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2023.12.11~2024.1.3 日銀の金融緩和は円の価値下落を通して、円安・物価上昇・実質賃金の減少を引き起こしているだけである ← 本当の処方箋は・・ (2024年1月4日に追加あり)
(1)日銀の金融緩和・物価上昇・円安政策が引き起こしたこと

 
   2023.6.16TDB EconomicOnline      2023.8.19、2023.8.25日経新聞

(図の説明:左図は、2008~2023年のドル円相場で150円/$前後と円安だ。また、中央の図のように、欧米の中央銀行は物価安定のために公定歩合を引き上げたので、コロナと戦争による物価上昇が一段落しつつあるが、日本は好景気でないにもかかわらず、日銀のインフレ政策によってコストプッシュインフレによる物価上昇が続いている。そして、右図のように、輸入依存である上に購入頻度の高いエネルギー・食料の値上がり率が高いため、日本の消費者の物価実感は前年のみとの比較でさえ14.7%の上昇と著しい)

  
2022.11.11WeeklyEconomist   2023.7.22東京新聞   2023.11.15日経新聞

(図の説明:左図のように、携帯電話料金が下がったのは可処分所得を上げることに“寄与”したが、円安とロシア・ウクライナ戦争でエネルギーと食料の物価指数は著しく上がって可処分所得を下げることに“寄与”した。そして、輸入価格の上昇を通して国富が海外に流れたため、中央の図のように、消費者物価指数が上がると同時に実質賃金は下がった。それでも「賃金は物価以上に上げられる」と言っている人は、マクロ経済もミクロ経済もその繋がりも理解していない人である。そして、右図のように、物価上昇に伴って消費需要とそれに伴う民間投資が減り、効率の悪い公的需要でそれを埋めることはできないため、ますますGDP成長率が下がっているが、これは政策を見ればやってみなくても明らかなことである)

  
 2022.6.7Diamond    2022.5.8読売新聞     2022.5.30Economist

(図の説明:左図は、1995年を100とした主要国の実質GDPの推移で、2021年時点でアメリカは180超だが、日本は120程度でイタリアといい勝負だ。また、中央の図は、2022年までの日本の実質GDPの推移で、2020年にコロナで異常な変動をした以外は0近傍にいる。何故こうなったかを分析するため、右図の名目GDPの見ると、政府消費と帰属家賃が伸びて民間消費と総投資が減っている。つまり、政府消費ばかりが増え、民間の可処分所得が減ったため、経済が落ち込んだことを意味している)

1)円の価値の下落
 *1-1-1のように、2023年12月11日午前の東京外国為替市場円相場は145円/$だ。これは、*1-1-2の150円台/$より少しは円高になったものの小さな変動で、趨勢は一番上の段の左図のように、2012年の70円台/$を最高の円高として、円安方向へ移行している。

 もちろん、2012年の70円台/$は日本いじめとも思われる円高で、日本企業は海外移転を迫られ、(政府が為替相場を操作することはできないため)100~120円台/$に至るまでの日銀の金融緩和は必要だったと思うし、それが当時の日本の実力だっただろう。しかし、この間に政府がなすべきだったことは、産業構造改革のための歳出であって景気対策のバラマキではなかったため、景気対策のバラマキを大合唱していた人々は全て、経済敗戦の戦犯である。

 そして、日銀は、「2%のインフレ目標を達成していない」などとして大規模な金融緩和を続けたため円の価値が下落して円安が進み、ロシア・ウクライナ戦争でエネルギー・食料の供給が減ったことも影響して、日本では、輸入依存でかつ購入頻度が高く、生活必需品でもあるエネルギーと食料の物価が著しく上がった。そのため、一番上の段の右図のように、2023年の物価実感は前年同月比でさえ14.7%の上昇となったのである。

 確かに、円安は自動車等輸出企業の利益増やそれに伴う賃上げ効果も一部にはあるが、日本の製造業は1990年代に始まった世界の大競争時代(生産コストの安い共産主義諸国が市場参入して起こったもの)に、為替レートが100円/$以下だったため、既に生産コストの安い東欧・中国・東南アジアなどに移ってしまっている。

 その上、今では、人口構成は退職した高齢者の割合が高く、新製品の研究開発を疎かにしたため輸出競争力のある製品が生まれにくくなっており、国内の製造業の競争力や稼ぐ力は弱くなっているのだ。そのため、食料・エネルギー・原材料の輸入コスト増による物価上昇のディメリットの方が大きくなっている。

 このような中、根本的解決をせずに政府・日銀が「円買いドル売り介入」をしても、円安の動向を変える力にはなり得ない。また、*1-1-2も「国内の消費者物価(生鮮食品を除く)」と記載しているが、生鮮食品を除いた消費者物価上昇率は、実際に消費者が直面している物価上昇率とはかけ離れているため、数字のトリック以上の意味は無い。

 従って、エネルギーは、いつまでも輸入依存の原油に頼らず、食料は、その生産過程まで含めて自給率を向上させる方向での歳出改革を行なう必要があり、地球温暖化対策と合わせてこれらの課題を同時に解決する方法が、農林漁業地帯や地方で再エネ発電を行なってエネルギー自給率を上げ、電力料収入を農林漁業地帯や地方に入れることによって人口の地方分散と食料自給率向上を行なうことなのである。しかし、理系音痴が政策作成をしているため、未だ高い化石燃料への郷愁が止まらず、その輸入が減らないのである。

 なお、植田日銀総裁は、「賃上げを伴う安定的な物価上昇ではない」などとして大規模緩和を続けておられるが、日本のインフレは、有望産業を潰したり減らしたりし、教育や研究開発を疎かにして競争力のある製品を生まれにくくしているため、物価高に賃上げが追い付くわけがないのである。その結果として、(1)2)の実質所得と消費支出の減少が起こっているのであるため、その説明は2)で行なう。

2)実質所得と実質消費支出の減少
 *1-2-1のように、厚労省が11月7日に発表した9月の毎月勤労統計調査速報で、1人当たり実質賃金は前年同月比2.4%減少し、18ヶ月連続のマイナスだそうだ。ここでも、「物価高に賃金上昇が追いつかない」と書かれているが、それなら、そのうち賃金上昇が物価上昇を超える筈であるため、今は超えない理由を書くべきである。

 しかし、第二次産業(製造業)の多くは既にコストの安い海外に移転しており、第一次産業(食料・エネルギー・鉱物)は輸入が殆どだ。その上、アメリカのように、生産性が上がったわけではなく、付加価値の高い製品を開発して市場投入したわけでもないため、私は賃金が長期的に物価上昇を超えて上がる要因はないと思っている。さらに、現在の日本は、高齢や女性であることを理由に働けない人の割合が高いため、可処分所得の少ない世帯が増えているのだ。

 また、第三次産業のうち高齢者や働く女性が増えれば有望産業になる筈の家事支援・介護・医療については、政府は開発するどころか抑えることばかり考えている。しかし、本当のニーズを無視した官製の産業政策を無理に進めても、金がかかるばかりで成功がおぼつかないため、実質賃金のマイナスは続くだろう。

 そして、実質可処分所得が減れば、*1-2-2のように、(泥棒でもしない限り)実質消費支出も減少させざるを得ない。特に物価上昇の激しい食料等の生活関連や住宅支出が減って消費を押し下げ、つまりは国民を貧しくして政府支出を増やしているということだが、それは実質GDP成長率が上がらない良い事例なのであり、悪循環に陥っていると言える。

3)実質GDPの減少
 *1-3-1は、2023年7~9月速報値では、実質GDPが年率換算で2.1%減少し、その理由は、①物価高を受けて国内総生産(GDP)全体の5 割超を占める個人消費の不振 ②企業の設備投資の落ち込み ③住宅投資や公共投資もマイナスで、国内需要は総崩れ ④輸出は自動車は増えたが、インバウンド(訪日客)消費が振るわず ⑤新型コロナウイルス禍からの景気回復に急ブレーキがかかった と記載している。

 外需(輸出)を伸ばしたければ、国内の生産コストが世界の大競争に勝てるだけの低さでなければならないが、現在の日本は、価格転嫁による物価上昇をすすめ、さらに賃金上昇・働き方改革・外国人労働者の締め出し等で、それとは逆の政策を採っている。

 「それなら付加価値を上げればよいではないか」という意見も出るが、新型コロナワクチンや治療薬の開発・速やかな製造の例のように、付加価値の高い新製品を製品化して市場投入するための教育・研究開発・迅速な市場投入体制ができておらず、これは再生医療・EV・再エネ等の他の技術についても同じことが言えるのだ。一方、四半世紀で実質GDPが1.8倍になったアメリカは、これができているのである。

 それらの結果、内閣府が2023年12月8日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値では、*1-3-2のように、GDPが年2.9%減に下方修正され、内需の柱である個人消費が節約のため下方修正された。

4)実質賃金低下による節約で生じるエンゲル係数の上昇
 「エンゲル係数」とは「家計の消費支出にしめる食費の割合(%)」で、食費など必需品の節約には限度があることから、実質可処分所得が低ければ低いほどエンゲル係数は高くなる(女子生徒は、これを中学校の家庭科で習った)。

 そのような中、*1-4-2は、①我が国のエンゲル係数は2022年6月に26.0%まで低下して2023年7月に28.2%に上昇 ②エンゲル係数上昇は食料品を中心とした物価上昇による実質収入減が主因 ③高齢者の多い無職世帯は化石燃料等の資源高が支出を押し上げ、(食費の割合である)エンゲル係数の上昇を抑制 ④食料・エネルギー価格上昇は低所得者層を中心に購入価格の上昇を通じて購買力を低下させた ⑤我が国は低所得者世帯の割合が上がり、高所得者世帯の割合が下がって家計全体が貧しくなった ⑥実質賃金の低下に加え、高い食料品価格上昇による家計の節約志向がエンゲル係数を上げた ⑦食料・エネルギーなど国内で十分に供給できない輸入品の価格上昇による物価上昇は「悪い物価上昇」 ⑧国内需要の拡大によって物価が上昇し、企業収益の増加を通じて賃金が上昇し、国内需要が更に拡大する好循環が「良い物価上昇」 ⑨輸入原材料の価格高騰を原因とした食料・エネルギー価格の値上げによる物価上昇は、国内需要の拡大を伴わず、家計の節約を通じて国内需要を委縮させる ⑩世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口増加・所得水準向上による需要拡大・脱炭素化や都市化による農地減少で逼迫 ⑪日銀は2%の物価目標を設定し、名目賃金上昇率+3%、実質賃金上昇率+1%の姿が理想的であるとする ⑫そのため実質賃金が17カ月連続マイナスの現在、インフレ率が2%を超えても日銀が理想とする「2%物価目標」には程遠い 等としている。

 このうち、①②④はそのとおりだが、③の高齢者は、年金給付減をはじめとして社会保険料・税金・医療・介護費の増加により名目可処分所得が減少し、その上で化石燃料等の資源高が支出を押し上げたため、食費を増やすこともできずエンゲル係数の上昇が抑えられたのだと思う。無職の生活保護世帯も、同様に購買力低下が著しいだろう。

 また、物価高騰によって実質預金残高も目減りしたため、⑤のように、低所得者世帯の割合が上がって家計全体が貧しくなった。そして、⑥のように、実質賃金低下と食料品価格上昇により、家計は節約せざるを得ず、食費を増やせる世帯はエンゲル係数を上げたが、食費も増やせない世帯はエンゲル係数を上げることさえできずに、食事を減らして対応したということである。

 さらに、*1-4-2は、⑦⑧⑨のように、現在の日本で起こっている物価上昇は、「悪い物価上昇」であって「良い物価上昇」ではなく、むしろ家計の節約を通して国内需要を委縮させていることがわかっていながら、⑪⑫のように、日銀の「2%の物価目標」は妥当で、実質賃金上昇率+1%になるまで金融緩和を続けなければならないとしている。

 しかし、米欧の中銀で掲げている「2%の物価目標」は、インフレ率が6~7%など高い時期に長期的物価安定目標を2%に抑えるというもので、日本のように「物価上昇率0は、デフレで景気が悪いからだ」として無理に物価上昇率を2%に上げるため金融緩和をしているのとは正反対なのだ。日本には、故意か過失か、これがわかっていない政治家・メディア・経済学者が多く、国民を貧しくして困らせても金融緩和を続ける口実になっているのである。

 なお、⑩のうち「世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口増加・所得水準向上による需要拡大・都市化による農地減少で逼迫する」というのは正しいが、「脱炭素化すると食料・エネルギー需給が逼迫する」という主張は化石燃料や原発を継続して使うための故意の誤りである。何故なら、農林漁業地帯で再エネ発電をして副収入を得させれば、農林漁業従事者が減らず、人口の過度な都市への集中や農地の減少などを防げるからである。

 また、*1-4-1は、⑬7~9月期の実質国内総生産(GDP)は3四半期ぶりのマイナス成長 ⑭物価高で打撃を受けた家計が節約を進め、消費が腰折れした日本経済の姿 ⑮消費回復には賃上げ継続が欠かせず、2024年の春闘が鍵 ⑯物価は2年前と比べて2~3割上昇 ⑰「会計の時に驚く。なるべく特売品を買う」 ⑱「エンゲル係数」は1~9月、2人以上の勤労者世帯で月平均26.3%に上がり、「雇用者報酬」は前年同期比2.0%減少 ⑲首相は「デフレ完全脱却に向けた千載一遇のチャンスが巡って来ている」として、経団連の十倉会長らに2024年春闘で2023年を上回る賃上げを求めた ⑳減税や大規模緩和で経済を支え続けても中長期的な潜在成長率は伸びず、OECDによると2022年時点の潜在成長率は日本0.5%、米国1.8%・ドイツ0.9%以下 ㉑賃上げとともに経済を中長期的な軌道に乗せられるかどうかも大きな課題 と記載している。
 
 ⑬⑱は事実に基づいた主張であり、⑭⑯⑰がその原因だが、⑲のように、「悪い物価上昇」を「デフレ完全脱却に向けた千載一遇のチャンス」と表現するのは、状況を理解していないか、無謬主義のごまかしである。そして、⑮⑲㉑の賃上げを行なったとしても、「悪い物価上昇」下の賃上げが実質賃金上昇に繋がるわけはない上に、賃上げの恩恵に預からない人の割合も高いため、経済を中長期的な軌道に乗せて「良い物価上昇」に繋げることはできないのだ。

 そして、⑳のとおり、減税や大規模緩和で経済を支え続けても、バラマキでは中長期的な潜在成長率を伸ばすことができない。そのため、OECDによる日本の2022年の潜在成長率は0.5%にすぎず、必要なことをしてきた米国の1.8%・ドイツの0.9%を下回っているのである。

5)金融緩和(=市場金利の低下)と債券価格・株価・為替の関係
イ)市場金利と(国債を含む)債券価格の関係
 市場金利が上がると債券価格が下がるが、その理由は、売買差益を見込んで債権を買う投資家にとって重要なのは債券価格で、市場金利が上がると市場より金利の低い債券は買い手がなくなり、市場金利と一致するまで債券価格が下落する調整が働くからである。

ロ)円の為替変動と債券価格の関係
 円高になると(国債を含む)円建て債券の価格が上がる理由は、海外を含む投資家が為替差益を狙って円建て債権を購入し、円建て債券の人気が上がるからである。逆に、円安になると、円建て債券の価格は下落する。

ハ)市場金利と株価の関係
 金融引き締めで市場金利が上がると、配当が市場金利の高さと株式のリスクに見合う水準まで株価が下落する調整が働く。また、金融引き締めは、景気を押し下げる効果もあるため、それ織り込んだ株価の下落もある。

 反対に、金融緩和が行われて市場金利が下がると、企業は借入れコストが下がるため投資を増加させるが、どの国のどの地域で投資を増加させるかは、①高いコスト競争力 ②良い消費マーケットの存在 ③研究開発に好都合な条件 等の長所を持つ場所になるため、金融緩和を行った国で投資されるとは限らない。

 日本は、戦後復興期から高度経済成長期まで、①の高いコスト競争力によって投資され、製品が輸出される開発途上国型だったが、その後は、②の良い消費マーケットの存在で投資される成熟経済型になった。しかし、実質賃金が下がり、貧しい人の割合が増えた現在は、②も怪しくなった。③については、前にも書いたとおり、日本は、研究開発に基づく迅速な市場投入がやりにくい国であるため、日本企業でも研究開発施設を海外に持つところが少なくない状況がある。

二)株も債券も円もトリプル安・・
 このような中、*1-5には、①2023年9月28日の東京金融市場は株式・円・国債が売られる「トリプル安」となった ②その理由は、米景気が底堅く、米長期金利は年4・642%と16年ぶりの高水準で、FRBが金融引き締めを続けるとの観測になったこと ③そのため、連日円安が進んで150円/$に近くなった と記載されている。

 しかし、外国為替市場に関しては、日本は金融緩和による超低金利政策を10年以上も続けているため、日米の市場金利差(≒経済の実力差)から金利の低い円を売って金利の高いドルを買う動きが続いており、9月27日のニューヨーク市場・9月28日の東京市場で為替相場が149円台/$になったのは驚くに当たらない。なお、12月15日の現在、為替相場は141円台である。

 また、日経平均株価が短期的に少々下がっても、この10年の長期を見れば金融緩和による超低金利で株価が上昇し続けた後である。そのため、金融緩和は既に限界に達し、株価もピークを迎えたとしても不思議ではなく、それが高下駄を履いた上での日本企業の実力なのかも知れない。

(2)税の原則は公正・中立・簡素 ← 減税できるなら公正・中立・簡素の方向でやるべき
1)物価高の家計負担緩和のためとする補正予算について
 *2-1-1は、①政府は物価高に対する家計負担緩和策として経済対策を決定 ②13兆1992億円の補正予算が財源 ③首相主導の所得税・住民税合計4万円/人の減税は2024年6月からで補正予算に含まれず ④共同通信の世論調査では、非課税の低所得世帯向け7万円給付を含めて「評価しない」が6割超 ⑤「防衛力強化増税等の負担増が控え、財政悪化も懸念」「減税や給付財源は増税回避や財政再建に用いるべき」がその理由 ⑥首相は「経済を立て直した上で防衛力や子ども政策を国民に協力してもらうため、増減税は同時実施にならない」と断言し ⑦首相は「減税は経済の好循環を生むため、物価高を上回る賃上げまで可処分所得を下支えする」と繰り返す ⑧首相の答弁は財政の行く末まで憂慮する国民に対し説得力に欠ける ⑨国民の不信感は保身を図る首相の姿勢にも根差す ⑩自民5派閥がパーティー収入を政治資金収支報告書に過少記載していた問題に、首相は信頼回復のため党として「どう対応すべきか考えたい」と述べた としている。

 このうち①②については、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁返しで資源価格のコストプッシュインフレが起こっており、それでも日銀が金融緩和を続けている大きな流れの中で、物価高に対して多少の家計負担緩和策を採ってもらっても家計にとっては焼け石に水である。しかし、政府歳出は「兆円」単位であり、その借金も最終的には国民が返済しなければならないため、④の「『評価しない』が6割超」というのはよく理解できる。

 また、③については、全員に給付した方が迅速であるのに、所得税・住民税の減税という、もらった人はピンと来ず、忘れた頃に配賦する形になったのは意味不明だった。

 なお、⑤の防衛力強化増税や⑥の子ども政策による国民負担増について、首相は⑦のように、「減税は経済の好循環を生むため、物価高を上回る賃上げまで可処分所得を下支えする」と繰り返しておられるが、コストプッシュインフレで国富の海外流出が増えており、防衛費として経済の生産性を上げない歳出をしていれば、日本経済が継続的に物価高を上回る賃上げをして実質可処分所得を増やすのは不可能であろう。

 また、子ども政策への歳出も、これまでの実績を見る限り、高齢者に負担贈・給付源を押しつけながら、(1つ1つを長くは書かないが)費用対効果の低い使い方をしてきたため、⑧のように、首相の答弁は空手形となり、将来まで考える国民に対して説得力を持たないのである。

 確かに、首相は、(首相の選抜方法やメディア・野党の揚げ足取り志向から仕方がない面はあるのだが)自民党内の派閥・現職国会議員・官僚等に少しずつ妥協し、それによって何をしたいのかも明確に説明できなくなって、政策目的は「首相を続けたい」ということ以外は国民に見えなくなっているため、⑨の意見が出るのである。

 なお、⑩の政治資金収支報告書への過少記載については、メディアは「誰かの首を取る」ことを目的とした非論理的で感情的な報道に終始しているが、くだらないことで首相や大臣を次々に交代させたり、衆議院解散に持ち込んだりしてきたのが、日本経済が世界の中で停滞した大きな理由の1つなのである。

 そのため、首相は、i) 政治資金収支報告書の作成を複式簿記による会計に変更して網羅性・検証可能性を制度的に担保する ii) 会計責任者はじめ関係者は徹底して記載漏れをしない癖をつける iii) 外部監査人に財務諸表の適法性や正確性について保証してもらう(今も外部監査人はいるが、現在の会計制度で保証まではできないため、保証はしていない) 等の内容で、政治資金規正法の会計制度と外部監査制度の改善を行なって信頼回復を計るべきだ。

2)与党税制改正大綱について
 *2-1-2は、自民・公明両党の2024年度税制改正大綱で、①4万円(所得税3万円・住民税1万円)の定額減税実施で年収2千万円超のみ除外 ②子育て世帯と若い夫婦に限り、省エネ基準適合住宅等取得でローン限度額最大1000万円上乗せ維持 ③住宅リフォーム減税も子育て環境のための改修工事を対象に追加 ④2024年12月から高校生の子がいる世帯に1人10,000円/月の児童手当支給、扶養控除は所得税38万円→25万円、住民税33万円→12万円に縮小 ⑤デフレ脱却のため物価高を上回る賃上げや経済成長を後押しする法人税減税(赤字の多い中小企業は税額控除できなかった分を5年間繰り越し可) ⑥首相は「税収増を還元」と言われたが、鈴木財務相は「過去の税収増は政策的経費や国債償還に既に充てられ、減税しない場合と比べて国債発行額は増加」と国会答弁 等としている。

 これに加えて、*2-1-3は、⑦個人も企業も減税が並び、負担増を徹底的に回避して財政規律を省みない ⑧財政悪化がもたらす将来不安が広がる ⑨時代の要請に合致した改革の構想や方向を今年の大綱から読み取ることはできない ⑩定額減税と非課税世帯等への給付には5兆円規模の国費を投入 ⑪中長期の防衛政策を考えれば安定財源の確保を急がねばならないため、法人税だけでも先行して増税できなかったのか ⑫児童手当を高校生の世帯にも支給する代わりに扶養控除を縮小するのは賛成しない ⑬中小企業の賃上げを支援する制度も拡充されたが、赤字会社が6割以上を占めることを考えれば税制以外の手段を含めて「次の一手」を考える時期 とも記載している。

 このうち、①⑥⑦⑧⑩の「5兆円規模の国費を投入して行なう非課税世帯等への給付と定額減税実施は、財政規律を省みず、国債発行額を増加させ、財政悪化の将来不安が広がる」という主張は、全体の収支を見るべきであるため、正しいと思う。

 また、⑨のように、時代の要請に合致した改革の構想や方向を考えるべきであることには賛成だが、⑪の中長期の防衛政策は、i)辺野古の埋め立て ii)オスプレイの使用 iii)兵器の遅れ 等、考え直さなければならないテーマは山ほどあるのに、1度決めたことは無駄でも推進するという姿勢であるため、高い金を払うばかりで役に立たないように見える。つまり、支出は、より効率的かつ効果的な方向への絶え間ない見直しを組み込んだ制度でなければならないのだ。

 さらに、時代の要請に合致した改革の方向性を考えれば、食料・エネルギーの自給率向上は不可欠であるため、②③のように子育て世帯や若い夫婦に限ることなく、省エネ基準適合住宅等の取得を推進したり、省エネ性能を上げる製品や改修工事に補助したりすることは、安全保障上及び国民の可処分所得向上の両方のために効果的である。また、世界人口が爆発しつつあるのに、むやみに出産を奨励し、外国人労働者を閉め出すのは時代錯誤だ。

 そして、税の公正・中立・簡素の原則から言えば、④⑫の児童手当を支給する世帯の扶養控除は縮小するのではなく、なくすべきである。何故なら、児童手当と扶養控除は目的が同じで、納税者のみを優遇する扶養控除から児童手当に変更したのであるため、両方を残せば二重取りとなって不公正だからだ。また、ちょこちょこ変な縮小を入れると、負担率の曲線がおかしくなり予測できなくなって公正でなくなり、所得税の計算も複雑になって簡素から離れる。

 なお、⑤⑬については、そもそもの理論が間違っているため、物価高を上回る賃上げを続けられるためには継続的にばら撒きを続けなければならず、これは不可能だ。しかし、赤字になった企業は、賃上げするか否かにかかわらず、赤字を7年間繰り越せるのが世界の趨勢である。

3)「年収の壁」について
 *2-2-1は、①年収が一定額を超えると税・社会保険料が増える「年収の壁」対策が10月から開始 ②「税の壁」は収入103万円超で本人の所得税が発生、150万円超で配偶者の配偶者特別控除減少により配偶者の税負担増加 ③「社会保険の壁」の第1は、従業員101人以上の会社・収入106万円超・週20時間以上勤務で厚生年金・健康保険加入が義務 ④これに対する政府の対策は、賃上げ・手当などで手取り減を補う企業に対し、10月以降に壁を越える従業員1人について3年間で最大50万円助成 ⑤「社会保険の壁」の第2は、収入130万円超で配偶者の社会保険の扶養からはずれ、週30時間以上勤務しないと厚生年金等に加入できず、国民年金保険と国民健康保険に入るため、新たに保険料負担が生じるが将来の厚生年金受給というメリットはない ⑥本人の年収が一定以上になると配偶者の会社が配偶者手当を打ち切る「配偶者手当の壁」もあり、数十万円/年になるため、政府は配偶者手当を廃止・縮小して基本給や手当を増額する等の見直しを企業に求めている 等としている。

 また、*2-2-2は、⑦助成策で手取り減がなくなるか否かは勤務先の活用次第で壁を越える人全員が対象になるわけではない ⑧助成金がない場合に106万円を超えて手取りが戻る収入は125万円だが、大きく上回るほど目先の収入と将来の厚生年金が増えるため、(介護や子育てで難しい場合を除き)賃金増の流れを生かしてなるべく大きく超えることが長寿の女性に有効 ⑨130万円の壁も回避を狙うだけでなく、週30時間以上勤務して厚生年金加入を考えることも将来の安心に有効だが、厚生年金加入後に130万円未満での手取りを回復するには150万円台の年収が必要 ⑩そこまで勤務時間を延ばせない場合は106万円で厚生年金に加入できる101人以上(24年10月からは51人以上)の会社への転職を考える選択肢も ⑪短時間労働でも厚生年金に入れる対象企業の適用を徹底的に拡大し、働く人すべてに社会保険を適用するのが本来の解決策 と記載している。

 基礎控除は、1947年に「納税者本人の生活維持のための必要経費」という趣旨で開始された制度で、当初は全納税者一律に同じ金額が適用されていたが、2020年に所得2,400万円以下:48万円、2,400万円超~2,450万円以下:32万円、2,450万円超~2,500万円以下:16万円、2,500万円超:0円と所得税法が改正され、現在は一律でない。また、住民税の基礎控除も、現在は所得が2,400万円以下の場合に43万円なのである。

 しかし、基礎控除の趣旨は「納税者本人の生活維持のための必要経費」なのだから、所得にかかわらず同じ金額を控除するのが理論的に正しい。そのため、2020年の改正は、「税法を知らない奴が、小さくこねくりまわして煩雑にした挙げ句、理論から外れた」という感が否めない。

 また、所得税の基礎控除額が、2020年分から(所得が2,400万円以下の場合に限り)38万円/年から48万円/年(4万円/月)に“引き上げられた”のは良いが、4万円/月では納税者本人だけでも生活を維持できない。そのため、「健康で文化的な最低生活」として生活保護を参考にすると、「納税者本人の生活維持に必要な経費」は、少なくとも10~13万円/月(120~156万円/年、住む地域によって異なる)になる。そのため、所得税の基礎控除額は一律150万円、住民税の基礎控除は住む地域によって120~156万円に変更してもおかしくないし、社会保険料についても同様である。

 この基礎控除額の増加を行なった上で、①~⑥の「年収の壁」は、複雑怪奇で妻が働くことを阻害しているため、「税の壁」も「社会保険の壁」も完全に撤廃し、どんな企業で何時間働いても、所得があれば所得税法に従って応分の負担をし、また、社会保険関係法令に従って応分に社会保険料も納め、社会保険加入の利益を享受できるようにして、働いた人が損をしないようにするのが、現代の公正・中立・簡素・平等を満たすやり方である。

 なお、「年収の壁」に対する政府の対策は、⑦⑧⑨⑩のいずれも、細かく区切って複雑にしただけで、税や社会保険料を支払う人の立場には立っておらず、公正・中立・簡素からもかけ離れており、平等に応分の負担をさせているわけでもないと言わざるを得ない。

 さらに、⑧の「介護や子育てで働くことが難しい場合」というのは、介護保険制度の不備や保育・学童保育の不備による不利益を女性に押しつけ、女性労働者にL字カーブを作らせて損をさせている原因であるため、そういうことが起こらない制度を作るのが筋である。

4)消費税について
イ)直接税と間接税の違いと税制改革への提言
 *2-3-3のように、国民が支払う税金には直接税(所得税・住民税・法人税等)があり、そのうち所得税は、累進課税制度で所得に応じて5%~45%までの税率で税金を支払う((https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm 参照))。また、住民税には、誰もが同じ金額を支払う「均等割(5,000円:道府県民税1,500円、市町村民税3,500円))」部分と、所得に比例して支払う「所得割(所得の10%(道府県民税4%、市町村民税6%))」部分があり、全体としては所得の多い人ほど高率の税を支払うことになっている(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html 参照)。
 
 また、直接税のうちの法人税は、企業等の資本金の金額(1億円以下か否か)や利益の金額(年800万円以下の部分とそれを超える部分)で15~23.20%と税率が異なる(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm 参照)が、私は、資本金の金額や利益が年800万円以下か否か等で税率を変えるより、全企業に繰越欠損金の7年間の繰り越しを認めた方が、税のために企業が会社分割する必要もなくなり、公正・中立・簡素だと思う。

 このように、直接税は、個人の所得や企業の利益に応じて支払う税額を計算するため、不景気になれば支払税金が減る。そのため、不況時には税率が下がって有効需要の減少を抑え、好況時には税率が上がって景気の過熱を鎮める景気変動緩和の仕組みが税制の中に備わっており、これをビルトインスタビライザーと呼ぶ。

 一方、間接税は商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金で、消費税・地方消費税・酒税・たばこ税・揮発油税・自動車税・自動車重量税・関税などがあり、納税するのは製造業やサービス業等の事業者だが、実際に負担するのは消費者となっている。

 このうち、消費税・地方消費税の税率は、消費税7.8%・地方消費税2.2%の合計10%だ。また、消費税が導入された理由は、i)直間比率のバランス ii)高齢化社会の財源確保 iii)物品税の問題解消 の3つと主張されてきた。

 しかし、i)の「直間比率のバランス」は、ヨーロッパと単純比較して「日本は間接税の割合が低い」ということで始まった理論だが、実際には直接税の方が所得や利益に応じて税率が変化するビルトインスタビライザー機能を備えているため、優れた税制なのである。そのため、シャウプ勧告によって戦後日本が税制の参考にしたアメリカは、「間接税は良い制度ではない」と評価しており、国の消費税は存在しない。

 また、ii)の「高齢化社会の財源確保」については、年金・医療・介護制度は税ではなく保険であるため、積み立て方式をとっていれば人口構成が変わっても税金から補填する必要は無かった筈である。にもかかわらず、保険料を支払う生産年齢人口の割合が高かった時代には将来の支出を見越して積み立てることをせず、無駄遣いの限りを尽くし、使う段階に至って初めて足りなくなったなどと言っているのだ。そのため、足りなくなったのは国民の責任ではなく同情に値しない上、消費税が本当に高齢化社会の財源確保に使われるか否かも怪しいわけである。

 さらに、「社会保障のコストは、消費税で賄わなければならない」などと決めている国は日本以外にはなく、税収はずべて国庫に入るので税収全体から必要な歳出を行ない、継続的に無駄を廃して効果の高い歳出にしていくのが当然の姿だ。しかし、現在の日本は、公会計が単式簿記である上、決算結果の出る時期が著しく遅いため、そういう当たり前のこともできず、他分野の大きな無駄を放置したまま、全体の支出額が大きいというだけの理由で社会保障を削ることに専念するという馬鹿なことをしているわけである。

 なお、現在も物品税が残っているたばこは、小売定価580円(20本入り)のものの場合、たばこ税・たばこ特別税(304.88円、52.6%)と消費税(52.73円)が二重にかけられており、支払税額が合計357.61円で税率が61.7%となっている(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d09.htm#a03 参照)。しかし、たばこは、肺癌等々の健康被害をもたらして医療費を使うため、複数税率にした消費税(70~100%)のみをかけて禁煙に誘導しつつ、消費税収に加えるのが合理的だと思う。

 同様に、現在も物品税が残っている酒は、ビール(350ml入りで、酒税70円、消費税19.91円、合計税率41.1%)、日本酒(1800ml入りで、酒税198円、消費税185円、合計税率18.8%)、ウイスキー(700ml入りで、酒税301円、消費税188円、合計税率23.6%)など、酒の種類やアルコール度数によって細かく決められている(https://www.mof.go.jp/tax_information/qanda010.html 参照)。

 そして、酒も酒税と消費税の両方がかけられる二重課税の状態であり、公正・中立・簡素でもない。しかし、飲み過ぎは健康被害をもたらして医療費を使うため、アルコール度数の高いもの、分量の多いものを高めに設定した複数税率の消費税(30~50%)のみをかけ、消費税収に加えるのが合理的だと、私は考える。

 さらに、現在も物品税が残っている揮発油税・自動車税・自動車重量税についても、自動車は既に必需品であって贅沢品ではないにもかかわらず、消費税と両方がかけられる二重課税の状態になっているため、消費税に一本化するのが妥当である。ただし、化石燃料には環境税を課して、グリーン化の原資ににするのが良いと、私は考える。

 最後に、関税については、各国とも自国の経済や安全保障の方針にしたがって決めているところがあって一概に言えないため、ここでは割愛する。

ロ)インボイス制度の導入について
 *2-3-1は、①インボイス(適格請求書)制度の開始から1ヶ月、2023年10月分請求書の処理が本格化する中で中小・新興企業などで混乱 ②企業毎に異なる請求形式の違い対応や登録番号の確認作業で業務負担増加 ③10月に入っても企業の9割で今後の対応に懸念を持つとの調査結果 ④帝国データバンクのアンケートで「対応が遅れている」とした回答が3割、「事務作業負担増加等の懸念がある」とした回答が9割 ⑤都内の電気工事会社は請求書をインボイス番号記載形式に変更して8月末に取引先各社に郵送で案内したが、番号のない請求書を送ってくる取引先が散見された ⑥登録が必要とされる免税事業者160万者のうち登録済は9月末時点で106万者 ⑦つぼ八の担当者はインボイス制度について「免税事業者を設けるべきではない」と制度の廃止を求める ⑧インボイスとは、事業者毎の登録番号や税率毎の消費税額等を記載した請求書や納品書で、仕入れ時に支払った消費税額を納税時の納税額から差し引くためには仕入れ先からインボイスを受け取る必要 ⑨インボイス発行事業者の登録をしていないとインボイスを発行できず、大企業は基本的に発行事業者への登録を取引先に促すが、小規模事業者やフリーランスで様子見の動きが根強い 等と記載している。

 このうち①②③④⑤⑥⑧は、どれも「インボイス(適格請求書)制度の開始で、その準備が大変だ」という苦情だが、日本の消費税の見本になったヨーロッパの付加価値税(消費者に転嫁されるとは限らない)はインボイス制度を採用している。つまり、日本で消費税を最初に導入した時、インボイス(請求書)への明確な記載を義務づけずに仮定の多い計算をさせて妥協することにしたのが、日本の消費税計算がややこしい上に、公正・中立・簡素のいずれでもなくなった根本原因であり、それに慣れた人が変化に抗して苦情を言っているにすぎないのだ。

 また、⑦の免税事業者とは、前々年度の課税売上高が1,000万円以下で消費税の申告や納付を免除されている事業者のことで、売上も仕入も消費税込みで計算するため、二重課税の排除が適切になされているかどうかは場合による(https://www.yayoi-kk.co.jp/invoice/oyakudachi/menzeijigyosha-shohizei/ 参照)。

 そして、⑨の小規模事業者やフリーランスも、課税事業者(適格請求書発行事業者の登録申請を行い、登録事業者番号《インボイス登録番号》を取得すればインボイス《適格請求書》の発行が可能)にもなれるし、要件に該当すれば免税事業者にもなれるため、小規模事業者やフリーランスを例に挙げてインボイス制度に苦情を言うのは我儘すぎる。

ハ)社会保険診療に係る消費税について
 医療の中の社会保険診療は非課税取引であるため、医療機関が社会保険診療を提供する際に患者から消費税を受け取ることはないが、そのかわり、医療機関は社会保険診療を行うために購入した医薬品・設備等を購入する際に支払った消費税を仕入税額控除することもできない。その結果、現在は医薬品・設備等の購入にかかった消費税は医療機関が負担することになっている。

 そのため、厚労省は、「診療報酬や薬価等を設定する際に医療機関等が仕入れに際して支払う消費税を反映して点数を上乗せすることで対応をしている」と主張しているが、医療の進歩に合わせて速やかに診療報酬や薬価の点数を上乗せできているとは思えず、実際、高価な設備を導入して高度な医療を行なう大病院ほど、消費税負担の大きさに耐えかねているのである(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/140401.pdf 参照)。

 そのような中、*2-3-2は、①日本医師会は「令和6年度 医療に関する税制要望」で社会保険診療に係る消費税は、診療所は非課税・病院は軽減税率による課税取引に改めるよう要望した ②昨年の税制要望では「小規模医療機関等」は非課税、「一定規模以上の医療機関」は軽減税率を適用するよう要望したが、「一定規模」の線引きが課題だった ③そのため「診療所」「病院」という医療法上の区分が客観的でよいとして集約した ④非課税のまま診療報酬による補塡を求める有床診療所が多かった理由は、課税取引にすると存続が難しいという意見が多かったから ⑤社会保険診療に係る消費税が非課税であることについて、日本医師会は「控除対象外消費税が医療機関の経営を圧迫している」として、ゼロ税率・軽減税率・患者への還付制度などにより解消することを求めてきた 等と記載している。

 このうち①②③については、医療機関の中に非課税と軽減税率適用を作ることは、ご都合主義による制度の複雑化であるため容認できない。また、④のように、「課税取引にすると存続が難しい」というのも、消費税の益税によって存続しているということであるため、消費税の趣旨に反する。

 そのため、私は0税率を推奨するが、その理由は、医療機関が社会保険診療を提供する際に患者から消費税を受け取ることなく、医薬品・設備等を購入する際に支払った消費税は仕入税額控除して医療機関が支払った消費税の還付を受けることができるからだ。そうでなければ、高価な設備や先端の医薬品は使えず、救える命を救えなかったり、要介護者を増やしたりする。

 従って、⑤の中の0税率がよいと思うが、物価上昇・賃金上昇の時代に診療報酬を減らして真面目に働いている医療機関を潰せば、結局は国民が困るため、診療報酬の点数は消費税にかかわらず、他産業並みに上げるべきだ。また、小規模な医療機関でも、税務申告にあたっては税理士を使っているため、消費税に関する手続きを税理士に任せれば医療従事者の仕事は増えない。

 そして、このように、さまざまな消費税率を使っても正確な会計処理や税務申告を行なうことができ、支払った人に税率と税額を明確に示すことができるのが、インボイス制度のメリットなのである。

(3)国を挙げての組織的高齢者虐待 ← そんな子は1人もいらないのだけど

   
     日本金型工業健保          2023.11.2毎日新聞 2022.11.7時事

(図の説明:1番左の図のように、介護保険料は40~64歳の人が27%、65歳以上の人が23%を支払うことになっており、人口構成が変わっても負担割合が固定されているため、個人の負担割合は毎年変わる。また、40歳以下の人は介護保険料を支払わないため、全世代が介護保険制度の福利を享受できるわけではなく、全世代が支えてもいないため、不公平感が大きい。その上、左から2番目の図のように、65歳以上の第一号被保険者の介護保険料は、自治体の介護にかかる年間予算の23%を第1号被保険者の総数で割った額であるため、自治体の責任ではない自治体間の人口構成の違いが第一号被保険者の介護保険料にまともに影響する。そのため、本来は、国が集めて必要な予算を配賦すべきである。そして、右から2番目と1番右の図のように、現在でも所得に比して高い高齢者の医療保険料・介護保険料・医療費負担・介護費負担をさらに引き上げ、少子化対策に流用までしようとしているのだから、これは国を挙げての組織的高齢者虐待である)


                   すべて厚労省

(図の説明:国民皆保険制度のメリットを、厚労省は、左図のように述べている。しかし、個人が支払う医療費には医療保険料の支払いまで含むため、中所得層以上にとっては、働いている期間に公的医療保険の高い医療保険料を支払い、退職して診療を受ける段になると、それまでの貢献に対する感謝の念もなく、恩着せがましく制限ばかりされるよりは、最初から民間保険に入って全額自費で負担した方がよほど安い。また、中央の図が、現在の我が国の現在の医療制度だが、出産費用を保険適用にしたり、就学前の子の医療費負担を1割にするためならともかく、国民が支払った医療保険料を少子化対策に流用するなどというのは論外だ。さらに、右図のように、「若人と高齢者の費用負担関係が不明確」という批判を受けて75歳以上をすべて後期高齢者医療制度に入れたのだそうだが、人口構成が変わればかかる病気の頻度も当然変わるため、明確に分けることこそ恣意的で非科学的になる元凶だ。そのため、この改悪によって、決して高齢者に負担をかけるべきではない)

1)本当に少子化対策になっているか
 *3-1-1は、①政府は2026年度までに国・地方合わせて年3.6兆円の追加予算を投じて児童手当・育児休業給付を拡充する ②児童手当は所得制限撤廃・高校生までの支給期間延長・第3子以降の月3万円への増額をする ③3人以上の多子世帯の大学授業料は2025年度から無償化 ④税制改正で子育て世帯は2024年も住宅ローン減税対象の借入限度額を現行の最大5000万円で維持 ⑤「こども誰でも通園制度」を2026年度から全国展開 ⑥保育士1人がみる子どもの人数を国の基準より少ない25人にした場合、運営費補助 ⑦2025年度から両親ともに育児休業を取得すれば、28日間まで育休給付を手取りの実質10割に増額 ⑧子育て世帯の生命保険料控除を最大6万円に引き上げ ⑨政府は2024年度からの3年間で少子化対策に集中して取り組み、初年度は国と地方で1兆円の予算計上 ⑩2024年度予算案は財源確保を待たずに大規模な財政出動を決めたが、政策効果が不透明な施策も ⑪児童手当の所得制限の撤廃を巡って経団連の十倉雅和会長は「納得感が少ない」と批判、効果が十分検証されないまま給付を積み増す手法に経済界を中心に異論 ⑫今回の対策が出生増に繋がるかも不透明 と記載している。

 このうち①については、年3.6兆円の追加予算を投じてまで児童手当を拡充しても、②③のような「第3子以降の月3万円への増額」「3人以上の世帯の大学授業料無償化」では、子の間に不公平が生じる上に問題が複雑化する。そのため、第3子以降の児童手当を増額するよりも、全員の大学授業料を低廉化することの方が重要だ。

 また、④の「子育て世帯の住宅ローン減税対象借入限度額最大5000万円維持」や、⑧の「子育て世帯の生命保険料控除を最大6万円に引き上げ」はあってもよいが、それより自然が近くて物価が安く、ゆとりのある住宅を入手することが容易な地域に人口を分散した方が、子どもの感受性を豊かにし、職住接近できて親が子育て時間を捻出することも容易だと考える。

 しかし、⑦のように、育児休業給付の充実として「28日間まで育休給付を手取りの実質10割に増額」しても、(鶏ではあるまいし)28日で子が育つわけではないため、無意味だろう。

 なお、地方に人口分散すると言っても、その地域の雇用(男女とも)・保育・学童保育・教育などが充実していなければ、「子育てに適した地域」という選択肢に入らない。そのような中、⑤の「こども誰でも通園制度」は良いと思ったが、i)利用料を払えば ii)いつでも iii)誰でも利用できる のではなく、「専業主婦の母は月10時間までしか利用できない」というのでは話にならず、こういうことにケチるのはマイナスでしかないと思った。

 さらに、⑥のように、「保育士1人がみる子どもの数」は、現在は「0歳児:3人、1・2歳児:3人、3歳児:6人、4・5歳児:30人」で、来年度から4・5歳児を25人に見直すことになった(https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20231226a.html 参照)そうだが、満6歳以上の小学生でも30人学級にして欲しいという声がある中で、4・5歳児を25人も見る保育士の負担は大きすぎるだろう。その解決策としては、保育士の基準を15~20人に1人と増やす方法もあるが、各クラスに保育士ではない保育助手(例:教職や子育ての経験がある人)を置く方法もある。

 また、政府は、⑨⑩⑪⑫のように、「2024年度は国と地方で1兆円の予算計上」「財源確保ができておらず、効果が不透明な施策も」「効果不検証のまま給付を積み増す手法に、経済界を中心として異論」だそうだが、私はどこに使われるかわからない児童手当を多く支給するよりも、保育・学童保育・教育のコストを無償化又は低廉化した方が、出生増に繋がる上に、質の高い子が育って、将来の無駄遣いが少なくなると考える。

 *3-1-3は、⑬2024年度の文教関係予算は前年度比1.0%増の4兆563億円 ⑭公立小中学校の教職員給与に充てる国の負担金を増額して初任給を5.9%引き上げ ⑮教員の長時間労働是正に向け、働き方改革の推進に重点を置いた ⑯今は1人の教員が算数や理科などほぼすべての教科を担当しているが、小学校高学年で教科ごとに担当する教員が異なる教科担任制を進め ⑰2024年度に全国で1900人増員するために40億円計上 ⑱2024年度からは教員が授業準備や指導に集中できるよう事務作業を担う「教員業務支援員」をすべての公立小中学校で配置するため、2万8000人分の81億円を盛り込んだ と記載している。

 学校は、教職員が楽に働ける場所であることが目的ではなく、子に質の高い教育を与えることが目的の場所である。そうでなければ、親自らが教えたり、塾に通わせたりしなければならないため、親の負担が著しく、誰が親であるかによって子の教育格差も大きくなるのだ。

 そこから出発すると、⑬⑭⑯⑰のように、公立小中学校の教職員の初任給を引き上げて優秀な教員を採用できるようにするとともに、小学校でも高学年では教科担任制を進めるのは良いと思う。そして、そのための文教関係予算の増額は必要だろうが、それはあくまで、⑮のような教員の長時間労働是正目的ではなく、教育の質向上が目的でなければ困る。

 ただし、教育の質向上が目的であっても、教員の事務作業を減らして教員が教育関係の仕事に集中できるようにするため、⑱のように、事務作業を担う「教員業務支援員」をすべての公立小中学校に配置するのは必要なことであるし、そのための予算も必要だ。

 そして、それらの予算は、他省庁のバラマキ景気対策や時代遅れの産業政策を廃して捻出するのが当然であり、それができるのは政治しかないのである。

2)少子化対策の財源←子育て重視に名を借りた高齢者虐待と詐欺
 *3-1-2は、「少子化財源、全世代で負担」と題して、①3.6兆円の予算を確保し、児童手当の拡充や保育サービスの充実に充当 ②財源は、i)社会保障費抑制 ii)既存予算活用 iii)医療保険に上乗せする後期高齢者を含む全世代からの拠出支援金 ③会社員なら収入に一定割合をかけた金額の拠出をする形が有力 ④健康保険組合等が公的医療保険の保険料に上乗せして集める ⑤経団連・連合・健康保険組合連合会は「現役世代に負担が集中しないようにすることが重要」と全世代負担の必要性強調 ⑥収入額に一定割合をかける仕組みにすると、稼ぎが多い現役世代に負担が偏る ⑦予算を確保できるまでの不足分はつなぎ国債 ⑧基礎年金は59歳で支払いが終わり、介護保険料は40歳から ⑨「支援金制度は、社会保険の流用」という専門家の批判 ⑩社会全体で能力に応じて負担できる消費税を財源とすべきとの声がある 等と記載している。

 このうち①の3.6兆円の予算は、原発維持目的の電源三法交付金廃止、農業補助金の選別(https://no1pac.com/?p=1557 参照)、民間企業なら自分でやるべきことへの補助金の廃止(https://www.navit-j.com/service/joseikin-now/blog/?page_id=30631&yclid=YSS.1001256002.EAIaIQobChMIhbu55e6ugwMVJNkWBR37jw24EAAYAyAAEgI7G_D_BwE 参照)など、思い付きで次々と増やして古くなっても残ったままの補助金の整理・統合を行って叩き出すべきだ。

 にもかかわらず、②のように、社会保障費を抑制すれば、現在ニーズがあって増えている医療・介護費が削がれる上、④のように、後期高齢者を含む全世代から医療保険に上乗せして支援金を拠出させれば、このような社会保障のなかった時代に自分で子育てしたり、子育てを諦めたり、自ら親を介護したりした高齢者にとっては二重負担である。そのため、現代の子育て支援の恩恵に預かれない世代に費用を負担させるのは公正でも公平でもないし、生産年齢人口の減少ならば女性・高齢者・外国人労働者の活用で十分に賄えるのである。

 そのような中、③⑤⑥のように、これまではなかった制度を作ってもらいながら、「稼ぎが多い現役世代に負担が偏る」などと主張し、退職して稼ぎのなくなった高齢者から支援金を拠出させようとする現役世代を育てたのは誰か、それこそ親や教師の顔が見たいし、これまで高い税金を払って他人の子の教育費を支援してきたこと自体が馬鹿馬鹿しく感じられるのである。

 また、⑦も、時代遅れの補助金をカットして予算を確保するのでなければ、無限に予算が膨らみ、日銀に引き受けてもらって国債残高を無限に増やすしかなくなるが、それでは(1)1)で述べたように、円の価値が落ちて多くの弊害が生じるわけである。

 なお、⑧の基礎年金は、平均寿命が延びて、2024年4月からは65歳までの雇用確保が義務付けられるため、59歳で支払いを終える必要はなく、65歳で支払いを終えれば十分である。

 しかし、介護保険制度は、65歳以上の人と40~64歳の特定疾病患者のうち介護が必要になった人を支える仕組みとされているが、64歳以下で特定疾病患者でなくても介護が必要な人はいるため、あまりに不自然な制限をつけすぎているのだ。そこで、私は、働く人すべてが介護保険料を支払うと同時に、介護や生活支援の対象となり、若くして介護や生活支援が必要になった人でも支えられる仕組みにすべきだと考える。
 
 なお、⑨の「支援金制度は社会保険の流用」というのはそのとおりで詐欺に近く、またもや目的外使用であり、これと同じ杜撰さが年金積立金不足も招いたのである。従って、この杜撰さを直さずに、⑩のように、消費税増税等で財源を賄っていけば、国民負担だけが著しく上がり、(理由を長くは書かないが)日本経済は今後も停滞すると言わざるを得ない。

3)財政健全化と称するご都合主義の財源論
 そもそも、保険とは、損害保険の場合は、自然災害・ケガ・盗難・損害賠償責任等で損失が生じた時に、その損失を保険の加入者間で分散して負担する仕組みであり、必要な掛け金は損害発生のリスクに応じて算定される。また、保険会社も自社の事業リスクを分散するため、他の保険会社に「再保険」を行うことが多い。

 また、民間医療保険の場合は、保険金・給付金の支払いに充当する「純保険料」と保険会社の人件費や広告宣伝費等の経費に充当する「付加保険料」で構成され、「純保険料」には、解約払戻金や満期時の保険金支払いに充当する「生存保険料」と死亡時の支払いに充当する「死亡保険料」がある。そして、純保険料は保険加入者が病気にかかったり、死亡したりするリスク(≒年齢・既往歴・性別等)を基に計算され、付加保険料は保険会社の経費の違いで変わる。

 つまり、保険とは、リスクを分散して負担するために考えられた制度で、被保険者のリスクの高さに応じて純保険料が計算され、それに保険会社の経費である付加保険料を加えて保険加入者の支払保険料が決まる論理的なサービスであって、所得再配分のツールではないのだ。

 しかし、公的保険が、被保険者のリスクの高さではなく、“負担能力”に応じて保険料を徴収するのであれば、それは「保険」から逸脱している。さらに、*3-2-2のように、「財源確保」「応能負担」等と称して保険金の支払い時(=サービス提供時)にまで所得に応じて支給金額を変えれば、所得と国民負担の曲線は滅茶苦茶になり、「保険の仕組み」から遠く逸脱して、もはや「保険」とは言えない状況になっているのだ。

 その上、*3-2-1のように、少子化対策のうちの医療費以外の財源を医療保険料に上乗せして徴収すれば、それは医療保険の目的外使用(=流用そのもの)であり、そのようなことをすれば、理論的に計算された筈の保険料が足りなくなるのは当然なのである。そのため、「歳出改革」等と称して平気でこのようなことを主張する人は、保険の仕組みが全くわかっていないと言わざるを得ない。

 このような中、*3-1-4は、①少子化対策の財源が課題 ②政府は医療保険料ルートで2028年度時点に年間1兆円を「こども・子育て支援金」として集める予定 ③再分配効果を高めるには幅広い国民が負担能力に応じて協力する仕組みが要るが、支援金は応能負担の視点が弱い ④高齢者にも負担を求める制度にしたのは良いが、総人口の15%超を占める75歳以上の負担分は7%程度 ⑤所得だけでなく資産の保有状況に応じて世帯の負担額を決める仕組みを導入し、現役世代の負担軽減をすべき ⑥政府は支援金制度がフル稼働する2028年度までに歳出改革を徹底する ⑦医療費・介護費の抑制に直結する歳出改革に取り組むべきで、これを欠けば現役世代の負担感はどんどん強まり、出産意欲にも響きかねない ⑧少子化の大きな要因は未婚化で、若い世代が就労で経済基盤を安定化させるための支援こそ急ぐべき ⑨いったん非正規になると抜け出せない硬直的労働市場の改革や正規・非正規の処遇格差の是正等が重要 等としている。

 このうち、①については、1947年5月3日に施行された日本国憲法は26条で「I.すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する  II.すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」と定めているため、教育は優先事項であり、(3)2)で記載したとおり、他省庁の無駄な補助金を廃止して捻出すべきもので、どういう形であれ、新たに国民負担を増やして財源を確保すべきものではない。

 また、②については、医療保険料ルートで2028年度時点に年間1兆円を「こども・子育て支援金」として集める予定とのことだが、それでも新たな負担になることは同じだし、③の再分配効果は既に所得税・相続税の累進課税制度で行なわれており、保険料はリスクに応じて計算すべきもので、所得の再分配を行なうためのものではないことを、(多分)意図的に無視している。

 また、④の「高齢者にも負担を求める制度にしたのは良い」というのも、高齢者は児童手当や教育無償化などなかった時代に自前で子育てした人であることを考えれば二重負担を強いているため、(総人口の何割であろうが)子育て適齢期の終わった人から子育て支援金を徴収するのは誤りだ。さらに、⑤についても、資産は課税済所得から形成されたものであるため、相続以外で資産に応じて世帯の負担額を決めるのは、税の基本から外れる二重課税にほかならない。

 そのため、⑥の「政府は支援金制度がフル稼働する2028年度までに歳出改革を徹底する」というのであれば、それは的外れの積み重ねでわけのわからない負担になると思われる。

 さらに、⑦の「医療費・介護費の抑制に直結する歳出改革に取り組むべき」等とうるさく言うのなら、医療・介護の高い公的保険料を支払うのには嫌気がさすので、医療・介護の公的保険制度を全部止めて民間保険で賄い、民間保険に入れない人は子に面倒を見てもらえばよい。そうなると、子育てに金を使うより自分の老後に備えて金を貯めておく必要があるため、出生率はさらに下がるが、やってみなければわからない人が多いので、やってみせるしかない。生産年齢人口の減少は、高齢者・女性・外国人労働者にチャンスを与えれば補えるため全く問題ない。

 なお、⑧の「少子化の大きな要因は未婚化」というのは正しいが、若い世代が就労で経済基盤を安定化させるには、政府の支援ではなく非正規雇用の廃止と共働きの推進が必要なのである。つまり、⑨のように、非正規雇用の割合が多く、正規雇用になりたくてもなれない労働市場は、1990年代後半になってできたのであり、その解決には「正規・非正規の処遇格差の是正」ではなく、労働法で守られない非正規雇用の廃止が必要なのである。

 最後に、*3-2-3は、土居慶大教授の話として、⑩経団連の提言は財政健全化への経済界の強い思い ⑪社会保険料率は過去最高水準で、企業の持続的賃上げにも影響大 ⑫金融資産も含めた「経済力」に応じて負担を考えるべき ⑬政府・与党の議論は進んでいない ⑭給付を増やして負担も増やすのか、給付自体を減らすのか、制約をなくした議論が必要 としている。

 しかし、⑫のように、課税済所得から形成された金融資産に相続以外で課税すれば二重課税になることは、慶大教授でもわかっていないようだ。そのため、⑬のように、政府・与党も議論を進めないのだろうが、⑩のように、経団連が財政健全化を言うのなら、時代遅れの産業政策補助金を自ら整理し、役割を終えた租税特別措置も廃止して、生産年齢人口の大人に対する補助金を減らすようにすべきである。また、⑪については、企業が社会保険料を負担しない非正規雇用を廃し、短時間労働でも正規雇用として雇い、休職や転職も容易化すればよいだろう。

4)年金給付減と診療報酬・介護保険料の負担増
イ)「マクロ経済スライド」という名の公的年金実質価値減少装置
 年金は、1973年に公的年金額の実質的価値を維持する制度として「物価スライド」が導入され、具体的には前年(1月から12月まで)の消費者物価指数の変動に応じて翌年4月から自動的に年金額が改定され仕組みになっており、これが私的年金にはない公的年金の長所だった。

 しかし、平成16年(2004年)の年金制度改正で、平成17年(2005年)4月から年金財政の均衡を保つことができない場合に給付水準を自動的に調整するとして、「マクロ経済スライド」が導入された。これにより、年金額の伸びを物価の伸びより抑えて公的年金額の実質的価値を減らして年金制度を維持することとなり、公的年金の大きな長所がなくなったのである。

 ただし、目立たないように年金額の実質的価値を減らすには、物価の伸びが大きくなければならない。そのために、日銀の物価上昇政策が、(他に色々と屁理屈をつけてはいるが)物価を上昇させるために行なわれたのだと言える。

 そして、*3-3-1は、①2024年度の公的年金の支給額改定では、給付を抑制する「マクロ経済スライド」が2年連続で発動される前提で予算編成 ②年金額自体は上がるが、物価上昇の伸びほど増額にならないため実質的目減り ③2024年度の年金改定率は厚労省が2024年1月に公表し、6月の受け取り分から適用 ④マクロ経済スライドは年金財政の安定化のために導入され、物価の下落局面では発動しないため、長引いたデフレ下では十分に給付を抑制できず、この20年ほど年金を「払いすぎる」状態だった ⑤払いすぎた年金は将来世代の給付を抑えて帳尻を合わせざるを得ず、調整は基礎年金で2046年度まで抑制が続く見込み としている。

 もともと、年金は、i)支払いもしないのに給付されるサラリーマンの専業主婦に目的外給付をしており ii)団塊の世代が生産年齢人口にあたっていた時代に厚労省の外局だった「社会保険庁」が、単年度主義でものを考えて年金原資が余っていると勘違いし、目的外支出を行なったため大きな積立不足に陥った のであるため、国民には全く責任がない。

 にもかかわらず、「マクロ経済スライド」というわけのわからない名前をつけて、物価を上げながら実質年金支給額を減らしている点で、高齢者の生活を全く考えていないし、頭の使い方が歪んでいる。本来なら、「物価スライド」のまま、厚労省の政策ミスで足りなくなった年金原資は、それこそ国債を発行してでも最初の契約を守るべきなのである。

ロ)介護保険料引き上げ
 *3-3-3は、①厚労省は2024年度から65歳以上で年間合計所得420万円以上の介護保険料を引き上げる方針 ②住民税非課税世帯等の低所得者は引き下げる ③現在は、国が所得に応じて基準額を9段階に分け、65歳以上の保険料は国の基準を参考に市町村が決める ④現在の最も高い所得区分は年間合計所得が「320万円以上」で、新たに「420万円以上」「520万円以上」「620万円以上」「720万円以上」の4段階を設けて13段階にする ⑤現在の保険料基準額の全国平均は月6,014円(21~23年度)で、9段階の最も高い所得区分で基準額の1.7倍だったが、新たに設ける10~13段階は1.9~2.4倍に引き上げる ⑥所得再分配機能を強めることで、これまで低所得者の負担軽減に投じてきた公費382億円分(国と地方で折半)を浮かせ、介護職員の処遇改善などに回す と記載している。

 自分や親が介護保険制度の世話になる確率(=要介護になるリスク)は、所得とはむしろ逆相関の関係にあり、所得の高い人ほど、元気に働いており、要介護になるリスクは低い。逆に、自分が要介護状態になれば、働けなくなって所得がなくなる上に、治療費・介護費がかかるため、生活が苦しくなる。そのため、元気なうちから、病気や事故のリスクに備えて自分で蓄えたり、介護保険でリスク分散したりするのが介護保険制度の役割なのであり、介護保険制度の役割は間違っても所得の再分配ではないのだ。

 そのため、上の①~⑥は、政策としては介護保険制度の目的を誤っており、地方によって異なる年齢構成をならすために国が介護保険制度を持っているのに、地方の負担を多くしたりして本来の趣旨から大きく外れた。そのため、ここまでご都合主義で目的をすり替えるのなら、厚労省は信頼できないため、「公的保険は止めて、民間の保険を使った方がよい」という結論にならざるを得ないのである。

ハ)医療・介護費用の負担贈について
 *3-3-2は、①「2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者になり、国の医療費が膨らむ」と予想 ②医療・介護を支える負担が現役世代や企業に偏れば投資や賃上げの壁になる ③経団連は、2024年度税制改正への提言で「全世代の国民が負担する消費税が公平で安定的」「社会保障財源として消費税引き上げが有力な選択肢」とした ④高齢者医療を支える現役世代からの拠出は増え続け、健康保険組合からの拠出金は後期高齢者医療制度が発足した2008年度は約2.7兆円、2022年度は3.4兆円で、2026年度は4兆円を超える見込み ⑤「年間保険料負担/人」は2008年度38.6万円、2022年度51.1万円 ⑥マイナンバーを通じて個々人の経済力を把握し、資産の保有状況に応じた課税のほか、社会保険料や自己負担引き上げについても検討すべきとも提言 ⑦日本の家計における純金融資産は約1600兆円、保有額1億円以上の富裕層が全体の約22%保有 ⑧野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「社会保障制度を支えるため中長期的な安定財源として消費税引き上げが適切」と指摘 等としている。

 このうち①については、高齢になるほど慢性疾患の有病率が上がるため、団塊の世代がすべて後期高齢者になって後期高齢者の割合が増えれば、医療費だけでなく介護費も増えるのが当然で、これは1970年代からわかっていたことである。

 しかし、②の「医療・介護を支える負担が現役世代や企業に偏れば投資や賃上げの壁になる」という主張については、それなら医療・介護を公的保険で賄わず、昔と同様、個人の責任にすれば、現役世代や企業は助かるのかという選択になる。何故なら、介護保険制度は2000年に始まったため、団塊の世代を含む高齢者は、既に家族の責任で介護を行なってきたからだ。

 また、医療保険は、1956年時点では日本の人口の約1/3が未加入で、1958年の国民健康保険法改正により初めて全ての市町村で地域保険制度の設立が義務化され、1961年に国民皆保険が達成された(https://japanhpn.org/ja/historical-1/ 参照)のであるため、現在の後期高齢者は適切な医療を受けることもままならず、個人で対応していた時期が長かったわけである。

 そのため、良い医療・介護保険制度ができたにもかかわらず、「支える負担が現役世代や企業に偏れば投資や賃上げの壁になる」というのは、企業や現役世代の甘えとエゴが激しすぎるため、公的医療・介護保険制度を廃止して、それがないケースを実感させる必要があるだろう。

 なお、③⑧の「全世代の国民が負担する消費税が公平で安定的」「社会保障制度を支えるため中長期的な安定財源として消費税引き上げが適切」などと言うのは、(2)4)イ)で述べたとおり、間接税である消費税は景気にかかわらず「安定的!」に徴収されるため、景気が悪くて所得が低くなると税率が高くなり、同じ年でも所得の低い人ほど消費性向が高いため税率が高くなるという悪税なのである。そのため、これを「公平」とか「適切」などと言うのは、税に関する知識がないため意見を言う資格のない人であろう。

 また、④⑤の後期高齢者医療制度が発足した2008年度は私も自民党衆議院議員だったため、私は自民党の部会で「後期高齢者医療制度のような意図的な区分をすると、必ず問題が起こる」と言って反対したが、暴走して決まってしまったものだ。

 問題が起こる理由は、それまでは高齢者も国保や被用者保険のそれぞれに加入し、各医療保険の責任ではない加入者の年齢構成の違いによって生じる医療費の差を調整するという保険として当然のことをしていたのだが、2008年に「現役世代と高齢者世代の負担を明確にし、公平な制度とする」「これからも安心して医療を受けることができるように、老人医療費を被保険者(加入者)も含めた社会全体で支えあう」などと称して後期高齢者医療制度導入し、75歳以上のすべての高齢者を独立した保険制度(後期高齢者医療制度)に入れ、公費(税金)5割、国保と被用者保険からの支援金4割、高齢者の保険料1割という意図的な支援割合を決めたからである(https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info02d-35.html 参照)。そして、このような意図的な割合を決めれば、人口構成が変わって保険の使用頻度が変われば、保険の理論から外れて公平にならないのは当たり前なのである。

 さらに、⑥⑦のように、マイナンバーを通じて個々人の経済力を把握し、資産の保有状況に応じて課税したり、社会保険料や自己負担を引き上げたりすれば、サービスの提供価格が所得によって変わり、既に累進課税で所得税を支払っているため、二重どころか、三重、四重、五重の負担になる異常事態だ。そのため、「日本に置いておくのは生活に必要な当座資金だけ」ということにしなければならなくなる。

二)診療報酬と介護報酬の引き上げについて
 *3-4-1は、①政府は2024年度の診療報酬改定で、医療従事者の人件費など本体部分の改定率を0.88%として医療現場の賃上げに繋げる ②「薬価」部分は1%近く引き下げて全体の改定率はわずかにマイナス ③医療費は5割が保険料・4割が税金・1割が患者の支払う窓口負担で成り立つ国民負担そのもの ④本体のプラス改定で薬価引き下げに伴う保険料や医療にかかる税金の軽減効果が打ち消される ⑤国民負担の抑制が進まず、医療分野の歳出改革が不十分になる恐れ ⑥厚労省と日本医師会等は他産業と足並みを揃えられるよう、本体部分の大幅な増額を求めていた ⑦財務省は診療所の利益率は高く、マイナス改定しても賃上げできると主張 ⑧本体改定率0.88%のうち薬剤師・看護師・看護助手等の賃上げ分0.61%、入院患者の食費引き上げ0.06% ⑨賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度の見通し ⑩2023年度の予算ベースの医療費は48兆円で高齢化等により医療費は自然に増える ⑪政府は2024年度に同時改定する介護報酬の改定率もプラスにして人材流出に歯止めがかからない介護現場の賃上げを後押しする ⑫診療報酬を全体でマイナス改定しても介護報酬等の増額分を含めれば社会保険料の負担は増える 等としている。

 医療・介護従事者も物価上昇に見合った賃上げを行なわなければ実質賃金が下がり、他産業との賃金の差が大きくなれば人材が流出する。そのため、財務省が、⑦のように、「診療所は利益率が高いためマイナス改定しても賃上げできる」と主張したとしても、医師は資格を取るためのコスト(時間と費用)が大きく、間違った診断をすれば人の人生を変えてしまうため、長くない働き盛りに他産業より利益率が高かったとしても、決して「儲けすぎ」にはならないだろう。

 従って、⑥のように、「厚労省と日本医師会等が他産業と足並みを揃えた本体部分の大幅な増額を求めていた」というのは理解できる。

 また、①⑧⑨のように、政府が2024年度の診療報酬改定で医療従事者の人件費等の本体部分の改定率を0.88%として上げたのは良いが、「そのうち薬剤師・看護師・看護助手等の賃上げ分0.61%、入院患者の食費引き上げ0.06%」「賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度の見通し」などというのは、あまりにも箸の上げ下ろしにまで干渉しすぎていると思う。

 私は、むしろ慢性疾患の患者は通院頻度を減らし、1回あたりの診療報酬を上げた方が合理的だし、②の「薬価」も「薬の処方しすぎ」はやめて、価格はメリハリをつけるべきだと考える。

 また、⑩の「2023年度の予算ベースの医療費は48兆円で高齢化等により医療費は自然に増える」というのは、1970年代からわかっていた当然のことであるため、医療費を節約するには、医療行為も自由診療と併用できるようにして、自由診療で100%支払ってもニーズのある効果的な医療行為や投薬を、その価格(ここが重要)で速やかに保険診療に移行する(つまり、専門家と患者という市場で価格決定させる)のが最善だと思う。

 なお、③④⑤の「医療費は5割が保険料・4割が税金・1割が患者の支払う窓口負担で成り立つ国民負担そのもの」「本体のプラス改定で薬価引き下げに伴う保険料や医療にかかる税金の軽減効果が打ち消される」「国民負担の抑制が進まず、医療分野の歳出改革が不十分になる恐れ」等というのは、価値のないサービスに負担だけがあるのではないため、失礼な言い方である。

 さらに、⑪のように、「政府は2024年度に同時改定する介護報酬の改定率もプラスにして人材流出に歯止めがかからない介護現場の賃上げを後押しする」のはよいが、他産業と比較してとかく3Kになりがちな介護現場の賃金が他産業よりも大きく見劣りするのでは、人材流出が止まらない。そのため、⑫については、より理にかなった経営方法を考えつつも、福利を享受できる社会保険はそれこそ全世代で支えるべきだと思う。

 そのような中、*3-4-2は、⑬政府は介護サービスの公定価格である介護報酬を2024年度から1.59%引き上げる ⑭1.59%のうち介護職員らの賃上げ分に0.98%を充て、賃上げした事業者の仕組み変更に伴う追加費用や光熱費高騰対策で0.45%分を追加予定 ⑮結果、全体で実質2.04%相当の増額予定 ⑰政府はロボットでの巡回やセンサーでの見守りなどを導入する施設に報酬を加算する ⑱介護報酬の財源は利用者が払う原則1割の自己負担を除き、40歳以上の個人と企業が拠出する保険料と税金で半分ずつ賄う ⑲国の介護費用は23年度13.8兆円、1.59%増えると2200億円弱増加 ⑳厚労省の調査で、介護サービスの2022年度利益率は平均2.4%で前の年度から0.4%低下し、特別養護老人ホームは初めて赤字に転じた としている。

 このうち⑬⑭⑮の「介護サービスの公定価格である介護報酬を2024年度から1.59%引き上げる」「そのうち介護職員らの賃上げ分0.98%」というのは、物価上昇に追いついていないため、介護職員の実質賃金は下がる。また、他産業の賃上げ率以下であれば、他産業と介護職員の賃金格差はさらに広がるため、この大きな賃金格差を容認している理由をまず聞きたい。

 また、1番上の右図のように、物価実感(食料・光熱費等の購入頻度の高いものの物価上昇率)は13~15%であるため、「賃上げした事業者の仕組み変更に伴う追加費用や光熱費高騰対策0.45%」をすべて経費上昇分にあてても不足するだろう。そして、これが、日銀のインフレ政策の結果なのである。

 なお、政府は合理化と言えば、必ず、⑯のような、i)ロボットでの巡回 ii)センサーでの見守り 等のIT化をイメージしているが、人の使い方も、iii)専門職以外でできる仕事は、専門職以外に移動する iv)(洗濯・掃除・食事などで)外注できることは外注する v)外国人労働者を活用する など、経営上、合理化できることはまだまだ多い。

 そのため、それらを行なえば、⑲のような利益率低下や特別養護老人ホームの赤字を解決する一助にはなると思われる。また、介護も自費負担と併用できるようにすれば、「本当はもっと生活支援をして欲しいのに、ホームヘルパーに中途半端で帰られてしまった」ということがなくなり、訪問介護センターの利益も増えるだろう。

 その介護の財源については、⑰⑱のように、「介護報酬の財源は利用者が払う原則1割の自己負担を除き、40歳以上の個人と企業が拠出する保険料と税金で半分ずつ賄う」「国の介護費用は23年度13.8兆円、1.59%増えると2200億円弱増加」などとされているが、そもそも介護保険制度の対象を40歳以上にする根拠はないため、まず「働く人すべて」に拡大すべきである。

・・参考資料・・
<日銀の金融緩和・物価上昇・円安政策について>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL110D00R11C23A2000000/ (日経QUICK 2023年12月11日) 外為12時 円相場、下落 145円台半ば 米利下げ観測後退や株高で
 11日午前の東京外国為替市場で、円相場は下落した。12時時点は1ドル=145円42〜43銭と前週末17時時点と比べて1円34銭の円安・ドル高だった。11月の米雇用統計が労働市場の引き締まりを映す結果となり、早期の米利下げ観測がやや後退。日経平均株価が大きく上昇したのも「低リスク通貨」とされる円の売りを促した。円は145円57銭近辺まで下げ幅を広げる場面があった。8日発表された11月の米雇用統計で雇用者数の伸びが市場予想を上回り、失業率は前月から低下した。米連邦準備理事会(FRB)による早期の利下げ観測が後退したとして米長期金利が上昇し、日米の金利差拡大を意識した円売り・ドル買いが出た。東京市場では国内輸入企業による円売り・ドル買い観測も相場を下押しした。日銀がマイナス金利政策を早期に解除するとの思惑は円相場を下支えしたものの、「12月に決めるかは疑問」(国内銀行の外為ディーラー)だとの声もあり、相場が急伸した前週に積み上がった円買い・ドル売りの持ち高を縮小する動きも広がった。円は対ユーロでも下落した。12時時点は1ユーロ=156円55〜58銭と、同1円24銭の円安・ユーロ高だった。11日午前は日経平均が一時600円あまり上昇し、対ユーロでも「低リスク通貨」とされる円には売りが増えた。ユーロは対ドルで下落し、12時時点は1ユーロ=1.0765〜66ドルと同0.0014ドルのユーロ安・ドル高だった。

*1-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1121365 (佐賀新聞論説 2023/10/05) 円安150円台 緩和見直し弊害抑えよ
 円相場は一時、1ドル=150円台と約1年ぶりの円安ドル高水準をつけた。背景にあるのが日銀の大規模な金融緩和だ。日本経済の下支えに緩和政策は必要だが、高インフレの下で過度の低金利を続けることは副作用を増幅させる。足元の円安がまさに該当しよう。円安は物価高をさらに悪化させかねない。円相場は150円台の直後に一時急上昇し、外国為替市場に「政府・日銀が円安阻止へ市場介入に踏み切ったのでは」との観測が広がった。だが金融政策が変わらなければ、介入しても効果は限られる。日銀は弊害の抑制へ大規模緩和の見直しを急ぐべきだ。円安には自動車など輸出企業の利益増や、それによる賃上げのプラス効果の半面、輸入コスト増による物価上昇のデメリットが伴う。政府・日銀が昨年9月、約24年ぶりの円買いドル売り介入に踏み切ったのも物価対応のためだった。足元の状況はこの時に似ている。国内の消費者物価(生鮮食品を除く)は食品などの値上げが響き、8月まで12カ月続けて3%以上の上昇率を記録した。物価を左右する原油価格は産油国の協調減産などで再び高騰。ここに円安が重なれば原油だけでなく、穀物など輸入原材料のコスト全体を押し上げる恐れがある。今の円安は、日本と米欧の金融政策の違いによる金利差拡大に主因を求められる。米欧は昨年来、インフレ退治のために利上げを実行。それでも物価は沈静化せず、金融引き締めの長期化を余儀なくされている。これに対して日銀は、長期金利を0%程度に固定する緩和策の部分修正を7月に実施しながらも、大規模緩和は基本的に変更せず、円が売られやすくなっていた。この状況では、たとえ介入で一時的に勢いを弱められても、円安傾向を変えるのは難しい。金融政策の方向性の違いに加えて、円安の背景には日本経済の構造的な要因がある点も見落とさないようにしたい。石油・ガスをはじめ食品などの原材料を輸入に頼る点は、外貨での支払いが円売りにつながりやすい。自動車のような輸出競争力のある製品が生まれにくくなった点や、企業が海外投資で得た外貨を円に交換しなくなった点なども、円安の背景に挙げられよう。日銀の「2%目標」を上回る物価高になって、はや1年半近く。政府が「デフレではない状況」と認めるのに日銀はインフレに手を打たず、大規模緩和を続けている。植田和男総裁は「賃上げを伴う安定的な物価上昇ではない」とその理由を強調するが、物価高に賃上げが追い付かない状態は既に16カ月も続く。対応が後手に回っていないだろうか。導入時から賛否のある物価目標に固執するあまり、円安や財政規律低下の弊害だけでなく、国民生活への感度が鈍っているようで気がかりだ。2%目標とともに、マイナス金利のような極端な緩和策が現状でも必要なのか、この機に問いたい。岸田文雄首相は、10月末をめどにまとめる経済対策に物価高への対応を盛り込む方針だ。電気・ガスやガソリンの価格抑制策に焦点が当たるが、家計や中小企業に打撃の大きい円安を見過ごしていいはずはあるまい。政策連携を図り、円安是正に資する日銀との意思疎通を深める時だ。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231107&ng=DGKKZO75919130X01C23A1MM0000 (日経新聞 2023/11/7) 実質賃金9月2.4%減 18カ月連続マイナス 基本給は1.5%増
 厚生労働省が7日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価を考慮した実質で前年同月比2.4%減った。マイナスは18カ月連続となる。物価高の勢いに賃金上昇が追いつかない状況が続いている。実質賃金のマイナス幅は前月の2.8%からはやや縮小したが、なお2%台だ。実質賃金を算出する指標となる物価(持ち家の家賃換算分を除く)は3%台の上昇が続いており、賃金が目減りする状態にある。足元では名目賃金は緩やかに増えている。1人当たりの現金給与総額は前年同月比1.2%増の27万9304円だった。プラスは2022年1月から21カ月連続となる。現金給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は1.5%増で、5カ月連続で1%台の伸びになった。賃上げ効果が一定程度反映されている可能性がある。就業形態別にみると、正社員ら一般労働者は1.6%増の36万3444円、パートタイム労働者は1.9%増の10万2135円だった。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20231107&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO75919130X01C23A1MM0000&ng=DGKKZO75919440X01C23A1MM0000&ue=DMM0000 (日経新聞 2023/11/7) 消費支出2.8%減少
 総務省が7日発表した9月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は28万2969円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比2.8%減少した。マイナスは7カ月連続となった。食料など生活関連や住宅への支出が減り、消費を押し下げた。QUICKがまとめた市場予測の中央値の2.7%減を小幅に下回った。8月は2.5%減で減少幅は2カ月ぶりに拡大した。消費支出を構成する10項目のうち8項目で前年同月を下回った。

*1-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1143147 (佐賀新聞 2023/11/15) 7~9月GDP、年率2・1%減、3期ぶりマイナス、個人消費不振
 内閣府が15日発表した2023年7~9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は物価変動を除く実質で前期比0・5%減、年率換算は2・1%減だった。22年10~12月期以来、3四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高を受けた個人消費の不振に加え、企業の設備投資も落ち込み、新型コロナウイルス禍からの景気回復に急ブレーキがかかった。物価変動の影響を含んだ名目のGDPは4四半期ぶりに落ち込み、前期比0・04%減、年率換算は0・2%減だった。景気実感に近いとされる名目の数値もマイナスとなったことで、景気の停滞感が強まっている。実質GDPを項目別に見ると、GDP全体の5割超を占める個人消費は、自動車販売や食料品が落ち込んで前期比0・04%減、設備投資は半導体製造装置に対する投資の減少が響いて0・6%減だった。住宅投資や公共投資もマイナスで、国内需要は総崩れだった。輸出は自動車が増えた一方、輸出に区分されるインバウンド(訪日客)消費が振るわず、0・5%増にとどまった。輸入は著作権使用料の増加などで1・0%増えた。GDP全体への影響度合いを示す寄与度は、個人消費や設備投資などの「内需」がマイナス0・4ポイント、輸出から輸入を差し引いた「外需」はマイナス0・1ポイントだった。内需のマイナスは、自動車輸出の増加に伴うとみられる民間在庫の減少が大半を占めた。22年10~12月期の実質GDPはこれまで年率換算で0・2%増だったが、0・2%減に改定された。23年1~3月期と4~6月期は年率換算で3・7%増、4・5%増と高成長が続いていた。
*国内総生産(GDP) 国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額。内閣府が四半期ごとに公表し、景気動向や国の経済力を表す代表的な指標とされる。実際の価格で計算した名目の数値と、物価変動の影響を除いた実質の数値があり、実質がより重視される。前年や前四半期と比べた増減率を「経済成長率」と呼ぶ。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231208&ng=DGKKZO76787190Y3A201C2MM0000 (日経新聞 2023年12月8日) GDP年2.9%減に下方修正 7~9月改定値 個人消費下振れ
 内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%減、年換算で2.9%減だった。11月の速報値(前期比0.5%減、年率2.1%減)から下方修正した。個人消費などが弱含み、4四半期ぶりのマイナス成長となった。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.5%減、年率2.0%減だった。成長率への寄与度は内需がマイナス0.6ポイント、外需がマイナス0.1ポイントだった。速報値では内需がマイナス0.4ポイント、外需がマイナス0.1ポイントの寄与度となっていた。内需の落ち込み幅が広がり、全体を押し下げた。内需の柱である個人消費は速報値の前期比0.0%減から0.2%減に下方修正。2四半期連続のマイナスとなった。最新の消費関連統計を反映した結果、食品や衣服などの消費が弱含んだ。品目別に見ると、衣服などの半耐久財は0.5%減から3.2%減に、食品などの非耐久財は0.1%減から0.3%減に下振れした。設備投資は前期比0.6%減から0.4%減に上方修正した。マイナスは2四半期連続となる。財務省が1日に公表した7~9月期の法人企業統計などを反映した。金融・保険業を除く全産業の設備投資が季節調整済みの前期比で1.4%増えた。非製造業が持ち直した。民間在庫の寄与度は前期比でマイナス0.3ポイントからマイナス0.5ポイントにマイナス幅が拡大した。在庫を積み増す動きが速報値での想定より弱かった。住宅投資は0.1%減から0.5%減に落ち込んだ。公共投資は前期比0.5%減から0.8%減に下方修正した。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比5.3%上昇した。

*1-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1143818 (佐賀新聞 2023/11/16) 【GDP3期ぶりマイナス】やむなく節約、消費腰折れ、物価高の打撃鮮明、賃金鍵
 7~9月期の実質国内総生産(GDP)は3四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高で打撃を受けた家計がやむなく節約を進め、消費が腰折れしてしまった日本経済の姿が鮮明に浮かんだ。消費回復には賃上げの継続が欠かせず、2024年の春闘が鍵を握る。根本的には経済の底力を高めることも必要で、支持率の低迷する岸田文雄首相にとって経済運営の成否に政権の浮沈がかかる。
▽エンゲル係数
 11月中旬、兵庫県川西市のスーパー「阪急オアシス キセラ川西店」で自営業北島美代子さん(77)は、魚売り場を訪れた。物価は2年前と比べ、2~3割上がったと感じている。「会計の時に驚く。なるべく特売品を買う」。この日は「魚の日」。阪急オアシスのような比較的高級なイメージの店でも「曜日販促」を取り入れ、来店頻度を高める狙いだ。エイチ・ツー・オー(H2O)食品グループの松元努取締役専務執行役員は「値上げの中でご来店いただくため、客のニーズを見極めたい」と話す。総務省の家計調査によると、消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」は1~9月、2人以上の勤労者世帯で月平均26・3%となり、比較可能な00年以降の各年平均値を上回った。エンゲル係数がここまで上がった背景について、第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「賃金上昇が物価上昇に追いついていない」ことを指摘する。生活水準にかかわらず食費には一定程度支出する必要があるためだ。指摘を裏付けるように、今回のGDPで賃金などを示す「雇用者報酬」は前年同期比2・0%減と低迷した。
▽チャンス
 政府が経済運営でとりわけ重視しているのが賃金上昇だ。「デフレ完全脱却に向けた千載一遇のチャンスが巡って来ている」。15日に官邸で開いた政労使会議。首相は経団連の十倉雅和会長らに24年春闘で23年を上回る賃上げを求めた。だが賃上げをする余裕のない中小企業は多い。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「中小企業が24年春闘で23年の賃上げ率を上回るかどうかは見通せない」と話す。
▽米欧下回る実力
 物価高に対応しようと政府が11月決定した経済対策には所得・住民税の減税や給付金のほか、ガソリンや電気代の補助金など家計を支援する内容が並んだ。総額は17兆円を超え、財政難の中で繰り出す対策として不適切だとの見方も広がった。今回のGDPが振るわなかったことを「岸田首相は対策の規模が適切だと訴える材料に使う」と、ある政府関係者は予測した。日銀の金融政策についても「大規模緩和から出口へ向かいにくくなった」(エコノミスト)との観測が浮上する。だが減税や大規模緩和で経済を支え続けても、中長期的な経済の実力を示す潜在成長率はなかなか伸びない。経済協力開発機構(OECD)によると22年時点で日本は0・5%にとどまり、米国の1・8%やドイツの0・9%を下回る。今回の経済対策には、半導体生産支援やデジタル化、リスキリング(学び直し)といった成長に向けた施策も盛り込まれた。岸田政権にとっては賃上げとともに、経済を中長期的な軌道に乗せられるかどうかも大きな課題となっている。

*1-4 -2:https://www.dlri.co.jp/report/macro/288062.html (第1生命経済研究所 永濱 利廣 2023.11.6) エンゲル係数上昇の主因は実質賃金低下、~食料・エネルギー価格上昇に伴い拡大する生活格差~
 経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が足元で高水準にある。エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされている。最近の我が国のエンゲル係数上昇は、実質実収入の減少と食料品の相対的な価格上昇が主因となっている。その背景には、明らかに賃金上昇が食料品を中心とした物価上昇に追い付いていない実質賃金の低下がある。一方で、高齢者世帯が多く含まれる無職世帯のエンゲル係数は低下傾向にある。背景には、新型コロナ感染に対する恐怖心緩和に伴うサービス支出の拡大があるが、依然としてコロナ前より高水準にあることから、必ずしも生活水準の上昇とは言えない。政府の小麦売り渡し価格が10月から1割以上下がっていることや、原発処理水の問題で海産物の価格が下がっていること等から、食料品の値上げラッシュはピークアウトしつつあるが、中長期的には人口の増加や海外の所得水準向上等に伴う需要の拡大に加え、脱炭素化や都市化による農地減少等も要因となり、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続する可能性が高い。全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大する。更に深刻なのは、我が国の低所得者世帯の割合が高まっている一方で、高所得者世帯の割合が低下傾向にある。こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより企業や家計がお金をため込む一方で政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれてきたことを表している。その結果、我が国では高所得者層の減少と低所得者層の増加を招き、家計全体が貧しくなってきた。本当の意味でのデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となる。そうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえよう。そのためには、実質賃金の上昇が不可欠となる。
●22年度以降上昇に転じるエンゲル係数
 経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が足元で高水準にある。特に二人以上世帯では2022年6月に26.0%まで低下したものが、今年7月には28.2%まで上がっている。
エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされている。
●エンゲル係数上昇の主因は実質賃金低下
 実際、直近2023年8月のエンゲル係数を前年比で見ても+2.2ポイント上昇を記録している。しかし、食料品の値上げが相次いでいる一方で食料品の消費量は減っているように見える。そこで、エンゲル係数の変化幅を食料品の消費量、すなわち実質食料支出と相対価格および全体の消費性向と実質実収入、非消費支出に分けて要因分解してみた。すると、実質食料支出と税金や社会保険料などの非消費支出がいずれも▲1.0ポイントの押し下げ働く一方、実質実収入の減少が+2.3ポイント、食料品の相対物価が+1.3ポイント、消費性向すなわち消費量全体の減少が+0.4ポイントそれぞれ押し上げ要因になっていることが分かる。消費性向すなわち可処分所得に対する消費の割合が下がった背景には、値上げに伴い節約志向が強まったことが推察される。一方、食料品の相対価格上昇の背景には、政府の物価高対策で電気ガスなどエネルギー価格が抑制されたことで相対的に食料品価格の値上がりが上回ったことが推察される。そして最大の押し上げ要因である実質実収入減の背景には、30年ぶりの賃上げが実現したにもかかわらず、賃上げがインフレに追い付いていないことが考えられる。つまり、実質賃金の低下に加え、相対的に高い食料品価格の上昇、家計の節約志向の強まりがこのところのエンゲル係数押し上げの実体である。なお、無職世帯に限ったエンゲル係数はそれほど上昇していないが、その背景にはコロナからのリオープンやエネルギー価格の上昇が関係している可能性がある。というのも、無職世帯の10大費目別の支出ウェイトの変化を見ると、足元では交通通信と教養娯楽のウェイトが拡大しているためである。つまり、高齢者の多い無職世帯では、コロナショック以降に行動制限が敷かれていたことで機会を奪われてきたサービス消費が持ち直す一方で、ロシアのウクライナ侵攻に伴う化石燃料等の資源高が特に交通費の支出を押し上げてきたことがエンゲル係数の上昇を抑制しているといえる。
●足元の物価上昇は「悪い物価上昇」
 こうした食料やエネルギーといった国内で十分供給できない輸入品の価格上昇で説明できる物価上昇は「悪い物価上昇」といえる。そもそも、物価上昇には「良い物価上昇」と「悪い物価上昇」がある。「良い物価上昇」とは、国内需要の拡大によって物価が上昇し、これが企業収益の増加を通じて賃金の上昇をもたらし、更に国内需要が拡大するという好循環を生み出す。しかし、ここ元の物価上昇は輸入原材料価格の高騰を原因とした食料・エネルギーの値上げによりもたらされている。そして、国内需要の拡大を伴わない物価上昇により、家計は節約を通じて国内需要を一段と委縮させている。その結果、賃金上昇が物価上昇に追い付かずにエンゲル係数が上昇していることからすれば、「悪い物価上昇」以外の何ものでもない。なお、10月から政府の小麦売り渡し価格が1割以上下がったことや、原発処理水の問題で海産物価格が下がっていることからすれば、短期的には食料品の価格上昇自体は減速が期待される。しかし、世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口の増加や所得水準の向上等に伴う需要の拡大に加え、脱炭素化や都市化による農地減少等も要因となる。このため、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続すると見ておいたほうがいいだろう。
●生活格差をもたらす食料・エネルギー価格の上昇
 ここで重要なのは、食料・エネルギー価格の上昇が、生活格差の拡大をもたらすことである。食料・エネルギーといえば、低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる傾向があるためだ。事実、総務省「家計調査」によれば、可処分所得に占める食料・エネルギーの割合は、年収最上位20%の世帯が15.7%程度なのに対して、年収最下位20%の世帯では27.0%程度である。従って、全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大する。更に深刻なのは、我が国の低所得者世帯の割合が高まっている一方で、高所得者世帯の割合が低水準にある。事実、総務省の家計調査年報で年収階層別の世帯構成比を見ると、年収が最も低い200 万円未満に属する世帯の割合は2000年から2022年にかけて拡大している一方で、年収が最も高い1500万円以上に属する世帯の割合は2000年から2022年かけて低下している。こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより、企業や家計がお金をため込む一方で政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれていることを表しているといえよう。そして、我が国では高所得者層の減少と低所得者層の増加を招き、結果として家計全体が貧しくなってきたといえる。
●日銀の出口判断に重要な賃金
 これに対し、日銀はインフレ目標2%を掲げている。しかし、輸入食料品価格の上昇により消費者物価の前年比が+2%に到達しても、それは安定した上昇とは言えず、『良い物価上昇』の好循環は描けない。つまり、本当の意味でのデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となる。そしてそうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえよう。となると、「2%の物価目標」達成をどう判断するかが重要となってくるが、ここではやはり賃金の動向が重要になってこよう。というのも、植田新体制になって日銀はフォワードガイダンスに賃金を盛り込んでいるからである。そして具体的に日銀は2%の物価目標を念頭に置いた場合、名目賃金上昇率+3%、つまり実質賃金が+1%上昇する姿が理想的であると説明している。このため、現時点で実質賃金が17カ月連続でマイナスであることからすれば、いくらインフレ率が2%を超えているとはいえ、日銀が理想とする「2%物価目標」とは程遠いと言えよう。となれば、少なくとも来年の春闘の結果が賃金に反映されるまでは金融緩和の出口には向かえないということになろう。

*1-5:https://digital.asahi.com/articles/ASR9X7G7QR9XULFA012.html?iref=comtop_list_01 (朝日新聞 2023年9月28日) 株も債券も円も…トリプル安 「日本当局にできることは限られる」
 28日の東京金融市場では、株式と円、国債が売られる「トリプル安」の様相となった。米国の金融引き締めが長期化しそうだとの観測から、米金利が上がったことが大きな要因。円安が連日進み、1ドル=150円を試す展開となった。起点の一つは、27日のニューヨーク市場で原油先物価格が約1年1カ月ぶりに1バレル=94ドル台まで上昇したことだ。米景気が底堅く、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めを続けるとの見方から、米長期金利は年4・642%と16年ぶりの高水準をつけた。これにつられて、28日の東京市場でも長期金利の指標となる新発の10年物国債利回りが一時、0・750%まで上昇(国債価格は下落)。2013年9月以来の高水準となった。金利上昇は景気を押し下げる効果があるほか、相対的に株式への投資魅力が薄れるため、日米で株価が下落。日経平均株価は前日比499円38銭(1・54%)安の3万1872円52銭で終えた。700円弱、下落する場面もあった。終値で3万2千円を割るのは約1カ月ぶり。この日、3月期決算企業の中間配当を受ける権利を取得できる27日の翌日だったことも、日経平均の重しになった。外国為替市場では日米の金利差が改めて意識され、円を売って金利が高いドルを買う動きが続いている。27日のニューヨーク市場で円相場は約11カ月ぶりに1ドル=149円70銭台まで下落。28日の東京市場では買い戻しの動きもあったが149円台で推移した。午後5時時点では前日同時刻より30銭ほど円安の1ドル=149円31~32銭。心理的な節目となる150円が目前に迫り、市場では政府の為替介入への警戒感が強まった。SMBC日興証券の野地慎氏は「米金利の上昇が収まるまで、日本の当局にできることは限られ、市場の動きを牽制(けんせい)するしかないだろう」と指摘。ただ、米金利の上昇はあと1~2カ月で止まり、「次第に円高方向に向かうのではないか」とみる。

