチンの成分が腸に届いて免疫をつくるのだそうだ。また、コメに成分を封じ込めたため冷やさなくても長期間保存でき、冷蔵管理が難しくコレラが蔓延しやすい発展途上国で利用しやすいとのことである。ノーベル賞もののすごい発明だし、米の付加価値も上がるだろう。

 なお、今後、遺伝子を組み換えたイネを大規模に栽培するためには、他にイネ科の植物がなく花粉が混じらない離島などの場所を選ぶか、ハウスで徹底管理するかする必要があるが、確かに、これなら理論上はあらゆる感染症のワクチンを同じ方法で開発でき、常温で保存できて、飲むだけで済むため利点が大きい。さらに、ワクチンだけでなく、抗体も作れると思う。

3)新型コロナの“治療”について
 新型コロナの「抗体カクテル療法」が、*1-4-1のように、入院患者にしか認められていなかったが宿泊療養者にも使えるようになったそうだ。しかし、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐ二つの中和抗体を組み合わせた薬であれば、軽症であればあるほど治癒しやすいので早期発見・早期治療が望ましいものの、中等症や重傷になっても根本的治療を何も行わずに「酸素吸入」「エクモ」を使った対症療法だけを行うよりは「抗体カクテル」を点滴した方が治癒しやすいので、厚労省が一律の単純な基準で制限を設けるよりも医師の判断に任せた方がよい。

 そうすると、「抗体カクテル」の量が足りなかったり、高価過ぎたりするのなら、世界で使っている安価なイベルメクチンやアビガンなど他の武器も承認すればよい。このような中、いつまでも「病床が足りない」「自宅で亡くなる人もいる」など、不作為による人災を災害であるかのように言うのはいい加減にしてもらいたい。

 なお、*1-4-2に、菅首相が、①自宅療養患者への連絡態勢を強化する ②患者が酸素投与を必要とした場合に対応する『酸素ステーション』を設ける ③軽症者の重症化を抑える抗体カクテル療法を集中的に使える拠点を整備する ④政府の新型コロナ感染症対策分科会提言を受けて、商業施設等の人流の抑制に取り組む と言われたそうだが、②③は別々の拠点ではなく、医師の判断で連続的に治療できるようにしなければ金ばかり使ってややこしくなるだけだ。

 また、①については、新型コロナにかこつけてデジタル診療を推し進めようとしている人がいるが、感染症のように他人に感染する急性疾患に「自宅療養+デジタル診療」は向かず、成人病の手術後のように長期の療養を要するが他人には感染しない慢性期の療養に自宅療養が向くのである。そのため、この違いの分からない人が政策を決めているのが敗因であり、政府の新型コロナ感染症対策分科会も、相変わらず④のように人流抑制しか提言できていないが、その理由は説明されず、理由を説明するためのエビデンスも示されていないのだ。

4)住宅への木材活用と3Dプリンター
 不動産各社が、*1-3-1のように、住宅に木材を活用する動きがあり、①住友不動産は戸建てリフォームで木材を再利用する取り組みを始め ②ケイアイスター不動産は注文住宅の国産材比率を100%に引き上げて環境配慮の姿勢を示し ③三井ホームは、強度や防音性などを高めてマンションを木造化できる新しい技術を開発して5階建て程度の中層マンションの木造化を進め ④三菱地所など建設・不動産7社も国産材の需要を掘り起こす取り組みを始めた そうだ。

 近年は、湾曲した木材や間伐材などから製材した板や角材を乾燥して、節や割れなどの欠点部を取り除き、接着剤で接着してつくる集成材もあり、天然材と比較してかえって強度・寸法安定性・耐久性に優れていたりする。

 また、*1-3-2のように、3Dプリンターを使って工場で住宅を製造して大型トレーラーで運んで施工するマイティ・ビルディングズのような会社もあり、⑤3Dプリンターに事前に図面データを入力し ⑥データ通りにノズルを動かし、紫外線を当てればすぐ硬くなる建築素材を噴射して積み重ね ⑦(例えば)天井部分の工程は、柱やパネルを設置した後で上から覆うように建築素材を噴出して形成し、固まった層は外壁や床材などになって現場工事が要らず ⑧小型住宅なら10日で完成し ⑨従来の建築工法と比べて費用を30%削減できる そうである。

 大林組も3Dプリンターで大型ベンチを試作し、竹中工務店は2023年以降にイベント施設などの建築向けに3Dプリンターを導入する考えで、3Dプリンターは自由にデザイン設計しやすく、製造に携わる人手を減らせることも利点なので、三菱重工業は国産ロケット「H3」でエンジン噴出口部品の加工に3Dプリンターを採用したそうだ。

 日本は災害が多いため建築法規制が厳しいのが課題だそうだが、集成材で骨組みを作り、3Dプリンターで作った小型の部屋を積み重ねれば、強度があり、軽くて断熱効果の高い住宅を、人手を省いて安価に作れそうだ。

5)再生医療と3Dプリンター
 再生医療でも、*1-3-2のように、医療スタートアップのサイフューズが開発した3Dプリンターは、臓器疾患のある患者から採取した細胞を培養し、細胞を剣山に刺していって次第に細胞同士がくっついて固まることにより数週間で患者専用の臓器を製造する。この臓器は、患者自身の細胞で作るため移植後に感染症や拒絶反応が生じにくく、まず血管や骨軟骨などで臨床試験に入るそうで、2025年度にも移植手術で利用できるようにしたいそうだ。

 3Dプリンターで作って欲しい患者専用臓器(歯も含む)には、ほかにどんなものがあるかを意見募集すると意外性があって有意義だろう。

6)代替肉と3Dプリンター
 食品業界では、*1-3-2のように、イスラエルのリディファイン・ミートが3Dプリンターで代替肉によるステーキなどを製造する技術を開発し、アジア市場ではハンバーガーなどの製品群を2022年に提供する方針だそうだ。3Dプリンターが得意な分野を見いだして使いこなすことで、かなりのイノベーションが期待できる。

(2)農林漁業の販売力向上による地方産業の高度化

 
2021.8.14日経新聞 2021.8.12ふるさと納税ガイド 2021.7.29時事 2021.8.15日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、農業産出額は北海道・宮崎県・鹿児島県の市町で多く、ふるさと納税受入額の大きい地域と一致しているが、そこには努力があるのである。また、左から2番目の図のように、九州7県のうち5県までがふるさと納税受入額上位10県に入っている。ふるさと納税受入総額は、右から2番目の図のように著しく増えたが、これは皆で育てた結果だ。なお、1番右の図のように、日本の品種であるシャインマスカットの生産量・輸出量は韓国の方が大きくなっており、これは情けない限りだ)

1)農業の販売力向上と関連産業育成による地域での付加価値増加ついて
 *2-1は、「①2019年の農業総産出額は8兆8938億円で、北海道が1位で1兆2558億円、2位以下は鹿児島県・茨城県・千葉県・宮崎県・熊本県の順」「②農業競争力に大きな差が生じ、過去5年間で全国1741市区町村のうち6割が産出額増加、4割が減少」「③1960年時点は米どころが上位だったが、米の需要低下で稼げる農業の内訳が一変」「④躍進する九州勢の取り組みは地域ブランドを活用した『売れる農業』」「⑤稲作から施設を使った畜産・園芸への転換を進めた宮崎県などの九州勢が躍り出た」「⑥稼ぐ力を確立した地域が強みを発揮する」「⑦宮崎県では関係者が一丸となった競争力向上の取り組みが進み、県は1994年に『みやざきブランド確立戦略構想』を策定して『作ったものを売る』から『売れるものを作る』を目標にした」等を記載している。

 このうち、⑥については、宮崎県や鹿児島県は1994年頃からやっていたのかもしれないが、私が衆議院議員になった2005年の段階で佐賀県の地元農協や農家を廻った時には、まだ「ブランド戦略」「『作ったものを売る』から『売れるものを作る』発想」はあまりなく、「米が安すぎる」「補助金が欲しい」という話が多かった。そのため、「食料自給率は低いのに・・」と思って自民党の農林部会で問題提議したところ、農水省は「国民が米より小麦製品を多く食べるようになって不得意分野の比重が高くなったから」と答えた。つまり、「国民が米を食べればいいのに」という発想だったし、意思決定権者が男性中心で栄養学の知識に乏しいためか、その発想は今でも残っている。

 私は唖然としながら、製造業の監査・原価計算・経済学で得た知識・経験をフル活用し、i)大規模化による生産性の向上 ii)転作補助金の作成 iii)副産物の活用 iv)農地・水・環境維持のための補助金作成 などを行った。そのうちに、経産省が農業の6次産業化案を出して、第一次産業として原料を作るだけでなく、第二次産業の加工や第三次産業のサービスも組み合わせて地域で付加価値を高めることになり、現在に至っているわけである。

2)ふるさと納税の意義は、地方自治体の財源だけではないこと
 地方公務員も税金で養われているため、「新しいことをして摩擦が生じるよりも現状維持のまま問題を起こさない方がよい」という現状維持型・やる気なしの人が多い。そのため、ふるさと納税で地方の努力を誘発しなければ、都会に集中する税収から地方交付税という形で多くの金を地方に配分し、少ない機関車で多くの客車を引っ張らなければならなくなって大変なのである。

 そのような中、私が提案してできた「ふるさと納税」は、生産年齢人口の多くが都会に出るため税収が増えにくい地方の財源を少し取り戻しただけでなく、地方公務員をやる気にさせて地域ぐるみで優良な産品を作り出すのにも役立った。その理由は、i)地方公務員が頑張れば頑張るほど、目に見えて地方税収が増え ii)都会の消費者が価値あると感じる物を、地方公務員と農林漁業者が直接知ることができ iii)地方に多い農林水産物の価値を知るため、地域ぐるみでそれを高める工夫に繋がり iv)一村一品どころではない地方の製品の発掘・開発が進んだ からである。

 そのふるさと納税は、*2-2-1のように、2020年度の寄付総額が約6,725億円で過去最高になり、嬉しいことだ。「巣ごもり需要」を背景に各地の返礼品を探して楽しむ寄付者が増えたためとのことだが、寄付総額は2019年度の1.4倍に増加し、自治体別の受け入れ額は、1位が宮崎県都城市の135億2,500万円で、2位が北海道紋別市の133億9,300万円であり、これは農業の高付加価値化の努力をしている県と重なっている。

 また、ふるさと納税による2021年度の住民税控除額は約4,311億円で、東京都が参加していないため、最多は横浜市の176億9,500万円で、次は名古屋市の106億4,900万円、大阪市の91億7,600万円の順だった。

 なお、*2-2-2のように、今後は太陽光発電や風力発電などの再エネの普及が進み、電気の約半分は市内産という長崎県五島市のように「原料の安全・安心は当たり前」「島の風と太陽から生まれた電気で製造」という取り組みや福島県楢葉町・愛知県豊田市・大阪府泉佐野市などが提供していた電気の返礼品なども増えると面白い。

3)それでは、見直すべきは何なのか
 このような中、*2-2-3は、「①ふるさと納税による寄付の膨張が止まらない」「②コロナ対策で農水省が始めた農林水産品の販売促進の補助金を使えば返礼率を大幅に高めることができる」「③高所得者ほど返礼品を多く受け取れ税優遇も大きい」「④昨年度の寄付額から換算すると全体で約3千億円の税収が失われたことになる」「⑤コロナ感染が特に広がっている東京などの都市部は、財源の流出で感染対策の費用を賄えない事態になっては困る」「⑥自治体間の財政力格差を是正するなら、今の地方税や地方交付税のあり方が妥当か否かを正面から論じるべき」「⑦ふるさと納税を続けるなら、返礼品をなくすなど抜本的に制度をつくり変えるべき」「⑧見直しの議論は進んでいない」と記載している。

 しかし、①は、努力の賜物であって喜ばしいことであり、②は、東京で大流行している新型コロナによる東京での飲食店閉鎖で行き場を失った原材料の農水産物の販促を農水省が手伝い、これに市民が協力しているということで、高所得者は累進課税で多額の税を支払っており、ふるさと納税の限度額はそのごく一部にすぎないため、③はひがみ・妬みを利用した誹謗中傷である。また、④はどうやって計算するのかわからないが、⑤を含めて、もともと東京には投資が集中しているのに、東京五輪でさらに東京に集中投資した金額と比較すれば小さなものである。

 そして、⑥は、消費税の全額地方税化など考えられる変更はありうるが、だからといって、このままでは都市部に生産年齢人口が集中するのは避けられないため、地方分散の名案を提案して見せるべきである。さらに、⑦⑧は、全貌の見えていない人が、「高所得者への妬み」と「返礼品憎し」で述べた主張であるため、実現すれば改悪になる。

4)特許権・商標権登録の重要性
 高級ブドウ「シャインマスカット」など日本で開発されたブランド品種が、*2-3のように海外流出し、流出先の韓国で輸出の主力となって日本の5倍超の輸出額になったそうだ。また、栽培規模は日本1,200ha、韓国1,800ha、中国5万3,000haと桁違いだそうで、これでは日本のブランド農産物輸出額が減少する。
 
 日本が開発費を支払って開発した品種は日本の財産であるため護るのが当然だが、法規制がされていなかったり、法規制しても実効性のない形で行われていたりすることが多い。ただ、葡萄やイチゴなど、果実を輸出すれば種も同時に輸出され、その種から栽培することが可能なものは流出防止できないため、世界ベースで特許権・商標権を登録しておくことが重要なのである。

(3)再エネによる地方産業の育成


 2021.5.22日経新聞        2021.6.3日経新聞       2021.6.3日経新聞

(図の説明:左図のように、日本でEVにくだらないケチを付けている間に、世界では車載電池の寡占が進み、中国・韓国の企業が善戦している。そして、中央の図のように、確かに電池も進歩しており、リチウムイオン電池の容量も大きくなったが、さらに安心して使えるためには、安価な全固体電池の市場投入が必要だ。また、右図のように、全固体電池をめぐる主なプレーヤーは、自動車会社と電機メーカーである)

  
2021.6.3日経新聞       2021.6.3日経新聞         2021.8.19日経新聞

(図の説明:左図のように、EV電池はより小型に、その他はウェラブルなほど小さく軽くなるそうで楽しみだ。中央の図は、全固体電池の仕組みをリチウムイオン電池と比較したものである。ただし、右図のように、自動車は、EV化だけでなく自動運転化も進んでおり、これらは新しい技術であるため、その気になれば地方への工場誘致や地方企業の育成も可能だろう)

1)気候変動と再エネ
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2021年8月9日、*3-1-1のように、①産業革命前と比べて世界の気温は2021~2040年に1.5度上昇し ②人間活動の影響は疑う余地がなく ③自然災害を増やす温暖化を抑えるには二酸化炭素排出を実質ゼロにする必要がある と指摘しており、そのとおりだと思う。
 
 これについて、*3-1-2は、④報告書は2011~2020年で1.09度上昇し ⑤極地やシベリアで氷床や永久凍土の融解が報告され ⑥日本では巨大台風・豪雨、世界では異常熱波・大規模山火事が繰り返され ⑦当面続く気温上昇に備えて避難計画の見直し・食料確保等の対応が欠かせなくなり ⑧日本政府は、再エネ活用を模索すしつつ石炭火力の温存や家庭の取り組みに頼る姿勢を見せているが ⑨石炭火力の全廃・ガソリン車の販売禁止といった思い切った政策を早期に打ち出さなければ・・ と記載している。

 このうち、①②③④⑤⑥⑦は、実体験に近いが、⑧のように、日本政府が石炭火力に頼れば、「EVはCO₂削減に貢献しない」などという屁理屈を許してしまうため、⑨は重要なことである。さらに、石炭は輸入しなければならないが、再エネなら国産にすることができ、地方で再エネ発電を行えば地方の所得を増やすことができるのである。

 また、*3-2-1は、⑩日本最大の課題は脱炭素で ⑪環境問題対応が欧州を中心にスタンダード化した中で、日本も外圧で取り組まざるを得なくなったのは主体性がみえない ⑫米国もバイデン政権になって脱炭素に舵を切ったため、日本は外堀を埋められ ⑬2020年10月の菅義偉首相の決断がせめてもの救いだが ⑭約150年前の明治維新から日本は外圧による転換を繰り返し ⑮戦後の政治経済レジームも日本国憲法はじめ殆どが外圧によるもので  ⑯日本は自律的に変わらず、外圧がなければ改革できない ⑰今回の脱炭素を中心とした外圧も日本にとってチャンスとの見方もできる 等と記載している。

 環境問題の国際的認識は、(私の提案で)京都議定書から始まった。にもかかわらず、⑩⑰のとおり、再エネへの変換は日本にとってはプラスなのに、日本が主体性を持って世界をリードすることはできず、まさに⑪⑫⑭⑮⑯のように、欧米の外圧があってはじめて変わるわけである。⑬は、せめてもの救いだが、やはり遅い。つまり、変革は個人の意識と行動から始まるものであるため世代交代すればできるわけではないが、先見の明を持ち早く始めてトップランナーになった国・企業が大きな利益を得、慌ててついていく国・企業には座礁資産が多くなるのである。

2)再エネ由来の電源へ
 経産省は、*3-2-2のように、2030年度の電源構成で再エネの主力化を進める新たなエネルギー基本計画素案を有識者会議に提出したそうだが、未だにCO₂排出量の多い石炭火力や問題の多い原子力への依存を続ける姿勢だそうだ。

 政府が計画を抜本的に見直して脱炭素実現に不可欠な社会・経済の変革を促すことは重要で、それには、エネルギー基本計画に2030年までの石炭火力0、原発0を銘記すべきだ。そうすれば、2030年に向けてやるべきことは明確になり、それは送電網の整備・蓄電池の普及・発電場所の確保・場所にあった発電機の開発・再エネ関連機器の低コス化である。そして、“ベースロード電源”などという概念は廃止し、原発の新増設や建て替えはしないことにするのである。

 日本で「再エネは天候によって発電量が変動するから、“ベースロード電源”が必要だ」などと言ってぐずぐずしている間に、*3-2-3のように、米テスラは日本で送電向け蓄電池を国内相場の約5分の1の価格で販売し、その電池の調達元はEV向けも調達する世界大手の中国寧徳時代新能源科技だそうだ。寧徳時代新能源科技は、テスラと25年末までの新たな電池の供給契約を結び、新電力のグローバルエンジニアリングが北海道電力の送電網にテスラの蓄電池システムを接続して電力の調整弁として機能させるそうである。

 日本でも水素による蓄電方法や電池ができているが、方向が定まらずに右往左往して価格が高止まりしている間に、再エネ由来の利益も海外企業に持っていかれそうになっているわけだ。

3)再エネ由来の燃料へ
イ)水素燃料航空機について
 政府(経産省・国交省・文科省)と関連する民間企業(日航・全日空・川崎重工・三菱重工・IHI・燃料供給会社)が、欧州航空機大手エアバスが2035年までに水素燃料航空機を市場投入すると公表した外圧を受けて、*3-3-1のように、初めて水素を燃料とする航空機の実用化に向けて水素の貯蔵や機体へ注入するための空港施設の整備に向けた検討を始めるそうだが、これも追随型で遅い。

 何故なら、水素はロケットや自動車を動かせる燃料であり、CO₂を排出しないため、水素燃料電池車が出た時に思いついて当たり前だからだ。現在、日本製の航空機は飛んでいないため、水素燃料航空機はゲームチェンジャーになれるところでもあった。

 そして、新しいことをやろうとすると必ず「コストが高い」と言うが、コスト高で競争力がなく生産・販売できなければ、技術も進歩せずに消えていく。また、何であれ最初はコストが高く、大量に生産すれば安くなる筈なのである。

ロ)軽EVについて
 軽EVの開発競争が、*3-3-2のように加速しており、日産・三菱は共同開発車を2022年度前半、ホンダは2024年、スズキは2020年代半ばに市場投入を目指し、ダイハツは開発を検討中だそうだ。「地方の足」である軽に脱炭素・EV化の流れが進むのは当然のことで、その理由は、EVなら近くで発電した安い電力で走ることができ、環境を害することがないからだ。

 ガソリンエンジンを搭載しなくてよいため、軽EVが安くなるのは当然だと私は思うが、日本では国や自治体の補助金を含めた価格が200万円を切ると、走行距離が短くなるそうだ。しかし、中国では、上汽通用五菱汽車が2020年7月に発売した50万円を切る小型EVが爆発的に売れているのである。

 EV先進国となった中国は、*3-3-3のように、百度が「ロボットカー」を発表し、中国自動車大手と共同出資してEVの製造・販売に今後5年間で500億元(約8500億円)を投じるそうで、百度のCEOは「未来の自動車はロボットEVの方向に進化する」と言っている。

ハ)ホンダについて
 企業誘致すると、その企業が支払う住民税・事業税のほかに、その企業に勤める社員の年収に応じて住民税が徴収され、誘致した自治体の財源が増える。しかし、企業誘致には、①生産に有利(土地建物・人件費・水光熱費等のコストが安い) ②販売市場に近い ③質の良い労働力を集めやすい ④その他のインフラが整っている 等の企業にとって有利な条件があるだけでなく、⑤従業員の生活に便利(生活・教育・文化・交通面)である などの条件も比較されることを考慮しなければならない。

 ホンダは、東京本社のほか埼玉県・三重県・熊本県などに製作所があり、埼玉県にある我が家の車はホンダのグレース(HV)だが、ホンダのトルネオ(ガソリン車)から乗り換えようとしていた時、EVが出るのを待っていたのにEVが出ないので、HVを買った経緯がある。

 そのホンダが、*3-3-4のように、2021年度中に狭山完成車工場の四輪車生産を新鋭の寄居完成車工場に集約するそうだが、寄居工場の稼働開始は2013年であるのに、寄居町にホンダ関連で大きな受注を獲得した企業や工場の新増設の話はなく、商業にも目立った経済効果が出ていないそうだ。寄居工場は国内での増産投資が目的だったが、その後、ホンダが国際分業を一段と加速したのは、上の①②③が揃っているためではないのか?

 また、従業員の殆どは工場内の食堂や売店を利用し、狭山工場で勤務していたため狭山市周辺から通勤する人が多く、寄居町で消費する機会はかなり限られるのだそうで、この状況を打開するため、寄居町は今年秋にも狭山市周辺から通う従業員向けに移住・定住を促すツアーを開催したいと考えているそうだ。が、ホンダの工場進出で、従業員の住民税はさほど増えなかったが、法人関係の税が寄居町の財政を潤したのは確かである。

 そのホンダが、*3-3-5のように、中国でEVなどの新エネルギー車を生産増強し、合弁会社を通じて約30億元(約500億円)投資し、広東省広州市の工場を増設して生産能力を年12万台上積みするそうだ。EV・PHVなどの新エネ車専用の新設備の建設面積は約18万6,000m²で、新しい生産設備が稼働すればホンダの中国での自動車生産能力は年161万台となり、現在と比べて約1割増える見通しだそうだが、これは、中国の方が上の①②③が揃っており、④の中のEV推進も積極的に行っているからだろう。

(4)医療・介護による地方産業の育成
1)日本の新型コロナ対応
 *4-1-1は、①政府は新型コロナの入院対象者を重症化リスクの高い中等症・重症者に限り、それ以外は自宅療養を原則とした ②これまでは軽症・無症状の人も原則として宿泊療養させた ③目の届きにくい自宅療養は容体急変への対応が限られる ④中等症でも呼吸不全を起こして酸素投与が必要になる場合もある ⑤自宅療養を基本とするなら患者が安心して療養できる環境が必要 ⑥現状は往診等の在宅医療体制が整っている地域は少ない ⑦入院対象の仕分けは自治体の保健所が担う ⑧宿泊療養施設の拡充や在宅患者を見守る医師・看護師の確保など地域住民の不安を拭う策を講じるのが先 ⑨選択肢を広げるのが政府の務めであり、自粛要請に頼って病床確保を怠ってきた責任は重い と記載している。

 ②については、感染者にとっては行き過ぎた強制の面もあったが、他者に感染させないために必要な措置だった。そのため、退院基準をPCR検査で2度陰性が続いた人として、療養中に軽症者向けの薬を投与し、回復を早めて速やかに退院させればよかったのだが、軽症者向けの薬をいつまでも承認しないという厚労省の不作為があった。また、⑦については、保健所職員が単純な基準で判断するのではなく、医師が患者の全体像を見て判断しなければ医療ミスの起こる可能性が高くなるが、既に起こった医療ミスの責任は保健所がとるつもりなのか?

 また、①③④⑤⑥で、患者が亡くなった場合の医療ミスの責任は、これまで医療制度を軽視し続けてきた厚労省がとるのか、患者を仕分けした保健所がとるのか、それとも政府全体でとるのか? 私は、不作為も含め、政策を作って意思決定してきた人(厚労省及び同専門家会議)が故意または重過失の責任をとるべきだと考える。

 なお、⑧の宿泊療養施設の拡充は昨年の新型コロナ感染の当初から言っており、既にホテル等の既存建物が多い日本で新しい施設を造るのは無駄だが、ホテルを抑えても実際には使われない場合が多く感染防止の本気度が疑われた。また、宿泊療養施設の患者を見守る医師・看護師の確保も最初から言っていたのに未だできておらず、在宅患者を見守る医師・看護師・介護士の確保は慢性疾患の患者を見守るためには必要だが、急性感染症の患者を自宅療養させるのはリスクが高い上に感染拡大に繋がるため常識外れだ。

 従って、⑨の選択肢を広げるのが政府の務めというのは正しいが、それは慢性疾患の場合であり、新型コロナのような感染症は入院やホテル療養などによる隔離を基本とすべきだ。また、自粛要請に頼るのも、最初の3カ月なら仕方がないものの、日本なら国民が自粛している間にすべての準備をすませておくべきであり、できた筈である。

 18世紀末にジェンナーが天然痘ワクチンを開発して世界で天然痘が根絶され、1960年代に日本がポリオの生ワクチンをソビエトから緊急輸入して世界に先駆け1000万人を超える子どもたちに一斉接種してポリオの流行を止めたように、ウイルス性の感染症にはワクチン接種が決定打であることは100年以上も前からわかっていた。

 にもかかわらず、2020年の日本で、*4-1-2のように、⑩ワクチン接種が円滑に進む地域は準備に早く着手した ⑪きめ細かな診療体制も敷かれ医療機関同士や行政との連携が密だった ⑫接種率が高い地域の多くは大病院が少なく、かかりつけ医が患者に目配りしている ⑬地元医師会・大学・行政が連携して役割分担している ⑭こうした連携は一部で全国的には道半ば ⑮患者は軽い病気やケガで大病院を利用するケースが多く、効率的・機動的な医療が妨げられている ⑯接種をきっかけに地方で芽生えた取り組みはコロナ後の医療改革のヒント 等が書かれており、ここでいちいち反論を書くことはしないが、愚かぶりが著しい。

 何故なら、ワクチンの接種は当然のこととして、ワクチンを、i)どう早く作るか ii)どう早く接種するか iii)二重接種等にならないようにどう整理するか を最初から考えておくのが当たり前であり、これを実行したのが欧米・ロシア・中国等で、日本の厚労省及び同専門家会議は多額の税金を使ってワクチンを外国から買いあさることしかできなかったからである。

2)日本における分析と政策立案の欠陥 ← 新型コロナの対応から
 *4-1-2には、⑩ワクチン接種が円滑に進む地域は準備に早く着手した ⑪きめ細かな診療体制も敷かれ、医療機関同士や行政との連携が密だった ⑫接種率が高い地域の多くは大病院が少なく、かかりつけ医が患者に目配りしている ⑬地元医師会・大学・行政が連携し役割分担している ⑭こうした連携は一部で全国的には医療機関の規模に応じた役割分担と連携は道半ば ⑮患者は軽い病気やケガで大病院を利用するケースが多く、効率的・機動的な医療が妨げられている ⑯接種をきっかけに地方で芽生えた取り組みはコロナ後の医療改革のヒント 等が記載されていた。

 このうち、⑩⑪⑬⑭は事実だとしても、⑫については、「接種率が高い地域は、大病院が少ない」のではなく、大病院が少ない地域は地方で、高齢化率が高いため接種率が高いのである。また、高齢者はワクチンの力を知っているためワクチン接種に積極的で、頼れる大病院が少ないことを自覚しているので自助にも熱心なのだ。

 また、⑮については、「軽い病気やケガで大病院を利用してはいけない」と言いたそうだが、「軽い病気やケガ」の定義はどこまでで、それは誰が決めるのか? 私は、患者自身で病気の軽重を決めるのは危険だし、重篤化したりこじらせたりしてから大病院に行っても、治癒するのに時間がかかったり、治癒できなかったりするため、最初が肝心だと考えている。

 さらに、⑯は、新型コロナやワクチン接種という急性感染症を例として、成人病や慢性疾患における医療ネットワークの必要性を論じている点で無理がある。何故なら、急性疾患の場合は、1分でも1秒でも早く対応するのが病気やケガを悪化させず、回復の確率を上げるコツだからだ。

 また、*4-2-1は、政府は⑰感染が急拡大している地域は自宅療養を基本とする新方針を発表し ⑱入院は重症者や重症化のおそれが強い人を対象とし ⑲自宅宿泊療養の新型コロナ患者への往診の診療報酬を大きく拡充して新型コロナ感染者への医療提供体制を強化するよう協力を要請し ⑳地域の診療所が往診やオンライン診療で患者の状況を把握して適切な医療を提供するようお願いし ㉑血液中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターを配布 としている。

 しかし、⑰~㉑は、診断と治療が終わって急性期を脱し、慢性期に入っている人には有効だが、急性疾患の初診で重症化の恐れがあるか否かは、患者に対面し、検査をし、患者の全体像を把握した上で初めて判断できるもので、保健所が時間をかけて中等症にした人を、(いくら診療報酬を拡充されたとしても)オンライン診療による初診だけで医師が引き受けるのはリスクが高すぎて元が取れないと思う。何故なら、診断ミスによる医療過誤で信用を失えば病院経営に深刻な打撃を与えるからで、それはもちろん、患者のためにもならない。

3)医療ネットワークに組み込むべき往診・訪問看護・訪問介護
 医療ネットワークの要素には、大病院・かかりつけ医・往診・訪問看護ステーション・介護ステーションがあり、1人の患者を例にとれば、病気やケガの発生・治療・療養・リハビリなどの各段階において有機的に連携されていることが望ましい。しかし、現在は、そうなっていないのが課題なのである。

 そのような中、大阪府は、*4-2-2のように、新型コロナ感染者のうち自宅療養者の健康観察を強化するため、訪問看護を府内全域で実施すると発表したそうだ。新型コロナのような感染しやすい急性感染症を自宅で療養するのはいかがなものかと思うが、他の病気で自宅療養する時に往診や訪問看護が必要不可欠なのは間違いない。しかし、訪問看護も、保健所が必要だと判断した患者ではなく、医師が必要だと判断した患者に対して、医療行為の一環として連携して行うべきである。そのため、大病院でもかかりつけ医でも、訪問診療科・訪問看護科・訪問介護科を常設し、検査・治療・療養・リハビリ・栄養指導・生活支援などを各段階で一貫して行うようにすると患者が便利だ。が、この場合は、病院の中にケア・マネージャーが必要だろう。

4)介護保険制度について


     国保連          介護求人       2021.8.21日経新聞

(図の説明:介護保険制度の仕組みは左図のとおりで、所得によって介護保険料の負担額が異なるだけでなく介護費用の負担割合も異なり、これは保険の枠組みから逸脱している。また、40~65歳の第二号被保険者は介護サービスを受けられる病気も限定されているため、サービスの提供における差別があると同時に、介護保険料の徴収年齢にも合理性のない差別がある。また、要介護・要支援・自立の判定は本人の申請に基づいて行われ、中央の図のように、判定を経て決定されるので、自治体の判定に依拠するところが大きい。このような中、右図のように、日経新聞が介護給付費を大きく減らした上位10市町村を掲載しているが、工夫して賢く減らしたのか、単に介護費用を削っただけなのかは要検討だ)

イ)介護給付費の削減について
 日経新聞は省庁の広報機関のような見解を述べることが多いが、*4-3-3も、①介護給付費は2020年度に10兆円に達し、介護保険制度が始まった2000年度の3倍以上に膨らんだ ②持続可能性を高めるには圧縮が急務 ③全国では既に59市町村が削減に成功した ④高齢者1人当たり給付費は保険者2018年度で26万円と制度開始時から11万円強増えた としている。

 しかし、①④は、介護保険制度がスタートした2000年度は、i)介護サービスが充実しておらず ii)介護の担い手も不足しており iii)介護を受ける世代の人に「本来なら家族が介護するべきところ、人様の世話になるなんて」と思う人が少なくなかったため、比較すること自体が無意味なのである。そして、2020年になっても、介護保険料が高い割には、不必要な介護用品に補助を付けている例もあるのに必要なサービスを受けられない人も多く、年齢による介護保険料負担の不公平感もあるため、介護制度は未だ不完全な制度と言える。

 また、②は、自分は介護を担わないと思っている人の発言であり、③は、もともと不十分なサービスを減らすことが適切だったか否かについて、事例毎の検討を要する。

 さらに、*4-3-3は、⑤高知県南国市は保健師・栄養士・理学療法士等が協力して介護予防に取り組み ⑥1人当たり給付費を2001年度の28万円弱から24万円(2018年度)まで減らし ⑦「地域ケア会議」で身体的負担の少ない公営住宅紹介等の個別支援プランを策定し、食事や運動も精緻に計画・検証し ⑧多くの事例で自立生活が維持できるようになった ⑨沖縄県名護市は給付増の要因になりやすい施設入所を生活に支障なく抑制しようと配食サービスの普及に力を注ぎ ⑩北海道鶴居村・天塩町はクラブを作って運動を促し、糖尿病や肥満の人に個別指導をして機能低下を防ぎ、高齢者1人当たりの給付費を各36.7%、25.3%減らした としている。

 しかし、⑤⑩は、健康寿命が延びるのでよいと思うが、⑥のように一時的に給付費が減っても最後は介護を受けて亡くなるため、1人当たり給付費は数年~十数年後には元に戻るか増えると思われ、科学的な継続調査と結果の公表が望まれる。また、⑦の身体的負担の少ない公営住宅紹介もGoodだと思うが、今後は国として身体的負担をかけないバリアフリー住宅の建築基準を作ればさらに効果的だ。また、⑨の配食サービスや⑩の栄養指導もよいが、スーパーなどで美味しくて栄養バランスのよい薄味の惣菜や弁当を売っていれば、自立した自宅生活がしやすい。

 このほか、セコム等が見守りサービスを実施しているが、生活支援の便利屋機能を加えると、介護保険の生活支援サービスを受けずに自宅生活のできる人が増えると思う。

ロ)市民が見た介護保険の20年とこれから
 介護保険制度創設は、私が、1995年頃、さつき会(東大女子卒業生の同窓会)が発行したエッセイ集に載っていた共働き先輩女性の介護での苦労話を読み、「明日は我が身」と身につまされて「現役時代によい制度を作っておかなければ、退職後にひどい目に合う」と実感し、メーリングリストでさつき会の会員に呼びかけつつ、通産省(当時)の人に言って始まったものだ。

 その介護保険制度について、2020年4月29日、西日本新聞は社説で、*4-3-2のように、①2000年4月に「介護の社会化」を掲げて始まった介護保険制度で家族頼りだった介護は民間サービスが担うようになり ②社会的入院の解消を促し、「老親の世話は同居する女性の役割」という社会通念を拭い去るのに貢献 ③この20年で高齢化がさらに進み要介護・要支援認定者と必要な費用が3倍に増えた ④介護サービス需要が急速に伸び、制度の維持が困難に ⑤大変な仕事の割に介護職員の平均給与が全産業平均を大きく下回って現場の人手不足が深刻 ⑥外国人材への期待も高いが新在留資格「特定技能」による受け入れは進んでいない ⑦団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には約34万人の介護人材不足が見込まれる としている。

 また、⑧国は財政逼迫を受けて負担増と給付減を行い ⑨介護の必要性が低いとされる利用者サービスを全国一律の介護保険から切り離す動きが始まって要支援者の訪問介護と通所介護は既に市町村に移管され ⑩要介護1、2の一部サービス移管案も浮上しており ⑪急な負担増は利用抑制を招いて生活の質や健康への悪影響があり ⑫市町村への事業移管は居住地によるサービス格差の懸念が大きく ⑬介護保険の財源は保険料と公費(税金)で構成されるので、公費負担アップや介護保険加入年齢の40歳以下への引き下げも要検討 としている。

 このうち、①②はそのとおりだが、③の高齢化の進展は創設当時からわかっていた。また、介護を受ける人が増えて介護を外部化することに対する違和感が減ったため、実際の要介護・要支援者のうち認定される人の割合も増えたと思う。そして、④の介護サービス需要が急速に伸びたのは本当に必要な実需だったからにほかならず、工夫もせずに「制度の維持が困難になった」と言うのはお役所仕事そのものである。また、同じサービスの給付に対して負担率が異なるのは、保険の枠組みから外れてもいる。

 ⑤も何度も聞いたが、全員を同じ給与にする必要はなく、看護師や介護士の資格があれば相応の資格手当や技術加算分を支払い、管理職には管理職手当を支払い、日本語がよくわかる人には日本語手当を支払うなどして、⑥の外国人も十分活用しながら、サービスを削ることなく、介護の能力に応じた給料を支払えば、⑦の介護人材不足は解消するだろう。また、そもそも介護保険制度は、⑬の介護保険制度への加入を働く人全員(40歳以下も)にすべきである。

 さらに、国(特に厚労省)が、(新型コロナ対策を見てもわかるように不要なことをして膨大な無駄遣いをしながら)⑧のように“財政逼迫”として介護制度の負担増・給付減を行ったのは、⑪のように、介護を受ける人のことを全く考えず、介護サービスという今後は世界で膨大な産業となるサービスの芽を摘んでいる。また、⑨⑩⑫のように、要支援や要介護1、2を介護の必要性が低いとして全国一律の介護保険制度から切り離すと、各地方自治体はこれまでの国策の結果として生産年齢人口と高齢者人口の比率が異なるため、格差が生じて不公平になるのだ。

 「市民が見た介護保険の20年」と題し、*4-3-1は、⑭2005年の改正で要介護者への給付とは別に要支援者への予防給付ができた ⑮2014年の改正では、要支援者のホームヘルプとデイサービスが予防給付から地域支援事業に移され、特別養護老人ホームの利用は要介護3以上となった ⑯利用者に選択権があるとして始まり、介護が必要と認定されれば給付が保障されていたのに、いつの間にか予防重視型になった ⑰2020年の要支援・要介護認定者669万人のうちサービス利用者は515万人で約4分の1は介護制度を利用していない ⑱厚労省は家族で対応していると説明するが、自己負担を払えず利用できない人が一定数いる ⑲ホームヘルプが抑制され、同居家族がいると生活援助を利用できないという解釈が市町村で広がった ⑳ホームヘルプは高齢者の自立支援に資することがないと批判を浴びてヘルパーが減った ㉑厚労省は地域包括ケアを掲げるが、ヘルパーが減ってどうやって地域での暮らしを支えるのか疑問 ㉒要支援者が要介護認定を受けても地域支援事業のデイサービス等を引き続き利用できるよう見直され、要介護認定を受けても給付の対象にしなくて良い仕組みになった ㉓予防給付や地域支援事業を拡大する方向性で制度を維持しようとするのはおかしい としている。

 私も、⑮のように、要支援者のホームヘルプとデイサービスを地域支援事業に移して特別養護老人ホームの利用は要介護3以上に限定し、㉒のように、要介護認定を受けても地域支援事業を利用できるようにすれば、国は介護費用を節約できるが、介護の必要な人が介護を受けられない事態が発生していると思う。また、⑰のように、高い介護保険料を支払いながら介護費用を支払えずに介護を受けていない人もいるだろう。これに対し、⑱のように、厚労省が「家族で対応している」と説明するのは、昔返りで介護保険制度の意図を理解していない。

 また、⑭⑯のように、介護と支援のどちらを選択するかを高齢者が選択できるのではなく、要支援者のホームヘルプとデイサービスを地域支援事業に移し、⑲のように、介護費用を節約したい地方自治体が「同居家族がいると生活援助を利用できない」と解釈すれば、同居する女性に介護を強いることとなり、介護保険制度の意味を失わせる。そうなると、⑳のように、ヘルパーが減るのも当然で、㉑の厚労省の言う地域包括ケアは、「女性を中心とする地域ボランティアがやれ」ということになり、介護を無償労働化している点で介護を担当する人に極めて失礼だ。

 従って、㉓は、予防給付や地域支援事業の一部は本来の介護ではないため、その費用は介護保険制度から拠出するのではなく、税金から別に予算を出すべきであろう。

5)診療は、ITやオンラインを使いさえすれば進んでいるわけではないこと
 厚労省は、*4-4のように、新型コロナで自宅やホテルで療養する人に対し、電話やオンラインで診療した場合の診療報酬を2倍超に引き上げると自治体に通知したそうだが、自宅にいる患者に電話やオンラインで初診すれば、検査はできず、患者の様子も本人の報告を聞くだけであるため、何もしないよりはいいという程度に終わる。

 その報酬が2,140円だったのを4,640円にしたとしても、初診の診断ミスのリスクには見合わないため、急性感染症に遠隔診療を促すのは賛成しない。重要なのは、時と場合に応じてどういう内容の検査・診察をして判断したかであるため、「この際、オンラインを使った遠隔診療を進めよう」という考えで遠隔診療を進めるのは慎むべきである。

(5)国と地方自治体の財源

   
2020.12.15時事 2020.12.21時事   2020.6.10日経新聞   栗原税理士事務所
                     *5-1より
(図の説明:1番左の図のように、2000~2020年度の日本全体の歳入は40~60兆円の間であり、2000~2019年度の歳出は80~100兆円程度だったが、2020年度は新型コロナ対策として約176兆円もの効率の悪い予算を組んだため、国債発行額が40兆円から約113兆円に跳ね上がった。そして、左から2番目の図のように、2021年度当初予算における歳出も過去最高の約107兆円で、このうち税収で賄われるのは約57兆円、税外収入で賄われるのは約6兆円にすぎず、残りの約44兆円は新規国債発行によるものだ。なお、地方自治体の歳入の一部となる地方交付税交付金は、国の2021年度歳出予算のうち約16兆円だ。右から2番目の図は、地方自治体の2018年度決算で、歳入は地方税40%、地方交付税19%、その他16%などである。1番右の図は、税目別の国税と地方税の振り分けだ)

1)国の財源のうち税外収入
 上の左から2番目の図の歳入構造には、①税収 ②税外収入 ③新規国債発行がある。このうち、①の税収を増やすためには、i)国民や法人の稼ぎを増やす ii)既存の税の税率を上げる iii)新しい税目を作る などの方法があるが、ii)は何の工夫もいらないものの景気を押し下げる。また、i)は、付加価値を上げたり、販売力を伸ばしたり、生産性を上げたりする根本的な解決法もあるが、金融緩和による通貨量増加だけでは景気のカンフル剤にしかならず、物価が上がって購買力平価が落ちれば国民生活は貧しくなる。さらに、iii)は、環境に悪い行動に環境税を課し、環境によい行動の補助金財源にすれば、財政中立で環境改善への二重のインセンティブとなる。

 ③の新規国債発行については、国の責任で生じた過去の年金積立金不足を新規国債発行で賄うのは公平・公正の観点から必要だが、景気対策として行われる無駄遣いを国債で賄えば、その国債を返還する世代に不当な負担を押し付けることになる。ただし、地域間送電線・道路の建設等のように次世代への負債と資産がセットで残るものならば、負債だけが引き継がれるわけではないため世代間の公平・公正を害しない。しかし、その金額を正確に把握するためには、国への複式簿記による公会計制度の導入、迅速な会計処理、その年度の決算に基づく次年度の予算審議が必要で、これは民間企業なら必ず行っているもので、多くの国で採用しているものでもある。

 なお、仕方なく発行された国債であったとしても、令和2年度末に906兆円と見込まれる公債発行額は令和2年度税収64兆円の14年分にあたるため、とても税収から返済できるものではない(https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2020/seifuan2019/04.pdf 参照)。そのため、国民に負担をかけずに国債を賢く返済するには、②の税外収入が必要不可欠で、税外収入は、これまで開発してこなかっただけに潜在的資源が多いのである。

 例えば、*5-1-1のように、日本は陸地及び排他的経済水域ともに地熱資源が豊富だ。しかし、経産省が地熱発電所を増やすため国立公園内などに適地を見つける調査を本格化するといっても、2030年度に地熱発電を1%に引き上げるという小さな目標だ。環境省が自然環境や景観を損なうという理由で開発に慎重だったとのことだが、原発や化石燃料の方が自然への悪影響や景観悪化はずっと大きいため言い訳にすぎず、次期エネルギー基本計画には「地熱資源の活用による国の税外収入の増加」を明確に記載すべきである。

2)国から地方自治体への国庫支出金、地方自治体の税外収入
イ)地方自治体の再エネ発電
 *5-1-1の地熱発電をはじめとする再エネを使った売電収入は、地方自治体の資産を使って行えばその地方自治体の税外収入になる。そのため、地方自治体も、これまで活用してこなかった再エネ発電で安価な電力を作り出し、その自治体における光熱費を下げて、農業や製造業を有利にする方法がある。この時、頑張って黒字化した地方自治体には、右から2番目の図の地方交付税が減らされるのがマイナスのインセンティブにはなるが、もらえる地方交付税の金額を大きく上回る稼ぎがあれば地方自治体にとっても国にとっても役立つことは言うまでもない。

ロ)地方自治体のごみ発電
 地方自治体は、“邪魔者”であるゴミを集めて処分しているつもりだと思うが、ゴミの収集がこれだけ整然と行われる組織はそれ自体が財産である。その理由は、ゴミは、分別とリサイクルで利用可能な資産になるからだ。

 その1例は、*5-3-1のごみを燃やした熱を利用してタービンを回して発電する「ごみ発電」で、日立造船など上位3社の累計受注件数が5年で倍増したそうだ。世界には日本以外にもごみ活用の先進国があり、再エネ比率が6割を超えるスウェーデンは、国内で発生するごみの約半分を焼却して発電に利用し、余熱も暖房用などで家庭に供給し、肥料にも使うため自国のごみだけでは足らずに近隣諸国からごみを輸入しているそうだ。そして、今後は経済発展に伴って、アジアが市場を牽引する見通しとのことである。

 そのような中、*5-3-2は、①全国のごみ処理費は年間2兆円を超え、10年前と比べて1割増えた ②人口減に伴う担い手不足の懸念も強まる ③財政も厳しさを増す中、持続可能な地域を築くためには排出削減への戦略的施策が欠かせない などとしている。

 しかし、ゴミ処理は必要不可欠なサービスであるため無料である必要はなく、ゴミ袋を有料化することによってゴミ収集費を回収することが可能で、そうすると必然的に不要なゴミは減る。しかし、ゴミの分別がややこしすぎるのは生活に不便を強いるため、簡単な分別で処理できる包装資材の開発などの川上改革を行い、異なる色の有料ゴミ袋を使うなどして分別も簡便にできるようにした方がよい。

 こうすれば、①は、年間2兆円のごみ処理費は有料化で回収した上、地方自治体はごみ発電や温水供給による税外収入を得ることができる。また、②は、自動化や移民の受け入れを考えることなく言うべきではない。さらに、③は、工夫もなく、「環境保護=国民に我慢を強いること」というイメージを作っている点で愚かな発想だ。

 そのような中、川上村は可燃ごみの4割を占める生ごみの回収を一切せず、各家庭で堆肥化することによって全国の自治体で一番排出量を少なくしたそうだが、これは庭や畑が広くない地域では不潔になるため無理なことである。

3)地方自治体の歳出削減
 大阪市は、*5-4のように、市役所本庁舎で使用する電力を2021年12月から太陽光やバイオマス発電など再生エネ由来100%の再エネに切り替えるそうだ。また、大阪府では2021年4月から既に本庁舎などで使用する電力を再エネ由来100%の調達に切り替えており、日立造船がバイオマス発電による電力を供給しているとのことである。

 が、使用する電力を地方自治体自身で作れれば、光熱費が0になってSDGsにも役立ち、発電できる場所は考えれば少なくない筈だ。

4)地方自治体の歳入増加
 上の右から2番目の図及び*5-2-1のように、2018年度決算における地方自治体の歳入は、①地方税40.2% ②地方交付税19.1% ③国庫支出金14.7% ④地方債10.4% ⑤その他15.6%で、自前の財源だけで財政運営ができている自治体は少ない。

 しかし、地方自治体もIT化を進めれば人件費削減が可能な筈だし、新型コロナ対策も国と同様に人流抑制を繰り返して経済を止めるのではない方法もあった。そして、その場合は、家計や企業の緊急支援額を低く抑えることができ、財源不足が大きくなることはなかったのである。

 なお、*5-2-2のように、⑥新型コロナ感染拡大は人口の流れに影響を与え ⑦2020年の1年間で大都市から地方への移動が鮮明になって ⑧東京、関西、名古屋の三大都市圏の人口の合計は2013年の調査開始以来初めて減少し ⑨大都市から地方に人口が流れる傾向があり ⑩人口増の多い町村は子ども医療費無償化・幼小中一貫校設置・待機児童0・住宅地整備・企業誘致などの環境整備が注目される そうだ。

 住民税・事業税・固定資産税などの地方自治体の歳入を増やすためには、企業や生産年齢人口の増加が必要であるため、移住してもらうのがBestで、そのための努力は、上の⑩に代表されるだろう。しかし、人口が分散すれば、著しく狭くて高い住居や過度に節水した不潔な水道や長い行列に悩まされることもなく、自然に近い場所で居住することが可能なのである。

・・参考資料・・
<地方産業の高度化―その1:農林漁業の高付加価値化>
*1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN6V721GN6VTIPE00P.html (朝日新聞 2020年6月26日) カイコからコロナワクチン? 九大が候補物質の開発成功
 九州大学は26日、昆虫のカイコを使い、新型コロナウイルスワクチンの候補となるたんぱく質を開発することに成功したと発表した。「昆虫工場」による大量生産で、数千円で接種できるワクチンの臨床研究開始を来年度にもめざす。九大は世界的なカイコの研究機関として知られる。カイコは遺伝子操作したウイルスを注射すれば狙ったたんぱく質を体内で生産できることから、このたんぱく質を使って、新興の感染症を想定したワクチン開発技術を研究してきた。九大は1月に公開された新型コロナウイルスの遺伝情報をもとに、ウイルスが人間の細胞に感染するための突起状の「スパイクたんぱく質」に着目。大学で飼育するカイコで、このたんぱく質が生成できることを確認したという。別のコロナウイルスの研究では、スパイクたんぱく質を注射したマウスの免疫反応で体内にできた「抗体」で、ウイルスの感染を予防できる結果がすでに得られている。九大は新型コロナでもマウスを使った実験を年内にも終わらせる方針。製薬企業と連携し、早ければ来年度にも人間での研究を始める意向だ。26日の記者会見で日下部宜宏教授(昆虫ゲノム科学)は「ワクチン開発は世界中で進むが、スピードよりも、途上国も含めて接種できる安価なワクチンを、安定して生産することをめざしたい」と話した。また、九大の西田基宏教授(薬理学)らは26日、すでに使われている約1200種類の薬の中から、新型コロナの重症化防止も期待できる薬を3種類、発見できたと発表した。新型コロナの患者にも見られる呼吸不全や血管の炎症などの治療薬のため、早期の投与開始が見込めるとして「年内にも実用化につなげたい」と説明している。

*1-1-2:https://www.nippon.com/ja/features/c00508/ (Nippon.com 2012.7.9) [農業生物資源研究所]遺伝子組換えカイコで医薬開発に挑戦
 紀元前から続く養蚕の歴史に新しい一ページが刻まれそうだ。遺伝子組換えカイコを使って新しい絹や医薬品の原料を作る研究が進んでいる。その先端を行く農業生物資源研究所(茨城県つくば市)を訪ねてみた。
●カイコが持つタンパク質生成の高い能力に注目
 独立行政法人農業生物資源研究所(生物研)は、農業分野におけるバイオテクノロジーの中核機関として2001年に設立された。カイコが持つタンパク質生成の高度な能力に着目し、カイコが従来作る種類以外のタンパク質を作らせる研究を続けている。すでに、遺伝子組換えカイコ由来のタンパク質を使った化粧品が市販されているほか、将来的には安全で安価な医薬品の製造も視野に入れている。研究の詳細を紹介する前に、まずはカイコについて解説しておきたい。養蚕は紀元前15世紀ごろが起源とされる。日本では1~2世紀ごろに始まり、1909年には生糸生産高が世界一になったが、化学繊維の普及や後継者不足などによって徐々に衰退。現在は中国やインド、タイが主な産地である。日本国内には遺伝資源も含めて約600種類のカイコが存在するが、いずれも成虫(カイコガ)になっても飛ぶことができない。長い歴史のなかで養蚕に適するように品種改良、つまり“家畜化”されたためだが、これが遺伝子組換えカイコを産業化する際のメリットになる。遺伝子組換え生物はカルタヘナ法(※1)の対象で、厳密に管理しなければならない。カイコの場合、飛んで逃げる心配がないため管理しやすいのである。カイコは孵化(ふか)からおよそ1カ月後に繭(まゆ)を作る。その繭の原料となるのがタンパク質。タンパク質は体内の絹糸腺という器官で作られるが、絹糸腺内の部位によって、作られる種類は異なる。後部絹糸腺ではフィブロインというタンパク質が、中部絹糸腺ではセリシンというタンパク質がそれぞれ作られる。カイコが作り出す糸は、糊状のセリシンが繊維状のフィブロインを包み込んだ格好となっている。おおよそ、セリシン25%、フィブロイン75%の割合だ。糊状のセシリンは水溶性なので、繭をぐらぐらと湯で煮立たせると溶出し、繊維状のフィブロインだけを絹糸(シルク)として取り出すことができる。
●何世代も機能を受け継げる遺伝子組換え技術
さて、遺伝子組換えカイコの研究だが、遺伝子組換えカイコを作り出す際には、2つのDNAをカイコの卵に注射する。1つ目は、トランスポゾンというDNA上を移動できる遺伝子に、特定のタンパク質をつくるための外来遺伝子を組み込んだベクターDNA(※2)。もう1つは転移を促す酵素を組み込んだヘルパーDNA。これらを注射した卵を孵化させて、得られた次世代の個体群をスクリーニングすれば、利用可能な遺伝子組換えカイコだけを得ることができる。「卵の中でも生殖細胞に分化する部分を狙ってDNAを導入することで、特定の能力を何世代にもわたって引き継ぐことができます。この技術によって遺伝子組換えカイコの量産が可能になりました」と生物研主任研究員の内野恵郎氏は話す。生物研は9年前、外来遺伝子の性質が現れる場所をコントロールする技術も確立した。繊維状のフィブロインを作る後部絹糸腺で発現させると、シルクの改質が可能となり、生物研では蛍光色のシルクの開発に成功している。一方、糊状のセリシンを作る中部絹糸腺で発現させると、糊の中に狙ったタンパク質を作ることができる。セリシンは水に溶けるので、タンパク質の抽出もたやすい。生物研遺伝子組換えセンター長の町井博明氏は、「当研究所では生成するタンパク質の98%以上がセリシンという品種も開発。それと組み合わせればより多くのタンパク質が得られる」と技術の有効性を強調する。生物研は、群馬県蚕糸技術センター、前橋遺伝子組換えカイコ飼育組合、民間企業などと連携しながら研究を進めている。町井氏は「日本の養蚕業は厳しい状況にあるが、遺伝子組換えカイコが養蚕業の再活性化につながるかもしれない」と期待を寄せる。
●化粧品から将来は医薬品開発へ
 群馬県藤岡市にある株式会社免疫生物研究所では、生物研から技術提供を受けて、ヒト型コラーゲン(※3)を生成する遺伝子組換えカイコを作り出した。すでにそのコラーゲンを化粧品などに製品化している。特に苦労したのはコラーゲンの抽出だった。1つの繭から生成されるコラーゲンは約10mg。これを抽出するためには繭の成分を水に溶かし、こして繊維質を除去しなければならない。しかし、糊状のセリシンがフィルターの目に詰まってしまい、思うようにこすことができないという問題が残った。免疫生物研究所製造・商品開発部蛋白工学室長の冨田正浩氏はさまざまな工夫を重ね、最終的に10mgのコラーゲンから6~7mgを回収する手法を編み出した。免疫生物研究所はすでにヒト型コラーゲンを化粧品などに使用している。一般に化粧品には魚由来のコラーゲンを使ったものが多く、なかにはアレルギー反応を示す人がいるが、ヒト型コラーゲンなら問題ない。しかも、シルクや繭のイメージは化粧品のイメージアップにつながり、商業的にもメリットがありそうだ。「ゆくゆくは医薬品や医薬部外品を開発したいと考えています。たとえば、抗体を使った診断薬を開発する場合、細胞培養やマウスの体内で抗体を生産させるプロセスがあります。でも、動物愛護の観点からマウスの使用は減らしたいところですし、細胞培養にコストがかかって製品価格が上がるのも問題です。抗体はタンパク質の一種ですから、遺伝子組換えカイコで診断薬の原料となる抗体を作ることができれば、こうした問題はすべて解決できます。安全で安価な医薬品を作れる可能性があるのです」(冨田氏)。カイコが作る絹糸は、絹織物の美しさと滑らかな手触りで人々を魅了してきた。今後は、遺伝子組換えカイコが作るタンパク質が安全で安価な医薬品を生み出し、人々の健康に貢献するのかもしれない。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210808&ng=DGKKZO74574720W1A800C2MY1000 (日経新聞 2021.8.8) 米粒にコレラワクチン成分 東大など、遺伝子操作のイネ栽培
 東京大学の清野宏特任教授と幸義和特任研究員らはコメからできたワクチンの安全性をヒトで確かめた。米粒の中にワクチンの成分が入っており、すりつぶして飲むだけでコレラの毒素による下痢症状を防ぐ。コメに成分を封じ込めた結果、温度や湿気の影響を抑え、冷やさなくても長期間の保存ができる。コレラがまん延する発展途上国などでは冷蔵管理が難しく、利用しやすいワクチンの開発が待たれていた。ワクチンは千葉大学などと共同で開発した。コレラは東南アジアやアフリカなどの発展途上国で多く発生し、発症すると下痢の症状が出る。これまでのワクチンは冷蔵保存が必要だった。研究チームはコレラの毒素を構成する「部品」から、ワクチンの成分に使える無害な部分の遺伝子をイネに組み込んだ。この部品はコメがもつ天然のカプセルにたまる。コメの粉末を飲むと、ワクチンの成分が腸に届いて免疫をつくる。これまでにマウスやブタ、サルなどで免疫ができるのを確認した。コメであってもワクチン候補にあたるため、今回は健康な大人の男性60人を対象に医師主導治験を実施した。ワクチンを飲んだ人の健康に問題はなく、血清を調べると40~75%の人でコレラの毒素に立ち向かう抗体ができていた。飲む量が増えるにつれて抗体の量も増えていた。今後は有効性を慎重に確かめるほか、遺伝子を組み換えたイネを大規模に栽培できる体制づくりなどの課題を乗り越えたいという。研究チームによると、理論上はあらゆる感染症のワクチンが同じ方法で開発できるという。常温で保存でき、飲むだけで済めば利点は大きい。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210802&ng=DGKKZO74401590S1A800C2MM0000 (日経新聞 2021.8.2) 住宅、木材活用に知恵 環境にも配慮、住友不動産やケイアイスター
 不動産各社が住宅で木材を一段と活用する動きが目立ってきた。住友不動産は戸建てのリフォーム事業で従来は廃棄していた木材を再利用する取り組みを始めた。戸建て分譲住宅を手がけるケイアイスター不動産は注文住宅の国産材比率を100%に引き上げ、輸入材を使う場合に比べて環境負荷を減らす。改築や新築時の二酸化炭素(CO2)排出量の削減などにつながる環境配慮の姿勢を消費者にアピールして、需要取り込みを狙う。住友不はこのほどリフォームサービス「新築そっくりさん」で木材の再利用を始めた。従来、柱などの主要な構造材以外に使用している木材はリフォーム時に廃棄処分していたが、品質を確認のうえ顧客の同意を得られれば壁の内側の下地材などとして再利用する。同社のリフォームは建て替えるよりも廃棄物の排出量が半分で済む特徴がある。木材の再利用を進めることで改築時の廃棄物をさらに減らせる。新たな資材の調達も減らせるため、資材輸送時のCO2排出量も削減できると見込む。同社は年1万棟の大規模リフォームを手掛けており、環境配慮のサービスとしても顧客にアピールしていく考えだ。ケイアイスター不動産は平屋建ての注文住宅「IKI」について、4月以降の契約分から使用する木材を全て国産材に切り替えた。これまでも全体の約8割を国産材としていたが、新たに構造材の梁(はり)もすべて国産木材で建てられるようにした。同社によると、木造の戸建て住宅は鉄筋コンクリート(RC)造と比べ建築時に排出するCO2を約29トン削減できる。1世帯が排出する約7年間分のCO2に相当する。輸入材を使用するよりも輸送時の環境負荷も減らせる。全て欧州産の木材を使って建てた場合は国産材を使った場合に比べて約8.5倍のCO2が発生するとの試算もある。建屋の価格は17坪(約56平方メートル)で599万円から。今後3年間で500棟の受注を目指す考えだ。三井ホームは5階建て程度の中層マンションの木造化を進める。第1号物件となる賃貸マンションを東京都稲城市で建設している。強度や防音性などを高めてマンションを木造化できる新しい技術を開発した。建設時のCO2排出量もRC造の半分程度に減らせる見込みだ。政府は4月、2030年度の温暖化ガス排出量を13年度比で46%以上減らす目標を決めた。住宅部門でも省エネルギー性能の向上や太陽光発電など再生可能エネルギーの導入などを加速する必要があり、コンクリートに比べて断熱性の高い木材の利用が住宅で一段と進む可能性がある。ウッドショックが懸念されていることもあり、輸入材よりも環境負荷を低減できる国産材への注目も高まる。三菱地所など建設・不動産7社も国産材の需要を掘り起こす取り組みを始めている。環境に配慮した住宅は消費者からの支持も得やすいとみられ、今後も不動産各社で木材活用が進みそうだ。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC27B9W0X20C21A5000000/?n_cid=NMAIL006_20210812_H (日経新聞 2021年8月12日) 3Dプリンター、10日で住宅建築 臓器も代替肉も製造
 戸建て住宅がわずか10日で完成――。米スタートアップが昨年から住宅の建築に活用しているのは3Dプリンターだ。従来は樹脂や金属加工に使われてきた3Dプリンターは技術開発が進み、移植用臓器や代替肉にも活用分野が拡大。短期間で人手がかからないものづくりを実現し、イノベーションも生み出すとの期待が膨らむ。米カリフォルニア州の砂漠地帯に位置するランチョミラージュ。この地域の一角に、2021年中に計15戸の「印刷」された戸建て住宅が建つ計画が動き出す。手がけるのは米建築スタートアップ、マイティ・ビルディングズだ。同社は自社工場で3Dプリンターで住宅を製造、そのまま大型トレーラーで運んで施工するビジネスモデルだ。3Dプリンターには事前に図面データを入力する。データ通りにノズルを動かし、紫外線を当てるとすぐに硬くなる特殊な建築素材を噴射して積み重ねる。例えば、天井部分の工程では柱やパネルを設置した後、上から覆うように建築素材を噴出して形成していく。固まった層は外壁や床材などになるため、大がかりな現場工事は要らない。一人暮らしなどに向く小型住宅なら、10日程度で製造から施工までできるという。国内大手住宅メーカーによると、戸建て住宅の建築は2カ月ほどかかる場合が一般的。同社のスラバ・ソロニーツィン最高経営責任者(CEO)は「従来の建築工法と比べて費用は30%削減できる」と自信を見せる。同社は昨年から同州で住宅を供給しており、日本市場への参入に向けた検討も始めた。3Dプリンターを使った建築は世界で広がっている。オランダの3Dプリンターメーカー、サイビ・コンストラクションは世界で10台以上の納入実績を持つ。同社は数分で固まる素材も開発。これらを使ってアラブ首長国連邦やオランダなどで住宅が建てられている。国内大手も動く。大林組は3Dプリンターで高さ2.5メートル、幅7メートルの大型ベンチを試作。早ければ22年にも3Dプリンターの商業化を目指す。竹中工務店もオランダのスタートアップと共同で3Dプリンター技術の検証を進め、23年以降にイベント施設などの建築向けに導入する考えだ。企業による3Dプリンターの活用はこれまで、樹脂や金属の成型が中心だった。金型成型などの既存技術と比べて短期間で製造でき、少量多品種生産にも対応できることから試作品づくりなどに使われている。自由なデザイン設計がしやすく、製造に携わる人手を減らせることも利点だ。三菱重工業は国産ロケット「H3」でエンジン噴出口部品の加工に3Dプリンターを採用。100億円程度とされる打ち上げコストの半減をめざす。調査会社の富士経済(東京・中央)によると、樹脂や金属を素材とする世界の3Dプリンター市場は19年の1186億円から25年は1833億円と5割以上伸びる。デロイトトーマツグループの入江洋輔氏は「最近では技術開発が進んで3Dプリンターで加工できる素材などが増え、印刷速度も上がってきた」と指摘する。単なるものづくりの代替手段にとどまらず、イノベーションを生み出す役割も3Dプリンターが担う。その一例が再生医療だ。医療スタートアップのサイフューズ(東京・文京)が独自に開発した3Dプリンターは、臓器に疾患がある患者から採取した細胞を培養し、患者専用の臓器を製造する。3Dプリンターで細胞を剣山に刺していき、次第に細胞同士がくっついて固まることで数週間で臓器が完成する。25年度にも移植手術で利用できるようにしたい考えだ。臓器は患者の細胞からつくるため、人工臓器と比べ移植後に感染症や拒絶反応リスクが生じにくい。まず血管や骨軟骨などで臨床試験に入った。同社の三條真弘氏は「移植可能な臓器をつくるためには3Dプリンター技術が不可欠だ」と話す。食品業界ではイスラエルのリディファイン・ミートが3Dプリンターで代替肉によるステーキなどを製造する技術を開発した。植物由来の素材をプリンターのノズルで噴射して積み重ねて製造。アジア市場ではハンバーガーなどの製品群を22年に提供する方針だ。3Dプリンターはデザインが複雑な構造物や、細胞を培養した臓器など特殊な用途で強みを発揮する。一方、大量生産には金型成型の方が適する場合もある。3Dプリンターが得意な分野をいかに見いだして使いこなすか、巧拙が問われる。
●人手不足緩和へ導入
 人手がかからず短期間でものづくりができる3Dプリンターの活用が広がれば、日本の産業界が陥っている慢性的な人手不足の緩和につながる。特に建設業界は人材の高齢化が進む一方、3K(きつい、汚い、危険)のイメージから若者は就業を避けがちだ。労働政策研究・研修機構が2019年に公表した推計では、鉱業・建設業の就業者が17年の493万人から40年に300万人未満に落ち込む。人手不足に苦慮する建設業界では近年、部材加工や施工の一部でロボット導入が相次ぐ。そんな中、住宅をまるごと自動で造ってしまう3Dプリンターの活用はさらに先を行く取り組みだ。みずほリサーチ&テクノロジーズの岩崎拓也氏は「競争力維持のため、国内産業は3Dプリンターの活用領域を見極めて構造転換する必要がある」と指摘する。課題もある。日本の建設業界は災害が多いことなどを背景に法規制が厳しく、3Dプリンターによる大規模な住宅の建築は事実上難しい。柱など住宅の主要な構造部材は日本産業規格(JIS)などの規格・基準に沿わないと使えず、個別に認定を受ける必要がある。デロイトトーマツグループの入江氏は「日本企業は品質へのこだわりが高く、量産への活用には抵抗もある」とみる。欧州では3Dプリンターの製造受託サービスが普及する一方、「自前主義」が強い日本では同様のサービスが少ないことも普及の壁となる。人手不足や規制、過剰品質など3Dプリンター導入の利点や普及に向けた課題は、日本の産業界が直面する問題そのものだ。3Dプリンターを今後どう活用していくかは、こうした問題にどう向き合うかの試金石にもなる。
*多様な観点からニュースを考える:深尾三四郎 伊藤忠総研上席主任研究員
新時代に合った日本発祥の技術。コロナ禍のイタリアでは、ロックダウン下の工場停止で在庫不足に陥った人工呼吸器の弁をミラノのファブラボ(市民共有型の工場)が3Dプリンターで即時生産し、病院に供給したことで数多くの命が救われた。印刷機に送信される製品設計図等のIPをデータの耐改ざん性と機密性を担保するブロックチェーンで管理し、IP使用量に見合う利用料を徴収するシステム構築もイタリアの中小企業の間で試行されている。製造時CO2排出が多い金型を省き、樹脂素材はリユース・リサイクルできるので脱炭素化にも貢献する。1980年に名古屋で光硬化樹脂を積層する光造形法を発明した小玉秀男氏が3D印刷の生みの親。 

*1-4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15011223.html (朝日新聞 2021年8月15日) 抗体カクテル、宿泊療養者にも 重症化防止へ厚労省 新型コロナ 
 入院患者にしか認められていなかった新型コロナウイルスの「抗体カクテル療法」が、宿泊療養者にも使えるようになった。首都圏を中心に病床が逼迫(ひっぱく)するなか、この治療で症状が軽い人たちの重症化を防げれば、医療提供体制への負担軽減にもつながりそうだ。抗体カクテル療法は、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐ二つの中和抗体を組み合わせた点滴薬。軽症や中等症の患者向けで、肥満や基礎疾患などがある高リスクの人の重症化を抑える効果が見込まれる。国内では初の軽症者向けの薬として7月に特例承認された。感染初期の治療の選択肢を広げると期待されている。厚生労働省が13日付で都道府県などに出した通知によると、宿泊施設を臨時の医療施設とみなすことで、ホテルなどで療養している患者も治療対象とする。自治体や専門家からは、自宅療養者への使用を求める声も上がるが、高齢者施設や自宅で療養している患者への使用は現時点では認めない、とした。宿泊施設では、投与後に少なくとも1時間は経過をみる。また、投与して24時間以内の副作用として重いアレルギー反応「アナフィラキシー」が報告されていることなどを踏まえ、十分な観察ができるようにすることも求めた。宿泊療養施設での抗体カクテル療法の実施は、東京都の小池百合子知事が13日の記者会見で、態勢を整備したことを表明。「コロナとの闘いに新たな武器が加わった。攻めの戦略で、いかにして重症化を防いでいくかになる」と語った。厚労省によると、11日時点でホテルなどの宿泊施設に滞在する療養者は、全国に1万4871人で、4週間前の約3倍となった。自宅療養者は約13倍の7万4135人にのぼっている。

*1-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15010172.html?iref=shukatsu_mainbox_top (朝日新聞 2021年8月14日) 「酸素ステーション」整備 商業施設「人流を抑制」 首相表明
 菅義偉首相は13日、自宅療養患者への連絡態勢を強化する考えを示した。患者が酸素の投与が必要になった場合に対応する「酸素ステーション」を設けて対処するといい、こうした方針を関係閣僚に指示したという。首相官邸で記者団の取材に応じた。首相は自宅療養の患者について「必ず連絡が取れるようにする」と述べた。また、軽症者の重症化を抑える抗体カクテル療法を集中的に使える拠点を整備する考えも示した。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は12日、感染拡大が深刻な東京都で、人出を緊急事態宣言が始まる直前の5割まで減らす必要があるとの緊急提言を公表した。首相は「提言を受け、関係団体と連携し、商業施設などの人流の抑制に取り組んでいきたい」と説明。また、コロナのワクチン接種で「10月初旬までに、希望する国民の8割に2回打てる態勢を作っている」とも述べた。

<地方産業の高度化―その2:農林漁業の販売力向上>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210814&ng=DGKKZO74783390T10C21A8EA1000 (日経新聞 2021.8.14) 「売れる農業」県内一丸 稲作からの転換奏功、宮崎や鹿児島、ブランド確立
 基幹産業として地域を支えてきた農業の競争力に大きな差が生じている。過去5年間で全国1741市区町村のうち6割の974が産出額を伸ばした一方、4割は減少した。躍進が目立つ九州勢の取り組みを探ると、地域ブランドを活用した「売れる農業」の姿が見えてくる。農林水産省が3月に公表した2019年の農業総産出額は8兆8938億円。都道府県別の産出額では北海道が統計の残る1960年以来首位を守り、1兆2558億円だった。2位以下は鹿児島県、茨城県、千葉県、宮崎県、熊本県が順に並ぶ。60年時点では新潟県など米どころが上位の常連だったが、需要低下もあり稼げる農業の内訳が一変。台風被害を防ぐため稲作から施設を使った畜産や園芸への転換を進めた宮崎県などの九州勢が躍り出た。2014年から集計が始まった自治体別の産出額(推計)でみても、九州が目立つ。19年のトップは宮崎県都城市で877億円。14年比増加率(産出額100億円以上の226自治体を集計)でも首位は74%増の宮崎県日向市だった。2位は61%増で鹿児島市、都城市も25%増で33位に入った。稼ぐ力を確立した地域が、より強みを発揮する。マンゴーの産地、宮崎県日向市は県やJAなどと取り組んだ高級マンゴーのブランド「太陽のタマゴ」のほか畜産などで生産力を高めた。主力の養鶏では事業者が鶏舎の清掃などの分業化を進めて作業効率を向上。鶏肉の年間出荷回数を従来の4.5回から5~6回程度まで引き上げた。日向市だけでなく、宮崎県内では関係者が一丸となった競争力向上の取り組みが進む。県は1994年に「みやざきブランド確立戦略構想」を策定し「『作ったものを売る』から『売れるものを作る』」を目標に据えた。おいしさや鮮度といった商品そのものの「質」を高めるだけでなく、安心・安全を前面に畜産物と花卉(かき)を除くすべてのブランドに月2検体以上の残留農薬検査を義務付け、基準値を超えた場合には迅速な出荷停止措置をとれる体制を整えた。都城市は60年以降、稲作から畜産への転換を進めてきたことが功を奏し、2019年、初の首位となった。主力産品のひとつ「宮崎牛」は1986年、県内関連団体が共同で「より良き宮崎牛づくり対策協議会」を発足させ、品質向上への動きを加速。「日本一の努力と準備」を合言葉に全国大会で史上初の3連覇を果たしたことなどで、首都圏をはじめとした大消費地からの評価を高めた。増加率2位の鹿児島市も「鹿児島黒牛」や「かごしま黒豚」の産地の一つとして、県や周辺自治体と連携して知名度向上に力を入れる。県は全国に先駆けて1989年から販売力の強化を目的とした農産物の認証制度をスタートした。2010年代半ばからは輸出も強化。牛肉は東南アジアでの人気が高く、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、県全体の輸出額が前年度比5%減少の214億円だった20年度も、畜産物は21%増の106億円と過去最高額を更新した。鹿児島黒牛と宮崎牛は17年末、国が保護する地域ブランドに登録された。鹿児島黒牛は遺伝子解析などの先端技術を使い、改良に長く取り組んできたと認められた。宮崎牛は種牛の一元管理を全国で初めて構築したと評価された。地域ブランドには「神戸ビーフ」「特産松阪牛」も名を連ねており、世界に知られる和牛産地と南九州が肩を並べている。

*2-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021072801196&g=eco (時事 2021年7月29日) ふるさと納税、過去最高6725億円 「巣ごもり需要」背景か-20年度
 ふるさと納税の2020年度の寄付総額が約6725億円で、過去最高になったことが28日、分かった。寄付件数も過去最多だった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「巣ごもり需要」を背景に、各地の返礼品を楽しむ寄付者が増えたためとみられる。総務省が近く公表する。寄付総額は19年度の約4875億円から1.4倍に増加。寄付件数は約3489万件で、制度開始以来12年連続で最多を更新した。自治体別の受け入れ額は、1位が宮崎県都城市で135億2500万円。2位が北海道紋別市の133億9300万円で、同根室市125億4600万円が続いた。一方、ふるさと納税による21年度の住民税控除額は、前年度比1.2倍の約4311億円だった。最も多いのが横浜市の176億9500万円で、名古屋市106億4900万円、大阪市91億7600万円の順となった。ふるさと納税は、寄付額から2000円を引いた額が現在住んでいる自治体の住民税などから控除される仕組み。豪華な返礼品を提供する競争の過熱が問題となり、19年6月から返礼品は「寄付額の3割以下の地場産品」などの基準を守る自治体のみ参加できる制度に移行した。

*2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP867HHFP7ZTIPE01P.html (朝日新聞 2021年8月10日) 「電力まで五島産」広がる再エネ ふるさと納税でも復活
 再生可能エネルギーの「産地」を売りにする動きが広がっている。地域の太陽光や風力などでつくった電気をブランド化して地域振興につなげる狙いだ。ふるさと納税の返礼品としてPRする自治体もある。
●「電力まで五島産」
 レシピカードには、こんな言葉が記されていた。東京や大阪の百貨店で開かれた物産展で、長崎県五島市の水産加工会社「しまおう」が魚のすり身に昨年から添えた工夫だ。
●原料の安全・安心は当たり前
 しまおうは地元でとれるアジやアゴ(トビウオ)ですり身やかまぼこを作る。昨春、地元の新電力会社と契約し、工場の電気はすべて地元の再エネでまかなっている。カードには「島の風と太陽から生まれた電気で製造しています」と記し、風車のイラストも描いた。山本善英社長(51)は「原料の安全や安心は当たり前。地元の電気が注目されるようになれば」と話す。五島市では太陽光や風力発電など再エネの普及が進み、使う電気の約半分は市内でつくっている計算だ。沖合に巨大な風車を新たに8基浮かべて発電する計画も進んでおり、2023年ごろには8割まで上げる予定だ。電気は、大手電力会社には売らず、できるだけ「地産地消」に生かす。今夏には、使う電気をすべて地元の再エネでまかなう企業を独自に認定する「五島版RE(アールイー)100」という取り組みを始める。五島と政府の景気刺激策をもじった「GOTO RE100」というロゴマークも作り、認定された企業はロゴを使って取り組みをアピールできる。地元の福江商工会議所の清瀧誠司会頭(81)は「人口減少の著しい離島は、他ではできないことをしなければ生き残れない。島の電気を活用して生産段階から差別化を進め、地元企業の価値を高めたい」と話す。
●スタバも関心「お店で知って」
 電気の産地には、企業も関心を示す。スターバックスコーヒージャパンは10月までに、約350店舗ある直営路面店すべてで、使う電気を地域の再エネに切り替える。富山や鹿児島の店では地元の水力発電所の電気を使う。徳島では地元の木質バイオマス発電所から調達し、近くの森林の維持・管理にも役立てる。広報担当者は「ビジネスを続けるには、地域活性化への貢献は欠かせない。お店を通じて、地元の再エネも知ってもらいたい」と話す。アウトドア用品大手、スノーピークも7月、新潟県三条市の本社などで使う電気を市内の木質バイオマス発電所に切り替えた。電気代は少し高くなる見込みだが、「地元に根ざした事業をしており、地産地消に貢献したい」(広報)としている。ふるさと納税の返礼品として地元の再エネを提供する動きもある。阿蘇山のふもとにある熊本県小国町は8月初旬、地元の電気を返礼品に加えた。町には地熱発電所が立地し、太陽光や水力を含む発電出力は約3万7千キロワット。町内で使う電気の約2・6倍に及ぶ。特産のあか牛や馬刺しなどの肉類には知名度で劣るが、「町の新電力会社の経営安定にもつながる。町外からの問い合わせも多い」(町の担当者)。
●ふるさと納税もお墨付き
 地元の電気を返礼品として提供して寄付者の電気代を割り引く自治体は数年前からあった。しかし、総務省が今年4月、「電気は地場産品に当たらない」との見解を出した。一般の送配電網で供給される電気は様々な地域で発電されたものが混ざってしまうためだ。再エネの普及をめざす政府の方針を受けて、総務省は一転して6月に一定の条件下でこれを容認した。政府のお墨付きを得たことで、返礼品をきっかけに再エネ普及が進む、との期待も出ている。電気の返礼品は今春まで福島県楢葉町や愛知県豊田市、大阪府泉佐野市など全国9市町が提供していた。地元の太陽光や水力で発電した電気をもとに17年から返礼品を提供している群馬県中之条町は10月再開をめざす。担当者は「またぜひ使ってもらいたい」。ただ、寄付者が返礼品としての電気を受け取るには、自治体の指定する新電力会社と契約を結ぶ必要がある。手続きの煩雑さが寄付額の伸び悩みにつながっているとの見方もある。

*2-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15008803.html (朝日新聞社説 2021年8月13日) ふるさと納税 「官製通販」見直しを
 ふるさと納税による寄付の膨張が止まらない。昨年度に全国の自治体が受け入れた寄付額は前年度を4割も上回り、過去最高の6724億円にのぼった。自治体間の過剰な競争を抑えるため、返礼品を「寄付額の3割以下」にするルールが導入され、19年度は7年ぶりに減少に転じた。だが、ルールは早くも骨抜きになっている。例えば、コロナ対策で農水省が始めた農林水産品の販売促進の補助金を使えば、返礼率を大幅に高めることができる。20年度に寄付額が急増したのはコロナ禍での「巣ごもり消費」に加え、ルールの形骸化も影響しているだろう。ふるさと納税は、寄付額の多寡にかかわらず、自己負担は実質2千円だ。高所得者ほど返礼品を多く受け取れるうえ、税の優遇も大きい。コロナ禍による格差の是正が政策課題になるなか、不平等な仕組みをこれ以上放置することは許されない。総務省によると、寄付額の45%が返礼品の購入費や、返礼品を選ぶ民間のポータルサイトへの手数料などに費やされている。昨年度の寄付額から換算すると、全体で約3千億円の税収が失われることになる。コロナ感染が特に広がっている東京などの都市部は、ふるさと納税で寄付する人が多い。財源の流出が続き、感染対策の費用をまかなえないような事態になっては困る。ふるさと納税の当初の趣旨は、寄付を通じて故郷に貢献してもらうことだった。しかし現状では「官製通信販売」になってしまっている。NTTグループの昨年の調査では、「出身地への貢献」のために制度を利用した人は12%しかいなかった。自治体間の財政力の格差を是正するのであれば、いまの地方税や地方交付税のあり方が妥当かを、正面から論じるべきだ。そもそも寄付とは、見返りを求めないものである。返礼品を受け取らずに、災害の被災地に寄付をする人もいる。ふるさと納税を続けるのであれば、返礼品をなくすなど抜本的に制度をつくり変える必要がある。しかし見直しの議論は進んでいない。ふるさと納税は菅首相が総務相時代に創設を決めた。反対した幹部が「左遷」されたこともあり、制度の欠陥を指摘されても、総務官僚らは見て見ぬふりを決め込んでいる。地方自治は「民主主義の学校」と言われる。返礼品を目当てに、自分が暮らす自治体から受けた行政サービスに対する負担を回避する制度は、地方自治の精神を揺るがす危うさがある。制度の生みの親である菅首相には、政策の誤りを認め、欠陥をただす責任がある。

*2-3:ttps://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210815&ng=DGKKZO74788420U1A810C2EA1000 (日経新聞 2021.8.15) 「シャインマスカット」 中韓の生産、日本上回る 日本発ブランド、流出先で輸出の主力に
 高級ブドウ「シャインマスカット」をはじめ、日本発のブランド品種の海外流出が深刻さを増している。流出先の韓国では、もともとのシャインマスカットが今や輸出の主力となり、輸出額は日本の5倍超に膨らんだ。中国国内での栽培面積は日本の40倍超に及ぶ。海外への持ち出しを禁止する改正法が4月に施行したが、実効性には課題を残したままだ。農林水産省によると、シャインマスカットは2016年ごろから海外流出を確認。法規制が追いついていなかった経緯もあり、韓国などへの持ち出しと現地栽培、輸出が膨らんでいった。19年には日韓のブドウの輸出数量が逆転した。21年1~4月の韓国産ブドウの輸出額は約8億円と前年同期比で1.5倍に増えた。このうちシャインマスカットが約9割を占めた。日本の輸出額は1億4700万円にとどまり、量では7倍の差がついた。農林水産・食品産業技術振興協会によれば、ブランド果実の流出先は中国、韓国が中心だ。シャインマスカットのケースで、栽培面積は日本が1200ヘクタールなのに対し、韓国は1800ヘクタール、中国では5万3000ヘクタールと規模は桁違いだ。ブドウ以外でも同協会の20年の調査で、30以上の品種の海外流通が確認された。静岡県のイチゴ「紅ほっぺ」や高級かんきつ「紅まどんな」などが標的になっている。政府は登録品種の海外持ち出しを禁じる改正種苗法を4月に施行した。違法持ち出しに罰金や懲役を設けたが、違反事案は絶えない。意図的かどうかにかかわらず、一度流出すると種苗や苗木の追跡は難しくなる。日本政府はブランド品種を中核にし農林水産物輸出額について25年に2兆円、30年に5兆円に増やす目標を掲げる。20年の輸出額は9217億円。当初目標の「19年に1兆円」には届かなかった。海外流出に歯止めをかけられず、さらに流出先で輸出まで膨らむ状況が続けば、一連の目標に黄信号がともる。

<地方産業の育成―その1:再エネ>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA074ZX0X00C21A8000000/ (日経新聞 2021年8月9日) 気温1.5度上昇、10年早まり21~40年に IPCC報告書
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は9日、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年に1.5度に達するとの予測を公表した。18年の想定より10年ほど早くなる。人間活動の温暖化への影響は「疑う余地がない」と断定した。自然災害を増やす温暖化を抑えるには二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする必要があると指摘した。温暖化対策の国際的枠組みのパリ協定は気温上昇2度未満を目標とし、1.5度以内を努力目標とする。達成に向け先進各国は4月の米国主催の首脳会議(サミット)で相次ぎ温暖化ガスの新たな削減目標を表明した。今回の報告書は気温上昇を抑える難しさを改めて浮き彫りにした。10月末からの第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)での議論が次の焦点になる。IPCCは5つのシナリオを示した。21~40年平均の気温上昇は、50~60年に実質排出ゼロが実現する最善の場合でも1.5度になる。化石燃料への依存が続く最悪の場合は1.6度に達する。18年の報告書は1.5度になるのは30~52年とみていた。予測モデルを改良し、新たに北極圏のデータも活用したところ10年ほど早まった。上昇幅は最善の場合でも41~60年に1.6度になる。化石燃料への依存が続く最悪の場合は41~60年に2.4度、81~2100年に4.4度と見込む。過去の気温上昇も想定以上に進んでいたとみられる。今回、11~20年平均で1.09度と分析した。18年の報告書は06~15年平均で0.87度だった。1850~2019年の二酸化炭素排出量は累計2390ギガトン。気温上昇を1.5度以内に抑えられる20年以降の排出余地は400ギガトンとみる。今の排出量は年30~40ギガトンで増加傾向。10年ほどで1.5度に達する。産業革命前は半世紀に1回だった極端な猛暑は1.5度の上昇で9倍、2度で14倍に増えると予測する。強烈な熱帯低気圧の発生率も上がり、干ばつも深刻になる。平均海面水位は直近120年で0.2メートル上がった。今のペースは1971年までの年1.3ミリの約3倍と見積もる。気温上昇を1.5度以内に抑えても、2100年までに今より0.28~0.55メートル上がると予測する。気候変動のリスクを正面から受け止め、対策を急ぐ必要がある。IPCCは気候変動に関する報告書を1990年以来5~7年ごとにまとめている。最新の研究成果を広く踏まえた内容で信頼度が高く、各国・地域が温暖化対策や国際交渉の前提として活用する。第6次となる今回は22年にかけて計4件の報告書を公表する予定だ。

*3-1-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021081100128 (信濃毎日新聞社説 2021/8/11) 温暖化報告書 深刻さを共有しなければ
 深刻さはより深まっている。人類への警鐘と受け止め、二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを確実に果たさねばならない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、最新データに基づく地球温暖化の予測を報告書にまとめた。温暖化は人間の影響とすることに「疑う余地がない」と初めて断言。世界の平均気温は、対策を進めても2021~40年に、産業革命前と比べて1・5度上昇する可能性が高いとした。13年の報告書では、温暖化と人間の影響について「可能性が極めて高い」と指摘。18年の特別報告書で、上昇幅が1・5度に達するのは30~52年としていた。踏み込んだ表現や、約10年早まった分析は、スーパーコンピューターを駆使し、より精度を高めた結果だ。科学に裏付けられた知見として共有する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、気温上昇を2度未満、できれば1・5度に抑える目標を掲げる。2度を超えると、極端な高温や豪雨などが頻発し、海面が上昇すると考えられるからだ。報告書によると、11~20年で1・09度上昇した。既に極地やシベリアで氷床や永久凍土の融解が報告されている。日本では巨大台風の襲来や豪雨、世界では異常熱波や大規模な山火事が繰り返されるようになった。当面続く気温上昇に備え、避難計画見直しや食料確保といった対応が欠かせなくなりつつある。報告書は、50年にCO2排出量を実質ゼロに抑えられた場合、温度は今世紀後半に下降し、1・5度未満に収まる予測も示している。解決のための目標は明確だ。日本政府は、30年度に13年度比で46%削減、50年に実質ゼロを表明している。ただ、再生可能エネルギーの活用を模索する一方で、石炭火力を温存し、家庭での取り組みに頼る姿勢を見せる。石炭火力の全廃やガソリン車の販売禁止といった思い切った政策を早期に打ち出さなければ、実現は困難ではないか。生物多様性の保全や海洋プラスチックごみ対策も温暖化抑止につながる。森を守り、化学肥料を減らして農作物を育て、プラスチックをできるだけ使わない暮らしを、地域や個人でも進めたい。10月末には英国で国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議が開かれる。各国の足並みはそろっていない。報告書の知見を最大限に生かし、世界が一体となれる合意を目指さねばならない。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210729&ng=DGKKZO74269830Y1A720C2EN8000 (日経新聞 2021.7.29) 脱炭素の外圧、変革に生かせ
 今日、日本の最大の課題は脱炭素だ。一連の環境問題への対応は、欧州を中心にスタンダード化するなかで日本も取り組まざるを得なかったものだ。そもそも「日本は環境先進国」と思っていたなかで生じた「外圧」による対応に、必要性を感じながらも釈然としない思いを抱く日本人も多いのではないか。米国もバイデン政権になって脱炭素に向けて大きく舵(かじ)を切っただけに、日本は外堀を埋められた。2020年10月の菅義偉首相の決断がせめてもの救いだ。外圧が主導し、日本の主体性がみえない対応はいかがなものかという見方は当然だ。だが、約150年前の明治維新以来、日本は50年周期の外圧による転換の繰り返しだった。幕末の欧米列強の外圧がなければ、明治維新の近代化、統一国家実現は不可能だった。その後、1920年代の世界大恐慌後の重化学工業化も同様で、戦後の政治経済のレジームは日本国憲法をはじめほとんど外圧だった。70年代以降の環境問題による転換も同様だろう。公害問題の深刻化に伴う自主的な側面はあったが、大きなドライバーになったのが、石油危機でのエネルギー価格高騰のほか、米国のマスキー法などを中心とした自動車の排ガス規制だった。以上、日本は常に外圧に対し、やらされているという被害者意識を持ちつつも、その潮流に乗って大きく社会構造や経済システムを転換させてきた。日本がなかなか自律的に変わりにくいなか、外部環境の転換がなければ改革はできなかった。第2次世界大戦が終わって3四半世紀が過ぎ、バブル崩壊という第2の敗戦を経て、新型コロナウイルス危機は第3の敗戦との見方もある。ただし、脱炭素も含めた環境問題はそもそも日本が先進的な分野である。日本ほど自然災害への遭遇も含め、自然と向き合う生活を文化としてきた国民も珍しい。今回の脱炭素を中心とした外圧も、日本にとって大きなチャンスとの見方ができる。70年代の一時的な成功体験に安住し、その後バブルに陥ったことによる停滞を一気に挽回する発想転換が必要だ。そこでは世代交代も含め、保有資産が座礁資産化するのも覚悟しつつ、過去を捨て去る決断も必要になるだろう。

*3-2-2:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=141076 (南日本新聞 2021/7/30) [エネルギー計画] 脱炭素へ抜本的改定を
 経済産業省は、2030年度の電源構成で再生可能エネルギーの主力化を進める新たなエネルギー基本計画の素案を有識者会議に提出した。菅義偉首相が打ち出した50年の温室効果ガス排出量実質ゼロや、30年度に排出量を13年度比で46%削減するといった国際公約の実現に向けた重要な一歩ではある。だが、再生エネ拡大には課題が山積し、二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力や、諸問題を抱える原子力への依存を続ける姿勢は変わらない。政府は脱炭素の実現に不可欠な社会や経済の変革を促すため、計画を抜本的に見直していかなければならない。基本計画は中長期的なエネルギー政策の指針で、将来の電源構成や原発の運営の方向性などを示し、おおむね3年に1度改定してきた。今後、意見公募などを経て10月までに閣議決定する見通しだ。素案では、現行目標が22~24%の再生エネを36~38%と大幅に拡大する方針を示した。19年度実績の約2倍に相当し、政府は建設期間が比較的短い太陽光に期待している。ただ、太陽光は急速に導入を進めてきた結果、新たな適地の確保が難しくなっている。悪天候で発電が減った時に備え、他の電源を用意するコストがネックになる恐れもあり、順調に進むかは不透明だ。再生エネ拡大は国際的潮流だが、素案の目標はドイツの65%、米カリフォルニア州の60%などに比べて見劣りする。政府は電力を消費地に届けるための送電網の整備や蓄電池の普及を急ぎ、大幅な拡大を目指す必要がある。一方、現在主力の火力は現行の56%から41%へと大きく減らす。このうち、近年は総電力の3割前後を占めるまでに拡大した石炭火力は19%に削減するが、安定供給性や経済性に優れているとして活用する道を残す。米国が35年の電力脱炭素化を掲げ、各国が石炭火力の全廃を打ち出す中、日本の温暖化対策の遅れが際立っていると言わざるを得ない。原子力については、東京電力福島第1原発事故後に再稼働した原発は33基中10基で、19年度実績は6%程度にとどまる。しかし、目標は現行の20~22%に据え置かれ、低コストで安定供給が可能な「重要なベースロード電源」という位置付けも維持した。目標達成には30基程度を稼働させる必要がある。安全対策でコストがかさむ中、政策の見直しは避けられないのではないか。さらに焦点だった原発の新増設や建て替えの方針は盛り込まれず、問題を先送りした感は否めない。原発に対する国民の不信感は根強い。政府は原発の是非を含めた議論を深め、将来像を示すべきである。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210819&ng=DGKKZO74903140Y1A810C2TB2000 (日経新聞 2021.8.19) テスラ、日本で送電向け蓄電池 価格5分の1に
 米電気自動車(EV)大手のテスラが日本で電力ビジネスに参入する。電力需給の調整弁となる大型蓄電池と制御システムを電力事業者に供給し、天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーの有効活用を後押しする。国内相場の約5分の1の価格で販売する予定で、再生エネの導入コストが下がる効果も期待できる。再生エネ発電所は安定して発電しにくい。必要以上に発電すると需給バランスが崩れ、送電網がパンクして停電を起こしかねない。電力インフラに組み込む蓄電池に余剰電気を蓄えさせ、需要が増えたときに放電させれば再生エネを無駄なく使える。テスラ日本法人のテスラモーターズジャパン(東京・港)は第1弾として、新電力のグローバルエンジニアリング(福岡市)が2022年に北海道千歳市で稼働させる拠点に大型蓄電池を納入する。容量は6000キロワット時で、一般家庭約500世帯分の1日の電力使用量に相当する。グローバルエンジニアリングは北海道電力の送電網にテスラの蓄電池システムを接続し、電力の調整弁として機能させる。1キロワット時当たりの納入価格は5万円弱と従来の推計価格(24万円強、19年)を大きく下回る。電池の調達元は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)。EV向けも調達する電池の世界大手で、このほどテスラと25年末までの新たな供給契約を結んだ。提携関係からテスラは有利な条件で取引できるとみられる。経済産業省は7月、新しいエネルギー基本計画の原案をまとめ、30年度の電源全体に占める再生エネ比率を現行の22~24%から36~38%に引き上げるとした。これに伴い、計2400万キロワット時分の蓄電池が必要になる見通しだ。テスラは米国やオーストラリアで需給に応じて自ら電力を売買する事業を展開している。日本でもほかの新電力や商社などと組み、電力ビジネスを拡大するとみられる。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0121X0R00C21A8000000/ (日経新聞 2021年8月1日) 水素航空機の空港施設整備、官民で検討 燃料貯蔵など
 政府は水素を燃料とする航空機の実用化に向け、水素の貯蔵や機体へ注入するための空港施設の整備に向けた検討を始める。二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を燃料とする航空機は次世代技術として期待される。今秋をめどに、具体化に向けた課題を整理してまとめる。経済産業省は3日午後にも、国土交通省や文部科学省のほか、関連民間企業による検討会の初会合を開く。水素燃料航空機の空港インフラ整備について日本政府が検討するのは初めて。民間からは日本航空や全日本空輸、川崎重工業、三菱重工業、IHI、燃料供給会社が参加する。水素燃料航空機を運航させるには、液化水素燃料の貯蔵タンクや、送配管といった施設を設置する必要がある。現状の制度面での課題や、費用試算も含めて検討し、早期実現を後押しする。欧州航空機大手のエアバスは、2035年までに水素燃料航空機を市場投入すると公表した。他メーカーの動向も踏まえ、経産省は30年までに要素技術を確立する必要があるとみている。

