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2022.1.2~9 2022年度の予算案・税制改正大綱・物価など (2022年1月10、14、15、16日に追加あり)
(1)2022年度予算案について


2021.12.24時事  2021.12.24中日新聞  2021.12.25日経新聞  2020.12.21時事

(図の説明:左3つの図のように、2022年度予算案107兆5,964億円の34.3%は国債発行で賄われており、税収で賄われているのは60.6%で、税外収入も5.1%しかない。しかし、1番右の図のように、2021年度予算案も106兆6,097億もある)


 2020.6.10日経新聞  2021.12.26日経新聞       人口動態の推移

(図の説明:1番左の図のように、地方自治体の歳入も、地方税で賄われているのは40.2%で、地方交付税《19.1%》、国庫補助金《14.7%》などとして33.8%を国に依存しており、税外収入は少ない。その結果、中央の図のように、日本の債務比率は世界でも群を抜いて高くなっているため、このようなことが起こる原因究明と解決が最も重要なのである。なお、右図のように、ある年の出生数はその年の年末にはわかるものなので、少子高齢化は突然の出来事ではなく、人口動態はずっと前からわかっていたことだ)

 政府は、2021年12月24日、一般会計総額が過去最大の107兆5964億円となる2022年度予算案を決定した。

 このうち社会保障費は、36兆2735億円で最大ではあるが、契約に基づいて国民から社会保険料を徴収し、サービスの提供時に国が支払うものであるため、*1-1のように、社会保障費を国債の「元本返済分+支払利子」である国債費と合計し、「固定費」と考えること自体が会計の基礎的な考え方を全く理解していない。

 社会保障費は、人口の多い団塊の世代の医療費が膨らむ頃に支出が自然増しても、契約に従って支払っている限り予測可能だったのであり、支出規模が大きいからといって勝手に減らすことは契約違反であると同時に、それを生活の糧としている人々の生活を脅かす。ただ、社会保障費も細かく見れば、子ども医療費の無償化(無償はよくない)などの無駄遣いもあるが、生産年齢人口へのバラマキ的な補助金こそ、かえって産業を衰退させ無駄遣いにもなるのである。

 なお、「新型コロナ禍対策で積み上がった債務の返済」と記載されているものも、私がこれまで指摘してきたとおり、必要なことはせずに不必要なことばかりして無駄遣いが多すぎ、全体として全く納得できないものになっている。

 それらの結果として、2022年度末の建設国債と赤字国債などの残高合計は1026.5兆円、償還と利払いに充てる国債費は24兆3393億円になる見通しで、*1-2に書かれているように、日本の政府債務は2021年にGDP比256.9%と比較可能な187カ国で最大となり、続く2位以下には209.9%のスーダンなどの発展途上国が並び、現在の日本の状況は、戦費の調達などで財政が悪化した第2次世界大戦当時並みなのだそうだ。

 なお、消費税の価格転嫁やインフレ目標は、実質賃金(2025年、20~64歳の生産年齢人口は全体の54%)や実質年金(2025年、65歳以上の高齢者は全体の30%)を密かに下げる手段になっているため、消費は喚起されるわけがなく、このようなことを30年以上も続けてきた結果、「経済成長」とは程遠い環境になった。そのため、この失政の責任を誰がとるのかは、最も重要なポイントである。 

 そのような地域で、異次元の金融緩和をしたり、分配政策として賃上げ税制を盛り込んだりしても、消費(企業から見れば「売上」)は乏しく、地代・賃金・光熱費などのコスト(企業から見れば「原価」)は高いため、投資後に回収可能な企業は少なくなり、余剰資金があっても国内で投資せずに海外で投資することになる。そして、これが、日本における産業空洞化の原因だ。

 なお、先端技術開発や国際競争力の強化など成長戦略に充てる予算は必要だが、日本で最初に始めたため補助金などとっくにいらなくなっている筈の再エネやEV技術も、未だに「世界に周回遅れ」などと言っている始末だ。そのため、こういうことが起こった理由を徹底的に追及し、それを無くさなければ、同じことを何度も繰り返すことになる。

 私は、日本政府が賢い支出の割合を増やし、財政健全化を達成するためには、世界で導入されている公会計制度を導入し、資産・負債・純資産・収支を正確に把握して、お手盛りにならないように外部監査人の監査を受け、国会議員や国民に速やかに開示して議論する「Plan Do Check Action」のシステムを作る必要があると考えている。

(2)2022年度税制改正大綱について

  
  2021.12.11    2021.12.11          財務省
  西日本新聞     毎日新聞

(図の説明:左図は、2022年度税制改正の主な項目で、中央の図は、賃上げ税制強化のイメージだ。しかし、右図のように、国の歳出は歳入を大きく上まわり、差額が国債残高純増となっているのである)


     E plan       2019.11.2Eco Jornal     2019.7.26毎日新聞

(図の説明:左図は、主な炭素税導入国の制度概要で日本も2012年に導入されているが、税率が低い。中央の図は、主要国の実効炭素価格《炭素排出費用》で日本は低い方だ。右図は、現行の地球温暖化対策税で、CO₂排出1tあたり289円が原油・ガス・石炭にかかっている)

1)賃上げ企業への優遇税制について
 自民・公明両党は、2021年12月10日、*2-1のように、岸田首相が掲げる分配政策として賃上げ企業への優遇税制の拡充を柱とする2022年度の与党税制改正大綱を決めた。

 その内容は、①2022年度から大企業は4%以上の賃上げ等の実施で最大30%、中小は2.5%以上の賃上げ等で最大40%まで控除率を引き上げる ②給与総額の計算方法も大企業は前年度から継続して雇う人の給与総額から判断し、中小は新規雇用者の分も含める とのことである。

 民間税調は、*2-2のように、③赤字法人が6割あるため賃上げ税制だけでは不十分 ④産業別労組が団体交渉してその産業で働く労働者の最低労働価格を決めるのが解決への道 ⑤その賃金を払えない企業が低価格で商品・サービスを販売することを不可能にし、それなりの高価格での商品・サービスを消費者に受け入れさせるべき ⑥企業の内部留保が増えるのは賃下げも一因 ⑦日本は企業の内部留保に課税しない 等としている。

 しかし、①②については、賃金を上げればその分は損金算入(無税)できるので、それ以上に税額控除するのは至れり尽くせりすぎると思う。また、③の赤字法人は、賃上げすれば倒産するような企業であるため、雇用を失うか、低賃金で働くかの選択になっているのである。

 さらに、④⑤については、そういう産業があってもよいが、原価と販売単価が上がれば、当然のことながら、それだけ消費が減ることを考慮しておくべきである。なお、⑥⑦のように、内部留保を目の敵にする記述が多いが、どういう意味の内部留保かによって企業にとっての必要性が異なるため、「内部留保は吐き出すことがよいことだ」という論調に、私は与しない。

 それより重要なことは、日本の賃金上昇を妨げている一番の要因である終身雇用の原則をやめることである。日本で中途退社した人は、あたかも、イ)同僚より能力がなかった ロ)同僚より忍耐が足りなかった 等々として、同じ会社に勤め続けた人よりも不利な給与体系に置かれたり、負け組のような言われ方をしたりするから、転職できないのである。そのため、労働市場でそのようなことを徹底してなくすことが、労働移動を容易にするKeyになるのだ。 

2)金融所得への課税強化について
 株式の配当・売買益にかかる金融所得課税について、与党税制改正大綱は、*2-1のように、現行の金融所得の税率20%を引き上げることを念頭に「税負担の公平性を確保する観点から、課税のあり方について検討する必要がある」と記載しつつ見送り、将来の実施時期も明示しなかったそうだ。

 私も、金融所得は総合課税されず税率も低いため、国民間では不公平・不公正だと思うが、外国もそうである以上、国際間で揃えておかなければ日本国内への投資が減るため、「一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう配慮する」としたのは理解できる。

 その理由は、これから著しく経済成長する国で投資の回収率が高ければ、税率が高くても投資が行われるが、そうではない国の税率が高ければ、最も他国へ逃げ易いのが投資(=金融資産)だからである。

3)住宅ローン減税について
 住宅ローン減税は2025年まで4年間延長する一方、*2-1のように、ローン残高に応じて所得税・住民税を差し引く割合を1%から0.7%に縮小し、ローンの借入限度額は新築・省エネ性能に優れた住宅を優遇するそうだ。

 しかし、省エネ性能に優れた住宅を優遇するのはよいが、人口が減少し始めて空き家が目立つ時代に、新築住宅を優遇し続けて優良農地を際限なく住宅地にしていくのは時代錯誤だと考える。それよりも、街の再生をしたり、空き家を改築したりした人に税制優遇した方がよいのではないか?

4)環境税について
 上の下の段の図のように、日本も2012年に地球温暖化対策税として、CO₂排出1tあたり289円の炭素税が原油・ガス・石炭にかかっているが、主要国の実効炭素価格《炭素を排出する費用》と比べると、税率が低い。

 私は、これを世界でヨーロッパに合わせて環境税として徴収し、世界の森林・田園・藻場の維持・管理費用に充てるのがよいと考える。その理由は、そうすることによって国間の不公平をなくし、同時に、地球温暖化対策の財源にすることができるからである。

(3)日本の所得格差について

 
                 2021.10.16日経新聞   

(図の説明:左図のように、日本の年収水準だけが上がっていない。また、中央の図のように、米英は所得の偏在が大きく、日本は小さい。さらに、2010年代に日本の所得格差は縮小しており、みんなで貧しくなって平等に近づいた感があるが、これでいいのだろうか? そのため、何故、こうなったのかについての正確な原因分析が必要である)

 自民党総裁選で、*3-1のように、金融所得への課税強化が焦点の一つになり、推進派は格差是正の狙いを訴え、慎重派は株式市場への影響を懸念したそうだ。(2)の2)に書いたとおり、不平等の解消効果はあっても、金融資金の海外逃避による株価の下落は明らかである。

 また、「貯蓄から投資へ」という声もよく聞くが、金融資産は高収益と安全性が対立するため、安全性を保ちつつ収益性を高めるには、分散投資するのが普通だ。また、為替差損益を含めた安全性が高く、利率も高い国の金融資産を選ぶことにもなるため、国内の安定性や公平性だけを見て政策を決めていると、日本経済に金融面からも打撃を与えることになる。

 なお、社会における収入格差の程度を計測するための指標であるジニ係数は、*3-2のように、日本は2010年に0.336で、社会が不安定化する恐れがあると言われる0.4以下だが、2020~2021年に新型コロナで経済を停止したため、2021年末時点では0.4を超えているかもしれない。しかし、日本のデータは2010年が最新だそうで、このように、日本はデータの迅速性・正確性が乏しく、データに基づく政策形成ができていないことも重要な問題なのである。

(4)補助金を減らして税収・税外収入を増やす方法

  
                        農水省          農水省

(図の説明:1番左の図のように、輸入農産物を国内生産するには、現在の2.5倍の耕地面積が必要と言われているが、左から2番目の図のように、耕作放棄地が耕作地と同じくらいの面積に達している。耕作放棄されるのは、その土地で農業を続けても収入が低いからであるため、農業を続けていれば再エネ発電で電力収入も得られるよう、右図のように、農林漁業地帯で計画的に発電機設置に補助すれば、再エネ発電が増えて耕作放棄地は減るだろう)

1)再エネの普及と送電網の整備
 (電気事業者の関連機関の試算では投資は総額2兆円超になるため)日本政府が、*4-1のように、再エネ普及のため2兆円超を投資し、都市部の大消費地に再エネ由来の電力を送る大容量次世代送電網をつくることを決定し、岸田首相が2022年6月に策定するクリーンエネルギー戦略で示すよう指示して、政権をあげて取り組むことを明示されたのはよかった。

 これに先立ち、安倍首相時代に(私の提案で)電力自由化が行われ、2016年4月1日以降は電力小売への参入が全面的に自由化されたため、全ての電力消費者が電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになっている。そのため、地域間の電力を融通する「連系線」が充実すれば、大手電力を含むすべての電力会社が再エネ由来の電力を販売しあうことができるようになるだろうし、そうならければならない。

 しかし、①2030年度を目標に北海道と本州を数百キロメートルの海底送電線で繋ぐ ②北海道から東京までを4倍の同400万キロワットにする ③九州から中国は倍増の同560万キロワットにする ④送電網を火力発電が優先的に使う規制を見直し、再エネへの割り当てを増やす ⑤「交流」より遠くまで無駄なく送電できるため、送電方式は欧州が採用する「直流」を検討する ⑥岸田首相は夏の参院選前に看板政策として発表し政権公約にする ⑦主に送配電網の利用業者が負担し、必要額は維持・運用の費用に利益分を加えて算定する とされているのは、無駄が多くて大手電力会社優遇にもなっている。

 具体的には、①②③については、既存の鉄道・道路の敷地を使って送電線を敷設すれば、網の目のように送電線を敷設することが可能で、これなら、*4-7の粘菌の輸送ネットワークの合理性が道路・鉄道・インターネットだけでなく送電線にも応用できるため、経済合理性がある上にセキュリティーでも優れている。

 また、鉄道会社が遠距離送電網を所有すれば送電料が鉄道会社に入るため、送電会社は電力会社間では中立になると同時に、過疎地の鉄道維持がしやすくなる。さらに、④⑦のように、送電網を火力発電や原子力発電に優先的に使わせて大手電力に利益を落とすような経産省による非科学的で意図的な規制を排除することができるのである。

 その上、⑤についても、直流で動く機器が多いため、送電も直流で行うのは合理的であるし、⑥のように、夏の参院選の看板政策にしようとすれば、そこまで徹底して行うべきだ。

 環境省は、*4-2のように、2022年1月25日から脱炭素に集中的に取り組む自治体を募集し、電力消費に伴うCO₂排出量を実質0にする先行地域を2030年度までに20~30カ所選んで国が再エネ設備の導入等を支援し、環境配慮の街づくりの成功モデルを育てるそうだ。自治体は、上下水道・ダム・市道・県道などを所有しているため、地域内で発電したり、電線を地中化したりするのに役立ちそうで、複数の自治体による応募や企業・大学との共同提案も認めれば、面白いモデルが出てきそうである。

 さらに、*4-3のように、農水省は、環境に配慮する農家や食品事業者への支援策を拡充して化学農薬を低減できる農業機械を導入する生産者の所得税・法人税を軽減したり、食品事業者等の中小企業が建物を整備する場合も対象としたりするそうだ。

 しかし、農林漁業地帯に生産に支障のない形で再エネ設備を置いて機器を電動化すれば、光熱費無料で、エネルギーを販売しながら食品生産を行うことができるため、農業の利益率が上がり、農業補助金が不要になるため、まず、それを可能にすることが重要である。

2)原発は必要か
 EUの欧州委員会が、2022年1月1日、*4-5のように、「原子力と天然ガスは、一定の条件下なら持続可能」とし、脱炭素に貢献するエネルギーと位置づける方針を発表したそうだ。しかし、EUの炭素税や個人情報保護規制には賛成だが、原発依存度の高いフランスや石炭に頼る東欧諸国が「原発やガスは脱炭素に資する」と認めるよう訴えても、CO₂は排出しないが有害な放射性物質や放射性廃棄物を出す原発やCO₂を出す天然ガスをいつまでも持続可能とするのは無理がある。

 そのため、脱原発を決めたドイツが科学的かつ先進的であり、とりわけ地震・火山国である日本に原発という選択肢はない。それよりも、農林漁業地帯で再エネ発電をした方が、よほどクリーンで国や地方自治体の財政に資するのである。

3)EVについて
 再エネで電力を自給することによって光熱費を下げ、国富の海外流出を防ぎ、日本が資源大国になって財政を健全化するには、EVやFCVを積極的に導入する必要がある。そのためには、*4-4のように、日本通運・ヤマト運輸・日本郵便・佐川急便などの商用車を迅速にEV・FCVにする必要があり、米カリフォルニア州の「州内で販売する全てのトラックを2045年までにEV・FCVにする規制」が参考になる。

 また、EVの発展と普及に伴って、*4-6のように、より高いエネルギー密度と安全性・長寿命を期待できる全固体電池の研究開発が活発化し、現在では、商用化に近づいているそうだ。そのため、次は、他の機械への幅広い応用が望まれるわけである。

・・参考資料・・
<2022年度予算案>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211225&ng=DGKKZO78786120V21C21A2MM8000 (日経新聞 2021.12.25) 107兆円予算案、減らせぬ費用多く 社会保障・国債費60兆円超、新規事業1%未満、成長に回らず
 政府は24日、一般会計総額が過去最大の107兆5964億円となる2022年度予算案を決定した。高齢化で膨らむ社会保障費と、巨額借金の返済でかさむ国債費の合計は初めて60兆円を超えた。なかなか減らせない「固定費」ともいえる社保・国債費が予算全体に占める比率は6割に迫り、予算の硬直化が進む。新規事業は全予算の1%に満たず、成長分野に予算が回っていない。項目別にみて最も支出規模が大きいのが歳出総額の3割を占める社会保障費だ。36兆2735億円と21年度当初予算に比べて4393億円(1.2%)増えた。22年からは人口の多い団塊の世代が医療費が膨らむ75歳以上になり始め、高齢化で支出が自然に増えていく圧力が強まっている。薬の公定価格(薬価)の引き下げや繰り返し利用できる処方箋による通院抑制で自然増を2000億円程度抑えたが、膨張は止まらない。新型コロナウイルス禍対策で積み上がった債務の返済が歳出規模を押し上げる構図も鮮明だ。22年度末の建設国債と赤字国債などの残高は計1026.5兆円と過去最高になる見通し。償還や利払いに充てる国債費は24兆3393億円と5808億円(2.4%)増え、2年連続で過去最高を更新した。社会保障費と国債費の合計は60.6兆円に達する。20年で7割増え、総額の56%を占める。ほかの政策に予算を振り向ける余力が狭まっている。国の政策に使う一般歳出のうち社会保障費以外は計26兆1011億円。この10年の伸びは1割に満たず、伸びた要因も防衛費の影響が大きい。岸田文雄政権は22年度予算案を「成長と分配の好循環」に向けた予算案と位置づける。ただ目玉政策には新味に欠けるメニューが並ぶ。例えば分配政策として盛り込んだ経済産業省の「下請けGメン」。企業の下請け取引の適正化に向けたヒアリング調査員を248人に倍増する。実態は消費増税の価格転嫁が大企業などに向けて適切に実行されているかを調べる「転嫁Gメン」の減員(約240人減)とワンセット。目新しさは乏しく、予算額も全体でみれば減額だ。成長戦略への配分の余地も限られている。主要省庁の予算資料で「新規事業」として計上された主な事業を集計すると、全体で4300億円程度。歳出総額に占める割合は1%に満たない。ただ菅義偉前首相が決めた不妊治療の保険適用拡大(計174億円)など社会保障費もこの中に含まれる。先端技術の開発や国際競争力の強化など成長戦略に充てる予算は、約4300億円の積み上げベースの数値よりも小さい可能性がある。政府は22年1月召集の通常国会に予算案を提出する。22年度予算案は20日に成立した21年度補正予算と一体で編成した。双方を合わせて「16カ月予算」と位置づける。予算編成では本予算の膨張を抑えるため、本来は緊急性の高い支出に絞る補正予算で、各省庁の予算要求に応える手法が常態になっている。財務省も本丸の本予算を守るために容認してきた。今回は21年度の補正予算が最大に膨らんだのに22年度の当初予算案も最大を更新。本予算も伸びを抑えられなかった。本予算には構造的な支出で歳出に足かせがはまる一方、補正予算は甘い査定でバラマキともとれる政策が積み上がる。「賢い支出」につなげるには、使い道の精査やメリハリある配分への取り組みが欠かせない。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211226&ng=DGKKZO78790520V21C21A2EA3000 (日経新聞 2021.12.26) 107兆円予算、財政膨張どこまで 市場の警戒感は薄く
 政府が24日に閣議決定した2022年度予算案は一般会計が過去最大の107兆円に膨らんだ。政府債務は国内総生産(GDP)比で世界最大。異次元の金融緩和による低金利の環境が財政拡張を支える構図がある。財政の信認は円の信認にもかかわる。微妙な均衡はどこまで保てるのか。今回の予算案で新規国債の発行は減った。市場での発行額は198.6兆円と21年度から13.6兆円減る。税収増による財源確保を見込むためだ。それでも国債残高は1000兆円に達し、財政の悪化に歯止めはかからない。国際通貨基金(IMF)の試算で、日本の政府債務は21年にGDP比256.9%と比較可能な187カ国で最大だ。続く2位以下には209.9%のスーダンなど途上国が主に並ぶ。現状は戦費の調達などで財政が悪化した第2次世界大戦当時並みともいえる。この数字だけみれば「円離れ」が起きてもおかしくない。実際には、急な金利上昇(債券価格の下落)が起きるとの見方は少ない。債券市場の落ち着きは複雑なバランスで成り立っている。ひとつは10%以下で推移する外国人保有比率の低さだ。世界銀行の20年リポートによると、国債は海外民間投資家の保有比率が20%を超えると価格急落(金利急上昇)の懸念が高まる。この水準はまだ遠い。債務国ではない余裕もある。対外純債権は20年末時点で356.9兆円と30年連続で世界最大だった。さらに日銀が長期金利をゼロ%に誘導する長短金利操作を続けている。日銀が買い支える安心感から、金融機関などがゼロ金利でも国債を保有する。国債が安定的に消化され、利払い費も増えないので、財政拡大の抵抗感が薄まる。財政支出はどこまで拡大できるのか。近年注目された現代貨幣理論(MMT)によれば、自国通貨建てで資金調達できる政府は過度なインフレが起きない限り、債務の増大を懸念する必要はない。インフレを制御できるかは誰も証明できていない。足元では米欧の高インフレの波が日本に及ぶ兆しがある。11月に企業物価は原油高などで41年ぶりの伸びとなった。水面下に沈んでいた消費者物価上昇率も3カ月連続のプラスだ。この流れが加速するようだと金融政策も緩和一辺倒ではいられなくなる。賃上げが鈍いのに物価だけが上がる難しい状況で利上げを迫られる可能性もある。予算案を決めた24日、鈴木俊一財務相は25年度の財政健全化目標を維持したいとの考えを表明した。政策経費を新たな起債に頼らずまかなえる目安となる基礎的財政収支黒字化の旗を降ろさない構えだ。今後の目標見直し論議にクギを刺したともいえる。政府は「国を実験場にする考え方は持っていない」(麻生太郎前財務相)との立場だ。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「危機のマグマがたまっている」とみる。通貨が大量に発行されている今の均衡が崩れれば金利の急騰や円安の加速を招きかねない。新型コロナウイルス対応で財政の役割が重くなったとはいえ、野放図な拡張には危うさがつきまとう。カナダやスイスなどが21年に新しい財政健全化方針を打ち出した。日本でも財政規律を保つ透明な仕組みを求める声がある。東短リサーチの加藤出社長は、政府から中立の立場で財政を監視する「独立財政機関」を持つべきだと説く。独立機関を持たない国は先進国ではもはや少数派なのが現実だ。

<2022年度税制改正大綱>
*2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/148141 (東京新聞 2021年12月10日) 賃上げ促進税制の一方で金融所得課税強化は見送り 22年度税制改正大綱
 自民、公明両党は10日、2022年度の税制の見直し内容を示す与党税制改正大綱を決めた。岸田文雄首相が掲げる分配政策の一環として、賃上げ企業への優遇税制の拡充を柱とした。株式の配当や売買益にかかる金融所得への課税強化は「検討が必要」と記載しながら今回も見送られ、将来の実施時期を明示しなかった。現行の賃上げ優遇税制は、大企業が前年度より給与総額を増やした分の最大20%、中小企業で最大25%を控除率として法人税額から差し引く。22年度からは、大企業は4%以上の賃上げなどの実施で最大30%、中小は2・5%以上の賃上げなどで最大40%まで控除率を引き上げる。賃上げ率以外に、給与総額の計算方法も企業規模で異なる。大企業では前年度から継続して雇う人の給与総額から判断するが、中小では新規雇用者の分も含める。住宅ローン減税は25年まで4年間延長する一方で、ローン残高に応じて所得税と住民税を差し引く割合を1%から0・7%に縮小する。その上で、ローンの借入限度額は、新築で省エネ性能に優れた住宅を優遇する。新型コロナウイルス対策として設けた固定資産税の負担軽減措置は、住宅地は予定通り本年度で終了。商業地は22年度も続け、コロナ禍で売り上げが落ち込む企業に配慮する。一方、首相が自民党総裁選時に目玉政策に挙げた金融所得課税の強化は見送られ、次年度の検討事項となった。与党は大綱で、現行の金融所得の税率20%を引き上げることを念頭に「税負担の公平性を確保する観点から、課税のあり方について検討する必要がある」と記載。ただ、実施時期を明記せず、「一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう十分に配慮する」として慎重姿勢もにじませた。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は10日の会見で、賃上げ優遇税制の導入で「1000億円台半ば」の国税減収を、固定資産税の負担軽減措置の一部継続で「450億円程度」の地方税減収を見込んでいると明らかにした。

*2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/26ccec473ee40e52b2c89f5f1475c7622289ccf7 (Yahoo 税理士ドットコム 2021/12/29) 「安い日本」を変えるのに賃上げ税制では不十分 民間税調、税制改正大綱を斬る
税法や経済学の専門家などでつくる民間税制調査会(民間税調)は12月下旬、2022年度の税制改正大綱を総点検するシンポジウムを開いた。毎年恒例のシンポジウムで、今年は大綱の柱の賃上げ税制にクローズアップし、なぜ日本の賃金が上がらないのか専門家が意見を交わした。(ライター・国分瑠衣子)
●「業界別の最低賃金設定」が話題に
 民間税調は租税法の第一人者で、前青山学院大学長の三木義一氏や経済学を専門にする大学教授などでつくる。「日本の税制にもの申す組織」として税制のおかしな点や話題になったニュースについてYouTubeやサイトで発信している。難しい上にあまり知られていない税について興味を持ってほしいという狙いだ。今回のシンポジウムでクローズアップされたのが、2022年度の税制改正大綱の柱である賃上げ税制だ。従業員の賃上げに積極的な企業は法人税の控除率を優遇する。大企業では現行の15%を最大30%、中小企業では最大40%に引き上げるのでかなり大きい優遇策だ。しかし、民間税調は賃上げ税制で恩恵を受ける企業は限定的とみる。「そもそも前提として税金を払っていないと控除は受けられない。日本はコロナ前でも赤字法人が6割もあるのに、税金というインセンティブでいいのだろうか」(青木丈・香川大学教授)。実際に賃上げが実現する策として、民間税調のメンバーで元参議院議員の峰崎直樹氏は独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長による 「情報労連リポート」の寄稿記事を紹介した。濱口氏の寄稿によると、「安い日本」から転換するには個別企業の枠を越えて、産業別に労働組合が団体交渉をして、ある産業の中で働く労働者の労働の価格の最低額を決めることが解決の筋道になると提言している。産業別に労働の価格の最低額を決めることで、その賃金が払えないような企業が低価格で商品やサービスを販売することを不可能にする。それなりの高価格での商品やサービスを消費者に受け入れてもらうという筋道だ。日本以外の先進国では産業別労働組合や産業別団体交渉は一般的だという。事業者が協定して価格を決めるのはカルテルで独禁法違反になるが、濱口氏は寄稿の中で「労働組合が『合法的なカルテル』だからこそできる」と説明する。そして政府の賃上げ要求と産業別の最低賃金制度を組み合わせて、バーチャルな産業別賃金交渉の場をつくることが方法の一つとしている。賃上げを要求する土俵を個別企業から業界全体に変え、政労使で話し合うことが求められていると結論づけている。峰崎氏は「個別企業の枠を超えて産業別の賃金闘争に引き上げないと賃上げは実現しない。安倍、菅政権で実現しなかったことを岸田政権で本気で進める必要がある」と話した。
●「企業の内部留保が増えるのは賃下げも影響している」
 なぜ日本の賃金が上がらないのか。法政大学の水野和夫教授(経済学)は、1997年から24年間にわたり賃金が下がり続けている実態を紹介した。「戦後2番目に長い景気回復のアベノミクスでも賃金や生活水準が下がり続けている。景気が回復すれば賃金が上がるという期待はとっくになくなっている」と話した。水野教授の論考では、1980年代から不動産など実物に投資する「リアルエコノミー」が伸びず、資本家が重視する企業の内部留保など「シンボルエコノミー」が拡大している。「企業の内部留保が増えるのは賃下げで労働生産性基準を無視していることも一因だ」と分析する。また、日本はリアルエコノミーである法人税や個人所得税、消費税には課税しているが、企業の内部留保や相続などシンボルエコノミーにほとんど課税せず、実態とかけ離れている税制の問題点も挙げた。明治大学公共政策大学院の田中秀明教授は「日本は、北欧のように失業しても面倒を見てくれない。だから賃金が下がってもいいから職は守ってほしいという思考になるのでは」と指摘する。その上で「アメリカやイギリスの企業も日本と同じでROE(自己資本利益率)が下がっているが、一方で賃金は上がっている。この違いは何か、日本の賃金上昇を妨げている一番の要因は何かを診断しなければいけないのでは」と問題提起した。この問いに対し水野教授は「日本は労働人口が減り、潜在成長率が低いがアメリカは人口が増えている。また、日本はROEの構成要素の1つである売上高純利益率が極端に低い。売上高純利益率が低いのは日本が製造業中心の供給の国だから。アメリカやイギリスは消費の国なのでこの差はいかんともしがたい」と説明し、潜在的な成長率が低くなっていることが主な要因とした。経済産業省が2014年にまとめた「伊藤レポート」は、日本企業のROEの目標水準を8%としたがコロナ禍で今は5%に落ちている。国際標準まではとても実現できないとして、伊藤レポートは廃止すべきと指摘した。シンポジウムでは賃上げ税制以外にも、固定資産税や金融所得課税についても意見が交わされた。また今後、民間税調が政治家との意見交換会なども視野に、政治的影響力を強めることを確認した。

<日本の格差>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15054798.html (朝日新聞 2021年9月25日) 格差是正、「1億円の壁」破るか 所得税負担率カーブの頂点、総裁選で注目
 株式配当などの金融所得への課税強化が自民党総裁選で焦点の一つになっている。推進派は格差を是正するという狙いを訴えるが、慎重派は株式市場への影響を懸念する。ただ、制度の詳細に関する言及はほとんどなく、株価への影響や格差の解消に向けた効果は見えにくい。
■金融所得への課税強化訴え
 総裁選で明確に課税強化を掲げているのは、岸田文雄前政調会長だ。中間層への分配を手厚くすることを経済政策の根幹に据える岸田氏は、政策集に「金融所得課税の見直しなど『1億円の壁』の打破」と明記している。
「1億円の壁」とは、所得税の負担率が、所得が1億円の人を境に下がっていく現状のことだ。給与所得は所得が増えるほど税率が上がる累進制で、最大45%まで税率が上がるが、株の売却益や配当にかかる税率は一律20%(所得税15%、住民税5%)。このため、所得に占める金融所得の割合が比較的高い富裕層ほど、実質的な税率が下がり、格差拡大につながっていると批判されてきた。河野太郎行政改革相は総裁選では、金融所得課税について具体的に触れていないが、政策や政治理念をまとめた自著で「税率を一定程度引き上げるといった対応を検討するべきではないか」としている。また、野党でも、消費税の減税を訴える立憲民主党は、その穴埋め財源の例として、金融所得課税の強化を挙げている。
■「貯蓄から投資、逆行」
 負担率を公平にするための金融所得課税の見直しについては、与党の税制改正大綱でも、「総合的に検討する」とされてきた。財務省が一時、安倍政権下の首相官邸に提案したが、株式市場への悪影響を懸念し、政府・与党での議論は深まらなかった。最も慎重な姿勢だったのは、当時官房長官だった菅義偉首相だったとされる。しかし、新型コロナ対策の大規模な金融緩和で世界的な株高となり、金融資産を持つ富裕層がますます豊かになるなか、米国など、海外でも金融所得課税の強化を検討する動きが出ている。財務省幹部は「コロナ禍で不公平感の問題が出ている。以前ダメだったからといって、今回も絶対ダメではないのでは」と話す。ただ、増税となれば、株式市場への影響は避けられないとの見方が強い。ある金融庁幹部は、金融所得課税の税率が10%から20%に上がった13年、個人投資家が大量の日本株を売り越したとして、「貯蓄から投資への資産形成を進めてきたのに逆行する。富裕層の国外流出にもつながりかねない」と懸念する。実際、高市早苗前総務相は著書などで、税率を30%に引き上げる案を示していたが、その後、物価上昇率2%の目標が達成されるまでは「現実的には増税は難しい」と語り、事実上、撤回している。また、税率を一律で引き上げた場合、所得が1億円未満の人にも増税になるため、格差是正の効果を疑問視する指摘もある。一定以上の金融所得がある人だけを増税対象とする場合、線引きについて議論を深める必要がある。増税の是非を判断するには、こうした制度の詳細に関する情報が欠かせないだけに、総裁選や衆院選では、より踏み込んだ議論が求められる。

*3-2:http://tmaita77.blogspot.com/2012/05/blog-post_08.html (データエッセイ 2012年5月8日) ジニ係数の国際比較
 このブログで何回か言及しているジニ係数ですが,この係数は,社会における収入格差の程度を計測するための指標です。イタリアの統計学者ジニ(Gini)が考案したことにちなんで,ジニ係数と呼ばれます。昨年の7月11日の記事で明らかにしたところによると,2010年のわが国のジニ係数は0.336でした。一般に,ジニ係数が0.4を超えると社会が不安定化する恐れがあり,特段の事情がない限り格差の是正を要する,という危険信号と読めるそうです。現在の日本はそこまでは至っていませんが,5年後,10年後あたりはどうなっていることやら・・・。ところで,世界を見渡してみるとどうでしょう。私は,世界の旅行体験記の類を読むのが好きですが,アフリカや南米の発展途上国では,富の格差がべらぼうに大きいのだそうです。世界各国のジニ係数を出せたら面白いのになと,前から思っていました。そのためには,各国の収入分布の統計が必要になります。暇をみては,そうした統計がないものかといろいろ探査してきたのですが,ようやく見つけました。ILO(国際労働機関)が,国別の収入分布の統計を作成していることを知りました。下記サイトにて,"Distribution of household Income by Source"という統計表を国別に閲覧することができます。世帯単位の収入分布の統計です。私はこれを使って,43か国のジニ係数を明らかにしました。しかるに,結果の一覧を提示するだけというのは芸がないので,ある国を事例として計算の過程をお見せしましょう。ご覧いただくのは,南米のブラジルのケースです。旅行作家の嵐よういちさんによると,この国では,人々の貧富の差がとてつもなく大きいのだそうです。毎晩高級クラブで豪遊するごく一部の富裕層と,ファベイラと呼ばれるスラムに居住する大多数の貧困層。この国の格差の様相を,統計でもって眺めてみましょう。上表の左欄には,収入に依拠して調査対象の世帯をほぼ10等分し,それぞれの階級(class)の平均月収を出した結果が示されています。単位はレアルです。一番下の階級は182レアル,一番上の階級は6,862レアル。その差は37.7倍。すさまじい差ですね。ちなみに,わが国の『家計調査』の十分位階級でみた場合,最低の階級と最高の階級の収入差はせいぜい10倍程度です。表によると,全世帯の平均月収は1,817レアルですが,この水準を超えるのは,階級9と階級10だけです。この2階級が,全体の平均値を釣り上げています。富量の分布という点ではどうでしょう。全世帯数を100とすると,階級1が受け取った富量は182レアル×7世帯=1,274レアル,階級2は320×8=2,560レアル,・・・階級10は6,862×13=89,206レアル,と考えられます。10階級の総計値は181,689レアルなり。この富が各階級にどう配分されたかをみると,何と何と,一番上の階級がその半分をせしめています。全体の1割を占めるに過ぎない富裕層が,社会全体の富の半分を占有しているわけです。その分のしわ寄せは下にいっており,量の上では半分を占める階級1~6の世帯には,全富量のたった15%しか行き届いていません(右欄の累積相対度数を参照)。さて,ジニ係数を出すには,ローレンツ曲線を描くのでしたよね。横軸に世帯数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,10の階級をプロットし,それらを結んでできる曲線です。この曲線の底が深いほど,世帯数と富量の分布のズレが大きいこと,すなわち収入格差が大きいことになります。上図は,ブラジルのローレンツ曲線です。比較の対象として,北欧のフィンランドのものも描いてみました。ブラジルでは,曲線の底が深くなっています。フィンランドでは,曲線に深みがほとんどなく,対角線と近接する形になっています。このことの意味はお分かりですね。ジニ係数は,対角線とローレンツ曲線で囲まれた面積を2倍した値です。上図の色つき部分を2倍することになります。計算方法の仔細は,昨年の7月11日の記事をご覧ください。算出されたジニ係数は,ブラジルは0.532,フィンランドは0.189なり。0.532といったら明らかに危険水準です。いつ暴動が起きてもおかしくない状態です。現にブラジルでは,凶悪犯罪が日常的に起きています。一方のフィンランドは,平等度がかなり高い社会です。それでは,上記のILOサイトから計算した43か国のジニ係数をご覧に入れましょう。統計の年次は国によって違いますが,ほとんどが2002~2003年近辺のものです。なお,日本のデータは使用不可となっていたので,日本は,冒頭で紹介した0.336(2010年)を用いることとします。わが国を含めた44か国のジニ係数を高い順に並べると,下図のようです。最も高いのはブラジルかと思いきや,上がいました。アフリカ南部のボツワナです。殺人や強姦の発生率が世界でトップレベルの南アフリカに隣接する国です。この国の治安も悪そうだなあ。ほか,ジニ係数が0.4(危険水準)を超える社会には,フィリピンやメキシコなどの途上国が含まれる一方で,アメリカやシンガポールといった先進国も顔をのぞかせています。ジニ係数が低いのは,旧ソ連の国(ベラルーシ,アゼルバイジャン)のほか,東欧や北欧の国であるようです。社会主義の伝統が濃い国も多く名を連ねています。わが国は,44か国中23位でちょうど真ん中です。社会内部の格差の規模は,国際的にみたら中くらいです。お隣の韓国がすぐ上に位置しています。かつてのK首相がよく口にしていたように,格差がない社会というのは考えられませんが,格差があまりに大きくなるのは,決して好ましいことではありません。ジニ係数があまりに高くなると社会が不安定化するといいますが,それを傍証するデータもあります。昨年の6月28日の記事では,世界40か国の殺人率を計算したのですが,このうち,今回ジニ係数を算出できたのは20か国です。この20か国のデータを使って,ジニ係数と殺人率の相関係数を出したら,0.622となりました。ジニ係数が高いほど,つまり社会的な格差が大きい国ほど,殺人のような凶悪犯罪の発生率が高い傾向です。日本社会のジニ係数の現在値(0.336)は,そう高いものとは判断されません。しかし,今後どうなっていくのか。前回みた大学教員社会のように,ジニ係数が高騰している小社会も見受けられます。わが国の前途に不安を抱かせる統計は,結構あるのです。

<補助金を減らして税収と税外収入を増やす方法>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220103&ng=DGKKZO78896630S2A100C2MM8000 (日経新聞 2022.1.3) 再生エネ普及へ送電網 2兆円超投資へ、新戦略明記 首相、脱炭素を柱に
 政府は再生可能エネルギーの普及のために次世代送電網を整備すると打ち出す。都市部の大消費地に再生エネを送る大容量の送電網をつくる。岸田文雄首相は2022年6月に初めて策定する「クリーンエネルギー戦略で示すよう指示した。総額2兆円超の投資計画を想定する。政権をあげて取り組むと明示して民間の参入を促す。日本は大手電力会社が各地域で独占的に事業を手掛けてきた。送配電網も地域単位で地域間の電力を融通する「連系線」と呼ぶ送電網が弱い。再生エネの主力となる洋上風力は拠点が地方に多く、発電量の変動も大きい。発電能力を増強するだけでなく消費地に大容量で送るインフラが必要だ。国境を越えた送電網を整備した欧州と比べて日本が出遅れる一因との指摘がある。(1)北海道と東北・東京を結ぶ送電網の新設(2)九州と中国の増強(3)北陸と関西・中部の増強――を優先して整備する。(1)は30年度を目標に北海道と本州を数百キロメートルの海底送電線でつなぐ。平日昼間に北海道から東北に送れる電力量はいま最大90万キロワット。北海道から東京までを4倍の同400万キロワットにする。30年時点の北海道の洋上風力発電の目標(124万~205万キロワット)の2~3倍にあたる。九州から中国は倍増の同560万キロワットにする。10~15年で整備する。送電網を火力発電が優先的に使う規制を見直し、再生エネへの割り当てを増やす。送電方式では欧州が採用する「直流」を検討する。現行の「交流」より遠くまで無駄なく送電できる。新規の技術や設備が必要になり、巨大市場が生まれる可能性がある。一方で国が本気で推進するか不透明なら企業は参入に二の足を踏む。菅義偉前首相は温暖化ガス排出量の実質ゼロ目標などを表明し、再生エネをけん引した。岸田氏も夏の参院選前に「自身が指示した看板政策」として発表し、政権の公約にする。国の後押しを約束すれば企業も投資を決断しやすい。電気事業者の関連機関の試算では投資は総額2兆円超になる。主に送配電網の利用業者が負担する。必要額は維持・運用の費用に利益分を加えて算定する。欧州と同様、コスト削減分を利益にできる制度も導入して経営努力を求めながら送電網を整える。英独やスペインは再生エネの割合が日本の倍の4割前後に上る。欧州連合(EU)は復興基金を使って送電網に投資し、米国は電力に650億ドル(7.4兆円)を投じる。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78941430U2A100C2EP0000 (日経新聞 2022.1.5) 排出ゼロへモデル地域 環境省募集、再生エネ導入支援
 環境省は25日から、脱炭素に集中的に取り組む自治体を募集する。2030年度までに電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする先行地域としてまず20~30カ所選ぶ。国が再生可能エネルギー設備の導入などを支援し、環境配慮の街づくりの成功モデルを育てる。22年度に新設する交付金を活用する。都道府県や市区町村に再生エネの導入や省エネの計画を申請してもらう。複数の自治体による応募、企業や大学との共同提案も認める。住宅街、オフィス街、農村、離島など多様な地域を想定する。それぞれの特性によって脱炭素の効果的な手法は変わる可能性がある。再生エネ事業による雇用増や住民サービスの向上といった様々な成功事例を示し、地域発の脱炭素の取り組みを全国に広げる。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78941450U2A100C2EP0000 (日経新聞 2022.1.5) 農家の環境配慮後押し 農機・建物で税負担軽減 農水省
 農林水産省は環境に配慮する農家や食品事業者への支援策を拡充する。化学農薬を低減できる農業機械を導入する生産者らの所得税や法人税の負担を軽くする。食品事業者などの中小企業が建物を整備する場合も対象とする。1月召集の通常国会に新制度の裏づけとなる新法案の提出をめざす。農水省がまとめた農業分野の環境保全指針「みどりの食料システム戦略」に基づく取り組みとなる。税の優遇を受ける生産者は都道府県から、新技術を提供する機械・資材メーカーや食品事業者は国からそれぞれ認定を受ける。環境負荷を軽減できる機械や建物について整備初年度の損金算入を増やせるようにして、所得税や法人税を軽くする。機械は32%、建物は16%の特別償却を認める。化学農薬や化学肥料を使うかわりに、たい肥を散布する機械や除草機を導入する生産者などを対象にする。化学農薬に代わる資材を生産するメーカーや、残飯をたい肥にする機械を導入する食品メーカーなども支援先として想定する。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78939130U2A100C2TB1000 (日経新聞 2022.1.5)日通が中型EVトラック 引っ越し業務で導入
 日本通運は2022年度から中型の電気トラックを導入する。三菱ふそうトラック・バス製で最大積載量は4トン以上。まず関東や関西エリアの引っ越し業務で取り入れ、供給網全体の環境負荷を減らす。脱炭素化には小型車だけでなく、積載量が多い中型車以上の電動化が世界で課題となっている。三菱ふそう製の商用電気自動車(EV)「eキャンター」をまず10台導入する。最大積載量は4125キログラムで1回充電あたりの航続距離は100キロメートル。契約価格は明らかにしていないが、1000万円前後とみられる。現在、各社が導入している電気トラックは積載量が1~3トンの小型だ。積載量が大きい中型での導入は国内物流大手では珍しい。ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸も17年からeキャンターを25台導入しているが、3トンタイプの小型にとどまる。まず関東や関西などの支店に導入する。航続距離は小型電気トラック(300キロメートル)よりも短いため、貨物輸送ではなく引っ越し業務で運用する。導入拠点には充電設備を設ける。物流業界ではSBSホールディングスが21年10月、協力会社と合わせて中国企業などから小型EV1万台を調達すると発表。佐川急便も保有する軽自動車7200台を30年までにEVに切り替える。日本郵便も導入を急ぐ。各社が導入するEVは最大積載量1~3トンの小型トラックの中でも1~2トン以下が中心だ。4トン以上の中型は量産できる企業が限られる。バッテリーの小型軽量化が進んでいないためだ。日通は企業向けの物流が主力で、保有するトラックの7割近くが中型のトラックや大型トレーラーのため電動化が遅れていた。eキャンターを導入し、運用コストなどを確認した上で運用台数を拡大する考え。日通は二酸化炭素(CO2)の排出量について23年度までに13年度比30%削減する目標を掲げているが、同社幹部は「EVだけではなく、あらゆる方法を検討する」と話しており、燃料電池車(FCV)の開発状況も注視する。物流業界に脱炭素を求める動きは世界で強まっている。欧州連合(EU)は30年までに商用車のCO2排出量を19年比で3割削減するよう求めている。米カリフォルニア州も州内で販売する全てのトラックを45年までにEVやFCVにする規制を導入した。国内でも政府は企業の温暖化ガス排出量の報告内容を見直す考え。従来は企業単位での公表が原則だったが、今後は企業が持つ事業所ごとや企業グループの供給網全体の排出量も任意で報告を求める意向を示している。

*4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220103&ng=DGKKZO78896670S2A100C2MM8000 (日経新聞 2022.1.3) 原発は「脱炭素に貢献」 欧州委が認定方針 関連投資促す
 欧州連合(EU)の欧州委員会は1日、原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーと位置づける方針を発表した。一定の条件下なら両エネルギーを「持続可能」と分類し、マネーを呼び込みやすくする。世界の原子力政策にも影響を与える可能性がある。欧州委は環境面から持続可能性のある事業かどうか仕分ける制度「EUタクソノミー(分類法)」を設けており、これに原子力やガスを追加する。「2050年までに域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする」とのEU目標に貢献する経済活動と認めることで、資金調達をしやすくする。原子力依存度の高いフランスや石炭に頼る東欧諸国が、原子力やガスは脱炭素に資すると認めるよう訴えていた。欧州委は1月中にも案を公表する考え。加盟各国の議論や欧州議会の審議を経て成立する流れだが、脱原発を決めたドイツなどが反対する可能性もある。原子力発電は稼働中に二酸化炭素(CO2)を排出しないが、有害な放射性廃棄物が出る。天然ガスは石炭に比べクリーンだがCO2を出す。ただ欧州委は1日の発表文で未来へのエネルギー移行を促進する手段に「天然ガスと原子力の役割がある」とし、両エネルギーを持続可能と位置づける考えをにじませた。日本経済新聞が入手した原案によると、原子力は生物多様性や水資源など環境に重大な害を及ぼさないのを条件に、2045年までに建設許可が出た発電所を持続可能と分類する方針を示した。

*4-6:https://wired.jp/2021/12/31/5-most-read-stories-membership-2021/ (Wired 2021/12/31) 高まる宇宙開発への関心と、激化する全固体電池の開発競争:SZ MEMBERSHIPで最も読まれた5記事(2021年)
 『WIRED』日本版の会員サーヴィス「SZ MEMBERSHIP」では、2021年もインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を週替わりのテーマに合わせてお届けしてきた。そのなかから、国際宇宙ステーションで発見された新種のバクテリアの正体や、全固体電池の実用化を見据えたブレイクスルーなど、21年に最も読まれた5本のストーリーを紹介する。2021年は宇宙への世間の関心が一段と高まった1年だった。なかでも国際宇宙ステーション(ISS)の内部で採取された新種のバクテリアは、「未知の生命体」として取り沙汰された。しかし、新種といっても遺伝的にはメチロバクテリウムという地球にありふれた属に由来するバクテリアで、貨物や宇宙飛行士の身体に付着して入ってきたものが宇宙ステーションの環境に適応するために変異したものとみられている。それでも今後、宇宙空間や地球外の惑星で進化する契機となる可能性は十分に考えられる。こうした微生物叢は、ISSでの生活で一部の免疫反応が抑制されたクルーにとって予期せぬ体調不良の要因になりうる一方で、火星のような地球外の環境に存在するかもしれない生命体との接触を検知するために有効な手段にもなりうるという。また、メチロバクテリウムは土壌の窒素分子をアンモニアや硝酸塩、二酸化窒素といった窒素化合物に変換してくれることから、宇宙環境に適応した今回のような微生物叢は、将来的に月面や火星での食料栽培に役立つ可能性も期待できる。
●全固体電池の商用化に王手
 電気自動車(EV)の発展と普及に伴い、より高いエネルギー密度と安全性、長寿命が期待できる全固体電池の研究開発が活発化している。リチウムイオン電池を搭載したEVの共通の課題は、500kmに満たない航続距離と1時間以上を要する充電時間、そして可燃性の液体電解質がもたらす安全面のリスクだ。こうした問題に対する解決策として、電極間に固体の電解質を用いた固体電池技術の研究が進められてきたが、いまだ実用化にはいたっていない。そうしたなか、20年12月に米国のスタートアップのクアンタムスケープが公開したテスト結果は、長きにわたって実用化を阻んできた障壁を一気に打ち砕くような内容だった。ブレイクスルーの鍵を握るのが、正極と負極を隔離するセパレーターの素材である。これまでは主にポリマーかセラミックが使われてきたが、ポリマーではデンドライトの形成を防ぐことができず、セラミックでは充電サイクルにおける耐久性に難があった。クアンタムスケープが新たに開発した柔軟性に優れたセラミック素材のセパレーターは、その両方をクリアしている。一方、同社が公表したのはあくまでセル単位の性能データであり、それらを大量に積み重ねた最終的なバッテリーの性能には疑問が残るという指摘もある。いずれにせよ、クアンタムスケープが全固体電池の商用化に大きく近づいた事実が、開発競争の新たな起爆剤になったことは間違いない。(以下略)

*4-7:https://www.jst.go.jp/pr/info/info708/index.html(科学技術振興機構報第708号 平成22年1月22日)粘菌の輸送ネットワークから都市構造の設計理論を構築―都市間を結ぶ最適な道路・鉄道網の法則確立に期待― <東京都千代田区四番町5番地3 科学技術振興機構(JST) Tel:03-5214-8404(広報ポータル部) URL https://www.jst.go.jp>
 JST目的基礎研究事業の一環として、JSTさきがけ研究者の手老 篤史 研究員らは、単細胞生物注1)の真正粘菌注2)が形成する餌の輸送ネットワークを理論的に解明し、都市を結ぶ実際の鉄道網よりも経済性の高いネットワークを形成する理論モデルの構築に成功しました。本研究の成果であるネットワーク形成に関する理論は、近年ますます複雑化するネットワーク社会において、経済性および災害リスクなどの観点から最適な都市間ネットワークを設計する手法の確立につながるものです。真正粘菌は、何億年もの長きにわたって厳しい自然淘汰を乗り越えて生存し続けています。このため、さまざまな機能をバランスよく保ち、変化する環境にも柔軟に対応することが知られています。すなわち、頻繁に使用される器官は増強され、使用されていない器官は退化しています。これは、人間が作る都市間ネットワークの思想と共通する部分が多いといえます。粘菌のこのような知的な挙動に関しては、すでに手老研究員らから発表され、2008年度のイグ・ノーベル賞を受賞しています。しかし、脳も神経もない粘菌が知的なネットワークを形成するメカニズムについては理論的な解明がなされておらず、生物学上の謎の1つとなっていました。今回、真正粘菌変形体が作る輸送ネットワークを実験・理論の両面から解析し、数理科学的にネットワークを再現する理論モデルを構築しました。これにより、粘菌の作るネットワークによる物質輸送は、実際の鉄道ネットワークより輸送効率が良いことや、アクシデントに強いことが分かりました。今後、都市間を結ぶ道路・鉄道・インターネットなどによる物流・情報ネットワークの整備にあたり、建設・維持コストや災害リスク管理など、さまざまな要件を目的に応じて重視した際に、本研究により構築した理論モデルの適応により最適なネットワークを提示する設計法則の確立が期待されます。本研究は、北海道大学電子科学研究所の中垣 俊之 准教授、広島大学 大学院理学研究科の小林 亮 教授らと共同で行われ、本研究成果は、2010年1月22日(米国東部時間)発行の米国科学雑誌「Science」に掲載されます。(以下略)

<男女平等が生む創造性>
PS(2022年1月10日追加):アイスランドは、*5-1のように、①2008年のリーマン・ショックで財政破綻の危機に陥り ②「男性中心の経営が法令順守の意識を欠如させた」と分析して ③女性を積極登用する社会に転換し ④2009年に初の女性首相が誕生し ⑤企業などにも女性役員比率を4割以上にするように求め ⑥2011年以降、新型コロナ禍前までGDP成長率は平均3.5%に高まり ⑦2009年の「ジェンダーギャップ指数」でトップになって ⑧それ以後12年連続でその地位を維持し ⑨女性の労働参加率(15~64歳)は2020年時点80.7%と高く ⑩2017年に、世界で初めて企業に男女同一賃金を証明するよう義務付け、違反には罰金を科したそうで、まさに見本となる男女平等の実現を実行している。
 私には、①②が男性特有の性格かどうかは不明だが、③のように女性を積極登用する社会に転換してすぐ、④のように「女性首相が誕生」し、⑥のように「GDP成長率が高まった」のは、もともと女性が教育や雇用の場において、日本ほど差別されずに知識や経験を積んでいたからだと思う。その結果、④⑤⑨⑩により、⑦⑧の結果が出ているのだろう。
 私も、イケアのような最終消費者と相対する企業に女性が増えると、より多くのアイデアやデザインが生まれると実感している。反対に日本のような男性中心の国の産業は、素材・部品のように、どこかで規格された中間財を生産するには支障がないが、最終財を作るにはアイデアとデザイン力が乏しく、これは他国の製品と比較すればすぐわかることである。その理由は、日本政策投資銀行の指摘のとおり、⑪女性が加わることで多様性が高まって発想が豊かになり ⑫男性も刺激を受けてより成果を出そうとし ⑬特許資産の経済効果が男女混合チームは男性だけのチームと比較いて1.54倍に上る からだろう。そして、この最終消費者向けの発想力の源となる多様性は、女性だけでなく高齢者や外国人も含む。
 それでは、「何故、最終消費者と相対する企業に女性が増えると、より多くのアイデアやデザインが生まれ、特許資産の経済効果が混合チームは男性チームの1.54倍に上るのか?」と言えば、*5-2のように、女性は男性の1.9倍の家事・育児をし、最終消費者として購買し、家族のために加工を担当しているからである(これは、同じ仕事を繰り返すよりもずっと難しく、一つ一つを計画的に解決することが必要で、やった振りをしても無意味な仕事なのだ汗)。そのため、社会を男女混合チームにすると同時に、家事労働も男女ともに行った方が、男性も発想力を増したり、生産性が上がったりするだろう。従って、男性もある程度は家庭に返す方が、女性の労働市場での活躍のみならず、男性自身の知識と経験の増加にも繋がるのである。

 
 2021.2.15時事     COICFP    2021.3.31Yahoo  2021.5.28日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、日本の実質GDP成長率は、ものすごい歳出超過とインフレ政策にもかかわらず、長期間にわたって0近傍だ。また、左から2番目の図のように、ジェンダーギャップ指数も健康以外は超低空飛行が続いており、右から2番目の図のように、2020年時点で総合が156ヶ国中120位だ。さらに、最終需要者に高齢者の割合が増加しても高齢者を雇用から排除したがる傾向があり、1番右の図のように、外国人難民や移民にも極めて冷たい。しかし、これら多様性のなさが、経済の低迷に繋がっていることは明らかなのである)

*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220109&ng=DGKKZO79079580Z00C22A1MM8000 (日経新聞 2022.1.9) 成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換 男女平等が生む活力
 北欧の島国アイスランドは2008年、リーマン・ショックの際、危険な投資にのめり込んだツケが回り、財政が破綻する危機に陥った。なぜ危機を招いたのか。男性中心の経営がコンプライアンス(法令順守)の意識を欠如させた――。政府はこう分析し、女性を積極的に登用する社会へと転換を図った。09年に初の女性首相が誕生。企業などに女性役員比率を4割以上にするよう求めた。11年以降、新型コロナウイルス禍前までの実質国内総生産(GDP)の成長率は平均で3.5%に高まった。
●労働参加8割超
 アイスランドは09年、男女平等の度合いをランキングにした「ジェンダーギャップ指数」でトップに躍り出る。以来、12年連続でその地位を維持し、女性の労働参加率(15~64歳)も80.7%(20年時点)と高い。人口約36万人の小国は手を緩めていない。男女の賃金格差の解消だ。17年に41歳で就任したカトリン・ヤコブスドッティル首相は18年、賃金に性別で差が出ることを禁止する法律を定めた。世界で初めて企業に男女の同一賃金を証明するよう義務付け、違反があれば罰金を科す。女性活躍を後押しするビジネスも沸き立つ。「男女の賃金差をリアルタイムで把握する」。同国のスタートアップ「PayAnalytics」にイケアやボーダフォン・グループなど世界の有力企業から注文が相次ぐ。学歴や評価、役割などの項目を入力すれば人工知能(AI)が適正賃金や男女差を導き出すソフトウエアで、各企業は瞬時に「解」を得られるようになった。創業者のマーグレット・ビャルナドッティル氏は「意識だけでは変わらず、データの分析が必要だ。格差を解消できれば、優秀な人材が集まる」と強調する。顧客の電力会社は約10年前に8.4%あった男女の賃金差を0.03%に縮小させ、能力のある女性技術者の採用が増えた。日本は21年のジェンダーギャップ指数が156カ国中120位と先進国で最下位だ。賃金格差は22.5%に及び、経済協力開発機構(OECD)平均(12.5%)より大きい。児童手当や保育サービスなど家族関係の公的支出も見劣りする。女性活躍を掲げながら17年のGDP比は1.6%とOECD平均(2.1%)より低い。アイスランドは3.3%と高い。時間あたりの労働生産性とジェンダーギャップ指数を交差させると、日本は韓国とともに低さが際立つ。女性が能力を発揮できる環境が整っておらず、非正規雇用が5割以上と高いこともあってなかなか上がらない。スウェーデンのウプサラ大、奥山陽子助教授(労働経済学)は「北欧のように女性の視点をビジネスの現場に取り入れなければ、日本は再浮上できない」と訴える。特に創造性の高い研究開発分野での活躍を見込む。その見立てを裏付けるデータもある。
●発明価値1.54倍
 日本政策投資銀行は18年、国内の製造業約400社が過去25年間に得た約100万件の特許を調査。企業の時価総額や論文の引用件数などから算出した特許資産の経済効果は男女混合チームの方が男性だけの場合と比べ1.54倍に上った。同行は「女性が加わることで多様性が高まり発想力が豊かになる。男性も刺激を受けてより成果を出そうとする」と指摘する。男女平等を成長の原動力にする国が目立つ中、日本は女性を生かす社会を描けていない。賃金格差、子育て、積極的な登用などの課題に本気で向き合わなければ成長へのきっかけはつかめない。国や企業は変わる勇気を示せるか。覚悟が問われる。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20220109&be=NDSKDBDGKKZO・・ (日経新聞 2021.5.17) 男女格差解消のために 男性を家庭に返そう 東京大学教授 山口慎太郎
世界経済フォーラムが3月に発表した「ジェンダーギャップ指数」によると、経済分野における日本の男女格差はきわめて大きい。世界156カ国中の117位である。しかし、それ以上に大きいのは家庭内における男女格差だろう。経済協力開発機構(OECD)平均では、女性は男性の1.9倍の家事・育児などの無償労働をしている。日本ではこの格差が5.5倍にも上り、先進国では最大だ。これは日本において性別役割分業が非常に強いことを示している。経済・労働市場での男女格差と、家庭での男女格差は表裏一体なのだ。ワークライフバランスの問題を解決するために、育児休業や短時間勤務などが法制化されてきた。こうした制度は確かに有効だ。2019年における25~54歳の女性労働力参加率をみると日本は80%と高い。米国の76%やOECD平均の74%を上回っている。しかしこうした施策には限界もある。「子育ては母親がするもの」との固定観念がある中では、結局のところ女性が負う子育てと家事の責任や負担が減るわけではない。そのため、女性が職場で大きな責任を担うことは難しいままだ。実際、日本では管理職に占める女性の割合は15%にすぎず、米国の41%やOECD平均の33%を大きく下回る。限界を打ち破る上で有効なもののひとつは、男性を対象とした仕事と子育ての両立支援策だ。男性を家庭に返すことが、女性の労働市場での活躍につながる。その第一歩は男性の育休取得促進である。日本の育休制度は国際的な基準に照らしても充実しているが、強化の余地はある。たとえば最初の1~2カ月限定で育児休業給付金の額を引き上げ、育休中の手取りが減らないようにすべきだ。1カ月程度の育休で何が変わるのかと思うかもしれない。しかし、カナダのケベック州の育休改革を分析した研究によると、男性が5週間ほど育休を取ると、3年後の家事時間と子育て時間がいずれも2割程度増えた。育休取得をきっかけとして家族と仕事に対する価値観が変化し、そのライフスタイルの変化はその後も長く続いた。たかが1カ月。だが男性の育休は、人生を変える1カ月になりうるのだ。

<日本における再エネ出遅れの理由は、リーダーの非科学性・非合理性である>
PS(2022年1月14、15日追加): *6-1-1のように、脱炭素社会実現に向け、地熱発電所が2022年以降に続々と稼働するのはよいことだ。日本は火山国で地熱資源は世界第3位と豊富なのに、「日本は資源のない国」という“空気”や“潮流”の下、これまでは地熱開発があまり行われなかった。しかし、地球温暖化対策としての脱炭素は1990年代から指摘されており、排気ガスを出さず、安全で、変動費無料(=コストが安い)であり、日本のエネルギー自給率向上にも資するのが、再エネ発電と電動の組み合わせであることは、ずっと前から明らかだった。にもかかわらず、化石燃料と原子力にかじりついて構造改革を進めなかったのは、日本の“リーダー”の非科学性・非合理性によるものである。
 しかし、この非科学性が理系人材の能力不足ではなく、意思決定する立場に多い文系人材の能力不足であることは、*6-1-2のように、その気になれば送電損失0の超電導送電をすぐ実用化できるのに、例の如く「課題はコスト(コストは普及すれば下がる)」などとして使用しない意思決定をしてきたことで明らかだ。この優先順位に関する意思決定の誤りが、日本で多くの有用な技術を産業化できずに他国に譲ってきた理由なのである。
 また、太陽光発電も年々進歩し、現在では、*6-1-3・*6-1-4のように、無色透明な「発電ガラス」の販売が、NTTアドバンステクノロジ・日本板硝子・旭硝子などから開始されている。そのため、都会のビルやマンションも改修して無色透明や一定の色の「発電ガラス」を取り付けるように補助すれば、再エネでエネルギー自給率を高めつつ、同時に日本のこれから有望な高付加価値産業を伸ばすことができるのだ
 さらに、*6-2-1のように、全農も2030年には「持続可能な農業と食の提供のため、なくてはならない全農であり続ける」としているので、効率的に太陽光発電して作物の生育には影響を与えないか、むしろプラスになる「発電ガラス」「発電シート」「建物一体型太陽光発電」などを使うハウス・倉庫・畜舎や地域エネルギーで動く電動車・電動機械に補助して普及を促せば効果が大きいだろう。イオンモールも、*6-2-2のように、国内約160カ所全ての大型商業施設で、「非化石証書」を使わず自前の太陽光パネルとメガソーラーからの全量買い取りを組み合わせて、2040年度までに使用電力の全量を再エネに切り替えるそうなので、これも、なるべく2030年までに前倒しするとよい。そして、イオンモールの駐車場に速やかに充電できる充電施設を設ければ、販売する商品に電力を加えることも可能なのである。
 なお、VWの日本法人は、2022年1月13日、*6-4のように、2022年末時点で国内の販売店約250店舗にEVの急速充電器を設置する方針を明らかにしている。この時、①150kwの場合、販売店の設置費用は1基2千万円ほどかかる ②高いから充電器は置けない ③環境と経済は対立するものである などとしてきたのが文系意思決定権者の誤りであり、この発想がすべてを遅らせてきたのである。
 このように、民間企業の意識は高まっているのに、日本の経産省は、*6-3のように、またもや東南アジア脱炭素支援と称してアンモニア(NH₃)や水素(H₂)を活用する技術協力を進めるそうだ。再エネ電力で水を電気分解すればできるので水素はよいが、アンモニアは原料の天然ガスから製造する過程でCO₂を排出し、そのCO₂を回収・処理しなければ温暖化対策にならないため、コストが高くなる。従って最適解にならないことは明らかで、インドネシア・シンガポール・タイはしぶしぶ同意したにすぎないだろう。そのため、その国に適した再エネ技術で協力した方が喜ばれ、日本の評判を下げずにすむのだ。
 再エネ発電による電力をためる大型蓄電池の開発も(本気でやらなかったため)日本は遅れ、*6-5のように、中国ファーウェイや米国テスラの日本への参入が相次いでおり、日本勢は日本ガイシや住友電工等が大型蓄電池を製造しているが、販売価格で競争力がないそうだ。蓄電池も日本が最初に開発を始めたのにこうなってしまったのであるため、何故そうなるのかが改善すべき最も重要な問題である。

     
 2021.12.24 2021.5.21Optronics  2021.9.2家電  2021.3.23Karapaia    
  日経新聞

(図の説明:1番左と左から2番目の図のように、地熱発電は天候に左右されないという意味で安定的な電源と言えるが、他の再エネも蓄電池に貯めたり、水素にして貯めたりすることによって、安定電源にできる。また、中央と右から2番目の図のように、透明な太陽光発電機ができたことにより、ビルや住宅の窓・壁面でも発電することができるようになった。さらに、1番右の図のように、農業用ハウスに使うことによって、作物の生育に影響を与えず、むしろ生育を促しながら発電し、発電した電力を利用することも可能である)

*6-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC158360V11C21A2000000/ (日経新聞、日経産業新聞 2021年12月24日) 生かせるか「地熱」の潜在力 出光など22年に続々稼働
 地熱発電所が2022年以降、続々と稼働する。脱炭素社会の実現に向け、地熱が持つ潜在力が必要とされているためだ。太陽光や風力のように発電量が天候に左右されない安定性が魅力で、出光興産やINPEX、オリックスといった大手企業が大型発電所を開業する。資源量が世界3位の日本だが、現状の導入量は火力発電所1基分とわずかだ。脱炭素の潮流が、企業の地熱開発を駆り立てている。
●脱炭素で熱帯びる
 12月上旬、JR盛岡駅から高速道路を経由して1時間。細くうねる山道を抜けると、高さ46メートルの巨大な冷却塔から蒸気がもくもくと噴き出していた。雪景色と共に温泉街特有の硫黄の香りが漂う。東北電力グループが運用する松川地熱発電所(岩手県八幡平市)は最大出力2万3500キロワット。1966年に国内では初めて、世界でも4番目に稼働した今も現役の地熱発電所だ。松川発電所は8本の蒸気井と呼ぶ地下に掘った井戸から300度近い蒸気を取り出し、タービンを回して発電する。最も深い井戸は深度1600メートル。もともとは1950年代に自治体が温泉開業を狙って始めた地熱開発を、発電向けに転換したのが始まりだ。発電に使った後の蒸気は自然の風を使って冷却塔内で冷やされ、冷水は発電所内で再利用される仕組みだ。運営を担う東北自然エネルギーの加藤修所長は「昼夜ほぼ一定の出力で発電するのが地熱発電の最大の強み」と話す。世界的な脱炭素の潮流が、地熱開発を再び呼び起こした。政府の50年カーボンニュートラル宣言以降、地熱発電の開発を本格化しようとする動きが目立つ。政府は6月に改定した「グリーン成長戦略」で、地熱産業を成長分野として育成する方針を公表した。国が地熱を成長分野として位置づけたのはこれが初めてだ。国内に60カ所弱ある地熱発電施設を30年までに倍増する方針も示された。地熱発電の適地は北海道、東北、九州に分布するが、このうち国立公園が多い北海道では今まで開発が十分に進んでこなかった経緯がある。だが国の委員会で21年9月、自然公園法の行政向け通知を変更し、国立・国定公園の第2種・第3種特別地域での地熱開発を「原則認めない」とする記載を削除する方針を決定した。この規制緩和により自然への配慮は前提となるが、開発に着手しやすくなった。さらに従来は熱水を取り出す井戸ごとに申請が必要だった地熱開発のガイドラインも改定し、熱水・蒸気がある地熱貯留層を1つの事業者が管理できるようになった。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の安川香澄・特命審議役は「複数の事業者が同じ貯留層を奪い合い、開発が進まなくなる事態を防げるようになった」と語る。
●「塩漬け」に転機
 相次ぐ規制緩和の流れを受けて企業の開発意欲も高まっている。オリックスは22年、出力6500キロワットの南茅部地熱発電所(仮称)を北海道函館市で稼働させる。水より低い沸点の媒体を蒸気化してタービンを回す「バイナリー方式」と呼ばれる地熱発電方式では国内最大規模だ。出光興産とINPEX、三井石油開発も22年に秋田県湯沢市で地熱発電所を着工する。出力は1万4900キロワットで、25年にも運転を始める。INPEXはインドネシアで地熱事業に参画しており、資源開発で培った掘削のノウハウも生かして国内での開発に備える。レノバも熊本県や北海道函館市で地熱発電の開発を進めている。地熱発電の設備稼働率は7割以上を誇る。同じ再エネでも太陽光発電や風力発電の1~3割程度と比べて安定性は抜群だ。松川地熱発電所では一般家庭5万世帯分もの電気をまかなえる規模だ。それでも国内で地熱開発がなかなか進んでこなかったのは、油田と同じで掘ってみないと正確な資源量が分からないことがあった。日本の場合、掘削の成功率は3割程度とされ、1本掘削するのに5億円以上かかる井戸を何本も掘る必要がある。環境影響評価から稼働までにかかる時間も15年程度と長く、資本力がない企業では手が出ない。地熱資源量は火山地帯と重なる。日本の資源量は2340万キロワット分と見積もられ、首位の米国やインドネシアに次いで世界で3番目。ただ実際の導入量は計55万キロワット程度と10年前からほぼ横ばいだ。国際エネルギー機関(IEA)によると地熱導入量は世界で10番目にとどまる。一度は機運が高まった地熱発電は、原子力発電所の推進政策に押され、「塩漬けの20年」と呼ばれるほど勢いを失った。脱炭素の潮流が呼び水となり、再び脚光を浴びる今が普及のラストチャンスだ。
●潮目変わり再び熱帯びる
 一度は勢いを失った地熱発電だが、潮目が変わったのは11年の東京電力福島第1原発事故だ。原発の安全神話が崩れ、全基の稼働が止まった。12年の固定価格買い取り制度(FIT)の導入もあって地熱開発に向けた調査が再び増えた。19年1月にはJFEエンジニアリングなどが松尾八幡平地熱発電所(岩手県八幡平市、出力7499キロワット)を稼働した。同年5月にはJパワーなどが山葵沢(わさびざわ)地熱発電所(秋田県湯沢市、4万6199キロワット)の運転を始めて、再び地熱発電が注目された。山葵沢発電所は15年に着工し、現在の設備稼働率は9割程度と稼働状態も良好だ。Jパワー再生可能エネルギー事業戦略部の井川太・企画管理室長は「周辺は既に地熱発電所がある地域だったため、地元との調整もスムーズだった」と振り返る。地熱発電の開発には必ずと言っていいほど、観光事業者や温泉事業者からの反発が出る。これまで地熱発電によって実際に温泉の湯量や泉質に影響した事例はほぼないものの、地域の理解がなかなか得られなかった。地域の理解を醸成するため、近年は地熱発電を通じた地域貢献を進める動きも活発だ。北海道森町では北海道電力の森地熱発電所で発電に使った熱水をパイプラインで市街地に運び、野菜ハウスの暖房に使う取り組みが進む。ハウスではキュウリやトマトなどの野菜を栽培している。
●新技術で発電効率向上も
 地熱発電の拡大には技術開発も欠かせない。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが実用化を目指すのは「超臨界地熱発電」と呼ばれる技術だ。従来より地下深く、マグマに近いところに存在する「超臨界水」を用いる。超臨界水は高い圧力によって沸点が上昇。温度は500度と通常の地熱発電で使う蒸気より高く、発電効率の向上が見込める。ただ、超臨界水は強い酸性の可能性があり、普通の鋼鉄はすぐ腐食してしまう。これに耐えうる素材開発が欠かせない。通常の地熱発電の井戸が深さ1~2キロ程度なのに対し、超臨界水は地下5キロ程度の深さに存在すると考えられるため、どうやってそこまで井戸を掘削し熱水を取り出すかも課題だ。地熱発電に詳しい京都大学の松岡俊文・名誉教授は「現状の地熱開発のスピードでは国が考える地熱開発目標の達成は厳しい」と指摘する。松岡氏は海底の地熱資源に注目する。海底には多くの火山が存在する。松岡氏が長崎県沖から台湾沖にかけての「沖縄トラフ」周辺の地熱貯留層を調査したところ、約70万キロワットの発電能力があることが分かった。国内地熱導入量を上回る規模だ。海底下を掘削して熱を取り出し発電するのは従来の地熱発電と共通するが、陸上と比べて立地制約が少ないのが利点だ。また海底地熱発電は井戸1本で得られる資源量が陸上より多いとみられ、松岡氏によると海底の圧力に耐えられる設備の検証などは必要となるものの、掘削コストは陸上より安く抑えられる可能性があるという。

*6-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220113&ng=DGKKZO79164000T10C22A1MM8000 (日経新聞 2022.1.13) 送電損失ゼロ 実用へ、JR系、超電導低コストで 脱炭素後押し
 送電時の損失がほぼゼロの技術「超電導送電」が実用段階に入った。JR系の研究機関がコストを大幅に減らした世界最長級の送電線を開発し、鉄道会社が採用の検討を始めた。欧州や中国でも開発が進む。送電ロスを減らしエネルギーの利用効率を高められれば地球温暖化対策につながる。送電ロスは主に電線の電気抵抗により電気が熱に変わることで起こる。送電線を冷やして超電導(総合2面きょうのことば)状態にすると、電気抵抗がゼロになるため損失をほぼなくせる。課題はコストだ。かつてはセ氏マイナス269度に冷やす必要があったが、マイナス196度でも超電導の状態にできる素材の開発が進み、冷却剤を高価な液体ヘリウムから、1キログラム数百円と1割以下の液体窒素に切り替えられるようになった。超電導送電線の費用の相当部分を占める冷却コストが大きく減ったため実用化が近づいた。JR系の鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)は送電線を覆う形で液体窒素を流し、効率よく送電線を冷やす技術を開発。世界最長級で実用レベルの1.5キロメートルの送電線を宮崎県に設置して実証試験を始めた。鉄道に必要な電圧1500ボルト、電流数百アンペアを流せる。送電線の製造は一部を三井金属エンジニアリングに委託した。通常の送電に比べて冷却コストはかさむが「送電線1本の距離を1キロメートル以上にできれば既存設備を活用でき、送電ロスが減るメリットが費用を上回る」(鉄道総研)。複数の鉄道会社が採用に関心を示しているという。採用されれば、鉄道で超電導送電が実用化されるのは世界初となる。超電導送電はこのほか風力発電など再生可能エネルギー発電分野でも利用が期待されている。電力会社や通信会社などに広がる可能性がある。超電導送電は電圧が下がりにくいため、電圧維持のための変電所を減らせるメリットもある。変電所は都市部では3キロメートルおきに設置し、維持費は1カ所で年2000万円程度とされる。鉄道総研はより長い超電導送電線の開発にも取り組んでおり、実現すればコスト競争力がより高まる。日本エネルギー経済研究所によると国内では約4%の送電ロスが発生している。全国の鉄道会社が電車の運行に使う電力は年間約170億キロワット時。送電ロス4%は、単純計算で一般家庭約16万世帯分に相当する7億キロワット時程度になる。送電ロス削減は海外でも課題だ。鉄道以外も含む全体でインドでは17%に達する。中国では2021年11月、国有の送電会社の国家電網が上海市に1.2キロメートルの超電導送電線を設置した。ドイツでは経済・気候保護省主導で、ミュンヘン市の地下に12キロメートルの超電導送電線を敷設する「スーパーリンク」プロジェクトが20年秋に始まった。日本は超電導送電に使う送電線を昭和電線ホールディングスが手がけるなど素材に強みがある。JR東海のリニア中央新幹線も超電導を使っており、鉄道総研の技術基盤が生かされている。

*6-1-3:https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/news/1347759.html (家電 2021年9月2日) 無色透明なのに太陽光で発電できる「発電ガラス」販売開始
 NTTアドバンステクノロジは、inQsが開発した無色透明形光発電素子技術(SQPV:Solar Quartz Photovoltaic)を活用した「無色透明発電ガラス(以下:発電ガラス)」の販売を開始。東京都新宿区の学校法人海城学園に、初めて導入した。発電ガラスは無色透明で、両面からの日射に対して発電できるという。このため、既存温室の内側に設置しても採光や開放感への影響を与えることなく発電が可能。また天窓を含め、さまざまな角度からの日射でも発電できるとする。今回の発電ガラスで採用されたSQPVは、可視光を最大限透過しつつ発電する技術。一般のガラスが使える全ての用途に発電と遮熱という機能をつけて利用できるとする。SQPVを活用した発電ガラスの主な特長は以下のとおり。表面・裏面および斜めの面から入射する太陽光からも発電が可能。天井がガラス張りのガラスハウスなどでは、北面でも天井からの日射があれば発電が可能。このため、どんな場所でも、デザイン性の高い、省エネルギー発電・遮熱ガラス材料としての用途開拓が可能。レアアースなどの希少かつ高価な材料を用いない。海城学園では、新たに建築されたサイエンスセンター(理科館)屋上の温室に、室内側から取り付ける内窓として導入された。今回は、まず約28cm角の発電ガラスを9枚配置した展示学習用教材を導入。この後、11月頃までに温室の壁面に120枚の発電ガラスが、内窓として取り付けられる予定だという。なお、新たな発電ガラスの内窓取り付けに際しては、しっかりとしたガラス固定・ガラス間配線・メンテナンス性の確保などが必要となる。これらサッシ収容技術についてはYKK APが協力している。

*6-1-4:https://optronics-media.com/news/20190521/57351/ (OPTRONICS 2019年5月21日) 日板,米企業と太陽光発電窓ガラスを開発へ 
 日本板硝子は,子会社を通じて透明な太陽光発電技術を扱う米ユビキタスエナジーと,同社の透明な太陽光コーティングである「ClearView PoweTM」技術による太陽光発電が可能な建築用窓ガラスの共同開発に合意した(ニュースリリース)。ClearView Powerは,可視光を透過しながら,非可視光(紫外線と赤外線)を選択的に吸収し,視界を遮らずに周囲の光を電気に変換する。標準的なガラス製造過程で建築用窓にそのまま使用することができ,建物一体型太陽光発電(BIPV)による再生可能エネルギーの創出を可能とする。さらに,この製品は赤外線太陽熱を遮断し,建物のエネルギー効率を上げることで,ゼロエネルギー建物の実現に寄与するという。同社は,進行中の研究開発と技術サポートにより共同開発に参画している。

*6-2-1:https://www.jacom.or.jp/noukyo/news/2021/11/211117-55149.php (JAcom 2021年11月17日) 「なくてはならない全農」めざし次期中期計画-JA全農
*JA全農は11月16日の経営管理委員会で「次期中期計画策定の考え方」を了承した。2030年に向け中長期の視点に立った「全農グループのめざす姿」を描き、持続可能な農業と地域社会の実現に向けた戦略を策定する。
●環境変化を見据える
 次期中期計画は、生産と消費、JAグループを取り巻く環境変化をふまえて、2030年の姿を描き、そこからどのような取り組みを展開するか戦略を策定するというバックキャスティングという手法で策定する。
環境変化のうち、農業者人口はその減少が予想以上に進む。2020年の基幹的農業従事者数は136万人だが、2030年には57万人へと42%も減少する見込みだ。この間の日本の人口は5%減との見込みであり、農業者は大きく減少し、同時に農地の集約・大規模化が進む。消費は約10兆円となった中食市場のさらなる増加や、共働き世帯の増加にともなう簡便・即食化などの大きな変化が続くと見込まれる。共働き世帯は1219万世帯で1980年の約2倍となっている。こうした環境変化のなか全農は2030年のめざす姿として「持続可能な農業と食の提供のため"なくてはならない全農"であり続ける」を掲げる。その実現のために長期・重点的に取り組む全体戦略を策定し、それに基づき来年度から3年間の分野別事業戦略を策定する、というのが今回の考え方だ。
●JAと一体で生産振興
 全体戦略は6つの柱を設定する。1番目は生産振興。少数大規模化する生産者と、一方で家族経営で地域を支える小規模生産者への営農指導、組織体制などの課題がある。これらの課題に対して、担い手の育成、多様な労働力支援、JA出資型農業法人への出資なども実施する。また、スマート農業や新たな栽培技術、集出荷の産地インフラの整備も行う。物流機能の強化も課題であり、国内外の最適な物流の構築による安定的な資材・飼料の供給を図る。2番目は食農バリューチェーンの構築。生産、集荷から販売までの全農にしかできない一貫した体制づくりに取り組む。ターゲットを明確にした商品開発、JAタウンの事業拡大とJAファーマーズの支援強化、他企業との連携による加工、販売機能などの最適化などを進める。3番目の柱は海外事業展開。成長が期待される海外市場の開拓と、国内の農業生産基盤とのマッチングを進める。一方、世界的な穀物や資材原料の需要増への対応も課題で安定的な輸入に向けた競争力の強化も図る。
●地域循環型社会をめざす
 4番目の柱は地域共生・地域活性化。人口減少など地域の実情に応じた宅配、eコマースなど利便性の拡充や、地域のエネルギーを活用したEV(電気自動車)・シニアカーシェアリング事業の実践や、営農用への供給、遊休施設や耕作放棄地を活用した太陽光発電や農泊事業などの展開などを進める。また、「食と農の地産地消」に向けた耕畜連携の促進、ファマーズマーケットなどの事業強化も図る。5番目の柱が環境問題など社会的課題への対応。農業分野や地域のくらしにおける温室効果ガスの削減や、みどり戦略を実現するためのイノベーションの実現と普及が課題となる。そのために持続可能な農業に向け適正施肥の推進、有機農業を含む環境保全型農業の実践、環境負荷軽減に資する技術や資材、飼料の開発・普及、再生可能エネルギーに活用による電力供給の拡大などに取り組む。6番目の柱はJAグループ・全農グループの最適な事業体制の構築。全農の機能再編とJAとの機能分担が課題となる。JAも今後は営農経済担当の職員が減少するという見込みのもとで、より全農とJAが連携した事業展開を図る。県域の実態に合わせたJAとの最適な機能分担や、JAへの支援、営農指導・販売機能の強化に向けた人材育成などに取り組む。また、全農グループの機能強化に向けた子会社との新たな事業展開も図る。こうした全体戦略のもと、事業戦略は「耕種」、「畜産」、「くらし」、「海外」、「管理」の5つの事業分野で検討を進める。今後、検討を本格化させ、年明けからの総代巡回などを経て3月の臨時総代会で決める。JA全農はこれまでにない事業と取り込み事業拡大をめざす。

*6-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC074WJ0X00C22A1000000/ (日経新聞 2022年1月10日) イオンモール、全電力を再生エネに転換 国内160カ所
 イオンモールは国内約160カ所全ての大型商業施設で、2040年度までに使用電力の全量を再生可能エネルギーに切り替える。再生エネの環境価値を取引する「非化石証書」を使わず、自ら太陽光パネルを設置したり、メガソーラーからの全量買い取りなどを組み合わて実現する。年内にも太陽光発電の余剰電力を提供する消費者にポイントで還元する手法も導入し、脱炭素を加速する。小売業の脱炭素で施設の再生エネ導入は重要な課題だが、現状では非化石証書の活用が主流だ。イオンモールの年間電力消費量は約20億キロワット時で国内の電力消費全体の0.2%を占める。国内屈指の大口需要家が使用電力を再生エネに切り替えることで、企業の脱炭素のあり方が変わる可能性がある。運営する大型商業施設「イオンモール」で、22年から本格的に太陽光発電を導入する。自らパネルを設置するほか、メガソーラーなど発電事業者と長期契約を結び、発電した再生エネを全量買い取る「コーポレートPPA」と呼ばれる手法も使う。各施設には大型蓄電池も整備し、集めた再生エネを効率的に運用できる仕組みを整える。再生エネの地産地消を進めるため、一般家庭の太陽光発電の余剰電力を消費者が電気自動車(EV)を使ってイオンモールに提供すれば、ポイントで還元するサービスも始める予定だ。太陽光発電のほか風力発電やバイオマス発電、水素発電などからも電力を調達し、発電事業用の用地取得など関連投資も検討する。親会社のイオンはグループ全体で国内の年間消費電力量が71億キロワット時と、日本の総電力消費量の1%弱を占める。同社は国内外で電力を全て再生エネで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」に加盟し、40年度に事業活動で排出する温暖化ガスを実質ゼロにする目標を掲げる。大型商業施設の使用電力の再生エネへの全量転換と平行し、ほかのグループ会社の運営スーパーでも順次再生エネに切り替えていく。大手企業の再生エネ導入は広がりつつある。小売り大手では21年からセブン&アイ・ホールディングスがNTTの太陽光発電事業から電力供給を受けているほか、ローソンは22年に親会社の三菱商事から太陽光発電による再生エネ調達を始める計画だ。ただ、現状では日本企業が脱炭素化を進めるための施策は非化石証書が主流だ。化石燃料を使わず発電された電気が持つ「非化石価値」を証書にして売買する仕組みだが、制度が複雑でコスト負担が大きいとの指摘もある。海外では大規模なコーポレートPPAを活用した調達が主流。調査会社ブルームバーグNEFによると、世界の新規コーポレートPPAは20年に発電能力ベースで約2300万キロワットと原子力発電所23基分に達する。旺盛な需要が再生エネの投資拡大やコスト低減につながっており、日本でも今後、同様の影響が期待できる。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220114&ng=DGKKZO79204810T10C22A1EP0000 (日経新聞 2022.1.14) 東南ア脱炭素支援 高い壁、アンモニア混ぜ発電、日本が推進 「石炭の延命策」批判強く
 萩生田光一経済産業相は13日、インドネシアなど東南アジア3カ国の訪問を終えた。脱炭素に向けてアンモニアや水素を活用する技術協力を進める。再生可能エネルギーの支援を進める中国や欧米の動きをにらみ独自色を打ち出したが、「石炭火力の延命につながる」との批判は根強い。供給網を構築して日本の強みをいかせるか、前途は見通しにくい。
●3カ国と覚書
 「2030年までにアンモニアのみを燃焼させる技術の実現をめざす」。萩生田氏は10日、インドネシアとのオンラインイベントでこう表明した。アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)が出ない。今回、東南アジア3カ国と覚書を交わした。石炭火力発電所に発電量の過半を頼るインドネシアとは、アンモニア活用での技術協力で合意。シンガポールとは水素やアンモニアの供給網の構築で連携し、タイとは脱炭素工程表策定に知見を提供することになった。東南アジア各国には稼働年数の浅い石炭火力発電所が多い。発電所の廃止にまで踏み切らなくても、設備改修でアンモニアを混ぜられるようにすればCO2排出量を減らせる。その先でアンモニアのみを燃料にすれば、CO2ゼロの火力発電所の実現も見えてくる。「エネルギー転換には国際的なパートナーによる支援が必要だ」(インドネシアのアリフィン・エネルギー・鉱物資源相)。前向きな発言も目立ったことから、経産省は新技術の確立と需要創出への布石を打つことができたとみる。もっとも、実際に燃料としてのアンモニアの需要はまだほとんどない。萩生田氏が言及した「アンモニアの専焼」も本格導入は30年以降だ。それまでは石炭とまぜて燃料にする「混焼」で、どれだけ排出削減できるかが問われる。東南アジア各国を含め新興国の脱炭素化は経済成長との両立が難しく、欧米先進国と比べて取り組みは遅れたままだ。3カ国の発電量のうち、化石燃料への依存度は現状で8割から9割に達する。段階的な脱炭素への移行を前面に出す日本とは異なり、欧米や中国が太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入で攻勢を強めている。
●実質ゼロに課題
 支援の主導権を握れるか見通せない。昨秋の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、岸田文雄首相がアンモニアや水素の活用を打ち出したが、国際的な非政府組織から気候変動対策に後ろ向きだと批判された。アンモニアは原料の天然ガスから製造する過程でCO2を排出。このCO2を回収し、地下に埋めるなどして実質ゼロにしなければクリーンとは言い切れない。だからこそ欧州を中心に「石炭火力の延命策」との批判があり、逆風が強まる恐れは拭えない。中国はアジアで広域経済圏構想「一帯一路」を推し進めてきた。米国はアジア各国を巻き込む形で、デジタル貿易や供給網といった分野での協力強化を目指す「インド太平洋経済枠組み」を打ち出している。米中の綱引きがアジアでも激しくなる中、日本の存在感にも陰りが見えてきた。新型コロナウイルスの感染拡大の局面でも萩生田氏が出張したのは、日本政府の危機意識のあらわれであり、巻き返せなければ成長市場を取り込む機会を失いかねない。

*6-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15171067.html (朝日新聞 2022年1月14日) VW、販売店に充電器 日本国内の250店舗
 VWの日本法人「フォルクスワーゲングループジャパン」は13日、2022年末時点で国内の販売店約250店舗にEVの急速充電器を設置する方針を明らかにした。普及に向け充電環境を整える。日本市場には年内にVWブランドのEV「ID.」を投入予定だ。充電器はVWとアウディの販売店に置く。両ブランドの車はどちらの店でも充電可能。250店舗で充電網ができれば現時点では国内最大級という。充電性能は90キロワット~150キロワット。150キロワットの場合、販売店の設置費用は1基2千万円ほどかかる。充電器はEV普及のカギを握る。まずは店に置くことで環境を整える。充電の料金収益を得ることもめざす。マティアス・シェーパース社長はこの日の会見で「今後生き残るために必要だ」と述べた。シェーパース社長は日本のEV市場について「軽EVの話も出てきている。もう一部のお金持ちが買うものではない。みんなが乗るようになる。全世界で似たような動きがあるので、日本もそうなってくると信じている」と期待する。VWはトヨタ自動車と世界販売台数を競うライバルだ。2年連続でトヨタに軍配が上がりそうで、シェーパース社長は取材に、「明確な理由は半導体不足。トヨタは半導体のストックマネジメントがあって車がつくれた。我々にはそれがなかった」と語った。

*6-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220115&ng=DGKKZO79249610U2A110C2EA5000 (日経新聞 2022.1.15) 大型蓄電池、米中から日本参入、ファーウェイやテスラ、低価格で国内産業の脅威
 再生可能エネルギー発電施設の電力をためる大型蓄電池で、大手外資企業の日本への参入が相次いでいる。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は3月から出荷を始める。米テスラも2021年から販売している。再生エネの拡大には需給を安定させる蓄電池が欠かせない。米中勢の参入は日本の電池産業にとって脅威となる。ファーウェイは中国・寧徳時代新能源科技(CATL)など複数の蓄電池メーカーから小型の蓄電池パックを購入する。120個程度を束ね、一般的な家庭用蓄電池の約200倍の電力量をためられる2000キロワット時のコンテナサイズの蓄電池を生産する。顧客企業の需要に合わせてコンテナを組み合わせ、容量を変えられる。違うメーカーが製造したものや劣化状況が異なるものをデジタル技術で管理する。蓄電池はパソコンなどの「民生用」、電気自動車(EV)などの「車載用」、施設などに据え置く「定置用」に分かれる。ファーウェイの大型蓄電池は定置用で、再生エネ発電施設に併設する電力貯蔵の用途を狙う。日本法人のファーウェイ・ジャパン(東京・千代田)は、再生エネの適地でありながら送電網の空きが少ない北海道などを主な導入先として検討中だ。陳浩社長は日本市場の先行きを「太陽光発電技術の発展とコスト削減で急速に発展する」と見込む。定置用にはこのほか、家庭用や、商業施設などに使う業務・産業用も含まれる。ファーウェイやテスラはすでに家庭用などで日本市場に参入しており、市場拡大が見込める、より大型の定置用開拓を進める。テスラの日本法人、テスラモーターズジャパン(東京・港)は21年4月、高砂熱学工業がもつ茨城県の研究施設に大型蓄電池を納入した。研究施設内にある太陽光発電所や木質バイオマスガス化発電設備などの電力を制御する。22年夏には、送電線に直接つなぐ大型蓄電池を北海道千歳市内に納入・稼働する。新電力のグローバルエンジニアリング(福岡市)が導入する。再生エネに接続する電池の導入も検討している。ENEOSホールディングス(HD)が買収した再生エネ開発会社、ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE、東京・港)もテスラ製の蓄電池を実証実験で使うと発表した。大手電力ではJパワーが21年11月、広島県のグループ会社の施設内にテスラ製を導入した。中国の太陽光パネルメーカー大手、ジンコソーラーは21年9月に日本で大型蓄電池の受注が決まった。受注先は非公開。同社はまず小型の家庭用で知名度を上げ、その後大型蓄電池の販売を強化していく考えだ。銭晶副社長は「22年には1万台以上の家庭用蓄電池を売りたい」と話す。日本では再生エネ発電施設の電力をそのまま送電線に送ることが多く、大型蓄電池の併設は導入が十分に進んでいない。国内勢では日本ガイシや住友電工などが大型蓄電池を製造している。住友電工は国内外で数十台を納入した実績をもつ。また、車載用を束ねた大型蓄電池の実用化を目指す企業もあり、東京電力HDなどの電力会社や住友商事や丸紅といった商社などが取り組んでいる。米中勢の強みは販売価格の安さだ。三菱総合研究所の資料によると、定置用のうち業務・産業用の国内販売価格は、19年度時点で建設費を含めて1キロワット時24万円程度だ。21年10月に閣議決定された30年度時点での目標価格は同6万円とされる。テスラモーターズジャパンの再生エネ併設用は同5万円以下で販売しているとみられる。ファーウェイもテスラ製と競う価格水準を目指している。再生エネの開発などを手掛ける新電力幹部は「蓄電池を導入する場合、コストが安い企業を選ぶ」と話しており、国内勢が対抗するためにはコスト競争力が課題となる。

