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2021,03,10, Wednesday
![]() ![]() ![]() ![]() 日本が契約済のワクチン ワクチン開発状況 国内使用薬剤 開発中薬剤 (図の説明:1番左の図のように、日本が契約済みのワクチンは米国製と英国製だけで、日本製はない。また、承認済や開発中のワクチンも、左から2番目の図のように、アジアでは中国のみが承認済で、日本は下の方におり、これを慎重と言うのかは大いに疑問だ。さらに、治療薬は、右から2番目の図のようになっており、日本国内で承認されているのは上の2つだけだ。なお、効きそうな中和抗体も、1番右の図のように、米国のみで緊急使用許可が出ており、日本政府《特に厚労省》は新型コロナの治療や予防に積極的ではないようだ) (1)政治に女性登用を増やすと、何が変わるのか 1)日本人男性を優遇するジェンダーの存在 沖縄県と同県内の全11市へのアンケート調査をした結果、*1-1-1のように、全自治体で総務・企画に関する部署には男性が男性が67%を占め、介護・子育て・保健衛生などの福祉・医療などの部署に女性が59%配置され、管理職になると総務・企画部署の女性比率は12%とさらに低くなり、福祉医療系は34%だったそうだ。 その背景は、「男性は企画立案が得意、女性は家事や育児に適する」というジェンダーに基づく固定観念が反映されており、行政の中でも固定化されたジェンダーバイアス(性に基づく差別や偏見)で配置先を決めることが当たり前のように行われているということが明らかになり、沖縄県内41市町村の管理職に占める女性割合は14%と全国平均の15%を下回るそうだが、これは、沖縄県に限らず地方に特に多いことだろう。 さらに、採用でも全自治体の職員に占める男女比率は6対4と女性が少なく、非正規職員は男性が約24%で女性は約76%、配属も女性は福祉医療系に偏っており、男性にはさまざまなポジションや選択肢が用意されているのに、女性には男性より不利で限られた選択肢しか与えられていない。しかし、これが女性の方が大きな割合で都市や外国に移住する原因となっているのだ。 具体例としては、*1-1-2のように、行政や企業のトップに上り詰めた横浜市の林文子市長が、自らの人生を「『忍』の一字で生きてきた」「1965年当時は、女性が意思決定することを誰も考えていなかった」「ほんとに日本は変わらない。企業の役員レベルに(女性が)入れるかというと、いま立ち止まっている」等と述べておられるが、忍の一字で生きたい人はいない。 しかし、今でも、*1-1-3のように、日本経済新聞の外部筆者コラムに「女性が主婦業を徹底して追求した方がいい」などとする記述があり、男女共学の教育システムと男女雇用機会均等法の下であるにもかかわらず、「女性は、主婦業以外はにわか知識だ」などと言われることがあるわけだが、こういうことを言われる理由は重要なポイントだ。 ちなみに、私自身は、小学生だった1965年頃から、女性差別やジェンダーに基づく固定観念は受け入れ難かったため、かなり勉強して仕事でも実績を作ることにより、ジェンダーによる固定観念は覆してきたつもりだが、それでも言って受け入れられる範囲は時代によって異なり、先入観による女性差別も受けたことがある。それでも男女平等を前に進め続け、現在は思っていることを言っても理解する人の方が多くなったという状況なのである。 なお、2021年3月8日の国際女性デーを前に、*1-1-4のように、電通総研が男女平等やジェンダーに関する意識調査を行ったところ、「男性の方が優遇されている」と答えた女性は計75・0%に上ったのに対し、「男性の方が優遇されている」と答えた男性は54・1%で、性別によって経験に差があり、男性と女性で見えている景色に違いがあると言う結果だったそうだ。これは、私の実感とも合っているが、「女性首相の誕生は、27.9年後」というのは、そこまで遅くはないと思う。 2)政治に女性登用を増やすと、外国人(=マイノリティー)への人権侵害も減るだろう 出生数が多く十分な雇用が準備できなかったため、日本人男性を優遇して女性を雇用から排除するジェンダーは、団塊の世代でその前の世代より大きくなった。そのため、企業戦士の父とそれを支える母の下で育った50代の団塊ジュニア世代は、私たちの世代よりむしろ性的役割分担意識が大きいのである。 つまり、十分な雇用を準備できず、日本人男性を優遇して雇用するために使われたのが戦後の女性差別なのだが、これが生産年齢人口割合が減っている今でも続いているのだ。 そして、帰国すれば身に危険が及ぶ難民や亡命者を国外退去処分や送還処分にすることは人道に反しているのに、難民や亡命者はなかなか受け入れないという*1-2-1のような外国人差別もある。また、日本に家族のいる人が帰国を拒むのも当然であるため、入管難民法は同じ人権を持つ人間に対する適切なものに改正すべきであるのに、これらのマイノリティーの人の痛みがわからないような行動は、自分が優遇されるのが当然だという環境の中で育った日本人男性の特性ではないかと思うわけである。 3)ワクチンも科学技術の賜物なのだが・・ 河野規制改革担当相は、*1-2-2のように、「欧州連合(EU)が承認すれば、ファイザー製ワクチンを高齢者全員に2回打てる分だけ6月末までに各自治体に供給できる」とされたが、6月末に高齢者分だけでは7月21日に始まる東京オリンピックに間に合わない。 遅くなる理由は、EUはファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンやアメリカのモデルナ製ワクチン、イギリスのアストラゼネカ製ワクチンを契約していたが、いずれも供給が遅れ、EUがEU製造のワクチンをEUの承認なしにEU域外に持ち出せない輸出規制をかけたからだそうだ。 そのため、EUのハンガリーは中国のシノファームが開発した新型コロナワクチンを2月16日に入手して接種し始め、ロシアのスプートニクVワクチンの購入にも同意しており、スペインもロシア製ワクチンを拒まないとしている。 英医学誌ランセットは、*1-2-3のように、ロシアが2020年8月に承認した新型コロナワクチン「スプートニクV」について臨床試験の最終段階で91.6%の効果が確認されたとする論文を2021年2月2日に発表し、「2020年9~11月に治験に参加した約2万人のワクチン投与後の発症数等を調べて、ワクチンが原因とみられる重大な副作用は報告されず、60歳以上でも有効性は変わらなかった」「発症した場合も重症化しなかった」としており、EUの欧州医薬品庁(EMA)への承認申請も進めるそうだ。 日本は、残念なことに、*2-2-1・*2-2-2のように、科学技術立国をうたいながら新型コロナワクチンの開発・製造・接種でとても先進国とは言えない状況になっている。その理由は、日本では遅いことが慎重でよいことであるかのような世論形成が行われるからだが、製法も新技術を使っている上、遅いことと正確であることとは全く異なる。さらに、日本は自ら実用化したワクチンはないのに、ロシア製などのワクチンを小馬鹿にした報道がしばしばあり、製造した国や人によってワクチンの良し悪しを評価するのではなく科学的治験に基づいて評価するのが、科学を重視する国の基本的姿勢である。 (2)日本における科学の遅れは、何故起こるのか 1)東北の復興における土地利用計画から *2-1-1で述べられているように、首都直下地震や南海トラフ巨大地震の襲来が確実視され、新型コロナ新規感染者数は人口密度に比例しており、日本における過度な一極集中は致命的弱点を抱えていることが明らかなのに、わが国の国土政策は現状維持圧力が大きい。 災害防止の視点からは、過去に起こった災害の理由を直視して国土計画を作らなければならないが、*2-1-2のように、東日本大震災後に高台等に集団移転する住民から市町村が買い取った跡地の少なくとも27%に当たる計568haは用途が決まっていないとのことである。しかし、東日本大震災は、街づくりを考え直す千載一遇のチャンスでもあった。 にもかかわらず、「同事業で買い取りできるのは主に宅地で企業の所有地などは対象外であり、まとまった土地の確保がしづらかった」「危険区域からの移転を第一にした制度で、跡地利用のことは考えられていなかった」などという間の抜けたことを言い、買い取った土地を点在させて一体的利用を困難にしたまま、自治体が空き地管理の維持費支出を余儀なくされているというのは、10年もかけた復興に計画性もフィードバックもなかったということにほかならない。 被災から10年間も大規模な復興工事をし続けているのに、土地を買い取りながら農地・林地・工業地帯などに区分けしていなかったのがむしろ不思議なくらいで、区分けしなければそれにあった防災設備を造れない筈だ。そのため、いくらかけてどういう復興を行い、どういう防災設備を作ったのかに関する内訳を、復興税を支払った国民としては聞きたいし、開示できる筈だ。この10年間、何も考えずに震災復興も費用対効果の薄い公共工事にしてしまったのでは、今後10年間復興税を支払っても同じだろう。なお、(女性の)私なら(料理と同様)出来上がりを想定しながら仕事をするため、そういう無計画で無駄なことはしないのである。 2)フクイチ原発事故の後始末と原発の廃炉から ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 事故前のフクイチ 津波来襲 爆発直後の原発 除染土 汚染水のタンク (図の説明:1番左の図の事故前のフクイチは、土台を高くすることもできたのにわざわざ削って低くしていたそうで、これが最初の防災意識の欠如だ。また、左から2番目の図のように、津波が襲った時に予備電源も水没するような場所に置いていたのが2番目の防災意識の欠如だ。これらの積み重ねによって、中央の図のように、激しい爆発事故が起きて周囲を汚染したため、右から2番目の図のように、土をはぎ取る除染をしたが、これも一部だけ不完全な形で行っており、さらに除染土をフレコンバッグに入れて積んだままにしているため効果が著しく低い。さらに、1番右の図のように、デブリを冷やした汚染水を浄化した後にタンクに溜めているそうだが、トリチウム以外の放射性物質も残っており、トリチウムは除去できないとして、そのまま海洋放出すると言っているのである。つまり、リスクを認識して対応することができないのだ) フクイチ事故では、*2-1-3のように、爆発で原子炉建屋の上半分が吹き飛んだが、炉心溶融は長いこと認めず、また、溶融して燃料デブリは落下したままだという報道を、未だに行っている。しかし、①3号機建屋上部のプール内にあった使用済燃料の取り出しが、10年後の2021年2月にやっと終わり ②原子炉内の状態は、今でもわからないことが多く ③デブリの取り出しは、2022年に開始予定で ④機器の不具合や管理の不徹底が頻発して、3号機の地震計が故障したまま放置され2021年2月の強い地震を測れず ⑤流入する地下水等から大半の放射性物質を除去した処理水に放射性トリチウムが残っており、タンクに保管しているのが作業の大きな障害となる可能性がある 等と記載されている。 そして、①③は、残っていた使用済燃料の取り出しを10年後にやっと終えたということであり、安全第一は重要だが、ここで考えられているのは作業員の安全だけであって地域住民や国民の安全ではない。何故なら、地域住民や国民の安全を重視すれば、速やかに処理することが最優先になるからだ。 ②は、火星の地形さえわかる時代に、目と鼻の先にある燃料デブリの状況がわからないわけがなく、わかっても言えない状態なのだろう。さらに、④は論外で、地震計を設置していることの意味すら理解していないと推測される。 また、⑤については、凍土壁を作って地下水が流入するのを防いだ筈なので、その工事にいくらかかって、効果がどうだったかも明らかにすべきだ。このような国民の安全をかけた緊急事態に、まさか費用対効果の低い遊びをしていたのではあるまい。 それでも、原発汚染水のタンクが1000基を超える状態になったのであれば、チェルノブイリのように石棺にするしかなかったのではないか、日本の対応が間違っていたのではないかを検証すべきだ。また、デブリに触れた汚染水は、処理後もトリチウム以外の放射性物質を含んでいたことが長く隠されていたので、フクイチの事故処理が地域住民や国民の安全を重視して行われていたとは考えにくい。 なお、経産省の委員会がどういう結論を出そうと、トリチウムだけしか含まない状況でも、処理水の海洋放出が水産物に対して安全とは言えない。何故なら、「希釈して基準以下にすれば安全だ」という発想をしており、安全基準を下回りさえすればよく、総量はどうでもよいと考えているからだ。わかりやすく例えれば、血圧の高い人が味噌汁が辛すぎる場合に、それを薄めて全部飲むのと同じで、その上、他の料理にも塩分が含まれすぎていれば、脳卒中になる確率が上がるのと同じだ。 そして、これを「風評被害(事実でない噂による被害)」と強弁するのなら、「総量がどれだけ多くても希釈して基準以下にすれば害がない」ということを科学的に証明すべきだが、絶対にできないと思う。また、農水産物などの食品についても、基準値以下だから単純に安全とは言えず、多くの食品に放射性物質が含まれていれば総量が多くなるため安全ではない。そして、科学的証明もなく百万回無害だと言っても無意味なのである。 これまでの対応を見ると、すべて、*2-1-4にも書かれているように、「処理を先送りし続けるわけにはいかない」という「仕方がない」の論理と「福島の人が可哀そう」という上辺だけの優しさ(感情論)で構成されており、地域住民や国民の安全性を科学的に立証してはいない。そのため、汚染水の海洋放出も単に漁業者に補償すればすむという問題ではなく、為政者やメディアの言うことを信じる方がむしろ愚かだということになっている。 なお、「フクイチの廃炉は半世紀先を見据えて世界有数の廃炉技術拠点として生かす発想が必要だ」とも書かれているが、日本の対応はチェルノブイリと比較しても巨額の税金を使った割には「安全だ」と強弁して国民の人権を侵害するものでしかないため、よい見本にはならない。 ただ、*2-1-5のように、東洋アルミと近畿大学が、「アルミニウム粉末焼結多孔質フィルター」を使って汚染水からトリチウムを60℃・低真空で分離する技術を開発した。そのため、汚染物質を外部に捨てない原則を守り、東電と政府が責任を持って汚染水からトリチウムや他の放射性物質を完全に取り除く処理を行えば、処理後の汚染水は海洋放出が可能だ。従って、放射性物質を完全に取り除く処理をした水をプールに溜め、そこで魚を飼ってしばしば魚の放射線量を計測しながら、そのプールの水を海に放出すればよいだろう。 3)新型コロナの治療薬・ワクチンの開発から 日本は労働生産性を上げるためには付加価値の高い産業を起こしていかなければならず、そのためにも科学技術立国を目指しているのだが、*2-2-1のように、日本での新型コロナワクチンの開発は世界に大きく出遅れて実用化のメドも遠い。 そして、治療薬もワクチンも人間の身体に入れるものであるため、「有事だから品質が悪くてもよい」というわけではないが、先進国は新型コロナの感染予防に役立つスピードで治療薬を承認し、ワクチンも開発・実用化させた。一方、日本は、100年前のスペイン風邪の時代と同じ対策しか行えなかったが、これは、著しく単純化したルールを護ることを自己目的化した融通の効かない人たちの責任である。 実際には、日本の製薬会社も、新薬の開発・治験は日本ではなく米国で行い、そこで流通させてから日本に逆輸入することが多い。その理由は、日本は、新しいものに抵抗する国で、治験は行いにくく、新薬の承認にも長い時間がかかるため、多額の投資を要する新薬開発を国内で行うと費用対効果が悪すぎるからである。 そのため、新しいものを評価して実用化しやすい国にしなければ、外国に追随することしかできず、付加価値の高い仕事はできない。まして、厚労省のように、旧態依然として科学の進歩についていっていないのは論外だが、日本は下水道整備も遅れており、未だに整備されていない地域も多いし、古くなりすぎていて人口増加に間に合っていない東京のような都市もある。 ただし、子宮頸癌は、ワクチン以外にも予防手段があるため安全性の方がずっと重要になるが、新型コロナは誰もがかかりやすくワクチン以外に予防手段がない感染症はワクチンの重要性が高まる。そのため、その違いのわからない人が判断するのは困ったものである。 なお、記事は、前例踏襲の限界として「無謬性の原則」を挙げているが、科学の進歩や環境変化を認識できずに、前例を踏襲すること自体が大失敗である。 *2-2-2のように、新型コロナワクチンは人類が使っていなかった新技術を使って素早くできたが、私も、不活化ワクチンではなく、mRNAをチンパンジーのアデノウイルスに組み込んだワクチンを免疫力の弱い人に接種するとどうなるかわからないため不安だ。しかし、体力に自信のある人なら大丈夫だろう。 が、新型コロナのワクチンを毎年7000億円もかけて海外から買い続けるようでは先進国とは言えず、*2-2-3のように、大阪市内にある治験専門の病院で塩野義製薬製ワクチンの治験が行われているものの、流行が収まってから完成するのでは意味がない。 このような中、オンライン形式の総会で、*2-2-4のように、IOCのトーマス・バッハ会長が「2021年の東京オリ・パラと2022年の北京冬季オリ・パラ参加者のために、中国五輪委員会の申し出により新型コロナの中国製ワクチンをIOCが購入する」と発表された。日本はワクチンもできず、海外からの観客を受け入れない決定をするような情けない有様なので、中国製ワクチンを有難く使わせていただくしかないだろう。 (3)観光の高度化へ 1)医療ツーリズム このように、さまざまな理由で工場の海外移転が続いて製造業が振るわない中、観光業は海外移転のできない産業であり、期待したいところだった。そのため、*3-2のように、既に日本にある高度医療サービスと観光を結び付け、観光の付加価値を上げる「医療ツーリズム」を私が衆議院議員時代に提唱して始め、中国等のアジア圏から客が来始めていた。 高齢化と医療の充実により、日本が先行しているのは成人病(癌、心疾患、脳血管疾患)の治療・リハビリ・早期発見のための人間ドッグで、成長産業として政府も後押ししていた筈だった。しかし、馬鹿なことばかり言っている間に、他国の医療も進歩したのである。そして、今では、癌治療に副作用ばかり多くて生存率の低い化学療法を標準治療とするなど、率先して先進医療を採用して人の命を助けようとしなかった厚労省の対応によって、日本の医療は世界の中でも高度とは言えなくなってきているのだ。 この状況は、新型コロナで白日の下に晒された。自国の高度医療を武器に「医療ツーリズム」を行おうとしている国なら、乗客の中に新型コロナ感染者がいれば入港を促して完全なケアを行うのが当然であって、患者の存在を理由に入港を拒否するなどという選択肢はない。さらに、世界が注視している中でのダイヤモンドプリンセス号への対応も、全力を尽くしてやれることをすべてやったのではなく、杜撰きわまりない失敗続きだったのである。 その上、*3-1のように、世界は、①ウイルスの18万3000近い遺伝子配列を分析して ②ウイルスの自然な進化(=変異の連続)をつきとめ ③進化を通じた感染力の変化 を分析する時代になっているのに、日本では、イ)PCR検査すらまともに行えず ロ)病床数が足りないからとして病院にアクセスできない患者が自宅で亡くなるケースまで出し ハ)ワクチンや治療薬も作れず 二)変異株の存在も外国から言われなければわからず ホ)ウイルスがいる限り場所を問わずに起こるのに「変異株はどこの国由来か」ばかりを問題にしている という有様だ。 これは、日本にある高度医療サービスと観光を結び付けるどころか、日本人が他の医療先進国に治療に行かなければならないくらいの深刻な問題で、早急な原因究明と解決が必要である。 2)観光ルートへの災害と復興史の織り込み イ)ふるさとに帰れる人、帰れない人、新しく来る人 東日本大震災は、*4-1のように、死者・行方不明者・震災関連死者が計約2万2千人に上る大惨事だったが、これに東京電力福島第1原発(以下、“フクイチ”)事故が加わり、16万人以上が避難を余儀なくされ、今も避難中の人が約4万1千人いる。 日本政府は、原発事故の賠償や除染費用が21.5兆円にも上るとしており、除染作業は2051年まで完了しない可能性もあるそうだ(https://www.bbc.com/japanese/video-56356552 参照)。しかし、現在は帰還困難区域でなくなった場所も、避難指示解除基準が放射線管理区域並みに高い年間20mSV以下であるため帰還できない人も多く、この人たちは“自主避難者”として自己負担になっている。 仮に、フクイチ事故がなければ、道路・防潮堤・土地のかさ上げをすれば、もっと早く現在のニーズに沿った街づくりを行い、前より住みやすい街を作ることができただろう。そのため、37兆円(うち被災者支援は2.3兆円。生活再建支援は3千億円余り)の復興予算を投入したというのは、何に、いくら使ったかについて、国民への正確な報告を行って反省材料にすべきである。 また、3県42市町村の人口減少率は全国の3.5倍のペースで、街づくりの停滞や産業空洞化に直面しているとのことだが、廃炉の見通しも立たないフクイチ周辺は仕方がないとしても、そこから距離のある地域でも企業誘致・帰還・移住が進まないのは何故だろうか? 国民全体への所得税の2.1%分上乗せは2037年まで続くそうなので、予算が正しく被災地の再建に繋がっているか否かを監視するのは国民の責務である。 なお、*4-1・*4-2のように、フクイチ事故は、日本における原発の危険性とこれまでの安全神話を白日の下に晒した。電力会社と経産省が原発の構造に疎く、事故時に無力であることも明らかになった。そのため、日本では、エネルギーのあらゆる視点から、脱原発と再エネへの移行が求められるのである。 嬉しいのは、東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた仙台市東部に、*4-3のように、災害復旧と区画整理を一体的に進める国直轄事業によって農地の再生と担い手への集約が破格の規模とスピードで実現し、大区画化による大型機械の導入で作業が効率化され、受委託を含む農地集約も進み、コメや野菜を組み合わせた複合経営に取り組む農業法人も相次いで発足して、法人への就職が若者の新規就農の窓口として機能し始め、農業に新たな活力を吹き込む担い手も現れたことである。 ロ)災害と復興史として伝承すべきこと ![]() ![]() ![]() ![]() 2021.3.14日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本は、ユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートが押し合い、隆起・火山噴火・地震・津波を繰り返しながらできた陸地で、左から2番目の図のように、すぐ近くに海溝や海底山脈があり、地震多発地帯であることが、東日本大震災によって明らかになった。そして、これらの現象と海底地形・GPSによる測定値などを組み合わせれば、大陸移動説を目に見える形で証明できそうである。また、右から2番目の図のように、次の巨大地震や津波も予測できるようになり、海底火山が多いため、1番右の図のように、日本の排他的経済水域にはレアアース等の地下資源も豊富だということがわかってきている) 「伝承」するにあたっては、綺麗事を並べてもすぐに実態が見破られ、リピーターは来ない。日本だけでなく世界の関心を集めるには、知る価値のある伝承にすべく、21世紀に起こったが故に残された迫力ある映像やそれが起こった原因に関する深い考察が必要だ。 そして、東日本大震災をきっかけとしてわかったことは、上の図のように、日本はユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートが押し合って火山噴火・隆起・地震・津波などを繰り返しながらできた陸地で、次の巨大地震や津波も予測できるようになり始め、日本の排他的経済水域内には海底火山が多いので、レアアースやメタンハイドレートなどの地下資源が豊富だということだ(海洋基本法:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/16620070427033.htm 参照)。 そのため、伝承館に残してもらいたいものは、日本で火山の噴火・地震・津波が周期的に起こった歴史的事実(歴史書・神社の記録・地層などから組織的に集める)とそのメカニズムに関する科学的な説明であり、それによって、*4-5のような、次の大地震に関する想定も信憑性を持つ。さらに、海底の地形も含めてこれらの事実をしっかり解析すれば、大陸移動説や地球の営みまで証明され、ノーベル賞級の研究になることは確実だ。また、21世紀ならではの映像と記録のものすごさもあり、世界の観光客や研究者が注目すると思われる。 しかし、*4-4には、「黒い湖」として枯れ田に置かれた黒いフレコンバッグの山のことが書かれており、10年間も仮置き場としてフレコンバッグを積んだままにしていること、雨風に晒され続けてフレコンバッグが傷み、汚染水や内容物が外部へ漏れそうなことが書かれている。そのため、3兆円以上もかけて、何のために除染作業をしたのか疑問に思う。 私は、ずっと前にもこのブログに記載したのだが、仮置きや中間貯蔵を行って意味のないことに多額の費用を使うのではなく、直ちに最終処分法を決めて最終処分するのがよいと考える。それには、放射線量の高い帰還困難区域にコンクリートで除染土を入れるプールを作り、そこに除染土が入ったフレコンバッグを集めてかさ上げとし、コンクリートの蓋を被せて密閉し、その上に汚染されていない土を盛って自然公園や災害記録館などを作るのが唯一の解だと思う。 「東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)」は、フクイチから北へ3キロほど離れたところに建てられたそうだが、この伝承館は、東日本大震災・原発事故・復興の真実を21世紀らしい映像と考察を持って地元住民の率直な解説とともに開示して欲しい。そして、原発事故から再エネへの移行も含む壮大な展示をして初めて、大きな付加価値を生むと考える。 3)観光ルートへの歴史の織り込み イ)弥生時代(約12,000年前~250年頃)の遺跡 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 吉野ヶ里の位置 付近の路線図 吉野ヶ里復元図 復元された吉野ヶ里遺跡 (図の説明:1番左の図に、吉野ヶ里遺跡の場所が記載されているが、ここは佐賀県鳥栖市・福岡県太宰府市・福岡県久留米市に近い。左から2番目の図に、近くの鉄道路線が書かれており、鹿児島本線の二日市駅の近くに太宰府がある。また、筑肥線は、福岡市営地下鉄との直通運転があり、福岡駅・福岡空港に直結しており、筑肥線の駅名には、日本語かなと思われるものもある。中央の図が、吉野ヶ里遺跡の復元図・右の2つが復元された吉野ヶ里遺跡で環濠集落になっている。そして、弥生時代の食事も結構グルメだ) 「博多⇔姪浜」間は福岡市営地下鉄だが、上の左から2番目の図の「姪浜⇔下山門⇔周船寺⇔波多江⇔筑前前原⇔加布里⇔筑前深江⇔唐津⇔伊万里」は、*5-1に記載されているJR九州のJR筑肥線で相互乗り入れをしている。そして、「乗降客が少ない」という理由で、JR筑肥線は、現在、単線・ディーゼルカー・15~60分に一本 である。 しかし、*5-2の①にあたる地域は、近畿ではなく(魏志倭人伝の方角を変更して、この倭国を近畿に誘致すべきではない)、九州北部のこの地域だということだ。②に、倭の北岸として帯方郡から倭に至る道筋に書かれている狗邪韓国は朝鮮半島にある釜山だ。 その後、③で始めて海を渡って対馬に至り、④でまた海を渡って壱岐に着く。そして、⑤でさらに海を渡って末盧国(唐津市、九州本土)に着いており、山と海すれすれに住んで魚やアワビを捕っていたのは呼子付近だろう。魏の使者はさらに進み、⑥の伊都国(現在の筑前前原付近)が帯方郡の使者が常に足を止める場所であり、その後、⑦の奴国(福岡市)に着いている。そして、ここまでの地理には誰も異論がなく、魏の使者は、筑肥線に沿って進んでいるのだ。 次に、⑧の不弥国(フミ国、現在の宇美町?)から水行二十日で、⑨の投馬國(投与國《豊国、大分県中津市or宇佐市》の書き違いではないかとも言われている)に着き、そこから水行十日陸行一月で、⑩邪馬壹國(女王が都とする所)と書かれているため、女王国は近畿にあるとする説が出ているが、急に近畿になるのは不自然だ。また、方角は正しく、距離の方が日数で示されて一定の基準があったわけではないため、邪馬台国は九州北部にあったと中国の学者が断言している。さらに、近畿説では、㉘の女王国の東に海を渡って千余里行く国が有って倭種だという記録とも合わないため、この海を渡って千余里というのが瀬戸内海のことだと考えられる。 また、⑫の女王国の南にある狗奴国(クナ国、クマ国《熊本県、熊襲》の聞き違いではないか?)は卑弥弓呼素という男子が王で、㊱のように、倭女王の卑弥呼と争っていた。そして、倭女王の卑弥呼は、㉜のように、魏に献上品を送って親魏倭王として金印を紫綬されている。その後、㉟のように、245年に倭の難升米に黄色い軍旗が与えられ、㊲のように、247年に卑弥呼は亡くなって大きな塚が作られたとのことだ。 その後に男王を立てたが国中が争ったので、十三歳の壱与(トヨ《豊、大分県》の書き違いではないかとも言われている)を立てて王と為し、国中が安定したそうだ。 詳しく書くと長くなるため結論だけ書くと、邪馬台国は現在の山門もしくは吉野ヶ里にあり、科学的な証拠を示した上で筑肥線を日本海側のリアス式海岸を走る列車(小田急線のように、急行や特急のロマンスカーがあってもよい)にすればよいと思う。この時、伊万里を含め、それより西の松浦市、平戸市行きなども相互乗り入れして、EVかFCV電車を直通運転させれば、どこも史跡に事欠かず、リアス式海岸がきれいで、魚の美味しい地域である。 ロ)縄文時代(約16,000年前~約3,000年前 )の遺跡 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 山内丸山遺跡(縄文時代の遺跡) 縄文時代の土器・土偶・埴輪 「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、*5-3のように、青森県など4道県が2021年の世界文化遺産登録をめざしているそうだ。青森市の三内丸山遺跡では、ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の調査員が、政府提出の推薦書の内容を確認し、調査した結果をもとにしたりして、2021年5月に4段階評価のいずれかを勧告し、この勧告をもとにユネスコの世界遺産委員会が登録の最終判断をするそうだ。 三内丸山遺跡は縄文人の生活に関してこれまでの常識を覆し、縄文人は意外にグルメな生活をいしていたのだそうで、世界文化遺産に登録されればまた新たな付加価値が加わる。 ・・参考資料・・ <政治に女性登用を増やすと、何が変わるか> *1-1-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1278848.html (琉球新報社説 2021年2月28日) 自治体人事に性差 女性登用へ組織改革を 男性は企画立案が得意、女性は家事や育児に適する―というような固定観念が人事配置に反映されているのか。本紙が男女共同参画について沖縄県と県内全11市に聞いたアンケートで、全自治体で総務や企画に関する部署に男性が多く配置される一方、福祉や医療などの部署には女性が多い傾向にあることが分かった(23日付)。財政や人事、総合計画などに関わり「行政の頭脳」とも称される総務や企画系部署は男性が67%を占める一方、介護や子育て、保健衛生などを扱う部署は女性が59%と半数を超えた。管理職で見ると、総務企画部署は女性比率がさらに低くなる。総務企画に所属する女性管理職はわずか12%だったが、福祉医療系は34%だった。行政の中で性別が人事配置の判断材料になっている証左ではないか。子育てや介護を含めた「妻・嫁」の役割と結びつけ、固定化されたジェンダーバイアス(性に基づく差別や偏見)で配置先を決められてしまうことが当たり前のこととして行われてきた。県内41市町村の管理職に占める女性の割合は14%で、全国平均の15%を下回る。うち7村は女性管理職ゼロだ。政府が目標として掲げる「指導的地位に占める女性比率30%」の半分にも届かない。公平な採用と人事配置が当然とされる行政機関でも、女性から見ると壁があることが分かる。そもそも採用面から不利な立場に置かれている。全自治体の職員に占める男女比率はおおむね6対4と女性が少ない。ただし非正規職員は男性が約24%なのに、女性は約76%に上る。配属も福祉医療系に偏り、昇進についても同様だ。男性にはさまざまなポジションへの門戸が開かれているが、女性は男性よりも限られた選択肢しか与えられていない。自治体職員からは、激務で残業の多いイメージの職場は子育て中の女性が希望しないなどの声が上がっているが、それでは、女性医師は出産などで離職するからと女子に不利な得点操作をしていた東京医科大の発想と変わらない。男女ともに長時間労働の解消が先決で、それを理由に女性を閉め出すことはあってはならない。男性は仕事、女性は男性を支えて家事や育児を担うという性別役割分担は長く強いられてきた。それは育児休業の取得率が女性はほぼ100%だったのに、石垣と名護、宮古島の3市は取得した男性職員が1人もいなかったことにも現れている。仕事第一で激務や残業を男性側に強いるということで、男性にとっても不公平な社会ではないか。ジェンダーバイアスによる人事配置は企業や大学を含め至るところにある。行政機関が率先して長年続く不公平な仕組みを認識し、組織の中核を担う部署や女性が少ない部署での女性の配属や登用を進め、組織構造を変えていかなければならない *1-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2J72SYP2JULOB00J.html (朝日新聞 2021年2月17日) 「ほんとに日本は変わらない」 林文子市長、森氏発言に 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長=辞任表明=による女性蔑視発言をめぐり、横浜市の林文子市長(74)は16日の記者会見で、行政や企業のトップに上り詰めた自らの人生を「『忍』の一字で生きてきた」と振り返り、「意思決定の現場に女性がいるのは大変重要。男性の意識改革が必要だ」と述べた。市長就任前にダイエー会長などの要職を務めた林氏は、自身が社会人になった1965年当時を「女性が意思決定することを誰も考えていなかった」と振り返ったうえで「ほんとに日本は変わらない。(女性の)中間管理職がある程度の仕事ができるところまでは来たが、ほんとに意思決定の、企業の役員レベルに(女性が)入れるかというと、いま立ち止まっている状態だ」と話した。また、「私は我慢してうまくいった例」とし、自らの課題として「言いたいことをガーンと言わない癖が付いてしまっている。バーンと言うべきですね」とも語った。組織委の新会長選びについては「(五輪までの)時間がない中で男尊女卑とかの言葉が飛び交って、重要なポスト(を誰が務めるか)が議論されているが、これはいいことかもしれない。みんなが、おかしいということに耳を傾けることが大事だ」と話した。 *1-1-3:https://www.asahi.com/special/thinkgender/?iref=kijiue_bnr (朝日新聞 2021年3月3日) 「女性が主婦業を追求した方が」日経、コラムを一部削除 日本経済新聞の電子版で2日に配信された外部筆者のコラムに「女性が主婦業を徹底して追求した方がいい」などとする記述があり、日本経済新聞社は「不適切な表現があった」として一部を削除した。 削除されたのは、IT企業「インターネットイニシアティブ」(IIJ)の鈴木幸一会長(74)がコラム「経営者ブログ」に「重要な仕事、『家事』を忘れている」と題して書いた文章の一部。鈴木氏は東京都が審議会の委員の女性の割合を4割以上にする方針を掲げたことについて、「変な話」とし、「男女を問わず、にわか知識で言葉をはさむような審議会の委員に指名されるより、女性が昔ながらの主婦業を徹底して追求したほうが、難しい仕事だし、人間としての価値も高いし、日本の将来にとっても、はるかに重要なことではないかと、そんなことを思う」などと記していた。「口にしようものなら、徹底批判されそうだ」とも書いた。この部分は2日午後に削除され、コラムの冒頭に「一部不適切な表現があり、筆者の承諾を得て当該部分を削除しました」と追記された。日経広報室は削除の経緯について、朝日新聞の取材に「筆者とのやりとりや編集判断に関する質問には答えられない」とコメントした。IIJ広報部によると、2日午後2時ごろに日経側から「SNSなどで批判的な意見が出ているので削除したい」と鈴木氏に連絡があり、受け入れたという。広報部の担当者は取材に「社としては、女性が長期的に活躍できる環境の整備に取り組んでいる」とした。日経電子版では「経営者ブログ」について、「著名な経営者が企業戦略や日常的な発想など幅広いテーマで本音を語り、リーダーの考え方や役割も学べるコラム」と紹介している。鈴木氏の「経営者ブログ」は日経電子版で10年以上にわたって続いている。一部が削除された回では、掃除や洗濯などの家事に追われていた母親の姿を回想するなかで、家事の大変さに触れていた。鈴木氏は2月16日に配信された同じコラムで、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長(83)が「女性がいる会議は長くなる」などと発言し、その後辞任したことについて、「『女性蔑視』と騒ぎ立てる話なのだろうか」「女性にとっては、聞き捨てならない話だと、大問題になったのだろう」と書いていた。 *1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP334Q0FP32ULFA016.html?iref=comtop_Business_03 (朝日新聞 2021年3月3日) 「日本は男性優遇」 女性75%、男性54% 電通調査 8日の国際女性デーを前に、電通総研が実施したジェンダーに関する意識調査で、男女の意識差が浮き彫りになった。社会全体が男女平等になっているかを尋ねたところ「男性の方が優遇されている」「どちらかというと優遇されている」と答えた女性は計75・0%に上ったのに対し、男性は54・1%だった。調査は、全国の18~79歳の3千人にインターネットで実施し、項目ごとに男女が平等になっているかなどを尋ねた。「社会全体」については「男性の方が優遇」「どちらかというと優遇」との回答が、男女あわせた全体で64・6%だった。「慣習・しきたり」では64・4%、「職場」では59・6%だった。「男性の方が優遇」「どちらかというと優遇」と答えた人の割合は、男女の間で差が目立った。「法律・制度」については女性では60・6%に上ったのに対し、男性では32・7%。「職場」については女性70・2%に対し男性48・8%、「家庭」は女性44・0%に対し男性22・7%だった。いずれも20ポイント以上の差が開いた。自由回答の欄では「婚姻に関わる制度が平等でない」「夫婦別姓が認められていない」といった意見があった。調査にあたった電通総研の中川紗佑里氏は「自由回答で、女性は不利な思いをしたことを書く例が多かった。性別によって経験に差があり、男性と女性で見えている景色に違いがあるようだ」と話した。政府の男女共同参画基本計画では「指導的地位にある女性」の割合を、2020年代の可能な限り早い時期に30%程度とする目標を掲げている。企業の管理職の女性比率が30%になる時期を尋ねると、平均で「24・7年後」だった。女性首相の誕生は平均で「27・9年後」、国会議員の女性比率が50%となるのは「33・5年後」だった。 *1-2-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=730999&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2021/3/1) 入管法の改正案 難民認定の見直しこそ 政府は、入管難民法の改正案を閣議決定した。国外退去処分となった外国人の入管施設への収容が長期化している問題の解消を図るのが狙いという。退去命令を拒む人への罰則規定を設けるなど、在留資格がない人の速やかな送還に主眼を置く内容となっている。不法滞在が発覚した人の大半は自らの意思で帰国している。一方で長期収容者の多くは帰国を拒んでいる。帰国すれば身に危険が及ぶ恐れがあったり日本に家族がいたりするためだ。もちろん国外退去処分となった外国人には速やかに出国してもらうのは当然である。しかし何年も収容されながら帰国を拒み続けている人に、厳罰化の効果があるかどうかは疑問だ。長期化する収容の背景にあるさまざまな事情に目を向けなければ、問題の解決にはつながるまい。人権上の観点から収容・送還制度を見つめ直し、慎重に国会審議を行う必要がある。不法残留して摘発された外国人は、送還されるまで原則として入管施設に収容される。2019年末の収容者は942人に上った。このうち462人は収容期間が6カ月以上に及び、3年以上の人も63人いた。長期収容が常態化する中、ハンガーストライキで抗議する外国人が相次いでいる。2年前には長崎県の施設でナイジェリア人男性が餓死した。これをきっかけに出入国在留管理庁が有識者会議を設け、法改正に向けて検討を進めてきた。改正案でとりわけ懸念されるのは、難民認定申請の回数制限だ。政府は、認定申請中は母国に送還しないとする現行法の定めに基づき、申請を繰り返す人が多いとみている。送還逃れを目的にした申請の乱用が収容の長期化を招いているとし、3回目以降の申請で原則送還できるようにする。自ら早期に帰国すれば、再来日できるまでの期間を短縮して優遇するという。だが日本は諸外国に比べて難民の認定率が極端に低い。19年には1万375人が申請したが、44人しか認められなかった。何度も申請してようやく認定されるケースも少なくない。本来は保護されるべき人が強制送還され、本国で弾圧を受ける恐れもある。日本が加わる難民条約にも反し、看過できない。難民認定制度の見直しこそ必要ではないか。収容の在り方にも大きな問題がある。国連の委員会などは、収容の必要性が入管の裁量で決められ、無期限の収容が可能になっていることを問題視し、繰り返し指摘している。改正案では、現行の「仮放免」に加え、一時的に施設外での社会生活を認める「監理措置」が新設される。支援者らが「監理人」として状況を報告する義務を負い、就労したり逃げたりすれば罰せられる。しかし外部のチェックが一切ないまま、入管の裁量権がブラックボックス化している根本的な問題は何も変わっていない。政府の改正案に先立ち、野党も対案を国会に提出している。難民認定のための独立機関を置き、収容は裁判官が判断することなどを盛り込んでいる。一定の透明性や人権への配慮などは評価できる。政府案の問題点を修正するためにも、積極的に取り入れるべきだ。 *1-2-2:https://toyokeizai.net/articles/-/414397 (東洋経済 2021/3/2) 日本も無視できず「EUでワクチン遅延」の大問題、域内生産しているにもかかわらず接種率が低い 河野太郎規制改革担当相によれば、日本の最新の新型コロナウイルスのワクチン入手に関して、アメリカの製薬大手ファイザー製のワクチンが今年6月末までに高齢者全員が2回打てる分量を各自治体に供給できるとしている。ただし、欧州連合(EU)の承認次第だと付け加えた。6月末とは東京五輪・パラリンピックを控えた国とは到底思えない遅さだ。世界的に見て感染者数や死者数が少ないとはいえ、五輪開催への日本政府の本気度が海外からはまったく見えない。一方、日本のワクチン確保のカギを握るEUも、ワクチン接種は進んでおらず、批判の声が上がっている。 ●ファイザー製ワクチンの供給に遅れ EUは2020年6月にコロナ対策の新制度を設立。加盟国に代わり、EUがワクチン購入の交渉をすることになった。これは交渉コスト削減と加盟国間の争奪戦を回避するためだった。加盟国はこの制度に参加する義務はないものの、全27加盟国が参加することを選択した。EUはファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンやアメリカのモデルナ製ワクチン、イギリスのアストラゼネカ製ワクチンをそれぞれ契約している。ところが、ファイザー・ビオンテック製ワクチンについては、ファイザーがベルギー工場の能力を増強する間、配送が一時的に減少し、契約どおりの供給ができなくなった。さらにファイザーは契約順に供給するとして、契約が遅れたEUは後回しにされた。EUは契約違反と批判したが、ファイザー側は、納期は努力目標にすぎないと反発し、いまだに両者はかみ合っていない。フランスのサノフィがファイザー・ビオンテック製ワクチンの製造支援に手を挙げたものの、製造態勢を整えるのに夏までかかるという見通しを明らかにしている。ファイザー・ビオンテック製だけではなく、モデルナ製ワクチンにも供給に問題が発生し、フランスとイタリアでは予想を下回る供給しか受けられていない。加えて、英アストラゼネカ製ワクチンもベルギーとオランダの工場での生産が遅れており、供給は不足状態だ。実は、今年1月にEUを離脱したイギリスは、EU域内で製造しているアストラゼネカ製ワクチンを最優先に入手している。EUはおひざ元で製造されるワクチンが注文通りに供給されないことにいらだち、EU製造ワクチンをEUの承認なしに域外に持ち出せない輸出規制をかけた。例えば、日本国内にワクチンの製造工場があるにもかかわらず、そのワクチンが韓国や台湾、東南アジアに優先的に供給されれば、日本国民は不快感を持つだろう。EUの規制は当然ともいえる。ところが、この輸出規制は思わぬところでイギリスとの摩擦を生んだ。イギリス領北アイルランドとアイルランドの国境に定められたアイルランド議定書に抵触したのだ。アイルランドと国境を接するイギリス領アイルランドは、ブレグジット後も物流でEUのルールに従うことで国境検問の復活を回避している。ワクチンの輸出規制で検査が必要になれば、国境検問復活につながるとしてイギリス政府は猛反発した。 ●EU域外への輸出差し止めの懸念も EUは2月25日の首脳会議で新型コロナの問題を集中協議し、製薬会社からのワクチン供給が契約より大幅に削減されている問題について、「企業はワクチン生産の予測可能性を確保し、契約上の納期を守らなければならない」とあらためて訴え、安定供給するよう企業側に圧力をかけた。さらにフォンデアライエン欧州委員長は「必要なワクチンを確保するためにEU製ワクチンの域外輸出を禁止する措置は取らないことにしたが、EUとの契約に背くような域外流出の監視を続ける」と説明した。つまり、ファイザー・ビオンテック製やアストラゼネカ製のワクチンがEUの署名した契約の量を満たしていない現状を考えれば、実質的には製薬会社の輸出差し止めを警告できるという理屈になる。EUを離脱したイギリスにとっては不満だ。これは日本も無視できない。冒頭の河野規制改革担当相の「ワクチン輸入はEU次第」という発言を踏まえると、日本にも調達の不確実性があることを示している。そうなると今度は交渉力が物をいうことになり、製薬会社とEU双方に日本政府がどれだけ交渉できるかに供給は左右される。ここで浮かび上がるのが、ワクチン接種にスピード感のあるイギリスと遅れるEUとのギャップだ。イギリスがファイザー・ビオンテック製ワクチンを承認したのは11月で、ワクチンの安全性を確認するEUの欧州医薬品庁(EMA)が承認した3週間前だった。アストラゼネカ製に関しても、イギリスでは昨年12月30日に1週間で承認したが、EUの承認はその1か月後の1月末だった。ワクチン獲得スピードの遅延で、ドイツのビルト紙は、メルケル独政権に対して「予防接種のカタツムリ」とノロノロぶりを揶揄している。 ●EUの官僚主義に原因 EUのワクチン接種の遅延には、ワクチン承認の厳格さと煩雑な承認プロセスが大きく影響していることは否定できない。ただ、イギリスのワクチン専門家は、EMAのアストラゼネカワクチンの承認基準は、イギリスの基準と変わらないことを明かし、単にEUの官僚主義による承認の事務的遅れが影響していると指摘している。また接種の実施に関しても、EUは事情の異なる27カ国間の調整に手間取っている。これもやはりEUの強烈な官僚主義が原因の1つだ。それを嫌って離脱したイギリスの接種が、圧倒的なスピードで進んでいるのは当然ともいえる一方、EUは激しい争奪戦の敗者となりかねない。イギリスは、ワクチンを少なくとも1回接種した人の人口に占める割合は2月26日時点で29%とイスラエルに次ぐ世界2位だ。イギリスに住む筆者の友人家庭は、同居中の30歳の息子を含め、全員が1回目の接種を済ませ、2回目ももうすぐだと言う。それに対して、EUでは最も接種人数が多いデンマークで7.1%、ドイツ4.6%、フランス4.3%と圧倒的に低い。EUによるワクチン供給の遅れに業を煮やし、独自に調達を始めた加盟国もある。日頃から独裁統治と独自路線でEUから批判されるオルバーン・ヴィクトル首相率いるハンガリーは、中国の製薬会社シノファームが開発した新型コロナウイルスワクチンを2月16日に入手し、接種を始めた。というのも、加盟国はEUが合意していないワクチンメーカーとの個別交渉が許可されている。ハンガリーはロシアのスプートニクVワクチンの購入にも同意している。スペインもロシア製ワクチンを拒まないとしている。 ●ワクチンに対する不信感も 接種遅延には、ワクチンへの不信感の広がりもある。例えば、今年1月、EUの医療規制当局は、すべての年齢層にアストラゼネカワクチンを使用することを承認した。それにもかかわらず、フランス、ドイツ、イタリアを含む多くのEU諸国の規制当局が、65歳以上の人々に使用すべきではないと勧告したことで、ワクチンへの不信感が高まった。フランスのマクロン大統領は、アストラゼネカ製ワクチンは高齢者には効果がないと発言。アストラゼネカ社は「なんの科学的根拠もない発言」と強く批判し、発言は撤回されたものの、一度広まった噂は今も影響を与えている。イギリスではワクチンに関する情報開示を随時行い、透明性を高めるだけでなく、不必要なネガティブ情報を流さないようメディアが気を付けている。一方、EUのメディアは科学的根拠のないネガティブ情報も流す。EUの官僚主義を一朝一夕に変えることは難しい。とはいえ、今回の新型コロナのような、人の生命がかかっているときのリスク対応という点では、大きな足かせとなっている。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR02EHO0S1A200C2000000/ (日経新聞 2021年2月3日) ロシア製ワクチンに91%の効果確認、英誌論文 英医学誌ランセットは2日、ロシアで開発された新型コロナウイルスのワクチン「スプートニクV」について臨床試験(治験)の最終段階で91.6%の効果が確認されたとする論文を発表した。ロシアは疑問視する意見があがっていたワクチンの安全性を強調し、外国への供給拡大を目指す。スプートニクVはロシアが2020年8月に承認し、世界初のコロナワクチンだと主張した。治験の完了を待たずに承認して接種を始めたため、安全性が懸念されていた。米欧製のワクチンに続いて主要な医学誌で最終段階の治験での効果が指摘されたことで、期待が高まる可能性がある。論文では20年9~11月に治験に参加した約2万人についてワクチン投与後の発症数などを調べた。ワクチンが原因とみられる重大な副作用は報告されず、60歳以上でも有効性は変わらなかった。発症した場合も重症化はしなかったという。ロシアはスプートニクVで「ワクチン外交」の攻勢を強めている。海外供給を担うロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は2日、スプートニクVを承認した国がロシアを含めて16カ国にのぼり「来週末までに約25カ国になる」と述べた。ドミトリエフ氏はスプートニクVが変異ウイルスにも効果があると主張した。欧州連合(EU)で医薬品を審査する欧州医薬品庁(EMA)への承認申請も進める。ランセットでは20年9月にもスプートニクVの初期段階の治験で抗体をつくる効果を確認したとの論文が発表された。欧米の複数の科学者から検証が不十分だとの指摘があがっていた。 <科学の遅れは、何故起こる?> *2-1-1:https://kahoku.news/articles/20210306khn000042.html (河北新報社説 2021年3月7日) 東日本大震災10年/危機回避の鍵は分散にあり かつて東日本大震災の被害に関し「まだ東北で良かった」と発言し、引責辞任した復興相がいた。弁解の余地などない失言ではあるが、発言の後段はこう続く。「もっと首都圏に近かったりすると莫大(ばくだい)な、甚大な被害があったと思っている」。人口密集地帯が大地震に見舞われた場合に増大する危険性を指摘した。事は人命。東北と首都圏の単純な比較は非難に値するが、危機管理意識としては見逃せない視点を提供している。首都直下地震や南海トラフ巨大地震の襲来が確実視されている。新型コロナウイルスの新規感染者数は、可住地人口密度にほぼ比例することが知られている。大災害やウイルスのパンデミック(世界的大流行)に、一極集中が致命的な弱点を抱えていることが明白なのに、わが国の国土政策は旧態依然のままだ。地方分権とセットで国土構造を分散型に転換しなければならない。首都機能移転論議が熱を帯びていた1990年代、「財界のご意見番」といわれた故諸井虔さんは「防災第一」を理由に小規模な首都機能移転を提唱。最高裁判所の移転先候補地として、仙台市を例示した。阪神大震災(95年)があり新都建設の機運が盛り上がったが、景気低迷などもあり移転論は急速にしぼんだ。関東から近畿に至る大都市圏には国内GDPの7割を超える生産機能が集中している。とりわけ首都東京には国会、中央省庁、本社、大学などが軒先を並べ、有事の際に中枢機能が失われる危険性は何度も指摘されてきた。にもかかわらず、中央省庁の地方移転は文化庁の京都移転にとどまっている。90年代の首都移転論議では政官業の癒着を物理的に断ち切ることもサブテーマの一つだったが、総務省の高級官僚が霞が関周辺で利害関係者の放送関連会社から夜な夜な高額接待を受けていた不祥事が明るみに出た。一極集中は密談の培地でもある。一方で、パソナグループが東京の本社から経営企画や人事、財務などの機能を兵庫県淡路島に段階的に移すなど、事業継続計画(BCP)の観点から本社機能の分散を目指す動きが加速している。リモートワークの普及や働き方改革の必要性から、民間ベースでの「地方創生」は避けて通れない経営課題になっている。新型コロナウイルスのワクチン接種を巡っても、国の迷走を尻目に東京・練馬区や三重県桑名市などが独自の「モデル」を提示し地方自治体の力量を示している。新型ウイルスの感染拡大からわれわれが学んだのは過密のリスクだったはずだ。社会的距離の確保を国土政策に落とし込めば、出てくる解は「分散」「分権」になる。大地震と疫病の教訓から学び、行動を起こすための時間はさほど残されていない。 *2-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639144 (佐賀新聞 2021/3/1) 震災移転跡地27%用途決まらず、細かく点在、一体利用困難 東日本大震災後、岩手、宮城、福島3県の市町村が高台などに集団移転する住民から買い取った跡地のうち、少なくとも27%に当たる計568ヘクタールの用途が決まっていないことが1日、共同通信のアンケートで分かった。買い取った土地が点在して一体的利用が難しいのが要因。自治体は空き地管理の維持費支出を余儀なくされている。専門家は、災害に備え事前に土地の利用方法を検討するよう呼び掛ける。昨年12月~今年2月、土地を買い取り、津波で被災した地域の住民らに移転を促す国の防災集団移転促進事業を実施した26市町村に尋ねた。計約2131ヘクタールが買い取られていた。利用状況の集計結果がない宮城県山元町を除き、用途未定地が最も広いのは60ヘクタール程度と回答した宮城県石巻市。55ヘクタールの福島県南相馬市は維持管理に年約1千万円を要しているという。約10ヘクタールを買い取った同県いわき市は78%が未定で、率としては最大だった。岩手県では6市町それぞれで3~4割超が未定のままだ。宮城県名取市など大半の自治体が「跡地が点在し、一体的利用が難しいこと」を理由に挙げた。同事業で買い取りできるのは主に宅地。企業の所有地などは対象外で、まとまった土地の確保がしづらい。岩手県大船渡市は地権者と協力し、民間の所有地と隣接する跡地を一体化して大規模化、事業者を募る取り組みを2017年度に始めた。岩手県釜石市や宮城県岩沼市は民有地と跡地の交換による土地集約化を検討。釜石市の担当者は「民有地を買収する方法もあるが、明確な利用計画がないと難しい」と吐露する。東北大大学院の増田聡教授(地域計画)は「危険な区域からの移転を第一にした制度なので、跡地利用のことは考えられておらず、このような問題に陥りやすい」と指摘。「南海トラフ巨大地震のような災害が予想される地域では、被災後の土地利用法を事前に検討しておくことも一つのやり方だ」と話す。 *2-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210309&ng=DGKKZO69788760Z00C21A3EA1000 (日経新聞 2021.3.9) 〈3.11から10年〉半世紀先を見据え廃炉の道筋描け 東京電力福島第1原子力発電所で爆発が起き、原子炉建屋の上半分が吹き飛ぶ。日本科学未来館で開催中の「震災と未来」展の記録映像からは、すさまじい地震と事故の記憶がよみがえる。炉心溶融(メルトダウン)で大量の放射性物質を出した原発を解体し、溶け落ちた燃料デブリを安全に取り出して管理する。除染を徹底する。一連の廃炉作業がいかに困難かは容易に想像がつく。 ●やむを得ぬ計画の遅れ 政府と東電は事故から30~40年で廃炉を終える目標を定め、今も毎日4000人前後が作業にあたる。事故直後、防護服に身を包み密閉度の高いマスクを着けないと立ち入れなかった敷地内は、大部分普段着で歩けるようになった。だが、計画は遅れ気味だ。3号機の建屋上部のプール内にあった使用済み燃料取り出しは4年半遅れて始まり、今年2月に終えた。最難関とされるデブリの取り出しは当初計画より1年程度遅く、2022年内に開始の予定だ。原子炉内の状態は今なお、わからないことが多い。スケジュールありきではなく安全第一に、段階的かつ柔軟に作業を進めるのは現実的だ。遅れはやむを得ない。ただ、頻発する機器の不具合や管理の不徹底は、大事に至っていなくても見過ごせない。3号機の地震計が故障したまま放置され、今年2月の強い地震の揺れを測れなかったのは反省を要する。今後、作業の大きな障害となる可能性があるのが、流入する地下水などから大半の放射性物質を除去した後の処理水の扱いだ。放射性トリチウムが残っているため、すべてタンクに保管している。その総数は1000基を超え、このままでは22年夏~秋には増設余地がなくなる。デブリ取り出し用の機材やデブリを保管する場所を確保できなくなるからだ。トリチウムは正常な原発からも出ており、基準濃度まで薄めて海などに放出している。経済産業省の委員会は20年2月、処理水の海洋放出が他の方法に比べ「より確実」とする報告書をまとめた。だが、水産業を営む人たちの反対は根強い。処理水はもともとデブリに触れた水で、他の原発とは違うと受け止めている。海洋放出が始まれば風評被害で再び打撃を受け、10年間の再建努力が水泡に帰すとの懸念はもっともだ。それでも、処理を先送りし続けるわけにはいかない。政府と東電は一体となって地元と向き合い、不安の払拭に全力をあげるべきだ。相応の補償措置も必要だ。時間はかかっても、信頼関係なしに問題解決はない。国内外の消費者に対しても水産物の検査数値などを示し、安全性について理解を得なければならない。「廃炉完了」がどんな状態を指すのかについても、そろそろ議論を始めるときだ。最終的に安全できれいな更地になれば理想的だ。一部除染しきれず、立ち入り禁止区域を残す道なども考えられる。政府も東電もデブリに関するデータや情報の不足などを理由に、検討は時期尚早だという。しかし、考え得るシナリオから遡り、集めるべきデータをはっきりさせる進め方もあろう。 ●最終状態の議論開始を 最終状態のあり方は避難した人たちの帰還判断にかかわり、復興計画に影響する。あらゆる可能性を排除せず、避難者も含めて率直かつ継続的に議論することが不可欠だ。福島第1の廃炉は単なる後片付けに終わらせず、半世紀先を見据えて世界有数の廃炉技術拠点として生かす発想が必要だ。世界では約500基の原発が稼働または建設中だ。万が一の事故や廃炉の際、福島の経験は役立つ。日本原子力研究開発機構は福島県内に、遠隔操作技術の開発やデブリの分析用の先端機器を備えた施設をつくった。これから魂を入れていかねばならない。新型コロナウイルス感染症のためすぐには難しいが、海外の研究者らが長期滞在し活発に国内の研究者と交流できるのが望ましい。廃炉の解析データは世界からアクセスできるようにすべきだ。政府の福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想とも連動させたい。復興推進会議が決めた、省庁の縦割りを排した分野横断的な国際教育研究拠点の計画は検討に値する。若い世代が輝ける環境を整えてほしい。 *2-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14827738.html (朝日新聞 2021年3月10日) 原発汚染水、先送り続く 政府、復興方針で時期示さず 東日本大震災から10年を前に、政府は9日、2021年度以降の復興の基本方針を改定し、閣議決定した。懸案となっている東京電力福島第一原発の処理済み汚染水の処分方法については「適切なタイミングで結論を出す」などと記すにとどまった。漁業者らとの調整が進まず、決定の先送りを続けている状態だ。改定は19年12月以来。21年度以降の5年間を「第2期復興・創生期間」と位置づけ、福島の復興・再生には「引き続き国が前面に立って取り組む」とした。住民が戻らない地域に移住を促す対策などを進める。一方、処理済み汚染水の対応は「先送りできない課題」としながらも、「風評対策も含め、適切なタイミングで結論を出していく」としただけで、具体的な決定の時期は示せなかった。汚染水問題では昨年2月、専門家による経済産業省の小委員会が、放出基準以下に薄めて海洋放出する方法を有力と提言していた。これを受け、福島県大熊、双葉両町は、処分方針の「早期決定」を政府に要望。菅義偉首相も昨年9月に「できるだけ早く処分方針を決めたい」と明言していた。だがその後、海洋放出に反対する全国の漁協などとの交渉が難航している。 *2-1-5:https://www.toyal.co.jp/whatsnews/2019/06/post.html (東洋アルミ 2019.6.3) 「アルミニウム粉末焼結多孔質フィルターによるトリチウム水の回収技術」の 日本アルミニウム協会賞技術賞受賞のお知らせ 当社および近畿大学が共同研究したアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターによる放射性物質を含んだ汚染水から放射性物質の一つであるトリチウムを含むトリチウム水を回収する技術が『2018年度日本アルミニウム協会賞技術賞』を受賞しました。 【背景】 東京電力福島第1原子力発電所では地下水の流入により放射性元素を含んだ汚染水が発生し続けておりますが、汚染水中に含まれるトリチウムは除去が困難であるため、保管する貯蔵タンクを増設し、広大な保管場所を確保する必要があります。このため、汚染水問題解決のために実用的なトリチウム除染技術の開発が望まれています。 【技術の概要】 従来は、水の電気分解や高温高圧が必要でしたが、60℃・低真空での分離を実現しました。 【展望】 現在も発生し続けている汚染水からトリチウムを除去できれば、処理後の汚染水の海洋放出も可能となり、汚染水を保管するタンクを減らすことができるため、タンクの設置・維持管理コストを削減でき、廃炉作業に必要なスペースを確保できることが期待されます。授賞式は5月29日に行われ、受賞者として当社の先端技術本部から藤本和也研究員が出席し、「我々の取り組みを評価いただき、光栄に思います。」と受賞の喜びを語りました。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210307&ng=DGKKZO69747560X00C21A3EA2000 (日経新聞 2021.3.7) コロナ医療の病巣(5) ワクチン行政、時代錯誤の罪 内向き志向、革新を阻む 日本での新型コロナウイルスのワクチン接種は世界に大きく出遅れた。科学技術立国をうたいながら国内で実用化のメドも立っていない。時代錯誤なワクチン行政に根深い病巣がある。国内でワクチンを流通させるには「国家検定」という関門をくぐりぬけなければならない。国立感染症研究所による抜き取り検査で、品質が保たれているかどうかを出荷ごとにチェックする。製品によっては2カ月ほどかかる。日本製薬工業協会は昨年9月、ワクチンの早期実現に向け提言書を公表した。世界を見渡せば、国が威信をかけ前例のないスピードで開発競争が進む折だった。承認審査の迅速化や包装表示の簡略化に加え、焦点だった国家検定も書面審査で済むよう求めた。パンデミック(世界的大流行)という一刻を争う際に、有事向けの「ワクチンルール」が示されていなかった日本。製薬会社が多額の投資を要する開発に二の足を踏むのも無理はない。 ●担当は「結核課」 日本の感染症対策、ならびにワクチン行政は、戦後の一時期、死因トップだった結核という国民病を克服した成功体験から抜け切れていない。厚生労働省の担当窓口が今も「結核感染症課」を名のっているのもそのあらわれ。要は下水道整備など公衆衛生向上の一手段として予防接種を位置づけてきた。しかし、ワクチンを巡る世界の潮流はこの10年余で変わった。バイオ技術の進展とともに肺炎やがんを予防する製品も普及。従来型の子供向けの予防接種だけでなく、成人になってからの重い病気を防ぐことで、結果的に医療費を抑制する効果も見込めるようになってきた。子宮頸(けい)がん向けはその代表例だが、国内では安全上の問題を解消しようとしない行政の不作為で、事実上、接種は7年間も止まったままだ。新しい感染症向けのワクチンは開発に10年かかるといわれるが、新型コロナワクチンは感染拡大から1年足らずで実現した。わずか3カ月の間に世界の累計接種回数は2億6千万回を超えた。ワクチンは今や国の安全保障上でも欠かせぬ切り札である。「ワクチン外交」という言葉が飛び交い、確保と接種の進み具合が世界経済の行方を占う。投資家の大きな関心事にもなっている。時代にあったワクチン行政と改革の必要性を求める声は日本にもあった。政府内にもその認識はあり、2016年10月には、当時の塩崎恭久厚労相に対し「タスクフォース顧問からの提言」も出された。特定の製薬会社が国の主導下で生産する「護送船団方式」から抜けだす。中長期を見据えた国家戦略のもと、ワクチン産業を強化していく。さもないと世界の趨勢に取り残され、安定供給もこころもとない。まさに今の危機を予言する内容だが、政策に魂を入れることはなかった。 ●前例踏襲の限界 霞が関の官僚組織には「無謬(むびゅう)性の原則」がある。政策を遂行する際、失敗を前提にした議論が行われないというものだ。リスクをとらなくなり、建設的な政策立案が遠のく。コロナではその副作用が露呈した。流行拡大当初に大きな問題となったPCR検査体制もそうなのだが、要は、ワクチン行政では、医療という枠組みのなかで安全性が金科玉条となり、リスクを避けながら失敗を認めない姿勢を貫こうとする。正解のないコロナとの闘いに前例踏襲主義は通じない。このパンデミックはいつか必ず終息する。が、グローバル社会で新たな感染症の脅威はまたやってくる。確率は万が一でも、起きてしまえば国家的な危機を招く「テールリスク」にこの国が向き合うには、ワクチン行政を厚労省から切り離すぐらいの劇薬が必要だ。この1年、後手に回ることの多かった日本のコロナ対策から得られた教訓といえる。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20210307&be=NDSKDBDGKKZO6878523003022021TCS000%5CDM1&bf=0&c=DM1&d=0&n_cid=SPTMG002&nbm=DGKKZO69747560X00C21A3EA2000&ng=DGKKZO68785230T00C21A2TCS000&ue=DEA2000 (日経新聞 2021/2/4) 欠かせぬ国防の視点 塩野義製薬社長 手代木功氏 米ファイザーや米モデルナのワクチンは人類が活用できなかった新技術を使っており、治験期間が半年、申請後2週間~1カ月で承認にこぎ着けた。このスピード感は製薬企業の安全性確認の常識からいえば、まだ怖いというのが本音だ。この1年、世界は大混乱に陥った。進行形で起きている難題を何とかしなければならない。ワクチン接種はとにかく「やってみよう」という段階なのだと思う。50カ国以上でワクチン接種が実施されている。日本はまだかという指摘もあるが、リスクとベネフィットとを見極めながら進めるとなれば、日本の感染状況、保健体制などを総合的にみると、そんなにおかしなことになっていない。平時と戦時の違いだとしても、何を重要と考えるかだ。例えば、ワクチン接種で因果関係のある死者が出たとしよう。99.9%の人を助けるために、1人の犠牲は仕方ない。緊急時のワクチンだからそういうこともありうるよ、といえば日本の社会は許すだろうか。10年に1度、いや100年に1度かもしれないが、パンデミック(世界的大流行)が起きたら世界が翻弄されるということをわれわれは実感したはずだ。ならば発生に備え、すみやかに対応できるような平時からの積み上げをやろうよ、というコンセンサスが要る。国家安全保障の観点からの新たな社会契約を築けるかが、今回のパンデミックで日本が問われていることだ。国はコロナのワクチンを来年も再来年も年7000億円かけて海外から買い続けるのか、と言いたい。塩野義は昨年12月に臨床試験を始めた。国から約400億円の援助を受け、リスクをとって今年末までに3000万人分を目標に工場を整備し、並行してワクチン開発を進めている。さらに1億人分まで能力をあげる。ヒトとカネとについて国レベルでコミットしてもらわないと難しい。ワクチン対策費はまさに国防費の一部。備蓄や民業とのアライアンス、国際協力も必要になる。アジアで一定の存在感を示すためにもワクチンを供給される側でなく供給する側にならないといけない。 *2-2-3:https://www.sankei.com/west/news/210217/wst2102170022-n1.html (産経新聞 2021.2.17) 「周回遅れ」国産ワクチンの実用化が急務 政府は支援を強化 新型コロナウイルスのワクチン接種が17日から始まった。この日接種されたのは米ファイザー製。国はこの後も英アストラゼネカ製など海外産ワクチンの調達を進めており、国産ワクチンの開発遅れが指摘されている。同日開かれた衆院予算委員会でも国産ワクチンに関して質問が相次ぎ、菅義偉首相は国内生産に向けて関連産業を支援する方針を示した。国際的なワクチン争奪戦も想定される中で、国産ワクチンの実用化が急がれている。 ●既存の技術を活用 大阪市内にある治験を専門的に行う病院で、塩野義製薬(同市中央区)が開発中のワクチンの治験が行われている。214人の参加者に3週間の間隔をあけて2回投与し、安全性や、抗体ができるかどうかなどを確認中で、データは今月下旬から集まる予定だ。開発中のワクチンは「組み換えタンパクワクチン」と呼ばれるタイプで、すでにインフルエンザワクチンとしても実用化されている技術を活用。木山竜一医薬研究本部長は「副反応や安全性のデータなどについて、医療関係者もある程度把握できる利点がある」と強調する。同社は年内にも3千万人分のワクチン製造ができる生産体制の構築を進めており、「国産ワクチンの技術を確立すれば、変異種や他の感染症の発生にも対応できる」と話す。世界保健機関(WHO)のデータによると、世界で60種以上の治験が進んでおり、中でも最終段階である第3相試験に入っているワクチンは15種以上になる。「日本の開発は周回遅れ」という指摘もある。国内企業で最も進んでいるのがアンジェス(大阪府茨木市)で第2/3相試験、次に第1/2相の塩野義が続く。第一三共とKMバイオロジクス(熊本市)は、今年3月にようやく治験を始める状況だからだ。ただ、大阪健康安全基盤研究所の奥野良信理事長は「実用化の時期に遅れがあったとしても国内企業は着実に開発を進めるべきだ。国内で安定供給される多様なタイプのワクチンの中から国民が接種を選択できるのがベスト」と話す。国内では今、組み換えタンパクワクチンや不活化ワクチン、さらにメッセンジャーRNA(mRNA)、遺伝子を使った先駆的ワクチンといった複数タイプの開発が進む。第一三共も「メード・イン・ジャパンのワクチン品質は必要だと考えている」(広報)とする。 ●慎重な国民性も影響 国内のワクチン産業は長く「世界の潮流から取り残されている」と指摘されてきた。日本はこれまでSARS(重症急性呼吸器症候群)などの脅威にさらされなかったことから、国による長期的なワクチン政策や経済的支援が示されず、製薬企業も開発に時間がかかり、副反応のリスクも高いワクチン事業に力を入れてこなかったためだ。加えて安全性に対する慎重な国民性もあり、平成元年ごろから十数年間、新しいワクチンの承認が世界に比べて停滞する「ワクチン・ギャップ」も起きた。一方、現在、新型コロナワクチンとして世界で接種が進むファイザー製やアストラゼネカ製は、それぞれmRNAや、チンパンジー由来の「アデノウイルス」を活用した先駆的なワクチン技術としても注目されている。北里大の中山哲夫特任教授は「世界ではSARSなどの経験から新技術の研究を続けた国や企業があった。その延長線上に革新的なコロナワクチンの実用化がある」と指摘する。しかし、かつて日本でもワクチン研究が活発に行われていた。今も世界中で使われている水痘ワクチンは日本発だ。中山特任教授は「ワクチン研究が途絶えたわけではない。日本から新しいワクチンが出る可能性はまだある」と期待する。 ●最終治験が課題、海外での実施も 国産ワクチンの今後の課題は、治験の最終段階である第3相試験だ。数万人の参加が必要な場合もあるこの治験では、副反応の発生頻度や、発症や重症化がどのくらい抑えられるのかを確かめるため、発症者が一定程度いる流行地域で行う必要がある。しかし、日本は海外に比べて発症者が少ないため、日本だけでなく海外の流行地域での治験も想定されている。 *2-2-4:https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/20210311-OYT1T50258/ (読売新聞 2021/3/11) IOC、五輪・パラ参加者のため中国製ワクチン購入へ…バッハ会長が表明 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は11日、オンライン形式での総会で、東京五輪・パラリンピックと2022年北京冬季五輪・パラリンピックの参加者のため、新型コロナウイルスの中国製ワクチンをIOCが購入すると発表した。中国五輪委員会が提供を申し出たという。ワクチンの数量や金額は明かさなかった。東京五輪調整委員長のジョン・コーツ氏は、海外からの観客受け入れの可否について、「日本政府がどのような決定をしても、それを支持する」と述べた。海外客を受け入れない場合に備え、大会組織委員会とチケット代の返金などの検討を進めていることも明らかにした。バッハ氏は10日、会長選で再選された後の記者会見で、東京大会の観客数の上限については決定を出来るだけ遅らせたい意向も示した。コロナの感染状況が改善されることを期待し、「可能なら5、6月まで、状況の変化に対応できる余地を残しておく必要がある」と述べた。バッハ氏だけが立候補した会長選は、IOC委員による投票が行われ、有効票94のうち、賛成93票、反対1票でバッハ氏が選ばれた。2期目の任期は東京五輪の閉会後から4年間。再選は1度のみ認められている。1期目の任期は8年間で、バッハ氏は五輪での既存・仮設施設の活用や男女平等の推進、難民選手団の参加など様々な改革に取り組んだ。 <観光の高度化:医療ツーリズム> *3-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1281173.html (琉球新報 2021年3月4日) コロナ起源巡り新たな手掛かり、ヒトへの感染でカギに【2021年3月2日WSJより】 世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの起源に関する全容解明を目指す中、ウイルスが自然な進化を通じてヒトへの感染力を獲得したことを示唆する新たな手掛かりが浮上してきた。直近の少なくとも4つの研究から、東南アジアや日本に生息するコウモリやセンザンコウが持つウイルス株と、今回の新型コロナに密接な関係があることが判明した。これは病原体が従来の想定よりも広範囲に広がっており、ウイルスが進化する機会が豊富にあったことを示している。別の研究では、ウイルスの重要な構成要素である単一アミノ酸が変化することにより、ヒトへの感染を可能にする、もしくは少なくとも手助けするとみられることが分かった。アミノ酸はタンパク質を形成する有機化合物だ。これら最新の研究結果は、コウモリを起源とするウイルスが、おそらく仲介役となった動物を通じて自然に進化することで、ヒトへの感染力を獲得したとの見方を一段と裏付けるものだ。パンデミック(世界的な大流行)の再来を回避するには、ウイルスの起源を特定することが重要だと考えられているが、全容解明には何年もかかるかもしれない。2月に中国・武漢で4週間にわたり現地調査を実施したWHOのチームは、中国に加え、特に同国と国境を接する東南アジア諸国でもウイルスの起源特定に向けた調査を求めている。今回の新たな研究結果により、WHOがなぜ調査範囲の拡大を唱えているのかについても、これで説明がつく。バージニア工科大学のウイルス学者、ジェームズ・ウィジャールカレリ氏は、アミノ酸の変化がウイルスの自然な進化を示唆していると話す。同氏が主導したアミノ酸の変化に関する研究結果は、査読前の論文を掲載するサイトで共有された。それによると、同氏のチームはヒトへの感染を後押ししたとみられるウイルスの変化について、18万3000近い遺伝子配列を分析した。その結果、スパイクタンパク質の単一アミノ酸を変化させるウイルスの変異を特定。それが人間の細胞を感染させ、複製できることを示した。米当局者や科学者の一部は、研究室で起きた事故でウイルスが流出した可能性を完全に排除することはできないとの考えを示している。武漢ウイルス研究所は厳重に警備された施設の中で、コウモリが持つコロナウイルスについて研究を実施している。だが、パンデミック(世界的な大流行)以前に今回の新型コロナに関する研究を行っていた、もしくは保管していたとの見方を否定。最も厳格な安全基準を維持しているなどと主張している。だが、一部の科学者や米当局者は、研究所のこれまでの安全記録に加え、自然に変化したウイルスと「機能獲得」実験の双方の研究について、加工前の生データを共有するよう求めている。機能獲得とは、ウイルスがヒトへの感染や拡散する能力を強化できるか分析するために、科学者がウイルスの遺伝子を操作した実験のことを指す。専門家で構成されるWHOの調査団はこれまで、研究室内の事故が原因となった可能性は極めて低いとの考えを示している。だが、調査団のトップ、ピーター・ベンエンバレク氏は先週、研究室の仮説についても「まだ選択肢として消えたわけではない」としており、チームとしてすべての可能性を評価するだけの情報が得られていない点を認めている。WHOは近く、武漢入りした調査団が策定した報告結果の要旨を公表する見通し。ただ、報告書の全文が公表されるのは数週間先となるとみられている。 *3-2:https://www.data-max.co.jp/article/34958 (IBNews 2020年4月2日) 日本でも拡大する「医療ツーリズム」の現状 日本の高度な医療サービスを求め、外国人が観光と合わせて訪れる「医療ツーリズム」が新たな市場として成長している。主に中国を始めとしたアジア圏を中心に、引き合いが増加。その市場規模は、2020年で5,500億円と見込まれている。 ●成長産業として政府が後押し がんなどの生活習慣病は世界的に増加傾向にあり、その対策として、自国より高度かつ高品質な医療サービスを受けられる国に行くという「医療ツーリズム」が、1990年代から広まり始めた。医療ツーリズムを受け入れている国は、先進国だけでなく新興国も多く、外貨獲得のために国策として取り組んでいるところも少なくない。医療ツーリズムによって、自国よりも割安で受診できることや、手術など早期の治療に対応できることも利点であり、とくにアジア圏では、民間病院の新たな収益源として医療ツーリズムを積極的に導入する傾向が強くあり、市場拡大に寄与している。そのなかで日本は、優れた医療技術に加え、世界屈指の医療機器保有率から、治療・健診・検診を目的に、中国を始めとするアジア諸国からの来訪者数が年々増加している。政府も2010年6月に新成長戦略における「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」として、医療ツーリズム(医療観光)の積極的な受け入れを推進。11年1月に医療滞在のビザを解禁したことで、最長6カ月間の滞在が可能なうえ、3年以内なら何度でも入国することができるようになるなど、入国に関するハードルを低くした。日本の医療機関にとっても医療ツーリズムは、医療資源の稼働率向上や、より高度な医療機器・サービスを導入する契機となるほか、海外に日本の医療を展開するアウトバウンドの取り組みにつながることが期待されている。昨今のインバウンド需要拡大とともに、医療ツーリズム市場は年々拡大している。日本政策投資銀行では10年5月に医療ツーリズムの市場予測として、20年時点で年間43万人程度の需要が潜在的にあるとし、市場規模は約5,500億円、経済波及効果は約2,800億円まで伸長すると試算していた。現状では新型コロナウイルス感染症の影響で来訪する外国人が激減していることもあり、そこまでの成長は難しい様相だが、すでに市場としては成熟化が進んでおり、事態が収束すれば再び市場は戻ると見られている。一方で、医療ツーリズム推進の政策に対して、「国民皆保険制度の崩壊につながりかねない」として懸念を示しているのが日本医師会だ。一般企業が関与する組織的な活動を問題視し、「医療ツーリズムが混合診療解禁の後押しになる」と指摘する。つまり、医療に一般企業が参入することで、営利を追求した医療が一部の富裕層のためだけの混合診療を含めた医療サービスにつながることを強く懸念しているのである。 ●参入増で競争激化 コーディネートに課題も 医療ツーリズムは、観光と合わせて高度な医療サービスを受診することを目的としており、受診先となる医療施設には最先端の医療設備が完備されているのはもちろんのこと、主に富裕層を対象にしていることから、豪華さや快適さも備えていることが大きな特徴。かかる費用も1人30万円から100万円超と幅広い。たとえば、人間ドックの場合、基本的な検診のほか、がん検診でPET(※)を実施する「VIPコース」などと呼ばれる高額な検査を実施する施設も多い。また、温泉療養と合わせた医療ツーリズムが、食事と運動をバランス良く組み合わせることで心身をリフレッシュし、生活習慣病の改善と自然治癒能力を高める効果に期待が寄せられ、人気を博している。これら観光主体型の医療サービスは、その多くは地方の旅行会社が企画するもので、より多くの外国人来訪者の獲得に向けた企業間競争も激化しているようだ。ある医療ツーリズムの企画会社は、「数年前までは、反対する日本医師会の影響もあったのか、検査枠の空きがあれば受け入れる程度で、積極的に確定診断から治療へ取り組む施設は多くなかった。しかし、最近は医療施設からの問い合わせが非常に増えている」と話す。また、「現状は新型コロナウイルスの影響で受け入れを止めているが、その間に東京大学や北海道大学など著名な国立大学病院との独占的な提携を進めており、より高いレベルの医療サービスを提供する体制を敷くことで差別化を図る」と続けた。このように拡大傾向にある医療ツーリズム市場だが、課題がないわけではない。現状は検診以外の治療を目的とする場合、医療従事者がコーディネートをしているという企業は少なく、医療施設が必ずしも患者と合致しない場合もあり、治療におけるリスクがともなう可能性がある。今後、医療ツーリズム市場がさらに成長していくためには、医療機関とコーディネートする民間企業の連携の部分を、さらに深めていくことが求められる。 <観光の高度化:観光ルートへの災害と復興史の織り込み> *4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1285134.html (琉球新報社説 2021年3月12日) 東日本大震災10年(4) 真の復興へ不断の検証を 東日本大震災の発生から11日で10年がたった。死者、行方不明、震災関連死は計約2万2千人に上り、残された人々が歩む人生にも震災は大きく影響している。東京電力福島第1原発事故などで今も避難中の人が、沖縄を含め約4万1千人いる。追悼式で菅義偉首相は、地震・津波被災地は「復興の総仕上げの段階」に入ったとした。しかし、10年は通過点にすぎない。真の復興に向け不断の検証が必要だ。政府は2011~15年度を「集中復興期間」、16~21年度を「復興・創生期間」と位置付けてきた。この10年で国が投入してきた復興予算は約37兆円に上る。道路や防潮堤、土地のかさ上げなど、被災地のインフラの整備は進んだ。一方で、予算の大半はハード整備に使われ、日本経済再生の名目で被災地と関係の薄い補助金などに流用された事例もある。被害が大きかった3県42市町村の人口減少率は全国の3.5倍のペースといい、街づくりの停滞や産業空洞化の課題に直面する。地域のつながりが薄れ、高齢者の見守りや心のケアも課題となる。用地取得や合意形成の難航もあって大型公共工事は長期化し、転出先での生活が定着した人々が古里に戻る機会を逸した。ハード整備に傾倒した復興のマイナス面だろう。被災者支援に充てられたのは2.3兆円にすぎない。それも仮設住宅の整備費などを除くと、生活再建支援として被災者に直接支給されたのは3千億円余りにとどまる。廃炉の見通しが立たない福島原発事故も、復興に深刻な影を落としてきた。首都圏へのエネルギー供給の役割を東北に担わせ、原発を推進してきた国の責任は重い。政府の新たな復興基本方針案は、津波被災地の復興は今後5年間での事業完了を目指し、福島原発事故の被災地再生に国の支援を重点化する方向性だ。だが、復興予算の使途や効果を十分に検証せず、復興支援からフェードアウトしていくことは許されない。復興財源は、国民全てで支えている。所得税の2.1%分上乗せは2037年まで続く。予算が本当に被災地の再建につながっているかを注視することは、納税者の責務であると同時に、東北の復興に関わり続けることになる。東北地方はアジアの中で自然景観や文化、食料供給など、比較優位を有する。そのポテンシャルを引き出し、交流人口の拡大につなげることが真の復興の道筋になる。岩手県の県紙、岩手日報社の東根(あずまね)千万億(ちまお)社長は、節目の日を地元ではなく、沖縄で迎えた。沖縄県民をはじめ復興を支える国民に向けて「県外に出向き、岩手の復興がここまで来たことを報告する行動を起こした」と語り、震災復興の今を伝える特別号外を那覇市内で配布した。震災被災地との心の距離を縮め、交流を広げたい。 *4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14830432.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年3月12日) 福島の事故から10年 いま再び脱原発の決意を 「原発に頼らない社会を早く実現しなければならない」。朝日新聞は東京電力・福島第一原発の事故を受けて、2011年7月、「原発ゼロ社会」をめざすべきだと提言した。その後も社説などで、原発から段階的に撤退する重要性を訴えてきた。主張の根底にあるのは、「再び事故を起こしたら、日本社会は立ち行かなくなる」という危機感である。最悪の場合、止めたくても止められない――。福島の事故では、原発の恐ろしさをまざまざと見せつけられた。生々しい記憶が10年の歳月とともに薄れつつあるいま、脱原発の決意を再確認したい。 ■廃炉への険しい道 原発が事故を起こせば、後始末がいかに困難をきわめるか。目の前の厳しい現実もまた、この10年の苦い教訓である。つい最近、廃炉作業中の2号機と3号機で、原子炉格納容器の真上にあるフタの部分が高濃度の放射性物質に汚染されていることがわかった。周辺の放射線量は、人間が1時間で死にいたるほど高い。炉心で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しについて、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「作戦の練り直しが必要になるだろう」と述べた。1~3号機には800~900トンの燃料デブリがあるとみられる。だが、炉内のどこに、どんな形で残っているのか、いまだに全容をつかめていない。新たに見つかった2、3号機の高濃度汚染で、取り出し作業はいっそう難しくなるだろう。以前の工程表は「20~25年後に取り出しを終える」としていたが、いまでは年限が消えてしまった。燃料デブリが残ったままでは、建屋や設備の解体と撤去が進まない。冷却用の注水にともなって高濃度の汚染水が生じ続け、それを浄化した処理水もたまっていく。国と東電の掲げる「30~40年で廃炉完了」は不可能ではないのか、との疑念が膨らむばかりだ。廃炉の終着点が見えないと地元の復興もままなるまい。原発の事故は地域社会を崩壊させ、再構築にはきわめて長い年月がかかる。この悲劇を繰り返すわけにはいかない。 ■安全神話は許されぬ しかし、7年8カ月にわたった安倍政権をへて、流れは原発回帰へ逆行している。事故の翌年、討論型世論調査などの国民的な議論をへて、当時の民主党政権は「30年代の原発ゼロ」を打ち出した。だが同じ年の暮れに政権を奪還した自公は、さしたる政策論争もなく原発推進に針を戻してしまう。古い原発の廃炉などで20基ほど減ったものの、安倍政権の下で総発電量に占める原発の比率は事故前に近い水準が目標とされた。事故後に設けられた「原発の運転は40年」の原則をよそに、20年延長の特例も相次いで認められている。菅政権はこの路線を継承し、「引き続き最大限活用する」との方針を示している。「原発の依存度を可能な限り低減する」といいつつ、具体策を示さぬまま再稼働を進める。その姿勢は不誠実というほかない。政府は再稼働にあたり、原発の新規制基準は「世界で最も厳しい」と不安の解消に努めてきた。これが新たな安全神話を醸成していないか気がかりだ。電力会社の気の緩みも見すごせない。福島の事故の当事者である東電も、原発中枢部への不正入室を許し、重要施設の耐震性不足の報告を怠るなど、安全に対する姿勢に問題がある。にもかかわらず、産業界を中心に原発への期待は大きい。「原子力はエネルギー自立に欠かせない」「原発の運転期間を80年に延ばすべきだ」。エネルギー基本計画の改定を議論する経済産業省の審議会では、原発推進論が相次いでいる。事故の痛みを忘れたかのようだ。破綻(はたん)した核燃料サイクルまでも「推進してほしい」という要望があることに驚く。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出しても、高速炉の開発が頓挫したため大量消費は望めない。そんななかで核燃料サイクルを進めたら、原爆の材料にもなりうるプルトニウムの保有量が思うように減らず国際的に批判されよう。安全神話の上で国と業界がもたれあう。事故前と変わらぬ構図を解消すべきだ。 ■再エネの拡大こそ 原子力ばかりに力を注いでいては、再生可能エネルギーや水素を柱とした脱炭素時代の技術革新に乗り遅れてしまう。地球温暖化を防ぐには、安全で低コストの再エネを広げるのが筋だ。原発利用は再エネが拡大するまでの一時的なものにとどめ、できるだけ早く脱原発のシナリオを固める必要がある。40年たった原発を引退させ、新増設や建て替えをしない。そう決めれば、おのずと原発ゼロへの道筋は見えてこよう。原子力からの撤退へ向け、着実な一歩を踏み出して初めて、福島第一原発事故の教訓が実を結ぶことになる。 *4-3:https://kahoku.news/articles/20210311khn000047.html (河北新報社説 2021年3月12日) 東日本大震災10年-宮城/農業の可能性を探る好機だ 東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた仙台市東部に、豊かな耕土と生産者の力強い営みがよみがえりつつある。災害復旧と区画整理を一体的に進める前例のない国直轄事業により、農地の再生と担い手への集約が破格の規模とスピードで実現した。一連の事業の総仕上げとなる区画整理が完了し、地区の生産基盤は震災前に比べてもより強固になったと言える。大都市として成熟していく仙台圏にふさわしい、多様な農業の可能性を探るチャンスととらえたい。仙台市東部を襲った津波は海岸線から約4キロまで達し、約1800ヘクタールの農地に土砂やがれきが流入した。藩制時代からの美田地帯は、施設の損壊と地盤沈下で排水能力を失い、まるで海水の沼のような無残な姿になった。農地の災害復旧を巡っては当時、除塩の実施や国庫負担率のかさ上げに関する制度がなかった。農林水産省は(1)農地・農業施設の復旧(2)除塩の実施(3)復旧後の区画整理-を継ぎ目なく行うため、土地改良法の特例法案を国会に提出。発災から2カ月足らずで成立した。全ての事業を通じて、約9割を国庫負担とする異例の枠組みだった。特に農地復旧に合わせて順次進められた区画整理は、通常であれば生産者に生じる受益者負担をゼロとし、ためらうことなく、農地の大区画化に応じられる環境を整えた。事業対象は被災を免れた農地を含む約1900ヘクタール。地域営農の方針に沿って高砂、七郷、六郷の三つの換地区に分け、1区画10~30アール規模だった農地を50アール~1ヘクタールに拡大していった。大型機械の導入で作業が効率化される一方、受委託を含む農地集約も進み、コメや野菜を組み合わせた複合経営に取り組む農業法人が相次いで発足。ユニークな戦略で仙台の農業に新たな活力を吹き込む担い手も現れてきた。「仙台井土ねぎ」のブランド化に成果を上げる「井土生産組合」(若林区)や、野菜の生産・販売を通じて食農教育や農福連携など多彩なコミュニティーづくりに挑む「平松農園」(同)などが典型例と言えるだろう。法人への就職が若者の新規就農の窓口として機能し始めたこともあり、担い手の多様化は今後さらに進みそうだ。ただ生産現場では、なかなか回復しない地力や耕作を妨げるがれき片との苦闘が今も続いている。引き続き国や自治体の支援は不可欠だ。コメ需要が減少する中、非主食用米への転換に向けた貯蔵施設の整備や園芸・果樹の振興など関係機関が連携し、知恵を出し合うべき課題も多い。一連の事業には約865億円もの国費が投じられた。私たちは、仙台平野に本来の生産力を取り戻し、多様な価値を産み出す営農モデルを確立する責任を負っていることも自覚しなくてはなるまい。 *4-4:https://mainichi.jp/premier/health/articles/20210310/med/00m/100/010000c?cx_fm=mailhealth&cx_ml=article&cx_mdate=20210313 (毎日新聞 2021年3月11日) 記憶と伝承~東日本大震災から10年 野澤和弘・植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員 時間とはただ流れ去っていくのではなく、ある場所においては積み重なっていくものだ。1万6000人近い死者、約2500人の行方不明者を出した東日本大震災から10年。目まぐるしく世界は動き、震災の記憶は時とともに風化していく。しかし、いつまでも癒えない傷を抱えて生きている人たちがいる。福島第1原発周辺の7市町村にまたがるエリアは現在も放射線量が高く、住民が住めない帰還困難区域となっている。福島県内外に避難している人は現在も約3万6000人に上る。今の私たちの日常の幸福は、あの日からの連続の上にある。原発の街は傷痕をさらけ出したまま、2021年の日本の風景の中に存在している。 ●「黒い湖」の正体 風に舞う枯れ葉が秋の光にキラキラと輝いていた。福島市から飯舘村を通り山間の県道を南相馬へ。さらに福島第1原子力発電所のある双葉町・大熊町へと向かう。20年11月、南相馬市に住む知人に案内されて被災地を訪ねた。枯れ田に黒い塊が広がっている。晩秋の日を浴びて、黒光りする塊の表面が躍っている。湖面にきらめく波のようだ。県道の右や左の風景に現れるのは、黒いフレコンバッグの山だった。おびただしい数の袋が整然と並べられている。福島第1原発の事故で飛散した放射性物質に汚染された土壌が黒い塊の正体である。放射性セシウムは原発周辺地域の森林や草地、農地を広く汚染した。木々や草に付着した放射性物質は時間とともに次第に下方へ落ちていき、土壌の表層に集積するものもある。土壌では粘土質などが放射性セシウムを吸着するので、雨や雪が降っても、容易には流れないとされる。全国各地から集められた作業員が、放射性物質を含んだ表土を薄くはぎ取る作業を行ってきた。それが「除染」だ。人体に害を及ぼす放射能を含んだ土を取り除き、フレコンバッグに詰めて、住居や農作業をする場所から人里離れた仮置き場に隔離する。薄くはぎ取るといっても、放射性物質が降りそそいだのは広大な地域に及ぶため、はぎ取って集められた土の量は想像をはるかに超える。汚染土を詰めるフレコンバッグはどれだけあっても足りなくなる。当初はあまり人目に付かない場所が仮置き場として指定されたが、すぐにあふれるようになり、県道沿いの目立つ場所にもフレコンバッグの「黒い湖」が次々と現れるようになった。除染を実施する地域は、汚染の程度などによって「除染特別地域」「汚染状況重点調査地域」に指定されている。環境省は、フレコンバッグなどの保管物については17年3月ごろをピークに、仮置き場数については16年12月ごろをピークに、それぞれ減少しているとしている。しかし、避難期間が長びくにつれて、農業を続けることをあきらめる人が増えてきたこともフレコンバッグが人目に付く場所の農地に進出してきた背景にあると思う。先祖から受け継いできた農地ではあるが、農業ができない以上、汚染土の仮置き場として提供することで安定収入を得る方を選ぶ人もいる。農家の人々の無念さや先の見えないことによるあきらめが想起される。仮置き場のフレコンバッグは当初、福島第1原発が立地する双葉町や大熊町の中間貯蔵施設へと搬出されることになっていたが、地権者との用地交渉が難航して搬出は進んでいないものもあるという。雨風に長期間さらされているとバッグが傷み、汚染水が外部へ漏れることも懸念されている。実際、環境省の調査では福島県内の市町村が管理する仮置き場の半数以上でフレコンバッグやバッグを覆う防水シートの破損が見つかった。耐性の劣るバッグの方が安いために業者に選ばれているとの指摘もある。除染作業だけでも3兆円以上が投じられている。元請け・下請け・孫請けを通じて法外な費用が吸い取られていく「除染ビジネス」には灰色のうわさが絶えない。財務省と復興庁は7省庁が管轄する全国向けの23事業に配分された総額1兆1570億円の基金が被災地と関係の薄い使途にも充てられているとして返還を請求しているが、除染のような復興に直接関係している作業にも一般国民にはわかりにくいさまざまな利権が存在することをうかがわせる。人の気配が消えた農村の風景に広がっていく黒い塊は、故郷を追われた人々の不安や絶望をのみ込んで膨れ上がる「復興」という巨大事業の実像を暗示しているようだ。 ●何を伝承しようとしているか 東京電力福島第1原発から北へ3キロほど離れたところに「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)は建てられた。20年9月に開館したばかりで、真新しい建物の駐車場に大型観光バスが数台止まっていた。この伝承館は福島県が建設し、指定管理者の公益財団法人「福島イノベーション・コースト構想推進機構」が運営している。総工費は約53億円、全額が国の交付金で賄われた。地上3階建て、延べ床面積約5300平方メートル。震災や原発事故関連の資料約24万点を所蔵し、うち約170点が展示されている。「原子力発電所事故後の避難、避難生活の変遷、国内外からの注目など、原子力発電所事故発生直後の状況やその特殊性を、証言などをもとに振り返ります」とホームページにはうたわれている。ガラス張りの外壁の建物に入ると、1階の左手にドーム形をした天井の高いスペースがある。展示の導入部として、震災前の地域の生活、地震と津波、原発事故の発生から住民避難、復興や廃炉に向けた取り組みに関する映像が、床面を含めた7面のスクリーンに映し出される。日曜日のわりには見学客の姿はまばらだ。最新の技術が詰め込まれている設備の印象ばかりが浮き上がって感じられる。展示スペースには、子どもたちのランドセル、学級新聞、消防服などが写真とともに並べられている。「震災前の平穏な日常が原発事故を機にどのように変わってしまったのか、さまざまな県民の思いを、証言や思い出の品などの展示を組み合わせて発信している」という。原発事故の悲惨さや放射能の恐ろしさについても解説するコーナーはあるが、進路を行くに従って「困難を乗り越えて復興に挑戦する福島県」にスポットを当てた展示物や説明が目立つようになる。廃炉作業の進捗(しんちょく)状況や福島イノベーション・コースト構想については特に力を入れてPRしていることが伝わってくる。伝承館を運営する公益財団法人の名前にもなっている「福島イノベーション・コースト構想」とは、東日本大震災や原発事故で失われた浜通り地域などの産業を回復する巨大事業だ。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産などの分野におけるプロジェクトの具体化を進め、産業集積や人材育成、交流人口の拡大などに取り組むという。原発事故で大きな打撃を受けた福島県のイメージを一新しようという思惑が痛いほど伝わってくる。同館には30人近い語り部がいる。自らの被災体験を見学者に語る役割を担っている。被災した地域に出向くフィールドワークと並ぶ、伝承館ならではの取り組みと言える。ただ、案内をしてくれた地元の住人は顔を曇らせる。「国や県に批判的なことを言わないように監視されている。それで本当の被災体験を伝承することになるのか」というのである。語り部が話す内容を「監視」するとは穏やかなことではない。行政に対する不信感の根強さが地元で暮らす人々にそう思わせるのだろうか。しかし、「県が語り部に、国や東電など特定の団体への批判や中傷をしないよう求め、話す内容も事前にチェックして修正してもらっている」という報道(20年11月4日、東京新聞)もある。福島から県外へ避難している住民たちが国や東電を相手に損害賠償を求める訴訟が各地で起きており、訴訟への影響を考慮してのことかもしれない。全額を国の交付金で建てられた施設であり、運営する側が細かいところまで神経を使うのもわからなくはない。しかし、未曽有の原発事故による被害の甚大さを伝承するのに、大事なものを忘れてはいないか。大震災と津波は避けられなかったかもしれない。不幸な運命にめぐり合わせたが、「困難を乗り越えて挑戦する」。そういう福島県の人々や行政の姿を伝承しようというのだろうか。それも必要かもしれないが、その前に伝えなければならないものがある。「教訓が分からなかった」「何を伝えたいのかよく分からない」。ロビーのノートには来館者の厳しい意見が書き込まれている。2月末までに約3万7000人が訪れたというが、福島の事情を知る人々からは批判的な意見が聞かれる。国会事故調査委員会などが「人災」と結論づけた原発事故についての国や県、東電の責任に関する説明がほぼないからだ。放射性物質の拡散方向を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」について、データが政府から届きながら県が削除して市町村に伝えず、放射線量の高い方向へ住民を避難誘導した自治体があることにも触れていない。「SPEEDIの取り扱いを明確に定めたものはなく、情報を共有できませんでした」との記述があるだけだった。同館を建設した県が自らの責任を覆い隠すような姿勢に批判はやまず、震災から10年を前にした今月初め、県は約30カ所で資料の追加や展示パネルの差し替えをすると発表した。SPEEDIの不手際についても国会事故調査委員会の報告を基に認めることになった。 ●国と東京電力の責任 昨年11月に伝承館を訪れた当時、私が展示のコンセプトに何か引っかかりを感じたのは、その1カ月前、仙台高等裁判所で福島第1原発事故での国の損害賠償を認める判決が出たからかもしれない。 全国で起こされている約30の集団訴訟のうち、国に損害賠償を命じた全国初の2審判決だった。福島地裁での1審判決に続いて国と東京電力の主張を退け、賠償額は総額約10億1000万円と、第1審の約5億円から倍増したことが特筆される。この訴訟で東京電力が問われたのは、原発の全電源喪失を引き起こして原子炉の冷却を不能にする津波の予見可能性および重大事故を回避できたかどうかだ。判決では、国の地震調査研究推進本部が02年7月に策定した日本海溝沿いの地震の可能性に関する「長期評価」に基づき、遅くとも同年末ごろまでには福島第1原発の原子炉の敷地の高さを超える津波が到来する可能性について東電が認識できたはずだと判断した。必要な対策を講じていれば、浸水による非常用ディーゼル発電機や配電盤など重要機器の機能喪失を防げた可能性が高いにもかかわらず、東電が対策を怠っていたことを重く見たのである。東電の安全対策義務違反の程度が決して軽微とは言えず、対策を怠ったことが「原告に対する慰謝料算定に当たって考慮すべき要素の一つとなる」として、原子力損害賠償法で定められた無過失責任原則に基づく中間指針や東電の自主賠償基準に基づく金額よりも損害賠償額を上積みし、1審判決の2倍の賠償額の支払いを命じたのだ。国に対しては、電気事業法などの法令に基づき必要な規制権限を行使せず、事故防止の努力を怠った点を「違法」だと認定した。「保安院(旧原子力安全・保安院)の対応は……東電による不誠実ともいえる報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかったものと言わざるをえない」。1審は国の責任について東電の2分の1と判断したが、仙台高裁は国に東電と等しい賠償義務を認定した。「一般に営利企業たる原子力事業者においては、利益を重視するあまり、ややもすれば費用を要する安全対策を怠る方向に向かいがちな傾向が生じることは否定できないから、規制当局としては原子力事業者にそうした傾向が生じていないかを不断に注視しつつ、安全寄りの指導、規制をしていくことが期待されていたというべきであって、上記対応は規制当局の姿勢として不十分なものであったとの批判を免れない」。仙台高裁の訴訟の原告は約3650人にのぼる。最大規模の訴訟でもあり、ほかの訴訟へ与える影響も大きいとされた。事実、21年2月に千葉県に避難した住民らによる訴訟の東京高裁判決は「対策を取れば事故に至らなかった。国の規制権限不行使は違法」として、国に東電と同等の責任があると認定した。東電に計約2億7800万円の賠償を命じ、控訴審での請求額に応じ、このうち約1億3500万円は国も連帯して支払うべきだとした。1審の千葉地裁は国の責任を認めておらず、原告の逆転勝訴となった。国が被告となった避難者訴訟の高裁判決は3件目。国の責任を認める判断は、仙台高裁に続き2件目となった。 ●揺らぎ、消えていく記憶 大震災と津波は避けられなかったが、福島第1原発の爆発事故は安全対策を怠った東電の怠慢と、それをチェックしなかった国の背信行為によってもたらされた。多くの命が失われ、人々が故郷をなくした東電と国の責任は重大だ――。仙台高裁の判決はそう言っているのである。「東日本大震災・原子力災害伝承館」は、被害の実態と回復の過程について伝承はしているが、それが何で起きたのかということは抜け落ちていると思う。原発事故の原因に関する展示や説明を避けているというだけでなく、「語り部の口をふさぐ」という指摘においては覆い隠していることになる。仙台高裁やそれに続く東京高裁の判決の文脈に従えば、国や東電は原発事故を防ぐことができなかった(引き起こした)加害者であり、原発事故によって被災した語り部は被害者にほかならない。全額を国の交付金で建設された伝承館という「装置」には、理不尽な構造が潜んでいるように感じられてならない。人は誰しも過去からの連続した記憶によって自らのアイデンティティー(存在証明)を保っている。揺らいだり、薄れたり、変容したりする、蜃気楼(しんきろう)のような不確かさをかろうじて形にして残すのが言葉や文字である。原発事故で原告団に加わった被災者は年を経るにつれて亡くなっていく。語り部たちも減っていき、いずれは誰もいなくなる。原発事故の地獄を体験した生々しい記憶は語り伝えておかなければ、歴史のかなたへと消えていく。今のうちに被災した人々の記憶をありのまま残していかなければならないと思う。 ●場所と記憶 晩秋の日が静かにあるじのいない家屋に注いでいる。誰かに見られるということもなく10年もの歳月をただ太陽に焼かれて過ごしてきたのだ。戸を閉め、シャッターを下ろす余裕もなかったのだろう。洋品店はガラス戸が開いたまま、商品が店内にぎっしりと陳列されている。消防署分署の事務所は戸が開け放たれ、中には机やいすが雑然と置かれたままになっていた。ソファの表面を白いちりが覆っている。オープンしたばかりの伝承館の周辺を歩くと、10年前の震災の日のままの姿で家屋や店舗が残っていた。薬局もガソリンスタンドも、そこに人がいないというだけで、何かの拍子に止まっていた時が動き出しそうな気がしてくる。どんな傷も時間が立てば血が乾き、色が変わり、かさぶたとなるものだが、むき出しのまま変わることのない傷が目の前にある。印画紙に焼き付けた写真ならセピア色にもなろう。しかし、かつての平穏な日常は腐食して骨になることも、朽ち果てることも許されず、無残なままさらけ出されている。住みなれた家の戸を閉める余裕すらなく逃げていかざるを得なかった人々の慟哭(どうこく)が聞こえてきそうだ。個々の被災者の救済について仙台高裁の判決が大きく踏み込んだのは、この街の風景と関係している。同高裁判決は「帰還困難区域」や「旧居住制限区域」、「旧避難指示解除準備区域」など原発から近い旧避難指示区域に住居があった原告への損害賠償額について、国の中間指針や東電の自主賠償基準を超える損害額を認めた。裁判の過程で、裁判長が「現地進行協議」と称して帰還困難区域や旧居住制限区域の現状を視察したことが大きく影響したといわれる。荒廃した家屋や元に戻らない生活の実態を裁判長が自らの目で確認したことが賠償額の上積みにつながったというのである。避難指示が出なかった地域に住んでいた子どもや妊婦の原告について新たに損害を認定したのも、今回の高裁判決の特徴とされる。「過去は流れ去ってしまうのではなく、現在のうちに積み重なり保持されている」。哲学や社会学の領域では19世紀のころからそのような時間と記憶をめぐる考え方がある。E・フッサールやM・アルバックスらが提唱している。過去は空間のうちに痕跡として刻まれ、その痕跡を通して集合的に保持される。時間が場所と結びつき、記憶が空間と結びつく。「そこに近代的な時間と空間の理解とは異なる<記憶と場所>という時間と空間のあり方が見いだされる」。福島県出身の社会学者、浜日出夫・慶応大名誉教授は論文でそう述べている。風の音すら聞こえない街に立ち尽くしていると、どこからともなく恐怖が忍び寄ってくるのを感じた。「復興に挑戦する」という掛け声のかなたに忘れ去ってきた街に対するやましさなのか、被災者の記憶を封じ込めてきた後ろめたさなのか。そうしたことに気づかず安穏とこの10年を生きてきた自分自身の無為からくるおびえなのかもしれないと思った。置き去りにされた街の「場の記憶」が、ここを訪れた裁判長の心証に大きな影響を与えたに違いない。 ●「そこにある事実」を見よう 政府は13年までに原発事故に伴う避難指示区域(福島県の11市町村の計1150平方キロ)を被ばく線量に応じて再編し、「避難指示解除準備区域」「居住制限区域」「帰還困難区域」の三つに分けた。比較的線量が低い「避難指示解除準備区域」や「居住制限区域」を対象に優先的な除染作業が進められ、これまでに避難指示を解除してきた。現在残っているのは「帰還困難区域」だが、面積は337平方キロと広い。17年に成立した改正福島復興再生特別措置法では、帰還困難区域の8%にあたるエリアを復興拠点とし、除染やインフラ整備に乗り出すことになった。だが、復興拠点以外は避難指示解除の時期が見通せず、帰還困難区域の避難者は今も2万人を超える。毎日新聞と社会調査研究センターが今月実施した全国世論調査では、被災地の復興状況について、「復興は順調に進んでいる」と答えた人は20%にとどまり、国民の被災地に対する関心について「薄れた」と感じる人は79%に上った。県別では福島が84%で、宮城や岩手に比べても高かった。どんな出来事も時間とともに生々しい記憶は薄れ、忘れ去られることは避けられない。しかし、先人たちが後世に残そうとしてきたものがあり、今私たちはそれを「歴史」として知ることができている。自らの存在に永続性を求める本能かもしれないし、教訓を語り継ぐ使命感のようなものが人間には備わっているのかもしれない。いずれにせよ、伝承はどんなものであれ、伝えようとする側の意図や感情が込められる。文章でも口伝えでも映像でも。展示物でさえ、どこにどのように展示するかで、伝える側の価値観が反映される。そうした思惑や意味づけから免れているのは、「そこにある事実」だけだ。あらゆる思想性や価値観に染められるのを拒み、福島第1原発の周辺の街は時のなかにたたずんでいる。そこに足を踏み入れた人の想像力と感受性に、自らの存在する意味を投げ出しているように思えてくる。 ●そこにある事実を見よう。 巨額の復興費用を投じて建設された伝承館が何を伝えようとしているのか、置き去りにされてきた街が無言のうちに何を物語ろうとしているのかを考えよう。時間とはただ流れ去っていくだけではない。場に積み重なっていくものでもある。場の記憶」が何か質感を持ったエネルギーとなって、その場を訪れた人の感性に働きかけてくるものがあるはずだ。 *4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210314&ng=DGKKZO69965090T10C21A3EA1000 (日経新聞 2021.3.14) 大地震想定海域を探査 東北大など無人船、地殻変動を観測 予兆つかみ備え厚く 巨大地震を捉える調査や観測が本格化する。東北北部・北海道沖の海底は、東日本大震災で地震が起こらず、ひずみがたまって巨大地震が発生しやすいといわれる。東北大学などは無人船で予兆を探る観測調査を4月に始める。防災科学技術研究所も、被害が甚大になると懸念される南海トラフ巨大地震の発生を瞬時につかむ海底観測網の整備に着手した。日本周辺でリスクが高まる大地震への備えを加速する。内閣府の有識者会議は20年に、複数の巨大地震の発生が、日本海溝と千島海溝がある東北北部・北海道沖で「切迫している」とする想定を発表した。過去の記録などから、同地域で将来発生する地震の規模として、日本海溝の北海道沖でマグニチュード(M)9.1、千島海溝の十勝・根室沖でM9.3と想定している。いずれも東日本大震災級の大きさで、30メートル級の津波がくる地域もあると予想されている。宮城県沖が震源だった東日本大震災では、岩手県沖より北の日本海溝で断層がずれなかったため「割れ残り」と呼ぶ状態でひずみが蓄積し、巨大地震が発生しやすいとされる。地震発生前の一定期間には、海底の地殻が平時とは違う動きをすると考えられているが、具体的なデータがほとんど取れていなかった。東北大の日野亮太教授らは、無人で海底の様子を探るシステムを開発した。米ボーイング子会社の無人探査船「ウエーブグライダー」に小型装置を搭載。海底のセンサーに向けて音波を出して、海底プレートの位置の変動を把握する。地震はプレートが大きくずれて引き起こされることが多く、長期観測で地震の前触れとなる「異常」な動きを探る。初回は、4月2日に北海道根室市沖で探査船を放流して千島海溝を観測した後、南下して岩手県沖などの日本海溝を観測する。5月半ばに宮城県沖で回収する。2回目は10月にも実施し、以降継続する計画だ。無人観測船は、太陽電池で機器のエネルギーをまかなうことから、観測コストを10分の1以下に抑えられる。数カ月間連続で観測もできる。日野教授は「平時のデータを集め、異常の兆候をすぐに観測できるようにしたい」と話す。一方、防災科研は、南海トラフ巨大地震の発生を瞬時に捉えるため、海底域の観測網を拡充する。想定される震源域の西側がこれまでは観測できていない空白域であることから「南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)」の工事に着手した。高知県沖から日向灘にかけて地震計や津波計を組み込んだ総延長1600キロメートルの光海底ケーブルで結んだ観測システムを敷設する。23年度に完成させ運用する予定だ。N-netの構築によって震源により近い海底で揺れを捉えられるため、地震は最大で20秒、津波は20分、それぞれ従来よりも早く検知できることを見込む。即時に気象庁に伝送し、緊急地震速報や津波警報に活用する計画だ。防災科研の青井真・地震津波火山ネットワークセンター長は「巨大地震が起きた時に迅速に適切な防災情報を出せる社会を目指す」と話す。 <観光の高度化:観光ルートへの歴史の織り込み> *5-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/634077 (佐賀新聞 2021/2/17) <運行情報>JR筑肥線の一部区間で運転を見合わせ JR九州によると、断続的な強風で、17日午前8時ごろ、JR筑肥線の加布里―筑前深江間で風規制を行っている影響で、筑前前原―筑前深江間の上下線で運転を見合わせている。また、筑前深江―西唐津間では遅れが発生している。 *5-2:http://www.eonet.ne.jp/~temb/16/gishi_wajin/wajin.htm 魏志倭人伝(原文、書き下し文、現代語訳)、解説は「魏志倭人伝から見える日本」へ、(百衲本。国名や官名は漢音で読む) より編集 ①倭人在帶方東南大海之中 依山㠀為國邑 舊百餘國 漢時有朝見者 今使譯所通三十國 「倭人は帯方東南、大海の中に在り。山島に依り国邑を為す。旧百余国。漢の時、朝見する者有り。今、使訳通ずる所は三十国。」 倭人は帯方郡の東南、大海の中に在る。山島に依って国邑を作っている。昔は百余国あり、漢の時、朝見する者がいた。今、交流の可能な国は三十国である。 ②從郡至倭 循海岸水行 歴韓国 乍南乍東 到其北岸狗邪韓國 七千餘里 「郡より倭に至るには、海岸に循いて水行し、韓国を歴て、たちまち南し、たちまち東し、その北岸、狗邪韓国に到る。七千余里。」 (帯方)郡から倭に至るには、海岸に沿って水行し、韓国を通り過ぎ、南へ行ったかと思うと、いきなり東へ行ったりしを繰り返しながら、その(=倭の)北岸の狗邪韓国に到着する。七千余里。 ③始度一海 千餘里 至對海國 其大官日卑狗 副日卑奴母離 所居絶㠀 方可四百餘里 土地山險多深林 道路如禽鹿徑 有千餘戸 無良田食海物自活 乗船南北市糴 「始めて一海を度る。千余里。対海国に至る。その大官は卑狗と曰い、副は卑奴母離と曰う。居する所は絶島、方四百余里ばかり。土地は山険しく深林多し。道路は禽鹿の径の如し。千余戸有り。良田無く、海物を食し自活す。船に乗り、南北に市糴す。」 始めて一海を渡り、千余里で対海国に至る。その大官はヒコウといい、副官はヒドボリという。居する所は絶海の孤島で、およそ四百余里四方。土地は、山が険しくて深い林が多く、道路は鳥や鹿の道のようである。千余戸の家がある。良田はなく海産物を食べて自活している。船に乗って南や北(九州や韓国)へ行き、商いして米を買い入れている。 ④又南渡一海 千餘里 名日瀚海 至一大國 官亦日卑狗 副日卑奴母離 方可三百里 多竹木叢林 有三千許家 差有田地 耕田猶不足食 亦南北市糴 「又、南、一海を渡る。千余里。名は瀚海と曰う。一大国に至る。官は亦た卑狗と曰い、副は卑奴母離と曰う。方三百里ばかり。竹木叢林多し。三千ばかりの家有り。やや田地有り。田を耕すも、なお食するに足らず。亦、南北に市糴す。」 また(さらに)、南に一海を渡る。千余里。名はカン海という。一大国に至る。官は、また(対海国と同じく)、ヒコウといい、副はヒドボリという。およそ三百里四方。竹、木、草むら、林が多い。三千ばかりの家がある。いくらかの田地がある。田を耕しても、やはり、住民を養うには足りないので、また(対海国と同じく)、南北に行き、商いして米を買い入れている。 ⑤又渡一海 千餘里 至末盧國 有四千餘戸 濱山海居 草木茂盛行不見前人 好捕魚鰒 水無深淺皆沉没取之 「又、一海を渡る。千余里。末盧国に至る。四千余戸有り。山海に浜して居す。草木茂盛し、行くに前人を見ず。魚鰒を捕るを好み、水、深浅無く、皆、沈没してこれを取る。」 また、一海を渡る。千余里。末盧国に至る。四千余戸があり、山と海すれすれに沿って住んでいる。草木が盛んに茂り、行く時、前の人が(草木に隠されて)見えない。魚やアワビを捕ることが好きで、水の深浅にかかわらず、みな、水に潜ってこれを取っている。 ⑥東南陸行 五百里 到伊都國 官日爾支 副日泄謨觚柄渠觚 有千餘戸 丗有王 皆統屬女王國 郡使往來常所駐 「東南陸行。五百里。伊都国に到る。官は爾支といい、副は泄謨觚、柄渠觚という。千余戸有り。世、王有り。皆、女王国に統属す。郡使往来し常に駐する所。」 (末盧国から)東南に陸上を五百里行くと伊都国に到着する。官はジシといい、副はエイボコ、ヘイキョコという。千余戸が有る。代々、王が有り、みな女王国に従属している。(帯方)郡の使者が往来し、常に足を止める所である。 ⑦東南至奴国 百里 官日兕馬觚 副日卑奴母離 有二萬餘戸 「東南、奴国に至る。百里。官は兕馬觚と曰い、副は卑奴母離と曰う。二万余戸有り。」 (伊都国から)東南、奴国に至る。百里。官はシバコといい、副はヒドボリという。二万余戸が有る。 ⑧東行至不彌國 百里 官日多模 副日卑奴母離 有千餘家 「東行、不弥国に至る。百里。官は多摸と曰い、副は卑奴母離と曰う。千余家有り。」 (奴国から)東に行き不弥国に至る。百里。官はタボといい、副官はヒドボリという。千余りの家がある。 ⑨南至投馬國 水行二十日 官日彌彌 副日彌彌那利 可五萬餘戸 「南、投馬国に至る。水行二十日。官は弥弥と曰い、副は弥弥那利と曰う。五万余戸ばかり。」 (不弥国から)南、投馬国に至る。水行二十日。官はビビといい、副はビビダリという。およそ五万余戸。 ⑩南至邪馬壹國 女王之所都 水行十日陸行一月 官有伊支馬 次日彌馬升 次日彌馬獲支 次日奴佳鞮 可七萬餘戸 「南、邪馬壱国に至る。女王の都とする所。水行十日、陸行一月。官は伊支馬有り。次は弥馬升と曰う。次は弥馬獲支と曰う。次は奴佳鞮と曰う。七万余戸ばかり。」 (投馬国から)南、邪馬壱(ヤバヰ)国に至る。女王の都である。水行十日、陸行ひと月。官にイシバがある。次はビバショウといい、次はビバクワシといい、次はドカテイという。およそ七万余戸。 ⑪自女王國以北 其戸數道里可得略載 其餘旁國遠絶 不可得詳 次有斯馬國 次有巳百支國 次有伊邪國 次有都支國 次有彌奴國 次有好古都國 次有不呼國 次有姐奴國 次有對蘇國 次有蘇奴國 次有呼邑國 次有華奴蘇奴國 次有鬼國 次有為吾國 次有鬼奴國 次有邪馬國 次有躬臣國 次有巴利國 次有支惟國 次有烏奴國 次有奴國 此女王境界所盡 「女王国より以北、その戸数、道里は略載を得べきも、その余の旁国は遠くして絶へ、詳を得べからず。次に斯馬国有り。次に巳百支国有り。次に伊邪国有り。次都支国有り。次に弥奴国有り。次に好古都国有り。次に不呼国有り。次に姐奴国有り。次に対蘇国有り。次に蘇奴国有り。次に呼邑国有り。次に華奴蘇奴国有り。次に鬼国有り。次に為吾国有り。次に鬼奴国有り。次に邪馬国有り。次に躬臣国有り。次に巴利国有り。次に支惟国有り。次に烏奴国有り。次に奴國有り。ここは女王の境界尽きる所。」 (ここまでに紹介した)女王国より以北は、その戸数や距離のだいたいのところを記載出来るが、その他のかたわらの国は遠くて情報もなく、詳しく知ることは出来ない。次にシバ国が有る。次にシハクシ国がある。次にイヤ国がある。次にトシ国がある。次にミド国がある。次にカウコト国がある。次にフウコ国がある。次にシャド国がある。次にタイソ国がある。次にソド国がある。次にコイフ国がある。次にカドソド国がある。次にキ国がある。次にヰゴ国がある。次にキド国がある。次にヤバ国がある。次にキュウシン国がある。次にハリ国がある。次にシユイ国がある。次にヲド国がある。次にド国がある。ここは女王の境界の尽きる所である。 ⑫其南有狗奴國 男子為王 其官有狗古智卑狗 不屬女王 自郡至女王國 萬二千餘里 「その南、狗奴国有り。男子が王と為る。その官は狗古智卑狗有り。女王に属さず。郡より女王国に至る。万二千余里。」 その(女王国の)南に狗奴(コウド、コウドゥ)国があり、男子が王になっている。その官に狗古智卑狗(コウコチヒコウ)がある。女王には属していない。郡より女王国に至るまで、万二千余里。 男子無大小 皆黥面文身 自古以來 其使詣中國 皆自稱大夫 夏后少康之子封於會稽 斷髪文身 以避蛟龍之害 今 倭水人好沉没捕魚蛤 文身亦以厭大魚水禽 後稍以為飾 諸國文身各異 或左或右 或大或小 尊卑有差 計其道里 當在會稽東治之東(東治は東冶の転写間違いと考える) 「男子は大小無く、皆、黥面文身す。古より以来、その使中国に詣(いた)るや、皆、自ら大夫と称す。夏后少康の子は会稽に封ぜられ、断髪文身して、以って蛟龍の害を避く。今、倭の水人は沈没して魚、蛤を捕るを好み、文身は、亦、以って大魚、水禽を厭(はら)う。後、稍(しだい)に以って飾と為る。諸国の文身は各(それぞれ)に異なり、或いは左し、或いは右し、或いは大に、或いは小に。尊卑差有り。その道里を計るに、まさに会稽、東冶の東に在るべし。」 男子はおとな、子供の区別無く、みな顔と体に入れ墨している。いにしえより以来、その使者が中国に来たときには、みな自ら大夫と称した。夏后(王朝)の少康(五代目の王)の子は、会稽に領地を与えられると、髪を切り、体に入れ墨して蛟龍の害を避けた。今、倭の水人は、沈没して魚や蛤を捕ることを好み、入れ墨はまた(少康の子と同様に)大魚や水鳥を追い払うためであったが、後にはしだいに飾りとなった。諸国の入れ墨はそれぞれ異なって、左にあったり、右にあったり、大きかったり、小さかったり、身分の尊卑によっても違いがある。その(女王国までの)道のりを計算すると、まさに(中国の)会稽から東冶にかけての東にある。 ⑬其風俗不淫 男子皆露紒 以木緜招頭 其衣横幅 但結束相連略無縫 婦人被髪屈紒 作衣如單被 穿其中央貫頭衣之 「その風俗は淫ならず。男子は、皆、露紒し、木綿を以って頭を招(しば)る。その衣は横幅、ただ結束して相連ね、ほぼ縫うこと無し。婦人は被髪屈紒す。衣を作ること単被の如し。その中央を穿ち、頭を貫きてこれを衣る。」 その風俗はみだらではない。男子は皆、(何もかぶらず)結った髪を露出しており、木綿で頭を縛り付けている。その着物は横幅が有り、ただ結び付けてつなげているだけで、ほとんど縫っていない。婦人はおでこを髪で覆い(=おかっぱ風)、折り曲げて結っている。上敷きのような衣をつくり、その中央に穴をあけ、そこに頭を入れて着ている。 ⑭種禾稻紵麻 蠶桑 緝績出細紵縑緜 其地無牛馬虎豹羊鵲 兵用矛盾木弓 木弓短下長上 竹箭或鐵鏃或骨鏃 所有無與儋耳朱崖同 「禾稲、紵麻を種(う)え、蚕桑す。緝績して細紵、縑、緜を出す。その地には牛、馬、虎、豹、羊、鵲無し。兵は矛、盾、木弓を用いる。木弓は下を短く、上を長くす。竹箭は或いは鉄鏃、或いは骨鏃。有無する所は儋耳、朱崖と同じ。」 稲やカラムシを栽培し、養蚕する。紡いで目の細かいカラムシの布やカトリ絹、絹綿を生産している。その土地には牛、馬、虎、豹、羊、カササギがいない。兵器には矛、盾、木の弓を用いる。木の弓は下が短く上が長い。竹の矢は鉄のヤジリであったり、骨のヤジリであったり。持っている物、いない物は儋耳、朱崖(=中国・海南島)と同じである。 ⑮倭地温暖 冬夏食生菜 皆徒跣 有屋室 父母兄弟卧息異處 以朱丹塗其身體 如中國用粉也 食飲用籩豆 手食 「倭地は温暖にして、冬夏生菜を食す。皆、徒跣。屋室有り。父母、兄弟は異所に臥息す。朱丹を以ってその身体に塗る。中国の紛を用いるが如し。食、飲には籩豆を用い、手食す。」 倭地は温暖で、冬でも夏でも生野菜を食べている。みな裸足である。屋根、部屋がある。父母と兄弟(男子)は別の場所で寝たり休んだりする。赤い顔料をその体に塗るが、それは中国で粉おしろいを使うようなものである。食飲には、籩(ヘン、竹を編んだ高坏)や豆(木をくり抜いた高坏)を用い、手づかみで食べる。 ⑯其死有棺無槨 封土作冢 始死停喪十餘日 當時不食肉 喪主哭泣 他人就歌舞飲酒 已葬 擧家詣水中澡浴 以如練沐 「その死には、棺有りて槨無し。土で封じ冢を作る。始め、死して喪にとどまること十余日。当時は肉を食さず、喪主は哭泣し、他人は歌舞、飲酒に就く。已に葬るや、家を挙げて水中に詣(いた)り澡浴す。以って練沐の如し。」 人が死ぬと、棺に収めるが、(その外側の入れ物である)槨はない。土で封じて盛った墓を造る。始め、死ぬと死体を埋めないで殯(かりもがり)する期間は十余日。その間は肉を食べず、喪主は泣き叫び、他人は歌い踊って酒を飲む。埋葬が終わると一家そろって水の中に入り、洗ったり浴びたりする。それは(白い絹の喪服を着て沐浴する)中国の練沐のようなものである。 ⑰其行來渡海詣中國 恒使一人不梳頭不去蟣蝨衣服垢汚不食肉不近婦人如喪人 名之為持衰 若行者吉善 共顧其生口財物 若有疾病遭暴害 便欲殺之 謂其持衰不謹 「その行来、渡海し中国に詣るに、恒に一人をして、頭を梳らず、蟣蝨を去らず、衣服は垢汚し、肉を食らわず、婦人を近づけず、喪人の如くせしむ。これを名づけて持衰と為す。若し、行く者に吉善ならば、共にその生口、財物を顧す。若し、疾病が有り、暴害に遭うならば、便(すなわ)ち、これを殺さんと欲す。その持衰が謹まずと謂う。」 その行き来し海を渡って中国にいたる際は、常に一人に、頭をくしけずらせず、シラミを取らせず、衣服をアカで汚したままにさせ、肉を食べさせず、婦人を近づけさせないで喪中の人のようにさせる。これをジサイという。もし無事に行けたなら、皆でジサイに生口や財物を対価として与えるが、もし病気になったり、危険な目にあったりすると、これを殺そうとする。そのジサイが慎まなかったというのである。 ⑱出真珠青玉 其山有丹 其木有枏杼橡樟楺櫪投橿烏號楓香 其竹篠簳桃支 有薑橘椒襄荷 不知以為滋味 有獮猴黒雉 「真珠、青玉を出す。その山には丹有り。その木には枏、杼、橡、樟、楺櫪、投橿、烏號、楓香有り。その竹は篠、簳、桃支。薑、橘、椒、襄荷有り。以って滋味と為すを知らず。獮猴、黒雉有り。」 真珠や青玉を産出する。その山には丹がある。その木はタブノキ(枏=楠)、コナラ(杼)、クロモジ(橡)、クスノキ(樟)、?(楺櫪)、?(投橿)、ヤマグワ(烏號)、フウ(楓香)がある。その竹はササ(篠)、ヤダケ(簳)、真竹?(桃支)。ショウガや橘、山椒、茗荷などがあるが、(それを使って)うまみを出すことを知らない。アカゲ猿や黒雉がいる。 ⑲其俗 擧事行來 有所云為 輒灼骨而卜 以占吉凶 先告所卜 其辭如令龜法 視火坼占兆 「その俗、挙事行来、云為する所有れば、すなわち骨を灼いて卜し、以って吉凶を占う。先に卜する所を告げる。その辞は令亀法の如し。火坼を視て兆しを占う。」 その風俗では、何かをする時や、何処かへ行き来する時、ひっかかりがあると、すぐに骨を焼いて卜し、吉凶を占う。先に卜する目的を告げるが、その言葉は中国の占いである令亀法に似ている。火によって出来た裂け目を見て、兆しを占うのである。 ⑳其會同坐起 父子男女無別 人性嗜酒 「その会同、坐起では、父子、男女は別無し。人性は酒を嗜む。」 その会合での立ち居振る舞いに、父子や男女の区別はない。人は酒を好む性質がある。 ㉑(裴松之)注…魏略曰 其俗不知正歳四節 但計春耕秋収 為年紀 「魏略(*)いわく、その習俗では正月(陰暦)や四節を知らない。ただ春に耕し、秋に収穫したことを数えて年紀としている。」《*/「魏略」…魏の歴史を記した書、現存しない》 ㉒見大人所敬 但搏手以當跪拝 其人寿考 或百年或八九十年 「大人を見て敬する所は、ただ搏手し、以って跪拝に当てる。その人は寿考、或いは百年、或いは八、九十年。」 大人を見て敬意を表す場合は、ただ手をたたくのみで、跪いて拝む代わりとしている。人々は長寿で或いは百歳、或いは八、九十歳の者もいる。 ㉓其俗国大人皆四五婦 下戸或二三婦 婦人不淫不妬忌 不盗竊少諍訟 其犯法 軽者没其妻子 重者没其門戸及宗族 尊卑各有差序足相臣服 「その俗、国の大人は、皆、四、五婦。下戸は或いは、二、三婦。婦人は淫せず、妬忌せず。盗窃せず、諍訟少なし。その法を犯すに、軽者はその妻子を没し、重者はその門戸、宗族を没す。尊卑は各(それぞれ)差序有りて、相臣服して足る。」 その習俗では、国の大人はみな四、五人の妻を持ち、下戸でも二、三人の妻を持つ場合がある。婦人は貞節で嫉妬しない。窃盗せず、訴えごとも少ない。その法を犯すと軽いものは妻子を没し(奴隷とし)、重いものはその一家や一族を没する。尊卑にはそれぞれ差や序列があり、上の者に臣服して保たれている。 ㉔収租賦有邸閣 國國有市 交易有無 使大倭監之 「租賦を収め、邸閣有り。国国は市有りて、有無を交易す。大倭をして之を監せしむ。」 租税を収め、高床の大倉庫がある。国々に市があって有無を交易し、大倭にこれを監督させている。 ㉕自女王國以北 特置一大率檢察 諸國畏憚之 常治伊都國 於國中有如刺史 王遣使詣京都帶方郡諸韓國及郡使倭國 皆臨津捜露 傳送文書賜遺之物詣女王 不得差錯 「女王国より以北は、特に一大率を置き検察し、諸国はこれを畏憚す。常に伊都国に治す。国中に於ける刺史の如く有り。王が使を遣わし、京都、帯方郡、諸韓国に詣らす、及び郡が倭国に使するに、皆、津に臨みて捜露す。文書、賜遺の物を伝送し女王に詣らすに、差錯するを得ず。」 女王国より以北には、特に一人の大率を置いて検察し、諸国はこれを恐れはばかっている。常に伊都国で政務を執っている。(魏)国中における刺史の如きものである。(邪馬壱国の)王が使者を派遣し、魏の都や帯方郡、諸韓国に行くとき、及び帯方郡の使者が倭国へやって来たときには、いつも(この大率が伊都国から)港に出向いて調査、確認する。文書や授けられた贈り物を伝送して女王のもとへ届けるが、数の違いや間違いは許されない。 ㉖下戸與大人相逢道路 逡巡入草 傳辭説事 或蹲或跪 兩手據地 為之恭敬 對應聲曰噫 比如然諾 「下戸、大人と道路に相逢えば、逡巡して草に入る。辞を伝え、事を説くには、或いは蹲り、或いは跪き、両手は地に拠る。これが恭敬を為す。対応の声は噫と曰う。比して然諾の如し。」 下層階級の者が貴人に道路で出逢ったときは、後ずさりして(道路脇の)草に入る。言葉を伝えたり、物事を説明する時には、しゃがんだり、跪いたりして、両手を地に付け、うやうやしさを表現する。貴人の返答の声は「アイ」という。比べると(中国で承知したことを表す)然諾と同じようなものである。 ㉗其國本亦以男子為王 住七八十年 倭國亂相攻伐歴年 乃共立一女子為王 名日卑弥呼 事鬼道能惑衆 年已長大 無夫婿 有男弟 佐治國 自為王以来少有見者 以婢千人自侍 唯有男子一人 給飲食傳辭出入居處 宮室樓觀城柵嚴設 常有人持兵守衛 「その国、本は亦、男子を以って王と為す。住むこと七、八十年。倭国は乱れ、相攻伐すること歴年、乃ち一女子を共立して王と為す。名は卑弥呼と曰う。鬼道に事え能く衆を惑わす。年すでに長大。夫婿なく、男弟ありて、佐(たす)けて国を治める。王と為りてより以来、見有る者少なし。婢千人を以(もち)い、おのずから侍る。ただ、男子一人有りて、飲食を給し、辞を伝え、居所に出入りす。宮室、楼観、城柵が厳設され、常に人有りて兵を持ち守衛す。」 その国は、元々は、また(狗奴国と同じように)男子を王と為していた。居住して七、八十年後、倭国は乱れ互いに攻撃しあって年を経た。そこで、一女子を共に立てて王と為した。名は卑弥呼という。鬼道の祀りを行い人々をうまく惑わせた。非常に高齢で、夫はいないが、弟がいて国を治めるのを助けている。王となってから、まみえた者はわずかしかいない。侍女千人を用いるが(指示もなく)自律的に侍り、ただ、男子一人がいて、飲食物を運んだり言葉を伝えたりするため、女王の住んでいる所に出入りしている。宮殿や高楼は城柵が厳重に作られ、常に人がいて、武器を持ち守衛している。 ㉘女王國東 渡海千餘里 復有國皆倭種 又有侏儒國在其南 人長三四尺 去女王四千餘里 又有裸國黒齒國 復在其東南 船行一年可至 「女王国の東、海を渡ること千余里。復(また)国有りて、皆、倭種。又、侏儒国有りて、その南に在り。人長は三、四尺。女王を去ること四千余里。又、裸国、黒歯国有りて、復、その東南に在り。船行一年にして至るべし。」 女王国の東、海を渡って千余里行くと、また国が有り、皆、倭種である。また、侏儒国がその(女王国の)南にある。人の背丈は三、四尺で、女王国を去ること四千余里。また、裸国と黒歯国があり、また、その(女王国の)東南にある。船で一年行くと着く。 ㉙参問倭地 絶在海中洲㠀之上 或絶或連 周旋可五千餘里 「倭地を参問するに、絶えて海中の洲島の上に在り。或いは絶え、或いは連なり、周旋五千余里ばかり。」 倭地を考えてみると、遠く離れた海中の島々の上にあり、離れたり連なったり、巡り巡って五千余里ほどである。 ㉚景初二年六月 倭女王遣大夫難升米等詣郡 求詣天子朝獻 太守劉夏遣吏将送詣京都 其年十二月 詔書報倭女王曰 「景初二年六月、倭女王は大夫、難升米等を遣わして郡に詣り、天子に詣りて朝献せんことを求む。太守、劉夏は吏を遣わし、将(ひき)い送りて京都に詣る。その年十二月、詔書が倭女王に報いて曰く。」 景初二年(238)六月、倭の女王は、大夫の難升米等を派遣して帯方郡に至り、天子にお目通りして献上品をささげたいと求めた。太守の劉夏は官吏を派遣し、難升米等を引率して送らせ、都(洛陽)に至った。その年の十二月、詔書が倭の女王に報いて、こう言う。 ㉛制詔 親魏倭王卑弥呼 帶方太守劉夏遣使 送汝大夫難升米 次使都市牛利 奉汝所獻 男生口四人 女生口六人 班布二匹二丈以到 汝所在踰遠 乃遣使貢獻是汝之忠孝 我甚哀汝 今以汝為親魏倭王 假金印紫綬 装封付帶方太守假綬 汝其綏撫種人 勉為孝順 汝來使難升米 牛利 渉遠道路勤勞 今以難升米為率善中郎將 牛利為率善校尉 假銀印靑綬 引見勞賜遣還 今以絳地交龍錦五匹 絳地縐粟罽十張 蒨絳五十匹 紺青五十匹 答汝所獻貢直 又特賜汝紺地句文錦三匹 細班華罽五張 白絹五十匹 金八兩 五尺刀二口 銅鏡百枚 真珠鈆丹各五十斤 皆装封付難升米牛利 還到録受 悉可以示汝國中人使知國家哀汝 故鄭重賜汝好物也 「制紹、親魏倭王卑弥呼。帯方太守、劉夏が使を遣わし、汝の大夫、難升米、次使、都市牛利を送り、汝が献ずる所の男生口四人、女生口六人、班布二匹二丈を奉り、以って到る。汝の在る所は遠きを踰(こ)える。すなわち、使を遣わし貢献するは、これ汝の忠孝。我は甚だ汝を哀れむ。今、汝を以って親魏倭王と為し、金印紫綬を仮し、装封して帯方太守に付し、仮授する。汝は其れ種人を綏撫し、勉めて孝順を為せ。汝の来使、難升米、牛利は遠きを渉り、道路勤労す。今、難升米を以って率善中老将と為し、牛利は率善校尉と為す。銀印青綬を仮し、引見して、労い、賜いて、還し遣わす。今、絳地交龍錦五匹、絳地縐粟罽十張、蒨絳五十匹、紺青五十匹を以って、汝の献ずる所の貢の直に答う。又、特に汝に紺地句文錦三匹、白絹五十匹、金八兩、五尺刀二口、銅鏡百枚、真珠鉛丹各五十斤を賜い、皆、装封して難升米、牛利に付す。還り到らば、録して受け、悉く、以って汝の国中の人に示し、国家が汝を哀れむを知らしむべし。故に、鄭重に汝の好物を賜うなり。 ㉜制詔、親魏倭王卑弥呼。 帯方太守、劉夏が使者を派遣し、汝の大夫、難升米と次使、都市牛利を送り、汝の献上した男の生口四人、女の生口六人、班布二匹二丈をささげて到着した。汝の住んでいる所は遠いという表現を越えている。すなわち使者を派遣し、貢ぎ献じるのは汝の忠孝のあらわれである。私は汝をはなはだいとおしく思う。今、汝を以て親魏倭王と為し、金印紫綬を仮し(与え)、装封して帯方太守に付すことで仮(かり)に授けておく。汝は種族の者を安んじ落ち着かせるそのことで、(私に)孝順を為すよう勉めよ。汝の使者、難升米と牛利は遠くから渡ってきて道中苦労している。今、難升米を以って率善中郎将と為し、牛利は率善校尉と為す。銀印青綬を仮し(与え)、引見してねぎらい、下賜品を与えて帰途につかせる。今、絳地交龍錦五匹、絳地縐粟罽十張、蒨絳五十匹、紺青五十匹を以って、汝が献じた貢ぎの見返りとして与える。また、特に汝に紺地句文錦三匹、細班華罽五張、白絹五十匹、金八両、五尺刀二口、銅鏡百枚、真珠、鉛丹各五十斤を下賜し、皆、装封して難升米と牛利に付す。帰り着いたなら記録して受け取り、ことごとく、汝の国中の人に示し、我が国が汝をいとおしんでいることを周知すればよろしい。そのために鄭重に汝の好物を下賜するのである。 ㉝正始元年 太守弓遵 遣建中校尉梯儁等 奉詔書印綬詣倭国 拝仮倭王 并齎詔 賜金帛錦罽刀鏡采物 倭王因使上表 答謝詔恩 「正始元年、太守、弓遵は建中校尉、梯儁等を遣わし、詔書、印綬を奉じて倭国に詣り、倭王に拝仮す。並びに詔を齎(もたら)し、金、帛、錦、罽、刀、鏡、采物を賜う。倭王は使に因りて上表し、詔恩に答謝す。」 正始元年(240)、(帯方郡)太守、弓遵は建中校尉梯儁等を派遣し、梯儁等は詔書、印綬(=親魏倭王という地位の認証状と印綬)を捧げ持って倭国へ行き、これを倭王に授けた。並びに、詔(=制詔)をもたらし、金、帛、錦、罽、刀、鏡、采物を下賜した。倭王は使に因って上表し、その有り難い詔に感謝の意を表して答えた。 ㉞其四年 倭王復遣使大夫伊聲耆掖邪拘等八人 上獻生口倭錦絳青縑緜衣帛布丹木拊短弓矢 掖邪狗等壱拝率善中郎將印綬 「其の四年。倭王はまた使の大夫伊聲耆、掖邪拘等八人を遣わし、生口、倭錦、絳青縑、緜衣、帛布、丹、木拊短弓、矢を上献す。掖邪狗等は率善中郎将と印綬を壱拝す。」 その(正始)四年(243)、倭王はまた大夫伊聲耆、掖邪狗等八人を派遣し、生口や倭の錦、赤、青の目の細かい絹、綿の着物、白い布、丹、木の握りの付いた短い弓、矢を献上した。掖邪狗等は等しく率善中郎将と印綬を授けられた。 ㉟其六年 詔賜倭難升米黄幢 付郡假授 「其の六年、詔して倭、難升米に黄幢を賜い、郡に付して仮授す。」 正始六年(245)、詔して倭の難升米に黄色い軍旗を賜い、帯方郡に付して仮に授けた。 ㊱其八年太守王頎到官 倭女王卑弥呼與狗奴國男王卑弥弓呼素不和 遣倭載斯烏越等 詣郡 説相攻撃状 遣塞曹掾史張政等 因齎詔書黄幢 拝假難升米 為檄告喩之 「其の八年、太守、王頎が官に到る。倭女王、卑弥呼は狗奴国王、卑弥弓呼素と和せず、倭、載烏越等を遣わし、郡に詣り、相攻撃する状を説く。塞曹掾史、張政等を遣わし、因って詔書、黄幢を齎し、難升米に拝仮し、檄を為(つく)りて之を告諭す。」 正始八年(247)、(弓遵の戦死を受けて)帯方郡太守の王頎が着任した。倭女王の卑弥呼は狗奴国の男王、卑弥弓呼素と和せず、倭の載斯烏越等を派遣して、帯方郡に至り、戦争状態であることを説明した。(王頎は)の張政等を派遣し、張政は詔書、黄幢をもたらして難升米に授け、檄文をつくり、これを告げて諭した。 ㊲卑弥呼以死 大作冢 徑百餘歩 徇葬者奴婢百餘人 更立男王 國中不服 更相誅殺 當時殺千餘人 復立卑弥呼宗女壹與年十三為王 國中遂定 政等以檄告喩壹與 「卑弥呼以って死す。冢を大きく作る。径百余歩。徇葬者は奴婢百余人。更に男王を立つ。国中服さず。更に相誅殺し、当時、千余人を殺す。復(また)、卑弥呼の宗女、壱与、年十三を立てて王と為す。国中遂に定まる。政等は檄を以って壱与に告諭す。」 卑弥呼は死に、冢を大きく作った。直径は百余歩。徇葬者は男女の奴隷、百余人である。さらに男王を立てたが、国中が不服で互いに殺しあった。当時千余人が殺された。また、卑弥呼の宗女、十三歳の壱与(イヨ)を立てて王と為し、国中が遂に安定した。張政たちは檄をもって壱与に教え諭した。 ㊳壹與遣倭大夫率善中郎將掖邪拘等二十人 送政等還 因詣臺 獻上男女生口三十人 貢白珠五千孔 青大句珠二枚 異文雑錦二十匹 「壱与は倭の大夫、率善中郎将、掖邪拘等二十人を遣わし、政等の還るを送る。因って、臺に詣り、男女生口三十人を献上し、白珠五千孔、青大句珠二枚、異文雜錦二十匹を貢ぐ。」 壱与は大夫の率善中郎将、掖邪拘等二十人を派遣して、張政等が帰るのを送らせた。そして、臺(中央官庁)に至り、男女の生口三十人を献上し、白珠五千孔、青大句珠二枚、模様の異なる雑錦二十匹を貢いだ。 *5-3:https://www.asahi.com/articles/ASN946Q7CN94ULUC00D.html (朝日新聞 2020年9月5日) 青森)世界遺産へ正念場 縄文遺跡群でイコモス調査 青森県など4道県が来年の世界文化遺産登録をめざす「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、世界遺産にふさわしいか評価するユネスコの諮問機関による現地調査が4日、始まった。海外の専門家が全17遺跡を回る現地調査は4道県にとって登録の判断に直結する「正念場」。青森市の三内丸山遺跡では、この日に備え準備を進めた関係者が真剣な表情で遺跡の価値や保存状況の説明にあたっていた。現地調査に訪れたのは、ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の調査員で、オーストラリア人の専門家。県内を皮切りに15日までの期間中、4道県の各遺跡で政府が提出した推薦書の内容を確認し、調査結果をもとに来年5月にもイコモスが「登録」や「登録延期」など4段階ある評価のいずれかを勧告する。さらにこの勧告をもとに来夏に予定されるユネスコの世界遺産委員会が、最終的に登録するかどうか判断する。現地調査に向け、4道県は調査員役をたてて各遺跡でリハーサルを行うなど、入念な準備を進めてきた。この日、三内丸山遺跡では調査員が発掘された土坑墓や復元した大型掘立柱建物など大規模集落跡を丹念に見て回り、同行した県世界文化遺産登録推進室の岡田康博室長らに質問したり写真を撮影したりして遺跡の様子を確認していた。調査の一部は報道陣に公開されたが、審査の中立性を保つため、調査の内容や詳しい日程は非公表。イコモスの要請で、調査員への取材は認められず、調査中のやりとりが聞こえない距離からの撮影だけが許可される徹底ぶりだった。現地調査の開始を前に、三村申吾知事は3日の定例記者会見で「本当に待ちに待って準備してきて、いよいよという場面。とはいうものの、私どもは会いに行っちゃいけないし、頼むという感じ」と登録への期待を語っていた。現地調査の様子は、6日に秋田県鹿角市の大湯環状列石、13日に北海道伊達市の北黄金貝塚、15日に岩手県一戸町の御所野遺跡でも報道陣に公開される。 <無知や意識の低さは罪つくりであること> PS(2021年3月18日追加):*6-1に、法相の諮問機関である法制審議会親子法制部会が民法の嫡出推定の見直しのための中間試案で、「①離婚後300日以内に生まれた子を『前夫の子』とみなす民法規定に例外を設け、母親が出産時点で再婚していれば『現夫の子』とみなす規定を設ける」「②女性に限り離婚後100日間、再婚を禁じる規定を撤廃する」「③見直しは離婚も再婚も成立した後に生まれた子に限られ、離婚協議もままならないケースは対象にならない」「④明治時代から続くこの規定は、母親が出生届を出さずに無戸籍者を生じさせる要因とされてきた」「⑤嫡出推定は、生まれた子と戸籍上の父親の関係を早く確定させて養育・相続等で子の利益を図る目的の制度である」などが書かれている。 しかし、今はDNA鑑定で本当の父を特定できる時代であるため、①②は論外であるものの、③⑤も推定を根拠にしている点で誤りの可能性を残し、これでは父子ともに納得できないと思われるので、要請がある場合にはDNA鑑定で本当の父を特定することを原則にすべきだと思う。鑑定の結果、再婚相手の子でなかった場合は、親権の所在を確定した上で、養子縁組などの対応をとればよいだろう。なお、④については、前夫との離婚が成立するまでは再婚相手の子を作らないなど、女性も自分のことだけでなく子の気持ちや生育環境も考えて子づくりすべきだ。 そのような中、*6-2のように、東京オリ・パラの開閉会式の演出を統括する佐々木氏が、開会式に出演予定だった太めの女性タレントの容姿を侮辱する内容の演出を提案したのだそうだ。開閉会式の演出をめぐって、組織委は2020年末に狂言師の野村萬斎氏を統括とする7人のチームを解散し、佐々木氏を責任者として権限を一本化していたとのことだが、佐々木氏が演出したとされるリオデジャネイロでの2016年の閉会式は、一国の首相をスーパーマリオに扮して登場させ、大人も多く見ているのに内容のない演出だと思っていた。そもそも、蔑みや侮辱で笑いをとろうとするのは見識が低いが、こういう人が日本のCM業界を代表する作り手で東京オリ・パラの開閉会式の演出統括責任者に選ばれていたというのでは、日本のTVのレベルが低いのも理解でき、選んだ人もまた意識が低い。 *6-1:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=133827 (南日本新聞 2021/3/7) [嫡出推定見直し] 無戸籍者生まぬ制度へ 婚姻を基準に子どもの父親を決める民法の「嫡出推定」の見直しに向け、法相の諮問機関である法制審議会の親子法制部会が中間試案をまとめた。離婚後300日以内に生まれた子どもを「前夫の子」とみなす規定の例外を設け、母親が出産時点で再婚していれば「現夫の子」と新たに規定する。併せて女性に限り離婚後100日間、再婚を禁じる規定も撤廃する。明治時代から120年以上続く現行のルールは、母親が出生届を出さずに無戸籍者が生じる大きな要因とされてきた。試案は現代の家族観を反映した法律の転換点と評価できよう。ただ、見直しは今のところ離婚も再婚も成立した後に生まれた子どもに限られ、家庭内暴力で離婚協議もままならないケースなどは対象とならない。制度を充実させるために議論を深めていく必要がある。嫡出推定は本来、生まれた子どもと戸籍上の父親との関係を早く確定させて、養育や相続などで子どもの利益を図る考えに基づく制度である。海外でも採用している国は少なくない。しかし近年、離婚直後に別の男性との子どもを産んだ場合などに、前夫の子どもとみなされるのを避けるため、母親が出生届を出さないケースが増えてきた。法務省が市区町村などを通して把握した無戸籍者は1月時点で901人おり、このうち73%がこうした事例に当たる。支援団体によると、行政が捉えられていない潜在的な無戸籍者も多く、少なくとも1万人に上るという。無戸籍者は住民票の作成や運転免許の取得、銀行口座の開設などが難しく、進学や就職、結婚でも深刻な影響を受ける。本人に落ち度がないのに多大な不利益を強いられる現実を考えれば、民法の規定見直しは急務だ。中間試案は、夫にだけ認められていた父子関係を否定する「嫡出否認」の訴えを、未成年の子どもと、子の代理の母親もできるようにすることも示した。当事者への配慮がうかがえる。とはいえ、なかなか離婚できなかったり、再婚に至らなかったりした場合の対応が不十分との指摘が出ている。300日規定そのものの撤廃を求める声も根強い。事実婚など家族の在り方が多様化する中、さらにさまざまな要請に応えなければならない。例えば、科学技術の進歩を生かし、今では民間機関も手掛けているDNA鑑定で血縁上の父親と判定できれば、出生届を受け付ける仕組みなども検討するべきではないか。法制審部会が方向性を示したことで、法改正に結びつく可能性は高くなってきた。現在、生活に支障を来している無戸籍者への支援を含め、救済の枠からこぼれ落ちる子どもが出ないよう知恵を絞りたい。 *6-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14836892.html (朝日新聞 2021年3月18日) 「女性容姿侮辱の演出提案」 統括者退任へ 五輪開会式巡る報道 今夏に延期となった東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の演出を統括するクリエーティブディレクターの佐々木宏氏(66)が、開会式に出演予定だった女性タレントの容姿を侮辱するようなメッセージをチーム内のLINEに送っていたと、文春オンラインが17日報じた。佐々木氏は退任する方向で、大会組織委員会の橋本聖子会長が18日に記者会見し、問題の経緯や佐々木氏の処遇について説明する見込み。記事によると、佐々木氏は昨年3月、開閉会式の演出を担うチーム内のLINEに、女性タレントの容姿を侮辱するような内容の演出を提案したという。メンバーから反発があり、この提案は撤回されたという。組織委の広報担当は文春の記事について「佐々木氏本人から事実関係を確認中。事実とすれば、不適切で大変遺憾に思う」と述べた。組織委では、森喜朗前会長が自身の女性蔑視発言の責任をとって2月に退任している。開閉会式の演出をめぐっては、組織委は昨年末、狂言師の野村萬斎氏を統括とする7人のチームの解散を発表した。コロナ禍に伴う式典の簡素化や演出変更を短期間で進めるため、佐々木氏を責任者に据え、権限を一本化していた。佐々木氏は広告大手の電通出身。安倍晋三首相(当時)をサプライズ登場させた2016年リオデジャネイロ五輪閉会式での引き継ぎ式や、水泳の池江璃花子さんを起用した昨夏の五輪1年前イベントの演出を担当。日本のCM業界を代表する作り手とされる。 <これから夫婦別姓を認める必要はあるか?> PS(2021年3月19日):私(戸籍名:平林、通称:広津《旧姓》)は、公認会計士・税理士の登録に際して戸籍名しか認められず、仕事上は戸籍名を使うしか選択肢がなくて不便だと思ったため、1995年前後に「選択的夫婦別姓制度にして欲しい」と言っていたが、その後、公認会計士・税理士は旧姓を通称として使用することを認めたため、後は銀行・公文書への記載・法律行為などに通称使用が認められるようになればよいと思っている。何故なら、ここで選択的夫婦別姓制度も取り入れると、*7-1のように、①夫婦別姓を選択しなかった人は旧姓を使えない もしくは、②旧姓の通称使用も認めると「同氏夫婦」「別氏夫婦」「通称使用夫婦」の3種類の夫婦が出現して制度が複雑化し ③ファミリー・ネームが機能しなくなり ④「子の姓の安定性」が損なわれる などのディメリットがあるからだ。また、今では、⑤殆どの専門資格(士業・師業)で旧姓の通称使用や資格証明書への併記が認められるようになり ⑥マイナンバーカード・免許証・住民票は戸籍名と旧姓の併記が認められている ため、後は、銀行口座・公文書・法律行為などで通称使用が認められればよいだろう。 そのため、*7-2のように、選択的夫婦別姓に反対する人は「⑦望まない人にも改姓を強要している」「⑧偏見と無根拠に満ちている」「⑨選択的夫婦別姓の意味がわかってないから反対しているに違いない」と言われるのは全く事実と異なり、私自身は、妹のピアノの先生の不便を見て子供の頃(1960年代)からわかっていたため、結婚時に戸籍名が変わっても個人のキャリアの連続が示されるよう、機会がある度に旧姓で活動できるようにしてきたのである。 *7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/88122 (東京新聞 2021年2月25日) 【全文】夫婦別姓反対を求める丸川大臣ら自民議員の文書、議員50人の一覧 丸川珠代・男女共同参画担当相や高市早苗・元男女共同参画担当相ら自民党の国会議員有志が、埼玉県議会議長の田村琢実県議に送った、選択的夫婦別姓の反対を求める文書は以下の通り。 ◆◇◆◇◆ 厳寒のみぎり、先生におかれましては、ご多用の日々をお過ごしのことと存じます。貴議会を代表されてのご活躍に敬意を表し、深く感謝申し上げます。 本日はお願いの段があり、取り急ぎ、自由民主党所属国会議員有志の連名にて、書状を差し上げることと致しました。 昨年来、一部の地方議会で、立憲民主党や共産党の議員の働き掛けにより「選択的夫婦別氏制度の実現を求める意見書」の採択が検討されている旨、仄聞しております。 先生におかれましては、議会において同様の意見書が採択されることのないよう、格別のご高配を賜りたく、お願い申し上げます。 私達は、下記の理由から、「選択的夫婦別氏制度」の創設には反対しております。 1 戸籍上の「夫婦親子別氏」(ファミリー・ネームの喪失)を認めることによって、家族単位の社会制度の崩壊を招く可能性がある。 2 これまで民法が守ってきた「子の氏の安定性」が損なわれる可能性がある。 ※同氏夫婦の子は出生と同時に氏が決まるが、別氏夫婦の子は「両親が子の氏を取り合って、協議が調わない場合」「出生時に夫婦が別居状態で、協議ができない場合」など、戸籍法第49条に規定する14日以内の出生届提出ができないケースが想定される。 ※民主党政権時に提出された議員立法案(民主党案・参法第20号)では、「子の氏は、出生時に父母の協議で決める」「協議が調わない時は、家庭裁判所が定める」「成年の別氏夫婦の子は、家庭裁判所の許可を得て氏を変更できる」旨が規定されていた。 3 法改正により、「同氏夫婦」「別氏夫婦」「通称使用夫婦」の3種類の夫婦が出現することから、第三者は神経質にならざるを得ない。 ※前年まで同氏だった夫婦が「経過措置」を利用して別氏になっている可能性があり、子が両親どちらの氏を名乗っているかも不明であり、企業や個人からの送付物宛名や冠婚葬祭時などに個別の確認が必要。 4 夫婦別氏推進論者が「戸籍廃止論」を主張しているが、戸籍制度に立脚する多数の法律や年金・福祉・保険制度等について、見直しが必要となる。 ※例えば、「遺産相続」「配偶者控除」「児童扶養手当(母子家庭)」「特別児童扶養手当(障害児童)」「母子寡婦福祉資金貸付(母子・寡婦)」の手続にも、公証力が明確である戸籍抄本・謄本が活用されている。 5 既に殆どの専門資格(士業・師業)で婚姻前の氏の通称使用や資格証明書への併記が認められており、マイナンバーカード、パスポート、免許証、住民票、印鑑証明についても戸籍名と婚姻前の氏の併記が認められている。 選択的夫婦別氏制度の導入は、家族の在り方に深く関わり、『戸籍法』『民法』の改正を要し、子への影響を心配する国民が多い。 国民の意見が分かれる現状では、「夫婦親子同氏の戸籍制度を堅持」しつつ、「婚姻前の氏の通称使用を周知・拡大」していくことが現実的だと考える。 ※参考:2017年内閣府世論調査(最新) 夫婦の名字が違うと、「子供にとって好ましくない影響があると思う」=62.6% 以上、貴議会の自由民主党所属議員の先生方にも私達の問題意識をお伝えいただき、慎重なご検討を賜れましたら、幸甚に存じます。 先生のご健康と益々のご活躍を祈念申し上げつつ、お願いまで、失礼致します。 令和3年1月30日 衆議院議員(50音順):青山周平 安藤裕 石川昭政 上野宏史 鬼木誠 金子恭之 神山佐市 亀岡偉民 城内実 黄川田仁志 斎藤洋明 櫻田義孝 杉田水脈 鈴木淳司 高市早苗 高木啓 高鳥修一 土井亨 中村裕之 長尾敬 深澤陽一 藤原崇 古屋圭司 穂坂泰 星野剛士 細田健一 堀井学 三谷英弘 三ツ林裕巳 宮澤博行 簗和生 山本拓 参議院議員(50音順):赤池誠章 有村治子 磯崎仁彦 岩井茂樹 上野通子 衛藤晟一 加田裕之 片山さつき 北村経夫 島村大 高橋克法 堂故茂 中西哲 西田昌司 丸川珠代 森屋宏 山田宏 山谷えり子 *7-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/88547 (東京新聞 2021年2月27日) 丸川大臣「残念すぎる」選択的夫婦別姓、反対議員50人へ質問状 市民団体 自民党の国会議員有志が選択的夫婦別姓の導入に賛同する意見書を地方議会で採択しないよう求めた文書を巡り、市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は26日、文書に名を連ねた国会議員50人に公開質問状を送った。事務局は「困り事を抱える国民の声を水面下で押しつぶそうとする行為だ。望まない人にも改姓を強要する合理的な根拠を明らかにしてほしい」と話す。回答結果は3月9日に公表する。文書は1月30日付で、地方議会の議員に送られた。選択的夫婦別姓の実現を求める意見書を採択しないよう促す内容で、閣僚就任前の丸川珠代男女共同参画担当相のほか、高市早苗前総務相、衛藤晟一前少子化対策担当相ら計50人が名前を連ねていた。市民団体は、国会議員50人が連名で文書を送付したことは、「国会議員が水面下で地方議会に圧力をかけて阻む行為に等しい」と問題視。さらに、文書に書かれた選択的夫婦別姓に反対する理由が「偏見と無根拠さに満ちている」と感じ、質問状を送ることを決めた。質問は、文書に名前を連ねた経緯や夫婦別姓制度への賛否、反対する理由など11問をたずねた。丸川氏など旧姓で活動する議員には、旧姓使用を続ける理由も聞いている。(記事最後にすべての質問項目を掲載)。事務局長の井田奈穂さんは「望まない改姓は、イデオロギーの問題ではない。現実的な生活上の困りごと」と指摘。別姓を選べないために結婚しないカップルもいるといい、事務局には多くの相談が寄せられているという。反対議員による文書送付について、「生活上の困りごとを抱える市民の声を、制度設計をする人たちに届かないよう封じるための行為だと感じる」と話す。 ◆丸川氏「おかしい」といっていたのに… 井田さんは昨年2月、葛飾区議の区政報告会で、出席していた丸川氏と話す機会があったという。井田さんによると、丸川氏は、選択的夫婦別姓について「2つの名前を使えるのは私は便利だと思ってますが、公文書に皆さんが投票して下さった丸川姓で署名できず戸籍姓必須はおかしいと思う」と力説。閣議決定の署名で「丸川」を使えないなど、旧姓使用の限界を身をもって理解していると感じたという。 丸川氏が文書に名前を連ねていたことについて、井田さんは「男女共同参画担当大臣として残念すぎます。職務上氏名を名乗れないことに忸怩たる思いを持つ方が、同じ思いを持つ人たちの声をつぶすことは、『個人的な信条』とは矛盾しているのではないか」と疑問を投げかけた。「選択的夫婦別姓は、選択肢を増やすだけで、みんなが別姓になるわけではない。議員の方には、これを機に勉強会を開いて当事者の声を聞いてほしい。呼んでいただければ喜んで出席する」と話した。選択的夫婦別姓・全国陳情アクションのサイトで反論なども掲載している。 ◆議員への質問 1・今回の「お手紙」に名を連ねた経緯についてお聞かせください。 2・国民主権の国で、国民が国会に意見を届けるための制度が地方議会での意見書です。今回の「お手紙」は、「国会議員が生活上の困りごとを抱えた当事者の意見を国会に届けさせないようにする圧力ではないか」という意見について、先生はどのようにお考えですか。 3・選択的夫婦別姓制度に反対ですか? 4・反対であれば、それはなぜですか。お手数ですが、今回の「お手紙」に至った発端(埼玉県議会への相談)を作った当事者である井田奈穂の意見、法学者・二宮周平教授の解説を踏まえた上でご回答ください。 5・反対の根拠とされている「ファミリー・ネーム」の法的定義について、立法府の議員としてお教えください。 6・第5次男女共同参画基本計画に対するパブリックコメントに400件以上、切実に法改正を望む声が寄せられました。旧姓使用の限界やトラブル事例も多く報告されています。「旧姓使用ではなく生まれ持った氏名で生きたい」と訴える当事者が目の前にいたら、どのように回答されますか? 7「お互いの氏名を尊重しあって結婚したいが、今後も法的保障のない事実婚を選ぶしかないのですか?」と訴えるカップルが目の前にいたら、どのように回答されますか? 8・夫婦別姓を選べない民法の規定について、国連女性差別撤廃委員会から再三改善勧告を受けていることについて、どのように対応すべきとお考えですか? 9・旧姓使用に関して、法的根拠のない氏名を、今後あらゆる法的行為、海外渡航、海外送金、登記、投資、保険、納税、各種資格、特許などにおいても使えるようにしていくべきと思いますか? 10・以下は、旧姓使用をされている議員の方にお伺いします。なぜ旧姓使用をしておられるのですか? 11・「3種類の夫婦の出現に第三者は神経質にならざるを得ない」と主張する先生が、自ら旧姓を通称使用をし、社会的に生来姓を名乗っておられるのは甚だしい自己矛盾ではないかという意見があります。そのお考えであれば、生来姓を変えないのが一番ではないでしょうか? <女性の働きやすさ・生きやすさ> PS(2021年3月20日追加):英誌エコノミストが、*8-1のように、主要29カ国の女性の働きやすさでランキングした結果、北欧のスウェーデンが1位・アイスランドが2位・フィンランドが3位で、日本は下から2番目の28位・韓国が最下位の29位だったそうだ。そのランキングは、管理職に占める女性の割合・女性の労働参加率・男女の賃金格差などの10の指標に基づいており、18位の米国は女性の労働参加は進んでいるが政治参加が少なく、日本は、管理職に占める女性の割合・衆議院の女性議員割合が最低で、世界経済フォーラムの2019年ランキングでも153カ国中121位だったそうだ。 国連は、*8-2のように、2021年のテーマを「リーダーシップを発揮する女性たち―コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」に定めたそうだ。しかし、*8-3のように、日本国憲法は、1947年の施行以来、第22条で「職業選択の自由」を規定しているにもかかわらず、女性の職業は「働いていない」と言われる専業主婦以外の選択肢が狭かったり、選択できる職業は賃金が安かったり、身分が不安定だったりしてきたため、*8-1の状況は国内的にも憲法違反であることが明らかだ。まして、「子を1人も作らない女性が、年取って税金で面倒見なさいというのは、本当はおかしい」などと言われるのは論外で、この発言は女子差別撤廃条約違反でもあるが、その前に、DINKSで働いた私は、専業主婦と2人の子を持つ男性とは比較にならないくらい多額の所得税や社会保険料を支払ってきたため、そのようなことを言うのなら、税金から支出した子の教育費・保育費・医療費と専業主婦の医療費・年金支給額等を返還して欲しい。 このように、日本社会のジェンダーに基づく人権侵害で不快な女性差別発言には事欠かないが、メディアもまた「表現の自由」「言論の自由」と称して、差別を助長するドラマの筋書きや間抜けな聞き役の女性を配した報道番組が多いため、気を付けてもらいたい。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2020.3.6朝日新聞 (図の説明:1番左の図は、2019年のジェンダーギャップ指数で、日本は153か国中121位であり、2018年より下がっている。左から2番目と右から2番目の図は、2020年のジェンダー・ギャップ指数で、2019年と殆ど同じだ。さらに、1番右の図は、入社1年目と4年目で管理職を目指す男女の割合を示したもので、ハードルが多いせいか女性の割合が著しく低い) ![]() ![]() ![]() 2017.7.28朝日新聞 2017.8.24朝日新聞 (図の説明:左図のように、出生数も合計特殊出生率も戦後は下がり続けており、1970年以降は子育てのやりにくさを反映していたのだが、著しく女性割合の小さな政治・行政は的確な対応をしなかった。また、女性の上昇志向の持ちにくさ、働きにくさ、子育てを含む生きにくさを作る原因は、右の2つの図が示すように、メディア等によって発せられ、国民の常識となっていく、ジェンダーを含む発言・世論操作・行動の影響が大きい) *8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP396RLDP39UHBI028.html (朝日新聞 2021年3月9日) 女性の働きやすさ、日本はワースト2位 英誌ランク付け 英誌エコノミストは、8日の国際女性デーに合わせ、主要29カ国を女性の働きやすさで指標化したランキングを発表した。1位は北欧のスウェーデンで、日本は昨年に続き下から2番目の28位。最下位は韓国だった。ランキングは、管理職に女性が占める割合や女性の労働参加率、男女の賃金格差など10の指標に基づき、エコノミストが独自にランク付けした。ランキングでは2位がアイスランド、3位がフィンランドと北欧の国々が上位を占めた。米国は女性の労働参加が進む一方、女性の政治参加は少なく、ランキングは18位だった。日本は管理職の女性の割合や、下院(日本での衆院)での女性議員の割合がそれぞれ最も低かった。同誌は、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗元首相による女性蔑視発言を受けて、橋本聖子氏が後任となったことに触れ、「日本のように伝統的に遅れている国でさえ、少なくとも進歩の兆しがみられる」と指摘した。2位だったアイスランドは、世界経済フォーラムが発表している男女平等ランキングでも11年連続で1位を維持している。直近の2019年のランキングで、日本は153カ国中121位だった。英誌エコノミストが発表した女性の働きやすさのランキングは、以下の通り。 1位 スウェーデン 、2位 アイスランド 、3位 フィンランド 、4位 ノルウェー 、5位 フランス 、6位 デンマーク 、7位 ポルトガル 、8位 ベルギー 、9位 ニュージーランド 、10位 ポーランド 、11位 カナダ 、12位 スロバキア 、13位 イタリア 、14位 ハンガリー 、15位 スペイン 、16位 オーストラリア 、17位 オーストリア 、18位 米国 、19位 イスラエル 、20位 英国 、21位 アイルランド 、22位 ドイツ 、23位 チェコ 、24位 オランダ 、25位 ギリシャ 、26位 スイス 、27位 トルコ 、28位 日本 、29位 韓国 *8-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1282908.html (琉球新報社説 2021年3月8日) 国際女性デー 遅れた「平等」直視したい きょう3月8日は国際女性デー。女性への差別に反対し、地位向上を求める日である。国連は2021年のテーマを「リーダーシップを発揮する女性たち―コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」に定めた。女性はリーダーシップを発揮できているだろうか。そしてコロナ禍で平等な労働環境と政治参加を手に入れているだろうか。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が「女性の入っている理事会は時間がかかる」などと発言し、辞任に追い込まれた。日本オリンピック委員会(JOC)が女性理事を増やす方針を掲げたことに関連しての発言だった。政府はあらゆる分野で「指導的地位に占める女性の割合30%」を目標とするが、達成には遠く及ばない。JOCも女性理事は20%だ。森氏の発言は困難を越えてようやく発言権を得た女性たちをけん制するメッセージだった。男性の多数決に従い、立場をわきまえておとなしくしていろと、女性たちを従来の、男性主体の社会の枠に押し込めようとした。森氏は過去に「子どもを一人もつくらない女性が、(略)年取って税金で面倒見なさいというのは、本当はおかしい」と言ったこともある。子どもを産まない女性は国のためになっていない、価値がないという発想は女性の人格すら否定している。しかし当時、問題にはなったが、進退にはつながらなかった。今回、辞任に至ったのは女性たちが世論をつくり、五輪開催すら危ぶまれたからだ。変化の兆しが感じられる。ただし、日本の女性の地位は国際的にみれば大きく立ち遅れている。世界経済フォーラムが発表した19年の「男女格差報告」で日本は153カ国中、過去最低の121位だ。特に政治分野は144位と深刻で、衆院議員10%、参院23%、閣僚も20人中2人にとどまる。沖縄でも県議会は14%にすぎない。男女の候補者数をできる限り均等にするよう求める法律が施行されたが、効果ははかばかしくない。女性候補者の割合を義務づけるクオータ制や割合に応じた政党助成金の配分など諸外国の制度を参考に導入を議論すべきだ。コロナ禍は雇用の不安定な女性を追い詰めている。働く女性の半数以上は非正規労働者だが、昨年、同じ非正規でも女性のほうが男性の2倍、減少している。正社員は増えておらず、真っ先に解雇されるのは女性だと考えられる。男性との給与格差も大きい。コロナ禍で大きな影響を受ける層に焦点を当てた支援策を講じなければならない。日本社会の男女格差は根深い。男は仕事、女は家庭などの性別役割意識が強く残り、男性に長時間労働を強い、女性の社会参画を阻んでいる。現状を直視し、いかに男女が平等な社会を築けるか、男性も共に考える日にしたい。 *8-3:http://law.main.jp/kenpou/k0022.html (日本国憲法逐条解説) 第3章 国民の権利及び義務 第22条 【居住、移転及び職業選択の自由、外国移住及び国籍離脱の自由】 第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。 第2項 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。 <解説> 1項は、自己の従事する職業を決定し、遂行する自由を定めています。ただし、政策的な見地から、一定の制限を受けることがあります。例えば、開業するにつき許可制がとられている場合 ( 交通、電気、ガスなど ) がありますが、 これは合理的な制限であり憲法には反しません。 2項は、外国移住及び国籍離脱の自由を定めています。外国へ移住する自由とともに、強制的に外国へ移住させられない自由なども含まれています。国籍については、国籍法に詳しく規定されており、国籍法11条によると国籍を離脱するには外国籍の取得が必要とされています。 <日本は感染症対策も153か国中121位程度では?> PS(2021年3月21日追加):*9-1のように、東京オリ・パラは海外の一般観客の受入断念をすることとなったそうで、日本側は海外での変異株の出現を理由とした。しかし、ウイルスの変異はウイルスが存在する限りどこででも(日本国内でも)起き、変異したからといって従来のワクチンが効かなくなるとは限らないため、徹底した検査・治療薬の承認・ワクチン開発が重要なのであり、ワクチン接種済の外国人とワクチン未接種の日本人を比較すれば、ワクチン未接種の日本人の方がずっと感染リスクが高いのである。従って、*9-2のように、ワクチン接種済の選手を行動制限したり、ワクチン接種済の海外からの観客を排除したりするのは、非科学的すぎて誰も支持しないだろうし、五輪の精神にも反する。 なお、厚労省主導での①検査渋り ②治療薬未承認 ③ワクチン未開発 など、感染症対策で失政をやり続けた日本政府が、海外在住者購入チケットの払い戻しやGo Toキャンペーンで莫大な予算を使うのは、国民にとっては「メンツをつぶされた」程度ではすまされない問題である。 さらに、*9-3は、「新型コロナ変異株の広がりで、現在は変異株流行国から入国した人に要請している検査や待機の対応を、全ての国からの入国者に広げる」としているが、ワクチン接種済証明書や陰性証明書のある人の検査はどの国からの入国者であれ簡便でよく、それがない人はどの国の人であっても徹底した検査と14日間の隔離が必要なのである。そのため、これまでの水際対策もおかしかったことがわかり、このようなザル対策では国民が何度自粛してもリバウンド(再拡大)は起きるだろう。 このような中、*9-4のように、東京都から新型コロナ改正特別措置法に基づく時短営業の命令を受けた飲食チェーン「グローバルダイニング」が、「時短命令は違法」として東京都に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こすそうだ。私も、「命を守るため」とか「緊急事態」とさえ言えば何をやってもよいとばかりに失政を積み重ねた政治・行政が、国民に過剰な権利の制約を行うのを見逃しては今後のためにならないと考える。これは、*9-5のように、東京オリ・パラで海外からの観戦客受け入れを見送るとされ、ホテルや観光業者が厚労省の不作為によって梯子を外されて大打撃を受けることとも同源であり、ここで「予約キャンセル料」等を国が税金から補填するのは一般国民が納得できないため、ワクチン接種済証や陰性証明書を持つ外国人は入国できるように、集団で提訴もしくは交渉したらどうかと思った。 ![]() は、10年後の現在も解除されていない。しかし、会計での短期と長期の境界は1年で、 人命がかかわる「緊急」は、分単位からせいぜい1ヶ月~6ヶ月だ。それ以上の期間は、 「慢性」や「長期」と呼ぶのである。 *9-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92715 (東京新聞 2021年3月20日) 東京五輪の海外観客受け入れを断念、チケットは払い戻し IOCなど5者協議で決定 東京五輪・パラリンピックの海外からの一般観客を巡り、大会組織委員会、政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表による5者協議が20日、オンラインで開催され、受け入れを断念すると正式決定した。新型コロナウイルスは変異株の出現などで厳しい感染状況が続き、国民の不安も強いことから、受け入れを見送る方針で一致。海外在住者が購入したチケットは払い戻す。新型コロナで史上初の延期となった大会は、これまでにない異例の方式での開催となる。協議には組織委の橋本聖子会長、丸川珠代五輪相、小池百合子都知事、IOCのバッハ会長、IPCのパーソンズ会長が参加。終了後に橋本氏らが会見した。政府や組織委などは、海外在住のボランティアの受け入れについても原則的に見送る方針を固めた。観客数の上限は、政府のイベント制限の方針に準じ、4月中に判断する。 *9-2:https://mainichi.jp/articles/20210320/k00/00m/050/185000c (毎日新聞 2021/3/20) 「ワクチン=切り札」のIOC、日本に不満 五輪開催へ頭越し提案 今夏の東京オリンピック・パラリンピックの海外からの観客受け入れを見送ることが20日、政府、東京都、大会組織委員会に国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者を交えた5者による協議で正式に決まった。新型コロナウイルスの感染が続く中、開催の成否を握るのがワクチンだが、関係者間には大きな溝が横たわる。 ●「日本のメンツ丸つぶれ」の理由 ある国際競技団体の幹部が解説する。「国際オリンピック委員会(IOC)のお膝元の欧州ではワクチン接種が前提となりつつある。接種や確保の進まぬ開催国の日本で、接種を受けた選手の行動が制限されることにIOCは不満がある」 *9-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92816 (東京新聞 2021年3月21日) 新型コロナ変異株の検査や待機、全入国者への拡大の意向示す 田村厚労相 田村憲久厚生労働相は21日のNHK番組で、新型コロナウイルス変異株の広がりを受け、現在は変異株の流行国から入国した人に要請している検査や待機の対応を、全ての国からの入国者に広げたい考えを述べた。水際対策を強化する狙い。変異株流行国からの入国者は、出国前と入国時、入国後3日目の計3回の検査を求められている。田村氏は、入国者が待機期間中に宿泊施設などから出て行方不明になった場合は「民間の警備会社と契約して対応することも考えている」とした。首都圏1都3県の緊急事態宣言の解除を巡り「感染リスクの高い行動を避けてもらうのが重要だ」と強調。新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は「これから1、2カ月はリバウンド(再拡大)が起きやすい。高齢者のワクチン接種が始まるまで何が何でも防ぐことが重要だ」と語った。 *9-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92736 (東京新聞 2021年3月20日) 「コロナ時短命令は〝違法〟」「狙い撃ちされた」 飲食チェーンが都を提訴へ 東京都から新型コロナウイルス対応の改正特別措置法に基づく時短営業の命令を受けた飲食チェーン「グローバルダイニング」が、命令は違法だとして、都に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こすことが20日、分かった。時短命令の違法性を問う提訴は初とみられる。22日に提訴する方針。代理人の倉持麟太郎弁護士は取材に「緊急事態宣言下で、行政による過剰な権利制約が続いている。訴訟で問題提起をしたい」と話した。東京都は18日、全国で初めて、時短要請に応じなかった27店舗に21日までの4日間、午後8時以降の営業停止を命じた。うち26店舗を経営するグローバルダイニングは命令を受け、営業時間を短縮すると発表した。都は19日、追加で5店舗に時短命令を出した。倉持弁護士は「時短要請に応じなかった店舗は他にも多くあるのに、グローバルダイニングだけが狙い撃ちにされた印象だ。都がどのような経緯で命令対象を決めたのかも訴訟で明らかにしたい」と話した。 *9-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/92740?rct=coronavirus (東京新聞 2021年3月21日) 「五輪で回復できると思ったのに‥」 海外客の見送り決定、宿泊・観光に追い打ち 東京五輪・パラリンピックで海外からの観戦客受け入れを見送ることが20日、正式に決まった。インバウンド(訪日外国人旅行者)を当て込んでいた都内のホテルや観光業者からは「大打撃だ」とため息が漏れる。 ◆「『おもてなし』はどこに行ってしまったのか」 「五輪で少しでも原状回復できると思っていたのに…。招致時に掲げた『おもてなし』はどこに行ってしまったのか」。浅草寺(台東区)のすぐ脇で旅館「浅草指月」を経営する飛田克夫さん(83)が肩を落とす。和風の客室やお風呂が売りで、コロナ禍前は外国人客であふれていたが、現在は客室の稼働率が1割を下回る。「もともと日本人が魅力を持つような造りではない」と、国内の観戦客の利用はあまり期待できず、「五輪特需」は望み薄という。「海外に『日本は危険』という印象を与えてしまう。コロナが収束し、観光客の受け入れが再開した後も当分人は戻ってこないかもしれない」。飛田さんは影響が長引かないかも気掛かりだ。 ◆「予約キャンセルどうなる」 観客とは異なり、各国の要人や競技団体の役員は大会関係者として入国が可能となっているが、それに対しても組織委員会は人数を最低限にするよう求めている。中央区日本橋の「住庄ほてる」は組織委と契約し、五輪期間中に全83室のうち約30室に関係者が宿泊する予定。角田隆社長(52)は「こんな状況で本当に開催できるのか。予約のキャンセルはどうなるのか」と不安を隠さない。 ◆「暗闇は今後も続きそう」 コロナ禍前は海外からの観戦客は100万人規模と想定され、観光地への波及効果も期待されていた。東京都ホテル旅館生活衛生同業組合の須藤茂実事務局長(68)は「感染状況が悪い東京への観光は国内でも敬遠されている。コロナ禍で廃業が既に40件に上った。暗闇が今後も続きそうだ」と見通す。「インバウンドを見越してインストラクター増員や施設拡充など投資をしてきた。延期になり、今年こそはと思っていた」。浅草などで人力車ツアーや日本文化体験講座を企画する「時代屋」の藤原英則代表(65)もそう残念がる一方、「最悪、無観客でも開催すればムードが盛り上がるので、国内客向けの企画を考えたい」と前を向いた。
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2021,01,13, Wednesday
![]() ![]() ![]() 2021.1.7Reuters 2020.12.16NHK 2021.1.7NHK (1)都市と新型コロナ 1)伝染病の感染拡大は人口密度との相関関係が大きいこと 新型コロナの感染拡大に歯止めがかからないとして、*1-1のように、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の首都圏1都3県に対し、1月7日に緊急事態宣言の再発令が決定された。 そして、1月9日には、*1-2のように、大阪府・京都府・兵庫県の関西圏が緊急事態宣言の要請を決定し、*1-3のように、政府は1月13日に、中部の愛知、岐阜2県と福岡、栃木両県を緊急事態宣言に追加するそうだ。 緊急事態宣言による規制内容は、*1-5に記載されているが、その是非については、これまでも記載してきたので省略する。しかし、新型コロナは全国的に都市部を中心に新規感染者数が増加して医療提供体制が逼迫すると言われているが、都市部には大病院もホテルも多いため、この数カ月、政府や地方自治体は何をしていたのかと思う。 なお、日本の都道府県別人口・面積・人口密度のランキングは、*1-7のとおりで、最初に緊急事態宣言の再発令が決定された首都圏1都3県の人口密度は、1位:東京都・3位:神奈川県・4位:埼玉県・6位:千葉県だ。次に、緊急事態宣言の要請を決定した関西圏は、2位:大阪府・8位:兵庫県で、その次に中部圏の5位:愛知県が続く。そのほかに感染者が多い県は、7位:福岡県・9位:沖縄県だ。 そのため、(当然ではあるが)人口密度と感染症は密接な関係のあることがわかり、そうなると都道府県でひとくくりにして緊急事態宣言を行うのもやりすぎで、医療圏(or生活圏)を構成する市町村単位でよさそうだ。例えば、東京都にも小笠原村や伊豆大島があり、北海道にも札幌市(その一部「すすきの」)があるという具合である。 しかし、人口密度の高い都市部には大病院やホテルも多いため、これまで何の準備もしていなかったのでは不作為と言わざるを得ない。また、都市部には、節水しすぎて流水でまともに手も洗えないような施設が多いが、「流水と石鹸でよく手を洗わず、アルコールを手にこすりつけさえすればよい」などというメッセージを発しているのは異常であり、そのような手で触った食品や食器は不潔なのである。 2)人口の集中しすぎがいけないので、分散型社会へ 都市部に異常なまでの節水をして流水でしっかり手を洗えないような施設が多いのは、節水をよいことであるかのように思っているふしもあるが、人口増による水不足で水道水の単価が高くなっているせいもある。その一方で、地方には、せっかくある水道事業が成り立たなくなるほど過疎化した地域もあり、もったいない。 そのため、*1-6のように、「東京一極集中をコロナを機に是正する」というのに、私は賛成だ。人口が集中し過ぎているのが首都圏だけでないことは、関西圏・中部圏の人口密度を見てもわかり、過度な人口集中は是正すべきだ。そして、それは、住民を誘致したい地方自治体が国に働きかけながら、仕事やインフラを準備しつつ行うのが効果的だと考える。 なお、地方の仕事には、企業や工場の誘致だけでなく、*1-8のように、農業や食品加工業もある。また、*1-4のように、外国人のビジネス関係者もおり、全入国者に出国前72時間以内の陰性証明書を求めて空港での検疫も強化すればかなり安全だが、これまで空港では検査しなかったり、検査で陽性が判明しても行動制限をしなかったりしたのが甘すぎたと思う。 (2)地方と仕事 *2-1も、「①大都市圏への人口集中を是正し、地方に人が住み続ける分散型社会を構築することは、持続可能な国土づくりに不可欠」「②都市を志向する価値観が変化し、自然豊かな環境や人との繋がりを求めて地方移住を考える人が増加」「③移住促進で必要なのは仕事の確保」「④政府は分散型社会の姿を描き、実効ある施策を講じるべき」としており、このうち①については、全く賛成だ。 地方には豊かな資源を利用した農林漁業や食品加工業などの重要な産業があるのに、人手不足の危機に瀕している。また、観光・体験・研修等の分野と連携した新しいビジネスの展開もでき、再エネ発電を農林漁業地域で展開すれば、その地域に仕事ができると同時にエネルギー自給率が上がるため、②③も自然な人の流れにできるのである。従って、④のように、国や地方自治体が福祉・教育・交通などのインフラ整備を後押しして、地方分散を進めるべきだ。 なお、都市から農村への移住は、移住者を受け入れた側がよそ者として排除するのを辞め、都市育ちの人のセンスを活かしながら共生すればよい。そもそも、戦後教育を受けて農村から都市に移住した世代には、ムラ社会の封建性から逃れて自由になり、新しい挑戦をするために都市に出た人が多い。しかし、今では農村でもその世代が“高齢者”と呼ばれているので、都市の若者が農村に移住しても楽しく共生できると思うのである。 2021年1月9日、日本農業新聞が論説で、*2-2のように、「⑤自立する地域を協同組合が主導しよう」というメッセージを発信している。確かに、「⑥地方への移住者の定着支援」「⑦仕事づくり」「⑧安心して暮らせる地域社会づくり」などで農業協同組合にできることは多く、地元自治体と連携して全国から多くの新規就農者を呼び込んでいるJAもある。これは、多くの地域で参考にしたいことである。 (3)エネルギーも分散型へ 1)エネルギーの変換 毎日新聞が、*3-1のように、「脱炭素は社会貢献でなくなった」と題して、「①アップル向け製品には、再エネ使用が最低条件」「②恵和は和歌山の製造拠点で使用電力の3分の1を再エネに切り替え、電気代が1割程度上がった」「③アップルは2030年までに、サプライチェーンを含む事業全体でカーボンニュートラルを達成すると宣言した」と記載している。 私は、③の宣言をしたアップルは偉いが、②のように、アップルから言われて仕方なく使用電力の3分の1を再エネに切り替えた日本企業やいつまでも再エネに切り替えると電気代が上がると言っている日本政府・メディアは情けないと思う。そして、これも、新型コロナと同様、不作為によるものなのだ。 このように、環境意識の低い日本政府や日本企業に対し、取引先の海外企業から再エネ導入圧力が強まるのは大変よいことで、これまでの誤った政策により、出遅れた日本の再エネによる発電コストは下がっていないのだ。これには、産業だけでなく、国民も迷惑している。 そのため、取引先企業だけでなく、投資家も再エネ使用を進めている企業に投資するような投資判断をすれば、企業の行動は大きく変わる。そして、これは、日本にとって、エネルギー自給率を上げ、エネルギーコストを下げる成長戦略そのものなのである。 2)移動網について ヨーロッパ横断特急が復活し、*3-2のように、2020年12月、欧州4カ国の鉄道事業者が13都市を結ぶ夜行列車ネットワークをつくることで合意して、順次整備を進めるそうだ。その理由は、航空機のCO₂排出量は、鉄道の5倍に達するからだそうだが、ヨーロッパ横断特急も楽しみではあるものの、航空機も水素で動かすべきであり、欧州の航空機大手エアバスは、2035年には温暖化ガス排出ゼロの液化水素を使う航空機を実用化すると既に宣言している。 日常生活を支える自動車についても、2025年には電動の垂直離着陸機が商用化されるそうだ。また、2030年以降にEVが過半数になればガソリン車より部品が4割減少して参入障壁が下がり、他産業からの参戦も増えて、自動車の価格は現在の5分の1程度になるとのことである。そのため、このリセットの時代に、従来の方法を守り続けるだけの企業に投資していれば、元手を紙くずにすることになるため、機関投資家も投資先をよく選別しなければならない筈だ。 3)原発について このような中、*3-3のように、原発の再稼働を画策している経産省と大手電力は、未だに「原発はコストが安い」と言っているが、日本の商業原子力発電は日本原発(株)が1966年7月に東海発電所で営業運転を開始し、それから54年半も経過しているのに、まだ1974年に制定された「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」などの電源三法交付金制度により、立地自治体に電力使用者の負担で補助金を支払っているのだ。 原発の立地自治体は、原発が危険だということはわかっているから補助金をもらわなければ立地させないのだが、補助金をもらっても見合わないことはフクイチで既に証明済で、そのような状況は早く卒業するにこしたことはないのである。電力の使用者にとっても、余分な負担だ。 その上、耐用年数が40年とされていた原発を65年に延長したり、新しい原発を建設したりする動きがあるが、「原発はコストが安い」と主張する以上は電源三法交付金を廃止した上で、それでも稼働させる自治体を探すべきであり、そうしなければ再エネと公正な競争にはならない。 現在稼働している九電の玄海原発と川内原発も、周囲は豊かな農林漁業地帯であり、事故を起こせばそれらの財産をすべて失うリスクを背負っている。にもかかわらず、まだ稼働させるという意思決定をしたいのなら、(最初の商業運転から54年半も経過している原発であるため)すべてを自己責任で行うこととして、その結果によりエネルギーの選択と集中を進めるべきである。 (4)再生医療 1)日本における再生医療研究の経緯 1995年頃、私は、JETROの会合で、当時、日本では行われていなかったゲノム研究が海外では行われているのを見て、種の進化から考えればヒトの再生医療もできる筈だと思い、経産省(当時は通産省)に再生医療の研究を提案した。そして、日本でも遺伝情報や再生医療の研究が始まり、2005~2009年の私の衆議院議員時代に、文科省、厚労省、経産省などの省庁が協力して再生医療の研究を進めることになったのである。 そして、この経過の中で、山中伸弥氏が2006年にマウスで、2007年にヒトでiPS細胞の作製に成功され、2012年10月8日に、ノーベル賞受賞が決まった(https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/other/121008-183500.html 参照)。 なお、理論上は、ヒトES細胞からクローン人間を作成することもできるが、それを行うためには他のヒト胚の核を抜いて使うため、人の生命の萌芽であるヒト胚を滅失させるという問題があるとされる。しかし、私は、受精後のヒト胚は生命の萌芽と言えるが、未受精卵は体細胞の一種であり生命の萌芽とは言えないため、治療用に使うのはアリだと考える(https://spc.jst.go.jp/hottopics/0812saisei/report05.html 参照)。ただし、本人の同意もなく、同じ遺伝情報を持つ別の人を作るのは、倫理上の問題が大きいので禁止すべきだ。 一方、家畜の場合は、ES細胞を使って、1997年に英国で世界初の体細胞クローンヒツジ「ドリー」が誕生したのをきっかけに、日本でも体細胞クローン生物の研究が牛を中心に進んでおり、1998年に世界初の体細胞クローン牛が誕生し、現在までに約360頭の体細胞クローン牛が誕生したそうだ(http://ibaraki.lin.gr.jp/chikusan-ibaraki/16-06/04.html 参照)。 2)再生医療から再生・細胞医療・遺伝子治療へ 私が考えていた再生医療は、「大人になると、再び増殖して回復することはない」とされる臓器を再生することで、例えば、心臓・腎臓・脊髄・永久歯などが典型的だが、研究が進むにつれて応用範囲が広がるのは当たり前であるため、倫理上の問題がなければ、最初の定義以外のことはやってはいけないなどということはない。 しかし、日本では再生医療の研究開始から20年も経たないうちに、「選択と集中」としてiPS細胞の研究のみに限ったのが、間違いだった。商業運転が開始されてから54年半も経過している原発とは異なり、再生医療の研究は基礎研究が始まったばかりでわかっていないことの方がずっと多いのに、原発には未だに膨大な国費を投入しながら、再生医療には「選択と集中」を適用したのが大きな誤りで、何をやっているのかと思った。 そして、*4のように、他人のiPS細胞から作った「心筋シート」も使えるかもしれないが、「心筋シート」は本人の足の筋肉やES細胞を使っても作ることができ、こちらの方が遺伝情報が同じで拒絶反応がないため、より安全なのである。 また、免疫細胞による癌治療も、癌細胞だけを選択的に攻撃するので化学療法や放射線治療より優れた可能性を持ち、大量に作って使えば薬の値段は下がるのに、厚労省は未だに副作用が強すぎる上に生存率の低い化学療法・放射線治療・外科療法を標準治療とし、免疫療法は標準治療では効かなくなった人にのみ適用するなどという本末転倒のことをしている。 そのため、必要で成功確率の高い研究に国費を投入するのは、国民を幸福にしながら行う成長戦略であるにもかかわらず、役に立つことをしないで起こった不幸な出来事に血税から無駄金をばら撒くことばかりを考えているのは、どうしようもない政府・議員・メディアであり、これは首相を変えれば解決するというような生易しい問題ではない(https://spc.jst.go.jp/hottopics/0812saisei/report05.html 参照)。 ・・参考資料・・ <都市と新型コロナ> *1-1:https://jp.reuters.com/article/japan-state-of-emergency-idJPKBN29B315 (REUTERS 2021年1月7日) 緊急事態宣言、1都3県に再発令へ 東京1日500人が解除基準と西村氏 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、政府は7日夕に緊急事態宣言の再発令を決定する。対象地域は首都圏の1都3県で、期間は1カ月。飲食店を中心に営業時間の短縮を要請するほか、大規模イベントの開催条件も厳しくする。西村康稔経済再生担当相は、東京なら1日の新規感染者が500人まで低下することが解除の判断基準とした。政府は7日午前、専門家に意見を聞く諮問委員会を開催。西村康稔経済再生相は宣言の対象を東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県にし、期間は1月8日から2月7日とする方針を諮り、諮問委で了承された。午後に衆院議院運営委員会で説明した西村氏は、解除の判断基準について、「東京に当てはめると新規陽性者が1日500人」と述べた。東京都が発表した7日の新規感染者は2447人と、初めて2000人を超えた。政府は夕方に対策本部を開き、菅義偉首相が発令を宣言する。その後に記者会見を開いて理由などを説明する。7都府県で開始した昨春の緊急事態宣言とは異なり、今回は感染者が特に急増している首都圏の1都3県に対象を絞る。菅政権は飲食時の感染リスクが高いとみており、飲食店に対し午後8時までの営業時間短縮を要請する。酒類の提供は7時までとする。国内メディアによると、協力に応じた店舗への補償金を現在の最大4万円から6万円に上積みする一方、政令を改正し、知事の要請に応じない店の名前を公表できるようにする。劇場や遊園地には午後8時の閉園を求め、スポーツやコンサートなど大規模イベントは最大5000人に制限する。昨年4月7日に始まった前回は、途中から全国へ対象を拡大。5月25日の全面解除まで、テレワークの徹底や外出自粛が呼びかけられ、百貨店や映画館などが休業、イベントも中止された。西村担当相は7日午前の諮問委員会で、解除基準について、最も深刻な現状のステージ4から「ステージ3相当になっているかも踏まえ総合的に判断する」と説明したが、政府分科会の尾身茂会長は5日夜の会見で「宣言そのものが感染を下火にする保証はない。1カ月未満でそこ(ステージ3)までいくことは至難の業だと思う」と指摘している。国内の新型コロナ感染者は昨年末から急増。厚生労働省によると、今月5日には4885人、6日には5946人の感染が新たに確認され、連日最多を更新している。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOHC080QK0Y1A100C2000000/ (日経新聞 2021/1/8) 大阪・京都・兵庫、緊急事態宣言要請を決定 9日にも伝達 吉村洋文知事は8日午後の対策本部会議で「この2日間で急拡大している。首都圏と同様の対策を今の時点でとるべきだ」と述べた。京都府の西脇隆俊知事は8日の記者会見で「人口10万人あたりの新規感染者数は京都も高水準にあり、早めの手を打つ必要がある」と話した。年末の忘年会などで若者を中心に感染が広がったことへの危機感を背景に、要請に慎重姿勢を示していた吉村氏は一気に方針転換に傾いた。大阪府内の新規感染者数は8日まで3日連続で過去最多を記録した。12月上旬から年末までは減っていた1週間の累計感染者数は年明けに一変。1月1~7日は前週比1.38倍に急増した。クリスマス会や忘年会など、年末年始のイベントによる感染事例が多かったという。特に感染が広がったのは20代だ。人口10万人あたりの20代の新規感染者数は、大阪市内では約5人(4日時点)から約17人(7日時点)に増えた。行動範囲が広い若者への感染拡大は、さなる感染拡大の「火種」となる。府内ではもともと高齢者の感染者が多く、重症病床の使用率は7割と高止まりしており、府は事態悪化になんとか歯止めをかけたい狙いがあったとみられる。一方で、大阪府内では東京都よりは感染拡大が抑えられているとも言える。政府の分科会が感染状況を判断する6指標では、府は6日時点で陽性率の指標を除いて5指標が最も深刻な「ステージ4」の段階だ。東京都は全てで「ステージ4」を上回っている。療養者数や1週間の感染者数では、大阪府は東京都の6割程度の水準だ。政府はこうした状況も踏まえ、府などと協議を進めるとみられる。 *1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE1234V0S1A110C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202101122212 (日経新聞 2021/1/12) 緊急事態、福岡・栃木も 関西・中部5府県と13日発令 政府は13日、新たに7府県を緊急事態宣言に追加する。関西圏の大阪、兵庫、京都の3府県と中部の愛知、岐阜2県、福岡、栃木両県だ。8日から宣言期間に入った首都圏とあわせて対象は11都府県になる。新型コロナウイルスの感染が広がっているため。対象自治体の知事は午後8時以降の営業や外出の自粛を要請する。全国的に都市部を中心に新規感染者数が増加し、医療提供体制が逼迫する懸念が出ている。政府は宣言への追加を要望した自治体について、13日に専門家の意見を聞いた上で対象に加える。福岡は要請していないが感染拡大の懸念が強いため追加する。期間は7日に宣言を発令した東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県と同じ2月7日までにする。対象地域の知事は新型コロナに対応する新型インフルエンザ対策特別措置法に基づき、法的根拠を持って様々な要請ができる。対象地域では感染リスクが高いとされる飲食店の時短や、不要不急の外出の自粛を徹底する。首都圏と同様に営業時間は午後8時まで、酒類の提供は午前11時から午後7時までとするよう求める。従わない店舗は特措法に基づき、知事が店舗名を公表できる。要請に応じた店舗には1日最大6万円まで協力金を支払う措置を講じる。菅義偉首相は12日、宣言の対象地域では飲食店の時短、午後8時以降の不要不急の外出自粛、イベントの人数制限、テレワークによる出勤7割削減をするよう求めた。「4点セットの対策で感染を抑え込んでもらいたい」と述べた。スポーツやコンサートなどのイベントは参加者数を最大5千人、収容人数では50%を上限に定める。自治体によっては、劇場や映画館、図書館や博物館といった大規模施設にも午後8時までとするよう呼びかける。宣言解除の基準も首都圏と同じにする予定だ。専門家で構成する政府の新型コロナ対策分科会がまとめた4段階の感染状況のうち最も深刻な「ステージ4」から「ステージ3」への脱却が目安となる。新規感染者数や療養者数、病床の逼迫度合いなど6つの指標を総合的に判断する。感染者数は「直近1週間の人口10万人あたり25人以上」を下回る必要がある。首相は12日、首相官邸で1都3県知事と会談し「迅速に情報共有し具体的な要望などに対して調整していく」と表明した。1都3県と事務レベルの連絡会議を設置する。首相は医療提供体制にも言及し、各知事に国の支援策を活用するよう求めた。新型コロナに対応する病床を増やすため「医療機関への働きかけなど先頭に立ってほしい」と訴えた。東京都の小池百合子知事は「1都3県は海外からの流入も多い」と指摘し、水際対策の厳格化を政府に要望した。政府は13日午後に専門家による基本的対処方針等諮問委員会に地域の追加を諮る。諮問委が妥当だと判断すれば、同日中に西村康稔経済財政・再生相が衆参両院の議院運営委員会に報告した後、政府の対策本部で首相が対象地域の追加を決める。再発令から1週間足らずで対象地域が拡大し、期限の2月7日に予定通り解除できるかは見通せない。昨年春に初めて発令した際は4月7日に発令後、同月16日に対象を全国に広げた。5月4日に期限を一度延長したうえで、全面解除は5月25日までかかった。都市部以外での感染が広がれば、対象地域はさらに増える可能性もある。 *1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP187R6HP18UTFK01B.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2021年1月8日) 全入国者に陰性証明求める 中韓などは入国継続維持 菅義偉首相は8日夜、テレビ朝日の番組で中韓を含む11カ国・地域を対象にしたビジネス関係者などの入国継続を表明した。政府はこれにあわせて、日本人を含めた全入国者に出国前72時間以内に陰性を確認した証明書を求める、空港での検査を強化するといった検疫強化策を発表した。これにより全入国者について、それぞれの国・地域の出国前と日本への入国時の2回、陰性を確認することになる。首相の入国継続方針に対しては、与野党に加えSNS上でも批判が殺到していた。このため入国継続は維持する一方、検疫強化に乗り出した格好だ。首相は番組で11カ国・地域からの入国を止める考えはないか問われ、「安全なところとやっている」と強調。そのうえで新型コロナの変異ウイルスの市中感染が確認されるまで、受け入れを続ける方針を示した。空港検査の強化は、入国拒否対象以外からの入国者にも、空港での検査を実施するというもの。政府は約150カ国・地域を入国拒否とし、全入国者に空港で検査している。11カ国・地域のうちマレーシア以外は11月に入国拒否対象から除外され、空港での検査をしていなかった。 *1-5:https://www.agrinews.co.jp/p52857.html (日本農業新聞 2021年1月8日) [新型コロナ] 緊急事態再宣言 1都3県、来月7日まで 飲食店午後8時まで一斉休校は要請せず 政府は7日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県を対象に、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を決めた。期間は8日から2月7日までで、感染リスクが高いとされる飲食店などへの営業時間の短縮要請が柱。小中高校の一斉休校は求めないが、外食やイベント需要の減少などで農産物の価格に影響が出る可能性がある。宣言発令は昨年4月以来2回目。首都圏の感染拡大が止まらず、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)していることを踏まえた。菅義偉首相は対策本部後の記者会見で「何としても感染拡大を食い止め、減少傾向に転じさせるため、緊急事態宣言を決断した」と述べた。コロナ対策の新たな基本的対処方針では、飲食店に対し、営業時間を午後8時までに短縮し、酒類の提供は午前11時から午後7時までとするよう要請。応じない場合は店名を公表する一方、応じた場合の協力金の上限は、現行の1日当たり4万円から6万円に引き上げる。宅配や持ち帰りは対象外とした。大規模イベントの開催は「収容人数の50%」を上限に「最大5000人」とする。午後8時以降の不要不急の外出自粛も求める。出勤者数の7割削減を目指し、テレワークなどの推進を事業者らに働き掛ける。宣言解除は、感染状況が4段階中2番目に深刻な「ステージ3」相当に下がったかなどを踏まえ「総合的に判断」するとした。西村康稔経済再生担当相は同日の衆院議院運営委員会で、東京に関しては、新規感染者数が1日当たり500人を下回ることなどが目安との認識を示した。政府は対策本部に先立ち、専門家による基本的対処方針等諮問委員会を開き、西村氏が宣言の内容などを説明し、了承された。その後、西村氏は衆参両院の議院運営委員会で発令方針を事前報告した。政府は昨年4月7日、東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し、16日には全国に拡大した。5月25日に全面解除したが、農畜産物では、飲食店やイベントの需要の激減で、牛肉や果実、花などの価格が下落した。政府は、コロナ対策を強化するため、特措法の改正案を18日召集の通常国会に提出する方針だ。 ●業務需要減加速の恐れ 緊急事態宣言が再発令されることを受け、流通業界や産地では農畜産物取引への影響が懸念されている。飲食店向けや高級商材はさらに苦戦する様相。一方、家庭消費へのシフトが進んでおり、対象地域が限られることから、前回宣言時ほどの打撃にはならないとの声もある。品目、売り先で影響の大きさが異なる展開になりそうだ。米は、春先のようなスーパーでの買いだめは現状、起きていない。しかし、飲食店の営業縮小で業務用販売は厳しさが増す見通しで、JA関係者は「今も前年水準に戻り切れていない。在宅勤務が増え、米を多く使う飲食店の昼食需要までなくなる」と警戒する。青果物は、飲食店の時短営業で仕入れに影響が出てきた。東京都の仲卸業者は「7日から注文のキャンセルが出た。多くの店が休んだ前回の宣言時ほどでなくても、1件当たりの注文量はがくっと減る」と懸念する。果実は、大手百貨店が営業縮小する方針で、メロンなど高級商材を中心に販売が厳しくなるとの見方で出ている。鶏卵は加工・業務需要が全体の5割を占めるため、飲食店の時短営業の拡大による販売環境の悪化が予想される。切り花は、葬儀や婚礼の縮小、飲食店の休業や成人式などイベントの中止で業務需要が冷え込むため、「相場は弱もちあいの展開が避けられない」(花き卸)見通し。長引けばバレンタインデーの商戦に影響するとの懸念もある。一方、牛乳・乳製品は家庭用牛乳類の販売好調が続く。緊急事態宣言再発令で業務需要はさらに減少する恐れがある。だだ、「前回のような全国一斉休校がなければ加工処理量の大幅な増加はない」(業界関係者)との観測も広がる。食肉は各畜種ともに内食需要の好調が継続しそうだ。豚肉、鶏肉は前回の緊急事態宣言以降、価格が前年を上回って推移しており「国産は在庫も少なく、引き続きスーパー向け中心に引き合いが強まりそう」(市場関係者)。和牛は外食から内食へのシフトが進んでおり、「外食向けの上位等級は鈍化するものの、3、4等級は前回のような大きな落ち込みはない」(都内の食肉卸)との見通しだ。 *1-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14754956.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年1月7日) 東京一極集中 コロナ機に是正に動け 新型コロナ禍は日本が抱える多くの問題を改めて浮き彫りにした。そのひとつに都市部、とりわけ東京への一極集中が生み出すひずみがある。人が大勢いるところで感染症は猛威をふるう。この災厄を、かねて指摘されてきた過度な人口集中の是正に、社会全体で取り組むきっかけとしたい。変化のきざしはある。総務省によると、東京都から転出した人は昨年7月から5カ月連続で転入者を上回り、計約1万7千人の転出超過となった。全体からみればまだ微々たる数字でしかない。しかしテレワークが普及し、仕事の内容によってはあえて過密の東京に住む必要がないこと、通勤に要する時間を家族や地域の人々との交流、趣味などにあてれば人生が豊かになることを、多くの人が身をもって知った。人口集中がもたらす最大のリスクが災害だ。東京の下町で大規模洪水があれば250万人の避難が必要となる。おととしの台風19号の際、広域避難の呼びかけが検討されたが、これだけの人数を、どこへどうやって移動させるか、改めて課題が浮上した。その後、政府の中央防災会議の作業部会も具体的な答えを示せていない。30年以内に70%の確率で起こるとされる首都直下地震や、南海トラフ地震などへの備えも怠れない。一方で人口の分散は、近隣自治体にとっては住民を呼び込み、まちに活気を取り戻す好機でもある。例えば茨城県日立市は、市内への移住者に最大約150万円の住宅費を助成するなど、テレワークの会社員をターゲットに優遇措置を講じる。県が都内に設けた移住相談窓口の利用は前年比で5割増えたという。昨年8月に合同でテレワークセミナーを開いた山梨、静岡両県は首都圏と名古屋圏双方への近さをアピール。移住者の経験談を織り交ぜながら「心のゆとりや歴史、文化との出会いを」と呼びかけた。脱東京といっても行き先は周辺県にとどまる例が多いが、視線をもっと遠くに置いてもいいのではないか。内閣府が昨年5~6月に行ったネット調査によると、3大都市圏に住む人で地方移住への関心が「高くなった」「やや高くなった」と答えた人は、東京23区の20代で35・4%、大阪・名古屋圏の20代でも15・2%にのぼった。こうした声に合致する施策の展開が求められる。一極集中の是正こそ多様なリスクの低減につながるとの視点に立ち、防災すなわちインフラ整備といった旧態依然の政策のあり方を見直す。そのための議論が国会、自治体、企業などの場で深まることを期待したい。 *1-7:https://uub.jp/rnk/chiba/p_j.html (都道府県の人口・面積・人口密度ランキングより抜粋) <人口,人> <面積,km²> <人口密度, 人/km²> 1 東京都 13,971,109 1 北海道 78,421.39 1 東京都 6,367.78 2 神奈川県 9,214,151 2 岩手県 15,275.01 2 大阪府 4,627.76 3 大阪府 8,817,372 3 福島県 13,784.14 3 神奈川県 3,813.63 4 愛知県 7,541,123 4 長野県 13,561.56 4 埼玉県 1,933.63 5 埼玉県 7,343,453 5 新潟県 12,583.96 5 愛知県 1,457.77 6 千葉県 6,281,394 6 秋田県 11,637.52 6 千葉県 1,217.90 7 兵庫県 5,438,891 7 岐阜県 10,621.29 7 福岡県 1,024.12 8 北海道 5,212,462 8 青森県 9,645.64 8 兵庫県 647.41 9 福岡県 5,106,774 9 山形県 9,323.15 9 沖縄県 639.12 ・・ 41 佐賀県 808,821 41 鳥取県 3,507.14 41 青森県 127.57 42 山梨県 806,210 42 佐賀県 2,440.69 42 山形県 114.23 43 福井県 762,679 43 神奈川県 2,416.11 43 島根県 99.43 44 徳島県 721,269 44 沖縄県 2,282.59 44 高知県 97.10 45 高知県 689,785 45 東京都 2,194.03 45 秋田県 81.81 46 島根県 666,941 46 大阪府 1,905.32 46 岩手県 79.36 47 鳥取県 551,402 47 香川県 1,876.78 47 北海道 66.47 *1-8:https://www.agrinews.co.jp/p52864.html (日本農業新聞 2021年1月9日) 緊急事態宣言 ガイドライン順守を コロナ感染防止で農水省 農水省は緊急事態宣言の再発令を受け、農家に新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた業種別ガイドラインの順守を呼び掛ける。ガイドラインは大日本農会のホームページに掲載。日々の検温や屋内作業時のマスク着用、距離の確保などの対策をまとめている。感染者が出ても業務を継続できるよう、地域であらかじめ作業の代替要員リストを作ることも求める。ガイドラインは①感染予防対策②感染者が出た場合の対応③業務の継続──などが柱。予防対策では、従業員を含めて日々の検温を実施・記録し、発熱があれば自宅待機を求める。4日以上症状が続く場合は保健所に連絡する。ハウスや事務所など、屋内で作業する場合はマスクを着用し、人と人の間隔は2メートルを目安に空ける。機械換気か、室温が下がらない範囲で窓を開け、常時換気をすることもポイントだ。畑など屋外でも複数で作業する場合は、マスク着用や距離の確保を求める。作業開始の前後や作業場への入退場時には手洗いや手指の消毒を求めている。人が頻繁に触れるドアノブやスイッチ、手すりなどはふき取り清掃をする。多くの従業員が使う休憩スペースや、更衣室は感染リスクが比較的高いことから、一度の入室人数を減らすと共に、対面での会話や食事をしないなどの対応を求める。感染者が出た場合は、保健所に報告し、指導を受けるよう要請。保健所が濃厚接触者と判断した農業関係者には、14日間の自宅待機を求める。保健所の指示に従い、施設などの消毒も行う。感染者が出ても業務を継続できるよう、あらかじめ地域の関係者で連携することも求める。JAの生産部会、農業法人などのグループ単位での実施を想定。①連絡窓口の設置②農作業代替要員のリスト作成③代行する作業の明確化④代替要員が確保できない場合の最低限の維持管理──などの準備を求める。 <地方と仕事> *2-1:https://www.agrinews.co.jp/p52851.html (日本農業新聞論説 2021年1月8日) 地方分散型社会 持続可能な国土めざせ 大都市圏への人口集中を是正し、地方に人が住み続ける分散型社会を構築することは、持続可能な国土づくりに不可欠である。地方、特に農村への移住をどう促すか。政府には、新型コロナウイルス禍を踏まえた分散型社会の姿を描き、実効ある施策を講じることが求められる。都市を志向する価値観が変化し、自然豊かな環境や人とのつながりを求め地方移住を考える人が増えている。総務省の地域おこし協力隊の任期終了者で、活動先に定住した人が2019年度時点で2400人を超え、5割に上るのもその兆候だ。移住の促進で必要なのは仕事の確保である。新たな食料・農業・農村基本計画で政府は、農村を維持し、次世代に継承するために地域政策の総合化を打ち出し、柱の一つに「所得と雇用機会の確保」を掲げた。観光や体験、研修など、さまざまな分野と連携した新しいビジネスの展開などを想定している。しかしコロナ禍で人を呼び込むのが難しくなり、外食や農泊、農業体験を含む観光産業など農業との連携が期待される分野は苦境が続く。半面、家庭需要が高まり、直売所の利用など地産地消の動きは活発化。また起業や事業承継、農業と他の仕事を組み合わせた半農半X、複数の業種をなりわいとする多業など、移住者らによる多様な仕事づくりや働き方がみられる。政府は農業・農村所得の倍増目標も掲げてきた。達成のためにも事業の継続を支える一方、新たな動きや、コロナ禍の中での経済・社会の変化を捉え、所得確保と雇用創出の政策を構築すべきだ。また東京一極集中の是正を、地方創生や国土計画の中心課題に据えてきた。しかし一極集中に歯止めがかからず、農村の高齢化・過疎化が進んだ。政策の実効性が問われる。移住者と地域の融和も重要である。地域の一員として溶け込むには移住前から住民と対話・交流し、心を通わせる必要がある。しかしコロナの感染拡大で現地を訪れ、対話する機会を設けるのが難しくなっている。一方、新しい対話の手法として移住者と地域をオンラインでつなぎ、説明会や就農座談会を開く動きが増えている。自治体や先輩移住者が暮らしや仕事などについて説明。ふるさと回帰支援センターが昨年10月、オンラインで開いた全国規模の移住マッチングイベントには1万5000人超の参加があった。移住希望者と地域がオンラインで対話し、信頼関係を育む。その上で感染防止対策を徹底し、現地を訪れるなど新様式が一般化する可能性がある。多くの地域で実践できるようノウハウの共有や費用支援が重要だ。地方への人の流れをつくる方策として政府は、テレワークの推進などを念頭に置く。併せて説明会から移住、定着までを段階を追って、また所得・雇用機会の確保から生活環境整備まで幅広く支援する重層的、総合的な政策体系を構築すべきだ。 *2-2:https://www.agrinews.co.jp/p52861.html (日本農業新聞論説 2021年1月9日) 自立する地域 協同組合が主導しよう 新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、「3密」を回避できるとして地方への関心が高まっている。地方への移住者の定着支援では、仕事づくりや安心して暮らせる地域社会づくりなどで、協同組合にこそ役割発揮が求められる。都市集中型から地方分散型への社会転換を協同組合の力で後押ししたい。 都市での生活は、満員電車での通勤をはじめ、密閉、密集、密接が避けられない環境にある。コロナ禍を契機にテレワークが広まり、一部業種では都市にいなくても働けることが分かった。観光地などで休暇を過ごしながら働くワーケーションを実践する人も増えている。JA全中の中家徹会長は2020年の総括として「3密社会の回避へ東京一極集中から分散型社会への潮流が生まれている」と指摘した。今後、地方に移住し、地域に根付いて働きたいというニーズも高まってくるだろう。協同組合として何ができるか。徳島県JAかいふは地元自治体と連携して、全国から多くの新規就農者を呼び込んでいる。農業と合わせて、豊かな自然でサーフィンや釣りなどが楽しめるとしてアピール。栽培を1年間学べる塾や、環境制御型ハウスの貸し出しなど手厚く支援する。15年度から始め20年度までに24人を受け入れ、20人が就農したという。総合事業を手掛けるJAは新規就農者に農地や住居、営農指導、労働力など多様な支援を用意し、定着を後押しできる。医療や介護といった暮らしや、組合員組織を通じた仲間づくりなどにも貢献できる。生協など他の協同組合と連携すれば支援の幅はさらに広がる。地方に移住してくる人に対して、協同組合が仕事や生活を丸ごと支援する仕組みの構築も考えられる。また今後期待されるのが、組合員が出資・運営し、自ら働く労働者協同組合だ。各地域での設立を後押しする法律が20年に成立。たとえ事業は小さくても地域の課題を解決しつつ、自ら経営する新しい働き方として地方にも広がる可能性がある。コロナ禍の収束は依然見通せない。仮に収束してもグローバル化が進み、今後も感染症が世界を脅かす懸念は強い。都市から地方への単純な人口移動にとどまらず、大都市圏を中心に他の地域と激しく人や物が行き来する社会の在り方が見直される可能性もある。そこでは、経済や生活、文化が地域ごとに一定程度自立する「地域自立型社会」とも呼べる国の在り方が構想できる。そうなれば先に挙げた役割を果たすため、地域に根差す協同組合の役割はより大きなものになるだろう。また、それぞれの協同組合には全国ネットワークがあり、地域間の連携にも取り組みやすいと考えられる。感染症を含め近年増えている災害などの危機の際には、協同組合の基本である助け合いが求められる。協同組合の役割と実践内容を改めて発信したい。 <エネルギーも分散型へ> *3-1:https://mainichi.jp/articles/20210108/k00/00m/040/237000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20210109 (毎日新聞 2021年1月8日) コロナで変わる世界:脱炭素は「社会貢献」でなくなった 広まる欧州主導の国際ルール、焦る日本企業 新作が発売されるたびに、世界が注目する米アップルのスマートフォン「iPhone」。その画面に使われる光拡散フィルムが、和歌山県にある日本企業の工場で製造されていることはほとんど知られていない。紀伊半島の先端近くに位置する南紀白浜空港から車で1時間弱の山間地に、高機能フィルムメーカー「恵和」(本社・東京)の生産拠点がある。 ●「アップル製品に再エネ導入は最低条件」 同社は2020年11月、和歌山工場のアップル向け生産ラインで使う電力を太陽光や風力などの再生可能エネルギーに切り替えた。「アップルから『あなたの企業が使うエネルギーは?』と聞かれて化石燃料を出したらその時点で終わり。再エネ導入は最低条件で、その上で技術の勝負になる」。恵和の長村惠弌(おさむらけいいち)社長は強調する。アップルは同年7月、30年までに事業全体で「カーボンニュートラル」を達成すると宣言した。サプライチェーン(部品の調達・供給網)の全てを通じて温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする野心的な目標だ。10年以内に再生可能エネルギーの100%使用を迫られた形の取引先企業にとって、脱炭素は社会貢献ではなく、経営の根幹にかかわる必須条件に変わった。恵和は1948年に加工紙メーカーとして創業。アップルとは12年ごろから取引関係にある。再エネを購入し、和歌山の製造拠点での電力使用量の3分の1を切り替えたことで、電気代は1割程度上がったという。長村社長は「コストが増えても、関係が強化されて結果的に収入が増えればいい。アップルの活動への協力は自社の事業にプラスだ」と話す。アップルの発表によると、20年12月時点で半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)を含む95の取引先企業が、100%の再エネ使用を目指す方針を表明した。取引先に温室効果ガスの抑制を求める企業はアップルに限らない。米IT大手マイクロソフトは30年までに排出量よりも多くの二酸化炭素(CO2)を大気中から除去する「カーボンネガティブ」の実現を約束した。自然エネルギー財団の石田雅也シニアマネジャーは今後、中小を含む日本企業に対し、海外の取引先から再エネ導入圧力が強まる可能性があると指摘する。