*3-3-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/123525 (東京新聞 2021年8月11日) 軽電気自動車の開発加速、発売へ 価格200万円切りが焦点
 軽自動車の電気自動車(EV)の開発競争が加速している。日産自動車と三菱自動車は共同開発車を2022年度前半に発売し、スズキは20年代半ばの投入を目指す。「地方の足」である軽にも、脱炭素の流れが波及している。安さが魅力の軽でEVが広まるには、国や自治体の補助金を含めた価格が200万円を切り、どこまで下げられるかが焦点になりそうだ。ホンダは24年の発売を計画。ダイハツ工業は開発を検討中。日産と三菱自は他社に先駆けて発売し「軽EVの開拓者」(関係者)を狙う。スズキは今年「EV事業本部」を新設した。走行距離と価格のバランスを見極めることが重要になりそうだ。

*3-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210819&ng=DGKKZO74903370Y1A810C2FFJ000 (日経新聞 2021/8/19) 百度、自動運転EVに本腰、吉利と提携、8500億円投じ生産  ロボタクシー事業拡大
 中国インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)は18日、未来のクルマのあり方を示した自動運転のコンセプト車「ロボットカー」を発表した。中国自動車大手との共同出資会社で参入する電気自動車(EV)の製造・販売には今後5年間で500億元(約8500億円)を投じる。8年前に開発に着手した自動運転技術の進歩を訴えた。「未来の自動車はロボットカーの方向に進化する」。18日、オンラインで開いた発表会で、李彦宏(ロビン・リー)董事長兼最高経営責任者(CEO)はこう強調した。ロボットカーは2人乗り。ハンドルやアクセル、ブレーキなどの運転席がなく、前面には大きなパネルがある。人工知能(AI)が学習することも特徴で、乗客の好みに応じた運転やサービスを提供するとしている。発表会で実際に走行する場面を披露したものの、ロボットカーの発売時期については触れなかった。現段階では未来のクルマとの認識だが、ネット大手の百度は近く、EVメーカーの仲間入りを果たそうとしている。今年初めに発表した中国民営自動車大手、浙江吉利控股集団との提携が戦略の柱になる。3月に立ち上げたEV製造・販売の共同出資会社、集度汽車は百度が55%を出資して主導権を握った。集度汽車は今後5年間で約8500億円を投じることを決め、自動運転技術を搭載したEVを製造・販売する。2022年4月に開かれる北京国際自動車ショーでコンセプト車を公開し、同年中にも受注を始める計画だ。具体的には、吉利が開発したEV専用のプラットホーム(車台)を活用し、吉利の工場を活用するとみられる。百度が自動運転技術の開発に着手したのは13年と競合より早く、17年には自動運転技術の開発連合「アポロ」を立ち上げた。トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)、米インテル、米エヌビディアといった世界の大手が参画し、中国政府の支援を受けている一大連合だ。パソコンやスマートフォンの基本ソフト(OS)のように「自動運転車のOSといえる基幹システムを生み出すこと」を目標に掲げた。これまで百度は自動車大手にシステムを提供して「稼ぐ」モデルを描いてきた。実際、国有自動車大手の中国第一汽車集団や新興EVメーカーである威馬汽車がアポロを搭載したEVを投入した。ただ、中国国内での利用は進みつつあるものの、パソコンの「ウィンドウズ」やスマホの「アンドロイド」のように、市場を牛耳るにはほど遠い状況だった。次なる一手が、自ら車両の製造・販売を手掛けることだった。自動車大手とタッグを組み、収益化を急ぐ方針に転じた。百度など中国勢の自動運転技術の実力について、日系自動車メーカーの幹部は「成長が著しい」と評価する。自動運転で先行してきた米国勢に迫っている。20年の公道での自動走行試験の距離は米ゼネラル・モーターズ(GM)子会社と、米アルファベット傘下のウェイモに並び、百度も100万キロメートルを越えた。自動運転タクシーにも本格的に乗り出し、自動運転分野における「百度経済圏」の構築も急ぐ。現在は北京、広東省広州、湖南省長沙、河北省滄州の限定した公道で展開し、3年以内に30都市まで拡大する。これまでは実験段階で地図アプリで予約する仕組みだったが、本格的な事業展開に備えて専用アプリを立ち上げることも表明した。百度が自動運転分野で成果を急ぐのは、主力の検索事業の成長が鈍化しているためだ。売上高の約6割は検索を中心とするネット広告収入だ。中国政府が米グーグルなどの利用を制限し、検索サービスでは圧倒的なシェアを誇るが、20年12月期の売上高は1070億元と前の期を下回った。百度は長く、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)と並ぶ中国のネット3強、いわゆる「BAT」と評されてきたが、収益面や時価総額では差が開いた。2強の背中は、はるかかなたにある。自動運転技術を搭載したEVはスマホ大手の小米(シャオミ)が参入し、自動運転タクシーも滴滴出行(ディディ)などが力を入れている。これまで中国勢の先頭を走ってきたと自負する百度の実力が今こそ問われる。

*3-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC166RR0W1A710C2000000/ (日経新聞 2021年8月11日) ホンダ寄居工場の進出効果、地元では実感乏しく
 ホンダは2021年度中に狭山完成車工場(埼玉県狭山市)の四輪車生産を新鋭の寄居完成車工場(同県寄居町)に集約する。狭山市の地域経済への懸念はこれまでも話題になってきたが、一方で寄居町の商工業は盛り上がっているのか。地元の商工団体や商店を訪ねると、民間ではまだ大きな経済効果が感じられない状況が浮き彫りになった。寄居工場の稼働開始は13年。06年の建設計画発表当初は、10年に稼働開始予定だったが、08年のリーマン・ショックで3年遅れた。「当初は町内の製造業にもっと大きな波及効果があると思っていた」。寄居町商工会の担当者は話す。しかしホンダ関連で大きな受注を獲得した企業や、工場の新増設の話も聞かないという。計画当初、寄居工場は国内での増産投資が目的だったが、その後、ホンダが国際分業を一段と加速。協力部品メーカーを含めて増産の意義は薄れ、町内の中小製造業が食い込む機会も広がらなかったとみられる。例えばホンダ系の大手部品メーカー、エイチワンは07年、増産に向けた工場用地を近隣の熊谷市に確保したが、21年3月に売却を発表した。商業にも目立った経済効果は出ていない。町内の中心部にある寄居駅南口の一等地で20年間続いた大型スーパー「ライフ寄居店」は13年に閉店し、今も空き店舗のままだ。寄居駅周辺の約40店で構成するふるさと寄居商店会会長で新島薬品を経営する新島清綱氏は「期待はしているが、ホンダの工場ができてから新しい客が増えた印象はまだない」と言う。要因の1つは、工場の立地も影響しているようだ。寄居工場は寄居駅から東武東上線で南東方向に4駅目のみなみ寄居駅前にある。同駅はホンダが東武鉄道に整備を要請し、事業費を全額負担した。駅舎と工場を結ぶ渡り廊下があり、従業員は駅から工場敷地内に直接入れる。駅前に商店はなく、従業員のほとんどは昼間、工場内の食堂や売店を利用するようだ。また「もともと狭山工場で勤務し、いまも狭山市周辺から通勤する従業員が多い」(寄居町役場)。車で通勤する場合、最終的には国道254号を北上して寄居工場に通うのが一般的で、寄居駅前は通勤ルートに入らない。従業員が町内で消費する機会はかなり限られる。こうした状況を打開しようと、寄居町は今年秋にも狭山市周辺から通う従業員ら向けに「移住・定住を促すツアーを開催したいと考えている」(担当者)。ただ寄居町と隣接する深谷市の花園地区には、22年秋に約120店舗を集めたアウトレットモールが開業予定で、町内の消費が流出する可能性もある。民間にはまだ目に見える経済効果が出ていないかもしれないが、ホンダの工場進出が寄居町の財政を潤したのは確かだ。寄居町の21年度の一般会計当初予算は約112億円、町税は約45億円。ホンダ進出で町税が5億円ほど増えたこともあったという。税収増の効果をもとに、地元企業の技術力向上をどう支援してホンダ関連の受注獲得に結びつけるか。ホンダ関連の従業員の移住促進や商業の活性化にどうつなげるか。寄居町にとってこれからが正念場となる。

*3-3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210819&ng=DGKKZO74903030Y1A810C2TB2000 (日経新聞 2021.8.19) ホンダ、中国で新エネ車増産 EVなど、年12万台上積み
 ホンダが中国で電気自動車(EV)など新エネルギー車の生産増強に乗り出すことが18日までに分かった。合弁会社を通じた総投資額は約30億元(約500億円)で、南部広東省広州市の工場を増設し生産能力を年12万台分上積みする。2024年2月以降の稼働を目指す。ホンダは中国で新車販売を伸ばしてきたが、新エネ車を巡っては中国ブランドなどとの競争が激化しており巻き返しを急ぐ。ホンダの中国での合弁会社、広汽ホンダが広州市当局に提出した工場増強に関する入札申請書で投資計画が明らかになった。新設備の建設面積は約18万6000平方メートルで、10月の着工を予定する。EVやプラグインハイブリッド車(PHV)といった新エネ車専用の生産設備となる見込みだが、車種などは明らかになっていない。広汽ホンダは広州市に4工場を持ち年77万台の生産能力を持つ。一方、ホンダの別の合弁会社、東風ホンダも湖北省武漢市で3工場を運営し、生産能力は年72万台。広州市の新しい生産設備が稼働すれば、ホンダの中国での自動車生産能力は年161万台となり現在に比べ約1割増える見通し。ホンダの中国での新車販売台数は20年に19年比5%増の約163万台で2年連続で最高を更新した。21年も1~7月累計で前年同期比20%増の約89万台と伸びているが、足元では7月まで3カ月連続で前年実績を割り込むなど減速している。

<地方産業の育成―その2:医療・介護>
*4-1-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=781600&comment_sub_id=0&category_id=142 (中國新聞 2021/8/8) コロナ入院制限 制度設計、甘すぎないか
 新型コロナウイルス感染症の入院対象者を、政府が絞り込む方針だという。重症化リスクの高い中等症や重症の感染者に限り、それ以外は自宅療養を原則とする。呼吸困難や肺炎などでも重症化リスクが低いと判断されると、自宅療養になる。これまでは、軽症や無症状の人も宿泊施設で療養させるのが基本だった。目の届きにくい自宅療養では容体急変への対応などが限られ、心もとない。感染者の激増を受けた苦肉の策だろうが、国民の命を左右しかねない方針転換である。必要な医療を受けられず、置き去りにされるようなことがあってはなるまい。入院制限の対象は「爆発的感染拡大が生じている地域であり、全国一律ではない」と菅義偉首相は説明する。念頭にあるのは首都圏だろう。だが感染力の強い変異株「デルタ株」は全国に広がっており、新規感染者は連日1万人を超す。地方にとっても人ごとではない。中等症でも、肺炎など症状によっては呼吸不全を起こし、酸素投与が必要になる場合もある。実際、5月がピークだった「第4波」では、自宅療養者が適切な医療を受けられずに重篤化したり死亡したりする事例が大阪で相次いだ。その教訓から今回、国民や医療関係者の間で懸念が高まり、与野党から異論が噴出したのは当然だろう。自宅療養を基本とするなら、何よりもまず、患者が安心して療養できる環境が必要である。現状では、往診などの在宅医療体制が整っている地域は少ない。宿泊療養施設の拡充や在宅患者を見守ることのできる医師や看護師の確保といった、地域住民の不安を拭い去る策を講じるのが先のはずだ。政府の方針では、入院対象の仕分けについては、自治体の保健所がまず担うという。ただ、各地の保健所はすでに業務がパンク状態とされる。対応する余力はあるのだろうか。また、自宅療養から入院への切り替えは地域の医師の判断に委ねられるものの、明確な基準は示されていない。制度設計が甘すぎるのではないか。緊急事態宣言下の6都府県では、自宅療養者が4日時点で約3万7千人に増えている。その4割近くは東京で、入院や療養先を調整中の人は1万人近くに上るという。入院の制限でさらなる増加は目に見えている。自宅療養者の急変に適切に対処できるとはとても思えない。見過ごせないのは、これほどの方針転換を専門家や自治体に相談せず、生煮えで政府が打ち出したことだ。首相は「国民の安全安心、命と健康を守る」と繰り返してきたが、今回の方針は感染拡大防止策の手詰まりをさらけ出していよう。ワクチン接種が進み、重症化リスクの高い高齢者の感染が減少傾向にあるのは確かである。にもかかわらず、入院制限を打ち出したのは、接種が済んでいない40~50代の感染者や重症者が急増したためだろう。楽観が過ぎ、あまりにも見通しが甘かったと言わざるを得ない。本来、選択肢を広げるのが政府の務めではないか。自粛要請に頼るばかりで、コロナ専用病棟をはじめとする病床確保を怠ってきた責任は重い。手を尽くして感染者を抑え、医療崩壊を食い止めねばならない。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC223NE0S1A720C2000000/?n_cid=NMAIL006_20210807_A (日経新聞 2021年8月6日) 接種進捗が示す医療効率 かかりつけ医、大病院と密に
 新型コロナウイルスの感染拡大や医療崩壊を防ぐには高齢者だけでなく、重症者が急増している40~50代へのワクチン接種が欠かせない。接種が円滑に進む地域は準備にいち早く着手したことに加え、きめ細やかな診療体制が敷かれ、医療機関同士、行政との連携も密だ。接種率の地域差から高齢化時代のあるべき地域医療の姿が見えてくる。都道府県別にみた全世代の1回目の接種率(8月3日時点)は山口県が45.6%でトップ。和歌山、山形、高知、熊本、群馬、佐賀の各県と続く。最下位は沖縄県の29.3%でトップから16.3ポイントの開きがあった。接種率が高い地域の多くは高度医療を提供する大病院(500病床以上)が少ない傾向があり、かかりつけ医(一般診療所、20病床未満)が患者に目配りする。地元医師会や大学、行政との関係も良好で連携・役割分担が進むほか、大規模災害を見据えた体制づくりなどを検討しており、医師の有事対応力が高い地域も多かった。和歌山県は2019年10月時点で約1000カ所の一般診療所があり人口10万人あたりでは110.8と都道府県で最多。県人口の4割近くの35万人が集まる和歌山市には4割の一般診療所が集中する。一方、500病床以上の大病院は県内に2カ所だけ。患者は一般診療所の受診が中心。個別接種が進み接種率を押し上げる一因となった。南海トラフ地震などに備えた即応体制への意識の高さも対応力を底上げした。県福祉保健部の野尻孝子技監は「コロナの感染拡大防止に向けた仕組みではない」とするものの、県は大規模災害が休日や夜間に起きた際、地域の開業医が「地域災害支援医師」として緊急医療にあたる仕組みを検討している。仁坂吉伸知事は接種率の高さについて「準備をしっかりやったから」と胸を張る。佐賀県ではかかりつけ医を地域第一線の医療機関と定義する。大町町は4カ所ある町内の病院の医師や看護師らが診察に訪れた高齢者に直接予定を聞き、接種日を設定した。通院歴がある人に医療機関側から連絡もしたという。同町職員は「日ごろ診ている患者をコロナから守ろうと医療スタッフが熱心に働いた」と振り返る。行政と大学の連携協定が奏功しているのは山形県。県内人口の4分の1が集まる山形市が設けた大規模会場に、山形大学医学部が医師や看護師を派遣。吉村美栄子知事は大学、医師会、看護協会、薬剤師会が協力する「オール山形」の成果を強調する。山口県も県内の市町や医師会などが参加する対策会議を発足させ、早い段階から情報共有を進めた。個別接種や集団接種の体制を整え「高齢者接種の立ち上がりから順調に接種できた」(県新型コロナウイルス感染症対策室)。福島県相馬市では、コロナの感染拡大前から市と地元医師会が密に連携してきた。救急医療の主な担い手である公立相馬総合病院の夜間急患体制を維持するため、開業医が当番で勤務する制度を導入。11年の東日本大震災の発生後は、市職員と開業医が連携し、避難所で被災者の健康管理にあたった。とはいえ、こうした連携はなお一部で、全国的にみると医療機関の規模に応じた役割分担と連携は道半ば。患者も軽い病気やケガで大病院を利用するケースが多く、効率的で機動的な医療が妨げられている。接種をきっかけに地方で芽生えた取り組みは、コロナ後の医療改革のヒントを投げかけている。

*4-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE039AP0T00C21A8000000/ (日経新聞 2021年8月3日) 首相「往診・遠隔医療で協力を」 在宅療養で医師会長に
 菅義偉首相は3日、首相官邸で日本医師会の中川俊男会長らと面会し、新型コロナウイルス感染者への医療提供体制を強化するよう協力を要請した。「地域の診療所が往診やオンライン診療で患者の状況を把握し、適切な医療を提供するようお願いする」と述べた。政府は2日に示した新方針で感染が急拡大している地域は自宅療養を基本とし、入院は重症者や重症化のおそれが強い人を対象とすることにした。自宅療養を円滑に進める環境を整えるには医療機関の協力が不可欠と判断し、医師会による後押しを促した。中川氏は「特に自宅療養への対応に重点を置いた体制整備を進めている」と答えた。首相は血液中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターの配布に加え「自宅宿泊療養の新型コロナ患者への往診の診療報酬を大きく拡充している」と指摘した。中川氏は「全国的な緊急事態宣言の発令で強力な感染防止対策が必要だ」と訴えた。医師の負担が過重にならないように人流抑制などの対策を講じるよう求めた。

*4-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP856V0BP85PTIL024.html (朝日新聞 2021年8月5日) 自宅療養者向け訪問看護、大阪全域で 健康観察を強化
 大阪府は5日、新型コロナウイルス感染者のうち自宅療養者に対する訪問看護を府内全域で実施すると発表した。感染の急拡大に伴い自宅療養者も増加しており、健康観察を強化するのが狙いだ。府内の新規感染者は3~5日、3日続けて1千人を超えた。5日の府発表で、自宅で療養する無症状や軽症の人は4633人。「第4波」のピーク時には約1万5千人にのぼった。保健所は自宅療養者への健康観察を電話などで行い、血中酸素飽和度を測るパルスオキシメーターも配布する。しかし、感染者の増加が続けば保健所業務は逼迫(ひっぱく)し、対応しきれなくなる可能性もある。そこで府は7月から、和泉保健所管内などの訪問看護ステーションと連携し、保健所が必要だと判断した人について、本人の同意を得たうえで訪問看護を行う仕組みを広げてきた。府は医療用マスクやガウンなどを提供するほか、初期費用5万円、1回の訪問あたり2万円を支給する。7月は保健所で対応できる状況だったため、この仕組みの利用実績はないが、6日から府内108の訪問看護ステーションと協力し、実施範囲を府内全域に広げる。吉村洋文知事は5日、「感染者が増えてきたら保健所だけで健康観察を十分にやりきるのは難しい。自宅療養者の症状が急に悪くなることもある。早く治療し、早く治すことが、結果として病床確保にもつながる」と記者団に語った。

*4-3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/5fda340edb774d1ecd0f30f642ca3094497ad5fa (福祉新聞 2021/7/28) 市民が見た介護保険の20年 福祉フォーラム・ジャパンセミナー
 福祉フォーラム・ジャパン(渡邉芳樹会長)は7月10日、オンラインセミナー「市民がみた介護保険の20年」を開催した。講演した小竹雅子・市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰は、20年以上介護保険の電話相談を行い、厚生労働省の審議会を傍聴し続けてきた中で、「市民の声と専門家の意識にギャップを感じてきた。介護保険で高齢者の主体性がどこまで保障されるのかに関心を持ち続けてきた」と言う。講演では電話相談に寄せられた内容を交え、制度改正の動向を解説しながら市民目線で問題点を挙げた。2005年の改正では要介護者への給付と分けて要支援者への予防給付ができた。14年の改正では要支援者のホームヘルプとデイサービスが予防給付から地域支援事業(総合事業)に移され、特別養護老人ホームの利用は要介護3以上となった。こうした流れに対し、小竹氏は「利用者に選択権があるとして始まり、介護が必要と認定されれば給付が保障されていたはずなのに、いつの間にか予防重視型になってしまった」と指摘した。20年の要支援・要介護認定者669万人(4月)のうちサービス利用者は515万人(5月)。約4分の1は利用していないことを挙げ、「厚労省は家族で対応していると説明するが、自己負担を払えず利用できない人が一定数いるのではないか。そうだとすると、ゆとりのある高齢者しか給付を受けられないことになる」とし、実態を調査すべきと提起した。小竹氏は、ホームヘルプが抑制されていることも危惧した。同居家族がいる場合、生活援助を利用できないという解釈が市町村で広がったとし、「ホームヘルプは高齢者の自立支援に資することがないと批判を浴び、ヘルパーも減っている。厚労省は地域包括ケアを掲げているが、ヘルパーが減る中でどうやって地域での暮らしを支えることができるのか疑問だ」と述べた。そのほか、今年4月に要支援者が要介護認定を受けても、これまでの地域支援事業のデイサービスなどを引き続き利用できるよう見直されたことに対し、「要介護認定を受けても給付の対象にしなくても良いという仕組みであり、認定者に給付をするという介護保険の原則に穴が開いた」と心配した。講演後は参加者で意見交換も行われ、「予防給付や地域支援事業を拡大する方向性で制度を維持しようとするのはおかしい」と発言があり、セミナーで座長を務めた宮武剛副会長は「その点は大議論が必要だ」と応じた。

*4-3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/604539/ (西日本新聞社説 2020/4/29) 介護保険20年 抜本改革の議論始めよう
 これからの高齢者の介護を社会全体で担い続けることができるのか-。創設20年の節目を迎えた介護保険制度が大きな曲がり角にさしかかっている。2000年4月に「介護の社会化」を掲げ始まった制度だ。それまでは家族頼りだった介護を多様な民間サービスが担うようになった。家庭の事情などで余儀なくされる社会的入院の解消を促し、「老いた親の世話は同居する女性の役割」という社会通念を拭い去るのにも貢献した。社会保障の歴史に画期をなす挑戦だったと言える。この20年で、高齢化はさらに進んだ。要介護・要支援認定者は3倍に増え、必要な費用も3倍に膨らんだ。介護サービスの需要は急速に伸び、制度の維持が年々、困難になっている。何より深刻なのは現場の人手不足だろう。大変な仕事の割に収入が少ないイメージが人材確保の壁になっている。実際、介護職員の平均給与は全産業平均を大きく下回る。外国人材への期待も高いが、新たな在留資格「特定技能」による受け入れは進んでいない。団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる25年には、約34万人の介護人材不足が見込まれる。国はロボットや情報通信技術の活用などで現場の負担を緩和するとともに、処遇改善にも本腰を入れるべきである。財源も心配だ。国は財政逼迫(ひっぱく)を受け、所得に応じて利用者負担を引き上げ、特別養護老人ホームの新規入所要件の厳格化などを進めてきた。「負担増」と「サービスの制限・縮小」だ。介護の必要性が低い利用者のサービスを全国一律の介護保険から切り離す動きも始まった。既に要支援者向けの訪問介護と通所介護は市町村に移管されている。要介護1、2の一部サービスの移管案も浮上している。急激な負担増は利用抑制を招き、生活の質や健康への悪影響も否定できない。市町村への事業移管には居住地によるサービス格差の懸念が多い。ともに慎重な検討が欠かせない。介護保険の財源は、自己負担を除けば保険料と公費(税金)で構成される。利用者増をにらんだ公費負担のアップや、保険料を払う年齢を現行40歳から引き下げることも検討せざるを得ないだろう。いずれにしろ国民的な合意形成が必要だ。急速な高齢化で「介護の社会化」が危うくなり、介護離職や老老介護も深刻な問題になってきた。それだけに所得や家族構成にかかわらず、必要とする人に適切なサービスを提供する介護保険の理念は今後も輝きを増すだろう。今後20年の社会を支えるため、制度の抜本的改革の議論を始めるべきである。

*4-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210821&ng=DGKKZO75008650R20C21A8MM8000 (日経新聞 2021.8.21) 介護給付 抑制に「秘策」、59市町村が開始時から圧縮 高知・南国、個別支援で自立促す
 介護給付費(総合2面きょうのことば)の膨張が止まらない。2020年度は10兆円に達したもようで、介護保険制度が始まった00年度の3兆2400億円から3倍以上に膨らんだ。持続可能性を高めるには圧縮が急務となるが、全国をみると、すでに59市町村が削減に成功している。高齢者の自立生活の維持に向けた支援策など、取り組みからヒントを探った。高齢者1人当たりの給付費は保険者(市区町村を中心に、広域連合など全国1571団体)ごとに比較可能な18年度で26万円(利用者負担軽減の払い戻しなどを除く)と、制度開始時から11万円強増えた。そうした中、給付を減らしたのは18市41町村。市では高知県南国市の13.2%減を筆頭に、徳島県小松島市、北海道石狩市、沖縄県浦添市などが上位となった。町村では東京都小笠原村が46.9%減でトップ。北海道鶴居村、沖縄県与那国町が続く。高知県南国市はケアマネジャーだけでなく保健師や栄養士、理学療法士などが協力して介護予防に取り組み1人当たり給付費を01年度の28万円弱から24万円(18年度)まで減少させた。各分野の専門家を集めた「地域ケア会議」で身体的負担の少ない公営住宅を紹介したり、水分摂取の不足などを警告したりと個別の支援プランを策定。食事や運動なども精緻に計画・検証し、多くの検討事例で自立生活が維持できるようになった。高知県は1人当たりの医療費(市町村国保)が高水準にあり、同市も全国平均を2割(18年度、年齢調整前)上回っている。ただ、01年度比では4.4%減少させており、担当者は「介護にも医療にもかからない健康な高齢者を増やしていくことで、結果的に給付費・医療費双方の抑制につなげていきたい」と話す。沖縄県宜野湾市は介護に頼らず最小限の支援だけで自立した生活を続けられるよう、安価に利用できるサービス拡充に力を入れる。本来2万3400円のデイサービスを、市の助成で週1回まで最安2340円(1割負担になる所得層の場合)で利用できるようにしたほか、今秋には手すりをつけるなどの住宅改修も安価にできるようにする。給付増の要因になりやすい施設入所を生活に支障がない範囲で可能な限り抑制しようと取り組むのは沖縄県名護市。配食サービス普及に力を注ぎ「食事の心配をしなくてよければ在宅で過ごしたい」という高齢者を後押しする。新型コロナウイルス禍の外出自粛の影響もあり、20年度は前年度比1.5倍の延べ3万1000食近くを提供した。東京都小笠原村は名護市とは逆に村営有料老人ホームを新設したことが奏功した。以前は高齢者の多くが比較的高価な都区部の施設に入所、負担義務のある同村の給付が膨張する要因となっていた。給付費を抑制した自治体は相対的に農業などの1次産業が強く、現役で働き続ける高齢者が多い傾向がある。さらに削減した市町村内でも地域差は顕著で、10.9%減少の北海道石狩市では札幌市に隣接する市街地エリアに比べ市町村合併で編入された漁村部で介護認定が重度化するタイミングが遅かった。日々の暮らしが予防の下地になる。こうしたことを受け積極的に身体を動かすことに取り組む自治体も増えている。北海道鶴居村や天塩町は、クラブを作って運動を促すことで体力を落とさないようにしたり、糖尿病や肥満の人に個別指導をしたりして機能低下を防ぐ。両自治体は高齢者1人当たりの給付費をそれぞれ36.7%、25.3%減少させた。

*4-4:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74827960X10C21A8MM8000/ (日経新聞 2021年8月17日) コロナ遠隔診療 報酬2倍、厚労省、自宅療養急増に対応
 厚生労働省は16日、新型コロナウイルスの自宅療養者らを電話やオンラインで診療した場合の診療報酬を2倍超に引き上げると自治体に通知した。自宅やホテルなどで療養する人が急増していることに対応する。菅義偉首相は同日、記者団に「医療体制の構築が極めて大事だ。自宅にいる患者への電話による診療報酬を引き上げる」と述べた。電話やオンラインでの初診の報酬は従来の2140円に2500円を上乗せし、倍以上にする。再診は730円に2500円を加算し、4倍超に引き上げる。感染拡大が続く東京都内では自宅療養者が2万人を超えた。入院・療養先が未定の人も1万人を上回る。診療報酬の手当てによって医療機関による遠隔の支援を促す。対面診療では感染防護対策などを理由に既に診療報酬を加算している。厚労省はコロナ対応の臨時施設に医師らを派遣する際の補助金も引き上げる。健康管理を強化した宿泊療養施設、入院待機ステーションなども念頭に置く。医師は1人1時間あたり今の倍の1万5100円となる。

<国・地方自治体の財源>
*5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210826&ng=DGKKZO75127550V20C21A8EP0000 (日経新聞 2021.8.26) 地熱の本格調査、国立公園内で、発電量、30年度に1%目標 安定供給に寄与
 経済産業省は地熱発電所を増やすため、国立公園内などに適地を見つける調査を本格化する。環境省と連携し、北海道や九州など30カ所を現地調査する。国の調査はこれまで公園外を中心に5カ所だけだった。太陽光発電や風力発電よりも出力の変動が小さく、温暖化ガスの排出削減と電力供給の安定に役立つと期待される。2022年度予算の概算要求に資源量の調査費など地熱発電の開発支援として183億円を盛り込む。110億円を確保した21年度予算から6割増やす。温暖化ガス排出量を30年度までに13年度比で46%減らす目標の達成に向け、地熱発電で30年度に総発電量の1%を賄う計画だ。地熱発電の適地の8割は国立公園などの自然公園内とされる。環境省はこれまで自然環境や景観を損なうといった理由で開発に慎重だった。今年度に入って小泉進次郎環境相が自然公園内の開発を急ぐと表明した。開発許可の要件を明確にするなどして、事業化を支援する。経産省の予算額の過半は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が担う国の調査に充てる。地表で人工的に地震波を発生させ地下の構造を把握する。地震波が跳ね返ってくる速さなどをもとに地熱発電に使える熱水や水蒸気がたまる場所がわかる。地表調査と簡単な掘削調査に2年ほどかける。有望な場所と判断すれば、開発したい民間事業者を募って引き継ぐ。すでに地熱発電を手がける九州電力などの大手電力や資源開発会社が候補となる。経産省は調査地の半分が事業化につながるとみる。JOGMECは20年度に調査を始め、北海道の大雪山や岩手の八幡平などの5地点を調べた。新たに北海道の支笏洞爺国立公園や新潟と長野の妙高戸隠連山国立公園、熊本と大分にまたがる阿蘇くじゅう国立公園などの30カ所ほどを調査する。1つの公園内の複数の地点を調べる場合もある。21、22年度にそれぞれ15カ所程度調べる。21年度は数カ所の予定だったが、予算の付け替えで拡大する。経産省は公園を管理する環境省などと調整に入った。経産省によると、日本の地熱の資源量は米国とインドネシアに次ぐ世界3位の2347万キロワットにのぼるが、発電の設備容量は60万キロワットにとどまる。資源量が半分未満のフィリピンやニュージーランド、メキシコ、イタリアなどよりも設備が少なく、伸ばせる余地は大きい。7月に示した次期エネルギー基本計画の原案で「安定的に発電できるベースロード電源」と位置づけた。総発電量に占める再生可能エネルギーの比率を19年度の18%から30年度に36~38%に高め、このうち地熱は0.3%から1%に引き上げる。設備容量を150万キロワット程度に増やす必要がある。すでに開発のめどが立った場所などの発電開始で現行の60万キロワットから100万キロワットに引き上げ、国の調査地の事業化でさらに50万キロワット上積みする。調査開始から発電までの期間は急いでも8年程度。30年度に間に合わせるには適地探しはギリギリのタイミングとなっている。

*5-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210823&ng=DGKKZO75023210T20C21A8MM8000 (日経新聞 2021.8.23) 再生エネ導入に最大75%補助 環境省、自治体の脱炭素支援
 環境省は再生可能エネルギー導入などで地域単位で先行して電力消費に伴う温暖化ガス排出実質ゼロを目指す自治体を支援する。事業費の最大75%を補助する交付金を設ける。2030年度までに少なくとも100カ所で電力の脱炭素を実現し、成功モデルをつくる。22年度予算の概算要求に「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を盛り込む。初年度は200億円を想定し、20~40自治体を対象に30年度まで継続支援する。交付金で設備費の2分の1から4分の3をまかなう。温暖化ガス排出量を30年度までに13年度比で46%減らす目標の実現につなげる。市街地や団地、離島など地域単位で家庭や商業施設といった民生部門の実質ゼロを目指す。事業の進捗に合わせて翌年度への繰り越しや設備導入の順番変更をできるようにし自由度を高める。民間事業者にも使える。自治体は9年間の計画を作る。太陽光など再生エネ設備の導入のほか、蓄電池や水素設備による再生エネの活用、建物の断熱改修などに一体的に取り組むことが条件だ。交付金制度の法制化も検討している。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO60178610Z00C20A6EA2000/ (日経新聞 2020年6月10日) 地方財政とは 自前の税収は4割
▼地方財政 総務省は毎年末、都道府県と市区町村を合わせた地方自治体全体の翌年度の収支などの見通しを地方財政計画としてまとめる。財源不足はバブル崩壊後の1994年度以降、急激に拡大。リーマン・ショック後の2010年度には過去最大の18兆円に達した。近年はアベノミクスによる景気拡大で大幅に縮小してきた。直近の18年度決算によると、歳入は地方税が4割を占める。地方財源として国が配分する地方交付税は2割弱。借金である地方債は1割強だ。自前の財源だけで財政運営できる自治体は少ない。歳出は地方債を償還(返済)する公債費や人件費など必ず支払わなければいけない義務的経費が9割を超える。コロナ禍の前から財政は硬直的で余裕がないと言える。地方債などの借入金残高は14年度ごろから緩やかに減少し、20年度は前年度から約3兆円少ない189兆円を見込んでいた。足元では新型コロナウイルス対策で各自治体が家計や企業の緊急支援に動く。歳出の急増を政府からの地方創生臨時交付金などで賄いきれなければ財源不足が大きくなる。借入金残高も再び増勢に転じる見通しだ。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210813&ng=DGKKZO74745310T10C21A8EAC000 (日経新聞 2021.8.13) 脱・大都市 町村も受け皿に、23区若者、移住に関心48%
 新型コロナウイルスの感染拡大は人口の流れに大きな影響を与えた。総務省が公表した住民基本台帳に基づく人口動態調査をみると、2020年の1年間で大都市から地方への移動が鮮明になった。都会を避け移住を決断した人が選んだのはどのような地域だったのか。東京、関西、名古屋の三大都市圏の人口の合計は13年の調査開始以来初めて減少した。東京都は20年の転入者数から転出者数を引いた転入超過(帰化など含む)が6万人ほどで、19年に比べておよそ2万7千人減った。日本人の人口の増減率は46道府県で改善し、東京だけ伸びが鈍った。新型コロナで東京など大都市から地方を受け皿に人口が流れた傾向がデータから読み取れる。人口増の多い町村を見ると、熊本県菊陽町が556人で1位となり、長野県軽井沢町が502人と続いた。地方創生の取り組みとして、子育て世代への支援の手厚さが共通する。菊陽町は子どもの医療費の無償化や企業誘致に取り組み、人口が増え続ける。住宅地を整備し、指定の区域に転入した人に最大100万円の補助金を出す。子どもが生まれたら10万円を支給する。別荘地として有名な軽井沢町は東京駅まで新幹線で1時間程度で、通勤圏となっている。総務省は「テレワークの普及で移住者が増えた」と分析する。幼小中の一貫校の設置といった教育環境の整備も注目される。沖縄県南風原町は那覇市に近く交通の利便性がよい。住宅地を開発し、中学生までの子どもの通院費無料など子育てをする若年層への支援に力を入れる。8位の京都府大山崎町も「待機児童ゼロ」など育児環境の良さをアピールする。「新型コロナを機に地方への関心が高まっている。東京一極集中の是正につなげる」。秋田県出身の菅義偉首相は地方創生への思いを強調する。内閣府の調査によると、東京23区の20歳代で地方移住に関心のある人は19年末時点で39%だった。新型コロナの感染拡大後の21年4~5月は48%と、10ポイント近く上昇した。意識は変わった。移住希望者は既存の政府の支援策を活用できる。総務省は09年度から「地域おこし協力隊」を各地へ派遣する。1~3年程度、地方に移り住んで地域振興の担い手になってもらい、定住につなげる。13年度に1000人ほどの隊員は増加し、20年度にはおよそ5400人になった。24年度は8000人を目指す。縁のない土地での生活に慣れるまでは大変だ。21年度から隊員の経験者による移住生活のサポートを始めた。協力隊の任期終了後に定住した人は多くが就業・起業する。自治体職員などの行政関係が最も多く、観光業、農林水産業が続いた。最近はデジタル分野の素養や接客のノウハウがある人も歓迎されるという。新型コロナの感染拡大をきっかけにテレワークが普及すれば、仕事を続けたままの移住という選択肢も出てくる。政府は「転職なき移住」の実現に向けた環境整備も進める。仕事を辞め新たな土地に定住するのは覚悟がいる。内閣官房の高原剛地方創生総括官は「若い人の職の不安が移住の障壁だった。転職なき移住はその心配が不要」と説く。移住先が気に入らなければ、元の生活に戻れるという利点もある。個人に加え、企業にも行動を促す。内閣府は総額100億円の「地方創生テレワーク交付金」を創設した。大都市部の企業が地方でテレワークの拠点を開けるように「サテライトオフィス」の設置の支援も始めた。仕事ばかりではなく、日常生活の全般を支える仕組みも不可欠になる。武田良太総務相は「遠隔教育、遠隔診療など住みたい地域に住みながら、必要なサービスが受けられる取り組みが広がっている」と話す。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61880510S0A720C2TJ2000/ (日経新聞 2020年7月27日) ごみ発電、海外で受注倍増 日立造船がAIで安定焼却
 日本のごみ焼却発電プラントメーカーが、海外での受注を伸ばしている。日立造船など上位3社の累計受注件数は5年で倍増した。各社は人工知能(AI)で燃焼を安定させる最新技術を投入し、ごみの埋め立てを規制する欧州や、インフラ需要が拡大する新興国市場をさらに切り開く。ごみ焼却発電プラントは、ごみを燃やした際の廃熱を利用してタービンを回し発電する。日本企業が技術力で先行する分野だ。日立造船は2月、子会社の日立造船イノバ(スイス)を通じ、英国レスターシャー州のプラントを受注した。発電出力は4万2000キロワットで、総送電量は一般家庭8万世帯分の年間消費量に相当する。英国でのプラント受注は12件目となった。
●EU埋め立て規制が追い風
 欧州で受注が伸びる背景には、欧州連合(EU)が2015年に定めた「埋め立て規制に関する指令」がある。埋め立てで処理するごみの比率を30年までに10%以下に抑えるという内容だ。経済協力開発機構(OECD)によると、ごみ発電の技術で先行する日本は、埋め立て比率が1%未満。対して英国は14%、フランスは20%、イタリアは23%と高い。世界エネルギー会議は欧州のごみ発電プラント市場が21年に51億ドル(5500億円)と、10年前の2倍に膨らむと予測する。日本勢は広がる商機を狙う。10年には日立造船がスイス、14年には日鉄エンジニアリングとJFEエンジニアリングがそれぞれドイツの同業を買収し、海外進出の足がかりをつくった。3社の海外での累計受注件数は19年度末で84件で、14年度末の37件から倍増している。スイスのコンサルティング大手の調査では、19年に欧州・中東・アフリカを合わせた市場のシェアで、日本勢が過半を占めた。各社はさらに受注を伸ばすべく、技術開発に取り組んでいる。力を入れるのが無人化だ。日立造船は日本IBMと組み、焼却炉内の温度を自動で安定させる技術を今年度中に開発する。蒸気の発生量などの情報をもとに、数分~数十分後の温度をAIで予測する。発電に最適な温度を下回る場合には、燃えやすいごみを投入するなどして温度を一定に保つ。焼却炉にはプラスチックや生ごみなど様々なごみが投入され、それぞれの性質で燃焼状態が変わる。現在は温度が安定しない場合、作業員が経験に基づき投入するごみを選んでいる。人材頼みだった作業を自動化し、安定した発電を実現する。JFEエンジもAIを使った自動運転プログラムを開発した。焼却炉内の様子を1分ごとに撮影し、温度や燃え方を把握。供給する空気の量や、投入するごみの量を調節して温度を一定に保つ。国内プラントで実証実験を進めており、発生する蒸気量が安定する効果も確認できたという。大下元社長は「日本の環境技術は競争力も高く、今後も欧州など海外で積極的に受注獲得に動いていく」と語る。
●天候の影響なし
 世界には日本以外にもごみ活用の先進国がある。再生可能エネルギーの比率が6割を超えるスウェーデンは、国内で発生するごみの約半分を焼却して発電に利用し、余熱も暖房用などに家庭に供給している。肥料などにも使うため自国のごみでは足らず、近隣諸国からごみを輸入している。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の電力消費量に占めるバイオマス発電の量は約1割で、ごみ発電はさらにその一部になる。規模は小さいが、ごみが排出される限り安定的に発電できる。再生エネでも太陽光や風力は天候や時間帯で発電量がぶれるデメリットがある。ごみ発電は足元では欧州で需要が拡大しているが、今後は経済発展に伴ってインフラ需要が広がるアジアが市場をけん引するとみられる。アジアのごみ焼却発電プラント市場は21年に64億ドル(約6900億円)と、10年前と比べ3.7倍になる見通しだ。日鉄エンジはNTTデータなどとマレーシアでごみ発電を導入するための調査に取り組む。中国のプラントメーカーも台頭するなか、日本勢は効率性の高い技術で優位を保とうとしている。
*国内ごみ発電の余剰電力、新電力が9割落札
 日本国内では新電力がごみ発電による電力供給の主役になっている。エネルギー調査会社のリム情報開発(東京・中央)によると、2020年に実施されたごみ焼却施設の余剰電力入札50件のうち、94%にあたる47件が新電力に落札された。比率は4年前の86%からさらに上昇した。事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際的な企業連合「RE100」に加盟する日本企業は30社を超える。NTTグループの新電力大手、エネット(東京・港)の池田ひなた経営企画部部長は「環境負荷の低い電力を要望するお客さんは年々増えている」と話す。新電力は19年度の国内の電力販売量の15.4%を占めるが、ほとんどの企業が太陽光や風力発電など再生エネの自前設備を持たない。そこで目を付けたのが、ごみ焼却施設が生み出す電力だ。19年2月の神戸市東部環境センター(神戸市)の入札では、大手の関西電力と新電力の計8社が競り合い、丸紅新電力(東京・中央)が落札した。人口減少が続く日本では、ごみ焼却発電プラントの増加は見込めない。限られた再生エネの安定電源の争奪戦は激化しそうだ。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC194EP0Z10C21A6000000/ (日経新聞 2021年7月10日) 「脱ごみ社会」自治体挑む 長野・川上村、生ごみゼロ
 全国のごみ処理費は年間2兆円を超える。増加傾向にあり10年前に比べ1割増えた。人口減の進展に伴う担い手不足の懸念も強まっている。財政も厳しさを増す中、持続可能な地域を築くためには排出削減への戦略的な施策が欠かせない。企業が環境意識を高める中、先進的に取り組む自治体では新たな産業を呼び込むなど、活性化にも寄与し始めた。環境省が3月にまとめた一般廃棄物処理の実態調査(2019年度)によると、1人1日あたりの排出量は918グラム。都道府県で最少は長野県で816グラムだった。京都府(836グラム)、滋賀県(837グラム)が続く。長野県は800グラム以下に減少させる目標「チャレンジ800」を策定。啓発を進め、14年度以降、日本一を維持する。全77市町村のうち60がごみ袋を有料化。記名式に踏み込んだ自治体も同じく60あった。自治体のごみ問題に詳しい山谷修作東洋大名誉教授は「有料化や記名式はコストの可視化や排出責任の明確化につながり減量への動機づけになる」と指摘する。全国自治体で一番排出量が少ない川上村(有料・記名、294グラム)は、可燃ごみの4割を占める生ごみの回収を一切せず各家庭で堆肥化する。生ごみは水分含有量でも自治体を悩ませる。そのままでは焼却炉の温度を下げてしまい、ダイオキシン発生を誘発。一方で温度を維持しようとすると、燃料費がかさむ。財政難から3基の焼却炉すべてを耐用年数を超えて運用する上田市(有料・記名、770グラム)は、16年から自己処理を促す「生ごみ出しません袋」の無料配布を始めた。畑がない家にもメリットを直接感じてもらおうと、乾燥生ごみ1キログラムにつき1ポイントとする事業も開始。5ポイント集めれば市内のJA直売所で500円分の野菜などに交換できる。2位の京都府では、京都大と連携して発生抑制に取り組む京都市(836グラム)がけん引する。1980年から発生場所を特定する「細組成調査」を開始。市はピーク時の年間排出量82万トン(00年度、1人あたり排出量は1608グラム)を半減する目標も策定した。18年度に目標を達成し、処理費は4割減の224億円(20年度)にまで減った。減量のメリットは処理に費用がかかるケースが多い事業者にとっても大きい。東京都多摩市は15年「利益率5%の事業者が50万円のもうけを出すには1000万円の売り上げ増が必要。処理(持ち込みの場合10キログラム350円)に年500万円を費やすなら、ごみ1割減でも50万円の経費削減となり同等の効果を生む」と具体例を挙げて可視化。事業所1人あたり排出量の2割減につなげた。環境負荷低減が世界的な要請となる中、取り組みは活性化にも直結する。全国に先駆け、焼却・埋め立てごみをゼロにする宣言を行った徳島県上勝町には、町の人口(1500人)を超える約2000人が例年視察などに訪れる。調査時点でもなお539グラム(市町村で30位)を排出しているが、住民自ら45品目に分別し、資源化を進めることで年間処理費を6割減程度まで抑制した。焼却炉は00年、ダイオキシン類対策特別措置法の基準を満たさなかったことを機に廃止。環境都市としてブランド力が高まり、15年に町外事業者がビール製造場を新設した。キャンプ場などレジャー施設も増えている。

*5-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF1628X016072021000000/ (日経新聞 2021年7月16日) 大阪市、本庁舎の電力すべて再生エネに 12月から
 大阪市は16日、市役所本庁舎で使用する電力について12月から再生可能エネルギーに切り替えると発表した。入札で9月下旬まで事業者を募り、太陽光やバイオマス発電など再生エネ由来100%の電力による供給を求める。年間の使用電力量は約656万キロワット時を予定する。現在、市の本庁舎は中部電力と電力契約をしており、再生エネに限定した調達はしていない。府・市が3月に発表した「おおさかスマートエネルギープラン」では、府や市の庁舎で再生エネ電力の調達を推進すると表明しており、それに沿った取り組みだ。松井一郎大阪市長は同日、記者団に対して「SDGs(持続可能な開発目標)は25年の国際博覧会(大阪・関西万博)のテーマでもある。我々ができるところから持続可能な社会をつくっていきたい」と話した。府でも4月から本庁舎などで使用する電力を再生エネ由来100%の調達に切り替えた。日立造船がバイオマス発電により電力を供給している。

<人材不足と外国人労働者及び難民の受け入れについて>
PS(2021/8/29追加):*6-1-1のように、アフガニスタンで反政府勢力タリバンが首都カブールを勢力下に置いた事態を受け、「タリバンの司令官の1人が公開処刑・手足の切断・投石による処罰等の実施を公言した」とBBCが報じているため、難民支援の弁護士団体が、2021年8月16日、アフガニスタン出身者への緊急措置による迅速な保護を求める声明を公表した。
 その内容は、①我が国に庇護を求めるアフガニスタン出身者に対し、難民認定手続の審査を待たずに、アフガニスタン出身者であることが確認できれば、緊急措置として迅速に安定的な在留資格を付与すること ②難民認定手続外で在留資格の変更を求めるアフガニスタン出身者に対しても、緊急措置として迅速に安定的な在留資格への変更を認めること ③前記1と2で付与又は許可する在留資格は最低でも在留期間1年とし、更新を可能とすること ④在留するアフガニスタン人が日本への家族呼び寄せを希望する場合、在留資格認定証明書の許可要件の緩和や大使館での迅速な査証の発給など、最大限の配慮をすること などである。
 しかし、*6-1-2のように、アフガニスタンにいる日本人と日本大使館の外国人スタッフらを退避させる目的で派遣していた航空自衛隊の輸送機は、8月26日現在、米国の要請を受けて迫害の恐れがあるアフガニスタン人14人を首都カブールの空港から隣国パキスタンに退避させただけだ。そして、日本政府は、カブール空港内で活動していた外務・防衛両省の支援要員を撤収させ、輸送機を安全なパキスタンのイスラマバードに待機させているとのことである。つまり、日本は一刻を争う大使館スタッフ等のアフガニスタン人の移動も行わず、退避を希望する日本大使館やJICAのアフガニスタン人等の現地スタッフとその家族ら約500人を残したまま、外務省が「現地に残る日本人は、ごく少数」と説明しているわけだ。本当に人命を第一に考える国であれば、このような場合は、日本の関係施設で働いていたアフガニスタン人を一刻も早く出国させるためにあらうる手を尽くす筈で、そのために外務・防衛両省の支援要員を派遣しているため、応急のビザを出して日本に退避させ、その後で難民認定を行うことも容易である。そして、それもできないようなら外務・防衛両省から派遣した意味がない。
 ただ、日本におけるテロリズムの定義は、特定秘密保護法第12条第2項で、「政治その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動を言う」とされているため、どんな国家であっても国を作ってしまえばその権力に逆らう者がテロリストとされる。そのため、アフガニスタンの事態は、日本における「テロリズム」の定義のおかしさをあぶり出し、この考え方が政治亡命せざるを得ない人への冷たい仕打ちに繋がっていると思われる。
 なお、日本という国が今でも人命を大切に考えていないことは、*6-2の名古屋入管で死亡したスリランカ人女性ウィシュマさんの事件からも明らかで、ウィシュマさんの死亡後、入管庁が公開した最終報告書は「死因の特定は困難」とし、行政文書の開示請求で名古屋入管が送ってきたのはほぼ黒塗りの約1万5千枚の文書という不誠実なものだった。そのため、私も、国連も問題視している非人道的な入管制度が抜本から変わらない限り、日本が外国人労働者と共存し、難民を受け入れて成長できる国になることはないと考える。


 2021.6.3日経新聞        2021.6.17Goo        2021.8.29日経新聞

(図の説明:左図は、先進国の難民認定数・認定率だが、日本は2019年に44人、0.4%と著しく低く、中央の図のように、近くのミャンマー出身者の難民認定数・認定率でさえ0人、0%だ。また、右図は、アフガニスタンから各国が退避支援した人数だが、日本は全部で15人とやる気のなさが際立っている)

*6-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/cefcca8b5d95b8c7e1a0859e2372961d5baf66f2 (Yahoo 2021/8/17) 「在日アフガニスタン人の迅速な保護を」難民支援の弁護士らが声明
 アフガニスタンで反政府勢力タリバンが首都カブールを勢力下に置くなどの事態を受け、難民を支援する弁護士の団体「全国難民弁護団連絡会議」は8月16日、アフガニスタン出身者への緊急措置による迅速な保護を求める声明を公表した。声明は、法務省や外務省に宛て送付されている。全国難民弁護団連絡会議では、現在のアフガニスタンの状況について、タリバン司令官の1人が、公開処刑、手足の切断、投石による処罰などの実施を公言したとBBCが報じていることを指摘。「タリバンの理念に反する者、女性やマイノリティへの人権侵害が更に広範 化し悪化することが懸念されます」としている。そのため、在日アフガニスタン人から、本国の家族を日本に呼び寄せることはできないかという訴えが弁護士や支援関係者に寄せられているという。全国難民弁護団連絡会議は、現在、比較的多くのアフガニスタン出身の庇護希望者が日本で在留資格を得ているものの、難民として認定されず、人道配慮による在留が認められないケースもあると指摘。アフガニスタンで迫害や重大な危害を受けるおそれがあるアフガニスタン出身の在留者らを本国に送還しないよう求めている。
●「迅速な在留資格付与」求める
 声明では、次のことを求めている。
  1、我が国に庇護を求めるアフガニスタン出身者に対し、難民認定手続の審査を待たず
    に、アフガニスタン出身者であることが確認でき次第、緊急措置として迅速に安定的
    な在留資格を付与すること
  2、難民認定手続外で在留資格の変更を求めるアフガニスタン出身者に対しても、緊急
    措置として迅速に安定的な在留資格への変更を認めること
  3、前記1と2で付与又は許可する在留資格は最低でも在留期間1年とし、更新を可能と
    すること
  4、在留するアフガニスタン人が日本への家族呼び寄せを希望する場合、在留資格認定
    証明書の許可要件の緩和や大使館での迅速な査証の発給など、最大限の配慮を
    すること

*6-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15025646.html (朝日新聞 2021年8月29日) 自衛隊機、アフガン人輸送 14人、米の要請受け隣国へ
 アフガニスタンにいる日本人や日本大使館の外国人スタッフらを退避させるために派遣されていた航空自衛隊の輸送機が26日、アフガニスタン人14人を首都カブールの空港から隣国パキスタンに退避させていたことがわかった。米国の要請を受けて運んだ。今回の派遣の根拠となった自衛隊法84条の4「在外邦人等の輸送」に基づき、外国人を輸送したのは初めて。複数の政府関係者が明らかにした。14人は旧政権の政府関係者らで、「国内にとどまれば、迫害される恐れがあった」という。輸送機は25日以降、カブールの空港に複数回降り立った。だが、治安悪化などの影響で、日本が退避対象としていた大使館スタッフなどのアフガニスタン人を、空港に移動させることはできなかった。27日には、退避を望んだ日本人1人をC130輸送機でパキスタンの首都イスラマバードに運んだ。外務省は現地に残る日本人は「ごく少数」と説明。今回は退避を希望していなかった、としている。一方、退避を希望する日本大使館や国際協力機構(JICA)のアフガニスタン人などの現地スタッフとその家族らは残されたまま。政府関係者によると、そうした人は約500人規模になるとみられる。自衛隊法84条の4は「外国における災害、騒乱その他の緊急事態」に際し、防衛相が外相からの依頼に基づいて、輸送を行う。日本人だけでなく、外国人も運べると規定する。過去4件実施したが、運んだのはいずれも日本人だった。政府は、カブールの空港内で活動していた外務、防衛両省の支援要員をいったん撤収させた。だが、輸送機をイスラマバードに待機させており、「退避に向けた努力を継続する」としている。

*6-2:https://www.fnn.jp/articles/-/227546 (FNN 2021年8月21日) 「“鼻から牛乳”は日本のジョークです」ウィシュマさん映像の全容判明
 名古屋入管に収容中死亡したスリランカ人女性のウィシュマさんの問題について、遺族にのみ開示された監視カメラの映像の全容がわかった。そこに映し出されていたのは、日々衰弱しながらも生きようとしたウィシュマさんの姿と入管職員の人権を蹂躙する非人道的な行為だった。ともに映像を見た従姉妹マンジャリさんに映像の詳細を時系列で聞いた。
●「“鼻から牛乳”は日本のジョークです」と職員が説明
▽3月1日午後9時32分から37分の5分間。
職員2人が部屋にいてベッドに座っているウィシュマさんに薬を渡す。「喉の奥まで薬を入れてね」と職員が言うが、ウィシュマさんは水を飲んだら嘔吐してしまう。そのあとウィシュマさんが「コーヒー」と言って、職員が紙パックのカフェオレを渡す。職員がウィシュマさんの嘔吐のあとを拭こうとすると、ウィシュマさんがカフェオレを吹き出し、それを見た職員が「鼻から牛乳や」と言って笑った。ウィシュマさんは「コーヒーだけ飲める」と語って映像は終わった。
この映像を見ながら入管庁の職員は「これは日本のジョークです。ウィシュマさんと仲良くするための」と遺族らに説明した。これに対してポールニマさんが怒り「こういう状況で冗談を言うのか」と言うと職員は黙り込んだ。この頃になるとワヨミさんはずっと泣いていた。
●「痛い」と訴えても「しょうがない」と嘲る職員
▽3月2日午後6時45分から47分の2分間。
ベッドに寝ているウィシュマさんを職員が動かそうとして、服や手を引っ張るとウィシュマさんは大声で「痛い」と訴える。職員は「自分で身体を動かさないから、痛いのはしょうがない」「食べて寝るだけだから身体が重くなる」と嘲るように言う。なぜ身体を動かそうとしたのか説明はない。
▽3月3日午後4時58分から5時10分の12分間。
部屋には職員1人と白衣を着た看護師がいる。ウィシュマさんはベッドに寝ていて、「まるで遺体のように動かない」(マンジャリさん)。看護師は体温と血圧を測り、いろいろ話しながらウィシュマさんの手のマッサージをする。
看護師はウィシュマさんに手を握ったり広げたりするように言うが、ウィシュマさんは出来ない。さらに看護師はウィシュマさんの腕を上げ下げするが、大きな声で痛がる。ウィシュマさんは大きな声で痛がったが看護師は腕の上げ下げを続けた
●「本当に看護師なのか」と遺族は訝しがった
 看護師は「明日先生に会うから症状を全部言うように。ご飯を食べられない、歩けない、耳鳴りがする、頭の中が工場みたい(幻覚をみる)」と言うと、ウィシュマさんは「死にたい」と言う。看護師は「日本人の金持ちの恋人を探して結婚して幸せになるんじゃないの」と言う。そのあとも看護師は4、5回「明日先生に症状を言うように」と繰り返した。ウィシュマさんが「目も見えない」というと「それも言ってね」というだけだった。この映像を見ながらワヨミさんの夫が「この人は本当に看護師なのか。こんなに衰弱している人になぜ腕を上げ下げさせるのか」と訝しがった。これに対して佐々木聖子入管庁長官は「この人は週5回入管に来る看護師だ」と答えた。この後「時間もかかったので休憩しましょう」となり、遺族は休憩室に移ったがワヨミさんが大声で泣きだし嘔吐した。そこで「これ以上映像を見るのはやめよう」と、代理人の指宿昭一弁護士と相談して、映像を続けてみることを中止した。これが12日遺族に開示された映像の全容とその日の遺族の姿だ。映像を見た後ワヨミさんは記者団の前で「お姉さんは犬のような扱いを受けた」と泣きながら訴えた
●黒塗りの1万5千枚の文書が意味するものは
 最後の映像から3日後、ウィシュマさんは死亡した。入管庁の公開した最終報告書には、死因の特定は困難だとしている。遺族の代理人の弁護士団は、収容中の状況をさらに詳しく調べるため名古屋入管に対して行政文書の開示請求を行った。しかし名古屋入管から送られてきたのはほぼ黒塗りの約1万5千枚の文書だった。筆者はこれまでの取材を振り返りながら、入管庁や名古屋入管の職員はなぜ人命を蔑ろにし、人の尊厳を踏みにじる行為を平気で行えるようになったのだろうと考えた。遺族の代理人の1人である駒井知会弁護士はこう語る。「東京入管に朝行くと、割とお洒落な服を着た沢山の若者たちが奥の入口に吸い込まれていくのを見ます。若者たちは建物の職員控え室で入管の紺の制服に着替えるのでしょう。若い彼ら、彼女らが誇りを持って職場に向かえる日が来るためにも私たちは戦いたいです」
●すべての映像を公開し入管制度の国民的議論を
 いまの入管制度と組織が変わらない限り、ウィシュマさんのような悲劇は必ず繰り返されるだろう。そしてこの人権を無視し、非人道的な行為に加担させられるのは日本の前途ある若者なのだ。国連も問題視する非人道的な入管制度が抜本から変わらぬ限り、日本という国に未来はこない。まずはウィシュマさんのすべての映像を公開し、国民1人1人が入管施設の現実を直視したうえで議論を始めるべきだ。映像の公開が無い限り、政府は人権を軽視し国民から真実を隠そうとしていると言わざるを得ない。

<産業の付加価値向上と教育・研究>
PS(2021年8月30日):産業を高度化して付加価値を高めるには科学技術・教育・研究が重要だが、*7-1-1のように、この面でも日本の研究力は低落の一途を辿り、注目論文数が世界10位に転落した。高コスト構造により、国内の製造業が比較優位性を持てず産業が海外流出すれば、それに関わる科学技術や研究も低調になるのは必然で、科学技術や研究が低調になれば国内の製造業の比較優位性がさらに低くなるという悪循環が生じる。
 その結果、日本の国際的な存在感が低下して世界10位に落ちたことについて、*7-1-1は、①2019年の研究開発費は18兆円(名目額、購買力平価換算)でなお世界3位 ②大学関係者の中では、低迷のきっかけとして2004年の国立大学法人化を挙げる声が多い ③注目論文の国別の世界シェアは、中国24.8%、米国22.9%、英国5.4%、ドイツ4.5%で、日本は2.3%に留まる ④全体の論文数も現在は4位で2000年代半ばから急落 ⑤博士号取得者が日本だけ減少 ⑥博士人材が企業内でうまく活用されていない ⑦日本が低迷する要因は、大学教員の研究時間が減っていること ⑧『選択と集中』ではなく、個々の研究レベルを上げる政策の中で取り組むべき としている。
 しかし、研究開発費は世界3位で少ない方ではなく、人口もドイツ(約84百万人)・英国(約68百万人)より多いため、①②⑦は主たる原因ではなく、③④は⑧のように「選択と集中」で世界が注目するようなイノベーションを含む研究がやりにくく、注目される論文を書くと細かいケチをつけて足を引っ張るメディアの多いことが原因だ。⑤は、⑥のように、時間とカネをかけて博士になっても企業で活用されず、大学や研究所でも短期の任期雇用しかなければ、博士号の取得は本人にとって費用対効果が合わないのである。
 なお、突然、注目論文を書けるようになるわけではなく、初等・中等教育による基礎があって高等教育を理解でき、博士にもなれる。しかし、*7-1-2のように、日本では、政府が「一斉休校は要請しない」と言っても、「子どもを通じて、新型コロナが家庭に感染が広がる懸念がある」として、「一斉休校を要請すべき」とする論調が多く教育の優先順位が低い。が、教育に真面目に取り組んでいる国は、早くから大学生に毎週PCR検査を行い、新学期が始まる前にワクチン接種を済ませて、対面教育を継続するための最大限の努力をしているのである。
 中国については、*7-2-1が、⑨自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で世界1になった ⑩中国は材料科学(48.4%)・化学(39.1%)・工学(37.3%)などの5分野で首位、米国は臨床医学(34.5%)・基礎生命科学(26.9%)で首位 ⑪産業競争力の逆転も現実味 ⑫注目論文数は、中国は2018年(17~19年の平均)に4万219本となって米国の3万7124本を抜き首位 ⑬注目論文のうち上位1%に当たる「トップ論文」も、中国(25%)・米国(27.2%)で質の面でも実力をつけている姿が鮮明 ⑭中国が量と質をともに高めている背景には圧倒的な研究人材の厚さと伸びがある ⑮科学論文の量や質を左右するのは資金力だけではない ⑯研究人材の育成で日本は中国以外の国にも大きく出遅れている と記載している。
 また、*7-2-2は、⑰米中が威信を懸けて科学力を競う主戦場の一つが宇宙開発 ⑱中国が送り込んだ無人探査機が2021年5月に火星に着陸 ⑲中国は2019年に世界で初めて月の裏側へ無人探査機を着陸させた ⑳中国の研究力向上を支えるのは積極投資と豊富な人材 ㉑胡錦濤前国家主席時代の2006年に「国家中長期科学技術発展計画綱要」で2020年までに世界トップレベルの科学技術力を獲得する目標を掲げ ㉒人材の獲得・育成に中長期的に取り組んで米欧の大学に若者を留学させた ㉓2008年に開始した「千人計画」では海外在住の優れた研究者らを積極的に呼び込んだ としている。
 このうち、⑨⑩⑪は、産業に使う研究で中国がトップに立っている姿だ。⑫⑬⑭は、⑳㉑㉒㉓のように、中国政府によって長期の政策として行われてきたことで、産業の付加価値を高めるためにも正攻法である。そして、日本では、何かというと予算さえつければよいかのような議論が横行するが、⑮⑯がまさに事実であり、初等教育から研究人材の育成までやるべきことの逆を行ってきたと言える。なお、⑰⑱⑲は、日本の宇宙研究と違って重要な本質をずばっと突いた地球人が注目する焦点であり、志の高さが感じられる。


   2021.8.8日経新聞     2021.8.29日経新聞    WeeklyEconomist

(図の説明:1番左の図のように、引用上位10%の論文シェアで中国は米国を抜いた。左から2番目の図は、分野別の注目論文数の世界シェアだ。また、右から2番目の図のように、注目論文数で日本は10位に落ち、博士数も日本だけ減少傾向だ。しかし、1番右の図のように、日本の研究開発費総額は世界3位を維持しており、米国や中国のように増えてはいないが、ドイツ・フランス・英国以上であるため、何がネックになっているのか正確に調べるべきである)

*7-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC209AC0Q1A820C2000000/ (日経新聞 2021年8月29日) 日本の研究力、低落の一途 注目論文数10位に
 「科学技術立国」を掲げる日本の国際的な存在感が低下している。文部科学省の研究所が8月上旬にまとめた報告書では、科学論文の影響力や評価を示す指標でインドに抜かれて世界10位に落ちた。世界3位の研究開発費や研究者数も伸び悩んでおり、長期化する研究開発の低迷に歯止めがかからない。世界の科学論文の動向は文科省の「科学技術・学術政策研究所」が毎年まとめている。今回発表した最新のデータは、2018年(17~19年の3年間の平均)のものだ。1年では特殊な要因によるぶれが出かねないため、3カ年の平均値で指標を出している。10位になったのは、研究分野ごとに引用数がトップ10%に入る「注目論文」の数だ。研究者は研究成果を論文にまとめる際、関連する論文を参考として引用する。引用された数は社会やその研究分野へのインパクト、評価や注目度を示す指標になるわけだ。注目論文の国別の世界シェアをみると、中国が24.8%で米国を初めて逆転して世界一に立った。米国は22.9%で、米中で世界の50%近くを占めた。大きく離れて英国(5.4%)、ドイツ(4.5%)などが続き、日本は2.3%にとどまった。日本の低迷は最近始まったことではない。国際ランキングの推移を見ると、特に2000年代半ばからの急落が目立つ。1980~90年代前半は米国、英国に次ぐ3位を維持していた。だが94年にドイツに抜かれ、2005年までは4位になり、その後順位を落とし続け、ついに2ケタ台になってしまった。注目論文のうち引用数が上位1%の「トップ論文」もほぼ同じ推移だ。00年代前半まで長く4位だったが、今は9位に落ちた。研究開発の活発さを示す全体の論文数もかつては米国に次ぐ2位だったが、現在は4位だ。低迷のきっかけに04年の国立大学の法人化を挙げる声は大学関係者の中で多い。その後、国から配られる大学の運営費に関する交付金は年々削減されていき、大学は人件費や管理費の抑制を進めたという指摘がある。00年代半ばから低下したのは資金だけではない。他国に比べても目立つのが、将来の国の研究開発を下支えする博士号取得者の減少だ。米中は年々その数を伸ばしており、英国や韓国も00年度に比べて2倍超となった。ドイツやフランスも横ばい水準を維持している。一方の日本では、06年度の約1.8万人をピークに減少傾向が続いており、近年は約1.5万人で推移している。影響は大学だけではなく、企業の研究力にも及ぶ。米国では企業の研究者のうち博士号所有者の割合が、ほぼ全ての業種で5%を超える。日本は医薬品製造や化学工業などを除いた多くの産業で5%未満にとどまる。専門的な知識を持って入社する博士人材が、企業内でうまく活用されていない状況だといえる。民間なども加えた日本の研究者の総数は20年で68.2万人、19年の研究開発費は18兆円(名目額、購買力平価換算)で米中に大きく離れてもなお世界3位を保っている。ただ、前年からの増加率は1%以下とほぼ横ばいの水準だ。増加率2ケタ台で研究者数がトップの中国や、研究開発費で首位をキープする米国との差は開く一方だ。日本が低迷する要因について、調査担当者は「大学教員の研究時間が減っている」ことをあげる。改善するにはどうしたらいいか。政府の科学技術政策の司令塔である「総合科学技術・イノベーション会議」の議員を務める橋本和仁さん(物質・材料研究機構理事長)は「『選択と集中』ではなく、個々の研究レベルを上げる政策の中で取り組むべきだ。例えば、短期的な成果を求めないようにするため、若手の雇用を増やすべきだという議論になるだろう」と指摘する。政府は3月に閣議決定した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」で、博士課程人材への財政支援の拡充、大学の経営基盤強化や若手研究者の支援などに向けて10兆円規模のファンドを立ち上げる方針を掲げた。実効性が問われる。
*日本の科学技術計画
 政府が5年に1度策定するもので、日本の科学技術政策の中長期的な方針を示す。科学技術基本法(1995年制定)が2020年に改正されたのに伴い、従来は「科学技術基本計画」との名前だったが現在は「科学技術・イノベーション基本計画」と呼ぶ。3月に閣議決定した21~25年度の第6期計画では「今後5~10年間が、我が国が世界を主導するフロントランナーの一角を占め続けられるか否かの分水嶺」との危機感を示した。5年間で政府の研究開発投資を総額30兆円にするといった目標を掲げた。

*7-1-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021082400648&g=soc(時事 2021年8月25日)夏休み延長、分散登校も コロナ拡大で不安広がる―政府「一斉休校要請せず」
 新型コロナウイルスの感染急拡大が収まらない中、夏休み明けの学校再開に向け、全国の自治体が対応に苦慮している。政府は全国一斉の休校は要請せず、自治体に対応を委ねる意向。一方で子どもを通じて家庭に感染が広がる懸念もあり、夏休みの延長や分散登校を決める自治体も出ている。新学期の対応について、萩生田光一文部科学相は20日、「地域の事情に合わせて判断を変えていくということで、国としての一斉休校は行わない」と説明。そのため自治体の判断が分かれている。札幌市では予定通り、23日から中学校の2学期が始まった。一方、東京都は現時点で一斉休校は求めず、状況に応じて時差登校や短縮授業の検討を要請する通知を出した。大阪府も一斉休校はしないが、修学旅行を原則延期したほか、部活動の一部を中止に。愛知県も修学旅行の休止を検討するなど、行事を見直す動きは広がっている。一方、横浜市は市内の小中学校など約500校を対象に、26日までの夏休みを延長し31日まで臨時休校にした。市教委の担当者は「感染状況が厳しく、保護者から再開を不安視する声も寄せられた」と明かす。神奈川県内では川崎、相模原両市も小中学校の8月末までの休校を決定。東京都調布市は小中学校を9月5日まで休校にした。分散登校に踏み切るケースも多い。群馬県の県立学校では2学期の始業式から9月12日まで、生徒らを分けて交代で登校。熊本市では小中学校について、オンライン授業と登校日を学年ごとに分ける方式を1日から10日まで導入する。岐阜県では、県立高校の2学期の授業を当面オンラインで実施。県教委の担当者は「高校は通学エリアが広く、感染リスクが小中学校より高い」と説明している。大阪府寝屋川市も夏休み明けの登校を見合わせ、小中学校は8月27日までオンライン授業としている。政府は学校での感染防止対策として小中学校に抗原検査の簡易キットを配布する方針。教職員のワクチン接種も促すが、10代以下の子どもの感染も急増する中、自治体からは「看過できない状況になれば一斉休校も判断としてあり得る」(吉村洋文大阪府知事)との声が出ている。

*7-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05A1O0V00C21A8000000/?n_cid=BMSR3P001_202108101701 (日経新聞 2021年8月10日) 中国論文、質でも米抜き首位 自然科学8分野中の5分野
 自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で中国が初めて世界一になった。文部科学省の研究所が10日、最新の報告書を公表した。研究者による引用回数が上位10%に入る「注目論文」の数で初めて米国を抜いた。分野別でも8分野中、材料科学や化学、工学など5分野で首位に立った。学術研究競争で中国が米国に肩を並べつつあり、産業競争力の逆転も現実味を帯びてきた。科学論文の数は国の研究開発の活発さを測る基本的な指標だ。文科省科学技術・学術政策研究所が英調査会社クラリベイトのデータを基に主要国の論文数などを3年平均で算出・分析した。中国が学術研究の量だけでなく、質の面でも実力をつけている姿が鮮明だ。注目論文の本数を調べたところ、中国は2018年(17~19年の平均)に4万219本となり、米国の3万7124本を抜き首位になった。米国も08年に比べて3%増えたが、中国は約5.1倍と急増。シェアは中国が24.8%、米国が22.9%と、3位の英国(5.4%)を引き離した。注目論文のうち上位1%に当たる「トップ論文」でも、中国のシェアは25%と米国の27.2%に肉薄した。文科省科学技術・学術政策研究所の担当者は今後について「中国のいまの勢いは米国を追い抜く様相を見せている」と指摘する。注目論文の世界シェアを分野ごとにみると、材料科学で中国は48.4%と米国(14.6%)を大きく引き離した。化学が39.1%(同14.3%)、工学は37.3%(同10.9%)などと計5分野で首位となった。米国は臨床医学(34.5%)や基礎生命科学(26.9%)で首位となった。バイオ分野で強さが目立つものの、産業競争力に直結する分野で中国が強さを示した。全体の論文数では昨年の集計に引き続き中国が首位になり、米国を上回った。中国は35万3174本、米国が28万5717本で、その差を20年調査時の約2万本から約7万本に広げた。一方、日本は論文の質・量ともに順位が低下し、科学技術力の足腰の弱さが浮き彫りになった。注目論文のシェアではインドに抜かれ、前年の9位から10位と初めて2ケタ台に後退した。トップ論文のシェアも9位と前年から横ばいだった。10年前と比べた減少率はともに10~15%と大きく、論文の質が相対的に下がっている。日本の全体の論文数は6万5742本と米中の20%前後の水準にとどまった。米中のほか韓国、ドイツ、フランス、英国などは10年前と比べ増えているが、日本は横ばいにとどまる。長期化する研究力低下に歯止めをかけるのに「特効薬」はなく、衰退を食い止めるのは難しい。科学論文の量や質を左右するのは資金力だけではない。中国が量と質をともに高めている背景には、圧倒的な研究人材の厚さと伸びがある。世界一を誇る研究者数を年々増やしている。一方、中国・米国に続いて3位の日本は横ばい水準で伸び悩む。中国の19年時点の研究者数は210万9000人と世界首位だ。前年から13%増と高水準で伸びた。日本は68万2000人(20年時点)と中国・米国に続く3位だが、増加率は0.5%にとどまる。研究人材の育成で日本は中国以外の国にも大きく出遅れている。文科省科学技術・学術政策研究所によると、日本で大学院の博士号を取得した人数は06年度をピークに減少傾向だ。米中や韓国、英国では15~20年前に比べて2倍超の水準で伸びている。ドイツやフランスは横ばい水準だ。
*ひとこと解説 青山瑠妙:早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
 自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で中国が初めて世界一になった。世界一になった理由として、一般には研究開発費の増加が指摘されている。なかでも大学に配分される科研費は文系、理系を問わず、潤沢である。研究者の人数が多いことも一因であるが、その多くは欧米で教育を受けた研究者であることは忘れてはならない。さらに、中国の論文を網羅した学術データベースの存在も中国の論文の引用回数の底上げに貢献した。国際競争力を目指すには、科研費の充実をはじめとした日本政府の政策支援が求められる。

*7-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC103PJ0Q1A810C2000000/ (日経新聞 2021年8月10日) 中国、科学大国世界一を視野 米国の競争力基盤揺るがす
 中国が「科学大国世界一」の座を米国から奪おうとしている。文部科学省の研究所が10日発表した報告書では注目度の高い論文の数で初めて首位となり、研究の量だけでなく質の面でも急速に台頭していることを印象づけた。戦後の科学研究をリードしてきた米国の優位が失われつつあり、産業競争力にも影響する可能性がある。米中が威信を懸けて科学力を競う主戦場の一つが宇宙開発だ。5月には中国が送り込んだ無人探査機「天問1号」が火星に着陸し、習近平(シー・ジンピン)国家主席は「中国は惑星探査の分野で世界の先頭集団に入った」と胸を張った。2019年には月の裏側へ世界で初めて無人探査機を着陸させている。「中国の技術力は米国に負けないレベルに達している」と京都大学の山敷庸亮・有人宇宙学研究センター長は指摘する。米国は1950年代以降、科学技術の分野で世界を先導してきた。産業競争力の源泉であり軍事上の優位を支える土台でもあったが、その基盤を中国が揺るがしている。中国の研究力向上を支えるのが積極投資と豊富な人材だ。中国の19年の研究開発費(名目額、購買力平価換算)は54.5兆円と10年間で2倍以上に増えた。首位の米国(68兆円)にはなお及ばないが、増加ペースは上回る。研究者の数も210万人と世界最多で、18年に155万人だった米国を大きく引き離す。現在の中国の姿は戦略的な計画に基づく。胡錦濤(フー・ジンタオ)前国家主席時代の06年に始動した「国家中長期科学技術発展計画綱要」で、20年までに世界トップレベルの科学技術力を獲得する目標を掲げた。研究開発投資を拡充し、対外技術依存度の引き下げを進めてきた。人材の獲得や育成にも中長期的に取り組み、米欧の大学などに若者を積極的に留学させた。08年に開始した「千人計画」では海外在住の優れた研究者らを積極的に呼び込んだ。国内でハイレベル人材を育てる計画も推進してきた。当面、中国の勢いは続きそうで、ノーベル賞の受賞なども増える公算が大きい。3月には今後5年間、官民合わせた研究開発費を年平均7%以上増やす方針を示した。米スタンフォード大学の報告によると、学術誌に載る人工知能(AI)関連の論文の引用実績で中国のシェアは20年に20.7%と米国(19.8%)を初めて逆転した。近年、米国は技術流出に警戒を強め、中国から研究者や学生を送り込むのが難しくなっている。中国は最先端の半導体などをつくる技術はまだ備えておらず、研究を産業競争力の強化につなげる段階でも壁は残る。日本の衰退は一段と進んでいる。注目度の高い論文の数ではインドに抜かれ10位に陥落した。世界が高度人材の育成を競うなか、大学院での博士号の取得者は06年度をピークに減少傾向が続き、次世代の研究を支える人材が不足している。米国では民主主義などの価値を共有する日本との協力を重視すべきだとの声もあるが、このままではそんな声さえ聞かれなくなる恐れがある。
*多様な観点からニュースを考える
山崎俊彦:東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授 2021年8月11日
 貴重な体験談「人材の獲得や育成にも中長期的に取り組み、米欧の大学などに若者を積極的に留学させた。08年に開始した「千人計画」では海外在住の優れた研究者らを積極的に呼び込んだ。これが全てを物語っている気がします。米国で名を挙げた企業や大学の研究者が中国に戻ったり中国の組織で兼任したりしているのを実際にたくさん目にします。

<中国の塾規制とオンラインゲーム規制>
PS(2021年9月1日追加):*8-1のように、中国政府が教育費負担を抑えて少子化対策を行うために学習塾の規制強化に乗り出し、①習国家主席が「児童生徒の勉強は基本的に学校内で教師が責任を負うべきだ」とされ ②週末や長期休暇中の授業時間を制限し ③受験競争の激しい山東省が学校に児童生徒に塾通いを勧めないよう要求した そうだ。しかし、①は正論でも、先に学校で教師が責任を負えるような授業をするのでなければ親子は別の方法を考えなければならず、④家庭教師への依頼が増えコストが上がって かえって困りそうだ。ただし、放課後児童クラブ等に家庭教師を招いて複数で授業を受け、コストを抑える方法もあるかもしれない。
 なお、*8-2のように、中国政府が18歳未満の未成年のオンラインゲーム利用を週3時間に制限する新規則を公表したのはよいことだと思う。何故なら、オンラインゲームにふけると勉強や読書の時間を少なくし、心身の健康に悪影響があることは疑いない上、「eスポーツ」は実際に身体を鍛えるわけではなく、ゲームより有意義な時間の使い方はいくらでもあるからである。

*8-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM229HK0S1A620C2000000/ (日経新聞 2021年7月11日) 中国が教育費高騰で塾規制 受講料、平均年収の2倍も
 中国政府が学習塾の規制強化に乗り出す。政府内に監督部門を新設し、週末授業や学費の制限を検討する。家計の教育費負担を抑えて少子化対策につなげる狙いだが、政府の思惑通りになるかどうかは見通せない。
●少子化対策へ習氏「学校が責任もて」
 「児童生徒の勉強は基本的に学校内で教師が責任を負うべきだ」。習近平(シー・ジンピン)国家主席は6月、唐突に教育問題を取り上げた。背景には少子化対策がある。中国政府は夫婦1組に3人目の出産を認める法改正に着手した。長年の産児制限で1人っ子が圧倒的に多い中国では、親が子どもの教育に巨額のお金を投じる。一人娘が6月に全国統一大学入試「高考」を受けた北京市の呉さんは「同級生で高校3年生の塾代に年30万元(約510万円)かけた家もある」と明かす。北京市の会社員の平均年収は260万円程度とされ、2倍近い計算だ。教育費は若い夫婦が出産をためらう大きな原因だ。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は2020年に1.3まで下がった。政府は教育費の軽減が出生率の反転に欠かせないとみて、教育行政で「双減(2つの軽減)」を掲げた。高騰する家庭の教育費と宿題など児童の負担の2つを軽くする意味だ。矛先は塾業界に向かった。中国教育省は6月、「校外教育機関監督局」を新設した。塾への規制をつくり、監督する。週末や長期休暇中の授業時間を制限したり、学費の標準モデルを策定したりするのが検討課題という。全国に先立って動き出した地域もある。受験競争が激しいことで有名な山東省は6月、省内の学校に夏休み中の対応に関する通知を出した。児童生徒に塾通いを勧めたりしないよう要求した。シンクタンクの前瞻産業研究院によると、中国の教育産業の市場規模は20年までの5年で4割増えた。新型コロナウイルス禍でもオンライン授業が広がり、需要は底堅かった。
●講師の経歴詐称や「秘密特訓」で高額徴収
 親の教育熱を逆手に取った塾の不法行為も社会問題になった。独占禁止法などを管轄する国家市場監督管理総局は6月、15社の学習塾に総額3650万元の罰金を支払うよう命じた。講師の経歴詐称や、わざと高い学費を設定して値引きで割安感を演出する行為があった。教育省も6月、親への注意喚起という形で学習塾をけん制した。「秘密の特訓コース」などと銘打って高額の授業料を追加徴収する例などを挙げた。もっとも、新型コロナの爪痕で若者の職探しは厳しさを増す。「高考の数点の差が人生を左右する」との考えも根強く、我が子を少しでも良い大学に進学させようと必死になる親は多い。中国では塾講師や家庭教師のアルバイトをする学校教師が少なくない。給料が安く、大都市では給料だけで暮らせないからだ。評判のよい学校教師が塾で教えれば、塾の人気も高まる。北京市内の大手塾で教壇に立つ趙さんは「公立学校を辞めて塾に転職する教師もいる」と明かす。
●「家庭教師への依頼増えるだけ」
 中国共産党は加速する少子高齢化が経済成長を鈍化させると危機感を抱く。所得の伸びはすでに鈍り、習指導部は家計の大きな負担である教育費に目をつけ、塾規制という「奇手」を繰り出した。ただ、学校教師の待遇改善など本質的な対策を怠ったままでは、政策効果にも限界がある。趙さんは「塾の授業を規制しても家庭教師への依頼が増えるだけで、コストはかえって高くなる。そうなれば親の反発が強まるだけではないか」と話している。

*8-2:https://jp.reuters.com/article/china-regulation-gaming-tencent-holdings-idJPKBN2FW0E7 (ロイター 2021年8月31日) 中国の未成年オンラインゲーム規制、関連株が下落 愛好家は怒り
 中国政府が18歳未満の未成年によるオンラインゲーム利用を週3時間に制限する新規則を公表したのを受け、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)といったゲーム企業の株価が下落した。また、ソーシャルメディア上ではゲームを楽しむ若者が怒りを表明している。オンラインゲームを「精神的アヘン」と表現したこともある中国当局は新規則について、依存の高まりを食い止めるのに必要だと説明。共産党機関紙の人民日報は、政府は「非情に」ならざるを得ないとする記事を出した。同紙は、オンラインゲームにふけることは10代の若者の日常の勉強、心身の健康に影響があることは「疑いの余地がない」と指摘。「ティーンエージャーが荒廃すれば家庭が荒廃する」とした。一方、中国の若いゲーム愛好家は怒りを表明した。中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」のあるコメントは「こうした規則と規制をつくるおじいさんとおじさんのこの集団はゲームをプレイしたことがあるのだろうか?『eスポーツ』プレイヤーにとって最良の年齢が10代にあることを理解しているのだろうか?」と投稿。「性的同意は14歳。16歳で働きに出られる。しかし、ゲームをプレイするには18歳にならなければならない。これは全くの冗談だ」とした。31日のテンセントの株価は3.6%安。米上場の網易(ネットイーズ)はオーバーナイトで3.4%安。31日の香港上場株も同程度値を下げている。韓国のクラフトンは3.4%安。東京市場ではともに中国市場へのエクスポージャーを持つネクソンとコーエーテクモがそれぞれ4.8%安、3.7%安。

| 経済・雇用::2021.4~ | 12:02 AM | comments (x) | trackback (x) |
2021.7.8~19 国家100年の計どころか30年の計がやっとできた日本 ← それでは他国を見て真似することしかできず、一見バランスの良い予算を作ってそれを消化することが目的になり、矛盾する政策も多いこと (2021年7月20、21日に追加あり)

 2021.7.2日経新聞 2021.7.7NHK   2021.7.8朝日新聞   2021.6.2東京新聞
 *4-1-2より
(図の説明:1番左の図は「人口100万人当たり新型コロナ死者数の推移」で、日本は欧米に比べて著しく低いが、近くの韓国より高い。また、欧米・韓国は治療薬とワクチンで感染を抑え込み、日本はこれをやらなかったので、また山ができている。さらに、左から2番目の図のように、人口10万人当たり療養者数が30人以上になると医療が逼迫すると言ったり、機能不全になると言ったりするのも異常で、右から2番目の図のように、病床使用率20%代をステージ3として五輪を無観客にしているのだから、何を考えているのかと思う。なお、1番右の図のように、職域接種が進み始めるとワクチンが足りないと言って接種を停止しており、政府の過失《もしくは故意》にも程があるのだ)

(1)国家100年の計
1)中国、習近平総書記の演説にはあった国家100年の計
 中国共産党の習近平総書記が、7月1日、*1-1のように、北京市天安門広場で党創立100年記念式典の演説を行われた。私は、中国が改革開放を始めた1990年代に公認会計士・税理士として中国進出企業の監査・国際税務・ODA等で関わっていたため、中国が1990年代に生産で遅れていた理由と、それを克服した経緯を一部ではあるが知っている。そのため、習近平総書記の演説について気がついたことを指摘する。

イ) 国家100年の計について
 国家100年の計について、習総書記は、「①中国は、後進的な状態から世界第2位の経済大国へと歴史的な躍進を達成し、それは共産党主導で実現させた」「②全党と全国各民族人民による持続的な奮闘で、党創立最初の100年に掲げた目標を実現し、この地に『小康社会』を築き上げ、絶対的な貧困問題を歴史的に解決し、社会主義現代化強国の全面的な実現という次の100年の奮闘目標に向けて邁進している」とされている。

 しかし、中国を名目GDP世界第2位の経済大国にしたのは、鄧小平(1920~1926年にパリ留学)が1978年12月に改革開放路線に転換したからで、鄧小平路線の特徴は、i)経済優先 ii)不均等発展の容認 iii)社会主義体制外の改革先行方式 iv)市場経済の積極的導入 等であり、これら社会主義市場経済体制が中国の経済発展を作った。また、鄧小平氏は1980年代には政治体制改革の必要性も説いていたが、1989年の天安門事件後に政治体制改革を放棄したそうだ。

 なお、習総書記は、「③中国共産党は誕生当初から、中国人民に幸福をもたらし、中華民族の復興をもたらすことを使命と決めており、この100年、中国共産党が中国人民を束ね率いた全ての奮闘、全ての犠牲、全ての創造は中華民族の偉大な復興を実現するという一つのテーマに帰結する」とされており、使命に関する理念は立派だと思うが、共産主義の必要性があったかどうかは疑問である。

 何故なら、日本は自由主義でも太平洋戦争後の廃墟から約20年で立ち直り、復興期の私の両親の働く姿と1980~1990年代の中国の若者の働く姿がよく似ていたため、中国は大国であるため広くてまとめにくくはあるだろうが、むしろ共産主義体制をとったことで経済発展が30年遅れたように思うからである。

ロ)中華民族の歴史
 中華民族の歴史については、「④中国共産党と中国人民の勇敢で強固な奮闘で、中華民族が搾取され、辱めを受けた時代は過ぎ去ったことを世界に宣言する」「⑤私たちは社会主義革命を進め、中国で数千年にわたって続いていた封建的な搾取と圧迫の制度を消滅させ、中華民族の有史以来、最も広く深い社会変革を実現した」とされている。

 確かに④⑤のように、中国共産党が列国の支配から中華民族を解放し、深い社会変革を実現したのかもしれないが、私は(他国の実情はよくわからないものの)、蒋介石が中国に自由主義経済を作っていれば、停滞の30年もなかったかもしれないと思う。

ハ)社会主義について
 習総書記は、社会主義について、「⑥中国を救い発展させられるのは中国の特色ある社会主義だけだ」「⑦揺るぎなく改革開放を推進し、計画経済体制から活力に満ちた社会主義市場経済体制への歴史的転換を実現した」「⑧改革開放こそが現代中国の前途と運命を決める鍵となる一手であり、中国が大股で時代に追いついた」「⑨100年前、中国共産党の先駆者たちは、真理を堅持し、理想を守り、初心を実行し、使命を担い、犠牲を恐れず、勇敢に戦い、党に忠誠心を持ち、人民に背かない、偉大な建党精神をつくり上げ、これが中国共産党の精神の源」とされているが、⑧の改革開放や社会主義市場経済体制は、本当は社会主義でも共産主義でもない。そして、中国は市場主義経済に移行して後、大股で時代に追いついたのである。

 東西冷戦後、社会主義体制だった国に関与して私がつくづく思ったことは、自由主義市場経済体制における自由競争こそが工夫と発展を産み、国の経済発展の原動力になるということだった。そのため、私は、経済で儲けさえすればよいという近視眼的な自由ではなく、理念とセーフティネットを持った進化した自由競争が必要だと考えている。

二)中国の今後について
 習総書記は、「⑩2012年の第18回党大会以降、我々は経済一辺倒ではなく政治・文化・社会・環境保護の一体的な発展を重視する『五位一体』体制を見据えて推進した」「⑪中国の革命、建設、改革、中国共産党の創立と強化、発展のために大いに貢献した毛沢東・周恩来・劉少奇・朱徳・鄧小平・陳雲といった同志ら上の世代の革命家を深く忍ぶ」「⑫中国共産党の100年の奮闘から過去に私たちが成功できた理由を見て、未来にどうやって成功を続けられるか明らかにし、それによって新しい道で揺るぎなく、初心の使命を心に刻み、美しい未来を切り開かねばならない」「⑬中国のことをうまくやるために、カギとなるのは党だ」「⑭中国の特色のある社会主義はなぜ良いのか、それはマルクス主義によるものだ」としておられる。

 ⑩については、尤もだ。また、習総書記が共産党の党大会でされた演説なので、⑪⑫⑬⑭を言うのも当然だが、ロ)に書いたように、マルクス主義は競争を廃して人々の工夫をやめさせるため、技術が進歩・発展することは少なかった。これが、人間の欲求を動機づけとして活用しないマルクス主義の国すべてに起こった停滞という歴史的事実である。

 それでは、何故、中国は改革開放後、名目GDPが世界第2位の経済大国まで発展できたのかといえば、第1に、欧米や日本など外国に見本があったため、それを目標にして一丸となって進むには共産主義体制下での強力な管理体制が有効だったからだ。また、第2に、(科挙のように)海外も含む有能な研究者を厚遇で集めて付加価値を上げる努力をし、世界の研究者を集めて学会を開き、世界の優良企業を誘致して、世界の知を積極的に受け入れたことが大きい。

 ただ、第3に、購買力平価によるGDP総額は、2020年に中国が世界第1位、米国が第2位になっているが、同じ購買力平価による1人当たりGDP(分配の仕方にもよるが、国民1人1人の豊かさの指標)は、2020年に中国は世界73位(同米国7位、日本28位)であり、これは中国は人口が多く物価が安いために起こったことである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%84%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%B8%80%E4%BA%BA%E5%BD%93%E3%81%9F%E3%82%8A%E5%AE%9F%E8%B3%AAGDP%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88 、 http://www.iti.or.jp/column031.htm 参照)。

 そして、このようなことは、日本でも、明治維新後の中央集権と官僚制の開始や太平洋戦争後の復興期に同様に起こったが、世界1の分野が増えて外国に見本がなくなった時、多様性がなく自由な発想のできない制度は工夫がなされにくいので、次の方向性を見失うのだ。

ホ)外交について
 外交の歴史については、「⑮中華民族は平和、和睦、調和を5000年以上にわたって追求し、継承してきた」「⑯中華民族の血には、他人を侵略し、覇権を追求する遺伝子はない」と言われているが、三国志などを見る限り国内での酷い戦争も多かったように私は思うが、漢民族は比較的温和だったと聞いてはいる。

 また、今後の外交理念として、「⑰人類の将来の運命に心を配り、世界のすべての先進的な力と協力して前進する」「⑱中国は常に世界平和の建設者であり、世界の発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者だ」「⑲新たな道のりでは、平和、開発、協力、互恵の旗印を高く掲げ、独立した外交政策を追求し、平和的発展の道を守り、新しい形の国際関係の構築を促進しなければならない」「⑳人類の運命共同体の道を守り、『一帯一路』の質の高い発展を促し、世界に新たな機会を提供しなければならない」「㉑平和、開発、公正、正義、民主、自由という全人類共通の価値観を守る」と言われているのは、総論賛成だ。