<日本におけるEV出遅れの理由も、リーダーの非科学性・不合理性である>
PS(2022年1月15日追加):地球温暖化対応で開発競争が激しいEVは、*7-1のように、中間層が台頭する東南アジアでも導入機運が高まっており、中国・韓国のメーカーが参入に積極的だが、新車市場で8割のシェアを握る日本メーカーの動きは目立たないそうだ。例えば、現在はインドネシアとタイで日本車のシェアは9割に達しているが、EVで話題を提供しているのは中韓勢ばかりで、日本もできない理由を並べていては東南アジアの市場を失いそうだ。
 そのような中、*7-2のように、日本の自動車メーカーもEVへの巨額投資に乗り出し、トヨタは4兆円、日産は2兆円を投じて、先行する米国・欧州・中国のメーカーに対抗するそうだ。しかし、EVも日本が最初に開発を始めたのに、米国・欧州・中国のメーカーに後れを取ったから、それに対抗する形で後追いするというのは開発途上国のメーカーの発想である。
 そのため、*7-3のように、異業種のソニーグループが、2022年春にソニーモビリティという新会社を設立してEV市場への参入を検討すると発表したのは期待が持てるが、車の価値を「移動」から「エンタメ」に変えるのをソニーに期待している人は少なく、①操作が家電並みに簡単で ②デザインがよく ③総合的に信頼できる車 をソニーには求めていると思う。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220114&ng=DGKKZO79205530U2A110C2EA1000 (日経新聞社説 2022.1.14) 日本はアジアのEV化に乗り遅れるな
 地球温暖化対応で開発競争が激しい電気自動車(EV)は、東南アジアでも導入機運が高まっている。中国や韓国のメーカーが参入に積極的な一方、いまの新車市場でシェア8割を握る日本メーカーの動きは目立たない。新型コロナウイルス禍で足踏みしているものの、人口6億6千万人を抱え、中間層が台頭する東南アジアは、今後も有望な成長市場だ。現在の市場優位を守るため前向きなEV化戦略が求められる。域内の二大市場であるインドネシアとタイに限れば、日本車のシェアは9割に達する。ところがEVに関して話題を提供しているのは中韓勢ばかりだ。インドネシアでは韓国の現代自動車がこのほど稼働させた完成車工場で、3月からEVの生産を始める。基幹部品は当面輸入に頼るが、同じ韓国の電機大手LGグループと共同で、車載用電池の量産工場の建設を進めている。タイでも中国の上海汽車集団や長城汽車がすでにEVの販売を開始した。後者は米ゼネラル・モーターズ(GM)から取得した工場で、2023年からEVの量産に乗り出す計画だ。輸出も視野に入れて生産規模を確保しようとしている中韓に比べて、日本はトヨタ自動車と三菱自動車が23年からタイでEVの現地生産を検討しているくらいで、総じて慎重姿勢が目立つ。及び腰には理由がある。東南アジアは石炭や天然ガスを使う火力発電が中心で、再生可能エネルギーの裏付けなしにEVだけを増やしても、温暖化ガスの排出は減らせないと主張する。充電設備の整備の遅れもあり、ハイブリッド車を軸とする普及戦略を描く。環境規制がより厳しく、購買力も高い欧米や中国でのEV生産を優先し、東南アジアは他の新興国向けもにらんだガソリン車やディーゼル車の生産拠点として残したいという狙いもあるようだ。だが各国政府のEV導入の要請は、環境対策だけでなく、次世代の産業創出の意味合いも大きい。中国車メーカーはタイで自ら充電設備の整備に乗り出した。できない理由を並べていては、既存事業の勝者が新しい事業への参入で後れをとる「イノベーションのジレンマ」に陥り、虎の子の市場を中韓に切り崩される恐れが拭えない。各国政府との対話を重ねつつ、EV化への協力姿勢をもっと積極的に示すべきだ。

*7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/794952 (佐賀新聞論説 2022年1月11日) 構造転換の未来図描け 電気自動車に巨額投資
 日本の自動車メーカーが電気自動車(EV)への巨額投資に乗り出す。トヨタ自動車は4兆円、日産自動車も2兆円を投じ、先行する米国、欧州、中国のメーカーに対抗する。異業種も強い関心を示しており、国内ではソニーグループが市場参入を検討し始めた。だが、EVの開発や普及はメーカーの力だけではできない。日本メーカーがEVシフトへ走りだす2022年は、自動車社会の未来図を描く1年にしなければならない。トヨタ自動車は30年を目標に、EVの販売台数を350万台に拡大する。トヨタの世界販売台数の35%をEVにすることを計画している。日産は10年12月、量産型の「リーフ」をいち早く発売した。その後、米テスラや欧州企業に追い抜かれてきたが、再びEVを経営戦略の中心に据えた。海外勢では新興の米テスラが100万台近くを量産し、先頭を走る。米アップルなどIT企業の参入もうわさされている。EVに及び腰とされてきた日本メーカーの姿勢もはっきり変化してきている。ハイブリッド車(HV)、燃料電池車も選択肢として残るが、世界の潮流を考えればEVに軸足を置くことは避けられそうにない。長距離走行の壁を破り市場で主導権を握るため、新型電池の開発にメーカー各社はしのぎを削っている。トヨタは4兆円の投資額のうち、半分は電池の開発につぎ込む。日産は走行距離を延ばす鍵になる「全固体電池」を搭載した新型車を28年度までに実用化するという。だが、技術開発の競争だけではEVの時代は見えてこない。市街地や高速道路の充電拠点が広がらなければ、安心して遠出はできない。自動車各社の販売店、ガソリンスタンド、商業施設などを利用することが想定されているが、エネルギー業界、政府、自治体などとの協調が欠かせない。電力需要も変化するだろう。国内で大量のEVが走るようになるなら、電力各社の発電能力の増強が必要になる。二酸化炭素を排出するガソリン車は減っても、化石燃料に依存した発電が増えるという見方もある。EV市場の拡大と電力需要に関する信頼できる予測と、それを前提にした電源構成の議論を求めたい。EVが自動車産業に与える影響は大きい。ガソリンなどを燃焼させるエンジンに比べると、EVのモーターは構造は単純で、部品点数も大きく減る。エンジンの部品や素材を生産してきたメーカーは、培ってきた技術を転換する必要に迫られるのではないか。国内の自動車メーカーは、EVへの転換によって部品メーカーの経営が悪化し、技術力を失うのを避けようとしている。日本勢は完成車メーカーを中心に部品や素材の会社が一体で開発に取り組むのが強みだった。しかし、いまはそれが海外のライバルほど素早く動けない要因になっている。技術転換が起きれば、雇用にも変化が生じる。自動車関連の就業者数は約550万人に上る。雇用を維持しながら、事業や技術を転換するのは簡単なことではない。脱炭素の流れを後押しするため、公的資金を使った大規模なEV支援も考える余地がある。充電拠点の整備、雇用維持など社会的に必要な対策を、官民で多面的に検討しておくべきだろう。

*7-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK07AYC0X00C22A1000000/ (日経新聞社説 2022年1月10日) ソニーのEV参入が示す自動車の変貌
 ソニーグループが2022年春にソニーモビリティという新会社を設立し、電気自動車(EV)市場への参入を検討すると発表した。米ラスベガスの見本市「CES」では多目的スポーツ車(SUV)型の試作車を披露し、新市場にかける意気込みを示した。「SONYカー」の登場は100年に1度といわれる自動車市場の地殻変動を映すものだ。強い自動車産業は日本経済のけん引役であり、新旧のプレーヤーが競い合うことで、市場の活性化と産業基盤の強化につなげたい。ソニーグループの吉田憲一郎最高経営責任者(CEO)は「車の価値を『移動』から『エンタメ』に変える」と宣言する。車をただの走る機械ではなく、音楽や映像などを楽しむ空間と再定義し、自動運転のための画像センサーや映像・音響など自社の得意技術を詰め込む考えだろう。かつて「ウォークマン」などを世に出したソニーがどんな車をつくるのか、楽しみだ。一方で車は人の命を預かる商品であり、安全が最も重要なのは言うまでもない。電池の発火事故の防止を含め、安全性能の確保に万全を期す必要がある。EV専業の新興企業、米テスラが株式時価総額でトヨタ自動車など業界の巨人を圧倒する現状が示すように、自動車産業は変革のさなかにある。米アップルのEV参入も取り沙汰される中で、日本を代表するイノベーション企業であるソニーの挑戦に期待したい。モーター大手の日本電産も中国にEV用基幹部品の量産工場を設立し、地場メーカーへの供給を拡大しようとしている。これまで車とは縁の薄かった企業が自動車の変革をチャンスととらえ、成長のテコにする動きがさらに広がるかどうか注目される。他方でトヨタはじめ既存企業の底力も侮れない。トヨタは21年の米国市場で米ゼネラル・モーターズなどを抜いて、シェア1位になった。コロナ禍という特殊要因があったとはいえ、強靱(きょうじん)なサプライチェーンや販売店網、ブランドへの信頼など長年の経営努力が実った結果でもある。半導体はじめエレクトロニクス産業が失速し、ネットビジネスやバイオなども振るわない中で、自動車は日本に残された、強い国際競争力を持つ、数少ない産業のひとつだ。新旧企業の競争と協業でその強みを今後とも堅持したい。

<早すぎた選択と集中による再生医療を使った脊髄損傷治療の遅れ>
PS(2022年1月16日追加):医学は「神経細胞は再生しない」と教えるが、その理由を説明できる人はいない。そのため、私は「できない理由はないのだろう」と思っていたところ、20年以上前、夫に同伴して行った世界の学会で「脊髄を切断して半身不随にしたマウスが、その後、回復して歩けるようになった」という発表を聞いた。そのため、「マウスにできるのなら、人間にもできないわけはない」と思い、衆議院議員在職中(2005~2009年)に再生医療を提案した。その結果、*8-3のように、患者の骨髄液に含まれる幹細胞「間葉系幹細胞」を5000万~2億個に培養した後、静脈に点滴で戻して脊髄損傷患者の運動・知覚機能回復を狙うニプロの自己骨髄間葉系幹細胞ステミラック注が既に承認されているが、未だ条件・期限付のようだ(https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=66832 参照)。しかし、自己の骨髄間葉系幹細胞から作れば免疫反応も起こらないため、患者に無為な時間を過ごさせず、迅速に治療して、要介護状態から解放するには、早く条件・期限付を解除することが必要である。
 日本は、「再生医療=iPS細胞」と早く限定しすぎたため、他のより有効な治療を疎かにした面があるが、*8-1・*8-2のように、岡野教授をはじめとする慶大チームが、2021年12月、①iPS細胞から作った神経の元となる細胞をに脊髄損傷患者1人に移植し ②拒絶反応を抑えるため免疫抑制剤を使い ③経過は順調で ④転院して通常の患者と同じリハビリをしており ⑤今後は、1年間の経過を追ってリハビリのみを行った患者と比較して安全性・効果を確認するそうだ。①③④は、自己骨髄間葉系幹細胞を使用した場合と同じだが、②は他人の細胞を使うから必要なもので、⑤のうち安全性の検証はiPS細胞化しているため癌化のリスクがあるから必要なものである。ただ、自己の骨髄間葉系幹細胞が分裂しにくく5000万~2億個まで培養できない人は、他人の細胞を使わざるを得ない。そのため、若い人から入手した分裂しやすい標準細胞があれば、自己の細胞を培養する必要がなかったりはするだろう。
 しかし、神経が再生しても神経回路は学習によって形成されるものが多いため、リハビリは不可欠だ。また、損傷後の早い段階で入れることが望ましいが、損傷後の時間が長い人にも適用できるようにすべきである。なお、夫の外国の学会では、「脊髄損傷は予防できる!浅いプールに飛び込んだり、事故を起こしたりしないことだ!」という声も聞かれたことを付け加えたい。


 2018.11.21     2022.1.14     2018.11.21    川越中央クリニック
  朝日新聞      日経新聞       毎日新聞

(図の説明:1番左の図のように、自分の骨髄や脂肪に含まれる間葉系幹細胞を使った脊髄損傷の治療法もあるが、左から2番目の図のように、他人のiPS細胞を使った脊髄損傷の治療法も開発されようとしており、違いは、右から2番目の図のとおりだ。なお、1番右の図の脂肪幹細胞は、倫理的問題や発癌リスクがなく、採取の負担が小さく、コントロールもしやすいメリットがあるそうだが、いずれも素早い製品化と普及が望まれる)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15172330.html (朝日新聞 2022年1月15日) 脊髄損傷にiPS移植 世界初、実用化には課題 慶大
 慶応大は14日、iPS細胞からつくった神経のもとになる細胞を、脊髄(せきずい)損傷の患者1人に移植したと発表した。iPS細胞を使った脊髄損傷の治療は世界で初めて。脊髄損傷を完全に回復する治療法はなく期待は大きいが、実用化に向けては課題も多い。「ヒトのiPS細胞の樹立から15年が経ち、さまざまな困難を乗り越えて1例目の手術ができて、うれしく思う」。会見でチームの岡野栄之・慶応大教授はそう話した。チームによると、移植は昨年12月。移植後の拒絶反応を抑えるため、免疫抑制剤を使っている。経過は順調で、転院して通常の患者と同じリハビリをしている。今後は1年間の経過を追い、リハビリのみの患者のデータと比較し、安全性や効果を確認する。今回の患者を含め、計4人の患者に移植する計画という。今回の臨床研究の対象は、事故などで運動や感覚の機能が失われた「完全まひ」の患者で、程度は重い。脊髄が損傷してから2~4週間後の「亜急性期」に移植する。脊髄損傷はけがや事故などが原因となり、毎年5千人が新たに診断され、国内には10万人以上の患者がいるとされる。リハビリ以外に確立した治療はないのが実情だ。脊髄損傷にくわしい、総合せき損センター(福岡県飯塚市)の前田健院長は、「私たちのからだはずっと再生していて、皮膚や骨などは入れ替わるが、神経細胞は再生しない。神経細胞となる候補を体に入れることで、細胞を再生させることができるかもしれないという点で、iPS細胞には期待できる」と話す。ただし、現時点ではチームは「主な目的は安全性の確認だ」と強調。移植する細胞の数も多くはない。効果をどう判定するのかには難しさも残る。研究に参加する患者は、通常の治療と同じように、移植後に保険診療の範囲でリハビリを続ける。チームの中村雅也・慶応大教授は、「実際に脊髄の再生が起こったとしても、リハビリをしっかり行うことによってのみ、機能的な意味を持つだろう」とリハビリの重要性を指摘する。それ故に、機能の改善がみられたときに、それがiPS細胞の効果なのか、リハビリの効果なのか、わかりにくい面はある。脊髄損傷の患者は、損傷から時間がたち、治療が難しくなった「慢性期」の人が多くを占めるが、今回の研究では対象とならない。岡野さんは、「慢性期の運動機能が残る患者に対する治験の準備も進めている」としている。iPS細胞の作製にはまだ数千万円かかるとされ、実用化に向けては、コストを下げる取り組みも必要となりそうだ。iPS細胞を使う再生医療は目の難病やパーキンソン病、軟骨などでも臨床研究が進む。昨年11月には、卵巣がんでの治験も始まった。ただ、まだ製品化されているものはなく、全体的に当初の目標からは遅れている。今回の研究も2019年2月に厚生労働省の部会で了承されたが、細胞の安全性を慎重に確かめたり、新型コロナの流行で延期になったりしたため、移植までに時間がかかった。再生医療に10年間で1100億円を投資する政府の大型予算が、22年度で終わる。世界は遺伝子治療に注目し、iPS細胞では「創薬」の分野も盛り上がりを見せている。臓器を置き換える、失った細胞を補うといった再生医療の分野がどこまで成果を出せるのか、正念場を迎えている。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/ASLCM5FJGLCMULBJ011.html (朝日新聞 2018年11月21日) 脊髄損傷を患者の細胞で回復、承認へ 「一定の有効性」
 厚生労働省の再生医療製品を審議する部会は21日、脊髄(せきずい)損傷の患者自身から採取した幹細胞を使い、神経の働きを回復させる治療法を了承した。早ければ年内にも厚労相に承認され、リハビリ以外に有効な治療法がない脊髄損傷で、幹細胞を使った初の細胞製剤(再生医療製品)となる。公的医療保険が適用される見通し。この製剤は札幌医科大の本望修教授らが医療機器大手ニプロと共同開発した「ステミラック注」。患者から骨髄液を採取し、骨や血管などになる能力を持つ「間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう)」を取り出す。培養して細胞製剤にした5千万~2億個の間葉系幹細胞を、負傷から1~2カ月以内に、静脈から点滴で体に入れる。間葉系幹細胞が脊髄の損傷部に自然に集まり、炎症を抑えて神経の再生を促したり神経細胞に分化したりして、修復すると説明している。安全性や有効性を確認するため、本望教授らは2013年から医師主導の治験を実施。負傷から3~8週間目に細胞を注射し、リハビリをした患者13人中12人で、脊髄損傷の機能障害を示す尺度(ASIA分類)が1段階以上、改善した。運動や感覚が失われた完全まひから足が動かせるようになった人もいたという。国は根本的な治療法がない病気への画期的な新薬などを対象に本来より短期間で審査する先駆け審査指定制度を適用、安全性と一定の有効性が期待されると判断した。ただ、間葉系幹細胞の作用の詳しい仕組みはわかっていない。今回は条件付き承認で、製品化された後、全患者を対象に7年ほど、安全性や有効性などを評価する。再生医療に詳しい藤田医科大の松山晃文教授は「損傷後の早い段階で入れることで、神経の機能回復の効果を強めているのではないか。有効性を確認しながら治療を進めて欲しい」と話す。脊髄損傷は国内で毎年約5千人が新たになり、患者は10万人以上とされる。慶応大のグループはiPS細胞を使って治療する臨床研究を予定。学内の委員会で近く承認される。

*8-3:https://mainichi.jp/articles/20181122/k00/00m/040/135000c (毎日新聞 2018/11/21) 脊髄損傷治療に幹細胞 製造販売承認へ
 厚生労働省の専門部会は21日、脊髄(せきずい)損傷患者の運動や知覚の機能回復を狙う再生医療製品について、条件付きで製造販売を承認するよう厚労相に答申することを決めた。製品は患者の骨髄液から採取した幹細胞を培養し点滴で戻すもので、年内にも正式承認される。厚労省によると、脊髄損傷への再生医療製品の販売承認は世界初とみられる。製品はニプロが6月に申請した「ステミラック注」で、脊髄損傷から約2週間までの、運動や知覚の機能が全くないか一部残る患者が対象。最大50ミリリットルの骨髄液や血液を採取し、骨髄液に含まれる幹細胞「間葉系幹細胞」を約2~3週間で5000万~2億個に培養した後、静脈に点滴で戻す。(以下略)

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2021.11.28~12.13 ビジョンなきバラマキばかりでは、日本は破綻するしかないこと (2021年12月16、18、30日に追加あり)
   
      2021.11.27日経新聞    2021.11.27毎日新聞 2021.11.27京都新聞   

(図の説明:1番左の図のように、2020年からコロナ対応を理由として通常予算と補正予算の上積みが続いた。そして、衆議院議員選挙後の2021年度補正予算は、左から2番目と3番目の図のように閣議決定されたが、これは本当に必要な予算なのか、賢い支出なのか、積み上がった国債残高は誰がどう支払うことになるのかについて、下に記述したい。なお、右から2番目の図が、補正予算による経済対策で実施される個人給付で、1番右の図は、各組織が試算した経済対策によるGDP押し上げ効果である)

  
      財務省          財務省          Kabuzen
(図の説明:左図が、一般会計における歳出と税収の推移で、平成2年《1990年》以降、次第に乖離が大きくなっており、歳出と税収の差は借金である国債発行で埋めている。現在、日本は、右図のように、0%近傍という世界でも非常に低い利子率を続けている国であるため、中央の図のように、国債費のうちの利払費が比較的少なくて済んでいる。が、利子率が高くなれば歳出に占める国債の利払費が格段に大きくなるため、国であっても返済計画のない借金は成立しない)

(1)2021年11月の補正予算について
1)使途の点検・監視が不可欠な国の予算
 政府が閣議決定した2021年度補正予算案に関して、*1-1は、「①財政法で補正予算編成は当初予算作成後に生じた事由に基づいて特に緊要となった経費に限って認められるが、査定が甘くなる補正で予算を大幅に上積みする手法が常態化した」「②成長に繋がるか否か不透明な事業や緊急性のない事業も補正に盛り込まれた」「③予算の使い道の点検・監視が欠かせない」「④補正予算案は12月6日召集の臨時国会で審議される」等を記載している。

 このうち①は確かにそうだが、夏の豪雨被害やCOP26で「待ったなし」になったこともあるため、補正予算に織り込みながら、次期以降の通常予算で長期的視点から計画的に歳出していく必要のある事業もあるだろう。しかし、それには具体的事象とそれを解決するためのビジョンを示し、最低コストで最大効果を挙げる必要がある。また、予算全体がそうなっているか否かについては、③の点検・監視を網羅性・正確性を持って行う必要があり、④の国会はそのために開かれるべきだ。ただ、賢い支出か否かの判断は、②の成長に繋がるか否かも重要な視点ではあるが、それだけではないだろう。

 なお、健全な財政状態であっても、具体的な事象と解決のための道筋を示して、最低コストで最大効果を挙げる予算編成をするのが、納税者で社会保険料の支払者でもある国民への受託責任(説明責任ではない)である。しかし、日本は、*1-2のように、経済成長もせず、景気は悪い状態が続き、賃金も上がらず、社会保障は心もとなく、税金と社会保険料ばかりが上がって、経済は停滞したまま、21年度末時点の国債残高は1004.5兆円となる見通しだ。これは、長期ビジョンに乏しく、経済活性化に繋がらない莫大な支出を繰り返してきたからにほかならないが、これに屋上屋を重ねるのが新しい資本主義や分配を重視した政策とは、まさか言わないだろう?

 国際通貨基金(IMF)によると、日本の国内総生産(GDP)に対する政府債務残高は、2021年は米国の約2倍の257%でG7最悪である。そうなった理由は、日本は物価上昇やインフレ目標といった誤った経済政策を行ったため、実質2%の経済成長をしたのは2013年度だけで、大規模な財政出動と異例の金融緩和で何とか景気を下支えしたにすぎないからだ。しかし、生産年齢人口にあたる人を財政出動で下支えなければならないのなら、誰がこの国を支えるのか情けないにも程があり、いい加減にしてもらいたいのである。

2)賢い支出とはどういう支出か
 *1-1は、「⑤病床確保支援金に2兆円を盛り込んだ」「⑥成長戦略向け支出比率は約2割で、半導体の国内生産拠点の確保に6170億円、経済安全保障で先端技術を支援する基金に2500億円等を積んだ」「⑦低所得世帯向け10万円給付1.4兆円」「⑧18歳以下への10万円相当の給付に21年度予備費からの拠出も含めて1.9兆円」「⑨最大250万円の中堅・中小事業者向けの支援金2.8兆円、資金繰り支援1400億円等」とも記載している。

 また、*1-4によると、政府は財政支出が過去最大の55.7兆円で民間資金も入れた事業規模が78.9兆円になる補正予算を決め、岸田首相は赤字国債発行も含めて財源を確保するそうだ。

 しかし、これらの中には、私にも未来の成長を促す「賢い支出」とは思えない項目が多く、「成長」は達成できないと思う。例えば、⑧の1.9兆円は、義務教育の給食費を継続的に無料にしたり、希望者には無償で朝食も出したり、教材費を無料にしたり、公立高校・公立大学の授業料負担額が年間12万円を超えないようにしたり、奨学金を充実したりなど、子育てを教育で支援すれば将来の成長が見込めるが、中途半端な金額を経済対策としてばら撒いて子育て世帯の親に消費を促しても、成長には結び付かず、少子化対策にもならない。

 また、⑦は、困っている人には足りない金額で、そもそも継続的に失業保険か生活保護費を支払うべきだった。そして、失業保険すらもらえないような非正規社員を作るのはやめるべきであり、正規社員の中に「時間限定勤務社員」を作ることは全く可能である。

 さらに、⑨や飲食店への時短協力金6.5兆円の支払いも中規模以上の事業者には焼け石に水であり、それより飲食店に営業停止や時間短縮を強制したことによる感染拡大防止効果を検証すべきだ。何故なら、新型コロナの予防は、水際対策・PCR検査・感染者隔離の徹底を行えば、やみくもに全飲食店に営業停止や時間短縮を行わせる必要はなく、費用もずっと安くすんだ筈だからである。0.26兆円のGoToトラベル事業も、しっかり感染症対策をしていれば不要だった。

 そして、未だにワクチン接種体制の整備・接種の実施に1.3兆円も充当されており、オミクロン株という新しい変異株が発見されたと大騒ぎしているが、少し変異すれば効かなくなるワクチンは良いワクチンではない。短時間で量産するにはmRNAワクチンが良かったのかもしれないが、もし3度目の接種をするのなら、私は少しの変異では効果を失わない不活化ワクチンの方を選びたい。そもそも、「抗体価が減る=抵抗力が下がる」ではない上、治療薬もできているため騒ぎ過ぎはやめるべきで、⑤のように、今から病床確保に2兆円充当するのも不要だと思う。それよりも、日頃から基幹病院を中心とした病院ネットワークを整備しておくべきである。

 なお、マイナンバーカード新規取得者5,000円、健康保険証・給付金受取口座登録者7,500円のマイナポイントを付与するのに1.81兆円もかけるそうだが、マイナンバーカードに多くの情報を紐づけると後で政府にどう使われるかわからないこと、情報を集約し過ぎると個人情報の盗用にも便利であることから、セキュリティー対策として紐づけないのであるため、そういう根拠ある心配を無くすべきなのである。

 つまり、上の約18兆円は、より効果的で賢い使い方があったり、既に不要になっていたり、過大であったりするもので、この金額は(別の場所で詳しく述べる)国会議員1カ月分の文書交通費を465人の衆議院議員全員が返還したとしても4億6,500万円(100万円X465人)にしかならないため、数桁異なる大きさなのである。

 ⑥の科学技術立国、デジタル化、経済安全保障は成長戦略になると思うが、これまで政府が足を引っ張るなどという失敗が多すぎたため、どうも期待が持てないのが実情で、最も変えるべきはここだろう。

(2)今回の補正予算を具体的に論評すると・・
1)18歳未満への一律10万円給付について
 *2-3は、「①18歳以下の子に一律10万円相当を配る必要はあるのか、景気浮揚だけでなく困窮者支援の点でも経済の専門家から効果を疑問視する声がある」「②困窮者支援が目的なら、コロナで収入が減少した世帯に絞るべきで、子どもを基準にするのはコロナ対策としては意味不明」「③子育て世代の富裕層が対象となり、生活が苦しい子のいない世帯が外れる」「④一時的な所得の増加は貯蓄に回る傾向が明確」としている。

 私は、②③には賛成だが、そもそも④のように、貯蓄することが悪いことででもあるかのような論調がまかり通っているのが間違いだと思う。何故なら、ミクロ経済学的には、コロナで経済を停止させても、すぐには破綻しない企業や個人が多かったのは、平時からいざという時のために貯蓄をしていたからで、マクロ経済学的には貯蓄が投資の原資だからである。また、(1)でも述べたように、子育て費用を高止まりさせておきながら、10万円相当をばら撒いても少子化対策にはならず、経済成長を後押しすることもないと思う。

2)ポイントを付与してのマイナンバーカード取得促進について
 *2-4も、「①マイナンバーカード取得等で最大2万円分のポイントを付与する事業費として、1.8兆円が計上された」「②政府の狙いは普及率の向上だが、個人情報漏洩等の懸念に向き合わず、『アメ』で取得を促す手法に、識者から本末転倒との疑問の声が出ている」「③予算はカードの利便性・セキュリティーの向上に使うべきで、ポイントに充てるのは本来のあり方ではない」と記載している。

 (1)にも書いたとおり、、マイナンバーカードに多くの情報を紐づけると政府に悪用されかねないこと(後で詳しく記載する)、情報を集約し過ぎると個人情報の盗用にも便利であることから、セキュリティー対策としては情報を集約しすぎないことが重要であるため、②③は正しい。また、①は商店街がやることであって、政府がやることではない。

3)防衛費について
 政府は、*2-1-1のように、2021年度補正予算案に防衛関係費7,738億円を計上し、当初予算と合わせて6.1兆円、GDPの1.09%にしたそうだ。

 その内容は、日本周辺で軍事活動を続ける中国への対応として哨戒機(3機で658億円)・輸送機(1機で243億円)等の装備取得、北朝鮮によるミサイル発射対策として能力向上型地対空誘導弾PAC3の取得441億円、沖縄県米軍普天間基地の辺野古移設801億円で、戦闘機に搭載する空対空ミサイルや魚雷などの弾薬の確保にも予算を投じるとのことである。

 その野古移設801億円は、*2-1-2のように、沖縄県は名護市辺野古の新基地建設に関する変更承認申請を不承認としたが、国は工事継続の方針を示し、岸防衛相も「日米同盟の抑止力維持と普天間飛行場の危険性除去を考え合わせた場合、辺野古移設が唯一の解決策」と述べられたものである。

 しかし、*2-1-3・*2-1-4のように、奄美大島・宮古島・与那国島等の空港のある国境離島では既に陸自駐屯地が開設され、石垣島が南西諸島では最後になる状況であるため、陸上自衛隊だけでなく必要に応じて他の自衛隊や米軍とも共用すれば、日米同盟の抑止力維持と普天間飛行場の危険性除去は両立できる。そうなると、「辺野古移設が唯一の解決策」などという合理性のない繰り言はできなくなり、自衛隊駐屯地を景気対策や経済効果だけで作りまくる防衛予算の無駄遣いも減り、日米地位協定は自然消滅するのだ。

 沖縄県の玉城知事は、岸防衛相と面会して「宮古島市・石垣市で進む自衛隊基地の建設工事について「地域の理解を得るため折々に工事を止めて、住民の皆さんに丁寧に説明をして頂きたい」と述べ、岸氏は「いろいろ地元のご意見があることはよく承知している」「必要があれば住民の皆さんに説明していけるよう努力する」「これからも対話の場を作っていけるよう努力する」と述べるにとどめられたそうだ。

 が、合理的かつ首尾一貫性のある外交・防衛政策がなく、理由は後付けで無制限に新基地建設を行い、同じ説明ばかりされても対話する時間の方がもったいないため、国は早急に最小のコストで最大の効果をあげ得る防衛方針を決めるべきである。

 なお、離島の住民で基地のリスクや騒音を嫌う人には、いざという時に避難できる別宅を希望する場所に提供する補償をした方が、辺野古の埋め立てを強行するよりずっと安上りである。

4)省エネ住宅購入への補助等、気候変動危機対策について
 国交省は、*2-2のように、2021年度補正予算案に関連費用で542億円を盛り込み、18歳未満の子を持つ世帯か、夫婦いずれかが39歳以下の世帯を対象に、断熱性能に優れた戸建てやマンションを買う際に最大100万円を補助し、省エネ性能を高める改修工事に対しても最大45万円を補助するそうだ。

 この対象は、不公正・不公平で年齢による差別も含んでいるが、ないよりはあった方がよい制度だろう。しかし、この対象に入らない人には、省エネを奨励しないようだ(皮肉)。

 一方、*3は、「①アメリカのバイデン大統領が、1兆2000億ドル(約140兆円)規模のインフラ投資法案に署名し」「②インフラ投資法は、一世一代の大型財政支出と位置づけられ」「③このうち約5500億ドル(約642兆円)を今後8年間で、高速道路や道路、橋、都市の公共交通、旅客鉄道などの整備にあて、清潔な飲料水の提供、高速インターネット回線、電気自動車充電スポットの全国的なネットワーク整備に取り組み」「④財源に新型コロナ対策で使い残した予算や暗号資産に対する新規課税の税収等の様々な収入を充て」「⑤育児・介護、気候変動対策、医療保険、住宅支援等の充実を図る大規模な社会福祉法案も検討しているが、これは成立の見通しがまだ立っていない」としている。

 私は、①②③は、自動車革命が起きており、インフラの更新時期でもある現在は必要なことであり、同時に整備することによって一貫性のある整備を行うことができ、整備することによって生産性が向上し、景気対策・雇用対策にもなるという意味で無駄遣いではないと思う。さらに、④は、困っている人から消費税を巻き上げて調達する財源ではないことも理に適っている。

 また、⑤については、米国がどのような育児・介護、医療保険、住宅支援等の充実を図る大規模な社会福祉法案を作るか関心を持って見ているが、気候変動対策は社会福祉というよりは地球環境維持のための経済構造改革だと考える。

(3)国家ビジョン不在の予算編成はどうして起こるのか
        ← Plan Do Check Action(PDCA)の循環がができていないからである

   
 2020.12.21   2021.11.27   2021.11.27  ROA国際比較 ROE国際比較
  毎日新聞     毎日新聞    西日本新聞       Ronaldread 

(図の説明:1番左の図は、2021年度一般会計予算106.6兆円の内訳で、国債発行が40.9%を占め、税外収入は5.2%しかない。また、左から2番目の図が、2021年度補正予算36.0兆円の内訳で、国債発行が62.7%を占め、税外収入は3.8%しかない。そして、中央の図の新型コロナ感染拡大防止18.6兆円とGotoトラベル事業0.3兆円は、不合理なコロナ対応のつけであり、その気になれば防げたものである。また、日本は利子率が低いため、右から2番目と1番右の図のように、民間企業のROA・ROEも国際的に見て低いが、日本政府の省庁は分捕り合戦をして使うことしか考えない風潮があるため、資本生産性が低いだけでなくマイナスのことも多い。そのため、民間から資金を取り上げて国が使う大きな政府(新しい資本主義?)にすれば、国家財政は破綻への道しかなく、これは、共産主義で既に実証済である。従って、修正資本主義ならよいが、これは戦後ずっとやってきたことであり、特に新しいことではない)

 佐賀新聞が、*1-3のように、「①岸田首相が、新型コロナ禍を受けて分配政策を柱に据えた経済対策を決定」「②子育て世帯や所得が低い家庭などを幅広く支援する」「③『Go To トラベル』の再開も明記した」「④3回目のワクチン接種も無料にする」「⑤財源の不足分は新たな借金に頼る」「⑥売り上げが急減した中小事業者には最大250万円の事業復活支援金を配り」「⑦住民税非課税世帯に1世帯10万円を給付し」「⑧雇用調整助成金の特例措置を延長し」「⑨ガソリン価格を抑える原油高対策も盛り込み」「⑩『新しい資本主義の起動』に18歳以下の子どもを対象とした10万円相当の給付し」「⑪マイナンバーカードの新規取得者や保有者に対する最大2万円分のポイント付与し」等と記載している。

 しかし、その論調は、⑤のように財源不足分は国債に頼ることを認識していながら、③⑨を喜び、①の実現可能性については不問にし、②④⑥⑦⑧⑩⑪の妥当性は評価していない。

 また、*1-3は「⑫保育士、介護職、看護師の賃上げを明記し」「⑬経済安全保障の一環で先端半導体工場の国内立地を後押しし」「⑭国内の温室効果ガス排出を実質0にする2050年の脱炭素社会実現に向けて『政策を総動員する』とした」「⑮安全・安心の確保では、大規模災害に備えるため防災・減災を強化し、防衛力を増強する方針を示した」「⑯来年夏の参院選をにらみ30兆円超の補正を求める与党の声に配慮した」「⑰2022年度当初予算案では前年度と同じ5兆円の新型コロナ対策予備費を手当てし、2023年3月までの『16カ月予算』として切れ目なく景気をてこ入れする」とも書いている。

 私は、⑫⑬⑭⑮は必要な歳出だが、補正予算より通常予算で対応すべきものが多い上、⑯は衆議院議員選挙支援の代償で、⑰は状況の変化を無視した無駄遣いだと思う。

 そのため、*1-5の「⑱これで日本は変わるのか」「⑲未来を切り開くのか、過去に戻るのか、どちらを向いているのか分からない経済対策だ」というのに、私は賛成だ。これは何度も見てきた光景で、これによって日本は借金だけが膨らみ、経済成長はせず、世界から置いていかれたのである。そして、今回も世界は既に新型コロナ後を見据えた成長競争に入っているのに、日本は新型コロナ対策を名目に無駄遣いの大宴会を楽しんでいるようなのだ。

 なお、*1-6は、「⑳来夏の参院選を意識するあまり、大盤振る舞いが過ぎる」「㉑国民が期待する経済対策とはいえ、規模を追うのではなく質を高めることにもっと注力すべきだ」「㉒与野党ともに『ばらまき合戦』の様相を呈した衆院選で勝利した与党の要請で規模優先になったとみられる」等と記載している。

 私も、⑳㉒に賛成であり、㉑については、国に国際基準による公会計制度を導入し、予算全体を見てその合理性を国民や国会がチェックできるようにし、最小コストで最大成果を上げるよう、継続的に行政をチェックできるシステムにすべきだと考えている。

(4)年金・医療・介護制度と“高齢者”の軽視

 
    2021.12.1日経新聞           2021.4.19日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、2020年には(定義がこれでよいとは思わないが)15~64歳の生産年齢人口が総人口に占める割合が60%以下となり、そのうち女性の正規労働者は割合が低いため、少ない人数で多くの人を養わなければならなくなった。また、左から2番目の図のように、移動・職業選択・恋愛の自由によって核家族が増えた結果、単身高齢者が一貫して増え、老いたら子に養ってもらうという人は著しく少なくなっている。しかし、右から2番目の図のように、賃金は50代をピークとして大きく減少し、1番右の図のように、定年を廃止したり、80歳まで雇用したりする会社はまだ少ないため、年金は重要な生活原資になっている)

  
      Gen Med          2021.8.23日経新聞

(図の説明:左図のように、“高齢者”人口の割合は、2015年までは指数関数的に伸びているが、ベビーブームの次の世代が65歳以上になり始めた2018年くらいから伸びが鈍化し、2020年時点では28.7%である。ただし、「支える側にいる人」とは、働いて付加価値を作り出し社会保険料を支払っている人のことであるため、この数字がそのまま「支えられる側の人」を現すわけではない。なお、中央の図のように、日本は超高齢社会となっているが、右図のように、米欧に続きアジアでも少子高齢化で生産年齢人口が減り、しばらく生産年齢人口が増加し続けるのはアフリカだけだそうである)

1)あの手この手を使った“高齢者”の可処分所得減額
 身体的要因であれ、社会的要因であれ、働くことができない“高齢者”の収入は、①預金利息 ②有価証券の配当 ③公的年金 ④私的年金 ⑤預金の取崩し ⑥その他(不動産所得etc) しかない。

イ)低金利政策が高齢者に与えた影響
 このうち、①②は、2000年代以降、低金利政策によって著しく小さくなり、それと同時に、物価上昇やインフレも収まっている。

 また、④も、生産年齢人口の時から積み立てていた金額を金融市場で運用して増やすことが前提であるため、低金利政策によって運用益が減っている。つまり、景気対策とされてきた低金利政策は、“高齢者”の金融資産運用益を奪ってきたと言える。

ロ)公的年金制度の歪みと年金給付水準の減額
 さらに、③も、金融市場で運用して増やすことを前提として年金定期便に書かれていた金額の受け取りを約束していた筈だが、*4-1のように、少子高齢化を理由として、2014年の年金制度改正で「マクロ経済スライド(現役人口の減少と平均余命の伸びに対応して年金給付水準を減らす仕組み)」なるものを導入し、その範囲内でしか給付しないことにしたため、年金の所得代替率が低下して年金受給者の生活を直撃している。
 
 が、公的年金は、もともとは自分のために積み立てる積立方式だったのに、1985年に最初の男女雇用機会均等法が制定された時、同時にサラリーマンの専業主婦だけを“3号被保険者”とし、他の女性から見れば不公平な制度を作って賦課課税方式に変更したものだ。さらに、この年に、米国ではFASB83が定められ、正味現在価値を計算することによって退職金要支給額を理論的に計算する会計処理方法が確立していたのである。

 つまり、日本は20~50年も遅れているのに、年金保険料を支払っていた人にまで“仕送り方式”などという恩着せがましい呼び方をしているのだ。仮に、積立方式のまま自分のために運用する方式を採ってまともな運用をしていれば、このように不公正な減らし方をされる必要はなかった筈である。

 なお、所得の再分配は所得税や相続税で行っているため、医療保険料・介護保険料はじめ医療費・介護費・保育費等の負担割合にまで所得で差をつけると、所得に対する負担割合が不自然でおかしなカーブを描き、かえって不公平になる。そのため、保険は契約として負担やサービスの利用費に所得で差をつけないのが、正しいやり方なのである。

 しかし、2021年度には年金の改定ルールがさらに見直され、実質賃金が下落した場合は賃金下落に合わせて年金額を改定することが徹底され、2021年度は年金額がマイナス改定になったのだそうだ。その上、*4-2は、「将来の年金のため、マクロ経済スライドの名目下限措置は撤廃を」などと述べているが、現役世代の人が「働き方改革」と称する「働かない改革」ばかりを主張し、政府は景気対策のバラマキばかりで生産性向上に必要な変革のための投資を怠ってきたのだから、実質賃金下落の責任は現役世代にあり、精一杯働いて日本を復興し経済成長させてきて引退した高齢者には全くない。

ハ)金融緩和による物価上昇(=実質所得の下落)
 現在、*4-3のように、金融緩和で円安になったことが主な原因で、原油価格や輸入原材料が高騰してコストプッシュ・インフレーションになっており、このコスト高は企業間取引の段階で販売価格に転嫁することは可能でも、最終消費財にまで転嫁することは不可能だ。

 何故なら、イ)ロ)に記載したように、著しく所得の低い65歳以上の“高齢者”が、下の段の左図のように、30%近くを占めていて高くなったものは買えないからである。また、生産年齢人口の実質賃金も下がり、全体としてさらに落ちていくという悪循環になっているのだ。

 これを解決するには、経済学的視点・国際価格・将来性を見通す目を持って国の実態を分析し、的確な産業政策を決めていくことが必要なのだが、「少子化だから産めよ増やせよ」「最終財に価格転嫁してさらに物価上昇させ、年金や賃金の実質価値を減らして個人消費を弱めよ」という政策を採っているのは、馬鹿としか言いようがない。

 また、中央銀行の役割は通貨価値の安定(お金の量や金利は物価の安定を図る目的でコントロールするもの)であり、そのツールが金融政策なのである。そのため、「2%の物価上昇目標」をかざして異次元緩和と呼ぶ大胆な金融緩和で物価を上げ、国民が知らないうちに実質賃金や実質年金の金額を減らそうとするのは、日銀の本来の役割とは逆のことをやっているわけである。

 さらに、物価が上がれば預金の実質価値も減るため、上の⑤の“高齢者”の実質可処分所得も密かに減らしているのである。そのため、何故、こういうことをするのかについて正しく原因分析して解決しなければ、今後も、この(政府にとって便利で無責任な)方法は続けられるだろう。

 なお、金融緩和して物価を上げるとお金の価値が下がるため、預金の多い人から借金の多い人への密かな所得移転となる。借金の多い国や企業には、この効果も嬉しいのだろうが、このようにして資本生産性の低いところに密かに所得を移転して本物の最終需要を抑えれば、公正性がなく国民を豊かにできないだけでなく、課題先進国の長所を活かした本物の製品開発ができずに他国への追随を繰り返さざるを得ないのである。

2)働くシニアと女性
 1)に、「身体的要因であれ、社会的要因であれ、働くことができない“高齢者”の収入は、公的年金に大きく依存する」と記載したが、これまでは社会的要因で働けない人を作りすぎていたと思う。例えば、「少子化で支える人が足りない」と言いながら、働くことを希望しても労働力にカウントされない人を作っているのは矛盾している。

 そのため、イ)“高齢者”の定義を「65歳以上」とせず、個人差はあるが人生100年時代の身体的能力を考えて“高齢者”の定義を「75歳以上」とする ロ)身体的には働ける人を社会的に働けなくする定年制を廃止して引退時期を自分で決められる社会保障制度にする などの方法が考えられる。また、生産年齢人口の定義を「15~64歳」とするのも、高卒が99%を超えている日本社会では実態に合わないため、高校卒業後の「18~75歳」に変更すべきだろう。

 そのため、*4-4にも、「女性や高齢者の就業が進んでいることに合わせて、年金制度を変更する」として、2022年4月から年金制度改正法が施行されると記載されている。今回の改正では、「①パートなどの短時間労働者への年金適用拡大」「②繰り下げ受給の上限引き上げ」「③確定拠出年金の要件緩和」などが含まれ、①は短時間労働者の働き方に影響を与え、②③はシニアの退職時期に影響を与えそうだ。

 しかし、①については、そもそも女性を正規雇用ではない悪い労働条件で働かせてきたのは、非正規労働者にして男女雇用機会均等法の1997年改正をすり抜けるためで、女性の労働市場での活躍を社会的要因で制限してきた女性差別そのものなのである。そして、その社会的要因は、男女の十分な雇用を作れないという理由で女性に道を譲らせたものであるため、少子化で支える人が足りないのであれば、まず女性にも100%近い正規雇用を準備すべきなのだ。短時間勤務の正規雇用労働者を作るのは契約の自由であり、全く問題ないのだから。

 また、②については、繰り下げ受給の上限を引き上げて年金受給開始時期の選択肢を拡大することによって、希望により60~70歳の間で受給開始時期を自由に決められるようになるが、私は65~75歳の間で受給開始時期を自由に決められるようにして、役所や企業に定年制度を設けるなら65歳以上を義務付けるのがよいと思う。しかし、65歳をすぎると年収が減るという事実がある以上、在職中の年金支給停止の基準額を47万円(十分?)に緩和することは必要だ。

 なお、「女性や高齢者の労働者が増加しているので、多様な働き方に対応しなければならない」として、「短時間労働→非正規労働者→不安定な労働者」という雇用形態を強制される場合が多い。そのため、建前と本音の異なる雇用形態を許さない労働規制も必要である。

3)高齢者の介護保険料負担増加と介護サービスの削減


                             2021.11.15東京新聞
(図の説明:介護保険の財源は、左図のように、40~64歳の人が支払う保険料27%、65歳以上の人が支払う保険料23%で、残りの50%は公費《国25%、県12.5%、市12.5%》だ。この配分でおかしいのは、40~64歳と65歳以上の人口割合は毎年変わるのに負担割合を事前に決めていること、若い人口は都市に多いのに年齢構成を加味せず県・市などにも負担させているため、地方の高齢者は介護保険料は高く介護サービスは受けにくい状態になることである。また、中央の図のように、40歳以下の人は被保険者になっていないため介護保険料を支払わなくてよいが、訪問介護サービスも受けられない。しかし、若い人や子どもでも介護サービスのニーズはあるため、不便なのである。なお、収入の高い人は高い介護保険料を支払い、同じ介護サービスの利用料負担割合が収入によって異なるというのは、保険として根本的におかしい。このように歪んだ制度の中で、所得の少ない高齢者が介護保険料を滞納したからといって差し押さえするのは、共助・公助のどこから考えてもおかしいのである)

イ)介護保険制度の目的は何だったか?
 介護保険の財源は、上の左図のように、40~64歳が支払う保険料27%、65歳以上が支払う保険料23%、残りの50%は公費《国25%、県12.5%、市12.5%》で賄われている。この配分は、40~64歳と65歳以上の人口割合は毎年変わるのに負担割合を事前に決めていること、生産年齢人口の割合は都市で高いのに年齢構成を考えずに県・市などにも負担させているため、地方の高齢者は介護保険料は高いのに介護サービスを受けにくくなっている点で不合理だ。つまり、潜在を含む要介護者・要支援者のニーズを第1に考えた制度になっていないのである。

 また、上の中央の図のように、40歳以下は被保険者になっていないため介護保険料を支払わなくてよいが、介護サービスも受けられない。しかし、新型コロナ等の感染症で浮き彫りになったように、若い人や子どもにも介護サービスのニーズはあるのに除外されており、不便なのだ。

 なお、所得の多い人は介護保険料が高く、同じ介護サービスの利用料負担割合も所得によって異なるのは保険制度としておかしい。そのため、訪問看護・訪問介護は、サービスの利用料負担割合を所得によって大雑把に変えるのではなく、負担割合は同じにして医療費負担額と合計し、1カ月の合計支払額に対して所得で上限を設けるのが合理的である。

 このように歪んだ制度の下、*5-3のように、介護保険制度が始まった約20年前と比べて保険料が倍以上となり、高齢世帯の家計への負担が増加して2万人超もの所得の少ない高齢者が介護保険料を滞納したからといって差し押さえするのは、共助・公助の精神から考えて変である。

 さらに、*5-4のように、1人暮らしの世帯が増加しているが、高齢者は生涯単身の人より核家族化して子とは別の街に住み、配偶者を亡くした人が多い。そのため、2020年の国勢調査で単身高齢者は5年前と比較して13.3%増の671万6806人に増えたのだ。特に女性の場合は、働いたら生涯単身を強いられたという人もいれば、夫を亡くして1人残ったという人も多いため、要介護・要支援になった場合は介護制度が不可欠であり、介護を社会化した費用は働いている国民全体で負担すべきである。

ロ)看護・介護・保育の場で働く人の賃金について
 政府の経済対策で、*5-1・*5-2のように、看護・介護・保育の場で働く人たちの賃金を来年2月から引き上げることが決まったそうだ。「女性が主として働く職場の平均賃金は安く、男性が主として働いていた職場に女性が入っていくと、ガラスの天井がある」というのは、1980年代に米国で言われたことだが、日本は40年遅れの2020年代でもそうなのである。

 従って、労働量と責任に見合った賃金にしなければ人材が集まらないのは当然のことだが、「さらなる高齢者の負担増・サービス減になるのなら本末転倒なので、どういう財源を使って賃上げするのか」と、私は思っている次第だ。介護保険制度に基づく介護や支援については、働く人全員が支払うようにする形で薄く広く国民負担増を行うのが、歪みを是正しながら労働量と責任に合った賃金を支払い、高齢者の負担増・サービス減に陥らない唯一の方法だと、私は思う。また、介護は、介護保険制度に基づくサービスと全額自己負担によるサービスの両方を提供できるようにする方法もある。

 しかし、*5-5のように、日本は、労働力確保の有力な選択肢であり、人口対策でもある外国人労働者の割合が、諸外国に比べて著しく少ない。そのため、私もせっかく日本で技術を覚えた外国人材を冷遇するのは、人権侵害であるのみならず、日本の国益にも反していると思う。

ハ)日本の設備投資が停滞した理由は何か
 *5-6は、①この20年間で米・英の設備投資は5~6割伸びたが、日本は1割弱しか増えなかった ②日本企業は海外で積極的にお金を使い、利益を国内投資に振り向けない ③設備の更新が進まなければ労働生産性が高まらず、人口減の制約も補えない ④成長の壁としてよく指摘されるのは人口減少や少子高齢化だが、設備投資の停滞も低成長の構造要因として直視する必要がある ⑤就業者は10年間で378万人増え、特に女性や65歳以上の働き手が多くなった 等と記載している。

 しかし、どの国の企業であっても、ROAやROEの高い場所で投資しなければ継続できず、日本は、(3)の図にある通り、ROAやROEが高くないのが①②の原因である。そうなる理由の1つは、人件費・不動産コスト・水光熱費等のコストが高いため、製造しても利益率が低いからだ。それなら、優れた新製品を開発して付加価値を上げればよさそうだが、再エネやEVを開発しても政府は火力や原発に固執して後押しするどころか妨害する始末だったし、ワクチンや治療薬の開発もやりにくいのである。そのため、日本で新技術に投資するのはリターンよりもリスクの方が大きく、これらは政府や省庁のセンスの悪さに起因するものではあるが、メディアもその一部を担っていることは否めないだろう。

 また、③の設備更新は、今後、何をどういう方法で製造するのか、それを日本でやると稼げる仕事になるのかが明確になって初めて行えるものであるため、その環境が整っていなかったということだ。さらに、④の「人口減少や少子高齢化が成長の壁」などと指摘する人は、1人1人が豊かになることは目指しておらす、1人1人は貧しいまま国民の数を増やして需要を増やそうと考えているのであるため、やはりセンスが悪い。

 なお、⑤については、女性や高齢者の働き手が多くなることは、その人たちの人権や職業選択の自由のために必要なことであるため、それを無視してよいかのような言動はおかしい。また、機械の設備更新は少なかったかもしれないが、介護・保育・学童保育など必要性が明確な施設への設備投資は行われてきたため、従来型の設備投資の定義が狭すぎるのではないかと思う。

(5)合理性のある家族の所得合算と世帯人数での分割


 2020.11.14中日新聞    2021.5.21朝日新聞   2020.12.16Huffingtonpost

(図の説明:左図のように、児童手当の支給基準は「夫婦のうち年収の高い方が960万円以下」であるため、共働きのケースが有利だと指摘された。また、現在の児童手当は、中央と右図のように、年収の高い方が960万円超の家庭に特例給付が支給されているが、2022年10月以降は特例給付も1200万円以下までとなり、1200万円超の家庭にはなくなるそうだ)

 18歳以下の子を対象にした10万円相当給付の所得制限に、夫婦の年収の高い方が960万円以下か否かで支給対象を判定する児童手当の仕組みを利用するため(https://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/kaidai/14.html 参照)、*6-1・*6-2のように、「高収入の共稼ぎ夫婦にも支給されることが起こりうる」と与党内からも指摘があるそうだ。

 2020年には共働き世帯数が専業主婦世帯の2倍を超え、世帯合算を導入している制度には、低所得世帯向け大学授業料の負担減・返済不要の奨学金支給・私立高校の授業料支援・0~2歳児の保育所利用料等があり、児童手当への世帯合算導入も話題になっているとのことである。

 しかし、世帯合算を導入するのなら、配る時だけでなく所得税等を徴収する時にも世帯合算を選択できるようにしなければ、政府は都合がよすぎる。ちなみに、米国は1948年に所得税の徴収に2分2乗方式の世帯合算選択制を導入し、フランスは1946年にn分n乗方式の世帯合算制を導入している。

 金額を入れ単純化して世帯単位課税を説明すると、A)夫1人だけで1,000万円の収入があり、子が2人の世帯は、米国の2分2乗方式では、500万円(1,000/2)を1人あたり世帯所得基準として累進課税を行う世帯単位課税を選択できる。一方、フランスのn分n乗方式では、333万円(1,000/《1+1+2/2》)を1人あたり世帯所得基準として累進課税を行う。何故なら、n分n乗方式では、子も1/2人としてカウントするからで、私は、フランス方式の方が所得のない配偶者や子に対して低額の配偶者控除や扶養控除を認めるよりも生活実態にあっていると思う。

 一方、B)夫600万円、妻400万円、合計1,000万円の収入があり、子が2人の世帯は、米国の2分2乗方式では500万円(《600+400》/2)を1人あたり世帯所得基準とし、フランスのn分n乗方式では、333万円(《600+400》/《1+1+2/2》)を1人あたり世帯所得基準として累進課税を行うので、A)と変わらず公平である。しかし、合算した方が実態にあっている夫婦ばかりではないため、個人課税と合算課税を選択できることとし、合算した場合の累進税率を有利にすることで、結婚や子育てを支援した方がよいと思う。

 この税制を採用すると、A)のケースでは、今まで1,000万円を基準として所得税の累進税率を決めていたのに、米国方式なら500万円・フランス方式なら333万円を基準として累進税率を決めることになるため、税率が低くなって国の歳入が減るという反対論が必ず出る。しかし、これが真の生活実態であり、原因は女性を働きにくくさせている社会制度にあるため、税収を増やすには女性も働いて同一労働・同一賃金で所得を得られる仕組みに変更することが必要なのである。そして、これは時代の要請でもある。

 さらに、女性が働く時、家事をすべて家族内でこなすことを前提とするのは、職場での責任と家事の労働量・責任負担の両方を過小評価しすぎており、これらを両立させたことのない人の発想だと、前から思っていた。私は、家事を外部委託した場合のコストは、収入から差し引かれる経費として控除できるようにすべきだと思うし、収入に応じて高い保育料を徴収するというのは論外だと思っている。

 従って、*6-3のように、改正児童手当法が、高い方の年収が1200万円以上の世帯に支給している月5千円の「特例給付」も廃止するというのは、やはり世帯の生活実態を反映しておらず、小手先の小さな財源確保策にしかなっていないので考え直すべきである。

(6)こども庁は必要か


2021.4.10朝日新聞  2021.4.13日経新聞       2021.9.23Yahoo

(図の説明:中央の図の上に書かれているように、3府省にわかれている縦割りを廃し、子どものためになる施策を行うべきではあるが、左図のように、新しい庁を作って慣れない人が担当すると、サービスの内容はむしろ後退する。そのため、幼保一元化をすればよく、そのモデルが認定こども園なのだ。なお、右図のように、新しい庁を作っても予算と人員が増えて縦割りと根回しすべき相手が増えるだけでは生産性や効率がさらに落ちるので、これまで子ども政策の何が不十分だったのかを徹底的にチェックし、正確に原因分析してそれを解決する方が重要である)

1)子ども庁は2元制を3元制にしそうであること
 2001年1月施行の中央省庁再編の目的は、①縦割り行政による弊害をなくし ②内閣機能を強化し ③事務・事業を減量・効率化することで、1府22省庁から1府12省庁に再編された。

 このうち、②の内閣機能の強化は少しは進んだが、①は全くできていない。また、③は、「小さな政府」にして政府の無駄遣いを排除し、国民負担を軽減することを意図していたのだが、「『小さな政府』とは夜警国家のことで、社会保障が無駄遣いである」と意図的に間違った解釈をし、次に「『小さな政府』や『新自由主義』がいけない」と言い始め、その結果、改革努力もむなしく大きな政府に戻す流れになっているのだ。従って、Planはよかったが、Doの段階で元に戻す力が働いたため、「何故、こうなるのか」についてCheckしながら考察する。

 なお、私は、「産業側に立つ省ではなく、消費者側に立つ省が必要だ」という理由で消費者庁の創設は進めたが、「こども庁」の創設意義については不明だと思う。そのため、庁と人員を増やして予算を無駄遣いするだけで、2001年1月施行の中央省庁再編の意義が問われるのではないかと考えているのだ。

 そのような中、*6-5は、④政府は子ども政策の縦割りを排し、政策立案や強力な総合調整機能を持たせる『子ども庁』を内閣府の外局として新設して担当閣僚を置く ⑤これによって、少子化・貧困・虐待などの問題を解決する ⑥幼保一元化は進んでおらず、厚労省所管の保育所と内閣府所管の認定こども園は子ども庁に移すが、幼稚園は文科省に残す ⑦原案は文科省と子ども庁が相互に内容に関与しながら「教育は文科省」を強調しており、現場の分断を深める恐れがある ⑧子どもの問題は組織をつくれば解決するものではなく、大切なのは具体的施策と裏付けとなる財源 ⑨それには高齢者に偏る社会保障の財源を子どもに振り向けるなど、痛みをともなう改革も必要 というようなことを記載している。

 しかし、⑤のうちの虐待は、情報収集力や強制力のある組織(学校・病院・児童相談所・警察等)が連携してしっかり見守り、危機を察知したら行動に繋げられる仕組みでなければ機能しないため、これらの組織の機能不全が何故起こったのかについての原因分析をして改善しないまま、民間人等の強制力のない人が子の意見を聞いてもたいしたことはできない。

 また、⑤のうちの貧困は、親の教育や雇用環境などの政府がこれまで行ってきた政策の付けであって、親子の心の問題ではないため、カウンセラーが話を聞けば解決できるようなものではない。さらに、⑤のうちの少子化は、上で示したような時代に合わない政策の結果であるため、解決するには原因を取り除かなければならず、新しい組織や器を作って二重・三重に予算をつければ解決するものではないのである。

 さらに、⑥の認定こども園は、幼保一元化するために作った制度なので、認定こども園ができると同時に保育所と幼稚園は認定こども園に衣替えして幼保一元化が進んで縦割りはなくなるのかと思っていたら、両者とも併存したため二元制度が三元制度になったのだ。これは、各省が既得権を守ったものであるため、④のように、「子ども庁」設置して担当閣僚を置けば、子ども政策の縦割りが排され、強力な総合調整機能が持てるかについても、大いに疑問なのである。

 つまり、*6-4の「『器』より中身が重要だ」というのに私は賛成だ。ただ、「こども庁」を内閣府の下部に創設して保育所に関する部署は厚労省から内閣府に移し、保育所はすべて認定子ども園としたり、幼稚園は文科省に残して小学校の義務教育期間を3歳からにし、幼稚園を小学校と合併するのなら時代のニーズにあっているため、⑦も含めて賛成である。

 なお、「子ども庁」を“少子化対策”のために創設するというのもセンスが悪いと思うが、これまでの政策が少子化を促進してきたのなら、その原因の一つ一つを取り除かなければならないのであり、えいやっと「子ども庁」を創って予算をつけたら改善するわけではない。

 そして、財源論となると、⑨のように、「高齢者に偏る社会保障を子どもに振り向けるなど、痛みをともなう改革も必要」とし、社会保障は高齢者に偏っているという誤った前提の下、生産年齢人口に対する膨大な無駄遣いは無視したまま、本物の産業振興はせずに、厚労省内の予算の奪い合いに帰着させ、高齢者に痛みを押し付ければよい改革であるかのように言っている点で稚拙で勉強不足なのである。

 また、「子どもまん中」というのは、「子ども以外は従である」という意味であるため、日本国憲法「第11条:基本的人権の尊重」「第14条:法の下の平等」「第25五条:生存権(*参照)」等に違反している。そのため、そういうことを言うのは情けない限りで(https://www.city.amakusa.kumamoto.jp/kiji003833/3_833_3_up_i1gdnvnk.pdf 参照)、子に対してこういう教育をしていれば、日本国憲法を無視し、他人を軽視する人を再生産することになる。

*日本国憲法 第25五条
   ①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
   ② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上
     及び増進に努めなければならない。

2)中国の産業高度化と成長戦略について
 日本は、比較的技術力の低い製造業は新興国に移され、技術力の高い製造業に変換することにも失敗している(https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190611002/20190611002_07.pdf 参照)。しかし、経済成長や産業高度化のためには、そうなってしまった原因を分析して変革することが重要で、前だけ見ていては原因分析もできない。

 そのような中、*6-6によれば、①中国の地方都市は競い合うように人材誘致を進めて世界中の研究者を引き込もうとしており ②72歳以下の引退した教授なら、国籍や学科を問わず、A級ランクで給料120万元(約2,100万円)以上、住居購入費350万元(約6,200万円)、赴任手当110万元(約2千万円)、研究費等毎年200万~1,000万元(約3,600万~1億8千万円)、合計780万~1,580万元(約1億4千万~2億8千万円)以上で ③医療保険・交通費を準備され配偶者も同伴可で ④勤務先は中国の大学・研究機構・大企業の研究所等で ④日本の専門家への期待は、日本が競争力を持つ素材・自動車・産業機械分野で日本語で募集している そうであるため、該当する人なら行きたくなるのも無理はない。
 
 また、⑤帰国する中国人留学生も過去10年で約5倍に膨らんで年間58万人(2019年)となり ⑥研究開発費は過去20年で約27倍(人民元建て)にもなって米国に次ぎ ⑦米国の大学で理系博士号を取得した中国人は5,700人(2020年)で、10年で7割近く増え ⑧引用回数が上位10%に入る「注目度の高い論文」(2017~2019年平均)で、中国は米国を抜いて初めて世界首位になった そうで、これらは、産業の高度化と成長戦略として正攻法である。

 一方、日本は、早めの定年制で熟練技術者を新興国に供給して新興国の技術力を高めたが、自国の競争力は弱めたし、教育・研究も環境整備を疎かにしてきたため人材が多くは育たず経済停滞の原因になっている。そのため、情報管理の強化は必要だろうが、「技術流出の懸念」と言える時代は既に過ぎてしまったことの方が大きな問題なのである。

・・参考資料・・
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211127&ng=DGKKZO77947650X21C21A1EA4000 (日経新聞 2021.11.27) 補正で膨らむ予算、常態化、緊急性低い事業も相次ぎ計上、使途の点検・監視不可欠
 政府が26日決めた2021年度補正予算案では、査定が甘くなりがちな補正で予算を大幅に上積みする手法の常態化が鮮明となった。成長につながるかどうか不透明な事業や補正で緊急に手当てする必要性が乏しい公共事業なども盛り込まれている。予算の使い道の点検・監視が欠かせない。補正予算案は12月6日に召集される見通しの臨時国会で審議される。経済対策に計上した31.5兆円超の約6割弱は新型コロナウイルスの感染拡大防止に充てる。病床確保の支援金に2兆円を盛り込んだ。成長戦略向けの支出の比率は約2割で、半導体の国内生産拠点の確保に6170億円、経済安全保障の一環で先端技術を支援する基金に2500億円などを積んだ。低所得世帯向けの10万円給付には1.4兆円、18歳以下への10万円相当の給付は21年度予備費からの拠出を含め1.9兆円を充てる。このほか最大250万円の中堅・中小事業者向けの支援金2.8兆円、資金繰り支援の1400億円などを盛り込んだ。看護師・介護士・保育士らの処遇改善には2600億円を投じる。本来、補正予算の編成は財政法で「(当初)予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費」に限って認められている。それが近年は補正を抜け穴に予算を膨らませるのが当たり前のようになっている。社会保障や公共事業など恒常的に必要な経費を積み上げる当初予算の規模は、翌年度以降の目安となりやすい。このため財務省はできるだけ厳しく査定する。補正予算の査定は比較的甘いとされる。一時的な措置であることが建前上の理由だ。一橋大の佐藤主光教授は「財務省が当初予算をむりやり絞るため、穴の空いたバケツとなり、補正予算が要求の主戦場となっている。構造的に必要な支出であれば、本来は税を確保して当初予算で対処すべきだ」と指摘する。「中小企業の構造転換を進める補助金を打ち出す一方で、転換を阻害しかねない減収企業への支援金も盛り込んでいる。本当に成長につながる投資になるのかも精査する必要がある」とも話す。今回の補正でまかなう経済対策は、成長と分配の両立に向けた産業構造や社会構造の変革が「喫緊の課題」とうたう。実際の中身は必ずしも「緊要」「喫緊」と言えないような事業も目立つ。例えば防災・減災対策として国土強靱(きょうじん)化計画の関連事業に1.2兆円を割いた。この計画は20年末に閣議決定し、5年間で15兆円を投じてダムや堤防などを集中的に整備する目標を掲げた。このタイミングの補正で改めて扱う理由は明確ではない。国土交通省は22年度予算案の概算要求にも関連事業を盛り込んだ。治水や高速道路網の整備などの内容はほぼ同じで、補正予算に前倒しする趣旨は曖昧だ。国交省内でさえ「本来は経済対策ではなくて当初予算で措置すべきものだ」とささやかれる。総務省は高齢者らのオンライン行政手続き利用を支援する事業に3億3000万円を計上した。内閣府も「デジタル田園都市国家構想推進交付金」の事業費として200億円を計上する。使途の一部は高齢者らにスマートフォンの使い方を指南する「デジタル推進委員」の全国展開などで、重複感は否めない。コロナが広がった20年度は3度にわたる補正で一般会計の歳出総額が175兆円を超え、過去最大となった。危機対応の財政出動や柔軟な予算編成はもちろん必要だ。問題は実態だ。補正が無駄なバラマキを招いていないか、検証が欠かせない。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211127&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2021.11.27) 国債残高1000兆円突破へ 10年で1.5倍、財政悪化の底見えず
 政府は2021年度補正予算案の財源として国債を22兆円追加発行する。21年度末の残高は初めて1000兆円を突破する見通しとなった。規模ありきで成長の芽に乏しい予算づくりを見直さなければ、経済が停滞したまま債務だけが膨らむ状況に陥りかねない。21年度の国債発行額は当初予算から5割増の65兆円超に膨らむ。3度にわたる補正予算編成で112兆円を超えた20年度に次ぐ規模となる。リーマン・ショック直後の09年度の52兆円を2年続けて上回る。税収で返済しなければならない赤字国債や建設国債など「普通国債」の残高は今回の補正予算案による上積みで、21年度末時点で1004.5兆円となる見通し。21年度当初予算の段階では990兆円と見込んでいた。10年度の636兆円から10年あまりで1.5倍以上に膨らんだ。財政の悪化は底が見えない。国際通貨基金(IMF)によると、日本の国内総生産(GDP)比の政府債務残高は21年は米国のほぼ2倍の257%に達する。主要7カ国(G7)で最悪の水準が続く。日本は12年末に発足した第2次安倍政権以降、経済成長によって財政健全化をめざす姿勢を鮮明にしてきた。実際は目標の実質2%成長が実現したのは13年度だけ。大規模な財政出動や異例の金融緩和で景気をなんとか下支えしてきたのが現実だ。結果として、低成長のまま債務が増大する流れが続いている。財政頼みの構図は簡単に変わりそうにない。「追加的な対応なくしては、来年度にかけて公的支出が相当程度減少することが見込まれる」。政府は19日に決めた経済対策で、財政出動の息切れによる「財政の崖」が景気を下押しすることに懸念を示した。家計や企業の目先の支援に追われるコロナ対応の危機モードがなお続き、中長期の成長力を底上げする「賢い支出」の視点は乏しい。これから編成作業が本格化する22年度当初予算案では、経済対策に盛り込んだコロナ対応予備費5兆円も計上する方向だ。予備費は政府が国会の議決を経ずに使い道を決める。本来は安易な予備費の計上は避けるべきだ。巨額の枠が縮小できずに残り続ければ財政のさらなる重荷となる。

*1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/771250 (佐賀新聞 2021/11/19) 「分配」柱に78・9兆円、子育て支援、GoTo再開も
 政府は19日、新型コロナウイルス禍を受けた経済対策を臨時閣議で決定した。岸田文雄首相が掲げる「分配政策」を柱に据え、子育て世帯や所得が低い家庭などを幅広く支援する。地方の活性化につながる観光支援事業「Go To トラベル」の再開も明記した。国と自治体の財政支出は過去最大の55兆7千億円、民間の支出額などを加えた事業規模は78兆9千億円に上った。財源の不足分は新たな借金に頼る。裏付けとなる2021年度補正予算案を26日に決め、12月中旬の成立を目指す。首相は臨時閣議前の経済財政諮問会議で「経済を立て直し、一日も早く成長軌道に乗せていく」と述べた。対策は4分野で構成した。「新型コロナ感染拡大防止」では、3回目のワクチン接種も無料にすることを打ち出した。売り上げが急減した中小事業者に最大250万円の「事業復活支援金」を配り、住民税が非課税の家庭に1世帯10万円を給付。企業の休業手当を国が補う「雇用調整助成金」の特例措置の延長や、ガソリン価格を抑える原油高対策も盛り込んだ。「社会経済活動の再開と危機への備え」としてGoTo事業を再開し、国産ワクチンの研究開発・生産体制を強化する。「『新しい資本主義』の起動」には、18歳以下の子どもを対象とした10万円相当の給付、マイナンバーカードの新規取得者や保有者に対する最大2万円分のポイント付与、保育士、介護職、看護師の賃上げを明記した。経済安全保障の一環で先端半導体工場の国内立地を後押しし、国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする50年の脱炭素社会実現に向け「政策を総動員する」とした。最後の「安全・安心の確保」では、大規模災害に備えるために防災・減災を強化し、防衛力を増強する方針を示した。21年度補正予算案には幅広い政策に使うお金を管理する一般会計と、使い道を限定した特別会計の合計で31兆9千億円を計上する。来年夏の参院選をにらみ「30兆円超」の補正を求める与党の声に配慮した。22年度当初予算案では、前年度と同じ5兆円の新型コロナ対策予備費を手当てし、23年3月までの「16カ月予算」として切れ目なく景気をてこ入れする。経済対策の財政支出は、安倍政権が20年4月に策定した48兆4千億円がこれまでの最大だった。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211120&ng=DGKKZO77759050Q1A121C2MM8000 (日経新聞 2021.11.20) 経済対策、見えぬ「賢い支出」 最大の55兆円、分配重視、首相「赤字国債など総動員」
 政府は19日の臨時閣議で、財政支出が過去最大の55.7兆円となる経済対策を決めた。岸田文雄首相は日本経済新聞などのインタビューで、赤字国債発行も含めて財源を確保すると説明した。未来の成長を呼び込む「賢い支出」とは言いがたい項目が目立ち、目標とする「成長と分配の好循環」につなげられるかは見通せない。民間資金も入れた事業規模は78.9兆円と経済対策としては過去2番目に膨らんだ。内訳をみると、分配を重視する岸田政権の方針が色濃い。18歳以下の子どもへの1人10万円相当の給付や、低所得の住民税非課税世帯への10万円の支給はその代表例だ。一時的な消費拡大にしかつながらないこれらの個人向けの給付はざっと5兆円に及ぶ。新型コロナウイルスで減収に陥った事業者には最大250万円を支援する。規模ばかりが先行し、財源の裏付けは万全とは言えない。今回は2021年度補正予算案に一般会計で31.6兆円を計上する。首相は「赤字国債はじめあらゆるものを動員する」と言明した。消費税に関しては「触ることを考えていない」と述べ、増税には慎重な姿勢を示した。大型の財政支出は財源と一体で議論するのが世界の潮流だ。米国で15日に成立したインフラ投資法では道路・橋の修復など5500億ドルの歳出を既存のコロナ関連予算の振り替えなどでまかなう。雇用計画や教育支援などの家族計画には、法人税の引き上げや所得税の最高税率上げを盛り込んでいる。首相はインタビューで「経済の再生を行い、そして財政についても考えていく。これが順番だ」と語り、当面は経済の立て直しを優先する姿勢を鮮明にした。肝心なのは経済対策をどう中長期的な成長に結びつけるかだ。首相は成長戦略として、科学技術立国、地方からのデジタル化、重要な物資確保や技術開発といった経済安全保障の3本柱を挙げた。「国の予算が呼び水になり、民間の投資や参加につなげていく方向性が重要だ」と訴えた。具体例として米国の半導体メーカーの誘致にふれた。人工知能(AI)や量子分野といった先端技術支援の基金などに5000億円規模を盛り込んだが、力不足は否めない。首相は規制改革についても「成長戦略を進める上で必要なものはしっかり考えていく」と強調した。ただ、コロナ感染を調べる「抗原検査キット」のインターネット販売の解禁は今回の対策から外れた。業界の反対論を打破できなかった。コロナ対策では、病床確保のための補助金を積む。今夏の第5波では病床確保料を受け取りながら、すぐに患者を受け入れない「幽霊病床」が問題になった。首相は「ポイントは見える化だ」と指摘し、病院別の病床使用率や地域のオンライン診療の実績公表に取り組む考えを示した。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211120&c=DM1&d=0&nbm=・・・ (日経新聞 2021.11.20) これで日本は変わるのか
 未来を切り開くのか、過去に戻るのか。どちらを向いているのか分からない経済対策だ。岸田文雄首相が「数十兆円規模」といっていた対策は、ふたを開ければ財政支出だけで55兆円に膨らんだ。「過去最大」という見かけにこだわり、使い道をよく考えないまま額を積み上げたとしか思えない。かつて何度も見てきた光景のような気がする。バブル崩壊後、歴代政権は繰り返し巨額の経済対策を打ち出してきた。どれもうまくいったとは言えない。日本が歩んだのは「失われた20年」という停滞の時代だ。デフレ下では、借金を重ねてでも財政を通じて需要を底上げする必要がある。問題は使い道だ。過去の経済対策は無駄な公共事業や一時的な消費喚起策に偏っていた。将来の成長につながる「賢い支出」に知恵を絞ってきたとは言いがたい。今回も同じ轍(てつ)を踏んでしまったのか。対策の柱として目立つのは、家計や企業への給付金ばかりだ。一部が消費に回ったとしても、一時的な需要をつくり出すにすぎず、持続的な成長にはつながらない。本来やるべきは、生産性を高めるデジタル化や世界が競う脱炭素の後押しだ。人への投資や規制緩和を通じ、成長分野に人材が移動しやすくする改革も急がなければならない。今回の対策で、そうした分野に十分なお金が回るとは思えない。世界はすでに新型コロナウイルス後を見据えた成長競争に入っている。米中対立が収まる気配を見せないなか、日本はそのはざまで独自の強みを持たなければ生き残っていけない。日本はやはり変わらないのか。成長せずに借金だけが膨らむ。先祖返りしたかのような規模ありきの対策は、次の世代にそんな日本を引き継ぎかねない。

*1-6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/834990/ (西日本新聞社説 2021/11/21) 新たな経済対策 規模を追わず質を高めよ
 来夏の参院選を意識するあまり、大盤振る舞いが過ぎるのではないか。岸田文雄政権が19日に閣議決定した経済対策のことである。国と地方が支出する財政支出が55兆7千億円に膨らみ、過去最大となった。民間支出分などを加えた事業規模は78兆9千億円に達している。安倍政権時代に新型コロナウイルス感染症が急拡大し、国民に一律10万円の支給を決めた昨年4月の経済対策の財政支出が48兆円超だった。この際も議論を呼ぶ規模だったが、今回はそれをさらに大きく上回る。当時に比べ国内の感染状況はかなり落ち着いてきた。国民が期待する経済対策とはいえ規模を追うのではなく、質を高めることにもっと注力すべきだ。与野党ともに「ばらまき合戦」の様相を呈した衆院選で勝利した与党の要請は無視できず、規模優先になったとみられる。「成長と分配の好循環」の議論が影を潜め、既視感の強いメニューが並んだのは残念だ。対策の4本柱は、新型コロナ対策、次の危機への備え、新しい資本主義起動、安全・安心の確保だという。医療提供体制の拡充が最優先なのは論をまたない。感染者が自宅待機を強いられ、そのまま亡くなるような悲劇を繰り返してはならない。欧州などでは感染が再び拡大している。医療機関の受け入れ体制強化など第6波への備えは不可欠だ。コロナ禍に苦しむ生活困窮世帯などに必要な支援を急がねばならず、日本経済の立て直しや潜在成長率を引き上げる取り組みも重要である。製造業などの業績が急回復する一方、コロナ禍で厳しい状況の中小事業者は多い。事業継続のための支援を早急に届ける必要があろう。公明党が衆院選公約に掲げた18歳以下への10万円相当の給付も盛り込まれた。子育て支援策としても経済対策としても効果は限定的との見方が大勢だ。所得制限が設けられたとはいえ、その基準は緩い。選挙目当てのばらまきとの批判は根強い。対策の財源は、2020年度の決算剰余金と21年度の補正予算、22年度予算で手当てされるが、結局は赤字国債である。日本経済の回復は欧米や中国などより遅れている。今年7~9月期の実質国内総生産(GDP)は年率3・0%減のマイナス成長だった。民間調査機関によれば、21年度の成長率は政府年央試算の3・7%を下回る見通しだ。昨年来のコロナ禍で繰り返された巨額の経済対策には、政府が想定した効果があったのか。その点をしっかりと見極める国会での審議を求めたい。

<具体的には>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211127&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2021.11.27) 防衛費、最大の7700億円 当初と合わせ6.1兆円、GDP比1%超
 政府は26日に決定した2021年度補正予算案で防衛関係費に7738億円を充てた。補正予算で計上する額としては過去最大となった。当初予算とあわせると6.1兆円で、当初と補正をあわせた防衛費は国内総生産(GDP)比で1%を超して1.09%となる。当初予算と補正予算を単純合算した額がGDP比1%を超えたのは2012年度以降の10年間で8回あった。21年度のGDP比の水準は10年間で最も高い。哨戒機や輸送機といった装備の取得計画を前倒しし、自衛隊の警戒監視や機動展開の能力向上を急ぐ。日本周辺で活発な軍事活動を続ける中国への対応を念頭に置き、防衛力を強化する。不審な船舶や潜水艦の監視に使うP1哨戒機の3機の取得に658億円を計上した。自衛隊員や物資の大規模輸送に使うC2輸送機も243億円で1機導入する。ともに22年度予算の概算要求に盛り込んでいた。前年度の補正予算で発注することで納期を3カ月から半年程度前倒しし、早期に部隊に配備する。北朝鮮による相次ぐミサイル発射の対策も推進する。地上から迎撃する地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)について、これまでより防御範囲が広い能力向上型の取得を進める。441億円を措置する。沖縄県の米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に801億円を充てる。戦闘機に搭載する空対空ミサイルや魚雷など、弾薬の確保にも予算を投じる。

*2-1-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/869702 (沖縄タイムス 2021.12.2) 沖縄県が不承認した新基地建設 国は工事継続 変更承認申請の対象外で 801億円補正予算
 松野博一官房長官は26日の記者会見で、名護市辺野古の新基地建設を巡り、県が不承認とした変更承認申請の対象外の工事について継続する方針を示した。不承認に対する政府の対抗措置は「不承認処分の理由の精査を進める」と述べるにとどめた。岸信夫防衛相も「辺野古移設が唯一の解決策」と現行の工事を進める考えを示した。防衛省は2021年度補正予算案に、辺野古の埋め立てに801億円を計上。辺野古側海域のかさ上げ工事が予定より早く進んでいるとして、作業ペースを加速させる。
岸氏は同日の会見で、日米同盟の抑止力の維持と普天間飛行場の危険性除去を考え合わせた場合、「辺野古移設が唯一の解決策」と述べ、着実に工事を進めるとした。現行計画を再検証する考えについては「今の計画が唯一」と述べた。同省は行政不服審査法に基づく審査請求などの対抗措置を検討している。補正予算案について同省は「補正の活用は辺野古移設を前に進めたいという意識の表れ」と説明。少しでも建設を早めることで、普天間飛行場の固定化につながらないよう基地負担軽減を図るとした。埋め立てている辺野古側の区域「(2)」と「(2)-1」は陸地化が完了し、高さ4~7メートルまでのかさ上げ工事に入っている。同省によると、4メートルまでの埋め立ては予定よりも約6カ月早く終えた。4~7メートルまでの埋め立ての進捗(しんちょく)(10月末現在)は「(2)」が2割、「(2)-1」が5割で、年度内の完了を目指す。最終的には最も高い地点で10メートルまでかさ上げする計画。松野氏は会見で、現在進めている工事は「すでに承認されている事案で進めていく」と説明。政府としては「地元の理解を得る努力を続けながら、普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現するため全力で取り組んでいく」と述べた。政府として対抗措置を取るかどうかは「沖縄防衛局において不承認処分の理由の精査を進めていく」と述べ、慎重な姿勢を示した。

*2-1-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/5f6744ddce1e1f4cafbe531903e61fa81143f639 (Yahoo、八重山日報 2021/11/9) 石垣島駐屯地22年度開設 作業員宿舎建設に着手 プレハブ11棟、最大500人宿泊
 石垣島平得大俣地区の陸上自衛隊駐屯地建設に向け、防衛省は8日、宮良地区で仮設作業員宿舎の建設に着手した。島外から来島する作業員が宿泊する施設となる。駐屯地は2022年度の開設を予定しており、今後、隊庁舎などの建設作業が急ピッチで進む。防衛省は19年3月から駐屯地の用地造成工事に着手し、順次、隊庁舎などの建物の建設工事に着手している。沖縄防衛局は8日の八重山日報の取材に対し、駐屯地開設時期について「2022年度に開設する計画」と明示した。関係者によると、仮設作業員宿舎は宮良地区で民間企業が所有する旧パチンコ店敷地内に設置する。2階建てのプレハブ11棟を設置し、最大500人の宿泊が可能。旧店舗は改修し、食堂として利用する。8日には建設業者らが現場を訪れ、今後の作業工程などを協議する姿が見られた。沖縄防衛局は「施設が完成し次第、新型コロナウイルス防止対策と作業員に対する交通安全教育を行った上で、利用を開始する予定」としている。市幹部は「コロナも落ち着きつつある。500人が来島すれば一定の経済効果が期待できる」と話した。近年、八重山での大型公共工事は島内だけで作業員を確保するのが困難で、建設業者に渡航費や宿泊費を支払って島外から作業員を来島させるケースが増えている。防衛省が駐屯地外に設置する隊員宿舎の建設も本格化する。建設場所は市有地2カ所と旧民有地3カ所を予定しており、旧民有地の隊員宿舎建設に向け既に建設業者と工事請負契約を締結。このうち2カ所は工事に着手した。残る1カ所も「準備が整い次第着手する」としている。沖縄周辺で中国の脅威が増大する中、防衛省は南西諸島防衛強化の一環として石垣島への自衛隊配備計画を進める。警備部隊、地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊を配備し、総勢500~600人規模を想定している。奄美大島、宮古島、与那国島でも陸自駐屯地が開設されており、南西諸島での駐屯地新設は現時点で石垣島が最後となる。

*2-1-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1203719.html (琉球新報 2020年10月7日) 宮古、石垣の自衛隊基地建設「工事止め丁寧に説明を」 玉城沖縄知事が防衛相へ要請
 玉城デニー知事は7日午前、岸信夫防衛相と大臣就任後初めて面会し、宮古島市や石垣市で進む自衛隊基地の建設工事について、地域の理解を得るため「折々に工事を止めて、住民の皆さんに丁寧に説明をして頂きたい」と述べ、説明のため工事を一時停止するよう求めた。岸氏は先島への自衛隊配備計画について「いろいろ地元のご意見があることはよく承知している。宮古島市、石垣市ともしっかり調整し、今後も必要があれば住民の皆さんに説明していけるよう努力する」と述べるにとどめたという。米軍普天間飛行場の移設問題で玉城知事は「辺野古移設によることなく、普天間飛行場の1日も早い危険性の除去と閉鎖・返還」を訴えるとともに、県と国による対話の場を設けるよう求めた。岸氏は「これからも対話の場を作っていけるよう努力する」と話した。辺野古移設への言及はなかったという。会談は非公開で行われた。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20211127&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2021.11.27) 省エネ住宅購入に最大100万円補助 国交省、子育て世帯向け
 国土交通省は省エネルギー住宅の購入を支援する制度をつくる。子育て世帯を主な対象とし、断熱性能に優れた戸建てやマンションを買う際、最大100万円を補助する。住宅取得にかかる費用負担を和らげながら、省エネ住宅の普及を促す。2021年度補正予算案に関連費用で542億円を盛り込んだ。18歳未満の子どもを持つ世帯か、夫婦いずれかが39歳以下の世帯が新制度の対象になる。新築住宅の省エネ性能に応じて60万円、80万円、100万円の3区分に分けて補助。ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の基準を満たせば100万円となる。新規購入の契約をした住宅について22年以降、工務店やハウスメーカーから補助の申請を受け付ける。着工して一定の工事が進んでいることが条件となり、22年10月末までが期限となる。同じ世帯を対象に省エネ性能を高める改修工事に対しても最大45万円を補助する。国交省は22年度当初予算にも一般向けの省エネ改修補助金を要求しており、対象要件など詳細を調整する。

*2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/141877 (東京新聞 2021年11月10日) 18歳未満に一律10万円「基本的には必要ない」 専門家ら効果に疑問 与党のコロナ対策
 与党が検討する新型コロナウイルス経済対策として、18歳以下の子どもに一律で10万円相当を配る必要はあるのか―。景気浮揚だけでなく困窮者支援の点でも、経済の専門家から効果を疑問視する声が出ている。「困窮者支援が目的なら、コロナで収入が減少した世帯に絞るべきだ。子どもを基準にするのはコロナ対策としては意味がわからない」。野村総研の木内登英氏は、18歳以下を対象とした一律給付をこう批判する。子育て世代の富裕層が対象となる一方、生活が苦しい子どもがいない世帯が外れてしまうからだ。経済対策としても、効果は高くなさそうだ。コロナ禍にもかかわらず、家計の現預金は増加。日銀によると、6月末に1072兆円で過去最高を更新した。経済活動の制限で、お金を使う機会が失われたことが大きい。新たな現金給付も使われずにさらに貯蓄に回る可能性がある。実際、全ての国民に10万円を給付した昨年の特別定額給付金は7割が貯蓄に回ったという分析がある。一時的な所得の増加は貯蓄に回る傾向がはっきりしており、余裕のある世帯はなおさらだ。このため、木内氏は景気対策として「無駄金になりかねない」とみる。第一生命経済研究所の熊野英生氏も「基本的には必要ない政策。やるなら当然所得制限は設けるべきだ」と指摘する。その上で「コロナで最もダメージを負ったサービス業などへの支援を優先すべきだ」とする。財務省の調査によると、2020年度の企業の純利益は、飲食や宿泊、運輸などの一部を除き、前年並みを保つか、前年を上回った。感染者数の減少で経済環境は回復期にある。特に製造業が好調など一律に苦しいわけではない。給付政策を巡っては、公明党はマイナンバーカードの新規取得者や保有者への3万円分のポイント付与の実現も目指す。ただ、既に実施していた最大5000円分のポイント還元では、カード普及に想定した効果が見られず、財務省が衆院選前に、ポイント付与事業の見直しを求めていた経緯がある。衆院選では、与野党が現金給付や減税など大型の経済対策を競った。政府関係者は「各党はバラマキ合戦に終始し、社会保障や税制など国民の暮らしの安定につながる抜本的な政策はほとんど議論されなかった」と批判する。

*2-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/144976 (東京新聞 2021年11月27日) マイナカードの取得促進に1.8兆円 ポイント付与の「アメ」ちらつかせ  補正予算案 
 2021年度補正予算案には、マイナンバーカードの取得などで最大2万円分のポイントを付与する事業費として、1兆8134億円が計上された。政府の狙いは40%程度にとどまる普及率の向上だが、個人情報漏えいなどの懸念に向き合わず、「アメ」をちらつかせて取得を促す手法に、識者から「本末転倒だ」と疑問の声が出ている。この事業では、マイナンバーカードの取得で最大5000円分、健康保険証としての利用登録と、預金口座の事前登録でそれぞれ7500円分を付与する。政府がポイントを使った普及促進を図るのは「成功体験」があるからだ。19年度補正予算以降、約3000億円を投じ、今年4月までの申請者に最大5000円分を付与する事業を行ったところ、新たに約2500万人が申請。カード保有者は約5000万人に倍増した。政府は今回の補正予算でさらなる取得者の増加のほか、登録が伸び悩む保険証としての利用や、預金口座との連携を進めたい考えだ。
◆乏しい利用機会 情報漏えいへの不安も根強く
 ただ、普及率が上がらない背景には、利用機会の乏しさがある。カードを保険証として使おうとしても、専用の読み取り機を設置して利用できる医療機関や薬局は全国で約7%にとどまっている。加えて、個人情報が適切に管理されるのかという不安や抵抗感も根強い。健康や資産といったプライバシーに関わる情報を把握されかねないと懸念する人は少なくない。SMBC日興証券の丸山義正氏は「予算はカードの利便性を高めたり、セキュリティーを向上させたりすることに使うべきで、ポイントに充てるのは本来のあり方ではない」と指摘する。

<アメリカの対策>
*3:https://www.bbc.com/japanese/59300401 (BBC 2021年11月16日) バイデン米大統領、1兆2000億ドル規模のインフラ投資法案に署名・成立
 アメリカのジョー・バイデン大統領は15日、総額1兆2000億ドル(約140兆円)規模のインフラ投資法案に署名した。この大規模法案の成立は、支持率が低下するバイデン政権にとって、重要な立法上の成果となる。「私たちは今日ついに、これを達成する」と、ホワイトハウスで開かれた法案署名式でバイデン氏は、与党・民主党と野党・共和党の双方の連邦議員に語った。バイデン氏はさらに、「アメリカの人たちに伝えたい。アメリカはまた動き出しました。そして皆さんの生活は、もっと良くなります」と国民に呼びかけた。「一世一代」の大型財政支出と位置づけられるこのインフラ投資法は、総額約1兆2000億ドルのうち約5500億ドルを今後8年間で、高速道路や道路、橋、都市の公共交通、旅客鉄道などの整備にあてる。加えて、清潔な飲料水の提供、高速インターネット回線、電気自動車充電スポットの全国的なネットワーク整備などにも連邦予算で取り組む。アメリカの国内インフラ投資として数十年来の規模となり、バイデン政権にとっては重要な内政上の成果と受け止められている。財源には、新型コロナウイルス対策で計上した緊急予算の使い残し分のほか、暗号資産(仮想通貨)に対する新規課税の税収など、様々な収入が充てられる。この法案については、財政規律を重視する民主党中道派と、より進歩的な施策の導入を求める党内急進派とが対立。結果的に、野党・共和党から一部議員が賛成に回ることで議会を通過した。民主党内のこの対立と混乱が、今月初めのヴァージニア州知事選での民主党敗北につながったとも言われている。連邦議会では現在、ほかに大規模な社会福祉法案が検討されている。「Build Back Better Act(より良く再建法案)」と呼ばれるこの社会福祉法案は、育児や介護、気候変動対策、医療保険、住宅支援などの充実を図るものだが、成立の見通しがまだ立っていない。民主党の進歩派は今回のインフラ投資法案との同時成立を強く求めていたが、民主党中道派はこれに反対した。財政規律を重視する中道派は、この社会福祉法案で財政赤字がどれだけ増えるのか、議会予算局(CBO)にまず予測を報告するよう要求した。CBOは近くその試算を発表する見通し。(英語記事 Biden signs 'once-in-a-generation' $1tn infrastructure bill into law)

<年金制度と“高齢者”の軽視>
*4-1:https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/finance/popup1.html (厚労省) マクロ経済スライドってなに?
 マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。
●マクロ経済スライド導入の経緯
 平成16年に改正する前の制度では、将来の保険料の見通しを示した上で、給付水準と当面の保険料負担を見直し、それを法律で決めていました。しかし、少子高齢化が急速に進む中で、財政再計算を行う度に、最終的な保険料水準の見通しは上がり続け、将来の保険料負担がどこまで上昇するのかという懸念もありました。そこで、平成16年の制度改正では、将来の現役世代の保険料負担が重くなりすぎないように、保険料水準がどこまで上昇するのか、また、そこに到達するまでの毎年度の保険料水準を法律で決めました。また、国が負担する割合も引き上げるとともに、積立金を活用していくことになり、公的年金財政の収入を決めました。そして、この収入の範囲内で給付を行うため、「社会全体の公的年金制度を支える力(現役世代の人数)の変化」と「平均余命の伸びに伴う給付費の増加」というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組みを導入したのです。この仕組みを「マクロ経済スライド」と呼んでいます。
●具体的な仕組み
(1)基本的な考え方
 年金額は、賃金や物価が上昇すると増えていきますが、一定期間、年金額の伸びを調整する(賃金や物価が上昇するほどは増やさない)ことで、保険料収入などの財源の範囲内で給付を行いつつ、長期的に公的年金の財政を運営していきます。5年に一度行う財政検証のときに、おおむね100年後に年金給付費1年分の積立金を持つことができるように、年金額の伸びの調整を行う期間(調整期間)を見通しています。その後の財政検証で、年金財政の均衡を図ることができると見込まれる(マクロ経済スライドによる調整がなくても収支のバランスが取れる)場合には、こうした年金額の調整を終了します。
(2)調整期間における年金額の調整の具体的な仕組み
 マクロ経済スライドによる調整期間の間は、賃金や物価による年金額の伸びから、「スライド調整率」を差し引いて、年金額を改定します。「スライド調整率」は、現役世代が減少していくことと平均余命が伸びていくことを考えて、「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」と「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」で計算されます。
(3)名目下限の設定
 現在の制度では、マクロ経済スライドによる調整は「名目額」を下回らない範囲で行うことになっています。詳しい仕組みは、下の図を見てください。
※平成30年度以降は、「名目額」が前年度を下回らない措置を維持しつつ、賃金・物価の範囲内で前年度までの未調整分の調整を行う仕組みとなります。
(4)調整期間中の所得代替率
 マクロ経済スライドによる調整期間の間は、所得代替率は低下していきます(所得代替率について詳しくは、「所得代替率の見通し」をご覧ください)。調整期間が終わると、原則、所得代替率は一定となります。

*4-2:https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/social-securities/20210210_022084.html (大和総研 2021年2月10日) 2021年度の年金額はマイナス改定、将来の年金のために、マクロ経済スライドの名目下限措置は撤廃を
◆2021年度の公的年金の年金額は、2020年度比で0.1%の引き下げとなった。4年ぶりのマイナス改定である。
◆マイナス改定となったのは、2021年度より改定ルールが見直され、賃金の変化率が物価の変化率を下回った場合(つまり実質賃金が下落した場合)には、賃金変動に合わせて年金額を改定することが徹底されたためだ。改正前のルールに従えば、0%改定(年金額は据え置き)だったから、ルールの変更により現在の受給者の給付水準が0.1%分抑えられた。その効果は将来の年金水準の確保に及ぶことになる。
◆年金給付額を実質的に引き下げる仕組みであるマクロ経済スライドは、2021年度は発動されなかった。2004年の制度改革以降、それが実施されたのは3回で、本来求められる給付調整は思うように進んでいない。年金額が前年度の名目額を下回らないようにするというマクロ経済スライドの名目下限措置の撤廃を、改めて検討すべきである。