<減税するなら公正・中立・簡素の方向でやるべき>
*2-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1151260 (佐賀新聞 2023/11/29) 補正予算成立 国民の疑念晴れぬままだ
 臨時国会は2023年度補正予算が成立し、終盤に入った。岸田文雄首相は論戦のヤマ場を乗り切ったと受け止めているかもしれないが、内閣支持率の下落を招いた国民の疑念は晴れないままだ。残る会期で説明責任を果たさなければ、政権から離反した民意は戻るまい。10月20日に召集された臨時国会の会期は、12月13日までの55日間。9月に第2次岸田再改造内閣が発足した後、初の本格論戦の場だった。政府は、物価高の家計負担を緩和するとして新たな経済対策を決定。対策の財源となる13兆1992億円の補正予算案を国会に提出した。首相主導の所得税と住民税合わせて1人当たり4万円の減税は、24年6月からの実施で補正予算の枠外だが、質疑ではその当否が最大の焦点になった。共同通信の世論調査で、非課税の低所得世帯向けの7万円給付を含め「評価しない」との回答が6割を超え、他社の調査でも同傾向だったからだ。減税されても、防衛力強化のための増税など負担増が控えていることや、財政悪化への懸念が主な理由だ。減税や給付の財源は、増税回避や財政再建に用いるべきだというわけだ。首相は「経済を立て直した上で、防衛力や子ども政策について国民に協力してもらう」と強調、増減税は同時実施にならないことから「矛盾しない」と断言した。減税の狙いに関しては、経済の好循環を生むため、物価高を上回る賃上げまで「可処分所得を下支えする」などと繰り返し訴えた。それでも内閣支持率が20%台に落ち込むのは、国民が減税を次の衆院選に向けて政権浮揚を図る方策とみなしていることも要因だ。首相は「選挙目当て」を否定するが、財政の行く末まで憂慮する国民に対し、首相の答弁は説得力に欠けていると言わざるを得ない。今国会では、公選法違反事件に関与した法務副大臣や過去の税金滞納を認めた財務副大臣ら自民党出身の3人の政務三役が辞任した。首相は人選を「手腕、経験、他の候補との比較を踏まえて行った」と釈明した。だが実態は、来年秋の自民党総裁選再選の障害となる党内の不満を抑え込むため、派閥推薦や年功序列に重きを置いたはずだ。国民の不信感は、保身を図るかのような首相の姿勢にも根差していると重ねて指摘しておきたい。国民の疑念をさらに増幅させたのは、自民5派閥がパーティーの収入を政治資金収支報告書に過少記載していたと告発された問題だ。21年までの4年分だけでも計約4千万円に上っている。各派閥は「事務的ミス」として順次報告を訂正しているものの、組織的、継続的な裏金づくりと疑われても仕方ないだろう。首相は信頼回復のため党として「どう対応すべきか考えたい」と述べたが、追及をかわす一時しのぎの発言であってはならない。対応策を早急にまとめ明らかにすべきだ。同様の問題は立憲民主党議員の資金管理団体でも発覚しており、与野党で取り組む課題でもある。内閣支持率の下落原因を聞かれた首相は「一つや二つではないと思う」と分析した。そう認識しているのであれば、国民が抱くさまざまな疑問に国会の場で丁寧に答え、改めるべきは改める謙虚な政権運営に努めなくてはならない。

*2-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/296097 (東京新聞 2023年12月15日) 与党の税制大綱がうたう「支援」のちぐはぐさ 扶養控除を一部縮小、今ほしい減税の恩恵は2024年6月に
 自民、公明両党は14日、2024年度の税制を見直す与党税制大綱を決めた。1人当たり計4万円の定額減税を24年6月から実施するほか、住宅ローン減税の拡充など子育て支援策が並んだ。一方、高校生年代(16~18歳)の子どもがいる世帯の扶養控除を縮小する方針だ。
◆若い夫婦などに住宅ローン減税優遇維持
 定額減税は所得税が3万円、住民税で1万円だが、年収2000万円超の所得制限を設けた。賃金や物価の状況に応じて「家計支援の措置を検討する」と記し、延長の可能性を含んだ。子育て世帯と若い夫婦に限り、省エネ基準適合住宅などを取得するとローン限度額を最大1000万円上乗せすることで、住宅ローン減税の優遇を維持する。住宅リフォーム減税では子育て環境のための改修工事を対象に追加。23歳未満の子どもを育てる人を対象に、生命保険料控除の上限を現行の4万円から6万円にする方針も入り、25年度大綱に向けた来年の議論で決める。ただ住宅購入などに対象が限られるため、優遇の使い勝手は悪い。一方、24年12月から、高校生年代の子どもがいる世帯に原則1人当たり月10000円の児童手当が支給されることを受け、扶養控除を縮小する。控除額は所得税で年38万円から25万円に、住民税で33万円から12万円となるが、手当から税負担を差し引いた金額は富裕層でも現行より増える。ただ、控除縮小は来年は行わず、正式決定を来年に持ち越した。
◆防衛増税の時期先送り 裏金問題が影響
 デフレ脱却のため、物価高を上回る賃上げや経済成長を後押しする法人税の減税策も並ぶ。大企業は高い賃上げ率の要件を新設し、より積極的な企業を優遇する。赤字の多い中小企業の賃上げを促すため、税額控除できなかった分を5年間繰り越せる制度も新設する。昨年と同様、防衛費増額のための増税時期の決定を先送りした。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は「増税には政権の力が必要。昨今の政治状況は自民党にかなり厳しい風が吹いている」と14日の会見で述べ、政治資金パーティーを巡る裏金問題の影響があることを隠さなかった。
  ◇
◆首相肝いり「分断招かない」は看板倒れに
 14日に決まった2024年度与党税制改正大綱の柱が、岸田文雄首相が打ち出した定額減税だ。減税対象を自ら絞らない方針を示していたが、与党税制協議会が出した結論は年収2千万円超を除外する所得制限の導入。また、一人当たり4万円の減税額を来年6月の納税額から一気に引き切れないため、経済効果が生まれるとしても、後ずれする可能性がある。首相肝いりの政策は看板倒れになりつつある。「子育て世帯の分断を招くようなことはあってはならない」。定額減税が先月の経済対策に盛り込まれる前から、首相はこう強調し、所得制限を設けない考えだった。だが、自民党内では当初から、所得制限の導入に前向きな考えが大勢で、慎重姿勢だった公明党が自民党に歩み寄った。自民党の宮沢洋一税調会長は14日の会見で「1〜1.5%の誰が見ても富裕層と言われる方に限定した。分断に当たらない」と説明。ただ減税の恩恵を受けられない層が実際に生まれるため、首相が当初想定した通りにはならなかった。
◆減税で「手取りが増えた」の実感は薄そう
 減税は給付に比べて、事務面で支援が遅れがちで即効性に劣るとされる。先月2日の経済対策の閣議決定後に、その問題点を会見で問われると、首相は「ボーナス月の6月に賃上げと減税の効果を給与明細で目に見える形で実感できる」と反論した。だが、家計への効果は遅れそうだ。ある税理士は「所得税の減税分3万円を納税額から一括で差し引くことができる人は、給与収入が50万円以上ぐらいの人からだ」と指摘。減税処理が数カ月にまたがるため、手取りが一気に増えたと「実感」できる人は多くはなさそうだ。子育て中の場合は、扶養控除などの適用でまず納税額が減っているため、さらに差し引くことが可能な額が小さくなり「実感」は乏しくなる。一方、厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、物価変動を加味した実質賃金は10月まで前年同月比19カ月連続のマイナスを続けており、賃上げの方の効果も心もとない。
◆賃金上昇なければ財政がさらに悪化する恐れも
 「税収増を還元する」。今回の減税は首相のこうした掛け声をきっかけに、具体化された。だが、「過去の税収増は政策的経費や国債の償還に既に充てられている。仮に減税をしない場合と比べれば、国債の発行額が増加する」と鈴木俊一財務相は先月の国会で答弁。財政的には還元に当たらず、余裕がないという認識を示した。減税は原則1回限りだが、賃上げや物価高の状況次第では「所要の家計支援の措置を検討する」との文言が大綱に入り、継続される可能性が残った。本格的な賃金上昇が生じなければ、景気浮揚につながらず、財政がどんどん悪化する危険もはらむ。

*2-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1160547 (佐賀新聞 2023/12/16) 税制改正大綱 時代に合った改革なのか
 自民、公明両党は2024年度の与党税制改正大綱を決めた。岸田文雄首相が実現を求めた所得税、住民税の定額減税を中心に、個人も企業も減税がずらりと並んだ。負担増を徹底的に回避し、財政規律を省みない内容だ。増税や物価高への批判をはね返そうとする政策だが、定額減税に対する世論の評価は芳しいものではない。財政悪化がもたらす将来不安はじわりと広がっている。アベノミクスが始まって10年がたち、経済情勢は大きく変化し、安倍政権以来の政策は多くの分野で転機を迎えている。税制も例外ではない。しかし、時代の要請に合致した改革の構想や方向を、今年の大綱から読み取ることはできない。定額減税と非課税世帯などへの給付には5兆円規模の国費が投入される。除外されるのは年収2千万円超の富裕層だけだ。1人当たり4万円のばらまき型の支援は本当に必要なのだろうか。首相はこれまでの税収増を国民に還元すると訴えた。しかし鈴木俊一財務相が指摘したように、増加した税収は既に使ってしまっている。最近の税収は前年同期を下回るようになっている。定額減税によって、税収の穴は一段と広がるだろう。防衛力強化のための法人税、所得税の増税は今年も決定を見送られた。大型減税を実施した所得税はともかく、法人税だけ先行して決められなかったのだろうか。企業だけ負担が先に決まることに経済団体は反発するだろうが、一部だけでも財源を確定する意味は大きいはずだ。中長期の防衛政策を考えれば安定財源の確保を急がねばならず、政治や経済情勢の変化に対応し臨機応変に行動する必要がある。釈然としないのは扶養控除の縮小だ。高校生年代の子どもがいる世帯を対象に、所得税で年38万円から25万円に、住民税で年33万円から12万円に引き下げる。中学生までだった児童手当を拡充し、高校生の世帯にも支給する代わりに、扶養控除を縮小するという。児童手当の支給額は、控除縮小に伴う所得税などの増額分よりも大きいから、問題ないように見える。しかし、首相は「異次元の少子化対策」を掲げている。高校生がお金のかかる年代であることを考慮すれば、二重に支援することは不自然ではない。あえて扶養控除を縮小する必要があるのか。財政規律を守るのであれば、定額減税の対象を年収によってもっと絞り込めばいい。扶養控除を継続する財源を生み出すことができるはずだ。最優先するべき政策は少子化対策ではないのか。本当に支援が必要な層を考え、減税や給付が行き渡るようにする仕組みをつくらねばならない。扶養控除の縮小を正式決定するのは来年だ。見直す時間は十分にある。中小企業の賃上げを支援する制度も拡充されたが、赤字会社が6割以上を占めることを考えれば、税制以外の手段を含め、「次の一手」を考える時期に来ている。大綱は財政悪化を踏まえ、今後は法人税率の引き上げを視野に入れた検討が必要だと指摘した。法人税を引き下げ、企業の投資を拡大するこれまでの政策はどの程度効果があったのか、真剣に検証してほしい。「稼ぐ力」の源泉を見極め、効率的な支援に転換することは、次世代の税制に直結する課題でもある。
 
*2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75238600T11C23A0PPK000 (日経新聞 2023.10.14) 「年収の壁」対策が始動、勤務先の方針、まず確認
 年収が一定額を超えると税や社会保険料が増えるいわゆる「年収の壁」に対する政府の対策が10月から始まった。ただ壁については誤解も多く、まずは壁越えのメリットとデメリットの正確な理解が重要だ。そのうえで今回の対策の活用法を考えたい。年収の壁には税の壁と社会保険の壁がある。税の壁の一つは103万円を超えると本人に所得税が発生し始めること。厚生労働省の実態調査によると、これを就業調整の理由とする人が複数回答で49.5%と多い。実際は壁を1万円超えても所得税が500円増えるだけで収入増の大半は手取りの増加となる。しかし「103万円超えが手取り減につながるとの漠然とした誤解で就業調整している人は依然多い」とファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏は話す。もう一つの税の壁は150万円。これを超えると配偶者特別控除が少しずつ減少していき配偶者の税負担が増える。通常は妻の収入増が上回り世帯の手取りは減らないが、やはり多くが就業調整の理由として挙げている。「税の壁での就業調整は意味がないことを認識すべきだ」(社会保険労務士の井戸美枝氏)
  ○   ○
 社会保険に関する壁は106万円と130万円がある。大きく超えない限り、保険料負担が収入増を上回り手取りが減る。今回の対策は主に社会保険の壁を対象にしたものだ。
まず106万円の壁。従業員101人以上の会社で月収8万8000円(年収換算で約106万円)を超え、週20時間以上勤務などの条件も同時に満たすと、厚生年金や会社の健康保険に入ることになる。それまで配偶者の扶養に入っていた第3号被保険者は年16万円程度の保険料負担が発生し、手取りが減る。壁を越える前の手取りになるには収入を125万円程度に引き上げることが必要だ。厚労省の調査では20.6%が就業調整の理由として挙げる。しかし厚生年金加入で将来の厚生年金が受給できるようになり、長生きすることが多い女性は通常は将来の受給額合計が保険料を上回る。会社の健康保険は病気やケガの際に収入の3分の2の傷病手当金が支給されるなど給付が手厚い。保険料を払って分厚い社会保障を受ける一般の会社員と同じ状況になるだけだが「『働き損』という実態と異なる呼び方を信じて就業調整するケースも多い」(社会保険労務士の岩城みずほ氏)。また月収8万8000円は契約した賃金で決まるので残業代は含まない。年末に就業調整しても無意味だが、十分理解されず人手不足の要因になっている。ただ目先の手取りが減ることを嫌う人が多いのも事実。そこで今回の対策では賃上げや手当などで手取り減を補う企業に対し、10月以降に壁越えをする従業員1人あたり3年間で最大50万円を助成する。ポイントは従業員に直接ではなく企業に支給し、具体的な活用策を委ねる点だ。企業によって活用内容が異なる可能性が大きいため、壁越えを考えている人は勤務先がどんな方針をとるか、よく確認し相談することが必要になる。例えば同じ職場に過去にすでに保険料を負担して厚生年金加入で働いている人がいる場合、新たに106万円を超える人だけを手当や賃金増の対象にすれば不公平で、不満が広がる。企業が公平さを維持したい場合、過去に壁越えをした同程度の収入の従業員全体にも手当や賃上げを検討することになる。これにより新たに壁越えをする人だけでなく職場に広く手取り増を促す「呼び水」にすることが政策の狙いだ。しかし助成金はあくまで新たに壁越えをする人の人数分しか出ない。このため職場で広く公平な手当や賃上げを実施したい企業は、助成金以外に自社で財務的な負担が生じるケースも多そうだ。財務的な負担が無理なら、助成金の適用を見送る可能性もある。
  ○   ○
 もう一つの社会保険上の年収の壁は130万円。130万円以上になると配偶者の社会保険の扶養をはずれる。しかし106万円の壁と異なり、通常の厚生年金の加入条件である週30時間以上の勤務でないと厚生年金などに加入できず、国民年金保険と国民健康保険に入ることになる。新たに保険料負担が発生する一方で将来の厚生年金の受給などはなく、単純に保険料負担だけが起きるという意味では本当の壁だ。130万円の計算には残業代なども含むため年末などに就業調整が起きる。実態調査では56.6%が就業調整の理由として挙げる。今回の対策では130万円を超えても、それが人手不足に対応するための追加的な残業など一時的なものであることを事業主が証明すれば、扶養をはずれなくてもよいことにする。原則として連続2年までが上限だ。ただどんな場合に「一時的」と判断するかは勤務先に確認したい。企業の配偶者手当も年収の壁となっている。本人の年収が一定以上で配偶者の会社が配偶者手当を打ち切ることがある。配偶者手当は年に数十万円にもなることがあるため大きな手取り減だ。今回の対策では配偶者手当を廃止・縮小し、基本給や手当を増額することなどの見直しを企業に求める。配偶者手当の基準で最も多いのは103万円。しかし配偶者手当を見直す企業は増えており、103万円で手当を打ち切る会社は22年に2割と15年の4割強から急減している。配偶者の勤務先の基準が変わっていないかを確認することが必要だ。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20231014&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO75238600T11C23A0PPK000&ng=DGKKZO75238670T11C23A0PPK000&ue=DPPK000 (日経新聞 2023.10.14) 老後に備え大きく壁越えを
 助成策で手取り減がなくなるかは勤務先の活用次第で、壁を越える人全員が対象になるわけではない。助成金がない場合、106万円を超えて手取りが戻る収入は125万円だが、大きく上回るほど目先の収入と将来の厚生年金が増える。介護や子育てで難しい場合を除き、賃金増の流れを生かしてなるべく大きく超えることが長寿の女性には有効だ。130万円の壁についても回避を狙うだけでなく、週30時間以上の勤務にして厚生年金加入を考えることも将来の安心には有効。ただ厚生年金加入後に130万円未満での手取りを回復するには、150万円台の年収が必要になる。そこまで勤務時間を延ばせない場合、106万円で厚生年金に加入できる101人以上(24年10月からは51人以上)の会社への転職を考える選択肢もある。今回の対策は25年に予定される抜本的な改正策がとられるまでの原則3年の時限措置。法改正には保険料や給付水準の在り方を巡り様々な案が出ているが、新たな不公平の発生や複雑化の懸念も多く、簡単ではない。年収の壁への様々な誤解の解消とともに、短時間労働でも厚生年金に入れる対象企業の適用を徹底的に拡大し、働く人すべてに社会保険を適用することが本来の解決策だろう。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231105&ng=DGKKZO75868900U3A101C2EA1000 (日経新聞 2023.11.5) インボイス開始1カ月、混乱続く 10月分の処理本格化、様式バラバラ、記載に不備 業務負担大きく
 インボイス(適格請求書)制度の開始から1カ月あまり。10月分の請求書の処理が本格化するなか、中小・新興企業などで混乱が続いている。企業ごとに異なる請求形式の違いへの対応や、登録番号の確認作業で業務の負担が増している。10月に入っても企業の9割で今後の対応に懸念を持つとの調査も出ている。「アプリやソフトウエア販売、電子商取引(EC)販売を手掛ける事業者の一部で10月以降、急きょ自社でインボイス発行が必要な取引が相次いだ」。家計簿アプリや会計ソフトを手掛けるマネーフォワードの松岡俊経理本部長は想定外の対応に追われた。アプリの販売プラットフォームの米アップルや米グーグル、ECサイトの米アマゾン・ドット・コムなどで、発行の仕組みがバラバラだったからだ。例えば同じアプリ販売でもアップル経由の場合、アップルがインボイスを直接交付するが、グーグルでは事業者側に交付義務が発生している。マネーフォワードは1年ほど前から準備してきたが、10月に入って取引先への周知や税務署への確認、アプリの利用規約の記載変更などの対応に追われることになった。帝国データバンクが10月6~11日までに実施したインボイス制度への対応状況に関する企業アンケートでは対応が遅れているとした回答が3割にのぼり、全体の9割で懸念事項があると回答した。懸念の多くが事務作業負担の増加だった。「10月から請求書を紙から電子に切り替えて発行してほしい」。防災設備設計・施工の紘永工業(横浜市)は、納入先10~20社から請求書のフォーマット変更の依頼が相次いだ。各社が独自システムを使っていることが多く「アカウントの登録作業に手間がかかった」(経理担当者)。都内の電気工事会社は請求書をインボイス番号記載の形式に変更し、8月末に取引先各社に郵送で案内をした。だが、取引先の請求書担当に届いていないためか、番号のない請求書を送ってくる取引先が散見される。制度への登録が必要とされる免税事業者160万者のうち、登録が済んだのは9月末時点で106万者。出前館では10月以降も一部の配達員が登録を進めており、その確認作業に追われている。辻・本郷ITコンサルティング(東京・渋谷)の菊池典明税理士は「買い手は免税事業者に対しては、どれほど課税分を負担してもらうか改めて交渉する必要がある。今後も対応で混乱する可能性もある」と指摘する。小規模な取引先の多い外食産業の負担も続く。つぼ八は「登録番号の確認作業や請求書の準備などで業務時間が増えている」と話す。10月分の請求書送付は今後増える見込みで、番号の確認作業でさらなる業務負担の増加を懸念する。インボイス制度について同社の担当者は「免税事業者を設けるべきではない」と制度の廃止を求める。居酒屋「金の蔵」などを展開するSANKO MARKETING FOODSは従業員の立て替え精算で使うシステムで番号を自動で読み取れないケースが多発。経理部が1枚ずつ領収書を確認するなど「想定以上に負担が増えた」という。免税事業者側でも混乱も起きている。建設作業員を中心に構成する全国建設労働組合総連合(全建総連)には「一人親方」と呼ばれる個人事業主の一部から「取引先から課税事業者登録を突然求められ、登録しなければ単価を下げると通知された」との報告が入った。公正取引委員会はインボイス制度を巡り一方的な取引価格の引き下げは独占禁止法の違反につながる恐れがあるとして注意を促している。だが、実際のビジネスの現場で値決めを巡り混乱が広がっている恐れもある。
▼インボイス 事業者ごとの登録番号や税率ごとの消費税額などを記載した請求書や納品書。仕入れ時に支払った消費税額を納税時の納税額から差し引くには仕入れ先からインボイスを受け取る必要がある。 インボイス発行事業者の登録をしていないと発行できない。大企業は基本的に発行事業者の登録を取引先に促す考えだ。だが、小規模事業者やフリーランスでは登録について様子見を続ける動きは根強い。

*2-3-2:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=22704 (日本医事新報社 2023年9月8日) ■NEWS 社会保険診療の消費税、診療所は非課税、病院は軽減税率に―日医が来年度税制改正要望
 日本医師会は9月6日の定例会見で、「令和6年度 医療に関する税制要望」を公表した。社会保険診療に係る消費税について、診療所は現行の非課税のまま診療報酬上の補塡を継続しつつ、病院においては軽減税率による課税取引に改めるよう要望した。日本医師会は昨年の税制要望では、社会保険診療に係る消費税について、「小規模医療機関等」は非課税のままとし、「一定規模以上の医療機関」は軽減税率を適用するよう要望、「一定規模」をどこで線引するかが課題となっていた。6日の会見で宮川政昭常任理事は、「線引に当たって有床診療所の取り扱いが焦点となり、全国有床診療所連絡協議会と協議し、アンケートもとった。その結果、非課税のままを望む声が多かった。このため「診療所」「病院」という医療法上の区分が客観的でよいと(会内の)委員会でまとまり、このように集約した」と報告。非課税のままで診療報酬による補塡を求める有床診療所が多かった理由については、「有床診療所は規模が様々で、課税取引にすると存続が難しいという意見が多かった」と説明した。社会保険診療に係る消費税が非課税となっていることについて、日本医師会は長年、「控除対象外消費税」が医療機関の経営を圧迫しているとして、ゼロ税率や軽減税率、患者への還付制度などによりこれを解消することを求めてきた。仮に医療機関の種別により消費税率の取り扱いが変わる場合、これまで消費税分として補塡されてきた診療報酬を引き下げることや、いわば一物二価となるために患者にわかりやすい説明が必要になるなど、課題も多いとみられる。

*2-3-3:https://www.nta.go.jp/taxes/kids/hatten/page02.htm (国税庁) 「税のしくみ、税の種類と分類」より抜粋
<直接税>
●所得税
 ◎個人の所得(収入から経費などを引いたもの)に対してかかる税金です。
 ◎所得が多くなるほど、税率が高くなります。
 個人の所得にかかる税金のことを「所得税」といい、会社で給料をもらっている人や自分で商売をして利益を得ている人にかかります。所得税は、1年間のすべての所得からいろいろな所得控除(その人の状況に応じて税負担を調整するもの)を差し引いた残りの所得(課税所得)に税率をかけて計算します。税率は、所得が多くなるほど段階的に高くなる累進税率となっており、支払い能力に応じて公平に税を負担するしくみになっています。会社に勤めている人と自分で商売をしている人では、納税方法が異なります。
●住民税(道府県民税・市町村民税)
 ◎住んでいる(会社がある)都道府県、市区町村に納める税金です。
 ◎道府県民税も市町村民税も一括して市区町村に納めます。
 道府県民税と市町村民税は合わせて「住民税」と呼ばれており、住民がそれぞれ住んでいる(会社がある)都道府県や市区町村に納める税金です。「住民税」は住民(や会社)が平等に負担する金額(均等割)と、前年の所得の額に応じて負担する金額(所得割)から成り立っています。「住民税」も所得税と同じように、会社に勤めている人と、自分で商売をしている人で、納税方法が異なります。
●法人税
 ◎法人(会社)の所得に対してかかる税金です。
 ◎決算期(それぞれの会社が決めた年度)が終わったあとに確定申告をします。
 株式会社など法人の所得にかかる税金のことを「法人税」といいます。会社は決算期ごとにその期間の所得をもとに税額を計算して申告・納税をします。
<間接税>
●消費税・地方消費税
 ◎商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金です。
 ◎納税するのは製造業やサービス業などの事業者ですが、負担するのは消費者等です。
 「消費税」は、消費一般に広く公平に負担を求める間接税で、最終的には商品を消費したり、サービスの提供を受ける消費者が負担し、事業者が納税します。事業者は、消費者等から受け取った消費税等と、商品などの仕入れ(買い入れ)のときに支払った消費税等との差額を納税することになります。消費税の税率 は7.8%、 地方消費税の税率 は2.2%、これらを合わせて10%の 税率になります。
※ 消費税等とは、消費税(国税)と地方消費税(地方税)のことをいいます。
●酒税
 ◎日本酒、ビールなど、お酒にかかる税金です。
 ◎製造者または輸入者が納税しますが、負担するのは消費者です。
 日本酒やビール、ウイスキーなどのお酒にかかる税金のことを「酒税」といいます。 アルコール分1度以上の飲料が対象になり、税額はお酒の種類やアルコール度数によって細かく決められています。製造者または輸入者が納税しますが、価格に含まれているため、負担しているのは消費者です。
●たばこ税・たばこ特別税
 ◎たばこにかかる税金です。
 ◎製造者または輸入者が納税しますが、負担するのは消費者です。
 紙巻たばこやパイプたばこなど、各種のたばこにかかる税金のことを「たばこ税・たばこ特別税」といいます。製造者または輸入者が納税しますが、価格に含まれているため、負担しているのは消費者です。たばこ税は国に納められる国税と、地方に納められる地方税に分けられます。
※地方税分は、道府県たばこ税と市町村たばこ税の合計です。
●関税
 ◎輸入品にかかる税金です。
 ◎原則として、輸入者が納税します。
 外国から日本に品物を輸入しようとする場合、その輸入品にかかる税金のことを「関税」といい、原則として貨物の輸入者が納めます。
●揮発油税・自動車税・自動車重量税など
 自動車に関連する税金には、揮発油税(ガソリンにかかる税金)や、自動車税(自動車を持っている人にかかる税金、自動車重量税(自動車の重さに応じてかかる税金)などがあります。

<国を挙げての組織的高齢者虐待 ← そんな子はいらない>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231223&ng=DGKKZO77216930T21C23A2EA4000 (日経新聞 2023/12/23) 子育て重視 予算も税も、集中強化初年度は対策1兆円 児童手当など給付拡充
 政府は22日、少子化対策の強化に向けた「こども未来戦略」を発表した。2026年度までに国・地方合わせて年3.6兆円の追加予算を投じ、児童手当や育児休業給付を拡充する。税制改正では子育て世帯の減税を盛った。巨額の支援策が出生増につながるかの検証も欠かせない。22日に官邸で開いた会議で決めた。歳出改革の道筋を示した改革工程と、子ども政策の基本方針となる「こども大綱」もまとめた。政府は24年度からの3年間で少子化対策に集中して取り組む。初年度は国と地方で1兆円の予算を計上した。対策の司令塔となる、こども家庭庁の24年度予算案は総額で前年度比9.8%増の5兆2832億円を充てた。目玉は児童手当の拡充だ。所得制限を撤廃して高校生まで支給期間を延ばす。第3子以降は月3万円に増額し、0~18歳まで受けられるようにする。24年10月分から始める。3人以上を育てる多子世帯の大学の授業料は25年度から無償化する。親の就労を問わず保育を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」は26年度から全国展開する。4~5歳児クラスの保育士の負担を軽減する。保育士1人がみる子どもの人数を国の基準より少ない25人にした場合に運営費を補助する。25年度からは両親ともに育児休業を取得すれば、28日間まで育休給付を手取りの実質10割に増額する。税制面でも子育て世帯に配慮する。ローンを組んで住宅を購入した際に所得税などの負担を減らす住宅ローン減税について、子育て世帯は24年も減税対象の借入限度額を現行の最大5000万円で維持する。生命保険料控除も広げる。課税対象となる所得から支払った保険料に応じて一定金額を除外する。現状では12年以降の契約の場合は所得税で最大4万円を控除しており、最大6万円に引き上げる。足元では急速に少子化が進む。23年の出生数は70万人台前半との試算もあり、過去最少を更新する見込みだ。婚姻数も増加に転じる兆しが見えない。岸田文雄首相は「若年人口が急減する30年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」と訴えてきた。24年度予算案では財源確保を待たず大規模な財政出動を決めたが、政策効果が不透明な施策も少なくない。児童手当の所得制限の撤廃を巡って経団連の十倉雅和会長は「納得感が少ない」と批判した。効果が十分検証されないままに給付を積み増す手法には、経済界を中心に異論が出ている。子どもの虐待対策など子育てとは直接結びつかない施策も盛り込まれた。今回の対策が出生増につながるかも不透明だ。京都大の柴田悠教授の試算によると、1人の女性が生涯に産む子どもの人数を示す「合計特殊出生率」の押し上げ効果は0.1ポイント程度にとどまるという。柴田氏は「若者の結婚や出産を阻む一因は長時間労働だ。是正のために労働基準法の改正やデジタル化など政策が介入できる余地は大きい」と指摘する。

*3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231110&ng=DGKKZO76018640Z01C23A1EP0000 (日経新聞 2023.11.10) 少子化財源、全世代で負担、政府「支援金制度」具体化へ議論 後期高齢者も対象に
 少子化対策の財源の一つとして政府が創設する「支援金制度(仮称)」の具体化に向けた議論が9日、始まった。医療保険の仕組みを通じ後期高齢者を含む全世代が支援金を拠出する。現役世代に負荷が偏る可能性もある。政府は2024年度からの3年間、少子化対策を集中的に進める。年3兆円台半ばの予算を確保し、児童手当の拡充や保育サービスの充実にあてる。予算の財源は(1)社会保障費の抑制(2)既存予算の活用(3)支援金――の3本柱で捻出する。28年度までの間に順次確保する予定で、確保できるまでの不足分はつなぎ国債の「こども特例公債(仮称)」で補う。政府は当初、1つの柱ごとに約1兆円ずつ賄う青写真を描いていた。ところが予算規模が3兆円から3兆円台半ばに急きょ膨らんだこともあり、年末までに詳細を詰めることになった。柱の一つになる支援金制度は、医療保険料に上乗せする仕組みになる見通し。会社員なら、収入に一定割合をかけた金額の拠出をする形が有力だ。公的医療保険の徴収ルートを使い、健康保険組合などが保険料に上乗せして国に代わって集める。こども家庭庁は9日、経団連や連合、健康保険組合連合会などから支援金制度に対する意見を聞いた。参加者からは「現役世代に負担が集中しないようにすることが重要だ」など全世代の負担する必要性を強調する意見が多く上がった。政府側は「負担増」のイメージ払拭に躍起になっている。同庁が会合で示した資料は「子育て世帯にとっては給付が拠出を大きく上回る」とメリットの大きさを強調したものだった。だが収入金額をもとに拠出金を算定するなら、相対的に収入が多い現役世代の負担は大きくなる。医療保険制度には、支援金の徴収対象となる加入者の裾野が広いという特徴がある。若年層から後期高齢者も含め幅広い世代が保険料を出す。基礎年金の場合は59歳で支払いが終わり、介護保険料は40歳からだ。それでも収入額に一定割合をかける仕組みにすれば、稼ぎが多い現役世代に負担が偏る。今でも現役世代は収入の約3割を社会保険料に充てている。さらなる負担に理解を求めるなら、使い道を透明にして負担を見通しやすくすることが前提だ。政府は使い道や支援金の充当割合などを法律で縛り、拠出にも上限かける方針だ。毎年度の拠出規模を決める時は、経済界などから意見も聞く。特別会計「こども金庫(仮称)」も新設し、支援金や育児休業給付向けの雇用保険料の動きを見えやすくする。政府は歳出改革で保険料の伸びを抑え、その範囲内で支援金を導入する。岸田文雄首相は「実質的な国民負担の増加にならない」と強調する。ただし保険料の伸びを抑えることは高齢者らが受ける医療・介護サービスの見直しにもつながる。少子化対策には、消費税収を一つの財源とすることが消費税法で定められているが政府は増税による財源捻出を否定してきた。消去法的に浮上した選択肢が保険料への上乗せだった。社会保険料は「第2の税」とも言われるが、消費税よりは引き上げの痛みを生活のなかで実感することは少なく増税ほど反発は起きない。経済界は9日の会合で表向き反対しなかったが「少子化対策と言われると正面から反対しにくい」(参加団体の幹部)というのが本音だ。支援金制度には「社会保険の流用だ」という専門家の批判がある。経団連は社会保障制度を維持するため、将来の消費税引き上げを「有力な選択肢の一つ」としている。セーフティーネットの社会保険より、社会全体で能力に応じ負担できる消費税を財源とすべきだとの声は根強くある。

*3-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231223&ng=DGKKZO77207710S3A221C2M10600 (日経新聞 2023.12.23) 教育 教員増員で働き方改革
 2024年度の文教関係予算は前年度比1.0%増の4兆563億円とした。公立小中学校の教職員給与に充てる国の負担金を増額し、初任給を5.9%引き上げる。教員の長時間労働の是正に向けて働き方改革の推進に重点を置いた内容とした。いまは1人の教員が算数や理科などほぼすべての教科を担当している。この負担を軽くするために小学校高学年で教科ごとに担当する教員が異なる教科担任制を進める。必要な教員として24年度に全国で1900人増員するために40億円を計上した。24年度からは教員が授業準備や指導に集中できるよう、代わりに事務作業を担う「教員業務支援員」をすべての公立小中学校で配置する。2万8000人分の81億円を盛り込んだ。

*3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231224&ng=DGKKZO77223430T21C23A2EA1000 (日経新聞社説 2023/12/24) この少子化対策で将来に希望が持てるか
 政府は新たな少子化対策「こども未来戦略」を閣議決定した。少子化を日本が直面する「最大の危機」と位置付け、具体策である加速化プランは3.6兆円規模となる。若い世代が安心して結婚や出産の希望をかなえる一歩にしたいが、課題はなお多い。なによりまず、財源だ。政府は医療保険料のルートを使い、2028年度時点で年間1兆円を「こども・子育て支援金」として集める予定だ。再分配の効果を高めるには幅広い国民が負担能力に応じて協力する仕組みが要るが、支援金は応能負担の視点が弱い。高齢者にも負担を求める制度にしたのは良いが、総人口の15%超を占める75歳以上の負担分は7%程度にとどまる。所得だけでなく、資産の保有状況に応じて世帯の負担額を決める仕組みを導入するなどして現役世代の負担軽減につなげていくべきだ。政府は支援金制度がフル稼働する28年度までに歳出改革を徹底するとし、岸田文雄首相は「実質的な追加負担は生じさせない」と繰り返してきた。この方針を巡り、政府は23~24年度に実質的な社会保険負担の軽減効果が0.33兆円あるとした。だがこの算定には無理がある。政府は医療従事者らの賃上げで医療・介護費が増える分を、国民一般の賃上げ率の範囲内なら「負担」に含めないと説明している。そんなつじつま合わせではなく、医療費や介護費の抑制に直結する歳出改革に取り組むべきだ。これを欠けば現役世代の負担感はどんどん強まり、出産意欲にも響きかねない。対策の中身にも注文がある。新たなプランは児童手当の高校生までの延長や所得制限の撤廃、多子世帯の大学無償化などの経済的支援を多く盛り込み、開始時期も明記した。ただ少子化の大きな要因は未婚化だ。若い世代が自らの就労で経済基盤を安定させるための支援こそ急ぐべきだ。いったん非正規になるとなかなか抜け出せない硬直的な労働市場の改革や、正規・非正規の処遇格差の是正などが重要になる。これらの施策は、若い世代だけでなく幅広い世代に関わる。子育てに時間を割けない長時間労働の慣行や、女性に偏る家事・育児分担を変えていくことも同様だ。今の日本の社会のあり方自体が、少子化を招いている。そうした危機感を社会全体で共有したい。

*3-2-1:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231108-OYT1T50219/ (読売新聞 2023/11/9) 「異次元の少子化対策」、財源は医療保険料に上乗せ方針…子育て世帯以外は新たな負担
 政府が「次元の異なる少子化対策」の財源確保のため新たに設ける、国民から広く支援金を集める制度の概要案が判明した。負担能力に応じて医療保険料に上乗せして徴収する方針を初めて明記した。こども家庭庁は、9日に「支援金制度(仮称)」の設計に向けた具体的な議論を始め、年末に結論を出す。政府は少子化対策の拡充のため、今後3年間で年3兆円台半ばの追加予算確保を目指している。「徹底した歳出改革」で財源を捻出し、足りない分を主に支援金制度で補う方針だ。支援金制度は、保険加入者が拠出する支援金を子育て世代への給付などに充てる仕組み。概要案は、子育て世帯は「給付が拠出を大きく上回る」とする一方、それ以外の人には「新たな拠出となる」と説明。過度な負担とならないよう、「拠出額は負担能力に応じた仕組みとする」とした。支援金は、医療保険の仕組みを活用して徴収・納付する方向で、健康保険組合などが実務を担う仕組みを検討する。支援金の使い道については、「妊娠・出産期から0~2歳の支援策にまず充当する」との案が盛り込まれた。政府が6月に決定した「こども未来戦略方針」では、支援金制度の詳細については先送りしていた。

*3-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRD56KFJRD5UTFL004.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2023年12月5日) 少子化対策の財源 医療・介護の「3割負担」拡大 「応能負担」鮮明
 政権の掲げる「異次元の少子化対策」の財源確保策の一つ、社会保障の歳出改革に関して、政府は5日、2028年度までに実施を検討する具体的なメニューを盛り込んだ改革工程の素案を示した。医療・介護では、「現役並み」の所得がある高齢者について、窓口負担や利用料を「3割負担」とする対象の拡大を検討。支払い能力に応じた「応能負担」の仕組みを一層強化する。与党との調整を経て、年末までに閣議決定する方針。少子化対策は年3・5兆円の事業規模。既定予算の活用、医療保険料とあわせて徴収する支援金(仮称)に加え、改革工程での捻出で、政府は段階的に実施する充実策が出そろう28年度までに財源を確保する考え。それぞれ1兆円程度と見込む。改革工程は各項目の実施時期を①来年度②28年度まで③高齢者数がほぼピークとなる40年ごろまでの3段階に整理。その上で「働き方」「医療・介護」「地域共生社会」の三つの視点で素案を示した。28年度までの医療・介護の改革メニューには「応能負担」を色濃く反映。「給付のあり方」や「給付と負担のバランス」について「不断の見直しを図る」と明記した。医療の窓口負担は現在、70~74歳は原則2割、75歳以上は原則1割で、「現役並み所得」の人に限って3割負担。介護の利用料も「現役並み」の人が3割負担だ。素案では「現役並み」の判断基準の見直しについて「検討を行う」と明記。介護サービスは、医療に比べて長期間利用する影響も踏まえるとした。医療・介護保険の負担では、金融所得や資産も勘案するとした。把握や反映の仕方も検討する。医療の窓口負担額の上限を定めた「高額療養費制度」も、「応能負担」と賃金や物価の上昇状況などを考えて見直しを検討するとした。介護では、ケアプラン(介護サービスの計画)の有料化や、軽度者(要介護1、2)の生活援助サービスなどの市町村事業への移行について、自治体が介護計画を策定する時期にあわせ27年度までに「結論を出す」とした。ただ、改革工程には財源をどれだけ捻出できるのか示されず、検討メニューを挙げるにとどまった。高齢者の負担増は反発を招く可能性があり、岸田内閣の支持率が最低水準で推移する中、財源確保につなげられるかは見通せない。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75270590T11C23A0EA4000 (日経新聞 2023.10.14) 「財政健全化への強い思い」 土居丈朗・慶応大教授
 土居丈朗・慶応大教授の話 経団連の提言は財政健全化への経済界の強い思いの表れといえる。社会保険料率は過去最高の水準にあり、企業の持続的な賃上げにも影響は少なくない。金融資産も含めた「経済力」に応じて負担を考えるべきだという視点も重要だが、政府・与党の議論は進んでいない。給付を増やして負担も増やすのか、給付自体を減らすのか、制約をなくした議論が必要だ。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20231223&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO77207430S3A221C2M10600&ng=DGKKZO77207750S3A221C2M10600&ue=DM10600 (日経新聞 2023/12/23) 年金 2年連続で給付抑制
 2024年度の公的年金の支給額改定で給付を抑制する「マクロ経済スライド」が2年連続で発動される前提で予算編成した。年金額自体は上がるものの物価上昇の伸びほどの増額にならないため実質的に目減りする。24年度の改定率は厚生労働省が24年1月に公表する。4~5月分をまとめて支給する6月の受け取り分から適用する。マクロ経済スライドは年金財政の安定化のために導入されたが物価の下落局面では発動しない仕組みだ。そのため長引いたデフレ下では十分に給付を抑制できず、この20年ほどは年金を「払いすぎる」状態だった。払いすぎた年金は将来世代の給付を抑えて帳尻を合わせざるを得ない。こうした調整は23年度に終わる予定だったが現状では基礎年金で46年度まで抑制が続く見込みだ。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75270540T11C23A0EA4000 (日経新聞 2023.10.14) 医療・介護負担「公平・応分に」、経団連、消費増税を念頭 全世代型の改革を提言
 経団連が医療や介護、年金など社会保障制度の改革への働きかけを強めている。13日に発表した提言では、2025年度までに制度や財源を抜本的に見直すよう求めた。高齢化に伴う保険料の引き上げで現役世代や企業の負担は増している。経団連は制度の持続性を高めるには、消費増税による財源の確保が避けられないと見る。2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者になり、国の医療費が膨らむと予想されている。医療や介護を支える負担が現役世代や企業にかたよれば、投資や賃上げの壁になりかねない。経団連は「消費増税」の必要性を強調している。9月に出した24年度税制改正への提言で、全世代の国民が負担する消費税が公平で安定的と指摘し、社会保障財源として「引き上げは有力な選択肢」と踏み込んだ。十倉雅和会長も「消費税の議論から逃げるべきではない」と訴える。国民の負担となる増税にあたっては給付の見直しも欠かせない。「中長期視点での全世代型社会保障の議論を求める」と題した13日の提言では「税も含めた中長期の全世代型社会保障改革のグランドデザイン」を25年度に描くよう政府に求めた。具体的には24年度の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の議論が本格化するまでに社会保障の将来見通しを明らかにすべきだとした。骨太の方針は例年、5月の大型連休後に政府内での調整が本格的に進む。経団連が訴えるのは「公平」かつ「能力に応じた負担」だ。高齢者医療を支えるための現役世代からの拠出は増え続けている。大企業の従業員らが加入する健康保険組合からの拠出金は後期高齢者医療制度が発足した08年度にはおよそ2.7兆円だったが、22年度は3.4兆円に膨らんだ。健康保険組合連合会は26年度に4兆円を超えると見込む。1人あたりの年間の保険料負担は08年度の38.6万円から22年度は51.1万円まで増えた。13日の提言では富裕層や高齢者の金融資産に言及した。マイナンバーの活用などを通じて個々人の経済力を把握し、資産の保有状況に応じた課税のほか社会保険料や自己負担の引き上げについても検討すべきだとした。日本の家計における純金融資産は約1600兆円で、保有額1億円以上の富裕層が全体の約22%を保有する。十倉氏は9月に都内での講演で「応能負担という観点からは資産に着目した負担のあり方も考えていくべきだ」と発言した。財政の健全化や社会保障制度の見直しを求める声は広がっている。民間有識者でつくる令和国民会議(令和臨調)は6日、国家の財政運営を監視する独立機関の設置を国会などに求める提言を発表した。財政収支や税・保険料の国民負担について長期予測を立て、歳出の余力などを評価する仕組みづくりを目指す。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「社会保障制度を支えるための中長期的な安定財源として、消費税の引き上げが適切ではある」と指摘する。負担増の議論を避けず、効率的な給付も含めた社会保障制度の見直しについて国民的な議論が必要と指摘する。

*3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15824389.html (朝日新聞 2023年12月24日) 所得420万円以上、介護保険料増へ 65歳以上、低所得者は減 厚労省
 65歳以上の介護保険料について、厚生労働省は2024年度から年間合計所得が420万円以上の高所得者は引き上げる方針を決めた。住民税非課税世帯などの低所得者は引き下げる。22日に開いた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で明らかにした。65歳以上の保険料は、国が示した基準を参考に市町村が決める。国は所得に応じて基準額を9段階に分けている。現在の最も高い所得区分は、年間合計所得が「320万円以上」。ここに新たに「420万円以上」「520万円以上」「620万円以上」「720万円以上」の4段階を設けて、計13段階とする。今の保険料の基準額の全国平均は月6014円(21~23年度)。9段階の最も高い所得区分で基準額の1・7倍だったが、新たに設ける10~13段階は1・9~2・4倍に引き上げる。これら引き上げの対象となる被保険者は計約145万人。また、世帯全員が住民税非課税となっている第1~3段階では保険料を引き下げる。最も低い第1段階では基準額の0・3倍から0・285倍に、第2段階では0・5倍から0・485倍、第3段階では0・7倍から0・685倍にする。計約1323万人が対象となる。所得再分配機能を強めることで、これまで低所得者の負担軽減に投じてきた公費382億円分(国と地方で折半)を浮かせ、介護職員の処遇改善などに回す。一方、介護保険の利用料を2割負担する人の対象の拡大は見送り、「27年度の前」までに結論を得るとした。金融資産の保有状況の反映や、1~2割の間に細かく負担区分を設けることも検討する。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231216&ng=DGKKZO77019730W3A211C2MM8000 (日経新聞 2023.12.16) 診療報酬本体0.88%上げ 来年度改定、負担抑制進まず、全体では小幅減
 政府は2024年度の診療報酬の改定で、医療従事者の人件費などに回る「本体」部分の改定率を0.88%とする最終調整に入った。医療現場の賃上げにつなげるためにプラス改定とする。薬剤費など「薬価」部分は1%近く引き下げ、全体の改定率をわずかにマイナスにする。本体のプラス改定により、薬価の引き下げに伴う保険料や医療にかかる税金の軽減効果は打ち消される。国民負担の抑制が進まず、医療分野の歳出改革が不十分になる恐れはある。22年度の改定率は本体でプラス0.43%、薬価はマイナス1.37%だった。本体について今回は前回を大幅に上回る改定率とした。改定率は24年度の予算編成の焦点だった。12月下旬までに武見敬三厚生労働相と鈴木俊一財務相による閣僚折衝で正式に決める。両氏は15日、首相官邸で岸田文雄首相と協議した。診療報酬は病院や診療所が公的医療の対価として受け取る収入にあたり医療費の総額を示す。診察料や入院料など医療の技術料にあたる本体と薬価に分かれる。2年に1度改定する。厚労省と日本医師会などは他の産業がおよそ30年ぶりとなる高い水準で賃上げしたのを受け、足並みをそろえられるよう本体部分の大幅な増額を求めていた。財務省は診療所の利益率は高く、マイナス改定しても賃上げできると主張していた。本体改定率0.88%のうち、薬剤師や看護師、看護助手などの賃上げ分で0.61%、入院患者の食費の引き上げに0.06%をあてる。賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度になる見通しだ。医療費は5割が保険料、4割が税金、1割が患者の支払う窓口負担で成り立つ国民の負担そのものだ。23年度の予算ベースの医療費は48兆円で、高齢化などにより医療費は自然に増える。24年度の診療報酬全体の改定率が0%でも医療費は8800億円増える見込みだ。このうち保険料で4400億円、患者が医療機関で支払う金額は1100億円増える。0.1%程度のマイナス改定では医療費を500億円ほど抑制する効果しかない。政府は24年度に同時改定する介護報酬の改定率もプラスにする見通しだ。人材流出に歯止めがかからない介護現場の賃上げを後押しする。診療報酬を全体でマイナス改定しても、介護報酬などの増額分を含めると社会保険料の負担は増える可能性はある。医療分野の歳出改革が進まなければ、政府が28年度までに年3.6兆円規模を追加で確保するとしている少子化対策の財源にも響きかねない。財源の原資には医療や介護の歳出改革で捻出した税金や、医療保険料に上乗せして国民や企業から広く徴収する支援金を充てる。支援金は26年度から始め、歳出改革や賃上げで保険料負担を軽減した範囲内で導入することになっている。首相は「実質的な追加負担を求めない」と表明している。診療報酬本体を前回を上回るプラス改定にしたことで、薬価のマイナス改定による保険料の負担軽減効果は小さくなる。「追加負担を求めない」とする首相の方針もおぼつかなくなる。診療報酬本体の改定率を巡っては厚労省と財務省が0%程度~1%超の範囲で具体的な水準を探っていた。調整は難航し、首相に判断を委ねた。

*3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231217&ng=DGKKZO77028990X11C23A2MM8000 (日経新聞 2023.12.17) 介護報酬1.59%上げ 来年度改定、賃上げへ ロボ活用で加算
 政府は介護サービスの公定価格である介護報酬を2024年度から1.59%引き上げる方向で最終調整に入った。定期改定では3回連続の増額で、プラス幅は09年度に次ぐ高い水準だ。他産業と比べて低い賃金水準や、物価高などによる事業者の経営悪化を考慮し、増額が必要だと判断した。鈴木俊一財務相と武見敬三厚生労働相が近く折衝し正式に決める。介護報酬は3年に1度見直す。前回の21年度改定は0.7%の引き上げだった。今回の1.59%のうち介護職員らの賃上げ分に0.98%をあてる。1.59%の増額とは別に、賃上げした事業者向けの加算の仕組みの変更に伴う追加費用や、光熱費の高騰対策で0.45%分を追加する予定だ。結果として、全体では実質2.04%相当の増額になるとみられている。政府は今回の改定でロボットでの巡回やセンサーでの見守りなどを導入する施設に報酬を加算する仕組みも新設する。20日に開くデジタル行財政改革会議で方針を決める。人手不足の解消に向け、デジタル化に関する数値目標も新たに設ける。IT(情報技術)やロボットを活用する事業者の割合は29%にとどまるが、26年に50%、29年に90%に高める目標を示す。介護報酬の財源は利用者が払う原則1割の自己負担を除き、40歳以上の個人と企業が拠出する保険料と、税金で半分ずつをまかなう。国の予算ベースの介護費用は23年度に13.8兆円で、1.59%増えると2200億円弱の費用増になる。大幅な増額となった背景には介護事業者の厳しい経営状況がある。厚労省の調査では介護サービスの22年度の利益率は平均2.4%で前の年度から0.4ポイント低下した。特別養護老人ホーム(特養)は初めて赤字に転じた。24年度は6年に1度の診療報酬との同時改定となっている。これまでは医療従事者の人件費に回る診療報酬の本体部分の改定率が介護報酬を下回ることはなかった。診療報酬本体の改定率は0.88%の増額となる方向で、同時改定では初めて介護が上回る。障害者への福祉サービスを手掛ける事業者に関する「障害福祉サービス等報酬」は1.12%引き上げる。

<1月1日の地震と1月2日の航空機事故>
PS(2024年1月4日追加):2024年1月1日16時10分頃、スマホが「地震です!地震です!今すぐ避難して下さい!」と叫んだのでTVをつけたら、*4-1-1・*4-1-2の能登地震が発生していた。地震の現場は志賀原発・柏崎刈羽原発の近くで、日本海側でも大地震が起こり、津波も来て、地震に伴う大火災が発生することもあることを再認識した次第だ。しかし、日本海側は大地震への準備が薄いらしく、耐震化の進んでいない鉄筋コンクリオートの建物がごろっと倒れていたり、狭い範囲に木造の古い建物がぎっしり並んでいたりして災害を大きくしたようだ。今回は、原発事故に繋がらなかったのが不幸中の幸いだったが、原発建設時に断層の有無などは調査しておらず、「新しい断層はできない」という保証も全くないため、日本海側も原発立地の適地ではないと思われた。
 そのような中、*4-2-1・*4-2-2のように、1月2日17時50分頃には、羽田空港の滑走路で、新千歳空港を出発して羽田空港に着陸しようとしていたJAL516便と、能登半島地震救援のため羽田空港から新潟航空基地に向かおうとしていた海上保安庁の航空機が衝突し、双方が炎上する事故があって、これにも驚かされた。脱出用シューターを使うなどしてJAL516便の乗客・乗員が全員脱出できたのは良かったが、海保機は羽田航空基地所属だったそうで、今の時代、混雑する羽田空港ではなく、厚木航空基地の所属にした方が良いと思われた。


 2024.1.2Whether News     2024.1.3日経新聞     2024.1.4毎日新聞

(図の説明:左図のように、今回の能登地震は震央が広い範囲に分布しているため、かなり広い範囲で地面の歪みが修正されたらしいことがわかる。また、中央の図のように、長い断層も多くできている。さらに、基礎を深く打ち込んでいないらしく、右図のように、鉄筋コンクリートの建物がコロッとひっくり返っているのが印象的だ)

*4-1-1: https://digital.asahi.com/articles/DA3S15830697.html?iref=pc_shimenDigest_national2_01 (朝日新聞 2024年1月4日) 国道寸断、迫る72時間 通信も途絶、捜索難航 能登地震
 能登半島を最大震度7の地震が襲って2日がたち、被災者の生存率が落ち込むと言われる「発生後72時間」が迫る。救出要請が相次ぐなか、細長い半島の先端という地理的な特性や交通網の寸断が壁となり、捜索は難航している。
■輪島市長「水・食料、全然足りない」
 「地震発生から42時間が近づいている。人命優先。市民の皆さんの命を救いたい」。3日午前9時半に、石川県の災害対策本部が開いた会議。オンラインで参加した珠洲市の泉谷満寿裕(ますひろ)市長は、画面越しにこう訴えた。画面には、各地から届く物資を集約する県や、幹線道路の復旧を担う国土交通省、人命救助にあたる消防や自衛隊の幹部ら。泉谷市長は「救助要請に対応できていないところが72件ある。まだまだ倒壊した家屋に閉じ込められている方が多くいると思う」と説明した。「能登半島の大動脈」と言われる国道249号が寸断され、通信が途絶し、被害を把握する自治体の動きも阻まれた。輪島市では、3日午後の時点でも行方不明者の人数が「不明」、住宅の損壊戸数は「多数」のまま。坂口茂市長は3日夕、「いまだ225件の救援要請がある」と明かした。「建物の下にいるから助け出して欲しい」「孤立している」などといった内容の要請が寄せられているという。自身も発生時から、自宅近くの町野支所での避難生活を余儀なくされた。3日になって陸自ヘリで移動し、約17キロ離れた市の本庁舎に入り、第6回となる会議に初めてオンラインで加わった。会議では、自らの避難経験も踏まえて「水や食料が全然足りていない」「電気がなくて暖をとれない」と窮状を伝えた。ほかの被災自治体からも「仮設トイレが限界」「携帯電話がつながらない」と、支援を求める声が次々に上がった。
■「被害把握に困難」政府、態勢を強化
 岸田文雄首相は3日午前、首相官邸で記者団に「被災者の救命救助は時間との闘いであり、まさに今、正念場であると感じている。倒壊した建物の下で救助を待っている方がまだ多数いると報告を受けている。人命第一で救急、救助に全力を尽くしている」と述べた。この日、現地で救命救助などにあたる自衛隊の人員を倍増させた。被災自治体からの要請を受け、救助犬も急きょ2倍以上に増やした。能登半島という地理的特性などから、政府も被害の全容を把握し切れていないのが現状だ。能登地方を震源とする強い地震が発生したのは1日午後4時10分で直後に日没を迎えた。首相は3日の会見で「日没後、夜間における活動があり、実態把握においてさまざまな障害があった」と語った。地震によって山間部などで道路が寸断。携帯電話の通信障害も起きた。林芳正官房長官は3日の会見で「通信障害などで、被害の把握に困難があった」と語った。能登半島最北部は一人暮らしの高齢者も多く、ある官邸幹部は「連絡が取りづらく、小集落の把握が難しい」と語る。
■自衛隊、隊員を倍増
 自衛隊は3日から被災地で活動する隊員を約2千人に倍増させた。3日朝の時点で、救助が必要な被災者は輪島市に70人、珠洲(すず)市に60人いると把握しており、救助犬も投入。この日午後1時までに珠洲市で少なくとも3人を消防隊員とともに救助するなどした。防衛省幹部は「今はとにかく人命救助が優先」と話す。自衛隊は1日夕の地震発生直後、日本海上空に航空機を飛ばして情報収集。航空自衛隊輪島分屯基地(輪島市)には住民約1千人が避難したため、埼玉県内の基地から水や食料、毛布をヘリで届けた。道路が至るところで寸断され、倒壊家屋に取り残された人の救出に必要な重機を運び込めず捜索は難航。通信状況が悪く、被災状況を把握するのもままならなかった。そんな中、輪島分屯基地の隊員約40人は、倒壊したビルや家屋に入って手探りで4人を救出した。能登半島を南北に走る県道1号の土砂を取り除き、3日未明に最大積載量4トンまでの車が通行可に。この日は海上自衛隊の艦艇が救援物資を運ぶために輪島港に入ったほか、エアクッション型揚陸艇「LCAC(エルキャック)」による砂浜からの重機搬入も4日朝に始める。国土交通省によると、石川県を中心に3日昼時点で国道や県道の85区間が通行止めだ。高速では解消が進む一方、亀裂や陥没、土砂崩れなどが判明し、前日夕時点の33区間から急増した。ただ、被害が特に大きい輪島市や珠洲市の道路状況は大半が不明のままだという。能登半島には幹線道路が少なく、幅員の狭い道路が毛細血管のように張り巡らされている。急峻(きゅうしゅん)な地形で、落石や土砂崩れのリスクがあり、容易に復旧作業を進められないのが現状だ。
■72時間過ぎると――脱水・低体温…生存率が低下
 山口芳裕・杏林大教授(救急医学)の話 寒冷地での災害で、少しでも早く救出しないと命の危険が増してしまう。72時間を過ぎると生存率が下がる理由は、閉じ込められた被災者は水分摂取が難しく脱水状態になること、低体温になること、暗闇のなか精神的に大きなストレスがかかることが挙げられる。阪神大震災では、救出された人の生存率が初日は75%、2日目は24%、3日目は15%、4日目は5%だったというデータがあり、「72時間」の根拠となっている。ただ、一律に72時間が適用されるわけではなく、捜索の努力は続けるべきだ。これから救出する場合、長時間の強い圧迫で腎不全などに至る「クラッシュ症候群」を念頭に置かないといけない。救出前に点滴を始めて、心停止が起きても自動体外式除細動器(AED)がすぐ使える態勢が必要だ。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240104&ng=DGKKZO77409950T00C24A1PE8000 (日経新聞 2024.1.4) 木造密集地に火災リスク 輪島で200棟延焼、能登半島地震 東京は23区面積の1割強
 1日に発生した能登半島地震で、石川県輪島市で約200棟が燃える火災が起きた。現場は狭い範囲に木造の古い建物が並び、地震で大規模火災を引き起こしやすい木造住宅密集地(木密)だった。同様の地域は全国に点在し、東京都内にも8600ヘクタールと23区の1割強に相当する面積が残る。緊急車両が通れる道の確保や建て替え促進などリスク解消策は急務だ。地震発生後、輪島市中心部の「朝市通り」周辺で出火。2日午前にほぼ消し止められるまで約200棟に延焼した。現場は狭いエリアに店舗や家屋が集中。都市防災に詳しい東京大の広井悠教授は火災が広がった要因について「古い木造の建物が密集し、延焼しやすかった」とみる。木密を襲う火災は過去にもあった。1923年の関東大震災で、現在の東京23区の中心部にあたる旧東京市全体の4割強が焼失した。国土交通省は大規模な延焼の危険性や避難の難しさを踏まえ、全国の「地震時等に著しく危険な密集市街地」を集計。2022年度末時点の対象地域は12都府県で計1875ヘクタールに及ぶ。石川県内に該当地域はなかったが、国の定義に該当しなくても古い住宅の密集地は各地に点在し、木密の火災リスクが改めて浮き彫りになった。都は12年、木密解消に向けプロジェクトに着手。鉄筋コンクリートの建物や、延焼を防止する一定の広さがある公園などが占める比率(不燃領域率)を指標とし、同地域が60%未満など高リスクのエリアを木密と定義。広い道路の整備や、建て替えを促す支援を進めてきた。国の集計とは対象地域の定義が違うため面積は異なるが、20年時点の都内の木密は8600ヘクタール。10年時点からほぼ半減したものの、23区面積の14%にあたる地域が残る。広井教授は電気の復旧時に起きる火災を防ぐ「感震ブレーカー」普及など様々な対策の重要性を指摘。「文化的な背景から木造建物を残す地域もあり、それぞれの地域に合った取り組みを進める必要がある」と話す。

*4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15829803.html (朝日新聞 2024年1月3日) 日航機炎上、海保機と衝突 乗員乗客、全379人脱出 海保5人死亡 羽田空港
 2日午後5時50分ごろ、東京都大田区の羽田空港C滑走路で、着陸しようとした日本航空(JAL)の516便と、滑走路上にいた海上保安庁の航空機が衝突し、双方が炎上した。警視庁や東京消防庁によると、海保機の5人が死亡、1人が重傷を負い、JAL機の乗客・乗員のうち14人が負傷した。海保機は能登半島地震の救援のため、新潟航空基地に向かおうとしていたという。国の運輸安全委員会は2日夜、航空事故と認定し、調査を始めたと発表した。警視庁は3日、東京空港署に特別捜査本部を設置し、業務上過失致死傷容疑を視野に捜査する。国土交通省によると、JAL機が南側から着陸しようとした際、滑走路上にいた海保機に衝突。その後、滑走路北側まで進み、炎上した。海保機は誘導路から滑走路に進入した可能性があるという。JALは2日夜に会見し、滑走路への着陸許可について「出ていたと認識している」と説明した。JALや東京消防庁によると、516便の乗客は乳幼児8人含めた367人、乗員は12人。この計379人は全員、脱出用シューターを使うなどして脱出した。このうち14人が気道熱傷や打撲などで負傷したが、命に別条はないという。海保機には男性6人が搭乗しており、5人が死亡。機長はやけどを負って重傷だが、搬送時に意識はあったという。3日午前0時現在、JAL機の消火活動は続いており、滑走路は使用できなくなっている。海保機は2日午後8時半に鎮火した。JALや国交省によると、516便(エアバスA350)は2日午後4時15分に新千歳空港を出発し、約1時間半後に羽田空港に着陸しようとしたところだった。海保機は羽田航空基地所属のボンバルディア社製で長さ25・68メートル、幅27・43メートル、高さ7・49メートル。

*4-2-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20240104-OYT1T50105/?ref=webpush (読売新聞 2024/1/4) 羽田管制官「滑走路進入に気付かなかった」…衝突2分前に海保機が「停止位置に走行」復唱
 東京・羽田空港のC滑走路上で日本航空と海上保安庁の航空機が衝突した死傷事故で、C滑走路担当の空港管制官らが国土交通省の聞き取りに「海保機の進入に気付かなかった」と説明していることがわかった。管制塔の交信記録にも、海保機に滑走路手前の停止位置への走行を指示してから衝突までの2分間に異常をうかがわせるやり取りはなかった。国交省は当時の詳しい経緯を調べる。羽田空港には4本の滑走路があり、運用中の滑走路1本ごとに管制官2人が担当。うち1人は駐機場から誘導路への移動を担う。補佐役の管制官などもおり、管制塔全体で通常15人程度の体制を取っている。国交省関係者によると、当時管制塔内にいた管制官への聞き取りでは、担当管制官らは海保機が指示と異なる動きをしていることに気付かなかったという。3日に公表された交信記録では、滑走路の担当管制官は日航機と着陸を許可するやり取りをした直後の2日午後5時45分11秒、海保機に誘導路上の停止位置への走行を指示し、海保機側が復唱した。その後、同47分30秒頃に事故が起きるまでの約2分間は、別の民間機2機とのやり取りが行われ、日航機や海保機との交信はなかった。国交省は管制塔内でのやり取りも詳しく調べる。一方、運輸安全委員会は4日午前、日航機の乗務員への聞き取り調査を始めた。男性機長(50)らパイロット3人は社内調査に「海保機を視認できなかった」と説明。航空事故調査官は、事故当時の状況や認識に加え、コックピット内などでのやり取りも確認する。警視庁は4日午前、滑走路上で現場検証を再開した。既に海保機の機長から任意で事情を聞いており、日航機の乗客への聞き取りも進めている。

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2023.10.9~11.4  日本の諸問題 ← 投資の都市偏在、人口の都市偏在、食糧・エネルギー・資源の自給率低迷、輸入依存体質、嫉妬を煽る悪平等主義
(1)ふるさと納税について

 

(図の説明:左図のように、ふるさと納税額は「ワンストップ特例」の導入や税控除額の引き上げで、2015年以降、急速に増えた。また、中央の図のように、1人あたり実質収支が1万円以上の市町村は農水産業が盛んで人口密度の低い過疎地に集中し、まさにふるさと納税の役割を果たしている。その理由は、ふるさとの納税の返礼品である農水産物が豊富だからで、農水産業は収入が不安定で税をとりにくく、必需品であるにもかかわらず自給率が低迷しているため、真のニーズを発掘して農水産業や食品業の振興に貢献してきたことは大きな成果だと言える)

1)頑張った自治体にエールを送りたい
 *1-1-1は、①2022年度のふるさと納税額は9,654億円で3年連続過去最高更新 ②「稼ぎ頭」は人口約400人の和歌山県北山村(住民1人当たり収支122万2,838円)で、返礼品の翌日発送をする ③村は小学校に英語圏の教員を招くなど英語教育を重視し、中学生を海外への語学研修に送り出し、渡航・2週間の滞在費用に寄付を充てる ④2位は北海道東部の太平洋に面する白糠町(104万9194円)で、主力1次産品をふるさと納税の獲得に生かし、町税は10億円足らずだが、イクラ等の返礼品人気から2022年度の寄付額は150億円 ⑤2022年に開校した小中一貫の義務教育学校「白糠学園」の整備に寄付を用い、保育料や18歳までの医療費・給食費無償化、出産祝い金など手厚い ⑥人口1人当たり1万円以上黒字だった自治体は449で、その9割が人口5万人以下 ⑦都道府県全体では佐賀県(2万4549円)が黒字最大 ⑧佐賀県では上峰町(61万5,228円)が突出し、危機的だった町の財政は4月から高校生までの医療費を完全無料化できるほど改善、幅広い公共サービス提供が可能となった ⑨2022年度に最も寄付額を集めたのは宮崎県都城市195億円で、返礼品次第で寄付格差が広がる としている。

 日本は、都市部に製造業・サービス業の集中投資をしてきたため、地方は企業規模が小さく、農林漁業が中心で、高齢化・過疎化が進みがちである。また、i)製造業・サービス業に従事するサラリーマンは所得が安定しており、所得税・住民税を徴収しやすい ii)高齢等で無職になると、所得税はかからず、住民税も小さい iii)企業の法人税・住民税・事業税は本社・工場のある場所で、その規模に応じて支払う という仕組みになっている。

 そのため、②③の和歌山県北山村の徹底した英語教育に寄付額を充てたり、④⑤の北海道白糠町の小中一貫義務教育学校の整備や保育料・18歳までの医療費・給食費無償化に寄付額を充てたり、⑧の佐賀県上峰町のように危機的だった町財政を高校生まで医療費完全無料化できるほど改善して幅広い公共サービス提供も可能になったというのは、大都市には前からあったサービスを、地方はふるさと納税制度による寄付金を使ってやっと行えたということなのである。

 従って、国民が地元農水産物の返礼品や政策によって住民税の支払先を決めることができるふるさと納税額が、①のように3年連続で過去最高を更新し、⑥のように、人口1人当たり1万円以上黒字だった自治体の9割が人口5万人以下だったのは大変良いことだと、私は思う。

 また、⑨の宮崎県都城市はいつも寄付額が上位なので感心していたのだが、製造業・サービス業が少なく農水産業で日本の食糧自給率に貢献している地方が、優れた農水産物の返礼品で寄付を集めたのは、システム的に生じた大きな格差を少し埋め合わせたにすぎない。にもかかわらず、これを「寄付格差が広がる」などと言って批判するのは、頑張って地場産品を磨いた自治体に対し、悪平等主義を振りかざして嫉妬を煽る的外れの行為であり、その根源には「教育」という重要な問題があるのである。

 つまり、後で詳しく書くが、*2-1のように同じ場所でオリンピックを開いて兆円単位の経費を国や都から支出した東京都、*2-2のように同じ場所で万博を開いて作っては壊すだけのパンビリオンの建設費等が約2,300円程度まで上ぶれすると国に援助を求めている大阪府など、無駄遣いの限りを尽くしながら必要なことをしていない大都市が言える苦情は全くない筈だ。

 また、*1-2-1は、⑩佐賀県と県内20市町の2022年度のふるさと納税寄付総額は前年度比18.97%増の416億4,278万円で全国5位 ⑪市町別最多は上峰町の108億7,398万円で全国6位 ⑫県内市町で寄付額が多いのは上峰町108億7,398万円、唐津市53億9,861万円、伊万里市29億2,554万円、嬉野市28億4,415万円、みやき町22億3,625万円で10億円を超えたのは7市7町 ⑬ふるさと納税の収支は県内20市町いずれも黒字 ⑭総務省は2019年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けた としている。

 農林漁業の盛んな佐賀県は、ふるさと納税制度導入当初から県を挙げて頑張ってきたので、⑩⑪⑫⑬は、結果が出て本当によかったと思うし、これからも産品を磨いてもらいたいと思う。

 しかし、総務省は、⑭のように、2019年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けたそうで、地場産品に限るのは良いとしても、その地域が力を入れたい(or急遽売りさばきたい)産物の返礼品にも杓子定規に3割基準を当てはめたり、輸送コストが上がってますます不利になっている遠方の自治体に5割基準を当てはめたりするのは、むしろやりにくさを増すのではないかと危惧している。

2)寄付総額の抑制は必要か
 佐賀新聞が論説で、*1-2-2のように、①2022年度に全国の地方自治体が受け入れたふるさと納税総額は1兆円近くに膨らみ ②生活防衛策として返礼品に期待する人も多く増加傾向が続き ③10月から制度が微修正されたが「生まれ育ったふるさとに貢献」という導入の目的からかけ離れたままで抜本的見直しを求めたい ④寄付としながら「官製通販」と批判されるのも頷ける ⑤ふるさと納税は地域経済の活性化に一役買った面があり、返礼品を扱う地元企業は商品開発に力を入れ、売り上げが伸びた ⑥子育て支援等の課題解決に寄付を集め、対策予算を増やすこともできた ⑦空き家となった実家や墓のある自治体に寄付して管理や掃除を業者に依頼できるケースもある ⑧首長、自治体がやる気を出して新しい政策をつくる素地を育てた ⑨人気が出る返礼品を開発しようと営業戦略の専門家を職員に採用する自治体も出た ⑩都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付して税収が移るゼロサムゲームになっている ⑪寄付で潤う自治体が固定化され、公平性が気になる ⑫寄付総額の約半分は返礼品の会社や仲介サイトの運営企業等の収入になる ⑬それは行政が使っていた筈の税収で、住民サービスの低下に繋がる恐れ ⑭政府は東京一極集中是正を目標に掲げた「地方創生」を2014年に打ち出し、その目標は今も堅持しているが、それでも人口集中が続き、税収が都市に集まる構図は変わらない ⑮国土の均衡ある発展による税収平準化は難しい ⑯自治体の税収格差を是正するには、ふるさと納税ではなく、都市部と地方が意見を交わしながら、納得できる是正策を探ることを提案したい ⑰現行制度は高所得者ほど多く寄付ができ、節税効果が大きく、富裕層は例えば「最大20万円」と定額の上限を設定することは可能ではないか ⑱ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか議論し、個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべき としている。

 この記事は共同通信により配信されたものだが、佐賀新聞が論説に記載している以上、文責は佐賀新聞にあり、1)のように、佐賀県の首長はじめ自治体の行政が頑張っているのに反する。

 また、①⑬については、都市が「税収減で住民サービス低下に繋がる」などと苦情を言うのは、⑭のように、「国が都市に集中投資してきたため生産年齢人口は都市に集まったが、都市は無駄遣いが多くやるべきことをやらなかったのだ」という事実を無視した上、⑪のように、ふるさと納税で頑張った自治体が寄付で潤うことを不公平としている点で、教育に問題がある。

 さらに、ふるさと納税で返礼品があり、自治体がそれを育てている以上、②のように、寄付者が返礼品を生活防衛策に当てるのは自由であり、③の生まれ育ったふるさとは、日本であったり、自分の出身地であったり、配偶者の出身地であったりしても良い筈だ。さらに、少なくとも使い道を選んで寄付できるため、膨大な無駄遣いをされるよりはずっと良いのである。

 また、④のように、「官製通販」になったおかげで、自治体職員が自分の地域の宝物を発見して金に変えるという発想を持てるようになり、⑧のように、首長や自治体の職員がやる気を出して、⑤のように、地域活性化に一役買ったのである。これは、⑯のように、都市部と地方が意見を交わしても決してできないことなのだ。

 また、政策を選んで寄付できたことにより、⑥⑦などの真に求められる財・サービスが開発されたのであり、⑨のように、営業戦略の専門家を職員に採用して人気の出る返礼品を開発しようとする自治体が出たことも、今後の地域活性化に役立つと思われる。

 それで、何がいけないのかと言えば、⑩の「都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付して税収が移るゼロサムゲームになっていること」だそうだが、これについての回答は、1)で述べたとおりだ。また、⑪のように、「寄付で潤う自治体が固定化されたから不公平」というのは、「頑張っている自治体がいつも成功しているから不公平だ」と言うのと同じで、悪平等主義を作った根深い教育の問題である。さらに、⑫については、それをもったいないと思えば寄付を受ける自治体自身が職員を増やすなどして行えばよいため、選択の自由があるわけだ。

 そのため、⑮⑯のように「国土の均衡ある発展による税収平準化は難しい」「自治体の税収格差是正には、都市部と地方が意見を交わしながら納得できる是正策を探ることを提案したい」というのは、ふるさと納税制度の導入前と同じく、公平にならない上に無駄ばかり生むと考える。

 また、⑰の「高所得者ほど多く寄付ができて節税効果が大きいのは問題なので、富裕層は最大20万円のような上限を設定すべき」や⑱の「ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか議論して個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべき」というのは、高所得者は努力して自分に投資し、所得を増やして多く納税している人であることを忘れた成功者叩きであり、これでは国の発展がおぼつかないため、やはり根深い教育の問題と言える。

3)ふるさと納税反対派の悪平等主義に基づく「歪み」論
 *1-1-2は、①ふるさと納税が1兆円に近づき、自治体間格差が広がって税収が流出する都市部の不満が膨らむ ②都市部に税収が偏っているとして、地方が求める地方法人課税の偏在是正にも影響するかもしれない ③歪みを正すため、ふるさと納税の拡大に一定の歯止めを考える時期だ ④住民税の税収は13兆円で寄付額は3兆数千億円まで膨らむ余地がある ⑤賃上げで税収増が続けば寄付額はさらに拡大する可能性 ⑥都道府県と市区町村1788自治体のうち10億円以上集めたのは226自治体で合計6,179億円であり、13%の自治体で全体の2/3の額を集めた ⑦上位の顔ぶれは海産物や肉類などの産地に固定化 ⑧ふるさと納税は返礼品の需要が地場産品の振興を支え、知名度の乏しい産地が消費者に知ってもらう意味は大きかったが、制度開始から15年経ってその役割は果たしつつある ⑨高まった知名度を企業誘致や移住に生かし、ふるさと納税に頼らず、税収を増やす道も探ってほしい ⑩ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、メリットも大きいことに批判がある ⑪規模拡大に歯止めをかけるために考えたいのが、都市部に多い高所得層の利用額への上限 としている。

 このうち①②③④⑤は、これまで国からの集中投資を受け、日本全国の生産年齢人口を吸収しながら無駄遣いばかりしてやるべきことを怠り、食料もエネルギーも他の地域に依存している大都市が言うべきことではなく、無駄遣いを止めて生産性の高い支出に切り替えればよいのだ。

 また、⑥⑦については、「農水産物を生産している、高齢化した過疎地が、よく頑張った」と褒めることはあってもけなすことはない。それどころか、努力もせずにふるさと納税収支を赤字にしている大都市が、妬みがましく苦情を言うことを許す方が、社会に与える影響は悪い。

 なお、⑧⑨については、国が地方に投資して企業誘致や移住が進み、大都市との税収格差がなくなってから言えばよいことで、その目途も立たないのに事実に反する不明確なことを新聞に書くのも、根本は教育の問題である。

 さらに、⑩⑪の「ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、メリットも大きいため、高所得層の利用額に上限をかけたい」というのは、高所得層ほど自己投資した人で、それを助けたのはふるさと等での教育であり、その結果として、高い税率で高額の所得税・住民税や高い社会保険料を支払っているのだということを忘れた主張である。

 また、*1-1-3は、⑫宮崎県都城市は、ふるさと納税の寄付金で、2023年度、大胆な人口減少対策を打ち出し、両事業の予算額は計10億円 ⑬都城市の2022年度寄付受け入れ額は全国最多の195億円で、主要税収である住民税(65億円)の3倍 ⑭市内の返礼品事業者でつくる団体が自費で広告を出すなど官民を挙げた取り組みで、返礼割合を3割以下とする規制が始まった2019年度以降も好調を維持 ⑮寄付を元手に、最大100万円の移住支援金や家賃補助などを用意し、2022年度の移住者は過去最多の435人 ⑯2022年に寄付した人の56%は三大都市圏の住民、累計額の89%は三大都市圏以外の地域への寄付で、制度の狙い通り ⑰上位は北海道や九州の自治体が目立ち、累計寄付額の58%が上位1割に集中 とも記載している。

 このうち⑬⑭については、「いつも全国上位にいる宮崎県都城市の工夫はさすがだ」と素直に褒めればよいのだ。また、⑫⑮の使い道も正しいと思うが、それでも2022年度の移住者は過去最多でも435人しかおらず、努力しなくても人口流入の多い都市圏とは大きく異なる。

 従って、⑯のように、2022年の寄付者の56%は三大都市圏の住民で、累計額の89%は三大都市圏以外の地域への寄付というのは、制度の狙い通りなのである。そして、⑰のように、上位に北海道や九州の自治体が目立つのは、これらの自治体の危機感の表れであろう。

 さらに、*1-1-4は、⑱ふるさと納税は、名目は善意の寄付だが実態は節税手段 ⑲年数千億円の税収が消え、財政の歪みも招いている ⑳利用者が多い大都市の自治体は、住民税収の落ち込みで行政サービスの低下が避けられないとして、制度の見直しを訴えている としている。

 ⑱については、そうしか見えないような人間を育てた教育は著しく悪いし、⑲⑳については、何度も書いているとおり、投資で優遇されてきたため生産年齢人口の割合が高い大都市は、無駄遣いをなくして生産性の高い支出をすれば、行政サービスのコストは賄える筈なのである。

(2)国の投資や人口の偏在、不効率な歳出
1)国の投資の偏在と人口の偏在


  Gakumonmo(日本の工業地帯)    総務省(人口密度)  2023.1.30日経新聞

(図の説明:左図のように、日本では、太平洋ベルト地帯に工業地帯を作るよう集中的に投資がなされてきた。その結果、中央の図のように、これらの地域で人口密度が高くなり、近年は、右図のように東京圏への人口の社会的移動が多くなって、さらなる人口集中が進んでいる。しかし、人口が集中する地域では、地価の高騰・水不足・混雑が起こり、過疎地では水道や鉄道の維持が困難になり、国全体の食料自給率も下がり、税収の著しい偏りが起きている)

 工業地帯を作るための国の投資は、工業地帯そのものの形成だけではなく、原料や製品を運ぶための港湾・鉄道・道路や従業員のための住宅地・店舗・学校・文化施設など多岐にわたる。そのため、その地域はますます便利になって、さらに人を集めるのだが、限度を超えて人口が集まると地価の高騰・水不足・過度の混雑が起きて、工業地帯としての利便性も住環境も悪化する。

 また、世界の経済状況が変わり、日本は、とっくの昔に安い労働力を使って米国に輸出する安価な製品を作る工業地帯(太平洋ベルト地帯)が優位な時代ではなくなっているのだが、未だに経産省・メディア・政治家の中には頭の切り替えができていない人が少なからずいるようだ。

イ)東京オリンピック・パラリンピックの事例から
 *2-1のように、2021年、2度目の東京オリンピック・パラリンピックが東京で開催され、競技会場の建設・改修費や大会運営費を合わせた「大会経費」は開催都市である東京都・組織委・国が分担した。そして、その経費は、招致段階の「立候補ファイル」は7,340億円だったが、最終的には3兆700億円以上となり、そのうち国の負担額は関連経費を含めて1兆600億円以上にのぼって、国の負担額は過疎地も含む国民の税金で賄われることとなった。

 私は、前回の東京オリンピック・パラリンピックのために作られた競技場等の建物は、適時に修繕・改修していれば、立て直す必要はなかったと思うため、別の場所で開催するならまだしも、東京という同じ場所で2度もオリンピック・パラリンピックを開催して競技会場の建設費や改修費を国民の税金から出すことには反対だった。その上、無観客になったため、オリンピック・パラリンピックを開催した効果はさらに低まったと思う。

 そのため、東京で2度もオリンピック・パラリンピックを開催した費用対効果は、今後のためにも、明確に出すべきである。

ロ)大阪万博の事例
 大阪も、これまで国が投資をしてきて人口が集中している地域だが、*2-2のように、2025年に2度目に開催する大阪・関西万博で経費が膨らみ、国の財政支援を検討しているそうだ。

 万博の建設費は、約450億円増の約2,300億円程度まで上振れする可能性があり、建設費負担は、国・大阪府市・経済界で3等分することが閣議了解され、地元の府市両議会は再度増額が生じた場合は「国が責任をもって対応」とする意見書を可決しているが、膨らみ続ける万博費用の全容は未だ見えず、政府は、警備費を全額国負担とし、交付金による財政支援も検討しているのだそうだ。

 しかし、やるべき本質的な投資は山ほどあるのに、作っては壊すだけの建物を建ててお祭りをし、過疎地を含む国民の税金を無駄に費やす価値がどれだけあるのか、2度目の大阪万博にもまた疑問が多いため、今後のためにも、費用対効果のチェックを明確に行って公表すべきだ。

ハ)札幌冬季オリンピック・パラリンピックの事例
 2030年冬季オリンピック・パラリンピック招致をめざしている札幌市は、*2-3のように、2030年の招致を断念し、2034年以降に切り替える方針を固めたそうだ。

 私は、汚職や談合でイメージが悪化したから反対するのではなく、特定の都市で2度以上、オリンピック・パラリンピックを開いて「まちづくりの起爆剤」とし、他の地域の国民も支払った税金を原資とする国の支出を得るのに反対なのである。せっかく最初のオリンピック・パラリンピック時に作った都市インフラなら、その街が適時に修理・改修していくべきであり、再度オリンピック・パラリンピックを開いて2匹目のドジョウを狙うのでは、とても賛成できない。

 さらに、地球温暖化で積雪もままならず、人工雪を降らせて冬季オリンピック・パラリンピックを開催することになれば、さらに支出が増加し、感動は減少するため、札幌は2034年の招致も断念して、より冬季オリンピック・パラリンピックに適した開催地に譲った方がよいと思う。北海道は、冬季オリンピック・パラリンピックの開催よりもやるべきことが多いのではないか?

2)その他の不効率な歳出事例
 1)に書いた事柄は、お祭り騒ぎをして効果の少ない無駄使いをしている例だが、その他にも、*2-4のような無駄使いがあり、それは、従業員の給与を一定以上増やす際に納税額を減らす「賃上げ促進税制」である。

 何故、無駄遣いになるかと言えば、賃金を上げられるためには、賃上げした後も長期にわたって企業の利益が確保されなければならないが、いつまで続くかわからず賃上げの一部しか補填されない減税では、黒字企業であっても賃上げは難しく、法人税を支払っていない赤字企業には恩恵がないからである。

 そのため、賃上げをさせたいのなら、i) 国として生産性を上げるための投資を促す ii) 電力・ガス・燃油等のエネルギー代金を引き下げる iii) 地代(不動産価格・不動産賃貸料)を安くする など、長期にわたって利益を増加させる政策をとるべきなのだ。

 しかし、i)については、生産性を上げるための企業活動はむしろ抑えられて促されず、個人の教育費は著しく高い。また、ii)については、石油ショックから50年を経過してもなお化石燃料にしがみつき、国産の再エネによって電力・ガス等のエネルギー代金を引き下げるためのエネルギー改革やそのための投資は言い訳ばかりして進めず、国富をエネルギー代金として海外に流出させた上、エネルギー自給率を先進国で突出して低い状態においているのだ。

 さらに、iii)の地代については、この10年間、不動産価格や不動産賃貸料を上げる方向の政策を採ってきたため、企業のコストは上がり、日本で製造していては利益が出ない状況になって、国内の製造業は瀕死の状態になっているのである。

 また、地代の高騰理由には、工業地帯への過度な集中もあるが、過疎地であっても中国・インド・東南アジアと比較して地代・エネルギー・人件費などのコストが高すぎる。つまり、一部の人が得をするための無理筋の政策は、あらゆる場所に響いているのだ。

 なお、税収増があるのなら、過剰な国債残高を正常に戻すべく、まず返済するのが筋である。

(3)産業政策について
1)農地の減少と食料自給率低迷の問題点

  
              Sustainable Blands        2023.10.16日経新聞

(図の説明:左図のように、世界の人口は2050年には97億人になり、アフリカ・インド・中国の順で大人口を抱える。また、「食料が十分にあれば」だが、中央の図のような人口構成になると推測される。日本では、右図のように、「少し人口が減った」と大騒ぎしているが、各国が自国民のために食料を囲い込んだ時、食料自給率が38%しかない日本は、国民を養えないだろう。何故なら、その時点では、工業はどの国も発達しているからである)

 (2)1)で述べたとおり、国の投資で工業地帯ができ、港湾・鉄道・道路・店舗・住宅地等が整備されれば、関連企業や生産年齢人口がそこに集まり、住民税・事業税の徴収額が増えるため、地方自治体は、優良農地もつぶして工業地帯にした方が税収増になる。そのため、農地が減って食料自給率はますます下がり、空き地になっても農地に戻すことはないが、それでいいのかが問題である。

 世界の人口は、2050年には97.4億人になると推計されており、今から27年後の2050年には、インド・中国だけでなく東南アジアやアフリカでも工業化が進んで、技術も高度化する。つまり、工業製品は、日本だけでなくどこででも作れるし、コストの安い国が比較優位であるため、そちらに生産が移行して技術が蓄積されるのである。

 しかし、2050年の97.4億人を支える食料が十分にあるかどうかは疑問で、食料不足になれば各国が自国民を優先するのは当たり前であるため、その時の日本は、たった38%の食料自給率で国民を養えるわけがなく、工業製品よりも食料の方が貴重品になるかも知れないわけである。

2)農地減少と食料自給率低迷の解決策は輸入か!
 このような中、*3-1-1は、①日本政府は、有事(異常気象不作・感染症流行、紛争)に食料不足が見込まれる際、代替調達ルートといった輸入計画を提出するよう、商社やメーカー等の大企業に求める ②農水省が食料安保の一環として2024年通常国会への新法提出 ③植物油・大豆等の栄養バランス上摂取が必要で、自給率の低い品目が対象 ④企業に求める計画に潜在的代替調達網・輸入規模・時期を盛り込むよう促す ⑤国内備蓄で対応困難な時、まず企業に計画の提出を要請し、深刻度に応じて要請から指示に切り替え ⑥輸入価格高騰で国内販売困難時は国が資金面で調達支援 ⑦日本の食料自給率はカロリーベース38%、大豆25%、砂糖34%、油類3% ⑧食料安保の確保には官民挙げて安定的輸入体制を築く必要 としている。

 まず、①⑤⑧については、地球温暖化や地球人口増加は、今後30年以上続くのに、政府の対策は足下の異常気象・コロナ等の感染症・ウクライナ紛争による制裁返ししか見ておらず、解決策を輸入ルートの多様化として商社やメーカーに輸入計画の提出を求めている点で落第だ。

 つまり、②の農水省の食料安保新法では国民の命も財産も守れず、そもそも発想が表面的で矮小すぎる。世界の長期人口動態と経済動向を見れば、日本は食料自給率を100%以上にすると決め、食料は輸入するものではなく輸出するもので、そのための計画を商社やメーカー等に求めるべきであり、それは可能なのである。

 また、③⑦のように、栄養バランス上摂取が必要で自給率の低い品目は、種子・肥料・燃料・農機具まで考慮すれば、米麦から大豆・砂糖・油・肉・魚介類(燃油)まで、呆れるほどすべてであるため、⑥も、どこから金を出して、国が資金面で調達支援をするつもりなのか不明だ。

 従って、④の「企業等に求める計画」は、潜在的代替調達網・輸入規模・時期ではなく、農業法人を作っての食糧生産拡大と平時の食糧輸出先でなければならず、化石燃料輸入の仕事をなくす商社は食糧輸出先の開拓のために働くべきである。

3)「適正価格」とは、また値上げか負担増か
 *3-1-2は、①親類から頼まれた田も含めて合計15haを管理する稲作農家の小倉さんは「稲作だけでは『売上-経費= 100万円以下』で給与所得者平均の458万円に遠く及ばない ②農民運動全国連合会は農水省の「食料・農業・農村基本法」見直し案に「価格保障(政府が実勢価格との差額を農家に支払う)」を提言した ③小倉さんは「食は国が支えるべきで国民合意もできる筈だ」と言う ④農産物価格は基本法改正議論で最大の焦点だった ⑤農水省が公表した改正案の中間とりまとめは、スーパーが食品の安売り競争に走って「生産コストが上昇しても価格に反映することが難しい状況」と指摘 ⑥需給で決まる価格に国が口を出すことには懸念もつきまとう ⑦主婦連副会長の田辺氏は「非正規の人や相対的貧困層をどう考えるか」と値上げに慎重 ⑧澤浦さんは「同じレタスでも、有機かどうか、食味や用途、鮮度など様々な組み合わせで価格が決まり、一律には決められない」「農水省の『適正な価格形成』も、価格を一律に決めれば創意工夫して生産し、付加価値を付けて販売している人には足かせ」 としている。

 日本政府の中には、何かと言えば値上げや負担増をしたがる人が多いため、④については容易に想像がついたが、統制経済や配給制度ではあるまいし、⑥のように価格に国が口を出すことは、⑧のとおり、創意工夫をなくさせる。さらに、⑦のように、今でも十分には食べられず、⑤のようなスーパーの安売りに群がる人が多いのは、国民の努力が足りないからではなく、国の政策が悪いからなのである。

 確かに、①の小倉さんのように、高齢農家から頼まれた田も含めて合計15haを管理していても、稲作だけでは100万円以下の所得で給与所得者平均の458万円に遠く及ばないということはある。「それなら、何故、米だけ作って、他の作物は作らないのか」と私は聞いたことがあるが、「米が最も機械化が進んでいて簡単であるため、兼業農家は米がやりやすいのだ」というのが答えだった。

 しかし、兼業農家は副業であるため、これを基準に考えられては困るし、機械化こそ他の作物でも進めればよい。また、15haを管理することができるのなら、圃場をまとめて自動化しやすくし、管理する圃場面積を拡大すればよく、それこそ国や地方自治体が進めるべきことである。しかし、そもそも農業機械は驚くほど高く、今でも「百姓は生かさず、殺さず」を実践しているのではないかと思うが、これは何故だろうか?