 しかし、⑱⑲㉑については、国際秩序は「国際法が国内法に優先する」という人類共通の約束事があるため、国内法を優先させて他国の領土を侵害するのは許されないし、「内政干渉しない」という原則もあるため、既に独立国である中華民国(台湾)を無理に併合したり、同国の外交を妨害したりすることも許されない。そして、中国の民主主義や人権に関しては、強力な一党独裁で遅れていることが事実であるため、そろそろ本気で民主化すべき時だろう。

 なお、日本では悪口を言う人も多いが、⑳の「一帯一路」は中国国内での経験を基にして、それを他の開発途上国にも敷衍しているものであるため、善意で行う限り、良いことだと思う。

へ)防衛について
 防衛については、「㉒中国人民はこれまで他国の人民をいじめ、抑圧し、奴隷のようにしたことはない」「㉓中国の人民は、いかなる外部勢力が私たちをいじめ、抑圧し、奴隷のようにすることも決して許さず、故意に(圧力を)かけようとすれば、14億人を超える中国人民の血肉で築かれた『鋼鉄の長城』の前に打ちのめされるだろう」等と述べられた。

 このうち㉒については、TV放送で聞いた時すぐに、「そうかな?」と疑問に思った。他国の人民を積極的に奴隷にしたことはないかもしれないが、自分のことを「中華民族」と呼んでいる反面、周辺の民族のことは東夷(とうい)・南蛮(なんばん)・西戎(せいじゅう)・北狄(ほくてき)という蔑んだ呼び方をしていた歴史的事実がある。

 また、日本に倭国(わこく)・奴国(なこく)などという失礼な文字をあて、朝貢してきた国の女王に卑弥呼(ひみこ)という卑しさを現す文字をあてている。文字のなかった日本について記載してあるのは有難いものの、発音にあてられた文字には敬意が感じられない。

 なお、㉓は自衛権としては尤もであるものの、領土については、武力ではなく国際法にのっとって主張してもらいたい。

2)それでは、日本の「骨太の方針」に国家何年の計があるか
                  ← 対応が遅すぎる上、タイムスケジュールも不明
 「骨太の方針」が、*1-2のように、①新型コロナ対策の強化に加え ②デジタル化 ③脱炭素化 ④地方創生 ⑤少子化対策の4分野を成長の原動力と位置づけて決まったそうだ。

 このうち、①については、かなり述べたので簡略に書くと、ワクチン接種完了を「10~11月にかけて」としているのは、「解散」「解散」と騒ぎ立てるメディアや野党を、新型コロナ禍を建前として黙らせるのが目的のように見える。

 しかし、何回衆議院が解散されようと、政権が変わろうと、背後の官僚機構が政策を決めている限り、政策は変わらない。さらに、議員が官僚機構よりよい政策を作れなければ、政権は官僚機構に頼らざるを得ないということを、与野党・メディアともに認識すべきだ。そして、それを認識すれば、やるべきことはわかる筈である。

 ②③④⑤については、1990~2000年代から始めたものなので、今後のスケジュールを示さなければ意味がない。総花的かと言えば、日本では人口の中で割合が増えている高齢者のニーズを無視しており、高齢者の人権を軽く見ていると同時に、今後は世界で同じことが起こるので、経済における深慮遠謀にも欠ける。

 「どの政策を、(財源を含めて)どうやって実現していくか」については、これまで何度も述べてきたように、単にきりつめるだけでなく、正攻法で財源を増やすことや無駄遣いをなくして効率の良い使い方をすることを考えるべきだ。しかし、役所や官僚機構は、税外収入を増やすことは苦手で、古い仕事を既得権として維持しながら、ポジション増加のために新しい省庁を作ることには熱心だ。そのため、「デジタル庁」「こども庁」は、これまでの担当部署を廃して作るのでなければ、無駄遣いと調整すべき相手が増えるだけであろう。

 「最低賃金の引き上げ」については、*1-5はじめ、多くの人が言っているが、「賃金を上げれば、生産性が上がる」のではなく、「生産性を上げれば、賃金を上げることができる」のである。そうでなければ、経営が成り立たないので、日本企業は雇用を減らすか、工場を人件費コストの安い海外に移転するかして、日本では雇用が失われる。

 にもかかわらず、東大の渡辺教授が、「⑥日銀の異次元緩和で円安が進み、政策目的は円安だけでなく物価と賃金も上げることだったが、円安なのに物価も賃金も上がらなかった」と書いておられる。しかし、金融緩和は円の価値を下げるだけで、金融資産を持ち人口に占める割合の高い高齢者の実質所得や実質年金は減ったため、高いものは買えなくなり、日本製ではなく海外製の安いものに需要が向いたのであり、それは当然の結果だった。

 つまり、現在は鎖国をしている時代ではないため、中国・東南アジアなどの海外で安くてよいものができれば、高いだけで値段ほどには品質の違いがない日本製は売れなくなる。従って、「⑦日本は安い国になった」ということ自体は、国民を批判することではなく、政策によって起こった経済現象にすぎないのである。

 また、「⑧海外で物価上昇が進めば、現地の競合製品が値上がりするので日本企業も値上げできるが、日本では値上げできないという二極化が既に起きている」というのは、現在の日本は中国・東南アジア等と比較してむしろ共産主義化が進み、顧客ニーズに合ったものを作っていないという面も大きい。そのため競争に負けているのであり、これも自然な経済現象であるため、本質を改めない限り改善しない。

 *1-2は、そのほか「⑨持続可能な財政の姿が見えない」「⑩コロナ禍に伴う経済対策で2020年度の一般会計歳出総額は175兆円超、国債は112兆円が新規発行された」「⑪2021年度予算もコロナ対策予備費に5兆円積み、過去最大規模の106兆円に膨らみ、追加支出の恐れもある」「⑫内閣府は、日本経済が高成長したとしてもPBは2025年度に7兆3千億円程度の赤字」「⑬EUは復興財源として国境炭素税などを検討」なども記載している。

 ⑩⑪⑫は、コロナ禍というより、五輪の無観客開催も含めてコロナ政策禍であるため、このような政策しかできなかった根本的な問題を解決すべきである。また、コロナ政策禍によって生じた膨大な歳出増・財政赤字と失業は、*1-4のように、無駄遣いの景気対策をするのではなく、今後を見通して炭素税か環境税を導入して再エネ投資を進めることによって解決すべきだ。

 なお、五輪の無観客開催については、*1-7のように、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長ら“専門家有志”が「無観客が望ましい」との提言を公表し、これが多くのメディアで主張されて国民の不安を煽っていたが、その根拠は「i)競技場内での感染はないと思うが、人流を抑制したい」「ii)市中と矛盾したメッセージを発しない」「iii)一般市民との公平性」などだそうで、科学とは全く関係のないものだった。

 しかし、その影響で五輪が無観客化されたことによって五輪の経済効果がなくなったマイナスは大きく、五輪のために投資した企業は損失を出し、無観客なら五輪の魅力も半減如何になる。さらに、「自国の検査で陰性だったのに、日本で感染が判明した選手団員が出た」「デルタ株の感染力が強い」などを大きく報道しているが、その根拠や解決法について“専門家”の理路整然とした説明はなかったし、「日本のPCR検査のカットオフが厳しいのだ」という説もある。その上、「デルタ株だからワクチンが効かない」とか「デルタ株だから中等症・重傷になる人の割合が増える」ということはない。なお、無観客なら国立競技場を建て替える必要もなかったため、五輪が終わったら民間に売却し、それで五輪開催にまつわる損失を穴埋めすればよい。何故なら、国民は、国民を幸福にしない誤った政策の尻拭いのために税金を負担したくはないからだ。

 このような中、*1-3には、「⑭新型コロナ禍で2020年春から積み増した予算73兆円のうち、約30兆円が使い残し」「⑮家計・企業への支払いを確認できたのは約35兆円とGDPの7%程度で、13%を支出した米国と比べて財政出動の効果が限られる」「⑯財政ニーズが強い時に予算枠の4割を使い残す事態は、日本のコロナ対応の機能不全を映し出している」「⑰翌年度への予算繰り越しが30兆円程度出る2020年度は極めて異例」「⑱ワクチン接種の遅れが消費や投資を制約させた影響が大きい」「⑲欧米や中国はコロナ後の成長基盤づくりをにらんでグリーン関連政策やデジタル化など戦略分野へ中長期的財政出動を競う」と書かれている。

 このうち、⑱は深刻である上、ワクチンを接種しても「差別」などと言ってワクチンパスポートを出さず、リスクの低い人の経済活動まで止め、⑭⑮の国に補助されなければならない人を増やした。さらに、ワクチンや薬剤の開発・承認も進めず、⑲にも不熱心で、産業の付加価値を上げたり、コストを下げて利益を得たりする機会を逸している。

 その上、⑯⑰のように、予算枠を使い残して翌年度に繰り越すこと自体が悪いかのように言うため、ゆとりを持って予算を設定し、不必要になったら使わないという当然のことができない。そして、これは、国に複式簿記による公会計制度を導入して財産管理を徹底しつつ、考え方を変えなければ解決できないものである。

 さらに、⑮で「家計・企業への支払いが日本はGDPの7%程度、米国は13%なので、日本の財政出動の効果が限られる」としていることについては、新型コロナ感染者の状況が異なる他国と同じ政策をとる必要はなく、日本の財政には無駄遣いするゆとりはない。

 なお、*1-6にも、「⑯後発薬原材料調達は6割が海外で、供給リスクが指摘される」「⑰塩野義は抗菌剤の原料生産設備を今年末までに岩手県に設ける」「⑱日本での原材料製造コストは中国の5倍以上との試算」「⑲国内回帰は薬のコスト上昇に繋がりかねない」などが記載されているが、同じ製品を日本で作ると製造コストが5倍以上になるのが問題なのである。そのため、理由を分析して問題解決すべきであり、そうしなければ他産業も日本には戻って来ず、それと同時に技術も日本から失われるのだ。

(2)客観的根拠に基づく軌道修正が不得意な国、日本


  2020.12.21   2021.6.24     2021.2.20      2021.6.26 
  Net IB News   東京新聞      毎日新聞       日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、使用済核燃料の貯蔵割合が100%に近い原発は多く、それは稼働すれば増えるものである。また、左から2番目の図のように、40年を超える関電美浜原発3号機が再稼働したが、その30キロ圏内には28万人弱が暮らしている。さらに、右から2番目の図のように、長期停止の後に再稼働した原発も多い。なお、1番右の図の地下に埋める形式の小型原発が問題解決できるかのような記述があるが、結局のところ何も解決してはいない)

1)それでもまだ、原発の建て替えをしたい人がいるのは何故か?
 日経新聞は、*2-1-1のように、「①60年に達する原発が今後出てくるのに、経産省はエネルギー基本計画に原発の建て替えを盛り込まない方向」「②政府は2030年度までに、温暖化ガス排出量を2013年度比で46%以上削減し、2050年には実質ゼロをめざすと決めた」「③原発はCO2を排出しない電源で、これにより2050年の脱炭素社会実現に向けた道筋が描きにくくなった」「④地球環境産業技術研究機構によると、原発活用は電力コストの上昇を和らげる効果もある」「⑤2050年に再生エネで電力すべてを賄うと、送電網の整備などに大きな費用がかかると見込まれるため、電力コストは今の4倍程度に増える」などと、記載している。

 ②については、よいと思うが、遅すぎるくらいだ。また、①③については、脱炭素は地球温暖化や公害をなくす一手段にすぎず、それ自体が目的ではないため、普段から温排水や放射性物質を排出し、事故が起こると手が付けられなくなる原発は既に失格であり、早く卒業すべきだ。

 具体的には、*2-1-2のように、フクイチ事故を起こした原発処理水を海洋放出して漁業に迷惑をかけようとしており、フクイチ事故自体も広い範囲の農林漁業と地域住民に多大な迷惑をかけた。その上、難しい原状回復のために支払う電気代や税金は莫大で、それがコストに上乗せされている。さらに、*2-4のように、原発建設当時からわかっていた筈の放射性物質を含む使用済核燃料の廃棄場所は未だになく、これにも税金と電気代を使うことになりそうなのだ。

 それにもかかわらず、④の「原発活用は電力コストの上昇を和らげる効果もある」などと言っている地球環境産業技術研究機構は、いかにも地球環境を護るような名前の組織だが、理事長の山地憲治氏は原子力の専門家で(https://www.rite.or.jp/about/outline/pdf/yamaji_cv.pdf 参照)、経産省の有識者会合と同様、原発推進派の下請機関である。さらに、⑤については、高度化した送電網の整備は喫緊の課題であるため、この際、送電に参入する組織がインフラ投資を行い、装置が簡単で燃料代0の再エネ電力を普及させた方が賢いに決まっている。

2)耐用年数を過ぎた原発を再稼働させる無神経
イ)仮に避難できれば、原発を再稼働してもよいのか
 運転開始から40年を超える関西電力美浜原発3号機が、*2-2-1のように、2021年6月23日、10年ぶりに再稼働したが、重大事故の際に避難対象となる30キロ圏内には28万人弱が暮らしており、避難の実効性には疑問符が付いている。

 しかし、原発事故で土地や住居を捨てて避難し、何年~何十年もどこで暮らすつもりか?「国策だったから」として、また国が除染したり公営住宅を建設したりすることを期待しているのなら、既に国策として原発を使う必要はなく、むしろ地域が補助金目当てに原発を再稼働したのだから、復興費用を全国民に負担させる理屈は通らなくなっている。つまり、避難する用意があったとしても、原発を再稼働してよいという理屈は既に破綻しているのだ。

 なお、水戸地裁は、30キロ圏に国内最多の94万人を抱える日本原子力発電東海第二原発の運転を禁じる判決を出したが、その根拠も、「市町村で避難計画の策定が遅れており、実現可能な避難計画がなければ運転を認めない」と言うに留まっており、避難した後、どうするかについての考察はない。

ロ)40年超の老朽原発を再稼働する非常識
 そのような中、*2-2-2には、「①関西電力が44年を経た福井県の老朽原発を再稼働させ、40年ルールから外れたケースが初めて現実となった」「②関西電力は、同様に老朽化した高浜1、2号機の再稼働も進める方針」「③福井県の再稼働同意は、それを条件とする巨額の交付金を経産省が県に提示したから」「④経産省と大手電力は今回の再稼働を原発復権に向けた足掛かりの一つと捉えている」「⑤例外として最長20年の延長を認める規定がある」「⑥40年の寿命を迎えた原発から順次廃炉して脱原発を着実に進める予定だった」と記載している。

 国税庁が示している耐用年数は、単なる建物・建物付属設備でも鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の場合は、工場・倉庫用:38年、公衆浴場用:31年で、金属造の場合は、工場・倉庫用:最長31年、公衆浴場用:最長27年である。また、電気設備・給排水・衛生設備、ガス設備は15年しかなく、機械・装置の耐用年数は、6~13年だ。(https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensuhyo.html 、https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensutatemono.html 、https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensukikai.html 参照)。
 
 つまり、放射性物質が飛び交うような過酷な環境でない普通の建物や建物付属設備の耐用年数でも、工場・倉庫用38年で、使用済核燃料プールのように常に水を貯めている建物付属設備なら、公衆浴場用31年である。さらに、電気設備・給排水・衛生設備、ガス設備の耐用年数は古典的で単純なものでも15年しかなく、機械・装置は6~13年で精密になるほど短いのである。

 そのため、日頃から周辺機器の点検や交換を行っていたとしても、40年の耐用年数は長い方で、⑤のように、40年ルールから外れる例外を作ることこそ緩くて甘いのだ。そして、それを存分に利用しようと、③のように、国が巨額の交付金を提示し、それにつられて①②④のように、なし崩し的に40年ルールを無視し、⑥の脱原発を闇に葬るやり方は、水際対策をザルにして先端技術も使わず、新型コロナを何度も蔓延させて国民に大損害を与えたのと同じ構図である。

3)日本における想定の甘さ
イ)地震の想定と活断層
 原子力規制委員会は、*2-3-1のように、九電が玄海原発で想定する地震の最大の揺れを引き上げる必要があるとの見解を示したそうだ。基準地震動とは、原発の耐震設計で基準とする地震動で、周辺の地質・地震学・地震工学等の見地から極めてまれでも発生する可能性があり、大きな影響を及ぼす恐れもあると想定されて、原発の地震対策の前提になるものだそうだ。

 規制委は、原発周辺の活断層などによる地震に加えて、過去に国内で発生した地震データを使って揺れを想定する方法を導入し、電力各社に最大の揺れの想定を見直す必要があるかどうか回答するよう要請したそうだが、電力会社が想定を作り直せばお手盛りになるし、耐震補強の追加工事費用も電力料金に加算される。

 さらに、活断層も、*2-3-2の「未知の活断層」だけでなく、プレートが強い力で押しあえば新しい活断層ができる可能性もあるため、過去にできた活断層だけを問題にしていることの方がむしろ不思議なくらいである。

 そのため、再エネの豊富な九州は、早々に原発を卒業し、大手電力も装置が簡単で燃料費0の再エネ発電に転換した方がよいと考える。その方が、玄海原発周辺の安全性が増し、他産業の誘致がしやすくなるメリットがある。

ロ)使用済核燃料の処分
 原発稼働で発生する使用済核燃料は、*2-4のように、再処理工場を経て最終処分場やMOX燃料加工施設に運ばれることになっている。そして、現在、日本国内で貯蔵されている使用済核燃料は約1万8,000tに上り、約5年後には、福島第二で88%、柏崎刈羽で100%、浜岡原発で90%、美浜原発で89%、高浜原発で98%、大飯原発で93%、川内原発で93%、東海第二原発で96%と、一時保管場所の9割が埋まると試算されている。

 また、九電玄海原発ではトラッキングで290t、乾式貯蔵施設の設置で440t、四電伊方原発では乾式貯蔵施設の設置で500t、中電浜岡原発では乾式貯蔵施設の設置で400tの追加保管が見込まれるが、これらは原発敷地内に放射性廃棄物が増えることにかわりない。また、東電と日本原電が出資した青森県むつ市の中間貯蔵施設は3,000tの保管を最長50年予定しているが、再処理後の高レベル放射性廃棄物最終処分場の選定はできていない。

 なお、使用済核燃料も恐ろしく危険なもので、フクイチのような自然災害による自爆もあり得るが、戦争なら原爆を運んで落とすよりも、原発を攻撃すれば原爆の何十倍もの威力でその国を自爆させることができるものである。そのため、使用済核燃料の処分は、これらのリスクも考慮したものでなければならないのだ。

ハ)小型原発の開発
 原発の是非を巡る議論が続いているのに、*2-5は、「①出力30万kwの小型原発を開発する動きがある」「②小型化して建設費を抑え、安全性も高めた」「③脱炭素に繋がる電源として実用化への取り組みは欧米が先行」「④三菱重工は国内の電力大手と小型炉の初期的設計の協議に入った」「⑤建設費は1基2,000億円台で5,000億円規模の大型炉の半分以下」「⑥小型炉は蒸気発生器を原子炉内に内蔵し、ポンプなしで冷却水が循環」「⑦小型炉は地下に設置できるので、航空機等による衝突事故への備えが高まる」「⑧密閉性が高まり放射性物質の飛散も防げる」「⑨米国ではプールにまるごと沈め、非常用電源なしでも冷却でき事故が起きにくい小型炉を開発」などと記載している。

 このうち③は、(2)1)に記載したとおり、脱炭素は地球温暖化や公害をなくす一手段にすぎず、それ自体が目的ではないのに、原発を推進するために目的を矮小化して記載している点で悪意であるし、パリ協定も原発は推進しないことを明らかにしている。また、①②⑤については、小型化したから安全になったというのは新たな安全神話にすぎず、出力30万kwが2,000億円台なら出力100万kwが5,000億円台よりも割高なので建設費を抑えたとは言えない。そして、その2000億円には地元懐柔費・事故時の現状復旧費・最終処分場建設費等は入っているのか?

 さらに、⑥⑨は、ポンプなしで冷却水が循環したとしても、冷却して回収した熱はどこかに逃がさなければならないため、それが海か空気を温めることは避けられず、温暖化防止に貢献することはない。その上、⑧のように、放射性物質の飛散は防げても発生は防げないし、使用済核燃料をどこかに処分しなければならないことに変わりはない。

 なお、⑦のように、地下に置いて航空機が突っ込む事故への備えが高まったとしても、サイバー攻撃やミサイル攻撃に対抗できない点は同じであるため、このような危険を犯し、地域住民の犠牲と大金を払って、④のように、国内電力大手が燃料費無料の再エネ(水力・地熱も含む)より原発を選択するには、また何かのからくりがありそうだ。

(3)外交・防衛にも計画性のない国、日本 ← それで勝てるわけはない
1)日本の外交について ← 台湾有事と尖閣諸島問題から
 日本は、1972年9月29日に北京で締結した「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html 参照)」の2条で、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」としているため、中華民国(台湾)の独立性について曖昧で消極的な態度をとっている。

 しかし、中華民国(台湾)は独立国であり、中華人民共和国との合併を望んではいないため、7条の「日中両国間の国交正常化は、第三国に対するものではない」に該当し、日本政府と中華人民共和国政府の共同声明に基づいて、中華民国(台湾)の独立性が左右されるのはおかしい。

 このような中、*3-1のように、麻生氏は「①中国が台湾に侵攻した場合、安保関連法が定める『存立危機事態』に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得る」「②台湾有事は、日本の存立危機事態に関係してもおかしくない」「そのため、日米で一緒に台湾を防衛しなければいけない」との認識を示された。

 ①②③の繋がりについては、もう少し詳しい説明を要するが、尖閣諸島問題を見ると中華人民共和国政府の国内法優先による横暴は目に余り、それは国際法にのっとった話し合いでは長期間解決することができていないのである。これは、日本の外交が情けないことも理由の1つだろうが、それだけが理由ではないと思われる。

2)日本の防衛について ← 今さら原子力潜水艦が必要か
 このような中、*3-2は、「①自由で開かれたインド太平洋を海洋安全保障戦略の基本としている4カ国の専門家が原子力潜水艦の必要性を指摘した」「②今後米中関係がさらに悪化して行く中で、台湾有事も想定せざるを得ない」「③燃料の補充が長期にわたって不要なので、潜水艦、砕氷船、発電バージに小型軽水炉は最適」「④長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役に立つ」等を記載している。

 また、*3-3は、「⑤ディーゼルエンジンと蓄電池で駆動する潜水艦と違い、原潜は半永久的に潜水可能」「⑥高濃度の核燃料は数十年にわたって原子炉を稼働させることができる」「⑦燃料を気にすることなく原子炉からエネルギーを得て海水を蒸発させて真水を生み出し、それを電気分解して酸素供給も可能」「⑧船員の酸素確保のために浮上する必要もないため、連続潜航距離を伸ばせる」「⑨米国が、1958年に原潜で北極点の下を潜航通過し、当時、原子力は人間が制御でき、平和利用すれば人々の生活を豊かにするという考えが大勢だった」「⑩その後、原子力潜水艦や原発がいくつも大事故を起こした」等を記載している。

 ⑤⑥⑦⑧は事実だろうが、狭い原潜の中に原子炉を積んでいれば、原潜内で放射能が上がることは確実で、放射性廃棄物は海中に捨てており、撃沈された時は燃料もろとも海中投機されるため、原潜の数が増えて実戦で使われれば海洋汚染が進む。そのため、⑨のように、1950年代に原潜を作ったのはわかるが、⑩のように、原発事故や放射能による被害が明らかになった後に、原潜を作ろうというのは時代錯誤も甚だしい。

 にもかかわらず、②④を論拠として、日本が原潜を作ろうすれば台湾も迷惑だろう。何故なら、台湾付近で原潜が戦闘を行い、そこで何隻も撃沈されれば、付近の環境や漁業に悪影響を与えるからで、①もまた、時代錯誤の日本主導でこのような指摘になったのではないかと思う。さらに、③に「燃料の補充が長期にわたって不要」と書かれている原潜のメリットは、再エネでも潮流発電を使えば海中でひっそり充電して水素と酸素を作ることが可能だ。

 また、④の「長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役立つ」という主張については、そんなことはないだろうし、人間が乗って運転する時代も既に去り、戦争は無人で行う時代になりつつあって、海中や空中はそれに適しているように見える。

(4)人を大切にしない国、日本 ← 医療・介護はじめ社会保障と人権を粗末にしすぎ 
1)医療・福祉について
イ)過疎地の医療について
 日経新聞は、*4-1-1で、「①2050年の人口が2015年比で半数未満となる市町村が3割に上り」「②829市町村(66%)で病院存続が困難になる」「③公共交通サービス維持も難しくなり、銀行・コンビニが撤退するなど生活に不可欠なサービスの提供もできなくなる」「④地域で医療・福祉・買い物・教育機能を維持するには、一定の人口規模と公共交通ネットワークが欠かせない」と記載している。

 交通ネットワークが整っていれば、少し広い範囲を医療・教育・福祉・買い物圏にすることができるため、必ずしも1市町村に1つ以上の基幹病院が必要ではないが、病院なら何があっても車で30分以内で専門医にアクセスできるネットワークが必要だし、小中学校はスクールバスで15分以内、保育所・介護事業所は車で5~10分以内にアクセスできる必要があるだろう。

 従って、「⑤医療圏内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる境目となる人口規模は1万7500人で、これを下回ると存続確率が50%以下」というのはかなり大雑把な言い方で、病気によって専門医は異なるため、もう少し広い範囲を視野に入れ、それぞれの病気や事故時には専門医に30分以内でアクセスできる必要がある。そのため、新型コロナ禍でバス事業者が経営難に拍車をかけられたのであれば、小中学校を合併してスクールバスを走らせたり、診療・健診バスや送迎バスを走らせたりなど、これまでなかったバスの使い方を考えるのも一案だ。

 また、「⑥基準を満たせない市町村の割合は2015年の53%から2050年には66%まで増える」というのも、病院をネットワーク化してそれぞれに専門の重点を変え、距離が遠くなる地域は診療・健診バスを走らせてカバーするなど、サービスを向上させながら効率化する方法もある。そのため、固定観念ではなく、問題解決重視で改善を重ねることが重要だ。

 なお、「⑦2050年に銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村で0になるリスクがある」というのは、集落が消滅する前にそういうものがなくなって不便になり、集落の消滅に拍車をかけるので、集落が消滅しないよう、仕事を作り、移住者を増やす必要がある。現在は、農林業・再エネ・製造業の国産化や地方分散が進められている時期であるため、その気になれば仕事や移住者を増やせる筈である。

ロ)全体としての医療の課題
 公共経済学の専門家が、*4-1-2のように、「①新型コロナの感染拡大を巡っては、変異株の脅威のほか、五輪開催という重大なリスク要因が存在する」と記載しておられるが、ワクチンは変異株にも有効で、かつ五輪関係者はワクチンパスポートか陰性証明を持ってくる人であるため、検査もワクチン接種もしていない日本人よりよほど安全なのである。

 そして、*4-1-2は「②ワクチン接種の大幅加速という好材料も出てきた」とも書いているが、*4-3-1のように、せっかく民間企業が職場接種を始めたら「接種に使われる米モデルナ製ワクチンの供給が追いつかなくなった」として、政府が職場接種の申請受け付けを急遽停止することにした。しかし、職場接種はモデルナ製でなければならないと決まっているわけではなく、「打ち手」が足りないわけでもないため、現役世代の接種を加速させて全体を感染から守るためには、政府は必要な場所に速やかにワクチンを供給することを考えるべきだ。

 *4-1-2には、「③ポストコロナの医療供給体制にとっても重要な課題が浮き彫りになった」とも書かれているが、日本の医療供給体制の不合理は新型コロナで初めてわかったのではなく、時代の先端を行く科学の導入や地域医療計画に合わせた医療圏の設定・病院間の分業などの継続的改善を行うことが必要だったのにやっていなかったのだ。そして、厚労省・財務省の著しく単純化された合理化案で改悪されてきたというのが実情である。

 また、このほか、*4-1-2には、「④ワクチン接種が加速している欧米諸国は死者数が大幅に減少した」「⑤欧米は死者数で第3波は到来していないが、日本には過去のピークを上回る第4波が到来している」「⑥欧米は景気もV字型の回復軌道に乗ったが、日本は経済効果があり景気回復のチャンスでもある五輪さえ無観客にして逃している」「⑦本格的な市中感染の到来を予期せず、全国レベルのワクチン接種に大きく出遅れたのが、その違いを生んだ主因である」等も書かれており、これは事実だ。

 ただ、日本の場合は、地方自治体や国民にある程度の衛生意識があるため、政府による全国一律の強制的ロックダウン等は不要だったのだが、おかしな論調のメディアに引きずられた政府のコロナ対策や医療政策が悪すぎたのである。

 また、「⑧急性期医療へのシフトなど構造改革急げ」「⑨利用者の受診抑制の要因や影響探る必要」とも書かれているが、日本の人口当たりベッド数は世界トップクラス、コロナ感染の規模は諸外国より限定的だったにもかかわらず、「医療現場が逼迫する」と言われ続けてまともな医療も受けられない人が続出した。何故か? その原因を一つ一つ解決し、患者のQOL(Quality of Life)を高めながら医療システムを良い意味で合理化することが、医療制度の改善に繋がるし、それはできるのである。

2)教育について
イ)教員の質と教員免許更新制
 *4-2-1は、「①文科省が、2009年度に導入された教員免許更新制廃止の方向で検討しているが、遅きに失した」「②免許期限を10年とし、30時間以上の講習を自費で受けると更新が認められる」「③数万円の講習費用と交通費を負担して夏休み等に講習に通うことに、教員の大多数が負担感を示し、役に立っていると答えたのは1/3だった」「④更新制は教員不足の一因にもなった」「⑤文科省は、教員の資質確保が目的で、不適格教員を排除する趣旨ではないとする」「⑥教員の多忙さが増し、学校現場の疲弊が深いのに、なぜ免許更新が必要か」「⑦いじめはじめ、子どもたちが抱える問題への対応が追いついていない」「⑧教員が子どもとじっくり向き合って力量を高め、それぞれが直面する課題を持ち寄って自主的に学び合う時間と余裕を生むことが肝心だ」と記載している。

 このうち②③については、資格を維持して業務を続けるには、公認会計士(年間40単位)・税理士(年間36単位)も、毎年度に一定以上の研修を受けることが必要で、長い夏休みなどない勤務体系でも時間を作って研修を受けている。その効果は、i)刻々と更新される実務の標準をキャッチアップし ii)知識を深く整理し iii)自分が担当していない業務にも視野を広げる などであり、大学教授の講義の中に実務から離れた役立たないものもあるが、全体としては役立つものが多い。費用は、有料・無料の両方があり、昨年からはリモートでの無料の講義が増えている。

 つまり、研修を受けることを負担に感じる人は、もともと勉強好きでないのだと思うが、勉強嫌いな教員に習った子どもが勉強の面白さを教えてもらって勉強好きになるわけがない上、⑥⑦⑧のように、何十年も「忙しさ」を勉強しない口実にして根本的な問題解決をしない人たちに習った子どもに問題解決能力が身につくわけもなく、お粗末な教育の結果は既に出ている。そのため、そういう人が教員を続けていること自体が子どもや国家にとってマイナスであるため、⑤も必要であり、研修内容は毎年改善してよいが、①の教員免許更新制は残した方がよいと思う。

 なお、④の免許更新制が教員不足の一因になったという点は、これからの日本を背負う子どもを教育する教員の給料を銀行員・会社員よりも高くし、博士など専門性があり優秀な人が教員になりやすい環境を整えるべきである。

ロ)「才能を持つ子ども」の定義と誤った評価
 *4-2-2は、「①芸術・数学などで抜きんでているが、学年毎のカリキュラムや周囲にうまく適合できず、不登校になるケースもある」「②文科省によると、米国では同年齢より特に高い知能や創造性・芸術的才能などを発揮する子どもを「ギフテッド」と呼び、早期入学や飛び級といった特別な教育プログラムが用意されている」「③中にはこだわりが強すぎたり、集団行動が苦手だったりする子もいるとされ、どう支援するかも課題」「④日本では、単純な課題は苦手だが複雑で高度な活動は得意など多様な児童生徒が一定割合存在する」「⑤同質性の高い学校文化そのものを見直すべきとの意見」「⑥松村教授は「『トップ人材を輩出する目標でなく、困っている才能児のニーズに対応する視点で議論すべき』と指摘」「⑦発達障害を抱える子もいるとして特別支援教育や生徒指導との連携も必要とした」などと記載している。

 日本では、①の文脈で語られる時、「抜きんでている」という言葉の意味が低いレベルであることが多い。②の米国における「ギフテッド(神から才能を与えられた者という意味)」呼ばれる子どもは、音楽ならモーツァルト、体操ならコマネチ、男子100mならカール・ルイス、科学ならアインシュタインのような本物の「ギフテッド」であり、そういう人やその卵を探して特別な教育プログラムで育てているのである。従って、本人の自然な欲求としてこだわりが強く、努力もしており、だからこそ他人ができない何かを成し遂げることができるのだ。

 そのため、③のように、こだわりが強いことを悪いことであるかのように言ったり、集団行動をしないから性格がおかしいかのように言ったりするのは、凡人の歪んだ劣等感の裏返しにすぎない。もし、⑥⑦のように、才能児が困っている点があるとすれば、凡人の誤った評価で発達障害扱いされたり、成長を妨げられたりすることだろう。つまり、⑤のように、いつも集団行動や同質性を強制し、それを疑問にすら思わない大人の方が問題なのである。

 なお、④のように、「複雑で高度な活動が得意など多様な児童生徒が一定割合存在する」というのは、よいことでこそあれ悪いことではない。そして、通常は、複雑で高度な活動ができる人は単純な課題はすぐできるが、単純なことを繰り返すのが嫌いなだけである。いずれにしても、これからは、単純作業や体力勝負の仕事はコンピューターやロボットにとられ、人間は複雑で高度な作業で出番が多くなるため、教員の考え方も変える必要がある。

3)間違いだらけの新型コロナ対策
イ)新型コロナと五輪
 新型コロナが拡大している中、「五輪を開催しても国民は安全なのか」という論は、*4-3-5をはじめ多い。しかし、「菅首相が何より優先しなくてはならないのは、五輪を予定通り終わらせることではなく、国民の命を守るためコロナ感染を一日も早く収束に向かわせることだ」とし、五輪を開催すると国民の命が守れないかのように記載しているのは変だ。

 これは、「子どもの安全のため、放課後は子どもを学校に残さない」と言いつつ、かぎっ子を街に放り出してきたのと同様、安全を建前として使ったより悪い選択への強制である。さらに、五輪の開催を政争の具に使うのは、今後の日本外交に悪影響を及ぼすため許すべきではない。

 具体的には、*4-3-5は「①五輪開催都市である東京で新型コロナ感染者が急増している」「②1,000人/日超の新規感染者数の報告が続き、5月の第4波ピーク時を上回っている」「③専門家は現在の増加ペースで推移すれば五輪閉会後には2,400人程度に上るとの試算を公表した」としているが、私も英国と同様、今後は新型コロナによる死者数だけを開示すればよいと考える。理由は、ワクチン接種が進むにつれて重症化する人が減るからで、治療薬やワクチンの準備もできずに天気予報のようなことしか言わない日本の“専門家”会議は既に失格なのである。

 また、「④東京など首都圏の感染者数は全国のおよそ2/3を占めている」「⑤感染力の強いデルタ株への置き換わりが進み、感染再拡大が首都圏から全国に波及する可能性もある」のであれば、ワクチンはデルタ株にも有効であるため、感染者数の多い首都圏にワクチンを先に配布すれば、感染者数が減って他地域への波及も減る。ここで、誤った「公平」を持ち出すのは科学的ではなく、おかしな平等教育の結果である。

 さらに、「⑥選手約1万人、大会関係者約4万1千人の来日が見込まれる」「⑦五輪は選手らと外部の接触を遮断する“バブル方式”で運営される」「⑧種目の大半は無観客で行われる」「⑨選手らの多くがワクチン接種を済ませ、厳格な検査と行動制限でウイルスの国内流入を防ぐとする」「⑩事前合宿先で感染が判明した例もあり、水際対策は万全ではあるまい」「⑪管理の緩さが露呈した関係者の行動も問題視されている」「⑫『バブル方式により、日本国民がコロナ感染を恐れる必要はない』『感染状況が改善した場合、有観客を検討してほしい』としたバッハ会長の現状認識にも疑問が湧く」とも書かれている。

 しかし、⑨のようなワクチン接種済の人が、⑥のように4万1千人来ても伝染するリスクは低いため、⑦⑧⑪は、外国人に対するヒステリックな対応で差別的でもある。また、⑩については、PCR検査のカットオフの問題で、日本のPCR検査は長時間増幅させているという報告もあり、水際対策はビジネス目的で入国している内外の人に対する方が甘いため、私は、⑫のバッハ会長の見解に賛成だ。

 なお、「⑬選手村には、2回目の接種を終えていない日本人スタッフらが出入りする」というのは、出入りする関係者は五輪関連者として早くワクチンを接種すればよい。そのため、「⑭五輪を発生源としたクラスターを認知した場合、大会を続行するかどうかを検討しておく必要がある」のように、ワクチン接種済の軽症者ばかりのクラスターが発生したからといって大会を中止するようなことがあれば、五輪は世界中で報道されるため、世界の笑い者になるだろう。

 「⑮生活や事業がコロナ前に戻るのはいつかを国民は一番知りたい」については、*4-3-3のように、東京五輪の原則無観客開催で多くの企業が肩すかしを食らい、スポンサー企業も製品や技術を売り込む好機の筈が人々の目に触れる機会が大幅に減っている状況なので、必要な場所に早期にワクチン接種を済ませ、この1年間で経営状況が悪くなった日本企業に五輪でさらに追い打ちをかけるのをやめた時、生活や事業は少しずつコロナ前に戻ると言える。

ロ)誤った新型コロナ対策とそれによる破綻
 政府は、*4-3-4のように、7月12日、東京都に4度目の新型コロナ緊急事態宣言を出し、蔓延防止重点措置を含む6都府県の住民に県境をまたぐ不要不急の外出自粛を要請した。そして、「接種の有無による不当な差別は適切でない」として、ワクチン接種証明書は海外渡航用に限り、ワクチン接種済者も同じく移動を止めて経済を停滞させている。しかし、感染リスクが低くなり、移動を止める理由のなくなった特定地域のワクチン接種済者の移動の自由を侵害するのは憲法違反であると同時に、それこそ差別である。

 国内の観光地も政府から僅かな補助金をもらうより、感染リスクの低いワクチン接種済者からでも営業を始めた方が助かり、納税者も同じだ。また、「都道府県間の移動は控えよ」というのは理由不明で、知事の権限範囲が異なることくらいしか理由を思いつかない。そのため、私は経団連の「接種証明書を早く活用し、国内旅行などの要件を緩和すべき」という提言に賛成だ。

 さらに、「学校は、新型コロナで運動会も中止になった」と聞くが、延期すればよく、中止にまでする必要はない。そのため、「何故、ここまで融通が効かないのか」と不思議に思う。

 なお、*4-3-2のように、東京商工リサーチによると、負債1,000万円未満を含めた新型コロナ関連破綻が累計で1,661件になったそうだ。ここでおかしいのは、夜に飲食店を利用することや酒を飲むこと自体が悪いかのように、飲食店の酒類提供や営業時間制限を設備の状況に関わらず一律に行っていることである。破綻すれば、事業主は負債を負って失業し、従業員も失業するが、これを助けるのに、生活保護や「Go To Eat」による血税のバラマキばかりしている体質なら、日本も破綻寸前でお先真っ暗なのだ。

4)難民と留学生
 サッカー・ワールドカップ予選のため来日していたミャンマー代表選手のピエ・リヤン・アウンさんが、*4-4-1のように、クーデターを起こした国軍に抗議の意志を示して帰国を拒否し、日本に難民認定を申請されたそうだ。

 日本政府は、日本への在留継続を望むミャンマー人に対し、緊急避難措置として在留延長や就労を認める方針を示したそうだが、ピエ・リヤン・アウンさんが母国の家族やチームメートの身を案じながら下した苦渋の決断にも応える必要がある。

 難民条約は、人種・宗教・政治的意見などを理由に母国で迫害される恐れがある人を難民と定義して各国に保護するよう求めているが、日本は他の先進国と比較して難民認定数が極端に少ない。そのため、本来、保護されるべき人が保護されずに送還されている可能性が高く、外国人の人権保護という視点から、難民認定制度については見直すべきである。

 また、*4-4-2のように、合宿期間中に世界ランキングが下がって五輪に出場できなくなり、コーチとともに近く成田空港から帰国する予定だったウガンダの重量挙げ男子選手が、「日本で仕事がしたい。生活が厳しい国には戻らない」という趣旨の書き置きを残して名古屋行き新幹線の切符を購入したそうだ。こういう人は、希望があればスポンサー企業がついて中京大学に留学させ、次のオリンピックを目指せるようにするか、何かいい方法がありそうだ。

 なお、ウガンダは、英語が通じ、キリスト教が6割を占める国で、現在の主要産業は農林水産業・製造・建設業・サービス業で、自動車・医療機器・医薬品などは輸入しており、日本企業のアフリカ進出の拠点になれそうな国である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/uganda/data.html 参照)。

(5)先端科学で証明する日本人のルーツと古代史

  
    2010.5.7朝日新聞       2021.6.23日経新聞    2021.7.8日経新聞
                     *5-1より       *5-2より

(図の説明:左図は、ホモサピエンス《現生人類》がアフリカで発祥し、ネアンデルタール人などと交雑しながら世界に広がり、それぞれの地域に適した姿に進化してきたことを示す図だ。中央の図は、日本における都道府県毎の50人のゲノム情報をもとに違いを可視化し、縄文人由来のゲノムが多い県は青色、渡来人由来のゲノムが多い府県はオレンジ色で表示したもので、沖縄県は縄文人由来のゲノム比率が他県と比べて極めて高いが地図に含まれていない。右図は、東北大学と製薬大手5社が創薬目的で作るバイオバンク構想だ)

 東北大学と製薬大手5社が、*5-2のように、10万人分のゲノムを解析するためのコンソーシアムを設立し、本格的にゲノムデータを創薬や診断技術開発等に利用できるようにし、日本も、ようやくゲノムをもとに新薬を探す「ゲノム創薬」の基盤整備が進むのだそうだ。

 年齢・性別・生活習慣・病歴などのデータも合わせて蓄積するそうだが、正しいデータ分析のできない人はゲノム・年齢・性別などによる固定観念で人を差別するようにもなりがちであるため、注意してもらいたい。しかし、人間のDNAを短時間で読むことができ、ゲノムを解析することが可能になったのは、著しい進歩だ。

 新型コロナウイルスを通して誰もが容易に理解できるようになったことは、DNAが分裂する時にはコピーミスも発生し、これによって変異が起こり、より有利な変異をした個体が生き残って、次の進化をしていくということだ。有性生殖をする生物は、次世代を残すのに少し時間を要するが、DNAのコピーミスだけでなく、交配によって両親から両方のDNAを受け継ぐことによっても、より生き残りやすい個体がより多くの子孫を残す形で進化できる。

 人間も有性生殖をする生物の一つであるため、上の左図のように、ホモサピエンスがアフリカで発祥し、ネアンデルタール人などと交配しながら世界に広がり、それぞれの地域に適した形に進化してきたが、これは各地域に住む人のDNA分析をするという先端科学を使って証明されたことだ。診療や健診の際に、それぞれの国で人口の10%程度のDNA分析ができれば、どの地域が強い繋がりを持ち、どういう経路を辿ってホモサピエンスが現在の分布になったのかを、より正確に知ることができるだろう。

 また、上の中央の図は、*5-1のように、日本における都道府県毎の50人のゲノム情報をもとに違いを可視化し、縄文人由来のゲノムが多い県は青色、渡来人由来のゲノムが多い府県はオレンジ色で表示したもので、沖縄県は縄文人由来のゲノム比率が他県と比べて極めて高いが、地図には含まれていないそうだ。

 この研究の結果、日本人は、縄文人の子孫が大陸から来た渡来人と混血することで生まれ、47都道府県で縄文人由来と渡来人由来のゲノム比率は異なることがわかり、渡来人由来のゲノム比率が高かったのは滋賀県・近畿・北陸・四国で、沖縄県はじめ九州・東北(多分、北海道も)で縄文人由来のゲノム比率が高かったとのことである。

 この結果は、渡来人が朝鮮半島経由で九州北部に上陸したとする考え方とは一見食い違うが、私は、渡来人は環日本海を自由に航海できたため、九州北部や日本海沿岸だけでなく、海路で繋がる瀬戸内海沿岸にも上陸し、縄文人の子孫と1000年以上かけて混血したのだと思う。どのような過程で混血が進んだかについては、沖縄などのように、さほど混血しなかった地域もあり、一様ではないだろう。

 ただし、使った器で進化や文化の程度を図れるものではない。例えば、有田焼を使っている人が唐津焼を使っている人よりも進んでいるわけではなく、それぞれの場所にある材料を使い、その時代にあった技術を使って、必要なものを作ったにすぎないだろう。そのため、考古学は、生物学的・科学的知見も合わせて、首尾一貫性のある納得いく歴史を示してもらいたい。

・・参考資料・・
<中華民族と東夷・南蛮・西戎・北狄、倭国・奴国・卑弥呼>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210702&ng=DGKKZO73480930R00C21A7M11500 (日経新聞 2021.7.2) 共産党100年 習氏演説要旨、中国が大股で時代に追いついた
 中国共産党の習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)は1日、北京市の天安門広場で党創立100年記念式典の演説に臨んだ。「(中国は)後進的な状態から世界第2位の経済大国へと歴史的な躍進を達成した」と述べ、党主導で経済成長などを実現させたと強調した。演説の要旨は次の通り。
     ◇
 同志と友人のみなさん。今日は中国共産党の歴史と、中華民族の歴史において、非常に重大で荘厳な日である。私たちはここに盛大に集まり、全党、全国各民族とともに中国共産党創立100周年を祝い、中国共産党の100年にわたる奮闘の輝かしい経過を振り返り、中華民族の偉大な復興の明るい未来を展望する。まずはじめに、党中央を代表し、全ての中国共産党員に、熱烈な祝意を表す。ここで党と人民を代表し、全党と全国各民族の人民による持続的な奮闘を経て、私たちは最初の(党創立)100年で掲げた目標を実現し、この地に(大衆の生活にややゆとりのある)「小康社会」を全面的に築き上げ、絶対的な貧困問題を歴史的に解決し、社会主義現代化強国の全面的な実現という次の(中華人民共和国成立から)100年の奮闘目標に向けて意気盛んにまい進していることを厳かに宣言する。これこそが中華民族の偉大な栄光である。これこそが中国人の偉大な栄光である。これこそが中国共産党の偉大な栄光である。中国共産党は誕生当初から、中国人民に幸福をもたらし、中華民族の復興をもたらすことを初心と使命と決めている。この100年来、中国共産党が中国人民を束ね率いて行った全ての奮闘、全ての犠牲、全ての創造はひとつのテーマに帰結する。それは中華民族の偉大な復興を実現するということだ。中国共産党と中国人民の勇敢で強固な奮闘をもって中国人民は立ち上がり、中華民族が搾取され、辱めを受けていた時代は過ぎ去ったことを世界に厳かに宣言する。中華民族の偉大な復興を実現するため、中国共産党は中国人民を束ねて率い、自力更生し、発奮し、社会主義革命と(社会主義現代化)建設という偉大な成果を生んだ。私たちは社会主義革命を進め、中国で数千年にわたり続いていた封建的な搾取と圧迫の制度を消滅させ、社会主義の基本制度を確立し、社会主義の建設を推進し、帝国主義や覇権主義による転覆と破壊、武装挑発に打ち勝ち、中華民族の有史以来、最も広く深い社会変革を実現した。経済的文化的に遅れた人口の多い東方の大国(だった中国)が社会主義の社会に大きく進んだという偉大な飛躍を実現し、中華民族の偉大な復興の実現に向けた根本的な政治前提と制度の基礎を築き上げた。中国共産党と中国人民は勇敢で強固な奮闘をもって世界に厳かに宣言する。中国人民は古い世界を打ち破ることに優れているだけでなく、新しい世界を建設することにも優れている。中国を救えるのは社会主義だけであり、中国を発展させられるのは中国の特色ある社会主義だけである。揺るぎなく改革開放を推進し、各方面からのリスクや挑戦に打ち勝ち、中国の特色ある社会主義を創り、堅持し、守り、発展させ、高度に集中した計画経済体制から活力に満ちた社会主義市場経済体制への歴史的転換を実現した。閉鎖や半閉鎖から全方位開放への歴史的転換を、生産力が相対的に遅れていた状況から経済の総量で世界第2位に躍り出る歴史的突破を、人民の生活で衣食が不足していた状況から総体としてはややゆとりがある社会を、さらに全面的にややゆとりがある社会に向かう歴史的な飛躍をそれぞれ実現した。中華民族の偉大な復興の実現のため、新しい活力にあふれた体制上の保障と急速発展の物質的条件を提供した。中国共産党と中国人民は勇敢で強固な奮闘をもって世界に厳かに宣言する。改革開放こそが現代中国の前途と運命を決める鍵となる一手であり、中国が大股で時代に追いついたのだ。(2012年の)第18回党大会以降、中国の特色ある社会主義は新しい時代に入り、我々は党の全面的指導を堅持・強化し、(経済一辺倒でなく政治や文化、社会、環境保護の一体的な発展を重視する)「五位一体」の体制を全体を見据えて推進し、(小康社会の建設や厳格な党統治など4項目を推進する)「四つの全面」の戦略的体制を協調して推進し、中国の特色ある社会主義制度を堅持し改善した。国家のガバナンス体制とガバナンス能力における現代化を推進し、規範に基づいた党の運営を堅持し、比較的整った党内の法規体系を形成し、一連の重大なリスクと挑戦に打ち勝った。第1の100年における奮闘の目標を実現し、第2の100年では奮闘の目標の戦略的計画を明確に実現し、党と国家の事業は歴史的成果をあげ、歴史的変革を起こし、中華民族の偉大な復興を実現するため、より整った制度保障と、より堅実な物質的基礎と、より自発的な精神力を与えた。同志と友人のみなさん。100年前、中国共産党の先駆者たちが中国共産党をつくり、真理を堅持し、理想を守り、初心を実行し、使命を担い、犠牲を恐れず、勇敢に戦い、党に忠誠心を持ち、人民に背かない、偉大な建党精神をつくり上げた。これが中国共産党の精神の源である。同志と友人のみなさん。この100年、我々が得た全ての成果は中国共産党人、中国人民、中華民族が団結し奮闘した結果である。毛沢東同志、鄧小平同志、江沢民(ジアン・ズォーミン)同志、胡錦濤(フー・ジンタオ)同志を主要な代表とする中国共産党人は、中華民族の偉大な復興のために、歴史書を光り輝かせる偉大な功績をあげた。私たちは彼らに崇高なる敬意を表する。今このとき、私たちは中国の革命、建設、改革、中国共産党の創立と強化、発展のために大いに貢献した毛沢東、周恩来、劉少奇、朱徳、鄧小平、陳雲といった同志ら上の世代の革命家を深くしのぶ。新中国を創立し、守り、建設するにあたって勇敢に犠牲となった革命烈士を深くしのぶ。香港特別行政区の同胞、マカオ特別行政区の同胞、台湾の同胞と多くの華僑に心からあいさつする。中国人民と友好に付き合い、中国の革命と建設、改革事業に関心と支持を寄せる各国の人民と友人に心から謝意を表する。同志と友人のみなさん。初心を得るのは易しく、終始守るのは難しい。歴史を鑑(かがみ)として、盛衰を知ることができる。私たちは歴史で現実を映し、未来を長い目で見通す。中国共産党の100年の奮闘の中から過去に私たちがなぜ成功できたかをはっきりと見て、未来に私たちがどうやって成功を続けられるか明らかにし、それによって新しい道のりで揺るぎなく、自覚的に初心の使命を心に刻み、美しい未来を切り開いていかねばならない。
●党は国に不可欠
 歴史を鑑として、未来を切り開くには、中国共産党の強固な指導を堅持しなければならない。中国のことをうまくやるために、カギとなるのは党だ。中華民族の近代以来180年余りの歴史、中国共産党の成立以来100年の歴史、中華人民共和国の成立以来70年余りの歴史が、すべて十分に証明している。中国共産党がなければ、新中国はなく、中華民族の偉大な復興もない。歴史と人民は中国共産党を選んだ。中国共産党の指導は、中国の特色ある社会主義の最も本質的な特長であり、中国の特色のある社会主義制度の最大の優位性であり、党と国家の根本的な所在、命脈の所在、全国の各民族の人民の利益と運命にかかわっている。新しい道のりでは、私たちは党の全面的な指導を堅持し、党の指導を絶えず充実させ、「四つの意識」を強め、「四つの自信」を固め、「二つの擁護」を徹底し、「国の大者」を銘記し、党の科学的な執政、民主的な執政、法に基づく執政の水準を絶えず向上させ、大局をまとめ、各方面を調整する核心となる党の役割を十分に発揮しなければならない。中国共産党は常に最も広範な人民の根本的な利益を代表し、人民と苦楽をともにして一致団結し、生死を共にし、自らのいかなる特殊な利益もなく、いかなる利害集団、いかなる利権団体、いかなる特権階級の利益も代表しない。中国共産党と国民を分割して対立させようとするいかなる企ても、絶対に思いのままにならない。9500万人以上の中国共産党員も、14億人余りの中国人民も許さない。歴史を鑑として、未来を切り開くには、マルクス主義の中国化を引き続き推進しなければならない。マルクス主義は私たちの立党と立国の根本的な指導思想であり、私たちの党の魂と旗印である。中国共産党はマルクス主義の基本原理を堅持し、事実に基づいて真実を求めることを堅持し、中国の実際から出発し、時代の大勢を洞察し、歴史の主導権を握り、苦難の探究を行う。絶えずマルクス主義の中国化と時代化を推し進め、中国人民が絶えず偉大な社会革命を推し進めるよう指導する。中国共産党はなぜできるのか、中国の特色のある社会主義はなぜ良いのか、それはマルクス主義によるものだ。新たな道のりでは、私たちはマルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、(2代前の総書記である江沢民氏の)「『3つの代表』の重要思想」、(前総書記である胡錦濤氏の)「科学的発展観」を堅持する。新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に支持し、マルクス主義の基本原理と実際の中国の現状、中国の優れた伝統文化を組み合わせ、マルクス主義を用いて時代を見つめ、把握し、先導し、現代中国のマルクス主義と、21世紀のマルクス主義の発展を継続していく。歴史を教訓とし、未来を切り開くには中国の特色ある社会主義を堅持し、発展させる必要がある。独自の道を歩むのは、党の全ての理論と実践の足がかりであり、さらにこれは党の100年の闘争により得た歴史的結論だ。中国の特色ある社会主義は、党と人民が多大な苦しみと大きな代償を払ったことによる成果であり、これは中華民族が偉大な復興を実現する正しい道のりである。私たちは中国の特色ある社会主義を堅持し、発展させ、物質文明、政治文明、精神文明、社会文明、生態文明を一体的に発展し、促進する。中国式の近代化への新たな道を創造し、人類文明の新たな形態を作り出した。新たな道のりでは、党の基本理論、基本路線、基本戦略を堅持し、「五位一体」と「四つの全面」を一体的に推進する。改革開放を全面的に深化させる。新たな発展段階を足がかりとし、新しい発展理念を完全で正確かつ包括的に実行する。新しい発展パターンを構築し、高品質な発展を促進し、科学技術の自立を進める。人民自らが主であることを保障し、法の支配に従って国を統治し、社会主義の核心的価値体系を堅持する。発展中の人々の生活を保障し改善し、人と自然の調和と共生を堅持し、人民の繁栄、国家の強盛、美しい中国を共に推し進めていく。中華民族は、5000年以上の歴史の中で形成された輝かしい文明を持ち、中国共産党は100年の闘争と70年以上の統治経験があり、我々は積極的に人類文明の全ての有益な成果から学び、すべての有益な提案と善意の批判を歓迎する。ただ、私たちは決して「教師」のような偉そうな説教を受け入れることはできない。中国共産党と中国人民は、中国の発展していく運命を自らの手中に収め、自らの選択した道を歩む。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、国防と軍隊の近代化を加速しなければならない。強国には強軍が必要で、軍は国を安定させなければならない。党が銃(軍)を指揮し、自ら人民の軍隊を建設することは血と火の闘争のなかで党が作り出し、破られない真理だ。人民解放軍は、党と人民のために不滅の功績を築き、(共産党によって守られた世の中である)「紅色江山」を守り、民族の尊厳を守る強力な柱であり、地域と世界平和を守る強力な力である。新しい道のりでは、新時代の党の強大な軍隊の思想を全面的に貫く。新時代の軍事戦略の指針を堅持し、人民解放軍に対する党の絶対的な指導力を維持し、中国の特色ある強大な軍隊の道を歩み続ける。政治建軍、改革強軍、科技(科学技術)強軍、人材強軍、法に基づき統治された軍隊を全面的に推進、人民解放軍を世界一流の軍隊へと建設する。より強力な能力と防御するための信頼性の高い手段で人民解放軍を建設すれば、国家主権、安全、発展の利益を守ることができる。
●「一帯一路」発展促す
 歴史を教訓とし、未来を切り開くには、人類運命共同体の構築を絶えず推進しなければならない。中華民族は平和、和睦、調和を5000年以上にわたって追求し、継承してきた。中華民族の血には、他人を侵略し、覇権を追求する遺伝子はない。中国共産党は人類の将来の運命に心を配り、世界のすべての先進的な力と協力して前進する。中国は常に世界平和の建設者であり、世界の発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者である。新たな道のりでは、平和、開発、協力、互恵の旗印を高く掲げ、独立した外交政策を追求し、平和的発展の道を守り、新しい形の国際関係の構築を促進しなければならない。人類の運命共同体の道を守り、(中国の広域経済圏構想)「一帯一路」の質の高い発展を促し、世界に新たな機会を提供しなければならない。中国共産党は平和、開発、公正、正義、民主、自由という全人類共通の価値観を守る。協力を堅持し、対立をやめ、開放を守る。封鎖をやめ、互恵を守り、ゼロサムゲームをやめ、覇権主義と強権政治に反対する。歴史の車輪を明るい目標に向かって前進させる。中国人民は正義を重んじ、暴力を恐れない人々である。中華民族は強く、誇りと自信を持つ民族である。中国人民はこれまで他国の人民をいじめ、抑圧し、奴隷のようにしたことはない。過去にも現在にも、将来においてもありえない。同時に、中国の人民は、いかなる外部勢力が私たちをいじめ、抑圧し、奴隷のようにすることも決して許さない。故意に(圧力を)かけようとすれば、14億人を超える中国人民の血肉で築かれた「鋼鉄の長城」の前に打ちのめされることになるだろう。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、多くの新しい歴史的特徴を持つ偉大な闘争が必要となる。戦い、勝利することは、中国共産党の無敵で強力な精神力である。偉大な夢を実現するには、粘り強く、たえまない戦闘が必要だ。今日、私たちは、歴史上のどの時代よりも中華民族の偉大な復興という目標に近づいている。これを実現するための自信と能力があり、同時にさらに大変な努力をする必要がある。新しい道のりでは、私たちは、危機意識を高め、常に安全な時も危険な状況を考え、総体国家安全観を貫き、開発と安全を統一的に計画する。中華民族の偉大な復興戦略と世界でこの100年なかった大変革の両方を統一的に計画する。我が国の社会の主要な矛盾の変化によってもたらされた新しい特徴と新しい要求を深く理解する。複雑な国際情勢がもたらす新たな矛盾と新たな課題を深く理解し、あえて戦い、闘争を得意とし、山があれば切り開き、水があれば橋をかけ、あらゆるリスクと挑戦を克服する。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、中国人民がより大きな団結を強化しなければならない。100年の闘争の道のりで、中国共産党は統一戦線を重要な位置づけとし、常に最も広範な統一戦線を統合し発展させ、団結できるすべての力を結集し、動員できるすべての肯定的な要因を動員し、闘争の力を最大化する。愛国統一戦線は、中国共産党が中華民族の偉大な復興を達成するために、国内外のすべての中国人民を結集するための重要な武器である。新しい道のりでは、私たちは政治思想の誘導を強化し、共通認識を広く結集し、世界の英雄と人材を結集し、最大の公約数を探し続け、最大同心円を描き、国内外のすべての中国人民の力と心を一つの場所に集約する。民族の復興を達成するために力を結集しなければならない。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、党が建設する新たな偉大な工程を継続的に推進しなければならない。自己革命への勇気は、中国共産党が他の政党と区別する顕著な兆候である。私たちの党は試練と苦難があったが、今も活発だ。その一つの重要な理由は、私たちは常に党が党を管理し、厳重に統治し、あらゆる歴史のなかで自らのリスクに絶えず対処し、世界情勢の深い変化の歴史的過程において、私たちの党が時代の先頭を走ってきた。歴史的過程において、国内外の様々なリスクと課題に直面するとき、常に国民のよりどころとなることを保証する。クリーンな政府を構築し腐敗との戦いを揺るぎなく促進し、党の高度な性質と純粋さを損なう全ての要因を断固排除する。健全な党を侵食するすべての病毒を除去し、党の質、色、味が変わることを防ぐ。新しい時代の中国の特色ある社会主義の歴史的過程において、党が常に強い指導的核心となるよう努力する。同志と友人のみなさん。私たちは「一国二制度」「香港人による香港の統治」「マカオ人によるマカオの統治」、高度な自治の方針を全面的かつ正確に徹底し、香港、マカオ特別行政区に対する中央の全面的な管轄権を実行する。特別行政区が国家の安全を守る法律制度と執行体制を実施し、国家主権と安全、発展の利益を守り、特別行政区の社会の大局的な安定を維持し、香港とマカオの長期的な繁栄と安定を保たねばならない。台湾問題を解決し、祖国の完全な統一を実現することは、中国共産党の変わらぬ歴史的任務であり、中華の人々全体の共通の願いだ。「一つの中国」の原則と(それを認め合ったとする)「92年コンセンサス」を堅持し、祖国の平和統一プロセスを推進する。両岸の同胞を含むすべての中華の人々は、心と心を一つにし、団結して前進し、いかなる「台湾独立」のたくらみも断固として粉砕し、民族復興の美しい未来を創造しなければならない。いかなる人も中国人民が国家主権と領土を完全に守るという強い決心、意志、強大な能力を見くびってはならない。同志と友人のみなさん。100年前、中国共産党が成立した時は50人強の党員しかいなかったが、今では9500万人以上の党員を擁し、14億人余りの人口大国を指導し、世界的で重大な影響力を持つ世界最大の政権政党になった。100年前、中華民族が世界の前に示したのは一種の落ちぶれた姿だった。今日、中華民族は世界に向けて活気に満ちた姿を見せ、偉大な復興に向けて阻むことのできない歩みを進めている。同志と友人のみなさん。中国共産党は中華民族の不滅の偉業を志し、100年はまさに風采も文才も盛りだ。過去を振り返り、未来を展望し、中国共産党の強い指導があり、全国の各民族の人民の緊密な団結があれば、社会主義現代化強国を全面的に建設する目標は必ず実現でき、中華民族の偉大な復興という中国の夢は必ず実現できる。偉大で、光栄で、正しい中国共産党万歳!偉大で、光栄で、英雄である中国人民万歳!

*1-2:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=770962&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2021/7/8) 骨太の方針 財政の裏付け見通せず
 菅義偉政権初となる「骨太の方針」が決まった。政府の経済財政運営の基本的な方向性を示す指針で、新型コロナウイルス対策の強化に加え、デジタル化、脱炭素化、地方創生、少子化対策の4分野をコロナ後の成長の原動力と位置づけた。いずれも日本が以前から直面している課題であるが、政権が当然取り組むべき政策を寄せ集めたように映る。総花的で新鮮味に欠ける。テーマや目標を並べても、確実に実行できなければ意味がない。にもかかわらず、どの政策を優先し、財源を含めてどうやって実現していくのかも判然としない。踏み込み不足と言わざるを得ない。コロナ対策では、ワクチン接種の見通しを「10月から11月にかけて終える」と明記した。ワクチン接種の加速で、感染収束の機運を高め、支持率回復につなげたい狙いがあるのだろう。さらに、首相が肩入れする「こども庁」の創設検討や最低賃金の引き上げなども盛り込んでいる。秋までに行われる衆院選に向けて、国民の関心を引きたい思惑も透ける。骨太の方針が政権・与党のアピールの場になりつつあるのではないか。存在感を失い、今のような形骸化が進めば、もはや役割を終えたと言われても仕方あるまい。とりわけ看過できないのは、一連の政策を裏付ける持続可能な財政の姿が見えてこない点である。国と地方の政策経費を税収などで賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)について、政府は2025年度に黒字化する財政健全化の目標を掲げている。コロナ禍を受けて昨年は明記しなかったが、今回は黒字化目標を「堅持する」との言葉が復活した。同時に新型コロナが経済と財政に及ぼす影響などを21年度中に検証し、「目標年度を再確認する」とした。目標の見直しや先延ばしに含みを持たせた形だ。財政健全化への道筋を曖昧にしては、骨太の方針の意義自体が問われる。コロナ禍に伴う経済対策で、国の20年度の一般会計の歳出総額は175兆円を超え、借金に当たる国債は112兆円を新規に発行した。21年度予算もコロナ対策の予備費に5兆円を積むなど、過去最大規模の106兆円に膨らんだ。感染の収束はまだ見通せず、追加の支出が必要になる恐れもある。内閣府が今年1月にまとめた中長期の経済財政の試算では、日本経済がたとえ高成長を果たしたとしても、PBは25年度には7兆3千億円程度の赤字となる見通しだ。目標達成は絶望的なことは明らかである。それでも目標の「堅持」を修正しなかったのは、こちらも衆院選を意識し、財政健全化の議論を先送りにしたのではないか。欧米の政府は、財政出動とともに財源確保策も打ち出している。米国は経済対策の財源を企業や富裕者層の増税などで調達する方針で、欧州連合(EU)も復興基金の財源として国境炭素税などを検討している。年度内に行われる検証作業では、安易な目標の先送りに終わらせず、歳出・歳入両面で具体的な財政健全化策の検討を急ぐ必要がある。 

*1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA11A0I011062021000000/ (日経新聞 2021年6月24日) コロナ予算、30兆円使い残し 消化はGDP比7%、米13%に見劣り 成長へ財政回らず
 新型コロナウイルス禍を受けて2020年春から積み増してきた国の予算73兆円のうち、約30兆円を使い残していることが判明した。家計や企業への支払いを確認できたのは約35兆円と名目国内総生産(GDP)の7%程度にとどまった。GDPの13%を支出した米国と比べ財政出動の効果が限られる展開となっている。危機脱却へ財政ニーズが強い時にもかかわらず予算枠の4割を使い残す異例の事態は、日本のコロナ対応の機能不全ぶりを映し出している。脱炭素関連の投資やデジタル化の推進、人材教育など戦略分野のコロナ禍後の成長を押し上げる財政資金ニーズは大きい。にもかかわらず予算の規模を大きくみせるために枠の確保ありきで政策の中身が置き去りになっており、成長分野へ予算が行き届いていない。脱炭素へ2兆円を投じた基金は、支援の中身が詰まっていないなかで枠の大きさの議論が先行して3次補正に盛り込まれた。経済産業省が基金の支援対象となる分野を公表したのは4月に入ってからで、ようやく企業の公募が始まった段階だ。使い残しが多いのは約21兆円の追加歳出を盛り込んだ20年度3次補正が21年1月に成立したことに加え、コロナ禍の長期化が原因だ。翌年度への予算の繰り越しが「30兆円程度」(菅義偉首相)出る20年度は極めて異例だ。東日本大震災後に多額の予算を積んだ11~12年度でも繰越額と不用額を合わせても年10兆円を超えた程度だった。コロナ対策では20年6月に当時の安倍晋三首相が記者会見で「GDPの4割に上る世界最大」規模の「230兆円」の経済対策で「日本経済を守り抜く」と打ち出した。約1年を経て実際に家計や企業に出回った国費は資金繰り支援策を除くベースでGDP比7%程度。4月末までに同13%の2.8兆ドル(約307兆円)を消化した米国と比べて遅れが目立つ。4割と安倍前首相が打ち出したのは財政支出に民間資金も加えた事業規模ベースの経済対策の金額だった。財政投融資を活用した100兆円規模の資金繰り支援策が大きい。資金繰り支援の比率がコロナ対策の9%にとどまる米国と対照的だ。予算の執行状況は20年4月以降に打ち出した経済対策などについて、内閣府が21年5月にまとめた調査を基に日本経済新聞が資金繰り支援策を除いて集計。100億円以上の事業が対象で、国費ベースで9割以上をカバーしている。1人10万円の給付金など緊急を要した家計支援策は予算の9割強がすでに支払われるなど執行が進む。一方、GoToトラベルなど消費活性化の予算は進捗率が35%にとどまった。ワクチン接種の遅れが消費や投資を制約させた影響が大きい。米欧や中国はコロナ後の成長基盤づくりをにらんでグリーン関連政策やデジタル化などの戦略分野へ中長期的な財政出動を競う。日本では政府・与党内で21年度補正予算を求める声が強まりつつあるが、規模を大きくみせる枠の確保競争に終始せずに、成長につなげる政策の中身を詰める作業が欠かせない。

*1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0794K0X00C21A7000000/ (日経新聞社説 2021年7月7日) 成長促進と財政規律を両立できる予算に
 政府は7日の閣議で、2022年度予算の概算要求基準を了解した。これに沿った各省庁の概算要求を8月末に締め切り、年末に予算案を編成する運びだ。財政の規律を保ちつつ、新型コロナウイルス対策や成長基盤の強化に国費を重点配分する必要がある。不要不急の支出で予算をいたずらに膨らませてはならない。21年度予算の編成は、コロナ禍で異例の対応を迫られた。感染症の収束を予見できないという理由で明確な概算要求基準の設定を見送り、各省庁の概算要求の締め切りも1カ月延ばした。コロナ対策については、金額を明記しない「事項要求」を今回も認める。ただ成長戦略を推進するための「特別枠」を設け、高齢化の進展に伴う社会保障費の「自然増」を抑える目安を示すなど、例年の手法に近い形に戻した。コロナ禍の克服はいまも最優先の課題だ。とはいえワクチンの接種率が上がり、経済社会活動の正常化が進むにつれて、この先の成長基盤の強化や財政の健全化をより強く意識せざるを得ない。緊急時でも投入できる国費には限りがある。政府が「青天井」の概算要求を見直し、一定の基準を復活させたのは妥当だろう。重要なのは無駄やばらまきを排し「賢い支出」に徹する姿勢だ。20~21年度の国の一般会計総額は当初予算と補正予算の合計で280兆円を超えたが、使い残しや繰り越しも目立つという。その検証を怠ったまま、むやみに予算を積み上げていいはずがない。コロナ対応の名目で経済対策を繰り返しても、困窮者の救済や病床の確保といった問題はなかなか解消しない。背景には様々な要因があろうが、予算配分の優先順位も正しいとは言い難い。成長戦略にも同じことが言える。デジタル化やグリーン化などの推進に予算を重点配分するのは当然だが、緊急性や必要性の高い事業を選別しなければ、絵に描いた餅になりかねない。各省庁は節度とメリハリのある概算要求を心がけるべきだ。景気の回復で税収が堅調なのを幸いに、コロナ対策の不透明な事項要求を連発したり、成長戦略の名目で不要な公共事業や施設整備を強要したりするのは許されない。コロナ対策はもちろん、成長の促進や財源の確保に心を砕くのは米欧も同じだ。日本も責任ある予算編成を心がけたい。

*1-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA24DN70U1A620C2000000/ (日経新聞 2021年6月25日) 渡辺努・東大教授「賃金上がらぬ問題、まず認識を」、安いニッポン・ガラパゴスの転機 経営者・識者に聞く
国内では安定した生活を送っているのに、海外から見れば安く、貧しくなる日本。気づかないうちに深刻度を増すこの病理から、どうしたら抜け出せるのか。渡辺努・東大教授に聞いた。
――なぜ日本は安い国になったのでしょうか。
 「2012年末からの安倍晋三政権下では黒田東彦総裁が就任した日銀の異次元緩和もあって円安が進んだ。政策の目的は円安だけでなく物価も賃金も上げることだったが、読みが違った。円安なのに物価も賃金も上がらなかった。海外からみれば日本のサービスは安くなる」
――日本人からみると海外では高くて買えないものが増えます。日本のモノやサービスの質は国際的に見て相対的に低下していくのでしょうか。
 「たとえばパスタやラーメンをつくるときに材料になる小麦は輸入価格が高くなる。企業は最終製品を値上げできていないので、消費者は痛くもかゆくもない。企業はどうしているか。コスト削減をして、値段を据え置いて頑張る。あるいは商品のサイズが小さくなる。この場合は質が落ちている。消費者の満足度が落ちている。そして賃金は上がらない」
――訪日外国人(インバウンド)向けのホテルでは外国人用の高級価格が設定されています。こうした価格の二極化は広がっていくのでしょうか。
 「不動産ではそういうことが起きている。ある規格のマンションが、シドニーと日本で比較され、まるで貿易ができるかのように裁定が働いている。海外の人が投機的に家を持つと、日本人の給料では買えなくなってくる」。「同じ商品やサービスなのに2つの価格があるという意味での二重価格は国内では発生しにくいと思う。だが日本企業の製品価格は国内向けと海外向けで違ってくる。海外で物価上昇が進めば、現地の競合製品が値上がりするので日本企業も値上げできる。だが日本ではできない。こうした二極化は既に起きている」
――この状況を打開する政策はあるのでしょうか。
 「もともとは企業が賃金や価格を上げられないことに原因がある。これは企業行動にインプットされてしまっている。これまでも製品やサービスの値段を上げようとした企業はあるが、値上げすると客が逃げていく。そういうことから企業は学習していく。悪循環だ。日本の消費者が特別だということだ。海外の消費者は理由のある値上げについては仕方ないと受け入れる。日本人は一円たりとも値上げはだめだと反応する。アベノミクスが本格化した13年は一部の企業が値上げしたが、結局売り上げが落ちてしまった」。「この問題が解決していない理由は、みんな気がついていないからだ。値段が上がらないのはいいことだとポジティブに考える人がいる。賃金は上がらないので、値段は低い方が良いという。まず賃金が上がっていない問題を認識することが大事だ」

*1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210702&ng=DGKKZO73481460R00C21A7TB2000 (日経新聞 2021.7.2) 医薬原料調達で「脱中国」 塩野義など生産国内回帰へ、依存度下げ安定確保、コスト5倍の試算も
 医薬品原材料の生産を巡り、国内製薬業界で海外依存を見直す動きが出てきた。抗菌剤など欠品すると医療に大きな支障が出る品目で、各社が国内回帰に乗り出す。塩野義製薬は2022年にも手術用抗菌剤の原料の生産を岩手県で始める。医薬品原料は中国の生産シェアが高く供給リスクが指摘されてきた。安定調達へ「脱中国」が進むが、国内回帰にはコスト面で課題が残る。医薬品原材料とは医薬品の有効成分が含まれる原薬やそのもとになる化学物質。国内回帰の動きがあるのは主に後発薬の原材料だ。後発薬は公定価格が安く抑えられており、製造原価を下げる目的で原材料生産の海外移転が進んできた。塩野義は医薬品製造子会社のシオノギファーマ(大阪府摂津市)を通じ、「セファゾリン」など「セフェム系」と呼ぶ抗菌剤の原料を生産する設備を21年末までに金ケ崎工場(岩手県金ケ崎町)に設ける。年産能力37トンで稼働し、5年後に50トンに引き上げる。生産した原料は抗菌剤を手がける国内後発薬メーカーに売る見込み。塩野義は初期投資としてまず20億円強を投じる。後発薬メーカーは従来、セフェム系原料のほぼ全てを輸入に頼ってきた。特に中国依存度が約3割と高い。抗菌剤は手術後の感染症などを防ぐために投与する。欠品すると手術が難しくなり医療体制の維持に影響が出かねない、重要な薬だ。厚生労働省は医療現場に重要な医薬品として抗菌剤や血栓予防剤など約500品目を定め、安定確保を製薬会社に呼びかけている。最重要と指定するセフェム系原料は19年に国内で50トン使われ、塩野義の拠点がフル稼働すれば全量をまかなえる計算だ。抗菌剤市場全体でみても約1割をカバーできる見通しだ。抗菌剤では19年、中国当局が環境規制を理由に現地メーカーにセファゾリン原料の生産を停止するよう命令。調達難によってセファゾリンで国内シェア6割の日医工が供給停止に追い込まれ、医療現場に影響が出た。国内調達できればこうしたリスクを低減できる。明治ホールディングス傘下のMeiji Seikaファルマも22年3月期中に岐阜工場(岐阜県北方町)で「ペニシリン系」と呼ぶ抗菌剤の原料の試験生産を始める。現在は海外調達しており中国などへの依存度が高い。同社は「試験生産を経て、生産ノウハウを再度蓄積する」とする。ニプロも滋賀県内にペニシリン系の原材料の生産施設を設ける予定。投資額は数十億円になるとみられる。厚労省によると後発薬原材料を調達する製造所の6割が海外で、中国が約14%、インドが約12%と高い。一方で、各国の保護主義政策に供給が左右されかねない状況だ。政府がまとめた21年版の通商白書では、4月時点で50強の国が医療品を輸出制限している。インド政府は4月、国内メーカーがライセンス生産している新型コロナウイルス治療薬の輸出を当面禁止とし、国内使用を優先した。米国では政府主導で生産の国内回帰の動きが進む。バイデン米大統領は2月、サプライチェーン(供給網)の見直しに関する大統領令を出した。半導体が注目されたが、医薬品も対象とする。米食品医薬品局(FDA)は同月、新型コロナ禍により中国から原薬調達が難しくなり、一部の医薬品が供給不足に陥ったと明らかにした。ただ、原薬生産の国内回帰には課題が残る。製薬会社によると日本での原材料製造コストは中国の5倍以上との試算もある。日本製薬工業協会の中山譲治前会長(第一三共常勤顧問)は「国内回帰は薬のコスト上昇につながりかねない」と話す。薬価が定まっているなか、メーカーがコスト上昇分を転嫁し、流通業者への納入価格を上げるのは容易ではない。厚労省の中では「安定確保が必要な医薬品の薬価算定で『例外』を設けるべきか否かの議論も必要」(幹部)との声もある。

*1-7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/704218 (佐賀新聞 2021年7月10日) 無観客五輪、開催意義を実感させよ
 政府が東京都に4度目の新型コロナウイルス緊急事態宣言を発令し、埼玉、千葉、神奈川3県に対するまん延防止等重点措置を延長することを決定した。これを受け、政府と大会組織委員会、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)など5者が協議し、東京五輪は首都圏全ての会場を無観客とすることを決めた。近代五輪が無観客で開催されるのは初めてのことだ。パンデミック(世界的大流行)の中、異例の大会となる。首都圏での感染はさらに拡大を続けるとの予測もある。組織委は選手村を中心に、感染対策の手を緩めることなく万全を期すとともに、無観客であっても五輪の開催意義を市民が実感できるよう「舞台」を整えなければならない。既に多くの選手団が事前合宿のため入国し、各自治体で練習に励んでいる。自国の検査で陰性証明を受けていたにもかかわらず、感染力の強いデルタ株による感染が判明した選手団員が出たのは組織委にとって驚きだった。入念な検査が入国時も大会中も欠かせないことを思い知ることになった。海外に目を向ければ、大規模広域大会の欧州サッカー選手権で英国やフィンランドのファンから多くの感染者が出た。競技場や街の広場、あるいはパブでマスクをせずに肩を組み、歓声を上げるなどしたのが原因とされる。注目度の高いスポーツ大会、とりわけ国の代表選手が出場する大会では、喜びを爆発させるファンが多数出る傾向がある。世界保健機関(WHO)はこれに教訓にして、IOCと組織委に助言を続けていくとした。だが、国内では、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が「無観客が望ましい」との提言を公表していた。政府はすぐには耳を傾けず、会場定員の50%以内で、最大1万人とする観客基準で突き進もうとした。独善的な姿勢を真摯に反省すべきである。6月下旬の共同通信の電話世論調査では、五輪とパラリンピックの開催による感染再拡大の可能性について「不安を感じている」と回答した人が86・7%に達していた。今回の無観客決断はいかにも遅かった。首都圏の会場が無観客と決まったことで、ボランティアと警備担当要員の規模は大規模な見直しが必要になった。主に観客が熱中症になった場合の対応に当たる予定だった医療従事者も規模が見直され、大幅な人員縮小が見込まれる。医療現場の負担が軽減され、最優先で取り組まなければならないコロナ感染対応で、人的な余裕が生まれるメリットも期待できそうだ。しかし、安倍晋三前首相が大会の1年延期を決定したときに語った「完全な形での開催」は実現しなかった。菅義偉首相が何度となく強調してきた「ウイルスに打ち勝った証し」としての五輪の実現も難しくなった。バッハIOC会長が言う「誰もが犠牲を強いられる大会」になるのは明らかだ。観客と喜びを共にしたいと望んでいた選手、会場で観戦できるはずだった市民はさぞかし残念だろう。それでも開催に懐疑的な人、開催を持ちわびている人が共に意義深く感じる大会にしなくてはならない。菅首相らにはその責務がある。

<客観的根拠に基づく軌道修正が不得意な国、日本>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210630&ng=DGKKZO73407630Q1A630C2MM8000 (日経新聞 2021.6.30) エネ基本計画、「原発建て替え」盛らず 脱炭素の道筋、不透明に
 経済産業省は今夏をメドに策定するエネルギー基本計画に、将来的な原子力発電所の建て替えを盛り込まない方向で調整に入った。東京電力柏崎刈羽原発で不祥事が相次ぐなど原発への信頼回復ができていないと判断した。原発建て替えの明記を見送ることで、2050年の脱炭素社会の実現に向けた道筋が描きにくくなる。国の中長期のエネルギー政策の方向性を示すエネルギー基本計画はおおむね3年に1度見直しており、作業が大詰めを迎えている。二酸化炭素(CO2)の排出抑制につながる原発の建て替えを明記するかどうかは、エネ基本計画見直しの最大の焦点となっていた。法律上の稼働期間の上限である60年に達する原発が今後出てくることから、政府として建て替えを進めていく方針を明記し、将来にわたって原発を活用する姿勢を示せるかに注目が集まっていた。東電福島第1原発の事故後の14年に策定したエネ基本計画で、原発建て替えの表現を削除して以来、建て替えの記載は消えたままだった。7月にも原案を示す新たな計画では建て替えを明記しない方向だ。判断を先送りし、3年後に計画を見直す際にあらためて判断する。国内の原発は建設中の3基を含め36基ある。東電福島第1原発の事故後、再稼働できたのはこのうち10基にとどまる。直近では東電柏崎刈羽原発でテロ対策の不備など不祥事が相次ぎ、信頼回復が遠のいている。原発はCO2を排出しない脱炭素電源だ。政府は30年度までに温暖化ガスの排出量を13年度比で46%以上削減し、50年には実質ゼロをめざすと決めた。エネ計画について議論する経産省の有識者会合でも「最大限活用すべきだ」との指摘が出ていた。地球環境産業技術研究機構(京都府木津川市)が5月にまとめた脱炭素のシナリオ分析によると、原発の活用は電力コストの上昇を和らげる効果もある。50年に再生エネで電力すべてを賄うと電力コストは今の4倍程度に増える。送電網の整備などに大きな費用がかかると見込まれるためだ。一方、再生エネで5割、原発で1割を賄うケースでは2倍程度に上昇を抑えられると試算する。

*2-1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1212256.html (琉球新報社説 2020年10月23日) 原発処理水海洋放出 地元の不安を押し切るな
 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の問題で、政府は海洋放出の方針を月内に決定する。地元は漁業者を中心に反対の声を上げており、影響を受ける人々と向き合わないまま方針決定に突き進むことになってしまう。処理水には放射性物質トリチウムが含まれる。環境や人体に与える影響を巡る検証は十分ではなく、復興に取り組む地場産業に及ぶ風評被害にも懸念が尽きない。放射性物質の除去技術や安全性が確立するまでの間の新たな保管場所の確保など、海洋放出を回避する方策を探るべきだ。第1原発では溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水などで、現在も1日に170トン程度の汚染水が増え続けている。東電は多核種除去設備(ALPS)を使って汚染水から放射性物質を取り除く処理をしているが、水に似た性質があるトリチウムは除去することができない。東電は処理水を保管する原発敷地内のタンク容量が、2022年夏に限界に達するとしている。政府も処分方法の決定を急ぐ姿勢を強めており、菅義偉首相は21日に「いつまでも先送りできない」と語った。背景には、海洋への放出を始めるには設備工事や原子力規制委員会の審査などで2年程度の準備を要するため、現状が決定のタイムリミットだとする判断がある。だが、時間切れを理由に地元の反対を押し切ることなど許されるはずがない。炉心溶融(メルトダウン)した原発から出る処理水を海に流し続けることによる環境影響は簡単に予見できるものではなく、問題視するのは当然だ。処理水の保管を東電の敷地内に限定せず、政府としても別の保管先の確保を検討する対応などがとれるのではないか。トリチウムの除去技術開発に注力することも、原発事故を起こした東電や国の責任であるはずだ。また、震災の津波でさらわれた漂着物が沖縄で見つかることがあるように、海洋放出の影響は原発沿岸だけにとどまらない。周辺諸国からの非難は避けられないだろう。19年には、韓国による水産物の輸入規制を巡って世界貿易機関(WTO)の紛争処理手続きで日本が敗訴した。国際社会は福島の原発事故を終わったと見なしていないことを自覚する必要がある。処理水の扱いに関する議論は13年に始まった。この間には、17年に東電の川村隆会長(当時)が海洋放出について「判断はもうしている」と発言し、地元の反発を招いた。18年には、国民の意見を聞く公聴会の直前に、本来除去されているべきトリチウム以外の放射性物質が処理水に残留しているのが発覚した。東電、政府の結論ありきの姿勢やデータに対する不信も、処理水の処分方法が長年決まらない要因の一つにとなってきた。地元や国民の不安の払拭を第一とした、誠実で慎重な対応が必要だ。

*2-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/112551 (東京新聞 2021年6月24日) 「混乱するのが見えている」30キロ圏に28万人 広域避難不安拭えず 老朽・美浜原発3号機再稼働
 運転開始から40年を超える関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)が6月23日、10年ぶりに再稼働した。重大事故が起きた場合、避難対象となる30キロ圏内には再稼働した原発では最多の28万人弱が暮らす。県内外へ避難が計画されているが、避難先の確保など実効性に疑問符が付いたままだ。中心市街地が30キロ圏内にある福井県越前市は人口約8万人。2019年8月に初の広域避難訓練が行われ、今年1月には国の避難計画がまとまった。美浜3号機で重大事故が発生すれば、北に位置する同県坂井市やあわら市、石川県小松市や能美市へ避難する。県や市の計画では、地区ごとに避難先の小中学校や公民館が細かく設定され、病院の入院患者や高齢者福祉施設の入所者などの搬送先も決められた。しかし、福祉施設からは懸念の声が上がる。障害者施設で入所者の避難を担当する40代女性は「施設で毎年訓練をしているが、実際の避難では手伝う人も車両も足りず混乱するのが目に見えている。着の身着のまま逃げたとしても、布団などの物資はどうなるのか」と表情を曇らせた。
◆実効性ない計画なら…水戸地裁は運転禁じる判決
 広域避難を巡っては、30キロ圏に国内最多の94万人を抱える日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)について、水戸地裁は3月、運転を禁じる判決を出した。市町村で避難計画の策定が遅れており、実現可能な避難計画がなければ運転を認めないという基準が示された形だ。福井県の担当者は美浜原発について「東海第二とは状況が違う。避難に使用するバスや避難先などをしっかり確保できる計画になっている」と強調する。ただ、美浜原発周辺の避難人口は、既に再稼働した福井県内にある2原発よりも多い。住民を避難させる場合に県内にあるバスの3分の1にあたる278台が必要となるなど、一段とハードルが高い。新型コロナウイルスの感染拡大で避難の難しさはさらに増した。人が密になるのを避けるためにバスの台数を増やし、避難所で避難者が間隔を空けることを避難計画に盛り込んだ。だが、昨年8月に関電大飯原発(福井県おおい町)などで行った訓練では、避難所の収容人数が減り、新たな避難場所の確保が必要になるという課題も浮かんだ。今年1月には福井県内の記録的大雪で、避難で使う国道8号や北陸自動車道で車の立ち往生が発生し、長時間通行できなくなった。福祉施設の責任者を務める50代男性は「計画で避難先が決まっていても実際に役に立つのか分からない。いざとなったら入所者は計画とは別の県外施設へ避難させる」と話した。

*2-2-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021062700079 (信濃毎日新聞社説 2021/6/27) 40年超原発稼働 例外が常態化する懸念
 関西電力が、福井県にある美浜原発3号機を再稼働させた。運転開始から44年を経た老朽原発だ。原発の運転には、2011年の東京電力福島第1原発事故を踏まえ「原則40年」とするルールが導入されている。原則から外れたケースが、初めて現実となった。「例外中の例外」として、最長20年の延長を認める規定もある。40年の寿命を迎えた原発から順次廃炉にし、脱原発を着実に進める―。事故を機に多くの国民が原発の危険性に気付くなか、そう考え導入されたルールだった。関西電力は、同様に老朽化した高浜1、2号機の再稼働も進める方針だ。他の電力会社にも再稼働を目指す40年超原発がある。今後、例外が常態化していく恐れがある。老朽原発は建材の劣化など安全性に課題があり、地域住民には不安が募っている。国民の理解を得ずに原発推進の既成事実を積み重ねるような対応は、看過できない。事故の教訓に立ち戻り、40年ルールの重要性を再確認する必要がある。安倍晋三前政権以降、政府は、脱原発を求める世論をよそに実質的な原発回帰を進めてきた。経済産業省と大手電力は、今回の再稼働を原発復権に向けた足掛かりの一つと捉えているようだ。美浜3号機は、設置が義務付けられたテロ対策の施設が未完成のため、今年10月の設置期限までに再び停止となる。わずかな期間の再稼働にこだわったのも、40年超原発の再稼働に道を開くことを重視したからではないか。福井県が再稼働に同意したのは今年4月。同意を条件とする巨額の交付金を経産省が県に提示するなど、国が積極的な役割を果たしたことが分かっている。菅義偉政権は、世界的な脱炭素化の加速を受け温室効果ガスの大幅削減を打ち出した。最近は、温室ガスを排出しないことを名目に原発推進を求める議員連盟が自民党にできるなど、政府・与党に表だった動きも目立つ。原発政策がこれまで、ごまかしの連続だったことを忘れてはならない。典型は使用済み核燃料の問題だろう。今回も、再稼働で増えていくのは分かっているのに、一時保管する関電の原発の燃料プールは約8割が埋まったままだ。行き場は決まっていない。原発にいつまで頼るのか、使用済み核燃料はどうするのか。数々の問題を放置して目先の経営や業界の利益を優先する姿勢は、到底認めることができない。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210707&ng=DGKKZO73642330X00C21A7MM0000 (日経新聞 2021.7.7) 玄海原発 地震想定見直し 規制委、九電に求める
 原子力規制委員会は7日、九州電力が玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)で想定する地震の最大の揺れを引き上げる必要があるとの見解を示した。4月に厳しくした地震の揺れの想定方法に基づき電力会社に見直しを求めるのは初めて。九電は3年以内に想定を見直して規制委の再審査に合格する必要がある。想定する揺れの大きさは基準地震動と呼ばれ地震対策の前提になる。規制委は4月、原発周辺の活断層などによる地震に加え、過去に国内で発生した90件ほどの地震データを使って揺れを想定する方法を導入した。電力各社に対し、最大の揺れの想定を見直す必要があるかどうか9カ月以内に回答するよう要請した。九電は4月、新たな方法でも玄海原発の揺れの想定は変わらないと規制委に伝えたが、規制委は7日、この主張を却下した。九電は想定を作り直し、規制委の再審査を受けることになる。耐震補強の追加工事が必要になれば費用が膨らむ可能性がある。玄海原発3、4号機は2018年に再稼働している。九電の川内原発(鹿児島県薩摩川内市)と日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)は従来の揺れの想定を変える方針を規制委にすでに報告済みだ。

*2-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGG201GK0Q1A120C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2021年1月20日) 原発「未知の活断層」対策強化 規制委が規則改正案了承
 原子力規制委員会は20日の定例会で、原子力発電所などで「未知の活断層」への備えを強化するため、新しい評価手法を盛り込んだ関連規則の改正案を了承した。電力会社は原発を襲う揺れを再評価し、現行想定を上回った場合、追加工事などの対策を迫られる可能性がある。一般からの意見公募を経て、3月をメドに決定、施行する。従来より多くの地震データを反映した評価手法を用いて、原発ごとに未知の活断層による揺れの再評価を電力会社に求める。再評価の結果が現在想定している揺れ(基準地震動)を上回る場合、改正規則の施行後9カ月以内に原子炉設置変更許可を申請し、施行後3年以内に審査に合格して許可を得る必要がある。影響を受けるのは原発周辺に目立った活断層がなく、未知の活断層の影響を重視している原発で、九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)や川内原発(鹿児島県薩摩川内市)などだ。再評価結果が今の想定を上回り、現在の施設では耐震性が不十分だと判断されれば、追加工事などが必要になる可能性もある。追加工事の猶予期間については工事規模などを踏まえて、規制委があらためて設定する。

*2-4:https://www.data-max.co.jp/article/39260 (Net IB News 2020年12月21日) 行き場を失う原発の使用済み核燃料~5年後に9原発で容量9割が埋まると試算
 原発を稼働していると毎年発生する、放射能を含む使用済み核燃料が行き場を失っている。原子力発電所で発生した使用済みの核燃料は、再処理工場を経て最終処分場やMOX燃料加工施設に運ばれるが、再処理を行うまでの間は、原子力発電所内の「燃料プール(貯蔵施設)」や中間貯蔵施設などで一時保管される。現在、日本国内で貯蔵されている使用済み核燃料は約1万8,000t。使用済み核燃料は原発を稼働すると増え続けるため、その一時保管場所が課題になってきた。そのため、九州電力の玄海原子力発電所の使用済燃料貯蔵設備の貯蔵能力の増強(290t)、同敷地内の乾式貯蔵施設(440t)の設置、四国電力の伊方発電所敷地内の乾式貯蔵施設(500t)の設置、中部電力の浜岡原発敷地内の乾式貯蔵施設(400t)の設置などが見込まれている。また、東京電力ホールディングス(株)と日本原子力発電(株)が出資し、リサイクル燃料貯蔵(株)が運営する青森県むつ市の中間貯蔵施設が2021年度に操業開始を目指すとされ、ここでは最長で50年、3,000tの保管が予定されている。このように約4,600t相当の使用済み燃料貯蔵施設の拡大に向けて取り組みがなされている一方で、表のように電気事業(連)の試算値では、約5年後に東京電力の福島第二で88%、柏崎刈羽で100%、中部電力の浜岡原発で90%、関西電力の美浜原発で89%、高浜原発で98%、大飯原発で93%、九州電力の川内原発で93%、日本原子力発電の東海第二原発で96%などと9つの原発で一時保管場所(管理容量)のおよそ9割が埋まってしまうと試算されている。さらに、使用済み核燃料を再処理工場で処理した後の高レベル放射性廃棄物を地層に埋める最終処分場の選定問題も難航している。原発はCO2排出量の削減に役立つとされるものの、発電後の放射性廃棄物の問題を含めて真摯に見つめたうえで、今後の方針を再度見直すべきではないか。