再エネの「主力電源化」に欧米から大きく後れを取る日本の課題は、国際的にも割高な発電コストだ。「1円でも安くしないと競争できない企業もある。国全体で再エネのコストが安くならないと、間違いなく産業競争力に影響するだろう」と石田さんは懸念する。新型コロナウイルス流行後の世界で、脱炭素に向けた動きが急加速している。人類が直面するもう一つの危機である気候変動を抑止し、持続可能な社会を目指す「グリーンリカバリー」(緑の復興)に向けた挑戦が始まった。 ●欧州からは「実態を超えたレベルの要求」 「多量のCO2(二酸化炭素)を排出する石炭火力の比率が高い日本に今後も製造拠点を置くべきなのか、といった議論をせざるを得ない状況にある」。2020年11月中旬。イオンや武田薬品工業など日本を代表する有力企業の幹部が霞が関を訪れ、河野太郎行政改革担当相らに提言書を手渡した。新型コロナウイルス収束後の経済復興策に脱炭素の視点を加え、「30年までに再エネ50%」の目標設定を求めたものだ。文書をまとめたのは、09年に設立された「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」。気候変動問題で、世界から取り残される危機感を共有する富士通や積水ハウスなど165社が加盟し、総売上高は125兆円に達する。設立メンバーの複合機大手リコーは17年、事業に使用する電力を100%再エネで調達することを目指す国際イニシアチブ「RE100」に日本企業として初めて参加した。阿部哲嗣・社会環境室長は「要求が高度化する顧客への対応が不可避になっている」と語る。脱炭素への取り組みで国内の先頭を走る同社でさえ、先をいく欧州の取引先から圧力にさらされている。阿部室長によると、欧州の商談では、納入する複合機の価格やサービス体制に加え、CO2削減を含むESG(環境、社会、企業統治)への取り組みが評価基準に盛り込まれる例が増えたという。受注前に気候変動への対応について監査を求められたこともあった。取引先からの「ESG要求」に応じることで成立した商談は19年度、欧州を中心に120億円。同社の欧州での売上高の約3%に過ぎないが、コロナ後は割合が確実に増えていくと見込まれている。一方、投資家などからは同社に部品を供給するサプライヤーにもESGへの取り組みを求める声があり、阿部室長は「実態を超えたレベルの要求が走り出している」と話す。再エネ100%を見据えることができない企業は、グローバル企業の取引先から外されるリスクに直面する。リコーはこの3年で再エネ比率を12・9%まで高めたが、再エネ調達価格が安い欧州事業など全体を底上げしているのが現状だ。国内に限れば、再エネ利用率は1・9%にとどまる。日本で、化石燃料由来でないことを証明する有力な手段の一つは、「非化石証書」付きの電力を購入することだ。だが証書付きの電力コストは欧州の数倍から数十倍とされる。JCLPの事務局を務める環境政策シンクタンク「地球環境戦略研究機関」の松尾雄介ディレクターは「複数の日本企業から『この10年で再エネ価格が相当下がらなければ、海外に拠点をシフトさせるかもしれない』という声が出ている」と明かす。 ●「今の投資判断が未来を決める」専門家指摘 温暖化防止の国際ルール「パリ協定」が採択されて5年。日本は主要7カ国(G7)で唯一、石炭火力の新設計画があり、そのエネルギー政策には国際社会の厳しい視線が注がれてきた。菅政権は20年10月、50年までの温室効果ガスの排出「実質ゼロ」達成を宣言したが、「周回遅れ」の日本にとってはようやくスタートラインに立ったにすぎない。政府が21年中にまとめるエネルギー基本計画の改定に向け、経済産業省は電源構成に占める再エネの割合を、50年までに50~60%に引き上げる目安を示した。だが、JCLPが河野行政改革担当相らに提言した「30年までに50%」からは20年近い乖離(かいり)がある。経済協力開発機構(OECD)の元事務次長で、世界の気候政策に詳しい玉木林太郎・国際金融情報センター理事長は「化石燃料を使わないようにすることは、(産業革命に寄与した)蒸気機関の発明以来の大きな変化だ。この変化は避けられず、早くやった方が勝者になれる。先送りして済む問題ではない」と語る。「50年『脱炭素』は、遠いようで極めて近い目標だ。社会システムを切り替えるにはインフラを中心に息の長い投資計画が必要で、40年に慌てて始めても間に合わない。今の投資判断が未来を決める」と指摘する。 ●欧米主導のルールづくりに日本も重い腰上げ 「ここで方向を変えなければ、我々は今世紀のうちに壊滅的な気温上昇に直面する」。20年12月12日。パリ協定の採択5年を記念する首脳級オンライン会合で、国連のグテレス事務総長は警鐘を鳴らした。各国が「グリーンリカバリー」(緑の復興)を掲げるのは、コロナ禍で悪化した経済の立て直しと脱炭素を両立させるためだ。パンデミック(世界的大流行)による行動制限などの影響で、20年に世界で排出されたCO2は前年と比べて7%近く減った。リーマン・ショック時を上回る記録的な減少幅だ。しかし、世界の平均気温の上昇を1・5度に抑えるパリ協定の目標を実現するには、この先10年間でCO2排出量を毎年7%ずつ減らし続ける必要がある。エネルギーや交通など、社会・経済のシステムを急速かつ大胆に変革しなければ不可能な数字だ。欧州諸国は、若者世代がけん引した「緑の波」と例えられる世論の支持を追い風に野心的な気候政策を推し進め、域内産業の成長と保護の両立をしたたかに追求する。欧州連合(EU)では「国境炭素調整措置」の導入に向けた議論が本格化する。気候変動対策が不十分な国からの輸入品に対し、製造過程などで生じるCO2に高関税をかける発想だ。脱炭素を進める欧州の製造業を不公正な競争から守る目的もあり、「保護主義」との反発もある。だが世界貿易機関(WTO)元事務局長で、EUの欧州委員(通商担当)も務めたパスカル・ラミー氏は「『保護主義』ではなく、『予防措置』だ。貿易相手をたたいて自国の産業を守るためではなく、(世界全体の排出量を減らして)気候変動の損失から人々を守るためと考えるべきだ」と欧州の「大義」を強調する。トランプ米政権はEUが国境炭素調整措置を導入した場合、報復を示唆していた。だが、気候変動を最優先課題の一つに掲げるバイデン次期米大統領はEUと同様の措置導入を目指しており、今後具体化する可能性がある。欧米主導のルール作りが進む中、日本政府も重い腰を上げた。菅政権ではCO2排出に課金して削減を促す仕組み「カーボンプライシング」(CP)の導入に向け、環境省と経済産業省が連携して議論を始める。CPは短期的には産業界や家庭の負担増につながるため、これまで本格的な議論は先送りされてきた。だが、小泉進次郎環境相は「国内で炭素に価格付けしなくても、海外で(国境調整措置などを通じて)徴収される可能性を検討せざるを得ない」と指摘。「国際情勢をみながら後手に回らないように多角的に議論の蓄積をしたい」と話す。 ●日本での関心の低さ、根底に「負担意識」 日本では世論もカギだ。「欧州は草の根の運動が社会を動かした。でも今の日本は政府から『脱炭素』が降りてきたように感じる」。京都の大学1年生、寺島美羽さん(19)はそう語る。寺島さんは高校3年生の春にスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん(18)を知り、気候変動に興味をもった。グレタさんら欧州の若者にならい、10人ほどのグループで、街頭やネット交流サービス(SNS)で大人たちに本気の対策を訴え続けてきた。しかし、周囲の反応は冷笑的で「壁」を感じることも多かったという。気候科学者で国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多・副センター長は、関心の低さの根底には「温暖化対策を取ることへの『負担意識』」があるとみる。世界76カ国の一般市民を対象にした討論型の調査(15年)では、「あなたにとって、気候変動対策はどのようなものか」という問いに対し、「生活の質を脅かすもの」と回答した人は、世界平均27%に対して日本は60%と突出していた。「これを変えるには『新しい社会システムにアップデートする』というような前向きなメッセージを出すことが大切だろう」。江守さんは続ける。「日本でも数は多くないが、若い世代が気候変動対策の強化を求めて各地で声を上げている。こうした活動を応援することも、私たちができることのひとつだ」 年の瀬。JR京都駅前の街頭に寺島さんの姿があった。「気候危機の存在に気づいて」と書かれたプラカードを持った同世代の男女6人の前を、高校生や仕事帰りの人々が見向きもせずに過ぎ去っていく。1時間ほどたったころ、「SNSで見て活動に興味をもった」という制服姿の女子高校生2人が輪に加わった。「こんなことは初めて。本当にうれしい」と寺島さんは相好を崩した。草の根からも変化の芽が生まれつつある。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210109&ng=DGKKZO68042480Z00C21A1MM8000 (日経新聞 2021.1.9) 一からつくる移動網 テスラ超える戦い 夕方にベルリンをたち翌朝、目が覚めるとローマに到着。1957~95年に欧州の主要都市を結んだヨーロッパ横断特急が復活する。2020年12月、欧州4カ国の鉄道事業者が13都市を結ぶ夜行列車ネットワークをつくることで合意した。12月開通予定のウィーン~パリ間などを皮切りに順次整備を進める。 ●鉄道の5倍排出 背景には、二酸化炭素(CO2)を大量排出する飛行機に乗らない「飛び恥」という現象がある。世界のCO2排出で「運輸」は「発電・熱供給」に次ぐ2割強を占め、航空機の排出量は乗客1人の移動1キロ換算で鉄道の5倍に達する。国際航空運送協会(IATA)で環境分野を担当するマイケル・ギル氏は「旅客機では電気自動車(EV)のような技術が確立していない」と話す。それではもう、飛行機に乗れないのか。移動の選択肢を確保するため、欧州の航空機大手エアバスが立ち上がった。35年には温暖化ガス排出ゼロの航空機を実用化すると宣言。「ゼロe」と呼ばれるコンセプト機は液化水素をガスタービンで燃やして飛ぶ。実現すれば約70年前に英国でジェット旅客機の幕が開いて以来の大変革となる。日常生活を支えるクルマも変わる。ドイツ南部のミュンヘン郊外に「空のテスラ」と呼ばれる新興企業がある。電動の垂直離着陸機「eVTOL(イーブイトール)」を開発する15年創業のリリウムだ。駆動時に温暖化ガスを全く出さないのが売りで、25年の商用化を視野に入れる。機関投資家も出資し企業評価額が10億ドル(約1030億円)を超えるユニコーンとなった。こうした空飛ぶクルマメーカーが世界で続々と誕生している。脱炭素時代の移動手段は化石燃料時代とは全く違う「不連続の発想」から生まれる。技術革新に遅れると命取りになる。中国の自動車市場で、ある「逆転」が話題になた。米ゼネラル・モーターズ(GM)と上海汽車集団などの合弁で小型車を手がける上汽通用五菱汽車が、20年7月に発売した小型EV「宏光ミニ」。9月に販売台数で米テスラの主力小型車「モデル3」を追い抜いたのだ。航続距離は120キロメートルと近距離移動向けだが、価格は2万8800元(約46万円)からと安い。低価格が話題を呼び、地方都市で爆発的に売れている。 ●他産業から参戦 カーボンゼロの申し子、テスラですら安泰ではない新しい競争の時代。日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は「30年以降に過半数がEVになれば、車の価格は現在の5分の1程度になるだろう」と予言する。内燃機関を持たないEVは3万点もの部品が必要なガソリン車に比べ、部品点数は4割ほど減少する。参入障壁が下がり、自動車産業以外からの参戦も増える。トヨタ自動車は街からつくる。21年2月、静岡県裾野市にある約70万平方メートルの工場跡地で、自動運転EVなどゼロエミッション車(ZEV)だけが走る実験都市「ウーブン・シティ」に着工する。豊田章男社長は「3000程度のパートナーが応募している」と力を込める。5年以内の完成を目指し、グループで開発中の空飛ぶクルマが登場する可能性もある。20世紀のはじめ、米フォード・モーターの創業者であるヘンリー・フォード氏が大量生産方式を確立した自動車産業。生産コストを大幅に下げ、人々に移動の自由を提供し、経済成長の原動力にもなってきた。いまや世界で5千万人を超す直接・間接の雇用を生み出している。カーボンゼロで産業地図は大きく塗り替わる。自動車メーカーを先頭に発展してきた日本企業も、新しい青写真を描く時だ。 *3-3:https://mainichi.jp/articles/20210110/k00/00m/040/152000c (毎日新聞 2021年1月10日) 40年超原発」再稼働へ立ちはだかる壁 安全性懸念、行き詰まる中間貯蔵先探し 運転開始から40年を超える関西電力の美浜原発3号機(福井県美浜町)と高浜原発1、2号機(同県高浜町)の再稼働に向け、地元の同意プロセスが進んでいる。ただ、老朽原発の安全性には懸念の声が根強いほか、県が同意の前提とする使用済み核燃料の「県外」での中間貯蔵先探しも行き詰まったまま。国内初の「40年超原発」の再稼働には、高いハードルが立ちはだかる。 ●「原発から抜けられない町」、本心は「ノー」 関電は経営面から一日も早い再稼働を目指し、美浜3号機を2021年1月、高浜1、2号機を3月以降に再稼働させる工程を示しているが、実現のめどは立っていない。原発の寿命が「40年」とされたきっかけは、11年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故だ。「原子炉の圧力容器が中性子の照射を受けて劣化する時期の目安」として、13年7月の改正原子炉等規制法で原発の運転期間が原則40年と定められた。ただ、基準を満たせば1度に限り最大20年の延長が認められ、美浜3号機と高浜1、2号機は原子力規制委員会の審査をクリアした。今後、30年までに全国の原発11基が運転開始から40年を迎えるため、関電3基の再稼働が試金石となる。しかし、安全面で課題も指摘されてきた。関電が09年に高浜1号機で実施した検査では、60年運転時点の脆性(ぜいせい)遷移温度(圧力容器の劣化を示す指標)の予想値が97度となり、廃炉以外の原発で最高を記録。この値が100度程度に高いと圧力容器が破損する恐れがあるとされ、長沢啓行・大阪府立大名誉教授(生産管理システム工学)は「過去の検査に比べ09年の結果を見ると脆化(もろくなる)スピードが速まり、余裕がなくなった。次の検査でさらに予想値が高くなる可能性がある」と指摘。関電は「脆化の程度が大きいのは事実だが、地震や事故に耐えられることは確認している」と反論する。再稼働には県や原発の立地自治体の首長と議会の同意が必要とされる。「再稼働への理解と協力をお願い申し上げる」。経済産業省資源エネルギー庁の保坂伸長官は20年10月16日、福井県庁などを訪れ、40年超原発3基の再稼働への協力を県などに要請した。これを受け、立地自治体である高浜、美浜両町の議会は11~12月に再稼働を求める請願を相次いで採択し、早々に同意。両町長も近く同意の意思を示す見通しだ。安全性の懸念はあるものの、生活のため、地元からは再稼働を容認せざるを得ない「嘆き」が聞こえてくる。再稼働を求める請願に賛成した高浜町議の一人は「財政の大部分を原子力が占める町では、『同意』は賛否を論じるような話ではない。もし否定して再稼働しないなんてなったら大変なことになる」と複雑な思いを吐露し、「半世紀かけて原発から抜けられない町にしてしまった。僕らも本心では『ノー』と言いたい。でも、言えないよ」と語る。一方、関電が老朽原発の再稼働にこだわるのは、発電コストの安い原発で収支を改善し、安全対策で投じた膨大な費用を回収するためだ。東電福島第1原発事故前、関電は原発11基を運転し、10年度の全発電量に占める原発の割合は51%だった。しかし、19年度は27%で、高コストの火力が59%で最多に。老朽原発を再稼働できれば1基当たり月25億円の利益増になる。福島事故後の新ルールに対応した安全対策工事の総費用は、廃炉を除く原発7基で計1兆693億円に達し、一刻も早く老朽原発を動かしたいのが本音だ。 ●20年以上続く中間貯蔵施設の「県外」確保問題 福井の老朽原発再稼働の大きな課題となっているのが、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の「県外」確保だ。現在、使用済み核燃料は原発敷地内で保管されているが、5~9年で容量が限界に達する。関電にとって1998年7月に秋山喜久社長(当時)が県外建設の考えを初めて示して以来、20年以上続く経営課題となっている。関電は15年11月に「福井県外で20年ごろに計画地点を確定し、30年ごろに操業を開始」との計画を公表。17年11月には岩根茂樹社長(当時)が「18年には具体的な計画地を示す」と述べ、2年前倒しした。ところが18年1月、東電と日本原子力発電の中間貯蔵施設(青森県むつ市)を関電が共同利用する案が報道で表面化。むつ市は猛反発し、関電は報道を否定したが目標時期を「20年を念頭」に戻した。20年12月、事態が動いた。むつ市の中間貯蔵施設を、関電を含む電力各社で共同利用する案が浮上したのだ。全国の使用済み核燃料の負担が集中することを懸念し、むつ市の宮下宗一郎市長は12月18日、説明に訪れた電気事業連合会の清水成信副会長らに「むつ市は核のゴミ捨て場ではない」と不快感を隠さなかった。今後、電事連や国が地元の「説得」を進める模様だが、見通しは立っていない。同じ日、福井県内では、金属製容器(キャスク)に入れた使用済み燃料を空冷する「乾式貯蔵」を念頭に「県内」での貯蔵を検討する案が出た。美浜町議会の竹仲良広議長は「個人の意見」とした上で「美浜原発サイト内で乾式貯蔵を推進していきたい」と発言。同町議会は04年7月に中間貯蔵施設の誘致を決議した経緯があるが、当時は県の反発で立ち消えになった。また、衝撃的な判決も波紋を広げている。大阪地裁が20年12月4日、関電大飯原発3、4号機の想定する最大の揺れを示す基準地震動について「実際に発生する地震が平均より大きくなる可能性(ばらつき)を考慮していない」とし、国の設置許可を取り消したのだ。この判決の大きな影響を受けるのが、美浜3号機だ。40年超運転に向け、美浜3号機の基準地震動は750ガルから993ガルに大きく引き上げられた。だが、原告共同代表の小山英之・元大阪府立大講師(数理工学)は大飯と同じ評価方法が採用されていることからさらに1330ガルまで跳ね上がるとし、「安全の証明がされていない」と指摘する。福井県の杉本達治知事は判決を受け、再稼働の同意判断には規制委などによる安全性の説明が改めて必要とし、県原子力安全専門委員会でも検証する方向だ。混沌(こんとん)とする中、地元同意で事実上の最終判断を下す立場の杉本知事は慎重な姿勢を崩していない。関電が20年末までに県外候補地を示せなかったことについて、記者団に「(再稼働の)議論の入り口には入れない」とする一方、「最大限努力するということなので、それを待ちたい」とも述べた。協議を拒絶しつつ、「年内」の期限は猶予した政治判断の背景について、県幹部は「関電が『早く報告に来る』というから了とした。貯蔵プールの満杯も迫っているので、今回は期待もしていたが……」と話す。関電はどのようなボールを投げてくるのか。今後の日程が定まらないまま、県は出方をうかがっている。 ●運転中は玄海3号機と川内1、2号機のみ 建設中や廃炉決定などを除き、国内には33基の商業用原発がある。16基が東日本大震災後にできた新規制基準に「合格」したが、9日現在で運転しているのは九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)と同川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の3基のみ。また、合格した16基のうち、運転開始から40年を超える老朽原発は関西電力美浜原発3号機と同高浜原発1、2号機、日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)の計4基となっている。 <再生医療> *4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210111&ng=DGKKZO68052890Q1A110C2TJM000 (日経新聞 2021.1.11) 科技立国 動かぬ歯車(4)iPS、世界と隔たり、集中投資も存在感乏しく 柔軟な戦略修正に課題 「経過は順調だ」。大阪大学の澤芳樹教授らは2020年12月、iPS細胞から作った「心筋シート」を重い心臓病の患者に移植する世界初の手術を3人に実施したことを報告した。19年末に始めた医師主導臨床試験(治験)は前半を終えた。iPS細胞の臨床応用は広がっている。心臓病のほか加齢黄斑変性など目の病気、パーキンソン病、がんなどの治療を目指す臨床研究や治験が進む。安全性や効果を示せるかが注目されている。京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の作製法をマウスで発見したのは06年。山中教授は12年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。政府は13年、iPS細胞を使う再生医療の実現に向け、10年間で1100億円という巨額の投資を決めた。皮膚などの体の細胞から胚性幹細胞(ES細胞)のような万能細胞を作るという山中教授の発想は斬新なものだった。研究計画を審査した岸本忠三・阪大特任教授が可能性に注目するなど、政府が支援したことで発見につながった。科学技術政策の成功例といえる。その後の大型投資は「選択と集中」の象徴だ。iPS細胞関連の研究者は増え、論文も増えた。だが、その課題や弊害も見えてきた。独ロベルト・コッホ研究所などのチームが人のiPS細胞に関する論文を18年に調べると、日本は論文数シェアで世界2位だった。ただ、論文を掲載した科学誌の影響度(インパクトファクター)と論文の被引用数は平均を下回った。国内で初めてES細胞を作った京都大学の中辻憲夫名誉教授は「日本は間違った過剰な選択と集中によって、投資対効果が低い結果になった」と批判する。iPS細胞に集中投資した半面、ES細胞など他の幹細胞研究の支援は手薄になった。両者は関連技術に共通部分が多いのに、日本はバランスを欠いた。世界の動きは速い。米国立衛生研究所(NIH)や米カリフォルニア再生医療機構は10年代半ばに再生医療の研究予算を減らし、遺伝子治療や細胞医療の拡充に転じた。英国も同様の傾向だ。注目するのは、人工的に機能を高めた「デザイナー細胞」の研究だ。代表的なものが、遺伝子操作した免疫細胞で血液がんを攻撃する「CAR-T細胞療法」。17年に実用化し、様々ながんで応用研究が進む。画期的な治療法と期待を集める。科学技術振興機構研究開発戦略センターの辻真博フェローは「iPS細胞中心の再生医療から軌道修正が必要だ」と提案する。集中投資で培った人材や成果を生かし、免疫学など日本が強みを持つ分野と組み合わせれば、デザイナー細胞で世界と競合できるとみる。政府も軌道修正を模索する。日本医療研究開発機構(AMED)は予算の枠組みを20年度からの第2期中期計画で変えた。第1期では「再生医療」としていたプロジェクトを「再生・細胞医療・遺伝子治療」に再編した。有識者会議で30年ごろまでの国や企業の投資対象などを工程表にまとめる検討も始めた。新型コロナウイルスのワクチンを開発した米モデルナの創業者は、iPS細胞の発見から着想を得たという。幹細胞が持つ可能性は再生医療に限られたものではない。神奈川県立保健福祉大学の八代嘉美教授は「多様な研究を支える資金制度が重要だ」と指摘する。世界の潮流に合わせた戦略的な研究と、斬新な発想の研究のバランスを取り、いかに柔軟に軌道修正するか。資金や人材が限られる中、日本のマネジメントが問われる。 <根拠なき規制は、有害無益である> PS(2021年1月17日追加):*5-1・*5-2のように、厚労省は、「①入院勧告に従わない感染者に罰則導入」「②入院勧告の対象にならない軽症の感染者は、宿泊・自宅療養を法的に位置付け」「③保健所の『積極的疫学調査』に応じなかった感染者に新たな罰則を新設」「④知事らによる医療機関への協力要請の権限強化」などの感染症法改正案の概要を感染症部会に示して了承されたそうだ。 しかし、②はまあよいが、①は検査も十分に行わず市中に蔓延させ、症状が出ても入院できない状況を作って、それが1年経っても改善されていないのであるため、厚労省の責任そのものである。その上、この強制によって感染が減るという根拠もないのに、国民の私権を制限する前例を作るのはむしろ有害だ。 また、③の「積極的疫学調査」は、陽性者の数が限られており接触者の跡を追える場合には有効かもしれないが、そうでなければたまたま近くにいた人に迷惑をかけ、誰かにとって都合の悪い集会(例:選挙の対立候補の集会)が開かれた場合に悪用することさえできる。それよりも、これまで1年間も感染経路を網羅的に調査してきたのだから、感染者の年齢・性別・住所・感染経路・予後などが正確にわかっているので、大雑把に都道府県単位で私権制限を行わなくても正確にポイントをついた対応ができる筈だ。保健所は、個人の行動履歴を根ほり葉ほり聞いただけで、そのデータは積んだままにしているということは、まさかないだろう? なお、④についても、政治・行政は、「医療費は無駄遣い」とばかりに医療費削減を行い続け、必要な医療システムを作ることを放棄してきたため、もともと志の高い人が多い医療分野にゆとりをなくさせ、疲弊させてきた。さらに、*5-3のように、医療機関のすべてが新型コロナ患者を受け入れればよいわけではなく、基幹病院にあたる大病院が受け入れるのが適切なのだが、診療報酬を下げ続けて基幹病院にも選択と集中を迫り、対応できない状態にしてきたのだ。そのため、「入院や療養の調整中」とは、「アフリカ(失礼!)ではなく日本の話か?!」と思う。 本来、市中で蔓延している地域で行うべきことは、*5-4で広島県が広島市内で80万人規模のPCR検査を実施しようとしているようなことで、これに加えて空港や港の検疫・陰性証明書・14日間の待機を組み合わせれば、乱暴に外国人の全入国を遮断する必要もなかった。そのため、広島市のやり方を参考にしたり、負荷が小さくて合理的な検疫方法を考えたりすべきなのだ。 *5-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/80153 (東京新聞 2021年1月15日) 「ほとんどの罰則が刑事罰」入院拒否の感染者などに… 感染症法改正案を了承 厚生労働省は15日、同省感染症部会に新型コロナウイルス対策強化に向けた感染症法改正案の概要を示し、了承された。入院勧告に従わない感染者などへの罰則導入や知事らによる医療機関への協力要請の権限を強めることが柱。出席者からは罰則導入の根拠や効果を問う声が相次いだが、同省は罰則の具体的な内容やデータなどは示さなかった。政府は18日召集の通常国会に改正案を提出し、早期成立を目指す。 ◆国や自治体の権限も強化 部会で示された概要では、入院勧告を拒否した感染者に加え、濃厚接触者が誰かを追跡する保健所の「積極的疫学調査」に応じなかった感染者に新たな罰則を新設。入院勧告の対象にならない軽症の感染者は宿泊・自宅療養を行うことを法的に位置付けた。また、感染者情報の収集や民間病院によるコロナ患者の受け入れが円滑に進んでいないことを背景に、国や地方自治体の権限を強化する対策を盛り込んだ。具体的には、医療関係者らへの協力要請を「勧告」に見直し、正当な理由なく従わない場合は病院名なども公表できるとした。新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」としての分類期限が来年1月末に切れることから、その後も濃厚接触者の外出自粛要請などの措置が継続できるよう、同法上の「新型インフルエンザ等感染症」に位置付ける改正も行う。 ◆「罰則の根拠は?」疑問の声も 入院勧告に従わない感染者への罰則について、政府は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰を検討しているが、15日の部会には示さなかった。出席者からは「罰則を導入しないと感染拡大が止まらないことを示す根拠を示してほしい」「保健所の仕事がさらに増える」などの疑問が相次いだ。さらなる議論を求める声もあったが、部会は改正案の概要を了承した。同省の正林督章健康局長は、罰則導入の根拠を示すように求められていることに対し「(根拠を)網羅的に把握するのは難しい」と説明。「感染症法は健康被害という重たいものを扱っている観点で、ほとんどの罰則規定が刑事罰だ」と理解を求めた。 *5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14765109.html (朝日新聞社説 2021年1月16日) コロナの法改正 罰則が先行する危うさ 政治の怠慢や判断の甘さを棚に上げ、国民に責任を転嫁し、ムチで従わせようとしている。そんなふうにしか見えない。新型コロナ対策として、政府が進めている一連の法改正の内容が明らかになりつつある。共通するのは、制裁をちらつかせて行政のいうことを聞かせようという強権的な発想だ。例えば特別措置法をめぐっては、緊急事態宣言の発出前でも「予防的措置」として知事が事業者や施設に対し、営業時間の変更などを要請・命令できるようにする、応じない場合に備えて行政罰である過料の規定を設ける、などが検討されている。要請や命令の実効性を高めたいという狙いはわかる。だが倒産や廃業の危機に直面し、通常どおり仕事をせざるを得ないのが、このコロナ禍における事業者の現実ではないか。まず考えるべきは、休業や時短に伴う減収分を行政が適切に支援し、人々が安心して暮らせるようにすることであり、それを法律に明記して約束することだ。ところが政府案では、そうした措置は国・自治体の努力義務にとどまる見通しだという。本末転倒というほかない。どうしたら事業者の理解と協力を得られるかという視点から、全体像を見直す必要がある。感染症法の改正では、保健所の調査を拒む、うその回答をする、入院勧告に従わないといった行為に、懲役刑や罰金刑を科す案が浮上している。接触者や感染経路を割り出す作業はむろん大切だ。だが、いつどこで誰と会ったかはプライバシーに深くかかわる。刑罰で脅せば、市民との信頼関係のうえに成り立ってきた調査が変質し、かえって協力が得られなくなる事態を招きかねない。何より今は、一部で疫学調査が満足にできないレベルにまで感染者が増え、入院相当と診断されても受け入れ先が見つからない状態だ。いったい何を意図しての罰則の提案なのか。そもそも調査や入院勧告の拒否、無断外出などの件数がどれほどあるか、理由は何で、どんな支障が出ているか、政府は具体的なデータを示していない。罰則を必要とする事情を説明しないまま、ただ感染抑止のためだと言われても、真っ当な議論は期待できないし、社会の認識が深まるはずがない。日本にはハンセン病患者の強制隔離など深刻な人権侵害の歴史がある。医学界はおととい緊急声明を出し、感染症の制御で必要なのは国民の理解と協力であり、強制的な措置はむしろデメリットが大きいとした。ほかならぬコロナ対応の現場を担う当事者の声に、政府は真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。 *5-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP1H7HC7P1HULBJ010.html?iref=comtop_7_07 (朝日新聞 2021年1月16日) 揺れる「ベッド大国」日本 医療逼迫は民間病院のせいか 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、各地で病床の逼迫(ひっぱく)が深刻だ。日本は世界的にみても充実した病床数を誇り、「ベッド大国」と言われるのに、なぜなのか。政府は15日、病床確保のために感染症法を見直すという強い対策を打ち出し、民間病院に新型コロナへの対応を迫った。 ●人口あたりのベッド数、日本が「最多」 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、たとえば東京都では14日現在、「入院や療養の調整中」とされている陽性者は6500人に上る。東京だけでなく各地で病床が逼迫し、入院調整に苦しむ実態がある。13日に会合があった厚生労働省の専門家組織は、「感染者が急増する自治体では入院調整が困難となり、高齢者施設などで入院を待機せざるを得ない例も増えてきている」と指摘。通常医療との両立が困難な状況も広がる、とした。こうした状況を受けて、厚労省が病床確保策として打ち出したのが感染症法の改正だった。改正に伴い、たとえば病床の確保が必要な場合、従来だと都道府県知事らが医療関係者に協力を「要請」できたのが、「勧告」というさらに強い措置を取ることができるようになる。勧告に従わなかった場合、医療機関名などを公表できる、という規定も盛り込む案だ。狙いは、民間病院に対応を促すことにある。日本は「ベッド大国」といわれる。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、人口千人あたりのベッド数は日本は13で最多。韓国12・4、ドイツ8と続く。米国の2・9、英国の2・5の4~5倍以上だ。さらに新型コロナの感染者は、米国で2300万人を超え英国320万人、フランス、イタリア、スペインは200万人を超す。日本は急増しているとはいえ30万人と欧米に比べると桁違いに少ない。 ●民間は17% それなのに「入院が必要な患者が入院できない」と病床の逼迫が叫ばれるのはなぜなのか。政府は感染症法の改正で「民間」に対応を促す意向ですが、当事者からは反発の声もあがっています。記事の後半では、そうした声や改正案の背景にある官邸の意向について解説します。現在、コロナ患者が入院している医療機関は、手術や救急を行う急性期病院が多いとされる。厚労省によると、昨年11月末時点で厚労省のシステムに登録している4255の急性期病院のうち、新型コロナ患者の受け入れ実績があるのは1444病院。設立主体別に受け入れている割合を見ると、公立病院は58%の405病院、日本赤十字社や済生会など医療法で位置づけられた公的病院が75%の565病院。一方、民間病院は17%の474病院にとどまる。新型コロナ用に確保した病床は全国で2万7650床(6日時点)あるが、急性期の病床の4%程度だ。加えて、コロナ患者を診る割合が低い民間病院が、国内の医療機関の大半を占めている実態がある。厚労省の医療施設調査によると、医療法人・個人が開設する民間病院は全体の約7割。公立病院が多くを占める欧州とは事情が異なる。 ●日本病院会会長「病院のせいにされている」 民間がコロナ患者の受け入れに消極的なのには理由がある。コロナ患者を受けると、感染防御のために一人の患者のケアに必要な看護師が通常より多くなる。感染が怖い、差別を受けるといった理由で離職するスタッフもいる。ほかの診療ができなくなり減収につながる、と敬遠する施設も少なくない。また、民間は中小規模のところも多く、受け入れが難しい現状もある。医療体制を決める現行の医療法では、個別の医療機関がどのような医療を提供するか、指示や命令をする権限は都道府県知事らにもなく、民間病院に行政が介入できる余地は小さかった。ただ、民間に対策を迫る今回の改正案に実効性が伴うかは疑問も残る。そもそも新型コロナの感染拡大防止のための医療提供体制の整備は、国や地方自治体と医療関係者が連携して取り組んでいるため、法律に基づく従来の協力要請すら行われていないという実態があるという。協力要請を飛び越えて盛り込んだ「勧告」が、病床逼迫の改善に結びつくのか。相沢孝夫・日本病院会会長は今回の改正案について「勧告の前に政府は、病院間の役割分担や情報交換、連携を促し、地域でコロナを受け入れるための青写真を描くべきだ。それを踏まえて都道府県が具体的な体制をとるべきだろう。コロナ患者を受けなくても、かわりに他の病気の患者を引き受けるなど、医療機関が協力して対応する仕方はいくらでもある」と話す。 ●改正案、背景に官邸の意向 医療提供の問題については「政府や自治体が責任のなすりつけあいを続け、病院のせいにされている」とし、患者の受け入れを強く求めるだけでは差が生まれ、「病院間の分断を生んでしまう」と指摘する。厚労省の地域医療計画に関する作業部会のメンバーでもある今村知明・奈良県立医大教授(公衆衛生)は「勧告によって、コロナの受け入れをしやすくなる施設も出てくるのではないか。民間病院の場合、公的病院と異なり、職員のコロナへの抵抗感が強いと受け入れにくい面もある。厚労省や都道府県知事も勧告を出す前には事前に病院の状況を確認するだろうから、やみくもにどこにでも勧告を出すということではないだろう」と話す。今回の改正案には官邸の意向が働いた。病床確保に向け菅義偉首相は14日に日本医師会など医療団体と面会。「必要な方に必要な医療を提供させていただくために、さらなるご協力を賜りたい」と協力を求めた。首相周辺は「病院や診療所の絶対数は多いんだから、民間にもどんどん協力してもらうしかない」と、民間医療機関のさらなる協力に期待を寄せた。日本医師会などの医療団体は週明けにも、病床確保のための対策組織を立ち上げる予定だ。 *5-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJB1555G0V10C21A1000000/ (日経新聞 2021/1/15) 「80万人検査」の広島県、検体採取能力アップへ 広島県は広島市内での最大80万人規模のPCR検査実施に向け、検査体制の拡大を進める方針だ。現在稼働している広島市内のPCRセンターで、検体を採取するラインを増設する案を軸に検討。検体採取キットを薬局などで受け渡し、採取効率を高める案も出ている。15日明らかになった広島県の方針によると、新型コロナウイルスの集中対策の一環で、広島市中心部の4区(中区、東区、南区、西区)の全住民や就業者を対象に無料PCR検査を実施する。県は具体的な実施方法などを現在詰めているが、全国でも珍しい大規模検査になるだけに、いかに体制を強化するかがカギになる。広島県は2020年12月、広島市内でPCRセンターを相次いで2カ所立ち上げた。2カ所のセンターで採取できる検体は1日あたり最大900人程度で、1月5日までに計1万1500人の検体を採った。一方、県が確保した検査能力は1日あたり最大5300人分(県外機関含む)あり、検体の採取体制を拡大して大規模検査に備える。大規模検査は任意のため、検査能力の引き上げが必要かどうかは実際の希望者数などをみて判断する。検査数が今後増えれば、陽性が確認される人数も増加する可能性が高い。県は現在819室分の宿泊療養施設を確保しているが、大規模検査が本格化すれば追加を迫られる公算が大きい。 <エネルギーの変換> PS(2021年1月18、20日追加):*6-1のように、IMF等によれば、コロナ対策の財政支出や金融支援は世界で13兆ドル(約1340兆円)に達し、英国は、①「グリーン産業革命」として脱炭素に不可欠となる新たなインフラ整備に重点投資し ②再エネの導入を拡大して2030年までに洋上風力で全家庭の電力を賄えるようにし ③道路には自転車レーンを拡充し ④温暖化ガスを排出しないバスを数千台規模で投入して 新産業で雇用を生みながらCO₂排出ゼロに向けた布石を打つそうだ。また、ドイツは、⑤洋上風力の拡大目標を2030年に500万キロワット分引き上げ ⑥自動車向け水素ステーションを増やし、米国も、バイデン次期大統領が、⑦グリーン刺激策に2兆ドル(208兆円)を投じる計画で ⑧50万カ所に充電施設を設け政府の公用車300万台をEVにする方針 だそうだ。さらに、フランスは、⑨既存産業の支援にも脱炭素の視点を入れ ⑩エールフランスKLMの救済では運航時のCO2排出が少ない機体の導入や鉄道と競合する国内路線の廃止を条件として ⑪産業を立て直しながら社会全体で脱炭素を進める姿勢を鮮明にする。日本も、(当然)財政支出を行うならグリーンリカバリーとして環境投資で再エネや水素の導入を行って経済を浮上させるのが賢く、*6-4のとおり、原発依存はもう必要ない。 このような中、*6-2のように、三菱地所は2022年度にも東京・丸の内に持つ約30棟で、東急不動産は2025年頃に全国の保有施設全てを再エネ仕様にし、全国には3000平方メートル以上のオフィスビルが約1万600棟あって、こうした物件が再エネ対応に変われば効果が大きいそうで期待できる。マンションも、2020年代前半にZEBによる再エネ仕様にすれば、環境によいだけでなく光熱費も下がる。しかし、メディアは必ず「再エネを使うと、火力発電より発電費用がかかるため電気利用のコストが上がる」などと書くが、これは真っ赤な嘘だ。その理由は、再エネは化石燃料を遠くから運賃を払って輸入する必要がなく、運転コストが0であるため、自然エネルギーで発電すれば発電コストが下がり、エネルギー自給率は上がるからである。 また、自動車もEVが主流になるだろうが、その端緒を作った功績ある日産のゴーン前会長は、*6-3のように、元CEOオフィス担当のハリ・ナダ氏が「ゴーン解任計画」を取りまとめて西村氏にメールで送信していた。テレビ東京は、この極秘文書を入手したのだそうで、その極秘文書には、ゴーン氏の逮捕半年前に作られたゴーン氏解任のためのシナリオが詳細に書かれており、日産社内で周到な準備をした上で、検察・経産省を巻き込んで行われたものだったようである。私は、このブログの2018年12月4日、2019年4月6日、2020年1月11~12日に、事件の背後に見て取れる陰謀について推測して記載し、その殆どが当たっていたが、推測できた理由は、日本にある外資系企業に監査人として監査に行った時は、(外国人も含む)社長と必ず話をしてその行動様式を知っていたこと、EYなどBig4の税務部門で外資系企業の税務コンサルティングをした時は、報酬の支払い方や開示方法について関係各国の事務所の専門家から文書で、日本の金融庁・国税庁からは(文書を出さないので)口頭で必ず確認をとっていたため、日産のゴーン前会長のやり方も違法行為には当たらない筈だと思えたからである。これはプロの技術であり、決して新聞記事等の文章を読んだだけで分析できるわけではないことを付け加えておく。 なお、*6-5のように、新型コロナ感染拡大で、政府はビジネス関係者に認めていた外国人の新規入国を全部停止したたため、農業の生産現場でも人手不足に拍車がかかった。日本の産業は、既に農業だけでなく製造業・サービス業も外国人労働者を多用しているので、技能実習生のように仕事を覚えたら帰国することを前提とした低賃金で差別的な労働条件ではなく、職務に見合った賃金で雇用し、5年在住したら永住権も認めるようにした方がよい。何故なら、そうした方が雇用する側にとって、搾取して使い捨てにするのではなく、人材に投資して回収を見込めるからだ。これに対し、日本人労働者は「賃金が下がる」として反対するケースが多いが、高コスト構造のまま日本から産業がなくなれば働く場も技術もなくなる上、日本人は母国語・教育などで有利な立場にあるため、職務に見合った賃金で雇用されれば不足はない筈だからである。 このような中、*6-6のように、日本は難民の認定率が低く、定住や永住の在留資格を与えないことで有名だが、地方で自治体が公営住宅を準備して企業誘致を行えば、難民を労働力として国際競争力ある賃金で産業を日本に回帰させることが可能だ。日本人になって「イスラム教」「アラビア学校」等に固執しない条件でリクルートすれば、双方にメリットがあるだろう。 ![]() ![]() ![]() ![]() ZEB 太陽光発電設置道路 太陽光発電屋根の駐車場 EV用ワイヤレス充電器 (図の説明:1番左は、Zero Energy Building(ZEB)で、ビルの壁面で太陽光発電を行う。左から2番目は、太陽光発電装置を埋め込んだ道路で、道路面積は広いので潜在力が大きい。右から2番目は、駐車場の屋根に太陽光発電機を設置したもの。1番右は、自動車のワイヤレス充電器で、これらは中小企業でも作れそうだ。駐車場の屋根に太陽光発電機をつけ、ワイヤレス充電器で充電するシステムで、EVがロボット掃除機のように自動的にワイヤレス充電器の上に止まって、「着きました。外の気温は○度です」と言うと便利な相棒になるのだが・・) ![]() ![]() ![]() ![]() 2021.1.14WBSニュースより (図の説明:2021年1月14日、テレビ東京のWBSニュースで、元CEOオフィス担当のハリ・ナダ氏が「ゴーン解任計画」として西川氏にメールで送信していた極秘文書が明らかになった。通常は、会長が逮捕されれば会社は弁護するのだが、西川氏が「待ってました」とばかりに会長を解任したため、検察・経産省を使った日産社内の内部紛争の可能性が推測された) *6-1:https://r.nikkei.com/article/DGXZQOGE282L30Y0A221C2000000?n_cid=NMAIL006_20210117_A&disablepcview=&s=4 (日経新聞 2021年1月17日) 経済再生、脱炭素の試練 グリーン復興で欧州先行 世界を大きな混乱に陥れた新型コロナウイルス危機には思わぬ副産物もあった。その一つが大幅な温暖化ガスの排出量の減少だ。もっとも経済活動の急収縮に頼った排出削減は経済の回復とともに後戻りしかねない。コロナ後の復興をどう脱炭素につなげていくか。グリーンリカバリーの知恵が問われている。2020年は都市封鎖や工場停止で化石燃料の需要が減った。国際共同研究グローバル・カーボン・プロジェクトによると20年の化石燃料由来の二酸化炭素(CO2)排出量は19年比で7%減少した。減少は15年以来で、単年の減少量は過去最大という。コロナ禍では経済活動停止の影響で大気汚染が改善した。「ヒマラヤ山脈をこんなきれいに見たのは初めて」。世界3位の温暖化ガス排出国のインドではこんな声が出た。しかし排出量は早くも反転の兆しが見える。20年前半に大幅減だった中国では昨秋以降、鉄鋼などの生産が回復し20年通年の排出量は19年比で1.7%減にとどまった。国際通貨基金(IMF)などによると、コロナ対策の財政支出や金融支援は世界で13兆ドル(約1340兆円)に達する。特に雇用や資金繰りの支援に重点を置く。グリーンリカバリーには大きく2つある。第1はコロナ後の経済刺激策で脱炭素に不可欠となる新たなインフラ整備に重点投資すること。第2は既存産業の立て直しで単純にコロナ前に戻すのではなく、温暖化ガスを減らす方向へ事業転換を促すことだ。第1の例には「グリーン産業革命」を唱える英国の戦略がある。再生可能エネルギーの導入を拡大し30年までに洋上風力で全家庭の電力を賄えるようにする。交通では温暖化ガスを排出しないバスを数千台規模で投入し、道路には自転車レーンを拡充する。新産業で雇用を生むと同時に将来の排出ゼロに向けた布石を打つ。ドイツは洋上風力の拡大目標を30年に500万キロワット分引き上げ、自動車向けの水素ステーションも増やす。米国も欧州を追う。環境対策に消極的だったトランプ政権から一転、バイデン次期大統領はグリーン刺激策に2兆ドルを投じる計画を表明した。50万カ所に充電施設を設け政府の公用車300万台を電気自動車などにする方針だ。第2の例では既存産業の支援にも脱炭素の視点を入れるフランスの政策がある。航空大手エールフランスKLMの救済では、運航時のCO2排出が少ない機体の導入や鉄道と競合する国内路線の廃止を条件にした。産業を立て直しながら社会全体で脱炭素を進める姿勢を鮮明にする。デンマークは老朽化が進む公営住宅を対象にする。暖房設備を環境に優しいタイプに変えた場合などに補助金を出し、20年から6年間で集中して更新を進める。日本は電力需要の逼迫への対応で重油で火力を稼働させるなど心もとない状況だ。菅義偉首相は温暖化ガス排出実質ゼロの目標を掲げた。再生エネや水素の導入拡大を加速できるかが試される。「主要25カ国・地域のコロナ対策のうち18カ国の対策は環境負荷が重い」。ロンドンに拠点を置くコンサルティング会社、ビビッド・エコノミクスは昨年12月に報告書をまとめた。財政支出を環境の視点から分類した「グリーン刺激策指数」でプラスは全体の約3割にとどまっている。08年のリーマン・ショック時も各国が環境対策をうたって財政支出を拡大したが、温暖化ガスの排出量は増え続けた。的確な対策で効果を高め、経済を浮上させながら排出量を増やさない状況を作り出せるかが課題になる。 ■グリーンリカバリー 環境投資で経済浮上 新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退への対策で、環境を重視した投資などを通して経済を浮上させようとする手法をさす。気候変動への対応や生物多様性の維持といった課題の解決に重点的に資金を投じ、そこから雇用や業績の拡大で成果を引き出す。先進国を中心に各国がグリーンリカバリーを意識した景気刺激策を相次いで打ち出している。世界で異常気象が相次ぎ、気候変動への対応は世界共通の優先課題だ。地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」は地球の気温上昇を産業革命前から2度以内に抑えることを掲げている。日米欧のほか中国も温暖化ガス排出実質ゼロを掲げ、水素活用の推進などに巨額の資金を投じる方針だ。気候変動対策に反する活動への批判も高まっている。国が環境負荷の高い産業を支援することは投資家などから批判を浴びる。民間では石炭火力発電所からの投資引き揚げなど、より環境を配慮した行動へのシフトが進む。グリーンリカバリーは今後の経済回復の局面で、コロナ拡大前と同じ生活や企業活動に戻るのではなく、新しい形態に転換しようとする動きを加速するためのカギを握る。 *6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210118&ng=DGKKZO68247360Y1A110C2MM8000 (日経新聞 2021.1.18) オフィスビル電力、脱炭素、三菱地所、丸の内30棟 テナント誘致の柱に 大手不動産会社が保有物件で使う電力を一斉に再生エネルギーに切り替える。三菱地所は2022年度にも東京・丸の内に持つ約30棟で、東急不動産も25年ごろに全国の保有施設全てを再生エネ仕様とする。入居企業が多いオフィスビルの大規模な脱炭素化は波及効果も大きい。都市部に多い金融や飲食などサービス業などの再生エネ活用を後押ししそうだ。三菱地所は「新丸ビル」「丸の内オアゾ」など丸の内地区の約30棟で切り替えを進める。対象ビルの19年度の使用電力は計約4億キロワット時で、家庭なら10万世帯強に相当する。二酸化炭素(CO2)排出量は約20万トンだった。21年4月から18棟で再生エネ由来に順次変更し、22年度にも残りのビルの電力を切り替える。当初は丸の内エリアで年数棟ずつ切り替える計画だったが、政府の方針などを受け前倒しで進める。電力はENEOSが手掛けるバイオマス発電などで調達する。東急不動産でも、21年4月に本社が入る「渋谷ソラスタ」など計15物件の電力を再生エネに変える。25年をメドにスキー場やホテルも含め、全国に保有する全施設の電力を再生エネに変更する。当初の目標達成時期の50年から大幅に早める。開発中を含め風力や太陽光など50を超える再生エネルギー発電事業に参加しており、こうした電源を活用する。再生エネを使うことで電気利用のコストは上がる。水力や風力発電は火力発電より発電費用がかかるからだ。企業が再生エネからの電力を購入する方法の1つの「非化石証書」がついた電力は、通常の電力より約1割高くなるという。両社は増加するコストをテナントに転嫁しない方針だ。政府が温暖化ガスの排出を50年までに実質ゼロにする方針を示し、オフィスの脱炭素化を立地や設備などと並ぶテナント誘致の柱と位置づける。他の不動産会社も脱炭素を急いでいる。三井不動産は「東京ミッドタウン日比谷」で再生エネを導入する。東京・丸の内の「鉄鋼ビル」を運営する鉄鋼ビルディングも1月に導入済みだ。オフィスで使われる電力は企業・事業所が使う電力の約6%を占める。三菱地所によると丸の内地区だけで金融やサービス業など千社以上が活動し、多くの企業の再生エネ利用につながる。日本不動産研究所によると全国には3千平方メートル以上のオフィスビルが約1万600棟あり、今後こうした物件が再エネ対応に変われば効果は大きい。再生エネの発電量に占める割合は19年度速報値で18%だった。経済産業省は50年の発電量に占める再生エネの割合を約5~6割に高める案を示している。安定した電力を確保しながら日本の産業全体で脱炭素を進めるために、再生エネの拡大に加え、電力を効率的に使う蓄電などの技術開発が不可欠になる。 *6-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/8852bada16588a58cf7e94380c1ffb8696679e6c (Yahoo 2021/1/14) 日産「ゴーン解任計画」極秘文書を入手 日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告のレバノンへの逃亡からおよそ1年が経ち、主役不在の裁判がヤマ場を迎えています。ゴーン被告の報酬隠しに関与したとして、金融商品取引法違反の罪に問われた元代表取締役のグレッグ・ケリー被告らの裁判がきょう東京地裁で開かれ、元CEOオフィス担当で、現在専務を務めるハリ・ナダ氏が証人として出廷しました。ハリ・ナダ氏はゴーン被告らのかつての腹心で、検察との司法取引に応じた事件のキーマンともいえる人物です。テレビ東京は今回、このハリ・ナダ氏が取りまとめていたとみられる「ゴーン解任計画」とも呼べる極秘文書を独自に入手しました。ゴーン被告ら逮捕の半年前に作られたこの極秘文書にはゴーン被告を解任するまでのシナリオが細かく記載され、社内で周到な準備の元、解任を入念に検討していたことをうかがわせるものです。 *6-4:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/201216.html (日本弁護士連合会会長 荒 中 2020年12月16日) 大飯原発設置変更許可取消訴訟大阪地裁判決に対する会長声明 大阪地方裁判所は、本年12月4日、国に対し、関西電力大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)3号機及び4号機の設置変更を許可した原子力規制委員会の処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。福島第一原子力発電所事故後、原子力発電所(以下「原発」という。)の安全確保に問題があるとして民事訴訟ないし仮処分において運転差止めを認めた事例はこれまで5例あるが、行政訴訟としては初めて、原発の設置(変更)許可処分を取り消す判決が言い渡されたものであり、その意義は大きい。当連合会は、2013年に開催された第56回人権擁護大会において、原発の再稼働を認めず、できる限り速やかに廃止すること等を内容とする決議を採択した。また、2014年に福井地方裁判所が大飯原発3号機及び4号機の運転差止めを命じる判決を言い渡した際、これを評価する会長声明を公表し、同年の第57回人権擁護大会においても、行政庁が依拠する特定の専門的技術見解を尊重して判断する方法を改め、今後は、科学的・経験的合理性を持った見解が他に存在する場合には、当該見解を前提としてもなお安全であると認められない限り原発の設置・運転を許さないなど、万が一にも原発による災害が発生しないような判断枠組みが確立されること等を求める宣言を採択した。本判決は、1992年10月29日の伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求事件に関する最高裁判決の判断枠組みに従い、原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かという観点から審理、判断をしている。原子力規制委員会が制定した「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(以下「地震動審査ガイド」という。)によれば、地震規模の設定に用いる経験式は平均値としての地震規模を与えるものであり、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。にもかかわらず、経験式に基づき算出された地震モーメントの値に何らかの上乗せをする必要があるか否か等について何ら検討することなく、本件申請が設置許可基準規則4条3項に適合し、地震動審査ガイドを踏まえているとしたことは、原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると判示したもので、福島第一原子力発電所事故後初めて原発の設置(変更)許可処分を取り消した判決として評価に値する。当連合会は、原子力規制委員会に対し、本判決を受けて地震動審査ガイドに適合しない原発の設置許可を自ら取り消すことを求めるとともに、政府に対して、従来の原子力に依存するエネルギー政策を改め、できる限り速やかに原発を廃止し、再生可能エネルギーを飛躍的に普及させること、及びこれまで原発が立地してきた地域が原発に依存することなく自律的発展ができるよう、必要な支援を行うことを強く求めるものである。 *6-5:https://www.agrinews.co.jp/p52932.html (日本農業新聞 2021年1月15日) 実習生ら対象 外国人入国停止 人手不足深刻化も 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は14日、ビジネス関係者らに例外的に認めていた外国人の新規入国を一時停止した。この例外措置の対象には技能実習生も含まれており、昨年11月から今月10日までにベトナム、中国などから実習生約4万人が入国していた。入国制限で生産現場の人手不足に拍車がかかる可能性があり、農水省は影響を注視している。 ●農水省 支援活用促す 政府は、コロナの水際対策の入国制限を昨年10月に緩和し、全世界からのビジネス関係者らの入国を再開。感染再拡大を受けて12月28日には一時停止したが、中国や韓国、ベトナム、ミャンマーなど11カ国・地域のビジネス関係者らの入国は例外的に認めていた。だがこの措置も14日から、宣言解除予定の2月7日まで停止した。この例外措置の対象には技能実習生も含まれる。出入国在留管理庁の統計によると、例外措置で入国したのは、昨年11月から今年1月10日までに10万9262人。うち技能実習生は4万808人で、全体の37%を占める。留学などを上回り、在留資格別で最多だった。国別に見ると、ベトナムが3万6343人、中国が3万5106人で、うち技能実習生はベトナムが2万911人、中国が9322人。農業分野の技能実習生も含まれるとみられる。11カ国・地域に限定後の12月28日~1月10日にも、技能実習生として計9927人が入国している。農水省は、農業にも影響が及ぶ可能性があるとみる。昨年3~9月は2900人の技能実習生らが来日できず、人手不足が問題となった。今年の見通しは不透明だが、「外国人を受け入れている経営は全国的に多い」(就農・女性課)として状況を注視する。一方、同省は技能実習生の代替人材を雇用したり、作業委託したりする際の労賃などを一定の水準で支援する「農業労働力確保緊急支援事業」の対象期間を3月末まで延長。農家らに活用を呼び掛ける方針だ。 *6-6:https://digital.asahi.com/articles/ASP1H7RTJNDZUHNB00B.html (朝日新聞 2021年1月16日) 迫害受ける同胞、日本から支える ロヒンギャの指導者 「ふるさとに帰りたいけど、帰れない。殺されるかもしれないから」。群馬県館林市苗木町の会社社長水野保世(ほせ)さん(52)の本名は「アウンティン」。仏教国のミャンマーで迫害されている少数派のイスラム教徒ロヒンギャだ。来日28年。館林には1999年から住んでいる。当時、館林に住むロヒンギャは数人だった。迫害を逃れて偽造パスポートなどで来日する人が続き、「2006年までに70人のロヒンギャが住むようになった」とアウンティンさん。01年にロヒンギャの妻と結婚し、3人の子どもに恵まれた。他にもロヒンギャの女性を呼び寄せて結婚した男性は多い。子どもが増え、270人を数える日本最大のロヒンギャコミュニティーになった。立場はさまざまだ。定住や永住の在留資格を持つ人、不法滞在ながら一時的に拘束を免れている「仮放免」の人……。仮放免状態だと就労や国民健康保険への加入ができない。生活費や医療費を仲間が支える。アウンティンさんは、立ち上げに関わった「在日ビルマロヒンギャ協会」の副会長として、難民認定を日本政府に働きかけている。コミュニティーが大きくなる過程で、地域住民からは「どういう人たちなのか」と不安がる声のほか、ゴミの分別や夜間の騒音に対する指摘もあった。ロヒンギャの中には車の運転に免許が必要だと知らない人もいた。「認めてもらうにはルールを守ることが大事。そうしないと、みんな幸せになれない」。アウンティンさんは、そう仲間に説いて回った。アウンティンさんが故郷を遠く離れたのは、故国の民主化運動がきっかけだった。高校生だった88年に始まった運動に身を投じた。何人もの仲間が軍政下の弾圧で殺され、自身も3回拘束された。命の危険を悟り、90年7月に単身タイへ。マレーシア、バングラデシュ、サウジアラビアを経て、92年11月に知人を頼って来日した。茨城・日立、埼玉・大宮、そして館林。「英語はあまり通じないし、お祈りする場所もない。来てすぐのころは困ってばかりだった」。だからこそ、仲間のために尽くし続けている。工場で必死で働いてためたお金で06年、中古の車や家電を輸出する会社をつくった。07年には市内の中古住宅を購入し、イスラム教の礼拝所であるモスクに改装した。モスクでは子ども向けの「アラビア学校」も開く。平日の午後6~8時、イスラム教の教えや祈りの作法を教える。食事もイスラム教の戒律に従い、口にするのは「ハラル」と呼ばれる料理に限られる。市内にはハラル食を扱うスーパーもできた。館林市学校給食センターによると、地元の小中学校の給食には戒律で禁じられている食材が使われることもあるため、弁当を持参する子どもが多いという。故国でのロヒンギャへの迫害や差別は続く。18年にはクラウドファンディングで集めた資金と私財でバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプに学校を建設。生活物資や新型コロナウイルス対策のためのマスクを送る活動も続ける。15年、日本国籍を取得した。「ミャンマーでは自由に活動ができない。日本人になってロヒンギャ支援とミャンマーの民主化のための活動を続けよう」。そう決意したからだ。「日本には自由がある。平和であることは、何より素晴らしいことです」 <農業について> PS(2021年1月21、22日追加):*7-1のように、1965年に73%だった食料自給率は35年間で38%に半減し、食料安全保障に関わる重大な問題となっている。しかし、新型コロナ感染拡大で外食が減っても食べる量に大差はないので家庭向需要は増えた筈だが、こちらは所得に見合った単価の外国産を購入したり、食べたいものを我慢したりしているのだ。つまり、日本産は、日常使いには価格が高すぎ、会社が交際費か福利厚生費として支出する会食や贈答用が多かったということで、その価格を維持すれば個人消費者の需要は増えない。また、日本の農業の問題点は、生産過剰の米を作りたがって足りない農産品を作りたがらないことで、日本政府の食料自給率軽視政策も誤ってはいるが、米以外の必要なものを作って成り立つ経営改革も必要だ。 その改革の内容は、①付加価値の増大 ②副産物の生産 ③生産性の向上 ④無駄の排除 などが考えられ、①は、的確な農産品ミックスや加工・冷凍することによる無駄の排除、②は、農地での再エネ生産などで収入を増やすことだ。そのため、*7-3の2021年度内に庁内で使う全電力を再エネにして脱炭素化する目標は、経産省・環境省だけでなく農水省・国交省も立て、農地・山林・離島・洋上などでの再エネ製造と課題解決法を省を挙げて検討すべきだ。 また、③は、*7-2-1・*7-2-2のように、農業を全自動化することが考えられ、それができるためには全自動化に適した大区画にする必要があり、大区画化の準備は私が衆議院議員時代の2005~2009年に既に始めていた。そして、5GやGPSを使わなくても農地のポイントに電波の発信源を設置しておけば全自動化はできる筈で、大規模な農地内に農機具倉庫を作れば無人トラクターが公道を走る必要もない。なお、コンバインで刈り取り始めてからコメの食味を判定する必要はなく、1台1000万円以上になると収益から支払うことができないほど高価な機械となって使えない。農機具は使う時期が同じであるためシェアリングには向かず、価格が高すぎると農機具も機能を絞った安価なものを外国から買うしかなくなるのだ。なお、*7-2-3のような中山間地は、農地を大区画化しにくいため、それにあった作物やスマート化が必要になる。もちろん、5Gを利用できるに越したことはないが、必要な場所に基地局を建てる方法もあり、これもまた1基数千万円では、日本は何もできずに遅れた国になるしかないのである。 なお、③の生産性の向上には、国際競争力ある賃金で働く労働者が無駄なく働ける環境づくりも必要で、*7-4のような「派遣労働」は季節によって労働力のニーズが異なる農業分野で有効だ。労働者も技術を習得するまでは多くの経営体を見た方が知識や経験の蓄積ができ、技術を習得したら帰国するのではなく地域に根付いてもらった方が労働力の質が上がる。 2021年1月21日、日本農業新聞が、*7-5のように、「高知県がベテランの技やJAの出荷データをクラウドに集約して経営の“最適解”を計算する「IoPクラウド」を産官学連携で構築した」と記載している。知識や経験による原理の理解がなければシステムがブラックボックス化してしまうので脱知識・脱経験は無理だと思うが、多種の作物を生産する中山間地で有効なツールであり、他県も参考にできるだろう。 ![]() ![]() ![]() (図の説明:左図は、大豆畑のドローンによる消毒風景、中央の図は、全自動コンバインによる米の収穫、右図は、中山間地葡萄畑の自動収穫ロボットだ) ![]() ![]() (図の説明:左図は、中山間地の放牧と風力発電機のある風景、右図は、カイコの付加価値の高い新しい使い方で、牛乳やカイコに新型コロナウイルスの免疫を含ませる方法もあると思う) *7-1:https://www.agrinews.co.jp/p52822.html (日本農業新聞論説 2021年1月4日) [コロナ以後を考える] 食料自給率の向上 草の根の行動広げよう わずか、38%。1965年に73%だった食料自給率は35年間で半減してしまった。自給率の向上がなぜ必要か。どうすれば高まるか。農家は当事者意識を一層高め、国産回帰の大切さを改めて認識し、行動しよう。新型コロナウイルスの感染拡大で外食や土産物需要が落ち込み、小豆や酒米、乳製品などさまざまな農産物の在庫が膨らんだ。保管が可能な穀類などは過剰在庫を早急に解消しなければ、需給緩和と価格低迷は長期化する。しかし特効薬はない。食料・農業・農村基本計画は、2030年までに自給率を45%に高める目標を掲げる。一方で生産しても需要の減少で過剰在庫を抱え、一部作物では保管する倉庫すら逼迫(ひっぱく)。生産現場からは、自給率目標は「絵空事のように映る」(北海道十勝地方の農家)との声が上がる。自給率目標45%を政府は2000年に初めて設定したが、高まるどころか低下してしまった。自給率向上の糸口を今年こそ見いだしたい。異常気象や災害の世界中での頻発や、人口増加、途上国の経済発展、そしてコロナ禍で見られたような輸出規制などを踏まえれば、いつでも安定的に日本が食料を輸入できるわけではないことは明白だ。国内農業の衰退は国土保全や農村維持など多面的機能の低下も招く。自給率の低迷は、食料安全保障の観点からも国民全体の問題だ。一方、その向上には需要の掘り起こしと、それに見合った生産の増加が不可欠で、農家が一翼を担う。自給率向上のヒントとなるのが北海道の取り組みだ。道内の米消費量に占める道産は、90年台は37%だったが、19年度は86%まで高まった。道目標の85%を8年連続で上回る。生産振興とともに、地道な消費拡大の活動を長年続けてきたことが成果に表れた。小麦も外国産から道産に切り替える運動を展開。道民の小麦需要に対する、道内で製粉した道産割合は5割前後となった。地元産だけを使ったパン店などが人気で、原料供給地帯でも地産地消の流れを育む。コロナ禍でも地元消費の動きが目立つ。例えばJA浜中町女性部。脱脂粉乳の在庫問題を契機に牛乳消費拡大からバター、スキムミルクなど乳製品の需要喚起に活動の軸足を移し、乳製品レシピを町民に配布。地域内での需要拡大を目指す一歩だ。他にも施設などに道産の花を飾ったり、インターネットなどでJA組合長が牛乳や野菜の簡単調理を紹介したりといった取り組みを道の各地が進めた。地産地消を広げようと農家が知恵を絞り、消費の輪を広げる活動だ。JAグループ北海道がけん引役を担い、農家や農業のファンを増やす運動も昨年始めた。自給率向上は政府の責務であり、十分な支援が必要なことは言うまでもない。ただ、農家の草の根の行動が大きな力になる。自分や仲間でできることを実践することが一歩になる。 *7-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210121&ng=DGKKZO68353050Q1A120C2TJ1000 (日経新聞 2021.1.21) クボタ、デジタル農業開拓、「考える」トラクター、作付け分析ドローン エヌビディアとAI磨く クボタが無人トラクターを開発し、ビッグデータを駆使したデジタル農業の実現を目指している。米半導体エヌビディアの人工知能(AI)で自動運転技術を磨く。作付けを分析するドローンや農家が経営を管理できるソフトと組み合わせ、農機を売るだけのビジネスモデルからの脱却を目指す。高齢化で働き手が不足する日本の農業も変える。 ●5Gも活用 2020年11月、北海道岩見沢市。一見すると何の変哲もないトラクターが大豆畑の農道を走る。よく見ると運転席の男性はハンドルに触れていない。トラクターは自動で動くように設定され10キロメートル離れた場所からオペレーターが遠隔監視する。クボタの農機を使った自動運転の実験だ。トラクターには高精細カメラを付け、高速通信規格「5G」も駆使する。クボタの北尾裕一社長は「10年後には、さらにレベルの高い無人自動運転を実現させたい」と話す。農機の自動運転技術は、メーカーなどの間でレベルが1から3に区分される。レベル1はハンドル操作の一部を自動化して直進をキープする技術で既に普及している。レベル2は農場で人が監視する形で自動運転する。レベル2は国内でクボタが17年にヤンマーホールディングスなど競合に先駆けて「アグリロボトラクタ」を投入し、作業時間を30%短縮できる。レベル3は人や動物、トラクターの衝突を避けるため、オペレーターが遠隔で無人運転を監視する必要がある。現在は実現しておらず、無人で公道を走行できないなどの規制もあるが、クボタは将来の規制緩和を見据えて実験などを重ねる。5GでNTTグループと連携し、自動運転に欠かせないAIでエヌビディアと組んだ。今後、自動運転に必要となる莫大な走行データを集める。自動車の場合、前方の車や横断歩道、標識など多くの目印がある。農機はぬかるんだ地面を走行し、農地は広く開けた土地のため目印も少ない。あぜ道に入り込む可能性もある。「AIでトラクターが状況を賢く判断する能力が必要だ」(クボタの佐々木真治取締役) ●スパコンで解析 そこでクボタはエヌビディアの技術を駆使し、まず農地などの映像や画像をAIに覚えさせる。高度なディープラーニング(深層学習)が可能なエヌビディアのスパコンで解析し、トラクターが自ら状況判断できるように「頭脳」を作る。トラクターには、サーバーではなく、農機の本体側で素早く動作を指示する「エッジAI」と呼ぶ技術を搭載する。駆動部分に指示を出して「走る」「止まる」などの操作を判断するイメージだ。遠隔で監視するが、基本は「自ら考えるトラクター」を作る。クボタは無人農機を軸に、データで生産性を上げるデジタル農業を実現させる。日本総合研究所は30年の農業就業人口が123万人と15年比で4割減ると予測。単に農機を売るだけではじり貧になる。日本総研の前田佳栄コンサルタントは「自動運転の農機、ドローン、ロボット、経営管理ソフトによる農家の生産性向上が必要」と話す。クボタのコンバインは収穫したコメの水分などから食味を計測できる。収穫量とあわせクラウドにデータを自動で送信する。農家はどの田んぼからどのような味のコメが収穫されるか、全地球測位システム(GPS)で情報を整理し、ソフトで作業記録と照合して確認できる。農機の自動化が進めば、人件費の削減効果を確認し、農家の経営の見える化が進む。ドローンの活用も急ぐ。昨年、ドローンの撮影画像で作付けの状態を分析し、農家に農薬散布量などを提案するイスラエルのスタートアップに出資した。無人農機との連携が期待できる。将来は天候データの分析を視野に入れる。温暖化でコメのでんぷんの蓄積不足、果樹の着色不良といった被害が出始めている。データで原因を分析し、解決手段を探る。国内農家の平均年齢は70歳近い。コメなどを作る白石農園(北海道新十津川町)の白石学代表は「限られた人数で広い面積を耕す農業が不可欠になる」と話す。デジタル農業の実現に向け、残された時間は多くない。 *7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210121&ng=DGKKZO68353100Q1A120C2TJ1000 (日経新聞 2021.1.21) 無人農機、主導権争い 世界では食糧不足を背景に小麦やトウモロコシの生産で大規模農地を効率良く耕す農機の需要が増える。クボタは世界のトラクター市場が27年に190万台(16年で140万台)になるとみる。世界の農機市場は10兆円を超すとの見方もある。農業では明確な自動運転のロードマップやルールがグローバルで共有されていない。無人農機で先手を取れば、主導権を握ることも期待できる。農機で世界首位の米ディア、2位の欧州CNHインダストリアルも研究開発を進め、競争は激しい。米シリコンバレーのスタートアップを中心に農作物を自動で収穫するロボットの開発も進む。課題は価格だ。クボタの自動運転農機、アグリロボトラクタは1台1000万円以上する。AIの活用で農機自体の価格が上昇する可能性もある。普及にはシェアリングの活用なども必要になりそうだ。 *7-2-3:https://www.agrinews.co.jp/p52927.html (日本農業新聞 2021年1月15日) 5G 地方展開いつ? 中山間地こそ「スマート」必要 中山間地の農家が、スマート農業を使いこなすのに必要な第5世代移動通信システム(5G)を利用できないのではないかと、不安視している。人口が少ない地域は通信会社の実入りが少なく、電波網の整備が後手に回りがちだ。自治体主導で必要な基地局を建てる手もあるが、1基数千万円かかるなど負担が重い。「条件不利地こそ先進技術が必要だ」──農家らはスマート農業推進を叫ぶ国の姿勢をいぶかる。 ●技術導入したいが 環境整わず 佐賀県嬉野市 佐賀県嬉野市の岩屋川内地区。同地区に畑を持つ茶農家の田中将也さん(32)は、スマート農業の技術で収穫の負担が大きく減らせることに期待するが「今のままでは普及は難しい」とみる。畑に出た時に携帯電話がつながらず、連絡が取れない経験を何度もしているからだ。山間部にあるため携帯電話の基地局の電波を受信しにくく、現状でも通信環境が悪い。スマート農業で多用されるドローン(小型無人飛行機)には1~4レベルの設備環境がある。数字が大きいほど通信速度が速く安定しており、補助者がいなくても事前のプログラム通りに自律飛行できる。高解像度の画像を収集でき、利便性が高まる。高レベルの活用には最先端の5Gが必要だが、普及は始まったばかり。正確なカバー率はつかめないが、大手通信会社は5G展開の指針に、人口を基準にした目標に掲げる。そのため、大都市圏を優先した整備になり、地方は置き去りにされやすい。現在の携帯電話さえつながらない「不感地域」は全国に残っており、約1万3000人(総務省調べ、2018年度末)が不便を強いられている。総務省東北総合通信局によると、東北地方が最も不感地域が多いという。 ●工事期間、費用基地局開設に壁 嬉野市は総務省の「携帯電波等エリア整備事業」などを使いながら改善を進めるが「基地局を一つ開設するのに8000万円近くかかる」(市担当者)こともあり、早急な解決は難しい。農水省九州農政局のスマート農業担当者は「効果的に普及させるためにも高速通信は不可欠。山間部などの通信環境を整えることは必要だ」と指摘するが、通信網整備の所管は総務省となるためか、具体的な改善策については口をつぐむ。整備の遅れについて、ある通信大手は「5Gネットワークの全国整備には膨大な数の基地局が必要で、長期工事と多額の投資を伴う」とコメント。別の企業も「山間部では基地局整備に必要な光ファイバーなど伝送路の確保が難しい」とする。だが嬉野市の田中さんは「中山間農業の課題解決のためにもスマート農業は必要。本気で普及を考えるなら、通信環境を早期に改善してほしい」と訴える。 <ことば>5G 次世代の通信規格。日本では2020年3月からサービスが始まった。大容量・高速通信が可能。最高伝送速度と通信精度は現行(4G)の10倍。一方で、5Gが使う高周波数帯は障害物に弱い。波長が短く通信範囲が狭い特性があり、従来より多くの通信基地が必要になる。 *7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210121&ng=DGKKZO68351170Q1A120C2EE8000 (日経新聞 2021.1.21) 経産省、使用電力を脱炭素 来年度、「50年ゼロ」へアピール 経済産業省は2021年度、庁舎内で使う全ての電力を再生可能エネルギーなど温暖化ガスを排出しない「ゼロエミッション電源」に切り替える。政府は50年に温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げる。実現を主導する立場の経産省が率先して脱炭素化に取り組む。経産省は使用電力の少なくとも30%以上を再生エネ、残りを原子力も含めたゼロエミッション電源でまかなう。対象となる施設は東京都内にある総合庁舎と特許庁庁舎の2カ所で、使用予定の電力量は年間で計2400万キロワット時に及ぶ。一般家庭およそ7千~8千世帯分に相当する。2月下旬にも電力の供給元となる小売事業者を入札で決める。国内外の民間企業では脱炭素社会の実現に積極的な姿勢を示すため、事業に伴う電力消費を再生エネなどに切り替える動きが相次いでいる。政府は21年度から各府省庁の電力調達で再生エネ比率を3割以上に高める方針を示している。経産省は政府方針を上回る脱炭素目標を掲げることになる。オフィスなど業務部門の脱炭素化は工場のような産業部門に比べて遅れ気味だ。1990年度と2019年度の二酸化炭素排出量を比べると、業務部門は1.3億トンから1.9億トンに増えた。産業部門が5億トンから1億トン超減らしたのとは対照的だ。中央省庁では環境省も脱炭素に率先して取り組んでいる。30年までに使用電力を全て再生エネに切り替える方針を19年に示している。本省の庁舎だけでなく、地方事務所や関連施設も対象だ。脱炭素社会に向けて中央省庁が率先して取り組み、企業や家庭など社会全体の再エネ普及を促す。 *7-4:https://www.agrinews.co.jp/p52976.html (日本農業新聞 2021年1月19日) 農業の特定技能「派遣」 広がる 短期雇用も柔軟 手続き負担減 外国人の新在留資格「特定技能」の農業分野で認められた「派遣」が広がっている。農家は直接雇用に比べ事務手続きなどの負担が少なく、雇用期間を柔軟に調整できる。農繁期が異なる北海道と沖縄など地域間で連携した受け入れも進む。派遣に参入する事業者も増え、専門家は「これまで外国人を入れてこなかった家族経営でも受け入れが広がる」と指摘する。 ●外国人材 大きな力 畑作が盛んな北海道浦幌町の選果施設。次々とコンベヤーで流れてくるジャガイモを段ボール箱に手際よく詰めるのは、カンボジア人のレム・チャントーンさん(26)だ。「将来は帰国してビジネスを立ち上げたい。分からないことも周りに聞くと、よく説明してくれる」と笑顔で話す。チャントーンさんらは特定技能の資格を得た外国人。道内各地で農業生産・販売の他、作業受託をする「北海道グリーンパートナー」が、人材派遣会社の「YUIME(ゆいめ)」から受け入れた。8~10月の農繁期には150人もの人手が必要な北海道グリーンパートナーは、YUIMEからの提案で、技能実習生だった特定技能の派遣を2019年に11人、20年に23人受け入れた。YUIMEの派遣は、夏は北海道、冬は本州や沖縄で働くのが基本だ。ジャガイモの選果など冬場でも仕事がある場合は、道内で通年で働くこともある。直接雇用では通年で仕事を用意しないと外国人の受け入れは難しいが、派遣なら必要な時期を決めて契約を結べる。北海道グリーンパートナー代表の高田清俊さん(59)は「外国人にとっても、さまざまな農家で働くことで、より豊かな経験を積むことができる」と評価する。受け入れ側は面接や入国手続きなど事務負担が少ないのもメリットだ。北海道グリーンパートナーに組合員の農作業を委託するJAうらほろの林常行組合長は「人手不足を解消し、付加価値の高い販売に力を入れたい」と期待する。 ●各地で参入の動き 一定の技能を持ち、即戦力としての労働が認められている特定技能の仕組みは、19年に始まった。農業分野では、農業者が雇用契約を結び直接雇用する方法と、雇用契約を結んだ派遣業者が受け入れ機関となり農家に派遣する方法の、2種類がある。派遣では、繁忙期の違う地域に季節ごとに人材を送り出せる。農業分野の特定技能は、制度発足から1年半の20年9月末時点で1306人。農業分野の受け入れ事業者が加入する「農業特定技能協議会」のうち、10社ほどが派遣事業者だ。YUIMEは、農業分野の技能実習生だった外国人を採用。給料や待遇は日本人と同等の扱いで、現場のリーダーになる人材を育てている。住まいは、受け入れ農家に住宅の敷地内にある持ち家などを用意してもらい、YUIMEが借り入れる。北海道以外でも派遣は進む。アルプス技研は、2019年4月から特定技能の派遣事業に参入。現在は子会社の「アグリ&ケア」が9道県に49人を派遣する。JA北海道中央会も、特定技能のあっせん・派遣をする新組織の立ち上げを目指す。北海道稚内市の酪農家・石垣一郎さん(39)が経営する「アグリリクルート」は、21年から派遣事業に乗り出す。 ●家族経営も 活用しやすい 北海学園大学の宮入隆教授の話 入国手続きや労務管理の一部を派遣事業者に任せられるため、家族経営が外国人を受け入れるハードルが下がった。季節雇用、通年雇用問わず、広がっていくことは間違いない。一方で事業者は、各地に移動する特定技能の外国人の心理的な負担を考慮すべきだ。 *7-5:https://www.agrinews.co.jp/p53011.html (日本農業新聞 2021年1月21日) ベテランの技、JA出荷データ… クラウドへ集約し経営に“最適解” 高知で始動 高知県は20日、産官学で連携して構築を進めてきた「IoPクラウド(愛称=サワチ)」を始動させたと発表した。農家の栽培ハウスから得られる園芸作物データや環境データの他、JAからの出荷データなどを集約。人工知能(AI)を使って地域に最適な栽培モデルを示し、営農指導に役立てる。収穫量予測もでき、作物の販売にも活用する。 ●脱・経験依存、収穫予測も IoPは、ナスやピーマン、キュウリなど園芸作物の生理・生育情報をAIで“見える化”するもの。2018年から構築を目指し、JAグループ高知や県内各大学、農研機構、東京大学大学院、九州大学、NTTドコモなどと連携している。県は当面、①データ収集に協力する農家約30戸の作物の花数、実数、肥大日数などの作物データ②約200戸のハウスの温湿度、二酸化炭素濃度などの環境データ③園芸作物主要6品目の全農家約3000戸の過去3年の出荷データ──などを収集し活用する。農家はスマホやパソコンから、クラウドに送られたハウスの環境データだけでなく、異常の監視と警報、ボイラーやかん水など機械類の稼働状況に加え、出荷状況などが確認できる。県やJAの指導員も、戸別の経営診断や産地全体の経営分析などに生かす。22年からの本格運用を目指しており、最終的には、県内の園芸農家約6000戸のデータを連係させる。県は、「経験と勘の農業」からデータを活用した農業への転換を進めるとしている。クラウドは県内の営農者、利活用を希望する企業などが利用できるが、まずはデータの収集に協力している約200戸の農家から利用を始める。3月末から、新規利用の申し込みができる予定だ。農家がクラウドの機能を活用するのは無料。通信分野でシステム構築に協力したNTTドコモは希望者に対し、JAなどに出向いた「IoP教室」を開く。JA高知県の竹吉功常務は「営農、販売でいかに活用できるかがポイント。技術の継承、出荷予測などにも使える。農家に還元できるよう、十分生かしていきたい」と強調する。 <安全保障について> PS(2021年1月22、24日追加):エネルギーや食糧の自給率向上は安全保障の上で重要だが、経産省・メディアは“保護主義”として自給率向上を目指すことを批判してきた。そして、*8-1-1のように、日経新聞が、①米中対立が脱炭素の足かせになる ②EVや風車は高性能磁石・モーターから材料のレアアース(希土類)に至るまで中国がサプライチェーン(供給網)の要を担っている ③中国に世界のレアアースの生産の6割強、精製工程の7~8割が集中し、EV向けに限れば精製工程をほぼ独占 ④経産省は「米欧の安定調達への対策に日本も相乗りできないか」と米国防総省も絡んだレアアース精製事業への参加を働きかけている ⑤日本は2010年に尖閣諸島を巡る対立で中国がレアアースの輸出を止めて以来、中国が9割を占めた調達先の分散やリサイクルを加速してきた などと記載している。 しかし、*8-1-2のように、中国は尖閣諸島だけでなく沖ノ鳥島のEEZでも明らかに地下資源の調査をし、いざという時には戦闘する準備も行って、必要な資源を入手する最大の努力をしているのだ。一方、日本の経産省は、「日本は資源がない国」「調達先を分散して輸入した方が安くつく」などとうそぶき続けており、資源の価値もわからず、製造業は既に海外に移転したことも認識していない状態であるため、この結果は日本政府の政策ミスなのである。 このような中、「日本側が無断で調査を繰り返す中国に抗議した」と主張しているのは、「無断でなければ、この調査に同意することもあり得る(これが世界標準の解釈だ)」ということなのか? さらに、「尖閣諸島に領土問題はない」と言うのなら、「この状態を認めている(世界標準の解釈)」ということだ。それでも日本側が、「米中対立がいけない」などと第三者のようなことを言うのであれば、「日本は米中対立で、むしろ迷惑している(世界標準の意味)」ということだ。しかし、自国の領土を護ることを放棄するのであれば、憲法改正どころか自衛隊もいらないのではないだろうか? なお、*8-2のように、中国は、5Gの通信網やEV充電設備などの次世代インフラへの投資を170兆円に大幅に増やすなど、的確な判断をしている。一方、日本は、やみくもに営業時間短縮を強制して莫大なばら撒きを行っているにすぎない。そのため、これらの結果が次にどう出るかは、誰でもわかることである。 一方、米国務省のプライス報道官が、*8-3のように、「中国の圧力が地域の安定を脅かしている」として、台湾への軍事・外交・経済的圧力を停止するよう中国に求める声明を発表し、台湾との関係強化も表明したそうだ。台湾は独立国であるため当然の対応であり、この点で中国に同調してきた日本政府は長いものに巻かれて民主主義を大切にしないように見える。さらに、日本の政府・メディアが民主主義や基本的人権を大切にしないのは、日本国民に対しても同じであるため、これについてこそ厳しく指摘せざるを得ない。 ![]() ![]() ![]() 2020.6.18朝日新聞 2020.7.2.20ペリカンメモ NNN (図の説明:左図は尖閣諸島で、中央の図は尖閣諸島に出没して領海侵犯している中国海警局の船及びそれを追尾する日本の海上保安庁の船だ。右図は南鳥島で、海底にレアアースが大量に分布していることを東大が発見した。日本政府は、ぼーっとして現状維持を決め込んでいる間に、すべてを手遅れにしそうである) *8-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210119&ng=DGKKZO68280440Y1A110C2EA1000 (日経新聞 2021.1.19) 米中対立、脱炭素の足かせ、EVや風車の部品・材料調達に影 米中対立が各国の脱炭素の動きのアキレスけんになるとの懸念が広がっている。需要急増が見込まれる電気自動車(EV)や風車は主要部品の高性能磁石、モーターから材料のレアアース(希土類)に至るまで中国がサプライチェーン(供給網)の要を担うからだ。米欧は安定調達への対策を強化する。日本も戦略の再構築が急務だ。「何とか相乗りできないか」。経済産業省は日本の化学メーカーなどに、米国防総省も絡んだレアアース精製事業への参加を働きかけている。 ●日本も対応急ぐ オーストラリア産のレアアース鉱石を米テキサス州の工場で処理し、磁石の性能を高めるジスプロシウムなどを取り出す計画。豪ライナスが米社と組み、中国依存を脱したい米政府が後押しする。ここに日本企業も加われば安定調達に役立つと経産省は期待する。中国には世界のレアアースの生産の6割強、精製工程の7~8割が集中し、EV向けに限れば精製工程をほぼ独占する。脱炭素による需給逼迫と米中対立のダブルパンチで供給が断たれるリスクに各国は対応を急ぐ。菅義偉首相は温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにすると表明した。30年代半ばに全ての新車を電動車にする。欧州や中国のほかバイデン政権下の米国もEV化を進める見通しだ。カナダの調査会社アダマス・インテリジェンスは世界のEVの年間販売台数は30年に3450万台と20年の7倍になり、ネオジムやジスプロシウムの需要は代替品が普及しても5倍になると予想する。風力発電などへの需要増もあり供給が慢性的に不足し、市場価格も上昇が続くとみる。危機感を強める欧州連合(EU)は昨年11月、企業と政府による「欧州原材料アライアンス」を始動させた。30の重要資源について域内外の友好国・企業と協力し調達やリサイクルを促す。米トランプ政権も9月にレアアースの自主調達を促す大統領令を発令、カリフォルニア州マウンテンパス鉱山での採掘や精製への支援も決めた。 ●川下にも「急所」 日本も10年に尖閣諸島を巡る対立で中国がレアアースの輸出を止めて以来、中国が9割を占めた調達先の分散やリサイクルを加速してきた。だが調達先のなお6割近くは中国だ。精製もほぼ中国に頼る。米テキサスの精製事業が注目を浴びるのもこのためだが、企業には中国産と比べた採算が問題になる。サプライチェーン全体をみると、レアアースの採掘や精製で中国依存を減らせても、磁石やモーター製造など下流では中国の存在感が増している。「産業のチョークポイント(急所)は川下まで及んでいる」と対中政策を担う関係者は言う。「リスクを理解しているのか」。日本電産が中国の大連市に設けるEV向けモーターの開発拠点に経産省幹部は懸念を示す。拠点は中国の顧客ニーズに迅速に応えるのが狙い。同社は「技術情報流出を防ぐべくセキュリティーを強化している」と言うが、約千人を擁する拠点だけに経産省は「先端技術が中国側に流れかねない」と気をもむ。中国は15日、レアアースの統制を強化すると発表した。昨年12月施行の輸出管理法では、戦略物資やハイテク技術の輸出を許可制にできるようにした。レアアースの禁輸に加えて、日本企業が中国で作った磁石やモーターの技術を開示するよう迫ったり、中国外での利用を禁じたりする危険すらあると専門家はみる。おりしも米中対立が深まるなか加速した脱炭素の動きは中国を起点とするサプライチェーンの脆弱性を高めた。経済への打撃を避けるには政治利用に歯止めをかけるルールづくりが課題となる。日米欧などの効果的な連携も必要だ。むろん企業自身の取り組みもカギで、レアアース不要のモーターや代替素材の開発で日本が先行するのは心強い。市場価格しだいでは近海での資源採掘やサプライチェーンの国内移転も選択肢になると専門家はみる。米中対立が脱炭素経済の足かせにならないよう、官民が柔軟な発想で戦略を練り直すときだ。 *8-1-2:https://news.biglobe.ne.jp/international/0118/sgk_210118_1746910710.html (Biglobe 2021年1月18日) 中国の狙いは尖閣諸島だけではない 太平洋に進出し不審な調査を続ける訳 世界中でコロナ禍が続く中、中国は今年に入っても平然と海洋覇権行動を続けている。1月13日には沖縄県尖閣諸島周辺で中国公船1隻が日本の領海を侵入。日本漁船に近づく動きをしたことから、政府が中国側に厳重抗議した。だが、「中国の狙いは尖閣諸島だけではない」と指摘するのは、ジャーナリストの宮田敦司氏だ。 * * * 菅義偉首相が昨年12月19日、東京都内での講演で、米国のバイデン次期大統領と電話会談した際、沖縄県・尖閣諸島が対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象になると同氏が明言したことを強調した。米安全保障条約第5条とは、日米両国が、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対し、「共通の危険に対処するよう行動する」という内容である。日本のリーダーはよほど不安なのか、菅直人政権では前原誠司外相が2010年にクリントン国務長官と、安倍晋三首相は2014年にオバマ大統領、2017年にトランプ大統領と尖閣諸島が第5条の適用対象であることを確認している。講演で菅首相は、尖閣諸島が話題になった事を強調していたが、それ以外の島嶼(とうしょ)については触れなかったのだろうか? 尖閣諸島以外にも日米の安全保障のために重要な島嶼が東京都にある。日本最南端の領土・沖ノ鳥島(東京都小笠原村)である。 ●中国は「島」でなく「岩」と主張 沖ノ鳥島を中心に設定される半径200海里(約370km)の排他的経済水域(EEZ)の広さは、国土面積の約12倍に相当する(約40万平方キロメートル)。この海底にはメタンハイドレートやレアアース(希土類)が眠っているとされる。しかし、この島は無人島で満潮時に水面上に浮かぶ面積は4畳半程度に過ぎない。この沖ノ鳥島を中国が「島ではなく岩」と主張し始めたのは2004年のことだ。日本側の同意なく調査を繰り返す中国に日本が抗議したところ、中国側が沖ノ鳥島は「島ではなく岩」と主張したのだ。しかも中国は「沖ノ鳥島」の名称も「沖之鳥礁」と呼び変えている。沖ノ鳥島は満潮(高潮)時には2つの小島が海面上にわずかに頭を出すだけだが、国連海洋法条約第121条1項にいう、自然に形成された陸地で高潮時にも水面上にあることを満たしている。しかし、もともと中国は、沖ノ鳥島が日本の領土である事について問題視していなかった。それどころか、中国軍機関紙「解放軍報」は1988年、沖ノ鳥島について好意的に取り上げていた。記事のなかで、日本が沖ノ鳥島が波で削られないよう波消しブロックやコンクリートなどで保護していることを「素晴らしいことである」と評価し、「日本は港、ビル、飛行場などを作ろうとしている」とまで書いていたのだ(引用元/平松茂雄・元杏林大学教授講演、2010年2月15日)。これは、南シナ海に進出した中国が同じような事を行っていたからだった。日本が行っていることを持ち出して、南シナ海での中国の行動を正当化しようとしていたのだ。しかし、中国の好意的な姿勢は、中国海軍が東シナ海から宮古海峡を通って西太平洋に進出するようになると一変した。2010年4月には、10隻の艦隊を沖ノ鳥島周辺まで進出させ、対潜水艦戦訓練などを実施した。このような中国の行動は、沖ノ鳥島が日本の軍事拠点となることを恐れてのことだろう。レーダーや対艦ミサイルを配備されたら、中国海軍が自由に動けなくなるからだ。中国海軍が演習を行った翌年(2011年)、日本政府はEEZの権益を守る拠点として、沖ノ鳥島を「特定離島」に指定し、港湾や道路を整備するなど開発を進めることにした。 ●無断で繰り返される中国の海洋調査 中国が沖ノ鳥島周辺海域以外で海洋調査を行ったのは2001年から2003年にかけてである。この時の調査は詳細にわたり、資源探査だけでなく、海底の地形や潮流、水温、塩分濃度などの科学的データを収集していた。潜水艦を展開させるために必要となるデータだからだ。2004年以降は、沖ノ鳥島周辺で様々な調査を行っている。2020年は7月に10日連続で中国の海洋調査船「大洋号」がワイヤのようなものを海中に下ろし調査活動を行い、海上保安庁の巡視船の警告を無視して調査を続行した。国際法ではEEZ内での調査は沿岸国の同意が必要となるとしている。したがって、沖ノ鳥島周辺で海洋調査を実施するためには日本側の同意が必要となる。中国が日本のEEZ内で海洋調査を始めた2001年当時は、田中真紀子外相が衆院外務委員会で「EEZで資源調査をしてはいけないという国際法はない」と中国側を擁護する答弁を行うなど、政府内で足並みが乱れていた。中国は、こうした日本政府の混乱に乗じて違法な海洋調査を続けた。その結果、中国は西太平洋において自由に潜水艦を航行させることが出来るようになった。 ●太平洋へ向かう海洋調査船が増加 中国の海洋調査船の動向に関して、船が位置や針路などを発信する船舶自動識別システム(AIS)の公開データから、2020年11月4日までの過去1年間にわたる追跡を行った結果、情報が確認できる中国調査船34隻(総排水量307〜2万トン)のうち、4割にあたる13隻が太平洋方面に進出していたという。中国が領有権を主張する南シナ海はすでに軍事拠点化が進んでおり、次の標的として太平洋の海洋権益に狙いを定めているとみられる。それだけでなく、中国漁船も不審な動きを見せている。IHIジェットサービスによると、4月には尖閣諸島周辺に32隻の漁船団が出没した。いずれも遭難時用の識別コードを持っていたが、中には全く別のタンカーなど約150隻の中国船と同じ番号を共有している例もあったという(引用元/「日本経済新聞」2020年11月25日)。違法な中国船の動きを日本は封じ込めなければならない。しかし、このような中国船を含む、外国船や外国人を取り締まるための日本の法律は存在せず、拿捕や逮捕によって強制的に止めることはできない。このため、日本政府は2020年7月、調査船の取り締まりが可能となる法整備の検討に入った。外国船による科学的な海洋調査の場合でも、海上保安庁による拿捕や逮捕が可能となる新法制定や法改正を想定している。 ●軍事的に重要な作戦海域となる沖ノ鳥島 中国は、海軍艦艇による大規模な軍事演習も行っている。防衛省の報道資料などを見ると、東シナ海から宮古海峡を経由して太平洋へ抜けた中国海軍艦艇と爆撃機のうち、沖ノ鳥島西方の海域で訓練を行っていると思われるものがある。沖ノ鳥島周辺で訓練を行う理由は、グアム島と宮古海峡とを結ぶ直線ルートの中央に位置しているからだ。沖ノ鳥島の周囲は、急に深くなっており、水深は4000〜7000mに及ぶ。つまり、沖ノ鳥島周辺では、日本、米国、中国の潜水艦が自由に活動することができるのだ。沖ノ鳥島周辺は、将来、米中海軍力にとって非常に重要な意味をもってくる。中国海軍にとっては台湾有事などの際に出動してくる米空母機動部隊を、潜水艦や機雷で阻止するための重要な作戦海域となるからだ。中国は2040年までに、米軍が太平洋とインド洋を独占的に支配する現状を変えようとしている。そのために米海軍と対等な力を持った海軍をつくり上げるという計画を持っている。計画は時代の変化を受けて度々見直されてきたが、基本的な枠組みは今なお引き継がれている。中国が西太平洋へ進出するにあたり、沖ノ鳥島を中国の影響下に置こうとする試みには、このような中国の戦略がある。中国のやり方は、まず海洋調査船を派遣し、軍事演習を行い、段階的に既成事実を作るという手法である。つまり、沖ノ鳥島周辺での軍事演習は、中国の実効支配に向けての新たな段階に入っていることを意味する。 ●南沙諸島の二の舞になるのか 中国が南シナ海の南沙諸島などを急速に軍事拠点化しているが、これと同じ行動を沖ノ鳥島で起こす可能性は排除できない。中国に「岩」と言われるほど小さな沖ノ鳥島に対しては、尖閣諸島で想定されるような上陸作戦は不要だ。中国は南沙諸島で主権を主張し、人工島を建設して飛行場やレーダーを設置している。フィリピンやベトナム、マレーシアと領有権を争っているなかで、今年(2020年)4月には南シナ海で一方的に行政区まで設定している。防衛省が海上自衛隊の「いずも」型護衛艦を戦闘機が搭載可能な事実上の空母に改修する計画を進めているのは、これまで述べてきたような西太平洋における中国の活動を念頭に置いたものであろう。 ●日本の島嶼は日本が守るべき 人が住んでいる南西諸島の占領は、米国との戦闘に発展に進展する可能性があるが、無人島の場合は米国も簡単には中国との戦闘に踏み切れない。米国は強大な軍事力を持つ中国との戦争を望んでいない。全面戦争となれば核ミサイルの使用も考えられ、双方に甚大な損害が出ることが目に見えているからだ。無人島の争奪戦を端緒とした米中戦争に発展することを防ぐためには、自衛隊が単独で対処するしかないだろう。そもそも、中国が武力攻撃とはいえないレベルで動いた場合は、米軍は動かない。第5条云々よりも、漁民を装った私服の「海上民兵」の上陸など、「侵略」と言い切れないグレーゾーンを突いて中国に占拠された場合の措置を考えておくべきだろう。日本の領土を日本が守るのは当然のことだ。日米安全保障条約第5条は、日本に対する攻撃が自衛隊の対処能力を超えて(あるいは予想されて)、はじめて発動される性質のものではないだろうか。最初から米軍をアテにしている日本のリーダーは、自衛隊の最高指揮官であるのに自衛隊の能力をまったく信頼していないのだろうか? *8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210121&ng=DGKKZO68351280Q1A120C2FF1000 (日経新聞 2021.1.21) 中国、次世代インフラ170兆円 5G通信網やEV充電設備、米との対立長期化に備え 官民投資、5年で大幅増 中国が高速通信規格「5G」の通信網、データセンターといった次世代のインフラへの投資を大幅に増やす。官民合計の投資額は2025年までの5年間で約170兆円に達する見通しだ。米国とのハイテク摩擦の長期化をにらみ、民間資金も活用しながら産業基盤を整備する狙いだ。だが必要な部品や技術を米国に頼るケースも多く、米バイデン新政権との関係改善を探る動きもある。中国は次世代のインフラを「新型インフラ」と呼び、主に7つの技術領域に分類している。5G通信網やデータセンター、人工知能(AI)などIT(情報技術)分野の基盤に加え、大容量の電力を効率的に送る超高圧送電網や、都市圏内で都市をまたがって運行する高速鉄道や地下鉄なども含まれる。 ●地方政府が主導 中国政府傘下の研究機関、中国信息通信研究院によると、21~25年の新型インフラへの投資額は官民合計で10兆6千億元(約170兆円)となる見通し。中国での社会インフラ投資の約10%を占めるという。米調査会社ガートナーの予測では、世界での通信サービスやデータセンターなどITへの支出は21年に3兆7548億ドル(約390兆円)。単純比較はできないが、中国の投資額が世界で突出しているわけではない。ただ中国銀行は20年の新型インフラへの投資額を1兆2千億元と試算しており、21年以降は毎年、20年の2倍近い資金が投じられることになる見込みだ。新型インフラへの投資を主導するのは地方政府だ。南部の広東省では今後数年間で1兆元を投じる。5Gの基地局や電気自動車(EV)の充電設備の拡充、自動運転の実験用道路の整備、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションの200カ所新設など、関連事業は700件を超える。東北部の吉林省でも、新型インフラ関連の投資額は25年までに1兆元を超える見通し。北京市、上海市などほかの主要都市や各省の政府もそれぞれ個別に3~5年の計画を策定済みだ。いち早く整備が進んでいるのが5G通信網だ。基地局は累計で70万カ所を超え、すでに一国として世界最大規模だが、全土をカバーするには600万カ所超が必要だとされる。現場の担い手は中国移動(チャイナモバイル)など国有通信大手だ。ネット関連の民間企業も新型インフラの建設や運営への関与を深める。騰訊控股(テンセント)は20年5月、5年間で5000億元を新型インフラの整備に投じると表明した。クラウドやAI、5Gなど幅広い領域に投資する。アリババ集団も20年4月、データセンターの建設などに3年間で2000億元を投資すると明かした。 ●経済下支え狙う 中国指導部の狙いは、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の下支えと、ハイテク産業の振興だ。20年5月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の政府活動報告では、李克強(リー・クォーチャン)首相が消費促進や構造改革のため「新型インフラの整備を加速する」と言明した。共産党が20年11月に公表した21~25年の第14次5カ年計画の草案も、重点項目の1つに新型インフラの整備を明記した。米国のトランプ前政権は5GやAIに関連する中国企業への部品や技術の輸出規制を強めてきた。バイデン新政権も中国のハイテク育成を警戒する見通しで、規制が早期に緩むかどうか不透明だ。中国は官民挙げて次世代産業の基盤を整備し、ハイテク摩擦の長期化に備える。ただ水準の高い米国企業の半導体、ソフトウエアなどを活用する中国のハイテク企業は多い。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は「双循環」と呼ぶ新たな発展モデルも示し、海外依存を低めようとしているが、うまくいかなければ新型インフラの整備が遅れる可能性もある。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は2日に報じられた国営新華社のインタビューで、米中関係には「希望の扉が開かれている」と述べ、バイデン政権に秋波を送った。中国国内では過剰投資への懸念も浮上している。共産党の幹部養成機関の機関紙、学習時報は新型インフラの整備について「政府部門は(道路など)従来型のインフラ建設と同様に主導すべきではなく、民間企業に任せるべきだ」という内容の記事を掲載した。「(地方政府が)政治的な成果やメンツのために投資を実施するのは避けるべきだ」と指摘する有識者もいる。 *8-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/625561 (佐賀新聞 2021.1.24) 米政権、中国に圧力停止を要求、台湾との関係強化も表明 米国務省のプライス報道官は23日、台湾に対する中国の軍事的圧力が地域の安定を脅かしているとして、軍事、外交、経済的圧力を停止するよう中国に求める声明を発表した。台湾との関係強化も表明した。対中強硬路線を取ったトランプ前政権に続き、20日発足したバイデン政権も台湾支持を打ち出した形で、中国の反発は必至だ。台湾外交部(外務省)は24日、米国務省の声明について「バイデン政権による台湾支持と台湾防衛重視」の表れだとして謝意を表明した。台湾の専門家は「バイデン政権は前政権の方針を引き継ぎつつ、より緻密に中国対抗策を推進していくだろう」と分析している。バイデン政権の国務長官候補ブリンケン元国務副長官は19日、人事承認に向けた上院公聴会で強硬路線を維持する考えを示し、台湾について「より世界に関与することを望む」と述べていた。米国務省声明は、中国が台湾を含む近隣国・地域を威嚇しようとしていると懸念を表明し、圧力をかける代わりに民主的に選ばれた台湾の代表と対話に臨むよう要求。台湾の自衛能力を維持するため支援を続けると強調した。また、同盟・友好国と協力してインド太平洋地域の安定と繁栄を促す方針を示し、台湾との関係強化もこの動きに沿ったものだと説明した。中国は軍用機や艦船を台湾周辺に派遣するなど圧力を強めている。台湾国防部(国防省)によると、23日にも中国の爆撃機「轟6K」や戦闘機「殲16」、対潜哨戒機「運8」の計13機が台湾南西の防空識別圏に進入した。トランプ前政権は台湾支援のため武器売却を推進。バイデン政権のオースティン国防長官も就任前、台湾の自衛能力維持を後押しする考えを示していた。 <感染症に本気で取り組まない政府の長期対策には付き合えないこと> PS(2021年1月28、29日追加):*9-1-1のように、政府は、新型コロナワクチン接種情報を国がリアルタイムで把握するため、マイナンバーを使った新システムを導入する方針を固めて取り組みを本格化させたそうだ。これは、住民が引っ越した場合の接種状況確認や接種券(クーポン券)をなくした場合の対応のためだそうだが、このように何かをする度に新システムを導入するから、*9-1-2のように、時間ばかりかかって効果が上がらないのであって、これならワクチンの接種が目的かマイナンバーカードの普及が目的かわからない。しかし、抗体を持つ人は接種不要であるため抗体検査が必要で、新型インフルエンザの予防接種が既に終わっているため、同じやり方をした方が早い。さらに、基礎疾患のある人は通院しているので、通院する医療機関で接種券を提示して優先的に接種を受け接種証明をもらえばよい。そして、マイナンバーと医療情報をひも付けることは、個人情報保護の観点から、私も問題だと思う。 なお、*9-1-3のように、英製薬大手アストラゼネカとオックスフォード大学が開発したワクチンを国内メーカーが受託生産できることになったのはよかったが、①迅速なワクチン開発は「できないだろう」という反対の大合唱(要反省・要謝罪) ②日本の大学は入れないため開発・研究不能(要反省・要謝罪) ③できたワクチンは「公平に分配せよ」の大合唱 とは、あまりに矛盾だらけで先進国のすることではない。自分の国で研究・開発して発展途上国に配るのが先進国のすることで、それが今後の産業の高度化や国際貢献に繋がるのである。 このような厚労省・文科省・経産省はじめ政府及びメディアの失敗のつけを、*9-2のように、「緊急事態下でも意識は低い」などと国民になすりつけるのは日本の病んだ姿だ。今回は昨春の宣言時より国民の対応が鈍い理由は、2~3カ月なら政府の戸惑った対応に忍耐し自粛しても営業を存続できるが、PCR検査は制限し、治療薬は承認せず、ワクチンの研究開発もせずに、1年以上も国民に忍耐を強いるのなら、付き合いきれないということだ。そのため、この失政の尻拭いのための営業制限をさらに行うのなら、その損害は一部ではなく全部補填されるべきで、その金額は2020年の所得と2019年(orその前3年間の平均)の所得を比較した減少分の全額であるため、その金額を還付すべきだ。また、「出勤者7割減」「テレワークの実施」「自転車通勤」「ローテーション勤務の推進」「午後8時以降の勤務抑制」なども代替案はいくらでもあるため、コロナと人命にかこつけてそれを自己目的化することこそが問題である。 なお、*9-3-1のように、「①事業者への財政支援を義務化」「②緊急事態宣言の前段階の対策を『予防的措置』から『まん延防止等重点措置』に名称変更」「③営業時間短縮や休業命令を拒否した事業者、入院拒否した患者に罰則導入」などの感染症法・特措法の改正法案を提出したそうだが、①は屁理屈をつけてもばら撒きにすぎず、こんなことに使う金があるのなら、その1/10の金額を検査充実・ワクチン・治療薬の開発、普段からの医療システム整備に使うべきだ。そのため、自民党内の「④大学病院に重症患者を引き受けるよう法改正すべき」「⑤水際対策を徹底しなければ収束できない」という意見は尤もであり、*9-3-2の日本弁護士連合会会長荒氏の「感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明」は全くそのとおりだ。さらに、「オリンピックを中止すべき」という意見もあるが、引き受けたものは責任を持ってやるべきであり、水際対策・検査・隔離と治療・ワクチン接種を徹底して行えばそれは可能なのである。 最後に、米製薬大手イーライ・リリーのコロナ抗体薬LY-CoV555は、*9-4のように、2020年11月に米食品医薬品局から軽度・中程度のコロナ感染患者向け治療薬として緊急承認されていたが、治療効果と同時に予防効果もあることがわかったそうだ。予防効果を調べる治験は、米国立衛生研究所(NIH)の協力を得て進めており、日本なら厚労省・経産省・文科省が協力して積極的に開発・治験すべきものだった。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2021.1.19東京新聞 2021.1.29日経新聞 2021.1.1産経新聞 2021.1.8日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、新型コロナ特措法と感染症法の“改正”が意図され、罰則と事業者への部分的な支援が入っていた。そして、左から2番目の与野党修正協議後の法案にも罰則が入っており、私権を制限するのにその効果への科学的根拠はない。また、右から2番目の図にワクチン接種の優先順位が書かれているが、医療・介護関係者や高齢者・基礎疾患のある人の優先順位は高くすべきで、これをマイナンバーカードでどう整理するつもりか? これらの政策から、日本のコロナ騒ぎはデジタル化・時短・テレワークを推進するためにだらだらと続けているように見え、それによる国民の損害は膨大である。なお、1番右の図は、コロナ対策と日程だ) *9-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/626891 (佐賀新聞 2021.1.27) 政府、接種状況把握へ新システム 政府は27日、新型コロナウイルスのワクチンの接種情報を国がほぼリアルタイムで把握することを目的に、新たなシステムを導入する方針を固め、取り組みを本格化させた。接種を行う市区町村は住民が引っ越しをした際の接種状況の確認や、接種券(クーポン券)をなくした場合に対応しやすくなる。接種状況や履歴の一元管理を図る。マイナンバーの活用を検討している。春に見込まれる65歳以上の高齢者への接種開始のタイミングでの運用を目指し、制度設計を急ぐ。ワクチン接種の総合調整を担う河野太郎行政改革担当相は27日、高齢者接種は早くても4月1日以降になると表明。当初3月下旬としていた政府方針がずれ込むとの見解を示したものだ。新システムについて、マイナンバーをひも付けることには、自治体の業務に過重な負担が掛かる懸念が出ている。個人情報保護の観点から議論も呼ぶ可能性がある。加藤勝信官房長官は27日の記者会見で、市区町村の予防接種台帳では実際の接種から情報登録まで2~3カ月のタイムラグがあると指摘して「(国が)リアルタイムに近い形で接種状況を的確に把握できるよう新たなシステムを整備する」と強調した。システムは国が開発。市区町村や医療機関などがデータを入力する仕組み。入力情報は、住民が接種した場所と年月日、接種回数、ファイザー社製など使用したワクチンの種類や製造ロット番号などが想定されている。接種会場で混乱しないよう、接種券をスマホのカメラで撮影し情報を読み取るアプリを開発する意向。住民に対してマイナンバーの提示は求めることはないとしている。接種主体の自治体の業務を巡っては、新システムとは別に、厚生労働省が新型コロナウイルスのワクチンの流通量を把握するため、自治体や医療機関が参加する「ワクチン接種円滑化システム(V―SYS)」を開発。自治体は複数のシステムへの入力が迫られる。さらにワクチン接種の会場、医師や看護師の確保が重い課題。住民への接種券発送作業に加え、超低温保管が必要なワクチンの管理も難題で一層事務作業が増え、混乱に拍車が掛かる事態も予想される。システム開発が間に合うかも焦点だ。ワクチンは21日間空け2回打つことになる。政府は約3カ月で高齢者への接種を終える日程を描いている。 *9-1-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20210128&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO68585500Y1A120C2MM8000&ng=DGKKZO68585520Y1A120C2MM8000&ue=DMM8000 (日経新聞 2021.1.28) 高齢者への接種、4月以降に 河野規制改革相 河野太郎規制改革相は27日、新型コロナウイルスのワクチンについて、65歳以上の高齢者への接種は「最短でも4月1日以降」と表明した。全国知事会とのオンライン会議で伝えたと記者団に語った。政府はこれまで「3月下旬以降」と説明していた。遅れる理由について「医療従事者の数や米製薬大手ファイザーとのやり取りを鑑みて」と話した。接種会場を準備する地方自治体に向けて「3月におさえる必要はない」と述べた。 *9-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210128&ng=DGKKZO68585500Y1A120C2MM8000 (日経新聞 2021.1.28) アストラゼネカのワクチン、日本で量産、9000万回分、国内安定調達へ道筋 英製薬大手アストラゼネカは日本で新型コロナワクチンの量産準備に入る。国内メーカーが近く受託生産を始める。国内生産量はアストラゼネカの日本向けワクチンの75%に相当する9000万回分を見込む。海外での供給遅れが広がるなか、日本政府は国内のワクチン生産(総合2面きょうのことば)で一定量を確保して安定調達につなげる。アストラゼネカは2020年12月に日本政府と1億2000万回分のコロナワクチン供給契約を結んだ。近く厚生労働省に製造販売承認を申請する。コロナワクチンは完成まで3カ月程度かかるため、承認申請の手続きと並行して量産を進める。国内生産品の出荷準備が整うのは早くても5月ごろで、厚労省の承認を得たうえで出荷する。アストラゼネカのコロナワクチンは英オックスフォード大学と開発した、ウイルスベクターワクチンと呼ばれるタイプだ。風邪の原因となる「アデノウイルス」に新型コロナの遺伝情報を組み込み、体内に送り込んで免疫反応を促す。日本では20年8月から人に投与して安全性や有効性を確認する臨床試験(治験)を実施している。バイオ製薬のJCRファーマが神戸市内の工場でコロナワクチンの原液をつくる。原液はアデノウイルスを培養して抽出したものだ。JCRファーマはワクチンの生産実績はないが、細胞培養などのバイオ技術を持つ。アストラゼネカから製造技術を移管され、遺伝子を改変したアデノウイルスの提供も受けた。製造装置でアデノウイルスを培養し、精製して原液にする。培養が軌道に乗れば、原液を輸入することなく、国内でワクチン製造が完結する。できあがった原液は第一三共や明治ホールディングスが容器に充填して製品化する。アストラゼネカのコロナワクチンはセ氏2~8度の冷蔵輸送で流通できるため、コロナワクチンの中でも温度管理しやすい。新型コロナの感染者数は世界で1億人を超えた。変異種登場で、世界でワクチン争奪戦が表面化している。欧州連合(EU)はEUで製造したワクチンの域外への輸出の規制を検討している。アストラゼネカのコロナワクチンは海外では供給が計画通りに進んでいない。日本政府はアストラゼネカと契約した1億2000万回分のうち、3000万回分は3月までに輸入する考えだ。ただ現地で生産が軌道に乗らず予定通り輸入されない懸念も残る。世界各地で実施されている治験も計画に比べ遅れている。今後、調達計画や国内生産量の見直しが日本で議論される可能性もある。量産準備に入るとはいえ、実際に日本で接種が始まるまで予断を許さない状況だ。日本政府はアストラゼネカのほかに、米ファイザーから21年内に1億4400万回、米モデルナからは6月までに4000万回と9月までに1000万回を調達する契約を結ぶ。ファイザーとモデルナのワクチンはいずれも全量が輸入で、こちらも予定通り確保できるかが焦点となる。 *9-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/685110/ (西日本新聞 2021/1/27) 出勤7割減、実現せず「今回は人ごと」…緊急事態下でも意識は低く 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言で、政府が事業者に求めている「出勤者数の7割削減」。各職場でどれくらい実施されているかを問う西日本新聞「あなたの特命取材班」のアンケートには「実現していない」との回答が大半を占め、「昨春の宣言時よりも意識が低い」という答えが目立つ。企業や官公庁でのクラスター(感染者集団)発生数は全国的に医療機関を上回っており、経済団体や自治体も警戒を強めている。アンケートには、27日までに約100件の回答があった。福岡県など緊急事態宣言が発出されている11都府県からの声が9割弱を占め、大部分は削減が実現していないと回答した。その理由(複数回答)で最多だったのは「業務の都合上」。男性公務員(44)は「仕事に必要なデータを持ち帰れないし、(家だと)上司からの指示など職場の情報が伝わらない」。勤務先の働きかけに戸惑う人も。保険営業職の女性(32)は「会社が『出勤者7割減』を『(勤務する)部屋から7割減』と独自に解釈している」と困惑。同じフロア50人を3フロアに分けたが「毎日全員出社」という。福岡県の服部誠太郎副知事は25日、県内の経済団体関係者と会合。「テレワークの実施や自転車通勤、ローテーション勤務の推進、午後8時以降の勤務抑制を」と協力を呼び掛けた。 *9-3-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/80639 (東京新聞 2021年1月19日) <新型コロナ>事業者への財政支援、義務化へ 新型コロナ特措法改正案 罰則も導入 自民、公明両党は18日、新型コロナウイルス感染症対策の関連会合をそれぞれ開き、政府が開幕した通常国会に提出する新型コロナ特別措置法や感染症法の改正案を了承した。国や地方自治体は事業者に対する支援を「講ずるものとする」と明記し、先に概要で示した努力規定から義務規定に修正。緊急事態宣言の前段階の対策は「予防的措置」から「まん延防止等重点措置」へ名称を変更。営業時間の短縮や休業の命令を拒否した事業者、入院を拒否した患者らへの罰則を導入する。特措法改正案では緊急事態宣言を避けるため、前段階で対策を進めるまん延防止等重点措置を新たに規定し、都道府県知事は飲食店などの事業者に営業時間の短縮や休業を要請、命令できるとした。これに応じた事業者への支援は、当初の政府案で努力規定だったことに異論が相次いだため「必要な財政上の措置を講ずる」と義務化に変更。医療機関への支援も義務化することを盛り込んだ。 ◆まん延防止段階30万円以下、緊急事態宣言下50万円以下 知事の命令を拒否した場合、前科にならない行政罰の過料を、まん延防止等重点措置段階では「30万円以下」、緊急事態宣言下では「50万円以下」と定めた。事業者への命令前の立ち入り検査も新設し、検査拒否には「20万円以下」の過料とした。感染症法改正案では、入院を拒否したり、入院先を抜け出したりした感染者らへの刑事罰を「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」と規定した。疫学調査の拒否などにも「50万円以下の罰金」を設けた。自民党の国会議員からは「大学病院に重症患者を引き受けるよう法改正すべきだ」「水際対策を徹底しなければ収束できない」と政府対応への批判が続出。さらなる議論を求める声もあったが、改正案の扱いは自民、公明党とも党幹部一任となって了承された。野党は罰則を新設する改正案に慎重・反対姿勢を示した。政府は22日にも改正案を閣議決定して国会に提出し、2月上旬に成立させ、同月中旬の施行を目指す。 *9-3-2:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210122_2.html (2021年1月22日 日本弁護士連合会会長 荒 中) 感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明 本日、政府は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)及び「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)の改正案を閣議決定した。新型コロナウイルスの感染が急拡大し、医療環境が逼迫する等の厳しい社会状況の中、収束のための有効な施策が必要であることは論を俟たない。しかし、今回の改正案は、感染拡大の予防のために都道府県知事に広範な権限を与えた上、本来保護の対象となるべき感染者や事業者に対し、罰則の威嚇をもってその権利を制約し、義務を課すにもかかわらず、その前提となる基本的人権の擁護や適正手続の保障に欠け、良質で適切な医療の提供及び十分な補償がなされるとは言えない。さらに、感染の拡大防止や収束という目的に対して十分な有効性が認められるかさえ疑問である。当連合会としては、以下の点について抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する。 まず、感染症法の目的は第一に感染症の患者等の人権を尊重するものでなければならないところ、今回の改正案は、入院措置に応じない者等に懲役刑・罰金刑、積極的疫学調査に対して拒否・虚偽報告等をした者に対して罰金刑を導入するとしている。 しかし、刑罰は、その適用される行為類型(構成要件)が明確でなければならない。この点、新型コロナウイルス感染症は、その実態が十分解明されているとは言い難く、医学的知見・流行状況の変化によって入院措置や調査の範囲・内容は変化するし、各保健所や医療提供の体制には地域差も存在する。そのため、改正案の罰則の対象者の範囲は不明確かつ流動的であり、不公正・不公平な刑罰の適用のおそれも大きい。 他方で、新型コロナウイルスには発症前にも強い感染力があるという特徴が認められ、入院措置・調査の拒否者等に対して刑罰を科したからといって感染拡大が防止できる訳ではない。むしろ、最近では多くの軽症者に対して自宅待機・自宅療養が指示され、症状が悪化して入院が必要となった場合にも入院できず、中には死亡に至った例も報告され、患者に対する「良質かつ適切な医療を受けられるように」すべき国及び地方公共団体の責務(感染症法前文・3条1項)が全うされていない現実がある。しかも、単に入院や調査を拒否したり、隠したりするだけで「犯罪者」扱いされるおそれがあるとなれば、感染者は感染した事実や感染した疑いのあることを隠し、かえって感染拡大を招くおそれさえ懸念される。 新型コロナウイルス感染症は従来からのインフルエンザ感染症と比べて、無症状感染者からの感染力が強いと分析され、深刻な後遺症が残る例も報告されている。そのため国民全体に感染に対する不安が醸成され、感染したこと自体を非難するがごとき不当な差別や偏見が既に生じている。その解消を行わないまま、安易に感染者等に対して刑罰を導入するとなれば、感染者等に対する差別偏見が一層助長され、極めて深刻な人権侵害を招来するおそれがある。 そもそも、感染症法は、「過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」、「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応する」などとした「前文」を設けて法の趣旨を宣言し、過去の反省等に基づき、伝染病予防法を廃止して制定された法律である。新型コロナウイルス感染症は、その感染力の強さゆえ、誰もが罹患する可能性がある疾病である。感染者は決して責められるべきではなく、その実情を無視して、安易に刑罰をもって義務を課そうとする今回の改正案は、かかる感染症法の目的・制定経緯を無視し、感染者の基本的人権を軽視するものに他ならない。 次に、特措法の改正案は、「まん延防止等重点措置」として都道府県知事が事業者に対して営業時間の変更等の措置を要請・命令することができ、命令に応じない場合は過料を科し、要請・命令したことを公表できるとしている。 しかし、改正案上、その発動要件や命令内容が不明確であり、都道府県知事に付与される権限は極めて広範である。そのため、恣意的な運用のおそれがあり、罰則等の適用に際し、営業時間の変更等の措置の命令に応じられない事業者の具体的事情が適切に考慮される保証はない。 さらに、感染拡大により経営環境が極めて悪化し、休業することさえできない状況に苦しむ事業者に対して要請・命令がなされた場合には、当該事業者を含む働く者の暮らしや命さえ奪いかねない深刻な結果に直結する。もとより、主な対象とされている飲食に関わる事業者は、それ自体危険な事業を営んでいるわけではない。いかに努力しようとも、飲食の場に感染リスクがあるというだけで、死活問題となる営業時間の変更等を求められるのは、あまりにも酷である。かかる要請・命令を出す場合には、憲法の求める「正当な補償」となる対象事業者への必要かつ十分な補償がなされなければならず、その内容も改正案成立と同時に明らかにされなければならない。 また、不用意な要請・命令及び公表は、感染症法改正案と同様、いたずらに風評被害や偏見差別を生み、事業者の名誉やプライバシー権や営業の自由などを侵害するおそれがある。 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するためには、政府・自治体と市民との間の理解と信頼に基づいて、感染者が安心して必要な入院治療や疫学調査を受けることができるような検査体制・医療提供体制を構築すること及び事業者への正当な補償こそが必要不可欠であって、安易な罰則の導入は必要ないと言うべきである。 以上の観点から、当連合会は、今回閣議決定された感染症法及び特措法の改正法案に対して、抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する。 *9-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN22E1F0S1A120C2000000/ (日経新聞 2021/1/23) 米イーライ・リリーのコロナ抗体薬に予防効果 治験で 米製薬大手イーライ・リリーは、米国の高齢者施設の入居者や職員を対象に実施した臨床試験(治験)で、同社の新型コロナウイルス抗体薬「LY-CoV555」(一般名バムラニビマブ)の予防への効果が確認できたと発表した。新型コロナ患者が発生した各地の高齢者施設で、入居者や職員など約1000人にこの抗体薬と偽薬を投与し、8週間後に効果を検証した。全体では抗体薬を投与したグループのコロナ発症リスクは、偽薬を投与したグループと比べ57%低かった。同じ施設の入居者で比べた場合、抗体薬の投与を受けた方が、偽薬投与のケースよりもコロナ発症リスクが8割低かった。LY-CoV555は2020年11月、米食品医薬品局が症状が軽度から中程度のコロナ感染患者向け治療薬としての使用を緊急承認した。予防効果を調べる今回の治験は、米国立衛生研究所(NIH)の協力を得て進めた。ワクチンが体内の免疫の仕組みを利用し抗体の生成を促すのに対し、抗体薬はウイルス感染から回復した患者が獲得した抗体のコピーを作り投与することで体内に抗体を得る仕組み。予防薬としての使用が承認されれば、ワクチンに比べて短い期間で効果を得たい場合や、健康上の理由でワクチン接種できない人などに選択肢を広げることができる。 <特措法・感染症法改正による私権制限は加害者の焼け太りである> PS(2021年1月31日追加):*10-1のように、憲法学者70人超が「改正案の罰則導入は、行政罰でも政府の失策を個人責任に転嫁するもので正当性がない」と反対声明を出しておられるのは、全くそのとおりだ。そのため、部分的で恩着せがましい“支援”ではなく、失政に対する国民への損害賠償として、逸失利益(本来なら得られた筈なのに失わされた利益)の全額を支払うべきである。 そのような中、*10-2のように、特措法に「蔓延防止等重点措置」を新設するそうだが、ウイルステロのように故意にウイルスをばら撒いて蔓延させた人がいるのでなければ、蔓延防止を行う義務があるのは政府・地方公共団体の方である。この理念は、ハンセン病の反省を踏まえ1998年に(大学で習ったので私が関わって)できた*10-3の感染症法の前文及び第1~3条を読めば明らかなのに、感染症に関する情報収集・研究推進・病原体の検査能力向上・医薬品の研究開発推進・良質で適切な医療提供等を、政府(特に厚労省・文科省)は故意に行わず法律違反を犯したのだ。また、メディアも感染症法を守るどころか患者を差別するような報道をしていたのは「言論の自由」「表現の自由」の域を脱していた。このような中、決して忘れてはならないのは、感染症患者は悪いことをしたから患者になったのではなく、誰でも患者になる可能性があり、検査や治療を受ける権利もあるということである。 *10-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/83108 (東京新聞 2021年1月30日) 改正案の罰則導入「正当性ない」 憲法学者70人超が反対声明 新型コロナウイルス特別措置法や感染症法の改正案を巡り、70人以上の憲法学者が30日、「政府の失策を個人責任に転嫁するものだ」とする反対声明を公表した。当初案で示された刑事罰の導入は見送られた一方、行政罰は残ると指摘し、罰則導入自体に「全く正当性がない」と強調した。声明を出したのは、稲正樹・元国際基督教大学教授ら。改正案は当初、入院拒否者を刑事罰の対象としていたが、行政罰の過料に修正することで自民党と立憲民主党が合意。声明は「修正がなされても、『罰則』を設ける妥当性の問題は解決されない」とした。 *10-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/628063 (佐賀新聞 2021.1.30) 野党、まん延防止要件の明示要求、コロナ、私権制限への一層配慮も 新型コロナウイルス対策を強化するコロナ特別措置法と感染症法の改正案を巡り、与野党が検討している付帯決議案が判明した。特措法に新設する「まん延防止等重点措置」の実施要件に関し、客観的基準を事前に明示するよう政府に要求。私権制限が過剰に強まらないように「より一層配慮する」ことも求める。複数の与野党関係者が30日、明らかにした。与野党は文言を最終調整した上で、2月1日の改正案採決時に決議の採択を予定する。ただ、付帯決議に法的拘束力はない。決議案はまん延防止措置の判断基準について、感染者数や病床使用率など、感染状況を示す指標との関係を明確にする必要性を指摘した。措置は「学識経験者の意見を聴いた上で行う」と記し、期間の延長や区域変更、解除も含めて速やかな国会報告を訴えた。営業時間短縮などに対する支援は「要請による経営の影響度合い」を勘案するよう要求した。まん延防止等重点措置は、緊急事態宣言の前段階と位置付け、都道府県知事の権限を強化する。時短要請に応じない事業者に命令を出すことができ、拒んだ場合は過料を科す。付帯決議案は、過料を慎重に運用する必要性にも触れた。自民、立憲民主両党幹事長は改正案を巡る28日の修正協議で、国会報告と事業者支援を付帯決議に盛り込むと合意した。付帯決議案は、まん延防止措置の対象を主に営業時間変更とし、休業要請や全面的な外出自粛要請を含めないことも訴える。西村康稔経済再生担当相は29日の国会審議で、措置は特定の地域と業種に絞った時短のみを想定していると答弁した。感染者が不当な差別を受けないような相談、支援体制の整備にも言及した。 *10-3:http://www.kanazawa-med.ac.jp/~mri-cfak/yobou.html (感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 平成10.10.2 法律114号) (前文) 第1章 総 則 (第1条~第8条) 第2章 基本指針等 (第9条~第11条) 第3章 感染症に関する情報の収集及び公表 (第12条~第16条) 第4章 健康診断、就業制限及び入院 (第17条~第26条) 第5章 消毒その他の措置 (第27条~第36条) 第6章 医 療 (第37条~第44条) 第7章 新感染症 (第45条~第53条) 第8章 感染症の病原体を媒介するおそれのある動物の輸入に関する措置 (第54条~第56条) 第9章 費用負担 (第57条~第63条) 第10章 雑 則 (第64条~第66条) 第11章 罰 則 (第67条~第69条) 附 則 (前文) 人類は、これまで、疾病、とりわけ感染症により、多大の苦難を経験してきた。ペスト、痘そう、コレラ等の感染症の流行は、時には文明を存亡の危機に追いやり、感染症を根絶することは、正に人類の悲願と言えるものである。医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により、多くの感染症が克服されてきたが、新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により、また、国際交流の進展等に伴い、感染症は、新たな形で、今なお人類に脅威を与えている。一方、我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。ここに、このような視点に立って、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため、この法律を制定する。 第1章 総 則 (目的) 第1条 この法律は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする。 (基本理念) 第2条 感染症の発生の予防及びそのまん延の防止を目的として国及び地方公共団体が講ずる施策は、保健医療を取り巻く環境の変化、国際交流の進展等に即応し、新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権に配慮しつつ、総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする。 (国及び地方公共団体の責務) 第3条 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じた感染症に関する正しい知識の普及、感染症に関する情報の収集、整理、分析及び提供、感染症に関する研究の推進、感染症の病原体等の検査能力の向上並びに感染症の予防に係る人材の養成及び資質の向上を図るとともに、感染症の患者が良質かつ適切な医療を受けられるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。この場合において、国及び地方公共団体は、感染症の患者等の人権の保護に配慮しなければならない。 2 国及び地方公共団体は、感染症の予防に関する施策が総合的かつ迅速に実施されるよう、相互に連携を図らなければならない。 3 国は、感染症に関する情報の収集及び研究並びに感染症に係る医療のための医薬品の研究開発の推進、感染症の病原体等の検査の実施等を図るための体制を整備し、国際的な連携を確保するよう努めるとともに、地方公共団体に対し前2項の責務が十分に果たされるように必要な技術的及び財政的援助を与えることに努めなければならない。 (以下、略) <女性リーダー・新型コロナ・衛生意識の関係> PS(2021年2月7日追加):*11-1・*11-2・*11-3のように、JOC役員改選に向けた規定改正が報告され女性理事の割合を40%以上にする目標が示された時、東京五輪・パラリンピック組織委員会森喜朗会長が、「①女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「②女性は競争意識が強いので、誰か一人が手を挙げて言われると自分も言わないといけないと思うんでしょう」などと女性蔑視の発言をされ、「③組織委の女性委員については、みんなわきまえておられ、発言も的を射ていてわれわれも役立っている」と述べられたそうだ。 このうち、①については、時間の長短ではなく時間内でどういう議論や検討を行ったかが重要なのだが、男女の割合にかかわらず生産性の低い会議は多く、新型コロナの対策会議もその1例だ。また、②については、競争意識が強いのは女性だけではなく、男性の方がもっと競争意識が強いと思うが、競争は公正である限り決して悪いことではなく、スポーツはじめ市場主義経済は、競争意識を動機づけにして推進力にしているのである。さらに、③の「組織委の女性委員は、わきまえている」という言い方は、既に決定されたことを追認するのが組織委であることを暴露してしまっており、活発に議論し検討して意思決定に至るのではない上から目線の同調圧力を感じる。そのため、これらの発言は、五輪憲章に反する以前に、男女共同参画基本法・男女雇用機会均等法・民主主義の理念に反している。 なお、*11-4のように、「④コロナ対策に成功した国の共通点は女性リーダーの存在」というのは、私もそんな気がしていた。また、「⑤女性リーダーは同等の立場にいる男性リーダーに比較して新型コロナウイルス流行の初期段階での対応が優れていた」というのは、ロックダウンに限らず、台湾の事例からも納得できる。さらに「⑥こうした女性たちの有能さは、女性がトップに上るのに非常に厳しい基準を満たす必要があった選択バイアスの結果であった可能性も排除できない」というのも確かだが、同等の経歴を持つ男性リーダーと比較しても女性リーダーの方が新型コロナ対策に成功したのは、「衛生」に関する学びの機会は女性の方が多いからではないだろうか。ちなみに、男性政治家が多い日本の新型コロナ政策は、東アジアに位置するにもかかわらず大失敗で、決して真似できるシロモノではなかった。 *11-1:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/498970 (京都新聞社説 2021年2月6日) 女性蔑視発言 時流に逆行、許されぬ 自らの立場をわきまえず、軽率極まると言うほかない。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が女性蔑視と取れる発言をした。批判を受けて発言を撤回し、謝罪したとはいえ、どこまで反省しているのか疑わしい。組織委会長は、五輪開会式で開催国を代表して国際オリンピック委員会(IOC)会長と並んで世界のアスリートを迎える要職である。「五輪の顔」としての適格性に疑問符を付けざるを得ない。森氏は名誉委員として出席した日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと語った。席上、JOCの役員改選に向けた規定改正が報告され、女性理事の割合を40%以上にする目標が示された。これを受けた発言で、自身が会長などを歴任した日本ラグビー協会で女性理事が増えていることを例に挙げ、「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね」などとも述べた。五輪憲章はあらゆる差別を禁じており、とりわけ男女平等の理念は近年、大きな柱の一つになっている。森発言はこうした時代の流れに逆行し、国内外から厳しい批判を浴びても致し方ない。森氏が発言した際、居合わせた出席者からいさめる声はなく、笑いさえ漏れたという。JOC評議員らの見識も問われよう。森氏は翌日、記者会見に応じ、「五輪・パラの精神に反する不適切な表現だった。深く反省している」と謝罪した。だが会長辞任は「自分からどうしようという気持ちはない」と否定した。記者の質問にいらだち、開き直る場面も目立った。何が問題視され、批判を招いたのか、理解していないのではないか、と首をかしげたくなる。森氏はこれまでも度々失言癖を指摘されながらも組織の要職に就き、さまざまな意思決定に影響力を発揮してきた。議論よりも同調を良しとする日本社会のいびつさにも目を向けねばなるまい。五輪の理念を否定する発言は多言語で配信され、瞬く間に世界に広がった。新型コロナウイルスの感染拡大で開催が危ぶまれる中、自らの言動でさらに逆風を強めた森氏は辞任に値する。開幕まで半年を切ったが、世界の共感を得ずして五輪の成功は望めない。 *11-2:https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210207597443.html (新潟日報社説 2021/2/7) 女性蔑視発言 トップの資質欠く森会長 女性を蔑視し、国際社会からの信用にも傷を付ける深刻な発言だ。撤回し謝罪したが、反省の色はまるでうかがえない。五輪精神に著しくもとる内容でもある。大会準備の中心を担う組織のトップとして資質を欠くと断じざるを得ない。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が3日、日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会で、女性理事を増やすJOCの方針に、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言した。国内外の批判を受け、森氏は4日に謝罪会見を開いたが、「深く反省している」という言葉とは裏腹にいら立ち、開き直るそぶりが目立った。自らの発言の何が悪かったのかをきちんと理解し、反省している態度には全く見えない。発言に対し、国内ではツイッター上などで「組織委のリーダーにふさわしくない」などと抗議の声が広がった。海外では「性差別」「時代遅れ」などと批判が噴出した。森氏の発言が女性を蔑視するだけでなく、あらゆる差別を禁じるとした五輪憲章の理念を踏まえていないことも明白だ。中でも男女平等の理念は近年の大会の大きな柱で、国際オリンピック委員会(IOC)の改革指針「五輪アジェンダ2020」は参加者の男女比率を同等にする目標を立てている。男女混合の団体種目採用を奨励して女子選手の割合を高めており、今夏の東京大会で48・8%、次回のパリ五輪で史上初の男女同数を見込む。役員の女性登用にも力を入れていた。森氏はそうした五輪精神への認識があまりに薄い。蔑視発言の中で森氏は、組織委の女性委員について「みんなわきまえておられる。発言も的を射ていて、われわれも役立っている」とも述べた。女性委員を持ち上げた発言のつもりだろう。しかし「わきまえている」という表現には、自由で活発な議論を封じ、都合の悪い発言を排除しようとする姿勢が垣間見える。森氏は以前から失言癖があり、2000年の衆院選で訪れた新潟市では「態度を決めていない有権者が寝ていてくれれば」などと発言した。蔑視発言があった評議員会では、出席者から失笑が漏れたという。「またか」と思わせたにしても、誰も異論を唱えなかったのは残念でならない。指摘がなくては、問題発言を肯定しているのと同じだからだ。東京大会は、新型コロナウイルスの感染拡大で開催自体が危ぶまれているが、森氏は2日の自民党の会合で「新型コロナがどういう形であろうと必ず開催する」と強調し、国民感情との隔たりも懸念されていた。菅義偉首相は5日の衆院予算委員会で発言を「五輪の重要な理念である男女共同参画と全く異なる」としたが、政府内に辞任を求める動きはない。このままトップを任せられるのか。政府は後手に回らぬよう冷静な判断を下すべきだ。 *11-3:https://www.ehime-np.co.jp/article/news202102070005 (愛媛新聞社説 2021年2月7日) 森氏の女性蔑視発言 五輪パラの顔にふさわしくない 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が女性蔑視の発言をしたことが波紋を広げている。日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「女性っていうのは競争意識が強い」「女性を増やす場合は発言の時間を規制しないと終わらないので困ると誰かが言っていた」などと述べていた。森氏は会見を開き、発言を撤回し謝罪したが、失言で済む問題ではない。会議が長いことや競争意識が強いことは性別と関係ないのは言うまでもなく、偏見を伴う発言に国内外から批判が高まるのは当然である。多様性の尊重をうたう五輪の「顔」としてふさわしくなく、かじ取り役を任せるに値しない。問題となったのは、JOCが女性理事の割合を40%に引き上げる目標を掲げ、役員選考の見直しを進めていることを受けての発言だった。JOCの理事は25人で、うち女性は現在5人にとどまる。五輪憲章はあらゆる差別を禁じており、中でも男女平等は大きな柱である。国際オリンピック委員会(IOC)も男女同数の五輪参加を目指し、五輪を通じた理想社会の実現を目標に掲げる。森氏の発言は、これらの理念や多様性の推進に取り組んでいる人々の努力を顧みないものだ。本当に反省しているかどうかも疑問符が付く。会見で「深く反省している」と低姿勢で臨んだものの、質疑に入るといら立ちや居直りを見せる場面があった。会長としての適性を問われると「さぁ」と首をかしげるなど、重く受け止ている様子はうかがえなかった。IOCは森氏の謝罪をもって「この問題は決着したと考えている」との声明を発表した。しかし、事態が収束するかどうかは見通せない。世界のアスリートや要人らから批判の声がやまず、東京都には大会ボランティアの辞退や抗議の電話が相次いでいるという。新型コロナウイルスの感染拡大で大会の開催そのものが危ぶまれる中、政府は新たな火種が生まれたことに危機感を強めなければならない。森氏の発言について菅義偉首相は「あってはならない」と述べたが、具体的な行動で示すべきだ。ここに至って本人をその立場に居続けさせることは開催国としての見識が疑われる。森氏が発言した際、出席者からとがめる声が出ず、全員が傍観者だった。そのこと自体も問われなければならない。世界経済フォーラムが2019年に発表した男女格差を示す「ジェンダー・ギャップ指数」で日本は153カ国中121位と過去最低だった。一連の事態は図らずも日本の「遅れ」を世界に示す結果となった。性差別認識や男女の不平等を改善していくために、一人一人が現状への問題意識を持ち続けたい。 *11-4:https://forbesjapan.com/articles/detail/37299 (ForbesJapan 2020/10/4) 女性リーダーの優れたコロナ対策、実証する研究結果発表 私が4月に公開して大きな反響があった記事「コロナ対策に成功した国々、共通点は女性リーダーの存在」を科学的に裏付ける研究結果が発表された。女性リーダーは同等の立場にいる男性リーダーと比較して、新型コロナウイルス流行の初期段階での対応が優れていたのだという。研究は英国のリバプール大学とレディング大学の研究者らが行ったもので、「Leading the Fight Against the Pandemic: Does Gender ‘Really’ Matter?(パンデミック対策の主導 性別は本当に重要なのか?)」と題した論文にまとめられた。その内容によると、女性がリーダーを務める国の方が早い段階でロックダウンを実施し、論文発表時の死者数も男性が率いる同等の国より少なかったのだという。では、その理由は一体何にあるのだろう? ●リスクマネジメント 研究チームは第1の理由として、女性リーダーは人命を守ることに関してリスクを回避する傾向が高い点を挙げている。女性リーダーは新型ウイルスのパンデミック(世界的大流行)の厳しい現実を直視し、国民に対しても同様の姿勢を促して、経済活動よりも人命を優先した。研究チームは、この要因が女性リーダーの「リスク回避」傾向にあった可能性を主に行動学の面から示した。 ●リーダーシップのスタイル 第2の理由とされたのは、女性指導者のリーダーシップスタイルだ。多くの女性リーダーは、子ども向けの記者会見を開いたり、医療従事者の検査を優先したりと、より共感的で民主的な参加型スタイルを取ってきた。研究チームが言うように、「リスクと共感に対する姿勢や明快で断固たるコミュニケーションが重要となった今回の状況」下では、愛と慈しみをもった女性のリーダーシップが優れたコロナ対策につながったのだ。 ●未来に向けて 研究チームは、社会構造が近い国同士を比較することで交絡因子を最小限に抑え、女性がリーダーを務める国のコロナ対策の成功が単に相関関係の結果ではないということを示した。それでも、こうした女性たちが指導者に就任できたのは選択バイアスの結果であった可能性を排除するのは難しい。こうした女性たちの有能さは、女性がトップの座に上り詰めるために非常に厳しい基準を満たす必要があったことが理由である可能性があるのだ。研究チームは「多くの変数が限定的であり、完全なサンプル実現に向けた取得が困難である場合が多いため、今後も多くの研究が必要となる」と認めた一方で、統計分析には常に欠点があるかもしれないものの、新型ウイルスの流行では各国で有効だった対策を理解することが重要だとも指摘した。メディアは、パンデミックがいかに女性たちを苦しめているかをこぞって取り上げているが、それだけではなく女性の功績もたたえるべきではないか。新型ウイルスの流行は、またとない学びの機会だ。有能な女性リーダーといった明るい点に注目することで、私たちはコロナ禍から学び、リーダーシップにおけるジェンダーバランスが皆の復興に資することを世界に示すことができる。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 12:14 AM | comments (x) | trackback (x) |
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2020,05,11, Monday
![]() ![]() ![]() ![]() 2020.3.6 2020.3.24 2020.3.2 2020.5.2朝日新聞 東京新聞 朝日新聞 毎日新聞 ![]() ![]() ![]() テレビ朝日 新型コロナウイルスの治療薬 (1)新型コロナウイルスの検査について 1)PCR検査について 日本は、上の1番左の図のように、2020年3月5日まで、「①37度5分以上の発熱が4日以上続く場合」「②保健所などの帰国者・接触者相談センターに電話で相談し」「③帰国者・接触者外来などを受診し」「④そこの医師から依頼を受けて」「⑤保健所が必要性を判断すれば」「⑥各都道府県の地方衛生研究所などで検査を受けられる」ことになっていたが、検査を受けるまでの関門が5つもあるため、実際には検査を受けにくい仕組みになっていた。3月6日以降は、保健所を通さずに医師の判断で検査を実施し、民間の検査会社などが検体を調べることができるようになっていた。 3月24日以降は、左から2番目の図のように、症状の要件は緩和されたものの、検査を受けるにはどこかで保健所を通さなければならなかった。しかし、具合が悪ければ、病名を特定するために、まず医療機関を受診して該当しそうな病気に関する検査を受けるのが当然なのである。にもかかわらず、①などの要件をつけて待機させたため、その期間中に重症になったり、死亡したり、保健所で事務的に排除されてPCR検査に辿りつけなかったり、検査後も結果が出るまでに3~7日かかったりなど、これまでの日本の医療ではあり得ないことが続いたわけだ。 しかし、予算委員会では、上の右から2番目の図のように、安倍首相や加藤厚労相は、なるべくPCR検査をしようとする発言をし、検査を妨害する意図はなかったように見える。それでは、誰が、何の目的で、実質的にPCR検査を邪魔していたのかについては、読者の皆さんは、既にそれぞれの解答を持っておられるだろう。 そのような中、2020年5月6日、*1-1-1・*1-1-2のように、加藤厚労相は、これまで「37度5分以上の発熱が続く場合」などとしてきた相談・受診の目安を「息苦しさや強いだるさがある場合、高熱が出た場合、基礎疾患がある人などは軽い発熱でも相談できるよう見直す」という考えを示されたが、“基礎疾患(そもそも範囲不明)”がなくても、高熱(定義できない)でなくても、高齢者(定義不明)でなくても、陽性であれば他人に感染させる可能性があり、リスクが高いとされるグループ以外の人でも場合によっては体調が急速に悪化することもあるため、受診に勝手な要件を設けて受診しにくくすること自体が問題なのである。 従って、私は、*1-1-3の「ウイルスの有無を調べるPCR検査が日本は際立って少なく、人口10万人当たり検査数は、日本187.8人、韓国1198人、米国1752.3人、イタリア3159人、ドイツ3043.5人である」「国内の正確な感染実態を把握せずに、どうして社会経済活動の再開を判断できるのか」「政府の戦略には科学的根拠がない」等の指摘に賛成だ。 しかし、政府が検査を増加するという説明を繰り返しているのに、検査が抑えられる運用が続いていたのは、政治家よりも厚労省(+専門家会議)の主導であるため、政治家が責任をとったり政権を変えたりしても状況は変わらないと思う。従って、本質の方を変えなければならないのだが、行政の言う通りにしか動けない政府や与党も、識見に基づく指導力がなさすぎるだろう。 2)PCR検査を倍にすれば、接触「5割減」でも収束可能 厚労省と専門家会議が、PCR検査を渋って軽度及び中等度の感染者を市中に放置した結果、新型コロナウイルスが市中に蔓延することになったが、*1-1-4の九州大学の小田名誉教授(社会物理学)の「検査数を2倍にすれば接触機会が5割減でも14日で収束し、検査数が4倍なら接触機会を全く削減しなくても8日で収束するなど、接触機会の削減より検査と隔離の拡充の方が対策として有効である」としている。 私は、モデルを使うのなら、小田名誉教授のモデルの方が、スペイン風邪流行時のモデルを使っているらしい専門家会議のモデルよりも、現代の医療に適合しており正しいと思う。さらに治療薬を使えば、回復が早くなり、隔離を要する病気でもなくなるだろう。 なお、国は1日のPCR検査の能力を2万件まで拡充できるとしているので、少なく見積もっても検査数を2倍にすることはでき、さらに、*2-1のように、唾液でPCR検査を行ったり、全自動の機械を使ったりすれば、その他のネックもなくなるため4倍以上にすることも可能だ。そして、これらの工夫を最初の1カ月で行えば、「Good Job!」と言うことができて、日本医療の信頼を損なわずにすんだ筈だった。 (2)不十分な検査体制は日本医療の恥だが、それによる被害者は誰か? 1)政府の方針 厚労省で感染症対策などを担当してきた自民党衆議院議員の国光氏は、*1-2-1のように、「①日本のPCR検査数が海外に比べて少ないのは、欧州などが軽症者を対象とするのに対し、日本は重症者から検査するためだ」「②国が37.5度以上の発熱が4日以上続くとしてきた受診の目安を緩めるのは評価するが、実際に検査するかは医師の判断なので、国は他の病気と同様に医師の検査基準を示してほしい」「③医師が検査すべきと判断したら保健所につなぐ」「④保健所は4日以上の発熱などの症状がなければ検査しない例があり、保健所が医師の判断を尊重する仕組みも必要だ」「⑤米国や韓国などで普及するドライブスルー方式は短時間で効率は良い」 「⑥国が地域ごとのPCRセンターを指定して検査を集約し、かかりつけ医がそこを紹介する体制がより効率的だろう」「⑦民間の検査機関を使う場合は病院から検体を送るのに2日など時間がかかる。民間は国指定のPCRセンターに協力すべきだ」「⑧PCR検査以外でも最低3~4時間で終わる『LAMP法』などの導入を支援すべきだ」「⑨関連法令を緊急に改正し条件や期限付きで担い手を広げるのも一案だ」などとしている。 このうち、①②については、軽症者も時々刻々と症状が悪化するケースがあることを考えれば、医師の判断で他の病気も含めて速やかに検査する必要があり、検査するかしないかの判断に保健所をかませたことが失敗の始まりなのである。従って、③④の保健所との関係は、事後報告でよいこととするように、⑨の関連法を変えるべきである。 さらに、⑤⑥⑦⑧については、工夫はいろいろとあるため、医療機関や民間検査センターよりも行動の遅い厚労省や保健所をカットするのが、最善の方法に思える。 具体的に、保健所を通す方法は、*1-2-2のように、⑩検査の実施が滞って、発症から陽性確定まで7日間など長期化させ ⑪検査の機能不全を背景にした陽性判明の遅れが重症化リスクを高め ⑫陽性と判明していない感染者と他者との接触機会を増やしていた。そのため、“医療崩壊”を避けながら感染拡大を防ぐには、大学・研究所・民間検査機関を含めて検査機関を増やしたり、簡易検査キットを使ったりするなどの改善が必要なことは明らかだ。発熱から4日以上たってPCR検査を受け、7日も結果を待っていれば、その間に悪化する人は多い筈である。 さらに、⑬PCR検査の実施数は全国で1日8000件前後が続くが、民間検査会社の受託は2000件ほどで、残りは国立感染症研究所(東京・新宿)や地方衛生研究所などの公的機関であり ⑭民間検査数は2月下旬まではゼロの日もあったし ⑮熱が出て気分が悪いといった程度ではすぐに検査を受けてもらえない状況で ⑯京都大学病院は、院内感染予防の視点から、無症状でも公費でPCR検査を受けられるようにすべきとの声明を出していたそうだ。 しかし、日本は世界でも類を見ないクラスター潰しに専念し、クラスターに入ると見做された無症状者や軽症者を優先して入院させていたため、“孤発例(誰かから感染しているので、そんな筈はないが・・)”という非科学的な呼び名の経路不明な症状のある感染者の検査や治療に医療資源が廻らなかったそうなのである。 なお、宮城県内で確認された新型コロナ感染者88人は、*1-2-3のように、感染経路不明な人ほど検査まで時間を要し、発症からPCR検査の結果が出るまでの最長は16日かかっており、最長の20代の男性は、4月9日に家族の感染が分かって11日に陽性と判定され、家族の感染がなければ検査すら受けられなかった可能性が高いそうだ。 また、経路不明の仙台市の50代の女性は、医療機関を2カ所回った後、相談センターから紹介された一般医療機関の求めで検査を受け陽性判明まで9日かかったそうだが、感染者の初期症状は多様であるため、国が目安としていた「37.5度以上の熱が4日以上」「高熱・・」等に当てはまらない感染者は少なくない筈だ。 2)まとめ 私も、*1-2-4のように、不十分なPCR検査体制は日本の恥であり、日本で新型コロナによる死者数が少ないのは、検査数が少ないため死因を新型コロナに分類されず、肺炎等の他の病気に分類されたり、原因不明とされたりしている人が多いという理由があると思う。 さらに、新型コロナウイルスは肺炎だけがクローズアップされているが、味覚だけでなく、消化器にも異常をきたしたり、ウイルス性髄膜炎になったりなど、時間の経過とともに人間の免疫の方がウイルスに負け、ウイルスが増殖して全身に広がるにつれて、身体へのダメージは大きくなる。そのため、検査数を増やして早期発見・早期治療することが必要だったのであり、死んでから冥福を祈られても浮かばれないのである。 (3)日本における実用化の壁は何か? 日本医師会の横倉会長は、*2-1のように、唾液で判定するPCR検査法の実用化を訴えられたそうだ。これは、米国で開発され、北海道大学で試験が進められており、鼻の奥や喉から粘液を採取する方法と同じ結果が出る上、手軽で医療関係者への感染リスクを減らすことが期待できるそうだ。よいものは、欠点を探して停止させるのではなく、早々に採用して欠点を補いながら使った方がよいと私も考える。 また、スイス製薬大手のロシュは、*2-2のように、新型コロナウイルスの抗体検査薬が米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得たと発表し、判定確率は100%に近いそうだ。日本でも5月中に承認申請する方針で、抗体検査の精度が高まれば、免疫を持つ可能性のある人を特定しやすくなり、経済活動の正常化に役立ちそうである。 そのほか、*2-3のように、「富士レビオ」が新型コロナ患者の検体から15~30分で検出できる「抗原検査キット」を開発し、医療現場において15分程度で判定可能となるので、政府は5月13日に薬事承認する方針だそうだ。私も、PCR検査などとの組み合わせで活用すれば、医療現場でのツールとして価値が大きいと考える。 しかし、*2-4は「①日本も東京と東北地方で調査が進むが、検査キットの精度などを巡り課題が指摘されている」「②『大規模な抗体検査と診断で市民は安全に仕事に戻れる』とNY州のクオモ知事が抗体検査の意義を強調したが、精度に難点がある」「③そもそも免疫できない?」と記載しており、日本では、無理に欠点を探して実用化を阻む後ろ向きの声が多く、開発者に非生産的な時間と苦労をかけるのである。 例えば、①②の検査キットや抗体検査の精度が仮に90%しかなかったとしても、90%の確率では当たって傾向がわかるため、何もせず傾向を全く把握していないよりはずっと良い。さらに、使いながら改良すれば精度は上がるため、何もせず、いつまでも0の状態でいるよりも始めた方がずっとよいのである。 また、③の免疫ができないというのは、想像によるいちゃもんに過ぎない。何故なら、新型コロナから回復した人の血漿で重症患者が回復したという事実は、血液中に抗体ができ、それが新型コロナウイルスを打ち負かしたからにほかならないからだ。これを戦国時代に例えると、自分の兵隊(免疫)が新型コロナウイルスという敵に負けて全滅しかかっている時に、他国から強い援軍をさしむけてもらったようなものなのである。 なお、新型コロナ感染者が多い米東部ニューヨーク州のクオモ知事は、*2-5のように、州内の医療従事者に対して感染歴を調べる抗体検査を行った結果、陽性割合が一般市民より低く、医療従事者が着用しているマスクや防護服に感染防止の効果が見られるということを明らかにしたそうだ。そのためにマスクや防護服を身に着けるので当たり前なのだが、抗体検査によって数量的なエビデンスを得た点が新鮮だ。 (4)あるべきスケジュールはこうだった 1)大型クルーズ船の扱いは失敗だったこと 大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客は、2020年2月5~19日の14日間の隔離を終了して、*1-3-1のように、新型コロナの感染が確認されなかった約500人が下船したが、船内の感染対策が不十分であったため、隔離期間に感染を広げて乗客乗員542人を感染させたのが第1の不手際だ。 そのため、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスの各国政府は、ダイヤモンド・プリンセスから政府チャーター機などで帰国した人たちに対し、さらに14日間の隔離措置をとり、韓国は自国民以外はダイヤモンド・プリンセス号の乗客の入国を禁止する方針を示した。しかし、日本の当局者は、「自分たちの対応は適切だった」と主張している。 日本は、日頃からクルーズ船を誘致しているため、いざという時には適切なケアができなければならないし、そういう実績を積み重ねていくことによって初めて、クルーズ船の誘致が容易になったり、日本の医療水準の高さが認められて医療観光が視野に入ったりするのだ。そのため、大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への対応は、今後の日本経済にとって大きなマイナス(成績なら“不可”)になった。 2)医療現場は仕方なくCTで判定 PCR検査ができなかったため、*1-3-2のように、医療現場では、新型コロナ感染症の重症度判定にCTの画像診断を使い始めた。そのため、「肺炎を起こすような重症例についての見落としは少ない」と、政府専門家会議の尾身副座長が述べている。 しかし、重症(既に免疫が負けてウイルスが増えた状態)になってから、人工呼吸器やECMOを使っても患者に負担をかける割に回復の見込みが小さいため、CT検査で肺に影が出る前に検査して治療するのが正攻法であり、その準備は、「ダイヤモンド・プリンセス」に対応していた2月中に、情報をかき集めて行っておかなければならなかったし、やろうと思えばできた筈だ。 (5)ワクチンの開発 米政府は、*3-1のように、新型コロナウイルスのワクチン開発を急ぎ、米国生物医学先端研究開発局がJ&Jに約10億ドル投じて開発を本格化させているほか、米バイオ企業モデルナにも最大4億8000万ドル拠出してワクチンの開発と生産体制の整備を支援し、承認されたワクチンを早急に量産できるよう後押しし、年内に数億本の量産体制を目指すとのことだ。 ここで、日本人には、「ワクチンの安全性・有効性を確かめる臨床試験は通常1年~1年半を要するのに、約8カ月で医療現場に投入する計画は安全性を無視している」などと言う人が少なくないが、安全性・有効性とスピードは両立できないものではないため、ピンチをチャンスに変えて利益を出すためには、安価で質の高いものを作って最初にゴールすることが必要だ。 その理由は、世界で需要のある新型コロナワクチンは、安全性・有効性と世界一のスピードが達成できれば大きな利益を生むが、そうでなければ設備投資が無駄になって大きな損失を抱え込む可能性が高いからだ。新型コロナのワクチン候補は現在約50あり、ワクチンや特効薬の開発に成功すれば経済活動を停滞させる外出制限などの対策をとる必要がなくなるため、欧州や中国も国力をあげて開発を進めているそうだ。 また、*3-2のように、世界では70を超えるワクチンの開発プログラムが進んでおり、日本では大阪大学と大阪大学発バイオベンチャーが、「DNAワクチン」という新しい手法を用いたワクチン開発に取り組むことを表明し、3月24日には動物実験用の原薬開発に成功している。 これは、大腸菌を培養することで得られる「プラスミドDNA」に新型コロナウイルスの表面にあるタンパク質の一部を作り出す遺伝子を組み込んで体内に投与すると、体内で目的のタンパク質が作られ、免疫システムがそのタンパク質を排除対象として認識し、ウイルスが体内に侵入した時にウイルス表面にあるそのタンパク質を目印として排除する仕組みで、増産が簡単なので値段を安くでき、年内に医療従事者を中心に十数万人に接種することを目標にしているとのことだ。 そのような中、*3-3のように、欧州委員会の呼びかけで国際会議が開かれ、ワクチン開発に世界が協力するとして、参加者が総額80億ドル以上の拠出を約束し、欧州委員会のライエン委員長は、これらの資金が前例のない国際協力の端緒になるとし、資金はさらに必要になるだろうと警告したそうだ。日本はこの中に入っているが、アメリカ・ロシアは参加せず、中国はEU大使が儀礼的に参加したのみで、ワクチン開発が進んで既に実用化が視野に入っている国は、自国のワクチン候補に資金を投じた方がメリットが大きいのである。 (6)治療薬 1)抗ウイルス薬の重要性 新型コロナウイルスの治療薬としては、さまざまな薬が候補にあがっており、抗ウイルス薬「レムデシビル」は5月7日に承認され、抗ウイルス薬のアビガンも5月内に承認されそうだ。 福岡県医師会は、*4-1のように、新型コロナウイルス感染症への効果が期待される新型インフルエンザ治療薬「アビガン」を、主治医が重症化の恐れがあると判断した場合は軽症でも早期投与できる独自の体制を整え、このように「主治医等が重症化の可能性を憂慮する患者」を対象に明記したことで、主治医が必要と判断すれば軽症でも早期投与が可能になった。 2)他の病気との類似性 ← 一致しているのでは? 米ニューヨーク市保健局は、*4-2のように、5月4日、2~15歳の15人で「多臓器炎症型疾患」が確認され、それは、高熱や発疹、腹痛、吐き気、下痢などがみられる川崎病に似た症状で、うち10人が新型コロナのPCR検査や抗体検査で陽性が判明し、感染歴があることが分かったと発表した。 新型コロナ感染拡大に伴い、同じような症例が英国・フランス・スペイン・イタリアなど欧州でも相次いで報告されており、「免疫の過剰反応で血管に炎症が起き、血栓ができやすくなった状態」と説明されているが、多臓器炎症は、免疫が負け始めてウイルスが増殖し、血管を通じて体中に廻った状態ではないかと、私は思う。 実際、*4-3のように、敗血症(感染症を起こしている細菌・ウイルス・真菌・寄生虫等が増殖して炎症が全身に広がり、重大な臓器障害が起きて重篤になっている状態)は、感染症がきっかけとなって起きる症状で、その原因となる菌を見つけて、それに対する治療を早期に開始しなければ命に関わる。 そして、どんな感染症でも、免疫の方が負ければ敗血症を起こす可能性があり、特に免疫力がまだついていない乳幼児や、高齢者、糖尿病などの慢性疾患やがんなどの基礎疾患がある人や、病気治療中で免疫力が低下している人は、感染症から敗血症を起こすリスクが高いのである。 そのため、治療には、その感染症の原因となっている病原体を早急に特定して治療を開始することしかない。薬物治療であれば、細菌の場合は抗菌薬、ウイルスの場合は抗ウイルス薬、真菌の場合は抗真菌薬、寄生虫の場合は抗寄生虫薬を用いる。そして、発見が遅れるほど死亡リスクが高まり、助かった場合でも後遺症が残ることが多いのである。 (7)教育について ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:1番左は幅120cmの机、左から2番目はそれに合わせる引き出しで、並べ方によって人と人の距離を調節することができる。また、右の3つは、アクリル板を使った透明なパーティションで、学校・オフィス・役所などで自然な形で使うことが可能だ。そのため、こういうものを作れる会社は、結果的にビジネスチャンスになった) 状況を理解して適切な判断をし、的確な行動に結び付けたり、主権者として政策を理解した上で選択したりできるためには、教育が重要である。 このような中、私は東大同窓会の会員なので、*5-1のように、東京大学総長の五神先生から、新型コロナウイルス感染症に関連する対応に関する総長メッセージが届いた。その中には、①東大は、学生の学びの機会を確保するために、オンライン授業への全面的な移行を進めた ②学生それぞれの接続環境によって不公平が生じないよう対策を講じている ③東大の研究力を活かして治療に寄与する薬剤の同定・検査技術の開発・疫学的解析など、様々な分野で研究・開発を進め、これまでにも感染阻止の効果が期待できる国内既存薬剤を同定したことを発表した ④PCR検査を迅速に行える検査機器の導入・コロナ対応ICUの整備・中等症患者に対応する病棟開設など全診療科の医師・看護師が参加して医療体制の充実を図った ⑤財政的基盤が脆弱な東大発ベンチャー企業の支援等の多数のことが必要で財政的下支えを要するため支援が欲しい ⑥東大は開学140年にわたる知の協創の拠点として、世界最高水準の学問の叡智を結集させ、この人類の新たな脅威に全力で立ち向かう所存だ 等が書かれていた。 このうち、③④は、新型コロナに直接的に関係するものであるため頑張って欲しいし、⑤⑥も、同窓生を含めた全学の知恵を結集すれば、新たな手法が出てくるだろう。そして、これは、他大学も同じだ。 また、①②は、オンライン授業とそれを可能にする接続環境を整備することによって、教育の新しいツールができたことを意味するが、関心のある授業を学外からオンラインで受講できるようにすると、東大の教官は優秀なので、高校生から定年後の大人にまで役立つと思う。 一方、*5-2のように、佐賀県内の県立学校や各市町の小中学校などが14日から再開されるが、文科省ガイドラインの児童生徒同士の座席を1~2メートル離すというのが、40人規模の学級を抱える大規模校で難しいそうだ。そして、生徒一人に一台のiPadを配ってICT教育を進めている武雄市でさえ、授業を20人以下で行う方針を示しつつも、教員数の問題があって全授業での実施が難しいのだそうだ。しかし、教員数は、教員の定年を延長したり、退職した教員に復職してもらったり、ポスドクを採用したりすれば解決できると思われる。 世界では、*5-3のように、新型コロナウイルス対策の全国的な休校で、全世界の72%、約13億人が登校できていないそうだ。私は、学力の「格差」よりも学力の「低下」の方が問題だと思うが、フランスは小学校は1学級15人以下として校内の動線を決め接触を減らすなどして感染を防ぎ、オンライン授業が広がる米国では、インターネット環境が整わない家庭の子どもの学習支援で官民が連携しているそうだ。 日本は、2020年4月22日時点で小中の95%、高校の97%が休校していたが、公立小中高校の95%は同時双方向のオンライン指導ができていない。オンライン教育をやりたい時にはいつでもやれる体制にしておけば、それを利用したい生徒は、塾や大学の授業を聴講したり、外国の学校の授業を聴講したりもできて便利だと思う。 <参考資料> *1-1-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200506/k10012419171000.html (NHK 2020年5月6日) PCR検査 相談・受診の目安見直し 「発熱」も 近く公表 新型コロナウイルスのPCR検査について、加藤厚生労働大臣は、これまで「37度5分以上の発熱が続く場合」などとしてきた、相談・受診の目安について、高熱が出た場合や基礎疾患がある人などは軽い発熱でも相談できるよう見直し、近く公表する考えを示しました。加藤厚生労働大臣は、6日神奈川県が進める「神奈川モデル」と呼ばれる医療体制のうち、中等症の患者が入院する「重点医療機関」に指定されている医療機関を黒岩知事と視察し、関係者と意見交換を行いました。このあと加藤大臣は記者団に対し、新型コロナウイルスのPCR検査をめぐり、これまで「37度5分以上の発熱が4日以上続く場合」などとしてきた相談・受診の目安について、「自宅で体調が急速に悪化する事例なども出てきているので、専門家や医療関係者、保健所の方々に素案を出して意見を聞いている」と述べ、見直しを進めていることを明らかにしました。そのうえで、新たな案について、「『高熱』と『発熱』という2つの概念を出す。『高熱』だと思った方はすぐ検査に行っていただく」と述べ、目安には基準とする体温の数値は明記せず、高熱が出た場合や基礎疾患がある人などは軽い発熱でも相談できるよう見直し、近く公表する考えを示しました。一方、加藤大臣は、「雇用調整助成金」の申請手続きについて、従業員20人以下の事業者については、一部簡素化して、申請に必要な平均賃金の算定を省略できるよう見直すことを明らかにしました。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58899960Y0A500C2EA2000/ (日経新聞 2020/5/8) 「37.5度以上」削除 PCR相談目安改定 幅広い受診促す 厚生労働省は8日、新型コロナウイルスが疑われるとして診察やPCR検査を受ける際の「相談・受診の目安」を改定し、「息苦しさや強いだるさ、高熱」がみられた場合にはすぐに相談するよう呼びかけた。これまでは「37.5度以上の発熱が4日以上」などの具体的条件を設定していたが、条件に満たない場合は検査を受けられないとの誤解が出ていた。従来の基準は検査の実施を抑える方向に働いていた可能性がある。新たな目安では、感染が疑われる人をより幅広く検査することで見落としをなくし、感染の再拡大を防ぐ狙いが鮮明になっている。新たな目安では、37.5度との数値基準を削除し、高熱など強い症状がある場合はすぐに相談してもらう。重症化しやすい高齢者や持病がある人、妊婦などは発熱やせきなど比較的軽い風邪の症状でも相談してもらう。従来の目安は厚労省が2月17日に公表。目安に当てはまると判断すれば、都道府県などが設置する「帰国者・接触者相談センター」に電話し、帰国者・接触者外来を紹介してもらう仕組みだった。だが目安に当てはまらないとして診察や検査を受けられないケースが相次ぎ、自宅療養中に容体が急変する事例も出た。同省の担当者は4日以上などとした従来の目安について「症状が短期間で治まることの多い季節性インフルエンザと区別するため、一定期間様子をみてもらう趣旨だった」と説明。インフルエンザが終息したことも受け、目安の見直しを決めたとしている。 *1-1-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1118607.html (琉球新報社説 2020年5月8日) PCR検査の拡充 政府の無為無策問われる 新型コロナウイルスの感染拡大で世界が出口に向けた模索を始める中で、ウイルスの有無を調べるPCR検査が日本は際立って少ない。国内の正確な感染実態を把握せず、どのように社会経済活動の再開を判断できるというのか。政府の出口戦略には、科学的根拠において不備があると言わざるを得ない。安倍晋三首相は4月6日の政府対策本部でPCR検査の実施可能数を全国で1日2万件に増やすと公言した。だが、現状の実施数は1日8千件前後と一向に増えておらず、対応の遅れが明らかだ。他国と比較したPCR検査の不十分さは政府の専門家会議も認めている。専門家会議が4日に示した資料から人口10万人当たりの検査数を見ると、日本が187・8人なのに対し、隣国の韓国では1198人、米国は1752・3人だ。イタリアは3159人、ドイツは3043・5人と3千人を超える国もあり、日本とは桁が違っている。有識者会議は、日本で検査能力が早期に拡充されなかった理由として、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の経験を踏まえて検査拡充を進めていた国々に比べ、日本では「PCR等検査能力の拡充を求める議論が起こらなかった」と指摘した。そのため、重症化の恐れがある人や濃厚接触者の診断のための検査を優先せざるを得なかったとしている。しかし、徹底したPCR検査が必要だという指摘は、新型コロナの国内での感染が始まった早い段階から上がっていたはずだ。緊急事態宣言をさらに延長する現状において、過去の感染症の経験に結び付けて検査の少なさを説明しているのは、現在進行形の対策の誤りを認めない言い逃れのように映る。新型コロナのような治療方法が確立されていない感染症については、検査で陽性者を特定し、隔離・治療して感染の拡大を封じ込めるしかない。世界保健機関(WHO)は「検査、検査、検査」と述べ、徹底的なウイルス検査を各国に求めていた。だが、日本政府は表面上検査を増加するという説明を繰り返しながら、実際には検査を抑える運用が続いてきた。軽症者が病院に殺到するのを防ぐ狙いから、感染疑いで受診する目安として37・5度以上の発熱が4日以上続いた場合などの基準を示してきたのはその一例だ。加藤勝信厚生労働相は6日になり、目安を見直す方針を示した。受診の基準を満たしていないことを理由に、検査を受けられない例が相次いでいるためだ。これまでの政府の無為無策が問われる。医療・研究機関などと連携して検査従事者の養成、機器の増産、迅速診断の確立などの課題解決に取り組み、十分なPCR検査を実施できる態勢を早急に整えるべきだ。 *1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN557T4WN54ULBJ01C.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2020年5月6日) PCR検査を倍にすれば、接触「5割減」でも収束可能? 新型コロナウイルスのPCR検査を増やすことで自宅などで隔離療養する感染者を倍増できるなら、国民の接触機会は、国が求める「8割減」でなく「5割減」でも、感染は早期に収まるとする計算結果を、九州大学の小田垣孝名誉教授(社会物理学)がまとめた。経済活動と感染拡大防止の両立の「かぎ」はPCR検査にあることを定量的に示したもので、議論を呼びそうだ。小田垣さんは、感染拡大防止のために国が施策の根拠の一つとして活用する「SIRモデル」を改良。公表値を使って独自に計算した。SIRモデルは、まだ感染していない人(S)、感染者(I)、治癒あるいは死亡した人(R)の数が時間とともにどう推移するかを示す数式で、1927年、スペインかぜの流行を解析するために英国で発表された。疫学の専門家でなくても理解できる平易な数式で、1世紀を経た今回のコロナ禍でも国内外の多く識者がこの数式を現実に則して改良しながら、さまざまな計算結果を導いている。小田垣さんによると、このモデルの難点は、感染者を、他人にウイルスを感染させる存在として一律に扱っている点だ。だが、日本の現実の感染者は一律ではない。そこで、無症状や軽症のためPCR検査を受けずに通常の生活を続ける「市中感染者」と、PCR検査で陽性と判定されて自宅やホテルで隔離生活を送る「隔離感染者」の二つに感染者を分け、前者は周囲に感染させるが、後者は感染させないと仮定。さらに、陽性と判定されたらすぐに隔離されると仮定し、検査が増えるほど隔離感染者が増えて感染が抑えられる効果を考慮してモデルを改良し、解き直した。「接触機会削減」と「検査・隔離の拡充」という二つの対策によって新規感染者数が10分の1に減るのにかかる日数を計算したところ、検査数を現状に据え置いたまま接触機会を8割削減すると23日、10割削減(ロックアウトに相当)でも18日かかるとした。一方、検査数が倍増するなら接触機会が5割減でも14日ですみ、検査数が4倍増なら接触機会をまったく削減しなくても8日で達成するなど、接触機会削減より検査・隔離の拡充の方が対策として有効であることを数値ではじき出した。国は1日のPCR検査の能力を2万件まで拡充できるとしているが、実施数は最大9千件にとどまる。小田垣さんは「感染の兆候が一つでも表れた時点で隔離することが有効だろう。接触機会を減らす対策はひとえに市民生活と経済を犠牲にする一方、検査と隔離のしくみの構築は政府の責任。その努力をせずに8割削減ばかりを強調するなら、それは国の責任放棄に等しい」と指摘している。現実に実験したり調べたりすることが難しい状況で、モデル計算によって現実を再現するのがシミュレーションだ。一部の実測データをもとに全体を推測したり、どのような対策が最も効果的かを推定したりするのに使われる。国がコロナ禍を乗り切る政策判断にあたって根拠とするシミュレーションは、厚生労働省クラスター対策班が担う。1日の専門家会議では、同班が算出した「実効再生産数」のグラフが初めて示された。実効再生産数は、「ひとりの感染者が周囲の何人に感染させるか」を示す数字で、政策判断の目安として注目される。その数値の妥当性はどうか。シミュレーションは使うモデルやデータ、前提条件によって結果が大きく変わる。国の公表する新規感染者数や検査数などのデータは、最新の結果を反映していなかったり、すべての感染者を網羅できていない可能性があったりするなど信頼性に難がある。そのような中で、計算結果の正しさを主張するなら、計算手法や使う数値などの情報を公開すべきだが、これまで明らかにしていない。シミュレーションの妙味は、データ不備などの悪条件下でも、起きている現象の本質を捉えることにある。今回、小田垣孝・九州大名誉教授の結果は、「検査と隔離」という感染症対策の基本の重要性を示した。その徹底によって感染者数を抑え込んだ韓国の事例をみても、意義の大きさは論をまたない。PCR検査の件数がなかなか増えなかった日本では、市中感染者の実像を十分につかめていない。4月7日に緊急事態宣言が出て以降、国は「行動自粛」によって時間をかせぎ、その間に検査を拡充して医療態勢を整備し、次の波に備える作戦を取った。全国民を巻き込む施策を続ける以上、政策判断が恣意的であってはならない。西村康稔経済再生担当相が4日の会見で、今後の政策判断として「科学的根拠をもとに、データに基づいて」を強調したのはこうした理由からだろう。国のシミュレーションはクラスター対策班が一手に握る。詳しいデータの早期公開を実現し、他の専門家の試算も交えながらオープンな議論を進めるべきだ。その過程を経ずして「科学」をかたってはならない。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200510&ng=DGKKZO58917170Z00C20A5EA3000 (日経新聞 2020.5.10) 新型コロナ 政策を聞く〈PCR検査〉 国指定拠点に集約を 自民・衆院議員 国光文乃氏(くにみつ・あやの 東京医科歯科大院修了、内科医。厚労省で感染症対策などを担当。岸田派。衆院茨城6区、41歳) 日本のPCR検査の数が海外に比べて少ないのは、欧州などが軽症者を対象とするのに対し日本は重症者から検査するためだ。軽症者らが受けられていない恐れはある。国が「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などとしてきた受診の目安を緩める方針は評価するが、実際に検査するかは医師の判断だ。国は他の病気と同様に医師の検査基準を示してほしい。医師が検査すべきと判断したら保健所につなぐ。保健所は4日以上の発熱などの症状がなければ検査しない例があった。保健所が医師の判断を尊重する仕組みも必要だ。米国や韓国などで普及するドライブスルー方式は短時間で効率は良い。日本も一部の医師会や自治体が導入しており検査拡充の一助になる。国が地域ごとのPCRセンターを指定して検査を集約し、かかりつけ医がそこを紹介する体制がより効率的だろう。民間の検査機関を使う場合は病院から検体を送るのに2日など時間がかかる。民間は国指定のPCRセンターに協力すべきだ。医師ら法令で認める担い手で検査し切れない懸念はある。PCR検査以外でも最低3~4時間で終わる「LAMP法」などの導入を支援すべきだ。関連法令を緊急に改正し条件や期限付きで担い手を広げるのも一案だ。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20200510&be=・・ (日経新聞 2020.5.10) コロナ検査 機能不全 結果まで1週間も 民間拡大カギ 新型コロナウイルスに感染しているかどうかを判断するPCR検査の体制が感染者の拡大傾向に追いつけていない。検査の実施が滞っており、発症から陽性が確定するまでの期間が1週間と長期化し始めた。検査の機能不全を背景にした陽性判明の遅れは重症化リスクを高めるほか、潜在的な感染者と他者との接触機会を増やしかねない。医療崩壊を避けながら感染拡大を防ぐためにも、国による民間への検査委託の拡大や簡易検査の後押しが必要だ。日本経済新聞がコンサルティング会社、ジャッグジャパン(東京)が収集した陽性事例のデータを基に分析したところ、発熱やせきなど新型コロナウイルスの症状が出てから検査で陽性が確定するまでの期間は、7日移動平均で4月18日時点が7.3日と4月初旬から1.8日延びた。感染者数が拡大し検査を迅速にこなせなくなっているもようだ。厚生労働省は、重症化する人は発症から7日以降に肺炎症状が悪化するとしている。検査体制の強化が課題となるなか、民間への検体検査の委託拡大が急務だ。4月中旬以降、PCR検査の実施数は全国で1日当たり8000件前後が続く。うち民間検査会社の受託は2000件ほどで、残りは国立感染症研究所(東京・新宿)や地方衛生研究所などの公的機関だった。民間検査数は2月下旬まではゼロの日もあった。みらかホールディングス(HD)など国内の主要な検査会社の検査能力の合計は1日当たり約4000件とまだ余裕がある。各自治体の指定病院は、検査を民間ではなく地方衛生研究所に委ねる傾向が目立つ。「感染症は国が担うものだとの意識が強い」(検査会社)。長野では県が優先度に応じて民間か行政かの検査委託先を決める方針だが、こうした調整に乗り出す自治体はまだ少ない。民間が主に担ってきた軽症者の検体検査が増えにくい問題もある。現状では、熱が出て気分が悪いといった程度ではすぐに検査を受けられない。京都大学病院は15日、院内感染予防の視点から「無症状であっても公費でPCR検査を受けられるようにすべきだ」との声明を出した。香港や韓国では簡易キットも駆使した検査の大量実施が進む。日本でも楽天が20日、新型コロナウイルスの感染の可能性が分かる自宅でできる検査キットを発売した。ただ日本医師会が22日に「採取の方法が不適切であれば結果は信頼できず混乱を招く」との意見を出すなど医師を介さない検査は普及に壁がある。安倍晋三首相は6日、PCR検査の1日当たりの能力を2万件に倍増すると表明したが、進捗は遅く政府でも危機感が高まりつつある。「全国で同様の取り組みが広がるよう支援する」。加藤勝信厚労相は23日、東京都新宿区に新設されたPCR検査センターを視察した。検体検査はみらかの子会社に委託する。自民党の塩崎恭久元厚労相は「政府がクラスター(感染者集団)潰しを重視しすぎて検査体制の強化が後手に回った」と指摘している。 *1-2-3:https://www.kahoku.co.jp/special/spe1211/20200501_08.html (河北新報 2020年5月1日) PCR検査陽性判明まで最長16日 宮城県内88人、経路不明者は平均8日 宮城県内で確認された新型コロナウイルス感染者88人を見ると、発症からPCR検査の結果が出るまでの最長期間は16日だった。発症から結果確定までをゼロ日とカウントした無症状者を含む全体の平均は6.6日。濃厚接触者は比較的早く検査を受けられたが、感染経路が不明な人ほど検査まで時間を要する傾向がある。感染経路が判明した濃厚接触者らに限れば平均5.5日(無症状者8人含む)で、経路不明者だけの平均は8.0日だった。経路不明の場合でも、東京から仙台市に引っ越した人や外国人の場合(計4人)は3~5日だった。陽性判明まで最も時間がかかったのは仙台市の20代男性。3月27日に発熱し、帰国者・接触者相談センター(保健所)の紹介で一般の医療機関を受診後、同30日に熱が下がった。4月9日に家族の感染が分かり、11日に陽性と判定された。家族の感染が判明しなければ、男性は検査を受けられなかった可能性が高い。経路不明の仙台市の50代女性は医療機関を2カ所回った後、相談センターから紹介された一般の医療機関の求めで検査を受けた。陽性判明まで9日かかった。感染者の初期症状は発熱、悪寒、倦怠(けんたい)感、せき、鼻づまり、関節痛、味覚や嗅覚の異常など多様。風邪の症状に似ており、無症状のケースもある。国が受診・相談の目安として出した「37.5度以上の熱が4日以上」に当てはまらない感染者が少なくない。 *1-2-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN555QVWN54UTIL02Q.html?ref=mor_mail_topix1 (朝日新聞 2020年5月5日) 「不十分なPCR検査体制、日本の恥」 地方からの異論 国の専門家会議が、対応が不十分だったとようやく認めた新型コロナウイルスのPCR検査体制。緊急事態宣言の解除に向けても、検査による現状把握は重要なカギだ。体制強化が進まず、検査を受けるべき人が受けられない状況に異を唱えてきたのは、現場をつかさどる地方のリーダーたちだった。 ●国の専門家会議を痛烈に批判 厚生労働省の発表によると、4月下旬の国内のPCR検査件数は1日約7千~9千件ほど。安倍晋三首相は4月6日に、PCR検査の実施能力を1日2万件に増やす方針を示したが、約1カ月たっても一度も1万件に達していない。4月1日の記者会見で「日本ではコミュニティーの中での広がりを調べるための検査はしない」と述べていた専門家会議の尾身茂副座長は、5月4日の会見で「確かに日本はPCRのキャパシティーを上げるということが、他の国に比べて遅れた」と認める一方で「死亡者のようなものは、だいたい正しい件数がピックアップされている」とも述べた。「PCR検査の不十分な体制は日本の恥」「惨憺(さんたん)たる状況」。現状を強く批判し、検査拡充の必要性を直言してきたのが、山梨大の島田真路(しんじ)学長(68)だ。島田学長は2002~03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行の際、同大医学部付属病院の感染対策委員長を務めた。今回の新型コロナに対して、付属病院はPCR検査の態勢を強化。クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスの乗客ら計14人の患者を受け入れてきた。3月6日に搬送された意識障害のある20代男性については、翌日のPCR検査で陽性が判明し、「髄膜炎の原因が新型コロナである可能性が極めて高い」と発表した。同31日に心肺停止で救急搬送された0歳女児の感染が判明した際は、ただちに医師や入院患者ら50人余りを検査し、救急体制も見直した。島田学長は自らの経験を踏まえ、医療関係者向けのサイト「医療維新」に3~4月に、「山梨大学における新型コロナウイルス感染症との闘い」と題した論考を計5回執筆。大学のホームページにも掲載した。検査が増えない理由について学長は、国の専門家会議が2月下旬に「限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要がある」と表明したためとし、「検査上限を世界水準からかけ離れた低値にとどまり続けさせる大失態を招来した」と強く批判した。「3月下旬まで(自治体の)地方衛生研究所・保健所が検査をほぼ独占してきた」とも指摘。最前線で闘い続けている職員たちに謝意を示しつつ、週末に検査件数が下がっている事実も挙げて、行政機関のみに依存する体制を「そもそも無理筋」とした。専門家会議は5月4日の提言で保健所の体制強化を掲げたが、島田学長は論考の中で、早急な立て直しのためには、民間検査会社と地方の国立大学が大きな役割を担うべきだと主張した。さらに「未曽有の事態の今だからこそ、権威にひるまず、権力に盲従しない、真実一路の姿勢が全ての医療者に求められている」と訴えた。島田学長は4月30日の朝日新聞の取材に対して、国内の現状について「市中感染が広がり、原因不明で亡くなっている人もいるが、検査が少ないので実数がつかめていない」と指摘。「感染の疑いのある人が広く検査を受けられていない。国が検査を増やすと決めたなら、方針を変えたとはっきり自治体に伝え、マインドチェンジをする必要がある」と述べた。山梨大では、県内の検査体制拡充に向け、8日からドライブスルー方式の検査を始める予定だ。 ●和歌山県、当初から異議 「37・5度以上の熱が4日以上続くなら相談を」。新型コロナの受診について国が2月から示してきたこの目安に、当初から異を唱え、積極的にPCR検査を実施することで早期発見をめざしたのが和歌山県だ。仁坂吉伸知事は、県内の病院などで感染が確認された2月から、自ら記者会見に対応。「早期に発見し、感染が他に広がらないようにすることが大事。家にいることで、二次感染をさせてしまう可能性や重症化する可能性もある」と指摘し、自宅待機を推奨する国の姿勢に異論を唱えてきた。県では、発熱などの症状がある場合は、早めにかかりつけ医などを受診するよう呼びかけている。X線で肺炎像が確認されるなど、医師が必要と判断した場合はPCR検査を実施。陽性の場合は濃厚接触者らに対してもPCR検査し、感染者の早期発見に努めてきた。県内で確認された感染者は4日までに62人。PCR検査を受けた人は約3200人で、陽性率は約1・9%にとどまる。和歌山県では4月28日、自宅で死亡した60代男性について、死後に感染が確認された。死亡の約1週間前から親族に体調不良を訴えていたが、医療機関への相談はなかったという。仁坂知事は「『4日間は自宅待機』という情報をもとに受診をしなかったのならば、(方針を決めた専門家や、方針を流し続けたメディアに対して)怒りを感じる」と訴え、「受診を我慢しないでほしい」と改めて呼びかけた。県によると、仁坂知事は4月29日にあった全国知事会のウェブ会議でも「医療崩壊が発生していない県では、医者に行き、早期発見した方が医療崩壊を食い止めることができる」と主張した。 ●山梨大学長「マインドチェンジが必要」 山梨大の島田真路学長に4月30日、国内のPCR検査の現状についてどう見ているか聞いた。 ―感染者の実態はつかめていると考えるか 市中感染が広がり、原因不明で亡くなっている人もいるが、検査が少ないので実数がつかめていない。危機感を持っている。 ―首相は検査を増やすと言っているのに、なぜ検査が増えないのか 保健所が相談を受け、帰国者・接触者外来のドクターが診断して、という2段階の「制限」がある。ここで実質的に絞られ、感染の疑いのある人が広く検査を受けられていない。このスキームが変わっていない。国が増やすと決めたなら、自治体へはっきり方針を変えたと伝え、マインドチェンジをする必要がある。東京ではかかりつけ医の診断で検査できるような体制ができたが、医師会の協力も必要。でも、検査中に感染した場合の補償もないため、積極的にやる動きは広がっていない。 ―週末や連休に検査が減ることが心配? そう思う。どのように医療や検査を維持するか。スタッフが減るのは事実で、役所や大きな病院では難しい面もあるが、人を増やして勤務シフトを見直すことも必要かもしれない。 ―感染者が50人を超えた山梨県内の状況をどうみるか 重症者が少なく、感染者数はやや落ち着いているが楽観できない。検査を今より10倍近く増やしてほしい。山梨大としてはドライブスルーPCR検査で貢献するが、各地域に検査場の拠点を設けてやるべきだ。 *1-3-1:https://www.bbc.com/japanese/51555374 (BBC 2020年2月20日) 「ダイヤモンド・プリンセス」から下船始まる 新型コロナウイルス陰性の乗客 横浜港で19日午前、大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で隔離されていた乗客のうち、新型コロナウイルス感染が確認されなかった約500人の下船が始まった。多くの乗客は今月5日から14日間の健康観察期間が19日で終了した。「ダイヤモンド・プリンセス」では新型コロナウイルス(COVID-19)に乗客乗員542人が感染した。中国大陸の外では最多の集団感染となった。今回下船が許可された乗客は、ウイルス検査で感染が確認されず、症状の出ていない人たち。日本メディアによると、対象者全員が下船し終わるのは21日の見通し。ただし、検査で陽性となった人と同室にいた人たちは検査で陰性となっても、健康観察期間の終了日が延びるため、隔離期間が続く。横浜港で取材するBBCのローラ・ビッカー記者によると、ダイヤモンド・プリンセスを降りた乗客たちはそのまま、待機していたバスやタクシーに乗ってその場を離れた。ダイヤモンド・プリンセスの乗客の出身地は50カ国以上で、世界的な感染拡大の発生源になる懸念が出ていると、ビッカー記者は指摘する。日本当局は18日には、船内で新たに88人の感染が確認されたと発表。これによって確認された船内の感染者数は542人になった。アメリカをはじめ複数の国はすでに、船内の自国民を政府チャーター機で帰国させたり、数日中に帰国させたりする予定。新型コロナウイルス大流行の中心地となった中国では、19日までに2004人が死亡した。感染が確認された人の数は中国大陸で7万4185人に達し、それ以外の国・地域では700例以上が確認されている。香港政府は19日、感染していた70歳男性が死亡したと発表した。香港での死者は2人目。中国大陸以外ではほかに、フランス、日本、フィリピン、台湾でそれぞれ1人死亡している。 ●船内の感染対策を批判する専門家も ダイヤモンド・プリンセスから香港で降りた乗客の感染が確認された後、船は今月5日から横浜港で隔離状態に入った。乗客は当初、それぞれの客室内にとどまることを余儀なくされ、後に時間などを制限した状態でデッキに出ることが認められた。5日から2週間の観察期間で乗客乗員3711人のうち感染者が542人に達したことから、船内の感染対策を疑問視する専門家の声も出ている。神戸大学医学研究科感染症内科の岩田健太郎教授は18日、ダイヤモンド・プリンセスに同日に乗船して見た状況についてYouTubeに投稿したビデオで報告した。岩田教授は、ウイルスがまったくない安全区域(グリーンゾーン)とウイルスがいるかもしれない区域(レッドゾーン)を、船内で明確に区別していないと指摘。「感染対策は悲惨な状態」だと批判している。岩田教授はさらに、エボラ出血熱や重症急性呼吸器症候群(SARS)の大流行の最中に現場にいた時よりも、客船内の方が怖かったと述べた。この動画について教授は20日朝、ツイッターで「動画は削除しました」と報告したが、同日にはビデオ経由で東京の日本外国特派員協会で記者会見し、船内の感染対策の不備を重ねて指摘した。一方で、日本の当局者は自分たちの対応は適切だったと反論。感染例の大半は隔離期間の前に起きたものだろうと説明している。また、船内のゾーン区分はできているなど、岩田教授に異を唱える声も出ている。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスの各国政府は、ダイヤモンド・プリンセスから政府チャーター機などで帰国した人たちに対して、さらに14日間の隔離措置をとる。韓国は、自国民以外はダイヤモンド・プリンセスの乗客の入国を禁止する方針を示している。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200510&ng=DGKKZO58917950Z00C20A5EA1000 () コロナ重症度、CTで判定 肺炎の症状で見極め、態勢整わぬPCR補う 新型コロナウイルス感染症の重症度の判定にコンピューター断層撮影装置(CT)の画像診断が威力を発揮することがわかってきた。疑わしい例や軽症でもCT画像で肺炎を早期発見できる可能性があり、重症化リスクの見極めや入院の必要性などの判断の手助けとなっている。日本ではPCR検査の拡大が最重要の課題だが、CTの有効活用も求められる。「日本はPCR検査は少ないが、CTの数は世界的にみても多い。肺炎を起こすような重症例についての見落としは少ない」。新型コロナに関する政府の専門家会議の尾身茂副座長は、緊急事態宣言の延長が正式に決まった4日の記者会見でこう説明した。重症者の把握や対応などでCT検査が重要な役割を果たしているという。PCR検査がウイルスの遺伝子を検知するのに対し、CT検査はエックス線で肺などの様子を詳しく調べる。ウイルスが見えるわけではなく感染の有無の確定的な判断には使えないが、肺炎があればその程度や特徴がわかる。PCR検査の態勢が追いつかない中、多くの医療機関がCTを活用している。聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)は感染の疑いのある患者らに対し、CT検査を実施。陽性の可能性があれば、PCR検査の結果を待たず専用病棟に移すなどの対応を進める。同大学の松本純一講師は「患者の約半数は新型コロナ感染に特徴的な画像所見がある」と話す。専門家でつくる日本医学放射線学会がこのほどまとめた提言では、PCR検査に置き換わるものではないとしつつ、当面の対応として入院などの判断にCT検査を活用することは「許容される」とした。特に症状が重い場合などは、優先的に診る患者を判断する「トリアージ」のためのCT検査を推奨するという。CT検査はPCR検査ではわからない「重症度」の見極めに役立つ。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者を受け入れた自衛隊中央病院(東京・世田谷)は陽性でも無症状や軽症だった人の約半数にCT検査で肺に影が見つかり、うち3分の1で症状が悪化したことを報告した。聖マリアンナ医科大学病院も一部患者の重症化の予測にCT検査を活用している。発熱から数日内にCT検査で肺に影が見られる場合などに重症化リスクが高いと判断することがあるという。日本はPCRなどのウイルス検査で後れを取ってきた。政府の専門家会議によると、人口10万人あたりの検査数は187件で、数千件にのぼる海外の主要国に見劣りする。一方、CTの数は世界有数だ。経済協力開発機構(OECD)によると日本の保有台数は人口100万人あたり約112台。50台未満の米欧各国を大きく上回り、海外に比べてもCT検査を受けやすい。画像診断の専門医が少ないのが課題だったが、足元ではオンラインのサービスの利用が拡大している。医療機関から届く画像の遠隔診断支援を手掛けるドクターネット(東京・港)では、2月中旬から新型コロナによる肺炎の疑いのある画像が寄せられ、4月にはその数が1日100件を超すようになった。CT検査には課題もある。特に要注意なのが検査室での感染拡大のリスクだ。入念な消毒などが欠かせない。新型コロナ感染症以外にもCT検査が必要な人は大勢おり、感染者が増えると対応が追いつかなくなる。日本医学放射線学会も「全ての新型コロナの患者にCT検査を勧めているわけではない」と強調する。海外では中国の医療機関などが人工知能(AI)を取り入れた画像診断を活用した。「CT大国」の利点をどう生かすか、日本の新型コロナ対応の鍵となる。 <実用化の壁> *2-1:https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000183477.html (テレ朝 2020/5/7) 「唾液でPCR検査を」日本医師会 実用化を申し入れ 日本医師会の横倉義武会長は臨時の記者会見で、唾液で判定するPCR検査法の実用化を訴えました。日本医師会・横倉義武会長:「唾液を使ったPCR検査については、加藤厚生労働大臣に速やかに実用化をして頂くよう今朝、申し入れをした」。横倉会長によりますと、唾液を検体として新型コロナウイルスへの感染の有無を判断する検査方法については、北海道大学で研究が進められています。鼻の奥や喉から粘液を採取する方法よりも手軽で、医療関係者への感染リスクを減らすことが期待できるということです。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200505&ng=DGKKZO58781190U0A500C2NN1000 (日経新聞 2020.5.5) ロシュの抗体検査薬、米許可 正確性「ほぼ100%」 独が大量調達へ スイス製薬大手のロシュは3日、新型コロナウイルスの抗体検査薬が米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得たと発表した。同社は抗体を持っているかどうかを判定する確率が「100%に近い」とし、日本でも5月中に承認申請する方針。抗体検査の精度が高まれば、免疫を持つ可能性のある人を特定しやすくなり、経済活動の速やかな正常化に役立つとの見方がある。ロシュは約5200人分を検査し、PCR検査で新型コロナの感染が確認された人を14日後に検査したところ、100%で抗体が確認されたという。1時間当たり最大300人の測定が可能とする。各国の関心も高く、今月末にも欧米で数千万回分を提供する。ドイツのシュパーン保健相は4日、月内にロシュの抗体検査薬300万個を調達すると表明した。6月以降は月500万個ペースに増やす。簡易検査キットの場合、一般的な風邪の原因となるウイルスとコロナウイルスに対する抗体とを間違う可能性もあるが、ロシュのキットは新型コロナだけを99.8%の精度で特定できるとされる。簡易キットで生じる「見逃し」を防げれば、抗体を持った人の割合を特定でき、外出制限などの緩和も検討しやすくなる。地域ごとに事態が収束したかを判断する材料にもなる。現在、中国や英国などでは抗体検査を使って感染の広がりを調べる研究が進むが、ほとんどがイムノクロマト反応(抗原抗体反応)という仕組みを使った簡易検査キットだ。プレートの上に血液を1滴程度垂らすと、血液中の新型コロナに対する抗体の有無を調べられる。ただ精度が高くないため、なかなか経済活動の再開を判断するまでには至らないのが実情だ。 *2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/520947 (佐賀新聞 2020.5.9) 抗原検査キットを13日に承認、新型コロナ、15~30分で判定 政府は9日、新型コロナウイルスを患者の検体から15~30分で検出する「抗原検査」のキットを13日に薬事承認する方針を固めた。PCRによる検査が数時間かかるのに対し、医療現場で15分程度で判定が可能になるため、検査態勢の強化に貢献しそうだ。ただ精度はやや劣るため、陰性が出た場合は、念のためPCRによる検査を実施する見通しだ。開発した「富士レビオ」(東京)が4月に申請していた。加藤勝信厚生労働相は今月8日の衆院厚労委員会で「来週中に判断する。医療現場で使えるようになる。メーカーによると、かなりの数が提供され得る」と述べた。抗原検査はインフルエンザ検査でも広く使われる。ウイルス特有のタンパク質(抗原)を狙ってくっつく物質を使い、患者の検体に含まれるウイルスを発見する。病院で鼻の奥の粘液を取れば、装置のある地方衛生研究所などへ運ばずに、その場で調べられる。ただウイルス量の少ない患者は陰性となる可能性もある。加藤厚労相は「見落としもあるのでPCRで補っていく。一番いい組み合わせで活用を考えていく」と述べた。その上で、救急医療や手術前など、直ちに判断する必要のある医療現場ではツールとして価値があるとの考えを示した。安倍晋三首相は抗原検査についてPCR検査の前段階として活用し、検査態勢の強化を図ることに意欲を示している。 *2-4:https://mainichi.jp/articles/20200501/k00/00m/040/244000c (毎日新聞 2020.5.1) 感染全容知りたい、でも精度に難点、そもそも免疫できない? 各国で進む抗体検査、遅れる日本 新型コロナウイルスの感染状況を分析するため、感染した痕跡を調べる抗体検査が各国で相次ぐ。米ニューヨーク(NY)州では住民の15%が感染したことをうかがわせるデータも。日本も東京と東北地方で調査が進むが、検査キットの精度などを巡り課題も指摘されている。「大規模な抗体検査と診断で、市民は安全に仕事に戻れる」。感染者が30万人にも上るNY州のアンドリュー・クオモ知事は4月19日の記者会見で、抗体検査の意義をこう強調した。同州は毎日2000人ずつ検査する予定で、トランプ米大統領も支援を表明。23日に発表された3000人分の結果では13.9%が抗体を保有していた。州全体で約270万人が既に感染している計算で、確認された感染者数の約10倍に上る。さらに、27日には保有率が14.9%に上昇。クオモ知事は「割合がどうなっていくのかを知りたい。決定を下すためのデータになる」と期待する。 *2-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202005/CK2020050802000253.html (東京新聞 2020年5月8日) 医療従事者 陽性割合低く NY州抗体検査 マスクなど効果 新型コロナウイルス感染被害が深刻な米東部ニューヨーク州のクオモ知事は七日の記者会見で、州内の医療従事者に対して感染歴を調べる抗体検査を行った結果、陽性の割合は一般市民より低かったことを明らかにした。クオモ氏は、医療従事者が着用しているマスクや防護服に感染防止の効果が見られるとして「とても良いニュースだ」と述べた。検査は約二万七千人の医療従事者に実施。ニューヨーク市では陽性の割合は約12%で、一般市民の約20%と比べて低かった。他の地域でもおおむね同様の傾向が出た。州当局によると、州内の感染による死者は前日比二百三十一人増の二万八百二十八人。入院中の患者数の減少は続いている。ニューヨーク市のデブラシオ市長は七日、来週から来月初めにかけて、希望する市民に対して十四万件の抗体検査を無料で行うと発表した。 <ワクチン> *3-1:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200502-00000530-san-n_ame (産経新聞 2020.5.2) 米、年内にワクチン開発、量産計画 新型コロナ 官民で並行整備 米国が新型コロナウイルスのワクチン開発を急いでいる。政府横断で進める「ワープ・スピード作戦」と呼ばれる計画は、有望なワクチン候補を手がける企業が、開発途中から生産体制を整備できるよう支援。年内に数億本の量産体制を目指す。世界的に競争が過熱する開発に国の威信をかけて臨む。米メディアに報じられた同作戦について、トランプ米大統領は4月30日の記者会見で、「責任者は私だ」と存在を認めた。ワクチンの安全性や有効性を確かめる臨床試験(治験)は通常1年~1年半を要するが、約8カ月で医療現場に投入する計画は「大げさではない」と述べ、スピード開発を主導する姿勢をみせた。すでに米国生物医学先端研究開発局(BARDA)がジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と組んで、約10億ドル(約1060億円)を投じて開発を本格化させている。米バイオ企業モデルナにも最大4億8000万ドルを拠出した。米政府は資金拠出を通じて、ワクチン開発と生産体制の整備を一体的に支援。官民が連携し、医療現場への投入が承認されたワクチンを、早急に量産できるよう後押しする。企業にとっては、ワクチン投入が認められなければ設備投資が無駄になるリスクがあるが、政府支援を背景に「リスクを前提に先行して生産を始める」(米政権の新型コロナ対策チーム幹部)ことができる。J&Jは「米国内の施設の新設も含め、ワクチン生産体制を増強する」と表明した。世界保健機関(WHO)によると、新型コロナのワクチン候補は現在、約50ある。ワクチンや特効薬の開発に成功すれば、経済活動を停滞させる外出制限などの対策をとる重要性がなくなるだけに、欧州勢や中国も国力をあげて開発を進めている。医薬品の承認を担当する米食品医薬品局(FDA)のゴットリーブ元長官は、米紙への寄稿で「最初にゴールした国がいち早く経済を再建させ、国際的な影響力も高められる」として、米国が国際競争を制する必要性を強調した。 *3-2:https://www.businessinsider.jp/post-212222 (Bbusiness Insider 2020.5.1) 「早く、大量生産できる」新型コロナ国産ワクチン、年内供給を目指す。開発者に最新状況を聞いた 世界中で流行が続く、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。その治療薬やワクチンの開発は急務とされている。世界保健機関(WHO)の報告では、世界で70を超えるワクチンの開発プログラムが進んでいる。日本でも3月5日、大阪大学と大阪大学発のバイオベンチャー「アンジェス」が、従来のワクチンとは異なる「DNAワクチン」という手法を用いたワクチンの開発に取り組むことを表明。3月24日には、動物実験用の原薬の開発に成功している。アンジェスの創業者であり、DNAワクチンの開発に取り組む大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の森下竜一教授に、DNAワクチンの開発状況、そして今後の対コロナ戦略について話を聞いた。 ●世界初のプラスミドDNAを使った治療薬のノウハウを応用 — 森下先生はどのような研究をされているのでしょうか? 森下竜一教授(以下・森下):私は、大阪大学で血管を再生させるための遺伝子治療薬を研究していました。その実用化のために設立した会社がアンジェスです。そこで2019年、大腸菌を培養することで得られる「プラスミドDNA」(環状のDNA)に、血管の再生に利用できる遺伝子を組み込んだ治療薬「コラテジェン」の実用化に成功しました。意図した遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを体内に投与することで、体内で治療に必要とされる物質がつくられます。 厚生労働省から販売の認可が降り、世界初のプラスミドDNAを使った遺伝子治療薬となりました。他にも、プラスミドDNAをベースに、血圧を上げるホルモン(アンジオテンシンII)に対する抗体をつくるDNA治療薬の開発にも取り組んでいます。高血圧のDNAワクチンです。2020年3月には、オーストラリアで臨床試験を開始したことを報告しました。 来年には、結果が出てきます。 —なぜ、今回新型コロナウイルスのワクチン開発レースに参加できたのでしょうか? 森下:アンジェスは以前、アメリカのバイオテック「バイカル」に出資していました。バイカルは、エボラウイルスや鳥インフルエンザウイルスに対するDNAワクチンを開発しており、鳥インフルエンザウイルスが流行しかけたときに一緒に仕事をしていたんです。そのときの開発ノウハウと、アンジェスが実際に世界ではじめてプラスミドDNAを用いた遺伝子治療薬を製作したノウハウがあったため、迅速に新型コロナウイルスのワクチン開発をスタートできました。 ●新型コロナウイルス用DNAワクチン プラスミドDNAに新型コロナウイルスの表面にあるタンパク質の一部を作り出すような遺伝子を組み込み、体内に投与する。体内で目的のタンパク質が作られると、免疫システムはそのタンパク質を排除対象として認識する。その結果、ウイルスが体内に侵入してくると、表面にあるタンパク質を目印にして排除されるようになる。生産にはタカラバイオさんにも協力いただくなど、現在は複数の企業連合のような形で開発を進めています。人工知能(AI)を利用して、第2世代のDNAワクチンの開発にも着手しています。 ●パンデミックに有効なDNAワクチン —DNAワクチンと従来のワクチンの違いはどのような点ですか? 森下:インフルエンザワクチンなどの普通のワクチンは、不活化ワクチンや生ワクチンと呼ばれ、その開発にはウイルスそのものが使われます。弱毒化(あるいは不活化)したウイルスを有精卵に接種して、「抗原」(ウイルスがもつ、免疫反応を引き起こすタンパク質)をつくります。それを体内に入れることで、免疫を担う「抗体」ができるという仕組みです。この手法は確立されたものですが、開発までにウイルスを見つけてから6〜8カ月くらいかかります。 また、有精卵を使う以上、すぐに大量生産することができません。一方で、DNAワクチンは大腸菌を増殖させれば(プラスミドDNAを増やせるので)、簡単に増産することが可能です。値段が比較的安いというのも一つの特徴です。また、ウイルスそのものを使うのではなく、ウイルスの遺伝情報をプラスミドに挿入して利用しているため、ウイルスのゲノム情報が公開されればすぐに開発に着手できる上、安全だというのも大きなポイントです。早期に大量生産でき、さらに安いという点が大きなメリットといえます。新型コロナウイルスのDNAワクチンとして、アメリカのバイオテクノロジー企業のモデルナが新型コロナウイルスのDNAデータが公開されてから42日でRNAワクチン(DNAワクチンと似たタイプのワクチン)を作りました。アンジェスは3月5日に開発を発表して、3月24日にはDNAワクチンが完成しました。20日間で作れたのは、世界最速です。 — ワクチンには副作用がつきものです。どういったものが考えられますか? 森下: 副作用は2つに分けて考えられます。1つは、ワクチンで免疫をつけること自体に対する副作用。もう1つは接種するワクチンの種類ごとに生じる副作用です。どんなワクチンでも、接種する際にADE(Antibody Dependent Enhancement)という現象が生じることがあります。ウイルスに感染しないためのワクチンを接種することで、逆にウイルスに感染しやすくなってしまう現象です。動物実験や一部のワクチンの臨床試験で報告されていますが、詳しいメカニズムは分かっていません。どういったワクチンを接種しても起こるため、そのリスクを踏まえてワクチンの接種対象を選ぶ必要があるでしょう。若い人が新型コロナウイルスに感染してもあまり重症にならないのであれば、ADEが生じるリスクを避けてワクチンを接種しないほうが良いかもしれません。一方、高齢者や合併症(既往歴)を持つ人など、新型コロナウイルスに感染した場合の致死率が高い人は、ADEが生じる割合を考慮してもワクチンを接種するメリットが大きいのではないでしょうか。また、感染する可能性が高い医療関係者に対するワクチンの接種も、デメリットを大きく上回るメリットがあるでしょう。 — 従来のワクチンとDNAワクチンで副作用に違いはありますか? 森下:生ワクチンや不活化ワクチンといった従来のワクチンは、ウイルスそのものを使うため、副作用としてウイルスの影響が出る可能性があります。また、ワクチン内にウイルスが混じる可能性もあります。一方、DNAワクチンについては、ほぼ副作用はないと思っています。2019年に販売を開始したコラテジェンという血管再生のDNA治療薬でも、今回開発しているDNAワクチンと同じ仕組みを使っています。臨床試験では、比較対象となった方々との間で、DNA治療薬を使ったことで生じる重篤な副作用はみられませんでした。 — 確認できる範囲では大きな副作用はなさそうということですね。では一方で、DNAワクチンの効果は従来のワクチンと遜色ないのでしょうか? 森下:DNAワクチンが安全なのは間違いないですが、抗体を作り出す能力が若干弱いとされるのが懸念点です。だからこそ、抗体をつくる能力を上げるために、 ほかの企業と一緒に、第2世代のDNAワクチンの開発にも力を入れています。プラスミドに組み込む遺伝子を調整したり、ワクチンと一緒に投与する「アジュバンド」と呼ばれる物質や、DNAワクチンと相性の良い抗体誘導ペプチドの研究を進めたりしています。 — ワクチンを接種したあと、効果の持続期間はどの程度になるのでしょうか? インフルエンザのように、毎年打たなければ意味がないのでしょうか? 森下: コロナウイルスに対するワクチンは前例がないため、正直、実際にやってみないと分かりません。インフルエンザワクチンの効果は大体3カ月くらいです。仮にコロナウイルスに対するワクチンが半年程度しかもたないとすると、毎年のように打たなければならなくなるので、少し厳しくなりますね。 — その場合、抗体ができやすい他のワクチンを検討しなければならないということでしょうか? 森下:正直なところ、DNAワクチンなどの新しいワクチンは、パンデミックを一時的にしのぐためのものです。恒常的に打つようなものではありません。とりあえず社会生活を維持し、その間に治療薬や通常のワクチンの開発が追いついてくるための、リリーフ役でしかありません。DNAワクチンはパンデミック対策に向いているといえば向いていると思いますが、対策のメインとして長期間据えるのは厳しいと思っています。実は、SARS(重症急性呼吸器症候群、コロナウイルスが原因の感染症)が流行した時に、従来の方法ではワクチンを作ることができませんでした。その際の経験などから、有精卵を使ってワクチンを作る手法だと、コロナウイルスに対するワクチンを作りにくいのではないかという話もあります。これがもし本当なら、先行きはかなり暗いです。 ●自国のワクチンは自国で。年内に10万人分を確保へ — 今後、どのようなステップで臨床試験が進んでいくのでしょうか? 森下:今、動物での試験を実施しているところです。その結果をもとに、7月からヒトへの臨床試験が行われます。 最終的な実用化に向けた試験も9月から実施する予定です。年内には、医療従事者を中心に十数万人にワクチンを接種することを目標としています。 — 性急な臨床試験で、安全性は十分担保されるのでしょうか? 森下:当然安全性の試験はしっかりと進めます。また、すでにある程度安全性について確認済みのものを利用しているので、その面での心配は低いと考えています。アジュバンドなどを加えるにしても、もう臨床現場で使われている物質、承認されている物質を使う予定です。 あらためて全く新しいものを開発すると、その承認に時間がかかりすぎてしまいますから。 — 臨床試験で効果が思うように出なければ、開発のやり直しになるのでしょうか? 森下: 第1世代でどの程度効果があるのかは分かりませんが、パンデミック用のワクチンの開発では、どうしてもそうした問題が起こります。また、仮に第1世代のワクチンを投与したときにできる抗体が少なかったとしても、ある程度の効果を見込んで接種を進めていくことになると思います。また、効果が思うように出なくても、バックアップとして準備している第2世代のDNAワクチンがあります。第2世代の開発は、2021年の前半に間に合えば良いかなというくらいです。 — 世界中で開発が進められていますが、日本のワクチンはどういった立ち位置なのでしょうか? 森下:モデルナやイノビオなど、アメリカの企業ではすでにヒトでの臨床試験に入っているところもあります。ただし、アメリカで仮にうまくワクチンができたとしても、それが日本にやってくるまでには時間がかかります。まずは、自国が優先になるはずです。加えて、仮に技術を提供してもらい日本で同じものをつくろうとしても、まったく同じ結果にはなりません。そういう意味では 複数のワクチンを並行して開発し続けるしかないと思います。少なくとも、自国でパンデミックに対応できる体制を整備しないといけません。 *3-3:https://www.bbc.com/japanese/52540664 (BBC 2020年5月5日) ワクチン開発で世界が協力、8500億円拠出 マドンナさんも 新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬開発に向けた国際会議が4日開かれ、参加者らが総額80億ドル(約8500億円)以上の拠出を約束した。欧州委員会の呼びかけで行われた会議には30カ国以上が参加。国連や慈善団体、研究機関なども支援を発表した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、これらの資金が前例のない国際協力の端緒になると説明。一方で、資金はさらに必要になるだろうと警告した。この会議は欧州委員会のほか、イギリス、カナダ、フランス、イタリア、日本、ノルウェー、サウジアラビアが共同で主催。一方、アメリカとロシアは参加しなかった。昨年12月に新型ウイルスが発生した中国は、EU大使が代表として出席した。欧州連合(EU)によると、今回集まった資金のうち44億ドルがワクチン開発に、20億ドルが治療研究に、16億ドルが検査キットの製造に充てられるという。会議では、欧州委員会とノルウェーが共に10億ドルずつの拠出を約束。フランスとサウジアラビア、ドイツはそれぞれ5億ユーロ(約580億円)を、日本は850億円以上を支援する。また、米歌手マドンナさんも110万ドルの寄付を約束したという。開会の演説でフォン・デア・ライエン委員長は、「真の国際的な挑戦」のために誰もが資金を拠出すべきだと呼びかけた。「5月4日という日は世界中が協力した日として、新型ウイルスとの戦いの転換点になるだろう」。「協力者はたくさんいるが、目標はひとつ、このウイルスを倒すことだ」。ボリス・ジョンソン英首相も、専門知識を「共有すればするほど」、科学者はより早く「ワクチン開発に成功するだろう」と語った。自身もCOVID-19に感染し、一時は集中治療を受けていたジョンソン首相はこの席で、イギリスが3億8800万ユーロ(約515億円)を拠出すると発表した。共同声明で各国首脳は、今回の支援は「科学者と規制当局、産業と政府、国際機関、慈善団体、医療の専門家らによる前例のない国際協力の端緒になる」と説明。「世界が世界全体のためにワクチンを開発できれば、21世紀を象徴するグローバルな公益となるだろう」と述べている。この国際会議では、世界保健機関(WHO)の活動を支持する署名も行われた。WHOをめぐっては、アメリカが批判を強めている。 ●ワクチンの実用化は来年半ばか 国連は、これまでの生活を取り戻すにはワクチンが不可欠だとしている。現在、世界各地でワクチンの開発プロジェクトが進められている。しかし多くの支援をもってなお、どの開発が成功し、効果を出すのかを見極めるには時間がかかる。専門家の大半は、ワクチンの実用化は、新型ウイルスが初めて確認されてから12~18カ月後に当たる2021年半ばごろになるだろうとしている。 <治療薬> *4-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/607425/ (西日本新聞 2020/5/11) アビガン投与「福岡県方式」構築 47機関、医師判断で早期対応可能に 福岡県医師会は11日、新型コロナウイルス感染症への効果が期待される新型インフルエンザ治療薬「アビガン」を、主治医が重症化の恐れがあるなどと判断した場合、軽症でも早期投与できる独自の体制を整えたと発表した。県内47の医療機関が参加を表明しており、県医師会は「『福岡県方式』の構築で新たに投与できる患者はかなり多く、影響は大きい」としている。アビガン投与には、藤田医科大(愛知)などの観察研究への参加が必要。県医師会が一括して必要な手続きを行ったことで、これまで未参加だった27機関が加わり、計47機関で投与できるようになった。今後も増える見通し。主に重症や中等症の患者に投与されていたが、「主治医等が重症化の可能性を憂慮する患者」を対象に明記したことで、主治医が必要と判断すれば軽症でも早期投与が可能としている。投与には入院が必要という。ただ、アビガンは動物実験で胎児に奇形が出る恐れが指摘され、妊婦や妊娠の可能性がある人などには使えない。肝機能障害などの副作用も報告されており、患者への十分な説明と同意が必要となる。新型コロナ感染症の治療薬としては、厚生労働省が7日、米製薬会社が開発した「レムデシビル」を国内で初承認。安倍晋三首相はアビガンについても今月中に承認する意向を示している。 *4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN563RVMN55UHBI03L.html (朝日新聞 2020年5月6日) コロナ感染歴ある子どもに「川崎病」症状 欧米で相次ぐ 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、子どもに多い原因不明の難病「川崎病」に似た症例の報告が欧米で相次いでいる。多くが新型コロナの感染歴があり、大人でも似た症状の人がいる。新型コロナとの関連が指摘されている。米ニューヨーク市の保健局は4日、2~15歳の15人で「多臓器炎症型疾患」が確認されたと発表した。川崎病に似た症状で、高熱や発疹、腹痛、吐き気、下痢などがみられたという。そのうち10人が新型コロナのPCR検査や抗体検査で陽性が判明し、感染歴があることが分かった。いずれも亡くなってはいない。同じような症例は、英国やフランス、スペイン、イタリアなど欧州で相次いで報告されている。免疫の過剰反応で、血管に炎症が起き、血栓ができやすくなる。新型コロナに感染した大人からも見つかっている。世界保健機関(WHO)の感染症専門家マリア・ファンケルクホーフェ氏は、「新型コロナに感染した子どもの多くは症状が軽く、重症化する例は少ない。多臓器炎症を起こす例はとてもまれだ」と指摘。一方、ウイルスとの関連が疑われるため、現場の医師らで遠隔会議を開いて情報交換しているという。川崎病は1967年、旧日赤中央病院(東京都)に勤めていた小児科医の川崎富作さんが初めて報告した。全身の血管に炎症が起きる。疫学的にはアジア系、とくに日本人に多いとされている。日本での全国調査(2018年)では、患者の割合は0~4歳の人口10万人のうち360人程度で、致死率は0・03%となっている。遺伝的要因のほか、流行に地域性や季節性があるため、細菌やウイルスなどの感染が原因との説がある。 *4-3:https://doctorsfile.jp/medication/255/ (敗血症 2019/12/12) 順天堂大学医学部附属浦安病院 血液内科長 野口雅章先生 ●概要 感染症がきっかけとなって起きる、二次的な症状。具体的には、何らかの感染症を起こしている細菌などが増殖して炎症が全身に広がり、その結果、重大な臓器障害が起きて重篤になっている状態。敗血症を引き起こしたもととなる原因を見つけ、その治療を早期に開始しなければ、命に関わる危険もある。どんな感染症でも敗血症を起こす引き金になる可能性があり、特に、免疫力がまだついていない乳幼児や、高齢者、糖尿病などの慢性疾患やがんなどの基礎疾患がある人や、病気治療中で免疫力が低下している人は、感染症から敗血症を起こすリスクが高い。 ●原因 原因となる細菌として代表的なものに、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌などが挙げられる。こうした細菌に感染することで、皮膚の化膿、肺炎などの呼吸器感染症や肝臓、腎臓、腸などの感染症など、さまざまな感染症が最初に起き、免疫力が低いとそこから敗血症が起きやすくなる。また、細菌だけでなく、インフルエンザウイルスなどのウイルスやカビなどの真菌、寄生虫などによる感染症も原因となり得る。カテーテルを挿入することによる尿路感染や、人工関節などを使用している場合も注意が必要。この他に、白血球の中の一種である好中球(こうちゅうきゅう)が減少する「好中球減少症」の状態だと、感染症にかかりやすくなり、敗血症を起こす可能性が高まる。好中球減少症は、遺伝性による先天的なものと、後天的なものがあり、抗がん剤による化学療法を受けているがん患者にもよく見られる。 ●症状 敗血症では何か1つの症状や兆候が出る、というようなことは基本的にはなく、障害が起きている臓器によって、さまざまな症状が起きる。初期の主な症状としては、悪寒を感じたり、全身のふるえや発熱(高熱になることが多い)、発汗などが見られたりすることが多い。症状が進行すると、心拍数や呼吸数の増加、血圧低下、排尿困難、意識障害などが生じてくる。重症化してしまうと、腎不全や肝不全といった臓器不全、敗血性ショックを招き、命を落とす危険が高まる。また、皮下出血が見られる場合は、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(DIC)を併発した可能性があり、やはり重篤な状況である。 ●検査・診断 敗血症の原因となっている感染症を確認するために、胸部エックス線や全身CT検査などの画像診断を行う。また、血液検査や原因菌を特定するための培養検査も実施する。ただし、感染症治療のために抗菌薬が用いられている場合は、菌を培養できない可能性もある。感染症があり、その上で、意識障害がある、収縮期血圧が100mmHg以下、1分間の呼吸数 22回以上、の3つのうち、2つの要件を満たしていれば、敗血症の可能性が高い。確定診断のためには、さらに臓器障害の程度を調べる必要がある。 ●治療 感染症の原因となっている病原体を早急に特定して、治療を開始する。薬物治療であれば、細菌の場合は抗菌薬、ウイルスの場合は抗ウイルス薬、真菌の場合は抗真菌薬、寄生虫の場合は抗寄生虫薬を用いる。感染症の状態によっては、外科的治療が必要になるケースも。症状が進行している場合は、検査結果が出る前(原因菌が判明する前)から、抗菌薬を投与する場合も多い。その際、原因菌によって薬剤に耐性があることもあるため、どの抗菌薬を用いるかは、よく検討する必要がある。敗血性ショックが起きている場合は、血圧を上げるために大量の輸液や昇圧薬を点滴投与する。同時に酸素吸入や人工呼吸器を使って、高濃度酸素を投与するなどの全身管理を行う。この他、人工透析や、血糖値を下げる必要があれば、インスリン静脈内注射を行うなど、状況に応じた治療が行われる。 ●予防/治療後の注意 発見が遅れるほど死亡リスクが高まり、助かった場合でも後遺症が残ることが多い。後遺症は、治療後数週間を経てわかることもあるため、注意が必要。後遺症が出た場合は、それぞれの症状に応じて、リハビリテーションを行う。予防のために、乳幼児、高齢者や慢性疾患、がんなどの病気治療で免疫機能が低い人は、まず敗血症につながる感染症を起こさないことが重要となる。手洗いやうがいをこまめにして、風邪をひかないようにしたり、必要であればインフルエンザなどのワクチン接種を受けたりするなど、感染症にかかるリスクをできるだけ排除するようにしたい。 <教育> *5-1:https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/COVID-19-message-3.html (2020年4月21日 東京大学総長 五神 真) 新型コロナウイルス感染症に関連する対応について、総長メッセージ ●新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急対策のために 現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、世界規模で爆発的に拡大しています。国内においても都市部を中心に患者が急増し、終息の見込みは立っておりません。特に海外では医療崩壊により十分な医療が受けられない状態に陥るケース等も発生し、これまでに例をみない被害が生じています。そうした困難を前に、現場で過酷な診療業務に就いている方々に、心からの敬意と感謝の意をお伝えしたいと思います。東京大学では、すべての構成員の健康を最優先するとともに、学生の学びの機会を確保するため、オンライン授業への全面的な移行を進めました。その一方で、学生それぞれの接続環境によって不公平が生じないよう対策を講じています。なによりも東京大学の学生には自立した個人として、その行動が他者や社会に与えることの自覚をもち、他者への思いやりを大切にすること、そしてこの危機は必ず終息するということを忘れず、焦らず、希望を持ち、諦めないことを伝えています。感染拡大を阻止するためには、治療薬やワクチンの開発等を進めることも喫緊の課題です。本学の研究力を活かして、治療に寄与する薬剤の同定や検査技術の開発さらには疫学的解析など様々な分野で研究・開発を進めています。これまでにも感染阻止の効果が期待できる国内既存薬剤を同定したことを発表するとともに、東京大学ではPCR検査を迅速に行うことのできる検査機器の導入、コロナ対応ICUの整備、中等症患者に対応する病棟の開設など、全診療科の医師・看護師が参加しての医療体制の充実を図ってきました。しかしながら、現時点で速やかに実行すべき取り組みは、これにとどまらず広範囲にわたります。ここに挙げた学習環境の整備や、医療体制の更なる充実はもちろんのこと、例えば財政的基盤が脆弱な東大発ベンチャー企業の支援等、それ以外にも多数考えられます。それらに対応するには、さらに充実した財政的下支えが必要不可欠です。いま、この未曾有の難局にあたり、東京大学は、開学140年にわたる知の協創の拠点として、世界最高水準の学問の叡智を結集させ、この人類の新たな脅威に全力で立ち向かう所存です。再び、安心して暮らせる日常を共に、一日も早く取り戻すべく、皆さまのご支援をお寄せいただきますよう、お願い申し上げます。 *5-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/522135 (佐賀新聞 2020.5.13) <新型コロナ>14日、佐賀県内の学校再開 「3密」回避に苦慮 新型コロナウイルスの感染防止のため休校していた佐賀県内の県立学校や各市町の小中学校などが14日から、再開される。学校現場や教育委員会は、水泳の授業を中止するなど感染予防の対策を強化しているが、集団生活を送る上で密集などの「3密」を避けることは限界があり、難しい対応が迫られる。県教育委員会は、文部科学省のガイドラインに沿って換気の徹底や人数を分けた学習の検討など、再開後の感染防止対策を文書で通知した。児童生徒と教職員がマスクを着用することを明記し、給食では机を向かい合わせにせず、会話も控える。感染防止を理由に自主的に休む児童生徒は欠席扱いにしない。これらの特別措置の期限について県教委の担当者は「感染状況の見通しが立たず、当面続ける必要がある」と話した。文科省のガイドラインでは、児童生徒同士の座席を1~2メートル離すことが望ましいとしているが、40人規模の学級を抱える大規模校からは「空き教室がほとんどなくて距離を確保するのは難しく、マスク着用や換気の徹底をやるしかない」との声が漏れる。授業を20人以下で行う方針を示す武雄市は「各校で、できる限りの対応を考えているが、教員数の問題もあり、全授業での実施は難しい」としている。小城市や西松浦郡有田町などは水泳の授業について「更衣室が密集状態になり、換気も難しい」と中止を決めた。音楽では合唱や合奏を避けて鑑賞を先行させたり、家庭科の調理実習を年度後半にずらしたりするなど、各校で計画の変更を余儀なくされている。登下校時に密集する玄関やクラス単位で一斉となる教室の移動にも学校現場は気をもむ。杵島郡大町町では、保護者の意見を踏まえて集団登校を小学部と中学部で分ける。スクールバスを運行する多久市は、学校再開初日に乗車場所で座席の間隔を開けて利用するよう指導する。グループ学習など対面での学習活動も避けなければならず「密を避ける授業では話し合いなど『対話的学び』ができなくなる。これまでと違う形の授業で充実できるかどうかが心配」(大町町教委)との指摘も上がっている。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200511&ng=DGKKZO58922190Q0A510C2MM8000 (日経新聞 2020.5.11) 教室から消えた13億人 窮地が促す学び改革 コロナ、出口は見えるか(4) 「多くの生徒らの学習が遅れている。学校再開の決定は簡単ではないが対応を急ぐべきだ」。国連教育科学文化機関(ユネスコ)のアズレ事務局長が4月末、声明で訴えた。新型コロナウイルス対策の全国的な休校は177カ国・地域で続き、全世界の72%、約13億人が登校できていない。学力格差への懸念が各国で強まる。11日から段階的に学校を再開するフランスのブランケール教育相は「休校を続けすぎると(自宅の学習環境の違いで)格差を助長する」と強調。小学校は1学級15人以下とし、校内の動線を決め接触を減らすなどして感染を防ぐ。オンライン(遠隔)授業が広がる米国では、インターネット環境が整わない家庭の子どもの学習支援で官民が連携する。カリフォルニア州はグーグルからパソコン4千台の提供を受け、生徒に配った。中国でもオンライン会議システムを使った授業が拡大中だ。ネット通販大手、アリババ集団のシステムの利用実績は約14万校、1億2千万人規模に上る。4月22日時点で小中の95%、高校の97%が休校していた日本。自宅学習は紙の教材が中心で、公立小中高校など約2万5千校の95%は同時双方向のオンライン指導ができていない。「子どもの勉強習慣がなくなってしまった」。夫と共働きの東京都内の女性(40)は焦りを募らせる。小5の次男が通う公立小は2週間に1度、宿題の進み具合を報告させるだけ。一方、私立中に通う長男は遠隔学習で以前と同じ時間割で勉強を続けている。足踏みの背景には教育のデジタル化の遅れがある。経済協力開発機構(OECD)の2018年調査によると日本の15歳生徒の8割が学校でデジタル機器を利用していない。学校の情報化を怠ってきたツケが出た形だ。出口に向けては重層的な戦略が要る。感染予防を徹底しての学校再開と再休校に備えた遠隔学習の環境整備は不可欠だ。政府内では学習の遅れを取り戻し、学事暦を国際標準に合わせる策として「9月入学・始業」の論点整理も進む。移行には課題もあるが、社会全体でグローバル化に向けた方策を抜本的に議論する好機だ。米ブルッキングス研究所などは学校や大学の4カ月間の休校により、若者の生涯収入減少などを通じて米国が将来的に被る経済損失が2.5兆ドル(250兆円)、年間国内総生産(GDP)の12%に上ると試算する。各国はこうした事態を懸念し、教育の再構築を進める。韓国は休校中、小中高生に情報端末など28万3千台を貸与。低所得世帯の約17万人にはネット通信費を支援した。緊縮財政で教育予算を削ってきたイタリアも遠隔教育の推進に8500万ユーロ(97億円)の予算を確保した。「危機をチャンスに変えたい」とアゾリーナ教育相。日本も社会総がかりで学びの保障に取り組む覚悟が要る。 <新型コロナの検査及び診療体制は憲法第25条違反である> PS(2020年5月14日追加):*6-1のように、大相撲の力士、勝武士(28歳)が新型コロナに感染して体調が悪化し、4月4日頃から38度台の高熱が続いたが受入先医療機関が見つからず、4月8日夜に咳をした時に出るたんに血がまじる症状が出て初めて都内の病院に救急搬送されて入院でき、4月10日にPCR検査で陽性と確認され、4月19日からICUに入って、5月13日未明に多臓器不全で死去されたそうだが、このような人は多いだろう。 このような診療の遅れについて、日経新聞は、*6-2のように、「①新型コロナウイルスの専門外来への窓口である帰国者・接触者相談センターのパンク状態が続いているから」「②国が相談の目安を緩めて負荷が増す恐れもある」「③帰国者・接触者相談センターで担当している看護師は、1日約2500件の電話のうち回線の制限から対応できるのは約500件までで、厚労省が5月上旬まで『37.5度以上の発熱が4日以上』等と設定していた相談目安に合致するので詳しく症状を聞く必要があると判断したのは10件ほどで、実際にPCR検査を勧めたのは1日平均3件だった」「④大半の相談はごく軽い微熱など殆ど症状がない状態で、取ることすらできない電話の中に数十人、すぐに検査が必要な人がいるのではないか」「⑤政府の専門家会議は5月4日にPCR検査の件数が十分に伸びていない理由として相談センターの業務過多を指摘し、人員の強化を訴えた」「⑥聖マリアンナ医科大の国島教授が、相談に対応できる保健師や看護師はとにかく人手不足なので、自動応答システムを使った相談の仕分けなどで、業務を効率化していくことも検討すべきだ」などと書いている。 しかし、仕事を引き受けた以上は、①②③④のように人手不足だから命にかかわ電話の500/2500(20%)しか取れず、厚労省の目安に従って機械的に振り分けた結果、検査に至ったのはそのうち3/500(0.6%)しかなかったというのは、保健所や相談センターを通したのが間違いだったことを示しているにすぎない。従って、⑤のような焼け太りは許されず、そもそも⑥は、保健師や看護師には診断する資格や権限はないため、厚労省の目安に従って保健師・看護師・事務職などが検査の要否を判断すること自体が違法行為なのである。 そのため、厚労省の指示は、違法行為であるだけでなく、国民の生存権を脅かしている上、国が社会保障や公衆衛生の向上・増進に努めなければならないとする日本国憲法第25条(*6-3参照)に違反している。そして、この大失敗の結果は、むしろ現場医療従事者の感染リスクを拡大させて苦労を強い、一般国民にも生命及び経済活動の両面で大きな迷惑をかけたため、この仕組みでPCR検査が遅れて重症化した人や亡くなった人の家族は、集団訴訟して実態を白日の下に晒すくらいでないと、今後も厚労省はじめ行政の態度は変わらないと思う。 なお、このように検査が拒まれ、まともな医療も受けられない中で、埼玉市はじめ各地で、*6-4のような「こころの相談窓口」が設置されたのには呆れた。何故なら、病気になっても診療してもらえない不安や経済停止で経営破綻しかかっている事業者の不眠は、心が正常に働いている証拠であって異常ではないからで、その“処方箋”は、犠牲者が心理の専門家に相談して心理分析してもらうことではなく、病気になったら受診できる医療体制を復活し、緊急事態宣言の解除や足りない資金の補助・融資を行うことだからである。 *6-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14475075.html (朝日新聞 2020年5月14日) 28歳力士、コロナで死去 勝武士 20代以下の死亡、国内初 大相撲の三段目力士、勝武士の末武清孝さん(28歳、山梨県出身、高田川部屋)が新型コロナウイルスに感染して体調が悪化し、13日未明に多臓器不全のため死去した。日本相撲協会が発表した。協会は同日、過去の感染歴を調べる抗体検査を、約1千人いる親方、力士、裏方ら協会員の希望者全員に実施する方針も明らかにした。検査を終えるには、約1カ月かかる見通しだ。厚生労働省によると、20代以下が死亡するのは国内で初めて。新型コロナウイルス感染で亡くなったのは角界では初で、国内の主立ったプロスポーツの選手でも初めてとみられる。協会によると、勝武士は4月4日ごろから38度台の高熱が続いたが、受け入れ先の医療機関が見つからなかった。都内の病院に入院できたのは、せきをした際に出るたんに血がまじる症状が出て救急搬送された同8日の夜だった。協会は「都内の医療機関がひっぱくした時期と重なってしまいました」としている。この際に受けた簡易検査では陰性と判定されたが、同10日にPCR検査で陽性と確認され、同19日から集中治療室(ICU)に入っていた。複数の関係者によると、糖尿病の基礎疾患があったという。葬儀などは未定。勝武士が所属する高田川部屋では、師匠の高田川親方(元関脇安芸乃島)らも感染が確認されたが、いずれも軽症ですでに退院している。 *6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200514&ng=DGKKZO59037720T10C20A5CR8000 (日経新聞 2020.5.14) コロナ相談窓口なお激務、症状と関係ない電話4割 検査の目安緩和で負荷増も 新型コロナウイルスの専門外来への窓口である帰国者・接触者相談センターのパンク状態が続いている。全国の電話相談の件数はピーク時から減少しているものの、負担の大きい自治体からは「必要な電話が見逃されている」と不安の声が上がる。国が相談の目安を緩めたことを受け、負荷が増す恐れもある。専門家は体制強化や業務の自動化の整備を訴えている。「あんたに検査を受けられない人の気持ちが分かるのか」。北海道のある自治体の相談センターには、辛辣な言葉を浴びせる電話がしばしばかかってくる。担当する看護師によると、1日にかかってくる約2500件の電話のうち、回線の制限から対応できるのは約500件まで。厚生労働省が5月上旬まで「37.5度以上の発熱が4日以上」などと設定していた相談目安に合致するとみて、詳しく症状を聞く必要があると判断したのは10件ほど。実際に専門外来でのPCR検査を勧めたのは1日平均3件だった。この看護師は「基準に合致しない人でも不安を感じていることには変わりなく、検査が必要ないと言ってもすぐには納得してもらえない」と話す。大半の相談はごく軽い微熱などほとんど症状がない状態で、むしろ「取ることすらできない電話の中に数十人、すぐに検査が必要な人がいるのではないか」とみている。相談センターの受け付けは毎日24時間。常勤者の1人当たりの勤務は1日8~16時間で週5日間程度に及ぶ。しかも、残業が1時間ほど必要な日がほとんどだ。「帰宅しても疲れで食事すらできない日もある。心身ともに限界に近い」。厚労省は5月8日、診察やPCR検査を受ける際の「相談・受診の目安」を改めた。37.5度以上などとした従来の目安を削除した上で「息苦しさ、強いだるさ、高熱」といった症状がみられた場合はすぐに相談するよう求めている。感染者の見落としをなくして感染の再拡大を防ぐのが狙いだが、北海道地域保健課の担当者は「今後、相談センターの対応業務が増加する懸念がある」と話す。厚労省の公開資料を分析すると、全国のセンターで相談を受けた電話は、4月の1日平均で約2万3千件。直近は減少傾向にあるものの、一般的な質問など症状と関係のない相談が全体の4割近くを占め、実際に専門外来の受診に至るのは7%にとどまる。厚労省は一般的な相談の窓口を別に設けるといった体制強化を自治体に求めているが、一筋縄ではいかない。4月から一般相談窓口を開設した東京都では、一般窓口が開いていない深夜から朝に相談センターに電話が集中する。夕方以降の時間帯に200件前後で推移していた相談件数は、10日には約340件まで増加。都の担当者は「目安が変わった影響もあるだろう。質問の内容も広がり、1件あたりに応じる時間も体感的に長くなったと負担を感じる職員もいる」と明かす。政府の専門家会議は5月4日、PCR検査の件数が十分に伸びていない背景のひとつとして、相談センターの業務過多を指摘。改めて人員の強化を訴えた。聖マリアンナ医科大の国島広之教授(感染症学)は「相談に対応できる保健師や看護師はとにかく人手不足。チャットボット(自動応答システム)を使った相談の仕分けなどで、業務を効率化していくことも検討すべきだ」と指摘している。 *6-3:https://kotobank.jp/word/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%・・ より抜粋 日本国憲法第25条 1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。 *6-4:https://www.city.saitama.jp/002/001/008/006/013/002/p072196.html (埼玉市 2020年5月1日) 新型コロナウイルス感染症の拡大等に伴うこころのケアについて 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、わたしたちの生活にも大きな影響が出ています。環境の変化や先の見えない状況、行動の不自由さなどの中で、ストレス状態が長く続くと気持ちやからだや考え方に、様々な変化(反応)が起こりやすくなります。こうした反応は「誰にでも起こりうる自然な反応」ですが、長引くことで不調のきっかけになることもあります。(以下略) <検査とワクチン開発> PS(2020年5月16、18日追加):*7-1のように、東京などの8都道府県を除く全国39県で緊急事態宣言が解除されたが、8都道府県も専門家の見解を踏まえて31日を待たずに21日に解除することもあり、その条件は、①1週間当たりの新規感染者が10万人あたり0.5人以下に低下したかどうか ②医療体制 ③検査体制の整備 などを目安に判断するそうだ。が、日本は、*7-2のように、PCR検査を徹底して行い1日数千人単位で感染者が出た欧米諸国と異なり、3月から5月15日に至るまで検査数を著しく制限しているため、現在も正確な感染者数はわからず、偽の安心に陥っている可能性がある。 ただ、原発事故後の東北・関東では、放射性物質や花粉などの有害物質を吸い込まないために、マスクをしたり、空気清浄機をつけたりする人が多く、また、上下水道が整備され、国民全体として栄養状態がよく、衛生意識も比較的高く、室内に入る時は靴を脱ぐことなどから、他国よりも感染拡大が防げたかも知れない。そのため、罰則付のロックダウンでなければ効果がないということはなかった。 このようにPCR検査数が足りない中、*7-3のように、新型コロナの大規模抗体調査を来月から複数自治体の住民を対象に1万人規模で実施して地域の感染状況を把握するというのは興味深い。しかし、これとは別に医療関係者は優先的に抗体検査をした方がよいし、東京や東北地方だけでなく日本中で大規模に行った方がよい。また、同じ県に住んでいても、都市部と農村部・年齢・性別などによって感染率が異なるだろう。なお、昨年採取した血液も一定割合で陽性となるそうだが、本当は昨年も無症状の感染者がいたか、風邪など同種のコロナウイルスにも反応しているのではないか? 米トランプ政権は、*7-4のように、開発期間を大幅に縮めてワクチン開発を行うそうで、未感染の人に抗体(免疫)を作るにはワクチンの接種しかなく、開発に成功すれば世界でニーズがあるため、経済に関する感性がよいと思う。WHOは、5月5日時点で開発中のワクチンが100種を超え、ヒトへの臨床試験が始まったのが8種類あるとしている。また、IMFは、2020年の世界経済の成長率予測を1月にプラス3.3%と見込んでいたが、新型コロナ感染拡大後にマイナス3%へ引き下げ、日本の経済規模に匹敵する約500兆円の経済損失が生じたそうだ。このうち1%にあたる5兆円でもワクチンの開発に充てていたら損失を回避できたため、日本の「新常態」では、医療体制・検査体制の充実やワクチン・治療薬の研究開発投資が求められるのである。 なお、*7-5のように、福岡市教育委員会は、5月15日、市立小・中・特別支援学校の夏休みを8月7~19日の13日間とし、授業時間を短縮して授業のこま数を最大7時間に拡大するなどして、臨時休校による学習の遅れを解消させるそうだ。これは、他の地域でも参考になるが、夏休みを短くするには教室にエアコンを設置することが不可欠になるため、フィルターや殺菌機能のついた空気清浄機能付エアコンの新製品が望まれる(これも、世界にニーズがある)。 また、*7-6に、「①新型コロナ感染症にかかった多くの重症患者にとって最大の脅威はコロナウイルスそのものではなく、人体がウイルスと闘うために立ち上げる免疫システムだ」「②免疫システムは病原体から体を守るために不可欠だが、健康な細胞を傷つける激しい凶器にもなる」「③このサイトカインストームは過剰な炎症を引き起こす免疫システムの暴走である」「④そのため、免疫反応を抑制する必要がある」等と書かれているのには、私は賛成できない。 何故なら、①は、治療の遅れを本人の免疫システムのせいにするもので、②は、ウイルスが侵入した細胞は健康な細胞でないため免疫は細胞ごと攻撃せざるを得ず、③の、身体中で炎症を起こしているのは、重症化して身体中で細胞がウイルスに侵され、ウイルス自体もどこにでもいる状態だからだ。そのため、④の、免疫システムの“過剰”な暴走だとして免疫反応を抑制するのはウイルスの激しい戦闘中に味方の免疫細胞(兵士)に戦闘中止の命令を出すのと同じである。 従って、「サイトカインストーム」は新型コロナ感染症の人が亡くなる原因というより、亡くなる直前の激しい戦闘であり、「サイトカインストーム」がエボラ出血熱・インフルエンザ・マラリア・エリテマトーデス・特定の種類の関節炎などでも起こる新型コロナ特有のものでないのは、自衛軍に敵の侵入を知らせる警報だからで、新型コロナの「サイトカインストーム」も不必要に警報が鳴っているのではなく、敗血症になる寸前の激しい戦闘命令なのだろう。そして、血管が大量の免疫細胞で詰まるのは、闘って死んだ免疫細胞の山であり、患者を死に至らしめるのは、サイトカインストーム自体ではなく敗血症やウイルスによる血管を含む多臓器不全が原因だ。そのため、免疫が感染症と闘っている時に免疫反応を抑制するのは逆で、「サイトカインストーム」など起こさないうちに、ウイルスそのものを退治する抗ウイルス薬(援軍)や他の細菌の増殖を抑える抗生物質(援軍)を使うべきだと、私は思う。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2020.5.11 2020.5.5 2020.5.2朝日新聞 2020.5.13 東京新聞 中日新聞 東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、2020年5月14日に全国の39県で緊急事態宣言が解除され、解除条件も示された。そして、左から2番目の図のように、専門家会議が「新しい生活様式」を示しているが、一部には普段から考慮しておくべきものがあるものの、人が生活する上で長く続けることが困難なものもある。厚労省の専門家会議が意図しているのは、右から2番目の図の第2波の山を先に延ばして低くすることだが、これはウイルスに対する消極的防衛にすぎず、弱い人がいつか感染して亡くなるのを排除することができない。ゲームチェンジして攻めに転じるには、検査と治療・ワクチン接種が必要だが、日本政府はこれには消極的で、外国がやっているのを見て少し真似している程度であるため、先進国の政府とは言えないのだ) *7-1:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/05/39821.php (Newsweek Japan 2020年5月14日) 緊急事態宣言、全国39県で解除 東京など8都道府県も可能なら21日に解除=安倍首相 安倍晋三首相は14日夕に会見し、東京など8都道府県を除く全国39県で緊急事態宣言を解除すると正式発表した。8都道府県についても21日にも専門家の見解を踏まえ、可能であれば緊急事態宣言の期限である31日を待たずに解除する意向を示した。解除に当たっては1週間当たりの新規感染者が10万人あたり0.5人以下に低下したなど医療体制、検査体制を目安に判断したと説明。39県は今後、感染者の小集団(クラスター)対策で感染拡大を防止できるとの判断を示した。もっとも、解除された地域でも、外出自粛は要請しないが「人との接触は減らして欲しい。県をまたいだ移動も控えて欲しい」と訴えた。 *7-2:https://newsphere.jp/national/20200324-2/ (Newsphere 2020.3.24) なぜ日本の感染者は少ないのか……海外が見る「日本の謎」 新型肺炎 世界中で感染者が急増している新型コロナウイルスだが、1日数千人単位で感染者が増えている欧米諸国に比べ、日本は数十人程度と少ない。検査の数を制限し、感染の実態が明らかにされていないという見方が海外では圧倒的で、今後は感染者が急増するのではないかと指摘されている。 ◆異常に少ない検査数 日本の説明は理解されず 日本の感染者数は1110人(3月23日時点)となっている。ブルームバーグは、日本は中国以外で最も早く感染が広がった国の一つなのに、先進国のなかでは最も影響を受けておらず、公衆衛生専門家も首をかしげていると述べる。海外のほとんどのメディアや専門家が「日本の謎」の理由として、検査数が少ないことを上げている。ビジネス・インサイダー誌は、カナダのマニトバ大学のジェイソン・キンドラチュク准教授の「検査しなければ感染者の見つけようがない」という言葉を紹介し、日本が検査能力の6分の1しか検査を行っていないと指摘している。日本は医療機関に過剰な負荷をかけないために検査を絞ると説明しており、国民には症状が出るまで家にいるよう求めている。この対応は、27万人に検査をして感染拡大を阻止した韓国の対応と比較されており、WHOを含め海外では韓国式がお手本と評価されている。ビジネス・インサイダー誌の記事が出た時点では、日本で検査を受けたのは1万6484人ほどだ。これは7600人当たり1人という検査数で、韓国の185人当たり1人に比べ、著しく低くなっている。 ◆文化が幸い? 感染防止に貢献か そもそもダイヤモンド・プリンセス号の処理もできなかった日本が上手くやれているはずはないという辛らつな意見も聞かれるが、日本がある程度感染を抑えているという見方もある。中国に近いため、まだ制御可能な時期から危機感があり、消毒剤やマスクなどが売れて、国民が公衆衛生を守る基本ステップを受け入れたことが貢献したのではないかと見られている。アメリカの科学ジャーナリストのローリー・ギャレット氏は、少数の感染が制御可能な限定された地域で起こっていることが幸いしているのではないかと述べている(ブルームバーグ)。ビジネス・インサイダー誌は、もともと日本文化においては他国よりも社会的距離が遠いこと、以前から病気やアレルギーのある場合はマスクをする習慣が根付いていたことが、感染の拡大を防いだのかもしれないとしている。 ◆検査なしでは実態わからず 偽の安心を懸念 キンドラチュク准教授は、文化的な影響を否定はできないが、それだけでは説明できないと考えている。感染者数の少なさは「偽の安心感」だとし、日本ではまだ最も弱い人々への感染が広がっていない可能性があると述べる。この層に広がれば、あっという間に感染は拡大すると見ている(ビジネス・インサイダー誌)。英キングス・カレッジ・ロンドンの教授で、元WHOの政策チーフ、渋谷健司氏は、日本では集団感染のクラスター潰しに集中した結果、感染が封じ込められたのか、まだ見つかっていない集団感染があるのかのどちらかだと述べる。どちらも妥当だとしながらも、日本は爆発的感染を迎えようとしており、封じ込めからピークを遅らせる段階にもうじき移行すると予想している。検査数に関しては、増えてはいるものの十分ではないという認識だ(ブルームバーグ)。これまで感染者が少なく、何とか持ちこたえてきた日本の新型コロナウイルス対策だが、3月下旬から感染者が急増している。日本は検査数を絞ったクラスター叩きを戦略としてきたが、もう限界だという見方が海外では優勢だ。政府は感染拡大を受け緊急事態宣言で市民の外出や店舗などの営業自粛を求めているが、罰則つきの欧米式ロックダウンではないため、効果に疑問の声が出ている。 ◆感染が抑えられてきた日本 いまは危険水域に 海外メディアは、日本は感染の第一波の悪化を何とか回避してきたという見方だ。もっとも明白な理由は指摘されておらず、さまざまな憶測が飛び交っていた。米ABCは、予定通りの五輪開催のために、政府が数字を抑えようとしていたという噂を紹介している。米ウェブ誌『Vox』は、政府が肺炎患者に十分なコロナウイルス検査をしていない可能性もあると指摘。一方で、日本はもともと挨拶としての握手やハグ、キスなどが少ない文化だったこと、マスクの着用が浸透していたこと、早めに大型イベントの自粛や学校休校などの社会的隔離措置が取られたことなどが功を奏したとも見ている。こういった日本独特の理由が感染を遅らせたという認識が海外メディアには共通だ。 *7-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/523140 (佐賀新聞 2020.5.15) コロナ抗体調査1万人規模実施へ、厚労省、地域で感染の広がり把握 加藤勝信厚生労働相は15日の閣議後記者会見で、新型コロナウイルスの大規模抗体調査を、来月から複数自治体の住民を対象に1万人規模で実施すると表明した。抗体検査は、感染から一定期間たった後に体内にできる抗体を、少量の血液から検出する方法。現在主に使われているPCR検査より簡単で、短時間で結果が出る。抗体は感染直後には検出が難しいため、診断目的ではなく、過去の感染歴を調べて地域での感染の広がりを把握する使い方が想定されている。東京都と東北地方で献血された血液の抗体を試験的に調べたところ陽性率は東京の500検体で0・6%、東北6県の500検体では0・4%だった。ただし、抗体がある可能性が低い昨年採取した血液も一定程度の割合で陽性となっており、誤って陽性と判定される例が含まれていると考えられているという。 *7-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200514&ng=DGKKZO59065040T10C20A5MM8000 (日経新聞 2020.5.14) 待望のワクチン開発 未来への投資、今こそ コロナ、出口は見えるか(6) 「オペレーション・ワープ・スピード」。米トランプ政権が打ち出したワクチン開発の新戦略だ。第2次世界大戦中の「マンハッタン計画」にならい、企業や政府機関を総動員。通常は数年かかる開発期間を大幅に縮める。3日、トランプ大統領はテレビ番組で「年末までにワクチンが手に入る」と説明。全国民分の数億本を供給する目標を掲げた。ワクチンは体の免疫反応を引き出し、ウイルスの感染を阻む。感染拡大を抑えつつ行動制限を緩めるには、免疫を持つ人を増やすしかない。開発の行方が世界経済の命運を握る。世界保健機関(WHO)によると5日時点で開発中のワクチンは100種類を超える。ヒトへの臨床試験(治験)に進んだのは8種類ある。今やワクチンを誰もが待ち望む。だが、感染症対策はワクチンが最後の砦(とりで)になると分かっていながら、今までは危機意識が低かった。「コロナのようなRNAウイルスはリスクが高い」。2年前、米ジョンズ・ホプキンス大学はワクチンの備えを訴えた。パンデミック(世界的大流行)に対抗する技術の芽はあった。ウイルスのRNAやDNAといった遺伝物質を合成し、体に投与して免疫を高める方法だ。ウイルスの培養がいらず、4~5年かかるワクチンの開発期間を大幅に短縮できる。米モデルナや独ビオンテックは、1カ月程度でワクチン候補を作る技術を持つ。ワクチンを供給するグローバルな生産設備や国際拠点を2年前から準備しておけば、直ちに製造に取りかかれたかもしれない。ところが各国の予算は少なすぎた。日本経済新聞社が出資するアスタミューゼ(東京・千代田)が日米英中の感染症関連の研究開発予算(2018年)を調べると、米国は75億ドル(8000億円)、中国は53億ドル(5600億円)、英国は5億8000万ドル(620億円)、日本は5億3000万ドル(560億円)だった。「今後、世界で1000万人以上を殺すなら、それはミサイルではなくウイルスだ」。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は15年の講演会でこんな言葉を残した。国際通貨基金(IMF)は、20年の世界経済の成長率予測を1月にプラス3.3%と見込んでいたが、新型コロナの感染が拡大した後にマイナス3%へ引き下げた。単純計算で日本の経済規模に匹敵する約500兆円の経済損失が生じる。1%にあたる5兆円でもワクチンの開発に充てていたら、損失を回避できたはずだ。新型コロナ収束後の「新常態」では、まず感染症を甘く見た過去との決別が必要だ。ワクチン開発や治療、検査体制の確立で各国は連携し、どんな感染症にも立ち向かえる国際協調の枠組みを整えるべきだ。今こそ未来への投資が求められる。 *7-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/608716/ (西日本新聞 2020/5/16) 小中学校の夏休み13日間に 福岡市、授業時間は10分短縮 福岡市教育委員会は15日、市立の小中、特別支援学校について今年の夏休みを8月7~19日の13日間とすることを明らかにした。当初予定した7月22日~8月26日(36日間)から大幅に短縮した。また、授業時間を10分短くして小学校は35分授業、中学校は40分授業に変更。1日の授業こま数を最大7時間に拡大するなどして、臨時休校による学習の遅れを解消させる。学校が再開する21日から27日までは学年別に分散登校。28日から各クラスを2グループに分けて交互に登校するが、同じ地域の子どもが同じ日に登校できるよう配慮する。入学式は新入生の人数によって時間帯をずらすなど各学校で工夫。全校生徒が通常通り登校する全面再開は未定という。授業は前年度の未履修分から実施。国語、算数・数学など主要教科を優先させ、ほかの教科の一部学習内容は次学年に持ち越すことも容認する。土曜授業は隔週で行い授業時間の確保を図る。感染防止策としては、児童生徒の机の間隔を1~2メートル空けるほか、毎朝の検温を徹底。小学校では当面、遊具の使用を禁止する。市教委ではほかに、冬休みの短縮やプール授業の見合わせも検討している。 *7-6:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/051100281/ (National Geographic 2020.5.12) コロナ患者、本当にこわい「免疫システムの暴走」、人体が立ち上げる“戦闘部隊”、サイトカインストームとは 新型コロナウイルス感染症にかかった多くの重症患者にとって、最大の脅威となるのはコロナウイルスそのものではない。人体がウイルスと闘うために立ち上げる“戦闘部隊”だ。免疫システムは病原体から体を守るために不可欠だが、時に健康な細胞を傷つける激しい凶器にもなる。免疫反応が暴走する例の一つが、過剰な炎症を引き起こす「サイトカインストーム」だ。集中治療や人工呼吸器を必要とする場合を含め、新型コロナウイルス感染症の最も重篤な事例において、この現象が起こっているのではないかと考えられている。サイトカインストームは「新型コロナウイルス感染症にかかった人が亡くなる原因として最も多いものの1つ」と話すのは、米国ボストン市、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のアナ・ヘレナ・ジョンソン氏だ。臨床医や研究者たちは、現在も、サイトカインストームがどれほどの頻度で生じているのか、何がそれを引き起こすのかについて調べているところだ。こうした過剰な免疫反応は、新型コロナウイルス特有のものではないため、既存の治療法の中で有効だと思われるものの目星はついている。こうした治療法を他の治療薬と合わせれば、回復のスピードを早められるうえ、科学者たちがワクチンの開発を急ぐ間に致死率を下げられるかもしれない。「それが、このパズルの鍵のようなものです」と、米ワシントン大学の免疫学者マリオン・ペッパー氏は言う。 ●免疫システムの暴走 人間の体には、侵入した者を発見し退治する方法が用意されている。サイトカインは、こうした防御反応を調整するにあたり極めて重要なタンパク質だ。体の防衛軍を結集するために細胞からサイトカインが放出されると、極小の防犯アラームのような役割を果たし、免疫システム全体に侵入者の存在を知らせる。通常は、サイトカインの情報伝達によって免疫細胞および分子が感染箇所に動員される。防衛軍を動員する過程で、複数の種類のサイトカインが度々炎症を引き起こす。当該箇所での脅威が小さくなり始めると、サイトカインによる情報伝達は止まり、防衛軍は撤退することになるのが普通だ。しかし、サイトカインストームが起こると、「免疫システムが狂ってしまう」と話すのは、米コロンビア大学のウイルス学者アンジェラ・ラスムセン氏だ。サイトカインのアラームは止まるどころか鳴り続け、不必要に兵士を集め続けて、病原体そのものよりも体にダメージを与えてしまうことがある。たった一人の暗殺者を捕らえるために大軍を送るようなものだ。しまいには体全体が戦場と化してしまう。サイトカインストームが起こると、血管が大量の免疫細胞で詰まって交通渋滞のようになり、臓器に酸素や栄養分が届かなくなってしまうことがある。また、感染した細胞に向けられたはずの毒性を持つ免疫関連分子が、血管から漏れ出て健康な組織を損傷してしまうこともある。場合によっては、こうした分子の渦が呼吸困難を引き起こす。サイトカインストームが止まらない限り、患者は組織を損傷し、臓器不全を起こし、そして究極的には死に向かうことになる。サイトカインストームは症状が表れてから最初の数日間で全身に広がり、驚くほどの速さで勢いを強めていく。こうした状態になるケースとしては、二つのシナリオが考えられる。一つは、免疫システムが新型コロナウイルスを体から駆逐し損ねて、サイトカインがとめどなく放出されることになってしまう場合。もう一つは、感染が収まってからもサイトカインが放出され続ける場合だ。 ●“嵐”を制御する サイトカインストームは様々な病気で見られる。エボラウイルス病(エボラ出血熱)、インフルエンザ、マラリア、エリテマトーデス、特定の種類の関節炎などだ。症状は人によって異なり、新型コロナの重症例における特徴もまだつかめていない。どういう人で起きるのかも定かではないが、遺伝的要因と年齢はいずれも関係がありそうだ。とは言え、サイトカインストームはある程度知られているものなので、対処法が開発されている。現在は新型コロナウイルス感染症における効果が検証されているところだ。注目が集まっているのは、重症患者において高濃度で見られるインターロイキン6(IL-6)と呼ばれるサイトカインだ。これに対する効果を期待されている治療薬の一つに、免疫細胞のIL-6受容体をブロックし防犯アラームが聞こえない状態にする、関節炎用のトシリズマブという薬がある。初期の複数の報告は、トシリズマブには効果があるとしている。米ネブラスカ大学医療センターの感染症専門医ジャスミン・マーセリン氏によれば、トシリズマブを投与された重症患者たちはその後回復するようだ。しかし、これまでに行われているのは事前に計画された臨床試験ではなく、その場その場でトシリズマブを投与された患者を追跡するものに留まると言う。トシリズマブを投与された患者を投与されなかった患者と比較しない限り、新型コロナウイルス感染症に対してどれだけ効いているのか、確かな結論を導くことは難しい。「投与なしに自力で回復していたかもしれませんから」とマーセリン氏は話す。現在、答えを出すために、対照群(臨床試験において、研究中の新しい治療を受けない群)を含めた臨床試験が世界で何十と行われている。たとえばフランスで進行中のものでは、64人の「中等症から重症」の患者にトシリズマブが投与され、通常の治療のみの65人と比較して、最終的に致死率および人工呼吸器の必要性が低くなることがわかってきている。 ●生死を分ける治療のタイミング 炎症が起こる前にそれを抑える方法もありかもしれないと話すのは、米マサチューセッツ大学医学部の免疫学者、ケイト・フィッツジェラルド氏だ。治療薬としては副腎皮質ホルモンや、やはり関節炎治療薬であるバリシチニブなどがある。いずれも細胞が様々な種類のサイトカインを生成するのを止める。ほかにも、他の病気の治療法として臨床試験が行われているものに、機械で血中からサイトカインを取り除き、サイトカインストームの終結を早めるという方法がある。だが、死に至るウイルスを前にしているとあって、免疫反応を抑制する治療法に対して専門家たちは慎重になっている。「こうした治療法のリスクは、真逆の方向へ行ってしまいかねないことです」と、マーセリン氏は話す。たとえば、免疫を抑制しすぎると、新型コロナウイルスと闘うことができなくなったり、他の細菌や真菌などの病原体が加わるかもしれない。新型コロナウイルス感染症関連での死亡例において、こうした危険な感染が原因となったものは少なくない。ラスムセン氏によると、治療のタイミングも重要だ。サイトカインをブロックする治療薬の投与が早すぎれば、ウイルスが「暴走する」ことがあり得る。しかし、待ちすぎれば、患者を救うには遅すぎた、ということになりかねない。生死を分けるそのタイミングがいつなのかを示唆する研究はある。IL-6による防犯アラームを聞こえなくするケブザラという治療薬は、人工呼吸器や集中治療を必要とする「重篤」な患者には効果がありそうだが、一段階下の「重症」レベル以下の患者には、特に効果はないようなのである。 ●新型コロナウイルス感染症へのワンツーパンチ 専門家たちは、サイトカインをブロックする方法は、ウイルスそのものを狙う抗ウイルス薬と組み合わせた時に最も有効かもしれないと考えている。「免疫反応にばかり注目して、その原因となっているものを見ないのでは進展しないでしょう」とマーセリン氏は言う。先週、米国立アレルギー感染症研究所は、新型コロナウイルスの自己複製能力を弱めるレムデシビルという抗ウイルス薬が、新型コロナウイルス感染症からの回復をある程度早めるようだとの予備的な調査結果を発表した。現在、レムデシビルと組み合わせて臨床試験が行われているサイトカインストーム治療薬とのコンビネーションで、さらに成果が出るかもしれない。しかし、この戦術が万全だというわけではないと、マーセリン氏は言う。治療薬同士が干渉して効果を打ち消してしまったり、場合によっては患者の容体を悪化させることもあり得る。臨床試験が続く間もパンデミックは広がっており、「結論に飛びつきたくなるものです」とジョンソン氏は話す。「しかし、証拠が出るのを待たなければなりません。毎週毎週、新しい事実が判明するのです」 <先端技術を普及させる理系教育の重要性> PS(2020.5.17追加):*8-1・*8-2・*8-3のように、新型コロナの影響で世界の新車市場が壊滅的な状況に陥るなか、EU域内で始まった環境規制によってEVは欧州で健闘し、2020年1~3月の欧州18カ国のEV販売台数は前年同期から6割増えたそうだ。 EVは、*8-4の日産自動車がゴーン社長の下、世界で最初に日本で開発され市場投入されたEVだ。しかし、最初からメディアにはEV批判が多く、最後は、このブログの2018年12月4日・2019年4月6日に記載した通り、「ゴーン氏の報酬が高すぎる」「姉や妻に疑惑がある」等のいちゃもんをつけて検察に介入させ、ゴーン氏の名誉を剥奪して刑事被告人に仕立て上げたのだ。このような妨害をせずに、ゴーン氏のやり方でEVに重点を移して世界で勝負すれば、3年で3割超も販売台数が減ることはなく世界で勝てたのに、今では「過剰な生産能力を削減する」「スペイン工場を閉鎖する」等の日本でゴーン氏が行った以上の人員整理を行う羽目になった。そして、これは、検察の介入が始まった時から予想できたことであるため、経営に介入して起こった失敗の原因をコロナでごまかすことができたのは、経産省にとって幸いだっただろう。 このように、環境問題も認識できずに環境規制を疎かにし、それをクリアするツールであるEVのトップランナーを叩き続けてつぶしている日本の政府・メディアは、見識が低く、そのため将来を見通せず、大きなビジネスチャンスを失わせた。そして、これは、まともな理系教育を受けていない文系“(自分でそう思っている)エリート”が、理念なき利害調整に走って先端技術を殺した一例にすぎないため、高校まではすべての人への充実した理系教育が必要なのである。 *8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200517&ng=DGKKZO59215560W0A510C2EA5000 (日経新聞 2020.5.17) 欧州でEV販売快走 1~3月6割増 コロナ禍でも勢い 新型コロナウイルスの影響で世界の新車市場が壊滅的な状況に陥るなか、欧州で電気自動車(EV)が健闘している。2020年1~3月の欧州18カ国のEV販売台数は前年同期から6割増え、販売台数に占めるシェアは5%に近づいた。域内で始まった環境規制もあり、EVが浸透する「新常態」が生まれる可能性がある。「(EVなどの投入計画は)予定通り。妥協は一切しない」。独BMWのオリバー・ツィプセ社長は5月上旬の記者会見で訴えた。同社はハンガリー工場の新設延期などコロナ禍で緊縮に動くが、23年までに25車種のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を投入する方針は堅持し、投資にメリハリをつける。背景にあるのは好調な販売だ。BMWの1~3月のドイツでのEV・PHVの販売は前年同期から5割伸びた。これは全体の傾向でもいえる。欧州自動車工業会(ACEA)が12日に発表した欧州主要18カ国の1~3月のEV販売台数は12万7331台と前年同期比で57%増えた。欧州連合(EU)が20年から段階的に導入した新しい二酸化炭素(CO2)排出規制も影響しているが、新型コロナの影響で新車市場全体が27%減となるなか好調さが際立つ。 *8-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20200517&be=NDSKDBDGKKZ・・ (日経新聞 2020.5.17) 欧州EV販売1~3月57%増 欧州自動車工業会(ACEA)は12日、欧州主要18カ国の2020年1~3月の電気自動車(EV)販売台数が12万7331台と前年同期比57%増えたと発表した。新型コロナウイルスの影響で新車市場全体が27%減となるなか、好調さを維持した。シェアは2.5ポイント上昇し4.6%に達した。 *8-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20200517&be=NDSKDBDGKKZ・・ (日経新聞 2020.5.17) 欧州、電動車シェア10%に 21年予測 各社、EVシフト競う フォルクスワーゲン(VW)のお膝元である欧州は、世界でも環境意識が高く、二酸化炭素(CO2)の排出規制も厳しい。電気自動車(EV)の販売も急増しており、VW以外の主要メーカーもEVシフトを競っている。欧州自動車工業会(ACEA)によると、西欧17カ国の2019年1~6月のEV販売台数は前年同期から9割増え、シェアは1ポイント上がって2%になった。新車販売全体が前年割れする中で好調さが目立つ。環境シンクタンクのT&Eは9日、20年の欧州連合全域のEV・プラグインハイブリッド車(PHV)の販売台数が100万台に達するとの予測を発表した。18年の合計シェアは2%だったが、20年に5%、21年には10%まで増えるとみる。T&Eのユリア・ポリスカノバ氏は「自動車大手がようやく腰を上げた。今後1、2年で高品質や低価格のEVが登場する」と背景を説明する。ダイムラーは10日、フランクフルト国際自動車ショーで、旗艦車「Sクラス」のEV版として「EQS」のコンセプト車を発表した。記者会見でオラ・ケレニウス社長は「自動車産業が急激に変わっており、全力で変革を進める」と話した。同社は22年までに欧州の自動車生産でCO2排出実質ゼロ、30年までに販売の半分以上を電動化モデルとする目標を掲げる。 *8-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200516&ng=DGKKZO59206570V10C20A5EA5000 (日経新聞 2020.5.16) 日産、過剰生産力にメス 2割減へ 欧州で不振、誤算重なる 日産自動車は世界の工場を対象に過剰な生産能力を削減する。3年後をめどに現在の年約700万台から2割程度を減らす方針だ。スペイン工場を閉鎖する調整をするなど、生産体制再編の主な舞台は欧州になる。「今回の生産体制見直しの柱は欧州だ」。日産幹部はこう語る。日産は5月下旬に新たな中期経営計画を発表する予定だ。内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)ら新経営陣がいち早くメスを入れることを決めたのが、欧州だ。商用車などを造るスペイン工場の生産能力は年約20万台で、稼働率は3割程度にとどまる。同工場で手掛ける車種は、提携先の仏ルノーの工場に生産を移管する。一方、年約50万台の生産能力を持ち日産にとって欧州で最も大切な拠点である英国工場では、ルノー車の生産を始める方向で詰めている。19年度の生産台数はフル稼働にははるかに及ばない32万台にとどまった。ルノーと一体で欧州での生産体制を見直し、日仏連合全体で効率化する。欧州では不振が続く。ピーク時の16年度は多目的スポーツ車(SUV)を中心に約78万台を販売した。だが、19年度は52万台と3年で3割超も減った。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表は「トヨタ自動車のハイブリッド車のような武器を持たない日産は欧州でシェア争いに敗れてきた。地元メーカーとの優劣も鮮明で事業の縮小は避けられない」とみる。これに3つの誤算が重なった。まず英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)だ。英国工場は約7割を欧州大陸に輸出する。今後の交渉次第でEU向けに関税がかかり、価格競争力が低下する懸念がある。新型コロナウイルスの感染拡大も想定外だった。外出規制で3月の欧州の販売台数は、前年同月比51%の大幅減だった。3つ目はルノーとの協業が、日産にメリットがある形で進まないことだ。例えば16年にルノーの仏フラン工場で委託生産を始めた小型車「マイクラ」(日本名マーチ)。当初は日産のインド工場で造り、欧州に輸出する計画だった。予定が変わった表向きの説明はコスト削減だが、日産側には「ルノーの工場の稼働率を上げるために生産を持っていかれた」との不満がある。日産は元会長のカルロス・ゴーン被告の掲げた拡大戦略と決別し、全販売台数の7割を占める日米中の3市場に投資などを絞り込んで経営を再建する。欧州の生産体制の見直しは新生日産の試金石になる。 <行政は、新型コロナ蔓延を利用したITによる監視社会への移行を意図している> PS(2020年5月19日追加):速やかに治療すれば入院期間が短く医療崩壊は起こらないため、検査せずに、治療薬の承認を遅らせ、ワクチン開発に消極的で、クラスターを追いかけて差別を助長する公表ばかりしているので変だと、私は思っていた。そして、*9-1のように、携帯の位置情報や検索キーワードの履歴から集団感染の発生をつかむためとして、総務省・内閣官房・厚労省・経産省が、4月31日にNTTドコモなどの携帯電話大手3社・米グーグル・ヤフーなどIT大手6社に対して保有するビッグデータを新型コロナ対策に提供するよう要請したことを知って、行政は、新型コロナを利用してITによる監視社会に道筋をつけたいのだとわかった。しかし、「集団感染の発生を封じ込める必要性」といっても、このシステムは選挙妨害・捜査・しつこい広告など何にでも使えるため、国民は、個人の自由とプライバシーを侵害し、監視社会への入り口となる(マイナンバーカードを見よ)このシステムに反対した方がよいと思う。 また、*9-2のように、厚労省は8300万人という歴史的な規模で、新型コロナ対策のための簡単な全国健康調査を行って、「37度5分以上の発熱が4日以上続いているか否か」を重視させる誤ったキャンペーン行い、ITはプライバシー管理に弱いのに遠隔診療・AIドクター・医療ビッグデータの活用を、これを機会として強引に進めようとしている。 そして、*9-3のように、「①徹底した検査が、早期のウイルス封じ込めに成功した韓国の感染症対策の柱のひとつになった」「②韓国は接触者の追跡にビッグデータを活用し、クレジットカードの利用履歴や携帯電話の位置情報をもとに感染者の移動経路を明らかにした」「③韓国は、携帯電話会社の位置情報と患者のカード利用履歴から、感染者と接触した人を全員追跡して隔離する態勢を整えている」「④韓国の世論は感染拡大阻止のためなら個人のプライバシーが犠牲になっても良いという回答が多い」などとして、人権に関しては後進国である韓国や中国に追随することを奨励しているわけだ。 しかし、*9-4は、もう少しまともに、「⑤ヨーロッパ各国の研究者が横断的に協力して開発した、EUのプライバシー保護規制に準拠した接触者追跡システムを発表した」「⑥感染者の行動追跡などの極めて私的な事柄を第三者に開示することを強いるたに、接触者の追跡と正当化されるが、正当化されることと、それが適当か、あるいは期待どおりに機能するかは別問題」「⑦監視化する世界にするのか」「⑧人権は尊重されなければならない」などを検討している。が、そもそも新型コロナへの感染を早期発見・早期治療できるようにすれば、プライバシーの侵害・移動の制限・それに対する巨額の補助金支給などを行わなくてすむので、そこに全力を集中すべきなのである。 *9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN3074G1N30ULFA02B.html (朝日新聞 2020年4月1日) 総務省、携帯・IT大手にビッグデータ要請 コロナ対策 総務省などは31日、NTTドコモなど携帯電話大手3社や米グーグルやヤフーなどIT大手6社に対し、保有するビッグデータを新型コロナウイルスの感染対策のために提供するよう要請した。携帯の位置情報を使った人の移動データや検索キーワードの履歴から、集団感染の発生をつかむことなどに役立てる考えだ。首都圏を中心に感染者が急増する中、集団感染の発生を封じ込める必要性が高まっている。提供されたデータを分析し、外出自粛要請などの対策の実効性を検証することも期待できるという。その他のデータについても「利用可能なものは積極的にご提案いただきたい」(総務省)としている。高市早苗総務相は同日の閣議後会見で、「感染拡大防止策のより効果的な実施が可能となる」と強調した。同省のほか、内閣官房、厚生労働省、経済産業省が連名で要請した。 *9-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200415/k10012388211000.html (NHK 2020年4月15日) “ビッグデータ”でコロナと闘う 「いま発熱はありませんか?」。ITを駆使して8300万人もの人々に健康状態を問いかける。そんな前例のない大規模な調査が行われている。新型コロナウイルスの対策に必要な“ビッグデータ”の収集。感染リスクを抱えているのは、どんな職業の人で、どこにいて、どんな予防策をとっているのか。寄せられた大量のデータを分析することで、感染拡大の抑止にどのような対策が有効なのか、その道筋が見えてくるという。私たち一人ひとりが持つ情報の集積、ビッグデータは、猛威を振るう新型コロナウイルスに打ち勝つ有効な武器となるのか。 ●歴史的な規模の調査 先月31日から始まった厚生労働省の新型コロナウイルス対策のための全国健康調査。全国で8300万人という通信アプリ「LINE」のユーザーに直接呼びかけ、いまの健康状態などを聞き取っている。質問項目は、「いまの健康状態」「年齢」「性別」「住んでいる地域」「感染の予防行動」などいくつかの簡単なもの。調査にあたって、厚労省は、集めたデータは感染者の集団=クラスターの対策のための分析だけに使用し、個人のプライバシーが特定されないよう加工を行うとして、広く協力を呼びかけた。これまでに寄せられた回答は、およそ2500万人分。国民のおよそ5人に1人が回答した計算になる。回答は自主的な申告だが、感染リスクに関する重要なデータが明らかになってきた。37度5分以上の発熱が4日以上続いていると答えた人が、全国で約2万7000人に上ったのだ。都道府県ごとに見ると、沖縄県がもっとも高く、次いで東京都、北海道、大阪府が全国平均を上回っていた。国の緊急事態宣言が出されていない自治体でも、発熱を訴える人が数多くいることが分かった。さらに、発熱を訴えている人を職業別のグループで分類したところ、▽飲食店や外回りの営業など長時間の人との接触や密集を避けるのが難しい職業のグループでは0.23%と全体の平均の2倍余りに上っていた一方、▽在宅で家事や育児をする人など人との接触を避けることが比較的容易なグループでは0.05%と、全体の平均の半分以下の割合となっていた。これらの傾向から、日頃の行動で「社会的な距離を保つこと」「密閉・密集・密接のいわゆる3密を避けること」が感染リスクを下げるうえで重要であることが、データで裏付けられるかたちになった。発熱を訴えている人が、直ちに新型コロナウイルスに感染していることを示しているものではない。それでも、現状では希望した人すべてがすぐに感染の有無を調べる検査を受けられるわけではない中で、ウイルス感染の可能性のある人がどれくらいいるのか、どんな傾向があるのかが分かったのは初めてだ。 ●自粛要請 その裏側にもデータ LINEを通した健康状態の聞き取り調査は、国に先立って一部の都府県で始まっていた。自治体の調査では、健康状態の聞き取りだけでなく、回答された内容にもとづいて、新型コロナウイルスの感染の可能性があるかどうかや、相談窓口への連絡の必要性などを自動のチャットで回答する仕組みになっている。もっとも早く3月上旬に導入した神奈川県では、県民20万人のビッグデータの分析結果が、知事が「不要不急の外出の自粛」を呼びかける根拠の一つとなった。その分析データも、発熱を訴える人の割合だった。ことし2月末から3月中旬まで、日ごとの発熱していると答えた人の割合は横ばいだった。しかし3月20日からの3連休のあと、その割合が急激に増えていた。そして、感染が確認された人の数も、それに伴うように増え始めていた。これに、県内の人出のデータを重ねると、3連休では行楽地への人出が増加しており、自粛ムードが緩んでいたことが見て取れる。神奈川県は、そのことが感染拡大につながった可能性があると考え、「不要不急の外出の自粛」を呼びかけたのだ。 ●専門家が語る“データの力” LINEと国や自治体を結んで、ビッグデータを利用した調査や健康サポートのシステムを作り上げたのが、医療政策を専門とする慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授だ。クローズアップ現代+にゲスト出演している宮田教授は、新型コロナウイルスの流行の兆しが見えていたことし2月下旬、ビッグデータの活用がいかに不可欠かを指摘していた。 *慶應義塾大学医学部 宮田裕章教授 「もしこのまま感染がおさまらなかった場合に、どういった対策を打てばいいのか、判断の根拠になるものがない。患者だけでなく、自宅に待機している潜在的な患者も含めてエリアごとに把握しながら対策を考えないといけない」。 その後、宮田教授はLINEや厚労省と協議を重ね、調査の実施へとつながっていった。感染拡大の収束がまだ見えない中、データを活用することの重要性は今後さらに高まっていくと話す。 *宮田教授 「今後もしオーバーシュート(感染爆発)が発生するとしても、症状を訴えている人の情報をより早く集めることで、どれくらいの患者が発生しうるのか、それに備えるための現場の準備につなげることができる。データを蓄積しながら判断を重ねて、人々に還元していく、これがいちばん大事です」 ●IT企業もビッグデータを提供 LINE以外にも、新型コロナウイルスへの対策にビッグデータを役立てようという動きは、いくつかのIT企業の間で広がっている。グーグルは、地図アプリで集めた匿名のビッグデータを使って、新型コロナウイルスの影響を受けて世界各国の人々の活動がどれほど変化したかを、今月3日からブログで公開している。それによると、3月の1か月間の人々の活動量は、厳密な都市封鎖が行われたフランスでは大幅に減少した。一方、日本では駅など交通機関への人出は減少したものの、娯楽施設への人出は、3月下旬にかけての桜の開花や3連休のタイミングで増加していた。また、IT大手ヤフーでも、アプリを通じて匿名で提供を受けた人々の位置情報や購買履歴、検索ワードなどのビッグデータを厚労省に提供すると発表していて、分析の結果が対策に活用されることが期待されている。 ●AI・ビッグデータがもたらす未来の医療 日本以上に新型コロナウイルスの感染が広がっているイギリスでは、ビッグデータとAIを活用したサービスが、急速に普及している。イギリスのベンチャー企業「Babylon Health(バビロン・ヘルス)」が運営するAIを使った遠隔診療サービス「AIドクター」は、国の保険が適用され、すでに80万人以上が登録している。ことし2月には、新型コロナウイルスの診断プログラムが追加された。利用者は、スマートフォンやパソコンによるチャットで、AIに対して現在の体調や症状を申告する。すると、AIが自動で質問を投げかけて生活習慣や持病などを聞き取り、可能性のある病名を回答するという仕組みだ。24時間365日、待ち時間なく利用することができ、チャットの開始から可能性のある病名の回答までわずか数分ですむ。医療費がほぼ無料のイギリスでは、軽い症状でも人々が病院に頼るため、受診できるまで最大2週間かかることもある。このAIドクターが、医師に代わって最初の診断を担うことで、病院に駆けつける人を減らすことができ、今回の新型コロナウイルス対策でも医療現場を支える役割を果たしているという。 ●AIの可能性 AIドクターを支えているのが、患者の症例などの膨大な医療ビッグデータだ。AIは、データの分析・学習を重ねることで診断の精度を高め続けていて、ある医療テストでは、AIドクターの診断の精度が人間の医師を上回ったという結果も出ているという。さらに、カメラに映った患者の表情をAIが読み取ることで、患者自身も気付かない病気の兆候を見つけ出す試みなども行われ、新しい医療の可能性も示している。 *バビロン・ヘルス 最高医療責任者 モブシャー・バットさん 「ビッグデータを用いた医療は、今のような集団感染が起きた時こそ本領を発揮する。AIドクターを使えば、対面による感染リスクを減らしてサポートができる。世界中の国がこれを医療に導入するまでそれほど長い時間はかからないだろう」 このAIドクターは、イギリスだけでなくアフリカなど世界17か国で導入されていて、日本でのサービス開始も検討されているという。 ●一人ひとりのデータが未来を支える 大きな可能性を持つ医療ビッグデータの活用。しかし、一人ひとりの健康状態や病歴などは、最も厳密に管理されなければならないプライバシーデータ=個人情報でもある。集められたデータが目的外に流用されたり、外部に漏えいしたりすることはあってはならない。この点に関して、宮田教授は、データ活用には「信頼」が重要だと指摘する。 *宮田教授 「皆さんから多くのデータを集めるためには、信頼される形でデータを使うことが必要。データの十分な管理がなされているか。公共の利益のために使われているか。第三者機関の監視や複数の機関が関わることで、信頼を高める仕組みを作る。データは誰かが持っているだけでなく、共有することによって価値が高まっていく。ひとりのデータがみんなのために役立てるだけではなく、そのデータが、結局、一人ひとりを支える仕組みを作ることによって社会そのものをいい方向に向けていきい」 厚労省のLINEを使った調査は、これまでに3回行われ、今後も続けられる予定だ。合わせて行われている自治体の健康サポートでは、長期にわたって健康状態をフォローすることで、今後、回復に向けた医療ケアにつながるような分析も可能になるのではないかと期待されている。統計的な分析やAIによる解析によってより高い価値を産み出すビッグデータ。うまく活用すれば、私たちが新型ウイルスに対して立ち向かう大きな武器となるはずだ。ビッグデータとコロナウイルスについては、15日(水)午後10時放送予定のクローズアップ現代+で詳しくお伝えします。 *9-3:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/051400292/ (National Geographic 2020.5.14) 新型コロナ、韓国はいかに感染爆発を食い止めているのか、大量の検査実施とビッグデータを活用した接触者の追跡が奏功 韓国ソウル市にあるH+(エイチ・プラス)ヤンジ病院の駐車場に設置された新型コロナウイルス臨時検査場は、外から見ると普通のプレハブ住宅とあまり変わらない。だが、そのなかには真新しい透明のプラスチック板に囲まれたブースが4つ置かれ、危険な病原体を扱う研究室にあるように、プラスチック板に開けられた穴にゴム手袋が取り付けられている。患者はブースに入ると、プラスチック板の反対側にいる医師とインターコムを通じて会話し、手袋をはめた医師が患者の鼻と喉から検体を採取する。患者と医師が直接接触することはない。ブース内は陰圧状態が保たれていて、ウイルスを含んだ飛沫がブースの外に漏れ出ないようになっている。検体の採取が終わったら、防護服を着た職員がブース内を消毒し、ゴム製のワイパーでプラスチック板を掃除する。韓国全土に設置された同様のウォークイン式検査場は、大量で迅速な検査実施を可能とし、早期のウイルス封じ込めに成功した韓国の感染症対策の柱のひとつになっている。このほかにも、人口5100万人の韓国は接触者追跡にビッグデータを活用し、クレジットカードの利用履歴や携帯電話の位置情報をもとに感染者の移動経路を明らかにした。韓国の世論調査では、感染拡大を阻止するためなら個人のデジタルプライバシーが犠牲になっても良いという回答が多数派を占めている。当局は厳しい社会的距離政策を推進したが、その多くは自粛要請にとどまり、バーやレストラン、映画館の強制的な閉鎖措置は取られなかった。その韓国でも、コロナウイルスの流行が完全に終息したわけではない。最近になって複数のナイトクラブで集団感染が発生し、5月13日の時点で新規感染者は119人に増えた。それでも、韓国政府の対応は世界のお手本となるだろう。ここまで来るのは、簡単なことではなかった。 ●過去の感染症から学んだ韓国 韓国の迅速な対応は、過去の感染症から学んだことによる。2015年に流行したMERS(中東呼吸器症候群)により、韓国では186人が感染し、38人が死亡した。流行が終息してすぐに、韓国議会は接触者の追跡を包括的に実行できるよう法律を策定し、感染者と接触した人を全員追跡して隔離する態勢を整えた。衛生当局は、クレジットカード会社に対して患者のカード利用履歴を、携帯電話会社に対しては位置情報を要請する権限が与えられた。さらに、それをもとに再現された感染者の行動経路が、本人の名を伏せて公開される。人々はこれを見て、その経路上で自分が接触したかどうかを確認できる仕組みになっている。韓国では当初、毎日のように数百人の感染が報告され、ピークに達した2月29日には、主に大邱(テグ)市の宗教団体での集団感染により、909人の感染者が出た。だが接触者の追跡と大量の検査のおかげで、制御不能になる前に初期の感染者増加をなんとか抑え込むことに成功した。その後も同じ戦略によって、教会やゲームカフェ、コールセンターでの集団感染を早期に封じ込めた。4月15日、韓国は総選挙を実施し、2900万人がマスクと手袋を着けて投票に出かけた。投票所では全員の体温を測り、発熱している人を選別した。この選挙による感染者はひとりも報告されていない。韓国のデータ収集は、一部の国からは患者のプライバシー侵害だと言われるかもしれないが、韓国国民からは広く支持されている。ソウル大学公衆衛生大学院が3月4日に実施した調査では、1000人の回答者の78%が、ウイルス封じ込め対策を強化するためなら人権の保障が多少受けられなくても仕方がないと回答した。過去の流行の経験からも、国民は政府の正式なガイドラインが発表される前から外出自粛を始め、外ではマスクを着けるようになっていた。そして何よりも、韓国は2015年のMERS流行後、診断検査能力の拡充に乗り出していた。米国は疾病対策センター(CDC)の開発した検査キットに頼っていたが、韓国は民間企業を活用した。今年1月下旬、政府は国内のバイオテク企業に検査キットの開発を要請し、それから1カ月以内には1日1万件の検査を実施していた。韓国のバイオテク産業は近年急成長し、パンデミックが始まったころには既に増産の態勢が十分に整っていたと、ソウルの南、板橋(パンギョ)にあるTCMバイオサイエンス社の最高経営責任者トーマス・シン氏は言う。「ここ5年間で、韓国では多くのバイオテク企業が生まれました」。TCMも政府の要請に応じてキットを開発し、4月に食品医薬品安全処の認可を受けた。シン氏は、検査キットの開発は企業経営の観点からは必ずしも簡単な決断ではなかったと話す。新しい感染症は予測が難しく、早期に封じ込められれば初期開発費が回収できなくなってしまう。しかし、韓国はウイルス発生源である中国と強いつながりがあったため、韓国が中国と同じ状況に陥るのは時間の問題だと、TCMは考えた。さらに、世界市場でもビジネスチャンスが生まれるだろうと予測した。これまでのところ、同社は260万ドル(約2億7700万円)相当のキットを出荷している。(以下略) *9-4:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200423-00071905-gendaibiz-pol&p=5 (Yahoo 2020/4/23) 新型コロナで世界が苦悩する「監視・プライバシー」をめぐる難題 ●コロナ対策とプライバシーの問題 新型コロナ対策のために、日本でもパーソナルデータの利用や接触者追跡のシステムの導入に向けた動きは本格的に始まろうとしている。4月1日の新型コロナ感染症対策専門家会議の見解で、「パーソナルデータの活用」「アプリ等を用いた健康管理」が言及され、6日には、内閣官房で「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」のキックオフ会議が開催され主要なIT事業者や移動通信会社、団体が参加している。世界的な流れも、プライバシーへの介入をなるべく少なくした接触者追跡のためのアプリ導入に向けた動きが進む。3月31日にはヨーロッパ各国の研究者が横断的に協力して開発した、EUのプライバシー保護規制に準拠した接触者追跡システムを発表。4月10日には、アップルとグーグルがスマートフォンを使った接触者追跡技術の共同開発を発表し、技術文書のドラフトをリリースした。4月13日には、日本でも民間団体による接触者追跡アプリの開発を待って政府が実用実験を行うことが報道された。感染症対策は、個人情報やプライバシーの問題と、社会的な必要性との間で慎重にバランスをとることが求められる分野だ。感染者の行動追跡はその典型で、どこへどのような手段で行き、誰と会ったかなどは極めて私的な事柄だ。通常、第三者に開示することを強いられるものではないが、接触者の追跡のために情報収集が正当化される。しかし、正当化されることと、それが適当か、あるいは機能するかは別問題だ。どのような個人情報をなぜ収集するのか、収集された個人情報をどのように利用し、誰に提供され、あるいはどこまで誰に開示されるのかなど、プロセスの透明性が確保され、適切な管理と規制のもとに置かれていなければ、信頼性を欠くからだ。また、「知りたい」「知っておきたい」ではなく、私的領域に介入してまで収集する必要性があることへの理解と、提供したことにより発生する不利益(接触者の隔離による社会生活上の制約など)に対する手当の両方が、本当に機能させるには不可欠だろう。今、感染症対策の伝統的手法に加えて、私たちが日々利用しているスマートフォン、SNS、アプリ、検索エンジンなどの利用により蓄積される位置情報や利用履歴などの個人データの利用や、情報技術を使った接触者追跡などの利用が加わりつつある。政府に法的な権限や根拠を手当てすれば、信頼性や透明性、そして発生する不利益への手当てを欠いたとしても、感染症対策としてデータの収集・利用は可能となるが、それで果たして良いのかが問われている。新型コロナの感染急拡大により、新たなツールやデータの収集・利用方法の開発・実装とすでにある個人に関する情報の提供・利用――技術的イノベーションと個人の私的領域への介入――が急速に、かつ同時並行的に進んでいる。こうした中で、感染症対策という非常時の手段として、どのような条件でどこまで正当化できるのかが今、問題になっている。新型コロナ対策として、個人情報やデータの利用について世界ではどのような取り組みが行われ、何が課題・問題になっているのかをまずはまとめたい。 ●データを活用した対策の効果は… 人の日常がデジタルの痕跡で残るようになり、従来とは異なる方法で感染者の監視・管理、接触者の追跡を行おうとする試みは以前からある。2014年に主にシエラレオネ、リベリア、ギニアで発生したエボラ出血熱の地域的流行が、最初にデジタル情報を本格的に使った感染症対応といわれている。この時、携帯通話データなどの個人情報が、国際的な官民援助機関の要求により通信事業者から提供されたものの、様々な問題を引き起こした一方で、感染予測に役立ったという根拠はなく、感染症対策としての効果が薄かったという検証結果も報告されている。報告では、ツールやシステムの開発の方が成果がわかりやすいので資金がつきやすく、独自のものが乱立しがちになること、それらは十分な評価・検証されずに実験的に投入されること、データを得ても効果的な対策ができなかっただけでなく、データは特定のツールやデバイスのユーザーに偏るため、脆弱で最も支援が必要な人ではなく、支援が必要ない人を支援する結果になる可能性があることなどが指摘されている(なお、この時の経験をもとに、人道支援分野では倫理的にかつ責任ある個人データの扱いが議論され、国連やWHOの方針等にも反映されている)。当時よりも個人データの集積・利用が進み、またエボラ出血熱のような一部地域での流行ではなく、新型コロナウイルス感染症は世界的流行となった。その中で、個人データの利用・提供とツールやシステムの開発・導入は様々なレベルで加速している。これらは主に、以下のようなものに分けることができる。この中で最も論争となっていることの一つが、位置情報の扱いだ。 (1)感染者の行動履歴を携帯の位置情報のほか監視カメラなどから特定(中国、韓国、 イスラエルなど) (2)アプリを義務的導入、一部地域で人々の行動監視(中国) (3)無症状・軽症の陽性者の自宅隔離監視ツール(台湾、韓国、オーストラリアの一部 の州など) (4)匿名加工した位置情報の提供(アメリカ、ドイツなど) (5)匿名加工した健康管理アプリのデータの提供(ドイツなど) (6)ブルートゥースを使った接触者追跡アプリ (7)統計情報の提供 (1)~(3)は、感染者や接触者に対して介入的に位置情報含む個人情報を収集・管理・行動を制限するもの、(4)、(5)はビッグデータの利用で位置情報や健康情報というセンシティブな情報を吸い上げるものだが(5)は任意のアプリ、(6)は個人の自発的意思によって使うものだがプライバシーへの介入が制限的と言われているが議論のあるものだ。(7)は個人への直接の関与・介入はないが、個人のセンシティブな情報の集積であるので目的を限定する必要があり、かつバイアスや差別を排除した利用をしないと政策判断を誤る可能性のあるものだ。 ●監視化する世界? 少し具体的に見ていくと、中国は既存の社区(コミュニティ)に分割した社会管理システムによる住民同士の相互監視と、情報システムを利用した監視システムの両面で住民を管理している。ニューヨークタイムス紙によると、感染拡大が明らかになると中央政府が地方政府に対策を求めた後、居住委員会や自治体が相互に競い合って住民の移動に関する独自の極端なルールを作り、相互監視が強化されているという。フォーリン・アフェアーズ誌によれば、100万人以上が地元で監視活動を行い、それに加えて、既存のAIを用いた顔認証システムの利用、スマートフォンアプリを義務化し、人に色分けしたタグ付けをして移動範囲の制限等を行っている。韓国は、2015年のMERS(中東呼吸器症候群)の流行時に感染者の訪問先を隠したと批判されたことで、感染症法が大幅に改正され、感染者の移動履歴などの詳細情報が公開されるようになった。また、接触者追跡のための聞き取り調査に加え、監視カメラ映像、クレジットカード使用歴、GPS情報を使っている。中国もシンガポールも、同じ手法で追跡調査を行っている。MITテクノロジー・レビュー誌によると、韓国では感染者が2メートル以内にいた、あるいは咳をしたときに同じ部屋にいると、「接触者」とされ、2週間の自己検疫が命じられ、移動が法的に禁じられる。接触者はアプリか電話で毎日の健康状態を報告し、移動した場合は警報が本人とケース担当者に送信される。2月26日に感染症予防法などの改正法案が成立し、入院や隔離措置に違反した場合の罰則を強化するなどしている。イスラエルは、安全保障局が裁判所の命令なしに個人の電話を追跡できる権限をネタニヤフ首相が承認。テロリストに対する監視方法を新型コロナ感染者の追跡に利用している。また、3月22日に接触者追跡アプリHamagenの提供をはじめた。アプリユーザーの位置情報と、陽性診断前14日間の感染者の位置情報を相互参照し、一致した人に対してどのような対応をすべきかを通知する保健省へのリンクが送信され、保健省にも報告がされる。ロイター通信によると、イスラエル国防省は、スパイウェア会社が作成した携帯電話から収集されたデータを分析するソフトウェアを使って、感染が疑われるものを特定して検査を計画している。感染者数の増大とともに、国防大臣は感染の可能性のある接触者の追跡にはもはや位置情報の追跡は効果的ではないと述べたという。位置情報を利用しているものには、陽性でも無症状者や軽症者の自宅検疫監視ツールがある。BBCによると、台湾では、自宅検疫を命じられた者は「Electric Fence」を起動してスマートフォンのデータが追跡され、外出すると連絡を受けた警察や地元当局が15分以内に対応。携帯電話の電源が切れていた場合は、自宅まで警察が来る。ポーランドでは、14日間の自宅での自己検疫を確実に行うためのアプリを公開。最初にセルフィーで写真を登録し、定期的に位置情報とともにセルフィーを送る要請が届き、20分以内に送信できないと警察により警告され、従わなかった場合は罰金が科される。自己検疫対象者は、アプリをダウンロードして使用するか、警察の訪問を受けるかを選択しなければならない。また、位置情報ではないが、ロイターによると、ロシアは帰国・入国者すべてに2週間の自己検疫を求めており、モスクワ警察は顔認証技術を使用し、200人以上の自己検疫対象者を違反者として取り締まったという。匿名加工した位置情報の提供を受けているのが、ドイツ、オーストリア、ベルギー、イタリア、スイス、スペイン、ポーランドなどだ。イギリスでも通信事業者などと協議中と伝えられているほか、欧州委員会はヨーロッパ通信大手事業者に対して、欧州委員会として利用法を管理するため、数億人分になる匿名化及び集計された域内の携帯電話のメタデータの共有を要請したと報じられた。アメリカも匿名化した位置情報の提供を受けているとされるが、通信事業者ではなく広告事業者がアプリを通じて収集したもののようだ。広告事業者の活動自体が不透明であり、位置情報の収集方法に疑義があるため批判の対象になっている。 ●位置情報以外で接触者を追跡する方法 そして今、もっとも導入が広がりそうなのが、位置情報以外で接触者を追跡する方法だ。シンガポール政府は、3月20日にスマートフォン向けのアプリTraceTogetherの提供を始めた。GPSやwifiはどこにいるかという位置情報を示すが、Bluetoothは例えば接続するイヤホンなどの機器との距離がわかるので、同じアプリを入れた機器同士の距離を計測して記録する。アプリストアから自分の意思でダウンロードし、起動して携帯番号を登録する必要があり、これが政府の管理するサーバーに登録されIDも自動生成され一元的に管理される。Bluetoothをオンにしておき、同じアプリの入ったスマホが近くにあると、(1)タイムスタンプ、(2)Bluetoothの信号の強さ、(3)機種、(4)一時的なID(定期的に変更される)の4情報が交換され、それぞれのスマホに記録される。TraceTogetherのウェブサイトによると、これらの情報は外部には送信されず政府が管理しないとされ、接触情報が使われるのはアプリのユーザーが感染した場合。本人の同意で保健省の職員がアプリ内の暗号化された情報を政府のサーバーにアップロードして解読し、過去21日間に2メートル以内に30分以上いた接触者を特定し、追跡担当者から接触者に電話をする。電話を受けて本人が同意をすると、その情報もアップロードして解読するという。誰が感染者か、接触者であるかは双方に伝えられないともしている。(なお、現在、TraceTogetherはオープンソースとなっているが、それより前にリバースエンジニアリングとユーザーのトラフィックを検証した結果として公表されているレポートによると、アプリがデータを政府のアプリケーション分析プラットフォームに送信していたという報告もある)。21日間経つとデータが消去され(ただし、この自動消去は4月8日のアップデートで実装されたので、アップデートしていないと21日を超えてデータが残る可能性がある)、Bluetoothをオフにすると記録は停止、アプリを削除すると蓄積されたデータと一元管理されているIDなどの情報も削除されるという。いつでも自分の意思で利用を停止、データ利用の撤回ができるとして、シンガポール政府は国民に利用を推奨し普及をはかっている。 ●ヨーロッパで起きていること ヨーロッパでは8ヵ国130人以上の科学者などが、EUの個人データ保護規則であるGDPRに準拠したプライバシーを保護した汎ヨーロッパの接触トレース(Pan-European Privacy-Preserving Proximity Tracing:PEPP-PT)技術の設計・開発に共同で取り組んでいると4月1日に発表した。このプロジェクトでは、Bluetoothを利用したもので、各国や民間でそれぞれのアプリを開発・使用するのではなく、EU域内での技術の標準化し、国が識別でき、各国の公衆衛生などのプロセスで機能する特徴を備えるものとされる。アプリの匿名化したユーザーIDは中央で一元的に管理され、感染が確認されるとスマートフォンに蓄積された接触情報が中央サーバにアップロードされて解読され、接触者に連絡するものになるという。プロジェクトメンバーにフランス国立情報学自動制御研究所が含まれ、フランスはPEPP-PTを用いたアプリの準備を表明している。別のイニシアティブもあり、ヨーロッパの7つの研究機関の約25人の研究者によって設計された分散型プライバシー保護接近トレース(DP-PPT)が発表された。PEPP-PTとは異なり、アプリユーザーの仮名IDは中央に一元的に保存することを要求しない。より、国家による監視システムへの転用などをしにくくするためという。これとは別に、イギリスでも接触者追跡のためのアプリの導入を現在検討している。さらに冒頭に述べた通り、GoogleとAppleは共同で接触者追跡技術の共同開発を表明した。4月8日に欧州評議会は、新型コロナ対策として汎ヨーロッパの接触者追跡アプリと、匿名化及び集計された携帯の位置情報データを利用による新型コロナウイルスの展開のモデリングと予測を二本柱とした勧告を採択しており、方向性は作られつつある。 ●人権は尊重されなければならない こうした世界各国の前のめり気味な動きに対する警戒感や問題点の指摘が、市民社会や研究者などから表明されている。もちろん、新型コロナ対策を効果的に行い、人の命を守る必要があることについて異論を唱える人はおらず、情報やツールがあれば解決するという単純化がもたらす深刻な副作用を懸念している。その懸念に対し、WHOの3月30日の定例記者会見で、健康関連の緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン氏は、個々の市民に関する情報の収集や位置情報の追跡には、常に非常に深刻なデータ保護、人権の原則が関係していること、開発されるすべてのものが可能な限り最も慎重な方法で行われ、個人の自由や権利の基本原則を超えないようにしたいと述べている。電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation; EFF)やプライバシー・インターナショナル(PI)など、プライバシーと市民的自由の問題に取り組むNPOは、早くからこの問題に対して警告し、問題点を繰り返し指摘してきた。4月2日には人権・デジタル権の問題に取り組む世界各国100以上のPIを含むNPOが連名で、新型コロナの世界的流行に対して電子的監視テクノロジーの使用には人権が尊重されなければならない旨の声明を出した。声明では、プライバシー権や表現・結社の自由といった権利に対する脅威となるため、新型コロナ対策のための国の取り組みが、電子的監視テクノロジー能力の大幅な拡張のための口実になってはならず、現在のような非常事態であっても、政府が個人や住民監視に電子的テクノロジーを用いる場合は厳格に人権を保障して実行することを求めた。また、政府が電子的監視テクノロジーを用いる場合には、適法かつ適切な方法でなければならないこと、例外的に監視権限を強化する場合はその期限を明確にすること、健康情報を含む個人データの収集・保存・集計を強化する場合は、新型コロナ対策のみに用いること、ビッグデータやAIを含む新型コロナ対策のためのいかなる電子監視テクノロジーの利用による差別や排除のリスクを踏まえることなどを求めている。EFFは、新型コロナ対策のための手段として電子的監視を含む新たな管理権限を政府が要求する場合、政府にはその手段が新型コロナ対策に効果的であることを示したか、有効性が示せた場合、その方法がどのくらい市民的自由を侵害するのか、そしてその侵害が過度でないとすると監視手段にはセーフガードがありそれが機能するかということを明らかにすべきだとしている。そして、アプリなどによる監視は個人の任意の同意による必要があること、個人情報は必要最小限収集・保存し、利用目的を明確かつ明らかにすること、情報セキュリティの透明性が必要であること、システムの設計段階でプライバシー保護を組み込むこと、立法府が関与し政府のプライバシー影響評価とポリシーへの市民のインプットを検討すること、監視プログラムの詳細を可能な限り公開し透明性を確保すること、バイアスを排除すること、市民の思想、信条、表現及び結社の自由をターゲットにしてはならないこと、安全措置の違反があった場合に訴訟ができること、有期限の手段とすることを求めた。こうした意見や声明が出される背景には、個人データを含むデータの取得や利用、テクノロジーの利用が、どこまで効果があるのかが明確ではないまま、悪化する状況に対応するため実験的に行われており、その結果として新たなシステムや権限を政府が獲得していくことになりかねないことへの懸念がある。例えば、ヨーロッパで取得が進む匿名化した位置情報については、データの加工には24~48時間かかるため、政府が取得してもビックデータ分析にほとんど役立たず、ヒートマップの方が有効で、また匿名化しても位置情報を使って15の人口統計的特性で99.98%の個人を特定できたという、インペリアルカレッジとルーヴェン・カトリック大の研究結果があるとの指摘がある。また、シンガポールが導入し、日本を含む世界各国で導入に向けた検討・準備が始まる接触者追跡アプリについても有効性には疑問が示されている。ビジネスインサイダーによると、オックスフォード大のビッグ・データ研究所は接触者追跡アプリについて有効だとの研究結果を発表したが、どのくらいアプリのユーザーが広く広がるか、そもそも検査が幅広く行われているか次第であり、また、アウトブレイクの早い段階で使用されることに効果があるという。また、アプリはすべての感染可能性を記録しているわけではなく、ユーザーに誤った安心感情を作り出す危険があるとしている。また、WIRED誌には、感染症対策ではたまたま飛行機に隣に座っただけの人も含めて個人情報が補足され、疾病管理データベースなどに登録されるなど、多くの人の情報が含まれる可能性があるが、そのデータがいつまで利用されるのかは明らかではなく、また利用が停止されることを多くの人が信じていないと研究者の指摘がある。また、ある時点で接触者追跡は接触者が多くなりすぎて実行不可能となるともしている。追跡者接触アプリを導入すると、従来より多くの接触者が機械的に特定され、たまたま居合わせた人など広範囲かつ大量に個人情報が収集されて保存、利用される可能性がある。そうした場合にいつまでどのような利用目的で個人情報を保有するのか、目的外利用は行われないのか、そして多くの接触者にどう対応するのかといったことの準備が必要であることは明らかだろう。 <RNAウイルスに対する安価なワクチン・治療薬> PS(2020年5月20日):新型コロナに関して、現在は必要な検査も受けられず治療薬もない状態であるため、21世紀の医療が期待できない。そのため、私は、医者いらずのアロエやヨーグルトを飲む伝統的な方法をとっているが、これが意外と効いている。そのため、新型コロナのようなRNAウイルスが細胞に感染することを利用して、乳酸菌(麹菌でも可)に感染させ、生き残った乳酸菌株でヨーグルトを作れば、RNAウイルスに対するワクチンや治療薬の働きをするヨーグルトを安価に作れるのではないかと思う。ちょうど、*10-1のように、コロナ禍で牛乳が余るくらいに牛乳の生産能力はあるため、(すぐに需給調整したり、国の補助金に頼ったりするのではなく)付加価値の高い製品を作ることを考えた方が賢明であるし、牛乳はいろいろなやり方で使えるのである。 さらに、*10-2のミドリムシも健康食品になっているが、新型コロナに感染させた後に生き残った株を増やせば、それには抗原や抗体を含ませることができ、(燃料としては高すぎるが)治療薬やワクチンとしてならアフリカでも使える安価なものを作れるのではないかと思う。 *10-1:https://www.agrinews.co.jp/p50774.html (日本農業新聞論説 2020年5月13日) コロナ禍酪農危機 一丸で生乳需給調整を 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の長期化で、生乳の需給緩和が重大局面を迎えている。特に主産地・北海道での生乳処理が限界に近づき、処理不可能乳が出かねない危機的状況だ。生乳需給調整へ酪農、乳業、行政が一体となり難局を乗り切るべきである。コロナ禍による急速な需要減少は、生乳生産全体の6割近くを占める北海道で深刻な事態を招いている。Jミルクは「ミルク・サプライチェーン(供給網)が寸断され、酪農・乳業界に大打撃を与えかねない」と懸念を募らせる。一方で、こうした現状が消費者に伝わりにくい実態にあるのも事実だ。家庭内需要に限れば、牛乳は前年対比で2桁伸び、乳製品消費も堅調だ。江藤拓農相をはじめ関係者挙げて牛乳・乳製品の消費拡大を呼び掛け効果も出てきた。だが問題は、「生クリーム、バターをはじめ生乳全体の半分近い業務用需要の落ち込み量をカバーできない」(Jミルク)点だ。例えばバターは家庭需要が好調だが、全体の2割にすぎない。生乳は全国で毎日約2万トン生産される。ホクレンをはじめ各指定生乳生産者団体は懸命の配乳調整を続けているが、行き場を失った大量の生乳をどう処理、販売していくのか。コロナ禍で既に欧米各地では生乳廃棄が相次ぐ。外出自粛で外食など業務用需要が大幅に縮小する一方、北海道の生乳生産は5月後半からピークとなる。5月の全国生乳生産見込みは65万トンで、前月に比べ2万5000トンも多い。全国の大半の小中学校休校継続で、学校給食向け生乳の道外移出も激減。需給の調整弁となるバター、脱脂粉乳を製造する道内の乳製品工場での処理能力を超えた生乳が供給されつつある。現在、製造余力のあるチーズ工場に生乳を振り向けるなど綱渡りの需給調整が続く。4月下旬、関係者は相次ぎ記者会見を行った。生乳需給が重大局面を迎えていることの危機感からだ。道内の生乳生産量が最も多い5、6月を過ぎれば需給は好転に向かうとの見方も強い。それまでの間に、需給調整と消費拡大を強力に進め、どう難局をしのぐかが最大の課題だ。国内酪農は、都府県の生産基盤弱体化が深刻で、需要が生産を常時上回る状態が続いてきた。始動した新たな酪農肉用牛生産近代化方針(酪肉近)でも、基盤強化と着実な増産実現が焦点となった。乳牛増頭で増産基調を維持しながら、コロナ禍の中で需給調整を徹底し、国内酪農を守らなければならない。関係機関は、月末にも直近情勢を踏まえた生乳需給見通しの具体的数字を示す。脱粉は需要低迷から在庫が過去最高水準に積み上がっている。農水省が1月に示した今年度の脱粉輸入枠は4000トン(製品換算)だが、当初から過大な数字との指摘が出ていた。今の生乳需給重大局面の中で、同省が輸入量の修正に踏み切るか注目したい。 *10-2:https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20200213002231.html (朝日新聞 2020年2月13日) 航空機バイオ燃料、熱い視線 国内でも開発、コスト課題 藻の一種に含まれる油脂やごみなどを原料とする「バイオジェット燃料」を、航空機燃料に導入する動きが進みつつある。地球温暖化を防ぐため、世界が二酸化炭素(CO2)削減に取り組むなか、大量のCO2を排出する航空業界も対応を迫られている。日本で普及するには安定供給とコスト削減がカギになる。 ■原料にミドリムシ、木のチップ、衣料品… 横浜市鶴見区にある、微細藻類のミドリムシを原料に使った健康食品などで知られるユーグレナ(東京都)が運営するバイオ燃料製造プラント。ここでミドリムシからとれる油脂や廃食油を原料に、航空機やバスなどで使える燃料をつくる実証試験が進められている。植物のように光合成で栄養分を体内にためるミドリムシは、周囲に酸素がないと細胞内に油脂を蓄積する性質がある。この油脂を燃料の原料として活用する。2018年秋に竣工(しゅんこう)したプラントは敷地面積約7800平方メートル、年間125キロリットルの燃料の製造能力がある。1月、このプラントの技術が、燃料を民間航空機に導入するのに必要な国際規格を満たすと認められた。同社は今春の初出荷を目指す。ネックは製造コスト。実証プラントを製造工場としても使う前提で、計算上1リットルあたり1万円になる。普及には同100円ほどにする必要があるという。同社バイオ燃料事業課の江達(こうたつ)課長は「コストの7~8割を占める原料をいかに安く手に入れるかがポイントになる」と話す。ミドリムシを安定、大量培養するため、同社は温暖で日射量が多いインドネシアやコロンビアで試験する計画を進める。国産バイオジェット燃料の普及に向けて、経済産業省と国土交通省は15年、検討委員会を設置。東京五輪・パラリンピック期間中にバイオジェット燃料を混ぜた燃料を使った飛行を目標の一つに掲げ、官民で議論してきた。ユーグレナも今年9月までの有償飛行実現を目標に掲げる。ユーグレナ以外にも、三菱日立パワーシステムズなどは木のチップなど木質系バイオマスを原料とし、液体燃料を作り出す技術を開発。ベンチャー企業グリーン・アース・インスティテュート(GEI)などは、回収した衣料品を糖に変えて菌の力でアルコールにしてから燃料にする。 ■CO2排出減へ、供給足りず 温暖化対策として脱炭素の動きが加速し、欧州では航空機を使わず、CO2排出がより少ない鉄道で移動する「飛び恥」という動きも生まれる中、航空業界も対応を急いでいる。国際民間航空機関(ICAO)は、国際線を運航する航空会社に、21年以降、CO2排出量を増やさない目標を課す。より燃費の良い機種への変更、燃料を節約できる運航方法の導入などとともに、化石燃料の代わりにバイオジェット燃料を使うことは、排出量を減らす一翼を担う。昨年11月までに世界21カ国の空港からの商業飛行の実績がある。日本航空と全日本空輸の大手2社だけでも1年に航空機から出るCO2は計約2千万トンにのぼる。日航は、09年に仙台などの上空で、17年には米シカゴ―成田便でバイオジェット燃料を含む燃料による試験飛行を実施。今年、GEI社の国産バイオジェット燃料を使うチャーター飛行を目指す。日航戦略グループの亀山和哉マネジャーは「CO2削減を長いスパンで考えている。バイオジェット燃料の調達は経営的にも大きな意味がある」と話す。全日空はユーグレナの実証プラントに協力するほか、国内外の燃料メーカーから供給を受ける体制を築く。全日空企画部の杉森弘明マネジャーは「(バイオジェット燃料など)持続可能な航空機燃料の導入は欠かせないが、生産量は世界的にもまだ少なく取り合いになっている」と言う。 <分散型エネルギー・自給率の向上と地方創成> PS(2020年5月21日追加):日本政府が行っている大きな無駄遣いに原発の維持があり、原発を持つ大手電力会社の都合で、豊富な自然エネルギー(太陽光・風力・水力・潮流等)による発電が進まず、分散型エネルギーも進まず、エネルギー自給率は低く、環境負荷は大きいままだ。その上、自然エネルギーの豊富な農林漁業地帯にエネルギー代金を還流させずに、海外にエネルギー代金を大盤振る舞いで支払い続けているのだから、これほど馬鹿なことはない。 そのような中、*11-1のように、東京新聞(中日新聞東京本社)は、本社編集部門のフロアで使用する電力(年間約百万キロワット時)を再生可能エネルギーに切り替えたとみなす「グリーン電力証書」購入し、編集部門が使用する照明・空調・記者やデスクの端末などに使う電力に再生可能エネルギーを利用したことになったそうだが、本当は東京の現場で取材する記者以外は東京にいる必要がなく、編集局・技術局・東京中日スポーツ総局・電子メディア局の管理部門や経理・総務・人事部門は、土地代が安くて豊かに暮らせる地方にオフィスを持ち、ITを使って分散型ワークをした方が早い上にコストが安い。例えば、社内だけで使う非公開のHPに、取材した記者が記事の原稿をジャンル毎に次々とアップし、それを編集者が編集して校正すれば、皆がどこにいても瞬く間に仕事ができる。また、英文で出したい記事は、インドオフィスの人に翻訳・編集をしてもらうと、(時差があるので)日本の夜中に安い賃金で働いてくれ、半日遅れで(欧米ではその日のうちに)英文の記事を出せるのである。 そして、*11-2のように、地方もテレワークを導入して地方の拠点で都市圏の仕事を行えるよう、企業のオフィスを誘致できる拠点を整え始めている。企業にとっては、自然災害の発生リスクが小さな場所に多くのものを置いた方がリスクが小さい上に土地代が安く、地方も過疎にならないので助かるわけである。 なお、*11-3のように、日本では、耕作放棄地が増えて生産基盤が弱体化し、1965年に7割を超えていたカロリー換算の食料自給率がたった37%に落ち込み、自国民を飢えさせながら食料を輸出する国はなく品質が保証されるとも限らないため、「食の安全保障」が乏しくなった。その上、マスクさえ中国に依存しているのでは、日本から輸出する製品がなくなるのは遠い先の話ではないと思われる。 *11-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/release/CK2019110802000196.html (東京新聞 2020年5月1日) 再生エネ電力で新聞編集します 本社「グリーン証書」取得 東京新聞(中日新聞東京本社)は、本社編集部門のフロアで使用する電力(年間約百万キロワット時)を、再生可能エネルギーに切り替えたとみなす認証を取得しました。再エネを調達したと認める「グリーン電力証書」を購入して、火力や原発などではない再エネ由来の電力により、環境にやさしい新聞編集を目指します。グリーン電力証書は「日本自然エネルギー社」(東京)が発行しています。同社は国内で太陽光やバイオマスなどの再生エネ事業を手掛ける四十九発電所(計約三億キロワット)に発電委託。その発電量に見合った二酸化炭素(CO2)を削減したとみなして、環境を守ることに貢献したとする「証書」を売り出しています。第三者機関の日本品質保証機構が証書の価値を認証しています。東京新聞は十一月から、編集部門が使用する照明や空調、記者やデスク端末などに使う電力量に見合った証書(バイオマス発電)購入を開始しました。これにより編集作業の電力はバイオマスを使ったとみなされます。きょう八日朝刊の紙面から証書のロゴマークを掲載します。 ◆環境保護重視、広がる購入 139社・団体がグリーン証書 「グリーン電力証書」は、国内の企業で購入の動きが広がっている。再生可能エネルギーを利用したとみなされる仕組みを使い、環境保護の取り組みに積極的だと打ち出すのが狙いだ。背景には、企業の再エネ利用や二酸化炭素(CO2)削減の姿勢に対し、市民や機関投資家らの目が厳しくなっていることがある。証書発行を手掛ける日本自然エネルギー社によると、国内でグリーン電力証書を年間契約しているのは、トヨタ自動車や順天堂大医学部附属練馬病院など百三十九社・団体。年間契約電力量は計約二億五千万キロワット時に上る。味の素AGF(東京)はグリーン電力証書を購入することによって、一八年三月末から本社と営業拠点で使用する電力のすべて(約八十万キロワット時)を再エネでまかなっている形。アサヒビールは証書を通じ、主力商品スーパードライ(三五〇ミリリットル缶)の製造に風力発電とバイオマス発電を活用している。国内外の機関投資家は近年、「ESG(環境・社会・企業統治)投資」と呼ばれる考え方を重視し、環境保護や地球温暖化防止に積極的に取り組む企業に投資する姿勢を強めている。だが、多くの企業にとって自前の再エネ発電設備を持つのは難しい。そのため、グリーン電力証書などを活用して間接的に再エネ普及の促進に努めている。 ◇ 東京新聞(中日新聞東京本社)が購入するグリーン電力証書は年間百万キロワットで、本社編集局、技術局、東京中日スポーツ総局、電子メディア局のフロアで一年間に使用する電力の総量分に相当します。 *11-2:https://www.agrinews.co.jp/p50842.html (日本農業新聞 2020年5月20日) [新型コロナ] 進むテレワーク導入 地方拠点で都市圏の仕事 北海道で誘致盛ん ●大学多数、災害同時発生リスク少で注目 新型コロナウイルスの感染を防ぐため注目されている、在宅勤務などの職場以外で仕事する「テレワーク」。北海道では、企業のサテライトオフィスを誘致できる拠点を整えて、地域に人を呼び込む動きが以前から活発だ。先進地域の北見市では東京のIT企業が拠点を構え、学生にテレワークの体験の場を提供。ニセコ町では旧でんぷん工場を改装した施設が注目を集める。同市の担当者は今後、東京で働く必要性を考え直す企業や人が増えると予想、新たなニーズを地域の活力にと期待する。 ●学生を地元に…インターン重視 北見市 道内の自治体は、東京と同時に災害が起こるリスクの低さや大学の多さなどを背景にテレワークに注目。インターネット環境を整えた施設を設けるなどで企業や個人を呼び込んできた。道によると、道内35市町村がテレワークできる拠点を設置。2018年度末時点で、首都圏のIT企業を中心に64企業が道内にオフィスを開設しており、徳島県と並んで全国1位の数だった。全道に先駆けテレワークを軸に企業誘致を進めてきた北見市。地元の北見工業大学と連携し、IT企業の誘致にも力を入れ、20年5月時点で、東京に本社を置くジモティーなどIT企業4社が同市内に自社で拠点を持つ。うち3社は15年から総務省が始めた「ふるさとテレワーク推進事業」を活用して同市を訪れた。同事業を活用した地域数は15年度の15から19年度で58に増えた。同市の中心商店街に設置したサテライトオフィスには、テレビ会議システムやWi―Fiを完備する。このオフィスを事務所として使ったり、一時的に利用したりする人は年間延べ3000人。地方に拠点がない企業の「出張所」としてもニーズが高い。同市で現在力を入れているのが、同市外に進学した大学生を誘致した4企業などに就職を促すことを目的にした「ふるさとインターンシップ」だ。帰省費用は同市が負担し、東京の企業の仕事をテレワークで3日間、体験してもらう。2017年に始め、3年間で25人の学生が参加。市工業振興課の松本武工業係長は「地元の学生は北見には仕事がないと漠然と思っている。北見でも東京と同じような仕事ができると伝えている」と話す。市民に知ってもらう機会も設ける。東京に子どもがいる50、60代の親に、盆や正月の前に説明会を開く他、ちらしを配る。帰省した子どもに「テレワークについて伝えてほしい」と呼び掛けてもらう作戦だ。松本係長は今後、新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが注目され、社会全体で勤務形態が多様化すると、地方移住が進むのではないかと予想する。「東京に会社があるため仕方なく(都心に)住んでいる人もいただろうが、本当に会社に行く必要があるかを考え始めると思う。その時に北見市が選択肢に出てきてほしい」と話す。 ●観光+αの力に ニセコ町 スキーなど世界的な観光地・ニセコ町は、国内外からの長期滞在者向けに仕事もできる場所をつくろうと、地域の交流施設「ニセコ中央倉庫群」にテレワークできる環境を整えた。JAが所有していた倉庫やでんぷん工場を町が改修し、観光だけではなく仕事でも人を呼ぶ込む拠点にした。旧でんぷん工場には作業室、倉庫にはプロジェクターなどを整備した。19年度の利用者は延べ434人で、年々増加している。同倉庫群では、4月から地域おこし協力隊が企画したお菓子「NISEKO農OKAKI」を発売。同工場をかたどったパッケージには農業の歴史が書かれ、利用者に施設を紹介している。総務省は、企業のテレワーク導入の利点として優秀な人材の確保やコスト低減などを説明する。東京が本社の企業に勤め、同施設を利用する30代の男性も「賃貸で事務所を借りるよりも柔軟に動ける」と話す。 *11-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020051802000116.html (東京新聞社説 2020年5月18日) コロナと食料 農業再生は「安全保障」 田植えの季節。「密」とは無縁の空の下、粛々と作業が進む。この風景が消えていき、耕作放棄地が増えている。グローバルなモノの流れが突然止まる「コロナの時代」。農業再生は急務である。国連の世界食糧計画(WFP)は、新型コロナウイルスの影響で、食料不足に陥る人が激増すると予測する。ただでさえ温暖化の進行で、高温による大規模な森林火災や干ばつが頻発し、穀物生産や畜産が、深刻な打撃を受けている。その上に、コロナ危機の拡大による物流の停滞や、農作業の人手不足などが重なって、世界全体の飢餓人口は今年、二億六千五百万人に上り、昨年から倍増する恐れがあるという。まず直撃を受けるのは、気候変動の影響を受けやすく、食料を輸入に頼るアフリカなどの途上国には違いない。だが、輸入依存は日本も同じ。一九六五年には七割を超えていたカロリー換算の食料自給率は37%に落ち込んだ。半分以上を輸入に頼るということだ。現政権は「成長戦略」の名の下で、高級農産物の輸出拡大を念頭に、農業の大規模化、効率化には力を注ぐ。しかしその陰で、農家全体の高齢化は進み、耕作放棄地は増える一方だ。生産基盤の弱体化は止まらない。コロナ禍の拡大に伴って、ロシアなどが穀類などの輸出制限に踏み切った。世界貿易機関(WTO)は、自国の食料不足が危機的状況に陥った場合には、輸出を止める権利を認めている。「ほとんど影響は出ていない」と農林水産省は言うものの、温暖化が進行し、ウイルスとの“共存”を強いられる時代である。これからも、必要な時に必要なだけ、食べ物を売ってもらえる保証はない。例えばかつて、牛海綿状脳症(BSE)の流行で牛丼が姿を消した。今、コロナのまん延する米国で食肉の生産が減少し、豚肉の輸入に支障が出始めている。中国からの野菜輸入も一部途絶えた。海外依存リスクの顕在化-。コロナ禍の教訓だ。極端なマスク不足も極端な海外依存が原因だった。農産物は自然の恵み。マスクのように、すぐには増産に転じられない特殊な商品だ。農業再生は“危急重要”の課題である。このごろ盛んに「食の安全保障」と言う。それが国民の暮らしを守るということならば、核心は豊かな田畑を守るということだろう。コロナ危機を、いびつな成長戦略をただす転機にしたい。 <新型コロナの感染率と致死率について> PS(2020年5月22、24日追加):*12-1のように、東大の児玉名誉教授らの研究グループが、都内の医療機関で5月1、2日に採取された血液を使って新型コロナの抗体の有無や量を調べたところ、500人分という検体の少なさはあるものの0.6%が陽性で、東京都の人口(約1400万人)から計算すると都内の人のうち約8万人に感染歴があると推計されたそうだ。そのため、*12-2のように、東京、大阪、宮城で抗体検査を1万人規模で実施するのは、「今後の感染拡大防止策」に役立つとともに、より正確な感染者数の把握ができる点で興味深く、北海道や九州でも行えばよいと思う。 この新型コロナ致死率(死亡者数/感染者数)は、*12-3のように、全世界平均4.2%、イタリア・イラン6~8%前後、ドイツ0.2%以下、韓国1.1%と、各国で大きな差があるとされている。しかし、日本を例にとれば、①PCR検査の不備により新型コロナの死亡者がすべて把握されたわけではない ②感染者数も正確には把握されていない という理由で、致死率の値は実態とは異なり、国間の比較もできないと思う。そして、この新型コロナの致死率は、抗体検査を行って分母の全感染者数を把握すれば下がるし、しっかりPCR検査を行って他の死因に分類されていた死亡者を新型コロナの死亡者と認定すれば上がるものである。(参考:2020年5月22日現在、新型コロナの国内で確認されている感染者数は16,577人、死者数は814人) そのため、*12-4の「③人口100万人当たりの死者は米英で300~500人に対し、日本は約6人で大きな差がある」「④生活様式や医療格差だけでは説明できないと考え、人種ごとに異なる遺伝子によって免疫応答に違いが生じているとの仮説を立てた」「⑤患者の遺伝子解析を通じて解き明かそうというプロジェクトが始まり、特に注目しているのが免疫反応の司令塔の役割を果たすHLA(ヒト白血球抗原)である」「⑥ウイルスの遺伝子解析だけでは『半分』しか調べたことにならず、人間の遺伝子も解析することでワクチン開発を補完できる」「⑦新型コロナ感染症への抵抗性に関わる遺伝子が見つかれば、健康な時から血液検査でリスクを判定したり、ワクチンや治療薬の開発に貢献したりできる」という研究は21世紀風ではあるものの、その前に国毎に異なっている新型コロナの致死率の計算を揃える必要があるわけだ。 私の個人的見解では、人種差よりも栄養格差・衛生環境格差・生活様式の差・医療水準の差の方がずっと大きく、人間の世代交代よりもウイルスの世代交代の方が比較にならないくらい早い(=進化しやすい)ため、初期に広がったウイルスよりも後から広がったウイルスの方が弱毒性で人を死に至らしめない方向に進化しているだろう(理由:そうでないウイルスは、次次と感染して生き残ることができないから)と推測できた。 なお、PCR検査の陽性率も、*12-5のように、地域によって異なる把握方法をとっており、正確でもないため、民間の検査件数も含めて正確に計算すべきだ。国内で統一して陽性率を把握すると、同じような生活様式の国民間での陽性率の違いがわかり、WHOが世界で統一した基準を示して陽性率・死亡率を把握すると、栄養状態・生活環境・文化の異なる国民間での陽性率・死亡率の違いがわかるため、感染症に強い生活様式を割り出すことができる。それでも、PCR検査だけでは、感染を疑って検査した集団だけを検査するため陽性率が高く出るので、過去の感染歴を調べる抗体検査も重要なわけである。なお、数字を見るのは人を見ないということではなく、状況を定量的に把握する手段なのだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 2020.4.3 2020.5.14 2020.4.20 2020.4.3Yahoo 2020.5.24 朝日新聞 朝日新聞 東京新聞 朝日新聞 (図の説明:1番左の図が国別致死率だが、国によって感染者数と死亡者数の網羅性が異なるため、厳密には比較できない。左から2番目の地域別を見ると、都市部の方が密であるため感染しやすいらしく、都市部に感染者が多く特定警戒区域になっている。中央の図の東京都男女別感染者の割合は、30~70歳では男性が多く、仕事の都合で閉じこもりにくいのではないかと思われる。しかし、80代になると女性の割合の方が高く、この世代は生存者そのものに女性が多いからだろう。右から2番目の図は、PCR検査と抗体検査の比較だが、症状のない感染者数も把握するには抗体検査が不可欠だ。1番右の図は、現在使われているPCR検査の陽性率の計算だが、算入されていない患者や二重・三重にカウントされている患者がおり、不正確になっている) *12-1:ttps://www.jiji.com/jc/article?k=2020051500892&g=soc (時事 2020年5月15日) 東京大などのグループは15日、東京都内で採取された500人分の検体を使って新型コロナウイルスの抗体検査をしたところ、0.6%に当たる3人が陽性だったと発表した。都の人口に当てはめた場合、都内の8万人に感染歴があると推計される。 東大の児玉龍彦名誉教授らの研究グループは、都内の医療機関で5月1、2日に採取された血液を使い、抗体の有無や量を調べた。10代から90代の男女500人分のうち、20代と30代、50代の男性3人に陽性反応が認められた。児玉名誉教授は「きめ細かい対策のために、感染の危険性が高い職種などを知る必要がある」として抗体検査の必要性を指摘した。抗体は以前にかかった感染症と同じウイルスが再び体内に侵入した場合、体を守る特殊なタンパク質で、過去の感染歴を知ることができる。 *12-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020052200403&g=soc (時事 2020年5月22日) 東京、大阪、宮城で抗体検査 1万人規模、新型コロナ感染状況調査―厚労省 加藤勝信厚生労働相は22日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスに対する抗体をどの程度の人が持っているか調べるため、東京、大阪、宮城の3都府県で、計1万人規模の抗体検査を実施する方針を発表した。6月初旬から開始する予定だ。抗体を調べれば新型ウイルスへの感染歴が分かり、日本全国の感染状況推計に役立つ。加藤厚労相は「今後の感染拡大防止策の検討に活用していきたい」と述べた。 *12-3:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92844.php (ニューズウィーク 2020年3月25日) 新型コロナ致死率に各国で大きな格差──イタリアでは8.3% <全世界の致死率は4.2%だが、国によって数値には大きな開きが見られる。その要因とは?> 新型コロナウイルス感染者数は3月19日までに全世界で23万人を突破し、死者数は9840人に達した。全体の致死率は単純計算で4.2%に上るが、イタリアやイランでは致死率が6~8%前後と高く、ドイツでは0.2%以下となるなど、各国で大きな開きがある。初期に感染者数が急増しながらも致死率が1.1%に抑えられている韓国は、検査と隔離政策を徹底。また、喫煙率が男性に比べて格段に低い女性が、男性より多く感染していることも、致死率を抑えた原因の1つとみられる。 *12-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN5P5KCKN5PUCFI003.html?iref=comtop_8_07 (朝日新聞 2020年5月21日) なぜ人種で差 コロナ重症化、遺伝子解析で探る研究開 新型コロナウイルス感染症が重症化する仕組みを、患者の遺伝子解析を通じて解き明かそうというプロジェクトが始まった。人口100万人当たりの死者は米英で300~500人なのに対し、日本では約6人で大きな差がある。研究グループはこの差が生活様式や医療格差だけでは説明できないと考え、人種ごとに異なる遺伝子によって免疫応答に違いが生じているとの仮説を立て、ゲノム解析で確かめることにした。重症化因子が判明すれば、今後のワクチン開発に生かせるという。東大や阪大、京大など7大学の研究者と研究機関などが参加。日本医療研究開発機構(AMED)から研究資金を得た。国内の約40の医療機関と連携、無症状から重症者まで、少なくとも600人の血液を調べ、9月までに報告をまとめる。慶応大の金井隆典教授が研究責任者を務める。特に注目しているのが、免疫反応をつかさどる司令塔の役割を果たすHLA(ヒト白血球抗原)。これを重症患者と無症状患者とで比較し、重症患者に特有の遺伝子を見つける。欧米でも進む同種の解析結果と照合すれば、日本人の死者数が少ない原因の解明にもつながるとしている。遺伝子解析が専門で東京医科歯科大特命教授の宮野悟・同大M&Dデータ科学センター長は「ウイルスの遺伝子解析だけでは『半分』しか調べたことにならない。宿主である人間の遺伝子も解析することでワクチン開発を補完できる」と話す。新型コロナウイルス感染症への抵抗性に関わる遺伝子が見つかれば、健康な時から血液検査でリスクを判定したり、ワクチンや治療薬の開発に貢献したりできるという。遺伝子と感染症には密接な関係があり、エイズウイルスに耐性を持つ遺伝子変異や、インフルエンザや肺炎に対して免疫が働かなくなる遺伝子病が見つかっている。かつてのシルクロード周辺に住む民族がかかりやすいベーチェット病など、遺伝子の違いによって、特定の病気になりやすい民族があることも知られている。 *12-5:https://digital.asahi.com/articles/ASN5R66BNN5DPTIL02F.html?iref=comtop_8_04 (朝日新聞 2020年5月24日) 陽性率の計算、地域でバラバラ…専門家「正確にすべき」 新型コロナウイルスで注目されている陽性率は、全国的に統一された計算法が存在しない。感染の有無を調べるPCR検査を受けた人に占める陽性者の割合だが、地域によって民間による検査件数を含めなかったり、同じ人が複数回検査した際の扱いが違ったりしている。政府の専門家会議も問題視。統一を求める声があがっている。陽性率は感染状況を把握する上での重要な指標と位置付けられているが、計算法に違いがある。主に①民間病院などによる検査を集計に含むかどうか②退院時の陰性確認検査などを含むかどうか――の2点だ。今も緊急事態宣言の対象となっている北海道と首都圏の4都県、21日に解除された近畿3府県でも対応はバラツキがある。東京都は当初、行政が行う検査だけを集計。民間病院などによる検査は把握していなかった。そのため陽性率も公表してこなかったが、民間分も含めて集計するように改め、今月8日に初めて陽性率を発表した。退院時の陰性検査を除き、16~22日は1・3%だった。神奈川、兵庫の両県は現在も民間分を集計していない。千葉県は民間の検査機関から提供してもらったデータに陰性検査が含まれているため、いまは民間分を集計対象外としている。陰性検査を除いて集計に加える方向で準備をしているという。大阪府と京都府は、民間検査を含めている。埼玉県は当初、ほかの自治体と異なり、県が運営する保健所13カ所分と民間分だけを集計していたが、今月15日から政令指定市と中核市が運営する保健所4カ所分も加え、県内全体の陽性率を出している。北海道では、いまのところ民間の検査はしていないという。8都道府県はいずれも、退院時の陰性検査は含めていないが、厚生労働省によると、陰性検査などを陽性率に含めている県はほかに20近くあるという。統一された基準はないが、政府の専門家会議の尾身茂副座長は「行政による検査だけだと分母が少なくなり、民間の検査も加われば分母は正確になる。入院患者は(陰性検査を含めて)何回も検査するため、ダブルカウントすれば分母が過大になってしまう」と指摘。①は全体像を把握するために集計に含めるべきで、②は陽性率とは関係ないため含めるべきではないとの立場だ。計算の仕方によって、どれぐらいの誤差があるか公表されていないが、地域によって差があり、厚労省は国内の正確な陽性率を把握しきれていない。政府の専門家会議は14日、新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言で「都道府県の状況を比較できるようにすることが重要」と問題提起した。 ●専門家「PCR検査だけでは不十分」 陽性率の計算法を統一しても、それだけでは不十分との指摘もある。東京大公共政策大学院の鎌江伊三夫特任教授(医療政策)は「感染を疑って検査した集団での陽性率には統計学上の偏りがある。検査数が少ない問題もあるため、信頼できる数値を導き出すことができない」とする。厚労省は13日、「抗原検査」の検査キットを承認した。この検査は数時間かかるPCR検査に比べて精度は下がるが、30分程度で感染しているかどうかが分かるため検査体制は拡充されそうだ。過去の感染歴を調べる「抗体検査」についても、来月にも1万人規模で実施する予定だ。鎌江氏は「PCR検査だけでなく、抗原検査や抗体検査も合わせて対象範囲を広げれば、市中でどれだけ感染が広がっているか推定できる。政府は、その算出ルールと調査システムを急いで作る必要がある」と指摘する。 <遅ければ置いて行かれるだけであること> PS(2020年5月23日追加):*13-1のように、新型コロナウイルスに関する政府専門家会議の脇田座長(国立感染症研究所長)は、5月20日の衆院予算委員会で、「①感染を予防するワクチン開発の時期は年を越える」「②その先、どの程度で可能になるか現時点で答えるのは難しい」「③ワクチンは有効性に加え安全性の確保が重要で、副作用の有無を見極める必要がある」「④日本と海外のどちらが先にゴールにたどり着けるか分からない」と述べた。また、日本のメディアも、「⑤ワクチン開発には数年かかる」「⑥少なくとも、来年以降だ」などと、まるで遅いことがよいことであるかのように偉そうに言っていて鼻についたが、「意志なきところに成果は出ない」というのが人間界の原則だ。 一方、英製薬大手のアストラゼネカは、*13-2のように、5月21日、英オックスフォード大学と開発する新型コロナウイルスのワクチンの10億回分の生産体制を整え、4億回分の受注契約は既に結び、今年9月には供給を始めると発表した。これについて、日本のメディアは「⑦世界でワクチンの開発競争が激しくなる中、自国分の確保を優先する動きがあり、公平な普及のあり方が課題となっている」などと述べているが、意志を持って全力で開発するというリスクをとった国が、いくらで誰に供給するかは自由であり、妨害こそすれ協力しなかった人が成果配分には「公平性」などと口出しするのは論外である。 さらに、5月23日には、*13-3のように、「⑧ワクチン量産には多額の費用がかかり、欧米では開発のゴールを前に早くも量産技術を競い合うが、日本勢は出遅れ感が否めず政府が供給能力の強化に乗り出す」「⑨ワクチンは参入障壁が高い医薬品」「⑩世界のワクチン市場は米ファイザー、メルク、英グラクソ・スミスクライン、仏サノフィで8割以上を占める」「⑪寡占の背景には各社の豊富な供給能力にあるとされる」と記載しているが、日本は欧米より早く新型コロナが流行したため、⑧はやる気のなさの証明に過ぎず、このようなビッグチャンスに政府が資金を出さなくては生産できないことが情けないのであり、⑨⑩⑪は、これらの結果にすぎない。従って、もう一度書くが、マスクは中国、ワクチンは欧米依存では、日本から他国に輸出するものがなくなるのは時間の問題なのである。 ![]() ![]() 2020.5.17朝日新聞 2020.5.20産経BZ (図の説明:左図のように、国内外のワクチン開発状況は、2020.5.17に朝日新聞が報道し、2020.5.20にはそのうち主なものについて産経BZが報道している。にもかかわらず、「ワクチン開発には数年かかる」「早くて来年」などと言っているのは、認識不足も甚だしいのだ) *13-1:https://mainichi.jp/articles/20200521/ddm/012/040/070000c (毎日新聞 2020年5月21日) 新型コロナ 「ワクチン開発 越年」 専門家会議座長「安全性重視」 新型コロナウイルスに関する政府専門家会議の脇田隆字座長(国立感染症研究所長)は20日の衆院予算委員会で、感染を予防するワクチン開発の時期について「年を越えると思っている。その先、どの程度で可能になるか現時点で答えるのは難しい」と述べた。諮問委員会の尾身茂会長は、8都道府県で継続している緊急事態宣言に関し「仮に解除されても、(新規の感染)報告者数ゼロが短期間続いたとしても、見えない感染が続いていると考えるべきだ」と注意を促した。脇田氏は、ワクチンは有効性に加え安全性の確保が非常に重要で、副作用の有無を見極める必要があると指摘した。「日本と海外のどちらが先にゴールにたどり着けるか分からない」とも語った。 *13-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200522&ng=DGKKZO59440450S0A520C2MM0000 (日経新聞 2020.5.22) 英アストラゼネカ、コロナワクチン9月に供給へ 英製薬大手のアストラゼネカは21日、英オックスフォード大学と開発する新型コロナウイルスのワクチンについて、10億回分の生産体制を整えたと発表した。4億回分の受注契約を結んでおり、9月にも供給を始める。世界でワクチンの開発競争が激しくなる中で自国分の確保を優先する動きがあり、公平な普及のあり方が課題となっている。同社は米生物医学先端研究開発局(BARDA)から10億ドル(約1070億円)の支援を受けたことも明らかにした。英フィナンシャル・タイムズによると同社が受注した4億回分のうち、およそ3億回分は米国向けになるという。アストラゼネカは英国政府ともワクチンの9月からの供給に向けて協力している。 *13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200523&ng=DGKKZO59490600S0A520C2EA2000 (日経新聞 2020.5.23) ワクチン量産 設備が壁、特殊な技術 欧米勢が先行 日本、資金支援を検討 新型コロナウイルスの予防ワクチンの実用化に向け欧米企業が普及のカギを握る量産体制の整備に動き出した。英医薬大手アストラゼネカが21日、英オックスフォード大学が開発したワクチンを年間10億回分供給できる体制を整えたと発表。米新興のバイオ企業モデルナも同規模の大量供給の体制を構築する。ワクチン量産には多額の費用がかかる。欧米では開発のゴールを前に早くも量産技術を競い合うが、日本勢は出遅れ感が否めず政府が供給能力の強化に乗り出す。アストラゼネカが量産するのは、オックスフォード大学が手掛ける開発スピードの速い最新ワクチンだ。量産工程には遺伝子を組み換えたウイルスを大量培養する装置やウイルスが外部流出しないように高度に衛生管理された施設が必要。アストラゼネカは設備を改良するなどして9月からの供給に備えるもようだ。 ●数百億円が必要 大量生産するワクチンの品質検査体制も欠かせない。充実した設備・体制は大手に限られる。オックスフォードが自前で大規模生産を進めると数百億円単位の投資費用がかかり、量産開始まで1~2年はかかる。バイオスタートアップ企業のモデルナも年10億回分の大量供給を実現するため、今月1日にスイスのロンザとの提携を発表した。治験用の小規模な生産設備を持つが、モデルナに量産できる設備はない。モデルナが手掛けるRNAワクチンは鶏卵や動物細胞などでウイルスを増やす従来型のワクチンと異なり、一般的な化学物質と同様に化学合成で作る。開発時間を従来型に比べて短縮できる。物質の仕組みは単純だが、量産は技術の蓄積がないと難しい。血液中で分解されないような製剤化技術や、成分を均質に保つには特殊な技術が必要だからだ。モデルナは量産に向け医薬品受託製造会社であるロンザの設備を活用する。モデルナはロンザへの製造技術の移転を6月中にも終え、7月にも試作品の生産を始める。現在、RNAワクチンを商業生産するノウハウを持つのは、モデルナと独ビオンテック、独キュアバックの3社とされる。ビオンテックは量産化で米ファイザーと組む。 ●大手4社で8割 ワクチンは参入障壁が高い医薬品だ。世界のワクチン市場は米ファイザー、メルク、英グラクソ・スミスクライン、仏サノフィで8割以上を占める。4社は主に従来型ワクチンを開発・生産し、寡占の背景には各社の豊富な供給能力にあるとされる。ワクチンの成分は特許で公開されているが、量産化には膨大な投資とノウハウが必要だ。ワクチン事業の競争力は開発技術だけでなく、供給能力も握る。欧米各国は量産技術を評価して各社のワクチン計画に資金支援する。アストラゼネカ・オックスフォード大学のワクチン計画には英政府が約27億円の助成金を出しているが、このほど米生物医学先端研究開発局(BARDA)から約1070億円の支援を受けたことも明らかになった。オックスフォードのワクチンを年4億回分から同10億回分に引き上げることができたのもBARDAの資金が支えたとされる。BARDAはオックスフォードと同様のワクチンを開発するジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と約1000億円の設備費用を折半する。開発の成功メドがつく前から量産まで視野に入れて、米国向けにコロナワクチン確保を急ぐ。新型コロナワクチンの実用化で欧米勢と競う中国。政府と関係の深いバイオ企業や研究所でワクチン治験が実施されている。すでに有効性を確認する治験まで進んでいるワクチンもあり、最短で今秋の実用化を目指す。ただ、中国勢のワクチン量産化に向けての技術・ノウハウについては「公開情報がなくどれだけ供給されるかも不明」(国内医療関係者)。一方、日本でワクチンを供給できる企業は、武田薬品工業やKMバイオロジクス、第一三共、阪大微生物病研究会などに限られる。今回のコロナに対応するRNAなど最先端のワクチンを量産する企業はまだない。RNAワクチンでは第一三共が東京大学医科学研究所に開発で協力するが、量産体制について明らかにしていない。大阪大学発のバイオ企業アンジェスが進める新型コロナワクチンの量産は主にタカラバイオが担う。年間20万人分のワクチン開発の準備を進めているが、モデルナやオックスフォードのワクチンの0.02%にとどまる。政府もパンデミックに対応する製造技術の開発支援を進めてきたが、最先端のワクチンの量産への取り組みは遅れていた。ただ、ここにきて世界で新型コロナワクチンの量産化に向けての動きが相次いでいるのを受け、日本政府は国内企業がワクチンを大規模に生産できるように資金支援する検討に入った。「(ワクチンは)開発できるかより、生産しなくてはならないワクチンの量を懸念すべきだ」(サノフィのポール・ハドソン最高経営責任者=CEO)。欧米企業・政府関係者の間では、新型コロナワクチン実用化の議論での焦点は、開発からいち早く大量供給できる能力に移りつつある。量産化に向けた新型コロナワクチンの供給体制について議論を日本でも深める必要がある。 <米国と中国について> PS(2020年5月26日、6月7日追加):*14-1・*14-3のように、中国政府は、「香港の民主化運動を抑制するには『強力な措置』が必要だ」として、香港基本法の付属文書に中国の国家安全法を追加する形で香港に国家安全機関を設立することなどを全人代で決めつつあるため、香港の人権や自由は中国本土並みに制限される恐れがあり、香港の「一国二制度」は危機に直面しているそうだ。これに対し、*14-4のように、当局が集会に先駆けて ①集会が無許可である ②新型コロナに関連した条例で8人超の集会が禁止である と警告したのに、大勢の民主派のデモ参加者らが集結し、警察は催涙弾と放水銃を発射して40人が逮捕されることとなって、新型コロナにより政治集会やデモも危険な行為となってしまった。 また、*14-2・*14-3のように、台湾は、2009年から8年連続でオブザーバーとしてWHO総会に参加してきたが、2017年以降は中国の圧力で出席できず、今年は米国の下院議員205人がWHO総会に台湾をオブザーバーとして招くよう求める連名書簡をWHOのテドロス事務局長宛てに送付し、チェコにも台湾支持の動きがあったが、やはり実現しなかった。ここで、欧米諸国は本気で人権・自由・民主主義を護るための闘いに入ったと思われるが、日本の多くのメディアは、*14-5のように、「米中が結束するのが最良の防疫策だ」など米国が中国と仲良くしさえすればよいという論調で、「自由や民主主義は、自ら護らなければなくなるものだ」という発想に欠けていると思う。 なお、WHOへの貢献は、下の図のように、資金拠出だけでも米国が飛びぬけており、その他の貢献も加えると欧米諸国の貢献が大きいが、現在のGDPから考えると中国はじめ貢献の小さすぎる国は多い。そのため、トランプ米大統領がWHOに書簡を送り、拠出金の恒久停止や脱退まで示唆して中国からの独立を要求したのは交渉のやり方として十分あり得ることで、何でもトランプ米大統領の性格のせいにすればよいという論調は考えが浅い。 香港への国家安全法制の導入に関し、*14-6のように、中国を厳しく批判する米国・英国などの共同声明に日本政府も参加を打診され拒否したそうだ。しかし、中国を過度に刺激するのを回避して中国との関係改善を目指すのなら、日本は新型コロナをいつまでも「武漢ウイルス」と呼んだり、「中国製は質が悪い」などと言って中国差別をするのではなく、香港での一国二制度に関する中国の契約違反や人権侵害に対する指摘をして抗議する方が筋が通っており、中国人も気持がよいと思う。そのため、この日本の選択は、単に欧米諸国に追随するか否かという問題ではなく、日本が欧米諸国と同様に(全体主義ではなく)個人の人権を大切にする価値観を持っている国か否かという問題であり、実はここが危ういのである。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2019.11.12朝日新聞 2019.11.28毎日新聞 2020.4.13 2020.5.21 朝日新聞 毎日新聞 (図の説明:1番左の図のように、2020年1月11日に台湾総統選で当選した蔡氏は、中国が打ち出す「一国二制度」による中台統一を拒絶し、台湾への武力行使を断念するよう中国共産党及び中国政府に呼び掛けた。米国のトランプ米大統領は、左から2番目の図のように、2019年11月27日に香港の人権と自治を擁護するための「香港人権・民主主義法案」に署名し、米国で同法を成立させた。そして、右から2番目の図のように、WHOは確かに中国寄りで、今年の総会には台湾のオブザーバー参加も認めなかったが、台湾は中華民国という独立国であるため、中国の方が内政干渉の無理な主張をしている。そのため、1番右の図のように、すべての国は、独立国が世界機関に代表を送ることに反対すべきではないだろう) ![]() ![]() ![]() 2019.6.4朝日新聞 2019.4AFP 2020.3.31FS (図の説明:左図のように、中国と米国は力で押しあっているが、日本は民主主義国で領土問題もあるため、まるで第三者ででもあるかのように米国を批判するのはおかしい。また、中国の軍事支出は米国より小さく見えるが、人件費や物価が安いため実質では米国より大きいだろう。なお、中央と右の図は、各国のWHOへの拠出金はじめ人材での貢献度を示しており、第二次世界大戦直後と現在ではGDP比が大きく異なるため、成長した国はGDPに応じて負担すべきだ) *14-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN5Q42L8N5QUHBI00S.html (朝日新聞 2020年5月22日) 中国、香港に国家安全法適用へ 一国二制度の重大危機 中国政府は22日、香港での反政府活動を取り締まるための新たな治安法制の整備に着手した。香港に中国の国家の安全を守る機関を設立することなどが柱。昨年来の抗議デモなど香港で強まる動きを封じる狙い。香港で保障される人権や自由が中国本土並みに制限される恐れがあり、「一国二制度」は重大な危機に直面している。北京で22日午前に開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で「香港での国家の安全を守る法制度の整備」が提案された。李克強(リーコーチアン)首相は政府活動報告で「憲法によって定められた責任を香港政府に履行させなければならない」と指摘した。香港基本法の付属文書に中国の国家安全法を追加するかたちで、同法を香港で適用する。香港政府トップの行政長官に対し、国家安全に関する教育の強化などを義務づける。香港メディアによると、提案は全人代の審議を経た後、全人代常務委員会が8月にも施行を決定するとの報道もある。香港基本法は、国家分裂や政権転覆の動きを禁じた「国家安全条例」の制定を求めるが、市民の反発で頓挫。しびれを切らした中国側が直接介入に踏み切る形となる。香港の民主派は「一国二制度が崩壊する」と強く批判している。昨年来のデモで中国への反発が高まるなか、市民感情をさらに刺激するのは確実で、香港の政治危機は深刻さを増しそうだ。 *14-2:http://japan.cna.com.tw/news/apol/202005150007.aspx (CNA 2020/5/15) 台湾のWHO参加めぐり米議員205人が連名書簡 チェコでも台湾支持の動き 米の下院議員205人が、今年の世界保健機関(WHO)総会に台湾をオブザーバーとして招くよう求める連名書簡をWHOのテドロス事務局長宛てに送付したのを受け、外交部(外務省)は15日、心からの歓迎と感謝を表明した。書簡では、新型コロナウイルス対策における台湾の対応について触れ、台湾をWHOに迎え入れる行動に価値があることを証明しているとした上で、台湾がWHOのネットワークに入れずにいることや、台湾の統計資料が誤って中国のデータとして取り扱われていることを指摘。また、中華人民共和国を「中国」の代表だと承認した国連総会2758号決議やWHO総会25.1号決議にも言及し、これらの決議はいずれも、北京に台湾人民を代表する権利を与えていないと強調している。13日に送付された。発起人は、親台派の議員連盟に所属するスティーブ・シャボット議員(共和党)、アルビオ・シラズ議員(民主党)とジェリー・コノリー議員(民主党)。リズ・チェイニー共和党会議議長や外交委員会のエリオット・エンゲル委員長(民主党)らが署名した。 ▽チェコ上院の2委員会でも台湾支持の決議 チェコ上院の外交・国防・安全保障委員会と衛生・社会政策委員会で13日、WHO総会に台湾を招くようテドロス事務局長に提言するとともに、チェコ政府に台湾のWHO参加を支持するよう求める決議案がそれぞれ可決された。外交部が14日に明らかにした。同部は、チェコ議会の委員会で近年このような決議が可決されたことはなく、大変意義深いとし、深い感謝を表明した。その上で、WHOが特定加盟国の政治的操作に振り回されず、各界の声に耳を傾け、科学的見地に基づいて実務的に対応することに期待を寄せた。WHO総会は18日からテレビ会議の形式で開催される。台湾は2009年から8年連続でオブザーバーとして参加してきたが、17年以降は中国の圧力により出席できない状態が続いている。今年も招待状は届いておらず、参加の見通しは立っていない。これについてWHO側は、加盟国間の「政治的な共通認識が不足している」ためと説明している。 *14-3:https://www.afpbb.com/articles/-/3284462?cx_part=related_yahoo (AFP 2020年5月23日) 【解説】渦中の香港国家安全法、その内容と中国の思惑は? 中国の全国人民代表大会(National People's Congress、全人代、国会に相当)が提案した香港での国家安全法導入について、米国や同市の民主派は香港の自由への攻撃だと非難しており、経済中心地の同市で抗議運動が再燃する恐れが出ている。 ■中国はなぜ導入に動いたのか? 香港の「ミニ憲法」である基本法の第23条では、中国政府に対する「反逆、分離、扇動、転覆」を禁止する国家安全法を制定することが定められている。香港は長年にわたり同法の導入を試みてきたが、昨年同市をまひ状態に陥らせた民主派デモによってこの問題の緊急度が増し、中国政府の行動へとつながった。全人代で実際に立法を担う常務委員会の王晨(Wang Chen)副委員長は22日、香港民主化運動を抑制するには「強力な措置」が必要だと警告した。 ■香港市民の意見は? 香港基本法第23条は、香港市民が大切にしている表現や報道の自由などの権利剥奪につながることが懸念され、これまで施行されてこなかった。こうした自由は中国本土では認められておらず、香港では1997年の英国による中国への同市返還前に結ばれた合意で保護されている。2003年には同条項の施行が試みられたが、50万人が参加する街頭デモが発生し、見送られた。中国政府は、香港の立法会(議会)を迂回(うかい)し、国家安全法を直接制定する権限を全人代に与えようとしている。 ■今後の展開は? 法案は全人代最終日の28日に採決され、来月に再び開かれる会議で詳細が詰められる見通し。常務委員会の王副委員長は、香港での新法施行はその後になるとしており、同市では抗議デモがさらに激化する可能性がある。昨年の騒乱のきっかけとなった大規模デモを主催した市民団体「民間人権陣線(Civil Human Rights Front)」のリーダー、岑子傑(ジミー・シャム、Jimmy Sham)氏は香港市民に対し、再び数百万人規模の街頭デモを行うよう呼び掛けた。 ■「一国二制度」はどうなる? 民主派議員らは、同法の制定について、中国への返還後の香港での高度な自治を認めた「一国二制度」の終わりを意味すると主張している。民主派議員の陳淑莊(Tanya Chan)氏は、同法は「香港での『一国一制度』の正式施行を感じさせるものだ」と警鐘を鳴らした。 *14-4:https://www.afpbb.com/articles/-/3284632 (AFP 2020年5月24日) 香港で「国家安全法」めぐる抗議デモ、警察は催涙弾発射 香港で24日、中国が先週提案した「国家安全法」に抗議するため、大勢の民主派のデモ参加者らが集結したところ、警察が催涙弾と放水銃を参加者に向けて発射した。ここ数か月で最も激しい衝突となった。中国の全国人民代表大会(National People's Congress、全人代、国会に相当)に議案が提出された「国家安全法」は中国政府に対する「反逆、分離、扇動」を禁止しようとするもの。香港では昨年、数か月にわたる大規模な反政府デモが繰り広げられ、時には暴力沙汰に発展。中国政府は、異論を容認しないと何度も警告していた。香港が大切にしてきた自由に終止符を打つ法案だとして民主派が警鐘を鳴らす中、繁華街の銅鑼湾(Causeway Bay)と湾仔(Wan Chai)に大勢の人々が集結し、スローガンを叫んだ。一部のデモ参加者はマスクを着用し、警察車両を阻止しようと仮設のバリケードを設置した。集会に先駆け当局は、集会が無許可であること、新型コロナウイルスに関連した条例で8人超の集会が禁止であると警告。その後機動隊が配置された。集会の参加者が膨れ上がる中、警察は催涙弾や催涙スプレーを使用しデモを散会させようとし、その後は放水砲や装甲車が配備された。その一方、デモ参加者は昨年行われた数多くのデモと同じ手法を用い、警察に向かって傘など物を投げつけた。警察は40人を逮捕したと発表している。 *14-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020052302000149.html (東京新聞 2020年5月23日) WHOと米中 結束が最良の防疫策だ 世界保健機関(WHO)が、米国と中国の対立で揺れている。新型コロナウイルスの世界規模での感染は止まっていない。各国が結束することこそが、最良の防疫策であることを再認識すべきだ。トランプ米大統領は「中国の操り人形」と呼ぶWHOに書簡を送り、中国からの独立を要求。三十日以内に実現しない場合、拠出金の恒久停止や脱退まで示唆した。初動が遅れた自らの責任を転嫁する姿勢が露骨だ。これに対して中国の習近平国家主席は、WHO総会のテレビ会議に出席して釈明。WHOの新型コロナ対応に関する独立・包括的な検証を求める決議にも賛成した。しかし検証の実施時期については「流行終息後」(習主席)とするだけで具体的に触れなかった。逆に習主席は「世界の公共衛生に協力する」として国際社会への大規模な援助を約束したが、これでは自国への批判をかわすのが狙いといわれても仕方ない。総会への台湾のオブザーバー参加問題も、米中の摩擦が影を落とした。「一つの中国」の原則にこだわる中国の反対で、参加が見送られた。台湾は感染防止で卓越した成果を上げ、世界の注目を集めている。過去に参加していた実績もある。多くの加盟国が参加を支持しており、当然認められるべきだ。確かに、中国とWHOとの関係や、一連の対応について、多くの国が不満と不信感を抱いている。しかし今は、世界が直面している危機的な状況を脱することを、最優先の課題にすべきだ。状況はロシアや南米、中東で依然として深刻だ。ブラジルでは感染が急拡大し、医療崩壊の瀬戸際に追い込まれている。WHOの弱体化は、国際機関に頼るしかない途上国や、弱い人々の救済遅れに直結する。総会でドイツのメルケル首相は、「どの国も一国では、この問題を解決できない」と、結束の重要性を訴えた。米中の指導者は、この言葉をかみしめてほしい。まずは、各国がウイルスとの戦いで得た教訓を分け合い、協力しあうことが大切だ。例えば、ウイルスの特性や感染経路、治療から得られた医学的な知見などだ。さらに百十以上の開発プロジェクトが進んでいるというワクチンに関する情報を、各国が共有することも急がれる。日本政府には、米中の緊張緩和と国際協調実現のため、積極的に動くことを望みたい。 *14-6:https://news.yahoo.co.jp/articles/e1dfcf36d1bbd64a8d7ba8a47eb7cd7b35292aa1 (Yahoo 2020/6/7) 日本、中国批判声明に参加拒否 香港安全法巡り、欧米は失望も 香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していたことが6日分かった。複数の関係国当局者が明らかにした。中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随しないことで配慮を示したが、米国など関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている。新型コロナの感染拡大などで当面見合わせとなった中国の習近平国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙いがあるとみられる。ただ香港を巡り欧米各国が中国との対立を深める中、日本の決断は欧米諸国との亀裂を生む恐れがある。 <日本で新型コロナの流行や死者数が抑制できた理由> PS(2020年5月27、28日追加):*15-1のように、WHOのテドロス事務局長は、日本が緊急事態宣言を全面解除したことを受けて「新規感染者が大幅に減少し、死者数増も抑えられている」として、対策が「成功」したと評価されたそうだ。 しかし、*15-2は、「①欧米メディアは、強制力のない外出自粛やPCR検査数の少なさにもかかわらず日本で感染が広がらなかったことに注目し、『不可解な謎』と報じている」「②オーストラリアABCは、公共交通機関の混雑、高齢者人口の多さ、罰則を伴わない緊急事態宣言は大惨事を招くためのレシピのようなもので、この死亡率の低さは奇跡に近い」「③日本は人口10万人当たり感染者数が13・2人で、G7のうち最も感染拡大の速度を抑え込んだ」「④日本の検査数は最少の人口10万人当たり212・8件で、最多イタリアの約4%しかなかった」「⑤10万人当たり死者数は、アジア・オセアニア地域の多くの国が日本の0・64人より少なかった」「⑥初期の水際対策が奏功した台湾の累計死者は、10万人当たり0・03人だった」と記載している。 このうち、①④については、確かに検査数が少なく、新型コロナによる死者が他の死因に分類されている可能性が大いにあるが、超過死亡率を単純に全て新型コロナによる死者としてカウントしても死者数は少ない。また、水際対策は失敗したため、⑥のように、台湾よりも感染者・死者が増えた。つまり、厚労省が行った政策は、(意図的か過誤かはわからないが)検査数を増やさず、治療薬を承認せず、ワクチン開発も遅らせて、日本の能力を十分に引き出さない方向だった。そのため、国民はそれに気がつき、罰則を伴わない緊急事態宣言の中で自己防衛のために自主的に引きこもり、②③⑤の結果を得たのだ。そして、これができたのは、政府の優れた政策や幸運のおかげではなく、日本人の日頃からの栄養状態・生活習慣・清潔志向・上下水道などインフラの普及・除菌洗剤の使用など、生き残って増殖し感染するウイルスを減らす方向への努力が実を結びやすい環境にあったからだと思われる。 なお、*15-3のように、新型コロナ感染死には把握漏れがあり、「超過死亡」が200人以上だと言われているが、「超過死亡」の分析に必要な日本政府の月報公表は2カ月遅れで、これも欧米の対応との間に差が出ており、欧米メディアは公開データに基づいて、死亡数は新型コロナで死亡したと報告された数より5~6割程度多く超過死亡があると分析しているそうだ。 このような中、*15-4に、中央大学大学院戦略経営研究科教授の真野医師が、日本の新型コロナ対策が諸外国に比べて決して万全ではないのに死亡者が少なかった理由を、「⑦日本では救急車のたらい回しなどの問題はあったにせよ、医療崩壊が起こらなかった」「⑧日本は病院ベッド数が多く、医療キャパシティーが大きい」「⑨医療者のモチベーションが高い」「⑩高齢者施設における死亡者が少ない」「⑪病院が高齢者施設の代わりをしていることも多く、医療と介護連携が行われて、老健には医師が常駐し、介護老人福祉施設・高齢者対応集合住宅には医師が定期的に訪問診療している」「⑫医療崩壊を起こさずにピークアウトした韓国は、高齢者対応施設を36.1%増加させ、中でも療養病床を急速に増加させていた」と書いておられる。確かに、高齢者が介護施設で栄養バランスのよい食事を摂り、清潔な暮らしができて、医療介護の連携が進んでいるのは、日本の死亡者数を減らした大きな要素だろう。 なお、知事会が、*15-5のように、「①第2波、第3波に備え、陽性かどうかを判定するPCR検査の強化や、ワクチンの早期実用化などが必要」「②第2波に適切に対処するには、これまでの新型コロナ対策を総括する必要がある」「③法制度も含め環境を整備するよう求めた」ところ、西村担当相は2020年度第2次補正予算案で自治体向け臨時交付金を2兆円増額したことに言及されたそうだ。しかし、これは、①②③の要請に対する的確な答えではなく、金をばら撒いてはぐらかしており、その金は西村氏のポケットマネーではなく国民の血税だ。そのため、最小の金を的を得たことに使ってもらいたい。 また、*15-6のように、新型コロナ対策を検討してきた政府専門家会議の議事録を厚労省が作成していないとのことだが、この回答は開示できるような内容でないことを意味している。そして、これは、今後の日本の医療・介護はじめ社会保障全般に関する自民党・内閣官房・厚労省・財務省の考え方を示しているため、決して疎かにすべきではなく、人の命にかかわることに関して誰がどういう発言をしたかも重要で、議事録を公開させるべきだ。 ![]() ![]() ![]() 2020.5.24朝日新聞 2020.5.1東京新聞 2020.5.24朝日新聞 (図の説明:左図は、ニューヨーク市内の新型コロナによる死者数と超過死亡数、中央の図は、米国の他の州の新型コロナによる死者数と超過死亡数、右図は東京都内の見逃された死者数だが、日本も米国のように速やかにデータを集めて状況分析できるようでないと、次の政策に活かせないわけである) ![]() ![]() *15-4【表1】 *15-4【表2】 (図の説明:左図のように、日本の介護ベッド数はスウェーデン・ベルギーの半数以下で、65歳以上100人に占める介護従事者数は、ノルウェー・スウェーデンの半数以下だ。そして、日本の新型コロナによる高齢者施設死亡者数は50人と著しく低いが、新型コロナ死亡者数を正確に把握すれば現在の10倍《500人》になるとしても、スウェーデンの630人とあまり変わらない) *15-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202005/CK2020052602000260.html (東京新聞 2020年5月26日) <新型コロナ>「日本の対策は成功、第2波に注意」 WHOが評価と警鐘 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は二十五日の記者会見で、日本が緊急事態宣言を全面解除したことを巡り、新規感染者が大幅に減少し死者数増も抑えられているとして対策が「成功」したと評価した。日本が今後も感染経路の特定などに注力する姿勢を示したことも称賛した。一方、WHOで緊急事態対応を統括するライアン氏は、中南米や南アジア、アフリカでは感染拡大局面にあるとして「われわれはまだ第一波の真っただ中にいる」と警告し、世界全体では依然厳しい状況が続いていると強調。日本や欧州などで感染拡大の鈍化に成功した国々を評価しつつも、外出制限などの解除により第二波が生じる可能性があると警戒を呼び掛けた。WHOで新型コロナの技術責任者を務めるバンケルコフ氏は、インフルエンザのように冬になると再燃するという説に関し、今のところ根拠はなく「季節に関係なく、人々が密集すると感染が起きる」と強調した。 *15-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN5V3CQQN5TUHBI00S.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2020年5月26日) 「不可解な謎」 欧米メディアが驚く、日本のコロナ対策 日本は新型コロナウイルスの流行抑止に成功していたのだろうか。各国のデータを分析し、人口10万人当たりの感染者数や検査件数、死者数を比べた。当初は日本の検査体制や、強制力のない緊急事態宣言の効果を疑問視していた欧米メディアは、現在の状況を驚きとともに伝えている。朝日新聞は主要7カ国(G7)について、それぞれ10万人当たりの累計感染者数と感染の有無を調べる検査件数を比較した。検査件数は各国の政府発表に基づいた。米国は各州の発表をまとめた民間の集計値を用いた。また、累計死者数は、世界的にみて比較的被害が抑えられているアジア・オセアニア地域の国々を選び、10万人当たりの人数を比べた。この結果、日本はG7で、10万人当たりの感染者数が13・2人で最も少なかった。一方、検査数も最少の212・8件で、最多のイタリアの約4%だった。英国は1日20万件の検査をめざし(日本の目標は1日2万件)、自宅などへ約80万件分の検査キットを郵送している。実際に個人が検査したかが不明なため、今回の比較時に郵送分は含めていない。ただ、含めた場合は1・5倍近い5013・0件まで増える。また、10万人当たりの死者数は、アジア・オセアニア地域の多くの国々で日本の0・64人より少なかった。たとえば、初期の水際対策が奏功した台湾の累計死者は7人で、10万人当たりでは0・03人だった。英オックスフォード大に拠点を置き、各国の感染データなどを集計している団体「Our World in Data」によると、日本は5月23日時点で100万人当たりの感染者数が世界208カ国・地域のうち多い順から136番目。同じく死者数は94番目だった。中東を除いたアジア地域で日本よりも死者数が多かったのはフィリピンとモルディブだけだ。一方、欧州疾病予防管理センター(ECDC)がまとめた各国データを朝日新聞が集計したところ、日本は、G7の中で最も感染拡大の速度を抑え込めていた。感染者が人口1千万人当たり1人以上になってからピークに達するまで、米国やフランス、ドイツが35日前後だったのに対し、日本は52日だった。また、G7で1日当たりの新規感染者数の推移をみると、最も多かった時期で、米国やイタリアは1千万人当たり900人を超えていたが、日本は50・9人(4月17日)だった。新型コロナウイルスを抑え込んだかに見える日本の状況を、海外メディアは驚きと共に伝えている。強制力のない外出自粛やPCR検査数の少なさにもかかわらず、日本で感染が広がらなかったことに注目し、「不可解な謎」「成功物語」などと報じている。 ●何から何まで間違って…でもなぜ日本の感染拡大は広がらなかったのか、欧米メディアが注目しています。専門家はどう考えるのでしょうか。 米誌フォーリン・ポリシーは日本の新型コロナ対策について「何から何まで間違っているように思える」と指摘した上で、それでも現状は「不思議なことに、全てがいい方向に向かっているように見える」と伝えた。「中国から大勢の観光客を受け入れてきたことを考えると、この死者率の低さは奇跡に近い」「日本がラッキーなだけなのか。それとも優れた政策の成果なのか、見極めるのは難しい」との見方も示した。 「不可解な謎」と題した記事を配信したのは、オーストラリアの公共放送ABCだ。公共交通機関の混雑ぶりや高齢者人口の多さ、罰則を伴わない緊急事態宣言を「大惨事を招くためのレシピのようだった」と表現。「日本は次のイタリアかニューヨークとなる可能性があった」と指摘した。海外ではこれまで、英BBCが「ドイツや韓国と比べると、日本の検査件数はゼロを一つ付け忘れているように見える」と報じるなど、日本のPCR検査数の少なさを疑問視する報道が相次いでいた。米ブルームバーグ通信はこの点について、「第1波をかわしたのは本当に幸運」「(第2波が来る前に)検査を1日10万件できるように準備しなくてはならない」という専門家の話をまとめた。英ガーディアン紙は「大惨事目前の状況から成功物語へ」とのタイトルで、日本人の生活習慣が感染拡大を防いだとの見方を伝えた。マスクを着用する習慣▽あいさつで握手やハグよりお辞儀をする習慣▽高い衛生意識▽家に靴をぬいで入る習慣などが、「日本の感染者数の少なさの要因として挙げられる」と指摘している。日本の専門家もこうした日本人の文化や習慣が感染拡大を防いだ一因とみる。東京医大病院渡航者医療センターの浜田篤郎教授(渡航医学)は「日本人の清潔志向とマスク文化が、第1波の抑え込みに一定の役割を果たした可能性がある」と話す。一方で、第1波を免れた分、第2波の拡大が懸念されるとして注意を呼びかける。「感染者が少なかったということは、免疫を持つ人が少ないということ。第1波より感染者が増える可能性がある」という。PCR検査数の少なさについては「やらなかったのではなく、できなかった」と指摘。「検査数を増やせば、症状が軽い陽性患者も出る。当初は宿泊施設での患者の受け入れもできず、病院で収容していたら間違いなく医療崩壊していた。第2波が来るまでに患者の収容体制などを整え、検査数を増やせるよう準備しておく必要がある」と話す。 *15-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59508030U0A520C2NN1000/ (日経新聞 2020/5/24) コロナ感染死、把握漏れも 「超過死亡」200人以上か 、東京23区2~3月 必要な統計公表遅く、対策左右も 新型コロナウイルスの感染が拡大した2月中旬から3月までに肺炎などの死亡者が東京23区内で200人以上増えた可能性がある。同じ期間に感染確認された死亡数は都全体で計16人。PCR検査で感染を確認されていないケースが潜み、把握漏れの恐れがある。こうした「超過死亡」の分析に必要な政府月報の公表は2カ月遅れで、欧米の対応と差が出ている。肺炎などの死亡数は、国立感染症研究所が「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」に基づき、公表している。集計では各保健所が死亡診断書の死因のうち、インフルエンザか肺炎を含む死亡数を入力する。感染研が過去の流行状況から推定した「流行なしの死者数」と比較し、統計的な誤差を超えた場合に超過死亡と判断する。すべての死因で比較すると、外出自粛などの対策による交通事故死や自殺の増減を含め、流行と対策が社会に与えた影響を総合的に推定できる。国際比較の指標にもなる。現時点の公表データによると、超過死亡は2月17日の週から3月下旬まで5週連続で発生。流行がなかった場合を50~60人上回り、計200人を超える。感染研が定義する「統計的な誤差を上回った死者数」という超過死亡数でも5週連続で20~30人程度に上る。実数は公表していない。超過死亡は19年後半も発生。インフルエンザの流行が早く、東京都で12月上旬に流行が拡大した影響とみられる。年明けには終息しており、再び超過死亡が発生した2月中旬以降は新型コロナが影響した可能性がある。感染研は「集計は例年、インフルエンザの流行が終わる3月末の死亡日までが対象。入力期限の5月末以降でないと今シーズン全体の分析はできない」としている。世界保健機関(WHO)は感染症の影響を分析する指標として超過死亡を推奨している。肺炎以外を含む総死亡数は厚生労働省が人口動態調査で死亡数などを毎月集計。都道府県からの報告は省令で「翌々月の5日まで」と定められ、公表は約2カ月後だ。検査未確認の死亡数が増えたとみられる4月分の公表は6月下旬になる。集計が遅いのは、届け出の電子化が進んでいないこともある。手書きの死亡届を受けた市区町村は電子システムに入力して保健所に送付するのに「一定の期間が必要」(同省)なためだ。欧米では迅速な死亡数の集計・公開が進む。3月以降、感染が急拡大した米ニューヨーク市は、死亡数をリアルタイムで把握する電子統計報告システムを開発した。市保健当局によると、WHOがパンデミックを宣言した3月11日から5月2日までの全死亡数は3万2107人。過去5年と比較し、2万4172人を超過死亡と推定。この間に1万8879人が検査などで感染を確認されており、残り5293人(22%)も「直接か間接的にパンデミック関連で死亡した可能性がある」と発表している。欧米メディアは公開データに基づき、死亡数は新型コロナで死亡したと報告された数より5~6割程度多く、超過死亡があると分析している。英医学誌ランセットは「週単位で超過死亡を把握することがパンデミックの規模を評価して適切な対策を打ち出すために最も必要」と指摘する。第2波に備え、検査の拡充や感染症に応じた医療態勢の強化だけでなく、データの公開が不可欠。横浜市立大学の五十嵐中・准教授(医療経済)は「迅速にデータを収集・公開し、民間とも連携し対策に役立ててほしい」と訴える。 ■超過死亡 感染症が流行した一定の期間の死亡数が、過去の平均的な水準をどれだけ上回っているか示す指標。インフルエンザの流行を評価するために開発された。肺炎など直接関連する死因で比べると、持病で死亡して医師が感染を疑わずに検査していないケースも含め流行の影響を推定できる。 *15-4:https://diamond.jp/articles/-/236988 (Diamond 2020.5.13) 日本のコロナ死亡者が欧米より少ない理由、高齢者施設クラスターの実態 (真野俊樹:中央大学大学院戦略経営研究科教授、多摩大学大学院特任教授、医師) 新型コロナウイルスの感染拡大は日本も徐々にピークアウトしてきているように見える。このまま外出自粛が守られて順調に行けば、懸念された医療崩壊もなさそうだ。一方、時々話題に出るのが介護崩壊だ。日本の新型コロナ対策は諸外国に比べ、PCR検査不足の問題をはじめ決して万全なものとはいえない。それでも死亡者が少ない理由は何か。医師(日本内科学会総合内科専門医)であり、かつビジネススクールで教える筆者が、日本の医療・介護制度から、その理由を指摘する。(中央大学大学院戦略経営研究科教授、医師 真野俊樹) ●日本は海外に比べ、高齢者施設での死亡者が少ない 「緊急事態宣言」は5月末まで延長されることになったが、日本全国の死亡者数や感染者数は減少傾向にあり、日本も諸外国同様に新型コロナウイルスの感染がピークアウトをしてきたように思える。ここで、なぜ日本で死亡者数がこんなに少なかったのかを考えてみたい。よくメディアで話題になる医療崩壊とは、「患者が医学的な必要に応じ入院できないことなど、あるいは医師による適切な診断・治療を受けられないこと」を指す。具体的にはアメリカやイタリア、ベルギーといった国で起きているように、1日の死者が何百人、何千人という状態で、通常の医療的措置が成り立たない状態である。つまり、日本では、救急車のたらい回しなど新型コロナウイルス以外の重症疾患対応でいくつかの問題などがあるにせよ、医療機関は適切な医療を行える状況にあるので、医療崩壊は起きていないと考えられる。日本で医療崩壊が起きない理由として、『コロナで絶体絶命のイタリアと違い、日本で死者激増の可能性は低い理由』の記事で、「日本は病院ベッド数が多く医療キャパシティーが大きいこと」、そして「そこで働く医療者のモチベーションが高いこと」を指摘した。一方、海外の死亡者数が多い理由は、医療キャパシティーが少なく、医療崩壊が起きたためと指摘させていただいた。今回は、なぜ日本で死亡者が少ないのかについて、もう一つ気がついたことがあるので、それを報告したい。それは「高齢者施設における死亡者数」の差である。知られているように新型コロナウイルスは、高齢者の死亡者数が多い。つまり、高齢者施設でのクラスター発生は相当数の死亡者を生み出してしまう。米国では、高齢者施設がクラスター化している例の報告が多い。報道によれば、全米の死者の5分の1を占める約7000人に上るという。日系人も多く入居し、安部首相夫人が訪問したことでも有名で、筆者も訪問し調査をさせていただいたことがある、ニューヨーク・マンハッタン北部の高齢者施設「イザベラハウス」(写真)では、98人もの死者が出た。高齢者施設の1日の死者としては過去に例を見ない人数で、このうち46人は新型コロナウイルスの感染が死因で、残り52人は「その疑いがある」とされている。また英国では、毎日発表している死者の集計方法を4月末に変更し、高齢者施設などで亡くなった人の数も含めるようにした結果、死亡者数が急増した。 ●高齢者施設の感染は、隠すことができない 海外での介護の現状を見てみよう。表1にあるようにヨーロッパは介護関連施設(細かくはいろいろ区分があるが本稿では高齢者施設とする)が充実している。そして北欧では介護従事者の数も多い。高福祉国家の面目躍如といったところであろうか。 【表1】 介護事情の国際比較 さて、日本での高齢者施設死亡者数はどうか。日本では表2にあるような高齢者施設死亡の統計がないので、時々話題になる新聞記事などのデータから追うしかない。 【表2】 4月下旬の報道によれば、千葉では、新型コロナウイルスに感染して死亡した約半数の17人が高齢者施設の入居者だったという。群馬県伊勢崎市では、入居者・職員ら関係する67人が感染し、15人が亡くなった有料老人ホーム「藤和の苑(その)」(人数は5月1日現在)の例がある。しかし、ほかの県では話題にならないし、千葉のケースはどちらかといえば対策が不十分であった時期のものだ。何が言いたいのかと言えば、高齢者施設の感染は隠すことができないので、それが諸外国ほど話題になっていないのは間違いないということだ。そして、表1、2を見比べてもらえばわかるように、福祉国家として多額の介護費用を投入し、施設数も多く、さらに介護者数が多い北欧諸国でも、高齢者施設での死亡者が多い。一方、欧州で対応がよかったとされるドイツでは高齢者施設の死亡は相対的に少ない。これは、医療のキャパシティーと異なり、介護のキャパシティーが大きいことと、感染による死亡者数が無関係であることを示す。死亡者の多寡にはほかの理由があるはずだ。ここで筆者は、「1000人当たり(2017)介護ベッド数(うち病院)」の病院の比率に注目した。日本は制度上、病院が病気のみならず、高齢者のケアも行うというスタイルを取っていた。一時期批判されたが、「社会的入院」のように、高齢者が長期入院して生活を病院の中で行うということもあった。もちろん、これは病院の本来の機能からいえば必ずしも適切とはいえず、介護保険が導入され、徐々に改善されつつあった。 ●病院が高齢者施設を代替した「特殊性」 さて、以前の記事『コロナで絶体絶命のイタリアと違い、日本で死者激増の可能性は低い理由』では、日本で医療キャパシティーが多い理由として、日本の病院が十分に効率化されておらず、その途中であるということを指摘させていただいた。それと同じことがこの場合も言える。すなわち、病院が高齢者施設の代わりをしているのは「日本の特殊性」ということになる。表1を見ていただくと分かるが、海外に比べ、日本は病院以外の高齢者施設が少ない。世界一高齢者の比率が高い国でなぜこれが成り立っていたかというと、病院に高齢者が入院していたからである。すなわち、病院が高齢者施設の代わりをしているのは「日本の特殊性」ということになる。さらにいえば、急速な高齢化に伴い高齢者施設を増やしており、かつ日本の医療保険制度や介護保険制度を見習っている韓国でも同じように、病院が高齢者施設を代替している。ちなみに韓国も日本と同様、人口当たりの死亡者数が少ない。もちろん、在宅医療にシフトするという話もあるが、高齢者が病院に入院していないことの欠点は何であろうか。今回の新型コロナウイルスの感染爆発でわかるように、やはり、海外のように介護者中心でケアをしていると、感染症対策はおろそかになりがちだ。アメリカなどではスキルドナーシングホームといわれる高齢者施設には、医師や看護師はある程度関与するが、通常の高齢者施設であるナーシングホームなどへの関与は少ない。ここで、なぜ日本の病院の機能が諸外国と異なっているのか、病院の歴史から考えよう。病院(ホスピタル)の語源は「ホスピタリティー」であり、さらにこのホスピタリティーの語源は巡礼者に対してサポートを行っていた「ホスピス」から始まっている。つまり巡礼者が怪我や病気をした時のサポートを行う場、急性期の病院機能が中心であった。現在でも「ホスピス」は療養、そこから分化した「ホスピタル」は急性期医療を専門に行っている。ちなみに、日本ではホスピスの数は少ない。海外の病院は、巡礼者が目的を果たすためにそそくさと立ち去るのが通例であった。宗教的な病院が多いのも歴史的な背景として考えられる。アジアには巡礼のような概念はなく、日本においては病院機能というのはあくまで病めるものに対するサポートであり、病めるものが必要とする機能を全て提供するという視点に立っている。歴史を振り返ってみても、江戸時代の「赤ひげ」医師で知られる日本最古の国立病院とでもいうべき小石川療養所などは外科的な治療も行ったが、やはり薬を処方するという内科的な対応(本道といっていた)が中心だった。そのため平均在院日数も長かった。このように病院の機能が異なっていたのが「日本の特殊性」とされ、それを是正していこうというのが近年の流れであったのはすでに別の論説(『コロナで絶体絶命のイタリアと違い、日本で死者激増の可能性は低い理由』)でも指摘したとおりである。このような背景に加え、老人の医療費自己負担額が極めて低かったこともあり、患者が望む間は、病院で面倒を見るという社会的入院という事象が生まれた。 ●介護保険導入10年以降で、医療と介護の連携が進んだ こういったこともあり、日本では高齢者用施設の数がなかなか増えなかった。現在では社会的入院はほぼなくなったとはいえ、病院に多くの高齢者が入院している。変化が起きたのは2000年に介護保険が施行されてからであるが、一気に高齢者施設数が増えたわけではないし、導入当初は介護と医療は分断していたが、近年では「医療介護連携」が叫ばれ、医療と介護の連続性が比較的保たれている。そして、新型コロナウイルス感染においては、それが幸いした。例えば、介護老人保健施設(老健)には医師が常駐しているし、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)においても契約している医師がおり、定期的に診察に訪れる。その他の高齢者対応の集合住宅も同様に定期的に訪問診療が行われるなど、医療の役割が充実している。おそらく日本の高齢者施設に新型コロナのクラスター感染が少なく、死亡者数が少ない理由は、介護施設従事者が必ずしも得意ではない感染管理に対して、医療従事者からのアドバイスがあったことが大きいのではなかろうか。ちなみに、医療崩壊を起こさずにピークアウトした韓国は、近年の急速な高齢化に伴い、高齢者対応施設を36.1%増加させているが、その中で療養病床を急速に増加させ、高齢者対応に占める病院の割合は60%以上と世界最大である。前回の論考では、医療キャパシティーが日本では大きかったことを、医療崩壊が起きにくい理由として記載したが、同じように、日本では医療介護連携が進んでいることを日本の死亡者を減らしている理由と主張したい。なお、日本同様に死亡者数が少ない東南アジアのデータはあまりないが、前掲表2のようにシンガポールでは日本同様に高齢者施設での死亡が少ない。高齢者対応が発展途上の国なので、直接関係があるかどうかは検証の必要があるが、シンガポールは、国土をエリアにわけて、それぞれで医療介護連携の仕組みを構築している。もう1つは、スウェーデンなどで見られるように、日本に比べると、欧米では高齢者施設から病院への搬送が少ないことが想像される。私が訪問調査した時も、「高齢者施設では発熱くらいでは、病院に搬送しないのが普通」との説明を受けた。もちろん日本では、一時的な発熱はともかく、何日も発熱が続けば、肺炎などを疑って搬送されるケースが多い。また、海外では総じてICU(集中治療室)への入室基準が厳しく、特に北欧などでは、高齢者はICUで治療を受けることが難しい。以上、筆者は、高齢者施設クラスターが少ないことが日本での、コロナ感染による死亡者が少ない理由の一つだと考える。高齢者施設クラスターは非常に危険であるが、日本の医療は、海外と比べても間違いなく安心できる体制になっており、一部で懸念されている介護崩壊も起きないだろう。しかし、今回の死亡者数が少ないという成果が偶然や奇跡といわれることなく、戦略的に医療介護分野の再編成を考えることも重要かもしれない。 *15-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/31691?rct=politic (東京新聞 2020年5月28日) 知事会、第2波に備え検査強化を 西村担当相に対策の充実を要請 全国知事会長の飯泉嘉門徳島県知事は28日、西村康稔経済再生担当相とオンラインで会談し、新型コロナウイルス対策の充実を申し入れた。第2波、第3波に備え、陽性かどうかを判定するPCR検査の強化や、ワクチンの早期実用化などが必要としている。西村氏は2020年度第2次補正予算案で自治体向け臨時交付金を2兆円増額したことに言及。各自治体への配分額に関し、リーマン・ショック時に創設した交付金よりも多くなるよう「工夫をしたい」と述べた。申し入れは、第2波に適切に対処するには、これまでの新型コロナ対策を総括する必要があると指摘。法制度も含め環境を整備するよう求めた。 *15-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/528181 (佐賀新聞 2020.5.28) コロナ専門家会議、議事録作らず、歴史的事態検証の妨げに 新型コロナウイルス対策を検討してきた政府専門家会議の議事録を政府が作成していないことが28日、分かった。共同通信の情報公開請求に、事務局である内閣官房が回答した。議事の概要と資料は公表されているが、各出席者の詳細な発言は記されておらず、対策検証の妨げになる可能性がある。政府は3月、新型コロナ問題を「歴史的緊急事態」に指定し、将来の教訓として公文書の管理を徹底することを決定。安倍晋三首相は「適切に、検証可能なように文書を作成、保存していると認識している。今後さらなる徹底を指示する」と強調していた。消極的な政府の開示姿勢に、専門家会議の委員からも疑問の声が出ている。専門家会議は、政府の対策を考える上で医学的な観点から助言をするために2月に設置。感染症や公衆衛生の専門家、法律家らが委員となった。国内の感染状況を分析した結果や、密閉、密集、密接の「三つの密」を避けることなど、求められる予防策を提言してきた。これまで14回開催されたが、全て非公開だった。共同通信が3月、内閣官房に対して、第1回~第6回の議事録などを情報公開請求したところ、5月に「作成および取得をしておらず保有していないため不開示とした」との通知が返ってきた。7回目以降の議事録についても作成していないという。現在、首相官邸のウェブサイトには第6回までの議事概要と資料は公開されているが、どの委員がどのような発言をしたのかは分からない。内閣官房は「(行政文書の管理に関する)ガイドラインに基づいてきちんと記録は残した」と説明している。一方で会議の委員からは「誰がどういう発言をしたかには責任を持ったほうがよい」など議事録の公開に前向きな意見が出ている。 <専門家会議の判断と経済について> PS(2020年5月30日、6月1日追加):*16-1のように、5月29日、専門家会議は、国内の新型コロナ感染拡大に関するこれまでの国の対策への評価を公表し、「①クラスターの発生を防ぐ対策は、感染拡大を防ぐ点で効果的だった」「②3密(密閉、密集、密接)になると感染者が多く発生していることを指摘し、市民に対策を訴えることができた」「③緊急事態宣言は、人々の接触頻度を低くし、移動を抑えたため、地方への感染拡大に歯止めがかかった」「④3月10日頃までは全国で50人以下だったが、その後急増」「⑤3月以降の感染拡大は、欧州などからの旅行者・帰国者を通じて各地に広がったウイルスによる可能性が高い」「⑥専門家会議にデータを提供している西浦北大教授(理論疫学)は『特定業種の休業要請がどれだけ効いたかは、この後明らかにしていきたい』と語られた」そうだ。 このうち、①のクラスター追跡は、特定の集団感染(クラスター)だけが存在する第一段階では意味があるが、市中に蔓延して満員電車や職場で普通に感染するようになった第二段階では職業差別を生じさせる以外には効果が薄い。つまり、第二段階では、PCR検査等の検査を増やして早期発見し、患者の重度に応じてホテルや病院に隔離して感染を防ぎつつ、根本的な治療を行うことが必要だったのだ。しかし、⑥の西浦北大教授はじめ専門家会議は、東京・大阪の職場や通勤状況、ホテルの収容能力、検査方法や治療薬の開発・承認には考えが至らず、緊急事態宣言と休業要請ばかりに感心があったため、犠牲が多く高くついたのである。また、②は感染症予防の常識であり、通常は感染した人を他に感染させなくなるまで隔離し、日本全国で③に至ることがないようにするものだ。さらに、④⑤は、旅行者・帰国者を検査したり、14日間隔離したりするなどの適切な入国管理を行えば防げた筈である。 このように、必ずしもうまくいかなかった意思決定は、その原因を正確に突き止めて改善する必要があるが、*16-2のように、コロナ専門家会議は議事録を作成していないとされ、誰の提案で空気(方針)が決まったのかを国民は知ることができない。役人と違って専門家は、「⑥自分の発言に責任を持つので開示したいか、どちらでも構わない」「⑦率直に議論する場合でも専門性を活かして責任を持って言うので、発信者が特定された方が他の人の意見と自分の意見がごっちゃにされずよい」「⑧確定的に言えない場合は、そういう言い方をする」ため、発言者がわからない議事概要は誰にとっても不十分なのである。私もこのような事態に関する公文書は国民共有の歴史的資源であり、いろいろな方向からの研究材料でもあるため、それこそEvidenseに基づいて議論し、公表すべきだと考える。 なお、緊急事態宣言と休業要請により雇用が逼迫し、非正規社員が雇い止めになったり、中小企業・個人企業が倒産したりなど経済がひどい状況になった。そして、それを食い止めるための補助金で数十兆円も支払うことになったが、もらう人ばかりでは計算が合わないため、誰がどのような形で負担し、その副作用がどう出るかも明確にしておくべきだ。 琉球新報も、*16-3のように、2020年6月1日、「⑨政府の新型コロナ対策を医学的見地から検討してきた専門家会議の議事録が作成されていないのは、コロナ禍で我慢を強いられた国民への背信行為だ」「⑩首相官邸のウェブサイトに第6回までの議事概要と資料は公開されているものの、誰がどういう発言をしたのか分からない」「⑪会議が例示した“新しい生活様式”の提言は、暮らしや社会経済活動のあらゆる場面に変化を強いているので、過程を検証し教訓を後世に伝えるために議事録は不可欠」「⑫2020年3月、政府は新型コロナに関し国家・社会として記録を共有すべき“歴史的緊急事態”に指定しており、行政文書管理のガイドラインに基づく対応をすべき」「⑬主権者である国民に正しく情報開示し、後世に詳細な記録を残すことは公務員として当然の仕事」と記載しており、私も賛成だ。さらに近年は、会議を録音すれば自動的にコンピューターに取り込むことができ、外国語にも自動翻訳できるため、それらをチェックするだけで数か国語の議事録作成が可能だ。つまり、IT化しておけば、速記者を入れなくても恣意性の入らない議事録作成が容易なのに、政府こそ生産性が低くて遅れているのである。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2020.5.29朝日新聞 2020.3.31東京新聞 2020.5.23佐賀新聞 (図の説明:左の2つの図のように、専門家会議は「緊急事態宣言は、抑制には貢献した」としているが、そのEvidenseも議論の過程も示されていない。しかし、この緊急事態宣言による休業要請によって、雇い止めにあった非正規労働者や破綻した中小企業・個人企業も多いので、効果と犠牲を比較考量して、犠牲の少ない方法を探すべきなのである) *16-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14494894.html (朝日新聞 2020年5月30日) 感染ピーク、緊急事態宣言前 専門家会議「抑制には貢献」 国内の新型コロナウイルスの感染拡大について、政府の専門家会議は29日、これまでの国の対策への評価を公表した。緊急事態宣言は感染の抑制に貢献したとする一方、感染のピークは4月1日ごろで、宣言前だったことも明らかにした。感染が再び広がることを見据え、現時点の評価を行い、今後に生かす必要があると判断した。専門家会議はこの日まとめた提言で、クラスター(感染者集団)の発生を防ぐ対策は、感染拡大を防ぐなどの点で効果的だったと分析。3密(密閉、密集、密接)の条件がそろうと感染者が多く発生していることを指摘し、対策を市民に訴えることができたとした。4月7日に最初に出され、その後対象が全国に広がった緊急事態宣言については、人々の接触頻度が低いまま保たれ、移動も抑えられたため、地方への感染拡大に歯止めがかけられた、とした。実際にいつ感染したのか新規感染者の報告から逆算して推定したところ、ピークは4月1日ごろで、緊急事態宣言の前に流行は収まり始めていた。休業要請や営業自粛が都市部で早くから行われていた効果や、3密対策を含めた市民の行動の変化がある程度起きていた、と理由を推察した。会議のメンバーからは「結果的に宣言のタイミングは遅かった」との声もある。 ■3月、遅れた水際対策 危機感は浸透 専門家会議が推定感染日でまとめた患者数の推移をみると、3月10日ごろまでは全国で50人以下だったが、その後急増した。3月以降の感染拡大は、国立感染症研究所の調査によると、欧州などからの旅行者や帰国者を通じて各地に広がったウイルスによる可能性が高い。日本の当時の水際対策について、専門家会議の提言に詳しい分析はない。関西空港近くにある特定感染症指定医療機関のりんくう総合医療センター(大阪府泉佐野市)の倭(やまと)正也・感染症センター長は「3月中旬には海外からの持ち込みで広がったとみられる感染経路の追えない患者が増え、満床だった。感染が広がり始めた欧州からの便などの渡航制限は早くかけるべきだった」と指摘する。感染はその後どう推移し、減少に転じたのは何が影響したのか。多くの人が外出したと言われる3月20~22日の3連休を経て、東京都の小池百合子知事が不要不急の外出自粛を要請したのは25日。この日の推定感染者は約500人。さらに増えて数日後にピークに達した。30日、お笑いタレントの志村けんさんが肺炎で亡くなったと報道された。このころ都内の主要駅で人出が大きく減り始める。入国拒否が73カ国・地域に広がることが決まったのは4月1日。推定感染日でみた感染者数はこの日ごろをピークに減少に転じ、緊急事態宣言でさらに減っていった。東京大の広井悠准教授(都市防災)は「私たちの調査では3月中旬ごろから高齢者を中心にプライベートな外出を控えるようになった。五輪の延期や志村さんの死去などもあり、徐々に人々の危機感が高まっていたのではないか」と話す。29日夜の会見で、専門家会議にデータを提供している西浦博・北海道大教授(理論疫学)は「特定の業種の休業要請がどれだけ効いたかは、この後明らかにしていきたい」と語った。 *16-2:https://mainichi.jp/articles/20200529/k00/00m/010/214000c (毎日新聞 2020年5月29日) コロナ専門家会議「議事録」作成せず 菅氏「発言者特定されない議事概要で十分」 菅義偉官房長官は29日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症対策を検討する政府専門家会議の議事録を残していないと説明した。発言者が特定されない形の「議事概要」で十分だとし、発言者や発言内容を全て記録した議事録は作成していないとした。政府は今年3月、新型コロナウイルスを巡る事態を、行政文書の管理のガイドラインに基づく「歴史的緊急事態」に指定し、将来の教訓として通常より幅広い文書の作成を行うと決めていた。ガイドラインは会議の性質に応じ、①発言者や発言内容を記載した議事録などの作成を義務づける「政策の決定または了解を行う会議等」と、②活動の進捗(しんちょく)状況や確認事項などを記載した文書を作成する「政府の決定または了解を行わない会議等」に分けている。菅氏は会見で、専門家会議は②に該当するとし「ガイドラインに沿って適切に記録を作成している」と述べた。発言者を記載しない理由は「専門家に率直に議論いただくために、発信者が特定されない形で議事概要を作成、公表している」とした。西村康稔経済再生担当相は29日の会見で「1回目の専門家会議で、発言者を特定しない形で議事概要を作成すると説明し、理解をいただいた。終了後の記者会見で丁寧に説明しており、検証には会見録も使える」と語った。これに対し会議メンバーの岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は「事務局が『議事概要を出す』と答えたので、ああそうですねということで終わった。(賛否の)手を挙げたわけじゃないから分からないが、全てではないが別に発言者名が出ても構わないというのが委員の意見だと思う」と記者団に語り、「僕は自分の発言に責任を持ちたいから発言は出ても構わない」と述べた。会議座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は29日夜の会見で「一番大事なのは我々がどのように議論し、考え、どのような提言を政府にしているかを(記者会見などで)しっかり伝えることだと思う。議事録に関しては政府がお決めになっていることだ」とした上で、公開について「個人的にはどちらでも構わない」と言及。尾身茂副座長は同日の会議でメンバーから政府に公開検討を求める声があったと説明し、「政府が決めて名前を出すということになれば私自身は全然問題ない」と述べた。これに関し、立憲民主党の枝野幸男代表は党の会合で、東日本大震災に官房長官として対応した際に、政府の会議の議事録を作成していなかったことを当時野党の自民党や公明党に批判されたことに触れ、「9年前の指摘をそっくりそのままお返ししたい。今回はちゃんと記録を残せと、あらかじめこちらから指摘したのに、こんな大事な記録が残ってないのはとんでもない話だ」と批判した。国民民主党の玉木雄一郎代表も記者団の取材に「歴史に対する背信行為だ。公文書は国民共有の資源だという認識を現政権は著しく欠いている」と語った。 *16-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1131196.html (琉球新報社説 2020年6月1日) コロナ専門家会議 議事録の作成は不可欠だ 政府が、新型コロナウイルス対策を検討してきた専門家会議の議事録を作成していないことが分かった。公文書管理に対する安倍政権の姿勢は不誠実の一語に尽きる。コロナ禍で我慢を強いられている国民への背信行為でもある。専門家会議は、政府の対策を考える上で医学的な観点から助言するために2月に設置された。感染症や公衆衛生の専門家、法律家らがメンバーで、感染状況の分析結果を示し、「3密」回避などの予防策を提言してきた。これまで14回開催され、全て非公開だ。現在、首相官邸のウェブサイトに第6回までの議事概要と資料は公開されている。だが出席者の誰がどのような発言をしたのかは分からない。会議の議論は政府のコロナ関連政策の根拠となり、自治体もそれに基づいて施策を推し進める。会議が例示した「新しい生活様式」なる提言は人々の暮らしや社会経済活動のあらゆる場面にも大きな変化をもたらしている。後手に回ったコロナの水際対策や検査態勢、首相が突如表明した一斉休校、感染が拡大してからの緊急事態宣言の発令や解除。未知のウイルスの拡大に政府がどう対応し、専門家の意見はどのように政策に反映されたのか。過程を検証し、教訓を後世に伝えるために議事録が不可欠であることは指摘するまでもない。国民への影響度や重要性を考えれば本来、会議は公開すべき性格のものだ。そもそも政府は3月、新型コロナに関して国家・社会として記録を共有すべき「歴史的緊急事態」に指定している。行政文書管理のガイドラインに基づく対応だ。歴史的緊急事態は民主党政権下で2011年の東日本大震災に関連する会議の議事録が未作成だった反省から、12年にガイドラインに盛り込まれた。野党だった自民党は「政権の隠蔽(いんぺい)体質だ」と未作成を批判した経緯がある。政府は今回、作成していないことについて、政策を決定したり了解したりする会議はガイドラインで議事録作成が義務付けられるが、専門家会議はこれに該当しない―と説明している。菅義偉官房長官は「率直に議論してもらうため、発信者は特定されない形で議事概要を作成し公表している」と述べた。だが会議のメンバーからは議事録を公開しないことに疑問の声が出ている。安倍政権では陸上自衛隊による国連平和維持活動の日報隠蔽や、森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざん、桜を見る会の招待者名簿廃棄など、無責任でずさんな公文書管理が相次いでいる。今回もそれらに通底する問題だ。主権者である国民と正直に向き合って正しく情報を開示し、後世に謙虚な姿勢で詳細な記録を残すことは公務員として当然の仕事のはずだ。会議の録音やメモがあるのではないか。政府は議事録を作成すべきである。 PS(2020年5月31日追加):*17-1のように、東京都と北九州市で新型コロナ感染者が増加しており、西村氏が市中で感染が広がっている可能性を指摘されたそうだが、北九州市の場合は、*17-4のように、PCR検査を増やしたため確認される感染者が増加したものだ。つまり、徹底的に検査すれば潜在患者が確定患者になり、見た目の感染者数が増えるため、背景の把握が重要だ。 また、*17-2のように、熊本市は、3~5月に発生した新型コロナウイルスの三つの感染集団に関するゲノム解析で、2つは欧米系統のウイルスが福岡経由と関西経由で持ち込まれ、もう1つは海外から直接入ってきた可能性が高いことを感染者20数人分のゲノム解析で把握したそうだ。これは、現在だからできる技術で、それなら、どちらの方が症状が激しく、それには遺伝子のどこが変異したのかも知りたいものである。 さらに、*17-3のように、米国の2020年産トウモロコシの価格が、①記録的な豊作 ②自動車の利用減少による燃料向け需要の低迷 ③品種更新 などにより若干下がり、今後10年は低迷が続くそうだが、私は食糧にも困っている人が多い時代に、トウモロコシから燃料を作る必要は全くないと前から思っており、むしろWHOが買い上げて食料不足の地域に配った方が免疫力を回復できると考える。なお、トウモロコシにユーグレナを混ぜると、安価に必要な栄養素を全部とれるようだ。 *17-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/529057 (佐賀新聞 2020.5.30) 西村氏、コロナ感染増加に危機感、東京と北九州、防止策徹底求める 西村康稔経済再生担当相は30日の記者会見で、東京都と北九州市で新型コロナウイルスの感染者が増加していることについて「いずれも週単位でも増加傾向にあるので危機感を持って見ている」と警戒感を示した。緊急事態宣言は全国で解除されたが、感染者は引き続き発生するとして感染防止策の徹底を求めた京都では30日、感染者が新たに14人報告された。都内の感染者は累計で5231人となった。今月25日の緊急事態宣言解除後は再び微増の傾向を示し、翌26日からは29日の22人を最多に5日連続で2桁の水準。直近7日間の1日当たりの平均は約13・4人となった。死者は新たに2人が判明し、累計は304人。北九州市では新たに16人の感染が確認された。市では23日から感染者が再び増え始め、この8日間で計85人。新規感染者数は前日より減ったが、3日連続で2桁となった。福岡県内の感染者は計741人。西村氏は、北九州市では感染経路が追える感染者が一定程度いる一方で、「市内に(感染者が)散らばっている」として市中で感染が広がっている可能性を指摘した。 *17-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/612602/ (西日本新聞 2020/5/30) 熊本市の感染集団に3ルート 福岡、関西、海外…ゲノム解析で推定 熊本市で3~5月に発生した新型コロナウイルスの三つの感染集団に関するゲノム(全遺伝情報)解析で、二つは欧米系統のウイルスが福岡経由と関西経由に分かれて持ち込まれ、一つは海外から直接入ってきた可能性が高いことが29日、同市への取材で分かった。ウイルスが海外や大都市から地方に飛び火し、感染者周辺でさらに広がる構図が浮かぶ。福岡ルートの感染集団は、70代の男性医師(5月9日死亡)ら計12人。医師と同居していた妻や、立ち寄り先の「接客を伴う飲食店」関係者、乗車したタクシーの運転手、受診した病院の医療スタッフに感染が広がった。市は、感染者二十数人分の検体のゲノム解析を国立感染症研究所に依頼。その結果、医師ら計12人の検体のゲノム配列が一致し、福岡の感染グループとも共通していたことから、福岡から熊本への感染経路が推定できるという。関西ルートとみられるのは、馬肉料理店の経営者家族や従業員の計4人。海外からの直接ルートは温浴施設利用者ら計5人。市関係者は「関西や海外から訪れた人が熊本にウイルスを持ち込んだ可能性がある」とみている。一方、感染が判明して入院し、退院後に再び陽性となった女性のゲノム解析も依頼していたが、試料の不足で判定不能だった。体内に残ったウイルスの「再燃」か、別ルートで再感染したのかは解明できなかった。 *17-3:https://www.agrinews.co.jp/p50933.html (日本農業新聞 2020年5月30日) [新型コロナ] 米国産トウモロコシ 価格下落の見込み 記録的豊作や燃料需要低下 配合飼料に好影響も 米国の2020年産トウモロコシの価格が下落する見通しになっている。記録的な豊作の予想。さらに新型コロナウイルスの影響で自動車の利用が減少し、燃料向けの需要も低迷しているためだ。相場が元に戻るには数年かかる見込みという。米国産トウモロコシを原料とする日本の配合飼料価格に影響する可能性もある。米国穀物協会は29日、日本と韓国、中国、台湾のユーザー向けにオンラインでセミナーを開催。米国のコンサルタント会社「プロ・エキスポート・ネットワーク」の代表が20年産トウモロコシの需給見通しを報告した。それによると、5月24日時点で播種(はしゅ)の進捗(しんちょく)率は88%と順調。品種更新の効果などもあって単収も増加を予想する。このまま順調にいけば、155億ブッシェル(1ブッシェル=約25キロ)の記録的な生産量になる。昨年は天候不順の作業遅れによって、生育期間が十分に確保できず、前年度比5%減の約136億ブッシェルだった。一方で、需要は弱まっている。報告によると、新型コロナウイルスの影響で、米国では自動車燃料の需要が減少。これに伴い燃料向けトウモロコシの需要も落ちている。米国ではトウモロコシから作るエタノールがガソリンに10%ほど混ぜられている。原油価格低迷も、燃料向けトウモロコシの需要が伸びない要因となっている。28日の米ニューヨーク原油(7月限)先物は1バレル33ドル71セントで前年より43%も下落している。消毒用エタノール需要の伸びに期待はあるが、失業者の増大、在宅勤務の慣れ、大規模な集会の減少などから燃料需要は回復に時間がかかるとみられる。その結果、トウモロコシ価格は「若干下がることが予想される」「この先も10年は低迷が続く」などとした。5月28日時点のシカゴ先物相場(7月限)は1ブッシェル当たり3ドル28セントで、1年前より22%安い。 *17-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/612812/ (西日本新聞 2020/5/31) 北九州モデルで「第2波」対抗へ 濃厚接触者全員にPCR検査 ●感染者の早期発見を優先 新型コロナウイルスの感染が再拡大している北九州市は、PCR検査の対象を無症状の濃厚接触者にまで拡大し、クラスター(感染者集団)の追跡によって感染者を可能な限り絞り込むなど「第2波」(北橋健治市長)の一日も早い収束に懸命だ。目指すのは感染経路不明者を減らしつつ、早期発見で把握した感染者を治療、周りに接触させないことで拡大を抑え込む「北九州モデル」の確立。第2波は、人口密集地を発火点に都道府県レベルに広がることも想定され、それを「点」に抑え込めるかが今後の課題となってきている。同市のPCR検査数は30日136件、29日160件、28日が117件。これ以前の100件超えは4月15日までさかのぼる。再び感染者が出た今月23日から8日間で濃厚接触者は計404人となり、このうち30日までに290人のPCR検査が終了し、53人の陽性が判明した。市は従来、濃厚接触者のPCR検査については有症者に限り、症状がない人は経過観察としていた。無症状を含む全ての濃厚接触者の検査に踏み切ったきっかけは、第2波の発表初日となった23日。「市内で感染再発」の情報を受け、各医療機関が救急搬送で運ばれたコロナと無関係の患者を念のため調べたところ、次々と感染が発覚した。その一つ、門司メディカルセンター(門司区)では医療スタッフのクラスターが確認された。検査対象を広げれば、確認される感染者数も増えることは想定され、対外的に「市内で感染が広がっている」との印象を与えることは市も覚悟の上だ。30日まで8日間の感染者は経路不明32人を含む85人と増加の一途だが、北橋市長は「第2波の中、日本で初めて早期発見、早期治療のため全員を検査している。無症状の陽性者も多く出るが、短期決戦で収束させるには必要だ」と強調する。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議構成員で東北大の押谷仁教授は「地域の中で感染が検出されないまま、伝播(でんぱ)が続くことがあり得る」のが、この感染症の特徴の一つとみており、「それが突然、顕在化してきた」と分析する。一方、感染経路不明者の割合は30日までの8日間で約37%と、27日までの約77%(22人中17人)から半減。濃厚接触者の比率が高まってきたためで、市の狙い通り感染者の「早期発見」が進んでいるともいえる。今後、同市以外でも第2波が襲来する恐れは十分にあり、押谷氏は「地域の中で隠れてしまっているクラスターや感染連鎖をいかに早く検知していくかが課題だ」と指摘する。 <役人の早期定年制による国の無駄遣い・マイナンバーなど> PS(2020年6月3日追加):*18-1-1に、「①(社)サービスデザイン推進協議会が、新型コロナの影響を受けた中小企業などに現金を支給する『持続化給付金』の事務業務を、経産省から769億円で受託した」「②サービスデザインは、給付金の申請受付から審査までの管理・運営・広報といった業務を749億円で電通に再委託した」「③電通は、人材派遣のパソナ・ITサービスのトランスコスモスにさらに業務を外注した」と記載されている。この問題点は、i)経産省が殆ど何もしないサービスデザインに血税20億円(協議会の人件費・銀行に外注するための振込手数料等の経費と説明された)を抜かせたこと ii)再委託業務を通じて中小企業が提出した秘密保持義務のある書類を数社の民間企業に流したこと である。サービスデザインは、経産官僚が理事の1人をしている経産省の天下り先だろうが、税理士が守秘義務を守って提出した資料を再委託した民間企業に安易に渡すのは、国民のプライバシー保護について全く考慮していない証拠である上、持続化給付金とそれにまつわる情報にたかっているものだ。サービスデザインは、*18-1-2のように、2016年度以降、経産省の14件、1576億円の事業を受託し、そのうち9件を電通などの外部に再委託し、女性活躍に絡む事業は人材派遣のパソナに再委託していたそうで、この会社は電通やパソナに再委託するために作られた会社なのだろうが、私は、持続化給付金は地方自治体が地元の銀行を使って配布するのが妥当だったと思う。 中央官庁が、天下り先を優遇して予算をつける(国民にとっては血税の無駄遣い)理由には、役人の早期退職制度と早期退職した官僚を理事等に迎えて細かい作業毎に別会社を作る慣習があり、このやり方が無駄遣いを生むため、役人の定年年齢を世間並みの65歳~75歳にする方がよほど安上がりなのだ。また、役人の方も、いらない会社の理事になるより遣り甲斐があり、(若ければ優れているというわけでもないので)人材の無駄遣いにならない。そのため、*18-2-1・*18-2-2のように、政府に定年引き上げを検討するよう定めた国家公務員制度改革基本法が2008年に成立しているのに、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げる法案すらまだ通っていないというのは怠慢なのだ。また、検察官の定年を他の国家公務員と同じにするのは当然であり、人によって役職定年などを行うから不公平になるのであって、少子化で労働力不足の中、富を作り出さない公務員の採用人数を減らして定年を延長し、定年まで普通に働けるようにすればよいだろう。従って、野党の追及の論点・メディア・それに動かされた「世論」の方が、意図的でおかしかった。 さらに、長寿命化に伴う生産年齢人口割合の減少で年金財政が逼迫するため(長くは書かないが、本当はこれが大きな失政)、*18-3のように、非正規労働者の厚生年金加入拡大・支え手増・国民年金だけの人の受給額底上げ・75歳からの年金受取開始を可能にして高齢者の就労を促す年金制度改革関連法が成立したそうだ。ただ、厚生年金は、現在、パートらの短時間労働者は従業員501人以上の企業で週20時間以上働くことなどが条件であるのを、2022年10月に従業員101人以上、2024年10月に51人以上に広げるそうで、ここで重視されているのは国民の老後生活の安定ではなく、形だけの年金制度の維持と企業の都合である。そして、これはあらゆる施策において同様なのだが、本来は小規模企業でも厚生年金に加入するくらいのことはすべきで、そのためのツール(例えば、ITを使った生産性向上/人など)は既にあるのである。 このような憲法違反の政治・行政が行われているわが国で、*18-4のように、新型コロナ感染拡大を受けた国民への10万円の給付が遅くなったことを理由に、「マイナンバーと全口座をひも付けせよ」という議論が喧しいが、行政の本当の狙いは、イ)預金総額が中等以上の人への年金カット ロ)医療・介護サービスを使っている人への年金カット など、保険料を別に納めてきた社会保障を給付段階になって総合的に考えるような理不尽なことであるため、10万円の給付につられてマイナンバーの活用を促進すべきだと考えるのは甘すぎるのである。 ![]() ![]() ![]() 2020.6.2、2020.4.14朝日新聞 2020.4.9東京新聞 (図の説明:持続化給付金事業を支払う仕組みは左図のようになっているが、そのために企業が用意する書類は、中央の図のように公開されていないもので、税理士が守秘義務を持って準備を助けているものだ。そして、計算方法は右図のとおりである。そのため、この処理を行うのに適した企業が電通等とは思われず、民間企業に再委託してよい性格のものでもない) *18-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/529803 (佐賀新聞 2020.6.2) 持続化給付金、電通が業務を外注、パソナなどに、野党は追及強める 新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業などに現金を支給する「持続化給付金」を巡り、事務業務を受託した団体から再委託を受けた電通が、さらに人材派遣のパソナやITサービスのトランスコスモスに業務を外注していたことが2日、分かった。3社は団体の設立に関わっているとされ、野党は受注の流れが不透明だとして追及を強めている。団体は一般社団法人のサービスデザイン推進協議会(東京)で、2016年に設立した。経済産業省などによると、一般競争入札により769億円で受注。給付金の申請受け付けから審査までの管理・運営、広報といった業務を電通に749億円で再委託した。梶山弘志経済産業相は2日の持ち回り閣議後の記者会見で「いろんな業務が混ざっており(団体や再委託先で)分けて行っていた」と説明し、執行に問題はなかったとの認識を示した。これまでに団体が持続化給付金を含め、国から14事業の委託を受けていたことも明らかになった。うち9事業については電通やパソナなどに再委託していた。また政府は2日の野党によるヒアリングで、6月1日時点で団体の従業員計21人の中に、電通やパソナ、トランスコスモスからの出向者がいると明らかにした。団体の笠原英一代表理事は、自身が関わるウェブサイト上で「6月8日の総会で理事任期終了をもって代表理事を辞任する」と明らかにしている。 *18-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/530013 (2020.6.2) 事務団体、国事業1576億受託、コロナ給付金、97%再委託 新型コロナウイルス対策の「持続化給付金」の事務を担う団体が2016年度以降、経済産業省の14件、総額1576億円の事業を受託し、9件を電通など外部へ再委託していたことが2日、同省が国会議員に示した資料で判明した。給付金では769億円で委託を受け、再委託費が97%に当たる749億円。団体が専任の常勤理事を置いていないことも分かり、野党は運営の実体が不透明だと批判している。 団体は16年に設立した一般社団法人のサービスデザイン推進協議会(東京)。協議会が受託した14件は16~20年度に執行された。再委託していた9件は、IT導入支援事業や、企業の後継者探しを手助けする事業など。他の再委託先も電通のグループ会社が多く、女性活躍に絡む事業では人材派遣のパソナに再委託していた。経産省などによると、持続化給付金事業は一般競争入札により協議会が受託し、給付金の申請受け付けから審査までの管理や運営の業務を電通に再委託した。委託費と再委託費の差額分の20億円は、協議会の人件費や、銀行に外注した振込手数料などの経費だと説明。電通は、パソナやIT大手トランスコスモスに業務を外注していた。協議会の理事はいずれも非常勤の8人で、電通やパソナ、トランスコスモスの関係者も就任している。3社は協議会設立に関わったとされる。野党は、電通などが直接受託せず、実体に乏しい団体が介在して公金が使われる状況を疑問視している。これに対し、梶山弘志経産相は2日の記者会見で、過去に事業を担った電通が国の補助金の振り込み元となったため、問い合わせが集中したと指摘。「原則、電通が直接受託しないと聞いている」と述べ、協議会の必要性を強調した。電通も2日、取材に応じ、業務執行に問題はないとの認識を示した。持続化給付金は、新型コロナで打撃を受けた中小企業などに現金を支給。5月1日から申請を受け付け、これまでに約100万件、計約1兆3400億円を給付した。 *18-2-1:https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/37768.html (NHK 2020年5月27日) 検察庁法案 見送りの顛末 検察庁法改正案。検察官の定年延長を可能にするこの法案は、国家公務員法改正案とともに国会に提出されたが、急転直下、今の国会での成立が見送られた。「ツイッター世論」、野党の抗戦、黒川検事長の賭けマージャン、そして与党の誤算。一連の事態を、追った。 ●焦点は「定年延長」 「国民の声に十分耳を傾けていくことが不可欠であり、国民の理解なくして、前に進めていくことはできない」。安倍総理大臣は、5月18日の夜、検察庁法の改正案について、今の国会での成立を見送る考えを表明した。検察庁法の改正案は、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに、一括して審議が行われた。一連の改正案は、少子高齢化が進む中、意欲と能力のある人が長く働ける環境を整えることが狙いだという。検察官の定年も、ほかの国家公務員と同様に、段階的に65歳に引き上げるとともに、内閣や法務大臣が認めれば定年延長を最長で3年まで可能にするものだ。焦点となったのは、「内閣や法務大臣が認めれば定年を最長で3年まで延長できる」という規定。野党側は、ことし1月に決定された東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長との関係を問題にした。「法解釈の変更による不当な黒川検事長の定年延長を法改正によって、後付けで正当化しようとしている」と批判。「時の政権が恣意的に人事を行うことも可能になり、検察の独立性や三権分立が損なわれかねない」として、強く反発した。一方、政府は、黒川のこととは何ら関係はないとしている。また、「従来から、人事権者は内閣または法務大臣であり、法改正の前後で変わらず、恣意的な人事が行われることはない」と反論した。納得できない野党側は、定年延長を判断する際の基準を法案審議の段階で明確にすべきだと求めた。これに対し、政府は、法案成立後、施行までに新たな人事院規則に準じて、明確にするとした。野党側は、「今は、新型コロナウイルス対策に万全を期すべきだ」として、この時期の審議自体も批判していた。 ●審議入りは「10万円」の日 当初、国会での審議は粛々と始まった。審議入りは4月16日の衆議院本会議。この日の永田町は、10万円給付と緊急事態宣言の全国への拡大の話で持ちきりだった。収入が減少した世帯への30万円の現金給付を盛り込んだ補正予算案を組み替え、10万円の一律給付へと方針転換が行われた日だ。法案は、付託された衆議院内閣委員会で大型連休前に実質的な審議が始まることはなかった。 ●発端は5月8日 事態が動く発端となったのは、大型連休明け、5月8日の衆議院内閣委員会だった。検察庁法の改正案は、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに、実質的な審議がスタートした。しかし、森法務大臣の出席が認められなかったなどとして、立憲民主党などが委員会を欠席。自民・公明両党と、日本維新の会だけで質疑が行われた。 ●「ツイッター世論」も、検察OBも動く ここで世論が大きく反応した。ツイッターには、もともとこの法案を懸念する声が出てはいたが、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグによって、一気に拡散した。俳優や作家、ミュージシャンなどさまざまな分野の著名人も含め、抗議の投稿が相次いだのだ。さらに、検察OBからも反対意見が。ロッキード事件の捜査を担当した元検事総長ら検察OBの有志14人が、「検察の人事に政治権力が介入することを正当化するものだ」として反対する意見書を法務省に提出。 異例の事態となった。 ●政府・与党の誤算 しかしこれに与党内の反応は鈍かった。「ツイッター上の抗議の数だけでは、反発が広がっているかどうかは分からない」。「集団的自衛権の行使を可能にすることなどを盛り込んだ安全保障関連法の時のような大きな反発は感じない」。政府側は、「東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長と結びつけられているが、関係ない」、「あくまで、ほかの役所と同様に、検察官などの定年も延長できるようにするために、法務省が提出したものだ」と主張。この時点では、まだ政府・与党内では、強気の声が少なくなかったのだ。こうした政府・与党内の雰囲気には、ある背景があった。カギは、検察庁法改正案とあわせて審議が行われた国家公務員法改正案だ。こちらは検察官や自衛官などを除く国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げる法案。公務員の定年の引き上げには、官公労=公務員の労働組合からの待望論が強かった。