 このようにして、日本産農産物の価格を上げれば、消費者は短期的には外国産にシフトせざるを得ず、食料自給率はますます下がることが目に見えているにもかかわらず、なのである。

 なお、②の「価格保障」は国民負担を増やさないためのあらゆる努力をした後ではないし、③の「食は国が支えるべきで国民合意もできる筈だ」というのも、価格保証以外の持続可能で効果的な方法を考えるべきだと、私は思うわけである。 

4)工業について
 「すべての森林や農地を、そのまま保全せよ」とは言わないが、農林漁業では儲からないから税をとれないと考え、国や地方自治体が積極的に規制緩和して優良農地に工業団地を作って工場を誘致しても、空き地になっては食料自給率を下げるだけでプラスにならない。

イ)半導体工場について
 そのような中、*3-2-1は、政府は、①半導体・蓄電池等の重要物資の工場を建設しやすくするため、土地利用規制を緩和し ②森林・農地等の「市街化調整区域」で自治体が工場の立地計画を許可できるようにする ③農地転用手続きにかかる期間を短縮し ④大型工業用地不足が課題の半導体工場建設を後押しして国内投資拡大に繋げる ⑤半導体はじめ戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため、複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設する としている。

 また、*3-2-2は、⑥経済安保の観点から半導体・蓄電池・バイオ関連といった分野が対象で ⑦10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資促進策として税制・予算と合わせて出す ⑧全国の分譲可能産業用地面積は2022年時点で約1万haで、2011年の2/3(経産省) ⑨市街化調整区域開発は、「地域未来投資促進法」の規定を使って例外的に活用 ⑩現在は食品関連物流施設・データセンター・植物工場等に限っているが、これに重要な戦略物資工場を追加する ⑪自治体が地域活性化や環境の観点で問題ないと判断すれば、より柔軟に工場誘致可 ⑫農地の場合、通常なら1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮 ⑬農地の転用には地元の農業委員会などの許可が要るなど規制が複数の省にまたがるケースが多いため、国土交通・農林水産・経産の3省が開発許可手続きを同時並行で進める ⑭半導体工場には広い土地と良質な水が欠かせないため、TSMCが熊本に進出して周辺自治体から土地規制の是正を求める声が上がった ⑮九経連は国・県の権限で農地を速やかに産業用地に転用できる規制緩和策を政府に要請 としている。

 1980年代から90年代の初めまで、日本は半導体製造で世界一だったが、日米半導体協定・大型コンピュータからパソコンへの主要マーケットの変化・経営トップ層の戦略思考の欠如等により、現在では、世界の市場競争に勝って標準となったデファクト製品がなく、電子機器の頭脳となる最先端のロジック半導体工場も存在しない。

 そこで、政府は、①②③④⑥のように、経済安保の観点から半導体・蓄電池・バイオ関連等の重要物資の工場を建設しやすくするため、森林・農地等の「市街化調整区域」で自治体が工場の立地計画を許可できるよう土地利用規制を緩和し、農地の転用手続きにかかる期間を短縮し、大型工業用地不足が課題の半導体工場の建設を後押しして、国内投資の拡大に繋げるのだそうだ。

 また、⑤のように、戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため、複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設し、⑦のように、10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資促進策として税制・予算と合わせて出すそうだ。

 台湾のTSMCが熊本県に進出した九州は沸き、、⑭⑮のように、周辺自治体や九経連から農地を速やかに産業用地に転用できるよう、規制緩和を求める声が上がった。そして、⑧のように、まだ1万haもの分譲可能産業用地があるのに熊本県の優良農地を潰したのは、半導体製造には広い土地と良質な水が欠かせないため熊本県が適地だったほかに、「九州に世界の先端産業を誘致したい」という九州の強い意志があったからである。

 しかし、⑪⑫⑬のように、農地の転用を複雑にし、①⑥⑨⑩のように、対象となる施設を制限した理由は、農地を宅地化しても空き家になったり、農地を工場団地にしても空き地になったりしているケースが少なくなく、使わなくても逆の転用は起こらないため、農地は減る一方だからである。そして、今後は、食料やエネルギーも重要な戦略物資になるため、農地で農業と再エネ発電を行うなど、農業をやっても儲かる仕組みにして食料とエネルギーの自給率を上げることが必要なのだ。

ロ)大学発スタートアップ企業について
 イ)の半導体については、1970年代から必要性がわかっており、パソコンの普及は1990年代から始まり、既に30~50年間も言われてきたことであるため、「今頃、世界に追いつくために、補助金をつけて誘致か」と、情けなく思うばかりで感動はない。

 しかし、*3-3のように、①新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指すスタートアップ企業が全国で増えた ②全国の企業数が5年間で5割増 ③地方の新興企業も5年で5割増 ④長野県は信大発新興が相次いで誕生して8割増 ⑤信大は2017年に知的財産・ベンチャー支援室を開設し、2018年に「信州大学発ベンチャー」の認定を始めて、起業や事業拡大に向けた多彩な支援をする ⑥信大は企業との共同研究が盛んで、特許の出願件数も地方大学でトップクラス ⑦認定企業の一つで2017年創業の精密林業計測(伊那市)が目指すのは地場産業である林業の活性化で、ドローン等を使って伐採に適切な木を判別するなど効率化を進める ⑧地方でも産学官金の支援の輪が広がり、スタートアップを生み育てる「エコシステム」が構築されつつある 等というのは、大いに希望が持てる。

 何故なら、①②③のように、新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指すのは、現場から多様な発想が出るため、④⑤⑥のように、大学と企業が持っている知識や技術を活用して行えば、有望なスタートアップ企業が多く出るからである。

 特に、⑦のように、現在、本当に必要とされている機械を作れば、日本で当たるのは当然だが、世界でも必要とされるため、⑥の特許は世界ベースでとっておくべきだ。そのため、⑧のように、地方でも産学官金の支援の輪が広がり、それぞれが得意分野を出し合うのは良いことだ。

 なお、*3-3で書かれていないことを付け加えると、イノベーションの実現を目指す振興スタートアップ企業が、時代の変化によってこれまでの仕事をなくしたり、事業承継をする人がいなかったりする中小企業と合併すれば、熟練した従業員や製造装置を容易に獲得できる可能性が高い。そのため、マッチする合併の相手探しも、金融機関の重要な仕事になる。

5)エネルギーの変換は遅すぎる上に未だ逡巡
イ)燃料
 *3-4-1のように、第1次石油ショックから50年も経過し、化石燃料の有限性やCO₂による地球温暖化は重要な環境問題であるのに、日本は未だ100%輸入の化石燃料にしがみついている。この間に、1997年12月のCOP3では日本の主導で京都議定書が採択され、2005年2月に発効して、日本は脱炭素技術でも先行していたのだが、経産省はじめ日本のリーダーたちは環境対策に熱心でなかったという事実がある。

 現在は、英シェルがオランダ・ロッテルダム港の北海に面した一角で洋上風力発電を使って欧州最大級のグリーン水素製造を2025年に開始する予定だ。また、中国は、太陽光発電パネルの生産シェアで世界の8割超を占め、風力発電機は中期的には6~8割を握りそうで、EV向け電池の3/4は既に中国企業が生産しており、脱炭素の主力技術は中国にあるのだそうだ。

 また、*3-4-2のように、バイデン米政権は全米7カ所を水素の生産拠点として選定し、70億ドル(約1兆円)の助成で水素の活用を後押しして「水素大国」を目指すそうだが、これは理にかなっている。しかし、そこに三菱重工業のプロジェクトが選定されて、日本への水素輸出を視野に入れるというのは、水素は水と再エネがあればどこででも(月や火星でも!)できるため、馬鹿じゃないかと思う。

 さらに、日本は、安価で大量の水素が手に入らなければ製鉄業が日本に残れず、電池を安定確保できなければ自動車産業は窮地に陥り、脱炭素時代のエネルギー覇権をかけたせめぎ合いが過熱するとして、あわててブルー水素と称する天然ガスや石炭などから取り出された水素も輸入しようとしているが、何を考えているのか呆れてものが言えない。

ロ)EVへの変換
 1997年に京都議定書が採択される前の1995年頃から、「これからはEVと再エネの時代だ」と(私が発端となって)日本でも言っていたのだが、「現実は・・云々」等と後ろ向きな発言をするメディアはじめリーダーは多く、世界で最初にEVを市場投入してうまくいっていたゴーン氏率いる日産はあのようにされたため、日本のEVはさらに遅れた。しかし、その間、ガソリン車の縛りのない国をはじめとしてEVに参入する国は続いていたため、日本はEVでも出遅れたのである。何故、このようなことになるのだろうか?

 そして、日本のメーカーであるスズキも、*3-5のように、インドをEVの輸出拠点に位置づけて環境車の世界展開を加速し、2025年に価格が300万~400万円程度のSUVタイプのEVを日本に輸出し、欧州向けは資本提携するトヨタ自動車への供給を検討するのだそうだ。確かに、インドは、市場の成長余地が大きく、製造業全般で製造原価が日本より2割安く、インド人は優秀であるため、インドでの知見を日本に生かすそうだが、これは、生産性を上げずに製造コストを上げることばかり考えてきた日本政府の反省材料である。

 また、海外市場はEVの立ち上がりが早く、「地産地消」の観点からトヨタやホンダは米国などでの海外生産を進めているため、近い将来、日本の貿易収支に影響が出るのは確実だ。

(4)地方の人口減とその対策について
1)日本の人口は急減し、そのこと自体が問題なのか ← 答えは「No」である


  2017 .4.11Agora   2021.6.25日経新聞        UN

(図の説明:左と中央の図のように、1975年以降の合計特殊出生率は2以下で、2005年には1.27まで落ちたが、日本の人口が減り始めたのは2010年代であり、その理由は寿命が延びたことである。また、中央の図のように、政府は2065年に1億人の人口を維持する目標を立てているが、それは食料・エネルギー・土地等にゆとりがあって初めて幸福を呼ぶことである。さらに、日本では「人口が減ると経済が衰退する」という論調が多いが、右図のように、世界の先進国で人口が1億人を超えているのは日本だけであり、常に景気対策のバラマキをしていなければならないというのも日本だけなのである。何故だろうか?)

 *4-1は、①人口減少のスピードが加速し、速すぎる変化は行政機能を維持する備えが追いつかず、国土管理もできない状況を招く ②住民基本台帳に基づく総人口は昨年1年間に51万人減少 ③日本人は80万人減り、初めて全都道府県で減少 ④外国人が29万人増え、多文化共生の取り組みが重みを増す ⑤東京一極集中は変わらず、首都圏の人口比率は全国の29.3%と上昇が続く ⑥地方の減り方が一段と顕著になり、地方から東京に人を出す余力が失われた ⑦令和臨調は人口の急激な減少に、「変化が速いと対応できず、地域が一気に衰退」と懸念する ⑧人口減少が進む地域で自治体再編・コンパクトシティー化・浸水地域の居住制限・水道やローカル鉄道等のインフラ網再構築等の政策が課題とされて久しい ⑨複数の市町村が共同で行政サービスを担う広域連携が重要となり、自治体のあり方の見直しに踏み込まざるをえないが、住民の理解が得られないため進まない ⑩今必要なのは、人口減少下ではある程度まとまって住む「集住」という方向性を国民全体で共有すること としている。

 上の左図の合計特殊出生率は、現在は1.4前後で推しているが、出産適齢期の女性が減るため急激に減少するのは確かである。しかし、これは、①のように、行政機能を維持する備えが追いつかず、国土管理もできないほど急激に起こったわけではなく、出生率や出生数を見ていればずっと前からわかっていたことだ。

 その上、私は今から30年前の1990年代初め頃から、働く女性は保育所や家事労働支援者の存在が不可欠だと言ってきたのだが、「女性間に不平等を作る」等々の不合理なことを言って無視されてきた。そして、仕事やキャリアを大切にしたい女性の間で、独身化・結婚年齢の高齢化・無子化・単子化などが進んだという経緯があるのだ。

 また、②③④については、家事労働支援者・運転手はじめ多くの分野で外国人労働者を受け入れれば、必要な外国人労働者の増加数は29万人を超えると思うが、*4-5のように、未だ外国人労働者の受け入れに制限をつけ、家事等の無償労働を女性に押しつけようとするから課題解決できないのである。そのため、どうしてそういう発想をするのか、私にはむしろ理解できない。

 なお、⑤⑥のように、東京一極集中が続いて首都圏の人口比率が全国の29.3%(約3割)になり、地方の人口減少が著しいのは、東京に働き口が多いという理由だけではなく、これまで女性が活躍できたのが日本では東京くらいだったため、他の地域には女性蔑視が未だ存在し、行政・司法・学校・病院等の生活の場にも女性差別が存在するからである。

 ただし、東京等のコンクリートで固められた大都会をふるさとにし、自然に遠い狭い家や団地で育った人の割合が増えすぎると、自然の美しさやその力に対する畏敬の念を持たない人の割合が増し、「食料やエネルギーは作るものではなく、輸入するものだ」というのが“常識”になってしまって、困るわけである。

 そのため、私は、⑦⑧⑩の令和臨調等の提言のうち、人口減少が進む地域等での自治体再編や浸水地域の居住制限はあるべきだと思うが、コンパクトシティー化して地方の都会に人を集めれば、さらに食料・エネルギーの生産ができなくなると考える。しかし、水道・鉄道・病院・学校等のインフラを維持できなければ実質的に人は住めないため、散らばって住んでも不便も心配もなく農林漁業に従事できる広域のネットワーク作りが必要なのだ。

 それをやらずに、コンパクトシティー化や集住だけを主張しても、もののわかる住民ほど理解しないだろう。しかし、⑨のうち、市町村が合併しなくても共同で行政サービスを担う広域連携は、行政サービスの効率を上げ、既存の資源を有効に使うため必要である。

2)人口減と水道・病院・鉄道の維持について
イ)水道について
 *4-2は、①水道事業は市町村等が運営し、料金収入で経費を賄う独立採算が原則 ②施設にかかる固定費が多く、給水人口が減れば赤字になる ③給水人口30万人以上の市町村の最終赤字割合は1%だが、1万人未満では23% ④人口減による料金収入の減少と老朽施設の改修費用増加で財務状況が悪化 ⑤全国の水道施設投資額は2021年度1.3兆円と10年前から3割増 ⑥岡山市20.6%、御前崎市46%など水道料金の引き上げが続く ⑦各都道府県は「水道広域化推進プラン」に水道水の販売単価を示す供給単価や給水原価の将来予測を盛り込んだ ⑧宮城県は所有権を維持したまま上下水道・工業用水道の計9事業の運営を民間委託し、浄水場の運転管理・薬品調達・設備の修繕の業務を20年間一括で委託し、民間のノウハウでの事業の効率化に取り組む としている。

 このうち①⑧については、水道事業は市町村等が運営して独立採算で経費を賄ってもよいし、宮城県のように、運営を民間委託して民間のノウハウを入れて事業の効率化や付加価値の増加に取り組むことも可能だ。

 しかし、市町村等の公的機関が運営した場合の欠点は、④⑤⑥のように、普段から固定資産の管理を行っていないため、修繕や改修などの維持管理を適時に行っておらず、急に老朽化したと言って多額の改修費用を要し、それが人口減による料金収入減少の時期と重なって財務状況を悪化させたとして、それを理由に料金引き上げをする点である。

 民間企業の長所は、日頃から固定資産の管理を行い、修繕・改修等の維持管理を適時に行うため、突然、多額の老朽施設の改修費が生じることはないが、欠点は、儲からないことはしないため、②③のように、人口が減って赤字になるような水道は引き受けないことである。

 しかし、民間企業であれば、「水道事業のためにその市町村の固定資産を引き継いだから、その市町村に給水するだけ」ということはなく、⑦のように、水不足で不潔で不便なくらい水を節約している近くの大都市に広域で給水したり、余った水を利用して新たな事業を開始したりすることが容易であり、そうすれば水道料金を上げるどころか下げることも可能だ。

 さらに、私は、水道施設が老朽化しているのなら、これを機会に水道施設と平行して安全な送電網を敷設して送電料をとればよいと考える。その理由は、1)電線の地中化が進む ii)地域の住宅や農地で再エネ発電した電力を、(原発を優先する既存の電力会社の送電網を使わず)集めて売ることができる からで、既存の水道設備に新たな付加価値を加えることができるからだ。それに加えて、通信設備を敷設するのも良いだろう。

 つまり、継続的に、水・エネルギー・通信料という固定費を節約することができれば、その地域の人たちは、可処分所得を増やすことができるのである。

ロ)病院について

 
  2012.12.26Naglly    Global Market Surfer    2010.11.30Todoran

(図の説明:この章は「人口減少で病院の存続が困難になる地域が多い」という論調だが、日本の人口密度は他国と比べて高くはあっても低くはない。例えば、左図の人口密度で色分けした世界地図で、日本は欧米よりも赤色の濃い地域《人口密度の高い地域》が多いが、欧米の医療システムが日本より劣っているわけではない。中央の図のように、2018年の数値で日本の人口密度は336.6人/km₂であるのに対し、米国の人口密度は33.3人/km₂であり、2050年になっても、この趨勢が大きく変わるわけではない。そこで、日本国内の都道府県別人口密度を見ると、右図のように、北海道や東北でも偏差値が著しく低くはなく、米国よりは高いと思われる。そのため、何でも人口減少のせいにするのではなく、合理的な医療システムを作るべきなのである)

 *4-3は、①政府は6月25日、2021年の国土交通白書を閣議決定 ②人口減少で2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性 ③公共交通サービス維持が難しく、銀行・コンビニエンスストアの撤退など生活に不可欠なサービスを提供できない ④地域で医療・福祉・買い物・教育等の機能を維持するには、一定の人口規模と公共交通ネットワークが必要 ⑤2050年の人口が2015年比で半数未満となる市町村は、中山間地域を中心に約3割 ⑥地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる人口規模は1万7500人 ⑦基準を満たせない市町村は2015年53%、2050年66% ⑧2050年には、銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村で0になるリスク ⑨コロナ禍で2020年5月の乗り合いバス利用者は2019年同月比50%減少し、公共交通の核となるバス事業者も経営難 としている。

 ここには解決策が書かれていないが、①のように、政府が閣議決定したわりには、「技術やサービスは現状のまま」という前提であり、変動要因は人口のみとした点で、思考が浅すぎるか、ためにする議論だと思う。

 つまり、②④⑤⑥⑦については、人口が少なくても通常は入院施設のない診療所に通い、深刻な病気の場合は地域の基幹病院にかかれればよい。そして、基幹病院は全市町村に1つ以上ある必要はなく、広域連携して、各診療科に優秀な専門医を置いてある方が望ましいのである。さらに、緊急時には救急車・ドクターカー・ドクターヘリ等を使って、基幹病院に10~15分以内に到着できなければならないが、中途半端な病院を増やすよりは、これらの輸送手段を増やした方が質の高い医療ができる上に安上がりであろう。また、訪問看護や訪問介護制度もあるため、必要な人にはそのサービスがいつでも届くようにすべきである。

 なお、③⑨の公共交通サービスは、2050年になっても安全な自動運転車ができていないわけはなく、自家用車・タクシー・バス・トラック等が自動運転車になっていれば多くの問題が解決するため、国交省が力を入れるべきは、高齢者・障害者や山村・農村・漁村の居住者に配慮した乗り物を作り、道路も乗り物の変化にあわせた安全なものにグレードアップすることである。

 さらに、③⑧の「銀行・コンビニの撤退などで、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる」というのは、i) 銀行は、ATMを使えばどの銀行の通帳も使えて記帳もできるように通帳の規格を合わせて欲しいし ii) 2050年であればインターネットによる安全(ここが重要)な送金もできるようになっているだろう。

 また、私はコンビニが必要不可欠なインフラとは思わないし、現在も離島にはコンビニのないところもあるが、漁協・農協・郵便局等の建物の中に店舗があって、必要なものは買えるようになっている。また、2050年には、アマゾン等の通販もさらに使い安くなっているだろう。

ハ)鉄道について

 
 2022.7.28日経新聞 2020.5.28朝日新聞 2023.5.2読売新聞  2022.9.2Mdsweb

(図の説明:1番左の図は、輸送密度1000人未満の区間で、右下にJR北海道・JR東日本・JR西日本・JR四国・JR九州の赤字額が記載されている。具体的には、左から2番目がJR九州、右から2番目がJR北海道、1番右がJR東日本の赤字路線・区間で、この章では、これらの路線を維持するにはどういう工夫があり得るかを記載する)

 *4-4のように、①人口減少・マイカーシフト等で利用者が減って地方の鉄道会社は経営が悪化 ②赤字路線はバス転換を含めた議論を迫られている ③JR西日本と東日本は相次いで赤字ローカル線の収支を公表し、バスへの転換の意向 ④JR九州は2020年5月に輸送密度(平均利用者数/km/日)2千人未満の線区で収支を公表して対象の12路線17区間全てで赤字 ⑤JR九州は2019年度に輸送密度の減少が著しい6路線7区間の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げたが、具体的アイデアは未提出 ⑥富山市はJR西日本の富山港線の廃線に伴って線路を引き継ぎ、LRTを導入して市内の路面電車と繋いで便数を増やし、公共交通沿線に家を建てたり、部屋を借りたりする世帯に補助金を出して公共交通沿線に人を集めた ⑦また、公共交通の「おでかけ定期券」が高齢者の外出機会を増やせば医療費を年間8億円抑えられる ⑧鉄道施設を自治体所有として鉄道会社の経営を立て直す「上下分離方式」も選択肢の一つ ⑨滋賀県は県内の鉄道・バス路線の維持のため使う「交通税」の議論を始めた 等としている。

 このうち①④は事実だろうが、②③のバス転換は、バスが自動運転でなければバス会社を赤字にする。また、自動運転なら、決まった線路を通る鉄道の方が、誰にとっても安全で早そうだ。

 JR九州は、④⑤のように、最初に輸送密度2千人未満の線区で収支を公表して沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げたそうで、この問題意識が上の1番左の図で赤字が最も小さい理由だろう。具体的アイデアは未提出だそうだが、i) ローカル鉄道の先にある農林漁業地帯の貨物を運ぶ ii) 農林業地帯や自社の広大な敷地で再エネ発電を行い、都市に電力を送電して送電料や電力料を稼ぐ  iii) 列車をEV化・自動運転化して経費を減らす iv) 駅に付属してコンビニ・道の駅・介護施設等を作って副収入を得ながら、駅の雑務を委託して駅員を減らす v) 鉄道と街づくりを同時に考えて沿線に魅力的な街をつくる vi) 別の鉄道会社と相互乗り入れして利便性を増す などを行えば、鉄道維持のための損益分岐点は大きく変わると思う。

 なお、⑥のように、富山市は、富山港線の線路を引き継ぎ市内の路面電車とLRTで繋いで増便数したそうだが、狭い道路で路面電車を増便すれば、混雑して危険性が増すため、私は、これには反対だ。しかし、公共交通の沿線に人を集める政策はよいと思うし、これは富山県だけの問題ではないため、国として進めた方がよいと思った。

 さらに、⑦のように外出機会が増えれば健康維持に貢献するため、「おでかけ定期券」は医療費抑制に有効だとは思うが、外出した先で物価が著しく上がっていれば、外出しても不快にしかならないため、政府の高齢者及び消費者虐待にあたるインフレ政策は間違った政策である。

 そのため、⑧の鉄道施設を自治体所有として鉄道会社の経営を立て直す「上下分離方式」は、他の選択肢がどれも使えない場合に限る選択肢にした方が良いと思われ、⑨の滋賀県の「交通税」は工夫がなさ過ぎ、他の税は何に使っているのか、疑問に思われた。

3)外国人労働者の受け入れについて
イ)日本における外国人労働者の労働条件

  
 2018.10.11朝日新聞 2018.10.12毎日新聞   2021.11.9東京新聞

(図の説明:「特定技能」は、2018年成立の改正出入国管理法で創設され2019年4月に施行された制度だが、1番左の図のように、3年間の技能実習か日本語と技能の試験合格者にしか与えられない。このうち、特定技能1号は、左から2番目の図のように、家族の帯同ができず、在留期限も通算5年までとなてっており、特定技能1号は『さまざまな取り組みをしても人材が不足する分野』として12分野のみが指定されている。その結果、右図のように、日本語と技能試験の合格で資格を技能実習から特定技能1号に変更した人が、2021年の前半だけで約3万人いる。)


     2023.5.23読売新聞     2021.11.9東京新聞 2023.7.31読売新聞

(図の説明:政府は、左図のように、今まで特定技能1号でのみ認められていた②~⑪の9分野を特定技能2号の対象に加えるそうだが、当然のことであるし、人手が足りないのはその9分野と介護だけではないだろう。その上、中央の図のように、技能実習生や留学生が転職したくても、転職しにくくなっている実態があるため、自由を制限している理由を解決すべきだ。また、右図のように、これまで国家戦略特区のみで認められていた外国人家事支援人材の在留を一定条件の下で3年程度延長するそうだが、これも3年程度の延長では慣れた頃に帰国するためあまり役に立たず、政府は『熟練』の意味をどう考えているのか疑問だ)

 現在の日本政治は、「少子化=生産年齢人口減 ⇒ 労働力不足」として、インフレ政策で高齢者の年金を目減りさせ、社会保険料負担は増やしながら、地方ではとっくに人手不足が始まっているのに、経済対策と称するその場限りのバラマキが多く、国民の誰をも幸福にしない。

 そこで、日本で働きたい外国人労働者を労働力不足の分野で受け入れれば、既に育った労働者を獲得できるにもかかわらず、これについては、*4-5-1のように、人権侵害にあたると悪名高かった従来の技能実習制度を改正しようとはしているものの、「1年を超えて就労し、一定の条件を満たせば、転職可能とする」など、労働移動に関する制限が残っており、労働環境の改善効果が限られるので、本気度が疑われる。

 具体的には、*4-5-1は、①新しい技能実習制度は、特定技能に統合せず3年間の就労が基本 ②日本語や技能試験に合格すれば2019年創設の「特定技能1号」に移行可 ③特定技能と同様、受け入れ人数の上限を定めて対象業種を一致させる ④転職は同職種に限定して基礎的技能検定と日本語試験の合格が条件 ⑤来日に多額の手数料を払う外国人が多いため、受け入れの初期費用を転職先企業も一部を負担する(案) ⑥転職のマッチングは受け入れ窓口の監理団体・監視機関・ハローワークが担当 ⑦外国人が日本人と同等に、労働者の権利を持って活躍できるよう実効性の高い制度にし、働く場として「選ばれる国」になるべき 等と記載している。

 このうち①の新しい技能実習制度は、日本で3年働いて一人前になった頃に、やはり外国人労働者を母国に返す前提であるため、従来の技能実習制度と同様、本人にとっても雇用主にとっても不本意で、雇用主は育てても自社のためにはならないため、技能実習生は低賃金の使い捨て労働者にされることになるのである。

 また、②③については、日本語や技能試験に合格すれば「特定技能1号」に移行可能で、技能実習から特定技能へ移行すれば8年間日本に滞在できることになるが、やはり8年後には外国人労働者は母国に帰らざるを得ず、対象業種は増やしても12業種と制限があり、家族の帯同はできないわけである。在留期間が無期限で家族帯同もできる「特定技能2号」も、政府案では対象業種を11業種になるが、やはり分野が制限され、外国人労働者の労働を制限したがっていることに間違いはなく、これは、国内の労働力が余っている時の体制のままである。

 なお、日本人でも最初は基礎的技能がなく、障害があったり不登校だったりしたため日本語の読解や計算もできない人が少なくない。一方、外国人でも日本まで来て働こうとする人は、日本人より目的意識を持ち、仕事に真面目であることが多いため、④のように、i)転職は同職種に限定 ii)基礎的技能検定と日本語試験の合格が条件 等としているのは外国人差別であり、差別された人は、当然、不愉快に思うだろう。

 しかし、⑤の来日に多額の手数料を払う外国人が多いことについては、そもそも“多額”すぎてはいけないため上限規制が必要だ。また、宿舎や家具などの初期費用を最初の受け入れ企業が提供しているのであれば転職したら返すのが当たり前であるため、外国人労働者がそういう不利益を甘受しても転職したくなるような職場環境を作っているのなら、それを改善すべきである。

 さらに、⑥の転職マッチングは、受け入れ窓口の監理団体・監視機関・ハローワークでもできるだろうが、リクルート社などの確かな転職斡旋団体が行った方がよいと考える。むしろ、そうでなければ、⑦のような「外国人が日本人と同等に労働者の権利を持って活躍でき、日本が働く場として『選ばれる国』」にはなれないだろう。

ロ)外国人の家事サービスなど
 *4-5-2のように、政府は外国人材の受け入れや女性活躍を後押しするため、人手不足の外国人の家事代行サービスを広げ、①家事代行従事者の在留を一定条件の下で3年程度延長 ②マンション管理会社が利用者との契約を仲介できる制度導入 ③外国人の家事代行サービスは2017年から東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・愛知県・千葉市にある国家戦略特区で始まっていた ④母国で家事代行の国家資格を取得したフィリピン人が炊事・洗濯・掃除等を担う ⑤最低限の日本語能力・1年以上の実務経験が求められ、2022年度末約450人を受け入れ ⑥在留期間は最長5年 ⑦サービス提供数は年10%以上伸び、需要に供給が追いついていない ⑧家事代行サービスの国内市場規模は2017年698億円から2025年に2000億円以上に拡大 ⑨需要を見込むのは共働き世帯が多く入居する都市部の高層マンション等 ⑩フィリピン人による英会話指導付き家事代行サービスを展開する事業者も と記載している。

 人手不足の家事サービス分野で外国人の活用を広げるのは良いが、①⑥のように在留期間が最長5年・一定条件下でも3年程度の延長では、条件を満たす人でも最長8年しか働けない。しかし、監督なしで家事を任せられるためには、日本の家事に詳しい信頼できる人であることが必要で、そのためには、②の仲介業者等が日本の家事に関する研修をしたとしても、日本の家庭料理や分別回収開始から何年経っても複雑なゴミ出しを任せたり、幼児が信頼してなついたりできるためには、少なくとも数年が必要なのである。

 従って、④⑤のように、母国で家事代行国家資格を取得したフィリピン人で、最低限の日本語能力と1年以上の実務経験があっても、頻繁に人が入れ変わるのは御法度であり、このように在留可能期間を短期間に定めているのは、家事を馬鹿にしていると同時に、家事サービスの普及も邪魔している。そのため、この調子では、女性の家事負担を軽くすることはできないだろう。

 なお、子育てしながらの共働き・産後や病気療養中の人・高齢者などの介護や生活支援のために家事サービスが必要であることは、私は1990年代から言っており、実需であるため本物のニーズが大きい。そのため、⑦⑧のように、家事サービス提供数は年10%以上伸び、国内市場規模は2017年の698億円から2025年に2000億円以上に拡大し、今後も増えることは明らかだ。

 にもかかわらず、③のように、外国人の家事サービスは2017年から東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・愛知県・千葉市にある国家戦略特区のみでしか行われず、⑨のように、需要を見込むのは共働き世帯が多く入居する都市部の高層マンションだけ というのも、実情を把握していない人たちの発想である。

 さらに、共働きや単身世帯の家事支援はもちろん必要だが、生活支援や介護もその多くが“家事”であるため、産後・病気療養中・高齢者等の介護や生活支援にも家事サービスは不可欠だ。そのため、人手不足の中で生産性を上げながら生活支援や介護の仕事をしていくには、チームの中に日本語が不得意だったり、介護福祉士の資格を持たなかったりする人がいても、そういう人には日本語や資格のいらない仕事を任せて、工夫しながら全体をこなすことは可能だ。

 なお、人手不足で外国人の受け入れを増やした方が良い分野は、家事サービスだけではない。そのため、必要な分野が躊躇なく外国人の受け入れを増やせる改革が必要なのである。

4)イスラエル・パレスチナ問題について

 
 2022.4.14  2023.10.8 2023.10.29日経新聞    2023.10.15中日新聞  
 Daiamond   読売新聞

(図の説明:イスラエル・パレスチナ問題は、約2,600年前にユダ王国がバビロニアに征服されて住民のヘブライ人がバビロンに連行されたバビロン捕囚に始まるが、1番左・左から2番目の図のように、第二次世界大戦後や19世紀以降の歴史しか記載していない年表が多い。そのため、右から2番目の戦闘は、イスラエルだけが非人道的であるかのような誤解を生んでいるのだが、その背景には、1番右の図の相関図があり、「ここで中途半端な対応をすれば自国がなくなる」というイスラエルの深刻な状況があることを忘れてはならない)

イ)ハマスのイスラエル侵攻とイスラエル軍反撃の経緯
 *4-6-2・*4-6-3・*4-6-4・*4-6-5は、①10月7日、ハマスがイスラエルに侵攻して約1400人を殺害し、222人を人質にして衝突開始 ②10月22日、イスラエル軍はイスラム組織ハマスの壊滅を目指しガザ地区北部住民に対し退避要求 ③10月22日、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区のジェニンでモスクの地下につくられた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊 ④10月21・22日、2週間の空爆と完全封鎖によるガザの人道危機に対応するため国連等による支援物資搬入 ⑤ガザ地区に10月21日、人道支援物資を積んだトラック20台が隣国エジプトから初めて入ったが、ガザの人口約220万人の1%向けの1日分 ⑥国連を交えた当事者間の交渉の末、10月22日午後、第2陣のトラック17台がエジプトからガザに入った ⑦国連安保理は、10月18日、議長国ブラジルが提出した「戦闘中断」を求める決議案を否決・米国が「イスラエルの自衛権への言及がない」として拒否権を行使 ⑧10月26~27日、EUはガザへの人道支援を優先するためイスラエルとイスラム主義組織ハマス双方に戦闘中断を要請する文書を採択し、「国際人道法に従ったイスラエルの自衛権を強く支持する」とのイスラエルの反撃への支持は明記 ⑨ドイツは「戦闘中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」と慎重な姿勢を示したが、米国の呼びかけで妥協 ⑩10月26日、アラブ主要9か国外相は、国連安全保障理事会に即時停戦を求める共同声明を発表 ⑪10月26日、イスラエルのガザ空爆が続き、ガザの保健当局は今月7日以降の死者は7,028人と発表 ⑫10月27日、国連総会は、イスラエルとイスラム組織ハマス衝突をめぐる緊急特別会合でアラブ諸国が起草した即時停戦・人道回廊設置・人質解放等を求める決議案を投票全体の2/3にあたる121カ国が賛成、米国・イスラエルは反対、日本は棄権で採択 ⑬10月27日夜、イスラエル軍はイスラム組織ハマスが実効支配するガザ空爆と地上作戦を拡大させ、10月28日に戦車も投入して全面的な地上侵攻に向け一段と圧力を強めた ⑭10月27日夜、イスラエル軍はハマス地下拠点約150カ所を空爆し、「10月7日の奇襲を指揮したハマス司令官の1人を殺害した」と発表 ⑯10月28日、イスラエル軍はガザ北部の住民に対し南部に避難するよう改めて呼びかけ ⑰10月27日以降、ガザでは通信障害が深刻 等としている。

 このうち①の衝突開始については、⑦⑧で米国やEUが述べているとおり、イスラエルにも自衛権があるため、今後、同じことが起こらないようにするためには、②のように、イスラエル軍がハマス壊滅を目指すのは当然であろう。そして、ガザ地区北部の一般住民に対しては、②⑯のように退避要求もしているが、ハマスとガザ地区の住民は家族や親戚ではないのだろうか?そのため、⑨のように、ドイツが「戦闘中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」というのも、私は理解できる。

 しかし、⑩⑫のように、アラブ主要9か国の外相は、国連安保理に即時停戦を求める共同声明を発表し、国連総会は、緊急特別会合でアラブ諸国が起草した即時停戦・人道回廊設置・人質解放等を求める決議案を、投票全体の2/3にあたる121カ国の賛成で採択している。

 イスラエルは、「そんなことには、かまっていられない」とばかりに、③⑪⑬⑭⑰のように、モスクの地下に作られた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊し、ハマスが実効支配するガザ空爆と地上作戦を拡大させ、ハマスの地下拠点約150カ所を空爆し、ガザでは10月7日以降の死者が7,028人となり、通信障害が深刻とのことである。

 それでは、「どうやって、これを解決するのか」と言えば、ロ)で述べる「歴史が生んだ難問」を両方が納得できる形で解決しなければならない。

 そこで考えるべきは、イスラエルの人口密度も418人/km²で高いが、ガザ地区の人口密度は6,018人/km²で東京都全体の6,425人に迫り、1947年にパレスチナを分割してイスラエルが建国された時とは比べものにならないくらい人口が増えて、人口密度も高くなっているということだ。その上、パレスチナ自治区の人口ピラミッドは、1950年頃の日本と同様、年齢が低いほど人口の多い「富士山型」で、子供や若者の比率が高く、住民の半数近くが20歳未満であるため、これからも人口が増加するということだ。

 そのため、国連は、④⑤⑥のように、とりあえず人道支援物資を運んだり、戦闘中断を要請したりすればよいのではなく、パレスチナ人に新天地を与え、過密になった地域からパレスチナ人を移動させ、そのための費用を提供しなければならないのだと思う。

 それでは、「どこに移動させればよいか」については、まずは同じイスラム教文化の国が考えられるが、国土が広い上に地球温暖化でシベリアに耕作可能地帯が増えるロシアや、*4-7のように、既に建設中の建物が販売不振でデフォルトを起こして空いており、国土の広い中国も候補にあげられる。

 日本の場合は、イスラム教原理主義には対応しかねるが、生産年齢人口が減って人手不足ではあるため、九州・四国・東北・北海道等が外国人労働者として受け入れ、農業・建設業・その他パレスチナ人が得意とする仕事に従事させることは可能なわけである。

ロ)イスラエル・パレスチナ戦争の背景と解決策の提案
 *4-6-1は、歴史が生んだ「世紀の難問」と題して、パレスチナ自治区ガザを実効支配している「ハマス」が、10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けて始まったイスラエル・パレスチナ間の大規模な戦闘の背景を述べている。

 具体的には、①紀元前10世紀頃、ヘブライ人(後のユダヤ人)の王国がパレスチナにでき、紀元前6世紀に新バビロニアに滅ぼされて住民が捕らわれの身になった ②2世紀前半、古代ローマがユダヤ人を聖地エルサレムから追放し、ユダヤ人は世界各地に散らばった ③第2次大戦中、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツによるホロコーストがあり、ポーランド・アウシュビッツ収容所等で約600万人のユダヤ人が殺害された ④パレスチナ問題の背景には、2千年を超えるユダヤ人の苦難がある ⑤国を滅ぼされ、土地を追われ、民族が離散し、苦難の歩みを続けて安住の地を求めてきたユダヤ人にとって、イスラエル国家建設は歴史的悲願だった ⑥第2次大戦直後の1947年に国連総会決議でイスラエルの建国が決まり、パレスチナの地をユダヤとアラブに分割して聖地エルサレムは国際管理下に置くことになった ⑦1948年に国連決議に基づきイスラエルが独立を宣言し、イスラエルが建国されてユダヤ人が集まった ⑧住んでいたアラブ人約70万人は自宅を追われて「パレスチナ難民」になった ⑨これを認めない周辺のアラブ諸国は宣戦を布告し、一斉にイスラエルに攻め込んで1973年までに4度の戦火を交えた ⑩独立国家を求めるパレスチナの抵抗は今も続く ⑪1967年に、イスラエルはエジプトのガザ地区、ヨルダンの東エルサレムとヨルダン川西岸などを占領 ⑫パレスチナ人は占領に不満を強め、1987年12月にガザから反イスラエル闘争の「インティファーダ」が始まった ⑬この抵抗の中核として生まれたのがイスラム組織のハマス ⑭パレスチナ人の代表として国際社会で認められていたのは1964年創設のパレスチナ解放機構(PLO) ⑮PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相が1993年9月に「オスロ合意」に調印し、ガザとヨルダン川西岸を自治区とし、聖地エルサレムの帰属や難民の扱いはその後の話し合いで決めるとした ⑯イスラエルのラビン首相は1995年、和平に反対するユダヤ教徒委に暗殺され、1996年にはハマス等による自爆テロが頻発 ⑰和平交渉は2000年に決裂してガザとヨルダン川西岸全土で自爆テロが繰り返される第2次インティファーダが巻き起こった と記載している。

 現在、①②③④⑤について記載している記事はあまりないが、私は「日本人とユダヤ人」「大和民族はユダヤ人だった」等の本から、ユダヤ人は本当に2千年超の期間、イスラエル国家の建設を信じて待っていたと考える。それが、⑥⑦のように、1947年に国連総会決議でイスラエル建国が決まり、イスラエルにユダヤ人が集まった理由でもある。

 一方、⑧⑨⑩のように、そこに住んでいたアラブ人約70万人は自宅を追われて「パレスチナ難民」となり、独立国家を求めるパレスチナの抵抗が現在も続いているわけだが、パレスチナは7世紀にイスラム教が勃興し、638年にエルサレムがイスラム教勢力によって征服され、パレスチナが急速にイスラム化したものである(https://www.y-history.net/appendix/wh0101-055_1.html 等参照)。

 つまり、今となっては、ユダヤ人にとってもパレスチナ人にとっても、その地域が「ふるさと」になっているのだが、ユダヤ人の方が先住民であり、2千年超も祖国への帰還を待っていた人々である上、その地域は、今では仲良く共存して暮らすには狭すぎ、人口密度が高くなりすぎた。そのため、新しく農耕・漁労・貿易等々が可能になる地域、人口密度が低い地域、生産年齢人口の割合が少ない地域等に、今回は、パレスチナ人が移住するのがFairだと思うのだ。

 そうすれば、⑪⑫⑬⑭⑮⑯のような血で血を洗う闘いは終わり、狭い場所を取り合って闘うのではなく、新しくて広い場所に移動して生産に携わることができ、そうした方が建設的で家族を幸福にもできるだろう。

(5)大都市への過度の人口集中の不合理
1)海面上昇するとどうなるのか


       2018.9.11リアナビ      2016.1.13Gigazine 2022.1.15Gigazine
(図の説明:左図は、現在の東京江東5区で、海抜0m地帯が広がり、海面や河川の水面よりも低い地域に住宅やビルが建設されているので水害の危険性が高い。中央の図は、南極西岸の棚氷だけがすべて溶けた場合の約5m海面上昇時に東京が水没する地域を示しているが、溶けるのは南極西岸の棚氷だけではないため、実際はこれよりも深刻になる。右図は、海面が7m上昇した場合の日本を中心とする極東地域の地図で、沿岸や離島の多くの地域が水没し、それに伴って領海や排他的経済水域も減る)

 上の左図のように、現在でも、江東5区は海抜0m地帯が広がり、海面や河川の水面よりも低いため水が抜けにくく、マンションやビルの高層階に「垂直避難」しても浸水が長く続けばライフライン(電気、ガス、水道、トイレ)の断絶や食料不足で生活が困難になる。(https://v3.realnetnavi.jp/column/p/p0295.php 参照)。

 それに加えて、*5-1は、英国南極観測局が、①地球温暖化の進行で、温室効果ガスの排出を減らしても、21世紀中は南極西岸の棚氷が溶けるのを止められず ②棚氷がすべて溶ければ世界の海面が最大約5m上昇し ③スパコンの予測モデルで、産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑えても棚氷が溶ける結果は変わらない ④南極西岸アムンゼン海の棚氷分析で氷が溶けた速さは20世紀の3倍 ⑤棚氷がすべて溶ければ世界の海面を最大5.3m上昇させる量 ⑥既に「ティッピングポイント(転換点)」に至っている恐れ ⑥チームのケイトリン・ノートン博士は「何十年も前に気候変動への対策が必要だった」と指摘 等と記載している。

 このうち①②④⑤については、地球温暖化では南極西岸の棚氷だけでなく、北極・グリーンランド・南極の他地域の氷も溶けるため、「海面が最大約5m上昇する」というのはかなり甘い見積もりなのだ。

 その上、この5m上昇というのは、現在でもしばしば起こっている台風や線状降水帯による洪水や高潮を考慮していないため、水害という視点のみから考えても、東京の海抜20m以下の地域に地下鉄・上下水道等のインフラを作るのは、安全性・経済性の両面で無駄だいうことになる。

 さらに、③の産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑えても棚氷が溶ける結果は変わらないというのも、0℃の氷1gを溶かして0℃の水にするのに必要なエネルギーは約80calだが、0℃の水を1℃に上げるのに必要なエネルギーは1calであるため、これまでは大量の氷が緩衝材になって海水温の上昇を抑えていたが、氷がなくなればこれまでよりずっと早く海水温が上昇し、海水の膨張までを考慮すれば、大変、深刻な状況になっているということだ。

 なお、海水温上昇の原因には、CO₂の増加や使用済核燃料の空冷による地球の気温上昇だけでなく、海水温自体の上昇もある。そして、海水温自体の上昇の原因には、海底火山の爆発もあるが、人間が使った原発を冷やすことによって出た原発温排水もあるため、化石燃料だけでなく原発もまた、地球の気温上昇や海水温の上昇に影響を与えていることを忘れてはならない。

 そのため、⑥の「何十年も前に気候変動への対策が必要だった」というのは、化石燃料の話だけではなく、原発も同じで、速やかに卒業すべきエネルギーなのである。

2)首都直下型地震が起こった場合について
イ)東京に資源を集中させるのは、経済性とリスク管理の視点から不合理
 *5-2-1は、①2023年9月1日で関東大震災から100年経過 ②人・モノ・機能を集積した首都に直下型大地震は必ず来る ③関東大震災で最も大きな人的被害を出したのは火災 ④陸軍の工場跡地で大勢を巻き込んだ火災旋風が知られ、台風シーズンだった ⑤人口集中した東京での「複合災害」は大きなリスク ⑥隅田川・荒川等主要河川の堤防が決壊すれば下町は大水害 ⑦真夏の地震なら酷暑も脅威 ⑧感染症蔓延下でも避難所の密回避は困難 ⑨首都直下型地震は国の中枢を直撃する ⑩巨大地震のリスクが非常に高い地域に中央政府・立法・司法の機能がこれほど集積しているのは異例 ⑪1つの地震が国の存亡にかかわる恐れ ⑫リスク分散が危機管理の基本だが、首都のリスク管理は不十分 ⑬改めて首都機能の移転・分散を具体的に検討すべき ⑭首都機能分散を含め大胆な事前復興計画を立てれば、日本のグランドデザインにも繋がる ⑮首都東京はどうするべきか防災に留まらない国民的議論があるべき ⑯リスク分散が重要なのは企業も同様 ⑰都内の本社機能が停止して企業全体の事業活動が滞り、倒産の危機に至る可能性も ⑱偽情報を見極める力もつけるべき 等と記載している。

 一定の間隔で直下型大地震が起こっていることを考えれば、①②③④⑤は事実である。

 その上、⑥及び上の左図のように、現在は、東京江東5区等で海抜0m地帯が広がり、海面・河川の水面より低い地域に住宅やビルが建設されて、堤防と強力なポンプによる排水で都市機能を維持しているため、堤防が決壊すれば街は5~10mの水につかる大水害に見舞われ、堤防の修復が終わって排水が完了するまで水は引かない。しかし、これには、かなりの時間がかかるのだ。

 また、停電したコンクリートの街に人口が密集していれば、⑦のように、夏なら酷暑も脅威であり、清潔な水や栄養バランスのとれた食事を入手できずに、人が密集し続ければ、⑧の感染症蔓延もすぐ起こるのである。

 さらに、⑩⑪は大きな問題で、例えば1920年 (大正9年1月)~1936年 (昭和11年11月) の17年間で建設され、第70回帝国議会(昭和11年12月)から使用されている国会議事堂は、風格のある建物ではあるが耐震性が低いため、肝心な時に国会を開けないだろう。従って、⑫⑬⑭⑮のように、首都機能は、標高が高くて人口が少なく、緑の多い場所に最新の建物を建設して移転し、リスク分散も行うよう議論を始めるのが賢明だと、私は思う。

 企業も、⑯⑰のように、本社・工場を安全で通いやすい場所に移転させ、リスク分散すると同時に、データは必ずバックアップして、どのような災害が起こっても、またサイバー攻撃されても壊れないシステムにしておかなければならない。⑱については、日本人は、一見常識的な嘘には疑わず騙され、偽情報を見極めるのが下手な人が多いように思われる。

ロ)首都直下型地震発生時の東京・神奈川・埼玉・千葉の災害拠点病院について
 首都直下地震発生時に関して、*5-2-2は、①国は首都直下地震で最大14万6千人が死傷すると予測 ②1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)で災害時に重傷者の治療を担う災害拠点病院の63%で受入可能患者数が平時を下回り、平時の1割未満とした病院も22%ある ③災害時は道路の寸断・交通の機関マヒで病院に着けない職員が大量に出て、発災6時間以内に集まれる医師数は平時の36%、72時間以内でも73%しかいない ④施設の耐震性・病室のスペース・道路の狭さが問題 ⑤建物の火災・倒壊で多くの重傷者が搬送されても治療を受けられない可能性も ⑥政府の地震調査委員会によると、マグニチュード7程度の首都直下地震の30年以内の発生確率は70%程度で医療体制の強化は喫緊の課題 としている。

 また、*5-2-3は、⑦1都3県にある災害拠点病院の約4割が災害派遣医療チーム(以下“DMAT”)を災害現場に派遣したことがない ⑧都道府県指定の災害拠点病院は、1チーム以上のDMATの保有が求められている ⑨2023年3月時点で約1770チーム・約1万6,600人が登録しており、5年毎の更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要 ⑩DMATチーム数は、「3」が11%、「2」が22%、「1」が53%、「0」も5%ある ⑪災害現場への派遣回数は「0」が最多の37%で「1」の21%が続く ⑫派遣経験のない神奈川県の私立病院は「DMATを派遣すれば担当業務の補完要員が必要で、時間外勤務が発生するので、人件費分の支援がないと派遣は難しい」とする ⑬埼玉県内の病院は「希望者はいるが何年も待っており、退職・異動による欠員補充もままならない」とする ⑭DMAT事務局は「都市部は病院数が多く、県単位で受講枠が決まっているため、順番が回ってこない病院もある」と説明している そうだ。

 このうち①⑥の「マグニチュード7程度の首都直下型地震の30年以内の発生確率が70%程度で、最大14万6千人が死傷する」というのは、近いうちにかなり確実に起こる大地震で、多くの人が死傷するということであるため、医療面からの準備も喫緊の課題である。

 しかし、②③④⑤のように、災害時に重傷者の治療を担う災害拠点病院の受入可能患者数は平時より著しく下回り、その理由は、i) 道路の寸断や交通機関のマヒなどで病院に着けない職員が大量に出る ii) 病院の耐震性・病室のスペース・道路の狭さ等に問題がある 等が挙げられている。しかし、機械設備・器具の故障・停電による機器の停止などの影響もあると思われる。

 そのため、病院の耐震化を進めたり、すべての道路を広くして災害時でも救急車両や消防車が通れるようにしたり、災害医療に関わる医師やスタッフの住居を病院近くに置いたりする必要があるのだが、東京はじめ首都圏では、これにも著しい時間と金がかかるのだ。

 その上、⑧のように、都道府県指定の災害拠点病院は1チーム以上のDMATの保有が求められ、災害医療にあたるにもその経験が必要だが、⑩のように、DMATチーム数は「3」が11%、「2」が22%、「1」が53%、「0」も5%で、⑦⑪のように、災害現場への派遣回数は「0」が37%、「1」が21%であり、殆ど災害現場で活動したことがないと言っても過言ではない。

 その理由には、⑨⑬⑭のように、5年毎の更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要があるが、順番が回ってこないため希望者が何年待っても研修を受けられないこともあり、これはDMAT事務局が本気で取り組んでいないからと言える。

 また、⑫のように、人件費分の支援がないとDMATを派遣できないと言う病院もあるが、災害に対応して普段は利益にならないことができるためには、設備やスタッフにゆとりが必要であるため、医療関係者の善意に甘えるのではなく、設備や人件費などの支援が必要である。

 全体としては、東京はじめ首都圏の過度の過密状態を解消し、迅速に必要な道路・病院・医療スタッフ等の住居を配置することが必要で、それを進めることができるためには、やはり都市部への過度な人口集中を止めるよう国土計画を作り直すことが必要なのである。

<ふるさと納税>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231007&ng=DGKKZO75103120X01C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.7) ふるさと納税、稼ぎ頭は400人の村、「黒字」自治体3倍 和歌山県北山村、英語教育の原資に
 ふるさと納税による全国の自治体への寄付額が2022年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新した。都市部では税金の流出が膨らみ、返礼品競争にも批判はあるが、財政基盤の弱い自治体には貴重な財源だ。各市区町村の住民1人当たりの収支をみると「稼ぎ頭」は人口約400人の和歌山県北山村だった。総務省の「ふるさと納税に関する現況調査」から22年度の市区町村ごとの実質収支を算出した。受け入れた寄付額から他の自治体に寄付として流出した控除額と、寄付を得るのにかかった経費を差し引いた。人口1人当たり1万円以上の「黒字」だった自治体数は449で経費を把握できる16年度の約3倍。うち9割が人口5万人以下だった。黒字が最も大きかったのは和歌山県北山村で122万2838円に達した。紀伊半島の山あいにあり、同県とは接さず奈良県と三重県に囲まれた全国唯一の飛び地の村。人口は全国有数の少なさで過疎が進む。ふるさと納税の収益を高めた背景には村に自生する絶滅寸前のかんきつ類「じゃばら」の復活劇があった。特産化へ唯一残る原木から作付面積を広げた。01年に自治体では当時異例の楽天市場で果実や加工品のネット通販を始めたことが突破口となり、生産者が34戸に増えた。顧客目線をふるさと納税にも生かし、17年には返礼品の翌日発送を始めた。村は小学校に英語圏の教員を招くなど英語教育を重視。中学生になると海外への語学研修に送り出すが、渡航や2週間の滞在中の費用に寄付を充てる。「外から人を呼び込む」(地域事業課)ためにも寄付を活用し、渓谷などの大自然を楽しめる体験型観光を拡充する計画もある。2位は北海道東部の太平洋に面した白糠町(104万9194円)。同町も主力の1次産品を町自ら電子商取引で扱ってきた営業感覚をふるさと納税の獲得に生かす。町税は10億円足らずだが、イクラなど返礼品の人気から22年度の寄付額は150億円に迫り全国の市区町村で4位。棚野孝夫町長は「子や孫のために使い道を考える」と強調する。22年に開校した小中一貫の義務教育学校「白糠学園」の整備にも寄付を用いた。町は保育料や18歳までの医療費、給食費を無償とし、出産祝い金なども手厚い。転入ゼロだった子育て世帯を18~22年度は各10世帯前後呼び込んだ。都道府県全体では佐賀県が2万4549円で最も黒字が大きい。全20市町のうち上峰町が61万5228円で突出する。返礼品にそろえたブランド牛や米の人気に加え、20年に町が公開したご当地アニメ「鎮西八郎為朝」の反響も寄付に結びついた。危機的だった町の財政は4月から高校生までの医療費を完全無料化できるほどに改善。「幅広い公共サービスの提供が可能となった」(武広勇平町長)。15年を経た制度は課題も多い。22年度に最も寄付額を集めたのは宮崎県都城市で195億円。返礼品次第で寄付格差が広がる。仲介サイトへの手数料など経費負担も増す。総務省は10月、寄付額の5割以下とする経費の基準を厳しくした。新基準に沿って返礼品の内容など経費の適正化が進めば黒字の自治体は増える可能性がある。京都府は府内市町村と募った寄付を分け合う制度を10月に導入して府全体の底上げを狙う。ふるさと納税に詳しい慶応大学の保田隆明教授は「都市住民の関心を地方に向ける趣旨は実現できている。各自治体は産業育成や交流・関係人口を増やすための『投資』にもつなげてほしい」と話す。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230904&ng=DGKKZO74136280T00C23A9PE8000 (日経新聞社説 2023.9.4) ふるさと納税のひずみ正せ
 ふるさと納税が昨年度9654億円と1兆円に近づいた。規模拡大に伴い、寄付額の自治体間の格差が広がり、税収が流出する都市部の不満も膨らむ。ひずみを正すため、ふるさと納税の拡大に一定の歯止めを考える時期だ。ふるさと納税は住民税の一部を寄付する制度だ。住民税の税収は13兆円で、単純計算なら寄付額は3兆数千億円まで膨らむ余地がある。賃上げで税収増が続けば、寄付額はさらに拡大する可能性がある。そこで目立ってきたのが寄付額の自治体間の格差だ。都道府県と市区町村の1788自治体のうち、10億円以上集めたのは226自治体で計6179億円。13%の自治体で全体の3分の2の額を集めたことになる。1億円未満の自治体は703と全体の4割に上った。上位の顔ぶれは海産物や肉類などの産地に固定化されつつある。ふるさと納税では返礼品の需要が地場産品の振興を支えている。知名度の乏しい産地が消費者に知ってもらう意味は大きい。ただ制度開始から15年たち、その役割は果たしつつあるのではないか。高まった知名度を企業誘致や移住に生かし、ふるさと納税に頼らず、税収を増やす道も探ってほしい。規模の拡大に歯止めをかけるために考えたいのが、都市部に多い高所得層の利用額に上限を設けることだ。ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、寄付総額に占める比率も高いとされる。高所得層のメリットが大きいことにはかねて批判がある。政府は所得階層別の利用率や寄付額をデータで示し、改善を図るべきだ。ふるさと納税は都市と地方が互いに支え合う枠組みだ。都市部の不満が限度を超えれば制度の持続性に疑念が生じる。都市部に税収が偏っているとして、地方が求める地方法人課税の偏在是正にも影響するかもしれない。ふるさと納税は税の使い道を自ら選び、納税者意識を高める意義がある。ひずみを改め、本来の意義が見直されるようにしたい。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC121R40S3A710C2000000/ (日経新聞 2023年8月6日) ふるさと納税、潤う地域に偏り 寄付累計4兆円のひずみ、ふるさと納税 15年の中間決算㊤
「ふるさとを元気に」を目指すふるさと納税が始まって15年がたった。これまでの寄付額は累計で4兆円を超え、9割が地方の自治体に渡った。受け入れ先の自治体や農産物生産者らを活気づけたが、制度のひずみも根強くある。理想のふるさと納税に向け、何が課題かを探る。最大数百万円の移住支援金、全ての子どもの保育料無償化――。宮崎県都城市は2023年度、大胆な人口減少対策を次々と打ち出した。両事業の予算額は計10億円。財源の大部分を賄うのはふるさと納税による寄付金だ。同市はふるさと納税の恩恵を最も受ける自治体の一つだ。22年度の寄付受け入れ額は全国最多の195億円。主要税収である住民税(65億円)の3倍の財源を調達した。同市は14年、特産の「肉と焼酎」に特化した返礼品戦略を打ち出した。「最大の目的は地域のPR」(野見山修一・ふるさと産業推進局副課長)として、当初は寄付額に対する返礼の割合を約6割と高く設定。地域色豊かな特産品とともに「お得な自治体」というイメージを全国の寄付者に印象づけた。市内の返礼品事業者でつくる団体が自費での広告を出すなど官民を挙げた取り組みで、返礼割合を3割以下とする規制が始まった19年度以降も好調を維持している。自治体別の寄付受け入れ額で全国10位以内に入るのは9年連続で、全自治体で最も長い。寄付を元手に人も呼びつつある。最大100万円の移住支援金や家賃補助などを用意した22年度の移住者は過去最多の435人で、対策を強化した23年度は前年度以上の反響があるという。野見山氏は「都市から地方への金や人の流れが生まれている。人口を10年後にプラスに反転させたい」と意気込む。ふるさと納税は08年度の開始当初から全国の好きな自治体に寄付でき、返礼品を受け取れる仕組みだったが、存在感は小さかった。確定申告が必要で手続きの煩雑さなどから、14年度までは年間寄付額が数十億〜数百億円で推移した。潮目が変わったのは15年度だ。確定申告が不要になる「ワンストップ特例」の導入や税控除額の引き上げで、寄付額が同年度に1000億円を突破。返礼品にも注目が集まり、16年度以降、一気に伸びた。22年度の寄付額は過去最高の9654億円で、08〜22年度の累計寄付額は4.3兆円に達した。累計額の89%は三大都市圏(首都圏1都3県、大阪府、愛知県)以外の地域への寄付だ。22年に寄付した人の56%は三大都市圏の住民。「都市と地方の税収格差の是正」という点では、制度の狙い通りの状況になっている。地方は等しく潤っているわけではない。累計の寄付額を都道府県別(都道府県と域内市区町村の合算)にみると最多が北海道の5700億円で、宮崎、佐賀が続く。7道府県が2000億円以上を集めた。一方、広島や山口、徳島など7県は300億円未満で、最少は富山の105億円だった。人口や事業者の減少など課題は地方共通にもかかわらず、北海道や九州の自治体に比べて中四国や北陸地方の自治体への寄付は乏しい。市区町村別でも上位は北海道や九州の自治体が目立ち、累計寄付額の58%が上位1割に集中した。一方、22年度は2割は寄付額よりも住民税控除額が大きい「赤字」だった。ふるさと納税の自治体支援を手がける事業者は「北海道でも海産物の返礼品がある沿岸自治体は好調で、内陸部は苦戦している」と打ち明ける。ビジネスセンスを生かし活性化する地域が出る一方、どこかが税収を奪われるのは制度の仕組み上、避けられない。ただ消費者が好む返礼品の有無で差がつきやすい現状には不満も消えない。

*1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15716093.html (朝日新聞社説 2023年8月13日) ふるさと納税 ゆがみ拡大 放置するな
 名目上は善意の寄付だが、実態は節税の手段になっている。年数千億円の税収が消え、財政のひずみも招いている。そんな不合理や不公正が広がるのを、これ以上放置してはならない。
「ふるさと納税」の利用が増え続けている。昨年度の寄付総額は9654億円で、この3年間で倍増した。背景には、返礼品の競争や仲介サイトの宣伝がある。「ふるさとやお世話になった自治体を応援するため、自分で納税先や使い道を決められるようにする」というのが制度の趣旨で08年に始まった。菅義偉前首相が総務相の時に旗を振り、官房長官時代には、枠の拡大と手続きの簡略化で利用拡大の道を開いた。それとともに、さまざまなゆがみも膨らんだ。最大の問題は、巨額の税金の流出だ。利用者にとって、寄付が枠内なら自己負担は2千円で済む。残りは、利用者が住む自治体の住民税や国の所得税が減ることで相殺されるからだ。その分がすべて寄付先の自治体の手元に残るのなら国全体での収入は変わらないが、そうではない。寄付額の3割が返礼品の費用に、2割が運営業者の手数料などに使われている。膨大な税収が動く中で、その約半分が寄付者や業者の利益に回る仕組みが、合理的だろうか。しかも、利用できる枠は、高所得者ほど大きい。所得の再分配に穴を開ける制度が野放しにされるのは、看過できない。利用者が多い大都市の自治体は、住民税収の落ち込みで行政サービスの低下が避けられないとして、制度の見直しを訴えている。税収減の一定範囲は国が穴埋めしているが、その分も結局は国民負担だ。「ふるさと」への貢献という理念も、実際にはかすんでいる。仲介サイトはまるで商品カタログのようなつくりで「お得な通販」感覚をかき立てる。見返り目当ての人が多く、有名な地場産品をもつ自治体に寄付が集中する傾向も鮮明だ。本来の趣旨からかけ離れた現状を正すには、返礼品の廃止や利用枠の大幅縮小など、制度の根本からの変更が不可欠だ。自治体が対価を払って税収を奪い合う仕組みは持続できない。地域への愛着や寄付金の使い方への共感を基本においた形に改めることが必要だ。しかし、政府の腰は重い。最近、経費算定基準を厳格化したものの、抜本的な見直しは避けている。小手先の対処では、ルールの抜け穴を探す自治体・運営業者との「いたちごっこ」も終わらないだろう。広がる弊害を前に見て見ぬふりを続ける無責任さを自覚すべきだ。

*1-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1084401 (佐賀新聞 2023/8/4) 佐賀県内ふるさと納税416億4278万円 2022年度 過去2番目、全国で5位
 佐賀県と県内20市町の2022年度のふるさと納税寄付総額は前年度比18・97%増の416億4278万円で、過去最高だった18年度の424億4094万円に次ぐ額になった。都道府県順位は5位で前年からひとつ順位を上げた。市町別の最多は上峰町の108億7398万円で全国6位に入った。寄付総額の増加は3年連続。18年度以降、424億4094万円-266億4284万円-336億6568万円-350億47万円と推移していた。全国順位は2位-3位-2位-6位だったので2年ぶりに順位を上げた。県内市町で寄付額が多いのは最多の上峰町に続き(2)唐津市(53億9861万円)(3)伊万里市(29億2554万円)(4)嬉野市(28億4415万円)(5)みやき町(22億3625万円)の順。10億円を超えたのは7市7町で、21年度を上回ったのは6市4町だった。上峰町は前年度の2・39倍の寄付を集め、2年ぶりの最多。全国順位も20位から6位に上げて3年ぶりの10位以内に入った。そのほか伸び率が高かったのは江北町の78%増、多久市の59%増、白石町の58%増、吉野ヶ里町の38%増など。ふるさと納税の収支は、寄付額から経費と他自治体に住民が寄付したことに伴う住民税控除額を差し引くと大まかに算出できる。県内20市町はいずれも黒字で、最多は上峰町の60億2200万円余りだった。29億4000万円近い唐津市を含め10億円以上の黒字となったのは3市2町。地方交付税不交付団体は住民税控除額の75%が交付税補てんされるため、実質黒字はさらに増える。ふるさと納税で総務省は、過熱する寄付金集めを抑制するため19年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けた。ことし10月からは経費に「ワンストップ特例」の事務費を含め、他県産の熟成肉を地場産品と認めないなど、さらに厳格化する。新たな対応を迫られる自治体もある。

*1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1121980 (佐賀新聞論説 2023/10/06) ふるさと納税 まず寄付総額の抑制を
 2022年度に全国の地方自治体が受け入れたふるさと納税の寄付総額は1兆円近くに膨らみ、利用者は約900万人という規模にまでなった。生活防衛策として返礼品に期待する人も多く、増加傾向は続きそうだ。この10月から制度が微修正されたものの「生まれ育ったふるさとに貢献」という導入の目的からかけ離れたままだ。抜本的な見直しを求めたい。ふるさと納税は、2千円を自分で負担すれば、所得に応じて設定される上限額まで、肉類や海産物など自治体の返礼品を仲介サイト経由で受け取ることができる。寄付と銘打ちながらも「官製通販」と批判されるのもうなずける。制度は08年度に始まった。利用促進のため寄付できる額を増やす一方、金券など過剰な返礼品や過熱するお得感競争を背景に、返礼割合を寄付額の3割以下にするなど運用を厳格化。今回は5割以下とされている経費の対象範囲を拡大した。この結果、返礼品の量を減らしたり、必要な寄付額を上積みしたりする「実質値上げ」の例が目立つようになったという。ふるさと納税は地域経済の活性化に一役買った面がある。返礼品を扱う地元企業は商品開発に力を入れ、売り上げが伸びた。子育て支援などの課題解決のために寄付を集め、対策予算を増やすこともできた。空き家となった実家や墓のある自治体に寄付すれば、管理や掃除が業者に依頼できるケースもある。首長、自治体がやる気を出して新しい政策をつくる素地を育てたと評価できる。その半面、人気が出る返礼品を開発しようと、営業戦略の専門家を職員に採用する自治体も出てきた。高齢化や人口減少に直面する中で、優先すべき政策なのか疑問だ。都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付し、税収が移るゼロサムゲームになっている問題もある。寄付で潤う自治体が固定化されつつあり、公平性の観点から気になる。それでも国から地方交付税を受ける自治体は、税収減の75%を交付税で補塡ほてんされる仕組みがあるので、影響はある程度緩和される。財政に余裕がある不交付団体には穴埋めがなく大幅な減収となる。豊かな自治体には不利な仕組みと言える。寄付総額の約半分は返礼品の会社や、仲介サイトの運営企業などの収入になる。本来は行政が使っていたはずの税収であり、住民サービスの低下につながる恐れがある。政府は東京一極集中の是正を目標に掲げた「地方創生」を14年に打ち出し、その目標は今も堅持している。それでも人口の集中が続いており、税収が都市に集まる構図は変わっていない。国土の均衡ある発展による税収の平準化は難しい。自治体の税収格差を是正するには、ふるさと納税ではなく、都市部と地方が意見を交わしながら、納得できる是正策を探ることを提案したい。現行制度は、高所得者ほど多く寄付ができ、節税効果が大きいという問題もある。返礼品の廃止はすぐにできないとしても、富裕層については例えば「最大20万円」と、定額の上限を設定することは可能ではないか。ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか、まず議論してほしい。それに合わせ、個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべきだ。

<投資と人口の偏在>
*2-1:https://mainichi.jp/articles/20220621/k00/00m/050/111000c (毎日新聞 2022/6/21) 実は3兆円超え?試算も 東京五輪「1.4兆円」に関連経費含まれず
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は21日、総額1兆4238億円に上る大会経費の最終報告を公表した。新型コロナウイルスの感染拡大による大会の1年延期などで組織委の「赤字」も懸念されたが、組織委は発表で「これまでの増収努力や不断の経費の見直しなどにより、収支均衡となった」と説明した。
●大会経費に統一定義なく
 競技会場の建設、改修費や大会の運営費を合わせた「大会経費」は開催都市である東京都と組織委、国が分担する。都が招致段階で公表した「立候補ファイル」では7340億円だったが、組織委は開催決定から3年3カ月後の2016年12月、大会経費を1兆5000億円(予備費を除く)と初めて公表した。その後も毎年12月に予算を公表し、おおむね1兆3500億円程度で推移。新型コロナによる大会の1年延期を織り込んだ20年12月の第5弾(V5)予算こそ1兆6440億円に膨らんだが、原則無観客開催になり、チケット収入や警備費用など収入、支出ともに減少したため、最終的にはコロナ前の予算から微増にとどまった。だが、五輪経費を巡る「不透明さ」は常につきまとい、時には政治問題化した。「五輪関連予算・運営の適正化」を公約にして16年7月に初当選した小池百合子都知事は、都政改革本部を設置。本部内の「五輪・パラリンピック調査チーム」は16年9月、開催費用の総額が3兆円を超える可能性を指摘した。その前年、組織委の森喜朗会長(当時)は「最終的には2兆円を超すことになるかもしれない」、舛添要一都知事(同)も「大まかに3兆円は必要」と述べていた。
●東京五輪・パラリンピック大会経費の推移
 組織委は「過去大会を含めて大会経費の範囲には統一的な定義が存在しない」とする。今大会でも「大会に直接必要な経費」としており、開催都市の道路整備や施設のバリアフリー化などは「五輪が開催されなくても必要」として計上しなかった。このため、どこまでが五輪経費で、どこまでが五輪経費ではないのか不明確なまま、開催準備は進んだ。だが、世論の反発をくみ取る形で、五輪経費の全体像を明らかにしようとする動きもあった。都は18年1月、既存体育施設の改修や輸送インフラ、都市ボランティアの育成など総額8100億円を「大会関連経費」として公表した。当時、最新だったV2予算の1兆3500億円に積み上げると、五輪経費は2兆1600億円に膨れ上がった。国の会計をチェックする会計検査院は19年12月、1500億円とされている国負担額が、関連経費を含めて1兆600億円以上になる試算を公表した。都と会計検査院の数字を足すと、五輪経費の総額は3兆700億円以上になる。会計検査院と都は今後、改めて大会関連経費を算出する予定だが、都関係者は「内部の人間同士で、これ以上突っ込まないのでは」と見る。五輪経費の全体像は見えないまま、6月30日で組織委は解散し、残されたチェックの主体は国と都だけになる。政治ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「東京五輪で一番欠けていたのは情報公開。税金がどのように使われたのか知るには、予算以上に決算段階での検証が大事になる。会計検査院と都が関連経費も出した後、改めて国会や都議会でカネやレガシー(遺産)も含めて大会を総括すべきだ」と指摘した。

*2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15761213.html (朝日新聞 2023年10月7日) 万博資金繰り、焦る吉村知事 膨らむ経費、地元反発に危機感 経産相らと面会、対応協議
 2025年開催の大阪・関西万博の準備で膨らむ経費に、大阪府や国が財政負担のあり方で頭を抱えている。地元の理解を得たい吉村洋文知事は6日、西村康稔経産相らと対応を協議。府は、国からの財政支援を得られないか検討しているが、政府にとっては国費の負担がさらに増す恐れがあり、調整は難航している。「我々、大阪府市も責任者。会場建設費については、それぞれ負担をして、万博を成功させようというのが基本の考え方だ」。吉村知事は同日、東京都内で西村氏のほか、自見英子万博相らと相次いで面会した後、記者団にこう語った。万博の建設費が約450億円増の約2300億円程度まで上ぶれする可能性があり、面会では、どの費目が増額するのか今後詳細に確認することなどを協議したという。吉村知事が万博の費用負担をめぐって奔走するのは、膨らみ続ける万博の経費に対し、地元の反発が強いためだ。建設費の負担は、国、大阪府市、経済界で3等分すると閣議了解されており、府市の負担はさらに150億円程度増えかねない。建設費が増額すれば、20年に続いて2度目。地元の府市両議会は1回目の上ぶれを受け、再度増額が生じた場合は「国が責任をもって対応」とする意見書を可決している。府幹部は「このままでは府民、市民が納得しない」と危機感を示す。とはいえ、そもそも万博誘致を主導したのは、吉村知事が共同代表を務める日本維新の会。増額分の負担軽減を求めれば、与野党からの批判も避けられない。そこで府が検討しているのが、交付金による財政支援だ。建設費の増額分に予算を充てる分、万博の機運情勢や環境整備にかける事業に交付金を活用すれば、費用負担は3等分との大枠は維持しつつ、府・市の負担を軽減できるためだ。別の府幹部は「普段から府財政は厳しいので、がめつく国の交付金を取りに行く。交付金メニューはたくさんあるので、こちらから提案していかないと通らないだろう」と話す。(野平悠一、岡純太郎)
■政府、「助け舟」に交付金検討
 膨らみ続ける万博の経費は、政府にとっても頭の痛い問題だ。会場建設費の上ぶれ分については、国、大阪府市、経済界で3等分すると閣議了解しており、負担割合を変更する考えはない。一方で、警備費や機運醸成といったソフト面での支援について、国の負担も検討している。というのも、8月末に岸田文雄首相が万博の準備遅れを「胸突き八丁の状況」と発言し、政府も本腰を入れ始めたからだ。首相は、2025年春の開幕に向けて周囲に「絶対に間に合わせないといけない」と話し、全力を尽くす考えを示す。こうした首相の方針もあり、西村康稔経済産業相が警備費を全額国が負担する方針を表明。さらに「助け舟」として、政府内で交付金による財政支援も検討している。複数の政府関係者によると、岸田政権の看板政策の一つ「デジタル田園都市国家構想」で創設された交付金の活用論が政府内で浮上している。経産省関係者は「万博は国家事業。開催地の大阪を支えることは当然だ」といい、交付金を用いて大阪の負担軽減を図りたい考えだ。だが、この交付金は、デジタル化により、観光や地方創生につながる取り組みを支援するために創設されたもの。関係閣僚の一人は「交付金の趣旨に反する。絶対に無理だ」と反対姿勢で、調整は難航している。膨らみ続ける万博費用の全容はいまだに見えず、国の財政負担に世論の理解がどこまで得られるかも不透明だ。首相周辺は「もともと維新がやりたいと言って招致したのに……」と恨み節を漏らす。

*2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15761296.html (朝日新聞 2023年10月7日) 五輪汚職の影、機運しぼむ 札幌30年招致断念へ
 2030年冬季五輪・パラリンピック招致をめざしている札幌市は30年の招致を断念し、34年以降に切り替える方針を固めた。東京大会での汚職・談合でオリパラのイメージが悪化する中、招致に不可欠となる地元の高い支持率を現時点で得るのは難しいと判断した。秋元克広市長が11日に日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長と会談して断念の意向を表明するとみられる。6日の記者会見で秋元氏は、12日にある国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で「30年大会の開催地決定のプロセスについて議論がある」との見通しを示した。山下会長とは、東京大会の事案の状況を踏まえて「招致を実現するために、どう進めていくべきかを議論する」と語った。秋元氏にとって、30年招致断念の選択肢は早い段階から持ち合わせていたものだ。札幌市の都市インフラは1972年の冬季五輪を機にできたが、老朽化が進む。2015年に就任した秋元氏は、五輪を「まちづくりの起爆剤」と位置づけて招致を推進してきた。しかし、20年からのコロナ禍で市民の招致機運を盛り上げる機会を失った。昨年3月に実施した意向調査では賛成が反対を上回ったが、東京五輪汚職が発覚した昨夏以降は不招致推進デモが頻繁に起きるなど「逆風」が続いた。今年4月の市長選で秋元氏は3選を果たしたが、五輪反対派の2候補が4割強の票を獲得した。秋元氏は昨年12月にIOCが大会の開催地決定の時期を先送りしたことを受けて、「異例」の招致活動の休止に踏み切った。逆風の下、市がとったのが、30年の旗は掲げたまま、34年大会への切り替えも否定しない「両にらみ作戦」だ。北海道新幹線の札幌延伸が30年度末とされていることもあり、市とともに招致を進めてきた地元経済界では「札幌延伸が完了した後の34年大会の方が経済効果は大きい」との声も強まっていた。
■JOC弱気、IOC冷淡
 昨年12月に札幌市とJOCが招致に向けた積極的な機運醸成活動の当面の休止を発表してから、JOCの山下会長が後ろ向きな発言をすることが目立つようになった。今年2月の定例記者会見では「30年招致はより厳しい状況になっていく」。6月の会見では「今の状況で30年は厳しい。特効薬はない」と認めた。複数の関係者によると、山下会長は今年に入ってからバッハ会長を訪ね、30年招致が難しくなった旨を伝えた。そのことで、バッハ会長の怒りを買ったという。IOCは、その前後から、過去に「蜜月」だったJOCに対する冷淡さが目立ち始めた。「札幌」の名前が会見で言及されることが減った。取って代わるように26年冬季五輪招致で敗れたスウェーデンが2月、唐突に30年大会招致に名乗りを上げ、フランスも意欲を表明した。最近、IOCの事務方から漏れ伝わるのはスウェーデンの好評価だ。前回は国内世論の支持率が伸び悩み、政府の財政保証にも手間取ったが、ここに来て政府支援に希望が見えてきたという。札幌が34年大会以降に照準を切り替えるとしても、34年は米ソルトレークシティーが有力視される。02年に冬季五輪を開いた実績、地元の支持率も高いことから、「本命」と評価されている。山下会長は6日、アジア大会が行われている中国・杭州で「今、お話しできることは何もない。昨年12月の記者会見から状況は大きく変わっていないという認識だ」と話すにとどまった。
■札幌冬季五輪・パラリンピック招致の動き
 <2014年11月> 上田文雄市長(当時)が26年大会の招致を表明
 <15年4月> 市長選で招致推進派の秋元克広氏が初当選
 <18年9月> 胆振東部地震発生。招致目標を2030年に切り替え
 <20年1月> JOCが市を30年大会の国内候補地に決定
 <22年3月> 市の招致意向調査で賛成が過半数を占める
 <8月> 東京地検特捜部が汚職事件で大会組織委の元理事を逮捕
 <11月> 東京五輪の運営業務を巡る談合事件で東京地検特捜部が電通などを家宅捜索
 <12月> 市とJOCが積極的な機運醸成活動を休止。大会計画案の見直しを表明
 <23年2月> 東京地検特捜部が東京五輪の運営業務を巡る談合事件で元組織委次長らを独占禁止法違反容疑で逮捕
 <4月> 市長選で秋元氏が3選
 <6月> 再発防止策を盛り込んだ大会見直し原案を公表
 <7~9月> オリパラの市民説明会や公開討論会を実施
 <10月> 大会見直し案の最終案まとまる

*2-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231012&ng=DGKKZO75189330S3A011C2EA1000 (日経新聞社説 2023.10.12) 札幌五輪の意義改めて精査を
 五輪を取り巻く社会情勢は、この数年で激変した。今後の招致のあり方について、改めて慎重かつ徹底的な議論が必要だ。札幌市が2030年冬季五輪・パラリンピック招致を断念した。秋元克広市長と日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長が11日に会談し、その後の記者会見で発表した。今後は34年以降の開催の可能性を探るという。30年招致が困難なのは、関係者の間では以前から共通認識だった。最も影響が大きかったのが東京五輪を巡る一連の不祥事である。札幌市は市民の不信を払拭しようと説明会や対話事業を行ってきたものの「理解が十分広がっていない」(秋元市長)状況が続いていた。山下会長も「拙速な招致は好ましくない」と述べた。もっとも、34年も有力なライバル都市が名乗りを上げており、国際オリンピック委員会(IOC)が札幌を重視しているといわれた従前とは競争環境も様変わりしている。財政面についても、東京五輪に続いて大阪・関西万博も後から費用が膨らんだことから、札幌でも将来の経費増に対する懸念が根強い。今回の仕切り直しを経ても、招致のハードルが依然高いことに変わりはない。札幌市は今後、招致計画を練り直す見通しだ。その際はなぜ招致活動を続けるのか、そこにどんな意義があるのかを、とことん精査すべきだ。それなくして広く理解を得ることは難しいだろう。市民の意向を正確にくみ取る調査の実施も欠かせない。五輪をバネに地域をもり立てること自体は否定されるものではない。ただ、昔ながらの地域振興が目的の前面に出てくるようなら支持は広がるまい。34年までは10年以上ある。その間、日本社会は様々に変貌していくはずだ。それでも変わらず説得力を持ち得る「札幌五輪」とは、どのような大会であるべきなのか。その明確な青写真を開催都市として示せるかが、今後の招致を左右する。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231015&ng=DGKKZO75288500V11C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.15) 賃上げ減税 効果に限界、中小企業6割が対象外、赤字体質の脱却重要に
 政府・与党が年末にかけて詰める2024年度の税制改正で、従業員の給与を一定以上増やす際に納税額を減らす「賃上げ促進税制」の拡充が論点になっている。税負担を軽くしても賃上げや投資に回っていないとの不満が背景にある。賃上げの流れを効率的に加速する対策が重要になる。「税収増などを国民に適切に還元する」。10月末にもまとめる経済対策を巡り岸田文雄首相はこう話す。どの税金を「減税」するかの詳細はこれからだが、こだわりを持つ一つが賃上げ税制だ。原型となる税制は13年度に導入した。21年には14万件程度が適用を受けた。法人税を年2000億~4000億円ほど減免してきた。一方で厚生労働省の賃金構造基本統計調査をみると、パートタイムなどを除く一般労働者の賃金の上昇率は安倍晋三元首相のアベノミクスを支えに伸びた時期を除き、データのある21年度まで1.5%を下回る状況が続く。財務省、経済産業省はこれまでの対策に「効果があったとはいえない」とみる。2つの要因が指摘されている。1つ目は現行の仕組みの弱点だ。納めるべき法人税から差し引く形式のため税優遇は黒字の企業にしか効果がない。大企業で法人税を納めていない赤字法人は21年度に大企業で25.8%あり、資本金1億円以下の中小企業でみると61.9%にのぼる。日本企業の99%超を占める中小に恩恵が及ばなければ賃金の底上げにつながらない。経産省は解消策を提案している。赤字などの理由で法人税の納税額が少なく、賃金を上げた優遇を受けられる分を控除しきれない決算期があった場合、繰り越しを認める制度を中堅・中小企業向けに導入する案だ。黒字になった際にその分を差し引く。ただ日本には単に業績が悪いだけでなく、納税を避けるために経費を膨らませ、あえて赤字を選ぶ中小があるとの指摘もある。制度を導入しても黒字化しないと優遇は受けられない。中小の赤字体質が改善できるかが重要になる。2つ目は優遇策の適用期間だ。経産省はこれまで2年ほどで延長を繰り返してきた制度を6年間延ばす案を持つ。財務省は賃上げ税制など租税特別措置(租特)は「短期集中でこそ効果がある」との立場だ。2~3年が一般的で、5年超は異例だが、経産省は期間が短いと企業が中長期の視点で使いにくいとみる。制度の拡充議論の背景には社員を資本と捉え、教育費用などをコストでなく投資とみなす「人的資本経営」の広がりがある。充実すれば生産性が上がるとの考え方だ。日本企業の人的投資は主要先進国でなお低い水準にある。10~14年の企業の職場内訓練(OJT)を除く研修費用の国内総生産(GDP)比は0.1%にとどまる。米国は2%、フランスは1.8%、英国、ドイツは1%強だ。賃上げ税制には職業訓練費を一定額積み増した場合に法人税の優遇額を増やす規定がある。賃上げも含めた「人への投資」を手厚くして成長力を底上げする狙いがある。企業の意識にも変化の兆しがある。連合の調査によると23年の賃上げ率は3.58%と約30年ぶりの高水準だった。政府はこの流れの加速を目指すが、税によるインセンティブにどこまで効果があるかは検証余地がある。財務省が国会に提出する租特に関する報告書はどの企業が活用したかや、どう使ったかは明確ではない。行政事業レビューなどに基づき情報が開示される予算の歳出に比べると透明性で見劣りする。政策減税の議論には客観的なデータを使った効果の検証が欠かせない。

<農地の減少と食料自給率>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA297ZX0Z20C23A9000000/ (日経新聞 2023年10月1日) 有事の食料輸入計画、商社などに要請へ 政府が新法
 政府は商社などを念頭に、有事に食料不足が見込まれる際に代替調達ルートといった輸入計画を提出するよう求める方針だ。異常気象による不作や感染症の流行、紛争といった有事を想定し、重要な食料を確保する見通しを明確にする。農林水産省が2日に開く「不測時における食料安全保障に関する検討会」で示し、年内にも方向性をまとめる。食料安全保障の一環として、農水省が2024年の通常国会への提出を目指す新法へ盛り込む。植物油や大豆など栄養バランスの上で摂取する必要があるものの自給率が低い品目を対象とする見通しだ。企業に求める計画には潜在的な代替調達網のほか、輸入規模、時期などを盛り込むよう促す。対象は商社やメーカーといった大企業を想定する。国内の備蓄で対応が難しくなったときに、まず企業に計画の提出を要請する。有事の深刻度に応じて要請から指示に切り替えることも検討する。輸入価格が高騰し、国内での販売が難しい場合は国が資金面で調達を支援することも視野に入れる。新法では食料安保面での有事対応の司令塔役として、首相をトップとする「対策本部」の新設を定める。食料輸入計画の策定要請は同対策本部の権限の一つに位置づける。日本の食料自給率はカロリーベースで38%と主要7カ国(G7)で最も低い。特に大豆は25%、砂糖は34%、油類は3%にとどまる。食料安保の確保には官民を挙げて安定的な輸入体制を築く必要がある。新法には国内で在庫が偏在する場合の対応として、業務用と民間用の在庫の融通や出荷量の調整などを要請することも対策本部の権限として盛り込む見通しだ。不測時に備え、農水省が平時から卸企業やメーカーなどに民間在庫の報告を求めることも検討する。作付面積や貿易統計から主要な作物の在庫は把握できるが、パンやうどんといった加工品の在庫の全容をつかむことは難しいからだ。

*3-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15764380.html (朝日新聞 2023年10月12日) 農業の現場と基本法改正:2 「適正価格」検討、懐疑の声も
 千葉県成田市や栄町の水田地帯。収穫期を控えた7月中旬、稲作農家の小倉毅さん(63)は、雑草が生えていないか、田んぼの様子を見て回っていた。今秋、33回目の収穫期を迎える。できるだけ農薬を使わないのがモットーだ。「もう耕せない」と高齢の親類から頼まれた田んぼも多く、計15ヘクタールを管理する。「展望はないよ。機械が古いけど投資もできない」。売り上げから経費を引いて手元に残るのは、稲作だけでは100万円以下という。給与所得者平均の458万円に遠く及ばない。小倉さんは農民運動全国連合会という団体で活動している。連合会は6月、農林水産省の「食料・農業・農村基本法」の見直し案に対し「価格保障」を提言した。政府が実勢価格との差額分を農家に支払うよう求めるものだ。「農家は細る一方。食は国が支えるべきで、国民合意もできるはずだ」と小倉さんは言う。農産物の価格は、基本法の改正議論で最大の焦点だった。農水省が5月に公表した改正案の中間とりまとめでは、スーパーが食品の安売り競争に走り、「生産コストが上昇しても価格に反映することが難しい状況を生み出している」と指摘。「適正な価格形成」に向けた仕組みづくりの検討を農水省の責務と定めた。これらを受けて農水省が動く。8月に生産・販売・流通に関わる16団体の幹部らを集めて「適正な価格形成に関する協議会」を立ち上げた。だが、需給で決まる価格に国が口を出すことには懸念もつきまとう。あいさつで同省の宮浦浩司・総括審議官は「まずは関係者間で議論できる土俵作りをしたい」と述べ、慎重に議論する考えを示した。主婦連合会副会長の田辺恵子氏も「非正規雇用の人や相対的貧困層をどう考えるのか」と話し、値上げに慎重な対応を求めた。実は農水省は今春、コストの高騰を価格に転嫁する仕組み作りを進めていた。畜産や酪農の関係者を集めた省内の会議で「飼料サーチャージのような仕組みができないか」と打ち出していたのだ。燃料価格を航空運賃などに上乗せする「燃料サーチャージ」が念頭にあった。しかし、この会議は「生産者とメーカーの取引だけに着目しても小売価格に反映することは難しい。単純に反映しても、消費減退を招く」として導入の議論は先送りされた。こうした動きに、現場からも懐疑的な声がある。群馬県昭和村の野菜農家、澤浦彰治さん(59)は、コンニャクや有機野菜の栽培で試行錯誤を繰り返し、親から継いだ農業の規模を拡大してきた。240人を雇い、「小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール」(ダイヤモンド社)などの著書もある。澤浦さんは「同じレタスでも、有機かどうか、食味や用途、鮮度など様々な組み合わせで価格が決まる。一律には決められるものではない」と言う。農水省の「適正な価格形成」に向けた取り組みにも、「ありがたいことだが、価格について一律に決めても、創意工夫して生産し、付加価値を付けて販売している人には逆に足かせになる可能性がある」とみている。

*3-2-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023100400652 (信濃毎日新聞 2023/10/04) 半導体工場誘致へ規制緩和 森林や農地も立地可能に
 政府は4日、半導体や蓄電池など重要物資の工場を建設しやすくするため、土地利用の規制を緩和する方針を明らかにした。岸田文雄首相は同日、首相官邸で開いた官民連携の会合で「土地利用の規制について、国家プロジェクトが円滑に進むよう柔軟に対応していく」と表明した。森林や農地など開発に制限がある「市街化調整区域」で、自治体が工場の立地計画を許可できるようにする。農地の転用手続きにかかる期間の短縮も図る。10月中にまとめる経済対策に盛り込む方針。半導体などを巡っては大型工業用地の不足が課題となっていた。工場建設を後押しし、重要物資の供給体制を強化する。国内投資の拡大につなげる狙いもある。首相は、半導体をはじめとした戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため「複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設する」とも述べた。規制緩和には経済産業省や国土交通省など複数省庁が関与する。市街化調整区域に指定されている農地の場合、行政手続きが各省庁の管轄でそれぞれ発生するため、これまで約1年かかっている。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA02BH40S3A001C2000000/ (日経新聞 2023年10月3日) 半導体工場の立地規制を緩和 政府、農地・森林にも誘致
 政府は12月にも半導体など重要物資の生産工場の誘致に向け土地規制を緩和する。農地や森林など開発に制限がある市街化調整区域で自治体が建設を許可できるようにする。大型工業用地の不足に対応する。税制や予算とあわせて規制改革で国内投資を促す。経済安全保障の観点から半導体や蓄電池、バイオ関連といった分野が対象となる。岸田文雄首相が4日、民間企業や閣僚を集めて首相官邸で開くフォーラムで円滑な土地利用に向けた規制改革に取り組むと表明する。10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資の促進策として税制・予算と合わせて打ち出す。経済産業省によると全国の分譲可能な産業用地面積は2022年時点でおよそ1万ヘクタールある。11年の3分の2ほどに減った。新たに土地を確保するにも用途指定を変更する手続きなどに時間がかかる問題点が指摘されてきた。市街化調整区域の開発は、地域特性を生かした事業を展開する企業を支援する「地域未来投資促進法」の規定を使って例外的な活用を認める。いまは食品関連の物流施設やデータセンター、植物工場などに限り、政府が自治体に開発許可を認めている。関係各省の省令や告示を改正し、これに重要な戦略物資の工場を加える。自治体が地域活性化や環境の観点で問題ないと判断すればより柔軟に工場を誘致できるようになる。手続きに時間がかかる農地の場合は、通常なら1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮する。農地の転用には地元の農業委員会などの許可が要るなど規制が複数の省にまたがるケースが少なくない。このため国土交通、農林水産、経産の3省が連携して開発許可の手続きを同時並行で進める。半導体の工場にはまとまった土地と良質な水などが欠かせない。円安や安定したサプライチェーン(供給網)のため生産拠点を国内に回帰させる動きがある一方、条件に合う工業用地の供給は限られる。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本に進出し、周辺の自治体からは土地規制の是正を求める声が上がっていた。九州経済連合会は国や県の権限で農地を速やかに産業用地に転用できるような規制緩和策を政府に要請した。企業が土地を確保できず進出を断念したケースもこれまでにあったという。TSMC新工場の周辺は半導体関連のサプライヤー企業の集積が相次ぐ。工業用水の確保や道路など物流網の構築は待ったなしの状況にある。熊本県の蒲島郁夫知事は8月、官邸で首相に社会資本整備に関する「緊急要望」を手渡した。政府は機動的なインフラ整備に向けて関係府省が横断で複数年にわたり支援する枠組みを創設する。23年度補正予算案への費用計上に向け調整する。為替相場は円安が続き、日本国内で投資しやすい環境が整う。地方に工場の立地を促し、地域の雇用確保や周辺産業を含めた賃上げにつなげる。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75276130T11C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.14) 地方の新興企業、5年で5割増、産業活性化に貢献 長野県、大学軸に起業支援
 独自性のある技術やサービスで成長を目指すスタートアップが全国で増えている。新興企業支援会社のデータベースでは、全国の企業数が5年間で5割増えた。地元大学発の新興が相次いで誕生する長野県は8割増と大きく伸ばす。地方でも産学官金の支援の輪が広がっており、スタートアップを生み育てる「エコシステム(生態系)」が構築されつつある。東証グロース上場のフォースタートアップスが作成した「STARTUP DB(データベース)」に登録されている2000年以降創業の企業を対象に、23年6月末の登録数を18年と比較した。登録は新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指す企業が対象。全体の登録数は1万5692社で東京都の企業が66%を占めるが、東京以外の自治体の合計登録数も5年で49.5%増と東京と同じ伸びを示した。増加率4位の長野県は信州大学の積極性が目立つ。17年に知的財産・ベンチャー支援室を開設。18年には「信州大学発ベンチャー」の認定を始めた。現在の認定企業は17社で、起業や事業拡大に向けた多彩な支援を受けられる。信大は企業との共同研究が盛んで、特許の出願件数も地方大学でトップクラス。支援室長の松山紀里子准教授は「有望な技術が大学のどこにあるかを把握しており、起業を後押ししやすい」と説明する。認定企業の一つで17年創業の精密林業計測(伊那市)が目指すのは地場産業である林業の活性化だ。担い手不足が深刻になるなか、ドローンなどを使って伐採に適切な木を判別するなど効率化を進める。農学部の特任教授でもある加藤正人社長は「特許取得などで大学の支援を受けており経営もしやすい」と話す。金融機関も支援に前向きだ。22年には長野県が音頭を取り、八十二銀行グループや投資会社などが「信州スタートアップ・承継支援ファンド」を設立。これまでに信大発企業を含めた9社に出資した。奈良県は18社と登録は少ないが増加率は2倍でトップ。就職時の若者の県外流出に悩む奈良市は、独自の起業家育成プログラムを通じて「新興企業のエコシステムをつくりたい」(産業政策課)。7年目の今年のプログラムには6社が参加する。在宅の縫製士をネットワーク化し、高付加価値で小ロットの仕事を発注するヴァレイ(上牧町)の谷英希社長は1期生。「情報不足の奈良でモヤモヤしていたが、プログラムを通じてビジョンを形にできた」と振り返る。16年の会社設立から委託先は約300カ所に増え、年商は1億円を超える。現在は高校生への講演などにも熱心だ。伸び率6位の愛知県は自動車など基幹産業が安定していることで、逆に「新興企業不毛の地」とも言われてきた。クルマの電動化など変革の波が押し寄せるなか、大村秀章知事は「スタートアップで産業構造を変えたい」と意気込む。県が20年に開いたインキュベーション施設には300近い企業が集まる。24年秋には国内最大級の育成拠点「ステーションAi」も開く。スタートアップ育成は国をあげての課題でもある。政府は22年に「5か年計画」を策定。27年度の新興企業への投資額を10倍超の10兆円規模にすることを目指す。日本総合研究所の井村圭マネジャーは「農業や製造業の効率化など地域の課題に取り組む新興企業が増えることで産業の高度化につながる」と強調。「今後も既存企業を巻き込んで地域全体の革新につながるような支援に力を入れる必要がある」としている。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231009&ng=DGKKZO75118950Z01C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.9) エネルギー選択の時 石油危機50年(1) 脱炭素、覇権争い過熱 日本、産業存亡の剣が峰
 1973年の第1次石油危機から50年となった。第4次中東戦争に併せて産油国が発動した石油戦略は消費国にエネルギー転換を迫るきっかけになった。ロシアのウクライナ侵攻とパレスチナの衝突再燃に直面する今日の世界は、50年前から何を学ぶべきだろうか。オランダ・ロッテルダム港の突端、北海に面した一角で工事の準備が始まった。国際石油資本(メジャー)の英シェルが計画する、欧州最大級のグリーン水素の製造工場の予定地だ。洋上風力発電を使い、2025年にも生産を開始する。
●中国に主力技術
 関連企業団体の水素協議会によれば23年5月時点で計画中の水素プロジェクトは1千件超にのぼる。1年前比で5割増えた。30年までに3200億ドル(約47兆円)の投資が見込まれる。ウクライナ侵攻後、欧州起点に広がったエネルギー危機と脱炭素のうねりは、世界に構造転換を迫る。変革の奔流から見えてくるのは技術で先行し、優位に立つ国家と企業の大競争だ。別の数字がある。国際エネルギー機関(IEA)によると、太陽光発電パネルの生産シェアは中国が世界の8割超を占める。風力発電機は中期的に6~8割を握る。電気自動車(EV)向け電池の4分の3は中国企業が生産する。脱炭素の主力技術はすでに中国の手中にある。供給網を確保する経済安全保障や資源外交の重要性は、深まる分断の下で、石油の世紀と変わらないどころか、むしろ重みが増す。安価で大量の水素が手に入らなければ製鉄業は日本に残れない。電池を安定確保する道が閉ざされれば自動車産業は窮地に陥る。脱炭素時代のエネルギー覇権をかけたせめぎ合いが過熱するなかで、日本も国の存亡をかけて立ち位置をみつけなければならない。
●中東依存減らず
 そこに至る道筋をどう描くのか。そのためには50年前を振り返ってみることだ。エネルギー転換の決断を迫られた73年は、23年の相似形とも言えるからだ。石油危機は高度経済成長に終わりを告げた。田中角栄首相の秘書官として危機対策にあたった小長啓一元通商産業(現経済産業)次官は「中東産の安い石油を臨海部のコンビナートに運ぶことで成し遂げた重化学工業主導の高度成長の転換点だった」と証言する。石油危機後、政府は石油の調達先を中東以外に広げる脱中東、エネルギー利用を石油以外に広げる脱石油、そして徹底した省エネルギーに着手した。これらは成果をあげた。国の政策に基づいて電力会社が原子力発電所を建設する「国策民営」の下で、原発が次々と稼働した。単位あたりのエネルギー消費を示す、製造業のエネルギー消費原単位は90年までに73年比でほぼ半減し、世界屈指の省エネ大国になった。ところが原発事故で振り出しに戻った。石油の中東依存度は22年度に95%と、石油危機時の78%を上回る。11年の東京電力福島第1原発の事故で原発は信頼を失い、化石燃料依存度は9割近くに達した。73年の教訓は成果を誇るのではなく、その後の失速の原因と対策を知ることだ。これが脱炭素時代のエネルギー選択に欠かせない。