*2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210626&ng=DGKKZO73297070V20C21A6TB0000 (日経新聞 2021.6.26) 小型原発の開発、日本勢動く 脱炭素へ実用化探る、三菱重、建設費半額に/日立、カナダで商談
 原子力発電所の是非を巡る議論が続く日本でも小型原発を開発する動きが出てきた。三菱重工業は出力が従来の3分の1の原子炉を開発する。小型化して建設費を抑え、安全性も高めた。小型原発にはIHIなども米新興企業に出資して参画する。脱炭素につながる電源としての実用化への取り組みは欧米が先行していた。三菱重工は国内の電力大手と小型炉の初期的な設計の協議に入った。出力は30万キロワットと、従来の100万~130万キロワットの3分の1以下だ。工場で複数の部品で構成するモジュールをつくり、現地で据え付ける。設備も簡素化し、現地での作業量を減らせる。電力需要にあわせ設置数を変えられ、将来は海外での受注も視野に入れる。建設費は1基2000億円台と、東日本大震災前に5000億円規模とされた大型炉の半分以下にする。同社の小型炉は蒸気発生器を原子炉内に内蔵し、ポンプなしで冷却水が循環する。非常用電源が災害などで失われた際の安全性を高めたという。東日本大震災では東京電力福島第1原子力発電所で非常用電源が機能しなくなり、冷却できなくなった。小型炉は地下に設置でき、航空機などによる衝突事故への備えが高まる。密閉性が高まり放射性物質の飛散も防げる。商用運転の事例は欧米でもないが、複数の建設計画が進んでいる。米国では新興企業のニュースケール・パワーが小型炉を開発し、米規制当局の技術審査を終えた。出力は約7万7000キロワットで、複数を組み合わせて使う。プールにまるごと沈め、非常用電源なしでも冷却でき事故が起きにくいという。これまで5年から7年かかっていた工期も約3年に短くできる。「2040年代までに400~1000基の受注をめざす」(チーフ・コマーシャル・オフィサーのトム・ムンディ氏)としており、世界各国で11の新設計画についてそれぞれ電力会社などと覚書を交わした。ニュースケールには日揮ホールディングスとIHIも出資した。日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)は海外市場を開拓する。受注を重ねて作業の習熟度を高めれば、建設費を700億~800億円台に下げられるとみる。カナダのオンタリオ電力と出力30万キロワットの小型炉の納入を巡り商談しているほか、エストニアやチェコなどでも営業している。小型炉への注目が高まっているのは、先進国で従来型の大型炉の建設が停滞しているからだ。大型炉は安全対策費が膨らみ、投資回収が難しくなっている。日立・GE連合は英国で大型炉を使う電力事業を計画したが、1基1兆円規模の投資に見合う経済性がないとみて撤退した。三菱重工もフランスの旧アレバ(現フラマトム)と開発していた100万キロワット級の「アトメア」の開発を凍結した。国際エネルギー機関(IEA)は、50年にカーボンゼロを達成するには化石燃料への投資を止め、30年までに毎年1700万キロワット分、31年以降は毎年2400万キロワット分の原発稼働が必要と試算する。関西電力と九州電力も小型炉などの活用を長期計画に明記した。国内の主要企業では約1万人が原発事業に従事し、三菱重工で約4000人、日立でも約1600人が働く。メーカーには小型炉の開発・建設を通じ、関連する雇用や技術を維持したいとの思惑もある。課題も多い。ひとつは発電コストだ。三菱重工の場合、1キロワット時あたり10円強のいまの大型炉より高くなる見込み。国内では原発管理の不備も続き、地元住民の反発もある。いま策定中のエネルギー基本計画でも、原発の建て替え・新増設を明記するのか議論が割れている。国内での新設の原発は09年に稼働したのを最後に、青森県や島根県で着工済みの工事は進んでいない。

<防衛にも計画性のない国、日本←それでは勝てるわけがない>
*3-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021070500799&g=pol (時事 2021年7月5日) 台湾有事で集団的自衛権行使も 麻生氏
 麻生太郎副総理兼財務相は5日、東京都内で講演し、中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法が定める「存立危機事態」に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得るとの認識を示した。存立危機事態は、日本と密接な関係にある他国が攻撃され日本の存立が脅かされる明白な危険がある事態で、集団的自衛権を行使する際の要件の一つ。麻生氏は「(台湾で)大きな問題が起きると、存立危機事態に関係してきても全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾を防衛しなければいけない」と述べた。

*3-2:https://newswitch.jp/p/23594 (ニュースイッチ 2020年8月29日) 「むつ」以来のタブーを破り、日本が原子力潜水艦を造るべき深い理由、元IEA事務局長・田中伸男氏「まずは米国から1隻購入し技術移転を」
 現在、世界で使われている商業用原子炉はそのほとんどが大型軽水炉である。この炉型は大型かつベースロードで運用し、電力線網で広範囲に送電するという集中型電力システムで低コストを実現してきた。しかし東京電力福島第一原子力発電所事故でリスクの高さを露呈し、安全対策の強化で建設コストが上昇、新設では太陽光風力発電に対して競争力を喪失しつつある。今後は既存原発の運転期間を延長することでコスト上昇を抑えるしかない。大型軽水炉は将来的には小型モジュラー炉にとって代わられるだろう。軽水炉の弱みは、冷却水の供給が何らかの理由で途絶えることで燃料のメルトダウンを招く点にある。逆に船舶用の動力として使えば、万が一の場合、海中投棄でメルトダウンは防げる。燃料の補充が長期にわたって不要な点で潜水艦、砕氷船、発電バージなどで小型軽水炉は最適である。日本も原子力船「むつ」を建造し、自前の舶用小型軽水炉を実証したが、放射線漏れを起こし、残念ながら建造路線は放棄された。まずは、むつの失敗を総括するところから始めなければならない。笹川平和財団では北極海航路用砕氷船を前提として勉強会を始めたところである。関係者の話を伺ったが、むつ建造に関わった複数企業の設計インターフェースの悪さ、海外専門家から放射線漏れの可能性を指摘されながらも十分に検討しなかった建造体制の不備などが問題だったようだ。笹川平和財団では2017年から18年にかけて、インド洋地域における海洋安全保障に関する日米豪印4カ国専門家会議を開き、政策提言を取りまとめた。記者会見で配られた提言は報道されなかったが、その中に「日本政府はシーレーン防衛のため原子力推進の潜水艦保有を検討すべきではないか」という項目があった。自由で開かれたインド太平洋を海洋安全保障戦略の基本としている4カ国の専門家が一致して原子力潜水艦の必要性を指摘したのは重い。ポストコロナの中国が南シナ海や東シナ海での軍事活動強化に走り、香港の一国二制度を否定したのは、狙いが台湾併合にあることは明らかだ。今後米中関係がさらに悪化して行く中で、台湾有事も想定せざるを得ない。長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役に立つ。日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れるが、毎日浮上する必要があり、秘匿性能と航続距離に課題がある。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄された。敵国領内での基地攻撃の可否が議論されているが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御だ。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきであろう。まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要だ。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきだが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると考える。
【略歴】田中伸男(たなか・のぶお)東大経卒、通商産業省(現経済産業省)入省。通商政策局総務課長、経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長などを経て07年に欧州出身者以外で国際エネルギー機関(IEA)事務局長に就任。16年笹川平和財団会長、20年顧問。70歳。

*3-3:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77734 (現代 2021.1.21) なぜ原子力潜水艦は長い潜航が可能なのか? 推進力、水、酸素すべてを賄う原子の力
●原子力潜水艦が長く潜水を続けられる理由とは?
 1954年の今日、世界初の原子力潜水艦であるアメリカの潜水艦「ノーチラス号」の進水式が執り行われました。原子力潜水艦は、その名前の通り原子力を動力として駆動する潜水艦のことをいいます。ディーゼルエンジンと蓄電池によって駆動する通常の潜水艦と違い、原子力潜水艦は半永久的に潜水可能というメリットがあります。なぜなら、高濃度の核燃料は数十年にわたって原子炉を稼働させることが可能であり、燃料補給がほぼ不要だからです。燃料を気にすることなく原子炉からエネルギーを得られるため、海水を蒸発させて真水を生み出すこともでき、それを電気分解することによって酸素を供給することもできます。これにより、船員の酸素確保のために浮上する必要もなく、連続潜航距離をさらに伸ばすことができるのです。そういった理由から、原子力潜水艦の実現を強く望んだのが、アメリカの海軍大佐ハイマン・リッコーヴァー(Hyman George Rickover、1900-1986)です。第二次世界大戦で潜水艦の重要性を実感した彼は、戦後上官から新しい任務を受け取りました。それが、核エネルギーによる潜水艦の現実性についての研究だったのです。リッコーヴァーが赴いたのは、テネシー州のオークリッジにある国立研究所でした。そこでは、アルヴィン・ワインバーグ(Alvin M. Weinberg、1915-2006)などの研究者が核エネルギーの平和的利用について模索していました。リッコーヴァーは彼ら研究者たちを、ついで軍の上層部を説得し、原子力潜水艦の実現に動き出します。そして、時間と競争しているかのような凄まじいペースで工事を完了させ、戦後10年も立っていない1954年に進水式に至ったのです。ワインバーグによって水の蒸気を利用するコンパクトな原子炉が提案されたことがターニングポイントだったようです。翌年には本格的に稼働し、1958年には北極点の下を潜航通過しています。当時は、原子力は人間が制御でき、平和に利用すれば人々の生活を豊かにするという考えが大勢を占めていた時代です。それに基づき、原子力の商用が強く推進されました。元アメリカ大統領・アイゼンハワー(Dwight David Eisenhower、1890-1969)による1953年の「平和のためのアトム」演説などが代表例です。しかしその後、原子力潜水艦や原子力発電所がいくつもの大事故を起こすことになるのは皆さんもご存じのとおりです。ワインバーグも、当時は安全性より経済面を重視するきらいがあったことを認めています。

<人を大切にしない国、日本 ←社会保障と人権を粗末にしすぎ>
*4-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2390A0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月25日) 市町村66%、病院存続困難に 人口減少巡り国交白書
 政府は25日、2021年の国土交通白書を閣議決定した。人口減少により2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性があるとの試算を示した。公共交通サービスの維持が難しくなり、銀行やコンビニエンスストアが撤退するなど、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる懸念が高まる。地域で医療・福祉や買い物、教育などの機能を維持するには一定の人口規模と公共交通ネットワークが欠かせない。人口推計では50年人口が15年比で半数未満となる市町村が中山間地域を中心に約3割に上る。試算によると、地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる境目となる人口規模は1万7500人で、これを下回ると存続確率が50%以下となる。基準を満たせない市町村の割合は15年の53%から50年には66%まで増える。同様に50年時点で銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村でゼロになるリスクがある。新型コロナウイルス禍は公共交通の核となるバス事業者の経営難に拍車をかけた。20年5月の乗り合いバス利用者はコロナ前の19年同月比で50%減少し、足元でも低迷が続く。白書は交通基盤を支えられないと「地域の存続自体も危うくなる」と警鐘を鳴らす。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210702&ng=DGKKZO73459090R00C21A7KE8000 (日経新聞 2021.7.2) コロナが示した医療の課題(上) 逼迫時の役割分担 明確に 小塩隆士・一橋大学教授(1960年生まれ。東京大教養卒、大阪大博士(国際公共政策)。専門は公共経済学)
<ポイント>
○政策の微調整での対応は信認弱める恐れ
○急性期医療へのシフトなど構造改革急げ
○利用者の受診抑制の要因や影響探る必要
 新型コロナウイルスの感染拡大を巡っては、変異株の脅威のほか、五輪開催という重大なリスク要因が存在する。一方で、ワクチン接種の大幅加速という好材料も出てきた。感染拡大の発生から1年半近くが経過し、ポストコロナの医療供給体制にとっても重要な課題が浮き彫りになった。まず新型コロナが日本人の健康に及ぼした影響を大まかにみてみよう。感染者数・死者数ともに、日本はほかの先進国と比べ著しく少なく、影響はかなり限定的だというのが一般的な受け止め方だろう。果たしてその理解でよいか。コロナ対策の評価にも影響する。図は、新型コロナを原因とする100万人当たり新規死者数(7日間合計)の推移を国際比較したものだ。図の上段は英米独日の比較、下段は日韓の比較だ(上段の目盛りは下段の20倍)。日本での影響はこれまで欧米諸国に比べ極めて軽微だった。しかし2つの点に注意が必要だ。まず図の上段の右端、つまり直近の数字をみると日本と英米独との差はほとんどなくなっている。ワクチン接種が加速している欧米諸国で死者数が大幅に減少してきたからだ。その結果、コロナの影響は「瞬間風速」としては、今では欧米とほぼ同じレベルになっている。変異株の影響もあり先行きは不透明だが、足元のこの状況は押さえておいたほうがよい。さらに重要なのは、図の上下を比較すれば明らかなように、死者数が形成してきた「波」の違いだ。欧米の死者数は2つの大きな波を形成してきたが、第2波が2021年1月ごろにピークを越えた後は、何とか収束に向かいつつある。日本では20年春に第1波が発生し、現在の波は通常、第4波と呼ばれる。欧米の第2波、日本の第3波には規制の解除・緩和を受けたリバウンド(感染再拡大)という共通点がある。だが欧米には死者数でみる限り第3波は明確な形では到来していない。景気もV字型の回復軌道に乗った。一方、日本には過去のピークを上回る第4波が到来し、対応に苦慮している。韓国でも、日本の第4波のような大きな波は発生していない。こうした波の違いは、日本政府によるコロナ対応の問題点を示唆している。本格的な市中感染の到来を予期せず、全国レベルのワクチン接種に大きく出遅れたのが、違いを生んだ主因だというのが筆者の判断だ。欧米諸国はワクチン接種と厳格な移動規制の合わせ技で、コロナ感染を力ずくでねじ伏せつつある。これに対し、日本がとってきたアプローチは経済活動に目配りをしつつ、感染者数などの動きをみながら、緊急事態宣言の発令と解除を繰り返し、さらに地域別に規制の濃淡をつけるなど、微調整で対処するものだ。本格的なロックダウン(都市封鎖)を許容する法制度がなく、ワクチン接種を急がなかったという制約条件、しかも五輪開催も予定される状況の下では、この方針は最適解だったかもしれない。だがそれはあくまでも制約条件を所与とした場合の机上の話だ。ロックダウンは難しいとしても、ワクチン接種なしで移動抑制だけで感染を抑え込もうとしても無理が出てくる。政策の微調整はそれだけを取り出してみれば合理的だとしても、方針を分かりにくくし、政策への信認を弱めてきた可能性がある。規制とリバウンドのいたちごっこを生み、政策の調整が感染の波を増幅させ、収束をむしろ遅らせてこなかったか。また入国管理や検疫に漏れはなかったか。経済への影響も含め、詳細な検証が必要になる。そうした対応の問題点を考慮に入れても、日本のコロナ感染の健康面へのショックは国際的にみれば軽微だったとの見方はできる。だが医療システムが余裕を持って感染拡大に対処できたかと問われると、答えは残念ながら「ノー」だ。日本の人口当たりベッド数は世界でトップクラスだ。しかも感染拡大の規模は諸外国より限定的だった。にもかかわらず、コロナ対応の最前線に立つ医療現場は逼迫し、崩壊寸前、あるいは事実上の崩壊に至ったところも少なくない。日本のベッド数は確かに多いが、精神病床や療養病床の比重も大きい。コロナ対応が可能な一般病床は全体の6割弱だが、すべてが急性期医療に特化しているわけではない。厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」の会合(20年10月21日)に提出された資料によると、全医療機関のうち、新型コロナ患者の受け入れ可能な機関は23%、受け入れ実績がある機関は19%にとどまる。しかも受け入れ実績のある機関でも、人工呼吸器、体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)またはその両方を使用した患者を受け入れていた機関に限ると全体の4%どまりだ。民間医療機関に患者の受け入れを要請する法制度も未整備だ。現場レベルでの調整は徐々に進んでいるが、感染再拡大をみてからの対応であり、後手に回ったといわざるを得ない。医療システムにかかる負荷は全体としてみれば小さくても、局所的には耐え難いほど高くなる。それを認識せず、その仕組みも改めずに経済活動を優先すると大変なことになる。日本の医療供給体制はもともと新型コロナのようなパンデミック(世界的流行)を想定した仕組みにはなっていない。公的介護保険の導入後も、日本の医療供給は平均在院日数の長い患者の療養を念頭に置いた面が色濃く残っている。社会全体の医療資源の使い方として非効率な面はないか。この問題がコロナ禍で改めて浮き彫りになった。医療供給体制にとって最低限必要なのは、医療逼迫時における地域医療機関の役割分担を明確にしておくことだ。長期的には、医療資源を急性期医療に一層シフトさせるとともに、地域医療機関間のネットワーク化を推進するなど、構造的な改革が求められる。最後に、日本の医療供給体制にとっての潜在的な問題点を指摘しておきたい。コロナ禍の下で利用者の受診抑制の動きがみられることだ。厚労省の研究でも明らかなように、コロナ禍の下で健康診断や各種のがん検診、人間ドック受診を抑制する傾向もみられる。問題は利用者の抑制行動が何を意味するかだ。抑制した人とそうでない人を比較して、コロナ発生前からの健康状態の変化に差がなければ、医療サービスの供給に過剰な部分があったことになる。逆に抑制した結果、健康状態が悪化していれば、必要な医療サービスがコロナ禍で受けられなかったことになる。この判定は極めて難しい。感染収束後も長期の追跡調査が必要だ。所得や就業状態など他の要因にも左右される。だがコロナ禍は医療を巡る利用者の行動変容をもたらしている可能性が高い。だとすれば、医療給付費の長期予測にも大きな影響が出てくる。まさしく統計的なエビデンス(証拠)に基づく政策評価・立案が必要となるテーマだ。コロナ禍は日本の医療供給体制の効率性や持続可能性にもかなりの影響を及ぼしている。

*4-2-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021071400125 (信濃毎日新聞社説 2021/7/14) 教員免許更新制 廃止の判断遅きに失した
 遅きに失したと言うべきだろう。文部科学省が、教員免許の更新制を廃止する方向で検討を進めている。更新には30時間以上の講習を自費で受ける必要があり、負担を訴える現場の声は導入当初から強かった。10年以上にわたって半ば漫然と存続させてきたことが問われなければならない。廃止で事を済まさず、文科省は経過を検証すべきだ。萩生田光一文科相が、制度の抜本的な見直しを中央教育審議会に諮問している。廃止の結論を得て、来年の国会への教員免許法の改定案提出を目指す。免許の期限を10年とし、大学などで講習を期限内に修了すると更新が認められる。お金と時間を負担するのは教員だ。数万円の講習費用と交通費を出し、夏休みの期間などに通わざるを得ない。教員を対象にした文科省の調査で、大多数が負担感を示す一方、講習が役に立っていると答えたのは3分の1にとどまった。自由記述では、制度を廃止すべきだとの回答が最も多かったという。更新制は教員不足の一因にもなってきた。定年前に期限を迎える教員が早期退職する動機になるほか、産休・育休取得者の代替教員の確保を難しくしている。更新を忘れて免許が失効していることが分かり、引き続き教壇に立てなくなった事例もある。2000年代初めころ、自民党の議員らから上がった「不適格教員の排除」の掛け声が制度化の発端だ。管理の強化があらわな主張に現場の反発は強く、いったんは見送られたが、第1次安倍政権下、政治主導で免許法が改定され、09年度から導入された。文科省は、教員の資質確保が目的で、不適格教員を排除する趣旨ではないと説明している。そもそもなぜ免許の更新は必要なのか。制度化の根拠は曖昧だ。その後、民主党政権が廃止の方針を打ち出したものの、参院で過半数を失って法改定を断念。自民党の政権復帰で立ち消えになっていた。教員の多忙さは増し、学校現場の疲弊は深い。いじめをはじめ子どもたちが抱える問題への対応が追いついていない現状がある。そこへ官製の研修が詰め込まれ、現場をさらに追い立てている。その状況をどう改めるか。教員が日々、子どもとじっくり向き合って力量を高める。それぞれが直面する課題を持ち寄って自主的に学び合う。そのための時間や余裕を生むことが肝心だ。文科省は現場を下支えすることにこそ力を傾けなくてはならない。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210715&ng=DGKKZO73895020V10C21A7CE0000 (日経新聞 2021.7.15) 芸術や数学で突出でも不登校 「ギフテッド」の子に支援策 文科省会議、指導法など議論
 特定分野で突出した才能を持つ子どもへの支援について話し合う文部科学省の有識者会議は15日までに、初会合を開き、具体策の検討を始めた。芸術性や数学力などの面で抜きんでているものの、学年ごとのカリキュラムや周囲にうまく適合できず、不登校になるケースも。こうした子どもの状況に応じた指導の在り方、大学、民間団体との連携などを議論し、年内にも論点をまとめる。文科省などによると、米国では、同年齢よりも特に高い知能や創造性、芸術的才能などを発揮する子どもを「ギフテッド」と呼び、早期入学や飛び級といった特別な教育プログラムが用意されている。中にはこだわりが強すぎたり、集団行動が苦手だったりする子もいるとされ、どう支援するかも課題となっている。一方、日本では「単純な課題は苦手だが複雑で高度な活動は得意など、多様な特徴の児童生徒が一定割合存在する」(1月の中教審答申)とされるものの、十分に議論されてこなかった。このため、教育関係者や保護者らの間でも認識や対応にばらつきがあるのが現状だ。会合では、実際にこうした子どもが不登校となっている事例が報告されたほか、「同質性の高い学校文化そのものを見直すべきだ」との意見が出た。委員の松村暢隆関西大名誉教授は「『トップ人材を輩出する』といった目標から出発するのではなく、困っている才能児のニーズに対応するとの視点で議論していくべきだ」と指摘。発達障害を抱える子どももいるとして、特別支援教育や生徒指導との連携も必要とした。

*4-3-1:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202107/0014461592.shtml (神戸新聞 2021/7/1) 職場接種停止/国は態勢立て直しを急げ
 政府は、新型コロナウイルスワクチンの企業や大学などでの職場接種の申請受け付けを急きょ停止した。想定を超える申請が殺到し、接種に使われる米モデルナ製ワクチンの供給が追いつかなくなったためだ。与党からは、国と自治体による大規模接種分を回すなどして早期再開を求める声が出ているが、見通しは立っていない。このまま打ち切られる可能性もあるという。開始から間もない方針転換で、準備を進めていた企業などの混乱は計り知れない。政府は見通しの甘さを猛省し、停止の経緯と再開の可否についてきちんと説明するべきだ。混乱は自治体の現場でも起きている。7月後半以降のワクチン配分量が政府から示されないなどで、兵庫県内の複数市町で64歳以下の接種予約が滞っていることが分かった。米ファイザー製を含めたワクチン供給量は全国民分を確保していると政府は強調するが、実際に大きな混乱が生じているのはなぜか。菅義偉首相は「1日100万回」「11月末までに希望者全員に」などの数値目標を掲げた。これを達成するため、準備不足にもかかわらず、スピード重視で進めようとした無理がたたったのは明らかだろう。政府は態勢を早急に立て直し、今後のワクチン供給量と配分計画を明確に示すべきだ。職場接種は、現役世代の接種を加速させ、社会全体を感染から守る効果への期待が大きい。だが課題も多い。1カ所で最低千人程度に接種するのが要件とされ、医師や会場は自前で確保しなければならない。すぐ対応できる大企業が先行する一方、国内企業の大半を占める中小企業にはハードルが高く、不公平感は否めない。温泉地や業界団体が同業各社を集めて共同実施にこぎつけた例もあるが、医師や会場が確保できず断念した企業もある。政府は小規模でも接種が可能な仕組みや、負担軽減に向けた支援拡充を検討するべきだ。一方、「打ち手」の争奪戦が起きれば、軌道に乗りつつある自治体の接種に影響しかねない。国と自治体、医師会などが連携して接種体制の再点検に努めねばならない。接種の本格化に伴う同調圧力にも注意が必要となる。持病や医学的な理由で接種を受けられない人や、副反応への不安などから接種を望まない人もいる。接種の強要や、打たない人が不利益を被るような対応があってはならない。今後、接種対象となる若い世代には高齢者と比べて副反応が出やすいとの報告もある。政府や自治体は、丁寧な情報開示と相談窓口の充実に取り組んでもらいたい。

*4-3-2:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210622_03.html (東京商工リサーチ 2021.6.22) 「新型コロナウイルス」関連破たん 1,661件
 6月22日は16時時点で「新型コロナ」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)が7件判明、全国で累計1,580件(倒産1,482件、弁護士一任・準備中98件)となった。月別では2月(122件)、3月(139件)、4月(154件)と、3カ月連続で最多件数を更新した。5月は124件と、2021年1月以来4カ月ぶりに前月を下回ったが、過去3番目の件数と高水準だった。6月は22日までに105件が判明し5カ月連続で100件を超え、前月を上回るペースで推移している。なお、倒産集計の対象外となる負債1,000万円未満の小規模倒産は累計81件判明。この結果、負債1,000万円未満を含めた新型コロナウイルス関連破たんは累計で1,661件となった。3度目の緊急事態宣言は沖縄県を除き6月20日をもって解除された。ただし、一部地域はまん延防止等重点措置に移行し、飲食店の酒類提供や営業時間の制限は継続する。当面は流動的な状況で、消費関連企業にとって厳しい環境が続きそうだ。ダメージを受けた企業への金融支援策は継続するが、事業環境が回復しないままコロナ融資の返済がスタートする過剰債務の問題も浮上している。息切れや事業継続をあきらめて破たんに至るケースも目立ち始め、コロナ関連破たんは引き続き高水準で推移する可能性が高い。
【都道府県別】(負債1,000万円以上) ~ 30件以上は12都道府県 ~
 都道府県別では、東京都が372件(倒産351件、準備中21件)に達し、全体の約4分の1(構成比23.5%)を占め、突出している。以下、大阪府159件(倒産151件、準備中8件)、神奈川県80件(倒産73件、準備中7件)、愛知県74件(倒産74件、準備中0件)、北海道64件(倒産63件、準備中1件)と続く。22日は北海道、山形県、茨城県、東京都、石川県、大阪府、兵庫県でそれぞれ1件判明した。10~20件未満が17県、20~30件未満が8府県、30件以上は12都道府県に広がっている。
【業種別】(負債1,000万円以上)~飲食が最多284件、建設153件、アパレル135件、宿泊83件 ~
 業種別では、来店客の減少、休業要請などで打撃を受けた飲食業が最多の284件。一部地域では休業や時短の要請が継続し、営業制限が続く飲食業の新型コロナ破たんがさらに増加する可能性が強まっている。次いで、工事計画の見直しなどの影響を受けた建設業が153件、小売店の休業が影響したアパレル関連(製造、販売)の135件。このほか、インバウンドの需要消失や旅行・出張の自粛が影響したホテル,旅館の宿泊業が83件と続く。
また、飲食業などの不振に引きずられている飲食料品卸売業が75件、食品製造業も49件と目立 ち、飲食業界の不振が関連業種に波及している。
【負債額別】(負債1,000万円以上)
 負債額が判明した1,551件の負債額別では、1千万円以上5千万円未満が最多の557件(構成比35.9%)、次いで1億円以上5億円未満が527件(同33.9%)、5千万円以上1億円未満が272件(同17.5%)、5億円以上10億円未満が98件(同6.3%)、 10億円以上が97件(同6.2%)の順。負債1億円未満が829件(同53.4%)と半数を占める。一方、100億円以上の大型倒産も6件発生しており、小・零細企業から大企業まで経営破たんが広がっている。
【形態別】(負債1,000万円以上)
 「新型コロナ」関連破たんのうち、倒産した1,482件の形態別では、破産が1,309件(構成比88.3%)で最多。次いで民事再生法が80件(同5.3%)、取引停止処分が73件(同4.9%)、特別清算が12件、内整理が7件、会社更生法が1件と続く。「新型コロナ」関連倒産の約9割を消滅型の破産が占め、再建型の会社更生法と民事再生法の合計は1割未満にとどまる。業績不振が続いていたところに新型コロナのダメージがとどめを刺すかたちで脱落するケースが大半。
先行きのめどが立たず、再建型の選択が難しいことが浮き彫りとなっている。
【従業員数別】(負債1,000万円以上)
「新型コロナ」関連破たんのうち、従業員数(正社員)が判明した1,466件の従業員数の合計は1万8,143人にのぼった。1,466件の内訳では従業員5人未満が783件(構成比53.4%)と、半数を占めた。次いで、5人以上10人未満が294件(同20.0%)、10人以上20人未満が206件(同14.0%)と続き、従業員数が少ない小規模事業者に、新型コロナ破たんが集中している。また、従業員50名以上の破たんは2021年1-3月で11件発生し、4月は1件発生した。
※ 企業倒産は、負債1,000万円以上の法的整理、私的整理を対象に集計している。
※ 原則として、「新型コロナ」関連の経営破たんは、担当弁護士、当事者から要因の言質が取れたものなどを集計している。
※ 東京商工リサーチの取材で、経営破たんが判明した日を基準に集計、分析した。

*4-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210710&ng=DGKKZO73760110Q1A710C2EA2000 (日経新聞 2021年7月9日) 企業落胆、商機失う 観光業など、打撃大きく
 東京五輪の原則無観客開催で多くの企業が肩すかしを食らっている。宿泊を見込んでいた観光業界は収益への打撃が避けられない。スポンサー企業も製品や技術を売り込む好機のはずが、人々の目に触れる機会が大幅に減る。「朝からキャンセルが止まらない」。東武ホテルレバント東京(東京・墨田)では、9日午前だけで十数件の予約キャンセルが入った。期間中は稼働率約7割を見込んでいたが下がることは必至。大会期間中は通常より数割高い価格で設定していたが、緊急事態宣言の影響もあり「値下げは避けられない」と話す。京王プラザホテルも予約キャンセルが入り始めている。都内の高級ホテルでは大会関係者らの予約が多く入り、無観客でも一定の需要が見込まれる一方で、中堅・中小のホテルのダメージは大手より大きい。JTBなど旅行3社は9日、1都3県での観戦チケット付きの全ツアーを払い戻すと発表した。3社はスポンサーでもあり、このうち1社の幹部は「数十億円のスポンサー料や人件費などをかけてきたが、全て水の泡だ」とため息をつく。グッズ販売も苦戦が避けられない。アシックスは当初、約200億円の売り上げを見込んでいた。同社は9日「無観客シナリオは業績予想に織り込み済み」と発表し、業績下振れ懸念の払拭を図った。大会を「技術のショーケース」と期待していたスポンサーも思惑が外れた。NTTは高速通信規格「5G」を活用。セーリングでは観客席から沖合の船を間近で観戦できるように映像を映し出し、ゴルフでは専用端末を観客に配る計画だった。だが楽しめるのは大会関係者のみになる。セコムは警備ロボット、NECは入退場を管理する顔認証システムを導入するが、PR効果は薄れる。トヨタ自動車は燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)など1000台以上を提供する計画だったが、修正を検討する。大和総研は無観客の場合、大会期間中の経済効果が3500億円程度と、通常開催より4500億円縮小すると予測する。五輪は世界中で視聴される。映像演出など画面を通じて技術をアピールする機会はなお残る。

*4-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA124F40S1A710C2000000/ (日経新聞 2021年7月12日) 県境またぐ移動自粛、接種者も対象 戸惑う観光地
 政府は12日、東京都に4度目となる新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言を適用した。まん延防止の重点措置を含む6都府県の住民には県境をまたぐ不要不急の外出自粛を要請する。ワクチン接種者も一律に対象とする。26日から申請を受け付ける接種証明書も海外渡航用だ。夏のかき入れ時に期待していた国内観光地には戸惑いが広がる。東京の宣言は8月22日まで。宣言を延長する沖縄県、宣言に準じる重点措置を延長する埼玉・千葉・神奈川・大阪の4府県も期限は同じだ。夏休みやお盆に人の移動が活発になるのをにらんだ。政府が8日に改定した基本的対処方針は特に東京や沖縄について「帰省や旅行など都道府県間の移動は極力控えるよう促す」と明記した。国内でも高齢者を中心に増えつつある接種済みの人も扱いに差をつけなかった。首相官邸によると11日時点で65歳以上の76%、2700万人がワクチンを少なくとも1回打っている。ほとんどがファイザー製で3週間後に2回目を打つため、7月中に多くが接種を完了する。ワクチンの普及に期待していた観光地は今回、冷や水を浴びせられた。首都圏からの観光客が多い京都市。八坂神社近くの旅館「ギオン福住」の山田周蔵社長は「東京が動かないと話にならない」と肩を落とす。「予約は4月以降、修学旅行以外はほとんど入っていない。8月中旬までも期待できなくなった」。温泉地の群馬県草津町の旅館「ホテル一井」の市川薫女将も「(8月以降の)予約の入り方が鈍ってきた」と話す。クラブツーリズムは12日以降、東京や沖縄が発着地となる添乗員付きツアーを中止とする。日本旅行の小谷野悦光社長は「夏休みの旅行需要も見込めず、去年より厳しい状況。この夏をどう乗り越えるか、正念場だ」と話す。日本旅行業協会(JATA)の菊間潤吾副会長は「我々にいつまで我慢しろというのか」と憤りを隠さない。政府は感染力の強いインド型(デルタ型)の拡大を警戒している。内閣府幹部は「(接種者であっても)ウイルスを運ぶリスクがある。特にインド型は侮れない」と語る。海外では接種証明書を経済再生に生かす取り組みが進む。欧州連合(EU)は夏のバカンスシーズンを前に、1日から本格運用を始めた。加盟国やスイスなど約30カ国で使える。QRコードを示せば出入国時の検査や自主隔離が免除される。発行数は2億件を超えた。シンガポールは人口の半数が2回目を接種する見込みの7月末以降、制限緩和を進める方針だ。現在は5人までの飲食店の利用を接種者グループは8人まで認めることなどを検討している。日本も26日、証明書の申請受け付けを始める。加藤勝信官房長官は12日の記者会見で「海外に渡航する際に防疫措置の緩和を受けるのを目的とする」と述べた。イタリアなど十数カ国に要請している。国内での活用は現時点で想定していない。「接種の有無による不当な差別は適切ではない」と説明した。チグハグにも映る対応に経済界は異を唱える。経団連は接種証明書を早期に活用し、国内旅行などの要件を緩和すべきだと提言している。病床確保などの対策を進めつつ、経済をいかに回すかはコロナの感染拡大当初からの課題だ。ワクチンの普及など状況の変化を踏まえた柔軟な対応も求められる。

*4-3-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/707944 (佐賀新聞 2021.7.17) コロナ拡大と五輪、国民は「安全」なのか
 国民の「安全」を守り、暮らしに「安心」をもたらす。一国のリーダーにとって最大の責務であることは言うまでもない。世界が注目する東京五輪・パラリンピックの開幕が迫った日本で、菅義偉首相はその使命を果たしているのか。五輪開催都市である東京で新型コロナウイルスの感染者が急増している。1日当たり千人を超す新規感染者数の報告が続き、5月の「第4波」ピーク時を上回っている。4度目になる緊急事態宣言が発令中だが、その効果は表れていない。専門家は現在の増加ペースで推移すれば、五輪閉会後には2400人程度に上るとの試算を公表した。年末年始の「第3波」さえ超える水準だ。東京など首都圏の感染者数は全国のおよそ3分の2を占めている。今後、インドに由来する感染力が強いデルタ株への置き換わりが進み、感染再拡大が首都圏から全国に波及する可能性もある。感染を収束させられないのは、政府対策の不備や迷走が第1の要因だろう。それでも五輪は23日に開幕する。21日には一部競技が先行して始まる。菅首相が「安全、安心な大会を実現する」と主張し、開催に突き進んできたためだ。1964年以来、日本では2度目となる夏の五輪には選手約1万人、大会関係者約4万1千人の来日が見込まれ、入国は本格化している。五輪は選手らと外部の接触を遮断する「バブル」方式で運営され、10都道県での広域実施となる33競技・339種目の大半は無観客の会場で行われる。菅首相は選手らの多くがワクチン接種を済ませている上、厳格な検査と行動制限を課すことで、ウイルスの国内流入を防ぐと強調する。だが事前合宿先で感染が判明した例もあり、水際対策は万全ではあるまい。選手村には、2回目の接種を終えていない日本人スタッフらが出入りする。管理の緩さが露呈した関係者の行動も問題視されている。バブルに穴がないか常時点検するとともに、五輪を発生源としたクラスター(感染者集団)を認知した場合、大会を続行するかどうかを検討しておく必要がある。菅首相はコロナ禍で行われる東京五輪の開催意義を巡って「世界が一つになり、難局を乗り越えていけることを発信したい」と繰り返している。さすがに「コロナに打ち勝った証し」との言い回しは封印したようだ。だが、生活や事業がコロナ前に戻るのはいつかという国民が一番知りたいことに答えていないのに、無責任な意義付けだと指摘せざるを得ない。主催者である国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長の現状認識にも疑問が湧く。バブル方式によりコロナ感染を「日本国民が恐れる必要はない」と断言。首相と会談した際には、感染状況が改善した場合「有観客」を検討してほしいと伝えたという。首相と同じく「五輪ありき」の姿勢がうかがえ、国民感情を軽視していると批判されても仕方あるまい。菅首相が何より優先しなくてはならないのは、五輪を予定通り終わらせることではない。国民の命を守るためコロナ感染を一日も早く収束に向かわせることだ。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求に応え、コロナ対策を充実させる論議に臨むべきだ。首相に値するか問われている。

*4-4-1:https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/929053.html (静岡新聞社説 2021年7月14日) 来日選手難民申請 認定制度見直す機会に
 サッカー・ワールドカップ予選のため来日していたミャンマー代表選手のピエ・リヤン・アウンさんが、クーデターを起こした国軍に抗議の意志を示して帰国を拒否し、日本に難民認定を申請した。本国の家族や帰国したチームメートの身を案じながら、自らが帰国した場合、生命の危機にさらされると考えて下した苦渋の決断だった。クーデター後のミャンマー情勢には世界の目が注がれている。日本政府は5月、日本在留の継続を望むミャンマー人に対して緊急避難措置として在留延長や就労を認める方針を示した。ピエ・リヤン・アウンさんは在留延長が認められ、難民認定も出入国在留管理庁は迅速に手続きを進めるという。日本は他の先進国と比べて難民認定の判断基準が厳しく、認定数が極端に少ないと指摘されている。ここ数年、ミャンマー人は一人も認定されていなかった。人道上の見地から安心して帰国できる治安情勢になるまで保護するのは当然で、国際社会の視線を気にした例外的な対応であってはならない。認定のハードルが高いため、これまで本来、保護されるべき人が保護されていないまま本国へ送り返されるようなことはなかったのか。難民認定の在り方について見直す機会にしたい。難民条約は人種、宗教や政治的意見を理由に母国で迫害される恐れがある人を難民と定義し、各国が保護するよう求めている。日本は条約に加入した1981年以降、計約840人を難民として認定してきた。だが、他国と比べると、難民の受け入れに消極的なのは一目瞭然で、条約加入国の義務を十分果たしているとはいえない。2019年の1年間だけでも、難民認定はドイツ約5万3千人、米国約4万4千人、フランス約3万人に上る。認定率も18~30%と高い。日本の認定者は44人で、認定率は0・4%だった。他国なら難民と認められても当然な状況ながら日本で認定されなかったため、本国に帰ることもできず難民申請を繰り返さざるを得ない外国人も多いのではないか。先の国会で難民申請の回数を制限する入管難民法の改正案が提出されたが、入管施設収容中のスリランカ女性の死を巡って野党の強い反発もあり、与党は成立を断念した。難民認定は人命に関わる重要な手続きだ。申請者の出身国の情勢をしっかり見極めた上で認定の是非を判断しなければならない。国会での政治的駆け引きではなく、外国人の人権保護という原点に立ち戻って認定制度について真剣に議論する必要がある。

*4-4-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021071601004&g=spo (時事 2021年7月16日) ウガンダ選手が所在不明 事前合宿地の大阪府泉佐野市〔五輪〕
 大阪府泉佐野市は16日、東京五輪の事前合宿で受け入れているウガンダ選手団の男子選手の所在が分からなくなっていると発表した。この選手は重量挙げのジュリアス・セチトレコさん(20)で、市は警察に届け出た上で行方を捜している。16日正午すぎに、セチトレコ選手の新型コロナウイルスのPCR検査が行われていないことに気付いた市職員が、ホテルの部屋を確認したところ不在だった。部屋には「日本で仕事がしたい。生活が厳しい国には戻らない」という趣旨の書き置きが残されていた。市はJR西日本に問い合わせ、同選手が名古屋行き新幹線の切符を購入したことも確認したという。市によると、セチトレコ選手は合宿期間中に世界ランキングが下がって五輪に出場できなくなり、コーチとともに近く成田空港から帰国する予定だった。選手団9人は6月19日、成田空港に到着。入国時の検査で1人が陽性判定を受けた。一行が泉佐野市に移ってから残りの8人全員が濃厚接触者と特定され、さらに別の1人の感染が判明。その後、基準を満たしたため練習を再開していた。

<先端科学で証明しよう、日本人のルーツと古代史>
*5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC18CCA0Y1A610C2000000/ (日経新聞 2021年6月23日) 渡来人は四国に多かった? ゲノムが明かす日本人ルーツ
 私たち日本人は、縄文人の子孫が大陸から来た渡来人と混血することで生まれた。現代人のゲノム(全遺伝情報)を解析したところ、47都道府県で縄文人由来と渡来人由来のゲノム比率が異なることがわかった。弥生時代に起こった混血の痕跡は今も残っているようだ。東京大学の大橋順教授らは、ヤフーが2020年まで実施していた遺伝子検査サービスに集まったデータのうち、許諾の得られたものを解析した。1都道府県あたり50人のデータを解析したところ、沖縄県で縄文人由来のゲノム成分比率が非常に高く、逆に渡来人由来のゲノム成分が最も高かったのは滋賀県だった。沖縄県の次に縄文人由来のゲノム成分が高かったのは九州や東北だ。一方、渡来人由来のゲノム成分が高かったのは近畿と北陸、四国だった。特に四国は島全体で渡来人由来の比率が高い。なお、北海道は今回のデータにアイヌの人々が含まれておらず、関東の各県と近い比率だった。以上の結果は、渡来人が朝鮮半島経由で九州北部に上陸したとする一般的な考え方とは一見食い違うように思える。上陸地点である九州北部よりも、列島中央部の近畿などの方が渡来人由来の成分が高いからだ。大橋教授は「九州北部では上陸後も渡来人の人口があまり増えず、むしろ四国や近畿などの地域で人口が拡大したのではないか」と話す。近年の遺伝学や考古学の成果から、縄文人の子孫と渡来人の混血は数百~1000年ほどかけてゆっくりと進んだとみられている。弥生時代を通じて縄文人と渡来人が長い期間共存していたことが愛知県の遺跡の調査などで判明している。どのような過程で混血が進んだのかはまだ不明で、弥生時代の謎は深まる一方だ。今回の解析で見えた現代の日本列島に残る都道府県ごとの違いは、弥生時代の混血の過程で起こったまだ誰も知らない出来事を反映している可能性がある。書物にも残されていない日本人の歴史の序章は、ほかならぬ私たち自身のゲノムに刻まれているのだ。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210708&ng=DGKKZO73668690X00C21A7TB2000 (日経新聞 2021.7.8) 10万人のゲノム解析 東北大・武田など5社連携 創薬に利用、欧米を追う
 東北大学は7日、武田薬品工業やエーザイなど製薬大手5社と、10万人分のゲノムを解析するためのコンソーシアムを設立したと発表した。製薬会社が従来の10倍以上のゲノムデータを創薬や診断技術の開発などに利用できるようにする。欧米には数十万人規模のバイオバンクがすでにあり、ようやく日本もゲノムをもとに新薬を探す「ゲノム創薬」の基盤整備が進む。バイオバンクは健康な人や患者から、血液や尿などの試料、そのゲノムを解析したデータを収集する。年齢・性別、生活習慣や病気の履歴などのデータも合わせて蓄積し、これらを創薬研究する企業や大学などに提供する。データを活用すれば、新薬の開発やそれぞれの患者に適した治療をする「個別化医療」の実現に役立つ。東北大が運営する東北メディカル・メガバンク機構は2012年に設置。宮城県、岩手県の15.7万人超のデータや試料をもつが、ゲノム解析に時間や費用がかかり、企業が利用できるデータは約8300人分にとどまっていた。コンソーシアムは文部科学省の予算約40億円と企業の資金をもとに、24年までに10万人分のゲノム解析を目指す。21年度中に6万人分の初期的な解析を終える予定だ。参加するのはエーザイ、小野薬品工業、武田、第一三共、米ジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のヤンセンファーマ。5社は10万人分のゲノムデータを優先的に利用できる。記者会見した東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之機構長は「10万人のゲノムデータがあれば、日本人で見つかる遺伝子変異を網羅的に探せるだろう」と話した。製薬会社は治療薬や診断法の開発につなげる狙いだ。武田は国内でも先駆けてゲノム創薬に取り組んできた。19年には英国の「UKバイオバンク」に参加。一定の使用料を支払い、50万人規模のゲノムデータを活用している。20年には東北メディカル・メガバンク機構と共同研究を開始。認知機能の低下など精神・神経疾患を引き起こす要因を中心に調べ、新薬や治療法の確立を目指している。エーザイも21年5月に国立がん研究センターが持つがん組織のゲノムデータをもとに、希少がんの治療薬の開発に乗り出している。もっとも、ゲノムデータ収集で先行するのは欧米だ。武田が参画する英国の「UKバイオバンク」は06年から健康な50万人を追跡。米ファイザーや英アストラゼネカなど世界のメガファーマも参画する。ゲノムデータをはじめとして、生活習慣や既往歴などの情報が利用でき、創薬に利用しやすいという。英国にはがんや希少疾患の患者を対象とした政府系機関によるバイオバンクもあり、18年12月に10万人のゲノム解析を終えた。米国では100万人分を目標に約49万人分を集めた取り組みなどがある。ゲノム解析などに詳しいアーサー・ディ・リトル・ジャパンの小林美保シニアコンサルタントは「UKバイオバンクは英政府が支援しており、データが集まってくる仕組みがある」と指摘する。日本も国の支援のもとデータを集める仕組み作りが必要だ。

<感染者・濃厚接触者も検査で陰性になれば出場させるのが適切>
PS(2021年7月20、21日追加):*6-1のように、「①東京五輪に出場する選手が新型コロナ感染者の濃厚接触者でも、試合開始6時間前に実施するPCR検査で陰性なら出場を認める」「②国内の濃厚接触者は14日間の自宅待機等が求められ、五輪選手への特例的対応」「③プレーブックでは、濃厚接触者は個室に移動し、1人での食事などが求められ、試合出場に国際競技団体の同意が必要とされていた」「④南アフリカのラグビーチームで選手ら18人が大会での濃厚接触者の取り扱いが課題となっていた」と書かれている。
 しかし、濃厚接触者は感染を疑われる者でしかなく、PCR検査で陰性ならその疑いは晴れている。また、PCR検査を数回やって陰性ならなおさら安心で、14日間の自宅待機・個室への移動・1人での食事も不要であり、プレーブックの方が間違いだ。もちろん、国民も同じである。そのため、南アフリカの選手が1人であれ複数であれ、不要な出場禁止や幽閉は、権利の侵害にあたる。また、*6-2の米女子体操選手と濃厚接触者になった選手も、PCR検査で陰性なら何の問題もなく出場を認めてよい筈だ。
 さらに、*6-3のように、「①私立米子松蔭高は、7月16日に学校関係者に新型コロナ感染が判明し、第103回全国高校野球選手権鳥取大会への出場を一度は辞退した」「②ベンチ入りした全野球部員の陰性を確認したが、7月17日の試合直前に辞退を決めた」とのことだが、選手本人が陰性なら辞退する必要はない。にもかかわらず、学校関係者に新型コロナ感染が判明したことを罰するかのように、出場を辞退させるのは非科学的すぎる。また、学校関係者に感染者がいたことが全体の責任ででもあるかのような対応をとれば、悪くもない感染者を窮地に追い詰め、差別やいじめに繋がって教育上も悪影響がある。そのため、「鳥取県高野連が世論の高まりを受けて出場を容認したからよい」のではなく、こういう理不尽な判断が教育現場でまかり通った理由を追及すべきである。

*6-1:ttps://digital.asahi.com/articles/ASP7J3V8MP7JUTQP005.html (朝日新聞 2021年7月16日) 五輪選手、濃厚接触者でも検査陰性なら出場へ 特例対応
 東京オリンピック(五輪)・パラリンピックに出場する選手が新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者と判定されても、試合前のPCR検査で陰性となれば出場を認める方向で、政府と大会組織委員会が調整していることがわかった。通常、国内の濃厚接触者は14日間の自宅待機などが求められており、五輪、パラリンピック選手への特例的な対応となる。政府と組織委の対応方針では、濃厚接触者と判定されても、試合開始の6時間前をめどに実施するPCR検査で陰性となれば、出場を認めるという。コロナ対策のルールをまとめた「プレーブック(行動規範)」では、濃厚接触者と認定されると、個室への移動や1人での食事などが求められており、試合出場については国際競技団体の同意などが必要とされていた。今月13日に来日した南アフリカのラグビーチームで選手ら18人が濃厚接触の調査対象者と判定され、事前キャンプ地入りを一時的に見送るなどしており、大会での濃厚接触者の取り扱いが課題となっていた。テニスの4大大会、ウィンブルドン選手権では、濃厚接触者となった選手は自動的に10日間の隔離を強いられ、棄権扱いになっていた。

*6-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/117784 (東京新聞 2021年7月19日) 米女子体操選手が陽性 事前合宿中、1人濃厚接触
 千葉県印西市は19日、同市で事前キャンプをしていた東京五輪の米女子体操選手団のうち、10代選手1人が新型コロナウイルス検査で陽性になったと発表した。別の選手1人が濃厚接触者として宿泊先のホテルで待機している。市によると、選手団は15日の入国後、毎朝スクリーニング検査を実施。10代選手は18日に陽性疑いが出て、19日未明に病院の検査で確定した。選手団はトレーニング以外での外出はしておらず、移動は貸し切りのバスを利用していた。感染した選手と濃厚接触者を除く選手団は19日午後、東京五輪の選手村に移動した。

*6-3:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1359293.html (琉球新報 2021年7月21日) 米子松蔭高、鳥取大会初戦を制す コロナで辞退から一転
 学校関係者に新型コロナウイルスの感染者が出たため、第103回全国高校野球選手権鳥取大会への出場を一度は辞退しながら、一転して出場が決まった私立米子松蔭高の再試合が21日、米子市内で開かれた。17日に行われるはずだった境高との初戦(2回戦)で、米子松蔭高は0対2でリードされていた九回裏に3点を入れ、逆転サヨナラ勝ちした。米子松蔭高は春季鳥取大会を制した強豪校。16日に学校関係者の陽性が判明。ベンチ入りした全野球部員の陰性を確認したが、17日の試合直前に辞退を決めた。世論の高まりを受け、県高野連は19日に不戦敗の記録を取り消し、出場を容認した。

| 経済・雇用::2021.4~ | 11:46 PM | comments (x) | trackback (x) |
2021.4.3~12 日本は無駄遣いの許されない財政状態だが、何が無駄遣いに当たるのか? (2021年4月15、17、18、19《図》、24、25、26、30日に追加あり)
   
   MOF        2021.1.29北海道新聞        2020.12.21時事  

(図の説明:左図が、2020年度二次補正予算まで入れた日本の歳出・歳入・国債残高で、新型コロナによる散財でわにの口が上に折れた。これに、中央の図の第三次補正予算も加わり、2020年度の総歳出額は170兆5,512億円となる。そして、2021年度も、106兆6,097億円の歳出と43億5,970円の新規国債発行を見込んでいる)


   President図1、図2      President図3    President図4  President図5

(図の説明:Presidentの図1、図2のように、日本における新型コロナの感染者数・死者数は欧米の1/100だが、発生数は世界中で頭打ちになっているのに、日本だけ漸増している。そして、Presidentの図3、4、5のように、日本では大都市圏に感染者数が多く、いずれも頭打ちではなく右肩上がりという特殊な動きをしているのである)

(1)日本の財政
1)2021年度予算について
 2020年度の本予算は102兆6,580億円で9兆2,047億円の債務純増だったが、さらに、コロナ禍の克服対策として第1次補正予算16兆8,057億円(うち9兆5,000億円あまりが自粛で困った企業の救済資金)、第2次補正予算31兆9,114億円(すべて自粛による倒産危機に備える支出)だった。さらに、2021年になってから第3次補正予算19兆1,761億円が組まれ、2020年度分の支出合計は170兆5,512億円になった。

 しかし、新型コロナの検査と隔離を徹底し、新型コロナ関係の機器・治療薬・ワクチンの開発と承認を速やかに行えば、ずっと少ない支出で新型コロナを止めて国民の命と生活を守り、産業の高度化にも繋がって、経済効果はよほど大きかった。にもかかわらず、検査をケチり、検疫や隔離も不完全にして、国民に自粛を促したり、緊急事態宣言を出したりした結果、その後のバラマキが多すぎて賢い支出とは言えない状況になった。

 2021年度予算(106兆6,097億円)は、*1-1のように成立し、グリーン化・脱炭素社会の実現・デジタル化とそれらを支える大学の研究を促す基金への支出をするのはよいが、新型コロナで大学への立入を禁止したのは、大教室で行う文系の講義とその遠隔化(デジタル化)しか眼中になく、理系の実証的な教育研究を妨害することになって教育・研究を疎かにすることとなった。そして、この1年間の遅れは大きい。

 また、「“災害”と名がつけば、いくら予算を付けてもよい」とばかりに、効果の薄い公共工事に減災・防災と称して多額すぎる資金を投じるのは無駄遣いである。国民の血税を投じる公共工事は、少子高齢化で人手不足となっている日本では、雇用の確保やバラマキのために行うのではなく、最小費用で最大効果を出すように設計にすべきだ。

 なお、環境に適応してヒトの人種が次第に変わっていくのと同様、ウイルスの変異もウイルスがいる限りどこででもアット・ランダムに起き、環境に適合してより生存しやすくなったものの割合が次第に増えていく。しかし、種が変わるほどの大きな変異でなければワクチンが効かなくなるわけではないのに、「外国由来の変異型」を口実に愚策を正当化しているのは見苦しい。

2)日本の借金について
 このように、農業でやってきたのと同様、働くことを禁止して働かなかった人に補助金を出したため、国と地方が抱える長期債務残高は著しく膨らんで、今ではGDPの2倍に当たる1200兆円にのぼり、年60兆円前後の税収ではとうてい賄えない金額になった。

 しかし、日本のように、インフレ目標を立ててインフレで借金を目減りさせるのは、法律によらずに全国民に見えざる負担を押し付け、支出の割合が大きい貧しい人から土地・株式を持つ富む人へ財産の移転が行われる所得の逆再配分であり、本末転倒のやり方である。

 また、*1-2のように、単純に「将来世代につけを回してはいけない」とするのも正しくない。何故なら、公共事業の中にも将来世代にとっても役立つ資本的支出(投資)に当たるものが多く、この資本的支出部分と無駄遣いのバラマキ部分をしっかり区別することが大切なのだが、国はこれをやらずにバラマキを多くしているのが問題だからである。

 なお、新型コロナ対策を例にとれば、関係する機器や治療薬・ワクチンの開発は資本的支出にあたる投資部分が大きく、国民に自粛を促したり、緊急事態宣言を出したりして企業が立ち行かなくなったため出す補助金は、無駄遣いのバラマキ部分が殆どである。しかし、米国のように、失業した人を雇用吸収するために行うグリーンニューディールは、適正な価格で行う範囲において資本的支出の部分が大きい。

 社会保障については、4)の消費税に関する項目で同時に記載する。

3)飲食店への営業時間短縮協力金、雇用調整助成金、GoToトラベルは賢い支出か?
 政府は、*1-3-1のように、新型コロナ感染収束と経済正常化に向けると称して、2021年度も巨額の財政出動を続けることとした。

 このうち、①自治体が営業時間短縮に応じた飲食店に1日4万円配る協力金の財源 ②広く経済活動を止めたために必要となった雇用調整助成金 ③自粛を要請して必要になった消費喚起策 などを、いずれも○兆円単位で支出しているが、これらは国が検疫・検査・隔離などの予防的処置と治療行為をしっかり行っていれば不要だったものである。

 また、日本の感染者は、*1-3-2のように、欧米の1/100程度だったが、それでも医療が対応しきれないとされ続けたのは、これまでの政治・行政のミスと言わざるを得ない。さらに、対数グラフで各国の感染者数・死者数の推移を比較すると、中国・韓国などの東アジアでは早期に横ばいになり、欧米でも次第に横ばいになっているのに、日本だけが右肩上がりなのである。

 ドイツは、感染者数は他の欧米諸国と殆ど同じパターンだが、死亡者数はかなり早い段階で拡大テンポが落ち、他の欧米諸国より良好なパターンを示した。その理由は、感染拡大の地域的偏りが小さく、医療体制が充実し、PCR検査の充実等により感染者が高齢者に偏らなかったこと等が指摘されている。そのため、今後、あるべき医療・介護制度を整備したい地方自治体は、自治体の担当者・医師会・介護担当者が、ドイツ・スウェーデン・イギリスなどのヨーロッパ諸国を視察して、よいところは参考にし、国に要望しながら整備していくのがよいと思う。

 つまり、医療システムや検疫システムの充実は将来世代のためにもなる資本的支出だが、単なる景気刺激策は賢くないバラマキであり、特定地域の飲食店全店に科学的な理由の説明もなく営業時間の短縮を求めたのは、政治・行政の不作為のツケを国民に皺寄せする不公平・不公正なやり方だったのである。

 なお、脱炭素は研究開発ではなく実用化の時代であり、今は公共に環境関連のインフラ整備が求められている時なので、肝心な時に「財政に余力がない」と言うのは、日本の愚かさだ。

4)消費税と社会保障がセットである必要はないこと

      
2021.3.31日経新聞

(図の説明:左図のように、高齢者の70歳までの雇用を努力義務化することによって年金支給を減らし、同一労働同一賃金によって低賃金労働者を減らそうとしているのは理に適っているが、高齢者の健康状態を考えれば75歳定年制でもよいと思う。しかし、公立小学校で2年生までをやっと35人学級にするというのは、教育が大切な割には小出しである。なお、公的年金引き下げや介護報酬引き上げは、低所得の高齢者を直撃するため賛成できない。そのため、国や地方自治体は、税収だけでなく税外収入を増やす努力もすべきだ。また、下に書いたように、価格を総額表示しただけでは買い手の購入判断や会計処理に不便であるため、中央の図のインボイス制度開始時には、ヨーロッパ型の適格請求書を義務化し、これからはそれに沿った設備投資をした方がよいと思う。中小企業者でも、右図のように、領収書様式に明細欄をつければすむことだ)

イ)消費税について
 2021年4月1日から、*1-4-1のように、消費税の総額表示が義務化された。支払金額が分かりやすいように、2004年に税込価格の総額表示が義務化されていたが、2014年の税率アップ前に税抜価格表示が認められていたのだそうで、「消費税額を書かなければ、消費税の痛みを感じないだろう」と思ったとは、あまりに国民を馬鹿にしている。また、値札の表示と実際の支払金額が異なるのは詐欺だし、買い手に暗算で真の支払金額を計算させるのは不親切だ。

 そのため、領収書は、前にもこのブログに記載したとおり、商品毎に税抜価格・消費税率・消費税額・税込価格を記載し、総合計欄に税抜価格合計・消費税率・消費税額合計・税込価格合計を記載すべきだ。そうしなければ、売り手に手を省かせて優しくしたつもりでも、買い手が領収書を見て会計処理する際に総額から消費税額を割り戻して計算した上、端数処理まで気にしなければならず、いたずらに煩雑化させ無駄な時間をとらせて生産性を下げる。

 しかし、支払総額だけを表示したからといって消費者が値上げと錯覚して、さらに個人消費(売上)が落ち込むことはない。何故なら、どんぶり勘定の人でも、値札が税込表示か税抜表示かにかかわらず、支払後の残額は同じで(ここが重要)、消費税分だけ値上げされたのと効果が同じであることは変わらないからである。

 *1-4-2も、総額表示が義務化され、値上げの印象に懸念を示しており、農業系は殆どの商品が税率8%かもしれないが、今後のインボイス制度導入も視野に入れ、商品毎に税抜価格・消費税率・消費税額・税込価格を記載し、総合計に税抜価格合計・消費税額合計・税込価格合計を記載するのが、買い手が会計処理するのに親切でよいと思う。

 現在の消費税法は、簡便さを目的として推定や割り戻し計算を多く採用しており、かえって複雑で不正確になっている。そのため、複数税率にも難なく対応できるヨーロッパと同じ形式のインボイス制度(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/110.htm 財務省:主要国の付加価値税におけるインボイス制度の概要 参照)を早急に取り入れ、公正・中立・簡素な制度にしながら、標準化した領収書を使うことによって、正確で素早い自動会計処理ができるようにした方がよいと思う。

ロ)社会保障について
 *1-4-1に書かれているとおり、消費税法1条2項に「消費税の収入は、制度として確立された年金・医療・介護の社会保障給付及び少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」と明記されている(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=363AC0000000108 消費税法 参照)。

 これに対する疑問は、「①消費税は、本当に目的通り社会保障のみに使われているのか」だけでなく、「②何故、社会保障給付には、消費税を充てなければならないのか」の2つがあり、①については、社会保障だけに使われているのではないと言われている。また、②については、そもそも社会保障も国の重要な支出であるため、所得税・法人税・相続税等の他の国税収入から充当しても差し支えない筈なのだ。

 さらに、公的医療保険はリスクの低い人と高い人が混在して支える保険制度なのだが、リスクの低い期間(被用者として就業している期間)に入る健康保険・船員保険・共済組合には退職してリスクが高くなった後は入らないため、健康保険・船員保険・共済組合は黒字になるのが当然ということになる。その反面、被用者としての就業が終わった退職者や自営業者・農業従事者・フリーターが入る国民健康保険は、所得の低い人やリスクの高い人の割合が高くなるため、当然のことながら赤字となり、これに税金で補助している。しかし、被用者としての就業期間が終わった退職者は、元の健康保険に入り続けるのが保険の理論にあっているのだ。

 また、介護保険制度は、40歳以上の人の加入が義務付けられ、被用者は健康保険料と一緒に介護保険料を徴収されて事業主が保険料の半分を負担する。被用者でない国民健康保険加入者は、自治体が計算して介護保険料を徴収し、65歳以上の人は原則として年金から天引きして市区町村が徴収する。

 ここで不自然なのは、65歳以上の人だけが介護サービスの対象者で、40歳以下の人は介護保険料を徴収されないが介護サービスも受けられないこと、40~64歳の人は介護保険料の支払義務はあるが、老化に起因するとされた特定疾病により介護認定を受けた場合しか介護サービスを受けられないことだ(https://kaigo.homes.co.jp/manual/insurance/about/ 参照)。しかし、65歳未満の人でも、出産や自宅療養時には介護を受ける必要があるため、医療保険に入った時から介護保険にも加入することを義務付けて、介護サービスの対象者にするのがよいと思う。

 このような不合理を包含しながら、「社会保障に投入されることになる税金は、景気に左右されない安定財源だから消費税から賄う」としているが、これは、消費税が所得に関係なく税を徴収していることの裏返しであり、さらに消費支出割合の大きな低所得者の方が消費支出割合の小さな高所得者よりも税負担率が高くなるという逆進性を持つ負担力主義に反する税であるということなのだ。そのため、消費税に頼る姿勢は、小さければ小さいほどよいのである。

(2)人口を分散した方が、ゆとりある暮らしができること

   

(図の説明:左図のように、日本の人口密度は、東京・大阪・神奈川・埼玉・愛知・千葉・福岡で高く、中央の図のように、人口密度と新型コロナの人口当たり患者数は相関関係がある。つまり、大都市は、一人当たり専有面積が狭く、混み合っているということで、右図のように、公園における1人当たりの占有面積にも大きな違いがあり、自宅・保育園・学校・列車における一人当たり専有面積も同じだ。つまり、人口の集中しすぎは、住環境の悪化を招くことがわかる)

 一番上の下段・中央の図のように、新型コロナの感染者数が多かったのは、東京・大阪・神奈川・埼玉等の大都市圏と北海道・北陸などの特定地域で、これらは人口の密集や観光地であるなどの条件から納得できる。しかし、日本には、鉄道・上下水道等の基礎的インフラすら維持管理しにくくなっている過疎地も存在し、*2-1のように、過疎地域には日本の全人口の1割しか住んでいないのに、その面積は国土の約6割を占めるのである。

 そのため、*2-3のように、2021年3月26日に、議員立法で「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」が成立し、「東京一極集中の是正」と「地方の活性化」を国づくりの車の両輪としながら、国土全体を活かし切って日本の持続可能性を徹底的に追求し、国民の安全安心を確固としたものにするための法律ができたのは歓迎だ。

 確かに、過疎地は人口減少・少子高齢化をはじめ課題先進地であるため、これを解決することは、これから日本に起こるさまざまな課題を解決するためのヒントになる。また、一極集中しないことは、国全体として災害に強く、ゆとりある住環境を提供できる上、国内で食料・エネルギーを作ることにも資する。さらに、自然の近くで生物や環境に関する感受性を育てることによって、地球温暖化の防止や水源の涵養に資する人材を育てることにもなるのである。

 そのため、私も、*2-1に書かれている分散型社会は必要で、その分散型社会への受け皿となる過疎地域の持続的な発展も重要であり、成立した新過疎法で地域公共交通網・医療機関・介護施設・教育施設・デジタル社会向けのインフラ整備などを行い、農林漁業はじめ地場産業を振興して雇用を創出し、人口密度が低く十分な生活空間を提供できる過疎地域を、環境がよくて住みやすい地域にすることは、将来の国民の利益に繋がると考える。従って、これらは決して無駄遣いではなく、資本的支出(≒投資)になるように計画しなければならない。

 なお、一極集中している大都会は、エネルギーも食料も水も作れない。国連は、2020年9月に食料システムサミットを開き、貧困・飢餓の撲滅・気候変動対策等の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた方策を議論し、各国に食料の生産、加工、輸送、消費の一連の活動を変革する取り組みを示すよう求めたそうだ。また、EUは既に新戦略「農場から食卓へ」で、2030年を期限に化学農薬使用量の半減・有機農業面積の25%への拡大などの目標を設定し、米国のバイデン政権も、農業での温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言している。

 日本は、*2-2のように、農水省が2021年3月中に、温室効果ガスの削減などを目指す農業の政策方針「みどりの食料システム戦略」の中間取りまとめを行い、2050年までに、①化学農薬使用量を半減 ②化学肥料3割減 ③有機農業を全農地の25%に拡大 ④化石燃料を使用しない園芸施設に完全移行 などを目標に掲げたそうだが、それならEUと同様、2030年までには行うべきだし、そうすることによって新しい方法への研究と実用化が進む。

 *2-2に書かれているとおり、確かに、日本の政策は、機械・施設の開発に力点を置く技術革新を重視しており、生態系の機能を回復・向上させる技術開発が手薄だ。そして、環境負荷を軽減する農業を点から面に広げる地域ぐるみの後押し政策も貧弱な場所が多いが、これらは、教育において生物系の勉強を疎かにしていることが原因だろう。

(3)エネルギーの自給率を上げて、豊かな国になろう
1)環境税(炭素税)
 *3-1のように、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に国境炭素税を課す多国間協議が始まるそうだ。私は、炭素(or排気ガス)排出量に応じて環境税を課すべきだと思っていたが、これまで経産省と産業団体の反対で導入できず、またまたEUなどの外圧に頼ることになった。

 それでも、この環境税(炭素税)を、「事実上の関税になる」「対立の少ない制度づくりができるか」などと言っているようでは、環境分野での日本のリーダーシップや信用は壊滅する。何故なら、これは自由貿易以前の地球環境を護る取組だからで、各国は歩調を合わせて環境税(炭素税)を導入するようにし、環境税(炭素税)を導入しない環境軽視国に対しては、地球環境を護る国が損をしないように国境調整するしかないのである。

 もちろん、温暖化ガス排出量の計算と炭素への価格付けは、環境税(炭素税)によって化石燃料から再エネへの移行に資するものにしなければならない。また、データは客観性の持てる集め方をして、第三者の検証を可能にしておかなければならない。さらに、集めた税収は、再エネ普及のためのインフラ整備に使うのがよいと思う。

 「日本は脱炭素への寄与度が高い製品の輸入にかかる関税を引き下げる案も各国に提案する方向だ」とも書かれているが、環境税(炭素税)は化石燃料から再エネへの移行が進む単価にしなければならないし、そうすれば回り道をせずに優れた再エネ製品に移行するため、日本政府のこういう意図的な取引はむしろ邪魔になる。また、関係国で対話をし、回り道をさせることによって、日本が再エネ機器でも自動車と同じ轍を踏まないようにしてもらいたい。

2)再エネ



(図の説明:水素は再エネ由来でなければ意味がなく、左図のように、水を電気分解して水素を作るさまざまなシステムができている。できた水素は、中央の図のように、移動手段用・産業用・家庭用の燃料電池として使うことができ、右図のように、水素を使わずに効率良く蓄電する全固体電池もできているため、後は、これらを安価で速やかに普及することが重要なのだ)

イ)国産・再エネ由来の電力を使おう
 米アップルが、*3-2-1のように、2021年3月31日、アップルに納める製品の生産に使う電力を全て再エネで賄うと表明したサプライヤーが110社を超えたと発表し、日本企業は村田製作所・ツジデン・日本電産・ソニーセミコンダクタソリューションズなどが、アップル向け製品生産で消費する電力を全て再エネに切り替えると約束している。

 アップルは2030年までに自社の全製品の生産から利用を通じて排出するCO₂を実質0に抑える方針を2020年7月に表明し、アップルの呼びかけに応じた取引先数は2020年7月の約70社から8カ月間で1.6倍に増えたのだそうだ。影響力は、このように、世界をリードする方向で使いたいものである。

ロ)水素も国産・再エネ由来にすべき
 *3-2-2のように、政府は国内の水素利用量を、2030年時点で国内電力の1割分にあたる1000万トン規模とする目標を設ける調整に入ったそうだ。

 その内容は、発電や燃料電池車(FCV)向けの燃料として利用を増やしてコストを引き下げ普及に繋げるとのことだが、移動手段のエネルギーは燃料電池か電気に変え、ビルや住宅の電力自給率をスマートな機器で引き上げた上、再エネで発電した電力を送電すれば、水素を発電所の燃料に使ってエネルギー変換を繰り返し、エネルギーロスを出すよりずっと効率的だ。そのための送電線敷設費用や充電設備設置費用などを、環境税収入から支出すればよいと、私は思う。

 前から、「①太陽光や風力等の再エネは天候に左右される」「②再エネはコストが高い」という話は何度も聞いたが、①については、再生エネ発電で余った電力を使って水素を作って貯めておく蓄電システムにすれば蓄電コストが安くなるし、②については、石炭や液化天然ガス(LNG)などの化石燃料を外国から輸入し、原発に膨大な国費を投入しているので、再エネや水素のコストが高いと言うのは質の悪い世論の誘導にすぎない。

 また、製鉄は、鉄鉱石の還元を石炭由来から水素に切り替えなければ製品を使えなくなるので、2050年までの技術の実用化では遅いだろうし、発電も同じだ。このような中、オーストラリアの「褐炭」から水素を製造し、運賃をかけて船で日本に運ぶシステムを思いつくとは、何を考えているのかと思う。

 しかし、東芝エネルギーシステムズは、*3-2-3のように、水を電気分解して作るグリーン水素を作る次世代型水素製造装置を開発中だそうだ。グリーン水素を製造する水電解装置の開発も欧州メーカーが先行しているそうだが、何でも外国が開発した技術の追随と改良しかできないのではなく、この分野の技術開発や研究に環境税収入から奨励金を出して特許をとれるようにすることも資本的支出(≒投資)であり、現在及び将来の国民のためになることである。

3)今から原発にテコ入れするのは、馬鹿としか言えないこと
イ)原発に対する国の姿勢


                                  2021.3.14日経新聞
(図の説明:左図のように、日本は、ユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートが押し合い、隆起・火山の噴火・地震・津波・浸食などを繰り返しながらできた陸地だ。そのため、中央の図のように、すぐ近くに海溝や海底山脈があり、断層が多くて地震多発地帯でもあり、原発の立地には全く不向きなのである。しかし、海底火山が多いため、右図のように、日本の排他的経済水域にはレアアース等の地下資源が豊富だということもわかっているのだ)

 フクイチ原発事故で明らかなように、原発事故は、広範囲の住宅や田畑を使えなくすることによって先祖が長期間かけて作りあげてきた膨大な資産の価値を無にする。また、「今後も、原発事故の発生確率は0ではない」と、原子力規制委員会は明言している。

 さらに、原発は、事故を起こしていない時でも、稼働すれば使用済核燃料を作り出し、使用済核燃料は発電しなくなってから10万年もの管理が必要だ。そのため、原発の稼働は、将来に膨大な負の遺産を残すことになる上、そもそも、日本には、これを埋設する適地もない。

 にもかかわらず、*3-3-4のように、国は運転開始から40年を超える原発1カ所当たりに最大25億円を県に交付し、老朽原発を動かそうとしている。原発の耐用年数は40年であるため、原発の耐用年数を65年に延長するのは、原発の建設当初よりも安全意識が薄くなっているということだ。

 さらに、「立地地域の将来を見据える」「国・電力会社による地域振興」「原子力研究・廃炉支援・新産業創出等について議論する会議を創設する」等と言っても、わざわざ0リスクではない原発近くに移住する企業や個人はないだろうし、原発付近の農水産物もできるだけ避けることになる。そのため、このような負の効果のある原発を、国から県に一基当たり最大25億円も交付金を出して稼働させるというのなら、原発のどこが安いのかについて、きっちりした説明を要する。決して、できないと思うが・・。

ロ)避難は可能か?

      
   玄海原発       福島第一原発  使用済核燃料貯蔵    廃炉予定   

(図の説明:1番左の図は、SPEEDIで示された玄海原発で事故が起こった際の放射性物質の拡散の様子で、左から2番目の図が、風向きに応じて変えるべき避難方向だが、風向きは季節や昼夜によって変わり一定ではない。中央の図は、福島第一原発事故による実際の汚染で、SPEEDIで示された予想図と似ているため、SPEEDIは正確な予想をしていたことになる。右から2番目の図が、各原発の使用済核燃料貯蔵の余裕で、玄海原発は詰めて並べ替えをしなければ3年分しか残っていなかった。また、玄海1、2号機は、40年の耐用年数で廃炉が決まっているが、他の原発は耐用年数を65年に延長することさえやっているのだ)

 *3-3-5の原子力災害対策特別措置法は、第3条で、原子力事業者は「①原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずる」「②原子力災害の拡大防止と原子力災害からの復旧に関して誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する」と規定しており、原子力災害の発生が前提となっている。

 第4条では、国は③原子力災害対策本部の設置 ④地方公共団体への必要な指示その他緊急事態応急対策の実施のために必要な措置 ⑤原子力災害予防対策・事後対策の実施に必要な措置を講ずる 等として、原子力災害の発生を前提としているが、大した予防策はできそうもない。

 また、⑥国は大規模な自然災害・テロリズム等の犯罪行為による原子力災害の発生を想定し、警備強化・深層防護の徹底・被害状況に応じた対応策の整備・その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講ずる責務を有するとも規定されているが、東電柏崎刈羽原発では対応できていなかったし、他の原発も大差ないだろう。

 さらに、第27条の2では「⑦原子力災害事後対策実施区域で放射性物質による環境汚染が著しいと認められた場合、市町村長は区域内の必要と認める地域の居住者・滞在者・その他に対し、避難のための立退き・屋内退避を勧告し、急を要すると認めるときは、指示することができる」とし、第27条の6で「⑧原子力災害事後対策実施区域の放射性物質汚染が著しいと認められた場合は、当該原子力災害事後対策実施区域内に警戒区域を設定し、原子力災害事後対策に従事する者以外の者の立入りを制限・禁止・退去を命ずることができる」とも規定している。

 しかし、原発事故が起きれば放射性物質による環境汚染は広範な地域に及び、復旧には数十年単位の長時間かかるため、「避難する」といっても、(何年も体育館に居続けるわけではないだろうが)どこにどういう形で避難でき、復旧にいくらかかるかはフクイチ事故を見れば想像できる。つまり、他の地域で原発事故がもう一度起これば、日本が終るくらいの重大事なのだ。

 このような中、*3-3-1のように、佐賀市議会議員の質問でわかったのだが、「⑨原発周辺自治体の避難計画は約30キロ圏になっている」が、その人口は2020年5月現在18万人を超え、このうち「⑩佐賀市が受け入れる分は約7万7千人であるのに対し、受け入れ可能な人数約5万6千人だけを避難者数として認識」していて、予想避難者数が約2万人もずれていたそうだ。

 このうち、⑨については、風向きによっては30キロを超える地域も汚染されるため、30キロ圏の人が近くの市町村に避難すればよいわけではないことが、フクイチ事故時に飯館村の例で明らかになった。その教訓を忘れたのか? また、⑩については、避難を真剣に考えていないということだろうが、風向きによっては佐賀市も避難対象地域になるため当然ではある。

 さらに、「⑪原発事故が発生した際、まず屋内退避・その後に自家用車・それが難しい場合はバスでの避難になる」としているが、屋内退避で防げないほど放射性物質による汚染が進んだ地域に、誰が運転するバスで、どういう順番で迎えに行き、バスに乗るまでに暴露される放射線量は許容範囲なのか否かは考えられていないようだ。それは、「ともかく避難さえすればよい」という発想が、甘すぎる新しい安全神話になっているということだろう。

ハ)原発立地自治体の本当の望みは?

      

(図の説明:1番左の図は日本にある原発の運転開始年で、2021年3月現在、1981年3月以前に運転を開始した原発は40年の耐用年数を過ぎている。左から2番目は、それらの原発の稼働状況で、耐用年数を超えて稼働中の原発はない。右から2番目の図が、原発の運転差し止めを巡る司法判断だ。1番右の図は、原発事故の被害者が起こした集団訴訟の結果だが、国に責任があるとしたものは少ない。今後は、国は「100%の安全はない」と明言した上で、地方自治体がそれを承知で原発を稼働させるのだから、さらに国には責任がないという構造になる)

 「耐震設計の目安となる基準地震動の妥当性」と「阿蘇カルデラの破局的噴火リスク」の2点を争点として、*3-3-6のように、九電玄海原発の周辺住民ら559人が国と九電に対して、玄海3、4号機の設置許可取り消しと運転差し止めを求めた訴訟の判決が、2021年3月12日に佐賀地裁で行われ、達野ゆき裁判長が、「①新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の審査に看過しがたい過誤や欠落は認められない」とした。

 このうち、基準地震動については「②規制委の内規『審査ガイド』に記載された平均値を超える地震データ『ばらつき』」が焦点となり、大阪地裁は「ばらつき分の上乗せ要否を検討しなかった規制委の判断過程は『審査すべき点を審査しておらず違法』」としたが、佐賀地裁は「③規制委は原発の安全性に関して高度の専門性を有する機関」「④規制委が専門的知見に基づき策定した新規制基準や同基準による原発の設置許可は合理的」「⑤ばらつきは基準地震動を導く計算式の『適用範囲を確認する留意点』にすぎず、上乗せを要求する記載はない」とした。

 しかし、私は、大阪地裁の「ばらつき分の上乗せ要否を検討しなかった規制委の判断過程は『審査すべき点を審査しておらず違法』」という判決の方が正しいと思う。何故なら、平均という揺れは存在せず、平均とは、大から小までの地震動の値を合計して地震の発生回数で割ったものにすぎないため、最大地震動に対応していなければ原発が地震で壊れるからだ。わかりやすく言えば、かもいの高さは、人の身長の平均値ではなく最大値より高くなければ、平均以上の身長の人はかもいを通る時に頭をぶつけ、人が歩く時には背のびをして身長より高くなる瞬間があるため、かもいはゆとりを持って身長が最大の人より高くなければならないのと同じである。

 佐賀地裁は、また「③規制委は原発の安全性に関して高度の専門性を有する機関」だとしているが、専門性を有する機関でも不都合なことを想定しなかったため事故を起こしたのがフクイチであるため、④の規制委が策定した新規制基準やそれに基づく原発の設置許可だからといって合理的であるとは限らず、それを第三者の立場で判断してもらうために提訴しているのだから、佐賀地裁の判決は役に立たないのである。

 なお、⑤の「ばらつきは基準地震動を導く計算式の留意点にすぎず、上乗せを要求する記載はない」というのは、いくら裁判官でも数学・統計学に弱すぎる。これについて、京都大複合原子力科学研究所の釜江特任教授(地震工学)が、*3-3-3のように、「基準地震動の策定過程をきちんと理解しており、納得できる判決だ」としておられるが、原告の中にも専門家はおり、使用済核燃料のプールを高い場所に造り、細かい配管の多い原発が、最大の地震動にも対応可能だとは、私には思えない。

 この佐賀地裁判決は、四国電力伊方原発を巡る1992年の最高裁判決「原発は専門性が高いため裁判所は安全性を直接判断せず、審査基準や調査に不合理な点や重大な過ちがあった場合のみ違法とすべきだ」という判決を踏襲したのだそうだ。しかし、それなら裁判所は高度な専門性を持つ医療過誤に関する訴訟判断もできない筈だが、第三者である他の専門家の意見を参考にすることによって、これを可能にしているのである。

 「阿蘇カルデラの破局的噴火リスク」については、2016年4月に九電川内原発を巡る福岡高裁宮崎支部が、「⑥どのような事態にも安全を確保することは現在の科学では不可能」「⑦破局的噴火など発生頻度が著しく小さいリスクは無視できるものとして容認するのが社会通念」と決定している。

 しかし、⑥であっても、原発は、一度事故を起こすと長期間にわたって先祖が築いてきた膨大な資産を無価値にしたり、膨大な負の遺産を作ったりするため、一度の事故も許容できない。従って、⑦のように、発生頻度が著しく小さい(これも疑わしいが)からといってリスクを無視することはできないというのが、現在の社会通念だ。だからこそ、九電玄海原発の周辺住民ら559人もが、住民を代表して国と九電に対し、玄海3、4号機の設置許可取り消しと運転差し止めを求めたのである。

 このような原発であるため、*3-3-2のように、「これ以上、市民に不安を押しつけるのはやめてほしい」として、廃炉を求めるのが本音だ。玄海原発から11キロしか離れていない唐津市の人口は11万人を超えるが、佐賀県や玄海町のように「事前了解」をする権限もない。

 しかし、 “準立地自治体”として何でもいいから発言をし、原発関連の交付金をもらえばいいのかと言えば、既にそういう時期ではない。玄海町と一緒になって産業・観光・教育・福祉を新興し、周囲の膨大な数の人にリスクを押し付ける迷惑施設の原発をなくして如何にやっていくかを考え、国や県にそのための支援を頼むべき時なのである。

(4)教育と研究の重要性
1)イノベーションには、知識に裏打ちされた考察力とチャレンジ精神が必要なのである

 
                                 2018.12.6毎日新聞 

(図の説明:1番左の図のように、中国のGDPは、1992年の改革開放後から、経済が市場化によって急速に伸び、2027年には米国を抜く勢いだ。日本は、左から2番目の図のように、景気対策という名のバラマキ《無駄遣い》ばかりしていた結果、財政が困窮した割には名目経済成長率が1~2%に留まっており、実質経済成長率は0%近傍だ。経済を高付加価値化するための科学技術関係予算も、右から2番目の図のように、中国は急速に伸びているが、日本は人口規模以上に低迷している。また、一番右の図のように、世界の主要企業の研究開発費と学術論文数も、日本は次第に振るわなくなっており、正確な原因究明と根本的な解決が必要だ)

 政府は、3月26日、*4-1のように、社会変革・研究力強化・人材育成の3つを柱とする第6期科学技術・イノベーション基本計画を閣議決定し、脱炭素やデジタルトランスフォーメーションなどの社会変革に向けて、2021年度からの5年間で研究開発投資を総額30兆円とする目標を掲げたそうだ。

 また、日本は研究論文の質・量ともに国際的地位が低下し、その理由には、①研究者の任期付き雇用増 ②大学院博士課程への進学者減 等があるため、新計画では、博士過程の学生への生活費支援等の研究力強化と人材育成に抜本的な取り組みを盛り込むとのことである。

 さらに、予算の拡大で企業にも研究開発投資を促し、今後5年間で官民で総額120兆円の研究開発投資を行う目標を掲げて、*4-4のように、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質0にする政府目標に向け「グリーン投資」に踏み切る企業を後押しし、脱炭素に繋がる製品の生産拡大を促して設備投資額の最大1割を法人税から税額控除する税優遇策を与党税制改正大綱に盛り込むそうだ。しかし、グリーンとデジタルの2分野は、世界では既に常識となっているため、(いつもながら)研究としては日本は周回遅れなのである。

 このように、○兆円単位で予算をつけているが、やる内容は周回遅れで、日本の研究論文は質・量ともに国際的地位が低下している。その理由は、①②だけではなく、研究者になる人を育てたり、そのチャレンジ精神をバックアップしたりせず、理不尽な批判をして研究の邪魔をする土壌が社会にあることが、まず1つ指摘できる。

 しかし、知識に基づく考察力やチャレンジ精神を持ち、科学技術の担い手となる研究者を増やすことが最も重要であり、そのために世界の英知を集める「千人計画」を作った中国は、基本を行って結果を出しているのである(https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize2018/tokushu/tokushu_01.html 参照)。

2)高校・大学の教育について
 文科省は、*4-3のように、来春から主に高校1年生が使う教科書の検定結果を発表し、多くの科目が新設されて、生徒同士の議論や課題の探究を重視する内容となったそうだ。

 もちろん、主権者教育や男女平等教育は重要で、週に何時間かは議論するのもよいが、生徒同士が議論しながら勉強する科目が多すぎると、グループの他のメンバーのレベルに勉強の達成度が依存してしまう。そのため、基礎知識をマスターさせるには、やはり教科書に書いて教師が教えるしかなく、これを「一方通行型の詰め込み教育」と批判するのは考察力の基礎となる知識をマスターしてからで遅くない。何故なら、議論する基礎とするために教える知識の量を減らすと、研究どころか大学教育や社会生活にも耐えない生徒が増えてしまうからである。

 しかし、教師は、背景にある理論を含めてわかりやすく教えられるようなレベルの高い人でなければ、生徒にとっては授業時間が無駄になってしまう。そのため、大学院卒業者や技術者がプログラミングや一般科目を教えられるよう、教師の採用方法を見直す方法もある。また、最近は大画面テレビでYouTubeを見ることができるので、ダンス・音楽・映画だけでなく外国語・議論の仕方・一般科目にも強力なツールとして使えるようになった。なお、国会議員や地方議員の議論も、生徒たちがYouTubeで見て勉強になるようなレベルの高いものにすべきである。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、*4-2のように、米国の一部の大学では、学生に週2回のPCR検査を実施し、閉鎖した大学を再開させた。一方、日本では、東大でさえ、研究者や学生の大学内への立入を禁止した。

 日本の新型コロナウイルス対策は、ほかにもおかしな点が多く、その1は、中国が最初から「無症状の感染者がいる」と言っていたのに、日本は発熱したり濃厚接触者になったりしなければ(しても!)検査をしなかったことだ。その2は、研究者や学生の大学内への立入を禁止したため、PCR検査機器の進歩・ロボットの活用・ゲノム解析・プール方式の採用といった安全で正確に数をこなすための検査方法の進歩が遅れ、ワクチンもできなかったことだ。

 初めての感染症であっても、他の知識や経験を応用すれば素早く解決法を見出すことができる。そのため、日本の対応の遅れは、メディアによって作られた世論とそれを意識する意思決定権者の能力の差が、結果に出たと言える。そして、このようなことばかり起こさないためにも、基礎教育を疎かにしてはならないのである。

3)どういう人に育てるかも重要だ
 もちろん、教育は知識だけでなく、どういう人物に育てるかの検討が重要だ。その中で、「これはいけない」と気付いた点を挙げると、以下のようである。

イ)他人に対する人権侵害を気にも留めない人を育ててはいけない
 「デジタル改革関連法案」が、*4-5のように、与党等の賛成多数で衆院を通過し、このまま成立すれば、地方自治体ごとに整備してきた個人情報保護のルールが白紙となってデータ利用の推進を掲げる国の規定に一元化され、行政機関が持つ膨大な情報をデジタル庁が一手に収集でき、「監視社会」「商業利用」といった多くの懸念を抱えたまま、首相に強大な権限を集めることになるそうだ。

 そのデジタル関連法案は、60本以上もの法改正を一括して審議し、この間、メディアは新型コロナ報道・野球中継・ぼやっとしたニュースなどに専念し、デジタル関連法案の内容を国民に知らせることはなかった。これは、議論や民主主義以前である。

 特に、マイナンバーと預貯金口座のひも付けは、将来は個人の権利を制限することを視野に入れているので要注意であり、データを民間のビジネスに容易に利用できるようにするという個人情報保護法の変更は、プライバシー保護が徹底せず人権侵害に繋がり易いため、国会審議を疎かにしてよいような問題ではない。そのため、私も、個別の法案として提案し直し、論議を尽くす必要があると思う。

ロ)公正さを重視する人に育てるべきである

 
       2021.4.11日経新聞              2021.2.1時事

(図の説明:日経新聞は、左図のように、EVは製造時にガソリン車よりもCO₂排出量が多いため、何万キロも走らなければガソリン車の方がCO₂排出量が少ないと印象付ける記事を書いている。しかし、中央の図のように、車体製造時のCO₂排出量は同じで、エンジン製造時のCO₂排出量は少なく見積もり、蓄電池の製造のみを問題にしている点が事実に反している。そして、このように、誤った印象を流布することによって、新しい製品の実用化や普及を阻害し、右図のように、日本の実質GDP成長率を0近傍にしているのだ)

 *4-6-1に、「①EVは走行時にCO₂を排出しないが、生産時のCO₂排出量はガソリン車の2倍を超える」「②その半分を占めるのが電池で、材料に使う化合物などの製造に多くのエネルギーを使う」「③EUは2024年から電池の生産から廃棄まで全過程で出る温暖化ガスの排出量を申告するよう義務付ける」と書かれている。

 また、*4-6-2には、「④充電する電気がクリーンでなければ充電する度に温暖化ガスを排出するので、EVの普及は温暖化ガス排出量を実質0のイメージだけになりかねない」「⑤製造工程全体では、EVはガソリン車の2倍を超えるCO2を排出する」「⑥EVは充電の電気がクリーンかどうかも問われるが、電力会社から届く電気は化石燃料を使って発電している」「⑦走行距離が長ければEVが有利だが、米国では6万キロ、欧州では7万6千キロ、日本では11万キロ走って、やっとEVのCO2排出量がガソリン車を下回った」と書かれている。

 これを読むと、生産から廃棄までの全工程を見れば、あたかもEVの方がガソリン車よりもCO₂を多く排出するかのような印象を与えるが、①②で比較しているのは電池だけだ。また、ガソリン車はEVの3倍の部品を使うため、車体と部品全体を合計すれば、ガソリン車の方が車体製造時にEVよりも多くのCO₂を排出するのは明らかで、⑤は真実性が疑わしい。

 さらに、③でEUが2024年から電池の生産から廃棄まで全過程で出る温暖化ガスの排出量を申告するよう義務付けるのは、主要国では既にガソリン車の販売が眼中にないからである。

 その上、発電も化石燃料から再エネに変更することが前提なので、④⑥も、早晩、解決される問題だ。さらに、EVを使う人は、自宅や駐車場の屋根に太陽光発電機器を設置して燃料代0で乗るのが賢い方法であるため、⑦は、「EVが温暖化ガス排出量を実質0にするというのはイメージだけにすぎない」と強調するために、現実的でない仮定を積み重ねて導いた結果である。

 そして、この手法は、「原発の発電コストは安い」と強弁した時と同じであり、コストの一部だけを抜き出して比較することによって、読者に、あたかも従来品の方が有利であるかのような誤った印象を与えている。しかし、このように中立でなく不公正な判断を積み重ねてきた結果が、マクロでは現在の日本の経済成長率に現れていることを忘れてはならない。

ハ)「差別」の意味すら知らないような人を育ててはいけない
 EUは、*4-7のように、新型コロナワクチンを接種したことを公的に示す「ワクチン証明書」の導入を進めているそうだ。私は、ワクチン接種証明書やPCR検査の結果を入国制限の緩和に結びつけたり、観光旅行や日常生活で利用したりするのは、「差別」ではないと思う。

 何故なら、「差別」とは、人種や性別など特定の集団に属する個人に対し、その属性を理由として主に不利益な行為を行うことであり、ワクチンを接種したか否かは、属している集団を変更できないものではないからだ。もちろん、ワクチンを接種したくてもまだ接種できていない人はいるだろうが、その数は次第に減っていく。

 また、何かの病気でワクチンを接種できない人も、大部分の人がワクチンを接種していれば、(全くとは言わないが)新型コロナに感染する心配なく外出できるようになる。さらに、病気でワクチンを接種できない人がいるから、健康な人もみな外出を自粛して何もしないのが差別なき平等な社会というわけではない。

 なお、「承認済のワクチンが変異株に効くか?」という疑問もよく聞くが、それは治験をすればわかることだ。しかし、ウイルスが少し変異しただけで効かなくなるようなワクチンは適用範囲が狭すぎるし、そういうことはないだろう。

・・参考資料・・
<日本の財政>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210327&ng=DGKKZO70411470X20C21A3EA1000 (日経新聞社説 2021.3.27) 予算成立後の財政運営はより慎重に
 2021年度予算が成立した。菅義偉政権は20年度第3次補正予算も含めた「15カ月予算」を着実に執行し、コロナ禍の克服と日本経済の底上げを目指す。財政出動の役割はなお大きいが、コロナの感染状況や景気動向を見極めながら、さじ加減を調整すべき局面に入りつつある。政府・与党はより慎重な姿勢で今後の財政運営に臨んでほしい。21年度予算の一般会計総額は106兆円で、20年度3次補正を加えると122兆円にのぼる。一連の予算措置でコロナ対策や家計・企業の支援を急ぎ、グリーン化やデジタル化を促すのはいい。だが不要不急の支出を排除できたとは言い難い。21~25年度の5年間に総額15兆円を投じる減災・防災事業は、不断の見直しが必要だ。脱炭素社会の実現や大学の高度な研究を促す巨額の基金も、丼勘定になるのでは困る。財政運営の真価が問われるのは、むしろこれからだ。緊急事態宣言が全面解除されたとはいえ、変異型ウイルスの流行でコロナ禍が悪化する恐れがある。国民の命と生活を守るため、必要な財政出動をためらうべきではない。しかしワクチンの接種が進むにつれて経済活動が正常化に向かい、消費や投資が予想以上のペースで回復する可能性も残る。米国では1.9兆ドルの追加経済対策が景気の過熱やインフレを助長するとの懸念が浮上しており、日本も神経質にならざるを得まい。政府・与党内には今秋までに実施される衆院選をにらみ、追加経済対策の策定を求める声がくすぶる。政治的な思惑で過剰な財政出動に踏み切り、日本経済を危険にさらしてはならない。財政悪化の現状も直視する必要がある。国と地方の基礎的財政収支を25年度までに黒字化する目標は遠のくばかりだ。国と地方が抱える長期債務残高も膨らみ続け、国内総生産(GDP)の2倍に当たる1200兆円にのぼる。こうした状態を懸念し、日本国債の格付け見通しを引き下げる動きもあった。すぐに実行するのは難しくても、財政再建の目標や手段を考えておいた方がいい。英国はコロナ対策の費用を賄うため、23年4月から法人税率を引き上げると発表した。米国もインフラ・環境投資の財源確保や格差是正を目的とする増税を検討中だ。日本も欧米の動きから学べる点があるのではないか。