「国家公務員法改正案と一括で審議すれば、最後は押し切れる」と与党側が油断したわけではないだろうが、差し迫った緊張感は感じられなかった。審議入りの段階で、国家公務員法改正案と検察庁法改正案の一括での審議に、強い抵抗がなかったことも、この雰囲気を後押しした。しかし、このあと、政府・与党にとっては、誤算が重なることになる。野党側は、検察官の定年延長を可能にする規定が削除されなければ、採決を阻止するため、内閣委員長の解任決議案を提出することを検討。与党側は、衆議院本会議での採決は翌週に先送りすると譲歩した。 ●世論を背に、野党が抗戦 5月15日。この日、衆議院内閣委員会には、野党側の求めに応じて武田国家公務員制度担当大臣に加え、森も出席。与党側は、質疑のあと、委員会で採決を行いたいと提案した。野党側が、「採決は認められない」と反対するのは、もちろん織り込んでいたが、自民党内には、「野党側は不信任決議案などは出さない。採決は可能だ」という見方があった。しかし野党側は、衆議院内閣委員会の理事会が開かれている最中に、突然、武田大臣に対する不信任決議案を提出。その結果、委員会での採決も見送られた。野党側は、世論が追い風になっているとして、徹底抗戦する構えをみせた。 ●政府・与党の戦略変更 委員会での採決も行えなかったことで、政府・与党は、戦略の変更を迫られた。野党側が、当初検討していた内閣委員長の解任決議案などを今後、提出すれば、そのたびに採決は遅れる。衆議院通過後の参議院での審議も考えると、6月17日までの今の国会の会期内に成立させることができるか、危機感を募らせていた。翌16日(土)の夜。菅官房長官と、自民党の森山国会対策委員長、林幹事長代理の3人が極秘に会談し、対応が話し合われた。その結果、国家公務員法改正案も含めた法案全体を継続審議にして、今の国会での成立を見送ることも選択肢に浮上する。翌日の17日(日)には、菅が安倍に会談内容を報告した。ただ、この時点では、菅らはあくまでも審議を進めていく姿勢を示し、野党側の対応を見極めながら、最終的に判断する考えだったという。この夜、朝日新聞の世論調査の結果が伝えられた。内閣支持率が前月の41%から33%に下落(本記事の発行時点ではさらに下がり29%)。検察庁法改正案に「賛成」は15%、「反対」は64%だった。 ●「ジャンプしていい」 こうした中、週明け18日(月)、事態は大きく動くことになる。この日の朝刊1面トップで読売新聞が「今国会成立を見送る案が政府・与党内で浮上」と報じた。「世論反発に配慮、近く最終判断」との小見出し。成立を目指してきた与党幹部の間では、「おかしな話だ」「寝耳に水だ」といった声が相次いだ。「見送れば、これまでの説明が間違っていたことになる。会期を延長してでも成立させるべきだ」といった意見まで聞かれた。一方で、週末に協議を重ねていた菅と森山、林は連絡を取り合い、対応の検討を急いだ。昼には、森山と林が二階幹事長とともに衆議院議長公邸を訪れ、大島議長とも面会した。6月に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大で、追加の経済対策を盛り込んだ第2次補正予算案の審議が控えている。ある自民党の幹部は、「検察庁法の改正案で国会が止まり、何も進まなくなる」と述べるなど、野党や世論を押し切って、採決に踏み切れば、政権にとって打撃となりかねないと懸念する声が出ていた。そしてギリギリの調整を進めた結果、二階は「ジャンプ(見送り)していいんじゃないか」と述べたという。午後3時前、安倍と二階が総理大臣官邸で会談。国民の理解なしに国会審議を進めることは難しいとして、今の国会での成立を見送る方針で一致した。この日のニュース7で、NHKは15~17日に行った世論調査の結果を放送した。内閣支持率は37%、不支持が45%。不支持が支持を上回るのは、おととし6月以来だ。検察庁法改正案への賛否は、「賛成」が17%、「反対」が62%だった。ある自民党の幹部は、こう漏らした。「新型コロナウイルスの影響で地元に帰って有権者の声を十分に聞くことができず、世論を感じきれなかった」。新型コロナウイルスへの対応をめぐっても、10万円の一律給付に変更し、閣議決定した補正予算案を組み替えるなど、う余曲折する場面があった。自民党内からは、「安倍総理大臣の求心力に影響が出て、『安倍1強』とも言われた政治情勢が変化しかねない」といった声もあがった。 ●黒川、辞職 さらに驚くことが起きる。見送りの翌々日の20日。「文春オンライン」が、「東京高等検察庁の黒川検事長が、新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛の要請が続く中、今月、東京都内で、新聞記者と賭けマージャンをした疑いがある」と報じたのだ。与野党双方から一斉に「事実なら辞任すべきだ」という声が上がった。森が「文春オンライン」の記事が出ることを知ったのは、前日19日。一方、黒川氏が「文春」から確認取材を受けたのは17日で、その日のうちに黒川は法務省の事務方に報告している。2日間の空白があったことについて、森は、なぜすぐに報告してこなかったのだと法務省幹部を叱責したという。そして黒川は21日、緊急事態宣言中に賭けマージャンをしていたことを認め、辞表を提出した。立憲民主党の枝野代表は、強く批判した。「定年延長できないという従来の解釈を国民にも、国会にも説明なく、こそこそと脱法的に変えて黒川検事長を在職させた判断の責任が問われる」。「今後、東京高等検察庁の検事長を誰かに代えるなら、政府の『黒川氏は余人をもって代えがたい』という説明は何だったのかと思う」。野党側は、「辞職での幕引きは許されない」として、黒川氏の定年を延長した政府の責任を徹底して追及するなど、攻勢を強めている。これに対し安倍は、定年延長の手続きに瑕疵(かし)はないとする一方、「最終的には内閣で決定するので、総理大臣として当然、責任はある。批判は真摯に受け止めたい」と述べた。また、検察官も含めた国家公務員の定年を段階的に引き上げる法案について、「国民の理解なくして前に進めることはできない。社会的な状況は大変厳しく、法案を作った時と状況が違うという意見が自民党にもある」と述べ、取り扱いを再検討する考えを示した。与党内からは、「黒川の辞職で政権へのダメージは避けられない」という声や、「検察庁法の改正案も仕切り直しで、むしろハードルは上がった。この国会で通しておくべきだった」という声さえ聞かれる。 ●苦しい答弁続く 一方の法務省。定年延長を可能にする規定は、去年10月の段階では盛り込まれておらず、去年秋の臨時国会で法案が提出に至らなかったことから再検討し、追加された経緯がある。野党側は、「黒川検事長の定年延長を後付けで正当化するものだ」などと、この点を最も強く批判していた。法務省は、検察官の定年延長を可能とする解釈変更は黒川の定年延長を決める前の1月中旬に検討したため、法案とは直接的な関係はないとしているが、そのことを明確に示す資料などは国会に示さず、苦しい答弁にならざるを得ない状況だった。検察庁法の改正案の成立見送りが決まったあと、法務省内では、次の国会に備えて、定年延長を判断する際の基準作りに着手し、すでに複数の案を作成している。しかし、黒川の辞職や、法案の取り扱いの再検討などの動きを受け、ある幹部からは、「今の改正案では次の国会でも批判は避けられない。もう定年延長の規定はなくしてもいいのではないか」という声も出ている。 ●今後は 検察庁法の改正案は、継続審議として次の国会で成立を目指すのか。それともいったん廃案にして、内容を再検討するのか。与党側は、「現時点では、法案を継続審議とする方向だが、決まったわけでなく、国会の会期末に結論を出したい」としている。一方で、黒川の辞職をめぐっては、国会で野党側の追及が続き、黒川への「訓告」処分が「軽すぎる」という批判もあがっている。訓告処分にした決定過程をただす質問に、森は「検事長の監督者である検事総長に対し、法務省の意見として訓告が相当と考える旨を伝えた。その結果、検事総長から私に対し、検事総長としても訓告が相当であると判断するという連絡があった。訓告の処分内容を決定したのはあくまで法務省と検事総長だ」という答弁を繰り返している。複数の法務省関係者によると、黒川氏から辞表が提出される前日の20日、本人から辞意が伝えられ、法務省内で、大臣、副大臣に事務次官らで協議が行われた。この場で、事務次官が処分を訓告とする案を示したのに対し、森は「懲戒処分の戒告に当たるのではないか」と指摘したという。しかし協議の結果、過去の処分例などから、訓告よりも重い懲戒処分には当たらず、訓告が妥当だという結論に至った。協議に参加した幹部の1人は、「その時点では、本人が辞めるので、武士の情けではないが、懲戒免職と同じことだと思った」と振り返る。翌21日に「黒川辞職」を安倍に報告する際、森はこの協議の経緯と、最終的に自ら了解したことを説明したと、複数の政府関係者は話している。検事長を法律上、懲戒処分にできるのは、任命権者である内閣だけだ。もし報告を受けて「軽い」と判断すれば、法務省に再検討を指示することもできた。訓告処分の判断について安倍は「検事総長が事案の内容など諸般の事情を考慮して、適正に処分を行ったものと承知している」と述べるにとどまっている。野党側は、「処分を決めたのは誰なのか」、「官邸の関与はなかったのか」に狙いを定め、追及を強めている。さらに、賭けマージャンをめぐり、常習賭博などの疑いで黒川前検事長らを刑事告発する動きが相次ぎ、検察当局は、今後、詳しい経緯について捜査を進めるものとみられる。森は26日、裁判官や弁護士に加え、有識者も参加した新たな会議「法務・検察行政刷新会議」(仮称)を設け、検察に対する信頼回復を図るための方策を検討していく方針を明らかにした。今回の処分に世論は強く反発しており法務・検察当局、安倍内閣の信頼は大きく傷つくことになった。信頼を回復する道のりは険しいものになると言わざるをえない。(文中敬称略) *18-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/14095 (東京新聞 2020年5月23日) <#ウォッチ 検察庁法改正案>公務員定年延長 廃案へ調整 政府、批判受け方針転換 政府は二十二日、検察官を含む国家公務員の定年を六十五歳まで引き上げる一括法案を廃案にする方向で調整に入った。安倍晋三首相は二十二日の衆院厚生労働委員会で、法案を見直す考えを表明した。検察人事に対する政治介入との批判を受け、方針転換を迫られた。安倍政権は高齢者の就労を促し社会保障制度の担い手を増やす全世代型社会保障を看板政策に掲げており、野党は整合性の取れない対応を批判した。首相は衆院厚労委で「コロナショックで民間の給与水準の先行きが心配される中、公務員先行の定年延長が理解を得られるのか議論がある。もう一度ここで検討すべきではないか」と強調した。公明党の斉藤鉄夫幹事長も同日の記者会見で、一括法案に関し「見直すことに反対はしない」と同調した。首相が見直しの理由に挙げた新型コロナウイルス感染拡大による景気悪化は、一括法案が実質審議入りした八日には既に深刻化していた。政府・与党が先週まで衆院で採決を強行しようとしていた姿勢とは、説明のつじつまが合わない。三月末には、希望する人が七十歳まで働けるよう企業に努力義務を課すことを柱とした高年齢者雇用安定法などの改正法が成立。高齢者の就業を促す法整備が進んだばかりだった。このため、立憲民主党などの野党統一会派で無所属の小川淳也氏は、この日の衆院厚労委で「首相が生涯現役社会を掲げてきたのに政策に一貫性がない」と批判した。国家公務員の定年を巡る議論は、これまでも難航した経緯がある。二〇〇八年に成立した国家公務員制度改革基本法は、政府に定年引き上げを検討するよう定め、人事院は一八年、法改正を求める意見書を内閣と国会に提出した。これを受け、政府は一九年の通常国会で関連法案の提出を検討したが、同年春の統一地方選や七月の参院選を前に「公務員優遇」との世論の反発を懸念し見送った。 *18-3:https://www.chunichi.co.jp/article/64283 (中日新聞 2020年5月29日) 厚生年金、パート加入拡大 受け取り75歳開始可能に パートら非正規労働者への厚生年金の加入拡大を柱とした年金制度改革関連法が29日の参院本会議で、与党や立憲民主党などの賛成多数により可決、成立した。国民年金だけの人の受給額底上げと、保険料を払う制度の支え手増を図る。加入義務が生じる企業の規模要件を2022年10月に従業員101人以上、24年10月に51人以上に広げる。75歳からの年金の受け取り開始を可能にするなど高齢者就労を促す施策も盛り込んだ。厚生年金は、パートら短時間労働者は現在、従業員501人以上の企業で週20時間以上働くことなどが条件。企業規模の要件を2段階で引き下げる。 *18-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020060100983&g=pol (時事 2020年6月1日) マイナンバーと全口座ひも付け「年内検討」 菅官房長官 菅義偉官房長官は1日の記者会見で、マイナンバーと預貯金口座のひも付けに関し、「全ての口座をマイナンバーにひも付けすることについて、年内に関係省庁と検討することになっている」と語った。新型コロナウイルス感染拡大を受けた国民への10万円給付で混乱したことについては、「マイナンバーをさらに活用できれば、もっと迅速に給付できるとの指摘がある」と述べ、マイナンバー活用を促進すべきだと強調した。 <日本の検査数は、なぜ伸びないのか> PS(2020年6月4日追加):*19-1のように、中国の湖北省政府衛生当局は、2020年6月2日、武漢市の殆どの住民(約990万人)に新型コロナのPCR検査を行い、そのうち300人に陽性反応が出たが全員無症状だったと発表した。検査は5月14日~6月1日の19日間に実施され、1日の検査件数は最大で147万件にも上り、日本とは規模感が全く異なるが、10人の検体を一度に検査機にかけると薄まって陽性判定が減るのではないかとも思われた。一方、なかなか増えない日本の検査数について、全国知事会が、早期に感染者を発見して一定期間隔離する「積極的感染拡大防止戦略への転換」に向け、PCR検査の実施件数や対象を広げる提言を含む「日本再生宣言」採択を行ったそうだ。 また、経団連も6月2日に開いた総会で、*19-3のように、「今後1年間の活動方針は、新型コロナウイルス感染症の克服と、そのダメージを乗り越える経済成長の実現」と決めたそうだ。確かに、東京に一極集中しすぎたことにより、手洗いの水さえ(30秒ではなく)3秒程度しか出ない公共施設の多いことがコロナ禍で浮き彫りになり、人口が集中しすぎることの反省は必要不可欠だ。また、ITだけでなく、医療用機器・備品や治療薬・ワクチンなどの高付加価値製品への進出も、現在の日本の技術レベルなら容易であるため、外国依存から脱却しつつ積極的な製品づくりをすべきだと考える。 なお、新型コロナの感染歴を調べるには抗体検査が有効で、*19-4のように、塩野義製薬が血液から10分で判定できる検査キットを発売したが、これは中国企業の製品だ。日本の方は、開発しても速やかに承認されない国であるため開発する企業がなく、その結果、特許権も得られずビッグチャンスを逸しており、中国製は性能が悪いなどと評論する資格などはない。従って、何故、日本はこうなるのかについて、徹底した原因分析と改善が必要だ。 *19-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14499258.html (朝日新聞 2020年6月3日) 武漢全住民検査、300人に陽性反応 全員無症状 新型コロナ 中国・湖北省政府の衛生当局は2日、世界で最初に新型コロナウイルスの感染が広がった武漢市で5月半ばから全住民に実施した「全員検査」の結果を発表した。体内のウイルスの有無を調べるPCR検査で約990万人を調べ、300人に陽性反応が出た。全員が無症状だったという。この300人の濃厚接触者の中に陽性者はおらず、当局は「感染の広がりは認められない」としている。発表によると、検査は5月14日~6月1日の19日間に実施された。陽性者の割合は0・003%で当局は「割合は極めて低い」とする一方、「疫学の観点からみれば、散発的な拡大の可能性がないとは言えない」とした。1月23日に都市封鎖された武漢では累計の感染者が発病者だけで5万人を超えた。4月8日に封鎖は解除されたが、その後も職場復帰などのためにPCR検査を受けた人の中から無症状の感染者の発覚が続き、5月に一つの団地で新たに6人の発病者が確認されたことを機に、市は「社会の中の恐怖を取り除く」として全員検査に踏み切った。当局は看護師や地域の診療所の医師らに訓練を受けさせて検査態勢を拡充。「社区」と呼ばれる網の目のように張り巡らされた町内会組織も動員して団地の庭や街角の広場、商業施設の駐車場など様々な場所に検査場が設けられた。検査場には早朝から夜まで列ができ、1日の検査件数は最大で147万件にも上った。速度を上げるため、10人の検体を一度に検査機にかけ、陽性が出れば10人全員を再検査するという方法をとった地域もある。 *19-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59956860U0A600C2000000/ (日経新聞 2020/6/4) 全国知事会、「日本再生宣言」採択へ 全国知事会は4日、テレビ会議システムで全国知事会議を開いた。新型コロナウイルスの感染予防と社会経済活動の両立を目指す「コロナを乗り越える日本再生宣言」を採択する予定だ。各都道府県の経験を共有し、医療体制を再構築するため、各地の感染事例を収集・分析する取り組みに着手する。今夏をめどに現行制度の改善に関する対策をまとめる方針。同日の知事会議には過去最多の45都道府県の知事がネット中継で参加。会議の冒頭、飯泉嘉門会長(徳島県知事)は「コロナと共生する新たな局面を迎えた。今後は第2波、第3波の感染拡大をいかに抑えるかがポイントだ」と述べた。今年の全国知事会議は滋賀県で開催予定だったが、新型コロナの感染拡大を受けて、全国の知事が集まる会議開催は難しいと判断。初めてウェブ会議で開催した。早期に感染者を発見し、囲い込む「積極的感染拡大防止戦略への転換」に向け、PCR検査の実施件数や対象を広げる提言をまとめる予定。地方の税財源の確保・充実に関する提言もまとめる。 *19-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14499286.html (朝日新聞 2020年6月3日) 「コロナ克服と成長の実現を」 経団連が活動方針 経団連は2日に開いた総会で、今後1年間の活動方針を「新型コロナウイルス感染症の克服と、そのダメージを乗り越えるような経済成長の実現」に決めた。中西宏明会長(日立製作所会長)は「特に雇用の維持には特段の配慮をし、みなさん(会員企業)と一緒に取り組んでいきたい」と呼びかけた。中西氏はさらに、「コロナ禍で東京一極集中に対する反省も強く出てきたと思う」と話し、「大規模な災害やパンデミックに強い国づくりという観点で取り組んでいきたい」と述べた。経団連は、感染対策と経済成長のカギになるのは、デジタル革新だとし、急速に広がったテレワーク(在宅勤務)やオンライン授業をさらに進め、行政や金融などの手続きもスマートフォンなどで簡単にできるようにすべきだと訴える。新任の副会長には、太田純・三井住友フィナンシャルグループ(FG)社長、佐藤康博・みずほFG会長、菰田正信・三井不動産社長、安永竜夫・三井物産社長が就いた。感染対策のため、都内の会場には中西会長と新たに選ばれた副会長らだけが集まり、他のメンバーはテレビ会議で参加した。 *19-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/530733 (佐賀新聞 2020.6.4) 塩野義が抗体検査キット 調査・研究向け 塩野義製薬は3日、新型コロナウイルスの感染歴を調べる抗体検査キットを発売したと発表した。血液から10分で判定する中国企業の製品で、マイクロブラッドサイエンス(東京)を輸入元とする。感染の広がりを把握する疫学調査や研究に役立てる考えで、医療機関や自治体などに販売する。抗体検査は感染歴を調べる目的で、現在感染しているかどうかを調べるPCR検査や抗原検査とは異なる。塩野義は当初、PCR検査前の簡易検査への使用を視野に入れていたが、性能評価を踏まえて研究用途が適切と判断した。50回分入りで、希望小売価格は15万4千円。 <ファクターXは何だったのか?> PS(2020.6.6追加):*20-1のように、東京大学先端科学技術研究センターの児玉名誉教授らのチームが、都内の一般医療機関で無作為に新型コロナの抗体検査を実施し、「①10~90代の500検体のうち3例が陽性(0.6%)だった」「②行った抗体検査は、鼻風邪コロナ4種には反応しない」「③加藤厚労相も都内と東北6県で採血された献血から無作為に抽出した各500検体のうち、東京3件(0.6%)・東北2件(0.4%)の陽性反応が出たと発表した」「④一般医療機関と非常に健康な人が行う献血の双方から0.6%という同じ結果が出たため、東京都の罹患率として0.6%という数字は信頼性が高い」「⑤従って、東京都の人口1398万人の0.6%に相当する約8万人が感染しており、東京都の確定感染者が5,070人なのでその16倍いることになる」「⑥集団免疫閾値60%と100倍もの差が出た理由は何か」「⑦新型コロナウイルスについての日本人の傾向は、IgGが先に反応が起きてIgMの反応が弱い」「⑧重症例ではIgMの立ち上がりが早く、IgMの反応が普通に起こる」「⑨軽くて済んだ人は、すでにさまざまなコロナウイルスの亜型にかかっており、東アジアの特に沿海側にそういう方が多そうだ」「⑩2002~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の抗体は新型コロナウイルスにも反応する」「⑪SARSの流行以来、さまざまなコロナウイルス(SARS-X)が東アジアに流行した可能性がある」「⑫その結果、欧米に比べて東アジアの人は最初にIgGが出てくる免疫を持っており、IgMの反応がなくIgGの反応が出るらしい」等と述べておられる。これをまとめると、①③④⑤から、東京都では罹患率が0.6%で約8万人が感染し、感染者は検査による確定感染者の16倍いた。また、②⑦⑧⑨⑩から、⑪⑫のように、さまざまなコロナウイルス(SARS-X)が東アジアに流行し、欧米に比べて東アジアの人はコロナウイルスに対して最初にIgGが出てくるような後天的免疫を持っているので重症化したり死亡したりする人が少なく、⑥のように集団免疫閾値60%と100倍もの差が出たようで、これがファクターXの1つだろう。そのほか、社会的距離を置く日本文化・マスクの着用・新型コロナウイルスへの免疫耐性を与えるHLA(http://hla.or.jp/about/hla/参照)・BCG接種等による免疫強化もあるようだ。 また、*20-2のように、京都大学の山中教授も、日本の対策が緩いのに感染者の広がりが世界の中でも遅い理由として、⑬徹底的なクラスター対応 ⑭高い衛生意識 ⑮ハグや握手などの接触が少ない生活文化 ⑯日本人の遺伝的要因 ⑰BCGをはじめとする公衆衛生政策 ⑱2020年1月までの何らかのウイルス感染の影響 ⑲ウイルスの遺伝子変異の影響などを挙げておられる。私は、罰則がなくても社会的縛りが強いのが日本の特性であるため、日本の対策が緩かったとは思わない。また、⑬については、クラスターに固執しすぎて市中での蔓延を見逃して早期発見できず、⑭⑮⑱⑲はそのとおりで、⑯については、もともと各種のコロナウイルスが多い地域で長期間生きてきた民族は、その種のウイルスに強い先天的遺伝形質を獲得している可能性が高いと思う。さらに、⑰については、BCGだけではないと思うが、40代で重症になった私のいとこは、小学校入学前はスペインで育った帰国子女であるため、1970年代後半の小学校入学前に日本で行われスペインでは行われなかった予防接種は受けていないのである(それは何?)。 なお、⑲のウイルス変異は、日本に入ってくる時にウイルスが穏やかになることが多いが、それは毒性の強いウイルスは宿主に激しい症状を出すため検疫を通過することができず、また、⑮のように接触の少ない環境では生き残りにくいからだろう。 このような中、*20-3のように、 麻生財務相が参院財政金融委員会で、「日本で新型コロナウイルス感染症による死者が欧米の主要国と比べて少ないのは、民度のレベルが違うから」と発言して論議を呼んでいるが、①教育が行きわたり外国人も少ないため、末端までコロナ対策の意味が理解できている ②その民度の高さは、新型コロナを憲法に緊急事態条項を加える口実とされないために頑張れるほどである という意味で、私も全体として民度が高いと思っている。そのため、麻生氏の答えの後、みんな何も言えずに絶句するのだと思う。 ![]() ![]() ![]() *20-1より *20-1:https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200520-00179344/ (YAHOO 2020/5/20) 「東京の感染者は8万人」抗体検査から推計 日本をコロナから守ったのはSARS-X? ●東京の抗体検査、陽性率は0.6% [ロンドン発]東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授(がん・代謝プロジェクトリーダー)らのチームが5月1、2の両日、都内の一般医療機関で無作為に新型コロナウイルスの抗体検査を実施した結果、10~90代の500検体のうち3例が陽性(0.6%)でした。 児玉氏によると、行った抗体検査は再現性も安定性も高く、鼻風邪コロナ4種には反応しないそうです。陽性例は20代、30代、50代のいずれも男性でした。 一方、加藤勝信厚生労働相も、4月に都内と東北6県で採血された献血の中から無作為に抽出した各500検体のうち東京で3件(0.6%)、東北で2件(0.4%)の陽性反応が出たと発表したばかりです。 政府は6月をメドに1万件規模で抗体検査を実施する計画です。これまで国内で最も感染者が多い東京都で感染がどれぐらい広がっているのかはっきりしませんでした。 児玉氏は「一般医療機関と非常に健康な人が行う献血の双方から0.6%という同じ結果が出た。0.6%という数字は一般的な東京都の罹患(りかん)率として信頼性が高いと考えられる」と強調しました。 東京都の人口1398万人の0.6%に相当する約8万人が感染しているということが一つの目安になるとの見方を児玉氏は示しました。東京都の感染者は5070人なので約16倍です。 ●集団免疫閾値60%との大きな違い 新型コロナウイルスの「基本再生産数(患者1人から二次感染する人数)」を2.5人で試算した場合、流行が終息する集団免疫閾値は60%と考えられています。 しかし日本で最も感染が広がった東京都でさえ、罹患率は0.6%、100倍もの差が出た理由は何でしょう。 児玉氏は記者会見で、今回の抗体検査とは別に東京大学先端科学技術研究センターがん・代謝プロジェクトとして次のような見方を示しました。児玉氏はB型肝炎の予防プロジェクトに参加したことがあるそうです。 「B型肝炎では抗体のうち、まずIgM(病原体に感染したとき最初につくられる抗体、ピンク色の点線)型が出てきて次にIgG(IgMがつくられた後に本格的につくられる。ピンク色の実線)型が出て回復に向かう」 「その後、中和抗体(紺色の実線)が出てくると二度とかからないという免疫ができる」 「劇症肝炎はウイルスが増えることではなく、ウイルスに対する免疫反応が過剰に起こってしまうことで起こる(サイトカインストーム)」と児玉氏は話しました。 ●抗体の出方が違う 「新型コロナウイルスについて精密に計測すると、IgM(ピンク色の点線)の反応が遅くて弱いという日本人における傾向が出てきた。これまでは先程のB型肝炎のように 先にIgMが出てきて次にIgG(ピンク色の実線)が出てくるというストーリーを説明してきた」 「実際に新型コロナウイルスに対する反応を見ますと、IgGが先に反応が起きてIgMの反応が弱いということが分かってきた」 「臨床機関で検討され、これから発表される結果を見てみると、重症例でIgM(赤い点線)の立ち上がりが早い。細い線で書かれている軽症例やその他の例ではIgMの反応が遅い。重症化している例ではIgMの反応が普通に起こる」 ●SARS-X流行の仮説 「軽くて済んでいるという人は、すでにさまざまなコロナウイルスの亜型にかかっている。そういう方が東アジアに多いのではないか。特に沿海側に流行っている可能性があるのではないか」 「そういう人たちの場合、IgMの反応がなくて、IgGの反応が出てくる。新型コロナウイルスも配列がどんどん進化している。2002~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の抗体が新型コロナウイルスにも反応することが知られている」 「SARSの流行以来、実際にはさまざまなコロナウイルス(SARS-X)が東アジアに流行していた可能性があるのではないか」 「その結果として、欧米に比べて東アジアの感染が最初にIgGが出てくるような免疫を持っていた可能性があるのではないかということも考えられる」 「ただこれは学問的な仮説なので今後、新型コロナウイルスの反応を見ながら学問的な研究が進められる」と児玉氏は締めくくりました。 ●新型コロナが日本で流行らない5つの仮説 米エール大学の岩崎明子教授は「なぜ日本の新型コロナウイルスの症例はこんなに少ないのか」と題した論文で5つの仮説を挙げています。 (1)もともと社会的に距離を置く日本文化。マスクの着用。 (2)日本では毒性の強い新型コロナウイルスが流行する前に集団免疫を付与する穏やかな タイプの新型コロナウイルスにさらされた可能性。エビデンスはない。(筆者注:京都 大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授らの研究グループが唱えている) (3)気道における新型コロナウイルスのレセプターであるACE2の発現が日本人はいくらか 少ない可能性。 (4)日本人は新型コロナウイルスに対する免疫耐性を与える明確なHLA(ヒトの組織適合性 抗原)を持っている。 (5)BCG接種が免疫を訓練・強化している。 岩崎教授はスーパースプレッダーによるクラスター(患者集団)の発生を抑え込んだのが大きいと指摘しています。これまでの予備検討ではわが国の新型コロナウイルスの感染者では、早期のIgM上昇が見られない患者が多く、一方IgGは感染2週目にはほぼ全員が上昇を示していたそうです。今後、抗体の大量測定によって診断と重症度判定、さらにSARS-Xの静かなる流行で日本人は新型コロナウイルスに対する免疫を前もって身につけていたかどうか研究が進められる予定です。 *20-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/3d4fe34fa5d956e9bfe8767dbe01ca6f49c6b14b (ハフポスト日本版編集部 2020/5/29) ファクターXとは?山中伸弥教授がサイトで仮説立て話題に。大阪府の吉村知事も「あるのでは」と言及 京都大学の山中伸弥教授が新型コロナウイルス感染症に関する情報を公開しているサイトに記載している『ファクターX』という言葉が、ネット上で注目を集めている。5月28日から29日にかけて、日本テレビやテレビ朝日など複数のテレビ局が朝の情報番組で取り上げられていた。一体、何を指す言葉なのだろうか。山中教授が公開しているサイトには「『ファクターX』を探せ」と題して、文章が綴られている。山中教授は、新型コロナウイルスへの感染対策について「日本の対策は世界の中でも緩い方に分類されます。しかし、感染者の広がりは世界の中でも遅いと思います。何故でしょうか?? たまたまスピードが遅いだけで、これから急速に感染が増大するのでしょうか?それとも、これまで感染拡大が遅かったのは、何か理由があるのでしょうか?」と投げかけた。その上で、「私は、何か理由があるはずと仮説し、それをファクターXと呼んでいます。ファクターXを明らかにできれば、今後の対策戦略に活かすことが出来るはずです」と感染拡大や死者の数が海外の他の国と比べて抑えられているとされる現状には何らかの要因があるとの見解を示し、それを「ファクターX」と名付けていると説明した。山中教授は「ファクターX」となる候補として、以下を挙げた。 1)感染拡大の徹底的なクラスター対応の効果 2)マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識 3)ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化 4)日本人の遺伝的要因 5)BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響 6)2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響 7)ウイルスの遺伝子変異の影響 山中教授が仮説として立てた「ファクターX」については、専門家も言及している。「京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 附属感染症モデル研究センター」でウイルス共進化研究分野を主宰する宮沢孝幸氏は24日、Twitterで「山中教授も言っておられますが、ファクターXなるものがあるのかもしれません」と発信。宮沢氏は続けて、「だとしたら、欧米の基準に引っ張られるのではなく、国内の数字を一番に参考にして施策するべきではないでしょうか」とつづり、新型コロナウイルス対策において日本国内のデータを最も参考にして策を講じるべきとの考えを示していた。また、大阪府知事の吉村洋文氏は25日の囲み取材の際、新型コロナウイルス感染による死者数が日本は海外の他の国と比べて抑えられているとされることについて「ヨーロッパとは違う、何か、“ファクターX”があるのでは」と話していた。ネット上では、「ファクターXは何なのか。あるとしたら早く解明されてほしい」「文化や衛生面もやはり要因になっているのかな」など、様々な声があがっていた。 *20-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14502063.html (朝日新聞 2020年6月5日) 麻生氏、死者少ないのは「民度が違う」 コロナ巡り自説 麻生太郎財務相は4日の参院財政金融委員会で、日本で新型コロナウイルス感染症による死者が欧米の主要国と比べて少ないとしつつ、その理由として「民度のレベルが違う」から、との自説を披露した。生活や文化の程度を示す「民度」との表現を使い、日本の優位性を誇りたかったようだが、他の国をおとしめることになりかねない発言だ。罰則などを伴わない自粛を中心とする日本の感染拡大防止策について、自民党の中西健治氏が「自由という価値をこの危機にあたって守り続けている。高い評価を受けられるべきでは」と質問した。麻生氏は「憲法上の制約があったから、結果として最大限だった、という風に理解して、それでも効果があったというところがミソ」と答弁。米英仏の人口あたりの死者数を例に挙げながら、日本がそうした国より相対的に死者の比率が低いと強調した。さらに、他国の人から問い合わせを受けたとして、「そういった人には『お宅とうちの国とは国民の民度のレベルが違うんだ』と言って、みんな絶句して黙る」とのエピソードを紹介した。麻生氏の発言に野党議員からの批判が出ている。共産党の志位和夫委員長はツイッター上で「世界中で差別や分断でなく、連帯が大切といううねりが起こっているときに、平気でこういう発言をするとは」と指摘。立憲民主党の蓮舫副代表も「海外に発信されてほしくない」と投稿した。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 12:49 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2020,04,19, Sunday
![]() ![]() ![]() ![]() 2019.1.6毎日新聞 2018.12.21時事 2019.12.20朝日新聞 2020.4.10東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本の税収による歳入は毎年増える歳出よりも小さいため、国債残高は年毎に大きくなっている。左から2番目の図は、国の税収に占める税の種類だ。2020年度予算案は新型コロナ流行前に作成されたが、右から2番目の図のように、約103兆円であり、これに加えて、1番右の図のように、新型コロナによる経済対策を約108兆円行っている) (1)2020年度予算は約103兆円で過去最大だった *1-1-1・*1-1-2のように、2020年度予算は過去最大の約103兆円で成立し、その中の予備費に新型コロナ対策の一部が入っている。 一般会計の歳出総額は2019年度の101.5兆円より1.2%増の約103兆円と8年連続過去最大を更新し、新型コロナ対策にも予備費5000億円から緊急経済対策の一部に充てるそうだ。さらに、新型コロナに対応する経済対策のため、2020年度補正予算案の編成に着手し、その金額は(3)のように108兆円にもなるため、2020年度の予算は、合計211兆円になる。余程、金が余っているのだろう(皮肉)。 そして、一般会計の歳出総額については、年金・医療・介護などの社会保障費が5.1%増えて約36兆円となったから全体を押し上げたと説明されている。しかし、年金・医療・介護の費用増加は高齢者割合の増加によってあらかじめ予測できていたため、発生主義で引当金を引き当てておくことが必要だったのであり、それをやっておかなかったのは、国(厚労省・財務省)の責任である。そのため、世代間対立を作って、その責任を社会保障の負担増・給付減として高齢者に押し付けているのは、契約違反であると同時に責任逃れも甚だしい。 さらに、歳出の無駄遣いが多い割には、「教育費は高いのに、教育インフラは貧弱」という日本の状況は、毎年のように行われる景気対策で国から棚ぼた式に降ってくる金を当てにするような勉強不足でプライドのない国民を大量に作っているため、この悪循環を断ち切るには「教育内容の充実」や「教育環境の整備」が欠かせない。にもかかわらず、「社会保障費は、消費税で賄わなければならない」などという社会保障を人質にした根拠のない世界でも類を見ない消費税増税のずる賢い言い訳の真実性を確かめもせず、馬車馬よろしく足並みを揃えて財務省の政策宣伝をしてきたメディアの質も問われる。 なお、歳出の財源となる税収は約63兆円と見込まれ、差額の148兆円は国債の増加で賄うそうだが、国債の返済は、①資源国のような国の税外収入獲得 ②資源や過去に作られた資産などの国の資産の有効活用 ③本物の無駄遣い排除 ④借りた当事者か一般国民による返済 によるほかにはないことを忘れてはならない。なお、国がお金を増刷してお金の価値を薄めるのは、全国民に知らないうちに負担させているため、④に入る。 (2)新型コロナの性格と緊急事態宣言 安倍首相は、*1-3-1のように、新型コロナの世界的な拡大について「第3次世界大戦は核戦争になるだろうと考えていたが、このコロナウイルス拡大こそ第3次世界大戦だと認識している」語られたそうだ。私も、「第3次世界大戦は核戦争になるだろう」と考えていたが、このようなウイルスを使えば宣戦布告が不要で、責任者も不明にできるため、(人道には反するが)武器としては確かに便利だ。 ![]() そして、この新型コロナは、感染した当初は発症せずに次々と感染し、しばらくすると宿主を重篤にして死に至らしめるため、(高齢者・持病のある人・難民などの)健康弱者を殺すのによくできたウイルスだ。そして、新型コロナ蔓延後の厚労省の対応やメディアの報道を見ていると、もしかしたらアメリカの他の同盟国か日本がばら撒いたウイルスではないかと思うくらいで、社会保障費を削減したがっている日本の厚労省・財務省も、大いに動機がありそうだ。 そのような状況の下、*1-3-2のように、安倍首相は4月7日、感染が急拡大している東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に、4月7日から5月6日までの緊急事態宣言を出されたが、何故かメディアにはそれより強い制限を望む声が多く、首相は、*1-3-3のように、4月16日に対象地域を全都道府県に拡大された。そのため、新たに対象となった地域の知事が法的根拠のある外出自粛要請をすることが可能となったが、私は、地域差があるので、これで十分だと考える。 今回の新型コロナ感染騒動について私が異常だと思うのは、治療するために最大の努力を注がず、外出自粛や店舗閉鎖などの国民生活への制限ばかりを進めようとしていることだ。これによって、医療体制が逼迫しているという説明の下、トリアージを行って助ける命の選別を行い、国民経済への甚大な被害を緩和するためとして多大な補正予算を組むことも可能になった。 さらに、新型コロナのクラスター追跡にかこつけて、国民を追跡するコロナ感染追跡アプリを解禁したが、これはいつでも情報を開示できる上、選挙妨害にも使えるため、偏った監視社会への入り口になることを忘れてはならない。日本国民は、それを望んでいるのか? (3)緊急事態宣言による約108兆円の追加経済対策 事業総額約108兆円という過去最大の経済対策が、*1-2-1のように閣議決定され、このうち政府が実際に支出する財政支出は約40兆円で、経済への打撃を抑え、雇用を維持する目的の現金給付や資金繰り対策がその柱だそうだ。 そして、企業の資金繰り対策としては、*1-2-2のように、45兆円規模の政府系金融機関による無利子融資や減収企業に対する給付金を作った。また、外出自粛や休業要請で収入が激減して生活に困窮する人が増えているため、*1-2-3のように、家計向けの現金給付として一律10万円(3人家族なら合計30万円)を給付することになった。しかし、収入が激減していない人もいるため、一律10万円の給付を不要な人は請求しない選択ができる制度にした方がよい。 また、政府は中小企業や個人事業主向けの資金繰り対策として「持続化給付金」と呼ぶ現金給付と減収世帯向けの「生活支援臨時給付金」に6兆円を投じて5月からの支給を目指し、このほか税金や社会保険料の支払いを原則1年猶予したり、民間金融機関が自治体の制度融資を使って実質無利子で融資する仕組みを設けたりもするそうだが、最終的に①誰に ②どういう理由で ③何をするのか ④手続きすべき人 ⑤その予算 を、わかりやすい一覧表にして欲しい。 しかし、新型コロナへの効果が期待される抗インフルエンザ薬「アビガン」の備蓄や人工呼吸器、マスクの生産支援にも予算を付けたのはよいが、早期発見して早期治療を行えば他の経済対策はいらなくなるのに、ここで備蓄に重きを置くのはやはり不自然である。 (4)治療薬、汎用性ワクチンなど 2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑京都大学特別教授は、*1-4-1のように、新型コロナウイルスについて、①PCR検査の大幅増 ②東京圏、大阪圏、名古屋圏などでの完全外出自粛 ③外国で有効性が示された治療薬の早期導入 を提言しておられた。私も、②を始めとする予防も重要だが、①のように検査を大幅に増やし、③のように外国で有効性が示された治療薬は早期に導入すべきだと考える。 そのような中、日本の厚労省は、怠慢で承認を遅らせたり、頭が固くて科学的根拠のない理由で承認しなかったりして、日本発の新薬も日本では実用化できず、優秀な研究者が日本を離れることを余儀なくされており、もったいないこと甚だしい。 そして、*1-4-2に、④新型コロナ感染拡大が続く中、世界では治療薬開発が急ピッチで進む ⑤製薬会社は既存薬を転用することで開発期間を短くして早期の市場投入を目指す ⑥回復した患者の血液成分を使った治療法も試されている ⑦既存の医療技術・手法の掘り起こしも進む ⑧新型コロナの猛威を止めるには迅速な審査や承認を可能にする仕組みも欠かせないが、日本は「先駆け審査指定制度」を使っても、承認に最短6カ月程度かかる 等が記載されているのは、今更ながらの事実である。 しかし、*1-4-3の「血漿療法」は、感染早期だけでなく重症になった患者にも効くものの、血液を提供した人の他の感染症が移るリスクとの比較秤量をすべきなのだ。 なお、コロナウイルス自身が変異したり、人為的に変異させてバイオテロに使ったりする可能性もあるので、ワクチンは汎用性の高いものを作って欲しい。「BCG接種をしている国で新型コロナによる死亡者が少ない傾向がある」そうだが、BCG接種する国は、予防としていろいろなワクチンを投与する予防政策の進んだ国なのではないか? 例えば、日本なら、インフルエンザワクチンを投与していたり、65歳以上は肺炎球菌のワクチンを投与していたりするため、コロナウイルスへの抗体や肺炎を起こす他の細菌への抗体のある人が多いという具合である。 米国では、*1-4-4のように、スタンフォード大の研究チームが、4月19日までに西部カリフォルニア州サンタクララ郡の住民を対象に新型コロナの抗体検査を行い、感染した人は4月初めに2.5~4.2%で、確認されている感染者の50~85倍に及んでいる可能性があり、この推計を基にした致死率は0.1~0.2%と算出したそうだ。また、その検査はドライブスルーの検査場を3カ所設けて4月3~4日に実施したため、検査を受けるには車も必要で、被験者には一定の偏りが生じ得るとしている。疫学調査は、このように真実を追及するために行い、母集団の偏りも認識しておくものだ。 (5)国民の暮らし 新型コロナの蔓延が始まる前から、消費税増税・実質的な年金カット・社会保険料の負担増・物価上昇などで、高齢者を中心として暮らし向きは悪くなった。*2-1は、総務省の家計調査で、1世帯当たりの消費支出が昨年10月の消費税増税後、今年1月まで4カ月連続マイナスだったと記載している。 私は、「経済活性化のために、消費すべきだ」という政策は人を幸福にしないが、国民が自らの福利を増加させるために消費することは必要だと考える。しかし、例えば美容院は、実質目減りした所得の中で、節約されやすい業種らしく、消費税増税後にぐっと客が減り、コロナ蔓延以降は客が途絶えた。が、なくなられては困る業種だ。 そのため、*2-2のように、自民・公明両党の税制調査会が、2020年4月2日、新型コロナの影響を緩和する税負担軽減措置をまとめ、需要減に苦しむ中小・零細企業の納税猶予を決めたが、消費税減税については議論しなかったそうだ。ただし、この消費税減税案は、経済活性化のための時限措置として消費税を減税して消費と駆け込み需要を喚起するという詐欺のようなことを意図しており、国民生活を向上させることを意図しているわけではないため、将来の生活を考える国民がこれで需要を誘発されることはないと思われる。 また、*2-3のように、2020年度の年金額は昨年度比0.2%のプラス改定となったが、消費税が2%上がり、それに応じて物価は2%以上あがったことから、実質目減りしている。この状況は、「マクロ経済スライド」と呼ばれる賃金や物価の変化から少子高齢化に伴う調整率を差し引いて改定率を決めるルールが作られたことによって起こっており、「マクロ経済スライド」の根拠に合理性はないが、何が何でも高齢者への給付を減らすことが目的で作られた制度だ。 一方、高齢者の健康保険料・介護保険料は上昇が続き、2020年4月から働くシニアを対象とする雇用保険料の徴収もあるそうだ。しかし、親や配偶者に介護が必要となり、仕事を休んで従事する場合は「介護休業給付金」を受け取れるとのことである。 このような中、*2-3のように、介護を家族で抱え込まずに社会全体で支え合うという理念で、(私が提案して)始まった介護保険制度が2020年4月で20年を迎えたが、未だに40歳以上の人しか介護保険制度に加入できない。しかし、この20年で社会の意識改革は進み、サービスの利用者は2000年は149万人だったが、2019年は487万人と3倍になっている。 しかし、「介護保険の維持・存続について懸念する」と答える自治体は多く、問題点は、①介護現場の人手不足 ②費用の膨張 ③財源の確保 だそうだ。①の人手不足は、外国人労働者を入れて賃金を上げすぎないようにしないと、②のように費用は膨張するがサービスは減るという日本独特の行き詰まり産業になる。そうなると、③の財源確保にも嫌気のさす人が増える。 つまり、これまでの国の見直しは、被介護者よりも介護制度を守ることを優先して「負担増」「サービス減」を繰り返し、当初は利用者の所得に関係なく1割だった自己負担割合を一定の収入がある人は2割とし、次に現役並みに所得が高い人は3割に引き上げたが、介護サービスの方は、特別養護老人ホームの新規入所者を要介護3以上に限定し、要支援1、2を対象者とした訪問介護・通所介護は全国一律の介護保険から切り離して市区町村の事業に移したものである。 このため、「介護の社会化」を目指しているのに、高齢者が高齢者をケアする「老老介護」が広がり、介護疲れによる虐待や介護離職も増えているが、せっかく慣れてくれた外国人労働者は国に追い返しながら、「介護需要に人材確保が追いつかない」と言っているわけだ。 ここで、*2-4のように、日経新聞は「会社員にズシリ、社会保険料30%時代、団塊世代が75歳に、迫る2022年危機」という見出しで、「医療・介護・年金の合計保険料が給与に占める比率が2022年度に労使合計で30%に迫り、人生100年時代のマイナス面も見えている」としている。つまり、社員が直接給与から支払うのは半分の15%だが、それでも親を養い家族介護していた時代より大変だと言っているのである。 さらに、「介護保険制度の対象を全世代に広げ、介護保険料の支払いを平等にして保険料を引き下げよう」という記述はなく、「健保連は団塊の世代が75歳になり始める年を『2022年危機』と位置付け、現役世代の重い負担を見直すよう国に改革を求めた」としている。 結論として、「高齢者は年金・医療・介護費の増加で現役世代の重荷になるから、人生100年時代バラ色ではない」と言い続けてきているのであり、このように利己的で冷たい主張の出所を考えれば、日本の国会議員・財務省・厚労省の中には、新型コロナウイルスを歓迎している人が多いように思われるわけである。 (6)社会保障財源と(本物の)無駄遣いの排除 1)資源で税外収入を稼ぐ ![]() ![]() ![]() 2018.9.25エコノミスト 2019.4.22エコノミスト 2019.9.18Livedoor (図の説明:左図のように、サウジアラビアは石油収入で歳入の約7割を賄い、残りの3割を非石油収入で賄っている。それには、中央の図のように、サウジアラビアの恵まれた油田があり、右図のように、現在は世界有数の原油生産量を誇っているが、「ビジョン2030」と呼ぶ将来を見据えた経済構造高度化構想も打ち出している) 歳出の財源となる国の収入は、(1)に書いたように、①資源国のような国の税外収入獲得 ②資源や過去に作られた資産などの国の資産の有効活用 ③本物の無駄遣いの排除 ④税収 などがあり、国債は借金であるため、国がこれらの収入から返済するのが正道だ。 このうち、①については、サウジアラビアを例にすると、*3-1-2のように、国営石油企業サウジアラムコから得る石油収入で歳入の約7割を賄い、残りの3割を非石油収入で賄っているが、所得税・法人税・消費税などの課税はない。しかし、地球環境維持のため世界が化石燃料の使用を控えていることで、ここ数年は原油価格の低迷や不安定な値動きが続き、ムハンマド皇太子は、2016年4月、石油依存の経済構造を脱却しようと「ビジョン2030」と呼ぶ経済構造高度化構想を打ち出した。 そして、サウジアラムコは、油田開発・石油精製・石油化学を一貫操業する巨大企業となり、これまでフレアとして燃やしていたLNGも世界最大の輸出国となることを表明して、今後10年間でLNGに1500億ドルを投資するとして構造改革に取り組んでいる。私は、資源を金に換えて国民生活を豊かにしようと努力しているサウジアラビアは、世界一高い価格で資源を買い漁って国民に迷惑をかけている日本よりも、(民主主義の問題はあるものの)経済政策においてずっと賢くて偉いと思う。 2)豊富な再エネを使えない日本 1)のように書くと、「日本は資源のない国だから・・」と100年1日の如き決まり文句の反論が出るが、欧州では、*3-1-1のように、太陽光発電の電力で水素を製造し、既存の天然ガスパイプラインで輸送して産業や発電に活用する大規模な「グリーン水素パイプライン計画」が始まろうとしており、これは、これまでパイプラインを建設してきた欧州で生き残るための工夫だそうだ。 日本はパイプラインがないため、豊富な再エネを使って発電し、蓄電や送電線を使っての送電を行えば、全く有害物質を出さずに電力を資源にすることができる。にもかかわらず、日本の会社が、オーストラリアの褐炭をガス化して水素を作り、それを日本に運ぶサプライチェーンを作ろうとしたり、外国の再エネで作った水素をわざわざアンモニアにして日本に運んで発電に使う計画を立てたりしているのは、意味が分かっていない「馬鹿」としか言いようがない。そもそも、今後の日本は、何を売ってエネルギーを買うつもりなのか? 3)豊富な森林資源も利活用できない日本 日本に豊富な森林資源を手入れして環境を護ろうと森林環境税を作っても、*3-2のように、それを山林・田畑・緑地帯・藻場などの緑地面積に応じて自治体に配分するのではなく、人口に応じて配分すれば、「緑地を増やして手入れしよう」ではなく「木を切って緑地を壊し、人口を増やそう」という動機づけになり、「森林整備」に使われる分は税収配分額の35%にしかならず、本末転倒だろう。つまり、管理している森林が少なく、CO₂を多く排出してO₂をあまり作らない大都市が、森林環境税を多く配分してもらう理由はないのである。 また、終戦復興期・高度経済成長期に造林した森林が、*3-3のように、伐採期を迎えて稼ぎ時になり、民有林の伐採や植林を担う森林組合には、地球温暖化防止の観点からも期待が大きい。しかし、①森林組合員の高齢化が進み ②女性の登用も遅れており ③相続を機に所有者が把握できなくなる事例も相次ぎ ④組合活動も滞りがちだそうだ。 しかし、林野庁が、森林所有者と同居していない複数の子を「推定相続人」として正組合員になる道を開くのは、森林の維持管理にむしろマイナスではないかと思う。何故なら、昔から「田を分ける者」を「田分者(たわけもの)」と言い、その理由は、所有権を細分化することにより生産性を下げるとともに、人数が増えることによって経営意思決定を遅くするからである。 さらに、固定資産税は市区町村が課税しているため、山林に相続が生じた場合は相続者を特定して固定資産税の支払者を決めなければ、固定資産税を徴収できない。そのため、相続者の義務である登記の変更もせず、所有者が不明なまま固定資産税も払わずに打ち捨て、所有者が分からなくなってしまった森林を作るのは、市区町村の怠慢にすぎない。そのため、所有者が不明で連絡がつかず、固定資産税も払っていないような森林なら、一定期間を過ぎた後は市区町村が収容して公有林として利活用すればよいだろう。 4)国民の財産である国有財産の安価な払い下げ 森友学園問題とは、2016年6月20日、安倍首相夫人が名誉校長となっていた「森友学園」に、財務省が大阪府豊中市の国有地を払い下げた際、土地の鑑定評価額は9億5,600万円だったのに、ゴミ撤去費用という名目で8億2,200万円を割り引き、1億3,400万円という極めて安い価格で売却した事件だ。 野党は、「安倍首相夫人の知り合いだから1個人に国民の財産である国有財産を極めて安い価格で売却し、国民に損害を与えた」として、“えこひいき”とか“忖度”として来る日も来る日も長時間の追求を続け、安倍首相が「私や妻が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」と言われたのだが、私は、あの言い方は本当に知らなかったのだと思った。 もちろん、1個人や1法人に国有財産を安く払い下げたり無料で使わせたりするのは、他の国民に損害を与えるためよくない。しかし、これまで見てきたように、日本の行政府が、国有林の使用権や年金資産で購入したホテルなどの膨大な金額の国有財産を二束三文や無料で1個人や1法人に譲るのは、(残念ながら)よくあることだ。これが生じる理由は、国が国有財産を資産として認識し、国民の財産として管理し、それを増やしたり有効活用したりする発想を持っていないからで、これが本当の問題点であり論点なのである。 それでは、何故、たった8億円(211兆円の1/263,750)の値引きだけが、予算委員会で長時間をとって追及されたのかと言えば、それは安倍首相を引きずりおろすための権力闘争だからだ。その権力闘争の中で、*3-4の近畿財務局の担当職員だった赤木俊夫さんが犠牲になられたわけだが、私は、政策に正面から反論するのではなく、権力闘争のためのゴシップづくりに専念するメディアや政治家は、民主主義社会の国民のためにならないため評価しない。 5)歳出の中の膨大な無駄遣い 私も、*3-5のように、時代が代わって防衛ニーズも変化している中、もっと安価で効果的な代替案はいくつも考えられるため、強引な辺野古新基地建設は基地建設ありきの血税の無駄遣いだと思っている。そして、各地で琉球新報のように無駄遣いを1つ1つつぶしていけば、かなりの財源を捻出でき、本当に必要なことに使える筈だ。 ・・参考資料・・ <国家予算> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57307490X20C20A3MM8000/ (日経新聞 2020/3/27) 2020年度予算が成立 過去最大の102兆円 予備費、新型コロナ対策に 2020年度予算が27日の参院本会議で可決、成立した。一般会計の歳出総額は19年度当初に比べ1.2%増の102兆6580億円で、8年連続で過去最大を更新した。新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、予備費として盛り込んだ5000億円から今後策定する緊急経済対策の財源を充てる。政府は20年度予算の成立を受け、新型コロナに対応する経済対策を盛り込んだ20年度補正予算案の編成に着手する。一般会計の歳出総額が100兆円を超えるのは2年連続。総額の35%を占める医療・年金などの社会保障費が5.1%増えて35兆8608億円となり全体を押し上げた。高齢化に伴う社会保障費の自然増のほか、19年10月の消費税増税の税収分を活用する教育無償化や低年金者の支援給付金などが加わった。新型コロナへの対応では既に策定した2回の緊急対応策の財源として19年度予算の予備費から約2800億円を使った。今後策定する経済対策にはまず20年度予算の予備費を充て、これから策定する20年度補正予算とあわせて財源とする。安倍晋三首相は参院本会議に先立つ27日の参院予算委員会の締めくくり質疑で、経済対策について「わが国経済への甚大な影響のマグニチュードに見合うだけの必要かつ十分な、強大な経済財政政策を講じていかねばならない」と述べた。 *1-1-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019121301392&g=eco&utm_source=・・ (時事 2019年12月13日) 一般会計、102兆円台後半 税収63兆円台に―20年度予算案 政府は13日、2020年度予算案の一般会計総額を102兆円台後半とする方向で調整に入った。19年度当初予算の101.5兆円を上回り、過去最大で、2年連続で100兆円を超える。財源となる税収は63兆円台となる見通しだ。社会保障費や防衛費がいずれも過去最高額となる見込みで、歳出総額を押し上げる。社会保障費では、高齢化に伴う医療・介護費の増加や、消費税増税に伴う幼児教育・保育の無償化に必要な経費の増加分が主な要因だ。防衛費も宇宙、サイバーなど新領域での対処能力強化で膨張する。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57787830X00C20A4EE8000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/4/7) 108兆円経済対策、雇用維持に向け過去最大規模 事業総額108.2兆円という過去最大の経済対策が7日、閣議決定された。政府が実際に支出する財政支出でも39.5兆円と過去最大だが、事業総額の規模の大きさがひときわ目立つ。現金給付や資金繰り対策が柱となる。経済の打撃を抑え、雇用を維持する目的で巨額の支出となった。6日夕に安倍晋三首相が表明する直前まで、明らかにされていた対策の規模は「リーマン危機後の対策を上回る規模」というもの。60兆円超が一つの目安だったため、100兆円を超える額が急に表明されたことに驚く向きも多かった。増えた分はどこから来たのか。新たに加わったのは、企業向けに打ち出された税や社会保険料の支払い猶予の26兆円分だ。2019年12月に打ち出された19年度補正予算の未執行分19.8兆円(財政支出ベースで9.8兆円)も加えられた。税や社会保険料は政府が肩代わりするわけではないため、原則1年の猶予期間が終われば企業が負担する必要がある。これまでにない措置だったため総額に加えられるか不明だったが、足元の企業の資金繰り支援に直接関わることから加算されることになった。売り上げが急減した企業でも雇用を維持できるように配慮した。19年度の補正予算ももともと消費増税による需要の落ち込みや東京五輪・パラリンピックに対応するものだ。緊急事態宣言が発令されたなかでどこまでが執行されるかは不透明だが、今後の経済を下支えするとの理由から合算された。もっとも、政府による財政支出の総額は新たに追加された分だけでも財政支出ベースで29.2兆円に上る。「かさ増し分」を差し引いても、過去の経済危機時より大型の財政措置がとられたことになる。財政支出の内訳をみると、雇用の維持や企業の事業継続に関わる部分は合計10.6兆円と大きな部分を占めた。具体的には中小企業や個人事業主向けの給付金2.3兆円や減収世帯向けの給付金4兆円だ。民間金融機関が自治体の制度融資を使って実質無利子の融資をする仕組みにも2.7兆円を付けた。新型コロナの感染拡大が長期化した場合にも、手を打った。感染症の対策予備費として1.5兆円を計上。今後急な支出が必要になった場合に備えた。企業向けには財政投融資を活用した日本政策投資銀行の「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド(仮称)」を創設。企業に対して総額1000億円規模で出資できる仕組みも作った。課題はこうした緊急対策を緊急事態宣言が発令されたなかで迅速に執行できるかどうかだ。融資相談や給付金の窓口で発生している人手不足の問題を早期に解決し、足元で経済の底割れを回避するための手段を講じる必要がある。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200408&ng=DGKKZO57765930X00C20A4MM8000 (日経新聞 2020.4.8) 資金繰り支援45兆円 政府が緊急経済対策決定 政府は7日夕の臨時閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策を決定した。事業規模は過去最大の108兆円。このうち企業の資金繰り対策は45兆円規模となる。政府系金融機関による無利子融資や減収企業に対する給付金などで急速に深刻化する企業の財務基盤を支える。家計向け現金給付は月収減などの要件を満たした世帯に30万円を支給する。対策を盛り込んだ補正予算案は4月中の成立を目指す。2020年度本予算で対応する分を含めた財政支出の総額は39.5兆円でこちらも過去最大となる。このうち今回の補正予算に対応する16.8兆円を国債発行でまかなう。14.4兆円が赤字国債になる。資金繰り対策では中小企業や個人事業主向けの「持続化給付金」と呼ぶ現金給付や減収になった世帯向けの「生活支援臨時給付金」に合計6兆円を投じる。世帯向けは約1300万世帯分の予算を確保。政府は5月からの支給を目指すとしているが、手続きが煩雑で自治体によっては支給が夏ごろになる可能性もある。このほか税金や社会保険料の支払いを原則1年間猶予したり、民間金融機関が自治体の制度融資を使って実質無利子で融資する仕組みを設けたりする。制度融資を受け付ける自治体の窓口が人手不足に陥っていることなどに対応する。経済対策は新型コロナの感染防止を最優先に掲げた。需要が低迷を続けるなかでも企業や家計が破綻しないように手当てする一方、新型コロナへの効果が期待される抗インフルエンザ薬「アビガン」の備蓄や人工呼吸器、マスクの生産支援にも予算を付けた。新型コロナの感染拡大収束後は観光業などの需要喚起策に乗り出す。旅行商品やイベントのチケットを購入した人などにクーポン券などを出す。サプライチェーン(供給網)の再構築のために海外拠点を国内に回帰させる企業にも補助を出す。 *1-2-3:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200418/KP200417ETI090013000.php (信濃毎日新聞 2020.4.18) 一律10万円給付 国民目線欠いた責任重く 政府、与党が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国民に一律10万円を給付する検討を始めた。補正予算案に盛り込んでいた減収世帯対象の30万円の給付は取り下げる。安倍晋三首相はこれまで、一律給付には否定的な考えを示していた。閣議決定した予算案を組み替えるのは極めて異例である。コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や休業の要請で、収入が大幅に減少して生活に困窮する人たちが増えている。迅速に支援することが必要だ。それなのに政府の対応はスピード感に欠けている。政府内で現金給付案が浮上したのは3月中旬だ。現在の補正予算案が順調に成立したとしても、支給開始は5月になる予定だった。予算案の組み替えで、国会提出は1週間程度遅れる。成立は5月1日にずれ込む可能性がある。支給開始はさらに遅れる。減収世帯を対象にした30万円の給付は、要件が複雑で分かりにくい。世帯主を対象として、共働きが増えている実情にも配慮していなかった。対象は全世帯の2割にとどまり、不公平感から国民の批判が高まっていた。一律給付は野党などが当初から求めていた案だ。富裕層が対象になることや、給付総額が膨らむなどの問題もあるため、与党も一度は減収世帯対象で合意していた。それが一転したのは、支持者離れを懸念した公明党などが強硬に一律給付を主張したためだ。安倍首相はきのうの記者会見で「緊急事態宣言を行い、全国に広げていく中で、国民が乗り越えていくには一律給付が正しいと判断した」と唐突な方針変更の理由を述べ、判断の遅れを陳謝した。最初に緊急事態を宣言したのは補正予算案を閣議決定した7日だ。当初から感染拡大や外出自粛で国民生活が困難になることは分かっていたはずだ。状況を見誤って混乱し、後手に回った政府の責任は重い。一律給付で給付の総額は当初の約4兆円から12兆円超に膨れ上がる。財源は赤字国債が想定されている。補正予算案を組み替えるなら、終息後の消費喚起策など当面は必要ない項目を削除して、歳出抑制に努めるべきだ。麻生太郎財務相はきのうの会見で「要望される方、手を挙げる方に配る」との考えを示している。首相の一律給付の方針と異ならないか。これ以上の混乱は認められない。早急に調整して方針を決め、国民に説明する必要がある。 *1-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14444769.html (朝日新聞 2020年4月17日) 首相、コロナ拡大を「第3次世界大戦」 面会した田原総一朗氏、明かす 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に伴う混乱について、安倍晋三首相が「第3次世界大戦」と表現していたことがわかった。首相と面会したジャーナリストの田原総一朗氏が14日、自身のブログで明らかにした。田原氏は10日に首相官邸を訪れ、首相と面会した。田原氏のブログによると、首相は「第3次世界大戦は核戦争になるであろうと考えていた。だがこのコロナウイルス拡大こそ、第3次世界大戦であると認識している」と語ったという。田原氏が、「緊急事態宣言はなぜ遅れたのか」と問うと、首相は財政への悪影響を理由に「ほとんどの閣僚が反対していた」と明らかにしたという。田原氏は、閣僚による財政悪化への懸念を「平時の発想」と指摘。首相がこうした「平時の発想」から、感染拡大を戦争ととらえる「戦時の発想」に転換したことで、宣言を出すに至ったと分析している。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200408&ng=DGKKZO57766680X00C20A4MM8000 (日経新聞 2020.4.8) 緊急事態宣言を発令 首相「接触8割減を」、東京など7都府県、経財相「地域追加も」 新型コロナ 安倍晋三首相は7日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部で特別措置法に基づく緊急事態宣言(総合2面きょうのことば)を発令した。感染が急拡大している東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県が対象で実施期間は7日から5月6日まで。宣言が出たことで7都府県の知事は外出自粛や営業休止を要請する法的な裏付けを得たが各知事の判断は揺れている。米欧では強制力がある外出禁止令を出す例がある。イタリアも罰金付きの外出制限を出したが感染者の増加が鈍化するまで時間がかかった。日本の外出自粛要請は強制力がないため住民の自発的な対応が不可欠になる。今回の宣言で感染爆発を防げるかは未知数だ。首相は7日夜、首相官邸で66分間、記者会見した。「もはや時間の猶予はないとの結論に至った」と説明した。「国民生活、国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある。経済は戦後最大の危機に直面している」と強調した。いまのペースで感染拡大が続けば感染者が2週間後に1万人、1カ月後には8万人を超えるとの見通しを示した。「緊急事態を1カ月で脱出するには人と人との接触を7割、8割減らすことが前提だ」と協力を求めた。ホテルなどの協力を得て関東で1万室、関西で3千室を確保したと話した。感染拡大防止策を講じ、保育所や学童保育は規模を縮小して開くと説明した。地方には「重症化リスクが高い高齢者もたくさんいる」と指摘し、対象地域の都市部から地方への移動を控えたり、原則として自宅で仕事をしたりすることを呼びかけた。バーやナイトクラブ、カラオケ、ライブハウスへの出入りも自粛するよう訴えた。西村康稔経済財政・再生相は同日の国会答弁で対象地域は「必要があれば追加を考えたい」と語った。宣言の対象に入らなかった福井県の杉本達治知事は同日「緊急事態宣言直前の状況だ。医療体制は逼迫している」と訴えた。人の外出や往来を減らせなければ感染拡大が続き、宣言の対象地域の追加や期間延長が現実味を帯びる。発令を受け7都府県の知事は住民に外出自粛などを求める。知事は娯楽施設など人が集まる施設の使用を制限するよう求めたり、学校の休校を要請したりできる。強制力はないが、事業者が正当な理由なく応じなければ「要請」より強い「指示」を出して事業者の名前も出せる。発令後も鉄道やバスなど公共交通機関は運行を続ける。食料品や医薬品などの生活必需品を扱うスーパーマーケットやドラッグストアも営業する。最低限の生活を維持した上で人と人が接触する機会を減らす狙いだ。 *1-3-3:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020041601001482.html (東京新聞 2020年4月16日) 安倍首相、全国に緊急事態宣言 7都府県から拡大、5月6日まで 安倍晋三首相は16日、新型コロナウイルスの感染増加に対応する緊急事態宣言の対象地域を全都道府県に拡大した。7日に発令した東京、大阪など7都府県から対象地域を追加。新たに対象となった地域の知事は、法的根拠のある外出自粛要請が可能となった。期間は5月6日まで。感染拡大に歯止めをかけ、医療崩壊を防ぐには、大型連休中を含めた人の移動を全国一斉に抑える必要があると判断した。16日夜に効力が発生した。緊急事態宣言は改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく私権制限を伴う措置。海外のような都市封鎖(ロックダウン)は想定していない。 *1-4-1:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200413-00000006-ykf-soci (夕刊フジ 2020.4.13) ノーベル賞・本庶氏、新型コロナ対策で緊急提言! 病態解明と治療薬につながる研究「100億円投入せよ」 2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょ・たすく)京都大学特別教授(78)が11日朝、日本テレビ系情報番組「ウェークアップ!ぷらす」に生出演し、新型コロナウイルス研究への「100億円」投入を訴えるなど、緊急提言した。「個人的には、一番厳しいやり方が効果がある。中途半端でダラダラやると長くなる。できれば、短期間でコントロールできるのが望ましい」。本庶氏は、人の動きへの規制について、こう語った。「医療崩壊」を防ぐために、「1カ月の完全外出自粛」も提言している。免疫とがん細胞と結びつけるタンパク質「PD-1」を発見し、がん免疫治療薬「オプジーボ」の開発につなげた、世界的な免疫療法の権威。新型コロナウイルスについても、以下のように主張している。(1)PCR検査の大幅増(2)東京圏、大阪圏、名古屋圏などで完全外出自粛(3)外国で有効性が示される治療薬の早期導入。本庶氏は「多くの人が不安に思っているのは死者が多いこと。死亡率は5%を超える。インフルエンザは0・1%。(新型コロナウイルスは)最後に免疫不全で、あっという間になくなってしまう」と指摘した。ワクチンや特効薬の開発が注目されるが、「このタイプのウイルスは、ワクチンができにくい。製薬企業も大規模投資はリターンがないので、尻込みする」といい、インフルエンザ治療薬「アビガン」や、8日に国内での臨床実験が開始された「トリシズマブ」の導入を提言した。最後に本庶氏は「(日本政府が)100億円を研究者に対する、病態解明と治療薬につながる研究に出していただければと信じている」と締めくくった。 *1-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200419&ng=DGKKZO58240640Y0A410C2MM8000 (日経新聞 2020.4.19) 新型コロナ治療薬 開発急ピッチ、世界で治験650件 有効性なお見極め 新型コロナウイルス感染拡大が続くなか、世界で治療薬開発が急ピッチで進んでいる。製薬会社は既存薬を転用することで開発期間を短くし、早期の市場投入を目指す。回復した患者の血液成分を使った治療法も試されており、既存の医療技術・手法の掘り起こしも進む。新型コロナの猛威を止めるには、迅速な審査や承認を可能にする仕組みも欠かせない。新型コロナ治療薬の開発は待ったなしだ。米国の臨床試験登録データベースによると、18日時点、世界で650以上のコロナの治験が登録されている。治療薬、ワクチンや再生医療など様々な研究が進む。17日の米株式市場で、米医薬大手ギリアド・サイエンシズの株価が約10%急騰した。ギリアドのエボラ出血熱の治療薬候補だった「レムデシビル」が新型コロナ重症患者の回復につながったとのリポート内容が伝わったためだ。レムデシビルはエボラの治療薬として有効性が低いとして開発が中断された薬だ。富士フイルムホールディングスの「アビガン」も別の病気の治療薬として開発された。いずれも新型コロナウイルスが体内で増殖するのを防ぐ効果があると報告されている。ギリアドは5月にもレムデシビルの初期治験データを得られるとしている。有効性が確認できれば米食品医薬品局(FDA)に対して承認を申請し、早ければ夏にかけて米国の医療現場で使える可能性がある。一方、アビガンは日米で治験を開始。最短で6月末までに治験を終え、早くて年内にも市場に出てくるとの観測がある。新型コロナ特有の症状が、重症の肺炎だ。その肺炎重症化を抑制する効果があるとされるのがリウマチ治療薬だ。スイス・ロシュの「アクテムラ」や仏サノフィなどの「ケブザラ」がそのリウマチ新薬だ。アクテムラは4月から治験をスタート。9月までに治験終了を見込んでおり、米国で今秋の承認を目指し動いている。ケブザラは2021年3月に治験終了を見込み、承認はその1~2カ月後になるとの観測がある。新型コロナ治療では既存の治療法も応用されている。コロナから回復した患者の血液を使う「血漿(けっしょう)」を投与する治療法だ。国内では国立国際医療研究センターが早ければ4月中にも試験的な治療を試みる方針だ。回復者の血漿の成分を活用した「血漿分画製剤」では、武田薬品工業が米CSLベーリングと組み開発を進める。年内の実用化を目指している。世界の製薬会社や研究所が新型コロナ治療薬開発に既存の薬や技術を応用するのは、有効性が確認されればすぐに医療現場で使えるようになるからだ。新薬をゼロから開発し、実用化するには10年近くかかる。既存薬は安全性確認など時間のかかる作業が終わっているため、短期間で薬として使える可能性がある。現在、既存薬で新型コロナ薬として期待されているのは十数種類。治験で有効性が確認できれば、各国の規制当局への承認申請に進む。「治療薬承認に向けあるゆる障壁を取り除く」。米トランプ大統領が新型コロナ薬の早期承認を公言しており、有効性が確認された薬があれば1カ月程度で承認される可能性がある。欧州や英国でも規制当局が新型コロナ治験支援や条件付きでの迅速承認を準備している。一方、日本は承認審査スピードを速める「先駆け審査指定制度」(総合2面きょうのことば)があるが最短で6カ月程度だ。日本は薬価が決まるのにも1~2カ月かかり、海外に比べ時間がかかる。18日には国内で新型コロナ感染者が1万人を超えた。世界でコロナ感染者は200万人、死者は15万人に達する。治療薬への期待は過熱気味で、米国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長は「(薬の効果は)科学的に有効性を証明しなければいけない。間違った希望は持たないでほしい」と呼びかける。有効性を見極めつつ、副作用リスクや供給能力を慎重に判断する必要性もある。 *1-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200419&ng=DGKKZO58237600Y0A410C2EA5000 (日経新聞 2020.4.19) 血漿療法、月内にも試験 新型コロナ治療へ国内で 新型コロナに対する治療法は、既存薬の転用だけではない。コロナから回復した患者の血液を使う「血漿(けっしょう)療法」という治療法もある。国内でも早ければ4月中にも試験的な投与が始まる。血漿は血液から赤血球や白血球などを取り除いた成分のことで、「アルブミン」や「グロブリン(抗体)」といったたんぱく質が含まれる。このうちグロブリンには様々な性質があり、血漿から分離し精製することで免疫不全の治療や重度の感染症治療に使える医薬品となる。実はこの仕組みは日本の近代医学の父、北里柴三郎博士が世界で初めて確立した。今回の新型コロナでは、回復した人の血液の中にはコロナを排除する免疫(抗体)が存在するケースがある。この成分を重症患者に投与すれば体内のウイルスを排除するのに役立つことが期待される。中国でも重症患者に対する血漿療法で回復した人がいるとする報告が出ており、米食品医薬品局(FDA)も血漿投与を認め、カナダでも大規模な臨床研究が始まった。日本でも国立国際医療研究センターが早ければ4月中にも試験的な治療を試みる方針だ。回復者の血液を使った血漿製剤で製薬企業も動き始めた。先頭を走るのは血漿分画製剤の世界大手、武田薬品工業だ。血漿療法には別の感染症にかかるといったリスクもあり、副作用や合併症の危険性もある。聖路加国際病院救急部の一二三亨副医長は「治療法がない感染症にも応用でき、理論的には感染早期に投与すると高い効果が期待できる」と話す。 <暮らし> *2-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/596450/ (西日本新聞 2020/3/31) 暮らし向き4年ぶりマイナス域 総務省の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出は昨年10月の消費税増税後、今年1月まで4カ月連続マイナスと低迷している。今回、福岡の生活者の暮らし向きについて調査した結果、1年前より暮らし向きが「良くなった」「どちらかというと良くなった」の割合から、「悪くなった」「どちらかというと悪くなった」の割合を減じた「暮らし向き判断指数」は、昨年から5・7ポイント低下のマイナス2・0ポイントとなり、2015年以来のマイナス域を記録。福岡でも増税後の消費マインド低下がうかがえる結果となった。 *2-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040201087&g=eco (時事 2020年4月3日) コロナ対策、消費減税を一蹴 冷え込む需要、さらに混乱―与党税調 自民、公明両党の税制調査会は2日、新型コロナウイルスの影響を緩和する税負担軽減措置をまとめた。需要減に苦しむ中小・零細企業の納税猶予を打ち出す一方で、与野党を問わず多くの議員が訴えていた消費税減税は見送られた。コロナの影響が色濃い消費の喚起へ「税率ゼロ」の主張もあったが、国民の混乱を招くとの懸念が強く、与党税調として消費減税は「まったく議論しなかった」(幹部)と一蹴した。自民党の若手有志は3月30日、政府が検討している大型経済対策に消費税減税を盛り込むよう要望。趣旨に賛同した党内議員は100人を超えたといい、各地で顕在化した飲食や宿泊などの需要急減に強い危機感を唱えた。経済対策に反映させるため、政府が3月中下旬に集中開催した民間ヒアリングでも「経済を活性化させるためなら、消費減税の効果が大きい」(外食大手首脳)との声が上がった。コロナ禍で人、モノ、カネの移動が大幅に制約される「緊急事態宣言」が俎上(そじょう)に載るなど景気の先行きに暗雲が漂う。時限措置として思い切った減税による消費喚起と駆け込み需要の誘発効果も取り沙汰されたが、雲散霧消した。前回2014年4月に消費税率8%へ引き上げた際には大幅な需要変動が起きた。昨年10月の消費税増税では回避しようと、政府・与党が飲食料品の軽減税率やキャッシュレス決済時のポイント還元制度などに巨費投入を決めた経緯もある。今回の与党税調でも、ただでさえ需要が冷え込む中、「短期間での税率変更はかえって国民が混乱する」との認識が支配した。財務省は現行税率10%への引き上げを2度延期した安倍政権に「相当身構えた」(幹部)が杞憂(きゆう)に終わった。 *2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57305810X20C20A3PPE000/ (日経新聞 2020/3/29) 年金、新年度「実質目減り」 介護保険料は大幅増も もうすぐ4月。新年度入りに伴って、シニアが受け取る公的年金の金額や現役世代らが納める社会保険料などが切り替わる。これらの改定は、世帯収入の増減やそれを踏まえた消費動向にも影響してくる。いつどうなるかを知り、家計の運営に生かしたい。まずは年金から。2020年度の年金額は昨年度比0.2%のプラス改定となった。自営業者らが加入する国民年金(満額)は月6万5141円と133円増え、主に会社員だった人が受け取る厚生年金(夫婦2人分の標準額)は同22万724円と458円増える。2年連続のプラスだが、増える金額はわずかだ。 ■物価ほど増えず 昨秋に消費税が2%上がったことを考えれば、0.2%の増額はいかにも少ない。なぜなら、改定の際の2つのルールで増加率が削られ、物価ほど増えない「実質目減り」が続くからだ(図A)。1つは賃金や物価の変化に応じて本来の改定率を決める基本ルール、そしてそこから少子高齢化に伴う調整率を差し引く「マクロ経済スライド」だ。基本ルールでは、新たに年金をもらい始める人は賃金、いったんもらい始めたらその後は物価に連動するのが原則だが、04年からもらい始めた人も経済環境によっては賃金に合わせるようになった。これによって本来の改定率は物価より小さくなる場合が増えた。状況によってはさらにスライド率が差し引かれ、年金の伸びが抑えられる。20年度は物価が0.5%上がったが、賃金は0.3%だった。基本ルールに沿って本来の改定率は賃金の0.3%となった。さらにスライド率の0.1%が引かれ、最終的な改定率は0.2%になった。日本年金機構は年金受給者に対し、6月に新しい年金額の通知書を送付する。2カ月分まとめて払うので、4、5月分が6月15日に振り込まれる予定。今後「年金は物価ほど増えないことを頭に入れておきたい」(ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫主任研究員)。現役世代が納める保険料はどうか。厚生年金の保険料は17年9月から、給与水準(標準報酬月額)に対する比率が18.3%(労使合計)で固定された。このため保険料は増えないと思っている会社員もいるようだが固定されたのはあくまで料率。これに報酬を掛けて計算する保険料は昇給すれば増える場合がある。また、今年9月には標準報酬月額の上限が改定される見通し。月収など実際の報酬が63.5万円以上あると標準報酬月額の等級が上がり、保険料負担が企業、本人それぞれで年3.3万円増える(図B)。保険料の負担を減らすには、計算の際に用いるこの標準報酬月額の等級を下げればよいのだが、「会社員に名案はなかなか見当たらない」と社会保険労務士の永山悦子氏は話す。よく言われるのが、残業を調整して4~6月の給料を減らすこと。通常はこの3カ月の平均の報酬で標準報酬月額を出し、9月から1年間適用する。だが、実際には会社員が残業をコントロールして等級を下げるのは難しい。近年は働き方改革で残業も減っている。交通費も標準報酬月額に含まれるので、会社の近くに引っ越せば下がるという人もいるが、家賃などの出費が増えたら逆効果だ。自営業者らが払う国民年金保険料は130円増えて1万6540円となる。 ■雇用保険でも徴収 健康保険料と介護保険料は上昇が続いている。介護では給料など報酬額に比例して保険料が決まる「総報酬割」を4年かけて段階的に増やしており、最終年度の20年度は全面導入となる(図C)。報酬が高い人が多くいる健保組合の負担が増え、料率が大きく上がるところも出てくる。健保と介護は料率改定が3月(実際の保険料に反映されるのは4月の給料からが多い)で、標準報酬月額は9月(同10月)となる。このため「春は料率、秋は標準報酬月額の改定によって、年2回保険料が変わる場合がある」と社会保険労務士の篠原宏治氏は話す。4月から変わる制度では働くシニアを対象とする雇用保険料の徴収がある。雇用保険は失業した際の生活を保障する制度(図D)。17年から65歳以上の社員も条件を満たせば適用対象になったが、これまで保険料は免除されていた。被保険者の負担は0.3%(一般の事業)で、月額では数百円程度という人が多そうだ。標準報酬月額ではなく、給料から天引きされるので保険料の金額は毎月変わる。以前は一度しかもらえなかった「高年齢求職者給付金」は、失業を繰り返したとしても求職活動をするたびに受け取れるようになっている。「65歳未満は雇用保険から失業給付などを受けると特別支給の老齢厚生年金が支給停止になったが、65歳以上はこの給付金をもらっても年金額に影響はない」(永山氏)という。親や配偶者に介護が必要になり、仕事を休んで従事する場合は「介護休業給付金」を受け取れることも知っておきたい。 *2-3:https://www.kochinews.co.jp/article/358500/ (高知新聞社説 2020.4.4) 【介護保険20年】持続可能性が問われる 介護を家族で抱え込まず、社会全体で支え合う―。そんな理念で始まった介護保険制度が、4月で20年を迎えた。「介護の社会化」は40歳以上の人が支払う保険料と税金、利用者の自己負担で賄う制度だ。介護の必要度合いを軽い方から「要支援1、2」「要介護1~5」と7段階に分類。訪問介護や通所介護(デイサービス)など、在宅や施設への入所といった多様なサービスを選べるようになった。この20年で社会の意識改革が進み、サービス利用者は2000年の149万人から19年は487万人と3倍になった。制度は定着したといえるだろう。その一方で、世界有数のスピードで進む高齢化は、介護現場の人手不足などさまざまなほころびを見せ始めた。制度の持続可能性に黄信号が点滅している。共同通信が3月、都道府県庁所在地と政令市の計52自治体に実施したアンケートによると、回答があった50自治体のうち、介護保険の維持、存続について1自治体を除いて全てが「懸念する」と答えた。制度の問題点を聞いた設問では、介護現場の人手不足、費用の膨張、財源の確保の順で多かった。人手不足の中でもヘルパー不足は深刻な状況に陥っている。一般的に介護職員は、重労働の割には賃金が安いといわれる。2月公表の政府資料では、全産業平均に比べて月額9万円程度低い。新規採用が難しい上に、離職率も高い。政府はおおむね3年に1度、制度を見直してきた。段階的に賃金の引き上げを実施してきたが、焼け石に水の状態だ。自治体アンケートでは賃上げの財源として国の税金を増やすべきだとの意見が目立った。これまでの国の見直しは、制度を守ることを優先するあまり、「負担増」と「サービスの縮小」の繰り返しに終わってきた。当初は利用者の所得に関係なく1割だった自己負担割合を、一定の収入のある人は2割とし、次には現役並みに所得が高い人は3割に引き上げた。サービスの面では、特別養護老人ホーム(特養)の新規入所者を原則、要介護3以上に限定。また、要支援1、2を対象者とした訪問介護と通所介護は、全国一律の介護保険から切り離し、市区町村の事業に移した。「介護の社会化」を目指しながら、高齢者が高齢者をケアする「老老介護」も広がっている。介護疲れから虐待に発展する事件や、介護を理由にした離職も増えている。介護需要に人材確保が追いつかない。高齢の夫婦のみの世帯も増えている。介護する人への支援を強化するには、自治体が要望する国の税金投入も考えるべきだ。小手先の改革を繰り返しても、サービスが低下しては本末転倒だろう。制度開始の原点に立ち戻り、持続可能性を高める道を探りたい。 *2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57061100R20C20A3K15200/ (日経新聞 2020/3/22) 会社員にズシリ 社会保険料30%時代、団塊世代が75歳に 迫る「2022年危機」 医療・介護・年金の合計保険料が給与に占める比率が30%に迫っている。改めて聞くと負担の大きさに驚く会社員も多いだろう。三大社会保険料はなぜこんなに上がっているのか。中身を知ると「人生100年」のマイナス面も見えてくる。 ■労使合計 社会保険料が急上昇 健康保険組合連合会(健保連)は昨年まとめた「今、必要な医療保険の重点施策」の中で1つの推計を示した。大企業の会社員らが負担する医療・介護・年金の三大社会保険料は2022年度に合計額が給与水準(標準報酬)の30%を超える。これは労使を合計した平均値で、社員が直接給与から払うのは半分ほどだが、それでも大きな負担だ。健保連は団塊の世代が75歳になり始めるこの年を「2022年危機」と位置付け、現役世代の重い負担を見直すよう国に改革を求めた。「全組合の平均が30%に乗るというのは負担増が伝わりやすい数字。現役世代に自分たちの負担を知ってほしいし、高齢者にも知ってほしい。そしてみんなでどうしたらよいか考える必要がある」と健保連の田河慶太理事は話す。一般に会社員は社会保険料などが天引きされたあとの手取りの給料に目が向かいがち。「保険料の負担増加に気付きにくく、しっかり訴えた方がよいと考えた」と続けた。健保連の試算では、全国約1400の健保組合の平均の医療の保険料率は22年度に9.8%となり、19年度比で約0.6ポイント増える。介護は同2.0%と同0.4ポイント増加する。これに厚生年金(18.3%)を加えると30.1%となる。組合によってはすでに30%に乗っているところもある。中小企業の会社員が入る全国健康保険協会(協会けんぽ)では19年度で平均が30%を超えている。原因は高齢化に伴う医療・介護費の増加と、アンバランスな負担の構造にある。年間の医療費は42.6兆円、介護費は10.2兆円(ともに18年度)に上り、年々増え続けている。特に大きいのが、より多くの医療・介護を必要とする75歳以上の後期高齢者の増加だ。この世代は年金以外の収入が少なく、医療・介護の多くを国と現役世代が賄う仕組みになっている。医療ではこれら高齢者への拠出金が膨らみ、介護では費用の約4分の1を現役世代が負担している。人生100年時代に向けて、国は高齢者らも活躍できる社会づくりを掲げるが、社会保険料の面から考えるとバラ色とはいえない。医療・介護費の増加は続き、負担に歯止めが掛かりそうもないからだ。年金には「マクロ経済スライド」という給付を抑制する仕組みがあるが、医療や介護にはない。健保連の推計では三大保険料の合計は25年度には31%に上がる。国が18年に公表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」では、健保組合の医療・介護の1人当たりの保険料率は、医療が最大で11.2%、介護が2.6%(計画ベース)となる。仮に年金が18.3%のままなら、保険料の合計は最大で32%台に上がることになる。 <財源と無駄遣い> *3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200405&ng=DGKKZO57629330T00C20A4TM3000 (日経新聞 2020.4.5) 欧州でグリーン水素パイプライン計画 太陽光発電の電力で水素を製造して既存の天然ガスパイプラインで輸送、産業や発電に活用する大規模な「グリーン水素パイプライン計画」が欧州で始まろうとしている。2050年までに脱炭素を目指す欧州連合(EU)の長期目標に沿う。計画のまとめ役を担う仏ソラドベント社(本社パリ)の創業者、ティエリー・ルペック氏に計画の内容や背景を聞いた。 ――どのような計画ですか。 天然ガスパイプラインを管理・運営するガスTSO(系統運用者)からの依頼で、競争力のあるグリーン水素の生産、輸送、消費の大規模な企業コンソーシアムを結成している。スペインに60万キロワット級の電解工場を建て、太陽光発電の電力で水素を製造する。これをTSOが保有する既存のパイプラインで消費地に運ぶ。ユーザーは化学や肥料、鉄鋼などの工場、発電所、工業用熱生産だ。天然ガスと石炭を代替する」「最初のプラントはいずれ100万キロワット級に拡張する計画だ。重要なのは液化天然ガス(LNG)に対抗できる競争力を持てるかだ。そのために早期の大規模化を狙う。50年までに100万Btu(Btuは英国熱量単位)あたり7.5ドルを目指す。スペインに続いて、欧州とパイプラインがつながるアルジェリアやチュニジアでの太陽光発電による水素製造を視野に入れている」 ――なぜまずスペインなのか。 「スペインは固定価格買い取り制度(FIT)で太陽光発電が急増した後、制度廃止などで停滞していた。しかし太陽光発電のコストが十分に下がったため再び建設ブームが始まっている。問題は電力網が満杯で発電事業者に系統接続の権利があっても容易につなげない。余裕のある電力で水素をつくることで太陽光発電の変動性を解消し電力系統の安定運用に資する」 ――天然ガスパイプラインに水素を流すにはパイプラインの改修が必要になるのでは。 「送ガス網への設備投資については、この1年でTSO自身の認識に大きな変化があった。既存の設備で天然ガスとのブレンドでも100%水素でも輸送可能だと姿勢を変えた。コンプレッサーなど一部設備は改修が必要だが、パイプラインを作り直す必要はない」 ――見方が変わったのはなぜ。 「生き残りだ。欧州は脱炭素に向けて動いている。TSOはガスの生産と消費を結ぶ『中流』の事業だが、天然ガスの供給も消費も減っていく。パイプラインが座礁資産になる。グリーン水素の輸送を担い資産価値を復活させ、雇用も維持したいと経営者たちは考えた。グリーンなエネルギーを望む顧客が増え、その要望に応えることが生き残るために不可欠だと判断したのだ」 ――コンソーシアムに参加する企業は。 「スペインのエナガス、イタリアのスナム、フランスのGRTガスとテレガ、ドイツのOGE、ベルギーのフラクシス、オランダのガスユニなどのTSOが中心だ。これらのTSOは『ガス・フォー・クライメット』という団体を組織している。ほかに電解装置のメーカーや太陽光発電のデベロッパーなどが参画する。欧州投資銀行(EIB)やほかの投資銀行、投資家からも私たちの計画は支持されている」 ――脱炭素を掲げるEUの取り組みは非常に野心的だが、達成可能か。 「達成できなければ私たちは非常に困った状況に陥る。前向きに考え、どう達成するかという問いを発すべきだ。欧州の目標が野心的に過ぎ、達成できなかったことは過去にもある。目標や規制は大事だが、起業家や投資家が動かなければ脱炭素は困難だ。世界最大規模の機関投資家であるノルウェー政府年金基金はエナガスの大株主だが、グリーン水素に強い関心をもつ。いま投資家が動き始めている」 # # # ルペックさんに会うのは2年ぶり。以前にインタビューしたときは仏大手電力エンジーの副社長だった。グリーン水素のためベンチャーに転じた。グリーン水素のプロジェクトは日本でもいくつかある。川崎重工業はオーストラリアの褐炭ガス化でもたらされる水素を日本に運ぶサプライチェーンを構想、液化水素タンカーを建造している。東京ガスは自然エネルギーの電力でつくった水素をアンモニアにして日本に運び発電などに使う計画を公表している。また千代田化工建設などはブルネイで調達した水素をメチルシクロヘキサンという化学物質に反応させ液体にして運び、消費地で水素に分離するというシステムを提案し実証に挑む。 *3-1-2:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190507/se1/00m/020/048000c (エコノミストオンライン 2019年4月22日) サウジアラムコ起債に応募殺到 LNG、石油化学でも影響力増大=岩間剛一 サウジアラビアの国営石油企業サウジアラムコに、世界の債券投資家の注目が集まっている。サウジの実力者ムハンマド皇太子が推し進める経済構造改革の原資として予定していたサウジアラムコのIPO(新規株式公開)は断念に追い込まれたが、次善の策として打ち出したサウジアラムコの債券発行計画に対し、運用難に悩む債券投資家の応募が殺到。サウジアラムコは当初予定よりも調達資金を積み増し、まさに面目躍如といったところだ。サウジアラムコにとっては今回が世界の債券市場へのデビューとなる。ロイター通信などによれば、サウジアラムコは3年、5年、10年、20年、30年の年限に分けて起債し、100億ドル(約1兆1000億円)を調達する予定だった。ところが、フタを開けてみると投資家からの応募が殺到し、4月9日時点で1000億ドルを超えたという。これを受けて、サウジアラムコは起債額を120億ドルへと積み増した。驚くのは、その発行条件である。債券発行時の利回りは信用力の高い米国債を基準に決められ、ブルームバーグなどによれば、サウジアラムコ10年債の利回りは米国債に105ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上乗せした水準となった。この利回りの水準は同じ年限のサウジ国債を12.5bp下回っており、サウジアラムコが持つ豊富な原油埋蔵量や収益力の高さが、債券市場では政府(ソブリン)よりも高く評価された結果といえる。 ●米アップルの1・8倍 実際、サウジアラムコの業績は驚異的だ。サウジアラムコが4月1日、初の起債を前に投資家向けに開示した財務情報によれば、2018年のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は2240億ドル(約24兆6000億円)、純利益は1111億ドル(約12兆円)とケタ違いの規模だった。純利益は上場企業で世界最大の米アップル(595億ドル、18年9月期)の1.8倍を超え、同じ石油企業の米エクソンモービル(208億ドル、18年12月期)の5倍以上に達する。サウジアラムコの強みは、サウジの石油・天然ガス開発を独占していることにある。サウジは南米ベネズエラに次ぐ、世界第2位の原油埋蔵国だが、超重質油で生産コストの高いベネズエラの原油と異なり、軽質であるうえに生産コストが1バレル当たり4ドル程度に過ぎない。世界最大の産油国となった米国のシェールオイルの生産コスト(1バレル当たり30ドル超)と比較しても、極めて高いコスト競争力を持った世界一の優良原油である(図)。サウジアラムコは債券発行で調達した資金を手元資金と合わせて、世界的化学メーカーに成長した国営企業サウジ基礎産業公社(SABIC)の買収に充てる。その企業価値は1000億ドル(約11兆円)にのぼり、株式の7割は政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド」(PIF)が保有する。サウジアラムコがSABICを買収すれば、7兆円以上の資金が政府の経済構造改革の原資となる。サウジ政府はもともと、企業価値が2兆ドル(約220兆円)ともされるサウジアラムコの株式のうち、5%をニューヨーク、ロンドン両証券取引所へ上場し、1000億ドル(約11兆円)の調達をもくろんでいた。だが、サウジの原油埋蔵量などは重要な国家機密であり、どこまでサウジアラムコの財務状況が開示されるのかが不透明だった。サウジ側は両証取に上場基準の緩和を求めるなどしたが、受け入れられることはなかった。加えて、昨年10月に起きたサウジ人著名記者の殺害事件により、サウジ政府とムハンマド皇太子が国際社会から非難され、欧米諸国の証券市場や金融機関の支援を得ることが難しくなった。そこで、サウジ政府はIPOを断念し、開示の基準が緩い債券発行へと方針転換する。世界的な低金利環境が続く中、投資家は相応の金利が見込める優良・大型の投資先を渇望していた。また、株主責任を負う株式への直接投資とは異なり、債券投資は国際社会の非難も浴びにくいという事情もあった。 ●構造改革の「先兵」に サウジは政府歳入の7割近くを石油収入に依存する。だが、ここ数年は原油価格の低迷や不安定な値動きが続き、昨年12月に発表した19年の政府予算は5年連続の赤字を見込む。そのため、サウジ政府は増税や補助金の削減など財政健全化に取り組むが、国民に不満が高まって王族支配の根幹すら揺らぎかねない。そうした危機感を背景に、ムハンマド皇太子が16年4月、石油依存の経済構造を脱却しようと打ち出したのが「ビジョン2030」と呼ぶ経済構造高度化構想である。ビジョン2030では、数値目標を掲げて製造業や中小企業の振興など経済多角化を目指すとしたが、その原資として当初期待していたのがサウジアラムコのIPOだった。そのIPOが頓挫したことで経済構造改革の行方も危ぶまれたが、サウジアラムコの起債によって評価を一変させた。また、サウジアラムコはSABIC買収により、油田開発から、石油精製、石油化学と、上流から下流まで一貫操業する巨大企業となり、サウジ政府の改革を資金面で支える先兵ともなる。サウジアラムコは、さらに野心的な目標を掲げる。LNG(液化天然ガス)の輸出プラントを持たず、これまでは原油生産に随伴する天然ガスはフレアとして燃やすだけだったが、アミン・ナセルCEO(最高経営責任者)は昨年11月、30年までに世界最大のLNG輸出国となることを表明。今後10年間で天然ガスに1500億ドルを投資するとし、敵対するLNG大国のカタールやイランを脅かす姿勢を鮮明にした。サウジアラムコは石油化学部門も強化しており、今年2月には中国・遼寧省で中国企業とエチレン生産能力が年間150万トン、石油精製能力が日量30万バレルに達する総額100億ドルの石油精製・石油化学コンビナート建設で合意した。また、中国や韓国、インドネシアなどアジア諸国の製油所にも出資し、貴重な原油輸出先と位置づけるアジア諸国の囲い込みを図っている。債券市場やLNG、石油化学にまで及ぶサウジアラムコの影響力は、もはやとどまるところを知らない。 *3-2:https://mainichi.jp/articles/20200331/ddn/003/010/012000c (毎日新聞 2020年3月31日) 森林環境税の使途、「森の整備」は35% 先行配分、74自治体調査 安倍政権が創設した森林環境税について、全国の道府県庁所在市と政令市、東京23区(計74自治体)の2019年度の使途を調べたところ、最大の目的である「森林整備」に使われるのは、税収配分の見通し額の35%にとどまることがわかった。大都市は管理する森林が少なく、国産材を利用した公共事業に充てるケースが多い。森の荒廃防止を掲げて納税者1人につき年1000円を徴収する新税のひずみが早くも浮かんだ。森林環境税の徴収は24年度からだが、政府は早急な災害対策のために森林整備が急務だとして、別の財源を準備。19年度から先行的に、譲与税として自治体への配分を始めた。 *3-3:https://www.agrinews.co.jp/p50423.html (日本農業新聞 2020年3月31) 森林組合法改正案 役割発揮へ体質強化を 民有林の本格的な利用期を迎え、伐採や植林を担う森林組合の活性化が課題になっている。地球温暖化防止の観点からも期待が高い。山村を支える人々の利益につながるように、組合員の拡大や若返りなどにより森林組合の体質強化を急ぐべきだ。森林組合は、森林所有者である組合員の委託を受けて植林や下刈り、間伐、主伐など山の作業全般的を担う。全国に620余りあり、組合員は151万人に及ぶ。農業との兼業も多い。山村住民の高齢化に伴って組合員の高齢化と減少が進み、総会や総代会などへの参加も減っている。女性の登用も遅れ、正組合員に占める割合は10%、役員に占める割合は0・5%と低水準だ。相続を機に所有者が把握できなくなる事例も相次ぎ、組合活動も滞りがちだという。一方、民有林は、終戦復興や高度経済成長期に造林した森林が主伐期を迎えている。これからが稼ぎ時である。せっかくの財を「宝の持ち腐れ」にしてはならない。また、切った後に植林をしないと山が荒れる。植林から伐採まで計画的に取り組む森林組合の役割は重要度を増す。山村に富をもたらすこの時機を逸してはならない。林野庁は、森林組合法の改正案を今国会に提出し体質強化を後押しする。森林所有者と同居していない子どもら「推定相続人」に正組合員になれる道を開き、人数制限も撤廃する。組合員の若返りと女性の参画を進め、組合活動の活性化を促したい考えだ。総会や理事会での論議も活発になると期待される。森林所有者が将来分からなくなるのを防ぐことにもつながる。問題は実効性だ。親元を離れて暮らす「推定相続人」に、森林管理や組合活動への関心を高め積極的に参加してもらうにはどうするか。また、組合員数が多くなった一部林家の発言力が高まることを懸念する声もある。国会審議では、こうした点について丁寧な論議が必要だ。改正案では一部の事業を他の森林組合などに継承できるようにする「吸収分割の制度」や、新たな連合会を設置して事業を継承できる「新設分割の制度」を設ける。小規模な組合が多様な連携で林産物の輸出など事業拡大を目指すという方向性は一定に理解できるが、リスクも伴う。組合員の理解が不可欠だ。政府は、所在が不明な森林所有者に代わって森林組合が管理できるようにしたり、国有林の樹木を採取できる権利を林業経営者に与えたりする法制度を整備し、本格的な利用期に備えている。また地球温暖化防止や国土保全、水の涵養(かんよう)といった森林の公益的な機能を維持するため、森林環境税を財源にした森林の管理制度を創設し、課税に先行して自治体への資金の譲与を開始した。森林管理の中心的な担い手として、森林組合の役割は一層重要となる。国民の期待に応えられるよう、森林組合改革への一層の取り組みが期待される。 *3-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/594829/ (西日本新聞社説 2020/3/25) 森友学園問題 なぜ再調査をしないのか 決裁文書の改ざんという前代未聞の不祥事は一体、誰が何のために引き起こしたのか。疑惑の真相解明に向けた新たな契機としなければならない。学校法人「森友学園」の国有地売却問題で財務省近畿財務局の担当職員だった赤木俊夫さんが、同省理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)元国税庁長官の指示で決裁文書の改ざんを強制され自殺に追い込まれたとして、遺族が国と佐川氏に損害賠償を求めて提訴した。遺族は赤木さんの手記や遺書も公表した。この問題が発覚したのは2017年2月だ。安倍晋三首相や昭恵夫人の関与も取り沙汰され、首相は同17日の衆院予算委員会で「私や妻が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」と断言していた。手記によれば、近畿財務局の上司から赤木さんに初めて改ざんの指示があったのは、この首相答弁の9日後だった。赤木さんは「全て佐川局長の指示です。学園に厚遇したと受け取られる疑いの箇所は全て修正するよう指示があったと聞きました」としている。手記は関係者が実名で記され、日時や会話のやりとりなど具体的な情報や動きが詳述されている。改ざんに手を染めることへの抵抗と苦悩とともに「財務省が真実に反する虚偽の答弁を貫いていることが最大の原因」「うそにうそを塗り重ねるという、通常ではあり得ない対応」と所属組織を告発している。何より驚かされるのは、こうした遺書や手記を突き付けられても、首相や麻生太郎財務相が「再調査の必要はない」と開き直っていることだ。その論拠は財務省が18年6月に公表した調査報告書と「齟齬(そご)がない」「新事実がない」からだという。財務省の報告書は理財局長だった佐川氏が「方向性を決定づけた」としてはいる。しかし、具体的な指示や動機、背景には踏み込んでいない。いわば核心部分の曖昧さは麻生財務相が当時、いみじくも「それが分かれば苦労しない」と述懐した通りだ。財務省の一局長だけの判断で国会と国民を欺く決裁文書改ざんが可能なのか。そんな疑問も改めて湧く。そもそも財務省の調査は内部調査にすぎず、身内による聞き取りの限界が指摘されていた。ここは第三者機関で再調査するのが当然ではないか。国会にも注文したい。立法府もまんまと財務省に「だまされた」問題である。与野党の別なく、国政調査権を駆使して政府と財務省の姿勢をただすべきだ。「刑事訴追の恐れがある」として証人喚問で肝心な部分の証言を拒んだ佐川氏の再喚問が必要なのは言うまでもない。 *3-5:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1103589.html (琉球新報社説 2020年4月8日) 辺野古軟弱地盤工事 基地建設ありきを改めよ また計画のずさんさが露呈した。血税の無駄遣いをこれ以上、許してはならない。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が大打撃を受けている中ではなおさらだ。名護市辺野古の新基地建設を巡り、軟弱地盤の改良工事に向けて政府が設置した有識者会議「技術検討会」の説明資料に20カ所のミスが判明した。護岸の安定性に関する数値の間違いに加え、計算結果が正しく反映されていない図表、粘性土の強度を示すグラフにも修正箇所があった。間違ったデータを基に審議していたことは大きな問題だ。軟弱地盤を巡っては、防衛省が3月までに少なくとも6件の護岸・岸壁工事の発注を打ち切っていたことも判明している。うち5件は護岸や岸壁そのものの建設に至っていないにもかかわらず、一部の工事や地質調査などに使われた経費として6件で計約303億円が業者に支出された。軟弱地盤が明らかになった影響で護岸建設を先送りせざるを得ないのが理由だ。この宙に浮いた多額の税金の使途について防衛省は詳細に説明する責任がある。無駄遣いになった経費があれば、極めて重大な問題だ。防衛省は本紙の取材に対し一部事業の最終支払額を3桁も間違え、224億7785万9千円を2億9214万円と説明していた。護岸本体には着工せず浮具や調査などに当初契約の約1・4倍の支出をしていた。税金の使い方が極めて乱暴だ。ここまでミスが続けば、政府の説明の信頼性は完全に失われたと言っていい。新基地建設ありきでなりふり構わず工事を進める姿勢が原因だろう。事業の可否判断や評価の基になるデータがずさんなのだから、事業を中止して再調査や検証をすべきである。辺野古を調査した専門家が防衛省のデータや検討会の審議の在り方を疑問視して質問状を送っても、政府、検討会のいずれも再検討を拒否した。このやり方は、通常の公共工事の進め方から逸脱している。行政をゆがめる手法だ。辺野古の新基地建設を巡っては、軟弱地盤以外にも、米国が設定した飛行場周辺の高さ制限の逸脱や活断層など、建設計画策定後に新しい事実が次々と判明した。政府は総工費を当初の2・7倍に上る9300億円、完成までの期間は12年に試算を変更した。巨額の税金を使ってまで工事を強行するのは、県との裁判を有利に進め、埋め立ては止められないという既成事実をつくるためだろう。基礎的データの修正や計画変更が相次ぐずさんな工事に膨大な血税を投じるのはばかげている。県が設けた専門家会議は辺野古に固執せず在沖米軍基地を県外・国外へ分散することが「近道」と提唱している。新型コロナ対策で多額の財政支出が必要な中、辺野古新基地は最大の無駄遣いと言える。政府は基地建設ありきの強硬姿勢を改め、建設を即刻断念すべきだ。 <10万円の給付とふるさと納税> PS(2020年4月23日追加):*4-1のように、広島県の湯崎知事が、「緊急経済対策として県職員が国から受け取る現金10万円を、県の対策事業の財源に活用したい」という考えを表明して波紋を広げたが、私も、公務員やサラリーマンの多くは、新型コロナ感染防止のための外出自粛や休業要請で所得が減るわけではないため、現金10万円を受け取った上で、困っていない人は自主的に寄付してよいと思う。その際、*4-2-1・*4-2-2のように、農漁業は政府の臨時休校要請で学校給食が停止し、農畜産物の供給が混迷して牛乳・野菜の販売が滞っているため、これらを返礼品にして「ふるさと納税(居住地の自治体でも可)」を募ったらどうか? 公務員の皆さんは、各自治体の政策や返礼品を比べつつ、自分の自治体でさらに工夫できる余地を考えれば、次に活かせると思う。 *4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202004/CK2020042202000275.html (東京新聞 2020年4月22日) <新型コロナ>職員の「10万円」 県財源に 「給付から寄付」念頭 広島知事発言波紋 広島県の湯崎英彦知事は二十一日、緊急経済対策として県職員が国から受け取る現金十万円を、県の対策事業の財源に活用したい考えを表明した。自主的な寄付として募り、新たに設ける基金に積み立てる手法などを念頭に、仕組み作りを急ぐ。国による十万円の給付は全ての国民を対象に五月から始まる見通しで、湯崎知事の突然の発言は波紋を広げている。県職員連合労働組合の大瀬戸啓介中央執行委員長は「驚いている。新型コロナの感染防止で職員は懸命に働き、家庭状況もさまざまだ。一律の対応を求められるのかなどを注意深く見守る」と話した。湯崎知事は休業要請の協力金について発表した記者会見で、県職員が受け取る十万円の扱いについて言及した。協力金や他の対策に多額の費用がかかるとの見通しを説明。「必要な財源が圧倒的に足りない。捻出する時に、今回(国から)給付される十万円を活用することで、聖域なく検討したい」と強調した。具体的な仕組みについては「まさに検討しなければならない」と述べ、制度設計を急ぐとした。県職員が受け取った十万円を積み立てる基金を新たに創設し、事業費に充てる方策かという問いには「そういうイメージだ」と応じた。県によると、知事が任命権を持つ県職員は四千四百五十一人(四月一日時点)。全職員から十万円を集めると、四億四千五百万円余りとなる。 *4-2-1:https://www.agrinews.co.jp/p50200.html (日本農業新聞 2020年3月5日) 学校給食停止 産地、業者の救済不可欠 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた政府の臨時休校要請で学校給食が停止し、農畜産物の供給が混迷している。牛乳や野菜の販売でキャンセルが相次ぐ。このままでは産地や関連事業者の売り上げ減少は必至。政府の支援が欠かせない。春休みを前に学校給食は例年より2週間早く停止した。影響が大きいのは給食向け牛乳(学乳)だ。国内の飲用向け生乳生産量(年間約400万トン)の1割近くを占める。仕向け量が多い関東では10万トンを学乳に供給するが、2週間で7500トンもの生乳が行き先を失う恐れがある。指定団体には、メーカーから取引休止の連絡が相次ぐ。北海道から都府県への生乳移送もキャンセルが発生している。乳業業界は、加工原料乳に振り向けようと対応に追われる。しかし、乳製品工場は人員の確保が難しく、処理能力にも限りがある。観光客の大幅落ち込みが響き、土産用の加工品の需要が低下している。酪農家は影響の長期化を不安視する。文部科学省によると、学校給食の1人1食当たりの食品別摂取量(2017年度)は、牛乳が200グラムで最多。野菜類が91グラムと続き、米や果実など幅広く供給している。全国学校給食会連合会によると、給食のメニューや調達する食材は1カ月前に決めているところが多く、影響は広がる見通しだ。JA東京むさし小平支店は、地元の小学校や中学校の学校給食センターに食材を提供してきたが、3月分の野菜などの契約4500キロが全てキャンセルとなった。食材を供給する他のJAからは「学校給食は安定した単価で買い取ってもらっていた」と影響を懸念する。給食向け食材に占める国産割合は76%、地元食材に限っても26%に及ぶ。農畜産物の重要な販売先で、産地は安定した取引が見込める。給食は児童や生徒が国産食材の魅力に触れる。食育の観点からも重要だ。新型コロナ問題で農畜産物の売り先がなくなり、取引価格の低下や廃棄する事態になれば、給食を支える産地や関連事業者にとって大きな痛手となる。政府の支援が求められる。萩生田光一文科相は「関係省庁と連携し、事例に応じて具体的な対応を検討していく」と発言。生乳を加工原料乳に仕向けると牛乳より販売価格が安くなるが、江藤拓農相は「(減収分は)何らかの手だてをしたい」と支援に前向きな姿勢を示した。産地や業者が今後も事業を継続できるよう、政府は早急に救済の具体策を示すべきだ。一斉休校で子どものいる家庭では自宅で過ごす時間が長くなる。給食や外食の機会が減った分、家庭での消費が高まっている。行き先を失った農畜産物の廃棄は何としても避けたい。農水省はホームページで牛乳や牛肉、野菜、切り花といった農畜産物の家庭での消費を呼び掛けている。窮状にある産地を応援する輪を広げていこう。 *4-2-2:https://www.agrinews.co.jp/p50599.html (日本農業新聞 2020年4月21日) [新型コロナ] 緊急事態宣言で需給緩和 生乳 家庭消費拡大を メーカーに支援策 農水省 農水省は20日、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた緊急事態宣言に伴い、業務用の牛乳乳製品需要が減退したことで、「生乳需給が大幅な緩和局面に入った」と厳しい認識を示した。産地で生乳が増産傾向となる一方、全国的な一斉休校に伴い需要の低迷が続く。「家庭用消費の一層の拡大を図ってほしい」と訴え、バターやチーズの増産で需給調整に協力する乳業メーカーへの支援策も示した。同省は同日に臨時の記者会見を開いた。乳業メーカーからの聞き取りを基に、生クリームなど業務用の牛乳乳製品の落ち込み分を算出すると、3月は2割減、緊急事態宣言発令後の4月は5~7割の減少を見込んだ。乳製品を主に作る北海道は、4月だけで生乳換算で7~9万トンの業務用需要がなくなるとした。同省は6月中旬にかけての需給調整は予断を許さないとの認識を示す。在庫が潤沢な脱脂粉乳へは、生乳から仕向けられる量に限界があるとする。できる限り家庭内で牛乳・乳製品の消費を増やし、行き場を失う生乳の発生を未然に防ぐことを目標に掲げた。具体的には、18歳未満の子どもが週1回コップ1杯分(200ミリリットル)牛乳を飲む量を増やすことで、学校給食の1週間分(9500トン)の約4割に相当する生乳が消費されると試算。インターネット交流サイト(SNS)やホームページなどで、「もうあと1杯、もうあと1本飲んでもらいたい」と、家庭での購入を促す考え。合わせて、チーズやバター、全粉乳などの製造を増加することで、需給調整に協力するメーカーには19億円の予算を措置し、生乳1キロ当たり数円の支援を行うと表明。「事業の具体的な要綱については、近日中に明らかにする」(牛乳乳製品課)としている。 <日本の製造業と医療> PS(2020年4月24日追加):*5-1-1のように、埼玉県の50代と70代の男性が自宅待機中に容体悪化で死亡する事例が発生したが、そもそも厚労省が作った“軽症者”の定義がおかしく、急性疾患である感染症に自宅療養を優先するという判断も変だったのである。本来は、学校閉鎖した3月上旬には、医師・看護師が常駐するホテルを準備して速やかに検査・治療・療養を行う体制にすべきだったし、それは可能だった筈だ。にもかかわらず、死人を出すまで動かないのが日本の行政の怠慢で、それに加えて「子育ての関係で自宅療養を選択せざるを得ない人」というのは、家事や子どもの世話が外出を伴う重労働であることを考えれば、厚労省の言う“軽症”の感染症を抱えた人は不可能なのである。 このような中、*5-1-2のように、米国NY州で無差別サンプリングによる抗体検査を実施した結果、陽性が約14%で、州全体で26万3000人確認されている感染者数は実際にはその10倍の約270万人となり、大都市のニューヨーク市では21.2%が陽性だそうだ。日本は、未だに「抗体検査の信頼性が100%ではないので・・」などという馬鹿なことを言っている人がいるが、何もわからないよりは多少の誤差があっても概要がわかった方がずっとましなのである。また、*5-1-3のように、英オックスフォード大学の研究チームが、2020年4月23日、新型コロナウイルスのワクチン候補を使った臨床試験を開始し、世界中では少なくとも5例の治験が行われており、ドイツも、2020年4月22日、ビオンテックが開発する新型コロナワクチンの治験を認可したそうだ。日本では、また厚労省が何とかかんとか言って、新型コロナの流行が終息した頃にワクチンが認可されるかもしれないが、それでは意味がなく、*5-2-1のようなことがいつまでも解決されずに続くのだが、これが日本の医療行政の現状なのである。 さらに、*5-2-2・*5-2-3のように、政府が配布を進める布マスクのようなローテク製品でさえ、虫・髪の毛・糸くずの混入やカビの付着など不良品が相次ぐ始末だ。マスクに他の細菌やウイルスがついていれば有害であるため、製造工程の衛生管理は重要だ。そのため、私は送ってきたらまず洗浄・除菌してから使おうと思っていたが、それにしてもこの布マスクは、政府が国内の商社など納入業者5社(興和:54億8000万円、伊藤忠商事:28億5000万円、マツオカコーポレーション:7億6000万円、3社の合計90億9000万円)を通して中国・ベトナム・ミャンマーから調達したのだそうだ。厚労省は、それぞれの調達枚数を明らかせず、「開示すれば、マスクの単価を計算できることになり、今後の調達などに影響を及ぼす恐れがある」などと説明しているそうだが、①マスクさえ外国に発注しなければ作れず ②管理もせずに衛生管理の悪い環境で制作させ ③単価は国民に公表できないほど高い というのが、(あまりに情けないものの)日本の製造業の現状と言わざるを得ないようだ。 ![]() ![]() ![]() 2020.4.24読売新聞 2020.4.8毎日新聞 2020.4.8東京新聞 (図の説明:左図は、抗体検査によるニューヨーク州の推定新型コロナ感染者数で、予防しにくい階層・人種の感染者割合が高いことがわかる。中央の図は、行動制限をした場合の東京・大阪の予想感染者数推移で、右図は、行動制限を続けた場合の経済への打撃とその対策だ) *5-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/515852 (佐賀新聞 2020.4.24) 埼玉死亡受けホテル療養移行急ぐ、自宅待機の患者数把握も 加藤勝信厚生労働相は24日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症で自宅療養中の患者数を把握する考えを示した。埼玉県内の50代と70代男性が自宅待機中に容体が悪化して死亡する事例が発生したことを受けての対応。自治体が用意し、看護師らが常駐するホテルや宿泊施設での療養に速やかに切り替える。一方、埼玉県の大野元裕知事は24日、「このような事態に至ったわれわれの責任は重い」と記者団に述べた。基礎疾患のない軽症者や無症状者の自宅待機を認める方針を改め、原則としてホテルでの療養に切り替える。加藤氏は「自宅療養と宿泊療養の内訳について都道府県から情報を得るよう努力したい」と強調。子育ての関係で自宅療養を選択せざるを得ない人もいるとして「患者や家族へのフォローアップをしっかりするよう自治体にお願いしている」と述べた。施設の準備が整わなければ引き続き自宅を容認する。厚労省は今月2日、病床の逼迫による医療崩壊を避けるため、軽症や無症状感染者は宿泊施設やホテル、自宅での療養を検討するよう都道府県に通知。加藤氏は23日になってホテルや宿泊施設での療養を基本とすると方針転換した。厚労省はマニュアルを作成し、宿泊施設では保健師か看護師が日中は常駐し、医師も電話で対応することや、症状悪化時に適切に対応できるよう搬送手段や受け入れの医療機関と事前に調整するよう求めている。高齢者や妊婦、糖尿病などの基礎疾患がある人などは重症化のリスクが高いため、原則入院となる。 *5-1-2:https://news.biglobe.ne.jp/international/0424/0585979323/tbs_tab.html (TBS 2020.4.24) 米NY州抗体検査で陽性14%、感染者数 公式発表の10倍か アメリカ・ニューヨーク州で、新型コロナウイルスに感染したことがあるかを調べる抗体検査を実施した結果、陽性がおよそ14%だったことがわかりました。感染者の数が公式発表の10倍にのぼる可能性があるということです。ニューヨーク州のクオモ知事は23日、感染の実態を把握するため、アメリカで初めて実施した大規模な抗体検査の結果を発表しました。それによりますと、州内各地でおよそ3000人を無作為で抽出し、抗体検査をしたところ、全体の13.9%が陽性でした。大都市のニューヨーク市では21.2%が陽性で、5人に1人以上が感染していたことになります。州全体ではこれまで26万3000人の感染者が確認されていますが、抗体検査の感染率から、その10倍のおよそ270万人が感染した可能性があるということです。その場合、致死率は低くなり、感染者のおよそ0.5%になるとしています。 *5-1-3:https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/04/post-93231.php (Newsweek 2020年4月24日) オックスフォード大、新型コロナウイルスのワクチン治験開始 英オックスフォード大学の研究チームが23日、新型コロナウイルスのワクチン候補を使った臨床試験を開始した。ワクチンの有効性や副作用の有無を調べる。新型コロナワクチンを巡っては世界中で100種程度の候補が開発中で、少なくとも5例の治験が行われている。ドイツ当局は22日、バイオ医薬ベンチャーのビオンテックが開発する新型コロナワクチンの治験を認可した。[ロイター] *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200423&ng=DGKKZO58359930S0A420C2MM8000 (日経新聞 2020.4.23) 綱渡りの中小支援、33都道府県が協力金、資金難なお深刻 新型コロナウイルスの感染拡大で中小企業の資金繰り不安が増すなか、33の都道府県が休業協力金を給付することが分かった。先行する東京都は最大100万円の給付金の受け付けを22日に始めたが、関係書類をそろえるなどの手続きは煩雑で、支給まで2週間かかる。緊急事態宣言が5月7日以降も続いた場合、都が確保した960億円の予算は不足しそうだ。経済の土台をなす中小支援は綱渡りの状況だ。日本経済新聞が22日時点の状況を調べたところ、高知や沖縄など37都道府県が感染拡大を防ぐため休業要請を決めた。このうち33都道府県が要請に応じた事業者への協力金など支援策を用意する。先駆け事例となるのが都で、休業や時短営業の要請に応じた事業所や店舗に協力金を給付する。支給額は1店舗なら50万円、複数店舗なら100万円だ。この日は受け付け開始の午後3時以降、130回線ある都の問い合わせ用電話がひっきりなしに鳴り続けた。事業者が気にするのはそろえるべき書面だ。所定の申請書のほか、都が休業要請した11日以前に営業していたことを示す書類、営業に必要な免許や許可を得ていることが分かる書類などが必要だ。都は税理士や公認会計士などの専門家による事前の書面審査を奨励し、チェックが無ければ「支給まで時間を要する場合がある」とした。台東区の焼肉店経営者は22日にすぐ協力金を申請しようと準備していたが、専門家が見つからず断念。後日、税理士に相談したうえで郵送で申請することにした。この経営者は「個人で申請するのは難しい」と話す。デジタル対応の壁もある。都内でバーを営む女性経営者は22日、協力金の申請書類一式を、知り合いの税理士に送った。申請には「休業の状況が確認できる書類」が必要。店舗のホームページがあれば休業を告知する画面を印刷するだけで済むが、パソコンとは無縁だ。休業日を手書きした張り紙を急ごしらえし店舗のドアに貼り付けて写真を撮った。給付を受けてもビジネスが成り立つかは事業者による。都内に和食居酒屋など2店舗を持つ経営者は「100万円では家賃や人件費をまかなえない」と話す。4月に新店舗を開く予定だったため、3店舗分の費用がかかっている。今は夜間は店を閉めているが、固定費だけで毎月300万円以上かかるという。支給開始が5月7日以降となることも「翌週の資金繰りすら危うい中小には厳しい」(都内の弁護士)との指摘がある。申請できるのは都の休業要請に従う事業者だが、線引きが難しい場合もある。食料品の専門店を百貨店に展開している都内の中小企業は全店舗の7割近くとなる20店弱を休業中。一部は都ではなく百貨店の要請で休業しており「対象になるのかわからず困っている」(同社社長)。13万事業者の申請を念頭に960億円の予算を確保した協力金だが、緊急事態宣言を政府が延長した場合、都の休業要請も延びる見通し。事業者の資金繰り負担は増え、都幹部も「2回目の給付も想定しなければならない」と話す。日本の中小企業数は2016年時点で約358万社あり、大企業も含めた企業数全体の99%を占める。働く人は約3220万人と、大企業(約1460万人)が抱える雇用の2倍超だ。資金支援は財政力がある都が先行したが、その後に政府が総額1兆円の地方創生臨時交付金を協力金に充てることを決定した。二の足を踏んでいた自治体も一気に休業要請と協力金の創設に動き出したが、期間が長引けば財政負担も高まる。経済の痛みを最小限にとどめるためにも、実効性ある感染対策が不可欠だ。 *5-2-2:https://mainichi.jp/articles/20200421/k00/00m/040/185000c (毎日新聞 2020年4月21日) 虫混入、カビ付着…全戸配布用の布マスクでも不良品 政府、公表せず 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、政府が配布を進める布マスクに、虫が混入するなど不良品が相次いで確認されている。厚生労働省は18日、妊婦向けの布マスクのうち1901件について不良品の事例を発表し、21日に妊婦向けマスクの配布中止を決定。しかし、政府のマスク等物資対策班の関係者によると、18日時点で全戸配布用に準備していたマスクでも不良品が発見されており、これについては公表していない。政府の衛生面での認識が問われるとともに、全戸配布のスケジュールにも影響しそうだ。布マスクは政府が一括して購入し、全国5000万世帯に2枚ずつ配布する計画で、約466億円が投じられる。先月下旬から、妊婦向けに50万枚▽高齢者の介護・福祉施設向けに1930万枚▽小中高校に800万枚――を優先的に配布。続いて感染者の多い東京都内などで全戸配布が始まっている。厚労省は18日、妊婦向けの布マスクに関して「変色している」「髪の毛が混入していた」「異臭がする」などの報告が相次ぎ、80市町村で1901件の報告があったと発表。大阪府内の自治体では、ガーゼの黄ばみや変色、ゴミの混入も確認。発表を受け、ツイッター上では「健康被害はないのか」「安心して使えない」などの不安の声が広がった。しかし、政府の対策班に配られた内部文書によると、18日時点で妊婦向け以外の全戸配布用に包装を始めた200万枚のうちでも、虫や髪の毛、糸くずの混入、カビの付着など200件の異物混入などの問題事例を確認。これについては公表しなかった。マスク配布を担当する厚労省経済課は、妊婦向け以外の不良品を非公表とした理由について「回答できない」とし、全戸向けのマスク配布については「現時点で中止は検討していない」としている。 × × 相次ぐ異物混入などの発覚を受け、政府は各都道府県に注意喚起の通達を出し、一部の業者が製作したマスクについては全品回収を始めた。マスクの製造企業名などは公表されていないが、政府関係者によると、国内の商社など納入業者5社が中国やベトナム、ミャンマーから調達している。(以下、略) *5-2-3:https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3961647.html (TBSNews 2020年4月22日) 政府配布の布マスク、3社から90億円あまり 新型コロナウイルス対策で全世帯に配布する布マスクについて、政府が大手商社など3社から、合わせて90億9000万円で調達していたことが明らかになりました。これは、社民党の福島みずほ党首が厚生労働省からの回答としてツイッターで明らかにしたもので、興和が54億8000万円、伊藤忠商事が28億5000万円、マツオカコーポレーションが7億6000万円でした。3社合わせて90億9000万円ですが、政府は、布マスクの費用を総額で466億円と説明しており、福島氏は差額についてさらに問い合わせるとしています。また厚生労働省は、それぞれの調達枚数も明らかにしておらず、「開示した場合、マスクの単価を計算できることとなり、今後の調達などに影響を及ぼす恐れがある」などと説明しています。布マスクをめぐっては、全国の妊婦のために配布した布マスクに汚れなどが相次いで見つかっていますが、厚生労働省は共産党の小池書記局長の問い合わせに対して、妊婦向けマスクの製造メーカーはこれら3社を含む4社であることを明らかにしています。 <日本の産業と農家の収益性> PS(2020年4月25、26、27日追加):*6-1に記載されている「①食料を供給し暮らしを支えているのは農業」「②大都市への人口集中の危険性を露呈」「③事態が収束すれば、農山村への田園回帰の流れはますます広がる」「④テレワークが広がり、分散型社会の必要性とその可能性を立証している」「⑤効率性・採算性による医療再編の動きを看過してはならない」「⑥キーワードは持続可能性」のうち、①は漁業も入るものの事実だ。また、大都市で生まれ育って並ぶこと自体に意義を感じるようになった集団を見ると、他にすることはないのかと思う。しかし、こういう人が多数派を占める②の状況は問題であるため、③④は必ず進めるべきだ。また、分散しなければ、災害時も考慮した⑥の持続可能性は、視野に入らない。そのインフラとなる⑤の医療再編は、本物の効率性・採算性は考えるべきだが、セキュリティーまで考慮したものでなければならないし、病気(特に急性疾患)への対応は時間との勝負なのである。 このような中、*6-2のように、日米貿易交渉は食料自給率を無視し、日本の産業は自動車と自動車部品さえあればよいかのような交渉をしているが、これもおかしい。今後、何を売って、どこから、どういう品質の食料を買うつもりなのか? “食料生産力”さえあれば、日頃から生産していなくても高品質のものを生産できると考えるのは、マスクの事例を見ればわかるとおり、甘すぎて馬鹿げた幻想にすぎない。 さらに、*6-3のように、国の登録品種から農家が「種取り・株分け」することを禁ずる改正種苗法案が国会の審議に入り、農家の自家増殖が一律禁止されるそうで、これは優良なブドウやイチゴの登録品種が海外に持ち出されにくくするためとされているが、優良品種の流出防止なら海外でも品種登録すればよく、海外で品種登録が認められない程度の“新”品種なら、日本の農家が自家増殖するのも自由であるべきだ。また、主要農作物種子法を「民間の開発意欲を阻害する」という理由で廃止し、国や都道府県の試験研究機関が保有する種苗に関する知見を海外企業も含む民間企業へ提供するよう求めているのは、これまで金を払って作ってきた国民の財産を無償で提供するもので、特許権の価値を無視したものである。 なお、*7-1のように、北海道は、4月23日、「北海道短期おしごと情報サイト」を立ち上げ、農家などの人手確保に悩む職種が求人情報を掲示し、休業等で短期的な仕事を求める人を結び付けて人手不足解消を支援するそうだ。外国人技能実習生が入国できない状況で、運送業・小売業も人手不足に拍車が掛かっているため、よいアイデアだと思う。また、牛乳や乳製品等の需給緩和については、牛乳・卵は免疫強化にも役立つので、2000ml入りの牛乳パックを作ったり、冷凍できる乳製品を作ったりするのがよいと思う。 また、農業の人手不足については、*7-2のように、鹿児島県鹿屋市の堀之内さんが、梅園地を中国人の岳淑芬さん(31歳、女性)と劉亜男さん(30歳、女性)に託す準備を進めているそうだ。2人は事務所の電話に滑らかな日本語で応えたり、パソコンに向かって売上・仕入のデータを入力できたり、現場で農作業の指示を出したり手本を見せたりもでき、やる気と誠意と能力があるという意味で人柄がよいのだろう。 農水省は、*7-3のように、新型コロナ感染拡大の影響で外国人技能実習生らが来日できずに人材確保が難航している農家を支援するため、代替人材を雇って労賃が予定を上回った場合の掛かり増し分を1時間500円を上限として、交通費、宿泊費、保険料とともに補助の対象とするそうだ。技能実習生の代わりに学生やJA職員らが援農する際の費用も支援し、これは農業高校・農業大学校・JAなどを対象とするそうだが、私は、大学生(特に農学・生物学・工学・栄養学専攻など)も良い経験になるため、入れた方がよいと思う。 ![]() ![]() ![]() (図の説明:左から、米作、ブドウ、りんご。田畑で並んでいる人などはおらず、農業はいつも人手不足。コミュニケーションは土や植物と行い、自然は美しい) ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:上は、ふるさとチョイスで牛乳と卵から検索した写真。1番左はオホーツクの牛乳、左から2番目は高千穂牧場の乳製品、右から2番目はダチョウの卵を使ったアイスクリーム、1番右は抗生物質・薬品不使用の卵が80個も入った箱で、その豊かさに笑顔になった) *6-1:https://www.agrinews.co.jp/p50538.html (日本農業新聞 2020年4月14日) “国難”の先を見る 持続社会へ教訓学ぼう 国難を乗り切り、どんな社会を切り開くのか。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。社会のもろさが表明化し、恐怖と緊張、閉塞(へいそく)感が覆う。危機の中で、食料を供給し暮らしを支えているのが農業だ。大切さが改めて認識され始めた。“コロナ後”を見据え、農を基に持続可能な社会を考えたい。新型コロナウィルスの感染者の急増を受けて政府は、7都府県に対し一定の私権の制限が可能となる緊急事態宣言を出した。対象地域だけでなく全国の住民が不安な日々を余儀なくされ、外出自粛や入国制限などで、飲食店や観光を中心に地域経済は深刻な打撃を受けている。政府は万全の対策をスピード感を持って行うべきだ。コロナ禍から教訓を学び収束後の社会を展望することが、考えや行動、働き方を変え危機を乗り切ることにつながる。キーワードは持続可能性だ。感染者は東京都や大阪府などで急増。大都市への人口集中の危険性を露呈した。食品の買いだめも発生し、食料確保への都市住民の不安感も表面化。そんな今だからこそ、“ポストコロナ”を見つめる力を持ちたい。事態が収束すれば、農山村への田園回帰の流れはますます広がるだろう。今は行き来が難しいが、都市と農村の連帯が重要となってくる。さらに、多くの企業が在宅勤務に移行し、遠隔でも仕事ができるテレワークが広がっている。分散型社会の必要性と、それが可能であることを立証しているといえる。働く場所や時間を柔軟に選べるようにすることは働き方改革と、ライフスタイルや価値観に合った生き方ができる社会づくりにつながる。企業にとってもリスクを軽減できるという価値がある。「今こそ農業の底力を示す時だ」。こう意気込む農家がいる。農の価値や食料自給、流通の重要性を人々が感じている。お金があるから肉や野菜、米が食べられるのではない。土と水が、豊かな農村があり、技を持つ農家と、集出荷や物流、加工、販売に携わる人がいるからこそ、食べ物が手に入る。そして医療の大切さ。厚生労働省は公的医療機関の再編を促しているが、命に直結する問題である。効率性や採算性による再編の動きを看過してはならないと言える。感染源を巡る差別や、失業者の増加や賃金低下による所得格差の拡大などで、今後さらに社会の分断が深まる恐れがある。災害時に必要なのは助け合いだ。休校になった子どもに弁当が配られたり、需要が減った農畜産物の“応援消費”が活発になったりしている。分散型社会や農業・農村、流通、医療、助け合いの大切さなどコロナ禍の教訓はいくつもある。これらは暮らしの安全保障の基盤でもある。自制心と冷静さで外出を自粛しつつ、未来に目を向け、歩み始めよう。 *6-2:https://www.agrinews.co.jp/p50606.html (日本農業新聞 2020年4月22日) [新型コロナ] 日米協定 新型コロナ拡大が波及 予備協議先送り 日米貿易協定の追加交渉に向けた両国の予備協議の行方が不透明な状況となってきた。4月末までに協議を整える方針だったが、両国で新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、協議が進展していないことなどが影響している。米国大統領選も本格化し、追加交渉を巡る動きは先送りの様相が濃くなってきた。ただ、米国は依然として追加交渉に対する意欲を持っており、予断を許さない状況は続く。日米両首脳が昨年9月に署名した日米共同声明では、協定発効から4カ月以内に「関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題」の中から交渉範囲を決める協議を終える方針を示している。このうち、関税について日本政府は「自動車、自動車部品以外は想定をしていない」(交渉を担った茂木敏充外相)としているが、関税交渉が始まれば双方の攻めと守りの品目の駆け引きは必至。農業分野が除外されるかは不透明だ。両政府は協議を「複数回行っている」(同)。ただ、交渉関係者によると日程調整などにとどまり、交渉範囲を具体化させる協議には至っていないとみられる。正式な予備協議は電話での対応も想定している。新型コロナも協議に影響を与えつつある。日本では感染者が1万人を超えたが、米国は世界で最も深刻で感染者は70万人、死者は4万人を超えた。首都ワシントンの外出制限で、交渉を担う米通商代表部(USTR)は担当者が出勤できないといい、在米日本大使館では感染者も出ている。日本政府関係者は「この1、2カ月は接触すらできていないのではないか」としている。交渉範囲を決める予備協議が進んだとしても、実際の交渉は、米国大統領選以降との見方が強い。既に選挙戦は本格化。トランプ大統領と、バイデン前副大統領の一騎打ちの構図が固まり、投開票まで半年余りとなっている。とはいえ、米政府は追加交渉への意欲は失っていない。3月31日に公表した外国貿易障壁報告書では日米協定を成果として誇示した一方、「全ての農産品をカバーしていない」と指摘。追加交渉への意欲を表明した。日本の米や豚肉の輸入制度などにも改めて懸念を示している。 *6-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020042502000153.html (東京新聞社説 2020年4月25日) 種苗法改正 農業崩壊にならないか 国の登録品種から農家が種取りや株分けをすることを禁ずる改正種苗法案が、大型連休明けにも国会の審議に入る。国民の命を育む食料の問題だ。コロナ禍のどさくさ紛れの通過は、許されない。現行の種苗法により、農産物の新しい品種を生み出した人や企業は、国に品種登録をすれば、「育成者権」が認められ、著作権同様、保護される。ただし、農家が種取りや株分けをしながら繰り返し作物を育てる自家増殖は、「農民の権利」として例外的に容認されてきた。それを一律禁止にするのが「改正」の趣旨である。原則容認から百八十度の大転換だ。優良なブドウやイチゴの登録品種が、海外に持ち出されにくくするためだ、と農林水産省は主張する。果たして有効な手段だろうか。もとより現政権は、農業に市場原理を持ち込むことに熱心だ。米や麦などの優良品種の作出を都道府県に義務付けた主要農作物種子法は一昨年、「民間の開発意欲を阻害する」という理由で廃止。軌を一にして農業競争力強化支援法が施行され、国や都道府県の試験研究機関が保有する種苗に関する知見を、海外企業も含む民間企業へ提供するよう求めている。そこへ追い打ちをかけるのが、種苗法の改正だ。対象となる登録品種は、今のところ国内で売られている種子の5%にすぎず、農家への影響は限定的だと農水省は言う。だが、そんなことはない。すでに種子法廃止などにより、公共種子の開発が後退し、民間種子の台頭が進んでいる。その上、自家増殖が禁止になれば、農家は許諾料を支払うか、ゲノム編集品種を含む民間の高価な種を毎年、購入せざるを得なくなる。死活問題だ。小農の離農は進み、田畑は荒れる。自給率のさらなる低下に拍車をかけることになるだろう。在来種だと思って育てていたものが実は登録品種だったというのも、よくあることだ。在来種を育てる農家は絶えて、農産物の多様性は失われ、消費者は選択肢を奪われる。そもそも、優良品種の流出防止なら、海外でも品種登録をした方が有効なのではないか。何のための「改正」なのか。種子法は、衆参合わせてわずか十二時間の審議で廃止になった。種苗法改正も国民の命をつなぐ食料供給の根幹にかかわる問題だ。今度こそ、十二分に議論を尽くしてもらいたい。 *7-1:https://www.agrinews.co.jp/p50617.html (日本農業新聞 2020年4月24日) 北海道がコロナ対策 農家に働き手仲介 サイトで休業者に 北海道は23日、農家に働き手を仲介するインターネットサイトを立ち上げた。農業など人手確保に悩む職種が求人情報を掲示し、ホテルや飲食店の休業などで短期的な仕事を求める人を結び付ける仕組み。新型コロナウイルス感染拡大の影響で深刻化している農家の人手不足解消を支援する。 ●SNSで需要喚起 立ち上げたのは「北海道短期おしごと情報サイト」。道が同日発表した新型コロナの感染拡大に伴う新たな経済対策の柱の一つとなる。道内では、観光客の激減で多くのホテルや飲食店などが従業員の雇用を続けるのが厳しい状況にある。一方、農業は定植などの繁忙期にもかかわらず、外国人技能実習生が入国できない産地があるなど、運送業や小売業などとともに人手不足に拍車が掛かっている。サイトでは人手不足に悩む道内の農家や企業などが、募集する仕事の場所や内容、時給、連絡先といった情報を登録する。登録するのは農業や運送業、小売業などを想定している。募集対象は6カ月以内の短期のアルバイト。情報は誰でも確認ができ、求人者に連絡を取り調整する。道が同日発表した新たな経済対策には、道産食品の消費拡大策も盛り込まれた。牛乳・乳製品については、小・中学校の臨時休校などで生乳需給が緩和し、乳製品の保管が限界に達してきている状況だ。そこで「SОS! 牛乳チャレンジ」と題した需要の喚起策に取り組む。牛乳を飲んでいる姿をインターネット交流サイト(SNS)に投稿し、フォロワーに牛乳の消費を呼び掛けてもらうという試み。牛乳が苦手な場合は、飲むヨーグルトやチーズでもよいという。同日開いた臨時の記者会見で鈴木直道知事は「私も近いうちに牛乳をがぶがぶ飲んで投稿したい」と話し、積極的な投稿を呼び掛けた。 *7-2:https://www.agrinews.co.jp/p50618.html (日本農業新聞 2020年4月24日) 育てた園地 荒れさせぬ 元技能実習生を後継者に 「大切なのは人柄」 鹿児島県鹿屋市の梅農家 堀之内辰男さん 鹿児島県鹿屋市の堀之内辰男さん(80)は、梅園地を中国人の岳淑芬さん(31)と劉亜男さん(30)に託す準備を進めている。2人は堀之内さんが10年以上前に受け入れた元技能実習生。後継者が見つからず悩んでいた堀之内さんのため、在留資格を取って日本に定住した。堀之内さんは「自分が造った園地を地域に残せる」と安堵(あんど)する。「はい、堀之内農園です」。事務所の電話に滑らかな日本語で応える。パソコンに向かえば売り上げや仕入れデータの入力作業もこなす。営業部長である岳さんの仕事だ。加工部長の劉さんは現場で農作業の指示を出す。日本人には日本語で、中国人実習生には中国語で。剪定(せんてい)などの手本を見せていく。どちらの仕事も以前は堀之内さんだけで担っていた。引退を見据え、2人に仕事を引き継いだ。「まだ危なっかしいところはあるけど、あと1、2年で任せられるかな」。堀之内さんは手応えを感じ、笑みを見せる。2人は2007年、堀之内農園に技能実習生としてやってきた。当時、堀之内さんは漁師をやめて就農したばかり。営農技術は他の農家ほど教えられない。代わりに2人の日本語習得に力を入れた。会話の練習をしたり、日本語検定の問題集を買いそろえたり。日本語学校に通って取得する日本語検定1級の資格が取れるほど、語学力は向上。周囲を驚かせた。当時は技能実習生への不当な扱いが問題になっていた時期。岳さんの同期実習生には逃げ出してしまった人もいる。「自分たちは本当に恵まれていた」。2人は感謝する。中国に帰ってからも堀之内さんと電話で近況を話していた岳さん。70歳を超えた堀之内さんに後継者がおらず、困っていることを知った。岳さんは迷った。通訳や翻訳の仕事に就きたかったからだ。それでも「恩返しをしたい」という気持ちが捨てられなかった。悩んだ末に一緒に研修を受けた劉さんを誘い、日本行きを決めた。二人は留学の在留資格を取り、私立鹿児島国際大学に進学した。国内の大学を卒業していると就労の許可も下りやすい。留学中に仕事をしてもらうことはできないが、堀之内さんは生活支援をしながら卒業を待った。二人が大学を卒業して今年で4年。岳さんは「技術・人文知識・国際業務」と書かれたカードを得意げに掲げる。専門的な知識を持った人だけが得られる在留資格だ。これまでは毎年更新が必要だったが、長く働いている実績から3年に1度で済むようになった。「日本農業の後継者として認めてもらっているようでうれしい」と岳さんは笑う。外国人を後継者にすることに周囲から批判や懸念の声もあった。だが、自分が造った園地を残すために迷わず進んできた。「正義感があって、ちゃんとした人柄なら民族なんて関係ない」。二人の働きぶりに堀之内さんは確信する。 *7-3:https://www.agrinews.co.jp/p50644.html (日本農業新聞 2020年4月27日) コロナ禍 技能実習生が来日不能 代替雇用の農家支援 時給や宿泊・保険…JA・学生援農も 農水省検討 農水省は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で外国人技能実習生らが来日できず、人材確保が難航している農家らの支援に乗り出す。代替人材を雇い、労賃などが当初の予定を上回った場合、掛かり増し分を一定水準で補助する考え。学生やJA職員が農家の援農に出向く場合にかかる経費なども補助対象とする。農家の生産規模の維持につなげる方針だ。来日の見通しが立たない農業関係の技能実習生や特定技能外国人は1900人に上り、人材確保は急務の課題となっている。同省は、2020年度補正予算案に「農業労働力確保緊急支援事業」として46億4600万円を計上。具体的な支援内容を固めた。予定していた技能実習生らが来日できなくなった農家や法人などを対象に、新たに募集するなどして代替人材を雇い入れる場合の掛かり増し経費を補助する。労賃は、当初予定を上回った額に対して、1時間500円を上限に補助する方針。交通費や宿泊費、保険料も補助の対象とする方向で検討している。4月1日までさかのぼって、支援申請できるようにする予定だ。人材募集にかかる経費も支援の対象となる。農家やJAなどが人材マッチングサイトに情報を掲載したり、ちらしを作ったりする際の費用を半額以内で補助する。技能実習生らの代わりに、学生やJA職員らが援農する際の費用も支援する。農業高校や農業大学校、JAなどが対象。実習として作業を手伝ったり、業務として現場に出向いたりする場合の交通費や宿泊費、保険料を実費で補助する。JAが職員に手当を支払った場合は、1日4000円程度を上限に支援する考えだ。一連の支援策の申請窓口は、全国農業会議所となる予定。具体的な申請方法は現在、調整している。詳細は今後、同省ホームページで動画を配信するなどして解説する。 <新型コロナの検査と治療> PS(2020年4月27日追加):*8-1-1のように、新型コロナに感染しているか否かを判断するPCR検査の結果がわかるまでに、4月初旬は1.8日を要したが4月18日時点には7.3日と延び、発症から7日以降に症状が悪化することから結果が分かった時には手遅れになっている。また、その間、陽性と知らずに市中にいる結果、潜在的感染者を増やすのに“貢献(皮肉)”もしている。こう書く理由は、検査の能力不足と言われているが、民間検査会社はPCR検査の能力に余裕がある上、*8-2-1のように、横浜市立大の研究チームが2020年3月9日に抗体を検出する新しい検査法を開発して15~30分で結果が分かるようになっている。さらに、*8-2-2のように、米国のAbbott社が開発した新型コロナの新検査法は、結果が出るまで5分で検査機関への往復も不要だ。また、*8-2-3のように、島津製作所が、2020年4月20日、検査時間を半分にする「新型コロナウイルス検出試薬キット」を発売もしている。 にもかかわらず、厚労省は、*8-1-2のように、2020年3月4日、「検査料の点数の取扱いについて」「新型コロナウイルス核酸検出の保険適用に伴う行政検査の取扱いについて」などを発出し、2020年3月6日からPCR検査のみを保険適用にしたが、「検査キット原価+防護服原価+検査活動」の合計である診療報酬に13,500円(1350点)、単なる郵送費に4,500円(1800点-1350点=450点)を設定しており、単なる郵送と比較して知識と訓練を要し危険を伴う検査活動に対して低すぎる単価を設定した。さらに、自己負担分や補助金額の処理は付加価値のない複雑さであり、「PCR検査を効率的に行うための会議」で、さらに時間がかかるようにした。つまり、厚労省は、新型コロナが市中に蔓延し始めてもクラスター潰しに専念し、効率的な検査と治療をする気はなかったと言わざるを得ないのだ。 さらに、治療については、*8-3のアビガンが有力候補だが、未だに「申請後の審査の期間を短縮して年内の承認をめざすが、緊急的な対応での特例扱いでどこまで早められるかは未知数」などと、ぼけたことを言っている。アビガンが胎児に奇形が生じる可能性があることについては、卵子は生まれた時から持っているものなので、出産を予定する女性と妊娠中の女性が使わなければよいのであって、その他の人は使ってよい。また、男性の精子は次々と作って捨てているものなので、アビガンを使ってすぐに子づくりをしなければよく、「使い方」は使用上の注意に書いてある筈だ。 このようにして、検査も治療もやろうと思えばできたのにせず、新型コロナを市中に蔓延させ、緊急事態宣言で経済活動を止め、その代償として、*9-1のような25兆円超にものぼる補正予算案を提出して財源を全て国債で賄うことになったのであるため、この責任は屁理屈を付けて国民に押し付けるのではなく、政治と行政で取るべきだ。そのため、解雇と再雇用の約束がセットになっていても失業保険を給付したり、*9-2の雇用調整助成金も失業保険から支払ったりすればよいだろう。 ![]() ![]() ![]() 2020.4.6 Our World in Date 中日新聞 2020.4.27佐賀新聞 (図の説明:左図のように、人口100万人あたりの日本の新型コロナ検査数は非常に少なく、これでは蔓延するのが当たり前で、真の新型コロナの感染者数も死亡者数も不明だ。また、「医療崩壊を防ぐ」と連呼しつつ、重症者を増やして感染者と医療従事者を犠牲にし、中央の図の緊急事態宣言によって国民に不便を強いた上、経済活動の停止で収入の道を絶った。それに対し、右図のように、国債を原資とした25兆円の経済対策を行うそうだが、政府の失敗の責任を国民への請求書の押し付けで解決する体質は、必ず変えなければならない) *8-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58426540T20C20A4MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200424_A (日経新聞 2020/4/23) 滞るコロナ検査、結果まで1週間 民間委託拡大カギ 新型コロナウイルスに感染しているかどうかを判断するPCR検査の体制が感染者の拡大傾向に追いつけていない。検査の実施が滞っており、発症から陽性が確定するまでの期間が1週間と長期化し始めた。検査の機能不全を背景にした陽性判明の遅れは重症化リスクを高めるほか、潜在的な感染者と他者との接触機会を増やしかねない。医療崩壊を避けながら感染拡大を防ぐためにも、国による民間への検査委託の拡大や簡易検査の後押しが必要だ。日本経済新聞がコンサルティング会社、ジャッグジャパン(東京)が収集した陽性事例のデータを基に分析したところ、発熱やせきなど新型コロナウイルスの症状が出てから検査で陽性が確定するまでの期間は、7日移動平均で4月18日時点が7.3日と4月初旬から1.8日延びた。感染者数の拡大が続き、検査が間に合わずに確定が遅れている可能性がある。厚生労働省は、重症化する人は発症から7日以降に肺炎症状が悪化するとしている。検査体制強化が課題となるなか、能力に余裕がある民間への検体検査の委託拡大が急務となっている。4月中旬に入ってからのPCR検査の実施数は、全国で1日当たり8000件前後が続く。うち民間の検査会社による受託件数は2000件ほどで、残りは国立感染症研究所(東京・新宿)や地方衛生研究所などの公的機関が担っている。民間検査数は2月下旬まではゼロの日もあった。みらかホールディングス(HD)など国内の主要な検査会社の検査能力の合計は1日当たり約4000件と見られており、能力を活用できていない。民間シフトを阻む一因にはスピードよりも実績を重んじる医療界の慣行がうかがえる。各自治体の指定病院は、検査を民間ではなく地方衛生研究所に委ねる傾向が目立つ。「感染症は国が担うものだという意識が強い」(検査会社)。長野では県が優先度に応じて民間か行政かの検査委託先を決める方針だが、こうした調整に乗り出す自治体はまだ少ない。民間が主に担ってきた軽症者の検体検査が増えにくい問題もある。現状では、熱が出て気分が悪いといった程度ではすぐには検査を受けられない。京都大学病院は15日、院内感染予防の視点から「無症状であっても公費でPCR検査を受けられるようにすべきだ」との声明を出した。民間側もPCR装置の調達に苦戦している。世界中で新型コロナの感染拡大が続いており「装置の争奪戦になっている」(国内検査会社)。香港や韓国では簡易キットも駆使した検査の大量実施が進む。日本でも楽天が20日、法人向けに新型コロナウイルスの感染の可能性が分かる自宅でできる検査キットを発売した。ただ日本医師会が22日に「採取の方法が不適切であれば結果は信頼できず混乱を招く」との意見を出すなど、医師を介さない検査は普及に壁がある。安倍晋三首相は6日、PCR検査の1日当たりの能力を2万件に倍増すると表明したが、進捗は遅く政府でも危機感が高まりつつある。「全国で同様の取り組みが広がるよう支援する」。加藤勝信厚労相は23日、東京都新宿区で地域の医師会が設置したPCR検査センターを視察した。検体検査はみらか傘下のエスアールエルに委託する。自民党の塩崎恭久元厚労相は「2月ごろから民間の検査機関を活用すべきだとの声は医療現場などにあった。政府がクラスター(感染者集団)潰しを重視しすぎて検査体制の強化が後手に回った」と指摘している。韓国やイタリアは、当初から大量の検査件数をこなした結果、軽症者が病院に押し寄せて医療キャパシティーがパンクしたという経緯があった。下表は各国の検査数、感染者数、死亡者数の比較だ。見れば分かるが他の国でも検査数と死亡者数はあまり相関性がない。検査対象の絞り込みは、社会全体の感染のフェーズに適した形で行うべきだ。しかし、その際にも検査のメリットとデメリットの冷静な見極めが必要なのは変わりない。「検査用キットや防護具、熟練した臨床検査技師などのリソースは有限で、すぐにそれらを急激に増やすことはできない。医師が病歴や身体所見などの情報から的確に絞り込んだ感染疑いのある人を対象とし、必要な検査を精度と安全性が確保できる環境で十分に行い、精度が担保できない環境での不必要な検査を乱発しないことが、検査が社会全体にもたらすアウトカム(結果)を上げるのには重要だ」と、日本臨床検査医学会名誉会員で日本感染症学会日本環境感染学会の評議員も務める、上尾中央総合病院の熊坂一成臨床検査科科長兼感染制御室室長は指摘する。新型コロナウイルスパンデミックは、日本と世界が持つ検査や健診についての認知のゆがみを浮き彫りにした。私たちは日頃から健診・検査とどう向き合えばいいのか。特集『健康診断のホント』全18回を通じて詳しく見ていこう。 *8-1-2:https://gemmed.ghc-j.com/?p=32688 (GemMed 2020.3.5) 新型コロナウイルス検出のためのPCR検査、3月6日から保険適用―厚労省 目次 ○1 検体の郵送等状況などに応じて、1800点または1350点を算定 ○2 都道府県等から「患者の自己負担分」を公費補助 ○3 「PCR検査を効率的に行うための会議」を設置し、地域で実施可能な検査数等把握を 新型コロナウイルス感染症疑い患者への診断、新型コロナウイルス感染症で入院している患者の退院可能性を判断するための検査(PCR)を3月6日から保険適用し、医師は「保健所の判断」を待たずに検査を実施することが可能とする。本検査は、感染症の発生状況、動向、原因究明のための積極的疫学調査に用いることはできない―。診療報酬上、▼検査所等の検体を郵送する場合には1800点(1万8000円)▼それ以外の場合には1350点(1万3500円)―とするが、「都道府県から医療機関等に検査を委託するもの」と取り扱い、患者の自己負担は求めないこととする―。なお、当面は院内感染防止・検査の精度管理の観点から、▼帰国者・接触者外来▼帰国者・接触者外来と同様の機能を持つと都道府県が認めた医療機関―においてPCR検査を実施することとする―。厚生労働省は3月4日に通知「検査料の点数の取扱いについて」や通知「新型コロナウイルス核酸検出の保険適用に伴う行政検査の取扱いについて」などを発出し、こうした点を明らかにしました。 ●検体の郵送等状況などに応じて、1800点または1350点を算定 中華人民共和国武漢市で発生したとみられる新型コロナウイルスが本邦でも猛威を振るい、各地で患者クラスター(集団感染)が生じ、残念なことに死亡例も発生しています。安倍晋三内閣総理大臣が全国の小学校・中学校・高等学校に休校を要請したり、イベント等の開催自粛要請を行うなど、国民生活にも大きな影響が出ており、政府は2月25日に政府は2月25日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を決定。医療体制に関し、▼患者数増等を見据え、医療機関における病床や人工呼吸器等の確保を進める▼患者数が大幅に増えた状況では、一般医療機関の外来で、診療時間や動線を区分するなどの感染対策を講じた上で、新型コロナウイルス感染疑い患者を受け入れる▼高齢者や 基礎疾患を有する者では、重症化しやすいことを念頭におき、より早期・適切な受診につなげる▼風邪症状がない高齢者や基礎疾患を有する者等に対する継続的な医療・投薬等については、感染防止の観点から、「電話による診療等により処方箋を発行する」など、極力、医療機関を受診しなくてもよい体制を構築する―などの考えを明確化しています。そうした中で今般、新型コロナウイルス感染症を鑑別するための検査が保険適用されるに至ったものです。まず、「新型コロナウイルス感染症が疑われる患者」に対する診断の目的、あるいは「新型コロナウイルス感染症治療で入院している患者」の退院可能性判断の目的のために、患者の▼喀痰▼気道吸引液▼肺胞洗浄液▼咽頭拭い液▼鼻腔吸引液▼鼻腔拭い液―からの検体を用いて、新型コロナウイルス検出の薬事承認・認証を得ている体外診断用医薬品(「病原体検出マニュアル 2019-nCoV」(国立感染症研究所)に記載、あるいはこれに準じたものに限る)で実施した場合に、次のように診療報酬を算定できます。 (1)検体を、「感染性物質の輸送規則に関するガイダンス 2013-14年版」(国立感染症研究所)記載のカテゴリーB感染性物質の規定に従い、検体を採取した医療機関以外の施設へ輸送して、検査を委託して実施した場合には1800点(D023【微生物核酸同定・定量検査】の12「SARSコロナウイルス核酸検出」(450点)の4回分) →この場合、レセプトの摘要欄に検査実施施設名を記載する (2)それ以外の場合には1350点(同の3回分) 「新型コロナウイルス感染症が疑われる患者」の診断目的で検査を実施した場合には、診断確定までに(1)(2)に沿った点数を1回に限り算定できます。ただし、発症後に「陰性」であったものの、「新型コロナウイルス感染症以外の診断がつかない」場合には、さらに1回、(1)(2)の沿った点数を算定できます。なお「検査が必要と判断した医学的根拠」をレセプトの摘要欄に記載することが必要です。また「新型コロナウイルス感染症治療で入院している患者」の退院可能性判断目的で検査を実施した場合には、1回に限り(1)(2)に沿った点数を算定できます。この場合には検査実施の日付とその結果をレセプトの摘要欄に記載することが求められます。 ●都道府県等から「患者の自己負担分」を公費補助 ところで、医療保険は「公費」「保険料」「患者負担」の3要素を財源としており、患者負担は年齢・収入によって1-3割に設定されています。患者負担徴収には「応益負担」(受益に応じた負担を行う)や「患者に医療保険財源は有限である」ことを知らせるなどの意味合いがあり、医療機関が自己判断で減免することは認められません。しかし、今般、厚労省は「帰国者・接触者外来を設置している医療機関等で実施する『保険適用された検査』は、都道府県から医療機関等に行政検査を委託するもの」と取り扱い、「患者負担を求めない」こととする考えを明確にしました。もっとも、その際には、医療機関で「患者負担分」の収入が減少してしまうため、減少分について「公的な補助」が行われます。 具体的には、次のような流れとなります。 ▽感染症指定医療機関等(▼感染症指定医療機関▼それ以外で都道府県知事の勧告によって新型コロナウイルス感染症患者を入院させる医療機関▼「帰国者・接触者外来を置く医療機関」「帰国者・接触者外来と同様の機能を有すると都道府県が認めた医療機関」―)が、都道府県等と委託契約を結ぶ(契約が3月6日以降となっても、3月6日から適用) ▽都道府県等から医療機関等を経由して、患者に対しPCR検査にかかる患者負担額相当を支給する(患者負担と相殺することが認められ、この場合、事実上「患者負担ゼロ」となる) 【補助金額】 ▽3割負担者 ・6歳(義務教育就学)から70歳まで・70歳以上のうち「現役並み所得」者 上記区分に沿って(1)では5850円、(2)では4500円 ▽2割負担者 ・6歳未満(義務教育就学前)・70-74歳 上記区分に沿って(1)では3900円、(2)では3000円 ▽1割負担者 ・75歳以上 上記区分に沿って(1)では1950円、(2)では1500円 ●「PCR検査を効率的に行うための会議」を設置し、地域で実施可能な検査数等把握を なお厚労省は、検査体制の充実を求めるとともに、検査実施体制の把握・調整等を行うための会議体設置を都道府県等に求めています。検査実施体制の把握・調整等を行うための会議体には、▼医師会▼病院団体▼感染症指定医療機関▼地方衛生研究所▼衛生検査所協会▼帰国者・接触者外来を設置する医療機関―などが参加。「地域でPCR検査実施が可能な機関(医療機関も含む)」「各機関で1日当たり実施可能な検査数」を把握したうえで、地域内で効率的にPCR検査を実施できるような対策・方向を検討し、関係者間で調整することが求められます。例えば「受診者が一部機関に偏ってしまい、検査が実施できない」といった事態を避けることが狙いです。こうした情報は、会議体から都道府県に、都道府県から厚労省に提供され、効率的な検査実施に向けたアドバイスにつなげられます。 *8-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/202003/CK2020031002000245.html (東京新聞 2020年3月10日) <新型コロナ>血清から抗体検出 横浜市立大が新検査法開発 横浜市立大の研究チームは九日、新型コロナウイルス感染の新検査法を開発したと発表した。血液から分離した血清を調べて、ウイルスに対抗して免疫がつくる抗体を検出する仕組み。検査キットが実用化されれば十五~三十分で結果が分かる。外部に委託せず、病院内で検査を行えるようになることが期待される。チームが新検査法を感染が分かっている患者六人に実施したところ、いずれも陽性反応が確認された。感染早期は抗体が見つかりにくいため、発症から七~十日経過した患者に有効という。現在行われているのは、遺伝子から感染を調べるPCR検査で、結果が出るまでに四~六時間程度待つ必要がある。病院から外部に検体を送る手間なども掛かるため、多くの検査を行うのが難しくなっている。 *8-2-2:https://jp.techcrunch.com/2020/03/28/2020-03-27-a-new-fda-authorized-covid-19-test-doesnt-need-a-lab-and-can-produce-results-in-just-5-minutes/ (TC 2020年3月28日) 5分間で陽性がわかるAbbottの新型コロナ検査、米食品医薬局が新たに認可 ヘルスケアテクノロジーのAbbottが開発した新型コロナウイルス(COVID-19)の新検査方法は、結果が出るまでの時間がこれまでで最速で、しかもその場でできるため検査機関への往復が必要がない。現在、全世界的なパンデミックを起こしている新型コロナウイルスを検査するこの方法は、米国のFDA(食品医薬局)から緊急時使用許可を受けており、来週から検査の生産を開始する。1日に5万件を検査できる。このAbbott ID NOW COVID-19という検査は、診断プラットフォームAbbott ID NOWを使用する。検査装置は小さな台所用品ほどのサイズで、陽性の結果は5分間、陰性は15分間以下で出る。臨床の現場や診療所などでも検査できるようになること、また検査とその結果が出るまでの時間が短くなることから、非常に有用な手段になる。他の国で使われてきた高速検査や、結果の精度を確認しないFDAの新しいガイドラインによる高速検査方法と違い、この検査は患者から採取した唾液や粘液を使う分子検査法を利用する。従って患者の体内にあるウイルスのRNAを同定でき、ウイルスの実際の存在を検出できる。これに対して、血液中に抗体を探す方法は、すでにウイルスのいない回復した患者の血液中の抗体も陽性として見つけるかもしれない。この検査の利用可能性に関する良いニュースは、検査に使用するAbbottのハードウェアID NOWが、米国ではすでに臨床現場即時遺伝子検査用として広く普及していることだ。ID NOWは医師のオフィスや救急病院、集中治療室などの医療施設に設置されていることが多い。Abbottによると、この新しい迅速検査と3月18日にFDAの緊急時使用認可を受けた施設での検査と合わせて4月には500万件の検査が可能になるという。検査が、新型コロナウイルスによるパンデミックに対処する上で初期の問題の1つだ。一定人口あたりの検査実施数で、他国に後れをとっていた。そのためウイルスの拡散とそれによる呼吸器疾患を正確に調べることもできなかった。患者は、検査まで待つ日数が長すぎると不満の声をあげており、接触の可能性が高くてそれらしき症状が出ていても、これまでは迅速な対応を受けることができなかった。 *8-2-3:https://www.shimadzu.co.jp/news/press/zfdyn69049lnnr8r.html (SHIMADZU 2020年4月10日) 煩雑な手作業を省き、検査時間を半分に、「新型コロナウイルス検出試薬キット」を発売 島津製作所は、4月20日にかねてより開発を進めていた「新型コロナウイルス検出試薬キット」を発売いたします。当面は国内のみの販売となりますが、5月以降の海外輸出も視野に入れて準備を進めてまいります。現状の遺伝子増幅法(PCR法)による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出では、鼻咽頭拭い液などの試料(検体)からRNAを抽出して精製する煩雑な作業が必要です。これが多数の試料を迅速に検査する際の妨げになってきました。本キットの使用によってRNAの抽出・精製工程が省けるため、検査に要する人手を大幅に削減でき、かつ2時間以上かかっていたPCR検査の全工程を従来の半分である約1時間に短縮できます。96検体用PCR装置を用いて、96検体を検査した場合でも1時間半以内で行えます。また、手作業を行わずに済むため、人為的なミスの防止にもつながります。「新型コロナウイルス検出試薬キット」は、当社独自のAmpdirect技術※1 をベースに国立感染症研究所のマニュアル※2 に沿って開発しました。同技術は「生体試料に含まれるたんぱく質や多糖類などのPCR阻害物質の作用を抑制できるため、DNAやRNAを抽出・精製することなく、生体試料をPCRの反応液に直接添加できる」というものです。島津製作所は、これまでにAmpdirect技術を用いて、腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌、赤痢菌、ノロウイルスなどの病原体検出試薬を開発・販売しており、ここで培った技術を応用して新型コロナウイルス検出試薬の開発を行いました。 ※1 Ampdirectは島津製作所の登録商標です。 ※2 国立感染症研究所 「病原体検出マニュアル 2019-nCoV」(以下略) *8-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200427&ng=DGKKZO58518390W0A420C2NN1000 (日経新聞 2020.4.27) アビガン早期承認 未知数、スピード感で米欧に後れ 厚労省、特例の活用鈍く 新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待が高まるアビガンの国内での早期承認が課題となっている。厚生労働省は申請後の審査の期間を短縮して年内の承認をめざすが、緊急的な対応での特例扱いでどこまで早められるかは未知数だ。もともと米欧などに比べ薬を現場で使えるようにするまでの仕組みが硬直的で、スピード感が劣る問題もある。アビガンは富士フイルム富山化学が抗インフルエンザウイルス薬として2014年に製造・販売の承認を得た。新型インフルの流行を念頭にした備蓄用で一般に流通はしていない。今の備蓄は200万人分。新型コロナでは1人の治療にインフルの3倍の量が必要とされ、コロナ患者では約70万人分に相当する。中国でいち早く新型コロナで治療効果を発揮した例がある。日本は現在100人規模の治験を進めており、政府はアビガンの備蓄を20年度中に現在の最大3倍にあたるコロナ患者200万人分に増やす方針だ。富士フイルムは設備の増強で9月には生産量を月30万人分に引き上げる。薬が患者に使えるようになるまでには大きく2つの段階がある。安全性や有効性を臨床試験で確かめる「治験」と、製薬会社の申請を受けて治験の結果を検証・評価する「承認審査」だ。市場投入を急ぐには承認審査の短縮が鍵を握る。インフル薬として承認済みのアビガンも、新型コロナでは投与量が3倍と大幅に異なるため安全性などを改めて確かめる必要がある。6月末までに順調に治験が終われば申請手続きに入る。日本では通常、承認審査に1年かかる。厚労省は13日、医薬品審査で新型コロナの治療薬を最優先に進めると明らかにした。審査期間を最大限短縮する特例の一つが15年に創設した「先駆け審査指定制度」。画期的な薬が開発された場合などに6カ月をメドに短縮できる。18年2月に塩野義製薬の抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」を申請から4カ月程度で承認した。アビガンは先駆けの指定を受けていない。加藤勝信厚労相は21日、新型コロナ治療薬の承認審査を「できる限り短期で対応したい」と述べた。先駆けの場合の6カ月に「こだわるつもりは全くない」とも語った。念頭にあるのは医薬品医療機器法に基づく措置だ。希少疾病用の医薬品など特に必要性が高いと認めた場合に最優先で審査できると定める。厚労省はこの特例を活用する構えだが、どこまで短縮できるかは未知数だ。米欧はスピード感と柔軟性がある。米国は国家の安全に重大な影響がある緊急時は米食品医薬品局(FDA)が未承認の医薬品でも使用を認める仕組みがある。通常は承認までに6カ月程度かかる薬でも短期間で使えるようになる。薬の場合は過去は2カ月程度の例があった。今回は約1カ月とみられ、検査キットなどはさらに早い。豚由来の新型インフルエンザが09年に流行した時はPCR検査キットを6日で許可した。日本との保険制度の違いなどから既存薬も別の病気の治療に使いやすい。米国がこうした対応をとるのは、炭疽(たんそ)菌などバイオテロ対策が念頭にあったためだ。テロや戦争という非常時には安全を最優先する名目で異例の対応も容認されやすい。今回の新型コロナへの対応を巡りFDAは3月に検査キットの申請を受理してから24時間以内で承認した。通常は数週間かかる手続きだという。欧州連合(EU)で医薬品を審査する欧州医薬品庁(EMA)も緊急承認の手続きがある。通常約210日の承認審査を約70日にする制度だ。一般的に医薬品の承認を規制当局に申請する場合、有効性や安全性、臨床試験などのデータをそろえて提出する必要がある。資料一式で10万ページ以上にもなる膨大な量だ。EMAの緊急承認では製薬会社が個々のデータができるとその都度、提出して審査を受ける。同時並行で審査が進むため、審査期間は大幅に短くなる。緊急対応が迫られる日本はアビガンの投与を望む患者らの不満が高まる。承認されない限りは研究目的での利用に限られる。病院が審査会などを開いて投与を認める手続きをとる必要がある。福岡市は国家戦略特区を活用してこの手続きを省略し、医師の判断で軽症段階から投与できるように厚労省に要望した。日本医師会からはアビガンの早期承認を求める声が上がる。政府内では緊急時に機動的に対応しない厚労省への不満は多い。厚労省が早期の承認に慎重な背景には1970~80年代の薬害エイズ事件の苦い記憶がある。アビガンは胎児に奇形が生じる可能性が指摘されており、副作用への目配りは欠かせない。同時に、いまは危機に備えた対応が迫られている。 *9-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/516805 (佐賀新聞 2020.4.27) 25兆円超の補正予算案提出、コロナ対策、30日成立へ 政府は27日、2020年度補正予算案を国会に提出した。新型コロナウイルスの緊急経済対策の実施に向け、歳出総額25兆6914億円を計上。全国民に現金10万円を給付するため、7日に一度決定した予算案を組み替え、8兆8857億円増額した。中小企業の資金繰り支援や医療体制の整備などの費用も計上し、財源は全て国債で賄う。与野党は30日に成立させる審議日程で合意している。補正予算案では、当初計画していた減収世帯への30万円給付を取り下げ、全国民に一律10万円を配る「特別定額給付金」を追加。事務経費を含めて12兆8803億円を計上した。早い自治体では、5月上旬にも支給を始める。中小企業に最大200万円、フリーランスを含む個人事業者に最大100万円を給付する「持続化給付金」には2兆3176億円を充てた。児童手当の受給世帯への子ども1人当たり1万円給付も手当てした。全世帯への布マスク配布や、人工呼吸器やマスクの生産支援を措置。新型コロナに効果が期待される新型インフルエンザ治療薬「アビガン」の備蓄確保や、ワクチン開発支援も盛り込んだ。自治体向けの臨時交付金1兆円や新型コロナ予備費1兆5千億円に加え、感染終息後の消費喚起策を反映した。民間投資も含めた緊急経済対策の事業規模は、10万円給付の予算を加算し、117兆1千億円となっている。 *9-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/202004/CK2020042702000128.html (東京新聞 2020年4月27日) <コロナ緊急事態>県内のハローワーク 雇用助成金相談が急増 経営者、休業と雇用維持に苦心 新型コロナウイルスの感染拡大による休業要請や営業時間短縮を受け、県内のハローワークでは、休業などに伴う従業員への手当を国が助成する、雇用調整助成金を巡る相談が急増している。政府は二十五日、助成額をより強化することを発表。ただ、経営者側は、事業の存続と従業員の雇用の維持を両立させるため、対応に悩む。働く側からも雇用継続を不安視する相談が増えつつある。「外出自粛で新たな契約や受注が減っている。資金繰りが厳しい」。土浦市の土浦公共職業安定所(ハローワーク土浦)に、相談で訪れた市内の建築・不動産業の女性は、ため息交じりに状況をそう説明する。女性の会社は業務を続けるが、十人ほどの従業員の休みを週二日から四日に増やした。交代制で勤務してもらい、退社時間も一時間早めた。女性は「コロナが終息した後、すぐに通常業務に戻れるよう、従業員を確保しながら、会社の経営も守らなければならないのが難しい」と不安を口にした。ハローワーク土浦では、一日平均で三十件ほどの相談があり、女性のほかにも、経営者らが席で順番を待っていた。相談が増えているのは、中国人観光客の利用が多かったバスなどの観光業者らで、外出自粛が呼び掛けられるようになると、飲食や小売り、旅館業者にも広がっているという。雇用調整助成金は、雇用を守りながら事業を続けてもらう狙いで、新型コロナで休業や事業縮小を余儀なくされた経営者に対し、従業員に支払う休業手当を助成する。四月から六月までの休業などに適用される特例で、中小企業の場合、助成率を従来の三分の二から最大十割(一人一日当たり八千三百三十円を上限)に引き上げる。申請から一~二カ月程度で支給を受けられる。茨城労働局によると、相談は一月に開始し、二月上旬から増え始め、三月末からは急増。三月十日~四月十日の一カ月間で、県内の各ハローワークや労働局で約三千件の相談があった。また、茨城労働局は、求職状況の悪化も見込む。売り上げが落ち込んでいる飲食店のパート従業員などの在職者が、先行きの不安から求職相談するケースが増えている。一方で、求人募集する企業は減ってきているため、今後の有効求人倍率は減少するとみられる。茨城労働局職業安定課の担当者は「雇用情勢へのコロナの影響は、今後出てくるだろう」と話した。 <検査と治療を抑制した論理と新型コロナの蔓延> PS(2020年4月29日追加):ダイヤモンドが、2020年4月13日、*10-1のように、日本がコロナでPCR検査抑制を決めた論理を図解付きで、「①検査を増やせば感染の封じ込めに繋がるわけではない」「②感度・特異度が100%の検査は存在しないため、検査前に有病率の高い集団になるよう絞り込むのが、医師の診察・保健所・帰国者・接触者外来などの相談窓口の経由だ」「③まず医師が診察して発熱などの症状がある人を抽出し、その中から胸部X線画像などで新型コロナを疑わせる所見が確認できた人を抽出し、ここに濃厚接触者や渡航歴から感染の疑いがある人も含めて検査してようやく陽性的中率が高まる」「④検査数をむやみに増やすと、検査が患者にもたらす利点よりエラーの問題の方が大きくなる」「⑤現状で治療法がない新型コロナ肺炎は、検査で陽性となっても治療法が陰性の人と同じ対症療法であるため、偽陽性者を収容することによって重症患者のためのベッドが塞がれる」「⑥新型コロナの確定検査として今のところ唯一のPCR検査にはすご腕技術者が必要で、個人防護具を毎回着替えることも必要」「⑦最も大事なのは重症化を抑えて死亡率を上げないことなので、重症の人を正しく絞り込んで医療キャパシティーを空け、経路調査と接触調査を行ってクラスターを突き止め、クラスターをつぶすために検査するということを主眼に置くべきだ」と説明している。そして、この論理は、メディアで何度も報道されたものと類似しているため、厚労省及び専門家会議の公式見解なのだろう。 しかし、①⑤は、治療法は中国が早くから公表しており、*8-3のような治療薬もあるため、厚労省が屁理屈を言って承認しないのが問題なのである。また、②については、100%の検査は存在しないが、その対応法はあり、医師が必要と判断しても保健所・帰国者・接触者外来などの“相談窓口”が事務的に止めて、*10-3のような無念の孤独死の後に新型コロナ感染が判明しているようなことが問題なのである。より被害の大きいこちらに対する損害賠償は、厚労省(→国民の税金)がするつもりか?さらに、*10-2-4のように、厚労省は埼玉県で50代と70代の男性2人が自宅待機中に容体が悪化して死亡したことを受けて、4月28日、自宅療養中の患者に「表情・外見」「息苦しさ」「意識障害」などの12項目の症状がある場合は自治体に連絡することにしたそうだが、そのような状態になった時に自治体に連絡して時間を浪費することなどできないため、速やかに医師に相談すべきなのだ。さらに、③の要件は、重症の人とクラスターの中に入った無症状の人を混在させており、(もう長くは書かないが)科学的でも効率的でもないのだ。また、④⑤⑥⑦については、厚労省とその肝いりの専門家会議が、*10-2-1・*10-2-2・*10-2-3のように、何カ月も同じ後ろ向きのことを言っている間に、検査方法も*8-2-1、*8-2-2、*8-2-3のように短所を改善した方法が開発され、外国では承認されている。これが、日本の厚労省の問題点なのである。 さらに、*10-4に、「⑧首相は、新型インフルエンザ治療薬『アビガン』の活用を進める方針も示し、1月末から2月の初めに新型コロナウイルスの治療に有望だとの報告があったと言及し、(患者)本人にぜひ希望していただき、医師に『自分は使いたい』と言ってほしい」と語った」「⑨立憲民主党など野党5党は事業者の家賃負担を支援する法案を衆院に共同提出」と書かれている。しかし、⑧については、私のいとこ(45歳、男性)が入院して酸素吸入した後も頭が割れるように痛かったので、ウイルス性髄膜炎なども心配して担当医にアビガンを使ってくれるよう頼んだが、担当医に「重症ではないので、あなたには使えない」と言われた。しかし、アビガンは、軽症時に使わなければ効果が低いため、承認されていないことが問題なのだ。また、⑨の家賃については、そもそも日本企業は、家賃を払うために働いているかと思うほど収益に占める家賃の割合が高く、それが日本国内で仕事をしにくくしている理由の一つだ。にもかかわらず、バブルで収益還元価値よりも高くなりすぎた家賃(不動産価格)を1990年代に苦労して修正したのを、再び上昇させて喜んでいたのが馬鹿というほかないのである。 ![]() ![]() ![]() 2020.4.6 Our World in Date 2020.4.13ダイヤモンド(*10-1より) (図の説明:左図のように、日本の人口100万人あたりの新型コロナ検査数は著しく低い。また、中央の図のように、ダイヤモンドが、検査を抑制している理由を検査数を増やしても治療薬がないため死亡者は減らないからと説明している。さらに、右図のように、完璧な検査法はなく、新技術も見通し不良だとしている。しかし、このような硬直的な考え方が、新しい検査方法や治療薬の開発・実用化を妨害し、検査数の低下をもたらし、国民の命を無駄に失わせた上、膨大な経済対策を必要にさせているのだ) *10-1:https://diamond.jp/articles/-/234135?page=5 (ダイヤモンド 2020.4.13) 日本がコロナで「PCR検査抑制」を決めたロジックを完全図解 新型コロナウイルスの感染が世界に広がる中、注目を集めているのが“検査”だ。検査を増やせば感染の封じ込めにつながるという意見も多いが、そこには落とし穴がある。特集『健康診断のホント』(全18回)の#1では、日本が「PCR検査抑制」という戦略を採ったロジックを図解で分かりやすくお伝えする。 ●マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏が、楽天の三木谷浩史氏が「検査」に関心 希望する全ての人に新型コロナウイルスの検査を――。このような使命に燃える経営者が増えている。米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、自身の福祉財団で、米シアトル周辺地域の住民に向けて、家庭用の新型コロナ検査キットを配布する計画を発表した。自宅で鼻の内側を綿棒で拭って採取した検体をアマゾン配送網で検査センターに送ると、新型コロナへの感染の有無を調べられるという。日本でも「検査キット100万個を無料で配る」と孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長が発言(後に撤回)すれば、楽天の三木谷浩史会長兼社長も「日本は新型コロナ検査が遅れており、このままでは信頼感がなくなる。非対面やドライブスルーで検査し、まず初診はスマートフォンを使った遠隔医療を」と主張している。「検査を増やせば感染の実態が分かり、迅速な隔離と治療につなげられる。もっと検査を」という声は、日本でも世界でも、政治家、企業人、一般人の別を問わず多い。しかし、今回の新型コロナの流行や、感染者がどこにいるか分からない状態を生み出したその元凶の一端は、皮肉なことに「検査」にもあると考えられるのだ。新型コロナウイルスパンデミックは、日本と世界が持つ検査や健診についての認知のゆがみを浮き彫りにした。私たちは日頃から健診・検査とどう向き合えばいいのか。特集『健康診断のホント』全18回を通じて詳しく見ていこう。はなから頼りにされている検査だが、そもそもこの検査とは何か。感染している人を正しく陽性と判定する確率を「感度」、そして感染していない人を正しく陰性と判定する確率を「特異度」と呼ぶ。感度・特異度が100%の検査は存在しない。これが大前提だ。上図を見てほしい。左の20人中10人が感染している(有病率50%)状態で、感度70%、特異度90%の検査をしたとする。感染している10人のうち3人が陰性(偽陰性)、感染していない10人のうち1人が陽性(偽陽性)になる。この検査で陽性となった人の中で実際に感染している人の比率(陽性的中率)は88%だ。一方、検査を受ける人の数が多く有病率が9%と低い右の集団では、陽性的中率は41%に下がってしまった。陽性判定の半分以上が「ぬれぎぬ」を着せられたわけだ。病気の人を探したいのに当たりが半分以下では困る。ならば、検査前に有病率が高い集団になるよう絞り込まなければいけない。現在新型コロナの検査は医師の診察または保健所や帰国者・接触者外来などの相談窓口を経由して行うようになっている。「なかなか検査してくれない」とブーイングも上がるが、まさにこれは検査対象をフィルタリングしているのである。先の図のように、まず医師が診察し、全体の中から発熱などの症状がある人を抽出、さらにその中から胸部X線画像などで新型コロナを疑わせる所見が確認できた人を抽出する。ここに濃厚接触者や渡航歴から感染の疑いがある人も含めて検査。これでようやく陽性的中率が高まる。「検査を意味なく渋っている」のではない。病状のない人にまで検査を乱発すると見逃しやぬれぎぬを続出させるだけだ。正しい絞り込みなしに検査したところでまともに感染者は見つからない。検査の数を増やせば増やすほど偽陰性・偽陽性が増える。仮に1000万人に広げるとしよう。すると先の図で示した通り、有病率が全体の90%と高くとも、最大で360万人の偽陰性者、つまり「本当は感染しているのに誤った陰性結果に安心して野に放たれる人」をつくり出すことになる。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の検査でも、陰性証明書を手に安心して街に出た偽陰性の人から感染が広がったということがあった。これと同様のことが起きる。また「検査数をむやみに増やすと、検査が患者にもたらす利点よりエラーの問題の方が大きくなるのではないか」と東京大学公共政策大学院の鎌江伊三夫特任教授はみる。というのも、現状で治療法がない新型コロナ肺炎では、検査で陽性となると本人は隔離されるが、治療法は陰性の人と同じ対症療法だからだ。そのため偽陽性者を収容することによって、より重症の真陽性患者のために空けるべきベッドがふさがれるのも見逃せない。 ●機械だけじゃ無理、すご腕技術者が支えるPCR検査 ただし、きちんとしたフィルタリングの上で「検査数」を増やすべきなのは確かだ。それには何が必要か。まずは現行のPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査について知る必要がある。新型コロナの確定検査として今のところ唯一のPCR検査。その工程は大きく四つに分かれる。まずは医師、看護師などが患者から検体を採取する。新型コロナの場合、ウイルスは肺に近い下気道の方にいるため、国立感染症研究所は気道からの吸引液か、鼻からスワブを突っ込み咽頭から液を拭い取る方法を推奨している。この作業自体も飛沫感染の危険を伴う。そのため個人防護具を着て1人終わるごとに毎回手順通りに着替えることが本来は必要になる。検体を他の検査機関に輸送するにも二次感染を防ぎ検体の品質を維持するため厳重な態勢が必要だ。冒頭のビル・ゲイツ財団が計画する「自分で検体を取って郵送する」やり方は大いに問題がある。検体が検査機関に到着すると、臨床検査技師の出番である。PCR検査では、検体前処理の図版中の写真のようにバイオハザード対応のキャビネットの中で、人手による前処理作業をすることが欠かせない。遺伝子検査業務は無資格者でもできるが、経験の浅い人がやると失敗や感染の危険がある。ここまでやっていよいよPCR反応にかける。DNAと試薬の入ったチューブを、温度の変化を繰り返しながらDNAを大量に増幅させ、見える形にしてようやく「陽性」と判定が出る。ここにたどり着くまでに数多くのハードルがあり、逆に言えば検査の工程上、落とし穴が多く偽陰性が出やすいということだ。検査精度を保ったまま検査数を増やすのは難しい。感染拡大を機にさまざまな新検査方式が登場してはいるが、大半は実用化に至っていない。迅速検査のイムノクロマトが普及すれば、クリニックで検査ができるようにはなるが、これは感度70%、特異度99%ほどといわれている現行のPCRよりも精度が落ちる見込みだ。また、感染の初期には使えない可能性も高い。そもそも、検査はなぜ行うのか。感染した個人の治療に役立て、社会の感染状況を科学的に分析するという二つの目的があるが「最も大事なのは重症化を抑え、死亡率を上げないこと。だから重症の人を正しく絞り込み、その分の医療キャパシティーを空ける。そして経路調査と接触調査を行い、クラスターを突き止め、つぶすために検査をするということを主眼に置くべきだ」と米国立衛生研究所・アレルギー感染症研究所博士研究員の峰宗太郎氏は指摘する。 *10-2-1:https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=69146 (ミクスオンライン 2020/4/23) 新型コロナ専門家会議 「対策のフェーズが変わった」医療崩壊と重症化の防止に力点 政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は4月22日、厚労省内で記者会見し、緊急事態宣言発出後の状況分析と現状の課題について提言した。副座長の尾身茂氏(地域医療機能推進機構理事長)は、医療提供体制とPCR検査体制について、「対策のフェーズが変わった」と述べ、「医療崩壊防止と重症化防止により死亡者数の最小化を図っていくかに力点を置く」と強調した。感染拡大で患者数が増加することに備えて、地域医師会と協力し、かかりつけ医が患者から直接相談を受ける体制を整える。かかりつけ医は必要に応じて地域医師会が運営する「コロナ検査センター(PCRセンター)」に検査を依頼。無症候者や軽症者は自宅療養、宿泊療養で対応する。一方、都道府県は感染症指定病院への受入れを重症・中等症の患者に割り当てるなど、地域で医療崩壊を起こさせないような連携体制の構築を求めた。 ◎感染者の増加のスピードに追いつかない 専門家会議はこの日の会見で、東京都など一部地域で「感染者の増加のスピードに追いついていない状況」となっていることに危機感を表明した。その上で、都道府県知事のリーダーシップのもと、①医療機関の役割分担の促進、②PCR等検査の実施体制の強化、③保健所体制の強化、④感染状況の共有、⑤搬送体制の整備-に取り組むよう要請した。また国に対しては、感染リスクと背中合わせでウイルスと闘っている医療従事者のために、感染防護具などの確保、検査試薬、検体採取スワブ等の資材の安定確保に最大限努力するよう要請した。 ◎患者の相談や受診に「かかりつけ医」が参画 地域医師会との協力体制構築を このうち医療機関の役割分担の促進では、地域医師会との連携を強く求めた。発熱症状などを訴える患者の相談や受診については、地域の「かかりつけ医」が参画するよう求めている。これまでの対応では、帰国者・接触者相談センターが窓口となっていたが、感染者が増加していることから、別途、地域の診療所等の活用による「2系統体制」を構築する。かかりつけ医がPCR検査の必要性を認めた場合は、地域の医師会が運営するコロナ検査センターに検査を直接依頼できる。これにより検査実施から結果までの時間を短縮できるほか、自宅療養、宿泊療養への患者の振り分けや、その後の療養指導などを地域の医師会と連携して行うことができる。すでに東京都医師会が「地域のPCRセンター」を最大47立ち上げることを表明している。この際のPCR検査については、保険診療として民間の検査会社を活用することができる。 ◎重症化リスクの高い人「day0、day1でも即座に相談を」尾身副座長 なお、この日は新型コロナウイルス感染症を疑う症状の定義で新たな見解を示した。高齢者や基礎疾患がある重症化リスクの高い人、妊婦については、「肺炎が疑われるような強いだるさ、息苦しさ、37.5℃以上の発熱が続くなどの症状が、ひとつでもある場合は、4日を待たずすぐに相談して欲しい」と呼びかけた。「day0(発熱初日)、day1(発熱1日後)でも即座に相談して欲しい」と強調した。毎日体温を測定するなどして、体調管理を行い、”普段と違う”というサインに自ら耳を傾ける必要性を指摘した。また小児については、小児科医による診察が望ましいとした。 ◎治療薬「重症化するリスクの高い患者に適切な治療薬を」 治療薬やワクチンについては現在、観察研究や治験が複数進行中。尾身副座長はこの重要性を強調したうえで、薬事承認まで一定の期間を要することから、「副作用等を慎重に検討しつつも、迅速に臨床での使用を検討することが必要」と指摘した。現在の投薬については、あくまで”緊急避難的な対応”として、「医師の判断による治療薬の投与は日本感染症学会の見解をもとに、医療機関で所定の手続きをとり、患者の同意を取得した上で、引き続き継続すべき」とした。また、重症化するリスクの高い患者に対して、重症化する前に適切な治療薬を選択することが必要とした。ただし、重症化する前の投与は、研究として行われるべきとした。また、重症な予兆を示唆する「重症化予測マーカー」の確立に向けて、研究班を立ち上げ、結果を早急に臨床現場で活用できるよう検討することを求めた。尾身副座長は、「重症化予防、死亡者をできるだけ減らしたいというのが最優先の課題」と述べ、重症化しやすい患者を同定し、適切な治療につなげることの重要性を強調した。 ◎「人との接触を8割減らす、10のポイント」を公表 このほか専門家会議は「人との接触を8割減らす、10のポイント」を公表した。具体的には、①ゴールデンウイークはオンライン帰省、②スーパーは1人または少人数で、③ジョギングは少人数、公園はすいた時間を、④待てる買い物は通販で、⑤飲み会はオンラインで、⑥診療は遠隔診療、定期受診は間隔を調整、⑦筋トレやヨガは自宅で動画を活用、⑧飲食は持ち帰り、宅配も、⑨仕事は在宅勤務、⑩会話はマスクをつけて-の実施を呼びかけ、ヒトとの接触機会を「最低7割、極力8割」まで減らすことを実践して欲しいと要請した。専門家会議はまた、正確な国民の感染状況を確認するため、抗体保有状況を確認する等の「血清抗体調査」を継続的に行う体制を整備する方針も盛り込んだ。 *10-2-2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%・・ (Wikipediaより、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議メンバーを抜粋) 座長: 脇田隆字(国立感染症研究所所長) 副座: 長尾身茂(地域医療機能推進機構理事長) 構成員: 岡部信彦(川崎市健康安全研究所所長) 押谷仁(東北大学大学院医学系研究科教授) 釜萢敏(日本医師会常任理事) 河岡義裕 (東京大学医科学研究所感染症国際研究センターセンター長) 川名明彦(防衛医科大学医学教育部教授) 鈴木基(国立感染症研究所感染症疫学センターセンター長) 舘田一博(東邦大学医学部教授) 中山ひとみ(霞ヶ関総合法律事務所弁護士) 武藤香織(東京大学医科学研究所教授) 吉田正樹(東京慈恵会医科大学医学部教授) *10-2-3:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200428/k10012409751000.html (NHK 2020年4月28日) 緊急事態宣言「全国対象に期間延長を」日本医師会 常任理事 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言について、政府の専門家会議のメンバーで日本医師会の常任理事を務める釜萢敏氏は「感染者の減少が十分とは言えない」として、全国を対象としたまま、来月6日までの期間を延長すべきだという考えを示しました。日本医師会の釜萢常任理事は記者会見で、緊急事態宣言について「延長するかどうかを判断する大きな指標の1つは、各地の医療提供体制だ。医療資源の乏しい地域ではひとたび院内感染が発生すると一気にひっ迫した状況になるので、全国で感染者が増えないようにすることが必要だ」と指摘しました。そのうえで「宣言から3週間がたったが、当初狙っていたほどの感染者の減少には至っていない。対象を全国に拡大したのは、感染者が多い地域からの人の移動で感染を広げるリスクがあったからだが、その懸念はまだしばらく続く」と述べ、全国を対象としたまま、来月6日までの期間を延長すべきだという考えを示しました。 *10-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/517520 (佐賀新聞 2020.4.28) 厚労省、緊急性高い12症状公表、「胸の痛み」「脈がとぶ」 厚生労働省は28日、新型コロナウイルス感染症の軽症者や無症状の感染者がホテルなどの宿泊施設や自宅で療養する際、注意すべき緊急性の高い症状を公表した。「胸の痛みがある」「肩で息をしている」「脈がとぶ」といった12項目の症状。一つでも当てはまれば自治体の相談窓口か宿泊施設の看護師らにすぐに連絡するよう呼び掛けている。厚労省は埼玉県で50代と70代の男性2人が自宅待機中に容体が悪化して死亡したことを受け、軽症者や無症状者の療養先を原則ホテルや宿泊施設に切り替えた。ただ、施設の準備が整わないといった場合は、引き続き自宅療養を容認している。療養中に症状の変化に素早く気付いて対応できるよう、患者本人や家族に確認してもらいたい考え。「表情・外見」「息苦しさ」「意識障害」に分けて緊急性の高い症状を示している。具体的には「唇が紫色になっている」「ゼーゼーしている」「ぼんやりしている(反応が弱い)」「横になれない。座らないと息ができない」などを挙げている。軽症者は宿泊施設や自宅での療養中にウイルス量が増える可能性がある。そのため、自身で1日3~4回、朝昼晩や就寝前に症状をこまめに確認するよう求めている。 *10-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202004/CK2020042602000150.html (東京新聞 2020年4月26日) <新型コロナ>単身赴任男性、無念の孤独死 発熱6日後検査、死後コロナ判明 全国の警察が変死などとして扱った十五人が、新型コロナウイルスに感染していたことが判明した問題。そのうちの一人が、東京都世田谷区の社員寮で急死した五十代の男性会社員だった。単身赴任中の男性は発熱後、保健所に相談しようとしたものの電話がつながらず、PCR検査を受けられたのは発熱から六日後。検査結果が出たのは、命が失われた後だった。死に至るまでの状況を証言したのは、男性の友人。取材に「遺族が嫌がらせを受ける恐れがある」と、会社名など身元を特定する情報は報じないよう求めた。友人によると、男性が発熱したのは今月三日。その少し前から職場の上司に発熱とせきがあったため、男性は九州の自宅に残る妻に「新型コロナに感染したかもしれない」とLINE(ライン)でメッセージを送っていた。男性は世田谷保健所の相談センターに何度も電話したが、回線が混み合っていたためか、一度もつながらなかったという。男性が自宅待機していた七日、上司はPCR検査で陽性と判定された。男性は会社から「濃厚接触者に当たる可能性がある。検査を受けるように」と言われ、再び相談センターに電話したが、またしてもつながらなかった。かかりつけ医が保健所に連絡してくれたことで、男性は二日後の九日にようやく検査を受けられることに。だが、病院は検査を受ける人であふれていたようで、妻に「結果が出るまで一週間かかると言われた」とメッセージを送っている。入院することもなく寮に戻った男性。「せきがひどくて眠れない。胸が痛い」「薬局に薬を届けてもらった」。十日夜、妻にラインで状況を伝えた後、応答がなくなった。翌十一日、寮で暮らす同僚が部屋に様子を見に行くと、既に息絶えていた。警視庁玉川署は変死事案として捜査。妻が死因は新型コロナによる肺炎だと知ったのは、同署に呼ばれた十三日だった。密封された遺体は、防護服姿の署員によって葬儀会社の車に積み込まれ、妻との対面がかなわないまま火葬された。同行した友人は「明るくて健康なラガーマンだった。一人でいながら一向に保健所に電話がつながらず、どれほど不安だったか」と唇をかんだ。男性の妻は友人を通じて本紙に、「発熱もせきもあったのになかなか検査を受けられず、入院もできなかった。同じことが繰り返されぬよう、(行政などは)態勢をきちんと整えてほしい」との言葉を寄せた。 ◇ 世田谷区の感染者数は都内の市区町村で最多。保健所の相談センターに電話が殺到したことから、区は十三日、回線数を六回線に倍増させ、担当職員も六人から九人に増やした。 都医師会は今月中に、保健所の相談センターを通さなくても開業医らの判断で検査できる「PCRセンター」を都内に十カ所ほど開く考えを示している。 ◆50代男性 死亡の経過 4月3日 発熱。少し前から上司が発熱とせき。妻に「新型コロナに感染したかも」とライン。 保健所の相談センターに何度も電話したが、つながらず 7日 上司が陽性と判明。会社から検査を受けるように言われたが、相談センターに 電話つながらず 9日 ようやくPCR検査。「結果が出るまで1週間かかると言われた」と妻にライン 10日 夜「せきがひどくて眠れない。胸が痛い」などと妻にライン後、応答なくなる 11日 男性が自室で亡くなっているのを同僚が見つける 13日 新型コロナによる肺炎が死因だと、妻が警察から知らされる 電話殺到を受け、世田谷区が相談センターの態勢を強化 *10-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/517250 (佐賀新聞 2020.4.28) 首相、家賃支援で追加対策検討、アビガン活用に意欲、衆院予算委 安倍晋三首相は28日の衆院予算委員会で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた事業者への家賃支援を巡り、追加の対策を検討する意向を示した。自民党の岸田文雄政調会長の提案に対し、党の検討を受け止めると表明。「この状態がさらに延びることになれば当然、さらなる対策も考えなければならない。ちゅうちょなく、やるべきことをやる」と応じた。新型インフルエンザ治療薬「アビガン」の活用を進める方針も示した。立憲民主党など野党5党は事業者の家賃負担を支援する法案を衆院に共同提出。首相は野党の動向も念頭に、家賃を巡る追加支援に前向きな姿勢を示したとみられる。首相は事業者などへの支援を巡り、手続きの迅速化を急ぐ意向も言明。「今はまさに非常時だ。多くの方々が経営を続けることができるかどうか、生きるか死ぬかの状況に直面している。今までの発想を変えなければならない」と述べた。岸田氏は企業が従業員を休ませた場合に支給する「雇用調整助成金」などを巡り、窓口対応の遅さを指摘。首相は自身の責任で改善を図るとした上で「危機を乗り越えることを最優先に、不正などは事後対応を徹底すればいい」と強調した。立民の枝野幸男代表は、金銭的に厳しい状況の大学生などへの支援に関し、中小企業や個人事業主向けの「持続化給付金」を適用すべきだと主張。首相は給付型奨学金や雇用調整助成金で対応できるとして慎重な考えを示した。首相はアビガンに関し、1月末から2月の初めに新型コロナウイルスの治療に有望だとの報告があったと言及。「(患者)本人にぜひ希望していただき、医師に『自分は使いたい』と言ってほしい」と語った。 <緊急事態宣言のさらなる延長と教育> PS(2020年4月30日、5月1、2、4《図》日追加):*11-1に「①東京都の4月28日の感染者は112人で、その4割弱の42人は感染経路不明」「②都市部を中心に新型コロナの収束の兆しが見えず、知事会の要請を受けて、政府が緊急事態宣言を1カ月程度延長する方針」「③5月1日に開く政府専門家会議で状況分析する」「④専門家会議の座長を務める脇田国立感染症研究所長は、4月29日の参院予算委員会で、延長の是非を判断する材料として(i)感染の広がり (ii)接触削減などの行動変容 (iii)医療提供体制 の3点を挙げた」「⑤首相は『薬とワクチンの開発によって収束ということになる』と説明した」と書かれている。しかし、①の東京都は特に人混みが多く感染経路不明者が出るのは当たり前であるのに、③④の政府専門家会議と厚労省は、自分たちが三密の中で、いつまでもクラスター追跡に専念し、論文に書けない程度の統計数字の発表ばかり行って市中蔓延に至らしめ、検査も絞って⑤の治療に結び付けず、②の新型コロナ収束に失敗した張本人であるため、政府専門家会議は厚労省の代弁者ではなく、それこそITを使って各地で治療・研究の第一線で働いている医師や研究者の組織に変更する必要があるだろう。 さらに、*11-2のように、全国知事会は、新型コロナ対策に関する国政への提言をしてよいことだと思うが、緊急事態宣言を全国一律に延長するかどうかについては、感染状況が下の右図のように都道府県によって異なるため、それぞれの都道府県の判断に従った方がよく、むしろ全国知事会は検査の充実と治療薬の早期承認を要望された方が効果的だと思う。 なお、*11-2の「⑥休校する地域とそうでない地域で学力差が生じる懸念がある」「⑦この機に9月入学の欧米に合わせるべきだ」という意見については、私は、他の要素での格差も大きいので、①のように首都圏の公立校が不利になる格差だけを問題にするのは、むしろ不公平だと思う。そのため、護送船団方式でいっせいに不利にするのはむしろマイナスで、それぞれの不利について各自治体で解決法を考えるべきだと思う。また、⑦や*11-3-2の9月入学については、高校・大学はグローバル・スタンダードに合わせた方が留学・就職に便利だが、小中学校を何歳の何月から始めるかは各自治体が自らの不利をカバーするように考え、次第にBest Practiceに収れんさせるのがよいと考える。 文科省が、*11-3-1のように、「⑧新型コロナ感染拡大による休校を解除する際、優先度の高い小学1年・小学6年・中学3年の登校を先行するよう各自治体に求める方針を固めた」「⑨任意の分散登校を行い、学級ごとに登校時間をずらす・・」というのは、文科省の仕事としては小さすぎる。それより、これを機会に1学級の人数を標準30人に決め、そのための教員増加や感染症を広げず学業がはかどる空調を備えた学校施設への改修に補助を行う方がよいだろう。 なお、*11-4のように、安倍首相は新型コロナの感染拡大で長期化する学校休校を踏まえ、9月入学制を来年導入する可否の具体的検討に入り、教育界だけでなく社会全体に大きな影響を及ぼすとして各府省庁の事務次官に課題の洗い出しを指示されたそうだ。私も、欧米諸国・中国などと同じ秋入学にした方が便利だと思うが、小1児童の入学時期が秋になれば移行期4~8月は保育所等の受け入れ態勢が課題となる上、子どもの数が減って小学校はゆとりがあり、共働きが増えて保育園は不足しているため、この際、小学校入学年齢を英国と同じ5歳か約87%の子どもが幼稚園か保育園に入る3歳にするのがよいと思う。 ![]() ![]() ![]() (図の説明:左図は、新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真で、中央の図は、新型コロナウイルスをエアロゾルにした時の生存期間だ。これだけはっきり見えているウイルスを、「目に見えない敵」と表現するのは非科学的なのでやめた方がよい。また、右図が新型コロナウイルスの都道府県別感染者数で、《不完全な統計でも》人同士の距離が近くなる都会に多いことがわかる) ![]() ![]() ![]() 英国の義務教育制度 日米の教育制度 日本の幼稚園・保育園通園率 (図の説明:左図のように、英国は5歳の時に小学校に入学し、中央の図のように、日米は6歳の時に小学校に入学する。また、右図のように、日本では、3歳で幼稚園か保育園に通っている子どもが約87%おり、5歳では98%の子どもが幼稚園か保育園に通っている) *11-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200430&ng=DGKKZO58627330Q0A430C2PE8000 (日経新聞 2020.4.30) 新型コロナ、収束の兆し見えず、緊急事態宣言延長、知事会も要請 専門家会議あす開催 政府が緊急事態宣言を1カ月程度延長する方針を固めたのは、宣言発令から3週間が過ぎても、都市部を中心に新規の感染者数が十分に下がらないためだ。全国の自治体からも全都道府県での延長を求める声が相次いでいる。新型コロナウイルスの感染拡大は収束の兆しがなおみえない。30日で緊急事態宣言を全国に広げて2週間になる。5月1日に開く政府の専門家会議で状況を分析する。新規感染者数は鈍化傾向にあるが、なお高止まっている。東京都は29日、新たに47人の感染が確認されたと発表した。前日の28日は112人で、その4割弱にあたる42人が感染経路が不明だった。1日の死者数も最多の9人だった。地方でも札幌市で過去最多に並ぶ26人に達するなど、一部の地域で高水準の新規感染者が確認されている。安定した収束傾向には至っていない。延長の対象地域を巡っては、全国知事会が29日にテレビ会議方式で開いた会合で全国一律で延長すべきだとの意見が多く出た。一部の地域で先行して宣言を解除すれば、都道府県境を越えてその地域に人が流入する可能性を懸念している。静岡県の川勝平太知事は会合で「県内は感染まん延期の直前だ。宣言延長では県境をまたぐ移動を防ぐためにも対象地域を限定すべきではない」と訴えた。秋田県の佐竹敬久知事は「大都市の感染拡大が収まらない限り、全国的なリスクは残る」と述べた。30日にも新型コロナ対策を担う西村康稔経済財政・再生相に緊急提言として提出する。29日の参院予算委員会には専門家会議の座長を務める脇田隆字・国立感染症研究所長が出席した。延長の是非を判断する材料として(1)感染の広がり(2)接触削減などの行動変容(3)医療提供体制――の3点を挙げた。現状の患者数が2週間前の感染状況を反映しているとされ、脇田氏は「ピークアウトしたかどうかまだ判断できない。1週間程度感染の状況を見て判断する」と話した。安倍晋三首相は29日、日本医師会の横倉義武会長と首相官邸で会い、医療現場の現状を巡り意見交換した。感染者数を抑制できなければ、医療現場の崩壊につながりかねないとの懸念は強い。これも延長判断の大きな理由になったとみられる。政府が緊急事態宣言を1カ月で終えるために掲げた「人と人の接触機会8割削減」という目標も達成できていない。NTTドコモのモバイル空間統計によると、28日の新宿周辺の人出は感染拡大前に比べて70.8%減少した。福岡市の天神周辺は58.9%減にとどまるなど、地方ではなお外出自粛が不十分だとの見方がある。首相は衆院予算委で緊急事態宣言の根拠となる改正特別措置法のさらなる改正に触れた。「今の対応や法制で十分に収束が見込まれないのであれば、当然新たな対応も考えなければならない」と指摘した。西村経財相は27日、自治体が特措法に基づく休業指示を出しても従わない事例が多発した場合に、法改正で罰則規定を設ける考えがあると言及していた。宣言を延長しても、収束のめどが立っているわけではない。首相は予算委で「薬とワクチンの開発によって収束ということになる」と説明した。米国で秋にもヒトへのワクチン接種が可能になるとの見通しを示し「日本も研究を加速させていきたい」と言明した。感染者が少数にとどまる県では全国を対象としたまま延長することへの慎重論もある。佐賀県の山口祥義知事は29日の全国知事会会合で「(感染者が多い)都市部に合わせるのではなく、地方それぞれの特性があっていいのではないか」と発言した。 *11-2:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200430/KT200429ETI090009000.php (信濃毎日新聞 2020年4月30日) 全国知事会 住民目線で国政に注文を 国の対策が後手に回る中、現場に近いところで指揮を執る知事の役割が重要性を増している。全国知事会が新型コロナウイルス対策に関する国政への提言を議論した。噴出する課題は医療、福祉、教育などあらゆる場面に及ぶ。地域における感染防止の課題や暮らしへの影響を国が把握し切れない状態は、今後も続くだろう。各知事は国政に対し、住民の目線で具体的な提案を重ねていかねばならない。全国知事会は、その先頭に立ってもらいたい。今回焦点になった一つは、緊急事態宣言を全国一律に延長するかどうかだ。一部の地域で解除すると、他の地域から人が移動して感染を広げる恐れがある。ただ、感染状況は都道府県によって開きがある。延長に伴う財政負担への懸念から否定的な知事もおり、温度差が目立った。一律延長の検討を国に求める方針を確認したものの、今後は、財政力の違いも踏まえどんな提言を示せるかが課題となりそうだ。知事会はこれまで、医療や検査の体制整備を国に求めてきた。既に独自の取り組みを進めている都道府県も多い。それぞれの経験を基に、有効な対策を共有する取り組みも重要になってくる。気になるのは、強権的な姿勢が目立ち始めた点だ。新型コロナ特措法に基づく休業要請に応じない事業者に罰則を設けるよう、法改正を求める声が出ている。支援策が不十分なまま、従わないのが悪い、と決め付ける雰囲気を社会に醸成するような対応が良い方向に向かうとは思えない。やむにやまれず営業する事業者がいれば、その声に耳を傾け、実効性ある対策を探っていくのが知事の役割ではないか。私権の制限には慎重であるべきだ。ここにきて知事の間で急速に盛り上がってきたのが、小中高校や大学の休校長期化を受けた9月入学制の導入論議である。長野県を含む17県の知事でつくる「日本創世のための将来世代応援知事同盟」などで賛成が相次いだ。休校する地域とそうでない地域で学力差が生じる懸念があり、この機に9月入学の欧米に合わせるべきだとの意見がある。一方、社会的な影響の大きさを考えて慎重な意見もある。一石を投じた意義はある。重要なのは現場に即して考える視点だろう。学校や家庭は子どもたちの学習機会を保障しようと努力を続けている。飛び越えて議論が進むことがあってはならない。 *11-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200501&ng=DGKKZO58653800Q0A430C2CC1000 (日経新聞 2020.5.1) 小1・小6・中3 優先登校 文科省指針 再開時、受験・「慣れ」配慮 文部科学省は新型コロナウイルス感染拡大による休校を解除する際、小学1年、小学6年、中学3年の登校を先行するよう各自治体に求める方針を固めた。1日にも開かれる政府の専門家会議の報告を踏まえ、同日中に全国に通知する指針に盛り込む。学校では感染拡大の原因となる3密(密閉・密集・密接)になりやすい。登校の一斉再開を避け、優先度の高い学年から段階的に再開することで、感染リスクを抑える狙いがある。萩生田光一文科相は30日の参院予算委員会で「段階的に必要最小限度の教育活動を開始することが重要だ」と指摘。「例えば任意の分散登校を行い、進学を控える最終学年から学習活動を開始するなど様々な工夫が考えられる」と述べた。小6と中3は受験や卒業を控えており、現状の学事日程では休校期間中の授業時間を次の学年で補えない。小1は集団生活に慣れ始める時期であることなどを考慮した。文科省はこれまでの指針で、学校を再開する場合は毎朝の検温や換気の徹底、マスク着用などの対策をとることを求めていた。今回の指針では学級ごとに登校時間をずらすことなども選択肢として盛り込む見通しだ。 *11-3-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20200501&c=DM1&d=・・ (日経新聞 2020.5.1) 小池・吉村知事が9月入学求める 共同でメッセージ 東京都の小池百合子知事と大阪府の吉村洋文知事は30日、学校の9月入学の導入などを求める共同メッセージを発表した。9月入学が多くの国で導入されていることを踏まえ「若者が世界で活躍するためにも重要だ」(吉村氏)と両知事が賛成の立場を示した。小池知事による生配信の動画サイトに吉村知事が出演し、共同メッセージを公表した。小池氏は「日本の教育が世界のスタンダードになっていくために中身の濃い議論をスピーディーに行うことが必要だ」と強調した。また、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一環として、休業に協力した事業者への家賃支援を迅速に法制化するよう国に要望した。改正新型インフルエンザ対策特別措置法で、防止対策を円滑に講じられるように自治体による裁量権の拡大も求めた。 *11-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/518770 (佐賀新聞 2020.5.1) 9月入学制、論点整理着手、来年導入、6月上旬にも方向性 安倍晋三首相は新型コロナウイルスの感染拡大で長期化する学校休校を踏まえ、9月入学制を来年導入する可否の具体的検討に入った。教育界だけでなく社会全体に大きな影響を及ぼすとして、首相官邸が各府省庁の事務次官に課題の洗い出しを指示した。政府筋が1日、明らかにした。論点整理を受け、6月上旬にも方向性をまとめたい考えだ。首相は国会で「選択肢として検討する」と答弁。「課題が解決されれば現実味を帯びる」(政府筋)との見方が出ている。9月入学案は、学習の遅れや、学校再開時期のばらつきが生じることへの不安解消策として浮上した。欧米諸国や中国などの秋入学に足並みをそろえ、海外留学や外国人留学生の受け入れ加速を狙う意味合いもある。一方、9月入学とした場合、4月を起点とする社会・経済システムとの整合を図る必要が生じる。3月卒業を前提に実施される国家試験の日程調整が求められるほか、企業採用へ影響する可能性もある。小1児童の入学時期が秋にずれ込めば、移行期の4~8月は保育所などの受け入れ態勢が課題となる。導入論に対し、自民、立憲民主両党では「難題が多い」として慎重姿勢が目立つ。一方、国民民主党は導入に向けた提言案をまとめている。政府と自治体側の擦り合わせも不可欠だ。9月入学は9年前に東京大学が検討を始めたものの、最終的に見送った経緯がある。菅義偉官房長官は5月1日の記者会見で「時々刻々と変化する事態を注視しながら、文部科学省を中心に必要な対応を前広に検討していきたい」と述べた。 <やはりおかしい“緊急事態”“医療崩壊”の連呼 ← 得したのは誰か?> PS(2020年5月3、8、9、10日追加):*12-1のように、専門家会議やメディアは、「①医療崩壊になりそう」「②医療体制が逼迫」と連呼し、「③緊急事態宣言を延長し」「④新たな生活様式の呼びかけ」たが、その根拠として「⑤実効再生産数(感染者1人が何人に感染させるかを示す値)を挙げ、⑤が1より大きければ流行は拡大し小さければ収束していくとした。 しかし、⑤については、*12-2のように、日本におけるPCR検査の割合は諸外国と比較して人口比で極端に低く、このような背景の下に机上で産出された西浦北大教授(理論疫学)の実効再生産数は、空想上の数字でしかなく(嘘だと思ったら、それを論文にして世界に発表してみればよい)、そこから出た結論も空想にすぎない。そして、検査数の増加スピードも著しく遅いため、患者を早期に発見し、薬を使って早期治療を行わない結果、重症化させて長期入院を必要とするようになり、②の医療体制の逼迫が起こるのである。また、西浦北大教授(理論疫学)の実効再生産数には、治療薬出現の効果も考慮されていない。 さらに、④の「新たな生活様式の呼びかけ」は、具体的には、i)3密回避 ii)手洗い iii)テレワーク だそうだが、i)は回避できない場合もあるため、病気の人は病欠したり、マスクをかけたり、職場の1人当たり面積にゆとりを持たせたり、席の配置を考えたりすべきなのである。また、ii)は新型コロナに限らず常識で、iii)のテレワークができるのは、どこででもできる仕事をしている人に限られ、家庭で仕事をすれば仕事と家庭生活の区別がつきにくく、生産性も落ちるので、私は勧めない。ただ、満員電車による通勤は感染症を広げるため、企業は都会に置くオフィスの就業者数を本当にそこでしか仕事ができない人に限り、職場内のテレワークを使って他の場所でもできる仕事は、自家用車で通勤できる地方に置いた方が、(子どもの教育も含めて)環境がよく、仕事がはかどり、生活費は安いため、人件費や賃貸料の削減に繋がるのである。 なお、PCR検査が増えない理由には、*12-3のように、陽性患者が出ると職場の同僚や家族まで中傷や偏見に晒されて事業経営に悪影響が出るため、検査を自粛するという行動もありそうだ。感染者本人を差別するのも罪だが、これらの一般の反応を作ったのは、「(治療薬については副作用ばかりを強調し)効果的な治療薬のない絶望的な病気で、繁華街でうつって周囲に迷惑をかける」という印象を植えつけたメディアの報道に大きな責任がある。 また、医療行為を行う前から、①②のように「医療崩壊」「医療体制の逼迫」と連呼し、日本の医療水準が後進国並みに低いかのような行動を国民に強いているのは、専門家会議や厚労省に問題があり、これは検査方法や治療薬の工夫を妨害した。そして、*12-4のように、日本政府は、新型コロナの治療薬として米ギリアド社の「レムデシビル」を米食品医薬品局(FDA)が認可したという理由で日本での早期承認に動いているが、情けないにもほどがあり、これによって日本の製薬会社は外国(特に米国)で開発して承認をとらなければ日本国内でも使用されないという状況を招いているのだ。さらに、大量生産の段階になると、アビガンのように日本はコストが高すぎて中国で生産しなければ利益が出ず、いくら紙幣を印刷して国民の預金価値を薄めて金を捻出しても、その金は他国の景気を回復させるだけという状況である。これは高付加価値の薬剤に限らず、*13のような食料・エネルギーにも及んでおり、「日本は、何を売って必要なものを買うつもりですか?」という問いを、再度、経産省に投げかけざるを得ない。 このように、不確かな数字を根拠に際限のない休業要請をした結果、社会経済活動が停止して破綻する事業者や解雇される雇用者も出ている。そのため、*12-5のように、大阪府は、入院患者のベッド使用率が一定の数値を下回るなどした場合に休業と外出自粛要請を段階的に解除するという独自基準を設ける方針を決めた。医療崩壊の危機をことさら叫んで受診を控えるように呼びかけていた(とんでもない)NHKの調査によっても、*12-6のように、病床数に占める入院中及び入院必要な患者数が100%を超えるのは東京都(131%)だけで、軽症者のホテル収容を実施しているのにその収容数は収容能力と比べて著しく低く、工夫もせずに「危機だ」「危機だ」と叫んでいるわけだ。また、50%以上100%未満は北海道(81%)、石川県(81%)、群馬県(71%)、福岡県(70%)、兵庫県(65%)、千葉県(61%)、滋賀県(58%)、奈良県(58%)、富山県(57%)、愛知県(57%)、埼玉県(56%)、沖縄県(56%)、京都府(51%)等の13道県しかなく、それでもホテルなどの宿泊施設に収容可能な軽症者がまだ病院にいることが多い。そのため、ホテルなどの宿泊施設における健康管理と病院との連携を充実させれば、病床数に占める入院中及び入院必要な患者数は逼迫しない筈なのである。これに加えて、*12-7のように、東京都は年代別の新型コロナによる死亡者数を公表し、「60代以上が9割で、男性が85人・女性が37人」としているが、これくらいのサンプル数でジャンル別の傾向はわからず、「死亡者は高齢者・持病のある人に多い」という馬鹿の一つ覚えの偏見を生むのに加担している(これも嘘だと思ったら、論文にして世界に発表してみればよい。症例数や検査割合の少なさ、考察の浅さに呆れられるだけだろう)。 なお、この騒ぎで得した人は、まず「携帯電話端末の位置情報を、どさくさに紛れて使えるようにした人」「テレワークの機材を生産している人」「テレワークを進めたかった人」などだが、その他については、読者にお任せしたい。 *12-8に、「新型コロナ感染者の療養先は自宅がホテル等の宿泊施設の2.3倍で、厚労省が軽症者や無症状者に宿泊施設の利用を優先してもらう方針を示しているのに、移行が進んでいない」と書かれている。しかし、「宿泊療養が時には受け入れてもらえない」というとんでもないこともあるのかもしれないが、東京(自宅療養者635人)・埼玉(自宅療養者354人)・大阪(自宅療養者332人)・千葉(自宅療養者約250人)・神奈川(自宅療養者約250人)・福岡(自宅療養者81人)はホテルの多い地域である上、全国の宿泊施設で1万2090室が受け入れ可能となっているのに約7%しか利用されていないのでは宿泊施設を準備した意味がないため、自宅療養を選んだ人に理由を聞いて改善すべきだ。病院入院後の回復期にホテル療養をした私のいとこの場合は、宿泊施設のホテルはシーツの交換が全くなく、部屋の掃除や洗濯も自分でしなければならず、下着やタオルが足りなくなっても当然外出できないため、病気の人に不潔な状態での我慢を強いる状態になっているようだった。 新型コロナ感染者のうち軽症者・無症状者の隔離と療養に充てるため、長崎県が8医療圏にそれぞれ設ける計画で内定したホテルの周辺住民が反対を表明し、選定が難航して宿泊施設が決まらないのだそうだ。しかし、*12-9のように、ホテルの活用は既に行われており、神奈川県では運営の一部を自衛隊が担当し、福岡県は人出が減っているJR博多駅前等のホテルを確保しており、医療圏毎に必要とも思われないので、できたところから始めればよいのではないか? 朝日新聞が、2020年5月10日の社説に、*12-10のように、「⑪米国が重症者向けに緊急使用を許可したレムデシビルを、厚生労働省はスピード承認した」「⑫治療薬の早期開発に期待を寄せる声は多いが、有効性や安全性を確かめる手続きをないがしろにするわけにはいかない」「⑬現場の医師が注目しているのは、国内のメーカーが開発し、新型インフルエンザ用に承認されているアビガンだ」「⑭アビガンの月内承認をめざしている首相に、京大の山中伸弥教授からさらなる前倒しに向けて『鶴のひと声』を求められる場面もあった」「⑮多くの患者はアビガンを使わずに回復しており、催奇性があるので前のめりになりすぎるのは禁物だ」「⑯対象から外れた患者が発言を頼りに投与を希望したら、その対応で現場の負担が増える」「⑰政府は40カ国以上にアビガンを無償提供すると表明したが、国内患者の健康に関わるだけでなく国際協力にもつながる薬だからこそ、手順を踏んで遺漏のないようにしたい」「⑱薬害の歴史を忘れることなく、コロナ禍に適切に対処しなければならない」と記載している。⑱から、この記事は、アビガンの早期承認を要望している人は催奇性という副作用を知らないか忘れているという前提の上に立っているが、⑬⑭の現場の医師や京大の山中教授が自分よりも薬の作用・効果と副作用を知らないと考えているのは無知の上に傲慢だ。また、⑮については、もちろんアビガンを使わずに回復した患者もいるが、それだけ回復に時間がかかり、重症化するリスクも高くなり、助けられるのに死亡した患者を犠牲にしたのである。また、⑯の手間より、重症化を防ぎ入院期間を短くしながら命を助ける効果の方が大きいから、⑬のように現場の医師が期待しているのだ。なお、⑫のように、国内での承認に時間ばかりかかるため、⑪のように、「外国で承認されたから、横並びで・・」などという情けない理由で承認したり、⑰のように、国内では使えないうちに海外に無償提供したりしなければならず、日本の開発関係者は国内で開発すると徒労に終わることが多すぎるのだ。「10万円、マスク来ぬうち、コロナ去り」はまだ笑い話にできるが、「アビガンも、承認せぬうち、コロナ去り」は、文系のドアホが人の命をないがしろにした結果であるため、とうてい笑い話にならない。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2020.5.2朝日新聞 2020.4.26Yahoo 2020.4.29東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、一人の患者が何人に感染させるかで新規感染者数が異なるそうだが、これは大数を正確に処理した結果として出るもので、個人が他人に感染させる数は職業・電車通勤の有無等によって大きく異なる。左から2番目は、緊急事態宣言による行動自粛によって感染の山を右にずらすという論理だが、PCA検査数が少なく感染者が市中を歩いている状態では感染者数はますます増え、それを治療しないことにより重傷者が増えて医療崩壊は早まる。右から2番目の図は、外出自粛や休業要請で事業者がいつまで持つかを質問した結果で、1番右の図は、外出自粛や休業要請により非正規労働者から解雇や雇い止めが始まっている様子だ) *12-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14463367.html (朝日新聞 2020年5月2日) (時時刻刻)くすぶる感染、長丁場 感染者減「期待に至らず」 専門家提言 新型コロナ 1日に政府の専門家会議がまとめた提言は新型コロナウイルスの新たな感染者は減っているとしつつも、減り具合が目指したほどではなく、医療体制も逼迫(ひっぱく)していると指摘した。長期の対応を迫られるなか、感染リスクが高い3密を避け、接触機会を減らした「新たな生活様式」の定着を呼びかけた。専門家会議が1日午後に開いた記者会見。尾身茂副座長は「感染者数は減少しているが、そのスピードは我々の期待するまでには至らなかった」と語った。緊急事態宣言直後の4月11日に全国の新たな感染者数が700人近くになったが、最近は200人ほどの日もある。ただ、1日に数十人だった3月上旬~中旬に比べると、まだ多い。減少ペースも「急増のペースに比べると緩やかに見える」と提言は指摘し、「大都市圏から人が移動したことで、地方に感染が拡大した」と分析した。感染が拡大しているかをみる重要な指標の一つが「実効再生産数」だ。感染者1人が何人に感染させるかを示す値で、1より大きければ流行は拡大し、小さいと収束していく。全国で2・0(3月25日時点)、東京で2・6(3月14日時点)だったが、4月10日時点では全国で0・7、東京で0・5まで下がった。厚生労働省クラスター対策班に参加する西浦博・北海道大教授(理論疫学)は、1を下回ったのは全国も東京も緊急事態宣言が出る前の4月1日ごろだったと説明。そのうえで、「全国的にみると、8割の接触機会の削減で求めていた水準には達していない」と指摘。目標とする0・5以下になることを確認していく必要があるとした。ただ、PCR検査の件数が限られ、とくに流行地域で感染者を把握しきれていないとの指摘もある。尾身さんも会見で「我々は感染の実態の一部を把握しているに過ぎない」と認めた。宣言の延長判断で重要なもう一つの要素が医療現場の逼迫だ。患者は平均2~3週間入院する。特に人工呼吸器が必要な重症患者の入院は長期化する。全国的に人工呼吸器が必要な患者はこの1カ月で3倍超に増えて約280人、人工心肺が必要な患者も約2・5倍に増えて約50人になっている。会見で、会議のオブザーバーを務める東京都立駒込病院の今村顕史・感染症センター長は「患者数が減っても重症重篤の患者でかなり病床が埋まっている。軽症者にも重篤になる人がいる。(医療現場の)負担は続いている」と話した。 ■続く通勤、接触減に限界 提言では、厚労省のクラスター対策班が分析する人同士の接触機会がどれくらい減ったかのデータが示された。西浦さんは「(政府目標の8割減を)達成できた所とできなかった所がまだらだった」と述べた。主要な駅周辺などを対象にして、携帯電話端末の位置情報をもとにその区域の人口密度と、同じ時間帯に同じ区域にいた人の数などから、計算式を使って割り出した。感染拡大前の1月17日と4月24日(ともに平日)を比べると、東京・丸の内周辺では夕方から夜間は81%減だが、渋谷駅周辺では昼間は49%減、夕刻から夜間は62%減と目標に満たなかった。大阪市の難波駅は同じく29%減と41%減だった。県境を越えた移動は、神奈川、千葉、埼玉の3県と東京との間の減少率は昼間35~41%と小さかった。西浦さんは「都心への通勤を続ける限りは、(強制ではない)自粛要請のレベルでは限界があることがわかった」などと語った。ただ個人の属性や行動パターンなどで大きく変わることがあり、精度や技術的課題は多いとも話した。 ■制限下の生活「定着を」 3密回避、手洗い、テレワーク 地域でメリハリ、緩和条件は示されず 新型コロナは世界に蔓延(まんえん)し、現状では根絶は困難だ。「一定期間はこの新たなウイルスとともに社会で生きていかなければならない」。提言は、対策が長丁場になることを覚悟しなければならないと呼びかけた。ウイルスの蔓延防止を最優先にしつつ、社会経済活動とどう両立させるか。提言では、地域ごとに対策にメリハリをつける考えを前面に出した。感染状況が厳しい地域では新たな感染者数が一定水準に減るまで、外出や営業の自粛要請などを続ける。十分減れば対策を緩められる対象にする。要件の一つは感染状況だ。新たな感染者数や感染者が増えるペースが一定水準にまで減り、感染把握に必要なPCR検査などがすぐできることを求める。もう一つの要件は医療の状況。新型コロナの患者を診るための医療機関の役割分担や、軽症者らに対応する宿泊療養施設の確保を挙げる。これらをもとに総合的に判断してもらうとした。ただ、対策を緩められる地域でも以前の生活に戻る状況は想定していない。感染拡大のリスクが高い密集・密閉・密接の「3密」を徹底的に避け、手洗いや他人との距離を保つのは不可欠。テレワークなども重要とする。全国的な大規模イベントも、感染対策が整わなければ中止などを求めるとしている。「長丁場を前提とした『新しい生活様式』の定着が必要だ」。会見で尾身さんは強調した。こうした対策で感染を抑え込みながら、早期診断と治療法の確立やワクチン開発を待つ狙いだ。ただ、対策を緩和する要件にある一定水準とはどの程度の減少なのかや、緩和できる対策の範囲は明らかでない。「新しい生活様式」も、人との接触が避けられない環境の人がいるなど、定着には課題がある。ただ、以前の生活に戻せば感染拡大がすぐに起きる可能性は、外部の研究者も指摘する。東京大の大橋順准教授(集団ゲノム学)の推計によると、人口10万人の都市の感染者数が50人になった時点で他人との接触頻度を8割減らすと、30日後には23人まで減少。だが、接触頻度が元に戻ると約15日で50人に戻った。大橋さんは「医療崩壊を防ぎ、ワクチンや治療法が開発されるまでの時間をかせぐためには、接触頻度を減らす努力を継続することが必要だ」と話す。 *12-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200503&ng=DGKKZO58692210R00C20A5EA2000 (日経新聞 2020.5.3) 検査目標 日本は独の14分の1 世界で拡充、米は1カ月で倍増 新型コロナウイルスで制限した経済活動の再開をにらみ、各国が検査の大幅増加へ動き出した。日本は1日2万件の検査を目標とするが他国との差は大きく、人口比ではドイツが日本の14倍、米国も同5倍の目標を掲げる。経済再開に向けて感染の実態把握は不可欠で、日本がこのまま検査を増やせなければ緊急事態宣言解除のハードルは高い。一部地域で爆発的感染が落ち着いてきたのを受け、各国は外出制限の出口戦略を練り始めた。感染の再拡大と医療崩壊を避けるには、検査を増やして感染拡大の兆しをつかむ体制が不可欠だ。米国は現在、1日23万件のペースで感染の有無を調べるPCR検査を実施している。5月中の目標として、4月中旬(1日15万件)の2倍の「週200万件(=1日29万件)」を掲げる。現在の新規感染者は平均で1日2万7千人程度。米政権は陽性率が10%に下がる程度まで検査を増やす計画で、感染者が現在と同じなら27万人を検査することになる。「感染者1人あたり平均5人の濃厚接触者が出る」(米厚生省幹部)とみており、接触者13万5千人にも検査が必要だ。合計40万5千人になり、感染者が現状のままだと検査件数はまだ足りない。米政権は外出制限の効果で感染者が今後減っていくことを想定する。接触者もあわせて十分な検査ができるくらい感染者が減った州から、飲食店の営業を条件付きで認めるなど、段階的に経済活動を再開する方針だ。フランス政府は5月11日から商店などを再開するのにあわせ、検査能力を現状の実施件数の5倍にあたる1日10万件に増やすと発表した。外出する人が増えることで新規感染者が最大で現状の2倍の1日3千人に伸び、濃厚接触者を25人と仮定。全員をカバーしたうえで、余裕をみた検査能力を確保する。ドイツは4月中に1日20万件、英国は同10万件を目標としていた。ドイツの直近の検査数は同7万件、検査能力は同14万件あるとするが、目標達成は遅れている。検査を増やすには、人員や医療品の確保が不可欠だ。米政権は大手薬局チェーンに検査場設置を要請。CVSヘルスは5月中に最大1千カ所で1日5万件を実施する。検査用の綿棒や試料は、非常時に大統領権限で企業に命令できる「国防生産法」で増産を求める。米は6、7時間かかるPCR検査に加え、その場で結果が出る15分程度の「抗原検査」の普及も急ぐ。ウイルス特有のたんぱく質(抗原)を検出するもので、過去に感染したことがあるか調べる「抗体検査」とは別だ。抗体検査は発症直後は診断しづらいため、抗原検査でPCRを補完する。日本政府は1日2万件を目標に掲げ、同1万5千件を実施できる体制を整えたとしている。ただ実際の検査件数は同8千~9千件にとどまる。人口比でも日本の検査目標は見劣りする。人口1人あたりの目標件数はドイツが日本の14倍、英仏が9倍、米国は5倍だ。他国は経済再開と検査拡充をセットにして出口戦略を立てており、日本の出遅れは否めない。検査の人手不足などを補おうと、日本政府は検体採取業務を歯科医師にも認めると決めたほか、ドライブスルー検査の実施を自治体に促すといった対策を講じる。ただ安倍晋三首相も国会答弁で「目詰まりや地域差がある」と認める。検査拡充で感染実態が把握できなければ、緊急事態宣言の解除はおぼつかない。経済活動の正常化にはさらに検査拡充が必要との試算もある。米ハーバード大は米国民全員が毎月2回検査できる1日2千万件の検査体制を提言する。一度陰性になっても安全と言えないためだ。シンガポールは当初封じ込めに成功したとみられていたが、外国人労働者の寮で感染が再び広がった。労働者の大規模検査が必要になり、人口570万人の同国の検査数は12万件を超えた。 *12-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/519100 (佐賀新聞 2020.5.3) <新型コロナ>病院襲う感染デマ 「おたくやろ」「来ないで」憶測で詰問、伊万里や嬉野 中傷、偏見…家族にも 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、佐賀県内でも中傷や風評被害が起きている。伊万里市ではデマを発端に、同じ職場の人やその家族までもが中傷や偏見にさらされ、職員の感染が確認された嬉野市の病院の関係者も差別的な行為を受けており、心を痛めている。「本当に怖い思いをした。憶測で情報を広めることが、どれだけ多くの人を傷付けることになるか知ってほしい」。伊万里市新天町にある山口病院理事長の藤邑(ふじむら)葉子さん(62)は訴える。3月31日、佐賀県が県内2例目の感染者を「伊万里市の60代女性で、福岡市に住む30代男性医師の母親」と公表した。「山口病院の藤邑さんでは…」。デマはその日のうちに広がり始めた。年代が一致し、20代の息子が佐賀県内の病院で研修医をしていることなどから類推されたようだ。「おたくやろ」。翌日以降、病院に問い詰めるような電話が十数件かかってきた。患者からも聞かれた。いくら否定しても「かん口令が敷かれとるとやろ」。来院者や運営する介護施設の利用者が激減した。風評被害は、職員やその家族にも広がった。看護師の子どもは保育所で他の園児と離された。入院患者や通所者の家族が、職場や塾に「来ないでほしい」と言われたという話も聞いた。藤邑さんは、地元のケーブルテレビで20日間以上「当院職員の感染ではございません」などと書いた静止画像を放送した。来院者に説明し、関係者には文書も送った。元気で健在だということをアピールするため、できるだけ外を出歩いた。市にも相談した。「やれることは全部やろうという思いだった」。外来事務職員の感染が確認された嬉野医療センターの看護師も差別的な扱いを受けた。買い出しに出掛けた店の駐車場で、車のダッシュボードにセンターの駐車証を置いていると「近寄らないで」という感じで手を払うそぶりをされた。別の店でも同じようなことがあった。看護師の母親は「娘は外出も、人との接触も最小限に抑えている。私も娘の家に食料品を届けても、会わずにドアノブに掛けて帰る。感染者が出た直後は病院にも非難の電話が多かったと聞く。医療従事者が、家族を含めて感染拡大を防ぐために必死に頑張っていることを分かってほしい」と話す。ナイトクラブで県内初のクラスター(感染者集団)が発生した武雄市は、職員がネットパトロールを重ねている。悪質なケースは把握していないが、感染者が確認されると「だれ」「どこの人」と、必ず電話がかかるという。対策本部は「県からは人を特定するような情報は入らないので『情報がない』と伝えるが、怒る人もいる。仮に知っていても教えることはない」と強調する。 *12-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200503&ng=DGKKZO58764440S0A500C2MM8000 (日経新聞 2020.5.3) 日本、レムデシビル特例承認へ 米の緊急認可受け 日本政府は2日、新型コロナウイルスの治療薬として米医薬大手ギリアド・サイエンシズの「レムデシビル」の使用に向けて施行令を改正した。米食品医薬品局(FDA)がレムデシビルの緊急使用を認可したのを受け日本も異例の早期承認に動く。トランプ米大統領は1日、FDAがレムデシビルの緊急使用を認可したと発表した。臨床試験(治験)で感染者の回復を早める効果を確認したとして重症患者への使用を認める。米国立衛生研究所(NIH)が4月29日に回復期間が短縮したとの暫定的な治験結果を公表しており、2日後の緊急認可となった。日本でレムデシビルが承認申請されれば「1週間程度で承認できる体制を整えるよう指示した」(加藤勝信厚生労働相)として、早ければ5月中にも特例承認が下りる可能性がありそうだ。 *12-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200503&ng=DGKKZO58767500S0A500C2MM8000 (日経新聞 2020.5.3) 大阪府、経済再開へ基準 病床使用率など 休業要請解除、 15日可否判断 大阪府は2日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休業と外出自粛の要請について、解除する際の独自基準を設ける方針を決めた。入院患者のベッド使用率が一定の数値を下回るなどした場合、段階的に解除する。政府が緊急事態宣言を1カ月程度延長する方針を固めるなか、影響の大きい経済活動の再開に向けた出口戦略を明確に示す必要があると判断した。改正新型インフルエンザ対策特別措置法では、感染症対策で国と自治体が調整を行うことになっている。府は、政府が4日に発表する緊急事態宣言の延長を受けて5日に詳しい数値などを決める。ただ、大阪単独で解除に踏み切れば兵庫県や京都府など周辺自治体との人の往来が増し、感染が再び拡大する可能性もあり、今後、国や他の自治体との調整も必要になりそうだ。独自基準は2日の府コロナ対策本部会議で決めた。全国に先駆けた動きで、吉村洋文知事は会議終了後「社会経済活動を(通常に)戻すために基準を示す」と述べた。府は解除の基準の一つとして、医療機関のベッド数と入院患者数に基づく「病床使用率」を用いる方針。重症者向けは50%、中等・軽症者は60%を下回れば、段階的に解除する案を軸に検討。現在はいずれも下回るが、検査で陽性と確認された人の割合なども参考にしながら15日に解除の可否を判断する方針だ。府が独自基準を設ける背景には、事業者や府民から休業や外出自粛について理解と協力を得るためには解除に向けた目標設定が欠かせないとの判断がある。政府の専門家会議は1日、外出自粛などを緩和する判断材料として、新規感染者数が十分に抑えられていることや医療提供体制の確保などを挙げたが、具体的な数値は示されなかった。府内の感染者数は1600人超と東京都に次ぐ規模だが、1日までの直近1週間の新規感染者数は193人。4月上旬から3週連続で350~370人台だったのに比べると大きく減ったほか、感染経路不明の患者数の割合も下がっており、出口戦略を探りやすい環境が整ったとみている。事業者などへの休業要請を巡り、小池百合子都知事は2日、吉村知事らとのテレビ会議で「都としての出口戦略を検討したい」と述べた。 *12-6:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/medical/ (NHK 2020年4月28日) 医療崩壊の危機、新型コロナ対応のベッド数と入院患者数データ 新型コロナウイルスに対応する医療体制について、NHKが全国の都道府県に取材したところ、入院患者の数が準備している病床数の8割を超えているところは、北海道・東京都・石川県の3都道県となっています。すでに27都道府県で、軽症者に宿泊施設などで療養してもらう対応をとるなどして病床がひっ迫する状況はやや緩和されましたが、専門家は今後も病床を増やすとともに宿泊施設などで療養する患者の健康を十分確認できる体制が必要だとしています。 ●新型コロナ対応のベッド数と入院患者数:NHK調べ 4月27日時点の最新データ ①都道府県 ②新型コロナ対応ベッド数 ③入院中の患者数(入院必要な人含む) ④ベッドに対する割合 ⑤軽症者はホテルに ①北海道 ②400 ③323 ④81% ⑤実施 ①青森県 ②38 ③8 ④21% ⑤準備中 ①岩手県 ②184 ③0 ④0% ⑤準備中 ①宮城県 ②388 ③27 ④7% ⑤実施 ①秋田県 ②105 ③9 ④9% ⑤準備中 ①山形県 ②150 ③28 ④19% ⑤準備中 ①福島県 ②113 ③49 ④43% ⑤実施 ①茨城県 ②151 ③68 ④45% ⑤実施 ①栃木県 ②130 ③40 ④31% ⑤準備中 ①群馬県 ②143 ③102 ④71% ⑤実施 ①埼玉県 ②457 ③254 ④56% ⑤実施 ①千葉県 ②471 ③288 ④61% ⑤実施 ①東京都 ②2000 ③2619 ④131% ⑤実施 ①神奈川県 ②1000 ③213 ④21% ⑤実施 ①新潟県 ②234 ③34 ④15% ⑤実施 ①富山県 ②205 ③116 ④57% ⑤実施 ①石川県 ②170 ③137 ④81% ⑤実施 ①福井県 ②114 ③48 ④42% ⑤実施 ①山梨県 ②80 ③22 ④28% ⑤実施 ①長野県 ②227 ③51 ④22% ⑤準備中 ①岐阜県 ②458 ③78 ④17% ⑤実施 ①静岡県 ②200 ③35 ④18% ⑤準備中 ①愛知県 ②350 ③198 ④57% ⑤実施 ①三重県 ②124 ③27 ④22% ⑤準備中 ①滋賀県 ②95 ③55 ④58% ⑤実施 ①京都府 ②213 ③109 ④51% ⑤実施 ①大阪府 ②900 ③423 ④47% ⑤実施 ①兵庫県 ②372 ③241 ④65% ⑤実施 ①奈良県 ②73 ③42 ④58% ⑤実施 ①和歌山県 ②124 ③29 ④23% ⑤準備中 ①鳥取県 ②322 ③2 ④1% ⑤準備中 ①島根県 ②225 ③20 ④9% ⑤準備中 ①岡山県 ②117 ③12 ④10% ⑤準備中 ①広島県 ②200 ③85 ④43% ⑤実施 ①山口県 ②320 ③15 ④5% ⑤準備中 ①徳島県 ②130 ③1 ④1% ⑤確保 ①香川県 ②43 ③20 ④47% ⑤確保 ①愛媛県 ②70 ③16 ④23% ⑤実施 ①高知県 ②74 ③17 ④23% ⑤実施 ①福岡県 ②300 ③211 ④70% ⑤実施 ①佐賀県 ②70 ③26 ④37% ⑤実施 ①長崎県 ②102 ③10 ④10% ⑤確保 ①熊本県 ②312 ③47 ④15% ⑤準備中 ①大分県 ②222 ③25 ④11% ⑤準備中 ①宮崎県 ②100 ③8 ④8% ⑤実施 ①鹿児島県 ②143 ③7 ④5% ⑤準備中 ①沖縄県 ②160 ③90 ④56% ⑤実施 NHKでは、全国の放送局を通じて27日時点の新型コロナウイルスに対応する病床や入院患者の数などについて都道府県に取材しました。それによりますと、新型コロナウイルスの患者が入院するために確保している病床の数は、全国合わせて1万2500床余りで、先週に比べておよそ1200床増えました。また現在の入院患者は少なくともおよそ6300人で、先週と比べるとおよそ350人減りました。さらに軽症者に宿泊施設などで療養してもらう対応をとっているところは、27都道府県となり、先週から10か所増えました。その結果、都道府県別に確保できている病床数に対して入院患者や入院などが必要な人の数が8割を超えているのは、先週から3か所減って、いずれも「特定警戒都道府県」の北海道と東京都、それに石川県の合わせて3都道県となりました。一方で、宿泊施設や自宅で療養や待機をしている人は、病床が確保できていない人たちも含めて24都道府県で2400人を超えています。 ●宿泊施設や自宅で療養や待機をしている人 ・大阪府 約600人 ・埼玉県 400人超 ・神奈川県 350人余 ・千葉県 300人近く ・東京都 200人近く ・福岡県 200人近く 埼玉県で自宅待機中だった患者が死亡したことを受けて、厚生労働省は軽症者などの療養は宿泊施設を基本とする方針に変えましたが、ほとんどの都道府県は、病院や宿泊施設での療養を原則とする対応にしているとしています。また、医療機関の役割分担を進めようと重症者と中等症の患者を診る「重点医療機関」をすでに定めているところは23府県で、検討や準備を進めているのが6都道県、18県は定めていないと回答しました。さらに懸念していることを聞いたところ、病床や宿泊施設の確保に加え、宿泊施設で軽症者のケアを行う医師や看護師の確保が難しいといった声や感染拡大が続くにつれ、新型コロナウイルスの患者以外の医療への影響が懸念されるといった声が出ています。また、引き続き、医療用のマスクやガウンなどが不足する中での院内感染対策も多くのところが課題に挙げました。感染症に詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は、「病床の状況は改善されてきたと見られるが、まだ十分ではない。医療資源が少ない地方で、感染者が一気に増えるおそれもあり、重症患者の治療を早く適切に行い亡くなる人を減らすために今後も医療機関が病床を増やし行政が支援することが必要だ。また、一般の人たちには、連休中も外出を控えるなど感染拡大を抑えるための協力をしてほしい」と話しています。また、宿泊施設などでの療養が増えてきていることについて、「はじめは軽症であっても、容体が急変することもある。自宅療養の場合には、息苦しさを感じるなど具合が悪くなったと感じたら保健所などに連絡してもらいたい。行政や医療機関が連絡体制を整えるなど、医師や看護師が患者の健康を十分確認できる体制をとる必要がある」と指摘しました。 *12-7:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200501/k10012415081000.html (NHK 2020年5月1日) 東京都 年代別の死亡者公表 60代以上が9割 新型コロナ 東京都は新型コロナウイルスに感染して死亡した人の年代別の内訳を公表し、60代以上が全体のおよそ9割を占めていることを明らかにしました。都内では新型コロナウイルスの感染が確認された126人が1日までに死亡しています。このうち、確認中の4人を除く122人について都が年代別の内訳を公表しました。それによりますと、 ▽30代以下と100歳以上で死亡した人はいなかった一方、 ▽40代が1人、 ▽50代が9人、 ▽60代が18人、 ▽70代が40人、 ▽80代が38人、 ▽90代で16人となっています。 60代以上が全体のおよそ9割を占め、中でも最も多い70代と次に多い80代だけで6割余りとなるなど、高齢者の死亡が多くなっています。これについて都は、複数の病院で集団感染が発生して持病のある人が感染したことや、高齢者が重症化しやすいことが要因とみています。性別で見ますと、▽男性が85人、▽女性が37人と、男性が女性の2倍以上となっていて、都は、流行の初期に男性が感染するケースが相次いだことや、たばこを吸うなど持病がある人が男性に多かったことなども要因の1つと見ています。都の福祉保健局は「死亡は高齢者に集中しているが、若い世代の人たちも感染拡大につながらないよう自制してほしい」と話しています。 *12-8:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58794080W0A500C2CE0000/ (日経新聞 2020/5/6) 新型コロナで自宅療養、宿泊施設の2倍超 移行進まず 厚生労働省は6日、新型コロナウイルスの感染者の療養先についての全国調査結果を発表した。4月28日時点で8711人の感染者のうち、自宅で療養している人は1984人だった。ホテルなどの宿泊施設の療養者の2.3倍に上る。厚労省は軽症者や無症状の人に自宅療養より宿泊施設の利用を優先してもらう方針を示しているが、移行は十分に進んでいない。加藤勝信厚労相は6日、「現場では宿泊療養がときには受け入れてもらえないという話も出ている」と報道陣に語った。調査によると、検査で陽性となった全国の感染者数(死亡者や回復した人を除く)は4月28日時点で8711人で、うち入院者が5558人で最多。自宅療養が1984人、宿泊施設での療養が862人だった。自宅療養を都道府県別にみると、東京が635人で最も多く、埼玉354人、大阪332人が続いた。千葉、神奈川は約250人で、福岡は81人。この6都府県以外は30人以下で、大半は0人だった。施設療養の最多も東京で198人だった。ほぼ同時期に行われた別の調査では、全国の宿泊施設で1万2090室が受け入れ可能となっており、約7%しか利用されていないことになる。東京など自宅療養が多い6都府県でも8%にとどまり、施設が使われていない状況だ。東京の担当者は「症状が軽い人は自宅での療養を望む人も多い」と話す。施設では家族への感染が防げるほか、看護師や保健師が24時間常駐して入院への切り替えもスムーズだとして「施設療養を積極的に利用してもらいたい」としている。感染者の多い自治体では、医療機関に肺炎になるなど中等症以上の治療に専念してもらうため、軽症者などは医師の判断で施設や自宅での療養に切り替えてきた。ただ、埼玉県では自宅待機者が死亡。厚労省は4月23日、容体急変に対応するため、自宅より施設療養を優先する通知を出した。 *12-9:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/606824/ (西日本新聞 2020/5/9) 軽症者ホテルの選定難航 長崎県、周辺住民の不安強く 新型コロナウイルス感染者で軽症と無症状の人たちの隔離、療養に充てるため、長崎県が借り上げる宿泊施設が決まらない。県内の8医療圏にそれぞれ設ける計画だが、長崎市内では“内定”したホテルの周辺住民が反対を表明するなど選定は難航しているもようだ。「宿泊療養施設の運営につきましては、県が万全を期して行ってまいります」。地元に配布された中村法道知事の名前入りの文書には、感染者は検査で2度の陰性が確認できないと退所できない、ごみの管理は徹底する-など運営方針が記されている。県は医療崩壊を防ぐため、102床の専門病床は重症者と中等症者用に確保し、症状が軽い人向けに宿泊施設を準備する。住民たちもその方針には賛成しているが、「居住エリアから離れた場所にしてほしい」「公共施設を活用してはどうか」との声が上がる。県担当課は医療機関が近くにあることを条件としており、安全確保に努める姿勢を示しているが、不安は解消されていない。県内では4月18日以降は新たな感染は確認されていない。だが停泊中のクルーズ客船で140人超のクラスター(感染者集団)が発生、県医師会が「医療危機的状況宣言」を出したことも住民の不安を強くしているようだ。県が応募した施設はベッド付きの洋室が50部屋以上(離島部は20部屋以上)あり、それぞれバスとトイレを備えることが条件。壱岐を除く7医療圏で計23施設(計2096部屋)の応募があり、目標の千人分は突破している。こうしたホテルの活用は他県でもみられ、神奈川県では運営の一部を自衛隊が担当。福岡県は「住宅地から離れ、外出自粛で人出が減っている」との理由で福岡市のJR博多駅前などのホテルを確保している。 *12-10:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14470582.html (朝日新聞社説 2020年5月10日) コロナ治療薬 前のめり排して着実に 新型コロナの治療薬としていくつかの薬が候補に挙がり、試験や研究が進められている。その一つで米国が重症者向けに緊急使用を許可したレムデシビルを、厚生労働省はスピード承認した。国内の審査を簡略化できる制度を使った異例の措置だ。当然ながら副作用の懸念もあり、投与した患者全員の追跡調査をして、慎重に効能を検証することが求められる。治療薬の早期開発に期待を寄せる声は多い。関係者は最善の努力を尽くして、これに応えてもらいたい。しかし、だからといって有効性や安全性を確かめる手続きをないがしろにするわけにはいかない。いま現場の医師が注目しているのは、国内のメーカーが開発し、新型インフルエンザ用に承認されているアビガンだ。新型コロナの治療薬としての承認をめざした治験が進んでいるが、それと並行して、多くの医療機関が参加する医学研究(臨床研究)も行われ、実際に患者に服薬してもらっている。安倍首相は4日の会見で「3千例近い投与が行われ、効果があるという報告も受けている」と述べ、月内の承認をめざす考えを示した。6日放映のネット番組では対談した京大の山中伸弥教授から、さらなる前倒しに向けて「首相の鶴のひと声」を求められる場面もあった。だが前のめりになりすぎるのは禁物だ。多くの患者はアビガンを使わずに回復している。アビガンを使って良くなった症例をいくら集めても、薬の効果を見極めるのは難しい。期待先行で評価するようなことがあってはならず、また、動物実験で重い副作用が報告されていることにも留意する必要がある。思い起こすのは、02年に世界に先駆けて日本で承認された抗がん剤のイレッサだ。「副作用の少ない夢の新薬」ともてはやされたが、販売直後からその副作用が原因とみられる死亡例が相次いだ。どんなタイプの患者に効果があるかなどの情報が不十分なまま、広く使われたことが深刻な被害を生んだ。首相が、病院の倫理委員会の承認が条件としつつ「希望すれば誰でも服用できる」と繰り返しているのも、混乱を招く恐れがある。全ての病院で処方できるわけではないし、対象から外れた患者が発言を頼りに投与を希望したら、その対応で現場の負担はさらに増えかねない。政府は40カ国以上にアビガンを無償提供すると表明した。国内患者の健康に関わるだけでなく国際協力にもつながる薬だからこそ、手順を踏んで遺漏のないようにしたい。薬害の歴史を忘れることなく、コロナ禍に適切に対処しなければならない。 *13:https://www.agrinews.co.jp/p50658.html (日本農業新聞 2020年4月29日) コロナと輸出制限 食料安保確立の契機に 新型コロナウイルスの感染拡大で農畜産物の消費が混乱し、農業者を苦しめている。食料の輸出制限が相次ぐ中で浮き彫りになったのは、食と農はひとつながりの関係にあることだ。国内生産が縮小すれば食の不安は増大する。食料の安定供給が揺らがないよう、国を挙げて生産基盤強化を急ぐべきだ。食料自給率37%(2018年度、カロリーベース)の日本にとって、日々の食卓をどう守るか考えざるを得ない事態だ。新型コロナの感染が地球規模で広がり食料貿易に影響が出ている。中でも輸出制限は輸入国の食料安全保障を脅かしかねない。世界最大の小麦輸出国ロシアは4~6月の穀物輸出量に制限を設けた。第5位の輸出国のウクライナも国内販売を優先し、輸出制限に踏み切る可能性がある。米では世界第3位の輸出国ベトナムが新たな輸出契約を3月下旬に停止した。国内の需給状況を確認する一時的な措置ともみられるが、同国政府は主食の確保に神経をとがらせる。農水省は、これらの国は主要な輸入先でないため「日本の食料輸入に影響が生じているとの情報は入っていない」とする。日米欧やロシアなど20カ国・地域(G20)は農相会議で「いかなる不当な制限的措置を回避する」ことを確認した。ただ、どんな場合が「不当」に当たるかは輸出国と輸入国で温度差があるだろう。自国民の食料確保を輸出より優先するのは政府の役割として当然ともいえる。輸出制限回避の担保を得たとは言い難い。また世界貿易機関(WTO)ルールは新たな輸出制限を設ける時はWTOに通知し、輸入国と協議することなどを定める。しかし輸出制限の歯止めとして実効性はあいまいだ。各国政府の意図と関係なく食料流通が止まる恐れもある。米国では食肉処理工場で感染が広がり、複数社が操業を停止した。同国の豚肉供給量の4、5%を占める工場も含まれ、食料品店では食肉が今後不足するだろうとの報道もある。世界最大の米の輸出国・インドでは、都市封鎖による混乱で輸出業者が新規契約の締結をやめている。グローバリゼーションで、効率性や安さを優先し食料の供給網を世界中に広げてきたことが一転、地球規模の感染拡大でリスクとなって現れつつある。日本では食料不安はまだ顕在化していない。国内で農業者が懸命に生産を続け、国民の食を守っているからだ。ただ外出自粛や休校、飲食店の休業などによる需要減と価格低下で、経営が苦境にある農業者も多い。食料の安定供給は瀬戸際にある。食料自給率が低い中で、生産力がさらに弱まれば食料不安が噴き出す恐れがある。消費者が農業者を支える番だ。輸入依存を見直し、食と農の結び付きを強めていく。その契機とすべきだ。そのために政府は、農業経営を継続できるよう支援するとともに、食料供給の実態を国民に伝えることが求められる。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 08:48 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2020,02,23, Sunday
![]() ![]() ![]() 購買力平価ベースのGDP 2018.12.18朝日新聞 2019.12.21毎日新聞 (図の説明:物価上昇の影響を除いた購買力平価ベースのGDPは、左図のように、日本は停滞しており、現在はインドと接戦の状態だ。一方、中国は、等比級数的にGDPが伸びているが、これまでは安い人件費に支えられた製造業の発展が主な要因で、現在は先端産業にも進出している。アメリカは人件費が特に安いわけでもないのに、購買力平価ベースのGDPが順調に伸びており、開拓者精神と人材の多様性に支えられているのだろう。また、中央の図は、中国の近年の出来事とGDPの上昇をグラフに示したもので、中国は市場経済を目標にして以降、GDPの伸びが著しいことが明らかだ。右図の日本の2020年度予算は、予算委員会であまり議論されていない《又は議論していても報道されていない》が、持っている資産を活かし、無駄遣いを省いて教育を重視し、技術や人材を大切にしなければ、将来がおぼつかない) 経産省はじめ政府が愚かなため、日本は1億人の人口を抱えながら、食料(自給率37%)やエネルギー(自給率7.4%)の殆どを輸入し、輸入するための金を稼ぐ手段である製造業やサービス業も他国に譲ってしまった。このままでは、将来は、食料やエネルギーを輸入する金もなくなるため、今日は、事例を挙げてそのことについて説明する。 (1)農林業生産物の外国依存 1)日本における食品の自給率低下 農林水産省は、*1-1・*1-2のように、2030年度の食料自給率目標として輸入飼料を与えた国内の畜産物を「国産」に含めた数値を新たに設定する方針だそうだが、これを国産に含めていけない理由は、飼料の輸入が止まれば、その畜産物を生産できなくなるからだ。 これは、政府が農産物の市場開放を優先したため政府が掲げた食料自給率の目標に達しないことを隠すためだろうが、そもそもカロリーだけで自給率が100%になっても生きてはいけない。まして、「45%の目標が37%に落ち込んだが、新たな算定方法で計算し直すと46%に跳ね上がった」などというのは、次元の低い数字遊びにすぎず、飼料増産・耕畜連携・国産飼料を与えた畜産物の消費という機運を削ぎ、食料安全保障の確立のための飼料自給率向上への取り組みを疎かにするものだ。 また、*1-3のように、社会全体の「食の安全」への意識の高まりの中、国は2015年に食品表示法を施行して原産地表示の義務化を進めているが(日本政府が定めると妥協の産物になるため、EUと同じにした方がよい)、不十分なこの原産地表示でさえ、「中国産」を「国産」と偽るなどの虚偽表示が多いそうである。 2)榊(サカキ)も中国産 日本の神事に欠かせないサカキは、国内に広く自生しているにもかかわらず、*2のように、殆ど中国産で、その理由は、国産材が売れなくなって森林の手入れが減り、木材の下に自生しているサカキを切り出して販売していた供給が減ったからだそうだ。 佐藤幸次さんは、そこにビジネスチャンスを見つけて10年前に国産サカキの供給に乗り出したが、軌道に乗せるまでは大変だったそうだ。 (2)和服も中国製 今回の新型コロナウイルス騒ぎで、日本で使われているマスクの80%が中国製だということがわかって驚いたが、日本文化の象徴とされる和服についても、*3のように、①絹糸の殆どが中国産で、made in Japanの着物生地は絶滅寸前であり ②仕立ての半分以上は、ベトナムなど海外の職人が行っており 流通する「日本の着物」の大半は、「中国産の糸」を用いて、日本で仕立てたか、ベトナムなど海外の工場で仕立てたものだそうだ。 これは、品質管理を日本企業が行いつつ、人件費をはじめとするコストの安い中国・ベトナム・ミャンマーなどで生産するようになったためで、そうなった理由は、日本国内では人件費・水光熱費・地代等の必要経費は上がったが、それに見合った生産性向上ができなかったため、国内で生産すれば価格が高くなりすぎて一般市民が買えなくなったという日本市場の現実がある。 この後、日本での生産が0になれば、品質管理ができる日本人もいなくなり、日本からは技術もなくなるが、この現象は、時間の差はあれ他産業にも起こったことで、主に東西冷戦終了後の1990年代から始まったことである。こうなってしまうと、仮に景気がよくなっても、国内ではなく輸入する相手国に金が落ちる仕組みとなる。 (3)工業製品も中国にシフト 私は、東西冷戦が終了した1990年代にODA担当をしていたため、共産主義経済の国が経済敗北し、共産主義経済から市場主義経済に移行した国をずっと市場主義経済だった国が援助しつつ技術移転していた現場にいて、その内容を見てきた。そして、現在、(長くなりすぎるので1つ1つ例を挙げはしないが)市場主義経済の国だった筈の日本が、中国やロシアよりも共産主義経済の弱点を具現しているように見えるのである。 例えば、国内メーカーだったが、日本で変に叩かれて台湾メーカーとなったシャープは、*4-1のように、初めて第5世代(5G)移動通信システムに対応したスマートフォンを発表したそうだ。メディアが的外れの叩き方をして、日本の優良メーカーを日本から追い出したのは本当に残念なことだった。 一方、*4-2のように、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の拡大で、スマートフォンなど世界の電子機器の生産に影響が出ているのには、電子機器における中国の重要性が現れている。つまり、中国は、食品・軽工業製品を生産・輸出しているからといって重工業製品・IT産業で遅れているわけではなく、最先端の電子機器も生産しているのであり、これは一国の政策として当然のことなのだ。 さらに、*4-3のように、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が続く中、中国からの部品供給が滞ったため、日産自動車は九州の完成車工場の稼働を一時停止するそうで、国際貿易センターによると、2019年の中国からの自動車部品の輸入額は30億ドル(約3300億円)と、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した03年の約10倍になっているそうだ。 つまり、日本が現状維持や後戻りばかりしている間に、中国はEVや自動運転車でも最先端を走っており、これは、国を挙げて本気でEVや自動運転車の開発を行う意思決定をし、それに基づいて皆が行動した結果だ。にもかかわらず、経産省は、「自動車だけは永遠に日本の方が優れている」と考えているようだが、それもいつまで続くかわからない幻想なのである。 (4)サービス業 製造業は、コストの低い国が立地上の比較優位性を持つのに対し、サービス業は、消費地でしか生産できないため、日本にも立地の比較優位性があり、雇用吸収力もある産業だ。しかし、経産省はじめ日本政府は、製造業と比較すると、サービス業は眼中にないらしい。 1)観光業 中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎拡大で中国政府が海外への団体旅行を禁止した1月末以降、旅客便の運休やクルーズ船の寄港取りやめが相次ぎ、沖縄県の観光施設・ショッピングモール・ドラッグストアなどから中国人団体客の姿が消えて、沖縄県経済の屋台骨である観光業に影を落としているそうだ。 このように、「日本は中国はじめ外国の観光客を迎えて外貨を稼いでいるのに、メディアが『爆買い』などという嘲るような言い方をするのは罰当たりだ」と私は思っていたが、客の姿が消えて初めて、その有難味がわかったようだ。観光で行ける場所は世界に少なくないため、今後は観光客を疎かにしない方がよい。 2)医療・介護 日本の医療は質が良かったにもかかわらず、近年は、*5-2のように、厚労省が医療費抑制しか考えずに医療叩きばかりしているため質が落ちた。医療の質が高ければ、人間ドック・医療・リハビリなどを目的とした観光を設定して稼ぐこともできたが、新型コロナウイルスへの対応を見ても諸外国から見劣りするもので、もともとあった付加価値の高い宝を、浅い思考と狭い視野でなきものにしようとしているわけである。 さらに、介護も、実需に基づいた日本発のサービスで、高齢化とともに世界で実需が増えるサービスであるのに、厚労省や財務省には社会保障という名の無駄遣いにしか見えないらしく、ブラッシュアップするどころか人口減少による支え手不足を理由として高齢者の負担増・給付減しか考えていない。そして、40歳以上の人からのみ高額の介護保険料を徴収する不公正を是正しようという気配すらない。 (5)日本は、人材・熟練技術者やその育成を怠ってきた このような新しい製品やサービスを作って軌道に乗せるのは、科学的・論理的にモノを考えることのできる人材だ。しかし、日本は、人材を計画的に育てておらず、*6-1のように、①量子研究でも後れた ②日本発の再生可能エネルギーの使用も遅れた ③日本発の再生医療もiPS細胞に偏りすぎて遅れた ④日本発の癌免疫療法も遅れた 等の状況だ。その理由は、「司令塔がない」というよりは、「司令塔にふさわしい人材をリーダーにしていない」からである。 さらに、知性が重要な時代になったのに、*6-2のように、高等教育を極めた高度人材に大学も企業も活躍の場を与えて育成していない。既に人口に占める博士の割合は増えているため、「博士≒高度研究者」である必要はなく、小・中・高校の教諭も博士を優先して採用してもよいと思う。なお、考えるための基礎知識は必要だが、覚えて終わりの知識では役にたたないのだ。 また、基礎知識のある人が就職しても、本当の人材や熟練技術者になるためには、On the job training が欠かせない。そのため、*6-3のように、①“ゆとり教育”で基礎知識を減らしたのは人材の育成にマイナスだった ②“働き方改革”によって、知識の吸収期であり仕事に熱中している人にまで働かないことを強制するのはよくない ③労働基準法改正が日本人の「勤労は美徳」という勤労観にトドメを刺して、日本の競争力をますます無くさせている ④残業禁止でダブルワーカーが増えそうだ ⑤「手に職」が付かなくなり技能伝承がやりにくくなる ⑥このままでは何の保護も保障もなく勤勉に働いて日本社会に貢献してきた経営者の多くが労基法違反の“犯罪者”になる ⑦これでは中小企業の多くが消滅してしまうだろう ⑧日本人が働き過ぎだったのは、戦後日本を復興した前の世代のことである というのに、私は賛成だ。 <食品の自給率> *1-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/394897 (北海道新聞 2020/2/20) 食料自給率 失政覆う数値かさ上げ 農林水産省が、2030年度の食料自給率目標として、輸入飼料を与えた国内の畜産物を「国産」に含めた数値を新たに設定する方針を示した。政府は現在、25年度にカロリーベースの自給率を45%に引き上げる目標を掲げている。18年度実績は過去最低の37%にまで落ち込んだが、新たな算定方法で計算し直すと46%に跳ね上がる。農産物の市場開放を優先し、自給率低迷を放置する安倍晋三政権の「攻めの農政」の欠陥を覆い隠そうとしている。そう勘繰られても仕方あるまい。安直な数値のかさ上げで、輸入飼料に依存する畜産業の実態を見えにくくするのは大いに問題だ。新しい自給率目標は、今春改定される農政指針「食料・農業・農村基本計画」に明示される。輸入飼料を与えた畜産物を除いた従来方式の指標と併記するという。今回の措置について、農水省は「畜産農家の生産努力を反映させ、国産品を購入する消費者の実感を高めるため」と説明するが、姑息(こそく)以外の何物でもない。輸入飼料を与えた畜産物は統計上、国産に含まれなかっただけであって、店頭で輸入品扱いされているわけでも、消費者が国産品と認めていないわけでもない。政府に問いたいのは、そもそもなぜ食料自給率向上を政策目標としてきたのかということである。地球規模で見れば、途上国の人口増、気候変動、疫病、戦争などで、いつ食料争奪戦が起きても不思議はない。自給率は、輸入を絶たれた場合でも国民の食を守れるかどうかの目安であるはずだ。新たな指標は輸入飼料への依存度をさらに高めかねず、政策本来の趣旨に逆行している。背景として思い当たるのが昨夏の日米首脳会談である。首相はトランプ大統領の要請をのみ、米中貿易摩擦でだぶついた飼料用トウモロコシの大量輸入を約束した。トウモロコシの輸入が増えても自給率が上がる算定方法をわざわざ用いるのは、農家のためではなく、日米両首脳にとって政治的に好都合だからではないのか。これは「国産飼料に立脚した畜産の確立」を掲げ、コメ農家に飼料用米への転作を促してきた従来の農政とは明らかに矛盾する。安倍政権は以前にも「国際基準に合わせる」などの理由で、国内総生産(GDP)を年間30兆円規模かさ上げした。経済指標を恣意(しい)的に扱い、成果を誇示するのはいいかげんにやめるべきだ。 *1-2:https://www.agrinews.co.jp/p50020.html (日本農業新聞 2020年02月15日) 新たな自給率目標 飼料増産の機運そぐな 次期の食料・農業・農村基本計画で農水省は、飼料自給率を反映しない新たな自給率目標を設定する方針だ。畜産農家の生産努力を考慮するなどの狙いがあるが、飼料の多くを輸入し、その依存度が高まっているのが実態だ。食料安全保障の確立へ飼料自給率向上への取り組みがおろそかになってはならない。日本の飼料自給率は25%(2018年度)と低い。それを反映させた現行の自給率の算定では畜産物は低くなり、全体が上がらない要因になっている。現行のカロリーベースは過去最低の37%(同)。飼料自給率を高めないと、畜産農家が頑張って生産を増やしても全体の自給率の向上にはつながりにくい。新たな自給率目標はカロリーベース、生産額ベースともに飼料自給率を反映しない「産出段階」の数値。カロリーベースでは46%になる。現行基本計画の目標の45%を上回り、数値を高く見せるためではないかとの誤解を招きかねない。狙いについて分かりやすい説明が必要だ。また飼料自給率を反映しないと輸入飼料に依存している実態が見えにくくなる懸念がある。飼料自給率は3年連続で低下。そうした危機感が国民に伝わらず、飼料増産・耕畜連携や、国産飼料給与の畜産物を食べようといった機運がそがれるようなことがあってはならない。飼料自給率向上の要である飼料用米について現行基本計画は、25年度には、13年度の10倍に当たる110万トンに増やす目標を設定。しかし作付面積は米の生産調整を見直してから18、19年産と連続で減り、18年産の生産量は43万トンにとどまった。飼料自給率の低い日本は、飼料の輸入が滞れば畜産物生産に大きな影響が出る。食料安保が危ぶまれる中、新たな自給率目標設定を巡っては慎重な扱いを求める声が相次ぐ。自民党では「飼料の国産化にマイナスにならないように」、次期基本計画を議論する同省の食料・農業・農村政策審議会の企画部会でも「土地利用型の飼料作物の振興を」などの意見が出た。自給率目標を含む基本計画の根拠法である食料・農業・農村基本法は、「食料の安定供給の確保」のために「国内の農業生産の増大が基本」「国民生活の安定に著しい支障が出ないよう供給を確保」といった理念を掲げる。それを具現化するのが自給率目標だ。国内で作れるものは作るとの姿勢を堅持すべきだ。飼料用米をはじめ飼料生産は農地の有効活用の上でも重要で、自給力の確保にも役立つ。次期基本計画では、飼料自給率を反映した従来の自給率目標と反映しない新たな目標を、カロリーベースと生産額ベースそれぞれで設定、四つの数値が並ぶことになる。これに飼料自給率目標を加えると五つになる。新たな自給率目標の設定には、消費者に国産消費の意義を実感してもらう狙いもある。同省は、各目標の役割を丁寧に説明し理解を深める必要がある。 *1-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/542448/ (西日本新聞 2019/9/12) 義務化でも消えぬ不正 相次ぐ産地偽装 2000年代に入り全国各地で相次ぐ食品偽装。11日、福岡県北九州市の食品加工会社が「中国産」の梅を「国産」と偽って販売していたことが明らかになった。社会全体の「食の安全」への意識の高まりの中で、企業にとってそれまで培った信頼を大きく損なう問題だ。国は15年に食品表示法を施行、原産地表示の義務化を進めるが、不正は後を絶たない。02年に雪印食品(東京)が牛海綿状脳症(BSE)対策事業を悪用して外国産の肉を国産と偽装していたことが分かり、同社は解散した。日本食品や日本ハム子会社でも同様の偽装が明らかになった。07年には高級料亭「船場吉兆」(大阪)で、九州産の牛肉と認識しながら兵庫県の高級ブランド牛「但馬牛」「三田牛」のラベルを張る、ブロイラーを「地鶏」として販売するなどの偽装が発覚。賞味・消費期限の偽りや料理の使い回しなどの不正も明らかになった。料理部門で営業を再開したが、崩れた「老舗」の信頼を取り戻せず翌年に廃業した。食品加工会社「キャセイ食品」(東京)も08年、長崎工場で「九州産」「国産」として生産した冷凍野菜の一部に中国産を混ぜて出荷していたと明らかにした。同社は経営破綻した。 ◇ ◇ 各地で相次いだ産地や賞味期限の偽装などを受け、国は2013年、それまで食品衛生法など3法で定めた食品の表示規定を一元化。食品表示法として施行され、加工食品の添加物、賞味期限などの表示基準を守るよう義務付けた。原料の原産地表示についても、来年3月末までに、全ての生鮮食品、輸入食品、一部の加工食品(もち、漬物、野菜冷凍食品、おにぎりなど)に義務付けた。さらに、22年4月までに、国内で製造したすべての加工食品について、重量割合が最も大きい原材料の原産地表示が義務化される。違反行為への罰則も強化。原産地について虚偽の表示をした食品の販売をした場合は2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処する-などと定める。だが、食に関わる不祥事は消えない。昨年には大分市の水産品販売会社がギンザケをサーモントラウトと偽るなど不適正な表示で商品を販売。福岡県大牟田市の水産物卸売業も中国や韓国で1年ほど育てて輸入したアサリの成貝を、熊本県内で1~6カ月養殖した後に熊本産として流通業者に販売、九州農政局に是正を指示された。 <神事に用いるサカキも中国産> *2:https://agri.mynavi.jp/2020_01_27_104254/ (マイナビ農業 2020年02月17日) 国産サカキを商機に。売り手優位のビジネス手法とは 日本の神事にとって欠かせない植物であるサカキのほとんどは、じつは中国産だ。彩の榊(さいのさかき、東京都青梅市)を運営する佐藤幸次(さとう・こうじ)さんはそこにビジネスチャンスがあるとにらみ、約10年前に国産サカキの供給に乗り出した。だが経営を成長軌道に乗せるまでには、大きな試練が待ち受けていた。 ●日本で売られるサカキのほとんどは中国産 サカキは、緑の葉が茂った枝を束ねて神棚に供えたり、神社で参拝者が神前にささげる玉串(たまぐし)に使われたりする植物。名前の由来には、神と人間の境界にある境木(さかき)を語源とする説がある。一般に「サカキ」と呼ばれているものには、「ホンサカキ」と葉っぱがやや小さい「ヒサカキ」の2種類がある。いずれもツバキ科の常緑広葉樹で、国内に広く自生している。ここでは両者を区別せず、サカキと表記する。なぜ日本の神事に使うサカキが中国産なのか。背景の一つが林業の衰退だ。国産の杉やヒノキが売れていたときは、森林の手入れの一環として下に自生しているサカキを切り出し、販売していた。だが輸入木材に押されて林業の収益性が下がり、森林を手入れする機会が減るのに伴い、サカキの供給も細っていった。林業に携わる人が高齢化し、作業をする人が減ったことがこうした流れに拍車をかけた。そこに登場したのが中国産だ。今から30年ほど前に日本の業者が中国でサカキの栽培や加工の仕方を教え、日本向けに輸出し始めた。今や日本で流通しているサカキの8割以上は中国産と言われている。そこに商機を見いだしたのが、当時20代後半の佐藤さんだった。 ●山の中で見つけた大量のサカキ 佐藤さんは17歳で高校を中退し、埼玉県飯能市にある実家の花屋で働き始めた。高校を辞めたのはミュージシャンになりたかったからだ。音楽会社にデモテープを送ったりしてみたが、実力不足を感じ、家業を手伝うことにした。サカキに注目した理由はいくつかある。家の仕事を手伝うかたわら、修行のために大手の花屋で働いてみた。そこで中国産のサカキが1カ月に2000束も売れていることを知った。実家の50倍以上。佐藤さんは「サカキってこんなに売れるんだ」と驚いた。実家で売っていたサカキも中国産だった。段ボール箱に入ったサカキを市場から仕入れると、神棚などに供えるサカキの束を指す「造り榊(さかき)」が「シクリサカキ」と誤記されていたりした。もちろんその箱は店には置かないようにしていた。だがあるとき、客の一人から「おまえが売っているのはニセモノだ」と言われ、「これは日本のか」と厳しく問いつめられた。佐藤さんは「今なら違いがはっきりわかります」と話す。中国産は輸送効率を高めるために箱にぎゅうぎゅう詰めにすることが多く、葉っぱが蒸れて弱ってしまうことがあるからだ。その客は違いを一目で見抜くほど目が肥えていたのだった。この一件を通して、佐藤さんは国産のサカキに需要があることを知った。転機は29歳のときに訪れた。佐藤さんは折に触れ、祖母の眠る霊園に行く習慣があった。その日も墓前で手を合わせると、霊園に隣接する山に足を踏み入れた。佐藤さんにとって墓参後の散歩コースだった。ふと見ると、目の前にサカキの木があった。横を見ると、そこにもサカキの木。周囲を見回すと、霧が晴れて風景の輪郭がはっきりするように、大量のサカキが目に飛び込んできた。心の中で「うわーっ」と叫んだ。どれも葉っぱが大きくてツヤがあり、濃い緑色をしていた。自分が店で扱っているサカキとは別物だった。「これだけあれば商売ができる」。佐藤さんはその日のうちに、「花屋を辞める」と両親に告げた。山の持ち主を調べたところ、ある鉄道会社が所有していることがわかった。十数回電話してようやくアポイントメントを取り、担当者に会いに行くと「サカキを切っていいよ」と快諾してくれた。販売用に植えたものではなく、他のサカキと同様、自生したものだったからだ。ちょうどそのころ、鉄道会社は山の中に20キロもの長さの遊歩道を造ることを計画していた。もともとある山道の両側10メートルを整備し、幅20メートルほどの遊歩道を造るという構想だった。担当者と話し合った結果、地面から60センチの高さで切ったサカキの株を遊歩道に残すことが決まった。切った上の部分は佐藤さんが販売用に使う。株から枝が伸びてくれば、それも切って商品にすることができる。山道の両側に生えた雑草や雑木を刈る作業を請け負うことで、佐藤さんは販売用のサカキを無償で確保することができるようになった。一人でビジネスを立ち上げることを決め、実家を出て市内のアパートに移り住んだ。順調なスタートのはずだった。だがすぐに大きな壁に直面した。せっかく手に入れたサカキが思うように売れなかったのだ。 ●売り手優位のビジネスを確立 これまで花やサカキを仕入れていた近くの市場が、最初の販売の場になった。当時はセリにかけると5キロで2500円、花屋から事前に指名で注文が入っていると3500円が相場だった。初の出荷は50キロ。注文は取っていなかったので、「セリで2万5000円くらいで売れればいいな」と思って出した。ところがフタを開けてみると、合計で2500円。期待したほどセリで買い手がつかなかったのだ。「ショックでした」。佐藤さんはそのときのことをこうふり返る。昼はアルバイトでビルや住宅を解体する仕事をし、夜にサカキを切り出しに行く生活が始まった。サカキの販売ではとても生計が成り立たないからだ。そんな生活を始めて1年半ほどたったときのことだ。解体のバイトを終えてアパートに帰ると、路上に大量の荷物が積んであった。「邪魔だなあ」と思いながら近づいてみて驚いた。「うわっ、これ自分のだ」。丁寧に積まれた布団の上にサカキの枝が置いてあった。家財道具一式が自室から外に運び出されていたのだ。生活は困窮を極めていた。アパートに住んでほどなくしてまず携帯代を払えなくなり、1年たったころにはガスも電気も止まり、家賃も払えなくなっていた。そしてついにアパートを追い出され、車の中で寝泊まりするようになった。それから約1カ月。バイト先の解体業者のもとを、兄が訪れた。「おまえ何やってるんだ。やっと見つけたぞ。電話ぐらいつながるようにしとけ」。そう言って携帯代を貸してくれた。「一つ報告がある」。兄がバイト先を訪れたのは、携帯代を貸すことが本当の目的ではなかった。「花屋からおまえあてにサカキの注文が入ってるぞ」。これが佐藤さんにとって初の注文となった。注文は月に2回で、それぞれ50キロずつ。その後もずっと続く定期注文だった。値段は5キロで3500円で、1カ月で7万円の収入だ。市場に熱心に売り込みに来る佐藤さんの姿を見た花屋が、注文を出してくれたのだ。「うれしかった」。そうふり返るのも当然だろう。この注文からほどなくして、佐藤さんは東京都青梅市で事務所を借り、株式会社「彩の榊」を立ち上げた。飯能市を離れたのは、友人たちとの付き合いを断ち、サカキの仕事に本格的に集中するためだった。佐藤さんはその後、受注を徐々に増やしていった。それを可能にしたのが営業努力。市場を通した販売では限界があると考え、花屋を直接回るようにしたのだ。「注文につながるのは100軒に3軒くらい」(佐藤さん)しかなかったが、珍しい国産サカキを評価してくれる花屋が少しずつ増えていった。品質の高さも追い風になった。中国産のサカキが切り出してから日本の花屋に届くまで約40日かかるのに対し、彩の榊は3日。どちらのサカキが生き生きとしているかは言うまでもない。さらに中国産と品質面で差を出すため、効率優先で輸送時にサカキの束を箱にぎっしり詰めたりしなかった。彩の榊には現在、1カ月に20万束の注文が入る。収量に限りがあるため、そのうち対応できているのは1万5000束で、値段は5キロで5000円。圧倒的な売り手優位のビジネスだ。そのほか玉串用などの「1本モノ」も月に約5000本販売している。快進撃はこれにとどまらない。彩の榊は既存のサカキの商売の枠を超える新たなビジネスの手法を取り入れ、飛躍のときを迎えようとしている。 <和服も中国製> *3:http://masaziro.com/?p=880 (MASAJIRO 2016.3.23より抜粋) メイドインジャパンの着物生地は絶滅寸前である。 「絹糸のほとんどは中国産です。それより驚いたことに、仕立ての半分以上は、ベトナムなど海外の職人が行っていると言われています。」また、農林水産省によると、2014年の養蚕農家はわずか393戸で、生糸の生産量も27トン足らずとなっており、ピーク時の1934年(4万5000トン)から1600分の1に減少し、もはや「絶滅寸前」といっても差し支えない。つまり、流通する「日本の着物」の大半は、「中国産の糸」を用いて日本で仕立てたものか、ベトナムなど海外の工場で仕立てられたものだという現実があるのだ。だからこそ、MASAZIROは100年前、大正や昭和初期の着物生地に拘るのです。ご存じのように、絹糸の生産のピークは昭和9年、この時期を境にして生産量が減少し、ナイロンや化学繊維の出現により日本の養蚕業が衰退していったのです。2000年には殆ど国内生産は無くなりました、でも需要は旺盛になってきます。そこで人件費の安い中国やベトナム、ミャンマーで生産されるようになってくるのですが、もちろん品質管理は日本が行うのです、品質には間違いがないのですが、・・・。水を差すようですが、そこに日本の職人のプライドがあるように思えないのです、コストを下げ利益の増大を図る、経済の原則にのっとった大量産商品となっていくのです。あくまでも政次郎の偏った観かたかもしれませんが・・・。現在流通している着物生地には、国産の絹糸で国内で手織されてものは殆ど流通していないのです、あるとすれば価格に糸目をつけない裕福な人々の為に極々僅かに流通しているのに過ぎなく、まず、私たち庶民の目には触れることはありません。実は政次郎、そのことは統計を見るまでもなく肌で感じていたのです。(以下略) <工業製品も中国にシフト> *4-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/584770/ (西日本新聞 2020/2/17) シャープが5Gスマホ発表 シャープは17日、国内メーカーとして初めて第5世代(5G)移動通信システムに対応したスマートフォンを発表した。10億色の表現力を持つ独自の液晶技術「IGZO(イグゾー)」を採用し、超高精細の8Kカメラを搭載するなどの特色を打ち出し、先行する韓国や中国勢に対抗する。5Gは高速大容量が特長で、今春に予定される国内での商用サービス開始に合わせて発売する。シャープの新型スマホを用いると、映画などの動画データを数秒でダウンロードできる。肌の質感や青空の濃淡を忠実に表示できる液晶ディスプレーを採用し、強い日差しの下でも快適に視聴できる。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200219&ng=DGKKZO55798040Y0A210C2MM8000 (日経新聞 2020.2.19) スマホ 細る供給網、アップル、売上高「予想届かず」 新型肺炎で稼働率低く 中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が、スマートフォンなど世界の電子機器の生産を揺さぶっている。米アップルは17日、2020年1~3月期の売上高予想が達成できない見込みと発表した。電子機器の受託製造サービス(EMS)が集まる中国で主力のiPhoneの生産が滞れば、日本などアジアのスマホ部品メーカーに影響が広がる。中国は世界各地から電子部品などを輸入し、最終製品を輸出する。世界のスマホ生産台数の65%が中国に集まる。国際貿易センターによると、中国は19年1~11月にスマホやパソコンなどの頭脳となる集積回路を2783億ドル(約30兆6千億円)輸入し、携帯電話を1132億ドル輸出した。液晶パネルでは中国が世界の生産能力の半分を占めるほか、日本や韓国製のパネルをスマホ向けに組み立てる工場も多い。アップルはこのサプライチェーン(供給網)を効率よく生かしてきた。iPhoneの大半は中国に集まる台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などEMSの拠点で生産される。アップルが主要取引先の所在地をまとめたリストによると、世界で809ある取引先の拠点の47%が中国に集中する。アップルは従来1~3月期の売上高は前年同期比9~15%増の630億~670億ドルと予想していたが、17日に達成できないと発表。中国のiPhone関連工場の操業は同日までに全て再開したものの、省や市をまたぐ移動に制限がかかり、トラック運転手が不足し物流にも支障が出る。生産拠点で労働力の不足や部材の目詰まりが起き、「iPhoneの世界的な供給が一時的に制限される」(アップル)。アップルは新型肺炎の影響が見通せないとして新たな業績予想を控えた。野村グループの米インスティネットは17日付のリポートで、20年1~3月の売上高が会社の従来見通しを40億ドルほど下回ると分析。同期間のiPhone販売台数は市場予想を600万台下回る4200万台とみる。台湾の部品メーカーなど複数のサプライヤーによれば、中国のiPhone工場の稼働率は足元で30~50%で、3月いっぱいは影響が残る見込み。世界最大の製造拠点とされる鴻海の鄭州工場(河南省)は先週に地元当局の認可を得て生産を再開したが、稼働率は上がっていないもようだ。スマホの部品点数は1千点以上といわれる。生産は再開されても一部部品はスマホの工場に届かず、供給網は完全に復旧していない。台湾のEMS大手幹部によると、プリント基板の中国での調達に影響が出ている。スマホに数百個単位で搭載されるコンデンサーの需給も逼迫する。日本勢では村田製作所がアップルの高級スマホ向けにコンデンサーを供給しているとみられる。TDKはスマホ向け電池の最大手で中国に拠点を構える。米調査会社IDCは1~3月期の中国のスマホ出荷台数が30%以上減る可能性があるとみる。スマホ生産の停滞が長引けば、部品在庫も積み上がり部品メーカーが生産調整に入る可能性がある。 *4-3:https://www.nikkei.com/nkd/industry/article/?DisplayType=2&n_m_code=042&ng=DGKKZO55501650R10C20A2TJC000 (日経新聞 2020/2/12) 車部品輸入の3割 中国製 エンジン周辺の中核も 、新型肺炎、供給に影響 国内各社、代替生産の動き 新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が続くなか、国内の自動車生産にも影響が出てきた。中国からの部品供給が滞り、日産自動車は九州の完成車工場の稼働を一時停止する。日本では車部品の中国からの輸入が、輸入全体の3割超を占め存在感を示している。エンジン周辺の基幹部品などを輸入する企業もあり、部品各社は対応に追われている。「日本で使う中国の部品は多い。在庫を細かく調べるには時間もかかる」。ある日産幹部はこう話す。九州工場では日本で売るミニバン「セレナ」や、北米への輸出が多い多目的スポーツ車(SUV)を生産する。同工場の稼働停止は物流網の混乱が要因とみられるが、調達自体が難しくなっている部品も出ている。ある部品会社によるとハイブリッド車(HV)などに使う電装品の一部で調達が難しくなっており、「(日産は)日本国内で代替調達できないか検討しているようだ」という。調達を巡る混乱は長期化する可能性もでている。国際貿易センターによると2019年の中国からの自動車部品の輸入額は30億ドル(約3300億円)と、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した03年の約10倍となった。約22兆円とされる日本の車部品市場全体に占める比率は2%弱だが、日本は輸入部品のうち、37%(19年)を中国から輸入し、中国比率が米国などに比べ高い。多くはバネや繊維・樹脂製の部品、素材など、小さく輸送コストがかかりにくいもののようだ。中国では一部地域で企業活動が再開されたが、ホンダは11日、中国・広東省広州市の乗用車工場について、17日以降の生産再開を目指す方針を明らかにした。一部従業員は10日に出勤を始めたものの、広州市から新型肺炎の感染防止の対応策を申請するよう求められ、生産準備に時間がかかるという。従来は「できるだけ早く生産を再開したい」としていた。広州市などで運営する乗用車向けのエンジンやトランスミッションなどの部品工場も、17日以降の生産開始を目指す方針を示した。新型肺炎が最初に広がった武漢市にある工場の生産再開時期は引き続き「17日の週」で変えなかった。部品のサプライチェーン(供給網)の正常化には時間がかかりそうで、代替生産などを視野に入れる企業も相次ぐ。内装部品の寿屋フロンテ(東京・港)はシートなどの布素材を中国から仕入れる。3月上旬までの在庫は確保しているが「長期化に備えて生産設備のある日本で代替できるか設備の確認を始めた」(同社)。足回り部品のエフテックは武漢工場でつくるブレーキペダルをフィリピンで代替生産することを決めた。「一時的に他の企業からの調達に切り替えてもらう必要があるかもしれない」と話すのは、ホンダとの取引が多いショーワだ。ドアなどの開閉を補助するガススプリングを中国で生産し、日本にも輸入するが他の地域に生産設備がない。トヨタ自動車系の中央発条はドアロックケーブルなどを日本に供給しており、「すぐに代替生産ができない品目もある」という。自動車部品メーカーは2000年代から東南アジアなどに調達先を分散させる「チャイナプラス1」の動きを進めてきた。「車内の内張りシートは人件費の安いバングラデシュ経由からの調達を増やしており、中国への依存は低い」(シート大手のテイ・エステック)との声も聞かれる。ただ近年は中国の技術力が上がり、エンジンなど「難易度の高さから日本での生産に依存していた領域で中国への生産移管が増えている」(伊藤忠総研の深尾三四郎主任研究員)。自動車の心臓部となる部品だけに、少量でも供給が滞れば国内生産に支障が出やすい。いすゞ自動車が調達するエンジン周辺部品のターボチャージャー(過給器)は一部が武漢で生産されており、「武漢以外の地域で調達する予定だ」(南真介取締役)。他の部品も中国から調達しているものがあるため、在庫を確認し、生産移管などの必要性を慎重に見極めるという。供給網の混乱などが「長期化すれば(国内の生産に)影響が出る可能性もある」と南氏は話す。中国政府は次世代車の国産化を推奨し、電動化に欠かせない部品の生産拠点は中国に集まりつつある。車載電池では寧徳時代新能源科技(CATL)など2社で世界で2割超のシェアを持ち、トヨタなど日本勢も協業を進める。中国の動向が日本の自動車生産に影響を与える構図は一段と強まりそうだ。 <サービス業> *5-1:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/538085 (沖縄タイムス社説 2020年2月22日) [新型肺炎と県経済]難局というべき状況だ 中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎拡大が、県経済の屋台骨である観光業に影を落としている。裾野の広い産業だけに、地域全体への影響が心配される。楽観を許さない状況だ。人気の観光施設やショッピングモール、ドラッグストアから中国人団体客の姿が消えて、1カ月近くになる。中国政府が海外への団体旅行を禁止した1月末以降、旅客便の運休やクルーズ船の寄港取りやめが相次いだためだ。影響は甚大で、県内の総合スーパーや百貨店のほとんどで、春節期間中の免税品売上高が前年より10%も低下した。国際通りの小売店やタクシーも売り上げが落ち込み、ホテルや観光バスも厳しい状況が続く。2019年に沖縄を訪れた外国人は約293万人。中でも中国人の伸びが目立ち、4人に1人に当たる約75万人を占めていた。懸念されるのは、感染を恐れて外出や旅行を控える動きが国内でも広がりつつあることだ。南西地域産業活性化センターは、新型肺炎の影響が半年ほど続き、中国人を中心に入域観光客が50万人減った場合、観光収入は281億円減少すると試算する。01年の米同時多発テロ後の風評被害で観光客が激減した際、観光収入が200億円余も減る憂き目に遭った。しかし終息のめどが立たず、誘客活動などが打ち出しにくいという点では、今回の方が深刻といえる。 ■ ■ 感染封じ込めに時間がかかれば、地域経済へのダメージは大きくなる。特に地方の中小零細企業にとっては資金繰りが不安材料だ。政府は緊急対策として、中小企業を支援するための5千億円規模の貸し付けや保証枠を確保。経営が苦しくても雇用を維持する企業には、雇用調整助成金の支給要件緩和を決めた。県内でも観光事業者らでつくる沖縄ツーリズム産業団体協議会が、玉城デニー知事を訪ね、経営支援や雇用対策助成の拡充などを要請したばかりだ。既に県には支援融資制度などに関する問い合わせが相次いでいる。県経済への影響を最小限に抑えるためにも、官民で危機意識を共有し、取れる対策の全てをスピード感をもって進めなければならない。同時に「安全宣言」後の戦略も、今から練っておく必要がある。 ■ ■ 好調に推移してきた県経済だが、昨夏以降、日韓関係の悪化による韓国人旅行者の減少、観光の目玉でもある首里城火災、豚熱感染など、いくつもの試練に見舞われている。一番怖いのは「旅行は控えよう」という消費マインドの冷え込みという。情報をしっかりと伝え、風評被害の防止にも努めたい。沖縄ツーリズム産業団体協議会は、県民の県内旅行の促進も求めている。県経済の正念場だ。この難局に一丸となって立ち向かおう。 *5-2:https://www.agrinews.co.jp/p49066.html (日本農業新聞 2019年10月24日) 「病院再編リスト」 農村部に波紋 「実情分かってない」 厚生労働省が医療費抑制のため、競合地域にある病院との再編・統合を促す必要があるとして病院を実名で公表したことに、農村部の住民から戸惑いの声が上がっている。診療実績が乏しいと判断した病院をリスト化したもので、強制力はないが「身近な病院がなくなってしまう」「地域の事情を考えていない」などと声が上がる。同省は再編・統合について本格的な議論を要請。来年9月までに結論を求める。 ●実績ありき疑問 人口減少考慮を 秋田県八郎潟町の湖東厚生病院は2010年、医師不足から存廃論議になったが、住民の署名運動で守った。「湖東病院を守る会」代表で、水稲30ヘクタールを栽培する同町の齊藤久治郎さん(72)は、近隣の3町村の代表らと協力して、3万件の署名を集めた。必死の訴えに同病院は新体制で再編し、在宅療養支援に力を入れ、14年に再スタートした。齊藤さんは「守り抜いたと思ったが、再編・統合の話が再度出て困惑している」と肩を落とす。救急は秋田市の病院と連携し、慢性疾患や在宅医療を主にして医師不足の課題をクリアした。JA秋田厚生連は「がんや救急医療のデータを抜き出して“診療実績が乏しい”というが、役割分担したから当たり前。地域実情を理解していない」と疑問を投げ掛ける。福島県は3カ所の厚生連病院の名が上がった。JA福島厚生連は「あまりに唐突。地方の高齢化、人口減少が一切考慮されていない。都会と同じ物差しで測っているのではないか」と憤る。 ●国の狙いは医療費抑制 医療費は団塊世代が75歳以上となる25年に急増する見込み。17年度の国民医療費は43兆710億円で、25年には56兆円にまで膨らむ見通しだ。そのため同省は医療費抑制に向け、各都道府県に対し、25年に必要なベッド数などを定めた地域医療構想を策定させ、見直しを求めていた。だが、各地で議論は膠着(こうちゃく)しており、同省は全国の1455の公的な医療機関を調べ、診療実績が乏しいなどを理由に424機関の実名を公表。統合再編に向けた議論の活性化を呼び掛けた。だが、突然の実名公表に現場からは不満の声が続出している。リストには農村地域の医療機関が多く含まれる。患者の高齢化が進む。公共バスの廃止などで通院に悩む人も多い。実態を考慮せずに医療費削減と病床数だけでの線引きには疑問の声が上がる。地域医療の在り方を再検証する意味合いが強いが、地域での調整は難航が見込まれる。 <人材> *6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200219&ng=DGKKZO55800690Z10C20A2MM8000 (日経新聞 2020.2.19) 革新攻防(上) 米中2強、資金力突出 日本、技術競争退場の危機 米国と中国が激しく覇権を争う先端技術の開発で、日本の存在感の低下に歯止めがかからない。世界のテクノロジーの潮流から脱落する危機が迫る。 ●量子研究で後れ 政府が1月に決定した「量子技術イノベーション戦略」。世界に後れる現状に危機感を示すとともに、異例の反省が盛り込まれた。「政府全体として必ずしも整合性ある取組が行われてこなかった」。次世代の高速計算機、量子コンピューターなどの量子技術は米中が開発にしのぎを削る主戦場だが、日本は戦う体制すら整っていなかった。全米科学財団によると、民間を含む研究開発費の世界首位は米国で5490億ドル(約60兆円、2017年時点)。中国も4960億ドルに達する。日本は1709億ドルで米中の3分の1だ。もはや資金力の差は埋めようがない。科学技術立国の幻想にとらわれ、あらゆる研究を望み続けたらいずれの成果も取り損ねる。量子技術の開発は関係省庁のそれぞれの都合で進められ、後手に回った。量子コンピューターも研究初期はNECが先行したが、国をあげて技術を開花させる発想はなかった。その間、米グーグルはカリフォルニア大学のグループの技術に着目。傘下に迎えて19年に最先端のスーパーコンピューターを上回る性能を実証し、世界を驚かせた。 ●司令塔見当たらず 米中が技術覇権を争い、かつてない速さで研究開発が進むいま、有望な技術をいち早く見いだせるかは死活問題。日本の将来につながる技術の支援を優先し、旧弊やしがらみを断って実行に移す覚悟が必要だ。批判もあるが中国はトップダウンで研究を進め、米国にも強い指導力でイノベーションを創出する国防高等研究計画局(DARPA)のような組織がある。日本には技術を見極める目や投資の決断力を持つ司令塔が見当たらない。日本発のiPS細胞の研究支援も中途半端。基礎から応用までを見渡す米国などに見劣りする。量子技術や人工知能(AI)への投資も不十分になる恐れがある。最先端のテクノロジーは将来の産業競争力や安全保障を左右する。中国は16年に打ち上げた人工衛星「墨子号」を使った量子暗号の実験などで先行。衛星を使えば、世界規模で通信の機密を守る究極の盾が手に入る。研究を率いてきた潘建偉氏は中国で「量子の父」と呼ばれ、習近平(シー・ジンピン)国家主席も高い期待を寄せるとされる。量子暗号は量子コンピューターが既存の暗号を破ると危惧される20年先も通信や金融取引の安全を守る。米調査会社クラリベイト・アナリティクスによると14~18年の量子暗号の研究論文数で中国は世界首位。東芝が最高速の暗号化技術をもつなど日本の研究水準も高いが、このままでは中国の独走を許しかねない。米国も「量子科学における中国の躍進は軍事的、戦略的バランスに影響を与えうる」(新米国安全保障研究所)と警戒する。日米は19年末に量子技術で協力する声明を発表した。24年までに宇宙飛行士を月に送る計画でも米国は日本に連携を迫る。日本は応じる方針だが、米国との連携にかけるなら、その中で存在感を高める戦略が問われる。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54013110S0A100C2SHF000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2020/1/4) 若い博士が広く活躍できる社会に、次代拓く人材を(中) 日本の社会は若い博士たちに冷たい。高等教育を極めた高度人材の卵に、大学も企業も十分な活躍の場を与えていない。グローバル化に対応しながら明日を切り開くイノベーションの創出を目指すなら、博士をうまく生かす社会に転じなければならない。 ●給付型奨学金を広げよ 日本で毎年新たに博士になる人の数が減少している。100万人あたりの博士号取得者数が米国やドイツ、英国、韓国に比べて半分以下で、さらにこの10年で1割以上も減った(2016年度)。先進国ではあまりみられない、由々しき事態だ。1990年代、政府は科学技術創造立国を目指し、若手の博士研究者を増やす政策をとった。しかし、大学にも企業にも見合った数のポストを用意しなかった。定職につけない高学歴な博士はポスドクと呼ばれ、「漂流する頭脳」として社会問題にもなった。科技政策の失敗といえる。若者にとって博士は将来への不安を抱える「不安定な身分」の代名詞に変質した。優秀でも修士のまま卒業する方が就職に有利と、博士を目指す人も減る。選考のハードルを下げて博士課程の定員を死守する大学院も少なくない。海外は知的集約型社会に向き合うため、国も企業も優れた博士の獲得を競う。日本の博士冷遇は世界の潮流に逆らっている。早急に「負の連鎖」を断ち切らなければならない。まず取り組むべきは、博士の育成環境を改善することだ。欧米や中国では優秀な博士課程の学生を一人前の研究者として扱う。学費は事実上免除し給与も払う。日本の場合、年間50万円超の学費が重くのしかかる。奨学金でまかなっても将来、返せる当てはない。生活費もアルバイトで稼がなければならない。金銭面で博士を敬遠する修士も多い。手始めに給付型奨学金を拡充してみてはどうだろう。2011年に開設した沖縄科学技術大学院大学は、学費を含め年間約300万円を支援金として学生に給付し、学業や研究に専念させる。同大学院大は19年、質の高い論文に関するランキングで世界トップ10に入った。若手の活躍が結果を生む証しとなった。大学の研究室の「構造改革」も急務だ。博士の多くは大学での研究職を希望する。しかし、教授を頂点にしたピラミッド構造が残っており、ポスドクや博士課程の学生は雑務が多く研究もままならない。こうした「ブラック研究室」は時代遅れでしかない。若手人材の正規ポストを確保するには、シニア世代の研究者が流動化する仕組みも要る。国立大学では定年延長に伴って50歳代、60歳代が増えた。これでは教授、准教授といったポストがなかなかあかない。大学力を磨くのに新陳代謝は欠かせないが、柔軟な発想を持つ若手研究者だけが任期付きで割をくうのはおかしい。博士が活躍できる場は大学や研究機関とは限らない。海外では企業の研究者やベンチャー経営者、投資家、官僚など実に多彩だ。 ●知識でなく疑う力磨け 日本製鉄には新卒採用とは別に博士課程の学生やポスドクに特化した制度がある。年俸制で3年間雇い、研究のプロとして働いてもらう。その後は本人と相談の上、正社員として採用する。出会いを作るユニークな取り組みだ。産学が協力し、半年、1年といった長期のインターンシップ(就業体験)を導入、博士と企業とが相互に理解を深める機会こそ有意義ではないだろうか。博士が在籍する企業はそうでない企業より製品やサービスでイノベーションを起こす確率が高いとの調査結果もある。中小、中堅企業での効果が顕著だという。大学も博士の質は担保してほしい。なり手が減っているからといって、適性や能力を見極めずに量の確保に走るのでは本末転倒だ。どんな情報もネットで手に入るデジタル社会では、単なる知識よりも疑う力や解決する力が高度人材には求められる。これまでの日本の高等教育は学問が細分化された結果、視野の狭い専門家が育つ傾向が強かった。2つ以上の専門領域を習得する「ダブルメジャー」を目指す仕組みがあってもいい。社会が求める博士像を追求し、育んでいくことが大切だ。 *6-3:http://tingin.jp/opinion3.html (北見式賃金研究所 北見昌朗 平成30年8月) “働かない改革”は“ゆとり教育”の二の舞になる! 中国に負けて、日本は二流国に転落へ ●働き方改革は選挙の美辞麗句 安倍首相は、働き方改革を主要政策に掲げる。「生産性を向上して、ベースアップを実現して暮らしの向上を図る」と語る。だが、北見昌朗はそもそも生産性がなぜ急に上がるのか理解できない。これまで遊んでいたわけではないのに、なぜ、どうして生産性が上がるのか? そんなの選挙用の美辞麗句であり、根拠がないプロパガンダだと言わざるを得ない。 ●ゆとり教育は土曜日に働かない人を産み出した 働き方改革と二重写しになってしまうのは、ゆとり教育だ。政府は学習時間と内容を減らしてゆとりある学校を目指し、2002年4月6日から公立小中学校及び高等学校の多くで毎週土曜日が休みになり完全な週5日制となった。ゆとり教育はデメリットが取りざたされることが多いが、代表的なものが「学力低下」だ。それまで相対評価と言われていた通知表の評価を個人ごとに見る「絶対評価」に変えた。また「競争社会」をやめようと、運動会の徒競走は全員1位、学芸会では全員主役になるといった内容も物議を呼んだ。だが、「順位を付けない」という考えは現実社会とはかけ離れており、社会に出てから挫折する子供が増えてしまった。この“ゆとり教育”の悪影響は大きかった。土曜日に授業が休みだったために、社会に出ても土曜日の勤務を嫌がる若者にしてしまった。 ●「仕事が終わるまでやる」のは日本人の美徳 新労働基準法では、残業が厳しく制限される。一定時間を過ぎてしまうと、企業側が違法になってしまうので、帰らせるほかなくなってしまう。目の前にドッサリと仕事が残っていても、サッサと帰るのである。それによる顧客離れは当然予想される。そもそも日本人は昔から仕事をやりきってから帰った。みなで一緒に汗を流して、やり切ってきた。「勤労は美徳だ」という勤労観は、わずかながら残っていたと思うが、それにトドメを刺すのが今回の労働基準法改正である。これでは米国人や中国人に負けてしまう。 ●ダブルワーカーが増える 残業削減は、従業員にとっても厳しい問題だ。残業代が減った分だけ年収が減ってしまうだろう。大手企業ならば、ベースアップという形で利潤を従業員に還元できるかもしれないが、中小企業には元々そんな余裕はない。会社側は、副業を禁止している就業規則を見直し、アルバイトを黙認する方向になるだろう。残業代減を補うため、従業員は終業後にアルバイトに精を出すようになる。夜遅くまで働いたら、それこそ身体を痛めそうだ。 ●「手に職」が付かなくなり技能伝承がなくなる 厳しい残業規制により、成り立たなくなる仕事がある。長い修業が必要な職人仕事だ。例えば「宮大工」という仕事がある。社寺の建築や修復を行う仕事だが、それには長い下積み時代が必要である。カンナがけは、今なら機械で一瞬でできるが、それでは腕が身に付かないので、あくまでも人間が行う必要がある。このような職人芸は、たくさんある。和食職人、和菓子職人、陶器職人、木工職人など枚挙に暇がない。それらが消滅しかねないのだ。 ●このままでは経営者の多くが労基法違反の“犯罪者”になる 北見昌朗は顧客からこう言われるようになってきた。「これだけ残業規制が厳しくなるともうやっていけない。モノ造りを止めろというのと一緒だ」。このように言われると、北見昌朗は返す言葉もない。社会保険労務士として労働基準法の遵守を求めるのが仕事だ。だが、現実には困難なことを知っている。このグラフを見てほしい。「愛知県 中小 製造業 男性社員 残業時間数」だ。縦軸は残業時間数で、横軸は年齢である。縦軸に赤ラインが引いてあるのが30時間で、36協定の遵守ラインだ。これを超過すると違法になりかねないが、超過しているのは52.9%いる。従業員に違法残業をさせると、経営者は労働基準法違反ということで犯罪者になってしまう。中小企業の経営者は、勤勉に働いて日本社会に貢献してきた。今の日本社会で、一番猛烈に働いてきたのは、社長さんたちだ。何の保護もなし、保障もなしで身を粉にして働いてきた方々だ。社長が経営の自信を喪失してしまうと、誰も継がなくなり、いよいよ後継者難で、中小企業が消滅してしまうだろう。 ●「日本人は働き過ぎ」は過去の話 そもそも、日本人が働き過ぎだったのは、前の世代のことだ。戦後の日本を復興した方々のことだ。北見昌朗は午後5時過ぎに名古屋駅から電車に乗ると、思わず車内を見渡してしまう。ネクタイを締めた中高年男性がいっぱい乗っているのだ。おそらく17時に会社を出て、18時までに帰宅するのであろう。働き盛りの男が、そんなに早く帰って、いったいどうするのか? と言いたくなる。公庁や大手企業では、年間休日120日が一般的になっているが、年休20日を取得したら、1年間の4割も休むことになる。こんなことで、日本はやっていけるのだろうか? 資源もないのに。日本人は、もっと働くべきだ。次の世代のためにも、もっと、もっと働こう! <新型肺炎の治療、病院船など> PS(2020年2月24日追加):*7-1のように、政府は専門家会議を開いて重症化リスクの高い新型肺炎患者の治療を優先するための基本方針の作成を進めているそうだが、拡大ペースを遅らせ、重症化させないためには早期発見・早期治療が必要であるのに、「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合や強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合は、最寄りの保健所などに設置される『帰国者・接触者相談センター』に問い合わせる」という現在の指針では誰でも重症化する。そのため、本当に治療する気があるのなら、インフルエンザと同様、かかりつけ医を受診すれば必要な検査や薬は保険適用できるようにするのがBestだ。 また、*7-2のように、1~2隻くらいは大型の病院船を持っておくのがよいと思われ、これなら感染症の封じ込めだけでなく、国内外の災害時に派遣して海上から被災地に医療提供することが可能だ。この場合、病院船の所属や運行責任は、日赤か防衛省になるだろう。さらに、離島の多い自治体が小型の病院船を保有していれば、*7-3の「平時の利用法」として、医師のいない離島を1週間に1度は廻って、健診・診療・薬の処方・リハビリなどを行うことができ、この場合の病院船の所属や運行責任は、民間病院か地方自治体になると思われる。 ![]() ![]() ![]() 2020.2.24琉球新報 病院船 *7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020022401001191.html (東京新聞 2020年2月24日) 新型肺炎、重症化防止へ基本方針 専門家会議で作成、急増に備え 国内での新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の拡大を受け、政府は24日、専門家会議を開き重症化のリスクが高い新型肺炎の患者の治療を優先するための基本方針の作成を進めた。25日にも開く政府の対策本部で決定する。基本方針は、患者が国内で大幅に増える事態に備えるのが目的。会議では、重症化しやすい高齢者や持病がある人の治療を優先するとともに、拡大のペースを遅らせることを目指した対策を議論する。これまでに策定した新型インフルエンザ対策の基本方針を一部参考にするとみられる。 *7-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/586613/ (西日本新聞 2020/2/24) 病院船で新型肺炎封じ込めへ 超党派議連27日に発足 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)が拡大する中、大規模災害時や感染症の流行危機事態に医師や医療設備を乗せて治療に当たる「病院船」構想に注目が集まり始めた。閣僚から活用に前向きな発言も飛び出し、27日には超党派の国会議員らでつくる病院船の新議員連盟も発足する。国に導入を働き掛けてきた関係者は、機運をさらに高めたい意向だ。「配備の在り方を加速的に検討していく必要がある」。12日の衆院予算委員会で、新型肺炎に絡み病院船への見解を問われた加藤勝信厚生労働相は、こう明言した。河野太郎防衛相も14日の記者会見で、導入に向けた検討に意欲を見せた。患者を隔離して専門治療を集中的に施し、感染症を封じ込める機能が期待される病院船のニーズを、関係閣僚が相次いで認めた形だ。病院船構想が生まれたのは、1995年の阪神大震災がきっかけ。米国などの実例を参考に、陸上交通が寸断されるような災害時に、海上から被災地に医療を提供するシステムを探る議論が起こった。2011年の東日本大震災後には一時、内閣府も「災害時多目的船」の導入を模索した。だが、建造や維持管理に巨額のコストがかかることや、法改正を伴うことから見送られた経緯がある。その後、14年には自民、公明両党による「海洋国日本の災害医療の未来を考える議員連盟」(会長・額賀福志郎元財務相)が設立され、19年3月、病院船の活用を国に促す法案の骨子をまとめた。議員立法として早期成立を目指すため、今月27日には新たに野党を加えた7党による「災害医療船舶利活用推進議員連盟」を立ち上げる。関係者によると、新議連は条文化の作業を進め、今国会に法案を提出したい考え。災害時医療などに船舶を組み込むことを国に義務付け、法施行の1年後をめどに必要な個別法の追加整備を求める内容という。自民中堅は「耳目が集まっている今、議論をしっかり積み上げたい」と話す。 *7-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/586614/ (西日本新聞 2020/2/24) 病院船導入 災害時有効な医療アプローチ 元九州大特任教授に聞く 「病院船」導入に向けた活動に長年取り組み、議員連盟の設立にも携わる元九州大特任教授で公益社団法人モバイル・ホスピタル・インターナショナルの砂田向壱理事長=福岡市=に、今後の見通しや課題を聞いた。 -なぜ導入を急ぐのか。 「災害大国の日本で、陸上の交通手段が遮断されたときに、海からの医療アプローチは軽視できない。東日本大震災の津波被害を考えれば、その利点はイメージしやすい。病院船は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生前に整備しておかないと手遅れになる。船は医療施設だけでなく、避難所機能としても有効だ」 -災害が発生していない平常時の利用法がネックになっていると聞く。 「平常時も、全国一律の医療サービスが提供できるよう市町村のスキルアップに用いることができるし、沿岸部の巡視船という役割も担える。国民の財産としての使い道は幅広い」 -巨額の建造費に国民の理解は得られるか。 「中古の船を買い取り、内部を改造して最新鋭の医療機器を備えれば、コストは抑えられる。国民のニーズによって船の規模や隻数は決まる。必ずしも大きければ良いというものでもない」 -理想的な災害時の医療体制とは。 「現在の復興庁を『災害庁』のような組織に改編し、研究や装備開発、訓練を一元的に管轄できるようにしたい。全国に技術支援できる仕組みも必要だ。新しい議連では、民間のノウハウや知恵を積極的に活用していく。国民の合意を得るために奔走したい」 <日本政府がPCR検査を渋る理由は何か?> PS(2020年2月26、29日追加): 2月5~19日の期間は船内で隔離しなければならなかったダイアモンドプリンセス号内は、*8-1のように、“検疫”として船内の感染管理・健康管理に不備があったため、COVID-19の船内感染を起こしてしまった。にもかかわらず、下船基準は検疫期間中には感染がなかったものとして扱い、クルーズ船で旅するほど元気だった人を死亡させて「高齢者だから仕方がない」としている点が不誠実である。本来は、2月5~19日の期間に同乗した家族が同室だったとしても、それ以外は船内の隔離と健康管理を徹底しなければならなかったのだ。また、クルーズ船の乗客には退職後の比較的ゆとりある高齢者が多いため、乗客の中には社会的地位の高かった人も多かった(元医師を含む)だろう。そのため、ダイアモンドプリンセス号のスタッフは、隔離を開始した時に全員のPCR検査を行ってその後の清潔を徹底すべきだったし、これらがいい加減であれば、各国で(批判のための批判ではない)科学的な批判が出る。 なお、*8-2・*8-3のように、インド・デリー大学とインド理工学院に所属する研究者たちがまとめた「新型コロナウイルスはSARSウイルスとエイズウイルスを武漢ウイルス研究所が人工的に合成したものでは」とする論文があり、この研究者たちは「このウイルスが自然発生することは考えられない」としている。また、ハーバード大学公衆衛生学教授のエリック・ファイグルーディン博士は自身のツイッターで「武漢市の海鮮市場はウイルスの発生源ではない」と発信されたそうだ。「生物兵器」であれば、SARSウイルスのように若い兵隊に打撃を与えるウイルスの方が合目的的だが、年金や社会保障を要する基礎疾患のある高齢者に打撃を与えて大騒ぎになる新型コロナウイルスなら厚労省や財務省に都合がよさそうだ。そのため、今後は広くPCR検査して完治させるとともに、どこで感染拡大するかを見極めるべきである。 世界保健機関(WHO)は2月28日、*8-4のように、COVID19の地域別の危険性評価を、世界全体を「非常に高い」に引き上げ、WHOで緊急事態対応を統括するライアン氏が各国に感染拡大防止態勢の強化を訴えられた。日本では、2月27日、安倍首相が新型コロナウイルス感染対策として全国の小中学校や高校などに臨時休校を要請する方針を表明し、これについてはさまざまな意見があるものの、*8-5のように、65%(60代:75・1%、10代:73・6%、70代以上:70・1%)の人が賛成だそうだ。一方、子育て世代の多い年齢層で反対が比較的多いが、佐賀県では、*8-6のように、学童保育の受け入れ先が春休みや夏休みと同じ体制で受け入れるようで、学童保育の整備が何とか進んでいたのはよかった。ただ、*8-7のように、PCR検査システムの問題による検査難民が出ているので、検査を早急に保険適用にし、医師の指示があれば検査できるようにすべきだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2020.2.7東京新聞 2020.1.31朝日新聞 2020.2.20中日新聞 2020.2.20朝日新聞 (図の説明:1番左の図のように、新型コロナウイルスの感染力はインフルエンザと比較して著しく高くはないが、スーパースプレッダーもいた。その結果、左から2番目の図のように、中国の感染者は1月中に等比級数的に増え、現在は他国でも広がり始めている。日本では、右から2番目の図のように、武漢からチャーター便で帰国した人の中には死亡者はいないが、“検疫”としてクルーズ船に閉じ込められた人の中からは死亡者が出ている。その死亡者は、1番右の図のように、80代ではあるが、元々はクルーズ船で旅行できるほど元気だった人なのだ) *8-1:https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9422-covid-dp-2.html (国立感染症研究所 2020年2月26日更新) 現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例 ●背景 背景情報は2月19日掲載の「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例」(以下、「現場からの概況2月19日掲載版」)を参照されたい。(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9410-covid-dp-01.html) ●検疫の状況 2月5日-19日の間、クルーズ船ダイアモンドプリンセス号(以下クルーズ船)に対し検疫が実施された。検疫期間中、陽性者の「濃厚接触者」等追加的なリスクがあった者については検疫期間が延長された旨、乗客に通知している。 ●下船手順 下船基準は次の3つの項目、1)陽性者と部屋を共有していない14日間の検疫期間が完了していること、2)検疫期間最終日までに採取した検体がPCR検査でSARS-CoV-2陰性であること、3)検疫期間の最終日の健康診断で異常が確認されないこと、を全て満たす者である。2月20日時点で1600人以上が既に下船している。検査は当初高リスクの乗客から実施されたが、2月11日からは全ての乗客が検査対象に拡大実施された。検査は80歳以上の乗客から実施され、75歳以上、70歳以上、70歳未満と順次実施拡大された。全乗客の検査実施後、検査対象が全乗員へ拡大された。COVID-19に関し国際的なガイドラインではPCR検査の実施を考慮した検疫は求められていないが、日本政府はより確実性を高めるためにPCR検査を実施した。 ●データ収集 「現場からの概況2月19日掲載版」 (https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9410-covid-dp-01.html)に記載されているデータ収集方法に加え、船内の常設診療所からの後方視的な情報収集が開始された。 ●暫定的な結果 2月20日の時点で、82名の乗員と537名の乗客を含む、619名が陽性者であった(2月5日時点の乗船者の16.7%)。合計3,011検体が検査され、重複の者も含め延べ621検体が陽性(20.6%)であった。乗客のうち70歳から89歳が最も感染していた(表1)。発症日の情報が確認できたCOVID-19症例(n = 197)のうち、終日検疫が実施された最初の日である2月6日より前に発症した人が34名(17.3%)、2月6日以降に発症した人が163名(82.7%)であった(図1)。197例のうち163例(乗員48名、乗客115名)は検疫期間中に判明し、定員が2名以上の各客室で最初の陽性者であった者は52名(最小)から92名(最大)の範囲であった(この範囲には、無症候性症例及び発症日が不明の有症状症例が含まれる)。そのうち3名(最小)から7名(最大)が2月6日から開始された検疫期間の7日目以降に報告された者である(表2)。各客室別の乗客人数が増加するに従いCOVID-19陽性者の割合も増加している(図2)。陽性者のうち318名(51%、乗員10名、乗客308名)は、検体が採取された時点では無症状であった。 ●暫定的な結論 現在入手可能な疫学情報に基づいて評価すると、2月3日にクルーズ船が横浜に入港する前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていたことが分かる。発症日が報告されている陽性者数の減少は、アウトブレイクの自然経過、検疫の実施、またはその他の未知の要因によって説明が可能と思われる。各客室の乗客人数別確定症例の割合と、陽性者と客室を共有した確定例の数に基づいて検討すると、客室内の乗客は共通の曝露があったか、客室内でウイルスが伝播した可能性がある。 船の性質上、乗船しているすべての人を個別に隔離することはできず、客室の共有が必要であった。また、乗客が乗船している間、一部の乗員はクルーズ船の機能やサービスを維持するため任務を継続する必要があった。 遅れ報告を考慮した結果、発症日がわかっている陽性者数のピークは2月7日であった。 最近陽性者の報告数が多くなっていることは、検査対象者の拡大によって説明できるが、そのほとんどは無症候性症例である。クルーズ船の乗員乗客で報告された無症候性症例の割合は、他の場所で報告されているものよりもかなり高い。 この主な要因は、2月11日から体系的な検査が実施されその数が日々増加したことが一因と考えられる。一部の症例は、客室内での二次感染例であった可能性はあるが、検疫が始まる前に感染した可能性も否定できず、実際にいつ感染したか、判断は難しい。しかし、これらの無症候性症例は下船後入院し、同室者は濃厚接触者として最終接触日から新たに14日間の隔離期間を開始している。無症候性症例が下船前に判明したことを考えると、この体系立てた検体採取には意義があったと考えられる。現時点では、無症候性症例からの感染伝播に関する知見は国際的にも乏しい。そのため、船内の無症候性症例に関する継続的な調査により得られる情報は、世界的なCOVID-19アウトブレイクにおいて重要である。 (無症候性症例の下船後の発症状況に関する情報が収集されている)。クルーズ船において判明した症例は、感染症発生動向調査(NESID)に報告された情報も含め、臨床症状、重症度、および無症候性症例の評価のためついてさらなる調査が継続して行われている。 この情報は、このクルーズ船事例とCOVID-19の世界的な状況の理解に重要である。 ●暫定的対応とガイダンス 下船者のほとんどが14日間の検疫を確定患者と部屋を共有せず終了し、PCRの検査で陰性、健康チェックにより症状(発熱、咳、呼吸困難など)がない事を確認された。陽性確定例との接触がある者は、最終接触日から14日間が隔離期間となる。この該当者には隔離期間中の乗客に対する食事の配膳等の生活支援に貢献していた、乗員の大半が含まれる。1600人を超える乗客が下船し、今後の焦点は乗員の感染予防となる。下船者は、PCR検査陰性、下船時の健康チェック異常なし、および症状なく14日間の検疫期間を経過しているが、追加の予防措置として絶対に必要な場合を除き、14日間自宅にとどまるよう求められている。また、自分自身で健康チェックを実施し、症状を認めれば医療機関に連絡することになっている。追記:本稿のデータ収集にあたり、クルーズ船に乗船し、乗員乗客の健康管理のために多大な努力と貢献をされた医療チームや関係者、クルーズ船の機能維持に貢献されたダイアモンドプリンセス号のスタッフと本社のご協力に謝意を表します。 *8-2:https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E6%96%B0%・・・ (女性セブン 2020年3月5日号) 新型コロナウイルス 「研究所から流出」説の真偽を追う 連日新型コロナウイルスの話題が後を絶たない。全世界での感染者は7万人を超え、死者は約2000人となった(2月19日現在)。当初、ウイルスは自然発生と報道されていたが、ここにきて、武漢にある研究所からの流出疑惑が持ち上がっている──。中国・武漢市に世界トップレベルのウイルス研究所「中国科学院武漢病毒(ウイルス)研究所」がある。この研究所が備える最新鋭の設備の1つが、BSL4(バイオセーフティーレベル4)実験室だ。実験室では、SARSやエボラ出血熱のような、感染力が強くて危険なウイルスのコントロールも可能で、洪水の被害が及ばない場所に設置され、マグニチュード7の揺れにも耐えうるという。しかしいま、この研究所から新型コロナウイルスが流出したのではないかという疑惑が持ち上がっている。1月末、インド・デリー大学とインド理工学院に所属する研究者たちがまとめた「新型コロナウイルスにエイズウイルスと不自然な類似点がある」とする論文が物議をかもした。さらにこの研究者たちは「このウイルスが自然発生することは考えられない」とした。この論文は大バッシングののちに撤回されたが、一部のネットユーザーの間で内容が拡散。「新型コロナウイルスはSARSウイルスとエイズウイルスを武漢ウイルス研究所が人工的に合成したものでは」という憶測も飛び交い、不安が高まったのだ。さらに1月28日、ハーバード大学公衆衛生学教授のエリック・ファイグルーディン博士は自身のツイッターで「武漢市の海鮮市場はウイルスの発生源ではない」と発信。たちまち世界中のメディアで取り上げられた。中国メディア『大紀元』は、2月6日、オンラインゲーム開発会社の会長が自身のSNSで「武漢の研究所が新型コロナウイルスの発生源」と発言したと報じている。この人物は、かつて中国の生物学者が動物実験で使った牛や豚を食肉業者などに転売していた事件があったことから、新型コロナウイルスに感染した動物が市場で売られたのではないかと疑っているという。現在、中国版Googleともいわれる検索サイト「百度」で「武漢病毒研究所」と検索すると、検索候補に「泄露(漏洩)」という文字が。疑惑は広まる一方のようだ。 ◆何度も北京の実験室からSARSが流出 中国では過去にも“ヒューマンエラー”が起きたことがある。2004年、北京にあるBSL3の要件を満たす実験室から、SARSウイルスが流出する事件が発生し、責任者が処罰されている。中国メディアの報道などによると、研究員がBSL3実験室からSARSウイルスを持ち出し、一般の実験室で研究をしたことで感染が広まった。感染した研究者の1人は、症状が出たあと自力で病院に移動。看護師に感染させ、鉄道で実家に向かったことが確認されている。さらに、この研究者を看病した母親が感染、死亡している。元産経新聞北京特派員の福島香織さんが言う。「この頃、研究所からのウイルス流出や実験動物のずさんな管理が何度か問題になっていました。例えば、動物実験ではウイルスを動物に感染させたりするのですが、実験が終わったらウイルスを不活化、つまり無害化させる処理をしなければいけない。ところが、処理が完璧ではない状態でゴミ箱に捨てたり、外に廃棄したりしたことからSARSウイルスの感染が拡大したと指摘されています」 ◆武漢ではコウモリに宿るウイルスを研究 冒頭の最新ウイルス研究施設は、新型コロナウイルスの発生源とされている華南海鮮市場から約30km離れた場所にある。「世界有数のウイルス研究所を擁するフランスの技術協力を得て完成しました。SARS事件があったのと同じ2004年頃から研究所を整備する計画が始まり、北京五輪やチベット問題などの紆余曲折があった末、2015年に竣工し、2018年から稼働しています」(福島さん)。今回疑惑を向けられている武漢ウイルス研究所のBSL4実験室の評価は高かった。中国メディア『財新』は、この実験室のチームが2017年に、複数のコウモリを起源とするSARS型コロナウイルスが変異したものがSARSウイルスであることを突き止めたと報じた。チームリーダーでBSL4実験室副主任の女性研究者は「コウモリ女傑」とも呼ばれ、コウモリの研究で政府から表彰されたこともあった。そのコウモリの実験で発生したウイルスが華南海鮮市場に流出した可能性はあるのだろうか。しかし、先の女性研究者は、SNSで一連の疑惑を真っ向から否定。「新型コロナウイルスと研究所は無関係であることを私は命をかけて保証する」という内容の投稿をした。中国メディア『財経』も、仮に実験室から流出したとしたら研究スタッフが真っ先に感染しているはずだが、そうではなかったと疑惑を打ち消す報道をしている。しかし今度は香港メディアが華南海鮮市場から300mほどの場所にある実験室「武漢疾病予防管理センター」からウイルスが流出したという内容の論文(のちに削除)の存在を報じるなど、依然ウイルスの出所には疑惑がつきまとう。発生源は華南海鮮市場ではないのだろうか。「医学誌『ランセット』に中国の医師たちが寄稿した分析によると、新型コロナウイルスの患者41人を調べたところ、発生源とされる華南海鮮市場に関係しているのは27人。さらに最も早い昨年12月1日に入院した初期患者4人のうち、3人が市場とは無関係でした」(福島さん)。中国事情に詳しいジャーナリストの富坂聰さんは「そもそも野生動物の市場取引は中国でも違法」と話す。「中国当局もSARSの経験を教訓に厳しく取り締まってきましたが、時間と共にそれが緩くなり、武漢では堂々とヤミ市場が開かれていました。違法だからこそ希少価値が出て、野生動物の値段が上がってしまう。中国に限ったことではありませんが、お金さえもらえればなんでもする人はたくさんいます。いまも違法な野生動物のヤミ市場は開かれているでしょう。武漢ではないところでウイルスが出てもおかしくない状況でした」 ◆いまも中国のどこかで新型コロナウイルスの研究が 新型コロナウイルスは猛威を振るい続けている。「香港大学医学院は1月27日に、新型コロナウイルスの感染者は約1週間ごとに倍増しており、4~5月頃にピークを迎え、夏頃までに減退していくと発表しました」(福島さん)。ただ、ひと段落着いたとしても安心はできない。7月24日から東京五輪が始まり、今年だけで世界中から3600万人もの人が訪日すると予想されている。一旦収束したように見えても群衆の中で知らぬ間に感染し、それをまた本国に持ち帰る人がいてもおかしくない。本当のパンデミックは夏以降にやってくるかもしれないのだ。昭和大学医学部内科学講座臨床感染症学部門主任教授の二木芳人さんが言う。「ウイルスは宿主に感染を繰り返すことによって更に変化が生じます。インフルエンザウイルスのように変異し、またタイプの異なるコロナウイルスが大流行を引き起こす恐れもあります」。今回、武漢の研究所から流出したわけではなかったとしても、今後流出が起こらないとは限らない。ある感染症の専門医は言う。「SARSウイルスと同様、新型コロナウイルスも再発防止のため、すでにどこかの研究所に保管され、研究が進められているはず。人の手がかかわる以上、ヒューマンエラー発生のリスクは伴います」。発生源の根源にあるのは、“人の愚かさ”か。 *8-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/kazuhirotaira/20200225-00164456/ (Yahoo 2020.2.25)新型コロナウイルス:「生物兵器」の陰謀論、政治家やメディアが振りまく 新型コロナウイルスの感染源をめぐり、これが「生物兵器」だとする陰謀論の拡散が続く。ネットを舞台とした拡散に加えて、メディアや政治家などが、それを後押ししていることも大きい。そして拡散の背景として、中国政府の情報開示への不信感もつきまとう。だがこのような陰謀論の氾濫は、結果として人種差別を呼び起こしたり、感染拡大を悪化させてしまう危険性も指摘される。19日には公衆衛生や感染学の専門家である著名な科学者ら27人が、この陰謀論を否定する共同声明を英医学誌「ランセット」に発表。陰謀論の拡散を批判している。リアルの感染拡大と陰謀論の拡散。その二つを結びつけるのは、なお正体が明らかにならない新型ウイルスへの不安感だ。 ●上院議員と「生物兵器」 新型コロナウイルスと「生物兵器」を結びつける陰謀論は、米国のテレビ4大ネットワークの一つ、FOXでも取り上げられている。共和党の上院議員、トム・コットン氏はFOXニュースに16日夜に出演し、新型コロナウイルスについて、中国・武漢のウイルス研究所からの「流出疑惑」を主張した。コットン氏は、新型コロナウイルスの感染源として、ツイッターなどで武漢の「ウイルス研究所」を名指ししてきた。現在、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの感染源としているのは、武漢市江漢区にあり、野生動物なども取引されてきた武漢華南海鮮卸売市場だ。コットン氏はFOXニュースの中で、感染源は海鮮市場ではない、と述べる。そして海鮮市場から数マイルの場所に「バイオセーフティレベル4の感染症の特別研究所がある」としている。コットン氏が名指ししているのは、長江を挟んだ対岸、12キロ(7.5マイル)ほど南東にある武漢市武昌区の中国科学院武漢ウイルス研究所の施設「武漢国家生物安全実験室」だ。「武漢国家生物安全実験室」は危険度の高い病原体を扱うことができる安全対策が施された「バイオセーフティレベル4(BSL-4)」の研究所。日本では国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)がBSL-4施設だ。コットン氏は、断定はしないものの、新型コロナウイルスと「武漢国家生物安全実験室」について、こう発言している。この感染症の感染源がここ(ウイルス研究所)だという証拠はない。ただ中国はこの問題発覚当初から、二枚舌とうそばかりだ。我々は少なくとも証拠をもとに問いただしていく必要がある。だが中国は、そのための証拠すら一切明らかにしようとはしていない。 ●メディアが火をつける 新型コロナウイルスを「武漢国家生物安全実験室」や「生物兵器」と結び付ける陰謀論は、すでに様々な専門家から繰り返し否定されてきている。だが、これに火がつくきっかけの一つが、メディアだった。英大衆紙のデイリーメールは新型コロナウイルスによって武漢市の「封鎖」が始まった1月23日、「武漢国家生物安全実験室」のことを取り上げている。記事の中で同紙は、同研究所が2018年に中国初のBSL-4施設として稼働する前、病原体の「流出」を懸念する声が米科学者らから上がった、などと指摘。また、地図付きで海鮮市場と実験室の位置関係も掲載している。さらに、中国では2004年に北京の研究所でSARSウイルスが「流出」した経緯がある、などとしていた。デイリーメールの記事には、いくつかの事実がある。一つは2017年2月の科学誌「ネイチャー」の記事で、「武漢国家生物安全実験室」の安全性に米専門家らが懸念を表明していた点だ。さらに、2004年に北京でSARSの集団発生が起きた際には、北京の国立ウイルス学研究所で、BSL-3の実験室のSARSコロナウイルスを、一般の実験室に持ち出して実験に使ったことが感染源となったことも、公表されている事実だ。ただ、今回の新型コロナウイルスの感染と「武漢国家生物安全実験室」を結びつけるデータは、これまで明らかになっていない。また上述の「ネイチャー」の記事には、2020年1月付で「編集者追記」が掲載され、新型ウイルスと「実験室」を結びつける証拠はなく、新型ウイルスの感染源は市場と見られている、と述べられている。 ●陰謀論、拡散と否定 米保守紙のワシントン・タイムズは2019年1月26日、イスラエルの軍事専門家のコメントとして、新型コロナウイルスの感染源が「武漢ウイルス研究所」の可能性があり、同研究所が関わる「生物兵器計画」とつながっている、などと報じている。この記事を、トランプ政権の元首席戦略官兼大統領上級顧問で、右派サイト「ブライトバート・ニュース」の会長だったスティーブン・バノン氏が、自身のポッドキャストで拡散しているという。さらに1月31日、インドの研究グループが、新型コロナウイルスに、HIVウイルスとの「異様な類似点がある」などとする論文を公開。ウイルスへの「人為的操作」の憶測が拡散する。だが、調査手法や結論に関する専門家らからの批判を受け、論文は2日後に撤回されている。刺激的な情報は広く拡散する。ネット調査会社「バズスモー」のデータによれば、デイリーメールの最初の記事はフェイスブックで20万回以上共有され、ワシントン・タイムズの記事もやはりフェイスブックで16万回以上共有されている。撤回されたインドの研究チームの論文も、フェイスブックでは2万回以上共有された。中国の崔天凱・駐米大使は2月9日、米CBSの報道番組「フェイス・ザ・ネイション」に出演し、新型コロナウイルスと武漢の研究所を結びつけることを批判し、こう述べている。憶測やうわさを扇動し、人々に拡散させるのは極めて有害で、危険なことだ。それらはパニックを引き起こしてしまう。そして、人種差別、外国人差別を煽ることになる。これらはウイルス対策への協力態勢を著しく損なうものだ。ただ混乱の背景には、中国の情報開示についての不信感も影を落とす。象徴的なのが武漢の眼科医、李文亮氏のケースだ。李氏は「原因不明」だった今回の新型コロナウイルスについて、2019年12月30日という早い段階でネット上で感染への注意喚起をし、警察の事情聴取を受けた。さらに李氏は、自らも感染し、2月7日に亡くなっている。FOXニュースに出演したコットン氏も、李氏のケースを取り上げ、中国政府の対応を批判した。 ●27人の専門家が否定する 新型コロナウイルスの感染源をめぐるこれらの陰謀論やデマの氾濫に対し、世界的に知られる公衆衛生の専門家27人は2月19日、英医学誌「ランセット」に共同声明を発表した。共同声明に名を連ねているのは、SARSの感染源とコウモリを結び付けた研究など知られる国際NPO「エコヘルス・アライアンス」代表のピーター・ダスザック氏、全米科学財団(NSF)長官などを歴任し、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院特別教授、沖縄科学技術大学院大学学園理事なども務めるリタ・コルウェル氏、英医学研究支援団体「ウェルカム・トラスト」代表で、2003年にベトナムでSARS患者の治療にあたったジェレミー・ファラー氏、元米国立感染症センター(NCID)所長で米エモリー大学大学院教授、ジェームズ・ヒューズ氏ら。声明は、各国の専門家による研究は、いずれも新型コロナウイルスが野生生物由来だと指摘。さらに、陰謀論の氾濫について、こう述べている。陰謀論は、ただ不安やうわさ、偏見をかき立て、今回のウイルスに対する世界的な協力の取り組みを危険にさらす。科学的エビデンスと、虚偽情報や憶測への団結した取り組みの推進。我々は、WHOのアダノム事務局長によるこの呼びかけを支持する。 ●陰謀論の被害 陰謀論やデマには、具体的な被害が伴う。今回の新型コロナウイルス感染拡大にともなって、中国人を中心としたアジア系に対する差別や排斥の動きが欧米などで広まっている。また、感染症に関するデマの拡散によって適切な対策が取られず、感染そのものの拡大に悪影響を及ぼす。そんなシミュレーション結果を英国立イーストアングリア大学教授で感染症を専門とするポール・ハンター氏らが発表している。ただ、従来のデマや陰謀論がそうであるように、新型コロナウイルスをめぐっても、情報戦の様相もある。感染源にまつわる陰謀論には、バリエーションがあり、その一つが、米国の陰謀である、とするものだ。フォーリン・ポリシーによれば、ロシアメディアでは、新型コロナウイルスが、米国の「生物兵器」、もしくは米国の製薬会社による策略、との陰謀論が流布している、という。不安の拡大には、それに乗じた様々な意図も入り込む。冷静さは常に必要だ。 *8-4:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020022990135918.html(東京新聞 2020年2月29日)<新型コロナ>WHO「危険性最高」評価引き上げ 感染55カ国・地域に 世界保健機関(WHO)は二十八日(日本時間二十九日未明)、新型コロナウイルスによる肺炎(COVID(コビッド)19)の地域別の危険性評価で、世界全体と日本を含む中国周辺地域を「高い」から、中国と同じ最高レベルの「非常に高い」に引き上げた。ウイルス感染が世界各地に拡大し、死者・感染者数の増加に歯止めがかからないことから、世界的に流行していると認定した形だ。中国を発端に韓国、イラン、イタリアなどで大規模感染が確認され、日本でも市中感染とみられる例が相次いでおり、終息の見通しが立たない現状に危機感を示し、各国に一層の警戒を呼び掛けた。事態は急速に変化しているが、WHOのテドロス事務局長は記者会見で、多くの国では大規模な市中感染は起きておらず「抑え込みは依然可能だ」と語った。WHOで緊急事態対応を統括するライアン氏は「危機が高まっている」と述べ、各国に感染拡大防止態勢の強化を訴えた。二十八日付のWHOの状況報告によると感染者は五十五カ国・地域の八万人以上に上った。中国では新規感染者が少なくなる傾向にあるが、感染は世界の五大陸(ユーラシア、アフリカ、北米、南米、オーストラリア)に波及。テドロス氏によると、イタリアに関連した感染者二十四人が十四カ国で、イランに関連した九十七人が十一カ国で確認された。中国以外の国からも感染者が「輸出」される事例が増え、世界的な危険性が高まったと認めざるを得なくなった。WHOはこれまで、世界各地の感染例は中国と比べると格段に数が少なく大半の感染経路も把握できているとしていた。WHOは一月三十日に国際保健規則に基づき、新型コロナウイルスの感染拡大が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当すると宣言。危険性評価は一月二十三日付のWHOの状況報告から掲載され(1)中国(2)中国周辺地域(3)世界全体-の区域で評価。これまで中国は「非常に高い」、世界全体と中国周辺地域は「高い」となっていた。 *8-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/587674/ (西日本新聞 2020/2/27) 「臨時休校」65%が賛成 高齢者と10代割合高く あな特通信員アンケ 新型コロナウイルス感染対策として全国の小中学校や高校などに臨時休校を要請する方針を安倍晋三首相が表明したことを受け、「あなたの特命取材班」は27日夜、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる全国約1万1千人の通信員に緊急アンケートを実施した。2251人が回答、方針への「賛成」が約65%を占めた。年代別では、60代の賛成の割合が最も高い75・1%に上り、次いで10代(73・6%)、70代以上(70・1%)の順だった。「このくらいのことをしないと感染は広がるばかり」(福岡県・男性)、「初動指示が遅すぎた」(同県・男性)という声が上がった。子育て世代が多い年齢層では反対が比較的多く、30代では反対が最多の41・1%、次いで40代(36・5%)。「仕事を休めない。子どもだけ置いて行けない」(大分県・女性)のほか「急すぎる」、春休みまでという期間に「長すぎる」という声が目立った。男女別では男性の賛成が68・8%に対し、女性は62・5%。感染が確認された福岡、熊本両県ではそれぞれ64・7%、77・1%が賛成した。「子どもの面倒を誰が見ますか」という質問には、「誰もいない」という切実な声が一斉に寄せられた。小学校高学年や中学生の子どもについては、心配でも「子どもだけで留守番させる」(福岡県・女性)という人が多かった。子どもが低学年で、祖父母など頼れる人がいない場合は「夫婦交代で仕事を休むしかない」(同県・女性)との嘆きが漏れた。収入減少を懸念する声も多く「国が休業補償すべきだ」(鹿児島県・女性)、「どうしても面倒を見られない家庭のための緊急施設の整備が急務」(福岡県・男性)という意見があった。 *8-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/494188 (佐賀新聞 2020/2/27) 〈防ごう 新型コロナ〉学童の受け入れ先 ※土日は休みの自治体もあります。 【佐賀市】受け入れ先=児童クラブで検討中▶日時=3日から、午前8時~午後6時半▶対象=利用申し込みをして決定が出ている児童▶問い合わせ=市子育て総務課、電話0952(40)7285 【唐津市】検討中。2日までに詳細を決め、保護者に通知する 【鳥栖市】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3~15日(日曜除く)、午前8時~午後6時▶対象=通年で登録している児童のみ▶問い合わせは市生涯学習課、電話0942(85)3694 【多久市】受け入れ先=各校のなかよしクラブ▶日時=3日から、正午~午後7時▶対象=本年度の利用申し込みをしている児童▶問い合わせ=市学校教育課、電話0952(75)2227。 【伊万里市】受け入れ先=各学校の留守家庭児童クラブ▶日時=3~14日、午前8時~午後7時▶対象=本年度の利用申し込みをしている児童▶問い合わせ=市教育総務課、電話0955(23)2125 【武雄市】受け入れ先=小学校の放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時▶対象=利用申し込みをしていない児童でも、保護者の事情によっては受け入れ可能▶問い合わせ=各児童クラブ、こどもみらい課、電話0954(23)9215 【鹿島市】受け入れ先=各校の児童クラブ▶日時=3日から、午前7時半~午後6時10分(延長は午後7時)、弁当を持参▶対象=市内の児童で子どもを見る人がいない家庭。新規利用は就労証明が必要で、市役所に申請する▶問い合わせ=市福祉課、電話0954(63)2119 【小城市】受け入れ先=各校の放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時までで検討中▶対象=本年度の利用申し込みをしている児童▶問い合わせ=市教育総務課、電話0952(37)6130 【嬉野市】受け入れ先=各校の放課後児童クラブ▶日時=3~15日、午前7時半から午後7時まで▶受付期間=3日~15日まで▶対象=通常の利用申し込みをしている児童、長期休暇時のみ申し込みをしている人▶問い合わせ=市子育て未来課、電話0954(66)9121、もしくは、市福祉課、電話0954(42)3306 【神埼市】検討中。2日までに詳細を決め、保護者に通知する▶問い合わせ=市社会教育課、電話0952(44)2731 【吉野ヶ里町】受け入れ先=各小学校の放課後児童クラブ▶日時=3~15日、午前7時半~午後6時(1時間延長可)▶対象=1、2月の平日に利用している児童のみ▶問い合わせ=町社会教育課、0952(37)0341 【基山町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時▶対象=普段から利用している児童のうち1年生から3年生まで受け入れ予定▶問い合わせ=町こども課、電話0942(92)7968 【上峰町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前8時~午後7時▶対象=通常から利用している児童のうち1、2年生を受け入れ。学校で受け入れるなどの対応も検討中▶問い合わせ=町住民課、0952(52)7412 【みやき町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3日から、午前7時半~午後7時▶対象=利用登録している児童。学校を開けることも含めて検討中▶問い合わせ=町こども未来課、0942(89)4097 【玄海町】受け入れ先=さくら児童館、みどり児童館▶日時=3日から、午前8時~午後6時▶対象=どうしても預ける必要がある場合のみ対応。申請のない児童生徒の対応も検討中▶問い合わせ=両児童館、町住民課こども・くらし係、電話0955(52)2158 【有田町】受け入れ先=放課後児童クラブ▶日時=3~14日、月~土曜の午前8時~午後6時(延長30分)、日曜は休み▶対象=既に登録をしている児童のみ▶問い合わせ=有田町子育て支援課、電話0955(25)9200 【大町町】検討中 【白石町】受け入れ先=各校の放課後児童クラブ▶日時=3~15日、午前7時40分~午後6時▶対象=利用申し込みしている人。申し込みしていない人の対応も検討している▶問い合わせ=町保健福祉課、電話0952(84)7116 【江北町】受け入れ先=各小中学校、江北小にある放課後児童クラブ、町子どもセンター「うるる」▶日時・対象=午前8時15分~午後2時15分は学校の教室を開放して受け入れ。放課後児童クラブは利用申し込みをしている児童が対象で午後6時半まで▶問い合わせ=町子ども教育課、電話0952(86)5621 【太良町】受け入れ先=各校の児童クラブ▶日時=3~15日、午前8時半~午後6時▶対象=申し込みをしている児童。新規利用は要望次第で検討する▶問い合わせ=町民福祉課、電話0954(67)0718 *8-7:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1081535.html (琉球新報社説 2020年2月28日) 政府の新型肺炎対策 検査体制の拡充が急務だ 政府の危機管理能力のなさが鮮明になってきた。新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の感染拡大阻止で安倍政権の対応が後手に回り、国民の間に不安と混乱を広げている。その最大の要因は、新型コロナウイルスの有無を調べるPCR検査が十分に行われておらず、感染がどれだけ広がっているのか実態を把握しきれていないことにある。発熱やせきが続いても新型コロナウイルスの検査を受けられず、医療機関をたらい回しにされる事例が報告されている。感染者数を増やさないために、検査を制限しているのではないかと疑いの目を向けられても仕方がない。政府はこれまで1日最大約3800件の検査能力があると説明してきたが、この1週間の実績は1日平均約900件にとどまっている。これに対し隣国の韓国は1日平均約3400件の検査を実施し、これまでの検査総数は約5万3千件となっている。韓国では2015年に中東呼吸器症候群(MERS)への対応が遅れ、政権が批判された。これが教訓となり韓国政府はPCR検査の検査時間を短縮し、民間病院に検査キットを配布して検査の網を拡大してきた。日本では厚生労働省が当初「国内では人から人への持続的な感染は認められない」との認識を示すなど、事態を楽観視していた。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への対応を巡っても、感染防止対策に不備があったと指摘されている。大きな失態だ。陰性が確認された乗客をクルーズ船から下船させたが、栃木や徳島、千葉県では公共交通を利用して帰宅した下船者の感染が判明する事態になった。政府の泥縄式の対応がウイルスを拡散させている可能性が否定できない。終息の道筋が見えない中で、スポーツや文化行事の開催自粛も広がっている。25日に厚労省が発表した基本方針では「全国一律の自粛要請を行うものではない」としていた。だが、安倍晋三首相が翌26日に「国が判断しなければならない。大規模な感染リスクがある」と中止の要請へと方針を一転させたことで、イベント当日に公演中止が決まるなど混乱を招いた。現場に負担を押し付けるやり方は市民生活や経済活動を混乱させる。「最終的な責任は市や町にあると国が逃げている」(谷本正憲石川県知事)との指摘や厚労省に任せきりにしているとの批判もある。首相は3月2日から春休みが明けるまで全国の小中高校などに臨時休校を要請する意向を示した。感染の広がりが不明な中で、場当たり的な印象も否めない。政府は検査の規模と速度を上げる必要がある。検査を希望する全ての人が検査を受けられるよう、民間機関への検査委託の拡大など診断体制を早急に強化すべきだ。 <普及せずに失う日本発の先進技術とその理由> PS(2020/2/27追加):*9-1のように、パナソニックもテスラの「ソーラールーフ」で採用されるはずだった黒屋根のような太陽電池のデザインと発電効率の両立が難しく、テスラの求める仕様に合わないとして共同生産を解消するそうだ。そして、テスラの現行のソーラールーフは、コストも安い中国企業などの電池を採用しているそうで、太陽光発電装置が日本発だったことを考えると情けない。パナソニックが生産した太陽電池は日本のハウスメーカーなどが使っているそうだが、それもデザインが今一つで、設置の傾斜角度を30度にするため、見た目がさらに悪くなっている。日本では、「環境保護≒その他のすべてを犠牲にしてよい」と考えているようだが、この発想は改めるべきだ。 また、ジョンソン英首相は、*9-2のように、「ガソリン車(ハイブリッド車を含む)とディーゼル車の販売禁止を従来より5年早い2035年から実施する」と表明するそうだが、2030年からでよいのではないだろうか。首相がそう表明すれば、充電施設は整備され、大量生産によりEVの値段も下がる。日本は、現状維持や妥協の発想と妨害によってEVも遅れたが・・。 *9-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56059920W0A220C2MM0000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/2/26) テスラとパナソニック、太陽電池の共同生産解消へ 米電気自動車(EV)メーカーのテスラとパナソニックは太陽電池の共同生産を解消する。テスラの太陽光パネルに使う太陽電池を生産するため、両社は米ニューヨーク州で工場を運営してきた。ただ実際はテスラ製パネルでの採用はほとんどなく、生産量が増えないため近く稼働を止める。中国勢が台頭する中、日本の太陽電池メーカーの退潮が鮮明になる。テスラにとって太陽光事業はEVに次ぐ柱だが、当初の戦略を修正する。両社は米ネバダ州にある車載電池工場「ギガファクトリー1」を軸としたEV向け電池の共同生産は引き続き維持する。テスラとパナソニックは2016年に太陽電池の生産で提携すると発表。米ニューヨーク州バッファロー市に「ギガファクトリー2」と呼ぶ工場を設け、17年から太陽光パネルの中核部材である太陽電池などの生産を始めた。工場の運営主体はテスラでパナソニックは製造設備の購入など投資の一部を負担。主にパナソニックが生産を担当する太陽電池は、テスラの主力の太陽光パネルである「ソーラールーフ」で採用されるはずだった。ソーラールーフは黒い屋根のように見えるデザイン性が最大の特長だが、パナソニック製の太陽電池は見た目と発電効率の両立が難しくテスラの求める仕様に合わなかった。現行のソーラールーフはコストも安い中国企業などの電池を採用しているもよう。パナソニックは同工場で生産した太陽電池を、テスラの代わりに日本のハウスメーカーなどに販売してきた。 *9-2:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/20355.php (Newsweek 2020年2月4日) イギリス、2035年からガソリン車とディーゼル車を販売禁止へ 5年前倒し ジョンソン英首相は4日に行う講演で、ガソリン車とディーゼル車の販売禁止について、従来より5年前倒しの2035年から実施すると表明する見通し。英国は今年、11月にグラスゴーで開かれる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の議長国を務める。4日にロンドンで開かれる関連イベントでの講演を前に、ジョンソン首相は声明で「COP26の開催は英国と世界各国にとって気候変動対策強化の重要な機会になる」と指摘。「2050年排出実質ゼロの目標に向けた今年の英国の計画を明らかにするともに、諸外国に排出実質ゼロを英国とともに公約するよう求めるつもりだ」とした。ジョンソン氏は、排出実質ゼロの早期達成に向け、クリーンな技術への投資や自然生息地の保全、気候変動の影響への耐性を高めるための方策を含めた国際的な取り組みを呼び掛ける見通し。ガソリン車とディーゼル車の販売禁止については、2035年か、可能であればさらに早い時期に前倒しで実施する計画を示す。ガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車も含まれるという。実施前に意見公募を行う。英国以外にも、フランスは2040年以降、ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針で、ノルウェーの議会は、25年までに国内の全ての車を排出ゼロにする法的拘束力のない目標を採択した。ただ、英国ではディーゼル車とガソリン車が国内販売の9割を依然占めており、充電施設の数が少なく、エコカーのモデルも限定的で割高との声が聞かれる。 <新型コロナウイルス対策としての全国一斉休校> PS(2020年3月2、3、16日追加):*10-3のように、重要な仕事をしている女性が多いとは思わず、家庭へのしわ寄せを考えずに、安倍首相が新型コロナウイルス感染防止として、2020年3月2日から全国の小中高校・特別支援学校を一斉に休校にする方針を出された時には、私も「原発廃止と再エネによる分散発電やEV化ではなく、勉強させない方向への意思決定は随分速やかだ」と思った。つまり、感染者が1人も確認されていない自治体(離島を含む)にまで休校を要請する必要性はないと思われるため、全国一斉休校にした科学的根拠を明確にすべきだ。ただし、学校に行くのは全員の義務だが、保育園や学童保育を使うのは親が必要と判断した家庭だけであるため、この期間に保育園や学童保育を開所するのに矛盾はない。 また、学校給食の停止で、*10-2のように、学校給食向け牛乳・野菜等のキャンセルが相次いで供給者が困っているそうだが、それだけではなく、これを給食として児童・生徒に与えて健康を維持させているため(これには親は感謝すべきだ)、一斉休校で免疫力や体力が低下する児童・生徒も出そうだ。そのため、*10-1のように、参院予算委員会は、2020年度予算案全体ではなく(??)、新型コロナウイルス対応策などが中心的な議題になるとのことである。 なお、新型コロナウイルスの感染防止のために始まった全国小中高校の一斉休校で、*10-4のように、朝から預かる学童保育の負担が重くなり、同時に感染をどう防ぐかが問題となっているそうだが、朝から預かる必要性は、休みの日なら日常のことであり、感染防止も新型コロナウイルスに限らずインフルエンザ・はしか・水疱瘡など他の感染症でも同じだ。従って、私は東大女子同窓会を通して1990年代から必要性を言っていたので、未だに保育所や学童保育の不備に慌てている自治体があるとすれば、それは働く女性のニーズを無視して女性に負担を押し付けてきた自治体の怠慢であり、同情の余地はないと思う。むしろ、新型コロナのおかげで、必要不可欠なインフラの未整備が浮き彫りになったことに感謝すべきだ。 このような中、*10-5のように、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏が取締役を退任し、①気候変動 ②教育 ③公衆衛生 に関わる慈善事業に専念されるそうだ。これは本当に偉いことだが、①②③の命題は、今後のITに求められる技術であるため、ゲイツ氏の判断は長期的には新製品や新サービスのBig market(大市場)を創造することになり、慈善事業に終わらないだろう。例えば、IT教育なら、*10-6のように、オンラインで動画を使った教育をすることもでき、日本に居ながら外国の授業を受けることもできる。これは、学校に行く意義とは別に、開発途上国や地方ではなくてはならないものだ。ちなみに、私は「Nature」の日本法人で、地球45億年の歴史を5分くらいに短縮した大陸移動説の動画を見せていただいたことがあるが、想像を超える科学的事実が画像で表わされており、特に注目したい場所(例えば、恐竜時代の日本など)を拡大して見ることもできて感動した。このほか、イギリスやアメリカの授業を聞けば、他の学科を英語で学習することもできるため、テレビサイズに大きくできるYuTubeがあれば助かる。また、「そこまでやると、学習時間が足りない!」という問題については、*10-7のように、佐賀県は、(私の提案で)私立だけでなく公立高校も中高一貫併設校になっているところが4か所あり、このように中高一貫校の6年間や幼稚園・小中一貫校で年齢に応じた内容を効果的に学べるようにすれば、「時間が足りない」という問題は解決できる。そのため、必要なのは、学習内容をできるだけ前倒しし、学習計画を効率化しながら再編することである。 *10-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200302&ng=DGKKZO56249020R00C20A3PE8000 (日経新聞 2020.3.2) 新型コロナ対応で与野党論戦 自民・世耕氏「休校は有効」 国民・大塚氏「経緯説明を」 参院予算委員会は2日から安倍晋三首相と全閣僚が出席し、2020年度予算案の基本的質疑に入る。新型コロナウイルスの対応策などが中心的な議題となる。それに先立ち与野党の参院幹部は1日のNHK番組で、政府の対応策について討論した。自民党の世耕弘成参院幹事長は首相の休校要請に関して「迅速に対応することが重要だ。全国的にどこで広がるか明確でない状況で、休校は有効だ」と評価した。「休業補償を具体化するなど不安の払拭に努めることが重要だ」と訴えた。公明党の西田実仁参院会長も「休業補償や子供の居場所づくりなどセットで公表するほうが混乱は少ない」と指摘した。世耕氏は国会論戦を前に「今は批判や糾弾の段階ではなく、政府が能力を存分に発揮できるようにサポートすべき時期だ」とも強調した。立憲民主党の長浜博行参院議員会長は「自治体に責任を押しつけるのではなく、国として何をすべきかだ」と述べた。国民民主党の大塚耕平代表代行も休校要請について「なぜこういう判断に至ったか説明を聞きたい」と語った。共産党の小池晃書記局長は専門家を国会に参考人として呼び、政府の対応を検証すべきだと主張した。大塚氏は休校で学校給食がなくなり、材料を納入する業者などに悪影響が出ることに懸念を示した。日本維新の会の片山虎之助共同代表は「国が一律に要請するのはいかがか」と批判し、地方自治体の判断に任せるべきだとの考えを示した。日本経済全体への影響について、大塚氏は「事業者が決済できない状況が発生している」として、政府が支払い猶予措置などを講じるべきだと提案した。イベント中止によるキャンセル料を念頭に、イベント業者らへの損害をなくすように求める考えを示した。小池氏は消費税率を5%に引き下げるように主張し、世耕氏は否定した。 *10-2:https://www.agrinews.co.jp/p50163.html (日本農業新聞 2020年2月29日) 新型肺炎で臨時休校 給食停止で産地混乱 生乳、野菜行き場なく 新型コロナウイルスの感染拡大防止へ、政府が示した全国小中高校の臨時休校方針で学校給食が停止がすることを受け、農畜産物の供給に混乱が生じている。学校給食向けの牛乳(学乳)は飲用向け生乳の1割近くで、供給先を失った産地やメーカーは対応に苦慮する。野菜でも給食向け取引のキャンセルが相次ぐなど影響が広がっている。学校給食に提供する生乳は、全国の飲用向け(年間約400万トン)の1割弱で全て国産。うち最も供給量の多い関東は年間10万トンを学乳に仕向ける。管内の公立学校が2週間休校になると、このままでは7500トンもの生乳が行き先を失う。関東生乳販連は28日午後4時現在で、取引メーカーからキャンセルが相次ぐ。キャンセル分は日量最大で80トンを見込む。余力のある乳業メーカーに引き受けてもらい、難しければ長期休みに稼働率を上げる乳製品工場に納めたい考え。実質、春休みが前倒しになる形だが、工場の人員確保は難しく、どこまで対応できるかは不透明だ。「暖冬で生乳生産が上向く一方、飲用需要も全体的に下がっている。学乳の停止でダブルパンチ」(同生乳販連)と嘆く。乳用牛など50頭を管理し、千葉酪農農業協同組合を通じ小学校に牛乳を出荷する千葉県内の牧場の代表は「まだ損害は出ていないが、先行きが見えない。影響の長期化が心配」と不安視する。北海道では都府県に定期的に移送する生乳のキャンセルの多発を懸念する。キャンセル分は道内の乳業メーカーが引き受け、主に加工向けに振り向ける。生乳増産と飲用向け需要の低迷に加え、観光客の減少で土産用の加工品需要も低下している。大手乳業関係者は「乳業各社や指定団体と協力して生乳需給が崩れないようにしたい」と話す。文部科学省によると、学校給食の1人1食当たりの食品別摂取量(2017年度)は、牛乳が200グラムで最多。野菜類が91グラム、米が52グラムと続く。学校給食向けに出荷する産地やJAなどにも影響が及ぶ見通しだ。東京都小平市の小中学校に食材を提供してきたJA東京むさし小平支店は、3月分の野菜などの契約4・5トンがキャンセルとなった。同JAは「非常に混乱している。市場に荷が集中し相場に影響が出るのも心配」と話す。月約200万円分の野菜を東広島市内の給食センターなどに供給してきたJA広島中央は「学校給食は安定した単価で買い取ってもらっていた」ため、供給停止を懸念する。学校給食材の供給などを担う各都道府県学校給食会でつくる全国学校給食会連合会は「給食メニューや食材調達は約1カ月前に決めるところが多い。食材キャンセルなど影響は出る」とみる。文科省は28日、学校給食に供給してきた産地やJA、業者の支援について「現時点で補填(ほてん)などは想定していないが、影響を踏まえ各省と連携し検討する」としている。 *10-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1082245.html (琉球新報社説 2020年2月29日) 新型コロナ休校要請 「全国一斉」の根拠説明を あまりにも唐突で場当たり的と言わざるを得ない。安倍晋三首相が、新型コロナウイルスの感染防止のため3月2日から春休みに入るまで全国の小中学校、高校や特別支援学校を臨時休校にするよう要請する方針を打ち出したのである。萩生田光一文部科学相は「専門家から、学校が集団感染のリスクが高いとかねて意見があり、政府が大方針を示した」と理由を説明する。だが、感染者が出た都道府県だけでなく、1人も確認されていない県を含め、一律に休校を求める必要があるのか。混乱を拡大させるだけではないのか。一斉休校の科学的根拠をしっかりと説明することが不可欠だ。新型コロナウイルスを巡るこの間の政府の対応は後手後手だった。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で乗員乗客を船内に隔離したものの、封じ込めに失敗した。未曽有の事態に対処できず右往左往する政府の無策ぶりは日を追うごとに鮮明になっている。一斉休校の要請は、高まる批判を払拭(ふっしょく)する狙いがあるとみられるが、短兵急で稚拙な印象は否めない。知事や市長などから戸惑いや懸念、批判の声が出た。「家庭の負担が大きい」などとして要請に従わない自治体もある。かえって指導力のなさを露呈した。文科省が一斉休校の要請を通知する一方で、厚生労働省は小学生を放課後に預かる放課後児童クラブ(学童保育)などは原則として開所するよう都道府県に通知した。ちぐはぐな対応に映る。休校による保護者の負担は大きい。学習に遅れが出る。学校現場は混乱している。少なくとも、もっと早い段階で休校要請の用意があることを周知しておくべきだった。首相は、休校に伴うさまざまな課題について「政府として責任を持って対応する」と明言した。きめ細かな対策が欠かせない。「急速な拡大の瀬戸際にある」と専門家は指摘するが、どこまで感染が広がっているかは分かっていない。ウイルスの有無を調べるPCR検査の体制が整っていないからだ。検査費用の公的医療保険適用を含め、必要な対策が大きく立ち遅れている。首相周辺の危機意識も薄い。秋葉賢也首相補佐官は首相が全国的なイベントの自粛を要請した26日の夜、地元仙台市で出版記念パーティーを開いた。集団感染が起きやすいとされる立食形式だ。これでは示しがつかない。麻生太郎財務相は、臨時休校要請を巡り、働く母親などがいる家庭への対応を質問した記者に「つまんないこと聞くねえ」とつぶやいた。つまらないのは自身の態度だ。不謹慎としか言いようがない。首相は、一生懸命に取り組んでいるという印象を与えるためのパフォーマンスではなく、実効性のある方策を着実に実行してもらいたい。 *10-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200303&ng=DGKKZO56282830S0A300C2CC1000 (日経新聞 2020.3.3) 学童保育の負担ずしり 新型コロナ、一斉休校初日、朝から預かり/「感染どう防ぐ」 新型コロナウイルスの感染防止に向け、2日から始まった全国小中高校の一斉休校。子どもを預かる各地の放課後児童クラブ(学童保育)は開所時間を前倒しし、朝から対応に追われた。働く親たちは「受け入れてくれて助かった」と安堵したが、預かる施設側は「密集空間でどう感染を防げばいいのか」「人手が足りなくなるのでは」と悩んでいる。文部科学省の2月28日の通知を受け、感染者のいない島根県を除く46都道府県の小中高校で2日から順次、一斉休校が始まった。各地の学童保育では、通常は放課後の開所時間を朝に前倒しし、仕事などで親が自宅で見られない子どもの受け皿となった。区立小学校が休校になった東京都文京区の学童クラブには2日午前8時前から続々と児童が集まった。小学校1年の娘を預けに来た男性会社員(50)は、学童側から「登録済みで保育が必要な場合は午前中から受け入れる」との通知を2月28日に受け取ったという。「共働きで、ここが受け入れてくれなかったら、どうしていいのか分からなかった」と話した。福岡市でも2日朝から、市内139カ所の放課後児童クラブで児童の受け入れを始めた。同市博多区の同クラブでは小学1~6年の児童約40人が手洗いやアルコール消毒をして中に入った。市によると、臨時休校が決まった2月28日以降、新たに約1千人が同クラブに入会したという。臨時休校中の児童の受け皿として期待されている学童には問い合わせが増えているが、施設側は悩みを抱える。「どこまで(感染を)防げるのかはわからない」。東京都葛飾区の区立梅田小学校内の学童保育クラブ責任者、佐々木美緒子さんは心配そうに話す。密集を避けるため、児童約50人を2班に分けたが「結局、学校の教室と同じ人数や環境で集まっている」と話す。大阪府寝屋川市の小学校では2日から24日までの休校期間中、午前8時から午後5時まで預かる児童には給食を提供している。この日、市立石津小学校では預かった35人を4つの教室に分散させ、給食時は全員が前を向いて極力会話しないように注意を促した。森本朋美校長は「保護者の負担を少しでも軽減するため給食の提供は続けたい」と話した。名古屋市緑区の学童保育クラブの男性職員は「子どもを1カ所に集めないために休校にしたのに、学校より小さく、設備が乏しい学童に集めてもいいのだろうか」と困惑する。開所を朝に早めたが、職員の人数は変わらず負担は増している。「アルバイトのシフトを調整できなければ、常勤職員が朝から晩まで働くしかない」と語った。学童保育約100カ所で児童を午前から受け入れた東京都足立区。一部の区営施設には新型コロナ対策で閉鎖中の高齢者施設から職員が応援に入ったが、運営を民間に委託する施設では職員の人手不足や長時間労働の恐れが出ている。区の担当者は「預かりを希望する家庭が増える可能性もあり、今後の受け入れ数は読めない」と語った。 *10-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56792950U0A310C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/3/14) ビル・ゲイツ氏、マイクロソフト取締役を退任 米マイクロソフトは13日、創業者のビル・ゲイツ氏(64)が同社の取締役を退任したと発表した。自ら設立した財団で取り組んでいる気候変動や教育、公衆衛生に関わる慈善事業に専念するため。サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)らへの「テクノロジーアドバイザー」の役割は続ける。ゲイツ氏は1975年に友人のポール・アレン氏とマイクロソフトを創業し、パソコン用基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」で一時代を築いた。2000年までマイクロソフトのCEOを、14年まで取締役会長を務めた。一方で2000年には妻のメリンダ氏とともに、環境問題や新興国の病気など社会課題を扱うビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立。財団活動に軸足を移すため、08年以降はマイクロソフトの仕事は「非常勤」にしていた。今回取締役も辞めることで、慈善事業に費やす時間を一段と増やす。ゲイツ氏は友人のウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイの取締役も退任する。ゲイツ氏は「リンクトイン」への投稿で「バークシャーとマイクロソフトのリーダーシップはかつてなく強くなっているため、このステップを踏むのに適切な時期だ」と説明した。ただ、ゲイツ氏は「マイクロソフトの取締役を退任することは会社から完全に離れることではない」とも述べ、技術面のアドバイザーとして関与を続ける意思を示した。ナデラ氏は13日に声明を出し「マイクロソフトはビルの継続的な技術に対する情熱とアドバイスを受けて、製品とサービスを前進させていく」と述べた。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、ゲイツ財団は同分野でも活動を積極化している。最近は2月に新型コロナウイルス対策に最大1億ドル(約108億円)を拠出すると発表した。 *10-6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/592277/ (西日本新聞 2020/3/16) にわかに注目、オンライン学習 新型コロナで突然の休校… 企業も支援 ●学校の意義見つめ直す機会にも 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で小中高校の臨時休校が続く中、子どもたちが自宅にいても学べるオンライン学習が注目されている。企業による教材の無料公開が相次いでいるほか、学校現場も教師が課題の送信や質疑応答などを工夫。情報通信技術(ICT)を使った教育の浸透と、教室で学ぶ意義の見直しにもつながっている。「楽しみだったし、ドキドキした」。福岡市中央区の福岡雙葉高2年の香山礼美さん(17)は11日、ビデオ会議システムによる学級の朝礼に臨んだ。スマートフォンに並んだ級友や担任の表情に触れて「安心した」と香山さん。臨時休校に入って以降、初めて顔を見る人が大半だったという。ICT教育に力を入れ始めた同校では本年度、全ての教師にタブレット端末を配備した。その環境を利用して教師たちは休校中、生徒向けに小テストや添削、解説動画に加え、黒板の前で撮影した授業の動画を配信。1本の動画を5分にまとめたり、別の教師が生徒役をしたりするなどの工夫を凝らす。ただ、授業の代替ではないため、どこまで取り組むかは生徒次第だ。生徒の関心を伸ばす鍵の一つが教師の「素顔」。今春、定年を迎える教師のメッセージ動画を配信すると生徒間で大きな話題となった。その反響を受け、歌に合わせて踊る教師の姿なども見られるようになった。一方で授業動画は思わぬ効果も。「生徒がノートに書いたり、自分たちが板書したりする時間を省くと50分でやっていた内容を約15分にまとめられた。自分の動画を見て話す早さや滑舌も見直せた」と甲斐恭平教諭(29)は話した。 ◇ ◇ 福岡市西区の福岡西陵高では臨時休校に入った3日、教師たちが学校のタブレットを手にオンライン学習の手法を確認し合った。九州大と連携し、デジタル教材の活用法を探る同校は生徒と教師に保護者も加えて学級、部活動など設定したグループ内で文章や写真、動画を送受信できるシステムを導入。生徒たちには休校前、自宅のパソコンやスマートフォンを使って交信するよう伝えていた。「生徒を個別に呼び出して指導ができるわけではない。いかに生徒がやりたくなる課題を提供できるかが大切」と、中心になって進める吉本悟教諭(39)は言う。休校から10日余り。連絡事項や課題の伝達に加え、テレビ会議システムで一部の補習授業も実践した。今後は海外の学校とつなぎ、生徒間の交流会も計画している。 ◇ ◇ こうした学校現場の取り組みに、教育関連企業も積極的に“参戦”する姿勢を見せている。通信教育事業のZ会(静岡県三島市)や小学館集英社プロダクション(東京)、学研ホールディングス(東京)などの業界大手はそれぞれ、専用サイトを設けるなどし、学習方法や授業解説の動画といった教材を相次いで公開している。経済産業省は2月28日に家庭学習に役立つ取り組みを紹介するサイトを開設。50社・団体以上を載せており、担当課には一時、対応できないほど掲載の要望が殺到したという。4月からプログラミング教育が小学校で必須となるのをにらんだ企画もある。福岡市のベンチャー企業「しくみデザイン」は4月上旬まで、同社が無料で提供しているアプリを使ったデジタル作品を応募してもらうコンテストを実施中だ。パソコンやスマホがあれば、どこでも学べるオンライン学習。それでも、多くの生徒は教室で気軽に話し合い、学び合える友人が隣にいないことに不都合を感じている。福岡雙葉高の甲斐教諭は「生徒たちが集まらないとできないことは何なのかを突き詰めないといけない」と話す。突然の臨時休校は、学校での学びの意義をあらためて感じる機会でもあるようだ。 *10-7:https://www.gakkou.net/kou/src/?srcmode=ci&ci=2&p=41 (中高一貫教育校併設型高校より抜粋) 1.佐賀県立唐津東高等学校 佐賀県唐津市 公立 普通科 中高一貫教育校 2.弘学館高等学校 佐賀県佐賀市 私立 普通科 中高一貫教育校 3.佐賀清和高等学校 佐賀県佐賀市 私立 普通科 専門学科 中高一貫教育校 4.佐賀県立武雄高等学校 佐賀県武雄市 公立 普通科 中高一貫教育校 5.佐賀県立致遠館高等学校 佐賀県佐賀市 公立 普通科 専門学科 中高一貫教育校 6.東明館高等学校 佐賀県基山町 私立 普通科 中高一貫教育校 7.佐賀県立烏栖高等学校 佐賀県鳥栖市 公立 普通科 中高一貫教育校 8.龍谷高等学校 佐賀県佐賀市 私立 普通科 中高一貫教育校 9.早稲田佐賀高等学校 佐賀県唐津市 私立 普通科 中高一貫教育校 <新型コロナウイルスの治療法と特措法> PS(2020年3月4日追加):新型コロナウイルス「COVID-19」が怖いのは、「有効な治療法がないから」と言われるが、*11-1のように、治療薬として①抗ウイルス薬レムデシビル ②抗HIV薬「カレトラ」 ③抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」 の3種類が有望視されており、レムデシビルは、現在は承認されていないが、エボラ出血熱の治療薬として開発され、コロナウイルスが引き起こすMERSやSARSへの効果も示唆されて、中国と米国では既に臨床試験が始まっており、日本でも承認申請に向けた試験を3月にスタートするそうだ。ただし、ワクチンは予防には役立つが、既に罹患している人には無意味だ。そのような中、中国では罹患して治った人の血清を注射することによって重傷者が回復した例があり、これなら自分の免疫で回復しきれないほどの重症患者にも有効だろうが、人間の血清は供給に限度がある。 そのため、私は、MERS・SARS・COVID-19がコロナウイルスであることから、*11-2のように、コロナウイルスに効く血清を医療用の無菌豚で作っておけば重症患者の治療に汎用することができ、乳牛で作って牛乳に免疫を出せれば、(乳児が母乳から免疫をもらうように)牛乳を飲んで免疫を作ることもできると思う。 このように、現在の日本は感染症への対処法が多くなっているため、私は、*11-3のように、「政府や自治体の権限強化は抑制的であるべきで、憲法に反する法律で人権を制限しすぎるべきではない」という意見に賛成だ。 *11-1:https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/ (AnswersNews 2020/2/28) 新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】 世界各地で広がる新型コロナウイルス感染症「COVID-19」。治療薬やワクチンの開発動向をまとめました(2020年2月28日昼時点の情報をもとに執筆。内容は随時更新する予定です。 ●治療薬 2月28日時点でCOVID-19の治療薬として有望視されているのは、▽米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬レムデシビル▽米アッヴィの抗HIV薬「カレトラ」(一般名・ロピナビル/リトナビル)▽富士フイルム富山化学の抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」(ファビピラビル)――の3種類。レムデシビルは、現時点では世界中のどの国でも承認されていません。日本では、国立国際医療研究センターの研究班による観察研究として、一部の医療機関でこれら3種類の薬剤の投与が始まっています。3月には、レムデシビルの承認申請に向けた医師主導治験がスタートする予定。日本感染症学会は2月26日、3種類の薬剤のうち国内で承認されているカレトラとアビガンをCOVID-19に使用する際の留意点などをまとめた指針を発表しました。 ●レムデシビル(米ギリアド) ギリアドは2月26日、COVID-19を対象にレムデシビルの臨床第3相(P3)試験を始めると発表しました。試験は、重症患者400人を対象としたものと、中等症患者600人を対象としたものの2本で、アジアを中心に診断例が多い世界各国の医療機関が参加。いずれも、レムデシビルを5日間または10日間、静脈内投与し、発熱と酸素飽和度を指標として有効性を評価します。レムデシビルはすでに、中国(中日友好医院主導)と米国(国立アレルギー・感染症研究所=NIAID主導)で臨床試験が始まっており、ギリアドによる企業治験はこれらの試験データを補完するものになるとみられています。中国での試験は4月に結果が得られる見通し。日本でも承認申請に向けた医師主導治験が3月にスタートする予定です。レムデシビルはもともと、エボラ出血熱の治療薬として開発されていた核酸アナログ。これまでの研究では、コロナウイルスが引き起こすMERS(中東呼吸器症候群)やSARS(重症急性呼吸器症候群)への効果が示唆されており、ギリアドは2月3日に発表した声明で「今回の新型コロナウイルス以外のコロナウイルスで得られているデータは希望を与える内容だ」としています。 ●カレトラ(米アッヴィ) カレトラは、ウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬ロピナビルと、その効果を増強するリトナビルの配合剤。日本では2000年にHIV感染症に対する治療薬として承認されています。これまでのin vitroや動物モデルを使った研究では、MERSへの有効性が示されており、COVID-19に対してもバーチャルスクリーニングで有効である可能性が示されています。米国の臨床試験登録サイト「CrinicalTrials.gov」によると、中国ではCOVID-19を対象としたカレトラの臨床試験が複数、実施中。日本感染症学会の指針によると、国内では2月21日までに国立国際医療研究センターで7人の患者に投与されています。 ●アビガン(富士フイルム富山化学) アビガンは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、国は新型インフルエンザに備えて200万人分を備蓄しています。アビガンは、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制します。COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、効果を示す可能性があると期待されています。ただし、動物実験で催奇形性が確認されているため、妊婦や妊娠している可能性がある人には使うことができず、妊娠する可能性がある場合は男女ともに避妊を確実に行う必要があります。中国の臨床試験登録サイト「Chinese Clinical Trial Registry(ChiCTR)」によると、中国では2月28日時点でCOVID-19に対するアビガンの臨床試験が4本進行中です。 ●その他 これら3つの薬剤以外では、米リジェネロン・ファーマシューティカルズがCOVID-19に対する抗体医薬の開発に向けて米国保健福祉省(HHS)と提携。米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、中国の医療機関からの要請に応じて抗HIV薬「プレジコビックス」(ダルナビル/コビシスタット)を提供し、同薬を使った臨床試験が行われています。CrinicalTrials.govやChiCTRによると、抗マラリア薬のクロロキンや抗ウイルス薬のインターフェロン、抗インフルエンザウイルス薬の「タミフル」(オセルタミビル)や「ゾフルーザ」(バロキサビル)などが、中国でCOVID-19を対象とした臨床試験が行われています(2月28日時点)。 ●ワクチン COVID-19を予防するワクチンの臨床試験も近く始まる見通しです。米バイオベンチャーのモデルナは2月24日、開発中のコロナウイルスに対するワクチン「mRNA-1273」の治験薬を初めて出荷したと発表しました。米NIAIDが近くP1試験を始める予定です。CrinicalTrials.govに登録されている情報によると、mRNA-1237のP1試験は18~55歳の健康な男女45人を対象に実施。ワクチンを4週間隔で2回投与し、安全性と免疫原性を評価します。新型コロナウイルスに対するワクチンの開発をめぐっては、ノルウェーに本部を置く「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が、▽米イノビオ▽豪クイーンズランド大▽モデルナ・NIADI▽独キュアバック――とパートナーシップを締結。英グラクソ・スミスクラインはアジュバント技術の提供でCEPIの開発プログラムに協力しています。仏サノフィとJ&Jは、米HHS傘下の米国生物医学先端研究開発局(BARDA)と協力してワクチン開発を進めると発表しました。日本企業では、アイロムグループ子会社のIDファーマが、復旦大付属上海公衆衛生臨床センターとワクチンの共同開発で合意。両者はセンダイウイルスベクターを使った結核ワクチンを共同開発しており、その経験を生かして新型コロナウイルスに対するワクチンの開発を目指すといいます。 *11-2:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/050900160/ (日経BP 2016.5.10) 18種の毒ヘビに有効、画期的な血清製造法を開発、アジアの毒ヘビからアフリカの種の血清も!年間9万人超を救えるか 毎年、全世界で9万4000人もの人々が毒ヘビに咬まれて命を落としている。死者数が特に多い地域は、南アジアとサハラ以南のアフリカだ。彼らの命を救えないのは、抗ヘビ毒の血清が手に入りにくいからだ。ヘビ毒は複数の種類のタンパク質からなり、ヘビの種類によって成分や構成が異なる。そのためかなり最近まで、毒ヘビに咬まれたら、その種類のヘビの毒にだけ効く専用の抗毒血清で治療するのが最善とされてきた。だが、それには約600種の毒ヘビのうち、どれに咬まれたのか正確に分かる必要があるうえ、各種のヘビ毒に効く血清を備蓄しておくコストもかかる。また、アフリカには複数種のクサリヘビやコブラの毒に効く抗毒血清があり、現在はそれを使った治療が最も有効だ。しかし、報道によると、この血清の備蓄は2016年6月にも枯渇するという。血清の大半を製造していたフランスの製薬会社が、利益の出ない血清の生産をやめてしまったからである。このたび、タイの科学者たちが、アジアとアフリカの18種のヘビの毒に効く抗毒血清を作る方法を発見したと、いわゆる「顧みられない熱帯病(neglected tropical disease)」の研究を扱う科学誌『PLOS Neglected Tropical Diseases』に研究成果を発表した。研究チームは、自分たちの血清は従来のものより安く、より広い範囲のヘビ毒に効果があるので、血清を最も必要とする貧しい地域にも供給できると主張している。 ●ヘビ毒をろ過して濃度を高める タイ、バンコクのチュラポーン研究所のカヴィ・ラタナバナンクーン氏は、ヘビ毒の恐ろしさを何度もじかに経験している。「私はこれまでに15匹の犬を飼いましたが、そのうちの5匹がコブラに咬まれて死んでいます」と彼は言う。「自宅の庭に体長1.5mのコブラが現れることもあります。私たちにとって、毒ヘビは身近な問題なのです」。より多くの種類のヘビ毒に効く血清を開発するため、ラタナバナンクーン氏の研究チームは、アジアの主要な毒ヘビである4種のコブラと2種のアマガサヘビから12種類のヘビ毒のサンプルを採取した。なかでもアマガサヘビ(Bungarus multicinctus)は手に入りにくかったので、野生のヘビを1匹100ドルで買い取るという口コミを広めて入手したという。捕獲されたヘビは、タイ赤十字社が運営するスネークファームが保護して、研究チームのために毒を採取した。抗ヘビ毒血清の一般的な作製法では、致死量に満たないヘビ毒を天然のままの状態でウマに注射し、できてきた抗体を回収する。けれども今回の研究では、12種類のサンプルのうち9種類を「超ろ過」して最も致死性の高い毒性タンパク質を取り出し、ろ過できるだけの量がなかった残りの3種類のヘビ毒と一緒に投与した。研究チームは、毒以外の成分を減らし、ヘビ毒の最も重要なタンパク質の濃度をあげることで、複数のヘビ毒に効く抗体の多い血清を一度に作れると考えたのだ。彼らの論文によると、こうして得られた血清を、ヘビ毒を注射したマウスに注射したところ、そのすべてが回復したという。さらに、この血清は、研究に用いた6種のヘビの毒だけでなく、類縁種の12種のヘビの毒にも効果があることが明らかになった。ラタナバナンクーン氏が特に驚いたのは、この血清が、アフリカのエジプトとカメルーン原産のヘビの毒にも効いたことだった。これらはいずれもコブラの仲間なので、毒素も似ているせいかもしれない。研究チームは、この方法で、アジアとアフリカのコブラ科のすべてのヘビの毒に効く血清を作れるようになるだろうと考えている。 ●「特許を取得する予定はありません」 米アリゾナ大学VIPER研究所のレスリー・ボイヤー所長は、実験で作られた抗体の数は、血清の有効性の指標となるもので、なかなか立派な数字であるが、他の開発中の抗毒血清に比べて特に多くはないと言う。また、ラタナバナンクーン氏らの研究が小規模で、新しい血清による治療の結果を、伝統的な専用の血清による治療の結果と直接比較していない点は問題だと指摘する。けれども彼女は、この研究は原理を証明したよい実験であり、ハイテク技術を駆使して合成抗毒血清を開発しようとする取り組みに比べると泥臭いが、より実用的なアプローチであるかもしれないと言う。「私自身は、彼らの方法は好きですね。アジアの小さな国々では、めずらしいヘビによる咬傷を治療する方法がなくて困っていると聞きます。ラタナバナンクーン氏らの血清が実用化されれば、こうした国々の公衆衛生は大幅に向上するでしょう」とボイヤー氏。彼女は、タイの研究チームが、もっと多くの研究資金を獲得して、より大規模な比較対照試験を実施できるようになることを願っている。動物を使っての試験が終わったら、今度はヒトでの臨床試験だ。研究チームは、自分たちのマルチ血清を市販するときには、手頃な価格で容易に入手できるようにするつもりだと強調する。ラタナバナンクーン氏は言う。「製造プロセスは非常に簡単なので、特許を取得する予定はありません」 *11-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020030402000175.html (東京新聞社説 2020年3月4日) 新型コロナ 特措法の検討は慎重に 安倍晋三首相は、新型コロナウイルス対策に立法措置を表明した。事態悪化を想定した対応は重要だが、目指す法整備は政府などの権限を強めるものだ。必要な対応なのか慎重な検討が求められる。首相が唐突に表明したイベントの自粛や小中高校の一斉休校の要請に法的な強制力はない。そこに批判があったことも要因なのだろう。法整備を言い出している。感染症の封じ込めにはあらゆる対策を取りたいが、政府や自治体の権限強化は抑制的であるべきで十分な議論が要る。想定されているのは新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)の改正である。今国会での早期の成立を目指している。特措法は、感染症拡大防止のため企業活動や国民生活を規制する法律で、二〇〇九年の新型インフルエンザの流行を機に検討が始まり一二年に成立した。鳥インフルエンザが発生し、深刻な被害を招く新型インフルエンザに変異して人から人への感染が懸念された一三年に施行された。特措法では重大な被害の恐れがある新型インフルエンザが国内で発生、急速なまん延の恐れがあると政府が判断した場合、緊急事態を宣言する。自治体はあらかじめ定めた計画に沿って対応する。懸念されるのは国民の私権を制限する権限が知事などにあることだ。不要不急の外出の自粛を要請できる。劇場、学校などの使用制限を管理者に要請し、従わなければ指示できる。集会や移動の自由が大きく制限されかねない。土地や建物を借りて臨時の医療施設を設置できるが、所有者の同意がなくても強制使用できる。新型インフルエンザ被害が深刻な場合、国内死亡者は十七万~六十四万人と想定されている。それでも当時、日弁連などから規制は人権が侵害されかねないとの批判が出た。新型コロナウイルスもどんな被害を及ぼすのか不明な点は多い。だが、首相は一斉休校が必要だと判断した根拠を示していない。専門家の意見も聞いていなかった。独断で決める姿勢では「有事」を理由に過剰な制限を求められる不安は消えない。一斉休校の要請に際し文部科学省や厚生労働省との連携が不十分で学校や保育所、雇用などへの支援が後手に回っている。政府はまず政府内の連携を密にし、国民が自主的に判断できるよう正確な情報発信を心掛けるべきだ。現状でもすべきことはある。 <厚労省や保健所が積極的に検査をしなかった理由は・・> PS(2020年3月5日追加):先進国であり、国民皆保険制度を持つ国である日本で、*12-1のように、医師が必要と判断しても保健所が認めずPCR検査を実施できなかった例が全国で30件以上あり、大半が理由不明であるというのは問題だ。保健所が認めなかった理由は「重症でない(5件)」「濃厚接触者でない(1件)」「理由不明(残り)」だが、民間検査会社が参入すれば対応可能件数は増えるため、このようなことが起こった理由を考える必要がある。ただし、保険適用した後の自費負担分まで公費で補填する必要はないと思う。 このような中、2020年2月28日、日経新聞が、*12-2の「①中小企業の健康保険料の地域差が拡大している」「②格差を縮める措置が2019年度で終わり、労使折半の保険料の負担は企業で年数百万円、個人で年数万円の差になる」「③医療費がかさみ保険料が高い地域は、医療の効率を高める努力を一段と迫られる」「④保険料率が高い地域ではその分、企業の投資や個人消費に回らなくなり、地域経済にマイナス」「⑤高齢化が進む中で医療費を抑えるには、医療費がかさみやすい生活習慣病の予防などが欠かせない」という記事を掲載した。しかし、①は真実だが、これまでの国家による資本投資額の地域差、それによるサラリーマンと自営業者の比率差、高齢者と生産年齢人口の比率差などがあるため、健康保険料を県単位で決め、②のように格差を縮める措置を2019年度で辞める制度にしたこと自体が間違っているのだ。従って、③の「保険料が高い地域は医療の効率が悪い」と言うのは何も考えていない単純さがある。また、④は日本全国で保険料を同じにすることや(長くは書かないが)治療の効率化・言い値での薬価支払いを見直すことで医療保険を無駄遣いしないように厚労省が努力するのが筋である。さらに、⑤の生活習慣病の予防はもちろん重要だが、どんなに生活習慣病を予防しても生物である以上は必ず死ぬため、高齢になれば何らかの病気をもつ人が増えるのは当然なのだ。 このような中、*12-3・*12-4のように、厚労省が都内で開いた社会保障審議会の医療保険部会で、「⑥現役世代の重荷になるため、75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担を原則2割に引き上げる」ための議論が交わされたそうだ。私は、本当に現役並み所得(その金額が問題)があるのなら3割自己負担にしてもよいと思うが、高額療養費制度で月毎の自己負担に低い上限を設けて低所得になっても医療費を払えることを徹底しなければ、日本は高齢者になると病気をしても検査も治療も受けられないとんでもない国になると考える。さらに、「高齢者が増え続ける中、負担の仕組みを変えない限り現役世代の過度な負担になる」というのは、世代毎の疾病罹患率は違うのに、罹患率の低い若い世代のみを企業の健康保険制度に入れ、罹患率が上がった定年後の世代は国民健康保険に入れ、75歳を過ぎると高齢者医療制度に入れる仕組み自体が保険の仕組みから外れているのだ。つまり、リスクの低い時に保険料を支払った場所でリスクが高くなった後もケアしなければ保険として成立せず、リスクの高い高齢者だけをケアする保険が赤字になるのは当たり前なのである。また、後期高齢者医療制度なら1割負担の人の医療費の半分は公費で賄われるが、3割負担の人の医療費は公費負担がなく現役世代の保険料で賄うため、3割負担の人が増えれば現役世代の負担が増えるなどとみみっちいことを言っているが、3割負担できるほどの所得は健康でなければ稼得できないし、働いている方が健康でもいられるのである。 このように、厚労省はじめ厚生労働族の議員は、複雑なだけで理論的でない医療保険制度を作っておきながら高齢者を邪魔者扱いしているため、高齢者を狙い撃ちするウイルスなどは非常に都合がよく、検査や治療もしたくないのではないかと推測する次第である。 *12-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14390352.html (朝日新聞 2020年3月5日) PCR検査、保健所「認めず」30件 大半は理由不明 新型コロナ 新型コロナウイルスの感染を判定するPCR検査をめぐり、日本医師会は4日の記者会見で、医師が必要と判断しても保健所が認めずに検査を実施できなかった例が全国で30件あまり確認されたと明らかにした。集計途中といい、13日以降に最終結果をまとめる。新型コロナウイルスのPCR検査は現在、感染症法に基づく「行政検査」とされ、保健所が認めないと実施できない。日本医師会によると、保健所が認めなかった理由は「重症ではない」が5件、「濃厚接触者ではない」が1件などで、大半は理由が不明という。厚生労働省は行政検査は続ける一方で、保険を適用して保健所を介さない検査も始める方針。保険適用で民間検査会社の参入が進めば、対応件数が増える可能性がある。厚労省は当初5日に適用する方針だったが調整に時間がかかり、6日に適用すると発表した。 *12-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200228&ng=DGKKZO56123960X20C20A2MM8000 (日経新聞 2020.2.28) 健康保険料 広がる地域差 中小従業員、年数万円 地方経済に影響も 中小企業が加入する健康保険で、保険料の地域差が拡大している。2020年度は最も高い佐賀県が10.73%で、最も低い新潟県より1.15ポイント高くなる。格差を縮める措置が19年度で終わり、労使折半の保険料の負担は企業で年数百万円、個人では年数万円の差になる。医療費がかさみ保険料が高い地域は、医療の効率を高める努力を一段と迫られる。主に中小企業を対象とする全国健康保険協会(協会けんぽ)が20年度の保険料率を決めた。全国平均の料率は12年度以降、10.0%を保っているが、実際の料率は都道府県ごとに異なる。加入者1人あたりの医療費が多いほど料率が高くなる。最も高い県と低い県の料率をみると、20年度の差は6年前の4倍近くに広がる。協会けんぽ佐賀支部の試算によると、従業員300人で平均の標準報酬月額が30万円の企業の場合、企業の負担は最も料率が低い新潟県と比べて年621万円多い。従業員も同額を負担するため、1人あたりの収入は年2万円超少なくなる。佐賀支部は「企業の存続にかかわる重大事」として、格差が広がりにくい仕組みを求めている。保険料が高いと企業と個人の負担が増す。大和総研の神田慶司氏は「保険料率が高い地域ではその分、企業の投資や個人消費に回らなくなり、地域経済にマイナスだ」と指摘する。高齢化が進む中で医療費を抑えるには、医療費がかさみやすい生活習慣病の予防などが欠かせない。20年度の保険料率が最も低い新潟県は、生活習慣病を予防するための健診の受診率が高い。実施体制を備えた健診機関と協力して事業所に受診を呼びかけている。都道府県ごとに保険料率を定めるのは、地域ごとに医療費の抑制を促すためだ。協会けんぽは09年度に全国一律から都道府県別の料率に切り替え、格差が急に広がらないよう経過措置を講じてきた。それが徐々に縮小されて19年度で終わり、20年度は一段と格差が広がることになった。企業は赤字なら法人税の負担はなくなるが、社会保険料は業績にかかわらず払う。協会けんぽの料率には65歳以上の高齢者医療制度を支えるための「仕送り分」を含む。19年度は1.73%の介護保険料、18.3%の厚生年金保険料を加え、中小企業の社会保険料は平均で計30.03%となった。 *12-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200228&ng=DGKKZO56129440X20C20A2EE8000 (日経新聞 2020.2.28) 窓口負担のゆくえ(下) 高齢者「2割」 どこまで 現役世代の重荷を左右 「原則2割負担にすることが必要ではないか。対象を絞ると効果が限定的になる」。厚生労働省が27日、都内で開いた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会。75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担の引き上げを巡って議論が交わされた。現役世代が公的医療で支払う窓口負担は診察でかかった医療費の3割。ただ75歳以上の高齢者は原則として1割で、現役並み所得のある人のみが3割を負担している。政府の全世代型社会保障検討会議が2019年12月にまとめた中間報告では「22年度までに、75歳以上であっても一定所得以上なら負担割合を2割とする」と明記した。これを受け、厚労省では2割負担とする人の所得水準を線引きする議論を進めている。年40兆円を超す医療費の財源は、主に現役世代が払い込む保険料が49.4%、税金などの公費が38.4%だ。患者負担は11.6%。重い病気やけがをした人の負担を抑えるために月ごとの自己負担に上限を設ける高額療養費制度があるため、窓口負担割合が原則3割でも全体でみると低い水準に抑えられている。国際的に見ると、日本の医療の自己負担は比較的軽い。経済協力開発機構(OECD)によると、家計の最終消費支出に占める医療費負担の割合は2.6%でOECD平均(3.3%)を下回っている。一方、医療支出に税や保険料といった公的な財源が占める割合は84%で加盟国で3番目に高い。医療費は高齢になるほど高くなる傾向にある。高齢者が増え続けるなかで負担の仕組みを変えない限り、現役世代が支払う保険料や税金を上げ続けるしかない。実際、大企業の社員が入る健康保険組合の平均保険料率は上昇する一方だ。19年度は9.2%(これを労使折半)で、22年度には9.8%になると見込む。75歳以上の負担割合に新たに2割の区分を設けるのは、こうした現役世代の負担増をやわらげる狙いがある。ただし、対象者が少なければ、現役世代が背負う荷を軽くする効果は小さくなる。高齢者の負担を増やす改革が骨抜きになれば、いずれ必要になるのは「給付の抑制」(厚労省幹部)だ。例えば、外来で医療機関を受診する際に一律で数百円を支払う「ワンコイン負担」。全世代型社会保障検討会議で検討されたものの、導入は見送られた。医療費の負担などを定める健康保険法は02年の改正時に「将来にわたって7割の給付を維持する」とする付則をつけた。ワンコインが追加で生じると自己負担が3割を超え、この付則に反することになる。日本医師会などはこれも論拠に定額負担の導入に強く反対してきた。ただし現役世代に過度な負担を求め続ければ、付則を見直し、3割という窓口負担の「上限」を突破せざるを得ない日がやってくる。「上限3割」という医療保険制度の基盤を少しでも長く維持するためにも、高齢者の負担の見直しを着実に進めていく必要がある。奥田宏二、新井惇太郎が担当しました。 *12-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN2W7GWCN2WUTFL00W.html (朝日新聞 2020年2月28日) 75歳以上の医療費どうなる 現役世代負担増の可能性も 75歳以上が診療所や病院の窓口で払う、医療費の自己負担割合の引き上げをめぐる具体的な議論が27日、始まった。今は原則1割で一定の所得があれば3割だが、政府は昨年末の全世代型社会保障検討会議の中間報告で、2割の区分を新設する方針を表明。その対象とする所得の線引きだけでなく、3割負担の対象を広げるかも焦点になる。75歳以上は後期高齢者医療制度の対象で、約1700万人いる。現役並みの所得があるとして3割負担になるのは、単身世帯なら年収約383万円以上、課税対象となる所得が145万円以上の場合。政府は、この基準の見直しも検討項目に盛り込んだ。少子高齢化で医療費の増加が課題になる中、自己負担を増やすことで、医療制度を支える現役世代の負担を軽くする狙いがある。ところが27日の社会保障審議会部会では、3割負担の人を増やすと、逆に「現役世代の負担増になりかねない」との指摘が出た。後期高齢者医療制度では、1割負担の人の医療費は半分が公費で賄われる一方、3割負担の人の医療費は公費負担がなく、その分は現役世代の保険料で賄っている。そのため3割負担の人が増えれば、公費負担は軽くなるが、現役世代の負担は増える構図だ。この点をどう考え、実際に所得基準を見直すかが論点になる。一方、新設する2割負担の対象規模をめぐっては、「『原則2割』に」(経済団体)、「乱暴ではないか」(日本医師会)などと意見が割れた。政府内でも、財務省などは「半分以上を2割負担に」との主張が根強いが、厚生労働省は「75歳以上は所得が減り、医療費がかかる。多くの人に2割負担を求めるのは非現実的だ」(幹部)と慎重だ。政府は6月の「骨太の方針」までに具体策を決める。 <クルーズ船による観光は高齢化社会のトレンドなのに・・> PS(2020年3月6日追加): 米大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の姉妹船「グランド・プリンセス」に、新型コロナに感染して死亡した高齢男性が乗っていたため、*13-1のように、カリフォルニア州のニューサム知事の要請を受けて沖合に停泊し、検査キットをヘリコプターで運んで船内で数時間のうちに検査を終えたそうだ。日本も乗船者全員を速やかに検査し、結果に応じた対応をとっていれば、船内隔離は成功していたのにと思う。 そのような中、*13-2は「①沖縄ツーリストが観光客減による経営悪化を受け、社員の4割以上に当たる最大250人の計画的休業に踏み切った」「②同社の計画的休業は、新型コロナによる感染拡大が企業経営を直撃し、自助努力だけでは立ち行かない深刻な局面に入ったことを意味する」「③厚労省は雇用調整助成金の特例を感染拡大で売り上げが落ちた企業にも幅広く適用し、イベント自粛で従業員を休ませた場合でも適用するので周知を徹底し経済的停滞感を払拭に努めなければならない」としている。しかし、クルーズ船への対応で「さすが日本の医療は信頼できる」という評判をとっておけば、一時的に沈んだとしても日本の観光産業の今後は明るかったのに、ピンチをチャンスに変える方法も考えずにクルーズ船の入港を拒否し、政府助成に頼ろうとする発想では今後の回復もおぼつかないだろう。 *13-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56464480W0A300C2000000/ (日経新聞 2020/3/6) 米クルーズ船、沖合で乗客乗員の検査開始 キットを空輸 新型コロナウイルスに感染して死亡した高齢男性が搭乗していた米大型クルーズ船「グランド・プリンセス」が5日までに、当初の予定を変更して出港地の米サンフランシスコ沖合まで戻った。男性と同じ時期に乗船していた約20人に感染の兆候がある。同船は港に接岸せず、米当局は検査キットをヘリコプターで運び込んで実態調査を始めた。グランド・プリンセスは米カーニバルが運航し、新型コロナの集団感染が発生して多数の乗客を横浜港で隔離した「ダイヤモンド・プリンセス」の姉妹船に当たる。カーニバルなどによると、死亡した男性は2月にグランド・プリンセスに乗船した。同船は2月下旬に乗客の大半をサンフランシスコで入れ替えてハワイに向かったが、途中で男性の感染と死亡が判明。検査のためにメキシコの手前で引き返し、サンフランシスコに向かっていた。4日に記者会見した米カリフォルニア州のニューサム知事によると、乗客・乗員21人に感染の兆候がある。また、米メディアによると、死亡した男性と同時に搭乗していた約60人が現在も乗船している。5日朝、100人未満を対象に米疾病対策センター(CDC)などが検査を始めた。グランド・プリンセスは当初、サンフランシスコ港に直接戻る予定だったが、ニューサム知事などの要請を受けて沖合に停泊して検査を実施する方針に切り替えた。取材に応じたカリフォルニア州公衆衛生局の担当者によると、空輸したキットを使って船内での検査を数時間で終え、キットをサンフランシスコ郊外の同局の拠点に運んで感染の有無を調べる。米国では、ダイヤモンド・プリンセスの集団感染に対する日本政府の対応を批判する声が出ていた。米ワシントン・ポスト(電子版)によると、米上院が5日に開いた公聴会で米国土安全保障省の幹部は日本の隔離が効果的であれば感染拡大を防げたと発言した。だが、グランド・プリンセスも「洋上隔離」が長期に及べば、同様に問題となる可能性がある。 *13-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/542929 (沖縄タイムス社説 2020年3月5日) [新型肺炎 観光直撃]雇用守る有効な対策を 県内旅行業大手の沖縄ツーリスト(OTS)は、観光客減による経営悪化を受け、社員の4割以上に当たる最大250人の計画的休業に踏み切った。観光分野で沖縄経済を支えてきた同社の計画的休業は、新型コロナウイルスによる感染拡大が企業経営を直撃し、もはや自助努力だけでは立ち行かない深刻な局面に入ったことを示している。厚生労働省が休業手当の一部を補助する雇用調整助成金の対象を拡大したことを受けたもので、休業期間中の給与は満額支給するという。OTS以外にも観光関連産業を中心に、従業員の休業を余儀なくされる企業が相次いでいる。沖縄観光は逆風の真っただ中にある。県によると2月時点で、海外と県内を結ぶ航空路線は前年同月比で73便減り、クルーズ船寄港も56隻が中止になった。日韓関係の悪化や香港の情勢不安によるインバウンド(訪日観光客)減少に続き、新型コロナに伴う中国団体客、さらに国内客の旅行マインドの冷え込みで、出口が見えない状況が続いている。影響は旅行業やホテルなどの宿泊施設にとどまらず、観光バス、飲食業や行楽施設など幅広い業界に広がっている。本土では、中国客のキャンセルを受けた老舗旅館、食品製造業者が破綻に追い込まれるケースが出てきている。県内では倒産は発生していないものの、長期化すれば、持ちこたえられない会社も出てくるのではないか。 ■ ■ 体力の弱い中小零細企業や自営業者への支援に猶予はない。厚労省は雇用調整助成金の特例を感染拡大で売り上げが落ちた企業にも幅広く運用。イベントの自粛で従業員を休ませた場合でも適用する。周知を徹底し、経済的停滞感を払拭(ふっしょく)するよう努めなければならない。政府は近く2700億円を超える第2弾となる緊急対応策をまとめる。くらし全般を覆う不安を少しでも解消することが、喫緊の課題だ。自民党がまとめた提言には「コロナ対策特別貸付」の創設、観光業へのクーポンやポイント発行などを通じた支援、休校措置で休業せざるを得なくなった個人事業主や非正規雇用者への支援が盛り込まれている。野党と協力して検討を加速してほしい。感染の抑止と経済対策を両輪として、政府には全力を尽くしてもらいたい。 ■ ■ 沖縄観光コンベンションビューローの委員会は、感染拡大が及ぼす今後3カ月の影響について、入域観光客数が前年同期と比べ152万人減って、県内消費額も1024億円減少すると推計している。現在の状況が続けば、2001年の米同時多発テロ後の被害を上回る。雇用悪化への懸念が高まり、長期的な景気後退への分水嶺(れい)に立っている。目前の危機を直視し、政治主導による踏み込んだ対策が必要だ。取り得る施策を総動員し、乗り越えなければならない。 <休職する保護者の支援範囲について> PS(2020年3月7、8、9、14日追加):*14-1・*14-2に、「①COVID19の拡大による全国一斉休校で、子のために休職する保護者の所得減少を補償するため、正規・非正規を問わず休職した保護者を対象に新助成金制度を創設する」「②従業員を休業させた企業に支払う雇用調整助成金による支援を1月までさかのぼって実施する」「③フリーランス(個人事業主)や自営業者は対象にならないため、怒りの声が上がった」「④仕事を休んだ従業員に給料を全額払った企業を対象に正規、非正規雇用を問わず、1人当たり日額上限8,330円の助成金を払う」「⑤医療態勢を強化する」などが書かれている。 私は、①②③④について、“多様な働き方を後押しする”として、労働基準法や男女雇用機会均等法による最低保障すらされない非正規やフリーランスを増やすことにはずっと反対してきた。しかし、正規雇用の就職先を探してもそういう仕事が見つからないため仕方なく非正規・フリーランスの仕事を選択したのではなく、自分の都合で非正規・フリーランス・自営業などを選択した人は自己責任が当然であり、自ら所得補償保険等に入っておくべきだったのである。そのため、「国の意思決定が科学的根拠もないのに行われ、損失を被ったので損害賠償すべきだ」と考える人は、裁判で争うのが筋であって、他の人が納めた血税の配分をねだるのはおかしい。また、⑤については、徹底して速やかにやるべきで、遅すぎたくらいだ。 なお、*14-3のように、少子化対策・生産性向上・地方活性化の三つの課題を中心にこれまでの対応策などを検証して骨太の方針に反映させるそうだが、生産性の向上には人材の質の向上(≒教育+On the job training)が重要な役割を果たすため、“少子化対策”は単に出生数を増やすために金をばら撒けばよいわけではない。また、地方活性化には、産業構造を見据えた効果的な地方への投資が不可欠である。 *14-4は、新型コロナ対策で公立小中学校が一斉休校となったことに関して、「⑥休校2週間をどう過ごすのか」「⑦保護者からストレスをため込むことを心配する声」「⑧図書館は席に着いての読書や学習などは控えるよう呼び掛けている」「⑨学習塾も休校期間中は在宅学習」「⑩体を動かさないから寝付きが悪い」「⑪休校期間の基本は自宅で過ごすを守ってもらう」と記載しているが、⑥⑦については、前の学年で使った主要科目の教科書を通しで読んで理解し、時間が余ったら次の学年で学習する主要科目の教科書を予習しておくのがよく、私は、春休みにはそうしていた。そうすれば、前の学年で学んだことを理解した上で次の学年に進むことができるからだ。⑧⑨⑪は、自宅の環境によるので、自宅で落ち着いて勉強や読書ができる人はそうすればよいが、自宅では落ち着かない家庭は臨機応変にするしかない。⑩については、頭を使うこともエネルギーを使うため、勉強や読書をすれば眠れる筈だ。ただ、運動も大切なので、家の手伝いをしたり、犬を散歩に連れて行ったり、学校に行って鉄棒の練習をしたり、走ったりすればよく、遊ぶことだけが運動ではないので、子どもを甘やかしすぎるのはむしろよくない。それどころか、勉強もさせずに子どもを甘やかしていると、科学的思考もできず、高齢者への思いやりもない自己中の人間になるため、親の顔が見たいような人間に育てないよう注意すべきだ。 *14-5のように、高校で文理をコース分けして数Ⅲ(微分・積分)を学ばない人を80%近く作ることや大学で理・工・農・医・薬学などを専攻する理系学生の割合が全体の約26%にすぎないことは、論理的・科学的思考力に欠ける人材を数多く作り、労働生産性低迷の要因になっている。実は、経済学も行動学・微分・積分・統計学を通じてミクロとマクロが繋がっているのだが、ミクロとマクロは別物だと断じる経済学者は多く、誤った経済政策の温床となっている。そのため、「⑫高校段階での文理コース分けを止めて全ての生徒が数Ⅲまで学べようにすること」「⑬(殆どの人が高校を卒業する時代に合わせて)初等~中等教育のカリキュラムを合理化し、数Ⅲまで十分に学べるようにすること」「⑭初等・中等教育段階から理数系学問の面白さを生徒に伝えられるようにすること」は必要不可欠である。 PCR検査力には問題がなかったのに新型コロナに対する日本の検査数が海外と比較して少ない理由を、日経新聞が2020年3月12日、*14-6のように、「⑮早期発見できても早期治療に繋がらないから」「⑯病気の特徴や広がりなどの感染の全体像をつかむ積極的疫学調査で患者を検査して治療する医療行為ではなかったから」「⑰公衆衛生の発想は感染防止策を探るなど病気から社会全体を守ることで、ロシュの検査キットを使って国内の民間会社が検査をし出すと性能のばらつきで疫学調査に最も大切なデータの収集が難しくなるから」などと記載していた。しかし、新型コロナの治療法の候補も多くなっているため、⑮は誤りだし、疫学調査はサンプル調査で全体を推計することが可能なため、⑯のように国立感染症研究所が積極的疫学調査をしているからといって、国内の民間検査会社がロシュの検査キットを使ってPCR検査をやってはならない理由にはならない。むしろ、多く検査した方が重症化率・死亡率が正確に出る上、治療法も考えやすいのだ。さらに、⑰の「公衆衛生の発想は感染防止策を探るなど病気から社会全体を守ることで、一人一人の患者を治療することではない」というのも、学問の自由から公衆衛生もいろいろな調査をすることができるため、決めつけである。例えば、日本公衆衛生雑誌の2020年2月号には、「要支援高齢者のフレイルと近隣住民ボランティアのソーシャル・キャピタルの関連」「幼児を持つ親の家族のエンパワメント尺度の開発」「高齢者の自立喪失に及ぼす生活習慣病、機能的健康の関連因子の影響:草津町研究」等の論文が掲載されており、治療や予防のために研究をするのであって、研究のために治療を犠牲にするという発想はない。つまり、⑮⑯⑰は、陸軍病院が発祥の国立感染症研究所と厚労省の主張であり、公衆衛生一般の発想ではない。そのため、(たぶん文系の)新聞記者も、分野によって担当を分けて日本公衆衛生雑誌くらいの科学誌は普段から読んでおいて記事を書かなければ、誤った記事を書いて有害無益になるのである。 *14-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/588268/ (西日本新聞 2020/3/1) 安倍首相、休職保護者の所得補償を表明 新型肺炎対策第2弾策定へ 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)拡大を受け、安倍晋三首相は29日、首相官邸で初めて記者会見した。全国の小中高校、特別支援学校に一斉の臨時休校を要請したことに理解を求め、子どものために休職する保護者の所得減少を補償する新たな助成金制度の創設を表明。従業員を休業させた企業に支払う雇用調整助成金による支援を、特例的に1月までさかのぼって実施するとした。首相は、卒業や進学、進級の節目を控えた時期に一斉休校を要請したのは「断腸の思い」と発言。発表が唐突すぎるとの指摘が出ていることに対し、「十分な説明がなかったのはその通りだが、責任ある立場として判断をしなければならず、時間をかけているいとまはなかった。どうか理解をいただきたい」と述べた。新型肺炎の現状については、専門家の見解を基に「今からの2週間程度、感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきだと判断した」と説明。正規、非正規を問わず休職した保護者を対象にする新助成金制度をはじめ、本年度の予備費を活用した緊急対策の第2弾を今後、10日間程度でまとめる考えを示した。医療態勢の強化では、3月の第1週中にウイルス検査に医療保険を適用するとともに、時間を15分程度に短縮できる新たな簡易検査機器を月内に導入する見通しを明らかにした。新型肺炎にも一定の有効性が認められている新型インフルエンザ治療薬「アビガン」など三つの薬を使用し、治療薬の早期開発につなげていくとした。終息に向け一刻も早い立法措置が必要とし、野党にも協力を依頼したいと話した。今夏の東京五輪・パラリンピックを予定通り行うかを問われ、「アスリートや観客にとって安全、安心な大会となるよう万全の準備を整えていく」と答えた。首相は「道のりは予断を許さない。大変な苦労を国民の皆さまにおかけするが、お一人お一人の協力を深く深くお願いする」と頭を下げた。 *14-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14390313.html (朝日新聞 2020年3月5日) 休業へ助成なし、フリーランス悲鳴 多様な働き方推進、政権の姿勢と矛盾 新型コロナ 安倍政権が打ち出した新型コロナウイルスの感染対策に対し、企業に雇われずに働くフリーランス(個人事業主)が怒りの声を上げている。政権は臨時休校に伴って仕事を休んだ保護者の支援策を発表したが、フリーランスは対象にならなかった。「多様な働き方」を推進する政権はフリーランスを保護する姿勢を示してきたにもかかわらず、矛盾する対応に与党内からも見直しを求める声が出ている。校正の仕事を自宅で請け負う埼玉県の女性(41)は頭を抱える。安倍晋三首相が突然表明した「全国一斉休校」の要請で小学5年、2年の男児の世話に追われ、仕事に専念できなくなったからだ。毎月8万円ほどの収入が欠かせないが、「今月は稼げそうにない。4月も引き続き一斉休校なんてことにならないか不安です」。厚生労働省は2日、仕事を休んだ従業員に給料を全額払った企業を対象に正規、非正規雇用を問わず、1人当たり日額上限8330円の助成金を出す新制度を発表した。だが、フリーランスや自営業者が対象外とされたことに、女性は「納得できない」と憤る。「自営やフリーは自己責任なのか。国は多様な働き方を後押しするなら、多様なセーフティーネットも用意するべきだ」と訴える。カメラマンや編集者、俳優などフリーランスの働き手は国内300万人超とされる。だが、労働法制は会社と雇用契約を結んだ働き手を前提とするため、フリーランスはしばしばその網からこぼれ落ちてしまう。加藤勝信厚労相は参院予算委で「フリーランスの仕事は多様で、このスキーム(枠組み)を適用することは非常に難しい」と答弁。安倍首相は「その声をうかがう仕組みを作り、強力な資金繰り支援をはじめ対策を考えたい」と述べた。政府が想定するのは、5千億円の緊急貸し付け・保証枠の活用だが、これは訪日中国人客らの激減などで打撃を受けた観光産業などの支援を念頭に置く。あくまでも返済が必要な「融資」であり、金融機関の審査も受ける。政府の対応に与党内からも不満が出ている。公明党の斉藤鉄夫幹事長は4日、菅義偉官房長官と面会し、「フリーランスは資金繰り(支援)ではとても持たない」などとして対応を求めた。斉藤氏によると、菅氏は「踏み込んでやる」と答えたという。法政大の浜村彰教授(労働法)は「現行制度の枠組みでは、フリーの人たちに救いの手を差し伸べるのは難しい。セーフティーネットを整えないまま、こうした働き方を政策として進めていいのかという問題が提起されている」と指摘した。 *14-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14390354.html (朝日新聞 2020年3月5日) 少子化対策を検証へ 内閣府は4日、西村康稔経済再生相が主宰する有識者懇談会「選択する未来2・0」を設置すると発表した。少子化対策と生産性の向上、地方活性化の三つの課題を中心にこれまでの対応策などを検証し、今夏とりまとめる骨太の方針に反映させることを目指す。 *14-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/497485 (佐賀新聞 2020.3.8) <新型コロナ>休校2週間どう過ごす ストレスや運動不足、保護者は心配 新型コロナウイルス対策で佐賀県内の公立小中学校が一斉臨時休校となって5日が過ぎた。放課後児童クラブ(学童保育)を利用しない児童の多くは、家で過ごすことになり、保護者からはストレスをため込むことを心配する声も上がる。学校側は不要な外出は控えるよう求めているが、約2週間に及ぶ「在宅」生活に保護者らは「子どもがかわいそう」「どう過ごせばいいの」と悩ましげだ。県こども未来課によると、県内では通常、小学生の4人に1人が学童保育を利用している。臨時休校中の利用状況は「通常の半分くらい」といい、大半の児童は自宅や親族の家で毎日過ごしていることになる。学童保育の利用が懸念したほど多くない現状に対し、「保護者には臨時休校の目的を理解してもらっている」と同課の担当者。ただ、学童保育の現場の支援員は「家に居ることが飽きた子や友達と会いたい子など、今後は増えるのではないか」とみている。休校中の過ごし方について行政や学校は「大勢が集まる場所への外出は避け、基本的に自宅で過ごす」ことを求めており、学校以外で子どもが多かった場所も軒並み利用を制限している。市町の図書館は本の貸し出しは行うが、席に着いての読書や学習など長時間の滞在は控えるよう呼び掛ける。学習塾も「休校期間中は在宅学習にする」(公文教育研究会)など休講にしている所が多い。6日昼の武雄市の商業施設。県外から祖父母の所に遊びに来ていた2人の小学生の母親(35)は「昨日までほとんど家にいて体を動かさないから寝付きも悪く、『食っちゃ寝』の繰り返しで生活のリズムが崩れている。ストレスがたまっているようだし、土日はどこかに連れて行ってあげたい」と話す。小学4年の姪(めい)を連れた伊万里市の女性(51)は「息抜きをさせようと思ってここまでドライブ。何だか子どもがかわいそうで」と同情した。子どものストレス対策について県教委は「配慮が必要な児童生徒への家庭訪問やスクールカウンセラーの派遣など、各現場で個別に対応する」としている。運動や体力づくりも自宅で行うことを求め、休校期間はあくまでも「基本は自宅で過ごす」を守ってもらう考えだ。国立病院機構嬉野医療センター感染対策室の重松孝誠・感染管理認定看護師は「原則は外出しないこと」とした上でこう述べる。「元々、元気に遊んでいた子が1、2週間も家でじっとしていると、免疫力に影響する基礎体力を低下させる心配もある。大人の観察が行き届き、手洗いなどの対策をしっかり行うのであれば、少人数の友達と外で気分転換程度に遊んでもいいのではないか」 *14-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200309&ng=DGKKZO56523740X00C20A3CK8000 (日経新聞 2020.3.9) 高校の文・理コース分け 労働生産性低迷の要因に、関西学院大学長 村田治 数学成績と相関/AI理解に数3必須 村田治・関西学院大学長は、国際学力テストの数学の成績と国の経済成長率や生産性は正の相関関係にあるのに、数学の成績がトップクラスの日本が当てはまらないのは、高校の2、3年で文系・理系に分かれ、数学の学習をやめる生徒が多いからだと指摘する。昨年12月に発表された経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査(PISA2018年)」で、わが国の読解力が参加国・地域の中で15位(OECD加盟国中では11位)に転落したことが大きなニュースになった。読解力のスコアが下がったこと自体は残念であるが、数学や科学のスコアはそれぞれOECD加盟国では1位と2位を維持した。 □ □ □ 読解力、数学、科学の3つのリテラシーの中で、これからの世界において特に重要と考えられるのが数学リテラシーである。昨年3月に経済産業省が発表した報告書「数理資本主義の時代」において、「第4次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先に進むために、どうしても欠かすことのできない科学が三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」とうたわれている。 また、昨年6月に統合イノベーション戦略推進会議の報告書「AI戦略 2019」が発表されたが、人工知能(AI)や情報科学の理解には微分、線型代数、統計学の数学能力が欠かせないといわれている。数学に絞ると、OECD加盟国中で09年は4位、12年は2位、15年は1位、18年も1位とトップクラスにある。この傾向は03年から変わらず、数学の学力は15年間トップクラスを維持している。実は、国際学力テストの数学スコアと経済成長率等の間には正の相関関係が観察されるとの研究成果がある。1980年代以降、経済成長論の分野では人的資本ストックの水準が研究開発やイノベーションを通じて技術進歩を促し、経済成長率や生産性成長率を上昇させられるかどうかという実証研究が盛んに行われた。多くの研究は人的資本の代理変数として教育の量的指標である初等・中等教育から高等教育に至る就学年数を用いたが、必ずしも確定的な実証結果を見いだせずにいた。これに対して、米国の経済学者ハヌシェックらは、教育の質が重要だとしてPISAなどの国際学力テストのスコアを用いて経済成長率等への影響を分析した。その結果、数学や科学の学力が経済成長率や生産性成長率にプラスの影響を与えることを見いだした。この関係を簡単な図で示したのが左図である。図の横軸はOECD主要加盟国の03年のPISA数学スコアの国別平均値を示しており、縦軸は16~18年の労働生産性成長率の3カ年平均値を表している。03年のPISA数学スコアと16~18年の労働生産性成長率の3カ年平均値の関係を見るのは、PISAは15歳(高校1年生)で受けるため、生徒たちが社会に出て活躍するまでのタイムラグを考慮したためである。図からわかるように、数学スコアと労働生産性成長率の間には正の相関が見いだされる。他方、わが国の労働生産性は18年のデータによるとOECD加盟国中21位、16~18年の労働生産性の平均成長率は約0.56%とOECD加盟国中20位である。 □ □ □ このように、わが国の数学の学力はOECD加盟国でトップクラス(03年以降の6回のPISAの数学の平均順位は3位)にありながら、近年の労働生産性、労働生産性成長率は下位に低迷する。これはPISA数学スコアと労働生産性成長率の正の相関関係から、わが国が大きく逸脱していることを意味する。なぜ、わが国はPISAの数学スコアがトップクラスにありながら、労働生産性成長率は下位にあるのだろうか。この謎を解く鍵はPISAの実施年齢にあると考えられる。PISAは高校1年生が対象となる。従って、高校1年生までは、わが国の高校生の数学リテラシーはOECD加盟国でトップクラスであることは間違いない。だが、多くの高校は早ければ2年生、遅くとも3年生になると文系と理系にコースを分ける。13年3月の国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系選択に関する研究最終報告書」によると、高校3年生全体に占める理系コースの比率は約22%である。また、文部科学省の「15年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査」によると、数学3を履修している生徒の割合は21.6%にすぎない。さらに19年度「学校基本調査」によると、大学で理学、工学、農学、医・薬学などを専攻する理系学生の割合は全体の約26%である。高校1年生段階まではOECD加盟国でトップクラスの数学リテラシーを誇っていたわが国の高校生は、その後、文系と理系のコース分けによって、80%近くが数学を学ばなくなってしまう。このため、十分な数学リテラシーを伴った人的資本の蓄積が進まず、わが国経済において技術進歩やイノベーションが起こりにくく労働生産性上昇率が鈍化していると推察される。一刻も早く、高校段階での理系と文系のコース別編成を止め、全ての生徒が数学3まで学べようにすべきだと考える。さらに、AIの理解に必要な微分が数学3の範囲であることを考慮すると、現在の高校段階での文理の区別を止めることは喫緊の課題である。そのためには、初等・中等教育段階から数学それ自体の面白さを生徒に伝える工夫も必要となる。 *14-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200312&ng=DGKKZO56692180S0A310C2EA1000 (日経新聞 2020.3.12) 「疫学調査」優先の誤算 、新型コロナ検査数、日本少なく 不安と不満生む 新型コロナウイルスに対する日本の検査数はなぜ海外に比べて少ないのだろう。感染の有無をみるPCRの検査力に問題があったわけではない。厚生労働省が当初、医療行為としてではなく、感染拡大を抑える「疫学調査」と位置づけたからだ。ただ、思うように封じ込めはできず、世界でも感染が拡大。専門家と一般の人々の認識にずれが生じ「過少検査」への不安と不満が生まれた。がんにしろ生活習慣病にしろ、現代医療のイロハは「早期発見」だ。早い段階で診断がつけば治療の選択肢も増え、症状が悪くなったり死に至ったりするリスクは減る。 ●公衆衛生の発想 今回の新型コロナウイルスによる肺炎のように治療薬のない病気だと話は違ってくる。早期発見できても必ずしも「早期治療」にはつながらない。医療としてみれば検査をする意味は薄れる。PCR検査を担ってきた国立感染症研究所は3月1日、脇田隆字所長名で「市民の皆様へ」と題した文書をホームページ上に公表した。「検査数を抑えることで感染者数を少なくみせかけようとしている」という批判に対し、事実誤認だと反論した。この文書に「積極的疫学調査」という医学用語が何度も登場する。