*3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231015&ng=DGKKZO75285630U3A011C2EA3000 (日経新聞 2023.10.15) 米、水素生産1兆円助成 三菱重工も対象 7拠点選定
 バイデン米政権は13日、全米7カ所を水素の生産拠点として選定したと発表した。70億ドル(約1兆円)を助成し、温暖化ガスを排出しない次世代エネルギーとして期待される水素の活用を後押しする。経済の脱炭素化を促して「水素大国」を目指す。三菱重工業のプロジェクトも選定され、日本への輸出を視野に入れる。水素は燃焼しても温暖化ガスを出さない。長距離トラックや工場の熱源といった電化が難しい分野での活用が期待されている。バイデン大統領は13日、北東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで「米国で製造業を振興する計画の一環だ」と演説した。2024年に大統領選挙を控え、クリーンエネルギー政策の成果と雇用創出をアピールする狙いもある。選挙の「激戦州」にある水素計画も支援対象に含めた。選定されたのはカリフォルニア州やテキサス州、ペンシルベニア州など16州にまたがる7カ所の「水素ハブ」。1カ所あたり10億ドル前後の公的資金が投じられる。

*3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231019&ng=DGKKZO75391490Z11C23A0MM8000 (日経新聞 2023年10月19日) スズキ、インド製EV日本へ 25年にも、世界供給拠点に 輸出モデル転機
 スズキはインドを電気自動車(EV)の輸出拠点に位置づけ、環境車の世界展開を加速する。2025年にも日本に輸出し、欧州向けでは資本提携するトヨタ自動車への供給を検討する。インドは市場の成長余地が大きく、製造コストも日本より安い。EVは供給網や各国の産業政策のあり方を一変させ、日本の輸出モデルも変容を迫られている。スズキのEV自社生産はインドが初めて。日本の自動車大手は研究開発や人材などの経営資源が豊富な国内工場で技術を確立し、生産モデルを海外に移転するのが一般的だった。トヨタや日産自動車は国内から始めていた。スズキはEVの中核工場をインドに位置づける格好で異例だ。インドから25年にも日本に輸出・販売するのは価格が300万~400万円程度の小型多目的スポーツ車(SUV)タイプのEVとなる。西部グジャラート州の工場に新ラインを設け、24年秋から生産する。生産は子会社のマルチ・スズキが担う。生産能力は年25万台を想定し、EVのほかガソリン車も生産。スズキは26年に静岡県で軽自動車のEV生産を始める計画で、インドの知見を日本に生かす。EV需要が大きい欧州にも輸出する。小型タイプのSUVの販売に加え、資本提携するトヨタにもOEM(相手先ブランドによる生産)供給する検討に入った。トヨタも欧州でEVのラインアップの拡充を急いでいた。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、インドの製造業全般で原価は日本より2割安い。スズキは現地の乗用車市場でシェア4割を占める最大手で、低コスト生産のノウハウを蓄積している。スズキ幹部は「(輸出先の)欧州などで中国産EVとの価格競争は激しくなる」と話す。世界でシェアを伸ばす中国勢に対抗できるコスト競争力をインドで磨く。日本は円安の影響で輸出競争力が高まっているものの、スズキはインドが最適なEV輸出拠点とみる。インドはEV市場としても有望だ。EV販売台数は23年1~6月にシェアは1%以下と、小さいながら前年同期比6倍と勢いがある。英調査会社グローバルデータによると、EVシェアの23年予測はタタ自動車が70%で突出。外資では中国・上海汽車集団系のMGモーター(10%)が上位だ。EV未発売のスズキは巻き返しが急務だった。海外市場のEVの立ち上がりは早い。「地産地消」の観点からトヨタやホンダは米国など海外でのEV生産計画を進めている。将来、日本の自動車輸出が伸び悩み、貿易収支にも影響が出る可能性がある。

<地方の人口減と影響>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230727&ng=DGKKZO73087590X20C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.27) 人口の急減しのぐ地域社会の確立急げ
 人口減少のスピードが一段と加速している。速すぎる変化は行政機能を維持するための備えが追いつかず、国土の管理もままならない状況を招きかねない。急激な人口減少をしのいでいける地域社会の確立は待ったなしである。住民基本台帳に基づく総人口は昨年1年間に51万人減少した。新型コロナウイルスの影響が和らいで外国人が29万人増え、多文化共生の取り組みが重みを増す。日本人は80万人減り、初めて全都道府県で減少した。それでも東京一極集中は変わらず、首都圏の人口比率は全国の29.3%と上昇が続いている。これらは地方の減り方が一段と顕著になり、地方から東京に人を出す余力が失われたことの表れにほかならない。日本人の減少率を都道府県別にみると、前年より1%以上減ったところが昨年の12県から21道県に増えた。従来は東北に目立ったが今年は北陸、四国、九州でも広がった。来年は半数を超えよう。民間の提言組織、令和国民会議(令和臨調)は人口の水準以上に急激な減り方に警鐘を鳴らす。ゆっくり減るなら地域社会も適応しやすいが、変化が速いと対応できず地域が一気に衰退するとの懸念だ。大切な視点である。政府は近く新たな国土計画をまとめる。原案では、2050年に人の住む地域が今より2割減るとの想定から「国土の管理主体を失い、再生困難な国土の荒廃をもたらす」と危惧する。災害や食料安全保障などのリスクも高まり、危機感を訴えるのはよいことだ。ただ対策は物足りない。公共サービスを維持するため、10万人を目安に形成する「地域生活圏」という構想は生煮えで、だれがどう担うのか、よくみえない。複数の市町村が共同で行政サービスを担う広域連携が重要になるが、これは自治体のあり方の見直しに踏み込まざるをえないだろう。人口減少が進む地域で、自治体再編、コンパクトシティー、浸水地域の居住制限、水道やローカル鉄道などインフラ網の再構築といった政策が課題とされて久しい。進まないのは住民の理解が十分に得られていないことにある。今必要なのは、人口減少下ではある程度まとまって住む「集住」という方向性を国民全体で共有することだ。それが浸透して初めて各分野の政策が前に進む。新たな国土計画はこうしたメッセージを伝える一助にしたい。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73560020S3A810C2EA1000 (日経新聞 2023.8.13) 水道代が各地で値上げ 利用者減、老朽化重く 「30年後に3倍」試算も 効率化欠かせず
 水道の値上げ実施や検討が相次いでいる。人口減に伴う料金収入の減少と老朽施設の改修費用増加で財務状況が悪化している。現状の経営を続けた場合、30年後に利用者への販売単価が3倍になると試算した地域もある。抜本的な経営改善には値上げ以外の効率化や改善策も欠かせない。岡山市は2024年度、水道料金を平均20.6%引き上げる方針だ。市の試算では31年度の料金収入が23年度比で5%減る一方、資材価格の上昇で投資額は当初想定より1割程度膨らむ。31年度までに生じる281億円の資金不足を値上げで補う。早ければ11月に料金改定の条例案を市議会に提出する。市民負担を考慮し値上げ幅は圧縮した。5月には有識者らでつくる市の審議会に25.3%の値上げ案を提示したが、施設改修などの費用の一部を企業債でまかなうよう計画を見直した。浜松市も値上げの検討に入った。人口減などに加え「電力値上げで送水などの電気料金の負担が増え経営を圧迫している」(同市担当者)。静岡県御前崎市は23~29年度の間に複数回に分け21年度比で平均約46%引き上げる。水道事業は市町村などが運営し、料金収入で経費をまかなう独立採算を原則としている。施設にかかる固定費が多く、給水人口が減れば赤字に陥りやすい。給水人口30万人以上の場合は最終赤字の市町村などの割合は1%だが、1万人未満では23%と経営は厳しさを増す。施設の老朽化も経営を圧迫する。水道施設への全国の投資額は21年度で1.3兆円と10年前から3割増加。相模原市など18市町に給水する神奈川県は今後30年間で改修に約1兆円の投資が必要とみる。いったん料金を引き上げても、人口がさらに減る中で経営体質が変わらなければ一層の値上げが将来必要になる。各都道府県は3月末までにまとめた「水道広域化推進プラン」に、水道水の販売単価を示す供給単価や給水原価の将来予測を盛り込んだ。何も対策を取らず毎年の赤字を料金収入で補おうとする場合、山梨県内の42年度の供給単価は22年度の1.5倍になる。地域によって試算方法は異なるが、青森県の十和田市などを含む上十三地区は30年後に現在の3倍、大分県の佐伯市などを含む南部地区では50年後に7倍強に膨らむ。抜本的な経営効率化を目指す動きも出ている。宮城県は22年度、所有権を持ったまま上水道と下水道、工業用水道の計9事業の運営を民間に委託するコンセッションに乗り出した。浄水場の運転管理や薬品の調達、設備の修繕といった業務を20年間一括で委託する。民間のノウハウを生かして事業の効率化に取り組み、20年で337億円の経費削減を見込む。厚生労働省によると、水道のコンセッション導入は宮城県のみにとどまる。導入ノウハウがまだ乏しいほか、生活に不可欠な水道の「民営化」への住民の抵抗感を懸念する向きもある。各地で検討が進む効率化策が経営統合を含む事業の広域化だ。香川県は18年度に全国で初めて実質的に県全域で水道事業を統合した。国は運営費の削減などが期待できるとし、都道府県に各地域での検討を働きかけるよう促している。ただ県内での広域統合を目指した奈良県と広島県では、奈良市や広島市など中心都市が統合への参加を見送った。人口が比較的多い中心都市では市の単独経営に比べ料金が上がる懸念があるなど難しさが残る。控除され、居住地の自治体にとっては減収となる。人口が多い政令市や東京23区の多くは「税の受益と負担の原則に反する」として制度と距離を置いていた。寄付の増加による税収流出の広がりを受け、減収を補うため返礼品の拡充で寄付集めにかじを切る大都市は増えている。京都市は受け入れ額が前年度比52%増の95億円で、全自治体で7番目に多かった。料亭のおせちや旅行クーポンなど「京都ブランド」を生かした返礼品を増やし、約3000品目をそろえる。「返礼品を通じて市内事業者を支援する」とする名古屋市では、市内に本社があるMTGの「リファ」ブランドのシャワーヘッドや愛知ドビーの「バーミキュラ」のホーロー鍋などが人気で、2.9倍の63億円を集めた。政令市と東京23区の計43市区では、8割で受け入れ額が増えた。神戸市の87%増、堺市の5.6倍など全国の増加率を上回る伸びも目立った。京都市の受け入れ額はほぼ同時期の寄付実績を反映した流出額(23年度の住民税控除額)を上回り、ふるさと納税が広がった15年度以降で初めて「黒字」になった。他の42市区は「赤字」が続き、このうち9割は21年度より拡大した。全国での寄付拡大のあおりを受けた形だ。寄付による流出額は横浜市が全国最多の272億円で、赤字は268億円と18%増えた。地方交付税で流出額の75%は補塡されるが、それでも最終的に60億円超の減収になる計算だ。東京23区など交付税の不交付団体には補塡もない。松本剛明総務相は1日の閣議後の記者会見で「ふるさと納税は個人住民税の一部を自主的に自治体間で移転させる仕組み。結果として住民税の控除額が(寄付の)増収額を上回る自治体は出てくる」と述べ、流出は制度上やむを得ないとの認識を示した。23区でつくる特別区長会は住民サービスに影響が出かねないとして、制度の廃止を含む抜本的な見直しを国に求めている。制度の副作用は他にもある。自治体が寄付集めにかけた経費は22年度で4517億円と前年度から17%増えた。寄付額に対する規模は46.8%と、総務省が上限に定める5割ギリギリだった。経費の約6割は地場産品である返礼品の調達費用で、地域の事業者の収益になる。残りの約4割については、返礼品の送料や寄付仲介サイトの手数料など地域との関連が薄い事業者に回りやすい。経費が増えるほど自治体の税収として地域に還元されるはずの財源が失われる。総務省は地域に回る金額を増やすため、経費の規定を見直す。10月から寄付受領証の送料などを対象に加える。自治体側も新たな経費分の規模縮小などを迫られるが、「返礼品がないと寄付は集まらない」(九州の自治体)との声は多い。明治大学の小田切徳美教授は「返礼品に頼るのではなく、寄付したくなるような事業を掲げていくことが必要だ」と指摘する。地域活性化という制度の趣旨に沿った改善が国と自治体には求められる。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2390A0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月25日) 市町村66%、病院存続困難に 人口減少巡り国交白書
 政府は25日、2021年の国土交通白書を閣議決定した。人口減少により2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性があるとの試算を示した。公共交通サービスの維持が難しくなり、銀行やコンビニエンスストアが撤退するなど、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる懸念が高まる。地域で医療・福祉や買い物、教育などの機能を維持するには一定の人口規模と公共交通ネットワークが欠かせない。人口推計では50年人口が15年比で半数未満となる市町村が中山間地域を中心に約3割に上る。試算によると、地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる境目となる人口規模は1万7500人で、これを下回ると存続確率が50%以下となる。基準を満たせない市町村の割合は15年の53%から50年には66%まで増える。同様に50年時点で銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村でゼロになるリスクがある。新型コロナウイルス禍は公共交通の核となるバス事業者の経営難に拍車をかけた。20年5月の乗り合いバス利用者はコロナ前の19年同月比で50%減少し、足元でも低迷が続く。白書は交通基盤を支えられないと「地域の存続自体も危うくなる」と警鐘を鳴らす。

*4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15585482.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2023年3月19日) どうするローカル鉄道:1 論点は
 鉄道のローカル線が岐路を迎えています。人口減少やマイカーシフトで利用者が減っていたところにコロナ禍が追い打ちをかけ、鉄道会社の経営が悪化しました。赤字路線は今後、バスへの転換を含めた議論を迫られます。地域交通の問題とどう向き合うべきか、考えます。
■集客へ企画次々、でも遠い赤字解消 JR九州「日常から乗る人、増やさないと」
 JR西日本と東日本は昨年、相次いで赤字ローカル線の収支を公表した。バスなどへの転換の意向も示し、注目を集めた。JRの上場4社のうち、その先駆けとなったのはJR九州だ。2020年5月、1日1キロあたりの平均利用者数(輸送密度)が2千人未満の線区で、収支を初めて公表した。対象となった12路線17区間全てが赤字だった。一部の路線では、国鉄民営化後の約30年間で輸送密度が9割落ち込んでいた。管内に大都市の福岡があるが、ローカル線の赤字を補うことは容易ではない。同社は19年度、輸送密度の減少が著しい6路線7区間の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げた。目的は「鉄道の持続可能性を高める」こと。年数回の協議では、乗客を増やすための企画を出し合い、実際に取り組んでいる。佐賀県内を走る筑肥線では、イルミネーション列車の運行が実現した。鹿児島県と宮崎県をまたぐ吉都線では、沿線の幼稚園児が乗る貸し切り列車を走らせた。いずれも数百人ほどの乗客で、収入は10万~15万円ほど。1億~3億円規模の赤字の解消にはほど遠い。JR九州の担当者は「状況を好転できてはいない」と認める。事態の打開には「イベントではなく、日常から乗る人を増やさないといけない」と話すが、具体的なアイデアはまだ出ていないという。検討会では、バスなどへの転換については議論していない。にもかかわらず、一部の自治体からは検討会の開催すら拒まれている。担当者は「赤字ローカル線は経営課題の一つ。国も問題意識を持って動いている中で、私たちの考え方を整理していかないといけない」と話す。
■LRT生かし、まちづくり 乗客増の富山、医療費抑制の試算も
 公共交通を生かしたまちづくりで成功している地方都市がある。立山連峰を望む人口約40万人の富山市の中心部では、ライトレール(LRT)と呼ばれる次世代型の路面電車が走っている。JR西日本の富山港線の廃線にともない、線路を引き継いでLRTを導入。市内の路面電車とつなぎ、便数も大幅に増やした。利用者は増えた。LRTで市役所に来ていた女性(72)は「数年前に車を手放したので、出かける時には(LRTを)使います」と話す。また、夫の転勤で移り住んだという30代の女性も「引っ越す前は地下鉄に慣れていたので、車社会に不安を感じていた。来てみたら街中での買い物や子どもの習い事にLRTが利用できて便利です」と話していた。富山市は、公共交通を軸にした「コンパクトシティー」を掲げ、公共交通の沿線に新たに家を建てたり、部屋を借りたりする世帯に補助金を出している。こうして、公共交通の沿線に自然に人が集まって暮らすようになってきた。さらに、公共交通が高齢者の外出機会を増やすという効果も生まれている。65歳以上が中心部に行く場合、運賃を100円にする「おでかけ定期券」がある。市と京都大学などの調査によると、定期券を持っている人は持っていない人に比べて出かける頻度が高く、歩数も多い。市全体の医療費を年間8億円抑えることにつながる、という試算もある。前富山市長の森雅志さんは言う。「公共交通を軸にしたまちづくりをすると訴えた時、『なぜ今さら路面電車なのか』という声もあった。しかし、1人1台の車社会は質の高い暮らしとは言えない。街中の本屋に行き、映画を見て、食事をする。人と人との出会いが生まれる。公共交通は社会の公共財なのです」
■たどり着いた「上下分離」 5年かけ議論、負担増を直視 滋賀
 ローカル線の運営見直しの選択肢の一つに「上下分離方式」がある。固定費が多い鉄道施設を自治体が所有することで、鉄道会社の経営を立て直す方法だ。滋賀県を走る近江鉄道は沿線自治体との議論を重ね、この上下分離方式にたどり着いた。1896年創業の近江鉄道は「ガチャコン」の愛称で親しまれ、県東部から大阪、京都へ通勤客らを送り出す。ただ、乗客は減り、2022年3月期決算まで28期連続の営業赤字となっている。民間企業だけで維持するのは困難と判断し、自治体に協議を申し入れたのは16年。「自治体からは当初、『本当に赤字なん?』と思われていた。信頼関係がなかった」。担当した服部敏紀・総合企画部長は話す。県と沿線10市町に経営状況を知ってもらう勉強会から始め、18年12月に本格的な協議がスタートした。ときに怒号も飛んだが、議論の羅針盤となったのは第三者による評価だ。県などは外部の調査会社に委託し、鉄道、バス、BRT(バス高速輸送システム)、LRT(次世代型路面電車)の四つを比べた。BRTとLRTは初期投資で100億円以上かかる。バスは30億円もかからず、毎年の赤字額は4.3億円で鉄道より8千万円少なかった。一見有望に見えるが、運転士は人手不足で、運行の維持には懸念があった。もう一つの調査で、交通インフラとしての効果を数字で示した。もし鉄道を廃止すれば、代わりに病院や学校への送迎にバスを使うことになり、渋滞に対応するための道路整備も必要になる。鉄道の維持に年6.7億円が必要なのに対し、こうした代替手段には年19億~54億円かかると試算された。「鉄道にかかる費用は仕方がないと思ってもらえたのだろう」と服部さんは話す。協議は約5年かけ結論に至った。24年度からの転換が決まり、地元は数億円の負担が見込まれる。服部さんは「地域にこの鉄道が必要なのか、関係者が自問自答できた」と言う。
■公共交通維持へ、「交通税」議論
 公共交通の維持費を誰が負担するか、も大きな論点だ。滋賀県は県内の鉄道・バス路線の維持のために使う「交通税」の議論を始めた。実際に導入されれば、全国初となる。使い道は、運行費用や設備投資への補助が想定される。個人県民税や法人事業税などに上乗せする「超過課税」という手法が考えられるという。公共交通が県民の足となっていることを踏まえ、広く負担してもらえるようにする。「鉄道は事業者による営利事業とされるが、道路の場合は傷めば税金で補修される。同じ社会インフラとして位置づけ、みんなで支えることも考えるべきだ」。県の担当者は、税金を使う理由をこう説明する。公共交通の整備や維持に公費を使うことは、諸外国でも珍しくない。県によると、交通税が導入されているフランスでは、法人などに対し、従業員の給与総額の数%を上限に税金をとる。ドイツや英国、米国でも、道路の利用やガソリンの購入時などに税を徴収しているという。
■「鉄道である必要ない」「安易な廃線には疑問」
 アンケートは、ローカル鉄道が走る道府県の住民や鉄道ファンの方々からも寄せられました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/173/で読むことができます。
 ●国が責任を持って JR3島会社は民営化の際、経営安定基金の運用益で赤字を補填(ほてん)する話であったが、政府による低金利政策のために、それが成り立たなくなった。路線存続に関わるほどの赤字分は、国が責任を持って税金を投入するか、北海道と四国は再度国有化するべきである。(三重、男性、60代)
 ●私たちの選択の結果 鉄道は私たちの財産。軽々に廃止すべきではありませんが、ローカル線の厳しい数字を目の当たりにすれば、廃止やむなしかと思います。道路への投資を最優先にし、私たちが利用しないという選択をした結果ではないでしょうか。(広島、男性、70代)
 ●線路は公道と同じに 上下分離方式にかえ、線路は公道と同じ扱いにする。運行は民間に委託し赤字分を沿線自治体が負う。ヨーロッパでの路面電車などはそのような運用形態で公共交通を維持している。沿線民の心には自分たちの足は自分たちで守るという意識があるのだろう。(埼玉、男性、60代)
 ●鉄道が残っていれば 利用者が少ないからと、ローカル鉄道を安易に廃線にすることが本当に正解なのか疑問。私が住む町でも十数年前に廃線になった。その後、町に新興住宅地ができ、若い人が増えた。通勤や通学の送迎で道路の渋滞がすごい。今になり、遅延のほとんどない鉄道が残っていれば、と語る人は多い。(福岡、女性、40代)
 ●鉄道である必要はない 利用者の少ない場所は維持費、環境などを考えても代替交通機関を利用するべきだ。そもそも本数も少なく、ピンポイントの運行ならば鉄道である必要はないと思う。高齢化も進んでいる中、駅までの足などを考えても、バスなどで地域をまわる方がメリットがある。(東京、女性、30代)
 ●乗客は高校生とオタク 趣味で稚内から那覇まで、JR、私鉄、3セク、公営鉄道の線路を乗りつぶした「乗り鉄」です。ローカル線の主な乗客は高校生と鉄道オタクです。ほとんどの路線に並行して税金で造った道路があり、ビジネスの観点では競争は無理です。バス転換はやむを得ないと思います。(東京、男性、60代)
 ●矮小化すべきでない ローカル鉄道の存廃にだけ焦点をあてる近視眼的な見方に強烈な違和感を覚えた。地方交通の問題はローカル鉄道に矮小(わいしょう)化すべきではない。人口密集回避、国土保全、リスク分散の観点から「地方」を位置付けるべきである。(富山、男性、60代)
 ●街のグランドデザインを 街や集落のグランドデザインを、若い住民の意見を採り入れて検討していく必要がある。古くからの住民は、街や駅前がにぎわっていた情景を思い浮かべがちだと思うが、10年、20年後の財政負担を担う人たちの意見を重視すべきだ。(東京、男性、60代)

*4-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231023&ng=DGKKZO75489820S3A021C2PE8000 (日経新聞社説 2023.10.23) 技能実習の轍を踏まない制度に整えよ
 外国人労働者の受け入れのあり方を検討する政府の有識者会議が、廃止される技能実習制度に代わる新制度の素案を提示した。1年を超す就労など一定の条件を満たせば転職ができるようにする。技能実習は賃金不払いなどの問題が絶えず、転職が原則できないことで多くの失踪者を生み、人権侵害にあたると批判されてきた。労働環境を改善するとともに、転職を容認するのは当然である。新たな制度は3年間の就労を基本とする。日本語や技能の試験に合格すれば、2019年に創設した在留資格「特定技能」に移行できる。特定技能と同じように受け入れ人数の上限を定め、対象業種も一致させる。新制度と特定技能を一体的に運用する形になる。本来は特定技能に統合した方がわかりやすいが、長期就労ができるよう熟練技能者に育成する道筋を示した点は評価できる。最も重要なのは技能実習と同じ轍(てつ)を踏まないことだ。外国人が日本人と同等に労働者の権利を持ち、活躍できるよう実効性の高い制度に整えるべきだ。転職は同じ職種に限定し、基礎的な技能検定と日本語試験の合格を条件とした。ハードルが高くなりすぎないよう配慮が必要だ。学習や受験の機会を与えない企業をチェックする仕組みも要る。外国人受け入れの初期費用を転職先の企業も一部負担する案を示したが、両社が納得できる負担割合を決めるのは難しいのではないか。長く働いてもらえるよう待遇改善に努めるのが本筋だろう。転職のマッチングは受け入れ窓口の監理団体のほか、監視機関やハローワークが担うという。ノウハウが乏しいため、職業紹介会社の活用も検討する必要がある。監理団体は企業と癒着するケースもあり、許可を与える要件を厳格にすることが欠かせない。不適格な団体を排除する審査基準を明確に示してほしい。来日時に支払う多額の手数料が負担となる外国人は多い。素案では受け入れ企業に一定の負担を求める考えを示した。手数料のさらなる高騰につながらないよう監視する必要もあるだろう。手数料の透明化や海外の悪質な送り出し機関の排除は政府が取り組むべき課題だ。日本語学習や生活の支援は自治体とNPO任せにしてきた。今度こそ政府が前面に立たなければ、働く場として「選ばれる国」の実現は遠のく。

*4-5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA27D510X20C23A6000000/ (日経新聞 2023年8月6日) 外国人の家事代行を拡大へ 政府、在留延長や仲介制度
 政府は外国人の家事代行サービスを広げる。従事者の在留を一定の条件のもとで3年程度延長したり、マンション管理会社が利用者との契約を仲介できる制度を導入したりする。外国人材の受け入れや女性活躍を後押しする。外国人による家事代行は2017年から国家戦略特区で始まった。母国で家事代行の国家資格を取得したフィリピン人が炊事や洗濯、掃除などを担う。最低限の日本語能力や1年以上の実務経験などが求められ、22年度末でおよそ450人を受け入れた。新型コロナウイルス禍で外国人の入国は減った。家事代行をする外国人の在留期間は最長5年と定められている。20年に入国制限が始まった時より前に家事代行を目的に入国した外国人には現行の最長5年に加えて3年程度の在留延長を認める。マンションの管理会社などがサービスを仲介できるようにもする。今は政府の指針に基づき利用者が家事代行業者と直接契約しなければならない。内閣府や法務省などは23年度中にも指針の解釈を変更し、利用者と事業者が契約を結ぶ際に第三者の法人による仲介を認める。管理会社を通じて契約を得られるようになれば代行業者は同じ建物でまとまった顧客を獲得できる。1日のうちに同じ建物の世帯や近接した地域で順番を組んで効率よくサービスできるようになる。外国人の家事代行を認める特区は東京都や神奈川県、大阪府、兵庫県、愛知県、千葉市にある。22年度はおよそ17万回の利用があった。利用世帯数は5400世帯ほどで17年度の9倍程度に増えた。経済産業省が野村総合研究所に委託した調査によると、家事代行サービスの国内市場規模は17年の698億円から25年に少なくとも2000億円程度に拡大する。需要を見込むのは、共働き世帯などが多く入居する都市部の高層マンションなどだ。フィリピン人による英会話指導付きの家事代行サービスを展開する事業者もある。家事代行サービスの普及は女性活躍の推進に資するとの見方もある。内閣府が22年11月から23年1月に実施した調査によると、育児での配偶者との役割分担で家事代行などの外部サービスを利用したいかの質問に「利用しながら家事をしたい」の回答が74.1%に達した。19年の前回調査より40.6ポイント上昇した。大手のベアーズでは利用者の半数は30〜50代で子育てをしている共働き世帯が占める。世帯年収は800万〜1千万円が多い。都心部でみるとマンション世帯の利用が大半という。業界は人手が不足する。サービス提供数は年10%以上で伸びており、需要に供給が追いついていない状況が続く。ベアーズでは月2500人のスタッフが稼働し、うち240人がフィリピン人だ。

*4-6-1:https://www.at-s.com/sp/news/article/national/1343644.html?lbl=861 (静岡新聞 2023.10.25) 歴史が生んだ「世紀の難問」…イスラエル、パレスチナの争いはなぜ始まった ユダヤ人の苦難、アラブ側の抵抗、わずかに光が差したことも…共同通信記者が基礎から解説
 日本から9千キロ以上離れた中東のイスラエル、パレスチナで大規模な戦闘が続いている。発端はパレスチナ自治区ガザを実効支配している「ハマス」というイスラム組織が、10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けたことだった。イスラエル側は報復攻撃に乗り出し、これまでに計7千人以上が命を落とした。犠牲者には幼い子どもや、紛争とは関係のない観光客も大勢含まれている。そもそもイスラエルとパレスチナはなぜ対立しているのか。争いの火種はいつ埋め込まれたのか。長い歴史をひもとき、背景を探った。
▽イスラエル建国とパレスチナの抵抗
 イスラエルとパレスチナが紛争を続ける「パレスチナ問題」の発端は、第2次大戦直後の1948年にまでさかのぼる。イスラエルが建国されてユダヤ人が集まってきたことで、もともとそこに住んでいたアラブ人約70万人が自宅を追われ、難民となってしまったのだ。そうしたアラブ人は「パレスチナ難民」と呼ばれている。イスラエルの占領に反発し、独立国家を求めるパレスチナの抵抗の歴史が今に続いている。まず第2次大戦後の歴史を見てみよう。イスラエルの建国を決めたのは、1947年の国連総会決議だ。パレスチナの地をユダヤとアラブに分割し、聖地エルサレムを国際管理下に置くと決めた。1948年、決議に基づいてイスラエルが独立を宣言したが、これを認めない周辺のアラブ諸国は宣戦を布告し、一斉にイスラエルに攻め込んだ。これが第1次中東戦争と呼ばれ、その後、双方は1973年までに4度の戦火を交えることになった。中でも1967年の第3次中東戦争をイスラエルは「奇跡」と呼ぶ。わずか6日間で圧勝し、エジプトのガザ地区、ヨルダンの東エルサレムとヨルダン川西岸などを占領したためだ。パレスチナ人が占領に不満を強めていた1987年12月、ガザから反イスラエル闘争の「インティファーダ」が始まった。投石するパレスチナ人と圧倒的武力で抑え付けるイスラエル側―。この抵抗の中核として生まれたのがイスラム組織のハマスだ。住民への福祉事業も実施し、貧困層を中心に根強い支持を得ていった。
▽はかなく消えた「希望の光」
 一方、パレスチナ人の代表として国際社会で認められていたのが1964年創設のパレスチナ解放機構(PLO)だ。イスラエルと秘密交渉を進め、PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相が1993年9月、歴史的な「パレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)」に調印。ガザとヨルダン川西岸を自治区とし、聖地エルサレムの帰属や難民の扱いはその後の話し合いで決めることにした。インティファーダは収束し、パレスチナ国家樹立に希望の光が差した。だが和平の機運は長続きしなかった。ラビン首相は1995年、和平に反対するユダヤ教過激派に暗殺され、1996年にはハマスなどによる自爆テロが頻発した。和平交渉は2000年に決裂し、ガザとヨルダン川西岸全土で自爆テロが繰り返される第2次インティファーダが巻き起こった。和平交渉はその後もアメリカ政府の仲介などで繰り返されたが、いずれも頓挫した。国際社会はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を提唱しているが、実現の見通しはない。
▽ガザは「天井のない監獄」
 ハマスは2006年、自治区の評議会選で圧勝したが国際社会に承認されず、2007年にガザを武力制圧した。イスラエルはガザとの境に壁を建設して封鎖。人の出入りも制限されたガザは「天井のない監獄」と呼ばれている。イスラエルはヨルダン川西岸の占領地でユダヤ人入植地を建設し、事実上の領土拡張を続ける。国際法違反だと非難する国際社会の声を無視し、パレスチナ人の住宅をブルドーザーで押しつぶしている。イスラエルとハマスは2006年、08~09年、12年、14年、21年と戦闘を重ね、多くの犠牲を生んだ。一方で2020年以降には、アラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国がパレスチナ問題を置き去りにしたままイスラエルと国交を正常化した。
▽ユダヤ人、苦難の2千年
 歴史的経緯から極めて特殊で複雑な状況にあるイスラエル。日本の四国程度の面積の2万2千平方キロに、約950万人が暮らす。その約74%がユダヤ人だ。パレスチナ問題の背景には2千年を超えるユダヤ人の苦難が横たわっている。紀元前10世紀ごろ、ヘブライ人(後のユダヤ人)の王国がパレスチナにできたが、紀元前6世紀、新バビロニアに滅ぼされ、住民は一時とらわれの身になった。さらに2世紀前半、古代ローマがユダヤ人を聖地エルサレムから追放し、世界各地に散らばった。ディアスポラ(離散)と呼ばれる。辛酸は近現代でも続いた。ヨーロッパのユダヤ人はキリスト教社会で差別に直面。19世紀のロシアでの迫害もあり、国家樹立に向けた意識が高まった。第2次大戦後には、独裁者アドルフ・ヒトラーが率いたナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の実態が明らかになり、ポーランド・アウシュビッツの収容所などで約600万人が殺害されたといわれる。国が滅ぼされ、土地を追われ、民族離散の悲劇に見舞われ―。苦難の歩みを続け、安住の地を求めてきたユダヤ人にとって、イスラエル国家建設は歴史的悲願だった。▽閉じられていたふたが…。イスラエルとパレスチナの憎しみの連鎖に終わりが見える兆しはない。今からちょうど50年前の1973年10月6日、ユダヤ暦の祝日にエジプトとシリアがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けたのが第4次中東戦争の始まりだった。今回、ハマスがイスラエルを奇襲したのは10月7日、ユダヤ暦の祝日だった。「開戦日」を合わせた攻撃だったとみられている。東京大の鈴木啓之特任准教授は「今回のハマスの奇襲は閉じられていた問題のふたを暴力的に開けた」と指摘。パレスチナ問題の解決に取り組む必要性を改めて強調した。
【そもそも解説 「パレスチナ」って?】
 東地中海とレバノン、シリア、ヨルダン、エジプトに囲まれた地域。イスラエル領を除くと地中海沿岸のガザ地区と、主に乾燥した丘陵地帯のヨルダン川西岸から成る。ガザ地区の面積は福岡市より少し広い365平方キロ、西岸は三重県と同じくらいの5655平方キロ。パレスチナ中央統計局によると人口は約548万人。パレスチナ人は「パレスチナ地方出身のアラブ人」の意。西岸のラマラに、治安や行政権限を持つパレスチナ自治政府の議長府が置かれている。議長はアッバス氏。イスラエルの公用語はヘブライ語だが、パレスチナはアラビア語。宗教は住民の約92%がイスラム教、約7%がキリスト教。独自の通貨は持っておらず、イスラエルの通貨シェケルが使われている。
【ちょっと深掘り 中東の周辺国の動きは?】
 パレスチナ人はアラブ民族で、大半がイスラム教を信仰している。アラブ諸国に加え、ペルシャ民族のイランもイスラム教の国でパレスチナ支持だ。ただ近年、アラブ諸国は中東でのイランの影響力を警戒し、「イランの敵」であるイスラエルに接近、パレスチナ問題はほぼ棚上げにされていた。今回のイスラエルとハマスの戦闘で、イスラエルへの怒りが再び民衆に広がっている。アラブ諸国はイスラエルと4回交戦したが、1979年にエジプト、1994年にヨルダンがイスラエルと平和条約を締結。2002年、アラブ諸国はパレスチナ国家樹立などが実現すれば和平を進めるとの案を採択した。2003年のイラク戦争でイスラム教スンニ派のフセイン政権が崩壊し、イラクにシーア派政権が樹立された。これに伴いシーア派大国であるイランの力が強まり、中東にシーア派の勢力圏を形成した。イランと敵対するイスラエルは危機感をスンニ派のアラブ諸国と共有した。2020年にアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンがイスラエルと国交を正常化。大国サウジアラビアも正常化交渉に乗り出した。イスラエルのネタニヤフ首相は今年9月の国連総会一般討論で「サウジとの歴史的な和平は間近だ」と演説した。イランの核兵器開発を恐れるアメリカは、イスラエルとアラブの関係改善が「イラン包囲網」になるとして融和を歓迎した。パレスチナ問題は事実上、置き去りにされていた。ただ今回のイスラエル軍とハマスの戦闘で、パレスチナ人の犠牲が連日伝えられ、中東各国は衝撃を受けた。サウジはイスラエルとの正常化交渉を保留。イランもパレスチナに連帯し、中東に広がっていた融和の機運は一気に消えた。

*4-6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRBQ6JJNRBQUHBI017.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2023年10月22日) イスラエル、ガザ北部住民に再び退避を警告 地上戦へ「攻撃を増加」
 イスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエル軍は22日、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区の北部の住民に対して改めて退避を要求し、地上戦など「次の段階」への準備として攻撃を増やしていると明らかにした。2週間にわたる空爆と完全封鎖で深まっているガザの人道危機に対応するため、国連などによる支援物資の搬入は2日連続で22日も行われた。ガザ市周辺では21日午後、イスラエル軍機がビラをまいた。「北部にとどまることは命を危険にさらす。南部へ退避しない者はテロ組織の仲間とみなされる可能性がある」と記されていた。同軍は13日、地区の北半分に住む約110万人に対し、南側への退避を要求。依然として北部にとどまる住民が多く、改めて警告した。イスラエル軍のハガリ報道官は22日の会見で「戦争の次の段階で(敵からの)リスクを減らすため、北部にあるハマスの拠点への攻撃を増やしている」と述べた。ガザ北部での作戦について、地元紙ハアレツは21日、地上作戦の準備として、空軍が過去数日間にガザ地区北部一帯の高層ビルを破壊したと報じた。ハマスが監視や狙撃に使うのを防ぐ狙いだという。イスラエル人行方不明者の捜索のため、ガザ地区の境界線付近での越境作戦も続けているという。軍トップのハレビ参謀総長も21日、前線に展開する部隊の司令官らと面会。「我々はガザ地区に入る。ハマスの工作員とインフラを破壊する作戦任務に入る」と決意を語った。「ガザは複雑な密集地だ。敵は多くのものを用意しているが、我々も準備している」と述べ、市街戦に備えていることを示唆した。この間も空爆は依然続き、ガザ保健省によると、死者は4651人に上っている。
●国連5機関「支援物資は十分にはほど遠い」
 イスラエル軍は22日、ヨルダン川西岸地区のジェニンでも、モスクの地下につくられた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊したとしている。人道危機が深刻化するガザ地区には21日、人道支援物資を積んだトラック20台が隣国エジプトから初めて入った。国境検問所を管理するエジプトとガザを封鎖するイスラエルが米国の仲介で合意し、実現した。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、20台のうち13台の積み荷は医療関係の物資で、外科治療の薬や医療資材、慢性病の薬など。5台は缶詰やパック詰めの食料で、残る2台は「2万2千人のわずか1日分」の飲料水ボトル4万4千本で、ガザの人口約220万人の1%向けの1日分でしかない計算だ。世界保健機関(WHO)や世界食糧計画(WFP)など、国連の5機関は21日に連名で声明を発表。同日の搬入は「小さな始まりに過ぎず、十分にはほど遠い。大規模で継続的なものでなければならない」として、22日以降も規模を拡大して続けるよう求めた。追加搬入については決まっていなかったが、国連を交えた当事者間の交渉の末、AFP通信によると、22日午後になって、第2陣としてトラック17台がエジプト側からガザ側に入ったという。
     ◇
●米国が国連安保理の決議案、イスラエルの自衛権を明記
 イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの軍事衝突をめぐり、米国は21日、イスラエルの自衛権について明記した、独自の国連安全保障理事会の決議案を各理事国に示した。ロイター通信が報じた。ロイターによると、決議案では、イスラエルには国連憲章に基づく自衛権があると主張。また、ハマスへの支持を鮮明にするイランに対し、「地域の平和と安全を脅かすハマスなどの組織への武器供給」をやめるよう要求した。一方で、激しさを増しているイスラエルとハマスの軍事衝突についての停戦などには触れていないという。安保理は18日、10月の議長国ブラジルが提出した、戦闘の「中断」を求める決議案を否決。「決議案にはイスラエルの自衛権についての言及がない」として、米国が拒否権を行使していた。

*4-6-3:https://www.yomiuri.co.jp/world/20231027-OYT1T50222/ (読売新聞 2023/10/27) イスラエル・ハマス双方に戦闘中断要請、EU首脳会議採択…慎重姿勢のドイツが妥協に転じる
 欧州連合(EU)は26~27日、ブリュッセルで首脳会議を開き、パレスチナ自治区ガザへの人道支援を優先するため、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの双方に戦闘中断を要請する文書を採択した。27か国首脳が署名した文書は「国際人道法に従ったイスラエルの自衛権を強く支持する」とイスラエルの反撃への支持を明記。ガザの人道危機に深刻な懸念を表明し、「人道回廊の設置や(戦闘)中断を含む必要な措置を通じ、支援を要する住民に援助が届くよう要請する」と盛り込んだ。戦闘中断については、フランスやスペインなど多数が支持する一方、ドイツなどは「中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」と慎重な姿勢を示していた。米国が戦闘中断呼びかけに傾く中、妥協に転じた。これにより、欧米はイスラエルの攻撃を支持しつつ、地上侵攻の前にガザの人道危機への対応を求めることで足並みをそろえた。一方で、アラブ主要9か国の外相は26日、国連安全保障理事会に即時停戦を求める共同声明を発表した。イスラエルによるガザ空爆は続き、ガザの保健当局は26日、今月7日以降の死者は7028人に上ると発表した。イスラエル軍によると、ハマスからイスラエルに発射されたロケット弾も7000発を超えた。イスラエル軍は26日、ガザへの攻撃で、ハマスの情報局ナンバー2のシャディ・バルード氏を殺害したと発表した。7日のイスラエルへの奇襲を計画した一人としている。イスラエル政府はガザに連れ去られた人質を少なくとも224人、うち外国籍の最多はタイの54人と発表した。

*4-6-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN26DSX0W3A021C2000000/ (日経新聞 2023年10月27日) 国連総会、ガザ停戦決議案巡り会合 中東・アジアが主導
 国連総会は26日、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突を巡る緊急特別会合を開いた。会合冒頭ではイスラエルとパレスチナが互いに非難を繰り広げた。27日にはアラブ諸国が起草した、即時停戦や人道回廊の設置、人質解放などを求める決議案を採決する見通しだ。7日のハマスによる攻撃で衝突が始まって以来、同議題で初の総会の会合となった。会合に先立ち、アラブ諸国を代表してヨルダンがパレスチナ自治区ガザなどでの停戦決議案を出した。イスラエル、ハマス両者への直接的な非難は盛り込んでいない。総会の決議は多数決で採択される。法的拘束力はなく、国際社会の意思を示すことが主眼だ。今回、開催を要請したのはアラブ諸国とロシア、バングラデシュなどアジア諸国だ。背景の一つには安全保障理事会の機能不全がある。安保理の決議は法的拘束力がある。同様の決議案が何度も提案されたものの、米国やロシアといった常任理事国が拒否権を行使するなど、採択に至っていない。もう一つがイスラエルと、同国への支援姿勢を鮮明にする米国への反発の広がりだ。イスラエル軍の空爆でガザの市民の犠牲が増え続けている。空爆停止を求める国際社会の声は強まり、25日には国連のグテレス事務総長がガザの人道危機を巡り「(イスラエル軍の攻撃は)明白な国際人道法違反だ」と述べた。米国も人道的観点から戦闘の一時停止の検討を求めている。26日には各国代表の演説が始まった。最初はパレスチナのマンスール国連大使で、時折声を詰まらせながら多くのガザ市民が犠牲になっている現状を訴え「これは戦争ではなく民間人に対する攻撃であり、犯罪だ」と主張した。「虐殺を止め、人道支援を届けるためにこの決議案に投票してほしい」と語気を強めた。一方、イスラエルのエルダン国連大使は「これはパレスチナ人との戦争ではなく、ハマスとの戦争だ」と強調した。アラブ諸国が提案した決議案にハマスを批判する文言が含まれていないことに対し「恥辱だ」と非難した。停戦決議案を提出したヨルダンのサファディ外相は終始イスラエルを激しく非難し、「安保理が責任を果たさないため、代わりに我々が決議案を提出する。イスラエルがこの決議案を無視することは誰もが知っているが、それでも投票して欲しい」と呼びかけた。フランシス国連総会議長は「ハマスの攻撃は残忍であり、容認できない。同様にイスラエル軍による罪のないパレスチナ自治区ガザ住民への攻撃も深く憂慮する。自衛権は無差別な報復を合法的に許可するものではない」と双方を非難した。人道支援の重要性も強調した。

*4-6-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231029&ng=DGKKZO75689720Z21C23A0MM8000 (日経新聞 2023/10/29) ガザ地上作戦拡大 イスラエル「戦争の新たな段階」 空爆、地下拠点150カ所
 イスラエル軍は27日夜(日本時間28日未明)、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへの空爆と地上作戦を拡大させた。28日にかけて戦車も投入し、全面的な地上侵攻に向け一段と圧力を強めた。イスラエルのガラント国防相は28日、「我々は戦争の新たな段階に入った」と述べた。ガザでの作戦は新しい命令があるまで続くと主張した。「新たな段階」の意味は明らかにしていない。イスラエル軍は28日午前、前夜にハマスの地下拠点約150カ所を空爆したほか、7日の奇襲を指揮したハマス司令官の1人を殺害したと発表した。海上からもガザを攻撃したという。イスラエルメディアによると、軍のハガリ報道官は28日午前、地上作戦を継続中だと説明した。「前進している」と述べ、作戦が成果をあげていると主張した。ハマス幹部の殺害で自らに有利になっていると強調した。ハマスは27日夜、ガザ北部ベイトハヌーンや中部ブレイジでイスラエル軍と「激しい戦闘」が起きていると明かした。ハガリ氏は27日の会見で「地上軍の作戦は今夜、拡大する」と表明した。規模は不明だが、イスラエル側はなお全面的な地上侵攻ではなく、準備段階という立場を取っているもようだ。イスラエルは13日以降、複数回にわたり、夜間を中心に地上部隊をガザに送り込んだ。人質の捜索や本格的な侵攻に備えたハマスの拠点破壊などが目的で、25~26日には戦車も投入したが、すぐに撤収させていた。地上作戦の「拡大」を宣言した今回は長時間、ガザ内部での作戦を続ける可能性がある。イスラエル軍は28日、ガザ北部の住民に対し、南部に避難するよう改めて呼びかけた。ガザでは27日以降、通信障害が深刻になっている。パレスチナの通信事業者は同日、空爆で電話やインターネットが「完全に停止した」と明らかにした。民間人の避難やけが人の救出も難しくなっているとみられる。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は28日、ガザの拠点や職員と連絡が取れないと明らかにした。イスラエル軍は27日、ハマスがガザ北部にあるシファ病院の地下に拠点を築き、病院の職員や患者を「人間の盾」に利用していると主張した。ハマスは声明で「噓だ」と否定した。

*4-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231026&ng=DGKKZO75590470V21C23A0EA1000 (日経新聞 2023.10.26) 中国不動産・碧桂園「デフォルト該当」 ドル建て債、金融機関が通知
 中国不動産最大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)のドル建て債の利払いを巡り、債券の事務手続きを担う金融機関が債権者に対し「デフォルト(債務不履行)に該当する」と通知したことが25日、わかった。米ブルームバーグ通信が報じた。碧桂園は18日に米ドル債の約1540万ドル(約23億円)分の利払いの猶予期限を迎えたが、複数のメディアが支払いを確認できないと報じていた。ブルームバーグによると、米ドル債の事務を担当するシティコープ・インターナショナルが25日までに、期限内に利払いをしなかったことがデフォルトに該当すると債権者に伝えた。碧桂園の海外債券がデフォルトすれば初めてとなる。リフィニティブによると、同社のドル建て債の発行残高は99億ドル(約1兆4800億円)にのぼる。日本経済新聞は利払いやデフォルトについて碧桂園に問い合わせたが、返答を得られていない。碧桂園は18日、「期限内に返済義務の全ては履行することができない見込みだ」と声明を出していた。利払いの有無については明らかにしなかった。デフォルトは通常、当該企業の発表や格付け会社の認定で周知される。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月末、碧桂園の長期格付けをデフォルトに近い状態を示すCaに格下げした。碧桂園は8月に「クロスデフォルト」が起こる可能性についても開示した。1回でも不払いが発生すると他の債券もデフォルトしたとみなす仕組みだ。今回の米ドル債が正式にデフォルトと認定されれば、他の債券にも連鎖が起こる可能性がある。碧桂園は6月末時点で1兆3642億元(約27兆9000億円)の負債を抱え、販売不振により資金繰り難に陥っていた。最大手がデフォルトを起こせば不動産業界全体の信用不安が深まり、中国経済の足かせになりかねない。

<大都市への過度の人口集中の不合理>
*5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15775405.html (朝日新聞 2023年10月24日) 南極溶けるの、止められない 温室ガス削減でも、海面5メートル上昇か 西岸の氷、英チーム予測
 地球温暖化の進行によって、温室効果ガスの排出を減らしても今世紀中は南極西岸の棚氷が溶けるのを止められないおそれがあると、英国南極観測局の研究チームが発表した。すべて溶ければ将来的に世界の海面を最大約5メートル上昇させる可能性があるという。チームはスーパーコンピューターを使った予測モデルで、南極西岸のアムンゼン海の棚氷を分析。今後の温室効果ガスの排出ペースに応じて五つのシナリオをあてはめたところ、産業革命以降の気温上昇を1・5度以内に抑えたとしても棚氷が溶けるという結果は変わらなかった。20世紀に氷が溶けた速さの3倍という。棚氷は、大陸を覆う氷床が海に張り出した部分で、溶ければ大陸を覆う氷床が海に流れ出しやすくなる。この地域には南極の1割の氷があるといい、正確な試算はしていないとしながら、世界の海面を最大5・3メートル上昇させうる量だという。南極では、今年9月に冬の海氷面積が観測史上最小になるなど、温暖化の影響が顕著に現れている。対策を強化しても悪化を止められなくなる「ティッピングポイント(転換点)」に至っているおそれがある。チームのケイトリン・ノートン博士は「私たちは西南極の氷の融解をコントロールできなくなってしまった。何十年も前に気候変動への対策が必要だった」と指摘した。一方、「化石燃料への依存を減らす努力を止めてはならない。海面水位の変化が遅ければ遅いほど、政府や社会は適応しやすくなる」と話した。論文は英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに掲載された。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74073330R30C23A8EA1000 (日経新聞社説 2023.9.1) 大震災100年、首都防災の死角減らせ
 人とモノと機能が集積した東京を揺さぶる大地震は、必ずまた来る。10万人を超す犠牲者を出した関東大震災から、1日で100年だ。改めて教訓に学び、令和の首都防災の死角を減らしていく契機にしたい。丸の内の路面には深い亀裂が口を開け、日本橋や銀座も焦土と化した。関東大震災直後の東京都心の惨状は、直下型地震の脅威をまざまざと伝える。
●リスク増す複合災害
 関東大震災でもっとも大きな人的被害を出したのは火災だ。陸軍の工場跡地で大勢を巻き込んだ火災旋風がよく知られるが、これは実は台風シーズンだったことと関係している。列島付近を進む台風による強風の影響で、火勢が大きく増したとされるのだ。地震に別の災害の影響が加わるこうした「複合災害」は、人口集中に歯止めがかかっていない東京では従来に増して大きなリスクになっている。例えば関東大震災以降、都心で震度6クラス以上の揺れは起きていない。仮に隅田川や荒川など主要河川の堤防が破損した場合、人口の多い下町は大水害にも見舞われることになる。真夏の地震なら、近年の酷暑も別次元の脅威となろう。感染症のまん延下では、避難所での密回避が難しい現実も私たちは目の当たりにした。複合災害への対応は緒に就いたばかりだ。早急に対策を具体化していく必要がある。東京での直下型地震が特別なのは、国の中枢を直撃する点だ。政府は業務継続計画(BCP)を策定しており、各省庁も個別のBCPを持ってはいる。ただ、未体験の直下型地震がどれだけのダメージを霞が関の官庁街に与えるかは読み切れない部分もある。手元のBCPが通用しない可能性もあるだろう。そもそも巨大地震のリスクが非常に高い地域に、中央政府や立法、司法の機能がこれほど集積していること自体が異例だ。1つの地震が国の存亡にかかわる恐れすらある。リスク分散が危機管理の基本であることに照らせば、首都のリスク管理は十分とは言えない。コロナ禍でも東京一極集中の問題は顕在化した。改めて、首都機能の移転や分散を具体的に検討すべきではないか。それは、復興の青写真を事前に描いておくことで再建を円滑にする「事前復興」とも関連する。関東大震災では、発生前に東京市長だった後藤新平がまとめていた都市計画が土台となり、迅速な復興が図られたといわれる。首都機能の分散を含め、大胆な事前復興計画を立てる。それは今後の日本のグランドデザインにもつながるだろう。首都東京はどうあるべきか。防災分野にとどまらない国民的議論があっていい。リスク分散が重要なのは企業も同じだ。大手を中心にBCPの策定は進みつつあるが、それでも大地震が来れば本社機能に大きな損害が出るのは避けられまい。都がまとめた被害想定では、都内の本社機能が停止することで企業全体の事業活動も滞り、倒産の危機に至る可能性が指摘されている。中小企業ではBCP自体が未策定のところも少なくない。震災から会社をどう守るか、これを機に見つめ直したい。
●偽情報を見極める力を
 SNS時代だからこそ、情報への接し方は極めて重要だ。関東大震災の直後に発行された雑誌「震災画報」は、混乱の中で「別の大地震が来る」「首相が暗殺された」などと様々なデマが流れたと報じている。とりわけ朝鮮人に関する流言が大量虐殺を招いたことは「軽信誤認の大罪悪」だと強く批判している。最近の震災でも流言は飛び交っている。人工知能(AI)で偽画像を簡単に作れる時代である。今後の災害では、さらに手の込んだデマが流れることを前提として備えなければならない。災害に遭って不安が高まると、流れてくる情報に飛びつき真偽不明のまま周囲に広めてしまいがちだ。だが偽情報は時に人命に直結する。まずは一旦立ち止まる習慣を身に付けることが重要だ。誰がいつ発信したのか。独立した別々の情報源から流れているか。そうした背景を確認し、冷静に真偽を判断する。普段からネット情報に接する際に必要な姿勢でもあろう。学校現場でも、子供向けの情報リテラシー教育に一層力を入れる必要がある。関東、阪神、東日本。この100年、大震災のたび私たちは苦難に直面し、同時に多くの教訓を得てきた。次代の日本を守るため、それらを総動員して備えたい。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74074490R00C23A9MM8000 (日経新聞 2023.9.1) 災害拠点病院、首都直下地震で機能不全、「通常診療確保できない」6割 関東大震災きょう100年
 首都直下地震の発生時、1都3県の災害拠点病院(総合2面きょうのことば)の6割で、受け入れ可能な患者数が平時を下回ることが日本経済新聞の調べで分かった。発災6時間以内に集まれる医師の数が通常の3割強にとどまることも判明した。国は首都直下地震で最大14万6千人が死傷すると予測する。医療の広域連携の強化が欠かせない。1日で関東大震災から100年。日経は東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県が指定する計167の災害拠点病院に調査(7~8月中旬)を実施し、107病院から回答を得た。災害拠点病院は災害時に必要な医療機能を備え、地域の救命医療の要となって重傷者の治療を担う。調査によると、災害時に受け入れ可能な患者数を推計している病院は73病院。このうち63%が通常時の受け入れ患者数を下回ると答えた。平時の1割未満とした病院も22%あった。都内のある大学病院は受け入れ患者数を通常の3%にあたる50人とした。担当者は「施設の耐震性が不安だ。周辺道路も狭く救急車両が入れるか分からない」と明かす。北里大学メディカルセンター(埼玉県北本市)の受け入れ患者数は通常の15%。外科の丸山正裕医師は「1月に患者の受け入れ訓練をした。病室にベッドを増やすスペースがないなど課題山積だ」と話す。2.2倍と答えた日本赤十字社医療センター(東京・渋谷)も「被害が長期化すれば1.5倍が限界」とみる。受け入れ患者数が限られる要因の一つが職員不足だ。災害時は道路の寸断や交通機関のマヒなどで病院にたどり着けない職員が大量に出る。調査では75病院が職員の参集率を予測していた。発災6時間以内に医師が集まる割合は平均36%。手術を担う外科系医師は33%でさらに低い。要救助者の生存率が急激に下がる72時間以内の平均も医師は73%だった。看護師は病院近くの寮に住む場合も多く、参集率の平均は発災6時間以内で45%、72時間以内で78%と医師より高いが平時並みの体制が整うのはさらに先だ。建物の火災や倒壊で多くの重傷者が搬送されても治療を受けられない可能性がある。政府の地震調査委員会によると、マグニチュード7程度の首都直下地震の30年以内の発生確率は70%程度。医療体制の強化は喫緊の課題だが、災害拠点病院の指定要件を定める厚生労働省地域医療計画課は「災害時に受け入れる患者数の適正水準は示せていない」と述べるにとどまった。川崎市立井田病院は通常の4.9倍の患者に対応できると回答した。発災1時間後には47%の職員が参集可能と予測。8月から病院近くに家を持つ医師に手当を支給し、災害時の早期参集などにつなげる。鈴木貴博副院長は軽傷者の治療や医薬品の確保についても「地元医師会や薬局と連携を進める」と語る。医療の遅れは首都機能回復や経済復興に大きな影を落とす。行政や病院は医師らが早期に集まり医療を提供できる体制づくりを急ぐ必要がある。域外の病院や自治体との連携強化も重要になる。

*5-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74068990R30C23A8CM0000 (日経新聞 2023.9.1) 拠点病院4割、災害チームDMAT「派遣ゼロ」、現場での救命、対応力に懸念 研修・訓練の拡充欠かせず
 1都3県にある災害拠点病院の約4割が、災害派遣医療チーム(DMAT)を災害現場に派遣した実績がないことが日本経済新聞の調査で明らかになった。DMATは被災地での救命医療や広域搬送などを担うが、病院間の活動実績には大きな差がある。DMATは2005年、阪神大震災の教訓などを踏まえ厚生労働省が発足させた。専門的な研修を受けた4~6人の医師・看護師・業務調整員でチームを編成。発災48時間以内に災害現場に駆けつけ、自治体や消防、自衛隊などと連携しながら人命救助にあたる。都道府県が指定する災害拠点病院には1チーム以上のDMATの保有を求められている。23年3月時点で約1770チーム、約1万6600人が登録。5年ごとの更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要がある。日経は1都3県の計167災害拠点病院を調査し、107病院から回答を得た。DMATのチーム数は「1」が最も多く、回答病院の53%を占めた。「2」は22%、「3」は11%で、「0」の病院も5%あった。最多は国立病院機構災害医療センター(東京都立川市)の7チーム。11年の東日本大震災や16年の熊本地震などでは数日ごとにチームを入れ替えながら災害現場や被災地の病院で活動に従事した。都内のある私立病院のチーム数は「0」。登録資格を持つ医師が21年に病院を離れた後、チームを編成できない状態が続く。都救急災害医療課は「異動や退職など病院が意図していない要因の場合、指定を外したりしない」と説明。新たな医師の資格取得を促すという。災害現場への派遣回数は「0」が最も多く37%で、「1」の21%が続いた。派遣経験がない神奈川県の私立病院は「DMATを派遣すれば担当業務の補完要員が必要になり、時間外勤務が発生する。人件費分の支援がないと派遣は難しい」と明かす。藤沢市民病院(神奈川県藤沢市)は12回の派遣実績がある。DMATの担当者は「登録資格がある職員が増えたことで通常業務を離れやすくなった。DMATは経験が糧になる」と話す。日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)の派遣実績は8回。DMATの一員として活動する本村友一医師も「研修は役に立つが災害現場で起きるのは応用問題。経験値は大切」と災害派遣の重要性を指摘する。自由回答で目立ったのは、DMAT事務局が運営する登録制度への注文だ。DMATの養成研修は4日間の日程で実施し、筆記と実技試験の合格者に隊員登録証を発行し資格を与える。だが受講者は医師、看護師、業務調整員合わせて年間1500人程度。埼玉県内の病院は「希望者がいるが何年も待っている。退職・異動による欠員の補充もままならない」と訴える。DMAT事務局(災害医療センター内)は「都市部は病院数が多く、県単位で受講枠が決まっているため順番が回ってこない病院もある。現在の体制で研修を増やすのは難しい」と説明する。救急医療に詳しい野口英一・戸田中央メディカルケアグループ災害対策特別顧問は「医療機関の需要に応じて柔軟に養成研修を実施できるような仕組みを国や自治体が連携して構築する必要がある」と指摘する。病院がDMATを被災地に派遣しやすい環境の整備も欠かせない。

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2023.6.5~28 G7と先進技術・環境・エネルギー・農業・核問題から (2023年7月2、4日に追加あり)
(1)先進技術の導入と国の財源のひねりだし
1)少子化対策について

  
 2023.3.31東京新聞      2023.5.24佐賀新聞    2023.6.1東京新聞

(図の説明:左図が今後3年間で取り組む主な子育て政策だそうで、大切なものも多いが、整理すべき項目も少なくない。また、中央の図の児童手当拡充では第3子以降の金額が加算されているが、これは不要で、全員の義務教育無償化や公立大学の授業料減額に充てた方がよいと思う。一方、高齢者の医療費・介護費に関して自己負担割合を増やしたり、介護保険の給付やサービスを抑制したりするのは、マクロ経済スライドと称して年金支給額は下げ、一方で介護保険料は上げていることを考慮すれば、明確な高齢者いじめとなっている)

 政府は、*1-1-1のように、こども未来戦略会議で「こども未来戦略方針」の素案を示し、①児童手当は親の所得にかかわらず、子が高校を卒業するまで受け取れるようにする ②3歳~高校生まで一律1万円で、第3子以降は0歳から高校生まで3万円支給する ③2024年度中の実施をめざし予算は2024年度からの3年間に年3兆円台半ば ④予算倍増時期は、こども家庭庁予算を基準に2030年代初頭までの実現をめざし ⑤予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵する ⑥16歳以上の子を養育する世帯主が受けられる扶養控除は給付との兼ね合いが検討課題 ⑦親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度」を創設し ⑧夫婦とも育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げて育児休業給付金も増やす 等としている。

 このうち①②は、児童手当を配るなら「親の所得にかかわらず0歳~高校卒業まで」とするのが公平だが、「第3子以降は3万円支給」は「生めよ増やせよ論」であるため不要で、もしそこまで予算が余っているのなら、国民負担を増やさず他に使えばよいだろう。

 また、③④の「年3兆円台半ば」というのも、イ)子を産み育てるためのネックは何か ロ)本当に子育てを支援するには何が必要か ハ)その支援でどういう効果があるか 等の吟味が行われておらず、「始めに額ありき」で無駄遣いが多くなりそうだ。

 そして、⑤のように、少子化対策の予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵するそうだが、年齢を問わず人を大切にするのではない哲学とその哲学に基づく日本の政策はスウェーデンとは全く異なる。

 ⑥については、「高校生の子を養育する世帯主が児童手当の給付を受けても扶養控除をなくすべきでない」という意見が多いが、これは所得税の計算方法を知らないか、欲の皮が突っ張りすぎているかであるため、所得税の計算方法を把握してからコメントすべきだ。

 また、⑦の「希望する親が就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる」のは当然のことだ。何故なら、幼な子を持つ親は、そのインフラがなければ、一日中子と向き合って家に引きこもっていなければならず、買い物にも行けず、就職活動もできないため、社会的動物である普通の人なら欝になるのが当たり前だからである。

 しかし、⑧については、夫婦一緒に育休を取得する必要はなく、28日程度の短期間の育休をとっても、その間に子が成長して手がかからなくなるわけではないため、現行の育児休業制度に関して取得状況や取得による効果を検証し、本当に必要な支援に集中する必要があろう。

2)少子化対策の財源について
 *1-1-2は、①政府は「異次元の少子化対策」の財源は示さず「年末までに結論を出す」とした ②医療保険料の上乗せ(年1兆円程度)や社会保障費の歳出削減(年1兆円強)を検討中 ③医療・介護を利用する高齢者の負担増 ④消費税増税は否定し、安定財源は2028年度までに確保、その間「こども特例公債」を発行 ⑤診療報酬・介護報酬抑制は医療・介護の人材不足に拍車をかけ、「医療・介護が崩壊する」との反発もある ⑥財政制度等審議会は「後期高齢者医療費窓口負担の原則2割化」「介護保険2割負担の範囲拡大」を提案 ⑦高校生扶養控除(現行16〜18歳の子1人につき所得額から38万円控除)の見直し方によっては児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性 ⑧2010年に中学生までの子ども手当創設に合わせて15歳以下の扶養控除は廃止 等を記載している。

 ⑦⑧については、毎月1万円(年間12万円)の児童手当は所得税率31.6%(=12万円/38万円)以上の人ならもらう額より手取り減の方が大きいが、所得税率を31.6%以上支払う人というのは、その他の所得控除額を差し引いた後で所得が900万円以上(所得税率33%)残る人である。一方、配偶者控除は、1000万円以上の人は0になるため、900万円以上あっても児童手当をもらえるならよしとすべきである。そして、900万円以下の人なら手取りの減少額がもらう額より小さいため、児童手当の目的に合っているのだ。

 しかし、②③⑥のように、総額だけを見てめくらめっぽう社会保障費を削減するやり方では、ただでさえ所得が少なくて生活の限界に達している高齢者にさらなる負担増・給付減を強いる上、⑤の診療報酬・介護報酬の抑制が医療・介護の人材不足に拍車をかけて医療・介護の崩壊に繋がることはコロナ禍で既に明確になっているため、ゆとりを増やすことはあっても減らすことがあってはならないのである。

 このような中、④のように、安定財源には消費税増税しか思いつかない“有識者”や新聞が多いため、まず新聞にも消費税をかけるべきである。そして、発行した「こども特例公債」の返済には、以下に述べるような人を幸せにしながら行う歳出改革や税外収入の確保が必要である。

3)医療改革
イ)ゲノム創薬と治療
 厚労省は、*1-2-1・*1-2-2のように、①約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積し ②蓄積したデータを一元管理し ③個人情報を保護しながら産業界や学術界が幅広く利用できるようにし ④創薬・難病診断・癌治療に繋げ ⑤産学共同事業体に参画する組織に利用資格を持たせ ⑥企業からはデータ利用料を取り、研究機関や大学は無料として ⑦得た知見を協力した医療機関とも共有し ⑧創薬等を通じて研究成果を癌や難病患者の治療に生かし ⑨1人1人の遺伝的特徴や体質に合わせて病気を治療できるようにし、早期発見や予防も可能にして、世界最高水準のゲノム医療を実現させ ⑩ゲノム情報の保護は十分に図られ、不当な差別が行われないようにすることを理念に掲げて 新組織を設立するそうだ。

 このうち、①の約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積するのは、各国で行って現生人類のゲノムの分布状況がわかれば、人類の発祥・交雑・移動・感染症耐性等を、科学的・定量的に把握することが可能になり、創薬・診断・治療だけでなく人類史の研究にも非常に役立つ。

 しかし、②のように、厚労省がデータを一元管理し、③⑤⑥⑦のように、産業界・学術界・協力医療機関等に幅広く利用させるのは、ゲノムという個人情報の利用が主目的と思われ、④⑧⑨の創薬・難病診断・癌治療はそのための建前のように見える。

 何故なら、ロ)のように、アクセスできる情報量が2倍になれば誤謬発生のリスクは2乗になるのに、あまり訓練しておらず、守秘義務も理解していない人にデータをインプットさせるなど、かなりのリスクを無視して保険証とマイナンバーカードの1本化を急いでおり、そのやり方には、⑩のような、医療情報やゲノム情報を通じた差別を禁じ、人権を大切にする発想が全く見られないからである。

 また、癌治療を例にとれば、本当に副作用が少なく治癒可能な治療を目指せば、いつまでも放射線治療や薬物療法(化学療法)を「標準治療」とするのではなく、速やかに免疫療法を「標準治療」としてその薬剤の安価な製造を推進すればよいのに、いつまでも著しい副作用を持つ薬物療法を「標準治療」として、多くの患者や家族に避け得べき苦痛を与えているからである。

 さらに、新型コロナ感染症の例では、日本はワクチンすら作れず、抗ウイルス薬ができても厚労省が承認せず、経済に打撃を与えるまで国民を引きこもらせて運動不足にし、精神的苦痛も与えて高齢者の死亡を増やしたが、これらは人権を大切にする発想からかけ離れているのだ。

ロ)健康保険証とマイナンバーカードの一本化は高リスク
 日本政府は、*1-2-3のように、「行政のデジタル化を進める」として、改正マイナンバー法を成立させ、2024年秋に現行の健康保険証を廃止する予定だそうだが、マイナンバーカードと保険証を一体化すれば、それだけ不正・誤謬の入り込む確率が上がる。つまり、本人にとって便利なことは、どういう動機を持っている人にとっても便利であるため、健康保険証とマイナンバーカードは別々にデジタル化を進めるのが無難なのだ。

 そして、「行政のデジタル化」は、マイナンバーカードで進め、「医療・介護のデジタル化」は、よく訓練を受けて守秘義務も理解している専門家だけがアクセスできる保険証(デジタルでよい)を使って分けるのがよいと思う。

4)再エネの先端技術
イ)ペロブスカイト型太陽電池について


             すべて2023.4.3日経新聞

(図の説明:ペロブスカイト型太陽電池は、左図のように、コストが安くてビルの壁面等々いろいろな場所に設置できるため、中央の図のように、実用化を進めている企業が多い。また、右図のように、世界市場は急拡大する予想だ)

 日経新聞は、*1-3-1で、①太陽光・風力・水素・原子力・CO2回収の5つの分野で注目される11の脱炭素技術の普及時期を検証 ②G7気候・エネルギー・環境相会合は浮体式洋上風力発電と並び「ペロブスカイト太陽電池等の革新的技術の開発推進」と共同声明に記した ③ペロブスカイト型は薄く、軽く、曲げられ、壁面や車の屋根にも設置できる ④材料を塗って乾かす簡単な製造工程なので価格は半額にできる ⑤ペロブスカイト型の2030年の設置可能面積は東京ドーム1万個分、発電能力600万キロワット(原発6基分) ⑥日本発の技術だが量産で先行したのは中国企業 ⑦基礎的部分の特許を国内でしか取得しなかったので、海外勢は特許使用料を払う必要がない ⑧従来の太陽光パネルも開発・実用化で先行したのは京セラ・シャープの日本勢で一時は世界の50%のシェアを持ったが、国等から補助を受けた中国企業が低価格で量産し市場の8割超を握って日本勢の多くは撤退した 等と記載している。

 このうち、①②③④⑤⑥は事実だろうが、⑦は、「特許を国内でしか取得しなかった」という点で、あまりに価値がわからず、世界で売るつもりもなかったと言わざるを得ない。何故なら、この状況なら、日本企業であっても、ペロブスカイト型太陽電池は国内ではなく海外子会社で製造した方が有利で、⑧ともども、せっかく機器を製造してエネルギーを自給できるチャンスだったのに、自らそのチャンスを投げすてているからである。

 しかし、ビルや住宅に取り付けて太陽光発電し、都市自体を仮想発電所にするには、ペロブスカイト型太陽電池は重要なアイテムになるため、安価で良いものができれば外国製でも買わざるを得ず、日本の技術はここでも置いてきぼりになりそうだ。そして、この調子では、財源をひねり出せそうにないのである。

ロ)蓄電池について
 *1-3-2は、①一般家庭が1ヵ月に使う電気200万戸超の太陽光発電電力(石油火力発電換算で200億円分)が使われず捨てられ ②九電は今年度、出力制御で受け入れない電力が最大7億4000万kwhに達すると発表 ③蓄電池に電気を溜め、電気が必要となる時間帯や市場で高く売れる時間帯に放電する取り組みが始まった ④住友商事は北海道千歳市で約700台のEV電池を使って大型蓄電所として北電の送電網に接続する ⑤トヨタは東電HDと提携し、新品EV電池を大型蓄電システム化して送電網に繋ぎ、再エネ電力を有効活用する実証を始める ⑥NTTは再エネ電源を確保するため、その電力子会社がJERAと再エネ会社を3000億円で買収する ⑦4月のG7環境大臣会合で、2035年に温暖化ガスを2019年比60%削減が確認され、異次元の再エネ導入に踏み込まないと達成不可能な数字 ⑧日本のEVは昨年やっと新車販売の2%に達したが、日本全体が保有する自動車のわずか0.25% ⑨EVグリッドは燃料費のかからない究極の国産エネルギー、再エネを限りなく無料に近づける挑戦 等と記載している。

 このうち①②は事実だろうが、まだ解決せずに同じことを言っているのが呆れるのである。また、③④⑤⑥のように、蓄電池に電気を溜めて必要な時間に放電するのは、太陽光発電を導入した当初から言っていた当たり前のことなのに、⑦のように、今年のG7環境大臣会合の結果としての異次元の再エネ導入として、今頃あわてているのはむしろ驚きだ。

 また、⑧のEVも、2000年代前半には実用化され市場投入もされていたのに、散々、EV普及の足を引っ張った挙句、まだ「日本の普及率は自動車全体の0.25%しかない」等と言い、今頃になって⑨のようなことを言っているのは恥ずかしくないのかと思う。今なら、「EVには蓄電池だけでなく、ペロブスカイト型太陽電池をモダンに搭載して、発電しながら走るEVに」と言うのが、やるべきことであろう。

 *1-3-3は、⑩南オーストラリア州は再エネ普及で世界の先頭を走り ⑪太陽光・風力の発電量は州の年間需要157億kwhの約6割に相当し、2030年にすべての需要を賄って2050年には需要の5倍の供給能力を備えて輸出を見据える ⑫米テスラ等の蓄電大手が商機とみて同州に相次ぎ進出し、再エネ・蓄電池関連投資は60億豪ドル(約5500億円)超 ⑬日本で再エネ90%、残り10%を水素火力発電で補う場合、蓄電池が大量に必要で蓄電池が現在の価格なら日本の発電コストは2倍になる ⑭IEAは世界の脱炭素シナリオも2050年の再エネ比率を8~9割とみる ⑮電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギ ⑯有望なのはEVの活用で ⑰シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは岩石を熱してエネルギーをためる技術を開発し、コストを従来の蓄電池の1/5にした ⑱蓄電コストをどこまで下げられるか、脱炭素時代の電力は蓄電を制するものが覇者となる と記載している。

 このうち、⑩⑪⑫は、日本の農林漁業地域でも全く同じことができ、オーストラリアより前からそう言っていたのに、「日本には適地が少ない」「日本には国産エネルギーはない」等々の変な理屈を重ねて変革しなかったことが他国より遅れた原因であるため、こういうことを言っていた人は、重大な責任を感じるべきなのである。

 また、⑬のように、日本でやると何でもコスト高で、その結果、従来のやり方を踏襲するばかりで何も進まず現在に至っているが、コストを下げるのは工夫次第で、例えば、大量の蓄電池が必要でも、i) 原料を海底から採掘して国産化したり  ii) 安価な材料に変更したり  iii) 蓄電池ではなく水素を作って保存し、水素発電でバックアップしたり など、方法は多いのだ。

 そして、その国の事情に合わせて方法を組み合わせれば、⑭のIEAの世界の脱炭素シナリオ(2050年の再エネ比率を8~9割)は容易に達成できる筈で、それこそ高コストの上に激しい公害が発生する原発の出番などはない。

 従って、⑮⑯の電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギというのは事実で、EVの活用が有望というのは一つの選択肢だが、⑰のような他の方法もあれば、水素にして保存する方法もあるため、⑱の蓄電コストは工夫次第で下げられるのだ。そして、工夫がなければ、日本がまた敗退するのも明確なことである。

ハ)列車と送電線について ← インドの列車事故から


    2023.6.3ANN      2023.6.4TBS       2023.6.5日テレ  

(図の説明:左・中央・右図のように、日本のTV各局がインドのオディシャ州で起き、275人の死者を出した列車事故について報道しており、原因は、列車の進路を制御する電子連動装置の不具合のようだ。しかし、3日たっても重機で列車を釣り上げて対応した様子がない)

 インドのアシュウィニ・ヴァイシュナヴ鉄道相が、*1-4-1のように、「インド東部オディシャ州で起きて死者275人・負傷者1175人を出した列車事故は、列車の進路を制御する電子連動装置の変更がおそらく原因だろう」との見方を示されたそうだ。

 また、インド鉄道委員会のジャヤ・ヴェルマ=シンハ氏は、「2本の旅客列車が、青信号の下、時速130kmの速度制限を守って走ってきて本線ですれ違う筈だったが、1本の急行旅客列車が誤った信号で支線に入るよう指示を受け、支線にいた貨物列車に衝突して、脱線した車両が対向線路の旅客列車に衝突して起こった」「電子連動装置に問題はなく、信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだが、事故原因調査委員会がいずれ明らかにする」とされている。

 そして、モディ首相は、「責任者を厳正に処罰する」としておられるが、広島G7サミットでクアッド首脳会合に出席した後、*1-4-2のように、南太平洋のパプアニューギニアで太平洋島しょ国首脳と会合を開き、太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に気候変動対策・食糧安全保障・デジタル技術などでの支援を打ち出して「我々は多国間で島しょ国とのパートナーシップを強化する。自由で開かれたインド太平洋を支持する」と言っておられたため、その影響で誤った信号が出されたのでなければよいがと思う。

 いずれにしても、インドの鉄道はまだ古そうなので、高架にして燃料電池列車か新幹線か超電導リニアを走らせるように、国土計画を作り直してはどうかと思われた。なお、この時、鉄道線路に沿って送電線を敷設すれば、一度の工事で地方の再エネで発電した電力を大量に使う地域に送ることができるため、日本のインフラ関係企業がこれらのアドバイスを行い、インドの若者を雇用して、インドで製造するように手配し、受注すればよいのではないだろうか?

(2)G7気候・エネルギー・環境相会合から


  2023.3.21日経新聞       2021.8.9BBC       2023.6.2日経新聞

(図の説明:左図のように、産業革命前と比較して陸地の気温は既に2度上昇しており、中央の図のように、原因は温暖化ガスの排出という人為的なものだ。そのため、世界は温暖化ガスを排出しない再エネを急拡大しているが、公害や排気ガスを排出しないという要請も当然あるのだ)


 2021.3.9中日新聞     2021.8.4Jetro        2023.2.28日経新聞

(図の説明:左図のように、2020年までの発電比率とその後の推計で、各国は著しく再エネ比率を伸ばしているが、日本だけが意図された低迷状態にある。また、中央の図の太陽光発電コストは設備容量が増えるに従って低減しており、これが装置産業の大原則だ。なお、右図のように、太陽光発電機器の種類が増えるにつれて、太陽光発電できる場所も広がる)

1)気候・エネルギー・環境相会合の全貌
 G7気候・エネルギー・環境相会合は、*2-1のように、①自動車分野の脱炭素化は2035年までに2000年比でCO₂排出量を50%削減する進捗を毎年確認することで合意したが ②欧米が求めていたEVの導入目標ではなくHVも含めた脱炭素化を目指すことになり ③石炭火力発電廃止の時期は明示せず、化石燃料のCO₂排出削減対策が取られない場合は段階的廃止で合意し ④ ⑤環境分野ではレアメタルなどの重要鉱物は、G7各国が中心となってリサイクル量を世界全体で増加させること ⑥プラスチックごみによるさらなる海洋汚染を2040年までに0にする目標が盛り込まれ ⑦西村環境大臣は「共同声明で気候変動や環境政策の方向性を示すことができ、今後はこの方向性に沿った具体的な対策を進めていくことが重要」述べられた と記載している。

 このうち①②は、世界でEVの普及が進む中、欧米各国が「EVの導入目標を定めるべきだ」と主張したのに、日本はHVが多いとして反対したり、既存のエンジン車で活用できる「合成燃料」の技術開発を強調したりしたのは、日本のガラパゴス化の始まりである。何故なら、EVの方が、部品点数が少ないため、コスト低減しながら生産性を上げ易い上に、操作性もよく、気候・エネルギー・環境のどれをとっても優れているからだ。そのため、これからはEVが世界で選択され、欧米各国が「日本は困った国だが、まあ、ご勝手に」を考えたのが目に見えるようなのだ。

 また、工場などから排出されたCO₂を原料に合成燃料を製造すれば排出量を実質0にできるともしているが、わざわざCO₂をエンジン車の合成燃料に使用して都市で排気ガスを出すより、農地・山林・農業用ハウス等に撒いた方が植物の成長がよくなることは多くの研究が示している。

 さらに、③の石炭火力発電は、段階的廃止に向けて期限を設けるのが正道であるのに、日本が「アジア各国の現状」などと称して廃止時期を明示せず、「(コストをかけて)CO₂排出削減の対策が取れない場合のみ段階的に廃止する」と主張したのは、方向が誤っている。

 再エネについては、ペロブスカイト型太陽光発電パネルを普及させるなどして原発1000基分に相当する1テラワットまで拡大させるのが、最もコストが安く、電力需要地でスマートにまとまった電力を得られる。そのため、2030年までに洋上風力発電を原発150基分に相当する150ギガワットにする必要がどこまであるのか、海の環境破壊を防止するためにも、慎重に進めた方がよいと思われた。

 EVのバッテリーや半導体材料となるリチウム・ニッケル等の重要鉱物は、中国との間で獲得競争が激しく、経済安全保障上の観点からも安定確保に向けてG7で1兆7000億円余りの財政支出を行って鉱山の共同開発などを支援するそうだが、日本政府は自国の排他的水域内にある重要鉱物や天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりして税外収入を増やそうとはせず、高いコストを支払って資源を輸入し、それによって他国との関係を保とうとしている。しかし、これは、国民を犠牲にしていると同時に、あまりに安易だ。

 しかし、「プラスチックごみは、海洋汚染を引き起こす」として2040年までに0にする目標にしたそうで、リサイクルしたり、ゴミとして回収し燃やしつつ発電もして、土壌や海洋に廃棄していないプラスチックまで禁止して国民を不便にする必要は全くないのに、自国民を犠牲にすることについては非常に積極的で、私には全く意味不明だった。

2)G7で強く打ち出された再エネへの移行
 G7広島サミットの共同声明で採択された気候変動・エネルギー分野は、*2-2-1のように、①再エネへの移行を強く打ち出し ②「パリ協定」で掲げた産業革命前からの気温上昇を1.5°に抑える目標達成に向けて太陽光発電を現在の3倍以上に増やす目標を掲げるなど世界の再エネ移行を進める土台を作り ③首脳会議でグローバルサウス(新興国・途上国)への再エネ移行支援が入ったが ④先進国はパリ協定で気候変動対策として年間1千億ドルを支援すると約束したが、果たしていない ⑤再エネのコスト低減、中国に依存するレアアース等の重要鉱物の供給網確保を示した「クリーンエネルギー経済行動計画」も別に採択した ⑥脱化石燃料では「段階的廃止」を打ち出したが、天然ガスへの公的投資を容認するなど抜け道も多い としている。

 また、*2-2-2は、⑦世界で太陽光等の再エネ導入が急拡大し ⑧IEAは2024年の再エネ発電能力が約45億kwh(2021年の化石燃料に匹敵)になる見通しを公表 ⑨再エネ発電能力は2024年に全電源の5割規模だが、火力等に比べて稼働率が劣るため実際の発電量は5割以下 ⑩再エネは24時間は発電できないが、原発4500基分 ⑪安定電源としての活用には太陽光に比べて導入が遅れる風力の拡大など電源構成の多様化と送電網整備が課題 ⑫再エネ導入は、中国・EUが牽引役で米国・インドも存在感を増す ⑬日本の出遅れは鮮明 ⑭各国は燃料を他国に依存せずに済むとみて、再エネ導入を急いだ ⑮再エネの発電は天候に左右されやすく、変動があるため、発電量の安定には火力や蓄電池を組み合わせる必要 としている。

 このうち、①②③はよいことだが、④の年間1千億ドルもの支援は、単なる金銭的援助ではなく、(1)4)ハ)で述べたインドの事例のような、再エネ移行と国土計画・鉄道・送電線の設置等を組み合わせ、最小のコストと労力でスマートに先進国に追いつく計画と助言が必要だ。

 また、⑤については、(2)1)で述べたように、日本政府も、自国の排他的水域内にある重要鉱物た天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりできるようにすべきだ。

 が、⑥のように、いつまでも化石燃料にしがみついたり、*2-2-3のように、原発にしがみついて再エネ発電事業者に対して出力制御を求めたりしているのが、日本で発明された太陽光発電や風力発電等の再エネが、⑦⑧⑨⑫⑬⑭のように、世界で急拡大し、これを中国・EUが牽引して米国・インドも存在感を増しているのに、日本が出遅れている原因そのものである。

 そして、これには⑩⑪のように、「再エネ発電は天候に左右されやすくて変動があるため、発電量の安定には火力発電を組み合わせる必要がある」「安定電源としての活用には太陽電源構成の多様化が必要」などと言って、いつまでも蓄電池や送電網の整備を行わなわず、無駄遣いのバラマキばかりしてきたことが、日本が債務残高だけはとびぬけて世界一だが、高コスト構造や生産性の低さは変えられなかった原因なのだ。

3)原発推進法とは!
イ)原発の課題は残ったまま、脱炭素も進まず
 原発は1966年に商用運転を開始して57年にもなるが、原発立地地域には、今でも国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われており、保存されている使用済核燃料には核燃料集合体1体当たり25万円程度の使用済核燃料税が支払われ、多額の原発投資による固定資産税収入もあって、これらは全て国民が負担している(https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_hyogo34/02/0224_jre/index.htm 参照)。そして、原発は、現在でも課題が多く残っており、未だ解決されていないのだ。

 このような中、安全性や経済性の問題に加え、増え続ける使用済核燃料や核燃料サイクルの失敗といった課題が解決されないまま、原発推進関連法が国会で成立し、「原発依存を減らす」から「原発を最大限活用する」に政策が大きく転換された。

 *2-3-1は、その具体的内容を、①エネルギーの安定供給と脱炭素化対応を理由に ②60年超の稼働を可能にした ③政府は原発が実際にどれだけその役割を果たせるか、なぜ原発を「特別扱い」するかについては答えず、「あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返しただけだった ④運転期間上限は導入時には「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されたが、政府は「安全規制ではなく利用政策上の判断」と主張した ⑤今回の転換は経済産業省の主導で進み ⑥フクイチ事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」も大きく揺らぎ ⑦政府は再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ と記載している。

 玄海原発立地地域の佐賀新聞は、さらに詳しく、*2-3-2のように、⑧原発推進を明確にした「GX脱炭素電源法」が成立した ⑨フクイチ事故後に導入した「原則40年、最長60年」の運転期間規定を原子炉等規制法から電気事業法に移り、運転延長を経産相が認可することで60年超の運転を可能にした ⑩原子力基本法では、原発活用による電力の安定供給や脱炭素社会の実現を新たに「国の責務」とするなど原発に関する重大な政策転換をした ⑪気候危機対策として原発に過大な投資をすることも合理的ではなく、エネルギー政策の失政の歴史にさらなる1ページを加える ⑫オープンで公正な議論を通じて見直しを進めるべきだった ⑬気候危機対策では電力の脱炭素化が急務で、多くの国がそれを進める中、大きく後れを取ってきたのが日本である ⑭1kwhの電気をつくる時に出るCO₂はG7中最大だが ⑮各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発拡大ではない ⑯日本の遅れは脱石炭・再エネ・省エネのすべてが進んでいないことが原因 ⑰原発の運転期間延長や革新的な原子炉の開発などの政府が進めようとしている原発推進策が短期間でのCO₂の大幅削減に貢献しないことは明白 ⑱多くの政策資源や資金が原子力に投入されることで、短期的な排出削減に最も効果的な再エネの拡大や省エネの推進が滞る懸念がある ⑲このままでは化石燃料への依存が続き、安価な電力の安定供給もCO₂排出削減も実現せず、早晩、政策の見直しを迫られる ⑳既得権益と前例にこだわり、正当性も科学的根拠も欠くこのような政策が、いとも簡単に通ってしまうことが日本のエネルギー政策の大きな問題 等と記載している。

 ②⑨の原発の運転期間について、日本は「原則40年、最長60年」を10年毎に安全レビューを受けることによって60年超の稼働を可能にしたが、米国は「原則40年、最長60年」のまま、フランス・イギリスは「運転期間の上限規定なし、10年毎に安全レビューを受けることによって運転延長可能」、カナダは「サイト毎に規定」、韓国は「運転上限に関する規定なし」である(https://eneken.ieej.or.jp/data/8397.pdf 参照)。

 つまり、日本は原発についてのみフランス・イギリスの制度を真似したのだが、フランス・イギリス・カナダ等は固定資産の耐用年数を会計上も税法上も決めておらず、全ての固定資産について実態に合わせて会社が選んだ耐用年数を使用することができる。しかし、それでも適切な耐用年数を設定するため、問題が起きないのである。

 一方、日本は利益の状況に合わせて固定資産の耐用年数を決めるのを防ぐため、税法で固定資産の耐用年数を決めており、会計上も同じ耐用年数を使うことが多い。そして、もし法律で耐用年数を決めていなければ、日本政府や経産省は、①③④⑤⑥⑦に示されるように、科学的根拠が乏しくても、何とかかんとか言って運転期間を恣意的に変えてしまうリスクがあるため、私は、日本では「原則40年」を変えない方がよいと思っていたのだ。

 また、⑧⑰のように、気候危機対策としての脱炭素が目的なら原発を推進する必要はなく、⑪⑬⑭⑮に書かれているとおり、電力の脱炭素化が急務なのであり、各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発ではなく、これらの進んでいないことが日本の遅れの原因なのである。

 にもかかわらず、①⑩⑪⑱⑲のように、電力の安定供給と脱炭素社会の実現には原発活用が必要不可欠と強弁して原発の推進を「国の責務」とし、原発に無駄な投資をすることで、本来ならCO₂の排出削減に最も効果的な再エネの拡大・送電線の敷設・給電スポットや蓄電池の整備・省エネの推進にまわせた筈の資金が減り、その結果、⑲のように、いつまでも化石燃料への依存が続いて安価な電力供給もCO₂排出削減も実現しない。そのため、⑫のように、オープンで公正な議論を通じて見直しを進めれば、各分野の専門家から熟慮した意見が出て、③のような、お粗末なことにはならなかった筈である。

ロ)フクイチから出た汚染水について←「その場しのぎ」の繰り返しでは・・
 *2-3-3は、①汚染水の大元は原子炉建屋へ沁み込む地下水や雨水で ②大量の地下水の噴出は建設が始まった1960年代から問題だった ③安定した岩盤の上に原発を建て、海上から楽に資材を運搬するため、地面を20メートル以上掘り下げたことが原因で ④地下水の発生と排水は運転を開始した後も続いた ⑤2011年のフクイチ事故で地下水はデブリの放射性物質を含み汚染水になった ⑥東電は直後は海に流したが、国内外から酷評されて汚染水と放射性物質を概ね抜き取った処理水を地上タンクに溜めた ⑦2013年にタンクからの水漏れが問題になった ⑧国と東電は建屋に入る前の地下水を海に流すため、2015年に「処理水は関係者の理解なしには処分しない」と漁業者に約束した ⑨実際はタンクが敷地に満杯になるまでには「理解」が進むだろうと楽観視していた ⑩3年後に処理水に取り除かれた筈のストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚した ⑪福島県内の除染で出た汚染土も原発近くの双葉・大熊両町の“中間貯蔵施設”に溜め ⑫当初は最終処分場にする筈だったが、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束し ⑬除染土の県外搬出を法律に明記したが見通しは立たない ⑭国は各地で原発の再稼働・新増設を進めるが、増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理等の深刻な問題から目をそらしている ⑮東電や国の対応は「その場しのぎ」だ としている。

 このうち③の20メートル以上の岩盤があったのに、「海上から楽に資材を運搬するため」に地面を20メートル以上も掘り下げ、予備電源まで低い場所に置いていたのは、地下水の問題もさることながら、この地域は大地震・大津波の発生可能性が高いことを無視した判断だったし、①②④は、この間に地下水や雨水が沁み込むのを止める工事をしなかったのだろうか?