*4-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/kubotahiroyuki/20211109-00267190 (Yahoo 2021/11/9) 物価が上昇に転じなかった背景は2007年も今も変わらず、それでも金融緩和を修正する理由は全くないのか
 原油価格や輸入原材料が高騰しており、企業はコスト増に直面している。企業間取引の段階では、コスト高を販売価格へ転嫁する動きがみられる。一方、最終消費段階の財にまでは転嫁はされてこなかった。この記述は最近のものではない。2007年に内閣府が出したレポートから抜粋したものである。「日本「経済2007 第1節 物価が上昇に転じなかった背景( https://www5.cao.go.jp/keizai3/2007/1214nk/07-00301.html )
企業物価指数をみると、素原材料、中間財は中期的に大幅な上昇傾向にある一方、最終財では上昇がみられない。原油高等のコスト増は、川上、川中の生産財(素原材料+中間財)の価格にまでは転嫁されているが、川下の最終財にまでは転嫁が進んでいない。最終財は、品質向上が著しく下落基調にある電気機器のウェイトが大きい面もあるが、それらを考慮しても生産財と最終財の間の物価上昇率の差は大きい(内閣府の日本経済2007より)。直近の企業物価指数は前年比でプラス6.3%となり、伸び率は2008年9月の6.9%上昇以来、13年ぶりの高さとなっていた。ちなみに2008年9月の消費者物価指数は前年比プラス2.3%となっていた。この際の物価上昇の背景には原油高があったことで、消費者物価指数も一時的に2%を超えていたが、企業物価との乖離は大きい。その背景の説明が上記であり、これは現在でも変わっていない。この内閣府のレポートでは、原油価格や素原材料価格が高騰する中、企業取引段階では転嫁がある程度進んでいる一方で最終消費段階への転嫁が進まないことは、国内で生み出す名目付加価値の縮小につながっているとの指摘もあった。そして物価が上昇に転じないことや、個人消費が弱いことの背景として、賃金が伸び悩んでいることが挙げられるとの指摘もあった。今月8日に発表された日銀の金融政策決定会合における主な意見(2021年10月27、28日開催分)では、次のようなコメントがあった。「日米インフレ率の差は主にサービス価格であり、その大部分は賃金である。賃金引き上げには労働市場が更に引き締まることが必要である。家計・企業の待機資金の支出を後押しするためにも、所得と賃金の引き上げを目指すことが望ましい。どうして賃金の引き上げが困難なのか。賃金を引き上げれば物価が上がるとすれば、大胆な金融緩和策によって能動的に賃金を引き上げることは可能なのか。すでに異次元緩和と呼ばれた日銀の量的質的金融緩和策を決定してから8年半が過ぎたが、物価を取り巻く環境は2007年時点となんら変わることはない。[「金融政策の正常化とは、他国の政策動向にかかわらず、わが国での物価安定の目標を安定的に達成することであり、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する理由は全くない。この点は、対外的に丁寧に説明すべきである。」との意見が「主な意見」にあった]。そもそも2%という物価目標が適正なのか。どんな金融緩和策をとっても物価を取り巻く環境に変化はないのに、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する必要はないと言い切ることに正当性があるとは思えない。異次元緩和の副作用、債券市場の機能不全、金融機関の収益性への問題、そして日本の財政悪化を見にくくさせるなどの副作用も考えれば、少なくとも極端な緩和策から柔軟な対応に戻す格好の金融政策の正常化はむしろ必要とされよう。

*4-4:https://www.somu-lier.jp/column/pensionsystem-amendment/(Somu-Lier 2021.2.20)【2022年4月以降施行】年金制度改正法によって変わるシニア層の働き方とは
 女性や高齢者の就業が進んでいることに合わせて、年金制度を変更するため、2022年4月より年金制度改正法が施行されます。今回の改正ではパートなどの短時間労働者への年金適用拡大や繰り下げ受給の上限引き上げ、確定拠出年金の要件緩和などが含まれます。特にシニアや短時間労働者の働き方に影響を与えるため、正しく理解し、該当する労働者に説明しましょう。今回は、年金制度改正法の4つの変更点の詳細とそれぞれの施行時期、シニア層と企業への影響について解説していきます。
●年金制度改正の4つの変更点と施行時期
○厚生年金の適用範囲の拡大
 今回の改正で厚生年金の適用範囲が拡大しました。具体的には、常勤者の所定労働時間または所定労働日数の4分の3未満の短時間労働者であっても、一定の要件を満たせば加入できるようになり
・1週間の労働時間が20時間以上であること
・雇用期間が1年以上見込まれること
・賃金が1ヶ月8.8万円以上であること
・学生でないこと
 現行制度において、上記の要件を満たした短時間労働者を社会保険に加入させる義務があるのは、被保険者となる従業員が501人以上の事業所のみでした。しかし今回、段階的に適用範囲を広げていくという改正がなされました。具体的には、2022年10月からは101人以上の事業所、2024年10月からは51人以上の事業所までが適用になります。また、今回の改正では、上記のうち「雇用期間が1年以上見込まれること」という要件は撤廃され、フルタイムと同様に2ヶ月以上となります。なお、5人以上の個人事業所で強制適用とされている業種(製造業、鉱業、土木建築業、電気ガス事業、清掃業、運送業など)に、弁護士や税理士などの士業も追加されます。
○受給開始時期の選択肢の拡大
 現在、公的年金の受給開始年齢は原則として65歳ですが、希望により60歳から70歳の間で受給開始時期を自由に決めることができます。65歳より前に受給を繰上げた場合、一年繰り上げにつき0.5%減額された年金(最大30%減)が支給され、支給開始年齢を66~70歳に繰下げた場合は一年繰り下げにつき0.7%増額された年金(最大42%増)を、生涯受給することになります。しかし、近年では健康寿命が延びたことにより高齢者の就労期間も長くなっていることから、年金の受け取り方にも多様な選択肢を設ける改正が行われました。今回の改正では、繰り上げ受給の減額率は0.4%に引き下げられ、60歳で年金を受給開始した場合は24%の減額になります。繰下げ受給の場合の増額率は変わらず0.7%のままですが、受給開始年齢の上限を70歳から75歳に引き上げ、75歳まで受給を繰り下げると年金額は最大でプラス84%になります。この改正は、2022年4月に施行され、対象となるのは2022年4月1日以降に70歳になる方です。
○在職中の年金受給についての見直し
 現行制度では、年金の支給繰り上げをしながら働いている60~64歳までの方は、賃金などと年金受給額の合計が月額28万円を超えると、超過分の年金の支給が停止されてしまいます。改正後はこの制度が見直され、年金の支給停止の基準額が月額28万円から47万円に緩和されることになりました。65歳以上で働きながら年金を受給している方は、もともと基準額が47万円となっており、変更はありません。また、現行制度では65歳以上で在職中の場合、退職時に年金額が改定されるまでは年金受給額が変わりませんでした。しかし、今回の改正で、65歳を過ぎてからも働いている場合、毎年10月に保険料の納付額をもとに年金受給額を見直し、年金額の改定が行われることになりました。これを在職定時改定といいます。在職定時改定制度があることで、長く働くメリットを感じることができるでしょう。
なお、これらの制度改正は、2022年4月に施行されます。
○個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入要件の緩和
 確定拠出年金(DC)とは、基礎年金や厚生年金のほかに掛金を積み立てて運用し、その積立額と運用収益をもとに支給される年金のことです。企業型DCと個人型DCがあり、企業型DCは企業が掛金を支払うもの、個人型DC(iDeCo)は個人が掛金を支払うものです。毎月の掛金を所得控除することができる、運用中の利益が非課税になる、年金受給時の税負担も軽くなるなどの、税制上の優遇措置があります。これまで、企業型DCに加入している方がiDeCoに加入したい場合、各企業の労使の合意が必要でしたが、2022年10月にはこの要件が緩和され、原則加入できるようになります。また、受給開始時期の選択範囲については、これまでは60~70歳の間だったところ、2022年4月からは60~75歳に拡大されます。
○年金制度改正が与える影響
 今回の年金制度改正は、女性や高齢者の労働者が増加していることを受けて、多様な働き方に対応できる年金制度を目指したものです。例えば、短時間労働者を厚生年金に加入させるべき企業の適用範囲を広げることにより、より多くの短時間労働者が社会保険制度を利用できるようになります。これにより、育児や介護でフルタイム勤務が難しい方やシニア世代の働き方にとって、短時間労働という選択肢が加わるでしょう。また、受給開始時期の選択範囲の拡大や、在職中の年金支給停止の基準額の緩和により、シニア世代が仕事を続けやすくなります。今後、健康寿命が延びることによって老後の経済的な不安を抱える人が増える可能性があります。これからは、従来の「定年」という言葉に縛られず、生きがいとして仕事を続けることで金銭的不安を解消し、生き生きとした老後を目指す姿勢が必要なのかもしれません。今回の改正は年金制度の面からこのような生き方を応援していく試みがされているのではないでしょうか。また、企業にとっても、働く意欲のある人材を雇用形態にとらわれずに得ることができたり、経験豊かなシニア世代を採用したりすることによって、生産性の向上を期待することができます。

<介護制度と介護負担>
*5-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021111300099 (信濃毎日新聞社説 2021/11/13) 介護職ら賃上げ 負担増に国民の理解を
 介護職や保育士の賃金が来年2月から月額3%程度引き上げられる方向になった。地域の救急医療を担う看護師らも同様の対応になる。19日に決定する政府の経済対策に盛り込まれる。少子高齢化で重要度が増す社会保障の担い手だ。ボーナスを含めた昨年の平均月収は、全産業平均の35万2千円に対し、介護職が5万9千円、保育士が4万9千円低い。看護師は4万2千円高いが、医師の4割にとどまる。仕事の大変さに比べ低賃金で離職者が多く、人材不足が深刻化している。賃上げによる処遇改善は待ったなしの課題だ。人件費には安定した財源が要る。政府は、2~9月分を交付金として支給し、10月以降は報酬改定などで対応する方針を示す。医療や福祉分野のサービスに伴う価格は、政府が定め、診療報酬や介護報酬などとして事業者に支払われている。原資は、税金や保険料、利用者負担だ。報酬の引き上げ改定は、それぞれの増額につながる。国民の負担増が避けられない。財源の確保策を明確にし、国民の理解を得るべきだ。政府は、新たに立ち上げた公的価格評価検討委員会で、賃上げに向けた協議を進め、公的価格のあり方も見直す意向だ。開かれた分かりやすい議論を求めたい。報酬改定などがただちに賃上げに結び付くかは不透明だ。報酬に加算する仕組みを導入しても、事務作業が煩わしく利用が進まない事例もある。収入をどう分配するかは経営者の裁量だ。実態を踏まえた議論にしなければならない。確実に個々の賃上げに充てる運用が大切になる。社会保障制度全体の中で考える必要もある。65歳以上が支払う介護保険料は今年、全国平均で月6千円を超えた。介護利用料の自己負担が増えたり、公的年金の受給額が減ったりした人も多い。75歳以上の医療費2割負担も来年度始まる。保険料を滞納し預貯金などを差し押さえられた高齢者は年2万人に上っている。さらなる負担増に耐えられない人が続出する恐れはないか。社会保障制度は近年、小手先の見直しを積み重ねてきた。年金収入だけで老後を過ごせる状況になく、十分な医療や介護も望めなくなりつつある。制度全体を見渡し、給付や負担のあり方を抜本的に見直すことが急務だ。賃上げもその中で位置づけなくてはならない。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15126050.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2021年11月29日) 介護等の賃金 中長期見据えた議論を
 政府の経済対策で、看護や介護、保育の現場で働く人たちの賃金を来年2月から引き上げることが決まった。「春闘に向けた賃上げの議論に先んじて実施を」という岸田首相の意向を受けた当面の措置で、さらなる取り組みも有識者会議で議論し、年内に方向性を示すという。新型コロナや少子高齢化への対応の最前線に立つ人たちに、政権として報いる姿勢を示すとともに、政府が介入しやすいこれらの分野をテコに、広く民間の賃上げにつなげたいという思惑があるのだろう。だが、本来目を向けるべきは、中長期を見据えたサービスの担い手確保と、そのために必要な財源の負担をどう分かち合うかの議論であることを、忘れてはならない。どこまでの賃上げを目指し、それを賄うためには税や保険料がどう変わるのか。国民に分かりやすく示し、理解を得ながらしっかりと進めてほしい。来年2月の賃上げは、介護職員や保育士などで収入の3%程度(月額約9千円)、コロナ医療などの役割を担う医療機関に勤務する看護職員で1%程度(月額約4千円)という。人手不足が深刻なのもこれらの分野で、高齢化でこれから需要が大きく膨らむと見込まれる介護では、40年度に65万人が不足すると推計されている。ただ、現在の賃金水準は看護師の月平均39・4万円に対し、介護職員は29・3万円、保育士は30・3万円で、今回の引き上げが実現しても全産業平均の35・2万円に及ばない。一方、これらのサービスを支えているのは税金や保険料、利用者負担だ。継続的な賃金引き上げのための財源を確保するには、既存の予算や保険財政の中で他の費目を削るか、負担増を考えねばならない。政府はこれまでも介護職員や保育士の賃上げに取り組んできたが、こうした事情のもと、成果は限定的だった。まずは、思い切って財源を投入する方針を明確にする必要がある。保育所や介護サービスのための予算の大幅な拡充や保険料の引き上げなど、「財布」を大きくする議論に向き合うべきだ。低所得の人にとって過度な負担とならないよう、税金による軽減措置も検討課題になるだろう。賃金の引き上げだけでなく、長く働いてもらえるように職場環境を整えることや、専門性を高めてキャリアアップできるよう後押しすることも重要だ。仕事は大変なのに待遇が悪いからと、資格を持ちながら他の分野で働く人も少なくない。職務に見合った処遇への改善は急務だ。看板倒れは許されない。

*5-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/142863 (東京新聞 2021年11月15日) 差し押さえ高齢者、初の2万人超 介護保険料滞納で過去最多
 介護保険料を滞納し、市区町村から資産の差し押さえ処分を受けた65歳以上の高齢者が、2019年度は過去最多の2万1578人に上ったことが15日、厚生労働省の調査で分かった。2万人を超えるのは初めて。厚労省の担当者は「自治体が徴収業務に力を入れている結果だ」と分析する。介護保険制度が始まった約20年前と比べ、保険料が倍以上となり、高齢世帯の家計への負担が増していることも要因とみられる。65歳以上が支払う介護保険料は原則、公的年金から天引きされる。一方、年金受給額が年18万円未満の場合は自治体に直接納める。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211201&ng=DGKKZO78038950R01C21A2EA2000 (日経新聞 2021.12.1) 1人暮らし世帯拡大、5年で14.8%増 高齢者では5人に1人 介護や安全網が課題に
 総務省が30日に公表した2020年の国勢調査は、日本全体で世帯の単身化が一段と進む現状を浮き彫りにした。一人暮らしが世帯全体の38.0%を占め、単身高齢者は5年前の前回調査に比べ13.3%増の671万6806人に増えた。中年世代の未婚率も上昇傾向にある。家族の形の多様化を踏まえた介護のあり方やまちづくり、セーフティーネットの構築が急務となっている。日本の世帯数は5583万154となり、前回調査に比べて4.5%増えた。1世帯あたりの人員は2.21人で、前回調査から0.12人縮小。単身世帯は全年齢層で2115万1042となり、前回調査から14.8%増えた。3人以上の世帯は減少しており、特に5人以上の世帯は10%以上減った。65歳以上の一人暮らし世帯の拡大が続いており、高齢者5人のうち1人が一人暮らしとなっている。男女別にみると、男性は230万8171人、女性は440万8635人で、女性が圧倒的に多い。藤森克彦・みずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員は「一人暮らしの高齢者は同居家族がいないので、家族以外の支援が重要になる」と指摘する。「財源を確保しつつ介護保険制度を強化し、介護人材を増やす必要がある」と語る。単身世帯の増加の背景には「結婚して子供と暮らす」といった標準的な世帯像の変化もある。45~49歳と50~54歳の未婚率の単純平均を基に「50歳時点の未婚率」を計算すると、男性は28.3%、女性は17.9%となった。00年のときには男性が12.6%、女性は5.8%だった。この20年間で価値観や家族観の多様化から、中年世代になっても独身というライフスタイルは珍しくなくなった。単身者向けに小分けした商品の開発・販売など新たなビジネスの機会が生まれる面もある。ただ、複数人で暮らすよりも家賃や光熱費の負担比率が高まるほか、1人当たりのごみの排出量などが増え、環境負荷が高まることも考えられる。高齢者であれば孤独死などにつながる懸念もある。高齢化とともに単身世帯が増える中で、通院や買い物を近場でできるようコンパクトなまちづくりも課題となる。体調を崩したり、介護が必要だったりする高齢者が増えれば社会保障費の膨張にもつながる。単身世帯数の拡大にあわせた社会のあり方を追求していく必要がある。

*5-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211201&ng=DGKKZO78039040R01C21A2EA2000 (日経新聞 2021.12.1) 外国人43%増、最多274万人に
 総務省が30日に公表した2020年の国勢調査では、外国人の人口が過去最多の274万7137人となり、5年前の前回調査に比べ43.6%増と大きく拡大した。日本人の人口は1億2339万8962人で1.4%減った。外国人の流入により、少子化による人口減少を一定程度緩和している。新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも、日本に住む外国人は減少に転じなかった。日本の総人口に占める外国人の割合は2.2%で、5年前の前回調査(1.5%)から上昇。国連によると20年に世界各国に住む外国人は3.6%だ。日本でも外国人は増えているが、諸外国に比べるとまだ少ない。岡三証券グローバルリサーチセンターの高田創理事長は外国人を巡り「人口対策の現実的な選択肢」としたうえで「就労ビザなど対応を増やしてきた流れの継続が肝要だ」と話す。国籍別にみると中国が66万7475人と最も多く、外国人全体の27.8%を占めた。

*5-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211205&ng=DGKKZO78170820V01C21A2MM8000 (日経新聞 2021.12.5) 日本の設備、停滞の20年 総量1割増どまり、投資抑制、低成長招く
日本の設備投資の低迷が続いている。この20年間で設備の総量を示す資本ストック(総合2面きょうのことば)は1割たらずしか増えなかった。米国や英国が5~6割ほど伸びたのと差がついた。企業が利益を国内投資に振り向けていないためだ。設備の更新が進まなければ労働生産性は高まらず、人口減の制約も補えない。低成長の構造要因として直視する必要がある。2001年から新型コロナウイルス危機前の19年までの日本の経済成長率は年平均0.8%にとどまる。米国(2.1%)や英国(1.8%)に水をあけられた。成長の壁としてよく指摘されるのは人口減少や少子高齢化だ。目をこらせば別の問題が浮かぶ。一橋大学の深尾京司特任教授は「設備投資の停滞も大きい」と指摘する。新たな機械やソフトウエアの導入は生産性を高め、成長力を押し上げる。経済学の成長理論では成長率と資本増加率は一定の関係がある。深尾氏の試算によると、主要先進5カ国で日本だけが資本増加の実績が理論値に及ばない。経済協力開発機構(OECD)の「生産的資本ストック」のデータが実態を示す。日本はハードとソフトを合わせた資本ストックが00~20年に9%しか伸びなかった。米国は48%、英国は59%増えた。日本はフランス(44%)やドイツ(17%)も下回る。日本企業は稼ぎを減らしてきたわけではない。財務省の法人企業統計調査によると、経常利益の直近のピークは18年度の84兆円。アベノミクスが始まった12年度から73%増えた。この間、設備投資は42%しか増えていない。投資は減価償却で目減りした分こそ上回るが、キャッシュフローの範囲内で慎重にやりくりする姿勢がはっきりしている。日本は10年代、人口減にもかかわらず労働供給は拡大した。就業者は10年間で378万人増え、特に女性や65歳以上の働き手が多くなった。「企業は割安な労働力の投入を増やし、労働を節約するロボット投入などを遅らせた可能性がある」(深尾氏)。教育訓練など人的資本投資も伸び悩んだ。OECDによると、企業が生む付加価値額に対する人材投資の比率は英国が9%、米国が7%に達する。日本は3%にすぎない。ヒトとモノにお金をかけて成長を目指す発想が乏しい。底堅かった労働供給にしても、人口が総体として減り続ける以上、いずれ頭打ちになるのは避けられない。本来、どの国よりも自動化などの取り組みが必要なのに投資に動けずにいる。日本企業は1990年代のバブル崩壊後、過剰な設備・人員・負債に苦しみ、厳しいリストラに生き残りをかけてきた。過剰な設備への警戒感が今なお残る。日本企業も海外では積極的にお金を使う。対外直接投資はコロナ前の19年に28兆円と10年前の4倍に膨らんだ。コロナ後も流れは変わらない。日立製作所は米IT(情報技術)大手のグローバルロジックを1兆円で買収した。パナソニックも7000億円超でソフトウエア開発の米ブルーヨンダーの買収を決めた。20年度の設備投資は日立が連結ベースで3598億円、パナソニックが2310億円にとどまる。各社が成長の種を外に求める結果、投資が細る国内市場は成長しにくくなる。海外で稼いだお金を海外で再投資する傾向もある。もちろん企業も世界に投資を広げる一方で国内に抱える雇用の質を高める取り組みは怠れないはずだ。学び直しなどの支援と同時に仕事を効率化するデジタル化も加速する必要がある。企業を動かし、資本ストックが伸び悩む悪循環を断てるような賢い経済政策こそが求められている。

<合理性のある所得の家族合算と分割>
*6-1:https://digital.asahi.com/articles/ASPCK6GC3PCKUCLV00Y.html?iref=comtop_list_02 (朝日新聞 2021年11月17日) 10万円給付家庭、なぜ共働き有利に 背景に半世紀変わらぬ児童手当
 18歳以下の子どもを対象にした10万円相当の給付で、所得制限をめぐる政府方針に対して、与党内から異論が噴出している。なぜこうした状況になったのか。背景には、半世紀にもわたって変化していない「児童手当」の仕組みがあった。政府は、10万円相当の給付にかかる時間を短くするため、児童手当の仕組みを使う。児童手当は中学生までの子どもを育てる世帯に、基本的に1万~1万5千円を支給する。対象世帯から市区町村に振込先の口座が届けてあるため、申請の手間を省くことができる。コロナ禍だった2020年にも児童手当の受給世帯に1万円を上乗せ支給した成功体験もある。自治体が先行した児童手当は、国が制度化した1972(昭和47)年1月の支給当初から所得制限があった。夫婦なら二人の年収を比べ、高い方で支給対象かを判定する。所得制限を超えると、今の仕組みでは月額5千円になる。今回の10万円相当の所得制限として持ち出された「年収960万円」は子どもが2人で、一方の配偶者は収入がない、といったモデル家庭の所得制限だ。夫婦合わせた世帯全体の収入は考慮しないため、高収入の共稼ぎ夫婦にも支給されることが起こりうる。仮に夫婦2人とも800万円の年収があり、世帯年収で計1600万円あっても、今回の10万円相当の給付を受けられる。だが、夫婦どちらか一方しか収入がなく、世帯年収が960万円なら10万円相当の給付はもらえない。児童手当に当初、世帯の合計所得でみる「世帯合算」が取り入れられなかった理由は、時代背景にありそうだ。内閣府の担当者は「制度ができた当時は、世帯主の男性が世帯収入の大半を稼いでいた時代だったからでは」と話す。
●共働き世帯数は専業主婦世帯の2倍超
 71年2月。時の佐藤栄作首相は、児童手当法案の趣旨を説明する本会議で、児童手当を「我が国の社会保障の体系の中で欠けていた制度」と称した。「長年の懸案」(当時の内田常雄・厚生相)だっただけに、衆参の本会議や社会労働委員会(当時)の議事録には活発な国会審議の跡が残る。ただ、審議では支給対象から外れた第1子や第2子も含めるべきだといった論点や、月額3千円という金額の根拠を問う議論が中心だった。所得制限については修正もなく、男性の働き手を念頭に1人の収入で判断する考え方への異論は少なかったとみられる。社会の実情はその後、大きく変わる。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の資料によると、80年に専業主婦世帯の半数程度だった共働き世帯は、90年代半ばには専業主婦世帯を上回った。2020年には専業主婦世帯の2倍を超えている。児童手当ができた当時と、現実とのギャップは、財務省をはじめ政府内で意識されてきた。昨年末の予算編成では、菅義偉首相(当時)のもと、児童手当への世帯合算の導入が、自民党と公明党の間での政策協議で話題となった。ただし、この時の議論は保育所整備に必要な財源を捻出するため、児童手当を支給する世帯を少なくする理屈として財務省などが持ち出したものだった。このため、児童手当の創設以来、拡充に力を入れてきた公明の強い反発に遭った。自公両党はこの時、収入の多い方が年収1200万円以上あれば、22年10月分から月額5千円の児童手当の特例給付を打ち切ることで合意した。一方で、世帯合算の導入は見送った。その課題は「引き続き検討する」(昨年12月の全世代型社会保障改革の方針)とされたまま、今回の議論を迎えていた。児童手当以外の国の仕組みで世帯合算を導入している制度もある。低所得世帯向けに、大学の授業料などの負担を減らしたり、返す必要のない奨学金を支給したりする「修学支援新制度」や、私立高校の授業料支援の仕組みがその例だ。0~2歳の保育料も、無償化の対象となる低所得世帯を除き、世帯合算で利用料負担が決まる。17日の自民党の会合で高市早苗政調会長は、児童手当の所得制限で世帯合算を取り入れることを視野に見直しの必要性に改めて言及。「世帯合算でやった方がいいんじゃないかという声もある。今後、同様の事態が起きた時に迅速かつ公平に給付できるように整備をしたい」と語った。具体的には衛藤晟一・元少子化担当相をトップに、党の少子化対策調査会で議論する考えを示した。

*6-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/143290 (東京新聞 2021年11月17日) 世帯年収1900万円でも子ども2人分…なのに働く低所得層に届かぬ懸念 政府の現金給付案 大筋了承
 自民党は17日の党会合で、18歳以下の子どもや住民税非課税世帯、困窮学生への10万円給付を含む経済対策案を大筋了承した。党内手続きを経て19日に閣議決定する。与党協議開始から約10日間の議論で決まった給付金制度は、所得制限のかかる世帯より収入の多い共働き世帯にも支給される一方で、住民税を納めながらも生活が苦しい低所得層に給付金が渡らないなど、国民の間に不公平感が生じる懸念がぬぐえないまま。与野党からも疑問視する声が上がっている。
◆子どもへの給付
 子どもへの給付は、迅速な支給を理由に児童手当の仕組みを利用。夫婦でより高い収入(社会保険料や税金が引かれる前の金額)を得ている方が所得制限の対象になるが、与党は「対象の9割をカバーできる」(自民党の茂木敏充幹事長)としている。だが、18歳以下の子ども2人の夫婦の場合、片方が年収961万円でもう片方が無収入だと給付を受けられず、共働きで夫婦それぞれが年収950万円なら子ども2人分が給付される。児童手当の対象は15歳以下で、今回対象に含まれる16~18歳への給付手続きには結局、時間がかかりかねない。自民党の高市早苗政調会長は17日の会合で「世帯合算ではなく、主たる所得者の金額で判断すると、不公平な状況が起きる」と指摘。福田達夫総務会長も16日、「個人的には(世帯で)合算した方が当然だと思う」と異論を唱えた。日本政策金融公庫の調査によると、19歳以上の大学生がいる家庭は在学費用だけで年間1人100万円以上の負担がかかるのに、子ども向け給付の対象外。政府・与党は困窮学生にも10万円を給付するとしているが、基準は未定だ。政府が昨年実施した学生向け緊急給付金では、家庭から自立しアルバイトで学費を賄っていることや「修学支援制度」を利用していることなど厳しい要件が課された。対象者は大学生や短大生らの1割にも満たなかったとみられ、十分な支援だったとは言い難い。
◆低所得者層への給付
 住民税非課税世帯には10万円が給付される一方、住民税を課されていても年収100万~200万円程度にとどまり、全国で数100万世帯あるとされる「ワーキングプア」層には給付が行き渡らない懸念もある。立憲民主党の長妻昭氏は「コロナ禍で格差が急拡大して困難な状況に陥っている人には子どもでもそうでなくても、緊急に支援しないといけない」と指摘している。

*6-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP5P5VF9P5PUTFL00D.html (朝日新聞 2021年5月21日) 年収1200万円以上の児童手当廃止 改正法が成立
 中学生以下の子どもがいる世帯が対象の児童手当のうち、年収1200万円以上の世帯に支給している月5千円の「特例給付」を廃止する改正児童手当法などが21日の参院本会議で、賛成多数で可決、成立した。いまの制度では子ども2人の専業主婦家庭で夫の年収が960万円未満の場合、子どもの年齢に応じて1人当たり月1万~1万5千円の児童手当が支給され、夫の年収が960万円以上なら月5千円の特例給付がある。成立した改正法は特例給付の支給対象を狭め、夫の年収が1200万円以上の世帯は2022年10月分から支給を取りやめる。昨年末に自民、公明両党が合意した。対象となる世帯の子どもは児童手当をもらう全体の4%で、約61万人と見込まれる。見直しで生じる年約370億円の財源は、待機児童解消に向けた保育所などの整備費用に充てる。待機児童解消に向け、政府は24年度までに約14万人分の保育の受け皿整備をする目標を掲げている。野党からは子育て関連の予算の中での組み替えでしかなく、子育てにかける予算全体を増額するべきだといった反対論が出ていた。

*6-4:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/687262 (京都新聞社説 2021年12月2日) こども庁方針案 「器」より中身が重要だ
 子ども関連政策の司令塔を目指す「こども庁」の政府基本方針案が明らかになった。創設は2023年度のできる限り早い時期と明記した。一元的な取り組みの推進に向け、焦点だった所管分野については、保育所に関わる部署を厚生労働省から移す一方、幼稚園は文部科学省に残す見通しとなった。小中学校の義務教育の権限の移管も見送られる方向だ。新組織づくりで各省庁の足並みがそろっているとは言い難い。縦割り行政の弊害を取り除き、子ども最優先の施策運営ができるかどうかが問われよう。基本方針案では、こども庁は首相直属の内閣府の外局として、各省庁への勧告権を持つ専任閣僚を置く。政策立案と子どもの成育、支援の3部門を設け、子どもの意見を反映させるモニター制度の導入や、民間人材の積極登用を打ち出している。新型コロナウイルスの感染拡大で、経済的な困窮や家庭内暴力の増加など、子どもを取り巻く環境は厳しさを増している。これらの問題への総合的な対処を強化する必要がある。ただ、方針案でこども庁に統合されるのは、厚労省の保育のほか、虐待防止や障害児支援、内閣府の少子化や貧困対策の関連部署で、文科省からの移管は一部にとどまる。このままでは、就学年齢を境に貧困、虐待対策が分かれるなど新たな問題が生じかねない。いじめや非行の対応では、地域や学校の連携が課題となろう。こども庁は、菅義偉前首相の肝いりの政策として当初は22年度中の創設を目指していた。だが、関係省庁間の調整などに手間取り、目標が先送りされた形だ。言うまでもなく、子ども政策の推進に重要なのは、「器」よりその中身だ。こども庁が扱う分野に、どういった少子化対策を含めるのか、対象となる年齢をどこで区切るのかなど現時点ではあいまいだ。政府は来年の通常国会への関連法案の提出を目指すというが、こども庁の創設でどんな効果を目指すのか、その全体像をはっきりと示すべきだ。政府の有識者会議がまとめた報告書は、子ども施策の具体的な実施を担う自治体の役割を強調している。各家庭の状況を把握できるデータベースの構築などを提言しており、積極的な現場での支援に生かしてほしい。

*6-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD106XI0Q1A211C2000000/ (日経新聞社説 2021年12月11日) 子ども政策は幼保一元化と財源が肝心だ
 政府はこのほど、子ども政策の充実に向けた基本方針の原案を示した。子ども政策の司令塔となる「子ども庁」を内閣府の外局として新設し、担当の閣僚を置く。縦割りを排し、子ども政策の立案や強力な総合調整機能を持たせるという。年内に閣議決定し、2023年度のできる限り早い時期の子ども庁設置を目指す。少子化、貧困、虐待など、子どもを巡る環境は厳しさを増している。子ども政策を充実させることの大切さは論をまたない。子どもの健やかな成長は、日本の明日を左右する大きなカギとなる。ただ課題は多い。ひとつは、幼保一元化が進まないことだ。就学前施設のうち、保育所(所管は厚生労働省)と認定こども園(内閣府)は子ども庁に移すが、幼稚園は文部科学省に残すという。この3つは根拠法などは違えど、カリキュラム内容の整合性は図られてきた。保育所も幼児教育の一翼を担う。一元化によって地域の人材や施設がより有効に活用でき、内容も充実するだろう。幼保一元化は長年、課題とされながら、幼稚園団体の反対などで見送られてきた。原案は、文科省と子ども庁が相互に内容に関与するとしながらも「教育は文科省」を強調している。かえって現場の分断を深める恐れがある。また、子どもの問題は組織をつくれば解決するものではない。大事なのは具体的な施策であり、裏付けとなる財源だ。日本の家族関係の社会支出は、国内総生産の1%台にとどまる。欧州では3%前後が多い。基本方針は財源確保について「幅広く検討を進め、確保に努める」という表現にとどまった。早急に具体策を示し、思い切って増やす必要がある。それには高齢者に偏る社会保障の財源を子どもに振り向けるなど、痛みをともなう改革も必要になろう。なぜいま、子ども政策の充実なのか。国民に十分納得できるメッセージを発し、合意を得る。それだけの覚悟とリーダーシップを岸田文雄首相に求めたい。政府の原案に先立ち、どんな政策が必要か、有識者会議が報告書をまとめている。子どもの視点に立った政策立案やプッシュ型の支援、データの活用など、多くの施策が並ぶ。財源の裏付けがなければ、実現はおぼつかない。子ども庁の創設議論にかかわらず、今すぐできるところから、実効性ある対策を急ぐべきだ。

*6-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15141080.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2021年12月12日) 厚遇、人材引き込む中国 1億円超す報酬、学者人脈も活用
 中国は世界中の研究者をどのように引き込もうとしているのか。朝日新聞が入手した浙江省政府系組織「浙江省中南科技創新合作中心」の求人書類から見えてくるのは、資金力と人脈を利用した手法だ。72歳以下の引退した教授らの場合、国籍や学科を問わない。A級のランクを受けた場合、給料は120万元(約2100万円)以上で上限はない。350万元(約6200万円)の住居購入費、110万元(約2千万円)の赴任手当、毎年200万~1千万元(約3600万~1億8千万円)の研究費など計780万~1580万元(約1億4千万~2億8千万円)以上がもらえる。医療保険や交通費も準備され、配偶者も同伴できる。勤務先は中国の大学や研究機構、大企業の研究所など。仕事の内容として第一に挙げるのは、中国と出身国の教育分野の協力強化と両国の大学間の協力強化だ。招致した学者の人脈をテコに、外国の研究機構との協力を強めようという意図がうかがえる。1年のうち6カ月間、中国にいればよいとしており、拘束は強くない。浙江省が日本の専門家に期待するのが、日本が競争力を持つ素材と自動車、産業機械の分野で、同省関係の108件の求人を一覧にまとめ、日本語で募集をかけている。中国政府は、改革開放を加速させた1990年代半ばから「百人計画」に着手。研究環境を厚遇し、主に外国に流出した優秀な中国人研究者の呼び戻しを始めた。2008年からは「千人計画」と呼ばれる「ハイレベル海外人材招致計画」に拡充。日本人など外国人研究者も招き入れた。日米などの警戒が強まり、最近は中国政府は「千人計画」という名称を使わなくなったが、地方都市は競い合うように人材誘致を進める。帰国する中国人留学生も過去10年で約5倍に膨らみ、年間58万人(19年)を数える。中国政府は資金と人材の投入を進め、技術力も米国を追い上げる。研究開発費は過去20年で約27倍(人民元建て)となり、米国に次ぐ。全米科学財団によると、米国の大学で理系博士号を取得した中国人は5700人(20年)。10年で7割近く増えた。今年8月に発表された、研究者による引用回数が上位10%に入る「注目度の高い論文」(17~19年平均)で、中国が米国を抜き、初めて世界首位に立った。8分野のうち、材料科学や化学、工学、計算機・数学、環境・地球科学の5分野で首位だった。
■日本、情報管理の強化を大学に要請
 国外への技術流出の懸念を受け、日本政府は大学への働きかけを強めてきた。経産省と文部科学省は共催で毎年、主に大学を対象に安全保障に関するセミナーを開いている。大学の国際化が進む中、機微技術やデータの流出を防ぐための知識を共有する狙いがある。留学生の受け入れの際に研究目的と経歴に矛盾はないか調べたり、学内でアクセスできる情報の範囲を管理したりするよう求めるほか、研究者の海外出張時の情報管理にも注意を呼びかける。文科省も今年から技術流出対策を担当する参事官を設けた。大学には、安全保障(輸出管理)担当部門の設置を求めてきた。同省によれば、国立大学は全校、公立・私立も6割以上が応じたという。ある国立大学の教授は言う。「大学がチェックできるのはあくまでも公表されている経歴。うそを重ねて悪意を持って入ろうとする人物を探し出して排除するには限界がある。米国が安全保障上の理由から受け入れを拒んだ学生周辺の情報を共有するなど、政府として対応してほしい」。政府・自民党は準備中の法案で、先端技術など機密情報を共有できる研究者らを保証する資格にあたる「セキュリティークリアランス(適性評価)」制度の導入を議論している。類似の制度が欧米にあるが、大学の独立や研究の自主性、民間人のプライバシーにもかかわる問題だけに、慎重な検討を求める意見が強い。一方で、中国人は日本の大学の研究や経営を支える存在でもある。国内で少子化が進む中、大学は留学生の受け入れや国外の大学との共同研究を増やすなど、国際化を進めざるを得ない。文科省によると、中国人留学生は約12万人(2020年5月現在)で、日本が受け入れた留学生の約4割を占める。中国の有名大学に移った中堅の日本人研究者はこう指摘する。「日本の政府や政治家は日本の情報が流出することばかり警戒しているようだが、中国の方が研究環境に優れ、水準も高い領域は少なくない。経済安保の重要性は理解しているが、日本政府が人材を引き留めたければ、自らの研究環境を整えるのが先決ではないか」
■摘発は「人種差別」、米で反対の動き
 中国との技術覇権争いが先鋭化する一方、米国では、人材を通じた情報漏洩(ろうえい)への警戒を強めてきた前政権からの反動も出始めている。米司法省はトランプ政権下の2018年から中国の技術盗用の摘発などを担う「チャイナイニシアチブ」を開始。司法省のサイトには、助成金の不正受給、技術盗用など中国系の研究者や企業関係者らの摘発事例が並ぶ。バイデン政権下も摘発は続き、中国による知的財産盗用に厳しい姿勢をとり続ける。一方で、揺り戻しも起き始めた。今年1月、マサチューセッツ工科大学(MIT)の中国系の教授が中国政府などからの資金提供を開示していなかったとして、虚偽の納税申告容疑などで司法省に逮捕された。これに対し、MITは学長名で「これは大学間の協定で、個人的な受給ではない」と容疑を否定し、中国人学生や研究者らへの全面支持を表明した。スタンフォード大やプリンストン大でも司法長官に「チャイナイニシアチブ」の中止などを求める署名運動が広がっている。指摘される問題の一つが、取り締まりの線引きの「あいまいさ」だ。11月下旬、米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、「チャイナイニシアチブ」の一環で中国のスパイと疑われ、18カ月間自宅軟禁された末に無罪となった研究者の話を報じた。その中で「中国との結びつき」を示す情報開示の明瞭なルールがないことを指摘。「無関係の標的を見つけて手軽に成果を上げようとしている」という元捜査当局者の見方も紹介した。この問題は、米国の人種問題に発展する危うさもはらむ。全米の研究者や研究機関などが、アジア系の人種に絞った捜査だとして「チャイナイニシアチブ」の停止を求めて署名活動を展開。今年7月には、連邦議員約90人が「人種で対象を絞るのは差別であり、違法だ」との書簡に署名した。この手法では優秀な中国系人材が米国から流出し、中国を利するだけではないか――。NYTはそんな大学関係者の声も伝えた。米国に留学する外国人留学生の数は09年度、中国が01年度以来、再びインドを抜いてトップになり、コロナ下になるまで毎年増加。19年度には留学生全体の35%(約37万人)を占めた。「留学生たちを米国に引きつけ、とどまらせることが中国に勝つ方策だ」。米政府諮問機関「人工知能(AI)に関する国家安全保障委員会」の委員長として、今春、最終報告を出したグーグルのエリック・シュミット元最高経営責任者(CEO)は、そう強調する。大手IT企業が集まる西海岸のシリコンバレーは人口の39%が外国生まれ(米国全体では14%。投資会社調べ)。世界からいかに優秀な人材を集められるかが、米国経済を牽引(けんいん)するこの地域の隆盛の鍵だ。AI研究の大家で、中国の李克強(リーコーチアン)首相に大学の評価基準などを助言してきた、米コーネル大のジョン・ホプクロフト教授(82)は「優秀な中国人学生が米国に留学し、とどまってくれれば、米国の成長につながる。世界最大の経済大国になる中国とのつながりをいかに維持するか、戦略的に考えなければならない」と話す。

<日本の原発・火力・ガソリンエンジンへの固執は非科学的・感情的であること>
PS(2021年12月16日追加):経産省は、*7-1のように、太陽光・風力による発電の膨大な出力制御が2022年度には北海道・東北・四国・九州・沖縄の5地域で発生するという試算をまとめ、その理由として、①再エネは不安定なので火力発電のバックアップが必要 ②火力発電の出力を50%以下(来春以降の見直しで20~30%)に引き下げる検討を進めている そうだ。
 しかし、①は、2000年頃から20年以上も同じ説明をしており、「工夫がない」を超えて愚かと言わざるを得ず、解決もせずに言い訳にできるのは3年が限度と認識すべきだ。また、②は、*7-2のように、EUは温暖化ガスの排出ゼロに向けて天然ガスの長期契約ですら2049年までに禁止することを打ち出し、公共施設や商業ビル(2027年以降に新築するもの)と一般住宅(2030年までに)は、原則「ゼロエミッション」にすることを義務づけようとしているのに、再エネ由来の電力を捨てて火力発電を続けようと考えるのは科学的思考が全く感じられない。
 その上、*7-3は「次世代原子力『小型モジュール炉』は、既存の原発より工期が短く、炉が小さく、建設費も安く、理論上は安全性が高い」として、脱炭素時代の電源として期待すると記載している。しかし、“理論上は安全性が高い”というのは科学的説明のない神話にすぎず、火山国・地震国の日本で地熱を利用せずに原発に依存したがるのは、短所をカバーしながら長所を活かすことのできない愚策である。また、*7-4のように、四電の伊方原発3号機も再稼働したが、中央構造線の真上にあり、南海トラフ地震による大津波の影響も受けそうな場所にある原発を稼働させるのは危険であると同時に、再エネを優先的に導入する方針にも反している。
 このような中、*7-5のように、「国内電源は7割以上が化石燃料由来の火力発電が占め、その電気を使って走るEVは間接的にCO₂を出すEVは脱炭素の切り札と言い切れない。そのため、再エネへの転換が進まなければCO₂を減らせない」と言い訳しながら、トヨタはHV・PHVに固執してきたが、グリーンピースが世界の自動車大手10社の気候変動対策の評価でトヨタを最下位にしたのを受けて、EV化を加速するそうだ。豊田社長は、「EVの2030年の世界販売目標を350万台でも消極的というのなら、どうしたら積極的と言われるのかアドバイスして欲しい」とも言われたので、アドバイスを列挙すると下のとおりである。
  イ)日本は1995年頃からEV化を始めているので、自動車産業のリーダーであり続けたけれ
   ば、各国政府の脱炭素宣言前に、各国政府にEV化・FCV化をロビー活動すべきだった。   
  ロ)PHVはエンジン付きで部品が多く、生産コスト・販売単価が高くなるため不要だった。
  ハ)「敵は炭素で、内燃機関ではない」などのEV化に対する批判をするより、EV・FCV化
   に適した電池・モーター・充電器の開発、車体の軽量化等に資本を集中すべきだった。
  二)水素エンジン・EV・HV・PHV・FCVという「全方位」ではなく、資金の余裕がある
   うちに競争上優位な製品の開発に資金を集中すべきだった。
  ホ)「EVシフトが進めば部品の多さから多くの雇用を吸収してきたエンジン関連産業が
   要らなくなる」と書かれているが、それは一般消費者が不必要に高い価格で自動車を
   買わされ、それだけ販売数量も減り、不便を強いられているということである。
  へ)そのため、水素エンジンは航空機・船舶・列車等に使うよう資金の余裕があるうちに
   それらの新分野に進出し、失業・倒産を最小限に抑えつつ、産業高度化すればよかった。
   また、商用・製造・農業用等の機械をEV・FCV化させるのもよいと思う。
  ト)そうすることによって、日本のエネルギー自給率を飛躍的に向上させ、国民経済や
   経済安全保障に貢献することが可能だったし、国家財政にも寄与できた筈だ。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211216&ng=DGKKZO78476850V11C21A2EP0000 (日経新聞 2021.12.16) 再生エネ発電の出力抑制、来年度5地域に拡大 経産省が試算
 経済産業省は15日、太陽光と風力による発電を抑える出力制御が2022年度に北海道、東北、四国、九州、沖縄の5地域で発生するとの試算をまとめた。各地域の電力供給が需要を上回ると停電してしまうため、再生可能エネルギーによる発電を抑える。出力制御は太陽光発電の多い九州だけで起きていたが、広がる可能性がある。同省が電力会社の翌年度の出力制御の見通しをまとめたのは初めて。抑制する最大電力量は、九州は7億3000万キロワット時で地域の再生エネ発電量の5.2%に相当する。四国は5388万キロワット時で1.1%、東北は3137万キロワット時で0.33%、北海道は144万キロワット時で0.35%、沖縄は97.6万キロワット時で0.2%と試算した。経産省は再生エネの出力を抑える状況になった場合、火力発電所の出力を50%以下にするよう求めている。これを来春以降に見直し、20~30%に引き下げる検討を進めている。火力の出力を抑えればそのぶん再生エネの発電を増やせる。

*7-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211216&ng=DGKKZO78476750V11C21A2EP0000 (日経新聞 2021.12.16) EU、ガスの長期契約禁止、49年までに、CO2排出ゼロに向け 水素利用の拡大狙う
 欧州連合(EU)の欧州委は15日、気候変動とエネルギー関連の法案を公表した。温暖化ガスの排出ゼロに向け、化石燃料を減らしてクリーンなエネルギー源を拡大する。柱の一つとして2049年までに原則として天然ガスの長期契約を禁止することを打ち出した。水素の利用拡大やビルの脱炭素に向けたルールも提案した。EUは50年に域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げる。中間点として30年には90年比55%減らす計画だ。11月に英グラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では各国が一段の排出減に取り組むことで合意した。EUは先陣を切って具体化に動き出す。天然ガスは石炭よりはクリーンなものの、二酸化炭素(CO2)は排出する。欧州委は49年までに長期契約を原則として終えるよう提案。安定供給などを目的とした1年未満の短期契約は認める。CO2の回収装置をつけている発電所なども例外になるようだ。法案の成立には曲折もありそうだ。足元ではガス不足でエネルギー価格が高騰している。ドイツはロシアと結ぶパイプライン「ノルドストリーム2」が完成したばかりだ。加盟国から反対の声が出る可能性がある。16日のEU首脳会議でも議論される見通しだ。欧州委は目標達成にはほとんどの化石燃料の利用をやめる必要があると主張する。ロシアへのエネルギー依存を減らせばEUが自立できるとみる。天然ガスに代わるエネルギーの主力になるとみるのが水素だ。いまはコストや規制がネックとなっている。普及拡大に向けて国境を越えるガス配送管に5%を上限に水素を混ぜることも認める方向だ。足元のエネルギー価格の高騰に対応した短期の対応策も示した。緊急時には有志国がガスを共同で備蓄したり、調達したりできるように制度を整える。EUでは一部の大国はガスを貯蔵しているものの、小国は関連施設を持っていない。各国が協力してガスを購入し、指定した場所に貯蔵できるような仕組みを設ける。欧州委は建物部門の脱炭素化に関する改革案も公表した。住宅や商業ビルなどから出る温暖化ガスは全体の4割弱を占める。公共施設や商業ビルを27年以降に新築する場合は原則として「ゼロエミッションビル」にすることを義務づける。ゼロエミッションビルはエネルギー消費が少なく、そのエネルギーも再生可能エネルギーなどでまかなえる建物だ。一般の住宅は30年までに義務づける方針だ。既存の建物の脱炭素化にも取り組む。EU域内で最もエネルギー効率が悪い分類は15%ある。公共施設や商用の建物は27年まで、住宅は30年までに最も悪い分類からの改善を求める。14日には輸送部門のグリーン化を進める対策を発表した。温暖化ガスの排出が少ない鉄道網の充実に力を入れる。欧州委によると、域内の国境を越えた旅客輸送で鉄道を使うのは7%にすぎない。30年には長距離鉄道の交通量を2倍にし、50年には3倍にする目標を掲げた。欧州委は22年にまとめる法案で、加盟国ごとにばらばらの長距離鉄道の予約方法の改善策を盛り込む。国境を越えた鉄道旅行に課す付加価値税の免除も検討する。主要都市を結ぶ路線は40年までに時速160キロ以上で走行できるようにする。

*7-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC032VF0T01C21A2000000/?n_cid=BMSR3P001_202112031238 (日経新聞 2021年12月3日) 日立が小型原子炉を受注 日本勢で初、カナダ企業から
 日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力合弁会社、GE日立ニュークリア・エナジーは2日、次世代原子力の「小型モジュール炉(SMR)」をカナダで受注したと発表した。日本勢の小型の商用炉の受注は初めて。既存の原発よりも工期が短く、炉が小さく理論上は安全性が高いとされる。世界が脱炭素にカジを切るなか、温暖化ガスを排出しない電源として期待されている。電力大手のカナダ・オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)から受注した。受注額は非公表。2022年内に建設許可を申請し、最大4基を建設する。早ければ28年に第1号機が完成する。日立が強みを持つ軽水炉の技術を活用した出力30万キロワット級の「BWRX-300」と呼ばれる小型原子炉を納入する。小型原子炉は現在商用化している出力100万キロワット級の原子炉に比べて出力が小さい。工場で部品を組み立てて現場で設置する方式で品質管理や工期の短縮ができるため、建設費が通常の原発より安くすむとされる。各国で研究開発が進むが、日本国内での導入には原子力発電所への信頼回復や耐震性など課題も多い。

*7-4:https://www.kochinews.co.jp/article/detail/526079 (高知新聞 2021.12.3) 【伊方原発再稼働】安全を重く受け止めよ
 四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)がきのう、約2年ぶりに再稼働した。東京電力福島第1原発事故以来、原発への不信感は根強い。運転に前のめりになっては管理機能を低下させかねない。万全の安全対策と説明責任を求めたい。3号機は定期検査のため、2019年12月に停止した。この間、20年1月には広島高裁が運転差し止めの仮処分を決定した。これを不服とした四電の異議申し立てで、ことし3月に運転が容認されている。運転を禁じた決定は、地震や火山リスクに対する四電の評価や調査を不十分とした。異議審では、安全性の評価は不合理ではないと四電の主張をほぼ認める結果となった。一連の判断の前にも、3号機では運転差し止めの仮処分決定と異議審での取り消しが行われている。大規模自然災害の予測や備えを巡り、司法の見解さえ分かれる状況にあることを十分に認識する必要がある。福島第1原発事故は、原発でひとたび過酷事故が起きれば長期にわたり重大な被害をもたらすことを強く認識させた。専門家の見方さえ定まらない問題ならばなおさら、住民の不安と丁寧に向き合わなければ理解は得られはしない。安全性を揺るがせるのは災害ばかりではない。四電はことし7月、宿直者が原発敷地外へ無断外出を繰り返し、保安基準上必要な待機人数を満たさない時間帯があったことを発表している。10月の運転再開予定の延期につながるほどの事案を長く見逃してきたことにも驚く。再発防止策として、宿直者全員に衛星利用測位システム(GPS)付きスマートフォンを持たせるという。そうしたことが役立つにしても、決定打とはならないだろう。緊張感が乏しいのはなぜなのか。労務管理の在り方はもとより、安全意識の徹底が求められる。定期検査中には、制御棒を誤って引き抜き、また一時的にほぼ全ての電源が喪失されるなどのトラブルが相次いだ。原子力を扱う事業者としての適格性が問われたことを肝に銘じなければならない。3年ぶりに政府が改定した「エネルギー基本計画」は、30年度の電源構成に占める原発の割合を従来目標で据え置いた。近年の実績を大きく上回る数値で、今ある原発のほぼ全てを再稼働しないと達成は難しいとされる。新増設や建て替えの見通しは立たない。福島第1原発事故後、原発の運転期間は「原則40年、最長で延長20年」となり、それにのっとった動きも出ている。基本計画は、脱炭素化の達成へ再生可能エネルギーを優先的に導入する方針を示す。しかし、電力の安定供給や巨額投資に困難が伴う。原子力は可能な限り依存度を低減させる意向は維持し ているが、それへ向けた強い姿勢はうかがえない。脱炭素を原発の長期的な運転につなげたい思いもあるようだ。それを住民がどう受け止めるのかに関心を向ける必要がある。

*7-5:https://digital.asahi.com/articles/ASPDG5R69PDCOIPE00J.html (朝日新聞 2021年12月14日) EV化加速を迫られたトヨタ 市場拡大、慎重派イメージ転換狙い
 トヨタ自動車が電気自動車(EV)の2030年の世界販売目標を350万台に引き上げた。これまで、「脱炭素」の切り札としてEV一辺倒に偏りがちな政策の潮流と距離を置いてきた。それが、積極的な普及をアピールする方向に転じた。本格的なEV競争に入る。東京・お台場のショールームにはスポーツ用多目的車やスポーツカーなど、トヨタが今後投入するEVの開発車両が16車種並んだ。豊田章男社長は車両を披露しながら「私たちは長い年月をかけて、様々な領域で取り組みを進めてきた」と強調。「EVならではの個性的で美しいスタイリング、走る楽しさのある暮らしを届けたい」と力を込めた。トヨタは30年までに30車種のEVを販売する方針も明らかにした。トヨタは今回、EVへの積極姿勢をアピールしたが、これまではEVの急速な普及に慎重な見方を示してきた。政府が昨年10月、50年までの脱炭素を宣言し、今年1月には35年までに乗用車の新車販売で純粋なガソリン車をゼロにする目標を掲げた。トヨタにとって、早期のEV化を強く迫るものと映り、警戒心を抱かせた。トヨタが描く脱炭素時代の戦略は、水素エンジンの開発も進め、EVやハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド(PHV)、燃料電池車(FCV)と「全方位」でエコカーをとりそろえ、国や地域の事情に応じて柔軟に車種を投入する考え方だ。5月には、30年の世界販売1千万台のうち800万台を、車載電池の電気エネルギーを動力に使う「電動車」にする目標を公表。電動車800万台のうち、EVは、水素を使う燃料電池車(FCV)を含めて200万台。HVが電動車の主力で、PHVとあわせて600万台とした。これらの数字は、世界の実情にあわせて緻密(ちみつ)に積み上げた目標だ。そして豊田社長みずから記者会見の場などで、「敵は炭素で、内燃機関(エンジン)ではない。技術の選択肢を狭めないでほしい」などと、EVに偏りがちな政策の潮流をたびたび牽制(けんせい)してきた。会長を務める日本自動車工業会の記者会見でも今年9月、「一部の政治家からは、すべてEVにすればよいんだとか、製造業は時代遅れだという声を聞くことがあるが、違うと思う」と批判した。実際、EVは脱炭素の「切り札」と言い切れない。国内の電源は7割以上が化石燃料由来の火力発電が占める。その電気を使って走るEVは間接的に二酸化炭素(CO2)を出す。再生可能エネルギーへの転換が進まなければ、CO2を減らせない。レアメタルが必要な車載電池の生産には大量のエネルギーを使う。製造から走行、廃棄といった「車の生涯」で見ると、EVでもCO2を簡単には減らせない。一方、EVシフトが進めば、部品の多さからたくさんの雇用を吸収してきたエンジン関連産業が要らなくなる。失業や倒産も増える心配がある。豊田社長が「脱炭素は雇用問題だ」と主張する背景だ。ただ、こうしたトヨタの「正論」は、気候変動対策に後ろ向きだとみられるようになっていった。米紙ニューヨーク・タイムズは今夏、「クリーンカーを主導したトヨタが、クリーンカーを遅らせている」と、批判的に論評。環境保護団体のグリーンピースは11月、世界の自動車大手10社の気候変動対策の評価で、トヨタを最下位にした。「EVの全面移行に対する業界最大の障壁」と酷評した。一方、市場では「EV銘柄」が急成長だ。販売規模でトヨタの10分の1ほどのEV専業の米テスラは、株式の時価総額が1兆ドル(113兆円)を超えている。トヨタの3倍超の水準だ。自動車部品のデンソーは、EVに不可欠な技術が評価され、株価は2年で2倍に上昇。トヨタ株もこの2年で3割余り上昇したが、デンソーの勢いははるかに上回る。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは、「トヨタはEVについてのメッセージが少なく、市場では戦略が劣っているとみられかねない」と分析する。11月にあった9月中間決算の記者会見で、長田准執行役員は、「トヨタはハイブリッドの擁護派、EVの反対派ではないかといわれるが、思ったことが伝わらない。EVをどう伝えるか悩んでいる」と話していた。そして今回、トヨタはEV化を加速させる方向に転じた。「全方位」の手堅い電動化戦略は、資金に余裕のあるトヨタだからこそできる手立てだ。主力市場でHVの販売は好調で、FCVの技術でも世界をリード。EV開発も進めてきたが、「全方位」を主張すればするほど、EV戦略が評価されにくくなっていた。そして何よりも、世界や日本勢もEV化に向けてかじを切り始めた。豊田社長は説明会で「各国のいかなる状況や、いかなるニーズにも対応し、カーボンニュートラルの多様な選択肢を提供したい」と強調した。トヨタはいよいよEV専用車を来年から世界で販売する。車載電池への巨額投資も決めている。「EVにも強いメーカー」へと脱皮できるか。巻き返しを本格化させた。

<日本は、既にオリ・パラ・万博で国威発揚しなければならない開発途上国ではない>
PS(2021年12月18日追加):*8-1のように、2030年の冬季オリ・パラ招致を目指す札幌市が、競技会場を2カ所減らして既存施設の改修・建替を進め、経費を最大900億円圧縮する開催概要計画の修正案を公表したそうだが、2,800~3,000億円もの巨費を投じる大会を気候変動で積雪すら危惧される札幌で再度開催することに、私は疑問を感じる。
 もちろん、私は、東京大会についても、「同じ場所で二度も開催する必要はないだろう」と思っていたが、やはり経費が増大し、収支には国の大きな補助金を必要とすることになった。さらに、東京大会は、(IOCが独善的だったのではなく)日本政府が非科学的で失敗の多かった新型コロナ政策を、メディアが「コロナ禍」と呼んで中止・無観客開催を大合唱し、誘致しない方がよほどよかったような大会になってしまったのである。そもそも、イベントでもしなければ世界から顧みられないような発展途上国ならオリ・パラ・万博を開催し、新しい施設を造って国威発揚するのは有効な経済政策になろうが、世界第3位の経済大国ともなれば世界の競争市場で勝ち続けなければならないのであり、イベント頼みで国威発揚をする段階ではない。
 そのような中、*8-2のように、「北京五輪の『外交的ボイコット』を表明する国が相次ぐ」そうだが、IOCは、*8-3のように、「五輪の政治化に断固反対」と宣言した。五輪はもともと政治の場ではないため、「外交的ボイコット」を表明すること自体が五輪を政治利用しているということであり、褒められる行為ではないため、政府関係者や閣僚を派遣しない国は静かに自国の選手を送り出した方がよいと思われる。
 なお、アメリカ・オーストラリア・イギリス・カナダ等が、北京五輪を外交的ボイコットする理由を、「中国による新疆ウイグル自治区での大量虐殺や人権侵害」としているが、中国は「大量虐殺は世紀の嘘で事実ではない」としている。「どちらの主張が本当か?」については、*9-1のように、国際人権団体アムネスティは、ウイグル族などのイスラム教徒が多く暮らす中国北西部新疆地区で、中国政府が①人道に対する罪を犯している ②ものすごい人数が収容所で洗脳・拷問などの人格を破壊する扱いを受けている ③何百万人もが強大な監視機関におびえながら暮らしている ④人間の良心が問われている とする報告書を公表した。
 しかし、*9-2のように、BBCは、⑤中国の人口政策でウイグル族の出生数が数百万減少し ⑥少数民族が暮らす南部4地区で出産年齢の女性の8割以上に避妊リングや不妊手術による出産防止措置を実施する計画を立てた とも指摘しており、欧米各国は中国の出産制限措置をジェノサイド(集団殺害)と批判しているのだ。これに対し中国は、⑦まったくのナンセンス、出生率の低下は出産数の割り当てが実施されたこと・収入増加・避妊具が入手しやすくなったこと等が原因 としている。私は、中国の人口政策は、イスラム教徒の多い新疆ウイグル自治区の女性を解放する変化の過程で起こることで、欧米や日本の主張は(意図的か否かは不明だが)誤解ではないかと思う。ユニクロの柳井会長兼社長も、*9-3のように、⑧人権問題というより政治的問題だ ⑨すべての取引先工場について第三者による監査を実施し、ウイグル人を含むいかなる強制労働も発生していないことを確認した と言っておられ、そちらの方が本当だと思われるので、人権侵害を指摘する人は、具体的に何が強制労働や人権侵害に当たるのかについて証拠に基づいて指摘すべきだ。さらに、*9-4のように、グンゼも強制労働の疑いをかけられ、新疆ウイグル自治区産の綿花使用を中止せざるを得なくなったそうだが、⑩生産工程で人権侵害は確認されていない としている。従って、新疆ウイグル自治区産の綿花使用を中止させる行為は、かえって新疆ウイグル自治区の女性から彼女たちにできる仕事を奪って自立を阻害する結果になっている可能性があると思うのである。

  

(図の説明:左図のように、冬季オリンピックの開催国は13カ国に集中しているが、現在は開催可能な国が増えている筈である。右図のように、北京冬季五輪は「冬」という文字をデザインに入れているが、冬という文字が共通なのは当然ではあるものの面白い)

*8-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021120200872 (信濃毎日新聞社説 2021/12/3) 札幌五輪招致 東京の総括がなされねば
 2030年の冬季五輪・パラリンピック招致を目指す札幌市が、開催概要計画の修正案を公表した。一昨年に示した経費を最大で900億円圧縮する。競技会場を2カ所減らすほか、既存施設の改修や建て替えを進めるという。東京五輪・パラは運営経費が当初計画から大幅に膨らんだ。自治体の財政が厳しい中で、経費を極力抑えるのは当然だ。ただ、それで市民の不安が和らぐとみるのは早計だろう。まず示されねばならないのは、2800億~3千億円もの巨費を投じる大会を地元で開くことの意義と課題だ。東京大会組織委員会の橋本聖子会長は、パラ閉幕時の会見で早くも札幌の招致実現に強い期待を語っていた。招致に向けて国会議員連盟を発足させる動きもある。東京大会の収支決算も済んでいない。経費増大の要因、大会が残したさまざまな教訓を総括する前に、次の招致に傾斜している。東京大会では国際オリンピック委員会(IOC)の独善的とも言える姿勢があらわとなった。五輪憲章は原則としてIOCが開催に財政的責任を負わないと明記する。開催都市契約では、不測の事態で組織委が変更を求めても対応する義務を負わない。コロナ禍で開催を危ぶむ声が高まっても顧みられることはなかった。巨額負担を嫌う各国の「五輪離れ」を受けて、IOCは従来の選定方式を変更。興味を示す都市と個別に交渉を重ね、開催地を早めに確保しようとしている。30年には複数の都市が名乗りを上げている。国際大会の実績などから札幌は本命視される。地元住民の支持は得られるのだろうか。市は来年3月をめどに道民の意向調査を予定する。市長は結果に縛られず、市議会や他都市の意向も踏まえて招致の可否を判断する考えを示している。「開催ありき」で走りだせば将来に禍根を残す。地域振興どころか、財政負担ばかり次世代に押しつけることになりかねない。経費の積算も透明性が欠かせない。納得し、大会を迎える機運を高められるか。それとも再考すべきか。住民が冷静に是非を判断できる材料がなくてはならない。2千億円余の運営費はチケットやスポンサー収入で賄う。東京大会で宣伝効果が得られなかった企業の五輪離れも懸念される。製氷を止めた長野市のスパイラルが、そり競技会場として大会概要案に盛り込まれた。長野県民も行方を注視していきたい。

*8-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/6176f97f8dd654ebd435427b86840d3820f60ef5 (日テレNEWS 2021/12/9) 北京五輪“外交的ボイコット”相次ぐ 日本の方針は?“ある人物”を派遣する案も
 北京オリンピック開幕まで2か月を切る中、“外交的ボイコット”を表明する国が相次ぎ、中国と各国の対立が浮き彫りになっています。何が問題なのか、日本はどうするのか、詳しくみていきます。
■4か国が北京五輪“外交的ボイコット”
 東京大会に続く、コロナ禍2度目のオリンピックとなる冬の北京オリンピックは来年2月4日に開会式、20日に閉会式が行われます。来年は日中国交正常化50周年の節目になりますが、日本政府は今、難しい対応を迫られています。それがオリンピックに政府関係者や閣僚を派遣しない“外交的ボイコット”です。選手が出場できなくなるのではなく、政府関係者などを派遣しないということです。外交的ボイコットを表明したのは、アメリカ、オーストラリアと続き、新たにイギリス、カナダもボイコットを表明しました。これに対して中国側はすぐに反発し、それぞれの国の中国大使館の報道官は「中国政府はイギリス政府関係者を招待していない」、「国際社会と多くの選手の反対にあうだろう」、「カナダはスポーツを政治化せず、北京オリンピックを妨害する誤った言動をただちにやめなければならない。さもなければ、自ら恥をかくだけだ」と声明を出しています。これら4つの国がボイコットする理由は、中国の人権侵害です。アメリカ・ホワイトハウスのサキ報道官は「中国による新疆ウイグル自治区での大量虐殺や人権侵害」を理由にあげ「人権のために立ち上がるのはアメリカのDNAだ」と話しています。一方の中国側は、大量虐殺について「世紀の嘘で事実ではない」、「嘘とデマに基づいて北京冬季五輪を妨害しようとすることは、アメリカの道義と信頼を喪失させる」と主張しています。さらに、「断固とした対抗措置をとる」と猛反発しています。中国側の思惑について、北京で取材を続けるNNN富田徹総局長は「北京オリンピックは習近平政権の威信をかけた国家イベント。本音ではバイデン大統領を招待するなどして、華々しく盛り上げたかったはず。そのため、先月の米中首脳会談の後にアメリカが外交的ボイコットを発表したことは本当に痛手で、このままボイコットドミノが広がることを強く警戒しているとみられる」と話しています。
■日本の方針は?
 日本の方針についてですが、7日、岸田総理は「オリンピックの意義とか、我が国の外交にとっての意義等を総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断していきたい」としています。同盟国のアメリカがボイコットするけれども、日本は日本で判断するということです。現時点でどうするかは、まだ決まっていません。一方、中国は先月、日本を「中国は東京五輪を全面支持した。日本は信義を守るべきだ」とけん制しています。この夏の東京大会は、コロナで開催が危ぶまれていた時も「中国は全面的に支援した。その義理を返しなさいよ」ということです。安倍元総理は9日、自身の派閥の会合で次のように発言しました。「ウイグルで起こっている人権状況については、政治的な制度、メッセージを出すことが我が国には求められているんだろう。日本の意思を示すときは近づいているのではないかと考えている」。日本の意思を示す時、つまり、日本も“外交的ボイコット”をするよう政府側に促したとみられます。また8日、自民党の高市政調会長も日本政府は“外交的ボイコット”を行うべきとの認識を示しました。政府関係者は「アメリカから同調圧力がないわけではない。日本が動かなかったら、西側諸国からの目が厳しくなる」との声もあります。アメリカがボイコットを表明して2日ほど経ちますが、日本がどのような決断をするか、世界も注目しています。
■政府内ではある作戦が
 政府内では、良さそうな作戦があるということです。それが、室伏スポーツ庁長官を派遣する案が持ち上がっているということです。政府関係者は「東京五輪に中国から来てくれた返礼は必要。中国から来た人と同じような立場の室伏長官の派遣でも問題ない」と話しています。東京大会には、中国の体育総局の責任者が来ました。スポーツ庁の様なところの責任者の方です。室伏長官はスポーツ庁のトップで金メダリスト。政府関係者ではあるけど、閣僚でも政治家でもありません。そうすれば、中国には「東京大会を応援してくれてありがとう。代表として長官を派遣します」、アメリカには「閣僚などの政治家は派遣していない」とどちらにも顔が立ちます。中国で起きている様々な人権問題は、うやむやにされることがあってはならない問題です。日本時間の9日夜、アメリカ主催で日本を含む110か国が参加する民主主義サミットが開かれ、中国を念頭にした人権問題が話し合われます。オリンピックを舞台とした政治の駆け引きは、ますます激しくなるといえます。

*8-3:https://digital.asahi.com/articles/ASPDD65XBPDDULZU001.html?iref=comtop_Sports_01 (朝日新聞 2021年12月12日) IOC「五輪の政治化に断固反対」 相次ぐ外交ボイコット受けて宣言
 国際オリンピック委員会(IOC)は11日、五輪に関わるスポーツ界の代表を集めた「五輪サミット」をオンライン形式で開き、「五輪とスポーツの政治化に断固として反対する」との共同宣言を発表した。会議はトーマス・バッハIOC会長を座長を務め、米国、中国、ロシアの国内オリンピック委員会の会長や、IOC委員でもある渡辺守成・国際体操連盟会長はじめ主要競技の国際連盟会長、世界反ドーピング機関のウィトルド・バンカ委員長らが出席した。米国、英国、豪州などは来年2月の北京冬季五輪をめぐり、中国の人権問題への懸念を理由に、大会に政府首脳を派遣しない「外交ボイコット」を表明している。会議ではこの動きを受けて、「IOC、五輪、そしてオリンピックムーブメントの政治的中立の必要性を強く強調する」と訴え、スポーツ界の団結をアピールした。宣言ではこのほか、国連総会で北京冬季五輪・パラリンピック期間中の休戦決議案が採択されたことを歓迎し、173カ国が共同提案国になったことにも触れた。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で開かれた今夏の東京五輪については「世界的な大成功であることに感謝する」とし、「アスリートたちは前例のない挑戦にもかかわらず大会が開かれたことに強い満足感を示した」と称賛した。テレビとインターネットを通じたデジタル配信の視聴者はあわせて30億人を超し、五輪史上で最も多くの人に届いた大会になったと総括した。

*9-1:https://www.bbc.com/japanese/57437638 (BBC 2021年6月11日) 中国のウイグル族弾圧は「地獄のような光景」=アムネスティ報告書
 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは10日、ウイグル族などイスラム教徒の少数民族が多く暮らす中国北西部の新疆地区で、中国政府が人道に対する罪を犯しているとする報告書を公表した。
報告書でアムネスティは、中国政府がウイグル族やカザフ族などイスラム教徒の少数民族に対し、集団拘束や監視、拷問をしていたと主張。国連に調査を要求した。アムネスティ・インターナショナルのアニエス・カラマール事務局長は、中国当局が「地獄のような恐ろしい光景を圧倒的な規模で」作り出していると非難した。「ものすごい人数が収容所で洗脳、拷問などの人格を破壊するような扱いを受け、何百万人もが強大な監視機関におびえながら暮らしており、人間の良心が問われている」。カラマール氏はまた、BBCの取材に対し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「責任を果たしていない」と批判した。「(グテーレス氏は新疆の)状況を非難せず、国際調査も指示していない」。「国連がよって立つ価値を守り、人道に対する罪に対して声を上げる責務が彼にはある」
●報告書の中身
 報告書は160ページからなり、かつて拘束されていた55人への聞き取り調査を基にしている。中国政府について、「少なくとも以下の人道に対する罪」を犯していたとし、「国際法の基本ルールに違反する、収監など厳格な身体的自由の剥奪」、「拷問」、「迫害」を挙げている。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチも、4月に同様の報告書を発表。中国政府は、人道に対する罪に対する責任があるとした。欧米の一部の国や人権団体も、中国が新疆地区で、チュルク系民族に対するジェノサイド(集団殺害)を進めていると非難している。ただ、中国の行為をジェノサイドとしていることについては、反論も出ている。今回のアムネスティの報告書をまとめたジョナサン・ロウブ氏は10日の記者発表で、報告書について、「ジェノサイドの犯罪が行われたすべての証拠を明らかにはしたものではない」、「表面をなぞっただけだ」と説明した。中国は新疆地区で人権侵害はないと、一貫して主張している。
●拘束や拷問の疑い
 専門家らは、中国が新疆地区で少数民族への弾圧を始めた2017年以降、約100万人のウイグル族などのイスラム教徒が拘束され、さらに数十万人が収監されているとの見方でほぼ一致している。報道では、刑務所や収容所で身体的、心理的拷問が行われているとされている。人口管理のため、中国当局は強制不妊手術や中絶、強制移住を実施しているとも言われている。宗教や文化に基づく伝統の破壊を目的に、宗教指導者を迫害しているとの批判も出ている。中国はそうした指摘を否定。新疆地区の収容所は、住民らが自発的に職業訓練を受けたり、テロ対策として過激思想を解いたりするためのものだと主張している。アムネスティは、テロ対策は集団拘束の理由にならないと報告書で反論。中国政府の行動は、「新疆の人口の一部を宗教と民族に基づいてまとめて標的にし、イスラム教の信仰とチュルク系民族のイスラム教文化の風習を根絶するため厳しい暴力と脅しを使うという明らかな意図」を示しているとした。アムネスティは、新疆地区で収容所に入れられた人が「止まることのない洗脳と、身体的かつ心理的拷問を受けている」とみられるとした。拷問の方法としては、「殴打、電気ショック、負荷が強い姿勢を取らせる、違法な身体拘束(「タイガーチェア」と呼ばれる鉄製のいすに座らせ手足をロックして動けなくするなど)、睡眠妨害、身体を壁のフックにかける、極めて低温の環境に置く、独房に入れる」などがあるとした。タイガーチェアを使った拷問は、数時間~数日にわたることもあり、その様子を強制的に見せられたと証言した人もいたという。アムネスティはまた、新疆地区の収容制度について、「中国の司法制度や国内の法律の管轄外で運営されている」とみられると説明。収容所で拘束されていた人々が刑務所に移されたことを示す証拠があるとした。
●中国へのさらなる圧力
 今回の報告書の内容の多くはこれまで報道されてきたものだが、新疆地区での行動をめぐって、中国に国際的な圧力をかけるものになるとみられる。米国務省はこれまでに、ジェノサイドが行われていると表現。イギリス、カナダ、オランダ、リトアニアの議会も、同様の表現を含んだ決議を採択している。欧州連合(EU)、アメリカ、イギリス、カナダは3月、中国当局者に制裁を課した。これに対し中国は、それらの国の議員や研究者、研究施設などを対象に報復的な制裁を実施した。中国は国際刑事裁判所(ICC)の署名国になっておらず、同裁判所の権限が及ばないため、国際機関が中国を調査する可能性は高くない。一方、国連の国際司法裁判所(ICJ)が事件として取り上げても、中国は拒否権を発動できる。ICCは昨年12月、事件として取り上げないと発表した。ロンドンでは先週、一連の独立した聞き取り調査が実施された。イギリスの著名法律家サー・ジェフリー・ナイスが中心となり、ジェノサイドの訴えについて調べるものだった。

*9-2:https://www.bbc.com/japanese/57395457 (BBC 2021年6月8日) 中国の人口政策で、ウイグル族の出生数が数百万減少も=研究
 中国政府の産児制限の影響で、南部・新疆地区で暮らすウイグル族などの少数民族の20年後の人口が、当初の予測より最大3分の1ほど少なくなる可能性があると、ドイツ人研究者が指摘している。中国の新疆政策に関する世界的な専門家で、共産主義犠牲者記念財団(米ワシントン)の研究員であるエイドリアン・ゼンズ氏は、現地の状況を新たに分析。その結果、20年後の少数民族の出生数は、当初の予測より260万~450万人少なくなる見込みであることがわかったという。中国政府の少数民族に対する弾圧が、新疆の人口に及ぼす長期的な影響について、査読を受けた学術研究が出されるのはこれが初めて。ゼンズ氏によると、中国政府が弾圧を強める以前は、新疆地区の少数民族の人口は、2040年に1310万人に達すると予測されていた。しかし現在では、860万~1050万人になるとみられるという。ゼンズ氏は、「ウイグル族の人口に対する中国政府の長期計画の意図が今回(の調査と分析で)はっきりした」と、この分析を最初に報じたロイター通信に話した。同氏は分析報告書で、新疆当局が2019年までに「少数民族が暮らす南部の4地区で、出産年齢の女性の8割以上に、避妊リング(IUD)や不妊手術による出産防止の措置を実施する計画を立てていた」とも指摘した。欧米各国は、中国が出産制限の措置を強制することで、ジェノサイド(集団殺害)を実行していると批判している。中国はそうした訴えを「まったくのナンセンス」だと否定。出生率の低下は、出産数の割り当てが実施されたことや、収入の増加、避妊具が入手しやすくなったことなどが原因だとしている。
●漢族の比率が大幅増か
 ゼンズ氏の研究によると、中国政府は新疆地区に主要民族の漢族を移住させ、ウイグル族などを転出させる施策も進めている。新疆地区の漢族の人口比率は現在8.4%だが、2040年までには約25%に増える見通しだという。中国の公式統計では、新疆地区の少数民族が暮らすエリアの出生率が、2017~2019年に48.7%下落した。中国は先週、夫婦に3人まで子どもをもうけることを認める方針を発表した。しかし、新疆地区では反対の方針が取られている様子が、流出文書や証言などからうかがえる。出産数の割り当てに違反した女性は、拘束や処罰されているとみられる。今回のゼンズ氏の研究とその手法は、ロイター通信が人口統計や人口抑制政策、国際人権法などの専門家十数人に示し、妥当だとの反応を得たという。ただ、専門家の一部は、数十年先の人口予測について、予測不可能な事態の影響を受ける場合があると指摘している。

*9-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP4S730RP4RULFA02M.html?iref=pc_rellink_03 (朝日新聞 2021年4月25日) ユニクロも無印も…新疆綿で板挟み「何言っても批判が」
●経済安保 米中のはざまで
 中国・新疆ウイグル自治区は、世界でも良質な「新疆綿」の産地として知られる。世界のアパレル企業が供給網として依存する一方、中国によるウイグル族などの強制労働があるとして欧米が問題視。「人権」をめぐる米中対立の先鋭化に、日本企業も揺さぶられている。8日、衣料品チェーン大手「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの記者会見。柳井正会長兼社長は「出店のペースを上げ、アジアで圧倒的ナンバーワンになる」と力強く宣言した。中国に展開するユニクロの店舗数は2月末時点で800店で、日本国内の807店を近く抜く見通しだ。コロナ禍からいち早く抜けた中国は21年1~3月期、前年同期比で18・3%の経済成長を遂げた。同社にとって中国は衣類の主要な生産拠点であり、最重点市場でもある。だが、海外メディアを含む3人の記者が立て続けにウイグルに関する強制労働と綿花使用の質問をすると、表情を曇らせてこう語った。「政治的な質問にはノーコメント」「人権問題というより政治的問題だ」「我々は政治的に中立だ」。豪シンクタンク「豪戦略政策研究所(ASPI)」が昨年3月に発表した報告書は、グローバル企業82社が、ウイグル族を強制労働させた中国の工場と取引していると指摘。報告書にはユニクロなど日本企業14社の名前があった。ファーストリテイリングは朝日新聞の取材に「すべての取引先工場について第三者による監査を実施し、ウイグル人を含むいかなる強制労働も発生していないことを確認した」と内容を否定した。報告書では「無印良品」を展開する良品計画も名指しされた。同社はウイグルの農場で綿を調達しているとしながらも、朝日新聞の取材に「(取引先の第三者による監査で)法令または弊社の行動規範に対する重大な違反は確認していない」と回答した。ウイグル問題で企業に対応などを求めてきた国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」の佐藤暁子弁護士は、柳井氏の発言を「『政治的に中立だからコメントしない』というのは全く的外れだ。特定民族に対して課す強制労働の問題は、国際的な人権上の問題であって、『内政干渉』になるから何も言わないという話ではない」と批判する。また、強制労働そのものを否定する中国にある企業に、強制労働の有無を問い合わせても、正直に答えるはずもなく、どれほど実態を把握できるのかといった、「監査」の実効性を疑問視する指摘もある。報告書で指摘された日本企業には、アパレルだけでなく玩具や電化製品の企業も含まれる。企業が関与を否定しても、株価の下落などの影響が広がる。12日にはフランスのNGOなどが「供給網を通じてウイグル族の強制労働に関与している疑いがある」としてユニクロなどのアパレル企業を告訴した。「中国と米国でビジネスを行っている以上、どちらかにだけ良い顔をするわけにはいかない」。ファーストリテイリングなどと共に、ASPIの報告書で名前を挙げられた別の企業の関係者はそう話す。「法令に沿ってビジネスをしているはずなのに、今は何を言っても批判されてしまう」として、米中、そして世論とビジネスの板挟みとなっている苦悩を吐露する。バイデン米政権は中国の行為を「ジェノサイド(集団殺害)」と断じ、欧州連合(EU)などと連携して対中制裁を発動。対中強硬姿勢を強めている。中国も防戦一方ではない。人権侵害を懸念するとともに、新疆綿を調達しないと発表したスウェーデンの衣料品大手「H&M」を、中国の共産党系団体が批判し、不買運動が起きた。経済的な報復措置で米欧の人権外交に反撃する構えを見せる。主要7カ国(G7)で唯一、対中制裁に踏み切っていない日本だが、16日の日米共同声明では、香港やウイグルの人権状況について「深刻な懸念を共有する」と明記した。政府関係者はこう語る。「対応を誤れば、企業は中国の巨大市場を失う。かといって米国の呼びかけは無視できない。政府や日本企業には厳しい踏み絵だ」

*9-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP6J6G18P6JPLFA00F.html (朝日新聞 2021年6月16日) グンゼ、新疆綿の使用中止へ 人権侵害への懸念で
 下着大手のグンゼ(大阪市)は16日、中国・新疆ウイグル自治区産の綿花の使用を中止することを明らかにした。新疆綿をめぐっては、中国側がウイグル族に強制労働をさせた疑いがあるとして、特に欧米が問題視している。同社は生産工程で人権侵害は確認されていないとするが、国際的に懸念が広がっている状況を考慮したという。同社によると、靴下の「ハクケア」シリーズの一部に新疆綿が使われていることがわかり、使用の中止を決めた。今後は別の産地の原料に切り替える方針という。在庫分は販売を続ける。新疆綿を使った衣料品をめぐっては、ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ」のシャツが米国で輸入を差し止められるなど、各国からの視線が厳しくなっている。一方、中国政府は強制労働の事実を否定。新疆綿の使用中止を発表したスウェーデンの衣料品大手「H&M」は、中国で不買運動を受けた。衣料業界のサプライチェーン(供給網)は複雑で、最終的な商品を販売する会社が全てを把握するのは困難との声もあり、各社が難しい判断を迫られている。

<日本における再エネとEVの停滞は何故起こったのか>
PS(2021年12月30日):*10-1のように、ドイツはフクイチ事故後「脱原発」を着々と進めているのに、日本のメディアは、*10-2のように、「電力の安定供給と気候変動対策を両立するため、フランスや英国が主導して欧州で再び原子力発電所を活用する動きが活発になっている」などとして、原発活用に向けた議論が停滞していることがよくないような書き方をしている。しかし、フクイチの事故処理も汚染水の処理もまともにできず、放射性廃棄物の最終処分場も決まっていないのに、脱炭素に原発が必要であるかのように言うのには原発を推進したい意図がある。しかし、このようにして、再エネやEVを不当に過小評価した結果、進んでいた日本の再エネやEVは周回遅れとなり、再エネ関連の新興中小企業はつぶされ、EVも育たず、日本の国益が害されたのである。そのため、矛盾したことばかり書かないようにすべきだ。
 このような中、*10-3のように、独ヘルティ・スクール・オブ・ガバナンス教授のデニス・スノーワー氏が、①温暖化防止はグローバルな目標 ②COP26では国益を対立させる交渉がみられた ③一部企業のグリーンビジネスなどが実施されても、他企業の脱炭素化に反する行動を許してしまう ④報酬と制裁で全企業が環境に責任を持つよう政府が介入しなければならない ⑤専門家は効率的な脱炭素化実現にパリ協定の目標に沿った世界的な炭素価格が必要だとしている ⑥CO₂はどこで排出されても環境に及ぼす被害は同じで、すべての人が同じ炭素価格を負担するのが望ましい 等と記載している。私は、①~⑤に賛成だ。また、⑥については、近い将来に放射性物質の放出を含む公害のすべてに環境税をかけるのが経済の環境中立性を護るのに必要だと思うが、まずCO₂排出量に応じて環境税をかけ、森林・田園・藻場の育成によるCO₂吸収に応じて世界ベースで同じ金額の補助金を出すのがよいと思う。

*10-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15155646.html (朝日新聞 2021年12月27日) ドイツ、「脱原発」一本道 来年末、全基停止へ
 地球温暖化対策として、欧州で原子力発電を再評価する動きが出るなか、ドイツが「脱原発」を着々と進めている。10年前、日本の原発事故をきっかけにかじを切った。原発の負の側面を直視し、再生可能エネルギーの普及に注力している。
■福島の事故後、一転/欧州に延命論でも
 今月末、1基の原発が営業を終える。「笛吹き男」の伝説で有名な西部ニーダーザクセン州ハーメルンから南に約8キロ。人口1万人弱の町エンマータールにある「グローンデ原発」だ。高さ約150メートルの冷却塔2塔から、白い蒸気が上る。加圧水型炉で、出力は1360メガワット。1984年に稼働後、何度も年間発電量で世界一になったという。1日の記者会見でリース州環境エネルギー相は「地域で一つの時代が終わる。脱原発は政治的な正しい決断だった」と述べた。ドイツでは、メルケル前首相が前任のシュレーダー政権の脱原発の方針を覆し、原発の「延命」を決めた。ところが約半年後の2011年3月、東京電力福島第一原発事故が起きた。メルケル氏は方針を百八十度転換し、17基あった原発を段階的に止めることにした。現在、稼働するのは6基。発電量の約14%を原発が占める。今月中に3基が停止し、22年末までにすべて止まる予定だ。今月発足したショルツ政権も、脱原発の方針を引き継ぐ。さらに脱石炭火力のペースも前政権より速め、電源に占める再生可能エネルギーの比率を現状の40~50%から30年までに80%に上げる方針だ。一方、脱原発を支持する市民は少しずつ減っている。アレンスバッハ世論調査研究所によると、「脱原発は正しい」との回答は12年には73%あったが、21年は56%。中高年ほど原発を支持する傾向が強かった。気候変動問題への対応で、各国が温室効果ガスの排出が少ない原発を再評価し始めている影響もあるとみられる。電源の約7割を原発に頼るフランスは温暖化対策や資源高への対応として最新型の原発を新たに導入する方針だ。今は原発のないポーランドも、40年代をめどに導入をめざす。こうしたなか、欧州連合(EU)の行政機関・欧州委員会は、原発を持続可能で温暖化対策に資する当面のエネルギー源とみなす方向だ。EUが掲げる「50年に温室効果ガスの実質排出ゼロ」を実現するには、避けられないとの判断だ。
■おひざ元、再エネの街に変化
 ドイツでも、同様の理由で原発の延命を訴える声が根強くある。これに対し、グローンデ原発のおひざ元、エンマータールのドミニク・ペタース町長(32)は「電力会社も行政も誰も再開は考えていない」と言う。行政も企業も廃炉に向け着々と準備を進めており、いまさらすべてをひっくり返すのは「非現実的」との考えだ。町は長年、原発によって潤い、町民の多くが原発関連の仕事を得た。電力会社からの豊富な税収で学校や消防署、道路などのインフラが整備された。当面は廃炉作業のための雇用が期待されるが、町は原発以外の生き残り策を探ってきた。約20年前に太陽光発電の研究所を誘致し、太陽光関係の製品開発などを続けている。原発のすぐそばには複数の風車も回る。ペタース町長は「私たちはエネルギーの町として、旧来型から新型へ変化を遂げている」と胸を張る。グローンデ原発のある地区選出の与党・社会民主党のヨハネス・シュラプス連邦議会議員(38)は「原発が気候に中立とは全く言えない」と話す。燃料調達時の環境汚染や、超長期的に影響が残る放射性廃棄物の最終処理のめどがたっていないからだ。「原発と石炭火力を同時にやめていくのは野心的だが、できる。ドイツは他国の手本になるだろう」

*10-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211228&ng=DGKKZO78829810Y1A221C2MM8000 (日経新聞 2021.12.28) 欧州、原発回帰の流れ、仏英主導、脱炭素・エネ安保対応 日本は議論避け停滞
欧州で再び原子力発電所を活用する動きが活発になっている。フランスや英国が主導する。電力の安定供給を保ちつつ気候変動対策を進める。欧州連合(EU)域外からの天然資源に依存しない、エネルギー安全保障の観点からも重視している。東日本大震災から10年を迎えた日本では原発に関する真正面の議論を避け、原発の位置づけは定まらないままだ。EUのフォンデアライエン委員長は10月に「我々には安定的なエネルギー源である原子力が必要だ」と述べた。EUは経済活動が環境に配慮しているか判断する基準「EUタクソノミー」で原発を「グリーン電源」に位置づけるか、加盟国間で激しい議論が続く。マクロン仏大統領は11月、国内で原発の建設を再開すると表明し、英国も大型炉の建設を進める。両国は次世代の小型炉の開発にも力を入れる。オランダは12月半ば、総額50億ユーロ(約6500億円)を投じる、原発2基の新設計画をまとめた。原発回帰の最大の理由は気候変動対策だ。EUは2030年の排出削減目標を1990年比40%減から55%減に積み増した。原発は稼働中の二酸化炭素(CO2)の排出がほとんどない。風力や太陽光と異なり、天候に左右されない。EUは19年時点で総発電量の26%を原発が占める。11年の日本の原発事故を受け、EUは原発の安全規制を強化してきた。17年には原発を安全に運用するには50年までに最大7700億ユーロの投資が必要との文書を作成。認可基準の擦り合わせや、原子炉の設計標準化などの対応を求めている。ドイツは他の加盟国と一線を画し、メルケル前政権が22年末までの「脱原発」を掲げる。新政権もこの方針を堅持するものの、ロシアへの天然ガス依存やガス価格高騰で脱原発方針を延期するよう求める声もある。日本は原発活用に向けた議論が停滞している。エネルギー基本計画では、30年度に電源に占める原発比率は20~22%を目標とする。ただ、達成には再稼働済みの10基に加えて再稼働をめざす17基を動かす必要がある。日本は長期の戦略を欠く。9月の自民党総裁選では次世代原発の小型炉などの新増設を進めるべきだとの意見も出たが、政策の変更も含めて活用の是非の議論すら封じる流れは変わっていない。日本では事故を受けて国民の反発も根強く、政府はより丁寧な説明が求められる。事故処理や放射性廃棄物の最終処分場も決まっていない。日本は再生可能エネルギー導入でも周回遅れだ。政治が責任を持って議論を主導せず先送りを続ければ、脱炭素の取り組みは遅れるばかりだ。

*10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211230&ng=DGKKZO78845690Y1A221C2TCR000 (日経新聞 2021.12.30) 気候変動対策、報酬と制裁で 独ヘルティ・スクール・オブ・ガバナンス教授 デニス・スノーワー氏
 11月に閉幕した第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」を実行するうえで必要な規則が確定した。産業革命前に比べた気温上昇を1.5度以下に抑えるという目標の達成を目指している。だが実際の拘束力に乏しいことなどから、達成には疑問符がつく。現在の経済体制では、企業は株主価値の最大化を探り、政治家は有権者の支持を最大限に得ようとしている。社会は、表層的な環境重視を含むポピュリズム(大衆迎合主義)などに翻弄される。経済的な繁栄や政治的な成功は、社会の安定や環境の健全性と切り離されてしまった。こうした状況をみる限り、グリーンビジネスや脱炭素に向けた投資活動に簡単に勇気づけられるべきではないだろう。すべての企業が環境に責任を持つように政府が介入しなければ、一部の企業のグリーンビジネスなどが実施されたとしても、他の企業による脱炭素化に反する行動を許してしまう。気候変動との戦いには、政府と企業の意図的な協力が求められるということになる。共有資産の管理については、2009年にノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロム氏の研究がある。共有資産の関係者がルールづくりに参加し、執行することで、管理できている例を示した。まず、問題の認識と目的を共有することが不可欠だ。温暖化の防止は、本質的にグローバルな目標といえる。温暖化ガスはどこで排出されても、あらゆる人々に影響を与える。従って、目標に対する共通の認識を持つことが必要になる。だがCOP26では、国益を対立させるような交渉がみられた。次に、気候変動対策のコストと見返りを、すべての当事者にとってよりよい状態になるよう分配することだ。専門家は、効率的な脱炭素化の実現には、パリ協定の目標に沿った世界的な炭素価格が必要だとしている。二酸化炭素(CO2)はどこで排出されても環境に及ぼす被害は同じなので、理論上はすべての人が同じ炭素価格を負担するのが望ましい。企業が生産拠点を規制の緩い海外に移してしまう「カーボンリーケージ」の問題を防げる。もっとも貧困層や中間層は、炭素集約型の商品やサービスの価格が上昇し、購入できなくなってしまう可能性がある。炭素集約型の産業の雇用が減少すれば、失業者が増え、地域社会が経済基盤を失ってしまうかもしれない。気候変動対策を成功させるには、意思決定を公正で包括的にする必要がある。意思決定には、すべての当事者が参加できるようにすべきだ。COP26の交渉では、差し迫った気候変動の壊滅的な影響を最も受ける人々が除外されたと、多くの人が主張する。権力を持つ人々は、既得権を維持したいと考える傾向がある。明確な成果を測定することで、有益な行動に報酬を、不利益をもたらす行動には制裁を段階的に与える必要がある。信頼できる調停者が関与した、迅速で公正な紛争解決の仕組みは欠かせない。最後に、多極的な統治が必要だ。国際機関や国、地域、地方が相互に影響し合う。首尾一貫した合意を結び、実施する。COP26の提言には法的な拘束力がないうえ、気候変動対策で各国の主権は認められているものの、多極の統治システムは不在といえる。あらゆるレベルで気候変動政策は無視され、一貫性に欠ける。こうした要件を満たすのは難題で、一夜にして実現するものではない。だが次の世代には、気候変動対策を成功させるための社会や経済、政治的な条件を整える努力を、我々に期待する権利がある。

| 経済・雇用::2021.4~ | 10:10 PM | comments (x) | trackback (x) |
2021.11.9~17 気候変動と日本におけるエネルギー及び第一次産業への影響 (2021年11月18、21、22、25、26日に追加あり)

      Hiromori        2021.8.9BBC       2021.8.9BBC 

(図の説明:左図は日本の1900~2020年までの気温上昇で、100年で1.26°C上昇している。中央の図は、世界の1850~2020年の気温上昇で、やはり1.26°Cくらい上昇しており、このうち自然要因の上昇は殆どなく、すべて人為的要因によるものであることが示されている。これに伴って、氷が解け、水の体積が増すことによって海面上昇するが、現在、既に25cmくらい上昇していることは、日本での体感と一致している)

(1)COP26について
1)グテレス国連事務総長
 グテレス国連事務総長は、*1-1のように、COP26首脳級会合にける演説で、「①最近発表されている気候変動対策は、状況を好転させない」「②各国提出の温室効果ガスの削減目標では、今世紀末の平均気温は産業革命前より2.7度上昇する」「③会議が失敗に終わったら、各国は気候変動対策計画を、毎年、常に見直さなければならない」と警告されたそうだ。

 これに先立ち、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2021年8月9日、*1-4のように、「④人間の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がなく、大気・海洋・雪氷圏・生物圏において広範囲で急速な変化が現れている」「⑤海面水位が今世紀末までに2メートル上昇する可能性も排除できない」「⑥数十年中にCO₂その他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に地球温暖化は摂氏1.5度・2度を超える」「⑦対応を遅らせる余裕も、言い訳をしている余裕もない」としていたが、こちらは根拠が事実に基づいているので明快だ。

 BBCだけでなく外国メディアは、このように情報量が多くて科学的・理論的な情報発信が多いが、日本のメディアは、殺傷事件・人格否定論・感情論が多く、政策に関しては定食もどきの「妥協のミクス」しか報道できないため、日本人の意識を低めて民主政治に悪影響を与えているのである。

2)岸田首相
 岸田首相は、*1-2のように、COP26の首脳級会合における演説で、2050年までの温室効果ガス排出を実質0にする目標を改めて明言し、「①新たに5年間で途上国の気候変動対策に最大100億ドル(約1兆1350億円)の追加支援を行う用意がある」「②アジアでの再エネ導入は既存の火力発電を排出0化して活用することも必要だ」等と述べ、議長国である英国が求めていた2030年までの廃止に応じなかった。

 そのため、環境NGOは、CO₂排出量の多い石炭火力発電の廃止には触れず、アンモニアやグレイ水素を活用して火力発電の継続を宣言したことにより、*1-3のように、日本を地球温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」に選んだ。

 アンモニア(NH₃)は炭素(C)は含まず窒素(N)を含むため、燃焼した時にCO₂は出さないがNOxを出す。そのため、地球温暖化ではないが、有害な窒素酸化物を発生する。にもかかわらず、経産省は、2030年までに石炭火力燃料の20%をアンモニアにして混ぜて発電する技術の実用化を目指し、2050年にはアンモニアだけの発電も始めることを目指すそうだ。しかし、アンモニアは、化石燃料から水素を取り出して窒素と反応させて作るため、輸入エネルギーであって日本のエネルギー自給率向上に貢献せず、その水素を作るにも大量のエネルギーを使って温室効果ガスを出す馬鹿な選択なのである。

 つまり、「③日本は資源のない国」「④エネルギーは熱からしかできないもの」という先入観をいつまでも捨てず、エネルギー自給率向上に役立たず公害を出し安価でもない輸入化石燃料に固執するのは、世界1の借金大国がさらに国富を海外に流出させるだけなのである。

 そのため、再エネも進歩しており、さらに進歩させなくてはならない現在では、「電力の安定供給」「産業の国際競争力維持」などの言い訳は、石炭火力・アンモニア・原子力の必要性を合理的に説明する根拠とはならず、むしろ技術進歩を阻害して産業の国際競争力を弱める結果となっているのである。

3)産油国の脱石油政策と日本がやるべきこと
 世界が脱炭素にかじを切ると、産油国は原油の輸出が減る。しかし、*1-5のように、サウジアラビアは、実力者のムハンマド皇太子が「脱石油」改革を掲げ、サウジアラムコがビジネスの転換を進めている。その改革の二大柱は、下流部門への進出とアジアシフトで、アミン・ナセル氏はアラムコを「エネルギーと化学の会社」に変貌させて鉱業の付加価値を高め、将来は欧米などの外国市場での株式上場もめざすようで、賢くて有望な計画になっている。

 そのような中、日本は、10年1日の如く「燃料費の高騰で困ったから、原油を増産して欲しい」などとアメリカに言ってもらっているが、とっくの昔にエネルギーを再エネに転換しておくべきだったし、最初はトップランナーで、できたのである。

 しかし、現在でも、*1-6のように、①再エネに限らず原発も選択肢とした“クリーンエネルギー戦略”を策定すると明記した ②コストばかり高くて環境を汚すリスクの大きな原発への投資をやめない ③そのため再エネ向け送電線の整備を徹底しない ④投資効率が悪い(=賢い支出でない) ⑤成長力の底上げに繋がらない など、政府支出を大きくすることの無駄遣いによるディメリットが目に余るのである。

 また、新型コロナ対策には非科学的な対応が多すぎ、マスクや医療用ガウンすら作れず、ワクチンや治療薬の速やかな開発も行わずに利益の機会を逸し、緊急事態宣言による行動制限に頼って国民経済を疲弊させた罪は、金額に換算できないほど大きい。さらに、国民経済の疲弊を口実として、無計画で非科学的な新型コロナ対策の埋め合わせに何兆円もの投資効果0の予算を使うというのも全く賢くなく、成長戦略に欠け、その原資は(今は詳しく書かないが)誰が払うと考えているのだろうか。

 なお、岸田政権は、賃上げに取り組む企業への優遇税制を強化し、看護師・介護士・保育士らの給与を引き上げるそうである。また、経済安全保障の観点から半導体の国内生産拠点も支援するそうだが、企業が激しい世界競争をしている現在、企業は(一時的に補助金をもらったとしても)生産性以上に製造コスト(土地代・人件費・水光熱費等々)の高い国に生産拠点を置くことは選択できない。そのため、日本は1990年代から次第に空洞化して、今では製造業も危ういという情けない状態であることを自覚すべきだ。

 そのような中、会計検査院は、コロナ対策事業として計上された65兆円程の予算の3割超にあたる22兆円余りが未執行だったと指摘したそうだ。しかし、未執行の責任を問うだけなのが会計検査院の限界なのである。本当は、もっと安上がりで投資効果の高い予算の使い方はなかったのか(実際にはあった)、予算配布の仕組みが無駄遣いの温床ではなかったか(既存の仕組みを使わなかったため無駄が多かった)、いらなかったのなら繰り越すのはよいことではないのか(実際はよいことだ)なども、検討すべきなのである。

 また、政治が需給ギャップを理由として大規模な経済対策の必要性を訴えることについては、個人消費を抑えながら需給ギャップを理由として国が支出を増やすのは、国の支出先は企業や個人のニーズに合うしっかり練られたものではないため、国民生活を豊かにしない。そのため、「新しい資本主義」の定義を早急に明らかにし、どの国民も犠牲にせずに豊かにして、本物の成長に繋げる予算づくりをすべきだ。

(2)日本がエネルギーの変換にも出遅れたのは何故か

   
   ローソン      2021.10.20東京新聞     2021.10.20東京新聞

(図の説明:左図のように、日本の2018年の1人当たりCO₂排出量は、発電からが50%近く、ガソリンからが25%近くを占めている。そのため、まず、発電を自然再生可能エネルギー《以下「再エネ」と記載する》にすれば、CO₂排出量を50%近く削減できる。また、移動手段を再エネ由来の電力を使ったEV等に変換すれば、CO₂排出量の25%近くを削減できる。従って、そのためのインフラ整備を行うのが最も安価でエネルギー自給率の向上にも資する予算配分になる。しかし、経産省は、右図のように、CO₂を排出しないベースロード電源であるとして既存原発の再稼働や小型原子炉の開発を進め、2030年には原発による発電割合を20~22%にまで増やそうとしており、これは日本にとっては何のメリットもない血税の無駄遣いになる)


  2020.2.23BS朝日      2020.2.23BS朝日     2016.6日本地熱協会

(図の説明:左と中央の図のように、2019年下半期に、太陽光発電のコストは日本13円・ドイツ6.5円・アメリカ5.7円であり、洋上風力も日本11.7円・ドイツ5.9円・アメリカ4円である。日本で再エネのコストが高止まりしている理由は、できない理由を並べて再エネの普及を阻んだからであり、これにより産業も含め全国民に迷惑をかけている。また、石炭火力・ガス火力より再エネの方が高いのも日本だけだが、再エネは変動費が0に近いため、これは当たり前だ。また、太陽光や風力も安定電源化することは可能だが、日本は地震・火山国で地熱が豊富であるため、その気になれば変動費無料の安定電源を確保することも容易なのである)

1)電源の再エネ化へ
 政府は、*2-1のように、「第6次エネルギー基本計画」を改定し、再エネや省エネを推進する「地球温暖化対策計画」も定めた。今回は、再生エネを最優先で導入する方針を明記したそうだが、上の段の中央と右の図のように、2030年度電源構成で再生エネ比率は36~38%、LNG・石炭・石油などの化石燃料由来の火力発電が41%と目標は低い。

 その上、過酷事故のリスクは0でなく、廃炉や核燃料の最終処分でもコストが著しく高い原発を、2030年度でも20~22%使用し、アンモニア(NH₃)発電まで始めるというのは、環境問題を温室効果ガス(CO₂)だけに限って矮小化しすぎている。仮に「環境問題はCO₂だけを考えればよい」と思っているとすれば、それは勉強不足である。

 私は、2030年度なら再エネ比率80%も可能なので、できない理由を並べるのではなく、実現するために最善の努力すべきだと思う。そのためには、農林漁業地帯で本来の生産の邪魔にならない再エネを選んで発電し、農林漁業の副収入にできるよう、21世紀型の送電線を整備すればよいし、建物のガラスや施設園芸用ハウスの資材でも発電できるよう、規制を作ったり補助をつけたりすればよい。そして、その財源には、脱公害化に向けて環境税(or炭素税)を創設し、CO₂はじめNOxやSOxなどの有害物質の排出に課税するのが合理的である。

 また、全国の地熱発電所数は、*2-6のように、2011年のフクイチ事故後の10年間で4倍に増えたそうだが、地震・火山国である日本が持つ豊富な地下資源である地熱は、変動費無料の安定電源であるため、発電量を増やすべきである。化石燃料は、CO₂の回収・貯蔵や再利用が完全にできたとしても、NOxやSOxを無視されては困るし、その技術はさらに発電コストを上げるものである。そのため、エネルギーに関しては、既に勝敗が見えており、現在は無駄な投資はやめて選択と集中をすべき時なのだ。

 なお、自民党は、原発について、「必要な規模を持続的に活用」とし、「小型モジュール炉」「核融合発電」などの新たな技術開発も進める姿勢を打ち出したそうだが、どの地域に「小型モジュール炉」や「核融合発電炉」を作るのか? 玄海原発のケースでは、過酷事故のリスクが0ではない危険な原発を末永く続けて人口をさらに減らしたいとは思っておらず、安全で付加価値が高く、雇用吸収力の大きい産業を誘致したいため、それを後押しして欲しいのだ。

2)省エネについて
 上の段の中央の図の「第6次エネルギー基本計画」では、省エネで総発電量の1割を削減するとされている。これについては、一般住宅や施設園芸用ハウスで地熱(1年を通して16°C)やヒートポンプを利用したり、建物の断熱性を高めたりすればかなりの省エネができ、屋根やガラスで自家発電すれば購入する電力が減る。そうすると、地域の資金が半ば強制的に外部に流出することがなくなり、エネルギー自給率の向上に資し、災害にも強くなって1石3鳥であるため、意欲を持って達成できそうだ。必要なのは、やる気と政府の後押しである。

 また、建物の断熱性についても、さまざまな工夫があり得るが、ここで私が書きたいのは、*2-8・*2-9の小笠原諸島の海底火山噴火で生じた軽石の利用だ。現在、「沖縄、鹿児島両県に大量の軽石が漂着しているのは問題だ」「漁業や観光などに大きな被害が出ているので、国による手厚い支援が必要だ」とされ、国土交通省が漂流物の回収作業船を派遣しているそうだが、軽石は海に浮いているため、回収は比較的容易ではないのか?