厚労省や感染研が検査を慎重に進めた理由を知るキーワードだ。疫学調査とは新しい感染症が発生した際、感染者や濃厚接触者、疑いがある人の健康状態を調べ、病気の特徴や広がりといった感染の全体像をつかむ調査だ。患者一人一人を検査して治療する医療行為ではなく、感染防止策を探るなど病気から社会全体を守る公衆衛生の発想に基づく。だからこそ感染研は必要な試薬や装置を組み合わせて自前で確立した検査手法にこだわった。中国・武漢をはじめ世界に供給していた製薬世界大手ロシュの検査キットを使って国内の民間会社が検査をし出すと、性能のばらつきで疫学調査にとって最も大切なデータの収集が難しくなる。これが検査能力の拡大を阻むボトルネックとなった。「検査漬け」という言葉があるように、日本では誰でも病気になったら医師の判断で血液検査や画像検査を受けられる。国民皆保険なので自己負担も少ない。これほど臨床検査のハードルが低い「検査大国」は珍しい。ウイルスの国内侵入を防ぐ水際対策は不発に終わり、ヒトからヒトへの感染例が続く。日に日に増す不安から、検査慣れした日本社会では、なぜ新型コロナウイルスへのPCR検査が受けられないのかという疑問が、やがて不信、不満へと変わっていった。 ●早く適正検査に 韓国がドライブスルー方式を活用し積極的にPCR検査を実施する様子が伝わると、検査の目的をきちんと伝えてこなかった厚労省や感染研に対し「感染隠し」の疑念が生まれた。政治介入もあったのだろう。厚労省は2月半ば、臨床検査として保険適用にする方向にかじを切らざるを得なくなった。ロシュが供給する試薬は臨床試験を経ていない研究用だが、感染研の手法と同レベルの性能であると「お墨付き」を与えた。3月6日から保険適用が始まった。新型コロナウイルスに対するPCR検査は医療行為の一環の臨床検査となった。しかし当面はかかりつけ医などが血液検査のように民間会社に直接委託するのではなく、全国約860カ所の「帰国者・接触者外来」の医師が検査の必要性を判断しなければならない。新型コロナウイルスに感染しても8割は軽症のまま回復する。肺炎の症状が確認されない段階で多くの人が検査を求めると、今の日本の医療体制では現場が混乱し重症患者への治療に支障をきたすことにもなりかねないとの懸念が医療関係者にはある。ただ早期発見の検査が阻まれる現状のままでは、社会の不安や不満はなかなか消えない。検査が広がり陽性者が早く見つかれば感染拡大を抑える効果も期待できる。未知の感染症に対する検査のあり方に正解はないが、早く過少検査を「適正検査」にしなければならない。 <社会保障のうちの介護保険制度とその財源> PS(2020年3月9、10日追加):*15-1は、「①市区町村の99%が全国共通の要介護度判定を2次審査で変更し、同じ状態でも利用できるサービスが地域で異なる」「②自治体は独自の判断理由を住民に周知しなければ公平性が保てない」「③要介護度を上げる自治体が多く、財政負担が増す方向」「④国の指針は介護の手間を基準とし、病気の重さや同居人の有無を理由に変更はできないとしているが、家族介護が見込めると要介護度を下げる自治体もある」としている。 しかし、*15-2のように、現在の介護保険制度は、65歳以上の第1号被保険者の保険料は所得に応じて市区町村が決め、その保険料は市区町村ごとに異なるため、要介護度判定に市区町村の考えが入るのは当然だ。ただし、40~64歳の第2号被保険者は加入している医療保険の算定方法に基づいて保険料が決まり、16の特定疾病が原因で要支援・要介護となった人にのみ支給される。40歳未満は保険料を納めない代わりに介護も受けられず、40~64歳は保険料は納めるが特定疾病以外では介護を受けられない。そして、65歳以上は所得の割に高い保険料を市区町村に収めながら、介護を受けるとつべこべ言われる。私は、介護保険制度は、複雑なだけで公平・公正でない制度を改め、年齢にかかわらず所得のある人はすべて所得に応じて保険料を支払い、介護が必要な時には遠慮なく介護を受けられる制度にすべきだと思う。そうすれば、出産、病児、障害児のケアなど40歳未満で介護が必要になった人も利用でき、多くの問題が解決する。 にもかかわらず、「介護保険料の負担は重い」などと自己中なことを言う人も多いため、国民負担を増やすことばかり考えるのではなく、*15-3の世界需要の数百年分も存在するレアアースやメタンハイドレートなどの国有鉱物資源を速やかに採掘し、*15-4のような地熱発電所の積極的開発でエネルギー変換を行い、国は税収以外の収入を獲得して国民負担を減らすのがよいと思う。そのため、エネルギーは電力を主とし、*15-5のように、発送電分離を徹底して再エネ発電による電力を集めやすいシステムを早急に作る必要がある。ただし、全国で唯一の公的電力網を作れば、今度はそれが独占や既得権となって進歩が阻害されるため、地方自治体・鉄道会社・ガス会社・通信会社・電力会社などが地下等に電線を整備し、電力や送電に自由競争を導入してエネルギーコストを下げるのが、日本にとって必要不可欠なことである。 昨年10~12月期の国内総生産(GDP)が実質で前期より1.8%(年換算7.1%)減ったのは、*15-6のように、新型コロナウイルスとは全く関係がなく、昨年10月の消費増税で個人消費が減ったからにすぎない。台風被害の影響を書くメディアも多いが、台風被害は有無を言わせず家屋や家電の消費を促すため、これを日本のGDPに取り込めないのは製造業が中国はじめ外国へ移転してしまっているという情けない結果だ。そして、製造業が外国に移転してしまった理由は、人件費の高騰・古い規制や習慣による支配・エネルギーの高止まり等々、産業政策の失敗の結果である。また、そういう将来性の薄い国がいくら金融緩和しても、企業が国内で設備投資を行う理由に乏しいため、国内投資は増えない。そのような中で、天災のように見える新型コロナウイルスは、メディアからそれらの本質的議論を隠した功労者になっている。 ![]() ![]() ![]() *15-2より (図の説明:左と中央の図のように、介護保険の財源は、被保険者が支払った介護保険料50%、国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%となっている。そして、右図のように、年金生活者の多い65歳以上の1号被保険者が財源の23%を支払っており、40歳未満は全く支払っていない。そのため、40歳未満も保険料を支払って介護保険に加入させるとともに、社会保障には国民負担だけでなく国有財産から得る収入を多く投入して負担を軽くすべきだ) *15-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200307&ng=DGKKZO56519820W0A300C2MM8000 (日経新聞 2020.3.7) 要介護度 ばらつく認定、判定、99%の自治体が変更 独自の裁量 住民に見えず 「全国一律」という介護保険制度の前提が崩れている。サービスを受けたい人の要介護度の認定(総合2面きょうのことば)を巡り、市区町村の99%が全国共通の判定を2次審査で変更。申請件数に占める変更比率は自治体でゼロから41%までばらつきがあることがわかった。同じ身体状態でも利用できるサービスが地域で異なることになる。自治体は独自の判断理由を住民に周知しないと、公平性が保てなくなる。要介護度は介助が必要な度合いに応じ、軽い順に要支援1~2、要介護1~5の7段階。立ち上がるのに支えが要る程度なら要支援1、寝たきりの場合は要介護5に相当する。生活上の自律性や認知機能を問う全国共通の調査票に基づきコンピューターで判定。その後、個別事情を考慮し、医師などで構成する介護認定審査会が決める。審査会で議論する材料は自治体で異なる。要介護度を上げれば、利用できるサービス量や種類は増える。要介護5の場合、介護保険からの支給限度額は月約36万円で要介護1は約17万円。むやみに上げると介護需要が膨らみ、保険財政の負担が増す。不必要に下げれば適切なサービスを利用できない懸念が出る。日本経済新聞は厚生労働省に情報公開請求し、2次審査で判断を変えた比率の自治体別データを入手した。最新の2018年10~11月で100件以上を審査した904市区町村が対象だ。 ●指針から逸脱も 892市区町村が要介護度を変えていた。変更率は平均9.7%。変更率が5%未満の自治体数は3割、10%以上は4割だった。77市区町で20%を超し、ばらつきが大きい。ゼロは12市町。多くの自治体で上げる事例と下げる事例が混在しているが、相対的に上げている自治体が多く、財政負担が増す方向に働いている。国の指針は介護の手間を基準とし、病気の重さや同居人の有無を理由に変更はできないとしている。だが、変更率が高い自治体では指針に合わない事例があった。変更率が35%と3番目に高い東京都国立市は大半が要介護度を引き上げていた。末期がん患者は一律に要介護5とする独自運用があるからだ。高齢者支援課は「容体が急変しても対応できるようにするためだ」という。1次審査より要介護度を引き上げる割合が30%超の自治体は埼玉県三郷市や三重県四日市市など8つ。千葉県銚子市も末期がんは要介護2以上にする慣習があるという。21%で要介護度を下げた埼玉県和光市の審査会委員は「家族介護が見込めると下げる」という。宮崎市や兵庫県西宮市も同居人の有無が影響している可能性があるという。変更率が41%で、下げた割合が33%弱の福岡県みやこ町は「調査票の特記事項にある事情を議論した結果」と述べた。日本介護支援専門員協会の浜田和則副会長は「自治体が独自基準を設けてもおかしくない」と指摘する。認定は市区町村の自治事務だからだ。 ●住む場所が左右 問題は独自基準が明文化されておらず、審査も非公開である点だ。19年に長野市から埼玉県内に移った80代女性は要支援1から要介護1に上がった。親族は「住む場所でこれほど違うのか」と驚いた。NPO法人「となりのかいご」の川内潤代表理事は「独自基準があるなら住民に丁寧に説明すべきだ」と訴える。国は18年度、要介護度を維持・改善した自治体に交付金を手厚く配る制度を設けた。ニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員は「自治体の方針で変わる要介護度を指標にすると、交付金狙いで要介護度を下げようとする地域が出かねない」と語る。 *15-2:https://kaigo.homes.co.jp/manual/insurance/decision/ (LIFULLより抜粋) 介護保険の仕組み、保険料はどうやって決まるのか (1)介護保険の仕組み 介護保険とは、介護を必要とする人が少ない負担で介護サービスを受けられるように、社会全体で支えることを目的とした保険制度です。 *介護保険の対象となる人 40歳以上の健康保険加入者全員が必須で加入(被保険者になる)します。40歳になった月(実際は、40歳の誕生日の前日)から保険料の支払い義務が発生し、それ以降は生涯に渡り保険料を支払うことになります。もし介護サービスが必要な要支援や要介護の認定を受けた場合、被保険者は収入に応じた自己負担割合で、その介護度に応じた介護サービスを受けることができます。ただし、介護保険サービスを利用する人になっても、介護保険料の支払いは続きます。要介護になったからといって、保険料支払いが免除されるというものではありません。介護保険サービスの利用料は、利用する本人は1~3割負担となっており、残りの費用は自治体が支払う形となっています。では、その財源はどのように調達しているのでしょうか。 (2)被保険者には2種類の区分がある 介護保険の加入者は65歳以上の第1号被保険者と、40歳から64歳の第2号被保険者に区分されています。 区分 第1号被保険者 第2号号被保険者 ①年齢 65歳以上の人 40歳以上65歳未満の 公的医療保険加入者 ②介護保険サービスを 要支援・要介護の 16の特定疾病※が原因で 利用できる人 認定を受けた人 要支援・要介護となった人 ③保険料 所得に応じて市区 加入している医療保険の 町村が決める 算定方法に基づいて決まる 第1号被保険者の場合、要介護状態になった理由が何であれ、介護保険サービスを利用できます。それに対して第2号被保険者がサービスを利用できるのは、厚生労働省が定める16種類の特定疾病が要介護状態の原因となった場合に限られます。そのため、たとえば事故などで要介護状態になったとしても、第2号被保険者は介護保険サービスを利用することはできないのです。 ※16の特定疾病とは ・末期がん、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、後縦靭帯骨化症、骨折を伴う骨粗鬆症、初老期における認知症、パーキンソン病関連疾患、脊髄小脳変性症、脊柱管狭窄症、早老症、多系統萎縮症、糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症、脳血管疾患、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症 (3)介護保険料は健康保険料とともに給与天引き 現役世代である第2号被保険者と65歳以上の第1号被保険者では、介護保険料の支払い方法も保険料の計算法も違います。40歳から64歳までのいわゆる現役世代、第2号被保険者の場合は、給料をもらっている人は、健康保険料と一緒に給料から天引きされます。保険料は、健康保険料・厚生年金保険料と同じように、標準報酬月額を使って計算します。 *標準報酬月額とは 毎年4月~6月の給与額を平均し、その平均した額を、標準報酬月額表の等級(報酬額の区分)にあてはめて決めるものです。その等級によって「健康保険料」「介護保険料」「厚生年金保険料」が決まるというわけです。保険料は、その年の9月から翌年の8月まで基本同じ金額を使用します。たとえば、東京都で4月~6月の給与の平均額が40万円だった場合、協会けんぽを例にとると、等級27(厚生年金の等級は24)の39万5,000円~42万5,000円の間に入ります。この範囲にあてはまる人の標準報酬月額は41万円となり、健康保険料と介護保険料をあわせた額は2万3,841.5円と決まります。この標準報酬月額表は、都道府県で異なり、また各健康保険組合でも異なるため、健康保険料・介護保険料・厚生年金の額は、自分がどこに所属しているかで変わります。なお介護保険料は、健康保険料・厚生年金保険料と同様に、原則、被保険者と事業主が同額ずつ負担します。 *自営業の場合は国民健康保険に上乗せして納付 自営業の場合、国民健康保険に加入をしていますので、国民健康保険料に上乗せして納付します。40歳になる年に、介護保険料の上乗せがない金額で先に国民健康保険料の納付金額の通知が届き、介護保険料については別途納付書が届きます。そのため、最初の年は納付を忘れないよう覚えておきましょう。なお、介護保険料の金額は自治体によって多少異なります。 (4)第1号被保険者の保険料は自治体ごとに異なる 65歳以上である第1号被保険者の介護保険料は、自治体ごとに決められています。各自治体は、3年ごとに介護サービスに必要な給付額の見込みを立て、予算を組みます。その予算のうち、国が25%、都道府県と市町村が12.5%ずつ。そして27%が第2号被保険者の保険料、残りの23%が第1号被保険者の納める保険料となっています。 *介護保険料の基準額 全員一律で同じ保険料にしてしまうと、収入によっては負担が大きくなってしまいます。そのため、所得基準を段階に分けて、それぞれの保険料率を掛け合わせて金額を決める定額保険料となっています。この所得段階は国の指針だと0.45倍~1.7倍までの9段階ですが、自治体によってはもっと細かい区分を使用しているところもあります。例えば東京都新宿区の場合では、段階区分は16段階となり、0.4倍~3.7倍まで料率に差をつけて公平性を保っています(※2019年4月1日時点)。第1号被保険者になると、保険料は基本的には年金から天引きされる「特別徴収」となり、年金の支払いにあわせて2カ月ごとに2カ月分が差し引かれます。ただし、年金の額が年額18万円に満たない場合は、「普通徴収」となり、納入書で支払うことになっています。また、第2号被保険者に扶養されているサラリーマンの妻などは、健康保険料を自分で納めていませんので、64歳までは扶養家族として介護保険料も支払っていません。ただし、65歳になり、第1号被保険者に変わるタイミングで、年金から介護保険料が天引きされるようになります。介護保険料は、居住している自治体によって金額が変わります。第2号被保険者の場合、入っている健康保険によっても金額は変わります。また、自分が第1号被保険者なのか、第2号被保険者なのかによって、金額の計算方法も納入の仕方も異なるのです。40歳になるとき、そして65歳になるときは注意が必要です。 監修者:森 裕司 株式会社HOPE代表、介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員、医療ソーシャルワーカーを11年間経験後、ケアマネジャーとして相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。企業の医療・介護系アドバイザーとしても活躍中。 *15-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29216170Q8A410C1EA2000/ (日経新聞 2018/4/10)南鳥島のレアアース、世界需要の数百年分、早大・東大などが分析 早稲田大学の高谷雄太郎講師と東京大学の加藤泰浩教授らの研究チームは、日本の最東端にある南鳥島(東京都)周辺の海底下にあるレアアース(希土類)の資源量が世界の消費量の数百年分に相当する1600万トン超に達することを明らかにした。詳細な資源量を明らかにしたのは初めて。レアアースを効率よく回収する技術も確立した。政府や民間企業と協力して採掘を検討する。レアアースはハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などの強力な磁石、発光ダイオード(LED)の蛍光材料といった多くの最先端技術に使われる。だが、中国への依存度が高いのが問題視されてきた。日本の排他的経済水域(EEZ)に眠る資源を取り出すことができれば資源小国から脱却できる可能性がある。研究チームは、南鳥島の南方にある約2500平方キロメートルの海域で海底のサンプルを25カ所で採集し、レアアースの濃度を分析した。その結果、ハイブリッド車などの強力な磁石に使うジスプロシウムは世界需要の730年分、レーザーなどに使うイットリウムは780年分に相当した。研究チームはまたレアアースを効率的に回収する技術も確立した。レアアースを高い濃度で含む生物の歯や骨を構成するリン酸カルシウムに着目。遠心力を使って分離したところ、濃度は2.6倍に高められた。これは中国の陸上にある鉱床の20倍に相当する濃度だ。東大の加藤教授は「経済性が大幅に向上したことで、レアアースの資源開発の実現が視野に入ってきた」と強調する。レアアースを巡っては、日本は大部分を中国からの輸入に依存する。中国は全世界の生産量の約9割を握るため、価格の高騰や供給が不安定になる事態が発生してきた。一方、東大の加藤教授らは2012年に南鳥島周辺でレアアースを大量に含む可能性が高い泥を発見。14年には三井海洋開発、トヨタ自動車などと「レアアース泥開発推進コンソーシアム」を設立し、回収技術の開発に取り組んできた。研究成果は英科学誌サイエンティフィック・リポーツ(電子版)に10日掲載された。 *15-4:https://www.sankei.com/economy/news/150303/ecn1503030022-n1.html (産経新聞 2015.3.3) 日本も見習うべきか 「資源小国」から「地熱大国」へ変貌したアイスランド いまや電力輸出も視野 世界最北の島国アイスランドは、地熱発電所の積極的な開発を続け、エネルギーを化石燃料の輸入に頼る「資源小国」からの脱却を果たした。いまや自国の電力需要は地熱などの再生可能エネルギーだけで賄うことができ、近年は電力の輸出にも関心を寄せる。日本も豊富な地熱資源量を持つとされるが、法規制などが障壁となり、アイスランドのような“地熱大国”への道のりは遠い。 ◇ 首都レイキャビクから東に約20キロ。広大な火山の裾野にある同国最大のヘトリスヘイジ地熱発電所からは、猛烈な勢いで水蒸気がわき上がっていた。同発電所は約30万キロワットの発電と、約13万キロワット相当の熱水供給能力を持つ。同発電所は2006年に、レイキャビク・エナジー社が運転を開始した。同社の担当者は、「地熱はアイスランドの石油だ」とほほえんだ。発電に使用しているタービンは日本製だという。 ◆かつては輸入頼み 人口約32万人のアイスランドは、かつて典型的な資源小国だった。1973年の石油危機を機に、地熱の開発を本格化したのは「国内に石炭や石油などの天然資源がなかった」(グンロイグソン首相)ためだ。 *15-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200309&ng=DGKKZO56477670W0A300C2KE8000 (日経新聞 2020.3.9) 発送電分離の課題(下)系統運用、公的機関へ移行を、伊藤公一朗・シカゴ大学准教授(1982年生まれ。カリフォルニア大バークレー校博士。専門はエネルギー経済学) <ポイント> ○法的分離では公平な送配電線利用は困難 ○地域ごとに送配電会社設けるのは非効率 ○災害や再生エネ見据えた全国系統運用を 欧米諸国は約20年前に発送電分離を終えており、各国の経験やデータ分析結果が蓄積されている。その知見を基に日本政府の計画を検証すると、重大な懸念材料とさらなる改革が必要である点がみえてくる。本稿では、電力網のような公共的インフラ(社会基盤)を運用するうえで重要となる「独立性」と「網羅性」の2つのキーワードを柱に、論点整理と提言をしたい。現在の日本では電柱や電線といった送配電網の系統運用は、大手電力会社が地域独占的に手掛けている。例えばある時間帯に誰に送電線を使わせるか、どんな使用料金を課すか、どこに新規の送電線を引くかという決定は地域独占企業が担っている。だが大手電力会社は発電部門や小売部門も抱えている。そのため自社の利益追求の手段として、新規参入の発電事業者や小売業者が送配電網を利用することを制限したり、送配電網の利用料金を高く設定したりする懸念が生じる。この懸念を払拭するには系統運用の独立性を確保する必要がある。現行の政府案は法的分離と呼ばれる方式だ。大手電力会社は、自社の送配電部門を子会社化し、その子会社は持ち株会社の傘下に置かれる。そのうえで政府は監視と規制により、親会社と子会社の独立性を目指すという。しかし経済理論、各国の経験および学術的データ分析結果に鑑みると、この方法で独立性を確保できる可能性は非常に低い。第1に営利企業である大手電力会社は持ち株会社一体としての利益を追求するため、親会社と子会社のつながりが消える保証はない。第2に政府の監視と規制には「情報の非対称性」の問題がつきまとう。送配電網の運用では運用者しか知り得ない緻密な情報が付随する。また営利企業は情報を政府に示さないインセンティブ(誘因)がある。情報を直接持たない政府が適切な監視・規制をするのは難しく、監視精度を高めようとするほど莫大な税金が投じられることになる。以上の理由から欧米のほぼ全地域で法的分離は採用されていない。世界的な主流は、公的な第三者組織である独立系統運用機関(ISO=Independent System Operator)を設立し、送配電網の系統運用を完全移行する方式だ。大手電力会社には送配電網を運用する組織はなくなり、系統運用は公的組織に任せられる。同方式のもう一つの特徴は、送配電網の所有権は大手電力会社に残したままでもよい点だ。英国は所有分離という最も強い発送電分離を実施し、大手電力会社から送配電網の所有権を奪った。しかし所有分離は財産権を巡る訴訟を生む可能性があり、大手電力会社の財務的ダメージも大きい。そのため送配電網の所有権は大手電力会社に残し、運用だけを独立系統運用機関へ移行する方法が最善との見解が有力になっている。電力網運用でもう一つの重要な要素は網羅性だ。政府案では、法的分離後も10社の送配電会社が各地域の大手電力会社の子会社として存続する。だが国際的には、電力網のような公共的ネットワークを運用する際は狭い地域ごとでなく、広域的運用が望ましいとの見解が一般的だ。実際に欧州、北米、南米では電力網の系統運用統合が進んでいる。日本でも電力網の系統運用を全国的に一括する便益は大きい。第1に東日本大震災や北海道地震などの災害時、電力が過剰な地域から不足地域へスムーズに送電できる。第2に全国的にみて低コストの発電所から優先的に発電させる「広域的メリットオーダー」という方法を採ることで、電力料金を低下させられる。第3に再生可能エネルギー拡大に向けても全国的な電力網の運用が鍵になる。再生エネの弱点は気候条件に左右される発電量の不安定性だ。だが近年のデータ分析結果によれば、地域間で多様な日本の気候条件は発電量の不安定性を是正できる可能性を秘めている。太平洋側で風力が弱いとか、太陽が出ていない場合でも、日本海側では風が吹き太陽が出ている場合がある。そのとき、電力網が広域的に運用されていれば、ある地域で落ちた発電量を別地域からの電力で調整できる。国土が広くない日本で10社もの送配電会社を残すことは合理的ではない。以上のような独立性と網羅性の確保を考えた場合、日本でも公的な独立系統運用機関を設立し、全国的な送配電網を一括して運用することが望ましい。有識者や政府内にもこの認識はあり、電力システム改革の第1段階として電力広域的運営推進機関が2015年に設立された。今のところ同機関の業務の中心は独立系統運用機関が手掛ける業務の一部に限られる。政府はできる限り早い段階で公的な独立系統運用機関を設立し、全国的な送配電網の系統運用を実施すべきだ。政府案では法的分離を進める根拠として、法的分離を採用したフランスの事例を挙げる。だがフランスは実質的国有企業である1社が全国の電力供給網を担っている。従って法的分離で送配電部門が子会社化した際には、国有の1企業が全国の送電網を運用することになり、実質的には公的な独立系統運用機関が設立されたのと近い形態だった。また電力システム改革に反対する意見として、発送電分離を実施すると安定供給が失われる、送電設備への投資が低下する、発電費用が上昇するという論考がある。だがこの主張を裏付ける科学的エビデンス(証拠)は存在しない。拙著「データ分析の力」で解説しているように、これらの主張は相関関係を因果関係と誤って解釈しているものが多く注意が必要だ。例えば発送電分離をした地域としていない地域を単純比較した分析があるが、気候、発電所の形態、燃料費、環境規制など地域間の様々な違いが考慮されておらず、因果関係を示していない。では発送電分離や電力システム改革の効果について因果関係を検証したエビデンスは存在するのか。この20年間、経済学の実証研究と呼ばれる分野では様々なデータ分析を駆使して研究が進んだ。例えばナンシー・ローズ米マサチューセッツ工科大(MIT)教授らの研究グループは、発送電分離を進めたうえで発電部門の総括原価方式を廃止し、卸売市場取引での自由競争を導入すると、発電所の生産効率性が向上し、発電費用が下がることを示した。さらにスティーブ・シカラ米シカゴ大助教授は全米の発電所の毎時発電データと費用データを分析し、発送電分離後の卸売市場を通じた電力取引は高コストの発電所の生産量を減らし、低コストの発電所の生産量を増やすため、社会全体の発電費用も下がることを示した。いずれも国際的学術誌「アメリカン・エコノミック・レビュー」に発表されたもので、慎重に因果関係を検証した分析結果だ。電力システム改革は大きな利害が絡む難しい政治課題だ。だからこそ諸外国の経験や科学的エビデンスを基に政策決定をして、国民全体の便益を主眼とした改革を追求していくべきだ。 *15-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14396623.html (朝日新聞 2020年3月10日) GDP年7.1%減 内閣府が9日発表した昨年10~12月期の国内総生産(GDP)の2次速報は、実質(季節調整値)で前期(7~9月期)より1・8%減った。年率換算では7・1%減。1次速報(年率6・3%減)から下方修正された。マイナス成長は5四半期ぶり。昨年10月の消費増税に加え、台風被害などの影響もあり、個人消費と企業の設備投資が大きく落ち込んだ。減少幅は、前回の増税があった14年4~6月期(年率7・4%減)に近い水準となった。下方修正の主因は設備投資の下ぶれで、1次速報の前期比3・7%減から4・6%減に下方修正された。個人消費は2・9%減から2・8%減に上方修正された。今年1~3月期は新型コロナウイルスの悪影響が強く出るとみられ、国内景気はさらに厳しい局面に入っている。 <東日本大震災からの復興検証←無駄遣いはなかったか> PS(2020年3月10、12、13日追加):*16-1のように、政府は3月10日、東日本大震災とフクイチ事故から9年となるのを前に、復興推進会議と原子力災害対策本部の合同会合を首相官邸で開き、安倍首相が「必要な復興事業を確実に実施するための財源を確保し、被災地が安心して復興に取り組めるようにする」と述べられたそうだが、残っている事業とその予算はいくらだろうか?このような災害は、実際にモノがなくなったり、住めなくなったりしているため、その損害を回復することが重要であって、心のケア(具体的に何?)の問題ではないと、私は考える。また、原発事故については、激烈な毒物を放出したため、廃炉も汚染水対策も困難で、被災者に寄り添うとすれば、「①フレコンバッグは積みっぱなし」「②汚染水を海に放出」「③避難指示を解除したから、住民を呼び戻す」などという選択肢はない。納税者は復興税を黙って支払ってきたので、これまでの復興税の使い方とその効果を開示してもらいたいと思う。 また、前原子力規制委員長の田中俊一氏は、*16-2のように、現在は福島県飯舘村で暮らし、「原発はいずれ消滅します」と言っておられる。ただ、住民が戻らない理由を「避難の長期化で新たな仕事をもった」「子どもの学校の関係」「診療所の問題」「福島県産食品への風評被害」と考えておられるのは、(本当は危険な場所には住みたくないからであるため)甘い。また、「食品規格の国際基準は、一般食品の放射性セシウムの基準値を1キロあたり1000ベクレルと定めているが、日本は原発事故後、より厳しい同100ベクレルとしている」としておられるのは嘘である。何故なら、*16-3のように、食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の指標は年間1mSVを超えないよう設定されており、日本の食品中の放射性物質の新基準は、食品からの被曝上限を暫定の年間5mSVから年間1mSVに引き下げたものだからだ。つまり、田中氏は、国民の健康に無関心なのだ。 さらに、*16-4のように、東日本大震災の津波で被災した土地に総額4,600億円投じてかさ上げされた土地区画整理事業は、宮城など被災3県で造成された宅地の約35%にあたる約238haが未利用になっているそうだが、岩手県陸前高田市の場合は30mの津波が来たのに10mしかかさ上げしていないため55%の未利用はむしろ少ないくらいなのである。そのほか、宮城県気仙沼市、福島県いわき市などの未利用地も単に時間がかかっただけが理由ではないと思われるため、正確な原因分析が必要だ。 原発は、事故を起こせば猛毒の放射性物質をとてつもなく広い環境にばら撒き、人間が近づいてそれを処理することはできず、事故の可能性を0にすることなど不可能であるため、私がこのブログで記載してきたように、脱原発して再エネに転換するのが、日本にとってあらゆる面で最善の策なのである。しかし、*16-5のように、全原発の即時運転停止を記した「原発ゼロ法案」や「分散型エネルギー利用促進法案」は、(野党が提出したためか)一度も審議されていない。もちろん、原発立地地域は、1974年に制定された電源三法交付金制度によって原発から利益を得ているが、それを負担しているのは国民である上、危険を伴う原発立地地域は人口が全国平均より早く減少し、高齢化率も全国平均より高い。従って、他の産業による地域再生を盛り込んだ「原発ゼロ法案」は、日本全体のみならず原発立地地域にとってもプラスなのであり、原発にすがりついて現状維持を図ることこそ、最も安易で政治の責任を果たさないやり方なのだ。 原発事故で猛毒の放射性物質により汚染された環境には内水面や海も含み、*16-6のように、韓国はじめ各国による水産物の禁輸や規制措置が行われている。韓国の禁輸措置については、日本はWTOに提訴して2019年に敗訴したが、その理由は、安全性の問題を自由貿易とすり替えたことである。しかし、この提訴によって、日本食品の安全性は日本政府によって担保されないことを世界にアピールしたことになり、日本国民も、「協力」や「付き合い」でリスクのある食品を食べさせられては困るのである。そして、これを「不安」「風評」「差別」などと強弁するのは見え透いた逃げ口上にすぎない。そのため、これまで東北沿岸部の経済を支えてきた水産業は、最新の設備を備えた(化石燃料を使わない)船を使って遠洋に出るしかなく、そのためにかかる増加コスト(漁船の新造費、燃料・人件費などの増加コスト)は原発被害として東電か政府に補償してもらうべきだ。また、地球温暖化で海水温が上がれば、従来の魚種を捕獲することができないのは当然で、魚種を変えるか北に移動して漁獲するしかない。さらに、養殖も、汚染が0でないその付近の水や餌を使うと価値がなくなるのである。 ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:1番左の図のように、福島第一原子力発電所は、もともと周囲と同じような高台だった場所を削って低くして作り、その結果、左から2番目の図のように、津波に襲われた。この時、非常用電源も地下に置いていたため、津波で使えなくなった。つまり、今回の原発事故は、想定を甘くした結果の連続として招かれたため、甘い想定と安全神話による人災なのだ。また、原発事故後は(山林を除いて)除染を行い、右から2番目の図のように、大量の除染土が今でも放置されており、台風時に流された。さらに、大量に出る汚染水は、浄化後もストロンチウム等を含むため安全ではないが、経産省は「トリチウムしか含まないため安全で、薄めて海洋放出するか空中放出するしかない」と言っているのである) *16-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/498155 (佐賀新聞 2020.3.10) 被災地復興へ「財源確保」と首相、大震災9年で政府合同会合 政府は10日、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故から11日で9年となるのを前に、復興推進会議と原子力災害対策本部の合同会合を首相官邸で開いた。安倍晋三首相は「必要な復興事業を確実に実施するための財源を確保し、被災地が安心して復興に取り組めるようにする」と述べた。安倍首相は、被災地の現状について「復興は着実に進展している一方、被災者の心のケアや廃炉・汚染水対策などの課題は残されている」と指摘。2021年度以降5年間で必要となる復興事業の財源を今年夏ごろまでに示す考えを重ねて示した。合同会合では、避難者が震災直後の47万人から今年2月時点で4万8千人まで減少したことや、住宅再建や交通網整備の進捗状況を田中和徳復興相が報告した。田中復興相は記者会見で「現場主義を徹底し、被災者に寄り添いながら全力で復興に取り組む」と述べた。政府は21年度以降の復興政策を定めた法案を今国会に提出しており、早期成立を目指す。法案は、復興庁の設置期限を30年度末まで10年間延長し、引き続き復興相を置く内容。原発事故の影響が続く福島県の支援では、避難指示を解除した地域に住民を呼び込む施策を拡充する。復興推進会議の議長と原子力災害対策本部長は、首相が務めている。 *16-2:https://mainichi.jp/articles/20200306/dde/012/040/020000c (毎日新聞 2020年3月6日) 原発はいずれ消滅します 福島・飯舘村で暮らす、前原子力規制委員長・田中俊一さん 東京電力福島第1原発事故から間もなく9年。あの人は今、何を思っているだろうか。事故後に設置された、原発の安全審査を担う原子力規制委員会の初代委員長、田中俊一さん(75)のことだ。2017年に退任後、「復興アドバイザー」として暮らす福島県飯舘村を訪ねた。飯舘村を南北に走る国道399号から細い山道を上っていくと、田中さんが1人で暮らす木造平屋建ての一軒家があった。前日降った雪がうっすらと積もっている。「今年は降ってもすぐに解けます。暖冬の影響ですね。ここで暮らして3度目の冬ですが、過去2年は雪が一度積もったら春まで残っていた」。村が所有するこの家を賃借したのは、原子力規制委の委員長を退任した3カ月後、17年12月のことである。旧知の菅野典雄村長から「静養にいいですよ」と誘われたのがきっかけだった。「飯舘山荘」と名付けたこの借家と、茨城県ひたちなか市の自宅を行ったり来たり。月の半分は飯舘村で過ごし、無償の復興アドバイザーとして、国と村の橋渡し役になったり、視察に訪れる人たちに村の現状を説明したりしている。「事故後、『原子力ムラ』にいた自分に何ができるかを考え、11年5月に放射線量が非常に高い飯舘村長泥(ながどろ)地区で除染実験を行った。この地区は今も帰還困難区域のまま。事故に向き合う私の原点がこの村にあります」。そんな田中さんに復興の進捗(しんちょく)度を尋ねると、渋い顔になった。「なかなか進みません。少しずつ努力していますが、元々暮らしていた住民の多くが戻ってこない。避難が長期になり、新たな仕事をもったり、子どもの学校の関係があったりして、村外に家を建てた人も多い。特に、若い人は都会志向が強い」。長泥地区を除き村の避難指示が解除されたのは17年春のことだ。震災前の人口は約6200人だが、現在暮らすのは約1400人。震災前、村内の小中学校には約530人が通っていたが、20年度は65人の見通しだ。「避難先の学校に子どもを通わせる親の多くはわざわざ村内の学校に戻らせようとしません。村には診療所が1カ所ありますが、開いているのは週2日。病を抱えている人は戻りにくい」。そして、いまだに続く福島県産食品への風評被害を強調する。食品規格の国際基準では、一般食品の放射性セシウムの基準値を1キロあたり1000ベクレルと定めているが、日本は原発事故後、より厳しい同100ベクレルとしている。「あなたは、あえて厳しく制限している地域のものを食べたいと思いますか? セシウムは検出されないのに『買いたくない』という心理が働き、風評を固定化している。福島県産食品の輸入停止を続ける国がまだあるのはそのためです。現実を無視した前提で決められた現在の基準を見直さなければ、福島の農水産業の復興はできません」。食品の「安心・安全」観に一石を投じる。福島県は郷里でもある。東北大で原子核工学を学び、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)へ。原発事故前は日本原子力学会の会長や、内閣府原子力委員会の委員長代理を務めた。原子力ムラの中枢を歩んできたとの印象だが、本人は傍流だと自嘲する。「私は核燃料サイクルの実現は技術的に無理だと言ってきたので『村八分』の存在です。使用済み核燃料を再処理して高速増殖炉でプルトニウムを増やして、1000年先、2000年先のエネルギー資源を確保しようと言っているのは世界でも日本だけ。安全神話も私は信じていなかった。科学的に『絶対安全』はあり得ない。日本の原子力政策はうそだらけでした」。こんなエピソードがある。原発事故まっただ中の11年3月15日、皇居で当時の天皇、皇后両陛下に原発事故についての解説を求められた。地震の影響で茨城の自宅と東京を結ぶJR常磐線も高速道も不通だった。(以下略) *16-3:https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329.pdf#search=%27%E4%B8%80%E8%・・ (食品中の放射性物の新たな基準値) 東京電⼒福島第⼀原⼦⼒発電所の事故後、厚生労働省では、⾷品中の放射性物質の暫定規制値を設定し、原子力災害対策本部の決定に基づき、暫定規制値を超える食品が市場に流通しないよう出荷制限などの措置をとってきました。暫定規制値を下回っている食品は、健康への影響はないと一般的に評価され、安全性は確保されています。しかし、より一層、食品の安全と安心を確保するために、事故後の緊急的な対応としてではなく、長期的な観点から新たな基準値を設定しました(平成24年4月1日から施行)。放射性物質を含む食品からの被ばく線量の上限を、年間5ミリシーベルトから年間1ミリシーベルトに引き下げ、これをもとに放射性セシウムの基準値を設定しました。 ●放射性セシウムの暫定規制値(単位:ベクレル/kg) 食品群 野菜類 穀類 肉・卵・魚 その他 牛乳・乳製品 飲料水 規制値 500 200 200 ●新たな基準 食品群 一般食品 乳児用食品 牛乳 飲料水 規制値 100 50 50 10 ※線量の上限を1ミリシーベルトとした理由 ○食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の指標が、年間1ミリシーベルトを超えないように設定されていること。 ○多くの食品の放射性物質の濃度が、時間の経過とともに相当程度低下傾向にあること。 ※食品区分の考え方 ○特別な配慮が必要な「飲料水」「乳児用食品」「牛乳」は区分し、それ以外の食品は、個人の食習慣の違い(飲食する食品の偏り)の影響を最小限にするため、一括して「一般食品」と区分しています。(以下略) *16-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14396621.html?iref=mor_articlelink02 (朝日新聞 2020年3月10日) (東日本大震災9年)かさ上げ宅地、35%未利用 国交省、検証へ 被災3県 東日本大震災の津波で被災した土地をかさ上げする土地区画整理事業で、宮城など被災3県で造成された宅地の約35%にあたる約238ヘクタールが未利用になっていることが、国土交通省の調査でわかった。東京ドーム約51個分で、国交省は新年度に事業の検証を始める。3県の未利用地の総面積が判明するのは初めて。区画整理事業は、土地をかさ上げして宅地や道路を造り、元の地権者に新たな宅地を割り当てる手法。復興庁によると、岩手、宮城、福島3県の21市町村で実施され、総額4600億円が投じられた。事業は9割以上進み、2020年度末の完成をめざしている。国交省によると、調査は昨年10~11月、21市町村を対象に行い、昨年9月末時点の活用状況を調べた。住宅や店舗などが建設済みや建設中の場合を「利用済み」とした。残りは未利用地となるが、今後利用される予定の土地も含まれる。住宅向けの宅地を整備していない4市町を除く17市町村では、造成済みの674・8ヘクタールのうち、237・9ヘクタールが利用されていなかった。未利用の割合は、岩手県陸前高田市が55%と最多で、次いで宮城県気仙沼市が51%、福島県いわき市が49%だった。未利用地が生まれたのは、地権者の同意やかさ上げに時間がかかり、避難先などでの再建を選んだ人が相次いだためだ。国交省は新年度、有識者らによる検証委員会を立ち上げ、来年3月までに対策をとりまとめる。南海トラフ巨大地震など次の大災害が起きた時に同様の未利用地が発生することを防ぐ。 *16-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202003/CK2020030902000135.html (東京新聞 2020年3月9日) <東日本大震災9年>原発ゼロ法案 2年たなざらし 与党、再生エネも審議応じず 脱原発や再生可能エネルギーの推進を目指して野党が提出した法案が、一度も審議されず最長で二年間取り置かれている。政府・与党も再生エネの普及に言及しているものの、野党提出法案は原発の再稼働を進める安倍政権の姿勢と対立するため、与党が審議に応じないからだ。たなざらしの関連法案は五本。立憲民主、共産などの四党は二〇一八年三月、全原発の即時運転停止を記した「原発ゼロ基本法案」を衆院に提出した。法施行後五年以内の全原発廃炉や電力供給量に占める再生エネの割合を三〇年に40%に上げることを盛り込んだ。翌一九年六月には、再生エネの普及を確実にするため、エネルギーの地産地消を促す「分散型エネルギー利用促進法案」など四法案も追加で提出した。うち三法案には国民民主党も提出に加わった。法案はいずれも衆院経済産業委員会に付託されたが一度も審議されていない。議員立法は政府が提出した法案の後に審議されるのが通例だ。衆院経産委理事の自民党議員は「野党提出法案を、政府提出法案より優先して審議することは難しい」と話す。政府提出法案の審議後でも、多数を占める与党が認めなければ野党提出法案は扱われない。一八年六月に会期が一カ月余延長された際、同委では「原発ゼロ」以外に審議する法案がなかったのに、自民党は委員会開催すら応じなかった。原発を基幹電源とする政権の方針を踏まえたためだ。安倍晋三首相は今国会で「原発ゼロは責任あるエネルギー政策とはいえない。再稼働は原子力規制委員会が認めた原発のみ、地元の理解を得ながら進めていく」と強調した。立民の枝野幸男代表は本紙の取材に「審議する時間は十分にあった。原発事故を経験した国の国会として、あまりに無責任だ」と自民党の対応を批判した。 *16-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14399438.html (朝日新聞 2020年3月12日) (東日本大震災9年)海と生きる町、岐路 サンマ大不漁、韓国のホヤ禁輸続く 東日本大震災で大きな被害を受けた岩手、宮城の水産業が岐路に立たされている。全国有数の水揚げ量を誇ってきたが、昨年秋にはサンマの記録的な不漁に見舞われ、韓国によるホヤの禁輸措置も長引く。なりわい再生の中心となる水産加工業も、人手不足や販路喪失に苦しんでいる。「大変な年だった。今までのようには魚がとれなくなっている」。本州一のサンマの水揚げ量を誇る岩手県大船渡市。漁獲から加工・販売まで手がける鎌田水産の鎌田仁社長(46)は話す。保有していたサンマ漁船2隻のうち1隻を震災で焼失したが、その後5隻を新造し事業を拡大してきた。ところが昨年、半世紀ぶりの不漁に直面し、水揚げ量は例年の約3分の1に沈んだ。単価の上昇はあったが、水揚げ金額は3割減。イワシなど他の魚種の扱いを増やして補ったという。全国さんま棒受網漁業協同組合によると、震災前に約20万~30万トンあった全国のサンマ水揚げ量は、直近5年間は10万トン前後に低迷。昨年はさらに4万トンまで落ち込んだ。不漁対策として水産庁は昨年、公海での通年操業を解禁。鎌田水産も9億円を投じて遠方で操業できる漁船を建造中だ。鎌田社長は「サンマをやめる選択肢はない。ただ、他の魚の扱いを増やすとか、柔軟に対応していかないといけない」と話す。全国一の生産量を誇った宮城県のホヤも苦しい。震災前、ホヤは年間約1万5千トンの水揚げがあり、7割を韓国に輸出していた。だが、原発事故の影響で、韓国は2013年から輸入を禁止。日本は世界貿易機関(WTO)に提訴したが昨年敗訴し、韓国による輸入再開の見通しは立っていない。県や漁業者らは首都圏などで消費拡大のキャンペーンを進めてきた。国内消費量は震災前の2倍となる5千トンまで増えたが、それでも消費し切れず、県漁協は16年から3年続けて計1万5千トンを焼却処分した。東京電力からの補償も20年度で終わる。石巻市のホヤ漁師は「出荷先が少ないために生産量を制限し、東電の補償で食いつないでいるようなもの」と話す。 ■水産加工業、人手足りず販路も失う 沿岸部の経済を支える水産加工業は、国が震災後に新設したグループ補助金などを活用して再起を図った。中小企業が工場などを再建する費用の75%を国と県が負担する制度だが、自己負担分を賄うために県の無利子貸付制度を利用した事業者も多い。宮城県石巻市にある水産加工会社は今年2月、事業承継のため同業者に株式譲渡した。震災の翌年、グループ補助金と県の無利子貸付制度を使い、被災した工場を約2億円かけて再建。13年には別の補助金で計6億円かけて本社と新工場を造った。ところが、従業員を募っても復興特需が続く建設業などに流れた。売り上げの7割を占めたイカの不漁に加え、ホヤも韓国の禁輸措置で行き場を失った。売り上げは震災前の半分ほどに低迷し、2年連続の赤字。男性社長(67)は昨年夏、金融機関の支店長にM&A(企業合併・買収)の意向を伝えた。県の貸付金など1億円を超す借金返済が数カ月後から順次始まる予定だった。社長は「人より早く再開すれば客はついてくると思ったが、現実は違った」と振り返る。岩手県宮古市の水産加工会社「須藤水産」は約6億円のグループ補助金を使って冷凍・冷蔵設備を再建したが、全容量の1割の約100トンしか使っていない。昨年、仕入れができたサンマは例年の1割の約400トン。不漁で、仕入れ価格が2倍近くにはね上がったためだ。昨年の売り上げは例年の3割減の約10億円。3年ほど前からコンビニに土地を貸し、賃料収入で売り上げを補う。須藤一保専務(47)は「魚屋だけでやっていくのが難しくなっている」と訴える。福島を含む3県によると、今年1月末現在、グループ補助金を利用した事業者のうち74事業者が倒産しており、業種別では水産加工が3割と最も多い。 ■経営モデル、転換課題 水産加工業は岩手、宮城のなりわい再生の核だ。生鮮冷凍水産物の生産量は宮城が全国3位、岩手が8位(いずれも2018年)と上位に食い込む。食料品製造業に携わる事業所のうち、水産加工業の割合は宮城が45%、岩手も25%を占める。長年、売り上げを支えてきた手法は、近くの港に豊富に水揚げされる魚を安値で大量に仕入れて冷凍。高値になる時期に、大手の流通業者や量販店に販売するものだった。だが、冷凍したり切り身にしたりする程度で加工度は低く、別の地域の事業者でも代替しやすかった。震災で休止している間に、流通業者は海外や国内の別の地域の加工業者と取引を結んでいったという。再開しても、不漁と人手不足で出荷量が安定せず販路を取り戻せていない。国は首都圏などのスーパーや百貨店のバイヤーなどを三陸に招き、100社以上の水産加工業者と引き合わせる商談会の開催を支援。経営コンサルタントによる事業計画見直しや海外輸出の後押しをしてきた。宮城県石巻市の水産加工会社「ヤマナカ」は、19年度から韓国系商社と組み、ホヤを米国のコリアンタウン向けにサンプル供給するほか、ベトナムへの輸出も始めた。だが、震災前のビジネスモデルから転換できた業者は一部にとどまる。福島を含む3県の沿岸37市町村に朝日新聞が行ったアンケートでは、回答があった30市町村のうち、水産加工業の業況が「震災前の水準まで回復していない」と答えた自治体が8割を超えた。東北大地域イノベーション研究センター長の藤本雅彦教授(経営学)は「専門家の助言や事業者同士の連携で、加工度が高く付加価値がある独自商品の開発を、長い時間をかけて進めるべきだ」と指摘。「海外も含めて市場開拓していこうという意欲ある経営者を、育てていく必要がある」と話している。 <日本は、なぜ合理的な判断ができないのか?> PS(2020年3月18日追加):*17-1のように、米国カリフォルニア州の米産地で水をためた冬の水田でサケを育て、3月末に数千のキングサーモンの稚魚を河川に放流して太平洋に向かわせる計画が進んでいるそうだ。日本も一毛作地帯なら冬の水田で何かをできるだろうに、いつまでも工夫がないのは不思議である。さらに、*17-2のように、政府は再エネ普及に使い道が限られている金をフクイチ事故の処理費用にも使えるようにしたいそうだが、(事故を起こした電力会社を清算して財産を充当し、脱原発してからならまだわかるが)「原発・化石燃料のコストが安く、再エネは高い」などと言いながら再エネ促進費を原発事故処理に転用するなど論外だ。 さらに、*17-3のJAの経営基盤強化をするには、農地や農業設備を活用した発電を進め、JAが電力を集めて販売する仕組みにすれば、農業補助金も削減でき、金利の低い今なら設備投資がやりやすいだろうが、従来と同じスキームから決して抜け出せないのが不思議だ。 また、*17-4のように、大分県日田市はJR日田彦山線の不通区間で「次世代モビリティ」導入に向けた実証実験を行うそうだが、そのEVはゴルフ場を走るカートのようなおもちゃで、これでは住民生活には使えない。*17-5の2010年2月3日の記事に紹介されているように、スイスのマッターホルン山麓にあるツェルマットでは、1990年代から排気ガスによる大気汚染防止のための自治体条例によってEVか観光用馬車しか走っておらず、私も1998年にツェルマットでこのEVに乗った時は感心したものの、EVの運転士に「馬力が足りなくないですか」と尋ねたくらいだったが、運転士の答えは「大気汚染防止のためだから、我慢しなくちゃ」というものでさらに感心したのである。日本なら大手自動車会社も多いので、不便なく走れるEVもすぐ作れると思って経産省に提案したのだが、社会保障を減らして外国に多額の燃料費を払うのが目的としか思えないような行動しかしておらず、未だにEVは希少車種である。これらは、太平洋戦争という航空戦の時代に、日露戦争の巨艦主義から抜け出せなかったのと同じであり、これでは何をやっても決して勝てないと思う。 このような中、ゴーン氏が1999年に社長として就任した日産自動車だけが、*17-6のように、批判を浴びながらEVを発売した。ゴーン氏の「リバイバルプラン」は、調整型の日本人社長にはできない系列部品会社の淘汰や資本提携の解消を伴っており、これはコストカットしたり、通常のガソリン車からEVや自動運転車に転換する場合に必要なのだが、恨まれるので誰もやりたくない仕事だ。そのため、私は、ゴーン氏の逮捕理由や新社長のメッセージを聞いただけで、優秀なリーダーを失った日産の現在の漂流と低迷は予測できたのである。 なお、日本は、*17-7のように、地価の上昇をよいことだとして地価上昇を促す金融緩和策を採っているが、これは人件費の高騰とあいまって産業の空洞化を招いている。何故なら、地価の上昇分は製品原価に加えられて製品価格を高くすると同時に、製品に占める人件費の割合を低くするからだ。そのため、このカンフル剤は、不動産業以外の産業にとってはディメリットであり、ゴーン氏が地価や人件費の安い新興国で生産体制の増強を進めたのは、多くのグローバル企業が行っている正攻法の経営手法なのだ。それでも日本に製造業を誘致したい地域があれば、工場用地を安く貸し出したり、外国人労働者の導入などで他国と競争力のある人件費にしなければならない。生産性の向上は、他国もすぐ追いつき、これまで基盤のなかった国・地域の方が整理の時間がかからない分だけ早いかもしれないのである。 ![]() ![]() ![]() 2020.3.10東京新聞 2018.11.5朝日新聞 (図の説明:左図のように、日本は豊富にある再エネを使わず、衰退期にある原子力と化石燃料に執着している。また、中央の図のように、農業は継承者が少なく、既にある資産の農地も1/3に減少させたが、これは《長くは書かないが》今までの農業政策の誤りによる。さらに、右図のように、資源が豊富な林業も1/3に減らしており、これらの理由は工夫がないことに尽きる) ![]() ![]() (図の説明:左図のように、水産業もピーク時の1/3程度の漁獲高になっており、右図のように、GDPに占める製造業の生産高や製造業就業者割合も低下の一途を辿っている。残りは、サービス業と無職であり、日本のモノづくりは猛烈な勢いで衰退していると言える) *17-1:https://www.agrinews.co.jp/p50312.html (日本農業新聞 2020年3月16日) 冬の水田サケ養殖 多面的な機能PR 放流で資源回復 米・カリフォルニア米産地 米国カリフォルニア州の米産地では、水をためた冬の水田でサケを育てる計画が進んでいる。3月末には丸々と太った数千のキングサーモン稚魚が河川に放流され、サンフランシスコのゴールデンゲートを通って太平洋に向かう。自然保護に熱心な地元住民に水田の多面的機能を訴えるのが狙いだ。「昨年の試験は洪水で(稚魚の成育が)理想的な環境にならなかった。2年目となる今年は、改善を加え成育は順調。期待している」と語るのは、カリフォルニア州米委員会(CRC)のジム・モリス部長。30年以上も米業界を見守っている専門家だ。放流される稚魚のうち1000匹には無線発信装置を付け、放流後の行動を調べる。これまでの試験で、暖かい水田で育つため、稚魚は自然界を上回る成育ぶりを示している。試験が成功すれば、商業化の道を模索するという。ただ、サクラメント市周辺に広がる約20万ヘクタールの水田で、河川と結んでたん水状態にできるのはごく一部。全ての水田で稚魚を育てるのは難しい。並行して計画するのが、水田を利用した大量のプランクトンの供給だ。稚魚は川を下りながら餌を探すが、河川は浄化が進みプランクトンが少ない。冬の間、水田でプランクトンを育て、稚魚の通過のタイミングに合わせ、水田の水口から必要なプランクトンをたっぷりと与える。米産地がサケ対策に動き始めたのは8年前。環境保護団体などによると、サンフランシスコ湾に流れ込む河川流域は、かつてキングサーモンなどが成育する場所だったが、ダム建設や水不足で匹数が激減している。そこで上流にあるカリフォルニア米の冬水田んぼに目を付けた。サケの稚魚を養殖しそのまま放流できれば、資源回復につながる可能性があるとして研究プロジェクトが始まった。同州は大気汚染を理由に、2001年ごろから稲わらの焼却を厳しく規制。農家の多くが冬場のたん水で稲わらを分解させるようになった。冬場に餌を求めて数百万羽の野鳥が集まり、観光客やハンターが詰めかけるようになった。思わぬ好展開に、米業界は「水田の多面的な機能」を大々的に宣伝し始めた。自然保護の象徴でもあるサケの資源回復で“二匹目のどじょう”を狙う。 *17-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14406691.html (朝日新聞 2020年3月18日) 原発事故処理に再エネ財源 目的外使用、可能に 政府法案 政府は、再生可能エネルギーの普及などに使い道が限られているお金を、東京電力福島第一原発事故の処理費用にも使えるようにする。処理費用が想定よりさらに膨らむ恐れがあり、財源が逼迫(ひっぱく)することに備えるという。使ったお金は将来、返すとしているが、一時的でも原発政策の失敗を別の目的で集めたお金で穴埋めすることになる。原発のお金を今の仕組みでは賄えなくなってきている。政府は一般会計予算とは別に、エネルギーの関連予算を「エネルギー対策特別会計」(エネ特)で管理している。さらにエネ特の中で目的別に財布を分けていて、原発の立地対策など主に原子力政策に使う「電源開発促進勘定」(電促勘定、年3千億円ほど)、再生エネや省エネの普及、燃料の安定供給などに使う「エネルギー需給勘定」(エネ需勘定、年8千億円ほど)などがある。電促勘定の財源は、電気利用者の電力料金に上乗せされている電源開発促進税で、エネ需勘定は石油や石炭を輸入する事業者などから集める石油石炭税となっている。両税はいずれも、それぞれの勘定の目的にしか使えない特定財源だ。ところが、政府は今月3日、エネ需勘定から「原子力災害からの福島の復興及び再生に関する施策」に使う資金を、電促勘定に繰り入れられるようにするための改正特別会計法案を閣議決定し、国会に提出した。エネ特で勘定間の繰り入れを可能にする変更は初めてという。背景には、電促勘定の苦しい台所事情がある。同勘定の収入は例年大きく変わらない。ただ、東電が負担するはずの原発事故の処理費用について、2013年12月の閣議決定で一部を政府が負担することになり、14年度から汚染土などの廃棄物を保管する中間貯蔵の費用を電促勘定から毎年約350億円計上してきた。その処理費用は当初想定より膨らんでいる。経済産業省が16年末に公表した試算で、中間貯蔵事業は1・1兆円から1・6兆円になり、電促勘定からの支出は17年度から年約470億円に増えた。政府関係者によると、今後さらに増える可能性があり、財源が足りなくなりかねないという。政府は改正法案を今の国会で成立させ、来年4月の施行をめざす。法案では繰り入れた資金は将来、エネ需勘定に戻すことも定めているので問題ないとする。ただ、再エネ普及などのために集めたお金を一時的にでも、国民の間で賛否が割れる原発のために使えるようにする変更には反発も予想される。青山学院大学の三木義一・前学長(税法)は「特別会計は一般会計に比べ、国会で審議される機会が少なくチェックが利きにくい。今回の変更の内容は原発に関わるだけに重大で、異論を唱える国民もいるのではないか。適切な改正なのかどうか、政府は国民にわかりやすく説明する必要がある」と話す。 *17-3:https://www.agrinews.co.jp/p50288.html (日本農業新聞 2020年3月13日) 進むJA経営強化 グループ挙げ強み発揮 全国のJAで経営基盤強化に向けた動きが活発化している。店舗再編や経済事業の見直しなど、具体策に既に着手しているJAも多い。JAグループの強みは総合事業と全国ネットワークだ。単に人員や施設の合理化だけでしのぐのではなく、地域や組合員のニーズに応えた事業を広げることが重要だ。 金融機関を巡る環境は厳しい。農林中央金庫は2019年から信連やJAの預金に対する金利(奨励金)の引き下げを始めた。共済事業も苦戦しており、JA経営は難しさを増す。しかし、JAの対策は既に始まっている。1月にJA全中が全国6カ所で開いた「自己改革実践トップフォーラム」では、11JAが主に経営基盤強化に向けた実践内容を報告した。各JAでは、店舗再編や施設集約といった効率化戦略と、農業生産の拡大などにつながる経済事業をはじめとした成長戦略を併せて進めている。埼玉県のJAあさか野は、08年ごろから支店再編を検討し、昨年までに17店舗を9店舗にした。同時に相談機能を強化し、相談件数や貸出金を伸ばす。岩手県のJA新いわては、支所や施設の再編、園芸品目の生産・販売強化など13の具体策をまとめた。具体的な効果を金額で示し、事業利益の確保を目指す。農村では、過疎化や高齢化、労働力不足など多くの課題が出ている。情報通信技術(ICT)などを活用し、組合員の暮らしを総合的にサポートするといった新たな事業も構想したい。総合事業を手掛けるJAとして、事業間連携強化の工夫も考えられる。自動車事業と自動車共済、ローンを結び付け事業を安定させているJAもある。JAグループの強みのもう一つが、全国ネットワークだ。600のJAがあり、県域、全国域に連合会がある。連携した事業展開やノウハウの共有、専門性の発揮などができる。県域によって体制は異なるが、経営基盤強化でも、全中・中央会と農林中金・信連、全農・経済連が連携してJAを支援。財務分析や経済事業改革の提案などを進める。先に挙げたJA新いわては、全国連・県連が連携して支援し、具体的な計画を策定した。JAグループ全体の基本方針は4月にも決める。全中の中家徹会長は6日の記者会見で、経営基盤強化は経済事業の収支改善や店舗再編をはじめとする効率化が柱となると指摘。「JAが多様化している中で、現場実態に合わせた取り組みになる」として、JAごとの工夫を重視する。信用・共済事業に依存しがちだったJAの収益構造はこの機に見直す必要があるだろう。大事なのは事業を縮小するのではなく、総合事業を手掛ける協同組合として、いかに営農と地域を支えていくかという視点だ。組合員や住民のニーズに応えつつ、収益の上がる事業モデルを探っていく必要がある。 *17-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/591722/ (西日本新聞 2020/3/13) 日田彦山線不通地区でEV実験 日田市、住民の足確保へ利便性検証 大分県日田市は今秋、同市大鶴地区と夜明地区で新たな移動手段「次世代モビリティ」導入に向けた実証実験を行う。九州豪雨で被災したJR日田彦山線の不通区間の両地区は過疎化、高齢化が進んでおり、住民の足確保だけでなく復興の象徴にもしたい考え。市は、路線バスの充実していない市周辺部の新たな交通手段としてコスト面や環境面を考慮し、ゴルフ場を走るカートのような電気自動車(EV)の導入を検討。昨年3月には国土交通省も同市大山町で低速のEVを走らせる実験を実施したが渋滞が発生したため、市は交通量が比較的少ない両地区の市道で効果を調べることにした。EVの定員は運転手を含め7人で、時速20キロ未満。バスに比べ小型で小回りが利き、細い路地まで乗り入れられるため、住民の自宅そばまで送迎が可能。バス停まで歩くことが難しい高齢者の利用を想定している。実証実験は、JR今山駅を中間地点にした市道約7キロを中心に実施する。2台のEVを大鶴地区方面、夜明地区方面からそれぞれ発車し、運行する。運行方法は今後詰めるが、前日までの事前予約に基づき、ルートを決定し、乗車希望者の自宅近くまで送迎する予定。今山駅付近では国道を走る日田彦山線の代行バスとの乗り継ぎも試し、採算性や利便性を確認する。約1カ月実施し効果が認められれば、2021年度に両地区で本格導入する。認知度が高まれば、別の地域での導入も検討する。EVは窓がなく開放感があり、景色を楽しめるのが特徴。日田彦山線は、車窓からサクラや菜の花など季節の花々が楽しめたことから、ゆっくり走るEVでのどかな風景を楽しんでもらい復興も印象づける狙い。原田啓介市長は記者会見で「新しい切り口での観光につなげられないかと思っている」と期待を込めた。 *17-5:https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1002/03/news010.html (2010.2.3) 電気自動車と馬車しか走れない――ある観光都市の交通政策 スイス・マッターホルン山麓にあるツェルマットは高級リゾート地として世界にその名を知られている。夏は登山、冬はウィンタースポーツを楽しむ人々でにぎわい、三角錐(さんかくすい)の頂を持つ名峰マッターホルンをはじめとした4000メートル級の山や氷河へ通じる山岳鉄道の基地でもある。最寄の都市ヴィスプからツェルマットまでは道路も通じているが、主要交通機関は鉄道だ。雪深い土地のため狭い渓谷を縫うようにして走る道路は不便であり、またエンジン自動車の多用は排気ガスによる大気汚染を引き起こしてしまう。特筆すべきはツェルマットの特異な「EV交通政策」だ。ツェルマット市街地は自治体の条例によりEV(電気自動車)しか走れない決まりになっており、市街地を走るのはEVと観光用の馬車のみ。最新技術のEVと前時代的な馬車が混在する光景は正直いって奇妙だが、環境と都市交通をテーマとしている筆者にとっては刺激的な組み合わせでもある。 ●EVが500台 EVの実用化に対する世界的な関心が盛り上がってきたのはここ数年なのに対し、ツェルマットがEV利用に取り組みだしたのは20年以上も前のこと。ツェルマット交通局のEV路線バス運行責任者ベアート氏もいつからEV交通政策が始まったのか正確には分からないそうだ。現在、ツェルマットを走るEVは計500台(EV路線バス6台)。にわかにEV利用を始めた都市とは歴史の長さが違う。ヴィスプからおよそ1時間ほどで列車は終点のツェルマットに到着する。タクシー、バス、配送用のクルマを含め、駅前に停まっているクルマはすべてEVだ。ただし、除雪車やブルドーザーなど、高いパワーを長時間要する作業用EVはまだ実用化されていないため、通常のエンジン車両が利用されている。住民がエンジン自動車を持つことは制限されていないが、市街地に乗り入れることはできないので市街地の端にある公共駐車場に停めなければならない。そこから自宅までは徒歩かEV路線バスを利用する。EVはタクシーや業務用に限られており、基本的に個人のEV所有はできない。さらに観光バスや観光客の自家用車の規制はもっと厳しく、ツェルマット市街地から数キロ離れた駐車場までしか乗り入れることができない。 ●EVは町工場製 さて、ツェルマットを走るEVには外観の共通点がある。シンプルな小型車が多く、平面と直線で構成されている車体はかなり角ばった印象だ。通常、大手メーカーが製造するエンジン自動車は曲線の組み合わせによって美しいボディーラインを作るので、それとは対照的なデザインである。そう言えば昔テレビで観たアニメ「サンダーバード」に登場するクルマが、ちょうどツェルマットを走るEVのような形をしていたように思う。「レトロなSFに出てくるクルマ」とでも表現できそうな前衛的デザインである。ツェルマットのEVがこのような形となるのには理由がある。地元の町工場が手作業で製造しているため、複雑な形状の車体を作るのが困難なのだ。作ろうと思えば作れないことはないはずだが、そうするとただでさえ高い価格(1台300万円程度)がさらに高くなってしまう。(そういったわけで「前衛的」という印象は筆者の勝手な思い込みである)。EVを製造する町工場は3つほどあるそうだ。シャシーは専門メーカーの製品を取り寄せ、モーターやバッテリー、制御装置、運転装置も市販の製品を利用する。早い話が組み立て工場であり、数人の従業員がいれば事業として成り立つ。もちろん、それぞれの町工場がノウハウを持っており、特に制御システムに独自の技術が必要という。これまでの自動車は何万人という従業員を抱えた巨大工場で製造されるものだったが、小さな町工場でも作れてしまうのがEVだ。自動車コンツェルンにとっては都合の悪い話かもしれないが、EV製造は地場産業として育成できる可能性がある。もちろん大手メーカーがEVの大量生産を始めれば小さな町工場の存続は脅かされるが、今のところ競合相手はいない。ツェルマットの厳しい自然条件が地元の町工場の味方をしているのだ。ツェルマットは標高1600メートルの高地にあり、冬の寒さが厳しく雪も多い。これだけ過酷な条件に耐え得るEVを製造できるメーカーはまだ存在しない。 ●鉛蓄電池が最適 寒冷地におけるEV利用の最大のネックはバッテリーだ。EV用バッテリーの主流となっているリチウム電池は、低温では出力が低下し凍結にも弱く、しかも価格が高い。そのためツェルマットのEVは、あえて昔ながらの鉛蓄電池を使っている。市街地とその周辺を走るEV路線バスも同様で、車体後部に巨大なバッテリーを搭載し、充電は最寄のバスステーションで行う。路線の長さは数キロ程度と短いが坂の多い土地のため電力消費が多く、夜間の充電だけで1日走ることはできない。観光のメインシーズンには運行回数が多くなるため、場合によってはバスステーションでバッテリーごと交換してしまう。交換作業に要する時間は運転手一人ならば5分程度、補助がいれば2分程度で済む。ツェルマットは「(エンジン)自動車のない山岳リゾート地」を掲げ、それを売りにしているわけだが、中にはEVを見て「聞いていた話と違う。クルマが走っているではないか?」と戸惑う観光客もいるそうだ。「EVも含めたクルマが一切ない」と誤解されてのことである。ツェルマットが徹底したEV交通政策を進める理由を交通局ベアート氏は次のように語っている。「観光のためです。きれいな空気を求めてツェルマットを訪れる観光客の期待を裏切りたくはありませんから」。この点はすべての観光客の期待を裏切らないはずだ。ツェルマットにEVがうまく「はまった」のは特殊条件があったからこそであり、すべての国と地域に当てはまるものではない。しかしながら、例えば離島の観光地などでも同様の手法をとれるかもしれない。やる気と工夫さえあればいろいろな応用が期待できる事例である。 *17-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200319&ng=DGKKZO56938890Y0A310C2EA1000 (日経新聞社説 2020.3.19) 日産見えぬ「ゴーン」後(3)「隠れケイレツ」も岐路 3月初め、日産自動車と取引する部品会社の幹部数名が日産本社の会議室で社長の内田誠を囲んだ。各社の幹部らは内田に対し、「部品会社とのコミュニケーションがうまくとれていない」などと詰め寄った。日産元会長のカルロス・ゴーンは1999年に「リバイバルプラン」を掲げ、部品の調達費削減を進めた。一部の取引先は厳しい値引きに応じ、後の日産車の販売拡大の恩恵も受けた。しかし、今では肝心の新車販売が低迷し、部品会社の経営は厳しさを増す。内田は「調達を含め、今までのやり方を変えていきたい」とその場を収めた。ゴーン時代、日産と取引が多い系列部品会社は資本提携の解消や淘汰に見舞われたが、日産への依存度が高い「隠れケイレツ」はいまだ多い。彼らが気をもむのは一段の値引きと、ゴーンが新興国などで進めた過剰な生産体制の整理の行方だ。かつて日産との資本提携を解消した足回り部品のヨロズ。なお売上高の7割が日産グループ向けの隠れケイレツの一社だ。「日産の稼働の延期が決まりました」。2月9日夕、ヨロズの常務執行役員、春田力は中国・広東省広州市の駐在員から電話を受けた。新型コロナウイルスで止まっていた広州工場では翌10日の稼働に向け、従業員を迎え入れる準備の最中だった。広州でつくる部品の6割以上を納める日産が延期を決めたことで、ヨロズも歩調を合わせるしかなかった。後日、広州は再稼働したが、日産頼みの構造が改めて浮き彫りになった。日産向けが多いある部品会社の幹部は「日産への依存を減らすべきだとは思うが簡単じゃない」と話す。脳裏をよぎるのは米ゼネラル・モーターズ(GM)の新規受注を逃し、昨年に私的整理の事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)を申請した曙ブレーキ工業だ。日産、トヨタ自動車とも取引し、GM向けの売上高比率は3割近くでそこまで高くなかった。取引先を分散する独立系でさえ厳しい。それなら日産にどうしがみつくかを考えた方が現実的とみる。「内田なら直言しやすい」との雰囲気が漂うが、安易な協調路線は双方に必要な改革の妨げになる可能性もある。自動運転など「CASE」時代に向け、日立製作所系とホンダ系の部品会社が統合を決めるなど業界は揺れている。良くも悪くも部品会社を巻き込んで改革を進めたゴーンはいない。部品会社もまた岐路に立っている。 *17-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200319&ng=DGKKZO56952070Y0A310C2EA1000 (日経新聞社説 2020.3.19) 地価の先行きを注視したい 緩やかな上昇を続けてきた地価の先行きに不透明感が強まっている。新型コロナウイルスの感染拡大で地価を支えてきた訪日客需要が急減しており、不動産マネーの動向も気がかりだ。国土交通省が18日まとめた公示地価は、調査時点が新型コロナが広がる前の1月1日とあって全国平均は5年連続で上昇した。上昇地点が地方中小都市に広がり、地方圏はバブル崩壊後の1992年以来、28年ぶりに上昇に転じた。県庁所在都市などでは、高齢化で郊外の戸建てを手放し、再開発で利便性が高まった中心部のマンションに移り住む動きが広がる。これに訪日客向けのホテル需要も重なって地価を押し上げた。地価に災害リスクが反映されるケースも目立ってきた。こうした情報を、災害に強い安全な街づくりに生かしたい。一方、三大都市圏の地価は頭打ち傾向だ。上昇率をみると東京圏はわずかに伸びたが、名古屋圏は鈍った。不動産マネーは収益性を求めて投資対象を選別する動きを強めている。地価上昇は金融緩和による低金利が支えてきた。オフィスビルなどに投資した利回りから長期金利を差し引いた利回りで、東京はロンドンやニューヨークより有利とされ、資金が流入してきた。こうした環境に金融市場の混乱がどう影響するか見極めたい。すでに不動産投資信託(REIT)は訪日客の急減でホテルなどの収益が見通せず、指数が急落した。株価の下落は富裕層の不動産投資を慎重にさせ、不動産価格に波及する可能性がある。日銀は追加緩和策でREITの購入目標を年1800億円に倍増した。今後も市場動向には十分に目配りしてほしい。都市部でオフィス需要を支える企業の人材確保意欲は根強い。ただ、テレワークの広がりはオフィス需要にも変化をもたらす可能性がある。東京五輪の行方も都心の再開発に影響する。地価の先行きを注視したい。 <ニーズに合ったサービスを迅速に行うべき> PS(2020年3月20日追加):*18-1のように、日経新聞が「①厚労省が新型コロナ感染者だけを受け入れる病院や病棟の設置を検討するよう各都道府県に通知する」「②これは感染が急拡大した時に診療を効率化し、他の患者への院内感染を防ぐ狙い」「③感染者を診療しない病院も設定して診療する医療機関を明確化」「④厚労省の推計では感染防止策を全く行わない最悪のケースで、東京都ではピーク時に入院が必要な患者が2万人、重症者が700人発生する」等としている。しかし、①②は既に治療薬が出始めており、新型コロナ感染者だけを受診する病院を作れば診療も不効率になるだろう。もちろん、②の院内感染防止は重要で小さな診療所への感染症患者の受診も制限が必要だろうが、それには基幹病院が感染症患者専用の入り口や入院病棟(もしくは階)を作ればすむことだ。イタリアは社会保障をカットしすぎたため、医療破綻が起きて死亡率も高くなっているが、日本は普段から栄養をとって健康意識も高くしているため、(欧米は生物兵器も視野に入れて防御しているようだが)ウイルスを使って意図的に健康弱者を攻撃しない限り、④のような蔓延はないと思われる。 そのため、*18-2のように、地域医療の中核として命や健康を支えている公的病院を効率化の論理だけで再編する方が問題で、普段から余裕のあることが感染症患者専用の入り口や入院病棟(もしくは階)を作るために必要なのだ。なお、感染症は、コレラ・結核・はしか・水疱瘡・インフルエンザなど医師にとっては基本的疾患であるため、国家試験を通った医師なら必要なことはわかっている筈であり、厚労省の方がどこか変である。 なお、*18-3の介護保険についても、厚労省は負担増・給付減に余念がないが、日頃の負担ばかり重くていざという時に役立たないようではしようがない。私は、高齢者は1階やエレベーターの近くに優先的に住まわせた方がよいと思うが、自宅療養するのに生活介助は欠かせない。さらに、今回の新型コロナ感染者も「軽症の人は自宅療養」としているが、自宅療養中は全く自宅を出なくてよいという人は、自宅では何もしなくても食事が出てくる人であり、それは多くの人にとって不可能なことで、自宅療養するには介護者が必要な筈なのである。 ![]() ![]() ![]() 2020.3.18、2020.3.19東京新聞より (図の説明:65歳以上を特に介護が必要な高齢者とするのは実態に合っておらず、何歳であっても介護が必要な人はいるし、90歳で元気な人もいる。しかし、左図のように、介護保険は年齢で制度をわけており、特に65歳以上の負担が大きいという変な制度になってしまった。中央の図は、介護が必要になった時の初期費用と月々の費用のイメージで、費用がかさむことは間違いない。なお、介護の社会的負担は、右図のように、施設に入った場合の方が大きく、在宅の方が小さくなっているが、本来は同じ障害でも在宅の方が生活が変わらず快適なかわりに、訪問介護になる分だけ手間がかかって高いのが当たり前なので、誰のための介護かわからなくなっている) *18-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200320&ng=DGKKZO57042550Z10C20A3CC1000 (日経新聞 2020.3.20) 新型コロナ専門病院設置 検討を 厚労省、自治体へ通知 厚生労働省は19日、入院が必要な新型コロナウイルスの感染者だけを受け入れる病院や病棟の設置を検討するよう、各都道府県に通知すると発表した。今後、感染が急激に拡大したときに診療を効率化するとともに、ほかの患者への院内感染を防ぐ狙いがある。感染者を診療しない病院も設定するなど各医療機関の役割を明確にする。厚労省の患者推計によれば、感染防止策を全く行わない最悪のケースの場合、東京都ではピーク時に入院が必要な患者が2万人、重症者が700人発生する。厚労省はこの状況に対応できる病床数や、重症者向けの人工呼吸器などの整備を求めている。今回の通知で整備すべき医療体制をより具体化した。厚労省は各都道府県に対し、新型コロナの患者だけを受け入れる病院の検討を求める。感染症の治療経験が豊富な医師や看護師を集約するなどして効率化を図る。さらに重篤患者向けの人工肺も扱える病院などを、外来も行わずに入院に特化した病院として指定する。医療機関ごとの受け入れ調整を担う組織を都道府県ごとに設置するほか、各地方ごとに広域調整本部もつくり、都道府県内で受け入れきれなくなった患者を周辺に搬送する。持病がある人や妊産婦など感染すると重症化する恐れがある人が安心して受診できるよう、新型ウイルスの患者を診療しない病院の指定も求める。 *18-2:https://www.agrinews.co.jp/p49069.html (日本農業新聞 2019年10月25日) 公的病院の再編 実態即し丁寧な議論を 地域医療の中核的存在である公立・公的病院は、命や健康を支える最重要のインフラだ。住民が置き去りの拙速で乱暴な再編統合論議は許されない。厚生労働省は、全国の公立病院と赤十字や済生会といった公的病院のうち、再編統合の議論が必要と位置付けた424医療機関の実名を公表。全国に105あるJA厚生連病院も3割に当たる31病院が対象となった。同省が、救急やがん、脳卒中などで診療実績が少なく、近隣に当該病院の機能を代替できる病院があることなどを勘案して公表した。424医療機関の内訳は公立が257、公的が167。見直しの権限は自治体側にあり、強制力はない。再編の手法も統廃合に限定しない。病床数の削減や機能の集約化なども含め、地域の実情を踏まえて検討することになる。だが、来年9月までに具体的な結論を出すこととなっており、残された時間は少ない。このため、農村部からは「身近な病院がなくなる」「地域の事情を考えていない」など不安や不満を訴える声が上がっている。北海道帯広市で開かれた日本農村医学会学術総会でも、厚生連病院関係者から今回の公表や議論の在り方に疑問を投げ掛ける意見が出された。ある関係者は、調査が2017年6月の診療実績に基づき行われたことについて「6月は農繁期で農村部なら患者が減る時期。恣意(しい)的と感じる」と指摘する。その上で、各病院は医師不足に悩んでいるとして、「病院名の公表でさらに医師確保が困難になるのでは」と懸念する。全国知事会でも「リスト返上」を求める意見が出た。全国市長会からも批判が相次いでいる。JA全厚連は、「議論は必要」としながら「一部データを基準に再編・統合ありきにしてはいけない」とくぎを刺し、地域住民の意見に耳を傾けた丁寧な議論を求める。今回の公表の背景には、医療費を抑制したい国の考えがあるとみられる。17年度の国民医療費は43兆710億円だったが、団塊世代が75歳以上となる25年には56兆円にまで増えるとの見込みもあるためだ。とはいえ、17年6月という一時期の単純なデータで機械的に評価し、再編を促す議論の進め方は乱暴過ぎる。公立・公的病院は地方で医療を提供する重要な役割を担ってきた。特に民間病院が少ない離島などで、病院がなくなったり、機能が一部失われたりした場合、そこに住み続けられなくなる恐れもある。国はこれまでも、医療費が膨らむ要因として病床数の削減を促してきた。だが、病床数が議論の根底なのか。医師不足の問題はどう考えるのか。命と健康に関わる問題だけに効率化だけで議論すべきではない。公立・公的病院なくして地方創生は成り立たない。地域医療を担っている現実をもっと認識し、住民本位の医療供給体制について議論すべきだ。 *18-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/202003/CK2020031802000178.html (東京新聞 2020年3月18日) <支え合う 介護保険20年>(1)給付外し 負担増し減るサービス 介護保険が始まり、四月で二十年。社会で介護を支えることを目指して始まった制度は生活に定着し、欠かせないものになった。だが、高齢化の進展に伴い、費用も急増。そのひずみも表れている。安心して暮らし続けるために「支え合う」仕組みの今と、これからを考える。(介護保険取材班)。しょうゆの入った一リットルのペットボトルは、ずっしりと重い。持病で腰や膝を曲げられず、シンクの縁に手をかけ、ゆっくりと下の棚に収める。東海地方に住む女性(83)は週一回、ヘルパーが買ってきてくれた食品を棚や冷蔵庫に収める。以前はヘルパーが収納してくれたが、昨年十月から業者が代わり、サービス時間が十五分少ない四十五分に。収納まで行う余裕がなくなった。「脚が痛く、冷蔵庫に入れるだけでも大変」。エレベーターのない市営住宅の三階に一人暮らし。背骨の病気を患い、長時間は歩けない。畳のへりにもつまずく。腰や膝が痛くて曲げられず、床に落ちたものを取るのも難しい。若いころに夫を亡くし、二人の子を育て上げた。だが、近隣に住む娘は仕事が忙しく、あまり頼れない。五年ほど前から介護保険を使い、ヘルパーに買い物と部屋の掃除を依頼。週二回の訪問が女性の生活を支えてきた。生活にどれだけ介助が必要かを示す要介護度では要支援2。七段階のうち軽い方から二番目だが、「ヘルパーが頼り」という。事業者が代わった原因は、二〇一五年度の制度改正。要支援の人への在宅サービスの中で、女性も受ける生活援助など介護予防の「訪問介護」と、「通所介護(デイサービス)」が保険の給付対象から外され、市区町村の事業になった。給付対象だと、事業所の基準や報酬などを国が決め、全国一律だ。だが、市区町村事業では、自治体が事業費の範囲で決める。女性の市では改正後も経過措置で保険給付時と同じ水準の報酬を支払っていたが、昨年九月末で終了。ヘルパー資格がない人もサービスができるようになり、報酬も八割に引き下げた。これに伴い、四十七事業所のうち八事業所が撤退した。女性が昨年まで依頼していた事業者もその一つ。ヘルパーに八月、突然「十月から来られない」と言われ、途方に暮れた。スーパーに行くにも手押し車を三階から一人で下ろすのは難しい。週一度の通院にはタクシーを使うが、月六千円はかかる。収入は一カ月八万五千円の年金だけ。「これ以上タクシー代がかさめば生活できない」。夜も眠れず、泣いた。利用計画を作るケアマネジャーが奔走し、別の事業所が見つかったのは九月中旬だった。減った十五分は大きかった。以前はヘルパーと会話する時間もあり、話し相手がいない女性には貴重だった。一方、保険料は年金から天引きされるなどし、毎月二千円以上の利用料もかかる。「保険料も利用料も払っているのにサービスが減るなんて」。低所得者向けの減免措置は受けているが、負担感は増している。市の担当者は「今後団塊の世代が七十五歳を超え、訪問介護を利用する人が増える。ヘルパーの確保も難しく、経過措置から切り替えた」。民間が国の補助で行った一八年度の調査では、保険給付時の基準が緩和され、報酬などが下がったサービスについて調査に応じた全国千六百八十六市町村の六割が「実施主体や担い手がいない」と答えた。別の市で生活援助を提供する事業者は嘆く。「利用者が多いほど赤字。事業者がいなくなれば、『保険あってサービスなし』になりかねない」 ◆相次ぐ改正 揺らぐ理念 高齢化の進行で、介護保険の要介護認定者数や総費用、保険料は制度の始まった二〇〇〇年度から右肩上がりに伸び続けている。国は制度の維持に向け、給付の削減と、合理化を進めてきた。その結果、制度開始前に掲げられた「必要なサービスを自由に選べる」「家族の負担を軽減」などの理念は大きく揺らいでいる。厚生労働省によると、要介護認定者は制度開始時の二百十八万人から一九年四月は六百五十九万人に。総費用は三兆六千億円から膨らみ続け、二〇年度当初予算案で十二兆円を超えた。六十五歳以上の保険料の全国平均は改定のたびに上がり、第七期(一八~二〇年度)は月額五千八百六十九円と一期の二倍超に。団塊ジュニアが六十五歳以上になる四〇年度には九千二百円に達する試算もある。標的になったのが、在宅で掃除や調理、洗濯などの家事を行う生活援助だ。一九九六年に制度創設を答申した老人保健福祉審議会は、要支援の人への生活援助について「寝たきりの予防や自立支援につながる形でサービス提供を給付の対象にすべきだ」と明記。だが、開始後は審議会などで「ヘルパーを家政婦代わりに使っている」「家事代行型のサービスは高齢者の能力を奪う」などと批判され、時間や介護報酬が削減されてきた=年表。一五年度には要支援の人の生活援助を含む訪問介護とデイサービスを保険給付から外し市区町村の事業に移した。介護保険は保険給付により全国一律で同じ水準のサービスを受けられるようにしたはずだった。だが、自治体の財政力による地域格差が生まれている。ヘルパー不足に加え、報酬単価が切り下げられ、「採算が取れない」と事業者が相次いで撤退。同居家族がいる場合には、生活援助を認めない自治体もある。一八年には月に一定回数以上の生活援助を組み込む場合はケアマネジャーに市区町村への事前の届け出を義務付け、事実上の抑制策に。今年の法改正では要介護1と2の人への生活援助を給付から外す案が出た。「在宅介護を続けられない人が続出する」などと批判が噴出し、受け皿の住民ボランティアなどの態勢が整わず見送られたが、介護関係者は危機感を募らせる。一方、施設サービスでも〇五年から居住費や食費は自己負担に。特別養護老人ホームの入所は一五年四月から原則要介護3以上に制限された。制度開始前、当時の厚生省は「家族の負担軽減」「サービスを自由に選べる」などとアピール。だが、今も年間十万人の介護離職者がおり、介護者による殺人や虐待も続いている。 ◆介護保険の給付抑制の動き 2000年 介護保険制度スタート 厚生省(当時)が「生活援助の不適切事例」として家族の調理、洗濯、 買い物などを例示 2005年 施設の居住費・食費を自己負担に 2006年 要支援の人の訪問介護は時間単位の従量制から、月単位の定額制に 2012年 生活援助で、1回当たりの提供時間を15分減らして45分(20分~45分 未満と45分以上)を基本とし、介護報酬を引き下げ 2015年 要支援の人への訪問介護とデイサービスが給付対象から外れる ▽特養への入居は原則要介護3以上に ▽「一定以上の所得」がある人の利用料は2割に 2018年 「特に所得の高い層」の利用料を3割に <介護保険制度> 介護が必要と認定された高齢者らに介護サービスを提供する公的保険。市区町村が保険者で、保険料は65歳以上の高齢者は原則年金から天引き、40~64歳は健康保険料と一緒に徴収される。要支援1から要介護5まで(7段階)の認定を受けると、要介護度に応じて使えるサービスの限度額が決まる。利用料は所得に応じ、費用の1~3割。残りが保険から給付され、財源は税金が50%(国25%、都道府県と市区町村が12・5%ずつ)、保険料50%。 <政策が的外れで遅い理由は何か?> PS(2020年3月22、23、25、26日):*19-1のように、介護は担い手不足で廃業や休床の事業所が出ているそうだが、サービスの需要があるのに取りこぼしている工夫のなさは、介護の100%を国の制度に依存しているからかもしれない。そのため、自由診療ならぬ自由介護を同時に行えば、経営に工夫の余地が大きくなると思うが、慢性的なヘルパー不足であるのに、介護士になろうとして来てくれた外国人を日本人介護士の賃金が下がらないように、日本語能力の不十分性を建前として国が追い返しているのはどうしようもない。しかし、介護制度は、介護サービスを行う人に高い賃金を払うために行っているのではなく、介護を受ける人に不便がないように行っているものであるため、この本末転倒の考え方が何をやっても失敗に終わらせているのである。 さらに、日本には使っていない資源が多く、木材もその一つで、国有林の木材は国の資産・自治体林の木材は自治体の資産であるため、*19-2のように、国産材の利活用を進めれば、それぞれの税外収入になるにもかかわらず、これも人手が足りない等と言って利用しない。建材はもちろん、買い物袋も減プラして強い紙を使用することはでき、そうすれば税外収入・環境・原料の自給率向上など、あらゆる面でプラスになるのに、である。 そして、*19-3のように、新型コロナの治療に、インフルエンザ薬「アビガン」とエボラ出血熱薬「レムデシビル」が有望視されており、アビガンは2014年3月に製造販売承認を取得して備蓄もあるのに使わず、「レムデシビル」「ギリアド」は他国では4月にも臨床試験(治験)の結果が出るのに、日本では数カ月先しか使わず、*19-4のように、30兆円規模の緊急経済対策を行って赤字国債を検討しているのだそうで、これでは、いくら国民に現金を配っても老後の心配が大きいため老後のための貯蓄にいそしむしかない。つまり、ポイントを外したことばかり行いながら、(選挙のためか)大きな無駄遣いをしているのである。 また、*19-6のように、日本の製薬会社「富士フイルム富山化学」が開発し、国内では未だ臨床試験中のインフルエンザ薬「アビガン」が、軽症者に限れば投与後7日以内に新型コロナ肺炎患者の回復率7割超で治療に有効だとする研究成果を中国の武漢大等のチームが23日までにまとめ、中国は既にアビガンを政府の診療方針に採用すると表明したそうだ。「新型コロナには経済対策より治療薬」と言われており、相変わらずの日本のとろさにはがっかりする。 このような中、*19-5のように、北九州市や地元企業等が出資する電力小売業「北九州パワー」などが、国のFITを終了した家庭用太陽光発電(出力10キロワット未満)の余剰電力を九電の買取価格(7円)よりも高い価格(7.5円)で買い取って公共施設に供給し、エネルギーの地産地消を目指すそうだ。太陽光も地域資源であり、クリーンエネルギーでもあるため、これによって地域を豊かにしながら次に進むのはよいと考える。 しかし、日経新聞が、*19-7のように、「①大阪医科大元講師の男性医師が無許可施設で人の脂肪幹細胞を培養して40代女性に国に無届けで投与し再生医療を行った」「②再生医療安全性確保法違反の罪で略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けた」「③その背景には研究資金のメドが立たずに成果を焦ったことがある」「④日本再生医療学会は『認定医』の資格を持つ大阪医科大の元講師を除名する方針」「⑤再生医療安全性確保法が14年に施行され、医療機関に対し専門家による委員会の審査を経た再生医療の提供計画を国に提出するよう規定して、計画に基づかずに医療行為を実施した医師には懲役や罰金を科すと定めている」としている。再生医療は、これまでは治療できなかった病気やけがから回復させることを期待できる治療法で、例えば、*19-8の首の骨が曲がる大けがをして重い身体障害者となった木村参院議員のような脊髄損傷も治すことができると考えられる。私は、脊椎・脊髄の専門家である夫の学会に随行した時に、南米の大先生が「脂肪幹細胞を使って脊髄損傷を既に治療した」と話しているのを聞いたことがあり、日本では再生医療と言えばiPS細胞しか認めていないのがむしろおかしいと思っている。また、対象が「アンチエイジング」だったとしても、治験しなければ効果はわからないため、研究するにあたっては、⑤のような競争相手になる専門家の審査を要するようにしたことが問題で、④の対応もおかしいだろう。つまり、治療法の確立には、幅広いアイデアを取り入れた治験を速やかに行い、最善の結果を迅速に出せるよう、資金を投入すべきなのである。 一方、中国は、*19-9のように、科学で世界一になることを目指し、この20年間、外国で活躍した研究者を呼び戻し、多額の資金を投じて高給で迎え、そこに若い優秀な中国人学生が集まって在学中に1~2年の欧米留学をして共同研究し、欧米で学位を取得する体制も確立しており、中国のトップレベルの学生は意欲と自信に満ちて貪欲に研究するそうだ。その理由は、中国政治家のトップがほぼ理科系出身で占められ、科学・技術の発展を通じて中国を世界一の大国にするという意思が共有されているからだそうで、中国はその歴史からか、確かに普通の人まで「世界一になる」という意識を持っている国である。そして、研究投資は、既に成功した人だけではなく可能性を秘めた者に広く厚く行っているところが日本とは逆であり、これが質の高い技術の醸成を通じてGDPの成長に繋がるのは間違いない。 なお、私は1992年に中国に進出した日本企業のコンサルティングで深圳に行ったことがあるためよく知っているのだが、1990年代の中国は、*19-9のように、まだ衛生状態を疑う店やホテルが多く、従業員も不愛想で官僚的だった。これは共産主義経済の名残であり、共産主義経済でそうなる理由は、客(需要・消費者)あっての営業という認識がなく、労働自体に価値があると考えすぎて労働者が官僚のようになり、報酬と努力に相関関係がないため努力と工夫の動機づけに欠けるからである。その反省が、1980年代に鄧小平政権が改革開放路線として始めた社会主義市場経済体制の採用で、当時の日本は、大国が共産主義経済体制をとって市場に参入していなかった千載一遇の幸運のおかげで経済発展し、アドバイスする立場にあったのだ。 しかし、その後の油断と努力不足によってその優位性を維持することはできず、*19-10のように、今では「全日本造船構想(オールジャパン造船)」などという国内では競争のない造船会社を作ろうとしているが、このような官主導の大規模化が産業や経営を弱めることは、共産主義経済下の企業を見ればわかることだ。具体的には、日本の造船業は、大規模な船舶を作るためだけにあるのでも他国の造船会社と規模による競争で一瞬勝つためだけにあるのでもなく、本当に便利で快適な船を作って競争力で勝ち、自然とシェアを上げることが必要なのだ。そして、「本当に便利で快適な船」は目的によって異なり、漁船・採掘船・病院船・運搬船・観光船等々の種類によって必要な最新装備は違うのであって、これらの多様な要請に応えるためには多様な主体が存在することが必要なのである。しかし、今後、エネルギーの変換・魚群探知・自動運転・衛生等の技術は必要な装備になるため、産業を超えた互いの技術供与が役立つだろう。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2018.1.25、2018.10.14産経新聞 (図の説明:1番左の図のように、科学技術に関する論文数は、中国と米国は40万件台だが、日本は10万件にも満たず、6位になっている。また、左から2番目の図のように、労働力不足による倒産も増えた。しかし、右から2番目の図のように、外国人労働者の雇用には未だ厳しい制限があり、物価だけが上がった結果、1番右の図のように、日本の購買力平価に基づくGDPはインドより低い4位になってしまった) *19-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/202003/CK2020032002000189.html (日本農業新聞 2020年3月20日) <支え合う 介護保険20年>(3)担い手不足 廃業、休床の事業所も 「本当に心苦しいのですが、経営は限界でした」。社会福祉法人「宮城厚生福祉会」(仙台市)法人事務局長の大内誠さん(39)は言葉を絞り出した。同法人は昨年十月、同市宮城野区で十五年間運営してきた訪問介護事業所を閉じた。きっかけは土日の訪問介護を引き受けていた七十二歳の女性ヘルパーからの「もう体力的に無理」との申し出だった。当時、事業所は約四十人の利用者がおり、ヘルパー七、八人で対応。ヘルパーの平均年齢は六十歳を超え、入浴介助などの身体介護は体力的に厳しくなっていた。女性の退職で勤務が回らなくなり、閉鎖を決断。利用者は近隣の複数の事業所に懇願して引き継いでもらった。「受けてもいいけどヘルパーをよこして、と言われた」。同じころ、隣接する宮城県多賀城市の社会福祉協議会が、一九九七年から運営する訪問介護事業所を年度内で閉じると利用者に通知。社協は地域福祉を担う公的性格の強い民間団体で、「まさか」と地元の福祉関係者に衝撃が走った。同社協事務局長の菅野昌彦さん(62)は「ヘルパーが集まらず、年間赤字が約一千万円に達したため」と話す。東海地方のある市の社協も昨年四月、訪問入浴サービスを廃止。ヘルパー数人と看護師一人がチームで行っていたが、利用者が少なかったことに加え、必要な人数のヘルパーも集まらなかった。担当者は「人手がかかり、収支が合わなくなった」と話す。東京商工リサーチによると、二〇一九年の介護サービス事業者の倒産件数(負債額一千万円以上)は百十一件で、過去最多の一七年に並ぶ。このうち、訪問介護事業者が半数以上の五十八件を占めた。担当者によると、事業所間でヘルパーの奪い合いが起きており、募集をかけても集まらなかったり、給料を上げて赤字になったりして倒産に追い込まれるケースが多い。慢性的なヘルパー不足は、介護保険のサービスを根底から崩し始めている。在宅だけでなく、施設サービスも深刻だ。宮城厚生福祉会が一六年四月に多賀城市に新設した小規模特別養護老人ホーム「風の音サテライト史(ふみ)」は、介護職不足のため定員の二十九人に対応できず、開設以来、十九人の入所に制限。約十人の介護職が二つのユニットを回すのにぎりぎりの体制で、施設長も日常的に夜勤に入る。残り一ユニットは真新しいまま一度も使われていない。同会によると、職員を確保できない懸念は当初からあった。だが、同市内には特養が少なく、行政側の強い要請もあり開所。県内の高校や東北六県の介護福祉士養成校を訪問して奨学金制度や就職祝い金をアピールするなどして募ったが、効果は薄かったという。特養に入りたくても入れない待機者は同市と近隣一市三町で約百五十人。既に四、五年待っている人もいるといい、「入りたい人がいるのになぜ、閉めているのか」という声も。厚生労働省によると、全国の待機者は、昨年四月一日時点で約三十二万六千人に上る。一方、独立行政法人「福祉医療機構」(東京)が昨年、全国の特養に実施した介護人材に関する調査で、八百五十三施設(回答率24%)の73%が「不足」と回答。13%が利用者の受け入れを制限していた。人材確保が難しい理由で最も多かったのが「近隣施設との競合」で六割に上った。 介護問題に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「このまま人材不足が進めば、地域の介護が崩壊する」と危惧する。 ◇ 記事への感想や介護にまつわる体験談をお寄せください。住所、氏名、年齢、電話番号を書き、下のあて先へ。ファクス、Eメールでも可。 〒100 8525 東京新聞生活部 ファクス03(3595)6931、seikatut@tokyo-np.co.jp *19-2:https://www.agrinews.co.jp/p50357.html (日本農業新聞 2020年3月22日) 民間で「木造」広がる 7階建てビル、コンビニ 建築物に国産材を利用 需要確保へ推進継続 林野庁 林野庁は、民間建築物への木材利用促進を目指す懇親会「ウッド・チェンジ・ネットワーク」の会員企業の進捗(しんちょく)状況を取りまとめた。国産材を積極的に使う動きが広がり、純木造高層ビルの建築計画も動きだしている。利用期を迎えた国内の人工林の需要確保に向けて、公共建築物だけでなく民間建築物も取り込むため、引き続き働き掛ける方針だ。政府は、林業の成長産業化を目指し、2017年に約3000万立方メートルだった国産材の供給・利用量を25年までに4000万立方メートルに伸ばすことを目標に掲げる。都市部の建築物に国産材を積極利用する「木質化」を成長産業化の柱の一つに据えており、木材の需要拡大へ民間も取り込みたい考えだ。そのため19年に同ネットワークを設立した。現在は、31の企業・団体が参加しており、3月中旬に開いた会合で、各企業が進捗を報告した。木造建築のシェルター(山形市)は、木質耐火部材を開発。中高層ビルへの利用が可能となったことを受け、21年春、純木造7階建てビルを仙台市のJR仙台駅東口エリアに竣工(しゅんこう)する予定だ。主要構造部には主に東北の杉材を使用する。同社は「製材での高層ビル建設で、新たな木材利用の提案ができる」と展望する。住宅建材のナイス(横浜市)は、地域産材を使った建材が流通しやすくなるよう、木材を規格化した。今後、地域の木材販売業者や施工業者を通じ、脱プラ・木質化を提案していく方針だ。コンビニエンスストア大手のセブン―イレブン・ジャパン(東京都千代田区)は環境配慮の観点から、木造店舗を複数展開する計画を立てている。実用化に向けて、コストや工期の効率化などを検討する。同ネットワークに参加する森林研究・整備機構森林総合研究所の原田寿郎氏は「どれだけ木材を使えば地域に還元できるかという観点が必要」と指摘する。同庁は、民間建築物の木造化を加速させるには「さらに施主に働き掛ける必要がある」(木材利用課)とし、同ネットワークを通じて導入実績を増やしたい考えだ。 *19-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56948630Y0A310C2MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200318_Y (日経新聞 2020/3/18) コロナ治療薬 米社製、4月にも治験結果 新型コロナウイルスの治療に既存の抗ウイルス薬が有望だとわかり、早期に使える可能性が出てきた。インフルエンザ薬「アビガン」とエボラ出血熱薬「レムデシビル」が特に有望視されている。レムデシビルは4月にも臨床試験(治験)の結果が出る見通しだ。実用化できれば世界規模の死者増加を抑え、経済への打撃を緩和することにもつながる。アビガンは国内では2014年3月にインフルエンザ薬として製造販売承認を取得し、16年に中国製薬会社の浙江海正薬業(浙江省)にライセンスを供与していた。浙江海正薬業は2月に中国当局から生産認可を得ており、量産を本格化する。日本でも医師の判断によって新型コロナの患者に投与されている。政府はアビガンを200万人分備蓄しており、富士フイルム側は「政府から増産を検討するように要請を受けている」と説明する。実際の増産には原材料の確保などの課題もありそうだ。エボラ出血熱の治療用に開発されていた米ギリアド・サイエンシズのレムデシビルは各国で未承認だが、中国で新型コロナの患者に投与したところ効果が確認され、同社は日米中などでの治験を始めた。1千人程度の患者で効果を見ている。ギリアドは「まず中国で4月にも結果が出る」と説明。厚生労働省が緊急措置として審査を急ぎ、条件付きの仮承認を出すなどすれば、日本でも数カ月のうちに医療現場で使えるようになる可能性がある。商業生産されている薬ではないため、大量供給するには新たに製造体制を構築する必要がある。米アッヴィの抗エイズウイルス(HIV)薬「カレトラ」も中国でコロナ治療に使われ、他の薬剤と組み合わせた治験が進む。日本では2000年に承認されてエイズ治療に広く使われており、新型コロナで有効性が確認された場合、早期の大量供給も可能とみられる。いずれの薬剤も副作用のリスクがあり、軽症患者の治療には向かない可能性が高い。アビガンは動物実験で胎児への影響が確認され、妊婦への使用は厳禁だ。重篤な肝障害などの副作用も報告されている。カレトラは膵炎(すいえん)や肝障害が報告されている。レムデシビルの副作用はまだ不明で、低血圧障害などの可能性が指摘される。国内ではこのほか、ぜんそく薬「シクレソニド」で解熱などの効果が見られたとして症例研究が進んでいる。東京大学の井上純一郎教授らは18日、急性膵炎の治療薬「ナファモスタット」を試験投与して効果を調べると発表した。 *19-4:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200321-00000055-kyodonews-bus_all (Yahoo 2020/3/21)緊急経済対策、赤字国債を検討 補正予算財源、借金さらに増加 新型コロナウイルスの感染症拡大に伴う緊急経済対策で、政府が必要な財源として新たな借金となる赤字国債の発行を検討していることが21日、分かった。与野党から30兆円規模の経済対策を求める声が上がっており、経済対策を反映する2020年度補正予算の財源として活用する可能性がある。新型コロナの日本経済への影響は、08年のリーマン・ショックを超えるとの指摘も出ている。国民に現金を配る現金給付のほか、売り上げが落ち込んだ観光業への支援策が検討されている。赤字国債の発行で国の借金は増えることになり、財政健全化の目標達成はさらに厳しくなる。 *19-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/593911/ (西日本新聞 2020/3/22) エネルギー地産地消へ 太陽光余剰電力買い取り公共施設に 北九州市 北九州市や地元企業などが出資する電力小売業の「北九州パワー」(同市)などが、国の固定価格買い取り制度(FIT)適用が終了した家庭用太陽光発電(出力10キロワット未満)の余剰電力を買い取るサービスを始めた。市内で生み出した「卒FIT」電力を九州電力より高く買い取り、小倉城など地域の公共施設に供給してエネルギーの地産地消を目指す。電力はNTTスマイルエナジー(NTTSE、大阪市)が市民から買い取り、北九州パワーを通じて区役所や市立美術館などの公共施設に供給。1月から買い取りサービスを始めた。家庭用太陽光発電など再生可能エネルギーの普及を目的としたFITは2009年に始まり、昨年11月から順次、家庭用で10年間のFIT期間が終了した世帯が発生。FITでは当初、買い取り価格が1キロワット時当たり40円代だった。九電の買い取り価格は同7円だが、NTTSEは7・5円に設定している。市は07年度から6年間、太陽光発電の導入に補助制度を設け、約5千世帯(総出力約2万キロワット)が補助を受けた。このうち本年度にFIT適用が終了する約500世帯に同市がNTTSEへの切り替えを促す文書を送付したという。市は昨年5月、クリーンエネルギーの普及を目指しNTTSE、北九州パワーなどと連携協定を締結。市地域エネルギー推進課は「地域の太陽光エネルギーを地域で使う全国的にも珍しい取り組み。補助金世帯の半分に当たる1万キロワット分を切り替えてもらうのが目標だ」としている。 *19-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/503400 (佐賀新聞 2020.3.23) 「アビガン」、7日で7割回復、軽症者に中国チーム インフルエンザ薬「アビガン」が新型コロナウイルスに感染した肺炎患者の治療に有効だとする研究成果を中国・武漢大などのチームが23日までにまとめた。軽症者に限ると投与後7日以内の回復率が7割を超えた。多くは4日間で症状が消えた。チームは「高血圧や糖尿病など持病がある人には、早期の症状改善が重要だ」として、有望な薬剤だとしている。中国は既にアビガンを政府の診療方針に採用することを表明している。チームは2月から3月にかけ、同大病院など三つの病院で18歳以上の116人の患者に対しアビガンを投与。1日当たりの用量はインフルエンザ治療と同じにして、熱やせきなど症状が出てから12日以内に錠剤を飲んでもらった。1週間後の状態でみると、98人いた比較的軽い患者では70人(71%)が、18人いた重症者の中でも1人が回復した。全体では61%の回復率だった。副作用は37人で出たが、尿酸値の上昇や肝機能の数値の異常などで深刻なものはなく、退院時には正常に戻ったという。アビガンは日本の製薬会社「富士フイルム富山化学」(東京)が開発。日本国内でも臨床試験が進められている。 *19-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200323&ng=DGKKZO57054110Q0A320C2CR0000 (日経新聞 20200323) 無許可再生医療、功を焦った末に、大阪医科大元講師に罰金命令 学会、動画で「注意を」 大阪医科大(大阪府高槻市)元講師の男性医師(52)が、無許可施設で人の幹細胞を培養する再生医療をしたとして再生医療安全性確保法違反の罪で略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けた。背景には研究資金のメドが立たずに成果を焦ったことがあるとみられている。再生医療をめぐるトラブルを防ぐため、学会は受診者向けの動画などを公開して注意を促している。「人に投与して効果や安全性が確認できれば、新治療薬が視野に入る」。大阪府警に逮捕された元講師は調べにこう供述したという。府警や大学によると、元講師は2019年3~5月、無許可施設で4人から採取した脂肪幹細胞を培養。4人のうち40代女性に対して培養した脂肪幹細胞を国に無届けで投与したとされる。元講師は略式起訴され、簡裁は2月28日付で罰金30万円の略式命令を出した。脂肪幹細胞は骨や筋肉などの細胞や組織になる能力を持つ。元講師は脂肪幹細胞に薬剤を取り込ませて能力を高める技術を開発し、大学も16年以降、特許を申請した。培養にはその技術を用いていたとされるが、効果はマウスでしか確認されていない。元講師は府警の調べに「培養施設の新設には膨大なコストがかかる」と供述。一連の施術は医療設備のない研究棟の廊下で行われており、捜査関係者は「実現したい研究計画に対して資金が足りず、委員会の審査にかけても通らないと思っていたのだろう」とみる。再生医療はこれまで治療できなかった病気やけがの回復が期待される。一方で、保険適用外の自由診療として安全性や効果が不透明なまま治療が行われている実態があった。京都市の民間クリニックで治療を受けた外国人男性が死亡したとの報告例もある。こうした状況を改善するため再生医療安全性確保法が14年に施行された。医療機関などに対し、専門家による委員会の審査を経た再生医療の提供計画を国に提出するよう規定。計画に基づかずに医療行為を実施した医師などには懲役や罰金を科すと定めた。同法施行後の17年には、他人の臍帯(さいたい)血を国に無届けで投与したとして、東京都内のクリニックの医師ら4人が有罪判決を受けている。アンチエイジングなどの治療を目的に安全性が確立されていない方法で投与したとされる。日本再生医療学会は今後、「認定医」の資格を持つ大阪医科大の元講師を除名とする方針だ。同学会理事長の澤芳樹・大阪大教授は「再生医療安全性確保法は研究者の安易な臨床研究を防ぐ抑止力にもなっている。法令順守を徹底させる仕組みの議論が必要になるのではないか」と話す。同学会は事件後、再生医療を受けることを検討している人向けに、国に届けられた全ての提供計画を見ることができる同学会のポータルサイトを確認するよう注意を促した。3月には再生医療を受ける際の注意事項をまとめた動画も公開し、自由診療を受ける際に「届け出がなされているか」「予期される効果や危険」などを確認するよう呼びかけている。 *19-8:https://digital.asahi.com/articles/ASN3B5WR9N32UTFL01G.html?ref=weekly_mail_top (朝日新聞 2020年3月15日) 障害ある子生まれ「おめでとう」と言えますか 木村議員 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者19人の命が奪われるなどした事件の判決が、16日に予定されている。元職員である被告の言葉をどうみるか。事件が繰り返されないためには――。重い身体障害があり、18歳までの大半を施設で暮らした、れいわ新選組の木村英子参院議員(54)は、障害のある子の誕生に「おめでとう」と言える社会かどうかを問う。どういうことなのか。 ●殺されていたのは私かも 彼の言葉は心の傷に触れるので、集中して公判の報道を見ることができませんでした。施設にいたころの傷ついた自分の気持ちに戻っていくのです。 △裁判で被告は「意思疎通のとれない人は社会の迷惑」「重度障害者がお金と時間を奪っている」などと語った 彼が言っていることはみなさんにとっては耳慣れなくて衝撃的なのでしょうが、同じような意味のことを私は子どものころ、施設の職員に言われ続けました。生きているだけでありがたいと思えとか、社会に出ても意味はないとか。事件は決してひとごとではありません。19歳で地域に出ていなければ、津久井やまゆり園に入所していたかもしれない。殺されていたのは私かもしれないという恐怖が今も私を苦しめます。私は横浜市で生まれ、生後8カ月のときに歩行器ごと玄関から落ち、首の骨が曲がる大けがをして重い身体障害を負いました。小学5年から中学3年の5年間を除き、18歳までの大半を施設で暮らしました。入所は親が決めました。重い障害のある私に医療や介護を受けさせたいという責任感と、施設に預けなければ家族が崩壊しかねなかった現実からです。私には24時間の介護が必要です。親は疲弊し、一家心中をしようとしたことも何度かあった。親が頼れるのは施設でした。やさしい職員もいましたが、私にとっては牢獄のような場所でした。施設が決めた時間に食事をしてお風呂に入って、自分の暮らしを主体的に決めることがない。食事を食べさせてもらえないことも。一番嫌だったのは「どうせ子どもを産まないのに生理があるの?」という言葉です。全ての施設がそうだとは思いませんが、私がいたのはそういう施設でした。時代が変わっても施設とはそういうものだと私は思っています。プライバシーも制限され、自由のない環境で希望すら失い決まった日常を過ごす利用者を見た人たちが、「ともに生きよう」と思えるでしょうか。偏見や差別の意識が生まれたとしても不思議ではありません。私は、被告だから事件を起こしたとは思えない。 ●公園で浴びた排除の視線 △裁判では、新たな事実が明るみに出たものの、事件に及んだ動機や真相は十分には解明されなかった。同じような事件を繰り返さないためにどうすればいいのか 被告を罰しただけでは社会は変わらない。第2、第3の被告を生まないためには、子どものころから障害者とそうでない人が分け隔てなく、地域で暮らせる環境をつくることが必要です。私が望むのは、障害のある子どもが生まれたとき、「おめでとう」と言える社会。私は親から施設に捨てられた、歓迎されない命だという思いを抱いて生きてきました。うしろめたい存在だと思うことも、絶望感のなかで仕方のないことだとあきらめていた。歓迎されない命などない、と気づいたのは19歳で地域に出てからです。23歳で結婚し、息子を出産しました。不安だったのは、子どもをかわいいと思えるかでした。母に抱かれた記憶があまりない私は、母に対する愛情が持てなかった。でも出産した時は、子どもへのいとおしさがこみあげました。公園デビューをしたときのことです。息子と子どもたちが砂場で遊んでいるのを、車いすに乗った私が近くで見ていました。だれも私が母親だとは思っていない。私が息子に声をかけ、私が母親だとわかった瞬間、周りのお母さん方が自分の子どもを抱き上げて帰ってしまった。自分の子どもが私に近づくと「そっち行っちゃダメ」。小学校の授業参観でも教室が狭くて、他のお母さんたちが入れないので「詰めていいですよ」と言っても、半径1メートル以内には近寄ってこない。私と関わると厄介なことになる、巻き込まれたくない、といった意識が働くのでしょう。本人たちは差別とは思っていませんが、あからさまな差別です。障害のある人とそうでない人を分けることによってお互いが知り合う機会を奪われることから差別は生まれます。社会から排除することそのものが差別なのです。地域で暮らして35年。福祉サービスは増えましたが、重度訪問介護が就労中などに公的負担の対象外だったり、移動支援が自治体により差があったり。普通学校への入学が重度障害を理由に認められない例もある。こうした課題をみんなで解決できたとき、障害のある子が生まれて「おめでとう」と言える社会になる。それが事件を乗り越えることになるのではないでしょうか。 *19-9:https://webronza.asahi.com/science/articles/2017122900002.html (論座 2018年1月5日) 中国が科学で世界一になる時代、上海から日本の未来を考える 須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学) 2017年12月に、太陽系外惑星に関する上海の国際会議に出席した。すでに様々なところで繰り返し述べられていることではあるが、中国の発展の凄まじさを改めて実感したので、その体験をいくつか紹介してみたい。私が初めて中国を訪れたのは今から20年前の1998年。ドイツのマックスプランク協会が上海天文台に宇宙論のグループを設立することになり、その準備を兼ねた国際会議を開催した。当時、私の研究室で博士研究員をしていた景益鵬氏が2年後にそのグループリーダーに抜擢されることになったので、その会議に招待されたのだった(彼はその後も優れた研究を継続し、数年前に中国科学アカデミー会員に選出されたほどの大活躍をしている)。 ●研究レベルは着実に進歩 正直なところ、当時の中国の天文学研究レベルはかなり低かった。その会議でも、中国側の研究発表は年長者ばかり。すでにあまり意味がないような古いテーマを、しかもほとんど聞き取り不能な英語でしゃべるのみであった。もちろん優れた中国人研究者も参加してはいた。しかし、彼らはほぼ例外なしにアメリカやヨーロッパで学位を取得し、外国にとどまって研究を続けていた。当時は、特に優秀な層ほど、中国に帰って研究するという発想など論外だったのだ。この会議のみならず、初めて上海を訪れた際に私が受けた印象はかなり強烈であった。信じられない数の自転車が道路を占拠している。バスや車の運転は荒く、信号が赤になり歩行者が道路を横断し始めようと、止まる気配はない。横断歩道では緊張しながら全力で走った。街中の至る所でビルが建設中で、土埃だらけ。そのなかを、自転車の荷台に生肉を平気でくくり付けて配達中の人々をしばしば見かけた。にもかかわらず、衛生状態を疑うようなお店であろうと、驚くほど美味しい料理をしかも日本の20分の1から30分の1の値段で提供してくれた。観光客向けの店で、お土産を買おうとしたところ、女性がレジの前の机に顔を伏せたまま眠りこけていて起きる気配がない。何度も声をかけたあげく、ようやくその奥でおしゃべりをしていた別の女性が近づいてきて、のろのろと対応してくれた。しかし、支払いの際にはお釣りを投げつけるように返された。客などありがたいどころか、逆に労働をさせられる邪魔な存在だったのだろう。19世紀後半から20世紀前半における外国人居留区であった外灘は、上海の有名な観光地の一つである。川を隔てた向こう側には当時からすでに多くの高層ビルが立ち並ぶ、近代的エリアとなっていた。景氏によれば、船で5分もあれば向こう岸に渡れるというので、行ってみることにした。改札は無人だったので購入した切符を投入口に入れると、どこからか「謝謝」という声がする。しかしどこにも人がいる気配はない。驚くべきことに切符を投入すると自動的に音声が流れる近代的仕組みだったのだ。景氏と一緒に「上海で親切なのは機械だけだ」と大笑いしたことをよく覚えている(むろん、今や中国のサービスのレベルは著しく向上しており、さすがに日本ほどではないにせよ、欧米の平均レベル程度にはなっている。)。その後、今回を含めて中国には5回訪問した。そのたびに、研究レベルが着実に進歩していることを実感した。過去20年間にわたり、中国政府は景氏のように外国で活躍した研究者を呼び戻す方針を立て、多額の資金を注入した。高給で迎えられた彼らは、新たなグループを次々と立ち上げ、そこには若い優秀な中国人学生が集まった。しかも彼らは在学中に1、2年間、ヨーロッパやアメリカの大学に滞在して共同研究をし、場合によってはそこで学位を取得する体制まで確立している。おかげで、中国国内の学生や博士研究員の研究と英語のレベルが著しく向上した。そもそも、中国のトップレベルの学生は、意欲と自信に満ちており、熱心というよりもむしろ貪欲に研究する。その迫力は、少なくとも私の周りの日本人(私自身も含めて)とは雲泥の差である。実は、太陽系外惑星の研究グループはまだ中国にはほとんど存在していない。一方、この分野には、中国出身でアメリカの主要大学の教授として活躍している研究者が数多い。彼らは、中国の大学の客員教授を兼任しながら、多くの中国人学生や博士研究員を指導し、さらにアメリカで受け入れることで、最先端の研究を展開している。この分野は、歴史的には日本の研究レベルがかなり高いのだが、外国で活躍する中国人による研究まで合わせれば、中国はすでに日本を凌駕してしまった感すらある。 ●世界の覇権を握る戦略 さて、過去20年間でなぜ中国の科学がここまで飛躍的発展を遂げることができたのか。これはすでに数多く議論が展開されているはずなので、ここでは私が直接見聞きした現場からの印象に限って紹介してみたい。 【A 政策】 中国政治家のトップはほぼ理科系出身で占められている。そのためかどうかはわからないが、科学・技術の発展を通じて、中国を世界一の大国にするという意思が確立し共有されている。つまり科学を発展させることは良いことだ、などといった甘い価値観ではなく、それ自身が国家にとって本質的な「投資」だとみなされている。巨額の予算を要する科学プロジェクトが比較的容易に認められる。特に、「世界一」というスローガンをもつプロジェクトは最優先である。科学・技術の発展を通じて中国を世界一にするための人材を育成する大学には、過去10年以上、毎年の中国の経済成長率以上の割合で予算が増額され配分され続けている。この間、大学の運営交付金が1割以上削減された日本とは雲泥の差である。 【B 予算】 さらに科学・技術研究には中央政府のみならず、市からも独自に巨額の予算措置がなされる。特に大都市にある有名大学は、中央政府からの交付金と同額以上をそれぞれの市からも支給されている。北京大学や上海交通大学には北京市や上海市に居住していない学生の入学定数が厳しく決められている(実は、東京大学に入学する中国人学生のかなりの割合は、中国のトップ大学に入学が制限されている地方出身の優秀な学生層なのである)。これには不公平であるとの批判も多い一方、大学がそれぞれの市の多額の税金によって援助されている事実の反映でもある。このように、大学や科学・技術研究には、企業はもとより、様々なレベルの公的組織や団体から手厚い財政的サポートがなされている。これもまた、基本的には政府機関に財布の紐をきつく縛られている日本の大学とは雲泥の差である。 【C 報酬】大学教員の給料が高い。過去数年間で平均的に5割以上は増額されている上、最近中国で高騰している住宅が格安で提供される(かつては5年以上勤務すると、借りていたアパートの所有権を得ることもできた。上海や北京の中心部にあるそれらは今では一億円以上の資産価値となっているものもあるらしい)。さらに、研究者の給料は、論文の出版数はもとより、どの雑誌に出版されたか、どれだけ引用されたか、などの具体的数値指標によって大きく左右される。特に、NatureやScienceなどのいわゆる一流雑誌に掲載されると、1年分の給料に相当するボーナスが与えられることもある。その結果、研究者がこぞって良い論文を良い雑誌に出版しようとやっきになっているのだ。北京のある有名な天文学研究所に就職した米国人研究者から、中国ではあまりに競争が激しいため自分もまた他の同僚も疲弊しきっているという話を聞いた。しかし、研究者の絶対数が多いおかげで、そのような自然淘汰が適者生存につながり、トップの研究レベルが飛躍的に向上し続けているのも事実である。日本から見ると、【A】と【B】は羨ましい限りである。しかも、科学・技術は最終的には人類平和のためとかいった「哲学的」あるいは「倫理学的」論理ではなく、中国が世界の覇権を握るためになすべき最大の投資との透徹した明確な戦略のもとに進められている点も、ある意味では清々しいほどだ。仮に日本で【C】のような行き過ぎた業績主義が提唱されれば私は断固反対する。それは長い目で見れば、深い科学の発展を阻害するに違いないからだ。しかしながら、私のような牧歌的科学感をよそ目に、日本ではありえないほどの成果主義を取り入れた結果、過去20年間で中国の科学がトップに躍り出たことは紛れもない事実である。少なくとも、極めて低い研究レベルを短期間に引き上げる政策としては、もっとも効率の高いやり方であったことは認めざるを得ない。今後、日本でもこの業績主義が議論される可能性が高いのであえて付け加えておくならば、優れた研究者に相応の報酬をという点は必ずしも否定するものではないが、それは中国のように単純に総額もプラスの場合である。日本の場合は、ゼロサムルール、さらにはネガティブサムルールが前提なので、結果として、次世代を担う若手研究者を減らすあるいは冷遇することになる。これでは中国の場合とは全く異なり、全体としては百害あって一利なしである。研究者は決して高給をめざして研究しているわけではないからだ。 ●「資金に制限無し」 ところで、現在の中国はインターネット閲覧規制が厳しい。グーグル、日本経済新聞、讀賣新聞などのサイトには全く接続できない(朝日新聞、毎日新聞には問題なくアクセスできる。これは何となく分かる気もするのだが、産経新聞も同じくサクサク読めてしまうので、いかなる基準で判定しているのか、個人的には興味深い)。私は通常、gmailを使用しているので、とても困った。結局ある方法でなんとかアクセスできるようになり事なきを得た。おかげで、自分の日常が、いかにある特定の組織に依存、というか支配されているのかを思い知ることとなった。外国人が中国に行くと、グーグル検索ができないことで、中国では思想や自由が制限されていると、違和感を抱き、当然批判する。しかし、中国には、百度というグーグルに対応する検索サイトがあるので、中国人はまったく困っていない。中国政府の方針に沿った活動をしている限り、全く不自由はないのだ(しかも、自由に外国のインターネットサイトにアクセスするための方法も存在するので、必要な人々は外国からほしい情報を得ている)。その意味で、科学・技術研究に没頭している限り、現在の中国は世界で最も恵まれた国といえる。科学者に限らず、今回の滞在を通じて、大半の中国人は現在の体制に満足しているという印象をもった(むろん、少数民族や地方の労働者など、政府の方針を支持しない、あるいは大都市以外に住む人々はその限りではないのだろう。私の知っている中国人が、ある意味では現代中国の方針とうまく適合している層に偏っているのも事実ではある)。今回の会議は、新しく設立されるT.D.Lee研究所(T.D.LeeはC.N.Yangとともに、弱い相互作用におけるパリティーの非保存を理論的に予言し、それが実験的に確かめられたことで1957年のノーベル物理学賞を受賞した素粒子物理学者)に、天体物理学グループを立ち上げるお披露目会をも兼ねていた。上海市の完全な資金援助のもと、上海国際空港の近くの浦東市に広大な敷地を提供され、高層ビルを建築中である。会議冒頭の挨拶では、景氏が「この研究所では、実質的にスペースも資金もunlimitedである。優れた研究者を大歓迎する」と述べて、出席者をどよめかせた。このような状況では、今後、日本が中国に一層差をつけられるのは避けようがなかろう。科学・技術において世界のトップに立つべしとの価値観が正しいかどうかは別としても、やはり投資なくして成果はありえない。しかも投資は、すでに成功した人にではなく、これからの可能性を秘めた若者に広く厚く行うべきである。教育と研究に関する人的および財政支援を削減し続けておきながら、成果主義を振りかざして研究者に責任を押し付ける日本政府にこそ、中国政府の透徹した科学・技術戦略を少しは学んでほしいものだ。 *19-10:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200326&ng=DGKKZO57237170V20C20A3TJ1000 (日経新聞 2020.3.26) 動き出す「全日本造船」構想、今治・JMU提携を端緒に浮上 大再編 中韓勢に対抗 造船業界で再編が加速している。27日には首位の今治造船(愛媛県今治市)と2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)が共同で開発・営業会社を設立し資本提携を発表する。三菱重工業も造船事業の大幅縮小を決めた。背景にあるのが韓国・中国勢との競争だ。切り札として国内の主要15社の造船会社を集約し「オールジャパン造船」をつくる構想も水面下でくすぶる。日本のものづくりの象徴だった造船は、生き残りに向けた最終段階に入った。「韓国にやられてきた状況で、さらに受注がストップしている。底が見えない」JMU幹部は危機感を募らせる。造船業界では受注残を示す手持ち工事量が1800万総トンを割り、20年ぶりの低水準に達した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で造船の国際見本市は相次ぎ中止となり、欧州などの船主と商談すらできない。世界の造船は大型再編へと突き進んでいる。中国首位の中国船舶工業集団(CSSC)と2位の中国船舶重工集団(CSIC)が経営統合し、韓国は現代重工業が大宇造船海洋と統合作業を進める。両陣営だけで世界の建造量で4割のシェアを占めるが、日本は中小造船所が乱立している。「受け皿を一本化しないと入札すらできなくなる」。国土交通省の関係者は語る。大型船では韓国メーカーが4~5隻を一気に大量受注して傘下の造船所で分担建造する動きがある。規模に乏しい造船所はいまや受注そのものに参加できない。こうした中、国交省主導で業界と共に模索が始まったのが造船の「オールジャパン構想」だ。日本には約50カ所の造船所があるが、まずは開発や設計・受注などの上工程を一本化し、建造業務を分担。最終的には造船所の閉鎖や集約を目指す。国内造船は総合重工系と独立系に大別できる。JFEホールディングスとIHIが造船事業を統合したJMUのほか、三井E&Sホールディングス(旧三井造船)や三菱重工業が総合重工系の代表格。独立系は今治造船、大島造船所(長崎県西海市)、常石造船(広島県福山市)などがある。これらを含む主要15社が仮にまとまると建造量シェアは世界で2割と、中韓の首位グループに並ぶとみられる。試金石はJMUと今治が折半出資で設立する開発・営業新会社だ。中韓勢と同じ土俵で競うことが業界共通の課題となるなか「同陣営への集約も視野に、造船所の再編が始まる」とみる関係者は多い。航空事業などへのシフトを進めるなか、重工系は造船事業の縮小に乗り出している。三菱重工は創業の地である長崎造船所・香焼工場(長崎市)を大島造船所に売却する。IHIは愛知工場(愛知県知多市)を閉鎖したほか、三井E&Sは千葉工場(千葉県市原市)の造船からも撤退した。そんな中、大再編の主役に躍り出たのが今治造船だ。丸亀事業本部(香川県丸亀市)にある全長610メートルのドックを中心に、瀬戸内海の造船所を取りまとめる。描くのは「複数の部品を受け持ちし、瀬戸内海全体を1つの巨大な造船所とみなして受注を獲得する戦略」(造船大手幹部)。「瀬戸内海連合」は韓国を追う手立ての一つだ。その今治造船とJMUが手を組むことで連合が全国規模に広がる。これまでもオールジャパン構想は浮かんでは消えていたが「受注が枯渇し、今回こそは業界を変えようという危機感が強い」(大手造船会社役員)。布石はすでに打たれている。国交省などは造船の協業・提携に必要な投資などを補助する策を検討している。再編の引き金になりそうなのが環境規制への対応だ。国際海事機関(IMO)は20年からの硫黄酸化物規制に加え、50年に08年比50%の二酸化炭素排出削減を迫る。「まず環境技術で日本勢同士の協力が必要」(日本造船工業会の斎藤保会長)との声は強まっている。造船各社の受注残は1年半分ほど。JMUは20年3月期の純損益が360億円の赤字を見込むほか、三井E&Sも同期の連結最終損益が3期連続で赤字の予想だ。業界再編のタイムリミットはすぐそこに迫っている。 <グローバルで勝つためには?> PS(2020.3.27追加):*20-1のように、新型コロナの感染拡大によってヒト・モノが国境を越えられなくなったことで、世界の株式時価総額が1月に比べて米国・日本のGDP合計を上回る30兆ドル近くも吹き飛んだそうだが、株式時価総額は将来性に関する気分が影響する数字であって実体経済ではないため、多いからと言って生活に役立つわけではない。また、外国の製品に依存しすぎている現在、技術維持のために自給率向上や国産化を志向するのは当然であり、島国化を志向しているわけではない。それより、国際協調を叫んでみても、独立して力強く生きられる国が協調するのではなく、他者に依存しなければ生きていけない国が集まっても、力強い協調にはならないので、むしろ邪魔者扱いされるだろう。そのため、「独立して力強く生きられる国になれば、生活水準を落とす」という状態を変えなければならないのである。なお、多くの日本企業は、千載一遇の幸運があったおかげで、グローバル化の担い手になる実力を持っているが、強いままでいられるためには、合理的な経営を続けることが不可欠である。そして、合理的なグローバル経営は、①市場の大きな国で ②市場に合った製品を安価に作り ③できるだけ税金の安い国で利益を出して利益を最大化し ④次の有望な投資に繋げること であり、日本は②③が劣っている上、変な規制や不合理な邪魔が多いため、④の有望さもなくしているわけだ。 なお、*20-2は、「⑤2018年度の日本企業の内部留保が金融・保険業を除く全産業で463兆円となり過去最高を更新した」「⑥しかし、設備投資は2001年度がピークでその後は5%近く減少したままである」「⑦従業員への賃金支払い減少で国内市場は縮小し、企業は海外に出ていくという悪循環が生まれた」「⑧そのため内部留保課税すべき」としている。しかし、2000年以降は従業員への賃金支払いも減少したかもしれないが、年金支給額も減ったため、日本は①の市場がしぼみ、それでも②③は新興国と比較して高いため、④の有望な投資先でなくなるという悪循環に陥っている。つまり、国民から高い税金をとり社会保障を削減して、国が生産性の低い事業(原発・辺野古埋立等々)につぎ込めばつぎ込むほど、全体の生産性が低くなり、さらに有望な市場ではなくなって、企業・産業・金を追い出すことになるわけだ。 *20-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200327&ng=DGKKZO57276300W0A320C2MM8000 (日経新聞 2020.3.27) コロナ危機との戦い(5)「島国化」は繁栄生まぬ 世界の株式時価総額は一時、1月に比べて30兆ドル近くも吹き飛んだ。失われた富は、米国と日本の年間国内総生産(GDP)の合計を上回る。新型コロナウイルスの感染拡大で、ヒトやモノが国境を越えられなくなることが、どれだけ深刻かが目の当たりになった。人は、旅行にも出張にも、出稼ぎにも留学にも行けない。外国の製品を注文しても届かない。企業は、外国からの部品の調達も有能な人材の採用も難しい。経営者は業績の見通しすら語れず、雇用を減らし、株安で人々が保有する財産の価値を傷つけている。「悪いのはウイルス」。確かにそうだが、混乱はいずれ起きていたのではないか。それほど世界の分断は進んでいた。起点は2016年にある。英国が欧州連合からの離脱を決めた「ブレグジット」と、米国第一主義を掲げるトランプ氏が大統領選を制した年だ。それ以降の世界は貿易戦争の連鎖など内向きの姿勢だけが目立った。世界は「島国化」、つまり外国との交流を好まない島国の集合体にすら例えられるようになった。コロナ危機は今、「16年体制」に共感した人々に問いかけている。「生活の水準を落としてでも島国化を進めたいのか」と。「もちろん」と自信を持って答えられる人は激減しているだろう。焦点は強制的な分断が解ける「コロナ後」だ。内向きの根底にある人々の不満を抑え、今度こそグローバル化を持続的にできるかどうか。覇権主義と結びついたグローバル化は反発を受けるだけだ。中国が「ワン・チャイナ」を押しつけたからこそ、香港人は大規模デモで逆襲した。大企業のエゴも障害だ。低コストのみを追った途上国での劣悪な労働環境、地元での雇用や納税を軽んじる姿勢での海外進出……。ゆがんだグローバル戦略への批判は世界的な資本主義の見直し論議に発展している。多くの日本企業にはグローバル化の担い手になるチャンスがある。欧米企業と異なり、海外企業を買収する豊富な現金がある。国内の人口減で課題だった海外市場の開拓を進めるときだ。2008年のリーマン危機で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は破綻寸前の米モルガン・スタンレーに出資した。モルガンはその後、MUFGの連結利益を年平均1000億円以上押し上げてきた。株価の暴落は、それ以降の世界を変える。リーマン危機の際、世界は保護主義への誘惑を断ち、逆に20カ国・地域(G20)が新たに連携して危機を封じ込めた。1929年10月24日の米株価大暴落「暗黒の木曜日」は、世界恐慌を招いた。保護主義が経済のブロック化を経て第2次世界大戦につながった。収まらない米中の緊張や、原油産出量の調整に背を向けたサウジアラビアやロシアの姿勢には、当時のきな臭さがある。大強気相場の死と繁栄の時代の終わり――。フレデリック・アレンは20年代の米国の熱狂と終幕を描いた「オンリー・イエスタデイ」で、29年の暴落をこう位置づけた。強気相場は去ったが、繁栄まで終わりにしてはならない。 *20-2: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200305&ng=DGKKZO56376870U0A300C2KE8000 (日経新聞 2020.3.5) 積み上がる内部留保(下)年間増加分に課税も一案 小栗崇資・駒沢大学教授(おぐり・たかし 1950年生まれ。中央大法学部卒、明治大博士(商学)。専門は会計学・経営分析) <ポイント> ○00年度までは売上高増を設備投資に充当 ○人件費削減と法人減税で内部留保が急増 ○設備投資や賃上げに活用なら控除可能に 財務省「法人企業統計」によると、2018年度の日本企業の内部留保は金融業・保険業を除く全産業ベースで463兆円となり、過去最高を更新した。本稿では、なぜ内部留保は増え続けるのか、その活用は可能なのかを考えたい。内部留保とは当期純利益から配当を差し引いた残りの利益で、企業内に蓄積された分をいう。利益剰余金として開示されるのが「公表内部留保」だ。さらに法人企業統計は、引当金・準備金やその他資本剰余金などを付加したものも内部留保としており、これに資本準備金を加えたものを「実質内部留保」とする。内部留保は企業にとっては設備投資などに活用可能な内部資金となる。内部留保の形成過程や使途をみることは、日本経済の資金面の状況を明らかにするのに重要な手掛かりとなる。ここでは資本金10億円以上の約5千社(金融業・保険業を除く)の内部留保をみる。大企業は全法人の2%に満たないのに、その内部留保は234兆円(利益剰余金)と日本全体の半分を占めており、内部資金の動態を決定づけている。図は内部留保の歴史的推移を、経済の節目ごとに区切って示したものだ。1971~85年度は通貨危機や石油危機の影響で高度成長が減速し、景気回復を経てバブル直前に至る段階だ。内部留保の要因となるのは大幅な売上高の増加(4.7倍)で、公表内部留保は28兆円増えている。実質内部留保や借入金も加わり、使途としては設備投資が71兆円増加している。1986~2000年度はバブル経済の隆盛と崩壊後の不況に陥る段階だ。売上高が1.5倍増となったのを要因に、公表内部留保は52兆円増えている。実質内部留保も加わり、使途としては設備投資が115兆円増加している。不況下でも内部留保が積み上がり、設備投資がかつてなく増大した。2つの段階の共通した特徴は、内部留保の主たる要因が売上高の大幅な増加にあった点と、その使途が設備投資だった点にある。だが2001年度以降の段階は様相が一変する。2001~18年度はかつてなく膨大な内部留保が形成され、1986~2000年度と比べて3倍近くに激増した。それ以前の段階と異なり、主たる要因は売上高増加ではない。売上高は1.1倍程度とほとんど伸びていないのに、なぜ多額の利益が生まれ、内部留保は急増したのだろうか。要因は2つある。一つ1990年代末から始まった非正規雇用の拡大や賃金削減による人件費削減だ。福利厚生を加えた従業員1人当たりの給付は2001年度の763万円をピークに減り続け、2009年度には668万円まで落ち込んだ。ここ数年上昇がみられるが、現在も700万円を切る状態にある。人件費削減により売上高が増えなくても利益が増える仕組みがつくられた。仮にピーク時の763万円が毎年、従業員全員に支払われたと仮定し、実際の給付額との差を計算すると、18年間の差額合計は82兆円にのぼる。そうした人件費削減分が内部留保に回ったとみることができる。もう一つの要因は法人税減税だ。法人税率は1997年度まで37.5%だったが、段階的に引き下げられ現在では23.2%にまで低下している。住民税、事業税を加えた法人3税の実効税率(東京)でみると1997年度の49.98%から大幅に低下している。仮に49.98%の実効税率が続いていたとすると、2001~2018年度の18年間で実際の税額との差額合計は46兆円となる。税負担にならなかった分がやはり内部留保に回ったとみることができる。海外子会社からの配当なども加わるが、公表内部留保増加分149兆円の大半(128兆円)は2つの要因から生み出されている。さらに実質内部留保増加分44兆円も加えた内部資金は何に使われたのだろうか。2001年度以降の内部留保の主な使途は設備投資ではない。設備投資は2001年度がピークで、それ以降は5%近く減少したままだ。それ以前は、内部留保は設備投資に回っていたが、2001年度以降は主に金融投資や自社株買い、子会社投資、M&A(合併・買収)に投入されている。なお、海外子会社での設備投資については別途検討が必要だ。このように内部留保の構造は大きく変化している。21世紀に入って以降、日本企業は売り上げ増でなく、人件費削減や法人税減税から得た利益を内部留保に回し、設備投資ではなく金融投資や子会社投資に投入している。その結果、従業員への賃金支払いの減少により国内市場は縮小し、企業は海外に出ていくという悪循環が生まれている。内部留保が設備投資に投入され雇用が生まれるのを「良い内部留保」とすれば、金融投資などに回るだけで雇用や市場拡大につながらない内部留保は「悪い内部留保」と言わざるを得ない。膨大な内部留保は、不況やグローバル化に対する恐怖心を契機に生まれたが、国内に投資先が見いだせないまま今日では「金余り」の状態にある。それは富の偏在を通じて格差を生み出す結果をもたらしている。それでは、内部留保をどのように社会的に活用すべきだろうか。有効活用を求める声は高まっているが、残念ながら個々の企業の自主性には期待できない。そこで考えられるのが内部留保への課税だ。日本の税制は法人擬制説に立っており、利益はすべて株主に配当されることを建前とする。利益には1段階目で法人税が課され、2段階目で株主に回った配当に所得税が課される。内部留保課税は「二重課税」という批判があるが、日本企業は配当よりも内部留保の割合が高く、2段階目の多くの部分に課税されていない。内部留保課税は、2段階目の所得課税を補完するものであり「二重課税」ではない。米国では1930年代のニューディール政策の一環として内部留保課税が導入され、現在まで続いている。配当を支払わず合理的な必要なしに留保された利益に課税される(税率20%)。日本での同族会社(資本金1億円以上)への内部留保課税と狙いは同じだが、全法人に適用される。近年では、台湾でも98年から実施され(現行税率5%)、15年からは韓国でも実施されている(現行税率22%)。いずれもフローベースで、毎期の内部留保の増加分に課税される。台湾では全法人が対象となり、未配当利益に控除なしに課税される。韓国では自己資本500億ウォン(約45億円)超の約4千社が対象となり、設備投資や賃上げに活用した場合は控除される。台湾では配当を促進する効果、韓国では設備投資や賃上げを促すインセンティブ(誘因)を持つと考えられる。日本では個人株主が少なく配当促進効果が期待できないので、韓国型の内部留保課税が参考になる。仮に資本金1億円以上の法人の内部留保増加分(20兆円)に控除を経て税率20%で課税した場合、毎期3兆円の税収が見込まれる。内部留保の社会的活用を目的とし、教育や研究、社会保障などのために利用することで、企業や国民の同意を得られるのではないか。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 09:26 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2019,09,09, Monday
![]() ![]() ![]() ![]() 2018.11.17・2018.12.21産経新聞 2019.8.31東京新聞・毎日新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本の国家予算は増加の一途を辿り、左から2番目の図のように、2019年度予算は100兆円を超えて2/3は税収だが残り1/3は国債で賄われている。従って、国の財政状態と収支の状況を正確に知って合理的な管理をするため、国際会計基準に従った公会計制度を導入することが急務だ。さらに、2020年度については、右の2つの図のように、日本の国家予算は105兆円を超えそうだ) (1)日本の国家予算と公会計制度 1)国家予算総額とその決め方について *1-1・*1-2のように、2020年度の政府予算概算要求が出そろい、総額105兆円規模になるそうだ。多くのメディアや経済評論家は、総額30兆5千億円と支出額が最大の年金・医療を無駄遣い扱いしているが、本当は支出の内訳を見なければ、そのうちのどれが無駄で本当に必要なのかを判断することはできない。そして、これは民間では当然やっていることなのである。 また、国債費の支払いも借金を返済している部分と利子を支払っている部分がごっちゃになっているため、これによっては財政状態がよくなったのか悪くなったのかさえ判断できない。しかし、現在なら、借り換えして利子の支払を限りなく0に近づけることができる筈で、これも民間企業なら当然やっていることだ。 このように国の財政状態も歳出の効果も不明になる理由は、国が現金主義に基づく単式簿記を使っており(小使い帳方式)、発生主義に基づいた複式簿記によるコストセンター毎の会計(民間はすべてこちら)を行っていないからだ。そして、予算と言えば集団毎の分捕り合戦になるが、単に総額が大きいだけで「社会保障費が無駄遣いの根源だ」などと言うのは間違っており、私は単なる景気対策の支出こそが効果の薄い無駄遣いだと思う。 さらに、国の歳入も消費税を別枠にする国は他に無いし、消費税を上げて生産性の低い景気対策目的の支出を行っていては、いつまでたっても国全体の生産性が上がらない上、国の収支や財政状態も改善しない。私は、既に先進国となり、世界に先駆けて高齢化しつつある日本で最も効果的な成長戦略は、消費税を廃止又は低減させ、年金も減らさずに民間の可処分所得を増やし、市場で本当に必要とされ選ばれる製品やサービスに力を入れることだと考える。何故なら、これらは、後に他国でも必要とされ喜ばれるものだからだ。 そのため、消費税を増税して景気対策に支出するのは、①消費税増税が自己目的化している ②景気対策と称して選挙に有利な支出を増やしている ように見える。 2)農林水産業の補助金について ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:1番左の図は改良型風力発電機で、2番目の図はハウスに設置した太陽光発電機だ。また、右から2番目の図のように、植物の生育に必要な青と赤の光を通し、不要な緑の光で発電するシースルー型太陽光発電機もできた。一番右の図のように、薄膜型太陽光発電機の応用分野は農業を含めて広い) 私も、*1-3に書かれているとおり、食料・農業・農村基本計画は、食料自給率向上を重視するとともに、農林水産業は地域の重要な産業であるため地域政策もあわせて考えるべきだと思う。そして、今までそうなっていなかった理由は、農水省等の中央省庁で政策を考えている官僚の多くが都会育ちで、地方の事情に無関心だからだろう。 そして、前に書いたとおり、人口減少と高齢化によって日本の食料自給率は向上するのが当然であり、世界の人口増加を考えれば日本の食料自給率を向上させておくことは必須で、それと同時に、高齢化・共働き化が加工食品のニーズを高めると考える。 また、生産基盤の再建や担い手不足等も課題だが、これらは、農林水産業が儲かる魅力的な職業になれば解決する。しかし、国は真っ赤な赤字であるため、再エネを農林水産業の副収入として所得を得つつ地域の金が外部流出しないようにしたり、農林水産業をスマート化したり、外国人労働者を入れたりなど、生産性向上に資する方向で補助金をつけるのがよいと思う。 なお、中山間地域等は、穀類生産には条件が不利でも他の作物でも不利とは限らない。そのため、TPPやEUとのEPAに対抗するには、徹底した適地適作と経営合理化の追及が必要だ。 3)本当に必要な防衛費はどこまでか ← 予算委員会でチェックすべき *1-2に、防衛省の要求も過去最高額を塗り替えたと書かれており、*1-4には、来年度予算の防衛省概算要求額は過去最大の5兆3223億円で、米国からの高額な兵器の購入が総額を押し上げたと書かれている。私も、TPPレベルのFTA妥結の見返りや日米同盟の見返りに不要な物まで高い価格で買わされているのではないかと思う。 そのため、国会の予算委員会では、防衛省の概算要求額の内訳をチェックし、憲法で定める自衛のための必要最小限度の実力を保持するのに必要十分かどうかを確認する必要があり、それまでに正確な前年度実績と次年度の予算案ができていなければならない。そして、これは会計期間・会計制度・国会の審議日程を少し変更すれば可能であり、民間企業は(海外に多くの子会社や支店があっても)期末から2カ月後に開催される株主総会で、これをやっているのである。 (2)鉄道の高架化と駅ビルの建設は、新しい街づくりを進めやすくするとともに、生産性向上に資する投資である *2-1・*2-2のように、神奈川県で京急の電車とトラックの衝突事故が起きたが、事故現場は「開かずの踏切」で、このような踏切は都市部に多く、踏み切りを渡るために長時間待たなければならない。また、道路も狭いため、渋滞を招き、大型車の運転には神業を要する。 そして、日本の都市には海外と比較してこのような踏切が多く、ストレスが多い上、生産性を低くしている。そのため、根本的な解決は、踏切を高架化して道路を拡幅し、駅ビルや駅近の踏切下に店舗や駐車場を作って時代にあった街づくりをすることだと思う。さらに、地方にも危険な踏切が多く、高架化して1階を道路の拡張に使ったらどうかと思う。 しかし、これらを行うには国や地方自治体は予算を要するが、日本の問題は、工事費が高いだけでなく工事に時間がかかりすぎ、他国なら3年ですむ重要な街づくりが30年かかってもできないという深刻な状況になっていることである。 (3)災害復興と防災投資 1)佐賀豪雨について 佐賀県をはじめとする北部九州地域で、*3-1-1・*3-1-2のように、記録的な大雨による浸水が起こった。近年は、1時間に100ミリを超す大雨が多く、それを聞いても驚かなくなったが、大町町で佐賀鉄工所大町工場から約5万リットルの油が流出したのは、周辺住民にも農業にも痛手だった。 佐賀鉄工所大町工場からの油の流出は約30年前にも発生し、油をためる油槽がある建物を数十センチかさ上げしたり、建物に高さ3.5メートルの重量シャッター3台を設置したりして対策はとっていたそうだが、その「想定」を超えるレベルの浸水だったとしている。しかし、想定にはゆとりを持ち、厳重な防護をしなければ意味がない。 農地への油の流出被害は推計で約82万5千平方メートルに及び、農作物被害は収穫間近の水稲25.8ヘクタール・大豆15.3ヘクタールと、天災と人災が重なり大変なことになってしまった。 なお、*3-1-2のように、農業用水路から六角川に排水するポンプを稼働させていたが、流出した油が川から有明海に広がることを恐れた町の指示を受けてポンプを停止したため、水は行き場を失って地域をのみ込み、家屋も油まみれになった。私は、確かに六角川や有明海に油が広がるとさらに被害が大きくなるため、川に排水しなかったのはまずは正解だと思う。 「どげんしたら地域を守れたのか」については、海上保安庁に海上流出油事故や有害液体物質・危険物の流出事故の対応を専門に行う海上流出油事故対応チーム(https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/45/6/45_445/_pdf/-char/ja 参照)があり、ナホトカ号やダイヤモンドグレース号の油流出事故などの油流出事故への対応・処理にあたった部署であるため、ポンプの停止や水門の閉門と同時に、ここに油の除去を依頼すればよかったと思う。 このような場合、海上保安庁が「私たちならできる」と手を挙げず、国土交通省・農水省・総務省もすぐに気付いて救援依頼をしなかったのは、セクショナリズムが原因だろう。 なお、*3-1-3のように、佐賀県の豪雨被害で、武雄市・多久市・杵島郡大町町が「局地激甚災害」に指定され、復旧事業の国庫補助率が引き上げられることになったのはよかったが、市民の生活再建への直接的な助成ではなく、市町の復旧事業を支える意味合いが強いそうだ。 しかし、「前に向かって進める基盤ができた」のはよかったが、何度も同じことを起こさず、災害を事前に予防できる街を造るには、復旧ではなく新しい区割りによる復興が不可欠である。 2)胆振東部地震について 胆振東部地震をきっかけとして、*3-2-1のように、北海道内全域の停電が発生し、これは、電力需要の約半分を担っていた北電苫東厚真火力発電所の発電機3基が相次ぎ損壊して電力の需給バランスが崩れて全電源が停止したからだった。 私も、広大な地域で使われる電力を少数の大型電源に依存する態勢はもろく、エネルギー代金を海外に吸い取られるため、再エネによる分散発電で停電リスクを減らし、同時に送電ロスも減らすのが最終的な解だと思う。そうするためには、「マイクログリッド」を進め、太陽光、風力、バイオガスなど地域の特性に合った再エネを活用して地域経済を活性化しつつ、余った電力は他の地域に販売するための送電線を鉄道や道路に付随して設置するのがよいと考える。 ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:1番左の図は、牧場に設置された風力発電機、左から2番目の図は、山林に設置された風力発電機だ。また、右から2番目の図は、海の養殖施設に設置された風力発電機で、1番右の図が潮流発電機だ。どれも、野生生物を傷つけずに最大の出力を出す工夫が求められる) 3)宮古島台風について 台風13号が通過した宮古島市では、*3-2-2のように、市内の約8割を超える2万590戸が停電した。島も「マイクログリッド」の適地であるため、太陽光、風力、海流などの地域特性に合った再エネを利用して「マイクログリッド」を進め、経済を活性化するのがよいと思う。 4)東日本大震災について ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:1番左と左から2番目の図は、津波が起こるメカニズムだ。津波は、普通の波と異なり、大きな水塊が迫ってくるので薄い防潮堤なら圧力で壊れる。右から2番目の図が、実際に堤防を乗り越えて岩手県田老町の漁協付近を襲った津波で、1番右の図は、岩手県宮古市の津波後の光景だ《http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h23/63/special_01.html》。この写真から、どういう構造の建物が地震・津波に堪えるかわかる) *1-2に、2020年度の特別会計で扱う東日本大震災復興予算の要求は2兆242億円だったと書かれている。もちろん、東日本大震災は、原発事故という人災がなくても未曾有の自然災害だったが、その対策としてとられた措置は、復興税を払って復興に協力してきた国民が納得できるものだったかどうかについて、今後のためにも事実を開示してもらいたい。 i) かさ上げ地は本当に安全か? 東日本大震災では、過去の津波記録が残る神社は津波が到達しない高台に作られていたため被害を免れることができた。そのため、一定周期で訪れる大震災や大津波に対応するためには、高台に宅地を作らなければ同じ被害に遭うことがわかっている。 従って、*3-3-1のうち、高台に新しく街を造って移転する防災集団移転が最も安全な防災方法であり、高台に移転した住民を孤立させてはいけない。何故なら、土地をかさ上げして整備する土地区画整理は、かさ上げ高が十分でなければ同じ被害にあうことになるが、かさ上げされた高さは2011年に襲った津波高よりも低く、予算の関係からか十分な高さのかさ上げができていないからである。 しかし、漁業者や水産関係の食品加工会社が、海の近くのかさ上げした土地で営業したいのはわかるし、合理的でもある。その場合は、前回と同じ津波が来ても退避できる高さの階を持つビルを建設することが必要条件になる。最もやってはならないことは、元どおりに復旧することだ。そして、十分に整備された安全な宅地に住民が少なければ、人口過多の都会や海外からの移住を促す政策を考えればよいだろう。 ii) 巨大防潮堤は有益か、有害か? *3-3-2の巨大防潮堤は、白砂の浜と松林の風景を遮る醜いコンクリートの壁で、かつ高さ5メートルでは役立たない。私は、海から遠ざかる選択肢がなければ、海の近くで低層階は舟形にして津波をかわし、大津波から退避するに十分な高層階のある建物を作ればよいと思う。 しかし、395kmの高さが最大15.5mの防潮堤では、東日本大震災級の大津波を防げない上、景観を損ね、陸と海が遮断される結果、陸からの栄養塩が海に流れなくなる。そのため、このような公共事業ありきの防潮堤を作ってはならない。 私も、人工の構造物は自然の猛威の前にはひとたまりもないため、人間は自然に対して謙虚であるべきだと思うし、津波を一時的にせき止めて進行を遅らせる程度の構築物に莫大な予算を使うのは止めてもらいたい。巨大防潮堤は三陸海岸の景色や生態系という資産をなくし、無用の長物に膨大な金をかけたという意味で次世代の人にとってもマイナスだと私は思うし、巨大防潮堤を作るという判断の正否を、のんびりと歴史に任せて、あの世で審判を受けられても困るのだ。 5)熊本地震について *3-4のように、来春の熊本県知事選に、現職の蒲島氏が「熊本地震からの復興の流れを、今ここで止めるわけにはいかない」として、4選を目指して立候補する意向を固めたそうだ。 知事としての適否は勤めた期数で決まるわけではなく、これまでの実績と次への期待で決まるものだ。そこで、私は「創造的復興」に賛成であるため、蒲島現知事を応援したい。震災で街づくりをやり直さなければならない状態になったことは、見方を変えれば新しい街づくりの推進力ともなるため、一皮むけた便利な空港・港湾・道路と心地よい住宅・田園造りを進めて欲しい。 (4)社会保障給付削減と消費税増税への圧力 ![]() ![]() ![]() 2018.3.19東京新聞 2018.11.15共同通信 (図の説明:左図のように、インフレ政策と消費税増税で物価が上がって実質年金額が減ったためエンゲル係数が上がり(=国民が貧乏になり)、悪影響を受けた人の多くは高齢者だ。また、中央の図のように、世界の中で日本は女性の活躍も進んでいない。そして、右図のように、支え手の増加には高齢者や女性のほか外国人労働者も考えられている) 1)3号被保険者制度は何のために作ったか? ← 1985年に初代男女雇用機会均等法ができたため、女性の社会進出を防ぐために専業主婦を優遇したのである 政府は、2015年に、*4-1のように、使い道が約30年間決まっていなかった専業主婦が国民年金に任意加入だった時代(1985年改正以前)に納めた保険料収入による年金積立金約1兆5500億円を、2015〜2024年度の公的年金給付に充てる政令を決定し、これを10年間にわたって給付財源として活用するとのことだった。 1985年の年金制度改正では、*4-1・*4-2のように、サラリーマンの夫を持つ専業主婦が「第3号被保険者」として保険料負担なしで国民年金に加入することになったのだが、それ以前は約7割の主婦が任意加入して保険料を納めており、積立金が7246億円、その後の約30年間の運用収益が8282億円あり、2014年3月末時点で総額1兆5528億円になっていたそうだ。 *4-2に、1985年改正で、「サラリーマンの専業主婦を国民年金制度に強制適用するため3号被保険者制度を創設し、これによって女性の年金権が確立した」と書かれているが、それまでは7割の主婦が任意加入して保険料を納め、働く女性は働く男性と同じく厚生年金・共済年金に強制加入して保険料を支払っていたので、専業主婦も強制加入にして保険料を納めさせるのがむしろ公平だった。また、全ての年金積立金を発生主義できちんと運用していれば、現在のような著しい年金積立金不足は起きなかった筈なのだ。 2)年金制度の「不都合な真実」は誰の責任(ここが重要)で起こったのか? 有権者の誰にとっても生活に直結する最も重要な政策は社会保障だが、*4-3は、年金について、「①年収500万~750万円未満の層は65歳までに3200万円必要」「②年収が1000万~1200万円未満の世帯の不足額は6550万円に上る」「③非正規雇用の比率が高い団塊ジュニア世代は、貧困高齢者になりそうな人が他世代より多い」 「④夫が働き、妻がずっと専業主婦の世帯を『標準』として将来の年金水準を見通すが、今の日本の世帯は共働きが主流」「⑤急務なのは現在の高齢者の年金給付を抑える『マクロ経済スライド』が発動しにくい仕組みを改めることだ」としている。 そのうち、①②は、年収が多い人ほど年金保険料の支払いも多いのに、年金支給額は働く世代全体の平均年収の50~60%に設定されるので、年収が多かった人は年金でカバーされる生活費の割合が低くなり、残りを貯蓄でカバーしなければならないために起こる現象だ。 また、パートやアルバイトなどの非正規雇用は戦前からあったものの、1990年代以降は新入社員にも非正規雇用が増え、これは労働基準法・男女雇用機会均等法等で護られない雇用形態であるため、③の問題が起きた。さらに、④のように、今でも、夫が働き妻はずっと専業主婦であり続ける世帯を「標準」と考えているのは、時代錯誤と言わざるを得ない。 そして、日経新聞はじめ多くのメディアや論客と言われる人々が、「高齢者の年金給付を抑えることが重要で、それに反対するのはポピュリズムだ」などと説いているが、これまで述べてきた通り、高齢者を犠牲にするよりも先に改善すべきことが山ほどあるのである。 3)社会保障の給付減と消費税増税しか思いつかないのは何故か? ← 国民をより豊かで幸福にしたいという発想がないからである *4-3は、「①団塊の世代が75歳以上になり始める2022年から高齢者医療費の伸びが加速し、会社員らの保険料負担はどんどん重くなる」「②超高額医薬品の使用は医療保険制度そのものを揺さぶる」「③介護の担い手不足は、2025年に55万人に上る」「④給付と負担のあり方に知恵を絞ることになる社会保障改革に『聖域』はないほうがいい」などと記載している。 そのうち①③④については、なるべく長く支え手の側において保険料収入と健康を維持し、②については、高額医薬品といっても医療保険での負担を加味して価格を高くしているものも少くないため、外国での販売価格と比較したり、新しい製品は自己負担での混合医療を認めて効くようなら速やかに同価格で医療保険からも負担するようにしたりし、④については、外国人労働者も活用する などの合理的な課題解決をすべきだ。 また、*4-4は、「⑤政府税調が中期的な税制の在り方をまとめる答申の骨子が判明し、現役世代を支え手とした社会保障制度や財政は少子高齢化で『深刻な課題』に直面している」「⑥制度維持には十分で安定的な税収基盤の確保が不可欠だ」「⑦10月の消費税率引き上げ後も何らかの増税策が必要」と記載している。 しかし、⑤については、少子高齢化するのは1980年代にはわかっていたのに対策も行わず、歳入に対してはきちんとした管理もせずに放漫経営をしてきたことに問題があるため、国に公会計制度を導入して歳出とその効果を正確に検証できるようにし、保険料は発生主義で積み立てるなどの改革をしなければ、負担増をしても放漫経営の規模が拡大するだけなのである。 さらに、⑥⑦については、「消費税は安定財源だからよい」という主張が多いが、景気が悪くても安定して入ってくるのでよいと言われる消費税は、景気調整のためのビルトインスタビライザー効果がないため、むしろ悪いのである。 4)支え手の拡大はすべき 厚労省は、*4-5のように、省内の全部局に「非正規」や「非正規労働者」という表現を国会答弁などで使わないよう求め、東京新聞がこのことを情報公開請求した後に撤回したそうだ。 本当は、労働基準法・男女雇用機会均等法等で護られない雇用形態である「非正規雇用労働」自体をなくさなければならないのであり、言葉を「有期雇用労働者」「派遣労働者」に変えれば問題が解決するわけではない。そして、労働基準法・男女雇用機会均等法等で護られない不利な雇用形態で働く人があってはならず、働き方の多様化は、年齢や性別にかかわらず正規労働の範囲内として、必要な条件を設定して行うべきなのである。 <国家予算と公会計制度> *1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14159061.html?iref=comtop_shasetsu_02 (朝日新聞社説 2019年8月31日) 来年度の予算 ばらまき封じの徹底を 総額105兆円規模となる2020年度の政府予算の概算要求が出そろい、編成作業が本格的に始まる。年末に向けて削り込んでいくが、19年度に続き、100兆円規模の超大型予算が組まれる可能性が高い。年金や医療などの経費が30兆5千億円、借金の返済にあてる国債費が25兆円と、この二つで要求総額の半分を占める。税収を60兆円台と見込んでも、社会保障費だけで半分は使ってしまう。その他の政策経費をまかなう分だけでも、10兆円以上は新たな借金をしなければならない。厳しい懐事情をよそに、防衛費など、のきなみ増額の要求が並ぶ。消費税率が10%になって税収が増えるから、2年限りの消費税対策が別枠で認められるからと、絞り込みが甘くなっては困る。いまの暮らしに欠かせない政策や真の成長戦略に手厚く配分するのはもちろんだが、同時に将来世代も見据え、予算づくりに臨まねばならない。予算編成のルールとなる概算要求基準には、本格的な歳出改革に取り組み、施策の優先順位を洗い直し、無駄を徹底して排除すると書いている。19年度も同じ表現があったが、実行できたとは言い難い。今回こそ本気で取り組むべきだ。ところが各省の要求を見ると、不安が募る。防災事業や水産業の交付金、企業や文化事業を支援する補助金では、政策効果が不十分、経費がかかりすぎている、といった問題点がこれまでに政府内で指摘されていながら、今回も盛り込まれた事業がある。一つひとつの施策について、見直しの徹底が求められる。高齢化で増え続ける社会保障費も、聖域ではない。景気対策も、予算をふくらませる要因だ。確かに、米中の追加関税のかけあいや、英国の欧州連合(EU)からの離脱など、先行きには不透明感が漂う。10月の消費税増税後の消費の動きも、見極めなければならない。安倍首相は増税の影響について、19年度の予算で「十二分の対策を取っている」と強調する。世界経済の行方も踏まえた目配りは必要だが、増税対策や景気対策の名を借りたばらまきは、封じなければならない。どんな対策なら、より少ない費用で最大限の効果を引き出せるか、精査するべきだ。政権が掲げる25年度の財政健全化の目標は、新たな借金をできるだけ抑えなければ達成できない。次世代の負担を増やさぬよう、政策の費用対効果を見極め、ばらまき封じを徹底する。それが予算編成の課題だ。 *1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201908/CK2019083102000157.html (東京新聞 2019年8月31日) 一般会計、105兆円規模 二〇二〇年度予算編成で財務省は三十日、各省庁からの概算要求を事実上締め切った。一般会計の要求総額は百五兆円規模に膨らみ、二年連続で過去最大を更新。年金・医療など社会保障を担う厚生労働省や防衛省の要求が最高額を塗り替え、災害対策費も全体を押し上げた。今年十月の消費税増税に伴う景気対策などは別枠で上積みするため要求には含んでおらず、査定で抑えても、十二月に組む予算案は一九年度の百一兆四千億円を超える可能性が高まった。安倍政権は景気後退を防ぐために歳出拡大を辞さない考えで、増税に踏み切っても財政健全化の進展は多難な情勢だ。要求総額の百兆円超えは六年連続。重点施策で上積みできる「特別枠」を各省庁が活用した結果、一九年度要求から約二兆円増えた。省庁別の最大は厚労省の三十二兆六千二百三十四億円。看板政策の就職氷河期世代支援に六百五十三億円を割いた。医療など社会保障の中核的な経費は、高齢化に連動した「自然増」を五千三百億円計上し、他省庁分を含む合計では三十三兆円程度に達した。防衛省は、高額装備品の取得により五兆三千二百二十三億円を計上。豪雨など災害対策を拡充する国土交通省は一九年度当初予算比18%増の七兆百一億円を求めた。他には子供が巻き込まれる事件・事故の防止、選手強化や警備といった東京五輪対策が目立った。自治体に配る地方交付税と特例交付金の合計は2・7%増の十六兆四千二百四十六億円。また借金返済に充てる国債費が全体の四分の一近くの二十四兆九千七百四十六億円に伸びている。特別会計で扱う東日本大震災復興予算の要求は二兆二百四十二億円だった。 *1-3:https://www.agrinews.co.jp/p48667.html (日本農業新聞 2019年9月7日) 基本計画見直し着手 食料自給率向上が焦点 地域政策も鍵 農水省は6日、農政の中長期的な羅針盤となる食料・農業・農村基本計画の見直しに着手した。吉川貴盛農相が食料・農業・農村政策審議会(会長=高野克己・東京農業大学学長)に計画変更を諮問。来年3月に新たな食料自給率目標などを示した計画を閣議決定する。生産基盤を再建し、自給率向上の道筋をどう描くかが焦点。担い手不足にあえぐ中山間地域を維持させる地域政策を打ち出せるかも課題だ。同計画は食料・農業・農村基本法に基づき、5年ごとに見直す。同審議会の企画部会は今後、「食料の安定供給確保」「農業の持続的な発展」「農村の振興」などのテーマで年内に計6回の会合を開き、議論する。11月には現地調査や地方での意見交換会も開く予定だ。現行計画は、カロリーベース自給率を2025年に45%に引き上げる目標を掲げた。だが、18年は37%と前年比1ポイント低下し過去最低となった。新たな計画では、どのような水準の自給率目標を設定するかがポイント。自給率下落に歯止めをかけ、上向きに転じさせる施策の検討が求められる。吉川農相は諮問に当たり、農業生産所得の増加や輸出拡大などについて、農政改革によって「成果が着実に現れ始めている」と強調。一方、人口減少や高齢化などを課題に挙げた。地域政策については「地域資源を活用して仕事を作り、人を呼び込むことで活力を向上させる必要がある」と強調した。審議会と企画部会の委員を務めるJA全中の中家徹会長は、近年は農業産出額や生産農業所得が増加しているものの「生産基盤が強化されたかといえば決してそうではないのでないか」と提起。現行計画の徹底した検証が必要だと訴えた。会合では、自給率向上への具体策や次世代への経営継承などの人材確保の必要性を指摘する意見が相次いだ。農村政策の充実、先端技術を活用した「スマート農業」の普及も課題に挙げた。 [解説] 難局打開へ徹底議論を 国内農業は今、生産基盤の縮小が加速する中、大型通商協定が相次ぎ発効するという、かつてない難局にある。食料安全保障が大きく揺らぐ事態も招きかねない。これまで以上に実効性のある対策が求められる。政府が設定した見直し期限は来年3月。検討に費やすことができる期間は6カ月程度しかない。打開策を導き出すための徹底した議論ができるかどうかが問われている。生産基盤の弱体化に歯止めがかからず、自給率向上には、その再建が欠かせない。18年度の基幹的農業従事者は145万人。10年間で2割以上減った。耕地面積442万ヘクタールも減少が続く。特に、中山間地域を含む条件不利地にはてこ入れが必要だ。規模拡大など、産業政策に偏る安倍政権の農政を見直し、地域政策を充実させる時期に来ている。日本にとって過去最大の農産物の市場開放を受け入れた環太平洋連携協定(TPP)、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)は、4月から2年目に突入した。日米貿易協定交渉も9月末に署名が見込まれる。現在講じている対策が足りているか検証が必要だ。2018年度のカロリーベース食料自給率は37%に落ち込み、目標との差はさらに開いた。目標未達成だった検証の徹底が必要だ。一層の下落を食い止めるためにも、新たな自給率目標の設定に当たっては、必要な施策をより踏み込んで示すべきだ。 *1-4:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-982455.html (琉球新報 2019年9月3日) <社説>防衛費要求過去最大 専守防衛逸脱チェックを 底が抜けたように歯止めがかからない。来年度予算に向けた防衛省の概算要求のことである。 要求額は過去最大の5兆3223億円。本年度当初予算比1・2%増で、2012年の第2次安倍政権発足以降7年連続の増額となった。米国からの高額な兵器の購入が総額を押し上げた。トランプ米大統領の要求に応え、不要な物まで買わされていないか。大いに疑問だ。政府は昨年策定した中期防衛力整備計画(中期防)で、19年度から5年間の防衛予算総額の目安を27兆4700億円と設定した。伸び率は従来の年平均0・8%から1%超に拡大し、中期防単位では14~18年度の約24兆7千億円から2兆円超の大幅増となった。一般会計全体の概算要求総額は過去最大を2年連続で更新する105兆円規模となった。高齢化に伴う社会保障費の増加に加え、この防衛費の膨張が要因となっている。国会で十分にチェックし、議論が尽くされた結果かどうか疑問だ。社会保障費を抑制し、消費税増税を10月に控える中、防衛費だけ特別扱いは許されない。青天井で増え続けている防衛予算に国民は注意を払うべきである。危惧するのは内容である。憲法で定める自衛のための必要最小限度の実力、いわゆる専守防衛を事実上、逸脱する様相を帯びているからだ。それを許してはいけない。新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」や中期防で位置付けた護衛艦「いずも」の空母への改修費に31億円を計上した。同艦で運用する米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Bの取得費に846億円を要求する。政府は「多機能・多用途の護衛艦」と説明しているが、運用によっては攻撃型空母になりかねない。今回、宇宙分野の能力向上策として「宇宙作戦隊」の新設も明記した。米宇宙軍から指導教官を招き、自衛隊員を同軍に派遣するという。米中ロが加速させている宇宙分野の軍事利用に参画する構えだ。強い疑問を覚えるのは、米国から購入される高額な兵器だ。F35Bのほか、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の発射装置取得費に103億円を盛り込んだ。秋田、山口県への配備計画を巡り、防衛省の調査にミスが相次いだことを踏まえて設置に伴う土地造成費や津波対策費の計上は見送った。しかし設置場所さえ決まっていないのに発射装置を購入するのは、地元合意よりも米国支援を優先したい姿勢の表れと言えよう。専門家からはミサイルの効果に疑問の声もある。南西諸島への陸自配備経費には237億円を計上した。尖閣有事などを想定した配備強化だが、中国を刺激し、お互いの軍拡につながる恐れがある。大切なのは、軍備に巨額の血税を投じることではなく、外交努力で紛争の火種を除去することだ。 <鉄道の高架化は、生産性向上策で街づくり投資である> *2-1:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/keikyu-railway-accident/ (日経新聞 2019.9.5) 京急事故、踏切の危険性を探る 5日午前、京浜急行電鉄の神奈川新町ー仲木戸駅間(横浜市)で電車とトラックの衝突事故が起きました。事故現場になったのは、国土交通省が安全対策を主導してきた「開かずの踏切」の一つでした。通常の踏切に比べ、約4倍もの事故が起きるという首都圏鉄道網の鬼門です。衝突時、トラックは遮断機の間にいたとみられ、神奈川県警などが詳しい事故原因を調べています。事故現場は横浜市神奈川区の京浜急行電鉄「神奈川新町第1踏切道」です。踏切は神奈川新町駅と仲木戸駅の間にあり、神奈川新町駅のすぐ近く。周辺には商店や企業の事務所、工場、住宅などがあります。京急の線路には、並行してJRの線路や国道が走っています。 ●開かずの踏切の定義 国土交通省は40分以上の待ち時間がある踏切を開かずの踏切とみなし、2016年に全国532カ所を指定しています。事故が起きた「神奈川新町第1踏切道」もそのひとつ。ピークで48分もの待ち時間がある「緊急に対策の検討が必要な踏切」でした。カラー舗装で車道と歩道を分けて事故防止に配慮はしていましたが、立体交差などの対策は打てていませんでした。「交通量が少ない踏切のため優先度は低かった」(京急)としています。 ●開かずの踏切データ(開かずの踏切は全国532カ所のうち、7割の371カ所が首都圏に集中) 国土交通省は2016年6月に「緊急に対策の検討が必要な踏切」として全国の1479カ所を指定しました。このうち、長時間遮断機の降りた状態が続く「開かずの踏切」は全国で532あり、7割にあたる371カ所は首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に集中しています。最多は東京都の245で、今回事故の起きた神奈川県が73で続きます。一方、関西圏は130カ所とそれほど多くありません。 全国的にみて、交通の集中する首都圏は踏切事故のリスクにさらされやすいといえます。 ●踏切の安全対策 踏切の安全対策には莫大な費用がかかります。線路と道路を分離する立体交差化には1カ所だけでも億単位の工事費が必要で、鉄道会社には負担が重くのし掛かります。そこで国土交通省などが「当面の対策」と位置づけるのが、自動車道と歩道を見分けやすくするカラー舗装です。100万円程度で済むため、多くの踏切で採用されています。ただ、開かずの踏切などで起こる事故防止の観点からは、抜本的解決になっていないのは言うまでもありません。 ●全国の踏切事故件数 ●これまでの主な踏切事故 ①1989/1/29 秩父鉄道 秩父線 西羽生駅〜新郷駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線 ②1990/1/7 JR北海道 室蘭線 白老駅〜社台駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突 ③1991/6/25 JR西日本 福知山線 丹後竹田駅〜福知山駅間、踏切道の高さ制限用固定ビームに荷台のパワーショベルが接触して踏切道内に停止していたトラックに列車が衝突 ④1991/10/11 阪急電鉄 京都線 正雀駅〜南茨木駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線 ⑤1992/9/14 JR東日本 成田線 久住駅〜滑河駅間、踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線 ⑥2007/3/1 JR北海道 石北線 美幌駅〜緋牛内駅間、踏切道に進入した大型トレーラーに列車が衝突し脱線 内閣府の交通安全白書によると、踏切事故の件数はこの20年で半減しました。2018年の事故件数は247件と、500件近かった2000年前後からは大きく減りました。国土交通省が鉄道各社に対して踏切の安全対策を求めてきた成果が出ているといえます。踏切に関連する重大事故は51人が負傷した2007年のJR北海道の事故以来、起こっていませんでした。今回の事故は比較的乗客の少ないお昼の時間帯で起こりましたが、通勤や帰宅の時間帯などに重なっていた場合にはより大きな影響が出ていた可能性があります。これまでの踏切の安全対策だけでは十分だったとは言えず、対策の見直しが必要になりそうです。 ●主な鉄道各社の開かずの踏切数 2016年6月時点で鉄道各社の開かずの踏切の数を調べると、京浜急行電鉄は7カ所と多くはありません。上位を見ると、西武鉄道が81で最多で、東日本旅客鉄道(JR東日本)が76で続きます。各社とも安全対策を施していますが、踏切がある限りは事故のリスクは残ります。 ●海外と比べて日本の都市部は踏切が多い(東京23区はパリの90倍) 海外と比較すると、日本の都市部は踏切の多さが目立ちます。例えば、フランスのパリは周辺3県を含めて踏切は7カ所しかありません。東京都は23区だけでパリの90倍の踏切があります。その他の主要都市と比べても多く、日本の鉄道に特有の問題と言えそうです。 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM967WK4M96UTIL064.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2019年9月7日) 京急事故、列車なぜ衝突 異常時に踏切前で止まれる設計 大型トラックとの衝突・脱線事故から2日ぶりに、京急本線が7日午後、全線で運転を再開した。踏切内で車が立ち往生するトラブルは、各地でしばしば起きている。今回の現場でも、立ち往生を想定した安全システムは整備されていた。それなのになぜ、ぶつかるまで列車は止まれなかったのか。5日昼前、横浜市神奈川区の神奈川新町駅に隣り合う踏切で、事故は起きた。京急の説明によると、トラックは警報機が鳴り始める前に踏切内に入り、立ち往生していた。現場の踏切には人や車などの障害物を検知する装置がある。装置は、警報機が鳴り出した時点で地上30センチ以上にある障害物をレーザーで検知。踏切から10メートル、130メートル、340メートルの地点に設けた3カ所の専用信号機が一斉に赤色に点滅して、運転士に異常を知らせる仕組みになっている。運転士は、踏切から少なくとも600メートル離れた地点でこの信号の点滅を確認できる。ここで非常ブレーキをかければ、最高速度の時速120キロで走っている快特列車でも、踏切の手前で止まれる設計だ。点滅を確認した場合、運転士は状況に応じて通常ブレーキか非常ブレーキをかける。途中で障害物を検知しなくなれば信号が消えるため、そのときは状況を確認しながら減速をやめて通常の運転に戻すという。事故当時、検知装置や信号は正常に作動したと京急は説明している。今回の運転士は京急の聞き取りに対し、「信号に気付いてブレーキをかけたが、間に合わなかった」と話しているという。運転士はどの時点でブレーキをかけたのか。京急は取材に「調査中」としており、国の運輸安全委員会や神奈川県警などが走行データを分析する。別の大手鉄道会社の元運転士によると、障害物検知装置が作動することは「しばしばある」という。「もともと運転中は赤信号に敏感になるが、検知装置の信号は複数の赤色灯が激しく点滅するため、かなり目立つ」と話す。事故を防ぐ仕組みは多様だ。障害物を検知した場合、自動でブレーキをかけるシステムを導入している鉄道会社もある。信号に応じて列車の速度を自動制御する「自動列車制御装置(ATC)」などの信号保安装置と、検知装置を連動させる仕組みだ。東急電鉄は、東横線や目黒線、大井町線などにこのシステムを導入。検知装置が作動した場合、踏切に接近してくる列車は自動的にブレーキがかかる。京王電鉄や小田急電鉄のほか、近鉄、東武東上線、JR京浜東北線も同様のシステムだ。西武鉄道は池袋線と新宿線の踏切のうち、見通しの悪い4カ所で、検知装置と自動ブレーキを連動させているという。ただ京急など、運転士が手動でブレーキをかける鉄道も多い。京急はその理由を「自動ブレーキで止まるようにすると、トンネル内や橋の上など、かえって乗客に危険が及ぶ場所に止まってしまうことも考えられる」と説明する。2017年9月には、小田急線の沿線であった火災現場に近い踏切で、消火活動のために非常ボタンが押され、自動ブレーキで現場の目の前に止まってしまった列車の屋根に火が燃え移った例もあった。今回の事故について、工学院大の高木亮教授(交通システム工学)は「システムの想定通りに障害物を検知できた事例だ」とし、「鉄道会社としては防がなければいけない事故だったと考えられる」と指摘する。「衝突事故を防ぐには、障害物を検知した時点で自動的にブレーキがかかるシステムの導入が必要だ。手動に任せて信号を見落とすのと比べれば、事故のリスクは小さくなる」 <災害復興と防災投資> *3-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/422825 (佐賀新聞 2019.9.5) <佐賀豪雨>鉄工所の油「想定超え」で流出 住民は「30年前と同じ」と憤り 記録的な大雨による浸水で、杵島郡大町町の佐賀鉄工所大町工場から約5万リットルの油が流出して1週間が過ぎた。県によると、工場や順天堂病院周辺では回収が進んでいるが、農地や宅地などでは油除去の見通しが立っていない。油流出は約30年前にも発生し、同社では建物のかさ上げなどの対策をとっていたが、今回はその「想定」を超えるレベルの浸水となり、被害が拡大した格好だ。「畳やタンスなど油が染みて処分せざるを得ない。思い出の写真もほとんど処分してしまうかも。言葉にならない」。周辺道路の冠水で一時孤立した順天堂病院の近くに住む岸川マサノさん(73)は肩を落とした。「油さえ来ていなければこんな状態になっていない。健康被害も心配」と今後への不安を吐露した。回収作業は、自衛隊や九州地方整備局、鉄工所社員らがオイルフェンスを六角川に5カ所設置したり、吸着マットを使って実施。油膜は六角川の六角橋から下流では確認されず、県は「有明海への油流出はない」「ノリ漁への影響はない」との見方を示している。県によると、油の流出範囲は大町工場から東と南東方向に約1キロに及んだ。農作物への被害は水稲25・8ヘクタール、大豆15・3ヘクタール。流出面積は推計で約82万5千平方メートルに及び、「国内でも類を見ない最大規模」と指摘する専門家もいる。大町工場では1990年7月の水害時に同様の油流出が発生。事故の反省から同社が講じた主な対策は、油をためる油槽がある建物の数十センチのかさ上げと建物への高さ3・5メートルの重量シャッター3台の設置だった。今回は、かさ上げした建物で最大60センチの浸水が発生するなど「想像を超える雨」(同社)だった。同社によると、油槽は八つで約10万リットルを保管。建物内で管理し、床下約3メートルに設置している。冷却し強度を高めるため、ベルトコンベヤーを使ってボルトを油槽に移動する。24時間稼働していて、油槽にふたはない。設備の構造上、密閉することは難しいという。浸水当時の8月28日は、午前4時半ごろに油槽がある建物の稼働を停止させたが、その30分後には油の流出を確認。浸水の勢いが激しく、午前5時半ごろには従業員は避難した。同社によると、三つの重量シャッターのうち、北東側と南西側のシャッターから水が入り込んだ。油槽に水が流れ、油が浮き上がる形であふれ出したという。今回の油流出を受け、杵藤地区広域市町村圏組合は、佐賀鉄工所大町工場の熱処理工場に対し、8月30日付で消防法に基づく使用停止命令を出した。「小学6年だった30年前も同じ被害にあった。反省を踏まえ打つ手があったのではないか。天災と人災が重なったと思う」。工場近くにある自宅に油が流れ込んだ野口必勝さん(42)は憤りが収まらない。同社では「新しい対策をとっていく必要がある」との考えを示す。同様の事業所にも今回のような事案が考えられることから、県工業連合会の吉村正会長は「近年は、いつ大きな災害が起きるかわからない。これを教訓に業界全体で対策を考えていきたい」と話した。 *3-1-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/540982/ (西日本新聞 2019/9/6) 排水ポンプ 苦悩の停止 佐賀・大町町の操作員 「油拡散防げ」町から指示 記録的な大雨に見舞われた佐賀県大町町に、水害から地域を守ろうともがいた町民がいた。町から排水機場の操作を委託されている牛島忠幸さん(62)は8月28日、農業用水路から六角川に排水するポンプを稼働させていたが、流出した油が川から有明海に広がることを恐れた町の指示を受けて停止。水は行き場を失い、地域をのみ込み、牛島さんの家屋も油にまみれた。「どげんしたら地域を守れたのか」。自問を続けている。牛島さんは周囲の冠水で孤立状態になった順天堂病院近くの下潟排水機場の向かいに暮らす。油混じりの水に漬かった自宅と会社事務所の片付けに追われる。「油でめちゃくちゃ。でも、大変そうな地域の人の姿を見るのがもっとつらい」。祖父の代から水門管理を担い、住民から「係さん」と呼ばれる。2000年に排水機場が開所し、父から「係さん」を継いだ。大雨が降れば、何時でも雨具を着て排水機場に向かう。あの日も、そうだった。しとしと雨が落ちる27日昼からポンプを動かした。夜通し排水機場の水位計に気を配った。強まる雨脚。28日午前6時、水位が4メートル近くに。2時間で2メートルも上がった。「排水が追い付かん。これまでと違う」。午前11時23分、携帯電話が鳴り、町の担当者が言った。「鉄工所の油が流れているのでストップしてくれ」。ポンプを止めれば住宅が水に漬かる。頭に浮かんだものの「町には逆らえん」。指示に従った。ただ、水位に応じて用水路から川に自然排水する水門は開けたままにした。既に水位は門の下部に達しており、水面に浮いた油は滞留すると考えた。わずかな望みを胸に家に戻った。ぐんぐん水位が上昇。黒い油水にのまれる一帯を、2階からただ見つめるしかなかった。ポンプは停止後に冠水し、故障。水門も国土交通省九州地方整備局職員の手で閉められていた。町は「油の拡散を防ぐには、この選択しかなかった」、九地整も「ポンプ車などで水位を下げる努力を続けた」と説明。ポンプ停止と閉門がどこまで増水に影響したか分からない。ただ、家が漬かった住民たちは「油拡散を防ぐために私たちが犠牲になったのか」と憤る。地域の暮らしを守るのか、油による広域被害を防ぐのか-。「係さん」として今も川と向き合う牛島さんの思いは晴れない。「国と町の判断が間違っていたとは思わん。でも、水門だけでも開けていれば、助かった家や畑もあったんじゃなかか」 *3-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/423970 (佐賀新聞 2019年9月7日) <佐賀豪雨>3市町局地激甚災害指定へ 武雄、多久、大町、局地激甚災害(局激) 山本順三防災担当相は6日の閣議後会見で、佐賀県の豪雨被害について激甚災害に指定する方針を明らかにした。地域を限定する「局地激甚災害(局激)」で、武雄、多久の2市と杵島郡大町町を指定する。国庫補助率を引き上げるなど市町への財政支援を手厚くし、復旧事業を加速させる。今後の被害額の調査によっては、別の市町も追加で指定される可能性がある。指定によって国庫補助率は1、2割かさ上げされる。農地などの災害復旧は3市町が対象で、公共土木関連では多久市と大町町、中小企業支援では武雄市と大町町が対象になる。市民の生活再建への直接的な助成ではなく、市町の復旧事業を支える意味合いが強い。過去5年間の自然災害で公共土木の復旧事業の補助率を平均すると、通常70%が指定後に83%に引き上げられている。農地は83・1%から96・0%になっている。激甚災害は、人的被害でなく経済的被害を基準に指定する。県市町が被害額を調査し、各省庁が査定する。地域を限定する「局激」の場合、市町の財政規模ごとに基準額が設定され、基準額を超えた時点で激甚災害指定の見込みが示される。内閣府は今回、被害額と市町ごとの基準額について「さまざまな数字が出て混乱する恐れがある」として明らかにしなかった。山本氏は会見で「被災地の復旧、復興を加速化させるため激甚災害に指定する見込みとなった」とした上で、「被害状況はまだ調査中のため、基準を満たす地域があれば追加して指定し、公表する」と述べた。指定される3市町以外が追加される可能性がある。菅義偉官房長官らに被災地支援を要望した後、都内で取材に応じた山口祥義知事は激甚指定の方針について「前に向かって進める基盤ができた」と話した。県によると、過去5年は西日本豪雨(2018年)や九州北部豪雨(17年)、熊本地震(16年)などで県内は毎年、激甚災害の指定を受けている。いずれも市町単位で指定する「局激」ではなく、地域を特定せずに災害そのものを指定する激甚災害(本激)だった。 *3-2-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/342364 (北海道新聞 2019/9/7) 全域停電1年 供給網の在り方再考を 胆振東部地震をきっかけとする道内の全域停電(ブラックアウト)が発生してから、きのうで1年がたった。地震発生時、道内の電力需要の約半分を担っていた北海道電力苫東厚真火力発電所の発電機3基が相次ぎ損壊。需給バランスがたちまち崩れ、全電源が停止する未曽有の事態となった。この1年間、北電による設備増強でブラックアウトが再発するリスクはかなり低減した。それでも、広大な北海道で使われる電力を少数の大型電源に依存する態勢のもろさが完全に解消されたとは言えまい。道民生活がまひした1年前の経験を教訓に、より強靱(きょうじん)で安定した電力供給の在り方を考えたい。北電は2月、液化天然ガス(LNG)を使用する石狩湾新港火発1号機の営業運転を始めた。発電容量57万キロワットは、稼働している北電の発電所としては苫東厚真4号機(70万キロワット)と2号機(60万キロワット)に次ぐ規模だ。3月には、北海道―本州間の送電線「北本連系線」の容量も1・5倍の90万キロワットに増強された。さらに今後、全国の電力会社が経費を分担して120万キロワットまで増やす計画となっている。新たな大型電源の稼働と本州からの緊急送電機能の強化によって、災害時に大規模停電が発生する可能性は1年前に比べて相当小さくなったことは間違いない。とはいえ、胆振東部地震をはじめとする過去の大規模災害は、電力会社にとって「想定外」の被害をもたらしてきたことも事実だ。もうブラックアウトは起きないと楽観視せず、官民が協力し、より進化した電力供給の仕組みを目指すべきであろう。その意味で、災害時に再生可能エネルギーを使って地域の電力を賄う「マイクログリッド」(小規模送電網)構築の試みが、道内各地で始まっていることを大いに評価したい。経済産業省資源エネルギー庁の支援事業の1次公募で採択された全国5件のうち3件を道内(釧路市、十勝管内上士幌町、石狩市)の取り組みが占めた。マイクログリッドは、大規模停電が発生した際、北電の電力系統から特定地域の配電網を切り離し、その中で地元の再生エネ電力を供給する仕組みを基本とする。太陽光、風力、バイオガスなど地域特性に合った再生エネを有効活用し、地方経済を活性化する一助にもなるのではないか。 *3-2-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-985282.html (琉球新報 2019年9月7日) 宮古島、停電なお1万1000戸 台風13号 今夜復旧見込み 非常に強い台風13号は6日、久米島、宮古島を暴風域に巻き込みながら北上し沖縄地方を通過した。市内の約8割を超える2万590戸が停電した宮古島市では、6日午後11時現在、1万1140戸が引き続き停電している。宮古島市は7日朝から城辺、上野、下地の各支所と池間島公民館に携帯電話などの充電ができるように発電機を設置する。行政サービスを求める市民に対して上野支所を除く各支所で対応する。沖縄気象台によると、台風は久米島と宮古島を暴風域に巻き込みながら北上し6日朝までに暴風域を抜けたが、台風に流れ込む暖かく湿った空気の影響で大気が不安定になっている。沖縄本島地方と先島諸島では7日にかけて雷雨や竜巻が発生しやすい状況が続いており、警戒が必要だ。沖縄電力によると、沖縄本島や八重山支店からの応援作業要員も停電の復旧作業に当たっており、7日夜に復旧見込みとしている。台風は6日午後9時45分現在、東シナ海にあり、時速35キロで北上している。8日午後9時には温帯低気圧に変わる見込み。宮古空港では5日午後0時22分に観測史上最大となる最大瞬間風速61・2メートルを記録。住宅の床下浸水が1件確認されたほか、宮古島市で30~70代の男女5人が、宜野湾市で80代女性が、それぞれ強風にあおられて転倒するなどして負傷した。 *3-3-1:https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0907/mai_190907_3527897284.html (毎日新聞 2019年9月7日) かさ上げ、高台移転1400ヘクタール 8%が空き地、利用未定 東日本大震災8年半 東日本大震災の被災者向けに自治体が復興予算を投じ整備した宅地約1291ヘクタールのうち、東京ドーム約23個分にあたる約107ヘクタールが空き地や利用未定地となっている。毎日新聞が被災自治体に実施したアンケートで明らかになった。全体の約8%に過ぎないが、これ以外にも宅地に自宅を再建できないまま断念する可能性がある住民も一定数いるとみられる。かさ上げした市街地の広範な利用未定地で住民がわずかだったり、高台移転先では住民が孤立したりして、復興に向けた課題となっている。アンケートは7〜8月、宮城、岩手、福島の被災3県の30市町村に実施し、全自治体から回答を得た。対象は、内陸や土地をかさ上げして整備する土地区画整理(区画整理)▽高台に移転先を整備する防災集団移転(防集)▽漁業者が多く暮らす地区でかさ上げを図る漁業集落防災機能強化(漁集)——の3事業。防集と漁集は空き区画を、区画整理は利用予定が未定の区画を尋ねた。面積では陸前高田市は一部農地を含む37・3ヘクタールで最大。区画ベースでは、回答があった宅地約1万7700区画のうち、空き区画や利用未定なのは約12%の約2160区画。一方で地区全体のうち、半数以上の空きが生じているのは12地区、5区画以上は39地区あった。宮城県石巻市や南三陸町、福島県いわき市、岩手県釜石市や山田町で目立った。 *3-3-2:https://www.sankei.com/photo/story/news/171120/sty1711200002-n1.html (産経新聞 2017.11.20) 東日本大震災:賛否分かつ巨大な壁 海岸に横たわる防潮堤 海辺に立つ宿の窓からおかみの岩崎昭子さん(61)が海をのぞく。岩手県釜石市の根浜海岸。白砂の浜と松林で知られる。視界の一部をコンクリートの壁が遮る。東日本大震災の復興工事で高さ5メートルの防潮堤が築かれた。震災で津波を受け、1階が水没した。地区住民が高台移転に踏み切る中、現地再建の道を選んだ。海の幸と水平線から昇る日の出を売りにした宿だ。海から遠ざかる選択はなかった。海の近くに残るということは防潮堤を受け入れることを意味する。震災から7年に迫る今も巨大防潮堤を巡る議論がくすぶる。395キロ。岩手、宮城、福島の被災3県の防潮堤の総延長だ。高さは最大15.5メートル。ビルの4階に匹敵する。数十年から百数十年に1度の津波に耐える規格で建造された。「圧迫感がある」。「景観を損ねる」。「海と遮断される」。賛否の応酬は否定的な声が優勢に見える。被災地を離れるほど反対意見が台頭する印象を抱く。行政が住民合意を取るのに丁寧さを欠いて賛成派と反対派の対立を招いたり、公共事業の利権構造がむき出しになったりし、負のイメージが増幅された。 ●良かったのか悪かったのか 「奥尻と同じ轍(てつ)を踏むな」。反対派が合言葉にする。平成5年の北海道南西沖地震で津波に遭い、198人が命を落とした。町は復興事業で全長14キロ、高さ10メートル級の防潮堤で島を取り囲んだ。そのせいで景観が台無しになって観光客の足が遠のき、海の生態系も乱れて主力産業の漁業が衰退したとささやかれている。28年度の観光客は2万7千人。地震前年の半分に落ち込んだ。環境変化の影響を受けやすいといわれるアワビの漁獲高も8分の1に低落している。人口も4700から2750に減少。地域の陰りを示す数字には事欠かない。だが、防潮堤が島の弱体化を招いたかどうかの因果関係ははっきりしない。「観光客の減少も漁業不振も人口減も地震前から顕在化していた」。島民の多くは、島が細ったのは複合的な理由で防潮堤だけをスケープゴートにするのは見誤っていると語る。北海道の同じ離島で人口規模も近い礼文島も似た傾向で人口と観光客を減らしている。島の衰えは防潮堤の有無にかかわらず、地域の共通課題である実態を裏付ける。. ●判断の正否は歴史が裁く 岩手県の旧田老町(宮古市)に「万里の長城」の異名を持つ防潮堤がある。全長2.4キロ。高さ10メートル。X字の二重構造を持つ。昭和8年の昭和三陸津波で911人の死者を出し、44年かけて建設された。東日本大震災の津波は堤体を乗り越え、全体の5分の1が破壊された。人工の構造物は自然の猛威の前にひとたまりもなく、人間は自然に対してもっと謙虚であるべきだ。巨大防潮堤は自然を征服したと思い上がった人間をたしなめる文脈で語られる。しかし、防潮堤が役立たずだったかと言えばそうではない。津波を一時的にせき止め、進行を遅らせた。避難の時間稼ぎができて難を逃れた人は少なくない。町の犠牲者は181人。隣接市町村より少ない。昭和三陸津波の時と比べても5分の1に減っている。人を死なせないこと。防災の最大の目的だ。景観も被災地の活性化も大事。生き延びた人を立ち直らせることも。ただ、これらは最優先ではない。防潮堤の適否は次世代の人を犠牲にしないことに有益かどうかで判断されるべきだ。防潮堤は人命を守ることに一定の効果がある。景観や地域活性化を理由にした反対論も傾聴に値するけれども、1番手ではない。命には命で対抗しないと釣り合わない。巨大防潮堤を造ることによって住民に依存心が芽生え、危機意識が薄まってかえって死の危険性が高まるというのなら、対等の議論として成立する。岩崎さんは防潮堤に目をやる。災害対策基本法は「行政は災害から国民の生命、身体、財産を保護しなければならない」と定める。5千人を超す死者を生んだ昭和34年の伊勢湾台風の惨劇が行政の責務を明確にした。目の前のコンクリートの塊が住民意思を置き去りにした役所の独断専行の産物だとは思いたくない。曲がりなりにも住民との合作なのだ。東日本大震災の被災地は巨大防潮堤と共に歩む運命を選んだ。その判断の正否は歴史に裁かれる。千年に1度の天災が再び起き、将来世代の命を守れなかったら。「われわれの先祖は愚かだった」と言われるのだろう。あの世で批判を受ける覚悟はできている。 *3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASM973603M97TLVB003.html (朝日新聞 2019年9月7日) 蒲島・熊本県知事が4選出馬へ「地震からの復興進める」 来春の熊本県知事選に、現職の蒲島郁夫氏(72)が4選を目指して立候補する意向を固めた。7日、朝日新聞の取材に「熊本地震からの復興の流れを今ここで止めるわけにはいかない」と語った。9日の県議会代表質問で正式に表明する。蒲島氏の任期満了は来年4月。3選を決めた直後の2016年4月に熊本地震が発生。被災者の住まい再建に優先的に取り組む一方、「創造的復興」を掲げ、空港や港湾、道路の整備を推し進めてきた。熊本県ではこれまで、4期以上を務めた知事はおらず、蒲島氏も16年の立候補の際には「3期目で実を結ぶ」として、仕上げの任期と定めてきた。ただ、今年8月28日の定例会見で「熊本地震の被災者の住まいの再建を最優先に、取り組まなければならない復興の課題がまだ多くある」と語っていた。7日は取材に対し「地震からの復興をスピード感を持って進める必要がある」と述べ、知事として引き続き復興に取り組んでいく姿勢を示した。知事選には、前熊本市長の幸山政史氏(54)が立候補の意向を表明している。 <社会保障について> *4-1:http://qbiz.jp/article/73996/1/ (西日本新聞 2015年11月2日) 年金積立金1.5兆円配分 保険料塩漬け30年 給付財源 一元化受け割合決定 政府は1日までに、使い道が約30年間決まらなかった年金積立金約1兆5500億円について、2015〜24年度の公的年金給付に充てるとの政令を決定した。積立金は、専業主婦が国民年金に任意加入だった時代に納めた保険料の収入。分立する各年金制度への配分方法が決められず塩漬け状態だった。会社員が加入する厚生年金に公務員らの共済年金を10月に一元化したのをきっかけに、配分割合が決まった。政令では、積立金の半分を厚生年金(統合後の共済年金を含む)に振り向け、残り半分を自営業者などの国民年金と厚生年金(同)の加入者数に応じて分けると規定。今後10年間、給付財源として活用する。給付額に影響はないが、年50兆円規模の年金財政に少しだけゆとりが生まれそうだ。1986年4月の法改正で、サラリーマンの夫を持つ専業主婦は「第3号被保険者」として保険料負担なしで国民年金に加入することになった。それ以前は国民皆年金が整った61年度から、約7割の主婦が任意で加入し保険料を納めていた。85年度末までに積み上がった保険料は7246億円。その後、約30年間に運用収益8282億円も加わり、2014年3月末時点で総額1兆5528億円と倍以上に膨らんでいた。政府はこれを24年度まで、毎年約1500億円ずつ給付費に回す。15年度は運用収益見込みを含め1590億円を計上した。各制度への配分は厚生年金に1480億円、国民年金に110億円。問題の積立金をめぐっては、任意で保険料を納めた主婦の夫の何割が会社員で何割が公務員なのか確定できず、制度間の配分ルールが政府内で長年まとまらなかった。だが、厚生年金と共済年金の一元化を機に所管各省の調整が進み、給付費への投入が実現した。厚生年金と共済年金の一元化 国家公務員と地方公務員、私立学校教職員向けの共済年金を廃止し、会社員の厚生年金に統合する「被用者年金一元化法」が2012年に成立し、ことし10月1日に施行された。官民格差の是正と規模拡大による財政安定化が目的。共済独自の上乗せ給付「職域加算」を廃止し、両年金で異なる保険料率を段階的にそろえる。公務員ら約440万人の加入で厚生年金の加入者は4000万人弱に増えた。 *4-2:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/04/s0419-3d.html (社会保障審議会年金部会 平成14年4月19日 抜粋) 公的年金制度の歩みとこれまでの主な制度改正 《制度の充実》 昭和40(1965)年 : 給付水準の改善、「1万円年金」の実現、厚生年金基金制度の創設 昭和41(1966)年 : 国民年金においても夫婦「1万円年金」の実現) 昭和44(1969)年 : 「2万円年金」の実現(標準的な厚生年金額2万円、国民年金も 夫婦2万円) 昭和48(1973)年 : 物価スライド制、賃金再評価の導入(「5万円年金」の実現) 《本格的な高齢社会の到来をにらんだ対応》 【昭和60(1985)年改正】 ○全国民共通で、全国民で支える基礎年金制度の創設 ○給付水準の適正化(成熟時に加入期間が40年に伸びることを想定して給付単価、 支給乗率を段階的に逓減) ○サラリーマンの被扶養配偶者(専業主婦)の国民年金制度への強制適用(第3号 被保険者制度の創設)、これによる女性の年金権の確立 ○障害年金の改善(20歳前に障害者となった者に対する障害基礎年金の保障) ○5人未満の法人事業所に対する厚生年金の適用拡大 ○女性に係る老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げ(昭和75(2000)年までに55歳 →60歳) 【平成元(1989)年改正】 ○完全自動物価スライド制の導入 ○学生の国民年金制度への強制加入 ○国民年金基金制度の創設(地域型国民年金基金の創設、職域型国民年金基金の 設立要件の緩和) ○被用者年金制度間の費用負担調整事業の創設(平成9年度に廃止) 【平成6年(1994)年改正】 ○60歳台前半の老齢厚生年金の見直し(定額部分の支給開始年齢を平成25(2013)年 までに段階的に60歳から65歳まで引上げ) ○在職老齢年金制度の改善(賃金の増加に応じて賃金と年金額の合計が増加する仕 組みへの変更)、失業給付との調整 ○賃金再評価の方式の変更(税・社会保険料の増加を除いた可処分所得の上昇率に 応じた再評価) ○遺族年金の改善(共働き世帯の増加に対応し妻の保険料拠出も年金額に反映できるよう、 夫婦それぞれの老齢厚生年金の2分の1に相当する額を併給する選択を認める) ○育児休業期間中の厚生年金の保険料(本人分)の免除 ○厚生年金に係る賞与等からの特別保険料(1%)の創設 【平成8(1996)年改正】 ○旧公共企業体3共済(JR、JT、NTT)の厚生年金への統合 【平成12年(2000)年改正】 ○老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢引上げ(平成37(2025)年までに段階的 に60歳から65歳まで引上げ) ○年金額の改定方式の変更(既裁定者の年金(65歳以降)は物価スライドのみで改定) ○厚生年金給付の適正化(報酬比例部分の5%適正化、ただし従前額は保障) ○60歳台後半の厚生年金の適用拡大(70歳未満まで拡大。65~69歳の在職者に対する 在職老齢年金制度の創設) ○総報酬制の導入(賞与等にも同率の保険料を賦課し、給付に反映。特別保険料は廃止) ○育児休業期間中の厚生年金の保険料(事業主負担分)の免除 ○国民年金の保険料に係る免除等の拡充(半額免除制度の創設、学生納付特例制度の創設) *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190724&ng=DGKKZO47676130T20C19A7MM8000 (日経新聞 2019.7.24) 日本の針路(2)年金だけでは描けぬ安心 不都合な真実 直視の時 有権者が参院選で最も重視する政策にあげたのは社会保障だった。参院選での与党の勝利は社会保障のために消費税率を10%に上げる公約が信任を得たことを意味する。しかし「人生100年時代」にどう備えるかという国民の不安に、与党が選挙戦できちんと向き合ったとはいえない。「鋭意作業している」。根本匠厚生労働相は公的年金の将来像を示す「財政検証」の公表時期を聞かれるとこうかわし続けた。老後資金が2000万円不足するとの金融庁の報告書で国会が紛糾するのを見た政府は検証を選挙後に延期し、与党も早期公表を求めなかった。だが「不都合な真実」を隠したところで老後の安心は確保できない。「50代で最も多い年収500万~750万円未満の層は65歳までに3200万円必要になる」。ニッセイ基礎研究所は65歳以降も生活を変えないことを前提に、こんな試算を出した。年収が1000万~1200万円未満の世帯の不足額は6550万円に上るという。他の民間調査機関も老後資金の独自試算を次々と公表した。「公的年金のほかに必要な金額は月額4万円」「非正規雇用の比率が高い団塊ジュニアの世代は、貧困高齢者になりかねない人が他の世代よりも多い」。最もデータを持つ国が実態を示し、与党がこれを直視して人生100年時代の安心を描く作業に力を注がなければ、国民の不安は払拭できない。5年に1度の公的年金の定期健診にあたる財政検証のあり方にも課題がある。財政検証は100年先まで人口と経済を見通して年金の水準や財政の状況を確認するものだが、過去の検証では、年金制度の課題をとらえきれていない懸念がある。14年の前回検証では夫が働き、妻がずっと専業主婦という世帯を「標準」として将来の年金水準を見通した。こうした世帯では、現役世代の平均手取り年収と比べた年金の給付水準(所得代替率)が約30年後に50%超になることを示し、04年の年金改革で約束した水準を確保できるとした。しかし、今の日本の世帯は共働きが主流だ。国民年金のみで年金額が少ない単身世帯も増えている。いまの年金制度がこうした世帯の生活をどこまで支えられるのか。今回の検証では世帯の多様化を踏まえ、実態を評価することが欠かせない。その上で急務なのは、現在の高齢者の年金給付を抑え、将来の年金の目減りを抑える「マクロ経済スライド」が発動しにくい仕組みを改めることだ。そして、私的年金など自助努力と一体で老後に備える国民を支援する制度を整えていくことが、国民の不安を払拭する第一歩になる。年金よりも遅れた医療・介護の改革も課題だ。団塊の世代が75歳以上になり始める22年から高齢者医療費の伸びは加速し、会社員らの保険料負担はどんどん重くなる。投薬1回で数千万円になるような超高額の医薬品の登場は医療保険制度そのものを揺さぶる。人材急募――。都内の介護施設には決まって求人の貼り紙がある。部屋が空いていても人手不足で入居できない特別養護老人ホームは珍しくない。25年に55万人に上る介護の担い手不足を解決する知恵が要る。安倍晋三首相は10%後の消費税について「10年くらいは上げる必要はない」と述べた。だが給付と負担のあり方にぎりぎりの知恵を絞ることになる社会保障の改革を前に「聖域」はないほうがいい。 *4-4:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-982929.html (琉球新報 2019年9月3日) 社会保障維持へ安定税収を、税調 少子高齢化で「課題深刻」 政府税制調査会(首相の諮問機関)が中期的な税制の在り方について月内にまとめる答申の骨子が3日、判明した。現役世代を支え手とした社会保障制度や財政は少子高齢化で「深刻な課題」に直面しており、制度維持には「十分かつ安定的な税収基盤の確保が不可欠」だと指摘。10月の消費税率引き上げ後も何らかの増税策が必要との考えをにじませる。公的年金の受給水準の先細りを念頭に置き、老後の資産形成を後押しする環境整備なども促す。政府税調が中期答申を作るのは2012年の第2次安倍政権発足後、有識者主導で再始動してからは初めて。4日の総会で本格討議に入り、9月下旬に決定する方針。 *4-5:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019090190070550.html (東京新聞 2019年9月1日) 「非正規と言うな」通知撤回 本紙の情報公開請求後に 厚生労働省が省内の全部局に、根本匠厚労相の指示として「非正規」や「非正規労働者」という表現を国会答弁などで使わないよう求める趣旨の文書やメールを通知し、本紙が情報公開請求した後に撤回したことが分かった。同省担当者は撤回の理由を「不正確な内容が散見された」と説明。根本氏の関与はなかったとしている。厚労省雇用環境・均等局によると、文書は「『非正規雇用労働者』の呼称について(周知)」という件名で四月十五~十六日に省内に通知。当面の国会答弁などの対応では、原則として「有期雇用労働者」「派遣労働者」などの呼称を用いるとした。「非正規雇用労働者」の呼称も認めるが、「非正規」のみや「非正規労働者」という表現は「用いないよう留意すること」と注意を促している。各部局に送信したメールには、同じ文書を添付した上で「『非正規雇用』のネーミングについては、(中略)ネガティブなイメージがあるとの大臣(根本氏)の御指摘があったことも踏まえ、当局で検討した」と記載され、今回の対応が根本氏の意向であることがうかがえる。「大臣了」と、根本氏の了承を意味する表現も明記されていた。「非正規」の用語に関しては、六月十九日の野党の会合で、厚労省年金局課長が、根本氏から使わないよう求められていると説明。根本氏は同月二十一日の記者会見で「指示した事実はない」と課長の発言を否定した。その上で、働き方の多様化に関し「単に正規、非正規という切り分け方だけでいいのか、それぞれの課題に応じた施策を講じるべきではないかという議論をした記憶がある」と話していた。本紙は七月十二日付で文書やメールを情報公開請求した。雇用環境・均等局は同月下旬に文書やメールの撤回を決めたとしている。撤回決定後の八月九日付で開示を決定した。堀井奈津子同局総務課長は撤回の理由について、文書に単純な表記ミスがあったことを指摘。根本氏の意向に触れたメールについては本紙の情報公開請求後に送信の事実や内容を知ったとして「チェックが行き届かなかった」と釈明した。文書については「大臣に見せていないし、省内に周知するとも伝えていない。文書作成に関して大臣の指示も了承もなかった」と説明。メールにある「大臣の御指摘」や「大臣了」についても、メールを作成した職員の勘違いとしている。 ◆格差象徴に政府ピリピリ 正社員と非正規労働者の不合理な待遇差の解消は、安倍政権の重要政策になっている。安倍晋三首相自身も「非正規という言葉をこの国から一掃する」と強調してきた。厚生労働省が「非正規」との表現を使わないことを文書やメールで省内に通知したのは、それだけ表現に神経質になっていたためとみられる。総務省の労働力調査(詳細集計)によると、役員を除く雇用者に占める非正規労働者は、第二次安倍政権発足当初の二〇一三年で年平均約千九百十万人(36・7%)だったが、一八年には約二千百二十万人(37・9%)に増加した。非正規労働者は、正社員に比べて賃金や社会保障などの面で待遇が悪く、格差拡大や貧困の問題と結び付いている。企業には都合の良い「雇用の調整弁」とされ、否定的な意味合いで受け止められることが多い。労働問題に詳しい法政大の上西充子教授は、厚労省の文書について「非正規という言葉だけをなくしてしまえ、という取り組みに映る。正社員になれず社会的に不遇な立場にある非正規労働者を巡る問題の矮小(わいしょう)化につながりかねない」と指摘。「問題と向き合うなら、逆に非正規をちゃんと社会的に位置付けないといけない」と訴える。 <台風15号による停電と送電に関するセキュリティー> PS(2019年9月12、13日追加):*5-1・*5-2に、2019年9月8日に関東を直撃した台風15号の影響で、「①千葉県は9月12日午前零時現在でも、約39万2千戸が停電」「②停電で浄水施設も稼働できず、2万戸が断水」「③交差点の信号機も殆ど作動せず」「④携帯電話も不通」「⑤停電で給油にも時間がかかる」「⑥クリニックも停電」「⑦復旧に1週間はかからないが、全面復旧は13日以降」「⑧気温が30度を超え、熱中症とみられる症状で午後4時までに48人が搬送された」「⑨倒れた鉄塔の送電網が断たれただけで約10万戸が停電した」「⑩東電は他電力の支援も含め1万人以上を投入して復旧作業に当たっているが、鉄塔や電柱が倒れ電線の切断箇所が多い」「⑪南房総地域では現場に行き着けない場所もある」などが書かれている。 このうちの①②③④⑤⑥⑧⑨は、生命に関わるインフラを、たった1系統の脆弱な電力ネットワークに頼って予備電源を準備していなかったセキュリティーの甘さにも問題がある。つまり、ここは地震・津波などの大災害も予想される地域なので、送電網を二重にしたり、自家発電装置を持って分散発電したりしておく必要があるのだ。また、⑦⑩⑪は、壊れた個所を自動的に知らせる装置がついていない電力会社の機器の古さにも問題があり、作業している人数が多い割には進捗が遅いように見える。 酷暑の中で停電・断水にあっておられる方々には心からお見舞い申し上げるが、風力も太陽光も豊富な房総半島なら、今後は再エネ等の地域資源を使った分散発電を進めたらどうかと思う。そして、*5-5のように、政府は地熱発電の普及に向けて開発段階の支援制度を拡充するそうだが、房総半島は温泉が多く地熱資源も豊富であることが既にわかっている。 また、*5-3のように、大規模農業団地計画が埼玉県羽生市で動き出し、全体計画24haのうち9.5haに進出する3社が決定したそうだ。転作による適地適作や農業用ハウスへの薄膜型太陽光発電設備の設置、農地への風力発電設備の設置などで高収益を上げられれば、進出したい企業はさらに増えるだろう。 なお、2019年9月13日、朝日新聞が、*5-4のように、「⑫東電は復旧を急がねばならない」「⑬房総半島の山間部などで倒木の多さに手間取った」「⑭福島第一原発の事故で経営が苦しい東電は、送配電部門の投資を抑えてきた」「⑮長期的には電線の地中化が有効な対策で、国も電力会社も無電柱化に力を入れる時だ」と記載しているが、⑫は当然のこととして、⑬については、倒木や停電の存在は昼と夜に上空(宇宙も含む)から写真をとればすぐわかるため、自衛隊か米軍に頼めば早かったのにと思う。さらに、⑮については、地方自治体が国の支援を受けて、電気、電話、水道、ガス、光ファイバー等のライフラインを一緒に道路や鉄道などの地下に埋設する共同溝を作り、電力会社も共同溝を利用するのが電力自由化・発送電分離の時代にふさわしい。ここで、「共同溝は、1kmあたり○億円かかるから電柱にしよう」などと言うのは、(理由を長くは書かないが)日本独特の欠点だ。そうなると、発送電分離を徹底しやすく、⑭の問題は比較的安価に解決することができ、無駄な景気対策をせずに生産性を上げながら必要な事業を行うことが可能である。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 2019.9.9WN 2019.9.12東京新聞 2019.9.10朝日新聞 2019.9.10Abema (図の説明:比較的狭い範囲に強風を吹かせた1番左の台風15号の影響で、中央の2つの図のように、送電線の鉄塔や電柱が倒れ、左から2番目の図のように、千葉県内で大規模な停電が広がった。また、右図のように、農業用ハウスも倒壊している) *5-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM9C5QL3M9CUTIL06F.html (朝日新聞 2019年9月11日) 動かぬ信号、イオンに殺到、給油制限…停電続く千葉の今 台風15号の影響で、千葉県内では停電や通信障害が続く。停電で街の機能が失われた房総半島南部。開店した店やガソリンスタンドには長蛇の列ができていた。房総半島南端の千葉県館山市では11日も、交差点の信号機がほとんど作動していない。夜は暗闇のなか、車がライトの有無を確認して最徐行で通る。一方で昼は連日、30度を超える猛暑。冷蔵庫に閉じ込めていた冷気も消え、食品は異臭を放ち始めている。市内の飲食店やコンビニも大半が休業中で、開店した店に客が殺到。この日朝開店した同市八幡のイオン館山店では、カップ麺や電池を求める買い物客の列ができた。数十キロ離れた同県鴨川市の丸谷成三さん(76)は「停電で冷蔵庫が動かないのが痛い。一日も早く復旧してほしい」と訴えた。車への依存度が高い地域。館山市八幡の丸高石油は1台2千円を限度に、9、10日は約1千台ずつ、11日は早朝から約500台に給油した。だが、給油待ちの車列が数百メートルに伸びて交通を妨げたため、警察からの要請で販売を中止した。高橋浩二・取締役部長(46)は「ガソリンは用意できるが、人力で給油するのでスタッフが足りない」と声を落とす。隣の南房総市では携帯電話の不通が続く。携帯各社によると、停電で基地局が機能していないのが原因だ。携帯大手3社が急きょ、移動基地局車を南房総市役所に配備。11日、市役所の半径約100メートルの範囲で電波が入り、多くの市民がスマホを手に駆けつけた。