*1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/94237 (東京新聞 2021年3月27日) 国の借金1000兆円超え 長期債務残高コロナで膨張、将来世代につけ回し
 国債や借入金といった将来税収で返済しなければならない国の借金「長期債務残高」が、3月末に1千兆円の大台を超える見通しとなった。新型コロナウイルス対策の巨額支出を賄うため新規国債を大量に発行したことも加わり、債務残高はここ10年で約1・5倍に急増した。単純計算で国民1人当たり約800万円となり、つけは将来世代に回ることになる。国の長期債務残高は借金全体から、貸し付けの回収金を返済に充てる「財投債」や、一時的な資金不足を補う「政府短期証券」などを除いた額。2020年度はコロナ対策で3度の補正予算を組んだため、財務省の見通しでは今年3月末時点の残高は前年3月末から100兆円近く増え、1010兆円に達する。既にコロナ感染拡大前から、当初予算の一般会計の歳出は100兆円を上回り、年60兆円前後の税収では到底賄えない。不足分は新規の国債発行で穴埋めするほか、満期を迎えた国債の返済に充てる「借換債」も発行し、借金で借金を返す構図だ。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210327&ng=DGKKZO70412110X20C21A3EA4000 (日経新聞 2021.3.27) コロナ持久戦で巨額予算 感染収束・経済正常化 問われる歳出効果
 26日成立した2021年度予算は一般会計総額が106.6兆円と過去最大になった。政府は新型コロナウイルスの感染収束と経済正常化に向けた巨額の財政出動を続ける。財政の持続性を高めるためにも、効果的な感染防止や将来の経済成長につながる「賢い支出」が課題になる。予算規模は20年度当初の102.6兆円から4兆円ほど膨らんだ。柔軟に使途を決められるコロナ対策予備費を5兆円盛り込んだ。感染拡大の「第4波」に機動的に対応できるように備える。予備費の使い道で主に想定されるのは自治体が営業時間短縮に応じた飲食店に1日4万円を配る協力金の財源だ。首都圏の1都3県や大阪府などが4月21日まで継続する方針で出口は見えない。感染拡大する宮城、山形、愛媛の3県も相次ぎ時短要請に踏み切った。厚生労働省は感染再拡大に備え、病床の確保計画を見直すよう都道府県に要請した。患者受け入れや検査の体制強化に向けた費用も必要になる。コロナ第1波の1年前とは状況が異なる。20年4月の緊急事態宣言後は製造業を含め幅広い経済活動が止まり、2度の補正予算で57兆円を計上した。2年目の現在は主に飲食に絞った感染対策を講じ、直接関係しない業種は回復の動きもある。麻生太郎財務相は26日夜の記者会見で「当面、予想を上回るほどひどいことになる感じはないので、いますぐ21年度補正を考えているわけではない」と述べた。政府は危機対応の出口も探る。雇用調整助成金を上乗せする特例措置は5月以降、感染拡大地域や業況が厳しい企業を除いて段階的に縮減。実質無利子・無担保融資は民間金融機関で3月末、日本政策金融公庫は21年前半までを期限とする。感染拡大で支出を止めている消費喚起策を投入する時期も焦点になる。国内旅行支援策「Go To トラベル」は20年度分の予算を1.4兆円ほど繰り越す。当面は全国での再開を見送り、感染状況や病床が逼迫していない県内での旅行割引を支援する。4月から1人あたり1泊7000円を上限とする。文化芸術公演やイベント開催への支援も時期を見極める。過度な財政悪化を防ぐには、財政支出を成長力の底上げにつなげる必要もある。脱炭素の研究開発を支援する2兆円の基金も運営を始める。世界でも危機対応の先を見据えた動きが広がる。バイデン米政権は3月、家計への現金給付を柱とする1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策を成立させ、さらに環境関連のインフラ整備を含む総額3兆ドルの対策を提示する見込みだ。欧州連合(EU)は7500億ユーロ(約97兆円)の復興基金創設で合意し、環境投資などを促進する。国際通貨基金(IMF)によると、21年の一般政府債務残高は日本が国内総生産(GDP)比で258.7%に上る。米国の132.5%、ドイツの69.9%などと比べて突出している。財政に余力がない日本はより効果的な歳出が求められる。

*1-3-2:https://president.jp/articles/-/35219?page=1 () 世界中で日本だけ「コロナ感染のグラフがおかしい」という不気味、絶対的な死者数は少ないのだが…
PRESIDENT 
 新型コロナウイルスによる日本の死者数は欧米に比べて少ない。だが感染者数と死亡者数を「対数グラフ」で分析すると、日本だけが異常な推移をたどっている。統計データ分析家の本川裕氏は、「他国のように収束へ向かう横ばい化への転換が認められず、増加ペースが落ちていない。そこには3つの理由が考えられる」という——。
●世界中で日本だけ「コロナ感染のグラフがおかしい」
 新型コロナウイルスは、海外でも日本でも「感染爆発」と呼ばれた一時期ほどの急拡大は見られなくなってきた。だが、それでもなお深刻な感染状況が続き、医療が対応しきれないこともあって各国で死者が増えている。1月に中国・武漢ではじまった新型コロナの感染拡大は、その後、韓国、イラン、イタリアなどと広がり、また、さらに欧州各国や米国などを中心に全世界に拡大してきている。この4カ月余りを過ぎた時点で、地域によって感染拡大のテンポや規模がどのように違っているかを、世界各国と日本の国内で振り返ってみたい。感染拡大を表すデータとしては、「累積の感染者数の推移」を折れ線グラフで表すことが多かった。その後、感染拡大のピークを過ぎたかどうかに焦点が移り、「毎日の新規感染者数の推移」の棒グラフをみる機会が増えている。本稿では、地域間の比較に重点をおいて、「累積の感染者数の推移」の折れ線グラフ、しかも「対数」でのグラフを使用する。対数グラフは、データの大きさが大きく異なる系列の比較に適しており、また指数関数的な拡大のテンポを傾きで表現できることから、欧米メディアでは定番になっている。また欧米メディアでは、グラフの時間軸の起点を「累積感染者数が100人を超えた時点」とするのが通例だ。これは、感染拡大の時期が大きくずれている中国とイタリア、英国などを比較するうえで適切だからである。
●コロナ感染者数・死者数、日本だけ「増加ペース」が一向に落ちない
 主要感染国の感染者数推移の対数グラフをまとめたのが図表1だ。Y軸(縦軸)の目盛りが100人、1000人、10000人と10倍ずつ増えていくのが対数グラフの特徴だ。米国と日本では感染者数の規模は大きく異なっている。グラフの最終日である5月4日時点で米国が118万人に対して日本は1万5000人と100倍違う。普通のグラフでは米国の推移は追えても、日本の推移はX軸(横軸)に張り付いた横ばいの線にしか見えないだろう。対数グラフの場合、軌跡線の傾きが直線の場合は、指数関数的な増加、すなわち、ねずみ算式の倍々ゲームで増えていることを示している。図表中に、参照線として「黒の点線」で、累積感染者数が「1日目100人から始まって、2~3日に2倍のペースで増え、25日目からは1カ月に2倍のペースで増えるようにペースダウンした場合」の軌跡線を描いた。この参照線より傾きが急であるなら拡大テンポもより高いことを示し、より緩やかなら拡大テンポもより低いことを示す。こう理解した上で各国の軌跡を追うと、欧米諸国(米国、スペイン、イタリア、ドイツ、フランスなど)では感染拡大と収束へ向かう右方向に折れ曲がる動きが相互に非常に似ており、参照線に近い形で推移していることが分かる。もちろん、米国は人口規模が3億3000万人と6000万~8000万人の欧州諸国の数倍大きいので感染者数の規模も異なっているが、拡大テンポと収束へ向かう横ばい化傾向はよく似ているのである。
●世界で日本だけ「横ばい化」せず、「右肩上がり」の不気味
 さらに興味深いのはこうした欧米諸国と東アジア諸国との対照的な推移パターンである。感染の発生地である中国、そして次に感染が拡大した韓国は、感染100人を超えてからの経過日数別の推移でみると、当初はほぼ欧米諸国と同様の拡大テンポが続いたが、欧米諸国よりかなり早い段階で横ばいに転じている点が目立っている。中国の人口規模は特段に大きいので人口当たりの感染者数の推移で見れば、感染拡大と収束へ向かうパターンについては中国と韓国は見かけよりもっと似ているということになろう。一方、これらの海外諸国の推移と全く違うパターンで進んでいるのが日本である。日本の感染拡大のペースは、これまでのところ、他国のように当初急速に拡大(いわゆるオーバーシュート)、そして一定の日数を経て、伸びが急速に落ちるといったパターンでなく、一貫して、「9日間に2倍ぐらいのテンポ」(図表1のグレーの点線)で増加している。他国のドラスチックな変化とは明確に異なっているのである。
●日本の感染者数・死亡者数が「横ばい化」しない3つの理由
 次に、累積死亡者数の数について、同様の対数グラフにまとめたのが図表2だ。こちらでは感染拡大の起点を累積死者数が10人に達してからの経過日数にしている。グラフを見れば、感染者数の推移グラフと似たようなパターンが認められるが、各国のばらつきはより大きいことが分かる。例えば、ドイツは、感染者数は他の欧米諸国とほとんど同じパターンだが、死亡者数はかなり早い段階で拡大テンポが落ち、他の欧米諸国より良好なパターンを示している。理由としては、感染拡大の地域的な偏りの小ささ、ベッド数など医療体制の充実、PCR検査の充実により感染者が高齢者に偏っていない点などが指摘される(『The Ecomist』March 28th 2020)。韓国なども早い段階で増加ペースが落ち、ある時点から日本を下回る良好な推移を示している。日本は死亡者数自体の規模は大きく他国を下回っているものの、推移パターンはかなり日数が経過しているのに、他国のように収束へ向かう横ばい化への転換がなかなか認められない点が懸念される。感染者数の推移にせよ、死亡者数の推移にせよ、日本の感染拡大のパターンが諸外国と大きく異なっていることは、この2つのグラフから明らかだ。問題は、その理由である。考えられるのは、以下の要因、あるいはその組み合わせであろう。
①感染拡大抑止対策の違い
 「クラスターつぶし」など個別ケースに密着したきめ細かな感染拡大抑止策が、当初、功を奏して感染拡大を低く抑えることができたが、ある一定レベルの累積数に至ると、この対策では限界が生じ、一方で当初の成功体験から別個の対策へと大きくシフトできず、ジリジリと感染拡大を許してしまっているのかもしれない。もっとも対策の差が、感染拡大パターンの差につながっているのではなく、逆に、感染拡大パターンの差が対策の差につながっているという考え方もありうる。
②もともとの体質や生活習慣の差
 BCG接種を行っているかどうかが欧米と東アジアの感染率の差になっているという説があるが、それに加え、お酒に弱いといった日本人がもっている遺伝的な体質が逆に新型コロナには強いといった可能性も考えられる。体質的な差ではなく、日本には、ハグやキスなど個々人が身体を密着させる習慣がない、風呂によく漬かる、家の中では靴を脱ぐといった独自の生活習慣があるため、感染拡大に差が生じたという可能性もあろう。
③ウイルスの変異
 国立感染症研究所によるウイルス検体の検査・分析によると、国内で初期に発生した複数のクラスターやダイヤモンドプリンセス号の患者から検出されたウイルスは、1月初旬に中国・武漢市で検出されたウイルスと関係が深く、これは3月以降、国内で広がることはなく、終息したとみられるという。一方、これに代わって国内で確認されるようになったウイルスは、武漢市で確認されたウイルスよりも、欧州各国で感染を広げたウイルスの遺伝子に特徴が近く、3月以降、欧州など海外からの旅行者や帰国者を通じて全国各地に広がった可能性があるという。こうしたウイルスの変異が、①と組み合わさって、なかなか感染拡大が収束へと向かわない理由になっているのかもしれない。
●都道府県別の感染者数と感染率(人口10万人当たり感染者)
 次に、国際比較から国内の地域差に目を転じよう。まず、都道府県別の感染状況のランキングを感染者数自体と人口10万人当たりの人数とで16位まで掲げたグラフを図表3に掲げた(いずれも5月4日確定分までの累計、以下同)。感染者数そのものについては、1位の東京が4708人と2位の大阪の1674人の2倍以上となっている。東京、大阪といった大都市圏の中心地域で特別に感染率が高くなっている。3位以下、10位までの上位地域としては、北海道を除くと東西の大都市圏の近郊地域や愛知、福岡といった中枢都市が占めており、概して都市部の感染がウエートとして大きいといえる。ところが、人口当たりの感染者数(感染率)の都道府県ランキングは実数規模のランキングとはかなり様相を異にしている。1位は34.3の東京であるが、2位の石川も23.5人、3位の富山も19.7人で高い値を示している。今は6位の福井は一時期1位だったこともある。首都圏近郊の神奈川、埼玉は、実数規模では3~4位と大きいが、感染率のランキングについてはずっと低くなる。神奈川は11位であるし、埼玉は13位である。感染率は両県の場合、全国平均と同水準である。そして、飲み会、ライブ、高齢者施設、医療機関などを通じた特定の感染集団によるクラスター感染が偶発的に発生し、それが連鎖的にある程度の広がりをもった特定感染地域ともいうべき都道府県がむしろ上位を占めているのである。しかし、石川、福井、富山といった北陸3県が人口当たりでそろって上位なのはなぜだろうか。偶発的にしては地域的なまとまりがあるのが気になるところである。
●東京は他地域と比べ、感染拡大の規模とテンポが群を抜いている
 こうした状況を踏まえ、国際比較と同様に対数グラフで主要な都道府県の感染者数の推移パターンを比較してみよう(図表4参照)。前出の各国の動きを表した対数グラフと同じように、主要都道府県別に感染拡大経過日数別の対数グラフを描いてみると感染拡大傾向の地域別の違いが明らかになる。東京は他地域と比べ、感染拡大の規模とテンポが群を抜いていることがわかる。埼玉、神奈川などの東京圏の近郊県も100人超過後15日ぐらいは、東京とほぼ同様の軌跡を描いていたが、それ以降は、やや横ばい方向に転じており、大きな都心部を抱える東京とはその点が異なっている。実は福岡はこうした東京近郊県と同様のパターンをたどっている。これら地域に対して、大阪、兵庫、京都といった大阪圏の府県は拡大のテンポが一段低くなっていることがわかる。名古屋圏の愛知、あるいは北海道は拡大ペースではさらにゆるやかである。ただし、北海道については、ゆるやかだったと過去形で言わなければならない。最近の北海道は再度拡大テンポが上がっており、第二波に襲われているという印象が強い。
●政府は都心部特有の感染拡大要因をどう抑えたらよいかわからない
 図表4をよく見ると、東京と大阪では感染拡大のレベルでは違いがあるが、最初はやや遅くはじまり、一気に加速し、最近やや拡大テンポが落ちているという感染拡大のカーブでは、お互いに似通っている点に気づく。東京・大阪以外では、クラスター連鎖の勃発による急拡大と、その後、それを強力に抑えて収束へと向かう、という動きが認められるが、大きな都心部を抱える東京や大阪では、都心部特有の感染拡大要因が作用して、どう抑えたらよいかわからないような感染拡大の軌跡を描いているのではないかと思われる。この都心部特有の感染拡大要因は、
 ① 接待を伴うような飲食店が多い大きな繁華街からの波及
 ② 海外赴任や海外旅行からの帰国者が多く海外からのウイルスの持ち込みが多い
 ③ 都心に居住することが必要な職業人が抱えるその他の感染拡大要因
といったものが可能性として考えられるが、いまだ定かではない。
●「繁華街&富裕層」中央区、港区、世田谷区、渋谷区に感染者が多いワケ
 最後に最も感染拡大が突出している東京について、都内の地区別のこれまでと同様な対数グラフを描いてみた。都内でも感染拡大が大きく進んでいるのは、銀座、新宿、赤坂、六本木といったわが国の代表的な繁華街を有する「都心地区」(中央区、港区、新宿など)、および富裕層も多い住宅地域である「西部地区」(世田谷区・渋谷区など)であり、この2地区が感染者数規模においても、また感染拡大のテンポにおいても他地区を圧倒している。他方、感染拡大のテンポが緩やかなのは、「下町地区」と「東部地区」であり、累積感染者数100人以上の本格的感染拡大がはじまる時期も遅かったし、その後の拡大規模も比較的小さい。こうした「都心・山の手方面」と「下町方面」との間の地域的な傾向差からも、偶発的なクラスター感染の連鎖とは異なる上述のような都心部特有の構造的な感染拡大の要因が作用しているはずだと感じられる。ともあれ、都道府県別に見ても都内の地区別に見ても、エリアによって感染者数の偏りはあるものの、全体として数の「横ばい化」は認められず、日本国内において予断を許さないことは確かだ。

*1-4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/95108?rct=editorial (東京新聞社説 2021年4月1日) 消費税総額表示 柔軟対応で混乱避けよ
 消費税の総額表示が一日から義務化された。今後、表示価格の変更が「値上げ」との誤解を招く恐れもある。消費者や事業者双方に無用な混乱を招かぬよう国には柔軟で慎重な運用を求めたい。総額表示は、消費者が払う額を分かりやすくする狙いで二〇〇四年にいったん義務化された。だが一四年の税率アップの前、特例として「千円(税別)」といった表示が認められた。支払総額だけの表示だと消費者が「値上げ」と錯覚し、個人消費の足かせ要因となる恐れがある。このため影響を緩和する時限措置が取られた。今後は商品やサービスの税抜き価格が一万円の場合、「一万一千円(税込み)」あるいは「一万一千円(税額千円)」などとなる。消費者が払う総額が明示されるため、以前と比べ価格が引き上げられたとの誤解が一時的に生じるのは避けられないだろう。ただ実際の値上げではないのに売り上げが大きく落ち込む事態は極力避けたい。国も事業者側も仕組みの変更について誠実かつ丁寧に説明し、誤解を解くよう最大限の努力をする必要がある。消費税増税をめぐっては過去、大手事業者が値下げ分の負担を小売店などに強要する事例も相次いだ。今回も悪質な行為が起きないよう国はきめ細かくチェックすべきだ。義務化による納税意識への影響についても指摘したい。支払う総額だけがクローズアップされると、この中に税が含まれているという認識は当然弱まる。痛税感が薄まれば安易に消費税増税を行う機運をつくり、財政支出のさらなる膨張につながりかねない。「税を払っている」という認識を持ち続けるためにも、価格の総額と共に具体的な税額を併記する方法を定着させるべきである。消費税による財源は、年金や医療、介護、少子化対策を軸とした社会保障に充てることが法に明記されている。だが「本当に目的通り使われているのか」といった疑問は納税者の意識の底に沈殿している。消費税は富裕層も所得の低い層も同様に負担せざるを得ない「逆進性」という不公平な特徴も持つ。税の最重要課題は目的の明確化と公平性の担保だ。税収増や徴税の利便性を優先するあまり、一部の納税者や事業者にしわ寄せが及ぶことは許されない。より配慮の行き届いた税制を強く求めたい。

*1-4-2:https://www.agrinews.co.jp/p53924.html (日本農業新聞 2021年4月1日) 「総額表示」きょうから義務化 値上げ印象に懸念
 商品やサービスの価格で消費税を含む「総額表示」が1日から義務化される。表示の移行に伴って外食が値上げで、小売りは税込み・税別価格の併記で対応するケースが目立つ。だが、税別表記に慣れた消費者には、表示の変更が値上がりとも映りかねず、米など単価の高い商品では、消費が冷え込む懸念も出ている。動きが大きいのは外食だ。ハンバーガーのモスフードサービスは1日、表示を税別から税込みに改めると同時に、店内飲食と持ち帰りの価格を統一する。看板商品「モスバーガー」は税込み390円とし、店内飲食は13円、軽減税率対象の持ち帰りは20円それぞれ値上げした。回転ずしのくら寿司は店舗外の看板の「一皿100円」を、「一皿100円(税込み110円)」に変える。店内メニューは税別、税込みを併記。「『100円』の訴求力を残し、総額表示に対応する」(広報)。日本フードサービス協会は「総額表示には一貫して反対してきた。価格設定は高度な経営判断。かつての牛丼戦争では10円の差が各社の業績に影響を与えた。売れ筋を値上げし、販売てこ入れしたい商品は値下げするなど、各社が苦労している」と指摘する。スーパーでは首都圏に展開するサミットが1月から順次、本体価格と税込み価格の併記に切り替えた。ニラ2分の1束など、消費者ニーズに合う量目や加工度合いを上げた商品を充実。担当者は「店頭価格が上がったと誤解を与えないように努めたい」と話す。マルエツは31日までに青果物の値札を差し替えた。その他、ライフやイオンリテール、ヤオコーは「3月までに対応済み」と回答。日本スーパーマーケット協会は「衣料品などと比べて利益率が低い食品は、事実上の値下げ対応が難しい」と指摘する。他の食品に比べて1回の買い物金額が大きくなる精米では、5キロ商品だと税別と税込みの表示の違いで100円以上価格差がある。併記するスーパーが多いが、米の業界団体は「総額表示で価格は高く映り、販売に影響が出ないか心配だ」と指摘する。

<人口の分散>
*2-1:https://www.agrinews.co.jp/p53856.html (日本農業新聞 2021年3月27日) 新過疎法成立 分散型社会の受け皿に
 新型コロナウイルス感染症の流行で、十分な生活空間の必要性が高まっている。東京一極集中から分散型社会への受け皿として、過疎地域の持続的な発展が重要だ。成立した新過疎法での支援強化を求める。過疎地域は全人口の1割に満たないが、国土面積の約6割を占める重要な地域だ。少子高齢化と人口減少が著しく、集落の消滅が続いている。政府は、これまで4次にわたる過疎法で財政的な支援を行ってきたが、全国的に見て社会インフラなどで格差がある。現行法は3月末で期限を迎え、その後の対応が課題になっていた。法律に基づく過疎支援が継続されることは歓迎である。10年を時限とする新法は、過疎対策事業債や税制特例などによる財政支援を拡充する。指定要件は見直したが、対象は現行を上回る820市町村が見込まれる。対象外となるところには6年間の経過措置などを設ける。丁寧な説明が必要だ。新法の目的に「持続的発展」という新たな理念を掲げた。人口密度が低く十分な生活空間を提供できる過疎地域の維持は、国民的利益につながるという考え方だ。都市への過度な人口集中が大きなリスクを伴うことは、コロナ禍や豪雨災害などで明らかだ。人口の分散が必要で、過疎地域はその受け皿となる。過疎地域にとっても、特定の地域と継続的に関わる「関係人口」をはじめ、若者の田園回帰の機運が高まっている今が、再生の絶好のチャンスだ。都会からの移住者も含めて安心して生活できるように、地域公共交通網や医療機関、介護施設、教育施設などのインフラ整備を急ぐべきだ。また農業など地場産業の振興による雇用創出に加え、遅れている、デジタル社会に対応するインフラ整備も重要だ。これらは、財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な過疎地域の「自助」では難しい。新法に基づく十分な財政支援が必要だ。地域の活性化には人材が必要だ。注目したいのは、「地域おこし協力隊」である。総務省の2020年度の調査によると、全国で1065の地方公共団体が受け入れ、過去最多の5464人の隊員が活躍し、元隊員の約6割がそのまま定住した。同省は、24年度までに8000人を目指す。期待は大きい。同省はまた、地域住民や企業、外部の専門人材と連携しながら地域振興を推進する「地域プロジェクトマネジャー」を創設する。農水省の「新しい農村政策の在り方に関する検討会」でも、地域づくりをサポートする人材の重要性が指摘されている。過疎地域の維持・活性化に取り組む人材確保への支援を強化すべきだ。新法では、総務相、農相、国土交通相だった主務大臣に、文部科学、厚生労働、経済産業、環境の各大臣を追加した。関係省が連携し、疫病や災害などに強く、持続可能で均衡ある国づくりを政府一体で目指すべきだ。

*2-2:https://www.agrinews.co.jp/p53840.html (日本農業新聞論説 2021年3月26日) みどりの食料戦略 具体策検討 現場基点で
 農水省は月内に、温室効果ガスの削減などを目指す農業の政策方針「みどりの食料システム戦略」の中間取りまとめを行う。農業は地球温暖化の被害を被っており、環境負荷の軽減は農業の持続性の確保には不可欠である。農業者が積極的に取り組めるよう、生産現場を基点とした具体策の検討が求められる。中間取りまとめ案では、2050年までに①化学農薬使用量を半減②化学肥料を3割減③有機農業を全農地の25%(100万ヘクタール)に拡大④化石燃料を使用しない園芸施設に完全移行――することなどを目標に掲げた。農業の在り方を巡る世界的動向が戦略策定の背景にある。国連は9月、食料システムサミットを開き、貧困・飢餓の撲滅や気候変動対策など持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた方策を議論。各国には食料の生産、加工、輸送、消費の一連の活動を変革する取り組みを示すよう求めている。欧州連合(EU)は既に新戦略「農場から食卓へ」で、30年を期限に化学農薬使用量の半減や有機農業面積の25%への拡大などの目標を設定。加盟国に計画策定と進捗(しんちょく)管理を徹底する。米国のバイデン政権も、農業での温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言。こうした情勢から日本も戦略をつくり、これを軸にサミットで表明する。サミットを機に国際的ルール作りの動きも起こり得る。高温多湿なアジアモンスーン気候に適した取り組みを反映させなければならない。具体策で同省は、農業の持続性と生産力の向上を両立させるとの方針の下、技術革新を重視。スマート農業などの機械・施設の開発に力点を置いているとの印象だ。日本有機農業学会は、課題として生態系の機能を向上させる技術開発が手薄だと指摘。有機農業は農家が開発した技術が大部分で、農家の技術交流や試験研究機関との共同研究などボトムアップ型の技術創出の仕組みづくりも提起する。環境負荷を軽減する農業を点から面に広げるには、地域ぐるみの取り組みの後押しが不可欠だ。土台は新技術の導入などの負担に見合った収入の確保、所得の向上である。必要なのは補助金など国による直接支援だけではない。消費者、食品・外食産業や、学校など公的機関による適正価格での積極的な購入の促進策が鍵となる。担い手の確保など生産基盤の強化や地域振興にどう結び付けるかも課題だ。また、環境に配慮せずに生産・輸入された安い農産物の流通を放置すれば、国産の適正価格の実現や需要拡大が困難になる恐れがある。これまで同省は生産者や企業、団体などと意見交換をしてきた。中間取りまとめ後は一般から意見を募集し、5月に決定したい考え。30年間の長期戦略である。より幅広い対話を通じて施策の総合化・体系化を図り、短期目標を含め、途中で検証可能な工程表を策定すべきだ。

*2-3:https://www.zck.or.jp/uploaded/attachment/3757.pdf (全国町村会長 荒木泰臣 令和3年3月26日)「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」の成立について
 本日、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」が成立しました。議員立法の実現にご尽力いただいた国会の皆様をはじめ関係の皆様には、全国各地の過疎地域に足を運び、現場の声をしっかりと汲み取っていただきました。新たな過疎法は、人口減少・少子高齢化をはじめとする課題先進地である過疎地域の持続的発展に大きく貢献するものと期待しており、新たな過疎地域の指定要件のもとで支援措置の継続・拡充が図られるとともに、いわゆる卒業団体に対する経過措置にもきめ細かくご配慮をいただくなど、関係の皆様に心から感謝申し上げます。過疎地域を取り巻く環境は、多くの地域課題とともに新型コロナ感染症という未曾有の国難に直面し、極めて厳しい状況が続きますが、「東京一極集中の是正」と「地方の活性化」を国づくりの車の両輪にして、過疎地域も含めて国土全体を活かし切り、我が国の持続可能性を徹底的に追求し、国民の安全安心を確固としたものにしていかなくてはなりません。政府におかれましては、過疎地域の持続的な発展は、我が国の今世紀を見通して最大の課題ともいえる人口減少・少子高齢社会を克服し、自然災害や新型コロナウイルス等の災禍に強く、持続可能な国づくりを推進するうえで必須の取組であるとの認識のもと、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に基づく万全の措置を講じていただくようお願いします。多様な過疎地域を抱える私たち町村は、本会が繰り返し主張するように、我が国の文化・伝統の継承の場であるとともに、食料やエネルギーの供給、水源かん養、国土の保全、地球温暖化の防止、都市と農山漁村の交流など、国民生活にとって欠くことのできない重要な役割を担い続けており、新たな過疎法による力強い支援を一層の推進力にして、持続可能な地域づくりに全力で取り組んでまいる決意であります。

<エネルギー政策>
*3-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70224300S1A320C2EE8000/ (日経新聞 2021年3月23日) 国境炭素税 WTO協議へ、事実上の「関税」紛争の火種 欧州前向き、日本も提起
 温暖化対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せする「国境調整措置」をめぐる多国間協議が始まる。国境炭素税とも呼ばれ、事実上の関税となる制度が各国・地域で乱立すれば貿易戦争に発展する懸念があった。欧州連合(EU)が多国間協議に前向きで、日本も22日に開く世界貿易機関(WTO)の有志国会合で協議に着手するように提起する。対立の少ない制度づくりができるか、国際協調が試される。国境調整はEUなどが単独で制度設計に向けた考えを表明するにとどまっていた。各国・地域がそれぞれの産業に有利になる恣意的な措置をとると、反発した国が対抗措置を打ち「脱炭素」を名目とした通商問題が勃発するおそれがあった。こうした状況に危機感を強める日本は、国境調整を含む環境分野の貿易制度についてWTOで本格的な議論に着手するよう働きかける。米国にも参画を求めるほか、炭素の排出が多い新興国との橋渡し役も担う考え。EUも非公式にWTOで環境分野でのルールづくりに着手すべきだと主要国に打診しており、WTOが議論の主戦場になる流れになってきた。WTOなど多国間で話し合い、公平で透明性のある制度設計ができれば、世界全体での脱炭素に貢献できるとの期待がある。日本政府内には日米欧3極での検討の枠組みを模索する動きもある。多国間協議では、WTOルールに違反しない制度設計、温暖化ガス排出量の計算法、炭素への価格付けの手法、データの透明性の確保などが論点になる。関税のような仕組みにする場合、具体的にどのような製品を対象にするかも問題。EUが鉄鋼や石油化学品に課税するとの警戒論もある。日本は脱炭素への寄与度が高い製品の輸入にかかる関税を引き下げる案も各国に提案する方向だ。風力や燃料アンモニア、蓄電池、太陽光といった分野で数百以上の品目を念頭に置く。国境調整を巡っては、このほど経済協力開発機構(OECD)でもEUを中心に有志国での非公式会合が始まったことが分かった。OECD幹部は「気候変動問題ではこれまで以上に多国間協調が重要。関係国が対話する機会を増やしていく必要がある」と語り、議論を加速させる考えを示した。世界では先行するEUを中心に国境調整措置の検討を表明した国・地域が増えている。日本は経済産業、環境両省を中心に政府内での検討が始まったものの、実際に導入するかの判断はしていない。主要な貿易国である中国や米国との通商問題に発展するリスクもあり、まずはEUなどの動向を注視する構え。一部の国・地域が先行して制度設計を進めると、日本など取り残された地域は不利な制度での貿易を余儀なくされる懸念もある。EUがWTOでの国境調整のルールづくりを働きかけるのも、議論を主導し、EUに有利な制度を世界標準にする狙いもあるとみられる。日本は脱炭素をめぐるルール形成で存在感を発揮できるかどうかが課題になる。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN313BE0R30C21A3000000/ (日経新聞 2021年3月31日) Apple、取引先の半数が再エネ100%を表明 村田製作所も
 シリコンバレー=白石武志】米アップルは31日、同社に納める製品の生産に使う電力をすべて再生可能エネルギーでまかなうと表明したサプライヤーが110社を超えたと発表した。同社の主な取引先の約半数に相当する。アップルは取引の条件として環境対策を重視しており、残るサプライヤーも対応を迫られる。日本企業では村田製作所とツジデンの2社が、米企業では電子部品メーカーのマリアンなどが新たにアップル向け製品の生産で消費する電力を全面的に再生可能エネルギーに切り替えると約束した。すでに日本電産やソニーセミコンダクタソリューションズ、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業や台湾積体電路製造(TSMC)などがアップルに対し同様の取り組みを約束している。アップルの呼びかけに応じた取引先の数は2020年7月の約70社から8カ月間で1.6倍に増えた。アップルは30年までに自社の全製品について、生産と利用を通じて排出する二酸化炭素を実質ゼロに抑える方針を20年7月に表明した。同社製品の生産を担うサプライヤーには今後、再生可能エネルギーへの移行をより強く求めるとみられ、対応できない企業はアップルと取引ができなくなる恐れもある。再生可能エネルギーの利用経験が乏しい企業には、調達ノウハウなどを提供しているという。中国ではサプライヤーとともに3億ドル(約330億円)規模の基金を設立し、湖南省などで風力発電や太陽光発電プロジェクトにも投資している。アップルは31日、再生可能エネルギーの安定供給のため、カリフォルニア州で米国最大級の蓄電施設を建設していることも明らかにした。同社の太陽光発電施設で日中に発電した電力をためるため、約7000世帯が1日に消費する電力に相当する240メガ(メガは100万)ワット時の蓄電容量を持たせる。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODC07348007122020000000/ (日経新聞 2020年12月8日) 水素を30年に主要燃料に 目標1000万トン、国内電力1割分
 政府は国内での水素利用量を2030年時点で1000万トン規模とする目標を設ける調整に入った。2050年の温暖化ガス排出実質ゼロを実現するには二酸化炭素(CO2)を出さない水素の活用が不可欠で、欧州や中国も力を入れ始めた。発電や燃料電池車(FCV)向けの燃料として利用を増やし、コストを引き下げて普及につなげる。政府が17年にまとめた水素基本戦略では、30年時点で30万トンの水素を使う目標を立てている。30万トンは原子力発電所1基分に相当する100万キロワットの発電所をほぼ1年間稼働させられる量になる。1000万トンなら30基以上を稼働できる。稼働率を考慮しない単純計算で国内全体の設備容量の1割強にあたる。電力の脱炭素では太陽光や風力など再生可能エネルギーの活用が進んでいるが、天候に左右されるため既存の発電所も必要だ。二酸化炭素(CO2)を出さない水素を発電所の燃料に使えば温暖化ガスを減らせる。再生エネの発電で余った電力を活用し水素を作ってためておくこともできる。課題はコストの高さだ。現在は1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり100円程度とみられ、液化天然ガス(LNG)の同13円程度を大幅に上回っている。政府は同等に抑えるために必要な年500万~1000万トン程度を将来的な目標に据えていた。今後見直す水素基本戦略では30年と目標時期を明確にすることを検討する。実証実験が進む水素発電の実用化を急ぎ、FCVの普及も加速させる。新設する2兆円の基金を活用したり設備投資への税優遇などで支援する。再生エネの拡大や石炭などの化石燃料の使用削減と合わせて推進する。民間も動き出した。トヨタ自動車や岩谷産業など88社は7日、水素インフラの整備を進める「水素バリューチェーン推進協議会」を立ち上げたと発表した。水素では14年に世界で初めて量産型FCV「ミライ」を発売したトヨタが民間の主導役を果たしてきた。ミライは9月までの世界販売が1万千台どまり。19年度の日本でのFCV販売はトヨタを含め約700台でEVの約2万台と比べ小さい。打開策として水素のフル充塡での航続距離を現在の約650キロメートルから約3割伸ばした新型ミライを12月中に発売する予定だ。決まったルートを走り水素を定期充塡しやすい商用車でも活用を促す。協議会は自動車以外でも水素の利用を進める。製鉄では鉄鉱石の還元を石炭由来から水素に切り替える。日本製鉄など高炉大手は50年までに水素を使ってCO2排出を減らす技術の実用化を目指す。東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAも発電燃料を水素に変え50年にCO2排出量を実質ゼロにする。一方でこうした水素を使った発電や製鉄の実現には大量の水素エネルギーを安く調達する必要がある。川崎重工業や岩谷産業、丸紅などは18年からオーストラリアで「褐炭」と呼ばれる低品位炭から水素を製造、液化し、日本に船で運び、発電などに使う輸送する実証事業を始めている。21年までに最初の水素製造・輸送試験を行う計画だ。川重はLNG運搬船の技術を生かし、液化水素を運搬する専用船の開発で先行している。30年には大型の水素運搬船の商用化を目指している。岩谷産業や関西電力なども25年に向けて水素で動く船の実用化を検討する。燃料電池を搭載し、水素と空気中の酸素を反応させてつくった電気で動かす。蓄電でも水素は有用だ。東芝は太陽光発電などによる電力をいったん水素に変えて保存・運搬し、再び電力などとして活用する技術を持つ。天候に左右されやすい再エネを安定的に供給できるようになる。協議会は21年1~2月に水素の普及に向けた議論を進め、2月中に政府に提言する方針だ。協議会の記者会見で梶山弘志経済産業相は「幅広いプレーヤーを巻き込みコスト削減を進める」と述べた。日本独自の技術があるとされる水素だが、普及への取り組みでは海外も無視できなくなっている。ドイツ政府は6月に国家水素戦略を発表、新型コロナウイルスからの復興策の一環として1兆円を超える予算を盛り込んだ。とくに製鉄や化学などの産業分野、船舶や航空機などの長距離・重量輸送の分野といった電動化が難しい分野での水素活用を推進する。ドイツが日本と違うのは、乗用車に活用の多くを委ねない点だ。独ダイムラーは小規模生産していた乗用車のFCVの生産を年内で終了し、開発をトラック部門に集約した。そのトラック部門では、燃料電池スタックの開発を競合のボルボ(スウェーデン)と統合し効率化、25年以降に航続距離1千キロメートルを超えるFCVトラックを量産する。中国も商用車を中心にFCVのサプライチェーン(供給網)を構築する。モデル都市群を選定し、都市群が技術開発を手掛ける企業を支援する仕組みを導入する。35年までに100万台前後の保有台数をめざす。中国政府は9月にFCVの販売補助金制度を撤廃し、FCVのモデル都市群を選定して技術開発企業に奨励金を与える制度を導入すると発表した。都市群に4年間でそれぞれ最大17億元(約260億円)の奨励金を支給する仕組みだ。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ231ZP0T20C21A3000000/?n_cid=NMAIL006_20210402_H (日経新聞 2021年4月2日) 「グリーン水素」へ東芝系など挑む 脱炭素の切り札に
 燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、カーボンゼロ実現に向けた有望なエネルギーだ。その製造過程でもCO2を一切、排出しない水素が「グリーン水素」だ。製造に必要な電力は再生可能エネルギーを使う。グリーン水素を作り出す水電解装置の開発・製造では日本、欧州を中心に世界各社がしのぎを削る。
●従来型より電力を3割削減へ
 横浜市の臨海工業地帯にある東芝エネルギーシステムズの京浜事業所。ここでは燃料電池の技術を応用した次世代型の水素製造装置の開発が進む。目指しているのは省電力だ。装置が完成すれば、従来型より電力を3割削減できるようになる。水素には様々な製造法があるが、グリーン水素は水を電気で分解して作る。水電解の方法は、水素の取り出しにイオン交換膜を使う「固体高分子形(PEM形)」と強アルカリの水溶液に電流を流す「アルカリ形」の2つが主流だ。一方、東芝エネルギーシステムズが開発を進めるのは燃料電池の技術を応用した「固体酸化物形(SOEC)」と呼ぶ方式。水素と酸素を反応させて電気を生み出すのが燃料電池だ。これを逆にして水蒸気と電気から水素を作るのがSOEC方式の水電解装置だ。エネルギーシステム技術開発センター化学技術開発部の長田憲和氏は「PEM形やアルカリ形に比べ省電力に優位性がある。20年代後半には実用化したい」と話す。製造システムの低コスト化を目指すのはPEM形を製造する日立造船だ。構造を簡素化し部材を減らすなどして、従来品よりも製造費用を抑える製品を開発している。
●相次ぐ大規模プロジェクト
 グリーン水素を製造する水電解装置の開発では、欧州メーカーが先行している。装置を大型化し、大規模なグリーン水素の製造プロジェクトを次々と打ち出している。独シーメンス・エナジーは15年から欧州などで大型の水素製造装置の出荷を始めた。19年にはオーストリアで6000キロワットの再エネ電力を使った水素製造装置を納入した。現在は1万7500キロワットの電力で年間約2900トンの水素を製造できる装置の開発に着手している。対応する電力容量が増えれば増えるほど大量の水素を製造できる。英ITMパワーは、2万4千キロワットの電力で水素を製造する装置を22年後半にも稼働させると発表。ノルウェーのネルもスペインなどで太陽光発電を利用した大規模な製造拠点を展開している。一方、日本でもグリーン水素の大規模製造プラントの建設が始まっている。旭化成は福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」で1万キロワットの太陽光発電の電力に対応した製造設備を納入。年間900トンの水素を製造でき、現時点では世界最大規模だ。地熱発電を利用する取り組みも始まる。21年7月をめどに大林組は大分県九重町で実証プラントを設置する。ただ、日本国内ではプラントの大型化に課題がある。ボトルネックになるのが再生エネ電力の価格だ。火力発電が主力の日本では再生エネ電力の価格が高止まっている。一方、メガソーラーや大規模な洋上・陸上風力発電設備の設置が進んでいる欧州では安価で再生エネ電力が調達できる。建設費などを含めた再生エネの発電コストを比べると日本は英国やドイツの2~3倍にもなる。一方、日欧メーカーでタッグを組む事例も出てきた。三菱重工業は20年10月、ノルウェーのハイドロジェンプロに出資。ハイドロジェンプロは、1日あたり水素を4.4トン製造できる9000キロワット級の水電解装置を開発している。欧州が先行し、日本が技術に磨きをかけている水電解装置だが、北米でもグリーン水素製造に動き始めた。20年11月、エンジンメーカーの米カミンズはカナダの水素製造装置メーカー、ハイドロジェニックスを買収。今後は中国メーカーの本格参入も見込まれる。上海電気は中国科学院大連化学物理研究所と提携してPEM形のR&Dセンターを新設すると発表。中国では大型プラントの開発計画もある。
●日本政府も重視
 日本政府は20年12月に発表した「グリーン成長戦略」で水素を重要な産業の一つに位置づけた。経済産業省は水電解装置は50年までに年間で約8800万キロワットの導入が進み、年間の市場規模が約4兆4000億円にまで及ぶと予測する。日本よりも再生エネの導入が先行する欧州市場への日本企業の参入を促す政策も打ち出している。世界に先駆け水素に着目し、技術開発を続けてきた日本メーカー。だが実用化・大型化では欧州に遅れをとっている。今後は技術力を生かし、海外勢にない製品をスピーディーに市場に投入する開発体制が求められる。
注)水素は無色透明な気体だが、カーボンゼロの観点から色分けされている。製造過程で完全に二酸化炭素(CO2)を排出しないのがグリーン水素。水を電気分解して水素を取り出す過程だけでなく、使用する電気も再生可能エネルギーを使う。もし火力発電など化石燃料由来の電力を使うとグリーン水素とは呼べなくなる。一方、現在世界で作られる水素の9割以上は、もっともレベルの低いグレー水素だ。天然ガスや石炭など化石燃料を燃やしガス化して抽出する。その際、CO2が発生し、大気に放出するとグレーとなる。CO2を地中に埋めてとじ込め、大気中に放出しなければブルー水素になる。ほかにターコイズ水素もある。天然ガスなどに含まれるメタンを電気で熱分解する製法で、炭素を固体化することでCO2を排出しない。使用する電気は再生エネルギーを使う。さらにはグリーン水素と同じ水電解で、原子力の電力を使うイエロー水素もある。水素自体はエネルギー源として使うため燃焼させてもCO2を発生しない。だが、その製造過程でCO2を排出してしまってはクリーンエネルギーとは呼べない。最終的にはグリーン水素の製造を目指す動きが欧州を中心に活発になっている。

*3-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/651651 (佐賀新聞 2021.3.30) <原発と暮らすということ>(4) 自治体の避難計画 形骸化、実効性に懸念、東日本大震災10年さが
 佐賀市の3月議会一般質問。議員は納得のいかない表情で、九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の重大事故に備えた避難計画について質問を重ねた。「(佐賀市の住民は)施設や避難住民をどの程度受け入れるのか、ご存じないのでは」。担当部長は「唐津市から佐賀市に避難して来られる住民がいらっしゃることはご理解いただいていると思っている」と答弁する一方、こうも述べた。「(避難所の管理者に)通知、説明をしたかについて、書類は残っていない」
●2万人のずれ
 原発周辺の自治体には、重大事故に備えて避難計画の策定が義務付けられている。10年前の東京電力福島第1原発事故では広範囲の住民が避難を強いられた。これを教訓に、国は策定する範囲をそれまでの約10キロ圏から約30キロ圏に広げた。玄海原発の場合、玄海町だけでなく唐津市のほぼ全域と伊万里市の一部が入る。範囲内の人口は2020年5月現在、18万人を超える。避難先は範囲の外にある県内の全17市町になる。このうち佐賀市は、旧唐津市、相知町、厳木町の避難者を受け入れる。ただ、2人の議員が避難計画を取り上げた3月議会の質疑では唐津市から受け入れる避難者数について「約5万6千人」と「約7万7千人」の大きく異なる二つの数字が議論のベースとなった。大前提になる「避難者数」が約2万人もずれ、議論がかみ合わない場面もあった。市消防防災課は議会前、避難者数は約7万7千人との認識だったが、一般質問前のヒアリングで議員から「5万6千人では」と問われ、県や唐津市に確認。受け入れができる最大収容人数を、避難者数と勘違いしていた。同課課長は「正しい数字は恥ずかしながら、そのときに知った」と明かした。「市は受け入れる人数さえ分かっていない。お粗末な対応で、避難計画が形骸化している」。質問した議員は憤りを隠さない。このやり取りの直後、今月18日、水戸地裁は日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の運転差し止めを命じた。広域的な避難計画の見通しが立っていないことを問題視した。原発の稼働に、避難計画に関わる自治体にも一定の責任を負わせた形だ。
●「正しく理解を」
 玄海町は昨年から、防災専門官を採用し、原発事故を含めた避難計画の策定などを担っている。塚本義明専門官は「自然災害が激甚化し、町民の避難の意識は高まっている」とした一方、原子力災害では「どの時点で何をするかを伝えきれていない」と苦慮する。原発事故が発生した際、まずは屋内退避が基本。その後に自家用車、それが難しい場合はバスでの避難になる。ただ年1回の原子力防災訓練ではバス移動だけを行うケースが多い。塚本専門官は「事故が起きたらバスで避難だと思っている町民もいる。避難の流れを正しく理解してもらう必要がある」と頭を悩ませる。原発そのものの安全対策と「車の両輪」になる避難計画について、水戸地裁はこう要求する。「避難の実現が可能な計画で、実行できる体制が整備されていなければならない」

*3-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/652391 (佐賀新聞 2021/3/29) <原発と暮らすということ>(6)“準立地自治体”として 「原発議論の場」へ正念場、東日本大震災10年さが
 東京電力福島第1原発事故から10年となった今年の3月11日、唐津市の大手口バスセンター近くでは、市内四つの市民団体が交代でマイクを握った。「これ以上、市民に不安を押しつけるのはやめてほしい」。行き交う人たちに九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の廃炉を訴えた。団体の代表として参加し、市内で薬局を営む北川浩一さん(74)は約5年前から、原発の情報を市民に伝え続けようと、平日に市役所前などに立ち続けている。「事故はいつ起きるか分からないからね。ここは玄海原発から11キロしか離れていないんですよ」。外津湾を隔て、玄海原発が目と鼻の先にある唐津市。避難計画が必要になる半径5~30キロ圏内(UPZ)の人口は11万人を超え、玄海町のUPZ人口2057人よりけた違いに多い。しかし、佐賀県や玄海町のように、再稼働や廃炉などの重要事項について「事前了解」をする権限はない。
▽“もの申す”権利
 原発建設以降、“蚊帳の外”だった唐津市はプルサーマル計画を転機に、県と交渉を始めた。2006年に確認書を交わし、市の意向に十分配慮することや必要に応じて連絡内容を市に通知することを盛り込んだ。3・11を受け、12年には九電とも協定書を締結する。九電が原発の重要な事項について県と玄海町に説明するときには市にも説明し、市は九電に意見の申し出ができると明記した。事前了解はできなくても、九電に“もの申す”ことができる枠組みを自ら勝ち取ってきた。市幹部は「市は意見ができる権利がある。プルサーマル、3・11を経て、県と九電には必ず確認書や協定書を守ってもらいたいというスタンスでやっている」と説明する。
▽交渉のテーブル
 「市民の立場を考えると“準立地自治体”として何かしらの施策、発言する場が必要」。唐津市議会の特別委員会は18年7月、玄海町の脇山伸太郎町長の就任を機に、玄海原発に特化した協議会の設置を峰達郎市長に申し入れた。福島の事故では被害が広範囲におよび、市民と近い議会側が動いた。念頭には日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の再稼働を巡り同年3月、立地する東海村と周辺5市に事前了解を認めた「茨城方式」があった。ただ、2年にわたる話し合いの末、峰市長は20年9月、原発に特化した協議会設置は「困難」と説明。玄海町側の難色を理由にゼロ回答だった。市議会特別委は同年12月、産業や観光、福祉なども含む包括的な形に「ハードルを下げた」(議員)報告書をまとめた。何とか玄海町をテーブルにつかせたい思惑がにじんだ。「議論の場を望む声は強い」。ある議員は議会側の雰囲気を明かす。事務レベルでは現在、協議会設置に合意しており、原発の議論ができるかどうかが焦点になる。「市長がどこまで腰を据えて交渉するのか。原発の話ができなければ、これまでと何も変わらない」。市民の声を代弁する議員の一人はくぎを刺した。

*3-3-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/706425/ (西日本新聞 2021/3/13) 原発リスク評価、割れ続ける司法 玄海訴訟判決
 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の運転を「容認」した12日の佐賀地裁判決は、国の安全審査に「ノー」を突き付けた昨年12月の大阪地裁判決とは対照的な結論を導いた。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故から10年。各地で多くの訴訟が起こされ、なお司法判断が揺らぎ続ける現状は、改めて事故の深刻さと共に、今後原発エネルギーとどう向き合うのかを社会に問い続ける。「基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)の策定過程をきちんと理解しており、納得できる判決だ」。京都大複合原子力科学研究所の釜江克宏特任教授(地震工学)は、この日の判断を評価した。判決が踏襲したのは、四国電力伊方原発(愛媛県)を巡る1992年の最高裁判決が示した司法判断の枠組み。「原発は専門性が高いため裁判所は安全性を直接判断せず、審査基準や調査に不合理な点や重大な過ちがあった場合のみ違法とすべきだ」とする見解だ。多くの原発訴訟で、この枠組みに沿った「行政追認型」の判断が示されてきたが、裁判官の意識に変化が見られるようになったとの指摘もある。
   ◆    ◆ 
 福島原発事故後、初めて原発の運転差し止めを命じた2014年5月の福井地裁判決は「福島原発事故後、同様の事態を招く具体的な危険性が万が一でもあるかという判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」と言及。最高裁枠組みにとらわれず地震対策に「構造的欠陥がある」とした。「想定を超える地震が来ないとの根拠は乏しい」「過酷事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」。その後も原発の運転を禁じる判断は相次いだ。高裁レベルでも17年12月と20年1月、四国電力伊方原発3号機を巡り、広島高裁が「火山の噴火リスクの想定が不十分」として運転差し止めを命じた。最高裁は12年1月、各地の裁判官を集め、原発訴訟をテーマにした特別研究会を開いていた。関係者によると、研究会では92年の最高裁判決の枠組みを今後も用いるとの方向性を確認。一方で、裁判所も原発の安全性について、より本格的に審査すべきだという意見も相次いでいたという。以降、個々の裁判体によって、原発の「リスク評価」の判断は割れ続ける。
   ◆    ◆
 「どのような事態にも安全を確保することは現在の科学では不可能」(16年4月、九電川内原発を巡る福岡高裁宮崎支部決定)。破局的噴火など「発生頻度が著しく小さいリスクは無視できるものとして容認するのが社会通念」とする姿勢も根強い。原発の運転を禁じる判断はいずれも上級審や異議審で覆され、確定した例はない。原発の安全性に司法はどう向き合うべきか。中央大法科大学院の升田純教授(民事法)は「原発は非常に高度かつ総合的な科学技術。関連した専門性がない裁判官は、審査の手続きなどに看過できない誤りがある場合にのみ介入すべきだ」とし、最高裁判決の枠組みを尊重すべきだとする。一方、06年に金沢地裁裁判長として北陸電力に原発の運転差し止めを命じた井戸謙一弁護士(滋賀県)は「専門的で難しい内容はあるが、国や行政、学者の意見を丸のみしては司法の役割は果たせない」と指摘。この判決後、原発の耐震指針は強化されており「運転を認める場合でも安全性を高めるためのチェック機能を果たさなければ、司法は国民から見放されてしまう」と述べた。
●原子力規制庁「厳格審査認められた」
 九州電力玄海原発3、4号機の原子炉設置許可取り消しを求める訴えを退けた12日の佐賀地裁判決を受け、原子力規制委員会は「東京電力福島第1原発事故を踏まえて策定された新規制基準により、厳格な審査を行ったことが認められた結果と考えている。引き続き新規制基準に基づき、適切な規制を行ってまいりたい」とのコメントを出した。
●妥当な結果、安全性確保に万全期す
 九州電力のコメント 国と当社の主張が裁判所に認められ、妥当な結果と考えている。今後ともさらなる安全性・信頼性向上への取り組みを自主的かつ継続的に進め、原発の安全性確保に万全を期していく。

*3-3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/96184 (東京新聞 2021年4月6日) 40年超原発、国が県に交付金 福井知事「再稼働の議論を」
 福井県の杉本達治知事は6日、畑孝幸・県議会議長と面談し、運転開始から40年を超えた原発1カ所当たり最大25億円が国から県に交付されると明らかにした。国や関西電力による地域振興策や、住民への理解活動を説明した上で「県議会で(40年超原発の)再稼働の議論を進めてほしい」と改めて要請した。県内には関電の高浜原発(高浜町)と美浜原発(美浜町)に40年超の原発があり、県への交付金は最大50億円となる見通し。国は、立地地域の将来を見据え、原子力研究や廃炉支援、新産業創出といった振興策を関電や自治体で議論する会議を創設し、秋にも結果をまとめるという。

*3-3-5:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000156 平成11年法律第156号、平成24~30年6月改正までを含む「原子力災害対策特別措置法」より抜粋
(原子力事業者の責務)
第三条 原子力事業者は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し、誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。
(国の責務)
第四条 国は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害対策本部の設置、地方公共団体への必要な指示その他緊急事態応急対策の実施のために必要な措置並びに原子力災害予防対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により、原子力災害についての災害対策基本法第三条第一項の責務を遂行しなければならない。
2 指定行政機関の長(当該指定行政機関が委員会その他の合議制の機関である場合にあっては、当該指定行政機関。第十七条第七項第三号を除き、以下同じ。)及び指定地方行政機関の長は、この法律の規定による地方公共団体の原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように、その所掌事務について、当該地方公共団体に対し、勧告し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない。
3 内閣総理大臣及び原子力規制委員会は、この法律の規定による権限を適切に行使するほか、この法律の規定による原子力事業者の原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように、当該原子力事業者に対し、指導し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない。
第四条の二 国は、大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為による原子力災害の発生も想定し、これに伴う被害の最小化を図る観点から、警備体制の強化、原子力事業所における深層防護の徹底、被害の状況に応じた対応策の整備その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講ずる責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により、原子力災害についての災害対策基本法第四条第一項及び第五条第一項の責務を遂行しなければならない。
(関係機関の連携協力)
第六条 国、地方公共団体、原子力事業者並びに指定公共機関及び指定地方公共機関は、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策が円滑に実施されるよう、相互に連携を図りながら協力しなければならない。
第一章の二 原子力災害対策指針
第六条の二 原子力規制委員会は、災害対策基本法第二条第八号に規定する防災基本計画に適合して、原子力事業者、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体、指定公共機関及び指定地方公共機関その他の者による原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策(次項において「原子力災害対策」という。)の円滑な実施を確保するための指針(以下「原子力災害対策指針」という。)を定めなければならない。
2 原子力災害対策指針においては、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 原子力災害対策として実施すべき措置に関する基本的な事項
二 原子力災害対策の実施体制に関する事項
三 原子力災害対策を重点的に実施すべき区域の設定に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、原子力災害対策の円滑な実施の確保に関する重要事項
3 原子力規制委員会は、原子力災害対策指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
第四章 緊急事態応急対策の実施等
(原子力事業者の応急措置)
第二十五条 原子力防災管理者は、その原子力事業所において第十条第一項の政令で定める事象が発生したときは、直ちに、原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、当該原子力事業所の原子力防災組織に原子力災害の発生又は拡大の防止のために必要な応急措置を行わせなければならない。
2 前項の場合において、原子力事業者は、同項の規定による措置の概要について、原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、内閣総理大臣及び原子力規制委員会、所在都道府県知事、所在市町村長並びに関係周辺都道府県知事(事業所外運搬に係る事象の発生の場合にあっては、内閣総理大臣、原子力規制委員会及び国土交通大臣並びに当該事象が発生した場所を管轄する都道府県知事及び市町村長)に報告しなければならない。この場合において、所在都道府県知事及び関係周辺都道府県知事は、関係周辺市町村長に当該報告の内容を通知するものとする。
(緊急事態応急対策及びその実施責任)
第二十六条 緊急事態応急対策は、次の事項について行うものとする。
一 原子力緊急事態宣言その他原子力災害に関する情報の伝達及び避難の勧告又は指示に関する事項
二 放射線量の測定その他原子力災害に関する情報の収集に関する事項
三 被災者の救難、救助その他保護に関する事項
四 施設及び設備の整備及び点検並びに応急の復旧に関する事項
五 犯罪の予防、交通の規制その他当該原子力災害を受けた地域における社会秩序の維持に関する事項
六 緊急輸送の確保に関する事項
七 食糧、医薬品その他の物資の確保、居住者等の被ばく放射線量の測定、放射性物質による汚染の除去その他の応急措置の実施に関する事項
八 前各号に掲げるもののほか、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止を図るための措置に関する事項
2 原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間においては、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、原子力事業者その他法令の規定により緊急事態応急対策の実施の責任を有する者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、緊急事態応急対策を実施しなければならない。
3 原子力事業者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体の長その他の執行機関の実施する緊急事態応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、原子力防災要員の派遣、原子力防災資機材の貸与その他必要な措置を講じなければならない。
第五章 原子力災害事後対策
(原子力災害事後対策及びその実施責任)
第二十七条 原子力災害事後対策は、次の事項について行うものとする。
一 原子力災害事後対策実施区域における放射性物質の濃度若しくは密度又は放射線量に関する調査
二 居住者等に対する健康診断及び心身の健康に関する相談の実施その他医療に関する措置
三 放射性物質による汚染の有無又はその状況が明らかになっていないことに起因する商品の販売等の不振を防止するための、原子力災害事後対策実施区域における放射性物質の発散の状況に関する広報
四 前三号に掲げるもののほか、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止又は原子力災害の復旧を図るための措置に関する事項
2 指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、原子力事業者その他法令の規定により原子力災害事後対策に責任を有する者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、原子力災害事後対策を実施しなければならない。
3 原子力事業者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体の長その他の執行機関の実施する原子力災害事後対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、原子力防災要員の派遣、原子力防災資機材の貸与その他必要な措置を講じなければならない。
(市町村長の避難の指示等)
第二十七条の二 前条第一項第一号に掲げる調査により、当該調査を実施した原子力災害事後対策実施区域において放射性物質による環境の汚染が著しいと認められた場合において、当該汚染による原子力災害が発生し、又は発生するおそれがあり、かつ、人の生命又は身体を当該原子力災害から保護し、その他当該原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、当該原子力災害事後対策実施区域内の必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退き又は屋内への退避を勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退き又は屋内への退避を指示することができる。
2 前項の規定により避難のための立退き又は屋内への退避を勧告し、又は指示する場合において、必要があると認めるときは、市町村長は、その立退き先又は退避先として第二十八条第一項の規定により読み替えて適用される災害対策基本法第四十九条の四第一項の指定緊急避難場所その他の避難場所を指示することができる。
3 前条第一項第一号に掲げる調査により、当該調査を実施した原子力災害事後対策実施区域において放射性物質による環境の汚染が著しいと認められた場合において、当該汚染による原子力災害が発生し、又は発生するおそれがあり、かつ、避難のための立退きを行うことによりかえって人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあると認めるときは、市町村長は、当該原子力災害事後対策実施区域内の必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、屋内での待避その他の屋内における避難のための安全確保に関する措置(以下「屋内での待避等の安全確保措置」という。)を指示することができる。
4 市町村長は、第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避を勧告し、若しくは指示し、若しくは立退き先若しくは退避先を指示し、又は前項の規定により屋内での待避等の安全確保措置を指示したときは、速やかに、その旨を原子力災害対策本部長及び都道府県知事に報告しなければならない。
5 市町村長は、避難の必要がなくなったときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。前項の規定は、この場合について準用する。
(警察官等の避難の指示)
第二十七条の三 前条第一項又は第三項の場合において、市町村長による避難のための立退き若しくは屋内への退避若しくは屋内での待避等の安全確保措置の指示を待ついとまがないと認めるとき、又は市町村長から要求があったときは、警察官又は海上保安官は、当該原子力災害事後対策実施区域内の必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退き若しくは屋内への退避又は屋内での待避等の安全確保措置を指示することができる。
2 前条第二項の規定は、警察官又は海上保安官が前項の規定により避難のための立退き又は屋内への退避を指示する場合について準用する。
3 警察官又は海上保安官は、第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避又は屋内での待避等の安全確保措置を指示したときは、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。
4 前条第四項及び第五項の規定は、前項の通知を受けた市町村長について準用する。
(指定行政機関の長等による助言)
第二十七条の四 市町村長は、第二十七条の二第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避を勧告し、若しくは指示し、又は同条第三項の規定により屋内での待避等の安全確保措置を指示しようとする場合において、必要があると認めるときは、指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長又は都道府県知事に対し、当該勧告又は指示に関する事項について、助言を求めることができる。この場合において、助言を求められた指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長又は都道府県知事は、その所掌事務に関し、必要な助言をするものとする。
(避難の指示等のための通信設備の優先利用等)
第二十七条の五 災害対策基本法第五十七条の規定は、市町村長が第二十七条の二第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避を勧告し、若しくは指示し、又は同条第三項の規定により屋内での待避等の安全確保措置を指示する場合について準用する。
(市町村長の警戒区域設定権等)
第二十七条の六 第二十七条第一項第一号に掲げる調査により、当該調査を実施した原子力災害事後対策実施区域において放射性物質による環境の汚染が著しいと認められた場合において、当該汚染による原子力災害が発生し、又は発生するおそれがあり、かつ、人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、当該原子力災害事後対策実施区域内に警戒区域を設定し、原子力災害事後対策に従事する者以外の者に対して当該警戒区域への立入りを制限し、若しくは禁止し、又は当該警戒区域からの退去を命ずることができる。
2 前項の場合において、市町村長若しくはその委任を受けて同項に規定する市町村長の職権を行う市町村の職員による同項に規定する措置を待ついとまがないと認めるとき、又はこれらの者から要求があったときは、警察官又は海上保安官は、同項に規定する市町村長の職権を行うことができる。この場合において、同項に規定する市町村長の職権を行ったときは、警察官又は海上保安官は、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。
3 第二十七条の四の規定は、第一項の規定により警戒区域を設定しようとする場合について準用する。

*3-3-6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/706523/ (西日本新聞 2021/3/13) 玄海原発設置許可取り消し認めず 佐賀地裁、規制委審査「合理的」 
 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の周辺住民ら559人が国と九電に対し、玄海3、4号機の設置許可取り消しと運転差し止めを求めた二つの訴訟の判決が12日、佐賀地裁であった。達野ゆき裁判長は、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の審査について「看過しがたい過誤や欠落は認められない」と述べ、いずれも請求を退けた。原告側は判決を不服として控訴する方針。原告は「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」。主な争点は、原発の耐震設計の目安となる基準地震動の妥当性と、阿蘇カルデラ(熊本県)の破局的噴火リスクだった。同様の訴訟では昨年12月、大阪地裁が関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の設置許可を取り消す判決を出しており、佐賀地裁の判断が注目されていた。判決は規制委について「原発の安全性に関して高度の専門性を有する機関」と説明。規制委が専門的知見に基づき策定した新規制基準や同基準による原発の設置許可も合理的だと述べた。基準地震動については、規制委の内規「審査ガイド」に記載された平均値を超える地震データ「ばらつき」の考慮が焦点となった。大阪地裁判決は、ばらつき分の上乗せの要否を検討しなかった規制委の判断過程を「審査すべき点を審査しておらず違法」と断じたが、佐賀地裁判決はばらつきは基準地震動を導く計算式の「適用範囲を確認する留意点」にすぎず、上乗せを要求する記載はないとした。阿蘇カルデラの噴火リスクに関しては「原発の運転期間中に破局的噴火を起こす可能性は十分に小さい」と指摘。このような噴火を想定した法規制などが原子力安全規制分野の他に行われていないことを踏まえ「リスクは社会通念上容認されている」と結論付けた。
*玄海原発 九州初の原発。1975年に1号機、81年2号機、94年3号機、97年4号機が運転開始。3号機は2009年から使用済み核燃料を再処理したプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電をしている。11年の東京電力福島第1原発事故を踏まえた新規制基準による審査を経て18年3月に3号機、同6月に4号機が再稼働。1、2号機は廃炉が決定した。

<教育・研究>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210327&ng=DGKKZO70407180W1A320C2EA3000 (日経新聞 2021.3.27) 社会変革へ30兆円投資 科技基本計画 進学者減り弱る研究現場
 政府は26日、科学技術政策の方針を示す「第6期科学技術・イノベーション基本計画」を閣議決定した。脱炭素やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった社会変革に向け、2021年度から5年間で政府の研究開発投資を総額30兆円とする目標を掲げた。新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークやオンライン教育など日本のデジタル化や社会変革の遅れが浮き彫りとなった。20年度までの第5期基本計画でも目指す社会像として「ソサエティー5.0」と名付けた「超スマート社会」を提唱したが、実現にはほど遠い。第6期基本計画は社会変革、研究力強化、人材育成の3つが柱となる。日本は研究論文の質・量ともに国際的地位が低下。研究者の任期付き雇用増加や大学院博士課程への進学者減少など研究現場は危機的な状況にある。新計画は博士学生への生活費支援など研究力強化と人材育成には抜本的な取り組みも盛り込んだが、社会変革に向けた道筋は明確でない。政府は科技予算の拡大を呼び水に、企業にも研究開発への投資を促す。今後5年間で官民合わせた研究開発投資で総額120兆円との目標も掲げた。規制緩和や税制なども含む政策の総動員とともに、産官学が一体となってイノベーションを生み出し、普及させる必要がある。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14864870.html?iref=comtop_Opinion_01 (朝日新聞 2021年4月8日) 米は学生に週2回PCR、日本は根本的対策なし 宮地ゆう
■大学での検査、安心のために整備を
 新型コロナウイルスの感染拡大が続く昨年6月ごろ、米国の一部の大学で学生に週2回、定期的にPCR検査を実施する「サーベイランス検査」の態勢を作ろうとしていると聞いた。学内で1日数千件の検査をすることで感染を抑え、一度閉鎖した大学を再開させるという。折しも、日本では発熱したり濃厚接触者になったりしても検査が受けられないという悲痛な声があがっていたころだ。どうしたら、そんなことが可能なのか。米国のいくつかの大学を取材すると共通点があった。無症状の感染者を見つけて隔離する重要性に早期に気付いたこと。そして、どれだけ検査をすれば「科学的に安全」と言えるのかを計算し、その態勢を目指したことだ。とはいえ、前代未聞の試みに、どの大学も試行錯誤だったようだ。研究用に使っていたPCR検査機に加え、ロボットを自作して検査数を増やしたり、複数の検体をまとめて検査する「プール方式」を採用したり。保健当局と折衝をしつつ、数をこなすために独自の検査方法を編み出した大学もある。こうして1日数千件という検査態勢を作り上げた。その背景には、「学生間や地域への感染を広げないことは大学の責務」(コーネル大副学長)との考えがあったようだ。日米では大学の置かれた環境も財政規模も違い、容易に比較はできない。だが、日本では「若者が感染を広げている」と、大学生らに厳しい目が向けられる一方で、若者の間の感染を抑える根本的な対策はほとんどない。文部科学省は大学での対面授業を促しているが、多くの大学は教室の人数制限や換気といった対策がメインだ。ある私大の教授は「検査などの基本的な態勢がないのに対面授業を拡充しろと言われ、しわ寄せは現場の教員にくる」と訴える。研究室にPCR検査機を持つある国立大の教授は「学内の検査だけでも感染抑止には意味がある。設備も人材もあるのに、大学はなかなか動かない」と嘆いた。学内の検査態勢を整えることは、学生や教職員の安心につながる。長期化するコロナ禍の大学生活を乗り切るために、考えるべきではないだろうか。

*4-3:https://mainichi.jp/articles/20210401/ddm/005/070/115000c (毎日新聞社説 2021/4/1) 新しい高校教科書 探究支える体制づくりを
 来春から主に高校1年生が使う教科書の検定結果が発表された。新しい学習指導要領に対応した初めての教科書となる。多くの科目が新設され、生徒同士の議論や課題の探究を重視する内容となった。「現代社会」に代わる「公共」は、政治や社会への関わり方を考える主権者教育に重点を置いた。大学入試で女性の受験者が不利な扱いを受けていた問題を、男女平等に関する議論の題材にするなど、身近な事柄を通じて社会の課題を考えさせる工夫が凝らされている。高校の授業は、教師による一方通行型の詰め込み教育と批判されてきた。そこから転換を図る方向性は間違っていない。だが、課題も多い。教えるべき知識の量はさほど減っていない。そのため、授業で議論に多くの時間が割かれるようになると、知識を定着させるために長時間の家庭学習が必要となる可能性がある。生徒の負担が過重にならないよう配慮することが不可欠だ。新たな必修科目や、探究型の学習への対応を求められる教師自身の負担も小さくない。プログラミングなどを教える「情報Ⅰ」も必修となる。だが、免許を持つ教師は少なく、現在は専門外の教師が教えているケースが多いのが実情だ。教師の指導力の差が広がれば、生徒がそのしわ寄せを受ける心配がある。できるだけ多くの教師が専門性を高められるように、研修の充実が欠かせない。今回、「公共」や、近現代の日本史と世界史を統合した「歴史総合」では、領土問題に関する記述に多くの意見がつき、政府見解に基づく表現に修正された。探究型の学習を重視するのなら、多様な意見を知ったうえで、議論を交わし、問題の本質を理解する過程を大事にすべきだろう。大学入学共通テストも2025年から、新学習指導要領に応じた形で編成が変わる。入試に備える点からも、生徒と教師が新しい教科書を十分に活用できるようにすることが大切だ。国は自治体と連携し、探究型の学習を実現できる体制づくりを進めなければならない。

*4-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF075O6007122020000000/ (日経新聞 2020年12月8日) 脱炭素、投資額の1割税額控除 政府・与党最終調整
 政府・与党は脱炭素につながる製品の生産拡大を促すために検討している税優遇策について、最大で設備投資額の1割を法人税から税額控除する方向で最終調整に入った。製造設備への投資を促す減税としては過去最大の控除率となる見通し。2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標に向け「グリーン投資」に踏み切る企業を後押しする。近く決定する与党税制改正大綱に盛り込む。次世代型のリチウムイオン電池や燃料電池、電圧制御に使うパワー半導体、風力発電機など、脱炭素を加速すると見込める分野を政府が指定し、製造設備の増強や生産プロセスの省エネルギー対応などを税優遇の対象とする。さらに対象分野を増やすことも検討する。税優遇を受けるには企業が国に対し、投資を通じた脱炭素への貢献を示す事業計画を提出する。認定を受ければ税額控除を活用できる。国が定める脱炭素への貢献度の指標に応じ、5%か10%を法人税から差し引ける仕組みで調整する。来年の通常国会に産業競争力強化法改正案を提出し認定制度を設ける。21年度から3年間の税制とする。菅義偉首相は4日、脱炭素に向けた研究・開発を支援する2兆円の基金創設を表明した。グリーンとデジタルの2分野を成長の源泉と位置づけており、予算と税制の両面で支援策を講じる。

*4-5:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1301211.html (琉球新報社説 2021年4月9日) デジタル法案衆院通過 拙速な手続き許されない
 デジタル庁創設を柱とした「デジタル改革関連法案」が6日、与党などの賛成多数で衆院を通過した。このまま成立すれば、地方自治体ごとに整備してきた個人情報保護のルールが白紙となり、データ利用の推進を掲げた国の規定に一元化されてしまう。「監視社会」の到来や、企業による商業利用といった多くの懸念を抱えたまま、首相に強大な権限を集め、行政機関が持つ膨大な情報をデジタル庁が一手に収集できるようになる。数の力で成立を押し切ることは、将来に必ず禍根を残す。日程ありきの手続きは拙速であり、許されない。デジタル関連法案は、60本以上もの法改正を一括して審議するよう求める「束ね法案」だ。本来であれば法案の一つ一つを審議し、相応の審議時間が必要になる。しかし、衆院内閣委員会で関連法案の審議時間は30時間にも満たず、過去の重要法案と比べてもあり得ない短さだ。熟議とは程遠く、国会審議が形骸化していると言わざるを得ない。60を超える法案には、「脱はんこ」として話題を集めた押印手続きの削減もあれば、マイナンバーと預貯金口座のひも付け、個人情報保護法の見直しなど、個人の権利との関わりで慎重な議論を要するものまで一緒くたになっている。一括審議で国会審議を進めていい案件ではない。これまで個人情報の保護は、住民に近い自治体がそれぞれで条例を制定し、思想信条や病歴・犯歴などの要配慮情報の収集は禁じるなどの慎重な取り扱いを定めてきた。何の目的に使うかという住民本人の合意を得た上で、個人情報を取り扱うことが自治体では原則となっている。これに対し政府は、膨大なデータを民間のビジネスにも容易に利用できるようにするという目的を掲げ、規制が緩い国のルールに自治体まで組み込んでしまおうとしている。本人同意による直接収集という個人情報保護の原則はなし崩しとなり、本人の同意なく個人情報を吸い上げることも可能となる。企業による個人情報の収集では、就職情報サイトの「リクナビ」が、サイト閲覧履歴のデータなどから学生の「内定辞退率」を予測し、企業に販売したことが問題となった。世界的にも「GAFA」と呼ばれる大手IT企業が大量の個人データを独占し、規制の難しさに国際社会が直面している。デジタル化の推進はプライバシー保護との間で慎重な議論が求められる。当事者のあずかり知らないところで情報がやり取りされる状況がある中で、国民の権利として「自己情報コントロール権」を確立し、保障することこそ、これからの時代に政府が果たす役割だ。「木を隠すなら森の中」と言わんばかりの、束ね法案による乱暴な手続きは認められない。個別の法案として、提案をし直すことだ。

*4-6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210411&ng=DGKKZO70895430R10C21A4MM8000 (日経新聞 2021.4.11) EV製造時のCO2削減 ホンダなど検討 部品ごと排出量公開
 ホンダや独BMWなど世界の自動車大手が電気自動車(EV)向けの電池で、生産段階から温暖化ガスの排出量を減らす取り組みに着手する。素材や部品ごとの二酸化炭素(CO2)排出量の公開を検討し、取引先に対策を促す。環境対応力による選別が進むことになる。EVは走行時にCO2を排出しないが、生産時の排出量はガソリン車の2倍を超える。その半分を占めるのが電池だ。材料に使う化合物などの製造に多くのエネルギーを使う。今後は管理が強まる。欧州連合(EU)は2024年から、電池の生産から廃棄まで全過程で出る温暖化ガスの排出量を申告するよう義務付ける。自動車メーカーが対応に動き始めた。ホンダやBMWは世界経済フォーラムの傘下組織である「グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)」に加盟し、GBAが準備を進める新たな仕組みの活用を検討する。GBAのベネディクト・ソボトカ共同議長は「(ホンダ以外にも)多くの企業に参加を呼びかけている」と話した。GBAは電池の生産工程などに関するデータベースを立ち上げる計画だ。生産履歴を遡り、部品や素材ごとに産出地のほか生産や輸送で発生したCO2の排出量なども調べられるようにするものだ。22年にも試験運用を始める。自動車メーカーは自社が使う電池の情報を登録する。データベースを通じ、より環境負荷の低い製品を選べるため、電池メーカーは対策を迫られる。情報の正確性はGBAが企業に裏付けを求めるなどして担保する。ホンダは日本経済新聞の取材に「GBAに参画するのは事実。データベースの活用はまだ決めていない」と答えた。BMWからは回答がなかった。

*4-6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210411&ng=DGKKZO70853300Z00C21A4MY1000 (日経新聞 2021.4.11) 電気自動車が「排ガス」、電池製造でCO2、再エネに期待
 電気自動車(EV)は「排ガス」を出さず脱炭素にうってつけの技術に思えるが、死角がある。製造時にガソリン車を上回る二酸化炭素(CO2)が出る。さらに、充電する電気がクリーンでなければ、電気を使うたびに温暖化ガスを排出しているようなものだ。2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにしようと、日本などの主要国は30年代にガソリン車の新車販売を禁じる。EVの普及は切り札になるのか、それともイメージ先行なのか。20年12月、欧州連合(EU)の欧州委員会がEVなどの電池の生産に環境規制を課す案を公表した。24年7月から、製造から廃棄までのCO2排出量の報告を義務付け、27年7月には排出上限を定める。工業製品の環境負荷を評価するライフサイクルアセスメントに詳しい日本LCA推進機構の稲葉敦理事長は「欧州の規制に対応できるように日本の規制の枠組みも考えないといけない」と指摘する。なぜEVにも規制が必要なのか。ガソリン車はガソリンをエンジンで燃やし、CO2などを出して走る。EVは電池にためた電気で必要な運動エネルギーを得る。電気でモーターを動かし、走行時にCO2を出さない。だからこそクリーンな車とされてきた。盲点は動力源の電池だった。EVにも力を入れるマツダは19年、工学院大学教授だった稲葉理事長と共同で、先行研究も参考にして分析した。製造工程全体でEVはガソリン車の2倍を超えるCO2を排出する計算になった。EVは電池をつくるだけでエンジン製作の4~5倍となる約6トンのCO2を出すという。主流のリチウムイオン電池は多様な金属の化合物を使い、金属の製造や化学工程で大量のエネルギーを消費する。米アルゴンヌ国立研究所の研究者が19年に公表した論文によると、リチウムイオン電池の製造ではリチウムやマンガンなどでできた正極材料の作製に最も多くのエネルギーを費やす。全体の4割を占めるという。リチウムイオン電池に使うアルミニウムの製造にも大量の電気が要る。EVは充電の電気がクリーンかどうかも問われる。自宅や充電ステーションの電気は多くが電力会社から届く。太陽光、水力、風力など再生可能エネルギーや原子力発電の電気であればCO2排出は抑制される。化石燃料を燃やす火力発電の電気なら、CO2を出しているとみなされる。再生エネの割合は国によって違う。マツダと稲葉理事長は日米欧中豪の5カ国・地域について、「製造」「使用」「廃棄」などを通じたEVとガソリン車のCO2排出量を比べた。充電の電気がCO2と関わっていても、走行距離が長ければEVが有利になる。だが米国では6万キロ、欧州では7万6千キロ走って、やっとEVのCO2排出量がガソリン車を下回った。日本では11万キロの走行が必要だった。米国はガソリン車の燃費などが悪く、EVが有利になりやすい。欧州は再生エネや原子力発電の割合が高く、CO2をともなう発電が少ない。日本はガソリン車の燃費が良いうえに火力発電頼みが裏目に出る。結果として、EVが多くのCO2を出す。マツダは研究を踏まえ、あえて電池の容量を抑えた同社初の量産型EVを1月に発売した。EVは真の温暖化対策になり得るのか。京都大学の藤森真一郎准教授らは、世界で50年にEVが100%導入された場合の未来をコンピューターで描き出してみた。CO2排出量の削減効果をシミュレーションしたところ、火力発電に依存した現状のままでは、EVを大量導入してもCO2排出量はほとんど減らず、増加する可能性すらあった。藤森准教授は「EV製造時の排出量削減やエネルギー効率の向上、供給する電気の再エネ化などを進めないとEV導入の脱炭素効果は上がらない」と指摘する。EVとガソリン車の比較を巡っては英国で20年に「EVがガソリン車よりCO2の排出を減らすには5万マイル(約8万キロ)も走る必要がある」との趣旨の試算を自動車会社と関わる団体が公表し、一部報道で「(ガソリン車を有利に見せる)誇大広告だ」との批判も出た。製造時のCO2の排出量については研究によってまちまちで評価が定まっていない面もある。それでもEVの導入がムダだという専門家は少ない。EVが切り札になるかどうかは国を選ぶ。EVは各国・地域が再生エネの導入や製造工程の脱炭素化に真摯に取り組んでいるかを映す鏡なのだ。

*4-7:https://www.asahi.com/articles/ASP313HVBP2VUHBI002.html (朝日新聞 2021年3月2日) EU、ワクチン証明書導入へ 「差別につながる」懸念も
 欧州連合(EU)は、新型コロナワクチンを接種したことを公的に示す「ワクチン証明書」の導入を進めているとし、技術面だけで少なくとも3カ月かかるとの見通しを2月25日に示した。ただ、観光旅行や日常生活などでの利用については、ワクチン接種が進んでいない現状では「差別につながる」との懸念も強く、慎重に議論を続ける。オンライン形式で開いた首脳会議後の記者会見でフォンデアライエン欧州委員長が説明した。証明書はデジタル化を想定し、接種したワクチンの種類やPCR検査の結果といった基本的なデータを盛り込んでEU共通の仕様にする。各国のシステムの連携などに時間がかかるという。観光への依存度が高いギリシャなどでは、証明書を「ワクチンパスポート」として入国制限の緩和などに結びつけ、観光業の再興につなげたい考えだ。ただ、EU内でワクチンを1回でも接種した成人は、まだ5%どまり。フォンデアライエン氏は、証明書の夏までの実用化も念頭に、「どう使うかは各国の判断だ」としつつも、バランスの取れた対応が必要だとした。EU域内では、変異ウイルスが広がりを見せており、加盟27カ国のうち7カ国で感染が増える傾向にあるという。このため、承認済みワクチンの変異株対応の審査を迅速化したり、域内での治験がスムーズに進むよう連携を深めたりする方針だ。

PS(2021年4月15、30日追加): *5-1のように、米アップル・グーグル・ネスレ・コカコーラ・ウォルマート・ナイキ・GE・エジソンインターナショナル等の米国企業310社が、4月13日、「①2030年までに温暖化ガスを2005年比で半減する目標を掲げるよう求める」「②クリーンエネルギーに投資してエネルギー効率を高めることは米経済をより包括的で公正にする」「③2030年の高い目標設定が力強い景気回復をもたらし、何百万もの雇用を生み出す」「④耐久力あるインフラ・排気ガス排出0の車・建物などの構築にも繋がる」という書簡をバイデン米大統領に送ったそうだ。また、欧州議会の環境委員会も、自動車大手ルノー・家具のイケアなど多くの企業の支持を得て、「⑤欧州連合(EU)は2030年に1990年比で温暖化ガスの排出量を55%減らす目標を掲げている」「⑥一緒に行動することで変化を起こせる」として脱炭素に向けて協調するよう求める書簡を米政府に送っている。これらは、日本にも完全に当てはまることだが、地球温暖化を止め持続可能性を維持することが目標であるため、平時でも温排水やトリチウムなどの放射性物質を海洋に放出している原発は、クリーンエネルギーに含まれない。
 なお、*5-2-1のように、「⑦フクイチは2011年の津波で炉心の溶融事故を起こし、高濃度の放射性物質を含む汚染水が今も発生している」「⑧汚染水は、専用装置(アルプス?)で主な放射性物質を取り除いた後も放射性物質のトリチウム(三重水素)を含む」「⑨その放射性物質が残る汚染水を海洋放出することが決まった」「⑩配管の設備工事などを終えて実際に放出できるのは2年後になる」「⑪風評被害が起きた場合は、東電が被害の実態に見合った賠償をする」とのことである。
 ここで、第1の問題点は⑦で、まだ高濃度の放射性物質を含む汚染水が発生しているのなら、大金をかけて凍土壁を作ったのは無駄遣いだったのではないかという点だ。また、第2の問題点は⑧で、*5-2-2に書かれているとおり、トリチウムだけでなく他の放射性物質も残っていることは隠されていた上、現計画でもトリチウムの分離等の他の方法は検討されていないことだ。さらに、第3の問題点は、⑨⑩の根拠として、100倍以上に薄めてWHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を下げて海洋放出すれば、放出する総量が変わらなくても問題ないと強弁している点である。第4の問題点は、「⑫廃炉を円滑に進めるためには保管施設として6万平方メートルの土地が必要でタンクが減らなければ廃炉に支障が出る」と言うが、それなら始めから海洋放出することを前提にタンクを建設して無駄遣いしていただけではないかという点だ。その上、⑪のように、「⑫売れなくなったら風評被害だ」「⑬関係者が理解していない」として福島県や近隣県の農産品の販路拡大の支援をするというのは、公害による汚染に無頓着な人が、気にしている人を馬鹿にするという本末転倒の状況なのである。
 それでは、専用装置(ALPS《アルプス》)で再処理してトリチウム以外の放射性物質が含まれない“処理水”にすれば安全なのかと言えば、*5-2-3のように、「体内に取り込まれたトリチウムが遺伝子の構成元素になると、放射線(β線)を出してトリチウムがヘリウムになる時に遺伝子(DNA)が壊れる」のである。しかし、その前に水や食品に含まれて体内に入ったトリチウムはβ線を出すときに消化管の細胞を傷つけ、その後に、血液中に移って体中を巡り、体中の細胞を傷つける(これが内部被曝だ)。そして、100倍以上に薄めてWHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を下げたとしても、EUの水質基準の26倍の濃さであり、総量を海洋放出すれば魚介類等の海産物はトリチウムを含む水の中に住み、その水を体内に取り込んで暮らすことになり、食物連鎖で次第に濃縮する。そのため、「風評被害だ」「販路拡大だ」と言っている人こそ、この生態系の仕組みを理解していないと思う。
 なお、*5-2-2・*5-2-4に書かれている中国・台湾・韓国による汚染水の海洋放出批判は尤もだが、これらの国の排他的経済水域に至るには、海流に乗って太平洋全域を汚染した後に東シナ海や日本海に入るため、太平洋でかなり薄まり、北太平洋の公海で獲る魚以外は汚染がないだろう。それより、中国や韓国にある原発が同じ事故を起こせば、太平洋よりもずっと狭い日本海が汚染されるため、中国や韓国も早々に卒原発に舵を切ってもらいたい思う。
 このような中、*5-3のように、「①福井県の杉本知事が運転開始から40年超の関電美浜原発3号機、高浜原発1、2号機の3原発の再稼働に同意」「②原則40年ルール下での初の延長運転」「③40年超原発1カ所当たり最大25億円の交付金交付」「④使用済核燃料は県外搬出が前提」とのことだが、①②④は、国民の血税から支払われる③の交付金に目が眩んだ無責任な判断だ。そのため、海流の川下になる石川県や風下になる滋賀県・京都府などからは苦情が出るのが当然で、パリ協定のCO₂排出0は、平時でもトリチウムや温排水を出し続け、事故時には海を含む広い地域に深刻な汚染をもたらす原発に頼らず再エネのみで達成すべき目標である。従って、今は、「原発は安定電源」などと無理な合理化をせず、再エネや分散型発電を国際価格並みに安価にするための投資に集中すべき時である。

*5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN13E7L0T10C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月14日) 米の温暖化ガス「30年に半減を」 Appleなど310社要望
 米アップルやグーグル、ネスレなど米国で事業を展開する企業310社が13日、バイデン米大統領に対し、2030年までに温暖化ガスで05年比で半減とする目標を掲げるよう求める書簡を送った。欧州議会も同様の書簡を送付。米国が22日から開催する気候変動サミットを前に、50年の排出ゼロに向け具体的な道筋を求める動きが強まっている。書簡に署名した企業はコカ・コーラやウォルマート、ナイキなど製造業から小売業まで多岐にわたる。ゼネラル・エレクトリック(GE)やエジソン・インターナショナルなどエネルギー関連企業も含まれる。声明では30年の目標設定が「力強い景気回復をもたらし、何百万もの雇用を生み出す」と強調した。「クリーンエネルギーに投資し、エネルギー効率を高めることは、米経済をより包括的で公正なものにするだろう」とつづり、耐久力のあるインフラ、排出ゼロの車や建物などの構築にもつながるとした。さらに記録的なハリケーンや山火事などが「天災に耐えることが困難な低所得層を直撃している」との懸念を示した。米国が30年の目標を約束することは「他の先進国を刺激し、野心的な目標の設定につながるだろう」と国際協調における意義も示した。欧州議会の環境委員会は13日、自動車大手ルノーや家具のイケアなど多数の企業の支持を得る形で米政府に対し書簡を送った。「一緒に行動することで変化を起こせる」として脱炭素に向けて協調するよう求めた。欧州連合(EU)は30年に1990年比で温暖化ガスの排出量を55%減らす目標を掲げている。バイデン米政権は22日に、主要な排出国を集めて気候変動サミットを開催する。バイデン氏に対して「国としての目標を引き上げるなら、我々自身の目標も厳しくする」とつづったグローバル企業からの書簡は、米政府の気候変動対策の具体策を後押しするとともに圧力にもなる。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210414&ng=DGKKZO70976330U1A410C2MM8000 (日経新聞 2021.4.14) 福島第1 廃炉へ一歩 処理水の海洋放出決定 風評被害、東電が賠償
 政府は13日、東京電力福島第1原子力発電所の敷地内にたまり続ける処理水を海に放出する方針を決めた。東京電力ホールディングスは原子力規制委員会の認可を受けて2年後をめどに放出を始める。風評被害が起きた場合は、東電が被害の実態に見合った賠償をする。廃炉作業の本格化に一歩前進となる。同日開いた福島第1原発の廃炉や処理水に関する関係閣僚会議で決めた。梶山弘志経済産業相は福島県を訪ね、同県庁で面会した内堀雅雄知事に「徹底した風評対策に取り組む」と伝えた。内堀氏は「福島県の復興にとって重く困難な課題だ。(政府の)基本方針を精査し、県としての意見を述べる」と答えるにとどめた。会談は6分間で終わった。政府の決定を受けて、東電は処理水の海洋放出に向けた対応方針を定める。放出の手順について原子力規制委の手続きを進め、配管の設備工事などを終えて実際に放出できるのは2年後になる。福島第1原発は2011年3月の東日本大震災の津波で炉心の溶融事故を起こし、高濃度の放射性物質を含む汚染水が今も発生している。専用装置で主な放射性物質を取り除いた処理水も放射性物質のトリチウムを含む。この処理水を100倍以上に薄めて海へ流す。世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を下げる。東電はこれまで処理水を原発の敷地内のタンクにため続けてきた。タンクは3月時点で1061基に上る。50年ごろの完了をめざす廃炉作業の山場は事故で溶けた燃料が固まったデブリの取り出しだ。デブリは放射線量が高い。作業員の安全を確保しながら、放射性物質を外に漏らさない厳重なデブリの保管が求められる。東電の計画では一時保管施設に6万平方メートルの土地が必要となる。政府と東電は海洋放出でタンクを減らしてスペースを確保し、廃炉を円滑に進める方針だ。海洋放出は長期にわたるためタンクはすぐ減らず、廃炉に支障が出る可能性は残る。東電の小早川智明社長は13日、記者団に「タンクで敷き詰められた敷地でこれからより厳しいデブリの取り出しなどを行っていく」と強調した。政府と東電は周辺海域の海水のモニタリングを強化する。福島県と近隣県の農産品の販路を拡大する支援にも取り組む。基本方針には風評被害が発生した際に東電が「被害の実態に見合った必要十分な賠償を迅速かつ適切に実施する」とも記した。風評被害対策などを進めるための新たな関係閣僚会議も近く開く。それでも原発事故とその後の汚染水の漏出など度重なる不祥事を受け、地元関係者らの不信感は強い。安全性の確保を政府と東電が慎重に確認し、関係者の理解を得ながら放出していく姿勢が求められる。

*5-2-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1304270.html (琉球新報社説 2021年4月14日) 原発処理水放出決定 最善の選択と言えない
 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の処分に関し、政府は海洋放出の方針を正式決定した。放射性物質の海洋放出によって海の環境や人体に与える影響はないと断言できるのか。漁業など風評被害はどのように払拭(ふっしょく)するのか。中国、韓国、台湾など近隣諸国は決定を非難している。国際社会の理解は得られるのか。これらの疑問に政府は答えているとは言い難い。海洋放出は実行可能な最善の選択とは言えず、政府決定は容認できない。原子力発電推進という国策の結果、事故を招いた。事故のつけを国民に押し付けてはならない。これまで社説で主張してきたように、トリチウム分離など放射性物質を取り除く技術が開発されるまで地上保管を選択すべきだ。第1原発では溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水が、建屋に流入する地下水などと混じり汚染水が発生する。東電は浄化した処理水を敷地内のタンクに保管している。来年秋以降、タンクの容量が満杯になるとみている。なぜ他に増設場所を確保する努力をしないのか。処理水には技術的に除去できない放射性物質トリチウムが含まれており、海水で十分に薄めた上で海に流すと説明している。しかし、濃度を下げたとしても、トリチウムの総量は莫大な量に上るはずだ。全量放出すれば海を汚染しないと断言できないだろう。浄化後の水にトリチウム以外の放射性物質が除去しきれず残留し、一部は排水の法令基準値を上回っていたことも判明している。トリチウム以外の放射性物質の総量はどれだけなのか。トリチウム水の取り扱いを巡っては、経済産業省の専門家会合が、薄めて海洋放出する方法が、より短期間に低コストで処分できるとの内容を盛り込んだ報告書をまとめた。コストを優先し、海洋放出ありきだったと言われても仕方ない。なぜ他の実現可能な選択肢を検討しないのか。手続きも不十分だ。放出について東電は「関係者の合意を得ながら行う」と明言していたはずだ。国も関係者の理解なしにいかなる処分も行わないと説明していた。全国漁業協同組合連合会(全漁連)は放出に反対し、抗議声明を発表した。到底理解を得たとは言えない。福島や隣県の漁業関係者が「原発事故の風評に悩まされてきた10年間に積み重ねてきた努力が無駄になる」と憤るのは無理もない。国連の人権専門家は3月、処理水は環境と人権に大きな危険を及ぼすため「太平洋に放出するという決定は容認できる解決策ではない」との声明を発表した。海洋放出は子どもたちの将来的な健康リスクを高めるなど、人権侵害に当たると警告している。中国や韓国、台湾は相次いで批判している。政府は国際社会の警告を真摯(しんし)に受け止めなければならない。