 そして、これらのリスクを無視した判断の連鎖が、2011年の大津波によるフクイチ事故に繋がり、その後、多額の国費を使って国民に負担をかけているのである。

 にもかかわらず、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のように、フクイチ事故でデブリにふれた地下水が放射性物質を含む汚染水になり、最初はそれを海に流したが、国内外の酷評を受けて放射性物質を概ね抜き取ったとされる“処理水”を地上タンクに溜め、タンクが敷地いっぱいになる頃には国民もフクイチ事故や放射性物質のことを忘れているだろうと楽観視していたが、タンクから水が漏れたり、処理水にストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚したりしたのは、当事者は放射性物質に慣れて鈍感になっていると同時に、国民の命をないがしろにしている。

 また、⑪⑫⑬の福島県内の除染で出た汚染土についても、、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束しても、わざわざそれを受け入れて最終処分場を作らせる自治体があるわけがないため、フクイチ近くの双葉町か大熊町に密閉された施設を作って封じ込めるのが最も低コストで合理的でもあったのに、⑮のように、その場しのぎの言葉を繰り返したのは、国民を馬鹿にしていたと言わざるを得ない。

 さらに、⑭の増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理は、本土から離れた場所にある無人島から入る最終処分場を作るか、密閉した容器に入れて3000m以上深い日本海溝の窪みに投棄or保管するなど、安価で合理的な方法が考えられるにもかかわらず、国はこれらの深刻な問題を解決しないをまま、各地で原発の再稼働・新増設を積極的に進めており、その調子で「言うことを信じよ」と言っても無理があるのだ。

ハ)原発の発電コストは安いか?
 「原発は発電コストが安い」と言われてきたが、上に書いたとおり、原発が他の発電方法と違うのは、i)保存されている使用済核燃料に使用済核燃料税がかかって電気料金に加算され ii)国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われ iii)平時もトリチウムを含む排水を出し iv)事故時は除染や汚染水の処理に多額のコストがかかってそれを国民が負担し v)高レベル放射性廃棄物の処理で多額のコストがかかることは確実で vi)国民が税金か電気料金かでそれらを支払うため電力会社内の原価計算に現れないステルス・コストも著しく多い ということだ。

 それに加えて、*2-3-4は、電力会社内の原価計算でも、①東電の公表資料から、原発の発電コストは火力等の市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がり ②東電が委員会に提出した資料では東電が他社から購入する火力等の電力の市場価格は20.97円/kwh ③東電の原発にかかる発電コストは34.25円/kwh ④2020年4月~23年4月の卸電力市場の平均価格は14.82円/kwhであるため、仮に原発を全基再稼働しても原発の発電コストは市場価格平均を上回り ⑤政府は原発が再稼働すれば電力料金の抑制に繋がると説明するが、原発は燃料代が安くても維持費が高いため、電気料金の抑制効果は殆どないと見るべき としている。

 なお、①~④のように、既に作ってしまった原発は稼働させなくても維持費はかかるのだが、電力会社の原価計算に現れないステルス・コストまで加えれば、原発の発電コストは著しく高い。そのため、⑤のようにはならず、最も安価で、地球環境によく、エネルギー自給率を高められるのが再エネとなって、原発の新増設などあり得ないわけである。

二)事実に基づかない発言が多く、やることが中途半端で徹底しない日本
 *2-3-5は、①ドイツは1986年のチェルノブイリ原発事故で原発支持だった国民の意見が変わり、社会民主党と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と脱原発で基本合意して2002年に脱原発法を制定した ②福島の原発事故後、メルケル首相が「日本でも原発事故が防げないなら、ドイツでも起こりうる」として「脱原発が妥当」と結論づけた ③日本では「ドイツが脱原発できるのは、原発大国フランスから電力を輸入しているからだ」という論調が多かったが、実際にはフランスの方が輸入超過だった ④「ドイツは褐炭の依存度が高く、気候変動対策に逆行する」との指摘も聞くが、ショルツ政権は2030年までに石炭火力廃止、自然エネルギー80%にする目標を持っている ⑤目標を定めて道筋を示せば、新たな技術や仕組みも開発される ⑥日本はフクイチ事故から12年で原発回帰にかじを切り ⑦最大の問題は長期的ビジョンを持たず、短期的利益を優先し、業界の既得権益を守ること ⑨先日も関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧して公正競争を妨害した と記載している。

 このうち①②は、さすがに理論の国ドイツだと思うが、緑の党党首もメルケル首相(物理学者)も優秀な女性であるため、こういう思い切った判断をして進めることができたのだろう。それに対し、私も日本のメディアで③の論調をよく見かけたが、実際にはフランスの方が輸入超過だったとは、本当にさすがである。

 また、④⑤については、ショルツ首相も2030年までに石炭火力を廃止して自然エネルギーの割合を80%に引き上げることを目標としており、何とかかんとか言って未だに石炭火力発電所を建設している日本とは大きく異なる。そして、政府がしっかりした目標を提示すれば、民間企業も、安心して新技術の開発に投資したり、組織再編して商品化し、新しい販売網を築いたりすることができるため、イノベーションも進む。

 一方、フクイチ事故を起こした日本は、⑥のように、12年で原発回帰にかじを切り、⑦のように、安い電力を供給して産業の生産性を上げたり、エネルギー自給率を上げたりするという長期的ビジョンを持たずに、“足元では”などと言って常に短期的利益を優先し、大企業の既得権益を守るため、いつまでも状況が改善しないのである。

 ⑨の関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧していた事件も、大手電力会社の送配電網しかなく、新電力もその送配電網を使って送電しており、送電子会社が大手電力会社の支配下にあるため必然的に出てきたことだ。

 これについては、2015年6月に電力自由化の一環として電気事業法が改正され、2020年4月から送配電部門の中立性を確保するため、法的分離(送配電部門を発電・小売部門と別会社にすること)による発送電分離が行われたが、法的に別会社になっても大手電力の支配下にあれば中立性が保たれない。そのため、中立性を保つには、資本や役員関係も分離し、送配電会社が複数存在するようにして、送電条件を市場競争に委ねなければならないのだ。

(3)G7広島サミットと農業


          Sustainable Brands           農林水産省

(図の説明:左図は世界人口の推移で、2020年以降はアフリカで最も増える予想だが、これは「それだけの人口を養う食料があれば」の話だ。また、中央の図のように、アフリカは未だ日本の第二次世界大戦前後までと同じピラミッド型《多産多死型》の人口構成をしている。なお、食料の枯渇は戦争の始まりになるが、日本の食料自給率は令和3年度で38%と次第に低くなってきており、これは他のG7諸国より著しく低く、世界の食糧事情への貢献もしていない)

1)食料安全保障に関する首脳宣言の全貌
 G7広島サミットは、*3-1のように、食料・農業分野は農相会合の結果を受けて首脳宣言を発表し、①ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料安全保障が悪化しているとして「深い懸念」を表明し ②ロシアが世界有数の農業大国であるウクライナを侵攻したことで、食料供給体制が脆弱な国の食料安保が脅かされていると批判し ③G7としてそうした国への支援を続けていくと表明し ④食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるとして ⑤既存の農業資源を活用した生産性向上や技術革新、環境に配慮した持続可能な農業の推進を提起し ⑥学校給食等を通じた健康的な食料確保の重要性も提起し ⑦不当な輸出制限措置回避の重要性も表明して、G20参加国にも要請した そうだ。

 このうち、①②③のロシアの行動は、日本はじめG7各国が行った“制裁”のお返しであるため、ウクライナから食料を輸入していた第三国にとっては大きなとばっちりだが、古くからある「目には目を」の論理には沿っており、G7も含めた戦争と破壊の開始が原因と言わざるを得ない。

 また、④については、G7の中で食料自給率が38%と最も低く、食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるのは日本自身であるため、G7で話し合う前に効果的な行動をすべきだったのは日本である。さらに、⑤の「環境に配慮した持続可能な農業の推進」も、自然を利用して行う産業が自然環境に大きく依存するのは当たり前であるため、「今さら」感が否めない。

 なお、「既存の農業資源を活用した生産性向上」が具体的に何を指すかは不明だが、仮に米の消費が減ったから、(稲作を減らすのではなく)米の消費を奨励するのなら、それは栄養面から考えて時代錯誤だ。また、「技術革新による生産性の向上」は重要で、それには自動化・大規模化・需要の多い作物への転作が必要だが、それを妨げる補助金制度は頑固に残っているのだ。

 「栄養や食物に関する指導は小学生時代から始める」という意味で、⑥の学校給食等を通じた健康的な食料確保は重要だが、これも日本国内で地域差が大きい。その上、⑦のように、「不当な輸出制限措置回避の重要性」も表明したそうだが、G20参加国に要請する前に日本のような気候の恵まれた国で食料自給率がたった38%と輸出より輸入が著しく超過するような政策は止め、足りない国に輸出できるようにするのが最重要課題であろう。

 さらに、*3-1は、G7首脳は首脳宣言とは別に世界の食料安全保障強靭化に向けた「広島行動声明」を出して、⑧世界は「現世代で最も高い飢饉のリスクに直面」していると警告して危機対応の必要性を訴え ⑨飢饉回避のために民間等からの人道・開発支援への投資増加が必要と強調し ⑩農業貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿うよう明記し ⑪全ての人が栄養価の高い食料に安定的にアクセスできることが不可欠だと指摘し ⑫女性や子どもを含む弱い立場の人々や小規模零細農家への支援強化 ⑬既存の国内農業資源の公正かつ適切な利用等の行動を求めた とも記載している。

 ⑧は事実だが、恵まれた気候を持っているのに海外からの食料に大きく依存している日本から⑩⑬を言うのはおこがましすぎる。また、⑨⑪の飢饉回避と全ての人の栄養価の高い食料への安定的にアクセスには、国毎に過度な人口増を抑えて適正人口を保つことが必要で、そのためには教育や産業基盤への投資が重要になるため、まず政府が人道・開発支援を行い、民間投資の呼び水にするのが通常の順番だ。それに加え、⑫のように、小規模零細農家への支援を強化し続ければ、自動化・機械化による生産性向上は望めず、その結果、教育の行き届いた豊かな暮らしも健康的な食料確保もできないため、どこかで現状を突破をさせる必要があるのである。

2)日本は食料安全保障の〝弱者〟のままでいいのか?
 *3-2は、①G7農相会合の共同声明は周囲を海に囲まれ食料の大半を輸入に頼る食料安全保障の「弱者」である日本の意向を反映した ②自国生産の拡大と持続可能な農業を両立する方針をG7で共有した ③日本の農業は、少子高齢化で農家・農地の激減という恒常的課題を抱える ④G7には米国・カナダ等の食料の輸出大国も多いため、輸入国の生産拡大をG7の議題にすることはタブーだった ⑤日本の輸入依存度低減に直結する自国生産拡大は、食料安保に不可欠 ⑥G7は途上国も含めた食料輸入国の自国生産拡大を容認 ⑦ウクライナ危機後の食料供給不安定化・頻発する気象災害・世界的人口増加で、G7内でも食料不足にある現状認識が広がった ⑧生産拡大と持続可能な農業の両立という条件で環境意識の高い欧米の合意を得た ⑨「日本は小規模農家が多く、どう(生産性を拡大)していくかは、イノベーション(革新)が重要になっていく」と野村農水相は強調した と記載している。

 このうち①は、「海に囲まれているから、食料の大半を輸入に頼らざるを得ず、食料安全保障の弱者である」としている点で誤りだ。何故なら、広い排他的経済水域に囲まれているからこそ、水産業による食料生産もでき、良質のたんぱく質を入手することが容易な筈だからで、これが細ったのは、環境を壊し、工夫もなく漁船の燃費を高止まりさせていることが原因だからだ。

 また、②⑤⑥⑧は当たり前のことで、④については、ドイツ・イタリアを含むG7の要請ではなく、日本が勝手に忖度していたのであり、⑦によって、日本が認識を新たにしたにすぎない。

 さらに、③については、農家・農地を激減させたのは、農家を生かさず殺さずにし続けて農業を魅力のないものにしてしまった日本の農業政策の失敗であり、少子高齢化の時代でも他のG7諸国は農家や農地を激減させてはいない。日本の農業政策の失敗の本質は、⑨のように、小規模農家を小規模のまま補助することによって、大規模化しなければできない自動化・機械化等の生産性向上をもたらすイノベーション(革新)をやりにくくしてきたことなのである。

3)農水省の食料・農業・農村基本法改正案について
 *3-3は、①農水省が食料・農業・農村基本法改正に向け、緊急時の食料増産等を柱とする「中間取りまとめ」を公表した ②1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが実現せず、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機等の食料確保が脅かされる事態が起き ③こうした状況変化を受けて農水省が法改正を議論し始め、2024年の通常国会に改正案提出を予定 ④焦点の1つは緊急時に政府全体で意思決定する体制を整え、農産物輸入急減時に不足が予想される農産物を増産できるようにすることで ⑤どこでどんな作物を作るべきかを政府が生産者に指示することなどを念頭に置き ⑥買い占め防止や流通規制等もテーマとなる ⑦混乱を避けるため、行政命令を発動する基準を明確にし、生産・流通の制限で不利益を被る業者への補償も用意しておく必要 ⑧国民1人1人の「食品アクセス」改善に平時から取り組むことを提起した点は評価できる ⑨日本は大量の食品を廃棄する一方、生活困窮世帯には食べ物が十分に行き届いていない ⑩輸入に支障が生じたときの影響を和らげるため、小麦・大豆・飼料作物など輸入に頼る作物の増産も盛り込んだ ⑪そこで必要になるのが水田の一部の畑への転換で ⑫食料の余剰を前提としてきた農政から、不足も視野に入れた農政に変わることがいま求められている と記載している。

 が、①②の1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが、実際の食料自給率が次第に下がった理由は、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機ではなく、「食品は輸入すればよい」と軽く考えて農業の構造改革を怠り、耕作放棄地を増やし、優良農地をつぶして宅地等にしたためであり、「国の長期計画が欠けていたから」にほかならない。

 また、③の法改正の議論はよいが、④⑤のように、国が生産物を決めて強制的に増産する共産主義に酷似した制度は、(理由を長くは書かないが)成功したためしがない。その理由は、国が強制力を発揮する場合は、まさに⑥⑦のように、規制を強化して国民の行動を制限し、⑦のように、事業者に補償することしか思いつかないからである。

 従って、国民が食料不足に陥ることなく豊かに暮らし続けられるためには、日本の気候や環境をフル活用して農林漁業を振興し食料自給率を100%以上にすることが必要で、それは⑩⑪のような転作をはじめとした工夫次第でできる。また、⑧のように、国民が心配なく食品にアクセスできるようにするためには、そのための国土計画や適切な人材配置が必要であり、少子化で労働力が不足するのであれば、外国からの移民や難民も使って目的を達成すればよいだろう。

 なお、⑨のように、大量の食品を廃棄するのは、生活困窮世帯に食べ物が十分に行き届いているか否かを問わず、その食品を作った人に対して傲慢この上ない態度である。そして、日本で⑫のように食料が余剰していたことなどなく、足りないからこそ海外からの輸入超過が続いてきたのだが、これまでは製造業が輸出超過だったため食品の輸入超過を続けることが可能だったのだということを忘れてはならない。

4)日本で新たに作られるようになった作物

 
        野菜の原産地           保存蚕品種の原産地

(図の説明:左図は、現在、日本で普通に作られている野菜の原産地と伝来時期を示したものだ。また、右図は、保存種の蚕の原産地で、もともとは原産地によって特徴が異なっていたが、次第に混血させて長所を集めた蚕が広がっているとのことである)

   
   アーモンドの花      レモンの花      オリーブの実

(図の説明:左図は、アーモンドの花と実、中央の図は、レモンの花と実、右図は、オリーブの実で、少し前まで日本では作られず輸入に頼っていたが、近年、作られるようになった作物だ)

 現在は日本で普通に作られている野菜や蚕も、古代・中世・近代・現代等の時代毎に日本に伝来し、品種改良を重ねて定着したものだ。そのため、新たにアーモンド・レモン・オリーブなどが栽培され始めたのも食生活の変化とともに自然の流れで、これからも、気候変動とともに栽培できる作物が多様化することは容易に推測できる。

イ)アーモンド
 サクランボ・モモ等の果物生産が盛んな山形県で、*3-4-1のように、アーモンド栽培が注目を集めており、アーモンドは①果樹の手入れが簡単で ②乾燥させると1年中販売でき ③農家の冬場の収入源にもなる ため、県産ブランドとしての知名度向上と販路拡大を目指すそうである。

 アーモンドの女王と呼ばれる高級種は山形県のブランドになるだろうが、アーモンドの花は桜の花に似ており、食べられる実がなる点で桜よりよいため、(私は桜のかわりにベランダの植木鉢に植えているが)耕作放棄地に植えるだけでなく、並木に使ってもよさそうだ。

ロ)レモン
 さわやかな酸味で、幅広い料理や飲み物に使われるレモンも、*3-4-2のように、通年で温暖な瀬戸内海地域産だけでなく、近年は近畿・首都圏にも栽培地が広がりつつあるそうだ。もぎたての国産レモンは、皮に防腐剤等がついておらず、安心して皮まで食べられるので、私も近年は国産レモンに切り替えている。

 また、私は佐賀県太良町にふるさと納税をして返礼品としてマイヤーレモンを沢山もらった時に、マイヤーレモンの皮ごとレモンジャムを作ったところ、まろやかな酸味に適度な苦みも加わって美味しかった。また、その時に採取した種を植木鉢に撒いたところ、芽を出して埼玉県の冬を元気で越し、今では1mくらいの木になっている。

 そのため、*3-4-3のように、ポッカサッポロフード&ビバレッジのようなレモン事業を行っている会社が、2019年4月から国産レモンの生産振興を目的として広島県でレモンの栽培を開始し、レモン商品の開発やレモンに関する研究を行い、消費者が使い易くて健康に良いレモン商品の提案を行ってくれるのは有難いと思う。

ハ)オリーブ
 オリーブ生産の98%以上は地中海に面した国々で、日本国内に出回っているのはイタリア・スペイン等の輸入品が大半で国産は1%未満だが、国内産地は、香川県の小豆島はじめ、近年は静岡県・大分県等にも広がっているそうだ。

 このような中、*3-4-4・*3-4-5は、①民間企業・農家・団体等が相次いでオリーブ栽培に参入し ②オイルだけでなく、瓶詰・葉を使った茶・化粧品などの加工品も増え ③オリーブの収穫は年に1度で木が強くて作業が少なくて済み ④降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適している と記載している。

 確かに、地中海沿岸が主産地のオリーブなので、④のように、降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適しているのだろうが、多くのタネを撒くと降水量の多い場所でも病気にならず元気に育つものが出てくるため、そういう個体を選んでいけば、③のように、木が強くて降水量の多い場所にも適したオリーブの品種ができるだろう。

 そして、①のように、民間企業・農家・団体等がオリーブ栽培に参加して生産量を増やし、②のように、加工品の種類を増やせばよいと思うが、価格が外国産の倍以上するのでは、いくら健康によいといっても日本産でなければならない理由はなくなる。そのため、価格も世界競争に耐えられるものにすべきなのである。そのためには、オリーブ園で風力発電による電力を副産物にする方法があるのではないか?

 なお、私は料理用の油もオリーブオイルを使うため、オリーブオイルを多く使うことになり、スペイン産を選んでいる。しかし、スペイン産は品質はよいが、干ばつでオリーブの収穫量が半減し、世界的な供給不足と円安があいまって販売価格が上がるのが気になっている。

4)ふるさと納税について
 朝日新聞は、*3-5のように、①「ふるさと納税」の仕組みは歪んでおり、貴重な税収を失わせている ②総務省は自治体間競争の過熱を抑えるため、ふるさと納税の返礼品調達費を寄付額の3割以下、送料・事務費を含めた経費総額を5割以下にするルールを定めたが ③2021年度に136市町村が5割を超える経費を費やし、集めた金の半分以上が税収以外に消えた ④総務省が5割規制の対象にしている経費は、受領証明書送料等の寄付後の経費は対象外だが、上位20自治体で合計63億円が「寄付後」に生じていた ⑤松本総務相は「寄付金の少なくとも半分以上が寄付先地域のために活用されるべき」と説明しており、寄付後の費用も対象に含めるべき ⑥5割基準でも寄付後の費用を対象にした上で、継続的な違反自治体は利用から除外すべき ⑦ふるさと納税は、返礼品を手に入れるため、自らが暮らす自治体の行政サービスにかかる費用負担の回避を認める制度 ⑧地方自治の精神を揺るがす ⑨高所得者ほど恩恵が大きく格差を助長する欠陥もある ⑩財政力の弱い地方を中心にふるさと納税に期待する自治体があるのは事実だが、都市と地方の税収格差是正にしても、返礼品となりうる特産品の有無で寄付額が左右される仕組みは望ましくない ⑪ふるさと納税で多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市の地方交付税減額の妥当性が裁判でも争われてきたが、こうした問題が起きたのも制度自体が歪んでいるから ⑫全国では、ふるさと納税により2021年度だけで4千億円近い税収が失われた ⑬経費ルールの中身や運用を見直すに留まらず、制度の存続を含めて根本からの再考を急ぐべき と記載している。

 この記事に欠けている発想は、i) 都市部は地方で教育費をかけて育てた子を、住民税を支払う年齢になってから受け入れることで得をしていること ii) 地方はその子を育てた住民税支払額の少ない老親を医療・介護等で支えていること iii) 都市部に住民税を支払う年齢の大人が集中する理由は、(東京で2度もオリンピックを開いた例のように)国が都市部に投資を集中してきたからにほかならないこと iv) 都市部で住民税を支払う年齢の大人を機関車に例えれば、地方がすべて客車では引っ張りきれないこと v) そのため、返礼品となる特産品を作った地方を優遇することで競争させていること vi) 地方も地方交付税を待つだけでなく、よい特産品を作るよう自助努力して欲しいこと というふるさと納税制度を提案した私の思いである。

 そのため、①⑦⑬は、「ふるさと納税制度は、歪んでいるから廃止すべきだ」という結論が先にあって、②③⑥⑪⑫の返礼品調達費・経費総額ルールやルール違反等々を持ち出しているが、そもそも集めた寄付金や税金を何に使うかは、その地方自治体の判断に任せられるべきで、それこそが⑧の地方自治の精神である。そのため、「特産品を育てるために、返礼品や返礼品の送料・受領証明書の送付料にどれだけ使うか」も地方自治体の判断に任せればよく、本来は⑤を言うことも不要だ。

 また、④についても、税務申告書の送付料をとる税務署がないのと同様、受領証明書の送料くらい地方自治体が出してよいと思うし、⑨の「高所得者に有利で格差を助長する」という記述は、(必ず誰かが言う安易な反対論だが)教育して高所得者になるような人を出した地方には住民税収が全く入らず、そういう努力をしなかった居住自治体にのみ住民税が全額入る方がよほど不公平なのである。

 従って、上のiv) v) vi) に照らし、⑩の財政力の弱い地方自治体も、国が少ない地方交付税で援助し続けるのを待つだけでなく、都市の住民が欲しがる人気返礼品(=特産品)を作るくらいの努力はして欲しいので、特産品を返礼品にすることは理にかなっているのだ。つまり、過度の結果平等は悪平等になって意欲を失わせ、すべてを沈滞させるということである。

(4)G7における核の議論について
1)核軍縮に関する「広島ビジョン」
 G7首脳は、*4-1・*4-2のように、「1945年の原爆投下で広島・長崎の人々が経験した甚大な苦難を想起させる広島に集い、全ての者の安全が損なわれない核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認する」という「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発表し、内容は①核兵器による威嚇禁止と核兵器不使用(G7の核兵器は侵略抑止・戦争/威圧防止など防衛目的) ②世界の核兵器数減少 ③現実的で実践的な責任あるアプローチを通じて達成される「核兵器なき世界」という究極の目標に向けコミットメントを再確認 ④核戦力とその規模に関する透明性促進 ⑤核分裂性物質の生産禁止条約の即時交渉開始 ⑥包括的核実験禁止条約発効も喫緊 ⑦核兵器なき世界は核不拡散なくして達成できず、北朝鮮に核実験・弾道ミサイル発射を含む挑発的行動の自制要求 ⑧G7は原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると認識 ⑨民生用プルトニウム管理の透明性維持 ⑩民生用を装った軍事用生産や生産支援に反対 ⑪広島・長崎での核兵器使用の理解を高めて持続させる ⑫核兵器による威嚇や使用は許されないと改めて表明 などだそうだ。

 G7サミットを広島で開催し、⑪のように、広島・長崎での核兵器使用への理解を高めたのはよかったと思うが、①②④⑤⑦については、「核兵器による威嚇禁止、核兵器の不使用、核兵器数の減少」には賛成するものの、批判の対象がロシア・イラン・北朝鮮だけであり、「G7の核兵器は、侵略抑止や戦争・威圧の防止等の抑止力である」「核戦力とその規模に透明性があれば良い」というのは、一方的すぎて無理がある。何故なら、全員が廃棄するのでなければ、ロシア等も核兵器を廃棄したくないだろうからである。

 また、③の「核兵器なき世界は、『現実的で』『実践的な』『責任ある』アプローチを通じて達成される」というのも、そう言い始めてから何年経っても大した進展がないため、それらの言葉は、核兵器なき世界を進めないための言い訳として使われているように思う。

 「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指す」というのは、*4-5のように、2016年10月28日に国連総会第一委員会(軍縮)が核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択した時、日本政府はこの決議に反対し、岸田外務大臣(当時)が「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指すという我が国の基本的立場に合致しないから」と釈明された時に使われた言葉だ。

 一般には、「日本は核兵器保有国ではないが、米国の核兵器によって間接的に守られているため、核兵器禁止条約に賛成できない」という説明がよくされるが、それでは、本当に日本は米国の核兵器によって守られるのか、『現実的で実践的な責任ある』どのようなアプローチを、その時点から現在までに行ってきたのか、核兵器禁止条約に賛成するよりもそのアプローチの方が功を奏したのか、について具体的な説明が必要だ。

 また、日本が核兵器禁止条約に賛成すれば、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し、その亀裂を深める」という説明も意味不明であるため、その理由を明快に説明して欲しい。実際には、核兵器が使用されれば距離の離れた場所でも人間が住めない状態になるため、⑥の包括的核実験禁止条約発効だけでなく、核兵器の禁止と廃棄が必要なのであり、それを提唱するにあたって、日本は歴史的に Best Person になっているのだ。

 なお、⑧については、G7のフランスでパリ協定が締結され、脱炭素エネルギーに原子力エネルギーは含まない旨が明記されたし、ドイツはG7広島サミットの最中に脱原発を完了した。そして、原子力の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると主張しているのは主として日本なのであり、実際には原発は低廉どころか著しくコストがかかり、それを税金や電力料金として国民に負担させているのである。

 何故、原爆を2度も落とされ、フクイチで世界最悪の原発事故を起こして周囲に激しい公害を撒き散らしながら、日本は原子力エネルギーにしがみつくのかについては、⑨⑫のようなことを言いつつ、⑩のように、民生用を装いながらいつでも軍事用生産に切り替えられる体制にしておきたいのではないかと思われる。しかし、核兵器が必要となる時などあってはならないため、それこそ大きな無駄遣いだ。

2)「広島ビジョン」で核軍縮はできるのか?
 *4-3は、①G7首脳が被爆地広島で「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示した ②各国首脳は広島平和記念資料館(原爆資料館)を見学し、被爆者と面会した ③この訪問を「核兵器のない世界」の実現への機運を高める契機とすべき ③G7は米・英・仏の核保有国と米国の「核の傘」に守られている日・独・伊・カナダで構成 ④岸田首相はG7首脳の訪問を「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」と評した ⑤G7首脳は「広島ビジョン(核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進)」をまとめた ⑥中長期的には核拡散防止条約体制を立て直す努力が要る ⑦この条約は世界の安定に寄与するだけでなく、米国との戦力の均衡を維持する点でロシアにもメリットがあるはず としている。

 私は、小学校の修学旅行で長崎を訪れた時に、平和公園や長崎原爆資料館を見学し、信じられないような光景の絵・展示物・その解説を見て、その惨状に驚いたことがある。そのため、①②のように、G7首脳が広島原爆資料館を見学して被爆者の話を聞き、「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示したのは理解できるし、よかったと思う。

 しかし、③のように、「『核の傘』に守られているから」とか、④のように、「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」とか、⑤のように、「核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進」のような核兵器廃絶の本質とは異なる悠長なことを言っていては、これまでどおり、核兵器廃絶は進まないと思う。

 また、⑥の「中長期的に核拡散防止条約体制を立て直す努力」というのも、現在、核兵器を保有している国の核兵器保有は認めるが、非核保有国が核兵器開発することは認めないということであるため、不公平すぎて守られず、努力しているふりで終わりそうだ。

 なお、⑦の「核拡散防止条約がロシアと米国との戦力均衡を維持して世界の安定に寄与する」という説もあるが、“戦力均衡”を目的とする限り、どちらのグループも相手より大きな軍備を持って優位な形で均衡したいと思うため、核軍縮ではなく軍拡への道を進むことになると思う。

3)法の支配に基づく国際秩序とは?
 「法の支配に基づく国際秩序」は国際法に基づく国際秩序を指すが、国際法にはi) 条約・慣習法等の様々な基本原則が存在し ii) 歴史的には主権尊重・主権平等・国家の自己保存権・国家独立の原則・国家の交通権・不干渉義務等の原則が基本的権利義務として捉えられてきた。

 また、1970年に国連総会友好関係原則宣言は、iii) 国際社会の基本的原則(武力不行使・紛争の平和的解決・国内問題不干渉・相互協力・人民の同権と自決・国際法の適用における平等の原則等)を掲げ iv) 法の前の平等とは「慣習法は全ての国に、条約は全ての締約国に無差別に適用すること」と明記した(https://hiro-autmn.hatenablog.com/entry/2015/05/21/155750 参照)。

 そのような中、*4-4は、G7広島サミットは「G7広島首脳共同声明」を発表し、①ロシアによるウクライナ侵攻を「可能な限り最も強い言葉で非難」し ②ウクライナ支援を継続すると明記し ③「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持・強化する」と強調し ④現実的・実践的な取り組みによって「核兵器のない世界」の実現をめざすことも表明し ⑤覇権主義的な動きを強める中国も念頭に「力による一方的な現状変更の試みに反対する」とした 等と記載している。 

 iii) iv)によれば、独立国である以上、その国の人民に自決権があるため、国の大小にかかわらず、他国への内政干渉や武力行使は許されない。そのため、平等に国際法を適用しても、①のように、ロシアはウクライナへの侵攻に対する非難を免れないが、日本のメディアには、ロシアのウクライナ侵攻以前に、ロシアを馬鹿にしたり、ロシアに対し内政干渉的な発言をしたり、プーチン大統領をけしかけるような発言が多かったりしたのは事実である。また、②のウクライナ支援は、本来なら国連の仲裁で紛争を解決することによって行われるべきだ。

 また、④については、(4)2)に記載したとおりだ。

 なお、③の「法の支配」は国際法を指し、個別の国が勝手に作った法律が他国を支配できるわけではない。そして、排他的経済水域(領海基線の外側200海里までの海域やその海底で、イ)天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利 ロ)人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権 ハ)海洋の科学的調査に関する管轄権 二)海洋環境の保護及び保全に関する管轄権 が沿岸国に認められている。

 一方で、大陸棚も領海基線から外側200海里までが原則だが、例外的に地質的・地形的条件等により国連海洋法条約の規定に従って延長することが可能で、その大陸棚を探査したり、天然資源開発のため主権的権利を行使したりすることも認められている。そのため、日本の排他的経済水域内で中国が自国の大陸棚だと主張している海域については、日本と中国の両方で主権が認められ解決不能になっている(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/zyoho/msk_idx.html 参照)が、このような規定では日本も中国の大陸棚上になってしまうだろう。

 さらに、中華民国(台湾)が独立国であれば、台湾についても、iii)の国内問題不干渉・人民の自決・国際法適用における平等が守られなければならないが、1つの中国を認めるのであれば、中華人民共和国として国内問題への不干渉や人民の自決権が守られなければならない。そのため、⑤の「力による一方的な現状変更の試みに反対する」という曖昧な主張は、単に問題を先送りしただけで何も意味していないのである。

・・参考資料・・
<先進技術導入の仕方と財源>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551430S3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.2) 児童手当・育休給付上げ 少子化対策素案 予算、30年代に倍増
 政府は1日のこども未来戦略会議で少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を示した。毎月支給する児童手当は所得制限を撤廃し、支給の期間を拡充する。2024年度中の実施をめざすと明記した。必要な予算は24年度からの3年間に年3兆円台半ばとする。当初見込んだ3兆円ほどから上乗せした。予算を倍増する時期は、こども家庭庁予算を基準に30年代初頭までの実現をめざすと明示した。岸田文雄首相は予算規模に関して「経済協力開発機構(OECD)トップ水準のスウェーデンに達する」と述べた。政府は与党と調整し、6月中にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。児童手当は親の所得にかかわらず、子どもが高校を卒業するまで受け取れる。3歳から高校生まで一律1万円となる。第3子以降の場合は0歳から高校生まで3万円が支給される。一方、16歳以上の子どもを養育する世帯主が受けられる扶養控除は、給付との兼ね合いを検討課題とした。親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設を盛った。両親が就労していないと利用できない現在の制度を改める。24年度から本格実施を見据えて準備する。育児休業の給付金も増やす。夫婦ともに育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げる。25年度からの実施をめざす。

*1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/253941 (東京新聞 2023年6月1日) 異次元の少子化対策に年3兆5000億円…財源は? 高齢世代は負担増、子育て世代の手取りが減る可能性 
 政府は1日、「こども未来戦略会議」を開き、「次元の異なる少子化対策」の素案を公表した。児童手当は所得制限撤廃をはじめとする拡充策を2024年度中に実施することを盛り込んだ。24年度から3年間の集中期間に必要となる追加予算は年3兆5000億円に上るが、財源確保の具体策は示さず、「年末までに結論を出す」と先送りした。政府は医療保険料の上乗せに加え、社会保障費の歳出削減を検討しており、医療や介護を主に利用する高齢世代の負担増につながる可能性がある。岸田文雄首相は1日の未来戦略会議で「少子化対策の財源はまず徹底した歳出改革等で確保することを原則とする」と強調した。素案では、児童手当の拡充は減額や不支給となる所得制限を撤廃し、支給期間を「中学卒業」から「高校卒業」までに延長。第3子以降は月額3万円に給付を増やす。育休制度では25年度から、給付金の手取り10割相当への引き上げ(最大28日間)を目指す。財源確保策として、医療保険料の上乗せを念頭に「支援金制度(仮称)」の創設や「徹底した歳出改革」を行うとして、消費税などの増税は否定。安定財源は28年度までに確保し、その間は「こども特例公債」を発行するとしたが、具体的な国民負担の規模は明らかにしなかった。政府は、医療保険料への上乗せで年1兆円程度、社会保障費の歳出改革でも5年かけて年1兆円強を確保することを検討している。歳出改革では公費支出の削減を図る考えで、来年度に改定される診療報酬や介護報酬の抑制などが想定されるが、医療や介護の人材不足に拍車をかけかねず、与党には「医療・介護が崩壊する」との反発もある。高齢者の自己負担増や医療・介護のサービス削減などで負担増となる可能性もある。財務相の諮問機関の財政制度等審議会は5月、社会保障の歳出改革案として「後期高齢者の医療費窓口負担の原則2割化」や「介護保険の2割負担の範囲拡大」などを提案している。政府は素案を「戦略方針」として決定し、6月策定の経済財政運営の指針「骨太方針」に反映させる。
◆「高校生の扶養控除を整理」するとどうなる?
 少子化対策の素案には児童手当の拡充策とともに、「高校生の扶養控除との関係をどう考えるか整理する」との注釈が入った。拡充策である高校生への新たな給付と、既にある税負担軽減を同時に受けられる家庭が出るために浮上した論点だ。だが、控除の見直し次第では児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性があり、与野党などから早くも反発が起きている。扶養控除は子どもや親などの親族を養っている場合に税負担を軽くする仕組み。現行は16〜18歳の子ども1人につき所得額から38万円が控除されている。所得税は所得が高いほど税率も高くなるため、控除による税負担の軽減効果は高所得者の方が大きい。一方、児童手当は所得にかかわらず一定額が給付されるため低中所得者により手厚い支援となる。2010年には当時の民主党政権が「控除から手当へ」との方針のもと、中学生までの子ども手当(現児童手当)の創設に合わせ、15歳以下が対象の年少扶養控除を廃止した経緯がある。拡充策が実現すれば、高校生のいる世帯は児童手当と税負担軽減が併存する。このため、扶養控除がない中学生までとのバランスを踏まえる必要があるというのが政府の考え方だ。扶養控除の見直しには反対論も強い。子育て支援団体が1日に国会内で開いた集会では、与野党議員から「可処分所得を削ってはいけない」「新たな税負担を求めないと言っていたのに実質的な増税だ」と批判が噴出。控除廃止による課税所得の増加で高校無償化の対象から外れる恐れがあるなどの懸念も出た。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA218FR0R20C23A4000000/ (日経新聞 2023年6月4日) 全ゲノムデータ、一元管理へ新組織 創薬・治療に貢献
 厚生労働省は2025年度にも全ゲノム(遺伝情報)のデータを一元管理する新組織を設立する調整に入った。蓄積したデータを患者の診断や治療の質の向上に役立てる。個人情報を保護しつつ産業界や学術界も幅広く利用できる仕組みとし、創薬や難病診断、がん治療につなげる。医療機関などから集めた検体を全ゲノム解析しデータとして蓄積する。産学からなるコンソーシアム(共同事業体)に参画する組織に利用資格を持たせる。企業からはデータ利用料を取り、研究機関や大学は無料とする見通しだ。政府が22年に決めた全ゲノム解析の実行計画の一環として実施する。研究成果は創薬などを通じてがんや難病の患者の治療に生かす。得た知見は協力してもらった医療機関とも共有して活用する。企業の参加を促すため、新組織発足に向けた準備室に人材や技術、資本などで協力した企業にはデータの利用料の割引や優先権といったインセンティブを設けることも想定する。全ゲノム解析はおよそ30億にのぼるすべての塩基配列を読み取る。がん治療の場合、従来の手法に比べて一人ひとりの病状に合った投薬など効果的な治療が期待できる。最適な治療法を早く発見できれば患者の治療に役立つだけでなく、検査の重複を避けられる。手探りで治療を続ける必要もなくなり、医療費の削減も見込まれる。全ゲノム解析は英国などが先行する。12年に当時のキャメロン首相が「10万ゲノムプロジェクト」を始め、18年にがんや希少疾患の患者10万件分のゲノム解析を終えた。医療現場での導入も進み、全ゲノム解析を保険適用の対象にする疾患もある。日本では国の研究事業として19年度から21年度にかけて、がんでおよそ1万3700症例、難病でおよそ5500症例分の全ゲノム解析の実績がある。難病が疑われるものの診断が困難な疾患のうち、全ゲノム解析をして9.4%で何の疾患かを特定できた。研究は進んだものの、学術界や企業がデータを二次活用する仕組みは整っていなかった。創薬への利活用が進まない点が課題として指摘されていた。日本製薬工業協会(製薬協)は「戦略的に一定規模の診療情報やゲノムが集まれば、様々な研究者が同時に研究に着手できる」とゲノム研究の加速に期待を寄せる。データの利活用については「幅広く利用しやすい料金体系とし、利活用までのスピードでも国際競争力のあるデータベースをつくる必要がある」と指摘する。ゲノムは人体の設計図となる遺伝情報で、2本の鎖がらせん状になったDNAからなる。DNAは4種類の塩基からなり、遺伝情報はその塩基の配列で決まる。細胞が分裂する際にDNAの複製に失敗すると遺伝子に変異が起こる。紫外線や化学物質を浴びて傷つき変異することもある。親から変異を引き継ぐ場合もある。こうした塩基配列のわずかな差が、病気の原因となり得る。米欧に比べ全ゲノム解析が遅れる日本としては、国が主導する新組織の設立を足がかりに国民の医療の質の向上を狙う。

*1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15653712.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2023年6月4日) ゲノム医療法案 健全な発展の一歩に
 一人ひとりの遺伝的な特徴や体質にあわせて病気を治療し、早期発見や予防を可能にする。そんな「ゲノム医療」を推進する法案が衆院委員会で可決され、参院での審議を経て成立する見通しとなった。世界最高水準のゲノム医療を実現させ、国民が広く恵沢を享受するとともに、ゲノム情報の保護が十分に図られ、不当な差別が行われないようにすることを理念に掲げた。総合的な施策を進める基本計画の策定と、財政上の措置を国に求めている。生まれつき持った遺伝的特徴によって尊厳や人権を傷つけられることがあってはならないという理念は、ユネスコが1997年に採択した「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」などで国際的に共有されている。海外には遺伝情報による差別を禁じた法律を持つ国もあり、患者団体や医療界から早急な法整備を求める要望が出され、超党派の議員で検討を進めてきた。法律ができることは一歩前進だ。すでにがんの遺伝子異常を調べられる検査が公的医療保険で実施され、がんや難病患者を対象にゲノムを網羅的に解析する国のプロジェクトも進められている。将来、様々な病気のリスクが予測できるようになれば、がんや難病に限らず、すべての人に関わる。健全な発展と普及、データ利活用のための環境整備に向け、実効性ある計画づくりを国に求めたい。一方、法案には、差別のほかゲノム情報の利用が拡大することで起こりうる課題に適切に対処するための施策を講じるという条文もある。実際、保険や雇用、結婚、教育などさまざまな場面で差別や不利益を受ける恐れが指摘されている。厚生労働省の研究班が2017年に1万人を対象にした遺伝情報の差別と利用に関する意識調査では「保険加入を拒否・高い保険料設定を受けた」といった経験を持つ人が一定程度いた。生命保険協会は昨年、会員各社の引き受け・支払いに関して、遺伝情報の「収集・利用は行っておりません」とする文書を公表したが、将来的に見直す可能性にも言及する。何をもって差別や不利益とみなすのかは必ずしも明確ではなく、対処するための方策も場面によって変わりうる。まずは実態を把握し、一定の考え方を示しつつ、社会的合意を作ってゆく必要がある。民間でも唾液(だえき)を利用して健康な人の遺伝情報を調べ、病気のリスク判定などを試みるビジネスがある。しかし、判定の方法や根拠は必ずしも確立されているわけではない。質の確保に向けた取り組みやルール作りにつなげていくことが求められる。

*1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71556570S3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.2) 保険証廃止、マイナ一本化、来秋から、改正法が成立 番号の利用範囲拡大
 行政のデジタル化を進めるための改正マイナンバー法が2日の参院本会議で可決、成立した。2024年秋に予定する現行の健康保険証の廃止に向けた制度をそろえた。誤登録などが相次いでおり制度改善には余地がある。政府はマイナンバーカードと保険証を一体にする「マイナ保険証」の普及をめざす。今の保険証は来年秋以降、1年の猶予期間を経て使えなくなる。法改正によりカードを持たない人でも保険診療を受けられるようにする「資格確認書」の発行が健康保険組合などで可能になる。確認書の期限は1年とする方針で、カードの利用者よりも受診時の窓口負担を割高にする検討も進める。カードへの移行を促す狙いだ。乳幼児の顔つきが成長で変わることを踏まえ1歳未満に交付するカードには顔写真を不要とする内容も入れた。政府などの給付金を個人に迅速に配るため口座の登録を広げる措置を盛り込んだ。年金の受給口座の情報を日本年金機構から政府に提供することを事前に通知し、不同意の連絡が1カ月程度なければ同意したと扱う。新型コロナウイルス禍での個人給付では通帳のコピーなどの提出が必要で行き渡るまでに時間がかかった。口座登録の割合が高齢者で低いことを踏まえ年金口座の利用を決めた。税と社会保障、災害対策の3分野に限ってきたマイナンバーの活用を広げる。引っ越しの際の自動車変更登録や国家資格の手続きなどでも使えるようにする。改正マイナンバー法は与党と日本維新の会、国民民主党などが賛成した。個人情報の漏洩防止の徹底や全ての被保険者が保険診療を受けられる措置の導入などを盛り込んだ付帯決議を採択した。政府はマイナカードを「23年3月までにほぼ全国民に行き渡らせる」と号令をかけ、ポイントを付与するなどして国民に取得を呼びかけた。全国民の申請率は8割弱、交付率は7割強に達した。コンビニエンスストアで住民票などの証明書を他人に発行したりマイナ保険証で別人の情報をひもづけたりするなどのトラブルも多く発覚した。システムの問題や人為的な入力ミスに起因している。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230605&ng=DGKKZO71614620V00C23A6MM8000 (日経新聞 2023.6.5) 再エネテックの波(1)貼る太陽光、覇権争い、日本発技術、量産は中国先行 原発6基分「国産化」急ぐ
 ウクライナ危機に端を発するエネルギー危機は化石燃料に依存するリスクを改めて浮き彫りにした。脱炭素に加え、エネルギー安全保障の面からも再生可能エネルギーの拡大が国や企業の命運を左右する。急速に進化する再エネテックの最前線で何が起きているのか。日本経済新聞は専門家の意見も参考に太陽光、風力、水素、原子力発電所、二酸化炭素(CO2)回収の5つの分野で注目される11の脱炭素技術の普及時期を検証した。実用化が近づくものが目立つなか、ゲームチェンジャーになりうるのが次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」だ。主要7カ国(G7)が4月の気候・エネルギー・環境相会合で採択した共同声明。浮体式洋上風力発電などと並ぶ形で「ペロブスカイト太陽電池などの革新的技術の開発を推進する」と記された。声明で具体名が盛り込まれたのは初めてだ。
●薄く・軽く・屈曲
 2月11日。横浜市にある市民交流施設で、鉄道模型「Nゲージ」を50人以上が取り囲み、感嘆の声を上げていた。珍しいのは模型そのものでなく、その動力を1ミリメートル以下の薄さの太陽電池が供給する点だ。部屋の中の弱い光でも十分な電力を生み出せると実証した。ペロブスカイト型は薄く、軽く曲げられ、従来のシリコン製では不可能だった壁面や車の屋根にも設置できる。材料を塗って乾かすだけの簡単な製造工程で、価格は半額ほどに下がるとされる。日本は山間部が多く、従来の太陽光パネルの置き場所が限られる。東京大学の瀬川浩司教授の試算ではペロブスカイトなら2030年時点の設置可能面積は最大470平方キロメートルと、東京ドーム1万個分になる。発電能力は600万キロワットと原発6基分に相当する。桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した日本発の技術だが、量産で先行したのは中国企業だ。大正微納科技は江蘇省の拠点に8000万元(約16億円)を投じて生産能力が年1万キロワットのラインをつくり、22年夏から量産を始めた。23年には生産能力を10倍にする。宮坂氏は海外での特許出願手続きに多額の費用がかかるため、基礎的な部分の特許を国内でしか取得しなかった。海外勢が特許使用料を支払う必要がなかったことも先行を許す一因となった。日本でも積水化学工業やカネカが25年以降の量産を計画し、東芝やアイシンも事業化をめざす。ただ宮坂氏は「本来、この分野をリードすべき日本の大手電機メーカーは腰が重い」と話す。
●世界で投資加速
 似たような光景は過去にもあった。
従来の太陽光パネルも開発・実用化で先行し00年代には京セラやシャープなどの日本勢が世界で50%のシェアを持った。国などからの補助を受けた中国企業が低価格で量産し、今では市場シェアの8割超を握り、日本勢の多くは撤退した。ウクライナ危機後、再生エネは「国産エネルギー」として存在感を増した。ペロブスカイト型が普及する際に日本がパネルを輸入に頼れば、本質的な「国産」とはなりにくく、エネ安保の死角になる可能性がある。世界では投資競争が加速する。米調査会社ブルームバーグNEFの報告書によると、再生エネや原子力といった低炭素エネルギー技術への企業・金融機関などの投資額は22年に最高の1兆1100億ドル(約160兆円)。前年から3割増えた。中国がおよそ半分の76兆円、米国が20兆円と2番目に多い。ドイツ、フランス、英国に続く日本は3兆円だ。脱炭素で有望な11の技術のうち、ペロブスカイト型や浮体式の洋上風力発電など、半分弱は日本が開発段階では先頭集団にいる。これまで逆転を許すことが多かった普及期に生産支援だけでなく、家庭や企業が導入するインセンティブを高めて市場をつくり、産業として育てられるか。光る技術を生かす政策が重要になる。

*1-3-2:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230613/se1/00m/020/050000c (エコノミストOnline 2023年6月2日) 日本の蓄電ビジネスはNTT+東電+トヨタの共闘で(編集部)
 電力の200億円分をドブに捨てている──。6月に値上げされる電気料金の裏側で、こんな現実があることをご存じだろうか。一般家庭が1カ月に使う電気にして200万戸を超える太陽光発電の電気が使われないまま捨てられている。日本で最も再生可能エネルギーの普及が進む九州電力は今年度、出力制御という形で、電力需要がない時間に作り過ぎて送電網で受け入れられない電力が最大で7億4000万キロワット時に達する見込みを発表。仮に、これだけの電気を石油火力で発電すると、約200億円かかる。この無駄をいかに日本全国で減らし、脱炭素を同時に達成するか、という取り組みが始まっている。
●再エネを使い倒す
 国民にとって電気代の高騰は死活問題だ。6月から電力大手7社の電気料金が一斉に値上げされる。値上げ幅は最大40%。ウクライナ紛争による原油・ガス価格の高騰や円安が主因だ。食料価格に加え電気料金の値上げは家計を直撃するが、今秋には政府の電気代補助金が終わり、化石燃料の需要期でさらに高騰することが確実だ。では、どうやって電気代を削り、稼ぐのか。電気代が安い時間帯に太陽光など再エネの電気をあえて大量に使用したり、蓄電池にためる。節電要請に応えて報奨金をもらったり、高く売れる時間帯に電力市場で売るのだ。産業界ではこんな取り組みが始まっている。太陽光の電力が余っていると予想される時間帯に、大量の電力を使う電炉メーカーが、これまで電気代が安かった夜間の操業から、太陽光の電力が余る昼間の時間帯に操業をシフトし、電気代の節約と再エネ利用による脱炭素を同時に実現しているのだ。暑くも寒くもなく、工場の稼働も止まる5月の日あたりの良い連休など、電気の需要が急激に落ちる時期に、大量の発電ができる太陽光発電の作りすぎを吸収するため、蓄電池で電気をため込み、電気が大量に必要となる時間帯や、市場で高く売れる時間帯に放電する取り組みも始まっている。大型蓄電システムとして系統(送配電網)につなげる取り組みも全国で始まった。住友商事はこの夏、北海道千歳市で約700台のEV電池を使い、出力6000キロワット、容量2万3000キロワットの大型蓄電所として北海道電力の送電網に接続する。EVが走っていない時間帯を利用して、マンションに給電し、電力需給が逼迫(ひっぱく)する時期に住宅に戻す取り組みも始まっている。エネルギーベンチャーのREXEV(レクシヴ)は神奈川県小田原市でカーシェアリングと、遠隔操作できるスマート充放電器約100台を使い、乗用に使用していない時間帯のEVの電池を活用し、昨年7月の電力会社の節電要請時に応え、電気代を獲得した。これを1万台まで大規模化する目標で、同社にはNTTや電力・ガス会社も出資している(特集:電力が無料になる日〈インタビュー「EVを蓄電池として利用する」渡部健REXEV社長〉参照)。コストが高い電池を自動車、通信、電力など複数の産業セクターの共有インフラとしてコストをシェアしたり、電池の持つライフサイクルバリューをフルに生かし、電池そのものが持つ収益力を産業の垣根を越えてシェアしたりする取り組みも始まっている。EVで使用するだけでなく、乗用していない時間帯の電池を有効利用したり、乗用に適さなくなった電池を大型蓄電システムとして再利用(リユース)したりして、リチウムやニッケル、コバルトなどの希少資源を取り出しリサイクルするのだ。再エネという燃料費のかからない究極の国産エネルギーを、電池をうまく活用して使い倒そうという試みともいえる。
●全国に系統蓄電「発電所」
 動いたのはトヨタ自動車。EVシフトを本格化し始めたトヨタは5月29日、東京電力ホールディングス(HD)と提携し、新品のEV電池を大型蓄電システム化して送電網へのつなぎ込み、再エネの電力を有効活用する実証を始める、と発表した。日本の電力の1%(約100億キロワット)を使う日本最大の電力バイヤーNTTも動き始めている。再エネ電源そのものを確保するため、電力子会社のNTTアノードエナジーが東京電力と中部電力が折半出資する日本最大の発電会社JERAとともに200万キロワット規模(開発中含む)の再エネ会社グリーンパワーインベストメント(GPI)を3000億円で買収するのだ。主導したのは80%を出資するNTTアノード。同社はこの買収に先行して、福岡県と群馬県で系統につなぐ大型蓄電システムの設置にも乗り出している。群馬県は東京電力HDと共同で設置。福岡県では九州電力、三菱商事と再エネの出力制御の低減に向けた電力ビジネスも検討している。国もこの動きを支援し始めている。4月に系統につなぐ大型蓄電池を発電所として認める法改正を行ったのだ。これに先行して21年度から22年度にかけ、全国28カ所で系統蓄電システムの助成を始めている(図2)。住友商事が北海道で立ち上げる中古EV電池を活用した大型蓄電設備も、この助成を活用した。EV電池を送電網に直接つなぎ込むEVグリッドのワーキンググループも5月29日に資源エネルギー庁で始まった。昨年11月に始まった分散型電力システム検討会の中核となる取り組みで、自動車、電力会社、充電器メーカー、充電サービサーなど複数の業界が横断的に議論し、10年後を見据えて今から準備を始める。例えば、「ただ充電するだけでなく充放電を遠隔操作できるスマート充電器を整備するルールにしておけば、10年後にEVグリッドを整備しやすくなる」(資源エネルギー庁電力ガス事業部の清水真美子室長補佐)といった議論を今から始めておくのだ。国がここまで本気で動いているのには訳がある。国際政治の圧力だ。4月のG7環境大臣会合で、35年に温暖化ガスを19年比で60%削減することが確認された。これは一昨年、菅政権が打ち出した30年の13年比46%を、35年までに65.6%まで引き上げることを意味する。エネルギー基本計画の審議委員を務める橘川武郎国際大学副学長は、「異次元の再エネ導入に踏み込まないと達成不可能な数字」という。この動きに経済産業省は先手を打ってきた。二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアの活用、東北地方や北海道で整備を進める大型洋上風力、再エネ資源が豊富な北海道から首都圏まで電気を運ぶ海底高圧直流送電線の建設構想、国際争奪戦が始まっているリチウムイオン電池の国産基盤の整備、次世代原子炉の開発──などだ。複数の政策が総動員されているが、この中でも早期に確実に削減目標を達成するには、いまある再エネを有効利用して無駄を減らすしかない。それが一番手っ取り早い。
●GX150兆円の中核
 2月10日に閣議決定された日本の「GX実現に向けた基本方針」の中にもこの動きは隠されていた。政府は同日、国債20兆円を含む150兆円の資金投入の内訳を参考資料で明らかにしたが、この内訳に「政策の一つの方向性が見えていた」(橘川氏)という。150兆円のうち、自動車に34兆円(蓄電池7兆円含む)、再エネに20兆円、送配電網(ネットワーク)に11兆円。これに脱炭素目的のデジタル投資12兆円を加えると全体の過半に達する。この77兆円を結びつける触媒がEVグリッドというわけだ。もちろん課題はある。まだまだ低いEVの普及率と充電インフラの整備だ。日本で普及しているEVは昨年やっと新車販売の2%に達したが、日本全体が保有する8000万台のわずか0.25%、20万台に過ぎない。しかしEV普及に向けた動きは加速している。40年のガソリン車全廃を決めているホンダはジーエス・ユアサコーポレーションと組み、20ギガワットの電池の工場建設に4300億円を投じ、27年から日本で生産に乗り出すことを決めた。経産省はこの電池工場に1587億円の補正予算をつける。経産省は年間200万〜300万台のEV国産化に必要な電池として150ギガワットの整備目標を示し、すでに稼働中、開発中のものと今回のホンダの計画を足して「60ギガワットのメドを付けた」(経産省の武尾伸隆電池産業室長)。産業界を横断する取り組みも動き始めている。電池・素材メーカーから自動車、商社、金融、ITなど140社が参加する電池サプライチェーン協議会では、電力のリユース、リサイクルに必要な電池そのもののあらゆる情報を業界横断で共有できるデジタルプラットフォームを作り、24年度までの社会実装を目指す(特集:電力が無料になる日〈電池のリユースは自動車業界の命綱〉参照)。必要なのは、まだ高額な電池を、再利用まで視野に入れ、社会インフラとして自動車・電力・通信・サービスなどセクター横断で共有し、価格を下げて、EVの普及を促す取り組みだ。NTTが基地局などで設置している蓄電池は停電時の非常用電源としても利用でき、通信事業の中で償却できるメリットがある。NTTはこれを全国のNTTビル間で直流送電網につなげる取り組みを始めている。こうした取り組みは電力を大量に消費する産業でも意識され始めている。図2にある通り全国28カ所で経産省の助成をもとに、電力・ガス、石油元売り、鉄道、商社、製鉄、エンジニアリングなどあらゆる業界が系統蓄電池の設置に乗り出している。究極はトヨタと東京電力の戦略的な提携の実現だ。日本総研創発戦略センターの瀧口信一郎氏は「EV用電池がトヨタから東電に流れる形ができれば、潜在的な巨額投資を引き出せる」と指摘する。日本で販売されるEVの電池をリユースで東電が引き取り、エネルギーマネジメントサービスとして電池コストを償却できるビジネスの仕組みだ。
●東電9兆円の投資先
 東京電力HDは30年までに9兆円以上を投じてカーボンニュートラル実現に向けたアライアンスを進める方針を昨年4月に明らかにしている。詳細は明らかにしていないが、蓄電ビジネスを脱炭素の中核に位置付けようとしていることは間違いない。同社はかねてから「EV用蓄電池の活用は重要。当社が保有する蓄電池のノウハウや独自の安全基準、システム化技術を活用し、EV用蓄電池を使って競争力のあるシステム構築する」と語っていた。5月29日のトヨタとの蓄電システム提携が第1弾とすれば、9兆円を原資とするさらに踏み込んだアライアンスに乗り出す可能性もある。産業界と国が連携して始まったEVグリッドの試みは、燃料費のかからない究極の国産エネルギー、再エネを限りなく無料に近づける挑戦ともいえる。

*1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71646260W3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.6) 再エネテックの波(2)脱炭素実現、蓄電池が左右 「価格4分の1」で壁突破
 オーストラリア南部の南オーストラリア州。豊かな自然やワインで有名な州はいま、再生可能エネルギーの普及で世界の先頭を走る。太陽光と風力の発電量は州の年間需要157億キロワット時の約6割に相当。2030年にはすべての需要を賄い、50年には需要の5倍の供給能力を備えて州外への「輸出」も見据える。再エネの普及を支えるのが、つくった電気をためこむ蓄電池だ。米テスラなど蓄電大手は商機とみて同州に相次ぎ進出し、再エネ・蓄電池関連の投資は60億豪ドル(約5500億円)を超えた。23年には新たな施設が稼働し、同州の蓄電能力は一気に2倍超に高まる。
●「捨てる」を回避
 電気は需要と供給が常に一致しなければ周波数や電圧が狂い停電につながる。再エネの発電量は天候で変動し、再エネの比率が高まるほど変動幅は大きくなる。電気が余った時にためて足りない時に放出する蓄電池で変動をならす。16年9月には悪天候で再エネの発電量が減ってブラックアウト(全域停電)が起きた。それでも火力発電に回帰せず、蓄電池拡大で再エネの弱点を補った。州政府の元高官は「再エネの周波数や電圧の管理は発電量を増やす以上に重要。停電を起こす急激な変動を避けるために蓄電池は欠かせない」と話す。英調査会社ウッドマッケンジーは電力網につなぐ蓄電池は30年に世界で1億9400万キロワット時と20年比で19倍に膨らむとみる。各国で再エネが普及し、電気を「捨てる」のを避けようと蓄電投資が増える。それでもいまの蓄電池の国際流通価格(1キロワット時で約4万円)では再エネを柱に脱炭素を実現するにはまだ高い。日本で再エネ90%、残り10%を温暖化ガスを排出しない水素火力発電で補う場合、蓄電池が大量に必要になるため、現状の価格なら日本の発電コストは2倍になる。仮に蓄電池が1万円に下がれば上昇幅は4割、5000円なら3割に抑えることができ、電源構成として現実的な選択肢になる。日本経済新聞が21年時点の発電コストをもとに立命館アジア太平洋大学の松尾雄司准教授の論文から試算した。
●EVや岩石活用
 国際エネルギー機関(IEA)による世界の脱炭素シナリオも50年の再エネ比率を8~9割とみる。脱炭素と経済性の両立には、電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギとなる。有望なのが急速に普及する電気自動車(EV)の活用だ。世界で個人が所有する車の9割は駐車場にとまっている。EVを「電池」とみなして電力網につなげば、蓄電投資を抑制できる。IEAの予測では30年に世界のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)は合計で最大3億5千万台になる。英政府は国内で30年にEVの半数が送電網に接続すれば、原発16基分の1600万キロワットもの電気を補う効果があると試算する。EVは主流のリチウムイオン電池を載せるが、それ以外の蓄電技術の開発も盛んだ。独シーメンス・エナジー子会社のシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは岩石を熱してエネルギーをためる技術を開発した。コンクリートの建物内に並べた大量の小石に熱を蓄え、水蒸気を出して発電タービンを回す。100万キロワット時の電気を1~2週間蓄える。コストは従来の蓄電池の5分の1になる。20年代半ばの商用化を目指す。EVを組み込むことができる柔軟な電力システムになっているか。どんな蓄電の技術を開発し、どこまでコストを下げられるか。脱炭素時代の電力は蓄電を制するものが覇者となる。

*1-4-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/60c28d58e20926cae61f1556141ddd7a68288da4 (BBC、Yahoo 2023/6/5) 運行システムか信号に問題か インド列車事故、死者は275人、スティク・ビスワス(デリー)、アダム・ダービン(ロンドン)
 インド東部オディシャ(オリッサ)州で2日夜に起きた列車事故について、インドの鉄道相は4日、列車の進路を制御する「電子連動装置の変更」がおそらく原因だろうとの見方を地元メディアに示した。他方、鉄道相のもとに置かれているインド鉄道委員会は記者会見で「信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだ」と述べた。地元当局は同日、死者数について、二重計上があったとして288人から275人に修正した。アシュウィニ・ヴァイシュナヴ鉄道相はこの後、事故原因は特定されたと述べたものの、詳細は明らかにしなかった。電子連動装置は、特定区間で個々の列車のルートを決め、複数の線路での安全運行を確保するためのもの。今回の事故では、急行旅客列車が誤った信号で支線に入るよう指示を受け、支線に停車していた貨物列車に衝突。脱線した車両が、隣の線路を対向してきた別の旅客列車に衝突した。4日の記者会見で、インド鉄道委員会のジャヤ・ヴェルマ=シンハ氏は、2本の旅客列車は青信号のもと、速度制限の時速130キロを守り、それぞれバラソール地区駅へ向かっていたと説明した。ヴェルマ=シンハ氏によると、2本の旅客列車は本線ですれ違うはずだったものの、南へ向かう「コロマンデル急行」が支線へ進んでしまい、鉄鉱石を積んだ貨物列車に衝突。重い貨物列車はまったく動かず、急行の機関車や一部の車両が、貨物列車の上に乗り上げたという。北へ向かっていた「ハウラ・スーパーファスト急行」は、この衝突現場の横をほとんど通過し終えていたものの、後方の2車両に、脱線した「コロマンデル急行」の車両が当たってしまったという。ヴェルマ=シンハ氏は、「電子連動装置に問題はなく」、「信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだ」と述べた。「手動によるものか、偶発的なものか、気候関連か、経年劣化あるいは整備不良が原因か、そうしたことはすべて事故原因調査委員会がいずれ明らかにする」という。デリー拠点のシンクタンク「政策研究センター」の研究員でインフラに詳しいパルタ・ムコパディエイ氏はBBCに対して、列車の進行先が支線に切り替わっていたならば、本線に青信号が点灯するはずはないと話した。「鉄道信号の電子連動装置は、フェイルセイフ(誤作動が生じた場合に安全対応するための設計)になっているはずで、これほどの失敗は前例がない」とムコパディエイ氏は話した。
■死者数275人に
 3本の列車がからむ衝突事故は、現地時間2日午後7時(日本時間同10時半)ごろに起きた。死者数について、地元当局は同日、死者数を275人に修正した。これまで288人と発表していたが、二重計上があったという。負傷者1175人のうち、793人は退院した。安否不明の家族をまだ探している人も複数いる。2本の旅客列車には計約2000人の乗客が乗っていたとみられる。オディシャ(現地語でオリッサ)州のプラディープ・ジェナ知事はBBCに対して、少なくとも187人の遺体の身元が確認できていないと話した。当局は遺体の写真を政府ウェブサイトに掲載する作業を進めており、必要に応じてDNA検査を行うという。捜索・救出作業は3日中に終わり、現在は大破した列車を現場から撤去し、鉄道運行の再開へ向けて取り組んでいるという。インドのナレンドラ・モディ首相は3日に事故現場と、被害者の運ばれた病院を訪れ、責任者を厳正に処罰すると述べた。インドの鉄道網は世界最大級で、毎日数百万人が利用するものの、そのインフラの大部分が改良を必要としている。学校が休みになるこの時期には鉄道利用者が増えるため、車内は非常に混雑することがある。インド史上最悪の列車事故は1981年にビハール州で起こった。超満員の旅客列車がサイクロンにあおられて脱線し、川に落下。少なくとも800人が亡くなった。

*1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM220HO0S3A520C2000000/ (日経新聞 2023年5月22日) インドのモディ首相、島しょ国と会合 中国抑止へ関与
 インドのモディ首相は22日、南太平洋のパプアニューギニアで8年ぶりに太平洋島しょ国首脳との会合を開いた。太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に、島しょ国への関与を強めて同地域への影響力を確保する狙いがある。「我々はあなた方の優先順位を尊重する。人道支援であれ開発であれ、あなた方はインドをパートナーとして信頼できる」。会合の冒頭、モディ氏は14カ国の島しょ国首脳に語りかけた。気候変動対策や食糧安全保障、デジタル技術などでの支援を打ち出した。モディ氏は21日に広島で主要7カ国首脳会議(G7サミット)の拡大会合に出席後、パプアの首都ポートモレスビーに向かった。現職のインド首相が同国を訪問するのは初めて。会合では広島で開いた日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」首脳会議の議論にも触れ「我々は多国間で島しょ国とのパートナーシップを強化する。自由で開かれたインド太平洋を支持する」と強調した。パプアのマラペ首相は会合で「我々は大国同士の勢力争いに苦しんでいる」と強調した。モディ氏に「我々の擁護者になってほしい」と求め、気候変動対策やエネルギー高騰などによる財政難への継続支援を訴えた。侵略や植民地支配の歴史をもつ島しょ国には、再び大国の覇権争いの舞台になることへの警戒感が強い。南半球を中心とした新興・途上国「グローバルサウス」として歴史を共有するインドに対して代弁者としての期待を抱く。「インド・太平洋島しょ国協力会議」は2014年にモディ氏のフィジー訪問に合わせて発足した。15年にインドで2度目の会合を開いたが、その後は空白期間が続いていた。今回の会合はインド側の呼びかけで実現した。インドは自国と国境問題を抱える中国が島しょ国の周辺海域の軍事拠点化を進めることに懸念を強めている。中国は06年にフィジーで「中国・太平洋島しょ国経済発展協力フォーラム」を開催。14年には習近平(シー・ジンピン)氏が国家主席として初めてフィジーを訪れ地域への経済支援の拡大を打ち出した。22年4月にはソロモン諸島と安全保障協定を締結した。米国はソロモン諸島やキリバス、トンガに大使館開設を決めるなど巻き返しを図ってきた。

<G7 環境>
*2-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230416/k10014040201000.html (NHK 2023年4月16日) G7環境相会合 閉幕 自動車分野の二酸化炭素排出50%削減へ合意
 札幌市で行われていたG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合は2日間の議論を終え、閉幕しました。焦点となっていた自動車分野の脱炭素化では、G7各国の保有台数をベースに、二酸化炭素の排出量の50%削減に向けた取り組みを進めることで合意しました。脱炭素社会の実現や経済安全保障の強化などをテーマに、2日間にわたって開かれた会合は共同声明を採択して閉幕しました。それによりますと、自動車分野の脱炭素化については、エンジン車なども含めた各国の保有台数をベースに、G7各国で二酸化炭素の排出量を2035年までに2000年に比べて50%削減できるよう、進捗(しんちょく)を毎年確認することで合意しました。欧米の国々が求めていた電気自動車の導入目標ではなく、ハイブリッド車も含めた幅広い種類の車で脱炭素化を目指すことになりました。また、石炭火力発電の廃止時期は明示しない一方、石炭や天然ガスなどの化石燃料について、二酸化炭素の排出削減の対策が取られない場合、段階的に廃止することで合意しました。一方、環境分野では、レアメタルなどの重要鉱物について、G7各国が中心となって国内外の使用済み電子機器などを回収し、リサイクル量を世界全体で増加させることや、プラスチックごみによるさらなる海洋汚染などを、2040年までにゼロにするという新たな目標が盛り込まれました。議長国の日本としては、脱炭素化に向けて、各国の事情に応じたさまざまな道筋を示せたとしていて、来月のG7広島サミットでの議論に反映させる方針です。
●西村環境相 「G7各国の結束揺るぎない」
 会合を終え、西村環境大臣は「さまざまな国際情勢の中で、気候変動と環境問題に関してG7各国の結束が揺るぎないということを世界に示すことができた非常に意味のある会議だった。今回の共同声明で気候変動や環境政策の方向性を示すことができたが、今後はこの方向性に沿った具体的な対策を進めていくことが重要で、課題だと思う。今回の成果を来月の広島サミットや国連の気候変動問題を話し合うCOP28につなげ、各国で取り組んでいきたい」と述べました。
●西村経産相「技術を広げ 実装していくことが大事」
 会合のあと西村経済産業大臣は採択された共同声明について「各国のエネルギーや経済の事情が違うなかでも多様な道筋を認めながら、それでもカーボンニュートラルを目指すということだ」と述べました。そのうえで「まさにイノベーションが温室効果ガスの排出量の実質ゼロを実現するためのカギだと思う。グローバルサウスとの連携のなかで、技術をしっかりと広げ、実装していくことが大事だと思っている」と述べ、日本として途上国などへの技術協力や投資なども行い、脱炭素の取り組みを支援していく考えを示しました。
●脱炭素社会実現に向け どのようなメッセージ打ち出すかが焦点
 今回のG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合では、脱炭素社会の実現に向けて、どのようなメッセージを打ち出すかが焦点でした。
【自動車分野の脱炭素化】
 世界で電気自動車の普及が進むなか、欧米の国々は、電気自動車の導入目標を定めるべきと主張しましたが、ハイブリッド車の多い日本は慎重な立場で、会合の終盤まで調整が続きました。その結果、ハイブリッド車やエンジン車なども含めた各国の保有台数をベースにG7各国で二酸化炭素の排出量を2035年までに2000年に比べて50%削減できるよう、進捗を毎年確認することになりました。日本としては、電気自動車に限った目標ではないため、ハイブリッド車も含む幅広い種類の車で脱炭素化を進められるとしています。
【合成燃料】
 その一方で既存のエンジン車でも活用できる「合成燃料」の技術開発の必要性が強調されました。工場などから排出された二酸化炭素を原料に合成燃料を製造すれば排出量を実質ゼロにできます。EU=ヨーロッパ連合も合成燃料の使用を条件にエンジン車の販売の継続を認めることにしていて、次世代エネルギーを推進することで脱炭素化を進めることにしています。
【石炭火力発電】
 石炭火力発電についてはヨーロッパの国々が段階的な廃止に向けて期限を設けるべきだと訴えていたのに対して、日本は、アジア各国の現状なども踏まえ、一定程度の活用は必要だというスタンスでした。その結果、石炭火力発電の廃止時期は明示しない一方で、石炭や天然ガスなどの化石燃料については、二酸化炭素の排出削減の対策が取れない場合、段階的に廃止するという内容で決着をはかりました。
【再生可能エネルギー】
 再生可能エネルギーの普及に向けては、G7全体で、▽2030年までに洋上風力発電を原発150基分に相当する150ギガワットに、▽太陽光発電については、「ペロブスカイト型」と呼ばれる薄くて軽い次世代型のパネルを普及させるなどして、原発1000基分に相当する1テラワットまで拡大させるとしています。これらの目標は現在と比べて、▽洋上風力で7倍余り、▽太陽光では3倍余りの規模となります。
【重要鉱物】
 電気自動車のバッテリーや半導体の材料となるリチウムやニッケルなどの重要鉱物は、中国などとの間で獲得競争が激しくなっています。このため今回の会合では、経済安全保障上の観点から重要鉱物の安定確保に向けた行動計画がとりまとめられました。G7で日本円にして1兆7000億円余りの財政支出を行い、鉱山の共同開発などを支援するほか、電気自動車の使用済みバッテリーなどから重要鉱物を回収するリサイクルを進めるなど、5つの協力を進めることにしています。
【天然ガス】
 その上で天然ガスについても、ロシアのウクライナ侵攻のあと安定供給に向けた懸念が高まっていることから、各国で投資を進めることの重要性を確認しました。
天然ガスは石炭などに比べると二酸化炭素の排出量が少なく、日本としては、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国が経済成長と脱炭素化を両立させるうえでも供給量を増やす必要があるとしています。
●プラスチックごみゼロを目指す新たな目標などに合意
16日閉幕したG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合の気候と環境の分野ではリサイクルなどによる循環経済の推進や海洋汚染などを引き起こすプラスチックごみゼロを目指す新たな目標などに合意しました。
【気候変動への対応】
 世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるという目標の達成に向け、少なくとも2025年までに世界の温室効果ガスの排出量を減少に転じさせ、2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするためには、経済システムの変革が必要だとしています。そして、中国やインドなどを念頭に、温室効果ガスの削減目標が1.5度の上昇と整合していない主要経済国に対して、ことし11月の国連の気候変動対策の会議「COP28」までに排出削減目標を強化するよう、呼びかけています。
【プラスチックごみ】
 生き物などに悪影響を与え、海洋汚染を引き起こすプラスチックごみによるさらなる汚染を2040年までにゼロにするという新たな目標が設定されました。プラスチック汚染をめぐっては、2019年に開催されたG20大阪サミットで、プラスチックによるさらなる海洋汚染を2050年までにゼロにするという目標が合意されましたが、この目標を10年前倒しして、早期の実現を目指す形です。
【侵略的外来種の対策】
 固有の生態系に影響を与え、生物多様性を損失させる要因でもあるヒアリなどの「侵略的外来種」について、水際対策など、国際協力の必要性を各国が認識するとともに、侵略的外来種の発生状況や駆除方法などについて、専門家を交えて話し合う国際会議が開催されることが決まりました。
1回目の会議は年内に日本で開催されることが検討されています。
【循環経済】
 資源のリサイクルやリユースでエネルギー消費を抑制する「循環経済」の実現の重要性も強調され、企業が取り組むべき行動指針がまとまりました。具体的には、リサイクル材での製造やシェアリングサービスの促進など、資源を効率的に活用するビジネスモデルをつくることや、製造とリサイクルなど異なる業界での連携を強化して供給網全体で資源を有効活用することなどが挙げられています。また、レアメタルなどの重要鉱物について、G7が中心となって国内外の使用済み電子機器などを回収しリサイクル量を世界全体で増加させることも決まりました。

*2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR5P6FYKR5PULBH006.html?iref=sp_extlink (朝日新聞 2023年5月21日) G7 再生可能エネルギー強調、「作文」ではなく世界を動かせるか
 21日に閉幕した、G7広島サミット(主要7カ国首脳会議)で採択された共同声明の気候変動やエネルギー分野では、再生可能エネルギーへの移行が強く打ち出された。「パリ協定」で掲げた産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑える目標の達成に向け、太陽光発電を現在の3倍以上増やす目標を掲げるなど、世界全体で再エネ移行を進める土台をつくった。さらに、首脳会議を経て初めて入ったのが「気候変動に脆弱(ぜいじゃく)なグループの支援が不可欠」という文言だ。グローバルサウスと呼ばれる、新興国・途上国への再エネ移行支援などを想定する。発展に伴い、温室効果ガスの排出増も懸念される中、途上国などに対策の資金が渡らなければ世界全体で脱炭素を目指すことはできなくなる。ただ、IEA(国際エネルギー機関)は、2050年までに排出実質ゼロを達成するには、再エネ投資額を30年までに、現在の3倍以上の年間4兆ドルにする必要があると報告。先進国はパリ協定で気候変動対策として年間1千億ドルを支援すると約束しているが、いまだ果たせておらず、途上国の動きを鈍くしている。そんな中、「投資の質」を高めることも意識。共同声明でIEAに対し、年内に再エネ供給を多様化するための選択肢を提示するよう要請。再エネのコストの低減や、中国に依存する太陽光パネルや蓄電池に必要なレアアースなどの重要鉱物の供給網確保を示した「クリーンエネルギー経済行動計画」も別に採択した。一方、脱化石燃料では「段階的廃止」を打ち出したものの、天然ガスへの公的投資を容認するなど抜け道も多く、先進国としての範を示せたとは言い難い。英シンクタンクE3Gのオルデン・マイヤー氏は、「G7はこれらの目標をどう実現するつもりか、より具体的に説明する必要がある。具体性がなければ、聞き心地のよい作文だとみなされる」と指摘する。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551370S3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.2) 再エネ電源、世界で5割規模へ 発電能力が化石燃料に匹敵、送電・安定供給に課題
 世界で太陽光など再生可能エネルギーの導入が急拡大している。国際エネルギー機関(IEA)は1日、2024年の再生エネ発電能力が約45億キロワットになる見通しを公表した。石炭などの化石燃料に匹敵する規模だ。50年の二酸化炭素(CO2)実質排出ゼロに向けて各国が導入を加速したほか、ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料の輸入依存への危機感が強まったのが要因だ。再生エネの発電能力は24年には全電源の5割規模になるとみられる。ただ火力などに比べて稼働率は劣るため、実際の発電量は5割より低くなる。安定電源として活用するには、太陽光に比べて導入が遅れる風力の拡大といった電源構成の多様化や、送電網整備などが課題となる。IEAによると、世界の再生エネの発電能力は22年に21年比で約3.3億キロワット増えた。23年は4.4億キロワット増え、前年からの増加幅は過去最大となる見通しだ。24年の発電能力は約45億キロワットを見込む。これは21年時点の化石燃料(約44億キロワット、独調査会社スタティスタ調べ)と同規模になる。原子力や火力発電所のように24時間発電できるわけではないが、原発4500基分にあたる。IEAは太陽光は23年の増加幅の過半を占める可能性があり、24年もさらに増えると予測。メガソーラー(大規模太陽光発電所)に加え、屋根に設置するタイプの太陽光パネルの普及が進む。風力も勢いを取り戻す。近年は新型コロナウイルス禍で導入の伸び悩みもみられたが、再び導入増に転じると分析した。中国と欧州連合(EU)がけん引役となる。IEAは23、24年ともに再生エネ導入を最も推進するのは中国とみる。再生エネ市場での「主導的立場を固める」可能性を指摘した。米国やインドも存在感を増す。日本の出遅れは鮮明だ。IEAは中国の23年の発電能力は2億3100万キロワット増えると予測するが、日本は1千万キロワットにとどまる。化石燃料などの電源の発電能力(20年時点)に、24年の再生エネの発電能力予測を単純にあてはめると、全電源の5割程度を占める計算だ。急拡大の背景には、各国のエネルギー安全保障への危機感がある。ウクライナ危機で化石燃料に依存するリスクが浮上。各国は燃料を他国に依存せずに済むとみて、再エネ導入を急いだ。再生エネの発電は天候に左右されやすく、変動がある。発電量の安定には火力や蓄電池を組み合わせる必要がある。IEAは2050年に温暖化ガス実質排出ゼロを達成するには、30年時点で6割程度、50年で9割近くを再生エネでまかなう必要があるとみている。ただ太陽光は製造能力が50年の排出ゼロに十分な拡大をしているが、風力はペースが遅いと指摘している。安定した発電には、電気を無駄にせずに大消費地などに送る送配電網の充実も不可欠だ。蓄電池の大規模な新規設置も必要になる。

*2-2-3:https://nordot.app/1037719559253410388?c=302675738515047521 (共同通信 2023/6/3) 関西電力、初の出力制御へ 4日、再エネ一時停止要請
 関西電力送配電は3日、太陽光と風力の再生可能エネルギー発電事業者に対し、一時的に発電停止を求める出力制御を4日に初めて実施すると発表した。休日で工場の稼働が減って電力需要が縮小する中、晴天により太陽光などの発電量が増えて供給過剰になると、需給のバランスが崩れて大規模停電につながる恐れがあるため。出力制御は4日午前9時~午後1時半に実施予定で、制御量は42万~52万キロワットの見通し。関西送配電はバイオマスの発電量を抑制した例はあるが、太陽光や風力を含む出力制御はなかった。再エネの急速な普及により、大手電力会社による出力制御は急増している。関西送配電が実施すると、大手10社では東京電力を除く9社のエリアで行われたことになる。出力制御は、寒さや暑さが和らぎエアコンの使用量が減少する、春や秋の休日に実施するケースが多い。政府は再エネを最大限活用するため、広範囲に電気を融通する仕組みの強化などを急いでいる。

*2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15651890.html?iref=pc_opinion_top__n (朝日新聞社説 2023年6月2日) 原発推進法 難題に背向ける無責任
 原発事故の惨禍から得た教訓は、かくも軽いものだったのか。「依存を減らす」から「最大限活用」へ。熟議抜きに政策の反転を押し通した政府と国会の多数派の責任は重い。原発が抱える数多くの難題を解決できるのか。後世に禍根を残すことにならないか。今後も問い続けなければならない。原発推進関連法が今週、国会で成立した。積極活用に向けた国の責務や施策を原子力基本法に明記した。福島第一原発の事故後に導入された運転期間の制限も緩め、一定の要件で60年を超える稼働に道を開いた。朝日新聞の社説は法案に反対し、再考を求めてきた。原発には、安全性や経済性の問題に加えて、増え続ける「核のゴミ」や核燃料サイクルの行き詰まりといった課題が山積する。その解決の道筋も示さずに、なし崩しに「復権」に転じるのは許されないと考えるからだ。エネルギー政策全般の見地でも、いまは再生可能エネルギーを主軸に据える変革を急ぐべきときだ。「原発頼み」に戻れば、道を誤りかねない。進め方も拙速だった。政府は昨年、新方針を数カ月間の限られた議論で決めた。国会は多角的に検討を尽くす責任を負っていたはずだが、議論は深まらなかった。失望を禁じ得ない。政策転換の理由にされたのはエネルギーの安定供給と脱炭素化への対応だ。では、原発が実際にこれらの役割をどれほど果たせるのか。なぜ原発を「特別扱い」する必要があるのか。政府は正面から答えず、「原子力を含め、あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返した。内容が多岐にわたる「束ね法案」にされ、具体策の議論も散漫になった。運転期間の上限は、導入時に「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されていたが、今回政府は「安全規制ではなく、利用政策上の判断」と主張した。大きな変更だが、腑(ふ)に落ちる説明はなかった。結局、根本の問題を含め、数々の疑問が置き去りにされた。この姿勢が続くなら、原発政策が推進一辺倒に硬直化するのは必至だろう。今回の転換は経済産業省の主導で進み、福島の事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」すら大きく揺らいでいる。政府は、再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ。だが少なくとも、安全に関する手続きや経済性の見極めをおろそかにしてはならない。そして、いくら目を背けようとも、原発の不都合な現実が消えるわけではない。早晩向き合わざるを得ない日が来ることを、政府と法案に賛成した各党は肝に銘じておくべきだ。

*2-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1049610 (佐賀新聞 2023/6/6) GX原発推進法成立 根拠欠く拙速な決定だ
 エネルギー関連の五つの法改正をまとめ、原発推進を明確にした「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立した。東京電力福島第1原発事故後に導入した「原則40年、最長60年」との運転期間の規定を原子炉等規制法から電気事業法に移し、運転延長を経済産業相が認可することで、60年超の運転を可能にした。原子力基本法では、原発活用による電力安定供給確保や脱炭素社会の実現を新たに「国の責務」とするなど、原発に関する重大な政策転換だ。悲惨な原発事故を忘れたかのような安易で拙速な決定は受け入れがたい。気候危機対策として原発に過大な投資をすることも合理的ではなく、エネルギー政策の失政の歴史にさらなる一ページを加えることになる。オープンで公正な議論を通じて見直しを進めるべきだ。気候危機対策では電力の脱炭素化が急務だ。多くの国がそれを進める中、大きく後れを取ってきたのが日本だ。1キロワット時の電気をつくる時に出る二酸化炭素(CO2)の量は、先進7カ国(G7)の中で最も多い。各国で電力の脱炭素化に貢献したのは、石炭火力の削減と再生可能エネルギーの拡大、省エネの推進で、原発拡大ではなかった。日本の遅れは、脱石炭と再エネ、省エネのすべてが進んでいないことが大きな原因だ。発電時に出るCO2の大幅削減は時間との闘いだ。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるためには2030年までに大幅な排出削減を実現する必要があり、これができないと手遅れになる。原発の運転期間の延長や革新的な原子炉の開発など、政府が進めようとしている原発推進策が、短期間での大幅削減に貢献しないことは明白だ。逆に多くの政策資源や資金が原子力に投入されることで、短期的な排出削減に最も効果的な再エネの拡大や省エネの推進が滞ると懸念される。このままでは化石燃料への依存が続き、安価な電力の安定供給も、CO2排出削減も実現せず、早晩、政策の見直しを迫られることになるだろう。今回の政策変更は内容も問題ばかりだが、その進め方にも多くの疑問点がある。福島事故を理由に掲げてきた「原発依存度の可能な限りの低減」を撤回し、原発推進にかじを切ったのは22年8月の岸田文雄首相の指示だった。その後、多くの法改正や新政策の議論が経産省を中心とする一部の関係者だけで進められ、短期間の決定となった。意見公募の機会も政府の説明も不十分で、原発事故の被災者や次世代の若者などを含めた多様な利害関係者が意見を表明する場はほとんどなかった。しかも今国会には、電気事業法などの関連する五つの法律をまとめて審議する「束ね法案」の形で提出されたため、審議時間は不十分。多くの疑問に政府が納得できる回答をしないまま、成立に至った。既得権益と前例にこだわり、正当性も科学的な根拠も欠くこのような政策が、いとも簡単に通ってしまうことが日本のエネルギー政策の大きな問題だ。不透明で非民主的な政策決定の手法が根本にある。国の将来を左右する重要なエネルギー政策決定で、いつまでもこのような手法を続けることは日本の将来を極めて危ういものにしかねない。

*2-3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASR5R6VM2R5QUPQJ00J.html?iref=pc_opinion_top__n (朝日新聞 2023年5月27日) 「その場しのぎ」を繰り返した原発 地下水は60年代から問題だった 大月規義(編集委員。大阪大学大学院原子力工学専攻修了。東京電力勤務を経て1994年から朝日新聞記者。昨年から南相馬市に駐在)
 東京電力福島第一原発から出る汚染水を、「安全」に処理して海に流すことへの漁業者らの反発。その原因をたどると、東電や国が「その場しのぎ」を続けてきた歴史が垣間見える。汚染水の大もとは、原子炉の建屋へしみ込む地下水や雨水だ。そもそも大量の地下水の噴出は、第一原発の建設が始まった1960年代から問題になっていた。原発を安定した岩盤の上に建て、海上から楽に資材を運搬するため、地面を20メートル以上掘り下げたことが原因と言われる。地下水の発生と排水は、運転を開始した後も続いた。2011年に事故が起きると、地下水は溶け落ちた核燃料(デブリ)の放射性物質を含み、汚染水となった。直後に東電は海に流し、国内外から酷評された。汚染水と、放射性物質をおおむね抜き取った処理水は、地上タンクにため続けた。13年にはタンクからの水漏れが問題になる。それでも安倍晋三首相(当時)は、汚染水の状況を「アンダーコントロール」と世界に発信した。地元は現実との違いに落胆した。そんな国と東電が、建屋に入る前の地下水を海に流すために漁業者の説得に使ったのが、処理水は「関係者の理解なしには処分しない」という15年の約束だ。実際は、タンクが敷地に満杯になるまでには「理解」が進むだろうという楽観に過ぎなかった。3年後には処理水に、取り除かれているはずのストロンチウムなどが基準を超えて含まれていることが発覚。東電は情報をホームページには載せていたと釈明したが、処理問題を話し合う国の会議では説明を省いていた。信頼や理解が地元に根付かないのは、こうした経緯があるためだ。当座をしのぐ対応は、他にもある。福島県内の除染で出た汚染土を、国は原発近くの双葉、大熊両町の中間貯蔵施設にためている。当初は最終処分場にするはずだったが、「中間貯蔵」と言い換え、「30年後に県外に運び出す」と約束し2町を説得した。その後、除染土の県外搬出は法律に明記されたが、見通しは全く立たない。国は各地で原発の再稼働や新増設を進めようとしている。だが、増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理など、深刻な問題から目をそらし続けた。そのツケが必ずどこかに回ってくることは、福島の現実が示している。

*2-3-4:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20230601/biz/00m/020/014000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailbiz&utm_content=20230606 (毎日新聞 2023年6月2日) 原発が安いは本当?「東電資料」から見つけた意外なデータ
●原発の発電コストが安いは本当か(上)
 東京電力など大手電力7社が6月1日から電気の規制料金を値上げした。政府や電力会社は原発を再稼働すれば燃料代が安くなり、電気料金の抑制につながると主張しているが、本当なのか。東電の公表資料を基に計算すると、原発の発電コストが火力などの市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がった。東電(正確には東京電力ホールディングス傘下で電力を販売する東京電力エナジーパートナー)は、家庭などに供給する電気の規制料金を6月1日から平均15.9%値上げした。東電は福島第1原発の事故後、全ての原発が停止している。ところが今回の電気料金の原価計算では、新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機を再稼働させることを「仮置き」として織り込んでいる。原発2基を再稼働することで、東電は「年間900億円程度の費用削減効果になる」と説明する。これは再稼働に伴い、核燃料代などはかかるが、卸電力取引市場を通じて他社から購入する火力発電などの電力が少なくなるからだという。
●東電の公表資料を基に計算
 大手電力の規制料金の値上げは、政府の電力・ガス取引監視等委員会が消費者庁とともに審査した。東電が同委員会に提出した資料によると、東電が他社から購入する火力などの電力の市場価格は1キロワット時当たり20.97円となっている。これに対して、原発の発電コストはいくらなのか。東電の公表資料によると、再稼働する原発2基で年間119億キロワット時の電力を発電する想定で、その費用の総額は4940億円という。この中には日本原子力発電と東北電力から原発の電力を購入する契約に基づき、東電が日本原電に支払う約550億円と東北電力に支払う約313億円が含まれている。両社の原発は動いていないため、東電が実際に受け取る原発の電力はゼロだが、契約に基づき人件費や修繕費などを「基本料金」として支払うことになっている。年間119億キロワット時の電力を4940億円かけて発電するので、1キロワット時当たりの発電コストは4940÷119=41.51円となる。日本原電と東北電力へ支払う基本料金を除いた東電の原発にかかる費用は4076億円となっており、発電コストは4076÷119=34.25円となる計算だ。
●原発が全基再稼働したら?
 いずれも東電が他社から購入する上記の市場価格20.97円を大きく上回る。これなら東電は原発2基を再稼働するよりも、市場から火力発電など他社の電力を購入した方が安く済む計算になる。さらに原発が再稼働した場合はどうか。NPO法人「原子力資料情報室」の事務局長を務める松久保肇氏は、柏崎刈羽原発の2~7号機が再稼働した場合を試算した。松久保氏は経済産業相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会原子力小委員会」などの委員を務めている。松久保氏は東電が政府に提出した公表資料を基に核燃料の単価や原発の固定費などを推計し、発電コストを試算した。柏崎刈羽原発は地元の新潟県柏崎市長が6、7号機の再稼働を認める条件として、1~5号機の廃炉計画を示すよう東電に要請している。このため最も古い1号機を廃炉にすると仮定して計算したところ、2~7号機(設備利用率80%)の発電コストは1キロワット時当たり17.09円となった。さらに日本原電と東北電力の原発が再稼働し、契約通りに東電が電力を購入した場合を加えると、原発の発電コストは同15.96円となった。東電が他社から電力を購入する市場価格(同20.97円)は下回るが、松久保氏によると、2020年4月~23年4月の卸電力市場の平均価格は同14.82円だという。原発を全基再稼働しても、原発の発電コストは市場価格の平均を上回る計算だ。松久保氏は「固定費などは電力会社や原発ごとに異なると思われるため、試算には一定の限界がある」としながらも、「政府は原発が再稼働すれば電力料金の抑制につながると説明するが、原発は燃料代が安くても維持費が高いため、電気料金の抑制効果はほとんどないと見るべきだ」と指摘する。今回の試算について、政府や東電は何と反論するのか。同様の試算をめぐっては、辻元清美参院議員(立憲民主党)が政府に質問主意書を提出している。次回、詳しくお伝えする。

*2-3-5:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20230502/biz/00m/020/008000c (毎日新聞 2023年5月6日)「脱原発のドイツ」はフランスから電力輸入は本当か
 ここは書かないわけにはいかない。ドイツが4月15日に脱原発を達成した。「とうとうその日がきたのか」と感慨深い。思い出すのは2015年、ドイツに「エネルギーベンデ(大転換)」の取材に出かけた時のことだ。国内最大の電力会社「エーオン」のエネルギー政策担当者が淡々と語っていた。「個人的には原発はクリーンなエネルギーとして優れていると思います。でも、そういう意見を言う段階は過ぎたのです」。誰が政権を取ろうと脱原発は変わらない。電力業界の諦めにも似た認識が覆されることはなかったわけだ。東京電力の福島第1原発事故をきっかけに業界がなんと言おうと脱原発を進めたドイツ。事故の当事者でありながら開き直りのように「原発回帰」にかじを切る日本の政府。いったい何が違うのだろうか。
●「日本でも原発事故防げなかった」
 そもそもドイツの脱原発の方針は20年以上前にさかのぼる。1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに原発を支持してきた国民の意見が変わった。その意向を反映した社会民主党と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と脱原発で基本合意し、02年に脱原発法を制定したのだ。ただ、10年には一時、中道保守のメルケル政権が原発延命を決定した。そこに起きたのが福島の原発事故だ。ここで有名な政府の「倫理委員会」が開かれる。工学者や経済学者だけでなく、哲学者や宗教界の代表者らで構成され、原発事故のリスクや廃棄物、他のエネルギー源との比較などを検討。原発よりリスクの少ない代替手段はあり、「脱原発が妥当」と結論づけた。これとは別に原発の専門家による「原子炉安全委員会」が「ドイツの原発は安全」と報告したが、メルケル首相は倫理委の判断を尊重した。「日本のような技術の高い国で原発事故が防げないなら、ドイツでも起こりうる」との認識からだ。22年までに国内の全原発17基を停止する計画は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機で延期を余儀なくされた。それでも脱原発の方針は揺るがなかった。
●日本で見かける誤解
 もちろん、原発さえやめれば「バラ色」というわけではない。当然課題はあるが、誤解もある。たとえば日本でよくみかける「ドイツが脱原発できるのは原発大国フランスから電力を輸入しているからだ」との論調があるが、事実はどうか。08~21年のドイツと各国間の電力取引総量をみると、輸出量が輸入量を上回り、ドイツは電力輸出国となっている。フランスとの取引の収支でも20年、21年とドイツの輸出超過。つまり、輸入しているのはフランスの方なのだ(原典は「Monitoringbericht 2022」)。フランスが電力輸入に転じた背景には、昨夏、配管の腐食や点検で全原発の半数以上が停止したことや、熱波の影響で一部の原発が出力を抑えざるをえなかったことがある。「ドイツは褐炭(低品質で安価な石炭)の依存度が高く、気候変動対策に逆行する」という指摘も聞く。確かに、22年のドイツの電源構成は風力、太陽光などの再生エネルギーが4割を超える一方で、石炭火力も3割を占める。ただ、10年に比べると3割減。この10年で原発とともに化石燃料も大幅に減らしてきたことがわかる。ショルツ政権は30年までに石炭火力を廃止し、自然エネルギーを80%に引き上げる目標を立てている。褐炭・石炭をフェーズアウトさせるための具体的なシナリオや対策、明確なスケジュールも示されている。簡単ではないが、目標を定め、道筋を示すことで、新たな技術や仕組みも開発されるはずだ。
●短期的利益優先でよいのか
 このところ電力価格高騰への不安から、世論が原発維持に傾いていることも指摘される。だが、原発数基を再稼働したからといって、一気に価格を抑えられる見込みがあるわけではない。電力価格の高騰にはさまざまな要因がある。ひとたび事故が起きれば、これではすまない。核のゴミの問題も解決はむずかしい。こうした原発依存のリスクは今後もなくならない。翻って日本はどうか。福島の事故からわずか12年で原発回帰へとかじを切った岸田政権。最大の問題は長期的ビジョンを持たず、短期的利益が優先され、原発事故前からの業界の既得権益を守る方向に傾くことだ。先日も、関西電力や九州電力など大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧し、公正な競争を妨害した。こうした事件が起きるのも、政府が原発を守ろうとする姿勢への便乗ではないだろうか。

<G7と農業>
*3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/f25b2a9306abd7f83bcf23d73f1cbbc9691721c0 (Yahoo、日本農業新聞 2023/5/20) 食料安保「深い懸念」 G7首脳宣言 生産性向上を提起
 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は20日、広島市のグランドプリンスホテル広島で2日目の討議を行い、最終日の21日を前に首脳宣言を発表した。食料・農業分野では、ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料安全保障が悪化しているとして「深い懸念」を表明。食料の生産・供給体制を強靭(きょうじん)化する必要があるとし、既存の農業資源を活用した生産性向上や環境に配慮した持続可能な農業を推進することを提起した。4月22、23日に宮崎市で開かれたG7農相会合でも、持続可能性を維持しながら国内の農業生産を拡大していくべきだとの見解で一致していた。この成果が、今回の首脳宣言に反映された格好だ。宣言では、国内の既存の農業資源を活用することや、幅広いイノベーション(技術革新)を推進していくことに言及。学校給食などを通じて健康的な食料を確保していくことの重要性も提起された。不当な輸出制限措置を回避することの重要性も改めて表明し、20カ国・地域(G20)の参加国にもこれを講じるよう求めた。ウクライナを巡っては、ロシアが世界有数の農業大国であるウクライナを侵攻したことで、食料供給体制が脆弱(ぜいじゃく)な国の食料安保が脅かされていると厳しく批判。G7として、そうした国への支援を続けていくと表明した。声明は当初、最終日の21日に発表予定だったが、新興国を加えた拡大首脳会議が始まったことなどを受け、G7の討議が事実上終了したとして発表に踏み切った。最終日は、20日に急遽来日したウクライナのゼレンスキー大統領やインドなど招待国の首脳らも加わり、ウクライナ情勢に関した討議を行う。
●「行動声明」 グローバルサウスと初
 首脳宣言とは別にG7首脳は、「グローバルサウス」と呼ばれるインド、ブラジルなど新興・途上の8カ国首脳と初めて、世界の食料安全保障の強靭化に向けた「広島行動声明」を出した。世界は「現世代で最も高い飢饉(ききん)のリスクに直面」していると警告し、危機への備えなどの必要性を訴えた。食料不足や物価高騰の影響を受けやすい8カ国との行動声明は、飢饉回避のため、民間などからの人道・開発支援への投資の増加が必要だと強調。農業貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿うよう明記した。全ての人が栄養価の高い食料に安定的にアクセスできることが不可欠だと指摘し、女性や子どもを含む弱い立場の人々や小規模零細農家への支援強化、既存の国内農業資源の公正かつ適切な利用などの行動を求めた。