 例えば、「①漁に出られない漁船や地域の人が工夫しながら回収する」「②回収した軽石を買う人がいて利用する」などが考えられる。その後、「③買った軽石をよく洗って高い断熱性を要するコンクリート壁に使う」と、石に空気を含むので断熱性が高くて軽いコンクリート壁ができそうだ。火山から噴出した物質の耐熱性が高いことは、言うまでもない。

 なお、日本の排他的経済水域には海底火山が多く、噴火している海底火山も少なくない。そのため、海底熱水鉱床に存在するとされる金属も、比較的浅い場所に大量に存在するかもしれず、海底の探査は欠かせないのである。

3)原発は筋が悪いこと
ア)原発は過酷事故の被害が甚大である上、再エネよりもコストが高いこと
 日本政府(経産省)は、*2-2のように、2030年には再エネの中の太陽光が原子力を抜いて費用が最も安いエネルギー源になるというの見通しを発表し、原発のコスト神話も崩壊した。太陽光発電は、太陽の核融合によるエネルギーを受けて発電しているもので、燃料を輸入する必要がないため、日本だから不利といった点はないが、それでも、2030年時点で太陽光発電(事業用)が1kw時あたり8円台前半~11円台後半というのでは、2019年後半のドイツ6.5円、アメリカ5.7円よりも高く、産油国であるにもかかわらず世界最安値のサウジアラビアの2.57円に遠く及ばない。そして、このエネルギー代金の差も、日本企業が日本で生産する選択肢を遠ざけているのである。

 日本で再エネ発電を積極的に進めなかった理由として、「太陽光は夜間に発電できず、風力は天候の影響を受ける」ということを何度も聞かされたが、これは再エネを普及させず原発を推進するための口実にすぎず、地球上どこでも同じ条件なのに日本は工夫が足りなかったのだ。

 原子力規制委は、*2-3のように、中電島根原発2号機が「新たな規制基準に適合している」とする審査書を決定したが、そもそも原発から30km圏内(緊急防護措置区域)の市町村に策定が義務付けられた避難計画の適否は規制委の審査対象になっておらず、事故時に計画通り無事避難できるのか否かは考慮されていないそうだ。

 その上、半径30km圏内の人以外は安全かと言えば安全ではなく、“避難期間”が無限の長期に及ぶ地域もあり、島根原発の30km圏内には約46万人が暮らしているのである。それでは、人口が少なければよいのかと言えば、*2-4のように、フクイチ事故後、除染していない山中で生きる渓流魚やキノコの汚染は10年以上が過ぎた2021年秋でも続いており、食品基準(100ベクレル/kg)以下の食品であっても食べ続ければ胃癌・大腸癌・膵臓癌・肺癌が増えたのは予想通りなのだ。そのため、食品を生産する地域は、オーストラリアのように徹底して原発を持たない見識というものが必要だ。

イ)新型小型炉なら事故リスクは0なのか
 自民党には、*2-5のように、「運転開始から原則40年の耐用年数が近づく原発について、開発中の小型モジュール炉を実用化して建て替えるべきだ」と提唱する人が少なくないが、小型モジュール炉だから既存の原発より安全性が高いとは、どういう意味か?

 どんな原発でも事故リスクは0ではあり得ず、ア)で書いたとおり、原発事故が起これば人口が少なくても無期限に故郷や資産を失う人が出る。その上、食料生産にも支障をきたすため、仮に「事故リスクは0だ」「安全性が高い」と言う人がいれば、その人の地元に小型原発を建設してエネルギーの地産・地消をすればよいと思う。「自分が嫌なことは、他人も嫌なのだ」ということを知るために、である。

ウ)総選挙における国民の選択はどうだったか
 立憲民主党は「原発ゼロ社会の早期実現」を訴え、共産党は「2030年までに石炭火力と原発による発電を0にする」としていたが、私はこれには賛成だった。今回の総選挙で立憲民主党が自民党に競り負けて数を減らしたのは、立憲民主党の新しい候補者の多くが長く地元で活動して地元に根付いた人ではなく、立憲民主党のこれまでの国会質問も重箱の隅をつつくような人格攻撃が多すぎたからである。また、総選挙における政策には、その場限りのバラマキが多く、「それを誰が払うのか?」という当たり前の疑問を感じた人は多かったと思う。

 なお、メディアが指摘するように、共産党との選挙協力が悪くて立憲民主党が数を減らしたのではない。異なる党であれば主義主張が異なるのは当然で、自民党と公明党も主義主張は異なるが、一致する点で協力してプラスの効果を出しているのである。また、自民党と公明党の主義主張が異なるからこそ、要望の出し先を工夫することによって、使い勝手がよくなる場合も多い。

 さらに、遺伝情報が完全に同じ一卵性双生児でも、兄として育てられた人と弟として育てられた人は性格が異なるように、人の性格や思想信条は異なるのが当たり前である。そのため、メディアが異なることを悪いことででもあるかのような報道をするのは、メディアのスタッフのレベルが低いというだけではなく、民主国家の国民に悪い影響を与えているのだ。

4)日本のEVでの出遅れは、どうして起こったのか
 COP26の議長国である英国は、*2-7のように、ガソリン車など内燃機関を用いる自動車の新車販売を主要市場で2035年、世界では40年までに停止するという宣言に24カ国が参加し、「ゼロエミッション車」であるEVへの移行を目指すことを明らかにした。

 米ゼネラル・モーターズやフォード、独メルセデス・ベンツなどの自動車大手6社が賛同しているが、日本政府はEVだけでなくHVも含めているため、この24カ国には含まれない。日本では、「ゼロエミッション車」のEVに、メディアも含めてくだらない欠点ばかり言い立てて後押しせず、世界のトップランナーだった日産までがEVによる自動車革命の功労者を犯罪者に仕立てあげてHVを作り始め、資金の無駄遣いをするに至った。日本は、化石燃料を購入して、国富を海外に流出させ、エネルギー自給率を下げ、地球温暖化を促進するのが、よほど好きな国なのか?

(3)農業について


              2020.9.18佐賀新聞(*3-1より)

(図の説明:上の図のように、温暖な九州の気候を利用し、1回目の収穫時期や刈り取る高さを工夫すれば、収穫後のひこばえから「再生2期作」が可能で、2回の収穫の合計は一般的な収量の約3倍になるそうだ。私は、同種類の稲であれば、追肥をすることによって同じ味の米がとれると思うが、農業は温暖化の影響をプラスに利用できる場合もあることがわかる)

1)稲の再生2期作に成功
 地球温暖化による気温上昇は感覚的にもわかるが、九州沖縄農業研究センターが、*3-1のように、稲の収穫後のひこばえを育てる「再生2期作」に取り組み、稲が十分に成熟した8月下旬に地面から50cmと高い位置で刈り取れば、2回目(11月上中旬に収穫)も加えた収穫が、2回の収穫で一般収量の約3倍の収穫が得られることを確認したそうだ。

 今回の2期作は、2回目の田植えをしない“植えっぱなし”方式で大幅な省力化が期待されるそうだが、どうして今まで思いつかなかったのか、不思議なくらいだ。同センターは、稲の超低コストな栽培技術として加工米や業務用米での導入を目指すとしているが、品種が同じなら追肥などのケアをすれば、味も同じになると思われる。

 ここから得られる教訓は、先入観を取り払えば、地球温暖化による気温上昇を利用して、これまで栽培できなかったものを栽培できるようになるということだ。

2)「アクアポニックス」による水産農法の始まり

 
 2021.9.1JAcom
     アクアポニックスの原理        アクアポニックスの使用風景

 アクアポニックスとは、*3-2のように、チョウザメなどの淡水魚と野菜を同時に育てる自然界の循環を模した水産農法としてドイツで開発されたもので、(株)アクアポニックス・ジャパンと有限会社S.R.K.が、2021年8月31日に北海道で竣工した専用設備は、農薬や化学液肥を全く使用せず、水耕栽培と水産養殖を併用して太陽の自然光を使って育成する設計になっているそうだ。

 この施設は、太陽光パネルなどの再エネ機器も導入し、全天候・通年型の設備で、豪雪や豪雨などの天候に左右されることなく稼働でき、極寒の地である北海道でテスト運用を兼ねて第1号プラントを建設し、米国農務省(USDA)はアクアポニックスで栽培される野菜作物を有機農産物として認定した。

 確かに、このシステムなら、農薬がいらず、化学液肥よりも多種の豊富な栄養素を含んだ水で水耕栽培でき、同時に水産養殖もできるため、農業の付加価値や生産性が高くなる。また、チョウザメ(完全養殖でき、卵はキャビア)は、*3-3のように、宮崎県内の大淀川水系で捕獲されており、暖かい地域でも生息可能で、宮崎県では5万匹を養殖して米国・中国などに輸出しているそうだ。

 そのため、佐賀県の武雄市や大町町、福岡県の久留米市など、豪雨で水害が頻発して米作もやりにくくなった地域は、アクアポニックスの設備を作り、プールの壁は水害に合わないくらいの高さにして、そこでチョウザメはじめ養殖したい魚を飼い、その上で野菜などの水耕栽培をすると問題解決できるだろう。また、長野県等の清流はあるが冬に寒くなる地域でも、季節に関係なく魚と野菜を収穫できる優れたシステムである。

(4)林業について

   
  2021.9.7論座    2021.9.7論座     2021.9.7論座  2021.1.21BLOGOS

(図の説明:1番左の図のように、現在は日本産丸太の価格が安く外材に負けなくなったが、それには都道府県の森林環境税等で補助しているという理由もある。木材製品の価格が高止まりしているのは、販売可能な上限価格を設定しているからだろうが、地域全体としては丸太のまま出荷するより付加価値の高い製品にして出荷した方がよいわけだ。左から2番目の図は、伐採した丸太を積み上げているところで、林業は軌道に乗せれば地方の有力な産業にできるものである。また、右から2番目の図は、太い木に育てるための間伐が十分に行われていない森のようだが、木材の使用目的にもよるが、密集して植林された木は間伐が必要になる。なお、1番右の図のように、皆伐して再度密集して植林するのは、皆伐時に土砂崩れなどを起こす上、密集して植えられた木の間伐がまた必要になるため、環境保全と省力化の両方のために工夫を要する)


2021.11.6  GeasoneCashmere   2018.6.7朝日新聞    林業機械協会
 日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、南米・アフリカ・東南アジアで森林面積が著しく減少し、東アジアでは増加している。また、下草狩りの大変さがよく言われるが、人間が草を刈って捨てていては単なる重労働にしかならないが、左から2番目のカシミヤ山羊や右から2番目の牛の放牧のように、森林に放して家畜に草を食べさせれば家畜の運動になり、自然に近くて健康にもよい飼育方法になるし、雑草より強い牧草やナギナタガヤ等を植える方法もある。なお、1番右の図は、電動のこぎりを使って木を伐採している様子だが、このほかにもスマート林業の便利なツールは多くなってきたし、今後も増やして欲しいものだ)

 COP26では、日本を含む130カ国超が、*4-1のように、食糧確保のための農地開発などで減少が続いている森林の破壊を、2030年までにやめて回復に向かわせる目標で一致したそうだ。森林の減少は南米・アフリカ・東南アジアで顕著で、FAOのデータでは、1990年~2020年に、南米で年400万ha、南アフリカで年200万ha弱、東南アジアで年100万ha減少し、世界全体の減少率は年0.1~0.2%で、30年間の合計は4%だったそうである。

 森林減少の大きな要因は生活の糧を得るための農業開発(大豆やカカオなどの農産物、牛などの家畜のための伐採)であり、熱帯林アマゾンのあるブラジルでは牛肉の輸出が増えており、こうした農畜産物は先進国が輸入しているのだ。

 また、「欧州や日本は国内法で森林保護を定めているが、規制は他国に及ばない」と書かれているが、森林保護のために規制するだけでは開発途上国の経済発展ニーズに合わないため、原生林として残すべき場所は保全・管理して観光地とし、それ以外は技術を駆使して稼げる林業にすることが必要だろう。

 日本では、*4-2のように、先進技術を活用して林業の効率化を図る「スマート林業」が進められている。例えば、人力で行われていた植栽地の地ごしらえや下草刈りに機械を導入したり、伐採作業を機械化したり、植栽作業も苗木運搬にドローンを活用したりなどである。

 しかし、「戦後に植栽した人工林が伐採期を迎えたから、皆伐する」というのは自然破壊であり、土砂災害のリスクが高まるため、私は間伐すべきだと思う。また、間伐しなければならないほど植林時に密に苗木を植えるのは、無駄が多くて生産性が低い。さらに、間伐するにも、新芽を鹿に食べられないくらい(1m以上?)の高さを残しておけば、また植林しなくても新芽が出て大きくなるので植林の手間を省くことができ、新しい木が根を張る時間も節約できるだろう。

 さらに、下草刈りは人間が夏場に斜面で行うと大変だが、草の多い季節は牛・山羊・羊などの家畜を放牧して飼育すれば、双方にとってプラスになる。つまり、機械化されたスマート林業も大切だが、人間以外の生物に働いてもらう方法を先入観なく考えることも重要だ。

 なお、2021年9月7日、*4-3に「①丸太の価格が長期的に低下した」「②1980年のピーク時からの40年間でスギ価格は1/3、ヒノキ価格は1/4分まで下がった」「③安い外材に勝てないと言われてきた国産材は、今では外材より安くなっている」「④丸太価格が低下しても国産の製品価格は横ばいで、消費者は価格低下の恩恵を受けなかった」「⑤その結果、製品生産者の利益は増加したが、山林経営者の所得は大きく落ち込み、山林の再生産ができなくなっている」などが記載された。

 しかし、①②③④については、それを解決するために、2003年(平成15年)の高知県での導入を初めとして、現在は34都道府県で森林環境税が導入されており、民有林を含む山林の維持・管理費用(間伐・植林を含む)に充てることになっている(https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/36727.pdf 参照)。

 国も、「パリ協定」を踏まえ、2024年度から個人住民税に上乗せして1人当たり1000円の森林環境税を徴収し、私有林の面積や林業就業者数などに応じて市町村に配るとのことである。また、間伐による林道整備や放置された森林の整備費用にも充当するそうだ。

 そのため、①~⑤については、先人が植えてせっかく育った現在の木材資源を無駄にせず、山林の再生産をしながら賢く利用するために、導入された森林環境税の使い方が目的に適合しているか否か、もっと効率的な林業経営ができないかなどを、常に検証し続けなければならない。

(5)漁業について ← 海水温の上昇とCOP26

  
2021.11.2北海道新聞     水産庁              水産庁

(図の説明:獲れる魚の魚種の変化は海水温の上昇を示し、漁獲高は海の豊かさと水産業に対する政府の熱意を反映しているが、左図のように、北海道ではスルメイカやサケの漁獲高が減少し、ブリの漁獲高が増えたそうだ。しかし、中央の図のように、日本の漁獲高は、全体としては1984年の1282万tをピークに2019年は416万tと1/3以下に減少し続けており、その理由にはオイルショック後の燃油の高騰と水産業の軽視がある。しかし、右図のように、世界の漁獲高は等比級数的に伸びており、中でも中国・インドネシアの増加が著しい。魚種別では、コイ・フナなどの淡水魚の増加が著しく、次に養殖している海苔や昆布の増加が大きい。天然の海産物を獲りすぎると次世代が少なくなって次第に減少してしまうが、マイワシなど天然魚の餌になる魚の減少も気になる)


         環境省(*5-2-1より)            水産庁
(図の説明:左図のように、藻場は窒素・リンを養分として吸収することによって富栄養化を防ぎ、水生生物の幼生の保育器となり、水生生物の餌ともなり、光合成をすることによりCO₂を吸収してO₂を発生させる重要な存在だ。また、干潟の生物もプランクトンを食べて海水の浄化に貢献している。しかし、中央の図のように、近年、埋め立て、工場排水・汚染水の流入、海水温の上昇などで藻場や干潟が減少し、海水が富栄養化して海の環境が悪化し、漁獲高の減った地域が少なくない。なお、右図のように、瀬戸内海の藻場は、1990年代には1960年代と比較して7割も減っていたそうだが、日本全体や世界レベルで藻場の面積を継続的に調査した記録はなく、その実態さえ把めていないことは大きな問題である)

1)COP26における日本の対応
 沖縄タイムスが社説で、*5-1-1に、「①COP26は成果文書で産業革命前からの気温上昇を1.5°以下に抑える努力を追求する決意を示した」「②2015年に採択されたパリ協定と比較すると一歩踏み込んだ表現」「③200近い国と地域が決意を示した」「④焦点となった石炭火力は草案では『石炭火力の段階的廃止へ努力』だったが、『温室効果ガス排出削減対策が講じられていない石炭火力は段階的削減』に弱められた」「⑤世界で脱石炭の動きが加速する中、日本は2021年10月に決まったエネルギー基本計画でも石炭を現状では安定供給性・経済性に優れた重要なエネルギー源」と位置付けている」「⑥島しょ県沖縄では送電網が本土とつながっておらず、困難な事情もある」と記載している。

 ①②③は、1.5°以下に抑える努力を追求するとした点で、2°以下としたパリ協定より厳しくなったが、原発を容認した点で甘くなっている。④の石炭火力については、日本は「CO₂を地下貯留する石炭火力ならよいだろう」というスタンスだが、発生したCO₂を全て地下貯留する保証はなく、その工程のために石炭火力発電の単価が上がるのは明らかだ。さらに、⑤のように、政府が「現状では安定供給性・経済性に優れている」などとして再エネの技術革新を阻害するから、日本では、いつまでも再エネが普及せず、安定供給の技術も進まず、再エネの単価が高止まりして、再エネが経済性で劣ることになってしまっているのである。

 また、将来のないエネルギーにいつまでも資本投下していれば、資本生産性が上がらない。さらに、燃料費や電力料金を高止まりさせていれば、燃料費や光熱費が他のコストを食って、賃金を上げられず、労働生産性も下がる。つまり、政府(特に経産省)の判断の誤りは、民間企業の経営や国民の豊かさに著しいマイナスの影響を与えているのである。

 なお、⑥について、離島は、送電網は本土と繋がっていないが、風が強く、狭い海峡になっていて海流の強い場所も少なくないため、風力発電の適地で潮流発電も有望だ。そのため、島内で完結したスマートグリッドを作れば、余るくらいの電力を得られるだろう。

2)海水温の上昇と漁業の現状
 地球温暖化による海水温の上昇で、北海道では、*5-1-2のように、サケの漁獲が少なく(2002年の23万1,480tをピークに減り続けて5万1,000tまで減少)ブリが豊漁となり、道東では赤潮の発生で定置網に入っていたサケ等の大量死が相次いだそうだ。

 サケ不漁・ブリ豊漁と北の海で異変が続き、ブリは単価が安いので北海道の漁師や漁業関係者の表情は冴えないそうだが、九州出身の私にとっては、サケは辛いばかりで御馳走とは言えず弁当のおかず程度の魚で、ブリの照り焼きは年末・年始の御馳走というイメージだった。そのため、下処置したブリに衣をつけて揚げるよりは、獲れたてのブリを鮮度のよいうちに照り焼きや塩焼きにして出荷した方が(6次産業化)、全国で需要が高まると思う。そのため、料理番組で、美味しいブリの調理法をやればよい。

 それにしても、サケ不漁の原因は、①沿岸部の海水温の変化 ②漁獲期の海水温の上昇 ③母川回帰率低下 ④サバなどとの競合によるエサ不足による稚魚の生存率低下 などの4つの原因が重なっており、海水温の上昇が大きな影響を与えているようだ。

3)藻場について
 藻場とは、沿岸域の海底でさまざまな海草・海藻が群落を形成している場所を指し、*5-2-1のように、種子植物のアマモなどで形成されるアマモ場と、 藻類のホンダワラ・コンブ・アラメなどの海藻で形成されるガラモ場・コンブ場・アラメ・カジメ場などがある。

 そして、藻場は、①海中の様々な生物に隠れる場所や産卵する場所を提供し ②窒素やリンなどの栄養塩を吸収して光合成を行い ③水を浄化して酸素を供給し ④浅海域の生態系を支えている。また、藻場はそこでの食物連鎖によって生物多様性や生産力が高く、日本では古くから漁場として利用したり、アマモを農業用肥料として利用したりしてきた。

 また、藻場は、草原や森林に匹敵する高い一次生産力があって沿岸の生態系に重要な役割を果たしており、例えば、大型の海藻は生長時に窒素・リンなどの栄養塩を吸収して富栄養化による赤潮等の発生を防ぎ、海草類は砂泥場に根を張って生活し海底の底質を安定化させて砂や泥が巻上るのを防ぐ。

 しかし、地球の温暖化による海水温の上昇や湧昇流の減少による栄養塩類の濃度低下、農薬・除草剤などの化学物質や有害物質の影響、海藻を食べる動物(特にウニ類)の増加が原因で、岩礁域の藻場が消失する「磯焼け」と呼ばれる現象が起きており、いろいろな要因で藻場の減少が起こると海藻が消失する。

 ただし、海藻を食べるウニ等を放置すると海藻の幼体が食べ尽くされて磯焼けが起こると書かれていることについては、ウニも美味しくて重要な海産物であるため、ウニの食べ物である海藻が少なくて身が入らないようなウニは捕獲し、売れない野菜を餌にして養殖すると身の入った立派なウニになるそうだ。

 なお、海草や藻類は、*5-2-2のように、光合成でCO₂を吸収すると同時に、生態系を豊かにする。この「ブルーカーボン」は、森林がCO₂を取り込む「グリーンカーボン」より多くのCO₂を吸収しているとの研究報告があり、地球温暖化対策になる。そして、藻場がCO₂をためる量は、面積当たりで森林の約25倍にも上り、藻場はCO₂削減の非常に優秀な場といえるそうだ。

 世界では米国・オーストラリアなどがCO₂削減にブルーカーボンの活用を探る動きをしており、日本は四方を海に囲まれ湾が入り組んでいるため海岸線の総延長が世界6位の約3万5千kmに上るので、ブルーカーボンによるCO₂削減に期待が持てる。

 そのため、国が2024年度から徴収しようとしている“森林環境税”は、都道府県の森林環境税と重複しないよう環境税に変更し、森林の整備だけでなく藻場の育成にも使うようにすればよいし、日本は、次のCOP27で、世界で協調しての環境税による森林や藻場の整備を提案すればよいと思う。

4)海産物の価値と資源の減少
 *5-3は、「①消費者のライフスタイルの変化で、国民1人当たりの魚介類の消費量は2020年度は23.4kgと2001年度と比較して4割減った」「②漁業者は『捕ったものを売る』から『売れるものを創る』へと姿勢を転換して活性化に繋げるしかない」「③1次産業と2次産業の食品加工・3次産業の流通・販売までを一手に担うので、掛け合わせて6次化という」と記載している。

 まず、海産資源の減少については、海や河川を大切にし、海産物の住処を壊して繁殖できないようにしないことが重要だ。しかし、公害は、環境を壊した人が代金を支払うのではなく、関係のない人が代償を払わされる「外部経済(経済学で『市場に織り込まれないもの』を意味する)」になることが多いため、環境に悪いことをする人に環境税を課して環境回復に使うのは、Fairであると同時に合理的なのである。

 また、①については、都会で共働きをしながら集合住宅や狭い分譲住宅に住んでいると、魚を丸ごと買ってきてさばいたり、煙を出して調理したりするのは、後の掃除まで考えると大変で、獲れたての新鮮な魚介類を手に入れるのも困難であるため、調理法にかかわらずできあがりの味には限界がある。そのため、②③のように、獲れた魚を新鮮なうちに適切に調理して、味が落ちないようにしながら運送して販売すれば、魚介類はもともと栄養的に優れた食品であるため、消費は回復するだろう。

 それによって、生産地では、雇用が生まれ、より多くの付加価値を付けることができ、いらない部分は養殖魚の餌や肥料にでき、運賃も節約できて、消費が回復するため、1石5鳥になる。

・・参考資料・・
*1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/91a2a97bd8ba1049f1c164fda338beb47a6118f6 (毎日新聞 2021/11/2) COP26の失敗は「死刑宣告だ」とグテレス事務総長 首脳級会合で
 グテレス国連事務総長は1日、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合で演説し、各国が提出した現在の温室効果ガスの削減目標では、今世紀末の平均気温は産業革命前から2・7度上昇すると訴えた。会議が失敗に終わった場合、各国は「(気候変動対策の)計画を見直さなければならない。5年ごとではない。毎年、常にだ」と警告した。グテレス氏は「私たちは厳しい選択を迫られている。私たちが化石燃料への依存を止めるのか、それとも化石燃料への依存が私たちを止めるかだ」と強調。「最近の発表されている気候変動対策は、私たちが状況を好転させるための軌道に乗っているような印象を与えるかもしれないが、それは幻想だ」と述べた。そのうえで「(小さな島国や開発途上国にとって、COP26の)失敗は選択肢ではない。死刑宣告だ」と指摘。「未来を守り、人類を救うことを選択してほしい」と訴え、小さな島国や開発途上国向けの気候変動対策への支援資金などを増額するよう求めた。

*1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/140763 (東京新聞 2021年11月3日) 途上国へ1.1兆円追加支援を表明 岸田首相がCOP26首脳級会合で
 岸田文雄首相は2日、英北部グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合で演説した。途上国の気候変動対策への資金支援について「新たに5年間で、最大100億ドル(約1兆1350億円)の追加支援を行う用意がある」と表明。アジアなどの脱炭素化に貢献する姿勢を示したが、議長国・英国が求める石炭火力発電の早期廃止に関しては言及を避けた。
◆石炭火力発電の早期廃止は言及せず
 日本はこれまでに途上国への約600億ドルの支援を表明していたが、支援規模の拡大を打ち出した。石炭火力発電については、英国が先進国による2030年までの廃止を求めているが、岸田首相は「アジアでの再生可能エネルギー導入は既存の火力発電を、(温室効果ガスの)排出ゼロ化し、活用することも必要だ」と述べるにとどめ、応じる姿勢は示さなかった。首相は演説で、50年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を改めて明言。また30年度に13年度比46%削減の目標を紹介し、「さらに50%の高みに向け挑戦」を約束した。途上国への資金支援などでは、「世界の経済成長のエンジンであるアジア全体の排出ゼロ化を力強く推進する」と述べ、電気自動車普及に関する技術革新の成果などもアジアに広めると訴えた。岸田首相にとって今首脳級会合への出席は、首相就任後初めての外遊となった。

*1-3:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021110700068 (信濃毎日新聞社説 2021/11/7) 日本に「化石賞」 信頼得られぬ首相演説
 世界が落胆したのではないか。英グラスゴーで開かれている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)での岸田文雄首相の演説である。二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭火力発電について一言も触れなかった。それどころかアンモニアや水素を活用し、火力発電の継続を宣言している。この演説で、環境NGOが、地球温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」に日本を選んだ。演説後、岸田首相は「高い評価をいただき、日本の存在感を示すことができた」と記者団に述べている。むしろ日本への批判が高まるのではないか。COP26では、議長国の英国が「脱石炭」を最重要課題に位置づけた。温室効果ガスの排出対策を取っていない石炭火力の段階的な廃止を盛り込んだ声明に、46カ国・地域が署名している。新たに廃止を表明したのは23カ国だ。日本などの支援で石炭火力の建設計画が進むベトナムやインドネシアのほか韓国も加わった。企業組織も含めれば、賛同する団体は190に及ぶ。日本は、米国や中国とともに署名を見送っている。電力の安定供給や産業の国際競争力維持のため、石炭火力は必要との立場を崩していないのが実情だ。せめて首相演説では、石炭火力への考え方や国内事情を丁寧に説明するべきではなかったか。これでは各国の信頼は得られない。アンモニアや水素を使った火力発電の実現も不透明だ。アンモニアや水素は燃やしてもCO2が出ない。特にアンモニアは肥料用や工業用としても生産され、輸送も容易で、燃料として有望視されている。経済産業省は2030年までに、石炭火力の燃料の20%をアンモニアにして混ぜ、発電する技術の実用化を目指す。50年にはアンモニアだけの発電も始める。ただ、国内の全ての火力発電で20%をアンモニアにした場合、消費量は年2千万トンに上り、世界の貿易量に匹敵する。どう調達するか見通しが立っていない。アンモニアの生産にも課題がある。化石燃料から水素を取り出し、窒素と反応させるのが一般的だ。水素を作る際、大量のエネルギーを使うため、温室効果ガスを出す可能性が大きい。アンモニアの燃焼で有害な窒素酸化物が生じる恐れもある。すぐに使えない技術なのは明らかだ。国際公約として持ち出すには無責任と言わざるを得ない。

*1-4:https://www.bbc.com/japanese/58142213 (BBC 2021年8月9日) 温暖化は人間が原因=IPCC報告 「人類への赤信号」と国連事務総長
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は9日、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」とする報告を公表した。IPCCは、地球温暖化の科学的根拠をまとめた作業部会の最新報告書(第6次評価報告書)を公表。「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と強い調子で、従来より踏み込んで断定した。さらに、「気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである」と指摘した。「政策決定者への要約」と題された42ページの報告書でIPCCは、国際社会がこれまで設定してきた気温上昇抑制の目標が2040年までに、早ければ2030年代半ばまでに、突破されてしまうと指摘。海面水位が今世紀末までに2メートル上昇する可能性も「排除できない」とした。「向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は摂氏1.5度及び2度を超える」とも警告した。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「本日のIPCC第1作業部会報告書は、人類への赤信号」だと発言。「私たちが今、力を結集すれば、気候変動による破局を回避できる。しかし今日の報告がはっきり示したように、対応を遅らせる余裕も、言い訳をしている余裕もない。各国政府のリーダーとすべての当事者(ステークホールダー)が、COP26の成功を確実にしてくれるものと頼りにしている」と述べた。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)は今年11月、英スコットランドのグラスゴーで開催される。今回のIPCC報告を含め、近年の気候変動の状況を検討した複数の報告書が、COP26に向けてこれから次々と公表される予定となっている。この報告書は今までになく、温暖化のもたらす壊滅的な打撃を明確に断定している。しかし科学者の間には、2030年までに温室効果ガス排出量を半減できれば、事態は改善できるという期待も出ている。報告の執筆者たちも、悲観して諦めてはならないとしている。
●IPCC報告の要旨:現状について
 ・地球の2011~2020年の地表温度は、1850~1900年に比べて摂氏1.09度、高かった 
 ・過去5年間の気温は1850年以降、最も高かった
 ・近年の海面水位の上昇率は1901~1971年に比べて3倍近く増えた
 ・1990年代以降に世界各地で起きた氷河の後退および北極海の海氷減少は、90%の確率で
  人間の影響が原因
 ・熱波など暑さの異常気象が1950年代から頻度と激しさを増しているのは「ほぼ確実」。
  一方で寒波など寒さの異常気象は頻度も厳しさも減っている
●IPCC報告:将来への影響について
 ・温室効果ガス排出量がどう変化するかによる複数のシナリオを検討した結果、どのシナリオ
  でも、地球の気温は2040年までに、1850~1900年水準から1.5度上昇する
 ・全てのシナリオで北極海は2050年までに少なくとも1回は、ほとんどまったく海氷がない
  状態になる
 ・1850~1900年水準からの気温上昇を1.5度に抑えたとしても、「過去の記録上、前例の
  ない」猛威をふるう異常気象現象が頻度を増して発生する
 ・2100年までに、これまで100年に1回起きる程度だった極端な海面水位の変化が、検潮器が
  設置されている位置の半数以上で、少なくとも1年に1度は起きるようになる
 ・多くの地域で森林火災が増える
●「厳然とした事実」
 報告書の執筆に参加した、英レディング大学のエド・ホーキンス教授は、「これは厳然とした事実の表明だ。これ以上はないというくらい確かなことだ。人間がこの惑星を温暖化させている。これは明確で、議論の余地がない」と述べた。国連の専門機関、世界気象機関(WMO)のペテリ・ターラス事務局長は、「スポーツ用語を使うなら、地球の大気はドーピングされてしまったと言える。その結果、極端な気象現象が前より頻繁に観測され始めている」と指摘した。報告書の執筆者たちによると、1970年以降の地表温度の上昇は、過去2000年間における50年期間で最も急速なペースだった。こうした温暖化は「すでに地球上のあらゆる地域で、様々な気象や気候の極端な現象に影響している」という。
●世界平均気温の変化
 今年7月以降、北米西部やギリシャなどは極端な熱波に襲われている。あるいはドイツや中国は深刻な水害に見舞われた。過去10年の相次ぐ異常気象が「人間の影響によるものだという結びつきは、強化された」と報告書は指摘している。IPCCはさらに、「過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化、特に海洋、氷床及び世界海面水位における変化は、100年から1000年の時間スケールで不可逆的である」と明確に断定している。海水温度の上昇と酸化は続き、山岳部や極点の氷は今後、数十年もしくは数百年にわたり解け続けるという。「ありとあらゆる温暖化の現象について、その影響は悪化し続ける。そして多くの場合、悪影響は引き返しようのないものだ」とホーキンス教授は言う。海面水位の上昇については、さまざまなシナリオによるシミュレーションが行われた。それによると、今世紀末までに2メートル上昇する可能性も、2150年までに5メートル上昇する可能性も排除できないとされた。実現の可能性は少ないながら、万が一そのような事態になれば、2100年までにほとんどの沿岸部は浸水し、数百万人の生活が脅かされることになる。
●「1.5度上昇」目標は
 地球上のほとんどすべての国は現在、2015年12月に採択された気候変動対策のためのパリ協定に参加している。パリ協定で各国は、産業革命以前の気温からの気温上昇分を、今世紀中は摂氏2度より「かなり低く」抑え、1.5度未満に抑えるための取り組みを推進すると合意した。この「1.5度」目標について、IPCC報告書は、専門家たちが様々なシナリオを検討した結果、二酸化炭素の排出量が大幅に減らなければ、今世紀中に気温上昇は1.5度はおろか2度も突破してしまうと判断を示した。IPCCは2018年の特別報告書ですでにこの見通しを予測していたが、今回の報告書でそれを確認した。「1.5度上昇」について、報告書執筆者の1人、豪メルボルン大学のマルテ・マインシャウゼン教授は、「個別の年にはそれよりもっと早く、1.5度上昇に到達する。すでに2016年にはエルニーニョの最中に2カ月間、到達していた」と説明する。「最新報告は2034年半ばだろうと推測しているが、ひどく不確実だ。今すぐ起きるかもしれないし、起きないかもしれない」現在の地球の温度はすでに産業革命以前のレベルから1.1度、上昇している。そして近年、異常気象現象が頻発している。それが今後、何年もかけて1.5度上昇まで到達するとなると、「ますます激しい熱波が、ますます頻繁に起きる」と、報告書執筆者の1人、英オックスフォード大学のフリーデリケ・オットー博士は言う。「地球全体で、集中豪雨がさらに増えるだろうし、一部の地域ではなんらかの干魃(かんばつ)も増えるだろう」
●何ができるのか
 報告書を作成したIPCC1作業部会のカロリーナ・ベラ副議長は、「私たちはすでにあちこちで気候変動の影響を経験していると、報告書は明示している。しかし今後も、温暖化が進むごとに、変化も同時に起こり、私たちはそれをさらに経験することになる」と述べた。では、何ができるのか。気候変動がもたらす悪影響について、この報告書は今までになく明確に断定している。しかし多くの科学者は、2030年までに地球全体の温室効果ガス排出量を半減できれば、気温上昇を食い止め、あるいは反転させることができるかもしれないと、以前より期待を高めている。温室効果化ガス実質ゼロ(ネットゼロ)を実現するには、まずクリーンエネルギー技術の利用で可能な限り温室効果ガスを減らした後、残る排出を炭素隔離貯留技術によって回収する、もしくは植林によって吸収するなどの取り組みが必要となる。英リーズ大学のピアス・フォースター教授は、「かつては、たとえネットゼロを実現しても、気温上昇は続くと考えられていた。しかし今では、自然界が人間に優しくしてくれると期待している。もしネットゼロを実現できれば、それ以上の気温上昇はおそらくないだろうと。温室効果ガスのネットゼロが実現できれば、いずれは気温上昇を反転させて、地球を少し冷やせるようになるはずだ」と言う。今回の報告によって、地球温暖化の今後の展望が前より明確に示された。その影響は、避けようがないものが多い。しかし報告書の執筆者たちは、これが運命だと諦めてはいけないと警告する。「温暖化のレベルを下げれば、事態が一気に悪化する転換点に達してしまう可能性がかなり減らせる。破滅すると決まったわけではない」と、オットー博士は言う。気候変動における転換点とは、温暖化が続くことで地球の気候システムが急変する時点を意味する。各国政府の首脳陣にとって、今回のIPCC報告は長年何度も繰り返されてきた警鐘のひとつに過ぎないかもしれない。しかし、11月のCOP26は目前だ。それだけに、今までより大きく政治家たちの耳に響くかもれない。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210921&ng=DGKKZO75903340Z10C21A9M11000 (日経新聞 2021.9.21) 「脱石油」改革を主導 サウジアラムコ社長兼CEO アミン・ナセル氏
 2019年、世界史上最大となる新規株式公開(IPO)を実現した。サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子が掲げる「脱石油」改革の柱となる事業に取り組む。生産コストや最大生産能力の大きさなどからみて、市場で比肩するプレーヤーのいない巨大企業のかじ取りをになう。世界は脱炭素へと急速にかじを切り、サウジアラムコもビジネスの転換を進めている。改革の二大柱は下流部門への進出とアジアシフトだ。アミン・ナセル氏はアラムコを「エネルギーと化学の会社」だと説明する。19年のIPOは国内市場で実施したが、将来は欧米など外国市場での株式上場もめざす。外貨建ての債券やイスラム債の発行にも踏み切り、これに伴い、秘密のベールに包まれていた経営情報の開示を進めている。石油の地盤固めも並行して進めている。欧米メジャーが投資を抑制する中、生産能力増強の手を緩めない。ライバル企業が市場から振り落とされた後、最後に残るプレーヤーとして残存者利益を総取りする戦略だ。国際特許の取得では多くのメジャーを上回り、技術面での優位を固めている。アラムコでは上流開発部門を率いる上級副社長として石油・天然ガス生産施設の拡充を推進。気候変動問題を念頭にクリーンエネルギー事業進出の旗振り役ともなった。キングファハド石油鉱物資源大学を卒業後、アラムコに入社。2015年から現職。

*1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211109&ng=DGKKZO77381470Z01C21A1MM8000 (日経新聞 2021.11.9) 政府、30兆円超対策ありき 「新しい資本主義会議」提言、成長戦略乏しく
 政府は歳出規模30兆円超を見込む経済対策の月内策定に向け、本格的な議論を始めた。「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田文雄首相)は8日、経済対策や税制改正に向けた緊急提言をまとめた。規模が膨らみやすい基金や補助金が多く、成長力の底上げにつながるか見えにくい。これまでの新型コロナウイルス対策事業は予算の未執行が目立つ。本当に対策が必要な「賢い支出」を意識する必要がある。会議は首相の肝煎りで、来春にも中長期ビジョンをまとめる方針だ。ただ、政権の看板政策の具体的な成果を早期に出す狙いがあり、2回目の会合で緊急提言を出して経済対策への反映を目指すことにした。デジタルや環境、テレワーク推進など菅義偉政権が6月にまとめた成長戦略に似た内容が目立つ。路線は継承しつつ、再生可能エネルギーに限らず原子力も選択肢にしたクリーンエネルギー戦略を策定すると明記した。岸田政権で打ち出したのは、賃上げに取り組む企業への優遇税制の強化や、看護師や介護士、保育士らの給与引き上げといった分配戦略だ。経済安全保障の観点から半導体の国内生産拠点を支援することも盛り込んだ。首相は9月の自民党総裁選や先の衆院選で「数十兆円規模の経済対策が必要だ」と訴えた経緯がある。政府・与党内では30兆円超との規模感が浮上するが、懸念を指摘する声もある。会計検査院は5日、コロナ対策事業として計上された65兆円程度の予算のうち3割超の22兆円余りが未執行だったと指摘した。コロナ対策を盛り込んだ2020年度予算は「規模ありき」で編成した結果、使い切れずに21年度へ繰り越した予算が30兆円余りに達した。日本経済研究センターはこのうち16兆円程度が未消化だと試算する。野村総合研究所の木内登英氏は「20年度から繰り越された30兆円には必要無かったものもあるはずだ。経済対策は数十兆円という規模にこだわらず、必要な支援が届くように絞り込む必要がある」と話す。繰越金は経済対策の原資に回る見通しだが、本当に必要な項目への予算措置が課題となる。与党が大規模な経済対策が必要だと訴える根拠の一つが需給ギャップだが、冷静な分析が必要な状況になっている。内閣府は4~6月期の実質国内総生産(GDP)改定値を基に年換算で22兆円の需要不足だと試算した。足元はコロナ感染者数が減少して緊急事態宣言も解除され、個人消費は回復傾向にある。国際通貨基金(IMF)の経済見通しを前提にした民間試算によると、22年の需要不足は7兆円程度まで縮小するという。経済対策は19日にも決め、12月に開く臨時国会で裏付けとなる21年度補正予算案の成立を目指す。短期で策定するだけに規模ありきでは、実際に企業や個人のニーズにあわない予算を過大な金額で見積もる懸念がある。日本はコロナ前の経済への回復が米欧に比べて遅れている。これまでのコロナ下の経済対策の教訓を生かしながら必要な予算を厳選し、本当に成長につながる対策が求められる。

<エネルギー>
*2-1:https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/978344.html (静岡新聞社説 2021年10月28日) 原発・エネルギー 脱炭素への経路明確に
 政府は中長期の政策指針となる「エネルギー基本計画」を約3年ぶりに改定した。併せて再生可能エネルギーや省エネルギーを推進する「地球温暖化対策計画」も定めた。第6次となる今回の基本計画では、再生エネを最優先で導入する方針を明記し、2030年度の電源構成で現状の約2倍に当たる36~38%まで拡大する目標を掲げた。LNG、石炭、石油など現状で76%ある火力発電は41%まで低下させる。原発の構成比率目標は20~22%で据え置いた。温室効果ガスの中心となる二酸化炭素(CO2)の排出量が多いエネルギー部門での化石燃料依存からの脱却が鍵だ。再生エネ利用が軸となる社会構造に変革する必要がある。その経路を明確化する議論を深めなくてはならない。衆院選で各党間で議論が大きく分かれるのが、発電時にCO2を排出しない原発の扱いだ。温暖化対策には有効であっても、過酷事故への不安と恐れはつきまとう。中部電力浜岡原発が立地する静岡県にとっても、原発の再稼働は重要な論点となる。温暖化防止への国際枠組み「パリ協定」に基づき、政府は昨年、50年の「カーボンニュートラル」(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)を宣言した。その前提となる30年度の温室効果ガス排出量を、13年度比で46%削減する目標も表明している。CO2排出量が世界で5番目に多く、欧米先進国に比べて温暖化対策の遅れが目立つ日本は、前倒しで計画目標を達成するぐらいの意気込みが求められる。基本計画で火力発電の依存度は下がっているが、国際的にはまだ不十分だ。欧州先進国は早ければ20年代、遅くても30年代の石炭火力全廃をうたう。石炭火力建設に対する投資や融資が厳しくなる中、石炭全廃への国際圧力は一層高まるとみるべきだ。東京電力福島第1原発事故では、10年を経ても事故処理と廃炉に向けた道のりは見通せないままだ。原子力規制委員会が基準に適合していると認めた原発は再稼働しているが、国民に受け入れられているとは言い難い。仮に可能な原発を全て再稼働させても構成比率目標には達しない上、新増設や建て替え(リプレース)は容易ではない。自民党は公約で「可能な限り原発依存度を低減する」としながらも、基準に適合していると認めた原発の再稼働を進めると明記した。「必要な規模を持続的に活用」とし、「小型モジュール炉」や「核融合発電」など、新たな技術開発も進める姿勢を打ち出した。公明党も原発依存度の低減を訴える一方、新設は認めず将来的に“原発ゼロ”社会を目指すとし、同じ与党でも自民と違いを見せている。「原発ゼロ社会」の早期実現を訴える立憲民主党は、実効性のある避難計画の策定や地元合意のないままの再稼働は認めないとした。原発の新増設はせず、全原発の速やかな廃止と廃炉決定を目指すとうたった。共産党は「30年までに石炭火力・原発の発電をゼロにする」としている。基本計画の電源構成を見る限り、主力電源としての再生エネの位置付けは、はっきりしてきた。しかし、その実態は未熟なままだ。現状で火発や原発を減らしたり停めたりした時、すぐにその穴を埋めることはできそうもない。再生エネを、安価に安定的に得るためには何が必要なのかも詰めていく必要がある。主力となる太陽光発電は立地できる場所が限られる。場所によっては自然破壊などの恐れがあり、地元住民とのトラブルも増えている。送電網が足りないとされ、発電コストも検討する必要がある。脱炭素化に向けては、炭素税などの議論も避けられないだろう。CO2の回収・貯蔵や再利用には新技術やイノベーションが欠かせない。投資を惜しまずに研究開発を推進し、成長戦略として育てていく必要がある。

*2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/6217b8efb355ad651a679eb5aade9ace002593d7 (Yahoo 2021/7/14) 日本、原発「コスト神話」も崩壊…「2030年には太陽光の方が低価格」初めて認定
●経済産業省が発表 政府予測値として初めて原発・安全性に続きコストの優位性さえも揺らぐ
 2030年には再生可能エネルギーである太陽光が、原子力を抜いて費用が最も安いエネルギー源になるという日本政府の見通しが発表された。政府次元の予測としては初めて、再生エネルギーは高く原子力は相対的に安いというエネルギー政策の前提が崩れたと評価されている。朝日新聞は13日付けの紙面で、2030年時点で太陽光発電(事業用)が1キロワット時あたり8円台前半~11円台後半とし、原子力(11円台後半以上)より安くなるとの推算値を経済産業省が12日に発表したことを報じた。原子力発電は、政府の試算のたびに費用が高くなっていることが明らかになった。2011年の試算では30年時点の費用が1キロワット時当たり8.9円以上だったが、2015年には10.3円となり、今回は11円台後半まで増加した。原子力はこれまで最も安いエネルギー源と認識されてきたが、少なくとも推定値基準として太陽光、陸上風力(9~17円)、液化天然ガス(LNG)火力(10~14円)に続く4位に下がる展望だ。原子力の費用上昇には、安全対策と廃棄物処理が影響を及ぼした。2011年の福島原発事故後に規制が強化され、放射性物質の拡散防止などの工事が必要になり、事故時の賠償や廃炉費用なども増えた。また、使用済み核燃料の再処理や放射性廃棄物(核のごみ)問題も費用上昇の原因と指摘された。一方、太陽光は技術革新と大量導入などによりコストが少しずつ下がると見通した。2020年の1キロワット時当たり12円台後半から、10年後の2030年には8円台前半~11円台後半に費用が下がると集計された。今回算出された費用は、発電所を作り十分に稼動させた後の廃棄までにかかる金額を総発電量で割った値だ。同紙は「政府や電力会社は福島第一原発事故後も原発のコスト面の優位性を強調してきたが、前提が揺らぐ」として「政府が改定をめざすエネルギー基本計画にも影響しそうだ」と指摘した。日本は太陽光や風力などの再生エネルギーを「主力電源」として現状より大幅に拡大させる計画を持ってはいる。だが、太陽光は夜間に発電できず、風力などは天候の影響を受けるとし、相変らず原発への依存度を拡大している。特に、日本政府は2011年の福島事故後に原発をすべて閉鎖することにした政策を覆し、再び稼動させている。現在は電力生産全体のうち約6%を占める原発を、2030年には20~22%まで引き上げる予定だ。龍谷大学の大島堅一教授(環境経済学)は、同紙とのインタビューで「(政府発表で)原発が経済性に優れているという根拠はなくなった」と話した。毎日新聞も「政府や電力業界が原発推進のよりどころにしてきた『安さ』の根拠が揺らいでいる。」として「安全性に続き、また一つ『原発神話』が崩れた」と評価した。

*2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/132585 (東京新聞社説 2021年9月23日) 島根原発「適合」 無事避難できるのか
 原子力規制委員会は、中国電力島根原発2号機が、3・11後に定められた新たな規制基準に「適合」しているとする審査書を正式に決定した。しかしそもそも、原発から三十キロ圏内(緊急防護措置区域)の市町村に策定が義務付けられた避難計画の適否は規制委の審査対象になってはいない。もしもの場合、計画通り無事避難できるのかは、考慮されていない。住民は不安を募らせている。福島原発事故のあと、国は原発防災の対象区域を原発十キロ圏から三十キロ圏に一応は拡大した。事故の被害が広範囲に及んだからだが、とても十分とは言い難い。島根原発は全国で唯一県庁所在地に立地する原発だ。三十キロ圏は、島根、鳥取両県の六市にまたがり、約四十六万人が暮らしている。日本原子力発電東海第二原発の約九十四万人、中部電力浜岡原発の約八十三万人に次ぐ規模だ。寝たきりの高齢者や障害のある人など、避難時に支援の必要な人々は約五万二千人にのぼり、東海第二の約三万八千人を上回る。福島のように地震、津波、原発事故の複合災害が発生した場合、寸断された道路に多数の車両が殺到し、計画通り県外へスムーズに逃れうるという保証はない。島根県庁は原発から南東にわずか八・五キロ。広域避難の“司令塔”になるべき県庁が機能不全に陥る恐れも強い。中国電力は、三十キロ圏内の自治体と安全協定を結んではいる。しかし、再稼働に関する「事前了解権」を認めているのは、島根県と原発が立地する松江市のみ。島根県出雲市や鳥取県米子市など周辺五市は、「報告」だけで済まされる。避難計画が必要とされるのは、それだけの危険があるからだ。義務はあるのに権利はない−。鳥取県の平井伸治知事らが、立地自治体と同等の同意権を要求するのは当然だが、中国電がそれに応じる気配はない。島根原発に限らず、原発事故の被害は三十キロ圏内にもとどまらない。福島原発事故による放射線が大量に降り注ぎ、全村避難を強いられた福島県飯舘村は、村域のほとんどが三十キロ圏外だった。チェルノブイリ原発事故による放射能汚染は、欧州全土に及んでいる。原発を動かすことにこのようなリスクがある以上、再稼働の可否を立地地域だけで決めていいわけがない。これもフクシマの教訓だ。

*2-4:https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1826 (東京新聞 2021年11月8日) 山の恵みへの汚染は今 福島浜通りの渓流魚とキノコ(2021年秋)
 東京電力福島第一原発事故から10年が過ぎたものの、福島県浜通りの山中は除染も難しく、ほぼ手つかずのまま。そんな環境で育つ渓流魚や野生キノコへの放射性セシウム汚染はどんな状況なのか。地元住民の協力を得て採取を重ねた。海水魚は仮にセシウムを取り込んでも、周りが塩水のためどんどん排出するため、現在は汚染されている危険性はほとんどない。一方の淡水魚は排出スピードはゆっくりで、特に手つかずの山中に生きる渓流魚への影響は大きいことが知られてきた。今回、福島県南相馬市在住で測定活動を続ける白髭幸雄さん(71)の協力で、許可を取って帰還困難区域にも入った。その結果、食品基準(100ベクレル/キログラム)を満たす魚はゼロで、基準の数倍から100倍超という水準だった。大きい個体ほど高濃度になる傾向があった。唯一、ほっとしたのは、釣りが解禁されている楢葉町の木戸川。3回にわたり、地元住民から魚の提供を受けたが、内臓以外ではセシウムは検出されなかった。一方の野生キノコの採取は飯舘村で伊藤延由さん(77)と継続。今年はシーズンにもかかわらず、キノコの出が非常に悪く、マツタケやサクラシメジなどは掲載に間に合わなかった。採取できた4種は、これまでと同水準の濃度だった。

*2-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA117JX0R11C21A0000000/ (日経新聞 2021年10月12日) 自民・甘利幹事長「原発、小型炉で建て替えを」
 自民党の甘利明幹事長は12日、党本部で日本経済新聞のインタビューに答えた。運転開始から原則40年の耐用年数が近づく原子力発電所について、開発中の小型モジュール炉(SMR)を実用化して建て替えるべきだと提唱した。SMRは既存の原発に比べて工期が短く、安全性が高いとされる。甘利氏は「温暖化対策のために原発に一定割合頼るとしたら、より技術の進んだもので置き換える発想がなければいけない」と主張した。菅義偉前政権がまとめた次期エネルギー基本計画案に関しては「変える必要性は当面ない」と述べた。再生可能エネルギーを最優先する原則など現行案の内容を支持する考えを示した。2030年度に温暖化ガスの排出量を13年度比で46%削減する政府目標を巡っては「原発を何基動かしてこの数字になるかを明示しなければならない」と指摘した。計画案は目標達成へ発電量に占める原発の比率を19年度の6%から20~22%に高めるとしているが、必要な稼働基数は示していない。甘利氏は経済産業相や党政調会長を歴任し、政府・与党でエネルギー分野の政策立案に関わってきた。

*2-6:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021110600108 (信濃毎日新聞 2021/11/6) 地熱発電所、原発事故前の4倍に 豊富な資源、「再エネ」で注目
 全国の地熱発電所の数が、11年の福島第1原発事故後のおよそ10年間で、4倍に増えたことが6日、火力原子力発電技術協会の統計から分かった。豊富な地下資源を抱えながら開発が停滞していたが、再生可能エネルギーとして再び注目され、建設が進んだ。ただ小規模発電所が多く、全体の発電量は伸び悩んでいる。英国でCOP26が開かれ、脱炭素社会実現を迫られる中、日本も再エネ導入の加速化が急務だ。火力や原発に比べ総発電量に占める地熱の割合は極めて小さく、30年までに発電所数を倍増する目標を掲げた。統計によると、10年度は20基だった発電所は、19年度に92基に急増した。

*2-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211110&ng=DGKKZO77425610Q1A111C2EAF000 (日経新聞 2021.11.10) ガソリン車「40年ゼロ」、COP26、新車販売で24カ国宣言
 第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の議長国である英国は10日、ガソリン車など内燃機関を用いる自動車の新車販売を主要市場で2035年、世界で40年までに停止するとの宣言に24カ国が参加したと明らかにした。国は英国のほか、カナダ、オーストリア、イスラエル、オランダ、スウェーデンなども加わった。米ゼネラル・モーターズやフォード、独メルセデス・ベンツなど自動車大手6社が賛同した。24カ国は段階的に走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロエミッション車」と呼ばれる電気自動車(EV)などへの移行を目指す。日本政府も乗用車の新車を35年までに全て電動車にする目標を設定しているが、EVなどだけでなく、ガソリンを使うハイブリッド車(HV)も含める方針だ。萩生田光一経済産業相は10日の記者会見で「脱炭素に向け多様な技術の選択肢を追求する。『完全EV』という約束には参加しないが、後ろ向きではない」と述べた。宣言には米カリフォルニア州やニューヨーク州など、38の地方政府や都市も加わった。

*2-8:https://www.tokyo-np.co.jp/article/141446?rct=national (東京新聞 2021年11月7日) 軽石漂着で与論島に回収船派遣 国交省、効果的な方法検討
 沖縄、鹿児島両県に大量の軽石が漂着している問題で、国土交通省は7日、漂流物の回収作業が可能な海洋環境整備船「海煌」を鹿児島県・与論島に向けて派遣していることを明らかにした。悪天候のため7日時点で同県指宿市に待機しており、現地到着日時は未定。国交省によると、海煌は八代港(熊本県)を基地とし、普段は八代海や有明海で漂流ごみの回収に従事している。与論島では港に軽石が滞留し、発電用の重油を供給するタンカーが接岸できない状況が続いているが、今後1カ月程度は電力供給できる備蓄があるという。同船の作業などを通じて、各地で活用できる効果的な回収方法を検討する。

*2-9:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/766687 (佐賀新聞論説 2021.11.10) 軽石漂着 備え充実の契機に
 小笠原諸島の海底火山噴火で生じた軽石が約2カ月後、千キロ以上離れた鹿児島県や沖縄県の島々に漂着し、漁業や観光などに大きな被害が出ている。火山による自然災害であり、大雨や地震の災害と同様に、国による手厚い支援は当然だ。漁業被害では、軽石が流入して漁港が使えず漁に出られないことがある。エンジン冷却のため船が海水と一緒に軽石を吸い上げ故障する恐れがあるからだ。ショベルカーを使ってすくい上げるなど地道な撤去作業が続いている。国はこの費用や必要な資機材の支援を加速させたい。さらに、ポンプを使うなど軽石を効率的に回収する方法について、専門家の意見を聞きながら早急に対応策をまとめるよう提案する。モズク養殖も種付けした網を海に設定する作業ができないままだ。港内のいけすに入れて蓄養していた魚が軽石をのんで死ぬ被害も報告されている。これら被害についても生産者の意欲を保てるよう支援が求められる。また鹿児島県の与論島では、タンカーが接岸できないため発電用重油の供給が滞っている。重要な港湾については、離島の生活に影響が出ないようにするためにも優先的に撤去すべきだ。港湾が長期間使えなくなった際の備蓄や対応策もあらかじめ考えておきたい。白い砂浜が軽石に覆われ一つの観光の魅力が失われている。全てを取り除くことは難しいが、撤去した軽石を集め捨てる場所の確保や有効活用策も合わせて、何らかの措置ができないか検討も必要だろう。軽石は黒潮に乗って漂流しており、高知沖などでも確認されている。今後、四国、本州の太平洋岸を中心に漂着する恐れがある。船舶の故障につながるだけに、港湾に軽石が流入しないようにフェンス(汚濁防止膜)を準備するなど関係機関による警戒と準備の加速も待たれる。原子力発電所では、原子炉の冷却に使う海水の取水設備に影響が出る恐れがある。原子力規制委員会が電力会社に対し注意喚起しているが、今の準備で万全なのかも含め確認が不可欠と言える。浮き彫りになった課題もある。沖縄に漂着する前に軽石の流れを監視、把握していれば、フェンスを張るなど港湾に入れない対応ができたのではないか。過去にも量が少ないとはいえ軽石が漂着したことがある。国は海底火山の噴火後、最悪のケースを想定しながら警戒しておくべきだった。また、軽石がサンゴ礁など沿岸の環境に与える影響をモニタリングできる重要な機会である。学者らと協力し、データ収集にも力を入れたい。大きな自然災害が起きると、想定外として思考停止する傾向がある。だが、不測の事態への対応ができる知識、仕組みを整えることによって、災害に強い強靱(きょうじん)な社会を実現できる。国内には多くの火山があっていつ噴火しても不思議はない。富士山など他の火山噴火への備えを点検、充実させる契機にすべきである。海には日常生活から排出されたポリ袋などのプラスチックごみが漂っている。多くの魚や海鳥がこれを誤って食べて死んでおり、生態系に悪影響があるとされる。軽石の漂流を一つのきっかけとして、こういったプラスチックの漂流についても思い起こし、対策を前に進めてほしい。

<農業>
*3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/576364 (佐賀新聞 2020/9/18) “植えっぱなし”2期作 収量3倍 農研機構が調査、栽培確認
 国の研究機関・農研機構九州沖縄農業研究センター(福岡県筑後市)は、稲の収穫後のひこばえを育てる「再生2期作」に取り組み、2回の収穫で一般的な収量の約3倍が得られることを確認した。温暖な九州の特性を生かそうという取り組み。同センターは、稲の超低コストな栽培技術として、今後、加工米や業務用米での導入を目指すとしている。暖かい九州では、水稲を早い時期に植えて遅くに収穫することが可能。今後、地球温暖化による気温の上昇も予想される。このため、同センターでは、多年生の稲が収穫後に出すひこばえに注目。そのまま育てると収量がどうなるか、実際に調べた。センターの圃場で、研究用に開発された多収系統の水稲を用い、4月に田植えし、1回目の収穫時期や稲を刈り取る高さを変えて2年にわたり調べた。その結果、稲が十分に成熟した8月下旬、地面から50センチと高い位置で刈り取れば、2回目(11月上中旬に刈り取り)も加えた収穫が、自然条件に恵まれると、10アール当たり1・47トンと、平均的な収量の約3倍となることが分かった。今回の2期作は、2回目の田植えをしていた従来と違う、“植えっぱなし”方式で、大幅な省力化が期待される。同センターは今後、栽培の実用化に向けて、最適な水稲の品種の選定や施肥技術の開発などに取り組む予定。世界的には急激な人口増で今後、課題となる米不足に対応できるほか、国内的には自然災害などの状況に応じて2期作目の適否を判断できるメリットがあるとしている。

*3-2:https://www.jacom.or.jp/saibai/news/2021/09/210901-53613.php (JACom 2021年9月1日) 次世代型水耕栽培プラント農業「アクアポニックス」専用設備北海道に竣工
●株式会社アクアポニックス・ジャパンと有限会社S.R.K.は、ドイツで開発されたアクアポニックス専用設備を北海道で初めて建設し、8月31日に竣工した。
 アクアポニックスは、チョウザメなどの淡水魚と野菜を同時に育てる自然界の循環を模した水産農法。SRKが経営するホテル「ナチュラルリゾート・ハイジア」敷地内に「アクアポニックス・ハウス」として建設された。同設備は、農薬や化学液肥を一切使用しない自然循環型アクアポニックスプラント(水耕栽培と水産養殖を併用)システムで、屋内栽培で多く用いられるLEDではなく、太陽の自然光を活用して育成できるように設計されている。再生自然エネルギーの先進国で、SDGs推進国のドイツebf社代表のフランツ博士が設計。太陽光パネルなどの再生自然エネルギー機器も導入し、全天候・通年型の設備で、豪雪や豪雨などの天候に左右されることなく稼働でき、極寒の地である北海道でテスト運用を兼ねて第一号プラント設備を建設した。アクアポニックス農業は、食糧危機に対応する手段の一つとして国連がレポートで公表。安心・安全な次世代の食料調達手段として欧米諸国などで広く実施され、すでに米国農務省(USDA)はアクアポニックスで栽培される野菜作物を有機農産物として認定している。「アクアポニックス(Aquaponics)」の語源は、水産養殖の「Aquaculture」と水耕栽培の「Hydroponics」からなる造語で、魚と植物を同じシステムで同時に育てる全く新しい農法。自然界の循環を模した次世代の安心・安全な水産農法で、養殖する淡水魚が排出する老廃物を微生物が分解し、栄養豊富な水を作って循環させ、その水を植物が栄養として吸収し、生育する。吸収後の水は植物の浄化作用によって浄化され、淡水魚の水槽へ戻される。このように自然界を模したシステムにより、水耕栽培と養殖を同時に行うことができる。一般的な水耕栽培に用いられる液肥と違い、自然で安全な有機の液肥による水耕栽培が可能になる。

*3-3:https://www.yomiuri.co.jp/national/20201124-OYT1T50125/ (読売新聞 2020/11/24) 養殖以外は国内にいないはずのチョウザメ100匹超捕獲、養殖業者「逃げ出していない」
 宮崎県内の大淀川水系で今年、国内には分布していないはずのチョウザメが、ウナギ漁などの際に100匹以上捕獲された。養殖場から逃げ出したとの見方もあるが原因は不明だ。10月以降は急減しており、餌を捕れずに死滅した可能性もあるが、ウナギの漁期が終わったため、捕獲が減ったとの見方もある。定着すれば生態系への影響も懸念されるだけに、関係者は注視している。大淀川は鹿児島県曽於そお市から都城市、宮崎市などを経て日向灘に流れ込む全長約100キロの1級河川。宮崎県水産政策課によると、チョウザメは7月頃から宮崎市や都城市などで、ウナギ漁の釣り針などにかかるようになった。県が、ウナギ漁師らが所属する県内水面漁連から聞き取ったところ、7月中旬から9月上旬にかけて、偶然針にかかるなどして約90匹が捕獲された。その後、9月末にかけ、さらに約20匹が捕れた。大きな個体は1メートルに達していた。宮崎市役所近くの大淀川で何度も釣り上げた同市のウナギ漁師山元隆之さん(48)は「これだけの数が確認されるのはおかしい。豪雨などで養殖場から逃げ出したのではないか」と推測する。県内では1983年、県水産試験場がチョウザメの養殖試験を開始し、2004年に完全養殖に成功した。卵は高級食材「キャビア」として需要が見込まれ、現在は小林市や椎葉村など県内8市村の18業者が計5万匹を養殖している。県は「日本一の産地」とPRしており、県内産キャビアは米国や中国などに輸出されている。県が大淀川水系で捕獲されたチョウザメを調べたところ、ロシアに生息するシベリアチョウザメという種類だったことがわかった。養殖されているチョウザメの半数はこの種という。県は、大淀川沿いの養殖場から逃げ出した可能性があるとみて調査したが、県内の全業者が「逃げ出していない」と答えた。チョウザメがいた理由は特定できていない。一方、10月の捕獲数は1匹で、ペースは急減している。県がチョウザメの胃の内容物を調べたところ、カゲロウなどの水生昆虫を食べていたことがわかった。チョウザメは素早く動く魚を捕るのは苦手といい、県水産政策課の谷口基もとき主幹は「水生昆虫やカニなどは大淀川に多くは生息していない。餌が捕れずに死滅する可能性が高く、繁殖の恐れは低い」と言う。ただ、県によると、ウナギ漁が10月1日から禁漁期間に入ったため、チョウザメが捕獲される機会が減ったことが原因との見方も残る。シベリアチョウザメは寒さに強く、餌さえ捕れれば冬を越せる可能性もある。大淀川の生態系に詳しい生物学習施設「大淀川学習館」(宮崎市)の日高謙次・主幹兼業務係長(41)によると、チョウザメの餌は、絶滅危惧種の魚アリアケギバチと重なるといい、「このまま宮崎の川に居着いてしまえば、生態系への影響も懸念される」と語る。県は漁協にチョウザメに関する情報提供などを要請している。
◆チョウザメ=尾びれがサメに似ているため、その名が付いたといわれ、主に淡水域に生息する。体長1メートルを超えることも珍しくなく、ヨーロッパやロシア、中国などに分布するが、日本の川に野生のチョウザメはいないとされる。

<林業>
*4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05AZE0V01C21A1000000/ (日経新聞 2021年11月6日) 30年までに森林破壊防止 130カ国目標、ハードルは高く
 英北部グラスゴーで開催中の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、日本を含む130カ国超が2030年までに森林の破壊をやめて回復に向かわせる目標で一致した。温暖化ガスの吸収源である森林は、食糧確保のための農地開発などで減少が続く。森林保全は途上国の経済構造に大きな変化を迫る面もあり、目標のハードルは高い。6日の会合では環境を破壊しない農業や貿易のあり方を議論した。議長国・英国は森林回復に5億ポンド(約760億円)拠出する計画を公表した。地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える「パリ協定」の目標達成に向けた声明は「森林破壊を食い止め、持続可能な貿易に投資する必要がある」と明記し、ハンズ英国務大臣が各国に対応を求めた。ノルウェーのエイド気候・環境相は「時間は限られている。森林の経済価値を測れないのが課題だ」と問題提起した。樹木は光合成によって大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、幹や根などに大量の炭素を蓄える。世界全体の森林の炭素量はCO2換算で2.4兆トンに上る。工業化してから人類が大気中に排出した総量に相当する。森林が減れば吸収源が失われる。切った木を燃やすと蓄えたCO2を放出する問題もある。減少は南米やアフリカ、東南アジアで顕著だ。国連食糧農業機関(FAO)のデータでは1990年から2020年にかけて南米で年400万ヘクタール、南アフリカなどで年200万ヘクタール弱が減少した。東南アジアは年100万ヘクタール減った。世界全体での減少率は年0.1~0.2%。30年間で計4%減った。減少の大きな要因は、生活の糧を得るための農業開発だ。大豆やカカオといった農産物、牛などの家畜のために木を切り倒している。世界最大の熱帯林アマゾンのあるブラジルは近年、牛肉の輸出が増えている。切った木を発電用の燃料として輸出する地域もある。こうした農畜産物を先進国が輸入する構図もある。欧州や日本は国内法で森林保護を定めているが、規制は他国には及ばない。森林開発は途上国の経済発展と表裏一体の面もあり、対策は一筋縄ではいかない。英国は6日、「生産国と消費国が協力して持続的な貿易をめざす」との方針を打ち出した。環境負荷が低い生産方法を認証制度、狭い土地で収量を増やす技術開発、低所得の小規模農家の支援といった実務レベルの検討を始めた。森林保全は農畜産物の消費国も含む世界共通の課題だ。温暖化対策と生物多様性の維持の両面で各国の協調が試される。

*4-2:http://www.hokuroku.co.jp/publics/index/51/detail=1/b_id=900/r_id=4914/ (北鹿新聞 2021.10.21) スマート林業 下草刈りの最新技術は 大館北秋田の 協議会 省力化へ作業車実演
 先進技術を活用して施業の効率化を図る「スマート林業」の実現に向けて、大館北秋田地域林業成長産業化協議会(会長・福原淳嗣大館市長)は20日、花岡町字繋沢の市有林で下刈作業車の実演会を開いた。人力で行われている植栽地を整備する地ごしらえや下草刈り作業への機械導入を支援し、省力化を目指す狙い。林業事業者らが最新の作業車を実際に操作するなどし、性能を確かめた。戦後に植栽した人工林が伐期を迎える中、皆伐後の再造林に向けて作業の省力化が課題となっている。協議会事務局の大館市林政課によると、伐採作業は機械化が進んでおり、植栽作業でも苗木運搬にドローンを活用する実証試験が昨年、同市で行われた。苗木を植えた後の下刈り作業に大きな労力を要していることから、今後の機械化を支援するため実演会を企画。林業事業者や行政の担当者ら約30人が参加した。農業、林業用などの動力運搬車製造メーカー、筑水キャニコム(本社・福岡県)の担当者が訪れ、2年前に販売を開始した林内下刈作業車を紹介。四つのアタッチメントで、地ごしらえや下刈り、苗木の運搬作業ができる。斜面を上りながら生い茂ったやぶや草を刈り取り、伐採後に残された切り株を粉砕する様子を見学した。東北では5台導入され、本県では藤里町のみで使われている最新機械で、操作を体験した参加者は「下刈りは草が伸びる夏場に、日差しを遮るものがない現場で行うため労力がかかっている。すぐに導入するのは難しいが、省力化につながると期待を持った」と話した。来月は大館市が丸太の材積を計測するスマートフォンアプリの活用をテーマに研修会を開く。市林政課は「現場の人材不足を補うためにも、研修会を重ねてスマート林業の実践的取り組みを支援していきたい」としている。

*4-3:https://webronza.asahi.com/business/articles/2021090300002.html (論座 2021年9月7日) 国産材生産増加が山を裸にする〜日本林業の深刻な課題、山林経営者の収益を低下させ続ける林野庁の支援
●問題の多い林野庁の政策
 アメリカを起源とするウッドショックと言われる木材価格の高騰によって、日本で木材の国内生産を拡大すべきであるという主張が行われています。穀物の価格が上昇するときに、食料自給率を高めるべきだという主張が行われるのと同じです。しかし、木材についての主張は、食料以上に深刻な問題を抱えています。まず、現状を見ると、輸入は対前年同期比で、2020年は14%、2021年前半は16%、それぞれ減少しています。しかし、激減しているという状況ではありません。製材の価格については、直近の7月、通常材では10~20%程度、輸入材と品質的に近い乾燥材では2倍の上昇となっています。ただし、ウッドショックと言われる状況は、アメリカの低金利政策がもたらした住宅需要の増加などによるものであって、長期的に継続するとは考えられません。価格が上昇すると、市場は供給量を増やそうとします。国産材の生産増加という主張は、それを超えて人為的、または政策的に、市場の反応以上のことを実現しようというものでしょう。しかし、市場メカニズムに介入する行動を行うと、経済に歪みが生じます。特に、木材供給については、短期的に供給を増やすと、森林資源が減少し、将来の供給に問題を生じかねません。実は、林野庁は、問題の多い政策を実施してきました。最近の論調は、この歪んだ政策をさらに拡大しかねないという問題をはらんでいます。
●再生産が極めて困難となっている日本の林業
 木材(山元立木)は伐採されてから、丸太、製材品と形を変えて流通し、最終的に住宅メーカーの建材等として利用されます。ところが、川下の製材などの製品価格は安定的に推移しているのに、原料である丸太の価格は長期的に低下しています。1980年のピーク時から40年間でスギの価格は3分の1まで、ヒノキの価格は4分の1に下がりました。特に、かつては総ヒノキの家が最高級の住宅とされ、高級材と評価されてきたヒノキの価格は著しく低下しました。今では、ヒノキとスギはほとんど同じ価格となっています。また、かつて高い国産材は安い外材に勝てないと言われてきましたが、今では外材よりも安くなっています。輸入材価格は安定しているのに、国産材の価格はこれを下回り、かつ下がっています。農産物の場合と異なり、内外価格差は逆転し、それが拡大しています。これには、国産材の多くは乾燥していないという品質面での問題も反映しています。しかし、丸太価格が低下しても、国産の製品価格は横ばいでした。消費者は丸太の価格低下の恩恵を受けませんでした。製品価格については、国産も輸入も同水準です。製品の価格が安定して原料の丸太価格が低下していることは、製品の生産者の利益が増加していることを意味します。
●大きく落ち込む山林経営者の所得
 林業については、木材の生産に50年以上の超長期を要するという、他の産業と異なる特殊な事情があります。山林経営者(森林所有者)は、現在適期を迎えた木を伐採した後、将来の伐期時点の価格や収益等を予想して、その跡地に植林して育林すべきかどうかについて意思決定を行います。将来の収益を予想する際、林業経営者がベースとして参考とする指標は、現在の山元立木価格です。ところが、山元立木価格は、丸太以上に低下しています。これは製品価格の1割程度であり、丸太価格に占める山元立木価格の割合は1980年代の6割から2割程度へ低下しています。山林経営者の平均所得は11万円に過ぎません。(以下略)

<漁業>
*5-1-1::https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/863430 (沖縄タイムス社説 2021年11月15日) [COP26文書採択]削減目標 一層踏み込め
 英国で開かれていた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)は、成果文書を採択して閉幕した。文書は、産業革命前からの気温上昇について「1・5度に抑えるための努力を追求すると決意する」と示し「この重要な10年間」に行動する必要性を強調した。2015年に採択された「パリ協定」と比べると一歩踏み込んだ表現になったと言える。200近い国と地域がその決意を示せたことは評価したい。会議の焦点となった石炭火力の扱いは、議長国の英国が強い姿勢を示したものの最後まで協議が難航した。草案では「石炭火力」の段階的廃止へ努力するとしていたが、更新された案では「温室効果ガス排出削減対策が講じられていない石炭火力」の段階的廃止へと変わった。しかも最終盤で排出量3位のインドなどが反対し、廃止ではなく「段階的に減らす」と表現がさらに弱まった。国連の文書で特定のエネルギー源の扱いに言及するのは異例で一致をみるのが困難なのは分かる。だが、温暖化による海面上昇に危機感を持つ島しょ国などにとっては十分納得できる表現とは言えまい。各国が提出した温室効果ガス排出削減目標全てが実行されたとしても、30年の排出量は10年に比べて13・7%増えると分析されている。ジョンソン英首相が期待する通り、COP26が後に「気候変動の終わりの始まり」として位置付けられるかは、各国が目標を強化し、具体的に行動できるかに懸かっている。
■    ■
 会議では、少なくとも20カ国余りが石炭火力を段階的に廃止していくと新たに表明した。その中には日本などの支援で石炭火力の建設計画が進むベトナムやインドネシアなども含まれる。脱石炭の動きが加速する中で、その道筋を示し得ていないのが日本だ。10月に決まったエネルギー基本計画でも、30年度の電源構成で石炭火力の割合は約2割と定めている。「現状において安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー源」との位置付けだ。岸田文雄首相はCOP26の首脳級会合に出席し「対策に全力で取り組み、人類の未来に貢献していく」と決意表明した。日本は50年に温室効果ガス排出実質ゼロとする方針だ。会議を機に具体的な体制整備を急ぐ必要がある。
■    ■
 脱炭素の問題は私たちの足元の問題でもある。沖縄電力は昨年12月、50年までに二酸化炭素を実質ゼロとするためのロードマップ(工程表)を発表した。太陽光や風力由来の再生可能エネルギーを30年までに現在の約3・4倍に増やす。水素やアンモニアなどの「CO2フリー燃料」の導入を検討する方針も示した。ただ、島しょ県沖縄では送電網が本土とつながっておらず、困難な事情もある。地球温暖化は私たちの住んでいる地球の未来に関わる問題だ。困難ではあってもロードマップの着実な実施を求めたい。

*5-1-2:https://toyokeizai.net/articles/-/460458 (東洋経済 2021/10/7 ) 北海道「サケ獲れずブリ豊漁」で漁師が落胆する訳、北の「海の幸」の構図に異変、背景に温暖化も
 10月に入り、秋の味覚が本格化するシーズンになってきた。北海道では秋サケの定置網漁が最盛期を迎えている。残念なことにここ数年、サケは不漁が続いている。その一方で、サケの定置網にはなじみのなかった大量のブリが入っている。北の海にいったいどんな異変が起きているのだろうか。
●不漁続きのうえに大量死のアクシデント
 サケの漁獲量は2002年23万1480トンをピークにほぼ減り続け、2020年(速報値)は5万1000トンまで落ち込んでしまった。2015年までは年間10万トンを維持していたのだが、2016年に8万2000トン強と大台を割り込み、2020年は最盛期の22%の水準にまで激減した。深刻なのは漁獲量の減少だけではない。9月下旬以降、道東の海域で定置網に入っていたサケなどの大量死が相次いでいる。10月5日までの累計でサケ約1万2000匹、サクラマス約2000匹、コンブ85トン、そして大量のウニなどの漁業被害が確認されているのだ。周辺の海域では過去に経験のない赤潮の発生が確認され、道は海水の分析などの調査を進めている。気になる今年の漁だが、9月20日現在の「秋さけ沿岸漁獲速報」(北海道水産林務部)によると、オホーツクの353万尾、根室の43万尾など道全体で492万5064尾となっている。前年比では123.7%と回復しているかのように見えるが、関係者の見方は慎重だ。「確かに、走り(出始め)の数字は昨年を上回っていますが、昨年はかつてない不漁でしたから、その数字を上回っているといっても、それ以前と比べると少ないですからね。今年も、これからどうなるか。全期を見ないことにはなんとも言えませんよ」(水産林務部の担当者)。実際、5年前の2016年の同時期(609万7316尾)と比べると、今年の漁獲量は8割の水準でしかない。かつてに比べれば不漁に変わりはないということだ。ここ数年のサケ不漁と対照的に水揚げが急増しているのがブリである。かつて北海道ではあまり縁のない魚だった。半世紀前、1970年代の漁獲量は年間数百トン。1985年はわずか37トンだった。それが2000年代から増え始め、2013年に初めて1万トンの大台を記録すると、2020年は過去最高の1万5500トンに達した。サケの3割にまで存在感を高めているのだ。ちなみに、昨年は不漁だったサンマ(1万1700トン)を初めて上回った。サケ不漁、ブリ豊漁といった北の海での異変の構図が見えてくるのだが、漁師や漁業関係者たちの表情はさえない。サケを獲るための定置網にかかっているのはブリばかり。道東の漁港でのある日の水揚げは、サケはわずか550㎏、ブリはその3倍の1.5トンだったという。
●圧倒的に単価が安いブリ
 ブリが豊漁でも、なぜ漁業関係者は喜べないのか。それは価値が圧倒的に違うからだ。2020年の北海道での卸値はサケの829円/kg(北海道太平洋北区計=農水省の水産物流通調査)に対し、ブリは179円/kg(同)でしかない。ほぼ2割の水準である。実際、10月初旬に都内のスーパーを訪れ、鮮魚コーナーを覗いてみたところ、北海道産の秋サケの切り身100グラム198円に対し、ブリの切り身は100グラム98円と半値だった。「一部の大型のブリは豊洲市場など本州で人気になっているようですが、秋に獲れるブリの大半は小型ですから、いくら天然でもそんなに需要はない。ましてや道内ではほとんど需要がないですね」(水産関係者)。しかも、同じ定置網にかかってもサケと同じ施設で保存、処理、加工できるわけではない。「サケとブリでは大きさが違うから冷凍庫にしても同じものは使えない。加工法、加工技術も違い、道内にはブリの加工技術に習熟している業者は少ないから、どうしても値がつかない」(前出の水産関係者)という。一方、サケの水揚げが少なければ、貴重な筋子やイクラも当然少量となるから、水産加工業者への影響も大きい。当然、消費者にもしわ寄せが来る。9月、札幌市内の鮮魚店では、秋サケの切り身が昨年に比べ1切れ100円から150円も高く、イクラにする前の生筋子にいたっては、昨年は100グラムあたり600円程度だったのが、今年は2倍の1200円だという。サケへの依存度が高かっただけに、ブリが豊漁といってもすぐに代用品として転換できるわけではないのである。毎年、精力的な孵化放流を行っているのに、なぜ漁獲量が低迷しているのか。サケは生まれ故郷の川に帰って産卵する。自然産卵の稚魚や放流された稚魚は春から初夏にかけて海に入り、オホーツク海で夏から秋を過ごして成長。北太平洋で越冬し、翌年ベーリング海に入る。秋になるとアラスカ湾で冬を過ごし、春になるとベーリング海に。これを繰り返し、成熟した親魚となって故郷の川に戻ってくる。このサイクルの中に大きな異変が起きているということは間違いなさそうだ。
●サケ不漁の背景に「4つの説」
 水産関係者や漁業関係者の間で指摘されている原因をまとめてみると、次のような仮説が浮かび上がってきた。
 ①沿岸部の海水温の異変 放流時期である春先の沿岸部の冷たい海水温と、初夏の急激な
  海水温上昇に対応できずに稚魚が大量に死んでしまう。稚魚にとっての好適水温帯(5度
  から13度)の期間が短くなっている。
 ②漁獲期の海水温上昇 沿岸の海水温が秋になっても高く、サケが沖合や深いところに
  避難してしまうため、定置網にかからない(逆に温かい水温を好むブリが定置網に
  かかっている)。
 ③母川回帰率の低下 1996年には5.7%だった生まれた川へ帰ってくる母川回帰率(北海道)
  が2016年は2.6%、2019年は1.6%にまで低下している。
 ④エサ不足 海水温の上昇で分布域がサバなどと重なり、サバなどに負けてサケの稚魚の
  生存率が悪化。
 海水温をはじめとする海洋環境が変化する中で、複数の要因が絡んでいるのだろう。ここでひとつ注目したいレポートがある。国立研究開発法人「水産研究・教育機構」の水産資源研究所がまとめた「北太平洋におけるさけます資源状況と令和2年(2020年)夏季ベーリング海調査結果」である。この調査結果によると、北太平洋全体のさけます類漁獲量は、ロシアおよび、アラスカで減少傾向となった。これまで同地域はそれぞれ増加・横ばい傾向であったが、潮目が変わったのだ。特に2020年はロシアではサケとカラフトマス、アラスカではサケの漁獲量が大きく減少した。カナダやアメリカ南部3州(ワシントン、オレゴン、カリフォルニア)、日本、韓国では引き続き漁獲量の減少、あるいは低水準が続いている。その結果、2020年の漁獲量全体は対前年比で6割程度に減少したという。また、同調査によると、2014年ごろからベーリング海の水深200mまでの海水温が高い傾向が続いている。こうした北太平洋における資源や海洋環境の変化が、「日本に回帰するサケ資源の動向とも関連していると考えられる」としている。水産資源研究所の担当者は「稚魚がオホーツク海にたどり着けるかどうかが最大のポイント。そのためには、環境変化にも生き残れる活きのいい稚魚をつくるなど資源回復に向けた取り組みを行っています」と語る。サケ資源の回復は長い目で見守っていくしかないのだろう。
●存在感増す「ブリ」新メニュー続々
 話題をブリに移そう。かつては道民にとって馴染みのなかったブリが、この数年で一気に認知度を上げ、食材としての存在感を高めている。北海道の一大観光地・函館は、2018年にブリの水揚げが全国3位に、2019年には名物のイカの供給量を上回った。そうした状況を受け、函館では「はこだて海の教室実行委員会」が日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として、新たなブリ食文化を定着させようと昨年からさまざまなメニューを考案、開発している。昨年は下処置したブリに衣をつけて揚げた「函館ブリたれカツ」を、今年5月にはその進化系として「函館ブリたれカツバーガー」を、そして今度はうまみ成分イノシン酸に着目して製造した「ブリ節」でだしを取った「函館ブリ塩ラーメン」を開発した。「はこだて海の教室実行委員会」事務局の国分晋吾さんに活動の狙いと反響を聞いた。「函館では5年ぐらい前からブリの水揚げが増えています。そうした中、海洋環境の変化を伝えるためには、地産地消も兼ねた食文化を通じて情報発信していくことが重要だと考え、2020年にプロジェクトを立ち上げました。昨年は、子どもが食べやすく学校給食にも提供できるということでブリたれカツに挑みました。今年は、やや脂が少ない小型のブリは節に向いているということで、羅臼の加工業者さんにブリ節をつくってもらいました。そしてブリのアラや豚肉・鶏肉のひき肉などで取ったスープにブリ節を加えた函館ブリ塩ラーメンを開発し、試食会でも好評でした」。10月1日から函館市内の飲食店やスーパーでさまざまなブリ料理を提供する「函館ブリフェス」を昨年に続き開催。多くの市民が新たな地元の味・函館のブリを堪能した。「名物のイカとともにブリが新たな函館の魅力として定着していってほしいですね」(国分さん)
●ブランド「ブリ」で差別化も
 一方、日高のひだか漁協では、地元でとれたブリを「三石ぶり」「はるたちぶり」というブランド名で出荷。船上での血抜き処理、脂肪率の計測などを行い、高脂肪率の大型サイズを厳選するなど、ブランディング戦略の強化で差別化を図っている。このほか、道内では北海道ならではの「ブリザンギ」も人気だという。函館の水産会社がオンラインで発売しているので取り寄せも可能だ。スーパーでサケ、ブリともに購入し、それぞれ牛乳に浸した後でフライにしてみた。どちらも衣はサクサク、中はふっくらとジューシーに仕上がった(写真:筆者撮影)。サケ、サンマ、イカといった北海道を代表する魚の水揚げが落ち続ける中、日増しに存在感を増している北海道のブリ。サケに代わって北海道を代表する魚となる日がくるのだろうか。サケはかつてのニシンのような運命をたどってしまうのだろうか。海洋環境の激変による生態系への影響を「地域の問題」として捉えていてはできることに限界がある。例えばサケの孵化事業についてみると、サケの不漁が続く中で、地元漁業者による孵化事業への拠出金が減少している。孵化事業関連への国の予算を大幅に増額するなどの措置も必要だろう。資源保護とともに次世代に貴重な食文化、水産文化を残すためにも知恵を絞っていきたいものである。これは地域の活性化にもつながる重要なテーマである。