*5-2-3:http://tabemono.info/report/former/genpatu5.html (NPO法人食品と暮らしの安全基金) トリチウム(三重水素)、浄化水を放出するな!水蒸気も怖い!
●基準以下のトリチウム
 「体内に取り込まれたトリチウムが遺伝子の構成元素になると、放射線を出してトリチウムがヘリウムになったとき、遺伝子DNA そのものが壊れるのです」。槌田敦先生にインタビュー(2012年3月号8ページ)しているとき、こう伺いました。トリチウムは、先月号、先々月号でお知らせしたより、もっと怖い放射能でした。トリチウムは三重水素ですが、たいていは水として存在します。口や鼻、皮膚から吸収されると、 ほとんどが血液中に取り込まれ、体内のどこにでも運ばれ、水や水素として体の構成要素になります。 このトリチウムは、基準が非常に緩いので、世界中の原発から放出され続けています。まれにしか検査されませんが、検出されても「基準以下」と報道されることがほとんど。処理して取り除くことができないため、問題にしても仕方ないという雰囲気なのです。原発推進を掲げた新聞では、トリチウムの危険性が取り上げられることはありません。反原発派もあまり問題にしていません。
●コップの水はEU 水質基準の26 倍
 それでも原発事故後、大きな話題にかかわったことがあります。10月31日、内閣府の園田康博政務官が、5、6号機から出た汚染水の純水をコップに入れて、 報道陣の前で飲み干した水に含まれていた放射能がトリチウムです。原発事故後、伐採した樹木が自然発火することを予防するために散布されていた水の危険性が問題になりました。「東京電力が『飲んでも大丈夫』って言ってるんですから、コップ1杯ぐらい、どうでしょう」と、 記者会見でフリージャーナリストの寺澤有さんが質問。会見後、寺澤さんは「絶対飲まないほうがいいです」と園田政務官に言ったのですが、 「飲めるレベルの水であることを言いたかった」と飲んでしまったのです。その前に公表されていた東電の資料を見ると、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137は「不検出」で、 トリチウムは1リットル当たり2,600ベクレル(Bq)とありました。下欄に、WHO 基準が10,000Bq/リットルとあったので、「飲めるレベル」と思ったのでしょう。しかし、アメリカではトリチウムが原発周辺でガンを起こして問題になっていることを、 月刊誌「食品と暮らしの安全」の2011年8月号「アメリカの市民生活」で取り上げています。アメリカの飲用水のトリチウム基準は2万ピコキュリー(740ベクレル)/ リットル。コップの水は飲用水基準の3.5 倍だったのです。EUの水質基準はもっと厳しく、100Bq/ リットルなので、コップの水は26 倍になります。知っていたら、この水は飲めないでしょう。やはり東電にだまされていたわけで、園田政務官が白血病にかからないことを祈ります。
●蒸発濃縮装置から水もれ
 12月8日、10万トンのトリチウム汚染水を海洋に放出することを東電が検討していることが判明。 全漁連(全国漁業協同組合連合会)と鹿野農林水産大臣が反対したので、東電はいったん海洋放出案をひっこめました。 その直前の12 月3日、汚染水処理施設の蒸発濃縮装置から水漏れが発覚しましたが、 この装置から蒸発させているのがトリチウムを含む水蒸気でした。3.11 以降に原発が次々と爆発しましたが、水素爆発の「水素」には多量のトリチウムが含まれていました。ただ、当時は半減期の短いヨウ素が危険な放射能の主役だったので、トリチウムの危険性が報道されなかったのは仕方ありません。
●DNA の中に入ると危険
 トリチウムは、弱いベータ線を出します。このベータ線は細胞内では1ミクロン(1000分の1mm)ぐらいしか飛ばないので、 血液として全身をめぐっている間は、遺伝子DNA をほとんど攻撃しません。ところが、トリチウムが細胞に取り込まれ、 さらに核の中に入るとDNA までの距離が近くなるので、 ここからは、放射性セシウムや放射性ストロンチウムと同じようにDNA を攻撃するようになります。トリチウムには、この先があります。化学的性質が水素と同じなので、水素と入れ替わることができるのです。DNAの構造には、水素がたくさん入っていて、トリチウムがここに入っても、DNAは正常に作用します。問題は、放射線を出したときで、トリチウムはヘリウムに変わります。そうなると、放射線で遺伝子を傷つけるのに加えて、ヘリウムに変わった部分のDNA が壊れて、遺伝子が「故障」することになります。この故障がリスクに加わるので、トリチウムはガン発生確率が高くなるのです。遺伝子が故障した細胞は生き残りやすいので、ガン発生率が高いとも考えています。そのことを裏付けるような訴訟がアメリカで起きています。シカゴ郊外で100 人以上の 赤ちゃんや子どもがガンにかかった(先月号P6)のは、事故を起こした原発から放射能が出たことが原因ではありません。正常に運転されている原発から出ているトリチウムが、飲み水を汚染し、放射能の影響を受けやすい赤ちゃんや子どもにガンを発生させたとして、訴訟が起きているのです。
●原子力ムラがNHKに抗議
 放射能の国際基準はいい加減に作られているという当事者の証言と、 シカゴ郊外で子どもにガンが多発している事実を放送した 『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』(NHK、2011年12月28日放送)に対して、 原発推進を訴える3団体のメンバーがNHKに抗議文を送っていたことを、2月1日に東京新聞が明らかにしました。事故までは「原発事故は起きない」と抗議活動をしていた団体が、少なく見ても5000人をガンで殺すような大事故が起きたにもかかわらず、1年もたたないうちに原発利権を守る抗議活動を再開したわけです。私たちは、この番組を応援する必要があります。
●福島県民が危ない
 爆発した福島原発は、炉の下に落ちた核燃料を水を入れて冷やしているので、トリチウムの大量生成装置になっています。トリチウムの検査データを調べると、2011年9月に2号機のサブドレンの水から2,400Bq/リットル検出されていました。取水口内の海水では、2011年9月に470Bq/ リットル、2011年10月に920Bq/リットルのトリチウムが検出されていましたが、 これは、海水で薄まった値と考えられます。これ以外のデータが見つからないので、トリチウムの検査結果はまだすべて隠されたままです。原発の汚染水を浄化しても、トリチウムだけはまったく除去することができません。それは最初からわかっていたので、問題にならないようにトリチウムの基準を緩くして、 水蒸気として大気中に放出したり、海に流してきたのです。今でもトリチウムは、毎日、原発から水蒸気として放出され続けています。 それに加えて、「いつまでもタンクを増設することはできないでしょう」と言って、 東電は近いうちに10 万トンを超えるトリチウム汚染水を海に流そうとしています。 これを止めないと、福島県と周辺の県民に被害者が出ます。トリチウム汚染水は、海水より軽いので、海面から蒸発し、それが雨になって陸にも落ちてくるからです。すでにトリチウム汚染は広がっていると考えられますが、それがさらに広範囲になるので、原発の浄化水の放出を止めるように世論を形成していく必要があるのです。水道水にトリチウムが含まれるようになると、白血病や脳腫瘍が多発します。 トリチウムは、水素と化学的性質がほぼ同じですが、まったく同じではなくて、脳の脂肪組織に蓄積しやすいことが判明しています。 だから、トリチウムがつくるガンでは、脳腫瘍がもっとも多いようです。 トリチウムによる被害が出ないようにするには、タンクを造り続けるしかありません。トリチウムの半減期は12.3 年なので、120年ほど貯蔵すれば、トリチウムは1000 分の1になって汚染水を放出できるようになります。

*5-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/661564 (佐賀新聞 2021.4.15) 韓国で処理水放出への批判強まる
 日本政府による東京電力福島第1原発処理水の海洋放出決定を受け、韓国で日本に批判的な世論が強まっている。一方、15日付の韓国紙は韓国政府の作業部会が昨年「科学的に問題ない」との趣旨の報告書をまとめていたと報道。文在寅大統領の強硬姿勢とのちぐはぐさを非難する声も上がっている。大手紙の中央日報によると、海洋水産省など政府省庁による作業部会は昨年10月の報告書で、放出された処理水が韓国国民と環境に及ぼす影響を分析。数年後に韓国周辺海域に到達しても「海流に乗って移動しながら拡散・希釈され、有意な影響はない」と判断した。処理水に含まれる放射性物質トリチウムについても「生体に濃縮・蓄積されにくく、水産物摂取などによる被ばくの可能性は非常に低い」とした。韓国首相室は「一部専門家の意見」だったと釈明した。最大野党「国民の力」の報道官は「作業部会は問題ないとの趣旨の報告書を出す一方、大統領府は(国際海洋法裁判所に)提訴するというなら国民は誰の言葉を信じればいいのか」と批判した。ソウルの日本大使館前では、15日も市民団体が放出に反対する集会を開催した。日本の方針を支持している米国や国際原子力機関(IAEA)への批判の声も上がっている。

*5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/668863 (佐賀新聞 2021.4.30) 原発40年超運転、課題先送りの判断だ
 福井県の杉本達治知事が、運転開始から40年を超えた関西電力美浜原発3号機(同県美浜町)、同高浜原発1、2号機(同県高浜町)の再稼働に同意した。東京電力福島第1原発事故後に定められた「原則40年」のルール下で初めての延長運転となる。会見で知事は「総合的に勘案した」と述べたが、この間議論された多くの課題のうち、具体策が示されたのは「40年超原発1カ所当たり最大25億円の交付金」という地域振興策だけで、多くの課題を先送りした判断だと言わざるを得ない。一つは、知事が当初は同意の前提として福井県と関西電力との間でやりとりしていた、使用済み核燃料の搬出の問題だ。各原発にたまり続ける使用済み核燃料は、国の再処理政策の不透明さもあって、その行き先が定まらない。関西電力は青森県むつ市の中間貯蔵施設を選択肢の一つに挙げ、2023年末までに確定すると表明。電気事業連合会も電力各社の共同利用を検討する方針を提示。杉本知事はこの問題を再稼働の是非とは切り離して検討すると理解を示した。むつ市の施設は本来、東電と日本原子力発電の2社の使用済み核燃料を一時保管するものだ。共用の具体化は地元同意も含めて容易ではなく、再稼働を認めさせるための方便とも映る。むつ市長が「市や青森県の民意を踏みにじっている」と反発したのも当然だ。避難計画の具体化が遅れていることも懸念材料となる。広域避難のリスクはほかの発電にはない原発固有の課題。東電の事故後、各地で計画策定は進んだものの、自然災害とは桁違いに対象区域が広く、住民も多いことが高いハードルになっている。交通手段や避難先は確保できるか。離島や半島部の避難は可能か。地震や津波、風水害との複合災害への備えはあるのか。事故が拡大した際の二次避難ができるか。昨年の福井県知事との懇談で滋賀県知事が、県境を越えた広域避難における連携、協調を呼び掛けたように、県域をまたいだ避難の実効性が担保されたとはいえない。将来の日本のエネルギー政策に原発をどう位置付けるのかも問われなければならない。本来は東電の事故で決断を迫られたはずのその議論が棚上げされている。菅義偉首相が言う50年の二酸化炭素(CO2)排出ゼロ目標の実現には本来、発電構成の将来像が原発比率を含めて明らかにされるべきだ。杉本知事と27日にオンライン会談した梶山弘志経済産業相は「原発を含む脱炭素電源を最大限活用」と強調した一方、内容は今後のエネルギー基本計画に盛り込むと述べるにとどまった。最近の資源エネルギー庁の試算では、新増設を前提にしなければ、全ての原発で40年超運転を認めたとしても、2040年代には経年化により急速に原子力の設備容量は減少し、60年には1千万キロワットを割り込む。その試算は、全原発が順調に運転できるとの想定だが、故障や事故による停止、訴訟による運転差し止めなどの予期せぬリスクがある。40年超運転は、安全対策の追加を強いられ経済的に見合わなくなる恐れもある。諸外国のように再生可能エネルギーや分散型電源へシフトするための議論は待ったなしだ。

<送電網も独占・寡占では工夫がなく、コストも下がらない>
PS(2021年4月17日追加): *6-1のように、2020年12月15日、①経産省・国交省・民間事業者が洋上風力の普及に向けた長期計画をまとめ ②2040年までに最大4500万kw(北海道:1465万kw、九州:1190万kwキロワット、東北:900万kw)を導入する目標を掲げ ③大消費地から遠いため長距離を効率的に送電できる「直流送電」の導入に向けた検討も始め ④着床式の発電コストは国際平均に並ぶ8~9円/kwhを目指すとした。
 このうち①②③については、海底ケーブルを敷設したり、新たに用地買収をしたりしなくても、鉄道・高速道路等の既に繋がっている土地を利用すれば用地買収が不要なため工事費が安価で早くなり、事業費を電気料金に上乗せして賄わなくても事業者が送電料を収入にすればすむ。そのため、経産省・国交省・農水省が縦割りの壁をなくして協力した方がよいにもかかわらず、*6-3のように、地域間送電網も経産省が予算獲得のネタにして省益を図れば、これまでと同様、大手電力を優遇して新規事業者をつぶし、予算と時間ばかりかかって大した変革はできず、他国に遅れて④のような値段の高いエネルギーとなり、日本企業をさらに国外に出してしまうことになる。大手電力と経産省が送電網を握ったために起こった非生産性と不合理は、九州で太陽光発電由来の電力が余っているのに、原発由来の電力を送電するために出力制御を迫られたことで明らかである。また、直流・超電導電線による送電等の新しい技術を現在も使わず、東日本と西日本で異なる周波数の変換装置が必要などと言っているのも、大手電力と経産省が電力事業を地域独占して合理化しなかったからである。
 そのため、②のように、地方で再エネ発電をするにあたっては、洋上風力だけでなく、農林水産業の盛んな地域でその場所にあった再エネ機器を設置するのが安価な上、そうすれば、その地域の農林水産業にエネルギー代金が入って補助金が不要になる。従って、①には、経産省・国交省・民間事業者だけでなく、農水省や農協・漁協・森林組合なども加えて省庁横断的にエネルギー代金を最も安くする方法(変動費≒0)を考えるべきで、財政状況が悪い現在、送電線敷設費用を数兆円の景気対策(≒無駄遣いのバラマキ)と捉えることなどは決して許されない。
 なお、*6-2のように、地域間送電網を複線化することは、災害時のセキュリティー・再エネの普及・電力自由化の徹底のために重要だ。しかし、都市部に送る送電網は地方からの鉄道や道路が縦横無尽に走っているため、そこを使えば電線を目立たなくして景観に配慮しながら送電線を安全に通すことが可能だ。これには、国交省の協力も欠かせないが、人口の地方分散のためにも地方の収入源・送電線・通信ネットワーク・医療・福祉施設は不可欠なインフラであるため、その場限りの景気対策ではなく、生産性向上のための投資として行うべきである。


2020.10.31、2021.4.15    古川電工        鉄道に敷設された超電導電線
   日経新聞

(図の説明:左の2つの図のように、日経新聞は、不十分な送電網が再エネ普及の妨げになるとし、洋上風力発電普及のため海底に送電線を敷設すると記載している。しかし、新たに海底に送電線を敷設するよりも、右の2つの図のように、鉄道・道路・地下鉄などの既にあるインフラに超電導電線などを併設した方が安価な上、過疎地の鉄道に送電料という収入源をもたらして廃線鉄道を減らすことに繋がる。さらに、送電ロス・セキュリティー・景観から考えても、これまで通りの鉄塔より鉄道・道路・地下鉄等への超電導電線敷設の方が優れているのだ)

*6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF1532J0V11C20A2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020年12月15日) 洋上風力、北海道・東北・九州に8割整備へ 官民が目安
 経済産業、国土交通両省と民間事業者は15日、洋上風力の普及に向けた長期計画をまとめた。2040年までに最大4500万キロワットを導入する目標を掲げた。全体の8割にあたる約3500万キロワットを北海道、東北、九州に整備する目安も示した。大消費地から遠いため、新しい方式を導入して長距離を効率的に送電できるようにする。同日に開いた官民協議会で「洋上風力産業ビジョン」としてまとめた。ビジョンでは洋上風力を「(再生エネの)主力電源化に向けた切り札」と位置づけ、導入目標の設定や普及に向けた制度整備の内容を記載した。導入目標は40年までに3000万~4500万キロワットとした。再生可能エネルギーの先進地であるドイツを上回る規模となる。ビジョンでは地域ごとの設置量のイメージも示した。設置に適した気候の北海道が最大1465万キロワット、九州が1190万キロワット、東北が900万キロワットと3地域で8割を占める。電力の大消費地である東京圏や関西圏から遠い点が大きな課題となる。導入目標の達成に向けて新たな送電網の整備計画を来春に示す。長距離を効率的に送電できる「直流送電」の導入に向けた検討も始める。部品などの国内調達率は60%に設定。着床式の発電コストについて国際平均に並ぶ1キロワット時あたり8~9円を目指す方針も盛り込んだ。

*6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65690120Q0A031C2MM8000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020年10月31日) 再生エネ普及へ地域間送電網を複線化、政府、東北・九州候補に
 再生可能エネルギー拡大の妨げとなっている送電網の弱さを解消するため、政府は送電網を複線化して増強する。電力会社と来年春までに計画を策定して具体的な場所や規模を詰める方針で、東北や九州などが候補になる。2050年までに温暖化ガス排出量を「実質ゼロ」にする政府目標の実現に向け、欧州に比べて遅れている送電インフラの整備を急ぐ。電力は発電所から送電網を使って各地域に送る。送電網が不十分だと太陽光や風力など再生可能エネルギーの電気を十分に送れない。特に都市部に送る送電網の不十分さが目立つ。東北から首都圏に送る連系線の容量は615万キロワットで東京電力のピーク電力需要の11%にとどまる。地方と都市部を結ぶ連系線は他の地域でも需要の1割前後しか送れないケースが多い。東日本と西日本では周波数が違うため変換装置が必要だが、能力は120万キロワットと東電のピーク需要の約2%分しかない。経済産業省は温暖化ガス排出ゼロに向けた実行計画をつくり、これに合わせて送電網の増強計画を策定する。電力会社と連携し、地域を越える連系線や、地域内の主要路線の基幹系統の状況を調査する。2021年春をメドに優先的に整備する地域を示す。現時点では東北や九州が有力候補だ。東北では大手電力が原発や火力発電用に送電網を確保し、実際は空いていても再生エネ事業者が使えない問題がある。秋田など日本海側では洋上風力の建設計画が進み今後も再生エネの発電量が増える。政府は送電網の利用ルールを見直すとともに、東北や新潟と首都圏を結ぶ連系線の複線化を検討する。太陽光発電が拡大する九州では、電気を使い切れず太陽光事業者が出力を抑える事態が起きている。19年度は計74回発生し、1回あたり最大289万キロワットと原発約3基分の出力を抑えたこともあった。本州とつなぐ連系線を増強して送電できる量を増やせば出力抑制を減らせる。九州から本州へと結ぶ連系線は238万キロワットと九州電力のピーク電力の15%程度で設備を複線化して増強することなどを検討する。投資額はそれぞれの地域で数百億~数千億円の見込み。実際の工事は大手電力の送配電部門が実施する。費用は6月に成立した電気事業法などの改正法に基づき、電気の利用者が負担する仕組みを適用する。すでに工事を始めた宮城県と首都圏をつなぐ連系線では、約450万キロワット増やす工事の投資額が約1500億円。30年超にわたって全国で分担すると、1世帯あたりの負担額は毎月数円になる見込みだ。国内でこれまで送電網の整備が遅れてきた背景には大手電力の消極的な姿勢があった。連系線を拡充すれば地域を越えた販売が容易になり競争が激しくなる。地域独占が続いていた各社は増強に後ろ向きだった。東日本大震災で東京電力福島第1原子力発電所が重大な事故を起こし、東電は計画停電を実施した。送電線を増強して他地域から融通を増やす対策に東電などは「数兆円の投資がかかる」と二の足を踏んだ。震災から約10年がたった今も拡充は遅れている。大手電力は送電網の拡充について「災害時に停電リスクを減らせる」といった声がある一方、再生エネの流入で自社の発電量が減ったり、他社の越境販売を後押しして顧客を奪われたりすることなどを警戒する声が根強い。菅義偉政権は温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を打ち出し、実現のため再生エネの導入加速がさらに欠かせなくなった。主に電力会社に委ねる従来の体制から切り替え、国の主導で強力に推進することで、どこまで電力会社を動かせるかが焦点になる。国のエネルギー基本計画で政府は、30年度の電源構成に占める再生エネの割合を22~24%とする。自然エネルギー財団は、送電網の増強への政府の後押しや、電気をためておく蓄電池のコスト低下が進めば、再生エネの設備が30年度に2億キロワットと2019年度の2倍以上に増えると予測する。全体の発電量に占める比率は45%まで引き上げることが可能とみる。再生エネの普及で先行する欧州では、国をまたいで電力を融通する国際送電網が発達している。各国が平均1割ほどの電力を輸出したり輸入でまかなったりする。電力の過不足を融通することで天候などに発電量が左右される再生エネの弱点を補う。島国の日本では海外との連携が難しく、国内の地域間ですら融通量が限られている状況の改善は喫緊の課題だ。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210416&ng=DGKKZO71059040W1A410C2MM8000 (日経新聞 2021.4.16) 地域間送電網、容量2倍 洋上風力の融通円滑に、経産省、再生エネ普及へ計画
 経済産業省や電力広域的運営推進機関(広域機関)は地域間送電網(総合2面きょうのことば)の容量を最大2300万キロワット増強し、現行の2倍とする計画案をまとめた。北海道と関東、九州と本州の間などで複数のルートを新増設する。再生可能エネルギーの主力となる洋上風力発電の大量導入に向けて、欧州などに比べて遅れていた広域の送電インフラの整備がようやく動き出す。政府は2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。達成に欠かせない再生エネの普及は送電網の弱さが足かせとなってきた。太陽光発電が盛んな九州では送電網の容量不足で出力制御を迫られる事態が頻発する。欧州は国境を越えて電力をやりとりする国際送電網が張り巡らされており、各国は電力の2割程度を輸出入する。発電量の変動が大きい再生エネ普及を後押ししてきた。日本は地域ブロック間で電力をやりとりする仕組みが十分に整っていない。地域独占を続けてきた大手電力各社が競争を敬遠し、消極的だった。地域間送電網の利用実績は19年度時点で874億キロワット時で、日本の総発電量(約1兆キロワット時)の8.5%にとどまる。経産省は電力を広域で効率よく使えるようにするため、地域間送電網の増強案を大手電力会社を交えて検討してきた。詳細を4月中に公表する。再生エネの柱となる洋上風力発電は40年までに原発約45基に相当する4500万キロワットを導入する目標がある。年間の発電量に換算すると約1300億キロワット時程度となる。単純計算で今の日本の総発電量の1割ほどをまかなえる規模だ。送電網の増強案は洋上風力の8割が立地に適した北海道、東北、九州に集中する前提で、首都圏や関西圏など遠隔の大消費地に電力を円滑に送れる体制を整える。北海道と関東を結ぶルートでは海底ケーブルを日本海側と太平洋側に敷設する。北海道と東北を海底ケーブルで結び、東北から関東は陸上の送電網を使う構想もある。本州と九州や四国などを結ぶ系統も増強。東日本と西日本の間は異なる周波数の変換装置も必要だ。洋上風力が北海道以外の各地に分散する場合は必要な増強量は減るため、今後策定する次期エネルギー基本計画を踏まえてさらに見直す。経産省は再生エネの導入量が膨らむ場合でも、全体として最大2倍の増強で対応できるとみている。送電網の敷設作業は各電力会社の送配電部門が担当する。事業費は合計で数兆円に達する可能性がある。20年に成立した改正再生エネ特措法に基づき、電気料金に上乗せして賄う仕組みの活用を視野に入れる。工事計画の策定や用地確保に時間を要するため、送電網の整備に着手するのは早くても22年以降になりそうだ。増強が実現し、電力料金への反映が始まるのは30年代と見込む。地域間の電力融通が拡大すれば競争原理が働き、より安いグリーン電力が消費者に届くようになる可能性もある。

<再エネの拡大法>
PS(2021年4月18日追加):*7のように、日米首脳会談で①2050年の温暖化ガス排出の実質0目標に向け、2030年までに確固たる行動をとることで一致 ②両国は4月22日からの気候変動に関する首脳会議までに30年の削減目標をまとめるが ③日本は2030年度に2013年度比で26%減らす目標で、1990年比55%減のEUや68%減の英国に見劣りするため ④2013年度比40%程度の削減を土台に上積みの余地を探ろうと政府内で調整が続いているが ⑤2030年度までの期間では革新的クリーンエネルギー技術の普及は織り込みにくく ⑥2030年度までに導入量を上積みしやすいのは太陽光発電で、環境相は屋根置き太陽光パネルなどの普及を進める考えで ⑦経産省は2030年度の太陽光発電容量を8800万kwにする試算を示した そうだ。
 このうち、①②は、遅すぎたものの進展があってよかったが、③④は、1995年に初めて環境問題とクリーンエネルギーを取り上げて京都議定書をまとめたのは日本なのに、また「遅れたから追いつく」という論理しか言えないのがおかしい。その1995年には、太陽光発電を視野に入れ、屋根に不自然な傾斜をつけて置くのではない建材一体型の太陽光発電装置を作ろうと言っていたので、既に下のようにツールはできている。そのため、⑤の革新的クリーンエネルギー技術は既にできているのであり、⑥⑦は容易であるのに、中央で情報を集めている政治・行政の幹部が科学的知識に基づいた情報処理能力に欠けているらしいのが、現在の深刻な問題である。これも、教育や採用・配置・昇進の仕方に問題があるのだろう。

   
 2021.4.17東京新聞    ビルへの太陽光発電設置例    農業用ハウスへの設置例

(図の説明:1番左の図のように、再エネの比率を上げる必要があるが、政府がいつまでもベースロード電源と言って原発と化石燃料の維持に汲々としていたことが、この25年間の再エネ普及を阻害した原因だ。しかし、左から2番目のように、ビルにスマートに組み込んでビルの光熱費を下げている太陽光発電や、右から2番目のオランダのビルのように、透明な太陽光発電をふんだんに使った明るいビル、1番右のように、透明な太陽光発電フィルムを使った農業用ハウスなどが既にできており、価格が高すぎなければマンションや一般住宅にも使えるのである)

 
   FCVバス                EV自動車
(図の説明:上の図のように、陸上交通のFCV化・EV化技術は既にできているので、後は「やるか、やらないか」の意思決定だけである)

*7:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA15EDS0V10C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月17日) 日米、脱炭素へ「確固たる行動」 再生エネ拡大が課題
 菅義偉首相とバイデン米大統領は16日の会談で、日米双方が掲げる2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロ目標に向けて「30年までに確固たる行動をとる」ことで一致した。両国はそれぞれ22日からの気候変動に関する首脳会議(サミット)までに30年の削減目標をまとめる。日本は再生可能エネルギーの拡大や石炭火力発電の縮小といった構造転換が課題となる。「日米で世界の脱炭素をリードしていく」。首相はバイデン氏との会談後の共同記者会見で強調した。両首脳は日米気候パートナーシップを立ち上げた。これに基づき、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に関する対話やクリーンエネルギー技術の開発、途上国が脱炭素社会に移行するための支援で連携する。脱炭素で欧州に遅れる日米は50年に実質ゼロにする道筋を描ききれていない。まずは30年までの取り組みが重要になる。日本が掲げてきた30年度に13年度比で26%減らす目標は、1990年比で55%減の欧州連合(EU)や同じく68%減の英国の目標に見劣りする。首相は会談後、同行記者団に22~23日に米国が主催するオンラインの気候変動サミットまでに新目標をまとめる考えを示した。13年度比40%程度の削減を土台に上積みの余地を探ろうと政府内で調整が続く。日本政府の説明によると、首脳会談では具体的な数値の言及はなかったという。温暖化ガスの排出量の多くは発電などの燃料の燃焼に由来する。30年度までの期間を考えると革新的なクリーンエネルギー技術の普及は織り込みにくい。発電時に温暖化ガスを出さない原子力発電所の再稼働の大幅な進展が見通しにくい日本では「再生可能エネルギーをいかに入れるかが重要なポイントだ」(小泉進次郎環境相)。政府は30年度の発電量のうち再生エネで22~24%、原子力で20~22%、火力で残りをまかなうことを想定してきた。30年度の温暖化ガスの排出削減目標を引き上げるのにあわせ、この計画を見直して再生エネの割合を高める。切り札とされる洋上での風力発電は環境アセスメントや建設に8年程度かかる。40年までに原発約45基に相当する最大4500万キロワットを導入する政府目標があるが、大量導入の本格化は30年度より先になる。現実的に30年度までに導入量を大幅に上積みしやすいのは太陽光発電だ。30年度に再生エネの比率を現在の2倍以上の40%超にしたい小泉環境相は設置までの期間が短い屋根置きの太陽光パネルなどの普及を進める考えだ。今国会で地球温暖化対策推進法改正案が成立すれば再生エネの導入促進区域を自治体が定めて大量導入を促せるとみる。一方、経済産業省はこのほど、30年度の太陽光の発電容量を19年度より6割多い8800万キロワットにする試算を示した。支援策の強化でさらに上積みをめざすが、省内は「6割増でも相当厳しい」との声がもっぱらだ。1平方キロメートルあたりの日本の導入容量は主要国ですでに最大。農地の転用も農林族議員の反対などで一筋縄でいかない。首脳会談の共同声明には、日本政府の石炭火力発電に対する輸出支援などを念頭に「官民の資本の流れを気候変動に整合的な投資に向け、高炭素な投資から離れるよう促進する」と盛った。日本は温暖化ガスの排出の多い石炭火力依存からの転換も求められている。

<再エネ・EVにおける日本の失敗の理由>
PS(2021年4月24、25日追加):*8-1-1・*8-1-2は、「①菅首相は2030年までの温暖化ガス排出削減目標を、(米国・英国は50%減を迫ったが)2013年度比46%減にすると表明」「②46%減は首相が掲げた50年の実質排出ゼロが視野に入る削減率」「③梶山経産相は積み上げでは39%減が限界と言っていた」「④首相が外交舞台で50%減の約束をした場合、国内での説明に窮するリスクがあった」「⑤首相は午後6時すぎに地球温暖化対策推進本部で『50%の高みに向けて挑戦を続ける』と発言した」「⑥2013年度比46%減の目標実現に向けた道は険しく、産業界は抜本的な対応の見直しが必要」「⑦技術革新などを通じて競争力の強化につなげられるか問われる」「⑧日本は発電量の7割以上が火力発電で、風力・太陽光等の再エネ18%、原子力6%」「⑨欧州は再エネと原発合計で5割を上回る国が珍しくなく日本の出遅れは明らかで原発再稼働は足踏み状態」「⑩燃焼時にCO2を出さない水素やアンモニアを火力発電に使う手法は既存の設備を生かせるケースもあり期待を集めるが、短期で大きな貢献は見込みにくい」「⑪EVは走行時にはCO2を出さないが現状では動力となる電力を作る際に大量にCO2を出すので、発電所由来のCO2排出量が減れば電EVの普及も効果を発揮する」「⑫政府は補助金を通じ2035年までに新車販売をすべてEVやHVなどの電動車にする計画を掲げる」「⑬CO2と水素を合成して作る新たな燃料イーフューエルをガソリンに混ぜて使うとHV並みの環境性能になる」等と記載している。
 このうち、①②③④⑤については、菅首相のリーダーシップで50%減が明示されたことは評価できるが、英国のジョンソン首相が78%減を表明しておられる時に、同じ島国である日本が米国・英国の圧力に抗するという形で、「資源がない」「遠浅の海がない」等の事実ではない理由を並べ、「39%減・46%減・50%減のいずれか」と議論していること自体が、野心的どころか低すぎる目標だ。また、温室効果ガス排出削減のため日本がCOP3の議長国として1997年に京都議定書を採択して既に23年以上が経過しており、当時からこれらはすべて織り込み済みだったため、今頃になっても⑥⑦を言っているのは不作為にも程があるのだ。そして、このような政治・行政の迷走によって、*8-2のように、普及できずに中国企業との価格競争に敗れ、最初は世界をリードしていて特許が多かった筈の太陽光発電でも日本企業の撤退や経営破綻が相次いで、日本は再エネの開発・実用化・産業化のいずれにも失敗した経緯があるのである。
 さらに、⑧⑨のように、これを機会に「CO2を出さないから原発」と言っているのは、原発は温排水で海を温めて水産業に大きな被害を与えているだけでなく、事故を起こせば深刻な公害を出し、コスト高でもあることを意図的に無視している。そのため、⑩⑬のような寄り道や資金分散をすることなく、まっしぐらに再エネ発電による⑪を達成するのが、あらゆる方向から考えて最善の策なのだ。⑫については、化石燃料に環境税を課して環境税収入で新しいインフラを整備をすれば、補助金をばら撒かなくても必要なことはできる。にもかかわらず、日本の論調は、「再エネは高い」「再エネを使うためのインフラがない」等のできない理由を並べているだけであるため、*8-3のように、グリーン水素を2025年に100%にするための取り組みを強化している米プラグパワーは、アジアでは韓国のSKグループと最初に提携し、今後は中国・ベトナムでも事業を広げたいそうで、日本はスルーしているのだ。
 その上、EVも最初に市場投入したのは日本の日産・ルノー組だったにもかかわらず、EVを自動車のうちに入れない変な風潮によって国内では普及できず、*8-4のように、ガソリン車製造のサプライチェーンを持たない身軽な中国企業のEVが急激な価格破壊を起こして産業構造を変えており、佐川急便は日本で保有する7200台の軽自動車を2030年迄にすべて中国の広西汽車集団のEVに取り換えるそうだ。同じ機能を有するのなら、部品点数が多いよりも少ない方が軽くて安価で故障が少ないのは当然で、優秀な製品にしやすいのである。そのような中、*8-5のように、ホンダが、2040年までに北米・日本など世界の新車販売全てをEVとFCVにすると発表したのはよかったが、日本でのEV発売は2024年に軽自動車のみというのはどういうことか?
 2021年4月25日、日経新聞は社説で、*8-6のように、「⑭経済と両立する温暖化ガス削減には原発が不可欠」「⑮2030年度の温暖化ガス排出を13年度比で46%減らす目標のハードルが高い」「⑯国連の専門組織の分析等では、途中の30年時点では10年比で45%程度の削減でよい」「⑰温暖化ガスを多く排出する素材産業は短期間での産業構造転換を求められ、それに依存する地域経済が大きな痛み」「⑱日本の産業競争力が全体として低下することのないよに目配りして計画を現実的内容に修正していく柔軟さも必要」「⑲平地の少ない日本は大規模な太陽光発電の適地が限られるため、エネルギーの安定供給確保のため原子力発電を選択肢からはずせない」「⑳イノベーションの加速と新産業の育成も重要」などとした。
 つまり、⑭の原発は不可欠という結論が先にあり、⑮~⑳の理由は、後から考えて事実か否かを問わず並べたものにすぎず、これがまさに日本の非科学性・不合理性で、日本の経済敗戦を導いた原因なのである。例えば、⑮⑯は、先進国の最低基準であり、これから世界の大競争の中で環境産業を発展させたい工業国の目標にはならない。また、⑰は、京都議定書から23年余り(決して短期間ではない)経過した現在も未だ環境対応ができていないのなら、それは有望産業ではなく撤退候補産業であるため、その産業に依存する地域は環境対応型の製品に変えるよう働きかけたり、地域電力で協力したり、他の産業を育てたりした方が前向きで生産性が高い。さらに、⑱は、このように「現実に合わせる」と言って妥協ばかりしてきたのが、⑳のイノベーションや新産業創出に失敗してきた原因であるため、この態度を改めなければ、今後も同様の経済敗戦が続いて国の財政が破綻する。その上、⑲には、「次は平地が少ないから大規模太陽光発電の適地が限られるときたか」と呆れるが、平地が少なければ水の位置エネルギーや運動エネルギーを使うことができ、大規模太陽光発電は景観等を悪化させ発電の生産性も低いため、太陽光発電機器は地道に各住宅・ビル・駐車場の屋根などに取り付けて自家発電する方がよい。それでも、殆どの建物が建材としてスマートに太陽光発電機器を取り付ければ、大きな発電力になるのだ。
 なお、「エネルギーの安定供給確保のため原子力発電を選択肢からはずせない」というフレーズもよく聞くが、1970年の商業運転開始から50年以上経過してもなお補助金を出さなければ成立しないのなら競争力のない電源であるため、他の発電方法と同様、血税からの国民負担なしでも環境を悪化させずに原発が生き残るのでなければ、選択肢から外すのが当然である。

  
   2021.3.2日経新聞       2021.3.27日経新聞     2021.4.23日経新聞

(図の説明:左図は、諸外国の投資状況で、CO₂排出への企業の姿勢を選択基準に入れている。しかし、これが有効に機能するためには、各企業のエネルギー及び公害に対する取組を有価証券報告書に記載し、監査できるようにすることが必要だ。中央の図は、脱炭素目標に関連する日程だが、右図のように、日本の産業部門・発電所でCO₂排出が多い。しかし、発電によるCO₂排出は、別の深刻な公害を出す原発ではなく、速やかな再エネ導入によって解決すべきだ)


     2021.4.23日経新聞        2021.4.23日経新聞  2021.4.22日経新聞

(図の説明:左図のように、産業部門のCO₂排出は鉄鋼が最大だが、これは酸化鉄の還元にCOでなくH₂を使えば解決できると23年前から言っていた。中央の図は、日本企業のCO₂削減への取り組みだが、実質0というのは検証できない上、妥協の産物である。このように甘いことばかりしてきたため、右図のように、日本は再エネ技術の特許出願数や実用化で遅れたのである)

*8-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE2314O0T20C21A4000000/?n_cid=BMSR3P001_202104231416 (日経新聞 2021年4月23日) 首相、懐に忍ばせた50% 脱炭素「30年46%減」の舞台裏、米調整遅れで「積み上げ型」に
 菅義偉首相は22日、2030年までの温暖化ガス排出削減目標を13年度比で46%減にすると表明した。一時は米国が水面下で日本に50%減を迫り、受け入れを検討する場面もあった。米の国内調整が遅れ、経済産業、環境両省がまとめた「積み上げ型」に落ち着く薄氷の調整過程をたどった。16日午後のホワイトハウス。「何も言ってこなかったな」。首相は2時間30分ものバイデン米大統領との初の首脳会談を終え、安堵の表情を浮かべていた。会談前、対中国を念頭にした台湾問題に加え、首相が身構えていたのが脱炭素を巡る30年の目標だった。脱炭素で先行する欧州だけでなく、日米が野心的な目標を示すことで、気候変動でも中国に圧力を加える――。気候変動問題を担当する米ケリー大統領特使はこうしたシナリオを描き、日本に50%削減を求めていた。首相の腹心である梶山弘志経済産業相は会談前の12日、「積み上げでは39%減が限界です。それ以上は総理の政治判断になりますよ」と伝えていた。首相が外交舞台で約束を交わした場合、国内での説明に窮するリスクがあったためだ。とはいえ、バイデン氏との初の対面での会談相手として米が首相に中国を巡る踏み絵を迫っているのは明白だった。首相は米国出発前、リスクを考慮しつつも「バイデン氏から求められたら50%減を確約する」との交渉方針を決めた。首脳会談で2つの「想定外」が起きた。「削除して欲しい」。首脳会談当日に米側から要請が入った。事前に両政府でまとめた文言は「22日の気候変動サミットまでに30年目標を表明する」などと記述していた。いまでこそ脱炭素に前向きな米だが、石炭やシェールガスなど多くの関連業界を抱えている。米側の土壇場の豹変(ひょうへん)は米の国内要因が背景にあるとみられた。両首脳が22日までの表明を宣言する案は幻と消えた。もうひとつが首脳会談でのバイデン氏の対応だ。会談で50%減を懐に忍ばせる首相に、バイデン氏が目標数値を問う場面は最後までなかった。その後の共同記者会見で「日米が野心的な気候変動対策の牽引(けんいん)役となろう」と強調した。米国の要因が薄らぐと、30年目標をとりまく状況は一変した。首相はかねて「50年と違い30年目標は企業に負担をかけてしまう」と経済への影響を懸念していた。担当閣僚である梶山氏と小泉進次郎環境相がどこまで積み上げられるかに焦点が移った。夜に米主催の気候変動サミットを控えた22日午前の首相官邸の執務室。「46%減までは積み上げでいけます」。小泉、梶山両氏が報告すると首相は46%減案を了承し、こうひきとった。「海外の水準も意識して考える」。46%減は首相が掲げた50年の実質排出ゼロが視野に入る削減率となる。日本は13年度を基準年においた。一方で日米関係や6月以降の外交日程を熟慮すると、首相にはそれだけでは十分には映らなかった。数日前、米側から「大統領は50%削減を求めている」といったメッセージが届いた。6月に控える主要7カ国(G7)首脳会議の議長国を務める英国のジョンソン首相もまた、「日本は50%減にコミットすべきだ」と首相に伝達していた。積み上げの数字としつつも対外交渉をどう乗り切るか――。首相が苦心の末、たどり着いた結論が「50%」というもうひとつの目標を設定することだった。午後6時すぎに地球温暖化対策推進本部で「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と発言した。気候変動の交渉は各国が自らに有利な産業構造をつくろうとする国益のぶつかり合いでもある。薄氷の決着はこれから本格化するグリーン外交の序章にすぎない。

*8-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210423&ng=DGKKZO71287020T20C21A4EA2000 (日経新聞 2021.4.23) 脱炭素「産業革新」迫る、温暖化ガス削減目標を46%に上げ、電源構成の組み替え必須
 政府が2030年度時点の温暖化ガスの排出削減目標を7割以上、引き上げた。13年度比46%減という新たな目標の実現に向けた道は険しい。産業界は抜本的な対応の見直しが迫られる。技術革新などを通じて競争力の強化につなげられるかが問われる。最大の課題が発電所の低炭素化だ。19年度の日本全体の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、発電所を中心とするエネルギー部門は約4割を占めた。発電量の7割以上が火力発電で、風力や太陽光など再生可能エネルギーは18%。再生エネと同様にCO2を排出しない原子力は6%にとどまる。欧州では再生エネと原発の合計で5割を上回る国が珍しくなく、日本の出遅れは明らかだ。日本政府も現行のエネルギー基本計画で、再生エネと原子力の構成比を30年時点で42~46%まで増やすとの目標を掲げている。ただ、自然エネルギー財団の試算では、この計画を達成できてもエネルギー由来のCO2の削減率は13年度比22%にとどまる。再生エネの構成比を45%まで増やし、石炭火力発電をゼロにしてようやく47%減らせるという。現実には現行目標でさえ達成がおぼつかない。原発再稼働は足踏み状態が続く。燃焼時にCO2を出さない水素やアンモニアを火力発電に使う手法は既存の設備を生かせるケースもあり期待を集めるが、短期では大きな貢献は見込みにくい。発電所由来の排出量が減れば電気自動車(EV)の普及も効果を発揮する。EVは走行時にCO2を出さないが、現状では動力となる電力を作る際に大量に排出している。20年のEV販売実績は1.4万台だった。国内の新車販売の1%にも満たない。政府は補助金の支給などを通じ、35年までに新車販売をすべてEVやハイブリッド車(HV)などの電動車にする計画を掲げる。ただ、国内の自動車保有台数は約7800万台に上る。年間新車販売は500万台程度のため、仮に半分がEVや燃料電池車などのゼロエミッション車になっても「すべて入れ替わるには30年はかかる」と豊田章男・日本自動車工業会会長(トヨタ自動車社長)は語る。豊田氏はHVの普及拡大を「現実解」と位置づける。新技術にも取り組んでおり、その一つがCO2と水素を合成して作る新たな燃料「イーフューエル」だ。CO2を原料にするため、ガソリンに混ぜて使うとHV並みの環境性能になるという。実用化の時期やコストが鍵になる。製造業でCO2を最も多く排出する鉄鋼業にも、新たな削減目標は重くのしかかる。日本製鉄は生産プロセスの改善などで30年の排出量を13年度比30%減らす計画だ。JFEホールディングスも鉄鋼事業の排出量を同期間に20%以上減らすと打ち出しているが、いずれもさらなる対応が求められる。製造過程でCO2を多く排出するコークスの代わりに水素を使う新製法が対応策の一つだ。ただ、実用化には時間がかかり、当面の寄与は限られる。「(目標の引き上げにより)現実感のない数字が独り歩きする」(神戸製鋼所幹部)と懸念の声も上がる。コスト面の課題もある。水素製鉄など新製法の実現には「4兆~5兆円かかる」(日鉄)。コークスを使う場合と同水準の費用に抑えるための水素価格は、1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり8円とみる。政府が将来目標で掲げる水素のコストは同20円。一層の引き下げが必要だ。日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は「技術開発や設備投資でも政府の支援が欠かせない」と強調する。政府は2兆円の基金をつくり、脱炭素につながる研究開発を支援する方針だ。炭素税などによる排出削減も検討している。みずほリサーチ&テクノロジーズの柴田昌彦氏は「炭素税などを財源に、次世代技術を普及させる取り組みが必要だ」と指摘する。脱炭素は今や世界の産業界が向き合わざるを得ないテーマだ。日本企業が得意とする分野もある。EVの競争力に直結する車載電池用の素材では高いシェアを持ち、人工光合成といった未来技術でも世界の先頭集団を走る。さらなるイノベーションを起こせれば新たな成長機会につながる。

*8-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD09D4W0Z00C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月22日) 太陽光、応用に強い米企業 特許多い日本勢は撤退続出
 温暖化ガスの実質ゼロを目指すうえで、太陽光発電や、人工光合成を含む関連技術への関心はこれまで以上に高い。太陽光発電の利用を広げるビジネスが立ち上がり始め、次世代電池の開発や応用も進む。一方で市場環境の変化や競争が激しく、事業撤退や経営破綻も相次いだ。特許などを分析するアスタミューゼ(東京・千代田)のデータをもとに、世界の動向を探った。日本は1970年代の石油危機を受けて発足した国家プロジェクト「サンシャイン計画」でシリコン太陽電池の研究開発を進め、住宅用に実用化が進んだ。日本企業は21世紀初めまで高いシェアを誇り、発電効率の向上など技術開発でも世界をリードした。アスタミューゼによると、2000年以降に出願して成立した特許の数はキヤノン、ソニー、シャープなど日本企業が上位を占めた。だが、装置産業化が進んで中国企業との価格競争になると、シェアを落としていった。特許数トップのキヤノンは太陽電池事業からすでに撤退し、関連特許のほとんどを保有していない。8位のパナソニックも21年度中に太陽電池生産を終了する。太陽光パネルで世界シェアの上位を占める中国企業は技術開発に力を入れており、特許出願が増えている。中国は10年に国別の出願数で日本を抜いて世界一になり、15年に世界の総出願数の過半数になった。日本や米国、韓国、欧州は13年以降出願が減り、差が拡大している。太陽光パネルは過当競争だけでなく、各国の政策や通商問題の影響を受け、需給バランスが崩れやすい。かつて世界トップだった独Qセルズのほか、中国の有力太陽光パネルメーカーだった無錫サンテックパワーやLDKソーラーなどが経営破綻した。有望な次世代電池の技術を持ったスタートアップも10年代に姿を消した。例えば、米イリノイ大学から誕生したセンプリウスは印刷技術で製造できる高効率のガリウムヒ素太陽電池の実用化を目指した。同大はアスタミューゼが保有する技術が総合的に優位な「リーディングプレーヤー」の2位で、センプリウスは米政府や独シーメンスなどから出資を受けた。しかし製造技術の確立でつまずき、17年に企業活動を停止した。5億4000万ドルを資金調達した米ナノソーラーもガリウムヒ素薄膜太陽電池への評価は高かったが、13年に経営に行き詰まった。栄枯盛衰の激しい分野では、優れた技術や特許だけで競争優位を保つのは難しい。性能向上やコスト低下だけでなく、出口を見すえて使用目的に応じた技術開発を進め、市場を開拓する戦略が重要になる。例えば、公立諏訪東京理科大学の渡辺康之教授は大阪大学や石原産業と組み、インクジェットのような印刷技術で作る有機薄膜太陽電池を農業に生かす研究に取り組んでいる。この電池は緑色の波長の光だけで発電する。ビニールハウスの表面に電池を印刷すれば、植物の光合成に必要な赤色と青色の波長の光を通す。発電効率はシリコンよりも低く、売電するのではなく、ハウスの換気や農作業用の装置の電源に使う。長野県果樹試験場と協力し、ぶどうの栽培と発電が両立することを確かめた。ホウレンソウなどの葉もの栽培にも使えた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の資金援助を受けて電池の性能向上とコストダウンを進め、実用化を目指す。アスタミューゼが選ぶリーディングプレーヤーでも、関連技術や応用を重視している。すでにビジネスとして成長し始めているのが7位の米Ampt(アンプト)だ。07年に設立されたスタートアップ企業で、太陽光パネルの電圧と電流を細かく制御し、発電量を高める装置を開発、販売している。日陰やパネルの劣化の影響を最小化する効果がある。日本でも約80カ所の太陽光発電所に納入した。大分県の太陽光発電では、発電量が導入前より平均で8%多くなった。条件にもよるが、5%ほどの増加が見込めるという。6位の米ワイトリシティは電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に無線給電する技術を持つ。電力機器大手のダイヘンなどと技術協力し、太陽光パネルで発電した電気をEVなどに送るシステムを開発した。装置の上にEVを止めると、蓄電池に電気が供給される。20年2月には、関西電力が万博記念公園(大阪府吹田市)で実証実験した電動カート用に給電システムを提供した。ワイトリシティは19年、EV向けの無線給電の規格争いを続けてきた米クアルコムから関連技術や特許を買収した。業界標準となる可能性が高い。政府の研究投資(09年以降が対象)を獲得している研究機関のランキングでは、東京大学がトップになった。上位は英国、米国、日本の大学が並んだ。東大は助成件数が多く、英米は大型プロジェクトを受けている。3位の英ラフバラー大学には再生可能エネルギーの研究センターがあり、同国の太陽光研究の中心になっている。ただ、日英とも企業の存在感は薄い。現在の技術の優位性でも、特許の将来性でも上位には入っていない。大学の優れた成果をいかに産業化につなげるかが課題だ。

*8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGV06CON0W1A400C2000000/ (日経新聞 2021年4月22日) アジアの水素市場、韓国SKと開拓 米プラグパワーCEO、物流分野に強み、水素ステーションも運営
 約13年前にプラグパワーに加わり、単に水素や燃料電池を売ろうとはせず、価値を売ろうとしてきた。食品流通センターや自動車メーカーに生産性改善という価値を提供できた。顧客の米ウォルマートなどが使っていたフォークリフトの鉛蓄電池は1日に何度も取り出す必要があったが、燃料電池ならば作業を約1割も省けた。水素ステーションの利用をどう増やし、いかに採算を取るかが課題だ。我々は大量のフォークリフトを長時間稼働する顧客と取引したため、使用頻度の高い水素ステーションをつくることができた。いま世界は気候変動対策としての水素の活用を重要視している。我々はフォークリフトなど物流業務に水素システムを提供するだけでなく、仏ルノーと共同出資会社を設立したり、航空機の開発企業に出資したりしている。これからは再生可能エネルギーで水を電気分解してつくる「グリーン水素」の供給が重要になる。いまはグリーン水素は供給全体の3割しかないが、2025年には100%にしたい。昨年には米国で液化水素を扱うユナイテッド・ハイドロジェン、水分解の高い技術を持つ会社を買収した。25年には米国で1日あたり500トン以上のグリーン水素を供給できる体制をつくり、スペインなど国外でも取り組む。グリーン水素を天然ガスを改質した水素と同等の価格にするには、再生エネを1キロワット時3~4セント(3~4円)で調達しなければならない。再生エネ発電事業者と提携しているほか、ニューヨーク州電力公社から再生エネを同3セントで買っている。米国では自前で顧客を開拓する。欧州では提携するスペインのエネルギー大手アクシオナやルノーなどと連携する。アジアは4~5年後に、売上高全体の3分の1を占める可能性があるとみる。売上高を現在の3.3億ドル(約360億円)から24年に17億ドルにする目標を掲げており、アジアの位置づけは重要だ。アジアは株主でもある韓国のSKグループとの提携で取り組む。ちょうど我々が韓国の水素市場で組む相手を探していた時にSKから声がかかった。韓国では物流業務向けの水素システムもふくめて全サービスを展開する。23年には工場をつくり、水分解装置と燃料電池スタック(構造体)を生産する。燃料電池は公用車や定置用電源に使う想定だ。SKの化学プラントから出る水素を使う計画だ。多くの国や企業が二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、SKも長期的には再生エネ利用を増やす方針で、今後はグリーン水素がより好まれるだろう。韓国だけでなく、SKの拠点網を生かして中国やベトナムでも事業を広げたい。弊社のフォークリフトや車両向けのノウハウ、水素ステーション設置の実績は両国でも役立つはずだ。Andrew Marsh 米デューク大学修士、南メソジスト大学経営学修士号(MBA)を取得。米ルーセント・テクノロジーのベル研究所(現ノキア)を経て、2001年に電源システム会社バレール・パワーを共同創設。最高経営責任者(CEO)を務め、07年にノルウェー電源メーカーのエルテックに売却。08年4月から現職。

*8-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210423&ng=DGKKZO71286880T20C21A4EA1000 (日経新聞社説 2021.4.23) 中国製EVが促す構造変化に備えよ
 日本自動車工業会が今秋の東京モーターショーの開催中止を決めた。一方、中国で開催中の上海国際自動車ショーでは、自動車産業の構造変化を予感させる出展が相次いでいる。主役となっているのが電気自動車(EV)だ。日本勢にはEV時代の到来を見越した戦略の転換を求めたい。上海では、日本勢でもトヨタ自動車やホンダが意欲的な新車の投入計画を表明した。それでも目立つのは中国企業の勢いだろう。中国企業は自国で生産合弁を組む日米欧のメーカーから、様々な形で技術移転を進めてきたものの、複雑な構造を持つガソリン車では追いつくのが難しかった。だが、部品点数が大幅に減るEVとなると、中国企業は侮れない存在となることを認識すべきだ。中国では急激な価格破壊が起こり、国内で売られるEVの4分の1は10万元(約170万円)以下とみられる。日本で言えば軽自動車にあたる価格帯だ。日本の自動車メーカーが価格競争で消耗するのは、できるなら避けたい。より重要なのは、EVがもたらす構造変化への対応だ。EVは完成車メーカーを頂点とするピラミッド型の産業構造まで変えようとしている。日本勢は3万点に及ぶ部品の「擦り合わせの妙」を競争力の源泉としてきたが、構造が簡素なEVでは大胆な国際分業が起きつつある。その波頭は日本にも及んでいる。佐川急便は国内で保有する7200台の軽自動車を、2030年までにすべてEVに取り換える。佐川にEVを供給する日本のスタートアップは設計と開発だけを手がけ、車両の生産は中国の広西汽車集団に委託する。生産と設計・開発の分離というパソコンやスマートフォンで起きた現象が、すでに自動車産業にも押し寄せているのだ。世界最大の自動車市場を抱える中国企業にとっては規模の経済性を発揮しやすい。ハードだけでなく自動運転の社会実装でも一歩リードする。日本の自動車メーカーに構造変化への備えはあるか。国内でいち早く普及させたハイブリッド車に頼り続けていては、「イノベーションのジレンマ」に陥りはしまいか。EV時代に何を強みにすべきかを、日本の自動車産業はもう一度問い直してほしい。100年に一度の大転換を成長の好機にする必要がある。

*8-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC236740T20C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月23日) ホンダ、世界販売全てをEV・FCVに 40年目標
 ホンダは23日、2040年までに北米や日本など世界の新車販売全てを電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にすると発表した。そのための新車投入計画も明らかにした。これまでは30年に世界の新車販売の3分の2をEVなど電動車にするとしていたが、具体的な方策は示していなかった。4月1日付で就任した三部敏宏社長が同日の記者会見で「ホンダはチャレンジングな目標に向かって人が集う会社だ。高い目標を掲げて実現に向けて取り組んでいく」と語った。先進国市場ではEVとFCVの割合を30年に40%、35年には80%に高める。具体的には24年に北米で米ゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発した大型EV2車種を投入し、20年代後半から別のEVも発売する。中国では22年に新型EVを発売し、今後5年以内に10車種のEVを投入する。日本では24年に軽自動車のEVを発売する。そのために今後6年間で研究開発に総額5兆円を投じる。菅義偉首相は22日夜、首相官邸で米国主催の気候変動に関する首脳会議(サミット)で30年度に温暖化ガスを13年度比で46%削減することを表明した。これをうけ、ホンダが23日に具体的な電動化戦略を明らかにした。ホンダは16年に30年メドで世界の新車販売の3分の2を電動車にする方針を表明。八郷隆弘前社長は「HVとプラグインハイブリッド車(PHV)が50%以上、EVとFCVで15%」としてきたが、具体策は明示していなかった。

*8-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210425&ng=DGKKZO71348740U1A420C2EA1000 (日経新聞社説 2021.4.25) 経済と両立する温暖化ガス削減を
 政府は2030年度の温暖化ガス排出を13年度比で46%減らす目標を決めた。菅義偉首相が気候変動に関する首脳会議(サミット)で発表したが、達成へのハードルは高い。米欧や中国と協力し、経済と両立させつつ世界全体の排出削減を加速することが重要だ。サミットではバイデン米大統領が30年に05年比で50~52%減、ジョンソン英首相は35年に1990年比で78%減らすと表明した。いずれもかなり思い切った目標だ。
●目標のハードルは高く
 温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は今世紀末までの気温上昇を産業革命前に比べ、1.5度以下にとどめる目標を掲げる。それには、2050年に世界の温暖化ガス排出を実質ゼロにしなければならない。国連の専門組織の分析などによれば、途中の30年時点では10年比で45%程度の削減が必要になる。各国のこれまでの削減目標では、達成できたとしても気温上昇が3度を上回る恐れがある。熱波や豪雨の頻発、海面の上昇による洪水などが避けられなくなる。農業への打撃で食料不足が深刻化し、移民の増加、政情不安などのリスクも高まる。気候サミットでは削減目標の引き上げや加速を表明した国が相次ぎ、こうした事態の回避へ一歩前進した。日本の新しい目標も米欧に近い意欲的なものだ。ただし、達成への道筋は相当な困難を伴う。温暖化ガス排出を30年度までに13年度比で26%減らすとしていた従来の目標には裏付けがあった。産業別の対策で見込める削減を積み上げて出していた。30年までのわずか9年で、この目標を7割以上も上回る削減を実現しなくてはならない。温暖化ガスを多く排出する素材産業などは、短期間で産業構造の転換を求められる。それに依存する地域経済は大きな痛みを迫られる可能性が高い。政府はこうした実情も踏まえ、削減目標に実効性をもたせるための計画を早急に決めてほしい。日本の産業競争力が全体として低下することのないよう目配りし、計画を現実的な内容に修正していく柔軟さも必要だ。排出削減を加速するには、化石燃料への依存を極力減らす必要がある。生産から消費まであらゆる段階で電化を進めつつ、石炭火力発電を再生可能エネルギーなどに転換することが急務だ。平地の少ない日本は、大規模な太陽光発電の適地が限られる。期待の高い洋上風力発電も、建設や試験、周辺漁業への影響調査などを考えると30年までの本格展開は難しい。とすれば、エネルギーの安定供給を確保するために原子力発電を選択肢からはずすことはできない。経済産業省は現在作成中の次期エネルギー基本計画のなかで、原発の役割を明確にすべきだ。イノベーションの加速と新産業の育成も重要だ。日本は二酸化炭素を回収し地中に埋めたり再利用したりする技術(CCUS)や水素利用、宇宙太陽光発電などの先端技術をもつ。ただ、これらが低コスト化し普及するのはかなり先だ。当面は既存の技術を総動員するとともに、規制の見直しなどで着実に排出を減らすしかない。その際、国民の負担増を最小限に抑え国力を弱めないのが前提となる。たとえば、風力発電に必要な環境影響評価(アセスメント)や保安林指定の解除などの手続きは迅速化できる。太陽光発電や家庭用蓄電池を使い、エネルギー消費を実質ゼロとするZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及策も改善の余地がある。
●国際連携でしたたかに
 気候変動対策は地球規模で考えることが大切だ。日本の温暖化ガス排出量は世界全体の約3%にすぎない。世界最大の排出国である中国、2位の米国が先頭に立たなければ削減は進まない。トランプ前大統領によって大きく後退した米国の対策が、バイデン政権の下で再び前へ動き出したのは国際社会にとって好ましい。ただ、政権が代わるたびに方針が大きく転換するのは困る。政策に一貫性を保つよう、日本が注文を付けてもよい。中国の習近平国家主席は気候サミットで、30年までに排出のピークを迎え、60年までに実質ゼロをめざす従来の目標を繰り返した。当面は排出が増え続ける。日本は米欧と連携し、中国に一層の削減努力を促すべきだ。省エネや新エネの技術力も生かし、排出大国を望ましい方向に動かすしたたかさが要る。

<人を犠牲にしない国になるべき>
PS(2021年4月26日追加): 2019年4月の総務省調査で、*9-1のように、65歳以上の高齢者が人口に占める割合が50%を超える「限界集落」がその時点で2万372ヶ所あり、集落機能維持困難集落が2618、いずれ無人化する可能性ある集落が2744に上ったそうだが、その集落も道路・公共交通・上下水道・家屋などの生活インフラや山林・田畑などの生産基盤を備えているため、もったいないことである。しかし、高齢化や人口減少が進むと、*9-2のように、地域のインフラ維持が困難になり、佐賀県内では10市10町のすべてで自治体運営のバス・タクシーが運行することになったが、高齢化や人口減少で財政状況が厳しくなればこれも限界になる。そのため、乗り合いタクシーや自動運転タクシーだけでなく、根本的に人口を増やして地域を元気にする「まちづくり」が必要である。
 一方で、国は、*9-3のように、政府が掲げる「多文化共生」の理念には程遠い入管難民法改正案の審議を衆院で始めているそうだ。しかし、日本は難民認定割合が以上に小さく、難民収容の可否が裁判所の審査を経ずに法務省の裁量で決められ、国際標準の人権上の配慮に乏しく、手続きの公正性・透明性を欠くにもかかわらず、この入管難民法改正案は送還の徹底に主眼があるため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)・日弁連・外国人支援団体などから強い懸念や反対の声が上がっている。つまり、日本は、外国人の人権を無視しており、せっかく日本に来た外国人にひどいことをして追い返しているわけである。
 その結果、日本製品は価格が高くなり国際競争に負けるので国内企業も外国に出て行き、高齢化による労働力不足として耕作放棄地を増やし食料自給率を低下させて、限界集落を消滅集落化しようとしており、その理由を国内労働者の保護目的と言っているのである(実際は国民にとってマイナス)。しかし、これらの限界集落に難民を迎えて仕事を与え年少者や希望者を教育すれば、安価な労働力でしか作れない製品でも国際競争に勝つことができ、多様性のメリットを出すこともでき、難民にも感謝され、国民を豊かにしながら限界集落の消滅集落化を防ぐことが可能だ。そのため、私は、外国人の人権侵害や外国人の排斥をしたがる人の考えには賛同しない。

*9-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200327-OYT1T50270/ (読売新聞 2020/3/28) 「限界集落」1割増え2万か所超す、いずれ無人化の可能性2744集落
 総務省は27日、65歳以上の高齢者が人口に占める割合が50%を超えた「限界集落」は、昨年4月時点で2万372か所に上ったと発表した。過疎地域にある6万3237集落のうち、限界集落が占める割合は32・2%で、2015年の前回調査から約1割増えた。集落機能を維持するのが困難だと回答したのは2618集落に上った。10年以内に集落が無人化する可能性があると回答したのは454集落、いずれ無人化する可能性があると回答したのは2744集落だった。

*9-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/666936 (佐賀新聞 2021年4月26日) 公共交通を支えるには、官業民一体で知恵絞ろう
 高齢化や人口減少で地域の公共交通が縮小する中、自治体が事業運営を担うケースが増えてきた。佐賀県内では4月から大町町がコミュニティーバス「まちバス」の運営を試験的に始めたことにより、10市10町すべてで自治体が運営するバス、タクシーが運行することになった。地域の公共交通は利用者の減少で、今まで通り維持することは難しい。自治体はバスの赤字路線を公費で補てんしたり、コミュニティーバスで代替するが厳しい財政状況では限界がある。「地域の足」をいかに守るか、自治体、事業者、住民が一体となって知恵を絞る必要がある。武雄市は4月から市内各地で運行している循環バスの一部を、予約型の乗り合いタクシーに切り替えた。「ほんわカー」と親しみを込めた名称のタクシーは、運行経路の設定にAI(人工知能)を活用し効率化を図っている。これまでの循環バスでは運行範囲が狭く、時間帯によっては誰も乗っていないこともあった。予約型乗り合いタクシーによって、乗降場所も増え利用者に寄り添った運行が可能となる。市企画政策課は「エリアの拡大や待ち時間、乗車時間の短縮など利便性の向上につながる」と説明。最終的には循環バスからの全面切り替えも検討する。佐賀新聞では、地域の公共交通の現状と課題を考える企画「地域と交通 さが未来路」の第2章「自治体」で試行錯誤する市町職員の姿を伝えた。一定の利用者を確保しなければ国からの補助金が削減されるため、職員自らバス通勤できないかと検討したり、多くの市町が企画部門で担当するところを、高齢者の利用が多いことから福祉部門が担当となり、利用者ニーズを引き出すことに注力するなど、涙ぐましい努力の実態が浮かび上がった。苦悩する県内の市町に対し県は、年3回の研修会を開いている。コミュニティーバスや予約型乗り合いタクシーのアイデアは、研修を通じて生まれている。しかし利用者自体が減少傾向では、これらのアイデアもいつか行き詰まるかもしれない。コミュニティーバスや乗り合いタクシーなどの運用は移動手段を確保するだけでなく、地域をいかに元気にするかという「まちづくり」の視点も求められるのではないだろうか。高齢化、過疎化が進む現状では「地域の足」を確保するためにはまず、コミュニティーバスや乗り合いタクシーの運用が最優先だ。しかし「地域の足」を高齢者だけでなく、通勤・通学や日常の買い物まで利用範囲を広げることができれば、人々の交流が増え地域の活性化にもつながるはずだ。県内では地域交通の利用促進を図るためノーマイカーデーやICカードの導入を呼びかけているが、広がりは限定的だ。公共交通を維持する取り組みにまだ「最適解」はない。何が利用者と地域にとって有効なのか、今後の動きを見極め議論を深めなければならない。

*9-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/729086/ (西日本新聞社説 2021/4/25) 入管法改正案 多文化共生の理念どこに
 外国人の収容や母国への送還のルールを見直す入管難民法改正案の審議が衆院で始まった。政府が掲げる「多文化共生」の理念に合致する改正案とは言い難い。国内外から長年、閉鎖的と批判されてきた入管行政の実態を直視し、再考すべきだ。不法滞在などで摘発されても帰国を拒む外国人(送還忌避者)が近年増加している。昨年末時点で約3100人に上り、入管施設での収容が数年に及ぶ事例もある。改正案はそうした状況の解消が目的とされる。まず目を引くのは、忌避者に期限を定めた国外退去の命令を下し、応じない場合は刑事罰を科す点だ。難民認定を申請すれば送還が一時的に停止される現行制度も改め、申請は原則2回までとし、3回目以降は送還の対象とする。他方、難民に準じて人道上の観点から在留を認める「補完的保護」や、弁護士らの監督下で施設外での生活を認める「監理措置」などを新設する。所管の法務省は、これら硬軟を取り交ぜた改正案が成立すれば、入管行政は適正化されるという。これに対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や日弁連、外国人支援団体などから強い懸念や反対の声が上がっている。補完的保護などの新設は一歩前進とはいえ、例外的に滞在を認める既存の在留特別許可や仮放免の延長にすぎず、改正案全体としては送還の徹底に主眼があると言えるからだ。日本の入管行政は難民認定の少なさに加え、身柄収容の可否が裁判所の審査を経ずに法務省の裁量で決められる点が問題とされる。国際標準に照らして人権上の配慮に乏しく、手続きの公正さや透明性を欠く。にもかかわらず、この点の是正が見送られたことも看過できない。重要なのは不法滞在の背景に目を向けることだ。外国人技能実習生が劣悪な労働環境に耐えかねて失踪する例は後を絶たない。帰国すれば身に危険が及ぶ不安があったり、家族が日本で暮らしていたりして送還を拒む人も少なくない。新型コロナウイルス禍の中、職を失って困窮する外国人も増えている。野党は、難民の認定審査を行う独立行政委員会の設置や収容の可否を裁判所が判断する仕組みを柱とした対案を共同で提出している。政府、与党はこうした案も参考に、入管行政の抜本的な改革を図るべきだ。安倍晋三前政権が「多文化共生」に向けて旧入国管理局を改組し、外国人支援業務も担う出入国在留管理庁を設置し今月で2年になる。日本社会をさまざまに支える人々の境遇は改善されたのか。政府は自らの取り組みの検証も忘れてはなるまい。

| 経済・雇用::2021.4~ | 10:25 PM | comments (x) | trackback (x) |
2021.3.10~17 平等な女性登用の効果 (2021年3月18、19、20、21日追加)
  
  日本が契約済のワクチン   ワクチン開発状況  国内使用薬剤  開発中薬剤 

(図の説明:1番左の図のように、日本が契約済みのワクチンは米国製と英国製だけで、日本製はない。また、承認済や開発中のワクチンも、左から2番目の図のように、アジアでは中国のみが承認済で、日本は下の方におり、これを慎重と言うのかは大いに疑問だ。さらに、治療薬は、右から2番目の図のようになっており、日本国内で承認されているのは上の2つだけだ。なお、効きそうな中和抗体も、1番右の図のように、米国のみで緊急使用許可が出ており、日本政府《特に厚労省》は新型コロナの治療や予防に積極的ではないようだ)

(1)政治に女性登用を増やすと、何が変わるのか
1)日本人男性を優遇するジェンダーの存在
 沖縄県と同県内の全11市へのアンケート調査をした結果、*1-1-1のように、全自治体で総務・企画に関する部署には男性が男性が67%を占め、介護・子育て・保健衛生などの福祉・医療などの部署に女性が59%配置され、管理職になると総務・企画部署の女性比率は12%とさらに低くなり、福祉医療系は34%だったそうだ。

 その背景は、「男性は企画立案が得意、女性は家事や育児に適する」というジェンダーに基づく固定観念が反映されており、行政の中でも固定化されたジェンダーバイアス(性に基づく差別や偏見)で配置先を決めることが当たり前のように行われているということが明らかになり、沖縄県内41市町村の管理職に占める女性割合は14%と全国平均の15%を下回るそうだが、これは、沖縄県に限らず地方に特に多いことだろう。

 さらに、採用でも全自治体の職員に占める男女比率は6対4と女性が少なく、非正規職員は男性が約24%で女性は約76%、配属も女性は福祉医療系に偏っており、男性にはさまざまなポジションや選択肢が用意されているのに、女性には男性より不利で限られた選択肢しか与えられていない。しかし、これが女性の方が大きな割合で都市や外国に移住する原因となっているのだ。

 具体例としては、*1-1-2のように、行政や企業のトップに上り詰めた横浜市の林文子市長が、自らの人生を「『忍』の一字で生きてきた」「1965年当時は、女性が意思決定することを誰も考えていなかった」「ほんとに日本は変わらない。企業の役員レベルに(女性が)入れるかというと、いま立ち止まっている」等と述べておられるが、忍の一字で生きたい人はいない。

 しかし、今でも、*1-1-3のように、日本経済新聞の外部筆者コラムに「女性が主婦業を徹底して追求した方がいい」などとする記述があり、男女共学の教育システムと男女雇用機会均等法の下であるにもかかわらず、「女性は、主婦業以外はにわか知識だ」などと言われることがあるわけだが、こういうことを言われる理由は重要なポイントだ。

 ちなみに、私自身は、小学生だった1965年頃から、女性差別やジェンダーに基づく固定観念は受け入れ難かったため、かなり勉強して仕事でも実績を作ることにより、ジェンダーによる固定観念は覆してきたつもりだが、それでも言って受け入れられる範囲は時代によって異なり、先入観による女性差別も受けたことがある。それでも男女平等を前に進め続け、現在は思っていることを言っても理解する人の方が多くなったという状況なのである。

 なお、2021年3月8日の国際女性デーを前に、*1-1-4のように、電通総研が男女平等やジェンダーに関する意識調査を行ったところ、「男性の方が優遇されている」と答えた女性は計75・0%に上ったのに対し、「男性の方が優遇されている」と答えた男性は54・1%で、性別によって経験に差があり、男性と女性で見えている景色に違いがあると言う結果だったそうだ。これは、私の実感とも合っているが、「女性首相の誕生は、27.9年後」というのは、そこまで遅くはないと思う。

2)政治に女性登用を増やすと、外国人(=マイノリティー)への人権侵害も減るだろう
 出生数が多く十分な雇用が準備できなかったため、日本人男性を優遇して女性を雇用から排除するジェンダーは、団塊の世代でその前の世代より大きくなった。そのため、企業戦士の父とそれを支える母の下で育った50代の団塊ジュニア世代は、私たちの世代よりむしろ性的役割分担意識が大きいのである。

 つまり、十分な雇用を準備できず、日本人男性を優遇して雇用するために使われたのが戦後の女性差別なのだが、これが生産年齢人口割合が減っている今でも続いているのだ。

 そして、帰国すれば身に危険が及ぶ難民や亡命者を国外退去処分や送還処分にすることは人道に反しているのに、難民や亡命者はなかなか受け入れないという*1-2-1のような外国人差別もある。また、日本に家族のいる人が帰国を拒むのも当然であるため、入管難民法は同じ人権を持つ人間に対する適切なものに改正すべきであるのに、これらのマイノリティーの人の痛みがわからないような行動は、自分が優遇されるのが当然だという環境の中で育った日本人男性の特性ではないかと思うわけである。

3)ワクチンも科学技術の賜物なのだが・・
 河野規制改革担当相は、*1-2-2のように、「欧州連合(EU)が承認すれば、ファイザー製ワクチンを高齢者全員に2回打てる分だけ6月末までに各自治体に供給できる」とされたが、6月末に高齢者分だけでは7月21日に始まる東京オリンピックに間に合わない。

 遅くなる理由は、EUはファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンやアメリカのモデルナ製ワクチン、イギリスのアストラゼネカ製ワクチンを契約していたが、いずれも供給が遅れ、EUがEU製造のワクチンをEUの承認なしにEU域外に持ち出せない輸出規制をかけたからだそうだ。

 そのため、EUのハンガリーは中国のシノファームが開発した新型コロナワクチンを2月16日に入手して接種し始め、ロシアのスプートニクVワクチンの購入にも同意しており、スペインもロシア製ワクチンを拒まないとしている。

 英医学誌ランセットは、*1-2-3のように、ロシアが2020年8月に承認した新型コロナワクチン「スプートニクV」について臨床試験の最終段階で91.6%の効果が確認されたとする論文を2021年2月2日に発表し、「2020年9~11月に治験に参加した約2万人のワクチン投与後の発症数等を調べて、ワクチンが原因とみられる重大な副作用は報告されず、60歳以上でも有効性は変わらなかった」「発症した場合も重症化しなかった」としており、EUの欧州医薬品庁(EMA)への承認申請も進めるそうだ。

 日本は、残念なことに、*2-2-1・*2-2-2のように、科学技術立国をうたいながら新型コロナワクチンの開発・製造・接種でとても先進国とは言えない状況になっている。その理由は、日本では遅いことが慎重でよいことであるかのような世論形成が行われるからだが、製法も新技術を使っている上、遅いことと正確であることとは全く異なる。さらに、日本は自ら実用化したワクチンはないのに、ロシア製などのワクチンを小馬鹿にした報道がしばしばあり、製造した国や人によってワクチンの良し悪しを評価するのではなく科学的治験に基づいて評価するのが、科学を重視する国の基本的姿勢である。

(2)日本における科学の遅れは、何故起こるのか
1)東北の復興における土地利用計画から
 *2-1-1で述べられているように、首都直下地震や南海トラフ巨大地震の襲来が確実視され、新型コロナ新規感染者数は人口密度に比例しており、日本における過度な一極集中は致命的弱点を抱えていることが明らかなのに、わが国の国土政策は現状維持圧力が大きい。

 災害防止の視点からは、過去に起こった災害の理由を直視して国土計画を作らなければならないが、*2-1-2のように、東日本大震災後に高台等に集団移転する住民から市町村が買い取った跡地の少なくとも27%に当たる計568haは用途が決まっていないとのことである。しかし、東日本大震災は、街づくりを考え直す千載一遇のチャンスでもあった。

 にもかかわらず、「同事業で買い取りできるのは主に宅地で企業の所有地などは対象外であり、まとまった土地の確保がしづらかった」「危険区域からの移転を第一にした制度で、跡地利用のことは考えられていなかった」などという間の抜けたことを言い、買い取った土地を点在させて一体的利用を困難にしたまま、自治体が空き地管理の維持費支出を余儀なくされているというのは、10年もかけた復興に計画性もフィードバックもなかったということにほかならない。

 被災から10年間も大規模な復興工事をし続けているのに、土地を買い取りながら農地・林地・工業地帯などに区分けしていなかったのがむしろ不思議なくらいで、区分けしなければそれにあった防災設備を造れない筈だ。そのため、いくらかけてどういう復興を行い、どういう防災設備を作ったのかに関する内訳を、復興税を支払った国民としては聞きたいし、開示できる筈だ。この10年間、何も考えずに震災復興も費用対効果の薄い公共工事にしてしまったのでは、今後10年間復興税を支払っても同じだろう。なお、(女性の)私なら(料理と同様)出来上がりを想定しながら仕事をするため、そういう無計画で無駄なことはしないのである。

2)フクイチ原発事故の後始末と原発の廃炉から

     
 事故前のフクイチ  津波来襲   爆発直後の原発   除染土   汚染水のタンク   

(図の説明:1番左の図の事故前のフクイチは、土台を高くすることもできたのにわざわざ削って低くしていたそうで、これが最初の防災意識の欠如だ。また、左から2番目の図のように、津波が襲った時に予備電源も水没するような場所に置いていたのが2番目の防災意識の欠如だ。これらの積み重ねによって、中央の図のように、激しい爆発事故が起きて周囲を汚染したため、右から2番目の図のように、土をはぎ取る除染をしたが、これも一部だけ不完全な形で行っており、さらに除染土をフレコンバッグに入れて積んだままにしているため効果が著しく低い。さらに、1番右の図のように、デブリを冷やした汚染水を浄化した後にタンクに溜めているそうだが、トリチウム以外の放射性物質も残っており、トリチウムは除去できないとして、そのまま海洋放出すると言っているのである。つまり、リスクを認識して対応することができないのだ)

 フクイチ事故では、*2-1-3のように、爆発で原子炉建屋の上半分が吹き飛んだが、炉心溶融は長いこと認めず、また、溶融して燃料デブリは落下したままだという報道を、未だに行っている。しかし、①3号機建屋上部のプール内にあった使用済燃料の取り出しが、10年後の2021年2月にやっと終わり ②原子炉内の状態は、今でもわからないことが多く ③デブリの取り出しは、2022年に開始予定で ④機器の不具合や管理の不徹底が頻発して、3号機の地震計が故障したまま放置され2021年2月の強い地震を測れず ⑤流入する地下水等から大半の放射性物質を除去した処理水に放射性トリチウムが残っており、タンクに保管しているのが作業の大きな障害となる可能性がある 等と記載されている。

 そして、①③は、残っていた使用済燃料の取り出しを10年後にやっと終えたということであり、安全第一は重要だが、ここで考えられているのは作業員の安全だけであって地域住民や国民の安全ではない。何故なら、地域住民や国民の安全を重視すれば、速やかに処理することが最優先になるからだ。

 ②は、火星の地形さえわかる時代に、目と鼻の先にある燃料デブリの状況がわからないわけがなく、わかっても言えない状態なのだろう。さらに、④は論外で、地震計を設置していることの意味すら理解していないと推測される。

 また、⑤については、凍土壁を作って地下水が流入するのを防いだ筈なので、その工事にいくらかかって、効果がどうだったかも明らかにすべきだ。このような国民の安全をかけた緊急事態に、まさか費用対効果の低い遊びをしていたのではあるまい。

 それでも、原発汚染水のタンクが1000基を超える状態になったのであれば、チェルノブイリのように石棺にするしかなかったのではないか、日本の対応が間違っていたのではないかを検証すべきだ。また、デブリに触れた汚染水は、処理後もトリチウム以外の放射性物質を含んでいたことが長く隠されていたので、フクイチの事故処理が地域住民や国民の安全を重視して行われていたとは考えにくい。

 なお、経産省の委員会がどういう結論を出そうと、トリチウムだけしか含まない状況でも、処理水の海洋放出が水産物に対して安全とは言えない。何故なら、「希釈して基準以下にすれば安全だ」という発想をしており、安全基準を下回りさえすればよく、総量はどうでもよいと考えているからだ。わかりやすく例えれば、血圧の高い人が味噌汁が辛すぎる場合に、それを薄めて全部飲むのと同じで、その上、他の料理にも塩分が含まれすぎていれば、脳卒中になる確率が上がるのと同じだ。

 そして、これを「風評被害(事実でない噂による被害)」と強弁するのなら、「総量がどれだけ多くても希釈して基準以下にすれば害がない」ということを科学的に証明すべきだが、絶対にできないと思う。また、農水産物などの食品についても、基準値以下だから単純に安全とは言えず、多くの食品に放射性物質が含まれていれば総量が多くなるため安全ではない。そして、科学的証明もなく百万回無害だと言っても無意味なのである。

 これまでの対応を見ると、すべて、*2-1-4にも書かれているように、「処理を先送りし続けるわけにはいかない」という「仕方がない」の論理と「福島の人が可哀そう」という上辺だけの優しさ(感情論)で構成されており、地域住民や国民の安全性を科学的に立証してはいない。そのため、汚染水の海洋放出も単に漁業者に補償すればすむという問題ではなく、為政者やメディアの言うことを信じる方がむしろ愚かだということになっている。

 なお、「フクイチの廃炉は半世紀先を見据えて世界有数の廃炉技術拠点として生かす発想が必要だ」とも書かれているが、日本の対応はチェルノブイリと比較しても巨額の税金を使った割には「安全だ」と強弁して国民の人権を侵害するものでしかないため、よい見本にはならない。

 ただ、*2-1-5のように、東洋アルミと近畿大学が、「アルミニウム粉末焼結多孔質フィルター」を使って汚染水からトリチウムを60℃・低真空で分離する技術を開発した。そのため、汚染物質を外部に捨てない原則を守り、東電と政府が責任を持って汚染水からトリチウムや他の放射性物質を完全に取り除く処理を行えば、処理後の汚染水は海洋放出が可能だ。従って、放射性物質を完全に取り除く処理をした水をプールに溜め、そこで魚を飼ってしばしば魚の放射線量を計測しながら、そのプールの水を海に放出すればよいだろう。

3)新型コロナの治療薬・ワクチンの開発から
 日本は労働生産性を上げるためには付加価値の高い産業を起こしていかなければならず、そのためにも科学技術立国を目指しているのだが、*2-2-1のように、日本での新型コロナワクチンの開発は世界に大きく出遅れて実用化のメドも遠い。

 そして、治療薬もワクチンも人間の身体に入れるものであるため、「有事だから品質が悪くてもよい」というわけではないが、先進国は新型コロナの感染予防に役立つスピードで治療薬を承認し、ワクチンも開発・実用化させた。一方、日本は、100年前のスペイン風邪の時代と同じ対策しか行えなかったが、これは、著しく単純化したルールを護ることを自己目的化した融通の効かない人たちの責任である。

 実際には、日本の製薬会社も、新薬の開発・治験は日本ではなく米国で行い、そこで流通させてから日本に逆輸入することが多い。その理由は、日本は、新しいものに抵抗する国で、治験は行いにくく、新薬の承認にも長い時間がかかるため、多額の投資を要する新薬開発を国内で行うと費用対効果が悪すぎるからである。

 そのため、新しいものを評価して実用化しやすい国にしなければ、外国に追随することしかできず、付加価値の高い仕事はできない。まして、厚労省のように、旧態依然として科学の進歩についていっていないのは論外だが、日本は下水道整備も遅れており、未だに整備されていない地域も多いし、古くなりすぎていて人口増加に間に合っていない東京のような都市もある。

 ただし、子宮頸癌は、ワクチン以外にも予防手段があるため安全性の方がずっと重要になるが、新型コロナは誰もがかかりやすくワクチン以外に予防手段がない感染症はワクチンの重要性が高まる。そのため、その違いのわからない人が判断するのは困ったものである。

 なお、記事は、前例踏襲の限界として「無謬性の原則」を挙げているが、科学の進歩や環境変化を認識できずに、前例を踏襲すること自体が大失敗である。

 *2-2-2のように、新型コロナワクチンは人類が使っていなかった新技術を使って素早くできたが、私も、不活化ワクチンではなく、mRNAをチンパンジーのアデノウイルスに組み込んだワクチンを免疫力の弱い人に接種するとどうなるかわからないため不安だ。しかし、体力に自信のある人なら大丈夫だろう。

 が、新型コロナのワクチンを毎年7000億円もかけて海外から買い続けるようでは先進国とは言えず、*2-2-3のように、大阪市内にある治験専門の病院で塩野義製薬製ワクチンの治験が行われているものの、流行が収まってから完成するのでは意味がない。

 このような中、オンライン形式の総会で、*2-2-4のように、IOCのトーマス・バッハ会長が「2021年の東京オリ・パラと2022年の北京冬季オリ・パラ参加者のために、中国五輪委員会の申し出により新型コロナの中国製ワクチンをIOCが購入する」と発表された。日本はワクチンもできず、海外からの観客を受け入れない決定をするような情けない有様なので、中国製ワクチンを有難く使わせていただくしかないだろう。

(3)観光の高度化へ
1)医療ツーリズム
 このように、さまざまな理由で工場の海外移転が続いて製造業が振るわない中、観光業は海外移転のできない産業であり、期待したいところだった。そのため、*3-2のように、既に日本にある高度医療サービスと観光を結び付け、観光の付加価値を上げる「医療ツーリズム」を私が衆議院議員時代に提唱して始め、中国等のアジア圏から客が来始めていた。

 高齢化と医療の充実により、日本が先行しているのは成人病(癌、心疾患、脳血管疾患)の治療・リハビリ・早期発見のための人間ドッグで、成長産業として政府も後押ししていた筈だった。しかし、馬鹿なことばかり言っている間に、他国の医療も進歩したのである。そして、今では、癌治療に副作用ばかり多くて生存率の低い化学療法を標準治療とするなど、率先して先進医療を採用して人の命を助けようとしなかった厚労省の対応によって、日本の医療は世界の中でも高度とは言えなくなってきているのだ。

 この状況は、新型コロナで白日の下に晒された。自国の高度医療を武器に「医療ツーリズム」を行おうとしている国なら、乗客の中に新型コロナ感染者がいれば入港を促して完全なケアを行うのが当然であって、患者の存在を理由に入港を拒否するなどという選択肢はない。さらに、世界が注視している中でのダイヤモンドプリンセス号への対応も、全力を尽くしてやれることをすべてやったのではなく、杜撰きわまりない失敗続きだったのである。

 その上、*3-1のように、世界は、①ウイルスの18万3000近い遺伝子配列を分析して ②ウイルスの自然な進化(=変異の連続)をつきとめ ③進化を通じた感染力の変化 を分析する時代になっているのに、日本では、イ)PCR検査すらまともに行えず ロ)病床数が足りないからとして病院にアクセスできない患者が自宅で亡くなるケースまで出し ハ)ワクチンや治療薬も作れず 二)変異株の存在も外国から言われなければわからず ホ)ウイルスがいる限り場所を問わずに起こるのに「変異株はどこの国由来か」ばかりを問題にしている という有様だ。

 これは、日本にある高度医療サービスと観光を結び付けるどころか、日本人が他の医療先進国に治療に行かなければならないくらいの深刻な問題で、早急な原因究明と解決が必要である。

2)観光ルートへの災害と復興史の織り込み
イ)ふるさとに帰れる人、帰れない人、新しく来る人
 東日本大震災は、*4-1のように、死者・行方不明者・震災関連死者が計約2万2千人に上る大惨事だったが、これに東京電力福島第1原発(以下、“フクイチ”)事故が加わり、16万人以上が避難を余儀なくされ、今も避難中の人が約4万1千人いる。

 日本政府は、原発事故の賠償や除染費用が21.5兆円にも上るとしており、除染作業は2051年まで完了しない可能性もあるそうだ(https://www.bbc.com/japanese/video-56356552 参照)。しかし、現在は帰還困難区域でなくなった場所も、避難指示解除基準が放射線管理区域並みに高い年間20mSV以下であるため帰還できない人も多く、この人たちは“自主避難者”として自己負担になっている。

 仮に、フクイチ事故がなければ、道路・防潮堤・土地のかさ上げをすれば、もっと早く現在のニーズに沿った街づくりを行い、前より住みやすい街を作ることができただろう。そのため、37兆円(うち被災者支援は2.3兆円。生活再建支援は3千億円余り)の復興予算を投入したというのは、何に、いくら使ったかについて、国民への正確な報告を行って反省材料にすべきである。

 また、3県42市町村の人口減少率は全国の3.5倍のペースで、街づくりの停滞や産業空洞化に直面しているとのことだが、廃炉の見通しも立たないフクイチ周辺は仕方がないとしても、そこから距離のある地域でも企業誘致・帰還・移住が進まないのは何故だろうか? 国民全体への所得税の2.1%分上乗せは2037年まで続くそうなので、予算が正しく被災地の再建に繋がっているか否かを監視するのは国民の責務である。

 なお、*4-1・*4-2のように、フクイチ事故は、日本における原発の危険性とこれまでの安全神話を白日の下に晒した。電力会社と経産省が原発の構造に疎く、事故時に無力であることも明らかになった。そのため、日本では、エネルギーのあらゆる視点から、脱原発と再エネへの移行が求められるのである。

 嬉しいのは、東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた仙台市東部に、*4-3のように、災害復旧と区画整理を一体的に進める国直轄事業によって農地の再生と担い手への集約が破格の規模とスピードで実現し、大区画化による大型機械の導入で作業が効率化され、受委託を含む農地集約も進み、コメや野菜を組み合わせた複合経営に取り組む農業法人も相次いで発足して、法人への就職が若者の新規就農の窓口として機能し始め、農業に新たな活力を吹き込む担い手も現れたことである。

ロ)災害と復興史として伝承すべきこと

  
                         2021.3.14日経新聞
(図の説明:1番左の図のように、日本は、ユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートが押し合い、隆起・火山噴火・地震・津波を繰り返しながらできた陸地で、左から2番目の図のように、すぐ近くに海溝や海底山脈があり、地震多発地帯であることが、東日本大震災によって明らかになった。そして、これらの現象と海底地形・GPSによる測定値などを組み合わせれば、大陸移動説を目に見える形で証明できそうである。また、右から2番目の図のように、次の巨大地震や津波も予測できるようになり、海底火山が多いため、1番右の図のように、日本の排他的経済水域にはレアアース等の地下資源も豊富だということがわかってきている)

 「伝承」するにあたっては、綺麗事を並べてもすぐに実態が見破られ、リピーターは来ない。日本だけでなく世界の関心を集めるには、知る価値のある伝承にすべく、21世紀に起こったが故に残された迫力ある映像やそれが起こった原因に関する深い考察が必要だ。

 そして、東日本大震災をきっかけとしてわかったことは、上の図のように、日本はユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートが押し合って火山噴火・隆起・地震・津波などを繰り返しながらできた陸地で、次の巨大地震や津波も予測できるようになり始め、日本の排他的経済水域内には海底火山が多いので、レアアースやメタンハイドレートなどの地下資源が豊富だということだ(海洋基本法:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/16620070427033.htm 参照)。

 そのため、伝承館に残してもらいたいものは、日本で火山の噴火・地震・津波が周期的に起こった歴史的事実(歴史書・神社の記録・地層などから組織的に集める)とそのメカニズムに関する科学的な説明であり、それによって、*4-5のような、次の大地震に関する想定も信憑性を持つ。さらに、海底の地形も含めてこれらの事実をしっかり解析すれば、大陸移動説や地球の営みまで証明され、ノーベル賞級の研究になることは確実だ。また、21世紀ならではの映像と記録のものすごさもあり、世界の観光客や研究者が注目すると思われる。

 しかし、*4-4には、「黒い湖」として枯れ田に置かれた黒いフレコンバッグの山のことが書かれており、10年間も仮置き場としてフレコンバッグを積んだままにしていること、雨風に晒され続けてフレコンバッグが傷み、汚染水や内容物が外部へ漏れそうなことが書かれている。そのため、3兆円以上もかけて、何のために除染作業をしたのか疑問に思う。

 私は、ずっと前にもこのブログに記載したのだが、仮置きや中間貯蔵を行って意味のないことに多額の費用を使うのではなく、直ちに最終処分法を決めて最終処分するのがよいと考える。それには、放射線量の高い帰還困難区域にコンクリートで除染土を入れるプールを作り、そこに除染土が入ったフレコンバッグを集めてかさ上げとし、コンクリートの蓋を被せて密閉し、その上に汚染されていない土を盛って自然公園や災害記録館などを作るのが唯一の解だと思う。

 「東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)」は、フクイチから北へ3キロほど離れたところに建てられたそうだが、この伝承館は、東日本大震災・原発事故・復興の真実を21世紀らしい映像と考察を持って地元住民の率直な解説とともに開示して欲しい。そして、原発事故から再エネへの移行も含む壮大な展示をして初めて、大きな付加価値を生むと考える。

3)観光ルートへの歴史の織り込み
イ)弥生時代(約12,000年前~250年頃)の遺跡


吉野ヶ里の位置 付近の路線図  吉野ヶ里復元図     復元された吉野ヶ里遺跡

(図の説明:1番左の図に、吉野ヶ里遺跡の場所が記載されているが、ここは佐賀県鳥栖市・福岡県太宰府市・福岡県久留米市に近い。左から2番目の図に、近くの鉄道路線が書かれており、鹿児島本線の二日市駅の近くに太宰府がある。また、筑肥線は、福岡市営地下鉄との直通運転があり、福岡駅・福岡空港に直結しており、筑肥線の駅名には、日本語かなと思われるものもある。中央の図が、吉野ヶ里遺跡の復元図・右の2つが復元された吉野ヶ里遺跡で環濠集落になっている。そして、弥生時代の食事も結構グルメだ)

 「博多⇔姪浜」間は福岡市営地下鉄だが、上の左から2番目の図の「姪浜⇔下山門⇔周船寺⇔波多江⇔筑前前原⇔加布里⇔筑前深江⇔唐津⇔伊万里」は、*5-1に記載されているJR九州のJR筑肥線で相互乗り入れをしている。そして、「乗降客が少ない」という理由で、JR筑肥線は、現在、単線・ディーゼルカー・15~60分に一本 である。

 しかし、*5-2の①にあたる地域は、近畿ではなく(魏志倭人伝の方角を変更して、この倭国を近畿に誘致すべきではない)、九州北部のこの地域だということだ。②に、倭の北岸として帯方郡から倭に至る道筋に書かれている狗邪韓国は朝鮮半島にある釜山だ。

 その後、③で始めて海を渡って対馬に至り、④でまた海を渡って壱岐に着く。そして、⑤でさらに海を渡って末盧国(唐津市、九州本土)に着いており、山と海すれすれに住んで魚やアワビを捕っていたのは呼子付近だろう。魏の使者はさらに進み、⑥の伊都国(現在の筑前前原付近)が帯方郡の使者が常に足を止める場所であり、その後、⑦の奴国(福岡市)に着いている。そして、ここまでの地理には誰も異論がなく、魏の使者は、筑肥線に沿って進んでいるのだ。