*3-2:https://www.sankei.com/article/20230423-SE5XTMBV65ODZGXAK3IBLCF66I/ (産経新聞 2023/4/23) 食料安保〝弱者〟日本、声明作成成功も国内生産拡大に課題
 G7農相会合で採択された共同声明は、周囲を海に囲まれ食料の大半を輸入に頼る食料安全保障上の〝弱者〟である日本の意向を反映したものとなった。日本が重視する自国生産の拡大と持続可能な農業を両立する方針をG7で共有した。ただ、少子高齢化による農家や農地の激減といった恒常的課題を抱える日本の農業にとって、声明の順守は容易ではない。G7には米国やカナダなど食料の輸出大国も多く、他国が生産量を増やせば輸出機会の喪失につながる。そのため、「輸入国の生産拡大をG7の議題にすることはタブー視されてきた」(農水省幹部)。だが、食料の大半を輸入に頼る日本にとって、輸入依存度の低減に直結する自国生産の拡大は食料安保を確保する上で不可欠だ。今回の共同声明が「生産性の向上を支援する政策の促進にコミット(関与)する」と明記したことは、G7が途上国も含めた食料輸入国の自国生産の拡大を容認したことを意味する。背景には、ウクライナ危機後の食料供給の不安定化に加え、近年頻発する気象災害や世界的な人口増加の問題が顕在化し、G7内で食料不足にある現状の認識が広がったことがある。さらに、生産拡大と「持続可能な農業とを両立」させるという〝条件付き〟で、環境意識の高い欧米の合意を得るに至った。高度経済成長期に食生活の欧米化が進み、貿易自由化による多くの輸入農産品の国内への流入が自給率の低下を招いた日本の農業。令和3年度の食料自給率(カロリーベース)は38%とG7内では最低だ。「日本は小規模農家が多い。その中でどう(生産性を拡大)していくかは、イノベーション(革新)が重要になっていく」。野村哲郎農林水産相は23日の会見でこう強調した。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551190S3A600C2EA1000 (日経新聞社説 2023.6.2) 農業基本法の改正で緊急時への備えを 
 農林水産省は食料・農業・農村基本法の改正に向け、緊急時の食料増産などを柱とする「中間取りまとめ」を公表した。国民に安定して食料を供給し続けるために、不測の事態に対する備えを確かなものにしてほしい。現行の基本法は1999年に制定された。食料自給率の向上を目指したが実現せず、気候変動や新型コロナウイルスの流行、ウクライナ危機など食料確保が脅かされる事態がこの間に起きた。こうした状況の変化を受け、農水省は法改正を議論し始めた。2024年の通常国会への改正案の提出を予定している。焦点の一つは農産物輸入が急減したときの対応だ。中間取りまとめは、緊急時に政府全体で意思決定する体制を整え、不足が予想される農産物を増産できるようにすることを課題に掲げた。どこでどんな作物を作るべきかを、政府が生産者に指示することなどを念頭に置いている。政策で農業を支援しているのは食料確保が目的であり、いざというとき国民に不可欠なものに生産をシフトするのは当然の措置だろう。買い占めの防止や流通規制などもテーマになる。混乱を避けるため、行政命令を発動する基準を明確にするとともに、生産や流通の制限で不利益を被る業者への補償も用意しておく必要がある。国民一人ひとりの「食品アクセス」の改善に、平時から取り組むことを提起した点は評価できる。日本は大量の食品を廃棄する一方、生活困窮世帯には食べ物が十分に行き届いていない。フードバンクなどが食品の寄贈を受け、困窮世帯に提供しているが、運営団体の資金が足りないことも少なくない。政府や自治体が日ごろから団体と連携し、支援を充実させるべきだろう。小麦や大豆、飼料作物など輸入に頼る作物の増産も盛り込んだ。輸入に支障が生じたときの影響を和らげるためには欠かせない。そこで必要になるのが、水田の一部の畑への転換だ。食料安全保障の確保にとって必須の措置と位置づけ、基本法の改正をきっかけに政策を手厚くすべきだ。食料の余剰を前提としてきた農政から、不足も視野に入れた農政に変わることがいま求められている。国民にとって重要なテーマであり、幅広い意見を参考にしながら危機に対応できる新たな食料政策を構築してほしい。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70762710W3A500C2CE0000/ (日経新聞 2023年5月6日) 山形、アーモンド栽培注目 果樹手入れ簡単・冬場の収入源に、知名度向上と販路拡大狙う
 サクランボやモモなど果物の生産が盛んな山形県天童市で、アーモンド栽培が注目を集めている。果樹の手入れが簡単なのが魅力で、乾燥させれば年中販売でき、農家の冬場の収入源にもなる。県産ブランドとして知名度向上を図り、販路拡大を目指す。天童市の農業、東海林敏也さんは7~8年前からアーモンドの女王と呼ばれる高級種「マルコナ」の栽培を始めた。市内の種苗業、佐藤隆さんと協力。マルコナの生産に挑戦していた鹿児島県南さつま市の農業、窪壮一朗さんから穂木を譲り受け、苗木を育てた。アーモンドと品種が近いモモの苗木を生産する佐藤さんのノウハウを活用し、量産化に成功。市内には東海林さんに加え、仲間の農業者で計1000本以上が植えられた。サクランボやモモは果実を大きくするため、余分な実を間引く摘果や、色づきをよくするための反射シート敷設が必要で手間がかかる。アーモンドは種の部分を食べるためいずれも不要で、果肉が鳥の食害に遭っても品質に問題ない。昨年は約100キロを収穫した。果肉を取り除いて乾燥させれば日持ちし、一年中販売できる。東海林さんや佐藤さんの元には全国から苗の注文や、耕作放棄地対策への活用を模索する自治体からも問い合わせがあるという。徐々に生産量は増えているが、大口の受注先に対応するには足りない。国内で消費されるアーモンドのほぼ全てが輸入品で知名度も低い。東海林さんは「味が良いのに手間がかからない。良さを知ってもらえれば、魅力的な商品になる」と話している。

*3-4-2:https://www.sankei.com/article/20190217-5ZRQCXJLPJJ6ZHR4I56DKUAMNU/(産経新聞 2019/2/17)トレンド 国産レモン栽培拡大 瀬戸内から近畿・首都圏へ
 さわやかな酸味で、幅広い料理や飲み物に使われるレモン。日本では、通年で温暖な瀬戸内海地域産が有名だが、近年、近畿や首都圏にも栽培地が広がりつつある。もぎたての国産レモンは、温かいレモネードやお酒のレモン割り、焼き菓子などで「皮までおいしい」と親しまれている。
◆都心に近い畑で
 東京・大手町から地下鉄千代田線で北へ37分。千葉県松戸市でつくられる「新松戸レモン」が、今季も約3トン実った。「子供の頃は水田で稲穂が揺れていた。まさかここでかんきつ類が育つとは」。直売所「シトラスファーム」を営む農業、鵜殿敏弘さん(66)によると、戦後の宅地開発で田は埋め立てられ、鵜殿さんも稲作をやめて土地の一部を畑に転換した。弟の芳行さん(60)と地産地消できる作物を探すうち、約30年前、レモン栽培にいきついたという。うまく収穫までたどりつける斜面もあれば、冬に半数が枯れるような畑では、倍の本数を植えるなどして試行錯誤。7年前から出荷に弾みがつき、今は市内8カ所で約500本を育てるまでになった。
◆2つの町おこし
 レモンは、ヒマラヤ東部から欧米へ広がったとされる。日本へきたのは明治初期だ。近年は国産レモンの収穫量も伸びており、農林水産省園芸作物課によると、平成元年の1902トンから、27年は1万52トンへ5倍になっている。広島、愛媛両県で8割を占め、和歌山が続く。昨年はレモンを中心に据えた2つの町おこしも始動した。東京の立川市商店街連合会は10月、新産品作りへレモンの植樹式を実施。西日本豪雨で浸水した広島県呉市のとびしまレモンを植えて、今は耐寒性を調べている。初の越冬は今のところ順調で、来月から20本を本格栽培する。収穫までは数年かかる見込みで、それまでは呉のレモンを取り寄せ、ケーキやブリュレ、カルパッチョ、カレーなど、レモンを使ったメニューを商店街の各店が開発する。「豪雨の被災地支援も目的の一つ。栽培を成功させて、友好の印となる商品を作りたい」(石井賢連合会事務局長)。昨年3月には京都で「京檸檬(れもん)プロジェクト協議会」も発足した。日本果汁、宝酒造、伊藤園など府内7企業や生産者14人(4月から17人)、行政が参画し、耕作放棄地を活用し、栽培から販路確保まで取り組む。
◆皮ごと食べても
 新松戸レモンは、もぎたてを直売するため、はちみつ漬けやカクテルなどに、「皮ごと食べてもおいしい」と人気が高い。近隣住民が袋ごと買って、ニンジンりんごジュースに入れたり、レモネードやレモンハイにしたり。飲食店や菓子店にも提供する。「秋はクエン酸が多くて酸っぱい。冬にかけて酸がだんだん抜けて、2月は甘みが際立つ」(鵜殿さん)という。千葉県の温暖な気候がレモンの生育を助けている。「国産といえば瀬戸内レモン。それに比べてうちのは瀬戸際レモンだった」。鵜殿さんは笑う。「レモンの木もここの気候に慣れてくれた。このままいけば十数年後は千葉もレモンの主要な産地になるかもしれない」

*3-4-3:https://www.ssnp.co.jp/beverage/174880/ (食品産業新聞社 2019年4月22日) ポッカサッポロが広島・大崎上島でレモン栽培を開始 国産レモンの生産振興へ
 ポッカサッポロフード&ビバレッジは2019年4月より、国産レモンの生産振興を目的として、広島県豊田郡大崎上島町においてレモンの栽培を開始する。同社は、1957年にレモン事業を開始して以来、レモン商品の開発やレモンに関する研究を通じて、消費者の身近にレモンがある生活の提案を行っている。昨今、レモンの需要が拡大する中、特に国産レモンの市場が伸長している。一方で、国内のレモン農家において高齢化や後継者不足などの影響から生産や供給が不足しており、高まる需要に十分に対応できない状況となっている。同社は、国内において持続的にレモンの需要を拡大するためには、安定的な生産が必要であると考え、自らがレモンの栽培に携わることで、その課題を理解し、農家の共に生産振興を進め、更なる国産レモン市場の活性化に寄与することを目指す。栽培地は、これまでにレモンの振興などに関する協定を結んで協働している広島県の大崎上島町とし、これまでにも増して地域と共に農業環境づくりに取り組む。

*3-4-4:https://www.chunichi.co.jp/article/45308 (中日新聞 2018年12月9日) 国産人気 参入相次ぐ オリーブ栽培
◆手間かからず高値で販売
 オリーブ栽培が県内で活発だ。民間企業のほか、農家や団体などが近年相次いで参入し、オイルだけでなく、葉を使った茶や化粧品といった関連商品も増えている。オリーブに熱い視線が注がれる理由とは-。湖西市の小高い丘の一・六ヘクタールに八百本余りのオリーブの木が並ぶ。二〇一〇年から栽培を始めた「アグリ浜名湖」社長の奥田孝浩さん(58)は「ことしは裏年に台風24号が重なり、百本以上が倒れた」と苦笑いした。今秋の実の収量は前年の一・六トンから三分の一に落ち込んだが、オイルの瓶詰(百ミリリットル、二千百六十円)は、十一月中に三百本がすぐ完売した。価格は安い輸入品の倍以上だが「健康ブームで需要がある。国産の安心感も強いのでは」と手応えを口にする。ポリフェノールが豊富な葉を粉末にした茶や、オイルの化粧品も市内で営む喫茶店に並べる。シニア世代が買い求め、農園には茶農家や定年間際のサラリーマンらの視察が相次ぐ。静岡、藤枝市などの十二ヘクタールの畑で生産するクレアファーム(静岡市葵区)が四年前に開店したオリーブ専門店(葵区)では、県内産オイルが昨年から店頭に並んだ。十月下旬から今秋の品が入り、店員は「本当によく売れます」と驚く。ろ過しない「生搾り状態」で、劣化は早いが風味や栄養価を損なわない点で輸入品に勝ると自信を見せる。
◆加工品開発も続々
 購入者の多くは加熱せず、パンにつけたり、サラダにかけたりして食べるという。同社は県内産のシラスとワサビを使った瓶詰なども商品化し、消費促進に余念がない。各地で生産が増えているが「競争より相乗効果がある。静岡全体で小豆島を超えたい」と思い描く。国産の希少性から高値で売れるうえ、比較的に栽培の手間がかからないのも参入が増える理由だ。社会福祉法人天竜厚生会(浜松市天竜区)は、就労支援事業所の利用者の仕事の幅を広げたいと、一四年度から敷地の畑などで栽培。収穫や商品のラベル貼りなどできる作業も多く、生きがいづくりになると期待する。オリーブは自治体にも魅力的に映る。掛川市は、畑の整備や苗木購入の補助を始めた。市の担当者は「茶は年に数回刈り取るが、オリーブは一度。木が強くて作業も少なくて済む」。市内では全面的に茶から切り替えたり、副業で始めたりする農家も出てきた。「健康に良く、茶との相乗効果が狙える」。十年後に市内で百ヘクタールの栽培面積を目標に掲げる。県内の主力農産物である茶の消費低迷も反映し、官民でオリーブを推す動きは広がりそうだ。
◆ほとんどが輸入品
 一般社団法人日本オリーブ協会(東京都)によると、オリーブオイルは悪玉コレステロールを減らす脂肪酸「オレイン酸」が豊富で、生活習慣病予防につながる健康効果でも注目されている。国内に出回るのはイタリア、スペイン産など輸入品が大半で、国産は1%未満。国内産地では香川県の小豆島が有名だが、近年は九州などにも広がっている。静岡県によると、県内の栽培面積は二〇一〇年に一・三ヘクタールだったが、一五年は一五・六ヘクタールに拡大。現在は三十ヘクタール超と推計される。県内は日照時間が長く栽培に適しているが、降水量が多く病気が出やすい懸念もあるという。

*3-4-5:https://www.yomiuri.co.jp/local/oita/news/20230525-OYTNT50090/ (読売新聞 2023/5/26) オリーブの花ゆらり 国東
 国東市の農園ではオリーブの白い小さな花が咲き、風に揺られている。オリーブは香川県の小豆島が有名だが、同市は小豆島と同じく、降水量が少なく温暖で、日照時間が長いため、栽培に適しているとされる。同市のオリーブ園「国東クリーブガーデン」では、緩やかな斜面にオリーブが植えられており、24日には直径5ミリ程度の白い花が咲いていた。風によって受粉し、実ができて秋に収穫を迎える。栽培の責任者を務める光武慎司さん(31)は「昨年と同様、たくさん咲いている。日々の管理に気をつけて収穫を待ちたい」と話していた。

*3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15634021.html (朝日新聞社説 2023年5月12日) ふるさと納税 根本から制度の再考を
 「ふるさと納税」のゆがんだ仕組みが、貴重な税収を失わせ続けている。政府は防衛費や子育て予算の財源確保に苦心しているが、不合理な制度を放置したままでは、負担増への理解は得られないだろう。総務省は4年前、ふるさと納税への返礼品の調達費を寄付額の3割以下にするルールを導入した。自治体間の競争の過熱を抑えるためだ。同時に、送料や事務費も含めた経費総額は5割以下にする基準も定めた。ところが同省によると、21年度に136市町村が、5割を超える経費を費やしていたという。ルールの軽視が甚だしい。集めたお金の半分以上が税収以外に消えていくことを、どう考えているのだろうか。さらに見過ごせないのは、総務省が5割規制の対象にしている経費は「募集に要する」ものに限っていることだ。受領証明書の送料といった寄付後の経費は対象外になっている。朝日新聞が納税額の上位20自治体を調べたところ、計63億円の費用が「寄付後」に生じていた。これらを含めると、上位20自治体のうち13で経費率が5割を超える。松本剛明総務相は5割基準の目的について、「寄付金のうち少なくとも半分以上が寄付先の地域のために活用されるべきという考え方」と説明している。ならば、寄付後の費用も対象に含めるのが当然だ。返礼品の3割基準に違反した自治体は、ふるさと納税の利用ができなくなる。5割基準でも、寄付後の費用も対象にした上で、継続的な違反自治体は利用から除外すべきだろう。そもそもふるさと納税は、返礼品を手に入れるために、自らが暮らす自治体の行政サービスにかかる費用負担の回避を認める制度だ。地方自治の精神を揺るがす仕組みというしかない。所得税を多く納める高所得者ほど恩恵が大きく、格差を助長するという欠陥もある。財政力の弱い地方を中心に、ふるさと納税に期待する自治体があるのは事実だ。だが、都市と地方の税収格差を是正するにしても、返礼品になりうる特産品の有無で寄付額が左右される仕組みは望ましくない。ふるさと納税をめぐっては、多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市への地方交付税減額の妥当性が裁判でも争われてきた。こうした問題が起きたのも、制度自体がゆがんでいるからだ。全国でみれば、ふるさと納税により、21年度だけで少なくとも4千億円近い税収が実質的に失われている。経費のルールの中身や運用を見直すにとどまらず、制度の存続を含めて、根本からの再考を急ぐべきだ。

<G7核>
*4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR5M7VRQR5MUTFK027.html (朝日新聞 2023年5月20日) 【要旨】核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン
 広島で開かれている主要7カ国首脳会議(G7サミット)は19日夜、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発表した。主な内容は次の通り。
 歴史的な転換期の中、G7首脳は1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び長崎の人々が経験した、かつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った。核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する。
【核兵器の不使用】
 我々は77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性を強調する。ロシアのウクライナ侵略の文脈における核兵器の使用の威嚇、ましてや核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する。我々の安全保障政策は、核兵器は防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。
【核兵器数の減少】
 冷戦終結以後に達成された世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない。核兵器不拡散条約(NPT)は、国際的な核不拡散体制の礎石だ。現実的で、実践的な、責任あるアプローチで達成される、核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」は、歓迎すべき貢献だ。
新戦略兵器削減条約(新START)を損なわせるロシアの決定を深く遺憾に思う。中国による透明性や有意義な対話を欠いた、加速している核戦力の増強は、世界及び地域の安定にとっての懸念となっている。
【核兵器の透明性】
 核兵器に関する透明性の重要性を強調し、米国、フランス及び英国が、自国の核戦力やその客観的規模に関するデータの提供を通じて、効果的かつ責任ある透明性措置を促進するためにとってきた行動を歓迎する。まだそうしていない核兵器国がこれに倣うことを求める。
【核分裂性物質】
 核兵器または他の核爆発装置に用いるための核分裂性物質の生産を禁止する条約の即時交渉開始を求める。核軍備競争の再発を阻止するための優先行動として、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)への政治的関心を再び集めることを全ての国に強く求める。まだそうしていない全ての国に対し、核分裂性物質の生産に関する自発的なモラトリアムを宣言または維持することを求める。
【核兵器の実験的爆発】
 いかなる国もあらゆる核兵器の実験的爆発または他の核爆発を行うべきではないとの見解において断固とした態度をとっている。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効もまた喫緊の事項だと強調する。
【核不拡散】
 核兵器のない世界は、核不拡散なくして達成できない。北朝鮮による完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な放棄という目標への揺るぎないコミットメントを改めて表明する。北朝鮮に対し、核実験または弾道ミサイル技術を使用する発射を含め、不安定化をもたらす、挑発的ないかなる行動も自制するよう求める。
【民生プルトニウム】
 民生用プルトニウムの管理の透明性が維持されなければならないことを強調する。民生用プログラムを装った軍事用プログラムのためのプルトニウムの生産または生産支援のいかなる試みにも反対する。我々が望む世界を実現するためには、その道がいかに狭いものであろうとも、厳しい現実から理想へと我々を導く世界的な取り組みが必要だ。広島及び長崎で目にすることができる核兵器使用の実相への理解を高め、持続させるために、世界中の他の指導者、若者らが広島及び長崎を訪問することを促す。

*4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19DB40Z10C23A5000000/ (日経新聞 2023年5月20日) G7首脳、核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」の要旨、核なき世界「究極の目標」
主要7カ国(G7)首脳による核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」の要旨は次の通り。
 歴史的な転換期の中、我々は原子爆弾投下の結果、広島や長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎とともに想起させる広島に集った。核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書で、すべての者にとって安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認する。77年間に及ぶ核兵器不使用の記録の重要性を強調する。ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損やベラルーシに核兵器を配備するとの意図は危険で受け入れられない。核兵器使用の威嚇、ましてや使用も許されないとの立場を改めて表明する。我々の安全保障政策は核兵器が存在する限りにおいて防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し戦争や威圧を防止すべきとの理解に基づく。世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない。核兵器不拡散条約(NPT)は堅持されなければならない。現実的で実践的な責任あるアプローチを通じて達成される核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。この点で日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」は歓迎すべき貢献である。新戦略兵器削減条約(新START)を損なわせるロシアの決定を深く遺憾に思う。条約の完全履行に戻ることを可能とするよう求める。中国による透明性や有意義な対話を欠く核戦力の増強は世界や地域の安定の懸念となっている。米国、フランスや英国が核戦力に関するデータを提供し透明性を促進してきた行動を歓迎する。そうしていない国がこれにならい、非核兵器国と透明性について対話することを求める。中国やロシアに第6条を含むNPTの下での義務に沿い、関連する多国間及び二国間のフォーラムにおいて実質的に関与することを求める。長く遅延している核兵器または他の核爆発装置に用いるための核分裂性物質の生産を禁止する条約の即時交渉開始を求める。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)への政治的関心を再び集めることをすべての国に強く求める。いかなる国も核兵器の実験的爆発を行うべきではないとの見解で断固とした態度をとる。包括的核実験禁止条約(CTBT)発効も喫緊事項だと強調する。核実験を行う用意があるとのロシアの発表に懸念を表明する。核兵器のない世界は核不拡散なくして達成できない。北朝鮮に核実験や弾道ミサイル発射を含め挑発的な行動の自制を求める。大量破壊兵器や弾道ミサイル計画が存在する限り制裁は完全かつ厳密に実施、維持されることが極めて重要。イランが決して核兵器を開発してはならないとの明確な決意を改めて表明する。すべての国に次世代技術を含め原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の平和的利用の促進で保障措置、安全、核セキュリティーの最高水準を満たす責任を真剣に果たすよう強く求める。ロシアによるウクライナの原子力施設を管理しようとする試みに深刻な懸念を表明する。原子力安全や核セキュリティー上の深刻なリスクをもたらし、原子力の平和利用追求というNPT下でのウクライナの権利を完全に無視するものである。原子力発電または平和的な原子力応用を選択するG7の国は原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の利用が低廉な低炭素のエネルギーを提供することに貢献することを認識する。民生用プルトニウム管理の透明性が維持されなければならないと強調する。民生用を装った軍事用の生産や生産支援のいかなる試みに反対する。平和的原子力活動でのプルトニウム保有量を国際原子力機関(IAEA)に年次報告するとコミットしたすべての国に履行を求める。プルトニウムと同様の責任を持って高濃縮ウランの民生保有量を管理する必要性を認識する。我々が望む世界を実現するためには、その道がいかに狭いものであろうとも厳しい現実から理想へと我々を導く世界的な取り組みが必要である。広島や長崎で目にすることができる核兵器使用の実相への理解を高め持続させるために、世界中の他の指導者、若者、人々が広島や長崎を訪問することを促す。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK18AGW0Y3A510C2000000/ (日経新聞社説 2023年5月20日) 「広島ビジョン」で核軍縮の機運を再び
 人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない。主要7カ国(G7)の首脳が被爆地の広島に一堂に会し、世界にこう決意を示した。今回の訪問を「核兵器のない世界」の実現に向けた機運を再び高める契機とすべきだ。G7首脳会議(サミット)が19日開幕した。それにあわせて各国の首脳が広島平和記念資料館(原爆資料館)を40分間見学し、被爆者と面会した。G7は米英仏の核保有国に加え、米国の「核の傘」に守られている日本とドイツ、イタリア、カナダで構成する。その首脳が初めてそろって被爆の実相を目の当たりにし、核廃絶への認識を共有できた意義は大きい。2016年に現職の米大統領として初めて広島に足を運んだオバマ米大統領が原爆資料館に滞在したのは10分間だった。今回は滞在時間が伸び、首脳らの理解も深まったに違いない。ウクライナのゼレンスキー大統領はG7サミットに対面で参加する。ロシアの核の脅威に直面する同氏がこの機会に原爆資料館を訪れれば、核軍縮を巡る国際的な議論の喚起につながるだろう。岸田文雄首相はG7首脳の訪問を「核兵器のない世界への決意を示す観点で歴史的」と評した。世界の注目を広島に集める機会をつくった努力は評価したい。大事なのはそれを行動にどう移すかだ。核軍縮の共同文書としてG7首脳は「広島ビジョン」をまとめた。核兵器不使用の継続や中国を念頭に核戦力の透明性向上のためのデータ共有、非核保有国との対話促進などを打ち出した。ロシアは核の威嚇を繰り返し、中国や北朝鮮は核戦力の増強を加速させている。残念ながら、日本が米国に頼る核抑止力の重要性は高まっている。この状況で「広島ビジョン」で示した取り組みは当面の現実的な方策といえる。中長期的には、核軍縮で中心的な役割を果たすべき核拡散防止条約(NPT)体制を立て直す努力が要る。NPT再検討会議は15年、22年と2回続けて決裂し、最終文書案を採択できずに終わった。NPTは核軍縮に向けた誠実な交渉に臨むよう、核保有国に義務付けている。ロシアは米国と結ぶ新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を撤回すべきだ。この条約は世界の安定に寄与するだけでなく、米国との戦力の均衡を維持する点でロシアにもメリットがあるはずだ。

*4-4:https://digital.asahi.com/articles/ASR5P7234R5PUTFK00G.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2023年5月21日) 法の支配に基づく国際秩序の堅持を表明、G7広島首脳共同声明
 広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)は20日、議論の成果をまとめた「G7広島首脳コミュニケ(声明)」を発表した。ロシアによるウクライナ侵攻を「可能な限り最も強い言葉で非難」し、ウクライナ支援を継続すると明記した。声明では、ウクライナ侵攻などを踏まえ、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、強化する」と強調。現実的で実践的な取り組みにより、「核兵器のない世界」の実現をめざすことも表明した。さらに覇権主義的な動きを強める中国も念頭に、「力による一方的な現状変更の試みに反対する」と記した。また、ウクライナ侵攻がエネルギー危機などを引き起こしたと指摘し、同志国と連携して対応するとした。「信頼できるAI(人工知能)」の推進や再生可能エネルギーへの移行、ジェンダー平等やLGBTの人たちが差別されない社会の実現なども明記した。

*4-5:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a192095.htm (平成二十八年十月三十一日 衆議院提出) 質問第九五号:核兵器禁止条約にかかる決議案反対に対する外務大臣の発言に関する質問主意書、提出者 逢坂誠二
 日本時間の平成二十八年十月二十八日、国連総会第一委員会(軍縮)は、核兵器禁止条約に向けた交渉を二〇一七年に開始するよう求める決議案(「本決議案」という。)を賛成多数で採択した。しかし日本政府はこの決議に反対した。岸田外務大臣は、同日の会見で、「我が国としましては慎重な検討を重ねた結果、反対票を投じました。反対の理由は、この決議案が、(一)具体的・実践的措置を積み重ね、「核兵器のない世界」を目指すという我が国の基本的立場に合致せず、(二)北朝鮮の核・ミサイル開発への深刻化などに直面している中、核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し、その亀裂を深めるものであるからであります」と述べている。この岸田外務大臣の発言について疑義があるので、以下質問する。
一 「具体的・実践的措置を積み重ね」とは、具体的にどのようなことを考えているのか。
   政府の見解を示されたい。
二 なぜ今回の本決議案に日本が賛成すれば、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を
   一層助長し、その亀裂を深めるものである」と判断するのか。その理由について、
   政府の見解を示されたい。
三 日本は核兵器保有国ではないが、事実上、米国の核兵器によって日本が間接的に
   守られていると政府は考えているのか。政府の見解を示されたい。
                               右質問する。

<稼ぐ力を作り出す研究力・イノベーション、次世代太陽電池>
PS(2023年7月2、4日追加):*5-1-1は、①モノやサービスの海外取引結果を表す2022年度経常収支黒字は2021年度比54%減 ②モノの海外取引結果を示す2022年度貿易収支が大幅赤字となった理由は資源価格高騰・円安・最先端半導体/スマートフォンの輸入依存・電気機器貿易収支の赤字等 ③日本の「貿易立国」の地位はあやしくなり ④これを所得収支の黒字で穴埋めした ⑤日本発のイノベーションで新たな価値を生み出す努力が必要 としている。
 このうち、②③④については、スマートフォンや電気製品は海外製が多くなり、秋葉原の電気街では電気製品が減って雑貨の展示が増えたことから肌感覚でもわかっていたが、日本にとっては大きな問題である。この貿易収支の赤字を、①④のように所得収支の黒字で穴埋めして何とか経常収支の黒字を保っているのは、過去の蓄積を使っているにすぎないため、世界で競争力を維持するには、⑤のように、日本発のイノベーションを素早く取り込んで産業構造を変えなければならない。にもかかわらず、これをやらないのが他国とは異なる日本の袋小路になっているのだ。また、産業が他国に出てしまえば日本国内の技術は消滅して修理すらできなくなるが、産業を発展させた中国の方は技術が次第に高度化し、自然科学の研究力育成にも努めているため、*5-1-2のように、米国を抜いて世界1になった。研究機関別のランキングでは、中国の機関がトップ10の6つを占め、日本は国別では5位、機関別では東京大18位が最高(京都大44位・大阪大74位・東北大89位)だが、これが人口だけの問題でないことは、ドイツ(人口83百万人)3位、英国(人口68百万人)4位であることから明らかなのである。このような中、日本政府は、*5-1-3のように、「国際卓越研究大学」の最終候補を東京大・京都大・東北大の3校に絞ったそうだが、東京科学大(東京医科歯科大と東京工業大の共同申請)、名古屋大、筑波大、九州大、大阪大、早稲田大、東京理科大を書面や面接審査だけで落としたのは、付加価値を作り出し稼ぐ力を高める研究力とそれによるイノベーションを軽視しすぎた判断だ。
 これに加えて、*5-2-1・*5-2-2のように、電気料金を引き上げながら電力供給余裕度が安定供給に必要なぎりぎりの水準に落ち込むとして何年も節電要請をしているが、日本で再エネ導入が進まなかった理由は、低廉・安定電源などと称して原発や化石燃料に頼り続け、変動費無料の再エネを活用するインフラ建設を行わなかったからである。しかし、これだけ地震の多い日本で、武力攻撃にも対応していない原発に多額の補助金をつけて再稼働を促すのは安全神話の復活以外の何物でもなく、それこそが不合理すぎて信頼できない理由なのである。
 なお、不自由なく節電するためには、電気製品の省エネ化だけではなく、ペアガラス(特に真空断熱ガラス)をビル・マンション・住宅などに取り付けることを奨励したり、地中熱利用を推進したりすることに補助金を使った方が投資効果が高い。また、*5-3-1・*5-3-2のペロブスカイト型太陽電池は、薄いフィルムに印刷する太陽電池であるため、コストが安く、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすく、何より場所を問わずに設置できるため、ビル・マンション・住宅の壁やEVの屋根に貼って発電することもできる。そのため、2030年より前のなるべく早い時期に普及させるべく補助金を付けて推進した方が投資が生きるが、これもまた、2021年に既にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設し、中国では大型パネルの量産が始まっているのに、日本は未だにモタモタしているのである。
 そして、*5-4は、⑥世界は経済・安全保障の両面から脱化石燃料を加速して再エネ導入に邁進 ⑦G7共同声明は「世界の温暖化ガス排出量を2035年までに1019年比60%削減する緊急性が高まっている」とした ⑧日本は再エネの導入でアジア諸国にも後れを取っている ⑨風力発電は2022年に中国約3700万kwh、米国約860万kwh増やしたが、日本は23万kwhでインド・トルコ・台湾より下位 ⑩EUは一定規模以上の公共建築物・商業ビルは2027年までに新築・既設を問わず太陽光発電設置を義務化し、新築住宅は2029年までに義務化の方向 ⑪日本は東京都と川崎市が新築住宅に太陽光パネル設置義務化を決めた程度 等と記載している。
 このうち⑥⑦について、再エネ導入は経済安全保障のみならず、環境や国産エネルギーへの転換・高コスト構造からの卒業など日本にとって極めて有意義だが、これまで「不安定」などと言って過小評価していた結果が、⑧⑩⑪になっているのだ。ただし、建材の一部として建物に設置する太陽光発電は静かに自家発電して公害もないのでよいが、大規模風力発電はよほど工夫したものでなければ、低周波を出したり、景観を壊したり、漁業の邪魔になったりするため、⑨のように、砂漠があったり、広い土地があったりする国と単純に比較する必要はないだろう。むしろ、日本が火山地帯にあることを考えれば、地熱を利用した方がよさそうだ。

*5-1-1: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230512&ng=DGKKZO70919500R10C23A5EA1000 (日経新聞社説 2023.5.12) 経常黒字の半減が迫る「稼ぐ力」の育成
 日本の稼ぐ力が試されている。2022年度の経常黒字は前年度の半分に減った。海外に支払うお金ばかりが増えれば、経常赤字に陥りかねない。さまざまな面で競争力を高める必要がある。財務省が11日発表した22年度の国際収支統計(速報)では、海外とのモノやサービスなどの取引を示す経常収支の黒字が21年度比で54%減の9兆2千億円となった。モノの輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が、18兆円を超す大幅な赤字になったのが主因だ。ロシアによるウクライナ侵攻で原油や液化天然ガス(LNG)などの資源価格が高騰したところに、一時1ドル=150円台をつけた記録的な円安が重なり、円建ての輸入額が大きく膨らんだ。輸出の伸び悩みも貿易赤字の拡大につながった。自動車が3割近く増えて好調だったものの、かつては稼ぎ頭だった電気機器の伸びが1割に満たなかった。最先端の半導体やスマートフォンは大部分を輸入に頼っており、電気機器の輸入額は22年度に輸出額を上回った。付加価値の高い製品を輸出して稼ぐ日本の「貿易立国」としての地位は、もはやあやしくなっている。貿易赤字が巨額だったにもかかわらず経常黒字を保ったのは、投資で得た利子や配当のやり取りである第1次所得収支が35兆円を超す黒字になったからだ。日本企業が海外で攻めのM&A(合併・買収)を進めた成果であり、配当や現地子会社の内部留保を含めた直接投資からの受取額は支払額のおよそ6倍に達した。貿易収支が赤字でも、所得収支の黒字で穴埋めする「成熟した債権国」として、日本が海外で稼ぐ力を着実につけている表れだ。この流れを止めず、いっそう太くしていきたい。新型コロナウイルス禍で途絶えていた訪日外国人(インバウンド)も急増している。ただ、米巨大テック企業の「GAFA」などが提供するネット広告やクラウドサービスへの支払いが膨らみ、サービス収支全体は赤字のままだ。海外での稼ぎだけでは国内の雇用を保てず、格差の拡大を招くおそれがある。やはり日本発のイノベーションで新たな価値を生み出す努力が欠かせない。日本が経常赤字国に転落すれば、巨額の財政赤字を国内のお金だけで賄えなくなる。それを忘れてはならない。

*5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15672125.html (朝日新聞 2023年6月27日) 中国、自然科学の「研究力」1位に 米国を抜いて初、日本は5位 学術出版社がランキング
 自然科学の研究力ランキングで中国が米国を抜いて初めて1位になったと、世界的な学術出版社シュプリンガー・ネイチャーが発表した。研究機関別のランキングでも中国の機関がトップ10の六つを占めた。日本は国別で5位、機関別では東京大の18位が最高だった。シュプリンガー・ネイチャーは科学誌ネイチャーなどを発行しており、毎年、主要学術誌の論文数などをもとに研究力のランキングを発表している。今回は2022年に発行された自然科学分野の82誌の論文を集計した。国別ランキングでは、前年2位の中国が1位になった。米国は前年1位から2位に落ち、3位のドイツ、4位の英国、5位の日本は前年と同じ順位だった。研究機関別のランキングでは、中国科学院が11年連続で首位を守ったほか、中国の5大学がトップ10に入った。2位は米ハーバード大、3位は独マックスプランク研究所だった。100位以内に入った日本の研究機関は、前年14位から順位が四つ落ちた東京大のほか、京都大44位(前年37位)、大阪大74位(同64位)、東北大89位(同103位)の4機関にとどまった。前年87位の理化学研究所は103位だった。

*5-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15673022.html (朝日新聞 2023年6月28日) 「卓越大」候補に東大・京大・東北大 10兆円ファンド支援
 世界トップレベルの研究力をめざす「国際卓越研究大学」の最終候補が、東京大と京都大、東北大の3校に事実上、絞られたことがわかった。審査をする文部科学省の有識者会議が来月にも現地視察をして、秋ごろに正式決定する。認定校には、政府が出資する10兆円規模の大学ファンドの運用益をもとに、1校あたり年に数百億円が支援される。この制度は、国際的に戦える研究力を実現し、世界から優秀な人材を集められる大学をめざすもの。昨年12月に公募を始め、今年3月末に締め切った。応募した大学は3校に加え、東京科学大(東京医科歯科大と東京工業大の共同申請)、名古屋大、筑波大、九州大、大阪大、早稲田大、東京理科大の10校。有識者会議は、各大学が提出した運営計画や事業計画を書面や面接で審査をして、3校に絞り込んだ。秋ごろまでに数校程度の内定校を公表する方針だ。認定されると、来年度以降、最長25年間にわたって予算支援を受けられる。国は認定後も6~10年ごとをめどに評価する。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230702&ng=DGKKZO72416950R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.2) 電力の需給逼迫と料金格差は放置できぬ
 政府は7月1日から8月末までの2カ月間、東京電力ホールディングス(HD)の供給区域を対象に、数値目標を定めない節電を要請した。電力供給の余裕度が安定供給に必要とされるぎりぎりの水準に落ち込むためだ。一方、東電HDなど電力大手7社は家庭用の電気料金を6月から引き上げた。その結果、関西電力や九州電力など据え置いた3社との料金格差が開きつつある。政府が導入した負担軽減策を加味した後の比較では、首都圏の料金は関西より3割以上高い。電力は日々の暮らしや経済活動を支える血液だ。必要なときにいつでも、手ごろな価格で使えなければならない。電力の地域格差は生活の利便性や快適さ、ひいては産業立地や企業競争力にも影響しかねない。格差を生む構造的な課題を解消しなければならない。東電エリアの節電は7年ぶりに要請した2022年夏、同年冬に続く。休止中の発電所を最大限活用して供給力の確保に努めると同時に、使い手に無理のない消費の抑制へ協力を促すことが大切だ。刻々と変わる電力需給の逼迫度や効果的な節電方法をわかりやすく伝える工夫が要る。節電に協力する家庭や企業には料金の割引などインセンティブを提供する仕組みを一段と定着させていきたい。ただし、こんな綱渡りを毎年続けるわけにはいかない。供給力を長期で確保することが重要だ。足元で広がる首都圏と、関西や九州との料金格差や供給の余裕度をめぐる違いは、原子力発電所の稼働状況が左右している点を直視しなければならない。関電は5基、九電は4基の原発が再稼働しているのに対し、東電HDはゼロだ。その分、資源価格や為替に左右される化石燃料を使う火力発電の比率が高い。国は安全を確認した原発の再稼働を進めるとする。東電HDは今秋の柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を計画に織り込んでいる。しかし、繰り返される不祥事に、原発の立地自治体からは「東電に原発を任せられるのか」といった厳しい声があがる。東電HDは信頼を得る努力を積み上げるしかない。これに時間がかかるなら、並行して火力発電の供給力維持や再生可能エネルギーの導入拡大へ投資を振り向けることが重要だ。地域を超えて電気を送る送電網の整備も続けていかなければならない。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230701&ng=DGKKZO72410250R00C23A7MM0000 (日経新聞 2023.7.1) 節電要請始まる 政府、東電管内で来月末まで
 東京電力ホールディングス管内の家庭や企業を対象にした政府の節電要請期間が1日、始まった。8月末までの2カ月間が対象となる。暑い時間帯には冷房を使って熱中症に気を付けつつ、不要な照明を消すといった無理のない範囲での節電を呼びかけている。政府は2022年の夏は全国規模で節電を要請した。23年は電力需給の見通しが厳しい東電管内に限った。経済産業省によると10年に1度の厳しい暑さを想定した場合、7月の東電管内の供給余力を示す電力予備率は3.1%になる。安定供給に最低限必要とされる3%をわずかに上回る。8月は4.8%、9月は5.3%に高まり、徐々に余力が出てくる見込みだ。西村康稔経産相は6月30日の記者会見で「小さな取り組みを重ねれば大きな効果になる」と述べた。具体的には、不要な照明の消灯や、エアコンや冷蔵庫の設定温度を必要以上に下げないことを求めた。経産省が発表した1~7日までの1週間の電力需給見通しによると、最高気温が30度を超えても予備率は少なくとも12%を確保する。「安定供給に必要な水準は確保できる」としている。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BIZ0U3A410C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023年5月12日) 曲がる次世代太陽電池、ビル壁面で発電 25年事業化へ
 次世代の「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めている。薄いフィルム状で折り曲げられるため、場所を問わず自由に設置しやすい。原料を確保しやすく、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすい利点もある。政府は2030年までに普及させる方針を打ち出し、国内企業を支援する。35年には1兆円市場に育つとの試算もある。積水化学工業や東芝が25年以降の事業化に向け開発を急ぐ。ペロブスカイト型太陽電池は太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使う。重さが従来のシリコン型の10分の1。折り曲げられるため、建物の壁や電気自動車(EV)の屋根などにも設置できる。一方で水分に弱いため、実用化には高い発電効率を維持しながら、耐久性が課題となる。「実用化できる基準には達した」。積水化学はこれまで1日ももたずに壊れてしまったペロブスカイト型の耐久性を10年相当に高めた。液晶向けで培った液体や気体などが部品の内部に入り込まないようにする封止材の技術を使い、太陽電池を保護した。シリコン型の耐久性は約20年であり、R&Dセンターのペロブスカイト太陽電池グループ長の森田健晴氏は「耐久性を高められなければ、事業化には致命的だ」と話す。事業化に欠かせない発電の変換効率も高めた。30センチメートル幅で変換効率15%(シリコン型は20%以上)を達成した。薄いペロブスカイト型はシリコン型よりも熱を逃がしやすく、変換効率の低下につながる電池の温度上昇を抑えられる。今後は実用に近い1メートル幅での開発を目指す。積水化学は東京都下水道局森ヶ崎水再生センターなど複数の拠点で実証実験を実施しており、設置方法を含む実用化を検討している。現状では発電する薄膜に欠陥が生じやすいほか、歩留まりも悪く、製造コストはシリコン型に劣るという。今後は軽さを生かして物流コストなどを抑えることで、設置までの全体のコストでシリコン型に対抗する。25年度に事業化する方針であり、JR西日本がJR大阪駅北側に25年の開業を目指す「うめきた(大阪)駅」に設置予定だ。ペロブスカイト型は敷地を確保しにくい都心での発電が可能となる。室内光や曇りや雨天時など弱い光でも発電可能なため、屋内向けの電子商品などに使われる可能性がある。実験レベルでは高い変換効率を達成しており、耐久性やコスト面で改善が進めば、中国勢が優位に立つシリコン型に対抗しうる太陽電池として期待が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年から「グリーンイノベーション基金」で次世代太陽電池の開発に約500億円の予算を確保している。30年度までに一定の条件下での発電コストをシリコン型と同等の1キロワット時14円以下の達成を目指す。経済波及効果は30年までに約125億円、50年までには約1兆2500億円を見込む。東芝もグリーンイノベーション基金に採択された企業の1つだ。26年度ごろの事業化を目標に掲げる。広い面積にペロブスカイト層を均一に塗布する独自技術を開発し、703平方センチメートルの大面積で変換効率16.6%を達成した。現在の耐久性能を明らかにしていないが、耐久性の向上と低コストな製品の開発を進めているという。カネカはNEDOが補助するペロブスカイト型だけでなく、シリコン型と2層で重ねる「タンデム型」の開発も進めている。設置済みのシリコン型をタンデム型に置き換えることで、発電効率を高める狙いだ。同社が開発した結晶シリコン太陽電池はトヨタ自動車の新型プリウスのプラグインハイブリッド車(PHEV)などで採用された実績がある。素材開発から量産まで一気通貫で自社で担える強みを生かす。ペロブスカイト型は09年に桐蔭横浜大学(横浜市)の宮坂力特任教授が発明した。だが海外で特許取得をしていなかったことや、各国政府の研究開発支援の充実で、海外との開発競争は激化している。21年にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設した。中国でも大型パネルの量産が始まっている。ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。価格もシリコン型に比べ高額だ。日本企業がコストや性能で優れた製品を量産できれば勝機はある。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。
●国内で供給網、エネルギー安保でも注目
 政府がペロブスカイト型太陽電池の開発を後押しする背景にエネルギー安全保障がある。現在主流のシリコン型は原料であるシリコンの供給を中国に依存しており、有事の際に生産が止まるリスクがある。ペロブスカイト型は太陽光の吸収材料に日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素を使う。他の原材料も国内で確保しやすいため、国内でサプライチェーンを完結できる可能性がある。株式市場では関連銘柄としてヨウ素メーカーにも注目が集まっている。ガラス最大手AGC子会社の伊勢化学工業が国内シェアの30%を、K&Oエナジーグループが15%を占める。ペロブスカイト型が普及した場合、国内のヨウ素使用量はどれくらい増えるのか試算してみた。ペロブスカイト層の厚さを1マイクロメートルとし、ペロブスカイト結晶の密度から単位面積当たりのヨウ素量を計算すると、1平方メートルあたり数グラムとなる。国内の0.5メガワット以上の太陽光発電施設が占める面積と同程度、ペロブスカイト型が設置されると仮定すると、ヨウ素の必要量は数十トン程度と、国内の年間生産量の1%に満たない。日本発のペロブスカイト型太陽電池は市場規模の成長力とエネルギー安保の両面から実用化への期待が高い。一方で関連企業の業績への影響は未知数であり、銘柄選びには冷静な見極めが必要だ。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230628&ng=DGKKZO72277830X20C23A6TB2000 (日経新聞 ) 曲がる太陽電池 京大発新興とトヨタ開発 EV屋根に搭載目指す
 京大発スタートアップのエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)とトヨタ自動車は27日、次世代太陽電池の本命とされる「ペロブスカイト型太陽電池」を共同開発すると発表した。2030年までに電気自動車(EV)の屋根などに搭載を目指す。エネコートはトヨタと組むことで大型化や耐久性の課題を解決し、実用化につなげる考え。エネコートとトヨタは5月に車載向けパネルの共同開発を始めた。太陽電池においてシリコンに代わる材料として注目を集めるペロブスカイトの成分などを見直し、現在はシリコンとほぼ同程度の発電効率を最大で5割高める。トヨタがペロブスカイト型太陽電池で外部企業との共同開発を明らかにするのは初めて。トヨタはプリウスのプラグインハイブリッド車(PHV)や一部EVで車の屋根に太陽電池をつけるメーカーオプションを提供している。23年発売のプリウスの場合、1平方メートル程度のシリコン製のパネルが載る。価格は28万6000円。一般的な気象条件で、年間約1200キロメートル走行分の電気を発電できるとしている。トヨタの増田泰造・再エネ開発Gグループ長は「屋根以外のボンネットなどに置いて面積を2倍に増やせば、計算上は約3倍の3600キロメートル走行分を発電できる」と期待する。一般的な自家用車の年間走行距離は1万キロメートルとされ、3分の1を太陽光でまかなえる計算だ。近距離だけで車を使う人なら、ほぼ充電不要になる。太陽電池を搭載する車はSUBARU(スバル)や韓国の現代自動車なども手がけるが、トヨタによると太陽光だけで実用に耐えられる車は珍しい。エネコートの加藤尚哉社長は「ペロブスカイト型はシリコンに比べて製造工程が少なく、低コスト化も期待できる」と話す。ペロブスカイトの曲げやすい特性をいかし、車体のデザインとマッチしやすい太陽電池の形も探る。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230703&ng=DGKKZO72418330S3A700C2TL5000 (日経新聞 2023.7.3) 日本の「GX」看板倒れ、アジアにも後れ、風力は中国の160分の1
 脱炭素分野で日本の出遅れが鮮明だ。世界はウクライナ危機で経済・安全保障の両面から脱化石燃料を加速しており、再生可能エネルギーの導入にまい進する。日本はアジア諸国にも再生エネの導入で後れを取るのが現状だ。岸田文雄政権が掲げるグリーントランスフォーメーション(GX)は足元の具体策を欠き、看板倒れとの印象が拭えない。「2030年までの『勝負の10年』に、全ての部門において急速かつ大幅で、即時の温室効果ガス排出削減を実施しなければならない」。5月21日閉幕の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の会合で、岸田首相は強調した。G7の共同声明には「世界の温暖化ガス排出量を35年までに19年比60%削減する緊急性が高まっている」とも盛り込まれた。これまで日本は30年度に13年度比で46%削減する方針だったが、さらに上積みを目指すとの宣言だ。
●再生エネ導入予測 ベトナムに抜かれる
 勇ましい言葉とは裏腹に、日本の実績は振るわない。たとえば世界で主流になった風力発電。業界団体で構成する世界風力会議によると、22年に中国は約3700万キロワット、米国は約860万キロワット増やした。日本はわずか23万キロワット。原発1基の5分の1程度だ。年間で中国の160分の1しか導入できず、インドやトルコ、台湾よりも下位に沈んだ。国際エネルギー機関(IEA)の22年12月の予測では、主要国は再生エネを急速に増やす一方、日本は伸びが鈍化する。27年の年間導入量予測で日本は最大約710万キロワットだが、同約730万キロワットのベトナムに抜かれる見通しだ。洋上風力発電が日本で大規模に立ち上がるのは30年前後と遅い。広島サミットの共同文書に「再生エネの導入を大幅に加速する」と明記したものの、実態が伴わない。国が30年度時点の野心的な目標として約1800万キロワットを見込む陸上風力も、現状は約460万キロワットにとどまっている。事業者が地元と十分協議せずに景観の観点からトラブルになる案件が相次ぎ、自治体は国とは別のアセスメントを次々に導入する。国と自治体では基準や内容もバラバラで、環境影響評価に約4~5年、工事に約2年もかかるという。新規案件はまとまらず、既にある風車の置き換えすら困難な状況だ。30年の目標には間に合わない。GX基本方針で「再生エネを最優先」と位置づけるならば、国が規制の基準を統一するなど前面に立って推進しなければ大幅拡大はおぼつかない。それでも国は「地域との合意形成に向けた適切なコミュニケーションの不足」と事業者の責任を追及するばかりだ。欧州連合(EU)は一定規模以上の公共建築物や商業ビルで27年までに新築・既設を問わず太陽光発電の設置を義務化し、新築住宅は29年までに義務化する方向で検討している。日本は東京都や川崎市が新築住宅に太陽光パネル設置の義務化を決めた程度で、全国的な広がりを欠く。脱炭素の原資として、二酸化炭素(CO2)排出に価格をつける「カーボンプライシング」を導入する方針だが、規模・時期ともに見劣りする。政府は20兆円規模の「GX経済移行債」をGX基本方針に盛り込んだ。温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標の2050年までに償還を終える。仮に20兆円を30年から50年にかけて完済すれば、12年に導入した地球温暖化対策税の税収規模で換算した炭素価格は排出1トンあたり1000円ほど。欧州の10分の1程度だ。韓国は1600円、中国も1100円と日本を上回る。国際通貨基金(IMF)は30年に1トンあたり75ドル(約1万円)以上にする必要があると試算するが、数字はほど遠い。
●「GXは曖昧」 米国などが難色
 カーボンプライシングの本格導入も遅い。ガスや石油元売りなど化石燃料を輸入する企業が燃料消費時の排出量に応じて負担する「炭素に対する賦課金」は28年度、電力会社にCO2の排出枠を買い取らせる「排出量取引」は33年度と見込むが、インドネシアは23年、ベトナムは26年に導入する。「GXは言葉が曖昧だ」。米国は4月のG7気候・エネルギー・環境相会合の交渉過程で、共同宣言にGXという単語を盛り込むことに難色を示した。日本はGXを日本発の看板政策としてアピールする狙いだったが、各国の賛同は得られず、最終的に一般名詞の「green transformation」という表記にとどまった。再生エネルギーや電気自動車(EV)の拡大をテコ入れし、温暖化ガス排出を減らす規制の導入に汗をかかなければ、日本のGXが世界で評価される日は遠い。

| 経済・雇用::2023.3~ | 04:04 PM | comments (x) | trackback (x) |
2023.2.2~2.8 2023年度予算審議のうち少子化対策について (2023年2月11、12、13、28日、3月6、9、11《図》、14、16、19、20、21、26、27、30日追加)
 「少子化が問題なのだから、少子化を止めるために何でもいいから対応すべきだ」という主張は、乱暴な「産めよ増やせよ論」であり、時代に逆行しているため、私は同調しない。

 しかし、「子を育てられないから、産めない」という状況は、日本国憲法第13条「すべて国民は個人として尊重される。生命・自由・幸福追求に対する国民の権利は、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政上で、最大の尊重を必要とする」や第25条「①すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する ②国は、すべての生活部面について、社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上や増進に努めなければならない」を満たさず、先進国とはとても言えないため、改善すべきだ。

 そして、改善するためには、必要以上の少子化になっている本当の理由を突き止め、ピンポイントでそれを改善しなければならないのは当然のことである。

(1)少子化について

  
               いずれも内閣府HPより
(図の説明:左図は結婚数の推移で、団塊世代が結婚適齢期になった時に最高で、現在は最低である。中央は、出生数の推移で、団塊世代の出生時に最高となり、団塊世代の出産適齢期に次の山があって、その後は漸減している。合計特殊出生率は、2005年の1.26を最低として、現在は1.45である。これらの結果、右図のように、人口は2010年の1億2,806万人を最高に、2065年に8,808万人まで緩やかなカーブで減少するが、これは①太平洋戦争後の異常な状態が自然に修正される過程である ②8,000万人台の人口は1945~50年頃と同じで適正人口であろう ③従って寿命の延びに伴って生産年齢人口の定義を75歳以上に延長すればよい 状態である)

  
               いずれも内閣府HPより
(図の説明:左図のように、出生率が低いのは東京はじめ関東の都市部、大阪・京都・奈良など近畿の都市部と北海道・東北で、都市部については、人口密度が高くて居住面積が狭く、保育所等も足りない、ゆとりのない場所である。北海道・東北で出生率が低いのは、差別を嫌って若い女性が都市部に転出するからではないか?また、中央の図のように、女性の出産年齢が次第に上がっているが、これは高等教育や仕事におけるキャリア形成の時期と重なるため、仕方のないことで後戻りはできない。しかし、右図のように、所得が低い層の割合が増えて結婚・出産の障害になっているのは、バラマキよりも根本的解決が必要である)

1)少子化の状況
 内閣府の少子化をめぐる現状分析は、*1-1のように、①我が国の年間の出生数は第1次ベビーブーム期には約270万人、第2次ベビーブーム期には約210万人だったが、1975年に200万人を下回り、2022年は第1次ベビーブーム期の約28.6%にあたる77万3千人で、②合計特殊出生率は、第1次ベビーブーム期には4.3を超えていたが、1950年以降は急激に低下し、1975年に2.0を下回ってからは2005年の1.26まで下がり続け、一時回復して2015年は1.45になったが、2022年は1.27になるそうだ。

 このうち①については、太平洋戦争後、兵隊に行っていた男性が戻ってきて結婚・出産ラッシュが起こり、約270万人/年も生まれる第1次ベビーブームが起こった。②の合計特殊出生率4.3超というのは、戦前の発想で子ども数を決めていたからである。

 そして、医学の進歩や衛生状態の改善による乳児死亡率低下で、このままでは人口が増えすぎると考えた日本政府は、子2人を標準とする家族計画を奨励し、1975年に出生数が200万人を下回って合計特殊出生率も2.0以下になったのである。

 しかし、教育改革で女性にも平等な教育機会が与えられ、女性が働いてキャリアを積むことも可能になったにもかかわらず、日本政府は戦前と同じ発想で家事・育児・介護などを家庭責任として女性に押し付け、保育所や介護制度等の整備を怠ってきたため、自由を獲得した女性が結婚や出産の回避に動いたり、日本人男性以外を配偶者に選んで海外に生活基盤を築いたりした。

2)合計特殊出生率の趨勢
 そのような理由から、2015年の合計特殊出生率は1.45となり、比較的女性の教育レベルが高く、女性の仕事も多い東京都(1.24)で合計特殊出生率が最も低く、そうでない地域で高くなっている。また、都道府県別・年齢別出生率で下位の東京都は15~34歳の出生率が全国より低く、35~49歳で高くなっているが、これは高等教育を受け収入の多い働き甲斐のある仕事についた女性が多いからだと言えるだろう。

 ただし、東京都などの都市部は、*1-5のように、人口が集中しすぎた結果、住宅価格は高く、家族一人当たりの居住面積は狭く、郊外に住宅を取得したため通勤時間が長くなったりして、子育てできないその他の事情も増えた。 

3)晩婚化、晩産化
 女性の年齢別出生率は、1975年は25歳がピークで、1990年は28歳がピークで、2005年は30歳がピークとピークの年齢が高くなってきており、20歳代の出生率低下が少子化の一因と考えられるそうだ。

 しかし、このために20歳代の出生率をあげるのは不可能だ。何故なら、職場で安定した立場を確立してから結婚・出産しようと思えば、高等教育終了後の一定期間後にしか結婚・出産はできず、そのため平均初婚年齢は上がり、出生時の母親の平均年齢も上がり、30~40歳代の年齢別出生率がわずかに上昇して、完結出生児数が2人前後になっているのだからである。

4)未婚化
 50歳時の未婚割合は、1970(昭和45)年は男性1.7・女性3.3%だったのに対し、2015年には男性23.4%・女性14.1%となり、この流れが変わらなければ50歳時の未婚割合上昇は続くそうで、これは私の体感と一致している。

 そして、「いずれ結婚するつもり」と考える未婚者(18~34歳)の割合は男性85.7%・女性89.3%と男女とも高く、それでも独身でいる理由は、男女とも①適当な相手にめぐりあわない ②異性とうまくつきあえない ③自由さや気楽さを失いたくない が多く、男性は④まだ必要性を感じない ⑤結婚資金が足りない も多くなっているのだそうだ。

 しかし、いずれ結婚するつもりだが独身でいる理由が、①②というのは、男女別学の学校から男女の割合が著しく異なる職場に就職したためではないかと私には思われ、私自身は男性の方が多い男女共学校から男性の多い職場に就職したため、そのような経験は全くない。従って、何らかの形で異性の多い場所に身を置くのが解決策だと考える。

 なお、現在は独身や単身でも暮らしやすくなっているため、④は理解できる。また、それなら③の自由さや気楽さを失ってまで結婚するメリットを感じないという人もいるだろう。ただ、⑤の結婚資金が足りないというのは、下の5)のとおり、所得が低ければ有配偶率も低くなるため、解決しなければならない問題である。

5)所得と有配偶率
 2012(平成24)年の所得分布を1997(平成9)年と比べると、20代は250万円未満の雇用者割合が増加し、30代は400万円未満の雇用者の割合が増加して、若い世代の所得分布が低所得層にシフトしており、その理由は非正規雇用の割合が全年齢より高いからだそうだ。

 そして、男性の就労形態別の有配偶率は、正規雇用は25~29歳31.7%、30~34歳57.8%であるのに対し、非正規雇用は25~29歳13.0%、30~34歳23.3%と正規雇用の1/2以下、パート・アルバイトは25~29歳7.4%、30~34歳13.6%と正規雇用の1/4以下であり、就労形態の違いによって有配偶率が大きく異なり、男性の年収別有配偶率はどの年齢層でも年収が高い人ほど高いとのことである。

 しかし、これは当たり前のことで、仕事と収入が安定していなければ自分の生活だけで精一杯であり、結婚して子どもを育てようなどというステップには進めない。そのため、望まぬ非正規雇用が発生しないようにして安心して生活できるようにすることが、まず重要であろう。そして、これは、仕事やキャリアを大切にする女性も同じなのである。

(2)所得税等の少子化対策

   
         2021.12.16、2014.3.6、2023.2.1日経新聞

(図の説明:左図は、地域別の25~34歳男女の人口比で、地域によって男女比に違いがある。また、中央の図のように、ドイツ・アメリカは個人単位と2分2乗方式の選択制、フランスはN分N乗方式の世帯単位課税のみと、課税単位は国によって異なる。右図は、現在の日本の税率で個人課税とN分N乗方式適用の場合の所得税額の差を示す事例であり、N分N乗方式を適用した方が負担力主義に合致する)

   
     2020.7.12労務              2023.2.2日経新聞  

(図の説明:左図は、出産後の女性が専業主婦になるM字カーブは浅くなったが、出産後に正規社員に戻れず非正規社員として低賃金で働く女性が多いことを示すL字カーブの健在性を示すグラフだ。そして、非正規社員として低賃金で働く場合には、中央の図のように、収入が103万円を超えると所得税が発生し夫の扶養家族にもなれない103万円の壁と社会保険料が発生する130万円の壁が効くため、就業時間を調整する人が増える。右図は、不動産価格の高騰で首都圏・近畿圏の新築マンションの平均専有面積が狭くなっていることを示すグラフだ)

1)N分N乗方式について
 租税の原則は「公平」「中立」「簡素」であり、i)「公平」は、負担力に応じて負担すること ii)「中立」は、経済活動に関する選択を税制が歪めないようにすること iii)「簡素」は、納税者が理解しやすい簡単な仕組みにすること である。もっと詳しく知りたい方は、金子宏氏の名著、「租税法」を読むのがお奨めだ。

 で、日本の所得税は、現在、個人単位課税のみだが、①アメリカ・ドイツは、2分2乗方式の夫婦単位と個人単位との選択制 ②フランスは、N分N乗方式の世帯単位課税のみ ③イギリスは、1990年に世帯合算非分割課税から個人単位課税に移行 というように、所得税の課税単位は国によって異なる。

 私は、i)の負担力を考える時、日本もN分N乗方式(子がいなければ2分2乗方式になる)を選択できるようにした方がよいと思うが、夫婦であっても経済は個人単位というカップルもいるため、基本を個人単位課税としてN分N乗方式を選択可能にすればよいと考える。何故なら、①のように、アメリカ・ドイツは、2分2乗方式の夫婦単位と個人単位との選択制だが、2分2乗方式では子の数が加味されないため、本当の負担力主義にならないからだ。また、ii)の経済活動に関する中立性やiii)の納税者の理解という点から考えても、選択制なら誰もが納得できるだろう。

 しかし、税負担軽減によるメリットは、所得税を支払っている層にしか効かないため、児童手当はやはり必要である。この時、児童手当をもらう人はN分N乗方式の選択ができないことに決めれば、二重に得する層はなくなる上、扶養控除の廃止部分と児童手当不支給による財源でN分N乗方式採用による税収減はかなり賄えるのではないかと思う。

 このような中、*1-2は、「N分N乗方式」を世帯単位課税と説明しているが、②のように、フランスの場合はN分N乗方式の世帯単位課税のみしか認めていないものの、日本は、アメリカ・ドイツのように、個人単位課税を基本としつつ、「N分N乗方式」や児童手当支給を選択可能にすればよいため、個人単位課税を基本にすることもできるのだ。

 そして、N分N乗方式を選択した場合は、所得が大きいほど税率が高くなる累進課税の所得税の仕組みの中で支払税額が少なくなるため、こちらの方が本当の負担力主義となる。また、「N分N乗方式は所得の高い専業主婦世帯に有利」との批判もあるが、夫のみを見た場合に所得が高かったとしても、夫の転勤が多かったり、夫が専業主婦の妻のサポートを受けて初めてその所得を得ていたり、職や保育所がなくて妻が働けなかったりするのであれば、1人当たりの所得はN分N乗方式の方が正しいわけである。

 *1-3も、④「N分N乗方式」はいいことずくめではない ⑤N分N乗方式は世帯単位課税 ⑥高所得者ほど恩恵が大きくなりやすい ⑦扶養控除や適用税率などで個人単位課税でもN分N乗方式と同様の効果を持ち得る ⑧女性の社会進出を促す政府方針と逆行する ⑨社会保険料など他の制度との整合性をつけるのが難しい 等とできない理由を並べている。

 しかし、⑤は選択制にすることで完全に解決でき、⑥の“高所得者”は1人あたりの稼ぎが小さい場合にのみ、N分N乗方式で恩恵を受けられるのである。また、⑦については、年間合計収入が103万円以下の妻について夫が48万円の扶養控除を受けられるにすぎず、それでは生きていけないくらい小さな金額だ。さらに、⑧の女性の社会進出は、非正規の低賃金労働者ばかり増やすのではなく、高所得の女性を増やす本当の社会進出を進めれば逆行しないし、⑨の社会保険料は、その性格によって世帯単位(医療保険・介護保険など)か個人単位(年金・雇用保険など)に統一すればよいのである。

 最後に、所得税でN分N乗方式を選択可能であることは、結婚や出産を躊躇しているカップルに対し、最後の一押しとなるだろう。

2)「年収の壁」について
 岸田首相は、*1-4のように、女性の就労抑制に繋がっている「年収の壁(所得税が発生する103万円、一定条件下で社会保険料を支払い始める106万円、配偶者の扶養を外れて自ら健康保険料を払う130万円)」への対応策を検討されるとのことだが、“生産年齢人口”が減少して働き手不足となり、女性の社会進出を政府も後押ししていることを踏まえた内容にして欲しい。

3)住宅について
 若い世代では、*1-5のように、理想の数の子どもを持たない理由として「家が狭いから」と答える人が2割を超え、家の狭さや長い通勤時間が第2子の出生を抑制するという分析も出ており、住宅の価格高騰と狭さは子どもを産もうという動機を確かに抑制している。

 EUの中でも出生率が高水準のフランスは、所得などに応じた子育て世帯への住宅手当があり、日本は約849万戸の空き家があって一部地域では改修して子育て世帯向けに貸す動きもある。そのため、企業も都市への過度な集中を避け、自然に近くてゆとりの持てる環境のよい地域に、若い世代が勤務できる場所を設け、政府や地方自治体と一緒になって空地・空家等の活用を行われることが望ましい。


4)育休中のリスキリングについて
 岸田首相が、*1-6のように、「育休・産休期間にリスキリングによってスキルを身につけたり、学位を取ったりする方を支援できれば、逆にキャリアアップが可能になることも考えられるので、育休中のリスキリングを後押しする」と答弁されたことに批判が高まっているそうだ。

 批判の内容は、①育休は授乳・おむつ交換・寝かしつけなどがひっきりなしに続くので、出産・育児への理解に欠けている ②子育てと格闘している時にできるわけがない ③赤ちゃんを育てるのは普通の仕事よりずっと大変で、子育てをしてこなかった政治家が言いそうなことだ ④自分で子供の世話しながら学位取ってみろ ⑤多くの人にとって「学び直し」は現実的と言えない ⑥子育てを困難にしてきたのは明治以来の家父長制・男尊女卑の考え方だ などである。

 育休・産休期間にリスキリングについては、私がさつき会(東大女子同窓会)の後輩に助言したことであるため、事例を挙げて説明するが、私は子育て期間にリスキリングして出産後も第一線に居つづけた人を複数知っている。

 1人は、東大法学部卒で、結婚・出産後にハーバード大学への留学が決まり、幼子を連れて留学した人で、ハーバード大学は学内に保育所があり、ベビーシッターも簡単に雇えるため、日本にいるよりやり易かったそうである。もちろん、その人は体力も知力もあり、日本に帰ってからも閑職に追いやられることなく、東大法学部教授にまでなられた。

 もう1人は、女性公認会計士で同じ事務所の人と結婚した後で、旦那さんがロンドン勤務になり、旦那さんの方から「どうしたらよいか」と私に相談されたので、上の事例を挙げて「外国の方が子育てしやすいそうだから、ロンドンにいる間に出産して、同時にロンドン大学でMBAをとって来させたら」とアドバイスし、彼女はそうしたので、日本に帰ってからも閑職に追いやられることなく、PWCのパートナーになった。

 上は両方とも仕事への熱意と体力のある人材で、苦労しながらも欧米の大学に通いつつ子育てした点が同じだ。その点、①②③⑤は事実ではあるが、だからといって子育てだけに集中していると置いて行かれ、マミートラックに追いやられたり、非正規になるしかなかったりするのが、日本の現状なのである。

 そのため、この状況を変えるのが政治の役割であるし、④については、日本の大学も院生や学生が子育てしながら学位が取れるくらいのインフラがあってよいと思う。⑥の「子育てを困難にしてきたのは明治以来の家父長制・男尊女卑の考え方だ」というのも事実かもしれないが、最近の政治家にはそのジャンルに入らない人も少なからずいると思う。

(3)2023年度予算案について

   
    2020.12.16愛媛新聞   2021.12.25日経新聞 2022.12.23読売新聞

(図の説明:左図のように、日本の一般会計予算は2008年9月に起こったリーマンショック後の2009年度でも90兆円未満で、東日本大震災を経て自民党政権に戻った2014年度に95兆円を超え、その後も減少することなく、2020年度からコロナ禍で急激に上昇して2021年度に106兆円となった。そして、中央の図のように2022年度は107.6兆円、右図のように2023年度は114.4兆円とコロナ禍が一服しても上昇し続け、国債依存度は30%台と高止まりしているのだ)

  
      財務省          2022.12.17日経新聞  2022.12.24日経新聞
    
(図の説明:左図のように、一般会計歳出が税収より常に大きいため、国債残高はうなぎ上りに上がったが、歳出がGDPを上げる効果のあるものでないため、中央の図のように、税収は増えず、借金が増えるばかりだ。もちろん、税収だけを当てにするのではなく税外収入も得て欲しいが、効果的な歳出を行う基礎資料を作る公会計制度の導入は不可欠だ。そして、右図のように、新しいことをする度に増税しようとするが、本当は歳出の組み換えをすべきなのである)

1)日本の財政と予算の現状
 政府は、*2-1-1のように、2023年度一般会計当初予算案を過去最大の114兆3,812億円と決め、そのうち国債依存度が3割を超す。しかし、これは新型コロナ禍による有事に対応した前年までの予算より大きく、米独は国債依存度を2022年度には2割台前半に下げたが、日本だけが3割台で高止まりしているのだ。

 つまり、日本ではリーマンショック・東日本大震災・コロナ禍などの危機対応のための予算編成が、危機が去った後にも既得権として残り、全体として次第に歳出と国債残高が膨らんでいる状況なのである。そして、教育・EV・再エネ・量子・AI・バイオ医薬品・医療/介護(今後の成長産業)など次の成長に向けての投資的予算配分が乏しいため、経済は停滞したまま債務だけが増大する悪循環の出口が見えないのだ。

2)岸田首相の年頭記者会見から
 岸田首相は年頭記者会見で、*2-1-2のように、①2023年は日本経済の新しい好循環の基盤を起動する ②異次元の少子化対策に挑戦する ③国際社会の現実を前に常識への挑戦が求められている ④「新しい資本主義」がその処方箋 ⑤官民連携して賃上げと投資の2つの分配を強固に進める ⑥企業が収益を上げて労働者に分配し、消費や企業投資が伸びて経済成長が生まれる とされた。

 このうち①③について反対する人は少ないが、具体的にそのやり方で日本経済の好循環の基盤が本当に起動できるか、常識へのよい挑戦になっているのかが問題なのである。②の異次元の少子化対策については、児童手当の拡充に終われば大した効果があるとは思われず、私は上の(2)で述べた選択的N分N乗方式の採用・ゆとりある住宅の提供・保育所/児童クラブの充実・教育の質の向上と高校教育までの無償化なども迅速に進めた方がよいと思う。

 ④については、特に新しいことではなく、これまでもやってきたが肝心の改革が遅々として進まなかったので日本経済の停滞を招いているのである。また、⑥の企業が収益を上げて労働者に分配し、消費や企業投資が伸びて経済成長が生まれるのは本当だが、企業が収益を上げるためには安くて品質のよいものを供給してそれが売れなければならない。そのため、⑤のように、賃上げ・賃上げと言っても、それ以上の付加価値向上や生産性向上がなければコスト増になるため、さらに売れなくなって投資どころではなくなるわけである。

 なお、岸田首相は、⑦この30年、企業収益が伸びてもトリクルダウンは起きなかった ⑧インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい ⑨リスキリングによる能力向上支援と日本型職務給の確立、成長分野への円滑な移動を三位一体で進める ⑩日本企業の競争力強化にも取り組む とも言われた。

 ⑦⑧は事実だが、付加価値の向上や生産性の向上で安定的に収益を獲得できる状況にならなければ、定期昇給はできない。そのため、コストプッシュインフレの中で、将来の見通しは暗くて不安定性が高い時に、政府のバラマキによって一時的に収益が増えたとしても、それを定期昇給による賃上げに繋げるわけにいかないのは、やってみなくてもわかることである。

 ⑨⑩については、付加価値や生産性を上げ競争力を強化するには、日本企業の設備投資や労働者の能力向上が必要だ。しかし、労働者が能力を向上させる動機づけは、向上させた能力が有効に使われ、昇進や賃金に反映されることなのである。そのための基盤として、職務給の確立・公正な評価・移動の容易化が必要なわけだが、一部に年功序列型賃金を残すのも特に日本型ではなく、欧米でも行われていることだ。
 
 岸田首相は、⑪権威主義的国家はサプライチェーンを外交目的達成のために使うようになった ⑫海外に生産を依存するリスクを無視できない ⑬世界では官民連携で技術力・競争力を磨き上げる競争が起きている ⑭国内で作れるものは日本で作って輸出する ⑮研究開発等を活性化して付加価値の高い製品・サービスを生み出す ⑯国が複数年の計画で予算を約束し、期待成長率を示して投資を誘引する官民連携が不可欠だ ⑰半導体などの戦略産業に官民連携で国内に投資する ⑱民間の挑戦を妨げる規制は断固改革する ⑲日本をスタートアップのハブとするため、世界のトップ大学の誘致と参画によるグローバルキャンパス構想を23年に具体化する ⑳子どもファーストの経済、社会をつくり上げて出生率を反転する必要がある 等も言われている。

 ⑪については、日本を含む民主主義国家も「制裁」と称して禁輸しているので、権威主義的国家だけがサプライチェーンを外交目的達成のために使っているわけではない。その中で、エネルギーや食糧はじめ実物経済よりも金融の方が強いと考えた点が誤りなのである。そのため、⑫⑭は事実だが、戦略産業としては、⑰の半導体だけではなく、エネルギー・食糧・その他の製品も重要であって、これはグリーンイノベーションを効果的に進めればかなり達成できる筈なのだ。

 また、⑬も事実だが、⑮は外国と比較しなくても当然のことである。そのためには、⑲の世界のトップ大学の誘致と参画は効果的だろうが、⑱は、EVや再エネを見ればわかるとおり、官は外国と比較しながら黒船が来たら何十年も遅れて方針を変えるような体質で、古い規制を堅持したり、民間の挑戦を妨げる規制を残したがったりするため、⑯の国が複数年の計画で予算を約束して投資を誘引するような官民連携は、あまり効果がなく、損失しか出さないと思う。

 なお、⑳の「子どもファースト」は、言えば言うほど「子のために犠牲になれ」と言われる女性は出産をためらうのであり、日本独特の発想でもある。

3)防衛・GX・子どもとする重点3分野について
 政府の2023年度予算案は、*2-2のように、岸田首相が重視する①防衛 ②GX ③子ども予算の大幅増額に踏み出したのだそうだ。

 しかし、私が聞いていても、規模ばかりが強調され、肝心の理念や理念に沿った使い道の方針、そのための歳出の組み換えについて、説明がなかったと思う。

 2027年度までに総額で43兆円支出するという①の防衛費は、米国の武器を買うなどの米国向け支出が多く、外交も含めた全体像がちぐはぐで、いくら防衛は秘密が多いと言っても、これでは民主主義にならない。

 また、民間投資の呼び水として今後10年で20兆円規模の支出をするという②のGXの推進はよいが、やることに相互矛盾が多く、GXを妨げる原発は温存したまま、化石燃料にも補助金を出しているため、これでは国富が流出するだけで国全体の生産性は上がらず、国民は次第に貧しくなるしかないだろう。

 さらに、③の子ども予算も倍増とされるが、規模より中身が大切であり、これまでにも書いてきたとおり、バラマキをしても質も量も改善しないのである。

4)政府の財政試算について
 *2-3は、政府は国と地方の基礎的財政収支を2025年度に黒字化する目標を掲げる中長期の財政試算をまとめたが、①前提が大型補正予算を組まないこと ②肥大化した歳出の着実な見直しが必要だが与野党の財政規律が麻痺していること ③防衛費の大幅拡充を決めたため、従来の試算よりも収支が悪化すこと ④2023~25年度の実質経済成長率平均1.8%でも基礎的収支は2025年度も1.5兆円の赤字になること ⑤今年度の基礎的収支は約49兆円の記録的赤字であること ⑥近年の補正予算は当初予算の「抜け道」にもなっていること ⑦試算は防衛費増額にあたって政府の計画通りに安定財源が確保できることを前提にしたこと ⑧今後3年間で平均1.8%の経済成長との前提も実現は危ういこと ⑨それに基づく税収見通しも過大な可能性があること 等で、実現性が疑わしいとしている。

 このうち、⑥は事実であるため、①はできないと思われ、特に選挙の応援に補正予算で報いている状況では無理だろう。さらに、②については、公会計制度の導入によって事業毎の費用対効果を出して政策を取捨選択するシステムにしなければ、関係者全員が納得できる歳出の見直しや組み換えはできないのである。

 このような中、お札なら印刷すればいくらでも刷れるとばかりに金融緩和し、③のように、組み替えなき防衛費の大幅拡充を決め、理念と計画性の見えない子ども予算倍増をしているため、⑤の今年度基礎的収支約49兆円の記録的赤字は来年度以降も続くと予想される。

 また、政府が想定する④の2023~2025年度の実質経済成長率平均1.8%は、政府支出が生産性向上に繋がるものではないため、⑧のように危ういと思う。また、⑤のように、今年度の基礎的収支は約49兆円の記録的赤字であり、実質経済成長率平均1.8%が実現したとしても基礎的収支は2025年度も1.5兆円の赤字になるそうだが、政府支出は生産性向上に繋がるものが著しく少ないため、⑧の今後3年間で平均1.8%の経済成長も危ういわけである。

 つまり、経済成長は、政府が現状維持するためにバラマキをすれば起こるのではない。理念に基づく計画的な支出と(間違っても妨害ではない)支援をして、初めて国全体の生産性上昇が起こり、国全体の経済成長もできるのである。

・・参考資料・・
<少子化対策と所得税>
*1-1:https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2017/29webhonpen/html/b1_s1-1-1.html (内閣府HPより抜粋) 第1部 少子化対策の現状
第1章 少子化をめぐる現状(1)
1 出生数、出生率の推移
●合計特殊出生率は1.45
我が国の年間の出生数は、第1次ベビーブーム期には約270万人、第2次ベビーブーム期には約210万人であったが、1975(昭和50)年に200万人を割り込み、それ以降、毎年減少し続けた。1984(昭和59)年には150万人を割り込み、1991(平成3)年以降は増加と減少を繰り返しながら、緩やかな減少傾向となっている。2015(平成27)年の出生数は、100万5,677人であり、前年の100万3,539人より2,138人増加した。合計特殊出生率をみると、第1次ベビーブーム期には4.3を超えていたが、1950(昭和25)年以降急激に低下した。その後、第2次ベビーブーム期を含め、ほぼ2.1台で推移していたが、1975年に2.0を下回ってから再び低下傾向となった。1989(昭和64、平成元)年にはそれまで最低であった1966(昭和41)年(丙午:ひのえうま)の1.58を下回る1.57を記録し、さらに、2005(平成17)年には過去最低である1.26まで落ち込んだ。近年は微増傾向が続いており、2015年は、1.45と前年より0.03ポイント上回った。
●年齢別出生率の動向
 女性の年齢別出生率を見ると、そのピークの年齢と当該年齢の出生率は、1975(昭和50)年は25歳で0.22、1990(平成2)年は28歳で0.16、2005(平成17)年は30歳で0.10と推移し、ピークの年齢は高くなり、当該年齢の出生率は低下したものの、2015(平成27)年は30歳で0.11とピークの年齢の出生率はやや上昇している。合計特殊出生率の1970(昭和45)年以降の低下については、例えば25歳時点の出生率を比べてみると、1975年は0.22だったが、2005年は0.06に大幅に下がるなど、20歳代における出生率が低下したことが一因であると考えられる。また、近年の合計特殊出生率の微増傾向については、例えば35歳時点の出生率を比べてみると、2005年は0.06だったが、2015年は0.08となるなど、30~40歳代の年齢別出生率の上昇を反映したものと考えられる。
●都道府県別合計特殊出生率の動向
 2015(平成27)年の全国の合計特殊出生率は1.45であるが、47都道府県別の状況を見ると、これを上回るのは35県、下回るのは12都道府県であった。この中で合計特殊出生率が最も高いのは沖縄県(1.96)であり、次は島根県(1.78)となっている。最も低いのは、東京都(1.24)であり、次は北海道(1.31)となっている。都道府県別の年齢別出生率をみると、上位の沖縄県、島根県は、いずれも20~34歳の出生率が全国水準よりも顕著に高く、とりわけ、沖縄県では全ての年齢の出生率が全国水準よりも高くなっている。一方、下位の東京都、北海道はそれぞれ異なる動きをしている。東京都では15~34歳の出生率が全国水準より低いのに対し、35~49歳では高くなっている。北海道では20~24歳の出生率が全国水準より高いのに対し、その他の年齢では低くなっている。また、全国水準と同様に多くの都道府県では、30~34歳の出生率が最も高くなっているが、例えば、福島県のように25~29歳の出生率が最も高くなっているといった特徴や、愛媛県のように25~29歳と30~34歳の出生率がほぼ変わらないといった特徴も見られる。
●総人口と人口構造の推移
 我が国の総人口は、2016(平成28)年で1億2,693万人となっている。年少(0~14歳)人口、生産年齢(15~64歳)人口、高齢者(65歳以上)人口は、それぞれ1,578万人、7,656万人、3,459万人となっており、総人口に占める割合は、それぞれ12.4%、60.3%、27.3%となっている。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」は、我が国の将来の人口規模や年齢構成等の人口構造の推移を推計している。このうち、中位推計(出生中位・死亡中位)では、合計特殊出生率は、実績値が1.45であった2015(平成27)年から、2024(平成36)年の1.42、2035(平成47)年の1.43を経て、2065(平成77)年には1.44へ推移すると仮定している。最終年次の合計特殊出生率の仮定を前回推計(平成24年1月推計)と比較すると、近年の30~40歳代における出生率上昇等を受けて、前回の1.35(2060(平成72)年)から1.44(2065年)に上昇している。この中位推計の結果に基づけば、総人口は、2053(平成65)年には1億人を割って9,924万人となり、2065年には8,808万人になる。前回推計結果(長期参考推計)と比較すると、2065年時点で前回の8,135万人が今回では8,808万人へと672万人増加している2。人口が1億人を下回る年次は前回の2048(平成60)年が2053年と5年遅くなっており、人口減少の速度は緩和されたものとなっている。年齢3区分別の人口規模及び構成の推移をみると、年少人口は、2056(平成68)年には1,000万人を割り、2065年には898万人の規模になるものと推計され、総人口に占める割合は、2065年には10.2%となる。生産年齢人口は、2056年には5,000万人を割り、2065年には4,529万人となる。総人口に占める割合は、2065年には51.4%となる。高齢者人口は、2042(平成54)年に3,935万人でピークを迎え、その後減少し、2065年には3,381万人となる。総人口に占める割合は、2065年には38.4%となる。前回推計結果と比較すると、推計の前提となる合計特殊出生率が上昇した結果、2065年時点で、前回から生産年齢人口は約1割、年少人口は約2割増加したものとなっている。
第1章 少子化をめぐる現状(2)
2 婚姻・出産の状況
●婚姻件数、婚姻率の推移
 婚姻件数は、第1次ベビーブーム世代が25歳前後の年齢を迎えた1970(昭和45)年から1974(昭和49)年にかけて年間100万組を超え、婚姻率(人口千人当たりの婚姻件数)もおおむね10.0以上であった。その後は、婚姻件数、婚姻率ともに低下傾向となり、1978(昭和53)年以降2010(平成22)年までは、年間70万組台(1987(昭和62)年のみ60万組台)で増減を繰り返しながら推移してきたが、2011(平成23)年以降、年間60万組台で推移しており、2015(平成27)年は、63万5,156組(対前年比8,593組減)と、2014(平成26)年に続き過去最低となった。婚姻率も5.1と2014年に続き過去最低となり、1970年代前半と比べると半分の水準となっている。婚姻件数及び婚姻率の年次推移(CSV形式:2KB)のファイルダウンロードはこちらファイルを別ウィンドウで開きます
●未婚化の進行
 未婚率を年齢(5歳階級)別にみると、2015(平成27)年は、例えば、30~34歳では、男性はおよそ2人に1人(47.1%)、女性はおよそ3人に1人(34.6%)が未婚であり、35~39歳では、男性はおよそ3人に1人(35.0%)、女性はおよそ4人に1人(23.9%)が未婚となっている。長期的にみると上昇傾向が続いているが、男性の30~34歳、35~39歳、女性の30~34歳においては、前回調査(2010年国勢調査)からおおむね横ばいとなっている。さらに、50歳時の未婚割合1をみると、1970(昭和45)年は、男性1.7%、女性3.3%であった。その後、男性は一貫して上昇する一方、女性は1990(平成2)年まで横ばいであったが、以降上昇を続け、前回調査(2010年国勢調査)では男性20.1%、女性10.6%、2015年は男性23.4%、女性14.1%となっており、男性は2割、女性は1割を超えている。前回調査(2010年国勢調査)の結果に基づいて出された推計は、これまでの未婚化、晩婚化の流れが変わらなければ、今後も50歳時の未婚割合の上昇が続くことを予測している。
●晩婚化、晩産化の進行
 平均初婚年齢は、長期的にみると夫、妻ともに上昇を続け、晩婚化が進行している。2015(平成27)年で、夫が31.1歳、妻が29.4歳となっており、30年前(1985(昭和60)年)と比較すると、夫は2.9歳、妻は3.9歳上昇している。前年(2014(平成26)年)との比較では、男女とも横ばいとなっている。また、出生時の母親の平均年齢を出生順位別にみると、2015年においては、第1子が30.7歳、第2子が32.5歳、第3子が33.5歳と上昇傾向が続いており、30年前(1985年)と比較すると第1子では4.0歳、第2子では3.4歳、第3子では2.1歳それぞれ上昇している。年齢(5歳階級)別初婚率について、1990(平成2)年から10年ごと及び直近の2015(平成27)年の推移をみると、夫は25~29歳で1990年の68.01‰が2015年の48.25‰となるなど下降幅が大きく、35~39歳で1990年の8.25‰が2015年の13.61‰となるなど35歳以上で上昇しているが、その上昇幅は小さい。他方、妻は20~24歳で1990年の54.40‰が2015年の26.11‰となるなど下降幅が大きいが、30~34歳で1990年の12.73‰が2015年の28.83‰となるなど30歳以上で上昇しており、夫に比べてその上昇幅が大きい。
●完結出生児数は1.94
 夫婦の完結出生児数(結婚持続期間が15~19年の初婚どうしの夫婦の平均出生子供数)を見ると、1970年代から2002(平成14)年まで2.2人前後で安定的に推移していたが、2005(平成17)年から減少傾向となり、2015(平成27)年には1.94と、前回調査に続き、過去最低となった。
第1章 少子化をめぐる現状(3)
●結婚に対する意識
「いずれ結婚するつもり」と考える未婚者(18~34歳)の割合は、男性85.7%、女性89.3%であり、ここ30年間を見ても若干の低下はあるものの、男女ともに依然として高い水準を維持している。(第1-1-12図)
また、未婚者(25~34歳)に独身でいる理由を尋ねると、男女ともに「適当な相手にめぐりあわない」(男性:45.3%、女性:51.2%)が最も多く、次に多いのが、男性では「まだ必要性を感じない」(29.5%)や「結婚資金が足りない」(29.1%)であり、女性では「自由さや気楽さを失いたくない」(31.2%)や「まだ必要性を感じない」(23.9%)となっている。さらに、前回の第14回調査(2010(平成22)年)と比較すると、男性では「自由さや気楽さを失いたくない」(28.5%)や「異性とうまくつきあえない」(14.3%)が上昇しており、女性では「異性とうまくつきあえない」(15.8%)が上昇している。
●若い世代の所得の状況
2012(平成24)年の所得分布を1997(平成9)年と比べると、20代では、250万円未満の雇用者の割合が増加しており、30代では、400万円未満の雇用者の割合が増加しており、若い世代の所得分布は、低所得層にシフトしていることがわかる。
●就労形態などによる家族形成状況の違い
 若年者(15~34歳)の完全失業率は、近年、男女ともに低下しているものの、全年齢計よりも高い水準になっている。最も高かった時期と比較すると、15~24歳の男性では、2003(平成15)年の11.6%から5.7%へと低下しており、25~34歳の男性では2010(平成22)年の6.6%から4.4%へと低下している。15~24歳の女性では2002(平成14)年の8.7%から4.5%へと低下しており、25~34歳の女性では2002年の7.3%から4.1%へと低下している。また、非正規雇用割合についてみると、15~24歳の男性(47.3%)では前年より上昇しており、全年齢計(22.1%)よりも高い水準となっている。25~34歳の男性、15~24、25~34歳の女性では前年より減少しており、全年齢計よりも低い水準となっている。男性の就労形態別有配偶率をみると、「正社員」では25~29歳で31.7%、30~34歳で57.8%であり、「非典型雇用」では25~29歳で13.0%、30~34歳で23.3%であり、「正社員」の半分以下となっている。また、「非典型雇用のうちパート・アルバイト」では25~29歳で7.4%、30~34歳で13.6%であり、「正社員」の4分の1以下となっているなど、就労形態の違いにより配偶者のいる割合が大きく異なっていることがうかがえる。さらに、男性の年収別有配偶率をみると、いずれの年齢層でも一定水準までは年収が高い人ほど配偶者のいる割合が大きい。(以下略)

*1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKDASFS0502H_V00C14A3EA2000/ (日経新聞 2014年3月6日) 世帯課税、総所得、家族数で割る
▽…個人ではなく家族を1つの単位として所得税などを課す仕組み。家族が多ければ多いほど納めなければいけない税金が少なくなるのが特徴で、少子化対策になるとされる。フランスが導入している制度が代表的で「N分N乗方式」とも呼ばれる。
▽…具体的には、まず世帯の総所得を家族の人数で割って、1人当たり所得を計算する。この金額に税率を掛け合わせて1人当たりの税額を算出。家族の数を再び掛け合わせて、世帯が払うべき税の総額を決める。所得税は所得が大きいほど税率が高くなる仕組みがあるため、家族が多ければ1人当たり所得が減り、払わなければならない税額も少なくなる。
▽…もっともN分N乗方式は、比較的所得の高い専業主婦世帯に有利になる面がある。一方で、所得税をあまり払っていない共働きの中低所得世帯への恩恵は限られる可能性が高い。このため、実際にどれだけ少子化対策としての効果があるのか、疑問視する向きもある。制度設計を進めるうえでは、女性の活躍を後押ししようとする安倍政権の政策との整合性も焦点になりそうだ。