*5-2-1:https://ocean.nowpap3.go.jp/?page_id=540 (環日本海海洋環境ウォッチ ―環境省・NPEC/CEARAC ― Marine Environmental Protection of Northwest Pacific Region) 藻場の生態系における役割について
 藻場とは、沿岸域の海底でさまざまな海草・海藻が群落を形成している場所を指します。 主として種子植物であるアマモなどの海草により形成されるアマモ場と、 主として藻類に分類されるホンダワラ、コンブ、アラメといった海藻により形成される ガラモ場、コンブ場、アラメ・カジメ場等があります。藻場は、海中の様々な生物に隠れ場所・産卵場所などを提供し、窒素やリンなどの栄養塩を吸収して光合成を行い、 水の浄化や海中に酸素を供給することで浅海域の生態系を支えています。 藻場の植物体自体がアワビ等の貝類を始めとする色々な生物の餌になるだけでなく、 海藻に付着した微細な藻類や微生物が小型甲殻類や巻貝の餌になっています。 それらの小型の生物がいることにより、それらを食べる魚類も集まってくるため、 藻場は、生物多様性と生産力が高く、日本では古くから漁場として利用されてきました。 また、アマモなどは農業の肥料として利用されていたこともありました。これらの藻場は、いずれも陸上の草原や森林に匹敵する高い一次生産力を持つだけでなく、 沿岸の生態系にとってきわめて重要な役割を果たしています。例えば、大型海藻類が存在していると、大型海藻が生長時に窒素やリンなどの栄養塩を吸収し、蓄えて、 急激な増加を抑えるバッファー(緩衝装置)の働きをします。 これらの存在なしでは、河川から窒素やリンの栄養塩が豊富な水が流入すると、 植物プランクトンが急激に繁殖して赤潮等の原因になります。また、海草類は、砂泥場に根を張り生活しているので、海底の底質を安定化させることにより、 波浪等で砂や泥が巻上るのを防いでいます。埋め立て・浚渫によって浅場が減り、海藻・海草の生育する場が失われると、 富栄養化により植物プランクトンが増殖して赤潮が発生しやすくなります。 また、陸上の開発に伴って赤土が海に流入すると、海水の透明度が低下し光合成に必要な光量が得られなくなり、 藻場が消滅してしまいます。地球の温暖化による海水温度上昇、湧昇流の減少による栄養塩類濃度の低下、 農薬・除草剤などの化学物質・有害物質の影響(水質汚染)、 海藻を食べる動物(特にウニ類)の増加などが原因で、岩礁域の藻場が消失する「磯焼け」と呼ばれる現象が起きています。いろいろな要因が引き金となり、藻場の減少が起こると、 海藻を食べる生物の食圧が相対的に高まり、海藻の消失へとつながります。 海藻を食べるウニ等を放置した場合、新たに岩等に付着した海藻の幼体が食べ尽くされてしまうことから、 磯焼け現象が固定化されてしまいます。

*5-2-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/488314/ (西日本新聞 2019/2/20) 「ブルーカーボン」で温暖化防止 生態系も豊かに 海草や藻場の価値を見直す 福岡市で博多湾シンポ
 海草や藻類などの海の生物が、光合成で吸収する二酸化炭素(CO2)「ブルーカーボン」が注目されている。森林が取り込むCO2「グリーンカーボン」の海洋版で、森林より多くのCO2を吸収するとの研究報告があり、地球温暖化対策として活用を探る国も出てきた。福岡市で11日開かれた「博多湾シンポジウム」(博多湾NEXT会議主催)では、湾が持つブルーカーボンなどの働きに注目し、沿岸域の価値を高める方策を考えた。ブルーカーボンは2009年、国連環境計画(UNEP)が提唱した。海は大気からCO2を吸収しており、アマモやコンブといった海草や藻類は海中でCO2を取り込む。森林から河川を通して海に流れ出たグリーンカーボンを、アマモやコンブの藻場が吸収する働きもあり、CO2削減と気候変動の緩和に役立つとされる。シンポジウムでは、国土交通省国土技術政策総合研究所の岡田知也・海洋環境研究室長が、このブルーカーボンに代表される沿岸域の多様な働きを、価値として見直そうと提言した。沿岸域に生息するアマモなどの藻場や、熱帯・亜熱帯で生息するマングローブ林は、CO2を吸収した後に地中の枝や葉、根で長期間貯留する機能があるという。岡田室長は、藻場がCO2をため込む量は、面積当たりで森林の約25倍にも上るとし、「藻場は(CO2削減に)非常に優秀な場といえる」と説明。魚の産卵や稚魚が成長する場となるアマモ場などを増やせば、CO2削減の効果が高まるとの考えを示した。国交省によると、世界では米国やオーストラリアなどがCO2削減にブルーカーボンが有効として、活用を探る動きが出ている。日本でも研究機関や学識者などが「ブルーカーボン研究会」を17年に設立し、同省などの協力で活用方法を探る。日本は四方を海に囲まれている上に湾が入り組んでいるため、海岸線の総延長が世界6位の約3万5千キロに上り、CO2削減に期待が持てるためだ。福岡市内でも、博多湾NEXT会議などがアマモ場を増やす取り組みを始めている。岡田室長はさらに、博多湾は赤潮の原因となる栄養塩「リン」の数値が下落傾向にあり、水質が浄化されて生物がすみつきやすくなっていると報告。「今やるべきことは、生物の生息場となる藻場や干潟などを再生すること」と強調した。藻場や干潟にはブルーカーボンだけでなく、魚介類を育てる食料供給、海岸浸食の防止、観光に代表される親水など多様な価値があるという。岡田室長は「人が沿岸域の多様な価値を知り、利用する機会が増えれば、護岸に藻場をつくる事業なども進めやすくなる。そうなれば、住民が知らないうちに温暖化緩和に貢献することになる。そんな正のスパイラルを進めたい」と呼び掛けた。シンポジウムではこれに先立ち、前環境省地球環境審議官の梶原成元氏が講演。地球温暖化で気温上昇や豪雨、台風の大型化が起きているとし、食料生産の不振や金融業界の損害補填(ほてん)の増加、冷房に使うエネルギー需要増などにつながっていると説明した。
●藻場づくり粘り強く 「ペットボトルやポリ袋のごみ増加」
 シンポジウムでは、博多湾周辺の漁業や水族館の関係者、海中調査を続ける団体などによる意見交換もあった。湾に多くの種類の魚介類がすみ、藻場も豊富にある一方、大量のごみの投棄がある現状や藻場づくりの難しさを話し合った。博多湾の水中調査を手掛ける一般社団法人「ふくおかFUN」(福岡市)の大神弘太朗代表理事は湾の特徴を「海草が豊富で、魚が多く集まる。岩場の生物も種類が多い」。福岡工業大付属城東高(同)の生徒たちは、湾北東部の和白干潟の観察を通して魅力を紹介した。同市港湾計画部環境対策課の小林登茂子課長は、携帯電話で表示できるアマモ場の分布マップ作成に、福岡工業大が取り組んでいることを報告した。一方で課題も挙がった。同市漁業協同組合伊崎支所の半田孝之運営委員会会長は、約40年前から湾のごみの量が増えていると報告。近年はペットボトルやポリ袋が目立つといい、漁協の回収活動では年間30~40トンが集まるという。マリンワールド海の中道(同)の中村雅之館長は、近隣の志賀島沿岸からアマモの苗を館近くに移植し、藻場を増やす活動をしている。「アマモは芽が出ても根が弱く、波風が強いと流される恐れがある。粘り強く続けることが大切になる」。住民の参加を募り、アマモ場を一緒に広げることを提案した。

*5-3: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211106&ng=DGKKZO77335530W1A101C2MM8000 (日経新聞 2021.11.6) 漁業「6次化」で価値創造、産出額低迷も加工・販売が寄与 徳島、市場2割拡大
 消費者の「魚離れ」や資源減少などを背景に各地で漁業産出額の減少傾向が続く中、1次産業の漁業者が「捕ったものを売る」から「売れるものを創る」へと姿勢を転換し、活性化につなげている地域がある。2次産業の食品加工や3次産業の流通・販売までを一手に担うことから、すべての数字を掛け合わせて「6次化(総合2面きょうのことば)」といわれる取り組みの先進地を探った。農水省が3月に発表した2019年の漁業産出額は1兆4676億円。1982年の2兆9577億円をピークに、ほぼ一貫して右肩下がりの状況が続く。ライフスタイルの変化に合わせ、食卓に魚介類が上る回数も減っており、国民1人当たりの魚介類の消費量(20年度、概算値)は23.4キログラムと、01年度比4割減の水準にまで落ち込む。再活性化には資源そのものが持つ価値を創意工夫で高めるほかない。加工、直売、宿泊、レストランなどといった漁業生産関連事業はなお成長余地があり、19年度の年間総販売金額は2301億円と、14年度比で1割超増加。1次の低迷(同0.9%減)を補い、全体で0.7%の成長を達成した。2次3次の割合を高めた筆頭は和歌山県。19年度の「6次化率」(海面漁業・養殖業産出額などとの合算値に占める漁業生産関連事業の割合)は、37.1%に達する。漁業産出額は14年比5.5%減少したが、漁業体験などの観光関連事業に市町村が主体的に取り組んだことなどにより2次3次の成長を促し、全体でも7%増を達成した。古式捕鯨発祥の地として知られ、反捕鯨団体からやり玉に挙げられたことで国際的に注目された同県太地町では、漁師自らがクジラやイルカを「食資源」としてだけでなく、観光資源にも変えようと取り組む。20年7月から網で湾内を仕切り、シーカヤックでクジラやイルカを見学できるようにした。20年度の来訪者は2300人。21年度も9月までで1600人が訪れた。29.5%で2位となった徳島県も、1次の低迷を2次3次で補い、全体の市場規模を2割成長させた。生産・加工に乗り出したくてもノウハウがない漁業者への支援を手厚くし、県水産研究所に商品開発テストができる加工機器を配備。未利用魚のレトルト食品加工や防災食品作りなど、付加価値を高める商品づくりを後押しする。業種の垣根を越えて取り組むのは三重県(28.7%)。1次が12.8%減と大きく落ち込む中、全体の縮小を5.6%減にとどめた。鳥羽市では14年、地元農水産物の販売場と郷土食を中心としたレストランを併設した産直市場「鳥羽マルシェ」が開業。漁協と農協が共同出資する全国的にも珍しい取り組みで、年間約30万人が訪れる。マルシェは県外からの観光客だけでなく、地場産を求める地域の需要をも掘り起こし、市の担当者は「農林水産ともに活性化につながった」と指摘する。新たな価値を創造し利益につなげようとする動きは各地で相次ぐ。鳥羽市の「くざき鰒(あわび)おべん企業組合」は船のスクリューに巻き付くため、漁師に嫌われていた海藻のアカモクに着目。健康食品として生まれ変わらせた。高知県黒潮町では捕った魚を食い荒らすため害魚として駆除したサメを活用する。犬向けのペットフードとしたところ好評で、9月からパッケージから販売までの一貫した取り組みを開始。駆除と収入増を両立させる新たなビジネスモデルとなっている。

<地方の人口と産業>
PS(2021年11月18日追加):岸田総理は、*6-1のように、総理大臣官邸で第1回デジタル田園都市国家構想実現会議を開催し、「①デジタル田園都市国家構想は、成長戦略の最も重要な柱」「②デジタル技術の活用で、地域の個性を活かしつつ、地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現」「③デジタル田園都市国家構想実現のため、自治体クラウド・5G・データセンターなどのデジタル基盤の整備し、デジタル基盤を使った遠隔医療・教育・防災・リモートワークの支援し、地方創生の各種交付金とデジタル田園都市国家構想推進交付金のフル活用し、デジタル臨調・GIGAスクール・スーパーシティ構想・スマート農業等の成果も活用し、誰一人取り残さないようデジタル推進委員を全国に展開する」と述べられたそうだ。
 が、私は、①については、理由の説明がないため、何故、成長戦略になるのかわからなかった。後まで読むと、②③のように、5Gが整備されれば、デジタルインフラを使って遠隔医療・教育・防災・リモートワーク等々を行うことができるため、地方に住んでも不便でなくなり、生産性も上がるということのようだが、仕事にはリモートや腰掛ですむものの方が少ないので、これだけで魅力的な田園都市ができるのか疑問だった。
 しかし、*6-2のように、在留資格を何度でも更新可能にし、農業を含む全分野で無期限に外国人の就労やその家族の帯同を認めて永住への道を開けば、地方でも必要な若い労働力を比較的安価に得ることができ、産業振興が容易になるだろう。ただ、税法上は5年以上日本に住むと永住者とされるのに在留10年でやっと永住権取得が可能になるというのは、外国人にとって不利益が大きいと思われる。また、介護従事者は、日本の介護福祉士の資格を取れなければ母国に帰国しなければならないが、介護福祉士の資格を持っていなくても慣れた人がやった方がよい仕事は介護施設に多いため、帰国を強制する必要はないと思う。なお、自民党のみならず国民にも外国人の長期就労・永住・移民を嫌う人が少なくないが、外国人労働者を排除することにより、日本企業でさえ国内で必要な労働力を得られず、生産拠点を海外に移したため、日本の産業が衰退する羽目になったことは忘れるべきでない。
 外国人労働者の受け入れを拡大した場合には、*6-3のように、(日本人が外国勤務した時に必要なことを考えれば容易にわかるが)本人だけでなく家族にも日本語が必要になる。さらに、長期就労・永住・移民をする場合は、家族も含めて日本の一般教養が必要になるため、私は、日本語教師が常備している子ども用の小中高校や大人も通える夜間中学・高校などを、政府の支援の下で自治体が準備するのがよいと思う。

     
2021.11.18日経新聞 2021.5.28日経新聞        2021.6.19時事

(図の説明:左図のように、外国人の在留資格2号の対象に11分野を追加して13分野にする方向になっているそうだ。これに先立ち、中央の図のように、スリランカ人女性の殺害をはじめ、入管制度の問題によって犠牲になる外国人が後を絶たなかった。また、主要7ヶ国の2020年の難民認定率は、右図のように、0.4%と日本が著しく低いが、これは日本国憲法違反である)

*6-1:https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202111/11digitaldenen.html (首相官邸 令和3年11月11日) デジタル田園都市国家構想実現会議
 令和3年11月11日、岸田総理は、総理大臣官邸で第1回デジタル田園都市国家構想実現会議を開催しました。会議では、デジタル田園都市国家構想の実現に向けてについて議論が行われました。総理は、本日の議論を踏まえ、次のように述べました。「本日は、デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、有識者の皆様方に、第1回目の議論をしていただきました。御協力に心から感謝を申し上げます。デジタル田園都市国家構想は、「新しい資本主義」実現に向けた成長戦略の最も重要な柱です。デジタル技術の活用により、地域の個性を活かしながら、地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現してまいります。同構想実現のため、時代を先取るデジタル基盤を公共インフラとして整備するとともに、これを活用した地方のデジタル実装を、政策を総動員して支援してまいりたいと考えています。具体的には、5点申し上げます。まず1点目は、デジタル庁が主導して、自治体クラウドや5G、データセンターなどのデジタル基盤の整備を進めてまいります。2点目として、デジタル基盤を活用した、遠隔の医療、教育、防災、リモートワーク、こうしたものを地方における先導的なデジタル化の取組としてしっかり支援をしていきたいと思います。3点目として、地方創生のための各種交付金のほか、今回の経済対策で新しく創設をいたしますデジタル田園都市国家構想推進交付金をフルに活用いたします。そして4点目として、同時に、デジタル臨調やGIGAスクール、スーパーシティ構想、スマート農業等の成果も活用してまいります。そして5点目として、誰一人取り残さないよう、デジタル推進委員を全国に展開してまいります。当面の具体的施策及び中長期的に取り組んでいくべき施策の全体像については、年内を目途に取りまとめを行います。その上で、速やかに実行に移していくことで、早期に、地方の方々が実感できる成果をあげていきたいと考えています。本日の議論を踏まえ、若宮大臣が、牧島大臣と連携し、本構想の具体化に向け、政府全体として取り組んでいただくよう、よろしくお願いを申し上げます。」

*6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE019ZY0R00C21A9000000/?n_cid=NMAIL006_20211117_Y (日経新聞 2021年11月17日) 外国人就労「無期限」に 熟練者対象、農業など全分野
 出入国在留管理庁が人手不足の深刻な業種14分野で定めている外国人の在留資格「特定技能」について、2022年度にも事実上、在留期限をなくす方向で調整していることが17日、入管関係者への取材で分かった。熟練した技能があれば在留資格を何度でも更新可能で、家族の帯同も認める。これまでの対象は建設など2分野だけだったが、農業・製造・サービスなど様々な業種に広げる。別の長期就労制度を設けている「介護」を含め、特定技能の対象業種14分野すべてで「無期限」の労働環境が整う。専門職や技術者らに限ってきた永住への道を労働者に幅広く開く外国人受け入れの転換点となる。現在、資格認定の前提となる技能試験のあり方などを同庁や関係省庁が検討している。今後、首相官邸や与党と調整し、22年3月に正式決定して省令や告示を改定する流れを想定している。特定技能は人材確保が困難な業種で即戦力となる外国人を対象に19年4月に設けられた。実務経験を持ち特別な教育・訓練が不要な人は最長5年の「1号」を、現場の統括役となれるような練度を技能試験で確認できれば「2号」を取得できる。更新可能で家族も滞在資格が得られ、在留10年で永住権取得が可能になる。入管庁などは、2号の対象に11分野を追加し、計13分野にする方向で調整している。介護は追加しないが、既に日本の介護福祉士の資格を取れば在留延長などが可能となっている。ただ、自民党の保守派などの間では、外国人の長期就労や永住の拡大は「事実上の移民受け入れにつながりかねない」として慎重論が根強い。結論まで曲折を経る可能性もある。特定技能の制度導入時、入管庁は23年度までに34万5千人の労働者が不足するとみていた。足元では特定技能の取得者は月3千人程度で推移している。就労期限がなくなれば計算上、20年代後半に30万人規模になる。かねて国は外国人の長期就労や永住に慎重な姿勢を取ってきた。厚生労働省によると、20年10月末時点で国内の外国人労働者は172万人。在留期間が最長5年の技能実習(約40万人)や留学生(約30万人)など期限付きの在留資格が多く、長期就労は主に大学卒業以上が対象の「技術・人文知識・国際業務」(約28万人)などに限っている。「農業」「産業機械製造業」「外食業」など14分野で認められている特定技能も、長期就労できるのは人手不足が慢性化している「建設」「造船・舶用工業」の2分野にとどまる。新型コロナウイルスの水際対策の影響もあり、特定技能の資格で働くのは8月末時点で約3万5千人。日本商工会議所は20年12月、「外国人材への期待と関心は高い」と対象分野追加などを要望していた。外国人受け入れ政策に詳しい日本国際交流センターの毛受敏浩執行理事は「現業の外国人に広く永住への道を開くのは入管政策の大きな転換だ」と指摘する。
*特定技能:国内で生活する外国人は6月末時点で約282万人。活動内容などによって「永住者」(約81万人)、「技能実習」(約35万人)といった在留資格がある。出入国管理法改正で2019年に設けられた「特定技能」は技能試験や日本語試験の合格などを条件に、人手不足が深刻な業種14分野での就労を認めている。出入国在留管理庁によると、8月末時点で約3万5千人のうち、飲食料品製造業(約1万2千人)と農業(約4600人)の2分野で半数近くを占める。3年間の技能実習を終えた人が特定技能の資格取得を望む場合、日本語試験は免除され、実習時と同じ分野なら技能試験の合格も不要になる。新型コロナウイルスの感染拡大による入国制限で、新たな人材の確保が困難になった。実習終了後に帰国できない人が、在留資格を特定技能に切り替えて日本に残るケースが相次いでいる。

*6-3:https://mainichi.jp/articles/20181119/ddm/005/070/049000c (毎日新聞社説 2018/11/19) 就労外国人 日本語教育 政府の態勢は心もとない
 外国人労働者の受け入れ拡大に伴い、最も重視しなければならないのが日本語教育だ。日常会話など基本的な日本語能力を身につけなければ、日本社会で生活するのは難しい。ところが、入管法改正案は、日本語教育を法律事項として規定していない。今後その取り組みについて法務省令で定めようとしているが、政府の態勢は心もとない。一定の技能があれば業務に就ける「特定技能1号」は、日常会話以上の日本語能力が求められる。ただし、3年以上の経験を経た技能実習生は無試験で移行できる。政府は、1号には多くの技能実習生が移行すると見込んでいる。技能実習の過程で日本語を習得させればいい。そうすれば日本語教育にかけるコストも最小限に抑えられる--。そんな本音がのぞくような政府の対応だ。技術移転を名目としながら、実際には低賃金、長時間の労働を強いる技能実習制度の問題は大きい。その技能実習制度の下での日本語講習が充実しているとはとても言えない。日本語学校から教師を派遣してもらう都合がつかなければ、受け入れに当たる業界の監理団体の職員が教えることがあるという。国土交通省が建設分野の実習生に聞き取りした調査では、日本語のコミュニケーション能力が問題視され、現場に入れなかった例もあった。1号の資格を得れば、5年間という長期の在留が認められる。やはり専門的な教育機関の活用が欠かせない。その中核になるのが、全国に700校近くある日本語学校だろう。技能実習生や留学生が増えるのと軌を一にして、日本語学校は急増中だ。ただし、日本語教師は総じて給料が安く離職率が高い。全体として不足していると言われている。政府は、日本語教師の資格を公的に認定することで、教師の質の向上や定着を図る方針だ。だが、それだけでは十分ではない。外国人に対する日本語教育は、これまで地方自治体や、地域で日本語教室を開くNPO任せで、こうしたところへの支援は乏しかった。政府は必要な財政措置を取り、日本語教育を下支えする体制を構築すべきだ。受け入れの拡大は、それとセットで行う必要がある。

<COP26における化石燃料の位置づけと補助金>
PS(2021年11月21、25日追加):COP26は、*7-1-1・*7-1-2のように、産業革命前からの気温上昇を1.5°に抑えることを目標とするため、土壇場での中印(背後に日本がいる)の修正要求ということで、「石炭火力発電は段階的に廃止する」から「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的な削減努力を加速する」にかなり弱められた形で合意された。しかし、このように目標を甘くしてきたことが、再エネの普及と単価の低減を妨げ、「EVはHVよりもかえってCO₂を排出する」などという弁解を許しているのだ。また、*7-1-1は「先進国や島国と新興国の立場の違い」などと悠長なことも言っているが、日本は島国なのに、言い訳ばかりしている間に先進国から借金過多の後進国に落ちようとしている稀な国なのである。さらに、日本政府は、燃料をアンモニアに代える技術でアジアを支援することを打ち出したそうだが、これは(多くの理由で)不合理な上、日本国民のために全くならない。なお、文書が強調した「重要な10年間」に各国がどのように行動するかが問われるが、それには日本を含む地球に住む1人1人の科学的合理性のある努力が必要である。
 そのような中、*7-2-1のように、政府が閣議決定した55兆7千億円の財政支出による経済対策は、①18歳以下の子どもを対象とした1人10万円の給付金 ②科学技術立国のための10兆円の大学ファンド ③経済安全保障の確立 ④技術革新への投資拡大 ⑤地方のデジタル化 ⑥「Go To」補助金 ⑦看護師・介護職の賃上げ推進 などだそうだが、②③④⑤⑦の中には必要なものもあるかもしれないが、①は、配布時期から見て1兆円ずつかけた衆議院議員選挙支持の御礼と参議院議員選挙支持のお願いになっている。そして、これは候補者が必要なビラ配りをしたり、アルバイト代を支払ったりするどころではない権力を使った桁違いに大きな選挙違反だ。また、⑥は既に経済政策として1兆円も使う時期ではないため無駄遣いにすぎず、コロナ対策予算は日頃から医療制度の充実を疎かにして小さくケチり、経済を止める羽目になって数兆円もの大きな保証を払いながら誰も幸福にしなかった馬鹿な事例である。その上、原油価格が上昇したからといって、*7-2-2のように、25年以上もの準備期間があったのに対策を講じなかった石油関連業者に「補助金」を出すのは何のメリットもない。「新しい資本主義」が借金で大盤振る舞いをする大きな政府であるのなら、その借金を誰にどうやって返済させるつもりかを直ちに議論すべきだ。何故なら、内需(国内消費+国内投資)について、民間は国内消費が伸びて投資を回収できる国にしか投資しないため、金融緩和と消費税増税で物価を上げれば内需は減るばかりで増えないからだ。そのため、*7-4のような老朽化した水道管・橋を交換したり、適格にメンテナンスしたりしつつ、同時に電線を埋設・敷設して再エネ時代のインフラ整備に支援するのなら未来への投資になるが、選挙対策やその場限りのバラマキは止めて欲しいのである。
 なお、*7-3のように、国内846社の国連SDGsへの取り組みをまとめたところ、2030年代までの実質ゼロ達成が43社、将来的に実質ゼロ以下にする宣言をした企業が267社(回答企業の31.6%)にのぼり、経産省傘下の経団連よりも意識の高いことがわかる。
 米バイデン政権が日本・中国・インド等の主な消費国は協調して石油備蓄を放出すべきだと表明し、*7-5は、日本政府は石油国家備蓄を初めて放出するにあたって、①国家備蓄は145日分と90日分以上という目標を大きく上回り、貯蔵量は1990年代後半から変わらないこと ②国内石油消費量は省エネで減少して日数換算では増えているので、政府はこの余剰分を放出するとみられること ③政府は、アジアの石油市場で売却できないか詰めていること ④これまでの放出は紛争・災害で供給不足が心配される時だったこと ⑤多額の税金を投入して備蓄基地を作り、空きタンクができかねないため、これまで国家備蓄量を増やすことはあっても減らすことはなかったこと などを記載している。
 しかし、あまりにも論理がおかしいため、石油ショック後の昭和50年に制定された「石油の備蓄の確保等に関する法律(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=350AC0000000096)」を確認したところ、「第1条:我が国への石油の供給が不足する事態か災害の発生により国内の特定地域への石油供給が不足する事態が生じた場合、石油の安定的供給を確保して国民生活の安定と国民経済の円滑な運営に資することを目的とする」という石油の備蓄目的が書かれていた。今回の価格上昇は供給不足に起因するものであり、備蓄放出は国民生活の安定と国民経済の円滑な運営に資するので備蓄目的そのものの筈で、④は融通が効かなすぎ、⑤は論外である。また、③のアジア市場での売却では国内よりも単価が安く、備蓄放出が国民生活の安定や国民経済の円滑な運営にも資さない。その上、①②については、有事の際には145日分の備蓄があったとしても145日しか持たないため、エネルギーや食料は備蓄で安堵するのではなく自給率を高める必要があるのだが、日本政府はこれを完全に無視してきたのだ。
 そのような中、*7-6のように、旭化成が2025年に再エネ由来の電力で水素を作ることができる世界最大級の装置を商用化し、水素の価格を2030年に330円/kg(現在の約1/3)に引き下げることを目指すそうだ。これまで、世界一高い価格で化石燃料を輸入してきた(無能な)商社は、人材を再教育して水が豊富な日本の水素を世界に販売するよう事業転換すべきだ。

    
 2021.11.10日経新聞    2021.11.14BBC       2021.11.14TBS 

(図の説明:1番左の図のように、地球の気候変動危機を緩和するために行われてきたCOP26だが、左から2番目の図のように、COP26の約束を守っても気温上昇を1.5°に抑えることはできない。それにもかかわらず、右から2番目の図のように、『石炭火力発電の廃止』は『段階的削減への努力』に弱められた。さらに、1番右の図のように、化石燃料への補助金削減を呼びかける表現が含められたのに、日本は、石炭だけでなく石油にまで補助金を出そうとしている点で、京都議定書から25年以上も準備期間があったとは思えない遅れようなのである。そのため、何故、こうなったのかを猛烈に反省して改善すべきだ)

*7-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASPCH6H5RPCHULBJ002.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2021年11月15日)「失望は理解、しかし…」声詰まらせた議長 密室の40分で何が?
 13日閉幕した国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えることを新たな目標とするなど各国が歩み寄りを見せた。一方、石炭火力発電の廃止では、土壇場で中印の修正要求で表現が後退するなど、国情の違いによる対立も露呈した。13日、COP26の最後の公式会合でシャルマ議長は声を詰まらせた。「みなさんの深い失望は理解する。しかし、全体の合意を守ることも必要だ」。会場からの拍手に押されるようにして、木づちを打ち下ろし、合意文書を採択した。2週間にわたるCOPの後味を悪くしたのは、石炭火力発電をめぐる合意文書案の記載が、段階的な「廃止」から「削減」に弱められたからだ。採択直前に、先進国・島国と新興国の間の立場の違いが露呈した。石炭火力は世界の電力部門の二酸化炭素排出の7割を占め、「温暖化の最大原因」(国際エネルギー機関)だ。議長国・英国は自らが石炭火力の電源比率を2015年の23%から2%に減らしており、合意文書に「脱石炭」のメッセージを盛り込みたかった。欧州連合(EU)や、温暖化による海面上昇や災害の危機に直面する島国も強く支持し、合意の流れはできつつあった。13日午後の非公式会合。中国代表団は「まだいくつかの問題で相違点があることに気付いた」。インドのヤーダブ環境・森林・気候変動相は「途上国が石炭火力発電や化石燃料への補助金を段階的に廃止すると約束できるとは思えない」と主張し、文書案の修正を求めた。両国の排出量は世界1位と3位。両国ともエネルギー需要は伸びており、石炭火力は重要な電源だ。ヤーダブ氏は「世界の一部の地域は、化石燃料とその使用によって高いレベルの富と幸福を手に入れることができた。途上国は(累積の排出量を)公平に使う権利がある」と強調した。先進国が年間1千億ドルの資金支援をする約束が果たされていない途上国の不満も味方につけた。会合は中断し、シャルマ議長とケリー米気候変動担当大統領特使や中国の気候変動担当の解振華・事務特使が、EUやインドの代表団らと別室にこもり調整に走った。約40分の密室の会談で、「廃止」から「削減」に弱める流れが決まった。表現が弱まったことについて、シャルマ氏は記者団の取材に「私たちが目指していたものとは違っていたが、最終的に合意された」と無念さをにじませた。国際NGOグリーンピースのジェニファー・モーガン事務局長は石炭火力を削減していく合意について、「弱くて妥協もしているが、画期的だ」「石炭の時代が終わるというシグナルが発信された」などとコメントした。
●「1.5度目標」にこだわった英国
 「世界が必要としていたゲームを変えるような合意に達した」。COP26が閉幕した翌14日、議長国・英国のジョンソン首相は演説で胸を張った。COP26は英国にとって、欧州連合(EU)離脱後の外交で存在感を示すチャンスだった。新型コロナの影響で2年ぶりの開催だったが、参加が難しい途上国やNGOから再延期論が出る中でも、約130カ国の首脳を含む、約4万人を集めた。合意文書では、「世界の気温上昇を1・5度に抑える努力を追求する」と明記。「この決定的に重要な10年」という言葉を繰り返し、各国に来年までに削減目標の見直しを求めるとともに、毎年閣僚級の会合を開くことも決めた。石炭火力の段階的削減と非効率な化石燃料補助金の段階的廃止も、初めて明記した。後押ししたのは、洪水や山火事、干ばつなど、気候危機が現実になる中、世界で対策の加速を求める声の高まりだ。欧州では国政選挙の争点にもなり、ビジネスも脱炭素社会に向けて走り始めていた。COP期間中にも、「気候正義」を求める市民らのデモ行進がグラスゴーの街を埋めた。英政府は、パリ協定の実施ルールの完成という本来の交渉議題よりも、「1・5度目標の希望を残し、道筋をつける」ことを最大のテーマにした。シャルマ議長が33カ国を訪問するなど各国に働きかけた。主要排出国を含む150カ国以上が削減目標を更新し、1・5度目標の達成の条件とされる今世紀中ごろの「実質排出ゼロ」を宣言する国も140カ国以上に増えた。1・5度目標の達成が危ぶまれる状況に変わりはないが、脱炭素に向けたリーダーとしての存在感を示したといえる。バイデン政権でパリ協定に復帰した米国も、温暖化外交で主導権を取り戻そうと、英国を後押しした。ケリー大統領特使が各国を回り、最大の排出国の中国とはオンラインを含めて30回以上会談。COP26期間中に共同宣言を発表し、外交や経済で対立する両国が、そろって温暖化対策に臨む姿勢をアピールした。ケリー氏は閉幕後の会見で「パリがアリーナを建設し、グラスゴーで(脱炭素社会への)競争が始まった。そして今夜、号砲が鳴った」と話した。
●石炭火力使い続ける日本に重い課題
 今回の合意には課題も残されている。一つは途上国への資金支援だ。合意文書は、温暖化に備えるための対策への支援を25年までに少なくとも倍増させるよう促した。成果の一つだが、20年までに総額で年間1千億ドルの資金支援をするというパリ協定の約束が果たせていない。途上国は演説で「信頼は損なわれた」と失望をあらわにし、早期の実現を繰り返し求めた。日本を含む先進国が増額を発表したが、実際に資金を届けられるかが問われている。国際的な温室効果ガスの削減量取引の仕組みが合意に至った。過去2回のCOPで決裂してきたが、パリ協定のルールがようやく完成した。先進国が排出削減の事業を途上国で進めた場合、途上国で減った分を先進国の削減量とみなせるというもので、双方が国の削減量に算入する「二重計上」は認めないことや、京都議定書のもとで発行された過去の削減量(クレジット)は、13年以降の分に限って認めることにした。うまく使えれば削減にかかるコストを半減でき、30年に日本の年間排出量の4倍近い50億トンを減らせるとの試算もある。山口壮環境相は閉幕会合で「長年の宿題が解決した。日本の提案が合意の一助になったことを誇りに思う」とアピールした。途上国での削減を加速していくには、国の支援だけでなく、民間の資金を呼び込めるかが課題となる。合意文書に「削減する」と明記された石炭火力は、日本にも突きつけられた問題だ。政府は、将来も使い続ける計画で、燃料を石炭から二酸化炭素(CO2)を出さないアンモニアに代えていくことで排出をゼロにしていく方針だが、技術的にもコスト面でもハードルは高く、実現は見通せていない。岸田文雄首相は2日の演説で、これらの技術でアジア支援することを打ち出し、国際NGOから強い批判を浴びた。日本政府が15日に公表した交渉結果の概要には「石炭火力の削減」にかかわる記載はなかった。会議に参加した環境NGO気候ネットワークの伊与田昌慶さんは「COP26を通じて世界は脱石炭に踏み出した。日本は脱石炭をはっきりさせる必要がある。そうしなければ来年のCOP27でも再び国際的な批判にさらされることになる」と指摘する。

*7-1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1423623.html (琉球新報社説 2021年11月15日) COP26文書採択 「重要な10年」へ行動を
 英国で開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は成果文書を採択して閉幕した。文書は焦点となった石炭火力の扱いについて「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的な削減の努力を加速する」とした。採択前の案にあった「段階的廃止」から後退した感は否めない。だが世界の気温上昇を抑える共通目標に変わりはない。文書が強調した「重要な10年間」に、各国がどのように行動できるかが問われる。石炭火力の「段階的廃止」は温暖化対策にとって最重要課題といえる。COP26事務局の最新分析では、各国が提出した温室効果ガス排出削減目標全てが実行されても、2030年の排出量は10年比で13.7%増える。二酸化炭素(CO2)の排出量が非常に大きい石炭火力発電にメスを入れなければ、対策の実効性が薄まる。しかしいまだ十分な電力供給施設を持たない途上国には「廃止」は受け入れられない内容だった。会議では欧州などを中心に異論もあったが、文書採択を優先した形だ。その中で日本政府の態度には不満が残る。CO2を排出しないアンモニアとの混合燃焼など新技術を使うとして石炭火力の継続を表明した。確立していない新技術を掲げて化石燃料からの脱却を渋る日本の姿勢に対し、環境団体が「化石賞」に選んだのは当然だ。菅義偉前首相が掲げた温室効果ガスの「30年(14年比)46%削減、50年実質排出ゼロ」の国際公約は現在も有効である。実効性ある枠組み構築へ岸田文雄首相の指導力も問われる。周囲を海に囲まれ、危機に直面するのは沖縄を含め多くの島嶼(とうしょ)国・地域だ。水没の危機を訴えるマーシャル諸島代表が「落胆とともに変更を受け入れる。成果文書は私たちの命に関わる要素を含んでいる」と合意を優先した。その重みを受け止めねばならない。一方で参加国が「世界の平均気温上昇を1.5度に抑える努力を追求する」点で一致できたのは前進だ。パリ協定の努力目標だった1.5度抑制が新たに実現すべき目標となったからだ。まず当面の目標は30年の削減目標をどれだけ上積みできるかだ。経済産業省の資源エネルギー調査会の試算で、30年時点では太陽光の発電コストが原子力発電のコストを下回る結果が出ている。太陽光パネルを設置するための立地などに課題があるとはいえ、再生可能エネルギーの推進は最優先で取り組むべき項目だ。安全保障や経済で対立する米中2大国がパリ協定達成へ共同宣言を発したことも世界には追い風となっている。米中両国が先導役となり、対策が遅れる途上国への支援を活発化させる必要がある。COP26で得た共通目標を実現するために努力するのは地球に住む一人一人の責務だ。

*7-2-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=810393&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2021/11/20) 経済対策 「規模ありき」では困る
 政府がきのう、新たな経済対策を閣議で決めた。財政支出額は55兆7千億円と、過去最大の規模に膨れ上がった。今こそ政府の役割が問われるという認識の表れかもしれない。岸田文雄首相も言う通り、「持てる者と持たざる者の格差・分断」が新型コロナウイルス禍で浮き彫りになっている。ただ、対策の中身をみれば、子どもへの10万円給付から科学技術立国のための10兆円大学ファンドまで、目的がふぞろいな政策の寄せ集めとの印象も拭えない。焦点が定まっていない。緊急事態宣言が解除となった今は本来なら、コロナ禍からの「出口」戦略を指し示すべき時期ではないのだろうか。対策の4本柱として掲げるうたい文句も、「『新しい資本主義』の起動」以外は「国土強靱(きょうじん)化の推進」など見飽きたものにほかならない。分配重視の「新しい資本主義」にしても、関連政策として挙がっているのは、経済安全保障の確立に技術革新への投資拡大、地方のデジタル化といったものにすぎない。目指す社会の道筋が読み取れない。肝心の国内総生産(GDP)押し上げ効果は限られる、といった厳しい見方もある。規模の大きさにとらわれるあまり、一律の給付金や巨額基金などが目立つからだろう。忘れてはならないのは、2020年度政府予算のコロナ対策事業である。持続化給付金などを巡る不正受給や過払いが20億円近くに上ると会計検査院が指摘した。3度にわたる補正予算編成で計73兆円に積み上がったものの、約3割を使い残したいきさつもある。異例の経済対策も、それらの検証を踏まえていなければ「規模ありき」と受け取られよう。支援を必要とする人々に、十分なお金が届くのだろうか。今回も、生活困窮層への現金給付▽旅行や飲食への「Go To」補助金▽看護師や介護職などの賃上げ推進―といった施策が盛り込まれている。実効性や公平性について、丁寧に見極める必要があろう。既に議論が分かれているものもある。石油元売り業者に対する「ガソリン補助金」である。流通経路などが複雑で、加えて給油所の経営はただでさえ苦しい。小売価格まで恩恵が及ぶ保証はどこにもない。そもそも、価格上昇はガソリンに限るまい。引っ掛かる声があるのは当然だろう。財源の議論が聞こえてこないのも気掛かりである。所得再分配の一環で、岸田首相が訴えていた金融所得課税の強化は来年以降に先送りした。企業の内部留保への課税や英国などで進んだ法人税率引き上げといった手も検討すべきではないか。先の衆院選で、各党は大盤振る舞いの公約を並べた。来年夏の参院選を意識し、公約違反との批判を恐れているのかもしれない。だが財源の裏付けなしに事を進めるなら、「ばらまき」批判は免れまい。もはや国際公約になった「脱炭素社会」の実現も待ったなしである。内外の宿題に立ち向かいつつ、どうやって内需を掘り起こし、賃上げをもたらす好循環につなぐのだろう。「新しい資本主義」を目指す岸田首相には、もっと骨太の具体策を打ち出してほしい。 

*7-2-2:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/680217 (京都新聞社説 2021年11月19日) ガソリン補助金 効果と公平性に疑問符
 政府は、ガソリン価格高騰を抑えるため、石油元売り各社に資金支援する緊急対策を打ち出した。価格が一定水準を超えた場合、卸売価格の上昇を抑える分の補助金を出し、店頭での値上がりに歯止めをかけるという。小売価格を抑制するために元売り側へ国費を投じるのは異例の取り組みだ。新型コロナウイルス禍からの経済回復の重荷を減らす狙いといえよう。政府は、実施のスピード感を重視し、本年度予算の予備費を使って年内開始を掲げる。ただ、対策の中身は生煮え感が拭えない。確実に小売価格を抑えられるかどうかの実効性や、業界支援の公平性にも疑問符が付く。ガソリン小売価格は、世界的な需給逼迫(ひっぱく)による原油高を背景に9月から上昇傾向が続き、今週初めの全国平均はレギュラー1リットル当たり168円90銭と約7年3カ月ぶりの高値水準となっている。新たな対策は、平均小売価格が170円を超えた場合に発動し、最大5円を抑制する案などが想定されている。軽油などを対象とするかも検討中という。問題は、補助金の分だけ卸売価格を下げても、全て小売段階に反映されるとは限らないことだ。店頭価格は、人件費や競合店対策も加味して小売店ごとに決められ、元売り業者が指示できない。小売店からは、コロナ禍での苦しい経営事情と、消費者からの厳しい価格監視の板挟みになりかねないと困惑する声も聞かれる。原油高の影響はガソリンにとどまらない。電気、ガス料金も1年前から10%以上の値上がりだ。円安の進行も重なってエネルギー全般や原材料が値上がりしており、ガソリンだけを特別扱いする根拠は明確でない。新対策の予算総額は数千億円規模ともみられている。政府は経済が回復するまでの時限的措置と説明したが、いつ、どういう状況まで続けるか分かりにくい。そもそも価格高騰を抑える方法には、ガソリンにかかる揮発油税などの税率を一定条件で時限的に引き下げる「トリガー条項」がある。発動には関連法改正が必要な上、急激な価格変動による混乱を避けるため見送られたという。補助金には、国民に身近で分かりやすい対策成果を示したい政府の思惑も透けるが、市場の価格形成をゆがめる国の介入は自制的であるべきだ。ガソリン価格抑制策の必要性と妥当性を詳しく説明し、どう機能したのか透明性のある検証が国会にも求められる。

*7-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2928D0Z21C21A0000000/?n_cid=NMAIL006_20211117_A (日経新聞 2021年11月16日) 温暖化ガス排出ゼロ、267社が宣言 本社SDGs経営調査
 本経済新聞社は国内846社について、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みを格付けする「SDGs経営調査」をまとめた。温暖化ガスの排出量を将来的に実質ゼロ以下にする宣言をした企業は267社(回答企業の31.6%)にのぼり、宣言企業のうち43社は2030年代までの達成を目標とし、産業界での脱炭素の取り組みが加速している。13日まで英グラスゴーで開かれた国連の第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、温暖化ガスの排出削減などが話し合われた。目標達成に欠かせないのが企業の積極的な貢献だ。SDGs経営調査で温暖化ガスの排出削減について聞いたところ、回答企業の29.1%(246社)が排出量を実質ゼロにする「カーボンゼロ」を宣言していた。排出量を上回る削減効果を期待する「カーボンマイナス」も、コニカミノルタなど21社が宣言していた。宣言を実施した時期について聞いたところ、「21年」(56.9%)が最も多く、「20年」(24.3%)が続き、「19年以前」の18.4%を上回った。企業の脱炭素に向けた意識が高まっていることが浮き彫りとなった。宣言企業のうち78.7%は50年以降を達成の目標時期としている。一方で資生堂が自社の排出分について26年までに実質ゼロとする方針を掲げるなど、政府目標に先んじた達成を目指す企業も2割近くに上った。取引先の温暖化ガスの排出まで把握している企業(377社)は20年度に排出量を19年度比11.9%削減するなど、脱炭素の取り組みも進む。背景にあるのが投資家のESG(環境・社会・企業統治)重視の姿勢だ。企業は主要国の金融当局でつくる「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の指針に基づく気候リスク情報の開示などへの対応も求められている。企業別の総合格付けでは、アサヒグループホールディングスが全項目で高評価を獲得し、初めて最上位の格付けを得た。工場で再生可能エネルギーの活用を推進していることなどが評価された。「SDGs経営調査」は毎年実施しており、今年が3回目。事業を通じてSDGsに貢献し、企業価値の向上につなげる取り組みを「SDGs経営」と定義している。「SDGs戦略・経済価値」「環境価値」「社会価値」「ガバナンス」の4つの視点で評価した。国内の上場企業と従業員100人以上の非上場企業を対象とし、846社(うち上場企業784社)から回答を得た。

*7-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211121&ng=DGKKZO77764210Q1A121C2CM0000 (日経新聞 2021.11.21) 老いる水道管、進まぬ対策、耐用年数超え、全国13万キロメートル 人口減で更新の壁
 全国で水道関連の事故が相次いでいる。10月には和歌山市で水道管が通る橋が崩落して広範囲で断水が発生。首都圏を襲った地震でも漏水事故が起きた。人口減少による水道事業の財政難で老朽化する施設の更新が滞っていることなどが背景にある。耐用年数を超えた水道管は全国に約13万キロある。頻発する事故は対策が進まぬ水道行政に警鐘を鳴らしている。10月3日、和歌山市の紀の川に架かる「水管橋」が崩落した。市内の約6万戸が断水し、復旧工事を経て断水が解消されるのに1週間ほどかかった。11月下旬になっても水管橋は崩落したまま。近くの道路橋に仮設の水道管が設けられたため通行止めとなり、周辺の別の道路橋では車の混雑が続いた。「普段、何気なく使う水道のありがたさを痛感した」。市内の女性(79)は振り返る。親戚らに自宅まで車で水を運んでもらったが、トイレや洗濯のたびに重い容器を持ち上げる必要があり「体にこたえたし、心理的にもストレスだった」。100人以上の透析患者がいるクリニックは透析に必要な水を給水車で提供してもらったが、入院患者の入浴や洗濯を制限せざるを得なかった。市によると、崩落事故は橋のアーチ部分から水道管をつっている鋼管製のつり材が腐食して切れたことが原因とみられる。橋は地方公営企業法施行規則に基づく耐用年数の48年を2023年3月に迎える予定だった。目視による点検の甘さも指摘され、市は調査委員会を設けて原因究明を進める。10月7日に首都圏で震度5強を観測した地震でも千葉県市原市の川に架かる水管橋の水道管から水が噴き出した。水道管の接続部分を固定するボルトが経年劣化で腐食していたとみられる。厚生労働省によると、水道管の事故は19年度、全国で約2万件報告された。水道管の法定耐用年数は40年。水道は高度経済成長期の1960~70年代に急速に普及し、多くが更新時期を迎えている。2018年度の総延長約72万キロのうち17.6%にあたる約13万キロが耐用年数を超えている。一方で、01年度は1.54%だった水道管の年間の更新率は18年度は0.68%に低下した。人口減少や節水の影響で使用水量が減り、料金収入による独立採算制である水道事業の経営が苦しくなったことが要因の一つだ。行政のスリム化や団塊世代の大量退職で工事に必要な人材も不足している。更新時期を迎える水道の工事計画や管理に遅れが生じている自治体もある。大阪市では水道管の総延長約5200キロのうち、法定耐用年数を超えた割合が21年3月末時点で51%に達した。20年度の水道事業収益は559億円でピーク時(1998年度)から約4割減り、関わる職員数もピーク時(75年度)の半分以下。市は18~27年度に1000キロの水道管を交換する計画だが「更新できる水道管は年間60~70キロが限界」(担当者)という。同市は20年10月、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)形式の活用を目指し、約1800キロの水道管を16年間で交換する民間事業者を公募したが、応募した2者が辞退し頓挫した。採算が取れないと判断したもようで先行きの厳しさが透ける。対策に乗り出す自治体もある。香川県は18年、県内16市町の事業を統合し、県広域水道企業団による全国初の「1県1水道体制」を導入。特に老朽化が進む施設の改修を優先するなど効率的な事業につなげている。福岡県飯塚市は22年1月、水道料金の平均35%値上げに踏み切る。水道事業は料金収入の低迷で3年連続で赤字。水道管の老朽化が進んでおり、更新や耐震化のために値上げを決めた。近畿大の浦上拓也教授(公益事業論)は水道事業の広域連携について「各自治体で異なる水道料金の統一などがハードルとなり順調に進んでいない。都道府県がリーダーシップを発揮する必要がある」と指摘。値上げには「住民に十分に説明し理解を得るべきだ」と話す。

*7-5:https://news.yahoo.co.jp/articles/1b793a9cfecd746795b151a13928833cdeda18ad (朝日新聞 2021.11.24) 「最後のとりで」に異例の対応 石油の国家備蓄放出、政府の言い分は
 米バイデン政権が23日、日本や中国、インドなど主な消費国と協調して石油備蓄を放出することを表明した。日本政府も石油の国家備蓄を初めて放出する方針だ。具体的な放出量や時期などを示していない国もあり、原油価格を下げる効果は見通せない。日本の石油備蓄は国が所有する国家備蓄と、石油会社に法律で義務づけている民間備蓄などがある。国家備蓄は全国10カ所の基地などで国内需要の約90日分以上を貯蔵することとし、民間備蓄は70日分以上と定めている。国家備蓄は9月末時点で145日分と目標を大きく上回っている。貯蔵している絶対量は1990年代後半からほぼ変わっていない。国内の石油消費量は省エネなどで減少傾向にあり、日数換算でみると増えている。政府はこの「余剰分」を放出するとみられる。政府は国内の需要動向などをみながら、国家備蓄の原油の種類を少しずつ入れ替えている。そのたびに一部をアジアの石油市場で売却しているという。今回放出する場合は、同じように市場に売却できないか詰めている。売却の収入は、ガソリン価格抑制のために石油元売り各社へ出す補助金の財源にする案もある。ただ、これまで備蓄を放出したのは、紛争や災害時で供給不足が心配されるときだ。レギュラーガソリンの平均価格が1リットルあたり185・1円と史上最高値を記録した2008年にも放出しなかった。放出する場合でも、まずは民間備蓄で対応し、国家備蓄には手をつけなかった。なにかあれば民間分を先に出し、国家備蓄は「最後のとりで」として温存しておくためだ。民間備蓄は国内の石油元売り会社のタンクに貯蔵されており、放出分を国内のガソリンスタンドなどに届けやすいこともある。政府は、余剰分の放出は目標量は満たしたままなので問題ないとしている。放出量も国内需要の数日分と限定的だ。米国との協調を演出するため、異例の対応に踏み出す。だが、これまで国家備蓄量を増やすことはあっても、大きく減らすことはまずなかった。多額の税金を投入し備蓄基地をつくったのに、空きタンクができかねない。10月に閣議決定されたエネルギー基本計画も「引き続き石油備蓄水準を維持する」と明記している。国家備蓄に初めて手をつけるなら、政府には十分な説明が求められる。

*7-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211125&ng=DGKKZO77853740V21C21A1EA2000 (日経新聞 2021.11.25) 水素製造量が世界最大級の装置 旭化成、25年商用化
 旭化成は2025年に再生可能エネルギー由来の電気で水素を作ることができる装置を商用化する。水素製造量で世界最大級の装置で、製造する水素価格を30年に1キログラム330円と現在の流通価格の約3分の1へ引き下げを目指す。水素を活用した事業の採算が見込みやすくなり、脱炭素のカギを握るとされる水素供給網の整備が進む可能性がある。脱炭素の流れを受けて水素需要は拡大が見込まれており、その供給網の中核を水素製造装置が担う。旭化成は福島県で、水素の製造量を決める最大出力で10メガワットの装置の実証実験を実施しており、これを基に25年から受注を始める。欧州や中東などに売り込む。大型装置の量産を進めることで、現在1キロワットあたり20万円とされる装置価格を30年に5万円に下げる。水素価格を流通価格の3分の1程度に抑えられ、政府が水素普及に向けて掲げる30年目標と同程度になる。旭化成は複数の装置をつなぐ技術開発も進め、20年代後半には100メガワット規模に大規模化する計画だ。

<農林漁業の再エネによる副収入>
PS(2021年11月22日追加):農林漁業は再エネによって副収入を得られる広い敷地を持っているため、①再エネによる副収入で農林漁業の収入を増加させることができ ②これにより国の補助金を減らすこともでき ③燃料費を地域外に吸い取られることなく地域内での消費に回すことができ ④分散発電によって停電のリスクも軽減できる。しかし、国が原発と化石燃料を安価で安定的なベースロード電源としたため、日本で芽生えていた再エネ機器の開発は、*8-2のように途絶えてしまった。本当に、先の見えない情けない国である。その上、*8-1は、「原発の使用済核燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分方法は、原発の恩恵を享受してきた国民全体で解決すべき問題」としているが、私は「発電方法は原発や化石燃料でなければならない」と言ったことは一度もなく、電力小売全面自由化(2016年4月1日)まで電源選択の自由が国民に与えられていたわけではないため、「原発は安全・安心・安価で安定的な電源だ」と主張してきた人が全責任を負うべきだと思う。さらに、私自身は、京都議定書前後から国会議員時代も含めて、(馬鹿にされながら)一貫して再エネを増やすことを主張してきており、現在の結果は見えていたので、集団で悪乗りして誤った政策を進めた人たちが責任を負うのが当然である。
 また、原発や化石燃料による集中発電が電力の安定供給に繋がるわけでないことは、*8-3の北海道地震で発生した大規模停電からも明らかだ。その後、酪農家や乳業メーカーに非常用自家発電機の導入を支援する地方自治体が出てきたのはよいが、その非常用自家発電機も風力・太陽光などの再エネ発電・蓄電設備・EV機器等を組み合わせたものではなく、化石燃料で動くため脱炭素に貢献しない。つまり、リスク管理は分散が原則で、災害がある度に先を見据えた一段上の装備をしながら復興するのが無駄のない復興予算の使い方なのである。

   
2021.10.22佐賀新聞         2021.10.20東京新聞      2017.11.14Goo

(図の説明:1番左の図のように、日本は2030年でも火力発電を41%、原子力発電を20~22%も使う予定であり、その理由について「安価な安定電源だから」と嘘八百の説明をしている。そして、左から2番目の図のように、老朽原発の耐用年数を20年延長するなど原発建設当初よりも安全性に対して甘くしているのだ。さらに、右から2番目の図のように、核燃料サイクルは頓挫している上、1番右の図のように、最終処分場に適した地域も少ない)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15118312.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年11月21日) 核ごみ調査1年 計画への不信感直視を
 原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地をめぐる文献調査が北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で始まって1年がたった。国の計画では、文献調査は2年間の予定で、次には概要調査が控える。ただし、事業を進める経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)は、知事や町村長が反対すれば次の段階には進まないとしている。両自治体には、調査の進捗(しんちょく)や事業に関する情報を共有する「対話の場」がつくられたが、議論はまだ緒に就いたばかりだ。しかしながら、現地から早くも聞こえてくるのは調査をめぐる対立や分断である。たとえば寿都町では先月、調査への応募を決めた現職の町長と、反対を訴える新顔との間で、町を二分する選挙戦が繰り広げられた。両自治体に隣接する複数の自治体では、放射性物質を持ち込ませない「核抜き条例」が成立し、調査に伴う交付金も、道と周辺の多くの自治体が受け取りを辞退している。調査を容認すれば、計画は止まらないのではないかという不信感が根強くある。候補になりうる地域を示した「科学的特性マップ」を4年前に公表後、NUMOと経産省が全国各地で開く説明会は100回を超え、いまも続くが、両自治体に続くところはない。調査を含めた現行の計画が、地域で理解され、検討されるにはほど遠い状況にあることを、謙虚に受け止めなければならない。さらには破綻(はたん)した核燃料サイクルを前提とした計画そのものへの不信もあると見るべきだ。自民党総裁選では、河野太郎氏が核燃サイクルの見直しを掲げ、使用済み燃料を再処理せずに埋める「直接処分」に踏み込んだ。処分地建設で先行する北欧をはじめ海外でも直接処分が主流である。プルトニウムやウランを取り出す再処理をしなければ廃棄物の体積や有害度も変わるため、いまの計画は変更を迫られる。そもそもNUMOは原発の「環境整備」が目的の組織であり、最終処分地決定は原発運転継続の口実にもなりえ、際限なく廃棄物が持ち込まれるのではないかとの疑念もぬぐえない。岸田首相はコロナ対策で「最悪の事態を想定した危機管理」を唱える。そうであるなら、使い道のない大量のプルトニウムを抱え込むことになりかねない再処理や核燃サイクルの非現実性を直視したうえで、最終処分地について考える必要がある。
すでにある使用済み燃料をどう管理し、処分するのか――これは特定の地域ではなく、原発の恩恵を享受してきた国民全体で解決すべき問題である。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190512&ng=DGKKZO44689180R10C19A5EA5000 (日経新聞 2019年5月12日) 再生エネ機器 生産急減、風力9割縮小、太陽光は半分 中国勢、低価格で攻勢
 再生可能エネルギー関連機器の国内生産が急減している。風力関連の生産額は2018年度に100億円台に落ち込み、9年間で9割減ったもようだ。太陽光も同年度の生産額がピークから半減した。日本企業は生産規模の拡大で出遅れ、欧米・中国勢の価格攻勢を受けている。政府は再生エネを成長産業と位置づけて国民負担も膨らんでいるが、国内生産の空洞化が止まらない状況になっている。日本産業機械工業会がまとめた17年度の風力発電関連機器の生産額は265億円と、16年度の3分の1となった。18年度は統計がある09年度と比べて9割超の落ち込みとなったもようだ。陸上に設置する風車では15年に三菱重工業が新規の製造をやめ、17年3月末には日本製鋼所が風力発電機の最終出荷を終了した。部品を手掛けるナブテスコや曙ブレーキ工業なども関連部品の生産を取りやめている。日本の風力市場はデンマークのヴェスタスや米ゼネラル・エレクトリック、独シーメンス系が席巻。三菱重工はヴェスタスと洋上風力の合弁会社を持つが、生産はデンマークなどで手掛ける。小型の風車では中国勢が攻勢をかけている。生産額が減少しているのは風力だけでない。光産業技術振興協会によると、太陽光パネルやパワーコンディショナー(電力変換装置)などの国内生産額は18年度に1兆7322億円となり、ピークだった14年度から半減した。特に太陽光パネル関連の生産額は13年度からの5年で約4分の1に減った。京セラは17年に伊勢工場(三重県伊勢市)で太陽光パネルの生産を中止。三菱電機は太陽光パネルの中核部材であるセルの生産を18年3月でやめた。パナソニックも18年に滋賀工場(大津市)を閉鎖し、マレーシア工場に移管した。だが今月9日にはそのマレーシア工場を中国企業に売却すると発表した。太陽光パネルではシャープが06年まで世界シェア首位で、風力発電機でも日立製作所や三菱重工が世界の大手に名を連ねていた。ただ市場拡大を見越して生産規模の拡大に走る欧米や中国勢に対し、日本勢は設備投資に二の足を踏み価格競争力が低下した。誤算だったのが12年に導入された再生エネの買い取り制度(FIT)だ。太陽光からつくる電力に高い価格がついたため、太陽光に投資が集中。環境影響評価に5年ほどかかる風力への投資は敬遠され、日本勢の撤退が相次いだ。投資が集中した太陽光も、国内製パネルでは国内需要をまかなえず、海外製パネルの流入を招いた。17年に京セラが国内シェア首位から転落し、中国や韓国企業が低価格で攻勢を掛けている。FIT費用の一部を電気代に上乗せする賦課金は18年度に2.4兆円に膨らみ、消費税1%分に相当する。家計などの国民負担によって発電事業者は利益をあげる一方、機器メーカーは生産を縮小し続けている。今後も国内生産の縮小傾向は続く見込みだ。制御機器大手のIDECは18年9月末で太陽光発電向けのパワコンから撤退。日立は19年1月に風力設備の自社生産から撤退すると発表し、国内の風力発電機メーカーは事実上なくなる。日立は6月には家庭向け太陽光のパワコン生産をやめる。英国や台湾には洋上風力の入札時に機器の自国・地域からの調達を重視して落札者を決めるなど、FITを産業振興に結びつける枠組みがある。米国やインドでは、割安な中国製太陽光パネルを念頭に18年から輸入品に対するセーフガード(緊急輸入制限)を発動し、25~30%の関税を課した。米国では米ファーストソーラーが18年12月期に最終黒字に転換し一定の成果があった。だがインドでは中国企業が東南アジアで生産したパネルの流入を招き、国内産業を育成できていない。産業振興で決定的な対策があるわけではない。日本では風力の発電能力が30年度までに現状の10倍程度に膨らむ見込み。外資に国内市場のハードを席巻されたなか日本勢には「エネルギー管理などシステムに力を入れ、海外勢と違いを出す」との声もある。国のエネルギー政策をにらみながら新たな収益分野を確保できるかが課題となる。

*8-3:https://www.agrinews.co.jp/p47585.html (日本農業新聞 2019年4月9日) 停電から生乳守れ 自家発電助成 各地で進む
 昨年9月の北海道地震で発生した大規模停電を教訓に、酪農家や生乳を受け入れる乳業メーカー工場に対し、非常用自家発電機の導入を支援する地方自治体が出てきた。大規模停電時も生乳出荷が安定的にできるようにし、酪農家の経営安定につなげる。
●関連装置費も 鳥取県
 鳥取県は、2019年度予算で「酪農用非常電源緊急整備事業」として約3910万円を計上した。自家発電機導入には国が最大2分の1を補助するが、電気の安定供給に必要な配電盤などの装置は補助対象外。駆動にトラクターの動力取り出し軸(PTO)機能を活用する発電機は、トラクターとつなぐジョイントも必要だが、国の補助に含まれない。こうした関連装置について、4月1日以降に購入した場合、4分の1を助成する。県内の生乳生産、処理販売を担う大山乳業農協が4分の1を負担するため、酪農家の負担は実質半額になる。大山乳業農協の冷蔵貯乳タンク用非常電源整備についても、費用の12分の1を補助する。県は「災害はいつ起きるか分からない。早急に対策を進めてほしい」と助成の活用を呼び掛ける。
●JAと一体で 北海道標茶町
 北海道標茶町も19年度予算で、酪農家らの自家発電機導入を支援する。2400万円を計上し、1戸当たり最大20万円を助成する。これとは別に地元・JAしべちゃも昨年から独自支援を展開中で、JA、町が一体となって全農家約300戸での導入を目指す。JAの支援は自家発電機の導入に際し、1経営体当たり最大30万円を助成するというもの。希望者にはリースでも対応する。リース期間は5年と7年で、既に20経営体から受け付けた。JAの鈴木重充専務は「牛の健康を第一に国や町と一体で対応した。速やかな停電対策を進めたい」と意気込む。同町のコネクト牧場の坂井三智代表は「生産者も可能な限り災害に備えるが、生乳を受け入れる企業にも的確な対応をお願いしたい」と要望する。

<養殖の可能性>
PS(2021年11月26日):*9-1のように、鮮度が高く環境負荷の低いサーモンを国内消費者に供給するため、静岡県に年間生産量5300tという国内最大級の陸上養殖施設を建設しているProximarに、JA三井リースが工場建設資金として25億円を融資したそうだ。また、海のない埼玉県でも、*9-2のように、魚を養殖する取り組みが広がっており、サバやウニの養殖に挑戦中とのことである。
 なお、*9-3のように、ウニが海藻類を食べ尽くす磯焼けが深刻化しているという三陸沿岸で、夏の漁期に餌が減り実入りの悪いウニが多くなるので蓄養試験をしており、常に光を当てて人工的に育てた蓄養ウニが通年出荷に向けて期待を高めているそうだ。私は、餌の食べ残しがあって海水が富栄養化する養殖魚の生け簀の下に海藻を植え、そこでウニなどの海藻を食べる動物を飼えば、環境と経済が両立すると考える。


   2015.1.5Daiamond          農林水産省     2021.3.30 PRTimes

(図の説明:左図のように、完全養殖できる魚種が増え、全国各地で養殖され始めた。また、中央の図のように、50%以上が養殖魚という魚も増えている。なお、ウニが海藻を食べつくして磯焼けの原因になると書いている記事が多いが、右図のように、増えすぎたウニを蓄養しながら海藻を増やす方法もある)

*9-1:https://www.jacom.or.jp/kinyu/news/2021/11/211117-55137.php (JAcom 2021年11月17日) 国内初アトランティックサーモン大規模陸上養殖事業者へ融資 JA三井リース
[JA三井リースは11月17日、ノルウェー法人Proximar Seafood ASの100%子会社であるProximarに、工場建設資金として25億円を融資したことを発表した]
 Proximar Seafood ASは、世界有数のアトランティックサーモン養殖事業者Grieg Seafood ASAを傘下に持つノルウェーの企業グループGriegとの強固な関係を背景に、閉鎖循環型養殖システム「Recirculating Aquaculture System」(RAS)を活用したサーモンの陸上養殖事業を展開するため2015年に設立された。現在、同社の日本法人Proximarが静岡県小山町に年間生産量5300トンという国内最大級の陸上養殖施設を建設している。従来、日本で流通する生鮮アトランティックサーモンは主にノルウェーからの空輸に頼っているが、Proximarの陸上養殖で、より鮮度の高いアトランティックサーモンを国内消費者へ供給。さらにノルウェー・日本間の空輸により生じるCO2削減やRAS技術の活用による海洋環境への負荷ゼロなど環境課題にも貢献できる。JA三井リースグループは、農林水産業の持続的成長への貢献をサステナビリティ経営における重要な取組課題として位置付け、最適なフードバリューチェーンの構築に向けて国内外でソリューションを提供。このほど、Proximarが立ち上げた陸上養殖事業の将来性と社会的意義に着目し、工場建設資金の一部として25億円を融資した。

*9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC250W50V21C21A1000000/ (日経新聞 2021年11月25日) 海なし県でサバやウニ 埼玉県内で養殖広がる
 海なし県の埼玉県で魚を養殖する取り組みが広がっている。温浴施設を運営する温泉道場(埼玉県ときがわ町)が10月に神川町でサバの室内養殖場を開設したほか、久喜市の温泉施設は温泉を使ったウニの養殖に挑戦中だ。新鮮な水産物を施設で楽しんでもらい、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ集客力の回復や、新たな特産品を目指す。温泉道場の温浴施設「おふろcafe白寿の湯」(神川町)に県内初となるサバの陸上養殖場が誕生した。養殖場の広さは約200平方メートルで、3基の水槽やろ過設備を設置した。サバ養殖を手掛けるフィッシュ・バイオテック(大阪府豊中市)から生育方法などの助言を受けながら1年半ほどかけて稚魚から育てる見込み。今後成長したサバは温浴施設にあるレストランで提供したい考えだ。海で育ったサバは生食することが難しいとされるが、施設内で養殖されたサバは生で食べられるのが特徴だ。建物内で水をろ過して循環させる完全閉鎖型の施設のため、寄生虫のアニサキスの心配がないという。養殖場の見学会なども実施して、地域の盛り上げ役の一翼を担う。温泉道場の山崎寿樹社長は「ここからがスタート。海なし県埼玉で新鮮な魚を食べてもらいたい」と話す。神川町の山崎正弘町長も「将来にわたって希望のある取り組み。地域産業の活性化につながると期待している」と歓迎する。温泉を使ってウニの養殖を目指すのは久喜市で「森のせせらぎ なごみ」を運営する山竹(同市)だ。地下約1500メートルからくみ上げた塩分濃度6%の温泉を使用し、研究を重ねる。ウニは雑食性のため、沿岸部でウニが周辺漁場で海藻類を食べ尽くす「磯焼け」が課題となり、駆除に取り組む地域もある。同社はそうした地域で駆除されたウニを利活用し、5月から飼育を始めた。現在はエサとしてワカメを与えているが、今後は地元で生産され余った野菜をエサとして与えることで「フードロスの削減にもつなげられたら」(山中大吾専務)と話す。コロナ禍で来店客数が減り、施設内のレストランの需要も大きく落ち込んだ。養殖したウニを使った料理を提供して、集客力の回復に役立てたい考えだ。ただ、屋内施設での養殖は一筋縄では行かない。行田市内の温泉施設は、駐車場の一部スペースを活用してふぐの屋内養殖を手掛けていたが、採算面や養殖の難しさから昨年養殖をやめたという。海なし県の新たな特産品として地元住民らに親しんでもらえるようになるか。各事業者の挑戦はこれからが正念場だ。

*9-3:https://kahoku.news/articles/20210910khn000018.html (河北新報 2021年9月10日) 実がたっぷり「蓄養ウニ」初水揚げ 通年出荷への期待高まる
 岩手県大船渡市三陸町綾里地区で、常に光を当てて人工的に育てた蓄養ウニが9日、初水揚げされた。天然ウニならば既に漁期が過ぎているが、蓄養は実入りが良く、関係者は「上々の成果」と顔をほころばせた。出荷時季が限定されてきたウニの通年出荷に向け、期待を高めた。ダイバー2人が蓄養池に入り、約1000個、100キロのキタムラサキウニを拾い集めた。蓄養試験を手掛ける岩手県の担当者によると、可食部の生殖腺の重さは16・2グラムで、盛漁期の天然ウニと同程度の量となった。蓄養を始めた6月時点は6・8グラムだった。通常、ウニの漁期は8月初めまでで、お盆を過ぎると産卵期を迎えて品質が悪くなる。蓄養池では夜間、発光ダイオード(LED)照明を点灯。ウニに季節の変化を感じさせず、産卵期前の状態を保つことができたという。餌はコンブやワカメを与えた。県大船渡水産振興センターの山野目健上席水産業普及指導員(56)は「光の効果を屋外で実証できたのは画期的。天然物が出回らない端境期にも出荷できるようになる」と成果を強調した。10月以降も条件を変えて試験を続ける。三陸沿岸では近年、海水温の上昇で冬場にウニが海藻類を食べ尽くす磯焼けが深刻化。夏の漁期には餌が減り、実入りの悪いウニばかりになるという悪循環が続く。蓄養試験は磯焼け対策や生産者の所得向上を目指し、県が県内4カ所で行っている。大船渡では綾里漁協の協力を得た。残りのウニは17日に取る予定。今回の水揚げ分を含め全ては市内の「道の駅さんりく」の運営会社に出荷され、同駅で販売される。[蓄養]価格の安定や出荷調整を目的に、天然の魚類や甲殻類、貝類などをいけすなどで育て、短期間で大きくしたり太らせたりする飼育方法。

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2021.8.14~28 地方の重要性 (2021年8月29、30日、年9月1日追加)
  
      2021.7.16日経新聞      2021.7.16日経新聞 2021.8.13日経新聞

(図の説明:左と中央の図は都道府県別人口増減率で、今でも関東圏と福岡県・愛知県に集中し続けており、例外は沖縄県だ。その理由は、国策として関東・東海に集中投資して工業地帯を作ったこと、関東圏に若者を吸収する大学が多いことなどが理由であり、地方がさぼっていたからではない。沖縄県は、近年、地の利を生かして観光に力を入れ、出生率も低くないため、人口が増えている。右図は、最近、移住等に力を入れて人口を増やした市町村で、企業誘致を進めて働く場所を増やしたり、東京への通勤圏になったり、若者の支援に力を入れたりしているのだ)


    2021.7.2日経新聞       2021.7.2日経新聞    2021.8.13日経新聞

(図の説明:左図は、都道府県の住民所得は生産年齢人口の数と正の相関関係があるというグラフで、主たる稼ぎ手が生産年齢人口であることを考えれば当然だ。しかし、中央の図のように、農林漁業で個人所得を増やして個人住民税を増やした町村、区画整理・宅地造成で転入者を増やして個人住民税を増やした町村もある。ただ、沖縄県与那国島の自衛隊駐屯地誘致による個人住民税の増加は、新しく稼ぎだした所得というより所得移転によるものと言える。なお、右図のように、政府は「地域おこし協力隊」「地域活性化起業人」「テレワークの推進」などで移住促進計画を打ち出しているが、主たる産業の地方移転や筋の通った地方産業の活性化がなければ、ボランティアと腰掛に終わると思う)

(1)農業の高付加価値化による地方の産業高度化へ
1)カイコから新型コロナワクチン
 新型コロナについて、政府(特に厚労省)及び厚労省専門家会議は、2021年8月になっても「人流を減らす」しか言えていないが、*1-1-1は、①九大は世界的なカイコの研究機関で、2020年6月26日、カイコで新型コロナウイルスのスパイク蛋白質を生成できることを確認してワクチン候補となる蛋白質を開発することに成功したと発表し ②このスパイク蛋白質を注射したマウスに抗体ができるか否かの実験を2020年内に終わらせる方針で ③昆虫工場による大量生産により数千円で接種できるワクチンの臨床研究開始を来年度にめざす としている。

 その後、この研究は、どうなったのだろうか。結果を出すのが遅すぎると他のワクチンが世界中に出回り、それよりよほど品質がよくて安価であることを証明できない限り、販売するに至らずもったいないことになる。そして、この技術を実用化しなければ、農業を高度化・高付加価値化する1つのよい機会が失われてもったいないのである。

 なお、*1-1-2のように、遺伝子組換えカイコを使って新しい絹や医薬品の原料を作る研究が進んでおり、ヒト型コラーゲンを生成する遺伝子組換えカイコを作り、既に化粧品などに製品化しており、将来的には安全で安価な医薬品の製造も視野に入れているそうだ。私は、遺伝子組換えカイコが作る蛋白質で安全・安価な診断薬の原料となる抗体だけでなく、新型コロナの抗体も作ることができると考える。

2)米からコレラワクチン作成
 東大の清野特任教授と幸特任研究員らは、*1-2のように、コレラの毒素を構成する部品からワクチンに使える無害な部分の遺伝子を組み込んだコメからできたワクチンの安全性をヒトで確かめたそうだ。米粒の中にワクチンの成分が入っており、すりつぶしてコメの粉末を飲むとワクチンの成分が腸に届いて免疫をつくるのだそうだ。また、コメに成分を封じ込めたため冷やさなくても長期間保存でき、冷蔵管理が難しくコレラが蔓延しやすい発展途上国で利用しやすいとのことである。ノーベル賞もののすごい発明だし、米の付加価値も上がるだろう。

 なお、今後、遺伝子を組み換えたイネを大規模に栽培するためには、他にイネ科の植物がなく花粉が混じらない離島などの場所を選ぶか、ハウスで徹底管理するかする必要があるが、確かに、これなら理論上はあらゆる感染症のワクチンを同じ方法で開発でき、常温で保存できて、飲むだけで済むため利点が大きい。さらに、ワクチンだけでなく、抗体も作れると思う。

3)新型コロナの“治療”について
 新型コロナの「抗体カクテル療法」が、*1-4-1のように、入院患者にしか認められていなかったが宿泊療養者にも使えるようになったそうだ。しかし、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐ二つの中和抗体を組み合わせた薬であれば、軽症であればあるほど治癒しやすいので早期発見・早期治療が望ましいものの、中等症や重傷になっても根本的治療を何も行わずに「酸素吸入」「エクモ」を使った対症療法だけを行うよりは「抗体カクテル」を点滴した方が治癒しやすいので、厚労省が一律の単純な基準で制限を設けるよりも医師の判断に任せた方がよい。

 そうすると、「抗体カクテル」の量が足りなかったり、高価過ぎたりするのなら、世界で使っている安価なイベルメクチンやアビガンなど他の武器も承認すればよい。このような中、いつまでも「病床が足りない」「自宅で亡くなる人もいる」など、不作為による人災を災害であるかのように言うのはいい加減にしてもらいたい。

 なお、*1-4-2に、菅首相が、①自宅療養患者への連絡態勢を強化する ②患者が酸素投与を必要とした場合に対応する『酸素ステーション』を設ける ③軽症者の重症化を抑える抗体カクテル療法を集中的に使える拠点を整備する ④政府の新型コロナ感染症対策分科会提言を受けて、商業施設等の人流の抑制に取り組む と言われたそうだが、②③は別々の拠点ではなく、医師の判断で連続的に治療できるようにしなければ金ばかり使ってややこしくなるだけだ。

 また、①については、新型コロナにかこつけてデジタル診療を推し進めようとしている人がいるが、感染症のように他人に感染する急性疾患に「自宅療養+デジタル診療」は向かず、成人病の手術後のように長期の療養を要するが他人には感染しない慢性期の療養に自宅療養が向くのである。そのため、この違いの分からない人が政策を決めているのが敗因であり、政府の新型コロナ感染症対策分科会も、相変わらず④のように人流抑制しか提言できていないが、その理由は説明されず、理由を説明するためのエビデンスも示されていないのだ。

4)住宅への木材活用と3Dプリンター
 不動産各社が、*1-3-1のように、住宅に木材を活用する動きがあり、①住友不動産は戸建てリフォームで木材を再利用する取り組みを始め ②ケイアイスター不動産は注文住宅の国産材比率を100%に引き上げて環境配慮の姿勢を示し ③三井ホームは、強度や防音性などを高めてマンションを木造化できる新しい技術を開発して5階建て程度の中層マンションの木造化を進め ④三菱地所など建設・不動産7社も国産材の需要を掘り起こす取り組みを始めた そうだ。

 近年は、湾曲した木材や間伐材などから製材した板や角材を乾燥して、節や割れなどの欠点部を取り除き、接着剤で接着してつくる集成材もあり、天然材と比較してかえって強度・寸法安定性・耐久性に優れていたりする。

 また、*1-3-2のように、3Dプリンターを使って工場で住宅を製造して大型トレーラーで運んで施工するマイティ・ビルディングズのような会社もあり、⑤3Dプリンターに事前に図面データを入力し ⑥データ通りにノズルを動かし、紫外線を当てればすぐ硬くなる建築素材を噴射して積み重ね ⑦(例えば)天井部分の工程は、柱やパネルを設置した後で上から覆うように建築素材を噴出して形成し、固まった層は外壁や床材などになって現場工事が要らず ⑧小型住宅なら10日で完成し ⑨従来の建築工法と比べて費用を30%削減できる そうである。

 大林組も3Dプリンターで大型ベンチを試作し、竹中工務店は2023年以降にイベント施設などの建築向けに3Dプリンターを導入する考えで、3Dプリンターは自由にデザイン設計しやすく、製造に携わる人手を減らせることも利点なので、三菱重工業は国産ロケット「H3」でエンジン噴出口部品の加工に3Dプリンターを採用したそうだ。

 日本は災害が多いため建築法規制が厳しいのが課題だそうだが、集成材で骨組みを作り、3Dプリンターで作った小型の部屋を積み重ねれば、強度があり、軽くて断熱効果の高い住宅を、人手を省いて安価に作れそうだ。

5)再生医療と3Dプリンター
 再生医療でも、*1-3-2のように、医療スタートアップのサイフューズが開発した3Dプリンターは、臓器疾患のある患者から採取した細胞を培養し、細胞を剣山に刺していって次第に細胞同士がくっついて固まることにより数週間で患者専用の臓器を製造する。この臓器は、患者自身の細胞で作るため移植後に感染症や拒絶反応が生じにくく、まず血管や骨軟骨などで臨床試験に入るそうで、2025年度にも移植手術で利用できるようにしたいそうだ。

 3Dプリンターで作って欲しい患者専用臓器(歯も含む)には、ほかにどんなものがあるかを意見募集すると意外性があって有意義だろう。

6)代替肉と3Dプリンター
 食品業界では、*1-3-2のように、イスラエルのリディファイン・ミートが3Dプリンターで代替肉によるステーキなどを製造する技術を開発し、アジア市場ではハンバーガーなどの製品群を2022年に提供する方針だそうだ。3Dプリンターが得意な分野を見いだして使いこなすことで、かなりのイノベーションが期待できる。

(2)農林漁業の販売力向上による地方産業の高度化

 
2021.8.14日経新聞 2021.8.12ふるさと納税ガイド 2021.7.29時事 2021.8.15日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、農業産出額は北海道・宮崎県・鹿児島県の市町で多く、ふるさと納税受入額の大きい地域と一致しているが、そこには努力があるのである。また、左から2番目の図のように、九州7県のうち5県までがふるさと納税受入額上位10県に入っている。ふるさと納税受入総額は、右から2番目の図のように著しく増えたが、これは皆で育てた結果だ。なお、1番右の図のように、日本の品種であるシャインマスカットの生産量・輸出量は韓国の方が大きくなっており、これは情けない限りだ)

1)農業の販売力向上と関連産業育成による地域での付加価値増加ついて
 *2-1は、「①2019年の農業総産出額は8兆8938億円で、北海道が1位で1兆2558億円、2位以下は鹿児島県・茨城県・千葉県・宮崎県・熊本県の順」「②農業競争力に大きな差が生じ、過去5年間で全国1741市区町村のうち6割が産出額増加、4割が減少」「③1960年時点は米どころが上位だったが、米の需要低下で稼げる農業の内訳が一変」「④躍進する九州勢の取り組みは地域ブランドを活用した『売れる農業』」「⑤稲作から施設を使った畜産・園芸への転換を進めた宮崎県などの九州勢が躍り出た」「⑥稼ぐ力を確立した地域が強みを発揮する」「⑦宮崎県では関係者が一丸となった競争力向上の取り組みが進み、県は1994年に『みやざきブランド確立戦略構想』を策定して『作ったものを売る』から『売れるものを作る』を目標にした」等を記載している。

 このうち、⑥については、宮崎県や鹿児島県は1994年頃からやっていたのかもしれないが、私が衆議院議員になった2005年の段階で佐賀県の地元農協や農家を廻った時には、まだ「ブランド戦略」「『作ったものを売る』から『売れるものを作る』発想」はあまりなく、「米が安すぎる」「補助金が欲しい」という話が多かった。そのため、「食料自給率は低いのに・・」と思って自民党の農林部会で問題提議したところ、農水省は「国民が米より小麦製品を多く食べるようになって不得意分野の比重が高くなったから」と答えた。つまり、「国民が米を食べればいいのに」という発想だったし、意思決定権者が男性中心で栄養学の知識に乏しいためか、その発想は今でも残っている。

 私は唖然としながら、製造業の監査・原価計算・経済学で得た知識・経験をフル活用し、i)大規模化による生産性の向上 ii)転作補助金の作成 iii)副産物の活用 iv)農地・水・環境維持のための補助金作成 などを行った。そのうちに、経産省が農業の6次産業化案を出して、第一次産業として原料を作るだけでなく、第二次産業の加工や第三次産業のサービスも組み合わせて地域で付加価値を高めることになり、現在に至っているわけである。

2)ふるさと納税の意義は、地方自治体の財源だけではないこと
 地方公務員も税金で養われているため、「新しいことをして摩擦が生じるよりも現状維持のまま問題を起こさない方がよい」という現状維持型・やる気なしの人が多い。そのため、ふるさと納税で地方の努力を誘発しなければ、都会に集中する税収から地方交付税という形で多くの金を地方に配分し、少ない機関車で多くの客車を引っ張らなければならなくなって大変なのである。

 そのような中、私が提案してできた「ふるさと納税」は、生産年齢人口の多くが都会に出るため税収が増えにくい地方の財源を少し取り戻しただけでなく、地方公務員をやる気にさせて地域ぐるみで優良な産品を作り出すのにも役立った。その理由は、i)地方公務員が頑張れば頑張るほど、目に見えて地方税収が増え ii)都会の消費者が価値あると感じる物を、地方公務員と農林漁業者が直接知ることができ iii)地方に多い農林水産物の価値を知るため、地域ぐるみでそれを高める工夫に繋がり iv)一村一品どころではない地方の製品の発掘・開発が進んだ からである。

 そのふるさと納税は、*2-2-1のように、2020年度の寄付総額が約6,725億円で過去最高になり、嬉しいことだ。「巣ごもり需要」を背景に各地の返礼品を探して楽しむ寄付者が増えたためとのことだが、寄付総額は2019年度の1.4倍に増加し、自治体別の受け入れ額は、1位が宮崎県都城市の135億2,500万円で、2位が北海道紋別市の133億9,300万円であり、これは農業の高付加価値化の努力をしている県と重なっている。

 また、ふるさと納税による2021年度の住民税控除額は約4,311億円で、東京都が参加していないため、最多は横浜市の176億9,500万円で、次は名古屋市の106億4,900万円、大阪市の91億7,600万円の順だった。

 なお、*2-2-2のように、今後は太陽光発電や風力発電などの再エネの普及が進み、電気の約半分は市内産という長崎県五島市のように「原料の安全・安心は当たり前」「島の風と太陽から生まれた電気で製造」という取り組みや福島県楢葉町・愛知県豊田市・大阪府泉佐野市などが提供していた電気の返礼品なども増えると面白い。

3)それでは、見直すべきは何なのか
 このような中、*2-2-3は、「①ふるさと納税による寄付の膨張が止まらない」「②コロナ対策で農水省が始めた農林水産品の販売促進の補助金を使えば返礼率を大幅に高めることができる」「③高所得者ほど返礼品を多く受け取れ税優遇も大きい」「④昨年度の寄付額から換算すると全体で約3千億円の税収が失われたことになる」「⑤コロナ感染が特に広がっている東京などの都市部は、財源の流出で感染対策の費用を賄えない事態になっては困る」「⑥自治体間の財政力格差を是正するなら、今の地方税や地方交付税のあり方が妥当か否かを正面から論じるべき」「⑦ふるさと納税を続けるなら、返礼品をなくすなど抜本的に制度をつくり変えるべき」「⑧見直しの議論は進んでいない」と記載している。

 しかし、①は、努力の賜物であって喜ばしいことであり、②は、東京で大流行している新型コロナによる東京での飲食店閉鎖で行き場を失った原材料の農水産物の販促を農水省が手伝い、これに市民が協力しているということで、高所得者は累進課税で多額の税を支払っており、ふるさと納税の限度額はそのごく一部にすぎないため、③はひがみ・妬みを利用した誹謗中傷である。また、④はどうやって計算するのかわからないが、⑤を含めて、もともと東京には投資が集中しているのに、東京五輪でさらに東京に集中投資した金額と比較すれば小さなものである。

 そして、⑥は、消費税の全額地方税化など考えられる変更はありうるが、だからといって、このままでは都市部に生産年齢人口が集中するのは避けられないため、地方分散の名案を提案して見せるべきである。さらに、⑦⑧は、全貌の見えていない人が、「高所得者への妬み」と「返礼品憎し」で述べた主張であるため、実現すれば改悪になる。

4)特許権・商標権登録の重要性
 高級ブドウ「シャインマスカット」など日本で開発されたブランド品種が、*2-3のように海外流出し、流出先の韓国で輸出の主力となって日本の5倍超の輸出額になったそうだ。また、栽培規模は日本1,200ha、韓国1,800ha、中国5万3,000haと桁違いだそうで、これでは日本のブランド農産物輸出額が減少する。
 
 日本が開発費を支払って開発した品種は日本の財産であるため護るのが当然だが、法規制がされていなかったり、法規制しても実効性のない形で行われていたりすることが多い。ただ、葡萄やイチゴなど、果実を輸出すれば種も同時に輸出され、その種から栽培することが可能なものは流出防止できないため、世界ベースで特許権・商標権を登録しておくことが重要なのである。

(3)再エネによる地方産業の育成


 2021.5.22日経新聞        2021.6.3日経新聞       2021.6.3日経新聞

(図の説明:左図のように、日本でEVにくだらないケチを付けている間に、世界では車載電池の寡占が進み、中国・韓国の企業が善戦している。そして、中央の図のように、確かに電池も進歩しており、リチウムイオン電池の容量も大きくなったが、さらに安心して使えるためには、安価な全固体電池の市場投入が必要だ。また、右図のように、全固体電池をめぐる主なプレーヤーは、自動車会社と電機メーカーである)

  
2021.6.3日経新聞       2021.6.3日経新聞         2021.8.19日経新聞

(図の説明:左図のように、EV電池はより小型に、その他はウェラブルなほど小さく軽くなるそうで楽しみだ。中央の図は、全固体電池の仕組みをリチウムイオン電池と比較したものである。ただし、右図のように、自動車は、EV化だけでなく自動運転化も進んでおり、これらは新しい技術であるため、その気になれば地方への工場誘致や地方企業の育成も可能だろう)

1)気候変動と再エネ
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2021年8月9日、*3-1-1のように、①産業革命前と比べて世界の気温は2021~2040年に1.5度上昇し ②人間活動の影響は疑う余地がなく ③自然災害を増やす温暖化を抑えるには二酸化炭素排出を実質ゼロにする必要がある と指摘しており、そのとおりだと思う。
 
 これについて、*3-1-2は、④報告書は2011~2020年で1.09度上昇し ⑤極地やシベリアで氷床や永久凍土の融解が報告され ⑥日本では巨大台風・豪雨、世界では異常熱波・大規模山火事が繰り返され ⑦当面続く気温上昇に備えて避難計画の見直し・食料確保等の対応が欠かせなくなり ⑧日本政府は、再エネ活用を模索すしつつ石炭火力の温存や家庭の取り組みに頼る姿勢を見せているが ⑨石炭火力の全廃・ガソリン車の販売禁止といった思い切った政策を早期に打ち出さなければ・・ と記載している。

 このうち、①②③④⑤⑥⑦は、実体験に近いが、⑧のように、日本政府が石炭火力に頼れば、「EVはCO₂削減に貢献しない」などという屁理屈を許してしまうため、⑨は重要なことである。さらに、石炭は輸入しなければならないが、再エネなら国産にすることができ、地方で再エネ発電を行えば地方の所得を増やすことができるのである。

 また、*3-2-1は、⑩日本最大の課題は脱炭素で ⑪環境問題対応が欧州を中心にスタンダード化した中で、日本も外圧で取り組まざるを得なくなったのは主体性がみえない ⑫米国もバイデン政権になって脱炭素に舵を切ったため、日本は外堀を埋められ ⑬2020年10月の菅義偉首相の決断がせめてもの救いだが ⑭約150年前の明治維新から日本は外圧による転換を繰り返し ⑮戦後の政治経済レジームも日本国憲法はじめ殆どが外圧によるもので  ⑯日本は自律的に変わらず、外圧がなければ改革できない ⑰今回の脱炭素を中心とした外圧も日本にとってチャンスとの見方もできる 等と記載している。

 環境問題の国際的認識は、(私の提案で)京都議定書から始まった。にもかかわらず、⑩⑰のとおり、再エネへの変換は日本にとってはプラスなのに、日本が主体性を持って世界をリードすることはできず、まさに⑪⑫⑭⑮⑯のように、欧米の外圧があってはじめて変わるわけである。⑬は、せめてもの救いだが、やはり遅い。つまり、変革は個人の意識と行動から始まるものであるため世代交代すればできるわけではないが、先見の明を持ち早く始めてトップランナーになった国・企業が大きな利益を得、慌ててついていく国・企業には座礁資産が多くなるのである。

2)再エネ由来の電源へ
 経産省は、*3-2-2のように、2030年度の電源構成で再エネの主力化を進める新たなエネルギー基本計画素案を有識者会議に提出したそうだが、未だにCO₂排出量の多い石炭火力や問題の多い原子力への依存を続ける姿勢だそうだ。

 政府が計画を抜本的に見直して脱炭素実現に不可欠な社会・経済の変革を促すことは重要で、それには、エネルギー基本計画に2030年までの石炭火力0、原発0を銘記すべきだ。そうすれば、2030年に向けてやるべきことは明確になり、それは送電網の整備・蓄電池の普及・発電場所の確保・場所にあった発電機の開発・再エネ関連機器の低コス化である。そして、“ベースロード電源”などという概念は廃止し、原発の新増設や建て替えはしないことにするのである。

 日本で「再エネは天候によって発電量が変動するから、“ベースロード電源”が必要だ」などと言ってぐずぐずしている間に、*3-2-3のように、米テスラは日本で送電向け蓄電池を国内相場の約5分の1の価格で販売し、その電池の調達元はEV向けも調達する世界大手の中国寧徳時代新能源科技だそうだ。寧徳時代新能源科技は、テスラと25年末までの新たな電池の供給契約を結び、新電力のグローバルエンジニアリングが北海道電力の送電網にテスラの蓄電池システムを接続して電力の調整弁として機能させるそうである。

 日本でも水素による蓄電方法や電池ができているが、方向が定まらずに右往左往して価格が高止まりしている間に、再エネ由来の利益も海外企業に持っていかれそうになっているわけだ。

3)再エネ由来の燃料へ
イ)水素燃料航空機について
 政府(経産省・国交省・文科省)と関連する民間企業(日航・全日空・川崎重工・三菱重工・IHI・燃料供給会社)が、欧州航空機大手エアバスが2035年までに水素燃料航空機を市場投入すると公表した外圧を受けて、*3-3-1のように、初めて水素を燃料とする航空機の実用化に向けて水素の貯蔵や機体へ注入するための空港施設の整備に向けた検討を始めるそうだが、これも追随型で遅い。

 何故なら、水素はロケットや自動車を動かせる燃料であり、CO₂を排出しないため、水素燃料電池車が出た時に思いついて当たり前だからだ。現在、日本製の航空機は飛んでいないため、水素燃料航空機はゲームチェンジャーになれるところでもあった。

 そして、新しいことをやろうとすると必ず「コストが高い」と言うが、コスト高で競争力がなく生産・販売できなければ、技術も進歩せずに消えていく。また、何であれ最初はコストが高く、大量に生産すれば安くなる筈なのである。

ロ)軽EVについて
 軽EVの開発競争が、*3-3-2のように加速しており、日産・三菱は共同開発車を2022年度前半、ホンダは2024年、スズキは2020年代半ばに市場投入を目指し、ダイハツは開発を検討中だそうだ。「地方の足」である軽に脱炭素・EV化の流れが進むのは当然のことで、その理由は、EVなら近くで発電した安い電力で走ることができ、環境を害することがないからだ。

 ガソリンエンジンを搭載しなくてよいため、軽EVが安くなるのは当然だと私は思うが、日本では国や自治体の補助金を含めた価格が200万円を切ると、走行距離が短くなるそうだ。しかし、中国では、上汽通用五菱汽車が2020年7月に発売した50万円を切る小型EVが爆発的に売れているのである。

 EV先進国となった中国は、*3-3-3のように、百度が「ロボットカー」を発表し、中国自動車大手と共同出資してEVの製造・販売に今後5年間で500億元(約8500億円)を投じるそうで、百度のCEOは「未来の自動車はロボットEVの方向に進化する」と言っている。

ハ)ホンダについて
 企業誘致すると、その企業が支払う住民税・事業税のほかに、その企業に勤める社員の年収に応じて住民税が徴収され、誘致した自治体の財源が増える。しかし、企業誘致には、①生産に有利(土地建物・人件費・水光熱費等のコストが安い) ②販売市場に近い ③質の良い労働力を集めやすい ④その他のインフラが整っている 等の企業にとって有利な条件があるだけでなく、⑤従業員の生活に便利(生活・教育・文化・交通面)である などの条件も比較されることを考慮しなければならない。

 ホンダは、東京本社のほか埼玉県・三重県・熊本県などに製作所があり、埼玉県にある我が家の車はホンダのグレース(HV)だが、ホンダのトルネオ(ガソリン車)から乗り換えようとしていた時、EVが出るのを待っていたのにEVが出ないので、HVを買った経緯がある。

 そのホンダが、*3-3-4のように、2021年度中に狭山完成車工場の四輪車生産を新鋭の寄居完成車工場に集約するそうだが、寄居工場の稼働開始は2013年であるのに、寄居町にホンダ関連で大きな受注を獲得した企業や工場の新増設の話はなく、商業にも目立った経済効果が出ていないそうだ。寄居工場は国内での増産投資が目的だったが、その後、ホンダが国際分業を一段と加速したのは、上の①②③が揃っているためではないのか?