 次に、⑧の不弥国(フミ国、現在の宇美町?)から水行二十日で、⑨の投馬國(投与國《豊国、大分県中津市or宇佐市》の書き違いではないかとも言われている)に着き、そこから水行十日陸行一月で、⑩邪馬壹國(女王が都とする所)と書かれているため、女王国は近畿にあるとする説が出ているが、急に近畿になるのは不自然だ。また、方角は正しく、距離の方が日数で示されて一定の基準があったわけではないため、邪馬台国は九州北部にあったと中国の学者が断言している。さらに、近畿説では、㉘の女王国の東に海を渡って千余里行く国が有って倭種だという記録とも合わないため、この海を渡って千余里というのが瀬戸内海のことだと考えられる。

 また、⑫の女王国の南にある狗奴国(クナ国、クマ国《熊本県、熊襲》の聞き違いではないか?)は卑弥弓呼素という男子が王で、㊱のように、倭女王の卑弥呼と争っていた。そして、倭女王の卑弥呼は、㉜のように、魏に献上品を送って親魏倭王として金印を紫綬されている。その後、㉟のように、245年に倭の難升米に黄色い軍旗が与えられ、㊲のように、247年に卑弥呼は亡くなって大きな塚が作られたとのことだ。

 その後に男王を立てたが国中が争ったので、十三歳の壱与(トヨ《豊、大分県》の書き違いではないかとも言われている)を立てて王と為し、国中が安定したそうだ。

 詳しく書くと長くなるため結論だけ書くと、邪馬台国は現在の山門もしくは吉野ヶ里にあり、科学的な証拠を示した上で筑肥線を日本海側のリアス式海岸を走る列車(小田急線のように、急行や特急のロマンスカーがあってもよい)にすればよいと思う。この時、伊万里を含め、それより西の松浦市、平戸市行きなども相互乗り入れして、EVかFCV電車を直通運転させれば、どこも史跡に事欠かず、リアス式海岸がきれいで、魚の美味しい地域である。

ロ)縄文時代(約16,000年前~約3,000年前 )の遺跡

     
  山内丸山遺跡(縄文時代の遺跡)       縄文時代の土器・土偶・埴輪

 「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、*5-3のように、青森県など4道県が2021年の世界文化遺産登録をめざしているそうだ。青森市の三内丸山遺跡では、ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の調査員が、政府提出の推薦書の内容を確認し、調査した結果をもとにしたりして、2021年5月に4段階評価のいずれかを勧告し、この勧告をもとにユネスコの世界遺産委員会が登録の最終判断をするそうだ。

 三内丸山遺跡は縄文人の生活に関してこれまでの常識を覆し、縄文人は意外にグルメな生活をいしていたのだそうで、世界文化遺産に登録されればまた新たな付加価値が加わる。

・・参考資料・・
<政治に女性登用を増やすと、何が変わるか>
*1-1-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1278848.html (琉球新報社説 2021年2月28日) 自治体人事に性差 女性登用へ組織改革を
 男性は企画立案が得意、女性は家事や育児に適する―というような固定観念が人事配置に反映されているのか。本紙が男女共同参画について沖縄県と県内全11市に聞いたアンケートで、全自治体で総務や企画に関する部署に男性が多く配置される一方、福祉や医療などの部署には女性が多い傾向にあることが分かった(23日付)。財政や人事、総合計画などに関わり「行政の頭脳」とも称される総務や企画系部署は男性が67%を占める一方、介護や子育て、保健衛生などを扱う部署は女性が59%と半数を超えた。管理職で見ると、総務企画部署は女性比率がさらに低くなる。総務企画に所属する女性管理職はわずか12%だったが、福祉医療系は34%だった。行政の中で性別が人事配置の判断材料になっている証左ではないか。子育てや介護を含めた「妻・嫁」の役割と結びつけ、固定化されたジェンダーバイアス(性に基づく差別や偏見)で配置先を決められてしまうことが当たり前のこととして行われてきた。県内41市町村の管理職に占める女性の割合は14%で、全国平均の15%を下回る。うち7村は女性管理職ゼロだ。政府が目標として掲げる「指導的地位に占める女性比率30%」の半分にも届かない。公平な採用と人事配置が当然とされる行政機関でも、女性から見ると壁があることが分かる。そもそも採用面から不利な立場に置かれている。全自治体の職員に占める男女比率はおおむね6対4と女性が少ない。ただし非正規職員は男性が約24%なのに、女性は約76%に上る。配属も福祉医療系に偏り、昇進についても同様だ。男性にはさまざまなポジションへの門戸が開かれているが、女性は男性よりも限られた選択肢しか与えられていない。自治体職員からは、激務で残業の多いイメージの職場は子育て中の女性が希望しないなどの声が上がっているが、それでは、女性医師は出産などで離職するからと女子に不利な得点操作をしていた東京医科大の発想と変わらない。男女ともに長時間労働の解消が先決で、それを理由に女性を閉め出すことはあってはならない。男性は仕事、女性は男性を支えて家事や育児を担うという性別役割分担は長く強いられてきた。それは育児休業の取得率が女性はほぼ100%だったのに、石垣と名護、宮古島の3市は取得した男性職員が1人もいなかったことにも現れている。仕事第一で激務や残業を男性側に強いるということで、男性にとっても不公平な社会ではないか。ジェンダーバイアスによる人事配置は企業や大学を含め至るところにある。行政機関が率先して長年続く不公平な仕組みを認識し、組織の中核を担う部署や女性が少ない部署での女性の配属や登用を進め、組織構造を変えていかなければならない

*1-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2J72SYP2JULOB00J.html (朝日新聞 2021年2月17日) 「ほんとに日本は変わらない」 林文子市長、森氏発言に
 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長=辞任表明=による女性蔑視発言をめぐり、横浜市の林文子市長(74)は16日の記者会見で、行政や企業のトップに上り詰めた自らの人生を「『忍』の一字で生きてきた」と振り返り、「意思決定の現場に女性がいるのは大変重要。男性の意識改革が必要だ」と述べた。市長就任前にダイエー会長などの要職を務めた林氏は、自身が社会人になった1965年当時を「女性が意思決定することを誰も考えていなかった」と振り返ったうえで「ほんとに日本は変わらない。(女性の)中間管理職がある程度の仕事ができるところまでは来たが、ほんとに意思決定の、企業の役員レベルに(女性が)入れるかというと、いま立ち止まっている状態だ」と話した。また、「私は我慢してうまくいった例」とし、自らの課題として「言いたいことをガーンと言わない癖が付いてしまっている。バーンと言うべきですね」とも語った。組織委の新会長選びについては「(五輪までの)時間がない中で男尊女卑とかの言葉が飛び交って、重要なポスト(を誰が務めるか)が議論されているが、これはいいことかもしれない。みんなが、おかしいということに耳を傾けることが大事だ」と話した。

*1-1-3:https://www.asahi.com/special/thinkgender/?iref=kijiue_bnr (朝日新聞 2021年3月3日) 「女性が主婦業を追求した方が」日経、コラムを一部削除
 日本経済新聞の電子版で2日に配信された外部筆者のコラムに「女性が主婦業を徹底して追求した方がいい」などとする記述があり、日本経済新聞社は「不適切な表現があった」として一部を削除した。
削除されたのは、IT企業「インターネットイニシアティブ」(IIJ)の鈴木幸一会長(74)がコラム「経営者ブログ」に「重要な仕事、『家事』を忘れている」と題して書いた文章の一部。鈴木氏は東京都が審議会の委員の女性の割合を4割以上にする方針を掲げたことについて、「変な話」とし、「男女を問わず、にわか知識で言葉をはさむような審議会の委員に指名されるより、女性が昔ながらの主婦業を徹底して追求したほうが、難しい仕事だし、人間としての価値も高いし、日本の将来にとっても、はるかに重要なことではないかと、そんなことを思う」などと記していた。「口にしようものなら、徹底批判されそうだ」とも書いた。この部分は2日午後に削除され、コラムの冒頭に「一部不適切な表現があり、筆者の承諾を得て当該部分を削除しました」と追記された。日経広報室は削除の経緯について、朝日新聞の取材に「筆者とのやりとりや編集判断に関する質問には答えられない」とコメントした。IIJ広報部によると、2日午後2時ごろに日経側から「SNSなどで批判的な意見が出ているので削除したい」と鈴木氏に連絡があり、受け入れたという。広報部の担当者は取材に「社としては、女性が長期的に活躍できる環境の整備に取り組んでいる」とした。日経電子版では「経営者ブログ」について、「著名な経営者が企業戦略や日常的な発想など幅広いテーマで本音を語り、リーダーの考え方や役割も学べるコラム」と紹介している。鈴木氏の「経営者ブログ」は日経電子版で10年以上にわたって続いている。一部が削除された回では、掃除や洗濯などの家事に追われていた母親の姿を回想するなかで、家事の大変さに触れていた。鈴木氏は2月16日に配信された同じコラムで、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長(83)が「女性がいる会議は長くなる」などと発言し、その後辞任したことについて、「『女性蔑視』と騒ぎ立てる話なのだろうか」「女性にとっては、聞き捨てならない話だと、大問題になったのだろう」と書いていた。

*1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP334Q0FP32ULFA016.html?iref=comtop_Business_03 (朝日新聞 2021年3月3日) 「日本は男性優遇」 女性75%、男性54% 電通調査
 8日の国際女性デーを前に、電通総研が実施したジェンダーに関する意識調査で、男女の意識差が浮き彫りになった。社会全体が男女平等になっているかを尋ねたところ「男性の方が優遇されている」「どちらかというと優遇されている」と答えた女性は計75・0%に上ったのに対し、男性は54・1%だった。調査は、全国の18~79歳の3千人にインターネットで実施し、項目ごとに男女が平等になっているかなどを尋ねた。「社会全体」については「男性の方が優遇」「どちらかというと優遇」との回答が、男女あわせた全体で64・6%だった。「慣習・しきたり」では64・4%、「職場」では59・6%だった。「男性の方が優遇」「どちらかというと優遇」と答えた人の割合は、男女の間で差が目立った。「法律・制度」については女性では60・6%に上ったのに対し、男性では32・7%。「職場」については女性70・2%に対し男性48・8%、「家庭」は女性44・0%に対し男性22・7%だった。いずれも20ポイント以上の差が開いた。自由回答の欄では「婚姻に関わる制度が平等でない」「夫婦別姓が認められていない」といった意見があった。調査にあたった電通総研の中川紗佑里氏は「自由回答で、女性は不利な思いをしたことを書く例が多かった。性別によって経験に差があり、男性と女性で見えている景色に違いがあるようだ」と話した。政府の男女共同参画基本計画では「指導的地位にある女性」の割合を、2020年代の可能な限り早い時期に30%程度とする目標を掲げている。企業の管理職の女性比率が30%になる時期を尋ねると、平均で「24・7年後」だった。女性首相の誕生は平均で「27・9年後」、国会議員の女性比率が50%となるのは「33・5年後」だった。

*1-2-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=730999&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2021/3/1) 入管法の改正案 難民認定の見直しこそ
 政府は、入管難民法の改正案を閣議決定した。国外退去処分となった外国人の入管施設への収容が長期化している問題の解消を図るのが狙いという。退去命令を拒む人への罰則規定を設けるなど、在留資格がない人の速やかな送還に主眼を置く内容となっている。不法滞在が発覚した人の大半は自らの意思で帰国している。一方で長期収容者の多くは帰国を拒んでいる。帰国すれば身に危険が及ぶ恐れがあったり日本に家族がいたりするためだ。もちろん国外退去処分となった外国人には速やかに出国してもらうのは当然である。しかし何年も収容されながら帰国を拒み続けている人に、厳罰化の効果があるかどうかは疑問だ。長期化する収容の背景にあるさまざまな事情に目を向けなければ、問題の解決にはつながるまい。人権上の観点から収容・送還制度を見つめ直し、慎重に国会審議を行う必要がある。不法残留して摘発された外国人は、送還されるまで原則として入管施設に収容される。2019年末の収容者は942人に上った。このうち462人は収容期間が6カ月以上に及び、3年以上の人も63人いた。長期収容が常態化する中、ハンガーストライキで抗議する外国人が相次いでいる。2年前には長崎県の施設でナイジェリア人男性が餓死した。これをきっかけに出入国在留管理庁が有識者会議を設け、法改正に向けて検討を進めてきた。改正案でとりわけ懸念されるのは、難民認定申請の回数制限だ。政府は、認定申請中は母国に送還しないとする現行法の定めに基づき、申請を繰り返す人が多いとみている。送還逃れを目的にした申請の乱用が収容の長期化を招いているとし、3回目以降の申請で原則送還できるようにする。自ら早期に帰国すれば、再来日できるまでの期間を短縮して優遇するという。だが日本は諸外国に比べて難民の認定率が極端に低い。19年には1万375人が申請したが、44人しか認められなかった。何度も申請してようやく認定されるケースも少なくない。本来は保護されるべき人が強制送還され、本国で弾圧を受ける恐れもある。日本が加わる難民条約にも反し、看過できない。難民認定制度の見直しこそ必要ではないか。収容の在り方にも大きな問題がある。国連の委員会などは、収容の必要性が入管の裁量で決められ、無期限の収容が可能になっていることを問題視し、繰り返し指摘している。改正案では、現行の「仮放免」に加え、一時的に施設外での社会生活を認める「監理措置」が新設される。支援者らが「監理人」として状況を報告する義務を負い、就労したり逃げたりすれば罰せられる。しかし外部のチェックが一切ないまま、入管の裁量権がブラックボックス化している根本的な問題は何も変わっていない。政府の改正案に先立ち、野党も対案を国会に提出している。難民認定のための独立機関を置き、収容は裁判官が判断することなどを盛り込んでいる。一定の透明性や人権への配慮などは評価できる。政府案の問題点を修正するためにも、積極的に取り入れるべきだ。

*1-2-2:https://toyokeizai.net/articles/-/414397 (東洋経済 2021/3/2) 日本も無視できず「EUでワクチン遅延」の大問題、域内生産しているにもかかわらず接種率が低い
 河野太郎規制改革担当相によれば、日本の最新の新型コロナウイルスのワクチン入手に関して、アメリカの製薬大手ファイザー製のワクチンが今年6月末までに高齢者全員が2回打てる分量を各自治体に供給できるとしている。ただし、欧州連合(EU)の承認次第だと付け加えた。6月末とは東京五輪・パラリンピックを控えた国とは到底思えない遅さだ。世界的に見て感染者数や死者数が少ないとはいえ、五輪開催への日本政府の本気度が海外からはまったく見えない。一方、日本のワクチン確保のカギを握るEUも、ワクチン接種は進んでおらず、批判の声が上がっている。
●ファイザー製ワクチンの供給に遅れ
 EUは2020年6月にコロナ対策の新制度を設立。加盟国に代わり、EUがワクチン購入の交渉をすることになった。これは交渉コスト削減と加盟国間の争奪戦を回避するためだった。加盟国はこの制度に参加する義務はないものの、全27加盟国が参加することを選択した。EUはファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンやアメリカのモデルナ製ワクチン、イギリスのアストラゼネカ製ワクチンをそれぞれ契約している。ところが、ファイザー・ビオンテック製ワクチンについては、ファイザーがベルギー工場の能力を増強する間、配送が一時的に減少し、契約どおりの供給ができなくなった。さらにファイザーは契約順に供給するとして、契約が遅れたEUは後回しにされた。EUは契約違反と批判したが、ファイザー側は、納期は努力目標にすぎないと反発し、いまだに両者はかみ合っていない。フランスのサノフィがファイザー・ビオンテック製ワクチンの製造支援に手を挙げたものの、製造態勢を整えるのに夏までかかるという見通しを明らかにしている。ファイザー・ビオンテック製だけではなく、モデルナ製ワクチンにも供給に問題が発生し、フランスとイタリアでは予想を下回る供給しか受けられていない。加えて、英アストラゼネカ製ワクチンもベルギーとオランダの工場での生産が遅れており、供給は不足状態だ。実は、今年1月にEUを離脱したイギリスは、EU域内で製造しているアストラゼネカ製ワクチンを最優先に入手している。EUはおひざ元で製造されるワクチンが注文通りに供給されないことにいらだち、EU製造ワクチンをEUの承認なしに域外に持ち出せない輸出規制をかけた。例えば、日本国内にワクチンの製造工場があるにもかかわらず、そのワクチンが韓国や台湾、東南アジアに優先的に供給されれば、日本国民は不快感を持つだろう。EUの規制は当然ともいえる。ところが、この輸出規制は思わぬところでイギリスとの摩擦を生んだ。イギリス領北アイルランドとアイルランドの国境に定められたアイルランド議定書に抵触したのだ。アイルランドと国境を接するイギリス領アイルランドは、ブレグジット後も物流でEUのルールに従うことで国境検問の復活を回避している。ワクチンの輸出規制で検査が必要になれば、国境検問復活につながるとしてイギリス政府は猛反発した。
●EU域外への輸出差し止めの懸念も
 EUは2月25日の首脳会議で新型コロナの問題を集中協議し、製薬会社からのワクチン供給が契約より大幅に削減されている問題について、「企業はワクチン生産の予測可能性を確保し、契約上の納期を守らなければならない」とあらためて訴え、安定供給するよう企業側に圧力をかけた。さらにフォンデアライエン欧州委員長は「必要なワクチンを確保するためにEU製ワクチンの域外輸出を禁止する措置は取らないことにしたが、EUとの契約に背くような域外流出の監視を続ける」と説明した。つまり、ファイザー・ビオンテック製やアストラゼネカ製のワクチンがEUの署名した契約の量を満たしていない現状を考えれば、実質的には製薬会社の輸出差し止めを警告できるという理屈になる。EUを離脱したイギリスにとっては不満だ。これは日本も無視できない。冒頭の河野規制改革担当相の「ワクチン輸入はEU次第」という発言を踏まえると、日本にも調達の不確実性があることを示している。そうなると今度は交渉力が物をいうことになり、製薬会社とEU双方に日本政府がどれだけ交渉できるかに供給は左右される。ここで浮かび上がるのが、ワクチン接種にスピード感のあるイギリスと遅れるEUとのギャップだ。イギリスがファイザー・ビオンテック製ワクチンを承認したのは11月で、ワクチンの安全性を確認するEUの欧州医薬品庁(EMA)が承認した3週間前だった。アストラゼネカ製に関しても、イギリスでは昨年12月30日に1週間で承認したが、EUの承認はその1か月後の1月末だった。ワクチン獲得スピードの遅延で、ドイツのビルト紙は、メルケル独政権に対して「予防接種のカタツムリ」とノロノロぶりを揶揄している。
●EUの官僚主義に原因
 EUのワクチン接種の遅延には、ワクチン承認の厳格さと煩雑な承認プロセスが大きく影響していることは否定できない。ただ、イギリスのワクチン専門家は、EMAのアストラゼネカワクチンの承認基準は、イギリスの基準と変わらないことを明かし、単にEUの官僚主義による承認の事務的遅れが影響していると指摘している。また接種の実施に関しても、EUは事情の異なる27カ国間の調整に手間取っている。これもやはりEUの強烈な官僚主義が原因の1つだ。それを嫌って離脱したイギリスの接種が、圧倒的なスピードで進んでいるのは当然ともいえる一方、EUは激しい争奪戦の敗者となりかねない。イギリスは、ワクチンを少なくとも1回接種した人の人口に占める割合は2月26日時点で29%とイスラエルに次ぐ世界2位だ。イギリスに住む筆者の友人家庭は、同居中の30歳の息子を含め、全員が1回目の接種を済ませ、2回目ももうすぐだと言う。それに対して、EUでは最も接種人数が多いデンマークで7.1%、ドイツ4.6%、フランス4.3%と圧倒的に低い。EUによるワクチン供給の遅れに業を煮やし、独自に調達を始めた加盟国もある。日頃から独裁統治と独自路線でEUから批判されるオルバーン・ヴィクトル首相率いるハンガリーは、中国の製薬会社シノファームが開発した新型コロナウイルスワクチンを2月16日に入手し、接種を始めた。というのも、加盟国はEUが合意していないワクチンメーカーとの個別交渉が許可されている。ハンガリーはロシアのスプートニクVワクチンの購入にも同意している。スペインもロシア製ワクチンを拒まないとしている。
●ワクチンに対する不信感も
 接種遅延には、ワクチンへの不信感の広がりもある。例えば、今年1月、EUの医療規制当局は、すべての年齢層にアストラゼネカワクチンを使用することを承認した。それにもかかわらず、フランス、ドイツ、イタリアを含む多くのEU諸国の規制当局が、65歳以上の人々に使用すべきではないと勧告したことで、ワクチンへの不信感が高まった。フランスのマクロン大統領は、アストラゼネカ製ワクチンは高齢者には効果がないと発言。アストラゼネカ社は「なんの科学的根拠もない発言」と強く批判し、発言は撤回されたものの、一度広まった噂は今も影響を与えている。イギリスではワクチンに関する情報開示を随時行い、透明性を高めるだけでなく、不必要なネガティブ情報を流さないようメディアが気を付けている。一方、EUのメディアは科学的根拠のないネガティブ情報も流す。EUの官僚主義を一朝一夕に変えることは難しい。とはいえ、今回の新型コロナのような、人の生命がかかっているときのリスク対応という点では、大きな足かせとなっている。

*1-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR02EHO0S1A200C2000000/ (日経新聞 2021年2月3日) ロシア製ワクチンに91%の効果確認、英誌論文
 英医学誌ランセットは2日、ロシアで開発された新型コロナウイルスのワクチン「スプートニクV」について臨床試験(治験)の最終段階で91.6%の効果が確認されたとする論文を発表した。ロシアは疑問視する意見があがっていたワクチンの安全性を強調し、外国への供給拡大を目指す。スプートニクVはロシアが2020年8月に承認し、世界初のコロナワクチンだと主張した。治験の完了を待たずに承認して接種を始めたため、安全性が懸念されていた。米欧製のワクチンに続いて主要な医学誌で最終段階の治験での効果が指摘されたことで、期待が高まる可能性がある。論文では20年9~11月に治験に参加した約2万人についてワクチン投与後の発症数などを調べた。ワクチンが原因とみられる重大な副作用は報告されず、60歳以上でも有効性は変わらなかった。発症した場合も重症化はしなかったという。ロシアはスプートニクVで「ワクチン外交」の攻勢を強めている。海外供給を担うロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は2日、スプートニクVを承認した国がロシアを含めて16カ国にのぼり「来週末までに約25カ国になる」と述べた。ドミトリエフ氏はスプートニクVが変異ウイルスにも効果があると主張した。欧州連合(EU)で医薬品を審査する欧州医薬品庁(EMA)への承認申請も進める。ランセットでは20年9月にもスプートニクVの初期段階の治験で抗体をつくる効果を確認したとの論文が発表された。欧米の複数の科学者から検証が不十分だとの指摘があがっていた。

<科学の遅れは、何故起こる?>
*2-1-1:https://kahoku.news/articles/20210306khn000042.html (河北新報社説 2021年3月7日) 東日本大震災10年/危機回避の鍵は分散にあり
 かつて東日本大震災の被害に関し「まだ東北で良かった」と発言し、引責辞任した復興相がいた。弁解の余地などない失言ではあるが、発言の後段はこう続く。「もっと首都圏に近かったりすると莫大(ばくだい)な、甚大な被害があったと思っている」。人口密集地帯が大地震に見舞われた場合に増大する危険性を指摘した。事は人命。東北と首都圏の単純な比較は非難に値するが、危機管理意識としては見逃せない視点を提供している。首都直下地震や南海トラフ巨大地震の襲来が確実視されている。新型コロナウイルスの新規感染者数は、可住地人口密度にほぼ比例することが知られている。大災害やウイルスのパンデミック(世界的大流行)に、一極集中が致命的な弱点を抱えていることが明白なのに、わが国の国土政策は旧態依然のままだ。地方分権とセットで国土構造を分散型に転換しなければならない。首都機能移転論議が熱を帯びていた1990年代、「財界のご意見番」といわれた故諸井虔さんは「防災第一」を理由に小規模な首都機能移転を提唱。最高裁判所の移転先候補地として、仙台市を例示した。阪神大震災(95年)があり新都建設の機運が盛り上がったが、景気低迷などもあり移転論は急速にしぼんだ。関東から近畿に至る大都市圏には国内GDPの7割を超える生産機能が集中している。とりわけ首都東京には国会、中央省庁、本社、大学などが軒先を並べ、有事の際に中枢機能が失われる危険性は何度も指摘されてきた。にもかかわらず、中央省庁の地方移転は文化庁の京都移転にとどまっている。90年代の首都移転論議では政官業の癒着を物理的に断ち切ることもサブテーマの一つだったが、総務省の高級官僚が霞が関周辺で利害関係者の放送関連会社から夜な夜な高額接待を受けていた不祥事が明るみに出た。一極集中は密談の培地でもある。一方で、パソナグループが東京の本社から経営企画や人事、財務などの機能を兵庫県淡路島に段階的に移すなど、事業継続計画(BCP)の観点から本社機能の分散を目指す動きが加速している。リモートワークの普及や働き方改革の必要性から、民間ベースでの「地方創生」は避けて通れない経営課題になっている。新型コロナウイルスのワクチン接種を巡っても、国の迷走を尻目に東京・練馬区や三重県桑名市などが独自の「モデル」を提示し地方自治体の力量を示している。新型ウイルスの感染拡大からわれわれが学んだのは過密のリスクだったはずだ。社会的距離の確保を国土政策に落とし込めば、出てくる解は「分散」「分権」になる。大地震と疫病の教訓から学び、行動を起こすための時間はさほど残されていない。

*2-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639144 (佐賀新聞 2021/3/1) 震災移転跡地27%用途決まらず、細かく点在、一体利用困難
 東日本大震災後、岩手、宮城、福島3県の市町村が高台などに集団移転する住民から買い取った跡地のうち、少なくとも27%に当たる計568ヘクタールの用途が決まっていないことが1日、共同通信のアンケートで分かった。買い取った土地が点在して一体的利用が難しいのが要因。自治体は空き地管理の維持費支出を余儀なくされている。専門家は、災害に備え事前に土地の利用方法を検討するよう呼び掛ける。昨年12月~今年2月、土地を買い取り、津波で被災した地域の住民らに移転を促す国の防災集団移転促進事業を実施した26市町村に尋ねた。計約2131ヘクタールが買い取られていた。利用状況の集計結果がない宮城県山元町を除き、用途未定地が最も広いのは60ヘクタール程度と回答した宮城県石巻市。55ヘクタールの福島県南相馬市は維持管理に年約1千万円を要しているという。約10ヘクタールを買い取った同県いわき市は78%が未定で、率としては最大だった。岩手県では6市町それぞれで3~4割超が未定のままだ。宮城県名取市など大半の自治体が「跡地が点在し、一体的利用が難しいこと」を理由に挙げた。同事業で買い取りできるのは主に宅地。企業の所有地などは対象外で、まとまった土地の確保がしづらい。岩手県大船渡市は地権者と協力し、民間の所有地と隣接する跡地を一体化して大規模化、事業者を募る取り組みを2017年度に始めた。岩手県釜石市や宮城県岩沼市は民有地と跡地の交換による土地集約化を検討。釜石市の担当者は「民有地を買収する方法もあるが、明確な利用計画がないと難しい」と吐露する。東北大大学院の増田聡教授(地域計画)は「危険な区域からの移転を第一にした制度なので、跡地利用のことは考えられておらず、このような問題に陥りやすい」と指摘。「南海トラフ巨大地震のような災害が予想される地域では、被災後の土地利用法を事前に検討しておくことも一つのやり方だ」と話す。

*2-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210309&ng=DGKKZO69788760Z00C21A3EA1000 (日経新聞 2021.3.9) 〈3.11から10年〉半世紀先を見据え廃炉の道筋描け
 東京電力福島第1原子力発電所で爆発が起き、原子炉建屋の上半分が吹き飛ぶ。日本科学未来館で開催中の「震災と未来」展の記録映像からは、すさまじい地震と事故の記憶がよみがえる。炉心溶融(メルトダウン)で大量の放射性物質を出した原発を解体し、溶け落ちた燃料デブリを安全に取り出して管理する。除染を徹底する。一連の廃炉作業がいかに困難かは容易に想像がつく。
●やむを得ぬ計画の遅れ
 政府と東電は事故から30~40年で廃炉を終える目標を定め、今も毎日4000人前後が作業にあたる。事故直後、防護服に身を包み密閉度の高いマスクを着けないと立ち入れなかった敷地内は、大部分普段着で歩けるようになった。だが、計画は遅れ気味だ。3号機の建屋上部のプール内にあった使用済み燃料取り出しは4年半遅れて始まり、今年2月に終えた。最難関とされるデブリの取り出しは当初計画より1年程度遅く、2022年内に開始の予定だ。原子炉内の状態は今なお、わからないことが多い。スケジュールありきではなく安全第一に、段階的かつ柔軟に作業を進めるのは現実的だ。遅れはやむを得ない。ただ、頻発する機器の不具合や管理の不徹底は、大事に至っていなくても見過ごせない。3号機の地震計が故障したまま放置され、今年2月の強い地震の揺れを測れなかったのは反省を要する。今後、作業の大きな障害となる可能性があるのが、流入する地下水などから大半の放射性物質を除去した後の処理水の扱いだ。放射性トリチウムが残っているため、すべてタンクに保管している。その総数は1000基を超え、このままでは22年夏~秋には増設余地がなくなる。デブリ取り出し用の機材やデブリを保管する場所を確保できなくなるからだ。トリチウムは正常な原発からも出ており、基準濃度まで薄めて海などに放出している。経済産業省の委員会は20年2月、処理水の海洋放出が他の方法に比べ「より確実」とする報告書をまとめた。だが、水産業を営む人たちの反対は根強い。処理水はもともとデブリに触れた水で、他の原発とは違うと受け止めている。海洋放出が始まれば風評被害で再び打撃を受け、10年間の再建努力が水泡に帰すとの懸念はもっともだ。それでも、処理を先送りし続けるわけにはいかない。政府と東電は一体となって地元と向き合い、不安の払拭に全力をあげるべきだ。相応の補償措置も必要だ。時間はかかっても、信頼関係なしに問題解決はない。国内外の消費者に対しても水産物の検査数値などを示し、安全性について理解を得なければならない。「廃炉完了」がどんな状態を指すのかについても、そろそろ議論を始めるときだ。最終的に安全できれいな更地になれば理想的だ。一部除染しきれず、立ち入り禁止区域を残す道なども考えられる。政府も東電もデブリに関するデータや情報の不足などを理由に、検討は時期尚早だという。しかし、考え得るシナリオから遡り、集めるべきデータをはっきりさせる進め方もあろう。
●最終状態の議論開始を
 最終状態のあり方は避難した人たちの帰還判断にかかわり、復興計画に影響する。あらゆる可能性を排除せず、避難者も含めて率直かつ継続的に議論することが不可欠だ。福島第1の廃炉は単なる後片付けに終わらせず、半世紀先を見据えて世界有数の廃炉技術拠点として生かす発想が必要だ。世界では約500基の原発が稼働または建設中だ。万が一の事故や廃炉の際、福島の経験は役立つ。日本原子力研究開発機構は福島県内に、遠隔操作技術の開発やデブリの分析用の先端機器を備えた施設をつくった。これから魂を入れていかねばならない。新型コロナウイルス感染症のためすぐには難しいが、海外の研究者らが長期滞在し活発に国内の研究者と交流できるのが望ましい。廃炉の解析データは世界からアクセスできるようにすべきだ。政府の福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想とも連動させたい。復興推進会議が決めた、省庁の縦割りを排した分野横断的な国際教育研究拠点の計画は検討に値する。若い世代が輝ける環境を整えてほしい。

*2-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14827738.html (朝日新聞 2021年3月10日) 原発汚染水、先送り続く 政府、復興方針で時期示さず
 東日本大震災から10年を前に、政府は9日、2021年度以降の復興の基本方針を改定し、閣議決定した。懸案となっている東京電力福島第一原発の処理済み汚染水の処分方法については「適切なタイミングで結論を出す」などと記すにとどまった。漁業者らとの調整が進まず、決定の先送りを続けている状態だ。改定は19年12月以来。21年度以降の5年間を「第2期復興・創生期間」と位置づけ、福島の復興・再生には「引き続き国が前面に立って取り組む」とした。住民が戻らない地域に移住を促す対策などを進める。一方、処理済み汚染水の対応は「先送りできない課題」としながらも、「風評対策も含め、適切なタイミングで結論を出していく」としただけで、具体的な決定の時期は示せなかった。汚染水問題では昨年2月、専門家による経済産業省の小委員会が、放出基準以下に薄めて海洋放出する方法を有力と提言していた。これを受け、福島県大熊、双葉両町は、処分方針の「早期決定」を政府に要望。菅義偉首相も昨年9月に「できるだけ早く処分方針を決めたい」と明言していた。だがその後、海洋放出に反対する全国の漁協などとの交渉が難航している。

*2-1-5:https://www.toyal.co.jp/whatsnews/2019/06/post.html (東洋アルミ 2019.6.3) 「アルミニウム粉末焼結多孔質フィルターによるトリチウム水の回収技術」の 日本アルミニウム協会賞技術賞受賞のお知らせ
 当社および近畿大学が共同研究したアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターによる放射性物質を含んだ汚染水から放射性物質の一つであるトリチウムを含むトリチウム水を回収する技術が『2018年度日本アルミニウム協会賞技術賞』を受賞しました。
【背景】
 東京電力福島第1原子力発電所では地下水の流入により放射性元素を含んだ汚染水が発生し続けておりますが、汚染水中に含まれるトリチウムは除去が困難であるため、保管する貯蔵タンクを増設し、広大な保管場所を確保する必要があります。このため、汚染水問題解決のために実用的なトリチウム除染技術の開発が望まれています。
【技術の概要】
 従来は、水の電気分解や高温高圧が必要でしたが、60℃・低真空での分離を実現しました。
【展望】
 現在も発生し続けている汚染水からトリチウムを除去できれば、処理後の汚染水の海洋放出も可能となり、汚染水を保管するタンクを減らすことができるため、タンクの設置・維持管理コストを削減でき、廃炉作業に必要なスペースを確保できることが期待されます。授賞式は5月29日に行われ、受賞者として当社の先端技術本部から藤本和也研究員が出席し、「我々の取り組みを評価いただき、光栄に思います。」と受賞の喜びを語りました。

*2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210307&ng=DGKKZO69747560X00C21A3EA2000 (日経新聞 2021.3.7) コロナ医療の病巣(5) ワクチン行政、時代錯誤の罪 内向き志向、革新を阻む
 日本での新型コロナウイルスのワクチン接種は世界に大きく出遅れた。科学技術立国をうたいながら国内で実用化のメドも立っていない。時代錯誤なワクチン行政に根深い病巣がある。国内でワクチンを流通させるには「国家検定」という関門をくぐりぬけなければならない。国立感染症研究所による抜き取り検査で、品質が保たれているかどうかを出荷ごとにチェックする。製品によっては2カ月ほどかかる。日本製薬工業協会は昨年9月、ワクチンの早期実現に向け提言書を公表した。世界を見渡せば、国が威信をかけ前例のないスピードで開発競争が進む折だった。承認審査の迅速化や包装表示の簡略化に加え、焦点だった国家検定も書面審査で済むよう求めた。パンデミック(世界的大流行)という一刻を争う際に、有事向けの「ワクチンルール」が示されていなかった日本。製薬会社が多額の投資を要する開発に二の足を踏むのも無理はない。
●担当は「結核課」
 日本の感染症対策、ならびにワクチン行政は、戦後の一時期、死因トップだった結核という国民病を克服した成功体験から抜け切れていない。厚生労働省の担当窓口が今も「結核感染症課」を名のっているのもそのあらわれ。要は下水道整備など公衆衛生向上の一手段として予防接種を位置づけてきた。しかし、ワクチンを巡る世界の潮流はこの10年余で変わった。バイオ技術の進展とともに肺炎やがんを予防する製品も普及。従来型の子供向けの予防接種だけでなく、成人になってからの重い病気を防ぐことで、結果的に医療費を抑制する効果も見込めるようになってきた。子宮頸(けい)がん向けはその代表例だが、国内では安全上の問題を解消しようとしない行政の不作為で、事実上、接種は7年間も止まったままだ。新しい感染症向けのワクチンは開発に10年かかるといわれるが、新型コロナワクチンは感染拡大から1年足らずで実現した。わずか3カ月の間に世界の累計接種回数は2億6千万回を超えた。ワクチンは今や国の安全保障上でも欠かせぬ切り札である。「ワクチン外交」という言葉が飛び交い、確保と接種の進み具合が世界経済の行方を占う。投資家の大きな関心事にもなっている。時代にあったワクチン行政と改革の必要性を求める声は日本にもあった。政府内にもその認識はあり、2016年10月には、当時の塩崎恭久厚労相に対し「タスクフォース顧問からの提言」も出された。特定の製薬会社が国の主導下で生産する「護送船団方式」から抜けだす。中長期を見据えた国家戦略のもと、ワクチン産業を強化していく。さもないと世界の趨勢に取り残され、安定供給もこころもとない。まさに今の危機を予言する内容だが、政策に魂を入れることはなかった。
●前例踏襲の限界
 霞が関の官僚組織には「無謬(むびゅう)性の原則」がある。政策を遂行する際、失敗を前提にした議論が行われないというものだ。リスクをとらなくなり、建設的な政策立案が遠のく。コロナではその副作用が露呈した。流行拡大当初に大きな問題となったPCR検査体制もそうなのだが、要は、ワクチン行政では、医療という枠組みのなかで安全性が金科玉条となり、リスクを避けながら失敗を認めない姿勢を貫こうとする。正解のないコロナとの闘いに前例踏襲主義は通じない。このパンデミックはいつか必ず終息する。が、グローバル社会で新たな感染症の脅威はまたやってくる。確率は万が一でも、起きてしまえば国家的な危機を招く「テールリスク」にこの国が向き合うには、ワクチン行政を厚労省から切り離すぐらいの劇薬が必要だ。この1年、後手に回ることの多かった日本のコロナ対策から得られた教訓といえる。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20210307&be=NDSKDBDGKKZO6878523003022021TCS000%5CDM1&bf=0&c=DM1&d=0&n_cid=SPTMG002&nbm=DGKKZO69747560X00C21A3EA2000&ng=DGKKZO68785230T00C21A2TCS000&ue=DEA2000 (日経新聞 2021/2/4) 欠かせぬ国防の視点 塩野義製薬社長 手代木功氏
 米ファイザーや米モデルナのワクチンは人類が活用できなかった新技術を使っており、治験期間が半年、申請後2週間~1カ月で承認にこぎ着けた。このスピード感は製薬企業の安全性確認の常識からいえば、まだ怖いというのが本音だ。この1年、世界は大混乱に陥った。進行形で起きている難題を何とかしなければならない。ワクチン接種はとにかく「やってみよう」という段階なのだと思う。50カ国以上でワクチン接種が実施されている。日本はまだかという指摘もあるが、リスクとベネフィットとを見極めながら進めるとなれば、日本の感染状況、保健体制などを総合的にみると、そんなにおかしなことになっていない。平時と戦時の違いだとしても、何を重要と考えるかだ。例えば、ワクチン接種で因果関係のある死者が出たとしよう。99.9%の人を助けるために、1人の犠牲は仕方ない。緊急時のワクチンだからそういうこともありうるよ、といえば日本の社会は許すだろうか。10年に1度、いや100年に1度かもしれないが、パンデミック(世界的大流行)が起きたら世界が翻弄されるということをわれわれは実感したはずだ。ならば発生に備え、すみやかに対応できるような平時からの積み上げをやろうよ、というコンセンサスが要る。国家安全保障の観点からの新たな社会契約を築けるかが、今回のパンデミックで日本が問われていることだ。国はコロナのワクチンを来年も再来年も年7000億円かけて海外から買い続けるのか、と言いたい。塩野義は昨年12月に臨床試験を始めた。国から約400億円の援助を受け、リスクをとって今年末までに3000万人分を目標に工場を整備し、並行してワクチン開発を進めている。さらに1億人分まで能力をあげる。ヒトとカネとについて国レベルでコミットしてもらわないと難しい。ワクチン対策費はまさに国防費の一部。備蓄や民業とのアライアンス、国際協力も必要になる。アジアで一定の存在感を示すためにもワクチンを供給される側でなく供給する側にならないといけない。

*2-2-3:https://www.sankei.com/west/news/210217/wst2102170022-n1.html (産経新聞 2021.2.17) 「周回遅れ」国産ワクチンの実用化が急務 政府は支援を強化
 新型コロナウイルスのワクチン接種が17日から始まった。この日接種されたのは米ファイザー製。国はこの後も英アストラゼネカ製など海外産ワクチンの調達を進めており、国産ワクチンの開発遅れが指摘されている。同日開かれた衆院予算委員会でも国産ワクチンに関して質問が相次ぎ、菅義偉首相は国内生産に向けて関連産業を支援する方針を示した。国際的なワクチン争奪戦も想定される中で、国産ワクチンの実用化が急がれている。
●既存の技術を活用
 大阪市内にある治験を専門的に行う病院で、塩野義製薬(同市中央区)が開発中のワクチンの治験が行われている。214人の参加者に3週間の間隔をあけて2回投与し、安全性や、抗体ができるかどうかなどを確認中で、データは今月下旬から集まる予定だ。開発中のワクチンは「組み換えタンパクワクチン」と呼ばれるタイプで、すでにインフルエンザワクチンとしても実用化されている技術を活用。木山竜一医薬研究本部長は「副反応や安全性のデータなどについて、医療関係者もある程度把握できる利点がある」と強調する。同社は年内にも3千万人分のワクチン製造ができる生産体制の構築を進めており、「国産ワクチンの技術を確立すれば、変異種や他の感染症の発生にも対応できる」と話す。世界保健機関(WHO)のデータによると、世界で60種以上の治験が進んでおり、中でも最終段階である第3相試験に入っているワクチンは15種以上になる。「日本の開発は周回遅れ」という指摘もある。国内企業で最も進んでいるのがアンジェス(大阪府茨木市)で第2/3相試験、次に第1/2相の塩野義が続く。第一三共とKMバイオロジクス(熊本市)は、今年3月にようやく治験を始める状況だからだ。ただ、大阪健康安全基盤研究所の奥野良信理事長は「実用化の時期に遅れがあったとしても国内企業は着実に開発を進めるべきだ。国内で安定供給される多様なタイプのワクチンの中から国民が接種を選択できるのがベスト」と話す。国内では今、組み換えタンパクワクチンや不活化ワクチン、さらにメッセンジャーRNA(mRNA)、遺伝子を使った先駆的ワクチンといった複数タイプの開発が進む。第一三共も「メード・イン・ジャパンのワクチン品質は必要だと考えている」(広報)とする。
●慎重な国民性も影響
 国内のワクチン産業は長く「世界の潮流から取り残されている」と指摘されてきた。日本はこれまでSARS(重症急性呼吸器症候群)などの脅威にさらされなかったことから、国による長期的なワクチン政策や経済的支援が示されず、製薬企業も開発に時間がかかり、副反応のリスクも高いワクチン事業に力を入れてこなかったためだ。加えて安全性に対する慎重な国民性もあり、平成元年ごろから十数年間、新しいワクチンの承認が世界に比べて停滞する「ワクチン・ギャップ」も起きた。一方、現在、新型コロナワクチンとして世界で接種が進むファイザー製やアストラゼネカ製は、それぞれmRNAや、チンパンジー由来の「アデノウイルス」を活用した先駆的なワクチン技術としても注目されている。北里大の中山哲夫特任教授は「世界ではSARSなどの経験から新技術の研究を続けた国や企業があった。その延長線上に革新的なコロナワクチンの実用化がある」と指摘する。しかし、かつて日本でもワクチン研究が活発に行われていた。今も世界中で使われている水痘ワクチンは日本発だ。中山特任教授は「ワクチン研究が途絶えたわけではない。日本から新しいワクチンが出る可能性はまだある」と期待する。
●最終治験が課題、海外での実施も
 国産ワクチンの今後の課題は、治験の最終段階である第3相試験だ。数万人の参加が必要な場合もあるこの治験では、副反応の発生頻度や、発症や重症化がどのくらい抑えられるのかを確かめるため、発症者が一定程度いる流行地域で行う必要がある。しかし、日本は海外に比べて発症者が少ないため、日本だけでなく海外の流行地域での治験も想定されている。

*2-2-4:https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/20210311-OYT1T50258/ (読売新聞 2021/3/11) IOC、五輪・パラ参加者のため中国製ワクチン購入へ…バッハ会長が表明
 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は11日、オンライン形式での総会で、東京五輪・パラリンピックと2022年北京冬季五輪・パラリンピックの参加者のため、新型コロナウイルスの中国製ワクチンをIOCが購入すると発表した。中国五輪委員会が提供を申し出たという。ワクチンの数量や金額は明かさなかった。東京五輪調整委員長のジョン・コーツ氏は、海外からの観客受け入れの可否について、「日本政府がどのような決定をしても、それを支持する」と述べた。海外客を受け入れない場合に備え、大会組織委員会とチケット代の返金などの検討を進めていることも明らかにした。バッハ氏は10日、会長選で再選された後の記者会見で、東京大会の観客数の上限については決定を出来るだけ遅らせたい意向も示した。コロナの感染状況が改善されることを期待し、「可能なら5、6月まで、状況の変化に対応できる余地を残しておく必要がある」と述べた。バッハ氏だけが立候補した会長選は、IOC委員による投票が行われ、有効票94のうち、賛成93票、反対1票でバッハ氏が選ばれた。2期目の任期は東京五輪の閉会後から4年間。再選は1度のみ認められている。1期目の任期は8年間で、バッハ氏は五輪での既存・仮設施設の活用や男女平等の推進、難民選手団の参加など様々な改革に取り組んだ。

<観光の高度化:医療ツーリズム>
*3-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1281173.html (琉球新報 2021年3月4日) コロナ起源巡り新たな手掛かり、ヒトへの感染でカギに【2021年3月2日WSJより】
 世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの起源に関する全容解明を目指す中、ウイルスが自然な進化を通じてヒトへの感染力を獲得したことを示唆する新たな手掛かりが浮上してきた。直近の少なくとも4つの研究から、東南アジアや日本に生息するコウモリやセンザンコウが持つウイルス株と、今回の新型コロナに密接な関係があることが判明した。これは病原体が従来の想定よりも広範囲に広がっており、ウイルスが進化する機会が豊富にあったことを示している。別の研究では、ウイルスの重要な構成要素である単一アミノ酸が変化することにより、ヒトへの感染を可能にする、もしくは少なくとも手助けするとみられることが分かった。アミノ酸はタンパク質を形成する有機化合物だ。これら最新の研究結果は、コウモリを起源とするウイルスが、おそらく仲介役となった動物を通じて自然に進化することで、ヒトへの感染力を獲得したとの見方を一段と裏付けるものだ。パンデミック(世界的な大流行)の再来を回避するには、ウイルスの起源を特定することが重要だと考えられているが、全容解明には何年もかかるかもしれない。2月に中国・武漢で4週間にわたり現地調査を実施したWHOのチームは、中国に加え、特に同国と国境を接する東南アジア諸国でもウイルスの起源特定に向けた調査を求めている。今回の新たな研究結果により、WHOがなぜ調査範囲の拡大を唱えているのかについても、これで説明がつく。バージニア工科大学のウイルス学者、ジェームズ・ウィジャールカレリ氏は、アミノ酸の変化がウイルスの自然な進化を示唆していると話す。同氏が主導したアミノ酸の変化に関する研究結果は、査読前の論文を掲載するサイトで共有された。それによると、同氏のチームはヒトへの感染を後押ししたとみられるウイルスの変化について、18万3000近い遺伝子配列を分析した。その結果、スパイクタンパク質の単一アミノ酸を変化させるウイルスの変異を特定。それが人間の細胞を感染させ、複製できることを示した。米当局者や科学者の一部は、研究室で起きた事故でウイルスが流出した可能性を完全に排除することはできないとの考えを示している。武漢ウイルス研究所は厳重に警備された施設の中で、コウモリが持つコロナウイルスについて研究を実施している。だが、パンデミック(世界的な大流行)以前に今回の新型コロナに関する研究を行っていた、もしくは保管していたとの見方を否定。最も厳格な安全基準を維持しているなどと主張している。だが、一部の科学者や米当局者は、研究所のこれまでの安全記録に加え、自然に変化したウイルスと「機能獲得」実験の双方の研究について、加工前の生データを共有するよう求めている。機能獲得とは、ウイルスがヒトへの感染や拡散する能力を強化できるか分析するために、科学者がウイルスの遺伝子を操作した実験のことを指す。専門家で構成されるWHOの調査団はこれまで、研究室内の事故が原因となった可能性は極めて低いとの考えを示している。だが、調査団のトップ、ピーター・ベンエンバレク氏は先週、研究室の仮説についても「まだ選択肢として消えたわけではない」としており、チームとしてすべての可能性を評価するだけの情報が得られていない点を認めている。WHOは近く、武漢入りした調査団が策定した報告結果の要旨を公表する見通し。ただ、報告書の全文が公表されるのは数週間先となるとみられている。

*3-2:https://www.data-max.co.jp/article/34958 (IBNews 2020年4月2日) 日本でも拡大する「医療ツーリズム」の現状
 日本の高度な医療サービスを求め、外国人が観光と合わせて訪れる「医療ツーリズム」が新たな市場として成長している。主に中国を始めとしたアジア圏を中心に、引き合いが増加。その市場規模は、2020年で5,500億円と見込まれている。
●成長産業として政府が後押し
 がんなどの生活習慣病は世界的に増加傾向にあり、その対策として、自国より高度かつ高品質な医療サービスを受けられる国に行くという「医療ツーリズム」が、1990年代から広まり始めた。医療ツーリズムを受け入れている国は、先進国だけでなく新興国も多く、外貨獲得のために国策として取り組んでいるところも少なくない。医療ツーリズムによって、自国よりも割安で受診できることや、手術など早期の治療に対応できることも利点であり、とくにアジア圏では、民間病院の新たな収益源として医療ツーリズムを積極的に導入する傾向が強くあり、市場拡大に寄与している。そのなかで日本は、優れた医療技術に加え、世界屈指の医療機器保有率から、治療・健診・検診を目的に、中国を始めとするアジア諸国からの来訪者数が年々増加している。政府も2010年6月に新成長戦略における「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」として、医療ツーリズム(医療観光)の積極的な受け入れを推進。11年1月に医療滞在のビザを解禁したことで、最長6カ月間の滞在が可能なうえ、3年以内なら何度でも入国することができるようになるなど、入国に関するハードルを低くした。日本の医療機関にとっても医療ツーリズムは、医療資源の稼働率向上や、より高度な医療機器・サービスを導入する契機となるほか、海外に日本の医療を展開するアウトバウンドの取り組みにつながることが期待されている。昨今のインバウンド需要拡大とともに、医療ツーリズム市場は年々拡大している。日本政策投資銀行では10年5月に医療ツーリズムの市場予測として、20年時点で年間43万人程度の需要が潜在的にあるとし、市場規模は約5,500億円、経済波及効果は約2,800億円まで伸長すると試算していた。現状では新型コロナウイルス感染症の影響で来訪する外国人が激減していることもあり、そこまでの成長は難しい様相だが、すでに市場としては成熟化が進んでおり、事態が収束すれば再び市場は戻ると見られている。一方で、医療ツーリズム推進の政策に対して、「国民皆保険制度の崩壊につながりかねない」として懸念を示しているのが日本医師会だ。一般企業が関与する組織的な活動を問題視し、「医療ツーリズムが混合診療解禁の後押しになる」と指摘する。つまり、医療に一般企業が参入することで、営利を追求した医療が一部の富裕層のためだけの混合診療を含めた医療サービスにつながることを強く懸念しているのである。
●参入増で競争激化 コーディネートに課題も
 医療ツーリズムは、観光と合わせて高度な医療サービスを受診することを目的としており、受診先となる医療施設には最先端の医療設備が完備されているのはもちろんのこと、主に富裕層を対象にしていることから、豪華さや快適さも備えていることが大きな特徴。かかる費用も1人30万円から100万円超と幅広い。たとえば、人間ドックの場合、基本的な検診のほか、がん検診でPET(※)を実施する「VIPコース」などと呼ばれる高額な検査を実施する施設も多い。また、温泉療養と合わせた医療ツーリズムが、食事と運動をバランス良く組み合わせることで心身をリフレッシュし、生活習慣病の改善と自然治癒能力を高める効果に期待が寄せられ、人気を博している。これら観光主体型の医療サービスは、その多くは地方の旅行会社が企画するもので、より多くの外国人来訪者の獲得に向けた企業間競争も激化しているようだ。ある医療ツーリズムの企画会社は、「数年前までは、反対する日本医師会の影響もあったのか、検査枠の空きがあれば受け入れる程度で、積極的に確定診断から治療へ取り組む施設は多くなかった。しかし、最近は医療施設からの問い合わせが非常に増えている」と話す。また、「現状は新型コロナウイルスの影響で受け入れを止めているが、その間に東京大学や北海道大学など著名な国立大学病院との独占的な提携を進めており、より高いレベルの医療サービスを提供する体制を敷くことで差別化を図る」と続けた。このように拡大傾向にある医療ツーリズム市場だが、課題がないわけではない。現状は検診以外の治療を目的とする場合、医療従事者がコーディネートをしているという企業は少なく、医療施設が必ずしも患者と合致しない場合もあり、治療におけるリスクがともなう可能性がある。今後、医療ツーリズム市場がさらに成長していくためには、医療機関とコーディネートする民間企業の連携の部分を、さらに深めていくことが求められる。

<観光の高度化:観光ルートへの災害と復興史の織り込み>
*4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1285134.html (琉球新報社説 2021年3月12日) 東日本大震災10年(4) 真の復興へ不断の検証を
 東日本大震災の発生から11日で10年がたった。死者、行方不明、震災関連死は計約2万2千人に上り、残された人々が歩む人生にも震災は大きく影響している。東京電力福島第1原発事故などで今も避難中の人が、沖縄を含め約4万1千人いる。追悼式で菅義偉首相は、地震・津波被災地は「復興の総仕上げの段階」に入ったとした。しかし、10年は通過点にすぎない。真の復興に向け不断の検証が必要だ。政府は2011~15年度を「集中復興期間」、16~21年度を「復興・創生期間」と位置付けてきた。この10年で国が投入してきた復興予算は約37兆円に上る。道路や防潮堤、土地のかさ上げなど、被災地のインフラの整備は進んだ。一方で、予算の大半はハード整備に使われ、日本経済再生の名目で被災地と関係の薄い補助金などに流用された事例もある。被害が大きかった3県42市町村の人口減少率は全国の3.5倍のペースといい、街づくりの停滞や産業空洞化の課題に直面する。地域のつながりが薄れ、高齢者の見守りや心のケアも課題となる。用地取得や合意形成の難航もあって大型公共工事は長期化し、転出先での生活が定着した人々が古里に戻る機会を逸した。ハード整備に傾倒した復興のマイナス面だろう。被災者支援に充てられたのは2.3兆円にすぎない。それも仮設住宅の整備費などを除くと、生活再建支援として被災者に直接支給されたのは3千億円余りにとどまる。廃炉の見通しが立たない福島原発事故も、復興に深刻な影を落としてきた。首都圏へのエネルギー供給の役割を東北に担わせ、原発を推進してきた国の責任は重い。政府の新たな復興基本方針案は、津波被災地の復興は今後5年間での事業完了を目指し、福島原発事故の被災地再生に国の支援を重点化する方向性だ。だが、復興予算の使途や効果を十分に検証せず、復興支援からフェードアウトしていくことは許されない。復興財源は、国民全てで支えている。所得税の2.1%分上乗せは2037年まで続く。予算が本当に被災地の再建につながっているかを注視することは、納税者の責務であると同時に、東北の復興に関わり続けることになる。東北地方はアジアの中で自然景観や文化、食料供給など、比較優位を有する。そのポテンシャルを引き出し、交流人口の拡大につなげることが真の復興の道筋になる。岩手県の県紙、岩手日報社の東根(あずまね)千万億(ちまお)社長は、節目の日を地元ではなく、沖縄で迎えた。沖縄県民をはじめ復興を支える国民に向けて「県外に出向き、岩手の復興がここまで来たことを報告する行動を起こした」と語り、震災復興の今を伝える特別号外を那覇市内で配布した。震災被災地との心の距離を縮め、交流を広げたい。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14830432.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年3月12日) 福島の事故から10年 いま再び脱原発の決意を
 「原発に頼らない社会を早く実現しなければならない」。朝日新聞は東京電力・福島第一原発の事故を受けて、2011年7月、「原発ゼロ社会」をめざすべきだと提言した。その後も社説などで、原発から段階的に撤退する重要性を訴えてきた。主張の根底にあるのは、「再び事故を起こしたら、日本社会は立ち行かなくなる」という危機感である。最悪の場合、止めたくても止められない――。福島の事故では、原発の恐ろしさをまざまざと見せつけられた。生々しい記憶が10年の歳月とともに薄れつつあるいま、脱原発の決意を再確認したい。
■廃炉への険しい道
 原発が事故を起こせば、後始末がいかに困難をきわめるか。目の前の厳しい現実もまた、この10年の苦い教訓である。つい最近、廃炉作業中の2号機と3号機で、原子炉格納容器の真上にあるフタの部分が高濃度の放射性物質に汚染されていることがわかった。周辺の放射線量は、人間が1時間で死にいたるほど高い。炉心で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しについて、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「作戦の練り直しが必要になるだろう」と述べた。1~3号機には800~900トンの燃料デブリがあるとみられる。だが、炉内のどこに、どんな形で残っているのか、いまだに全容をつかめていない。新たに見つかった2、3号機の高濃度汚染で、取り出し作業はいっそう難しくなるだろう。以前の工程表は「20~25年後に取り出しを終える」としていたが、いまでは年限が消えてしまった。燃料デブリが残ったままでは、建屋や設備の解体と撤去が進まない。冷却用の注水にともなって高濃度の汚染水が生じ続け、それを浄化した処理水もたまっていく。国と東電の掲げる「30~40年で廃炉完了」は不可能ではないのか、との疑念が膨らむばかりだ。廃炉の終着点が見えないと地元の復興もままなるまい。原発の事故は地域社会を崩壊させ、再構築にはきわめて長い年月がかかる。この悲劇を繰り返すわけにはいかない。
■安全神話は許されぬ
 しかし、7年8カ月にわたった安倍政権をへて、流れは原発回帰へ逆行している。事故の翌年、討論型世論調査などの国民的な議論をへて、当時の民主党政権は「30年代の原発ゼロ」を打ち出した。だが同じ年の暮れに政権を奪還した自公は、さしたる政策論争もなく原発推進に針を戻してしまう。古い原発の廃炉などで20基ほど減ったものの、安倍政権の下で総発電量に占める原発の比率は事故前に近い水準が目標とされた。事故後に設けられた「原発の運転は40年」の原則をよそに、20年延長の特例も相次いで認められている。菅政権はこの路線を継承し、「引き続き最大限活用する」との方針を示している。「原発の依存度を可能な限り低減する」といいつつ、具体策を示さぬまま再稼働を進める。その姿勢は不誠実というほかない。政府は再稼働にあたり、原発の新規制基準は「世界で最も厳しい」と不安の解消に努めてきた。これが新たな安全神話を醸成していないか気がかりだ。電力会社の気の緩みも見すごせない。福島の事故の当事者である東電も、原発中枢部への不正入室を許し、重要施設の耐震性不足の報告を怠るなど、安全に対する姿勢に問題がある。にもかかわらず、産業界を中心に原発への期待は大きい。「原子力はエネルギー自立に欠かせない」「原発の運転期間を80年に延ばすべきだ」。エネルギー基本計画の改定を議論する経済産業省の審議会では、原発推進論が相次いでいる。事故の痛みを忘れたかのようだ。破綻(はたん)した核燃料サイクルまでも「推進してほしい」という要望があることに驚く。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出しても、高速炉の開発が頓挫したため大量消費は望めない。そんななかで核燃料サイクルを進めたら、原爆の材料にもなりうるプルトニウムの保有量が思うように減らず国際的に批判されよう。安全神話の上で国と業界がもたれあう。事故前と変わらぬ構図を解消すべきだ。
■再エネの拡大こそ
 原子力ばかりに力を注いでいては、再生可能エネルギーや水素を柱とした脱炭素時代の技術革新に乗り遅れてしまう。地球温暖化を防ぐには、安全で低コストの再エネを広げるのが筋だ。原発利用は再エネが拡大するまでの一時的なものにとどめ、できるだけ早く脱原発のシナリオを固める必要がある。40年たった原発を引退させ、新増設や建て替えをしない。そう決めれば、おのずと原発ゼロへの道筋は見えてこよう。原子力からの撤退へ向け、着実な一歩を踏み出して初めて、福島第一原発事故の教訓が実を結ぶことになる。

*4-3:https://kahoku.news/articles/20210311khn000047.html (河北新報社説 2021年3月12日) 東日本大震災10年-宮城/農業の可能性を探る好機だ
 東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた仙台市東部に、豊かな耕土と生産者の力強い営みがよみがえりつつある。災害復旧と区画整理を一体的に進める前例のない国直轄事業により、農地の再生と担い手への集約が破格の規模とスピードで実現した。一連の事業の総仕上げとなる区画整理が完了し、地区の生産基盤は震災前に比べてもより強固になったと言える。大都市として成熟していく仙台圏にふさわしい、多様な農業の可能性を探るチャンスととらえたい。仙台市東部を襲った津波は海岸線から約4キロまで達し、約1800ヘクタールの農地に土砂やがれきが流入した。藩制時代からの美田地帯は、施設の損壊と地盤沈下で排水能力を失い、まるで海水の沼のような無残な姿になった。農地の災害復旧を巡っては当時、除塩の実施や国庫負担率のかさ上げに関する制度がなかった。農林水産省は(1)農地・農業施設の復旧(2)除塩の実施(3)復旧後の区画整理-を継ぎ目なく行うため、土地改良法の特例法案を国会に提出。発災から2カ月足らずで成立した。全ての事業を通じて、約9割を国庫負担とする異例の枠組みだった。特に農地復旧に合わせて順次進められた区画整理は、通常であれば生産者に生じる受益者負担をゼロとし、ためらうことなく、農地の大区画化に応じられる環境を整えた。事業対象は被災を免れた農地を含む約1900ヘクタール。地域営農の方針に沿って高砂、七郷、六郷の三つの換地区に分け、1区画10~30アール規模だった農地を50アール~1ヘクタールに拡大していった。大型機械の導入で作業が効率化される一方、受委託を含む農地集約も進み、コメや野菜を組み合わせた複合経営に取り組む農業法人が相次いで発足。ユニークな戦略で仙台の農業に新たな活力を吹き込む担い手も現れてきた。「仙台井土ねぎ」のブランド化に成果を上げる「井土生産組合」(若林区)や、野菜の生産・販売を通じて食農教育や農福連携など多彩なコミュニティーづくりに挑む「平松農園」(同)などが典型例と言えるだろう。法人への就職が若者の新規就農の窓口として機能し始めたこともあり、担い手の多様化は今後さらに進みそうだ。ただ生産現場では、なかなか回復しない地力や耕作を妨げるがれき片との苦闘が今も続いている。引き続き国や自治体の支援は不可欠だ。コメ需要が減少する中、非主食用米への転換に向けた貯蔵施設の整備や園芸・果樹の振興など関係機関が連携し、知恵を出し合うべき課題も多い。一連の事業には約865億円もの国費が投じられた。私たちは、仙台平野に本来の生産力を取り戻し、多様な価値を産み出す営農モデルを確立する責任を負っていることも自覚しなくてはなるまい。

*4-4:https://mainichi.jp/premier/health/articles/20210310/med/00m/100/010000c?cx_fm=mailhealth&cx_ml=article&cx_mdate=20210313 (毎日新聞 2021年3月11日) 記憶と伝承~東日本大震災から10年  野澤和弘・植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員
 時間とはただ流れ去っていくのではなく、ある場所においては積み重なっていくものだ。1万6000人近い死者、約2500人の行方不明者を出した東日本大震災から10年。目まぐるしく世界は動き、震災の記憶は時とともに風化していく。しかし、いつまでも癒えない傷を抱えて生きている人たちがいる。福島第1原発周辺の7市町村にまたがるエリアは現在も放射線量が高く、住民が住めない帰還困難区域となっている。福島県内外に避難している人は現在も約3万6000人に上る。今の私たちの日常の幸福は、あの日からの連続の上にある。原発の街は傷痕をさらけ出したまま、2021年の日本の風景の中に存在している。
●「黒い湖」の正体
 風に舞う枯れ葉が秋の光にキラキラと輝いていた。福島市から飯舘村を通り山間の県道を南相馬へ。さらに福島第1原子力発電所のある双葉町・大熊町へと向かう。20年11月、南相馬市に住む知人に案内されて被災地を訪ねた。枯れ田に黒い塊が広がっている。晩秋の日を浴びて、黒光りする塊の表面が躍っている。湖面にきらめく波のようだ。県道の右や左の風景に現れるのは、黒いフレコンバッグの山だった。おびただしい数の袋が整然と並べられている。福島第1原発の事故で飛散した放射性物質に汚染された土壌が黒い塊の正体である。放射性セシウムは原発周辺地域の森林や草地、農地を広く汚染した。木々や草に付着した放射性物質は時間とともに次第に下方へ落ちていき、土壌の表層に集積するものもある。土壌では粘土質などが放射性セシウムを吸着するので、雨や雪が降っても、容易には流れないとされる。全国各地から集められた作業員が、放射性物質を含んだ表土を薄くはぎ取る作業を行ってきた。それが「除染」だ。人体に害を及ぼす放射能を含んだ土を取り除き、フレコンバッグに詰めて、住居や農作業をする場所から人里離れた仮置き場に隔離する。薄くはぎ取るといっても、放射性物質が降りそそいだのは広大な地域に及ぶため、はぎ取って集められた土の量は想像をはるかに超える。汚染土を詰めるフレコンバッグはどれだけあっても足りなくなる。当初はあまり人目に付かない場所が仮置き場として指定されたが、すぐにあふれるようになり、県道沿いの目立つ場所にもフレコンバッグの「黒い湖」が次々と現れるようになった。除染を実施する地域は、汚染の程度などによって「除染特別地域」「汚染状況重点調査地域」に指定されている。環境省は、フレコンバッグなどの保管物については17年3月ごろをピークに、仮置き場数については16年12月ごろをピークに、それぞれ減少しているとしている。しかし、避難期間が長びくにつれて、農業を続けることをあきらめる人が増えてきたこともフレコンバッグが人目に付く場所の農地に進出してきた背景にあると思う。先祖から受け継いできた農地ではあるが、農業ができない以上、汚染土の仮置き場として提供することで安定収入を得る方を選ぶ人もいる。農家の人々の無念さや先の見えないことによるあきらめが想起される。仮置き場のフレコンバッグは当初、福島第1原発が立地する双葉町や大熊町の中間貯蔵施設へと搬出されることになっていたが、地権者との用地交渉が難航して搬出は進んでいないものもあるという。雨風に長期間さらされているとバッグが傷み、汚染水が外部へ漏れることも懸念されている。実際、環境省の調査では福島県内の市町村が管理する仮置き場の半数以上でフレコンバッグやバッグを覆う防水シートの破損が見つかった。耐性の劣るバッグの方が安いために業者に選ばれているとの指摘もある。除染作業だけでも3兆円以上が投じられている。元請け・下請け・孫請けを通じて法外な費用が吸い取られていく「除染ビジネス」には灰色のうわさが絶えない。財務省と復興庁は7省庁が管轄する全国向けの23事業に配分された総額1兆1570億円の基金が被災地と関係の薄い使途にも充てられているとして返還を請求しているが、除染のような復興に直接関係している作業にも一般国民にはわかりにくいさまざまな利権が存在することをうかがわせる。人の気配が消えた農村の風景に広がっていく黒い塊は、故郷を追われた人々の不安や絶望をのみ込んで膨れ上がる「復興」という巨大事業の実像を暗示しているようだ。
●何を伝承しようとしているか
 東京電力福島第1原発から北へ3キロほど離れたところに「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)は建てられた。20年9月に開館したばかりで、真新しい建物の駐車場に大型観光バスが数台止まっていた。この伝承館は福島県が建設し、指定管理者の公益財団法人「福島イノベーション・コースト構想推進機構」が運営している。総工費は約53億円、全額が国の交付金で賄われた。地上3階建て、延べ床面積約5300平方メートル。震災や原発事故関連の資料約24万点を所蔵し、うち約170点が展示されている。「原子力発電所事故後の避難、避難生活の変遷、国内外からの注目など、原子力発電所事故発生直後の状況やその特殊性を、証言などをもとに振り返ります」とホームページにはうたわれている。ガラス張りの外壁の建物に入ると、1階の左手にドーム形をした天井の高いスペースがある。展示の導入部として、震災前の地域の生活、地震と津波、原発事故の発生から住民避難、復興や廃炉に向けた取り組みに関する映像が、床面を含めた7面のスクリーンに映し出される。日曜日のわりには見学客の姿はまばらだ。最新の技術が詰め込まれている設備の印象ばかりが浮き上がって感じられる。展示スペースには、子どもたちのランドセル、学級新聞、消防服などが写真とともに並べられている。「震災前の平穏な日常が原発事故を機にどのように変わってしまったのか、さまざまな県民の思いを、証言や思い出の品などの展示を組み合わせて発信している」という。原発事故の悲惨さや放射能の恐ろしさについても解説するコーナーはあるが、進路を行くに従って「困難を乗り越えて復興に挑戦する福島県」にスポットを当てた展示物や説明が目立つようになる。廃炉作業の進捗(しんちょく)状況や福島イノベーション・コースト構想については特に力を入れてPRしていることが伝わってくる。伝承館を運営する公益財団法人の名前にもなっている「福島イノベーション・コースト構想」とは、東日本大震災や原発事故で失われた浜通り地域などの産業を回復する巨大事業だ。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産などの分野におけるプロジェクトの具体化を進め、産業集積や人材育成、交流人口の拡大などに取り組むという。原発事故で大きな打撃を受けた福島県のイメージを一新しようという思惑が痛いほど伝わってくる。同館には30人近い語り部がいる。自らの被災体験を見学者に語る役割を担っている。被災した地域に出向くフィールドワークと並ぶ、伝承館ならではの取り組みと言える。ただ、案内をしてくれた地元の住人は顔を曇らせる。「国や県に批判的なことを言わないように監視されている。それで本当の被災体験を伝承することになるのか」というのである。語り部が話す内容を「監視」するとは穏やかなことではない。行政に対する不信感の根強さが地元で暮らす人々にそう思わせるのだろうか。しかし、「県が語り部に、国や東電など特定の団体への批判や中傷をしないよう求め、話す内容も事前にチェックして修正してもらっている」という報道(20年11月4日、東京新聞)もある。福島から県外へ避難している住民たちが国や東電を相手に損害賠償を求める訴訟が各地で起きており、訴訟への影響を考慮してのことかもしれない。全額を国の交付金で建てられた施設であり、運営する側が細かいところまで神経を使うのもわからなくはない。しかし、未曽有の原発事故による被害の甚大さを伝承するのに、大事なものを忘れてはいないか。大震災と津波は避けられなかったかもしれない。不幸な運命にめぐり合わせたが、「困難を乗り越えて挑戦する」。そういう福島県の人々や行政の姿を伝承しようというのだろうか。それも必要かもしれないが、その前に伝えなければならないものがある。「教訓が分からなかった」「何を伝えたいのかよく分からない」。ロビーのノートには来館者の厳しい意見が書き込まれている。2月末までに約3万7000人が訪れたというが、福島の事情を知る人々からは批判的な意見が聞かれる。国会事故調査委員会などが「人災」と結論づけた原発事故についての国や県、東電の責任に関する説明がほぼないからだ。放射性物質の拡散方向を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」について、データが政府から届きながら県が削除して市町村に伝えず、放射線量の高い方向へ住民を避難誘導した自治体があることにも触れていない。「SPEEDIの取り扱いを明確に定めたものはなく、情報を共有できませんでした」との記述があるだけだった。同館を建設した県が自らの責任を覆い隠すような姿勢に批判はやまず、震災から10年を前にした今月初め、県は約30カ所で資料の追加や展示パネルの差し替えをすると発表した。SPEEDIの不手際についても国会事故調査委員会の報告を基に認めることになった。
●国と東京電力の責任
 昨年11月に伝承館を訪れた当時、私が展示のコンセプトに何か引っかかりを感じたのは、その1カ月前、仙台高等裁判所で福島第1原発事故での国の損害賠償を認める判決が出たからかもしれない。 全国で起こされている約30の集団訴訟のうち、国に損害賠償を命じた全国初の2審判決だった。福島地裁での1審判決に続いて国と東京電力の主張を退け、賠償額は総額約10億1000万円と、第1審の約5億円から倍増したことが特筆される。この訴訟で東京電力が問われたのは、原発の全電源喪失を引き起こして原子炉の冷却を不能にする津波の予見可能性および重大事故を回避できたかどうかだ。判決では、国の地震調査研究推進本部が02年7月に策定した日本海溝沿いの地震の可能性に関する「長期評価」に基づき、遅くとも同年末ごろまでには福島第1原発の原子炉の敷地の高さを超える津波が到来する可能性について東電が認識できたはずだと判断した。必要な対策を講じていれば、浸水による非常用ディーゼル発電機や配電盤など重要機器の機能喪失を防げた可能性が高いにもかかわらず、東電が対策を怠っていたことを重く見たのである。東電の安全対策義務違反の程度が決して軽微とは言えず、対策を怠ったことが「原告に対する慰謝料算定に当たって考慮すべき要素の一つとなる」として、原子力損害賠償法で定められた無過失責任原則に基づく中間指針や東電の自主賠償基準に基づく金額よりも損害賠償額を上積みし、1審判決の2倍の賠償額の支払いを命じたのだ。国に対しては、電気事業法などの法令に基づき必要な規制権限を行使せず、事故防止の努力を怠った点を「違法」だと認定した。「保安院(旧原子力安全・保安院)の対応は……東電による不誠実ともいえる報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかったものと言わざるをえない」。1審は国の責任について東電の2分の1と判断したが、仙台高裁は国に東電と等しい賠償義務を認定した。「一般に営利企業たる原子力事業者においては、利益を重視するあまり、ややもすれば費用を要する安全対策を怠る方向に向かいがちな傾向が生じることは否定できないから、規制当局としては原子力事業者にそうした傾向が生じていないかを不断に注視しつつ、安全寄りの指導、規制をしていくことが期待されていたというべきであって、上記対応は規制当局の姿勢として不十分なものであったとの批判を免れない」。仙台高裁の訴訟の原告は約3650人にのぼる。最大規模の訴訟でもあり、ほかの訴訟へ与える影響も大きいとされた。事実、21年2月に千葉県に避難した住民らによる訴訟の東京高裁判決は「対策を取れば事故に至らなかった。国の規制権限不行使は違法」として、国に東電と同等の責任があると認定した。東電に計約2億7800万円の賠償を命じ、控訴審での請求額に応じ、このうち約1億3500万円は国も連帯して支払うべきだとした。1審の千葉地裁は国の責任を認めておらず、原告の逆転勝訴となった。国が被告となった避難者訴訟の高裁判決は3件目。国の責任を認める判断は、仙台高裁に続き2件目となった。
●揺らぎ、消えていく記憶
 大震災と津波は避けられなかったが、福島第1原発の爆発事故は安全対策を怠った東電の怠慢と、それをチェックしなかった国の背信行為によってもたらされた。多くの命が失われ、人々が故郷をなくした東電と国の責任は重大だ――。仙台高裁の判決はそう言っているのである。「東日本大震災・原子力災害伝承館」は、被害の実態と回復の過程について伝承はしているが、それが何で起きたのかということは抜け落ちていると思う。原発事故の原因に関する展示や説明を避けているというだけでなく、「語り部の口をふさぐ」という指摘においては覆い隠していることになる。仙台高裁やそれに続く東京高裁の判決の文脈に従えば、国や東電は原発事故を防ぐことができなかった(引き起こした)加害者であり、原発事故によって被災した語り部は被害者にほかならない。全額を国の交付金で建設された伝承館という「装置」には、理不尽な構造が潜んでいるように感じられてならない。人は誰しも過去からの連続した記憶によって自らのアイデンティティー(存在証明)を保っている。揺らいだり、薄れたり、変容したりする、蜃気楼(しんきろう)のような不確かさをかろうじて形にして残すのが言葉や文字である。原発事故で原告団に加わった被災者は年を経るにつれて亡くなっていく。語り部たちも減っていき、いずれは誰もいなくなる。原発事故の地獄を体験した生々しい記憶は語り伝えておかなければ、歴史のかなたへと消えていく。今のうちに被災した人々の記憶をありのまま残していかなければならないと思う。
●場所と記憶
 晩秋の日が静かにあるじのいない家屋に注いでいる。誰かに見られるということもなく10年もの歳月をただ太陽に焼かれて過ごしてきたのだ。戸を閉め、シャッターを下ろす余裕もなかったのだろう。洋品店はガラス戸が開いたまま、商品が店内にぎっしりと陳列されている。消防署分署の事務所は戸が開け放たれ、中には机やいすが雑然と置かれたままになっていた。ソファの表面を白いちりが覆っている。オープンしたばかりの伝承館の周辺を歩くと、10年前の震災の日のままの姿で家屋や店舗が残っていた。薬局もガソリンスタンドも、そこに人がいないというだけで、何かの拍子に止まっていた時が動き出しそうな気がしてくる。どんな傷も時間が立てば血が乾き、色が変わり、かさぶたとなるものだが、むき出しのまま変わることのない傷が目の前にある。印画紙に焼き付けた写真ならセピア色にもなろう。しかし、かつての平穏な日常は腐食して骨になることも、朽ち果てることも許されず、無残なままさらけ出されている。住みなれた家の戸を閉める余裕すらなく逃げていかざるを得なかった人々の慟哭(どうこく)が聞こえてきそうだ。個々の被災者の救済について仙台高裁の判決が大きく踏み込んだのは、この街の風景と関係している。同高裁判決は「帰還困難区域」や「旧居住制限区域」、「旧避難指示解除準備区域」など原発から近い旧避難指示区域に住居があった原告への損害賠償額について、国の中間指針や東電の自主賠償基準を超える損害額を認めた。裁判の過程で、裁判長が「現地進行協議」と称して帰還困難区域や旧居住制限区域の現状を視察したことが大きく影響したといわれる。荒廃した家屋や元に戻らない生活の実態を裁判長が自らの目で確認したことが賠償額の上積みにつながったというのである。避難指示が出なかった地域に住んでいた子どもや妊婦の原告について新たに損害を認定したのも、今回の高裁判決の特徴とされる。「過去は流れ去ってしまうのではなく、現在のうちに積み重なり保持されている」。哲学や社会学の領域では19世紀のころからそのような時間と記憶をめぐる考え方がある。E・フッサールやM・アルバックスらが提唱している。過去は空間のうちに痕跡として刻まれ、その痕跡を通して集合的に保持される。時間が場所と結びつき、記憶が空間と結びつく。「そこに近代的な時間と空間の理解とは異なる<記憶と場所>という時間と空間のあり方が見いだされる」。福島県出身の社会学者、浜日出夫・慶応大名誉教授は論文でそう述べている。風の音すら聞こえない街に立ち尽くしていると、どこからともなく恐怖が忍び寄ってくるのを感じた。「復興に挑戦する」という掛け声のかなたに忘れ去ってきた街に対するやましさなのか、被災者の記憶を封じ込めてきた後ろめたさなのか。そうしたことに気づかず安穏とこの10年を生きてきた自分自身の無為からくるおびえなのかもしれないと思った。置き去りにされた街の「場の記憶」が、ここを訪れた裁判長の心証に大きな影響を与えたに違いない。
●「そこにある事実」を見よう
 政府は13年までに原発事故に伴う避難指示区域(福島県の11市町村の計1150平方キロ)を被ばく線量に応じて再編し、「避難指示解除準備区域」「居住制限区域」「帰還困難区域」の三つに分けた。比較的線量が低い「避難指示解除準備区域」や「居住制限区域」を対象に優先的な除染作業が進められ、これまでに避難指示を解除してきた。現在残っているのは「帰還困難区域」だが、面積は337平方キロと広い。17年に成立した改正福島復興再生特別措置法では、帰還困難区域の8%にあたるエリアを復興拠点とし、除染やインフラ整備に乗り出すことになった。だが、復興拠点以外は避難指示解除の時期が見通せず、帰還困難区域の避難者は今も2万人を超える。毎日新聞と社会調査研究センターが今月実施した全国世論調査では、被災地の復興状況について、「復興は順調に進んでいる」と答えた人は20%にとどまり、国民の被災地に対する関心について「薄れた」と感じる人は79%に上った。県別では福島が84%で、宮城や岩手に比べても高かった。どんな出来事も時間とともに生々しい記憶は薄れ、忘れ去られることは避けられない。しかし、先人たちが後世に残そうとしてきたものがあり、今私たちはそれを「歴史」として知ることができている。自らの存在に永続性を求める本能かもしれないし、教訓を語り継ぐ使命感のようなものが人間には備わっているのかもしれない。いずれにせよ、伝承はどんなものであれ、伝えようとする側の意図や感情が込められる。文章でも口伝えでも映像でも。展示物でさえ、どこにどのように展示するかで、伝える側の価値観が反映される。そうした思惑や意味づけから免れているのは、「そこにある事実」だけだ。あらゆる思想性や価値観に染められるのを拒み、福島第1原発の周辺の街は時のなかにたたずんでいる。そこに足を踏み入れた人の想像力と感受性に、自らの存在する意味を投げ出しているように思えてくる。
●そこにある事実を見よう。
 巨額の復興費用を投じて建設された伝承館が何を伝えようとしているのか、置き去りにされてきた街が無言のうちに何を物語ろうとしているのかを考えよう。時間とはただ流れ去っていくだけではない。場に積み重なっていくものでもある。場の記憶」が何か質感を持ったエネルギーとなって、その場を訪れた人の感性に働きかけてくるものがあるはずだ。

*4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210314&ng=DGKKZO69965090T10C21A3EA1000 (日経新聞 2021.3.14) 大地震想定海域を探査 東北大など無人船、地殻変動を観測 予兆つかみ備え厚く
 巨大地震を捉える調査や観測が本格化する。東北北部・北海道沖の海底は、東日本大震災で地震が起こらず、ひずみがたまって巨大地震が発生しやすいといわれる。東北大学などは無人船で予兆を探る観測調査を4月に始める。防災科学技術研究所も、被害が甚大になると懸念される南海トラフ巨大地震の発生を瞬時につかむ海底観測網の整備に着手した。日本周辺でリスクが高まる大地震への備えを加速する。内閣府の有識者会議は20年に、複数の巨大地震の発生が、日本海溝と千島海溝がある東北北部・北海道沖で「切迫している」とする想定を発表した。過去の記録などから、同地域で将来発生する地震の規模として、日本海溝の北海道沖でマグニチュード(M)9.1、千島海溝の十勝・根室沖でM9.3と想定している。いずれも東日本大震災級の大きさで、30メートル級の津波がくる地域もあると予想されている。宮城県沖が震源だった東日本大震災では、岩手県沖より北の日本海溝で断層がずれなかったため「割れ残り」と呼ぶ状態でひずみが蓄積し、巨大地震が発生しやすいとされる。地震発生前の一定期間には、海底の地殻が平時とは違う動きをすると考えられているが、具体的なデータがほとんど取れていなかった。東北大の日野亮太教授らは、無人で海底の様子を探るシステムを開発した。米ボーイング子会社の無人探査船「ウエーブグライダー」に小型装置を搭載。海底のセンサーに向けて音波を出して、海底プレートの位置の変動を把握する。地震はプレートが大きくずれて引き起こされることが多く、長期観測で地震の前触れとなる「異常」な動きを探る。初回は、4月2日に北海道根室市沖で探査船を放流して千島海溝を観測した後、南下して岩手県沖などの日本海溝を観測する。5月半ばに宮城県沖で回収する。2回目は10月にも実施し、以降継続する計画だ。無人観測船は、太陽電池で機器のエネルギーをまかなうことから、観測コストを10分の1以下に抑えられる。数カ月間連続で観測もできる。日野教授は「平時のデータを集め、異常の兆候をすぐに観測できるようにしたい」と話す。一方、防災科研は、南海トラフ巨大地震の発生を瞬時に捉えるため、海底域の観測網を拡充する。想定される震源域の西側がこれまでは観測できていない空白域であることから「南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)」の工事に着手した。高知県沖から日向灘にかけて地震計や津波計を組み込んだ総延長1600キロメートルの光海底ケーブルで結んだ観測システムを敷設する。23年度に完成させ運用する予定だ。N-netの構築によって震源により近い海底で揺れを捉えられるため、地震は最大で20秒、津波は20分、それぞれ従来よりも早く検知できることを見込む。即時に気象庁に伝送し、緊急地震速報や津波警報に活用する計画だ。防災科研の青井真・地震津波火山ネットワークセンター長は「巨大地震が起きた時に迅速に適切な防災情報を出せる社会を目指す」と話す。

<観光の高度化:観光ルートへの歴史の織り込み>
*5-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/634077 (佐賀新聞 2021/2/17) <運行情報>JR筑肥線の一部区間で運転を見合わせ
 JR九州によると、断続的な強風で、17日午前8時ごろ、JR筑肥線の加布里―筑前深江間で風規制を行っている影響で、筑前前原―筑前深江間の上下線で運転を見合わせている。また、筑前深江―西唐津間では遅れが発生している。