*1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA018010R00C23A2000000/ (日経新聞 2023年2月2日) 所得税「N分N乗」とは 少子化対策で急浮上
日本の少子化対策として新たな税制を求める声が与野党で広がってきた。「N分N乗」と呼ばれ、子どもが多い世帯ほど所得税の負担が軽くなる仕組みだ。過去にも政府で議論されたこの制度は決していいことずくめではない。
●「個人」でなく「世帯」に課税
 N分N乗方式はフランスが戦争で減った人口を増やそうと1946年に始めたことで知られる。日本の所得税は個人単位で課税する一方、N分N乗方式は世帯単位でみる。共働きで子ども2人の4人家族(夫の所得600万円、妻が300万円)の場合、いまの所得税は夫婦あわせて150万円になる。それぞれの所得に累進税率を適用するのがルールで、夫は20%、妻は10%だ。現行の日本の累進税率でフランスのN分N乗方式を取り入れると、控除などを省略した計算で以下の図の後半部分のようになる。
●税金の計算で踏む3つのステップ
 特徴は税の計算で段階を3つ踏む点にある。1つ目は所得の合算だ。先の例だと世帯の所得900万円は見かけ上は変わらないものの、まず家族の人数「N」で割る。フランスは第2子までは0.5人とカウントしており「N=3」。課税所得300万円が出発点になる。続いて家族1人あたりの税額を出す。所得が少ないほど累進税率は低い。この段階での税率は夫も含めて10%になる。最後に家族の人数「N」を掛ける。ここでも「N=3」。世帯全体の所得税は現行制度より60万円少ない90万円になる。N分N乗を巡っては日本維新の会や国民民主党がかねて制度の検討を訴えてきた。自民党の茂木敏充幹事長は25日の衆院本会議で「画期的な税制」などと強調した。現時点での首相の反応は「様々な課題がある」。慎重な回答に終始するのは制度のメリットだけに着目する危うさを感じたからだろう。首相も構想段階からすでに課題を指摘する。その1つが片働き世帯に有利に働くという点だ。世帯所得が同じ900万円でも「夫900万円」と「夫600万円・妻300万円」を比べると、N分N乗に伴う税の軽減効果は前者が207万円、後者が60万円。3倍以上の開きが出る。高所得者ほど恩恵が大きくなりやすいことも課題にあげる。子2人の片働き世帯で所得が1000万円と500万円の世帯なら税の軽減効果で50万円ほどの差が生じる。
●「検討」より踏み込めた歴史なし
 N分N乗は政府内で過去に何度か議論した経緯もある。政府税制調査会は2005年、扶養控除や適用税率などで「個人単位課税でもN分N乗方式と同様の効果を持ち得る」とまとめた。第2次安倍政権下の14年には当時の甘利明経済財政・再生相が閣内から提起した。この時も女性の社会進出を促す政府方針と逆行するとの意見が相次いだ。「検討」より踏み込んだ対応は歴史上ない。慶大の土居丈朗教授は「社会保険料など他の制度との整合性をつけるのが難しい」と話す。「夫婦どうしで所得を完全に把握するのを嫌がる人も多いのではないか」とも指摘した。 日仏の違いも根底にはある。フランスの所得税はもともと世帯課税で夫婦共有財産制をとるなどN分N乗がなじみやすいとの解説もある。婚外子が多い事情もあり、自民党の萩生田光一政調会長は「日本で直ちに参考にならない部分もある」と語る。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230202&ng=DGKKZO68101700R00C23A2EP0000 (日経新聞 2023年2月2日) 「年収の壁」対策 就労促進を探る、106万、130万円で社会保険料発生 年金改革と調整必要
 岸田文雄首相は1日、一定の所得を超えると税や社会保険料が発生する「年収の壁」への対応策を検討すると明らかにした。働き手不足が続いており、就労を抑える要因として「106万円」や「130万円」の壁が指摘される問題に向き合う。政府は厚生年金に加入するパート労働者を広げるなど目先は本人の負担増となる改革にも取り組む。さまざまな制度との調整が必要になる。年収の壁とは、パートの主婦(主夫)ら配偶者の社会保険上の扶養に入りながら働く人が一定の年収を超えると手取り額に影響が出る問題や金額を指す。主な壁には所得税が発生する103万円、一定条件を満たすと厚生年金や健康保険に加入するための社会保険料が発生する106万円、配偶者の扶養を外れて自ら社会保険料を払う130万円の壁、配偶者特別控除が減り始める150万円がある。特に影響が大きいとされるのが手取りが急に減る「106万円」と「130万円」の壁だ。岸田首相は1日の衆院予算委員会で、女性の就労抑制につながっている現状を踏まえ「問題意識を共有し、制度を見直す。幅広く対応策を検討する」と述べた。「いわゆる『130万円の壁』の問題のみならず、正規・非正規の制度・待遇面の差の改善など幅広い取り組みを進めなければならない」とも語った。人手不足は日本経済の回復の壁になっている。人口減少や高齢化の加速が響いて2022年の就業者数は新型コロナウイルス禍前の19年の水準に戻らず、外食の出店やホテルの宿泊客受け入れの妨げになっている。時給引き上げを受け、働く時間をさらに抑える人が出る恐れもあり、政府は就労促進の妨げとなる制度の改革を探るようだ。制度を見直す場合は多岐にわたる制度との調整が欠かせない。一つは社会保険制度との兼ね合いだ。現在のルールでは(1)従業員数が101人以上(2)週労働時間が20時間以上(3)月収8.8万円(年収換算で106万円)以上――といった条件を満たす場合に厚生年金と健康保険に加入する。例えば従業員数101人以上の会社で働くパートの人は106万円が壁に、それよりも小規模の会社で働く場合には130万円が壁になっている。政府は厚生年金の加入対象を拡大している。22年10月にはこれまで短時間労働のパートやアルバイトが加入する企業規模の要件を501人以上から、101人以上の中小規模の会社まで拡大した。24年10月には51人以上まで引き下げる。22年末にまとめた有識者会議の報告書では企業規模要件を撤廃すべきと提起した。より多くの働く人の将来もらえる年金水準を引き上げるのが狙いだ。年収の壁問題に対応するため、仮に厚生年金に加入する収入を引き上げれば、個人の老後の生活と年金財政の安定をめざして進めてきた年金改革の方向に逆行しかねない。103万円と150万円では税制が絡む。所得が一定以下の配偶者を持つ人に所得控除を認める配偶者控除は1961年にできた。配偶者の給与収入が年103万円以下である場合に最高38万円の控除を認める。控除を受ける本人の給与収入が1195万円を超えると控除は受けられなくなる。パートなどで配偶者の収入が一定を超えると世帯全体で手取りが減る現象を解消するため、87年に配偶者特別控除という制度ができた。配偶者の給与収入が103万~201万円の場合に控除が受けられる。150万円を超えると控除額が段階的に減る。両制度を修正するには所得税法などを見直す必要がある。年収の壁を巡っては、103万円などの税金の壁を超えた時、手取りは伸びが緩やかになっても減ることはないといった点を理解してもらうことが必要だ。厚生年金への加入で目先の負担は増しても、保険料に応じて将来の年金が上乗せされるなどの保障がある。負担と将来にわたる収入について正確に理解してもらう努力が欠かせない。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230202&ng=DGKKZO68105530R00C23A2EA2000 (日経新聞 2023.2.2) 住宅高騰、増やせぬ子ども 狭まる面積も意欲そぐ要因に、若年層の所得向上が急務
 住宅の価格高騰と狭さが子どもを産もうという心理を冷やしている。若い世代では理想の数の子どもを持たない理由として「家が狭いから」と答える人が2割を超えた。家の狭さや長い通勤時間が第2子の出生を抑制するという分析も出た。岸田文雄首相の「次元の異なる」少子化対策を効果あるものにするためには空き家活用など住宅政策との連携が欠かせない。不動産経済研究所(東京・新宿)によると、2022年の首都圏の新築マンションの平均価格は6288万円と2年連続で過去最高を更新した。上昇率は前年比0.4%増と微増だが、専有面積の平均は同1%減の66.1平方メートルと10年前と比べて6%狭くなった。一般的には2LDKの広さだ。「間取りなども、子を複数もつ世帯を想定した物件が減っている」(都内の不動産仲介会社)
●「実質値上げ」
 住宅コンサルタント、さくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は「面積を狭くし、表面的な価格の上昇を緩やかに見せる『実質値上げ』が目立つ」と指摘する。東日本不動産流通機構によると、22年に成約した首都圏の中古マンションの平均面積は63.59平方メートル。近畿圏でも持ち家の価格高騰と住居が狭くなる傾向が目立つ。賃貸住宅も広さを確保するのは難しく、総務省の住宅・土地統計調査によると、延べ床面積は49平方メートル以下が約6割に上る。国が「豊かな生活」の目安として定める住居の面積は都市部の夫婦と3~5歳の子の3人家族で65平方メートルだ。2人以上の子を持ち、快適に過ごせる住まいの確保がすでに難しくなっている。国立社会保障・人口問題研究所の21年の出生動向基本調査では「理想の数の子どもを持たない理由」のうち「家が狭いから」が若い世代(妻が35歳未満)で21.4%に上昇。02~15年の調査では18~19%台だった。財務省の21年の研究では、第1子出生時点の住居が狭いほど、第2子出生数が抑制される。郊外に出れば住宅費は下がるが、同研究によると、都市部では配偶者の通勤時間が10分長くなると、第2子の出生数が4%抑制されるという。同省の内藤勇耶研究官は「若い子育て世帯など対象者を絞ったうえで、企業による賃貸住宅手当や持ち家手当の増額、都心部での社宅や公営住宅の整備が有効」と話す。共働きで東京都心に勤める40代の女性は、通勤時間を考慮して中央区の中古マンションを21年に購入した。55平方メートル・2LDKの間取りに夫と子どもの3人で暮らす。「2人目はないと決めている。もう1部屋増やすなら、2000万円は上乗せしないと買えない」
●空き家改修も
 問題の解決には少子化対策と住宅政策の連携を深めることが必要だ。欧州連合(EU)のなかでも出生率が高水準のフランスでは、所得などに応じた子育て世帯への住宅手当がある。日本国内には約849万戸の空き家があり、一部地域では改修して子育て世帯向けに貸す動きもある。岸田首相は1月31日の衆院予算委員会で「若者の賃金を上げ、住宅の充実をはかる取り組みは、結婚して子どもを持つ希望をかなえる上で大変重要な要素だ」と述べ、結婚を控えた若いカップルや子育て世帯への住宅支援を拡充する意向を示した。斉藤鉄夫国土交通相も30日、子育て世帯が公営住宅に優先的に入居できる仕組みを検討することを表明した。ただ、少子化の大きな要因として、経済的な理由で若い世代の子どもを持ちたいという意欲が減退していることがある。安心して結婚・出産できる環境を整えるには、賃上げなどにより若い世代の所得を向上させることが何よりも不可欠だ。日本では一定の収入がある共働き世帯でも、住宅は割高かつ手狭な状態から抜け出せていない。住宅の購入価格が世帯年収の何倍かを示す年収倍率をみると、日本は21年時点で6.83倍と先進国でも高い。調査した年は異なるが、例えば米国は5.07倍、英国5.16倍、フランス6.14倍だ。日本は1戸当たりの床面積でも最低だ。世界では住宅費と出生率の研究が進む。米連邦準備理事会(FRB)の経済学者らは14年の論文で「住宅が1万ドル上昇すると、持ち家がない家庭の出生率は2.4%下がる」と分析した。英国でも同様の研究がある。

*1-6:https://digital.asahi.com/articles/ASR1Y6D58R1YUTIL00T.html (朝日新聞 2023年1月29日) 育休中のリスキリング「後押し」、首相答弁に批判 識者「理解欠く」
 岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」にからみ、育児休業中の人らのリスキリング(学び直し)を「後押しする」とした国会での首相答弁に批判が高まっている。育児の実態を理解しているのか疑問視する声が上がっている。「育休・産休の期間にリスキリングによって一定のスキルを身につけたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、逆にキャリアアップが可能になることも考えられる」。27日の参院代表質問。自民党の大家敏志氏はこう述べ、育休中のリスキリング支援を行う企業に対する国の支援の検討を求めた。これに首相は「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししていく」と答弁した。野党からは批判の声が上がった。29日には与野党幹事長級が出演したNHK討論番組で、共産党の小池晃氏が「子育てと格闘している時にできるわけがないのに言う。子どもを産み育てることを困難にしてきたのは明治以来の家父長制、男尊女卑の考え方が根強くやっぱり自民党にある。根本的な反省と改革を求めたい」と述べた。国民民主党の榛葉賀津也氏も「育休中にリスキリングしろとはがっかりした。自民党がやっとわかってくれたなと思ったら、総理がこれを言うんですから」と批判した。自民党の茂木敏充氏は「育休中に仕事をしろとは言っていない。みんなで良い方向に持っていくのが必要だ」と反論した。SNS上では多くの批判の声が上がった。ツイッターで、小説家の平野啓一郎さんは「何のための産休・育休なのか。自分で子供の世話しながら学位取ってみろ」と投稿。IT大手のサイボウズの青野慶久社長は「赤ちゃんを育てるのは、普通の仕事よりはるかに大変。子育てをしてこなかった政治家が言いそうなことですね」と投稿した。
●「労働者個人の責任にすりかえ」
「出産や育児への理解に欠けたやりとりだと言わざるをえない」。末冨芳・日大文理学部教授(教育行政学)はこう話す。育休は「休み」ではなく、赤ちゃんの授乳やおむつ交換、寝かしつけなどがひっきりなしに続く。多くの人にとって「学び直し」は現実的と言いづらい。末冨教授は「子育てによるキャリア停滞を防ぐのは本来は雇用主の責任。今回のやりとりは、労働者個人の責任にすりかえていると言える」と指摘する。「なぜ国会で質問されるまで、誰もチェックできなかったのか。自民党が児童手当に対する所得制限の撤廃方針を示したのは評価できるが、それを帳消しにしてしまった」と話した。

<2023年度予算案>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221224&ng=DGKKZO67127410U2A221C2MM8000 (日経新聞 2022.12.24) 来年度予算案、最大の114兆円決定、国債依存なお3割超 コロナ有事、脱却できず
 政府は23日、一般会計総額が過去最大の114兆3812億円となる2023年度予算案を決めた。新型コロナウイルス禍で拡張した有事対応の予算から抜けきれず、膨らむ医療費などの歳出を国債でまかなう流れが続く。米欧で1~2割前後に下がった借金への依存度はなお3割を超す。超低金利を前提にしてきた財政運営は日銀の緩和修正で曲がり角に立つ。23年1月召集の通常国会に予算案を提出する。一般会計で当初から110兆円を超えるのは初。歳出は社会保障費が36兆8889億円。高齢化による自然増などで6154億円増えた。国債の返済に使う国債費は9111億円増の25兆2503億円。自治体に配る地方交付税は一般会計から5166億円増の16兆3992億円を計上した。切り込み不足で増大するこうした経費をまかなう歳入は綱渡りだ。税収は企業業績の回復で69兆4400億円と過去最大を見込む。それでも追いつかず、新たに国債を35兆6230億円発行して穴埋めする。うち29兆650億円は赤字国債だ。歳入総額に占める借金の割合は31.1%と高水準。00年代半ばまでは2割台だったのがリーマン危機後の09年度に4割近くに跳ね上がって以降、3~4割台で推移する。大規模緩和前の00年代半ば、日本の長期金利は1%を超えていた。10年代に入って長期金利0%台以下になるのに合わせるように政府は国債への依存度を高めた。各国で基準をそろえた公債依存度をみると日本も米国やドイツといった他の先進国もコロナ下の20~21年度は一様に4~5割前後に高まった。米独は22年度に2割台前半に下がった。日本だけが3割台で高止まりする。コロナ禍や物価高、ウクライナ情勢に柔軟に対応するための予備費は計5兆円を盛り込んだ。危機対応の予算編成がなお続いていることを示す。結局、次の成長への予算配分は乏しい。脱炭素の研究開発にはエネルギー特別会計で約5000億円を積んだ。量子や人工知能(AI)などの科学技術振興費は微増の1兆3942億円。これらを足し合わせても2兆円程度にとどまる。経済が停滞したまま債務だけが増大する悪循環の出口は見えてこない。

*2-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230105&ng=DGKKZO67325590U3A100C2PD0000 (日経新聞 2023.1.5) 首相会見の要旨 異次元の少子化対策挑む/増税前解散、可能性の問題
 岸田文雄首相の年頭記者会見の要旨は次の通り。
【冒頭】
 2023年は第1に日本経済の新しい好循環の基盤を起動する。第2に異次元の少子化対策に挑戦する。世界は協力と対立、協調と分断が複雑に絡み合うグローバル化の第2段階に入った。国際社会の現実を前に常識への挑戦を求められている。新たな方向に踏み出さなければならない。「新しい資本主義」がその処方箋だ。官民連携のもとで賃上げと投資の2つの分配を強固に進める。持続可能で格差の少ない成長の基盤をつくり上げる。賃上げを何としても実現しなければならない。企業が収益を上げ、労働者に分配して消費や企業の投資が伸び、経済成長が生まれる。この30年間、企業収益が伸びても想定された(成長の恩恵が時間をかけて末端に広がる)トリクルダウンは起きなかった。この問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造をつくる。23年春闘(春季労使交渉)で連合は5%程度の賃上げを求めている。ぜひインフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい。リスキリング(学び直し)による能力向上支援と日本型職務給の確立、成長分野への円滑な移動を三位一体で進める。6月までに労働移動円滑化のための指針をとりまとめる。日本企業の競争力強化にも取り組む。権威主義的国家はサプライチェーン(供給網)を外交上の目的を達成するために使うようになった。海外に生産を依存するリスクを無視できない。世界では官民連携で技術力や競争力を磨き上げる競争が起きている。国内でつくれるものは日本でつくり輸出する。研究開発などを活性化し、付加価値の高い製品・サービスを生み出す。国が複数年の計画で予算を約束し、期待成長率を示して投資を誘引する官民連携が不可欠だ。半導体など戦略産業に官民連携で国内に投資する。民間の挑戦を妨げる規制は断固改革する。日本をスタートアップのハブとするため、世界のトップ大学の誘致と参画によるグローバルキャンパス構想を23年に具体化する。縮小する日本に投資できないという声を払拭しなければならない。子どもファーストの経済、社会をつくり上げて出生率を反転する必要がある。4月に発足するこども家庭庁で子ども政策を体系的に取りまとめる。6月の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の策定までに将来的な子ども予算倍増に向けた大枠を提示する。まず児童手当を中心に経済的支援を強化する。次にすべての子育て家庭を対象としたサービスを拡充する。働き方改革の推進や制度の充実も進める。育児休業制度の強化を検討しなければならない。日本は7年ぶりに主要7カ国(G7)議長国を務め5月に広島でサミットを開く。G7の結束や世界の連帯を示さなければならない。グローバルサウス(南半球を中心とする途上国)との関係を強化し、食糧危機やエネルギー危機に効果的に対応していくことが必要だ。世界経済に下方リスクが存在するなか、G7として世界経済をけん引しなければならない。感染症対策などの課題でもリーダーシップの発揮が求められる。ロシアの言動で核兵器をめぐる懸念が高まるなか、被爆地・広島から「核兵器のない世界」の実現に向けたメッセージを発信していく。9日からフランス、イタリア、英国、カナダ、米国を訪問し胸襟を開いた議論をする予定だ。G7議長国としてリーダーシップを発揮したい。
バイデン米大統領との会談はG7議長としての腹合わせ以上の意味をもった大変重要な会談になる。日本は22年末に安全保障政策の基軸たる3文書を全面的に改定し、防衛力の抜本的強化の具体策を示した。日本の外交や安全保障の基軸である日米同盟の一層の強化を内外に示す。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた踏み込んだ緊密な連携を改めて確認したい。新型コロナウイルス対応を巡り23年こそ平時の日本を取り戻していく。将来の感染症に対応するため、感染症危機管理統括庁の設置などに向けた法案を次期国会に提出する。8日から中国からの入国者の検査を抗原定量またはPCR検査に切り替える。直行便での入国者に陰性証明を求める。中国便の増便について必要な制限を続ける。4月には統一地方選がある。デジタル田園都市国家構想を進めて地方創生につなげていくため、与党としてしっかりした成果を出したい。
【質疑】
―テレビ番組で防衛費の財源となる増税の実施前に衆院選があるとの認識を示しました。年内に解散に踏み切る考えはありますか。
院の任期満了は25年10月で衆院選はいつでもありうる。防衛費の財源確保のための税制措置は24年以降、27年度に向けて適切な時期に複数年かけて段階的に実施することが決まっている。結果として増税前に衆院選があることも日程上、可能性の問題としてあり得ると発言した。衆院解散・総選挙は専権事項として時の首相が判断する。
―新型コロナの感染者数が増加傾向にあります。感染症対策や旅行支援、インバウンド増加に向けた政策の方針を教えてください。
 新型コロナ対策は社会経済活動との両立を図る取り組みを進めてきた。専門家などの意見も聞きながら最新のエビデンスに基づき議論を進めたい。全国旅行支援を10日から再開する。全国的な旅行需要の喚起を着実に進める。インバウンドの本格的な回復に向けて多額の予算を計上している。訪日外国人の旅行消費額5兆円超の速やかな達成を目指す。
―ロシアによるウクライナ侵攻は収束の糸口が見いだせません。主要7カ国首脳会議(G7サミット)をどのような会議にし国際社会をリードしていきますか。
 力による一方的な現状変更は世界のどこでも許してはならないという強力なメッセージを広島サミットで示すことが重要だ。日本は唯一の戦争被爆国としてロシアによる核による威嚇は断じて受け入れることはできない。核兵器のない世界に向け、G7として世界にメッセージを発したい。ロシアへの制裁とウクライナ支援を改めて確認するとともに中間に位置する多くの国々とも連携する。停戦に向け努力すべきだというメッセージを世界に広げていく手掛かりをつかみたい。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221224&ng=DGKKZO67125520U2A221C2EA2000 (日経新聞 2022.12.24) 防衛・GX・子ども 重点3分野、規模ありき、来年度予算案、財源確保で詰め急務
 政府の2023年度予算案は岸田文雄首相が重視する防衛・GX(グリーントランスフォーメーション)・子ども予算の大幅増額に踏み出した。いずれも規模の議論が先行し、具体的な政策や歳出改革の議論は後回しになった。積み増した防衛費は使い道の優先度が曖昧なまま。成長戦略の中核となるはずのGXの取り組みも詳細は詰まっていない。防衛費は27年度までの総額で43兆円。GXは民間投資の呼び水として今後10年で20兆円規模。子ども予算は倍増。いずれも当面の歳出規模が先に固まった。肝心の中身や財源確保は後付けになっている。防衛力の強化は安全保障環境の変化への対応に向けて、必要性を見極めて予算を積み上げたとは言いにくい。財源確保の増税も法人・所得・たばこの3税を充てるところまでしか詰めなかった。施行時期は先送りした。GXは20兆円規模の移行債を財源に、脱炭素投資を加速するという。ただ国内で再生可能エネルギーなどの具体的な大型案件は乏しいのが実情。子ども予算は使途も財源も詳細な議論すら始まっていない。一般会計で扱う防衛や子どもの予算は財源が確保できなければ、他の政策経費を圧迫する。ただでさえ少ない成長戦略に充てられるお金がさらに減りかねない。23年度予算案の編成過程で改めて浮き彫りになったのは歳出改革の意識の薄さだ。社会保障以外の政策経費は実質1500億円ほど増えた。従来の約330億円と比べ4倍以上の伸びだ。防衛費は増税の前段として3兆円弱を歳出改革や決算剰余金などで本当にまかなえるのか見通せない。具体的な各事業の削減論が浮上すれば、関係業界や与党議員らが反発する可能性が高い。決算剰余金は税収の上振れや結果的に経費を使わなかった不用額などの積み上げで生じる。この10年の平均は約1.4兆円。財政法は剰余金の半額を国債償還に充てるよう義務づける。残り0.7兆円を防衛財源として当て込む。税収が下ぶれすれば皮算用に終わる。借金頼みの財政運営を避けるには、一般会計にとどまらず、監視の目が届きにくい補正予算や予備費を含めたムダの洗い出しも欠かせない。ガソリン価格を抑えるために石油元売りに配る補助金は21年度の補正予算で始めた。その後も上積みや延長を繰り返し、既に累計6兆円ほど積んだ。化石燃料への依存を助長し、脱炭素の妨げになったとの見方がある。支援を必要とする層も絞り込めておらず、バラマキとの批判も絶えない。巨額の補助が適切に使われているかも疑わしい。財務省は「販売価格に補助金の全額が反映されていない可能性がある」と問題視する。ガソリンスタンド事業者の利益になったケースがあるとみている。コロナ対策や物価高対応などで地方に配る「地方創生臨時交付金」は補正や予備費で累計17兆円超を積んだ。うち5兆円ほどはコロナ関連なら使途を問わない仕組みだ。ずさんな実態は既に明るみに出ている。会計検査院は21年度の決算検査報告で、警察署など公的機関の水道料の減免といった不適切な使い方が少なくとも7億円ほどあったと指摘した。一般会計だけで114兆円と過去最大に膨らんだ日本の予算。手助けを必要とする家計や企業をきちんと支えつつ、成長の芽を育てる中身になっているのか不断のチェックが重要になる。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15544415.html (朝日新聞社説 2023年2月2日) 中期財政試算 疑わしい「黒字化実現」
 政府が中長期の財政試算をまとめた。財政健全化目標が達成可能だとするが、大型の補正予算を組まないのが前提とされ、実現性は疑わしい。コロナ禍で失われた財政規律を立て直し、肥大化した歳出を着実に見直すことが求められる。政府は、国と地方の基礎的財政収支を25年度に黒字にする目標を掲げている。昨年末に防衛費の大幅拡充を決めたため、従来試算より収支が悪化する懸念が高まっていたが、内閣府が先週公表した最新の試算は、半年前とほぼ同じ中身だった。23~25年度の実質経済成長率を平均1・8%と想定すると、基礎的収支は25年度も1・5兆円の赤字になる。だが、今まで同様の歳出効率化を続ければ、1・1兆円の黒字に転じ、目標が達成できるという。だが、額面通りには受けとれない。試算には多くの非現実的な仮定があり、実際には、目標の達成は極めて難しいと考えざるを得ないからだ。そもそも今年度の基礎的収支は、約49兆円もの記録的な赤字に陥る見通しだ。それがわずか3年で大幅に持ち直すと試算する最大の理由は、近年急膨張した補正予算を今後は編成しないと想定したことにある。岸田首相は、コロナや物価高騰の対策が補正予算の大部分を占めていると説明したうえで、今後「減額していく」と述べている。だが、補正予算に計上されているのは、それだけではない。半導体の生産支援や研究開発の強化、農林水産業の生産性向上など、各省庁の目玉政策も毎年盛り込まれてきた。つまり近年の補正予算は、当初予算の金額を小さく見せるために計上しきれなかった事業を実施する「抜け道」になっている。与野党の財政規律がまひするなか、抜本的に補正予算を縮小できるかは、疑わしい。試算は、防衛費増額にあたって政府の計画通りに安定財源が確保できることも前提にしている。だが、防衛費向けの増税には自民党内で反対論が根強く、歳出改革も具体的な中身が固まっていない。今後3年間で平均1・8%の経済成長との前提も実現は危うい。それに基づく税収見通しも過大な可能性がある。中期試算は、できるだけ客観的な見通しを示すことで、財政健全化に必要な歳出歳入両面の改革を政府に迫るためにある。今回の結果からは、緊急対応で増やした予算を平時に戻すことが必須なのは明らかだ。政府は、政策の優先順位を洗い直し、具体的な対策を詰めるべきだ。達成困難な現実から目を背けて対応を先送りするならば、試算の意味は無い。

<政府による人権侵害と詐欺行為>
PS(2023年2月11日追加):*3-1-1のように、少子化対策財源として年金・医療・介護等の社会保険から少しずつ拠出して資金を集める案が政府内で浮上しているそうだが、支え手が足りないと称して負担増・給付減を行い、本来の目的すら達していない高齢者向けの年金・医療・介護などの社会保険財源を少子化対策財源とするのは、詐欺であると同時に、高齢者に対する人権侵害であり、憲法11条・25条違反でもある。そもそも、年金原資が足りなくなった理由は、支え手が多かった時代に要支給額を積み立てず目的外支出を行ったことが原因で、それにより社会保険庁が廃止されて日本年金機構が2010年1月1日に発足したのだ。しかし、この調子では、やはり根本的な精神は変わらず、看板の架け替えに終わったと言わざるを得ない。そして、こうなる理由は、“有識者”を含め永田町・霞が関・メディアに、保険や発生主義を理解できる人が少なく、日本国憲法を無視する人が多いからである。
 ただし、少子化対策財源に雇用保険を使うのは、育児休業中には賃金をもらえないという実質失業状態にある人にとって目的外支出とは言えない。が、18歳まで子どもの医療費を無償化するのは不要な診療を増やすため行き過ぎで、1割程度の負担はむしろさせた方がよいのだ。さらに、妊娠・出産には医療・介護保険を適用せず、“全額補助する”というのもおかしな話だ。このように筋が通らない非常識なことをするのを“異次元の○○”と言って“チャレンジ”しても、よい結果にならないのは必然である。
 なお、「少子化が進むほど年金財政や介護の担い手不足等の問題は悪化する」と如何にも無駄な少子化対策が高齢者のためになるかのような説明をしているが、現在も年金財源不足や介護の担い手不足があり、その原因は少子化ではない。にもかかわらず、「給付が高齢者に偏っている」「世代間不公平がある」などと事実に反することを言い、高齢者からぶんだくることばかりを永田町・霞が関・メディアが吹聴するため、*3-1-2のように、高齢者をだますオレオレ詐欺(生産年齢人口の日本人が犯人である!)が増え、働いて貯蓄し、今後はそれで生きていかなければならない高齢者の貯蓄を騙し取る悪質な犯罪が増えたのである。警察は、「不審な電話は一度切れ」「留守電にせよ」などと高齢者に不便を感じさせることを言うよりも、速やかに犯人を捕まえて罰し、犯罪を抑止して、安心して暮らせる国にすべきである。
 このような中、*3-2-1のように、政府は、2021年に廃案になった法案の骨格を維持する「出入国管理及び難民認定法」の改正案を2023年の通常国会に再提出するそうだが、そもそも難民認定申請中の人を原則として重大犯罪者やテロリストと考えること自体がおかしい上、難民申請者は審査の機会を奪われ、日本の難民認定率は著しく低く、難民条約違反でもあるのだ。そして、*3-2-2のウィシュマさんに対するように、出入国在留管理局の看守が同じ人間とは思わないような失礼で人権侵害極まりない態度で接し、死に至らしめたのである。
 しかし、外国人労働者(当然、難民を含む)は、日本にとっては貴重な労働力になる人である上に、母国との懸け橋にもなれる人であり、多様性はイノベーションの源にもなる。そのため、狭い視野で外国人差別をしながら、少子化対策と称して無駄なバラマキばかり行い、外交と称して多額の資金を外国に供与するよりも、日本に来た人やこれから来たいと思う人に丁寧に接した方が、あらゆる効果がよほど高いのである。

  
    2023.1.13朝日新聞       2021.3.16毎日新聞  2023.2.8日経新聞

(図の説明:左図はG7各国の難民認定率と庇護率で、日本は著しく低い。中央の図は、ウィシュマさん事件の後、2021年に提出された入管法改正案で、むしろ厳しくなったと言われて廃案になったものである。右図は、2023年に提出されようとしている入管法改正案で、2021年のものとさほど変わっていない。これらは、難民になった人の人命を助けようという発想がないことを示しており、このように人命や人権を疎かにする点が根本的欠点である)

*3-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA234BZ0T20C23A1000000/ (日経新聞 2023年2月5日) 霞が関を驚かせた「権丈案」 少子化対策財源で有力視
 少子化対策の財源として年金や医療などの社会保険から少しずつ拠出して資金を集める案が政府内で浮上している。アイデアの発案者は官僚でも政治家でもなく、政府の有識者会議に参加する専門家だ。「有識者案」が有力視される現状から霞が関の組織上の限界も垣間見える。2022年の年間出生数は統計史上初めて80万人を割る見込みで、将来への危機感から岸田文雄政権は少子化対策を最重要課題に位置づける。子育てや共働きの支援などをテーマに議論した政府の全世代型社会保障構築会議は、非正規労働者への育児休業給付の適用や児童手当の拡充といった具体策を22年末の報告書でまとめた。政府内で保険拠出が一案として挙がっており、実現可能性や詳細について現在評価を進めている。この案はベースとなった構想から、厚生労働省の官僚ら関係者間で「権丈案」とも呼ばれている。年金や介護などの保険から拠出し子育てを支える「子育て支援連帯基金」を提唱する慶応大学の権丈善一教授の名が由来。権丈氏は全世代型会議のメンバーに名をつらねる学者で、年金、医療、介護など幅広い社会保障分野に精通している。連帯基金の構想は「年金、医療、介護保険は、自らの制度の持続可能性を高めるために、子育て費用を支援できるようになる」という考えを打ち出している。権丈氏は「社会保険制度が連帯して子育て基金に拠出する制度は世界にない。チャレンジする価値は十分あるのではないか」と指摘する。ある厚労省幹部は「役人の発想では出てこない」と認める。背景にあるのは縦割りになりがちな行政組織だ。霞が関の部署はそれぞれの法律にひも付いているため、限られた守備範囲のなかで制度について考えるのが常だ。横のつながりの調整力に乏しい欠点がある。雇用保険を例に挙げると、社員が企業で働くなかで起こりうるリスクを労使ともにお金を出し合って積み立てた資金で備える考え方が根底にある。育児休業給付も雇用保険が財源で、現状では一部の非正規労働者が対象外となっている。あくまで子育て支援よりも失業防止を重視する制度になっているためだ。ただ現行のルールができてから現在に至るまでに共働き世帯や非正規労働者の比率は大幅に増え、現役世代を取り巻く現状は様変わりしている。例えば時代にあわせて非正規にも対象を広げる「雇用」と「子育て」を横断するような制度の見直しは、霞が関では雇用保険の本来の考え方と矛盾もはらむため難しかった。23年前半には新たな将来推計人口も公表される見通しだ。少子化が進むほど年金の財政や介護の担い手不足などの問題は悪化する。負担増への抵抗は常にあるが、結局は少子化が止まらなければ将来の大きな負担増が避けられない。単に取りやすいところから取る発想は避けつつ、従来の制度や負担と給付の考え方だけにとらわれずに深く広く議論を進めることが欠かせない。

*3-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ4R7CYNQ4MULOB00B.html (朝日新聞 2022年4月24日) オレオレ詐欺、被害額4倍増 1~3月、4億円超 高額被害相次ぐ
 息子や孫をかたる男が高齢者をだます「オレオレ詐欺」の被害が止まらない。1~3月の神奈川県内の被害額は急増し、前年の約4倍の約4億600万円に。県警は今月、緊急対策に乗り出したが、鎌倉市の男女が計4千万円を詐取されるなど高額被害が相次ぐ。「不審な電話は一度切って周りの人に相談して」と県警は注意を呼びかけている。オレオレ詐欺は、高齢者宅の固定電話に息子や孫を装って電話し、「会社の金をつかいこんだ」などと話して現金をだましとる手口だ。指示役から、現金を受け取る「受け子」まで多人数がかかわるのが特徴だ。捜査2課によると、1~3月、県内の認知件数は前年同期比で121件増えて167件に。被害総額は1億100万円から4億600万円に急増した。被害者は80代が65%で最も多く、70代が32%、60代が3%で、全員が60歳以上だった。82%が女性で、一人暮らしの女性が狙われた形だという。お金を要求する理由は、息子らによる「かばんの紛失」が77件で全体の46%をしめた。「仕事上のミス」(40件)「金銭の借用」(14件)「使い込み」(7件)なども目立った。今月4日に鎌倉市の80代男性が3千万円を詐取された事件では、息子という男が「トイレでかばんをなくした」「今日の契約に3千万円が必要」と電話し、その後、息子の部下をかたる男が自宅にきた。18日に500万円をとられた横浜市中区の80代男性は自称息子から電話で「事業に失敗した」とだまされたという。被害が危機的状況にあるとして、県警は3月31日、本部と県内54署をオンラインでつなぎ、緊急対策会議を実施。高齢者を戸別訪問し録音された犯人の声を聞いてもらうことに。川崎市では4月、ゴミ収集車約130台が特殊詐欺注意の呼びかけを始め、アイドルグループ「仮面女子」は22日、JR逗子駅前で通行人に注意喚起。川崎市高津区の橘中学校演劇部は23日、橘小学校で住民に特殊詐欺防止のための劇を上演。正代咲耶部長(14)が「被害に気をつけて」と呼びかけた。あの手この手で被害の防止を目指す。一度に多額の現金を得られるとされるオレオレ詐欺は、犯人には好都合とされ、2003年ごろから目立つように。一時減ったものの、このところの急増について、県警幹部は「犯人側の事情なのか増えた理由が分からない。手口も以前からある『かばんを落とした』が多い。地道に摘発を続けるしかない」。県警は2月、受け子から現金を回収する「回収役」とみられる東京都杉並区の男(32)と、電話をかける「掛け子」とされる新潟県三条市の男(38)を詐欺容疑で逮捕。詐欺団の中枢に近い人物の可能性があるとみて、3件の詐欺容疑で再逮捕し、全容解明に向けて調べている。
○被害を防止するために(警察庁)
・電話でお金の話が出たら、いったん電話を切って家族に相談
・常に留守番電話機能を設定しておく
・迷惑電話防止機器を利用する
・事前に家族の合言葉を決めておく
・電話をかけてきた家族に自分から電話して確認する

*3-2-1:https://webronza.asahi.com/national/articles/2023011300001.html (朝日新聞 2023年1月16日) 問題が多すぎる。入管法改正案の再提出、難民条約の責任を果たすのが先だ 児玉晃一 弁護士
●条約違反の「2021年入管法案」
 政府は2023年1月23日に始まる通常国会に、「出入国管理及び難民認定法(入管法)」の改正案を再提出するようです。朝日新聞の報道(2023年1月12日)によれば、2021年5月に廃案になった法案(以下「2021年入管法案」といいます)の骨格を維持するとのことです。政府は22年12月22日に「『世界一安全な日本』総合戦略2022」(犯罪対策閣僚会議)を閣議決定しています。そこでは「送還忌避者の送還の促進」というタイトルの下で、「入管法の改正を行い、難民認定申請中であっても、重大犯罪者やテロリスト、複数回申請者については、一定の条件下において送還を可能とする等の措置を講じる」とされています(60頁)。現行法では、難民申請手続き中の者については、強制送還することができません(入管法61条の2の9第3項)。これを「送還停止効」といいます。ところが、2021年入管法案には、以下のような例外を設ける条項が盛り込まれていました。
①3回目以降の難民申請者、ただし、相当の資料を提出した者は除く(2021年入管法案同法案61条の2の9第4項1号)
②3年以上の実刑を日本で受けた者やテロリズムや暴力主義的破壊活動等に関与する疑いがあると認められた者(同2号)については、手続中であっても強制送還可能 
 再提出される法案の詳しい内容はまだ明かではありませんが、こうしたことからも、難民申請者の送還停止効の例外規定が盛り込まれていることは確実だと思われます。しかし、これらの条項は難民条約に反します。改めて、入管法改正案の再提出に強く反対します。
●難民申請者、審査の機会が奪われている
 「送還停止効」の例外規定を含む法案が通ってしまうと、難民申請者は、認定不認定の判断がされる前であっても、強制送還することが可能になります。しかも、「2021年入管法案」では、①の3回目以降の申請者については「相当の資料」、②についてはテロリズムや暴力的破壊活動に関与する疑いについてを、誰が、どの段階でどのように判断するのか、申請者側に弁明の機会があるかなど、重要な手続規定が全く整備されていませんでした。その判断について、司法に訴えることができるかどうかも不明です。これでは、入管内部だけでこれらの判断をして、本人に告知しないで送還してしまうこともできてしまいそうです。2021年9月19日、東京高裁は難民申請者に不認定結果を告知した翌日にチャーター便によって強制送還した事例について、司法審査の機会を奪ったものであり、憲法32条等に違反する違法なものであると判断しました。そして、同判決は国側の主張に応える形で、難民申請の濫用かどうかという点も含めて司法審査の機会を保障すべきであるとしたのです。
この判決に対して、国は上告をせず、確定しました。
●極端に低い難民認定こそが問題
 複数回申請をする者全てがあたかも難民申請の濫用者であるかのような捉え方も誤りです。日本の2021年の難民認定者は、処理件数1万3561人に対して合計74人です。わずか0.55%に過ぎません。G7各国の認定率が最も低いドイツでも15.1%、最も高いカナダ、英国では50%を超えます(グラフ参照。筆者が国連難民高等弁務官事務所〈UNHCR〉の公開資料などに基づき作成/庇護率は認定者と補完的に保護された人数の割合)。例えば諸外国では当たり前のように難民として認定される、トルコ国籍のクルド人につき、日本では全く難民として認定されてきませんでした。1990年代半ばころから申請者が増えてきましたが、ようやく2022年に、札幌高裁での難民不認定処分取消判決の確定を受けて1人、認定されただけです。ミャンマーのロヒンギャやアフガニスタンのハザラ人など、その属性が立証できれば難民として認定されるような申請者についても滅多に認定されません。2022年11月3日に、国連の自由権規約委員会は日本政府に対して難民認定率が低いことについて懸念を表明しました(Concluding observations on the seventh periodic report of Japan パラグラフ32)。申請者の中には、他国で同じような状況にあった親族や友人が難民として認定されている方も多くいます。他の国では認定されているのに、どうして自分は日本では認定されないのか、おかしいのは日本政府の方だという理由で申請を繰り返さざるをえない方もたくさんいます。本国に帰ったら命の危険がある、かといって非正規滞在になっている状況で入国させてくれる他国はない、行き場のない申請者達にとっては、申請を複数回繰り返すしか途はないのです。複数回申請を減らしたいのであれば、まずは諸外国と同じ水準での難民認定を行うべきです。「難民鎖国」と呼ばれる現状を改めないまま、送還だけをしやすくすることは、0.55%の認定率をさらに引き下げることに繋がります。難民条約の前文は「難民に対する庇護の付与が特定の国にとって不当に重い負担となる可能性のあること並びに国際的な広がり及び国際的な性格を有すると国際連合が認める問題についての満足すべき解決は国際協力なしには得ることができないことを考慮し」としています。現時点で二桁以上差のある難民認定率をさらに下げるような法案は、難民保護についての国際協力をうたった難民条約前文の精神に反するものです。
●UNHCRが表明する懸念
 難民条約32条2項は「該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」でなければ送還できないとしています。「2021年入管法案」に対して表明された、UNHCRの2021年4月9日意見概要 によれば、3年以上の実刑を日本で受けた者やテロリズムや暴力主義的破壊活動等に関与する疑いがあると認められた者については、手続中であっても強制送還可能とする条項(同法案61条の2の9第4項第2号)について、「同第 2号には、理論上、はじめて難民申請した者であって一次審査の一回目の難民認定の面接を待っている者も含まれることである。さらに、第2号には、広い範囲の活動が含まれ、同号の適用性については入管庁内の審査によって決定される」ことを「UNHCRの一番の懸念事項」としています。UNHCRは、この懸念の理由について、次のとおり述べています。少し長くなりますが、引用します。送還停止効は、初めて難民申請を行う申請者については、難民認定に関する第一次審査と 不認定処分に対する不服審査が行われている間、一定の犯罪歴がある、またはテロリズムや暴力主義的破壊活動に関与するおそれや可能性があるというだけの理由によっては、決して解除されてはならない。UNHCR は国家安全についての政府の正当な懸念を共有するが、難民条約の規定が適切に運用されれば、国家の安全と難民の保護は両立可能なものである。難民が庇護国の安全や(特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し)庇護国社会に対して危険な存在とされた場合の難民条約第 33条第 2項のノン・ルフールマンの例外は、しかし、本来難民として認定された者に適用されるべき規定である。また、送還が危険を消滅または軽減させる最後の手段でなくてはならず、比例性が無くてはならない;つまり、国家や社会に対して当該難民が及ぼす将来的な危険が、当該難民が出身国に送り返された際に直面する危険を上回るときにのみ可能である。難民認定の個人面接や不服審査も含め、難民条約の難民の定義に照らして難民該当性を完全に評価される権利がまず確保されなければならない。つまり、重大犯罪者やテロリストだからといって、当然に送還できるわけではないのです。このような類型の人達を送還するのがあたかも当たり前のように述べること自体、難民条約の加入国としては恥ずかしいことであることを、出入国在留管理庁は自覚すべきです。
●過去に「誤認」も、誰がテロリストと判断するのか
 「2021年入管法案」では、申請者がテロリストやその疑いがあるかどうかの認定手続について、全く規定がありません。出入国在留管理庁が判断することになるのでしょうが、いつの段階で、誰が判断するのか(法務大臣か、出入国在留管理庁長官か、地方出入国在留管理局長か、主任審査官かなど)すら定められていないのです。UNHCRはこの点についても、「仮に例外が設けられるとするのなら、例外中の例外に限られるべきであり、必ず手続き保障が確保されねばならない。具体的には、送還停止効の例外となる(ことにつながる)決定に不服を申し立てる効果的な救済措置や、同不服申し立てをしている間の送還停止を申し立てる権利の保障等である。」としています。全くそのとおりです。そもそも、出入国在留管理庁に、テロリスト等についての事実認定能力があるとは思えません。古い話になりますが、2001年10月、大変ありふれた名前で同姓同名だったというだけで、アフガンのハザラ人難民申請者をアルカイダだと勘違いして、機動隊まで動員し、9人のアフガン難民を収容してしまい、誤りに気づいた後も引っ込みがつかなくなってしまった事件がありました(参照:佐々涼子『ボーダー 移民と難民』86頁以下、集英社インターナショナル 2022年) 。出入国在留管理庁の事実認定力に委ねるのは危険すぎます。冒頭に引用した「『世界一安全な日本』総合戦略2022」の送還停止効例外規定に関する記述は、「6 外国人との共生社会の実現に向けた取組の推進」という項目の中に位置づけられていました(同58頁以下)。ですが、引用部分をはじめとして、そこに書かれていることの殆どは、いかに外国人を排除するかという政策ばかりです。難民についていえば、まずは、難民条約加入国として期待されている責務を果たしていないことを反省し、諸外国と同じ水準での認定実務を確立すべきです。送還停止効の例外規定を設けることは許されません。

*3-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230410 (東京新聞 2023年2月10日) ウィシュマさん嘔吐し、助け求めても 看守「私、権力ないから」 入管内映像に映っていた詳細
 名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で2021年3月、収容中のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=が死亡した問題で、亡くなるまでの約2週間を記録した監視カメラの映像を、本紙記者が視聴した。嘔吐おうとし、「死ぬ」と助けを求めるウィシュマさんに、女性看守が「そんなので死んだら困るもん」などと応じる様子などが残されていた。
◆涙声で「できれば食べたい」
 問題を巡っては、遺族による国家賠償請求訴訟が名古屋地裁で係争中。映像は、遺族が全面開示を求める中、裁判所の勧告を受けた国側が昨年12月、全体のうち5時間分を同地裁に提出した。記者は今月8日、民事訴訟記録の閲覧手続きを経て、同地裁でこの映像を視聴した。映像はカラー、音声付きで、天井に設置されたカメラで室内の状況が撮影され、5〜10分の場面に区切られている。最初の場面は、21年2月22日午前9時台。ベッドであおむけのウィシュマさんに、入室してきた女性看護師が「顔見にきた」「ちょっとずつでも食べるといいんだよ」と話しかけていた。ウィシュマさんは「私昨日バナナ食べた」などと日本語で答えた。体調が芳しくないのか、語尾は消え入りがち。涙声で「できれば食べたい」と看護師に訴えてもいた。ウィシュマさんの死亡後に出入国在留管理庁がまとめた報告書によると、2月15日には尿検査で飢餓状態を示す異常値が出ていた。
◆「病院持ってってお願い。お願いします」
 次の場面は、2月23日午後7時台。ベッド上で吐いてしまい、「死ぬ」とうめき続けるウィシュマさんに、女性看守が明るい声で「大丈夫、死なないよ。そんなので死んだら困るもん」などと応じた。ウィシュマさんは「病院持ってってお願い。お願いします」と繰り返したが、女性看守は「連れてってあげたいけど、私、権力ないから」などと、取り合わなかった。26日午前5時台の映像では、ベッドで四つんばいになったウィシュマさんがバランスを崩し、床に転落。「担当さん」と助けを求めていたところ、しばらくして女性看守2人が入室。2人はウィシュマさんをベッドに戻そうとするが、体を持ち上げられず、「ごめんね」と言って部屋を去った。
◆死亡直前、「アー」などと悲鳴
 報告書によると、名古屋入管は3月4日、ウィシュマさんを外部の病院の精神科で受診させ、睡眠導入剤などを服用させるようになった。死亡する前日の3月5日の映像では、ウィシュマさんはたまに「アー」などと悲鳴を上げるだけで、女性看守の「おかゆ食べる?」「砂糖だけ食べる?」などといった声掛けにまともに応じられない様子だった。最後の場面は、3月6日午後2時台の約5分間。ウィシュマさんは無言で、ベッドであおむけに横たわっていた。女性看守が、室内のインターホン越しに「指先ちょっと冷たい気もします」と話し、脈拍を確認したり、駆けつけた職員に「ほっぺたとかは温かいんだけど」などと訴えたりしていた。救急車を呼んだり、応急措置を始めたりする様子は確認できなかった。

<政治分野に女性が少ないことのディメリット(1) ← 生活系政策の貧困>
PS(2023年2月12、13《図》日追加):これまで少子化・教育・保育・医療・介護・年金に関しては、日本では、防衛・原発・道路と違って財源を渋り、また目的外支出もあって、改悪されたり疎かにされたりする傾向が強かった。そして、その理由は、これらは男女の性的役割分担の下で女性が担当することが多かったため、男性議員の主な関心事ではなかったからだろう。
 この傾向について、*4-1は、「第3章 女性の政治参画が進むことで生まれるポジティブインパクト」と題し、①男女で政策選好が異なる傾向にある ②議会の構成員に多様性があることは、多様な政策立案に繋がる ③女性の政治参画が進めば、少数派の課題として捉えられがちだった社会課題にも光が当てられる ④その結果、社会全体にとってポジティブな影響が生じる としており、全く同感だ。
 また、*4-1は、⑤1980年には国会議員に占める女性の割合は日本と同程度の国が殆どだったが ⑥パリテ法などの施策が導入され、現在は女性議員の割合が3割以上と日本の9.7%を大きく引き離している ⑦女性の政治参画を促す代表的な方法としてクオータ制が挙げられる ⑧クオータ制を導入している国は、法的な後押しの他にも政党・議会・市民団体の取り組みが女性議員の活躍を支える ⑨フィンランド・デンマークはクオータ制を導入していないが、男女の性別役割分担意識が固定されず、女性が各分野に進出した歴史があり、誰もが政治家になりやすい風土がある ⑩日本は、この間どうすることもできなかったのか?等とも記載している。
 このうち⑤⑥⑦⑧⑨は事実だろうが、⑩については、日本も男女雇用機会均等法(1985年5月公布・1986年4月施行)、男女共同参画基本法(1999年6月公布・施行)、候補者男女均等法(2018年5月公布・施行)等が制定されたのだが、努力義務・配慮義務程度の規定で本気度が低く、数度の改正を経てもなお抜け道を探してジェンダー平等にしない状況だと言える。その結果、的外れの政策が氾濫して効果が上がらず、債務ばかりが膨らんでいるのだ。
 地方議会については、*4-2が、⑪地方議会は「女性0議会」が2022年11月1日時点で全体の14.3%あり ⑫女性が1人しかいない議会と合わせると38.8%に上り ⑬全在職議員に占める女性の割合は15.4%で ⑭現職議長が女性の議会は僅か4.2%だ 等と記載している。地方は、東京から鹿児島までジェンダー平等度が様々で、立候補すること自体に周囲からの逆風があったり、逆風をクリアして立候補しても当選率が低かったり、当選しても仕事で軽く見られたり、性的嫌がらせを受けたりすることが少なくないため、ジェンダー平等度の低い地域に住む女性が議員になり、議員としてしっかり仕事ができるというのは、かなり難しい。
 そのため、私は、*4-3の「日本で女性の政治参画を進めるためには、議席の一定数を女性に割り当てるクオータ制の導入が最善で、女性の政治参加が促されるような社会の雰囲気を作ることが必要」というのに賛成だ。ただし、議員として満額の報酬をもらって仕事をするのだから、出産・育児の超繁忙期を終えてから議員になるのが、有権者・周囲の仕事仲間・自分の子どもに迷惑をかけず、一般人としての出産・育児の経験を政策に活かし易いと、私は思う。

   
2022.7.13日経新聞   2022.7.13NHK   2022.8.12愛媛新聞 2022.5.14日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、日本は世界経済フォーラムの男女平等度で、2022年に146ヶ国中116位《2021年は156か国中120位》と低迷しており、左から2番目の図のように、特に政治分野で男女平等度が低い。また、右から2番目の図のように、政治分野139位・経済分野121位と、社会における女性の活躍やリーダーシップの発揮という面でとりわけ低くなっているのだ。そのため、これらを解決するには、1番右の図のような人材育成・多様性・労働慣行に関する的確な開示やジェンダー平等に向けての既存の法律の改正とその完全実施が必要である)

*4-1:https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/women-in-politics.html (PWC 2022.12.20より抜粋) 政治分野における女性のさらなる活躍に向けて~日本の社会がより強く、優しく、しなやかであるように~
 本レポートでは、女性の政治参画の動向や、女性の政治参画を阻む原因・理由、女性の政治参画が進むことで生まれるポジティブインパクト、そして諸外国の分析を、さまざまな文献をもとに包括的にまとめています。女性の政治参画を加速させるための方策について考察するとともに、女性の政治参画を進めることで、日本社会をより一層、多様性に富んだ、強く、優しく、しなやかなものにするきっかけとしたく、執筆したものです。
第1章 女性の政治参画における動向
近代の日本における政治は、一定額以上の税金を納めた男性のみが行う状態からスタートしました。そして、日本において初めて女性の国会議員が誕生したのは1946年の衆議院議員総選挙のときでした。それ以来、国会議員に占める女性の人数や割合は、現在に至るまで、ほぼ横ばい状態が続いています。1980年には女性議員比率が日本と同程度であった諸外国が、さまざまな施策を取り入れて女性議員の割合を増やしている中で、日本は大きく後れを取っていると言わざるを得ません。
第2章 女性の政治参画を阻む原因・理由
その要因は、社会や組織、個人など、さまざまな階層で見られます。具体的には、政治は男性が行うものという風潮や、議員間や有権者からのハラスメントのほか、女性候補者を養成する仕組みが整っていないこと、選挙活動・選挙制度そのものが男性中心のままであり女性に不利であることなどが挙げられます。2022年9月から10月に現役政治家や出馬経験者等を対象に実施したヒアリングにおいても、さまざまな場面で阻害要因に遭遇したことが明らかになりました。
第3章 女性の政治参画が進むことで生まれるポジティブインパクト
女性が政治に参画することでポジティブなインパクトが生まれることも事実です。既存の複数の調査研究によると、男女では政策選好が異なる傾向にあり、議論の場に女性が参加する、すなわち議会の構成員に多様性があることは、多様な政策立案につながると言われています。女性の政治参画が進むことによって、女性が重視する傾向にある社会課題だけではなく、女性を含めた少数派の課題として捉えられがちな社会課題に対しても光が当てられることにつながります。その結果、女性に限らず、社会全体にとってポジティブな影響が生じると考えられます。
第4章 女性議員によりもたらされた実績
実際に、女性議員が中心となって整備したわが国の法律には、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」(2001年施行)、「刑法の性犯罪に関する規定の大幅な改正」(2017年)、「税制改正」(2019年)などが挙げられます。これらの法律は、いずれも女性議員が集まって推進したことによる実績であり、裏を返せば、女性議員一人では成しえなかった功績とも言えます。女性の政治参画が増えることで、女性に関する政策提言のみならず、多様な視点が盛り込まれた政策提言につながることも期待されます。
第5章 女性政治家比率が高い諸外国の分析
諸外国に目を向けると、1980年には、国会議員に占める女性の割合が日本と同程度の国がほとんどでした。しかし、そうした国々では、その後、続々とパリテ法などのさまざまな施策が導入され、現在では、女性議員の割合が3割以上と、日本の9.7%を大きく引き離す形となっています。女性の政治参画を促す代表的な方法として、クオータ制が挙げられます。クオータ制を導入している国の中でも特にフランスでは、パリテ法が成立したことで、女性議員の割合が大きく増加したと言われています。クオータ制を導入している国々においては、法的な後押しのほかにも、政党や議会、市民団体の取り組みが女性議員の活躍を支えている傾向が見られます。他方、クオータ制を導入せずに女性の政治参画を進めている国も見受けられます。北欧のフィンランドやデンマークでは、男女による性別役割分担意識が固定されず、女性が各分野に進出した歴史があり、誰もが政治家になりやすい風土が見られます。また、米国においては、女性の政治参加や養成の支援に特化したプログラムを開催する市民団体の存在が大きな特徴と言えます。
<法制度 >
【フランス】2000年に制定されたパリテ法で男女の候補者が同数と定められており、各政党の候補者数の男女差が全候補者数の2%を超えた場合に政党助成金が減額となる。
【韓国】定数300のうち253議席を選出する小選挙区では、選挙区の30%以上に女性を擁立することが努力義務とされており、小選挙区で一定数以上の女性候補者を公認した政党には、女性公認補助金が支給される。
<政党>
【英国】労働党では、候補者を選出する予備選挙の最終候補者リスト(shortlist)を女性に限定する「女性限定リスト(All Women Shortlist)」制度がある。
【カナダ】女性候補者向けの研修やメンター制度、政治資金支援の提供(自由党、新民主党、緑の党)を行っている。
【韓国】女性候補者への得票率の加算制度や女性候補者優先区等、女性候補者への支援策がある。
【デンマーク】政党内の女性団体ならびに女性運動一般による持続的な働きかけがあった。
<議会>
【フランス・英国】産休育休の制度や保育所の設置など、議会制度が整備された。
【韓国】前・現職議員から構成される女性議員ネットワークが存在する。
【フィンランド】フィンランド国会に作られた「女性議員ネットワーク」には、女性国会議員の全員が所属している。ネットワークは女性議員たちが集い、党派を超えて共通する課題について議論し、制度改正などを後押ししている。
公的機関 【フランス】パリテ監視を行う女男平等高等評議会(HCE)が設置されている。
<市民団体>
【韓国】女性の政治参画を専門領域とする女性団体「女性政治勢力連帯」と韓国の女性団体連帯組織を中心とするロビー活動が実施されている。
【カナダ】イコール・ボイス(Equal Voice)では、若い世代の女性・女性候補者・議員に対する政治教育、技能向上のための研修、ネットワーク支援や、ジェンダー平等を推進する政策を実現するため、超党派の取り組みを支援している。
【米国】政治活動委員会(Political Action Committee)と呼ばれる民間の選挙支援組織のうち女性候補者の支援を目的とする団体(2008年現在14団体)が女性候補者に対する資金援助、女性候補者への投票の呼びかけ等を行っている。そのほか、女性候補者を訓練するイマージ(Emerge)、資金調達面で支えるウェイ・トゥ・ウィン(Way to Win)等の団体の動きも活発。
【デンマーク】政党内の女性団体ならびに女性運動一般による持続的な働きかけがあった。
出所:各種資料よりPwC作成
第6章 示唆・提言
諸外国の取り組みを踏まえると、政治分野において活躍する女性を増やすためには、法制度や政党、議会、市民団体等、さまざまな分野で、包括的、かつ継続的に取り組みを進めていく必要があります。現在、日本ではクオータ制を導入していませんが、今後、クオータ制の導入や、フランスのパリテ法のような法律で、男女の候補者数を規定することも議論される可能性があります。また、今回行ったヒアリングにおいて、市民団体による女性に対する教育支援や経済支援、ネットワーク構築支援等の活動が、女性が政治分野に進出するための直接的な効果をもたらしやすいとの意見が複数聞かれました。そのため、国内でまず取り組むとすれば、市民団体による働きかけが有効になるでしょう。女性の政治参画を後押しする活動が進むことで女性の政治家が増え、その活躍を見てさらに政治家を志す女性が増えていく流れを加速していくことが期待されます。
おわりに
図表1で示したとおり、1980年にジェンダーギャップが日本と同等レベルであったフランス・英国・米国・韓国は、2022年時点で大きく改善しています。日本は、この間どうすることもできなかったのか?という思いとともに、さらに先の将来にこの課題解決を先送りしてはいけないという思いを強くします。ジェンダーギャップを解消すべく、一歩踏み出そうとする人々の間で横の連携を強くするとともに、社会を変えようとする女性を後押しすることで、多様性が確保された社会の実現に取り組んでいきたいと考えます。

*4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/985908 (佐賀新聞 2023/2/5) 「女性ゼロ」の地方議会14%、遠い均等、1人以下38%
 都道府県と市区町村の全1788地方議会のうち、女性議員がいない「女性ゼロ議会」が2022年11月1日時点で257あり、全体の14・3%を占めることが4日、共同通信の調査で分かった。女性が1人しかいない議会は437で、両者を合わせると38・8%に上る。全在職議員の女性割合は15・4%、現職議長が女性の議会はわずか4・2%だった。女性ゼロ議会数は年々減少傾向にあるが、「政治分野の男女共同参画推進法」が目指す均等には程遠く、子育て支援や雇用など生活に直結する政策議論の場に、男女双方の視点を反映する体制がいまだ整っていない実態が浮かぶ。今春の統一地方選でどれだけ改善されるか注目される。22年11月~23年1月、全地方議会議長を対象にアンケートを実施し、1783議会が回答。無回答の議会は女性議員数などを個別に取材した。女性ゼロ議会は市が23、町は164、村は70。市議会全体に占める割合は2・9%、町村議会では25・2%に上った。都道府県と区にはなかった。都道府県議会で女性が1人だったのは山梨、熊本の2県だった。内閣府によると、12年12月末時点のゼロ議会は410、21年12月末時点では275だった。都道府県別で見ると、全ての地方議会に女性がいたのは栃木、千葉、神奈川、大阪、広島、香川。ゼロ議会が一つしかなかったのは埼玉、新潟、三重、兵庫、島根、山口、愛媛だった。ゼロ議会の割合が最も高かったのは青森。41議会中15議会、36・5%を占めた。福島、奈良もそれぞれ3割以上の議会で女性がいなかった。現議長は女性76人、男性1712人。直近の市町村合併以降、女性の議長就任歴がある議会は433(24・2%)、副議長は956(53・4%)だった。女性議員を増やす取り組みについての質問では、289議会が「実施している」、1493議会が「実施していない」と答えた。残りは回答しなかった。取り組み内容を複数回答で尋ねたところ、「ハラスメント対策」が115で最多。「議員対象の男女共同参画に関する研修」が68、「女性の政治参画に関する意識啓発」が45で続いた。

*4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/977542 (佐賀新聞 2023/1/19) 女性政治参画、クオータ制が最善、英教授提言、一定議席数割り当て
 英国でジェンダー(社会的性差)に配慮した議会改革を推進するエディンバラ大のサラ・チャイルズ教授が18日、東京都内で取材に応じ、日本で女性の政治参画を進めるためには、議席の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」導入が最善だとして、制度改革の必要性を訴えた。女性議員の活動に対する社会の意識改革も重要との考えを示した。チャイルズ氏は日本について、クオータ制導入を検討すると同時に「女性の政治参加が促されるような、社会の雰囲気をつくることが必要だ」と述べ、育児や家事をしながら議員活動をすることへの理解を進める必要があると強調した。チャイルズ氏はこの日、在日英国大使館が主催したジェンダーと政治に関するセミナーで講演。産休で出席できない議員の代理投票を巡る英下院の動きなど先行事例を紹介した。衆院議員の女性比率が約10%と大きく出遅れる日本でも、衆院が昨年6月、ジェンダー格差に関する議員アンケートを基に報告書をまとめるなど関心が高まりつつある。

<政治分野に女性が少ないことのディメリット(2) ← 的を得ない少子化対策>
PS(2023年2月28日追加):*5-1-1は①2022年の出生数は79万9728人で、1949年(ベビーブーム世代)の269.6万人に比べて3割に満たない ②死亡数は8.9%増の158万2033人で過去最多で、出生から死亡を引いた自然減も78万2305人と過去最大 ③人口減が加速中 ④人口動態は日本経済の成長力を左右する ⑤年金・医療・介護などの約130兆円の給付財源中、現役拠出分は保険料は全体の半分以上を占める ⑥日本の社会保障制度は、出生が減れば高齢者を支える将来世代が減り、一段の負担増が避けられなくなる と記載している。
 しかし、上に述べたとおり、1949年(ベビーブーム世代)の269.6万人は戦後の出生数の多い世代であるため、その後に出生数が漸減したのは日本の適正人口から考えて適正だ。が、人口の一定割合が優秀な人だとすれば、優秀な人の数もベビーブーム世代と比較して現在は3割に満たず、実際にそれを体感することも多い。しかし、現在は、ベビーブーム世代と比較して、高等教育も普及している筈なのだ。
 そのため、必要なことの第1は、*5-2-2・*5-2-3のうち、公的保育(学童保育を含む)・公的教育を質・量ともに充実して、働く女性のニーズに応えると同時に、生まれてきた子の1人1人を人材として大切に育てることである。また、公的保育は、有償労働で働く女性だけでなく、無償労働で働く専業主婦にも平等な機会を確保すべきで、保育現場は単なる居場所の確保ではなく年齢に見合った良質な教育を与える場としても活用すべきだ。さらに、公的教育が心もとなければ、子を塾に通わせたり、私立にやったりして多額の入学金や授業料を払わなければならず、これらの教育費負担が出産を控える大きな原因となっているため、小学校(3歳から始める)から高校までを義務教育として無償化すると同時に、ジェンダー(社会的に作られる男女格差)を再生産しないために、小学校(3歳から始める)から高校までの多感な時代に、男女共学の学校で良質な教育を与えることが必要不可欠である。
 さらに、*5-2-3は、公立学校教育に不信感を持つ親は私立小中等の受験に向かい、子に将来国際社会で活躍するキャリアの選択肢を与えるためにインターナショナルスクール入学も視野に入れると記載しているが、日本の公的教育は確かに世界では通用しないことを多く教えるため、文科省は多様な方法で日本の公立学校をインターナショナルに通用するものにすべきだ。
 ここまでやると、子ども1人当たりの保育費・教育費は倍増すると思うが、まだ倍増しなければ食文化を伝えるべき給食や課外活動・修学旅行費用を高校まで無償で提供すればよい。何故なら、子に対する現物給付は確実に子に届くからである。また、岸田首相が最初に言われた「家族関係支出をGDP比2%から倍増」を、*5-1-2のように、木原官房副長官が微修正して「へんてこな倍増論」と批判されたり、*5-1-3のように、松野官房長官が衆院予算委員会で「どこをベースとして将来的に倍増していくかはまだ整理中」と言われたりしているが、*5-1-4のように、2020年度は子ども関係予算が10.7兆円でGDP比約2%だったから約4%にするなどという「金額ありき」ではなく、子ども1人当たりの現物による保育費・教育費給付を上記のように充実させ、余りがあれば家計への補助を増やせばよいだろう。
 なお、*5-2-4は、3世代同居や近居を増やして祖父母の子育て参加を促しているが、これは50~60年前なら機能した制度だが、次第に機能しなくなる。何故なら、現在の祖父母は、祖母も働く女性で、母になる娘や嫁より社会的地位が高くて報酬も多いからで、このやり方は専業主婦の女性や高齢者の無償労働を当てにした制度と言うほかないからだ。そのため、同居や近居での無償労働を当てにするのであれば、無償労働した人を含めて働いた人全員で有償労働で得た世帯所得を割って累進税率を求め、それを足し合わせて税額を決める*5-2-1の「N分N乗方式」が最も公平・公正ということになるのだ。
 従って、*5-1-1の①②については、50~60年前から予測されていた当然のことにすぎず、③の必要以上に出生数が減少したことに対する処方箋は上記であり、④の日本経済の成長力を左右するのは、人口動態よりも科学技術を軽視したり、それによるイノベーションを忌避したりする“文化”であるため、教育によって修正すべきだ。また、⑤⑥の年金・医療・介護等の約130兆円の給付財源中、現役拠出分は保険料は全体の半分以上を占める事態となったのは、発生主義で積み立てておかなかったツケにすぎないため、高齢者1人あたりの社会保障も必要十分に準備すべきで、それは可能なのである。
 なお、一時的に生産年齢人口や優秀な人が不足することについては、教育の悪い(or教育しがいのない)日本人を増やすよりも、*5-3の入管難民法を、ハングリー精神のある外国人労働者や難民を積極的に受け入れる方向で改正して、同時に国際貢献・国際平和に繋げたり、多様性によって日本国内のイノベーションを誘発したりすべきである。


2023.2.23日経新聞  2023.2.3日経新聞      2022.12.9第一生命

(図の説明:左図のように、親の公立学校教育への不信感から私立小中の受験が多くなり、親の教育費負担が大きくなっていると同時に、親の経済力による子の教育格差も生まれている。また、中央の図のように、理想の数の子を持てない理由には不動産価格高騰による住宅の狭さも上がっている。そのため、右図のように、20代・30代で児童のいる世帯の割合は次第に年収の高い層にシフトしている。従って、過度な少子化の根本的対策は、①公立学校教育の質の充実 ②都市集中ではなく地方分散 ③物価上昇政策ではなく物価安定 ④保育サービスの質と量の充実 ⑤親世代の確実な収入 などであろう)

*5-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA275NS0X20C23A2000000/?n_cid=BMSR3P001_202302281429 (日経新聞 2023年2月28日) 22年の出生数79.9万人 3年で10万人減、人口減も加速、出生率・少子化
 厚生労働省は28日、2022年の出生数(速報値)が前年比5.1%減の79万9728人だったと発表した。80万人割れは比較可能な1899年以降で初めて。国の推計より11年早い。出産期にあたる世代の減少に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で結婚や出産をためらう人が増えた。給付や保育の向上で若い世代の経済不安を和らげ、出産に前向きになれる社会に変える必要がある。出生数は7年連続で過去最少を更新した。22年の出生数は19年の89.9万人より10万人少ない。出生数が最も多かった1949年の269.6万人に比べると、22年は3割に満たない。急速な出生減の主因はコロナ禍での結婚の減少だ。19年に60万組を超えていた婚姻数が22年は51万9823組にとどまった。日本では結婚から出生までの平均期間が2年数カ月とされる。ここ数年の結婚減の影響が22年の出生減に色濃く出た。コロナによる行動制限は和らいだものの、出生数が反転する兆しは見えない。22年の出生数を月ごとに見ると12月は前年同月に比べて6.8%減った。減少率は4カ月続けて拡大している。年間の減少率も22年は5.1%で、21年の3.4%減より大きい。人口の動きは日本経済の成長力や社会保障の持続性を左右する。国立社会保障・人口問題研究所が17年に公表した最新の推計では、基本的なシナリオとされる出生中位の場合に出生数が80万人を下回るのは33年だった。実際には11年も前倒しとなった。低位では21年に77万人となって80万人を割る想定で、現状は最も悪いシナリオに近い。人口減も加速している。死亡数は8.9%増の158万2033人で過去最多を更新した。新型コロナによる死亡が影響した可能性がある。出生から死亡を引いた自然減も78万2305人と過去最大だ。減少幅は21年より17万人ほど広がった。今回の速報値は外国人による出産や死亡などを含む。日本人のみの出生数や合計特殊出生率は6月に公表予定だ。減少ペースをもとに、加藤勝信厚労相は2月に「77万人前後になるのではないか」との見方を示した。日本の社会保障制度は持続可能性を問われる。高齢者自身の負担に加えて、現役世代が果たす役割が大きいためだ。年金や医療、介護など約130兆円の給付費の財源のうち、現役が多くを拠出する保険料は全体の半分以上を占める。出生が減れば、高齢者を支える将来世代が減る。保険料の引き上げなど一段の負担増が避けられなくなる。岸田文雄首相は政権の最重要課題として次元の異なる少子化対策を掲げ、3月末をメドに具体策をまとめる。

*5-1-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1667944.html (琉球新報 2023年2月24日) 「へんてこ倍増論」と批判続出 木原副長官の子ども予算発言
 岸田政権が掲げる子ども予算倍増を巡り「出生率がV字回復すれば実現される」との木原誠二官房副長官の発言に反発が相次ぐ。出生率回復という「目的」と、実現するための予算倍増という「手段」の順序が逆転した考え方に対し、野党は「へんてこな倍増論。見識がない」(立憲民主党の泉健太代表)と批判した。与党からも疑問視する声が上がった。木原氏の発言が出たのは21日のBS日テレ番組。予算倍増の期限は区切っていないと強調し「子どもが増えれば、それに応じて予算は増える。出生率がV字回復すれば、割と早いタイミングで倍増が実現される。(少子化対策で子どもが増える)効果がなければ、倍増と言ってもいつまでたってもできない」と述べた。泉氏は24日の記者会見で「子どもが増えれば、いずれは倍増になるというへんてこな倍増論。恐ろしく見識のない発言で、官邸の中の子育て予算倍増の中身がないことの表れだ」と指摘した。自民党の三原じゅん子氏はツイッターで「え?『予算倍増』ってそういう意味で使ってたの?」と疑問を呈した。

*5-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1719H0X10C23A2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023.2.17) 子ども予算倍増、松野官房長官「基準まだ整理中」
 松野博一官房長官は17日の衆院予算委員会で、子ども予算に関する政府内の答弁について発言した。岸田文雄首相は家族関係支出を国内総生産(GDP)比2%から倍増すると答弁した。松野氏はこの点に触れ「どこをベースとして将来的に倍増していくかはまだ整理中だ」と述べた。首相は15日に「家族関係社会支出は2020年度でGDP比2%を実現した。それをさらに倍増しようと申し上げている」と話した。松野氏は16日に「将来的な倍増を考えるベースとしてGDP比に言及したわけではない」と首相発言を事実上修正した。野党は反発を強めている。立憲民主党の梅谷守氏は17日の予算委で松野氏の見解をただした。「異次元の少子化対策と銘打って臨んだ国会なのにこれではよくわからない」などと指摘した。共産党の田村智子政策委員長は同日の記者会見で「無責任が過ぎる。首相にビジョンがないからだ」と訴えた。

*5-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230228&ng=DGKKZO68812670X20C23A2PD0000 (日経新聞 2023.2.28) 首相、子育て予算「数字ありきでない」 倍増の基準明示せず 立民「説明が不十分」
 岸田文雄首相は27日の衆院予算委員会で政府が掲げる子ども予算倍増のベースとなる基準について重ねて明示を避けた。「中身を決めずして最初から国内総生産(GDP)比いくらだとか今の予算との比較でとか、数字ありきではない」と語った。政策を整理した上で6月にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で大枠を示すと主張した。首相は15日の予算委で家族関係社会支出が2020年度に「GDP比2%を実現している」と紹介した。続けて「それをさらに倍増しようではないかと申し上げている」と答弁した。家族関係社会支出は経済協力開発機構(OECD)の基準で計上され、児童手当や保育サービスなどへの支出を示す。20年度は10.7兆円でGDP比は2.01%だった。首相発言を巡り、同支出をGDP比で倍増する意向だとの見方も多かった。政府はその後、倍増の基準を巡り「まだ整理中」と説明し、首相発言を軌道修正した。首相も22日の予算委で「政策の内容を具体化した上で必要な財源を考える。中身はまだ整理している段階だ」と発言した。首相は27日の予算委で「ベースになる政策をまず精査する」と言明した。「そしてその政策の予算を倍増しようと言ってるわけだから、政策を整理せずして数字をまず挙げろというのは無理な話だ」と強調した。立憲民主党の山岸一生氏は「説明が不十分だ。首相の腰が定まっていないから混乱をもたらしているのではないか」と批判した。首相は「今年の初めから一貫して大きな方向性を説明しており適切だ」と反論した。国立社会保障・人口問題研究所によると、2018年度の家族関係社会支出のGDP比は日本が1.63%だった。少子化対策が進んでいるとされるスウェーデン(3.46%)やフランス(2.81%)を大幅に下回った。政府が掲げる子ども予算倍増を巡り、野党は出生率が上がれば早期に倍増が実現されるとした木原誠二官房副長官の発言も追及した。木原氏は「子どもが増えれば予算は倍増する、というようなことは申し上げていない」と否定した。「社会保障予算の特性として、子どもが増えればそれに応じて予算が増える面もあると紹介した」と指摘した。出生率の上昇傾向がどうなるかによって「倍増が実現するタイミングが変わりうる」という趣旨だったと訴えた。首相も「発言全体としてはこれまでの政府の説明と齟齬(そご)があると考えていない」と話した。木原氏は21日に出演したBS日テレ番組で子ども予算を巡り「出生率がV字回復すれば割と早いタイミングで倍増が実現される」と発言していた。

*5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15557859.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2023年2月17日) 子育て支援 効果と要望、見極めて
 子育て支援をめぐり与野党から様々な提案が出ている。活発な論戦は歓迎だが、耳目を集めやすい標語を競うだけなら空回りになる。岸田首相の「予算倍増」も答弁が1日で修正されるなどあやふやだ。政策の目的と予想される効果を整理し、子育て世代の要望を確認しながら、議論を深める必要がある。与野党が取り上げている論点の一つが、児童手当の所得制限だ。旧民主党政権時代の「子ども手当」は所得を問わず支給されたが、自民党がばらまきだと批判し、制限を復活させた。その自民党が一転、撤廃で野党と足並みをそろえた。「N分N乗」と呼ばれる仕組みも話題になっている。子どもも含めた世帯人数をもとに所得を割り算して税率を決める方法だ。所得が多くても扶養家族が多いと税金が安くなる。いずれも子育て世帯の経済的な負担を軽くする手法ではある。ただ、その効果や限界にも、きちんと目を向けなければならない。児童手当の所得制限の対象は全体の約1割で、撤廃の影響は限られる。一方で、支給対象をいまの「中学生まで」から「18歳まで」に広げるのか、子どもの多い世帯の手当を手厚くするのかといった論点もある。拡大の範囲によって、必要になる財源も膨らむ。どういう時間軸で、何をどこまで進めるのか。議論の本丸はむしろそちらであることを忘れてもらっては困る。N分N乗方式は、所得が高いほど減税効果が大きい。半面、納税者の6割を占める中低所得者には利点が全くない。専業主婦世帯に有利で、「女性活躍」の流れにも合わない。こうした議論がにわかに活発になったのは、首相が年頭に「児童手当を中心とする経済的支援」の強化を前面に掲げたためだ。4月の統一地方選も、各党が現金給付や減税といった「支援」を競い合う状況に拍車をかけているだろう。だがそもそも、経済的負担の軽減は、収入が不安定で結婚や出産をためらう若者への支援が必要という問題意識が出発点のはずだ。本来の目的に照らして何が効果的な政策なのか。原点に立ち返って考えるべきだ。新しい提案の陰で、喫緊の施策が後回しにされるようなことも、あってはならない。政府の有識者会議は昨年末、育休制度の外にいる非正規雇用の働き手やフリーランスの人たちへの支援強化などの検討を急ぐよう求めている。保育の現場では、人手不足が深刻な保育士の待遇改善、職員の配置基準の見直しを求める声も強い。早急な具体化が必要だ。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230221&ng=DGKKZO68636920R20C23A2MM8000 (日経新聞 2023.2.21) 育児支援、多様な働き方とズレ 出産を機に退職→再就職なら 総額、育休取得者の1割
 働き方の多様化に育児支援が追いついていない。民間の調査では、出産を機に退職して再就職するといった場合、企業などの育児休業(総合2面きょうのことば)を利用する人と比べて支援総額が10分の1程度になるとの試算がある。学び直しによる転職などで労働市場を流動化しつつ、出生率を高めていくためには新たなニーズに対応した支援が急務になっている。政府は20日、こども政策の強化に関する関係府省会議を開いた。保育サービスの強化を巡り有識者から意見を聞いた。岸田文雄首相は会議で「次元が異なる子ども・子育て政策を進め、日本の少子化トレンドを何とか反転させたい」と述べた。大和総研の調査では、育休を取得して子どもが2歳になるまでに復帰した人への育児支援は601万~929万円程度あった。育児休業給付のほか、保育所に預けられる価値などを現金換算して試算した。退社した人や、もともと専業主婦だった人が、子どもが3歳になるまで在宅で育児する場合は69万円にとどまる。
●家計難で子1人
 出産に関する人生設計の希望を女性に聞いたところ、育休を使って企業に勤め続ける人が46%、一度退社して育児を経て再就職する人が35%、専業主婦が19%だった。01年度時点では正社員の女性は「仕事か子どもか」を迫られ、出産しづらい状況がみられた。10年ごろからは社会保険に加入する正社員らの粗出生率は上がり、専業主婦らの被扶養者は下がった。これまでの政府の少子化対策が、仕事を辞めずに育児休業をとる人らの支援が中心だったことが背景にある。保育所の拡充などで待機児童は直近のピークだった17年の2万6081人から22年には2944人に減った。出産を機に退社したものの育児を経て転職する人などの支援の拡充は遅れ気味だ。経済的な理由から子どもを1人にとどめる家庭もある。半数超を占める退社・専業主婦の育児希望者への支援は、労働力の増加や出生率の向上のカギを握る。例えば一度退社して再就職する際に学び直しで新たなスキルを身に付けて成長産業に移るケースなどもある。働いてなくても保育所を使いやすくすれば、学校などにも通いやすくなる。
●「小1の壁」課題
 小学校入学を機に子どもの預け先に困り、仕事との両立が難しくなる「小1の壁」の課題も指摘されている。自治体やNPO、民間企業が運営する学童保育(放課後児童クラブ)は開いている時間が短く、親の帰宅が間に合わない場合があるためだ。学童に入所を希望しながらも入れない「待機学童」は22年5月時点で1万5180人に上った。政府や自治体は、学童の職員になるために必要な指導員資格の取得を広く呼びかけ、担い手の増加をめざしている。政府は児童手当の拡充や子育て世代の働き方改革も含め、3月末をメドに具体策をまとめる。児童手当の拡充といったこれまでの取り組みの延長だけではなく、女性の働き手の拡大や転職の増加といった足元の働き方の変化にも着目し、支援の網の目から漏れない効果的な対策が求められる。

*5-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230223&ng=DGKKZO68711150S3A220C2PD0000 (日経新聞 2023.2.23) グローバル教育政策を読む 各国に学ぶ(下)日本、高まる公立不信 インター校活用、なお途上
 大都市部を中心に風物詩となった1~2月の中学受験。試験日が集中する2月1日には各地の私立中などで小学6年生が試験問題と格闘する。受験の情報を提供する首都圏模試センターの推定によると、2022年の首都圏の私立中と国立中の受験者数は5万1100人だった。年々増加しており小学6年生に占める受験者数の割合は17.3%にのぼった。公立学校の教育に不信感を持つ親が私立の小中などの受験に向かう。同様の考えを持ち経済的に余裕がある家庭は子どもに将来国際社会で活躍するキャリアの選択肢を与える。そのためインターナショナルスクール(インター校)への入学も視野に入れる。岩手県八幡平市の安比高原に英国の私立校「ハロウスクール」のインター校「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」が22年に設立された。ハロウスクールは北京やバンコクにも拠点を置く。全寮制で11~18歳に英国式教育を提供する。英国式のインター校を世界で展開するマルバーン・カレッジは23年9月、東京都小平市に「マルバーン・カレッジ東京」を開校する。世界共通の大学入学資格につながる教育プログラム「国際バカロレア(IB)」を導入する。インター校は日本で働く外国の人材が子どもを通わせる例が多い。金融庁の21年の委託調査によると、海外から来た駐在員に尋ねた「養育環境」は日本は40カ国・地域のうち30位にとどまる。1位はシンガポールで中国は19位に位置する。調査は政府や地方自治体による助成の不足、教員確保への支援の必要性を指摘する。日本人の子どもも通学できるインター校はあるが「日本人は日本の学校に行くべきだという社会通念」が根底にあると強調する。インター校以外にも国際教育を導入する学校は増加する。グローバル人材の育成を目指すIB校は22年末時点で日本国内に191校ある。文部科学省はIBを推奨するが、専門の教員の養成や施設整備にかかる資金不足など課題も多い。日本のインター校は授業を主に英語でする。児童・生徒は外国人主体で、法令上の規定はない。学校教育法上の「1条校」のインター校もあるが、多くは法律上の「各種学校」か無認可だ。日本国籍を持つ子どもが1条校以外に通った場合、その保護者は就学義務を履行したことにならない。地域によっては高校などに進学する場合、中学校卒業程度の学力を認定する試験を受けなければいけない。文科省によると1条校に分類しないインター校は現在国内に80校ほどある。高校などの卒業資格が得られ補助金も出る1条校が軸の日本の教育制度でインター校を奨励するのには限界がある。「文科省は1条校でないとだめだという考え方に固執せずに、ウィングを広げることが必要な時代になってきた」(中川正春元文科相)という議論は国会に一部ある。既存の1条校との関係もあり、政府や各党で問題意識は広がっていない。

*5-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA03D3B0T00C23A2000000/ (日経新聞 2023.2.11) 少子化に映る家族のかたち 子育て分担、もう一つの柱
「みなさんの地域は子育てを理解してくださっている雰囲気があるのだと思う」。岸田文雄首相は4日、福井県坂井市で開いた子育て当事者との対話で語りかけた。福井県は仕事と出産・育児の両立が進んでいると指摘される。2020年の国勢調査で就業者と求職者の割合を示す労働力率をみると、20〜60歳代の女性は全国47都道府県で最も高い。合計特殊出生率も21年は1.57で、全国の1.30を上回った。背景として住宅事情などとともに「親の力」を借りやすい環境が考えられる。20年の国勢調査で施設などを除いた全世帯に占める3世代世帯の比率は11.5%だった。山形県に次ぐ全国2位の高水準だ。全国でみても、3世代世帯の割合が大きい県は女性の労働力率が高い傾向がうかがえる。首都圏や関西圏の大都市部は様相が異なる。3世代世帯の比率は東京都が1.3%と最も低い。大阪府と神奈川県は2%台、京都府や兵庫、埼玉、千葉の各県は3%台だ。20〜60歳代女性の労働力率に目を転じると埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫は47都道府県で40位以下になる。大都市部は合計特殊出生率の低さも目立つ。21年の東京は1.08で全国最低だった。千葉は1.21、埼玉、神奈川、京都は1.22と全国を下回る。若い世代が多いこれらの都府県で仕事と出産・育児の両立が難しい状況が浮かぶ。3世代世帯の割合は全国的に縮小が続く。2000年の10.1%から20年は4.2%まで落ち込んだ。政府や多くの地方自治体は3世代の同居や近くに住む「近居」を後押ししてきた。祖父母の子育て参加を促し、独居高齢者を減らす視点で住宅の増改築に補助金を用意した。それでも3世代世帯の減少の流れは変わらない。進学や就職、転勤などを機に地元を離れた人にとって近隣に頼れる身内がいないことは珍しくない。特に人口移動の規模が大きい大都市部などは親族らと離れて暮らす人も増えがちだ。出身地に家族がいて、働く場所にも恵まれれば移住する選択肢もあるだろう。現実はそれぞれ仕事や家族の事情で容易でない場合も多く、そもそも頼れる両親らがいるとも限らない。親との同居や近居を子育ての前提にするのには限界がある。子育てを巡っては家族内の負担の偏在もある。経済協力開発機構(OECD)の20年の国際比較で日本は女性の子育てや家事などの「無償労働」の時間が男性の5.5倍だった。米国や英国、ドイツなどで2倍未満なのと比べ偏りが大きい。日本は特に男性で勤務先などでの有償労働が長く、無償労働が短い特徴がある。夫が育児を担えず、ほかに子どもを預けられる人や場所が見つからなければ妻が抱えこむ「ワンオペ育児」に直結する。通常国会は子育てが論戦の主要テーマに浮上した。論点に挙がる児童手当、保育・教育の無償化の拡充は経済的な負担を社会全体で分かち合う発想といえる。費用の面で出産・育児を諦めない環境をつくるのは少子化対策の柱だ。同時に子育ては子どもの命を守り、発達を支える人の力が必要になる。首相は8日の衆院予算委員会で「社会全体で応援していく雰囲気をつくることが重要だ」と答弁した。親や妻の力を頼みにしては広く支えることにはならない。政府の少子化対策は大都市部も含めてワンオペにならないよう分担できる環境を整える視点が欠かせない。

*5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/994871 (佐賀新聞論説 2023/2/24) 入管難民法改正案 抜本改革につなげたい
 政府は、2021年に廃案となった入管難民法改正案を今国会に再提出する方針を固めた。難民認定申請中は不法滞在したり、事件を起こしたりして在留資格のない外国人を本国に強制送還する手続きを停止するという現行の規定を見直し、申請による送還停止を原則2回までに制限する。3回目以降は、相当の理由がない限り認めない。送還逃れに制度が乱用され、収容の長期化につながっているためとしている。一方で、逃亡の恐れなどがなければ原則として入管施設に収容せず、収容中も3カ月ごとに継続の可否を見極めるなど、2年前に当初案を巡る与野党の修正協議でいったん大筋合意した内容の一部を取り入れた。とはいえ、強制送還を妨害した場合の罰則を懲役1年から6月に引き下げたり、上限が定められていない入管施設への収容期間を6カ月以内としたりする合意内容は、今回の改正案に反映されなかったという。修正協議は最終的に決裂したが、協議前の当初案とほとんど変わらない中身に、野党や外国人支援団体などは反発を強めている。近年、入管行政を巡っては内外で、収容中の人権問題や受け入れより送還を重んじる対応に批判が噴出。本来は難民として保護されるべき外国人が保護されていないのではないかという懸念も拭えない。抜本的な改革につなげるため、活発な国会論戦が求められる。出入国在留管理庁によると、外国人の非正規滞在者は22年7月時点で約5万8千人。摘発されて強制退去処分を受けるなどすると、大半は自主的に帰国するが、一部は退去を拒否。21年12月末時点で3224人に上り、半数の1629人が難民認定申請中だった。本国に帰ると、人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害される恐れがあるとの主張が認められれば、難民として保護される。ただ日本の難民認定率は1%に満たず、諸外国に比べて桁違いに低い。繰り返し申請を退けられ、裁判で争った末に認定された人もいる。誤って送還すれば、生命にも関わる。21年4月、国際的な難民保護を進める国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は当時の当初案でも柱だった送還停止の回数制限について「難民条約で送還が禁止される国への送還の可能性を高め、望ましくない」と指摘した。また、その前月、名古屋出入国在留管理局で収容中のスリランカ人女性が死亡。5カ月後に調査報告書がまとまり、当時の法相は記者会見で「送還することに過度にとらわれるあまり、収容施設として人を扱っているという意識がおろそかになっていた」と述べた。そうした批判や反省を踏まえてもなお強制送還の徹底にこだわり、当初案の骨組みを維持して改正案を再提出しようとしていることに疑問を禁じ得ない。それ以前に取り組むべき課題は多い。専門家からは▽難民認定を担当する独立行政機関を創設し、法務省・入管庁から業務を移管▽難民申請者の事情聴取に弁護士を立ち会わせる▽身柄を拘束する収容について裁判所がチェック―などが提案されている。いずれも、出入国の管理や支援・保護を安定させるためには欠かせないだろう。まず、これらを丁寧に議論し、手続きの透明性・公正さと人権尊重を担保する仕組みを整えることを考えたい。

<リーダーに女性が少ないことのディメリット(1)
  ← 生命を護るための食料安全保障・環境・生態系・エネルギー安全保障・財政の軽視>
PS(2023年3月6、20日追加):*6-1-1は、①港湾で藻場を整備してCO2を吸収する「海洋植物の森」 が国交省の後押しで全国に広がっている ②国内大手企業が地元関係者と連携して藻場の整備を進めている ③アマモ・昆布・ワカメなどの海洋植物は、光合成により海水に溶け込んだCO2を吸収するので温暖化抑制効果が世界的に注目を集め、日本も脱炭素への有力手段に位置づける ④日本製鉄は全国6カ所で漁協はじめ地元関係者と組んで藻場の整備に乗り出し、海藻の生育に役立つ鉄鋼スラグ加工資材(施肥材)を提供 ⑤ENEOSホールディングスはウニの食害で減少した藻場の回復に取り組んでいる ⑥世界の浅い海域でのCO2吸収量は年40億トンに達するとの試算があり、陸域吸収量年73億トンの半分ほどで、日本の沿岸では年約130万~400万トンの吸収量が期待できる ⑦2030年には森林などのCO2吸収量の2割ほどになるという研究もある ⑧国交省は環境省などと連携してブルーカーボン事業の拡大を後押しし、護岸など港湾設備の設計基準を海洋生態系と共生できるようにする見直しを進める 等と記載している。
 まず、昆布・ワカメ・ウニは日本で自給できる優れた食材なのだが、⑤のように、「食害がある」という理由でウニは邪魔者扱いされることが多い。しかし、自然界で増えすぎたウニでも、採取して野菜くずに海藻を混ぜたものなどを餌にすれば蓄養することができ、蓄養場所はウニが生息していた海域でもよいし、*6-1-2のような陸上でもよい。また、ウニのフンを利用した農業用肥料もでき、循環型農業・水産業のモデルにもなりそうだ。また、①③⑧は事実だと思うが、海洋国家の日本にしては気づくのが遅すぎた上、海藻は速いスピードで三次元に成長するため、⑥⑦は海の広さと海藻を過小評価していると思う。何故なら、日光のあたる浅い海でなくても、海洋風力発電機に藻場を敷設すれば海藻が育つと同時に魚介類も増えるからである。そのため、②④のような一般企業が、自社の副産物や人材を使って食料や環境の分野に進出するのは大変良いと思う。
 一方、富山県では、*6-1-3のように、「マイワシが大漁で網を独占し、ホタルイカの水揚げがほぼ0になった」そうだが、九州出身の私は「ホタルイカのような小さなものより、マイワシの方が栄養豊富で美味しいし、大漁なら魚粉にして*6-2-1のような養殖魚や鶏の餌にもできるのに」と思う。また、*6-2-2には、魚粉が過去最高値で養殖業に打撃を与えていると記載されているが、それこそ食物残差・野菜くず・昆虫・海藻・ミドリムシなどで混合飼料を作ればよいと思われる。さらに、*6-2-3のように、日鉄エンジニアリングが、2023年度からAI・水中カメラ・自動給餌のシステムを総合的に提供し、沖合養殖を自動化して、エサやり作業時間1/4分以下、海上での労力ほぼ0 にするそうだが、国産の安価な飼料と餌やりの自動化ができれば、安価に養殖でき、食料安全保障にも大いに寄与するだろう。
 なお、*6-3-1のように、日本の排他的経済水域やその周辺の公海に、国際社会で需要が高まっているレアアースを豊富に含む「レアアース泥」が大量に堆積していることが明らかになってから10年が経ち、日本が「資源のない国」から脱する可能性が高いにもかかわらず、いつまでも「日本は資源のない国、資源のない国」と念仏のように唱えてアクションを起こさない政府やメディアには愛想が尽きる。つまり、数百年分の量が海底に眠っているとされる海底レアアース泥を採掘していないわけだが、速やかに採掘してわが国が資源輸入国から資源輸出国に転じれば、エネルギー安全保障が満たされ、世界で存在感を増すことができると同時に、国が採掘料を課すことによって国の税外収入を増やせるのである。もちろん、*6-3-2のように、100カ国以上の参加で世界中の公海の生物多様性保全と持続的な生態系活用を目指す新たな国際協定が合意され、海の環境保護が重要なのは当然のことだが、だからこそ環境保護と「レアアース泥」の採掘を両立させる技術を早急に完成させて実行しなければならないのである。
 毎日新聞が、*6-4-1のように、⑨全国各地でウニが藻場を食い荒らして磯焼けを生じさせているが ⑩国産ウニは2022年には約2万4000円/kgと高騰しているため ⑪神奈川県水産技術センターがムラサキウニを採取して春キャベツを3カ月間食べさせたところ、身が増えた上に味が向上し ⑫2020年に「キャベツウニ」と商標登録した ⑬鳥取県は白ネギ・20世紀ナシを与えたが駄目で、ブロッコリーは身の入りも良くなっているようだった ⑭愛媛県愛南町はガンガゼにブロッコリーを与え、販売を始めたが売上目標は高くない 等と記載していた。
 しかし、*6-4-2のように、宮城水産高が宮城県漁協寄磯前網支所の協力で石巻市前網浜沖で5月下旬に採取したキタムラサキウニ200個を同校の栽培漁業実習場の畜養プールに移し、キャベツ・白菜・ホヤ・昆布の4種類の餌を50個ずつのウニに与えて約2カ月育てたところ、どの餌で育てた場合も成長はよく、味はキャベツが最も甘みが強くて白菜は野菜の風味をやや強く感じ、ホヤは独特の苦みが強くなり、昆布はウニの味を良くしてうま味が強まったそうで、指導した鈴木主幹教諭は「餌の組み合わせを工夫したり、農業高校と協力して廃棄に回さざるを得ない野菜を活用したりして、SDGsも意識した実験、取り組みを模索したい」という方向性を示されたそうだ。私も組み合わせが大切だと思うが、わざわざネギやナシなど野生のウニが食べないものを与えなくても、野生のウニはアマモ(イネに似た細長い葉をもつイネ科と同じ単子葉類の草本)も食べているため、イネのひこばえは安価でウニに好まれる餌になると思う。