 また、従業員の殆どは工場内の食堂や売店を利用し、狭山工場で勤務していたため狭山市周辺から通勤する人が多く、寄居町で消費する機会はかなり限られるのだそうで、この状況を打開するため、寄居町は今年秋にも狭山市周辺から通う従業員向けに移住・定住を促すツアーを開催したいと考えているそうだ。が、ホンダの工場進出で、従業員の住民税はさほど増えなかったが、法人関係の税が寄居町の財政を潤したのは確かである。

 そのホンダが、*3-3-5のように、中国でEVなどの新エネルギー車を生産増強し、合弁会社を通じて約30億元(約500億円)投資し、広東省広州市の工場を増設して生産能力を年12万台上積みするそうだ。EV・PHVなどの新エネ車専用の新設備の建設面積は約18万6,000m²で、新しい生産設備が稼働すればホンダの中国での自動車生産能力は年161万台となり、現在と比べて約1割増える見通しだそうだが、これは、中国の方が上の①②③が揃っており、④の中のEV推進も積極的に行っているからだろう。

(4)医療・介護による地方産業の育成
1)日本の新型コロナ対応
 *4-1-1は、①政府は新型コロナの入院対象者を重症化リスクの高い中等症・重症者に限り、それ以外は自宅療養を原則とした ②これまでは軽症・無症状の人も原則として宿泊療養させた ③目の届きにくい自宅療養は容体急変への対応が限られる ④中等症でも呼吸不全を起こして酸素投与が必要になる場合もある ⑤自宅療養を基本とするなら患者が安心して療養できる環境が必要 ⑥現状は往診等の在宅医療体制が整っている地域は少ない ⑦入院対象の仕分けは自治体の保健所が担う ⑧宿泊療養施設の拡充や在宅患者を見守る医師・看護師の確保など地域住民の不安を拭う策を講じるのが先 ⑨選択肢を広げるのが政府の務めであり、自粛要請に頼って病床確保を怠ってきた責任は重い と記載している。

 ②については、感染者にとっては行き過ぎた強制の面もあったが、他者に感染させないために必要な措置だった。そのため、退院基準をPCR検査で2度陰性が続いた人として、療養中に軽症者向けの薬を投与し、回復を早めて速やかに退院させればよかったのだが、軽症者向けの薬をいつまでも承認しないという厚労省の不作為があった。また、⑦については、保健所職員が単純な基準で判断するのではなく、医師が患者の全体像を見て判断しなければ医療ミスの起こる可能性が高くなるが、既に起こった医療ミスの責任は保健所がとるつもりなのか?

 また、①③④⑤⑥で、患者が亡くなった場合の医療ミスの責任は、これまで医療制度を軽視し続けてきた厚労省がとるのか、患者を仕分けした保健所がとるのか、それとも政府全体でとるのか? 私は、不作為も含め、政策を作って意思決定してきた人(厚労省及び同専門家会議)が故意または重過失の責任をとるべきだと考える。

 なお、⑧の宿泊療養施設の拡充は昨年の新型コロナ感染の当初から言っており、既にホテル等の既存建物が多い日本で新しい施設を造るのは無駄だが、ホテルを抑えても実際には使われない場合が多く感染防止の本気度が疑われた。また、宿泊療養施設の患者を見守る医師・看護師の確保も最初から言っていたのに未だできておらず、在宅患者を見守る医師・看護師・介護士の確保は慢性疾患の患者を見守るためには必要だが、急性感染症の患者を自宅療養させるのはリスクが高い上に感染拡大に繋がるため常識外れだ。

 従って、⑨の選択肢を広げるのが政府の務めというのは正しいが、それは慢性疾患の場合であり、新型コロナのような感染症は入院やホテル療養などによる隔離を基本とすべきだ。また、自粛要請に頼るのも、最初の3カ月なら仕方がないものの、日本なら国民が自粛している間にすべての準備をすませておくべきであり、できた筈である。

 18世紀末にジェンナーが天然痘ワクチンを開発して世界で天然痘が根絶され、1960年代に日本がポリオの生ワクチンをソビエトから緊急輸入して世界に先駆け1000万人を超える子どもたちに一斉接種してポリオの流行を止めたように、ウイルス性の感染症にはワクチン接種が決定打であることは100年以上も前からわかっていた。

 にもかかわらず、2020年の日本で、*4-1-2のように、⑩ワクチン接種が円滑に進む地域は準備に早く着手した ⑪きめ細かな診療体制も敷かれ医療機関同士や行政との連携が密だった ⑫接種率が高い地域の多くは大病院が少なく、かかりつけ医が患者に目配りしている ⑬地元医師会・大学・行政が連携して役割分担している ⑭こうした連携は一部で全国的には道半ば ⑮患者は軽い病気やケガで大病院を利用するケースが多く、効率的・機動的な医療が妨げられている ⑯接種をきっかけに地方で芽生えた取り組みはコロナ後の医療改革のヒント 等が書かれており、ここでいちいち反論を書くことはしないが、愚かぶりが著しい。

 何故なら、ワクチンの接種は当然のこととして、ワクチンを、i)どう早く作るか ii)どう早く接種するか iii)二重接種等にならないようにどう整理するか を最初から考えておくのが当たり前であり、これを実行したのが欧米・ロシア・中国等で、日本の厚労省及び同専門家会議は多額の税金を使ってワクチンを外国から買いあさることしかできなかったからである。

2)日本における分析と政策立案の欠陥 ← 新型コロナの対応から
 *4-1-2には、⑩ワクチン接種が円滑に進む地域は準備に早く着手した ⑪きめ細かな診療体制も敷かれ、医療機関同士や行政との連携が密だった ⑫接種率が高い地域の多くは大病院が少なく、かかりつけ医が患者に目配りしている ⑬地元医師会・大学・行政が連携し役割分担している ⑭こうした連携は一部で全国的には医療機関の規模に応じた役割分担と連携は道半ば ⑮患者は軽い病気やケガで大病院を利用するケースが多く、効率的・機動的な医療が妨げられている ⑯接種をきっかけに地方で芽生えた取り組みはコロナ後の医療改革のヒント 等が記載されていた。

 このうち、⑩⑪⑬⑭は事実だとしても、⑫については、「接種率が高い地域は、大病院が少ない」のではなく、大病院が少ない地域は地方で、高齢化率が高いため接種率が高いのである。また、高齢者はワクチンの力を知っているためワクチン接種に積極的で、頼れる大病院が少ないことを自覚しているので自助にも熱心なのだ。

 また、⑮については、「軽い病気やケガで大病院を利用してはいけない」と言いたそうだが、「軽い病気やケガ」の定義はどこまでで、それは誰が決めるのか? 私は、患者自身で病気の軽重を決めるのは危険だし、重篤化したりこじらせたりしてから大病院に行っても、治癒するのに時間がかかったり、治癒できなかったりするため、最初が肝心だと考えている。

 さらに、⑯は、新型コロナやワクチン接種という急性感染症を例として、成人病や慢性疾患における医療ネットワークの必要性を論じている点で無理がある。何故なら、急性疾患の場合は、1分でも1秒でも早く対応するのが病気やケガを悪化させず、回復の確率を上げるコツだからだ。

 また、*4-2-1は、政府は⑰感染が急拡大している地域は自宅療養を基本とする新方針を発表し ⑱入院は重症者や重症化のおそれが強い人を対象とし ⑲自宅宿泊療養の新型コロナ患者への往診の診療報酬を大きく拡充して新型コロナ感染者への医療提供体制を強化するよう協力を要請し ⑳地域の診療所が往診やオンライン診療で患者の状況を把握して適切な医療を提供するようお願いし ㉑血液中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターを配布 としている。

 しかし、⑰~㉑は、診断と治療が終わって急性期を脱し、慢性期に入っている人には有効だが、急性疾患の初診で重症化の恐れがあるか否かは、患者に対面し、検査をし、患者の全体像を把握した上で初めて判断できるもので、保健所が時間をかけて中等症にした人を、(いくら診療報酬を拡充されたとしても)オンライン診療による初診だけで医師が引き受けるのはリスクが高すぎて元が取れないと思う。何故なら、診断ミスによる医療過誤で信用を失えば病院経営に深刻な打撃を与えるからで、それはもちろん、患者のためにもならない。

3)医療ネットワークに組み込むべき往診・訪問看護・訪問介護
 医療ネットワークの要素には、大病院・かかりつけ医・往診・訪問看護ステーション・介護ステーションがあり、1人の患者を例にとれば、病気やケガの発生・治療・療養・リハビリなどの各段階において有機的に連携されていることが望ましい。しかし、現在は、そうなっていないのが課題なのである。

 そのような中、大阪府は、*4-2-2のように、新型コロナ感染者のうち自宅療養者の健康観察を強化するため、訪問看護を府内全域で実施すると発表したそうだ。新型コロナのような感染しやすい急性感染症を自宅で療養するのはいかがなものかと思うが、他の病気で自宅療養する時に往診や訪問看護が必要不可欠なのは間違いない。しかし、訪問看護も、保健所が必要だと判断した患者ではなく、医師が必要だと判断した患者に対して、医療行為の一環として連携して行うべきである。そのため、大病院でもかかりつけ医でも、訪問診療科・訪問看護科・訪問介護科を常設し、検査・治療・療養・リハビリ・栄養指導・生活支援などを各段階で一貫して行うようにすると患者が便利だ。が、この場合は、病院の中にケア・マネージャーが必要だろう。

4)介護保険制度について


     国保連          介護求人       2021.8.21日経新聞

(図の説明:介護保険制度の仕組みは左図のとおりで、所得によって介護保険料の負担額が異なるだけでなく介護費用の負担割合も異なり、これは保険の枠組みから逸脱している。また、40~65歳の第二号被保険者は介護サービスを受けられる病気も限定されているため、サービスの提供における差別があると同時に、介護保険料の徴収年齢にも合理性のない差別がある。また、要介護・要支援・自立の判定は本人の申請に基づいて行われ、中央の図のように、判定を経て決定されるので、自治体の判定に依拠するところが大きい。このような中、右図のように、日経新聞が介護給付費を大きく減らした上位10市町村を掲載しているが、工夫して賢く減らしたのか、単に介護費用を削っただけなのかは要検討だ)

イ)介護給付費の削減について
 日経新聞は省庁の広報機関のような見解を述べることが多いが、*4-3-3も、①介護給付費は2020年度に10兆円に達し、介護保険制度が始まった2000年度の3倍以上に膨らんだ ②持続可能性を高めるには圧縮が急務 ③全国では既に59市町村が削減に成功した ④高齢者1人当たり給付費は保険者2018年度で26万円と制度開始時から11万円強増えた としている。

 しかし、①④は、介護保険制度がスタートした2000年度は、i)介護サービスが充実しておらず ii)介護の担い手も不足しており iii)介護を受ける世代の人に「本来なら家族が介護するべきところ、人様の世話になるなんて」と思う人が少なくなかったため、比較すること自体が無意味なのである。そして、2020年になっても、介護保険料が高い割には、不必要な介護用品に補助を付けている例もあるのに必要なサービスを受けられない人も多く、年齢による介護保険料負担の不公平感もあるため、介護制度は未だ不完全な制度と言える。

 また、②は、自分は介護を担わないと思っている人の発言であり、③は、もともと不十分なサービスを減らすことが適切だったか否かについて、事例毎の検討を要する。

 さらに、*4-3-3は、⑤高知県南国市は保健師・栄養士・理学療法士等が協力して介護予防に取り組み ⑥1人当たり給付費を2001年度の28万円弱から24万円(2018年度)まで減らし ⑦「地域ケア会議」で身体的負担の少ない公営住宅紹介等の個別支援プランを策定し、食事や運動も精緻に計画・検証し ⑧多くの事例で自立生活が維持できるようになった ⑨沖縄県名護市は給付増の要因になりやすい施設入所を生活に支障なく抑制しようと配食サービスの普及に力を注ぎ ⑩北海道鶴居村・天塩町はクラブを作って運動を促し、糖尿病や肥満の人に個別指導をして機能低下を防ぎ、高齢者1人当たりの給付費を各36.7%、25.3%減らした としている。

 しかし、⑤⑩は、健康寿命が延びるのでよいと思うが、⑥のように一時的に給付費が減っても最後は介護を受けて亡くなるため、1人当たり給付費は数年~十数年後には元に戻るか増えると思われ、科学的な継続調査と結果の公表が望まれる。また、⑦の身体的負担の少ない公営住宅紹介もGoodだと思うが、今後は国として身体的負担をかけないバリアフリー住宅の建築基準を作ればさらに効果的だ。また、⑨の配食サービスや⑩の栄養指導もよいが、スーパーなどで美味しくて栄養バランスのよい薄味の惣菜や弁当を売っていれば、自立した自宅生活がしやすい。

 このほか、セコム等が見守りサービスを実施しているが、生活支援の便利屋機能を加えると、介護保険の生活支援サービスを受けずに自宅生活のできる人が増えると思う。

ロ)市民が見た介護保険の20年とこれから
 介護保険制度創設は、私が、1995年頃、さつき会(東大女子卒業生の同窓会)が発行したエッセイ集に載っていた共働き先輩女性の介護での苦労話を読み、「明日は我が身」と身につまされて「現役時代によい制度を作っておかなければ、退職後にひどい目に合う」と実感し、メーリングリストでさつき会の会員に呼びかけつつ、通産省(当時)の人に言って始まったものだ。

 その介護保険制度について、2020年4月29日、西日本新聞は社説で、*4-3-2のように、①2000年4月に「介護の社会化」を掲げて始まった介護保険制度で家族頼りだった介護は民間サービスが担うようになり ②社会的入院の解消を促し、「老親の世話は同居する女性の役割」という社会通念を拭い去るのに貢献 ③この20年で高齢化がさらに進み要介護・要支援認定者と必要な費用が3倍に増えた ④介護サービス需要が急速に伸び、制度の維持が困難に ⑤大変な仕事の割に介護職員の平均給与が全産業平均を大きく下回って現場の人手不足が深刻 ⑥外国人材への期待も高いが新在留資格「特定技能」による受け入れは進んでいない ⑦団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には約34万人の介護人材不足が見込まれる としている。

 また、⑧国は財政逼迫を受けて負担増と給付減を行い ⑨介護の必要性が低いとされる利用者サービスを全国一律の介護保険から切り離す動きが始まって要支援者の訪問介護と通所介護は既に市町村に移管され ⑩要介護1、2の一部サービス移管案も浮上しており ⑪急な負担増は利用抑制を招いて生活の質や健康への悪影響があり ⑫市町村への事業移管は居住地によるサービス格差の懸念が大きく ⑬介護保険の財源は保険料と公費(税金)で構成されるので、公費負担アップや介護保険加入年齢の40歳以下への引き下げも要検討 としている。

 このうち、①②はそのとおりだが、③の高齢化の進展は創設当時からわかっていた。また、介護を受ける人が増えて介護を外部化することに対する違和感が減ったため、実際の要介護・要支援者のうち認定される人の割合も増えたと思う。そして、④の介護サービス需要が急速に伸びたのは本当に必要な実需だったからにほかならず、工夫もせずに「制度の維持が困難になった」と言うのはお役所仕事そのものである。また、同じサービスの給付に対して負担率が異なるのは、保険の枠組みから外れてもいる。

 ⑤も何度も聞いたが、全員を同じ給与にする必要はなく、看護師や介護士の資格があれば相応の資格手当や技術加算分を支払い、管理職には管理職手当を支払い、日本語がよくわかる人には日本語手当を支払うなどして、⑥の外国人も十分活用しながら、サービスを削ることなく、介護の能力に応じた給料を支払えば、⑦の介護人材不足は解消するだろう。また、そもそも介護保険制度は、⑬の介護保険制度への加入を働く人全員(40歳以下も)にすべきである。

 さらに、国(特に厚労省)が、(新型コロナ対策を見てもわかるように不要なことをして膨大な無駄遣いをしながら)⑧のように“財政逼迫”として介護制度の負担増・給付減を行ったのは、⑪のように、介護を受ける人のことを全く考えず、介護サービスという今後は世界で膨大な産業となるサービスの芽を摘んでいる。また、⑨⑩⑫のように、要支援や要介護1、2を介護の必要性が低いとして全国一律の介護保険制度から切り離すと、各地方自治体はこれまでの国策の結果として生産年齢人口と高齢者人口の比率が異なるため、格差が生じて不公平になるのだ。

 「市民が見た介護保険の20年」と題し、*4-3-1は、⑭2005年の改正で要介護者への給付とは別に要支援者への予防給付ができた ⑮2014年の改正では、要支援者のホームヘルプとデイサービスが予防給付から地域支援事業に移され、特別養護老人ホームの利用は要介護3以上となった ⑯利用者に選択権があるとして始まり、介護が必要と認定されれば給付が保障されていたのに、いつの間にか予防重視型になった ⑰2020年の要支援・要介護認定者669万人のうちサービス利用者は515万人で約4分の1は介護制度を利用していない ⑱厚労省は家族で対応していると説明するが、自己負担を払えず利用できない人が一定数いる ⑲ホームヘルプが抑制され、同居家族がいると生活援助を利用できないという解釈が市町村で広がった ⑳ホームヘルプは高齢者の自立支援に資することがないと批判を浴びてヘルパーが減った ㉑厚労省は地域包括ケアを掲げるが、ヘルパーが減ってどうやって地域での暮らしを支えるのか疑問 ㉒要支援者が要介護認定を受けても地域支援事業のデイサービス等を引き続き利用できるよう見直され、要介護認定を受けても給付の対象にしなくて良い仕組みになった ㉓予防給付や地域支援事業を拡大する方向性で制度を維持しようとするのはおかしい としている。

 私も、⑮のように、要支援者のホームヘルプとデイサービスを地域支援事業に移して特別養護老人ホームの利用は要介護3以上に限定し、㉒のように、要介護認定を受けても地域支援事業を利用できるようにすれば、国は介護費用を節約できるが、介護の必要な人が介護を受けられない事態が発生していると思う。また、⑰のように、高い介護保険料を支払いながら介護費用を支払えずに介護を受けていない人もいるだろう。これに対し、⑱のように、厚労省が「家族で対応している」と説明するのは、昔返りで介護保険制度の意図を理解していない。

 また、⑭⑯のように、介護と支援のどちらを選択するかを高齢者が選択できるのではなく、要支援者のホームヘルプとデイサービスを地域支援事業に移し、⑲のように、介護費用を節約したい地方自治体が「同居家族がいると生活援助を利用できない」と解釈すれば、同居する女性に介護を強いることとなり、介護保険制度の意味を失わせる。そうなると、⑳のように、ヘルパーが減るのも当然で、㉑の厚労省の言う地域包括ケアは、「女性を中心とする地域ボランティアがやれ」ということになり、介護を無償労働化している点で介護を担当する人に極めて失礼だ。

 従って、㉓は、予防給付や地域支援事業の一部は本来の介護ではないため、その費用は介護保険制度から拠出するのではなく、税金から別に予算を出すべきであろう。

5)診療は、ITやオンラインを使いさえすれば進んでいるわけではないこと
 厚労省は、*4-4のように、新型コロナで自宅やホテルで療養する人に対し、電話やオンラインで診療した場合の診療報酬を2倍超に引き上げると自治体に通知したそうだが、自宅にいる患者に電話やオンラインで初診すれば、検査はできず、患者の様子も本人の報告を聞くだけであるため、何もしないよりはいいという程度に終わる。

 その報酬が2,140円だったのを4,640円にしたとしても、初診の診断ミスのリスクには見合わないため、急性感染症に遠隔診療を促すのは賛成しない。重要なのは、時と場合に応じてどういう内容の検査・診察をして判断したかであるため、「この際、オンラインを使った遠隔診療を進めよう」という考えで遠隔診療を進めるのは慎むべきである。

(5)国と地方自治体の財源

   
2020.12.15時事 2020.12.21時事   2020.6.10日経新聞   栗原税理士事務所
                     *5-1より
(図の説明:1番左の図のように、2000~2020年度の日本全体の歳入は40~60兆円の間であり、2000~2019年度の歳出は80~100兆円程度だったが、2020年度は新型コロナ対策として約176兆円もの効率の悪い予算を組んだため、国債発行額が40兆円から約113兆円に跳ね上がった。そして、左から2番目の図のように、2021年度当初予算における歳出も過去最高の約107兆円で、このうち税収で賄われるのは約57兆円、税外収入で賄われるのは約6兆円にすぎず、残りの約44兆円は新規国債発行によるものだ。なお、地方自治体の歳入の一部となる地方交付税交付金は、国の2021年度歳出予算のうち約16兆円だ。右から2番目の図は、地方自治体の2018年度決算で、歳入は地方税40%、地方交付税19%、その他16%などである。1番右の図は、税目別の国税と地方税の振り分けだ)

1)国の財源のうち税外収入
 上の左から2番目の図の歳入構造には、①税収 ②税外収入 ③新規国債発行がある。このうち、①の税収を増やすためには、i)国民や法人の稼ぎを増やす ii)既存の税の税率を上げる iii)新しい税目を作る などの方法があるが、ii)は何の工夫もいらないものの景気を押し下げる。また、i)は、付加価値を上げたり、販売力を伸ばしたり、生産性を上げたりする根本的な解決法もあるが、金融緩和による通貨量増加だけでは景気のカンフル剤にしかならず、物価が上がって購買力平価が落ちれば国民生活は貧しくなる。さらに、iii)は、環境に悪い行動に環境税を課し、環境によい行動の補助金財源にすれば、財政中立で環境改善への二重のインセンティブとなる。

 ③の新規国債発行については、国の責任で生じた過去の年金積立金不足を新規国債発行で賄うのは公平・公正の観点から必要だが、景気対策として行われる無駄遣いを国債で賄えば、その国債を返還する世代に不当な負担を押し付けることになる。ただし、地域間送電線・道路の建設等のように次世代への負債と資産がセットで残るものならば、負債だけが引き継がれるわけではないため世代間の公平・公正を害しない。しかし、その金額を正確に把握するためには、国への複式簿記による公会計制度の導入、迅速な会計処理、その年度の決算に基づく次年度の予算審議が必要で、これは民間企業なら必ず行っているもので、多くの国で採用しているものでもある。

 なお、仕方なく発行された国債であったとしても、令和2年度末に906兆円と見込まれる公債発行額は令和2年度税収64兆円の14年分にあたるため、とても税収から返済できるものではない(https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2020/seifuan2019/04.pdf 参照)。そのため、国民に負担をかけずに国債を賢く返済するには、②の税外収入が必要不可欠で、税外収入は、これまで開発してこなかっただけに潜在的資源が多いのである。

 例えば、*5-1-1のように、日本は陸地及び排他的経済水域ともに地熱資源が豊富だ。しかし、経産省が地熱発電所を増やすため国立公園内などに適地を見つける調査を本格化するといっても、2030年度に地熱発電を1%に引き上げるという小さな目標だ。環境省が自然環境や景観を損なうという理由で開発に慎重だったとのことだが、原発や化石燃料の方が自然への悪影響や景観悪化はずっと大きいため言い訳にすぎず、次期エネルギー基本計画には「地熱資源の活用による国の税外収入の増加」を明確に記載すべきである。

2)国から地方自治体への国庫支出金、地方自治体の税外収入
イ)地方自治体の再エネ発電
 *5-1-1の地熱発電をはじめとする再エネを使った売電収入は、地方自治体の資産を使って行えばその地方自治体の税外収入になる。そのため、地方自治体も、これまで活用してこなかった再エネ発電で安価な電力を作り出し、その自治体における光熱費を下げて、農業や製造業を有利にする方法がある。この時、頑張って黒字化した地方自治体には、右から2番目の図の地方交付税が減らされるのがマイナスのインセンティブにはなるが、もらえる地方交付税の金額を大きく上回る稼ぎがあれば地方自治体にとっても国にとっても役立つことは言うまでもない。

ロ)地方自治体のごみ発電
 地方自治体は、“邪魔者”であるゴミを集めて処分しているつもりだと思うが、ゴミの収集がこれだけ整然と行われる組織はそれ自体が財産である。その理由は、ゴミは、分別とリサイクルで利用可能な資産になるからだ。

 その1例は、*5-3-1のごみを燃やした熱を利用してタービンを回して発電する「ごみ発電」で、日立造船など上位3社の累計受注件数が5年で倍増したそうだ。世界には日本以外にもごみ活用の先進国があり、再エネ比率が6割を超えるスウェーデンは、国内で発生するごみの約半分を焼却して発電に利用し、余熱も暖房用などで家庭に供給し、肥料にも使うため自国のごみだけでは足らずに近隣諸国からごみを輸入しているそうだ。そして、今後は経済発展に伴って、アジアが市場を牽引する見通しとのことである。

 そのような中、*5-3-2は、①全国のごみ処理費は年間2兆円を超え、10年前と比べて1割増えた ②人口減に伴う担い手不足の懸念も強まる ③財政も厳しさを増す中、持続可能な地域を築くためには排出削減への戦略的施策が欠かせない などとしている。

 しかし、ゴミ処理は必要不可欠なサービスであるため無料である必要はなく、ゴミ袋を有料化することによってゴミ収集費を回収することが可能で、そうすると必然的に不要なゴミは減る。しかし、ゴミの分別がややこしすぎるのは生活に不便を強いるため、簡単な分別で処理できる包装資材の開発などの川上改革を行い、異なる色の有料ゴミ袋を使うなどして分別も簡便にできるようにした方がよい。

 こうすれば、①は、年間2兆円のごみ処理費は有料化で回収した上、地方自治体はごみ発電や温水供給による税外収入を得ることができる。また、②は、自動化や移民の受け入れを考えることなく言うべきではない。さらに、③は、工夫もなく、「環境保護=国民に我慢を強いること」というイメージを作っている点で愚かな発想だ。

 そのような中、川上村は可燃ごみの4割を占める生ごみの回収を一切せず、各家庭で堆肥化することによって全国の自治体で一番排出量を少なくしたそうだが、これは庭や畑が広くない地域では不潔になるため無理なことである。

3)地方自治体の歳出削減
 大阪市は、*5-4のように、市役所本庁舎で使用する電力を2021年12月から太陽光やバイオマス発電など再生エネ由来100%の再エネに切り替えるそうだ。また、大阪府では2021年4月から既に本庁舎などで使用する電力を再エネ由来100%の調達に切り替えており、日立造船がバイオマス発電による電力を供給しているとのことである。

 が、使用する電力を地方自治体自身で作れれば、光熱費が0になってSDGsにも役立ち、発電できる場所は考えれば少なくない筈だ。

4)地方自治体の歳入増加
 上の右から2番目の図及び*5-2-1のように、2018年度決算における地方自治体の歳入は、①地方税40.2% ②地方交付税19.1% ③国庫支出金14.7% ④地方債10.4% ⑤その他15.6%で、自前の財源だけで財政運営ができている自治体は少ない。

 しかし、地方自治体もIT化を進めれば人件費削減が可能な筈だし、新型コロナ対策も国と同様に人流抑制を繰り返して経済を止めるのではない方法もあった。そして、その場合は、家計や企業の緊急支援額を低く抑えることができ、財源不足が大きくなることはなかったのである。

 なお、*5-2-2のように、⑥新型コロナ感染拡大は人口の流れに影響を与え ⑦2020年の1年間で大都市から地方への移動が鮮明になって ⑧東京、関西、名古屋の三大都市圏の人口の合計は2013年の調査開始以来初めて減少し ⑨大都市から地方に人口が流れる傾向があり ⑩人口増の多い町村は子ども医療費無償化・幼小中一貫校設置・待機児童0・住宅地整備・企業誘致などの環境整備が注目される そうだ。

 住民税・事業税・固定資産税などの地方自治体の歳入を増やすためには、企業や生産年齢人口の増加が必要であるため、移住してもらうのがBestで、そのための努力は、上の⑩に代表されるだろう。しかし、人口が分散すれば、著しく狭くて高い住居や過度に節水した不潔な水道や長い行列に悩まされることもなく、自然に近い場所で居住することが可能なのである。

・・参考資料・・
<地方産業の高度化―その1:農林漁業の高付加価値化>
*1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN6V721GN6VTIPE00P.html (朝日新聞 2020年6月26日) カイコからコロナワクチン? 九大が候補物質の開発成功
 九州大学は26日、昆虫のカイコを使い、新型コロナウイルスワクチンの候補となるたんぱく質を開発することに成功したと発表した。「昆虫工場」による大量生産で、数千円で接種できるワクチンの臨床研究開始を来年度にもめざす。九大は世界的なカイコの研究機関として知られる。カイコは遺伝子操作したウイルスを注射すれば狙ったたんぱく質を体内で生産できることから、このたんぱく質を使って、新興の感染症を想定したワクチン開発技術を研究してきた。九大は1月に公開された新型コロナウイルスの遺伝情報をもとに、ウイルスが人間の細胞に感染するための突起状の「スパイクたんぱく質」に着目。大学で飼育するカイコで、このたんぱく質が生成できることを確認したという。別のコロナウイルスの研究では、スパイクたんぱく質を注射したマウスの免疫反応で体内にできた「抗体」で、ウイルスの感染を予防できる結果がすでに得られている。九大は新型コロナでもマウスを使った実験を年内にも終わらせる方針。製薬企業と連携し、早ければ来年度にも人間での研究を始める意向だ。26日の記者会見で日下部宜宏教授(昆虫ゲノム科学)は「ワクチン開発は世界中で進むが、スピードよりも、途上国も含めて接種できる安価なワクチンを、安定して生産することをめざしたい」と話した。また、九大の西田基宏教授(薬理学)らは26日、すでに使われている約1200種類の薬の中から、新型コロナの重症化防止も期待できる薬を3種類、発見できたと発表した。新型コロナの患者にも見られる呼吸不全や血管の炎症などの治療薬のため、早期の投与開始が見込めるとして「年内にも実用化につなげたい」と説明している。

*1-1-2:https://www.nippon.com/ja/features/c00508/ (Nippon.com 2012.7.9) [農業生物資源研究所]遺伝子組換えカイコで医薬開発に挑戦
 紀元前から続く養蚕の歴史に新しい一ページが刻まれそうだ。遺伝子組換えカイコを使って新しい絹や医薬品の原料を作る研究が進んでいる。その先端を行く農業生物資源研究所(茨城県つくば市)を訪ねてみた。
●カイコが持つタンパク質生成の高い能力に注目
 独立行政法人農業生物資源研究所(生物研)は、農業分野におけるバイオテクノロジーの中核機関として2001年に設立された。カイコが持つタンパク質生成の高度な能力に着目し、カイコが従来作る種類以外のタンパク質を作らせる研究を続けている。すでに、遺伝子組換えカイコ由来のタンパク質を使った化粧品が市販されているほか、将来的には安全で安価な医薬品の製造も視野に入れている。研究の詳細を紹介する前に、まずはカイコについて解説しておきたい。養蚕は紀元前15世紀ごろが起源とされる。日本では1~2世紀ごろに始まり、1909年には生糸生産高が世界一になったが、化学繊維の普及や後継者不足などによって徐々に衰退。現在は中国やインド、タイが主な産地である。日本国内には遺伝資源も含めて約600種類のカイコが存在するが、いずれも成虫(カイコガ)になっても飛ぶことができない。長い歴史のなかで養蚕に適するように品種改良、つまり“家畜化”されたためだが、これが遺伝子組換えカイコを産業化する際のメリットになる。遺伝子組換え生物はカルタヘナ法(※1)の対象で、厳密に管理しなければならない。カイコの場合、飛んで逃げる心配がないため管理しやすいのである。カイコは孵化(ふか)からおよそ1カ月後に繭(まゆ)を作る。その繭の原料となるのがタンパク質。タンパク質は体内の絹糸腺という器官で作られるが、絹糸腺内の部位によって、作られる種類は異なる。後部絹糸腺ではフィブロインというタンパク質が、中部絹糸腺ではセリシンというタンパク質がそれぞれ作られる。カイコが作り出す糸は、糊状のセリシンが繊維状のフィブロインを包み込んだ格好となっている。おおよそ、セリシン25%、フィブロイン75%の割合だ。糊状のセシリンは水溶性なので、繭をぐらぐらと湯で煮立たせると溶出し、繊維状のフィブロインだけを絹糸(シルク)として取り出すことができる。
●何世代も機能を受け継げる遺伝子組換え技術
さて、遺伝子組換えカイコの研究だが、遺伝子組換えカイコを作り出す際には、2つのDNAをカイコの卵に注射する。1つ目は、トランスポゾンというDNA上を移動できる遺伝子に、特定のタンパク質をつくるための外来遺伝子を組み込んだベクターDNA(※2)。もう1つは転移を促す酵素を組み込んだヘルパーDNA。これらを注射した卵を孵化させて、得られた次世代の個体群をスクリーニングすれば、利用可能な遺伝子組換えカイコだけを得ることができる。「卵の中でも生殖細胞に分化する部分を狙ってDNAを導入することで、特定の能力を何世代にもわたって引き継ぐことができます。この技術によって遺伝子組換えカイコの量産が可能になりました」と生物研主任研究員の内野恵郎氏は話す。生物研は9年前、外来遺伝子の性質が現れる場所をコントロールする技術も確立した。繊維状のフィブロインを作る後部絹糸腺で発現させると、シルクの改質が可能となり、生物研では蛍光色のシルクの開発に成功している。一方、糊状のセリシンを作る中部絹糸腺で発現させると、糊の中に狙ったタンパク質を作ることができる。セリシンは水に溶けるので、タンパク質の抽出もたやすい。生物研遺伝子組換えセンター長の町井博明氏は、「当研究所では生成するタンパク質の98%以上がセリシンという品種も開発。それと組み合わせればより多くのタンパク質が得られる」と技術の有効性を強調する。生物研は、群馬県蚕糸技術センター、前橋遺伝子組換えカイコ飼育組合、民間企業などと連携しながら研究を進めている。町井氏は「日本の養蚕業は厳しい状況にあるが、遺伝子組換えカイコが養蚕業の再活性化につながるかもしれない」と期待を寄せる。
●化粧品から将来は医薬品開発へ
 群馬県藤岡市にある株式会社免疫生物研究所では、生物研から技術提供を受けて、ヒト型コラーゲン(※3)を生成する遺伝子組換えカイコを作り出した。すでにそのコラーゲンを化粧品などに製品化している。特に苦労したのはコラーゲンの抽出だった。1つの繭から生成されるコラーゲンは約10mg。これを抽出するためには繭の成分を水に溶かし、こして繊維質を除去しなければならない。しかし、糊状のセリシンがフィルターの目に詰まってしまい、思うようにこすことができないという問題が残った。免疫生物研究所製造・商品開発部蛋白工学室長の冨田正浩氏はさまざまな工夫を重ね、最終的に10mgのコラーゲンから6~7mgを回収する手法を編み出した。免疫生物研究所はすでにヒト型コラーゲンを化粧品などに使用している。一般に化粧品には魚由来のコラーゲンを使ったものが多く、なかにはアレルギー反応を示す人がいるが、ヒト型コラーゲンなら問題ない。しかも、シルクや繭のイメージは化粧品のイメージアップにつながり、商業的にもメリットがありそうだ。「ゆくゆくは医薬品や医薬部外品を開発したいと考えています。たとえば、抗体を使った診断薬を開発する場合、細胞培養やマウスの体内で抗体を生産させるプロセスがあります。でも、動物愛護の観点からマウスの使用は減らしたいところですし、細胞培養にコストがかかって製品価格が上がるのも問題です。抗体はタンパク質の一種ですから、遺伝子組換えカイコで診断薬の原料となる抗体を作ることができれば、こうした問題はすべて解決できます。安全で安価な医薬品を作れる可能性があるのです」(冨田氏)。カイコが作る絹糸は、絹織物の美しさと滑らかな手触りで人々を魅了してきた。今後は、遺伝子組換えカイコが作るタンパク質が安全で安価な医薬品を生み出し、人々の健康に貢献するのかもしれない。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210808&ng=DGKKZO74574720W1A800C2MY1000 (日経新聞 2021.8.8) 米粒にコレラワクチン成分 東大など、遺伝子操作のイネ栽培
 東京大学の清野宏特任教授と幸義和特任研究員らはコメからできたワクチンの安全性をヒトで確かめた。米粒の中にワクチンの成分が入っており、すりつぶして飲むだけでコレラの毒素による下痢症状を防ぐ。コメに成分を封じ込めた結果、温度や湿気の影響を抑え、冷やさなくても長期間の保存ができる。コレラがまん延する発展途上国などでは冷蔵管理が難しく、利用しやすいワクチンの開発が待たれていた。ワクチンは千葉大学などと共同で開発した。コレラは東南アジアやアフリカなどの発展途上国で多く発生し、発症すると下痢の症状が出る。これまでのワクチンは冷蔵保存が必要だった。研究チームはコレラの毒素を構成する「部品」から、ワクチンの成分に使える無害な部分の遺伝子をイネに組み込んだ。この部品はコメがもつ天然のカプセルにたまる。コメの粉末を飲むと、ワクチンの成分が腸に届いて免疫をつくる。これまでにマウスやブタ、サルなどで免疫ができるのを確認した。コメであってもワクチン候補にあたるため、今回は健康な大人の男性60人を対象に医師主導治験を実施した。ワクチンを飲んだ人の健康に問題はなく、血清を調べると40~75%の人でコレラの毒素に立ち向かう抗体ができていた。飲む量が増えるにつれて抗体の量も増えていた。今後は有効性を慎重に確かめるほか、遺伝子を組み換えたイネを大規模に栽培できる体制づくりなどの課題を乗り越えたいという。研究チームによると、理論上はあらゆる感染症のワクチンが同じ方法で開発できるという。常温で保存でき、飲むだけで済めば利点は大きい。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210802&ng=DGKKZO74401590S1A800C2MM0000 (日経新聞 2021.8.2) 住宅、木材活用に知恵 環境にも配慮、住友不動産やケイアイスター
 不動産各社が住宅で木材を一段と活用する動きが目立ってきた。住友不動産は戸建てのリフォーム事業で従来は廃棄していた木材を再利用する取り組みを始めた。戸建て分譲住宅を手がけるケイアイスター不動産は注文住宅の国産材比率を100%に引き上げ、輸入材を使う場合に比べて環境負荷を減らす。改築や新築時の二酸化炭素(CO2)排出量の削減などにつながる環境配慮の姿勢を消費者にアピールして、需要取り込みを狙う。住友不はこのほどリフォームサービス「新築そっくりさん」で木材の再利用を始めた。従来、柱などの主要な構造材以外に使用している木材はリフォーム時に廃棄処分していたが、品質を確認のうえ顧客の同意を得られれば壁の内側の下地材などとして再利用する。同社のリフォームは建て替えるよりも廃棄物の排出量が半分で済む特徴がある。木材の再利用を進めることで改築時の廃棄物をさらに減らせる。新たな資材の調達も減らせるため、資材輸送時のCO2排出量も削減できると見込む。同社は年1万棟の大規模リフォームを手掛けており、環境配慮のサービスとしても顧客にアピールしていく考えだ。ケイアイスター不動産は平屋建ての注文住宅「IKI」について、4月以降の契約分から使用する木材を全て国産材に切り替えた。これまでも全体の約8割を国産材としていたが、新たに構造材の梁(はり)もすべて国産木材で建てられるようにした。同社によると、木造の戸建て住宅は鉄筋コンクリート(RC)造と比べ建築時に排出するCO2を約29トン削減できる。1世帯が排出する約7年間分のCO2に相当する。輸入材を使用するよりも輸送時の環境負荷も減らせる。全て欧州産の木材を使って建てた場合は国産材を使った場合に比べて約8.5倍のCO2が発生するとの試算もある。建屋の価格は17坪(約56平方メートル)で599万円から。今後3年間で500棟の受注を目指す考えだ。三井ホームは5階建て程度の中層マンションの木造化を進める。第1号物件となる賃貸マンションを東京都稲城市で建設している。強度や防音性などを高めてマンションを木造化できる新しい技術を開発した。建設時のCO2排出量もRC造の半分程度に減らせる見込みだ。政府は4月、2030年度の温暖化ガス排出量を13年度比で46%以上減らす目標を決めた。住宅部門でも省エネルギー性能の向上や太陽光発電など再生可能エネルギーの導入などを加速する必要があり、コンクリートに比べて断熱性の高い木材の利用が住宅で一段と進む可能性がある。ウッドショックが懸念されていることもあり、輸入材よりも環境負荷を低減できる国産材への注目も高まる。三菱地所など建設・不動産7社も国産材の需要を掘り起こす取り組みを始めている。環境に配慮した住宅は消費者からの支持も得やすいとみられ、今後も不動産各社で木材活用が進みそうだ。

*1-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC27B9W0X20C21A5000000/?n_cid=NMAIL006_20210812_H (日経新聞 2021年8月12日) 3Dプリンター、10日で住宅建築 臓器も代替肉も製造
 戸建て住宅がわずか10日で完成――。米スタートアップが昨年から住宅の建築に活用しているのは3Dプリンターだ。従来は樹脂や金属加工に使われてきた3Dプリンターは技術開発が進み、移植用臓器や代替肉にも活用分野が拡大。短期間で人手がかからないものづくりを実現し、イノベーションも生み出すとの期待が膨らむ。米カリフォルニア州の砂漠地帯に位置するランチョミラージュ。この地域の一角に、2021年中に計15戸の「印刷」された戸建て住宅が建つ計画が動き出す。手がけるのは米建築スタートアップ、マイティ・ビルディングズだ。同社は自社工場で3Dプリンターで住宅を製造、そのまま大型トレーラーで運んで施工するビジネスモデルだ。3Dプリンターには事前に図面データを入力する。データ通りにノズルを動かし、紫外線を当てるとすぐに硬くなる特殊な建築素材を噴射して積み重ねる。例えば、天井部分の工程では柱やパネルを設置した後、上から覆うように建築素材を噴出して形成していく。固まった層は外壁や床材などになるため、大がかりな現場工事は要らない。一人暮らしなどに向く小型住宅なら、10日程度で製造から施工までできるという。国内大手住宅メーカーによると、戸建て住宅の建築は2カ月ほどかかる場合が一般的。同社のスラバ・ソロニーツィン最高経営責任者(CEO)は「従来の建築工法と比べて費用は30%削減できる」と自信を見せる。同社は昨年から同州で住宅を供給しており、日本市場への参入に向けた検討も始めた。3Dプリンターを使った建築は世界で広がっている。オランダの3Dプリンターメーカー、サイビ・コンストラクションは世界で10台以上の納入実績を持つ。同社は数分で固まる素材も開発。これらを使ってアラブ首長国連邦やオランダなどで住宅が建てられている。国内大手も動く。大林組は3Dプリンターで高さ2.5メートル、幅7メートルの大型ベンチを試作。早ければ22年にも3Dプリンターの商業化を目指す。竹中工務店もオランダのスタートアップと共同で3Dプリンター技術の検証を進め、23年以降にイベント施設などの建築向けに導入する考えだ。企業による3Dプリンターの活用はこれまで、樹脂や金属の成型が中心だった。金型成型などの既存技術と比べて短期間で製造でき、少量多品種生産にも対応できることから試作品づくりなどに使われている。自由なデザイン設計がしやすく、製造に携わる人手を減らせることも利点だ。三菱重工業は国産ロケット「H3」でエンジン噴出口部品の加工に3Dプリンターを採用。100億円程度とされる打ち上げコストの半減をめざす。調査会社の富士経済(東京・中央)によると、樹脂や金属を素材とする世界の3Dプリンター市場は19年の1186億円から25年は1833億円と5割以上伸びる。デロイトトーマツグループの入江洋輔氏は「最近では技術開発が進んで3Dプリンターで加工できる素材などが増え、印刷速度も上がってきた」と指摘する。単なるものづくりの代替手段にとどまらず、イノベーションを生み出す役割も3Dプリンターが担う。その一例が再生医療だ。医療スタートアップのサイフューズ(東京・文京)が独自に開発した3Dプリンターは、臓器に疾患がある患者から採取した細胞を培養し、患者専用の臓器を製造する。3Dプリンターで細胞を剣山に刺していき、次第に細胞同士がくっついて固まることで数週間で臓器が完成する。25年度にも移植手術で利用できるようにしたい考えだ。臓器は患者の細胞からつくるため、人工臓器と比べ移植後に感染症や拒絶反応リスクが生じにくい。まず血管や骨軟骨などで臨床試験に入った。同社の三條真弘氏は「移植可能な臓器をつくるためには3Dプリンター技術が不可欠だ」と話す。食品業界ではイスラエルのリディファイン・ミートが3Dプリンターで代替肉によるステーキなどを製造する技術を開発した。植物由来の素材をプリンターのノズルで噴射して積み重ねて製造。アジア市場ではハンバーガーなどの製品群を22年に提供する方針だ。3Dプリンターはデザインが複雑な構造物や、細胞を培養した臓器など特殊な用途で強みを発揮する。一方、大量生産には金型成型の方が適する場合もある。3Dプリンターが得意な分野をいかに見いだして使いこなすか、巧拙が問われる。
●人手不足緩和へ導入
 人手がかからず短期間でものづくりができる3Dプリンターの活用が広がれば、日本の産業界が陥っている慢性的な人手不足の緩和につながる。特に建設業界は人材の高齢化が進む一方、3K(きつい、汚い、危険)のイメージから若者は就業を避けがちだ。労働政策研究・研修機構が2019年に公表した推計では、鉱業・建設業の就業者が17年の493万人から40年に300万人未満に落ち込む。人手不足に苦慮する建設業界では近年、部材加工や施工の一部でロボット導入が相次ぐ。そんな中、住宅をまるごと自動で造ってしまう3Dプリンターの活用はさらに先を行く取り組みだ。みずほリサーチ&テクノロジーズの岩崎拓也氏は「競争力維持のため、国内産業は3Dプリンターの活用領域を見極めて構造転換する必要がある」と指摘する。課題もある。日本の建設業界は災害が多いことなどを背景に法規制が厳しく、3Dプリンターによる大規模な住宅の建築は事実上難しい。柱など住宅の主要な構造部材は日本産業規格(JIS)などの規格・基準に沿わないと使えず、個別に認定を受ける必要がある。デロイトトーマツグループの入江氏は「日本企業は品質へのこだわりが高く、量産への活用には抵抗もある」とみる。欧州では3Dプリンターの製造受託サービスが普及する一方、「自前主義」が強い日本では同様のサービスが少ないことも普及の壁となる。人手不足や規制、過剰品質など3Dプリンター導入の利点や普及に向けた課題は、日本の産業界が直面する問題そのものだ。3Dプリンターを今後どう活用していくかは、こうした問題にどう向き合うかの試金石にもなる。
*多様な観点からニュースを考える:深尾三四郎 伊藤忠総研上席主任研究員
新時代に合った日本発祥の技術。コロナ禍のイタリアでは、ロックダウン下の工場停止で在庫不足に陥った人工呼吸器の弁をミラノのファブラボ(市民共有型の工場)が3Dプリンターで即時生産し、病院に供給したことで数多くの命が救われた。印刷機に送信される製品設計図等のIPをデータの耐改ざん性と機密性を担保するブロックチェーンで管理し、IP使用量に見合う利用料を徴収するシステム構築もイタリアの中小企業の間で試行されている。製造時CO2排出が多い金型を省き、樹脂素材はリユース・リサイクルできるので脱炭素化にも貢献する。1980年に名古屋で光硬化樹脂を積層する光造形法を発明した小玉秀男氏が3D印刷の生みの親。 

*1-4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15011223.html (朝日新聞 2021年8月15日) 抗体カクテル、宿泊療養者にも 重症化防止へ厚労省 新型コロナ 
 入院患者にしか認められていなかった新型コロナウイルスの「抗体カクテル療法」が、宿泊療養者にも使えるようになった。首都圏を中心に病床が逼迫(ひっぱく)するなか、この治療で症状が軽い人たちの重症化を防げれば、医療提供体制への負担軽減にもつながりそうだ。抗体カクテル療法は、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐ二つの中和抗体を組み合わせた点滴薬。軽症や中等症の患者向けで、肥満や基礎疾患などがある高リスクの人の重症化を抑える効果が見込まれる。国内では初の軽症者向けの薬として7月に特例承認された。感染初期の治療の選択肢を広げると期待されている。厚生労働省が13日付で都道府県などに出した通知によると、宿泊施設を臨時の医療施設とみなすことで、ホテルなどで療養している患者も治療対象とする。自治体や専門家からは、自宅療養者への使用を求める声も上がるが、高齢者施設や自宅で療養している患者への使用は現時点では認めない、とした。宿泊施設では、投与後に少なくとも1時間は経過をみる。また、投与して24時間以内の副作用として重いアレルギー反応「アナフィラキシー」が報告されていることなどを踏まえ、十分な観察ができるようにすることも求めた。宿泊療養施設での抗体カクテル療法の実施は、東京都の小池百合子知事が13日の記者会見で、態勢を整備したことを表明。「コロナとの闘いに新たな武器が加わった。攻めの戦略で、いかにして重症化を防いでいくかになる」と語った。厚労省によると、11日時点でホテルなどの宿泊施設に滞在する療養者は、全国に1万4871人で、4週間前の約3倍となった。自宅療養者は約13倍の7万4135人にのぼっている。

*1-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15010172.html?iref=shukatsu_mainbox_top (朝日新聞 2021年8月14日) 「酸素ステーション」整備 商業施設「人流を抑制」 首相表明
 菅義偉首相は13日、自宅療養患者への連絡態勢を強化する考えを示した。患者が酸素の投与が必要になった場合に対応する「酸素ステーション」を設けて対処するといい、こうした方針を関係閣僚に指示したという。首相官邸で記者団の取材に応じた。首相は自宅療養の患者について「必ず連絡が取れるようにする」と述べた。また、軽症者の重症化を抑える抗体カクテル療法を集中的に使える拠点を整備する考えも示した。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は12日、感染拡大が深刻な東京都で、人出を緊急事態宣言が始まる直前の5割まで減らす必要があるとの緊急提言を公表した。首相は「提言を受け、関係団体と連携し、商業施設などの人流の抑制に取り組んでいきたい」と説明。また、コロナのワクチン接種で「10月初旬までに、希望する国民の8割に2回打てる態勢を作っている」とも述べた。

<地方産業の高度化―その2:農林漁業の販売力向上>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210814&ng=DGKKZO74783390T10C21A8EA1000 (日経新聞 2021.8.14) 「売れる農業」県内一丸 稲作からの転換奏功、宮崎や鹿児島、ブランド確立
 基幹産業として地域を支えてきた農業の競争力に大きな差が生じている。過去5年間で全国1741市区町村のうち6割の974が産出額を伸ばした一方、4割は減少した。躍進が目立つ九州勢の取り組みを探ると、地域ブランドを活用した「売れる農業」の姿が見えてくる。農林水産省が3月に公表した2019年の農業総産出額は8兆8938億円。都道府県別の産出額では北海道が統計の残る1960年以来首位を守り、1兆2558億円だった。2位以下は鹿児島県、茨城県、千葉県、宮崎県、熊本県が順に並ぶ。60年時点では新潟県など米どころが上位の常連だったが、需要低下もあり稼げる農業の内訳が一変。台風被害を防ぐため稲作から施設を使った畜産や園芸への転換を進めた宮崎県などの九州勢が躍り出た。2014年から集計が始まった自治体別の産出額(推計)でみても、九州が目立つ。19年のトップは宮崎県都城市で877億円。14年比増加率(産出額100億円以上の226自治体を集計)でも首位は74%増の宮崎県日向市だった。2位は61%増で鹿児島市、都城市も25%増で33位に入った。稼ぐ力を確立した地域が、より強みを発揮する。マンゴーの産地、宮崎県日向市は県やJAなどと取り組んだ高級マンゴーのブランド「太陽のタマゴ」のほか畜産などで生産力を高めた。主力の養鶏では事業者が鶏舎の清掃などの分業化を進めて作業効率を向上。鶏肉の年間出荷回数を従来の4.5回から5~6回程度まで引き上げた。日向市だけでなく、宮崎県内では関係者が一丸となった競争力向上の取り組みが進む。県は1994年に「みやざきブランド確立戦略構想」を策定し「『作ったものを売る』から『売れるものを作る』」を目標に据えた。おいしさや鮮度といった商品そのものの「質」を高めるだけでなく、安心・安全を前面に畜産物と花卉(かき)を除くすべてのブランドに月2検体以上の残留農薬検査を義務付け、基準値を超えた場合には迅速な出荷停止措置をとれる体制を整えた。都城市は60年以降、稲作から畜産への転換を進めてきたことが功を奏し、2019年、初の首位となった。主力産品のひとつ「宮崎牛」は1986年、県内関連団体が共同で「より良き宮崎牛づくり対策協議会」を発足させ、品質向上への動きを加速。「日本一の努力と準備」を合言葉に全国大会で史上初の3連覇を果たしたことなどで、首都圏をはじめとした大消費地からの評価を高めた。増加率2位の鹿児島市も「鹿児島黒牛」や「かごしま黒豚」の産地の一つとして、県や周辺自治体と連携して知名度向上に力を入れる。県は全国に先駆けて1989年から販売力の強化を目的とした農産物の認証制度をスタートした。2010年代半ばからは輸出も強化。牛肉は東南アジアでの人気が高く、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、県全体の輸出額が前年度比5%減少の214億円だった20年度も、畜産物は21%増の106億円と過去最高額を更新した。鹿児島黒牛と宮崎牛は17年末、国が保護する地域ブランドに登録された。鹿児島黒牛は遺伝子解析などの先端技術を使い、改良に長く取り組んできたと認められた。宮崎牛は種牛の一元管理を全国で初めて構築したと評価された。地域ブランドには「神戸ビーフ」「特産松阪牛」も名を連ねており、世界に知られる和牛産地と南九州が肩を並べている。

*2-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021072801196&g=eco (時事 2021年7月29日) ふるさと納税、過去最高6725億円 「巣ごもり需要」背景か-20年度
 ふるさと納税の2020年度の寄付総額が約6725億円で、過去最高になったことが28日、分かった。寄付件数も過去最多だった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「巣ごもり需要」を背景に、各地の返礼品を楽しむ寄付者が増えたためとみられる。総務省が近く公表する。寄付総額は19年度の約4875億円から1.4倍に増加。寄付件数は約3489万件で、制度開始以来12年連続で最多を更新した。自治体別の受け入れ額は、1位が宮崎県都城市で135億2500万円。2位が北海道紋別市の133億9300万円で、同根室市125億4600万円が続いた。一方、ふるさと納税による21年度の住民税控除額は、前年度比1.2倍の約4311億円だった。最も多いのが横浜市の176億9500万円で、名古屋市106億4900万円、大阪市91億7600万円の順となった。ふるさと納税は、寄付額から2000円を引いた額が現在住んでいる自治体の住民税などから控除される仕組み。豪華な返礼品を提供する競争の過熱が問題となり、19年6月から返礼品は「寄付額の3割以下の地場産品」などの基準を守る自治体のみ参加できる制度に移行した。

*2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP867HHFP7ZTIPE01P.html (朝日新聞 2021年8月10日) 「電力まで五島産」広がる再エネ ふるさと納税でも復活
 再生可能エネルギーの「産地」を売りにする動きが広がっている。地域の太陽光や風力などでつくった電気をブランド化して地域振興につなげる狙いだ。ふるさと納税の返礼品としてPRする自治体もある。
●「電力まで五島産」
 レシピカードには、こんな言葉が記されていた。東京や大阪の百貨店で開かれた物産展で、長崎県五島市の水産加工会社「しまおう」が魚のすり身に昨年から添えた工夫だ。
●原料の安全・安心は当たり前
 しまおうは地元でとれるアジやアゴ(トビウオ)ですり身やかまぼこを作る。昨春、地元の新電力会社と契約し、工場の電気はすべて地元の再エネでまかなっている。カードには「島の風と太陽から生まれた電気で製造しています」と記し、風車のイラストも描いた。山本善英社長(51)は「原料の安全や安心は当たり前。地元の電気が注目されるようになれば」と話す。五島市では太陽光や風力発電など再エネの普及が進み、使う電気の約半分は市内でつくっている計算だ。沖合に巨大な風車を新たに8基浮かべて発電する計画も進んでおり、2023年ごろには8割まで上げる予定だ。電気は、大手電力会社には売らず、できるだけ「地産地消」に生かす。今夏には、使う電気をすべて地元の再エネでまかなう企業を独自に認定する「五島版RE(アールイー)100」という取り組みを始める。五島と政府の景気刺激策をもじった「GOTO RE100」というロゴマークも作り、認定された企業はロゴを使って取り組みをアピールできる。地元の福江商工会議所の清瀧誠司会頭(81)は「人口減少の著しい離島は、他ではできないことをしなければ生き残れない。島の電気を活用して生産段階から差別化を進め、地元企業の価値を高めたい」と話す。
●スタバも関心「お店で知って」
 電気の産地には、企業も関心を示す。スターバックスコーヒージャパンは10月までに、約350店舗ある直営路面店すべてで、使う電気を地域の再エネに切り替える。富山や鹿児島の店では地元の水力発電所の電気を使う。徳島では地元の木質バイオマス発電所から調達し、近くの森林の維持・管理にも役立てる。広報担当者は「ビジネスを続けるには、地域活性化への貢献は欠かせない。お店を通じて、地元の再エネも知ってもらいたい」と話す。アウトドア用品大手、スノーピークも7月、新潟県三条市の本社などで使う電気を市内の木質バイオマス発電所に切り替えた。電気代は少し高くなる見込みだが、「地元に根ざした事業をしており、地産地消に貢献したい」(広報)としている。ふるさと納税の返礼品として地元の再エネを提供する動きもある。阿蘇山のふもとにある熊本県小国町は8月初旬、地元の電気を返礼品に加えた。町には地熱発電所が立地し、太陽光や水力を含む発電出力は約3万7千キロワット。町内で使う電気の約2・6倍に及ぶ。特産のあか牛や馬刺しなどの肉類には知名度で劣るが、「町の新電力会社の経営安定にもつながる。町外からの問い合わせも多い」(町の担当者)。
●ふるさと納税もお墨付き
 地元の電気を返礼品として提供して寄付者の電気代を割り引く自治体は数年前からあった。しかし、総務省が今年4月、「電気は地場産品に当たらない」との見解を出した。一般の送配電網で供給される電気は様々な地域で発電されたものが混ざってしまうためだ。再エネの普及をめざす政府の方針を受けて、総務省は一転して6月に一定の条件下でこれを容認した。政府のお墨付きを得たことで、返礼品をきっかけに再エネ普及が進む、との期待も出ている。電気の返礼品は今春まで福島県楢葉町や愛知県豊田市、大阪府泉佐野市など全国9市町が提供していた。地元の太陽光や水力で発電した電気をもとに17年から返礼品を提供している群馬県中之条町は10月再開をめざす。担当者は「またぜひ使ってもらいたい」。ただ、寄付者が返礼品としての電気を受け取るには、自治体の指定する新電力会社と契約を結ぶ必要がある。手続きの煩雑さが寄付額の伸び悩みにつながっているとの見方もある。

*2-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15008803.html (朝日新聞社説 2021年8月13日) ふるさと納税 「官製通販」見直しを
 ふるさと納税による寄付の膨張が止まらない。昨年度に全国の自治体が受け入れた寄付額は前年度を4割も上回り、過去最高の6724億円にのぼった。自治体間の過剰な競争を抑えるため、返礼品を「寄付額の3割以下」にするルールが導入され、19年度は7年ぶりに減少に転じた。だが、ルールは早くも骨抜きになっている。例えば、コロナ対策で農水省が始めた農林水産品の販売促進の補助金を使えば、返礼率を大幅に高めることができる。20年度に寄付額が急増したのはコロナ禍での「巣ごもり消費」に加え、ルールの形骸化も影響しているだろう。ふるさと納税は、寄付額の多寡にかかわらず、自己負担は実質2千円だ。高所得者ほど返礼品を多く受け取れるうえ、税の優遇も大きい。コロナ禍による格差の是正が政策課題になるなか、不平等な仕組みをこれ以上放置することは許されない。総務省によると、寄付額の45%が返礼品の購入費や、返礼品を選ぶ民間のポータルサイトへの手数料などに費やされている。昨年度の寄付額から換算すると、全体で約3千億円の税収が失われることになる。コロナ感染が特に広がっている東京などの都市部は、ふるさと納税で寄付する人が多い。財源の流出が続き、感染対策の費用をまかなえないような事態になっては困る。ふるさと納税の当初の趣旨は、寄付を通じて故郷に貢献してもらうことだった。しかし現状では「官製通信販売」になってしまっている。NTTグループの昨年の調査では、「出身地への貢献」のために制度を利用した人は12%しかいなかった。自治体間の財政力の格差を是正するのであれば、いまの地方税や地方交付税のあり方が妥当かを、正面から論じるべきだ。そもそも寄付とは、見返りを求めないものである。返礼品を受け取らずに、災害の被災地に寄付をする人もいる。ふるさと納税を続けるのであれば、返礼品をなくすなど抜本的に制度をつくり変える必要がある。しかし見直しの議論は進んでいない。ふるさと納税は菅首相が総務相時代に創設を決めた。反対した幹部が「左遷」されたこともあり、制度の欠陥を指摘されても、総務官僚らは見て見ぬふりを決め込んでいる。地方自治は「民主主義の学校」と言われる。返礼品を目当てに、自分が暮らす自治体から受けた行政サービスに対する負担を回避する制度は、地方自治の精神を揺るがす危うさがある。制度の生みの親である菅首相には、政策の誤りを認め、欠陥をただす責任がある。

*2-3:ttps://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210815&ng=DGKKZO74788420U1A810C2EA1000 (日経新聞 2021.8.15) 「シャインマスカット」 中韓の生産、日本上回る 日本発ブランド、流出先で輸出の主力に
 高級ブドウ「シャインマスカット」をはじめ、日本発のブランド品種の海外流出が深刻さを増している。流出先の韓国では、もともとのシャインマスカットが今や輸出の主力となり、輸出額は日本の5倍超に膨らんだ。中国国内での栽培面積は日本の40倍超に及ぶ。海外への持ち出しを禁止する改正法が4月に施行したが、実効性には課題を残したままだ。農林水産省によると、シャインマスカットは2016年ごろから海外流出を確認。法規制が追いついていなかった経緯もあり、韓国などへの持ち出しと現地栽培、輸出が膨らんでいった。19年には日韓のブドウの輸出数量が逆転した。21年1~4月の韓国産ブドウの輸出額は約8億円と前年同期比で1.5倍に増えた。このうちシャインマスカットが約9割を占めた。日本の輸出額は1億4700万円にとどまり、量では7倍の差がついた。農林水産・食品産業技術振興協会によれば、ブランド果実の流出先は中国、韓国が中心だ。シャインマスカットのケースで、栽培面積は日本が1200ヘクタールなのに対し、韓国は1800ヘクタール、中国では5万3000ヘクタールと規模は桁違いだ。ブドウ以外でも同協会の20年の調査で、30以上の品種の海外流通が確認された。静岡県のイチゴ「紅ほっぺ」や高級かんきつ「紅まどんな」などが標的になっている。政府は登録品種の海外持ち出しを禁じる改正種苗法を4月に施行した。違法持ち出しに罰金や懲役を設けたが、違反事案は絶えない。意図的かどうかにかかわらず、一度流出すると種苗や苗木の追跡は難しくなる。日本政府はブランド品種を中核にし農林水産物輸出額について25年に2兆円、30年に5兆円に増やす目標を掲げる。20年の輸出額は9217億円。当初目標の「19年に1兆円」には届かなかった。海外流出に歯止めをかけられず、さらに流出先で輸出まで膨らむ状況が続けば、一連の目標に黄信号がともる。

<地方産業の育成―その1:再エネ>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA074ZX0X00C21A8000000/ (日経新聞 2021年8月9日) 気温1.5度上昇、10年早まり21~40年に IPCC報告書
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は9日、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年に1.5度に達するとの予測を公表した。18年の想定より10年ほど早くなる。人間活動の温暖化への影響は「疑う余地がない」と断定した。自然災害を増やす温暖化を抑えるには二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする必要があると指摘した。温暖化対策の国際的枠組みのパリ協定は気温上昇2度未満を目標とし、1.5度以内を努力目標とする。達成に向け先進各国は4月の米国主催の首脳会議(サミット)で相次ぎ温暖化ガスの新たな削減目標を表明した。今回の報告書は気温上昇を抑える難しさを改めて浮き彫りにした。10月末からの第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)での議論が次の焦点になる。IPCCは5つのシナリオを示した。21~40年平均の気温上昇は、50~60年に実質排出ゼロが実現する最善の場合でも1.5度になる。化石燃料への依存が続く最悪の場合は1.6度に達する。18年の報告書は1.5度になるのは30~52年とみていた。予測モデルを改良し、新たに北極圏のデータも活用したところ10年ほど早まった。上昇幅は最善の場合でも41~60年に1.6度になる。化石燃料への依存が続く最悪の場合は41~60年に2.4度、81~2100年に4.4度と見込む。過去の気温上昇も想定以上に進んでいたとみられる。今回、11~20年平均で1.09度と分析した。18年の報告書は06~15年平均で0.87度だった。1850~2019年の二酸化炭素排出量は累計2390ギガトン。気温上昇を1.5度以内に抑えられる20年以降の排出余地は400ギガトンとみる。今の排出量は年30~40ギガトンで増加傾向。10年ほどで1.5度に達する。産業革命前は半世紀に1回だった極端な猛暑は1.5度の上昇で9倍、2度で14倍に増えると予測する。強烈な熱帯低気圧の発生率も上がり、干ばつも深刻になる。平均海面水位は直近120年で0.2メートル上がった。今のペースは1971年までの年1.3ミリの約3倍と見積もる。気温上昇を1.5度以内に抑えても、2100年までに今より0.28~0.55メートル上がると予測する。気候変動のリスクを正面から受け止め、対策を急ぐ必要がある。IPCCは気候変動に関する報告書を1990年以来5~7年ごとにまとめている。最新の研究成果を広く踏まえた内容で信頼度が高く、各国・地域が温暖化対策や国際交渉の前提として活用する。第6次となる今回は22年にかけて計4件の報告書を公表する予定だ。

*3-1-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021081100128 (信濃毎日新聞社説 2021/8/11) 温暖化報告書 深刻さを共有しなければ
 深刻さはより深まっている。人類への警鐘と受け止め、二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを確実に果たさねばならない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、最新データに基づく地球温暖化の予測を報告書にまとめた。温暖化は人間の影響とすることに「疑う余地がない」と初めて断言。世界の平均気温は、対策を進めても2021~40年に、産業革命前と比べて1・5度上昇する可能性が高いとした。13年の報告書では、温暖化と人間の影響について「可能性が極めて高い」と指摘。18年の特別報告書で、上昇幅が1・5度に達するのは30~52年としていた。踏み込んだ表現や、約10年早まった分析は、スーパーコンピューターを駆使し、より精度を高めた結果だ。科学に裏付けられた知見として共有する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、気温上昇を2度未満、できれば1・5度に抑える目標を掲げる。2度を超えると、極端な高温や豪雨などが頻発し、海面が上昇すると考えられるからだ。報告書によると、11~20年で1・09度上昇した。既に極地やシベリアで氷床や永久凍土の融解が報告されている。日本では巨大台風の襲来や豪雨、世界では異常熱波や大規模な山火事が繰り返されるようになった。当面続く気温上昇に備え、避難計画見直しや食料確保といった対応が欠かせなくなりつつある。報告書は、50年にCO2排出量を実質ゼロに抑えられた場合、温度は今世紀後半に下降し、1・5度未満に収まる予測も示している。解決のための目標は明確だ。日本政府は、30年度に13年度比で46%削減、50年に実質ゼロを表明している。ただ、再生可能エネルギーの活用を模索する一方で、石炭火力を温存し、家庭での取り組みに頼る姿勢を見せる。石炭火力の全廃やガソリン車の販売禁止といった思い切った政策を早期に打ち出さなければ、実現は困難ではないか。生物多様性の保全や海洋プラスチックごみ対策も温暖化抑止につながる。森を守り、化学肥料を減らして農作物を育て、プラスチックをできるだけ使わない暮らしを、地域や個人でも進めたい。10月末には英国で国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議が開かれる。各国の足並みはそろっていない。報告書の知見を最大限に生かし、世界が一体となれる合意を目指さねばならない。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210729&ng=DGKKZO74269830Y1A720C2EN8000 (日経新聞 2021.7.29) 脱炭素の外圧、変革に生かせ
 今日、日本の最大の課題は脱炭素だ。一連の環境問題への対応は、欧州を中心にスタンダード化するなかで日本も取り組まざるを得なかったものだ。そもそも「日本は環境先進国」と思っていたなかで生じた「外圧」による対応に、必要性を感じながらも釈然としない思いを抱く日本人も多いのではないか。米国もバイデン政権になって脱炭素に向けて大きく舵(かじ)を切っただけに、日本は外堀を埋められた。2020年10月の菅義偉首相の決断がせめてもの救いだ。外圧が主導し、日本の主体性がみえない対応はいかがなものかという見方は当然だ。だが、約150年前の明治維新以来、日本は50年周期の外圧による転換の繰り返しだった。幕末の欧米列強の外圧がなければ、明治維新の近代化、統一国家実現は不可能だった。その後、1920年代の世界大恐慌後の重化学工業化も同様で、戦後の政治経済のレジームは日本国憲法をはじめほとんど外圧だった。70年代以降の環境問題による転換も同様だろう。公害問題の深刻化に伴う自主的な側面はあったが、大きなドライバーになったのが、石油危機でのエネルギー価格高騰のほか、米国のマスキー法などを中心とした自動車の排ガス規制だった。以上、日本は常に外圧に対し、やらされているという被害者意識を持ちつつも、その潮流に乗って大きく社会構造や経済システムを転換させてきた。日本がなかなか自律的に変わりにくいなか、外部環境の転換がなければ改革はできなかった。第2次世界大戦が終わって3四半世紀が過ぎ、バブル崩壊という第2の敗戦を経て、新型コロナウイルス危機は第3の敗戦との見方もある。ただし、脱炭素も含めた環境問題はそもそも日本が先進的な分野である。日本ほど自然災害への遭遇も含め、自然と向き合う生活を文化としてきた国民も珍しい。今回の脱炭素を中心とした外圧も、日本にとって大きなチャンスとの見方ができる。70年代の一時的な成功体験に安住し、その後バブルに陥ったことによる停滞を一気に挽回する発想転換が必要だ。そこでは世代交代も含め、保有資産が座礁資産化するのも覚悟しつつ、過去を捨て去る決断も必要になるだろう。

*3-2-2:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=141076 (南日本新聞 2021/7/30) [エネルギー計画] 脱炭素へ抜本的改定を
 経済産業省は、2030年度の電源構成で再生可能エネルギーの主力化を進める新たなエネルギー基本計画の素案を有識者会議に提出した。菅義偉首相が打ち出した50年の温室効果ガス排出量実質ゼロや、30年度に排出量を13年度比で46%削減するといった国際公約の実現に向けた重要な一歩ではある。だが、再生エネ拡大には課題が山積し、二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力や、諸問題を抱える原子力への依存を続ける姿勢は変わらない。政府は脱炭素の実現に不可欠な社会や経済の変革を促すため、計画を抜本的に見直していかなければならない。基本計画は中長期的なエネルギー政策の指針で、将来の電源構成や原発の運営の方向性などを示し、おおむね3年に1度改定してきた。今後、意見公募などを経て10月までに閣議決定する見通しだ。素案では、現行目標が22~24%の再生エネを36~38%と大幅に拡大する方針を示した。19年度実績の約2倍に相当し、政府は建設期間が比較的短い太陽光に期待している。ただ、太陽光は急速に導入を進めてきた結果、新たな適地の確保が難しくなっている。悪天候で発電が減った時に備え、他の電源を用意するコストがネックになる恐れもあり、順調に進むかは不透明だ。再生エネ拡大は国際的潮流だが、素案の目標はドイツの65%、米カリフォルニア州の60%などに比べて見劣りする。政府は電力を消費地に届けるための送電網の整備や蓄電池の普及を急ぎ、大幅な拡大を目指す必要がある。一方、現在主力の火力は現行の56%から41%へと大きく減らす。このうち、近年は総電力の3割前後を占めるまでに拡大した石炭火力は19%に削減するが、安定供給性や経済性に優れているとして活用する道を残す。米国が35年の電力脱炭素化を掲げ、各国が石炭火力の全廃を打ち出す中、日本の温暖化対策の遅れが際立っていると言わざるを得ない。原子力については、東京電力福島第1原発事故後に再稼働した原発は33基中10基で、19年度実績は6%程度にとどまる。しかし、目標は現行の20~22%に据え置かれ、低コストで安定供給が可能な「重要なベースロード電源」という位置付けも維持した。目標達成には30基程度を稼働させる必要がある。安全対策でコストがかさむ中、政策の見直しは避けられないのではないか。さらに焦点だった原発の新増設や建て替えの方針は盛り込まれず、問題を先送りした感は否めない。原発に対する国民の不信感は根強い。政府は原発の是非を含めた議論を深め、将来像を示すべきである。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210819&ng=DGKKZO74903140Y1A810C2TB2000 (日経新聞 2021.8.19) テスラ、日本で送電向け蓄電池 価格5分の1に
 米電気自動車(EV)大手のテスラが日本で電力ビジネスに参入する。電力需給の調整弁となる大型蓄電池と制御システムを電力事業者に供給し、天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーの有効活用を後押しする。国内相場の約5分の1の価格で販売する予定で、再生エネの導入コストが下がる効果も期待できる。再生エネ発電所は安定して発電しにくい。必要以上に発電すると需給バランスが崩れ、送電網がパンクして停電を起こしかねない。電力インフラに組み込む蓄電池に余剰電気を蓄えさせ、需要が増えたときに放電させれば再生エネを無駄なく使える。テスラ日本法人のテスラモーターズジャパン(東京・港)は第1弾として、新電力のグローバルエンジニアリング(福岡市)が2022年に北海道千歳市で稼働させる拠点に大型蓄電池を納入する。容量は6000キロワット時で、一般家庭約500世帯分の1日の電力使用量に相当する。グローバルエンジニアリングは北海道電力の送電網にテスラの蓄電池システムを接続し、電力の調整弁として機能させる。1キロワット時当たりの納入価格は5万円弱と従来の推計価格(24万円強、19年)を大きく下回る。電池の調達元は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)。EV向けも調達する電池の世界大手で、このほどテスラと25年末までの新たな供給契約を結んだ。提携関係からテスラは有利な条件で取引できるとみられる。経済産業省は7月、新しいエネルギー基本計画の原案をまとめ、30年度の電源全体に占める再生エネ比率を現行の22~24%から36~38%に引き上げるとした。これに伴い、計2400万キロワット時分の蓄電池が必要になる見通しだ。テスラは米国やオーストラリアで需給に応じて自ら電力を売買する事業を展開している。日本でもほかの新電力や商社などと組み、電力ビジネスを拡大するとみられる。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0121X0R00C21A8000000/ (日経新聞 2021年8月1日) 水素航空機の空港施設整備、官民で検討 燃料貯蔵など
 政府は水素を燃料とする航空機の実用化に向け、水素の貯蔵や機体へ注入するための空港施設の整備に向けた検討を始める。二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を燃料とする航空機は次世代技術として期待される。今秋をめどに、具体化に向けた課題を整理してまとめる。経済産業省は3日午後にも、国土交通省や文部科学省のほか、関連民間企業による検討会の初会合を開く。水素燃料航空機の空港インフラ整備について日本政府が検討するのは初めて。民間からは日本航空や全日本空輸、川崎重工業、三菱重工業、IHI、燃料供給会社が参加する。水素燃料航空機を運航させるには、液化水素燃料の貯蔵タンクや、送配管といった施設を設置する必要がある。現状の制度面での課題や、費用試算も含めて検討し、早期実現を後押しする。欧州航空機大手のエアバスは、2035年までに水素燃料航空機を市場投入すると公表した。他メーカーの動向も踏まえ、経産省は30年までに要素技術を確立する必要があるとみている。

*3-3-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/123525 (東京新聞 2021年8月11日) 軽電気自動車の開発加速、発売へ 価格200万円切りが焦点
 軽自動車の電気自動車(EV)の開発競争が加速している。日産自動車と三菱自動車は共同開発車を2022年度前半に発売し、スズキは20年代半ばの投入を目指す。「地方の足」である軽にも、脱炭素の流れが波及している。安さが魅力の軽でEVが広まるには、国や自治体の補助金を含めた価格が200万円を切り、どこまで下げられるかが焦点になりそうだ。ホンダは24年の発売を計画。ダイハツ工業は開発を検討中。日産と三菱自は他社に先駆けて発売し「軽EVの開拓者」(関係者)を狙う。スズキは今年「EV事業本部」を新設した。走行距離と価格のバランスを見極めることが重要になりそうだ。

*3-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210819&ng=DGKKZO74903370Y1A810C2FFJ000 (日経新聞 2021/8/19) 百度、自動運転EVに本腰、吉利と提携、8500億円投じ生産  ロボタクシー事業拡大
 中国インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)は18日、未来のクルマのあり方を示した自動運転のコンセプト車「ロボットカー」を発表した。中国自動車大手との共同出資会社で参入する電気自動車(EV)の製造・販売には今後5年間で500億元(約8500億円)を投じる。8年前に開発に着手した自動運転技術の進歩を訴えた。「未来の自動車はロボットカーの方向に進化する」。18日、オンラインで開いた発表会で、李彦宏(ロビン・リー)董事長兼最高経営責任者(CEO)はこう強調した。ロボットカーは2人乗り。ハンドルやアクセル、ブレーキなどの運転席がなく、前面には大きなパネルがある。人工知能(AI)が学習することも特徴で、乗客の好みに応じた運転やサービスを提供するとしている。発表会で実際に走行する場面を披露したものの、ロボットカーの発売時期については触れなかった。現段階では未来のクルマとの認識だが、ネット大手の百度は近く、EVメーカーの仲間入りを果たそうとしている。今年初めに発表した中国民営自動車大手、浙江吉利控股集団との提携が戦略の柱になる。3月に立ち上げたEV製造・販売の共同出資会社、集度汽車は百度が55%を出資して主導権を握った。集度汽車は今後5年間で約8500億円を投じることを決め、自動運転技術を搭載したEVを製造・販売する。2022年4月に開かれる北京国際自動車ショーでコンセプト車を公開し、同年中にも受注を始める計画だ。具体的には、吉利が開発したEV専用のプラットホーム(車台)を活用し、吉利の工場を活用するとみられる。百度が自動運転技術の開発に着手したのは13年と競合より早く、17年には自動運転技術の開発連合「アポロ」を立ち上げた。トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)、米インテル、米エヌビディアといった世界の大手が参画し、中国政府の支援を受けている一大連合だ。パソコンやスマートフォンの基本ソフト(OS)のように「自動運転車のOSといえる基幹システムを生み出すこと」を目標に掲げた。これまで百度は自動車大手にシステムを提供して「稼ぐ」モデルを描いてきた。実際、国有自動車大手の中国第一汽車集団や新興EVメーカーである威馬汽車がアポロを搭載したEVを投入した。ただ、中国国内での利用は進みつつあるものの、パソコンの「ウィンドウズ」やスマホの「アンドロイド」のように、市場を牛耳るにはほど遠い状況だった。次なる一手が、自ら車両の製造・販売を手掛けることだった。自動車大手とタッグを組み、収益化を急ぐ方針に転じた。百度など中国勢の自動運転技術の実力について、日系自動車メーカーの幹部は「成長が著しい」と評価する。自動運転で先行してきた米国勢に迫っている。20年の公道での自動走行試験の距離は米ゼネラル・モーターズ(GM)子会社と、米アルファベット傘下のウェイモに並び、百度も100万キロメートルを越えた。自動運転タクシーにも本格的に乗り出し、自動運転分野における「百度経済圏」の構築も急ぐ。現在は北京、広東省広州、湖南省長沙、河北省滄州の限定した公道で展開し、3年以内に30都市まで拡大する。これまでは実験段階で地図アプリで予約する仕組みだったが、本格的な事業展開に備えて専用アプリを立ち上げることも表明した。百度が自動運転分野で成果を急ぐのは、主力の検索事業の成長が鈍化しているためだ。売上高の約6割は検索を中心とするネット広告収入だ。中国政府が米グーグルなどの利用を制限し、検索サービスでは圧倒的なシェアを誇るが、20年12月期の売上高は1070億元と前の期を下回った。百度は長く、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)と並ぶ中国のネット3強、いわゆる「BAT」と評されてきたが、収益面や時価総額では差が開いた。2強の背中は、はるかかなたにある。自動運転技術を搭載したEVはスマホ大手の小米(シャオミ)が参入し、自動運転タクシーも滴滴出行(ディディ)などが力を入れている。これまで中国勢の先頭を走ってきたと自負する百度の実力が今こそ問われる。

*3-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC166RR0W1A710C2000000/ (日経新聞 2021年8月11日) ホンダ寄居工場の進出効果、地元では実感乏しく
 ホンダは2021年度中に狭山完成車工場(埼玉県狭山市)の四輪車生産を新鋭の寄居完成車工場(同県寄居町)に集約する。狭山市の地域経済への懸念はこれまでも話題になってきたが、一方で寄居町の商工業は盛り上がっているのか。地元の商工団体や商店を訪ねると、民間ではまだ大きな経済効果が感じられない状況が浮き彫りになった。寄居工場の稼働開始は13年。06年の建設計画発表当初は、10年に稼働開始予定だったが、08年のリーマン・ショックで3年遅れた。「当初は町内の製造業にもっと大きな波及効果があると思っていた」。寄居町商工会の担当者は話す。しかしホンダ関連で大きな受注を獲得した企業や、工場の新増設の話も聞かないという。計画当初、寄居工場は国内での増産投資が目的だったが、その後、ホンダが国際分業を一段と加速。協力部品メーカーを含めて増産の意義は薄れ、町内の中小製造業が食い込む機会も広がらなかったとみられる。例えばホンダ系の大手部品メーカー、エイチワンは07年、増産に向けた工場用地を近隣の熊谷市に確保したが、21年3月に売却を発表した。商業にも目立った経済効果は出ていない。町内の中心部にある寄居駅南口の一等地で20年間続いた大型スーパー「ライフ寄居店」は13年に閉店し、今も空き店舗のままだ。寄居駅周辺の約40店で構成するふるさと寄居商店会会長で新島薬品を経営する新島清綱氏は「期待はしているが、ホンダの工場ができてから新しい客が増えた印象はまだない」と言う。要因の1つは、工場の立地も影響しているようだ。寄居工場は寄居駅から東武東上線で南東方向に4駅目のみなみ寄居駅前にある。同駅はホンダが東武鉄道に整備を要請し、事業費を全額負担した。駅舎と工場を結ぶ渡り廊下があり、従業員は駅から工場敷地内に直接入れる。駅前に商店はなく、従業員のほとんどは昼間、工場内の食堂や売店を利用するようだ。また「もともと狭山工場で勤務し、いまも狭山市周辺から通勤する従業員が多い」(寄居町役場)。車で通勤する場合、最終的には国道254号を北上して寄居工場に通うのが一般的で、寄居駅前は通勤ルートに入らない。従業員が町内で消費する機会はかなり限られる。こうした状況を打開しようと、寄居町は今年秋にも狭山市周辺から通う従業員ら向けに「移住・定住を促すツアーを開催したいと考えている」(担当者)。ただ寄居町と隣接する深谷市の花園地区には、22年秋に約120店舗を集めたアウトレットモールが開業予定で、町内の消費が流出する可能性もある。民間にはまだ目に見える経済効果が出ていないかもしれないが、ホンダの工場進出が寄居町の財政を潤したのは確かだ。寄居町の21年度の一般会計当初予算は約112億円、町税は約45億円。ホンダ進出で町税が5億円ほど増えたこともあったという。税収増の効果をもとに、地元企業の技術力向上をどう支援してホンダ関連の受注獲得に結びつけるか。ホンダ関連の従業員の移住促進や商業の活性化にどうつなげるか。寄居町にとってこれからが正念場となる。

*3-3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210819&ng=DGKKZO74903030Y1A810C2TB2000 (日経新聞 2021.8.19) ホンダ、中国で新エネ車増産 EVなど、年12万台上積み
 ホンダが中国で電気自動車(EV)など新エネルギー車の生産増強に乗り出すことが18日までに分かった。合弁会社を通じた総投資額は約30億元(約500億円)で、南部広東省広州市の工場を増設し生産能力を年12万台分上積みする。2024年2月以降の稼働を目指す。ホンダは中国で新車販売を伸ばしてきたが、新エネ車を巡っては中国ブランドなどとの競争が激化しており巻き返しを急ぐ。ホンダの中国での合弁会社、広汽ホンダが広州市当局に提出した工場増強に関する入札申請書で投資計画が明らかになった。新設備の建設面積は約18万6000平方メートルで、10月の着工を予定する。EVやプラグインハイブリッド車(PHV)といった新エネ車専用の生産設備となる見込みだが、車種などは明らかになっていない。広汽ホンダは広州市に4工場を持ち年77万台の生産能力を持つ。一方、ホンダの別の合弁会社、東風ホンダも湖北省武漢市で3工場を運営し、生産能力は年72万台。広州市の新しい生産設備が稼働すれば、ホンダの中国での自動車生産能力は年161万台となり現在に比べ約1割増える見通し。ホンダの中国での新車販売台数は20年に19年比5%増の約163万台で2年連続で最高を更新した。21年も1~7月累計で前年同期比20%増の約89万台と伸びているが、足元では7月まで3カ月連続で前年実績を割り込むなど減速している。

<地方産業の育成―その2:医療・介護>
*4-1-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=781600&comment_sub_id=0&category_id=142 (中國新聞 2021/8/8) コロナ入院制限 制度設計、甘すぎないか
 新型コロナウイルス感染症の入院対象者を、政府が絞り込む方針だという。重症化リスクの高い中等症や重症の感染者に限り、それ以外は自宅療養を原則とする。呼吸困難や肺炎などでも重症化リスクが低いと判断されると、自宅療養になる。これまでは、軽症や無症状の人も宿泊施設で療養させるのが基本だった。目の届きにくい自宅療養では容体急変への対応などが限られ、心もとない。感染者の激増を受けた苦肉の策だろうが、国民の命を左右しかねない方針転換である。必要な医療を受けられず、置き去りにされるようなことがあってはなるまい。入院制限の対象は「爆発的感染拡大が生じている地域であり、全国一律ではない」と菅義偉首相は説明する。念頭にあるのは首都圏だろう。だが感染力の強い変異株「デルタ株」は全国に広がっており、新規感染者は連日1万人を超す。地方にとっても人ごとではない。中等症でも、肺炎など症状によっては呼吸不全を起こし、酸素投与が必要になる場合もある。実際、5月がピークだった「第4波」では、自宅療養者が適切な医療を受けられずに重篤化したり死亡したりする事例が大阪で相次いだ。その教訓から今回、国民や医療関係者の間で懸念が高まり、与野党から異論が噴出したのは当然だろう。自宅療養を基本とするなら、何よりもまず、患者が安心して療養できる環境が必要である。現状では、往診などの在宅医療体制が整っている地域は少ない。宿泊療養施設の拡充や在宅患者を見守ることのできる医師や看護師の確保といった、地域住民の不安を拭い去る策を講じるのが先のはずだ。政府の方針では、入院対象の仕分けについては、自治体の保健所がまず担うという。ただ、各地の保健所はすでに業務がパンク状態とされる。対応する余力はあるのだろうか。また、自宅療養から入院への切り替えは地域の医師の判断に委ねられるものの、明確な基準は示されていない。制度設計が甘すぎるのではないか。緊急事態宣言下の6都府県では、自宅療養者が4日時点で約3万7千人に増えている。その4割近くは東京で、入院や療養先を調整中の人は1万人近くに上るという。入院の制限でさらなる増加は目に見えている。自宅療養者の急変に適切に対処できるとはとても思えない。見過ごせないのは、これほどの方針転換を専門家や自治体に相談せず、生煮えで政府が打ち出したことだ。首相は「国民の安全安心、命と健康を守る」と繰り返してきたが、今回の方針は感染拡大防止策の手詰まりをさらけ出していよう。ワクチン接種が進み、重症化リスクの高い高齢者の感染が減少傾向にあるのは確かである。にもかかわらず、入院制限を打ち出したのは、接種が済んでいない40~50代の感染者や重症者が急増したためだろう。楽観が過ぎ、あまりにも見通しが甘かったと言わざるを得ない。本来、選択肢を広げるのが政府の務めではないか。自粛要請に頼るばかりで、コロナ専用病棟をはじめとする病床確保を怠ってきた責任は重い。手を尽くして感染者を抑え、医療崩壊を食い止めねばならない。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC223NE0S1A720C2000000/?n_cid=NMAIL006_20210807_A (日経新聞 2021年8月6日) 接種進捗が示す医療効率 かかりつけ医、大病院と密に
 新型コロナウイルスの感染拡大や医療崩壊を防ぐには高齢者だけでなく、重症者が急増している40~50代へのワクチン接種が欠かせない。接種が円滑に進む地域は準備にいち早く着手したことに加え、きめ細やかな診療体制が敷かれ、医療機関同士、行政との連携も密だ。接種率の地域差から高齢化時代のあるべき地域医療の姿が見えてくる。都道府県別にみた全世代の1回目の接種率(8月3日時点)は山口県が45.6%でトップ。和歌山、山形、高知、熊本、群馬、佐賀の各県と続く。最下位は沖縄県の29.3%でトップから16.3ポイントの開きがあった。接種率が高い地域の多くは高度医療を提供する大病院(500病床以上)が少ない傾向があり、かかりつけ医(一般診療所、20病床未満)が患者に目配りする。地元医師会や大学、行政との関係も良好で連携・役割分担が進むほか、大規模災害を見据えた体制づくりなどを検討しており、医師の有事対応力が高い地域も多かった。和歌山県は2019年10月時点で約1000カ所の一般診療所があり人口10万人あたりでは110.8と都道府県で最多。県人口の4割近くの35万人が集まる和歌山市には4割の一般診療所が集中する。一方、500病床以上の大病院は県内に2カ所だけ。患者は一般診療所の受診が中心。個別接種が進み接種率を押し上げる一因となった。南海トラフ地震などに備えた即応体制への意識の高さも対応力を底上げした。県福祉保健部の野尻孝子技監は「コロナの感染拡大防止に向けた仕組みではない」とするものの、県は大規模災害が休日や夜間に起きた際、地域の開業医が「地域災害支援医師」として緊急医療にあたる仕組みを検討している。仁坂吉伸知事は接種率の高さについて「準備をしっかりやったから」と胸を張る。佐賀県ではかかりつけ医を地域第一線の医療機関と定義する。大町町は4カ所ある町内の病院の医師や看護師らが診察に訪れた高齢者に直接予定を聞き、接種日を設定した。通院歴がある人に医療機関側から連絡もしたという。同町職員は「日ごろ診ている患者をコロナから守ろうと医療スタッフが熱心に働いた」と振り返る。行政と大学の連携協定が奏功しているのは山形県。県内人口の4分の1が集まる山形市が設けた大規模会場に、山形大学医学部が医師や看護師を派遣。吉村美栄子知事は大学、医師会、看護協会、薬剤師会が協力する「オール山形」の成果を強調する。山口県も県内の市町や医師会などが参加する対策会議を発足させ、早い段階から情報共有を進めた。個別接種や集団接種の体制を整え「高齢者接種の立ち上がりから順調に接種できた」(県新型コロナウイルス感染症対策室)。福島県相馬市では、コロナの感染拡大前から市と地元医師会が密に連携してきた。救急医療の主な担い手である公立相馬総合病院の夜間急患体制を維持するため、開業医が当番で勤務する制度を導入。11年の東日本大震災の発生後は、市職員と開業医が連携し、避難所で被災者の健康管理にあたった。とはいえ、こうした連携はなお一部で、全国的にみると医療機関の規模に応じた役割分担と連携は道半ば。患者も軽い病気やケガで大病院を利用するケースが多く、効率的で機動的な医療が妨げられている。接種をきっかけに地方で芽生えた取り組みは、コロナ後の医療改革のヒントを投げかけている。

*4-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE039AP0T00C21A8000000/ (日経新聞 2021年8月3日) 首相「往診・遠隔医療で協力を」 在宅療養で医師会長に
 菅義偉首相は3日、首相官邸で日本医師会の中川俊男会長らと面会し、新型コロナウイルス感染者への医療提供体制を強化するよう協力を要請した。「地域の診療所が往診やオンライン診療で患者の状況を把握し、適切な医療を提供するようお願いする」と述べた。政府は2日に示した新方針で感染が急拡大している地域は自宅療養を基本とし、入院は重症者や重症化のおそれが強い人を対象とすることにした。自宅療養を円滑に進める環境を整えるには医療機関の協力が不可欠と判断し、医師会による後押しを促した。中川氏は「特に自宅療養への対応に重点を置いた体制整備を進めている」と答えた。首相は血液中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターの配布に加え「自宅宿泊療養の新型コロナ患者への往診の診療報酬を大きく拡充している」と指摘した。中川氏は「全国的な緊急事態宣言の発令で強力な感染防止対策が必要だ」と訴えた。医師の負担が過重にならないように人流抑制などの対策を講じるよう求めた。