農業の男性(44)は「取引先との連絡が取れず困っている。ネットもつながらないので、どこに何があるのかも分からない」と嘆いた。同市富浦町の「生方内科クリニック」は強風で看板が飛ばされ、手書きの紙で「診療中」と張り出していた。停電が続く中、生方英一院長(61)が懐中電灯を片手に診療している。11日午後、熱中症の症状で訪れた市内の男性を診察した。自宅の屋根を修復していた際、体調が悪くなり、足がけいれんし動けなくなったという。男性は生理食塩水の点滴を受けると「だいぶ良くなった。診療をやっていて本当によかった」と喜んだ。このほか、糖尿病の薬が切れた人など1日約10人が来院する。生方院長は「停電でまともな診療はできないけど、困っている人たちを見捨てて休むことなんてできない」と語った。今後も通常通りの時間で診療を続けるという。 *5-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201909/CK2019091202000162.html (東京新聞 2019年9月12日) 千葉の停電 全面復旧あす以降 台風15号による千葉県を中心とした大規模停電で、東京電力は十一日、全面復旧は十三日以降になると明らかにした。一週間はかからない見通し。千葉県では十二日午前零時現在、約三十九万二千戸が停電。船橋市などで新たに停電が発生した。断水も二万戸あり、市民生活への影響が長期化している。茨城、神奈川、静岡三県の停電は解消された。東電によると、今回の停電は台風によるものとしては戸数、期間とも同社で過去最大級。千葉市などを含む地域の復旧は十二日以降、成田市や木更津市などの地域が十三日以降になるという。千葉県では、十日に続き県内全域で気温が三〇度を超え、十一日は熱中症とみられる症状で午後四時までに四十八人が搬送された。断水が続いているのは君津市や南房総市など。県によると、停電により浄水施設などが稼働できなくなったのが原因とみられる。 ◇ 東電は当初、11日朝までに停電を約12万戸に減らす計画だった。他電力の支援も得て復旧作業に当たっているが、送電線をつなぐ鉄塔や電柱が倒れ、電線の切断箇所も多く、被害は東電の想定を大きく超えている。倒木や断続的な雷雨も復旧を長引かせている。房総半島南部の君津市の緑茂る丘の上で、鉄塔二基が根元から折れて横倒しになっている。高さは四十五メートルと五十七メートル。この鉄塔の送電網が断たれただけでも、約十万戸が停電した。電柱も南房総地域を中心に多数倒壊。東電パワーグリッドの金子禎則(よしのり)社長は十一日朝の会見で「過去に例のない風速、気圧で非常に多くの設備が被害を受けた。一つの現場で直す量が見込みより増えてしまった」と、硬い表情を見せた。作業には他電力も含め一万人以上を投入するが、南房総地域では現場に行き着けない場所も。君津市内では倒木や土砂崩れが二百五十カ所以上に及ぶ。断続的な雷雨も作業中断を余儀なくさせた。現場によっては一部設備の交換で済むという想定が外れ、損傷が確認された電線や電柱の交換が必要となったという。昨年九月の台風21号でも、関西全域で最大百六十八万戸が停電し、全面復旧には十六日を要した。十一日夕の東電の会見で、全面復旧の見通しを問われた技術部門の担当者は「一週間かかるとは思っていない」と歯切れが悪かった。復旧計画の見通しの甘さを報道陣から指摘され、「反省している」と述べた。停電復旧時には漏電が起き火災につながることもある。東電はアイロンやドライヤーなど電熱器具をコンセントから抜いておくことや、外出時はブレーカーを切るよう呼び掛けている。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190912&ng=DGKKZO49625090Q9A910C1L83000 (日経新聞 2019年9月12日) 「農業団地」企業が選ぶ理由 全国でも珍しい大規模農業団地計画が埼玉県羽生市で動き出した。全体計画24ヘクタールのうち先行する約9.5ヘクタールに進出する3社が決定。全都道府県に設けられた農地中間管理機構(農地バンク)を活用して農地を集積して企業に貸し出す。同様の取り組みは各地であるが行き詰まる例も多い。羽生ではなぜ順調なのか。群馬県との県境にある羽生市は東京から約60キロメートルでコメ作りが盛んだ。だが「後継者不足や耕作放棄地の増加が課題」(同市農政課)。そこで高収益農業を掲げ、農家の転作や市内外から農業への進出を促そうと、2018年3月に農業団地の構想を作成し、11月に公募を始めた。市が面積など企業の要望を聞いたうえで地権者と調整し、農地バンクが借り上げて貸し出す。農業団地は東北自動車道の羽生インターチェンジから車で5分と出荷や観光農園に有利だ。9.5ヘクタールに対して5件の応募があり、市への問い合わせは約40件あった。審査を経て進出が決まったのは、市内のスーパーと東京都内の農業資材メーカー、埼玉県内のハーブ農園の3社。いずれも20年の土地賃借契約を結ぶ。「これだけまとまった土地はめったにない」(進出企業の担当者)。羽生市役所には全国から視察も相次ぐ。農業問題に詳しいみずほ総合研究所の堀千珠主任研究員は「農業集積地の開発で最も重要なのは地権者との調整。知らない人や企業に貸すことに抵抗を感じる人は多い」と話す。また農地を相続した地権者が県外在住で連絡がつかないか、地権者が多すぎて調整がつかないことも多い。今回、農業団地全体の地権者は約80人。先行する9.5ヘクタールでは約35人で市内在住者が多いことが幸いした。しかも多くがすでに農地を貸した経験があり、貸すことに抵抗が少ないのもスムーズに運んだ理由だ。それでも「土地の利用方法を市が勝手に決めるな」と反発する人もおり、市の職員2人が説得に当たった。こういった農業団地開発では、企業などから進出の打診があってから農地を探し始める自治体もあるという。工業団地への誘致では考えにくい。「他地域では自治体の担当者と一緒に地権者まわりをしたこともある」(羽生に進出する企業)。こうした手間を企業に求めないことも企業が羽生を選んだ理由の一つだった。行政が求められることを的確に理解、遂行することが成功への第一歩のようだ。 *5-4:https://www.asahi.com/articles/DA3S14175820.html (朝日新聞社説 2019年9月13日) 停電の長期化 「想定外」ではすまない 命にかかわる事態である。政府は全力をあげて被災者を支援すべきだ。9日に上陸した台風15号による大規模停電で、千葉県を中心に深刻な影響が広がっている。当初、東京電力は11日中の復旧を目指すと発表したが、13日以降にずれ込んだ。厳しい暑さのなかで不便な生活が続き、熱中症の疑いによる死者も出た。停電にともなう断水なども起きている。東電は復旧を急がねばならない。停電は最大時で90万戸を超えた。東電管内で起きた台風によるものでは規模、期間とも過去最大級という。12日午後8時時点でも約29万戸が電気のない生活を余儀なくされている。台風が去った後も天候が不安定で、断続的な作業にならざるを得なかったうえ、房総半島の山間部などで倒木の多さに手間取ったというが、見通しが甘かったと批判されても仕方がない。きめ細かで、確実な情報発信の徹底が求められる。復旧後には、大規模停電の原因や、なぜ復旧作業に時間がかかったのかを、厳しく検証する必要がある。他の電力会社を含め、停電を起こさぬ努力だけでなく、よりスムーズに復旧できる態勢をつくるためだ。10万戸相当の停電につながった鉄塔2基の倒壊では、強度の想定を超える風が吹いた可能性がある。倒壊の状況を精査し、必要ならば「耐風性」の想定を見直さねばならない。福島第一原発の事故で経営が苦しい東電は、需要の伸び悩みもあり、送配電部門の投資を抑えてきた。電柱の交換や補強といった安全確保策に甘さがなかったかも、検証すべきだ。安倍首相は「復旧に全力を挙げる」と述べた。自治体からは電源車の継続的な手配や、さらなる給水支援を望む声が出ている。各省庁ができることを考え速やかに対応してほしい。心配なのはお年寄りや病人ら災害弱者だ。病院は非常用発電機で機能を維持しているが、燃料補給が欠かせない。介護施設の中には水洗トイレが使えず、職員が手動で流しているところもある。最優先でニーズをくみとり、支える必要がある。停電が解消しても、日常が戻るには時間がかかるだろう。強風で多くの屋根が損傷し、ブルーシートも相当いる。他の自治体や企業も支援の手をさしのべたい。昨年は北海道地震でブラックアウトが起き、台風21号でも関西でのべ約220万戸が停電した。長期的には電線の地中化が有効な対策である。コストはかかるが大規模停電の影響と復旧費用を考えれば、国も電力会社も無電柱化に力を入れる時だ。 *5-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190913&ng=DGKKZO49737160S9A910C1EE8000 (日経新聞 2019.9.13) 地熱開発 国が掘削調査 再エネ普及へ企業負担減 経済産業省は地熱発電の普及に向け、開発段階の支援制度を拡充する。これまで企業に任せていた有望地点を探す初期の掘削調査を、2020年度から国が石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて代行し、企業の負担を大幅に軽くする。リスクが大きい開発初期の調査を国が主導することで民間が積極的に参画できる環境をつくりたい考えだ。地熱開発は長期の官民の関与が必要だ。掘削して地下構造などをはかる「初期調査」に約5年、発電に必要な蒸気の噴出量をはかる「探査事業」などに約2年かかる。その後、事業化する判断をした後も、環境アセスメントや発電所の建設などに7年程度かかる。中でもリスクが大きいのが初期調査だ。地面に穴を開け、発電に適した地層の構造になっているか、企業が1回あたり数億円かけて入念に調べる必要がある。ただその結果、地層が発電に適していなければ失敗に終わる。調査はこれまでも国が費用の一部を補助していたが、企業側からは国がより関与すべきだとの声が多かった。JOGMECは初期調査のうち、地中に発電に不可欠な熱水や蒸気が十分に含まれているかの調査を代行する。期間は20年度から6年程度としたい考えで、企業が将来計画をたてやすくする。企業が掘削に慎重なのは、多方面との調整作業が難航しがちという事情もある。地熱に適しているとされる地域の多くは、国立公園や国定公園のなかにある。そこで掘削をしようとすると、近くの温泉などへの影響を懸念する地元自治体や、環境省、林野庁などとの難しい調整が必要になる。こうした調整を経産省やJOGMECが担うことで、開発に向けた調整がスムーズになる可能性がある。 <首都圏における災害とインフラ、人口密度など> PS(2019.9.14、15、16追加):*6-1のように、台風15号は千葉県で大規模停電を引き起こし、今後の対策として老朽インフラを新しいインフラに更新していくことに私も賛成だが、台風・豪雨だけでなく地震・津波が起こることも前提として街づくりは行う必要がある。 このような中、*6-2のように、日本の首都である東京は、大雨・台風の際には処理能力を超えるため下水処理されずに直接川に流された汚水が、お台場に到達して“トイレ臭”を発し、大腸菌の数も基準を超えるという不潔な状態であることが、先日の五輪テスト大会で明白になった。このように、古くて処理能力が不十分な下水道を使っているため東京の川はいつも汚いが、その汚水を入り江に張った膜で防御するという改善策を聞いた時にはさらに呆れて、オリンピックのお祭り騒ぎよりも、きちんとしたインフラ整備が先ではないかと思った。 今では東京に1300万人、東京・神奈川・埼玉・千葉の東京圏に3600万人(日本全体の人口の1/3)が住むようになり、下水道だけでなく上水道も質が悪かったり量が少なかったりして節水を強い、不潔な状態になっている。そして、地震・津波に襲われる危険がある東京で、さらにインフラを拡大をするのは金がかかりすぎる上、無駄遣いになるリスクもある。 そのため、私は、*6-3のように、国会議事堂やその関連施設などの主要な首都機能を安全な場所に移転(もしくは疎開)してはどうかと考える。移転する場所は、栃木県・福島県南部は原発事故の影響で適切でなくなり、岐阜・愛知地域や三重・畿央地域は既に人口が多いため、涼しくて地震・津波の心配がない長野県松本市付近にし、新しい国会議事堂は英国のように議論しやすい民主主義向きの設計にしてはどうかと思う次第だ。 一方で、*6-4の佐賀県三瀬地区のように、よい農産物を生産する重要な地域であるにもかかわらず、人口が少ないためバスの運行も採算が合いにくい地域もある。私は、将来、マイクロバスやジャンボタクシーも自動運転の電動車にすれば、さらにコストを減らして運行数を増やすことができると考える。 なお、敬老の日の2019年9月16日、徳島新聞が社説で、*6-5のように、「運転免許の返納が高齢者の生活の質の低下に繋がらないよう、『高齢者の足』の確保を」という記事を書いており、全くそのとおりだと思う。ただ、運転免許を返納しなければならないほど衰えてくると、自宅で家事(火や薬品を使う)をするのも心もとなくなるため、選択肢の1つとして、朝に迎えに来て、食事・風呂・運動・娯楽・文化活動を提供し、夕方に家に送り届ける宅老所を中心部に作ればよいと思う。ただし、8Kテレビで高齢者が若い頃に感動した映画を見ることができたり、多種の新聞・雑誌・本などが置いてあったり、書道・手芸・カラオケができたり、歩いて買い物や病院に行ったりなど、家にいるより便利で居心地が良い場所にしなければならない。 ![]() ![]() ![]() (図の説明:左の図は、人口の多い順に都道府県を並べたもので、中央の図は、上位と下位それぞれ10都道府県の人口・面積・人口密度を示したものだ。また、右の図は、日本地図に都道府県別の人口密度を示したもので、赤色の地域は人口密度が高い) *6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190914&ng=DGKKZO49820850T10C19A9MM8000 (日経新聞 ) 老朽インフラ、日本の岐路に 、台風で停電、復旧あと2週間 送電網や道路橋、更新コスト重く 大規模停電を引き起こした台風15号は生活インフラが抱える災害リスクを浮き彫りにした。なお17万戸が停電し影響はライフラインに広がる。1970年代に整備が進んだ送電施設は更新時期が迫り老いるインフラは道路などにも共通する課題だ。国と地方を合わせた借金が1千兆円と財政が厳しく社会保障費も膨らむなか、巨額投資によりインフラをどこまで維持していくか、重い判断が迫られる。台風15号が首都圏を直撃した9日以降、千葉県南部を中心に停電が続く。東京電力パワーグリッドは13日夜、東京都内で記者会見し、「今後、2週間以内におおむね復旧見込み」と発表した。同社は当初、11日に全面復旧するとの見通しを発表していたが、会見で「過去の被害規模から過小な想定をしてしまった。複雑な難工事に直面している」と釈明した。房総半島の送電網は山林に張り巡らされており、倒木によって大規模に損傷しているという。台風による被害は広範囲に及び、停電の全面復旧は時間がかかる傾向にある。2018年に関西を襲った台風21号の被害は、全面復旧まで17日間を要した。停電はライフライン全体に影響を及ぼした。携帯電話の電波を飛ばす基地局が多くの場所で機能せず、スマートフォンの電源も確保できなくなったため、11年の東日本大震災の際には避難所や支援物資の情報共有で力を発揮したSNS(交流サイト)の効果も限定的なものになった。市役所などに設置された充電設備には電源を求める人で長蛇の列ができた。被害が広がった背景として、想定外の強風に加え、送電設備の老朽化も指摘されている。送電線の鉄塔は70年代に建てられたものが大部分を占める。倒壊し、10万戸の大規模停電につながった千葉県君津市の鉄塔は72年に完成したものだった。電力各社などでつくる電力広域的運営推進機関によると、15年度末の時点で約25万基ある送電鉄塔のうち、製造年が00年代のものは年約千基ペースなのに対し、70年代は年6千~8千基にのぼる。東京電力管内の鉄塔の平均使用年数は42年。設置場所や塗装などによって違いはあるが、老朽化は着実に進行している。広域機関は既存の設備を現在のペースで全て更新した場合、鉄塔で250年程度かかる計算としている。台風に有効とされるのが、電柱の地中化だ。だが、電柱は1キロメートル当たりの復旧費が2千万~3千万円で済むのに対し、地中化は同4億~5億円に上る。東京電力ホールディングスは東日本大震災の原発事故で経営危機に陥り、送電関連の設備投資を抑えることで収益を確保してきた。91年に送電や配電設備などに約9千億円を投じたが、15年に8割減の約2千億円まで減少。発送電分離など電力が自由化に進むなか、耐久性があると判断した設備は更新を先延ばしするなどして、できる限り投資を抑えているのが実情だ。インフラの老朽化は電力以外でも深刻だ。建設から50年以上が経過する施設の割合は18年3月時点で73万ある道路橋の25%、1万超のトンネルの20%、5千の港湾岸壁の17%に及ぶ。時間が経過すれば割合はさらに増える。33年には道路橋の6割超、トンネルでも4割が建設から50年を超える。国土交通相に就任した赤羽一嘉氏は、大規模自然災害について「発生のたびに100年に1度の規模だといわれるが、今後は毎年起きると思って対策を進める必要がある」と指摘する。国交省の推計では今後30年間で必要となる費用は最大で約195兆円に及ぶ。ただ、日本の財政状況は先進国で最悪だ。人口減少に備えて既存インフラの廃止や、住宅や商業施設を集約する「コンパクトシティー」も重要な選択肢だ。しかし名古屋大学の中村光教授は「住民の反発を恐れて自治体での議論はほとんど進んでいない」と警鐘を鳴らす。維持すべき施設を選別する方法論は専門家の間でも議論は深まっていないという。 *6-2:https://news.livedoor.com/article/detail/16921713/ (日刊ゲンダイ 2019年8月13日) 五輪テスト大会で選手から悲鳴 お台場の海“トイレ臭”を専門家が解説 1年後の東京五輪に向けて、水泳競技「オープンウオーター」のテスト大会が11日、東京・お台場海浜公園で開催されたが、参加選手から高水温や悪臭に対する不満の声が相次ぐ散々な結果だった。国際水連は競技実施の条件として会場の水温を16度以上31度以下と定めている。この日の水温は午前5時の時点で29・9度(競技中の水温はなぜか非公開)。そのため午前10時だった男子の開始時間を、女子とほぼ同じ午前7時に前倒しした。ロンドンとリオ五輪の日本女子代表の貴田裕美(コナミスポーツ)は「水温も気温も高く、日差しも強くて過酷だった。泳ぎながら熱中症になるんじゃないかという不安が拭えなかった」と悲鳴を上げた。ロンドン五輪金メダルのウサマ・メルーリ(チュニジア)も「今まで経験した中で最も水温が高く感じた」とヘトヘトだった。 ■「すぐに競技場所を変更すべき」 さらに、選手に酷だったのがニオイだ。約1時間泳いだ男性選手は「正直、くさいです。トイレみたいな臭いがする」と衝撃の証言をした。だが、お台場の海が“くさい”のは必然だという。元東京都衛生局職員で、環境・医事ジャーナリストの志村岳氏がこう言う。「お台場はゴミで埋め立てられた場所。海底のゴミが、海水を汚染しています。ただでさえ、隅田川などが運ぶ汚水が流れ込むうえ、大雨や台風の際は、下水の処理能力を超えた汚水が川に放出され、お台場に到達する。しかも、地形が入り組んでいるため、これらの汚水が外海に出て行かず、よどんでしまう。お台場は東京でもっとも泳いではいけない海なのです」。お台場はかつて、海水浴禁止だったが、2014年から港区が期間限定で海水浴場として開放。期間中、汚水の流入を防ぐ膜を設置して“泳げる海”にしている。今回のテスト大会でも、入り江口に約400メートルの膜を張った。苦情を受けて、本番では膜を3重に厚くするという。「焼け石に水です。例えば、いくら3重にしたところで、膜では、トイレ臭の原因と考えられるアンモニアの流入は防げません。都の職員も分かっているはずです。五輪開催1年前に問題が表面化したのに、小手先の対策でごまかせば、各国は黙っていないでしょう。すぐに、競技場所を変更すべきです」(志村岳氏)。東京五輪の暑さ対策で整備された「遮熱性舗装」は、空間気温がかえって上昇することが指摘されているが、今度は海水のトイレ臭。「くさいものにフタ」は許されない。 *6-3:https://www.excite.co.jp/news/article/B_chive_economics-politics-japanese-politics-capitaltransfer-candidate/ (エキサイト 2019年2月21日) 首都移転議論の候補地は? 首都移転は常に議論の俎上に載せられるテーマです。現在の首都である東京への一極集中が問題視されているためです。この首都はどこへ移転すべきと議論されているのでしょうか。 ●3つある 首都移転の候補地は大きくわけて3つあります。ひとつは栃木県や福島県南部のあたりです。東京から新幹線で1時間ほどでアクセスできることに加えて、夏場は比較的涼しい場所のため、候補地のひとつとされてきました。 ●岐阜、愛知地域 もうひとつが岐阜、愛知地域です。日本の3大都市と言える東京、名古屋、大坂において、中間点である名古屋の周辺に首都移転計画がありました。確かに日本のほぼ中央といえる場所にありますから、交通などにおいては便利かもしれません。さらに、東京と大阪の中間点といった位置づけにもなりますし、北陸方面からのアクセス回路も作ることができます。 ●三重、畿央地域 もうひとつの候補地が三重県や畿央と呼ばれる場所です。奈良県などを含むものでしょう。もともと平城京があり、史実の上でも日本の首都であったわけですから、原点回帰とも言えるかもしれません。さらに、リニア中央新幹線が名古屋から先の大坂まで通った場合には、名古屋と大坂の中間点くらいの場所に新たな首都が作られるといった可能性も考えられるでしょう。しかしながら、首都移転には莫大な費用がかかるため、実現に向けてはさまざまな問題点が山積みになっているというのが現状となっています。 *6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/427543 (佐賀新聞 2019年9月15日) <昭和バス再編>代替にマイクロバス購入を 三瀬地区、運行案固まる 昭和自動車(唐津市)の路線バス再編に伴い代替交通手段を考える三瀬地区公共交通検討会議(会長・井上文昭三瀬自治会長)が13日夜、佐賀市三瀬支所で会合を開き、運行本数や料金体系などの案を取りまとめた。同一路線を利用する神埼市と協議していく。これまでの会合で、三瀬支所から横武(神埼清明高校前)まで中型バスかマイクロバスを定時定路線で運行する方針を決めていた。今回の案では、29人乗りのマイクロバスを購入し、乗客が少ない場合や点検時は神埼市脊振で使用するジャンボタクシーを併用する。平日が神埼行き7便、三瀬行き8便で、土曜が各5便、日曜・祝日が各4便と、現在の三瀬発着便とほぼ同じ規模にする。三瀬支所~横武の運賃を抑えるなど、神埼経由でJRを使い佐賀市街地の高校に通う生徒の負担が変わらないようにする。委員は「学生が安心して通学できる」と今回の案を評価しつつ「バス停は今まで通りでいいが、どこでも降車できるようにしてはどうか」と注文もしていた。 *6-5:https://www.topics.or.jp/articles/-/257805 (徳島新聞社説 2019年9月16日) 敬老の日 「高齢者の足」の確保を きょうは「敬老の日」である。本県の100歳以上は533人を数える。医療の進歩、食生活や公衆衛生の向上などにより、超長寿社会が実現したことは喜ばしい。一方で高齢化に絡む痛ましいニュースが少なくない。その一つが、自動車のアクセルとブレーキの踏み間違えが原因とみられる交通事故だ。誰しも年をとると、体力や視力が衰える。健康に不安を感じたら、運転免許証を自主返納することが望ましい。問題は、その後の「生活の足」をどう確保するかだ。県警によると、2018年の自主返納者は3082人で過去最高だった。今年は6月までで1791人と、昨年を上回るペースで返納されている。4月、母子が犠牲になった東京・池袋の事故が心理的に影響しているという。とはいえ、県内の公共交通機関は脆弱である。返納が高齢者の生活の質低下につながってはならない。近年、健康寿命を平均寿命に近づけることへの意識が高まってきた。介護に頼らず、いつまでも元気で生き生きしていたいと思うのは当然のことである。そのためには、生活習慣病の予防など健康に留意することはもちろん、積極的に社会参加し、日々、生きがいや喜びを感じながら暮らすことが大事だろう。だが遠出できず、買い物に行くこともままならないとなれば、食の偏りや低栄養を招きかねない。1人暮らしだと、孤独に陥ってしまうこともあろう。運転免許返納後の不自由をなくすため、過疎地の自治体などは、自主返納者らを対象に、さまざまな優遇措置を打ち出している。主なものは、運行するバスの運賃半額や割引、タクシー料金の一部助成などだ。バス会社も路線バスの運賃半額を実施している。料金を1割引きとするタクシー会社(個人を含む)も増えてきた。ただ、バスは本数が限られている。割引の区間やサービスの利用回数が限定されているケースも多い。求められるのは利便性の向上だ。そのためには鉄道、路線バス、貸し切りバス、コミュニティーバス、スクールバス、タクシー、福祉車両といった、あらゆる交通手段を柔軟に組み合わせることが欠かせない。国や県、市町村などは今、そうした方法を模索している。交通網の最適化が図られ、乗り継ぎや長距離移動が楽になれば、全体の利用者増も期待できよう。運行形態の抜本的な見直しによる交通機関の維持なくして、自主返納者を含む高齢者の足確保やサービス拡充はありえない。本県の高齢化率は33・1%に達している。3人に1人が高齢者である現実を直視し、地域の足を全員で支える意識を共有したい。 <全世代型社会保障とは> PS(2019年9月16、21、22日追加):*7-2のように、総務省が9月16日の敬老の日にあわせてまとめた9月15日の人口推計では、65歳以上の“高齢者”人口が総人口の28.4%で、後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上は14.7%(7人に1人)になった。また、労働力調査によると、65歳以上の“高齢者”の就業率は非正規雇用が多いものの、2018年時点で24.3%であり、政府は70歳までの就労機会を拡大する法改正を準備しているそうだが、私は75歳を視野に入れた法改正をしてもよいと思う。ちなみに、埼玉県内の企業は、*7-3のように、65歳以降の雇用に87%が肯定的で、「熟練の技術や知見を持つ高齢者への期待が高まっている」とのことだ。 そのような中、日経新聞が社説で、*7-1のように、「①介護費用は2019年度予算で11.7兆円に達し」「②65歳以上の高齢者が支払う保険料は全国平均で月5869円、40~64歳の保険料も上昇して現役世代の大きな負担だ」「③高齢化が進む中で制度を維持するために介護保険の給付と負担の見直しが必須」「④厳しい現実を直視し、痛みを伴う改革に踏み込むべきだが、痛みはみなで分かちあいたい」「⑤給付を効率化することが欠かせず、掃除や料理を手伝う生活援助サービスは大きな課題」「⑥介護サービスを利用する際の自己負担は原則1割だが、原則2割にすべき」「⑦介護サービスのケアプランづくりも一定の負担が必要」などと記載している。 このうち、①については、2000年から始まった介護保険制度であり、始まった当初は足りないものだらけだったため増えるのが当然であり、増えたのは単なる景気対策と違ってニーズが高かったということである。また、②については、40歳未満の人は介護保険料を支払っていないため、働いている人すべてが介護保険料を支払うように制度改革し、合わせて介護制度は病児の介護も担うようにすべきだ。さらに、⑤は、男性には定年制を言いながら、家事・介護の労働負担を考慮しないドアホさであり、⑦は、家のリフォームの仕方を相談しただけで金をとるのと同じくらいあくどい。さらに、⑥は、以上のすべてを改善し、何事も無料はよくないため子どもの医療費負担も1割にしてから考えるべきである。そして、③④のように、事実を無視して痛み分けばかり述べるのは、高校まではゆとり教育、大学時代は麻雀づけ、就職してからは家事・育児・介護には関係ないと思っている人が記事を書いているからだろう。そのため、労働市場で高齢者が担う役割は大きいし、新聞社や役所などの幅広い視野を要する組織は、1年以上の長期育児休暇や介護休暇取得を義務付け、従業員に家事・育児・介護等を経験させるのがよいと思う。 これが、全世代型社会保障の輪郭で、*7-4の幼保無償化もよいし、地方自治体が独自財源で不足部分を補うのもよいとは思うが、正しい理念を持った政策にして欲しい。 なお、*7-5に、八田達夫氏が「⑦無償化で需要が増えて待機児童問題は悪化した」「⑧認可保育所の0歳児枠は基本的に廃止せよ」「⑨全員が保育士との要件を6割まで緩めよ」と書いておられる。そして、⑦の理由について、「⑩無償化は高所得世帯ほど恩恵が大きく、子の貧困を救うために使えた財源を中高所得者が奪う結果をもたらす」「⑪保育サービスの供給量は保育士の数がネック」としておられるが、これだけ無駄遣いをしている日本政府が幼保無償化と待機児童対策の二者択一を行う必要はなく、単なる景気対策を削減すべきだ。さらに、3~5歳児の全世帯無償化は義務教育の3歳開始を視野にしており、貧困対策ではないため、⑩は反論になっていない。従って、⑨⑪の保育士不足は、幼稚園・小学校の教員免許取得者・栄養士・外部講師・雑用係などでチームを組んで教育・保育を提供しながら埋めるのが適切だ。さらに、⑧については、「⑫0歳児保育を不必要に多く生み出しているから」と書かれているが、育児休業を取れるのは実際には職場である程度の実績を積んだ正規雇用の女性だけであるため、認可保育所の0歳児枠を廃止すれば子を持てない夫婦が増える。また、「⑬都会では認可保育所が足りない」と書かれているのは事実だが、地方には比較的広い教室や園庭を持つ認可保育所に空きがあるため、これが首都圏に過度に人口を集中させ地価をはじめ物価を上昇させた弊害なのである。 さらに、*7-6のように、国公私立大学・短期大学の97%にあたる1043校が住民税非課税世帯向けに開始される大学・短大の無償化対象となり、該当する学生には授業料の最大年70万円減免と給付型奨学金の最大91万円支給が行われるそうだ。住民税非課税世帯とは、独身者・単身者なら年収100万円以下、障害者・未成年者・寡婦(寡夫)なら年収約204万円以下の人で、対象はかなり絞られたがないよりはよくなった(https://www.amazon.co.jp/ref=dra_a_ms_hp_ho_xx_P1700_1000?tag=dradisplay0jp-22&ascsubtag=7e93be7451ad705a3c98e4f9e11c2625_CT# 参照)。しかし、子を大学まで出した上で2000万円以上の老後生活費を準備するのは、住民税非課税世帯でなくとも困難だ。教育は、(集団に埋没するのではなく)革新や生産性向上のために考えながら働くことのできる人材を創るために必要な国家的投資でもあるため、今後は、国立大学授業料の低減や対象者の要件緩和が必要だ。 ![]() ![]() ![]() 日本の出生数・合計特殊出生率推移 介護産業の市場規模 年齢階級別平均所得 (図の説明:左図のように、戦後の1947~1949年に第一次ベビーブームが起こり、出生率が高くなって団塊の世代が生じ、その子が1973年前後に生まれて第二次ベビーブームとなった。そのため、団塊の世代が後期高齢者になる頃の社会保障が心配されているが、生産性向上と支え手の拡大で乗り切るべきだ。中央の図の介護保険制度は、女性の社会進出と核家族化の要請により日本で生まれた制度だ。しかし、2000年に始まったばかりの制度で実需でもあるため、増加するのは当然だ。その介護保険料は、日本では40歳以上しか納付していないが、右図のように所得の少ない高齢者に多く負担させるよりも、働く人すべてで負担するのが公正・公平である) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190916&ng=DGKKZO49842270U9A910C1PE8000 (日経新聞社説 2019年9月16日) 介護保険は給付と負担の双方に切り込め 介護保険制度の見直しに向けた本格的な議論が、社会保障審議会の部会で始まった。高齢化がさらに進むなかで制度を維持するためには、給付と負担の見直しが必須だ。厳しい現実を直視し、痛みを伴う改革に踏み込むべきだ。介護保険は3年に1度、制度を見直している。今回の議論は2021年度からの実施に生かすためのものだ。介護保険の現状は厳しい。介護費用は19年度の予算ベースで11.7兆円に達した。制度創設時の00年度の3倍以上にあたる。65歳以上の高齢者が払う保険料も全国平均で月5869円で、00年度の約2倍に増えた。40~64歳の保険料も同様に上昇しており、現役世代の大きな負担だ。介護費用には税も投入されるが、過度に膨らめば、制度の持続が難しくなる。団塊の世代が全員75歳以上になる25年は、もう目前だ。介護予防の取り組みで健康寿命を延ばし、できるだけ介護が必要にならないようにするのは一つの手だが、今の給付を効率化することが欠かせない。なかでも掃除や料理などを手伝う生活援助サービスは、大きな課題だ。訪問介護の一種だが、介護の必要性が比較的低い軽度者については、自治体の事業に移すことを検討すべきだ。一方、一人暮らしの高齢者や老々介護の人は多く、現役世代の介護離職も防がねばならない。給付抑制だけでは限界がある。負担増をどう分かちあうか、正面から議論する必要がある。高齢者が介護サービスを利用するさいの自己負担は「原則1割」だ。収入の多い一部の人のみ、2、3割となっている。経済的に苦しい人には配慮しつつ、原則を2割にすることが望ましいだろう。介護サービスの利用計画(ケアプラン)づくりは現在は自己負担がないが、これも一定の負担が必要ではないか。そもそも介護は、人手不足が深刻だ。処遇改善を着実に進めることはもちろん、介護ロボットの活用などで働きやすい環境づくりを急がねばならない。高齢者、とりわけ75歳以上が増える一方、現役世代の人口は減少していく。改革の遅れは、将来への付け回しを増やすばかりだ。介護だけでなく、医療でも高齢者に一定の負担を求める改革を進める必要があろう。痛みはみなで分かちあいたい。 *7-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49851150V10C19A9MM8000/ (日経新聞 2019/9/15) 65歳以上人口が最高28.4% 7人に1人が75歳以上 総務省が16日の敬老の日にあわせてまとめた15日時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者人口は前年比32万人増の3588万人だった。過去最多を更新し、総人口の28.4%を占めた。後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上は53万人増え1848万人となった。総人口の14.7%とおよそ7人に1人に上り、超高齢化社会を支える制度づくりが急務だ。70歳以上の人口は98万人増の2715万人で、総人口に占める割合は21.5%に上った。ほかの年齢層に比べて増加数が多いのは1947~49年生まれの「団塊の世代」が含まれるためだ。同省によると65歳以上の割合は世界201の国・地域のうち最も高い。2位のイタリア(23.0%)を大幅に上回っている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では今後も上昇し、2025年に30.0%、40年には35.3%に上る見込みだ。働く高齢者数も増加している。労働力調査によると、65歳以上の就業者数は18年、862万人と過去最多を更新した。15年連続で前年より増えた。約半数の469万人が企業などに雇用され、このうち76.3%にあたる358万人がパートなど非正規雇用だった。非正規職に就く理由は男女ともに「自分の都合のよい時間に働きたいから」が最多となった。日本の高齢者の就業率は18年時点で24.3%。男女別では男性が33.2%、女性が17.4%だった。主要国の中でも高い水準にあり、米国は18.9%、カナダは13.4%だった。政府は人手不足などの問題を解決するために、70歳までの就労機会を拡大する法改正を準備している。企業が深刻な人手不足に直面し、労働市場で高齢者が担う役割が拡大している。 *7-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38911390T11C18A2L72000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2018/12/13)埼玉県内企業、65歳以降の雇用 87%が肯定的 埼玉りそな産業経済振興財団(さいたま市)が実施した埼玉県内企業の高齢者雇用に関する調査で、65歳以降の雇用に肯定的な回答は9割近くに上った。同財団は「企業の人手不足感が強まり、熟練の技術や知見を持つ高齢者への期待が高まっている」と分析している。65歳以上の高齢者を「積極的に雇用したい」「環境、条件などが整備されれば雇用したい」が合わせて87%だった。65歳以降の雇用が「ある」との回答は70%。政府は70歳までの就労機会の確保を目指しているが、多くの県内企業ですでに65歳以上の高齢者が働いている現状が浮き彫りになった。高齢者に期待することを複数回答で聞いたところ「熟練した技術や知見の活用、伝承」が88%で最多。次いで「人手不足への対応」(71%)、「若手の育成」(64%)の順だった。高齢者雇用の課題は「健康管理」(78%)が最も多かった。調査は10月中旬に実施し、236社から回答を得た。 *7-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/CK2019091502000122.html (東京新聞 2019年9月15日) 幼保無償化「国以上」6割 さいたまや千葉 独自財源で拡大 幼児教育・保育の無償化に関し共同通信が県庁所在地など計百三自治体に行った調査で、国の基準では無償化とならない世帯に、独自財源で何らかの経済的支援を実施または検討している自治体が六十二市区と約六割に上ったことが十四日、分かった。国の制度以外に取り組む予定がないと答えたのは四十一市町だった。安倍政権は「三~五歳の全ての子どもを無償化する」と看板政策をアピールしてきた。しかし、実際には恩恵を受けられない家庭もある。待機児童問題も解消されない中、自治体が国の制度設計の不備を補う形で独自策を講じている実態が浮き彫りになった。調査は八~九月、県庁所在地と政令市、東京二十三区、昨年四月時点で待機児童が百人以上の計百三自治体を対象に実施。九月十三日時点の結果をまとめた。国の制度では、認可保育所や認定こども園などに通う三~五歳児の場合、保育料は無料となる。一方、認可外保育所などを利用する場合は全額無料とはならず、上限付きで利用料が補助される。ゼロ~二歳児は年収が低い住民税非課税世帯に対象が限られる。国を上回る取り組みとして最も多かったのは「利用料補助の上限額引き上げ」で、さいたま、千葉など二十市区。さいたま市では、市が一定の保育の質があると判断した認可外施設に限り、国より二万円上乗せし、実質的に月五万七千円まで補助できるようにした。鳥取や高知など十五市区は「対象外の世帯を一部無償化する」と回答。例えば大阪市や鳥取市は、母親が働いていないなど国基準では「保育の必要性が認められない世帯」も対象とする。山形、宇都宮など八市区は、住民税非課税世帯以外のゼロ~二歳児について保育料を値下げするなどとした。 *7-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190920&ng=DGKKZO49983690Z10C19A9KE8000 (日経新聞 2019.9.20) 経済教室幼保無償化の論点(上)待機児童の解消 最優先で、八田達夫・アジア成長研究所所長(1943年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大博士(経済学)。専門は公共経済学) <ポイント> ○無償化で需要増え待機児童問題は悪化へ ○認可保育所の0歳児枠は基本的に廃止を ○全員が保育士との要件を6割まで緩めよ 政府は2019年10月から、幼児教育・保育の認可保育所の無償化を全面的に実施する。認可保育所に子どもを預ける場合、0~2歳児については住民税非課税の低所得世帯、3~5歳児については全世帯がそれぞれ無償化の対象となる。本稿では、この改革を政策目的の観点から評価する。 保育政策の重要な目的は、子どもを欲しい親が子どもを持てるようにすることだ。それができていない主因は以下の2つである。第1に低所得者の多くが子どもを健全に養っていくには貧困すぎる。結婚をためらう若者は多い。第2に都会の中所得者の場合は、子どもが待機児童になる可能性が子どもを産みにくくしている。待機児童になると、無認可保育所に入れるか、労働参画を諦めねばならない。入所の可否が極端に大きな差をもたらす仕組みは、若い夫婦が将来保育コストを予測することを不可能にしている。これらの問題は無償化では解消しない。まず生活保護世帯は現在も保育料が無償だし、低所得者に対する保育料軽減策は既にある。子どもの貧困対策には保育所だけを無償にしても役立たない。少なくとも所得税の給付付き税額控除(低所得者への所得水準に応じた補助金)を別途用意する必要がある。加えて今回の無償化は高所得世帯ほど恩恵が大きい。子どもの貧困を救うために使えた財源を中高所得者が奪う結果をもたらす。しかも中産階級にとっての障害である待機児童数は増えてしまう。認可保育所を無償にすれば認可保育サービスへの需要量は大幅に増えるが、供給量は保育士の数により制限されているからだ。その状況での無償化は入所選考で落とされた親に何の恩恵も与えない。待機児童をなくすことこそ、保育政策の喫緊の課題だ。最小の財政支出で実現し余裕の資金を低所得者の生活一般に使えるようにすることを基本とすべきだ。待機児童とは、認可保育所あるいは認証保育所などに入れない児童のことをいう。認可保育所とは、児童福祉法に基づき施設の広さや保育士数などの設置基準を満たし都道府県知事により認可された施設である。設置基準が厳しいため、児童1人あたり費用は高い。情報公開されている東京都板橋区では、1人あたり費用が0歳で月42万円、1歳で21万円、4歳以上で11万円だ。一方で多額の国費負担により保育料は極めて低く抑えられている。保護者の年収が500万円の場合、月額保育料は3万円未満(0歳と1歳)から2万円未満(4歳)の範囲だ。認可保育所に申し込んだ児童の入所選考は、自治体がその地域の児童福祉を必要とする人の数に合う保育サービス供給量を算定し、一定の入所基準に基づき提供する「配給制度」だ。従って認可保育所と保護者が直接に入所の契約をするのではなく、保護者は自治体が指定する認可保育所に子どもを預けねばならない。都会では認可保育所が足りないので、すぐに入所できないケースが多い。入所基準は、両親ともフルタイムで働いている場合は優先順位が高く、一方がパートタイムで働いている場合は低い。そのため例えば両親ともフルタイムで外資系企業で働く高所得世帯の子が認可保育所に入れる一方、パートタイムの職にしか就けない比較的低所得の親の子が入れない。仮に中高所得者の保育料を引き上げられれば、需給調整がなされ供給不足は解消するはずだ。経済学的には、待機児童とは「多額の国費がつぎ込まれている認可保育所の保育料を行政が需給均衡水準より過度に低く決めているために発生している認可および認証保育所サービスの供給不足のこと」だ。今回の無償化はもともと低く設定されている保育料をさらにゼロまで引き下げるのだから、待機児童問題を悪化させる。このダメージを和らげるには、無償化とは関係なく待機児童問題対策の王道を実施することだ。都会の中産階級が最も必要とする待機児童問題に有効な対策を提案したい。追加的な費用をかけずに実行できる。第1は現制度が生み出している0歳児保育への過剰な需要を減らすことだ。現在は0歳児を持つ母親の多くは、子どもが1歳に達するまで育児休業をとれる。しかし1歳になってから保育所に入れようとしても、保育所は0歳から入る子どもで埋まっている。そこで1歳からの枠を確保するために、0歳時点では育休を諦めて保育所に預け、出産後まもなく職場に復帰するという現象が起きている。0歳児保育を不必要に多く生み出している。国の0歳児に対する保育士配置基準は1歳児の2倍だ。0歳児保育の増加は1歳児以上の保育所収容数を減らし、待機児童全体を不必要に増やしている。この問題の解決策は認可保育所の0歳児枠を基本的に廃止することである。そうすれば保育士が0歳児保育から解放され、1歳からの入所に十分な枠を確保でき、親は0歳の時は家庭保育、1歳になったら復職という選択が可能となる。その一方で、育児休業をとれない母親については、保育ママやベビーシッターに対する費用を行政が支援すれば、月額40万円前後の0歳児認可保育費用に比べてコストを大幅に節約できる。この方策は基本的に東京都江戸川区で取り入れられ成功してきた。国の改革としても導入すべきだ。第2は認可保育所の全員が保育士でなければならないという現行要件を6割まで引き下げることだ。「東京都の認証保育所」は保育サービス提供者の総数では認可保育所と同等で、6割が保育士であることが要件だが、問題は生じていない。認可保育所の保育士要件をこの水準まで引き下げて、減少分を保育士以外の人で補えば、保育士が認可保育所から解放される。それにより認証保育所の増設が可能となり、差し引きで待機児童数を減らせる。1997年創設の横浜保育室や、01年創設の東京都認証保育所など認証保育所への国費投入はほぼないため、認可保育所より高い保育料と自治体からの補助で大半の財政を賄っている。東京都の場合、平均保育料は約6.5万円である。認証保育所は、認可保育所に劣らない高い評価を得ている。表で示したように、東京都江東区での保護者の評判が高い保育園ランキングでも明らかである。東京都全域での平均でみても、認証保育所の方が認可保育所より評価が高い。教育内容などで利用者の要望に応えているからだろう。認証保育所の緩やかな保育士要件が特段の質の低下をもたらしているわけではない。認可保育所の保育士要件をこの水準まで引き下げれば保育の質を下げることなく、待機児童数を減らせる。まずこれらの王道対策を実施しダメージを和らげた後で、低所得者以外の無償化を廃止し、認可保育所の保育料を認証保育所の水準以上に引き上げ、生み出された財源を保育士の待遇改善と給付付き税額控除の創設に投入すべきだ。 *7-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190921&ng=DGKKZO50021120Q9A920C1CR8000 (日経新聞 2019.9.21) 無償化、大学・短大97%の1043校が対象、低所得世帯向け、4月開始 31校は申請見送り 2020年4月に始まる低所得世帯を対象とした高等教育の無償化制度を巡り、文部科学省は20日、募集停止などを除いた国公私立の大学・短期大学1043校(全体の97%)が制度の利用を申請し、全校が要件を満たして対象になったと発表した。一方、私立の大学・短大31校と国公私立の専門学校1024校は自ら申請を見送るなどして対象外となった。無償化制度は住民税非課税世帯やそれに準じる世帯が対象。授業料を最大で年70万円減免するほか、生活費として返済不要の給付型奨学金を最大で同91万円支給する。大学などが制度の対象となるには、教育体制や経営・財務について一定の要件を満たす必要がある。文科省によると、国公立の大学・短大186校と、国公私立の高等専門学校57校はいずれも利用を申請し、全てが要件を満たした。私立の大学・短大は888校のうち857校が申請し、全校が要件を満たした。この中には留学生が行方不明になり不適切管理が指摘された東京福祉大も含まれる。31校は各校の判断で申請を見送った。文科省によると、このうち10校弱が経営上の要件を満たせないとみられる。ほかは「規模が小さく対象者が見込まれない」「独自の奨学金制度がある」などが理由で、医学部などは授業料が高く、支援額では大幅に不足するため利用を見送ったようだ。国公私立の専門学校は2713校中1696校が申請。1017校が見送った。申請したうちの7校は要件を満たさず、1校は審査継続中で、無償化対象となったのは全体の62%にとどまる。申請見送りは「社会人が多い」「準備が整わない」などが理由という。私大は今春で3割が定員割れに陥っているが、ほとんどが無償化対象になったことについて、文科省は「制度は低所得者に高等教育への道を開くことを第一にしている。一定程度(経営に)しっかり取り組んでいれば要件は満たせる仕組みだ」と説明する。無償化の対象校は同省のサイトで確認できる。一方、文科省は低所得世帯を対象とした今回の制度開始により、国立大の学部生のうち、中所得世帯などの1万9千人は授業料負担が増えると推計している。各大学独自の中所得世帯向けの支援制度がなくなる見通しであることなどが理由だ。同省は家計への影響を抑えるため、経過措置を検討する。無償化制度の財源は10月の消費増税で賄う。無償化で低所得世帯の高等教育進学率が将来的に8割まで上がった場合、年約7600億円が必要になると試算されている。桜美林大の小林雅之教授(教育社会学)は「学生が教育を受ける機会が広がったことは評価できる。低所得世帯の学生がより多く通う専門学校は、対象を増やしていく必要がある。制度を知らずに支援を受けられない学生が出ないよう、制度の周知も大きな課題になる」と話している。 <幼保無償化について> PS(2019年9月23日追加):1990年代に、仕事との両立が不可能なので子を作らないと決めた時から、私は「少子化の原因は、職住接近していないことと保育所の不備にある」と考えて、保育所の整備を主張してきた。また、私の東大の後輩は、学童保育がなかったため子を他人の家に預けて研究を続けながら、学童保育の必要性を主張してきた。それから、四半世紀後の現在でも保育や学童保育が不足しているが、その人の子は既に結婚し、これらは行政のアクションのトロさを示すものだ。そして、そういう私に「シニア民主主義」などと言った人は、権力(?)に対する建設的な批判をしたのではなく、高齢者差別を奨める罵詈雑言を言ったにすぎない。 そのような中、*8-1のように、日経新聞が、2019年9月23日、幼保無償化の論点として、①地方で虐待予防や女性活躍推進など意義 ②待機児童増で保育所受け入れ拡大圧力も ③保育の質低下回避へ無償化の制度修正を という記事を書いている。①のように、虐待予防や女性活躍推進などの意義を掘り下げて書いているのは「現在だからこそ」と評価できるが、②のように、いまだに「無償化によって保育所利用が増え保育所への受け入れ圧力が拡大する」「待機児童が増える」というのを無償化の欠点としているのは問題だ。何故なら、これらの潜在的ニーズは女性の犠牲によって潜在化しているだけなのであり、子育てにおける女性のストレスを増加させているからだ。さらに、保育所を利用するのに共働きが求められるというおかしさも、家庭生活に対する行政のいらぬ介入により子育てに関する女性のストレスを増やしている。しかし、これらの論点は、幼保無償化によって再度リスト化されたので、③のように幼保無償化を後退させるのではなく、前進させながら解決すべきだ。 また、*8-2も、④子どもの安全や保育の質の確保という課題が残されたまま ⑤幼稚園が無償化に必要な申請をしていない ⑥保護者は幼稚園に文句を言いづらい ⑦自治体の「保育の必要性」認定が一大作業 ⑧給食費をめぐって混乱 などと記載しているが、④⑧はこれまでもやってきたことを正確に行えばよいだけである。また、⑤⑥は、保護者の立場に立った運営をしていないため、地方自治体や幼稚園の方に問題がある。さらに、⑦は、ニーズのある人は誰でも利用できるようにすべきで、行政が勝手に「保育の必要性がない」と決めつけること自体に問題があるのだ。従って、政府の混乱というよりは、これまでの地方自治体や厚労省の不作為・不効率のツケが廻ってきたのだと思われる。 さらに、*8-3は、⑨制度を支える保育士の待遇が悪い ⑩潜在保育士が多い ⑪保育士の平均就業年数に対して支給される処遇改善費は平均10年以上に対する12%で頭打ちで、経験の長い保育士がいても昇給させにくい ⑫保育士不足は待機児童問題に直結している と書いている。⑨⑪の給与の決め方は、女性が多い保育士は10年程度働いた後は結婚して辞めることを前提としているようだ。さらに、女性が主体となる職業は、(女性差別のため)看護師・介護師なども平均給与が低く設定されているが、それが⑩⑫の結果を招いているため、経験や実力のある保育士はそれ相応の高給にすべきなのである。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2018.5.15帆足Blog 2018.6.1朝日新聞 2019.7.7朝日新聞 2019.9.15東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、幼稚園は文科省の管轄、保育所は厚労省の管轄であるため、小学校の入学年齢を満3才として教育し始め、0~2歳と学童保育を保育とするのがよいと、私は考える。左から2番目の図のように、専業主婦の0~2歳児は「保育の必要性がない」として今回は無償化されていないが、専業主婦も求職活動・介護・第2子の出産などのさまざまな理由で保育の必要性が生じることはあるため、専業主婦を差別するのはよくない。また、右から2番目の図のように、認可外保育所の設置基準は緩いため、質の向上は重要だ。さらに、国の基準は最低を確保するものであるため、右図のように、自治体独自の基準や補助もあってよいが、どうしても国の基準にすべきと考えられるものは、現場からの要請で次第に改善していけばよいだろう) *8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190923&ng=DGKKZO50033540Q9A920C1KE8000 (日経新聞 2019年9月23日) 幼保無償化の論点(中)上限額設定・所得制限検討を、柴田悠・京都大学准教授(1978年生まれ。京都大卒、同大博士(人間・環境学)。専門は社会学、社会保障論) <ポイント> ○地方で虐待予防や女性活躍推進など意義 ○待機児童増で保育所受け入れ拡大圧力も ○保育の質低下回避へ無償化の制度修正を 10月から幼児教育・保育無償化により、3~5歳は全員無償、0~2歳は住民税非課税世帯のみ無償となる(幼稚園と認可外保育施設は上限額まで無償化)。無償化には一定の意義があるが、課題も多い。第1の意義は地方で虐待予防が進むことだ。虐待などの不適切な養育は、幼児の脳を物理的に変形させ、その後の社会生活を困難にする。山口慎太郎・東大准教授らが全国調査データを分析した研究によれば、母親が高卒未満の家庭では不適切な養育が生じやすく、子どもの社会的発達が遅れやすいが、子どもが2歳半時に保育所に通っていると、不適切な養育が予防されやすく社会的発達が健全になりやすい。従って保育所定員に余裕のある地方では無償化により、社会経済的に不利な家庭の保育利用が増え、虐待予防が進むと期待できる。第2の意義は地方での人手不足緩和と女性活躍だ。無償化により認可保育所(認定こども園を含む)への申し込みが増えると見込まれる。岡山市が2018年に実施した保護者対象のアンケート調査によれば、無償化により認可保育所の利用希望者数が3歳児でも4歳児でも2割増える見込みだ。特に4歳児では幼稚園から保育所への需要の移動が見込まれる。5歳児は調査されていないが、おそらく4歳児と同様だろう。日経新聞と日経DUALが18年に実施した主要143自治体へのアンケート調査でも、約8割が「無償化により保育所への利用申し込みが増える」と回答した。保育所を利用するには、基本的に共働きが求められる。そのため保育所定員に余裕のある地方では無償化により母親の就業が増え、人手不足緩和や女性活躍が進むと期待できる。第3の意義として育児費用の減少により、産みたい人が産みやすくなるという少子化対策効果が挙げられるが、効果は限定的だろう。確かに全国の50歳未満有配偶女性を対象としたアンケート調査(15年国立社会保障・人口問題研究所実施)では「理想の子ども数を持たない理由」の第1位は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(56%)だ。しかし全国20~59歳男女対象のアンケート調査(12年内閣府実施)では「子育て全体にかかる経済的な負担として大きいと思われること」の第1位は「大学・専門学校などの高等教育費」(69%)、第2位は「塾などの学校外教育費」(49%)、第3位は「小・中・高の学校教育費」(47%)で、「保育所・幼稚園・認定こども園の費用」は第4位(45%)だった。つまり幼保無償化により「子育ての経済的負担感が減る」と感じる人は子育て世代の半分弱にすぎない。むしろ専門学校や大学などの高等教育費を軽減するほうが、子育て世代の約7割の負担感軽減につながる。多くの人々にとって産みやすい環境を整えるという意味では、幼保無償化よりも高等教育費軽減のほうが効果が大きそうだ。またより根本的な対策としては働き方の柔軟化こそが必要だ。一方、最大の課題は主に都市部で待機児童が増えることだ。野村総合研究所による18年実施の全国アンケート調査に基づく試算をみてみよう。女性の就業率が今後国の目標通りに上昇すれば、保育の定員は、18年度から20年度末にかけて32万人分増やす政府の計画が実現してもなお、23年には28万人分不足するという。政府の計画では「保育の申し込みをしたがかなわなかった数」(顕在的待機児童数)を基に32万人という将来需要を想定する。一方、野村総研の試算は「保育(幼稚園の預かり保育を除く)を希望していたが諦めて申し込みをしなかった数」(潜在的待機児童数)も含めて将来需要を想定しており、「待機児童の完全解消に必要な定員数」により近い。岡山市の調査でみたように、無償化により保育所の利用希望者はさらに増えると見込まれる。待機児童がいる都市部では待機児童が一層増える公算が大きい。待機児童が増えると何が問題なのか。第1に保育の質が低下し子どもの発達に悪影響が生じかねない。第2に職場復帰がかなわなかった母親は、孤立育児によるストレスが高まり、虐待リスクが高まりかねない。第3に職場復帰できなかった母親の持つスキルが職場で生かされず、人手不足にも拍車がかかり、企業経営や経済成長に悪影響が生じる。第4にそれらが総じて育児環境の悪化につながり少子化が一層進行する。以下では、第1の問題について詳しくみていこう。待機児童が増えると、厚生労働省から自治体に対して「国の基準ギリギリにまで児童を保育所に受け入れてほしい」という要請が、これまで以上に強まる可能性がある。厚労省は16年、待機児童の多い114市区町村などに対し「人員配置や面積基準について、国の基準を上回る基準を設定している市区町村では、国の基準を上回る部分を活用して1人でも多くの児童を受け入れる」よう要請した。いずれの自治体も「保育の質が下がる」との懸念から要請を退けたが、今後無償化により待機児童が増えた場合、同様の要請が強まり「国の基準ギリギリにまで児童を受け入れる」自治体が増える可能性がある。1人の保育士・幼稚園教諭が何人まで児童をみてよいかを示す日本の保育士・幼稚園教諭配置基準は、0~2歳については先進16カ国平均(0~3歳で7人)よりも手厚い(0歳で3人、1~2歳で6人)。しかし3~5歳については先進19カ国平均(3歳以上で18人)よりもはるかに悪く、先進19カ国で最悪だ(3歳で20人/保育士、4~5歳で30人/保育士、3~5歳で35人/幼稚園教諭)(12年経済協力開発機構報告)。また保育士の学歴は先進諸国の中で中程度だが、仮に保育所が3~5歳児童を国の基準ギリギリにまで受け入れれば、そこでの保育士の労働環境と保育の質は先進諸国の中ではかなり悪いレベルになるだろう。「幼児教育・保育の質が園児の発達に与える影響」に関する最新の国際比較研究によれば、質の低下した保育所に通った場合、子どもの発達(認知能力および非認知能力の短期的・長期的発達)は、通わない場合よりも悪くなる可能性が高い(図参照)。主に都市部では無償化により待機児童が増えることで、保育の質が低下し子どもの発達に悪影響が生じかねない。ではどうすればよいか。待機児童を減らすとともに保育士の給与・労働環境を改善し、保育の質を守る必要がある。そのための財源は無償化の制度を一部修正すれば捻出できる。幼稚園と同様に月2万5700円までを3~5歳保育無償化の上限額とすれば、約2千億円の財源が浮く。3~5歳幼保無償化を、0~2歳保育無償化と同様に住民税非課税世帯に限定すれば、約7千億円の財源が浮く。上限額設定や所得制限は虐待予防などの意義を大きく損なうことなく、待機児童の増加や子どもの発達の悪化も防止できる。政府にはぜひ検討してほしい。 *8-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14188766.html (朝日新聞 2019年9月23日) 準備、大丈夫? 幼保無償化 預かり保育「無償化辞退」各地で 幼児教育・保育の無償化が10月から始まる。すべての3~5歳児と、低所得世帯の0~2歳児が対象だ。安倍晋三首相が2年前の衆院選で打ち出した少子化対策だが、制度の検討や周知は十分ではなく、現場では混乱も起きている。子どもの安全や保育の質の確保といった課題も残されたままだ。関西のある自治体にこの夏、問い合わせの電話が入った。「近所の幼稚園の預かり保育が、無償化の対象にならないと聞いたが、どういうことか」。自治体職員が確認すると、幼稚園は無償化に必要な申請をしておらず、こう説明した。「預かり保育は希望者が多く、利用できない人もいる。利用者だけ無料では不公平になる」。保護者の一人は「仕事を続けるには、預かり保育を利用するしかないので、幼稚園に文句は言いづらい」と思い悩む。幼稚園が夕方まで行う「預かり保育」は無償化の対象だが、園側の申請が必要で、無償化するかどうかは各園の判断次第だ。内閣府や文部科学省によると、「申請手続きが手間」「無償化で利用者が増えれば職員増が必要になり、人件費がかさむ」などの理由で、こうした「無償化辞退」が各地で起きているという。また子どもを認可外施設などに預ける場合、利用者が無償化の対象になるには、自治体から「保育の必要性の認定」を受ける必要がある。この認定も自治体にとっては一大作業だ。子育て世代の転入が増えているさいたま市では、6月末から認定申請の受け付けを始めたところ、2週間近く、無償化の上限額などに関する問い合わせの電話が殺到。7月末の締め切りまでに2万件超の認定申請があり、結果の通知作業は委託業者の力を借りても9月後半までかかった。無償化の対象になれば、保育料は必要なくなったり減額されたりするため、施設側も混乱する。さいたま市内の複数の幼稚園では、金融機関への手続きが遅れ、10月分として従来と同額の保育料などを引き落とすという通知が保護者に届いた。市は全幼稚園に書面で注意を呼びかけた。岡山市は8月から庁舎内の会議室に専用の相談・対応窓口を置き、スタッフ3人が約370件の相談を受けた。専用コールセンターには「自分は対象か」「待機児童対策が先」などの問い合わせや意見が約820件も寄せられた。市は無償化を歓迎しつつ保育ニーズの増加に気をもむ。2020年度の認可保育所などの入所申し込み数を1万9424人と試算していたが、最大4千人増える可能性もあるとする。4月時点の待機児童数は全国で4番目に多い353人。19年度末の待機児童解消を掲げ、施設整備や保育士の処遇改善に取り組むが「達成は厳しくなっている」。 ■おかず代、実費化めぐりドタバタ 給食費をめぐっても混乱が起きている。これまで3~5歳児が認可保育所などに通う場合、主食代の月約3千円は実費で保育所に、おかず代約4500円は保育料の一部として自治体に払ってきた。10月分からは、保育料と一緒におかず代も無償になるのを避けるため、おかず代は実費で払うようになる。施設側などは支払い方法の変更について保護者に説明を進めたが、内閣府は8月22日付の自治体への通知で、これまで国と自治体が実際におかず代として施設側に渡してきたのは、物価調整分の約680円を足した約5180円だったと説明した。約4500円を実費でもらうだけでは、施設側の収入は差し引き約680円減ることになる。直前になって保護者に負担増を求めるのは難しく、保育所などの経営者は、施設側が約680円を負担せざるを得なくなると強く反発。自治体からも「680円は国が負担するべきだ」と批判の声が上がった。結局、内閣府は9月18日付で約680円は国と自治体で負担し、おかず代は約4500円のままにすると通知した。滋賀県内の認定こども園は「経営に直結する問題だった。政府の混乱ぶりが露呈した」とあきれる。 ■安全・保育の質、課題残したまま 無償化が動き始めたのは17年9月。安倍首相が衆院解散・総選挙に踏み切る際、消費税率10%への引き上げによる増収分の使い道を変え、無償化に充てると表明した。具体的な制度設計は後回しだった。政府は当初、無償化の対象は認可施設の利用者を想定していたが、認可外施設の利用者や与党から「不公平だ」と批判されると認可外も対象に。認可外は保育士の配置などの基準が緩いが、5年間は基準を満たさなくても対象にすることにした。今度は子どもの安全や保育の質が担保されないとの懸念が強まったが、自治体が条例で対象施設を限ることを認めるにとどめた。東京都杉並区は条例を定め、埼玉県朝霞市は検討中だが、こうした動きは一部にとどまる見通しだ。内閣府によると、保育施設で昨年起きた死亡事故は、認可保育所(約2万3500カ所)で2件、認可外施設(約7700カ所)で6件。04年からの累計では認可61件、認可外137件だ。都道府県などによる認可外への立ち入り調査は、17年度は対象施設の7割にとどまり、このうち4割超が国の基準に違反していた。ベビーシッターは立ち入り調査の対象外だ。全国保育団体連絡会の実方伸子副会長は「本当に心配。国が責任をもって、子どもの安全と保育の質の確保に向けた対応を早急に講じるべきだ」と訴える。無償化よりも、保育所整備や保育士の処遇改善で、待機児童の解消を優先すべきだとの声はやまない。企業主導型保育所では定員割れや休園などが相次ぎ、審査や指導監査の甘さが問題となっている。課題を残したまま、国と地方を合わせて年8千億円を投じる無償化がスタートする。 *8-3:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/474227 (沖縄タイムス社説 2019年9月22日) [保育士の低賃金]待遇改善待ったなしだ 10月1日の幼児教育・保育無償化まで10日を切った。日本の保育制度の大きな変革だが、制度を支える保育士の待遇の問題が残されたままのスタートとなることに、危機感を覚える。〈沖縄の保育士のリアルな給料 自分は保育経験トータル7年目で(手取り)12万6千354円。生活できません〉県内の認可保育園で働く女性保育士は、総支給額17万1500円の給与明細とともにツイッターでそう発信した。保育士の賃金の低さはかねて問題視されてきた。2018年度の賃金構造基本統計調査によると、県内の保育士の月給は20万8千円。全国平均月給より3万1300円低く、県内全産業の平均を5万7300円下回る。手取りとなるとさらに減り、保育士がツイッターで訴えた「生活できない」はリアルな叫びといっていい。保育士の有効求人倍率は県平均の3倍を超え、仕事はあるが、なり手がいないのが現状だ。県内には保育士の資格を持つ人が2万人以上いるが、およそ半分が、保育士として働いていない「潜在保育士」となっている。子どもの命を預かり、成長を促す保育士。責任が重く、専門性が高い仕事に、賃金が見合っていないと感じる人が多いということだろう。保育士自身が日々の生活に不安を抱えていては、丁寧に子どもたちと関わることもままならない。 ■ ■ なぜ保育士の賃金は低いのか。認可保育園のほとんどを占める私立保育園は、地域や施設規模などを基に国が定め、支給する「公定価格」が運営費の原資になる。国はこれまで増額してきたがまだ低い。各園は公定価格に基づいた委託費を人件費や管理費、事業費に充てるが配分はその園の裁量に任されており、園の状況によって給料が異なる。保育士の平均就業年数に対して処遇改善費が支給されるが、平均10年以上に対する12%で頭打ちのため、経験の長い保育士がいても、園側は昇給させにくい。国は、例えば0歳児3人につき保育士1人などの配置基準を定める。より丁寧な保育をしようと基準以上の保育士を配置すると、1人当たりの人件費が少なくなる。公定価格は、公務員の給与水準を基に八つに地域区分されるが、沖縄は最低水準地域で、最高水準地域に比べ20%も公定価格が低く設定されている。しかも、沖縄の保育士の給与は、同じ地域区分の青森より3万円ほど低いという。沖縄の賃金が際立って低い原因は何か。県はしっかり調査し対策を取る必要がある。 ■ ■ ことし4月時点で、県内の認可保育園142園で314人の保育士が不足している。待機児童数は全国で2番目に多い1702人。保育士がいなければ、ハコがあっても子どもを預かれない。保育士不足は待機児童問題に直結している。無償化で保育ニーズはさらに高まる。子どもたちのため保育士の待遇改善が急務だ。
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2019,05,03, Friday
![]() ![]() ![]() 2019.1.2産経新聞 (図の説明:左図のように、GAFAの創業は、アップル1976年、アマゾン1994年、グーグル1998年、フェイスブック2004年と、パソコンなどのハードを作ってきたアップル以外はインターネットが一般的になってから芽生えた若い企業だが、株価時価総額や売上高は兆円単位であり、時代のニーズに合ったサービスを行えば成功することがわかる。しかし、近年は、個人データの勝手な使用や移転、検索サイト等での人権侵害など、ニーズからかけ離れた横暴も見られる。また、中央の図のように、国際課税制度がグローバル企業の行動様式に追いついておらず、課税漏れも発生している。そのため、右図のような規制が検討されているわけだ) (1)GAFAの問題について 「GAFA(ガーファ)」とは、巨大IT企業であるグーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンの頭文字をとったもので、*1-1のように、課税問題と個人データ保護の問題があるが、これは巨大企業だから生じる問題ではないと、私は考える。 1)課税問題について 課税問題については、元・米グーグル副社長の村上氏が、*1-1で主張されているとおり、「GAFAは税金を払っていない」と言われることが多いが、現行税制下で脱税(税法違反の違法行為)をしているわけではなく、節税(税法に従って無駄な税金を節約すること)をしているにすぎないため、私も感情的な議論には反対だ。 現行税制下で、日本等で営業している企業が納税しなくて済む理由は、税法が「企業は、進出国で支店や工場などの恒久的施設を持たなければ法人税を課されない」という規定になっており、GAFAなどのIT企業は配信拠点を外国に置いたまま恒久的施設を持たずに営業することができるからだ。 しかし、倉庫が恒久的施設と認定された判例(http://www.bantoh.jp/article/14476063.html 参照)もあり、これは日本国内の倉庫で商品の保管・梱包・日本語版取扱説明書の同梱・宅配便での発送などが日本の従業員によって行われていたケースで、アマゾンの営業の一部はこれに当たるだろう。 さらに、GAFAを含むグローバル企業は、タックスヘイブンに利益を集めれば合法的に税負担を軽くすることができるので問題になっているが、これもタックスヘイブン税制と外国税額控除を使って合法的に行われており(https://www.eyjapan.jp/library/issue/info-sensor/2017-06-07.html 参照)、上の判例のケースも、倉庫をタックスヘイブンに置き、そこで作業を行えば課税の軽減ができるわけである。 そのため、私は、各国が、商法に「営業する国には、支店などの恒久的施設をおかなければならない」という規定を置いて、ある国で挙げた利益に対する税はその国で支払うことを義務付けるとともに、商品やデータ保護などにクレームがある場合も、その国の恒久的施設をその国で訴えればよいようにすれば、税制とデータ保護の問題が同時に解決できると考える。 従って、「巨大企業だから、GAFAが悪い」と感情的に煽るのではなく、2019年6月の日本で開催されるG20財務相・中央銀行総裁会議で、各国がその国に恒久的施設を置くことを義務付ける点で合意すればよいだろう。 (注:タックスヘイブンとは、法人税や源泉課税などがゼロor低税率という税制優遇措置をとっている国・地域で、キュラソー、ケイマン、スイス、パナマ、バハマ、ルクセンブルクなどがこれにあたる。日本も、過疎地などで企業誘致したい場所の法人税率を下げればよいのでは?) 2)個人データ保護問題について *1-1にも書かれているとおり、検索やSNS等のサービスを提供するグーグルやフェイスブックなど「プラットフォーマー」と言われる企業は、インターネットやデータビジネスで強いポジションを握っているプラットフォーマーで、欧州では個人データ保護などのGAFA規制が強まっているそうだ。 私は、個人データはその人のものであるため、便利さとの引き換えに勝手に他の目的に流用されること自体が人権侵害であり、欧州の個人データ保護規制が良識的だと考える。そのため、「米国が勝った」ではなく、米国も日本も人権侵害がないように必要な規制をしながら、誠実に事業を行わせなければならないのであり、これは中国・ロシアなど他の国々でも同じだ。 アマゾンは、「いずれ注文しなくても必要な時に必要な商品が届くサービスも可能になる」「そのためには個人データの開示が必要だ」などと公言しているそうだが、これは過去の行動のみから判断するため、一度買ったらずっと同じ商品の広告が出たり、毎月同じものを買わされたりして役に立たないだけでなく、無駄なものを買わされて迷惑なこともある。従って、IoTによる技術革新も、個人の自由やプライバシーなどの基本的人権を踏みにじらない範囲でのみ許されることを、決して忘れてはならない。 (2)GAFAの規制について 1)問題は独占なのか? マッキンゼーの日本支社長だった経営コンサルタントの大前氏が、*1-2のように、「①GAFAなどのデジタルプラットフォーマーに対する規制圧力が世界中で強まっているが、この問題は『個人データの独占』と『課税』の2つがある」「②個人データの独占問題は、消費者がスマホやパソコンで検索や買い物をすると、その履歴が消費者の同意なくターゲティング広告に活用される行為が独占禁止法に違反する」「③課税問題はデジタルプラットフォーマーがタックスヘイブンや法人税率の低い国・地域に拠点を置き、実際に収益を上げている国で税金を納めていない」などの要点を書かれている。 私は、①②については、(1)2)に記載したとおり、検索や買い物をするとその履歴が残ることまでは仕方がないが、これを消費者の同意なくターゲティング広告に利用したり、他企業に売却したりすることは人権侵害の問題であり、これは中小企業でも同じであるため独占の問題ではないと考える。つまり、アクセスデータを集めるところまではプラットフォーマーの特権になるが、個人データは個人のものであるため、その人の同意なく移動したり利用したりするのは人権侵害という憲法違反の問題なのだ。そのため、データの悪用を決して行わない信頼できるプラットフォーマーが現れれば、市場原理によってそちらの方が勝つと思われる。 また、①③については、(1)1)に記載したとおり、各国が、営業する国に恒久的施設を置くことを義務付けることで合意すれば解決できる。 2)規制の妥当性 現在、*1-2のように、世界中で個人データの取扱規制や新税導入などの動きが加速し、日本の公正取引委員会も、デジタルプラットフォーマーが不当に個人情報を集めた場合、「優越的地位の濫用」を個人との取引にも適用して独占禁止法を適用する方針を固めたそうだ。 しかし、検索サービスやSNSサービスの対価として個人の情報を集めることは、デジタルプラットフォーマー以外の企業もやっており、「巨大な」「プラットフォーマー」「不当に集めた」という線引きが問題になるのは独占禁止法を適用しているからだ。そのため、個人情報やプライバシーを人権として護る消費者保護サイドの規制を作れば、境界の問題は生じない。 (3)個人データの悪用について 政府が世界の巨大IT企業「プラットフォーマー」の規制に向けた議論を本格化させていることを受けて、*2-1のように、巨大IT、GAFA、プラットフォーマーについて、基本的な定義が示されている。 しかし、私は、ネット経済の特性は、独占・寡占が進みやすいということよりも、少ない資本で誰でも起業でき、成功すれば急成長することだと思う。あとは、どういうサービスを提供するかというアイデアの勝負であり、個人情報の流出や人権侵害などの悪用を行う企業は、誠実で質の高い競争相手が出て来れば淘汰されるだろう。 例えば、三越・高島屋・イトーヨーカドー・イオンなどが世界の流通ネットワークを活用して良いものを仕入れ世界に向けてネット通販したり、農協・漁協・真珠専門店などがよい産物を世界に向けてネット販売したりすれば、実質経済に根を下ろしているだけに、アマゾンより有利な位置から始められる筈だ。 そのような中、*2-2-1のように、2018年5月にEUで施行された一般データ保護規則(GDPR)で、個人データ保護を厳しく企業に求めたのは重要なことだ。何故なら、巨大か否かを問わず、ITプラットフォーマーが勝手に個人データを流用すれば、個人は抗しきれないため、消費者保護の問題になるからだ。 しかし、*2-2-2のように、日本政府がEUと交渉して互いの進出企業が現地で得た個人データを域外に持ち出すことを例外的に認める枠組みを作ったのだそうで、グローバル企業の事業拡大を後押しするためだと説明されているが、この発想の中には、消費者ニーズや個人情報を勝手に使われないようにして個人を護るという意識が全くないのである。 日本が自由なデータ流通にこだわっているのは、産業振興のためには個人消費者を犠牲にすることを厭わないという全体主義的な発想からである。また、このような発想の国が、マイナンバーを使って個人管理を行い始めたのだから、日本人は気を付けなければならない。 その巨大IT規制の政府案は、*2-3・*2-4のように、①取引条件の開示義務 ②独占禁止法での処分 ③個人情報の保護 を盛り込んでいるそうだが、個人情報保護に関しては、個人情報保護や人権侵害に鈍感な企業に消費者が近づかないよう企業名を公表するなどの厳格な態度が必要なのであり、企業の負担になる規制強化を避けようなどというのは論外である。 ・・参考資料・・ <GAFAの課税問題と解決法> *1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM365H4FM36UPQJ00K.html (朝日新聞 2019年3月17日) GAFA納税不十分? 元グーグル副社長「税制に問題」 「GAFA」(ガーファ)と呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン。こうした巨大IT企業への風当たりが世界的に強まっている。もっと納税すべきだ、という批判もその一つ。格差が広がる世界経済のいまを映すこの問題、どう考えれば良いのか。 ●元・米グーグル副社長 村上憲郎さん「情緒的な規制、避けるべきだ」 GAFAは支払うべき税金をきちんと払っていない、などと言われますが、違法な脱税をしているわけではないでしょう。節税をしている。それを問題視するなら、「納めなくても済む」という税制の方にこそ問題があるんですよ。税制を整えれば、それに従って、適法に納税すると思われます。最近は税金に限らず、データの集積などの問題も含めてGAFAへの批判が高まっています。ただGAFAもサービスを提供して対価を得るという商行為をしているわけで、情緒的に「GAFAが悪い」とあおることは即刻、やめるべきです。世界的に社会の格差が広がる中、特定の誰かに対する不満をあおることは負のエネルギーを生み、全体主義の復活にもつながりかねない。日本もGAFAへの規制に乗りだそうとしていますが、情緒的なアプローチだけは絶対避けるべきです。富の集中による不公平の存在は多くの人の指摘の通りですが、再分配をどうするかは難しい問題です。GAFAを生んだ米シリコンバレーでは高額所得者が集まった結果、住居費が上がりすぎ、普通の地元の人たちが住めなくなっています。米国の分厚い中間層も失われてきています。これまでの資本主義とは様相を異にしてきています。特に若い世代の格差をいかに少なくするかを根本的に議論すべき時期に来ている。ただそれは特定の私企業の責任ではありません。検索やSNSなどのサービスを提供するグーグルやフェイスブックなど「プラットフォーマー」と言われる企業は最強のポジションを握ってはいます。全てのビジネスの基盤となるからです。ただインターネットでのビジネスは、その上に幾層も重なるレイヤー構造です。動画配信大手のネットフリックスもプラットフォーマーですが、テレビ受像機をつくる企業、動作のアプリをつくる企業、番組などコンテンツをつくる企業など多くの層があります。それら全てが繁栄しないとプラットフォーマーも繁栄しません。「一人勝ち」はありえないんです。欧州では課税強化や個人データ保護などGAFAへの規制が強まっていますが、米国の本音は「勝った」でしょう。欧州にもそれなりの企業はあるけれど、データへのアクセスを罰則つきで規制されれば事業を大きくすることはできません。インターネットにつながる家電などのIoT(モノのインターネット)が成長分野ですが、データへのアクセスを制限された欧州企業は何もできず、地力を失っていくと思います。個人データの問題でもGAFAはやり玉にあがっていますが、便利さとの引き換えで利用者が判断すべき問題です。GAFAが最終的に提供しようとしているのは「執事サービス」です。執事は主人のすべてを知り尽くし、冷蔵庫に好物を常備しておく。アマゾンはいずれ、「注文しなくても必要な時に必要な商品が届く」サービスも可能になると公言している。そのためには全部見せる、つまり個人データの開示しかありません。私の見立てでは、21世紀は中国の圧勝になる。中国は東大も京大も東工大も10校ずつあるという感じで、米国で教育を受けた優秀な人たちも帰国し、一党独裁のもとで量子コンピューターなどの技術に集中投資できる。GAFAもいずれ、中国企業に取って代わられるかもしれない。GAFAを規制している場合じゃないんですよ。そんな世界で、日本はどうするか。もう若い人たちにやりたいようにやらせるしかありません。IoTの時代には車や産業ロボットなど、インターネットにつながるリアルな「モノ」がカギになります。日本はその「モノづくり」では蓄積があります。でも、そこで年寄りが威張るのではなく、若い人にこそ任せるべきです。 ◇ むらかみ・のりお 1947年生まれ。日立電子(現日立国際電気)を経て米国系IT企業数社の日本法人代表を歴任。2003年~08年に米グーグル本社副社長兼日本法人社長。 ●デロイトトーマツ税理士法人パートナー 山川博樹さん「データ時代に新しい税制を」 グローバル企業に相応の課税ができていないのではないか、という議論が盛んになったのは、2000年ごろからです。対象は必ずしもIT企業だけではありませんでした。経済協力開発機構(OECD)はこの問題について、従来の国際ルールを元に、部分的な修正をしました。08年のリーマン・ショックがさらにこの議論を後押ししました。各国で財政が悪化し、所得増税などで国民の負担が増えた一方、グーグルやアップル、スターバックスなどが税負担を回避する仕組みを使っていることが次々と明るみに出ました。なかでもIT企業は各国で存在感を高め、利益も巨額なのに、納税のレベルが極端に低いのは不公平だ、という人々の意識が高まりました。フランスでは国民の怒りが、課税できない政府にも向かいました。なぜ課税できなかったのか。理由は大きく二つあります。まず、現行のルールでは企業が進出先の国で工場などの「恒久的施設」を持たなければ、法人税をかけられません。たとえば日本でアマゾンから電子書籍や映画を購入しても、配信拠点が米国にあれば法人税は米国で払い、日本には納めないことになります。もう一つは、税負担の少ないタックスヘイブン(租税回避地)などにほとんど実態のない子会社を作り、利益を移すとても高度な仕組みが作られていたことです。公開データによると、米IT企業など40社以上がこのやり方を使っていました。これは脱税ではありません。税制が追いついていないのです。ただ企業の存在感が大きくなったいま、もっと課税すべきだという声が出てくるわけです。OECDは15年、「税源浸食と利益移転(BEPS)に関する行動計画」をもとに、国際的な課税の共通ルール作りを始めました。世界中の国が同じルールにしないと抜け道が生まれるためです。現在、プロジェクトに約120の国・地域が参加しています。ただネット上の取引の扱いは積み残されました。既存ルールの根幹に関わる難しさがあるからです。ところが、この1年弱ほどの間にこの問題が急に進展し始めました。積極的に関わろうとしなかった米国が、議論に参加し始めたことが大きな理由です。トランプ政権は、GAFAなど米国企業だけが「狙い撃ち」にされるのはたまらないと思ったのでしょう。もう一つの背景は、一部の国が独自にIT企業に課税すると表明したことです。フランスは見切り発車で「デジタル課税」を始めると発表しました。米国も無視できず自ら関わらざるを得なくなりました。ただ欧州でも、アイルランドやルクセンブルク、オランダなど低い税率でIT企業を誘致してきた国と、それ以外の国との間で不協和音が起きています。いま求められているのは、データをビジネスにする時代に合った新しい税の考え方です。シリコンバレーのIT企業が持つ重要な価値は「アルゴリズム」です。市場のある国の利用者1人分のデータには意味がなく、集積して解析することで価値が生まれます。そしてこの活動は米国で行われています。では市場のある国でどういう理屈で課税するのか。また、各国で使われるアルゴリズムの開発やデータ管理の費用などをどう計算し、法人所得を算出するのか。極めて難しい問題です。新しいルールづくりで重要なのは、二重基準にならず、現行の制度から大きく乖離(かいり)しないこと。また、各国の税務当局や納税者、紛争を解決する裁判所などにとっても論理的に理解できるものにすることです。途上国も対応できるよう、簡素な計算式を使うなど実務的でなければなりません。6月には日本でG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれる予定ですが、議論の進展を期待しています。 ◇ やまかわ・ひろき 1959年生まれ。82年に国税庁に入り、調査査察部調査課長などを歴任。国際課税を長年担当してきた。14年からデロイトトーマツ税理士法人。 *1-2:https://www.news-postseven.com/archives/20190411_1348635.html (週刊ポスト 2019年4月19日号) 「GAFA独占」問題をどう解決するか、大前研一氏が分析 商品やサービスを提供するプラットフォーム企業のうち、特に巨大なアメリカのIT企業4社は「GAFA」と呼ばれている。最近では、世界中でこの巨大企業が個人情報をかき集め、独占し、納税も巧みに逃れていることが問題となっている。経営コンサルタントの大前研一氏が、「GAFA独占」問題の解決について解説する。 * * * 「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの「デジタルプラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業に対する規制圧力が、世界中で強まっている。この問題は、大きく分けて「個人データ独占」と「課税」の二つがある。まず個人データ独占問題は、消費者がスマホやパソコンで検索や買い物をすると、その履歴などの個人データが利用した企業に蓄積される。それをデジタルプラットフォーマーは世界規模で膨大に集めて事実上独占し、消費者の同意なくターゲティング広告(※ユーザーが閲覧したサイト、検索履歴、検索キーワードなどを基にユーザーの興味や関心、嗜好性を解析し、それに的を絞った広告を配信する手法)などの事業に活用して莫大な利益を上げている。そういう行為が独占禁止法に違反するとして、各国で批判が高まっているのだ。もう一つの課税問題は、デジタルプラットフォーマーがタックスヘイブン(租税回避地)や法人税率が低い国・地域に拠点を置き、法の抜け穴を利用して実際に収益を上げている国で税金を納めていないことである。この“税逃れ”をどう防ぐかが、世界中の政府の課題になっているのだ。だが、その解決は容易ではない。たとえば、もともと日本の独占禁止法の目的は「公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」であり、市場メカニズムを正しく機能させるために「私的独占」「不当な取引制限」「不公正な取引方法」などを規制している。具体的には、不当な低価格販売などの手段を用いて競争相手を市場から排除したり、50%超のシェアを持つ事業者がいる市場で需要やコストが減少しても価格が下がらないなどの弊害が認められる場合に適用される。だが、デジタルプラットフォーマーの場合、それらのいずれも当てはまらない。それどころか、グーグルやフェイスブックは普通に利用する分にはタダであり、むしろ消費者の利便性や効率を高めている。また、そもそもデータは検索や買い物を通じて消費者自身が提供している。となると、GAFAなどが個人データを独占して莫大な利益を上げているのは企業努力の結果であり、それを規制するルールがあるかと言えば、従来の独占禁止法のどこを探しても見当たらないのだ。ただし、タダで便利なように見えて、実のところデジタルプラットフォーマーは様々な情報を吸い上げて利用者を“丸裸”にしている。情報シェアを高めることによって販売効率を高めるというのは昔からマーケティングの人間が憧れていたことであり、それをデジタルプラットフォーマーはほぼ自動的にやっているわけで、これほど一握りの大企業が情報を独占するという状況は、誰も想定していなかった。この巨大化したデジタルプラットフォーマーにタガをはめるため、世界中で個人データの取り扱い規制や新税導入などの動きが加速している。すでにEU(欧州連合)欧州委員会は3月20日、グーグルに対し、インターネット広告の分野でEU競争法(独占禁止法)に違反したとして14億9000万ユーロ(約1900億円)の制裁金を科した。日本の公正取引委員会も、デジタルプラットフォーマーが不当に個人情報を集めた場合、これまで企業間の取引にしか適用してこなかった「優越的地位の濫用(※取引上優越した地位にある企業が、取引先に対して不当に不利益を与える行為。独占禁止法により、不公正な取引方法の一つとして禁止されている)」を個人との取引にも適用し、独占禁止法を適用する方針を固めたと報じられている(『朝日新聞』3月6日付)。しかし、検索サービスやSNSサービスの対価として個人の情報を集めることは、デジタルプラットフォーマー以外の企業も、細々とではあってもみんなやっている。その線引きをどうするのか、中小企業は規制しなくてよいのか、という問題がある。また、課税問題については、各国での売り上げに応じてそれぞれの国で納税させる新たな税制が多くの国で検討されている。たとえばフランスは3月、国際収益が年間7億5000万ユーロ以上(国内での収益が同2500万ユーロ以上)のデジタル企業を対象にした「デジタル税」を導入すると発表した。イギリスやイタリア、スペイン、インドなども同様の新税を導入すると報じられている。しかし、これは国ごとではなく「グローバル課税」にしないと、根本的な解決策にならないと思う。ネットの世界はグローバル・ビレッジなので、国別に課税するという概念がなじまないからである。フランスやイギリスなどのように、単にその国での売上高に応じて納税させるのではなく、グローバルな収益から、その国の売上高に比例して納税させるべきだろう。なぜなら、GAFAは国別の収益を公表しないし、国別の経費もあまり意味を持たないからだ。したがって、企業本社での最終純利益を国別の売上高で按分する、という考え方である。これは日本の外形標準課税(*1)やアメリカのユニタリータックス(*2)に近い。 【*1:資本金・売上高・事業所の床面積・従業員数など、企業の事業規模を外形的に表す基準をベースに課税する方式。*2:アメリカの州が課す税で、州外の親会社・子会社・関連会社を一体のものとみなして全所得を合算し、その州における売上高や資産などで比例配分したものを州事業税の課税対象にする方式】 <個人データの悪用について> *2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/298464 (佐賀新聞 2018/11/6) 【共同】巨大IT、代表格はGAFA 政府が世界の巨大IT企業「プラットフォーマー」の規制に向けた議論を本格化させています。 Q プラットフォーマーとは何ですか。 A 世界中で消費者と接点を持ち、購買行動や関心事項といった個人情報を収集、分析して各種サービスを提供している巨大IT企業のことです。膨大なデータを握ることで、企業がこれらIT企業を介さずには事業展開できないほど圧倒的な存在となっており、英語で基盤や土台を意味する「プラットフォーム」から命名されました。 Q 具体的な企業は。 A 代表格は「GAFA(ガーファ)」とくくられる米国の4社です。検索のグーグル、iPhone(アイフォーン)のアップル、会員制交流サイト(SNS)のフェイスブック、インターネット通販のアマゾン・コムの頭文字を取って、こう呼ばれています。 Q なぜ世界中に影響力を広げたのですか。 A 中小企業がネット通販を経由して世界で商品を販売する基盤を提供したり、交流サイトを使って海外の人々と連絡が取れたりと、利便性が非常に高いためです。 Q 問題点は。 A 主導権を握った企業の優位性が加速するネット経済の特性から、独占や寡占が進みやすく、取引企業や利用者への影響力が大きくなりすぎると指摘されています。人工知能(AI)を使ったサービスの不透明さや、個人情報の流出・悪用も課題となっています。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO42098900W9A300C1M11200/ (日経新聞 2019/3/7) データ保護規制 世界に波紋、EUのGDPR、施行9カ月 2018年5月に欧州連合(EU)が施行した一般データ保護規則(GDPR)が世界に波紋を広げている。個人データの保護を厳しく企業に求めており、大量のデータを握る米IT(情報技術)大手への攻勢を強めている。GDPRを契機として、データの自由な流通圏の構築を目指す日米欧と、国家主導のデータ管理を目指す中国との間でデータエコノミーを巡る覇権争いも激しくなってきた。 *2-2-2:https://www.sankei.com/politics/news/190123/plt1901230031-n1.html (産経新聞 2019.1.23) 欧州の個人データの移転規制、日本例外で発効 日本と欧州連合(EU)との間で、互いの進出企業が現地で得た個人データを域外に持ち出すことを例外的に認める枠組みが23日に発効した。日EUは相互に個人情報保護の水準が十分であると認め、データ移転の際に個別の契約を求めるなどする規制をなくすことで、グローバル企業の事業拡大を後押しする。EUは昨年5月に企業などを対象に個人情報の保護を厳しくする一般データ保護規則(GDPR)を導入。仏当局は21日、米グーグルにGDPRに違反したとして5千万ユーロ(約62億円)の制裁金を科すなど、厳格な個人情報の取り扱いを求めている。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190425&ng=DGKKZO44146570U9A420C1EA2000 (日経新聞 2019年4月25日) 巨大IT規制、多面的に、政府案公表、成長との両立図る 政府は24日、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT(情報技術)企業に対する規制のうち、公正な競争を求める案をまとめた。取引条件の開示義務に加え、独占禁止法での処分も盛り込んだ。25日には個人情報保護法改正に向けた原案も公表する。企業活動や消費者の利便性と調和を図りつつ、巨大IT企業を多面的に規制していく方針がみえてきた。政府は現在、公正競争、個人情報保護、デジタル課税という3つの政策的な観点から巨大IT企業の規制を検討している。公正競争の規制案は経済産業省、公正取引委員会、総務省と有識者が合同で協議する「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」がまとめた。データ寡占の防止や中小企業との取引適正化などが目的だ。今後は年央に出す政府の成長戦略に向け、各省庁が制度の具体化を進める。巨大IT企業はグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムを示す「GAFA」などが代表例だ。利便性の高いSNS(交流サイト)やネット通販、動画・音楽配信などを手掛けて急成長を続けるが、近年はその負の側面にも注目が集まる。例えば、ネット通販モールに出品する中小企業に対し、不利な取引条件を押しつけているとの懸念がある。公取委が巨大IT企業の取引先企業に実施した調査では「規約を一方的に変更され不当な不利益を受けている」との声が多く上がった。巨大IT企業は当初「場の提供者」にすぎないと位置づけられてきたが、その存在が消費者に広く受け入れられるようになった。扱う商品やサービス内容も膨大に増えており、取引先企業に対しても強い影響力を持つようになっている。取引企業の多くは守秘義務契約などに縛られて外部に窮状を訴えにくい。巨大IT企業はビジネスモデルが目まぐるしく変化するという性質も持つ。このため政府は独禁法の運用を見直し、今後は強制力を持つ「40条調査」も含めて業界全体の実態把握を定期的に進める方針だ。取引条件の開示を義務付ける新法もつくる方針だ。企業に自主改善を促しながら段階的に規制を強めていくなど、独禁法を補完する役割を担う。まず開示方法を行動規範として定めさせ、対外的に説明させる体制をつくる。法律や行動規範に違反した場合の初期対応として、該当する企業名や問題行為を公開し、自主的な改善を促す。ネット通販などインターネットを通じたビジネスは、消費者や取引先の評判に左右されやすい。政府は社名公表が一定の自主改善を促す効果があるとみる。公表後も改善されない場合は、新法に基づき業務改善命令など行政処分で対応する。それでも対応が不十分なら、企業規模や取引の依存関係などで優位にある企業が取引相手に不利な条件を押しつける独禁法上の「優越的地位の乱用」を適用して処分する方針だ。巨大IT企業の活動を抑制するような規制を強めるほど成長の勢いがそがれ、利用者の利便性が低下したりコスト負担が増したりする恐れがある。有望な市場の成長や技術革新を阻む懸念があり、政府はそうした副作用を抑えるように規制していくことになる。この規制案の厳しさは、欧州と米国の中間に位置する。欧州連合(EU)は競争法(独禁法)で高い課徴金の納付を命じるなど厳しい規制を持つ。逆に、多くの巨大IT企業の発祥の地である米国は取り締まり強化に慎重だ。日本は処分の前段階として「取引の透明化」に重きを置き、規制と成長の両立を図る。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20190425&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO44146570U9A420C1EA2000&ng=DGKKZO44148390U9A420C1EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2019年4月25日) 仕組み作り、入り口段階 課税、各国の足並み乱れ プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業を巡っては、個人情報保護の規制強化と課税ルールの見直しも重要な課題だ。強すぎる支配をけん制する仕組み作りは、まだ入り口の段階だ。個人情報保護委員会は25日、2020年に向けて検討している個人情報保護法改正の原案を公表する。巨大IT企業への規制強化は米フェイスブックの個人データのずさんな管理などが相次いで発覚したのがきっかけだった。保護法の見直しは避けられない論点だ。原案では、個人が企業に対し自分の個人情報の利用を止められる「利用停止権」の新設を盛りこむ。一方で情報を削除させられる「忘れられる権利」の導入までは踏み込まない。自分のデータを持ち運ぶ「データポータビリティー」も保護法には含めず、競争政策の一環として限定的な導入を目指す。保護法の改正は、個人情報を厳しく管理する欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)を参考にしている。だが企業の負担になる規制強化を避けようとする方向性も目立つ。24日に発表した独禁法の面からのIT企業規制案と同様、政府は個人情報保護でも「規制を強めすぎると企業の技術革新を妨げかねない」との懸念を持つからだ。規制強化と産業育成の両立という難題を前に、慎重な議論を続ける。最も検討が難航するのが課税ルールの見直しだ。IT大手は支店などの拠点を持たず、ネットを通じて国境を越えたビジネスで収益を上げる。既存の法人税ルールで対応できないとの指摘も多い。新ルールを作るには国際間の合意が必要だが、より多くの税収を求める各国で意見が合わない。20カ国・地域(G20)と経済協力開発機構(OECD)は20年までに、デジタル経済に合った課税ルールの見直しに合意することを目指す。しかし欧州を中心にプラットフォーマーへの厳しい課税強化を求める声が上がる一方、米国などは「特定企業の狙い撃ちは間違っている」と反発。企業が持つブランド力や顧客データなどの「無形資産」への課税強化で代替する案も浮上する。意見のまとまりを待たず、英国やフランスが独自の「デジタル課税」の導入に動く。イスラエルやインドなど新興国の一部も同調し、各国の足並みは乱れる一方だ。国際課税ルールの見直しは、6月に日本で開かれるG20の財務相・中銀総裁会議や大阪での首脳会議(サミット)で主要議題のひとつになりそうだ。日本は議長国の役割が期待されるが、バラバラに分かれた意見のとりまとめは簡単ではない。 <求められる人材と教育> PS(2019年5月5、6日追加):*3-1のように、「①次世代通信規格『5G』の特許出願数は、中国34%、韓国25%、米国14%、日本5%」「②出願件数が最も多い企業はファーウェイで、シェアは15.05%、研究開発費は年間100億ドル(約1兆1100億円)以上」「③特許を押さえた企業が主力プレーヤーになるため、特許数は自動運転など各国の新産業の育成や次世代の国力を左右する」と書かれている。 ①③については、EVや自動運転技術を最初に開発し始めたのは日本なのに、このように遅らせてしまったのは政策や経営方針の問題であるため、原因を徹底的に追究した上で改善しなければ、今後も同じことが続くだろう。また、②の研究開発費は、物価水準と購買力平価を考慮すれば、日本なら10兆円以上の価値になるため、(長くは書かないが)物価上昇政策は百害あって一利なしだった。さらに、日本人が特許権に関する米中摩擦であたかも第三者であるかのように米国を批判するのはもってのほかで、自らの特許権も護らなければならない筈である。 そのような中、経団連会長の中西氏が、*3-2のように、「イ. 日本は働けば豊かになる時代が終わった」「ロ. 過去に固執したらロクなことがないが、そこに気がついた人と気づかなかった人がいた」「ハ. 経団連の成長戦略は変化を受け止めようという内容で、いかに知恵でメシを食うかだが、科学技術をうまく使ったイノベーションは大きなヒントで、消費者の需要を引き出すことが元になり、新しい商機をつくる責任は民間が負う」「ニ. 環境を整えるのが政府の役割だ」「ホ. 日本は、高度成長という世界でもまれな成功体験があるので、なかなか変われない」「ヘ. 新時代を見通したとき、懸念するのはエネルギーの問題だ」「ト. インセンティブをつけてグリーンエネルギーに転換する総合的なシナリオを作り直すべきだ」「チ. 再生エネルギーを普及させるには、発電した電気をどう運び、どう蓄えるかという全体を設計しないといけない」「リ. 送配電網もデジタル技術で次世代化する投資が要る」「ヌ. 原発ももっと長い目でみた議論をすべきで、化石燃料を使いきったあと、原子力以外に生活や工業を支えるエネルギーはない」とおっしゃっている。 しかし、イ. ロ. ハ. ニ.は経営学の分野では、ドラッカーなどが50年以上も前から言っていることで、ホ.の「日本の高度成長は世界でも稀な成功体験」というフレーズもよく耳にはするが、敗戦後の日本ではすべての物資が不足し労働力も減っていたため、働きさえすれば何を作っても売れ、賃金も安かったため加工貿易が成立したが、現在はそうではなく、多くの低賃金の国が世界経済に参入してきたため、本当に必要とされる高付加価値のものを作らなければ、国内でも売れないし、輸出もできなくなったのである。なお、エネルギーについては、チ. リ.はそのとおりだが、ヌ.の「化石燃料を使いきったら原子力」というのは、失礼ながらまだわかっていないようなので、勉強しなおしてもらいたい。 なお、現在の経団連会長で日立の社長までやった人が、何故こういう初歩的なことを言うのかについては、中西氏が東大工学部電気工学科卒業のコンピュータエンジニアで、優秀ではあろうが経営学・経済学を本格的に勉強したことがないからだと思われる。そのため、高校・大学では経営学や政治・経済をもっと本格的に勉強させるべきで、日本では、民間企業も役所も学校も専門分野を早くから細かく分けすぎるため、全貌を見渡せるリーダーが育たないのである。 このような中、*3-3のように、高校生の7割が在籍する普通科の在り方を議論している政府の教育再生実行会議が、各校ごとに重視する教育を明確にし、「国際化対応」「地域に貢献する人材育成」などに特色を類型化するよう提言するそうだ。しかし、生徒は、進学したいから普通科を選択しているのであり、地域の農林水産業も輸出入を行っており、科学技術に関する学会は国際学会(共通語は英語)であるため、「地域に貢献する人材や科学技術分野を牽引する人材に国際化は不要」とするのは、あまりにも現実離れしている。ただ、大学入試で文系・理系の両方の科目を問うのは、自分で考えて判断することのできる人材を育成するために必要不可欠だ。 経済・会計・統計・民主主義のいずれも理解していない日経新聞論説フェローが、*4のように、「①令和デモクラシーへの道」として、「②政治に求められるのは人口減少社会での給付と負担の合意づくり」「③少子化に歯止めがかからず高齢化が進み、現在1億2600万人余の人口は2040年には1億1000万人ぐらいになって社会が縮む」「④社会保障費がかさむのは明らかで、負担を増やすか、給付を低下させるか、その両方かしか選択肢はない」「⑤産業競争力の劣化、弱体化は深刻なところに来ている」「⑥政治休戦のもと与野党合意で痛みを伴う課題を処理していくべき」「⑦チャーチル英首相の演説と同じく『千年後に最も輝かしい時だった』と言われるように、千年後の人たちから『あの頃みんなで我慢して危機を乗り越えたから今の日本がある』と言われるような令和の時代にしたい」などと堂々と記載している。 しかし、このうち③は、日本が高度経済成長をしていた時期の日本の人口は1億人以下であったことから、人口減と産業の衰退は関係がなく、単に危機感を煽っているにすぎないことがわかる。それでも危機感を煽る理由は、②④のように、とにかく高齢者の負担増・給付減を行うことが目的という非道徳的で情けない有様なのだ。⑤は、ニーズに合った財・サービスを提供すれば産業競争力が強くなるのであるため、課題先進国の日本で高齢者向けのサービスや福祉を充実することは重要だ。そのため、⑥のように、政治休戦のもとで与野党合意で痛みを伴う課題を処理していくのは、国家総動員法の再来のようであり、これが①の令和デモクラシーであれば、令和天皇が可哀想すぎる。また、⑦のチャーチル英首相が演説した千年後に最も輝かしい時というのは、全体主義から民主主義を守った戦争のことであり、みんなで我慢して全体主義に戻す理念なき政策とは正反対である。また、②④は、単純な算術しかできない人の言うことだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() 日本の人口推移 実質経済成長率推移 介護サービスと保険料推移 外国人労働者数推移 (図の説明:日本の人口は、左図のように、明治初期には3500万人しかおらず、急激に増加して1億人を超えたのは1966年のことだ。これは、多産多死型だった社会が産業革命で生産力を上げ、医学や学問の普及もあって多産少死から少産少死型に変わる過程で起こったことで、近年の少子化は、いつまでも女性に戦前の自己犠牲の価値観を押し付けて保育所を整備しなかったため、少産が行き過ぎたものである。また、左から2番目の図のように、日本の経済成長率が最も高かったのは人口が1億人以下だった時期であり、人口は経済成長率の重要な要素ではない。重要な要素は、消費者が必要とする財・サービスが生産され売れることであり、高齢化社会で不可欠な介護サービスは2000年に開始して以降、瞬く間に10兆円市場となった。そのため、介護は全世代型にするとともに、全体として労働力が足りなければ女性・高齢者の就業機会を増やし、右図のように、まだ少子型社会になっていない国から労働力を導入する方法もある。そして、労働力は量だけでなく質も重要で、日経新聞の論説フェローがこのレベルでは困るわけだ) *3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190503&ng=DGKKZO44412620T00C19A5MM8000 (日経新聞 2019年5月3日) 5G特許出願 中国が最大 世界シェア3分の1、自動運転など主導権狙う 次世代通信規格「5G」に関する特許出願数で中国が34%と、現行の4Gの1.5倍以上のシェアを握ることがわかった。4Gでは欧米が製品の製造に欠かせない標準必須特許(SEP、総合2面きょうのことば)を握ったが、次世代産業のインフラとして注目される5Gでは中国が存在感を増す。特許数は自動運転など各国の新産業の育成や次世代の国力をも左右する。SEPは事業を進める上で代替の効かない技術の特許で、現在の4Gのスマートフォン(スマホ)では出荷価格のおよそ2%が特許使用料だという。国内の知財関係者によると総額は年間1兆円以上にのぼるといい、特許を押さえた企業が主力プレーヤーになる。独特許データベース会社のIPリティックスによると、3月時点の5G通信で必須となるSEPの出願数で中国は34.02%のシェアを持つ。出願件数が最も多い企業は華為技術(ファーウェイ)で、シェアは15.05%だった。中国勢は5位に中興通訊(ZTE)が、中国電信科学技術研究院(CATT)が9位に入った。通信技術で先行した米欧は3G、4Gで主力特許を保有した。そのため中国などは欧米企業に多くの特許利用料を支払わねばならなかった。そこで中国は次世代情報技術を産業政策「中国製造2025」の重点項目に位置付け、国を挙げて5G関連技術の研究開発を後押ししてきた。ファーウェイの5Gを含む研究開発費は年間100億ドル(約1兆1100億円)以上とされる。ファーウェイは基地局の開発などにかかわる特許の申請が多いとみられる。スウェーデンのエリクソンやフィンランドのノキアをしのぐ。ZTEも基地局などでシェアを伸ばしている。韓国はシェア3位のサムスン電子と4位のLG電子がけん引し、全体で25.23%と4Gから2ポイント以上シェアを高めた。一方、米国は14%と4Gに比べてシェアを2ポイント下げた。スマホの半導体などの特許を持ち、4Gの主力プレーヤーである米クアルコムも5Gではわずかにシェアを下げ、6位になっている。ただ、通信の場合、技術特許は積み重ねであり、5Gになっても3G、4Gの特許が引き続き使われる。クアルコムの優位性が一気に失われるとは考えにくい。同社の1~3月期の知財ライセンス部門の売上高は11億2200万ドルにのぼる。日本も5%と約4ポイントシェアを下げている。企業別シェアで12位の富士通は「狙った場所に電波を飛ばす技術など5G関連で様々な特許を持つ」という。SEPを持つ企業は特許収入で潤い、5G対応の基地局やスマホといった新たな設備を提供する際の価格競争力を高められる。一般的にSEPを多く持つ企業を抱える国ほど5Gインフラを安価に広げられ、次世代サービスで主導権を握りやすくなる。出願数に加え、使われる頻度の高い重要な特許を握れるかどうかも大きい。米国は安全保障上の理由で5Gに関してファーウェイなど5社からの政府調達を禁じる方針だ。しかし同社は5G製品の開発に欠かせない多くの特許を押さえており「ファーウェイは米国で製品を売ることができなくても特許利用料は獲得できる」(IPリティックスのティム・ポールマン最高経営責任者=CEO)。莫大な開発費と長期的なプランのもと、5Gの技術開発で中国は通信の世界で存在感を増している。その基盤の上で展開する各種サービスでも中国が米国をしのぐ存在になる可能性がある。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190503&ng=DGKKZO44277290W9A420C1MM8000 (日経新聞 2019年5月3日) 令和を歩む(1)経団連会長 中西宏明氏 変化受け止め、次の革新 (*なかにし・ひろあき コンピューター設計者として日立製作所に入社。2010年に社長に就き、巨額赤字に陥っていた同社をV字回復させた。14年から会長。欧米での経営経験も持つ。18年5月に経団連会長に就任した。73歳) 平成の約30年はものすごく変化が大きかった。冷戦が終結し、国際秩序を主導する存在がいない「Gゼロ」の世界になった。日本は働けば豊かになる時代が終わり、お金を持っている人も金利では稼げず、リスクをとらないとリターンが得られなくなった。電機業界も激動だった。良いモノを作れば売れるという価値観が通じなくなり、大赤字になった事業が次々と消えた。特に半導体の製造は他国にも可能になり、市場構造ががらがらと変わった。社会や文化の基盤が変わり、過去に固執したらロクなことがない。そこに気がついた人と気づかなかった人がいた。 ●デジタル活用へ 日本は社会基盤が変化するというデジタル革新の本質を受け止めきれないまま、ここまできてしまった。いまこそ変化を受け止め、先端技術で課題を解決する社会を目指すべきだ。経団連が2018年11月に示した成長戦略はこの変化を受け止めようという内容だ。いかに知恵でメシを食うか。日本は世界のなかで決して悪いポジションにいるわけではないが、高度成長という世界でもまれな成功体験があるので、なかなか変われない。いったんご破算にしたほうがいい。採用の問題も教育の問題もそうだ。教育では科学技術、工学、数学だけでなく、芸術も融合した「STEAM教育」が重要になる。デザインという言葉があるが、うまく人をコーディネートして新しい文化をつくるような仕事の組み立て方が注目される。日本には、これをお手本にすれば食べていけるという産業がない。ちがう発想で考えないといけない。産業政策も今あるものを守る発想は全部やめたほうがいい。次に挑戦する分野をどのように創っていくかという発想に立たないと、ずるずる後退していく。科学技術をうまく使ったイノベーション(革新)は大きなヒントだ。消費者の需要を引き出すことが、そのもとになる。新しい商機をつくる責任は民間が負う。環境を整えるのが政府の役割だ。新時代を見通したとき、懸念するのはエネルギーの問題だ。かつての電力会社は電力債の発行で得た資金で投資し(総括原価方式で)確実に回収できた。いまは将来を十分に見通せないため、15年間も投資が停滞している。電力会社に投資能力がないのに他の会社が入ってくる環境もない。 ●競争力の危機 経験から言えば、15年間も投資しなかった産業部門は国際競争力をなくす。経済は投資して回収するというお金が回る仕掛けのなかで技術が発展して資本が蓄積する。この仕組みが壊れている。民間の投資を呼び込むため、インセンティブをつけてグリーンエネルギーに転換する総合的なシナリオを作り直すべきだ。再生エネルギーを普及させるには、発電した電気をどう運び、どう蓄えるかという全体を設計しないといけない。送配電網もデジタル技術で次世代化する投資が要る。原発ももっと長い目でみた議論をすべきだ。化石燃料を使いきったあと、原子力以外に生活や工業を支えるエネルギーはない。日本は変わらなければならない。 *3-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2019042902000183.html (東京新聞 2019年4月29日) 高校普通科の画一化脱却を 政府会議提言へ 高校生の七割が在籍する普通科の在り方を議論している政府の教育再生実行会議が、各校ごとに重視する教育を明確にし、特色を類型化するよう提言することが二十八日、関係者への取材で分かった。普通科の区分は維持しつつ、各校が示す特色により「国際化対応」「地域に貢献する人材育成」などの枠組みに分けることを想定。画一的とされる普通科の学びの改革を促す。五月中旬にまとめる第十一次報告に盛り込み、安倍晋三首相に提出する。高校段階での学びは、生徒の進学や職業選択に大きく影響する。ただ、グローバル化や、人工知能(AI)などの技術革新が進み、社会環境が大きく変わろうとする中、普通科では、大学受験を念頭に置いた指導や授業編成が大半で、生徒の多様な能力や関心に十分に応えられていないとの指摘がある。このため、文部科学相の諮問機関である中教審の今後の議論でも大きなテーマとして扱うことになっている。関係者によると、実行会議では、画一的な指導の原因として、各校が具体的な教育目標を掲げていないことに着目。提言で全国の高校に「どういう力を持った生徒に入学してほしいか」「特に力点を置く学習内容」「履修単位の認定方針」を明確にするよう求める。それらを踏まえた上で普通科を(1)国際的に活躍(2)科学技術の分野をけん引(3)地域課題を解決-といった各校の人材育成のイメージに応じて分類し、学びの変化を促す。具体的な分類や履修単位の設計については、中教審の議論に委ねる。また、今後、文系・理系の枠組みを超えた思考力が一層求められるとして、授業編成で文理分断型にならないことが重要と強調。大学入試でも文系・理系の科目をバランス良く問う方式に留意するよう言及する。提言では、高校教科書の見直しにも触れる。特に情報や工業などの技術革新が目覚ましい分野は、通常の四年ごとの改訂を待たず、弾力的に中身を変えられる仕組みの検討を要請する。 *4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190506&ng=DGKKZO44264550W9A420C1TCR000 (日経新聞 2019年5月6日) 令和デモクラシーへの道、論説フェロー 芹川 洋一 ふしぎなくらいに、元号とともに日本政治は動いてきた。なぜか改元のころの問題がその時代のメインテーマになるからだ。後講釈とばかりいえないほど、元号を通して見えてくる政治がある。明治はいうまでもなく維新で、天皇を中心にした国づくりが肝だった。自由民権運動もあり、立憲制をめざした。大正改元の直後には、第1次護憲運動がおこる。大正デモクラシーの起点だ。1918年には初の本格的な政党内閣である原敬内閣が誕生する。昭和は26年の改元と45年の敗戦で分ける必要がある。はじまりの時期は政党内閣制の定着が焦点で、そのあと崩壊して戦争へと突き進んでいった。戦後は国の再建、豊かな生活の実現が課題だった。自民党長期政権は利益分配でそれを達成しようとした。その行きづまりがはっきりしたのが89年の平成改元のころだ。政治とカネのスキャンダルが政治改革を促し、平成政治の基調となった。そして現在である。国力の回復と少子化・高齢化が主テーマであるのは論をまたない。とりわけ政治に求められるのは人口減少社会での給付と負担の合意づくりだ。その実現に令和デモクラシーの成否がかかっている。令和政治を考えるとき、今という時代をどうとらえるかが出発点になる。グローバル化、デジタル化の波のなか企業の国際競争力は落ちる一方で、この国を引っ張っていく産業のかたちがみえない。少子化には歯止めがかからず高齢化は進み、社会がどんどん縮んでいく。現在、1億2600万人余の人口は、2040年に1億1000万人ぐらいになると推計される。その間、生産年齢人口は減りつづけ、社会保障費がかさんでいくのは火を見るより明らかだ。財政は1000兆円を超える公的債務を抱える。負担を増やすか、給付を低下させるか、その両方かしか選択肢はない。それなのに奇妙な安定が支配しているのが今の日本だ。18年の内閣府の国民生活に関する世論調査では、現在の生活に満足している人の割合が74.7%に達し調査をはじめた57年以降で最高だという。「平成は日本敗北の時代だった」と言い切る経済同友会の小林喜光前代表幹事は「ゆでガエル日本」とも喝破する。カエルがぬるま湯につかっていてやがて熱い湯になり逃げだせず死んでしまうように、このままでは日本は立ち行かなくなるというわけだ。自民党中堅切っての論客である斎藤健・前農相も「産業競争力の劣化、弱体化は深刻なところに来ている。国際環境も大きく変わり、安全保障、通商政策を組みなおしていく外交力が問われているのに危機感がない」と嘆く。危機感がないのが最大の危機といっていいのかもしれない。いや応なく痛みや負担を迫られるとして、それを実現するための政治のあり方を、政府・与党と与野党の間でいかに整えるかがカギだ。まず政府・与党の問題は、政策を強力に推し進めていく政権のありように絡む。忖度(そんたく)政治や各省の思考停止など批判はあっても、正副官房長官と「官邸官僚」によって政権の中枢ができあがっている安倍晋三政権はひとつのモデルだ。チームで回していくしっかりした政権でないと「負担分配」を政治スケジュールにのせることなど不可能に近い。別の問題もある。父の福田康夫首相の秘書官をつとめた達夫衆院議員は「(07年)官邸に入ってびっくりしたのは引き継ぎ書類が一枚もなかったことだ。あったのはなぜか爪切り1個だけ。ゼロベースで首相が交代するのは国家的にも良くない」と振り返る。政権中枢のチームづくりと政策の継続性は、派閥が体をなさなくなった以上、政党が担うしかない。もうひとつは国会である。18年に当選3回で抜てきされ、いきなり外国人労働者の法案審議で矢面に立たされた山下貴司法相は「与党と野党がダメだしをするばかりでは政治不信を深めるだけだ。国会論戦でもっと論点をはっきりさせ、真の争点は何なのか国民に分かるようにしなければならない」と力説する。とくに負担と給付の問題は与野党による批判の応酬では済まなくなる。大枠で一致して乗り越えていく方法はないものか。その平成モデルが社会保障と税の一体改革についての12年の3党合意だった。平成デモクラシーの理論的支柱だった佐々木毅・元東大総長は「ほかのテーマは違っていてもいいから、領域を限定して休戦協定を結ぶ。その間は選挙をしないなど、かんぬきをかけて管理する方法はないだろうか」と語る。解散権をしばって、政治休戦のもと与野党合意で痛みを伴う課題を処理していく考え方だ。ここでも政党がその役割を果たせるかどうかにかかっている。思いおこしたい先人の言葉がある。40年6月、ナチス・ドイツが進軍、フランスが降伏寸前で、次は英国攻撃かと緊迫していたときのチャーチル英首相の演説だ。「もし大英帝国が千年つづいたならば(後世の)人びとが『これこそ彼らのもっとも輝かしいとき(ゼア・ファイネスト・アワー)であった』と言うように振る舞おう」。千年後の人たちから、あのころみんなで我慢して危機を乗り越えてくれたから今の日本がある、と言われるような令和の時代にしたいものだ。 <障害者雇用について> PS(2019年5月7日追加):現行の障害者法定雇用率は、民間2.2%、国・地方公共団体2.5%で、対象は①身体障害者手帳を持つ身体障害者 ②療育手帳又は知的障害者判定機関の判定書を持つ知的障害者 ③精神障害者保健福祉手帳を持つ精神障害者のうち就労可能な人とされており、手帳や公的判定書を持たない人は、障害者のうちに入らない(https://snabi.jp/article/133#bn64a 参照)。しかし、2018年6月1日の実績では、国1.22%、都道府県2.44%、市町村2.38%で、いずれも法定雇用率を下回り、国には手帳や公的判定書を持たない人を障害者に数えたごまかしもあり、障害者に対する根強い差別意識が残っているようだ。 このような中、*5のように、法定雇用率を達成した佐賀県内の民間企業割合が、8年連続で全国トップとなり、障害の回復に資する「ノーマライゼーション」の考え方が浸透しているのはよいことだ。さらに、雇用の場や収入がない障害者には生活保護費や障害者年金を支払わなければならず、“障害者”であってもできることはでき、“健常者”より得意なこともあるため、気を使いすぎずに雇用して支えられる側から支える側にまわってもらうのがWinWinである。 *5:https://digital.asahi.com/articles/ASM4B551BM4BTTHB00K.html?iref=comtop_list_biz_f01 (朝日新聞 2019年5月7日) 障害者の法定雇用率、達成した企業の割合 1位再び佐賀 障害者の法定雇用率を達成した佐賀県内の民間企業の割合が、8年連続で全国トップとなった。厚生労働省佐賀労働局が4月、発表した。労働局は、障害がある人とない人が区別されずに暮らす「ノーマライゼーション」の考えが浸透しているのではないかなどと分析している。障害者雇用促進法では、従業員の一定割合以上の障害者を雇うことを事業主に義務づけている。現在、一般民間企業の法定雇用率は2・2%、国や地方自治体は2・5%などとなっている。労働局の集計(昨年6月1日時点)によると、雇用障害者数は2439・5人で6年連続、実雇用率は2・55%で5年連続でそれぞれ過去最高を更新。実雇用率は全国平均が2・05%の中、全国4位だった。県内の対象企業(従業員数45・5人以上)は603社。法定雇用率を達成した企業の割合は全国平均が45・9%に対し、佐賀県は66・3%で全国トップ。労働局は結果について「何か数字があるわけではない」としつつ、「小さい県ながらの良さがあると思う。『隣の企業がやっているからうちもやらなきゃ』というようなところも含めて、障害者雇用に対する『当たり前感』というような、ノーマライゼーションの考えがうまく浸透しているのではないか」と分析した。未達成企業203社のうち、障害者を1人も雇用していないのは106社だった。労働局は「1人目の雇用が障害者雇用の難しさとも言われている。丁寧に啓発、指導に取り組んでいきたい」としている。佐賀労働局は昨年12月、県内の公共機関の障害者雇用状況(昨年6月1日時点)を発表している。これによると、県の知事部局や県警、県教委はいずれも法定雇用率を満たさず、市町の機関も33機関中17機関が未達成だった。地方独立行政法人の県医療センター好生館も法定雇用率に達していなかった。障害者雇用を巡っては、昨年、中央省庁などでの雇用数の水増しが発覚し、問題となった。 <教育の視点から> PS(2019年5月8、9、10、11日追加): *6-1に、「幼児教育・保育を無償化する子ども・子育て支援法改正案が9日に採決される」として、これについて「①実態は幼稚園・保育所に近いのに対象外になる施設がある」「②対象外施設は不公平だと反発している」と書かれている。しかし、幼児期も重要な教育期間であるため、①については、単なる居場所ではなく幼児教育・保育をきちんと行う施設を認可して無償化の対象にする「質の充実」が伴わなければならない。そして、②の対象外施設は、運営上の制約を避けるため認可施設になっていなかったとしても、預かっている子どもに認可施設よりよい環境を与えているのに変な制約を課されるので認可外でやってきたのであれば認可をとるようにしなければならないし、幼児教育・保育はしていないが預かる場所が必要だったので運営してきたのであれば、学童保育(それでも単なる居場所では困る)等に変更するか、幼児教育・保育ができる環境を整えるかすべきだ。何故なら、今回の変革は、無償で、幼児教育・保育をどの子にも与えることを重視したものだからである。 また、*6-2のように、「細かすぎる校則」があるというのは、細かい校則がなければ何をするかわからない生徒が多いからかもしれないが(私は、そういう学校に行ったことがないのでよくわからないが)、理由も説明できずに「ルールはルール」としか答えられない教諭がいたとすればレベルが低すぎる。私は、生徒総会の要望をすべて認める必要はないと思うが、要望する人もデータや資料に基づく根拠を示し、要望を通すか通さないか決める人も、それらを基にして議論し検討した結果と結論に至った理由を示して、お互いが納得できるようにしなければならないと思う。つまり、教師は、日頃からそういう指導ができる人でなければならないのである。 なお、2019年5月8日、*6-3のように、大津市の県道交差点で車2台がぶつかって保育園児の列に突っ込んだ事故があった。直進車と右折車がいる場合は直進車優先なので、事故の映像を見れば右折車が交通違反していることが一目瞭然だったが、何故か被害者の運転手も逮捕され批判された。また、保育園関係者の記者会見では、被害者である保育園の園長が泣いてばかりいて状況を説明しようともせずに隣の男性職員が説明していたのは、園長としての資質が疑われた。保育園側に過失はないが、園庭もないような環境だったため、もっとよい環境で子どもを預かれるように、市が小学校の空教室や空地などの便宜を計ったらどうかと思われた。 そのような中、*6-4のように、2019年10月から幼児教育・保育を無償化する「子ども・子育て支援法改正案」が参院内閣委員会で可決され一歩前進した。これまでは「預かってくれるならどこでもよい」という選択肢のない状況だったが、今後は、産業界はじめ中等・高等教育関係者・保護者を含めて「どのような人材を育てたいのか」という観点から幼児教育・保育のあり方を検討し、国・地方自治体が指導監督やサポートをすることが重要だ。 また、*6-5のように、低所得世帯の子どもを対象に高等教育負担を軽減する法案も参院文教科学委員会で可決され、一歩前進した。しかし、1970年代の国立大の授業料は年間1万2千円~3万6千円だったのに現在は54万円であり、この50年間に物価水準は3倍程度にしかなっていないため、教育費だけが著しく上がったのである。学生アルバイトは勉強にさしつかえない範囲にしなければ進学した意味がなく、県外に進学するか否かもその人の人生設計とそれに応えるべき大学の魅力によるため、高等教育の授業料は、誰でも無理なく負担できる範囲にすべきだ。なお、特に人材不足が懸念される分野は、さらに授業料を減免することも考えられる。 2019年5月11日、*6-6のように、東京新聞が「①待機児童問題が深刻な都市部で園庭のない保育園が増加し、東京都文京区は78カ所の認可保育園のうち6割に園庭がない」「②東京都で2017年度に新設された認可保育園約270カ所のうち、基準通りに園庭を備えた園は2割に留まる」「③待機児童対策に追われる中、都心部ではすべての園に園庭を造るのが難しい」「④厚生労働省は、子どもの発育に重要な園外活動は今後も積極的に取り入れるよう求めている」と報じている。しかし、①②③は、これがまさに東京一極集中と狂ったような土地価格の弊害であり、地方の保育園の方がずっと恵まれている。また、小学校に空き教室が増えているので小学校に併設したり、安全対策を行ってビルの屋上に園庭のある保育園を作り、植物を植えるなどの工夫をすればよいと思うが、それもしていない。④の園外活動も重要だが、少子化そのものを問題にするよりも、園庭で安全に運動したり、外の風や季節を感じたりすることができる当たり前の保育施設を準備して誰でも入園できるようにし、育児しやすい環境を創るべきなのである。 ![]() ![]() ![]() 2019.5.8東京新聞 2018.11.9毎日新聞 教育費と物価水準の推移 (図の説明:左図のように、認可保育所と幼稚園の3~5歳児は保護者の働き方と関係なく原則として全世帯で全額無料、0~2歳児は住民税非課税世帯のみ無料となり、認可外保育所は一部補助となる。また、中央の図のように、給食費は3~5歳児は実費で、0~2歳児は保育料に含むとされている。なお、右図のように、教育費は物価水準と比較して著しく増加している) *6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201905/CK2019050802000140.html (東京新聞 2019年5月8日) 幼保無償化 あす参院委採決 対象外施設は反発「不公平」 参院内閣委員会は七日の理事懇談会で、幼児教育・保育を無償化する子ども・子育て支援法改正案を九日に採決することを決めた。与党などの賛成多数で可決し、早ければ十日の参院本会議で成立する見込み。原案通り成立すると、実態は幼稚園や保育所に近いのに無償化対象から外れる施設が出る。認可外保育施設では、利用料補助は共働き世帯などに限られる。利用者らからは「政府が掲げる『三~五歳の原則無償化』と矛盾する」との声が上がっている。「お水がいっぱいたまっているよ」。四月中旬、千葉県松戸市の「小金原保育の会幼児教室」の園庭で、子どもたちが水たまりや砂場で元気に遊んでいた。団地の一角にあるこの教室は一九七五年に保護者らが設立し、障害児を含む多様な児童を受け入れてきた。運営上の制約を避けるため認可施設にならず、認可外施設として運営。改正案では、こうした施設は共働き世帯などに限り上限付きの補助が出る。ここでは大半の利用者が対象外だ。改正案は幼稚園や保育所などの認可施設では、保護者の働き方に関係なく無償化する。認可外施設で対象を絞るのは、やむなく認可外施設を利用する家庭への配慮だが、本来は認可施設に預けるのが望ましいとの原則に立つためだ。同教室の武中悦子事務局長は「幼稚園に断られた児童や共働きが難しい家庭を支え、行政の不備を補ってきたのに不公平だ」と嘆く。東京都西東京市で六二年から続く、自治会運営の「たんぽぽ幼児教室」は独自の運営を目指し、認可外施設の届け出をしていない。改正案では全利用者が無償化の対象外だ。平賀千秋・幼児教室部長は「保護者から選ばれなくなれば、存続できない」と心配する。自然体験を通じて子どもを育てる「森のようちえん」も同じ悩みを持つ。園舎なしや親の運営への参加などの柔軟性が強みだが、認可外施設でなければ無償化の枠から外れる。約二百団体が参加する「森のようちえん全国ネットワーク連盟」は昨年、全利用者の無償化を政府に要望したが、一律の無償化は見送られた。国会審議でも、与野党が一部の施設が無償化から漏れることを問題視したが、これまで法案の修正には至らず、衆院通過の際、五年後をめどに扱いを検討するという付帯決議を行うにとどまった。明星大の垣内国光(かきうちくにみつ)名誉教授(保育政策)は「自治体が評価する施設は対象にするなど、柔軟な運用をすべきではないか」と語った。 *6-2:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/anatoku/article/508167/ (西日本新聞 2019年5月7日) 細かすぎる校則、変える妙案は 「ルールはルール」生徒の発案を押し返す教員も 校則の必要性は認めつつも、細かな規定には疑問がある。これまでの取材を通して学校現場からはそうした声が多く聞かれた。校則は変えられないのか。各学校では生徒会執行部を中心に模索が始まっているが課題も多い。 ●意見集約 押し返す現場 校則の改廃について多くの学校は運用で決め、明記しているケースは少ない。取材班が入手した福岡県内の県立高校・中等教育学校の校則に関する資料で全文が記された学校でも規定は見当たらなかった。ただ、変える仕組みはあっても、事実上機能していない学校もある。「生徒総会で意見を吸い上げるようにしているが、声があっても(教師でつくる)生徒指導部で押し返してきた」。同県内の県立高校の男性教諭は打ち明けた。際限のない規制の緩和により学校が荒れることを心配する管理職ら教師側の都合がそうさせているという。学校側の姿勢に疑問を抱く教諭は「ダイバーシティ(多様性)を尊重する時代なのに息苦しさを感じる。『ルールはルール』としか言えず、根拠を持って指導できているかいつも思い悩んでいる」と話した。 ●生徒会が議論する場に 取材班は3月下旬、福岡県内の高校生徒会役員有志でつくる「福岡県高校生徒会連盟」の会合で校則の現状について尋ねた。連盟はそれぞれの学校が抱える課題について意見交換し解決策を探る目的で昨年4月に発足。これまでの活動には公私立の20校余のメンバーが参加している。男子生徒の一人は「そもそも校則って何なのでしょう」と問題提起。「生徒手帳に載っていなくても、ルールになっているものがあり、そういうものほど先生の解釈が分かれる」と訴えた。学校の決まり事の多くは生徒手帳に記されているが、その他の目に見えない規定や学校の「慣例」といった存在が混乱と不信感を招いているようだ。生徒からは「文化祭の異装規制の緩和を求めたが認められなかった」「学校に弁当以外の食べ物は絶対に持ち込めないのだろうか」といった声が聞かれた。あくまでイベントを盛り上げたり、空腹を補ったりするもので、そもそも風紀を乱す意図はない。生徒側の要望に工夫の余地があるとの指摘もあった。「生徒のアンケートを取るなど、きちんとした裏付けと議論の上で学校側を説得する姿勢が重要ではないか」。生徒の声を集約することは、学校側を話し合いの席に着かせるためにも効果的な手法だろう。「先生たちの信頼を得るために、今の校則をしっかり守る実績をつくることが必要だ」という声もあった。一方、ある男子生徒は「校則をころころと変えるのは良くない。でも、どうせ変えられないから仕方がないという姿勢も良くない」と話した。自分たちが学校生活を送る上でどんな校則が必要で不要か。そして生徒会執行部はどう関わるべきか。「校則を変えるために、校則の持つ意味を見つめ続けるのが生徒会の役割だ」と強調した。連盟の代表で西南学院高3年の田口夏菜さんは「校則の問題も含めて、これからもそれぞれの学校で悩んでいることを共有し、議論していきたい」と語った。 ●理解示し柔軟な対応も 学校側の抵抗を強く感じる校則の改廃だが、取材班が実施した福岡県立高校へのアンケートでは、生徒の要望を受けて実現した例がいくつも寄せられた。カーディガンやタイツの着用、マフラーの色の自由化、制帽や指定靴の廃止などだ。「生徒総会で議決された内容は前向きに検討する」「生徒のアンケートを参考にした」とする学校もあった。ある学校はPTAと生徒会が合同懇親会を毎年開き、保護者も一緒になって考える機会を設けていた。中でも目立ったのが携帯電話やスマートフォンに関する規定。時代の流れや防犯上の効果もあり、校内では使用禁止だが持ち込みを認める学校が増えてきているようだ。生徒たちの負わされる義務が増え、自由と権利が狭められているとも指摘される校則。変化の兆しはあるものの、学校と生徒の認識にはなおずれがある。次回は、インターネット上での校則を巡る意見から現状を考える。 × × ▼生徒会 中学、高校で自主的活動を促し、集団の一員としての資質を育成することを目的に全校生徒で構成する自治的な組織。学習指導要領の特別活動の一つで、生徒は主体的に組織をつくり、役割を分担すること。また、学校生活の課題を見いだして解決するために話し合い、合意形成を図って実践することとしている。生徒会長や会計などでつくる執行部(役員会)が生徒を代表して活動の推進を図り、他に体育委員会などの各種委員会がある。小学校は児童会。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM584SD0M58PTIL017.html (朝日新聞 2019年5月8日) 容疑者「前をよく見ていなかった」 大津の園児死亡事故、子どもの交通事故を防ぐ 8日午前10時15分ごろ、大津市大萱(おおがや)6丁目の丁字路の県道交差点で車2台がぶつかり、うち1台がはずみで保育園児の列に突っ込んだ。滋賀県警によると、近くのレイモンド淡海(おうみ)保育園に通う伊藤雅宮(がく)ちゃん(2)=同市大江5丁目=と原田優衣(ゆい)ちゃん(2)=同市大江2丁目=が死亡。男児(2)が意識不明の重体となっている。ほかに2~3歳の園児10人が重軽傷、引率していた保育士3人も軽傷を負った。県警は、車を運転していた無職の新立(しんたて)文子容疑者(52)=同市一里山3丁目=と無職の下山真子(みちこ)さん(62)=同市=を自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)容疑で現行犯逮捕。下山さんについては、8日夜に釈放された。県警によると、交差点で右折しようとした新立容疑者の乗用車と、直進してきた下山さんの軽乗用車が接触。その後下山さんの車が、散歩中に信号待ちをしていた園児らがいる歩道へ突っ込んだとの目撃証言があるという。新立容疑者は「前をよく見ていなかった」、下山さんは「右折車をよけようとハンドルを左に切った」との趣旨を供述。2人は、それぞれ別の大型量販店から帰宅する途中だったという。2人にけがはなく、同乗者もいなかった。現場はJR琵琶湖線瀬田駅の北西約1・5キロの湖岸道路。約200メートル南に、園児らが通うレイモンド淡海保育園がある。 *6-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14007853.html?ref=pcviewpage (朝日新聞 2019年5月10日) 幼保無償化、参院委可決 10月から幼児教育・保育を無償化するための子ども・子育て支援法改正案が9日、参院内閣委員会で自民党と公明党、国民民主党、日本維新の会の賛成多数で可決された。10日の参院本会議で成立する見通し。認可外保育施設で国の指導監督基準を満たさない場合も5年間は無償化対象とすることが焦点の一つとなっている。9日の内閣委で安倍晋三首相は「待機児童問題により、やむを得ず認可外保育施設を利用せざるを得ない方々についても、負担軽減の観点から経過措置を設けることとした」と説明。「都道府県などによる指導監督の充実を図る」と理解を求めた。一方、立憲民主党の牧山弘恵氏は「劣悪施設の不適切な延命につながる可能性がある」と指摘。立憲民主と共産などは、採決では改正案に反対した。 *6-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14007852.html (朝日新聞 2019年5月10日) 「高等教育無償化」成立へ 中間所得層への支援継続は不透明 参院委可決 10月に予定される消費増税を財源に、低所得世帯の子どもを対象に高等教育の負担を軽減する関連法案が9日、参院文教科学委員会で与党と一部野党の賛成多数で可決された。10日の参院本会議で可決、成立する見通しで、2020年4月から、授業料減免と給付型奨学金の支給が始まる予定だ。ただ、法案の審議では、制度の対象とならず、支援を受けられなくなる学生の扱いなど、解決すべき課題も浮かんだ。負担軽減策の柱は、授業料の減免と給付型奨学金の拡充だ。対象となるのは「両親と大学生、中学生」のモデル世帯で年収380万円未満の場合。収入ごとに減免額は3段階に分かれ、270万円未満の住民税非課税世帯は、国公立大が年間54万円で一部の大学を除き全額が免除、私立大は最大で70万円が減額される。奨学金は、非課税世帯なら国公立大の自宅生で約35万円、私大の下宿生ならば約91万円支給される。文部科学省は新制度で低所得世帯の大学などへの進学率が、現在の4割程度から全世帯平均の約8割まで上昇し、支援対象者が最大75万人になると推定。必要な予算は約7600億円と試算している。支援策は、低所得層の支援が手厚くなる一方、一定の収入を超えると全く受けられない。現在も多くの大学が収入や家族構成などに応じて授業料を減免しているが、国立大の場合は各大学で基準が異なり、個別の状況に応じて支援する学生を決めている。私大には減免額の半分を国が補填(ほてん)する仕組みがあり、給与所得者なら年収841万円以下の世帯まで対象にできる。こうした学生が今後どうなるか、まだはっきりしない。国会審議でも立憲民主党などから「現在、減免を受けている学生が制度の対象外になるのでは」との質問が相次いだ。柴山昌彦文科相は「対象とならない学生も生じうる」と認め、対策は「学びを継続する観点から、実態などをふまえて配慮が必要か検討する」と述べるにとどまった。文科省の担当者は「在学生を救いたいが、財務省との厳しい予算の折衝になる」と話す。文科政策を担当する財務省の中島朗洋主計官は「新制度は支援を低所得層に重点化するもの。中間所得層の在学生の支援は、大学が自らの経営判断で続ければいい」と語る。母子家庭で育ち、現在は姉と2人で東京都内で暮らす東京大3年の岩崎詩都香(しずか)さん(20)は「新しい制度になっても支援を受け続けられるのか」と不安を感じている。1年生の時から年間約54万円の授業料を免除されているが、新制度の対象とならない場合は生活が一変しそうだ。「アルバイトをかなり増やすことになると思う。疲れて勉強に差し支えが出ないか心配だ」 ■県外に進学、加速か 新制度によって、思わぬ影響が発生する可能性もある。大和総研は4月、文科省の試算を元に「約17万人が新たに大学や専門学校に進学し、対象者は約81万人にのぼる」との予測を公表した。この結果、島根、佐賀、秋田など9県では毎年、高校卒業者の4~5%が県外に進学し、首都圏では流入の方が多くなると予想。学生の大都市への集中が加速するとみる。さらに生活費などの心配が少なくなることで、学生アルバイトが数十万人規模で減ると予想もしている。人手不足に拍車をかける可能性があるとして、金融調査部の坂口純也研究員は「学生バイトに依存する業界は、人手を確保する対策が必要になるだろう」と指摘する。大学生らも支払う消費税の増税部分を使って、一部の学生の負担を軽減する制度にも疑問の声が上がっている。高等教育無償化を目指す学生らで作る「FREE」は3月、全国140の大学・短大・専門学校の学生1457人へのアンケート結果などをもとに声明を発表し、「消費増税は学生の暮らしと直結する。それを財源に使うことは新制度の大きな矛盾だ」と指摘した。 *6-6:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201905/CK2019051102000121.html (東京新聞 2019年5月11日) 園庭ない保育園 増える首都圏 外遊び必要だけど安全どう確保 大津市で散歩中の保育園児と保育士の列に車が突っ込み、園児二人が死亡した事故を受け、首都圏各地の保育園は園外活動の安全確保に気をもんでいる。待機児童問題が深刻な都市部では、園庭のない保育園が増加。関係者は「外遊びは必須。安全対策を重ねて散歩させたい」と頭を悩ませている。七十八カ所の認可保育園のうち六割に園庭がない東京都文京区。その一つで働く保育士は「事故を受け、全職員で散歩での注意点を見直している」と話す。他の職員からは「信号待ちでは車道から離れるべきだ」と意見が出た。だがこの保育士は「歩くスピードが遅い子どもが青信号で渡り切るには離れすぎもよくない」と考える。こうした判断の難しさから「運転する人には気を付けてほしい」とあらためて願う。荒川区の園庭のない保育園の女性園長は「同じ場面に出くわしたら、仕事を続けられるだろうか」と声を落とす。四季を感じ、自然と触れ合う大切さから、毎日の散歩は欠かせない。散歩中は普段から保育士同士で声を掛け合うが「事故に遭った保育士も注意していた。命を守ることはすごく難しい」と実感している。都によると、二〇一七年度に新設された都内の認可保育園約二百七十カ所のうち基準通り園庭を備えた園は二割にとどまる。残りの八割は「公園の活用を前提に開設している」と都の担当者は話す。社会福祉法人信和会(中央区)が都内で運営する二つの保育園にも園庭がない。園内のホールで体操などをするが、外出は欠かせない。同法人の中田純子理事は「待機児童対策に追われる中、都心部では、すべての園に園庭を造るのは難しい。これからも、園外で子どもたちが安全に遊べるようにしたい」と話した。一方、園庭のある保育園でも、散歩時の安全を再点検している。横浜市中心部にある認可保育園では、大津市の事故翌日の九日に職員会議を開き、ガードレールのない散歩コースの変更を検討。保育士は「事故を受けて十日まで散歩は中止し、園庭遊びだけ。週明けから、安全確認できたコースで再開する」と話した。東京都大田区の認可保育園の園長は「事故当日から職員同士で危険箇所を出し合ったほか、警察署にもアドバイスを頼んでいる」と説明。「園外活動は交通ルールなどを学ぶ社会との接点。園庭があっても欠かせない」と力を込めた。 ◆厚労省が注意喚起 大津市で保育園児2人が亡くなった交通事故を受け、厚生労働省は10日、全国の認可保育園などに、散歩時の安全確保を呼び掛ける事務連絡を、都道府県を通じて出した。厚労省によると、大津市の事故では保育園側に問題はないと考えられるため、これまで各園で実施してきた危険箇所や交通量チェックを再度徹底するよう要請。その上で、子どもの発育に重要な園外活動は今後も積極的に取り入れるよう求めている。担当者は「危ないから園外に出てはだめ、という考えはよくない」と話した。 <女性蔑視を利用した偽情報による選挙妨害もあること> PS(2019年5月9、24日追加): *7-1に書かれている週刊文春2007年10月4日号に掲載された記事は、佐賀県議会議員選挙の最中に発行されたもので、これにより私が立場をなくし、私を応援していた県議が落選した。また、週刊文春2008年1月24日号が発行されたのは、私と保利氏が公認争いをしていた最中で、選対委員長は菅(現官房長官)氏で、「勝つ候補を公認する」というふれこみだった。どちらの記事もキャリアウーマンを見下げた悪評の散布だったため、自民党から公認されずに落選した後に、私が週刊文春を提訴し、「記事の重要な部分で真実と信じる相当の理由があったとは認められない」とされて勝訴した。にもかかわらず、未だに「①メンバーに信用できない人たちがいます」「②とくに広津前議員は、真偽の程はわかりませんが、以下の記事を読む限りでは、かなり“電波”な人では?」「③およそ政治信条とか理念などの類を持ち合わせている候補とは思えない」等々、事実でもないのに政治家としての信用を貶める内容がHP上に掲載され続けており、IT会社は削除しないのである。これには選挙妨害の意図があるのが明白だが、メディアやIT企業の良識はこの程度なのだ。 そして、*7-2-1のように、このように勝手に作りあげられた“個人情報”が不正利用されているわけだが、これは公正性・人権の両視点から許されるものではない。*7-2-2には、「『忘れられる権利』も要る」と書かれているが、忘れられる権利どころか、このような偽情報による名誉棄損や侮辱による違法行為に対しては毅然として対応し、逸失利益も十分に損害賠償させるという裁判所の意識改革が必要不可欠だ。そのため、「使わせない権利」で利用停止や削除を依頼するだけでなく、原則として「同意がなければ使わせない」という個人情報の保護規定が必要なのであり、EUのGDPRの方が信頼できるわけである。そのような中、*7-2-3のように、自民党の経済成長戦略本部が成長戦略提言案をまとめ、「第4次産業革命において最大の資源となる『データ』を利活用できる環境をいち早く整備する」と強調したそうだが、データは個人のものであるため、“データの自由な流通”を提唱するなど人権侵害も甚だしい。 なお、2019年5月24日、*7-3のように、愛媛新聞が「①ヘイトクライムを防ぐため、ヘイトスピーチ法を見直して差別撤廃へ実効性を高める必要がある」「②現行法では、憲法が保障する表現の自由を侵害する恐れがあるとして禁止規定や罰則を設けていない」「③ヘイトスピーチを『違法』と位置づけていないので、ネット等で脅迫や中傷を受けた場合に大半が処罰されない」「④差別に基づく侮辱や脅迫はヘイトクライムであり、通常より厳しい処罰も検討すべき」「⑤野放し状態となっているネットへの対策強化も急務だ」等を記載している。①③④⑤は全くそのとおりで、②の憲法が保障する「表現の自由」も、他者を差別する表現を自由化するものではなく、戦争に向かって権力が暴走した時に反対を唱え易くするような志の高いもので、同じ日本国憲法に定められている「基本的人権の尊重」や「差別の禁止」より優先して適用されるわけではない。つまり、憲法が「表現の自由」を保障しているから暴言でもフェイクニュースでも何でも書いてよく、それによって損害を蒙る人がいてもよいということではないのである。 *7-1:http://www.asyura2.com/09/senkyo69/msg/142.html (阿修羅 2009 年 8 月 12 日) Re: たしかに、政策はいいと思いますが、メンバーに信用できない人たちがいます 「みんなの党」は、政策はいいと思いますが、メンバーに信用できない人たちがいます。「自民党から小選挙区で公認してもらえなかったから」。「自民党の比例区の名簿で優遇してもらえなかったから」。という理由で来たらしい候補がいますね。元・自民党の清水前議員とか、同じく元・自民党の広津前議員とか・・・。およそ、政治信条とか理念などの類を持ち合わせている候補とは思えない。とくに広津前議員は、真偽の程はわかりませんが、以下の記事を読む限りでは、かなり“電波”な人では? ●武部幹事長弁当事件 83会の「奇人変人リスト」 「その瞬間、議員一同、凍りつきました」(山崎派議員)。山崎派の会合でのこと。山崎卓氏が「総裁選(の出馬)も考えてみたい」と言うと、一人の女性議員が手を挙げた。“ミセス空気が読めない女”と呼ばれる小泉チルドレン。誰もがひやりとしたのも遅く……。佐賀三区のがばい刺客、広津素子議員(54)は真顔で山崎氏に進言した。「山崎先生は女性スキャンダルでイメージが悪いので、難しいと思います」。自民党議員が笑いを噛み殺しながら言う。「“今週の広津語録”と言われるくらい、破壊的な発言が永田町を駆け巡っています。有名になったのは、佐賀の日本遺族会の方が東京に挨拶にみえた時。話を聞いた後、広津さんは、『遺族、遺族って、一体、何の遺族ですか』と(笑)。〇五年の郵政選挙の大量当選が生んだ珍現象です」。東大卒で公認会計士という経歴をもつ広津女史。「エキセントリックな点があり、ストレートにモノを言う。党本部や国会内の会合での質問に、いつも場が凍る」(別の自民党議員)。伊吹文明幹事長が党税調小委員長だった時、伊吹氏の説明が終わると、新人・広津氏が挙手をするや……。「伊吹先生の説明ではわかりにくいと思いますので、代わって私が説明します」。絶句したのは伊吹氏だけではない。農政の会合で農家による説明が終わると、広津氏が総括(?)した。「皆さん、農業をやめて転職したらいいと思います」。極めつけが「牛肉弁当事件」。チルドレンの親分、武部勤幹事長(当時)が、「いつでもメシを食いに来なさい」と新人たちに声をかけると、本当に広津氏は幹事長室に行って、置いてあった牛肉弁当を勝手に食べてしまったというのだ。その恨みではないだろうが、武部氏は新人議員のグループ「新しい風」に広津氏を誘っていない。抗議する彼女に、武部氏は「あれは仲良しクラブだから」と逃げたつもりが、逆に「私は仲良しじゃないんですか!」と怒らせてしまった。広津氏は小誌の取材に「全部まったくのウソです」と否定するが、広津語録は議員の間で今も更新中だ。 週刊文春07年10月4日号より ●派閥のドン山拓に「引退勧告」しちゃった広津素子センセイ “ミセス空気が読めない女”と呼ばれる、小泉チルドレンの広津素子議員(54)。昨年末、彼女は所属する派閥のボス山崎拓氏(71)にこう直談判したと言う。「先生はもう七十歳を超えている。辞めるべきだと思います!」。話は次期衆議院選挙、佐賀三区の公認問題を巡って切り出された。広津議員は現在、郵政造反・復党組である保利耕輔議員(73)と激しい公認争い中。保利氏に対して前述のように「七十歳を超えて~」と批判し、「山崎さんから若い人に道を譲るように言って下さい」と続けた。山崎派議員が苦笑しながら語る。「山崎先生は保利先生と同世代。保利先生に年だから辞めろなんて、山崎先生の口から言える訳がありません。広津さんの言葉を聞いて山崎先生は、『それは俺にも辞めろと言っているのか!』と激怒したようです」。ちなみにヤマタクが総裁選への意欲を示したときも、「山崎先生は女性スキャンダルでイメージが悪いので難しいと思います」(小誌〇七年十月四日号既報)。と広津氏は直言している。山崎派の重鎮、野田毅議員が新人を集め食事会を開いたときもこんな事件が。野田氏が「地方経済は疲弊している。今こそ地方への配慮が必要だ」などと持論を語り終えたあと、広津氏はこう言い放った。「先生は古いタイプの政治家ですね」。出席していた一年生議員が振り返る。「一瞬、場が凍りつき、われわれも冷や汗をかきました。野田さんは明らかに不機嫌だった。ご馳走になっているのに、普通そういうことを言いますか?(苦笑)」。東大卒で公認会計士という経歴の広津氏は、「自らの考えが正しいと信じて疑わないタイプ」(同前)。「昨年九月の安倍改造内閣が発表される前も、『次は私が女性代表で大臣になる』と公言し周囲を唖然とさせた。福田内閣の人選が進められているときには、官邸に電話して『私を副大臣か政務官に入れるべきだ』と直談判したという伝説もある」(全国紙政治部記者)。地元の評判も芳しくない。「人の名前を覚えないから人望がない。すぐ問題を起こすから会合等に呼ばないようにしているのですが、呼ばないと『女性蔑視だ!』と大騒ぎ。問題は人間性なんですけど・・・・・・」(自民党佐賀県連関係者)。そんな言動が災いしてか、事務所も大混乱の様子。「広津さんは入りたての秘書に、『明日から佐賀に行って後援会を作ってきてちょうだい』とか無茶ブリがすごいようです」(同前)。本人に取材すると、「すべてデタラメです。一体誰が言っているんですか」とご立腹。いや、みんな言ってるんですけど。郵政総選挙でも広津氏と対峙した保利氏は、周囲にこう公言しているという。「彼女が出る以上、私も絶対次の選挙に出る。それが佐賀県のためだ」 週刊文春08年1月24日号より *7-2-1:https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190508_3.html (京都新聞 2019年5月8日) 個人情報の保護 利用規制は国際潮流だ 政府が個人情報保護法の大幅な見直しに乗り出した。2020年に提出を目指す改正法案にデータ漏えい時の報告の義務付けや罰則強化などを盛り込む方針だ。デジタル化の進展で本人の知らないうちに個人情報が不正利用される懸念が高まっており、議論を注視したい。現行の改正法は17年5月に全面施行され、3年ごとに見直す規定がある。これを踏まえ、政府の個人情報保護委員会が改正案に関する中間整理を公表し、意見公募手続きに入った。見直しの柱の一つは、企業が収集する住所や氏名といった個人情報について広告などへの利用停止を個人が求めた場合、適切な対応を義務付ける点だ。「使わせない権利」の新設とも言える。現行法は個人情報を保護する一方で、国家戦略としてビッグデータ活用を後押しする狙いもある。企業は収集した膨大な個人データを人工知能(AI)で解析し、サービス改善や生産性向上に活用しているが、情報流出による不正利用やプライバシーの侵害など負の側面が問題となっている。例えばインターネットで検索や買い物後、関連商品、サービスの広告がダイレクトメールなどで再三届くことがある。検索サイトを運営する企業などが検索履歴や購入記録を再利用しているためだ。企業側が情報の利用停止や削除に応じなければならないのは、現行法では情報の不正取得などに限られ、消費者の不満が強かった。「使わせない権利」で自身に関わるデータを管理しやすくなる。国境を越えて活動する巨大IT企業によって個人情報の独占が進み、データ乱用への懸念は強い。欧州連合(EU)は昨年、個人情報保護を強化する一般データ保護規則(GDPR)を施行し、個人データの運用を厳しく規制している。プライバシー権を重視し、立場の弱い利用者を守るのは国際的な潮流であろう。ただボーダーレス化した世界で個人情報を保護するには、国内法の規制だけでは済まない。政府は海外に拠点を置く企業にも適用する仕組みを検討しているが、欧米など各国との連携が欠かせない。EUが導入した「忘れられる権利」も課題だ。ウェブサイトに流出した写真や過去の犯罪歴の検索結果など、本人にとって不都合な情報の削除を、ネット事業者に求められる仕組みを法案に盛り込むかどうか。引き続き検討するとしたが、人権侵害を防ぎ、救済する観点から議論を急ぎたい。 *7-2-2:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190427/KT190426ETI090002000.php (信濃毎日新聞 2019年4月27日) 個人情報保護法 「忘れられる権利」も要る ネットで買い物や検索をすると、その後しばらくの間、関連する商品、サービスの広告がスマホやパソコンに届く。煩わしく思う人は多いだろう。ターゲティング広告と呼ぶ。買い物、検索サイトの会社がデータを第三者に売っているのだ。広告などへの利用停止を個人が求めた場合、応じるよう企業に義務付ける方向を政府の個人情報保護委員会が打ち出した。いわば自分の情報を「使わせない権利」だ。個人情報保護法改正の中間取りまとめに盛り込み、パブリックコメントを始めている。買い物や検索の履歴は本人のものだ。知らないところで第三者の手に渡るのは望ましくない。規制するのは当然だ。今の個人情報保護法では、情報の利用停止や削除に企業が応じなければならないのは、不正に取得したり、目的外で使ったりした場合に限られる。通常は、請求に応じる義務はない。ただし、流れは変わりつつある。欧州連合(EU)は昨年7月に施行した「一般データ保護規則」、略称GDPRにより、個人情報の収集、取り扱い方法について利用者の同意を得ることを企業に義務付けた。その少し前には、米交流サイト大手フェイスブックの利用者の個人情報流出が表面化した。情報は英国の政治コンサル会社の手に渡り、2016年の米大統領選でトランプ陣営の支援に利用された可能性が指摘されている。この問題をきっかけに、「使わせない権利」を求める声は米国でも高まった。今後、世界に広がっていくだろう。問題は、グーグル、アマゾンなど国境を超えて活動する巨大IT企業への対応だ。「使わせない権利」をボーダーレスの世界で保障するには、米欧など各国との連携が欠かせない。法律にうたうだけでは済まない。個人情報を巡っては、流出した写真や犯罪歴の検索結果など本人にとって不都合なデータの削除、消去もかねて課題になっている。「忘れられる権利」だ。中間取りまとめでは、改正案にこの権利を盛り込むかどうかは引き続き検討するとされた。欧州のGDPRには、市民は企業に個人情報を消去させることができる、との規定が盛り込まれている。日本でも成文化すべきだ。半面、政治家が自分に都合の悪い情報を消去させるようでは国民の知る権利が損なわれる。仕組みは慎重に検討したい。 *7-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190509&ng=DGKKZO44532230Y9A500C1PP8000 (日経新聞 2019年5月9日) データ流通新法、個人情報保護法と両輪 司令塔機能の組織新設 自民党の経済成長戦略本部がまとめた成長戦略の提言案は「第4次産業革命において最大の資源となる『データ』を利活用できる環境をいち早く整備する」と強調した。安倍晋三首相は6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議で議長を務め、データの自由な流通に向けた枠組み作りを提唱する方針だ。与党からも国内でのデータの収集や管理などの枠組み構築を求め、日本主導の国際ルール作りを後押しする。提言案は政府が2020年に向けて検討する個人情報保護法の改正と新法を「車の両輪として、データ駆動社会における戦略的枠組みを構築する」と記した。個人情報保護法の改正案は個人が巨大IT(情報技術)企業のサービスを使う際に、購買履歴や位置情報などの個人情報を不正に利用された場合は利用を止められるようにするなどが柱となる。国際的なデータ流通に対応するため、政府内に司令塔機能となる「デジタル市場競争本部」(仮称)を早期に新設することも盛り込んだ。各省庁横断で専門家を交えて構成する。独占禁止法など関係法令に基づく企業への調査結果を聴取したり、米欧など主要国の競争当局と連携したりするための権限を与える。公正取引委員会と新組織が連携しながら巨大IT企業を監視する仕組みだ。 *7-3:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201905240017 (愛媛新聞社説 2019年5月24日) ヘイトスピーチ法3年 差別根絶に向け不断の見直しを 特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)をなくすための対策法が成立して3年がたった。「不当な差別的言動は許されない」との宣言の下、抑止条例の施行などの取り組みが進んだが、根絶には程遠いのが現状だ。とりわけ昨年来、元徴用工や慰安婦問題で一層冷え込んだ日韓関係を背景に、街宣活動やインターネット上での過激な言動は収まる兆しがみえない。先月からは外国人労働者の受け入れ拡大が始まり、環境整備が不十分な中で、新たな差別も懸念される。憎悪犯罪(ヘイトクライム)を防ぐためにも、法改正を含めて不断に見直し、差別撤廃へ実効性を高める必要がある。現行法では、憲法が保障する表現の自由を侵害する恐れがあるとして、禁止規定や罰則を設けていない。ヘイトスピーチを「違法」と位置づけていないことから、ネットなどで脅迫や中傷を受けた場合、加害者の罪を問うには刑法を適用することになる。しかし、大半は不起訴となるなどして処罰されず、これまでに立件され、刑事罰が科されたことが判明したのは2件にとどまる。侮辱罪で科料9千円、名誉毀損(きそん)罪で罰金10万円の略式命令が下されたが、刑罰が軽いとの指摘がある。民事訴訟のケースでも被害者の負担は大きい。証拠を集める際、自身への悪意に満ちた言動に再び向き合わなければならなくなり、精神的苦痛を受ける。時間や費用もかかる。差別に基づく侮辱や脅迫はヘイトクライムであり、通常より厳しい処罰の検討も必要だろう。国は事件化しやすくしたり、被害者を救済したりする仕組みづくりを進めなければならない。野放し状態となっているネットへの対策強化も急務だ。法務省は3月、ネット上のヘイトスピーチに関して削除などの救済措置の対象を、個人だけではなく集団も含めるよう全国の法務局に通知した。不当な差別的言動は集団に向けられたものも多い。国には被害者からの申告がない場合でもネット業者に対して差別投稿を削除するよう要請するなど、積極的な対応を求めたい。取り組みが自治体任せとなっている点も是正しなければならない。川崎市や京都府が、公共施設でのヘイトスピーチを事前規制するガイドラインを施行しているほか、大阪市は条例でヘイトスピーチ認定後に個人や団体名を公表している。だが、ほかの多くの自治体は「表現の自由」への配慮を巡って対応に苦慮し、有効策を打てていない。国は、表現の自由の扱いや、何がヘイトスピーチに当たるかといった基準をできるだけ具体的に示し、取り組みを後押しすべきだ。条例の策定などを通して、行政や市民らが、差別を許さないという毅然(きぜん)とした態度を示すことが、ヘイトクライムの抑止力強化につながると再認識してもらいたい。 <本当の男女雇用機会均等へ> PS(2019年5月13日追加): *8-1のように、パリで開かれた先進七カ国(G7)男女平等担当相会合が、2019年5月10日、「女性の人権や男女平等の促進のために法制度の拡大が必要」という認識で一致し、これは大統領が男女平等促進を重要政策に掲げるフランスが議長国だった成果であり、そのことはフランス以外が新法導入の約束に消極的だったことからもわかる。しかし、女性に対する暴力は、身体的なものだけではなく、女性蔑視を利用して自己に利益誘導しようとする精神構造も入るため、徹底した法制度の拡大が必要だ。 例えば、*8-2の「IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差・年齢差がある」というように、あたかも科学的調査を行ったかのようだが、実際には差別意識を植え付ける記事がそうである。内容は「①CIYの診断結果で個人の様々な特性が明らかになるが、その中で特に『論理的に思考するタイプ』と『情緒的・感覚的に思考するタイプ』」で男女間に明確な差が出た」「②論理的に思考するタイプは全年齢層で男性割合が高く、情緒的・感覚的に思考するタイプは全年齢層で女性割合が高い」「③男性では新社会人(23歳~29歳)から40代にかけて論理的に思考するタイプが増加し、女性では高校・大学・社会人となるにつれて情緒的・感覚的に思考するタイプが増える」「④組織の中で男性は論理的であること、女性は情緒的で共感し合うことを求められる結果、年齢とともにそれぞれの思考性が変化する」「⑤男女で年齢とともに思考性が変化していく傾向があり、結果的に男性は論理的、女性は情緒的で共感力が高いという集団ができる」「⑥世代別では、男性ではゆとり第一世代~団塊ジュニア世代まで論理的に思考するタイプが高くなっており、女性では世代別の変化は見られない」「⑦個性や性格の半分は遺伝で決まり、残りの半分はその他の要因によって決まると言われている」「⑧男性で30−40代が論理的に思考するタイプが多く、50代をすぎると情緒的、感覚的に思考するタイプが増えていくので、年齢とともに性格が変化していると感じられる」などが書かれている。 しかし、調査方法については、何を質問してどう答えれば「論理的」「情緒的・感覚的」と判定しているのか不明であり、判定する人の主観や分析力も見逃せない。さらに、①②のように見えたとしても、その要因は、高等教育で何を専攻し、どの職種でオン・ザ・ジョブ・トレーニングを受け、どういう立場(非正規・正規のヒラ・管理職・社長、専業主婦等)で働いてきたかによって考え方が変わるため、③④⑧の結果になる可能性もある。これについて述べているのが、*8-3の上野元東大教授だが、東大入学者の女性比率は現在では全体で約18.6%にまで増えているものの、法学部19.1%、経済学部17.9%、文学部28.8%、教育学部37.2%、教養学部30.2%、工学部8.9%、理学部12.2%、農学部26.6%、薬学部23.9%、医学部19.8%と工学部と理学部は10%前後であり、これは就職を考慮して専攻を決定した結果だろう。その結果、就職後のオン・ザ・ジョブ・トレーニングも異なり、東大以外では家政学系・芸術系・文学系に進学する女性も多いことから、社会全体の男女の育成方法や期待の違いが*8-2の結果を生んでいると思われる。ただ、⑤⑥のように、年齢で変化するか否かについては、現時点の異なる世代間比較をしても受けた教育や過ごした社会環境が異なるため正確な比較にならず、同じ世代を多変量解析でコホート分析した方が要素毎の影響がわかりやすい。⑦については、半々かどうかはわからないが、遺伝と環境の両方の要因で変化し、同じ人でも欧米と日本で振舞いを使い分けなければならないことさえある。つまり、日本は、“文化”の名の下に女性蔑視している国なのである。 なお、*8-3には、「サークル選びは袋詰めで渡されたビラの束から『東大男子と○○大女子のサークル』と書かれたものを捨てることから始めなければならなかった」とも書かれているが、私が入った社交ダンスクラブは東大女子が少ないので日本女子大や東京女子大と合同で行っていたが、行けば東大女子もWelcomeだった。ただ、やるのは社交ダンスでも、幼い頃からバレエや日本舞踊を習っていた人はバシッと形が決まり、そうでない人はとてもかなわないため、*8-4の「習い事の低年齢化」はあってよいと考える。これを、「エリート志向の押し付け」とか「習い事は協調性を養う」などと言っている人は、クラブ活動以外はやったことがないように思われる。何故なら、子どもが主体性を示す年齢から始めては遅いものが多く、例えば、日本語をはじめとする語学・音感・楽器・ダンスなどは幼い方が覚えが早く、これらの基礎ができていると後の勉強に役だったり、(最近の日本では数と運動量で勝負しているらしい)アイドルが1人で歌っても聞くに堪える歌唱力を持てたりする底上げ効果があるからだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() 欧米と日本の女性役員・管理職比率 2019.5.10西日本新聞(*8-2より) (図の説明:1番左と左から2番目の図のように、日本の女性役員・女性管理職比率は、他国と比較して著しく低い。これは、合理的に見せかけた女性に対する頑固な差別があるからで、その差別の一つに、男性の論理性と女性の情緒性・感情性理論がある。しかし、1番右と右から2番目の図を見ると、日本では男女とも、またどの世代においても、情緒的・感情的なタイプが圧倒的に多く、論理的に思考できるタイプは半分以下しかいないことがわかる。そして、グラフに出ている男女の違いは、与えられた教育や職場環境による変化の程度だ) *8-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201905/CK2019051202000118.html (東京新聞 2019年5月12日) 男女平等促進へG7「新法導入を」 担当相会合で一致 パリで開かれた先進七カ国(G7)男女平等担当相会合は十日、女性の人権や男女平等の促進へ法制度の拡大が必要だとの認識で一致、共同声明で「男女の格差はここ数十年で総体的に減少したが、世界中で進展がかなり鈍っている」と指摘した。マクロン大統領が男女平等促進を重要政策に掲げる議長国フランスは、外部の諮問委員会がまとめた世界の男女平等促進法を参考にG7各国がそれぞれ新法を導入することを提案。ただ共同声明は「(他国の)優れた実践は名案の源となる」とするに留まり、導入の約束には至らなかった。ある参加国筋は「立法は議会の仕事だ」と述べ、フランス以外は新法導入の約束に消極的だったとの見方を示した。女性活動家ら三十人以上で構成する諮問委のメンバーの一人、女優のエマ・ワトソンさんは記者会見で「女性に対する暴力と闘う意欲的な法枠組みをG7構成国が早急に導入するよう期待する」と訴えた。諮問委は今後、模範となり得る各種の法律に関する最終報告をまとめ、各国に提示する。日本から出席した中根一幸内閣府副大臣は「男女平等の推進にはトップの意識改革が重要だ」と述べた。 *8-2:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/news_release/article/509065/ (西日本新聞 2019年5月10日) IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が COLOR INSIDE YOURSELF( https://ciy-totem.com/ )は43万人以上が利用する、自己診断サービスです。 43万人以上の診断結果をビッグデータ解析した結果みえてきた、個性や性格に関する興味深い統計データをお届けします。 ●IQ(論理的思考)とEQ(情緒的感性)には明確な男女差が COLOR INSIDE YOURSELF(以下「CIY」)の診断結果では、個人の様々な特性が明らかになりますが、その中でも特に、「論理的に思考するタイプ」と「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、男女間で明確に差がでました。年齢別の診断結果の割合を多項式近似曲線で表すと、「論理的に思考するタイプ」は全年齢層で男性の割合が高く、逆に「情緒的、感覚的に思考するタイプ」では、全年齢層で女性の割合が高くなっています。ステレオタイプに言われているような「男性は論理的に考えるのが得意、女性は共感力が高い」というイメージに近い結果となりました。 ●男女によって、求められる思考性が異なる? さらに、ライフスタイル別の統計結果を見ると、男性では新社会人(23歳~29歳)から40代にかけて「論理的に思考するタイプ」が増加しています。女性では、高校から大学、社会人になるに従って「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えており、30代からは緩やかに減っていきます。 ●年齢とともに性格が変化する要因は、何でしょうか? A:組織の中で、「男性は論理的であること、女性は情緒的で共感し合うこと」を求めら れた結果、年齢とともにそれぞれの思考性が変化していく B:そもそも男女で年齢とともに思考性が変化していく傾向があり、結果的に「男性は 論理的、女性は情緒的で共感力が高い」という集団ができていく いずれの要因かまでは分析結果からはわかりませんでしたが、ここまで明らかになると、さらに興味深い洞察が得られそうです。 ●年齢とともに性格は変わるのか? 世代別の結果では、男性では「ゆとり第一世代~団塊ジュニア世代」までが、やや「論理的に思考するタイプ」が高くなっているようです。(女性では、世代別の変化は、あまり見られません。上述の通り、年齢や社会的なポジションに伴って性格が変わっていくのか、特定の世代に限って「論理的に思考するタイプ」がそもそも多いのかについても、興味深いポイントです。個性や性格の半分は遺伝で決まり、残りの半分はその他の要因によって決まると言われています。そのため加齢による性格の変化はそこまでないはずですが、男性で30−40代が「論理的に思考するタイプ」が多く、50代をすぎると「情緒的、感覚的に思考するタイプ」が増えていくという傾向を見ると、年齢とともに性格が変化しているとも感じられます。今後も継続的に結果を分析することで、年齢による変化なのか、特定の世代による傾向なのかを明らかにしていきたいと思います。 *8-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM4R3V9HM4RUTIL011.html?iref=pc_rellink(朝日新聞 2019年4月24日)東大ジェンダー論講義、立ち見の盛況 上野さん祝辞反響 社会学者の上野千鶴子さんが、12日の東大入学式で述べた祝辞が反響を呼んでいる。入学者の女性比率が約2割に過ぎないことなどを挙げて「性差別は東京大も例外ではない」と述べるなど、「おめでとう」一辺倒ではない祝辞。東大生たちはどう受け止めたのか。24日夕、東大駒場キャンパスであった「ジェンダー論」の授業。祝辞の影響か、3週連続で536席の教室に多数の立ち見が出た。担当する瀬地山角(せちやまかく)教授によると、前回の授業後に提出させた感想には、東大のジェンダー意識の現状を憂える男子学生のものが複数あった一方、上野さんの祝辞の間、鼻で笑っている男子学生がいた、との記述もあったという。このため、この日の授業は例年と順番を入れ替え、男女雇用機会均等法(1985年制定)ができるまでの女性が置かれていた状況について伝える内容に変更した。東大はこれまで、女子学生を増やそうと、女子高校生向けの説明会を開いたり、冊子を作ったりしてきた。2017年度からは、女子学生向けの家賃補助制度も始めた。それでも、今年度入学者の女子学生の比率は18・1%。前年度の19・5%を下回った。教授の女性比率も1割に満たない。04年度以降、上野さん以外に入学式で祝辞を述べた女性は、10年度の緒方貞子さんだけだ。瀬地山教授は「男女比は、大学だけで解決できる問題ではない。上野さんの祝辞は社会に向けた投げかけでもあった」とみる。上野さんは祝辞で「東京大学は変化と多様性に拓(ひら)かれた大学です。わたしのような者を採用し、この場に立たせたことがその証しです」と語った。上野さんに依頼した理由について、東大は「祝辞を行う者の選定経緯は公表していない」とするが、新入生の受け止めは様々だ。「日本最高峰の大学で、これだけ学生数に男女差があるのは問題だと私も思っていた。入学式の場で指摘してくれたのはよかった」。埼玉県の私立共学校から文Ⅲに進学した女子学生はそう話す。高校では国公立大をめざす女子も多かったが、祖父母世代から「女の子がそんなに難しい大学に行かなくても」と言われた経験がある子が複数いたという。都内の私立共学校から文Ⅰに進んだ男子学生も、「男女差別が残っているんだとわかり、驚いた。祝辞はつまらないのが相場だが、目を覚まされたような思いだった」。一方、神奈川県の私立男子校から理Ⅰに進学した男子学生は「説教されている気分になった。式で言うべきことか、と複数の男子が言っていた」と打ち明ける。「入学したての今はピンとこなくても、いずれじわじわと心に響いてくるのでは」と言うのは、東大出身でフリーランスの広報やライターとして働く平理沙子さん(28)だ。バイト先で大学名を言うと「すごく驚かれ」、就職活動では、同じサークルの男子学生たちは早々に内定を得ていくのに、女子たちは苦戦。面接では「なぜ東大に入ったのか」と根掘り葉掘り聞かれ、東大女子が「こだわりが強すぎる人」のように見られていると感じた。「高校までは男女平等と思っていたけれど、大学、就活、就職と進むうちに、男女の置かれた状況の違いに違和感が増していった」。「祝辞を評価しますか」「祝辞で取り上げられた東大の問題を、以前から認識していましたか」。祝辞への反響を受け、東大新聞は5月10日まで、大学内外の人を対象に賛否などを尋ねるウェブアンケートを実施中だ。これまでも上野さんが祝辞で触れた「東大女子参加不可」のサークルの存在など、東大のジェンダー問題について特集を組んできた。女性編集部員で、大学院2年の矢野祐佳さんは「6年間思ってきたことを、上野さんが代弁してくれた」と言う。「東大女子参加不可」のサークルは、入学時に怒りを感じたことの一つだ。サークル選びは、袋詰めで渡されたビラの束から「東大男子と○○大女子のサークル」と書かれたものを捨てることから、始めなければならなかった。「女子が2割というのは異常。東大の学生や教授の男女比が変われば、社会にもプラスの影響があると思う」。男性編集部員で工学部3年の高橋祐貴さんは「『祝辞にふさわしくない内容だった』と思っている人は、入学式の性質を理解していない。大学が全学生にメッセージを伝える場は入学式とガイダンスくらいしかなく、祝辞は重要なもの。いまジェンダーを取り上げたのは時勢にかなっていると思う」と指摘する。上野さんは祝辞で、3年前に起きた東大生5人による強制わいせつ事件にも言及した。高橋さんは「ここ数年、東大のジェンダー問題のひどさが露呈する出来事が相次ぎ、新入生の女子比率も下がった。そこに大学も危機感をもっているのだろう。祝辞は、新入生や東大の構成員、そして社会に向けた『男女比を改善しなければ』という東大からの強いメッセージだと思った」と受け止める。 *8-4:https://ryukyushimpo.jp/column/entry-917087.html (琉球新報 2019年5月13日) 習い事の低年齢化 5歳、4歳、3歳、0歳―。順番にフィギュアスケートの浅田真央さん、羽生結弦さん、卓球の福原愛さん、水泳の萩野公介さんが競技に触れた年齢だ ▼トップアスリートには幼少の頃に競技人生の一歩を踏み出した人が目立つ。各界で若い人材が活躍したり成功を収めたりしているのを見て自分の子供も、と刺激を受ける親は多いだろう ▼習い事の低年齢化が進む。笹川スポーツ財団の2018年の調査では4~11歳の未就学児の72%が何らかのレッスンを受けていた。一番多いのは水泳。上位14位以内でサッカー、体操などスポーツ系が九つを占めた ▼未就学児のスポーツクラブへの加入率は15年の32・8%から17年は40・1%に増えた。背景には20年開催の東京五輪・パラリンピックの影響もあるだろう。単一か複数を幅広くさせるのか一長一短あるにせよ本人が望む習い事をさせるのは悪いことではない ▼ただ幼少期からの高度なトレーニングで体を痛める危険性もある。エリート志向の押し付けで競技へのやる気をそいでは元も子もない。プロで活躍できるのはごく一握りだが、習い事は協調性や集中力を養うことにも役立つ ▼最近、幼い子どもへのスポーツ指導者の役割として、遊びを先導する重要性が指摘される。体を動かす楽しさを感じさせるのである。大事なのは子どもたちの主体性を尊重することだ。 <ふるさと納税について> PS(2019年5月22日追加):ふるさと納税制度は、生産年齢人口が都市部で働き、保育・教育・医療・介護費用を負担している地方には税収が集まりにくい構造になっているため、私が2005年に衆議院議員になってから提唱し始めて2008年にできた制度で、多くの方の御協力で大きく育った。しかし、所得税を計算する際に2000円は負担させる仕組みになっているため、この制度を利用した人は返礼品がなければ、その分だけ多く税金を払うことになる。そこで、考案されたのが、地場産品を返礼品にして地域振興しながら寄付金を集める方法で、私は名案だと思う。しかし、地場産品以外を返礼品とし、知恵を絞って多額の寄付を集めた大阪府泉佐野市、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町が、*9-1のように、ふるさと納税制度から除外された。しかし、泉佐野市の担当者が言う通り、ルール制定以前の募集を考慮するのは横暴で租税法定主義にも反するため、この取り扱いに関して提訴すれば勝訴できるだろう。また、大阪府泉佐野市、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町にも地場産品の生産者がおり、いつまでもふるさと納税制度から除外されたままでは不利益を蒙るため、市町がふるさと納税制度に復帰できるまで、大阪府、静岡県、和歌山県、佐賀県が代行する方法もある。 なお、*9-2に、ふるさと納税流出額が1600億円になりそうだと書かれているが、生産年齢人口を集めた都市部では打撃というほどの金額ではなく、地場産品がないか、あっても工夫しなかった地域でもあるため、ここから流出するのは立法趣旨そのものである。 ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:左図のように、ふるさと納税額は日本全国で著しく増加しており、この制度は当たったことがわかる。しかし、左から2番目の図のように、想定外の返礼品で稼いだ市町があり、制度から除外されてしまったが、これは違法な除外である。また、右から2番目の図のように、農漁業地帯が健闘しているのは制度の狙いどおりで、右図の市町村の順位も興味深い) *9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM5K4KF5M5KULFA02C.html (朝日新聞 2019年5月17日) ふるさと納税、除外4市町の早期復帰を認めず 総務相 石田真敏総務相は17日、ふるさと納税制度から外すと決めた大阪府泉佐野市など4市町の早期の制度復帰を認めない姿勢を示した。閣議後会見で「(他自治体に)正直者が損をすることをすべきではないという声がある」と述べた。4市町は泉佐野市、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町。通知を守らずに多額の寄付を集めていたと総務省が判断し、少なくとも来年9月末までは復帰できないことが決まっている。総務省令に基づく告示により、自治体は寄付の集め方や受け入れ額を今後も問われ続ける。石田氏は「募集実態や、ルール外返礼品で受け入れた寄付額の規模などに応じて検討する」と述べ、4市町の復帰時期に差をつける可能性を示唆した。一方、泉佐野市は週明けにも石田氏に質問状を送り、対象外とされた理由などを問う方針を明らかにした。同市の阪上博則・成長戦略担当理事は17日、石田氏の発言について「いつもの脅しではないか。過去の寄付募集を考慮すること自体が問題だ」と批判した。 *9-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190522&ng=DGKKZO45105200S9A520C1MM0000 (日経新聞 2019年5月22日) ふるさと納税 流出1600億円 今年度本社調査 2割増、横浜が最多 全国の主要市区で2019年度、ふるさと納税の影響で流出する住民税の金額(税額控除額)が前年度比で2割以上増えることが日本経済新聞の調査でわかった。金額では約1600億円に上り、横浜市や東京都世田谷区など首都圏の流出が目立つ。返礼品競争でふるさと納税が拡大する一方、都市部の自治体の財政への打撃が大きくなってきた。ふるさと納税は出身地や好みの自治体に寄付すると、寄付額から2000円を引いた金額が所得税や住民税から控除される仕組み。住民税の控除は寄付した翌年度に適用され、住民が地域外に寄付した自治体は住民税が減ることになる。調査は2~4月、全国792市と東京23区の815市区を対象に実施。寄付の受け入れ額は810市区から、税額控除額は622市区から回答を得た。19年度の流出額が最も多いのは横浜市で、18年度比31%増の136億円となる見通し。名古屋市は75億円(24%増)で、世田谷区が53億円(29%増)だった。622市区の流出額は21%増の1581億円となった。国から地方交付税を受け取る自治体は流出額の一部が地方交付税で穴埋めされるが、交付税を受け取らない自治体はそのまま流出額となる。19年度の流出額のベースとなる18年度の寄付受け入れ額の810市区の合計額は、17年度比29%増の2704億円。首位はアマゾンギフト券を返礼品とした大阪府泉佐野市の497億円だった。2位は宮崎県都城市(83億円)で、北海道根室市(50億円)が続いた。ふるさと納税を巡っては、総務省が6月から、対象自治体を指定して返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」に限定する新制度を導入する。 <フェイクニュースとファクトチェック> PS(2019年5月23日):*10-1のとおり、選挙で立候補した候補者への選挙妨害を目的とする情報が、噂という無責任な形でネット空間を飛びかう時代だが、ファクトチェックが必要なのは、ネットだけではなくメディアも同じだ。何故なら、女性蔑視に基づいて女性の能力や実績を過小評価する“常識的”な判断で、私が不利益を蒙ったことはすこぶる多いからである。 例えば、上記のように、「ふるさと納税制度は私が提案してできた」と書くと、それが事実であるにもかかわらず、「女がそんなことをできるわけがない」「女がそんなことを言うのは謙虚でない」と受け取ったメディアが多く、その結果、ふるさと納税の発案者は、*10-2の福井県知事と制度導入時にたまたま総務大臣だった菅氏ということになった。 しかし、それでは、「2人は長期間政治家であったのに、何故、2006年までふるさと納税制度を発案しなかったのか?」、「何故、ふるさと納税の盛んな県は、佐賀県はじめ九州に多く、福井県でないのか」「菅氏は力ある政治家なのに、何故、ふるさと納税制度を弁護しないのか」という疑問に全く答えられない。つまり、大多数のメディアがフェイクニュースを発信しており、ファクトチェックが甘いのである。そして、これはほんの一例にすぎない。 その点、誰もがHPで自分の主張を述べられるようになったのは、政治家がメディアに変なことを一方的に言われっぱなしだった時代と比べれば革命的な進歩であり、ネットだけでなくメディアも、もっと公正・中立で深い分析に裏付けられた報道を行うべきなのである。 *10-1:https://ryukyushimpo.jp/special/entry-799530.html (琉球新報 2019年2月28日) ファクトチェック フェイク監視 ネットで広がっているさまざまな情報。それをそのままうのみにするのは危険です。選挙でも立候補した候補に対して、さまざまな情報やうわさが飛び交っています。その情報は確かなものなのでしょうか。真実なのか、うそなのか判断がつかない情報をそのまま受け取ってしまっては正しい判断ができません。「フェイクニュース」というものが、2016年の米大統領選でネット上において大量に拡散され問題になりました。琉球新報は30日投開票の知事選に関するデマやうそ、フェイク(偽)情報を検証する「ファクトチェック―フェイク監視」を随時掲載し、特集ページの1コーナーとしてまとめます。ぜひ、読んでいただき投票に生かしてもらえれば、と思います。 *10-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181124-00010003-wordleafv-pol (Yahoo2018/11/24)返礼品競争が過熱 ふるさと納税発案の福井知事が語る「本来の趣旨」 「ふるさと納税」といえば、寄付した自治体から「返礼品」がもらえるお得なサービス、というイメージを持つ人が少なくないかもしれない。今年は、この返礼品のニュースが世間を騒がせた。ブランド牛肉やコメ、家電製品などの豪華な返礼品をめぐり、総務省が9月、調達額が寄付額の3割を超える返礼品や地場産品ではないものの場合は制度の対象から外す方針を表明したのだ。自治体からは「特産品の豊富な町とそうでない町に格差が生じる」などと反発の声が上がる一方、脱・返礼品に向け、制度本来の趣旨の浸透を目指して「自治体連合」を立ち上げた自治体もある。この自治体連合を立ち上げたのは福井県。だがなぜ福井なのか疑問に思う人もいるだろう。実はふるさと納税は「国」ではなく、「地方」からの提案で誕生したもので、その発案者が福井県の西川一誠知事なのだ。西川知事に、制度スタートから10年たったふるさと納税の現状と今後について聞いた。 ●広辞苑にも掲載された「ふるさと納税」 2008(平成20)年にスタートしたふるさと納税。今年1月に改訂された岩波書店の「広辞苑」には、「スマホ」「上から目線」「LGBT」などの言葉とともに、「ふるさと納税」も新たな項目に追加された。西川知事は「普通名詞のような、国民的な認知をいただいた」と喜ぶ。「ふるさと」と銘打ってはいるが、生まれ故郷以外の特別ゆかりのない自治体に対しても寄付することが可能で、寄付金の一部が現在住んでいる自治体の住民税から控除されるという制度だ。ふるさと納税が誕生したきっかけは、1本の新聞記事だった。2006年10月の日本経済新聞に掲載された「経済教室」の欄で、西川知事が「故郷(ふるさと)寄付金控除」制度の導入を提案する記事を出したところ、学者や政治家の関心を引き、特に当時の菅義偉総務相の目に止まって制度化が実現した。 ●地方と都市のアンバランスを税制で是正 ふるさと納税にはどんな狙いがあるのか。西川知事は3つの理由を挙げるが、その1つが人口流出と一極集中が取りざたされる「地方と都市」の関係だ。「福井県は『幸福度』日本一で、東京は2位。『日本一』の県でお金をかけて育てて、『2位』の東京に行く」。西川知事は「幸福度ランキング」(日本総合研究所の)で3回連続1位に輝いた福井県から東京へ人口が流出する実状について嘆く。「若者は自然に大都市に行ってしまう。田舎では彼らを一生懸命教育する。つまり地方で出生してから、高校卒業まで地元で行政サービス受けて、進学などを機に大都市に出る。そのまま就職して大都市の自治体に納税する。このアンバランスな状況を税制で直したい」。福井県では、進学などで毎年約2500人が上京するが、戻ってくるのは600人程度だという。2つ目は「納税者主権の促進」。会社員の場合、給与などから源泉徴収されるので、自分が税金をいくら収めているか意識している人は必ずしも多くないだろう。ふるさと納税には、返礼品だけではなく、自治体の具体的な事業を選んで寄付できるものがある(プロジェクト応援型)。そうした行為を通じて地方政治に関与することで「自分はどの自治体に寄付して、どれくらいの控除を受けるのか、税の使いみちを自覚したい。一人ひとりの納税者としての意思と権限を促進したい」と語る。最後は「自治体政策の競争と向上」だ。寄付を集めるために、各自治体が政策や返礼品などで自分たちの魅力をアピールしたり、寄付がどう活用されたかなどの成果を説明したりすることが必要になる。それが自治体の政策づくりに創意工夫を生み、自治体間の切磋琢磨につながるという。「納税者主権を発揮してもらうことで、自治体側も政策の自主性を発揮する。こういういい循環が期待できる」
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2019,04,15, Monday