*5-2:http://www.eonet.ne.jp/~temb/16/gishi_wajin/wajin.htm 魏志倭人伝(原文、書き下し文、現代語訳)、解説は「魏志倭人伝から見える日本」へ、(百衲本。国名や官名は漢音で読む) より編集
①倭人在帶方東南大海之中 依山㠀為國邑 舊百餘國 漢時有朝見者 今使譯所通三十國  「倭人は帯方東南、大海の中に在り。山島に依り国邑を為す。旧百余国。漢の時、朝見する者有り。今、使訳通ずる所は三十国。」
 倭人は帯方郡の東南、大海の中に在る。山島に依って国邑を作っている。昔は百余国あり、漢の時、朝見する者がいた。今、交流の可能な国は三十国である。
②從郡至倭 循海岸水行 歴韓国 乍南乍東 到其北岸狗邪韓國 七千餘里  「郡より倭に至るには、海岸に循いて水行し、韓国を歴て、たちまち南し、たちまち東し、その北岸、狗邪韓国に到る。七千余里。」
(帯方)郡から倭に至るには、海岸に沿って水行し、韓国を通り過ぎ、南へ行ったかと思うと、いきなり東へ行ったりしを繰り返しながら、その(=倭の)北岸の狗邪韓国に到着する。七千余里。
③始度一海 千餘里 至對海國 其大官日卑狗 副日卑奴母離 所居絶㠀 方可四百餘里 土地山險多深林 道路如禽鹿徑 有千餘戸 無良田食海物自活 乗船南北市糴  「始めて一海を度る。千余里。対海国に至る。その大官は卑狗と曰い、副は卑奴母離と曰う。居する所は絶島、方四百余里ばかり。土地は山険しく深林多し。道路は禽鹿の径の如し。千余戸有り。良田無く、海物を食し自活す。船に乗り、南北に市糴す。」
 始めて一海を渡り、千余里で対海国に至る。その大官はヒコウといい、副官はヒドボリという。居する所は絶海の孤島で、およそ四百余里四方。土地は、山が険しくて深い林が多く、道路は鳥や鹿の道のようである。千余戸の家がある。良田はなく海産物を食べて自活している。船に乗って南や北(九州や韓国)へ行き、商いして米を買い入れている。
④又南渡一海 千餘里 名日瀚海 至一大國 官亦日卑狗 副日卑奴母離 方可三百里 多竹木叢林 有三千許家 差有田地 耕田猶不足食 亦南北市糴  「又、南、一海を渡る。千余里。名は瀚海と曰う。一大国に至る。官は亦た卑狗と曰い、副は卑奴母離と曰う。方三百里ばかり。竹木叢林多し。三千ばかりの家有り。やや田地有り。田を耕すも、なお食するに足らず。亦、南北に市糴す。」
 また(さらに)、南に一海を渡る。千余里。名はカン海という。一大国に至る。官は、また(対海国と同じく)、ヒコウといい、副はヒドボリという。およそ三百里四方。竹、木、草むら、林が多い。三千ばかりの家がある。いくらかの田地がある。田を耕しても、やはり、住民を養うには足りないので、また(対海国と同じく)、南北に行き、商いして米を買い入れている。
⑤又渡一海 千餘里 至末盧國 有四千餘戸 濱山海居 草木茂盛行不見前人 好捕魚鰒 水無深淺皆沉没取之  「又、一海を渡る。千余里。末盧国に至る。四千余戸有り。山海に浜して居す。草木茂盛し、行くに前人を見ず。魚鰒を捕るを好み、水、深浅無く、皆、沈没してこれを取る。」
 また、一海を渡る。千余里。末盧国に至る。四千余戸があり、山と海すれすれに沿って住んでいる。草木が盛んに茂り、行く時、前の人が(草木に隠されて)見えない。魚やアワビを捕ることが好きで、水の深浅にかかわらず、みな、水に潜ってこれを取っている。
⑥東南陸行 五百里 到伊都國 官日爾支 副日泄謨觚柄渠觚 有千餘戸 丗有王 皆統屬女王國 郡使往來常所駐  「東南陸行。五百里。伊都国に到る。官は爾支といい、副は泄謨觚、柄渠觚という。千余戸有り。世、王有り。皆、女王国に統属す。郡使往来し常に駐する所。」
 (末盧国から)東南に陸上を五百里行くと伊都国に到着する。官はジシといい、副はエイボコ、ヘイキョコという。千余戸が有る。代々、王が有り、みな女王国に従属している。(帯方)郡の使者が往来し、常に足を止める所である。
⑦東南至奴国 百里 官日兕馬觚 副日卑奴母離 有二萬餘戸  「東南、奴国に至る。百里。官は兕馬觚と曰い、副は卑奴母離と曰う。二万余戸有り。」
 (伊都国から)東南、奴国に至る。百里。官はシバコといい、副はヒドボリという。二万余戸が有る。
⑧東行至不彌國 百里 官日多模 副日卑奴母離 有千餘家  「東行、不弥国に至る。百里。官は多摸と曰い、副は卑奴母離と曰う。千余家有り。」
 (奴国から)東に行き不弥国に至る。百里。官はタボといい、副官はヒドボリという。千余りの家がある。
⑨南至投馬國 水行二十日 官日彌彌 副日彌彌那利 可五萬餘戸  「南、投馬国に至る。水行二十日。官は弥弥と曰い、副は弥弥那利と曰う。五万余戸ばかり。」
 (不弥国から)南、投馬国に至る。水行二十日。官はビビといい、副はビビダリという。およそ五万余戸。
⑩南至邪馬壹國 女王之所都 水行十日陸行一月 官有伊支馬 次日彌馬升 次日彌馬獲支 次日奴佳鞮 可七萬餘戸  「南、邪馬壱国に至る。女王の都とする所。水行十日、陸行一月。官は伊支馬有り。次は弥馬升と曰う。次は弥馬獲支と曰う。次は奴佳鞮と曰う。七万余戸ばかり。」
 (投馬国から)南、邪馬壱(ヤバヰ)国に至る。女王の都である。水行十日、陸行ひと月。官にイシバがある。次はビバショウといい、次はビバクワシといい、次はドカテイという。およそ七万余戸。
⑪自女王國以北 其戸數道里可得略載 其餘旁國遠絶 不可得詳 次有斯馬國 次有巳百支國 次有伊邪國 次有都支國 次有彌奴國 次有好古都國 次有不呼國 次有姐奴國 次有對蘇國 次有蘇奴國 次有呼邑國 次有華奴蘇奴國 次有鬼國 次有為吾國 次有鬼奴國 次有邪馬國 次有躬臣國 次有巴利國 次有支惟國 次有烏奴國 次有奴國 此女王境界所盡  「女王国より以北、その戸数、道里は略載を得べきも、その余の旁国は遠くして絶へ、詳を得べからず。次に斯馬国有り。次に巳百支国有り。次に伊邪国有り。次都支国有り。次に弥奴国有り。次に好古都国有り。次に不呼国有り。次に姐奴国有り。次に対蘇国有り。次に蘇奴国有り。次に呼邑国有り。次に華奴蘇奴国有り。次に鬼国有り。次に為吾国有り。次に鬼奴国有り。次に邪馬国有り。次に躬臣国有り。次に巴利国有り。次に支惟国有り。次に烏奴国有り。次に奴國有り。ここは女王の境界尽きる所。」
 (ここまでに紹介した)女王国より以北は、その戸数や距離のだいたいのところを記載出来るが、その他のかたわらの国は遠くて情報もなく、詳しく知ることは出来ない。次にシバ国が有る。次にシハクシ国がある。次にイヤ国がある。次にトシ国がある。次にミド国がある。次にカウコト国がある。次にフウコ国がある。次にシャド国がある。次にタイソ国がある。次にソド国がある。次にコイフ国がある。次にカドソド国がある。次にキ国がある。次にヰゴ国がある。次にキド国がある。次にヤバ国がある。次にキュウシン国がある。次にハリ国がある。次にシユイ国がある。次にヲド国がある。次にド国がある。ここは女王の境界の尽きる所である。
⑫其南有狗奴國 男子為王 其官有狗古智卑狗 不屬女王 自郡至女王國 萬二千餘里  「その南、狗奴国有り。男子が王と為る。その官は狗古智卑狗有り。女王に属さず。郡より女王国に至る。万二千余里。」
 その(女王国の)南に狗奴(コウド、コウドゥ)国があり、男子が王になっている。その官に狗古智卑狗(コウコチヒコウ)がある。女王には属していない。郡より女王国に至るまで、万二千余里。
男子無大小 皆黥面文身 自古以來 其使詣中國 皆自稱大夫 夏后少康之子封於會稽 斷髪文身 以避蛟龍之害 今 倭水人好沉没捕魚蛤 文身亦以厭大魚水禽 後稍以為飾 諸國文身各異 或左或右 或大或小 尊卑有差 計其道里 當在會稽東治之東(東治は東冶の転写間違いと考える)  「男子は大小無く、皆、黥面文身す。古より以来、その使中国に詣(いた)るや、皆、自ら大夫と称す。夏后少康の子は会稽に封ぜられ、断髪文身して、以って蛟龍の害を避く。今、倭の水人は沈没して魚、蛤を捕るを好み、文身は、亦、以って大魚、水禽を厭(はら)う。後、稍(しだい)に以って飾と為る。諸国の文身は各(それぞれ)に異なり、或いは左し、或いは右し、或いは大に、或いは小に。尊卑差有り。その道里を計るに、まさに会稽、東冶の東に在るべし。」
 男子はおとな、子供の区別無く、みな顔と体に入れ墨している。いにしえより以来、その使者が中国に来たときには、みな自ら大夫と称した。夏后(王朝)の少康(五代目の王)の子は、会稽に領地を与えられると、髪を切り、体に入れ墨して蛟龍の害を避けた。今、倭の水人は、沈没して魚や蛤を捕ることを好み、入れ墨はまた(少康の子と同様に)大魚や水鳥を追い払うためであったが、後にはしだいに飾りとなった。諸国の入れ墨はそれぞれ異なって、左にあったり、右にあったり、大きかったり、小さかったり、身分の尊卑によっても違いがある。その(女王国までの)道のりを計算すると、まさに(中国の)会稽から東冶にかけての東にある。
⑬其風俗不淫 男子皆露紒 以木緜招頭 其衣横幅 但結束相連略無縫 婦人被髪屈紒 作衣如單被 穿其中央貫頭衣之  「その風俗は淫ならず。男子は、皆、露紒し、木綿を以って頭を招(しば)る。その衣は横幅、ただ結束して相連ね、ほぼ縫うこと無し。婦人は被髪屈紒す。衣を作ること単被の如し。その中央を穿ち、頭を貫きてこれを衣る。」
 その風俗はみだらではない。男子は皆、(何もかぶらず)結った髪を露出しており、木綿で頭を縛り付けている。その着物は横幅が有り、ただ結び付けてつなげているだけで、ほとんど縫っていない。婦人はおでこを髪で覆い(=おかっぱ風)、折り曲げて結っている。上敷きのような衣をつくり、その中央に穴をあけ、そこに頭を入れて着ている。
⑭種禾稻紵麻 蠶桑 緝績出細紵縑緜 其地無牛馬虎豹羊鵲 兵用矛盾木弓 木弓短下長上 竹箭或鐵鏃或骨鏃 所有無與儋耳朱崖同  「禾稲、紵麻を種(う)え、蚕桑す。緝績して細紵、縑、緜を出す。その地には牛、馬、虎、豹、羊、鵲無し。兵は矛、盾、木弓を用いる。木弓は下を短く、上を長くす。竹箭は或いは鉄鏃、或いは骨鏃。有無する所は儋耳、朱崖と同じ。」
 稲やカラムシを栽培し、養蚕する。紡いで目の細かいカラムシの布やカトリ絹、絹綿を生産している。その土地には牛、馬、虎、豹、羊、カササギがいない。兵器には矛、盾、木の弓を用いる。木の弓は下が短く上が長い。竹の矢は鉄のヤジリであったり、骨のヤジリであったり。持っている物、いない物は儋耳、朱崖(=中国・海南島)と同じである。
⑮倭地温暖 冬夏食生菜 皆徒跣 有屋室 父母兄弟卧息異處 以朱丹塗其身體 如中國用粉也 食飲用籩豆 手食  「倭地は温暖にして、冬夏生菜を食す。皆、徒跣。屋室有り。父母、兄弟は異所に臥息す。朱丹を以ってその身体に塗る。中国の紛を用いるが如し。食、飲には籩豆を用い、手食す。」
 倭地は温暖で、冬でも夏でも生野菜を食べている。みな裸足である。屋根、部屋がある。父母と兄弟(男子)は別の場所で寝たり休んだりする。赤い顔料をその体に塗るが、それは中国で粉おしろいを使うようなものである。食飲には、籩(ヘン、竹を編んだ高坏)や豆(木をくり抜いた高坏)を用い、手づかみで食べる。
⑯其死有棺無槨 封土作冢 始死停喪十餘日 當時不食肉 喪主哭泣 他人就歌舞飲酒 已葬 擧家詣水中澡浴 以如練沐  「その死には、棺有りて槨無し。土で封じ冢を作る。始め、死して喪にとどまること十余日。当時は肉を食さず、喪主は哭泣し、他人は歌舞、飲酒に就く。已に葬るや、家を挙げて水中に詣(いた)り澡浴す。以って練沐の如し。」
 人が死ぬと、棺に収めるが、(その外側の入れ物である)槨はない。土で封じて盛った墓を造る。始め、死ぬと死体を埋めないで殯(かりもがり)する期間は十余日。その間は肉を食べず、喪主は泣き叫び、他人は歌い踊って酒を飲む。埋葬が終わると一家そろって水の中に入り、洗ったり浴びたりする。それは(白い絹の喪服を着て沐浴する)中国の練沐のようなものである。
⑰其行來渡海詣中國 恒使一人不梳頭不去蟣蝨衣服垢汚不食肉不近婦人如喪人 名之為持衰 若行者吉善 共顧其生口財物 若有疾病遭暴害 便欲殺之 謂其持衰不謹  「その行来、渡海し中国に詣るに、恒に一人をして、頭を梳らず、蟣蝨を去らず、衣服は垢汚し、肉を食らわず、婦人を近づけず、喪人の如くせしむ。これを名づけて持衰と為す。若し、行く者に吉善ならば、共にその生口、財物を顧す。若し、疾病が有り、暴害に遭うならば、便(すなわ)ち、これを殺さんと欲す。その持衰が謹まずと謂う。」
 その行き来し海を渡って中国にいたる際は、常に一人に、頭をくしけずらせず、シラミを取らせず、衣服をアカで汚したままにさせ、肉を食べさせず、婦人を近づけさせないで喪中の人のようにさせる。これをジサイという。もし無事に行けたなら、皆でジサイに生口や財物を対価として与えるが、もし病気になったり、危険な目にあったりすると、これを殺そうとする。そのジサイが慎まなかったというのである。
⑱出真珠青玉 其山有丹 其木有枏杼橡樟楺櫪投橿烏號楓香 其竹篠簳桃支 有薑橘椒襄荷 不知以為滋味 有獮猴黒雉  「真珠、青玉を出す。その山には丹有り。その木には枏、杼、橡、樟、楺櫪、投橿、烏號、楓香有り。その竹は篠、簳、桃支。薑、橘、椒、襄荷有り。以って滋味と為すを知らず。獮猴、黒雉有り。」
 真珠や青玉を産出する。その山には丹がある。その木はタブノキ(枏=楠)、コナラ(杼)、クロモジ(橡)、クスノキ(樟)、?(楺櫪)、?(投橿)、ヤマグワ(烏號)、フウ(楓香)がある。その竹はササ(篠)、ヤダケ(簳)、真竹?(桃支)。ショウガや橘、山椒、茗荷などがあるが、(それを使って)うまみを出すことを知らない。アカゲ猿や黒雉がいる。
⑲其俗 擧事行來 有所云為 輒灼骨而卜 以占吉凶 先告所卜 其辭如令龜法 視火坼占兆  「その俗、挙事行来、云為する所有れば、すなわち骨を灼いて卜し、以って吉凶を占う。先に卜する所を告げる。その辞は令亀法の如し。火坼を視て兆しを占う。」  その風俗では、何かをする時や、何処かへ行き来する時、ひっかかりがあると、すぐに骨を焼いて卜し、吉凶を占う。先に卜する目的を告げるが、その言葉は中国の占いである令亀法に似ている。火によって出来た裂け目を見て、兆しを占うのである。
⑳其會同坐起 父子男女無別 人性嗜酒  「その会同、坐起では、父子、男女は別無し。人性は酒を嗜む。」
 その会合での立ち居振る舞いに、父子や男女の区別はない。人は酒を好む性質がある。
㉑(裴松之)注…魏略曰 其俗不知正歳四節 但計春耕秋収 為年紀  「魏略(*)いわく、その習俗では正月(陰暦)や四節を知らない。ただ春に耕し、秋に収穫したことを数えて年紀としている。」《*/「魏略」…魏の歴史を記した書、現存しない》
㉒見大人所敬 但搏手以當跪拝 其人寿考 或百年或八九十年  「大人を見て敬する所は、ただ搏手し、以って跪拝に当てる。その人は寿考、或いは百年、或いは八、九十年。」
 大人を見て敬意を表す場合は、ただ手をたたくのみで、跪いて拝む代わりとしている。人々は長寿で或いは百歳、或いは八、九十歳の者もいる。
㉓其俗国大人皆四五婦 下戸或二三婦 婦人不淫不妬忌 不盗竊少諍訟 其犯法 軽者没其妻子 重者没其門戸及宗族 尊卑各有差序足相臣服  「その俗、国の大人は、皆、四、五婦。下戸は或いは、二、三婦。婦人は淫せず、妬忌せず。盗窃せず、諍訟少なし。その法を犯すに、軽者はその妻子を没し、重者はその門戸、宗族を没す。尊卑は各(それぞれ)差序有りて、相臣服して足る。」
 その習俗では、国の大人はみな四、五人の妻を持ち、下戸でも二、三人の妻を持つ場合がある。婦人は貞節で嫉妬しない。窃盗せず、訴えごとも少ない。その法を犯すと軽いものは妻子を没し(奴隷とし)、重いものはその一家や一族を没する。尊卑にはそれぞれ差や序列があり、上の者に臣服して保たれている。
㉔収租賦有邸閣 國國有市 交易有無 使大倭監之  「租賦を収め、邸閣有り。国国は市有りて、有無を交易す。大倭をして之を監せしむ。」
 租税を収め、高床の大倉庫がある。国々に市があって有無を交易し、大倭にこれを監督させている。
㉕自女王國以北 特置一大率檢察 諸國畏憚之 常治伊都國 於國中有如刺史 王遣使詣京都帶方郡諸韓國及郡使倭國 皆臨津捜露 傳送文書賜遺之物詣女王 不得差錯  「女王国より以北は、特に一大率を置き検察し、諸国はこれを畏憚す。常に伊都国に治す。国中に於ける刺史の如く有り。王が使を遣わし、京都、帯方郡、諸韓国に詣らす、及び郡が倭国に使するに、皆、津に臨みて捜露す。文書、賜遺の物を伝送し女王に詣らすに、差錯するを得ず。」
 女王国より以北には、特に一人の大率を置いて検察し、諸国はこれを恐れはばかっている。常に伊都国で政務を執っている。(魏)国中における刺史の如きものである。(邪馬壱国の)王が使者を派遣し、魏の都や帯方郡、諸韓国に行くとき、及び帯方郡の使者が倭国へやって来たときには、いつも(この大率が伊都国から)港に出向いて調査、確認する。文書や授けられた贈り物を伝送して女王のもとへ届けるが、数の違いや間違いは許されない。
㉖下戸與大人相逢道路 逡巡入草 傳辭説事 或蹲或跪 兩手據地 為之恭敬 對應聲曰噫 比如然諾  「下戸、大人と道路に相逢えば、逡巡して草に入る。辞を伝え、事を説くには、或いは蹲り、或いは跪き、両手は地に拠る。これが恭敬を為す。対応の声は噫と曰う。比して然諾の如し。」
 下層階級の者が貴人に道路で出逢ったときは、後ずさりして(道路脇の)草に入る。言葉を伝えたり、物事を説明する時には、しゃがんだり、跪いたりして、両手を地に付け、うやうやしさを表現する。貴人の返答の声は「アイ」という。比べると(中国で承知したことを表す)然諾と同じようなものである。
㉗其國本亦以男子為王 住七八十年 倭國亂相攻伐歴年 乃共立一女子為王 名日卑弥呼 事鬼道能惑衆 年已長大 無夫婿 有男弟 佐治國 自為王以来少有見者 以婢千人自侍 唯有男子一人 給飲食傳辭出入居處 宮室樓觀城柵嚴設 常有人持兵守衛  「その国、本は亦、男子を以って王と為す。住むこと七、八十年。倭国は乱れ、相攻伐すること歴年、乃ち一女子を共立して王と為す。名は卑弥呼と曰う。鬼道に事え能く衆を惑わす。年すでに長大。夫婿なく、男弟ありて、佐(たす)けて国を治める。王と為りてより以来、見有る者少なし。婢千人を以(もち)い、おのずから侍る。ただ、男子一人有りて、飲食を給し、辞を伝え、居所に出入りす。宮室、楼観、城柵が厳設され、常に人有りて兵を持ち守衛す。」
 その国は、元々は、また(狗奴国と同じように)男子を王と為していた。居住して七、八十年後、倭国は乱れ互いに攻撃しあって年を経た。そこで、一女子を共に立てて王と為した。名は卑弥呼という。鬼道の祀りを行い人々をうまく惑わせた。非常に高齢で、夫はいないが、弟がいて国を治めるのを助けている。王となってから、まみえた者はわずかしかいない。侍女千人を用いるが(指示もなく)自律的に侍り、ただ、男子一人がいて、飲食物を運んだり言葉を伝えたりするため、女王の住んでいる所に出入りしている。宮殿や高楼は城柵が厳重に作られ、常に人がいて、武器を持ち守衛している。
㉘女王國東 渡海千餘里 復有國皆倭種 又有侏儒國在其南 人長三四尺 去女王四千餘里 又有裸國黒齒國 復在其東南 船行一年可至  「女王国の東、海を渡ること千余里。復(また)国有りて、皆、倭種。又、侏儒国有りて、その南に在り。人長は三、四尺。女王を去ること四千余里。又、裸国、黒歯国有りて、復、その東南に在り。船行一年にして至るべし。」
 女王国の東、海を渡って千余里行くと、また国が有り、皆、倭種である。また、侏儒国がその(女王国の)南にある。人の背丈は三、四尺で、女王国を去ること四千余里。また、裸国と黒歯国があり、また、その(女王国の)東南にある。船で一年行くと着く。
㉙参問倭地 絶在海中洲㠀之上 或絶或連 周旋可五千餘里  「倭地を参問するに、絶えて海中の洲島の上に在り。或いは絶え、或いは連なり、周旋五千余里ばかり。」
 倭地を考えてみると、遠く離れた海中の島々の上にあり、離れたり連なったり、巡り巡って五千余里ほどである。
㉚景初二年六月 倭女王遣大夫難升米等詣郡 求詣天子朝獻 太守劉夏遣吏将送詣京都 其年十二月 詔書報倭女王曰  「景初二年六月、倭女王は大夫、難升米等を遣わして郡に詣り、天子に詣りて朝献せんことを求む。太守、劉夏は吏を遣わし、将(ひき)い送りて京都に詣る。その年十二月、詔書が倭女王に報いて曰く。」
 景初二年(238)六月、倭の女王は、大夫の難升米等を派遣して帯方郡に至り、天子にお目通りして献上品をささげたいと求めた。太守の劉夏は官吏を派遣し、難升米等を引率して送らせ、都(洛陽)に至った。その年の十二月、詔書が倭の女王に報いて、こう言う。
㉛制詔 親魏倭王卑弥呼 帶方太守劉夏遣使 送汝大夫難升米 次使都市牛利 奉汝所獻 男生口四人 女生口六人 班布二匹二丈以到 汝所在踰遠 乃遣使貢獻是汝之忠孝 我甚哀汝 今以汝為親魏倭王 假金印紫綬 装封付帶方太守假綬 汝其綏撫種人 勉為孝順 汝來使難升米 牛利 渉遠道路勤勞 今以難升米為率善中郎將 牛利為率善校尉 假銀印靑綬 引見勞賜遣還 今以絳地交龍錦五匹 絳地縐粟罽十張 蒨絳五十匹 紺青五十匹 答汝所獻貢直 又特賜汝紺地句文錦三匹 細班華罽五張 白絹五十匹 金八兩 五尺刀二口 銅鏡百枚 真珠鈆丹各五十斤 皆装封付難升米牛利 還到録受 悉可以示汝國中人使知國家哀汝 故鄭重賜汝好物也  「制紹、親魏倭王卑弥呼。帯方太守、劉夏が使を遣わし、汝の大夫、難升米、次使、都市牛利を送り、汝が献ずる所の男生口四人、女生口六人、班布二匹二丈を奉り、以って到る。汝の在る所は遠きを踰(こ)える。すなわち、使を遣わし貢献するは、これ汝の忠孝。我は甚だ汝を哀れむ。今、汝を以って親魏倭王と為し、金印紫綬を仮し、装封して帯方太守に付し、仮授する。汝は其れ種人を綏撫し、勉めて孝順を為せ。汝の来使、難升米、牛利は遠きを渉り、道路勤労す。今、難升米を以って率善中老将と為し、牛利は率善校尉と為す。銀印青綬を仮し、引見して、労い、賜いて、還し遣わす。今、絳地交龍錦五匹、絳地縐粟罽十張、蒨絳五十匹、紺青五十匹を以って、汝の献ずる所の貢の直に答う。又、特に汝に紺地句文錦三匹、白絹五十匹、金八兩、五尺刀二口、銅鏡百枚、真珠鉛丹各五十斤を賜い、皆、装封して難升米、牛利に付す。還り到らば、録して受け、悉く、以って汝の国中の人に示し、国家が汝を哀れむを知らしむべし。故に、鄭重に汝の好物を賜うなり。
㉜制詔、親魏倭王卑弥呼。  帯方太守、劉夏が使者を派遣し、汝の大夫、難升米と次使、都市牛利を送り、汝の献上した男の生口四人、女の生口六人、班布二匹二丈をささげて到着した。汝の住んでいる所は遠いという表現を越えている。すなわち使者を派遣し、貢ぎ献じるのは汝の忠孝のあらわれである。私は汝をはなはだいとおしく思う。今、汝を以て親魏倭王と為し、金印紫綬を仮し(与え)、装封して帯方太守に付すことで仮(かり)に授けておく。汝は種族の者を安んじ落ち着かせるそのことで、(私に)孝順を為すよう勉めよ。汝の使者、難升米と牛利は遠くから渡ってきて道中苦労している。今、難升米を以って率善中郎将と為し、牛利は率善校尉と為す。銀印青綬を仮し(与え)、引見してねぎらい、下賜品を与えて帰途につかせる。今、絳地交龍錦五匹、絳地縐粟罽十張、蒨絳五十匹、紺青五十匹を以って、汝が献じた貢ぎの見返りとして与える。また、特に汝に紺地句文錦三匹、細班華罽五張、白絹五十匹、金八両、五尺刀二口、銅鏡百枚、真珠、鉛丹各五十斤を下賜し、皆、装封して難升米と牛利に付す。帰り着いたなら記録して受け取り、ことごとく、汝の国中の人に示し、我が国が汝をいとおしんでいることを周知すればよろしい。そのために鄭重に汝の好物を下賜するのである。
㉝正始元年 太守弓遵 遣建中校尉梯儁等 奉詔書印綬詣倭国 拝仮倭王 并齎詔 賜金帛錦罽刀鏡采物 倭王因使上表 答謝詔恩  「正始元年、太守、弓遵は建中校尉、梯儁等を遣わし、詔書、印綬を奉じて倭国に詣り、倭王に拝仮す。並びに詔を齎(もたら)し、金、帛、錦、罽、刀、鏡、采物を賜う。倭王は使に因りて上表し、詔恩に答謝す。」
 正始元年(240)、(帯方郡)太守、弓遵は建中校尉梯儁等を派遣し、梯儁等は詔書、印綬(=親魏倭王という地位の認証状と印綬)を捧げ持って倭国へ行き、これを倭王に授けた。並びに、詔(=制詔)をもたらし、金、帛、錦、罽、刀、鏡、采物を下賜した。倭王は使に因って上表し、その有り難い詔に感謝の意を表して答えた。
㉞其四年 倭王復遣使大夫伊聲耆掖邪拘等八人 上獻生口倭錦絳青縑緜衣帛布丹木拊短弓矢 掖邪狗等壱拝率善中郎將印綬  「其の四年。倭王はまた使の大夫伊聲耆、掖邪拘等八人を遣わし、生口、倭錦、絳青縑、緜衣、帛布、丹、木拊短弓、矢を上献す。掖邪狗等は率善中郎将と印綬を壱拝す。」
 その(正始)四年(243)、倭王はまた大夫伊聲耆、掖邪狗等八人を派遣し、生口や倭の錦、赤、青の目の細かい絹、綿の着物、白い布、丹、木の握りの付いた短い弓、矢を献上した。掖邪狗等は等しく率善中郎将と印綬を授けられた。
㉟其六年 詔賜倭難升米黄幢 付郡假授  「其の六年、詔して倭、難升米に黄幢を賜い、郡に付して仮授す。」
 正始六年(245)、詔して倭の難升米に黄色い軍旗を賜い、帯方郡に付して仮に授けた。
㊱其八年太守王頎到官 倭女王卑弥呼與狗奴國男王卑弥弓呼素不和 遣倭載斯烏越等 詣郡 説相攻撃状 遣塞曹掾史張政等 因齎詔書黄幢  拝假難升米 為檄告喩之  「其の八年、太守、王頎が官に到る。倭女王、卑弥呼は狗奴国王、卑弥弓呼素と和せず、倭、載烏越等を遣わし、郡に詣り、相攻撃する状を説く。塞曹掾史、張政等を遣わし、因って詔書、黄幢を齎し、難升米に拝仮し、檄を為(つく)りて之を告諭す。」
 正始八年(247)、(弓遵の戦死を受けて)帯方郡太守の王頎が着任した。倭女王の卑弥呼は狗奴国の男王、卑弥弓呼素と和せず、倭の載斯烏越等を派遣して、帯方郡に至り、戦争状態であることを説明した。(王頎は)の張政等を派遣し、張政は詔書、黄幢をもたらして難升米に授け、檄文をつくり、これを告げて諭した。
㊲卑弥呼以死 大作冢 徑百餘歩 徇葬者奴婢百餘人 更立男王 國中不服 更相誅殺 當時殺千餘人 復立卑弥呼宗女壹與年十三為王 國中遂定 政等以檄告喩壹與  「卑弥呼以って死す。冢を大きく作る。径百余歩。徇葬者は奴婢百余人。更に男王を立つ。国中服さず。更に相誅殺し、当時、千余人を殺す。復(また)、卑弥呼の宗女、壱与、年十三を立てて王と為す。国中遂に定まる。政等は檄を以って壱与に告諭す。」
 卑弥呼は死に、冢を大きく作った。直径は百余歩。徇葬者は男女の奴隷、百余人である。さらに男王を立てたが、国中が不服で互いに殺しあった。当時千余人が殺された。また、卑弥呼の宗女、十三歳の壱与(イヨ)を立てて王と為し、国中が遂に安定した。張政たちは檄をもって壱与に教え諭した。
㊳壹與遣倭大夫率善中郎將掖邪拘等二十人 送政等還 因詣臺 獻上男女生口三十人 貢白珠五千孔 青大句珠二枚 異文雑錦二十匹  「壱与は倭の大夫、率善中郎将、掖邪拘等二十人を遣わし、政等の還るを送る。因って、臺に詣り、男女生口三十人を献上し、白珠五千孔、青大句珠二枚、異文雜錦二十匹を貢ぐ。」
 壱与は大夫の率善中郎将、掖邪拘等二十人を派遣して、張政等が帰るのを送らせた。そして、臺(中央官庁)に至り、男女の生口三十人を献上し、白珠五千孔、青大句珠二枚、模様の異なる雑錦二十匹を貢いだ。

*5-3:https://www.asahi.com/articles/ASN946Q7CN94ULUC00D.html (朝日新聞 2020年9月5日) 青森)世界遺産へ正念場 縄文遺跡群でイコモス調査
 青森県など4道県が来年の世界文化遺産登録をめざす「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、世界遺産にふさわしいか評価するユネスコの諮問機関による現地調査が4日、始まった。海外の専門家が全17遺跡を回る現地調査は4道県にとって登録の判断に直結する「正念場」。青森市の三内丸山遺跡では、この日に備え準備を進めた関係者が真剣な表情で遺跡の価値や保存状況の説明にあたっていた。現地調査に訪れたのは、ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の調査員で、オーストラリア人の専門家。県内を皮切りに15日までの期間中、4道県の各遺跡で政府が提出した推薦書の内容を確認し、調査結果をもとに来年5月にもイコモスが「登録」や「登録延期」など4段階ある評価のいずれかを勧告する。さらにこの勧告をもとに来夏に予定されるユネスコの世界遺産委員会が、最終的に登録するかどうか判断する。現地調査に向け、4道県は調査員役をたてて各遺跡でリハーサルを行うなど、入念な準備を進めてきた。この日、三内丸山遺跡では調査員が発掘された土坑墓や復元した大型掘立柱建物など大規模集落跡を丹念に見て回り、同行した県世界文化遺産登録推進室の岡田康博室長らに質問したり写真を撮影したりして遺跡の様子を確認していた。調査の一部は報道陣に公開されたが、審査の中立性を保つため、調査の内容や詳しい日程は非公表。イコモスの要請で、調査員への取材は認められず、調査中のやりとりが聞こえない距離からの撮影だけが許可される徹底ぶりだった。現地調査の開始を前に、三村申吾知事は3日の定例記者会見で「本当に待ちに待って準備してきて、いよいよという場面。とはいうものの、私どもは会いに行っちゃいけないし、頼むという感じ」と登録への期待を語っていた。現地調査の様子は、6日に秋田県鹿角市の大湯環状列石、13日に北海道伊達市の北黄金貝塚、15日に岩手県一戸町の御所野遺跡でも報道陣に公開される。

<無知や意識の低さは罪つくりであること>
PS(2021年3月18日追加):*6-1に、法相の諮問機関である法制審議会親子法制部会が民法の嫡出推定の見直しのための中間試案で、「①離婚後300日以内に生まれた子を『前夫の子』とみなす民法規定に例外を設け、母親が出産時点で再婚していれば『現夫の子』とみなす規定を設ける」「②女性に限り離婚後100日間、再婚を禁じる規定を撤廃する」「③見直しは離婚も再婚も成立した後に生まれた子に限られ、離婚協議もままならないケースは対象にならない」「④明治時代から続くこの規定は、母親が出生届を出さずに無戸籍者を生じさせる要因とされてきた」「⑤嫡出推定は、生まれた子と戸籍上の父親の関係を早く確定させて養育・相続等で子の利益を図る目的の制度である」などが書かれている。
 しかし、今はDNA鑑定で本当の父を特定できる時代であるため、①②は論外であるものの、③⑤も推定を根拠にしている点で誤りの可能性を残し、これでは父子ともに納得できないと思われるので、要請がある場合にはDNA鑑定で本当の父を特定することを原則にすべきだと思う。鑑定の結果、再婚相手の子でなかった場合は、親権の所在を確定した上で、養子縁組などの対応をとればよいだろう。なお、④については、前夫との離婚が成立するまでは再婚相手の子を作らないなど、女性も自分のことだけでなく子の気持ちや生育環境も考えて子づくりすべきだ。
 そのような中、*6-2のように、東京オリ・パラの開閉会式の演出を統括する佐々木氏が、開会式に出演予定だった太めの女性タレントの容姿を侮辱する内容の演出を提案したのだそうだ。開閉会式の演出をめぐって、組織委は2020年末に狂言師の野村萬斎氏を統括とする7人のチームを解散し、佐々木氏を責任者として権限を一本化していたとのことだが、佐々木氏が演出したとされるリオデジャネイロでの2016年の閉会式は、一国の首相をスーパーマリオに扮して登場させ、大人も多く見ているのに内容のない演出だと思っていた。そもそも、蔑みや侮辱で笑いをとろうとするのは見識が低いが、こういう人が日本のCM業界を代表する作り手で東京オリ・パラの開閉会式の演出統括責任者に選ばれていたというのでは、日本のTVのレベルが低いのも理解でき、選んだ人もまた意識が低い。

*6-1:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=133827 (南日本新聞 2021/3/7) [嫡出推定見直し] 無戸籍者生まぬ制度へ
 婚姻を基準に子どもの父親を決める民法の「嫡出推定」の見直しに向け、法相の諮問機関である法制審議会の親子法制部会が中間試案をまとめた。離婚後300日以内に生まれた子どもを「前夫の子」とみなす規定の例外を設け、母親が出産時点で再婚していれば「現夫の子」と新たに規定する。併せて女性に限り離婚後100日間、再婚を禁じる規定も撤廃する。明治時代から120年以上続く現行のルールは、母親が出生届を出さずに無戸籍者が生じる大きな要因とされてきた。試案は現代の家族観を反映した法律の転換点と評価できよう。ただ、見直しは今のところ離婚も再婚も成立した後に生まれた子どもに限られ、家庭内暴力で離婚協議もままならないケースなどは対象とならない。制度を充実させるために議論を深めていく必要がある。嫡出推定は本来、生まれた子どもと戸籍上の父親との関係を早く確定させて、養育や相続などで子どもの利益を図る考えに基づく制度である。海外でも採用している国は少なくない。しかし近年、離婚直後に別の男性との子どもを産んだ場合などに、前夫の子どもとみなされるのを避けるため、母親が出生届を出さないケースが増えてきた。法務省が市区町村などを通して把握した無戸籍者は1月時点で901人おり、このうち73%がこうした事例に当たる。支援団体によると、行政が捉えられていない潜在的な無戸籍者も多く、少なくとも1万人に上るという。無戸籍者は住民票の作成や運転免許の取得、銀行口座の開設などが難しく、進学や就職、結婚でも深刻な影響を受ける。本人に落ち度がないのに多大な不利益を強いられる現実を考えれば、民法の規定見直しは急務だ。中間試案は、夫にだけ認められていた父子関係を否定する「嫡出否認」の訴えを、未成年の子どもと、子の代理の母親もできるようにすることも示した。当事者への配慮がうかがえる。とはいえ、なかなか離婚できなかったり、再婚に至らなかったりした場合の対応が不十分との指摘が出ている。300日規定そのものの撤廃を求める声も根強い。事実婚など家族の在り方が多様化する中、さらにさまざまな要請に応えなければならない。例えば、科学技術の進歩を生かし、今では民間機関も手掛けているDNA鑑定で血縁上の父親と判定できれば、出生届を受け付ける仕組みなども検討するべきではないか。法制審部会が方向性を示したことで、法改正に結びつく可能性は高くなってきた。現在、生活に支障を来している無戸籍者への支援を含め、救済の枠からこぼれ落ちる子どもが出ないよう知恵を絞りたい。

*6-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14836892.html (朝日新聞 2021年3月18日) 「女性容姿侮辱の演出提案」 統括者退任へ 五輪開会式巡る報道
 今夏に延期となった東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の演出を統括するクリエーティブディレクターの佐々木宏氏(66)が、開会式に出演予定だった女性タレントの容姿を侮辱するようなメッセージをチーム内のLINEに送っていたと、文春オンラインが17日報じた。佐々木氏は退任する方向で、大会組織委員会の橋本聖子会長が18日に記者会見し、問題の経緯や佐々木氏の処遇について説明する見込み。記事によると、佐々木氏は昨年3月、開閉会式の演出を担うチーム内のLINEに、女性タレントの容姿を侮辱するような内容の演出を提案したという。メンバーから反発があり、この提案は撤回されたという。組織委の広報担当は文春の記事について「佐々木氏本人から事実関係を確認中。事実とすれば、不適切で大変遺憾に思う」と述べた。組織委では、森喜朗前会長が自身の女性蔑視発言の責任をとって2月に退任している。開閉会式の演出をめぐっては、組織委は昨年末、狂言師の野村萬斎氏を統括とする7人のチームの解散を発表した。コロナ禍に伴う式典の簡素化や演出変更を短期間で進めるため、佐々木氏を責任者に据え、権限を一本化していた。佐々木氏は広告大手の電通出身。安倍晋三首相(当時)をサプライズ登場させた2016年リオデジャネイロ五輪閉会式での引き継ぎ式や、水泳の池江璃花子さんを起用した昨夏の五輪1年前イベントの演出を担当。日本のCM業界を代表する作り手とされる。

<これから夫婦別姓を認める必要はあるか?>
PS(2021年3月19日):私(戸籍名:平林、通称:広津《旧姓》)は、公認会計士・税理士の登録に際して戸籍名しか認められず、仕事上は戸籍名を使うしか選択肢がなくて不便だと思ったため、1995年前後に「選択的夫婦別姓制度にして欲しい」と言っていたが、その後、公認会計士・税理士は旧姓を通称として使用することを認めたため、後は銀行・公文書への記載・法律行為などに通称使用が認められるようになればよいと思っている。何故なら、ここで選択的夫婦別姓制度も取り入れると、*7-1のように、①夫婦別姓を選択しなかった人は旧姓を使えない もしくは、②旧姓の通称使用も認めると「同氏夫婦」「別氏夫婦」「通称使用夫婦」の3種類の夫婦が出現して制度が複雑化し ③ファミリー・ネームが機能しなくなり ④「子の姓の安定性」が損なわれる などのディメリットがあるからだ。また、今では、⑤殆どの専門資格(士業・師業)で旧姓の通称使用や資格証明書への併記が認められるようになり ⑥マイナンバーカード・免許証・住民票は戸籍名と旧姓の併記が認められている ため、後は、銀行口座・公文書・法律行為などで通称使用が認められればよいだろう。
 そのため、*7-2のように、選択的夫婦別姓に反対する人は「⑦望まない人にも改姓を強要している」「⑧偏見と無根拠に満ちている」「⑨選択的夫婦別姓の意味がわかってないから反対しているに違いない」と言われるのは全く事実と異なり、私自身は、妹のピアノの先生の不便を見て子供の頃(1960年代)からわかっていたため、結婚時に戸籍名が変わっても個人のキャリアの連続が示されるよう、機会がある度に旧姓で活動できるようにしてきたのである。

*7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/88122 (東京新聞 2021年2月25日) 【全文】夫婦別姓反対を求める丸川大臣ら自民議員の文書、議員50人の一覧
丸川珠代・男女共同参画担当相や高市早苗・元男女共同参画担当相ら自民党の国会議員有志が、埼玉県議会議長の田村琢実県議に送った、選択的夫婦別姓の反対を求める文書は以下の通り。
◆◇◆◇◆
 厳寒のみぎり、先生におかれましては、ご多用の日々をお過ごしのことと存じます。貴議会を代表されてのご活躍に敬意を表し、深く感謝申し上げます。
 本日はお願いの段があり、取り急ぎ、自由民主党所属国会議員有志の連名にて、書状を差し上げることと致しました。
 昨年来、一部の地方議会で、立憲民主党や共産党の議員の働き掛けにより「選択的夫婦別氏制度の実現を求める意見書」の採択が検討されている旨、仄聞しております。
 先生におかれましては、議会において同様の意見書が採択されることのないよう、格別のご高配を賜りたく、お願い申し上げます。
 私達は、下記の理由から、「選択的夫婦別氏制度」の創設には反対しております。
1 戸籍上の「夫婦親子別氏」(ファミリー・ネームの喪失)を認めることによって、家族単位の社会制度の崩壊を招く可能性がある。
2 これまで民法が守ってきた「子の氏の安定性」が損なわれる可能性がある。
※同氏夫婦の子は出生と同時に氏が決まるが、別氏夫婦の子は「両親が子の氏を取り合って、協議が調わない場合」「出生時に夫婦が別居状態で、協議ができない場合」など、戸籍法第49条に規定する14日以内の出生届提出ができないケースが想定される。
※民主党政権時に提出された議員立法案(民主党案・参法第20号)では、「子の氏は、出生時に父母の協議で決める」「協議が調わない時は、家庭裁判所が定める」「成年の別氏夫婦の子は、家庭裁判所の許可を得て氏を変更できる」旨が規定されていた。
3 法改正により、「同氏夫婦」「別氏夫婦」「通称使用夫婦」の3種類の夫婦が出現することから、第三者は神経質にならざるを得ない。
※前年まで同氏だった夫婦が「経過措置」を利用して別氏になっている可能性があり、子が両親どちらの氏を名乗っているかも不明であり、企業や個人からの送付物宛名や冠婚葬祭時などに個別の確認が必要。
4 夫婦別氏推進論者が「戸籍廃止論」を主張しているが、戸籍制度に立脚する多数の法律や年金・福祉・保険制度等について、見直しが必要となる。
※例えば、「遺産相続」「配偶者控除」「児童扶養手当(母子家庭)」「特別児童扶養手当(障害児童)」「母子寡婦福祉資金貸付(母子・寡婦)」の手続にも、公証力が明確である戸籍抄本・謄本が活用されている。
5 既に殆どの専門資格(士業・師業)で婚姻前の氏の通称使用や資格証明書への併記が認められており、マイナンバーカード、パスポート、免許証、住民票、印鑑証明についても戸籍名と婚姻前の氏の併記が認められている。
 選択的夫婦別氏制度の導入は、家族の在り方に深く関わり、『戸籍法』『民法』の改正を要し、子への影響を心配する国民が多い。
 国民の意見が分かれる現状では、「夫婦親子同氏の戸籍制度を堅持」しつつ、「婚姻前の氏の通称使用を周知・拡大」していくことが現実的だと考える。
※参考:2017年内閣府世論調査(最新)
夫婦の名字が違うと、「子供にとって好ましくない影響があると思う」=62.6%
 以上、貴議会の自由民主党所属議員の先生方にも私達の問題意識をお伝えいただき、慎重なご検討を賜れましたら、幸甚に存じます。
 先生のご健康と益々のご活躍を祈念申し上げつつ、お願いまで、失礼致します。
令和3年1月30日
衆議院議員(50音順):青山周平 安藤裕 石川昭政 上野宏史 鬼木誠 金子恭之 神山佐市 亀岡偉民 城内実 黄川田仁志 斎藤洋明 櫻田義孝 杉田水脈 鈴木淳司 高市早苗 高木啓 高鳥修一 土井亨 中村裕之 長尾敬 深澤陽一 藤原崇 古屋圭司 穂坂泰 星野剛士 細田健一 堀井学 三谷英弘 三ツ林裕巳 宮澤博行 簗和生 山本拓
参議院議員(50音順):赤池誠章 有村治子 磯崎仁彦 岩井茂樹 上野通子 衛藤晟一 加田裕之 片山さつき 北村経夫 島村大 高橋克法 堂故茂 中西哲 西田昌司 丸川珠代 森屋宏 山田宏 山谷えり子 

*7-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/88547 (東京新聞 2021年2月27日) 丸川大臣「残念すぎる」選択的夫婦別姓、反対議員50人へ質問状 市民団体
 自民党の国会議員有志が選択的夫婦別姓の導入に賛同する意見書を地方議会で採択しないよう求めた文書を巡り、市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は26日、文書に名を連ねた国会議員50人に公開質問状を送った。事務局は「困り事を抱える国民の声を水面下で押しつぶそうとする行為だ。望まない人にも改姓を強要する合理的な根拠を明らかにしてほしい」と話す。回答結果は3月9日に公表する。文書は1月30日付で、地方議会の議員に送られた。選択的夫婦別姓の実現を求める意見書を採択しないよう促す内容で、閣僚就任前の丸川珠代男女共同参画担当相のほか、高市早苗前総務相、衛藤晟一前少子化対策担当相ら計50人が名前を連ねていた。市民団体は、国会議員50人が連名で文書を送付したことは、「国会議員が水面下で地方議会に圧力をかけて阻む行為に等しい」と問題視。さらに、文書に書かれた選択的夫婦別姓に反対する理由が「偏見と無根拠さに満ちている」と感じ、質問状を送ることを決めた。質問は、文書に名前を連ねた経緯や夫婦別姓制度への賛否、反対する理由など11問をたずねた。丸川氏など旧姓で活動する議員には、旧姓使用を続ける理由も聞いている。(記事最後にすべての質問項目を掲載)。事務局長の井田奈穂さんは「望まない改姓は、イデオロギーの問題ではない。現実的な生活上の困りごと」と指摘。別姓を選べないために結婚しないカップルもいるといい、事務局には多くの相談が寄せられているという。反対議員による文書送付について、「生活上の困りごとを抱える市民の声を、制度設計をする人たちに届かないよう封じるための行為だと感じる」と話す。
◆丸川氏「おかしい」といっていたのに…
 井田さんは昨年2月、葛飾区議の区政報告会で、出席していた丸川氏と話す機会があったという。井田さんによると、丸川氏は、選択的夫婦別姓について「2つの名前を使えるのは私は便利だと思ってますが、公文書に皆さんが投票して下さった丸川姓で署名できず戸籍姓必須はおかしいと思う」と力説。閣議決定の署名で「丸川」を使えないなど、旧姓使用の限界を身をもって理解していると感じたという。
丸川氏が文書に名前を連ねていたことについて、井田さんは「男女共同参画担当大臣として残念すぎます。職務上氏名を名乗れないことに忸怩たる思いを持つ方が、同じ思いを持つ人たちの声をつぶすことは、『個人的な信条』とは矛盾しているのではないか」と疑問を投げかけた。「選択的夫婦別姓は、選択肢を増やすだけで、みんなが別姓になるわけではない。議員の方には、これを機に勉強会を開いて当事者の声を聞いてほしい。呼んでいただければ喜んで出席する」と話した。選択的夫婦別姓・全国陳情アクションのサイトで反論なども掲載している。
◆議員への質問
1・今回の「お手紙」に名を連ねた経緯についてお聞かせください。
2・国民主権の国で、国民が国会に意見を届けるための制度が地方議会での意見書です。今回の「お手紙」は、「国会議員が生活上の困りごとを抱えた当事者の意見を国会に届けさせないようにする圧力ではないか」という意見について、先生はどのようにお考えですか。
3・選択的夫婦別姓制度に反対ですか?
4・反対であれば、それはなぜですか。お手数ですが、今回の「お手紙」に至った発端(埼玉県議会への相談)を作った当事者である井田奈穂の意見、法学者・二宮周平教授の解説を踏まえた上でご回答ください。
5・反対の根拠とされている「ファミリー・ネーム」の法的定義について、立法府の議員としてお教えください。
6・第5次男女共同参画基本計画に対するパブリックコメントに400件以上、切実に法改正を望む声が寄せられました。旧姓使用の限界やトラブル事例も多く報告されています。「旧姓使用ではなく生まれ持った氏名で生きたい」と訴える当事者が目の前にいたら、どのように回答されますか?
7「お互いの氏名を尊重しあって結婚したいが、今後も法的保障のない事実婚を選ぶしかないのですか?」と訴えるカップルが目の前にいたら、どのように回答されますか?
8・夫婦別姓を選べない民法の規定について、国連女性差別撤廃委員会から再三改善勧告を受けていることについて、どのように対応すべきとお考えですか?
9・旧姓使用に関して、法的根拠のない氏名を、今後あらゆる法的行為、海外渡航、海外送金、登記、投資、保険、納税、各種資格、特許などにおいても使えるようにしていくべきと思いますか?
10・以下は、旧姓使用をされている議員の方にお伺いします。なぜ旧姓使用をしておられるのですか?
11・「3種類の夫婦の出現に第三者は神経質にならざるを得ない」と主張する先生が、自ら旧姓を通称使用をし、社会的に生来姓を名乗っておられるのは甚だしい自己矛盾ではないかという意見があります。そのお考えであれば、生来姓を変えないのが一番ではないでしょうか?

<女性の働きやすさ・生きやすさ>
PS(2021年3月20日追加):英誌エコノミストが、*8-1のように、主要29カ国の女性の働きやすさでランキングした結果、北欧のスウェーデンが1位・アイスランドが2位・フィンランドが3位で、日本は下から2番目の28位・韓国が最下位の29位だったそうだ。そのランキングは、管理職に占める女性の割合・女性の労働参加率・男女の賃金格差などの10の指標に基づいており、18位の米国は女性の労働参加は進んでいるが政治参加が少なく、日本は、管理職に占める女性の割合・衆議院の女性議員割合が最低で、世界経済フォーラムの2019年ランキングでも153カ国中121位だったそうだ。
 国連は、*8-2のように、2021年のテーマを「リーダーシップを発揮する女性たち―コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」に定めたそうだ。しかし、*8-3のように、日本国憲法は、1947年の施行以来、第22条で「職業選択の自由」を規定しているにもかかわらず、女性の職業は「働いていない」と言われる専業主婦以外の選択肢が狭かったり、選択できる職業は賃金が安かったり、身分が不安定だったりしてきたため、*8-1の状況は国内的にも憲法違反であることが明らかだ。まして、「子を1人も作らない女性が、年取って税金で面倒見なさいというのは、本当はおかしい」などと言われるのは論外で、この発言は女子差別撤廃条約違反でもあるが、その前に、DINKSで働いた私は、専業主婦と2人の子を持つ男性とは比較にならないくらい多額の所得税や社会保険料を支払ってきたため、そのようなことを言うのなら、税金から支出した子の教育費・保育費・医療費と専業主婦の医療費・年金支給額等を返還して欲しい。
 このように、日本社会のジェンダーに基づく人権侵害で不快な女性差別発言には事欠かないが、メディアもまた「表現の自由」「言論の自由」と称して、差別を助長するドラマの筋書きや間抜けな聞き役の女性を配した報道番組が多いため、気を付けてもらいたい。


                               2020.3.6朝日新聞

(図の説明:1番左の図は、2019年のジェンダーギャップ指数で、日本は153か国中121位であり、2018年より下がっている。左から2番目と右から2番目の図は、2020年のジェンダー・ギャップ指数で、2019年と殆ど同じだ。さらに、1番右の図は、入社1年目と4年目で管理職を目指す男女の割合を示したもので、ハードルが多いせいか女性の割合が著しく低い)


                   2017.7.28朝日新聞   2017.8.24朝日新聞

(図の説明:左図のように、出生数も合計特殊出生率も戦後は下がり続けており、1970年以降は子育てのやりにくさを反映していたのだが、著しく女性割合の小さな政治・行政は的確な対応をしなかった。また、女性の上昇志向の持ちにくさ、働きにくさ、子育てを含む生きにくさを作る原因は、右の2つの図が示すように、メディア等によって発せられ、国民の常識となっていく、ジェンダーを含む発言・世論操作・行動の影響が大きい)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP396RLDP39UHBI028.html (朝日新聞 2021年3月9日) 女性の働きやすさ、日本はワースト2位 英誌ランク付け
 英誌エコノミストは、8日の国際女性デーに合わせ、主要29カ国を女性の働きやすさで指標化したランキングを発表した。1位は北欧のスウェーデンで、日本は昨年に続き下から2番目の28位。最下位は韓国だった。ランキングは、管理職に女性が占める割合や女性の労働参加率、男女の賃金格差など10の指標に基づき、エコノミストが独自にランク付けした。ランキングでは2位がアイスランド、3位がフィンランドと北欧の国々が上位を占めた。米国は女性の労働参加が進む一方、女性の政治参加は少なく、ランキングは18位だった。日本は管理職の女性の割合や、下院(日本での衆院)での女性議員の割合がそれぞれ最も低かった。同誌は、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗元首相による女性蔑視発言を受けて、橋本聖子氏が後任となったことに触れ、「日本のように伝統的に遅れている国でさえ、少なくとも進歩の兆しがみられる」と指摘した。2位だったアイスランドは、世界経済フォーラムが発表している男女平等ランキングでも11年連続で1位を維持している。直近の2019年のランキングで、日本は153カ国中121位だった。英誌エコノミストが発表した女性の働きやすさのランキングは、以下の通り。
1位 スウェーデン 、2位 アイスランド 、3位 フィンランド 、4位 ノルウェー 、5位 フランス 、6位 デンマーク 、7位 ポルトガル 、8位 ベルギー 、9位 ニュージーランド 、10位 ポーランド 、11位 カナダ 、12位 スロバキア 、13位 イタリア 、14位 ハンガリー 、15位 スペイン 、16位 オーストラリア 、17位 オーストリア 、18位 米国 、19位 イスラエル 、20位 英国 、21位 アイルランド 、22位 ドイツ 、23位 チェコ 、24位 オランダ 、25位 ギリシャ 、26位 スイス 、27位 トルコ 、28位 日本 、29位 韓国

*8-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1282908.html (琉球新報社説 2021年3月8日) 国際女性デー 遅れた「平等」直視したい
 きょう3月8日は国際女性デー。女性への差別に反対し、地位向上を求める日である。国連は2021年のテーマを「リーダーシップを発揮する女性たち―コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」に定めた。女性はリーダーシップを発揮できているだろうか。そしてコロナ禍で平等な労働環境と政治参加を手に入れているだろうか。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が「女性の入っている理事会は時間がかかる」などと発言し、辞任に追い込まれた。日本オリンピック委員会(JOC)が女性理事を増やす方針を掲げたことに関連しての発言だった。政府はあらゆる分野で「指導的地位に占める女性の割合30%」を目標とするが、達成には遠く及ばない。JOCも女性理事は20%だ。森氏の発言は困難を越えてようやく発言権を得た女性たちをけん制するメッセージだった。男性の多数決に従い、立場をわきまえておとなしくしていろと、女性たちを従来の、男性主体の社会の枠に押し込めようとした。森氏は過去に「子どもを一人もつくらない女性が、(略)年取って税金で面倒見なさいというのは、本当はおかしい」と言ったこともある。子どもを産まない女性は国のためになっていない、価値がないという発想は女性の人格すら否定している。しかし当時、問題にはなったが、進退にはつながらなかった。今回、辞任に至ったのは女性たちが世論をつくり、五輪開催すら危ぶまれたからだ。変化の兆しが感じられる。ただし、日本の女性の地位は国際的にみれば大きく立ち遅れている。世界経済フォーラムが発表した19年の「男女格差報告」で日本は153カ国中、過去最低の121位だ。特に政治分野は144位と深刻で、衆院議員10%、参院23%、閣僚も20人中2人にとどまる。沖縄でも県議会は14%にすぎない。男女の候補者数をできる限り均等にするよう求める法律が施行されたが、効果ははかばかしくない。女性候補者の割合を義務づけるクオータ制や割合に応じた政党助成金の配分など諸外国の制度を参考に導入を議論すべきだ。コロナ禍は雇用の不安定な女性を追い詰めている。働く女性の半数以上は非正規労働者だが、昨年、同じ非正規でも女性のほうが男性の2倍、減少している。正社員は増えておらず、真っ先に解雇されるのは女性だと考えられる。男性との給与格差も大きい。コロナ禍で大きな影響を受ける層に焦点を当てた支援策を講じなければならない。日本社会の男女格差は根深い。男は仕事、女は家庭などの性別役割意識が強く残り、男性に長時間労働を強い、女性の社会参画を阻んでいる。現状を直視し、いかに男女が平等な社会を築けるか、男性も共に考える日にしたい。

*8-3:http://law.main.jp/kenpou/k0022.html (日本国憲法逐条解説) 
第3章 国民の権利及び義務
第22条 【居住、移転及び職業選択の自由、外国移住及び国籍離脱の自由】
 第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
 第2項 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
<解説>
 1項は、自己の従事する職業を決定し、遂行する自由を定めています。ただし、政策的な見地から、一定の制限を受けることがあります。例えば、開業するにつき許可制がとられている場合 ( 交通、電気、ガスなど ) がありますが、 これは合理的な制限であり憲法には反しません。
 2項は、外国移住及び国籍離脱の自由を定めています。外国へ移住する自由とともに、強制的に外国へ移住させられない自由なども含まれています。国籍については、国籍法に詳しく規定されており、国籍法11条によると国籍を離脱するには外国籍の取得が必要とされています。

<日本は感染症対策も153か国中121位程度では?>
PS(2021年3月21日追加):*9-1のように、東京オリ・パラは海外の一般観客の受入断念をすることとなったそうで、日本側は海外での変異株の出現を理由とした。しかし、ウイルスの変異はウイルスが存在する限りどこででも(日本国内でも)起き、変異したからといって従来のワクチンが効かなくなるとは限らないため、徹底した検査・治療薬の承認・ワクチン開発が重要なのであり、ワクチン接種済の外国人とワクチン未接種の日本人を比較すれば、ワクチン未接種の日本人の方がずっと感染リスクが高いのである。従って、*9-2のように、ワクチン接種済の選手を行動制限したり、ワクチン接種済の海外からの観客を排除したりするのは、非科学的すぎて誰も支持しないだろうし、五輪の精神にも反する。
 なお、厚労省主導での①検査渋り ②治療薬未承認 ③ワクチン未開発 など、感染症対策で失政をやり続けた日本政府が、海外在住者購入チケットの払い戻しやGo Toキャンペーンで莫大な予算を使うのは、国民にとっては「メンツをつぶされた」程度ではすまされない問題である。
 さらに、*9-3は、「新型コロナ変異株の広がりで、現在は変異株流行国から入国した人に要請している検査や待機の対応を、全ての国からの入国者に広げる」としているが、ワクチン接種済証明書や陰性証明書のある人の検査はどの国からの入国者であれ簡便でよく、それがない人はどの国の人であっても徹底した検査と14日間の隔離が必要なのである。そのため、これまでの水際対策もおかしかったことがわかり、このようなザル対策では国民が何度自粛してもリバウンド(再拡大)は起きるだろう。
 このような中、*9-4のように、東京都から新型コロナ改正特別措置法に基づく時短営業の命令を受けた飲食チェーン「グローバルダイニング」が、「時短命令は違法」として東京都に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こすそうだ。私も、「命を守るため」とか「緊急事態」とさえ言えば何をやってもよいとばかりに失政を積み重ねた政治・行政が、国民に過剰な権利の制約を行うのを見逃しては今後のためにならないと考える。これは、*9-5のように、東京オリ・パラで海外からの観戦客受け入れを見送るとされ、ホテルや観光業者が厚労省の不作為によって梯子を外されて大打撃を受けることとも同源であり、ここで「予約キャンセル料」等を国が税金から補填するのは一般国民が納得できないため、ワクチン接種済証や陰性証明書を持つ外国人は入国できるように、集団で提訴もしくは交渉したらどうかと思った。

怒 緊急事態の定義:東電福島第一原発事故を受けて政府が発令した「原子力緊急事態宣言」
  は、10年後の現在も解除されていない。しかし、会計での短期と長期の境界は1年で、
  人命がかかわる「緊急」は、分単位からせいぜい1ヶ月~6ヶ月だ。それ以上の期間は、
  「慢性」や「長期」と呼ぶのである。

*9-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92715 (東京新聞 2021年3月20日) 東京五輪の海外観客受け入れを断念、チケットは払い戻し IOCなど5者協議で決定
 東京五輪・パラリンピックの海外からの一般観客を巡り、大会組織委員会、政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表による5者協議が20日、オンラインで開催され、受け入れを断念すると正式決定した。新型コロナウイルスは変異株の出現などで厳しい感染状況が続き、国民の不安も強いことから、受け入れを見送る方針で一致。海外在住者が購入したチケットは払い戻す。新型コロナで史上初の延期となった大会は、これまでにない異例の方式での開催となる。協議には組織委の橋本聖子会長、丸川珠代五輪相、小池百合子都知事、IOCのバッハ会長、IPCのパーソンズ会長が参加。終了後に橋本氏らが会見した。政府や組織委などは、海外在住のボランティアの受け入れについても原則的に見送る方針を固めた。観客数の上限は、政府のイベント制限の方針に準じ、4月中に判断する。

*9-2:https://mainichi.jp/articles/20210320/k00/00m/050/185000c (毎日新聞 2021/3/20) 「ワクチン=切り札」のIOC、日本に不満 五輪開催へ頭越し提案
 今夏の東京オリンピック・パラリンピックの海外からの観客受け入れを見送ることが20日、政府、東京都、大会組織委員会に国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者を交えた5者による協議で正式に決まった。新型コロナウイルスの感染が続く中、開催の成否を握るのがワクチンだが、関係者間には大きな溝が横たわる。
●「日本のメンツ丸つぶれ」の理由
 ある国際競技団体の幹部が解説する。「国際オリンピック委員会(IOC)のお膝元の欧州ではワクチン接種が前提となりつつある。接種や確保の進まぬ開催国の日本で、接種を受けた選手の行動が制限されることにIOCは不満がある」

*9-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92816 (東京新聞 2021年3月21日) 新型コロナ変異株の検査や待機、全入国者への拡大の意向示す 田村厚労相
 田村憲久厚生労働相は21日のNHK番組で、新型コロナウイルス変異株の広がりを受け、現在は変異株の流行国から入国した人に要請している検査や待機の対応を、全ての国からの入国者に広げたい考えを述べた。水際対策を強化する狙い。変異株流行国からの入国者は、出国前と入国時、入国後3日目の計3回の検査を求められている。田村氏は、入国者が待機期間中に宿泊施設などから出て行方不明になった場合は「民間の警備会社と契約して対応することも考えている」とした。首都圏1都3県の緊急事態宣言の解除を巡り「感染リスクの高い行動を避けてもらうのが重要だ」と強調。新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は「これから1、2カ月はリバウンド(再拡大)が起きやすい。高齢者のワクチン接種が始まるまで何が何でも防ぐことが重要だ」と語った。

*9-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92736 (東京新聞 2021年3月20日) 「コロナ時短命令は〝違法〟」「狙い撃ちされた」 飲食チェーンが都を提訴へ
 東京都から新型コロナウイルス対応の改正特別措置法に基づく時短営業の命令を受けた飲食チェーン「グローバルダイニング」が、命令は違法だとして、都に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こすことが20日、分かった。時短命令の違法性を問う提訴は初とみられる。22日に提訴する方針。代理人の倉持麟太郎弁護士は取材に「緊急事態宣言下で、行政による過剰な権利制約が続いている。訴訟で問題提起をしたい」と話した。東京都は18日、全国で初めて、時短要請に応じなかった27店舗に21日までの4日間、午後8時以降の営業停止を命じた。うち26店舗を経営するグローバルダイニングは命令を受け、営業時間を短縮すると発表した。都は19日、追加で5店舗に時短命令を出した。倉持弁護士は「時短要請に応じなかった店舗は他にも多くあるのに、グローバルダイニングだけが狙い撃ちにされた印象だ。都がどのような経緯で命令対象を決めたのかも訴訟で明らかにしたい」と話した。

*9-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92740?rct=coronavirus (東京新聞 2021年3月21日) 「五輪で回復できると思ったのに‥」 海外客の見送り決定、宿泊・観光に追い打ち
 東京五輪・パラリンピックで海外からの観戦客受け入れを見送ることが20日、正式に決まった。インバウンド(訪日外国人旅行者)を当て込んでいた都内のホテルや観光業者からは「大打撃だ」とため息が漏れる。
◆「『おもてなし』はどこに行ってしまったのか」
 「五輪で少しでも原状回復できると思っていたのに…。招致時に掲げた『おもてなし』はどこに行ってしまったのか」。浅草寺(台東区)のすぐ脇で旅館「浅草指月」を経営する飛田克夫さん(83)が肩を落とす。和風の客室やお風呂が売りで、コロナ禍前は外国人客であふれていたが、現在は客室の稼働率が1割を下回る。「もともと日本人が魅力を持つような造りではない」と、国内の観戦客の利用はあまり期待できず、「五輪特需」は望み薄という。「海外に『日本は危険』という印象を与えてしまう。コロナが収束し、観光客の受け入れが再開した後も当分人は戻ってこないかもしれない」。飛田さんは影響が長引かないかも気掛かりだ。
◆「予約キャンセルどうなる」
 観客とは異なり、各国の要人や競技団体の役員は大会関係者として入国が可能となっているが、それに対しても組織委員会は人数を最低限にするよう求めている。中央区日本橋の「住庄ほてる」は組織委と契約し、五輪期間中に全83室のうち約30室に関係者が宿泊する予定。角田隆社長(52)は「こんな状況で本当に開催できるのか。予約のキャンセルはどうなるのか」と不安を隠さない。
◆「暗闇は今後も続きそう」
 コロナ禍前は海外からの観戦客は100万人規模と想定され、観光地への波及効果も期待されていた。東京都ホテル旅館生活衛生同業組合の須藤茂実事務局長(68)は「感染状況が悪い東京への観光は国内でも敬遠されている。コロナ禍で廃業が既に40件に上った。暗闇が今後も続きそうだ」と見通す。「インバウンドを見越してインストラクター増員や施設拡充など投資をしてきた。延期になり、今年こそはと思っていた」。浅草などで人力車ツアーや日本文化体験講座を企画する「時代屋」の藤原英則代表(65)もそう残念がる一方、「最悪、無観客でも開催すればムードが盛り上がるので、国内客向けの企画を考えたい」と前を向いた。

| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 12:43 AM | comments (x) | trackback (x) |
2021.1.13~15 年が明けても明けなかったコロナ禍と分散型社会の必要性 (2021年1月17、18、20、21、22、24、28、29《図》、31日、2月7日に追加あり)

  2021.1.7Reuters       2020.12.16NHK       2021.1.7NHK

(1)都市と新型コロナ
1)伝染病の感染拡大は人口密度との相関関係が大きいこと
 新型コロナの感染拡大に歯止めがかからないとして、*1-1のように、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の首都圏1都3県に対し、1月7日に緊急事態宣言の再発令が決定された。

 そして、1月9日には、*1-2のように、大阪府・京都府・兵庫県の関西圏が緊急事態宣言の要請を決定し、*1-3のように、政府は1月13日に、中部の愛知、岐阜2県と福岡、栃木両県を緊急事態宣言に追加するそうだ。

 緊急事態宣言による規制内容は、*1-5に記載されているが、その是非については、これまでも記載してきたので省略する。しかし、新型コロナは全国的に都市部を中心に新規感染者数が増加して医療提供体制が逼迫すると言われているが、都市部には大病院もホテルも多いため、この数カ月、政府や地方自治体は何をしていたのかと思う。

 なお、日本の都道府県別人口・面積・人口密度のランキングは、*1-7のとおりで、最初に緊急事態宣言の再発令が決定された首都圏1都3県の人口密度は、1位:東京都・3位:神奈川県・4位:埼玉県・6位:千葉県だ。次に、緊急事態宣言の要請を決定した関西圏は、2位:大阪府・8位:兵庫県で、その次に中部圏の5位:愛知県が続く。そのほかに感染者が多い県は、7位:福岡県・9位:沖縄県だ。

 そのため、(当然ではあるが)人口密度と感染症は密接な関係のあることがわかり、そうなると都道府県でひとくくりにして緊急事態宣言を行うのもやりすぎで、医療圏(or生活圏)を構成する市町村単位でよさそうだ。例えば、東京都にも小笠原村や伊豆大島があり、北海道にも札幌市(その一部「すすきの」)があるという具合である。

 しかし、人口密度の高い都市部には大病院やホテルも多いため、これまで何の準備もしていなかったのでは不作為と言わざるを得ない。また、都市部には、節水しすぎて流水でまともに手も洗えないような施設が多いが、「流水と石鹸でよく手を洗わず、アルコールを手にこすりつけさえすればよい」などというメッセージを発しているのは異常であり、そのような手で触った食品や食器は不潔なのである。

2)人口の集中しすぎがいけないので、分散型社会へ
 都市部に異常なまでの節水をして流水でしっかり手を洗えないような施設が多いのは、節水をよいことであるかのように思っているふしもあるが、人口増による水不足で水道水の単価が高くなっているせいもある。その一方で、地方には、せっかくある水道事業が成り立たなくなるほど過疎化した地域もあり、もったいない。

 そのため、*1-6のように、「東京一極集中をコロナを機に是正する」というのに、私は賛成だ。人口が集中し過ぎているのが首都圏だけでないことは、関西圏・中部圏の人口密度を見てもわかり、過度な人口集中は是正すべきだ。そして、それは、住民を誘致したい地方自治体が国に働きかけながら、仕事やインフラを準備しつつ行うのが効果的だと考える。

 なお、地方の仕事には、企業や工場の誘致だけでなく、*1-8のように、農業や食品加工業もある。また、*1-4のように、外国人のビジネス関係者もおり、全入国者に出国前72時間以内の陰性証明書を求めて空港での検疫も強化すればかなり安全だが、これまで空港では検査しなかったり、検査で陽性が判明しても行動制限をしなかったりしたのが甘すぎたと思う。

(2)地方と仕事
 *2-1も、「①大都市圏への人口集中を是正し、地方に人が住み続ける分散型社会を構築することは、持続可能な国土づくりに不可欠」「②都市を志向する価値観が変化し、自然豊かな環境や人との繋がりを求めて地方移住を考える人が増加」「③移住促進で必要なのは仕事の確保」「④政府は分散型社会の姿を描き、実効ある施策を講じるべき」としており、このうち①については、全く賛成だ。

 地方には豊かな資源を利用した農林漁業や食品加工業などの重要な産業があるのに、人手不足の危機に瀕している。また、観光・体験・研修等の分野と連携した新しいビジネスの展開もでき、再エネ発電を農林漁業地域で展開すれば、その地域に仕事ができると同時にエネルギー自給率が上がるため、②③も自然な人の流れにできるのである。従って、④のように、国や地方自治体が福祉・教育・交通などのインフラ整備を後押しして、地方分散を進めるべきだ。

 なお、都市から農村への移住は、移住者を受け入れた側がよそ者として排除するのを辞め、都市育ちの人のセンスを活かしながら共生すればよい。そもそも、戦後教育を受けて農村から都市に移住した世代には、ムラ社会の封建性から逃れて自由になり、新しい挑戦をするために都市に出た人が多い。しかし、今では農村でもその世代が“高齢者”と呼ばれているので、都市の若者が農村に移住しても楽しく共生できると思うのである。

 2021年1月9日、日本農業新聞が論説で、*2-2のように、「⑤自立する地域を協同組合が主導しよう」というメッセージを発信している。確かに、「⑥地方への移住者の定着支援」「⑦仕事づくり」「⑧安心して暮らせる地域社会づくり」などで農業協同組合にできることは多く、地元自治体と連携して全国から多くの新規就農者を呼び込んでいるJAもある。これは、多くの地域で参考にしたいことである。

(3)エネルギーも分散型へ
1)エネルギーの変換
 毎日新聞が、*3-1のように、「脱炭素は社会貢献でなくなった」と題して、「①アップル向け製品には、再エネ使用が最低条件」「②恵和は和歌山の製造拠点で使用電力の3分の1を再エネに切り替え、電気代が1割程度上がった」「③アップルは2030年までに、サプライチェーンを含む事業全体でカーボンニュートラルを達成すると宣言した」と記載している。

 私は、③の宣言をしたアップルは偉いが、②のように、アップルから言われて仕方なく使用電力の3分の1を再エネに切り替えた日本企業やいつまでも再エネに切り替えると電気代が上がると言っている日本政府・メディアは情けないと思う。そして、これも、新型コロナと同様、不作為によるものなのだ。

 このように、環境意識の低い日本政府や日本企業に対し、取引先の海外企業から再エネ導入圧力が強まるのは大変よいことで、これまでの誤った政策により、出遅れた日本の再エネによる発電コストは下がっていないのだ。これには、産業だけでなく、国民も迷惑している。

 そのため、取引先企業だけでなく、投資家も再エネ使用を進めている企業に投資するような投資判断をすれば、企業の行動は大きく変わる。そして、これは、日本にとって、エネルギー自給率を上げ、エネルギーコストを下げる成長戦略そのものなのである。

2)移動網について
 ヨーロッパ横断特急が復活し、*3-2のように、2020年12月、欧州4カ国の鉄道事業者が13都市を結ぶ夜行列車ネットワークをつくることで合意して、順次整備を進めるそうだ。その理由は、航空機のCO₂排出量は、鉄道の5倍に達するからだそうだが、ヨーロッパ横断特急も楽しみではあるものの、航空機も水素で動かすべきであり、欧州の航空機大手エアバスは、2035年には温暖化ガス排出ゼロの液化水素を使う航空機を実用化すると既に宣言している。

 日常生活を支える自動車についても、2025年には電動の垂直離着陸機が商用化されるそうだ。また、2030年以降にEVが過半数になればガソリン車より部品が4割減少して参入障壁が下がり、他産業からの参戦も増えて、自動車の価格は現在の5分の1程度になるとのことである。そのため、このリセットの時代に、従来の方法を守り続けるだけの企業に投資していれば、元手を紙くずにすることになるため、機関投資家も投資先をよく選別しなければならない筈だ。

3)原発について
 このような中、*3-3のように、原発の再稼働を画策している経産省と大手電力は、未だに「原発はコストが安い」と言っているが、日本の商業原子力発電は日本原発(株)が1966年7月に東海発電所で営業運転を開始し、それから54年半も経過しているのに、まだ1974年に制定された「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」などの電源三法交付金制度により、立地自治体に電力使用者の負担で補助金を支払っているのだ。

 原発の立地自治体は、原発が危険だということはわかっているから補助金をもらわなければ立地させないのだが、補助金をもらっても見合わないことはフクイチで既に証明済で、そのような状況は早く卒業するにこしたことはないのである。電力の使用者にとっても、余分な負担だ。

 その上、耐用年数が40年とされていた原発を65年に延長したり、新しい原発を建設したりする動きがあるが、「原発はコストが安い」と主張する以上は電源三法交付金を廃止した上で、それでも稼働させる自治体を探すべきであり、そうしなければ再エネと公正な競争にはならない。

 現在稼働している九電の玄海原発と川内原発も、周囲は豊かな農林漁業地帯であり、事故を起こせばそれらの財産をすべて失うリスクを背負っている。にもかかわらず、まだ稼働させるという意思決定をしたいのなら、(最初の商業運転から54年半も経過している原発であるため)すべてを自己責任で行うこととして、その結果によりエネルギーの選択と集中を進めるべきである。

(4)再生医療
1)日本における再生医療研究の経緯
 1995年頃、私は、JETROの会合で、当時、日本では行われていなかったゲノム研究が海外では行われているのを見て、種の進化から考えればヒトの再生医療もできる筈だと思い、経産省(当時は通産省)に再生医療の研究を提案した。そして、日本でも遺伝情報や再生医療の研究が始まり、2005~2009年の私の衆議院議員時代に、文科省、厚労省、経産省などの省庁が協力して再生医療の研究を進めることになったのである。

 そして、この経過の中で、山中伸弥氏が2006年にマウスで、2007年にヒトでiPS細胞の作製に成功され、2012年10月8日に、ノーベル賞受賞が決まった(https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/other/121008-183500.html 参照)。

 なお、理論上は、ヒトES細胞からクローン人間を作成することもできるが、それを行うためには他のヒト胚の核を抜いて使うため、人の生命の萌芽であるヒト胚を滅失させるという問題があるとされる。しかし、私は、受精後のヒト胚は生命の萌芽と言えるが、未受精卵は体細胞の一種であり生命の萌芽とは言えないため、治療用に使うのはアリだと考える(https://spc.jst.go.jp/hottopics/0812saisei/report05.html 参照)。ただし、本人の同意もなく、同じ遺伝情報を持つ別の人を作るのは、倫理上の問題が大きいので禁止すべきだ。

 一方、家畜の場合は、ES細胞を使って、1997年に英国で世界初の体細胞クローンヒツジ「ドリー」が誕生したのをきっかけに、日本でも体細胞クローン生物の研究が牛を中心に進んでおり、1998年に世界初の体細胞クローン牛が誕生し、現在までに約360頭の体細胞クローン牛が誕生したそうだ(http://ibaraki.lin.gr.jp/chikusan-ibaraki/16-06/04.html 参照)。

2)再生医療から再生・細胞医療・遺伝子治療へ
 私が考えていた再生医療は、「大人になると、再び増殖して回復することはない」とされる臓器を再生することで、例えば、心臓・腎臓・脊髄・永久歯などが典型的だが、研究が進むにつれて応用範囲が広がるのは当たり前であるため、倫理上の問題がなければ、最初の定義以外のことはやってはいけないなどということはない。

 しかし、日本では再生医療の研究開始から20年も経たないうちに、「選択と集中」としてiPS細胞の研究のみに限ったのが、間違いだった。商業運転が開始されてから54年半も経過している原発とは異なり、再生医療の研究は基礎研究が始まったばかりでわかっていないことの方がずっと多いのに、原発には未だに膨大な国費を投入しながら、再生医療には「選択と集中」を適用したのが大きな誤りで、何をやっているのかと思った。

 そして、*4のように、他人のiPS細胞から作った「心筋シート」も使えるかもしれないが、「心筋シート」は本人の足の筋肉やES細胞を使っても作ることができ、こちらの方が遺伝情報が同じで拒絶反応がないため、より安全なのである。

 また、免疫細胞による癌治療も、癌細胞だけを選択的に攻撃するので化学療法や放射線治療より優れた可能性を持ち、大量に作って使えば薬の値段は下がるのに、厚労省は未だに副作用が強すぎる上に生存率の低い化学療法・放射線治療・外科療法を標準治療とし、免疫療法は標準治療では効かなくなった人にのみ適用するなどという本末転倒のことをしている。

 そのため、必要で成功確率の高い研究に国費を投入するのは、国民を幸福にしながら行う成長戦略であるにもかかわらず、役に立つことをしないで起こった不幸な出来事に血税から無駄金をばら撒くことばかりを考えているのは、どうしようもない政府・議員・メディアであり、これは首相を変えれば解決するというような生易しい問題ではない(https://spc.jst.go.jp/hottopics/0812saisei/report05.html 参照)。

・・参考資料・・
<都市と新型コロナ>
*1-1:https://jp.reuters.com/article/japan-state-of-emergency-idJPKBN29B315 (REUTERS 2021年1月7日) 緊急事態宣言、1都3県に再発令へ 東京1日500人が解除基準と西村氏
 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、政府は7日夕に緊急事態宣言の再発令を決定する。対象地域は首都圏の1都3県で、期間は1カ月。飲食店を中心に営業時間の短縮を要請するほか、大規模イベントの開催条件も厳しくする。西村康稔経済再生担当相は、東京なら1日の新規感染者が500人まで低下することが解除の判断基準とした。政府は7日午前、専門家に意見を聞く諮問委員会を開催。西村康稔経済再生相は宣言の対象を東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県にし、期間は1月8日から2月7日とする方針を諮り、諮問委で了承された。午後に衆院議院運営委員会で説明した西村氏は、解除の判断基準について、「東京に当てはめると新規陽性者が1日500人」と述べた。東京都が発表した7日の新規感染者は2447人と、初めて2000人を超えた。政府は夕方に対策本部を開き、菅義偉首相が発令を宣言する。その後に記者会見を開いて理由などを説明する。7都府県で開始した昨春の緊急事態宣言とは異なり、今回は感染者が特に急増している首都圏の1都3県に対象を絞る。菅政権は飲食時の感染リスクが高いとみており、飲食店に対し午後8時までの営業時間短縮を要請する。酒類の提供は7時までとする。国内メディアによると、協力に応じた店舗への補償金を現在の最大4万円から6万円に上積みする一方、政令を改正し、知事の要請に応じない店の名前を公表できるようにする。劇場や遊園地には午後8時の閉園を求め、スポーツやコンサートなど大規模イベントは最大5000人に制限する。昨年4月7日に始まった前回は、途中から全国へ対象を拡大。5月25日の全面解除まで、テレワークの徹底や外出自粛が呼びかけられ、百貨店や映画館などが休業、イベントも中止された。西村担当相は7日午前の諮問委員会で、解除基準について、最も深刻な現状のステージ4から「ステージ3相当になっているかも踏まえ総合的に判断する」と説明したが、政府分科会の尾身茂会長は5日夜の会見で「宣言そのものが感染を下火にする保証はない。1カ月未満でそこ(ステージ3)までいくことは至難の業だと思う」と指摘している。国内の新型コロナ感染者は昨年末から急増。厚生労働省によると、今月5日には4885人、6日には5946人の感染が新たに確認され、連日最多を更新している。

*1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOHC080QK0Y1A100C2000000/ (日経新聞 2021/1/8) 大阪・京都・兵庫、緊急事態宣言要請を決定 9日にも伝達
 吉村洋文知事は8日午後の対策本部会議で「この2日間で急拡大している。首都圏と同様の対策を今の時点でとるべきだ」と述べた。京都府の西脇隆俊知事は8日の記者会見で「人口10万人あたりの新規感染者数は京都も高水準にあり、早めの手を打つ必要がある」と話した。年末の忘年会などで若者を中心に感染が広がったことへの危機感を背景に、要請に慎重姿勢を示していた吉村氏は一気に方針転換に傾いた。大阪府内の新規感染者数は8日まで3日連続で過去最多を記録した。12月上旬から年末までは減っていた1週間の累計感染者数は年明けに一変。1月1~7日は前週比1.38倍に急増した。クリスマス会や忘年会など、年末年始のイベントによる感染事例が多かったという。特に感染が広がったのは20代だ。人口10万人あたりの20代の新規感染者数は、大阪市内では約5人(4日時点)から約17人(7日時点)に増えた。行動範囲が広い若者への感染拡大は、さなる感染拡大の「火種」となる。府内ではもともと高齢者の感染者が多く、重症病床の使用率は7割と高止まりしており、府は事態悪化になんとか歯止めをかけたい狙いがあったとみられる。一方で、大阪府内では東京都よりは感染拡大が抑えられているとも言える。政府の分科会が感染状況を判断する6指標では、府は6日時点で陽性率の指標を除いて5指標が最も深刻な「ステージ4」の段階だ。東京都は全てで「ステージ4」を上回っている。療養者数や1週間の感染者数では、大阪府は東京都の6割程度の水準だ。政府はこうした状況も踏まえ、府などと協議を進めるとみられる。

*1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE1234V0S1A110C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202101122212 (日経新聞 2021/1/12) 緊急事態、福岡・栃木も 関西・中部5府県と13日発令
 政府は13日、新たに7府県を緊急事態宣言に追加する。関西圏の大阪、兵庫、京都の3府県と中部の愛知、岐阜2県、福岡、栃木両県だ。8日から宣言期間に入った首都圏とあわせて対象は11都府県になる。新型コロナウイルスの感染が広がっているため。対象自治体の知事は午後8時以降の営業や外出の自粛を要請する。全国的に都市部を中心に新規感染者数が増加し、医療提供体制が逼迫する懸念が出ている。政府は宣言への追加を要望した自治体について、13日に専門家の意見を聞いた上で対象に加える。福岡は要請していないが感染拡大の懸念が強いため追加する。期間は7日に宣言を発令した東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県と同じ2月7日までにする。対象地域の知事は新型コロナに対応する新型インフルエンザ対策特別措置法に基づき、法的根拠を持って様々な要請ができる。対象地域では感染リスクが高いとされる飲食店の時短や、不要不急の外出の自粛を徹底する。首都圏と同様に営業時間は午後8時まで、酒類の提供は午前11時から午後7時までとするよう求める。従わない店舗は特措法に基づき、知事が店舗名を公表できる。要請に応じた店舗には1日最大6万円まで協力金を支払う措置を講じる。菅義偉首相は12日、宣言の対象地域では飲食店の時短、午後8時以降の不要不急の外出自粛、イベントの人数制限、テレワークによる出勤7割削減をするよう求めた。「4点セットの対策で感染を抑え込んでもらいたい」と述べた。スポーツやコンサートなどのイベントは参加者数を最大5千人、収容人数では50%を上限に定める。自治体によっては、劇場や映画館、図書館や博物館といった大規模施設にも午後8時までとするよう呼びかける。宣言解除の基準も首都圏と同じにする予定だ。専門家で構成する政府の新型コロナ対策分科会がまとめた4段階の感染状況のうち最も深刻な「ステージ4」から「ステージ3」への脱却が目安となる。新規感染者数や療養者数、病床の逼迫度合いなど6つの指標を総合的に判断する。感染者数は「直近1週間の人口10万人あたり25人以上」を下回る必要がある。首相は12日、首相官邸で1都3県知事と会談し「迅速に情報共有し具体的な要望などに対して調整していく」と表明した。1都3県と事務レベルの連絡会議を設置する。首相は医療提供体制にも言及し、各知事に国の支援策を活用するよう求めた。新型コロナに対応する病床を増やすため「医療機関への働きかけなど先頭に立ってほしい」と訴えた。東京都の小池百合子知事は「1都3県は海外からの流入も多い」と指摘し、水際対策の厳格化を政府に要望した。政府は13日午後に専門家による基本的対処方針等諮問委員会に地域の追加を諮る。諮問委が妥当だと判断すれば、同日中に西村康稔経済財政・再生相が衆参両院の議院運営委員会に報告した後、政府の対策本部で首相が対象地域の追加を決める。再発令から1週間足らずで対象地域が拡大し、期限の2月7日に予定通り解除できるかは見通せない。昨年春に初めて発令した際は4月7日に発令後、同月16日に対象を全国に広げた。5月4日に期限を一度延長したうえで、全面解除は5月25日までかかった。都市部以外での感染が広がれば、対象地域はさらに増える可能性もある。

*1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP187R6HP18UTFK01B.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2021年1月8日) 全入国者に陰性証明求める 中韓などは入国継続維持
 菅義偉首相は8日夜、テレビ朝日の番組で中韓を含む11カ国・地域を対象にしたビジネス関係者などの入国継続を表明した。政府はこれにあわせて、日本人を含めた全入国者に出国前72時間以内に陰性を確認した証明書を求める、空港での検査を強化するといった検疫強化策を発表した。これにより全入国者について、それぞれの国・地域の出国前と日本への入国時の2回、陰性を確認することになる。首相の入国継続方針に対しては、与野党に加えSNS上でも批判が殺到していた。このため入国継続は維持する一方、検疫強化に乗り出した格好だ。首相は番組で11カ国・地域からの入国を止める考えはないか問われ、「安全なところとやっている」と強調。そのうえで新型コロナの変異ウイルスの市中感染が確認されるまで、受け入れを続ける方針を示した。空港検査の強化は、入国拒否対象以外からの入国者にも、空港での検査を実施するというもの。政府は約150カ国・地域を入国拒否とし、全入国者に空港で検査している。11カ国・地域のうちマレーシア以外は11月に入国拒否対象から除外され、空港での検査をしていなかった。

*1-5:https://www.agrinews.co.jp/p52857.html (日本農業新聞 2021年1月8日) [新型コロナ] 緊急事態再宣言 1都3県、来月7日まで 飲食店午後8時まで一斉休校は要請せず
 政府は7日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県を対象に、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を決めた。期間は8日から2月7日までで、感染リスクが高いとされる飲食店などへの営業時間の短縮要請が柱。小中高校の一斉休校は求めないが、外食やイベント需要の減少などで農産物の価格に影響が出る可能性がある。宣言発令は昨年4月以来2回目。首都圏の感染拡大が止まらず、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)していることを踏まえた。菅義偉首相は対策本部後の記者会見で「何としても感染拡大を食い止め、減少傾向に転じさせるため、緊急事態宣言を決断した」と述べた。コロナ対策の新たな基本的対処方針では、飲食店に対し、営業時間を午後8時までに短縮し、酒類の提供は午前11時から午後7時までとするよう要請。応じない場合は店名を公表する一方、応じた場合の協力金の上限は、現行の1日当たり4万円から6万円に引き上げる。宅配や持ち帰りは対象外とした。大規模イベントの開催は「収容人数の50%」を上限に「最大5000人」とする。午後8時以降の不要不急の外出自粛も求める。出勤者数の7割削減を目指し、テレワークなどの推進を事業者らに働き掛ける。宣言解除は、感染状況が4段階中2番目に深刻な「ステージ3」相当に下がったかなどを踏まえ「総合的に判断」するとした。西村康稔経済再生担当相は同日の衆院議院運営委員会で、東京に関しては、新規感染者数が1日当たり500人を下回ることなどが目安との認識を示した。政府は対策本部に先立ち、専門家による基本的対処方針等諮問委員会を開き、西村氏が宣言の内容などを説明し、了承された。その後、西村氏は衆参両院の議院運営委員会で発令方針を事前報告した。政府は昨年4月7日、東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し、16日には全国に拡大した。5月25日に全面解除したが、農畜産物では、飲食店やイベントの需要の激減で、牛肉や果実、花などの価格が下落した。政府は、コロナ対策を強化するため、特措法の改正案を18日召集の通常国会に提出する方針だ。
●業務需要減加速の恐れ
 緊急事態宣言が再発令されることを受け、流通業界や産地では農畜産物取引への影響が懸念されている。飲食店向けや高級商材はさらに苦戦する様相。一方、家庭消費へのシフトが進んでおり、対象地域が限られることから、前回宣言時ほどの打撃にはならないとの声もある。品目、売り先で影響の大きさが異なる展開になりそうだ。米は、春先のようなスーパーでの買いだめは現状、起きていない。しかし、飲食店の営業縮小で業務用販売は厳しさが増す見通しで、JA関係者は「今も前年水準に戻り切れていない。在宅勤務が増え、米を多く使う飲食店の昼食需要までなくなる」と警戒する。青果物は、飲食店の時短営業で仕入れに影響が出てきた。東京都の仲卸業者は「7日から注文のキャンセルが出た。多くの店が休んだ前回の宣言時ほどでなくても、1件当たりの注文量はがくっと減る」と懸念する。果実は、大手百貨店が営業縮小する方針で、メロンなど高級商材を中心に販売が厳しくなるとの見方で出ている。鶏卵は加工・業務需要が全体の5割を占めるため、飲食店の時短営業の拡大による販売環境の悪化が予想される。切り花は、葬儀や婚礼の縮小、飲食店の休業や成人式などイベントの中止で業務需要が冷え込むため、「相場は弱もちあいの展開が避けられない」(花き卸)見通し。長引けばバレンタインデーの商戦に影響するとの懸念もある。一方、牛乳・乳製品は家庭用牛乳類の販売好調が続く。緊急事態宣言再発令で業務需要はさらに減少する恐れがある。だだ、「前回のような全国一斉休校がなければ加工処理量の大幅な増加はない」(業界関係者)との観測も広がる。食肉は各畜種ともに内食需要の好調が継続しそうだ。豚肉、鶏肉は前回の緊急事態宣言以降、価格が前年を上回って推移しており「国産は在庫も少なく、引き続きスーパー向け中心に引き合いが強まりそう」(市場関係者)。和牛は外食から内食へのシフトが進んでおり、「外食向けの上位等級は鈍化するものの、3、4等級は前回のような大きな落ち込みはない」(都内の食肉卸)との見通しだ。

*1-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14754956.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年1月7日) 東京一極集中 コロナ機に是正に動け
 新型コロナ禍は日本が抱える多くの問題を改めて浮き彫りにした。そのひとつに都市部、とりわけ東京への一極集中が生み出すひずみがある。人が大勢いるところで感染症は猛威をふるう。この災厄を、かねて指摘されてきた過度な人口集中の是正に、社会全体で取り組むきっかけとしたい。変化のきざしはある。総務省によると、東京都から転出した人は昨年7月から5カ月連続で転入者を上回り、計約1万7千人の転出超過となった。全体からみればまだ微々たる数字でしかない。しかしテレワークが普及し、仕事の内容によってはあえて過密の東京に住む必要がないこと、通勤に要する時間を家族や地域の人々との交流、趣味などにあてれば人生が豊かになることを、多くの人が身をもって知った。人口集中がもたらす最大のリスクが災害だ。東京の下町で大規模洪水があれば250万人の避難が必要となる。おととしの台風19号の際、広域避難の呼びかけが検討されたが、これだけの人数を、どこへどうやって移動させるか、改めて課題が浮上した。その後、政府の中央防災会議の作業部会も具体的な答えを示せていない。30年以内に70%の確率で起こるとされる首都直下地震や、南海トラフ地震などへの備えも怠れない。一方で人口の分散は、近隣自治体にとっては住民を呼び込み、まちに活気を取り戻す好機でもある。例えば茨城県日立市は、市内への移住者に最大約150万円の住宅費を助成するなど、テレワークの会社員をターゲットに優遇措置を講じる。県が都内に設けた移住相談窓口の利用は前年比で5割増えたという。昨年8月に合同でテレワークセミナーを開いた山梨、静岡両県は首都圏と名古屋圏双方への近さをアピール。移住者の経験談を織り交ぜながら「心のゆとりや歴史、文化との出会いを」と呼びかけた。脱東京といっても行き先は周辺県にとどまる例が多いが、視線をもっと遠くに置いてもいいのではないか。内閣府が昨年5~6月に行ったネット調査によると、3大都市圏に住む人で地方移住への関心が「高くなった」「やや高くなった」と答えた人は、東京23区の20代で35・4%、大阪・名古屋圏の20代でも15・2%にのぼった。こうした声に合致する施策の展開が求められる。一極集中の是正こそ多様なリスクの低減につながるとの視点に立ち、防災すなわちインフラ整備といった旧態依然の政策のあり方を見直す。そのための議論が国会、自治体、企業などの場で深まることを期待したい。

*1-7:https://uub.jp/rnk/chiba/p_j.html (都道府県の人口・面積・人口密度ランキングより抜粋)
<人口,人>           <面積,km²>        <人口密度, 人/km²>
1 東京都 13,971,109      1 北海道 78,421.39      1 東京都 6,367.78
2 神奈川県 9,214,151      2 岩手県 15,275.01      2 大阪府 4,627.76
3 大阪府 8,817,372       3 福島県 13,784.14      3 神奈川県 3,813.63
4 愛知県 7,541,123       4 長野県 13,561.56      4 埼玉県 1,933.63
5 埼玉県 7,343,453       5 新潟県 12,583.96      5 愛知県 1,457.77
6 千葉県 6,281,394       6 秋田県 11,637.52      6 千葉県 1,217.90
7 兵庫県 5,438,891       7 岐阜県 10,621.29      7 福岡県 1,024.12
8 北海道 5,212,462       8 青森県 9,645.64       8 兵庫県 647.41
9 福岡県 5,106,774       9 山形県 9,323.15       9 沖縄県 639.12
・・
41 佐賀県 808,821       41 鳥取県 3,507.14      41 青森県 127.57
42 山梨県 806,210       42 佐賀県 2,440.69      42 山形県 114.23
43 福井県 762,679       43 神奈川県 2,416.11      43 島根県 99.43
44 徳島県 721,269       44 沖縄県 2,282.59      44 高知県 97.10
45 高知県 689,785       45 東京都 2,194.03      45 秋田県 81.81
46 島根県 666,941       46 大阪府 1,905.32      46 岩手県 79.36
47 鳥取県 551,402       47 香川県 1,876.78      47 北海道 66.47

*1-8:https://www.agrinews.co.jp/p52864.html (日本農業新聞 2021年1月9日) 緊急事態宣言 ガイドライン順守を コロナ感染防止で農水省
 農水省は緊急事態宣言の再発令を受け、農家に新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた業種別ガイドラインの順守を呼び掛ける。ガイドラインは大日本農会のホームページに掲載。日々の検温や屋内作業時のマスク着用、距離の確保などの対策をまとめている。感染者が出ても業務を継続できるよう、地域であらかじめ作業の代替要員リストを作ることも求める。ガイドラインは①感染予防対策②感染者が出た場合の対応③業務の継続──などが柱。予防対策では、従業員を含めて日々の検温を実施・記録し、発熱があれば自宅待機を求める。4日以上症状が続く場合は保健所に連絡する。ハウスや事務所など、屋内で作業する場合はマスクを着用し、人と人の間隔は2メートルを目安に空ける。機械換気か、室温が下がらない範囲で窓を開け、常時換気をすることもポイントだ。畑など屋外でも複数で作業する場合は、マスク着用や距離の確保を求める。作業開始の前後や作業場への入退場時には手洗いや手指の消毒を求めている。人が頻繁に触れるドアノブやスイッチ、手すりなどはふき取り清掃をする。多くの従業員が使う休憩スペースや、更衣室は感染リスクが比較的高いことから、一度の入室人数を減らすと共に、対面での会話や食事をしないなどの対応を求める。感染者が出た場合は、保健所に報告し、指導を受けるよう要請。保健所が濃厚接触者と判断した農業関係者には、14日間の自宅待機を求める。保健所の指示に従い、施設などの消毒も行う。感染者が出ても業務を継続できるよう、あらかじめ地域の関係者で連携することも求める。JAの生産部会、農業法人などのグループ単位での実施を想定。①連絡窓口の設置②農作業代替要員のリスト作成③代行する作業の明確化④代替要員が確保できない場合の最低限の維持管理──などの準備を求める。

<地方と仕事>
*2-1:https://www.agrinews.co.jp/p52851.html (日本農業新聞論説 2021年1月8日) 地方分散型社会 持続可能な国土めざせ
 大都市圏への人口集中を是正し、地方に人が住み続ける分散型社会を構築することは、持続可能な国土づくりに不可欠である。地方、特に農村への移住をどう促すか。政府には、新型コロナウイルス禍を踏まえた分散型社会の姿を描き、実効ある施策を講じることが求められる。都市を志向する価値観が変化し、自然豊かな環境や人とのつながりを求め地方移住を考える人が増えている。総務省の地域おこし協力隊の任期終了者で、活動先に定住した人が2019年度時点で2400人を超え、5割に上るのもその兆候だ。移住の促進で必要なのは仕事の確保である。新たな食料・農業・農村基本計画で政府は、農村を維持し、次世代に継承するために地域政策の総合化を打ち出し、柱の一つに「所得と雇用機会の確保」を掲げた。観光や体験、研修など、さまざまな分野と連携した新しいビジネスの展開などを想定している。しかしコロナ禍で人を呼び込むのが難しくなり、外食や農泊、農業体験を含む観光産業など農業との連携が期待される分野は苦境が続く。半面、家庭需要が高まり、直売所の利用など地産地消の動きは活発化。また起業や事業承継、農業と他の仕事を組み合わせた半農半X、複数の業種をなりわいとする多業など、移住者らによる多様な仕事づくりや働き方がみられる。政府は農業・農村所得の倍増目標も掲げてきた。達成のためにも事業の継続を支える一方、新たな動きや、コロナ禍の中での経済・社会の変化を捉え、所得確保と雇用創出の政策を構築すべきだ。また東京一極集中の是正を、地方創生や国土計画の中心課題に据えてきた。しかし一極集中に歯止めがかからず、農村の高齢化・過疎化が進んだ。政策の実効性が問われる。移住者と地域の融和も重要である。地域の一員として溶け込むには移住前から住民と対話・交流し、心を通わせる必要がある。しかしコロナの感染拡大で現地を訪れ、対話する機会を設けるのが難しくなっている。一方、新しい対話の手法として移住者と地域をオンラインでつなぎ、説明会や就農座談会を開く動きが増えている。自治体や先輩移住者が暮らしや仕事などについて説明。ふるさと回帰支援センターが昨年10月、オンラインで開いた全国規模の移住マッチングイベントには1万5000人超の参加があった。移住希望者と地域がオンラインで対話し、信頼関係を育む。その上で感染防止対策を徹底し、現地を訪れるなど新様式が一般化する可能性がある。多くの地域で実践できるようノウハウの共有や費用支援が重要だ。地方への人の流れをつくる方策として政府は、テレワークの推進などを念頭に置く。併せて説明会から移住、定着までを段階を追って、また所得・雇用機会の確保から生活環境整備まで幅広く支援する重層的、総合的な政策体系を構築すべきだ。

*2-2:https://www.agrinews.co.jp/p52861.html (日本農業新聞論説 2021年1月9日) 自立する地域 協同組合が主導しよう
 新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、「3密」を回避できるとして地方への関心が高まっている。地方への移住者の定着支援では、仕事づくりや安心して暮らせる地域社会づくりなどで、協同組合にこそ役割発揮が求められる。都市集中型から地方分散型への社会転換を協同組合の力で後押ししたい。
都市での生活は、満員電車での通勤をはじめ、密閉、密集、密接が避けられない環境にある。コロナ禍を契機にテレワークが広まり、一部業種では都市にいなくても働けることが分かった。観光地などで休暇を過ごしながら働くワーケーションを実践する人も増えている。JA全中の中家徹会長は2020年の総括として「3密社会の回避へ東京一極集中から分散型社会への潮流が生まれている」と指摘した。今後、地方に移住し、地域に根付いて働きたいというニーズも高まってくるだろう。協同組合として何ができるか。徳島県JAかいふは地元自治体と連携して、全国から多くの新規就農者を呼び込んでいる。農業と合わせて、豊かな自然でサーフィンや釣りなどが楽しめるとしてアピール。栽培を1年間学べる塾や、環境制御型ハウスの貸し出しなど手厚く支援する。15年度から始め20年度までに24人を受け入れ、20人が就農したという。総合事業を手掛けるJAは新規就農者に農地や住居、営農指導、労働力など多様な支援を用意し、定着を後押しできる。医療や介護といった暮らしや、組合員組織を通じた仲間づくりなどにも貢献できる。生協など他の協同組合と連携すれば支援の幅はさらに広がる。地方に移住してくる人に対して、協同組合が仕事や生活を丸ごと支援する仕組みの構築も考えられる。また今後期待されるのが、組合員が出資・運営し、自ら働く労働者協同組合だ。各地域での設立を後押しする法律が20年に成立。たとえ事業は小さくても地域の課題を解決しつつ、自ら経営する新しい働き方として地方にも広がる可能性がある。コロナ禍の収束は依然見通せない。仮に収束してもグローバル化が進み、今後も感染症が世界を脅かす懸念は強い。都市から地方への単純な人口移動にとどまらず、大都市圏を中心に他の地域と激しく人や物が行き来する社