*4-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP856V0BP85PTIL024.html (朝日新聞 2021年8月5日) 自宅療養者向け訪問看護、大阪全域で 健康観察を強化
 大阪府は5日、新型コロナウイルス感染者のうち自宅療養者に対する訪問看護を府内全域で実施すると発表した。感染の急拡大に伴い自宅療養者も増加しており、健康観察を強化するのが狙いだ。府内の新規感染者は3~5日、3日続けて1千人を超えた。5日の府発表で、自宅で療養する無症状や軽症の人は4633人。「第4波」のピーク時には約1万5千人にのぼった。保健所は自宅療養者への健康観察を電話などで行い、血中酸素飽和度を測るパルスオキシメーターも配布する。しかし、感染者の増加が続けば保健所業務は逼迫(ひっぱく)し、対応しきれなくなる可能性もある。そこで府は7月から、和泉保健所管内などの訪問看護ステーションと連携し、保健所が必要だと判断した人について、本人の同意を得たうえで訪問看護を行う仕組みを広げてきた。府は医療用マスクやガウンなどを提供するほか、初期費用5万円、1回の訪問あたり2万円を支給する。7月は保健所で対応できる状況だったため、この仕組みの利用実績はないが、6日から府内108の訪問看護ステーションと協力し、実施範囲を府内全域に広げる。吉村洋文知事は5日、「感染者が増えてきたら保健所だけで健康観察を十分にやりきるのは難しい。自宅療養者の症状が急に悪くなることもある。早く治療し、早く治すことが、結果として病床確保にもつながる」と記者団に語った。

*4-3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/5fda340edb774d1ecd0f30f642ca3094497ad5fa (福祉新聞 2021/7/28) 市民が見た介護保険の20年 福祉フォーラム・ジャパンセミナー
 福祉フォーラム・ジャパン(渡邉芳樹会長)は7月10日、オンラインセミナー「市民がみた介護保険の20年」を開催した。講演した小竹雅子・市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰は、20年以上介護保険の電話相談を行い、厚生労働省の審議会を傍聴し続けてきた中で、「市民の声と専門家の意識にギャップを感じてきた。介護保険で高齢者の主体性がどこまで保障されるのかに関心を持ち続けてきた」と言う。講演では電話相談に寄せられた内容を交え、制度改正の動向を解説しながら市民目線で問題点を挙げた。2005年の改正では要介護者への給付と分けて要支援者への予防給付ができた。14年の改正では要支援者のホームヘルプとデイサービスが予防給付から地域支援事業(総合事業)に移され、特別養護老人ホームの利用は要介護3以上となった。こうした流れに対し、小竹氏は「利用者に選択権があるとして始まり、介護が必要と認定されれば給付が保障されていたはずなのに、いつの間にか予防重視型になってしまった」と指摘した。20年の要支援・要介護認定者669万人(4月)のうちサービス利用者は515万人(5月)。約4分の1は利用していないことを挙げ、「厚労省は家族で対応していると説明するが、自己負担を払えず利用できない人が一定数いるのではないか。そうだとすると、ゆとりのある高齢者しか給付を受けられないことになる」とし、実態を調査すべきと提起した。小竹氏は、ホームヘルプが抑制されていることも危惧した。同居家族がいる場合、生活援助を利用できないという解釈が市町村で広がったとし、「ホームヘルプは高齢者の自立支援に資することがないと批判を浴び、ヘルパーも減っている。厚労省は地域包括ケアを掲げているが、ヘルパーが減る中でどうやって地域での暮らしを支えることができるのか疑問だ」と述べた。そのほか、今年4月に要支援者が要介護認定を受けても、これまでの地域支援事業のデイサービスなどを引き続き利用できるよう見直されたことに対し、「要介護認定を受けても給付の対象にしなくても良いという仕組みであり、認定者に給付をするという介護保険の原則に穴が開いた」と心配した。講演後は参加者で意見交換も行われ、「予防給付や地域支援事業を拡大する方向性で制度を維持しようとするのはおかしい」と発言があり、セミナーで座長を務めた宮武剛副会長は「その点は大議論が必要だ」と応じた。

*4-3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/604539/ (西日本新聞社説 2020/4/29) 介護保険20年 抜本改革の議論始めよう
 これからの高齢者の介護を社会全体で担い続けることができるのか-。創設20年の節目を迎えた介護保険制度が大きな曲がり角にさしかかっている。2000年4月に「介護の社会化」を掲げ始まった制度だ。それまでは家族頼りだった介護を多様な民間サービスが担うようになった。家庭の事情などで余儀なくされる社会的入院の解消を促し、「老いた親の世話は同居する女性の役割」という社会通念を拭い去るのにも貢献した。社会保障の歴史に画期をなす挑戦だったと言える。この20年で、高齢化はさらに進んだ。要介護・要支援認定者は3倍に増え、必要な費用も3倍に膨らんだ。介護サービスの需要は急速に伸び、制度の維持が年々、困難になっている。何より深刻なのは現場の人手不足だろう。大変な仕事の割に収入が少ないイメージが人材確保の壁になっている。実際、介護職員の平均給与は全産業平均を大きく下回る。外国人材への期待も高いが、新たな在留資格「特定技能」による受け入れは進んでいない。団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる25年には、約34万人の介護人材不足が見込まれる。国はロボットや情報通信技術の活用などで現場の負担を緩和するとともに、処遇改善にも本腰を入れるべきである。財源も心配だ。国は財政逼迫(ひっぱく)を受け、所得に応じて利用者負担を引き上げ、特別養護老人ホームの新規入所要件の厳格化などを進めてきた。「負担増」と「サービスの制限・縮小」だ。介護の必要性が低い利用者のサービスを全国一律の介護保険から切り離す動きも始まった。既に要支援者向けの訪問介護と通所介護は市町村に移管されている。要介護1、2の一部サービスの移管案も浮上している。急激な負担増は利用抑制を招き、生活の質や健康への悪影響も否定できない。市町村への事業移管には居住地によるサービス格差の懸念が多い。ともに慎重な検討が欠かせない。介護保険の財源は、自己負担を除けば保険料と公費(税金)で構成される。利用者増をにらんだ公費負担のアップや、保険料を払う年齢を現行40歳から引き下げることも検討せざるを得ないだろう。いずれにしろ国民的な合意形成が必要だ。急速な高齢化で「介護の社会化」が危うくなり、介護離職や老老介護も深刻な問題になってきた。それだけに所得や家族構成にかかわらず、必要とする人に適切なサービスを提供する介護保険の理念は今後も輝きを増すだろう。今後20年の社会を支えるため、制度の抜本的改革の議論を始めるべきである。

*4-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210821&ng=DGKKZO75008650R20C21A8MM8000 (日経新聞 2021.8.21) 介護給付 抑制に「秘策」、59市町村が開始時から圧縮 高知・南国、個別支援で自立促す
 介護給付費(総合2面きょうのことば)の膨張が止まらない。2020年度は10兆円に達したもようで、介護保険制度が始まった00年度の3兆2400億円から3倍以上に膨らんだ。持続可能性を高めるには圧縮が急務となるが、全国をみると、すでに59市町村が削減に成功している。高齢者の自立生活の維持に向けた支援策など、取り組みからヒントを探った。高齢者1人当たりの給付費は保険者(市区町村を中心に、広域連合など全国1571団体)ごとに比較可能な18年度で26万円(利用者負担軽減の払い戻しなどを除く)と、制度開始時から11万円強増えた。そうした中、給付を減らしたのは18市41町村。市では高知県南国市の13.2%減を筆頭に、徳島県小松島市、北海道石狩市、沖縄県浦添市などが上位となった。町村では東京都小笠原村が46.9%減でトップ。北海道鶴居村、沖縄県与那国町が続く。高知県南国市はケアマネジャーだけでなく保健師や栄養士、理学療法士などが協力して介護予防に取り組み1人当たり給付費を01年度の28万円弱から24万円(18年度)まで減少させた。各分野の専門家を集めた「地域ケア会議」で身体的負担の少ない公営住宅を紹介したり、水分摂取の不足などを警告したりと個別の支援プランを策定。食事や運動なども精緻に計画・検証し、多くの検討事例で自立生活が維持できるようになった。高知県は1人当たりの医療費(市町村国保)が高水準にあり、同市も全国平均を2割(18年度、年齢調整前)上回っている。ただ、01年度比では4.4%減少させており、担当者は「介護にも医療にもかからない健康な高齢者を増やしていくことで、結果的に給付費・医療費双方の抑制につなげていきたい」と話す。沖縄県宜野湾市は介護に頼らず最小限の支援だけで自立した生活を続けられるよう、安価に利用できるサービス拡充に力を入れる。本来2万3400円のデイサービスを、市の助成で週1回まで最安2340円(1割負担になる所得層の場合)で利用できるようにしたほか、今秋には手すりをつけるなどの住宅改修も安価にできるようにする。給付増の要因になりやすい施設入所を生活に支障がない範囲で可能な限り抑制しようと取り組むのは沖縄県名護市。配食サービス普及に力を注ぎ「食事の心配をしなくてよければ在宅で過ごしたい」という高齢者を後押しする。新型コロナウイルス禍の外出自粛の影響もあり、20年度は前年度比1.5倍の延べ3万1000食近くを提供した。東京都小笠原村は名護市とは逆に村営有料老人ホームを新設したことが奏功した。以前は高齢者の多くが比較的高価な都区部の施設に入所、負担義務のある同村の給付が膨張する要因となっていた。給付費を抑制した自治体は相対的に農業などの1次産業が強く、現役で働き続ける高齢者が多い傾向がある。さらに削減した市町村内でも地域差は顕著で、10.9%減少の北海道石狩市では札幌市に隣接する市街地エリアに比べ市町村合併で編入された漁村部で介護認定が重度化するタイミングが遅かった。日々の暮らしが予防の下地になる。こうしたことを受け積極的に身体を動かすことに取り組む自治体も増えている。北海道鶴居村や天塩町は、クラブを作って運動を促すことで体力を落とさないようにしたり、糖尿病や肥満の人に個別指導をしたりして機能低下を防ぐ。両自治体は高齢者1人当たりの給付費をそれぞれ36.7%、25.3%減少させた。

*4-4:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74827960X10C21A8MM8000/ (日経新聞 2021年8月17日) コロナ遠隔診療 報酬2倍、厚労省、自宅療養急増に対応
 厚生労働省は16日、新型コロナウイルスの自宅療養者らを電話やオンラインで診療した場合の診療報酬を2倍超に引き上げると自治体に通知した。自宅やホテルなどで療養する人が急増していることに対応する。菅義偉首相は同日、記者団に「医療体制の構築が極めて大事だ。自宅にいる患者への電話による診療報酬を引き上げる」と述べた。電話やオンラインでの初診の報酬は従来の2140円に2500円を上乗せし、倍以上にする。再診は730円に2500円を加算し、4倍超に引き上げる。感染拡大が続く東京都内では自宅療養者が2万人を超えた。入院・療養先が未定の人も1万人を上回る。診療報酬の手当てによって医療機関による遠隔の支援を促す。対面診療では感染防護対策などを理由に既に診療報酬を加算している。厚労省はコロナ対応の臨時施設に医師らを派遣する際の補助金も引き上げる。健康管理を強化した宿泊療養施設、入院待機ステーションなども念頭に置く。医師は1人1時間あたり今の倍の1万5100円となる。

<国・地方自治体の財源>
*5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210826&ng=DGKKZO75127550V20C21A8EP0000 (日経新聞 2021.8.26) 地熱の本格調査、国立公園内で、発電量、30年度に1%目標 安定供給に寄与
 経済産業省は地熱発電所を増やすため、国立公園内などに適地を見つける調査を本格化する。環境省と連携し、北海道や九州など30カ所を現地調査する。国の調査はこれまで公園外を中心に5カ所だけだった。太陽光発電や風力発電よりも出力の変動が小さく、温暖化ガスの排出削減と電力供給の安定に役立つと期待される。2022年度予算の概算要求に資源量の調査費など地熱発電の開発支援として183億円を盛り込む。110億円を確保した21年度予算から6割増やす。温暖化ガス排出量を30年度までに13年度比で46%減らす目標の達成に向け、地熱発電で30年度に総発電量の1%を賄う計画だ。地熱発電の適地の8割は国立公園などの自然公園内とされる。環境省はこれまで自然環境や景観を損なうといった理由で開発に慎重だった。今年度に入って小泉進次郎環境相が自然公園内の開発を急ぐと表明した。開発許可の要件を明確にするなどして、事業化を支援する。経産省の予算額の過半は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が担う国の調査に充てる。地表で人工的に地震波を発生させ地下の構造を把握する。地震波が跳ね返ってくる速さなどをもとに地熱発電に使える熱水や水蒸気がたまる場所がわかる。地表調査と簡単な掘削調査に2年ほどかける。有望な場所と判断すれば、開発したい民間事業者を募って引き継ぐ。すでに地熱発電を手がける九州電力などの大手電力や資源開発会社が候補となる。経産省は調査地の半分が事業化につながるとみる。JOGMECは20年度に調査を始め、北海道の大雪山や岩手の八幡平などの5地点を調べた。新たに北海道の支笏洞爺国立公園や新潟と長野の妙高戸隠連山国立公園、熊本と大分にまたがる阿蘇くじゅう国立公園などの30カ所ほどを調査する。1つの公園内の複数の地点を調べる場合もある。21、22年度にそれぞれ15カ所程度調べる。21年度は数カ所の予定だったが、予算の付け替えで拡大する。経産省は公園を管理する環境省などと調整に入った。経産省によると、日本の地熱の資源量は米国とインドネシアに次ぐ世界3位の2347万キロワットにのぼるが、発電の設備容量は60万キロワットにとどまる。資源量が半分未満のフィリピンやニュージーランド、メキシコ、イタリアなどよりも設備が少なく、伸ばせる余地は大きい。7月に示した次期エネルギー基本計画の原案で「安定的に発電できるベースロード電源」と位置づけた。総発電量に占める再生可能エネルギーの比率を19年度の18%から30年度に36~38%に高め、このうち地熱は0.3%から1%に引き上げる。設備容量を150万キロワット程度に増やす必要がある。すでに開発のめどが立った場所などの発電開始で現行の60万キロワットから100万キロワットに引き上げ、国の調査地の事業化でさらに50万キロワット上積みする。調査開始から発電までの期間は急いでも8年程度。30年度に間に合わせるには適地探しはギリギリのタイミングとなっている。

*5-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210823&ng=DGKKZO75023210T20C21A8MM8000 (日経新聞 2021.8.23) 再生エネ導入に最大75%補助 環境省、自治体の脱炭素支援
 環境省は再生可能エネルギー導入などで地域単位で先行して電力消費に伴う温暖化ガス排出実質ゼロを目指す自治体を支援する。事業費の最大75%を補助する交付金を設ける。2030年度までに少なくとも100カ所で電力の脱炭素を実現し、成功モデルをつくる。22年度予算の概算要求に「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を盛り込む。初年度は200億円を想定し、20~40自治体を対象に30年度まで継続支援する。交付金で設備費の2分の1から4分の3をまかなう。温暖化ガス排出量を30年度までに13年度比で46%減らす目標の実現につなげる。市街地や団地、離島など地域単位で家庭や商業施設といった民生部門の実質ゼロを目指す。事業の進捗に合わせて翌年度への繰り越しや設備導入の順番変更をできるようにし自由度を高める。民間事業者にも使える。自治体は9年間の計画を作る。太陽光など再生エネ設備の導入のほか、蓄電池や水素設備による再生エネの活用、建物の断熱改修などに一体的に取り組むことが条件だ。交付金制度の法制化も検討している。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO60178610Z00C20A6EA2000/ (日経新聞 2020年6月10日) 地方財政とは 自前の税収は4割
▼地方財政 総務省は毎年末、都道府県と市区町村を合わせた地方自治体全体の翌年度の収支などの見通しを地方財政計画としてまとめる。財源不足はバブル崩壊後の1994年度以降、急激に拡大。リーマン・ショック後の2010年度には過去最大の18兆円に達した。近年はアベノミクスによる景気拡大で大幅に縮小してきた。直近の18年度決算によると、歳入は地方税が4割を占める。地方財源として国が配分する地方交付税は2割弱。借金である地方債は1割強だ。自前の財源だけで財政運営できる自治体は少ない。歳出は地方債を償還(返済)する公債費や人件費など必ず支払わなければいけない義務的経費が9割を超える。コロナ禍の前から財政は硬直的で余裕がないと言える。地方債などの借入金残高は14年度ごろから緩やかに減少し、20年度は前年度から約3兆円少ない189兆円を見込んでいた。足元では新型コロナウイルス対策で各自治体が家計や企業の緊急支援に動く。歳出の急増を政府からの地方創生臨時交付金などで賄いきれなければ財源不足が大きくなる。借入金残高も再び増勢に転じる見通しだ。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210813&ng=DGKKZO74745310T10C21A8EAC000 (日経新聞 2021.8.13) 脱・大都市 町村も受け皿に、23区若者、移住に関心48%
 新型コロナウイルスの感染拡大は人口の流れに大きな影響を与えた。総務省が公表した住民基本台帳に基づく人口動態調査をみると、2020年の1年間で大都市から地方への移動が鮮明になった。都会を避け移住を決断した人が選んだのはどのような地域だったのか。東京、関西、名古屋の三大都市圏の人口の合計は13年の調査開始以来初めて減少した。東京都は20年の転入者数から転出者数を引いた転入超過(帰化など含む)が6万人ほどで、19年に比べておよそ2万7千人減った。日本人の人口の増減率は46道府県で改善し、東京だけ伸びが鈍った。新型コロナで東京など大都市から地方を受け皿に人口が流れた傾向がデータから読み取れる。人口増の多い町村を見ると、熊本県菊陽町が556人で1位となり、長野県軽井沢町が502人と続いた。地方創生の取り組みとして、子育て世代への支援の手厚さが共通する。菊陽町は子どもの医療費の無償化や企業誘致に取り組み、人口が増え続ける。住宅地を整備し、指定の区域に転入した人に最大100万円の補助金を出す。子どもが生まれたら10万円を支給する。別荘地として有名な軽井沢町は東京駅まで新幹線で1時間程度で、通勤圏となっている。総務省は「テレワークの普及で移住者が増えた」と分析する。幼小中の一貫校の設置といった教育環境の整備も注目される。沖縄県南風原町は那覇市に近く交通の利便性がよい。住宅地を開発し、中学生までの子どもの通院費無料など子育てをする若年層への支援に力を入れる。8位の京都府大山崎町も「待機児童ゼロ」など育児環境の良さをアピールする。「新型コロナを機に地方への関心が高まっている。東京一極集中の是正につなげる」。秋田県出身の菅義偉首相は地方創生への思いを強調する。内閣府の調査によると、東京23区の20歳代で地方移住に関心のある人は19年末時点で39%だった。新型コロナの感染拡大後の21年4~5月は48%と、10ポイント近く上昇した。意識は変わった。移住希望者は既存の政府の支援策を活用できる。総務省は09年度から「地域おこし協力隊」を各地へ派遣する。1~3年程度、地方に移り住んで地域振興の担い手になってもらい、定住につなげる。13年度に1000人ほどの隊員は増加し、20年度にはおよそ5400人になった。24年度は8000人を目指す。縁のない土地での生活に慣れるまでは大変だ。21年度から隊員の経験者による移住生活のサポートを始めた。協力隊の任期終了後に定住した人は多くが就業・起業する。自治体職員などの行政関係が最も多く、観光業、農林水産業が続いた。最近はデジタル分野の素養や接客のノウハウがある人も歓迎されるという。新型コロナの感染拡大をきっかけにテレワークが普及すれば、仕事を続けたままの移住という選択肢も出てくる。政府は「転職なき移住」の実現に向けた環境整備も進める。仕事を辞め新たな土地に定住するのは覚悟がいる。内閣官房の高原剛地方創生総括官は「若い人の職の不安が移住の障壁だった。転職なき移住はその心配が不要」と説く。移住先が気に入らなければ、元の生活に戻れるという利点もある。個人に加え、企業にも行動を促す。内閣府は総額100億円の「地方創生テレワーク交付金」を創設した。大都市部の企業が地方でテレワークの拠点を開けるように「サテライトオフィス」の設置の支援も始めた。仕事ばかりではなく、日常生活の全般を支える仕組みも不可欠になる。武田良太総務相は「遠隔教育、遠隔診療など住みたい地域に住みながら、必要なサービスが受けられる取り組みが広がっている」と話す。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61880510S0A720C2TJ2000/ (日経新聞 2020年7月27日) ごみ発電、海外で受注倍増 日立造船がAIで安定焼却
 日本のごみ焼却発電プラントメーカーが、海外での受注を伸ばしている。日立造船など上位3社の累計受注件数は5年で倍増した。各社は人工知能(AI)で燃焼を安定させる最新技術を投入し、ごみの埋め立てを規制する欧州や、インフラ需要が拡大する新興国市場をさらに切り開く。ごみ焼却発電プラントは、ごみを燃やした際の廃熱を利用してタービンを回し発電する。日本企業が技術力で先行する分野だ。日立造船は2月、子会社の日立造船イノバ(スイス)を通じ、英国レスターシャー州のプラントを受注した。発電出力は4万2000キロワットで、総送電量は一般家庭8万世帯分の年間消費量に相当する。英国でのプラント受注は12件目となった。
●EU埋め立て規制が追い風
 欧州で受注が伸びる背景には、欧州連合(EU)が2015年に定めた「埋め立て規制に関する指令」がある。埋め立てで処理するごみの比率を30年までに10%以下に抑えるという内容だ。経済協力開発機構(OECD)によると、ごみ発電の技術で先行する日本は、埋め立て比率が1%未満。対して英国は14%、フランスは20%、イタリアは23%と高い。世界エネルギー会議は欧州のごみ発電プラント市場が21年に51億ドル(5500億円)と、10年前の2倍に膨らむと予測する。日本勢は広がる商機を狙う。10年には日立造船がスイス、14年には日鉄エンジニアリングとJFEエンジニアリングがそれぞれドイツの同業を買収し、海外進出の足がかりをつくった。3社の海外での累計受注件数は19年度末で84件で、14年度末の37件から倍増している。スイスのコンサルティング大手の調査では、19年に欧州・中東・アフリカを合わせた市場のシェアで、日本勢が過半を占めた。各社はさらに受注を伸ばすべく、技術開発に取り組んでいる。力を入れるのが無人化だ。日立造船は日本IBMと組み、焼却炉内の温度を自動で安定させる技術を今年度中に開発する。蒸気の発生量などの情報をもとに、数分~数十分後の温度をAIで予測する。発電に最適な温度を下回る場合には、燃えやすいごみを投入するなどして温度を一定に保つ。焼却炉にはプラスチックや生ごみなど様々なごみが投入され、それぞれの性質で燃焼状態が変わる。現在は温度が安定しない場合、作業員が経験に基づき投入するごみを選んでいる。人材頼みだった作業を自動化し、安定した発電を実現する。JFEエンジもAIを使った自動運転プログラムを開発した。焼却炉内の様子を1分ごとに撮影し、温度や燃え方を把握。供給する空気の量や、投入するごみの量を調節して温度を一定に保つ。国内プラントで実証実験を進めており、発生する蒸気量が安定する効果も確認できたという。大下元社長は「日本の環境技術は競争力も高く、今後も欧州など海外で積極的に受注獲得に動いていく」と語る。
●天候の影響なし
 世界には日本以外にもごみ活用の先進国がある。再生可能エネルギーの比率が6割を超えるスウェーデンは、国内で発生するごみの約半分を焼却して発電に利用し、余熱も暖房用などに家庭に供給している。肥料などにも使うため自国のごみでは足らず、近隣諸国からごみを輸入している。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の電力消費量に占めるバイオマス発電の量は約1割で、ごみ発電はさらにその一部になる。規模は小さいが、ごみが排出される限り安定的に発電できる。再生エネでも太陽光や風力は天候や時間帯で発電量がぶれるデメリットがある。ごみ発電は足元では欧州で需要が拡大しているが、今後は経済発展に伴ってインフラ需要が広がるアジアが市場をけん引するとみられる。アジアのごみ焼却発電プラント市場は21年に64億ドル(約6900億円)と、10年前と比べ3.7倍になる見通しだ。日鉄エンジはNTTデータなどとマレーシアでごみ発電を導入するための調査に取り組む。中国のプラントメーカーも台頭するなか、日本勢は効率性の高い技術で優位を保とうとしている。
*国内ごみ発電の余剰電力、新電力が9割落札
 日本国内では新電力がごみ発電による電力供給の主役になっている。エネルギー調査会社のリム情報開発(東京・中央)によると、2020年に実施されたごみ焼却施設の余剰電力入札50件のうち、94%にあたる47件が新電力に落札された。比率は4年前の86%からさらに上昇した。事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際的な企業連合「RE100」に加盟する日本企業は30社を超える。NTTグループの新電力大手、エネット(東京・港)の池田ひなた経営企画部部長は「環境負荷の低い電力を要望するお客さんは年々増えている」と話す。新電力は19年度の国内の電力販売量の15.4%を占めるが、ほとんどの企業が太陽光や風力発電など再生エネの自前設備を持たない。そこで目を付けたのが、ごみ焼却施設が生み出す電力だ。19年2月の神戸市東部環境センター(神戸市)の入札では、大手の関西電力と新電力の計8社が競り合い、丸紅新電力(東京・中央)が落札した。人口減少が続く日本では、ごみ焼却発電プラントの増加は見込めない。限られた再生エネの安定電源の争奪戦は激化しそうだ。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC194EP0Z10C21A6000000/ (日経新聞 2021年7月10日) 「脱ごみ社会」自治体挑む 長野・川上村、生ごみゼロ
 全国のごみ処理費は年間2兆円を超える。増加傾向にあり10年前に比べ1割増えた。人口減の進展に伴う担い手不足の懸念も強まっている。財政も厳しさを増す中、持続可能な地域を築くためには排出削減への戦略的な施策が欠かせない。企業が環境意識を高める中、先進的に取り組む自治体では新たな産業を呼び込むなど、活性化にも寄与し始めた。環境省が3月にまとめた一般廃棄物処理の実態調査(2019年度)によると、1人1日あたりの排出量は918グラム。都道府県で最少は長野県で816グラムだった。京都府(836グラム)、滋賀県(837グラム)が続く。長野県は800グラム以下に減少させる目標「チャレンジ800」を策定。啓発を進め、14年度以降、日本一を維持する。全77市町村のうち60がごみ袋を有料化。記名式に踏み込んだ自治体も同じく60あった。自治体のごみ問題に詳しい山谷修作東洋大名誉教授は「有料化や記名式はコストの可視化や排出責任の明確化につながり減量への動機づけになる」と指摘する。全国自治体で一番排出量が少ない川上村(有料・記名、294グラム)は、可燃ごみの4割を占める生ごみの回収を一切せず各家庭で堆肥化する。生ごみは水分含有量でも自治体を悩ませる。そのままでは焼却炉の温度を下げてしまい、ダイオキシン発生を誘発。一方で温度を維持しようとすると、燃料費がかさむ。財政難から3基の焼却炉すべてを耐用年数を超えて運用する上田市(有料・記名、770グラム)は、16年から自己処理を促す「生ごみ出しません袋」の無料配布を始めた。畑がない家にもメリットを直接感じてもらおうと、乾燥生ごみ1キログラムにつき1ポイントとする事業も開始。5ポイント集めれば市内のJA直売所で500円分の野菜などに交換できる。2位の京都府では、京都大と連携して発生抑制に取り組む京都市(836グラム)がけん引する。1980年から発生場所を特定する「細組成調査」を開始。市はピーク時の年間排出量82万トン(00年度、1人あたり排出量は1608グラム)を半減する目標も策定した。18年度に目標を達成し、処理費は4割減の224億円(20年度)にまで減った。減量のメリットは処理に費用がかかるケースが多い事業者にとっても大きい。東京都多摩市は15年「利益率5%の事業者が50万円のもうけを出すには1000万円の売り上げ増が必要。処理(持ち込みの場合10キログラム350円)に年500万円を費やすなら、ごみ1割減でも50万円の経費削減となり同等の効果を生む」と具体例を挙げて可視化。事業所1人あたり排出量の2割減につなげた。環境負荷低減が世界的な要請となる中、取り組みは活性化にも直結する。全国に先駆け、焼却・埋め立てごみをゼロにする宣言を行った徳島県上勝町には、町の人口(1500人)を超える約2000人が例年視察などに訪れる。調査時点でもなお539グラム(市町村で30位)を排出しているが、住民自ら45品目に分別し、資源化を進めることで年間処理費を6割減程度まで抑制した。焼却炉は00年、ダイオキシン類対策特別措置法の基準を満たさなかったことを機に廃止。環境都市としてブランド力が高まり、15年に町外事業者がビール製造場を新設した。キャンプ場などレジャー施設も増えている。

*5-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF1628X016072021000000/ (日経新聞 2021年7月16日) 大阪市、本庁舎の電力すべて再生エネに 12月から
 大阪市は16日、市役所本庁舎で使用する電力について12月から再生可能エネルギーに切り替えると発表した。入札で9月下旬まで事業者を募り、太陽光やバイオマス発電など再生エネ由来100%の電力による供給を求める。年間の使用電力量は約656万キロワット時を予定する。現在、市の本庁舎は中部電力と電力契約をしており、再生エネに限定した調達はしていない。府・市が3月に発表した「おおさかスマートエネルギープラン」では、府や市の庁舎で再生エネ電力の調達を推進すると表明しており、それに沿った取り組みだ。松井一郎大阪市長は同日、記者団に対して「SDGs(持続可能な開発目標)は25年の国際博覧会(大阪・関西万博)のテーマでもある。我々ができるところから持続可能な社会をつくっていきたい」と話した。府でも4月から本庁舎などで使用する電力を再生エネ由来100%の調達に切り替えた。日立造船がバイオマス発電により電力を供給している。

<人材不足と外国人労働者及び難民の受け入れについて>
PS(2021/8/29追加):*6-1-1のように、アフガニスタンで反政府勢力タリバンが首都カブールを勢力下に置いた事態を受け、「タリバンの司令官の1人が公開処刑・手足の切断・投石による処罰等の実施を公言した」とBBCが報じているため、難民支援の弁護士団体が、2021年8月16日、アフガニスタン出身者への緊急措置による迅速な保護を求める声明を公表した。
 その内容は、①我が国に庇護を求めるアフガニスタン出身者に対し、難民認定手続の審査を待たずに、アフガニスタン出身者であることが確認できれば、緊急措置として迅速に安定的な在留資格を付与すること ②難民認定手続外で在留資格の変更を求めるアフガニスタン出身者に対しても、緊急措置として迅速に安定的な在留資格への変更を認めること ③前記1と2で付与又は許可する在留資格は最低でも在留期間1年とし、更新を可能とすること ④在留するアフガニスタン人が日本への家族呼び寄せを希望する場合、在留資格認定証明書の許可要件の緩和や大使館での迅速な査証の発給など、最大限の配慮をすること などである。
 しかし、*6-1-2のように、アフガニスタンにいる日本人と日本大使館の外国人スタッフらを退避させる目的で派遣していた航空自衛隊の輸送機は、8月26日現在、米国の要請を受けて迫害の恐れがあるアフガニスタン人14人を首都カブールの空港から隣国パキスタンに退避させただけだ。そして、日本政府は、カブール空港内で活動していた外務・防衛両省の支援要員を撤収させ、輸送機を安全なパキスタンのイスラマバードに待機させているとのことである。つまり、日本は一刻を争う大使館スタッフ等のアフガニスタン人の移動も行わず、退避を希望する日本大使館やJICAのアフガニスタン人等の現地スタッフとその家族ら約500人を残したまま、外務省が「現地に残る日本人は、ごく少数」と説明しているわけだ。本当に人命を第一に考える国であれば、このような場合は、日本の関係施設で働いていたアフガニスタン人を一刻も早く出国させるためにあらうる手を尽くす筈で、そのために外務・防衛両省の支援要員を派遣しているため、応急のビザを出して日本に退避させ、その後で難民認定を行うことも容易である。そして、それもできないようなら外務・防衛両省から派遣した意味がない。
 ただ、日本におけるテロリズムの定義は、特定秘密保護法第12条第2項で、「政治その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動を言う」とされているため、どんな国家であっても国を作ってしまえばその権力に逆らう者がテロリストとされる。そのため、アフガニスタンの事態は、日本における「テロリズム」の定義のおかしさをあぶり出し、この考え方が政治亡命せざるを得ない人への冷たい仕打ちに繋がっていると思われる。
 なお、日本という国が今でも人命を大切に考えていないことは、*6-2の名古屋入管で死亡したスリランカ人女性ウィシュマさんの事件からも明らかで、ウィシュマさんの死亡後、入管庁が公開した最終報告書は「死因の特定は困難」とし、行政文書の開示請求で名古屋入管が送ってきたのはほぼ黒塗りの約1万5千枚の文書という不誠実なものだった。そのため、私も、国連も問題視している非人道的な入管制度が抜本から変わらない限り、日本が外国人労働者と共存し、難民を受け入れて成長できる国になることはないと考える。


 2021.6.3日経新聞        2021.6.17Goo        2021.8.29日経新聞

(図の説明:左図は、先進国の難民認定数・認定率だが、日本は2019年に44人、0.4%と著しく低く、中央の図のように、近くのミャンマー出身者の難民認定数・認定率でさえ0人、0%だ。また、右図は、アフガニスタンから各国が退避支援した人数だが、日本は全部で15人とやる気のなさが際立っている)

*6-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/cefcca8b5d95b8c7e1a0859e2372961d5baf66f2 (Yahoo 2021/8/17) 「在日アフガニスタン人の迅速な保護を」難民支援の弁護士らが声明
 アフガニスタンで反政府勢力タリバンが首都カブールを勢力下に置くなどの事態を受け、難民を支援する弁護士の団体「全国難民弁護団連絡会議」は8月16日、アフガニスタン出身者への緊急措置による迅速な保護を求める声明を公表した。声明は、法務省や外務省に宛て送付されている。全国難民弁護団連絡会議では、現在のアフガニスタンの状況について、タリバン司令官の1人が、公開処刑、手足の切断、投石による処罰などの実施を公言したとBBCが報じていることを指摘。「タリバンの理念に反する者、女性やマイノリティへの人権侵害が更に広範 化し悪化することが懸念されます」としている。そのため、在日アフガニスタン人から、本国の家族を日本に呼び寄せることはできないかという訴えが弁護士や支援関係者に寄せられているという。全国難民弁護団連絡会議は、現在、比較的多くのアフガニスタン出身の庇護希望者が日本で在留資格を得ているものの、難民として認定されず、人道配慮による在留が認められないケースもあると指摘。アフガニスタンで迫害や重大な危害を受けるおそれがあるアフガニスタン出身の在留者らを本国に送還しないよう求めている。
●「迅速な在留資格付与」求める
 声明では、次のことを求めている。
  1、我が国に庇護を求めるアフガニスタン出身者に対し、難民認定手続の審査を待たず
    に、アフガニスタン出身者であることが確認でき次第、緊急措置として迅速に安定的
    な在留資格を付与すること
  2、難民認定手続外で在留資格の変更を求めるアフガニスタン出身者に対しても、緊急
    措置として迅速に安定的な在留資格への変更を認めること
  3、前記1と2で付与又は許可する在留資格は最低でも在留期間1年とし、更新を可能と
    すること
  4、在留するアフガニスタン人が日本への家族呼び寄せを希望する場合、在留資格認定
    証明書の許可要件の緩和や大使館での迅速な査証の発給など、最大限の配慮を
    すること

*6-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15025646.html (朝日新聞 2021年8月29日) 自衛隊機、アフガン人輸送 14人、米の要請受け隣国へ
 アフガニスタンにいる日本人や日本大使館の外国人スタッフらを退避させるために派遣されていた航空自衛隊の輸送機が26日、アフガニスタン人14人を首都カブールの空港から隣国パキスタンに退避させていたことがわかった。米国の要請を受けて運んだ。今回の派遣の根拠となった自衛隊法84条の4「在外邦人等の輸送」に基づき、外国人を輸送したのは初めて。複数の政府関係者が明らかにした。14人は旧政権の政府関係者らで、「国内にとどまれば、迫害される恐れがあった」という。輸送機は25日以降、カブールの空港に複数回降り立った。だが、治安悪化などの影響で、日本が退避対象としていた大使館スタッフなどのアフガニスタン人を、空港に移動させることはできなかった。27日には、退避を望んだ日本人1人をC130輸送機でパキスタンの首都イスラマバードに運んだ。外務省は現地に残る日本人は「ごく少数」と説明。今回は退避を希望していなかった、としている。一方、退避を希望する日本大使館や国際協力機構(JICA)のアフガニスタン人などの現地スタッフとその家族らは残されたまま。政府関係者によると、そうした人は約500人規模になるとみられる。自衛隊法84条の4は「外国における災害、騒乱その他の緊急事態」に際し、防衛相が外相からの依頼に基づいて、輸送を行う。日本人だけでなく、外国人も運べると規定する。過去4件実施したが、運んだのはいずれも日本人だった。政府は、カブールの空港内で活動していた外務、防衛両省の支援要員をいったん撤収させた。だが、輸送機をイスラマバードに待機させており、「退避に向けた努力を継続する」としている。

*6-2:https://www.fnn.jp/articles/-/227546 (FNN 2021年8月21日) 「“鼻から牛乳”は日本のジョークです」ウィシュマさん映像の全容判明
 名古屋入管に収容中死亡したスリランカ人女性のウィシュマさんの問題について、遺族にのみ開示された監視カメラの映像の全容がわかった。そこに映し出されていたのは、日々衰弱しながらも生きようとしたウィシュマさんの姿と入管職員の人権を蹂躙する非人道的な行為だった。ともに映像を見た従姉妹マンジャリさんに映像の詳細を時系列で聞いた。
●「“鼻から牛乳”は日本のジョークです」と職員が説明
▽3月1日午後9時32分から37分の5分間。
職員2人が部屋にいてベッドに座っているウィシュマさんに薬を渡す。「喉の奥まで薬を入れてね」と職員が言うが、ウィシュマさんは水を飲んだら嘔吐してしまう。そのあとウィシュマさんが「コーヒー」と言って、職員が紙パックのカフェオレを渡す。職員がウィシュマさんの嘔吐のあとを拭こうとすると、ウィシュマさんがカフェオレを吹き出し、それを見た職員が「鼻から牛乳や」と言って笑った。ウィシュマさんは「コーヒーだけ飲める」と語って映像は終わった。
この映像を見ながら入管庁の職員は「これは日本のジョークです。ウィシュマさんと仲良くするための」と遺族らに説明した。これに対してポールニマさんが怒り「こういう状況で冗談を言うのか」と言うと職員は黙り込んだ。この頃になるとワヨミさんはずっと泣いていた。
●「痛い」と訴えても「しょうがない」と嘲る職員
▽3月2日午後6時45分から47分の2分間。
ベッドに寝ているウィシュマさんを職員が動かそうとして、服や手を引っ張るとウィシュマさんは大声で「痛い」と訴える。職員は「自分で身体を動かさないから、痛いのはしょうがない」「食べて寝るだけだから身体が重くなる」と嘲るように言う。なぜ身体を動かそうとしたのか説明はない。
▽3月3日午後4時58分から5時10分の12分間。
部屋には職員1人と白衣を着た看護師がいる。ウィシュマさんはベッドに寝ていて、「まるで遺体のように動かない」(マンジャリさん)。看護師は体温と血圧を測り、いろいろ話しながらウィシュマさんの手のマッサージをする。
看護師はウィシュマさんに手を握ったり広げたりするように言うが、ウィシュマさんは出来ない。さらに看護師はウィシュマさんの腕を上げ下げするが、大きな声で痛がる。ウィシュマさんは大きな声で痛がったが看護師は腕の上げ下げを続けた
●「本当に看護師なのか」と遺族は訝しがった
 看護師は「明日先生に会うから症状を全部言うように。ご飯を食べられない、歩けない、耳鳴りがする、頭の中が工場みたい(幻覚をみる)」と言うと、ウィシュマさんは「死にたい」と言う。看護師は「日本人の金持ちの恋人を探して結婚して幸せになるんじゃないの」と言う。そのあとも看護師は4、5回「明日先生に症状を言うように」と繰り返した。ウィシュマさんが「目も見えない」というと「それも言ってね」というだけだった。この映像を見ながらワヨミさんの夫が「この人は本当に看護師なのか。こんなに衰弱している人になぜ腕を上げ下げさせるのか」と訝しがった。これに対して佐々木聖子入管庁長官は「この人は週5回入管に来る看護師だ」と答えた。この後「時間もかかったので休憩しましょう」となり、遺族は休憩室に移ったがワヨミさんが大声で泣きだし嘔吐した。そこで「これ以上映像を見るのはやめよう」と、代理人の指宿昭一弁護士と相談して、映像を続けてみることを中止した。これが12日遺族に開示された映像の全容とその日の遺族の姿だ。映像を見た後ワヨミさんは記者団の前で「お姉さんは犬のような扱いを受けた」と泣きながら訴えた
●黒塗りの1万5千枚の文書が意味するものは
 最後の映像から3日後、ウィシュマさんは死亡した。入管庁の公開した最終報告書には、死因の特定は困難だとしている。遺族の代理人の弁護士団は、収容中の状況をさらに詳しく調べるため名古屋入管に対して行政文書の開示請求を行った。しかし名古屋入管から送られてきたのはほぼ黒塗りの約1万5千枚の文書だった。筆者はこれまでの取材を振り返りながら、入管庁や名古屋入管の職員はなぜ人命を蔑ろにし、人の尊厳を踏みにじる行為を平気で行えるようになったのだろうと考えた。遺族の代理人の1人である駒井知会弁護士はこう語る。「東京入管に朝行くと、割とお洒落な服を着た沢山の若者たちが奥の入口に吸い込まれていくのを見ます。若者たちは建物の職員控え室で入管の紺の制服に着替えるのでしょう。若い彼ら、彼女らが誇りを持って職場に向かえる日が来るためにも私たちは戦いたいです」
●すべての映像を公開し入管制度の国民的議論を
 いまの入管制度と組織が変わらない限り、ウィシュマさんのような悲劇は必ず繰り返されるだろう。そしてこの人権を無視し、非人道的な行為に加担させられるのは日本の前途ある若者なのだ。国連も問題視する非人道的な入管制度が抜本から変わらぬ限り、日本という国に未来はこない。まずはウィシュマさんのすべての映像を公開し、国民1人1人が入管施設の現実を直視したうえで議論を始めるべきだ。映像の公開が無い限り、政府は人権を軽視し国民から真実を隠そうとしていると言わざるを得ない。

<産業の付加価値向上と教育・研究>
PS(2021年8月30日):産業を高度化して付加価値を高めるには科学技術・教育・研究が重要だが、*7-1-1のように、この面でも日本の研究力は低落の一途を辿り、注目論文数が世界10位に転落した。高コスト構造により、国内の製造業が比較優位性を持てず産業が海外流出すれば、それに関わる科学技術や研究も低調になるのは必然で、科学技術や研究が低調になれば国内の製造業の比較優位性がさらに低くなるという悪循環が生じる。
 その結果、日本の国際的な存在感が低下して世界10位に落ちたことについて、*7-1-1は、①2019年の研究開発費は18兆円(名目額、購買力平価換算)でなお世界3位 ②大学関係者の中では、低迷のきっかけとして2004年の国立大学法人化を挙げる声が多い ③注目論文の国別の世界シェアは、中国24.8%、米国22.9%、英国5.4%、ドイツ4.5%で、日本は2.3%に留まる ④全体の論文数も現在は4位で2000年代半ばから急落 ⑤博士号取得者が日本だけ減少 ⑥博士人材が企業内でうまく活用されていない ⑦日本が低迷する要因は、大学教員の研究時間が減っていること ⑧『選択と集中』ではなく、個々の研究レベルを上げる政策の中で取り組むべき としている。
 しかし、研究開発費は世界3位で少ない方ではなく、人口もドイツ(約84百万人)・英国(約68百万人)より多いため、①②⑦は主たる原因ではなく、③④は⑧のように「選択と集中」で世界が注目するようなイノベーションを含む研究がやりにくく、注目される論文を書くと細かいケチをつけて足を引っ張るメディアの多いことが原因だ。⑤は、⑥のように、時間とカネをかけて博士になっても企業で活用されず、大学や研究所でも短期の任期雇用しかなければ、博士号の取得は本人にとって費用対効果が合わないのである。
 なお、突然、注目論文を書けるようになるわけではなく、初等・中等教育による基礎があって高等教育を理解でき、博士にもなれる。しかし、*7-1-2のように、日本では、政府が「一斉休校は要請しない」と言っても、「子どもを通じて、新型コロナが家庭に感染が広がる懸念がある」として、「一斉休校を要請すべき」とする論調が多く教育の優先順位が低い。が、教育に真面目に取り組んでいる国は、早くから大学生に毎週PCR検査を行い、新学期が始まる前にワクチン接種を済ませて、対面教育を継続するための最大限の努力をしているのである。
 中国については、*7-2-1が、⑨自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で世界1になった ⑩中国は材料科学(48.4%)・化学(39.1%)・工学(37.3%)などの5分野で首位、米国は臨床医学(34.5%)・基礎生命科学(26.9%)で首位 ⑪産業競争力の逆転も現実味 ⑫注目論文数は、中国は2018年(17~19年の平均)に4万219本となって米国の3万7124本を抜き首位 ⑬注目論文のうち上位1%に当たる「トップ論文」も、中国(25%)・米国(27.2%)で質の面でも実力をつけている姿が鮮明 ⑭中国が量と質をともに高めている背景には圧倒的な研究人材の厚さと伸びがある ⑮科学論文の量や質を左右するのは資金力だけではない ⑯研究人材の育成で日本は中国以外の国にも大きく出遅れている と記載している。
 また、*7-2-2は、⑰米中が威信を懸けて科学力を競う主戦場の一つが宇宙開発 ⑱中国が送り込んだ無人探査機が2021年5月に火星に着陸 ⑲中国は2019年に世界で初めて月の裏側へ無人探査機を着陸させた ⑳中国の研究力向上を支えるのは積極投資と豊富な人材 ㉑胡錦濤前国家主席時代の2006年に「国家中長期科学技術発展計画綱要」で2020年までに世界トップレベルの科学技術力を獲得する目標を掲げ ㉒人材の獲得・育成に中長期的に取り組んで米欧の大学に若者を留学させた ㉓2008年に開始した「千人計画」では海外在住の優れた研究者らを積極的に呼び込んだ としている。
 このうち、⑨⑩⑪は、産業に使う研究で中国がトップに立っている姿だ。⑫⑬⑭は、⑳㉑㉒㉓のように、中国政府によって長期の政策として行われてきたことで、産業の付加価値を高めるためにも正攻法である。そして、日本では、何かというと予算さえつければよいかのような議論が横行するが、⑮⑯がまさに事実であり、初等教育から研究人材の育成までやるべきことの逆を行ってきたと言える。なお、⑰⑱⑲は、日本の宇宙研究と違って重要な本質をずばっと突いた地球人が注目する焦点であり、志の高さが感じられる。


   2021.8.8日経新聞     2021.8.29日経新聞    WeeklyEconomist

(図の説明:1番左の図のように、引用上位10%の論文シェアで中国は米国を抜いた。左から2番目の図は、分野別の注目論文数の世界シェアだ。また、右から2番目の図のように、注目論文数で日本は10位に落ち、博士数も日本だけ減少傾向だ。しかし、1番右の図のように、日本の研究開発費総額は世界3位を維持しており、米国や中国のように増えてはいないが、ドイツ・フランス・英国以上であるため、何がネックになっているのか正確に調べるべきである)

*7-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC209AC0Q1A820C2000000/ (日経新聞 2021年8月29日) 日本の研究力、低落の一途 注目論文数10位に
 「科学技術立国」を掲げる日本の国際的な存在感が低下している。文部科学省の研究所が8月上旬にまとめた報告書では、科学論文の影響力や評価を示す指標でインドに抜かれて世界10位に落ちた。世界3位の研究開発費や研究者数も伸び悩んでおり、長期化する研究開発の低迷に歯止めがかからない。世界の科学論文の動向は文科省の「科学技術・学術政策研究所」が毎年まとめている。今回発表した最新のデータは、2018年(17~19年の3年間の平均)のものだ。1年では特殊な要因によるぶれが出かねないため、3カ年の平均値で指標を出している。10位になったのは、研究分野ごとに引用数がトップ10%に入る「注目論文」の数だ。研究者は研究成果を論文にまとめる際、関連する論文を参考として引用する。引用された数は社会やその研究分野へのインパクト、評価や注目度を示す指標になるわけだ。注目論文の国別の世界シェアをみると、中国が24.8%で米国を初めて逆転して世界一に立った。米国は22.9%で、米中で世界の50%近くを占めた。大きく離れて英国(5.4%)、ドイツ(4.5%)などが続き、日本は2.3%にとどまった。日本の低迷は最近始まったことではない。国際ランキングの推移を見ると、特に2000年代半ばからの急落が目立つ。1980~90年代前半は米国、英国に次ぐ3位を維持していた。だが94年にドイツに抜かれ、2005年までは4位になり、その後順位を落とし続け、ついに2ケタ台になってしまった。注目論文のうち引用数が上位1%の「トップ論文」もほぼ同じ推移だ。00年代前半まで長く4位だったが、今は9位に落ちた。研究開発の活発さを示す全体の論文数もかつては米国に次ぐ2位だったが、現在は4位だ。低迷のきっかけに04年の国立大学の法人化を挙げる声は大学関係者の中で多い。その後、国から配られる大学の運営費に関する交付金は年々削減されていき、大学は人件費や管理費の抑制を進めたという指摘がある。00年代半ばから低下したのは資金だけではない。他国に比べても目立つのが、将来の国の研究開発を下支えする博士号取得者の減少だ。米中は年々その数を伸ばしており、英国や韓国も00年度に比べて2倍超となった。ドイツやフランスも横ばい水準を維持している。一方の日本では、06年度の約1.8万人をピークに減少傾向が続いており、近年は約1.5万人で推移している。影響は大学だけではなく、企業の研究力にも及ぶ。米国では企業の研究者のうち博士号所有者の割合が、ほぼ全ての業種で5%を超える。日本は医薬品製造や化学工業などを除いた多くの産業で5%未満にとどまる。専門的な知識を持って入社する博士人材が、企業内でうまく活用されていない状況だといえる。民間なども加えた日本の研究者の総数は20年で68.2万人、19年の研究開発費は18兆円(名目額、購買力平価換算)で米中に大きく離れてもなお世界3位を保っている。ただ、前年からの増加率は1%以下とほぼ横ばいの水準だ。増加率2ケタ台で研究者数がトップの中国や、研究開発費で首位をキープする米国との差は開く一方だ。日本が低迷する要因について、調査担当者は「大学教員の研究時間が減っている」ことをあげる。改善するにはどうしたらいいか。政府の科学技術政策の司令塔である「総合科学技術・イノベーション会議」の議員を務める橋本和仁さん(物質・材料研究機構理事長)は「『選択と集中』ではなく、個々の研究レベルを上げる政策の中で取り組むべきだ。例えば、短期的な成果を求めないようにするため、若手の雇用を増やすべきだという議論になるだろう」と指摘する。政府は3月に閣議決定した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」で、博士課程人材への財政支援の拡充、大学の経営基盤強化や若手研究者の支援などに向けて10兆円規模のファンドを立ち上げる方針を掲げた。実効性が問われる。
*日本の科学技術計画
 政府が5年に1度策定するもので、日本の科学技術政策の中長期的な方針を示す。科学技術基本法(1995年制定)が2020年に改正されたのに伴い、従来は「科学技術基本計画」との名前だったが現在は「科学技術・イノベーション基本計画」と呼ぶ。3月に閣議決定した21~25年度の第6期計画では「今後5~10年間が、我が国が世界を主導するフロントランナーの一角を占め続けられるか否かの分水嶺」との危機感を示した。5年間で政府の研究開発投資を総額30兆円にするといった目標を掲げた。

*7-1-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021082400648&g=soc(時事 2021年8月25日)夏休み延長、分散登校も コロナ拡大で不安広がる―政府「一斉休校要請せず」
 新型コロナウイルスの感染急拡大が収まらない中、夏休み明けの学校再開に向け、全国の自治体が対応に苦慮している。政府は全国一斉の休校は要請せず、自治体に対応を委ねる意向。一方で子どもを通じて家庭に感染が広がる懸念もあり、夏休みの延長や分散登校を決める自治体も出ている。新学期の対応について、萩生田光一文部科学相は20日、「地域の事情に合わせて判断を変えていくということで、国としての一斉休校は行わない」と説明。そのため自治体の判断が分かれている。札幌市では予定通り、23日から中学校の2学期が始まった。一方、東京都は現時点で一斉休校は求めず、状況に応じて時差登校や短縮授業の検討を要請する通知を出した。大阪府も一斉休校はしないが、修学旅行を原則延期したほか、部活動の一部を中止に。愛知県も修学旅行の休止を検討するなど、行事を見直す動きは広がっている。一方、横浜市は市内の小中学校など約500校を対象に、26日までの夏休みを延長し31日まで臨時休校にした。市教委の担当者は「感染状況が厳しく、保護者から再開を不安視する声も寄せられた」と明かす。神奈川県内では川崎、相模原両市も小中学校の8月末までの休校を決定。東京都調布市は小中学校を9月5日まで休校にした。分散登校に踏み切るケースも多い。群馬県の県立学校では2学期の始業式から9月12日まで、生徒らを分けて交代で登校。熊本市では小中学校について、オンライン授業と登校日を学年ごとに分ける方式を1日から10日まで導入する。岐阜県では、県立高校の2学期の授業を当面オンラインで実施。県教委の担当者は「高校は通学エリアが広く、感染リスクが小中学校より高い」と説明している。大阪府寝屋川市も夏休み明けの登校を見合わせ、小中学校は8月27日までオンライン授業としている。政府は学校での感染防止対策として小中学校に抗原検査の簡易キットを配布する方針。教職員のワクチン接種も促すが、10代以下の子どもの感染も急増する中、自治体からは「看過できない状況になれば一斉休校も判断としてあり得る」(吉村洋文大阪府知事)との声が出ている。

*7-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05A1O0V00C21A8000000/?n_cid=BMSR3P001_202108101701 (日経新聞 2021年8月10日) 中国論文、質でも米抜き首位 自然科学8分野中の5分野
 自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で中国が初めて世界一になった。文部科学省の研究所が10日、最新の報告書を公表した。研究者による引用回数が上位10%に入る「注目論文」の数で初めて米国を抜いた。分野別でも8分野中、材料科学や化学、工学など5分野で首位に立った。学術研究競争で中国が米国に肩を並べつつあり、産業競争力の逆転も現実味を帯びてきた。科学論文の数は国の研究開発の活発さを測る基本的な指標だ。文科省科学技術・学術政策研究所が英調査会社クラリベイトのデータを基に主要国の論文数などを3年平均で算出・分析した。中国が学術研究の量だけでなく、質の面でも実力をつけている姿が鮮明だ。注目論文の本数を調べたところ、中国は2018年(17~19年の平均)に4万219本となり、米国の3万7124本を抜き首位になった。米国も08年に比べて3%増えたが、中国は約5.1倍と急増。シェアは中国が24.8%、米国が22.9%と、3位の英国(5.4%)を引き離した。注目論文のうち上位1%に当たる「トップ論文」でも、中国のシェアは25%と米国の27.2%に肉薄した。文科省科学技術・学術政策研究所の担当者は今後について「中国のいまの勢いは米国を追い抜く様相を見せている」と指摘する。注目論文の世界シェアを分野ごとにみると、材料科学で中国は48.4%と米国(14.6%)を大きく引き離した。化学が39.1%(同14.3%)、工学は37.3%(同10.9%)などと計5分野で首位となった。米国は臨床医学(34.5%)や基礎生命科学(26.9%)で首位となった。バイオ分野で強さが目立つものの、産業競争力に直結する分野で中国が強さを示した。全体の論文数では昨年の集計に引き続き中国が首位になり、米国を上回った。中国は35万3174本、米国が28万5717本で、その差を20年調査時の約2万本から約7万本に広げた。一方、日本は論文の質・量ともに順位が低下し、科学技術力の足腰の弱さが浮き彫りになった。注目論文のシェアではインドに抜かれ、前年の9位から10位と初めて2ケタ台に後退した。トップ論文のシェアも9位と前年から横ばいだった。10年前と比べた減少率はともに10~15%と大きく、論文の質が相対的に下がっている。日本の全体の論文数は6万5742本と米中の20%前後の水準にとどまった。米中のほか韓国、ドイツ、フランス、英国などは10年前と比べ増えているが、日本は横ばいにとどまる。長期化する研究力低下に歯止めをかけるのに「特効薬」はなく、衰退を食い止めるのは難しい。科学論文の量や質を左右するのは資金力だけではない。中国が量と質をともに高めている背景には、圧倒的な研究人材の厚さと伸びがある。世界一を誇る研究者数を年々増やしている。一方、中国・米国に続いて3位の日本は横ばい水準で伸び悩む。中国の19年時点の研究者数は210万9000人と世界首位だ。前年から13%増と高水準で伸びた。日本は68万2000人(20年時点)と中国・米国に続く3位だが、増加率は0.5%にとどまる。研究人材の育成で日本は中国以外の国にも大きく出遅れている。文科省科学技術・学術政策研究所によると、日本で大学院の博士号を取得した人数は06年度をピークに減少傾向だ。米中や韓国、英国では15~20年前に比べて2倍超の水準で伸びている。ドイツやフランスは横ばい水準だ。
*ひとこと解説 青山瑠妙:早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
 自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で中国が初めて世界一になった。世界一になった理由として、一般には研究開発費の増加が指摘されている。なかでも大学に配分される科研費は文系、理系を問わず、潤沢である。研究者の人数が多いことも一因であるが、その多くは欧米で教育を受けた研究者であることは忘れてはならない。さらに、中国の論文を網羅した学術データベースの存在も中国の論文の引用回数の底上げに貢献した。国際競争力を目指すには、科研費の充実をはじめとした日本政府の政策支援が求められる。

*7-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC103PJ0Q1A810C2000000/ (日経新聞 2021年8月10日) 中国、科学大国世界一を視野 米国の競争力基盤揺るがす
 中国が「科学大国世界一」の座を米国から奪おうとしている。文部科学省の研究所が10日発表した報告書では注目度の高い論文の数で初めて首位となり、研究の量だけでなく質の面でも急速に台頭していることを印象づけた。戦後の科学研究をリードしてきた米国の優位が失われつつあり、産業競争力にも影響する可能性がある。米中が威信を懸けて科学力を競う主戦場の一つが宇宙開発だ。5月には中国が送り込んだ無人探査機「天問1号」が火星に着陸し、習近平(シー・ジンピン)国家主席は「中国は惑星探査の分野で世界の先頭集団に入った」と胸を張った。2019年には月の裏側へ世界で初めて無人探査機を着陸させている。「中国の技術力は米国に負けないレベルに達している」と京都大学の山敷庸亮・有人宇宙学研究センター長は指摘する。米国は1950年代以降、科学技術の分野で世界を先導してきた。産業競争力の源泉であり軍事上の優位を支える土台でもあったが、その基盤を中国が揺るがしている。中国の研究力向上を支えるのが積極投資と豊富な人材だ。中国の19年の研究開発費(名目額、購買力平価換算)は54.5兆円と10年間で2倍以上に増えた。首位の米国(68兆円)にはなお及ばないが、増加ペースは上回る。研究者の数も210万人と世界最多で、18年に155万人だった米国を大きく引き離す。現在の中国の姿は戦略的な計画に基づく。胡錦濤(フー・ジンタオ)前国家主席時代の06年に始動した「国家中長期科学技術発展計画綱要」で、20年までに世界トップレベルの科学技術力を獲得する目標を掲げた。研究開発投資を拡充し、対外技術依存度の引き下げを進めてきた。人材の獲得や育成にも中長期的に取り組み、米欧の大学などに若者を積極的に留学させた。08年に開始した「千人計画」では海外在住の優れた研究者らを積極的に呼び込んだ。国内でハイレベル人材を育てる計画も推進してきた。当面、中国の勢いは続きそうで、ノーベル賞の受賞なども増える公算が大きい。3月には今後5年間、官民合わせた研究開発費を年平均7%以上増やす方針を示した。米スタンフォード大学の報告によると、学術誌に載る人工知能(AI)関連の論文の引用実績で中国のシェアは20年に20.7%と米国(19.8%)を初めて逆転した。近年、米国は技術流出に警戒を強め、中国から研究者や学生を送り込むのが難しくなっている。中国は最先端の半導体などをつくる技術はまだ備えておらず、研究を産業競争力の強化につなげる段階でも壁は残る。日本の衰退は一段と進んでいる。注目度の高い論文の数ではインドに抜かれ10位に陥落した。世界が高度人材の育成を競うなか、大学院での博士号の取得者は06年度をピークに減少傾向が続き、次世代の研究を支える人材が不足している。米国では民主主義などの価値を共有する日本との協力を重視すべきだとの声もあるが、このままではそんな声さえ聞かれなくなる恐れがある。
*多様な観点からニュースを考える
山崎俊彦:東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授 2021年8月11日
 貴重な体験談「人材の獲得や育成にも中長期的に取り組み、米欧の大学などに若者を積極的に留学させた。08年に開始した「千人計画」では海外在住の優れた研究者らを積極的に呼び込んだ。これが全てを物語っている気がします。米国で名を挙げた企業や大学の研究者が中国に戻ったり中国の組織で兼任したりしているのを実際にたくさん目にします。

<中国の塾規制とオンラインゲーム規制>
PS(2021年9月1日追加):*8-1のように、中国政府が教育費負担を抑えて少子化対策を行うために学習塾の規制強化に乗り出し、①習国家主席が「児童生徒の勉強は基本的に学校内で教師が責任を負うべきだ」とされ ②週末や長期休暇中の授業時間を制限し ③受験競争の激しい山東省が学校に児童生徒に塾通いを勧めないよう要求した そうだ。しかし、①は正論でも、先に学校で教師が責任を負えるような授業をするのでなければ親子は別の方法を考えなければならず、④家庭教師への依頼が増えコストが上がって かえって困りそうだ。ただし、放課後児童クラブ等に家庭教師を招いて複数で授業を受け、コストを抑える方法もあるかもしれない。
 なお、*8-2のように、中国政府が18歳未満の未成年のオンラインゲーム利用を週3時間に制限する新規則を公表したのはよいことだと思う。何故なら、オンラインゲームにふけると勉強や読書の時間を少なくし、心身の健康に悪影響があることは疑いない上、「eスポーツ」は実際に身体を鍛えるわけではなく、ゲームより有意義な時間の使い方はいくらでもあるからである。

*8-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM229HK0S1A620C2000000/ (日経新聞 2021年7月11日) 中国が教育費高騰で塾規制 受講料、平均年収の2倍も
 中国政府が学習塾の規制強化に乗り出す。政府内に監督部門を新設し、週末授業や学費の制限を検討する。家計の教育費負担を抑えて少子化対策につなげる狙いだが、政府の思惑通りになるかどうかは見通せない。
●少子化対策へ習氏「学校が責任もて」
 「児童生徒の勉強は基本的に学校内で教師が責任を負うべきだ」。習近平(シー・ジンピン)国家主席は6月、唐突に教育問題を取り上げた。背景には少子化対策がある。中国政府は夫婦1組に3人目の出産を認める法改正に着手した。長年の産児制限で1人っ子が圧倒的に多い中国では、親が子どもの教育に巨額のお金を投じる。一人娘が6月に全国統一大学入試「高考」を受けた北京市の呉さんは「同級生で高校3年生の塾代に年30万元(約510万円)かけた家もある」と明かす。北京市の会社員の平均年収は260万円程度とされ、2倍近い計算だ。教育費は若い夫婦が出産をためらう大きな原因だ。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は2020年に1.3まで下がった。政府は教育費の軽減が出生率の反転に欠かせないとみて、教育行政で「双減(2つの軽減)」を掲げた。高騰する家庭の教育費と宿題など児童の負担の2つを軽くする意味だ。矛先は塾業界に向かった。中国教育省は6月、「校外教育機関監督局」を新設した。塾への規制をつくり、監督する。週末や長期休暇中の授業時間を制限したり、学費の標準モデルを策定したりするのが検討課題という。全国に先立って動き出した地域もある。受験競争が激しいことで有名な山東省は6月、省内の学校に夏休み中の対応に関する通知を出した。児童生徒に塾通いを勧めたりしないよう要求した。シンクタンクの前瞻産業研究院によると、中国の教育産業の市場規模は20年までの5年で4割増えた。新型コロナウイルス禍でもオンライン授業が広がり、需要は底堅かった。
●講師の経歴詐称や「秘密特訓」で高額徴収
 親の教育熱を逆手に取った塾の不法行為も社会問題になった。独占禁止法などを管轄する国家市場監督管理総局は6月、15社の学習塾に総額3650万元の罰金を支払うよう命じた。講師の経歴詐称や、わざと高い学費を設定して値引きで割安感を演出する行為があった。教育省も6月、親への注意喚起という形で学習塾をけん制した。「秘密の特訓コース」などと銘打って高額の授業料を追加徴収する例などを挙げた。もっとも、新型コロナの爪痕で若者の職探しは厳しさを増す。「高考の数点の差が人生を左右する」との考えも根強く、我が子を少しでも良い大学に進学させようと必死になる親は多い。中国では塾講師や家庭教師のアルバイトをする学校教師が少なくない。給料が安く、大都市では給料だけで暮らせないからだ。評判のよい学校教師が塾で教えれば、塾の人気も高まる。北京市内の大手塾で教壇に立つ趙さんは「公立学校を辞めて塾に転職する教師もいる」と明かす。
●「家庭教師への依頼増えるだけ」
 中国共産党は加速する少子高齢化が経済成長を鈍化させると危機感を抱く。所得の伸びはすでに鈍り、習指導部は家計の大きな負担である教育費に目をつけ、塾規制という「奇手」を繰り出した。ただ、学校教師の待遇改善など本質的な対策を怠ったままでは、政策効果にも限界がある。趙さんは「塾の授業を規制しても家庭教師への依頼が増えるだけで、コストはかえって高くなる。そうなれば親の反発が強まるだけではないか」と話している。

*8-2:https://jp.reuters.com/article/china-regulation-gaming-tencent-holdings-idJPKBN2FW0E7 (ロイター 2021年8月31日) 中国の未成年オンラインゲーム規制、関連株が下落 愛好家は怒り
 中国政府が18歳未満の未成年によるオンラインゲーム利用を週3時間に制限する新規則を公表したのを受け、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)といったゲーム企業の株価が下落した。また、ソーシャルメディア上ではゲームを楽しむ若者が怒りを表明している。オンラインゲームを「精神的アヘン」と表現したこともある中国当局は新規則について、依存の高まりを食い止めるのに必要だと説明。共産党機関紙の人民日報は、政府は「非情に」ならざるを得ないとする記事を出した。同紙は、オンラインゲームにふけることは10代の若者の日常の勉強、心身の健康に影響があることは「疑いの余地がない」と指摘。「ティーンエージャーが荒廃すれば家庭が荒廃する」とした。一方、中国の若いゲーム愛好家は怒りを表明した。中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」のあるコメントは「こうした規則と規制をつくるおじいさんとおじさんのこの集団はゲームをプレイしたことがあるのだろうか?『eスポーツ』プレイヤーにとって最良の年齢が10代にあることを理解しているのだろうか?」と投稿。「性的同意は14歳。16歳で働きに出られる。しかし、ゲームをプレイするには18歳にならなければならない。これは全くの冗談だ」とした。31日のテンセントの株価は3.6%安。米上場の網易(ネットイーズ)はオーバーナイトで3.4%安。31日の香港上場株も同程度値を下げている。韓国のクラフトンは3.4%安。東京市場ではともに中国市場へのエクスポージャーを持つネクソンとコーエーテクモがそれぞれ4.8%安、3.7%安。

| 経済・雇用::2021.4~ | 12:02 AM | comments (x) | trackback (x) |
2021.7.8~19 国家100年の計どころか30年の計がやっとできた日本 ← それでは他国を見て真似することしかできず、一見バランスの良い予算を作ってそれを消化することが目的になり、矛盾する政策も多いこと (2021年7月20、21日に追加あり)

 2021.7.2日経新聞 2021.7.7NHK   2021.7.8朝日新聞   2021.6.2東京新聞
 *4-1-2より
(図の説明:1番左の図は「人口100万人当たり新型コロナ死者数の推移」で、日本は欧米に比べて著しく低いが、近くの韓国より高い。また、欧米・韓国は治療薬とワクチンで感染を抑え込み、日本はこれをやらなかったので、また山ができている。さらに、左から2番目の図のように、人口10万人当たり療養者数が30人以上になると医療が逼迫すると言ったり、機能不全になると言ったりするのも異常で、右から2番目の図のように、病床使用率20%代をステージ3として五輪を無観客にしているのだから、何を考えているのかと思う。なお、1番右の図のように、職域接種が進み始めるとワクチンが足りないと言って接種を停止しており、政府の過失《もしくは故意》にも程があるのだ)

(1)国家100年の計
1)中国、習近平総書記の演説にはあった国家100年の計
 中国共産党の習近平総書記が、7月1日、*1-1のように、北京市天安門広場で党創立100年記念式典の演説を行われた。私は、中国が改革開放を始めた1990年代に公認会計士・税理士として中国進出企業の監査・国際税務・ODA等で関わっていたため、中国が1990年代に生産で遅れていた理由と、それを克服した経緯を一部ではあるが知っている。そのため、習近平総書記の演説について気がついたことを指摘する。

イ) 国家100年の計について
 国家100年の計について、習総書記は、「①中国は、後進的な状態から世界第2位の経済大国へと歴史的な躍進を達成し、それは共産党主導で実現させた」「②全党と全国各民族人民による持続的な奮闘で、党創立最初の100年に掲げた目標を実現し、この地に『小康社会』を築き上げ、絶対的な貧困問題を歴史的に解決し、社会主義現代化強国の全面的な実現という次の100年の奮闘目標に向けて邁進している」とされている。

 しかし、中国を名目GDP世界第2位の経済大国にしたのは、鄧小平(1920~1926年にパリ留学)が1978年12月に改革開放路線に転換したからで、鄧小平路線の特徴は、i)経済優先 ii)不均等発展の容認 iii)社会主義体制外の改革先行方式 iv)市場経済の積極的導入 等であり、これら社会主義市場経済体制が中国の経済発展を作った。また、鄧小平氏は1980年代には政治体制改革の必要性も説いていたが、1989年の天安門事件後に政治体制改革を放棄したそうだ。

 なお、習総書記は、「③中国共産党は誕生当初から、中国人民に幸福をもたらし、中華民族の復興をもたらすことを使命と決めており、この100年、中国共産党が中国人民を束ね率いた全ての奮闘、全ての犠牲、全ての創造は中華民族の偉大な復興を実現するという一つのテーマに帰結する」とされており、使命に関する理念は立派だと思うが、共産主義の必要性があったかどうかは疑問である。

 何故なら、日本は自由主義でも太平洋戦争後の廃墟から約20年で立ち直り、復興期の私の両親の働く姿と1980~1990年代の中国の若者の働く姿がよく似ていたため、中国は大国であるため広くてまとめにくくはあるだろうが、むしろ共産主義体制をとったことで経済発展が30年遅れたように思うからである。

ロ)中華民族の歴史
 中華民族の歴史については、「④中国共産党と中国人民の勇敢で強固な奮闘で、中華民族が搾取され、辱めを受けた時代は過ぎ去ったことを世界に宣言する」「⑤私たちは社会主義革命を進め、中国で数千年にわたって続いていた封建的な搾取と圧迫の制度を消滅させ、中華民族の有史以来、最も広く深い社会変革を実現した」とされている。

 確かに④⑤のように、中国共産党が列国の支配から中華民族を解放し、深い社会変革を実現したのかもしれないが、私は(他国の実情はよくわからないものの)、蒋介石が中国に自由主義経済を作っていれば、停滞の30年もなかったかもしれないと思う。

ハ)社会主義について
 習総書記は、社会主義について、「⑥中国を救い発展させられるのは中国の特色ある社会主義だけだ」「⑦揺るぎなく改革開放を推進し、計画経済体制から活力に満ちた社会主義市場経済体制への歴史的転換を実現した」「⑧改革開放こそが現代中国の前途と運命を決める鍵となる一手であり、中国が大股で時代に追いついた」「⑨100年前、中国共産党の先駆者たちは、真理を堅持し、理想を守り、初心を実行し、使命を担い、犠牲を恐れず、勇敢に戦い、党に忠誠心を持ち、人民に背かない、偉大な建党精神をつくり上げ、これが中国共産党の精神の源」とされているが、⑧の改革開放や社会主義市場経済体制は、本当は社会主義でも共産主義でもない。そして、中国は市場主義経済に移行して後、大股で時代に追いついたのである。

 東西冷戦後、社会主義体制だった国に関与して私がつくづく思ったことは、自由主義市場経済体制における自由競争こそが工夫と発展を産み、国の経済発展の原動力になるということだった。そのため、私は、経済で儲けさえすればよいという近視眼的な自由ではなく、理念とセーフティネットを持った進化した自由競争が必要だと考えている。

二)中国の今後について
 習総書記は、「⑩2012年の第18回党大会以降、我々は経済一辺倒ではなく政治・文化・社会・環境保護の一体的な発展を重視する『五位一体』体制を見据えて推進した」「⑪中国の革命、建設、改革、中国共産党の創立と強化、発展のために大いに貢献した毛沢東・周恩来・劉少奇・朱徳・鄧小平・陳雲といった同志ら上の世代の革命家を深く忍ぶ」「⑫中国共産党の100年の奮闘から過去に私たちが成功できた理由を見て、未来にどうやって成功を続けられるか明らかにし、それによって新しい道で揺るぎなく、初心の使命を心に刻み、美しい未来を切り開かねばならない」「⑬中国のことをうまくやるために、カギとなるのは党だ」「⑭中国の特色のある社会主義はなぜ良いのか、それはマルクス主義によるものだ」としておられる。

 ⑩については、尤もだ。また、習総書記が共産党の党大会でされた演説なので、⑪⑫⑬⑭を言うのも当然だが、ロ)に書いたように、マルクス主義は競争を廃して人々の工夫をやめさせるため、技術が進歩・発展することは少なかった。これが、人間の欲求を動機づけとして活用しないマルクス主義の国すべてに起こった停滞という歴史的事実である。

 それでは、何故、中国は改革開放後、名目GDPが世界第2位の経済大国まで発展できたのかといえば、第1に、欧米や日本など外国に見本があったため、それを目標にして一丸となって進むには共産主義体制下での強力な管理体制が有効だったからだ。また、第2に、(科挙のように)海外も含む有能な研究者を厚遇で集めて付加価値を上げる努力をし、世界の研究者を集めて学会を開き、世界の優良企業を誘致して、世界の知を積極的に受け入れたことが大きい。

 ただ、第3に、購買力平価によるGDP総額は、2020年に中国が世界第1位、米国が第2位になっているが、同じ購買力平価による1人当たりGDP(分配の仕方にもよるが、国民1人1人の豊かさの指標)は、2020年に中国は世界73位(同米国7位、日本28位)であり、これは中国は人口が多く物価が安いために起こったことである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%84%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%B8%80%E4%BA%BA%E5%BD%93%E3%81%9F%E3%82%8A%E5%AE%9F%E8%B3%AAGDP%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88 、 http://www.iti.or.jp/column031.htm 参照)。

 そして、このようなことは、日本でも、明治維新後の中央集権と官僚制の開始や太平洋戦争後の復興期に同様に起こったが、世界1の分野が増えて外国に見本がなくなった時、多様性がなく自由な発想のできない制度は工夫がなされにくいので、次の方向性を見失うのだ。

ホ)外交について
 外交の歴史については、「⑮中華民族は平和、和睦、調和を5000年以上にわたって追求し、継承してきた」「⑯中華民族の血には、他人を侵略し、覇権を追求する遺伝子はない」と言われているが、三国志などを見る限り国内での酷い戦争も多かったように私は思うが、漢民族は比較的温和だったと聞いてはいる。

 また、今後の外交理念として、「⑰人類の将来の運命に心を配り、世界のすべての先進的な力と協力して前進する」「⑱中国は常に世界平和の建設者であり、世界の発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者だ」「⑲新たな道のりでは、平和、開発、協力、互恵の旗印を高く掲げ、独立した外交政策を追求し、平和的発展の道を守り、新しい形の国際関係の構築を促進しなければならない」「⑳人類の運命共同体の道を守り、『一帯一路』の質の高い発展を促し、世界に新たな機会を提供しなければならない」「㉑平和、開発、公正、正義、民主、自由という全人類共通の価値観を守る」と言われているのは、総論賛成だ。

 しかし、⑱⑲㉑については、国際秩序は「国際法が国内法に優先する」という人類共通の約束事があるため、国内法を優先させて他国の領土を侵害するのは許されないし、「内政干渉しない」という原則もあるため、既に独立国である中華民国(台湾)を無理に併合したり、同国の外交を妨害したりすることも許されない。そして、中国の民主主義や人権に関しては、強力な一党独裁で遅れていることが事実であるため、そろそろ本気で民主化すべき時だろう。

 なお、日本では悪口を言う人も多いが、⑳の「一帯一路」は中国国内での経験を基にして、それを他の開発途上国にも敷衍しているものであるため、善意で行う限り、良いことだと思う。

へ)防衛について
 防衛については、「㉒中国人民はこれまで他国の人民をいじめ、抑圧し、奴隷のようにしたことはない」「㉓中国の人民は、いかなる外部勢力が私たちをいじめ、抑圧し、奴隷のようにすることも決して許さず、故意に(圧力を)かけようとすれば、14億人を超える中国人民の血肉で築かれた『鋼鉄の長城』の前に打ちのめされるだろう」等と述べられた。

 このうち㉒については、TV放送で聞いた時すぐに、「そうかな?」と疑問に思った。他国の人民を積極的に奴隷にしたことはないかもしれないが、自分のことを「中華民族」と呼んでいる反面、周辺の民族のことは東夷(とうい)・南蛮(なんばん)・西戎(せいじゅう)・北狄(ほくてき)という蔑んだ呼び方をしていた歴史的事実がある。

 また、日本に倭国(わこく)・奴国(なこく)などという失礼な文字をあて、朝貢してきた国の女王に卑弥呼(ひみこ)という卑しさを現す文字をあてている。文字のなかった日本について記載してあるのは有難いものの、発音にあてられた文字には敬意が感じられない。

 なお、㉓は自衛権としては尤もであるものの、領土については、武力ではなく国際法にのっとって主張してもらいたい。

2)それでは、日本の「骨太の方針」に国家何年の計があるか
                  ← 対応が遅すぎる上、タイムスケジュールも不明
 「骨太の方針」が、*1-2のように、①新型コロナ対策の強化に加え ②デジタル化 ③脱炭素化 ④地方創生 ⑤少子化対策の4分野を成長の原動力と位置づけて決まったそうだ。

 このうち、①については、かなり述べたので簡略に書くと、ワクチン接種完了を「10~11月にかけて」としているのは、「解散」「解散」と騒ぎ立てるメディアや野党を、新型コロナ禍を建前として黙らせるのが目的のように見える。

 しかし、何回衆議院が解散されようと、政権が変わろうと、背後の官僚機構が政策を決めている限り、政策は変わらない。さらに、議員が官僚機構よりよい政策を作れなければ、政権は官僚機構に頼らざるを得ないということを、与野党・メディアともに認識すべきだ。そして、それを認識すれば、やるべきことはわかる筈である。

 ②③④⑤については、1990~2000年代から始めたものなので、今後のスケジュールを示さなければ意味がない。総花的かと言えば、日本では人口の中で割合が増えている高齢者のニーズを無視しており、高齢者の人権を軽く見ていると同時に、今後は世界で同じことが起こるので、経済における深慮遠謀にも欠ける。

 「どの政策を、(財源を含めて)どうやって実現していくか」については、これまで何度も述べてきたように、単にきりつめるだけでなく、正攻法で財源を増やすことや無駄遣いをなくして効率の良い使い方をすることを考えるべきだ。しかし、役所や官僚機構は、税外収入を増やすことは苦手で、古い仕事を既得権として維持しながら、ポジション増加のために新しい省庁を作ることには熱心だ。そのため、「デジタル庁」「こども庁」は、これまでの担当部署を廃して作るのでなければ、無駄遣いと調整すべき相手が増えるだけであろう。

 「最低賃金の引き上げ」については、*1-5はじめ、多くの人が言っているが、「賃金を上げれば、生産性が上がる」のではなく、「生産性を上げれば、賃金を上げることができる」のである。そうでなければ、経営が成り立たないので、日本企業は雇用を減らすか、工場を人件費コストの安い海外に移転するかして、日本では雇用が失われる。

 にもかかわらず、東大の渡辺教授が、「⑥日銀の異次元緩和で円安が進み、政策目的は円安だけでなく物価と賃金も上げることだったが、円安なのに物価も賃金も上がらなかった」と書いておられる。しかし、金融緩和は円の価値を下げるだけで、金融資産を持ち人口に占める割合の高い高齢者の実質所得や実質年金は減ったため、高いものは買えなくなり、日本製ではなく海外製の安いものに需要が向いたのであり、それは当然の結果だった。

 つまり、現在は鎖国をしている時代ではないため、中国・東南アジアなどの海外で安くてよいものができれば、高いだけで値段ほどには品質の違いがない日本製は売れなくなる。従って、「⑦日本は安い国になった」ということ自体は、国民を批判することではなく、政策によって起こった経済現象にすぎないのである。

 また、「⑧海外で物価上昇が進めば、現地の競合製品が値上がりするので日本企業も値上げできるが、日本では値上げできないという二極化が既に起きている」というのは、現在の日本は中国・東南アジア等と比較してむしろ共産主義化が進み、顧客ニーズに合ったものを作っていないという面も大きい。そのため競争に負けているのであり、これも自然な経済現象であるため、本質を改めない限り改善しない。

 *1-2は、そのほか「⑨持続可能な財政の姿が見えない」「⑩コロナ禍に伴う経済対策で2020年度の一般会計歳出総額は175兆円超、国債は112兆円が新規発行された」「⑪2021年度予算もコロナ対策予備費に5兆円積み、過去最大規模の106兆円に膨らみ、追加支出の恐れもある」「⑫内閣府は、日本経済が高成長したとしてもPBは2025年度に7兆3千億円程度の赤字」「⑬EUは復興財源として国境炭素税などを検討」なども記載している。

 ⑩⑪⑫は、コロナ禍というより、五輪の無観客開催も含めてコロナ政策禍であるため、このような政策しかできなかった根本的な問題を解決すべきである。また、コロナ政策禍によって生じた膨大な歳出増・財政赤字と失業は、*1-4のように、無駄遣いの景気対策をするのではなく、今後を見通して炭素税か環境税を導入して再エネ投資を進めることによって解決すべきだ。

 なお、五輪の無観客開催については、*1-7のように、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長ら“専門家有志”が「無観客が望ましい」との提言を公表し、これが多くのメディアで主張されて国民の不安を煽っていたが、その根拠は「i)競技場内での感染はないと思うが、人流を抑制したい」「ii)市中と矛盾したメッセージを発しない」「iii)一般市民との公平性」などだそうで、科学とは全く関係のないものだった。

 しかし、その影響で五輪が無観客化されたことによって五輪の経済効果がなくなったマイナスは大きく、五輪のために投資した企業は損失を出し、無観客なら五輪の魅力も半減如何になる。さらに、「自国の検査で陰性だったのに、日本で感染が判明した選手団員が出た」「デルタ株の感染力が強い」などを大きく報道しているが、その根拠や解決法について“専門家”の理路整然とした説明はなかったし、「日本のPCR検査のカットオフが厳しいのだ」という説もある。その上、「デルタ株だからワクチンが効かない」とか「デルタ株だから中等症・重傷になる人の割合が増える」ということはない。なお、無観客なら国立競技場を建て替える必要もなかったため、五輪が終わったら民間に売却し、それで五輪開催にまつわる損失を穴埋めすればよい。何故なら、国民は、国民を幸福にしない誤った政策の尻拭いのために税金を負担したくはないからだ。

 このような中、*1-3には、「⑭新型コロナ禍で2020年春から積み増した予算73兆円のうち、約30兆円が使い残し」「⑮家計・企業への支払いを確認できたのは約35兆円とGDPの7%程度で、13%を支出した米国と比べて財政出動の効果が限られる」「⑯財政ニーズが強い時に予算枠の4割を使い残す事態は、日本のコロナ対応の機能不全を映し出している」「⑰翌年度への予算繰り越しが30兆円程度出る2020年度は極めて異例」「⑱ワクチン接種の遅れが消費や投資を制約させた影響が大きい」「⑲欧米や中国はコロナ後の成長基盤づくりをにらんでグリーン関連政策やデジタル化など戦略分野へ中長期的財政出動を競う」と書かれている。

 このうち、⑱は深刻である上、ワクチンを接種しても「差別」などと言ってワクチンパスポートを出さず、リスクの低い人の経済活動まで止め、⑭⑮の国に補助されなければならない人を増やした。さらに、ワクチンや薬剤の開発・承認も進めず、⑲にも不熱心で、産業の付加価値を上げたり、コストを下げて利益を得たりする機会を逸している。

 その上、⑯⑰のように、予算枠を使い残して翌年度に繰り越すこと自体が悪いかのように言うため、ゆとりを持って予算を設定し、不必要になったら使わないという当然のことができない。そして、これは、国に複式簿記による公会計制度を導入して財産管理を徹底しつつ、考え方を変えなければ解決できないものである。

 さらに、⑮で「家計・企業への支払いが日本はGDPの7%程度、米国は13%なので、日本の財政出動の効果が限られる」としていることについては、新型コロナ感染者の状況が異なる他国と同じ政策をとる必要はなく、日本の財政には無駄遣いするゆとりはない。

 なお、*1-6にも、「⑯後発薬原材料調達は6割が海外で、供給リスクが指摘される」「⑰塩野義は抗菌剤の原料生産設備を今年末までに岩手県に設ける」「⑱日本での原材料製造コストは中国の5倍以上との試算」「⑲国内回帰は薬のコスト上昇に繋がりかねない」などが記載されているが、同じ製品を日本で作ると製造コストが5倍以上になるのが問題なのである。そのため、理由を分析して問題解決すべきであり、そうしなければ他産業も日本には戻って来ず、それと同時に技術も日本から失われるのだ。

(2)客観的根拠に基づく軌道修正が不得意な国、日本


  2020.12.21   2021.6.24     2021.2.20      2021.6.26 
  Net IB News   東京新聞      毎日新聞       日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、使用済核燃料の貯蔵割合が100%に近い原発は多く、それは稼働すれば増えるものである。また、左から2番目の図のように、40年を超える関電美浜原発3号機が再稼働したが、その30キロ圏内には28万人弱が暮らしている。さらに、右から2番目の図のように、長期停止の後に再稼働した原発も多い。なお、1番右の図の地下に埋める形式の小型原発が問題解決できるかのような記述があるが、結局のところ何も解決してはいない)

1)それでもまだ、原発の建て替えをしたい人がいるのは何故か?
 日経新聞は、*2-1-1のように、「①60年に達する原発が今後出てくるのに、経産省はエネルギー基本計画に原発の建て替えを盛り込まない方向」「②政府は2030年度までに、温暖化ガス排出量を2013年度比で46%以上削減し、2050年には実質ゼロをめざすと決めた」「③原発はCO2を排出しない電源で、これにより2050年の脱炭素社会実現に向けた道筋が描きにくくなった」「④地球環境産業技術研究機構によると、原発活用は電力コストの上昇を和らげる効果もある」「⑤2050年に再生エネで電力すべてを賄うと、送電網の整備などに大きな費用がかかると見込まれるため、電力コストは今の4倍程度に増える」などと、記載している。

 ②については、よいと思うが、遅すぎるくらいだ。また、①③については、脱炭素は地球温暖化や公害をなくす一手段にすぎず、それ自体が目的ではないため、普段から温排水や放射性物質を排出し、事故が起こると手が付けられなくなる原発は既に失格であり、早く卒業すべきだ。

 具体的には、*2-1-2のように、フクイチ事故を起こした原発処理水を海洋放出して漁業に迷惑をかけようとしており、フクイチ事故自体も広い範囲の農林漁業と地域住民に多大な迷惑をかけた。その上、難しい原状回復のために支払う電気代や税金は莫大で、それがコストに上乗せされている。さらに、*2-4のように、原発建設当時からわかっていた筈の放射性物質を含む使用済核燃料の廃棄場所は未だになく、これにも税金と電気代を使うことになりそうなのだ。

 それにもかかわらず、④の「原発活用は電力コストの上昇を和らげる効果もある」などと言っている地球環境産業技術研究機構は、いかにも地球環境を護るような名前の組織だが、理事長の山地憲治氏は原子力の専門家で(https://www.rite.or.jp/about/outline/pdf/yamaji_cv.pdf 参照)、経産省の有識者会合と同様、原発推進派の下請機関である。さらに、⑤については、高度化した送電網の整備は喫緊の課題であるため、この際、送電に参入する組織がインフラ投資を行い、装置が簡単で燃料代0の再エネ電力を普及させた方が賢いに決まっている。

2)耐用年数を過ぎた原発を再稼働させる無神経
イ)仮に避難できれば、原発を再稼働してもよいのか
 運転開始から40年を超える関西電力美浜原発3号機が、*2-2-1のように、2021年6月23日、10年ぶりに再稼働したが、重大事故の際に避難対象となる30キロ圏内には28万人弱が暮らしており、避難の実効性には疑問符が付いている。

 しかし、原発事故で土地や住居を捨てて避難し、何年~何十年もどこで暮らすつもりか?「国策だったから」として、また国が除染したり公営住宅を建設したりすることを期待しているのなら、既に国策として原発を使う必要はなく、むしろ地域が補助金目当てに原発を再稼働したのだから、復興費用を全国民に負担させる理屈は通らなくなっている。つまり、避難する用意があったとしても、原発を再稼働してよいという理屈は既に破綻しているのだ。

 なお、水戸地裁は、30キロ圏に国内最多の94万人を抱える日本原子力発電東海第二原発の運転を禁じる判決を出したが、その根拠も、「市町村で避難計画の策定が遅れており、実現可能な避難計画がなければ運転を認めない」と言うに留まっており、避難した後、どうするかについての考察はない。

ロ)40年超の老朽原発を再稼働する非常識
 そのような中、*2-2-2には、「①関西電力が44年を経た福井県の老朽原発を再稼働させ、40年ルールから外れたケースが初めて現実となった」「②関西電力は、同様に老朽化した高浜1、2号機の再稼働も進める方針」「③福井県の再稼働同意は、それを条件とする巨額の交付金を経産省が県に提示したから」「④経産省と大手電力は今回の再稼働を原発復権に向けた足掛かりの一つと捉えている」「⑤例外として最長20年の延長を認める規定がある」「⑥40年の寿命を迎えた原発から順次廃炉して脱原発を着実に進める予定だった」と記載している。

 国税庁が示している耐用年数は、単なる建物・建物付属設備でも鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の場合は、工場・倉庫用:38年、公衆浴場用:31年で、金属造の場合は、工場・倉庫用:最長31年、公衆浴場用:最長27年である。また、電気設備・給排水・衛生設備、ガス設備は15年しかなく、機械・装置の耐用年数は、6~13年だ。(https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensuhyo.html 、https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensutatemono.html 、https://www.keisan.nta.go.jp/h30yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensukikai.html 参照)。
 
 つまり、放射性物質が飛び交うような過酷な環境でない普通の建物や建物付属設備の耐用年数でも、工場・倉庫用38年で、使用済核燃料プールのように常に水を貯めている建物付属設備なら、公衆浴場用31年である。さらに、電気設備・給排水・衛生設備、ガス設備の耐用年数は古典的で単純なものでも15年しかなく、機械・装置は6~13年で精密になるほど短いのである。

 そのため、日頃から周辺機器の点検や交換を行っていたとしても、40年の耐用年数は長い方で、⑤のように、40年ルールから外れる例外を作ることこそ緩くて甘いのだ。そして、それを存分に利用しようと、③のように、国が巨額の交付金を提示し、それにつられて①②④のように、なし崩し的に40年ルールを無視し、⑥の脱原発を闇に葬るやり方は、水際対策をザルにして先端技術も使わず、新型コロナを何度も蔓延させて国民に大損害を与えたのと同じ構図である。

3)日本における想定の甘さ
イ)地震の想定と活断層
 原子力規制委員会は、*2-3-1のように、九電が玄海原発で想定する地震の最大の揺れを引き上げる必要があるとの見解を示したそうだ。基準地震動とは、原発の耐震設計で基準とする地震動で、周辺の地質・地震学・地震工学等の見地から極めてまれでも発生する可能性があり、大きな影響を及ぼす恐れもあると想定されて、原発の地震対策の前提になるものだそうだ。

 規制委は、原発周辺の活断層などによる地震に加えて、過去に国内で発生した地震データを使って揺れを想定する方法を導入し、電力各社に最大の揺れの想定を見直す必要があるかどうか回答するよう要請したそうだが、電力会社が想定を作り直せばお手盛りになるし、耐震補強の追加工事費用も電力料金に加算される。

 さらに、活断層も、*2-3-2の「未知の活断層」だけでなく、プレートが強い力で押しあえば新しい活断層ができる可能性もあるため、過去にできた活断層だけを問題にしていることの方がむしろ不思議なくらいである。

 そのため、再エネの豊富な九州は、早々に原発を卒業し、大手電力も装置が簡単で燃料費0の再エネ発電に転換した方がよいと考える。その方が、玄海原発周辺の安全性が増し、他産業の誘致がしやすくなるメリットがある。

ロ)使用済核燃料の処分
 原発稼働で発生する使用済核燃料は、*2-4のように、再処理工場を経て最終処分場やMOX燃料加工施設に運ばれることになっている。そして、現在、日本国内で貯蔵されている使用済核燃料は約1万8,000tに上り、約5年後には、福島第二で88%、柏崎刈羽で100%、浜岡原発で90%、美浜原発で89%、高浜原発で98%、大飯原発で93%、川内原発で93%、東海第二原発で96%と、一時保管場所の9割が埋まると試算されている。

 また、九電玄海原発ではトラッキングで290t、乾式貯蔵施設の設置で440t、四電伊方原発では乾式貯蔵施設の設置で500t、中電浜岡原発では乾式貯蔵施設の設置で400tの追加保管が見込まれるが、これらは原発敷地内に放射性廃棄物が増えることにかわりない。また、東電と日本原電が出資した青森県むつ市の中間貯蔵施設は3,000tの保管を最長50年予定しているが、再処理後の高レベル放射性廃棄物最終処分場の選定はできていない。

 なお、使用済核燃料も恐ろしく危険なもので、フクイチのような自然災害による自爆もあり得るが、戦争なら原爆を運んで落とすよりも、原発を攻撃すれば原爆の何十倍もの威力でその国を自爆させることができるものである。そのため、使用済核燃料の処分は、これらのリスクも考慮したものでなければならないのだ。

ハ)小型原発の開発
 原発の是非を巡る議論が続いているのに、*2-5は、「①出力30万kwの小型原発を開発する動きがある」「②小型化して建設費を抑え、安全性も高めた」「③脱炭素に繋がる電源として実用化への取り組みは欧米が先行」「④三菱重工は国内の電力大手と小型炉の初期的設計の協議に入った」「⑤建設費は1基2,000億円台で5,000億円規模の大型炉の半分以下」「⑥小型炉は蒸気発生器を原子炉内に内蔵し、ポンプなしで冷却水が循環」「⑦小型炉は地下に設置できるので、航空機等による衝突事故への備えが高まる」「⑧密閉性が高まり放射性物質の飛散も防げる」「⑨米国ではプールにまるごと沈め、非常用電源なしでも冷却でき事故が起きにくい小型炉を開発」などと記載している。

 このうち③は、(2)1)に記載したとおり、脱炭素は地球温暖化や公害をなくす一手段にすぎず、それ自体が目的ではないのに、原発を推進するために目的を矮小化して記載している点で悪意であるし、パリ協定も原発は推進しないことを明らかにしている。また、①②⑤については、小型化したから安全になったというのは新たな安全神話にすぎず、出力30万kwが2,000億円台なら出力100万kwが5,000億円台よりも割高なので建設費を抑えたとは言えない。そして、その2000億円には地元懐柔費・事故時の現状復旧費・最終処分場建設費等は入っているのか?