*6-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230221&ng=DGKKZO68633210Q3A220C2EP0000 (日経新聞 2023.2.21) 港湾でCO2吸収 「海洋植物の森」 広がる藻場整備、国交省後押し
 海藻などの海洋植物を育て、二酸化炭素(CO2)を吸収させる「ブルーカーボン」事業が全国の港湾に広がりつつある。国内の大手企業が地元関係者と連携し、藻場の整備を進めている。温暖化抑制の効果は世界的に注目を集め、日本も脱炭素への有力な手段に位置づける。国土交通省は全国の港湾で調査に乗り出し、普及につながる制度を検討する。日本製鉄は2022年秋に北海道増毛町や三重県志摩市など全国6カ所で、漁業協同組合をはじめとした地元関係者と組んで藻場の整備に乗り出した。藻場には鉄鋼を製造する際に副産物として出る鉄鋼スラグを加工した資材(施肥材)を提供する。スラグには海藻の生育に役立つ成分が含まれている。日鉄はこれまで全国約40カ所で同様の取り組みを実施してきた。18年からの5年間で海藻が吸収した49.5トン分のCO2はカーボンクレジット(削減量)として認められた。国交省も「大手企業の先進的な事例」として評価する。ENEOSホールディングスも大分、山口両県でウニの食害で減少していた藻場の回復に取り組んでいる。Jパワーや住友商事、商船三井など幅広い業種の大手がブルーカーボンに関連したプロジェクトに参画している。アマモや昆布、ワカメといった海洋植物は光合成により、海水に溶け込んだCO2を吸収する。国連環境計画(UNEP)は09年の報告書で、ブルーカーボン生態系を温暖化対策の有力な選択肢として示した。世界の浅い海域でのCO2吸収量は年40億トンに達するとの試算もある。陸域の吸収量である年73億トンの半分ほどだ。日本の沿岸で年約130万~400万トンの吸収量を期待できるといい、30年には森林などのCO2吸収量の2割ほどになるといった研究もある。港湾を所管する国交省は環境省などと連携し、ブルーカーボン事業の拡大を後押しする。23年度末をめざし、全国に約1000カ所ある港のすべてで、藻場の整備に向けた実地調査やCO2の吸収効果の検証などに取り組む。ブルーカーボン事業に取り組んだり、関心をもっていたりする企業や漁協、地方自治体、NPO法人などをつなぎ、先行事例のノウハウを伝える。新たなプロジェクトの立ち上げを支援する仕組みも検討する。護岸など港湾設備の設計基準について、海洋生態系と共生できるようにする見直しも進める。一部の企業が導入しているカーボンクレジット認証の普及拡大も狙う。政府は50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする方針をかかげる。四方を海に囲まれた日本で港湾の脱炭素は重要なテーマとなる。

*6-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC159CY0V10C23A2000000/ (日経新聞 2023年2月21日) 埼玉発、海なし県で育つウニ 年内出荷へ始動
 埼玉県でウニを陸上養殖するプロジェクトが県内の温浴施設で本格的に始まった。養殖技術を持つ一関工業高等専門学校(岩手県一関市)が全面協力し、2023年内の出荷開始を目指している。コスト削減やウニの調達方法など課題は少なくないが、実現できれば「海なし県」の埼玉で、海産物が新たな特産品となる可能性を秘める。「陸上養殖の先駆けになるよう頑張りたい」。22年12月中旬、埼玉県久喜市内で開かれたウニ養殖プロジェクトの発表会。久喜市で温浴施設「森のせせらぎ なごみ」を運営する山竹(同市)の山中大吾専務は抱負を語った。新型コロナウイルス禍で本業の温浴施設の利用客が大幅に減少。厳しい経営状況が続く中、起死回生の新規事業の一つとして21年から取り組み始めたのがウニの陸上養殖だ。海に接していない埼玉県にはウニの養殖技術を持つ人はいない。そこでウニ養殖の研究で知られる一関高専の渡辺崇准教授を頼った。山中専務が渡辺氏に相談し、技術面での全面協力を取り付けた。今回の計画では海水を循環させる「閉鎖循環式」の陸上養殖システムを採用する。水質をオゾンで浄化するのが特徴で、人工知能(AI)カメラを使った自動餌やり機や、温浴施設の温水と地下冷水を使った水温管理システムの導入、再生可能エネルギーの活用など、最新のシステムを構築。5月をメドに養殖用水槽を試運転する考えだ。オゾンによる浄化は水中に毒性がある物質が残る欠点があり、これまでほとんど普及していなかった。一関高専が今回の計画にあたり、有害物質を問題のない水準に低減する技術を確立し、特許出願した。今後は運用コストの低減が課題になる。ウニを仕入れる業者の確保にもメドが立った。青森県の沿岸部にウニを畜養する拠点を設けることを目指し、継続的に調達できるように調整を進めている。本格出荷に向けてまずは6千個のウニを育てる計画だ。養殖ウニの出荷が軌道に乗れば、温浴施設や久喜市にもメリットがある。久喜市にはJR宇都宮線と東武伊勢崎線が乗り入れる久喜駅があるが、市内には観光拠点が少ない。市は養殖ウニが人を呼び込むきっかけになると期待する。施設では成長が早い別の種類のウニの養殖、ヤマメなど魚の養殖も検討している。久喜市や周辺地域では、イチゴやナシ、野菜などの農業が盛んだ。ウニのフンにワカメの端材などを混ぜれば、農業用肥料に転用できる可能性もあるという。渡辺氏は「循環型の農業・水産業のモデルにしたい」と意気込む。水産庁によると、日本の水産業で養殖が占める割合は25%程度。過度な漁獲や漁業の人材不足が課題となるなか、世界の養殖の割合は50%を占める。埼玉県内では他にも、温浴施設などを運営する温泉道場(埼玉県ときがわ町)が同県神川町の温泉施設でサバの陸上養殖に取り組んでいる。埼玉から「海の幸」の名産品が生まれる時代は来るのか。プロジェクトの行方が注目される。

*6-1-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/bde096feb12ce74f0412c7ba683272971748b2fd (Yahoo、北國新聞 2023/2/20) ホタルイカ漁、マイワシが妨害? 大漁で網「独占」水揚げほぼゼロ 3月漁解禁、富山県射水・新湊
●滑川沖に影響懸念
 射水市の新湊沖で例年2月にホタルイカ漁の書き入れ時を迎える定置網漁の漁師らがマイワシの豊漁に頭を悩ませている。全国的に安値の続くマイワシが大漁となり、旬のはしりで高値の期待できるホタルイカの水揚げはほぼゼロに近い状態。燃料費高騰とのダブルパンチで出漁を見合わせる漁師も出てきた。漁業関係者の間では、3月1日の解禁を控え、滑川市沖の漁への影響を懸念する声も上がる。富山湾の春の風物詩である「ホタルイカ漁」は3月1日解禁の滑川市沖の知名度が高い。しかし、2月の漁獲量では昨年、新湊沖が2671キロと最も多く、1キロ1万円前後の浜値が付いたこともある。新湊沖では、漁港から10分程度で着く漁場に定置網を仕掛けており、本来なら2月に入るとホタルイカが多く掛かるようになるが、今月はマイワシの豊漁が続いている。新湊漁協によると、原因は判然としないものの、マイワシが豊漁になると、ホタルイカの漁獲量が減る傾向にある。両方が網に入ると、マイワシのうろこでホタルイカが傷ついたり、仕分け作業に時間を要したりするため、漁師の間でこの時季のマイワシは「厄介者」として扱われる。定置網漁に従事する新湊漁協理事の岩脇俊彦さん(42)は「今月上旬からマイワシが一気に増えた。尋常じゃないくらい入り、重さに耐えきれず網が破けてしまうのでないかと心配するほどだった」と話す。岩脇さんによると、乗船する漁船「恒久丸」の18日の漁獲量はマイワシ約12トンに対し、ホタルイカは10匹程度で、「この状態がしばらく続けば、呉東地区のホタルイカ漁にも影響するのではないか」と懸念した。マイワシの浜値は現在、1キロ当たり30~500円で推移しており、赤字を見越して出漁を見送る漁師もいる。刺し網漁の東海勝久さん(47)によると、この時季はウスメバル(ヤナギバチメ)やノドグロなどが取れるが、網目に多くのマイワシが絡まり、狙っている魚の掛かるスペースがほとんどない状態。東海さんは出漁するだけで高騰する燃料費や人件費などが必要になり、高値の付きにくいマイワシが掛かると大赤字になると説明し、「店頭に安く並んで喜ぶ人も多いと思うが、漁師にとっては死活問題だ」と声を落とした。
●多い日で200トン
 富山県水産研究所の瀬戸陽一副主幹研究員によると、多い日でマイワシの1日の漁獲量が200トン近くになっており、「まだ水温が上がる時季ではなく、しばらくマイワシ豊漁が続く可能性は大きい」と述べた。

*6-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230301&ng=DGKKZO68852220Y3A220C2TB1000 (日経新聞 2023.3.1) 漁獲高、ピーク時の1/3 食料安保、養殖拡大が課題
 水産庁によると、日本の2020年の漁獲量は423万トンで、ピーク時(1984年)の約3分の1に落ち込んだ。一方で世界の漁獲量は2億1400万トンで、同期間で約2.4倍に拡大した。日本では天然魚を獲る漁業が大幅に減り、適地が限られた沿岸を中心とする養殖業は100万トン前後で横ばいが続く。日本はブリ類やマダイなどを戦略的養殖品目に定めるが、この2種類の20年の生産量は30年の目標に対し、4割ほど足りない。世界の魚介の消費は増え、食料安全保障の懸念は高まっている。世界の漁獲量のけん引役は養殖業だ。ノルウェーではサーモンなどの大規模な沖合養殖が盛んで、水産システム大手のAKVAグループなどが遠隔管理の先端技術を提供。沿岸よりも沖合での養殖の方が海への影響は少なく、欧州が先行する。近年は陸上養殖の技術開発も進む。ただ陸上は生産を管理しやすい半面、水の交換や管理にコストがかかる。長崎大学の征矢野清教授は「欧州では完全養殖が主流だ。漁業は燃料価格の高騰、担い手の減少など課題が多い。地域や魚の種類に応じ、日本も沖合と陸上の両輪で養殖を拡大すべきだ」と指摘する。

*6-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/989838 (佐賀新聞 2023/2/13) 魚粉が過去最高値、養殖業に打撃、20年で3倍に、21県が支援へ
 世界的な養殖魚の需要拡大に円安が重なり、飼料となる魚粉は2022年、輸入価格が1トン当たり20万円を超えて過去最高を記録した。20年前の約3倍で、ブリやマダイなど国内の養殖業は経費の6~7割を餌代が占めており、経営に打撃となっている。宮城や愛媛、鹿児島など21県が13日までに共同通信の取材に対し、独自で餌代を支援すると明らかにした。財務省の貿易統計によると、日本は22年、ペルーのカタクチイワシなどを加工した魚粉(非食用)を15万9990トン輸入。1トン当たりの価格は20万8541円だった。ペルーでは22年、悪天候に、政治の混乱に伴う行政手続きの停滞も加わりイワシが不漁だった。半面、中国では養豚のえさにもなる魚粉の需要は旺盛で、ドルベースで見ても高値となった。政府は昨秋まとめた経済対策で魚粉の国産化推進を盛り込み、製造設備の導入を進める。世界的な争奪戦を受け、魚粉のもととなる国産イワシの引き合いは既に強い。主要産地である北海道釧路市の漁獲単価は22年、前年比で約4割も上がった。国と漁業者は輸入に頼る飼料原料の価格上昇に備えた資金を積み立てており、養殖業者には一部補填金が支払われる。21県は補正予算などを組み、追加で補助する。日本国内ではブリ稚魚が豊漁で、いけすに多く確保されているため、出荷量は今後伸びる見通しだ。ある漁協組合長は「魚の相場が下落して飼料代が高いままだと、廃業する漁業者も出てくる」と話す。世界の養殖生産量は20年に1億2千万トンを超え、この20年で約3倍に拡大。一方、魚粉のもととなるイワシは天然資源で漁獲量は限られ、価格上昇は続く見通しだ。魚粉の配合割合を抑えたり、魚粉の代わりに昆虫など別のタンパク質源を使ったりした飼料の開発が求められている。

*6-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230301&ng=DGKKZO68852170Y3A220C2TB1000 (日経新聞 2023.3.1) 沖合養殖自動化、日鉄エンジ実現、エサやりなど海上労力ほぼゼロ いけす、沿岸の50倍可能
 養殖業に適さなかった日本の沖合で、大規模な養殖システムの導入が進みそうだ。日鉄エンジニアリングは2023年度から、人工知能(AI)や水中カメラ、自動給餌のシステムを総合的に提供する。エサやりの作業時間が4分の1以下になり、海上での労力はほぼゼロになる。世界で魚の消費が伸びる一方、日本の漁獲量はピーク時の3分の1に落ちた。食料安全保障が懸念されるなか、養殖業の拡大につながる可能性がある。日本の水産業は天然魚をとる漁業が中心で、漁獲全体の8割近くを占める。約2割の養殖業の生産は横ばいだ。養殖に適した沿岸エリアの活用は飽和し、自動化も遅れがちで、担い手不足という3つの課題を抱える。陸上から離れた沖合は広いが、養殖での活用は「かなり少ない」(水産庁)。船でエサを運ぶ負担が重く、海が荒れる日には作業できず、収益性の低さが壁になってきた。
●作業時間1/4
 日鉄エンジは大規模な沖合養殖の自動化システムを開発し、23年度から水産会社などに提供する。ブリ類やマダイ、サケなどの養殖に対応し、主な特長は3つある。1つ目はAIを使った遠隔での生産管理で、岸から数キロメートル離れたいけすに水中カメラやセンサーなどを備える。魚の体重やエサの残量を可視化。AIが水温や潮流、日照などのデータも組み合わせて、最適な給餌の量やタイミングを分析する。2つ目は陸上からの配管を通じ、自動で沖合のいけすにエサを送る装置だ。従来は船でエサを運んでまき、重労働だった。悪天候が続くと、船を出せずに魚がやせる。回復のための追加の給餌コストが膨らんだり、魚の成長が遅くなったりする課題があった。自動給餌システムは荒天でも稼働し、養殖生産コストの6~7割を占めるエサ代の削減につなげる。また6基のいけすに1日12トンのエサを与える場合、作業時間が従来の船による方法の4分の1以下になる。時間の短縮だけでなく、危険を伴う海上作業がほぼゼロになり、作業は事務所でのモニタリングや端末操作といった机上に変わる。3つ目は大量生産の実現になる。新システムのいけすは最大5万立方メートルで、沿岸での一般的な養殖で使ういけすの18~50倍のサイズを用いる。日鉄エンジは海上の空港の滑走路などの海洋構造物のノウハウを活用。細かく砕いた石炭を送る製鉄所の装置の知見は自動給餌システムに、工場などの保守管理の実績は生産管理システムの運用に生かす。一部の装置は鳥取県や三重県、宮崎県などで導入を進めてきた。「年末年始もゆっくり休めました」。鳥取県境港市で、日鉄エンジの自動給餌装置を導入したニッスイグループの弓ケ浜水産の担当者はこう話す。沖合養殖で、17年に同装置の利用を開始。1つのいけすに対し、1回当たり1500キログラムのエサを船で運び入れてきた。サケを11月末~5月末に養殖で育てている。季節によって頻度は異なるが、1~2日に1度は給餌が必要だ。だが冬は強風による荒波で船の運航が難しく、エサを与えられない日も多い。日鉄エンジの自動給餌装置を導入した後は、パソコンやタブレットによる遠隔操作でエサをいけすに送る。自動給餌の施設は陸上ではなく、岸に近い海上に設けたが、それでも負担が大幅に減った。担当者は午前8時に出勤し、事務所で給餌の端末操作を終えた後、別の作業をこなせる。「エサを簡単に安定的に与えられることが最大のメリットだ」(弓ケ浜水産)という。
●天候影響少なく
 日鉄エンジが23年度から提供する新システムでは、自動給餌の施設を陸上に設置できるようにする。作業の手間をさらに減らし、天候に左右されにくくする。システムの導入費用は大型サイズで10億~15億円程度、メンテナンス費用は年間で1000万円程度を見込んでいる。30年に年間数十億~100億円の売上高を目指す。沖合養殖システムを巡っては産学で、開発や実用化を進める動きもある。長崎大学は21年12月、水処理機械の協和機電工業(長崎市)、船舶用電子機器の古野電気、十八親和銀行など約10社と沖合での養殖システムを開発する共同事業体を立ち上げた。AIなどの先端技術を活用し、商用化を目指している。漁網製造を手掛ける日東製網も、沖合に設置できる大型のいけすの製造を手がける。水産業の成長には養殖の大規模化や自動化、新たな海域の活用が欠かせない。日本の沖合で管理しやすい養殖システムが広がれば、国際競争力の向上につながる可能性もある。

*6-3-1:https://blog.canpan.info/sasakawa/archive/8609 (産経新聞 2023年2月27日) レアアースを外交力強化の柱に
 日本最東端の小笠原諸島・南鳥島近海にレアアース(希土類)を豊富に含む「レアアース泥」が大量に堆積していることが明らかになって10年。レアアースは電気自動車やスマートフォンなどさまざまなハイテク商品に使用され、国際社会の需要が一層高まる中、最大の生産国・中国が輸出管理を強める姿勢を見せている。
≪「資源貧国」から脱する可能性≫
 そんな中で採鉱事業が軌道に乗れば、わが国は“資源貧国”から脱し、戦後長く取り組みの弱さが指摘されてきた外交力を強化し、安全保障を強靱(きょうじん)化する道にもつながる。レアアース泥は南鳥島の排他的経済水域(EEZ)内だけでなく、その周辺の公海にも分布し、近接海域での海底調査など中国の活発な動きも伝えられている。政府には機を逸することなく、早期の実用化に向けた取り組みを一段と強化されるよう望みたい。レアアースは地球上にわずかしか存在しないレアメタルの一種。中国が圧倒的な生産国で、沖縄県・尖閣諸島沖で日本の巡視船と中国漁船の衝突事件が起きた平成22年当時は世界の生産量の97%を占めた。中国が漁船船長の即時釈放を強要して日本への輸出を事実上ストップし、日本経済が大混乱に陥ったのは記憶に新しい。その後、各国も対応を強化。米地質調査所(USGS)の推計によると、2018(平成30)年の世界の生産量は17万トン。中国が全体の約7割(12万トン)を占め、以下オーストラリアの2万トン、米国の1万5000トンが続いた。世界の推定埋蔵量は1億2000万トン。こちらもトップは中国で4400万トン、ブラジル、ベトナムが各2200万トンなどとなっている。日本はほぼ全量を輸入に頼り、うち6割を占める中国への依存をどう脱却するか、経済安全保障上も喫緊のテーマとなっている。中国との対立を深める米国も、USGSによる埋蔵量の推計が140万トンにとどまることもあって、バイデン米大統領は21年の就任直後、半導体など3品目と併せレアアースのサプライチェーンを強化する方針を打ち出している。
≪数百年分の量が海底に眠る≫
 そんな中、平成24年から翌年にかけ南鳥島の近海やEEZの約6000メートルの海底に、レアアースを豊富に含む「泥」が大量に堆積していることが東京大学や海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの調査で明らかになった。英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に発表された論文などによると、発見されたレアアース泥は中国の陸上レアアースに比べ、20~30倍の濃度を持ち、埋蔵量は日本のレアアースの年間使用量(約1.4万トン)の数百年分に上ると推計されている。JAMSTECによると6000メートルの深海から堆積物を大量に海上に引き上げる技術はこれまで世界になく、仮に成功してもコストをどう抑えるか難問もある。そんな中で昨年秋、JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」が茨城県沖の2470メートルの深海に「揚泥管」を伸ばし、1日70トンの泥の吸い上げに成功した。揚泥管の長さをさらに3000メートル余伸ばせば、南鳥島での採鉱が可能になる段階まで来ている。ただし、試掘が始まるのは来年とも5年以内とも報じられ、早期の実用化には一層積極的で迅速な対応が求められる。5月に日本が議長国を務める先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島で開催され、ウクライナ戦争や懸念されるロシアの核兵器使用への対策が主要テーマとなる。同時に温暖化に伴う海面上昇や酸性化、マイクロプラスチック汚染、漁業資源枯渇などの課題が山積する「海洋」もテーマになろう。サミットを主導する海洋国家日本の責任でもある。レアアースは直接のテーマになりにくいが、海洋の適正利用に関わる問題だ。
≪輸出国に転ずれば存在感増す≫
 政府は将来に高い可能性を持つレアアース泥の開発を、府省庁の壁を越えて科学技術のイノベーションを目指す国家プロジェクト(SIP)の一つに選定し、令和4年度の第2次補正予算にも関連予算60億円を盛り込んでいる。同時に昨年12月に閣議決定した新たな国家安全保障戦略で「総合的な国力の主な要素」として防衛力、経済力など5項目を挙げ、トップに外交力を据えている。安全保障の要である外交力を強化することで安全保障の強靱化を図る決意と理解する。レアアースの活用はそれを実現する格好のテーマであり、実用化が視野に入れば、企業の参入も進む。まずは試掘を一刻も早く実施すべきである。岸田文雄首相は衆参両院本会議での施政方針演説で「われわれは歴史の分岐点に立っている」と語った。レアアース泥の開発が進み、わが国が輸入国から輸出国に転ずれば、激動する国際社会の中で日本の存在感は確実に高まる。その可能性を信じて、日本財団としても可能な限り協力したいと考えている。(ささかわ ようへい)

*6-3-2:https://jp.reuters.com/article/global-environment-oceans-idJPL4N35E0OE (Reuters 2023年3月6日) 公海の生物多様性保護で新協定、国連で100カ国以上が協議
 世界中の公海における生物多様性の保全と持続的な生態系活用を目指す新たな国際協定が4日、ニューヨークの国連本部で開催された会合で合意された。新協定を巡る協議は国連主導の下で100カ国以上が参加し、足かけ15年間続いてきたが、5次にわたる会合を経てようやく決着した形。議長を務めたリナ・リー氏は「船がついに岸辺にたどり着いた」と述べた。昨年11月にカナダ・モントリオールで合意された「30by30(2030年までに世界の海の30%以上を保全する)」という取り決めにおいて、この協定は重要な部分を担うとみられる。欧州連合(EU)欧州委員会のシンケビチュウス委員(環境・海洋・漁業)は「この公海に関する国連条約の合意により、これからの世代にとって大事な海洋生物と生物多様性を守る取り組みに重要な前進がもたらされる」と評価した。現在公海上にはほとんど環境保護区が設けられておらず、環境汚染や酸性化、漁業資源乱獲などの脅威が高まっている。グリーンピース幹部は「各国はできるだけ速やかにこの協定を正式に採択、批准して実効性を持たせ、地球が必要としている海洋の全面的な保護区を設置しなければならない」と訴えた。グリーンピースによると、30by30達成には毎年、1100万平方キロの海洋を保護区にすることが不可欠だという。

*6-4-1:https://mainichi.jp/articles/20230316/k00/00m/040/087000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailyu&utm_content=20230320 (毎日新聞 2023/3/20) 食えぬなら食わせてみせよう キャベツ、ナシ…名産品で試行錯誤
 「たたき潰すなんてもったいない」「かわいそう。生き物を殺す様子を子どもに見せたくない」。2022年6月、地元の漁師らと共にムラサキウニの徹底駆除に乗り出した鳥取県には、テレビや新聞で取り組みを知ったとみられる人たちからの意見がメールで続々と寄せられた。「ここまでたくさんの人に関心をもってもらえるとは」。県水産振興課の職員は、文面を目で追いながら、その反響の大きさにただ驚いていた。
第2章 招かれざるウニ(2)
 さらに県漁協には、複数の水産業者から「駆除するムラサキウニを育てて商品化したい。譲ってほしい」との相談が相次いだ。こちらは単に「かわいそう」というのではなく、もっと切実な背景があった。鳥取だけでなく、全国各地でウニは海藻の生い茂る藻場を食い荒らし、磯焼けを生じさせている。その結果、海藻がなくなった場所で生息するウニが痩せてしまい、商品価値が低下する悪循環となり、漁獲量の減少を招いている。国の漁業・養殖業生産統計によると、国内のウニ類の漁獲量は、1980年ごろまで年間約2万5000トンだったが、それ以降は減少傾向で、21年は約6600トンだった。一方、価格は上昇の一途をたどっており、東京都の豊洲(築地)市場での価格をみると、国産のウニは08年に1キロ当たり約8200円だったが、22年は約2万4000円と高騰している。日本食ブームで海外でもウニが食べられるようになり、輸入価格も現在では国産とほぼ変わらない。ウニの仕入れが格段に難しくなっているのだ。このため、鳥取など磯焼けに苦慮する地域では「食べられないウニ」の駆除だけでなく、「何とか食べられるようにできないか」という模索も始まっている。先行しているのが神奈川県だ。県水産技術センター(三浦市)は、磯焼けの原因となったムラサキウニを採取し、三浦半島で取れる春キャベツを3カ月間、食べさせた。すると身が増えた上に味が向上したという。18年に試験販売が始まり、20年には「キャベツウニ」と商標登録された。鳥取県もこれを参考に、取り組み始めた。神奈川がキャベツなら、鳥取は何を食べさせてみようか――。まず試したのは、特産の白ネギだった。空いていた活魚用の水槽を利用し、ムラサキウニに廃棄されるネギの先端部分を与えてみたが、ウニは全く見向きもしなかった。次に試したのは、鳥取を代表する果実・二十世紀ナシ。さわやかな甘みと酸味、シャリシャリとした歯触りで全国的に人気がある。規格外のナシを小さく切って水槽に入れると、ムラサキウニは腹側の中央にある鋭い歯を使って、むしゃむしゃとよく食べた。今度はうまくいったかと思われたが、残念ながら、いくら食べさせても身の量が増えなかった。その次には、特産のブロッコリーを与えてみた。すると、よく食べる上に身の入りも良くなっているようだった。まだ試験段階だが、鳥取県漁協の古田晋平さん(68)は「今後、収益性を判断したい」と語る。
●商業化の道は遠く
 四国の西南端にある愛媛県愛南町では、磯焼けの原因となっているウニの一種「ガンガゼ」に特産のブロッコリーなどを与え、「ウニッコリー」と名付けて、22年冬から一般向けに販売を始めた。ただ、今年の売り上げの目標は150万円ほど。町の担当者は「初期投資を少なくして、お小遣い程度でもいいのでお金に換える、という事業。本格的な産業に育てるのは簡単ではない」と話すように、地域の漁業の柱にはなっていない。磯焼けを引き起こすウニの増殖にどう対応すべきか、各地で模索が続く。さらに別の地域では、これまで本州では生息を確認されていなかったウニが出現し始めた。

*6-4-2:https://kahoku.news/articles/20220729khn000023.html (河北新報 2022年7月29日) ウニの味、餌で違う! キャベツなど4種類与え食味実験 宮城水産高
 宮城水産高で26日、キャベツなど4種類の餌を与えて育てたウニの食味実習があった。生徒たちは餌によって味に微妙に違いが出ることを実感。産官学で進むウニの低コスト型陸上養殖への挑戦を後押しする成果に、学校は新たなステップへの手応えをつかんでいる。県漁協寄磯前網支所の協力を得て、石巻市前網浜沖で5月下旬に採取したキタムラサキウニ200個を同校栽培漁業実習場の畜養プールに移し、生物海洋類型3年の18人がキャベツ、白菜、ホヤ、昆布の4種類の餌を、それぞれ50個ずつのウニに与えて約2カ月育てた。試食は全員で行い、4パターンの成長具合と味を確かめた。その結果、いずれの餌で育てた場合でも成長はよく、味はキャベツが一番甘みが強く、人によっては苦手な磯臭さがほとんどなくなった。白菜はウニの食味は残るものの、野菜の風味をやや強く感じた生徒が多かった。ホヤは、ホヤ独特の苦みが強くなり、磯の風味も一段と増した。昆布はウニの味を良くすることで知られており、予想通りうま味が強まった。味見を終えた菊地陸斗さん(18)は「どれもおいしい。ホヤは苦みが増し、敬遠する人がいる半面、磯の香りが好きな人には癖になる味かもしれない」と感想を話した。指導した鈴木秀一主幹教諭は「今後は餌の組み合わせを工夫したり、農業高校と協力し、廃棄に回さざるを得ない野菜を活用したりして、SDGsも意識した実験、取り組みを模索したい」と方向性を示した。ウニをキャベツなどで育てる実用実験は、石巻市でも進められている。宮城大と協力し塩蔵ワカメ、キャベツ、乾燥コンブなど5パターンに分けて餌を与えた再生可能エネルギーを活用した低コスト型陸上養殖。3月の試食会でも好評を得た。宮城水産高での今回の取り組みは、実用化に向けて実験的取り組みの裾野を広げるものとして、今後の成果が注目される。

<リーダーに女性が少ないことのディメリット(2)
              ← 食料自給率・栄養学・食品生産の軽視>
PS(2023年3月9、11《図》日追加):*7-1-1は、①ウクライナ危機で食料を輸入に依存する日本の危うさが浮き彫りになったので、食料安定供給に向けて農政を抜本的に見直すべき ②農業基本法は1999年に制定され、政府が食料自給率目標を定めること・自然環境保全に繋がる農業の多面的機能を大切にすること等を定めている ③基本法制定から20年以上が過ぎたが、基本法では自給率向上を果たせず、時代の変化にも対応できていないことが鮮明になった ④自給率は4割弱で低迷し、主要国で最低水準 ⑤小麦・大豆・飼料用トウモロコシ等の穀物の大半を輸入に頼る状態を改善しなかったことが一因 ⑥ウクライナ危機による価格高騰で家計・畜産業が圧迫された ⑦今後、量も確保できなくなれば国の存立を脅かす ⑧基本法は自給率を高める具体的な方策を示しておらず、水田偏重の農政を変えられなかった ⑨コメ余りを解消しようと、田に水を入れずに小麦・大豆を作った農家に補助金を出した ⑩自給率向上のKeyとなる畑作物は湿気に弱く水田で作るのに適さない ⑪加えてコメ生産を減らして需給を締める政策は米価を高止まりさせてコメ消費の減退に拍車をかける袋小路に入った ⑫小麦等を転作ではなく、畑の作物として正面から振興せよ ⑬飼料用トウモロコシの栽培実績はコメより生産効率が高いことを示す ⑭日本の農業はコメ以外は不向きという固定観念を変えるべき ⑮コメのブランド化路線を改め、品種開発などで収量を増やして値ごろ感を追求し、消費や輸出を刺激せよ ⑯AIやデジタル技術を積極的に取り入れよ ⑰農家が法人化して組織的経営への移行が進んだことで、新たな手法を導入しやすい環境も整った ⑱日本は化学肥料原料の多くを輸入して国際相場に左右されるが、国産有機肥料を活用すべき ⑲これまで輸入してきた穀物や肥料のすべてを国産に切り替えるのは非現実的 ⑳国際相場の影響を和らげるにはどれだけ国産比率を高めたらいいかを考え、現実的なシナリオを描くべき 等と記載している。
 まず、①の食料自給率向上の必要性は世界人口の推移を見れば前から明らかで、ウクライナ危機で初めてわかったわけではなく、50年前から言われていた。また、②③④⑤⑥⑦⑧⑪⑭については、その農業基本法は私もバックヤードで関与し、衆議院議員だった時には食料自給率向上や環境まで考慮して地元佐賀県から実行に移したので知っているのだが、東北はじめ米作にこだわる地域は多く、農業に詳しいとされるベテラン国会議員ほど米に執着して米の生産調整(減産)や飼料米への転作に補助金を出す政策判断をし、大豆やトウモロコシへの転作が進まなかった。そして、呆れることに、転作を薦めた私の方が「非常識」とか「空気を読めない」などとレベルの低いメディアに書かれたのである。また、基本法は理念を述べるもので具体的な方策を示すものではないため、自給率向上を果たせなかった理由は、基本法が時代の変化に対応できていなかったからではなく、基本法に沿った具体的政策判断を行わなかったからである。
 なお、干拓地でクリークの水面よりも田の標高の方が低い佐賀平野でも小麦や大豆の生産に成功しているため、⑨は、政策が猫の目のように変化する中で、いつでも米作に戻れる状態を保つという意味で仕方ないし、⑩は事実ではない。しかし、場所によっては、⑫のように、畑作物に正面から向き合ってそれで採算をとれる生産体制にした方がよいだろうし、⑬のように、飼料米より飼料用トウモロコシの方が栄養価が高い上に生産効率も高いのは、他国では家畜の飼料には米でなくトウモロコシを使っていることから明らかだ。また、耕作放棄地で*7-3-1のソルガムを生産して与えてもよいだろう。
 さらに、⑮の米の低価格路線については、味を変えずに品種改良で収量を増やしたり、⑰のように、農家が法人化して組織的経営への移行が進んだことにより、⑯のAIやデジタル技術を取り入れて生産コストを下げ、価格を下げて競争力を獲得することによって消費や輸出を増やすのはよいと思う。しかし、⑱のように、日本が未だに化学肥料原料の多くを輸入して国産有機肥料を活用していなかったのはむしろ驚きであり、⑲⑳のように、何に関しても、まさに「徹底するのは非現実的だからミックスにするのがよい」という態度だから、改革が進まなかったのだ。
 *7-1-2の佐賀新聞は、イ)人口減少などで国内市場が縮小する中、輸出促進策をさらに充実させ、日本の第1次産業が潜在力を発揮できる環境を整備することが重要 ロ)相手国・地域の消費者の好みに合わせた品種や商品の開発にさらに力を入れるほか、ライバル国との価格競争を勝ち抜けるコスト低減などが課題 ハ)日本産は、富裕層向けの高級食材の面が強いが、庶民の食品として認知されれば世界市場で確固とした地位を獲得することができる 二)輸出額が伸長するのは喜ばしいが、輸入額はその約10倍に上り、差し引き10兆円規模の赤字 ホ)日本の2021年度の食料自給率(カロリーベース)は38%に留まっており、コメは98%だが、小麦は17%・大豆は26%で、2030年度に45%まで高めるという政府の低い目標にもほど遠い と記載しており、そのとおりだと思う。
 一方で、*7-2-1は、ア)生乳生産抑制で生乳を排水溝に流しており イ)ロシアのウクライナ侵攻と急激な円安により、牛のエサとなる輸入トウモロコシなどの価格が跳ね上がった ウ)殆どの先進国は乳製品を政府が買い上げて援助物資として活用するが エ)乳製品の在庫が多ければ国内のフードバンクや子ども食堂を通じて困ってる人を助ければよいが、そういう政策を日本はやっていない と記載している。
 が、イ)のように、牛の飼料を輸入トウモロコシに頼って自給していないのでは日本の畜産は食料自給率の向上に貢献していないし、海外の事情や円安で振り回されていちいち政府にお助けを願うのでは産業の体もなしていない。つまり、生乳が余れば粉末にしたり、加工したりして貯蔵できる体制を整え、海外に売り先を見つけておくのは産業として当然のことなのである。しかし、今回のような非常時の場合は、生乳生産抑制をするより、ウ)エ)のように、加工品として政府が買い上げ、ウクライナやトルコ・シリア地震の援助物資などとして活用したり、日本で起こる災害への備えにしたりした方がよいため、生乳の生産抑制のために補助金をばらまくことしかできない政府の工夫のなさには呆れるわけである。
 また、*7-2-2は、オ)ブランド食材の「和牛」の相場が低迷している カ)外食が復調する中でもディナー会食や宴会など和牛を使う食事が広がっていない キ)食品全般の値上げに伴う消費者の節約志向で高価格の食材が敬遠されるあおりもあり、需要の本格回復はまだ先との見方が多い ク)すき焼きやしゃぶしゃぶに使う肩ロースが、コロナ禍前の2019年1月との比較で7%安い 等と記載している。
 しかし、オ)のブランド和牛はもともと値段が高すぎ、脂肪が少なくて健康によく安価なオーストラリア産・ニュージーランド産に栄養面と価格面の両方で劣っている。そのため、カ)ク)のように費用の一部が交際費や福利厚生費で賄われる企業の宴会で食べるすき焼きやしゃぶしゃぶにしか当てられないが、料理はすき焼き・しゃぶしゃぶ・ステーキだけではない。そして、頻繁に食べる食品は、価格が高すぎず、動物性の脂肪を含み過ぎないことが家計とメタボ予防に不可欠だが、和牛はその要請に応えていないのだ。そのため、需要が本格回復するとはちょっと思えないし、和牛の飼料もまた、輸入トウモロコシが主原料なのである。
 さらに、*7-2-3は、ケ)高病原性鳥インフルで2023年3月6日時点で約1570万羽が殺処分対象になり コ)鶏卵農家の大規模化が進み、生産性が高まったことがプラスに働いて、鶏卵は「物価の優等生」とされてきたが サ)採卵鶏が国内で1割減り シ)卵の卸値が1年前の2倍近くに高騰した ス)大規模農家はコロナによる需要減やロシアによるウクライナ侵攻後の飼料高騰を踏まえて生産を絞っていた セ)飼料費は採卵鶏農家の経営コストにおいて48%を占めてエサ高が経営を圧迫 ソ)鶏卵卸会社社長は「生産コスト増に見合った契約価格で養鶏農家と需要家をひも付けることに力をいれる」と言う と記載している。
 ス)のように、ロシアのウクライナ侵攻や円安で高騰する鶏の飼料は輸入トウモロコシが主体であろうから、卵や鶏も自給食料に入れることができない。しかし、輸入トウモロコシを使わなくても、国産トウモロコシや国産ソルガムにその他必要な栄養素を加えれば、鶏もまた国産の資料で育てることができる。しかし、政府は2%の物価上昇を目標とし、輸入価格が上がれば価格転嫁するようやかましく言っており、価格が上がれば好むと好まざるにかかわらず、消費を減らさざるを得ないのが経済学の原則だ。そのため、サ)の採卵鶏減少は必須で、高病原性鳥インフルで数羽の鶏が死んだからといって全体では約1570万羽もの鶏を殺処分するというヒステリックな対応とそれによる採卵鶏の減少は、高騰した飼料費を販売価格に転嫁するための生産調整が目的だったのではないかと思われる。しかし、それは、視野が狭くてもったいないことだ。
 このように、飼料の国産化や食料自給率の向上には、耕作放棄地も利用するさまざまな工夫が必要だが、*7-3-2のように、農林水産省は担当者不足から農業の観点で地域社会の状況を把握する「農業集落調査」廃止を提案し、統計を使う研究者らの反発を受けて撤回したのだそうだ。多様な農業の担い手を視野に入れる時、江戸時代や明治時代のような「寄り合い」の開催や共同作業が不可欠とは思われず、土地の利用状況と必要な設備の有無が重要だろうが、何のために調査をするのか、それはどういう役に立っているのかを明確にした上で、省力化したスマートで目的適合性のある調査方法に変更した方がよいと思われる。

  
     日経新聞             日経新聞         Alic

(図の説明:中央の図のように、アジアでも小麦の消費が伸びて米との差が縮まり、その理由は小麦を使う食品が普及したからだが、左図のように、アジア諸国は小麦の輸入割合が高い。また、右図のように、日本の食料自給率(令和元年度、重量ベース)は、耕作放棄地が多いのに、米97%・鶏卵96%・鶏肉64%以外は50%代以下で、小麦16%・大豆6%は特に低い。さらに、輸入化学肥料や輸入飼料を使っている作物は、厳密には自給食料とは言えない )

*7-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK064DU0W3A100C2000000/ (日経新聞社説 2023年1月8日) 食料自給率の向上へ農政の転換を
ウクライナ危機をきっかけに、食料を輸入に依存する日本の危うさが浮き彫りになった。農林水産省はこれを受け、食料・農業・農村基本法の改正を検討し始めた。食料の安定供給に向け、農政を抜本的に見直してほしい。農政の目指すべき方向を示す基本法は1999年に制定された。政府が食料自給率の目標を定めることや、自然環境の保全につながる農業の多面的機能を大切にすることなどを定めている。
●畑作の振興を基本法で
 制定から20年余りが過ぎ、基本法が目的を果たせず、時代の変化に対応できていないことが鮮明になっている。農水省は課題を洗い出すための議論を2022年秋に始めており、24年の通常国会に改正案を提出する方向だ。壁に当たっているのが自給率の向上だ。農水省は自給率を高める計画をつくり続けてきた。だが現実は4割弱で低迷しており、上向く気配はいっこうにない。主要国では異例の低水準だ。小麦や大豆、飼料用トウモロコシなど食生活に不可欠な穀物の大半を輸入に頼る状態を改善しなかったことが一因だ。そこにウクライナ危機による価格高騰が追い打ちをかけ、家計や畜産業を圧迫している。今後も同様のことが起きかねず、量まで確保できなくなれば国の存立を脅かす。基本法は自給率を高める具体的な方策を示しておらず、水田偏重の農政を変えられなかった。コメ余りを解消しようと、田んぼに水を入れずに小麦や大豆などをつくった農家に補助金を出してきた。このやり方は2つの点で問題をはらんでいた。まず自給率の向上で要となる畑作物は湿気に弱く、水田でつくるのに適していない。加えてコメの生産を減らして需給を締める政策は米価を高止まりさせ、コメ消費の減退に拍車をかけるという袋小路に入った。法改正で考えるべきポイントは明らかだ。小麦などを転作ではなく、畑の作物として正面から振興する。飼料用トウモロコシの最近の栽培実績は、コメより生産効率が高いことを示唆している。日本の農業はコメ以外は不向きという固定観念を変えるべきだろう。コメ政策の見直しもこれに連動する。畑作を振興するには水田の畑への転換が必要になる。水田が減ればコメの需給が一段ときつくなりかねないが、突破口はある。高米価路線の修正だ。これまでコメの産地は価格を上げるため、ブランド化を競い合ってきた。これを改め、収量を増やして値ごろ感を追求し、消費を刺激する。実現には品種開発などで後押しが要る。この戦略はコメの輸出にもプラスに働く。人工知能(AI)やデジタル技術を積極的に取り入れることも求められる。農業も人手不足が深刻になっており、最新技術による省力化が避けて通れない。農家が法人化して組織的経営への移行が進んだことで、新たな手法を導入しやすい環境も整ってきた。企業が他分野で培ったノウハウを応用し、技術やサービスを提供する余地は十分にある。地球環境問題にどう貢献するかも論点になる。多面的機能という言葉は、農業が環境に優しいことを暗黙の前提にしている。だが気候変動への対応を求める国際潮流は、農業が環境に及ぼすマイナスの影響の是正を迫る。
●国産肥料を活用せよ
 牛のげっぷが放出したり、水田で発生したりするメタンは温暖化ガスとして問題視されている。排出を抑制する技術などの研究開発を推進すべきだろう。多様な生き物が存続できる自然環境を保つため、農薬や化学肥料を減らすこともテーマになる。日本は化学肥料の原料の多くを輸入しており、国際相場に左右される構造を変える意味もある。代わって注目されているのが、有機肥料だ。海外の鉱物資源を使う化学肥料とは違い、家畜の排せつ物や稲わらなどで製造できる。下水の汚泥を肥料に加工することも期待を集めている。下水はリンなど肥料の原料を豊富に含んでおり、有機肥料の利用促進と並んで食料安全保障に資する。一方、これまで輸入してきた穀物や肥料のすべてを国産に切り替えるのは非現実的であり、海外から安定して調達するための努力は今後も大切だ。国際相場の影響を和らげるにはどれだけ国産比率を高めたらいいかを考え、現実的なシナリオを描くべきだ。食料生産は農業界だけでなく、国民全体に関わるテーマだ。議論を広く呼びかけ、新しい農政のかたちを示してほしい。

*7-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/998363 (佐賀新聞 2023/3/3) 農産物輸出が過去最高 稼ぐ力、さらに磨きを
 2022年の農林水産物・食品の輸出額が前年比14・3%増の1兆4148億円に上り、10年連続で過去最高を更新した。政府は25年に2兆円としている目標の前倒し達成を目指す。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ外食需要が海外でも回復し、貝類、青果物、ブリなどが好調だった。円安も追い風になった。農産物が8870億円、水産物が3873億円、林産物が638億円といずれも過去最高。ウイスキーや日本酒も大きく伸びた。人口減少などで国内市場が縮小する中、海外に売り込む力を着実に高めてきたと言えるだろう。「稼ぐ力」にさらに磨きをかけ、農林水産業の経営基盤を強化したい。これまでも政府は輸出手続きの迅速化や高級ブドウ「シャインマスカット」などのブランド品種保護などに取り組んできたが、輸出促進策をさらに充実させ、日本の第1次産業が潜在力を発揮できる環境を整備することが重要だ。主な輸出先は中国、香港、米国、台湾、欧州連合(EU)だ。こうした国・地域の消費者の好みに合わせた品種や商品の開発にさらに力を入れるほか、輸出実績がまだ乏しい国々に売り込むための調査を本格化させることも求められる。生産面では、ライバル国との価格競争を勝ち抜けるコスト低減などが課題になる。現在はまだ富裕層向けの高級食材としての面が強いが、庶民の食卓に欠かせない食品として認知されれば、日本産は世界市場で確固とした地位を獲得することができる。輸出額は年々伸びているが、生産額に占める割合は2%程度と、他国と比べ見劣りすることは否めない。世界の農産物市場は拡大している。このチャンスを逃さないように官民挙げてしっかりした戦略を描き、実行したい。東京電力福島第1原発事故の後、各国・地域に広がった日本産食品の輸入規制の早期撤廃も重要な課題だ。就労者の高齢化や耕作放棄地の拡大など農業を取り巻く環境は厳しさを増しているが、収入増によって魅力が増せば、新規参入につながる。若者の就農が進めば、ITを活用したスマート農業の拡大が期待できる。これによって生産性が向上、農作業が効率化されれば、さらに魅力は増すだろう。こうした好循環の加速を政府、自治体に後押ししてほしい。農家と密接な関係にあり、経営状況に詳しいJAにも積極的な対応を求めたい。輸出額が伸長するのは喜ばしいことだが、輸入額はその約10倍にも上り、差し引き10兆円規模の赤字だ。食料を海外に大きく依存する構造的な問題を直視しなければならない。日本の21年度の食料自給率(カロリーベース)は38%にとどまる。主食のコメは98%だが、輸入に頼る小麦は17%、大豆は26%だ。30年度に45%まで高める政府目標はほど遠い。ウクライナ危機によって、食料や肥料を輸入に頼るリスクが表面化し、政府は食料安全保障の強化に向けた政策大綱を決め、農業の構造転換による穀物や肥料の国産化を打ち出した。これを実現するには、生産を担う農家の経営基盤強化が前提になるのは間違いない。輸出強化はその一端を担う重要な戦略であり、最優先で取り組む必要がある。

*7-2-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/3d8f464a4bf1b0473f40a27b8d20d161e1db1540 (Yahoo 2023/2/21) 【酪農危機】生産抑制で生乳を排水溝に…1日17万円分も廃棄しなければいけない酪農家の苦悩「毎日捨ててます…とてもつらい状況」
 パイプから排水溝に流れていく白い液体…。牧場で搾られたばかりの“生乳”です。今、日本の酪農家がかつてない危機に立たされています。新型コロナの感染拡大による乳製品の消費低迷を受け、北海道では今年度、16年ぶりに生乳の生産を抑制しています。
●「三重苦、四重苦ですよ」酪農家語る苦悩…国の支援なく
「めざまし8」は、国内の生乳の約6割を生産する北海道で、酪農の現状を取材。つらい胸の内を明かしてくれました。
○松枝牧場・松枝靖孝さん:
(2022年)10月に減産っていうのが発表になって、「牛乳を作るのをやめましょう」っていう働きがけがあった。北海道広尾町で生乳を生産している「松枝牧場」では、年間2100トンの生乳を生産しています。しかし、今年度は約600トン、減産しなければいけないというのです。工業製品と異なり、牛は定期的に乳を搾らないと病気になってしまうため、生乳の生産量をコントロールすることは困難です。そんな中、酪農家が下した苦渋の決断。
○松枝牧場・松枝靖孝さん:
 1日大体、1.75トン。金額にして17万円、毎日…捨ててます。毎日、1.75トンものしぼった“乳”を、排水溝に廃棄することでした。これには取材スタッフも思わず「捨てる量ですか!?」と声を上げます。牛たちのエサ代も重くのしかかります。ロシアのウクライナ侵攻と急激な円安により、牛のエサとなる輸入トウモロコシなどの価格が跳ね上がり、松枝牧場のえさ代は、2021年には約5400万円でしたが、2022年は約8900万円と、年間で3000万円以上も跳ね上がったといいます。
○松枝牧場・松枝靖孝さん:
 三重苦、四重苦ですよ。今、牛が安いから牛は売れないし、牛乳は出荷できないし、エサ代は高いし、どこで収入立てるの?どこで経費削減すればいいの?って。「収入」は減り「支出」は増加するなか、困窮する酪農家。なぜ、こんな状況になっているのか?農業経済学専門の東京大学・鈴木宣弘教授は、現在の酪農家の危機についてこう分析します。
○東京大学農業経済学 鈴木宣弘 教授:
 ほとんどの先進国は乳製品を政府が買い上げて、国内外の援助物資として活用する。乳製品の在庫が多いのであれば、それを国内のフードバンクや、子ども食堂を通じて困ってる人を助ける。そういう政策を日本はやっていない。
○松枝牧場・松枝靖孝さん:
 彼ら彼女ら(牛)を処分するわけにもいかない。(酪農を)一朝一夕にやめるとは言いにくいですよ。かわいいのでこの子らは。罪はないんですよ。2月14日、酪農家の悲痛な叫びを受け、「農民運動全国連合会」など4団体が、参議院議員会館で院内集会を開き農家への緊急支援の必要性を訴えました。国の早急な対応が求められます。

*7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230307&ng=DGKKZO69027150W3A300C2QM8000 (日経新聞 2023.3.7) 和牛の需要回復遅く 肩ロース卸値4%安、外食伸びず低迷 会食は少人数、節約志向も影
 新型コロナウイルス禍からの経済回復で食材需要が持ち直す陰で、ブランド食材の「和牛」の相場が低迷している。サーロインや肩ロースの卸値は前年同期比2~4%安い。外食が復調する中でもディナー会食や宴会など和牛を使う食事が広がっていない。食品全般の値上げに伴う消費者の節約志向で高価格の食材が敬遠されるあおりもあり、需要の本格回復はまだ先との見方が多い。農畜産業振興機構(東京・港)によると、食肉卸業界から外食・小売業界に販売される23年1月の和牛の卸値は、すき焼きやしゃぶしゃぶに使う肩ロース(去勢、A5ランク、税別)が1キログラム3858円と前年同月比4%安。コロナ禍前の19年の1月との比較では7%安い。ステーキなどに使うサーロイン(同)も1キロ7255円と前年同月比2%安い。軟調な地合いは22年から続いている。コロナ禍に入った20年、外食の低迷などを受けて和牛相場は落ち込んだ。20年末から21年にかけては外食・小売市場の混乱も徐々に落ち着き、相場は持ち直し始めた。ところが、22年は行動制限の緩和という追い風にもかかわらず相場はむしろ再び軟化し、各月は21年よりも低い水準で推移した。23年に入っても反転上昇の兆しはまだ見えない。背景はいくつかある。まずは外食向けの需要回復の停滞だ。日本フードサービス協会によると1月のディナーレストランの売上額は19年1月に比べ15%少ない。都内の大手食肉卸の販売担当者は「コロナ禍前は10人規模だった会食が4人程度にとどまり、(多めの人数で開く焼き肉や鍋などに向けた)消費が伸びない」とぼやく。家庭の需要を示すスーパーなど量販店向けも鈍い。都内の食肉卸では22年4月~23年2月の和牛の小売店向け販売量が前年同期比で1割減少した。様々な食品の値上げが相次ぐ中での消費者の生活防衛意識が、高価格の和牛の消費を鈍らせているようだという。「量販店から和牛の注文が減り、和牛よりも価格の安い交雑牛や豚肉の注文が増えた」(食肉卸の役員)。22年は輸出が低調だったことも国内相場の下押しにつながった。近年は和牛をはじめ牛肉の輸出が伸びてきたが、22年の牛肉(くず肉含む)輸出額は約513億円と21年比4%少なかった。主要な輸出先である米国で低関税の輸入枠が他国産の牛肉で22年早々に埋まり、日本から米国へ輸出を伸ばせなかったことが響いた。政府の需給対策がなくなる影響も大きい。政府は20~22年度、和牛の冷凍品の保管倉庫代などを補助する施策を実施した。市中への冷凍品の供給が抑えられたことが相場の下支えにもなったが、22年になると、補助が終わるのを見越した食肉卸が冷凍品の一部を市場に出し、需給緩和の一因になった。市場では、相場反転には需要回復のペースが上がる必要があるとの見方が多い。政府は新型コロナの感染症法上の分類を5月8日に、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行する。食肉卸の担当者は「飲食を伴う法人の大規模な会合などの動きが戻るきっかけになれば」と需要回復の底上げに期待する。

*7-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230307&ng=DGKKZO69035660W3A300C2EA1000 (日経新聞 2023.3.7) 卵の供給回復は「来春」 鳥インフルで卸値2倍近く、エサ高で減産、ヒナも不足
 鳥インフルエンザが日本に「エッグショック」をもたらしている。卵の卸値が1年前の2倍近くに高騰し、品切れするスーパーも目立ち始めた。過去の鳥インフル時の値上がりと異なり、収束まで時間がかかるとみられている。円安や穀物高による輸入飼料の高騰が、鶏卵業全体の供給力をむしばんでいるためだ。2月下旬、東京都心のある食品スーパーでは夜にかけ店頭から鶏卵がほぼなくなった。「供給が不安定になっております。お一人様1点までとさせていただきます」。陳列ケースにはこう掲示されていた。
●最大の殺処分
 高病原性鳥インフルにより3月6日時点で過去最大の約1570万羽が殺処分の対象になった。商用の卵を生む採卵鶏が国内で1割減った計算になる。関東各地の大規模養鶏場を直撃し、都内では、これらの養鶏場の鶏卵を卸会社を通じて仕入れる店舗で品薄になっている。各店舗が代替調達を急ぐが進まない。価格も高騰し、JA全農たまご(東京・新宿)のMサイズ卸値(東京市場、1キログラム)は3月の平均(6日まで)が335円と前年同期比で76%高い。3月としては1991年以来の高値だ。店頭価格も上昇しており、日経POS情報によると2月の「鶏卵」の平均価格は約212円と前年同期比で2割超高い。鶏卵は価格が上がりにくい「物価の優等生」とされてきた。鶏卵農家の大規模化が進み、生産性が高まったことがプラスに働いてきた。過去10年で養鶏農家の数は3割減少する中、10万羽以上を飼育する生産者は2%増えている。ところが、大規模化は流通面では柔軟性の低下につながった。鳥インフルが各地の中核となる大規模農家に及べば、供給力が一気に低下する。農家の数が減り、調達先の切り替えがしにくい。今回の鳥インフルは青森県や鹿児島県など被害地域が広く、他地域からの鶏卵の融通も困難だ。業務用を中心に量販店にも鶏卵を販売する大規模農家、オリエンタルファーム(青森県八戸市)の高野英夫代表取締役は「注文は来ているが新規顧客に回す余裕は全くない。既存客にも追加するのは難しい」という。
●費用5割が飼料
 鶏卵の供給力が落ちた背景には鳥インフルだけではなく、新型コロナウイルス禍もある。生産コストにシビアな大規模農家は、コロナによる需要減やロシアによるウクライナ侵攻後の飼料高騰を踏まえて生産を絞ってきた。そこに鳥インフルが重なったため供給力が大幅に低下した。ある茨城県の農家は飼育する採卵鶏を早期にリタイアさせるなどして、飼育数を17万5000羽から15万羽まで減らした。「エサが高すぎるため減産するしかない」とこぼす。22年12月の成鶏用飼料価格は前年同月比で26%高い。飼料費は採卵鶏農家の経営コストにおいて48%を占め、エサ高が経営を圧迫する。減産の影響は「川上」のヒナにも及ぶ。養鶏農家がヒナの購入を抑え、22年年間の採卵用ヒナの導入羽数は全国で前年比5.5%減の9877万3000羽だった。導入羽数が1億羽を下回るのは飼料高だった15年以来だ。採卵用ヒナの生産会社は兼業を含め全国で26社しかない。「鶏卵生産会社から急に100万羽を調達したいといわれてもすぐにヒナを用意はできない」(日本種鶏孵卵協会の都丸高志会長)。例年、4~5月ごろに鳥インフルが収束すると鶏卵農家がヒナを購入し、夏から秋には鶏卵の生産が始まる。今回はどうか。養鶏業に詳しい元東京農業大学教授の信岡誠治氏は「エサ高など養鶏農家の経営状況も踏まえれば、供給回復は、うまくいっても24年春ごろとみている」という。今回、あらわになったのは大規模化の負の側面だ。減産のブレーキが効きすぎてヒナに至るまで供給力が落ち回復に時間がかかる。鶏卵卸会社キトクフーズ(東京・千代田)の大橋正博副社長は「生産コストが増加した分にも見合った契約価格で養鶏農家と需要家をひも付けることに力をいれる」という。コスト高に耐性のある供給網作りが課題になっている。

*7-3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP3Y72KHP3TUOOB007.html (朝日新聞 2021年3月30日) 長野市と信大、ソルガム共同研究に区切り
 長野市と信州大学がタッグを組んだアフリカ産穀物「ソルガム」の栽培や事業化は、今年度で一区切りとなる。8年間の共同研究では、目的とした不耕作地の解消や資源の有効活用などに一定の成果もみられた。いかに認知度を高め、普及させていくかが今後の課題で、市は「産学官」の連携を強めていく考えだ。ソルガムの魅力は、省力栽培と収穫後の多用途利用にある。イネ科の一年草で乾燥や雑草に強く、水やりも不要で除草の手間も少ないために農作業の負担を軽減。農家の高齢化や後継者不足で増え続ける耕作放棄地対策に一役買えるのではと考えたのが、2013年度からの共同研究の出発点だった。市によると、市内のソルガム栽培は統計を取り始めた15年度に4戸で3・31ヘクタール。栽培講習会を開いたり、ソルガムの実を取り扱う会社創立など流通体制が整ってきたりしたことで19年度は31戸で6・37ヘクタールに拡大した。ソルガムに興味を持ち、不耕作地の利用を始めた農家や新規就農者もいるという。毎年10月ごろに収穫する実は、食品に加工する。アレルギー物質を含まず、生活習慣病予防などに役立つとされるポリフェノール含有量はコーヒーの約10倍で、血圧降下やストレスを和らげる作用が報告されているGABA(ギャバ)も豊富だ。こうした利点を生かそうと、ソルガムの「健康食品コンペティション」も開催。菓子やビール、コーヒーなどの商品化につながった。地産地消を目指し、ソルガムは一部学校の給食にも登場。今年2月には中条小・中学校でソルガム入りのご飯とハンバーグが提供された。栽培試験が行われた中山間地、七二会地区の小学校では総合学習の教材となった。食だけではない。高さ約2メートルの茎や葉はキノコ栽培の培地に活用できる。使用後の培地はメタン発酵され、生じるバイオガスが電気や熱エネルギーとなる。残り物は液肥として農地に還元する。民間事業者の協力を得た実証試験では、この「循環」の可能性も出てきたという。日本雑穀協会(東京都)によると、県内のソルガム栽培は伊那市が盛んで、全国的には岩手県が主産地という。モロコシ、タカキビ、コーリャンといった呼び名もある世界5大穀物の一つだが、認知度の低さが一番の課題。担当者は「栄養価が高く、伸びる要素が大きい穀物だけに、知名度向上や使いやすさ・入手しやすさ、おいしい商品の開発などに向けた情報発信が重要」と指摘する。共同研究を担った信大工学部の天野良彦教授は「ソルガムが地域の循環型社会や環境問題に貢献できるということをPRしていきたい」と話している。市は今後、大学や民間事業者と新しい組織を立ち上げて対応していく方針だ。

*7-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230221&ng=DGKKZO68636240Q3A220C2EA1000 (日経新聞 2023.2.21) 縮む日本、実態把握難しく、農業集落調査」見直し議論が迷走 統計改革に一石も
 農業の観点で地域社会の状況を把握する「農業集落調査」の見直し議論が迷走している。担当者不足から農林水産省が廃止を提案したが、統計を使う研究者らの反発を受け撤回。同省が示す代替の調査手法も広く理解を得ないまま結論を出す可能性がある。人口減少や過疎化が進む中で実態把握は難しくなっている。議論の行方は統計のあり方を左右しかねない。調査は国内にある14万の集落について、農業生産を巡り協議する「寄り合い」の開催実績があるかや、ため池・森林などの自然資源の状況を把握するものだ。半世紀以上、続いてきた。寄り合いの有無からは地域社会として機能しているかなどが分析されている。「(2020年の)前回調査と同様の手法での調査は不可能な状況。廃止せざるを得ない」。議論の発端となったのは農水省が22年7月に開いた統計調査に関する研究会だった。5年ごとに実施する国の基幹統計の一つ「農林業センサス」の内容を決める会議で、農業集落調査を25年から廃止する方針を打ち出した。
●代替案にも反対
 農業経済学や地理、歴史などに関する13学会・団体が反対声明を出した。「農政の推進に必要」「農山村の歴史を検証する基礎データとして活用されている」と訴えた。反発を受けて農水省は11月の会議で廃止方針を取り下げ、別の調査に項目の一部を移す代替案を提示。さらに12月の会議では一部でなく全項目を引き継ぐ案を示し、調査のカバー率を従来の98%に高める案を示した。研究者らはデータの継続性の観点などから、これまで通り集落の状況が把握できなくなると反対している。23年2月21日の会合では調査は維持しつつも、対象者の選定方法を変える案を農水省が示す予定だが、納得を得られるかは不透明だ。農水省は調査のハードルの高さを見直しの理由に挙げている。調査は農業集落の事情に詳しい自治会長などに回答を求める。これらの状況に詳しい人の把握が難しくなってきているという。20年の前回調査時は、対象者が把握できなかった約5万の集落で個人情報保護条例などを理由に自治体から情報提供を受けられなかった。このうち約4万4000集落は農水省職員が農業関連団体に働きかけて対象者を把握した。それでも分からなかった6000超の集落は地方農政局が対象者を探し出すなどした。「わたしの責任では出せません」。九州農政局の統計担当職員は前回調査で集落に詳しい人物の名前や住所などの情報提供を自治体に求めたが、プライバシーの観点から断られた。上司を連れていくなどして重ねてお願いをしたこともあった。それでも把握できないときは、地元の農業関連団体に直接頼んで対象者を探した。基幹統計は統計法に基づき調査対象者に報告義務が課されている。ただ対象者が把握できなければ調査は進まない。統計法は自治体に対し「協力を求めることができる」と規定するにとどまる。人口減少や過疎化で、集落機能は弱まりつつあり、各地の事情に精通する人が減っているとの見方もある。個人情報保護への関心の高まりも背景に、調査対象者の把握が難しくなった。しかも地方農政局の統計担当職員も今は約1000人と、10年前から半減し、調査する人員も不足する。政策立案や研究に使われる統計は農水省に限らず国全体で人的資源の不足が問題になっている。
●「3人以下」3割
 20年末時点の各省の報告によれば約50の基幹統計の基となる調査の約3割は集計・分析作業を担う職員が3人以下だった。21年12月に書き換えの不正が表面化した国土交通省の「建設工事受注動態統計」も3人だった。農水省は今回の統計見直しを月内にも決着させる。国交省の統計不正からの立て直しを国全体で進める中で、将来の統計のあり方にも一石を投じることになる。農業集落調査は、地域の集落がどこまで機能しているかで日本の「輪郭」を分析する側面もある。国土の使われ方をどう把握するかの意味でも結論が注目されている。

<リーダーに女性が少ないことのディメリット(3) ← 家計・消費行動の無視>
PS(2023年3月14日追加):*8-1-1は、「アベノミクス」を異例の金融緩和で支えた日銀の黒田総裁が任期中最後の定例金融政策決定会合を終え、①アベノミクスを進めたこと自体は正しかったと述べた ②2013年3月の会見で、黒田氏は「2%の物価上昇を、2年を念頭に早期達成を目指し、日銀が供給するお金の量を2倍にする」と宣言し ③その後も「サプライズ緩和」を打ち出し、円安と株高に沸く市場は「黒田バズーカ」を歓迎したが、恩恵は経済全体に行き渡らず、日本は持続的な成長力を欠いたまま ④国の経済の地力を表す潜在成長率は2022年度上期に0.3%と低迷し、緩和開始前の0.8%より低い ⑤賃金上昇も実現せず、実質賃金は2022年に前年比マイナス1.0%に落ち込んだ ⑥昨年から日銀の緩和策を一因とした急速な円安が輸入品の物価高に拍車をかけ、物価上昇に賃上げが追いつかない ⑦BNPパリバ証券の河野氏は、「日本の停滞は構造的問題が要因で、金融政策不足が要因ではなかったと」とする ⑧黒田氏は「潜在成長率は構造的な問題で、金融政策だけで長期的な潜在成長率を押し上げることは難しかった」とする などを記載している。
 このうち、①のアベノミクスは、i)大胆な金融政策 ii)機動的財政政策 iii)民間投資を喚起する成長戦略(規制緩和等により資本市場・労働市場を流動的にし、競争を活発化させることで生産性を向上させる構造改革)の「三本の矢」を、経済成長を目的として政策運営の柱に掲げたものだ。しかし、i)は日銀の黒田総裁によって行われたが、ii)は “景気対策”“雇用対策”と称する資本市場・労働市場の流動化に反する無駄遣いが多く、生産性を向上させるための投資的支出は少なかったが、それは政治家以前にメディアを始め多くの国民が望んだことである。まさにこれが原因で、iii)の構造改革は促されず、むしろ妨げられ、これがアベノミクスがうまくいかなかった原因なのである。
 この政策を行うにあたって参考にされたバブル景気は、1985年9月のプラザ合意で急速な円高が進み(それでも150円/$台)、円高不況で輸出産業が打撃を受けて町工場に倒産が続出したため、1986~1991年に、日本政府が内需主導型経済成長を促すために公共投資拡大等の積極財政を行い、日銀も段階的に公定歩合を引き下げて(それでも最終2.5%)、長期的金融緩和を続けたものである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%96%E3%83%AB%E6%99%AF%E6%B0%97 参照)。
 しかし、現在の日本は新興国ではなく、日本のバブル期には世界市場に参加していなかった国々が東西冷戦終了後に世界の市場競争に参加し、日本より低い価格で優れた製品を作り出すようになったため物価上昇がなかったのであり、世界の市場競争で勝つには、iii)の構造改革が重要で、i)ii)の金融緩和・財政支出は構造改革時の痛み止めとして短期間に限って行うべきで、漫然と長期間にわたって金融緩和と財政支出だけを行っても効果がなく、副作用ばかりが目立つのである。そのため、⑦⑧は正しいが、そんなことはやってみなくてもわかる筈だ。また、構造改革が滞ったため生産性は向上せず、④のように、潜在成長率は2022年度上期0.3%と低迷して金融緩和開始前の0.8%より低く、⑤の賃金上昇もあまり起こらず、円の価値が下がって物価上昇した分だけ、⑥のように、実質賃金が2022年に前年比マイナス1.0%に落ちた。さらに、②の2%の物価上昇というのは、本来は景気が過熱して8~10%も物価上昇している時に2%以内の物価上昇を目標として金融引き締めを行うものであり、中央銀行が供給する金の量を2倍に増やして円の価値を下げ、実質賃金・実質年金・実質資産を目減りさせて日本を後進国に戻すことを目的として行うべきものではない。なお、③の「サプライズ緩和(黒田バズーカ)」による円安と株高に沸くのが、関係する特定の企業や個人に限られるのは当然のことである。
 *8-1-2は、⑨黒田総裁は金融政策決定会合後の会見で「金融緩和は成功だった」と総括し ⑩「10年間の金融緩和は、デフレでない状況にし、雇用を400万人以上増加させ、ベアも復活し、就職氷河期も完全になくなり、大きな効果があった」という認識を示し ⑪「就任時の目標の2%の安定的な物価上昇が達成できなかったのは、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることが影響したからだ」とし ⑫「大量に保有する国債やETFが負の遺産だとも思っていない」と言った と記載している。
 しかし、このうち⑩は、黒田総裁などが求めた日本国内の好景気によるディマンド・プル・インフレではなく、制裁のお返しによる食料・エネルギー価格の高騰と金融緩和の継続に起因する円安による輸入品価格上昇によるコスト・プッシュ・インフレであるため、国内でインフレに見合った賃金上昇を期待することはできない。また、400万人以上増加させたとされる雇用も薄給の非正規が多く、就職氷河期がなくなったのは新卒の人口が減った影響が大きいため、未だ本質的解決はしていないと思われる。それらのため、⑨のように、金融緩和は成功したとは言えず、⑫のように、“景気対策”と称する無駄遣いの結果として大量保有することになった国債やETFは、やはり負の遺産である。そして、⑪のように、「2%の“安定的”物価上昇を続ける」と、実質預金と実質国債残高を20年で1/1.43、30年で1/1.74、40年で1/2.12にすることができるため、国民が知らぬ間に国民の犠牲によって政府債務を減少させることができるという政府の悪巧みになる。逆に、長期金利が2%の福利であれば、定期預金を持ち続けた人は、20年で1.43倍、30年で1.74倍、40年で2.12倍に増やすことができたのだ。
 一方、白川前日銀総裁は、*8-1-3のように、⑬IMFの季刊誌に寄稿して黒田総裁による異次元緩和に疑問を呈し ⑭金融政策が「物価に与えた影響は控えめだった」と指摘 ⑮「解雇の少ない日本の雇用慣行が賃上げの弱さに影響している」として、米欧と同じ2%の物価目標を掲げることに懐疑的な見方を示した ⑯低インフレの長期化で政策金利がゼロ近くに張り付くことを警戒する声は「根拠のない恐怖」と表現し ⑰異次元緩和は物価を押し上げる効果が小さかった一方、構造問題への改革を遅らせる「応急措置」になったとした ⑱長期の金融緩和で資源配分の歪みがもたらす生産性への悪影響は深刻になる」とした と記載している。
 私は、⑯のように、低インフレの長期化で政策金利が0近傍に張り付くのは、高インフレ・低金利で賃金・年金・資産が目減りするよりは国民にとってマシだと思う。また、⑭の金融緩和が物価に与えた影響は円安が著しくなるまでは控えめだった。が、⑮のように、構造改革を行わずに金融緩和だけを続け、痛み止めばかり使って根本治療をしなければ、次第に体力がなくなって、変革だけでなく、災害や戦争などの危機対応もできなくなるのである。そのため、⑬⑰のように、構造問題への改革を遅らせた原因が異次元の金融緩和だとは思わないが、⑱の長期の金融緩和による資源配分の歪みは、不公正・不公平を生み、同時に国民の経済力(=購買力・消費力)を低下させる悪循環を作りあげたと言える。
 具体的には、総務省が2023年2月24日に発表した1月の消費者物価指数(2020年=100、生鮮食品を除く)では、*8-2-1のように前年同月比で4.2%上昇したが、厚生労働省が2023年3月7日に発表した1月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)では、*8-2-2のように1人当たりの賃金は実質で前年同月比4.1%減り、賃金上昇幅は物価と比較して著しく小さい。岸田首相は1月に「インフレ率を超える賃上げの実現」を経済界に要請されたそうだが、日本国民はコスト・プッシュ・インフレ下で購買力が下がり、節約せざるを得ない状況になっているため、価格転嫁してインフレ率を超える賃上げをするのは困難だろう。
 そのため、*8-2-3のように、日銀新総裁となる植田氏は、金融政策を専門とし、1998年に東大教授から日銀審議委員となり、1999年に世界に先駆けて日銀が実施したゼロ金利政策導入に関わり、2000年に0金利が解除された際には強く反対されたそうで、「金融緩和の継続が必要」と発言されている。そのような中、「日銀新総裁は暮らしの安定を最優先にして欲しい」という要望が上がっているが、著しい残高の国債を償還するには、EEZに存在する資源を採掘し税外収入を得て返済するほかには、暮らしを直撃する副作用を解消する方法はない。
 日経新聞は、*8-2-4のように、2023年3月12日、⑲家計の資産を静かに蝕んでいるインフレがデフレ時に成功だった貯金神話を問い ⑳物価が下がるデフレ環境では成功だった預貯金偏重が問われている としている。
 預金利子率が下がれば、(配当性向が変わらなければ)株式の時価が上がって、配当と利子率が現金化の容易さやリスクを考慮した上で等しくなるように、株式市場で調整が起こる。債権も同じだ。現在は、日銀の金融緩和継続とコスト・プッシュ・インフレで日本国内の預貯金の購買力低下の度合いが大きくなったが、日本では構造改革が進まず、企業の利益率や配当性向は低いままであるため、日本の預貯金が必ず日本株に向かうと考えるのは甘い。何故なら、日本株から得られる利益率は低い上に、元本割れの可能性もあるからで、これが外貨・外債・外国株式との大きな違いであり、今後は外貨・外債・外国株式もミックスした投信やNISAがリスク分散と利益獲得の上で有効になると思われる。

  
              すべて2021.11.29日経新聞

(図の説明:左図は、1990年《冷戦終結直後》の主要国の企業の時価総額と名目GDP、中央の図は、2020年の主要国の企業の時価総額と名目GDPで、企業の時価総額と名目GDPともに新興国と米国で著しく伸びている。右図は、世界の上場企業数で、インドは1985年以降、中国・韓国は1990年以降に、急激に増えている)


   2023.2,24日経新聞      2023.3.7日経新聞   2023.3.12日経新聞

(図の説明:左図のように、日本は生鮮食料品を除く消費者物価指数が2023年1月には4.2%上がり、中央の図のように、現金給与総額は実質マイナスが続いている。また、右図のように、インフレによる預金《債権も同じ》の目減りは、1970年代以来の規模になっている)

*8-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15578331.html (朝日新聞 2023年3月11日) 黒田氏、停滞脱せず10年 「潜在成長率、押し上げは難しかった」
 第2次安倍政権が掲げた「アベノミクス」を金融緩和で支えてきた日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁が10日、任期中で最後となる定例の金融政策決定会合を終えた。10年にわたった歴史的にも世界的にも異例の金融緩和。壮大な試みは、日本経済に何を残したのか。金融政策決定会合を終えて会見に臨んだ黒田氏は、「アベノミクスを進めたこと自体は正しかった」などと語り、10年間の金融緩和の成果を誇り続けた。日本がデフレから抜け出せず、輸出企業が円高にあえいでいた2012年12月の総選挙。民主党からの政権奪還を目指した自民党の安倍晋三総裁(当時)が、政策の目玉としたのが「無制限」の金融緩和だった。財務省出身でアジア開発銀行総裁を務めていた黒田氏に、その実行が託された。13年3月に日銀総裁に就いた黒田氏は最初の決定会合で、国債を大量に買うことや、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を増やすことを決めた。当時の会見で黒田氏は、「これまでとは次元の異なる金融政策」と強調。「2」が並んだシンプルなパネルを使いながら、2%の物価上昇を、2年を念頭に早期達成を目指し、日銀が供給するお金の量を2倍にすると宣言した。その後も「サプライズ緩和」を打ち出し、円安と株高に沸く市場は「黒田バズーカ」を歓迎した。ただ、恩恵は経済全体に行き渡っておらず、日本は持続的な成長力を欠いたままだ。国の経済の地力を表す潜在成長率(日銀推計)は、22年度上期に0・3%と低迷。緩和が始まる前の0・8%よりも低い。十分な賃金上昇も実現せず、実質賃金は22年に前年比マイナス1・0%に落ち込んだ。昨年来、日銀の緩和策を一因とした急速な円安が輸入品の物価高に拍車をかけ、物価上昇に賃上げが追いついていない。黒田氏の前に日銀総裁を務めた白川方明(まさあき)氏は、今月1日に公開された国際通貨基金(IMF)の季刊誌への寄稿で、この10年の緩和を「壮大な金融実験」だったとしたうえで、「インフレへの影響や経済成長への効果は控えめだった」と指摘した。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「日本の停滞は構造的な問題が要因で、(黒田氏就任当初に指摘されていた)金融政策の不足が要因ではなかったと証明された」と話す。10日の会見で、緩和後も日本の潜在成長率が低迷したことを問われた黒田氏はこう答えた。「潜在成長率は金融政策に影響されるというよりも、構造的な問題。長期的な潜在成長率を押し上げることは難しかった」
■政策正常化へ難題
 10日の国会同意により、黒田氏の後を継ぐことが正式に決まった植田和男氏は、緩和自体は当面続けつつ副作用を減じる道を探るとみられる。経済を下支えしながら金融政策の正常化を進められるのか、難題が待ち受ける。植田氏は国会で、今の金融緩和について「物価安定の目標の実現にとって必要かつ適切な手法」と評価している。注目すべきは、副作用について明確に懸念を示している点だ。長期金利を抑え込むイールドカーブ・コントロール(YCC)に関連し、「将来については、様々な可能性が考えられる」と修正の可能性を示唆する。ETFの買い入れについても、「大量に買ったものを今後どういうふうにしていくのかは大問題だ」と語る。「出口」を慎重に探るとみられる。植田氏は4月27、28の両日、総裁として初めての金融政策決定会合を迎える。すぐに政策修正に着手するとの観測も市場にある。大和証券の岩下真理氏は「最初に手をつけるのはYCCの修正だと思う。ただ、経済や物価の見通しといった判断材料はすぐにはそろわず、就任直後の政策修正はないだろう」とみる。
■<考論>負の影響大 明治安田総合研究所・小玉祐一氏
 総合的に考えると、この10年の金融政策は負の影響が大きいという印象だ。評価できるのは、緩和初期に株価が上がったことだ。ただ、経済全体へのプラス効果は、期待ほど大きくなかった。問題は副作用だ。日銀が、市場で決まるべき長期金利を人為的に低く抑え込んでいるため、適正な水準がわからなくなっている。日銀だけのせいではないが、低金利は結果的に政府の借金である国債を発行しやすい状況をつくり、財政規律がゆるんだ。低金利でないと経営が立ちゆかない、いわゆる「ゾンビ企業」が生き残り、経済全体の生産性を低くしている可能性もある。日本経済の問題は、成長戦略の乏しさだ。政府が、規制改革を軸に民間の力を引き出していくことが求められる。日銀は、短期金利を低水準に保って緩和的な環境を維持する一方、副作用が大きい長期金利の操作はやめるべきだ。黒田総裁が就く前、日本の景気が悪いのは緩和が不十分だからだ、という考え方が広がっていた。日本経済の低迷が、金融政策のせいでなかったと証明できたのは、日銀にとって意味があったのかもしれない。
■<考論>「微益微害」 みずほリサーチ&テクノロジーズ・門間一夫氏
 この10年間の金融政策は「微益微害」だったといえる。株式や為替などの市場にはプラスの影響があったが、経済成長や物価にあまり影響はなかった。ただ、副作用も現段階では国民生活に大きく影響するほどのものではない。10年前は、日本経済の停滞の原因はデフレにあるという認識が広くあり、金融政策でなんとかできるという意見が多かった。金融政策はアベノミクスの「3本の矢」のまさに1本目で、日銀は大胆な緩和をするほかに選択肢はなかった。日銀はできることを全力でやろうとしたと思う。だが、3年ほどで弾を使い果たし、あとは、緩和から発生しうる問題点をどう軽減するかという作業に努めてきた7年だったといえる。一方、なかなか進まなかったのは構造改革だ。政府は規制緩和を進めようとし、女性や高齢者が働きやすい環境づくりも進めた。ただ、改革は一気に進むものではないし、何かひとつをすれば全部解決するものでもない。少子高齢化が進む中、先進国が高い経済成長を実現させるのはそもそも難しい。その難しいチャレンジをしたが、なかなか成果が上がらなかった。そう総括できる10年だった。

*8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15578400.html (朝日新聞 2023年3月11日) 黒田総裁、国債大量保有「反省はない」 最後の定例決定会合、緩和は継続 植田新総裁、来月9日就任
 日本銀行は10日、大規模な金融緩和を主導してきた黒田東彦(はるひこ)総裁(78)にとって最後となる定例の金融政策決定会合を開き、緩和を現状通り続けると決めた。黒田氏は会合後の会見で「金融緩和は成功だった」と総括した。黒田氏の後任として植田和男氏(71)を総裁に起用する人事案はこの日、参院本会議で同意され、戦後初めて学者出身の総裁が誕生することが正式に決まった。黒田氏は4月8日に10年の任期を満了し、退任する。10日の決定会合後の会見では、10年間の緩和について「(物価が下がり続ける)デフレでない状況になり、雇用も400万人以上増加し、ベア(賃金を底上げするベースアップ)も復活し、就職氷河期も完全になくなった」と述べ、緩和には大きな効果があったとの認識を示した。ただ、就任時に目標にした2%の安定的な物価上昇は達成できなかった。黒田氏は「賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることが影響した。目標の実現に至らなかった点は残念」とした。緩和は長期化し、副作用が目立ち始めている。日銀が大量の国債を買い入れてきた結果、発行残高の半分以上を日銀が保有し、市場機能の低下が指摘される。日銀が買い入れた上場投資信託(ETF)も、緩和を終える際に売却すると株価が急落するおそれがある。しかし、黒田氏は「副作用の面よりも、金融緩和の経済に対するプラスの効果が、はるかに大きかった。副作用が非常に累積しているとか、大きくなっているとは思っていない」と主張。大量に保有する国債やETFが、次期体制に引き継がれることに反省はないか問われると、「何の反省もありませんし、負の遺産だとも思っておりません」と言い切った。国会はこの日、日銀審議委員の経験もある植田氏を新総裁とする人事案に同意した。4月9日に就任する。副総裁を前金融庁長官の氷見野良三氏(62)と日銀理事の内田真一氏(60)とする案も同意された。植田氏は国会で、緩和を続けることが適切との考えを示している。ただ、市場で決まるべき長期金利の操作が「様々な副作用を生じさせている面は否定できない」と悪影響への配慮も示しており、いずれ修正に踏み出すとみられている。黒田氏は今後について「当面、現在の大幅な金融緩和を続けて、企業が賃上げをしやすい環境を整えることが非常に重要」と指摘。植田氏については「素晴らしいエコノミストであると同時に、金融政策に精通しており信頼している。適切な政策運営がされると期待している」と話した。黒田氏は2013年3月、経済政策「アベノミクス」の柱として大胆な金融緩和を掲げた第2次安倍政権から総裁に任命された。就任直後の同年4月から、日銀は、世の中に出回るお金の量を増やそうと、大規模緩和を開始。16年1月にマイナス金利、同9月に長期金利操作の導入を決め、世界的にも異例の緩和策を続けてきた。黒田氏は18年に再任され、在任期間は歴代最長となった。

*8-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230302&ng=DGKKZO68888760R00C23A3EE9000 (日経新聞 2023,3.2) 異次元緩和「配分にゆがみ」 白川前日銀総裁 IMF季刊誌に寄稿
 白川方明・前日銀総裁は1日公開された国際通貨基金(IMF)の季刊誌に寄稿し、黒田東彦総裁による異次元緩和に疑問を呈した。金融政策が「物価に与えた影響は控えめだった」と指摘。解雇の少ない日本の雇用慣行が賃上げの弱さに影響しているとして、米欧と同じ2%の物価目標を掲げることに懐疑的な見方を示した。季刊誌は「金融政策の新たな方向性」として特集を組み、学識者や中央銀行の元幹部らが参加した。白川氏は「金融政策の基礎と枠組みを見直すとき」と題し、英文で寄稿した。白川氏はまず、低インフレの長期化で政策金利がゼロ近くに張り付くことを警戒する声について「根拠のない恐怖」と表現。実質的なゼロ金利が「景気後退時に利下げを通じて経済を安定させる能力を低下させる」とした米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の過去の発言に対しても「事実によって実証されなければならない」と指摘した。理由として日本の1人当たり国内総生産(GDP)の成長率が、日銀がゼロ金利に達して非伝統的金融政策を開始した2000年から異次元緩和前の12年にかけて主要7カ国(G7)の平均と同程度だった点をあげた。異次元緩和は、物価を押し上げる効果が小さかった一方で構造問題への改革を遅らせる「応急措置」になったとの見方を示した。長期の金融緩和で「資源配分のゆがみがもたらす生産性への悪影響が深刻になる」とした。

*8-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230224&ng=DGKKZO68721550U3A220C2MM0000 (日経新聞 2023.2.24) 消費者物価4.2%上昇 1月、41年4カ月ぶり水準
 総務省が24日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.3となり、前年同月比で4.2%上昇した。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年9月(4.2%)以来、41年4カ月ぶりの上昇率だった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に身近な品目が値上がりしている。上昇は17カ月連続。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(4.3%)は下回った。消費税の導入時や税率の引き上げ時も上回り、日銀の物価上昇率目標2%の2倍以上となっている。調査品目の522品目のうち、前年同月より上がったのは414、変化なしは44、下がったのは64だった。生鮮食品を含む総合指数は4.3%上がった。81年12月(4.3%)以来、41年1カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.2%上昇し、消費税導入の影響を除くと82年4月(3.2%)以来40年9カ月ぶりの伸び率となった。品目別に上昇率をみると、生鮮を除く食料が7.4%上昇し全体を押し上げた。食料全体は7.3%だった。食用油が31.7%、牛乳が10.0%伸びた。エネルギー関連は14.6%上がった。宿泊料は2022年12月のマイナス18.8%からマイナス3.0%となり、指数全体を押し下げる効果は小さくなった。政府が観光支援策「全国旅行支援」の割引率を縮小した影響が表れた。

*8-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230307&ng=DGKKZO69041110X00C23A3MM0000 (日経新聞 2023.3.7) 実質賃金1月4.1%減 10カ月連続減、物価高響く
 厚生労働省が7日発表した1月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比4.1%減った。10カ月連続の減少で、1月としては遡れる1991年以降で過去最大の減少幅だった。物価上昇が歴史的な水準に達し、賃金の伸びが追いつかない状況が続いている。実質賃金の下落率は消費税率引き上げ直後の2014年5月(4.1%減)以来、8年8カ月ぶりの大きさだった。さらに遡ると、リーマン・ショックの影響が残る09年12月(4.2%減)と同程度の水準となった。名目賃金に相当する1人あたりの現金給与総額は0.8%増の27万6857円と、13カ月連続で増えた。基本給にあたる所定内給与は0.8%増、残業代などの所定外給与は1.1%増えた。就業形態別に現金給与総額を見ると、正社員など一般労働者は1.3%増の36万510円、パートタイム労働者は0.8%増の9万8144円。1人当たりの総実労働時間は、1.4%減の127.7時間だった。実質賃金の算出で用いる物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)の上昇率は1月に5.1%で、22年12月から0.3ポイント伸びた。新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開に伴って名目賃金は増えたが、消費者物価の上昇率に及ばない。実質賃金が下がる状況が続けば家計の購買力が低下し、景気の下振れ圧力になる。23年の春季労使交渉(春闘)は3月半ばに集中回答日を迎える。岸田文雄首相は1月、「インフレ率を超える賃上げの実現」を経済界に要請した。

*8-2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/231052 (東京新聞社説 2023年2月14日) 日銀新総裁 暮らしの安定最優先に
 政府は十四日、日銀の新総裁に経済学者の植田和男氏(71)を起用する人事案を国会に提示する。新総裁は大規模な金融緩和策の功罪と向き合うことになるが、足元では急激な物価高が起きている。暮らしへの配慮を最優先した金融政策を強く求めたい。植田氏は衆参両院の同意を得られれば内閣からの任命を受け、四月九日から黒田東彦総裁の後任として就任する。金融政策を専門とする植田氏は一九九八年、東大教授から日銀審議委員となった。この間、九九年に世界に先駆けて日銀が実施したゼロ金利政策導入に深く関わり、二〇〇〇年にゼロ金利が解除された際には強く反対した。今回総裁人事の報道が出た後も「金融緩和の継続が必要」と発言している。植田氏が就任した場合、過去の姿勢や発言だけで黒田総裁の異次元金融緩和路線を踏襲するとみるのは早計だ。植田氏は日銀による国債引き受けには懐疑的な姿勢を見せており、一定の時間をかけて政策の修正を図るだろう。黒田総裁がけん引する緩和路線は副作用が目立っている。国債購入は野放図な財政出動の温床となった。異常な低金利で年金生活者を中心に多くの人々が得られたはずの金利収入を失った。利ざやで稼げない地方銀行の経営難も続いている。一方で雇用は統計上安定し、株価も大幅に上昇した。新総裁は就任後、黒田路線の功罪を深く検証し金融政策に生かす必要がある。その際、緩和を続けても賃上げを伴う資金の好循環が起きない理由についての見解を、今後の処方箋とともに説明すべきだ。日銀は一三年、当時の安倍政権と金融緩和を推進する政策協定を結んだ。黒田総裁はかたくなに協定を守る一方、物価高への対応は後手に回った。政権と日銀の連携は否定しないが金融政策の手足を縛る協定なら見直しが必要だ。物価は二月以降も高水準で上昇し、節約も限界にきている。金融市場や政治との駆け引きも大事だが、日銀の最大の役割は物価を安定させ人々の生活を守ることにある。新総裁には「物価の番人」としての使命を肝に銘じ、人々の暮らしに寄り添った金融政策を実行してほしい。

*8-2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230312&ng=DGKKZO69192670R10C23A3MM8000 (日経新聞 2023.3.12) インフレが問う貯金神話 デフレの成功足かせ、目減り、48年ぶり規模
 インフレが家計の資産を静かにむしばんでいる。2022年には、預貯金の購買力の低下度合いが48年ぶりの大きさとなった。物価が下がるデフレ環境では成功だった預貯金偏重が問われている。「個人が肌感覚でインフレを実感し始めたのが大きな転機になった」。独立系金融アドバイザー(IFA)のファイナンシャルスタンダード(東京・千代田)の福田猛代表は顧客の変化を実感する。ここ数カ月、インフレを考慮した運用の相談が急増した。2月の相談件数は前年同月比3割増えた。2%のインフレ率を前提に、30~50代には世界株式、60代以降のシニア世代には債券や高配当株を薦めているという。生鮮食品を含む消費者物価指数(20年=100)は21年末の100前後から今年1月に104.7まで上昇した。電気代補助金などで抑制されるものの、今後2年で106~107程度まで上がるとみられている。定期預金金利(1年物で0.02%程度)では焼け石に水だ。預金金利から物価上昇率を引いた預金の購買力低下は22年はマイナス4%近かった。石油危機で物価が高騰した1974年以来の低さだ。家計金融資産に占める現預金の割合は日本は54%と、欧州の35%や米国の14%に比べ高くインフレの影響を受けやすい。なぜ、預貯金に偏ったのか。東京海上アセットマネジメントの平山賢一氏は「預貯金が成功体験になっている」と指摘する。80年代まで1年物の定期預金金利は5%前後あり、70年代の石油危機による物価高騰時を除き「インフレに勝てる資産だった」(平山氏)。90年代半ば以降は預金金利がほぼゼロになる一方、デフレ入りして物価は下がり預貯金の購買力はむしろ強まった。株価は89年のバブル高値から長期停滞し、預貯金が資産管理の正解だった。ただ、物価上昇率がプラス圏に浮上し、日本株が上昇に転じても預貯金偏重が変わっていない。日本人の金融資産が生み出す稼ぎは欧米に比べても小さくなっている。ニッセイ基礎研究所の高山武士氏によると、日本の可処分所得は2万3200ドルとドル建てでは米国(5万4700ドル)の半分だ。給与など労働所得の差が1.7万ドルあるうえ、利子や配当といった資本所得が1.2万ドル違う。ユーロ圏とは労働所得に差はないものの資本所得で0.3万ドル劣る。「個人が国内株に資金を投じ、企業の成長に伴い労働所得も資本所得も増える好循環が成り立っていない」(ニッセイ基礎研の高山氏)。機会損失は大きい。龍谷大の竹中正治教授の算出方法に基づき01年度末の家計の株式・投信が実際より20ポイント高い28.7%だった場合の資産の伸びを試算した。21年度末の家計金融資産は約3200兆円と実際の約2000兆円に比べ約1200兆円多い。仮に、株・投信の期待利回りが実際の年7%に比べ低く年2~3%であっても180兆~300兆円の機会損失の計算だ。米国も70~80年代には株・投信の比率は15%程度と現在の日本と同じだった。「個人退職勘定(IRA)や企業型確定拠出年金(401kなど)の整備が投資を後押しした」(龍谷大の竹中教授)。米企業は多角化経営の見直しやサービス産業へのシフトで収益力を高め、株式投資が米国人の成功体験となった。22年は米銀の社債などに投資する元本確保型の投信が銀行窓販を中心に相次ぎ1000億円強を集めた。インフレで預貯金もじわり動き出している。日本政府は資産所得の倍増を目指し少額投資非課税制度(NISA)の拡充を決めた。「貯蓄から投資」がもたらす好循環実現には企業の力も必須のピースとなる。

<リーダーに女性が少ないことのディメリット(4)
              ← 生命や地球環境を重視した改革の停滞>
PS(2023年3月16日追加): *9-1-1のように、世界ではロシアのウクライナ侵攻で再エネの導入が加速し、2022年は2021年の1.4倍になるそうだ。一方、日本は、1970年代にオイルショックを経験したにもかかわらず、地球環境を護りつつエネルギーの自給率を上げる工夫を行わず、「再エネは原子力・火力と違って24時間安定的に発電できない」などという馬鹿なことを言って輸入化石燃料にしがみつき、「これが最後のチャンスだ」と言って原発依存に舵を切った。しかし、これらの方針の積み重ねが、日本企業の収益力を下げ、国民生活を圧迫し、国債残高を膨らませてきたことを決して忘れてはならない。また、日本政府は、*9-1-2のように、原発への武力攻撃を想定外として楽観視してきた。最近は「弾道ミサイル等で攻撃された場合は、海上自衛隊のイージス艦や航空自衛隊のPAC3等で多層的に迎撃する」と説明しているが、原発は原子炉がミサイルで直接破壊されなくても送電網や配管が損傷すれば大事故に繋がるため、本当に守ることはできないし、原発攻撃を受けた後で国際法違反で攻撃した国を戦争犯罪に問うても、汚染された土地が元に戻るわけではない。なお、*9-1-3のように、原発立地自治体は、国に安全対策の強化を求めているそうだが、さらに原発に税金をつぎ込んでも効果は限られ、金食い虫に餌をやるようなものであるため、それよりは送電網を整備して再エネを推進した方がよほど根本的解決になるのだ。そして、すでに不安を感じている人が多いのであれば、安全神話が存在するわけではなく、再エネという代替電力もあって原発が国のエネルギーを支えているわけではないため、次に事故が起こった場合は国民全体に負担をかけるのではなく、「原発を稼働させたい」と主張した立地自治体が責任を負うのが筋であろう。
 このような中、*9-1-4のように、フクイチの事故処理費用は年1兆円(きっちりしすぎた数字だが・・)で、2021年度までに約12兆円が賠償・除染・廃炉作業などに充てられ、東日本大震災から12年経っても廃炉や除染の道筋が見通せないのだそうだ。除染費用だけで2022年末時点で累計4兆円を超え、2023年度以降も兆円単位で増える可能性があるそうだが、一部だけ除染しても放射性物質は風や雨で移動し、地産の農水産物も汚染されるため、避難指示を解除されたからといって安全を重視する住民が戻れないのは当然だ。そのため、これを続けるのか、さらにもう1か所も2か所も同じことが起こるとどうなるのか、という話になるのである。しかし、岸田首相はじめ自民党は、*9-1-5のように、「原発依存度を可能な限り低減する」とした政策を大転換し、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰を理由に原発の最大限の活用を掲げたが、フクイチ事故は今でも収束の見通しが立たず、大規模集中型の原発の方がむしろ不安定で、小規模分散型の再エネの方が危機に強く安定供給できて、気候危機にも対応できることが、今や世界の常識となりつつある。このように、政府がいつまでも時代遅れのことに多大な政策資源を投入し、気候危機対策の主役である再エネ拡大のための投資や制度改革をしないのも、エネルギー価格を高止まりさせて国内企業の収益力を下げ、国民生活を圧迫している重要な原因なのである。米ローレンスバークリー国立研究所の研究グループが、蓄電池の導入・送電網の整備・政策の後押しなどで、日本は2035年に再エネ発電比率を70~77%まで増やせるとの分析を発表したが、私はやり方によってはそれ以上だと思っている。
 なお、日本道路などが、*9-2-1のように、駐車場や歩道に埋め込む太陽光パネルを開発し、国内の道路面積は77万haあるため、そこに太陽光パネルを敷き詰めると出力は原発335基分の335ギガワット以上になるそうだ。また、窓や農業用ハウスに無理なく設置できる製品も出ているため、地産地消のエネルギーとしての可能性が高い。ドイツのBASFとカナダのソーラーアーステクノロジーズが開発した路面一体型は、エネルギーの変換効率が12.7%で、2023年4~6月から中国の北京・上海、北米、アジア、アフリカ、欧州等で実証実験を行うそうで、フランスの道路建設大手コラスも、2019年に駐車場等に設置する太陽光