 さらに、⑥⑨は、ポンプなしで冷却水が循環したとしても、冷却して回収した熱はどこかに逃がさなければならないため、それが海か空気を温めることは避けられず、温暖化防止に貢献することはない。その上、⑧のように、放射性物質の飛散は防げても発生は防げないし、使用済核燃料をどこかに処分しなければならないことに変わりはない。

 なお、⑦のように、地下に置いて航空機が突っ込む事故への備えが高まったとしても、サイバー攻撃やミサイル攻撃に対抗できない点は同じであるため、このような危険を犯し、地域住民の犠牲と大金を払って、④のように、国内電力大手が燃料費無料の再エネ(水力・地熱も含む)より原発を選択するには、また何かのからくりがありそうだ。

(3)外交・防衛にも計画性のない国、日本 ← それで勝てるわけはない
1)日本の外交について ← 台湾有事と尖閣諸島問題から
 日本は、1972年9月29日に北京で締結した「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html 参照)」の2条で、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」としているため、中華民国(台湾)の独立性について曖昧で消極的な態度をとっている。

 しかし、中華民国(台湾)は独立国であり、中華人民共和国との合併を望んではいないため、7条の「日中両国間の国交正常化は、第三国に対するものではない」に該当し、日本政府と中華人民共和国政府の共同声明に基づいて、中華民国(台湾)の独立性が左右されるのはおかしい。

 このような中、*3-1のように、麻生氏は「①中国が台湾に侵攻した場合、安保関連法が定める『存立危機事態』に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得る」「②台湾有事は、日本の存立危機事態に関係してもおかしくない」「そのため、日米で一緒に台湾を防衛しなければいけない」との認識を示された。

 ①②③の繋がりについては、もう少し詳しい説明を要するが、尖閣諸島問題を見ると中華人民共和国政府の国内法優先による横暴は目に余り、それは国際法にのっとった話し合いでは長期間解決することができていないのである。これは、日本の外交が情けないことも理由の1つだろうが、それだけが理由ではないと思われる。

2)日本の防衛について ← 今さら原子力潜水艦が必要か
 このような中、*3-2は、「①自由で開かれたインド太平洋を海洋安全保障戦略の基本としている4カ国の専門家が原子力潜水艦の必要性を指摘した」「②今後米中関係がさらに悪化して行く中で、台湾有事も想定せざるを得ない」「③燃料の補充が長期にわたって不要なので、潜水艦、砕氷船、発電バージに小型軽水炉は最適」「④長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役に立つ」等を記載している。

 また、*3-3は、「⑤ディーゼルエンジンと蓄電池で駆動する潜水艦と違い、原潜は半永久的に潜水可能」「⑥高濃度の核燃料は数十年にわたって原子炉を稼働させることができる」「⑦燃料を気にすることなく原子炉からエネルギーを得て海水を蒸発させて真水を生み出し、それを電気分解して酸素供給も可能」「⑧船員の酸素確保のために浮上する必要もないため、連続潜航距離を伸ばせる」「⑨米国が、1958年に原潜で北極点の下を潜航通過し、当時、原子力は人間が制御でき、平和利用すれば人々の生活を豊かにするという考えが大勢だった」「⑩その後、原子力潜水艦や原発がいくつも大事故を起こした」等を記載している。

 ⑤⑥⑦⑧は事実だろうが、狭い原潜の中に原子炉を積んでいれば、原潜内で放射能が上がることは確実で、放射性廃棄物は海中に捨てており、撃沈された時は燃料もろとも海中投機されるため、原潜の数が増えて実戦で使われれば海洋汚染が進む。そのため、⑨のように、1950年代に原潜を作ったのはわかるが、⑩のように、原発事故や放射能による被害が明らかになった後に、原潜を作ろうというのは時代錯誤も甚だしい。

 にもかかわらず、②④を論拠として、日本が原潜を作ろうすれば台湾も迷惑だろう。何故なら、台湾付近で原潜が戦闘を行い、そこで何隻も撃沈されれば、付近の環境や漁業に悪影響を与えるからで、①もまた、時代錯誤の日本主導でこのような指摘になったのではないかと思う。さらに、③に「燃料の補充が長期にわたって不要」と書かれている原潜のメリットは、再エネでも潮流発電を使えば海中でひっそり充電して水素と酸素を作ることが可能だ。

 また、④の「長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役立つ」という主張については、そんなことはないだろうし、人間が乗って運転する時代も既に去り、戦争は無人で行う時代になりつつあって、海中や空中はそれに適しているように見える。

(4)人を大切にしない国、日本 ← 医療・介護はじめ社会保障と人権を粗末にしすぎ 
1)医療・福祉について
イ)過疎地の医療について
 日経新聞は、*4-1-1で、「①2050年の人口が2015年比で半数未満となる市町村が3割に上り」「②829市町村(66%)で病院存続が困難になる」「③公共交通サービス維持も難しくなり、銀行・コンビニが撤退するなど生活に不可欠なサービスの提供もできなくなる」「④地域で医療・福祉・買い物・教育機能を維持するには、一定の人口規模と公共交通ネットワークが欠かせない」と記載している。

 交通ネットワークが整っていれば、少し広い範囲を医療・教育・福祉・買い物圏にすることができるため、必ずしも1市町村に1つ以上の基幹病院が必要ではないが、病院なら何があっても車で30分以内で専門医にアクセスできるネットワークが必要だし、小中学校はスクールバスで15分以内、保育所・介護事業所は車で5~10分以内にアクセスできる必要があるだろう。

 従って、「⑤医療圏内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる境目となる人口規模は1万7500人で、これを下回ると存続確率が50%以下」というのはかなり大雑把な言い方で、病気によって専門医は異なるため、もう少し広い範囲を視野に入れ、それぞれの病気や事故時には専門医に30分以内でアクセスできる必要がある。そのため、新型コロナ禍でバス事業者が経営難に拍車をかけられたのであれば、小中学校を合併してスクールバスを走らせたり、診療・健診バスや送迎バスを走らせたりなど、これまでなかったバスの使い方を考えるのも一案だ。

 また、「⑥基準を満たせない市町村の割合は2015年の53%から2050年には66%まで増える」というのも、病院をネットワーク化してそれぞれに専門の重点を変え、距離が遠くなる地域は診療・健診バスを走らせてカバーするなど、サービスを向上させながら効率化する方法もある。そのため、固定観念ではなく、問題解決重視で改善を重ねることが重要だ。

 なお、「⑦2050年に銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村で0になるリスクがある」というのは、集落が消滅する前にそういうものがなくなって不便になり、集落の消滅に拍車をかけるので、集落が消滅しないよう、仕事を作り、移住者を増やす必要がある。現在は、農林業・再エネ・製造業の国産化や地方分散が進められている時期であるため、その気になれば仕事や移住者を増やせる筈である。

ロ)全体としての医療の課題
 公共経済学の専門家が、*4-1-2のように、「①新型コロナの感染拡大を巡っては、変異株の脅威のほか、五輪開催という重大なリスク要因が存在する」と記載しておられるが、ワクチンは変異株にも有効で、かつ五輪関係者はワクチンパスポートか陰性証明を持ってくる人であるため、検査もワクチン接種もしていない日本人よりよほど安全なのである。

 そして、*4-1-2は「②ワクチン接種の大幅加速という好材料も出てきた」とも書いているが、*4-3-1のように、せっかく民間企業が職場接種を始めたら「接種に使われる米モデルナ製ワクチンの供給が追いつかなくなった」として、政府が職場接種の申請受け付けを急遽停止することにした。しかし、職場接種はモデルナ製でなければならないと決まっているわけではなく、「打ち手」が足りないわけでもないため、現役世代の接種を加速させて全体を感染から守るためには、政府は必要な場所に速やかにワクチンを供給することを考えるべきだ。

 *4-1-2には、「③ポストコロナの医療供給体制にとっても重要な課題が浮き彫りになった」とも書かれているが、日本の医療供給体制の不合理は新型コロナで初めてわかったのではなく、時代の先端を行く科学の導入や地域医療計画に合わせた医療圏の設定・病院間の分業などの継続的改善を行うことが必要だったのにやっていなかったのだ。そして、厚労省・財務省の著しく単純化された合理化案で改悪されてきたというのが実情である。

 また、このほか、*4-1-2には、「④ワクチン接種が加速している欧米諸国は死者数が大幅に減少した」「⑤欧米は死者数で第3波は到来していないが、日本には過去のピークを上回る第4波が到来している」「⑥欧米は景気もV字型の回復軌道に乗ったが、日本は経済効果があり景気回復のチャンスでもある五輪さえ無観客にして逃している」「⑦本格的な市中感染の到来を予期せず、全国レベルのワクチン接種に大きく出遅れたのが、その違いを生んだ主因である」等も書かれており、これは事実だ。

 ただ、日本の場合は、地方自治体や国民にある程度の衛生意識があるため、政府による全国一律の強制的ロックダウン等は不要だったのだが、おかしな論調のメディアに引きずられた政府のコロナ対策や医療政策が悪すぎたのである。

 また、「⑧急性期医療へのシフトなど構造改革急げ」「⑨利用者の受診抑制の要因や影響探る必要」とも書かれているが、日本の人口当たりベッド数は世界トップクラス、コロナ感染の規模は諸外国より限定的だったにもかかわらず、「医療現場が逼迫する」と言われ続けてまともな医療も受けられない人が続出した。何故か? その原因を一つ一つ解決し、患者のQOL(Quality of Life)を高めながら医療システムを良い意味で合理化することが、医療制度の改善に繋がるし、それはできるのである。

2)教育について
イ)教員の質と教員免許更新制
 *4-2-1は、「①文科省が、2009年度に導入された教員免許更新制廃止の方向で検討しているが、遅きに失した」「②免許期限を10年とし、30時間以上の講習を自費で受けると更新が認められる」「③数万円の講習費用と交通費を負担して夏休み等に講習に通うことに、教員の大多数が負担感を示し、役に立っていると答えたのは1/3だった」「④更新制は教員不足の一因にもなった」「⑤文科省は、教員の資質確保が目的で、不適格教員を排除する趣旨ではないとする」「⑥教員の多忙さが増し、学校現場の疲弊が深いのに、なぜ免許更新が必要か」「⑦いじめはじめ、子どもたちが抱える問題への対応が追いついていない」「⑧教員が子どもとじっくり向き合って力量を高め、それぞれが直面する課題を持ち寄って自主的に学び合う時間と余裕を生むことが肝心だ」と記載している。

 このうち②③については、資格を維持して業務を続けるには、公認会計士(年間40単位)・税理士(年間36単位)も、毎年度に一定以上の研修を受けることが必要で、長い夏休みなどない勤務体系でも時間を作って研修を受けている。その効果は、i)刻々と更新される実務の標準をキャッチアップし ii)知識を深く整理し iii)自分が担当していない業務にも視野を広げる などであり、大学教授の講義の中に実務から離れた役立たないものもあるが、全体としては役立つものが多い。費用は、有料・無料の両方があり、昨年からはリモートでの無料の講義が増えている。

 つまり、研修を受けることを負担に感じる人は、もともと勉強好きでないのだと思うが、勉強嫌いな教員に習った子どもが勉強の面白さを教えてもらって勉強好きになるわけがない上、⑥⑦⑧のように、何十年も「忙しさ」を勉強しない口実にして根本的な問題解決をしない人たちに習った子どもに問題解決能力が身につくわけもなく、お粗末な教育の結果は既に出ている。そのため、そういう人が教員を続けていること自体が子どもや国家にとってマイナスであるため、⑤も必要であり、研修内容は毎年改善してよいが、①の教員免許更新制は残した方がよいと思う。

 なお、④の免許更新制が教員不足の一因になったという点は、これからの日本を背負う子どもを教育する教員の給料を銀行員・会社員よりも高くし、博士など専門性があり優秀な人が教員になりやすい環境を整えるべきである。

ロ)「才能を持つ子ども」の定義と誤った評価
 *4-2-2は、「①芸術・数学などで抜きんでているが、学年毎のカリキュラムや周囲にうまく適合できず、不登校になるケースもある」「②文科省によると、米国では同年齢より特に高い知能や創造性・芸術的才能などを発揮する子どもを「ギフテッド」と呼び、早期入学や飛び級といった特別な教育プログラムが用意されている」「③中にはこだわりが強すぎたり、集団行動が苦手だったりする子もいるとされ、どう支援するかも課題」「④日本では、単純な課題は苦手だが複雑で高度な活動は得意など多様な児童生徒が一定割合存在する」「⑤同質性の高い学校文化そのものを見直すべきとの意見」「⑥松村教授は「『トップ人材を輩出する目標でなく、困っている才能児のニーズに対応する視点で議論すべき』と指摘」「⑦発達障害を抱える子もいるとして特別支援教育や生徒指導との連携も必要とした」などと記載している。

 日本では、①の文脈で語られる時、「抜きんでている」という言葉の意味が低いレベルであることが多い。②の米国における「ギフテッド(神から才能を与えられた者という意味)」呼ばれる子どもは、音楽ならモーツァルト、体操ならコマネチ、男子100mならカール・ルイス、科学ならアインシュタインのような本物の「ギフテッド」であり、そういう人やその卵を探して特別な教育プログラムで育てているのである。従って、本人の自然な欲求としてこだわりが強く、努力もしており、だからこそ他人ができない何かを成し遂げることができるのだ。

 そのため、③のように、こだわりが強いことを悪いことであるかのように言ったり、集団行動をしないから性格がおかしいかのように言ったりするのは、凡人の歪んだ劣等感の裏返しにすぎない。もし、⑥⑦のように、才能児が困っている点があるとすれば、凡人の誤った評価で発達障害扱いされたり、成長を妨げられたりすることだろう。つまり、⑤のように、いつも集団行動や同質性を強制し、それを疑問にすら思わない大人の方が問題なのである。

 なお、④のように、「複雑で高度な活動が得意など多様な児童生徒が一定割合存在する」というのは、よいことでこそあれ悪いことではない。そして、通常は、複雑で高度な活動ができる人は単純な課題はすぐできるが、単純なことを繰り返すのが嫌いなだけである。いずれにしても、これからは、単純作業や体力勝負の仕事はコンピューターやロボットにとられ、人間は複雑で高度な作業で出番が多くなるため、教員の考え方も変える必要がある。

3)間違いだらけの新型コロナ対策
イ)新型コロナと五輪
 新型コロナが拡大している中、「五輪を開催しても国民は安全なのか」という論は、*4-3-5をはじめ多い。しかし、「菅首相が何より優先しなくてはならないのは、五輪を予定通り終わらせることではなく、国民の命を守るためコロナ感染を一日も早く収束に向かわせることだ」とし、五輪を開催すると国民の命が守れないかのように記載しているのは変だ。

 これは、「子どもの安全のため、放課後は子どもを学校に残さない」と言いつつ、かぎっ子を街に放り出してきたのと同様、安全を建前として使ったより悪い選択への強制である。さらに、五輪の開催を政争の具に使うのは、今後の日本外交に悪影響を及ぼすため許すべきではない。

 具体的には、*4-3-5は「①五輪開催都市である東京で新型コロナ感染者が急増している」「②1,000人/日超の新規感染者数の報告が続き、5月の第4波ピーク時を上回っている」「③専門家は現在の増加ペースで推移すれば五輪閉会後には2,400人程度に上るとの試算を公表した」としているが、私も英国と同様、今後は新型コロナによる死者数だけを開示すればよいと考える。理由は、ワクチン接種が進むにつれて重症化する人が減るからで、治療薬やワクチンの準備もできずに天気予報のようなことしか言わない日本の“専門家”会議は既に失格なのである。

 また、「④東京など首都圏の感染者数は全国のおよそ2/3を占めている」「⑤感染力の強いデルタ株への置き換わりが進み、感染再拡大が首都圏から全国に波及する可能性もある」のであれば、ワクチンはデルタ株にも有効であるため、感染者数の多い首都圏にワクチンを先に配布すれば、感染者数が減って他地域への波及も減る。ここで、誤った「公平」を持ち出すのは科学的ではなく、おかしな平等教育の結果である。

 さらに、「⑥選手約1万人、大会関係者約4万1千人の来日が見込まれる」「⑦五輪は選手らと外部の接触を遮断する“バブル方式”で運営される」「⑧種目の大半は無観客で行われる」「⑨選手らの多くがワクチン接種を済ませ、厳格な検査と行動制限でウイルスの国内流入を防ぐとする」「⑩事前合宿先で感染が判明した例もあり、水際対策は万全ではあるまい」「⑪管理の緩さが露呈した関係者の行動も問題視されている」「⑫『バブル方式により、日本国民がコロナ感染を恐れる必要はない』『感染状況が改善した場合、有観客を検討してほしい』としたバッハ会長の現状認識にも疑問が湧く」とも書かれている。

 しかし、⑨のようなワクチン接種済の人が、⑥のように4万1千人来ても伝染するリスクは低いため、⑦⑧⑪は、外国人に対するヒステリックな対応で差別的でもある。また、⑩については、PCR検査のカットオフの問題で、日本のPCR検査は長時間増幅させているという報告もあり、水際対策はビジネス目的で入国している内外の人に対する方が甘いため、私は、⑫のバッハ会長の見解に賛成だ。

 なお、「⑬選手村には、2回目の接種を終えていない日本人スタッフらが出入りする」というのは、出入りする関係者は五輪関連者として早くワクチンを接種すればよい。そのため、「⑭五輪を発生源としたクラスターを認知した場合、大会を続行するかどうかを検討しておく必要がある」のように、ワクチン接種済の軽症者ばかりのクラスターが発生したからといって大会を中止するようなことがあれば、五輪は世界中で報道されるため、世界の笑い者になるだろう。

 「⑮生活や事業がコロナ前に戻るのはいつかを国民は一番知りたい」については、*4-3-3のように、東京五輪の原則無観客開催で多くの企業が肩すかしを食らい、スポンサー企業も製品や技術を売り込む好機の筈が人々の目に触れる機会が大幅に減っている状況なので、必要な場所に早期にワクチン接種を済ませ、この1年間で経営状況が悪くなった日本企業に五輪でさらに追い打ちをかけるのをやめた時、生活や事業は少しずつコロナ前に戻ると言える。

ロ)誤った新型コロナ対策とそれによる破綻
 政府は、*4-3-4のように、7月12日、東京都に4度目の新型コロナ緊急事態宣言を出し、蔓延防止重点措置を含む6都府県の住民に県境をまたぐ不要不急の外出自粛を要請した。そして、「接種の有無による不当な差別は適切でない」として、ワクチン接種証明書は海外渡航用に限り、ワクチン接種済者も同じく移動を止めて経済を停滞させている。しかし、感染リスクが低くなり、移動を止める理由のなくなった特定地域のワクチン接種済者の移動の自由を侵害するのは憲法違反であると同時に、それこそ差別である。

 国内の観光地も政府から僅かな補助金をもらうより、感染リスクの低いワクチン接種済者からでも営業を始めた方が助かり、納税者も同じだ。また、「都道府県間の移動は控えよ」というのは理由不明で、知事の権限範囲が異なることくらいしか理由を思いつかない。そのため、私は経団連の「接種証明書を早く活用し、国内旅行などの要件を緩和すべき」という提言に賛成だ。

 さらに、「学校は、新型コロナで運動会も中止になった」と聞くが、延期すればよく、中止にまでする必要はない。そのため、「何故、ここまで融通が効かないのか」と不思議に思う。

 なお、*4-3-2のように、東京商工リサーチによると、負債1,000万円未満を含めた新型コロナ関連破綻が累計で1,661件になったそうだ。ここでおかしいのは、夜に飲食店を利用することや酒を飲むこと自体が悪いかのように、飲食店の酒類提供や営業時間制限を設備の状況に関わらず一律に行っていることである。破綻すれば、事業主は負債を負って失業し、従業員も失業するが、これを助けるのに、生活保護や「Go To Eat」による血税のバラマキばかりしている体質なら、日本も破綻寸前でお先真っ暗なのだ。

4)難民と留学生
 サッカー・ワールドカップ予選のため来日していたミャンマー代表選手のピエ・リヤン・アウンさんが、*4-4-1のように、クーデターを起こした国軍に抗議の意志を示して帰国を拒否し、日本に難民認定を申請されたそうだ。

 日本政府は、日本への在留継続を望むミャンマー人に対し、緊急避難措置として在留延長や就労を認める方針を示したそうだが、ピエ・リヤン・アウンさんが母国の家族やチームメートの身を案じながら下した苦渋の決断にも応える必要がある。

 難民条約は、人種・宗教・政治的意見などを理由に母国で迫害される恐れがある人を難民と定義して各国に保護するよう求めているが、日本は他の先進国と比較して難民認定数が極端に少ない。そのため、本来、保護されるべき人が保護されずに送還されている可能性が高く、外国人の人権保護という視点から、難民認定制度については見直すべきである。

 また、*4-4-2のように、合宿期間中に世界ランキングが下がって五輪に出場できなくなり、コーチとともに近く成田空港から帰国する予定だったウガンダの重量挙げ男子選手が、「日本で仕事がしたい。生活が厳しい国には戻らない」という趣旨の書き置きを残して名古屋行き新幹線の切符を購入したそうだ。こういう人は、希望があればスポンサー企業がついて中京大学に留学させ、次のオリンピックを目指せるようにするか、何かいい方法がありそうだ。

 なお、ウガンダは、英語が通じ、キリスト教が6割を占める国で、現在の主要産業は農林水産業・製造・建設業・サービス業で、自動車・医療機器・医薬品などは輸入しており、日本企業のアフリカ進出の拠点になれそうな国である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/uganda/data.html 参照)。

(5)先端科学で証明する日本人のルーツと古代史

  
    2010.5.7朝日新聞       2021.6.23日経新聞    2021.7.8日経新聞
                     *5-1より       *5-2より

(図の説明:左図は、ホモサピエンス《現生人類》がアフリカで発祥し、ネアンデルタール人などと交雑しながら世界に広がり、それぞれの地域に適した姿に進化してきたことを示す図だ。中央の図は、日本における都道府県毎の50人のゲノム情報をもとに違いを可視化し、縄文人由来のゲノムが多い県は青色、渡来人由来のゲノムが多い府県はオレンジ色で表示したもので、沖縄県は縄文人由来のゲノム比率が他県と比べて極めて高いが地図に含まれていない。右図は、東北大学と製薬大手5社が創薬目的で作るバイオバンク構想だ)

 東北大学と製薬大手5社が、*5-2のように、10万人分のゲノムを解析するためのコンソーシアムを設立し、本格的にゲノムデータを創薬や診断技術開発等に利用できるようにし、日本も、ようやくゲノムをもとに新薬を探す「ゲノム創薬」の基盤整備が進むのだそうだ。

 年齢・性別・生活習慣・病歴などのデータも合わせて蓄積するそうだが、正しいデータ分析のできない人はゲノム・年齢・性別などによる固定観念で人を差別するようにもなりがちであるため、注意してもらいたい。しかし、人間のDNAを短時間で読むことができ、ゲノムを解析することが可能になったのは、著しい進歩だ。

 新型コロナウイルスを通して誰もが容易に理解できるようになったことは、DNAが分裂する時にはコピーミスも発生し、これによって変異が起こり、より有利な変異をした個体が生き残って、次の進化をしていくということだ。有性生殖をする生物は、次世代を残すのに少し時間を要するが、DNAのコピーミスだけでなく、交配によって両親から両方のDNAを受け継ぐことによっても、より生き残りやすい個体がより多くの子孫を残す形で進化できる。

 人間も有性生殖をする生物の一つであるため、上の左図のように、ホモサピエンスがアフリカで発祥し、ネアンデルタール人などと交配しながら世界に広がり、それぞれの地域に適した形に進化してきたが、これは各地域に住む人のDNA分析をするという先端科学を使って証明されたことだ。診療や健診の際に、それぞれの国で人口の10%程度のDNA分析ができれば、どの地域が強い繋がりを持ち、どういう経路を辿ってホモサピエンスが現在の分布になったのかを、より正確に知ることができるだろう。

 また、上の中央の図は、*5-1のように、日本における都道府県毎の50人のゲノム情報をもとに違いを可視化し、縄文人由来のゲノムが多い県は青色、渡来人由来のゲノムが多い府県はオレンジ色で表示したもので、沖縄県は縄文人由来のゲノム比率が他県と比べて極めて高いが、地図には含まれていないそうだ。

 この研究の結果、日本人は、縄文人の子孫が大陸から来た渡来人と混血することで生まれ、47都道府県で縄文人由来と渡来人由来のゲノム比率は異なることがわかり、渡来人由来のゲノム比率が高かったのは滋賀県・近畿・北陸・四国で、沖縄県はじめ九州・東北(多分、北海道も)で縄文人由来のゲノム比率が高かったとのことである。

 この結果は、渡来人が朝鮮半島経由で九州北部に上陸したとする考え方とは一見食い違うが、私は、渡来人は環日本海を自由に航海できたため、九州北部や日本海沿岸だけでなく、海路で繋がる瀬戸内海沿岸にも上陸し、縄文人の子孫と1000年以上かけて混血したのだと思う。どのような過程で混血が進んだかについては、沖縄などのように、さほど混血しなかった地域もあり、一様ではないだろう。

 ただし、使った器で進化や文化の程度を図れるものではない。例えば、有田焼を使っている人が唐津焼を使っている人よりも進んでいるわけではなく、それぞれの場所にある材料を使い、その時代にあった技術を使って、必要なものを作ったにすぎないだろう。そのため、考古学は、生物学的・科学的知見も合わせて、首尾一貫性のある納得いく歴史を示してもらいたい。

・・参考資料・・
<中華民族と東夷・南蛮・西戎・北狄、倭国・奴国・卑弥呼>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210702&ng=DGKKZO73480930R00C21A7M11500 (日経新聞 2021.7.2) 共産党100年 習氏演説要旨、中国が大股で時代に追いついた
 中国共産党の習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)は1日、北京市の天安門広場で党創立100年記念式典の演説に臨んだ。「(中国は)後進的な状態から世界第2位の経済大国へと歴史的な躍進を達成した」と述べ、党主導で経済成長などを実現させたと強調した。演説の要旨は次の通り。
     ◇
 同志と友人のみなさん。今日は中国共産党の歴史と、中華民族の歴史において、非常に重大で荘厳な日である。私たちはここに盛大に集まり、全党、全国各民族とともに中国共産党創立100周年を祝い、中国共産党の100年にわたる奮闘の輝かしい経過を振り返り、中華民族の偉大な復興の明るい未来を展望する。まずはじめに、党中央を代表し、全ての中国共産党員に、熱烈な祝意を表す。ここで党と人民を代表し、全党と全国各民族の人民による持続的な奮闘を経て、私たちは最初の(党創立)100年で掲げた目標を実現し、この地に(大衆の生活にややゆとりのある)「小康社会」を全面的に築き上げ、絶対的な貧困問題を歴史的に解決し、社会主義現代化強国の全面的な実現という次の(中華人民共和国成立から)100年の奮闘目標に向けて意気盛んにまい進していることを厳かに宣言する。これこそが中華民族の偉大な栄光である。これこそが中国人の偉大な栄光である。これこそが中国共産党の偉大な栄光である。中国共産党は誕生当初から、中国人民に幸福をもたらし、中華民族の復興をもたらすことを初心と使命と決めている。この100年来、中国共産党が中国人民を束ね率いて行った全ての奮闘、全ての犠牲、全ての創造はひとつのテーマに帰結する。それは中華民族の偉大な復興を実現するということだ。中国共産党と中国人民の勇敢で強固な奮闘をもって中国人民は立ち上がり、中華民族が搾取され、辱めを受けていた時代は過ぎ去ったことを世界に厳かに宣言する。中華民族の偉大な復興を実現するため、中国共産党は中国人民を束ねて率い、自力更生し、発奮し、社会主義革命と(社会主義現代化)建設という偉大な成果を生んだ。私たちは社会主義革命を進め、中国で数千年にわたり続いていた封建的な搾取と圧迫の制度を消滅させ、社会主義の基本制度を確立し、社会主義の建設を推進し、帝国主義や覇権主義による転覆と破壊、武装挑発に打ち勝ち、中華民族の有史以来、最も広く深い社会変革を実現した。経済的文化的に遅れた人口の多い東方の大国(だった中国)が社会主義の社会に大きく進んだという偉大な飛躍を実現し、中華民族の偉大な復興の実現に向けた根本的な政治前提と制度の基礎を築き上げた。中国共産党と中国人民は勇敢で強固な奮闘をもって世界に厳かに宣言する。中国人民は古い世界を打ち破ることに優れているだけでなく、新しい世界を建設することにも優れている。中国を救えるのは社会主義だけであり、中国を発展させられるのは中国の特色ある社会主義だけである。揺るぎなく改革開放を推進し、各方面からのリスクや挑戦に打ち勝ち、中国の特色ある社会主義を創り、堅持し、守り、発展させ、高度に集中した計画経済体制から活力に満ちた社会主義市場経済体制への歴史的転換を実現した。閉鎖や半閉鎖から全方位開放への歴史的転換を、生産力が相対的に遅れていた状況から経済の総量で世界第2位に躍り出る歴史的突破を、人民の生活で衣食が不足していた状況から総体としてはややゆとりがある社会を、さらに全面的にややゆとりがある社会に向かう歴史的な飛躍をそれぞれ実現した。中華民族の偉大な復興の実現のため、新しい活力にあふれた体制上の保障と急速発展の物質的条件を提供した。中国共産党と中国人民は勇敢で強固な奮闘をもって世界に厳かに宣言する。改革開放こそが現代中国の前途と運命を決める鍵となる一手であり、中国が大股で時代に追いついたのだ。(2012年の)第18回党大会以降、中国の特色ある社会主義は新しい時代に入り、我々は党の全面的指導を堅持・強化し、(経済一辺倒でなく政治や文化、社会、環境保護の一体的な発展を重視する)「五位一体」の体制を全体を見据えて推進し、(小康社会の建設や厳格な党統治など4項目を推進する)「四つの全面」の戦略的体制を協調して推進し、中国の特色ある社会主義制度を堅持し改善した。国家のガバナンス体制とガバナンス能力における現代化を推進し、規範に基づいた党の運営を堅持し、比較的整った党内の法規体系を形成し、一連の重大なリスクと挑戦に打ち勝った。第1の100年における奮闘の目標を実現し、第2の100年では奮闘の目標の戦略的計画を明確に実現し、党と国家の事業は歴史的成果をあげ、歴史的変革を起こし、中華民族の偉大な復興を実現するため、より整った制度保障と、より堅実な物質的基礎と、より自発的な精神力を与えた。同志と友人のみなさん。100年前、中国共産党の先駆者たちが中国共産党をつくり、真理を堅持し、理想を守り、初心を実行し、使命を担い、犠牲を恐れず、勇敢に戦い、党に忠誠心を持ち、人民に背かない、偉大な建党精神をつくり上げた。これが中国共産党の精神の源である。同志と友人のみなさん。この100年、我々が得た全ての成果は中国共産党人、中国人民、中華民族が団結し奮闘した結果である。毛沢東同志、鄧小平同志、江沢民(ジアン・ズォーミン)同志、胡錦濤(フー・ジンタオ)同志を主要な代表とする中国共産党人は、中華民族の偉大な復興のために、歴史書を光り輝かせる偉大な功績をあげた。私たちは彼らに崇高なる敬意を表する。今このとき、私たちは中国の革命、建設、改革、中国共産党の創立と強化、発展のために大いに貢献した毛沢東、周恩来、劉少奇、朱徳、鄧小平、陳雲といった同志ら上の世代の革命家を深くしのぶ。新中国を創立し、守り、建設するにあたって勇敢に犠牲となった革命烈士を深くしのぶ。香港特別行政区の同胞、マカオ特別行政区の同胞、台湾の同胞と多くの華僑に心からあいさつする。中国人民と友好に付き合い、中国の革命と建設、改革事業に関心と支持を寄せる各国の人民と友人に心から謝意を表する。同志と友人のみなさん。初心を得るのは易しく、終始守るのは難しい。歴史を鑑(かがみ)として、盛衰を知ることができる。私たちは歴史で現実を映し、未来を長い目で見通す。中国共産党の100年の奮闘の中から過去に私たちがなぜ成功できたかをはっきりと見て、未来に私たちがどうやって成功を続けられるか明らかにし、それによって新しい道のりで揺るぎなく、自覚的に初心の使命を心に刻み、美しい未来を切り開いていかねばならない。
●党は国に不可欠
 歴史を鑑として、未来を切り開くには、中国共産党の強固な指導を堅持しなければならない。中国のことをうまくやるために、カギとなるのは党だ。中華民族の近代以来180年余りの歴史、中国共産党の成立以来100年の歴史、中華人民共和国の成立以来70年余りの歴史が、すべて十分に証明している。中国共産党がなければ、新中国はなく、中華民族の偉大な復興もない。歴史と人民は中国共産党を選んだ。中国共産党の指導は、中国の特色ある社会主義の最も本質的な特長であり、中国の特色のある社会主義制度の最大の優位性であり、党と国家の根本的な所在、命脈の所在、全国の各民族の人民の利益と運命にかかわっている。新しい道のりでは、私たちは党の全面的な指導を堅持し、党の指導を絶えず充実させ、「四つの意識」を強め、「四つの自信」を固め、「二つの擁護」を徹底し、「国の大者」を銘記し、党の科学的な執政、民主的な執政、法に基づく執政の水準を絶えず向上させ、大局をまとめ、各方面を調整する核心となる党の役割を十分に発揮しなければならない。中国共産党は常に最も広範な人民の根本的な利益を代表し、人民と苦楽をともにして一致団結し、生死を共にし、自らのいかなる特殊な利益もなく、いかなる利害集団、いかなる利権団体、いかなる特権階級の利益も代表しない。中国共産党と国民を分割して対立させようとするいかなる企ても、絶対に思いのままにならない。9500万人以上の中国共産党員も、14億人余りの中国人民も許さない。歴史を鑑として、未来を切り開くには、マルクス主義の中国化を引き続き推進しなければならない。マルクス主義は私たちの立党と立国の根本的な指導思想であり、私たちの党の魂と旗印である。中国共産党はマルクス主義の基本原理を堅持し、事実に基づいて真実を求めることを堅持し、中国の実際から出発し、時代の大勢を洞察し、歴史の主導権を握り、苦難の探究を行う。絶えずマルクス主義の中国化と時代化を推し進め、中国人民が絶えず偉大な社会革命を推し進めるよう指導する。中国共産党はなぜできるのか、中国の特色のある社会主義はなぜ良いのか、それはマルクス主義によるものだ。新たな道のりでは、私たちはマルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、(2代前の総書記である江沢民氏の)「『3つの代表』の重要思想」、(前総書記である胡錦濤氏の)「科学的発展観」を堅持する。新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に支持し、マルクス主義の基本原理と実際の中国の現状、中国の優れた伝統文化を組み合わせ、マルクス主義を用いて時代を見つめ、把握し、先導し、現代中国のマルクス主義と、21世紀のマルクス主義の発展を継続していく。歴史を教訓とし、未来を切り開くには中国の特色ある社会主義を堅持し、発展させる必要がある。独自の道を歩むのは、党の全ての理論と実践の足がかりであり、さらにこれは党の100年の闘争により得た歴史的結論だ。中国の特色ある社会主義は、党と人民が多大な苦しみと大きな代償を払ったことによる成果であり、これは中華民族が偉大な復興を実現する正しい道のりである。私たちは中国の特色ある社会主義を堅持し、発展させ、物質文明、政治文明、精神文明、社会文明、生態文明を一体的に発展し、促進する。中国式の近代化への新たな道を創造し、人類文明の新たな形態を作り出した。新たな道のりでは、党の基本理論、基本路線、基本戦略を堅持し、「五位一体」と「四つの全面」を一体的に推進する。改革開放を全面的に深化させる。新たな発展段階を足がかりとし、新しい発展理念を完全で正確かつ包括的に実行する。新しい発展パターンを構築し、高品質な発展を促進し、科学技術の自立を進める。人民自らが主であることを保障し、法の支配に従って国を統治し、社会主義の核心的価値体系を堅持する。発展中の人々の生活を保障し改善し、人と自然の調和と共生を堅持し、人民の繁栄、国家の強盛、美しい中国を共に推し進めていく。中華民族は、5000年以上の歴史の中で形成された輝かしい文明を持ち、中国共産党は100年の闘争と70年以上の統治経験があり、我々は積極的に人類文明の全ての有益な成果から学び、すべての有益な提案と善意の批判を歓迎する。ただ、私たちは決して「教師」のような偉そうな説教を受け入れることはできない。中国共産党と中国人民は、中国の発展していく運命を自らの手中に収め、自らの選択した道を歩む。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、国防と軍隊の近代化を加速しなければならない。強国には強軍が必要で、軍は国を安定させなければならない。党が銃(軍)を指揮し、自ら人民の軍隊を建設することは血と火の闘争のなかで党が作り出し、破られない真理だ。人民解放軍は、党と人民のために不滅の功績を築き、(共産党によって守られた世の中である)「紅色江山」を守り、民族の尊厳を守る強力な柱であり、地域と世界平和を守る強力な力である。新しい道のりでは、新時代の党の強大な軍隊の思想を全面的に貫く。新時代の軍事戦略の指針を堅持し、人民解放軍に対する党の絶対的な指導力を維持し、中国の特色ある強大な軍隊の道を歩み続ける。政治建軍、改革強軍、科技(科学技術)強軍、人材強軍、法に基づき統治された軍隊を全面的に推進、人民解放軍を世界一流の軍隊へと建設する。より強力な能力と防御するための信頼性の高い手段で人民解放軍を建設すれば、国家主権、安全、発展の利益を守ることができる。
●「一帯一路」発展促す
 歴史を教訓とし、未来を切り開くには、人類運命共同体の構築を絶えず推進しなければならない。中華民族は平和、和睦、調和を5000年以上にわたって追求し、継承してきた。中華民族の血には、他人を侵略し、覇権を追求する遺伝子はない。中国共産党は人類の将来の運命に心を配り、世界のすべての先進的な力と協力して前進する。中国は常に世界平和の建設者であり、世界の発展の貢献者であり、国際秩序の擁護者である。新たな道のりでは、平和、開発、協力、互恵の旗印を高く掲げ、独立した外交政策を追求し、平和的発展の道を守り、新しい形の国際関係の構築を促進しなければならない。人類の運命共同体の道を守り、(中国の広域経済圏構想)「一帯一路」の質の高い発展を促し、世界に新たな機会を提供しなければならない。中国共産党は平和、開発、公正、正義、民主、自由という全人類共通の価値観を守る。協力を堅持し、対立をやめ、開放を守る。封鎖をやめ、互恵を守り、ゼロサムゲームをやめ、覇権主義と強権政治に反対する。歴史の車輪を明るい目標に向かって前進させる。中国人民は正義を重んじ、暴力を恐れない人々である。中華民族は強く、誇りと自信を持つ民族である。中国人民はこれまで他国の人民をいじめ、抑圧し、奴隷のようにしたことはない。過去にも現在にも、将来においてもありえない。同時に、中国の人民は、いかなる外部勢力が私たちをいじめ、抑圧し、奴隷のようにすることも決して許さない。故意に(圧力を)かけようとすれば、14億人を超える中国人民の血肉で築かれた「鋼鉄の長城」の前に打ちのめされることになるだろう。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、多くの新しい歴史的特徴を持つ偉大な闘争が必要となる。戦い、勝利することは、中国共産党の無敵で強力な精神力である。偉大な夢を実現するには、粘り強く、たえまない戦闘が必要だ。今日、私たちは、歴史上のどの時代よりも中華民族の偉大な復興という目標に近づいている。これを実現するための自信と能力があり、同時にさらに大変な努力をする必要がある。新しい道のりでは、私たちは、危機意識を高め、常に安全な時も危険な状況を考え、総体国家安全観を貫き、開発と安全を統一的に計画する。中華民族の偉大な復興戦略と世界でこの100年なかった大変革の両方を統一的に計画する。我が国の社会の主要な矛盾の変化によってもたらされた新しい特徴と新しい要求を深く理解する。複雑な国際情勢がもたらす新たな矛盾と新たな課題を深く理解し、あえて戦い、闘争を得意とし、山があれば切り開き、水があれば橋をかけ、あらゆるリスクと挑戦を克服する。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、中国人民がより大きな団結を強化しなければならない。100年の闘争の道のりで、中国共産党は統一戦線を重要な位置づけとし、常に最も広範な統一戦線を統合し発展させ、団結できるすべての力を結集し、動員できるすべての肯定的な要因を動員し、闘争の力を最大化する。愛国統一戦線は、中国共産党が中華民族の偉大な復興を達成するために、国内外のすべての中国人民を結集するための重要な武器である。新しい道のりでは、私たちは政治思想の誘導を強化し、共通認識を広く結集し、世界の英雄と人材を結集し、最大の公約数を探し続け、最大同心円を描き、国内外のすべての中国人民の力と心を一つの場所に集約する。民族の復興を達成するために力を結集しなければならない。歴史を教訓とし、未来を切り開くには、党が建設する新たな偉大な工程を継続的に推進しなければならない。自己革命への勇気は、中国共産党が他の政党と区別する顕著な兆候である。私たちの党は試練と苦難があったが、今も活発だ。その一つの重要な理由は、私たちは常に党が党を管理し、厳重に統治し、あらゆる歴史のなかで自らのリスクに絶えず対処し、世界情勢の深い変化の歴史的過程において、私たちの党が時代の先頭を走ってきた。歴史的過程において、国内外の様々なリスクと課題に直面するとき、常に国民のよりどころとなることを保証する。クリーンな政府を構築し腐敗との戦いを揺るぎなく促進し、党の高度な性質と純粋さを損なう全ての要因を断固排除する。健全な党を侵食するすべての病毒を除去し、党の質、色、味が変わることを防ぐ。新しい時代の中国の特色ある社会主義の歴史的過程において、党が常に強い指導的核心となるよう努力する。同志と友人のみなさん。私たちは「一国二制度」「香港人による香港の統治」「マカオ人によるマカオの統治」、高度な自治の方針を全面的かつ正確に徹底し、香港、マカオ特別行政区に対する中央の全面的な管轄権を実行する。特別行政区が国家の安全を守る法律制度と執行体制を実施し、国家主権と安全、発展の利益を守り、特別行政区の社会の大局的な安定を維持し、香港とマカオの長期的な繁栄と安定を保たねばならない。台湾問題を解決し、祖国の完全な統一を実現することは、中国共産党の変わらぬ歴史的任務であり、中華の人々全体の共通の願いだ。「一つの中国」の原則と(それを認め合ったとする)「92年コンセンサス」を堅持し、祖国の平和統一プロセスを推進する。両岸の同胞を含むすべての中華の人々は、心と心を一つにし、団結して前進し、いかなる「台湾独立」のたくらみも断固として粉砕し、民族復興の美しい未来を創造しなければならない。いかなる人も中国人民が国家主権と領土を完全に守るという強い決心、意志、強大な能力を見くびってはならない。同志と友人のみなさん。100年前、中国共産党が成立した時は50人強の党員しかいなかったが、今では9500万人以上の党員を擁し、14億人余りの人口大国を指導し、世界的で重大な影響力を持つ世界最大の政権政党になった。100年前、中華民族が世界の前に示したのは一種の落ちぶれた姿だった。今日、中華民族は世界に向けて活気に満ちた姿を見せ、偉大な復興に向けて阻むことのできない歩みを進めている。同志と友人のみなさん。中国共産党は中華民族の不滅の偉業を志し、100年はまさに風采も文才も盛りだ。過去を振り返り、未来を展望し、中国共産党の強い指導があり、全国の各民族の人民の緊密な団結があれば、社会主義現代化強国を全面的に建設する目標は必ず実現でき、中華民族の偉大な復興という中国の夢は必ず実現できる。偉大で、光栄で、正しい中国共産党万歳!偉大で、光栄で、英雄である中国人民万歳!

*1-2:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=770962&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2021/7/8) 骨太の方針 財政の裏付け見通せず
 菅義偉政権初となる「骨太の方針」が決まった。政府の経済財政運営の基本的な方向性を示す指針で、新型コロナウイルス対策の強化に加え、デジタル化、脱炭素化、地方創生、少子化対策の4分野をコロナ後の成長の原動力と位置づけた。いずれも日本が以前から直面している課題であるが、政権が当然取り組むべき政策を寄せ集めたように映る。総花的で新鮮味に欠ける。テーマや目標を並べても、確実に実行できなければ意味がない。にもかかわらず、どの政策を優先し、財源を含めてどうやって実現していくのかも判然としない。踏み込み不足と言わざるを得ない。コロナ対策では、ワクチン接種の見通しを「10月から11月にかけて終える」と明記した。ワクチン接種の加速で、感染収束の機運を高め、支持率回復につなげたい狙いがあるのだろう。さらに、首相が肩入れする「こども庁」の創設検討や最低賃金の引き上げなども盛り込んでいる。秋までに行われる衆院選に向けて、国民の関心を引きたい思惑も透ける。骨太の方針が政権・与党のアピールの場になりつつあるのではないか。存在感を失い、今のような形骸化が進めば、もはや役割を終えたと言われても仕方あるまい。とりわけ看過できないのは、一連の政策を裏付ける持続可能な財政の姿が見えてこない点である。国と地方の政策経費を税収などで賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)について、政府は2025年度に黒字化する財政健全化の目標を掲げている。コロナ禍を受けて昨年は明記しなかったが、今回は黒字化目標を「堅持する」との言葉が復活した。同時に新型コロナが経済と財政に及ぼす影響などを21年度中に検証し、「目標年度を再確認する」とした。目標の見直しや先延ばしに含みを持たせた形だ。財政健全化への道筋を曖昧にしては、骨太の方針の意義自体が問われる。コロナ禍に伴う経済対策で、国の20年度の一般会計の歳出総額は175兆円を超え、借金に当たる国債は112兆円を新規に発行した。21年度予算もコロナ対策の予備費に5兆円を積むなど、過去最大規模の106兆円に膨らんだ。感染の収束はまだ見通せず、追加の支出が必要になる恐れもある。内閣府が今年1月にまとめた中長期の経済財政の試算では、日本経済がたとえ高成長を果たしたとしても、PBは25年度には7兆3千億円程度の赤字となる見通しだ。目標達成は絶望的なことは明らかである。それでも目標の「堅持」を修正しなかったのは、こちらも衆院選を意識し、財政健全化の議論を先送りにしたのではないか。欧米の政府は、財政出動とともに財源確保策も打ち出している。米国は経済対策の財源を企業や富裕者層の増税などで調達する方針で、欧州連合(EU)も復興基金の財源として国境炭素税などを検討している。年度内に行われる検証作業では、安易な目標の先送りに終わらせず、歳出・歳入両面で具体的な財政健全化策の検討を急ぐ必要がある。 

*1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA11A0I011062021000000/ (日経新聞 2021年6月24日) コロナ予算、30兆円使い残し 消化はGDP比7%、米13%に見劣り 成長へ財政回らず
 新型コロナウイルス禍を受けて2020年春から積み増してきた国の予算73兆円のうち、約30兆円を使い残していることが判明した。家計や企業への支払いを確認できたのは約35兆円と名目国内総生産(GDP)の7%程度にとどまった。GDPの13%を支出した米国と比べ財政出動の効果が限られる展開となっている。危機脱却へ財政ニーズが強い時にもかかわらず予算枠の4割を使い残す異例の事態は、日本のコロナ対応の機能不全ぶりを映し出している。脱炭素関連の投資やデジタル化の推進、人材教育など戦略分野のコロナ禍後の成長を押し上げる財政資金ニーズは大きい。にもかかわらず予算の規模を大きくみせるために枠の確保ありきで政策の中身が置き去りになっており、成長分野へ予算が行き届いていない。脱炭素へ2兆円を投じた基金は、支援の中身が詰まっていないなかで枠の大きさの議論が先行して3次補正に盛り込まれた。経済産業省が基金の支援対象となる分野を公表したのは4月に入ってからで、ようやく企業の公募が始まった段階だ。使い残しが多いのは約21兆円の追加歳出を盛り込んだ20年度3次補正が21年1月に成立したことに加え、コロナ禍の長期化が原因だ。翌年度への予算の繰り越しが「30兆円程度」(菅義偉首相)出る20年度は極めて異例だ。東日本大震災後に多額の予算を積んだ11~12年度でも繰越額と不用額を合わせても年10兆円を超えた程度だった。コロナ対策では20年6月に当時の安倍晋三首相が記者会見で「GDPの4割に上る世界最大」規模の「230兆円」の経済対策で「日本経済を守り抜く」と打ち出した。約1年を経て実際に家計や企業に出回った国費は資金繰り支援策を除くベースでGDP比7%程度。4月末までに同13%の2.8兆ドル(約307兆円)を消化した米国と比べて遅れが目立つ。4割と安倍前首相が打ち出したのは財政支出に民間資金も加えた事業規模ベースの経済対策の金額だった。財政投融資を活用した100兆円規模の資金繰り支援策が大きい。資金繰り支援の比率がコロナ対策の9%にとどまる米国と対照的だ。予算の執行状況は20年4月以降に打ち出した経済対策などについて、内閣府が21年5月にまとめた調査を基に日本経済新聞が資金繰り支援策を除いて集計。100億円以上の事業が対象で、国費ベースで9割以上をカバーしている。1人10万円の給付金など緊急を要した家計支援策は予算の9割強がすでに支払われるなど執行が進む。一方、GoToトラベルなど消費活性化の予算は進捗率が35%にとどまった。ワクチン接種の遅れが消費や投資を制約させた影響が大きい。米欧や中国はコロナ後の成長基盤づくりをにらんでグリーン関連政策やデジタル化などの戦略分野へ中長期的な財政出動を競う。日本では政府・与党内で21年度補正予算を求める声が強まりつつあるが、規模を大きくみせる枠の確保競争に終始せずに、成長につなげる政策の中身を詰める作業が欠かせない。

*1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0794K0X00C21A7000000/ (日経新聞社説 2021年7月7日) 成長促進と財政規律を両立できる予算に
 政府は7日の閣議で、2022年度予算の概算要求基準を了解した。これに沿った各省庁の概算要求を8月末に締め切り、年末に予算案を編成する運びだ。財政の規律を保ちつつ、新型コロナウイルス対策や成長基盤の強化に国費を重点配分する必要がある。不要不急の支出で予算をいたずらに膨らませてはならない。21年度予算の編成は、コロナ禍で異例の対応を迫られた。感染症の収束を予見できないという理由で明確な概算要求基準の設定を見送り、各省庁の概算要求の締め切りも1カ月延ばした。コロナ対策については、金額を明記しない「事項要求」を今回も認める。ただ成長戦略を推進するための「特別枠」を設け、高齢化の進展に伴う社会保障費の「自然増」を抑える目安を示すなど、例年の手法に近い形に戻した。コロナ禍の克服はいまも最優先の課題だ。とはいえワクチンの接種率が上がり、経済社会活動の正常化が進むにつれて、この先の成長基盤の強化や財政の健全化をより強く意識せざるを得ない。緊急時でも投入できる国費には限りがある。政府が「青天井」の概算要求を見直し、一定の基準を復活させたのは妥当だろう。重要なのは無駄やばらまきを排し「賢い支出」に徹する姿勢だ。20~21年度の国の一般会計総額は当初予算と補正予算の合計で280兆円を超えたが、使い残しや繰り越しも目立つという。その検証を怠ったまま、むやみに予算を積み上げていいはずがない。コロナ対応の名目で経済対策を繰り返しても、困窮者の救済や病床の確保といった問題はなかなか解消しない。背景には様々な要因があろうが、予算配分の優先順位も正しいとは言い難い。成長戦略にも同じことが言える。デジタル化やグリーン化などの推進に予算を重点配分するのは当然だが、緊急性や必要性の高い事業を選別しなければ、絵に描いた餅になりかねない。各省庁は節度とメリハリのある概算要求を心がけるべきだ。景気の回復で税収が堅調なのを幸いに、コロナ対策の不透明な事項要求を連発したり、成長戦略の名目で不要な公共事業や施設整備を強要したりするのは許されない。コロナ対策はもちろん、成長の促進や財源の確保に心を砕くのは米欧も同じだ。日本も責任ある予算編成を心がけたい。

*1-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA24DN70U1A620C2000000/ (日経新聞 2021年6月25日) 渡辺努・東大教授「賃金上がらぬ問題、まず認識を」、安いニッポン・ガラパゴスの転機 経営者・識者に聞く
国内では安定した生活を送っているのに、海外から見れば安く、貧しくなる日本。気づかないうちに深刻度を増すこの病理から、どうしたら抜け出せるのか。渡辺努・東大教授に聞いた。
――なぜ日本は安い国になったのでしょうか。
 「2012年末からの安倍晋三政権下では黒田東彦総裁が就任した日銀の異次元緩和もあって円安が進んだ。政策の目的は円安だけでなく物価も賃金も上げることだったが、読みが違った。円安なのに物価も賃金も上がらなかった。海外からみれば日本のサービスは安くなる」
――日本人からみると海外では高くて買えないものが増えます。日本のモノやサービスの質は国際的に見て相対的に低下していくのでしょうか。
 「たとえばパスタやラーメンをつくるときに材料になる小麦は輸入価格が高くなる。企業は最終製品を値上げできていないので、消費者は痛くもかゆくもない。企業はどうしているか。コスト削減をして、値段を据え置いて頑張る。あるいは商品のサイズが小さくなる。この場合は質が落ちている。消費者の満足度が落ちている。そして賃金は上がらない」
――訪日外国人(インバウンド)向けのホテルでは外国人用の高級価格が設定されています。こうした価格の二極化は広がっていくのでしょうか。
 「不動産ではそういうことが起きている。ある規格のマンションが、シドニーと日本で比較され、まるで貿易ができるかのように裁定が働いている。海外の人が投機的に家を持つと、日本人の給料では買えなくなってくる」。「同じ商品やサービスなのに2つの価格があるという意味での二重価格は国内では発生しにくいと思う。だが日本企業の製品価格は国内向けと海外向けで違ってくる。海外で物価上昇が進めば、現地の競合製品が値上がりするので日本企業も値上げできる。だが日本ではできない。こうした二極化は既に起きている」
――この状況を打開する政策はあるのでしょうか。
 「もともとは企業が賃金や価格を上げられないことに原因がある。これは企業行動にインプットされてしまっている。これまでも製品やサービスの値段を上げようとした企業はあるが、値上げすると客が逃げていく。そういうことから企業は学習していく。悪循環だ。日本の消費者が特別だということだ。海外の消費者は理由のある値上げについては仕方ないと受け入れる。日本人は一円たりとも値上げはだめだと反応する。アベノミクスが本格化した13年は一部の企業が値上げしたが、結局売り上げが落ちてしまった」。「この問題が解決していない理由は、みんな気がついていないからだ。値段が上がらないのはいいことだとポジティブに考える人がいる。賃金は上がらないので、値段は低い方が良いという。まず賃金が上がっていない問題を認識することが大事だ」

*1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210702&ng=DGKKZO73481460R00C21A7TB2000 (日経新聞 2021.7.2) 医薬原料調達で「脱中国」 塩野義など生産国内回帰へ、依存度下げ安定確保、コスト5倍の試算も
 医薬品原材料の生産を巡り、国内製薬業界で海外依存を見直す動きが出てきた。抗菌剤など欠品すると医療に大きな支障が出る品目で、各社が国内回帰に乗り出す。塩野義製薬は2022年にも手術用抗菌剤の原料の生産を岩手県で始める。医薬品原料は中国の生産シェアが高く供給リスクが指摘されてきた。安定調達へ「脱中国」が進むが、国内回帰にはコスト面で課題が残る。医薬品原材料とは医薬品の有効成分が含まれる原薬やそのもとになる化学物質。国内回帰の動きがあるのは主に後発薬の原材料だ。後発薬は公定価格が安く抑えられており、製造原価を下げる目的で原材料生産の海外移転が進んできた。塩野義は医薬品製造子会社のシオノギファーマ(大阪府摂津市)を通じ、「セファゾリン」など「セフェム系」と呼ぶ抗菌剤の原料を生産する設備を21年末までに金ケ崎工場(岩手県金ケ崎町)に設ける。年産能力37トンで稼働し、5年後に50トンに引き上げる。生産した原料は抗菌剤を手がける国内後発薬メーカーに売る見込み。塩野義は初期投資としてまず20億円強を投じる。後発薬メーカーは従来、セフェム系原料のほぼ全てを輸入に頼ってきた。特に中国依存度が約3割と高い。抗菌剤は手術後の感染症などを防ぐために投与する。欠品すると手術が難しくなり医療体制の維持に影響が出かねない、重要な薬だ。厚生労働省は医療現場に重要な医薬品として抗菌剤や血栓予防剤など約500品目を定め、安定確保を製薬会社に呼びかけている。最重要と指定するセフェム系原料は19年に国内で50トン使われ、塩野義の拠点がフル稼働すれば全量をまかなえる計算だ。抗菌剤市場全体でみても約1割をカバーできる見通しだ。抗菌剤では19年、中国当局が環境規制を理由に現地メーカーにセファゾリン原料の生産を停止するよう命令。調達難によってセファゾリンで国内シェア6割の日医工が供給停止に追い込まれ、医療現場に影響が出た。国内調達できればこうしたリスクを低減できる。明治ホールディングス傘下のMeiji Seikaファルマも22年3月期中に岐阜工場(岐阜県北方町)で「ペニシリン系」と呼ぶ抗菌剤の原料の試験生産を始める。現在は海外調達しており中国などへの依存度が高い。同社は「試験生産を経て、生産ノウハウを再度蓄積する」とする。ニプロも滋賀県内にペニシリン系の原材料の生産施設を設ける予定。投資額は数十億円になるとみられる。厚労省によると後発薬原材料を調達する製造所の6割が海外で、中国が約14%、インドが約12%と高い。一方で、各国の保護主義政策に供給が左右されかねない状況だ。政府がまとめた21年版の通商白書では、4月時点で50強の国が医療品を輸出制限している。インド政府は4月、国内メーカーがライセンス生産している新型コロナウイルス治療薬の輸出を当面禁止とし、国内使用を優先した。米国では政府主導で生産の国内回帰の動きが進む。バイデン米大統領は2月、サプライチェーン(供給網)の見直しに関する大統領令を出した。半導体が注目されたが、医薬品も対象とする。米食品医薬品局(FDA)は同月、新型コロナ禍により中国から原薬調達が難しくなり、一部の医薬品が供給不足に陥ったと明らかにした。ただ、原薬生産の国内回帰には課題が残る。製薬会社によると日本での原材料製造コストは中国の5倍以上との試算もある。日本製薬工業協会の中山譲治前会長(第一三共常勤顧問)は「国内回帰は薬のコスト上昇につながりかねない」と話す。薬価が定まっているなか、メーカーがコスト上昇分を転嫁し、流通業者への納入価格を上げるのは容易ではない。厚労省の中では「安定確保が必要な医薬品の薬価算定で『例外』を設けるべきか否かの議論も必要」(幹部)との声もある。

*1-7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/704218 (佐賀新聞 2021年7月10日) 無観客五輪、開催意義を実感させよ
 政府が東京都に4度目の新型コロナウイルス緊急事態宣言を発令し、埼玉、千葉、神奈川3県に対するまん延防止等重点措置を延長することを決定した。これを受け、政府と大会組織委員会、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)など5者が協議し、東京五輪は首都圏全ての会場を無観客とすることを決めた。近代五輪が無観客で開催されるのは初めてのことだ。パンデミック(世界的大流行)の中、異例の大会となる。首都圏での感染はさらに拡大を続けるとの予測もある。組織委は選手村を中心に、感染対策の手を緩めることなく万全を期すとともに、無観客であっても五輪の開催意義を市民が実感できるよう「舞台」を整えなければならない。既に多くの選手団が事前合宿のため入国し、各自治体で練習に励んでいる。自国の検査で陰性証明を受けていたにもかかわらず、感染力の強いデルタ株による感染が判明した選手団員が出たのは組織委にとって驚きだった。入念な検査が入国時も大会中も欠かせないことを思い知ることになった。海外に目を向ければ、大規模広域大会の欧州サッカー選手権で英国やフィンランドのファンから多くの感染者が出た。競技場や街の広場、あるいはパブでマスクをせずに肩を組み、歓声を上げるなどしたのが原因とされる。注目度の高いスポーツ大会、とりわけ国の代表選手が出場する大会では、喜びを爆発させるファンが多数出る傾向がある。世界保健機関(WHO)はこれに教訓にして、IOCと組織委に助言を続けていくとした。だが、国内では、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が「無観客が望ましい」との提言を公表していた。政府はすぐには耳を傾けず、会場定員の50%以内で、最大1万人とする観客基準で突き進もうとした。独善的な姿勢を真摯に反省すべきである。6月下旬の共同通信の電話世論調査では、五輪とパラリンピックの開催による感染再拡大の可能性について「不安を感じている」と回答した人が86・7%に達していた。今回の無観客決断はいかにも遅かった。首都圏の会場が無観客と決まったことで、ボランティアと警備担当要員の規模は大規模な見直しが必要になった。主に観客が熱中症になった場合の対応に当たる予定だった医療従事者も規模が見直され、大幅な人員縮小が見込まれる。医療現場の負担が軽減され、最優先で取り組まなければならないコロナ感染対応で、人的な余裕が生まれるメリットも期待できそうだ。しかし、安倍晋三前首相が大会の1年延期を決定したときに語った「完全な形での開催」は実現しなかった。菅義偉首相が何度となく強調してきた「ウイルスに打ち勝った証し」としての五輪の実現も難しくなった。バッハIOC会長が言う「誰もが犠牲を強いられる大会」になるのは明らかだ。観客と喜びを共にしたいと望んでいた選手、会場で観戦できるはずだった市民はさぞかし残念だろう。それでも開催に懐疑的な人、開催を持ちわびている人が共に意義深く感じる大会にしなくてはならない。菅首相らにはその責務がある。

<客観的根拠に基づく軌道修正が不得意な国、日本>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210630&ng=DGKKZO73407630Q1A630C2MM8000 (日経新聞 2021.6.30) エネ基本計画、「原発建て替え」盛らず 脱炭素の道筋、不透明に
 経済産業省は今夏をメドに策定するエネルギー基本計画に、将来的な原子力発電所の建て替えを盛り込まない方向で調整に入った。東京電力柏崎刈羽原発で不祥事が相次ぐなど原発への信頼回復ができていないと判断した。原発建て替えの明記を見送ることで、2050年の脱炭素社会の実現に向けた道筋が描きにくくなる。国の中長期のエネルギー政策の方向性を示すエネルギー基本計画はおおむね3年に1度見直しており、作業が大詰めを迎えている。二酸化炭素(CO2)の排出抑制につながる原発の建て替えを明記するかどうかは、エネ基本計画見直しの最大の焦点となっていた。法律上の稼働期間の上限である60年に達する原発が今後出てくることから、政府として建て替えを進めていく方針を明記し、将来にわたって原発を活用する姿勢を示せるかに注目が集まっていた。東電福島第1原発の事故後の14年に策定したエネ基本計画で、原発建て替えの表現を削除して以来、建て替えの記載は消えたままだった。7月にも原案を示す新たな計画では建て替えを明記しない方向だ。判断を先送りし、3年後に計画を見直す際にあらためて判断する。国内の原発は建設中の3基を含め36基ある。東電福島第1原発の事故後、再稼働できたのはこのうち10基にとどまる。直近では東電柏崎刈羽原発でテロ対策の不備など不祥事が相次ぎ、信頼回復が遠のいている。原発はCO2を排出しない脱炭素電源だ。政府は30年度までに温暖化ガスの排出量を13年度比で46%以上削減し、50年には実質ゼロをめざすと決めた。エネ計画について議論する経産省の有識者会合でも「最大限活用すべきだ」との指摘が出ていた。地球環境産業技術研究機構(京都府木津川市)が5月にまとめた脱炭素のシナリオ分析によると、原発の活用は電力コストの上昇を和らげる効果もある。50年に再生エネで電力すべてを賄うと電力コストは今の4倍程度に増える。送電網の整備などに大きな費用がかかると見込まれるためだ。一方、再生エネで5割、原発で1割を賄うケースでは2倍程度に上昇を抑えられると試算する。

*2-1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1212256.html (琉球新報社説 2020年10月23日) 原発処理水海洋放出 地元の不安を押し切るな
 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の問題で、政府は海洋放出の方針を月内に決定する。地元は漁業者を中心に反対の声を上げており、影響を受ける人々と向き合わないまま方針決定に突き進むことになってしまう。処理水には放射性物質トリチウムが含まれる。環境や人体に与える影響を巡る検証は十分ではなく、復興に取り組む地場産業に及ぶ風評被害にも懸念が尽きない。放射性物質の除去技術や安全性が確立するまでの間の新たな保管場所の確保など、海洋放出を回避する方策を探るべきだ。第1原発では溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水などで、現在も1日に170トン程度の汚染水が増え続けている。東電は多核種除去設備(ALPS)を使って汚染水から放射性物質を取り除く処理をしているが、水に似た性質があるトリチウムは除去することができない。東電は処理水を保管する原発敷地内のタンク容量が、2022年夏に限界に達するとしている。政府も処分方法の決定を急ぐ姿勢を強めており、菅義偉首相は21日に「いつまでも先送りできない」と語った。背景には、海洋への放出を始めるには設備工事や原子力規制委員会の審査などで2年程度の準備を要するため、現状が決定のタイムリミットだとする判断がある。だが、時間切れを理由に地元の反対を押し切ることなど許されるはずがない。炉心溶融(メルトダウン)した原発から出る処理水を海に流し続けることによる環境影響は簡単に予見できるものではなく、問題視するのは当然だ。処理水の保管を東電の敷地内に限定せず、政府としても別の保管先の確保を検討する対応などがとれるのではないか。トリチウムの除去技術開発に注力することも、原発事故を起こした東電や国の責任であるはずだ。また、震災の津波でさらわれた漂着物が沖縄で見つかることがあるように、海洋放出の影響は原発沿岸だけにとどまらない。周辺諸国からの非難は避けられないだろう。19年には、韓国による水産物の輸入規制を巡って世界貿易機関(WTO)の紛争処理手続きで日本が敗訴した。国際社会は福島の原発事故を終わったと見なしていないことを自覚する必要がある。処理水の扱いに関する議論は13年に始まった。この間には、17年に東電の川村隆会長(当時)が海洋放出について「判断はもうしている」と発言し、地元の反発を招いた。18年には、国民の意見を聞く公聴会の直前に、本来除去されているべきトリチウム以外の放射性物質が処理水に残留しているのが発覚した。東電、政府の結論ありきの姿勢やデータに対する不信も、処理水の処分方法が長年決まらない要因の一つにとなってきた。地元や国民の不安の払拭を第一とした、誠実で慎重な対応が必要だ。

*2-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/112551 (東京新聞 2021年6月24日) 「混乱するのが見えている」30キロ圏に28万人 広域避難不安拭えず 老朽・美浜原発3号機再稼働
 運転開始から40年を超える関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)が6月23日、10年ぶりに再稼働した。重大事故が起きた場合、避難対象となる30キロ圏内には再稼働した原発では最多の28万人弱が暮らす。県内外へ避難が計画されているが、避難先の確保など実効性に疑問符が付いたままだ。中心市街地が30キロ圏内にある福井県越前市は人口約8万人。2019年8月に初の広域避難訓練が行われ、今年1月には国の避難計画がまとまった。美浜3号機で重大事故が発生すれば、北に位置する同県坂井市やあわら市、石川県小松市や能美市へ避難する。県や市の計画では、地区ごとに避難先の小中学校や公民館が細かく設定され、病院の入院患者や高齢者福祉施設の入所者などの搬送先も決められた。しかし、福祉施設からは懸念の声が上がる。障害者施設で入所者の避難を担当する40代女性は「施設で毎年訓練をしているが、実際の避難では手伝う人も車両も足りず混乱するのが目に見えている。着の身着のまま逃げたとしても、布団などの物資はどうなるのか」と表情を曇らせた。
◆実効性ない計画なら…水戸地裁は運転禁じる判決
 広域避難を巡っては、30キロ圏に国内最多の94万人を抱える日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)について、水戸地裁は3月、運転を禁じる判決を出した。市町村で避難計画の策定が遅れており、実現可能な避難計画がなければ運転を認めないという基準が示された形だ。福井県の担当者は美浜原発について「東海第二とは状況が違う。避難に使用するバスや避難先などをしっかり確保できる計画になっている」と強調する。ただ、美浜原発周辺の避難人口は、既に再稼働した福井県内にある2原発よりも多い。住民を避難させる場合に県内にあるバスの3分の1にあたる278台が必要となるなど、一段とハードルが高い。新型コロナウイルスの感染拡大で避難の難しさはさらに増した。人が密になるのを避けるためにバスの台数を増やし、避難所で避難者が間隔を空けることを避難計画に盛り込んだ。だが、昨年8月に関電大飯原発(福井県おおい町)などで行った訓練では、避難所の収容人数が減り、新たな避難場所の確保が必要になるという課題も浮かんだ。今年1月には福井県内の記録的大雪で、避難で使う国道8号や北陸自動車道で車の立ち往生が発生し、長時間通行できなくなった。福祉施設の責任者を務める50代男性は「計画で避難先が決まっていても実際に役に立つのか分からない。いざとなったら入所者は計画とは別の県外施設へ避難させる」と話した。

*2-2-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021062700079 (信濃毎日新聞社説 2021/6/27) 40年超原発稼働 例外が常態化する懸念
 関西電力が、福井県にある美浜原発3号機を再稼働させた。運転開始から44年を経た老朽原発だ。原発の運転には、2011年の東京電力福島第1原発事故を踏まえ「原則40年」とするルールが導入されている。原則から外れたケースが、初めて現実となった。「例外中の例外」として、最長20年の延長を認める規定もある。40年の寿命を迎えた原発から順次廃炉にし、脱原発を着実に進める―。事故を機に多くの国民が原発の危険性に気付くなか、そう考え導入されたルールだった。関西電力は、同様に老朽化した高浜1、2号機の再稼働も進める方針だ。他の電力会社にも再稼働を目指す40年超原発がある。今後、例外が常態化していく恐れがある。老朽原発は建材の劣化など安全性に課題があり、地域住民には不安が募っている。国民の理解を得ずに原発推進の既成事実を積み重ねるような対応は、看過できない。事故の教訓に立ち戻り、40年ルールの重要性を再確認する必要がある。安倍晋三前政権以降、政府は、脱原発を求める世論をよそに実質的な原発回帰を進めてきた。経済産業省と大手電力は、今回の再稼働を原発復権に向けた足掛かりの一つと捉えているようだ。美浜3号機は、設置が義務付けられたテロ対策の施設が未完成のため、今年10月の設置期限までに再び停止となる。わずかな期間の再稼働にこだわったのも、40年超原発の再稼働に道を開くことを重視したからではないか。福井県が再稼働に同意したのは今年4月。同意を条件とする巨額の交付金を経産省が県に提示するなど、国が積極的な役割を果たしたことが分かっている。菅義偉政権は、世界的な脱炭素化の加速を受け温室効果ガスの大幅削減を打ち出した。最近は、温室ガスを排出しないことを名目に原発推進を求める議員連盟が自民党にできるなど、政府・与党に表だった動きも目立つ。原発政策がこれまで、ごまかしの連続だったことを忘れてはならない。典型は使用済み核燃料の問題だろう。今回も、再稼働で増えていくのは分かっているのに、一時保管する関電の原発の燃料プールは約8割が埋まったままだ。行き場は決まっていない。原発にいつまで頼るのか、使用済み核燃料はどうするのか。数々の問題を放置して目先の経営や業界の利益を優先する姿勢は、到底認めることができない。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210707&ng=DGKKZO73642330X00C21A7MM0000 (日経新聞 2021.7.7) 玄海原発 地震想定見直し 規制委、九電に求める
 原子力規制委員会は7日、九州電力が玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)で想定する地震の最大の揺れを引き上げる必要があるとの見解を示した。4月に厳しくした地震の揺れの想定方法に基づき電力会社に見直しを求めるのは初めて。九電は3年以内に想定を見直して規制委の再審査に合格する必要がある。想定する揺れの大きさは基準地震動と呼ばれ地震対策の前提になる。規制委は4月、原発周辺の活断層などによる地震に加え、過去に国内で発生した90件ほどの地震データを使って揺れを想定する方法を導入した。電力各社に対し、最大の揺れの想定を見直す必要があるかどうか9カ月以内に回答するよう要請した。九電は4月、新たな方法でも玄海原発の揺れの想定は変わらないと規制委に伝えたが、規制委は7日、この主張を却下した。九電は想定を作り直し、規制委の再審査を受けることになる。耐震補強の追加工事が必要になれば費用が膨らむ可能性がある。玄海原発3、4号機は2018年に再稼働している。九電の川内原発(鹿児島県薩摩川内市)と日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)は従来の揺れの想定を変える方針を規制委にすでに報告済みだ。

*2-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGG201GK0Q1A120C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2021年1月20日) 原発「未知の活断層」対策強化 規制委が規則改正案了承
 原子力規制委員会は20日の定例会で、原子力発電所などで「未知の活断層」への備えを強化するため、新しい評価手法を盛り込んだ関連規則の改正案を了承した。電力会社は原発を襲う揺れを再評価し、現行想定を上回った場合、追加工事などの対策を迫られる可能性がある。一般からの意見公募を経て、3月をメドに決定、施行する。従来より多くの地震データを反映した評価手法を用いて、原発ごとに未知の活断層による揺れの再評価を電力会社に求める。再評価の結果が現在想定している揺れ(基準地震動)を上回る場合、改正規則の施行後9カ月以内に原子炉設置変更許可を申請し、施行後3年以内に審査に合格して許可を得る必要がある。影響を受けるのは原発周辺に目立った活断層がなく、未知の活断層の影響を重視している原発で、九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)や川内原発(鹿児島県薩摩川内市)などだ。再評価結果が今の想定を上回り、現在の施設では耐震性が不十分だと判断されれば、追加工事などが必要になる可能性もある。追加工事の猶予期間については工事規模などを踏まえて、規制委があらためて設定する。

*2-4:https://www.data-max.co.jp/article/39260 (Net IB News 2020年12月21日) 行き場を失う原発の使用済み核燃料~5年後に9原発で容量9割が埋まると試算
 原発を稼働していると毎年発生する、放射能を含む使用済み核燃料が行き場を失っている。原子力発電所で発生した使用済みの核燃料は、再処理工場を経て最終処分場やMOX燃料加工施設に運ばれるが、再処理を行うまでの間は、原子力発電所内の「燃料プール(貯蔵施設)」や中間貯蔵施設などで一時保管される。現在、日本国内で貯蔵されている使用済み核燃料は約1万8,000t。使用済み核燃料は原発を稼働すると増え続けるため、その一時保管場所が課題になってきた。そのため、九州電力の玄海原子力発電所の使用済燃料貯蔵設備の貯蔵能力の増強(290t)、同敷地内の乾式貯蔵施設(440t)の設置、四国電力の伊方発電所敷地内の乾式貯蔵施設(500t)の設置、中部電力の浜岡原発敷地内の乾式貯蔵施設(400t)の設置などが見込まれている。また、東京電力ホールディングス(株)と日本原子力発電(株)が出資し、リサイクル燃料貯蔵(株)が運営する青森県むつ市の中間貯蔵施設が2021年度に操業開始を目指すとされ、ここでは最長で50年、3,000tの保管が予定されている。このように約4,600t相当の使用済み燃料貯蔵施設の拡大に向けて取り組みがなされている一方で、表のように電気事業(連)の試算値では、約5年後に東京電力の福島第二で88%、柏崎刈羽で100%、中部電力の浜岡原発で90%、関西電力の美浜原発で89%、高浜原発で98%、大飯原発で93%、九州電力の川内原発で93%、日本原子力発電の東海第二原発で96%などと9つの原発で一時保管場所(管理容量)のおよそ9割が埋まってしまうと試算されている。さらに、使用済み核燃料を再処理工場で処理した後の高レベル放射性廃棄物を地層に埋める最終処分場の選定問題も難航している。原発はCO2排出量の削減に役立つとされるものの、発電後の放射性廃棄物の問題を含めて真摯に見つめたうえで、今後の方針を再度見直すべきではないか。

*2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210626&ng=DGKKZO73297070V20C21A6TB0000 (日経新聞 2021.6.26) 小型原発の開発、日本勢動く 脱炭素へ実用化探る、三菱重、建設費半額に/日立、カナダで商談
 原子力発電所の是非を巡る議論が続く日本でも小型原発を開発する動きが出てきた。三菱重工業は出力が従来の3分の1の原子炉を開発する。小型化して建設費を抑え、安全性も高めた。小型原発にはIHIなども米新興企業に出資して参画する。脱炭素につながる電源としての実用化への取り組みは欧米が先行していた。三菱重工は国内の電力大手と小型炉の初期的な設計の協議に入った。出力は30万キロワットと、従来の100万~130万キロワットの3分の1以下だ。工場で複数の部品で構成するモジュールをつくり、現地で据え付ける。設備も簡素化し、現地での作業量を減らせる。電力需要にあわせ設置数を変えられ、将来は海外での受注も視野に入れる。建設費は1基2000億円台と、東日本大震災前に5000億円規模とされた大型炉の半分以下にする。同社の小型炉は蒸気発生器を原子炉内に内蔵し、ポンプなしで冷却水が循環する。非常用電源が災害などで失われた際の安全性を高めたという。東日本大震災では東京電力福島第1原子力発電所で非常用電源が機能しなくなり、冷却できなくなった。小型炉は地下に設置でき、航空機などによる衝突事故への備えが高まる。密閉性が高まり放射性物質の飛散も防げる。商用運転の事例は欧米でもないが、複数の建設計画が進んでいる。米国では新興企業のニュースケール・パワーが小型炉を開発し、米規制当局の技術審査を終えた。出力は約7万7000キロワットで、複数を組み合わせて使う。プールにまるごと沈め、非常用電源なしでも冷却でき事故が起きにくいという。これまで5年から7年かかっていた工期も約3年に短くできる。「2040年代までに400~1000基の受注をめざす」(チーフ・コマーシャル・オフィサーのトム・ムンディ氏)としており、世界各国で11の新設計画についてそれぞれ電力会社などと覚書を交わした。ニュースケールには日揮ホールディングスとIHIも出資した。日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)は海外市場を開拓する。受注を重ねて作業の習熟度を高めれば、建設費を700億~800億円台に下げられるとみる。カナダのオンタリオ電力と出力30万キロワットの小型炉の納入を巡り商談しているほか、エストニアやチェコなどでも営業している。小型炉への注目が高まっているのは、先進国で従来型の大型炉の建設が停滞しているからだ。大型炉は安全対策費が膨らみ、投資回収が難しくなっている。日立・GE連合は英国で大型炉を使う電力事業を計画したが、1基1兆円規模の投資に見合う経済性がないとみて撤退した。三菱重工もフランスの旧アレバ(現フラマトム)と開発していた100万キロワット級の「アトメア」の開発を凍結した。国際エネルギー機関(IEA)は、50年にカーボンゼロを達成するには化石燃料への投資を止め、30年までに毎年1700万キロワット分、31年以降は毎年2400万キロワット分の原発稼働が必要と試算する。関西電力と九州電力も小型炉などの活用を長期計画に明記した。国内の主要企業では約1万人が原発事業に従事し、三菱重工で約4000人、日立でも約1600人が働く。メーカーには小型炉の開発・建設を通じ、関連する雇用や技術を維持したいとの思惑もある。課題も多い。ひとつは発電コストだ。三菱重工の場合、1キロワット時あたり10円強のいまの大型炉より高くなる見込み。国内では原発管理の不備も続き、地元住民の反発もある。いま策定中のエネルギー基本計画でも、原発の建て替え・新増設を明記するのか議論が割れている。国内での新設の原発は09年に稼働したのを最後に、青森県や島根県で着工済みの工事は進んでいない。

<防衛にも計画性のない国、日本←それでは勝てるわけがない>
*3-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021070500799&g=pol (時事 2021年7月5日) 台湾有事で集団的自衛権行使も 麻生氏
 麻生太郎副総理兼財務相は5日、東京都内で講演し、中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法が定める「存立危機事態」に認定し、限定的な集団的自衛権を行使することもあり得るとの認識を示した。存立危機事態は、日本と密接な関係にある他国が攻撃され日本の存立が脅かされる明白な危険がある事態で、集団的自衛権を行使する際の要件の一つ。麻生氏は「(台湾で)大きな問題が起きると、存立危機事態に関係してきても全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾を防衛しなければいけない」と述べた。

*3-2:https://newswitch.jp/p/23594 (ニュースイッチ 2020年8月29日) 「むつ」以来のタブーを破り、日本が原子力潜水艦を造るべき深い理由、元IEA事務局長・田中伸男氏「まずは米国から1隻購入し技術移転を」
 現在、世界で使われている商業用原子炉はそのほとんどが大型軽水炉である。この炉型は大型かつベースロードで運用し、電力線網で広範囲に送電するという集中型電力システムで低コストを実現してきた。しかし東京電力福島第一原子力発電所事故でリスクの高さを露呈し、安全対策の強化で建設コストが上昇、新設では太陽光風力発電に対して競争力を喪失しつつある。今後は既存原発の運転期間を延長することでコスト上昇を抑えるしかない。大型軽水炉は将来的には小型モジュラー炉にとって代わられるだろう。軽水炉の弱みは、冷却水の供給が何らかの理由で途絶えることで燃料のメルトダウンを招く点にある。逆に船舶用の動力として使えば、万が一の場合、海中投棄でメルトダウンは防げる。燃料の補充が長期にわたって不要な点で潜水艦、砕氷船、発電バージなどで小型軽水炉は最適である。日本も原子力船「むつ」を建造し、自前の舶用小型軽水炉を実証したが、放射線漏れを起こし、残念ながら建造路線は放棄された。まずは、むつの失敗を総括するところから始めなければならない。笹川平和財団では北極海航路用砕氷船を前提として勉強会を始めたところである。関係者の話を伺ったが、むつ建造に関わった複数企業の設計インターフェースの悪さ、海外専門家から放射線漏れの可能性を指摘されながらも十分に検討しなかった建造体制の不備などが問題だったようだ。笹川平和財団では2017年から18年にかけて、インド洋地域における海洋安全保障に関する日米豪印4カ国専門家会議を開き、政策提言を取りまとめた。記者会見で配られた提言は報道されなかったが、その中に「日本政府はシーレーン防衛のため原子力推進の潜水艦保有を検討すべきではないか」という項目があった。自由で開かれたインド太平洋を海洋安全保障戦略の基本としている4カ国の専門家が一致して原子力潜水艦の必要性を指摘したのは重い。ポストコロナの中国が南シナ海や東シナ海での軍事活動強化に走り、香港の一国二制度を否定したのは、狙いが台湾併合にあることは明らかだ。今後米中関係がさらに悪化して行く中で、台湾有事も想定せざるを得ない。長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役に立つ。日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れるが、毎日浮上する必要があり、秘匿性能と航続距離に課題がある。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄された。敵国領内での基地攻撃の可否が議論されているが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御だ。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきであろう。まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要だ。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきだが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると考える。
【略歴】田中伸男(たなか・のぶお)東大経卒、通商産業省(現経済産業省)入省。通商政策局総務課長、経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長などを経て07年に欧州出身者以外で国際エネルギー機関(IEA)事務局長に就任。16年笹川平和財団会長、20年顧問。70歳。

*3-3:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77734 (現代 2021.1.21) なぜ原子力潜水艦は長い潜航が可能なのか? 推進力、水、酸素すべてを賄う原子の力
●原子力潜水艦が長く潜水を続けられる理由とは?
 1954年の今日、世界初の原子力潜水艦であるアメリカの潜水艦「ノーチラス号」の進水式が執り行われました。原子力潜水艦は、その名前の通り原子力を動力として駆動する潜水艦のことをいいます。ディーゼルエンジンと蓄電池によって駆動する通常の潜水艦と違い、原子力潜水艦は半永久的に潜水可能というメリットがあります。なぜなら、高濃度の核燃料は数十年にわたって原子炉を稼働させることが可能であり、燃料補給がほぼ不要だからです。燃料を気にすることなく原子炉からエネルギーを得られるため、海水を蒸発させて真水を生み出すこともでき、それを電気分解することによって酸素を供給することもできます。これにより、船員の酸素確保のために浮上する必要もなく、連続潜航距離をさらに伸ばすことができるのです。そういった理由から、原子力潜水艦の実現を強く望んだのが、アメリカの海軍大佐ハイマン・リッコーヴァー(Hyman George Rickover、1900-1986)です。第二次世界大戦で潜水艦の重要性を実感した彼は、戦後上官から新しい任務を受け取りました。それが、核エネルギーによる潜水艦の現実性についての研究だったのです。リッコーヴァーが赴いたのは、テネシー州のオークリッジにある国立研究所でした。そこでは、アルヴィン・ワインバーグ(Alvin M. Weinberg、1915-2006)などの研究者が核エネルギーの平和的利用について模索していました。リッコーヴァーは彼ら研究者たちを、ついで軍の上層部を説得し、原子力潜水艦の実現に動き出します。そして、時間と競争しているかのような凄まじいペースで工事を完了させ、戦後10年も立っていない1954年に進水式に至ったのです。ワインバーグによって水の蒸気を利用するコンパクトな原子炉が提案されたことがターニングポイントだったようです。翌年には本格的に稼働し、1958年には北極点の下を潜航通過しています。当時は、原子力は人間が制御でき、平和に利用すれば人々の生活を豊かにするという考えが大勢を占めていた時代です。それに基づき、原子力の商用が強く推進されました。元アメリカ大統領・アイゼンハワー(Dwight David Eisenhower、1890-1969)による1953年の「平和のためのアトム」演説などが代表例です。しかしその後、原子力潜水艦や原子力発電所がいくつもの大事故を起こすことになるのは皆さんもご存じのとおりです。ワインバーグも、当時は安全性より経済面を重視するきらいがあったことを認めています。

<人を大切にしない国、日本 ←社会保障と人権を粗末にしすぎ>
*4-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2390A0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月25日) 市町村66%、病院存続困難に 人口減少巡り国交白書
 政府は25日、2021年の国土交通白書を閣議決定した。人口減少により2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性があるとの試算を示した。公共交通サービスの維持が難しくなり、銀行やコンビニエンスストアが撤退するなど、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる懸念が高まる。地域で医療・福祉や買い物、教育などの機能を維持するには一定の人口規模と公共交通ネットワークが欠かせない。人口推計では50年人口が15年比で半数未満となる市町村が中山間地域を中心に約3割に上る。試算によると、地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる境目となる人口規模は1万7500人で、これを下回ると存続確率が50%以下となる。基準を満たせない市町村の割合は15年の53%から50年には66%まで増える。同様に50年時点で銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村でゼロになるリスクがある。新型コロナウイルス禍は公共交通の核となるバス事業者の経営難に拍車をかけた。20年5月の乗り合いバス利用者はコロナ前の19年同月比で50%減少し、足元でも低迷が続く。白書は交通基盤を支えられないと「地域の存続自体も危うくなる」と警鐘を鳴らす。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210702&ng=DGKKZO73459090R00C21A7KE8000 (日経新聞 2021.7.2) コロナが示した医療の課題(上) 逼迫時の役割分担 明確に 小塩隆士・一橋大学教授(1960年生まれ。東京大教養卒、大阪大博士(国際公共政策)。専門は公共経済学)
<ポイント>
○政策の微調整での対応は信認弱める恐れ
○急性期医療へのシフトなど構造改革急げ
○利用者の受診抑制の要因や影響探る必要
 新型コロナウイルスの感染拡大を巡っては、変異株の脅威のほか、五輪開催という重大なリスク要因が存在する。一方で、ワクチン接種の大幅加速という好材料も出てきた。感染拡大の発生から1年半近くが経過し、ポストコロナの医療供給体制にとっても重要な課題が浮き彫りになった。まず新型コロナが日本人の健康に及ぼした影響を大まかにみてみよう。感染者数・死者数ともに、日本はほかの先進国と比べ著しく少なく、影響はかなり限定的だというのが一般的な受け止め方だろう。果たしてその理解でよいか。コロナ対策の評価にも影響する。図は、新型コロナを原因とする100万人当たり新規死者数(7日間合計)の推移を国際比較したものだ。図の上段は英米独日の比較、下段は日韓の比較だ(上段の目盛りは下段の20倍)。日本での影響はこれまで欧米諸国に比べ極めて軽微だった。しかし2つの点に注意が必要だ。まず図の上段の右端、つまり直近の数字をみると日本と英米独との差はほとんどなくなっている。ワクチン接種が加速している欧米諸国で死者数が大幅に減少してきたからだ。その結果、コロナの影響は「瞬間風速」としては、今では欧米とほぼ同じレベルになっている。変異株の影響もあり先行きは不透明だが、足元のこの状況は押さえておいたほうがよい。さらに重要なのは、図の上下を比較すれば明らかなように、死者数が形成してきた「波」の違いだ。欧米の死者数は2つの大きな波を形成してきたが、第2波が2021年1月ごろにピークを越えた後は、何とか収束に向かいつつある。日本では20年春に第1波が発生し、現在の波は通常、第4波と呼ばれる。欧米の第2波、日本の第3波には規制の解除・緩和を受けたリバウンド(感染再拡大)という共通点がある。だが欧米には死者数でみる限り第3波は明確な形では到来していない。景気もV字型の回復軌道に乗った。一方、日本には過去のピークを上回る第4波が到来し、対応に苦慮している。韓国でも、日本の第4波のような大きな波は発生していない。こうした波の違いは、日本政府によるコロナ対応の問題点を示唆している。本格的な市中感染の到来を予期せず、全国レベルのワクチン接種に大きく出遅れたのが、違いを生んだ主因だというのが筆者の判断だ。欧米諸国はワクチン接種と厳格な移動規制の合わせ技で、コロナ感染を力ずくでねじ伏せつつある。これに対し、日本がとってきたアプローチは経済活動に目配りをしつつ、感染者数などの動きをみながら、緊急事態宣言の発令と解除を繰り返し、さらに地域別に規制の濃淡をつけるなど、微調整で対処するものだ。本格的なロックダウン(都市封鎖)を許容する法制度がなく、ワクチン接種を急がなかったという制約条件、しかも五輪開催も予定される状況の下では、この方針は最適解だったかもしれない。だがそれはあくまでも制約条件を所与とした場合の机上の話だ。ロックダウンは難しいとしても、ワクチン接種なしで移動抑制だけで感染を抑え込もうとしても無理が出てくる。政策の微調整はそれだけを取り出してみれば合理的だとしても、方針を分かりにくくし、政策への信認を弱めてきた可能性がある。規制とリバウンドのいたちごっこを生み、政策の調整が感染の波を増幅させ、収束をむしろ遅らせてこなかったか。また入国管理や検疫に漏れはなかったか。経済への影響も含め、詳細な検証が必要になる。そうした対応の問題点を考慮に入れても、日本のコロナ感染の健康面へのショックは国際的にみれば軽微だったとの見方はできる。だが医療システムが余裕を持って感染拡大に対処できたかと問われると、答えは残念ながら「ノー」だ。日本の人口当たりベッド数は世界でトップクラスだ。しかも感染拡大の規模は諸外国より限定的だった。にもかかわらず、コロナ対応の最前線に立つ医療現場は逼迫し、崩壊寸前、あるいは事実上の崩壊に至ったところも少なくない。日本のベッド数は確かに多いが、精神病床や療養病床の比重も大きい。コロナ対応が可能な一般病床は全体の6割弱だが、すべてが急性期医療に特化しているわけではない。厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」の会合(20年10月21日)に提出された資料によると、全医療機関のうち、新型コロナ患者の受け入れ可能な機関は23%、受け入れ実績がある機関は19%にとどまる。しかも受け入れ実績のある機関でも、人工呼吸器、体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)またはその両方を使用した患者を受け入れていた機関に限ると全体の4%どまりだ。民間医療機関に患者の受け入れを要請する法制度も未整備だ。現場レベルでの調整は徐々に進んでいるが、感染再拡大をみてからの対応であり、後手に回ったといわざるを得ない。医療システムにかかる負荷は全体としてみれば小さくても、局所的には耐え難いほど高くなる。それを認識せず、その仕組みも改めずに経済活動を優先すると大変なことになる。日本の医療供給体制はもともと新型コロナのようなパンデミック(世界的流行)を想定した仕組みにはなっていない。公的介護保険の導入後も、日本の医療供給は平均在院日数の長い患者の療養を念頭に置いた面が色濃く残っている。社会全体の医療資源の使い方として非効率な面はないか。この問題がコロナ禍で改めて浮き彫りになった。医療供給体制にとって最低限必要なのは、医療逼迫時における地域医療機関の役割分担を明確にしておくことだ。長期的には、医療資源を急性期医療に一層シフトさせるとともに、地域医療機関間のネットワーク化を推進するなど、構造的な改革が求められる。最後に、日本の医療供給体制にとっての潜在的な問題点を指摘しておきたい。コロナ禍の下で利用者の受診抑制の動きがみられることだ。厚労省の研究でも明らかなように、コロナ禍の下で健康診断や各種のがん検診、人間ドック受診を抑制する傾向もみられる。問題は利用者の抑制行動が何を意味するかだ。抑制した人とそうでない人を比較して、コロナ発生前からの健康状態の変化に差がなければ、医療サービスの供給に過剰な部分があったことになる。逆に抑制した結果、健康状態が悪化していれば、必要な医療サービスがコロナ禍で受けられなかったことになる。この判定は極めて難しい。感染収束後も長期の追跡調査が必要だ。所得や就業状態など他の要因にも左右される。だがコロナ禍は医療を巡る利用者の行動変容をもたらしている可能性が高い。だとすれば、医療給付費の長期予測にも大きな影響が出てくる。まさしく統計的なエビデンス(証拠)に基づく政策評価・立案が必要となるテーマだ。コロナ禍は日本の医療供給体制の効率性や持続可能性にもかなりの影響を及ぼしている。

*4-2-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021071400125 (信濃毎日新聞社説 2021/7/14) 教員免許更新制 廃止の判断遅きに失した
 遅きに失したと言うべきだろう。文部科学省が、教員免許の更新制を廃止する方向で検討を進めている。更新には30時間以上の講習を自費で受ける必要があり、負担を訴える現場の声は導入当初から強かった。10年以上にわたって半ば漫然と存続させてきたことが問われなければならない。廃止で事を済まさず、文科省は経過を検証すべきだ。萩生田光一文科相が、制度の抜本的な見直しを中央教育審議会に諮問している。廃止の結論を得て、来年の国会への教員免許法の改定案提出を目指す。免許の期限を10年とし、大学などで講習を期限内に修了すると更新が認められる。お金と時間を負担するのは教員だ。数万円の講習費用と交通費を出し、夏休みの期間などに通わざるを得ない。教員を対象にした文科省の調査で、大多数が負担感を示す一方、講習が役に立っていると答えたのは3分の1にとどまった。自由記述では、制度を廃止すべきだとの回答が最も多かったという。更新制は教員不足の一因にもなってきた。定年前に期限を迎える教員が早期退職する動機になるほか、産休・育休取得者の代替教員の確保を難しくしている。更新を忘れて免許が失効していることが分かり、引き続き教壇に立てなくなった事例もある。2000年代初めころ、自民党の議員らから上がった「不適格教員の排除」の掛け声が制度化の発端だ。管理の強化があらわな主張に現場の反発は強く、いったんは見送られたが、第1次安倍政権下、政治主導で免許法が改定され、09年度から導入された。文科省は、教員の資質確保が目的で、不適格教員を排除する趣旨ではないと説明している。そもそもなぜ免許の更新は必要なのか。制度化の根拠は曖昧だ。その後、民主党政権が廃止の方針を打ち出したものの、参院で過半数を失って法改定を断念。自民党の政権復帰で立ち消えになっていた。教員の多忙さは増し、学校現場の疲弊は深い。いじめをはじめ子どもたちが抱える問題への対応が追いついていない現状がある。そこへ官製の研修が詰め込まれ、現場をさらに追い立てている。その状況をどう改めるか。教員が日々、子どもとじっくり向き合って力量を高める。それぞれが直面する課題を持ち寄って自主的に学び合う。そのための時間や余裕を生むことが肝心だ。文科省は現場を下支えすることにこそ力を傾けなくてはならない。

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