![]() ![]() ![]() フクイチ3号基 2019.4.15東京新聞 2019.4.3東京新聞 (図の説明:左図は、フクイチ3号基の爆発直後と現在の画像で、中央の図は、使用済核燃料を敷地内で移動させる仕組みだ。また、右図は再稼働しているか否かを示す全国の原発の様子だが、フクイチの影響がなかった西日本で危機感が薄いため、最悪の事態にならないことを祈る) (1)再エネの普及を妨げている原発 1)経団連の原発推進提言について 原発メーカーである日立出身の中西氏を会長とする経団連が、*1-1のように、「①原発は脱炭素社会に不可欠なエネルギーであり、再稼働・新増設が必要」「②最長60年の既存原発の運転期間を延長し、審査等で停止していた期間を運転期間に含めない事実上の延長をすべき」「③政府のエネルギー基本計画は2030年度の原発発電割合を20~22%とする目標を掲げているのに、廃炉が進めば目標達成が困難」等々、世界に逆行した先見の明のない提言をしている。 しかし、①は、二酸化炭素以外の公害を無視しており、②は会計・税務の常識から大きく外れている。何故なら、60年という運転期間は機械装置の中では異常に長く、例えば非常用発電機の法定耐用年数は15年だ。そのため、延長前の40年ならまあいいかという程度であるのに、原発事故後に耐用年数を20年延長して60年にするなど狂ったとしか思えない。さらに、稼働せずに停止していればさびつくため、稼働していないのは運転期間の延長理由にはならない。 また、③については、再エネが急速に普及してコスト低減している中、政府の2030年度の原発発電割合20~22%という目標は根拠もなく高すぎる設定をしているため、この目標を達成するために原発の再稼働・新増設を進めるなど思考停止も甚だしい。 さらに、使用済核燃料は行き場がなく、核燃料サイクルは破綻し、高レベル放射性廃棄物の処分場もなく、安全強化や事故対応でコストが高騰した原発は低コストでもないため、世界の潮流に逆らってまで原発を推進するのは無責任である。それより、経産省や経団連が取り組むべき課題は、再エネを活用して0エミッション社会を作り、その技術を世界に売り出すことだろう。 2)やっと核燃料の取り出しを始めたフクイチ 東京電力は、事故後8年経過した2019年4月15日、*1-2のように、フクイチ3号機の原子炉建屋上部にある使用済核燃料プールから冷却保管中の核燃料を取り出し始めたそうだが、その間には屋根を取り外して強い放射線を拡散し続けていた時期もあり、その無神経さには呆れる。 そして、取り出した核燃料は2年もかかって敷地内の共用プールに移すだけであり、クレーンなどの機器に不具合が相次ぐなど、日本の中でも低い技術で形だけの原発事故処理をして、危機感もなく遊んでいるように見える。 3)フクイチ近海の水産物について 韓国だけでなく、被災地付近からの水産物の輸入を禁止している国は多いが、*1-3のように、日本政府は福島など8県からの全水産物の禁輸措置を行っている韓国をWTOに提訴し、WTO上級委員会が禁輸を容認する報告書を出した。 私は、安全性の確保は自由貿易に優先するため、これらの禁輸措置を行っている国々を「科学的根拠が無い」としてWTOに提訴すること自体に見識が伺われず、それでは日本国民も困るのだが、取り出した使用済核燃料を敷地内の共用プールに移して冷やし続ける行為は、汚染水の流出防止や水産業の復興には何ら寄与しないことを付け加えなければならない。 (2)再生医療は時間をかければ犠牲者が増えること 1)再生医療の普及について ← 「焦らず安全重視で丁寧に」という言葉は意味不明 *2-1に、「再生医療で病気やけがを治す試みが大学病院などで相次いでいるが、期待が大きい一方、実用化のペースが速すぎると危ぶむ声もある」と書かれている。しかし、遅ければその患者さんが治療不能になるため、「安全重視で焦らず丁寧に治療法を確立する」というのは、言葉だけが踊っている意味不明の文章だ。 そもそも、医療は時間を争って治療すべきもので、ゆっくりすればひどくなったり、治らなくなったり、命を失ったりする。また、従来の治療法ではうまく治らず、それよりよい方法だと考えられるからこそ、新しい治療法である再生医療を開発しているのであるため、「速すぎるのがいけない」という主張は全くおかしい。 また、海外には、脊髄損傷を本人の脂肪幹細胞で治療したと言っていた権威もおり、幹細胞を使うのは正解だが、日本のように早々にiPS細胞のみに特化したのは他の可能性を封じ込めたという意味で愚かな決定だった。 そして大切なことは、一定数以上の治験をしなければ、安全性・有効性に関するデータの裏付けもとれないため、意味も分からずに変な論理で先進治療を妨害するのは止めた方がよい。そのため、メディアには各学会に行って内容を理解して取材し、正しい記事を書く能力のある記者を置いておいたらどうかと考える。 2)腎臓病の例で説明する i) 人工透析について 公立福生病院で、*2-2のように、本人の意思を十分確認した上で人工透析を中止し、44歳の女性が死亡したため、病院は「問題なし」としているものの、離脱判断が正しかったか否かが問題になった。人工透析はシャントを永久に作ったまま、1回4時間・週3回くらいのペースで透析しなければならないため、透析から離脱したくなるのもよくわかるが、現在はそれを我慢して人工透析で現状維持するか腎移植するかしかなく、提供される腎臓は少ないわけである。 ii) 腎臓の再生医療について そのような中、*2-3のように、ES細胞(胚性幹細胞)を使って、ラットの体内にマウスの腎臓を作ることに自然科学研究機構や東京大らのグループが成功し、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から腎臓という複雑で大型の臓器の再生に世界で初めて成功したそうだ。これは、種の近さから言えば、ヒトの腎臓をサルの体内に作ったのと同じくらいだが、将来はヒトの臓器をブタなどの動物の体内で作ろうとする研究が進められている。 このほか、*2-4のように、徳島大学の安部准教授らが、腎臓を形成する複数の細胞を混合する共培養により、生体に近い腎臓の特性を持った立体的なKLSの作製に成功し、KLSは24時間の培養ででき、低コスト・短期間での作製が可能だそうだ。 私は、このやり方で純粋な本人の腎臓を作った方がうまくでき、慢性腎不全で新たに人工透析を受ける患者は日本国内で毎年4万人おり、世界ではもっと多いため、速やかに創薬すべき実用化の段階に入っていると思う。そして、これが実用化されれば、患者さんの苦しみが本当の意味で緩和されると同時に、現状維持するだけの苦しくて高額な医療費の削減ができるわけだが、それには資金が必要で、まずはクラウドファンディングや銀行貸付が考えられるわけである。 3)白血病の例でも説明する 競泳女子の池江璃花子選手の白血病が公表された後、*3-1のように、骨髄移植のドナー(提供者)登録に関心が集まっているそうだが、ドナーになるのも大変で、適合しても移植が実現するのは6割程度だそうだ。 私の東大の友人にも35歳で白血病になり、弟さんに骨髄を提供してもらって6カ月の入院治療後に回復した人がいるが、彼は「だんだん弟の体になっていくような気がする」と言っていた。血液を作る骨髄細胞の多くが弟さんの細胞に変わっているのだから、確かにそうなるのだろう。 そのため、池江璃花子選手のように、身体能力が才能にあたる人は、他の人の細胞が入ると今まで通りの強い選手ではいられないかも知れない。そのため、*3-2のような自分の免疫細胞の攻撃力を高める「CAR―T細胞」を利用した新型がん免疫製剤や、自分の骨髄細胞の健康な部分を使って治療できれば一番よいと思われる。しかし、これらの治療も、早く実用化して価格を下げなければ、使えずに亡くなる人が増えるわけだ。 (3)ゲノム編集食品について ゲノム編集された生物を使った食品の扱いについて、*4-1のように、厚労省がパブリックコメントを実施し、有識者調査会がまとめた報告書は「開発中の大半のゲノム編集食品は安全性審査を必要とせず、国への情報提供だけで販売を認めてよい」とする内容で、安全管理の杜撰さが浮き彫りになった。 そのゲノム編集は未知の部分が大きいからいけないというよりは、①害虫がつかなくなる遺伝子を入れたり ②筋肉が多くなる遺伝子を入れたりして、それが食べた人に与える影響は検証されていないことが問題なのである。また、害虫は、虫の方も進化して耐性ができるため、より強い遺伝子を入れなければならなくなり、それが自然界に拡散すれば環境にも悪影響を与える。 そのため、少なくとも消費者が選択可能なように、ゲノム編集食品の表示は不可欠だ。また、報告書では、その生物にはない遺伝子を導入する場合は遺伝子組み換え食品と同様の安全性審査が必要と判断したそうだが、食べ物でない場合は検証の仕方が異なるし、遺伝子の入れ方によっても異なるため、薬と同様、個別にしっかり検証されていることを条件とすべきだ。 このような中、*4-2のように、「ゲノム編集食品は、予防原則で安全徹底を」と日本農業新聞が書いているとおり、買う側の選ぶ権利を保障するための食品表示は不可欠であり、顧客ファーストの精神がなければ消費者に選ばれないため、どんな産業も成功しない。作る人も、それがわかっているのである。 (4)事業承継について ![]() ![]() ![]() 2018.7.31産経新聞 事業承継税制の2018年改正 (図の説明:左図のように、中小企業の経営者も高齢化し、後継者がいないため廃業して技術が失われるケースが増えた。そのため、中央と右の図のように、2018年改正で10年間の特例として贈与税・相続税免除の要件が大幅に緩和された。これにより、後継者は複数でも親族外でも税制優遇を受けられるようになり、多様な形の事業承継が考えられるようになった) これまで、オーナー経営の中小企業の株式を後継者に移して代替わりしようとすると、オーナーの生前なら贈与税、死後なら相続税が発生し、事業承継する後継者に不利な点が多いため、黒字でも廃業して技術が廃れる事例が少なくなかった。 そこで、*5-1のように、事業承継を円滑に進められるよう、政府が2018年度に「事業承継税制」を改正し、納税猶予割合が8割から全額になり、対象株式も発行済株式総数の3分の2から全てに拡大され、事業承継時の税負担をゼロにすることが可能になった。また、孫の代まで経営を引き継げば、猶予されていた税負担は免除されるそうだ。 さらに、*5-2のように、個人事業主が事業承継しやすい環境をつくるため、子が事業を継ぐ時に土地・建物にかかる贈与税支払を猶予する「個人版事業承継税制」も作り、2025年までに70歳を超える約150万人の個人事業主が引退で廃業を迫られるのを防ごうとしている。その制度の対象になるのは、地方の旅館・町工場・代々続く酒蔵などの家族経営をしている個人事業主で、新制度では土地・建物・設備にかかる税金の支払いが猶予されることになるそうだ。 (5)地銀を含む銀行の役割と今後の展望 金融庁が、*6-1のように、地方銀行の監督指針を見直して、収益が低迷する地銀の逃げ道を断って経営改革を促す方向へかじを切るそうだが、人口減少や高齢化には対応できるものの、金融緩和と超低金利が銀行の利益にマイナスであることは明らかだ。 しかし、経済活動を行っている企業である以上、一つの「特効薬」があるわけではなく、顧客ファーストで考えた時に必要とされるサービスを安く提供しているか否かが分かれ目になる。 もちろん、*6-2のように、店舗・人員配置の合理化などで生産性を上げ、高付加価値化することは必要だが、人口減少は産業構造改革を通じてビジネスチャンスになる上、上記(1)~(4)に関するサービスもまさにニーズであるため、次の有望企業(=融資先)を育てて将来の自己資本比率や収益力を改善する手段にできる筈だ。 農林中央金庫は、*6-3のように、ベトナム、フィリピンの大手銀行と包括的な業務提携を結び、現地銀行ならではの情報やネットワークを生かして日本の農業法人等の販路開拓や食農関連企業の海外進出・事業拡大の支援を本格化させるそうだ。また、オランダの協同組合金融機関「ラボバンク」とも既に提携しており、農業法人やJAグループ、食品関連企業に対する現地情報の提供・ビジネスマッチング・現地での協調融資・企業の合併・買収(M&A)への助言、現地通貨の供給などを目指すそうだ。 このうち、国際化・ビジネスマッチング・M&Aの助言・事業承継の相談などは、地方銀行もできなければならない時代になっている。 ・・参考資料・・ <再エネの普及を妨げる原発> *1-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/295255 (北海道新聞 2019.4.11) 経団連の提言 身勝手な原発擁護策だ 構造的な問題を度外視した身勝手な原発回帰論と言うほかない。経団連が電力政策に関する提言を2年ぶりに発表した。原発を脱炭素社会に不可欠なエネルギーとし、再稼働や新増設を求めた。最長60年となっている既存原発の運転期間の延長や、審査などで停止した期間を運転期間に含めないで運転できる期間を事実上延ばすことも新たに盛り込んだ。東京電力福島第1原発事故は、原発がひとたび事故を起こせば取り返しがつかない現実を突きつけた。その教訓を生かす方策が見当たらない。再生可能エネルギーが急速に普及する中、安全基準の強化でコストが高騰した原発は、もはや有望なビジネスでもない。国民の不安に応えようとせず、世界の潮流に逆らって原発を推進するのは理解に苦しむ。安倍晋三政権や経済産業省は再稼働推進の姿勢を取るが、経団連の提言に乗って原発回帰を加速させることがあってはならない。提言は、温室効果ガスを排出する火力発電への依存度が8割を超え、再生エネで賄うにも限界があり、原発が不可欠だとした。政府のエネルギー基本計画で2030年度の原発の発電割合を20~22%とする目標を掲げたことにも触れ、「廃炉が進めば達成が困難」と再稼働の必要性を訴えた。だが計画は原発依存度を低減すると明記している。目標達成のために再稼働するのは本末転倒だ。原発の大きな問題は使用済み核燃料の行き場がないことである。核燃料サイクルは事実上破綻し、高レベル放射性廃棄物の処分場選定も進んでいない。福島の事故原因は解明されておらず、廃炉のめども立たない。こうした負の側面をどう克服するか説明を尽くさず、再稼働や新増設を訴えるのは無責任である。提言を主導したのは原発メーカー、日立製作所出身の中西宏明会長だ。中西氏は「再稼働をどんどんやるべきだ」と発言し、原発と原爆が混同されて再稼働が進まないとの認識を示したこともある。日立は英国の原発建設計画を凍結したばかりで、原発ビジネスの行き詰まりを中西氏は分かっているはずだ。経団連会長の立場を利用して原発産業を守ろうとしているとの疑念も招きかねない。経団連が取り組むべきは、再生エネを有効活用して原発依存を脱する道筋を示すことだ。政治への発言力をそのためにこそ生かさなければならない。 *1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019041590135634.html (東京新聞 2019年4月15日) プール核燃料、搬出開始 福島第一事故8年 3号機566体 東京電力は十五日、福島第一原発3号機の原子炉建屋上部にある使用済み核燃料プールから、冷却保管中の核燃料の取り出しを始めた。事故から八年、炉心溶融(メルトダウン)を起こした1~3号機でプールからの核燃料取り出しは初めて。現場は放射線量が高く人が長時間いることができない。ほとんどの作業が遠隔操作であるため、難航することが予想される。3号機プールには、使用済みと未使用の核燃料計五百六十六体を保管。使用済み核燃料は長期間、強い放射線と熱を発するため、水中で冷やしている。東電は四月中に未使用の七体を取り出し、六月下旬から作業を本格化させる方針。核燃料は敷地内の共用プールに移す。取り出しを終えるまでに約二年かかる見込み。作業は午前八時半すぎに開始。建屋から五百メートル離れた免震重要棟内の操作室で、作業員がモニターの画面を見ながら取り出し機器を操作した。燃料取扱機で核燃料を一体(長さ四・五メートル、十五センチ四方、重さ約二百五十キロ)ずつ持ち上げ、水中に置いた専用容器(重さ約四十六トン)に七体入れる。一体を入れるのに二、三時間かけ、この日は午後八時まで作業する。一体目は、一時間半ほどで容器に入れることができた。その後、容器をクレーンで三十メートル下の一階に下ろし、トレーラーで共用プールに運び出す予定。3号機の核燃料取り出しは当初、二〇一四年末にも始める計画だったが、高線量が作業の壁となった。外部に放射性物質が飛び散らないよう、建屋上部にドーム型カバーを設置。東電は昨年十一月に取り出しを始める計画を示したものの、クレーンなどの機器に不具合が相次ぎ、点検や部品交換のため延期していた。4号機では、一四年末にプールから核燃料千五百三十五体を取り出し済み。地震発生時は定期検査で停止中で原子炉内に核燃料がなく、炉心溶融を免れた。水素爆発で建屋上部が吹き飛んだが線量は低く人が中で作業して一年程度で終えた。 ◆解説 福島第一原発3号機のプールからの核燃料取り出し作業は、同じく炉心溶融が起きた1、2号機の核燃料取り出しの行方を左右する。いずれも建屋内の放射線量が高く、人が中で長時間作業できず、遠隔操作で進めざるを得ないからだ。3号機プール周辺の線量は毎時五四〇マイクロシーベルトで、二時間で一般人の年間被ばく線量限度に達するレベル。プールに残る細かな汚染がれきを、アーム型機器で取りながらの作業だ。クレーンなどでトラブルが起きれば、人が建屋内で修理しなければならない。これら未経験の作業をこなし、ノウハウを積む必要がある。東電は1、2号機のプール内の核燃料取り出しを二〇二三年度に始める計画を立てたが、両号機は3号機よりも線量が高く厄介だ。特に1号機は建屋最上階に大きながれきが積み重なり、原子炉格納容器上のコンクリート製の巨大なふたがずれ落ちている。ふたのずれを元に戻さなければ、3号機同様の取り出し機器は設置できない。1号機は三百九十二体、2号機は六百十五体の核燃料がプールに残る。これらを高台の共用プールに移すことはリスク軽減のため不可欠。ただ3号機の作業次第では、1、2号機の取り出し計画の大幅な見直しが迫られる。 *1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13975075.html (朝日新聞 2019年4月12日) 日本の水産物、禁輸容認 韓国が逆転勝訴 WTO上級委 韓国が東京電力福島第一原発事故の被災地などから水産物の輸入を全て禁止していることについて、世界貿易機関(WTO)の紛争を処理する上級委員会は11日、判決に当たる報告書を公表した。韓国に是正を勧告した第一審を大幅に修正して禁輸を容認し、事実上、日本の逆転敗訴となった。これで韓国の禁輸はしばらく続くとみられる。勝訴を追い風にほかの国・地域にも輸入規制の緩和を求める予定だった日本の戦略が狂う可能性が高い。日本政府関係者によると、上級委の報告書は、第一審の紛争処理小委員会による判断の主要部分が「誤りだった」と認定。その上で、福島など8県の全水産物の禁輸を「恣意(しい)的で不当な差別」として是正を求めた判断の主要部分を覆したという。上級委が第一審の判断を変えるのは異例だ。WTOの紛争処理は二審制のため、これで禁輸を容認したWTOの判断が確定するとみられる。ある政府関係者は「日本にとって残念な結果」と話した。韓国は2013年9月、同原発から汚染水が流出しているとして輸入規制を強化した。青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の8県の水産物については輸入禁止の対象を一部から全てに拡大した。これに対し日本は15年8月、「科学的な根拠が無い規制だ」とWTOに提訴。18年2月、紛争処理小委員会では日本が勝訴したが、韓国が「国民の健康保護と安全のため」として上級委に上訴していた。今回の上級委の報告書は30日以内に正式に採択される見込みだ。農林水産省によると、原発事故後、一時54カ国・地域が日本産食品の輸入を規制した。撤廃が進む一方、いまも23カ国・地域で規制が続く。政府は、規制緩和の見通しを示さず、逆に規制を大幅に強化した韓国を提訴したが、ほかは訴えていない。政府は、今回の上級委の報告で勝訴を確定した上で、ほかの国・地域とも規制撤廃に向けた交渉を加速させていく戦略を描いていた。 ■韓国による日本食品輸入規制をめぐる動き <2011年3月> 東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生 <13年5月ごろ> 原発事故を理由とした輸入規制が韓国を含む54カ国・地域に拡大 <9月> 韓国が輸入規制を強化。8県産の全水産物を禁止に <15年6月> 日韓の二国間協議が平行線に <8月> 日本がWTOに提訴 <18年2月> WTO紛争処理小委員会(一審)で、日本が勝訴 <4月> 韓国が上級委員会(二審)に上訴 <19年4月> 上級委員会が報告書を公表 <再生医療は時間をかければ犠牲者が増えること> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190220&ng=DGKKZO41468640Z10C19A2EA1000 (日経新聞社説 2019年2月20日) 再生医療の普及焦らず丁寧に iPS細胞などを使う再生医療で病気やけがを治す試みが大学病院などで相次いでいる。期待が大きい一方、実用化のペースが速すぎると危ぶむ声もある。医師も患者も焦ることなく安全重視で丁寧に治療法を確立してほしい。厚生労働省の専門部会は18日、他人のiPS細胞をもとにした神経細胞で脊髄損傷の患者を治療する計画を、承認した。慶応大学が世界で初めて実施する。iPS細胞による再生医療は、2018年に京都大学のパーキンソン病治療や、大阪大学の心臓病治療の計画も認められた。理化学研究所などは神戸市で実施した目の難病のiPS細胞治療を、全国の病院に広げる計画だ。他の細胞を使う再生医療も実用化が進んでいる。骨髄液から得た細胞による脊髄損傷治療や、足の筋肉の細胞をもとにした心臓病治療の薬が、既に医薬品医療機器総合機構から「条件付き・期限付き承認」を取得している。この制度では、少人数の患者で安全性と一定の効果を確認した段階で市販を認め、その後は使いながら効果を確かめていく。量産が難しい細胞を使う薬の承認に適しており、新しい治療法を素早く患者に届けられる利点がある。今後、再生医療は条件付き・期限付き承認が主流になろう。ただ海外からは、臨床応用を急ぎすぎではないか、との声も出ている。英科学誌「ネイチャー」は最近、同制度による承認はデータの裏付けが不十分で慎重さに欠ける、とする批判記事を載せた。実際には、市販から数年間すべての利用データを集めて安全性と有効性を詳しく調べ、結果を公表する仕組みである。厚労省や開発者は説明を尽くし、理解を促していかなくてはならない。過去の臓器移植や遺伝子治療の例からもうかがえるように、いったん不信感が広がると先端医療が再び受け入れられるのは容易でない。再生医療が普及期に向かう今こそ、多くの人の納得が得られるよう最大限の努力が必要だ。 <腎臓病について> *2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM3X53TKM3XULBJ00K.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2019年3月28日) 透析中止で死亡、病院「問題なし」 判断は正しかったか 昨年、当時44歳の女性が人工透析をやめ、公立福生(ふっさ)病院(東京都福生市)で亡くなった。病院は28日、初めて報道各社の取材に応じ、女性の意思を十分確認した上で中止し、手続きなどに問題はなかったとの認識を示した。患者が透析中止を希望した場合、医療者はどのように対応すべきか。今回の件をふまえて学会で議論している。治療にあたった外科医(50)と松山健院長らが女性の治療経過を説明した。説明によると、糖尿病による腎不全や心筋梗塞(こうそく)などを起こし、人工透析をしていた女性は、左腕につくった透析用の血液の出入り口(シャント)の状態が悪化。血管の状態も悪く、新しくシャントをつくるのは難しい状態だった。昨年8月9日、女性はシャントが閉塞(へいそく)し、同病院を受診。外科医は首周辺に管を通す透析治療を提案したが、女性は「シャントがだめだったら透析をやめようと思っていた」と話し、拒否した。女性は透析の針を刺す際の痛みがつらいなどと語ったという。外科医は透析をやめると2週間くらいで死に至ると説明、女性は「よくわかっている」と答えたという。女性と女性の夫、外科医と看護師、ソーシャルワーカーを交えて再度話し合ったが、女性の意思は変わらず、夫も女性に同意した。外科医は透析からの「離脱証明書」に女性に署名してもらった。翌10日も、看護師、センターの内科医、ソーシャルワーカーが女性と夫に確認したが、意思は固かった。女性は14日に呼吸が苦しくなり入院。16日未明、呼吸の苦しさや体の痛みを訴え、看護師に「こんなに苦しいなら透析した方がいい。撤回する」と発言したことが記録に残っている。しかし、16日昼前に女性の症状が落ち着き、外科医が呼吸の苦しさや体の痛みが軽減されればよいか、それとも透析の再開を望むかと尋ねると、「苦しさが取れればいい」と答えたという。外科医は女性の息子2人にも説明して理解を得たうえで鎮静剤を増やし、女性は同夕に亡くなった。 ●外科医「特異なケースだが丁寧に対応」 外科医は「透析を続けるための措置を拒否したために透析が出来なくなった特異なケースだが、丁寧に対応し、出来ることはやらせてもらった」と述べた。今月6日に病院に立ち入り検査をした東京都は当初、外科医が透析をやめる選択肢を示した、と説明していた。この点について外科医は「中止の選択肢は示していない」と否定した。透析中止の判断をめぐり、都は、日本透析医学会の提言を踏まえて第三者も入る倫理委員会に諮るべきだったのに行わなかったとして、病院を口頭指導した。しかし、松山院長は「病気の進行や患者の透析離脱の強い希望などがあった。学会の提言には違反していない」と述べ、対応に問題はなかったとした。都の調べで、同病院では女性のほかに透析を始めなかったり、中止したりした患者20人が亡くなったことが判明している。病院側は「確認が取れていない」として説明しなかった。病院側の弁護士は、取材対応が問題の表面化から3週間以上後になったことについて、学会の調査や見解を待っていたため、などと説明した。都のほか、日本透析医学会と日本腎臓学会も調査を進めており、近く指導したり、見解を示したりする予定だ。 ●「つらさ和らげる努力」必要 日本透析医学会は2014年、どのような場合に透析を中止するかについての提言を示した。中止の検討対象を、がんを併発するなど終末期の患者に限定。終末期でない患者が強く中止を望む場合は、透析の効果を丁寧に説明し、それでも意思が変わらなければ判断を尊重するとしている。また、患者の意思が変われば透析を始めたり、再開したりすることも盛り込んだ。木澤義之・神戸大特命教授(緩和支持治療科)は、「病院側の説明では、本人の意向を何度も確認し、誠実に対応した印象だ」と話す。その上で、透析中止の判断後の重要性を指摘する。「がん以外の他の病気では家族への対応が不十分な場合も少なくない。今回、適切な苦痛緩和や家族の十分なケアが行われたのかという視点での検討も必要だ」と話す。JCHO(ジェイコー)千葉病院(千葉市)の室谷典義院長も「つらさを和らげる努力をどれだけしたかが大切だ」と指摘する。「つらさから逃れるために鎮静剤を使って結果的に患者が亡くなることはあるが、末期腎不全の患者の苦痛は透析をすることで和らぐことも少なくない」と話す。人工透析は週2~3回、1回で4~5時間かかり、身体的にも精神的にも負担が大きい。少数だが、脚の血管が詰まり透析の度に激痛が走る例もある。透析開始年齢が平均約70歳と高齢化して合併症を持つ人も少なくない。このため、透析をしたくない、やめたいという患者もいる。だが、多くの場合透析をすれば、何年も生きることができる。藤田医科大の稲熊大城教授(腎臓内科)は「心臓などに問題がなければ、透析を始めれば、その時点での平均余命の半分は生きられる」と説明する。70歳男性なら7年超にあたる。透析をしながら旅行やスポーツなどを楽しむ患者も少なくない。透析医学会は25日、透析をしているだけでは終末期に含まないとの見解を示した。患者の命にかかわる透析の中止などについては、慎重な検討が必要だ。清水哲郎・岩手保健医療大学長(臨床倫理学)は「方針決定には本人の意思の尊重が大前提だが、医学や生活への影響についての知識が不十分なままでの意思決定は必ずしも本人にとって最善とは限らない」と話す。患者が透析で余命が何年も見込めるのに透析を望まない場合や、透析の実態や費用などについて誤解している場合は、医療従事者は透析の効果やリスク、公的助成などについて十分に患者に説明し、理解してもらうことが欠かせない。清水さんは「医療従事者も含めて本人やチーム全体が合意に至らなければ、本人の人生観や価値観を踏まえた上で、何度も話し合いを繰り返すことが大切だ」と強調する。 ●透析治療をめぐる女性患者(44)の経緯 1998年 糖尿病の指摘を受ける。その後、治療を始める 2007年 心筋梗塞(こうそく)で、東京都内の病院で治療 2015年12月 透析治療で通院していたクリニックの紹介で、福生病院を初めて受診 2018年 8月9日 透析に使うシャントが詰まり、福生病院を受診。女性は透析治療をしない意思を病院に告げる 14日 福生病院に入院 16日 女性は苦しくなり透析再開を希望。病院側は、女性が落ち着いたときに改めて意思を確認し、透析を再開しないことを確認。女性は夕方に死亡 2019年 3月6日 東京都が病院に立ち入り検査を実施 ※福生病院の説明をもとに作成 *2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM266X2RM26UBQU01B.html (朝日新聞 2019年2月7日) ラットの体内にマウスの腎臓 ヒトの再生医療応用に期待 ES細胞(胚(はい)性幹細胞)を使い、ラットの体内に別の種であるマウスの腎臓を作ることに、自然科学研究機構や東京大らのグループが成功した。将来的に、移植用のヒトの臓器を動物の体内で作る研究に応用したいという。研究成果は6日、ネイチャーコミュニケーションズに掲載された。自然科学研究機構生理学研究所の平林真澄准教授らのグループは、腎臓を作るのに不可欠な「Sall1」という遺伝子をなくした状態にしたラットの受精卵をつくり、そこにマウスのES細胞を注入。生まれたラットの体内に別の種であるマウスの細胞に由来する腎臓を作った。この遺伝子は他の臓器が機能するのにも必要なため、生まれたラットの多くは数時間しか生きられなかったという。今回のように、本来臓器ができる場所に空きを作り、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞由来の臓器を作る方法を応用し、将来的にヒトの臓器をブタなどの動物の体内で作ろうとする研究が進められている。今回の成果は「腎臓という大型主要臓器の再生に、世界で初めて成功した」としている。同グループは、膵臓(すいぞう)がないラットの体内でマウスの膵臓を作り、糖尿病にしたマウスに移植することに成功している。腎臓は血液中の老廃物を濾過(ろか)し、体の外に出す機能を持つ。慢性腎不全で透析治療が必要になった際、根本的な治療は腎移植だが、ドナー不足のため移植を受けられる患者は希望者の1~2%という。平林さんは「将来的にこの方法でヒトの腎臓を作り、移植で実用できる可能性を示せた」と話す。 *2-4:https://newswitch.jp/p/15569 (ニュースイッチ 2018年12月10日) “ミニ腎臓”作製成功、実用化へクラウドファンディング 徳島大学の安部秀斉准教授らは、腎臓を形成する複数の細胞を混合する共培養により、生体に近い腎臓組織の特性を持った立体的な組織様構造体「KLS」の作製に成功した。KLSは24時間の培養で作製可能で、尿を濾過する糸球体と糸球体を保護する細胞「ポドサイト」も再現していた。均質なミニ腎臓を低コストかつ短期間で作製が可能になり、創薬への活用が期待される。実用化に向け、不特定多数から資金を集めるクラウドファンディング(CF)を通じて資金調達する。こうしたバイオ系の創薬技術でCFを実施するのは珍しいという。KLSは、腎臓の細胞3―6種類を3次元的に共培養して作製する。培養中に細胞は自然に集まって丸い構造をとる。作製したKLSは、糸球体とそれを保護する重要な組織であるポドサイトを有していた。また、発現している遺伝子を調べると生体内の腎臓の細胞と同様であった。KLSをマウスの皮下に移植すると血管の管腔構造ができたことから、生体内に近い培養条件でKLSを作製すれば血管の構造も作れる可能性も示された。慢性腎不全で新たに人工透析を受ける患者は日本国内で毎年4万人と言われる。高齢化に伴って腎機能は低下する傾向にあり、透析に移行する前に使える治療薬の開発が求められている。現在、創薬には高速で化合物の評価ができる「ハイスループット」という手法が用いられるが、これには実験用の均質な細胞や組織が大量に必要となる。KLSは分化細胞から作るため品質にばらつきが少なく、わずか24時間でできるため低コストで大量に製造できる。CFを通じて調達した資金はKLSの有用性を示すデータを取得するための実験や、KLSの実用化に向けたベンチャー設立に充てる。国の補助金の獲得を待たず、実用化を加速する。目標金額は数百万円規模と低めに設定する。多くの人に技術を認知してもらい、実用化へのアイデアを募る狙いもある。 <白血病の治療> *3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201902/CK2019021902000181.html (東京新聞 2019年2月19日) 池江選手白血病公表 骨髄移植ドナーに関心 適合でも実現6割 競泳女子の池江璃花子選手の白血病公表後、骨髄移植のドナー(提供者)登録に関心が集まっている。ただ、ドナーの辞退などもあり移植が実現するのは、六割程度。ドナーになれるのは五十五歳までで、若い世代を増やすことも急務となっている。日本骨髄バンク(東京)によると、登録できるのは、十八~五十四歳の健康な人(提供は二十~五十五歳)で、体重制限もある。献血ルームや保健所などで受け付け、約二ミリリットルを採血。後日、型が患者と適合すると、候補者に選ばれる。健康の確認検査などで計四回医療機関に行き、家族同席で最終同意書に署名した後は撤回できない。骨髄は全身麻酔で採取する。採取部位の痛みや発熱、まれにしびれなどの合併症が出ることがあり、最高一億円の補償制度がある。二〇一七年三月までに実施された二万二百六十六件のうち、入通院して保険金が支払われたケースは百七十一件(0・8%)。いずれも回復している。移植を待つ患者は昨年末現在、二千九百三十人。登録者は約四十九万人で、適合率は95%になったが、移植できたのは57%。健康上の理由や、仕事などで辞退したり、連絡が取れなかったりするドナーも少なくない。登録者の半数が「定年」に近い四十~五十代で、ドナー不足は続いている。 <骨髄移植> 白血病などの患者に、ドナーの骨髄液を点滴し、造血機能を回復させる治療。白血球の型はきょうだい間で4分の1、他人では数百から数万分の1の確率で一致するとされる。池江選手は骨髄移植が必要なケースかは、明らかになっていない。 ◆命の重みを知り、大きな達成感 「体験に感謝」 東京都の田中紀子さん(54)=写真=は7年前、骨髄を提供した。1995年にドナー登録し、忘れかけていた2012年夏。日本骨髄バンクから、白血球の型が一致する患者が見つかったと連絡を受けた。家族同席で弁護士から全身麻酔による事故の確率や採取後の痛みなどについて詳しく説明され、同意書に署名。「もうキャンセルできない」と念を押された。ところが、入院前日に、療養中の義父が死去。葬儀の準備で慌ただしい中、義理の母や姉が「生きている人を助けることを優先して」と背中を押してくれた。入院翌日に採取。マスクを着けられ、再び名前を呼ばれたときには終わっていた。採取した腰の部分は内出血で変色し、強く痛んだが、1週間で治まった。体験を通じ、命の重みを知り、大きな達成感を得た。知らないだれかを救うために仕事を調整し、家族を説得し、義父の葬式に出ないことを決めた。「困難に挑戦する自分を好きになれた。ドナーは患者さんのためだけでなく、むしろ自分のためにある」。提供相手は「九州在住の男性」とだけ知らされ、バンクを通じ、家族から感謝の手紙が届いた。若い時期にギャンブル依存の問題を抱えていた田中さんは今、「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京)の代表として患者や家族の支援に飛び回る。その原点は「ドナー体験での達成感」という。9月でドナーの年齢上限を迎える。「夫や子どもがもし、『ドナーになる』と言ったら動揺すると思う。でも、反対はしない。自分はドナーをさせてもらい、本当に感謝しているから」 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/340090 (佐賀新聞 2019年2月20日) 新型がん免疫製剤を了承、人工遺伝子で白血病治療 厚生労働省の専門部会は20日、一部の白血病を治療する新型の細胞製剤「キムリア」の製造販売を了承した。人工遺伝子で患者の免疫細胞の攻撃力を高める「CAR―T細胞」を利用した国内初の治療法で、3月にも正式承認され、5月にも公的医療保険が適用される見通し。臨床試験(治験)で既存の治療法が効かない患者にも効果が得られたことから注目を集めている。 欧米では既に承認されているが、米国では1回の治療が5千万円以上に設定され、高額な費用が問題となっている。日本でも今後、価格が決定されるが、高額薬として知られるがん治療薬「オプジーボ」よりも高くなる可能性がある。 <ゲノム編集食品> *4-1:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201902/0012083416.shtml (神戸新聞 2019/2/21) ゲノム編集食品/国の方針は拙速に過ぎる ゲノム編集された生物を使った食品の扱いについて、厚生労働省がパブリックコメントを実施している。有識者調査会が取りまとめた報告書は、開発中の大半のゲノム編集食品は安全性審査を必要とせず、国への情報提供だけで販売を認めてよいとする内容だ。厚労省は本年度中に結論をまとめ、具体的な仕組みをつくる方針を示しているが、議論が不十分で拙速に過ぎる。ゲノム編集はまだ未知の部分が大きい。なにより人が食べた場合の影響はどうなのか。審査を求める消費者団体などは、調査会の検討がわずか3カ月だったことを批判している。ゲノム編集食品の表示が要らない仕組みになれば、消費者に情報が伝わらず、食べる人の知る権利、選ぶ権利を奪うことになりかねない。ゲノム編集食品は、遺伝子を切断する酵素を使って効率よく改変できる。従来の遺伝子組み換え技術に比べて開発期間が大幅に短縮される。肉付きのいいマダイや収量の多いイネなどが開発されている。報告書では、その生物にない遺伝子を導入する場合は、遺伝子組み換え食品と同様の安全性審査が必要と判断した。一方、特定の遺伝子を壊した食品は審査を不要とした。国への情報提供は問題発生時の対応などのためで、法的な義務化はしない。従来の品種改良との違いがあまりないとの推論が根拠だが、そう言い切れるのか。編集された細胞ががん化する恐れが高まるなど、新たな報告や知見がもたらされている。一度に多くの遺伝子を改変した際のリスクも不透明だ。自然界に拡散した場合、悪影響が判明しても取り返しがつかない。審査も表示もない緩い規制の下で生産が広がり、予期せぬ問題が起きたら、誰がどう責任をとるのか。影響が予測しきれない新しい技術である。人の健康と環境に関わる問題として、安全を最優先に考えるべきだ。欧州連合(EU)では、予防原則の立場から遺伝子組み換え作物として規制すべきとの司法判断が下されている。各国の状況も参考にしながら、国会でもしっかりと時間をかけて議論する必要がある。 *4-2:https://www.agrinews.co.jp/p47358.html (日本農業新聞 2019年4月13日) ゲノム編集食品 予防原則で安全徹底を 生物の遺伝子を効率的に改変できるゲノム編集。この技術を使って品種改良した農水産物の多くは厳格な安全性審査をせずに、今夏にも食品として販売できる見通しとなった。安全性について不安視する消費者は少なくない。買う側の選ぶ権利を保障するためにも、食品表示は不可欠である。ゲノム編集は新しい技術で、もともとある特性を消すため遺伝子の一部を削ったり、他の生物の遺伝子を導入したりする。目的の遺伝子をピンポイントで改変でき、開発期間を大幅に短くできるのが特徴。交配による育種や遺伝子組み換え(GM)技術に比べて簡単で間違いが少なく、汎用(はんよう)性がある。農業分野でも多収性の稲や日持ちするトマトなどの研究が進んでいる。農水省は2019年度から5年間で、ゲノム編集作物を五つ以上開発する「次世代バイオ農業創造プロジェクト」を始めた。19年度当初予算で1億100万円を計上。需要が見込め、収益性の高い品種をつくるのが目的だ。開発に取り組む研究機関を公募する。厚生労働省は報告書を3月にまとめ、開発者側は国に届け出れば販売してもよいとした。ただ届け出に法的な義務はなく、制度の実効性に疑問を投げ掛ける向きもある。安全性の審査が必要なのは新しい遺伝子を追加する場合だけ。もともとの遺伝子を取り除くなど改変する場合は不要とした。「従来の品種改良や自然界で起きる変化と区別がつかない」(同省)からだ。この報告書案について一般に意見を募集したところ、約700件が集まった。大半が「長期的な検証をしてから導入すべきだ」「自然界で起きる突然変異と同じとは思えない」など、安全性を懸念する声だった。この声は無視できない。「遺伝子」という命に関わる新技術の開発で賛否が分かれるのはやむを得ない。問題は、このような国民生活に影響を及ぼす重要課題について議論が不十分な上、1年足らずで方針をまとめてしまう拙速さにある。これは主要農作物種子法(種子法)が廃止されたのと同じ構図だ。作る側、食べる側の不安に応えようとしない国の姿勢が問われている。日本と同様、米国も技術開発や商品化の速度に法整備が追い付かない中、欧州司法裁判所は「自然には発生しない方法で生物の遺伝子を改変して得られた生物はGMに該当する」と判断した。疑わしいものは規制するという予防原則の立場を崩していない。生産現場への影響についての実証も十分とはいえない。技術を通して多国籍企業による種子の独占、支配が進むのではないかという見方もある。食の安全についてどう考えるか。いま一度、議論をする必要がある。その上で、消費者が食べる、食べないを選択できる表示を求めたい。これは国民の権利である。 <事業承継について> *5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34657360X20C18A8EA2000/ (日経新聞 2018/8/27) 事業承継税制とは 孫まで円滑に引き継ぎ ▼事業承継税制 オーナー経営の中小企業の株式を後継者に移して代替わりをしようとすると、オーナーの生前なら贈与税、死後なら相続税が発生する。日本の産業を支える中小企業の技術・ノウハウが失われるのを防ぐには事業承継を円滑に進める必要があり、政府は2018年度に「事業承継税制」を大きく改正した。改正では納税が猶予される割合が8割から全額になり、対象となる株式も発行総数の3分の2から全てに拡大された。承継時点での税負担をゼロにすることが可能になっている。孫の代まで経営を引き継げば、猶予されていた税負担は免除される。優遇を受けるには都道府県知事に承継計画を提出しなければならないが、改正前に年500件ほどだった利用件数は大幅に増えると見込まれている。一方、法人を設立せず商売をしている個人事業主は長らく、商売用の土地の相続時に大幅に税額を減らす「小規模宅地等の特例」を活用してきた。ただ店舗に使う建物や設備は優遇対象外だったため、個人事業主でつくる納税者団体などが、対象に含めるよう求めてきた経緯がある。 *5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38283570Y8A121C1MM8000/ (日経新聞 2018/11/28) 個人事業主の事業承継支援へ税優遇 政府・与党検討 個人事業主が事業承継をしやすい環境をつくるため、政府・与党は新たな税優遇制度を作る方針を固めた。子供が事業を継ぐとき、土地や建物にかかる贈与税などの支払いを猶予する「個人版事業承継税制」を作る。2025年までに70歳を超える個人事業主は約150万人いるとされる。引退期を迎えた個人事業主が税金を理由に廃業を迫られるのを防ぐ狙いだ。与党の税制調査会で制度の詳しい設計を議論したうえで、2019年度の税制改正大綱に新制度の創設方針を盛り込む方向だ。新制度の主な対象になるのは、地方の旅館や町工場、代々続く酒蔵などを家族経営しているような個人事業主。土地や建物などを含めて跡継ぎに事業承継する際は、控除を超える分に生前なら贈与税、死後なら相続税がかかる。政府・与党が検討している新制度は、土地や建物、設備にかかる税金の支払いを猶予する仕組み。10年程度の時限的な制度にすることで調整している。中小企業庁によると、個人事業主全体のうち相続税が実際にかかりそうなのは1割程度を占める。新制度が悪質な節税に利用されることを防ぐ対策も同時に設ける。個人事業主が事前に事業承継計画を都道府県に提出し、認可を受けることを条件にする。法人と違い、個人事業主は私用と事業用の資産の線引きが曖昧。資産の切り分けを第三者が確認することや、跡継ぎが承継後すぐに事業をやめないことを義務づける案を検討する。税優遇が過剰にならないようにもする。個人の土地の相続では今も「小規模宅地特例」と呼ばれる税優遇制度がある。土地の価格を8割減額して相続税を減らせる仕組みで、新制度の創設後はこの特例は税優遇を受けにくくする。現在は事業用の土地を買うために借金をした場合に私用の資産と相殺して節税したり、跡継ぎでない親族まで税優遇のメリットを受けたりできる。政府・与党は条件の厳格化でこうした問題点を解消し、個人事業主への税優遇が過剰にならないよう配慮する方針だ。 <地銀の役割と今後の展望> *6-1:http://qbiz.jp/article/150743/1/ (西日本新聞 2019年3月23日) 地銀引き締め、再編頼み 金融庁監視強化 改善不十分で退場も 地元密着合理化に限界 金融庁が地方銀行の監督指針を見直し、収益が低迷する地銀の逃げ道を断って経営改革を促す方向へかじを切る。人口減少や超低金利という「構造不況」が続く中で、特効薬のような事業戦略は見当たらない。圧力が行き過ぎれば、店舗の統廃合など無理なリストラで金融サービスが損なわれ、地域経済に禍根を残す懸念もはらんでいる。店舗などの減損処理で計約6800億円を損失計上−。みずほフィナンシャルグループ(FG)が6日に発表した2019年3月期連結業績予想の下方修正を、ある地銀幹部は「衝撃だった」と振り返る。頭をよぎったのは昨年5月、金融庁から業務改善命令を受け、収益力の抜本改革を迫られた福島銀行の事例だ。福島銀は収益力が下がった店舗の評価を低く見直す減損処理などにより、18年3月期決算で7年ぶりの赤字に転落した。処理の背景には、金融庁検査による厳しい追い込みがあったとささやかれる。「みずほFGと同様の損失処理を迫られれば、いきなり赤字に陥りかねない」。別の地銀幹部も首筋が寒くなった。金融庁は昨年、地銀が1行しかなくても単独での存続が難しい地域が青森、富山、島根など23県あるとの試算を公表。収益改善が見込めない地銀の市場からの「退出」に関する制度見直しにまで言及した。「環境を言い訳にする経営者は失格だ」。幹部は監督指針見直しの先に地銀の「廃業」さえも見据えている。昨年4月以降、新潟県や三重県、関西圏で地銀再編が進んだ。業界の耳目を集めたふくおかフィナンシャルグループと長崎県の十八銀行の再編は、公正取引委員会の審査を巡り混迷したが、ようやく来月実現する。政府は経営統合基準を緩和してさらに再編を促す構えだが、もはや再編相手をつかまえる体力すらないほどに弱体化した地銀もある。店舗や人員配置を大胆に見直して経営改革を急ぐメガバンクとは違い、過疎地も含めてネットワークを張り巡らせ、地域経済や雇用を支える役割を担う地銀の多くは、激しいリストラには二の足を踏まざるを得ないのが実情だ。金融庁が業務改善命令を連発すれば、経営トップの辞任ドミノが起こる可能性があるが、再建が進む保証はない。 *金融庁検査:金融機関が健全で適切な業務運営をしているかを金融庁と地方の財務局が協力して調べる仕組み。大手銀行や地方銀行、信用金庫などが対象。本支店への立ち入りに加え、書類提出や聞き取りなどを組み合わせる。内部管理体制や法令違反の有無を厳しくチェックする。人口減少に伴う地銀の存続可能性も重視している。 *6-2:http://qbiz.jp/article/150744/1/ (西日本新聞 2019年3月23日) 金融庁、地銀の監視強化 収益低迷に改善命令 月内にも指針 金融庁は地方銀行など地域金融機関への監督指針を見直し、監視を強化する。「自己資本比率」の水準など財務の健全性を重視する考え方から、将来の収益力など事業の「存続可能性」の向上に軸足を移す。貸し出しなどの本業が赤字で業績が低迷する地銀に対し、店舗や人員の縮小などの速やかな改革を求める。月内にも公表する。今夏、問題があるとみられる地銀への検査に着手する見通しで、対応が遅れれば業務改善命令を出し、経営責任を明確化する。地銀の経営環境は、人口減少や日銀の大規模金融緩和に伴う超低金利の長期化で、収益力低下に歯止めがかからない。金融庁は厳しい経営環境でも存続できるビジネスモデルを構築するよう求めている。従来の監督指針では、不良債権問題を念頭に現在の自己資本比率が重要な指標だったが、新指針では将来の自己資本比率や収益力に着目する。自己資本比率が財務の健全性を示す国内基準の4%を上回っていても、本業で赤字を出し続けている地銀には、経営の改善を求める。地域の人口や企業数の増減、融資先の動向について分析し、経営陣から経営計画などについて聞き取り調査を行った後、立ち入り検査の必要性を検討する。金融庁が2018年3月期決算を分析したところ、全国の地銀106行のうち約半数の54行が本業で赤字になり、うち23行は5期以上連続で赤字だった。ある金融庁関係者は「日銀の超低金利政策の終わりは見通せない。経営者は背水の陣に立つ覚悟で改革に挑むべきだ」と強調する。金融庁は指針の見直しを前に一部の地銀に立ち入り検査を実施。福島銀行(福島市)に収益力強化を求める業務改善命令を出したほか、島根銀行(松江市)への対応も検討している。 ◇ ◇ ●生き残り模索、九州でも 九州の地方銀行も収益環境は厳しさを増している。2018年9月中間決算では九州の18行・グループ中、13行・グループが最終減益となった。各行とも店舗、人員縮減によるコスト削減や業務効率化に取り組むが、抜本的な改善は難しい。今回の指針見直しは、地銀に再編を迫る「布石」になる可能性もある。西日本シティ銀行(福岡市)は昨年1月、業務見直しと効率化を図る「業務革新室」を設置した。20年までに業務効率化などで事務量の3割を削減、現金自動支払機(ATM)の2割に当たる300台を減らすという。ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)傘下の熊本銀行(熊本市)は無人の4店舗を導入。佐賀銀行(佐賀市)も福岡県内の7支店1事業所を今月中に移転統合する。ただ店舗削減などは一時的な対策で、将来的な業績向上につながるとは言えない。4月のFFGと十八銀行(長崎市)の経営統合後も、地銀再編の動きが続くとの見方は根強い。九州フィナンシャルグループ(熊本市)社長で鹿児島銀行頭取の上村基宏氏は昨年末のインタビューで「単独で生き残れる状況ではない。結論の先送りはその分後れを取ることになる」と指摘した。 *6-3:https://www.agrinews.co.jp/p47146.html (日本農業新聞 2019年3月23日) アジア2銀行と提携 輸出や海外進出支援 農林中金 農林中央金庫は22日、ベトナムとフィリピンの大手銀行と包括的な業務提携を結んだと発表した。現地銀行ならではの情報やネットワークを生かし、農林中金として日本の農業法人などの販路開拓や、日本の食農関連企業の海外進出などを支援する。他のアジアにある複数の国の銀行とも同様の連携を始め、食農分野での海外進出・事業拡大への支援を本格化させる。農林中金は2019年度から5カ年の次期中期計画で、国内の農家所得増大などにつなげるため、アジアの食農バンクとしての機能を発揮し、アジアの成長を取り込む方向を示している。今回提携を結んだのは、ベトナム投資開発銀行とフィリピンのBDOユニバンク。農林中金は、オランダの協同組合金融機関「ラボバンク」とも既に提携。ラボバンクもアジアの情報は持っているが、現地銀行と連携することで、より地域のきめ細かい情報やネットワークが活用できる。具体的には、農業法人やJAグループ、食品関連企業に対し、現地情報の提供やビジネスマッチング、現地での協調融資、企業の合併・買収(M&A)への助言、現地通貨の供給などを目指す。例えば、農業法人などが日本産農産物の販路を探している場合は、提携銀行からの情報やネットワークを生かして売り先を見つけ、商流を構築することなどが考えられる。輸出ではJA全農とも連携。農業生産資材企業の販路開拓のための出資や企業買収、低温のまま輸送するコールドチェーン構築のための現地企業との連携への支援なども想定できるという。こうした情報を生かし、各種サービス提供を進めるため、農林中金は4月から海外展開を支援するための専門チームを立ち上げ。シンガポール支店の人員も増強する。農林中金は「現地からの日本の農業や食品に対する関心は高い。農業法人に加え、食品企業を支援することで、国内の農林水産物の消費を増やすことにつながる」(営業企画部)と説明する。 <疑問を感じる思考法> PS(2019年4月17、18日追加):*7-1に、「①福島県産の野菜・果物・魚の放射性物質検査で、2018年度に国の食品基準(1kgあたり100ベクレル以下)を上回ったのは約1万6000点のうち0.04%の6点だった」「②福島県は原発事故のあと県産の野菜・果物・魚 の一部で放射性物質の検査を行っている」「③国の基準を超える食品は、肉類は2011年度、野菜・果物は2013年度、穀類は2015年度から出ていない」としており、*7-2は、「④WTOで敗訴したが、風評被害を広げぬようにしよう」「⑤残念だが、食の安全で消費者の関心は国を問わず極めて高い」「⑥23カ国・地域で続いている輸入規制撤廃と風評被害の払拭をねばり強く進めたい」「⑦生産者、消費者への十分な説明が必要」としている。 しかし、このブログに何度も書いたように、このうち①③は、国の食品基準(1kgあたり100ベクレル以下)なら無害だとする科学的根拠はないため、説明もされていない。また、基準以下の場合には反応しないように測定器が設定されており、“食べる部分”とする一部を測定しているに過ぎないとも聞いているため、「安全」という方が風評にすぎない。さらに、②のように、ごく一部しか測定せずに全体を推測して安全性を強調するのはリスクが高い。 また、⑤のように、食の安全性に関する消費者の関心が高いことを残念だとしている点は根本的姿勢が間違っており、④のようにWTOで敗訴し、⑥のように23カ国・地域で輸入規制が続いているのは「日本基準以下なら安全なのだから、外国の輸入規制の方が風評被害にすぎず、ねばり強く撤廃しよう」としている点で、科学的な説明もできないくせに傲慢極まりない。そして、生産者、消費者の方が詳しいのに、⑦のように説明不十分としている点は呆れるのである。 なお、上記のように、「国の食品基準(1kgあたり100ベクレル)以下なら安全だから、いくらでも食べよ」と根拠も示さずに主張しながら、*7-3に書かれているように、「⑧経団連は再稼働や新増設の推進を掲げ」「⑨福島事故で表面化した原発の問題点には触れず」「⑩最大81兆円の廃炉等事故対応費を税金と電気料金で国民に負担させ」「⑪世界で斜陽化する原発産業にこだわり続け」ようとしている。残念ながら、これは客観的数字を無視して何が何でも日本の主張が正しいと信じ、メディアも加担して誤った政策につき進んで行った過去を思い出させる。 このような中、*8のように、2018年の農林水産物は、輸出額9,068億円・輸入額9兆6,688億円・貿易赤字8兆7,620億円で、輸出額に対して輸入額が10倍という圧倒的輸入超過の状況で貿易赤字が拡大しているそうだ。値段が高くて安全性に「?」がつくのでは当然とも言えるが、解決策は国民が需要していないものを供給してそれを食べるように強制することではなく、これまで(安倍政治ではなく戦後政治)の政策の失敗を含めて悪い点を一つ一つ変えていくことしかない。なお、うぬ惚れの結果、自動車もJapan Passingが始まっており、いつまで貿易黒字が続くかわからないため、このままでは米国のように双子の赤字になる可能性が高い。 ![]() ![]() ![]() ![]() (図の説明:1番左の図のように、牛白血病が増加しており、左から2番目の図のように、日本では東日本に出ている。右から2番目の図に書かれている症状は人間の癌に似ており、1番右の日経新聞記事のように、感染症だとされているものの癌免疫薬が効くそうだ。何故か?) ![]() ![]() ![]() ![]() 宝島2015.3.24 宝島2015.3.9 宝島2015.3.25 宝島2015.3.24 (図の説明:この記事を掲載した雑誌宝島は、「風評被害」「差別」などと叩かれて廃刊に追い込まれたが、書かれている統計データや内容は常識的だった。放射線に当たるとDNAが壊されるため、白血病や癌が増えたり、生殖細胞や胎児に悪影響を与えたりする。また、心臓病の増加も報告されており、フクイチ事故で増えた分は、本当は原発被害や原発のコストにあたる) *7-1:https://www3.nhk.or.jp/lnews/fukushima/20190417/6050005159.html (NHK 2019年4月17日) 放射性物質 基準超の食品は6点 福島県産の野菜や果物、魚などの放射性物質の検査で、昨年度国の食品の基準を上回ったのはおよそ1万6000点のうち6点でした。基準を超えたのはイワナとヤマメ、たらの芽でした。福島県は原発事故のあと県内でとれた野菜や果物、魚などの一部で放射性物質の検査を行っています。昨年度は492品目、1万5941点を検査し、国の食品の基準の1キロあたり100ベクレルを超えたのは0.04%にあたる6点で、10点だった前の年度に比べ、4点減りました。基準を超えたのは、福島市、伊達市、桑折町の阿武隈川水系でとれたイワナ2点とヤマメ3点、北塩原村でとれた野生のたらのめ1点でした。基準超えの食品は原発事故の直後に比べ大幅に減少していて、肉類は平成23年度から、野菜や果物は25年度から、コメなどの穀類は27年度から、国の基準値を上回るものは出ていません。県環境保全農業課は、「安全安心を確保するにはこうしたデータがベースになるので、品目や検体の数も含めてこれまでと変わらず検査を徹底するとともに正確に情報発信していきたい」としています。 *7-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019041702000164.html (東京新聞社説 2019年4月17日) WTO逆転敗訴 風評被害を広げぬよう 福島県産などの水産物輸入禁止をめぐる韓国との貿易紛争で日本は敗訴した。残念だが、食の安全で消費者の関心は国を問わず極めて高い。ねばり強い対応で規制撤廃と風評被害の払拭(ふっしょく)を進めたい。一審は二〇一八年二月に日本の主張を認めただけに、最終判断の二審での逆転敗訴は想定外で、産地の漁師に落胆が広がっている。経緯をたどると、一一年三月の福島原発の事故後、放射性物質への懸念から日本の水産物の輸入規制が各国に広がった。このうち韓国は、一三年九月に汚染水流出を受けて規制を強化し、福島、宮城、岩手など八県の水産物の輸入を全面禁止した。安全対策に取り組んできた日本はこれを不当として、一五年八月、世界貿易機関(WTO)に提訴していた。WTOは貿易紛争を扱う唯一の国際機関。機能の低下も指摘されるが、外務省は「中立的な専門家の判断」としている。日本の食品の安全性を否定しない一方で、韓国の主張を認めた判決をよく分析してほしい。生産者、消費者への十分な説明が必要だ。原発事故から八年。輸入規制は五十四カ国・地域から二十三に減った。勝訴をてこに規制撤廃と輸出拡大を目指した政府の戦略は練り直しが必要だ。養殖ホヤの生産量全国一位の宮城県では原発事故前、七、八割を韓国に輸出していた。厳しい基準での放射性物質検査に協力し、規制解除を待ち望んできた生産者、産地の漁師らの落胆は察するに余りある。ただ日本でも過去、内外の食品、食物の安全性でさまざまな問題が起きている。牛海綿状脳症(BSE)では、今回とは逆に、米国から輸入禁止の条件が厳しすぎると批判を受けた。消費者が政府に慎重すぎるくらいの対応を求めるのは国ごとの面もある。ふたつ指摘しておきたい。まず、WTO改革による紛争処理機能の強化。多国間の枠組みであるWTOの権威が揺らげば、紛争は激化しかねない。二審を担当する委員七人のうち四人が空席という事態を早く解消すべきだ。そして原発事故の影響の大きさにあらためて向き合わなければいけない。輸入規制は二十三カ国・地域で続いている。風評被害を防ぎ、すべての消費国、消費者に受け入れられるには科学的なデータの蓄積と提供、丁寧で根気強い説明が不可欠となる。 *7-3:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201904/0012248199.shtml (日経新聞 2019/4/17) 経団連と原発/次代への開かれた議論を 経団連の中西宏明会長がエネルギー政策の提言を発表した。自然エネルギー拡大に必要な送配電網や蓄エネ技術の開発など、重要な指摘が多数ある。ところが、肝心の原発については首をかしげる部分が多い。安全性確保や国民の理解を前提に、再稼働や新増設の推進を掲げている。だが福島事故が示したさまざまな問題に触れていないのは不自然だ。エネルギーの在り方は日本の命運を左右する。中西会長は、次代への責任として開かれた場で疑問に答え、幅広く議論してもらいたい。中西会長は年初のインタビューで、「国民が反対するものはつくれない」「理解を得るために一般公開の討論をすべき」と発言した。その後、「再稼働をどんどんやるべきだ」と積極姿勢を打ち出し、物議を醸した。経済界トップの呼び掛けに応じて、「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が公開討論を申し込んだが、経団連はずっと拒否している。今回の提言は化石燃料の依存度を下げるために原発再稼働の必要性を主張し、60年運転延長にまで踏み込んだ。中西会長は原発メーカーの日立製作所会長でもある。福島の事故で多くの人々が苦しんでいる中、原発の負の部分を語らないのは無責任ではないか。民間シンクタンクが最大81兆円とした廃炉など事故対応費は、税金と電気料金で国民が負担している。事故から8年経っても収束までの時期も費用も全く見通せない。こうした膨大な社会的費用を無視した主張は、国民の支持は得られない。もう一つ気掛かりなことは、世界で斜陽化する原発産業にこだわり続けることのリスクだ。政府が成長戦略とした原発輸出は総崩れの状況にある。巨額の安全対策費が必要で高リスクの原発と、世界の投資が集中する自然エネルギーでは競争力の差が広がり続ける。世界の潮流は自然エネルギーを中心に、蓄電池や電気自動車、住宅などをつないだ自立・分散型社会へと加速している。提言は、電気や関係業界のビジネスモデルが一変する可能性も指摘した。原発に固執せず本音で話し合ってほしい。 *8:https://www.agrinews.co.jp/p47405.html (日本農業新聞 2019年4月18日) 18年貿易赤字 農林水拡大 8・7兆円で1958億円増 農林水産物の貿易赤字が拡大している。農水省のまとめによると2018年は、輸出額9068億円に対し、輸入額は9兆6688億円となり、貿易赤字は8兆7620億円と前年に比べ1958億円(2%)増えた。輸出額が約1000億円伸びたものの、輸入額の伸びがそれを大きく上回った。輸入額は過去最高を更新した。農産物(食品を含む)が6兆559億円(2%増)と貿易赤字の多くを占めている。ホームページで公表する03年以降で輸入額は最大。輸出額に対し、輸入額が10倍という圧倒的に輸入超過の状況だ。赤字額は林産物が1兆2182億円、水産物が1兆4879億円となっている。農産物の輸入品目を輸入額で見ると、豚肉、牛肉、トウモロコシ、生鮮・乾燥果実、鶏肉調製品、冷凍野菜が上位に並ぶ。19年は赤字幅がさらに拡大するとの懸念が強い。TPPや日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が相次いで発効。牛肉などの輸入が増えるなど、貿易収支悪化の懸念材料は多い。貿易協定交渉が始まった米国は、農林水産物輸入の最大の相手国。18年の輸入額は1兆8077億円で、トウモロコシや食肉が中心だ。それに対し、輸出額は1176億円にとどまる。1兆6901億円の赤字で、農林水産物全体の貿易赤字の2割を占める。 <思考するには基礎知識が必要であること> PS(2019年4月19、20、22日追加):*9-1に、地球環境工学が専門で東大学長を勤められた小宮山氏が「①3・11以降、原発のコストが上がり、再エネは下がって逆転が早かった」「②送電線は国民が払った電気料金で整備してきたので単に電力会社のものではなく、公共事業で増強して社会の所有物にすべき」「③世界の潮流は完全に再エネシフトしており、欧州の再エネ比率は30%超、中国は25%、米国も30%程度で、日本の16%は完全に出遅れている」「④現在は、石油・石炭・天然ガスを輸入するため20兆~30兆円が海外に流れているが、再生エネで自給するようになれば、この金は国内に流れ地域の産業に変わるので地方の活性化という日本の根本的な課題の解決に繋がる」「⑤原発ゼロは必然で、再生エネ負担は後世への贈り物」と明言しておられるが、このようにわかりやすくポイントを必要十分に語れる背景には、工学・環境・政治(社会インフラ)・経済(地方活性化)などの幅広い知識と経験の裏打ちがある。 そのような中、*9-2に、「イ. 小学6年と中学3年全員を対象として、文科省の全国学力テストが4月18日に行われた」「ロ.中3で初めて行われる英語では発信力を重視した」「ハ.国語と算数・数学は日常生活に関わる場面設定に基づく出題が中心になった」「ニ.佐賀県教育委員会は独自に小5、中1、2で国語、算数・数学の2教科のテストも実施した」「ホ.佐賀県内は前年度、小中学ともに漢字の読みや計算など基礎の正答率は高かったが、実験結果を考察するなどの応用問題を解く力に課題があった」等が書かれている。 このうち、イについては、全国では小6と中3しか学力テストを行わないことに呆れ、佐賀県教育委員会がニのように独自に小5、中1、2でもテストを実施したことに賛成だが、思考するには理科・社会の知識も使うため、国語・算数(数学)と英語のみに限定した科目選択を行い、これだけが重要であるかのようなメッセージを与えるのはよくないと思う。また、ロのように、中3で初めて英語のテストを行って発信力を重視するというのも考え方が安易で、意味のある内容を説得力をもって発信するには背景となる知識が重要なので、小5から数国理社英の5科目はテストをして確実に身に着けさせた方が良く、そうしなければプアー日本人を生産してしまうだろう。また、ハの日常生活の場面における応用は、理科・社会・その他の知識も組み合わせて使うので意外と簡単ではなく、義務教育では幅広い基礎知識を確実に身に着ける方が重要だと考える。 なお、地球温暖化対策に関する「パリ協定」は、このブログに記載してきたとおり、原発の欠点により、原発回帰ではなく再エネシフトを奨めている。そのため、*10-1のように、日本政府が原発を「実用段階にある脱炭素化の選択肢」などとG20サミットまでに正式決定して国連に提出するのは、ただイノベーションという言葉を繰り返しているだけで諸問題の解決はできておらず、外国の首脳はそれぞれ優秀であるため、日本政府の環境に関する知識や意識の低さをアピールして失笑を買うと思う。さらに、日本国民の金を湯水のように使うのも大きな問題だ。 このような状況の下、*10-2のように、衆院沖縄3区と大阪12区の補欠選挙でいずれも自民党候補が敗れ、朝日新聞は、その原因を「①首相が沖縄に入らなかった」「②首相への忖度発言で塚田氏が国交副大臣を、復興に絡む失言で桜田氏が五輪相を辞任し、首相の任命責任が問われた」「③選挙期間中に首相側近が10月に予定される消費増税の延期に言及した」などとしているが、沖縄3区は米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古への土砂投入に対する批判であり、大阪12区は維新の党のこれまでの実績を評価したもので、どちらも有権者が地元を守るため地元に関する政策を判断したものであって、①②③のように、無理に安倍首相の人格や過失に問題をすりかえても当たらない。地方の有権者は、まじめに考えており馬鹿ではないのである。 *9-1:https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/969 (東京新聞 2019年3月11日) 「原発ゼロは可能だ」小宮山宏・三菱総研理事長インタビュー 三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏(74)は東京電力福島第一原発事故の前後に東電で監査役を務め、原子力業界を間近で見てきた。近年は再生可能エネルギーの推進を訴え、経済界に身を置きながら「原発ゼロは可能だ」と明言する数少ない一人。その真意を聞いた。(伊藤弘喜) ●3.11機に原発はコスト高く −東電監査役時代からの考えが変わったのですか。 あまり変わっていません。東電でも再生エネと省エネの重要性を主張し続けた。1990年から一貫して「温暖化の解決策となるエネルギー源は、再生エネと原子力しかない。ただし原子力には安全性の問題がある」と言ってきました。90年代、再生エネのコストはまだ高かった。技術的な見通しが完全には立っていなかったから。でも技術が進めば下がり、2050年ごろには安全対策でコストが上がる原子力と逆転すると思っていた。ところが3・11がきっかけとなり原子力のコストは上がり、再生エネはがんがん下がった。(逆転は)予想よりはるかに早かったです。 ●送電線は公共事業で増強を −なぜ日本で再生エネが拡大しないのでしょうか。 背景に大手電力10社による地域独占体制がある。地域間をつなぐ送電線が細く、電力が足りなかったり余ったりした時、融通できる余地が少ないのです。送電線は誰のものか。国民が払う電気料金で整備してきたのだから、単に電力会社のものではありません。公共事業で増強し、社会の所有物にすべきです。昨年、世界で新設された発電所の70%は再生エネで火力が25%、原子力が5%。こうした傾向は近年、一定しており、世界の潮流は完全に再生エネにシフトしている。欧州では再生エネの比率は30%を超えた。中国でも25%、米国が3割ほど。日本は16%で完全に出遅れています。 ●再生エネは地方を変える −再生エネはどんな効果をもたらしますか。 地方の活性化という日本の根本的な課題の解決につながります。今は石油や石炭、天然ガスを輸入するため20兆~30兆円が海外に流れている。再生エネで自給するようになれば、このお金は国内に流れ、地域の産業に変わります。間伐材や家畜のふん尿で発電するバイオマスの推進は、農林業の再生につながる。水が豊富な地域は水力を、風が強い地域は風力を−といった具合に、地域に合った再生エネに取り組めばいいのです。 −現状は、政府も経済界も原発再稼働に積極的です。 20年後には原発はほとんど動いていないでしょう。新しい原発をつくるのは極めてコストが高い。長期的には、全てを再生エネでまかなうことに多くの人が合意できると思います。一番安いのだから。 ●再生エネは後世への「贈り物」 −再生エネ電力を買い取る固定価格買い取り(FIT)制度は電気料金で下支えしています。それにより、国民負担が膨らんでいるという指摘があります。 FITは再生エネを普及させるために、現世代が負担する制度です。原発が放射性廃棄物の負担を次世代に回していることとは逆の構造なのです。FITでの買い取り期間は10~20年。何万年も保管する必要がある放射性廃棄物と比べれば、FITの負担は我慢できる範囲だと思います。温室効果ガスを出さず、後世に負担を残さない「贈り物」となるエネルギー源は、再生エネ以外にありません。 【略歴】こみやま・ひろし 1944年、栃木県生まれ。東大大学院博士課程修了。工学博士。専門は地球環境工学。東大教授、東大学長などを経て、2009年から現職。09年6月~12年6月まで東電監査役。 *9-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/364133 (佐賀新聞 2019年4月19日) 全国学力テスト、県内は255校 中3で初の英語、発信力重視 小学6年と中学3年の全員を対象とした文部科学省の「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)が18日、一斉に行われた。中3で初導入の英語では自分の考えを書いたり話したりする発信力を重視。学習指導要領改定を踏まえ、基礎知識と活用力を一体的に問う新形式に変更された国語と算数・数学は、日常生活に関わる場面設定に基づく出題が中心となった。佐賀県内では、国公立の小中学校と特別支援学校、私立中の計255校、約1万5500人が試験に臨んだ。結果は7月に公表される。英語は「読む・聞く・書く・話す」の4技能を問い、このうち「話す」は、パソコンの画面の映像を見て英語で説明させる形式。生徒の声の録音データを基に採点を行う。テレビ局から将来の夢を聞かれたという設定で、内容を1分間考えた後に30秒で答える出題などがあった。国語と算数・数学はこれまで、基礎知識を問う「A問題」と活用力を測る「B問題」に分かれていたが、今回から統合し、活用力を意識した設問をそろえた。日常生活と結び付いた場面設定が多く、小学校国語では、畳職人へのインタビューのやりとりから自分の考えをまとめさせた。佐賀県教育委員会は独自に小5、中1、2で国語、算数・数学の2教科のテストも実施した。対象は公立の小中学校258校、約2万3千人。県教委は、7月末をめどに国から結果が届くことを受けて、前年度まで実施してきた独自の採点は行わない。県独自の調査分については6月下旬までに各学校に集計結果を送る。県内は前年度、小中学ともに漢字の読みや計算など基礎の正答率は高かった一方で、実験結果を考察するなどの応用問題を解く力に課題があった。県教委は、基礎学力の定着に向けた補充学習の実施や、家庭学習の定着に向けた手引を小中学の保護者に配布するなど五つの柱に沿って学力アップに取り組んでいる。今回の全国での参加は小学校1万9496校の約107万6千人、中学校1万22校の約104万5千人。国公立は全校、私立の参加率は50・1%だった。 *10-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13985037.html (朝日新聞 2019年4月20日) 温暖化の対策案、「原発推進」鮮明 政府、国連に提出へ 地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」に基づき、政府が国連に提出する長期戦略案が19日わかった。焦点の一つである原発は「実用段階にある脱炭素化の選択肢」とし、安全性・経済性・機動性に優れた炉を追求するとの目標を掲げた。政府の有識者懇談会の提言より、原発推進に前のめりな姿勢を鮮明にした。23日に公表し、国民から意見を募った上で6月に大阪である主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)までの正式決定をめざす。パリ協定は2015年に採択され、21世紀後半に温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすることをめざしている。各国は20年までに国連に長期戦略を提出する必要がある。日本は「50年までに温室効果ガスを80%削減」との目標を掲げており、長期戦略は実現に向けたシナリオとなる。安倍晋三首相の指示で、政府の有識者懇談会が基本的な考え方を議論してきた。今月2日に公表した提言では、原発について省エネルギーや再生可能エネルギー、水素などとともに技術的な選択肢の一つとし、「安全性確保を大前提とした原子力の活用について議論が必要」だとして、推進までは踏み込んでいなかった。一方、長期戦略案では、原発を二酸化炭素(CO2)大幅削減に貢献する主要な革新的技術の一つとして取り上げ、「可能な限り原発依存度を低減する」としつつも、「安全確保を大前提に、原子力の利用を安定的に進めていく」とした。「もんじゅ」(福井県)で失敗した高速炉のほか、小型炉、高温ガス炉など具体的な技術例を挙げたうえで、「原子力関連技術のイノベーションを促進する観点が重要」とも言及した。 *10-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM4P76P2M4PUTFK007.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2019年4月21日) 政権与党、参院選へ痛手 忖度・復興失言… 補選2敗 衆院沖縄3区と大阪12区の補欠選挙が21日、投開票され、沖縄では野党系新顔、大阪では維新新顔が初当選し、自民党新顔がいずれも敗れた。与野党ともに夏の参院選の前哨戦と位置づけたが、政権与党は大きな痛手を受け、大阪で大敗した野党も連携が不発に終わった。2012年の政権復帰以降、国政選挙で強さを見せてきた安倍政権が補選でつまずいた。国政選挙にもかかわらず、安倍晋三首相は沖縄に入らず、大阪入りは投票前日。選挙の顔として不安を残した。「オール沖縄」や維新が、政権に対する批判票の受け皿になった形だ。新元号「令和」への好感から一部には内閣支持率が上昇した世論調査もあったが、首相らへの「忖度(そんたく)」発言で塚田一郎氏が国土交通副大臣を、復興に絡む失言で桜田義孝氏が五輪相を相次いで辞任。首相の任命責任が問われた中での選挙戦だった。大阪は維新のダブル選で圧勝した勢い、沖縄では米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古への土砂投入を強行してきた政権に対する厳しい批判の逆風にさらされた。大阪12区はもともと自民の議席のため、自民や公明の幹部は「せめて1勝」と口をそろえていたが、両選挙区とも自公協力がうまく機能しなかった。首相は投開票日前日に同じ選挙区内で異例という3カ所の街頭演説をこなしたが、自民幹部が一度は公言した公明党の山口那津男代表とのそろい踏みは実現しなかった。選挙期間中に首相側近が10月に予定される消費増税の延期に言及。政権内には、夏の参院選に合わせた衆参同日選論がくすぶる。しかし、公明は同日選に強く反対しており、自公の選挙協力がきしむ中で踏み切れるか不透明な状況だ。対する野党は、「辺野古移設反対」で一致した沖縄3区では連携を成功させた。しかし、大阪12区では共産党現職が辞職して無所属で立候補し、他党が協力する方式が不発に終わった。参院選で32ある1人区の候補者調整で、共産系候補が立候補するケースは限定的になりそうだ。 <高齢者・障害者差別から課題解決へ> PS(2019年4月22、23日追加): *11-1・*11-2のように、「①高齢ドライバーが自動車事故を起こした」「②従って80代以上は免許返納を」「③地方では車がないと生活できない」「④犠牲者が気の毒」などという議論がよく起こるが、④だからといって、①②のように、「高齢になると判断能力が衰え、事故を起こしやすいので、80代以上は全員免許を返納せよ」というのは、「女性は運転能力がないので、女性には自動車免許を取らせない」というのと同様に属性に基づく根拠なき差別であり、人によって異なる。また、③のように、地方では車がないと生活できない上、都会でも運転が必要不可欠な場合もあるため、人権侵害にもなる。 そして、*11-3のように、年代別の事故率は、20代・40代・30代が多く、80歳以上による交通事故は最も少ないそうで、データを読む場合は感情論に走らず、「母集団の数」「運転時間(あまり運転しない人は事故も少ないから)」などを揃えて正確に考察すべきだ。 なお、障がい者はむしろ自動車が不可欠な場合もあるため、障がい者が運転できない自動車の構造は変えるべきであり、バリアフリーを実現するためにも自動運転や運転支援機能が重要なことは、前から指摘されていた。にもかかわらず、*11-4のように、未だに「CASEの重圧」などと記載されているのは、日本の自動車会社の決断の遅さを示しており、これについては既に進路が明確になっているため、ディーゼル車やハイブリッド車に経営資源を振り向けるよりも、EVや自動運転車に経営資源を集中した方が無駄なく競争できるわけである。 このように、ともかく高齢者の能力を低く見たり、差別したりするキャンペーン発言が多い中、*12のように、佐賀県鹿島市に91歳で初当選した市議がおられ、「イ. 年寄りとは思っておらず、老け込むには早過ぎる」「ロ. 4年間やっていく自信がある」「ハ. 老人のことを専門にする人が、議会に1人くらいいてもいいのではないか」と言っておられるのは頼もしい。確かに、若くさえあればよいわけではなく、高齢者だからこそわかることも多いため、人口構成を反映した議員構成が必要だろう。 ![]() ![]() ![]() ![]() アウディの自動運転車 ベンツの自動運転車 ヤマトのEV配送車 日本郵便のEV (図の説明:日本では、1995年前後からEVの市場投入をめざして研究開発してきたにもかかわらず、実用化はEUや中国の方が早く、それを見て後を追いかけることしかできていない。また、自動運転や運転支援も高齢化・運転手不足・バリアフリー等の視点から2000年代には言っていたのに、他国に後れをとってから慌てる構図が変わらないのは何故だろう?) *11-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201904/CK2019042002000261.html (東京新聞 2019年4月20日) 池袋暴走 「80代以上 免許返納を」 「地方暮らし 車が必須」 東京・池袋の乗用車暴走事故があった現場では二十日午前、亡くなった母子を悼む人たちが次々と訪れ、花などを供えて手を合わせた。横断歩道のそばに設けられた献花台には、数十もの花束や人気アニメのキャラクターが描かれたお菓子などが並べられた。亡くなったのは、現場近くに住む松永真菜(まな)さん(31)と長女莉子(りこ)ちゃん(3つ)。近くのマンションに住む福沢有希子さん(40)は、花束の前で自転車を止め、後ろに乗った次女(4つ)と一緒に手を合わせた。「とても人ごととは思えない。無念と思いますが、天国で安らかに過ごしてほしい」と声を落とした。青信号の横断歩道を渡っていた人たちが巻き込まれた今回の事故。福沢さんは「青信号でもしっかり安全確認しよう」と家族で話し合ったという。近くの女性看護師(39)は「事故の時に近くにいれば。何かの助けになりたかった…」と悔やむ。八十七歳の高齢ドライバーによる事故を受け、栃木県で暮らす六十代の両親に電話で「運転に気を付けようね」と伝えたという。「地方では車がないと生活できない。実家に帰ったらタクシー代を渡したい」と話した。追悼に訪れた人たちの中には、高齢者の姿も。二歳の孫がいるという千葉県成田市の男性(75)は花束の前で手を合わせ、「あまりに悲しすぎる」と何度もハンカチで目を拭った。男性は毎日のように車を運転しているが、衰えも感じるという。「赤信号を漫然と見過ごさないよう意識しているが、高齢者講習を強化しないといけないのでは」と指摘した。三歳の孫がいるという近くに住む女性(66)は「亡くなった子と同じ公園で遊んだこともあったかもしれない。かわいい盛りなのに」と涙ぐんだ。痛ましい事故を受け、「八十代ぐらいで免許は返還してほしい」と語った。 *11-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/298364 (北海道新聞 2019年4月20日) 82歳運転の乗用車、店舗入り口に突進 むかわ 2人軽傷 アクセルとブレーキ踏み間違えか 20日午後2時5分ごろ、胆振管内むかわ町美幸4のホームセンター「ホーマックニコットむかわ店」の入り口付近に、同町穂別の会社役員男性(82)の乗用車が突っ込んだ。入り口前の園芸コーナーで作業をしていた店長の男性(53)と女性従業員(30)がはねられ、腰などを打つ軽傷を負った。乗用車は建物には衝突しなかった。苫小牧署によると、会社役員男性は駐車場に車を止めようとしていたという。同署はこの男性がアクセルとブレーキを踏み間違えたとみて調べている。 *11-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/mamoruichikawa/ (Yahoo 2016/11/20) 高齢ドライバーの事故は20代より少ない 意外と知らないデータの真実 10月、11月と高齢のドライバーによる交通死亡事故が相次いで報道されています。「登校の列に車、小1男児が死亡 横浜、児童8人けが」(朝日新聞 10月28日)。「駐車場のバー折って歩道の2人はねる…車暴走」(読売新聞 11月13日)。実際に統計上、高齢ドライバーによる死亡事故の件数は増加しているようです。「2014年に約3600件あった死亡事故のうち、65歳以上の運転者が過失の重い「第1当事者」になったケースは26%だった。約10年間で10ポイント近く増えている。 出典:北海道新聞11月17日社説『高齢ドライバー 事故防ぐ対策急ぎたい』」でも考えてみると、いま日本では急速に高齢化が進んでいます。それとともに65歳以上の人口が増えているわけですから、事故の件数が増えてしまうのはある意味で当然のことです。では高齢化の影響を除いた場合、高齢ドライバーによる事故は増えているのでしょうか? ●高齢ドライバーが起こす交通事故は20代より少ない 上の図は、交通事故を起こした人(第1当事者)の数を年代別に、平成17年から27年まで見たデータです。ポイントは、年代別の「全件数」ではなく、「その年代の免許者10万人当たり、どのくらい事故を起こしているのか?」を調べていることです。こうすることで、より正確に「その年代の人が、どのくらい事故を起こしやすいのか」を知ることができます。(※16歳からのデータがあるのは、原付やバイクを含むからです。)まずわかることは、全年代でゆるやかに減っていることです。全体で見ると、10年前のおよそ半分になっています。では、どの年代がもっとも交通事故を起こしやすいのでしょうか?上から順番に見ていくと、「16~19歳」が傑出して多く、それに続くのが「20~29歳」。その次に来るのが「80歳以上」です。70代となると、他の年代とほとんど差はありません。とはいえ、高齢者になるとペーパードライバー(免許を持っているけれど運転しない人)の割合が多くなりそうです。そこで念のため、年代別の「全件数」のデータも調べてみました。驚いたことに、20代・40代・30代が多く、80歳以上による交通事故が最も少ないことがわかりました。少なくとも上記のデータからは、高齢者が若者と比べて特に交通事故を起こしやすいとは言えないのではないか?という気がしてきます。 ●死亡事故は80歳以上で起こしやすいが、トップではない では、「死亡事故」に限定した場合はどうなるでしょうか?年代別の免許者10万人当たりの件数を見たデータです。まずわかることは、死亡事故も大幅に減っているということです。80歳以上に限定すると、10年前の半分程度に減っています。死亡事故の場合、確かに80歳以上の危険性が高いことがわかります。ただし「16~19歳」も高く、去年のデータでいえばわずかに80歳以上を上回っています。その次は、20代と70代が同じくらい。とはいえ、その他の年代と比べて、それほど多いとは言えないようです。上記のデータからは、「16~19歳と80歳以上の運転者は、死亡事故を起こしやすい」のではないか?ということがわかります。なおせっかくですから、年代ごとの交通死亡事故の「全件数」を見てみます。全件数でみると、やはり20代や40代が多く、80歳以上が起こす死亡事故は少ないことがわかります。この年代で運転している人が、そもそも少ないのかもしれません。 ●データをもとに議論する大切さ いま高齢ドライバーが起こす死亡事故が急増していることが強調され、免許返納や認知機能検査などの重要性が指摘されています。確かにデータからも、件数としては少ないですが、80歳以上で死亡事故を起こす危険性が高いことが示されています。今後、高齢化のなかでこの年代のドライバーの絶対数が増えるのは確実ですから、対策が急務なことは間違いありません。ただ心配なのは、高齢ドライバーへの風当たりが必要以上に強まることです。例えば下記の報道で「高齢ドライバー」とされているのは、67歳の男性です。「高齢ドライバーにはねられ男性死亡 長崎」(日テレNEWS24・11月18日)65歳以上の人は「高齢者」とされるので、この男性を「高齢ドライバー」と呼ぶのは間違っていないかもしれません。でも実際の統計データは、60代のドライバーは20代より交通事故を起こしにくいことを示しています。わざわざ上記の事故を「高齢」と付けて報じることで、誤ったイメージが広がってしまう危険があります。繰り返しますが、死亡事故を減らすために、増え続ける高齢ドライバー(75歳以上)、とくに認知症に気づかないまま運転してしまう人への対策は有効だと考えられます。一方で高齢者にとって、自動車の運転が自立した生活の生命線であったり、「誇り」の象徴だったりするケースも少なくありません。いま対策が急務だからこそ、「なんとなく危なそう」というイメージではなく、データに基づいて「どんな年代の人に、何をすべきか」を冷静に考えていくことこそが大事なのではないでしょうか。 【注】第1当事者とは、事故当事者のうちもっとも過失の重い者のことを言います。 *11-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190421&ng=DGKKZO43942810Z10C19A4MM8000 (日経新聞 2019年4月21日) 自動車産業にCASEの重圧、直近ピーク比、時価総額57兆円減 自動運転など新しい技術の潮流「CASE(ケース)」が、世界の自動車産業を揺さぶっている。ソフトウエアなど不慣れな領域で投資・開発の負担が膨らみ、IT(情報技術)大手など異業種との競争も激化する。「100年に一度の大変革期」に突入した自動車産業。投資マネーは離散し、自動車株の時価総額は2018年1月の直近ピーク比で約57兆円(21%)減少した。「(CASE対応で)毎年1000億円以上の開発費が必要。営業利益は大きなマイナスのリスクを抱えている」。トヨタ自動車の白柳正義執行役員は18年12月の労働組合員向けの説明会で述べた。春季労使交渉は13年ぶりに回答日までもつれ、賃上げ額は組合要求を下回った。アイシン精機の社内でも危機感は強い。主力製品の自動変速機(AT)は「自動車がすべて電動化されれば、不要になってしまう」(幹部)。ハイブリッド車向けにモーターを組み込んだATの生産を拡大するなど生き残りを懸命に探る。曙ブレーキ工業が私的整理の一種、事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)を申請した背景にもCASEの重圧があった。業績が悪化するなかでも電動化を見据えた新しい構造のブレーキの開発を継続し、18年3月期の研究開発費は総額103億円と純利益の13倍に膨らんでいた。自動車産業の競争力を支えてきたのはエンジンなど「機械」の技術だ。しかし、CASE対応にはソフトウエアや半導体など別の技術が必要で、その領域ではIT大手など異業種勢が先行する。米グーグルは約10年前に自動運転車の開発に着手。手元資金も12兆円強と巨大で、有望な新技術を総ざらえするだけの財力もある。規制面での逆風も強く、英国とフランスはガソリン車・ディーゼル車の国内販売を40年までに禁止する方針だ。経営環境が悪化する自動車業界を投資マネーは回避している。主要自動車株の動きは世界の株式相場との連動性が薄れ、下振れが鮮明だ。15年末比で世界株が30%上昇しているのに対し、自動車株は4%安に沈む。同期間に米フォード・モーターや独ダイムラー、日産自動車の株価は2~3割下落。トヨタ、ホンダも1~2割下げた。半面、米ゼネラル・モーターズ、独フォルクスワーゲン(VW)は2割弱上昇。両社とも人員削減を含むリストラ策を決め、CASE対応の資金を捻出しやすくなったと市場で評価されている。部品メーカーでは世界大手の独コンチネンタルや仏ヴァレオが約3割下落。エンジンや変速機などの駆動系部品を手掛け、CASEに伴う事業規模の縮小が懸念材料だ。一方、電動車にも必要なシートなどの内装部品を扱う米リア・コーポレーション、ライト専業の小糸製作所は3~4割程度上昇している。トヨタが米配車サービス大手ウーバーテクノロジーズの自動運転部門への出資を決めるなど、既存勢力も巻き返しを急ぐ。自動車産業は裾野が広く、販売なども含めれば日本の全就業者の1割弱が従事するほどだ。「CASE革命」の帰結は、日本経済にも大きなインパクトを与える。 *12:https://digital.asahi.com/articles/ASM4N3RN9M4NUTPB008.html (朝日新聞 2019年4月21日) 市議初挑戦の91歳当選 マハティール氏復帰に押され 静岡県熱海市議選(定数15)では、山田治雄氏(91)が1975年の初当選から連続で12回目の当選を果たした。全国市議会議長会などによると、昨年8月時点で全国最高齢の市議だった。選挙戦では1日数回~10回ほどの街頭演説をするなど精力的に活動。当選を重ねるにつれて、支持者も高齢化し、亡くなったり投票に行けなくなったりする人が増えた。議会の定例会ごとに出す1400枚の報告はがきや市民相談で支持者とつながり、今回も議席を守った。当選後、「活動を評価してもらえた。山積みの高齢者の問題に取り組む」と力を込めた。佐賀県鹿島市議選(定数16)では、山田氏より8カ月若い無所属新顔の電気事業会社会長、高松昭三氏(91)が初当選を果たした。取材に「年寄りと思っていない。4年間やっていく自信がある」と語った。市の老人クラブ連合会長と県の連合会副会長を務める。独り暮らしのお年寄りに対する見回り活動などに力を入れる中で、県や市の高齢者支援の予算が不十分だと感じ、「老け込むには早過ぎる」と初めて立候補した。マレーシアのマハティール氏が昨年5月、当時92歳で首相に返り咲いたことも背中を押したという。健康には自信があり、「80歳ぐらいにしか見えないとみんな言う」と話す。告示日の14日の出陣式で、「老人のことを専門に(対応)する人が、議会に1人くらいいてもいいのではないか」と演説。選挙戦では、高齢者に優しいまちづくりや地元の桜の名所の整備などを訴えた。一方、埼玉県北本市議選(定数20)では、無所属元職の神田庄平氏(94)が落選。20年ぶりの返り咲きはならなかった。 <環境税・自然エネルギー・道路の進歩など> PS(2019年4月24、27日追加): *13-1のように、EUは2030年までに域内(加盟国28カ国)で販売するトラックやバスのCO₂排出量を2019年比で30%削減する方針を固め、温室効果ガスを出さない(水素や電気で走る)トラックの製造に向けた刺激にするそうだ。 一方、日本は、*13-2のように、2030年度までの燃費規制で2020年度目標から約3割の改善を義務付け、EVは走行に必要な電気をつくる際に化石燃料などを消費してCO₂を排出するので“電費”という概念を設けるそうだが、自然エネルギーを使って発電すればCO₂を全く排出しないため、化石燃料の使用時にCO₂排出量に応じて課税するのが合理的であり、そうするとCO₂等の排出に対して課す環境税になるわけである。 また、*13-3のように、小樽にある道路用資材製造販売の理研興業が、LEDで帯状に光るワイヤロープをネパールやインドネシアの街灯のない道路に試験設置してアジア市場の開拓を目指すそうだが、日本国内でも太陽光発電や蓄電池と組み合わせてLEDを使用したり、自動運転に必要な道路の設計や道路用資材の進歩があったりしてもよいと思われる。 なお、*13-4に、政府が定めた5年間の農協改革集中推進期間の期限が2019年5月末で、JAの自己改革が一定の成果を上げていると記載されているのは喜ばしいことだが、次の5年間は再エネ電力を副産物として収入を増やし、農業機械を電動化してコストを下げることにより、農家所得を増やすことも加えてはどうかと考える。何故なら、そのための補助金をつけてもらって金銭分配による補助金をなくせば、TPPやFTAに対抗しつつ、環境・財政・経済のすべてに貢献できるからだ。そのため、農林漁業由来の再エネを農協等で集め、*13-5のようなガス会社の電力子会社、大手電力会社、地方自治体、運輸・一般会社に販売する方法が考えられる。 ![]() ![]() ![]() 2019.3.15東京新聞 環境税がCO₂を減らす仕組み 各国の環境税導入年と概要 (図の説明:左図のように、エネルギー基本計画は恣意的な印象操作の上に成り立っている。また、中央の図のように、環境税を導入するとCO₂削減効果・財源効果・アナウンス効果があり、ヨーロッパでは、右図のように、1990年~2000年代前半に環境税か炭素税が導入されている) *13-1:http://qbiz.jp/article/149068/1/ (西日本新聞 2019年2月20日) トラックのCO2排出30%減へ EUが基本合意、30年まで 欧州連合(EU)は2030年までに、域内で販売するトラックやバス(新車)の二酸化炭素(CO2)排出量を19年比で30%削減する方針を固めた。全28加盟国で組織する閣僚理事会と欧州議会が基本合意したと両機関が19日発表した。合意内容が両機関で承認されれば正式合意となる。排出削減は2段階で実施し、25年までに15%削減を目指す。法令として法的拘束力を持つ。トラックはEU域内全自動車のCO2排出量の27%を占めるが、日米などと違い、排出制限がない。EU欧州委員会は昨年5月、30%削減を提案していた。合意へ向けて協議を主導した緑の党のエイカウト欧州議員は同日、ツイッターで「温室効果ガスを出さない(水素や電気で走る)トラック製造に向けた刺激となる」と述べた。大手自動車メーカーを抱えるドイツは野心的目標に難色を示したが折れた形。欧州自動車大手などで組織する欧州自動車工業会は、欧州にはトラック用の充電施設や水素ステーションが皆無だと指摘。こうした状況で「電気や通常の燃料以外で走るトラックを運送業者が急に買い始めるとは想定できない」と訴えた。EUは乗用車を巡っても、30年までにCO2排出量を21年目標と比べ、37・5%削減する方針で基本合意している。 *13-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190424&ng=DGKKZO44097710T20C19A4MM8000 (日経新聞 2019年4月24日) 車燃費3割改善義務 30年度目標、EV普及2~3割へ 走行電力も抑制 経済産業省と国土交通省は自動車メーカーに対し、2030年度までの燃費規制(総合2面きょうのことば)を課し、20年度目標から約3割の改善を義務付ける方針だ。現在は主にガソリン車やハイブリッド車を規制するが、電気自動車(EV)も同じ基準で位置づけ、メーカーに技術革新と販売車種の見直しを迫る。この規制で、EVを2~3割普及させる目標の達成を図る。燃費規制は個別の車種が対象ではなく、メーカーとして全販売台数の平均で達成しなければならない。11年に定めた現行の燃費規制は20年度にガソリン1リットルあたりの走行距離で約20キロメートルとした。09年度実績比で24.1%の改善を義務付ける内容だ。国内メーカーはこの基準を前倒しで達成できる見通しだ。新基準は両省が5月の大型連休明け後にも原案を示し、今夏をめどに決定する。これまでEVはガソリンを使わないため、燃料消費をゼロとして計算してきた。この方針を転換し、今後は走行に必要な電気をつくる際に化石燃料などを消費して二酸化炭素(CO2)を排出することで環境に負荷をかけているという概念を入れる。具体的にはEVが1キロメートル走るのにどれだけ電力を消費するかを示す「電費」という数値を消費燃費に換算し、電力使用量の削減に向けた技術革新を促していく。政府は今回の燃費規制を用い、次世代自動車の普及を進めていく方針だ。17年度時点でEVやプラグインハイブリッド車は新車販売台数の1%程度にすぎないが、30年に20~30%に高まる可能性がある。一方、従来のガソリン車は63%から30~50%に下がる見通しだ。一般的にEVはハイブリッド車やガソリン車に比べ環境負荷が小さく、燃費規制を達成するうえで有利とされる。一方で本格的な普及にはさらなる技術革新が必要だ。トヨタ自動車幹部は「ガソリン車だけで規制を満たすのは限界があり、当面の『現実解』であるハイブリッド車中心に電動車で対応することになる」と話す。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一アナリストは「各社は電動車比率など従来掲げてきた数値目標の前倒しが求められるだろう」と指摘する。政府は基準達成を判定する際、燃費に加え、省エネ性能の高いエアコンなどを搭載していれば基準を緩和することも検討する。30年度までに中間評価をして新制度の目標が適正か検証もする。世界でも30年前後の燃費規制の検討が進む。欧州連合(EU)はCO2排出量を30年までに21年目標に比べて37.5%削減する案をまとめた。ただしEUは日本の目標と異なり、EVが走行のために使う電気の環境負荷を考慮しない仕組みだ。EVの普及を強力に迫る規制で、ハイブリッド車などには距離を置く政策といえる。中国政府は19年から国内で年3万台以上を生産・輸入する自動車メーカーに対し、EVなど一定割合の「新エネルギー車」の生産・販売枠を義務付ける新規制を導入した。目標は19年に10%、20年には12%とする方針で、欧州と同様にEVシフトを強力に進める。 *13-3:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/282374 (北海道新聞 2019年3月3日) 光るワイヤロープ海外展開 小樽・理研興業 ネパールやインドネシア 街灯ない道路に 道路用資材製造販売の理研興業(小樽、柴尾耕三社長)は、同社の看板商品である、発光ダイオード(LED)で帯状に光るワイヤロープの海外展開に本格的に取り組む。まずはネパールの街灯がない道路に試験設置し、車が安全走行できるかを検証。インドネシアを含め、経済成長で交通安全対策の需要が高まっているアジア市場の開拓を目指す。同社は防雪柵で約5割の道内シェアを持つ。今後の国内、道内市場の縮小を見込み、海外の開拓を今後の中核事業に位置づけた。2017年、中央アジア・キルギスの山岳道路に防雪柵を設置し、海外に初進出した。光るワイヤロープは、ロープに取り付けたLEDが明るく点灯し、暴風雪時でも視認性を確保できる商品。太陽光が電源で、18年に国際特許を出願した。同社は、売り込み先として人口の多いインドに隣接するネパールに着目。国際協力機構(JICA)の協力を得て、今夏から20年冬まで、首都カトマンズ近郊と南部を結ぶ幹線で、夜間は通行止めになっている街灯のない山岳道路約160キロに試験設置し効果を探る。 *13-4:https://www.agrinews.co.jp/p47455.html (日本農業新聞 2019年4月24日) 改革期限1カ月 JAの成果 発信の好機 政府が定めた農協改革集中推進期間期限の5月末まで、あと1カ月。JAグループの自己改革の成果や今後の計画を発信する好機としたい。JAグループが地域に根差す協同組合であることを含め、理解を広げるきっかけにしよう。JAの自己改革は一定の成果を上げているが、3月の第28回JA全国大会で掲げた「自己改革の継続」も必要だ。同期間の期限を視野に、これまでの成果やこれからの計画の発信に力を入れるべきだ。2014年6月に政府が定めた「規制改革実施計画」では、「今後5年間を改革の集中推進期間」とし、JAグループに自己改革を求めた。規制改革推進会議は今年2月、「期間の最終年を見据え、さまざまな仕組みを徹底的に活用した自己改革がなされるよう促す」とし、重点フォローアップ事項の一つに据えた。組合員の声を踏まえた自己改革は着実に進展している。JA全中の18年4月時点の全JA調査によると、90%のJAが生産資材価格の引き下げや低コスト生産技術の確立・普及に取り組んでいる。この2年で9ポイント伸びた。第27回JA全国大会で決議した自己改革の「重点実施分野」に取り組むJAの割合は9分野全てで伸びた。「マーケットインに基づく生産・販売事業方式への転換」など4分野では10ポイント以上伸びている。全国連も成果を上げている。JA全農は17年3月に農家所得の増大に向けた事業改革方針と年次計画を策定。これまでの2年間は、米穀や園芸品目での直接販売金額、農薬の担い手直送規格の普及面積、肥料の銘柄集約・共同購入の仕組み作りなど、多くの項目で計画通り進んでいる。当初は、政府などから取り組みの具体化や高い目標の着実な実行を求める声があったが、順調に改革が進んでいることがうかがえる。JA全国大会では、JAグループ一体となって自己改革を継続することを決議した。それぞれのJAが組合員らの声を丁寧に聞きながら地域の課題に対応した改革を継続するとした。農水省調査によると、自己改革の進展について、JAと認定農業者の認識には依然として差がある。JAは組合員をはじめ広く国民に対し、これまでの成果や今後の取り組みについて発信し続けることが重要だ。全国大会では、改革の一つの節目としてこれまでの成果を広くアピールした。農協改革集中推進期間については、この間の改革の状況を政府が検証することになるが、JAとしては残り1カ月を有効に活用し、改革の成果などを対外的に発信する機会とすべきである。発信方法は多様だ。4、5月はイベントも多く、地域住民にJAの役割を知ってもらうチャンスとなる。トップ広報や組合員らの戸別訪問、マスコミへの発信など、さまざまな機会を捉えて情報発信を強化しよう。 *13-5:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/300596 (北海道新聞 2019年4月27日) 北ガス、風力発電参入へ 規模・立地検討 電力販売増に対応 LNG火発も2割増強 北海道ガス(札幌)の大槻博社長は26日、2019年3月期決算記者会見で「これからは再生可能エネルギーの取り合いになる」などと述べ、同社初の風力発電に早期参入する方針を示した。発電規模や立地場所は今後検討する。急成長する電力販売の増加に対応するため早ければ20年度にも、液化天然ガス(LNG)を使う北ガス石狩火力発電所(石狩市、出力7万8千キロワット)の発電能力を2割増強することも明らかにした。大槻社長は会見で「小さくても風力を自社で手がけたい」と話し、まずは小規模な風力発電を整備する考えを示した。風力発電のノウハウを積み、風力を含む再エネで他社との提携も視野に「中長期的には事業の大きな柱にしたい」と語った。ただ、天候に左右される再エネは出力が不安定で、太陽光発電などに加え、風力にも参入することで調整はさらに複雑になる。発電力の調節が容易な石狩湾新港のLNG火発の増強は、再エネ増加後の電力供給を安定させる狙いもある。 <新幹線長崎ルートの問題点と解決策> PS(2019年4月26日追加):*14-1のように、佐賀県南部には既に九州新幹線の新鳥栖駅があり、「新鳥栖-武雄温泉」間は、在来線を乗り継いだ方が所要時間は大差ないのに停車駅は減らないので便利だという佐賀県内の事情がある。そのため、*14-2のように、全線フル規格で長崎まで新幹線を整備したければ、これまで特急が通っていなかった佐賀県北部の「福岡-前原-伊都-唐津(末盧)-名護屋-伊万里-有田-武雄温泉」又は「福岡-伊都-新唐津(北波多付近)-武雄温泉」を結び、筑肥線か西九州自動車道の用地を利用して高架を作りながら海岸沿いを走らせれば、用地買収が少なくて海の景色がよい。なお、呼子・玄海町の近くに名護屋駅を作ると、玄海原発が停止しても玄海町がさびれずにすむ。 ![]() ![]() ![]() 新幹線長崎ルート予定 2018.3.31西日本新聞 佐賀県北部を走る筑肥線 (図の説明:左図の現在の計画で九州新幹線長崎ルートを建設すると、中央の表のように、佐賀県内は特急列車との時間差は少ないのに停車駅が減らされてマイナスが多く、確かに費用対効果が悪すぎる。しかし、右図の筑肥線か西九州自動車道用地に高架を作って佐賀県北部を通せば、現在は高速列車がなく用地買収も少ないため、費用対効果が高くなるのではないか?) *14-1:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/505860/ (西日本新聞 2019年4月26日) 「負担ゼロでも認めない」佐賀知事、新幹線建設を拒否 与党検討委 長崎ルート新鳥栖-武雄温泉 佐賀県の山口祥義知事は26日、九州新幹線西九州(長崎)ルートを巡る与党検討委員会に出席し、新鳥栖-武雄温泉の建設について「佐賀県は新幹線整備を求めたことはなく、現在も求めていない」と拒否した。武雄温泉-長崎は2022年度までの開業を目指してフル規格での建設が進む。新鳥栖-武雄温泉が着工できなければ、武雄温泉で在来線を乗り継ぐ「対面乗り換え」が長引くが、山口氏は「やむを得ない」と述べた。与党側は佐賀県の財政負担の軽減策を示したが、山口氏は「財政負担の問題ではない。負担ゼロでも建設は認めない」と反発、議論は深まらなかった。山本幸三委員長は終了後、記者団に「地元の意見聴取は終えた」と述べた。与党側は整備方式案を早期にまとめる方針だ。長崎県の中村法道知事は9日の検討委に出席し、全線フル規格での早期整備を求めている。 *14-2:https://diamond.jp/articles/-/181109?page=3 (週刊ダイヤモンド 2018.10.4) LCCジェットスターvs九州新幹線「長崎の戦い」が明暗を分けた裏事情、国と自治体、事業者で、議論が紛糾する新幹線長崎ルート LCCでこんなに手軽に行ける長崎に、新幹線では行きたくても行けない事態が起きている。JR博多駅から九州新幹線に乗って13分、新鳥栖駅に着いた。ここから西に分岐する西九州ルート(長崎ルート)の整備方式をめぐり、国と自治体、JR九州ら利害関係者の間で議論が紛糾している。事の発端は、車輪の幅を変えて在来線と新幹線どちらの線路も走れる「フリーゲージトレイン」(FGT)の技術だった。長崎ルートの新鳥栖~武雄温泉では、地元の佐賀県の建設費を軽減する狙いから日本で初めてFGTを導入する計画を進めてきた。しかし、技術開発が難航し、導入は見送られた。すると今度は、在来線を新幹線の線路にする「フル規格」か、在来線の線路を広げて新幹線も走れるようにする「ミニ新幹線」かの議論が浮上した。新幹線の速達性はフル規格が圧勝するが、建設費は倍以上、6000億円も掛かる。JR九州と長崎県はフル規格を推す。その理由は、2022年度に武雄温泉以西(~長崎)でフル規格新幹線が先行開業するからだ。そうなると、当座は博多から長崎を目指す人は、新鳥栖まで新幹線、武雄温泉まで在来線、長崎まで再び新幹線という面倒な乗り換えをしなければならず、乗客数が伸び悩んでしまう。こうして新幹線効果が薄れてしまうことを、JR九州と長崎県は危惧している。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 10:14 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2019,01,31, Thursday
![]() ![]() ![]() 2018.10.21朝日新聞 2017.9.1毎日新聞 2018.11.9時事 (図の説明:英国がEU離脱の国民投票を行った際、アイルランドでは反対が多く、特に北アイルランドは民族が北欧に近い。そのためか、英国は、離脱後も北アイルランドとEUを検問なしの状態にしたがっている。また、EU離脱の手切れ金は最大5.8兆円とされている) ![]() ![]() ![]() 2018.7.10毎日新聞 2019.1.6毎日新聞 2018.12.21毎日新聞 (図の説明:左図のように、1年間に入国した移住者は、ドイツ・米国が多く、英国・日本・韓国は、その1/3~1/2で同程度だ。また、中央の図のように、日本の財政は悪化の一途を辿り、現在はGDPに対する債務残高が世界一である。さらに、2019年度予算案は、歳入・歳出が右図のようになっているが、地方が稼げれば地方交付税は減らせるし、借り換えすれば国債利子は減らすことができる。また、防衛費は多すぎるだろう) (1)「保護主義」「ポピュリズム」「ナショナリズム」の定義は何なのか 「スイスで開かれたダボス会議は、各国でポピュリズムとナショナリズムが台頭して国際協調や自由貿易の理念が揺らぎ、グローバル化の価値に関する議論が熱を帯びた」と、*1-1-1に書かれているが、トランプ米大統領が国境の壁を作ると主張したり、メイ英首相が英国のEU離脱交渉で苦労したりしているのは、反グローバル主義ではなく、国の主権が認められないほど過度な自由化を強制されることに対する国民の異議申し立てを反映したものである。 そのため、これら多くの国民の異議申し立てを、*1-1-2のように、ポピュリズム(*1-6のうちの大衆迎合主義)として保護主義や国際協調の危機と一刀両断するのは、日本とは違って、既に徹底してグローバル化を行ってきた国の人々が到達した真理を無視する周回遅れの解釈であり、ポピュリズムなどと言っている人の方が、思考停止していると考える。 1)日本の経産省発案のTPPについて 日本政府は、*1-1-3のように、「自由貿易の旗手として全力を尽くす」としているが、徹底したグローバル主義のEUは、*1-2-1のように、対米貿易交渉で農産品を除外した。何故なら、世界人口が爆発的に増加している中では、長期的には食糧を自給できる政策が必要であり、*1-2-2のように、狭い範囲の現在しか考えていない政策では、経済発展どころか自国民への食料確保もおぼつかなくなるからで、これもりっぱな産業政策なのである。 2)英国のEU離脱について メイ首相は、*1-3-1のように、国民投票で決まったEU離脱に向けた国内の合意形成に苦労しているが、その理由は、*1-3-2のように、①350億─390億ユーロ(410億─460億ドル)ものEUへの清算金支払い ②スコットランドの独立問題 ③EUの後押しを受けた北アイルランドのEU離脱反対 などだそうで、気の毒なほどの難題だ。 そして、*1-3-3のように、2019年1月29日、英下院はEUとの離脱合意案の修正を求める議員提案を賛成多数で可決したが、EUのトゥスク大統領は、「離脱協定は再交渉しない」「英側が要求すれば離脱延期を検討する」としているそうで、私には、EUの要求は高すぎる手切れ金に思える。 この両方を解決する方法としては、民族がヨーロッパに近くEU離脱反対が多かったことから、北アイルランド(又はアイルランド)を特区としてEUに加盟させ、その面積分の拠出金を支払い続けて、その面積に比例して手切れ金をカットしてもらうのはどうだろうか。その時、北アイルランド(又はアイルランド)と英国の間には税関が復活するのが道理で、そうなると公用語が英語というメリットがあるため、EUを視野に入れる企業は北アイルランド(又はアイルランド)に集積することになるだろう。 3)ギリシャの緊縮策について ギリシャは、*1-4のように、金融支援したEUの要求で、年金削減や増税などの緊縮策により財政黒字化を達成し、2017年には3年ぶりにプラス成長に転換したが、国内総生産(GDP)はギリシャ危機前に比べて約4分の3の規模に縮小したそうだ。 EUは単一通貨ユーロを使うため、財政統合や共通予算の導入などが要求され、金融政策や財政政策の独立性が乏しい。もちろん、①速すぎるリタイアと年金受給 ②高すぎる公務員割合では、どこの国でも持続可能性がないが、国によって積極財政による投資を行うべき時期と財政黒字化に専念すべき時期に差があり、①②を解決するには、民間のよい仕事を増やして失業率を下げなければ国民が生活できなくなる。 にもかかわらず、EUのように一律に財政規律のみを言っていると、それぞれの国の個性を活かした発展ができず、北部欧州と南部欧州の両方で不満が溜まる。そして、多くの国民が感じているこの真実を、「内向き姿勢のポピュリズム(大衆迎合主義)」として切り捨てていると、問題を深刻化させると同時に、遠心力を働かせることになるわけである。 4)イタリアの予算について イタリアも、*1-5のように、2019年予算案についてEUから修正を求められ、その内容は、公的債務の多いイタリアの支出増に対する懸念だそうだが、やはり失業者に対する支出を減らすには積極財政によって必要な投資を行い、失業者を減らす必要がある。そして、イタリアもギリシャも、歴史的建造物は壊れ、街が博物館のようになっているため、やるべき仕事は多い。 なお、イタリアの公的債務残高は対GDP比131パーセントで、EU加盟国では金融支援を受けたギリシャの債務残高(GDP比179%《2016年》)に次いで2番目に多いとのことだが、これは、*2の日本の政府債務(GDP比239%《2016年》)よりずっと低い。しかし、公的債務や政府債務のみを取り上げて議論するのは間違っており、国有財産を差し引いた純債務について議論すべきであり、国有財産(資源を含む)は活かして使わなければならないのである。 (2)日本政府の債務について 主に日本の財務省発の意見なのだが、*2は、GDP比で239%(2016年)もの世界一の借金を抱えている日本政府の財政の悪化が真の国難であり、その解決策は、①ハイパーインフレによる国の借金棒引き ②大幅増税 ③社会保障費などの国民に対するサービスの大幅削減 しかなく、①は副作用が強すぎるため、②③の併用を徐々に進める以外には処方箋はないとしている。 この思考でおかしいのは、歴史のみを参考にし、条件は変わらないと見做して、小中学生でもできるような数字の加減乗除だけで結論を出していることだ。しかし、実際には、これまで利用していなかった資源を利用できるようになったり、生産性が飛躍的に伸びたり、それを支える国民の教育水準が上がったりしているため、それらを無駄にすることなく利用すべきなのだ。 ・・参考資料・・ <国境を護ることは、大衆迎合主義か?> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190127&ng=DGKKZO40529660W9A120C1EA1000 (日経新聞 2019年1月27日) ダボス会議を陰らす反グローバル主義 スイスで開いた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)は、グローバル化をめぐる世界のきしみを色濃く映し出す会合となった。各国でポピュリズムとナショナリズムが台頭し、国際協調や自由貿易の理念が揺らぐ中で、グローバル化の価値をどう再定義するかという議論が熱を帯びた。政治ショーとして見ると、今年のダボス会議は精彩を欠いた。トランプ米大統領、メイ英首相、マクロン仏大統領らが、国内の混乱のため欠席したためだ。米国の「国境の壁」や英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる騒動は、それぞれの国内で高まる反グローバル主義の帰結でもある。自分がグローバル化の犠牲者だと感じる人々が増え、多くの民主主義国で排外的な政治家が支持されている。この世界の現実に目を背けることはできない。グローバル化の旗を振ってきたダボス会議が、グローバル化のあり方を問い直す場に変質したといえる。だが、ダボスを悲観論が覆っていたわけではない。ショーの派手さはないが、企業経営者や学術界の重鎮が、膝を詰めて議論を深めた意義は大きい。単にグローバル化を礼賛するだけの理想論は聞こえず、課題ごとに現実的な打開策を探ろうとする声が目立った。注目を集めた個別の議題には、機能不全に陥った世界貿易機関(WTO)の改革、データ流通の国際ルールづくり、人工知能(AI)開発の指針、プラスチック環境汚染への取り組みなどがある。こうした国家単位では解決できない課題に焦点を当てて、各国の有力者が問題意識を共有すれば、反グローバル主義の抑制にもつながる。会議で浮き彫りになったのは、格差や衝突を生むのではなく多様な価値観を包み込む新しいグローバル化への期待である。米中欧の首脳がいないダボス会議は、安倍晋三首相が存在感を示す好機となった。日本が主導した電子商取引(EC)の国際ルールづくりで、中国を含む76カ国・地域が正式協議の開始で合意したのは、日本外交の成果といえる。とはいえ、6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議への意欲を語る首相の講演が、大きな反響を呼んだとは言い難い。米欧の指導力が衰えた今、国際秩序の再構築で日本が果たすべき役割は重い。世界に向けて語る言葉が説得力を持つには、経済と外交で着実に実績を積むしかない。 *1-1-2:http://qbiz.jp/article/147291/1/ (西日本新聞 2019年1月17日) 反保護主義へ、日本がG20主導 麻生氏「国際協調が危機」 新興国を含む20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁代理会議が17日、東京都内で開かれ、日本が議長国を務める2019年のG20が始動した。米中貿易摩擦が深刻化する中での開催となり、麻生太郎財務相は冒頭で「国際経済秩序や国際協調は危機にひんしている」と強調。反保護主義や自由貿易体制の維持に向け、日本が議論を主導していく決意を表明した。日銀の黒田東彦総裁も「国際貿易は経済成長や生産性の向上をもたらす」と述べ、自由貿易の重要性を訴えた。代理会議は18日まで。G20は08年に起きたリーマン・ショックの克服に成果を上げたが、昨年の首脳宣言ではトランプ米政権の意向で反保護主義の文言が削られるなど、最近は協調体制の揺らぎが目立つ。米国が問題視する貿易赤字は旺盛な国内消費などの構造要因によるもので、米中や日米などの2国間交渉では解決困難だとの認識の共有を目指す。また中国を念頭に途上国融資の規模などの透明化を提案。米中に自制を促し、世界経済の安定成長への回帰を狙う。多国籍IT企業のデジタル取引への課税や仮想通貨への規制でも国際的な合意を目指す。高齢化による労働力不足などを乗り越える経済政策も議題とする。議論は、6月の財務相・中央銀行総裁会議(福岡市)や首脳会合(大阪サミット)に向けて行われる。日本はG20議長国として農相会合(新潟市)や労働雇用相会合(松山市)なども主催する。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40223950Z10C19A1000000/ (日経新聞 2019/1/19) TPP閣僚級会合が開幕 首相「自由貿易の旗手へ全力」 環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する11カ国の閣僚級会合「TPP委員会」が19日、都内で開幕した。安倍晋三首相は会合の冒頭で「自由貿易の旗手として全力を尽くす決意だ」と述べた。「保護主義への誘惑が生まれているが、時計の針を決して逆戻りさせてはならない」と強調した。米中が追加関税の応酬を繰り広げるなど保護主義が世界で広がっており、首相は自由貿易圏の拡大の重要性を訴えた。TPPは昨年12月に発効した。閣僚級会合の開催は発効後初めて。茂木敏充経済財政・再生相が議長を務める。新たに加入を希望する国・地域との具体的な交渉手順などを正式に決定する。首相は「私たちの理念に共鳴し、TPPのハイスタンダードを受け入れる用意のある全ての国・地域に対し、ドアはオープンだ。自由で公正な貿易を求める多くの国々の協定への参加を期待している」と述べた。閉幕後に共同声明を発表する。 *1-2-1:http://qbiz.jp/article/147404/1/ (西日本新聞 2019年1月19日) EUが対米貿易交渉指針案を発表 農産物除外、立場に隔たり 欧州連合(EU)欧州委員会は18日、米国との貿易交渉の指針案を発表した。工業製品の関税や非関税障壁の撤廃で合意を目指すことに集中し、農産品は交渉から「除外する」としている。ただ、米通商代表部(USTR)は11日、対EU交渉で農産品の包括的な市場開放を目指すと議会に通知。米欧の立場の隔たりは大きく、交渉入りが遅れる可能性がある。その場合、業を煮やしたトランプ米大統領が、欧州製自動車などに対する高関税導入を再び訴える恐れもありそうだ。EUの通商担当閣僚に当たるマルムストローム欧州委員は記者会見で、交渉開始時期は「(加盟国の貿易担当)閣僚理事会が決める」と述べるにとどめた。また、広範な自由貿易協定(FTA)を結ぶつもりはないと強調した。米農産品の輸入拡大はEU有力国で農業国のフランスなどが強く反対している。ユンケル欧州委員長とトランプ大統領は昨年7月、「自動車を除く工業製品」の関税撤廃協議の開始で合意。これによってトランプ氏が「本丸」と位置付ける欧州製自動車への高関税の発動をひとまず阻止した。 *1-2-2:https://www.agrinews.co.jp/p46499.html (日本農業新聞 2019年1月22日) 政治経済システムと経済学の欠陥 誤った「合理性」前提 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏 日本は「保護主義と闘う自由貿易の旗手」のように振る舞っている。規制緩和・自由貿易を推進すれば、「対等な競争条件」で経済利益が増大すると言われると納得してしまいがちであるが、本質は、日米などのグローバル企業が「今だけ、金だけ、自分だけ」(3だけ主義)でもうけられるルールを世界に広げようとするたくらみである。現地の人は安く働かされ、国内の人も低賃金で働くか失業する。だから、保護主義VS自由貿易は、国民の利益VSオトモダチ(グローバル企業)の利益と言い換えると分かりやすい。彼らと政治(by献金)、行政(by天下り)、メディア(byスポンサー料)、研究者(by資金)が一体化するメカニズムは現在の政治経済システムが持っている普遍的欠陥である。環太平洋連携協定(TPP)は本来の自由貿易でないとスティグリッツ教授は言い、「本来の」自由貿易は肯定する。しかし、「本来の」自由貿易なるものは現実には存在しない。規制緩和や自由貿易の利益の前提となる完全雇用や完全競争は「幻想」で、必ず失業と格差、さらなる富の集中につながるからである。市場支配力のある市場での規制緩和(拮抗=きっこう=力の排除)はさらなる富の集中により市場をゆがめるので理論的に間違っている。理論の基礎となる前提が現実には存在しない「理論」は本来の理論ではない。理論は現実を説明するために存在する。「理論」に現実を押し込めようとするのは学問ではない。3だけ主義を利するだけである。本質を見抜いた米国民はTPPを否定したが、日本は「TPPゾンビ」の増殖にまい進している。実は、米国の調査(2018年)では、国際貿易によって国民の雇用が増えるか減るかという質問への回答は、米国が増加36%、減少34%に対し、日本は増加21%、減少31%。日本人の方が相対的に多くが貿易が失業につながる懸念を持っているのに、政治の流れは逆行している。理由の一つは、日本では国民を守るための対抗力としての労働組合や協同組合が力を巧妙にそがれてきたことにある。米国では最大労組(AFL―CIO)がTPP反対のうねりを起こす大きな原動力となったのと日本の最大労組の行動は、対照的である。 「自由貿易に反対するのは人間が合理的に行動していないことを意味する。人間は合理的でないことが社会心理学、行動経済学の最近の成果として示されている」と言う経済学者がいるが、行動経済学は人間の不合理性を示したのでなく、従来の経済学の前提とする合理性を否定したのである。3だけ主義で行動するのが「合理的」人間ではなく、多くの人はもっと幅広い要素を勘案して総合的に行動する。それが合理性である。米国でシカゴ学派の経済学をたたき込まれた「信奉者」たち(無邪気に信じているタイプも意図的に企業利益のために悪用しているタイプも)は、誤った合理性と架空の前提という2大欠陥を直視すべきだ。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190117&ng=DGKKZO40100720X10C19A1MM0000 (日経新聞 2019.1.17) 英議会、僅差で内閣不信任案否決 メイ首相続投、EU離脱 混迷続く 英議会は16日夜(日本時間17日早朝)、メイ内閣の不信任決議案を採決し、与党・保守党などの反対多数で否決した。メイ首相はひとまず目先の危機を乗り切り、欧州連合(EU)からの離脱に向けた国内の合意形成に注力する。ただ15日に大差で否決された英・EUの離脱案に代わる案をまとめるのは簡単ではなく、英政治の混迷は続きそうだ。不信任決議案は英・EUで合意した離脱案の否決を受けて、野党第1党の労働党が提出した。採決には下院議員650人のうち、議長団などを除いた議員が参加。賛成306票、反対325票だった。閣外協力している北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の10人が反対に回り、DUPの支援がなければ不信任決議案が可決しかねない僅差の投票結果だった。続投が決まったメイ首相は「国民との約束であるEU離脱のために働き続ける」と語った。15日の離脱案の採決では保守党など与党内から大量の造反が出たため、政府側が230票差という歴史的な大差で敗れた。だが今回の不信任決議案では与党議員が解散・総選挙で議席を失うことを恐れ、メイ首相の支持に回った。不信任を免れたメイ英首相は今後、21日までに代替案を議会に提示する。英議会によると代替案の採決は30日までに行われる予定だ。メイ首相は英議会で支持を得られる案をつくるため、各党幹部と個別に会談を重ねる方針。そこで国内の意見を固めたうえで、EUとの再協議に臨みたい考えだ。ただ英議会ではEUとの明確な決別を求める意見もあれば、2度目の国民投票によるEU残留を求める声もあるなど議論の収拾がつく見通しは立たない。一方、EU側は離脱案の修正を認めておらず、仮に英側が超党派協議で案をまとめてもそれを受け入れるとは限らない。代替案が1つに絞れない中で経済に混乱を及ぼす「合意なき離脱」を避けるには、離脱時期の延長も視野に入る。欧州委員会の報道官は「英国が正当な理由を示せば、EU首脳は離脱時期の延期を受け入れる可能性がある」と語った。 *1-3-2:https://blogos.com/article/324715/ (ロイター 2018年9月13日) 英EU離脱交渉、合意可能だが決裂なら清算金支払わない=英担当相 英国のラーブ欧州連合(EU)離脱担当相は12日付の英紙デーリー・テレグラフへの寄稿で、離脱後の関係を巡るEUとの合意は手の届くところにあるとの見方を示した。ただ、交渉が決裂した場合は離脱に伴う「清算金」の支払いを見送ることになると表明した。EU当局者らによる最近の発言を背景に、英国とEUが将来的な通商関係について合意することは可能との期待感が強まっており、ポンドは他通貨に対してここ数週間で上昇している。ただ、来年3月29日の離脱日が刻一刻と近づくなか、交渉はまだ決着しておらず、「合意なきブレグジット(英EU離脱)」のシナリオがなお存在している。ラーブ氏は「EUが英国に匹敵する野心と現実主義を掲げるならば、合意は手の届くところにある」と記した。EUのバルニエ主席交渉官が最近使った表現を踏襲した。ラーブ氏はまた、「合意なき」離脱は短期的な混乱をもたらすことになるが、「それを埋め合わせるだけの機会」が英国側に生じることになると指摘。「その場合は英政府はEUと合意した清算金を支払わない。全体の合意がなければ個別の合意は成立しない」と続けた。英国は既に350億─390億ユーロ(410億─460億ドル)の清算金の支払いに合意している。英国のEU離脱後、数十年間かけて支払うことになっている。 *1-3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019013001001028.html (東京新聞 2019年1月30日) 英、離脱再交渉要求 EUは拒否、延期検討も 英下院は29日夜(日本時間30日朝)、欧州連合(EU)との離脱合意案の修正を求める議員提案を賛成多数で可決した。EUに同案の再交渉を求める方針を示したメイ首相を支持した形だが、EUのトゥスク大統領は声明で、合意案の根幹である離脱協定は「再交渉しない」との姿勢を明確にした。離脱が3月29日に迫る中、経済や社会に大混乱をもたらしかねない「合意なき離脱」が一段と現実味を増した。 メイ氏は近くEUに再交渉を求める方針だが、局面打開の見通しは立っていない。こうした中、トゥスク氏は英側が要求すれば離脱延期を検討する用意があると表明した。 *1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34355090Q8A820C1EA1000/ (西日本新聞 2018/8/20) ギリシャ、自立へ一歩 EUの金融支援が終了 欧州債務危機の震源地となったギリシャは20日、8年に及ぶ欧州連合(EU)の金融支援から脱却した。ギリシャは自立に向け国債市場に本格復帰し、安定発行という課題に向き合う。一方、単一通貨ユーロの改革は財政統合や共通予算の導入を巡り停滞、危機の再発防止に不安を残す。「生活が良くなる見通しがない。何も変わらない」。20日朝、アテネ中心部の議会前。5年前の失業を機に清掃の仕事を続けるユージニアさん(49)はこぼした。週5日1日12時間働くが月給は400ユーロ(約5万円)にすぎない。ギリシャは2009年に財政粉飾が発覚し、世界の金融市場を揺さぶった。10年から3次にわたった支援の融資総額は国際通貨基金(IMF)拠出分を加えると約2900億ユーロに達した。年金削減や増税などの緊縮策によって、ギリシャは財政黒字化を達成、17年には3年ぶりにプラス成長に転換した。だが、国内総生産(GDP)は危機前に比べ約4分の3の規模に縮小した。ギリシャは今後、債務の借り換えなど財政運営に必要な資金を国債市場から直接調達する。しかし金利はユーロ圏の低利融資を上回り、19年9月に任期満了が迫るチプラス政権も有権者受けを狙ったばらまき策の誘惑がつきまとう。国債の安定発行は容易ではないのが実情だ。四半期ごとに財政規律の順守を点検・監視するEUやIMFとの衝突懸念も拭えない。それでも「グレグジット」(ギリシャのEU離脱)まで取り沙汰されたギリシャ危機だったが、ユーロはひとまず生き延びた。ユーロ圏は危機時に加盟国を支援する常設基金「欧州安定メカニズム(ESM)」を創設。EU基本条約(リスボン条約)上は禁じていた加盟国への財政援助・金融支援に道を開き、危機時の耐性を強化。圏内でバラバラだった金融機関の監督なども一元化した。しかし、ギリシャ危機を結束して乗り切ったものの、平時から危機を予防するユーロ改革は道半ばだ。最たるものが「通貨はひとつだが、財政はバラバラ」という根本問題への対応。ユーロ圏の共通予算編成などを通じて、ドイツなど豊かな北部欧州から南欧への財政資金を移転する必要性が指摘されながらも、南欧のモラルハザードにつながるとの北部の懸念が強く、実現は遠い。ユーロ圏各国でも広がるポピュリズム(大衆迎合主義)の内向き姿勢もユーロ改革をさらに難しくしている。イタリアではポピュリズム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権がギリシャ危機の反省で強化されたEUの財政規律ルールに反発。財政を巡る南北対立が再び深まる懸念が強まり、次の危機に結束した対応が取れるかどうかは不透明だ。19年で退任するユンケル委員長をトップとするEUの欧州委員会は現体制下での抜本的ユーロ改革を実質的に断念した。欧州が懸念するのはギリシャだけではない。米国との対立を端緒に通貨が急落したトルコの動きに神経をとがらせる。ギリシャの公的債務残高は17年末時点でGDP比約179%に達するのに対し、約28%のトルコ政府は財政体質は健全とみられるが、政権の強権化や中銀への圧力が通貨の信認低下を招いている。トルコで懸念されているのは、外貨建て債務負担の増大に苦しむ企業の破綻が相次ぎ、影響が銀行部門に及ぶ事態だ。トルコには欧州の主要行も進出している。ギリシャとは異なる種類の金融危機が欧州を襲う可能性は消えていない。 *1-5:https://www.bbc.com/japanese/45961814 (BBC 2018年10月24日) 欧州委、イタリアに予算案修正を要求 史上初 欧州連合(EU)の欧州委員会は23日、イタリアの2019年予算案についてイタリア政府に修正を求めた。EU加盟国の国家予算案を欧州委員会が拒否したのは初めて。イタリアはユーロ圏で3番目に大きい経済規模を持つが、ただでさえ公的債務の膨らむイタリアの支出増を欧州委員会は懸念している。政権与党のポピュリスト政党「同盟」と「五つ星運動」は、失業者への最低収入保証など支出増を伴う選挙公約の実現を約束している。欧州委員会はイタリアに求める新たな予算案の提出期限を3週間とした。イタリアの予算原案は、欧州委員会の勧告に順守していない部分があり、それが「特に深刻」だと委員会は懸念を示している。欧州委員会のユーロ問題担当副委員長、バルディス・ドムブロフスキス氏は、委員会の懸念に対するイタリアの回答は、懸念緩和に「不十分」だったと指摘。ユーロの規則は全加盟国に平等だと述べた。イタリアのルイジ・ディ・マイオ副首相はフェイスブックに、「イタリア予算案が初めて、EUに嫌われた。特に驚かない。EUではなく、イタリア政府が作った初のイタリア予算だからだ!」と書いた。もう1人の副首相マッテオ・サルビーニ氏は、EUに予算を拒否されても「だからといって何も変わらない」と付け加えた。サルビーニ副首相は「欧州委員会は政府ではなく、国民を攻撃している。イタリア国民をさらに怒らせるだろう」と述べた。 ●イタリアがより多くの支出を望む理由 今年発足したイタリア新政権は、失業者への最低収入保証などによる「貧困の終結」を約束している。 他の貧困対策には、減税や定年引き上げ撤廃など、3月の選挙で重要公約を実現するための施策が含まれている。EUに反発するジュゼッペ・コンテ首相はすでに、財政赤字が国内総生産(GDP)の2.4%より大きくなることはないと主張していた。ただ、財政赤字目標は前政権が提示した予算案の3倍となっている。イタリアの公的債務残高は対GDP比131パーセントとなっており、EU加盟国では金融支援を受けたギリシャに次ぐ2番目。この債務を無理に返済すれば、10年前の金融危機からいまだ回復できていないイタリア国民を苦しめると政府は主張している。イタリア経済は依然として金融危機前の2008年の水準まで回復していない。同盟と五つ星運動は、支出増が経済成長に弾みをつけるとしている。 ●劣悪なイタリアの債務状況 ユーロ離脱について中立を保つイタリアのジョバンニ・トリア財務相と、海外アナリストは、イタリアの財政赤字が対GDP比2%以下を維持し、場合によっては1.6%の低水準にまで下がってほしいと期待していた。EUはユーロ圏の規則として、財政赤字をGDPの3%以下とするよう求めている。GDPの2.4%というイタリアの財政赤字状況はこの制限値に近づいており、同国の債務状況は警戒が必要な水準になっている。ドムブロフスキス副委員長は、「欧州委員会がユーロ圏内の国に予算案草案の修正を求めざるを得なくなったのは今回が初めてだが、イタリア政府にそう要求する以外の代替案はないと判断した」と述べた。イタリアの納税者が、教育費と同じくらいの額を公的債務返済にあてなくてはならない事態になっていると、ドムブロフスキス氏は指摘した。同氏は「ルール違反は、最初は魅力的に見えるかもしれない。自由になるという幻想を提供してくれるので」と述べた。「借金を借金で返そうとするのは、魅力的かなこともしれない。しかしいずれ、債務負担が限界を超えてしまえば(中略) 最終的には一切の自由を失ってしまう」。イタリアが予算案を9月に発表すると、市場の混乱は数週間続いた。欧州委員会が23日にイタリア予算案を拒否すると発表するまで、欧州市場の株価は過去2年近くで最低水準まで下落した。委員会の発表後、市場におけるイタリアの地位の相対基準として使われるイタリア・ドイツ10年債利回り格差は、過去最大となる314ベーシスポイントまで広がった。 <解説>イタリアは譲らない――ケビン・コノリー、BBC欧州特派員 イタリアはEUと衝突する道に突進しており、論争はユーロ圏を未知の領域に導いている。 EU当局は予算案を拒否し、修正案を要求する権利を持つ。要求が無視されれば、罰金を科すこともできる。EUがこの段階まで進むのは初めてだ。EUの政治的エネルギーは現在、英国のEU離脱交渉に吸い取られている。その最中だというのに、EUはさらに、最大級の加盟国との対立を長引かせることと、他のユーロ圏各国にルール違反をさせないよう強硬策でにらみを利かせることの是非を、比較検討しなくてはならない。イタリア政府は、自分たちが決めた対策は成長回復に必要なものなので、譲歩するつもりはないと主張している。 *1-6:https://dictionary.goo.ne.jp/jn/205148/meaning/m0u/ (Goo) ポピュリズムの意味 1 19世紀末に米国に起こった農民を中心とする社会改革運動。人民党を結成し、政治の 民主化や景気対策を要求した。 2 一般に、労働者・貧農・都市中間層などの人民諸階級に対する所得再分配、政治的 権利の拡大を唱える主義。 3 大衆に迎合しようとする態度。大衆迎合主義。 <日本の財政> *2:https://blogs.yahoo.co.jp/sansantori/43451236.html?__ysp=5pel5pys44Gu5YWs55qE5YK15YuZ5q6L6auYIOWvvkdEUOavlCDoqJjkuos%3D (Yahoo 2017/10/22) 政府債務が対GDP比200%超の国の末路-(1) 昨夜から雨。今日は衆院選の投票日。午後からは台風接近で雨に加えて強風が吹きそうなので、午前中に投票所に行く予定。安倍総理によると今回は「国難」選挙だそうだが、真の国難とは、日本政府の財政の悪化だろう。GDP比で239%(2016年)もの世界一の借金を抱えている国の国政選挙だというのに、各党の立候補者も、これについては一言も触れようとしない。このままでは、国民全体が本当に「ゆでガエル」になってしまう。書店に行くと、「国の借金をもっと増やしても日本は大丈夫だ!」と主張する本が未だに山積みされている。ということは、今までの延長線上を走っていれば問題ないと考えている日本人が、まだまだたくさんいるということを示している。この機会に、この問題について明確にしておきたい。まずは、過去の歴史のおさらいから。下に過去約130年間の日本政府債務の推移のグラフを示す。青色で示した純債務は、粗債務から政府の保有する金融資産を引いた残りを示している。小さなものも入れると粗債務のピークは三つある。1905年前後の日露戦争、1944年のピークは太平洋戦争、1990年前後のバブル崩壊であり、前の二つは戦争からの財政回復過程である。現在、急速に進行中の政府債務増加は、いつがピークになるのだろうか?さっぱり先が読めない。日露戦争の後、当時の明治政府の財政規律は厳格であった。プライマリーバランスが厳しく守られ、財政は順調に回復している。一方、先の大戦直後の急激な回復は、いわば国による債務の踏み倒しであり、国による国民財産の強奪によって成し遂げられたものである。ハイパーインフレ(消費者物価が戦前の350倍に急騰)と、新円切り替えの強行によって、銀行や国民が抱えていた発行済の国債は紙くずに化けてしまった。国家財政の破産、デフォルトにほかならない。バブル崩壊後のわずかな回復については、プライマリーバランスの健全化と若干の経済成長によるものであった。この辺は大事なところなので、このグラフの出典元である次の記事をぜひ読んでいただきたい。特に、プライマリーバランス実現の先送りを表明した安倍総理、ならびに消費税8%→10%実施の先送りを唱えている野党幹部は必読すべきだと思う。 ●「政府債務の歴史に教えられること」 独立行政法人 経済産業研究所 さて、現在の日本のように対GDP比で200%を超える政府負債を抱えた国家が、破産に陥ることなく健全に財政を回復できた例はいままでにあったのだろうか?筆者は最近、この点に興味を持って時々調べているが、現在までの調査結果によれば、デフォルトを回避できた例は過去にたった二例しかない。いずれも英国に関するものである。一方、過剰な政府債務が原因で国家破綻した例は、それこそ無数にある。下に、英国の過去300年間にわたる政府債務の推移を示す。米国と日本の推移も合わせて示している。なお、このグラフも、上に挙げた経済産業研の記事からの引用である。第二次大戦後の日本のように国家破綻した場合には、債務が急速にほぼゼロとなる。これに対して、英国・米国のように、経済成長、緊縮財政、ゆるやかなインフレによって安全に財政が改善した場合には、債務は時間をかけて徐々に下降していることがよく判る。英国の政府負債推移の中の1820年前後のピークは、1815年に終結した対仏ナポレオン戦争の戦費によるものである。この巨額負債は、大英帝国の全盛期であった19世紀末のビクトリア女王の時代までかかって返済されている。ご存知のように、19世紀の英国はインドや東南アジアなどの海外に膨大な植民地を領有していた。国内では蒸気機関を応用した鉄道や織物産業などが飛躍的に発展して産業革命が進行中であった。また、インドで栽培したアヘンを中国に売りつけるなど、軍事力を背景として弱小国から強引に利益を強奪する手法も得意技だった。これらの急速な経済発展と利益蓄積によって、対GDP比200%の政府負債を約50%まで削減できたのである。次の英国政府負債のピークは、第二次大戦中の1945年の約250%である。1914年に勃発した第一次世界大戦の戦費返済が進まないうちに、第二次世界大戦が始まってしまったのである。二度の大戦後の英国は海外植民地が次々に独立、世界経済の中心は米国に移って国内経済は疲弊した。戦後すぐの労働党による主要産業の国有化も失敗に終わり、英国の製造業はほぼ壊滅した。閉塞状況下の1950年代にはアラン・シリトーの「長距離走者の孤独」などに描写された「怒れる若者たち」が現れた。この流れを受けて1960年代にはリバプールにビートルズ(戦後の英国における最大の世界貢献?)が誕生した。この時期の英国社会の困窮については、次の記事からも読み取ることができる。 ●「GDP比250%の政府債務を二度も返した英国」 1945年から約40年をかけてぼう大な戦費をほぼ返済したわけだが、この間のインフレ率が高かったことも、国民生活では困窮したものの、負債の軽減には効果があった。英国経済が上向きに転じたのは、今世紀になってから世界経済のグローバル化によってロンドンが金融業の中心地として復活したためとされている。現在の国際社会においては、19世紀の英国のような、海外植民地からの収奪、アヘン戦争勝利などによる相手国からの賠償金獲得などは、到底、実行不可能である。日本政府がいま抱えている巨額の政府負債の解消は、次の三種類の方策のいずれかによるほかはない。 ① ハイパーインフレによる国の借金棒引き、要するに国家の破産宣言 ② 大幅増税 ③ 社会保障費などの国民に対するサービスの大幅削減 ①は政府自体が無責任極まりないし、あまりにも副作用が強く、かつ社会の大混乱は必至であり回避するのが当然である。②と③の併用を徐々に進める以外には処方箋はないはずだ。国内のエコノミストや経済誌の記事の大部分もほぼ同じ結論なのだが、一部には、「まだ国の借金を増やしても全然OK」というトンデモ論を吹聴している者がいる。「世の中には、タダのメシなどない」(There ain't no such thing as a free lunch.)。次回は、このトンデモ論の中味について調べて見たい。なお、次の資料には、世界各国で過去に発生した国家破綻・デフォルトの事例が多数挙げられています。 ●「財政再建にどう取り組むか」 日本総研 この資料の中の各先進国債務の比較図を下に示しておきましょう。ベルギーやイタリアはいったん債務が100%を超えたものの、自力での財政再建努力によっていくぶんかは回復しています。数年前には破綻が危惧されたあのギリシャも、2016年時点の債務残高はGDP比で179%と最近は債務の増加が止まっています。一貫して債務が増え続けているのは日本だけです。 <国民の資産を大切に活かそう> PS(2019年2月2、3日追加):*3-1のように、九州・沖縄で大学発ベンチャーの育成を目指して、産学組織「九州・大学発ベンチャー振興会議」が活動しておりよいことだが、課題は「大学から良いシーズが出るかどうか」だけでなく、「良いシーズを見つける眼力」と「育てる力」もある。 例えば、*3-2のミノムシ糸の量産は、「新たな繊維強化プラスチックとして実用化でき、飼育は温度管理などを徹底すれば場所を選ばない」とされる。また、*3-3のように、温度管理の費用を抑えるために、暑さに強い蚕の新品種を開発することも可能であり、蚕にいろいろな遺伝子を組み込めば、蚕を工場とすることもできる。そして、これらは、教育水準の低い移民の女性にもでき、付加価値の高い仕事にすることが可能だ。さらに、*3-4のように、他国と同じワインやチーズを作って価格競争に苦しまなくても、日本の自然や技術を活かした良い製品を作れば新市場が開けるだろう。例えば、ワインは葡萄を原料にしなくても、耕作放棄されたみかん畑や梨畑のみかんや梨を使って美味しいものができるし、アイスクリームのような冷凍技術を使えば、船で安価に輸送でき、日本独自の美味しさを輸出することも可能だ。そして、このように、地方にも多くのシーズが眠っているため、*3-5のように、水需要が減少していると考えるのは早計だ。近年は、特に水に関して節水を行いすぎて不潔な状況が散見されるため、まずは水不足にならず、節水しなくても流水で十分に洗える社会を作って欲しい。 なお、*3-6のように、生産調整して作らないことに奨励金を出すやり方は、補助金を使ってやる気を失わせ、耕作放棄地を増やす結果となるなど、稲作で既に失敗している。仮に「“供給過多”で価格を押し下げている」のであれば、国産の牛乳・米粉・小麦粉などと合わせた加工品(プロも使うケーキスポンジ等)にし、国内外に新しい市場を作ればよいと思われる。 最後に、*3-7の種子は、長年かけて作られた知的所有権の塊であるにもかかわらず、農水省があっさりと種子法を廃止して、国民の財産を投げ捨てた。それに危機感を感じて、地方自治体で種子法を事実上“復活”させたのはよいが、種子を守り育てるためには予算が必要なので、こういう投資にこそ補助金が必要なのである。 ![]() ![]() ![]() 2018.12.6ITmedia NEWS 2016.2.25毎日新聞 2019.1.17上毛新聞 (図の説明:左図のように、みのむしから世界最強の糸を取りだすことができ、量産も可能だそうだ。また、中央の図のように、蚕は目的の遺伝子を注入することによって、さまざまな特性を持った絹糸を作ることができる。さらに、右図のように、暑さに強い蚕もできている。生物系は、物理・化学よりも科学としての研究・開発が遅れていたため、現在はシーズの宝庫になっており、やり方によっては○兆円市場が期待できそうだ) *3-1:http://qbiz.jp/article/148161/1/ (西日本新聞 2019年2月2日) 九州の大学発ベンチャー支援、初年度は5400万円拠出 10大学から20件応募 九州・沖縄で大学発ベンチャー企業の育成を目指す産学組織「九州・大学発ベンチャー振興会議」は1日、事業化に向けた資金を援助する「ギャップ資金」として、2018年度は20件のシーズ(種)に対し、5400万円を拠出したと発表した。18年度が初の資金提供で、10大学から20件の応募があった。5400万円のうち、会議のメンバー企業などが1700万円、ふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団が1千万円、残りを大学が負担した。19年度は最大8千万円の拠出が目標。同会議は「メンバー企業や提供額の上積みに加え、大学から良いシーズが出るかどうかが鍵になる」と話した。ギャップ資金は、大学の研究成果の事業化に向け、試作品開発や市場調査に活用する資金。同会議は昨年3月、メンバーの大学や企業が折半し、18年度から5年間、毎年5千万円程度を拠出する計画に合意していた。 *3-2:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1812/06/news077.html (ITmedia NEWS 2018年12月6日) 「クモの糸を凌駕する」ミノムシの糸、製品化へ 「世界最強の糸」と期待 医薬品メーカーの興和(名古屋市)と、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構・つくば市)は12月5日、ミノムシの糸の製品化を可能にする技術開発に成功したと発表した。ミノムシの糸はクモの糸より弾性や強度が高いことを発見。「これまで自然界で最強と言われていたクモの糸をしのぐ、世界最強」の糸だとアピール。新たなバイオ素材としての応用に期待し、早期に生産体制を構築する。ミノムシの吐く糸は、弾性率(変形しにくさ)、破断強度、タフネスすべてにおいてクモの糸を上回っていることを発見したほか、熱に対しても高い安定性を示したという。ミノムシの糸を樹脂と複合することで、樹脂の強度が大幅に改善されることも分かった。ミノムシから1本の長い糸を取り出す技術を考案し、特許を出願したほか、効率的な採糸方法も確立。ミノムシの人工繁殖や大量飼育法も確立したという。ミノムシの糸は、タンパク質から構成されているシルク繊維であるため、「革新的バイオ素材として、脱石油社会に貢献できる持続可能な製品」と期待を寄せるほか、再生医療用素材としての可能性にも期待している。 *3-3:https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/politics/105581 (上毛新聞 2019/1/17) 暑さに強い蚕の新品種 群馬県が開発 夏場も収量と質 維持へ 近年の夏の猛暑による蚕の成育不良に対応するため、群馬県蚕糸技術センター(前橋市)は16日、暑さに強い新たな蚕品種を育成したと発表した。猛暑でも通常の品種に比べて高品質を維持し、1割以上多い繭の収量を見込める。昨夏の記録的猛暑で、本年度の県内の繭生産量は前年度比1割減の41.07トンに落ち込むなど、高温による障害が顕著に表れており、経営安定のため農家などから対策を求める声が上がっていた。今年夏に農家で実証飼育試験を行い、実用化されれば、9番目の県オリジナル品種となる。 ◎最も過酷な7、8月に実証飼育実験へ 同センターは2012年度から新品種の育成を始め、暑さに強い日本種原種「榛しん」と中国種原種「明めい」を交配した交雑種を生み出した。昨年夏の試験飼育は新品種と、普及している夏秋蚕用品種の「ぐんま200」「錦秋鐘和きんしゅうしょうわ」を同じ条件で育てて比較した。6月26日に掃き立てを行い、7月20日に上蔟じょうぞく。桑を与える4~5齢の12日間の蚕室の気温を調べたところ、夜間も含めて平均気温は30度前後で、日中は40度に達することもあった。飼育の結果、蚕3万匹当たりの収繭量は新品種が48.42キロに対し、ぐんま200が43.55キロ、錦秋鐘和42.62キロと1割以上の差が生じた。品質の目安であり、繭糸のほぐれやすさを示す「解じょ率」は新品種が77%に対し、他の2品種は50%台。新品種は過酷な環境でも生存でき、健全なさなぎの割合も94.30%と高かった。県蚕糸園芸課によると、本年度の蚕期ごとの繭生産量は春蚕16.10トン(前年度比10%減)、夏蚕5.66トン(同19%減)、初秋蚕2.16トン(同26%減)、晩秋蚕13.83トン(同6%減)、初冬蚕3.33トン(同1%増)と、夏の減少幅が大きい。暑さを考慮し、養蚕農家が夏の生産を控える動きもあったという。飼育量の多い春蚕の5月に気温の高い日が続き、成育不良が発生したことも響いた。同課は「猛暑でも育てられれば、養蚕農家の経営の安定を図れる。これまでより、蚕室内の気温に神経質にならずに済むので、生産者の労力軽減につながる」としている。農家での実証飼育試験は夏蚕(7月)か初秋蚕(8月)の時期に行う。その後、9月中旬のぐんまシルク認定委員会での県オリジナル品種の認定を目指す。 *3-4:https://www.agrinews.co.jp/p46610.html (日本農業新聞 2019年2月2日) [メガFTA] 日欧EPA発効 小売り先行値下げ ワイン、チーズ 国産と競合激化 欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が1日に発効したことを受け、スーパーなど小売業界でワインやチーズなどの値下げ競争が早くも始まっている。発効と同時に小売価格を1~3割引き下げることで関税削減効果を先取りし、売り上げ増を狙う。関税は、ワインが即時撤廃、チーズは段階的に下がり16年目には無税(ソフト系は枠内)になる。環太平洋連携協定(TPP)と併せ、今後多様な品目で値下げの動きは強まる。国産との競合が激しくなりそうだ。「日欧EPA発効記念・欧州ワイン一斉値下げしました」。大手スーパー・イオンの系列となるイオンスタイル幕張新都心(千葉市)の酒類売り場に大きな看板が置かれた。イタリアやフランスなどのEU産ワインがずらりと並んだ。イオンは同日、全国約3000店舗で、最大330種類のEU産ワインを平均で1割値下げした。同社で販売する輸入ワインの7割の値が下がった。関税撤廃で、1本(750ミリリットル)換算で最大約93円の関税が0円になる。同社は「関税撤廃分より値下げ幅の大きい商品もある」と明かす。値下げは期間限定ではなく継続する考え。同社は今月のEU産ワインの売り上げを前年比3割増と見込む。店舗では同日、EU産食品の特売フェアも開いた。スペイン産豚バラ薄切り肉(100グラム105円)、イタリア産のパスタやトマトソースなどを2、3割安で販売。3日までの期間限定でPRする。値下げはコンビニ業界へも広がる。セブン―イレブンは1日からEU産ワイン3品を1割値下げ。ファミリーマートは2日から14品を最大17%引きで販売する。チーズでは、ソフトチーズの値下げが早くも表面化した。西日本でスーパーを展開するイズミ(広島市)は1日から最大20品のチーズを値下げした。ドイツ産カマンベールを23%安で扱うなど、13日までの限定セールを展開する。日欧EPAでは農林水産物の82%の関税が撤廃され、大幅な自由化となった。EU産のブランド力が消費者に認知されており、「需要拡大が見込める」と大手コンビニ。多様な品目で値下げ競争が進む恐れがある。 *3-5:https://blogs.yahoo.co.jp/toshi8686/65364408.html?__ysp=5rC06YGTIOe1jOWWtumboyDoqJjkuos%3D (読売新聞 2018/11/13) 市町村の水道事業を統合へ…人口減などで経営難 政府は、水需要の減少で経営悪化が続く市町村の水道事業について、都道府県を調整役に6580事業者の統合を進める方針を固めた。事業の広域化によって経営効率を高めるのが狙いで、2019年度から着手する。事業統合に応じた市町村に対しては、国が財政支援を手厚くする。総務省の「水道財政のあり方に関する研究会」が、こうした方針を盛り込んだ報告書を近く公表する。報告書案などによると、都道府県は域内の水道事業者である市町村と協議し、将来の人口動態などを踏まえて統合すべき市町村の組み合わせを盛り込んだ「広域化推進プラン」を策定する。国は、プランに基づいて統合を進めた市町村に対し、国庫補助金の拡充や地方交付税の増額で実現を後押しするという流れだ。統合の形態は、水道事業全体の経営統合のほか、〈1〉浄水場など一部施設の共同設置・共同利用〈2〉料金徴収や施設管理など業務ごとの共同化――などを想定している。一部の統合でも、工事の一括発注などで無駄なコストを省け、経費削減につながるという。政府が統合を推し進めるのは、人口減などで水の使用量が減り、全国的に経営難が続いているためだ。 *3-6:https://www.agrinews.co.jp/p46615.html?page=1 (日本農業新聞 2019年2月2日) 生産調整鶏卵で発動 1月補填49・418円 鶏卵価格が低迷した際に生産調整する国の成鶏更新・空舎延長事業が1日、発動した。実施主体である日本養鶏協会が発表した。今年度の発動は2回目。同日の標準取引価格が1キロ142円となり、発動基準の安定基準価格(163円)を下回ったことを受けた。供給過多で価格を押し下げているため、需給改善で価格安定を図る。価格下落を補填(ほてん)する事業は同日に1月分を発動した。同事業は、成鶏を出荷後、新たにひなを導入せず、鶏舎を60日以上空舎にした生産者に奨励金を交付する。成鶏が10万羽以上の場合は1羽当たり210円、10万羽未満の場合は同270円を交付する。対象期間は1月2日から、価格が安定基準価格を上回る前日まで。今年度は4月下旬~6月下旬に5年ぶりに発動していた。鶏卵価格差補填事業による1月の補填金は1キロ49・418円となった。同月の標準取引価格が111・72円と、基準価格(185円)を下回ったためだ。今年度は両事業の発動回数が多く、財源が枯渇する恐れがあった。必要な財源を確保した上で、1月分の価格差補填金を交付する。そのため、満額(65・952円)の交付とはならない。JA全農たまごの同日の東京地区のM級は1キロ145円。今年の初取引価格(100円)に比べ大きく上げたが、 前年を15%下回って推移する。 *3-7:https://www.agrinews.co.jp/p46530.html (日本農業新聞 2019年1月25日) 種子法廃止の対応 現場の危機 受け止めよ 命の根幹である種子をなんとしても守る──。思いがうねりとなり自治体を動かしている。主要農作物種子法(種子法)廃止から1年を待たず10道県が種子法に代わる条例制定へ動く。他の県でも意見書の提出が相次いでいる。なぜ廃止したのか。現場の声に耳を傾けたのか。強引な政権運営のひずみである。日本農業新聞が47都道府県に聞き取った。種子法は廃止されたが、各地で事実上の“復活”を遂げた。既に種子の安定供給を担保する新たな条例を制定したのは山形、埼玉、新潟、富山、兵庫の5県。来年度の施行に向けて準備を進めるのは北海道、岐阜、長野、福井、宮崎の5道県。先代から受け継いできた大切な種子を失っていけないとの危機感の表れである。2017年1月から19年1月22日までに地方議会から国会に出された意見書は、衆参併せて250件を超えた。農家や消費者、識者らでつくる「日本の種子(たね)を守る会」による種子法復活を訴える署名は17万筆に達している。憤りの声は自民党の地方議員からも上がっている。福岡県の市議はこう主張する。「種子を守ることは農家の将来を守ることにつながる。党派を超えて条例の必要性を県に求めていく」。岐阜県の市議も「なぜ法律を廃止したのか、いまだに納得できない。種子の尊さに自民も野党も関係ない」。危機感は党派を超えて共有されている。種子法は、食糧の安定確保に向けて1952年に制定された。都道府県に米、麦、大豆の優良な品種を選定して生産し、普及することを義務付け、60年以上守られてきた。国民の食を支える上で、重要な法律だったためだ。だが農水省は、都道府県が自ら開発した品種を優先的に「奨励品種」に指定して公費で普及しており、種子開発に向けた民間参入を阻害していると判断。17年2月に廃止法案が閣議決定され、2カ月後の4月には、わずか12時間の審議時間であっけなく成立した。現場の農家を含め、反対の声が全く聞き入れられなかった。そもそも種子法に民間参入を阻害する規定などない。だが、民間企業の参入を推し進める政府にとって、種子も例外ではなかったといえる。規制改革推進会議に突き動かされるように、廃止在りきで審議が進んだとしか考えられない。そうした中、地方自治体で進む条例化の動きは、種子の品種開発や安定供給に自治体自らが責任を持つという強い意志の表れだ。種子法廃止に対し、地方から「ノー」を突き付けている。このうねりがさらに広がることを期待したい。政府は自治体の動きを真摯(しんし)に受け止め、現場の声を大切にした政権運営をすべきである。4月には統一地方選が行われる。種子法も争点の一つとなるだろう。改めて廃止の意味を問いたい。 <介護や社会保障に関して、軽すぎる論説が多いこと> PS(2019年2月4日追加):サ高住は、プライバシーを害することなく介護の不要な人から必要性の高い人まで受け入れることができるため、高齢化社会の有力な解の一つであるとともに、学生・単身者・共働き・出産前後の全世代に便利な住宅である。そのため、*4-2のように、高松で老朽マンションを改修してアシストホームを作ったのは一歩前進であり、新築マンションでも家事サポートや訪問介護などのサービスを付けた方が誰にとっても便利だと、私は考える。 しかし、日経新聞は、*4-1で、家賃の安い住戸は「要介護3以上」の入居者が5割を占め、自立した高齢者向けとの想定に反して特別養護老人ホーム(特養)が対応すべき低所得で体の不自由な人が流入し、安いサ高住は介護報酬で収入を補おうと過剰に介護を提供しがちで、特養より公費の支出が膨らむ懸念があるから問題だとしている。これは、介護制度の理念が、家族を介護に縛りつけずに自宅療養できるようにすることで、散在する自宅に住むよりはサ高住にまとまって住んでもらった方が介護者の負担が軽くなることを考えれば的外れだ。 また、特養と老健(https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/hoken/tokuyo/hikaku_rouken/参照)の入居条件は特養が要介護3~5、老健は要介護1~5で、居室タイプはどちらも個室と多床室があって、多床室ではプライバシーが保てず、周囲が重度障害者ばかりでは居住環境が悪くなるため、「高齢者だから死ぬまで置いておけばよいだろう」という発想でなければ、要件を満たした民間賃貸住宅を自治体がサ高住として登録するのはよいことだ。 さらに、日経新聞は、*4-3のように、医療・介護の知識のない大学教授が「①介護従事者の確保に限界がある」「②現物給付の4~6割程度を現金給付して同居家族に介護させよう」「③女性要介護者は男性より家族に大きな負担をもたらす」などと書いた記事を掲載しているが、①については、我が国は外国人労働者の導入に消極的だったため、それを改善した後の動向を見ることが必要である上、②については、家族のうちの誰かが介護を担当することを想定しており、その人は患者の症状を理解した介護ができるのか、密室で家族による高齢者いじめや不正が起こらないかについて検討していない。さらに、③については、疫学的調査に基づいて語っていないと思われ、大学教授が科学的調査に基づかず科学的根拠も示さずに語るのは言語道断である。 このような中、*4-4のように、外国人労働者受入拡大を行う改正入管難民法施行(2019年4月1日)に合わせ、介護現場で働く外国人や外国人を受け入れる介護事業者を多方面からサポートする「就労支援センター」(ICEC)が福岡県小郡市に発足したのはよいことだが、他地域では介護現場で働く外国人の増加を予定していないと言うのだろうか。また、*4-5のように、少子化で我が国の教育施設は余剰が多くなっているため、大学・専門学校が留学生の比率を上げるのは当然であり、その中に介護や看護も入れればさらによいと思われる。 *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190203&ng=DGKKZO40813420R00C19A2MM8000 (日経新聞 2019年2月3日) 高齢者向け賃貸、安いほど要介護者流入、公的支出 膨らむ懸念 見守りなどのサービス付き高齢者向け住宅(サ高住=総合2面きょうのことば)。日本経済新聞が全国の利用実態を調べると、家賃月8万円未満の安い住戸は多くの介助が要る「要介護3以上」の入居者が5割を占めた。自立した高齢者向けとの想定に反し、特別養護老人ホーム(特養)が対応すべき低所得で体が不自由な人が流入している。安いサ高住は介護報酬で収入を補おうと過剰に介護を提供しがちで、特養よりも公費の支出が膨らむ懸念がある。サ高住は国が2011年につくった制度。バリアフリーで、安否確認などの要件を満たした民間賃貸住宅を自治体が登録する。18年末時点で全国に約7200棟、23万8千戸が存在する。法律上「住宅」なので介護は義務ではない。訪問介護などを使いたい入居者は介護事業者と契約するが、実際は介護拠点を併設し、事業者が同じケースは多い。明治大の園田真理子教授は「家賃を安くして入居者を募り、自らの介護サービスを多く使わせる動きが起きやすい」と指摘する。 ●特養に入れず 本来、要介護3以上の低所得者の受け皿は公的な色彩が濃い特養だ。毎月一定額の利用料も相対的に安く、その範囲で食事や介護を提供する。必要以上にサービスを増やして、介護報酬を稼ぐ動きは起きにくい。ただ職員不足で受け入れを抑える特養が目立ち、全国に30万人の待機者がいる。行き場を失った高齢者がサ高住になだれ込む。日経新聞はサービス費を含む家賃と入居者の要介護度のデータが公開されている1862棟を対象に、その相関を分析した。家賃の平均は約10万6千円。全戸数に占める要介護3以上の住民の比率は34%だった。家賃別にみると、8万円未満の同比率は48%に達していた。金額が上がるほど比率は下がり、14万円以上は20%にとどまった。「介護報酬を安定的に得るため、要介護度の高い人を狙い、軽い状態の人は断っている」。関東で数十棟を営む企業の代表は打ち明ける。1月に茨城県ひたちなか市のサ高住を訪ねると、併設デイサービスに約10人が集まっていた。多くが車いすに乗る。住民の4分の3が要介護3以上だ。 ●介護報酬狙う 介護報酬の1~3割は利用者負担。残りは税金と介護保険料で賄う。要介護度が進むと支給上限額は増える。介護保険受給者は平均で上限額の3~6割台しか使っていないが、同社の計画上は住民が85%を使う前提だ。「夜勤の人件費を捻出するのに必要。暴利は貪っていない」と主張する。兵庫県で家賃が安いサ高住の管理人も「上限額の90%を併設サービスで使ってもらっている」と話す。16年の大阪府調査では、府内のサ高住は上限額の86%を利用し、要介護3以上は特養より費用がかさんでいた。安いサ高住に要介護度の高い人が集まる傾向は都市圏で顕著だ。8万円未満の物件に住む要介護3以上の比率は首都圏が64%、関西圏が57%。都市圏は土地代が高く、家賃を下げた分を介護報酬で補うモデルが広がっている懸念がある。「デイサービスを『行って寝ていればいい』と職員に説得されて仕方なく使った」。サ高住の業界団体にこんな苦情も集まる。日本社会事業大の井上由起子教授は「国も学者もこれほど介護施設化すると考えていなかった。一部のサ高住が介護報酬を運営の調整弁に使うと、介護保険制度の持続性が揺らぐ」と警戒。運営費は家賃のみで吸収するのが筋だと訴える。すべてのサ高住が過剰に介護をしているわけではないが、個別の実態を捉えるのは難しい。一般社団法人の高齢者住宅協会は「介護状況の開示や法令順守を事業者に強く促していく」という。民間主導のサ高住は行政も運営・整備計画を把握していない。それがサ高住の乱立につながり、介護報酬で経営を成り立たせようとする動きを招く。介護施設との役割分担を明確にし、立地の最適配分も考えなければ悪循環は断ち切れない。(斉藤雄太、藤原隆人、久保田昌幸) *調査概要 高齢者住宅協会が運営するサ高住の情報提供システムで2018年12月時点に公開されていた家賃と住民の要介護度のデータを抽出。家賃は共益費と見守りのサービス費を含め、同じ施設で最高と最安が異なる場合は中間値を用いた。食事や入浴の介助が必要で、特養の入所基準である「要介護3」以上の住民の割合を家賃の水準別に分析した。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20190203&bu=BFBD・・ (日経新聞 2019年2月3日) 高齢者向け賃貸、安いほど要介護者流入 公的支出 膨らむ懸念サービス付き高齢者向け住宅 老朽マンションを改修 高松のSUN 介護事業を展開するSUN(高松市)は老朽化したマンションを改修し、一部をサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)として提供する=写真。サ高住と賃貸マンションが同一の建物に混在するのは香川県では初めて。老朽化したマンションの空き部屋対策につながるという。1986年に完成した既存のマンションを改修し、名称を「アシストホーム」とした。一部をサ高住として提供する。部屋の広さは32~36平方メートルと全室30平方メートル以上は全国的にみても珍しく、12戸を用意した。車いすに乗ったまま使える洗面台や手すり付きのトイレなどの設備を備えている。月額の利用料は単身の高齢者が食事の提供を受ける場合、約14万円が目安となる。訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所などと連携して、高齢者の生活を支える。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190204&ng=DGKKZO40775630R00C19A2KE8000 (日経新聞 2019年2月4日) 介護危機、乗り越えられるか 現金給付で従事者抑制を、外国人の安定確保厳しく 中村二朗・日本大学教授(1952年生まれ。慶応義塾大修士《商学》。専門は労働経済学、計量経済学) <ポイント> ○従事者確保で女性や高齢者活用には限界 ○現金給付を現物より抑えれば財政上も益 ○保険者の広範地域への再編や連携強化を 急速に高齢社会を迎えた日本では2000年に介護保険制度が導入された。ドイツの制度に倣いながらも、要介護対象者や提供される介護サービスを幅広く設定したことで多くのメリットがあるとされる。しかし財政的には多額の支出を余儀なくされた。団塊世代が後期高齢者になる25年には介護保険の利用者は約900万人、財政規模は20兆円前後に達するといわれる。大きな課題は財政規模の抑制と介護従事者の確保だ。介護は3K(きつい・汚い・危険)的な職場というだけでなく、現保険制度では事業所全体の収入が規定され、その範囲内で介護従事者の処遇条件を決定する必要がある。処遇改善のための加算制度はあるが介護事業者の裁量で賃金を設定することは難しい。一方で介護事業者に裁量を委ねても、事業所支出に占める人件費比率が特養で約6割、通所・訪問で7~9割と高いため、介護費用の増加を通じて介護財政をさらに逼迫させる恐れがある。介護財政の抑制と介護従事者の確保とは両立が極めて難しい課題だ。本稿では、介護財政の抑制という課題を念頭に置きながら、今後の介護従事者不足に対する解決策を検討する。問題を考えるうえで主要な前提・課題を整理しておこう(表参照)。現状の課題は、未婚者や結婚しても子供のいない高齢者(チャイルドレス高齢者)の増加と、女性要介護者の比率が全体の約7割と高いことだ。高齢者の同居比率が低下しており、居宅介護のために同居率を高めようという議論がある。しかし子供のいる高齢者の同居率はそれほど低下していない。こうした状況で介護従事者の必要性を少なくするために家族介護の拡充による居宅介護を重視する政策には無理がある。また福岡市の65歳以上の介護保険データを用いた多相生命表(健康、要介護度別平均余命)による分析では、女性の要介護者は人数が多いだけでなく、介護期間が長期にわたる傾向があり、費用も男性と比べ4割前後高くなる。今後は要介護度の高い高齢者と、都市部での要介護者の増加が予想される。現状でも要介護者の多くは女性だが、その傾向は今後も続くだけでなく都市部でより顕著に表れることが予想される。女性要介護者は男性に比べ家族に大きな負担をもたらすことが確認されている。都市部では住宅事情などにより居宅介護は難しさを増す。財政支出と必要な介護従事者の増加をもたらすだけでなく、居宅介護と施設介護のあり方を大きく変化させる可能性がある。現状および今後の問題点を考慮したうえで、必要な介護従事者をどのように確保すればよいのだろうか。対応の方向性は2点だ。一つは必要な従事者数を確保するための環境を整備することであり、もう一つは必要な従事者数の抑制策を講じることだ。以下では、今後の対応策と実現可能性について検討したい。従事者数の確保については2つの対応策に大別できる。一つは女性や高齢者のさらなる活用だ。女性の活用では介護従事者の資格要件の緩和措置などがとられているが、労働条件が悪いままでは安定的に一定量を確保するのは難しい。高齢者はボランティア的な仕事としては受け入れられる可能性は高いが、安定的に活用できる人材ではない。もう一つは外国人労働者の導入だ。日本が魅力的な国である限りは、外国人労働者は安定的に活用できる人材としてみることもできる。しかし日本人と同等の処遇ならば、介護従事者の賃金が低い現状のままでは必要な人員を確保できるかわからない。既に外国人介護福祉士としては経済連携協定(EPA)により受け入れられており、17年度までに約3500人が来日し、700人以上が介護福祉士の国家試験に合格している。こうした外国人は送り出し国で看護学校などを卒業し「N3」以上の日本語資格を持っている。また日本で介護福祉士の国家試験を受けるために受け入れ事業所などで様々な教育を受けている。事業所は1人あたり200万~300万円程度の費用を負担しているが、合格率は5割程度だ。合格後は在留資格が得られるが、他の事業所への転職も可能で、受け入れ事業所は多くのリスクを抱えている。現状のEPA介護従事者に対しては、事業者や利用者も高く評価しているケースが多い。しかし現在想定される新たな外国人労働者に対して、EPAでの受け入れと同様の手厚い対応ができるのだろうか。受け入れ人数が桁違いに増えるだけでなく、受け入れ要件もEPAに比べ緩和される可能性が高い。受け入れ態勢や教育環境の整備、それらの費用を誰が負担するのかなど慎重な議論が必要だろう。さらに今後も、日本が外国人労働者に魅力的な国であり続ける保証はない。むしろ5~10年先の本当に必要な時期に外国人労働力を確保できなくなるリスクはかなり高い。仮に介護従事者を増やすことに成功しても、財政上の問題は解決されない。両者をともに解決するには、単に必要人員の確保だけでなく必要な従事者数を抑える視点が大切だ。しかし介護現場では新技術の導入などである程度の労働生産性の向上は望めるが、大きな効果は期待できない。では、どうすればよいのか。介護サービスの提供は例外を除いて、保険制度で指定された事業所でしかできない。介護サービスが現物給付で実施されているためだ。この枠組みを外せば、介護事業所以外でも介護サービスを提供することが可能となり、必要な介護従事者数を抑制できる。そのための方策の一つは、ドイツや韓国などで採用されている現金給付もしくはバウチャー(利用券)制度の導入だ。ドイツのように介護をする家族にも保険から手当などを支払えれば、居宅介護が増えて必要な介護従事者数を抑制する効果も期待できる。保険導入時に現金給付との併用案が検討されたが、事業者の反対や不正利用の懸念などを理由に採用されなかった。確かに保険導入前の状況を考えると当時の反対理由もうなずける。しかし介護サービス需要の増加や介護関連事業所の増加により、介護市場が成長し競争メカニズムが働く余地が大きい。さらにこれまでの保険事業で蓄積されたデータを活用・分析することにより、不正利用を見つけやすくなっている。また日本独自のシステムとしてケアマネジャー制が導入されており、利用者や事業所を監視する役割を拡充することにより不正利用や不効率な利用を防止できるだろう。現金給付を選んだ場合には現物給付の4~6割程度の支給にできるならば、財政上のメリットも生じる。今後生じる様々な課題に対応するには、介護保険を運営する保険者に求められる役割はより高度なものとなる。基礎自治体をベースとした一部の保険者は難しい問題を抱えることになる。保険者については、より広範な地域への再編・連携強化や都市部と非都市部との連携などを検討すべきだ。介護施設や人材などの効率的な運用ができるだけでなく、要介護者の地域的偏在や地域間の保険料格差などを改善することができよう。従来の制度を土台としながら、現金給付の導入や保険者の枠組みなどを今後の状況に即した制度に見直すことなどを含め、人材不足の解消と財政の健全化を目指す整合的な方策を考えることが急務だ。 *4-4:http://qbiz.jp/article/148203/1/ (西日本新聞 2019年2月4日) 介護就労の外国人指導 4月 小郡に支援センター 受け入れ施設に助言も 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法の施行(4月1日)に合わせ、介護現場で働く外国人や、外国人を受け入れる介護事業者を多方面からサポートする「就労支援センター」(ICEC)が福岡県小郡市に発足する。同法に基づく新たな在留資格「特定技能」の労働者や技能実習生などが対象で、介護に必要な日本語教育や生活面の指導、事業者側への助言も行う。こうした包括的な支援組織は九州で珍しいという。ICECを立ち上げるのは、1998年に発足した外国人就労支援事業会社「インターアジア」(小郡市)。経済連携協定(EPA)に基づいて来日した介護福祉士候補生や、日本のフィリピンパブや飲食店などで働いた後、介護業界に新たな働き口を求める在留外国人たちを対象に、介護職員の基礎的な資格「介護職員初任者研修」の講座を行ってきた。卒業生は6カ国の300人以上に上る。017年11月に介護分野が追加された外国人技能実習生は、入国時だけでなく、来日2年目にも日本語能力試験に合格することが求められる。介護の現場では、生活指導も含めた教育をどうするか、不安視する声が上がっていた。ICECは「アルツハイマー病」「安静」「嚥下(えんげ)」など介護に必要な用語を中心に、日本語教育や文化教育、生活面もサポートする。事業者側に対しては経営者だけでなく、外国人と一緒に働く職員全員に助言する。講師は約20人。介護福祉士や看護師の資格を持つ日本人や、介護福祉士の資格を持つ同社の卒業生など、日本の介護現場で働いた経験のあるフィリピン、ベトナム、中国出身の外国人も加わるという。同社の中村政弘代表(78)は「外国人は日本を介護先進国と捉え、期待して来日する。まずは日本人職員に、介護のプロとして『外国人を育てる』という意識を持ってもらえるような助言をしたい」と言う。17年9月、在留期限を更新できる在留資格「介護」が新設され、技能実習生や特定技能の労働者も介護福祉士の資格を取得すれば「介護」に変更申請できる。ICECでは、希望者向けに介護福祉士の資格取得を目指す講座も開設する予定。中村代表は「日本に残り、日本の介護を支え続ける外国人も育てたい」と話す。 *介護と外国人労働者 厚生労働省の推計によると、2025年度に介護人材が約34万人不足する恐れがある。国は改正入管難民法に基づく新在留資格「特定技能1号」(通算で5年が上限)の介護分野で、19年度から5年間で最大6万人の外国人労働者を受け入れる方針。介護職種の外国人技能実習生(最長5年)は“第1号”が昨年7月に来日。施設が実習生を受け入れるには、日本の監督機関「外国人技能実習機構」に実習計画を申請し、認定を受ける必要がある。昨年12月末時点での申請は1516人で、うち946人の計画が認定された。 *4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190202&ng=DGKKZO40806230R00C19A2EA5000 (日経新聞 2019年2月2日) 大学・専門学校の留学生比率 地方、初の5%超え 昨年、サービス人気 地方にある大学や専門学校など高等教育機関で、2018年に留学生の比率が全学生の5%を初めて超えたことが日本学生支援機構の調査などで分かった。三大都市圏を除く39道県別では群馬や茨城で上昇が目立っており、6県が東京都の比率を上回った。少子化や東京一極集中に悩む地方の教育機関にとって、留学生の獲得は経営の要にもなりつつある。日本学生支援機構の外国人留学生在籍状況調査と文部科学省の学校基本調査を使い、高等教育機関の学生に占める留学生の割合を都道府県別に算出した。39道県で18年の留学生の総数は7万3320人。全学生数に占める割合は5.4%と、前年に比べ0.5ポイント上がった。留学生の比率は11年の東日本大震災後に停滞していたが、13年に底を打って以降は急速に上昇している。39道県のうち、13年比で最も比率が伸びたのは群馬県。13年は3%だったが、18年は15%と大幅に高まった。同県の担当者は「群馬大や上武大、高崎経済大といった以前から留学生が多かった大学ではそれほど増えていない。大幅に増えているのはNIPPONおもてなし専門学校だ」と話す。同校は群馬ロイヤルホテルグループの学校法人が13年に設立した専門学校。ベトナムやネパールを中心に約500人の留学生が日本のホテルや旅館、飲食店などのサービスを実践的に学んでいるという。群馬県内に本部を置く東京福祉大学の留学生が増えていることも比率を押し上げた。同大は留学生が約800人と学生の2割を占める。出身国別にみると、中国が最も多いが「最近はベトナム、ネパールも目立つ」(同大)。39道県で2番目に留学生比率が上昇したのは茨城県で、18年は11%とこの5年で5ポイント伸びた。国内有数の留学生数を誇る筑波大学に加え、東京家政学院大学系列の筑波学院大学などで留学生の増加が目立った。筑波学院大学によると、「留学生に人気の専攻はビジネスや情報系。18年はベトナムが一番多かった」という。留学生の生徒総数では東京都が約6万7000人と突出して多いが、全生徒の比率でみると7%。留学生の比率では大分県が16%と、全国で最も高かった。生徒数のほぼ半数を留学生が占める立命館アジア太平洋大学がある影響が大きい。このほか、山口、福岡、長崎県も東京の比率を上回った。高等教育の国際化に詳しい上智大学の杉村美紀教授は「人口減少が厳しい地方では留学生で人材を確保しようとする動きが強まっている」と指摘する。経済協力開発機構(OECD)の資料によると、欧米諸国のほとんどは高等教育機関の留学生比率が日本より高い。国際競争力を高めるためにも今後、留学生の人材育成は地方にとって重要性を増す。大学の外での交流を促すなど、地域全体で留学生を迎え入れる体制づくりがより求められそうだ。 <呆れて一言では語れないこと> PS(2019年2月7、9、10日追加): *5-1-1のように、「厚労省の統計不正による過少給付は雇用保険・労災保険・船員保険などを合わせて564億円になり、2019年内に追加給付を開始する」とのことで、(統計は正確でなければならないものの)失った記録の復元は、新聞・TV・HP等で連絡先を示して関係する期間に受給した人に申し出てもらい、日本年金機構(旧社会保険庁)の年金記録と照合・立証して支払えばよい。つまり、雇用保険は、再就職済で困っておらず、申し出ない人まで探し出して渡す必要はないのだ。 なお、*5-1-2のように、毎月勤労統計は不適切に調査されており、2018年の物価変動の影響を除く実質賃金の伸びが実態よりかさ上げされていたことが発覚し、民間の試算でも2018年の1人当たり実質賃金は大半がマイナスだそうだ。これには非正規の働き手が増えた要因もあり、名目賃上げ率は2%前後で2018年1~11月の実質賃金のうち9カ月分が前年を下回ったそうだが、1カ月単位の短期間かつ1%前後の賃金の増減で消費者心理が変わるわけではなく、子どもが生まれた場合の収入減・負担増・年金までを加味した生涯収支を考慮して貯蓄と消費の割合を決めているため、予算委員会で大量の時間を使うには議論が小さすぎる。そして、「消費者は名目賃金で賃金動向を実感する」というのは誰のことか不明であり、物価上昇率が名目賃金上昇率より高くて実質可処分所得が小さくなっていることにはすぐ気付くため、あまりに一般消費者を馬鹿にした見方だ。なお、今後は、企業がデータで賃金・品目毎の売上・仕入(単価と数量)を提出すれば、全数調査して毎月の平均賃金・卸売物価・消費者物価を出せそうである。 このような中、*5-2のように、公的年金で運用損を出し、社会保障の負担増・給付減ばかりしていれば、*5-3-1のとおり、静かに少子化が進むのは当然のことで、できることとできないことを理性的に判断して行動しているのは、子どもの少ない(orいない)人の方だろう。また、*5-3-2のように、信濃毎日新聞も「少子化の責任は女性にあると言いたいようであるため、麻生氏は暮らしや人権に関わる問題について正しい理解ができない人である」として、首相の任命責任も問われると記載している。ただ、首相は子どもがおらず、どちらかと言えば被害者に当たるため、麻生氏の発言の責任まで取らせるのは酷ではないか?なお、麻生氏は、2008年、麻生内閣で内閣府特命担当大臣(男女共同参画・少子化対策)として出産したという理由で小渕優子氏を初入閣させており、出産奨励は麻生氏の本音だ。そして、これは、「女性は産む機械」「ママさんたちが『一緒に子どもを産みたい』という形で国家に貢献してくれればいい」という産めよ増やせよ論であり、時代錯誤だ。さらに、*5-3-3のように、京都新聞も「少子化となる環境こそ問題なのに、女性に責任を押し付けている」としているのは正論である。 *5-1-1:https://mainichi.jp/articles/20190204/k00/00m/040/250000c?fm=mnm (毎日新聞 2019年2月4日) 統計不正問題 年内に追加給付開始へ 延べ2000万人超に564億円 厚労省が公表した追加給付の工程表によると、過少給付は雇用保険や労災保険、船員保険などを合わせて564億円で、対象者は延べ2000万人超。追加給付が始まる時期は、保険の種類や現時点での受給の有無などによって異なる。現行の受給者は比較的早く、雇用保険が4月▽労災保険が6月▽船員保険が4月。既に受給が終わっている人は雇用保険が11月ごろ▽労災保険が9月ごろ▽船員保険が6月――と見込む。システム改修などの都合で例外的に時間がかかる対象者もおり、労災保険の一部では追加給付の開始が12月ごろにずれ込む見通しだ。この問題では、各保険の過去の受給額だけではなく現行の受給額も過少になっている。厚労省は3~6月に、適正な受給額に是正することを既に発表している。 *5-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190207&ng=DGKKZO40975120W9A200C1EE8000 (日経新聞 2019年2月7日) 18年実質賃金かさ上げ 不適切統計問題、実態は非正規増え、下落圧力 毎月勤労統計の不適切調査を受け、足元の賃上げの評価の難しさが一段と鮮明になった。2018年の物価変動の影響を除く実質賃金の伸びが実態よりかさ上げされていたことが発覚。民間の独自試算でも18年の1人当たり実質賃金は大半がマイナスだ。だが非正規の働き手が増えるなど、全体をならした賃金水準には下落圧力がかかっている。雇用者増や賃上げの効果をすべて否定する議論も乱暴だといえる。連合によると、18年労使交渉による賃上げ率は全体で2.07%。中小だけでも1.99%と20年ぶりの高水準だった。それでも野党は国会論戦などで18年1~11月の実質賃金のうち9カ月分で前年を下回ったと主張する。賃上げをしているのに、なぜ1人当たりの実質賃金は下がるのか。厚生労働省がもともと公表していたデータで実質賃金が前年を下回るのは6カ月分だった。野党の試算は同じ事業所を比べる「共通事業所」ベースで、物価上昇率を使って名目値から割り戻したものだ。みずほ総合研究所の独自試算でも18年1~11月のうち8カ月分が前年比マイナスだ。人々は物価の動きと自身の懐事情を勘案しながらモノやサービスを買うかどうか判断するので、実質賃金は消費者心理を分析するうえで重要な指標だ。ここで無視できないのは、1人当たりの実質賃金に低下圧力がかかる構造的な要因だ。総務省の労働力調査によると、18年の女性の就業者数は前年比で3%増え、男性の1%増を上回った。65歳以上の就業者数も18年は前年比7%増えた。女性や高齢者は非正規で働く人も多い。このため賃上げをしても、1人当たりの賃金にならすと、下落方向への圧力が働きやすくなる。その一方で、例えばこれまで夫だけが働いていた世帯で新たに妻も働くようになれば、家計全体としての所得は増えることが多いだろう。安倍晋三首相が「総雇用者所得は名目も実質もプラスだ」と主張するのも、消費を支える家計全体の購買力を意識したものだ。総雇用者所得は1人当たり賃金と雇用者数を掛け合わせた値だ。18年1~11月の総雇用者所得は実質で前年比1.0~3.6%増えた。第一生命経済研究所の星野卓也氏は「実質賃金が下がっても、暮らしが悪くなったとは言い切れない」と指摘する。消費動向を判断するため、所得の総量を重視するという説明には一定の説得力がある。むろん、低収入の働き手ばかりが増えて1人当たり賃金が伸びなければ、消費全体は勢いづかない。実質賃金がマイナスでも賃上げ効果をすべて否定できないのと同じく、総雇用者所得の増加だけで消費の先行きを安心できるわけではない。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は「消費者は見た目の名目賃金でまず賃金動向を実感する。実質に加え、名目も合わせて見るべきだ」と、丁寧な議論の必要性を訴える。民間エコノミストの間では独自に賃金動向を分析する試みもある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮崎浩氏は日銀のアンケート調査などを使って分析。18年の賃金は上昇基調とみる。第一生命経済研の星野氏は雇用保険のデータから1人当たり賃金を算出し、17年度の実質値はマイナスだった。18年度分のデータはまだないが「物価上昇率が鈍く、18年度の実質賃金は上がっている可能性がある」という。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190202&ng=DGKKZO40786420R00C19A2EA4000 (日経新聞 2019年2月2日) 公的年金運用損、最大の14.8兆円 10~12月、株安が打撃 公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は1日、2018年10~12月期の運用損失が14兆8039億円だったと発表した。市場運用を始めた01年度以降、四半期ベースでは過去最大となった。GPIFは14年の運用改革で相場変動の影響をより受けやすくなった。環境や社会への貢献を重視するESG投資などの取り組みを強めて安定的な運用につなげる。米中貿易戦争や欧州政治の不透明感を背景とした世界的な株安が響いた。ただこれまでの累積の収益額は56兆7千億円に及んでおり、年金財政を維持するために必要な水準は確保している。資産別の運用損益を見ると、国内株で7兆6千億円、外国株で6兆8千億円の損失となった。 *5-3-1:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201902070016 (愛媛新聞社説 2019年2月7日) 麻生氏「少子化暴言」 責任の国民への押し付け許すな 不適切な発言をしては、撤回し開き直る。既視感のある光景がまたも繰り返された。麻生太郎副総理兼財務相が、少子高齢化に関し「子どもを産まない方が問題」と発言した。さまざまな理由で子どもをつくりたくてもつくれない人たちに対して著しく配慮を欠いた暴言だ。「産む・産まない」については、あくまで個人の自由意思に基づくものであることも理解できておらず、人権感覚に大いに疑問符が付く。そもそも少子化の要因は、これまでの国の見通しの甘さと不十分な政策にある。にもかかわらず今回の発言は、その責任を国民に転嫁するものだ。安倍晋三首相は発言について言及していないが、なぜ放置したままなのか理解できない。「子どもを産み、育てやすい日本」をつくるという政権の方針が、出産の「押し付け」を意味するものではないなら、麻生氏の処遇も含め、危機感を持って対処する必要がある。麻生氏の発言があったのは、地元・福岡での国政報告会。自身が生まれた頃より平均寿命が30歳長くなったと指摘し、「年寄りが悪いみたいなことを言う変なやつがいっぱいいるけど、それは間違いだ。子どもを産まなかった方が問題なんだから」と述べた。2014年にも同様の発言をしており、何の反省もしていないことは明らかだ。野党のみならず、与党からも批判を受けた麻生氏は、発言を撤回。「一部女性の方が不快に思われる。それはおわび申し上げる」とも述べたが、不妊に悩む人には男性もいることを認識しておらず、失言の上塗りでしかない。少子化を含む人口減少問題は「静かな有事」とまでいわれる状況にある。政府は、女性1人が生涯に生む子どもの数「合計特殊出生率」を1.8に引き上げる目標を掲げるが、17年で1.43と低水準のままだ。だが「子どもがほしい」「第2子、第3子を持ちたい」、との希望を抱きながらも、経済的な事情や社会的なサポートの不足から、断念する夫婦が少なくないことを忘れてはならない。現状はこうした人たちへの国からの支援が行き届いていない。長く予算を担当してきた麻生氏が少子化を語るなら、まず国の「無策」への反省からだろう。少子化を巡る失言や暴言は麻生氏に限らない。昨年も、子どもを産まないことを「勝手な考え」とした自民党の二階俊博幹事長や、「必ず3人以上の子どもを産み育てていただきたい」と結婚披露宴で呼び掛けていると発言した同党の加藤寛治衆院議員が批判された。偏った家族観への固執は、党の体質ではないかと疑わざるを得ない。子どもがいない人を一方的に断罪しかねない発言は、社会に無用の分断をもたらすものであり、国民の代表である政治家として許されない。持論を自由に発信したいなら、せめて今の立場を自ら退いてからにすべきだ。 *5-3-2:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190209/KP190208ETI090004000.php (信濃毎日新聞 2019年2月9日) 麻生氏発言 首相の責任も問われる 暮らしや人権に関わる問題について正しい理解ができない人を、なぜ政権の中枢に起用し続けるのか。安倍晋三首相の責任も問われる事態だ。副総理兼財務相の麻生太郎氏が、支持者らを集めて開いた地元・福岡での会合で少子高齢化に関連して「子どもを産まない方が問題だ」と述べた。自身が生まれた頃と比べ平均寿命が30歳長くなったと指摘し、「年寄りが悪いみたいなことを言う変なのがいっぱいいるけど、それは間違いだ」とした上での発言だ。少子化の責任は女性にある、と言いたいかのようだ。少子化の背景には保育所不足、雇用の不安定化など産みたくても産めない事情がある。そんな世の中にした一番の責任は、長年政権の座にある自民党にある。そもそも子どもを産むか産まないかは自己決定権の問題である。産まないことを「問題」だと批判するのは人権侵害につながる。発言に弁護の余地はない。麻生氏は5年前にも同じようなことを言っている。選挙の応援演説で、少子高齢化に伴う社会保障費の増加について「高齢者が悪いというようなイメージをつくっている人が多いが、子どもを産まないのが問題だ」と述べた。麻生氏はその時は、保育施設などの不足で産みたくても産めないのが問題との趣旨であり、「誤解を招いた」と釈明した。同じ発言が繰り返されたことから見て、「問題」とするのは本音と受け止めるほかない。麻生氏はこれまで、ほかにも暴言、失言を重ねている。財務省幹部によるセクハラ問題では「はめられて訴えられているんじゃないかとか、いろいろなご意見は世の中いっぱいある」。医療費を巡る政府の会議では「たらたら飲んで、食べて何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」。そこには社会的弱者への共感がない。そんな人が第2次安倍内閣の発足以降、副総理兼財務相のポストに居座り続けている。足元で森友学園問題が起きても責任を取らず、留任した。「女性は産む機械」「ママさんたちが『一緒に子どもを産みたい』という形で国家に貢献してくれればいいなと思う」…。政府・自民党幹部が過去に重ねてきた発言の数々を思い出す。一人一人の個性を大切にし、権利を保障するよりも、国のために国民を動員する発想がにじむ。党の体質も問われている。 *5-3-3:https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190209_4.html (京都新聞社説 2019年2月9日) 麻生氏の暴言 またか、と看過できぬ 麻生太郎副総理兼財務相が「子どもを産まないほうが問題だ」と発言し、批判を浴びている。 発言の根底には政策の不備を女性らに責任転嫁する姿勢が見え、言葉足らずでは済まされない。 発言は3日に地元福岡県で開いた支持者向けの会合であった。少子高齢化問題を語る中、「年寄りが悪いみたいなことを言う変なのがいっぱいいるけど、それは間違いだ。子どもを産まなかったほうが問題なんだから」と言及した。麻生氏は翌日、衆院予算委員会で野党から問いただされて発言を撤回し、その後、陳謝した。予算委で批判されても、にやけるばかりの麻生氏の態度を不快に感じた国民は少なくないだろう。麻生氏は「長寿化より、少子化のほうが社会保障や財政の持続可能性の脅威となるということを申し上げた」と釈明した。だが2014年にも同様の発言をして批判を受けており、本音とも取れる。政治家の言葉には、さまざまな立場の人が耳を傾けている。弱者の痛みを共有し、発言がどう受け止められるのかと聴衆の思いをくみ取りながら話せば、暴言を発することはないだろう。安倍晋三政権は女性活躍や働き方改革を掲げている。ところが麻生氏に限らず、出産を巡って政権や与党の中枢にいる政治家の発言が物議を醸してきた。確かに日本が抱える多くの問題は高齢化と併せ、少子化が急激に進んでいることに起因している。働いて、社会を支える世代が減るから社会保障制度が揺らぎ、経済成長が低迷している。とはいえ子どもを産む、産まないは、個人の問題だ。少子化の背景には労働環境など社会的障壁があり、望んでも「産めない」環境こそが問題であるのに、女性らに責任を押し付けていないか。長時間労働の是正や育児休暇の充実、経済的不安の解消によって仕事を続けつつ希望通りに子どもを産み育てられる環境を整える―それこそが政治の責務だ。根本的な対応を怠ってきた帰結が今日の少子化であろう。麻生氏は政権ナンバー2にもかかわらず、耳を疑うような放言、暴言が目立つ。いずれも閣僚としての資質に疑問符が付く。発言の揚げ足を取る考えは毛頭ないが、繰り返される暴言を、またか、批判しても無駄だ、と寛容に受け止めてはなるまい。安倍首相は麻生氏を不問に付してきたが、「1強」のおごりが顔をのぞかせていないか。国民の理解を得られるとは思えない。 <地方創成と教育の充実> PS(2019年2月12、13日追加):子育て世帯の負担を軽減して少子化対策に繋げるだけでなく、どの子にも3~5歳時に適した教育を与えるという意味で、義務教育で無償の小学校への入学年齢を3歳にすればよいと私は思うが、*6のように、3〜5歳児の全世帯幼保無償化を行うのも一歩前進だ。しかし、0〜2歳児は、夫婦で育休をとれば家庭で育てる選択肢もあるため、無理に預かる必要はないだろう。また、地域住民を増やすには、「教育が充実している」というのが重要な要素であるため、市長は産業振興を支える人材を創るという意味だけでなく、教育そのものの充実にも一歩進んだ取り組みを行い、恵まれた環境になったらそれを宣伝するのがよいと考える。 また、*6-2のように、資生堂が中国を中心とする海外向け需要の急増に対応することを目的として久留米市に進出することにしたのは、九州は地の利を活かしてアジアへの輸出に熱心に取り組んでいるため的を得ている。また、久留米大学が近くにあるため、化粧品会社がバイオと結び付いて、品質の維持・向上だけでなく新製品の開発を企画できるメリットもあるだろう。また、必要な原料を、近くの農漁業で供給できるメリットもある。 なお、*6-3のように、インターネット上の漫画・小説・写真・論文等のあらゆるコンテンツをダウンロードすることを、文化庁が著作権侵害として全面的に違法とする方針を決定したそうだが、最近は、学生でもインターネット上に掲載されている世界の論文に直接アクセスして教科書より先端の知識を入手したり、政治家が書いた政策を直接見て切磋琢磨したりしている時代であるため、文化庁のドアホな方針は、日本の論文数をさらに減らし、文化力を下げるだろう。 *6-1:http://qbiz.jp/article/148622/1/ (西日本新聞 2019年2月12日) 幼保無償化法案を閣議決定 3〜5歳児は全世帯、成立急ぐ 政府は12日、幼児教育・保育の無償化を実施するための子ども・子育て支援法改正案を閣議決定した。今年10月から3〜5歳児は原則全世帯、0〜2歳児は住民税非課税の低所得世帯を対象に、認可保育所や認定こども園、幼稚園の利用料を無料にする。認可外保育施設などは一定の上限額を設けて費用を補助。政府、与党は今国会の重要法案と位置付け、早期成立を目指す。政府は同日、低所得世帯の学生を対象に、大学や短大などの高等教育機関の無償化を図る新たな法案も閣議決定した。授業料や入学金を減免するほか、返済不要の給付型奨学金を支給する。来年4月の施行を目指す。幼保無償化は、子育て世帯の負担を軽減し少子化対策につなげる狙い。安倍政権が掲げる「全世代型社会保障」の一環で、財源には消費税率10%への引き上げに伴う税収増加分を充てる。3〜5歳児の場合、私立幼稚園の一部は月2万5700円、認可外施設やベビーシッター、病児保育などのサービスは月3万7千円を上限とする。0〜2歳児は月4万2千円まで補助する。認可外施設は保育士の配置数などで国が定める指導監督基準を満たすことが条件だが、法施行後5年間は基準を満たさない施設も対象となる。制度の検討過程で、全国市長会が「指導監督基準を満たさない施設まで含めると、子どもの安全に責任が持てない」と強く反発。このため地域事情に応じて、市町村条例で対象施設の基準を厳格化することも認める。朝鮮学校幼稚部やインターナショナルスクールなどは、国の基準を満たさない場合は無償化の対象にならない。 *6-2:http://qbiz.jp/article/148678/1/ (西日本新聞 2019年2月13日) 資生堂の久留米進出、九州の産業に多様化期待 雇用拡大、地元企業と連携も 九州初となる資生堂の新工場が福岡県久留米市に建設されることが決まった。訪日外国人客の増加を受け、高まる「メード・イン・ジャパン」製品への需要に応えるとともに、アジアへの輸出にも対応する。これまで自動車や半導体製造などを中心に発展してきた九州にとっても、産業の多様化につながり、雇用にとどまらない経済波及も期待されるものの、化粧品産業の裾野拡大などは未知数だ。「(バイオ産業の集積を目指す)『福岡バイオバレープロジェクト』に弾みがつく。新しい雇用も生まれ、地方創生という観点からも非常に感謝している」。福岡県の小川洋知事は12日の立地協定締結式で、資生堂の新工場進出に期待を寄せた。九州は自動車や半導体製造などを基幹産業として発展。技術や人材の移転が進み、部品メーカーなど関連産業も集まって、一大集積地を形成するようになった。ただ、輸出依存の高い九州の製造業は海外の景気悪化や国際競争の激化などのあおりを受けることもあり、より多様な産業が求められている。今回、化粧品の世界的ブランドが進出することで、九州の産業構造の重層化が進む。資生堂の魚谷雅彦社長も「地元のITベンチャーといろいろな取り組みができるのではないか。バイオ分野との連携もできれば新しい価値を生み出していける」と地元との協調にも意欲をみせた。雇用が広がる側面もある。久留米市の大久保勉市長は、大学生の地元定着率が低いことに触れ「有名企業に就職できることはすばらしい」と期待。資生堂は地元での雇用規模は今後固めるとしているが、「かなり地元の人に協力いただくことになると思う」(魚谷社長)という。高い品質の「日本ブランド」製品を維持し、地元の産業として育てるには質の高い人材の養成、確保も課題になる。一方、自動車産業のように、原料の供給などで裾野が広がるかは不透明だ。佐賀県唐津市を中心に化粧品産業の拠点化を目指す動きもあるが、資生堂側は既存取引先の九州工場からの仕入れなどにとどまる可能性もあり、供給網への参入といった進出の波及効果は、現段階では見通せない。 ◇ ◇ ●海外需要の急増に対応 品質維持、向上が鍵 資生堂が福岡県久留米市に化粧品の工場新設を決めたのは、中国を中心とする海外向け需要の急増に対応するのが最大の狙いだ。少子高齢化、人口減少で国内市場の伸びが期待しづらい中、同社は既に連結売上高の6割近くを海外で稼いでいる。海外市場で高い人気を誇る資生堂の「メード・イン・ジャパン」。その品質とブランド力を維持することこそ、新鋭工場の使命といえる。日本製の化粧品は、2010年ごろから急増した訪日外国人による「爆買い」で人気に火が付いた。爆買いが沈静化した後も人気は持続。帰国後に通信販売で買い求める中国人も少なくない。国の統計によると、化粧品の17年の国内出荷額は約1兆6千億円で過去最高。対中輸出額は18年までの8年間で10倍に増えた。資生堂の海外市場での売れ筋は、高価格帯ブランド「SHISEIDO」「クレ・ド・ポー ボーテ」のほか、中価格帯の「エリクシール」など。「長年の研究開発の成果や最新技術を採用している点など『日本の資生堂』が信頼されている」との同社グローバル広報部の言葉を裏付けるように、数字も伸びている。18年12月期の売上高をみると、中国向けは前期比32・3%、アジア太平洋圏は13・9%それぞれ伸びた。海外からの「神風」を受け、栃木県、大阪府に続く工場新設に踏み切る資生堂。だが化粧品の世界では、欧米勢の攻勢も激しい。また最近では、日本製への信頼を失墜させる品質問題が日本企業で相次いでいる。海外市場の期待を裏切らない品質の維持、向上こそが、資生堂の勝ち残り戦略と言って過言ではない。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM2D6F8NM2DUCVL03V.html (朝日新聞 2019年2月13日) 著作権侵害、スクショもNG 「全面的に違法」方針決定 著作権を侵害していると知りながら、インターネット上にある漫画や写真、論文などあらゆるコンテンツをダウンロードすることを全面的に違法とする方針が13日、文化審議会著作権分科会で了承された。「スクリーンショット」も対象となり、一般のネット利用に影響が大きいことから反対意見が出ていた。悪質な行為には罰則もつける方向で、文化庁は開会中の通常国会に著作権法の改正案を提出する。早ければ来年から施行となる見込み。これまでは音楽と映像に限って違法だったが、被害の深刻な漫画の海賊版サイト対策を機に、小説や雑誌、写真、論文、コンピュータープログラムなどあらゆるネット上のコンテンツに拡大されることになった。個人のブログやツイッターの画面であっても、一部に権利者の許可なくアニメの絵やイラスト、写真などを載せている場合は、ダウンロードすると違法となる。メモ代わりにパソコンやスマートフォンなどの端末で著作権を侵害した画面を撮影して保存する「スクリーンショット」もダウンロードに含まれる。このため「ネット利用が萎縮する」と批判が起きていた。ただ、刑事罰の対象範囲については、著作権分科会の法制・基本問題小委員会で「国民の日常的な私生活上の幅広い行為が対象になる」ため慎重さを求める声が相次ぎ、「被害実態を踏まえた海賊版対策に必要な範囲で、刑事罰による抑止を行う必要性が高い悪質な行為に限定する」こととした。いわゆる「海賊版サイト」からのダウンロード▽原作をそのまま丸ごと複製する場合▽権利者に実害がある場合▽反復継続して繰り返す行為――などを念頭に、今後文化庁が要件を絞り込む。 <在留資格の根拠が不明確で恣意的である> PS(2019年2月16、21日追加):*7-1の「高度人材ポイント制」の加点対象大学が、現在は旧帝大・早大・慶大などの13大学に限られており、地方大学に少なく、その選択に明確な基準がないのには驚いた。外国人在留資格優遇大学の拡大は、単に「高度人材の地方分散」という要請だけでなく、有用な人材を集められるか、公平性はあるかなどの視点も重要であるため、恣意性がが入らないように、各大学の申請により合理的な基準(少なくとも国立大学は入るようでなければならないし、農業・保育・介護など需要の多い科目を教えている大学も入れるべきである)に基づいて行われるべきである。 また、*7-2のように、熊本県警は入管難民法(資格外活動・不法残留)違反で、菊池市の製造工場で働くベトナム国籍の技能実習生ら12人を逮捕し、その理由は「技能実習の在留資格を持つ人が資格外活動の許可を受けずに同工場で補助作業員として働いて報酬を受け取った」「在留期間を超えた」などだそうだ。しかし、人手が足りず、少子化を問題にしながら、日本で働いている外国人を軽微なことで犯罪者扱いするのは人権侵害も甚だしく、日本のメディアがトランプ大統領を批判するのは何かを間違えている。 なお、*7-3のように、新しい外国人雇用制度に期待している農業は、積み残された課題をまじめに指摘しているため、一つ一つの課題を解決していくことが望まれる。 *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190216&ng=DGKKZO41350440V10C19A2MM8000 (日経新聞 2019年2月16日) 外国人在留資格、優遇大学を拡大 高度人材、地方へ分散促す 政府は外国人の学歴や年収を点数にして評価する「高度人材ポイント制」の加点対象を地方大の卒業者にも広げる。地方大出身者が在留資格を取りやすくする。4月に新在留資格による外国人労働者の受け入れが始まるのを前に、相対的に賃金が高い都市部への人材の集中を避け、人手不足が深刻な地方への分散を促す。高い技能を持った外国人を地方経済の活性化に生かす狙いだ。高度人材ポイント制は2012年に導入した。学歴や年収、職歴といった項目ごとにポイントを設け、70点に達すると「高度専門職」の在留資格を与える制度。配偶者の就労や親の帯同などで優遇を受けられる。18年6月時点で約1万3千人が認定されており、政府は22年末までに2万人に増やす目標を掲げる。対象は大学教員などの研究職や企業の営業職、経営者といった人材。活動の種類によって異なるものの、例えば博士号取得で20~30点、法相が指定する大学を卒業した場合は10点を加算する。今回はこの対象校を広げる。3月をメドに地方を含む100以上の大学に拡大する。これまでは東大をはじめとする旧帝大や早大、慶大など全国13大学に限られていた。既存の対象校には広島大や九州大なども含まれていたが岡山大や熊本大など、より人口が少ない地域の大学にも広げる。加点対象大学の卒業者でなくても、職歴や年収に応じて加算されるポイントで高度専門職の在留資格を得られる。ただ加点対象の大学を卒業すれば10点を獲得でき、在留資格をより取得しやすくなる。政府は留学の段階から外国人が地方を選びやすくなるとみる。基準となるのは英教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションなどが公表する世界大学ランキングに選ばれた大学。国際化の取り組みに文部科学省が補助金を出す「スーパーグローバル大学」の指定校も対象とする。政府は4月からの外国人材の受け入れ拡大を控え、運用に関する基本方針を昨年12月に決定。外国人材が大都市圏に集中するのを防ぐため、必要な措置をとると明記した。事実上の単純労働を対象とする新在留資格「特定技能」を巡っては、先進的な取り組みを進める自治体への財政支援制度をつくる方針を打ち出した。 *7-2:http://qbiz.jp/article/149120/1/ (西日本新聞 2019年2月21日) 技能実習生ら12人逮捕 熊本の同じ工場 入管法違反容疑 熊本県警は19日、入管難民法違反(資格外活動や不法残留)の疑いで、同県菊池市の製造工場で働くベトナム国籍の技能実習生ら12人を逮捕した。逮捕されたのは、菊池市泗水町永のチン・ヴァン・ズン容疑者(25)らで、11人が技能実習、1人が留学の資格で来日していた。逮捕容疑は、チン容疑者ら技能実習の在留資格を持つ2人が、昨年11月〜今年2月19日、資格外活動の許可を受けずに同工場で補助作業員として働き、報酬を受け取った疑い。8人が在留期間を3カ月〜3年半超えて日本に滞在した不法残留、2人が偽造在留カードを所持した疑い。県警によると、12人は一軒家2棟に6人ずつで暮らしていた。近隣住民から「不審な外国人がいる」と通報があったという。12人は同じ派遣会社から工場に派遣されたと話しており、県警は派遣元の会社からも事情を聴いている。 ◇ ◇ ●熊本で外国人労働者急増 地震後、人手足りず 日本で働く外国人労働者は昨年10月時点で146万463人に達し、届け出が義務化された2007年以降、最多を更新した。熊本県では1万155人が働き、前年からの増加率は31・2%と全国で最も高かった。少子高齢化や景気回復に伴う労働力不足に加え、熊本県では「震災後の人手不足も要因」(熊本労働局)とみられ、外国人労働者の増加傾向は今後も続くとみられる。国籍別ではベトナムが約4割を占め、中国、フィリピンが続く。同労働局によると、資格別では「技能実習」が6295人で6割超。就労する産業別では「農業、林業」29・2%、「製造業」28・3%、「卸売業、小売業」10・8%、「建設業」8・8%の順に多かった。技能実習生が、より収入が高い職を求めるなどして失踪する事例も相次ぐ。熊本県警によると、昨年1年間の失踪者は247人に上り、15年の2・8倍となっている。 *7-3:https://www.agrinews.co.jp/p46802.html (日本農業新聞 2019年2月21日) 外国人雇用制度 課題積み残し 生活支援誰が? 派遣元のサポート期待 技能実習生受け入れ法人 昨年の臨時国会で改正出入国管理法が成立し、4月から新たに外国人を雇用する制度がスタートする。短期間の受け入れも可能となり、農・漁業では直接雇用だけでなく派遣形態でも受け入れができるようになるため、生産現場の期待は高い。ただ、外国人労働者が地域社会になじめるような生活支援の枠組みなど不透明な部分が多く、制度開始を前に、不安を訴える声が上がる。働く外国人にとっては、家族の呼び寄せが基本的にできないなど、先送りされた課題も残る。鳥取県大山町の「当別当育苗」では、フィリピンからの技能実習生、アンジェリカ・キントさん(27)がポット苗を運ぶ作業に励む。「ここに来てよかった。親切で学ぶことが多い。ごますりじゃなくて、本音よ」。個室が整備されるなど働く環境に感謝するものの、母国に残した3人の子どもを思うと、切ない気持ちがこみ上げるという。夫と義理の母が子育てをするが「お金をためて仕送りをするの。早く会いたいわ」と話す。年間160万ポット のスイカやトマトなどの苗を専業農家向けに出荷する同社。32年前に商社マンから農家に転職した當別當英治さん(68)が経営し、5年前から技能実習生を年間4人程度受け入れる。「気持ちよく働いてもらった方が経営にプラスになる。コミュニケーション不足は仕事のミスにつながる」と考え、実習とは別に、来日後1年間は毎日、自ら日本語を教え、対話を深める。食事や旅行などイベントも欠かさず、研修生の母国の文化や国民性を勉強して理解し、日常生活をサポートしてきた。国際貢献の名の下に行う研修と、事実上は労働力として受け入れる現場の実態に「無理がある」と感じていたことから、新制度に期待は大きい。作物に応じた派遣を希望し「直接雇用ならサポートもできる限りするが、派遣で生活支援を派遣会社が担うことになれば農家の負担軽減になる」と考える。 ●家族呼び寄せ 要望強く 家族の呼び寄せや生活支援をどこが担うかなど、4月からの制度開始を前に積み残された課題は多い。新制度では、外国人から要望の強い家族の呼び寄せは原則できないが、子どもを母国に残す場合、一時帰国は可能になる。ただ、来日、帰国時と同様に、一時帰国でも飛行機代は外国人が負担することになる見通しだ。人権の観点から家族帯同への要望は強く、経済同友会も1月に必要性を提言している。新制度では、受け入れる農家や派遣会社が支援できない場合、日本語習得や社会で暮らすための教育、住宅確保や手続きのサポートといった生活支援などを国が認定する「登録支援機関」が担う。業界団体や弁護士、社会労務士などが想定される。監理団体が登録支援機関になることもできる。ただ、同機関がどの地域で、どこまできめ細かくサポートできるかは不透明だ。外国人雇用を視野に入れる関東の農家は「実習生のように、受け入れ農家が責任を問われない派遣(形態)に期待している」と本音を明かす。法務省は今月から新たな仕組みについて、47都道府県で説明会を開いている。同省は「雇用計画や支援計画の基準などを記した政省令を公表できていないが、説明できる範囲で理解を求めていく」(入国管理局)とし、細部は「検討中」を繰り返す。4月からの施行を前に、自治体担当者は「国に聞いても不明確な点ばかり。人手不足対策は切実な問題なので、走りながら課題を検証して、運用を改善していくしかない」などと説明する。全国に先駆けて外国人を派遣する「農業サービス事業体」を発足し、5月から外国人を生産現場に派遣する長崎県は「政府の方針を受けて生活支援などを決めていきたい」(農業経営課)としている。 ●現行制度 教訓生かせ 外国人技能実習生や新たな在留資格を研究する早稲田大学の堀口健治名誉教授の話 新たな制度は4月に始まるが、仕組みが定まっておらず“生煮え”の状況だ。当面、農家やJAは技能実習生で対応を進めることになるだろう。技能実習制度では、訪れる外国人も受け入れる農家側も双方にメリットがあるよう、生活面も含めて多くの農家は配慮してきた。新制度では、技能実習制度に比べると作業に制限がないことがメリットとされるものの、トラブルも想定される。費用負担や手続きなど、どこが責任を負ってフォローするのか、派遣で支援体制が機能するのかなど、課題が残される。技能実習制度の教訓や仕組みを生かした対応が求められる。 <医療の充実も地方創成の手段の一つであること> PS(2019年2月14、21日追加):*8-1のように、九経連が、医療機関の外国人患者受入態勢整備を進めるため、「九州国際医療機構」を設立して多言語対応やトラブル対策を支援し、「訪日客などにしっかりした医療を提供するとともに、先端医療を国際的に供給するシステムをつくりたい」としているのはよいことだが、多言語に対応するのは容易でないため、AIなど医療分野以外からの機器開発による支援も重要だ。しかし、*8-2のように、「医療ツーリズム」市場も世界で急拡大しており、環境の良い場所で高度な医療を受けて完治したいというニーズは今後も増え、2021年まで年率13%で成長が続くそうで、医療は高付加価値の“観光”の一つになりつつある。 一方で、*8-3のように、日本にも医師不足地域があり、「年1900~2000時間」までの残業を認めるとする厚労省の原案が出ているが、これは医師を他の人の2倍働かせる内容で、よほど健康で病気になったことがなく病人の気持ちはわからないといった人しか医師を続けられないというパラドックスを作る上、医師が研鑽する時間をとるのも難しくする。厚労省は、*8-4のように、「2036年時点に各都道府県で必要とされる医師数を推計すると、最も医師の確保が進んだ場合でも宮崎など12道県で計5323人の不足が見込まれる」としているが、おおざっぱに全体数を推計するのではなく、診療科による医師の偏在もなくすよう頭を使うべきである。 しかし、ちょっと気を付ければ無駄に医師を忙しくする必要のないことも多いのに、*8-5の事例のように、私は(いつも風邪をうつされないように自分がマスクをかけて電車に乗るのだが)、先日、マスクを忘れて電車に乗った時、隣に来た男性に咳をされ風邪をうつされてしまった。このように、みんなに迷惑をかけるのに、マスクもせずに大きな口をあけてせき込むのはマナー違反であり、まさか「こういうことを言うのが相手を傷つける」などという教育はしていないだろうが、学校での清潔・マナーに関する教育に疑問が持たれる。 ![]() ![]() ![]() 2018.7.28東洋経済 2018.11.15東京新聞 2019.2.18西日本新聞 (図の説明:左図のように、日本における外国人労働者数は毎年20万人ペースで増加しており、中央の図のように、人手不足はさらに増える見込みだ。また、右図のように、医師数も不足している地域があるが、診療科による医師の偏在もあるため、総量調整だけでは解決しない) *8-1:http://qbiz.jp/article/148407/1/ (西日本新聞 2019年2月7日) 外国人診療態勢強化へ 九経連が医療機関支援組織 多言語化やトラブル対策 九州経済連合会は6日、医療機関での外国人患者の受け入れ態勢整備を進めるため、「九州国際医療機構」を設立した。在留外国人や訪日客が増加する中、医療従事者向けのセミナーを開催するなどして、多言語対応の充実や医療費未払いといったトラブル対策を支援する。代表理事に就任した九州大病院の赤司浩一病院長は福岡市で記者会見し「訪日客などにしっかりと医療を提供するとともに、先端医療を国際的に供給するシステムをつくりたい」と抱負を述べた。九経連の麻生泰会長は「医療を通じて外国人に安心感を提供することが、観光やビジネスの面で九州の魅力アップにつながる」と強調した。法務省などによると、九州の在留外国人は13万1532人(2018年6月末)。九州の空港や港から入国した外国人は、18年に初めて年間500万人を超えたとみられる。在留外国人や訪日客の受診が増えるのに伴い、医療機関の言語対応が不十分で適切な診療ができなかったり、外国人患者が日本の公的医療保険制度を不適切に利用したりする事例も起きている。機構は九経連に事務局を置き、問診票などの多言語対応支援や医療通訳の勉強会開催、多言語で受診できる医療機関や医療保険制度など外国人向けの情報発信にも取り組む。治療目的の「医療ツーリズム」で来日する患者と受け入れ医療機関のマッチング支援も手掛ける考えだ。 *8-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36751950S8A021C1MM0000/ (日経新聞 2018/10/22) 医療ツーリズム、世界で急拡大 新興国が誘致競う 国外を医療目的で訪れる「医療ツーリズム」の市場が世界で急拡大している。主要国の高齢化や格安航空会社(LCC)など安い交通手段の発達により、タイなど新興国渡航の人気が高まる。各国で査証(ビザ)要件を緩めるなど需要取り込みの競争も激しい一方で、地元市民の医療が後回しになるとの批判も出ている。米プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が2018年に明らかにした調査によると、医療ツーリズムの世界市場は16年時点で681億ドル(約7兆6千億円)だったという。21年まで年率13%で成長が続くと試算している。16年は世界で約1400万人が移動したとみられ、訪問先はタイ、メキシコ、ブラジルなど新興国が人気だ。医療レベルが比較的高いにもかかわらず、物価が安いため。治療費を含めた旅費は1人あたり約3千~1万ドルで、通常の観光より多い傾向にある。市場拡大の背景には高齢化がある。50年に4人に1人が65歳以上となる中国などが需要をけん引する。また国内線で成長したLCCが国際線にも広がり、移動が手軽になっている。誘致合戦も過熱する。タイは「アジアの医療ハブ」構想を打ち出し、官民で取り組んできた。調査会社によると、17年に医療ツーリズムで訪れた人はのべ330万人と世界トップのもようだ。18年には4%増の同342万人の見込みだ。タイ政府は17年、治療目的の観光客向けに査証(ビザ)の滞在許可期間を延長した。中国など周辺5カ国からの観光客はそれまでより最大76日長い90日滞在できるようにした。バンコクが拠点の富裕層向け私立病院はホテル並みと評される豪華な設備を整え、呼び込みに躍起だ。近年台頭するのがインドで、訪問者は17年に約49万5千人と15年の2.1倍に増えた。医療機器や医師が優れている割に費用が安いのが一因で、手術費は先進国の2割で済む例もあるという。医療レベルが不十分な近隣やアフリカ諸国のほか、インドの伝統医学「アーユルベーダ」を目的にした欧米や中東の訪問者も多い。インド政府は医療人材のスキルを高める研修や、外部にアピールするイベントなどに補助金を出している。病院最大手アポロ・ホスピタルズは英語やヒンディー語などが話せない患者のために通訳を置き、母国から付き添う家族のために宿泊先を探すといった手厚い対応をしている。中東からの旅行者が多いのがトルコだ。地元メディアによると医療目的の訪問者は10年間で急増し、17年に約70万人が訪れた。人気の一つが男性向け植毛で、年10万人以上が治療を受ける。予約までの日にちの短縮や通訳の手配などを官民で進めており、18年には外国人の治療費の一部を付加価値税(VAT)の対象外とした。欧州ではハンガリーやルーマニアなど東欧の人気が伸びている。メキシコも、医療費が高くなりがちな米国の旅行者を多く受け入れる。一方で問題点も指摘される。米国の疾病予防管理センターは言葉が分からない国での治療、品質が分からない薬剤に危険が伴うと指摘する。オーストラリアでは17年、マレーシアで脂肪吸引などを受けた男性が帰国後に死亡したと報じられた。たとえばインドでは医師や病床数が足りず、低所得者層や農村部には十分な医療サービスが行き渡っていない。こうした国民が置き去りにされる中、国外の高所得者が恩恵を受ける医療ツーリズムを批判的にみている個人もいる。日本政府も医療ツーリズムを成長分野と位置づけ、巻き返しをねらう。ただ、16年の医療滞在ビザ発行は1307件にとどまっている。海外での認知度が乏しいうえ、新興・途上国と比べてコストが高い点が伸び悩んでいる原因とみられる。 *8-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO3981696009012019EE8000/ (日経新聞 2019/1/10) 医師不足地域「年1900~2000時間」 残業規制で厚労省原案 厚生労働省が2024年4月から適用する医師の残業時間の上限規制の原案がわかった。医師不足の地域の病院などでは「年1900~2000時間」まで容認する案だ。連合など関係団体に示して調整を進めているが、一般労働者の上限規制を大幅に上回るため、議論は難航が予想される。4月施行の働き方改革関連法では一般労働者で年720時間以内、単月100時間未満などの残業時間の上限規制を課す。医師も規制対象だが、厚労省は医師向けの独自ルールを今年度中に固め、5年後に適用する。一般の医師の残業時間の上限は休日労働込みで960時間とする方針。その上で地域医療に欠かせない病院などに勤務する医師は特例で上限を緩める。原案では特例は35年度末までの経過措置とする方針。勤務間インターバルなどの健康確保措置も義務付ける。 *8-4:http://qbiz.jp/article/148936/1/ (西日本新聞 2019年2月18日) 医師不足12道県5000人超 36年推計 都市からの配分急務 厚生労働省が2036年時点で各都道府県で必要とされる医師数を推計すると、最も医師の確保が進んだ場合でも、宮崎など12道県で計5323人の不足が見込まれることが17日、関係者への取材で分かった。医師確保が進まない場合、必要な人数を満たせない34道県の不足分を積み上げると、3万人超となる。東京や大阪、福岡、佐賀、長崎など13都府県では、その場合でも必要人数を上回る医師が確保できると予測されており、大都市圏から不足地域に医師を配分する施策が急務となる。厚労省は36年度までに医師が都市部に集中する偏在問題の解消を目指している。今回の集計結果を18日の有識者検討会に報告し、医師確保策の議論の材料とする。今後、医師が足りない地域に関しては、地元で一定期間勤務することを義務付ける大学医学部の「地域枠」を優先的に配分するなど、対策を強化したい考えだ。検討会では、医師が集中している現状の度合いを示す「医師偏在指標」を、都道府県が複数の市町村などをまとめて設定する「2次医療圏」ごとに提示。都道府県など3次医療圏単位でも示し、医師不足が顕著な岩手、新潟、青森など15県は「医師少数3次医療圏」とする方針。今回の推計は、患者の年齢や性別による受診率や、配置されている医師の性や年齢、将来の人口変化などを考慮し、36年時点で必要とされる医師数を算出。2次医療圏ごとでは、全国335カ所のうち約220カ所で医師が不足する結果となった。都道府県ごとの推計をみると、医師確保が最も進んだ場合でも、新潟で1534人、埼玉1044人、福島804人の不足が生じる。医師確保が進まなかった場合は、埼玉で5040人、福島で3500人、茨城で2376人と不足人員がさらに増えると推計。必要人数を満たせなかった34道県の不足分を、他の都道府県からの流入を考慮せず、単純に積み上げると、3万4911人となる。一方、その場合でも、東京で1万3295人、大阪で4393人、福岡で2684人が必要な医師数を上回ることが見込まれている。 *8-5:http://qbiz.jp/article/149044/1/ (西日本新聞 2019年2月20日) せき込む音が高速バス車内に響く・・・ せき込む音が高速バス車内に響く。せきの主は反対側の窓側席の男性。マスクはしていないようだ。世の中ではインフルエンザが流行中。バスの中は逃げ場がない。「勘弁してほしい」と思い窓からずっと外を見ていた。近くの客は気が気じゃなかっただろう。そんな体験から10日余り。のどが痛くてせきが止まらない。鼻水が出て顔が熱っぽい。病院で検温すると38度7分。「見るからに怪しい」と医師。ウイルス検査でA型のところに赤い線が出た。ワクチンを打っていたので症状が軽くて済んだ。職場を強制退去させられ、しばらくは自宅軟禁生活だ。編集局内でインフルエンザがじわじわ広がっている。世間ではピークは過ぎたようだが、流行の終わりかけに発症するとは中年男の悲哀。今週初めからのどが痛かったのにマスクをしてなかった自分を猛省。 <地方の発展はみんなの幸福に繋がるのに・・> PS(2019年2月19日追加):*9のように、金沢産野菜と農産加工品を東京に運ぶ貨客混載の高速バスが運航を開始したそうだ。人口の少ない地方は、バスも貨客混載しなければ走らせることができないくらいだが、それなら貨物積載部分の面積が大きな地方仕様のバスがあってもよいと思われる。このような中、2020年開催の二度目の東京オリンピック・パラリンピックに2兆円以上もかけ、東京の地下鉄工事は1路線1,000億円以上と言われながら、地方が返礼品を工夫し地場産品を開発しながら、ふるさと納税によって少々住民税を集めると東京圏から苦情が出るというのは、それこそ背景や歴史を無視したエゴ以外の何物でもないだろう。 *9:https://www.agrinews.co.jp/p46779.html (日本農業新聞 2019年2月19日) 高速バスで野菜直送 東京便スタート JA金沢市 金沢産の野菜と農産加工品を東京に運ぶ貨客混載の高速バス「産地直送あいのり便」の初便が18日、西日本JRバス金沢営業所を出発した。バスのトランクスペースを使って生産量が少ない「加賀野菜」などを輸送し、販路拡大や運送費のコスト削減、農家の所得増大につなげる。今後、月に4便程度の運行と都内各所での即売会などを計画する。輸送されたのはサツマイモ「五郎島金時」や「加賀れんこん」「金沢春菊」などの加賀野菜と加工品各9品目の計4ケース。JA金沢市が集荷した。金沢営業所前で積み込み、JAの辰島幹博常務は「小ロットでも可能な新しい輸送事業となる。金沢産野菜の発信の広がりに期待する」とあいさつした。バスは午前9時半に金沢駅発、午後5時22分に新宿駅着の「金沢エクスプレス2号」。野菜マーケティング販売などのアップクオリティ(東京)が運営を担当し、19日、三菱地所(同)の社員に直販する。アップクオリティによると、バス会社と連携した農産物の貨客混載輸送は9県目。担当者は「都内のレストランやスーパーからも注文を取りたい」と話した。西日本JRバスでは農産物の貨客混載輸送は初めて。金沢営業所の丸岡範生所長は「バスは3列シートで定員が28人と少なく、トランク収納に余裕がある。定期便を使って輸送したい」とした。JAの辰島常務は「昨年の試験輸送では鮮度が高く、速く届くと好評だった。生産量の確保が今後の課題だ。これまで以上に、若い人にも加賀野菜を栽培してもらいたい」と期待を寄せる。 <地方創成とふるさと納税> PS(2019年2月22、23《写真等》、24、25日追加):地方が発展するためには、*10-1のように、所得の高い仕事を増やし、地域の魅力をアピールして移住者を増やすのが最も合理的である。そのためには、今後の成長産業である農林漁業資源を活かして生産者の所得を増やしたり、製造業の事業所・本社機能が地方に移るような施策を行うことが必要だ。しかし、海外も含めて立地の選択肢が多い製造業は、税制よりも販売エリアへのアクセス・労働力の質と単価・関連産業からの調達を考慮して立地を決定するため、間違いのない意思決定と筋の通った普段の誘致努力が必要だ。一方で、*10-2の地方創生目的で文化庁などの政府機関の一部を地方移転するというのは、政府機関の生産性はもともと高くなく、分散すればさらに効率が下がるため、首都機能の一部をまとめて疎開でもさせるのでなければ、国全体としてはマイナスだろう。 また、*10-3のように、対馬の漁業者でつくる「対馬の漁業者の所得向上を実現する会」が、①対馬市への公設市場開設 ②燃料費の高騰対策 等の要望書を提出したそうだ。しかし、①については、対馬はよい水産物を作っているため、公設市場をいくつも通すより東京・大阪・福岡の公設市場の出張所を対馬につくってもらった方が、手数料を省くことができるのではないか?また、②については、「船の燃料費が高いから補助しろ」と20年以上も言い続けるのはあまりに工夫がなく、船を電動船に変えて島で発電した自然エネルギー由来の電力で動かしたり、クロマグロの漁獲制限で所得が半減したのならクロマグロの完全養殖をしたり、船に魚を効率よく漁獲できる機材を備えたりすればよいと考える。 *10-4-1、*10-4-2のように、ふるさと納税額は、泉佐野市が2017年に135億円を集め、2018年には360億円に達する勢いで他地域から苦情が出るほどだが、私は商才があると思った。泉佐野市は関西空港を持ち、瀬戸内海・淡路島・四国に面した美しくて歴史的交通の要衝であるため、泉佐野市にアマゾンやガリバーと同じくらい世界に通用するネット通販会社(例えば、大王《おおきみ》という名前)を作って、質の良いものを販売してはどうか? そして、地方自治体が、ふるさと納税により、一村一品のような小さな目標ではなく、自らの長所を活かして堂々と売れる物を開発してきたことは、ふるさと納税制度の大きな成果なのである。 なお、今日(2019年2月24日)わかったのだが、*10-5のように、半島・離島・奄美群島のうち一定の基準を満たす地域は、「個人又は法人が機械・装置、建物・その附属施設及び構築物の取得等をして事業の用に供すると5年間の割増償却ができる」という税制優遇があるそうだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() 移住希望地域 長崎県対馬市の様子 (図の説明:左図のように、移住希望地域は長野県が連続1位で、都市部から地方への移住に抵抗感のない人は多いことがわかる。また、左から2番目の図のように、長崎県対馬市は韓国の釜山と49kmしか離れていない国境離島であり、リアス式海岸が美しい。そして、ここでは獲る漁業だけでなく、右から2番目の写真のようなマグロの養殖・1番右の写真のような真珠の養殖・その他の魚介類の養殖も盛んだ。つまり、対馬は、今後のアジアの台頭で潜在力が高くなる島であり、付加価値の高い仕事をするための資本投下や人材投入が必要な時期なのである。また、真珠も素敵なアクセサリーに加工して販売した方が付加価値が上がるし、ふるさと納税の返礼品にしてもよいと考える) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() イタリア製 フランス製 スペイン製 日本製 (図の説明:念のため、各国の真珠のブローチを並べて見たところ、ヨーロッパ製は台座のデザインが華やかで、日本製は真珠は多くついているのだが、台座が簡素なため全体としておとなしくなっている。そのため、外国のデザイナーを入れてみるのも一案だろう) *10-1:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190220/KT190219ATI090041000.php (信濃毎日新聞 2019年2月20日) 移住希望地 長野県1位 2年連続 認定NPO法人ふるさと回帰支援センター(東京)が19日に発表した2018年の移住希望地ランキングによると、1位は2年連続で長野県となった。2位は前年3位の静岡県、3位は前年16位の北海道だった。長野県は年代別でも30〜50代でトップ。20代以下では新潟県、60代では北海道、70代以上では宮崎県が1位だった。長野は20代以下で2位、60代で3位、70代以上で2位。長野県楽園信州・移住推進室は、市町村と連携した情報発信などが要因と分析。阿部守一知事は「来年度は『信州暮らし推進課』を設置し、一層充実した体制の下で移住、交流の促進に取り組む」としている。18年に同法人が運営する情報センターを利用した人や、セミナー参加者に移住したい都道府県を複数回答可で質問。9776件を集計した。 *10-2:https://www.kochinews.co.jp/article/252817/ (高知新聞 2019.2.10) 【一極集中の拡大】地方創生の本気度を問う 東京一極集中に歯止めがかからず、むしろ加速している実態があらためて明らかになった。総務省が公表した2018年の人口移動報告によると、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)は転入者が転出者を14万人近く上回る転入超過となった。前年より1万4千人以上多く、一極集中が拡大した。その半面、39道府県が人口の流出を意味する転出超過で、高知県は2300人余り。全国の市町村の7割以上で転出超過となった。日本人に限った統計でも、東京圏は23年連続で転入が上回った。安倍政権が地方創生本部を新設した14年以降の5年間は、10万人超えが続く。東京圏の吸引力が強まっているのは皮肉といえる。東京一極集中は、戦後の高度経済成長政策のひずみとして問われ続けてきた課題だ。近年は20年の東京五輪に向けた建設ラッシュや、企業の業績改善に伴う慢性的な人手不足という要因もあろう。ただ、安倍政権は地方創生を看板政策に掲げ、選挙のたびに地方の期待を取り込んできた。その本気度が問われる実態であり、危機感を持って政策を見直すべきだ。15年度にスタートした地方創生の総合戦略は、東京圏と地方の転出入を20年に均衡させる目標を掲げている。だが、目に見える成果は上がっていない。達成に向けた目玉政策は、本社機能を東京23区から地方に移す企業への優遇税制だったが、昨年11月現在で認定は25件。企業を大胆に動かす誘導策にはなり得ていない。昨年も東京23区にある大学の定員増を10年間禁止する新法が成立。さらに、人口流出をせき止めるダムとして重点支援する「中枢中核都市」に高知市を含む82市を選んだ。こうした政策の実効性も現時点では見通せない。中枢中核都市については地方から、周辺の人口を吸い上げる「ミニ集中」を懸念する見方が強い。人の流れを変えるインパクトでいえば、政府機関の地方移転も文化庁の京都府移転などごく小規模にとどまっている。一極集中の是正という本来の狙いに照らせば、期待できる効果はあまりに小さい。省庁の強い抵抗が繰り返されてきた課題とはいえ、ここでも安倍政権の本気度に疑問符が付く。首都直下地震など災害リスク対応という観点もある。リーダーシップを持って議論し直す必要がありはしないか。政府は19年度、総合戦略の新5カ年計画を策定する。これまでの政策を真摯(しんし)に検証し、地方の意見を取り入れながら、実効性がある政策に向け大胆に見直すべきだ。高知県も転出入者ではかる「社会増減」を19年度にゼロにする目標を掲げてきた。雇用創出や移住の環境整備など粘り強い努力が欠かせまい。また、現場の実態を踏まえた有効な政策を国に実現させるには、なお積極的に声を上げていく姿勢が必要になる。 *10-3:http://qbiz.jp/article/149041/1/ (西日本新聞 2019年2月20日) 対馬の漁業者、公設市場開設など県に要望 長崎県対馬市の漁業者でつくる「対馬の漁業者の所得向上を実現する会」(宮崎義則会長)は19日、県庁を訪れ、同市への公設市場開設や燃料費の高騰対策など5項目を県に求める5325人分の署名と要望書を提出した。県側は「施策の参考にしたい」と述べたが、漁業所得の具体的な改善策には言及しなかった。同会は昨年末に発足。署名には漁業者のほか、船の燃料や電気設備を扱う業者も協力した。同会によると対馬には魚市場がなく、売り上げの半額をかけて本土の市場に出荷しているという。また本土と対馬の燃料費の格差を県が補てんするように求めている。要望書では他に、クロマグロの漁獲制限で半減した所得対策や、違法操業への取り締まり強化を訴えている。同会は「市場があれば流通ルートに乗りにくい魚も販売でき、漁業者の利益が増える」としている。 *10-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32713260W8A700C1LKA000/ (日経新聞 2018/7/6) ふるさと納税、関西首位は大阪・泉佐野市の135億円 17年度 総務省は6日、応援したい自治体に寄付できる「ふるさと納税」による2017年度の寄付額を発表した。関西2府4県は1位が大阪府泉佐野市の135億円で前の年度の約4倍。2位は和歌山県湯浅町の49億円で同5倍だった。総務省は17年4月、返礼品の調達額を寄付額の3割以下にするなど「良識ある対応」を求めたが、3割を超えた両自治体の寄付額が急増した。泉佐野市は17年度の返礼率は約4割。返礼品の品ぞろえを1000種類以上と16年度より300種類以上増やした。もっとも選ばれたのが肉。1万円以上の寄付で黒毛和牛切り落とし1.75キログラムの人気が高かった。湯浅町は地域振興を目的に地元の約70商店が取り扱う商品を返礼品としている。肉やウナギなど高額な返礼品が人気を集めた。返礼率も最大4割だった。両市町とも18年度は返礼率を3割以下とするなどの対応をとる。関西2府4県の寄付額の総額は前年度から1.9倍の437億円だった。豪華な返礼品を自粛する動きが出る中でも、制度が徐々に浸透し、全国と同様に伸びた。地域課題を解決する財源に、ふるさと納税を活用する自治体も目立っている。大阪府吹田市は国立循環器病研究センター(同市)に入院する子どもの家族が低料金で宿泊できる施設の移転費の一部にあてる。個人や法人からの寄付を含めて目標の2億円に達した。 *10-4-2:http://qbiz.jp/article/149331/1/ (西日本新聞 2019年2月25日) ふるさと納税3倍、大阪・泉佐野 規制批判し、ギフト券も贈る 大阪府泉佐野市は25日、ふるさと納税による2018年度の寄付額が、約135億円だった17年度の3倍近い360億円になる見込みだと明らかにした。市はふるさと納税制度で過度な返礼品を規制する総務省方針に反発し、3月末までの予定で返礼品に加えてインターネット通販大手「アマゾン」のギフト券を贈るキャンペーンを始めていた。千代松大耕市長は記者会見で「キャンペーンの効果が出たが、19年度以降は大幅に減額するだろう。総務省の動きはふるさと納税の縮小につながる」と規制方針を改めて批判した。市によると、18年度は当初から17年度を上回るペースの寄付が寄せられた。360億円は2月に始めたキャンペーンの効果も考慮した12月末時点での想定で、最終的にはさらに増える可能性もある。国会で審議中の地方税法改正案は返礼品を「調達費が寄付額の30%以下の地場産品」とし、これを守る自治体のみを制度対象にすると規定している。市は4月以降、寄付の受け付けを一時停止し、改正法に適合させるため約2カ月かけて返礼品の見直しなどをするという。 *10-5:http://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/chisei/hra_zei.html (国土交通省) 半島・離島・奄美群島における割増償却制度 半島地域・離島地域又は奄美群島のうち、市町村の長が産業の振興に関する計画を策定する(一定の基準を満たすものに限る。)地区として関係大臣が指定する地区において、個人又は法人が、機械・装置、建物・その附属施設及び構築物の取得等をして対象事業(製造業・旅館業・農林水産物等販売業)の用に供した場合は、5年間の割増償却ができます。(以下略) <地方創成と自治体の連携> PS(2019年2月24日、3月2日追加):*11-1の「圏域」については、例えば、市町村毎に上下水道を運用するよりも、いくつかの市町村が一つの会社に管理運用を任せて市町村間で水を売買したり、圏域に一つの最新型ゴミ処理施設を作ったりした方が効率がよくなるし、基幹病院や中学・高校も小さな市町村まで1セットづつ持っている必要はなく、いくつかの市町村が圏域として協力した方が質が高くて効率も良くなるだろうが、その「圏域」として最適な範囲はインフラ別に異なるため、協力したい市町村が必要なネットワークを作るのがよいと思われる。つまり、国が財源を使って無理やり連携や合併を強いると、むしろやりにくくしてマイナスになることもあるため、地方自治体が連携したい時にそれを手助けするのがよいと思う。 なお、*11-2は、「今ごろ次世代エネルギーとして水素の利用拡大に向けた政府工程表が作られているのは10年遅い」というのが私の感想だが、再生可能エネルギーで電力や水素を作れば、地方の住民が必死で稼いだなけなしの金を湯水のように外国に支払ったり、輸送に金がかかりすぎて生産物を運べず産地として成立しなかったりするということがなくなるため、地方自治体や民間が先に立って世論を作り、国に進めさせるのがよいと考える。 私は、福岡市のJR博多駅と博多港を結ぶ交通なら、*11-3のようなロープウエーではなく、博多港まで高架で電車を走らせるか地下鉄を乗り入れるのがよいと思う。何故なら、乗車することが目的の観光だけでなく生活の中で乗るものであるため、便利が一番だからだ。これは、空港も同様で、途中にモノレールがあったり、乗り換えが多かったり、階段が多かったりして乗り継ぎが不便なのは、大きな荷物を持って乗ることが多い交通機関として現代の生活にマッチしていない。つまり、国交省は、首都圏で国際線と国内線を別の空港にしたことも含めて交通機関の連結を考えず、利用者の利便性を重視しなかったために、使い勝手の悪い交通ネットワークを作ってしまったわけである。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2019.2.22 2019.2.21西日本新聞 2018.9.17朝日新聞 2019.3.2西日本新聞 東京新聞 (図の説明:左と中央の図のように、日本政府内で水素ステーション設置が本格的に動き出したそうだが、燃料電池車《iMiev》ができてから既に10年以上が経過しており、あまりに遅いと言わざるを得ない。また、右から2番目の図のように、自動車だけでなく電車にも蓄電池電車や燃料電池車ができて脱電線できそうな時代であり、次は船舶や航空機等の輸送手段に応用すべき時である。なお、交通機関は安全で乗換や所要時間が少ない方がよいため、福岡市内のロープウェイはBestな選択でないと思われる) *11-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/341631 (佐賀新聞 2019年2月24日) 「圏域」構想が反対上回る 市町村連携、自治体アンケート 人口減少が進む地域の住民サービスを維持するため、新たな広域連携として、複数の市町村でつくる「圏域」が行政を運営する構想に全国自治体の計34%が反対し、賛成は計30%にとどまったことが23日、共同通信のアンケートで分かった。市町村の独自性が維持できない懸念のほか、国主導で議論が進むことへの警戒感が強い。一方で市町村の人材不足を補うため、連携強化による行政の効率化を期待する意見もある。この構想は昨年7月、総務省の有識者研究会が2040年ごろの深刻な人口減少を見据えて提言。圏域への法的権限や財源の付与も求めた。政府は第32次地方制度調査会の主要テーマとし、来年夏までに一定の結論をまとめる方針だ。調査では「反対」9%、「どちらかといえば反対」25%、「賛成」4%、「どちらかといえば賛成」26%だった。「その他」34%は、制度の詳細が固まっていないため賛否を判断できないなどの理由が多かった。反対理由は「地方の声を踏まえて慎重に議論すべきだ」の40%が最も多い。研究会が自治体側と十分な対話のないまま提言した経緯もあり、地方からは「小さい町を次々と合併へ追い込もうとしているのではないか」(兵庫県新温泉町)との声が上がる。 ●佐賀県内は賛否拮抗 佐賀県の20市町のうち、新たな広域連携に賛成と答えたのは7市町、反対は6市町で賛否が拮抗(きっこう)した。「詳細が不明」などとして、7市町は賛否を示さなかった。「賛成」は鳥栖市、「どちらかといえば賛成」は唐津、伊万里の2市と吉野ヶ里、基山、みやき、江北の4町。「どちらかといえば反対」は多久、武雄、嬉野、神埼の4市、玄海、白石の2町だった。賛成の市町は「地方創生の取り組みだけでは今後、地域活性化は難しい」(唐津、鳥栖)、「『圏域』で新たなブランド構築など観光や産業面で期待できる」(伊万里)、「『圏域』内で同一水準の住民サービスが提供できるようになる」(吉野ヶ里、みやき)、「法的根拠や財源を持つことで、圏域での取り組みの実効性が高まる」(江北)などを理由に挙げた。反対の市町は「将来の地方自治のあり方については、地方の声を踏まえて慎重に議論すべき」(武雄、白石)、「従来の中枢連携都市圏や定住自立圏など広域連携の枠組みで特に問題がない」(神埼)、「自治体独自の住民サービスがしにくくなるなど、自治が失われる恐れがある」(玄海町)とした。 *11-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201902/CK2019022202000139.html (東京新聞 2019年2月22日) 水素ステーション無人化 20年目標 燃料電池車普及へ 政府工程表案 次世代エネルギーとして期待される水素の利用拡大に向けた政府の工程表原案が二十一日、明らかになった。燃料電池車(FCV)に補給する「水素ステーション」を二〇二〇年までに無人で運営できるようにする目標を設定。コンビニ併設型のステーション拡大も盛り込んだ。二〇年の東京五輪・パラリンピックや二五年の大阪・関西万博など国際行事に合わせ技術力を世界に発信。二酸化炭素(CO2)を排出しない環境に配慮した燃料と位置付け、官民一丸で活用を促進する。水素ステーションを全国規模で整備するため国の補助対象を現行の大都市中心から全都道府県に拡大することを検討する。トヨタ自動車やパナソニックなど民間企業とつくる協議会で月内にも公表し、三月末までの正式決定を目指す。ステーションを現状の約百カ所から二〇年度までに百六十カ所、二五年度までに三百二十カ所整備する従来目標は据え置いた。無人化による営業時間拡大や人件費削減などの利点を想定。代わりに運営者が遠隔監視する仕組みの構築が必要で、安全性を確保できるかどうかが焦点になる。FCVは二五年にスポーツタイプ多目的車(SUV)やミニバンといった新車種を投入する。二〇年までに四万台、二五年までに二十万台、三〇年までに八十万台を普及させる目標を維持した。現状は約三千台とかけ離れているが新車種投入で巻き返す。東京五輪では福島県で再生可能エネルギーを使って製造した水素を、FCVや選手村のエネルギーとして利用する。大阪・関西万博でも日本の先端技術や水素の魅力を国内外にアピールする。最初の工程表は一四年に策定され、今回は三年ぶり二回目の改訂となる。工程表とは別に作成された一七年の水素基本戦略や、一八年のエネルギー基本計画を今回の原案に反映させた。資源に乏しく原発依存度の低下も図る日本にとって水素は重要なエネルギーになり得るが、生産や管理に費用がかかることが課題だ。採算を良くするため計画を具体化した一方、従来目標の据え置きも目立った。特にFCVの普及は遅れており、今後も工程表通りに進むかどうかは不透明だ。 *11-3:http://qbiz.jp/article/149655/1/ (西日本新聞 2019年3月2日) 福岡ロープウエー「尚早」 自民市議団が検討費削除提案 予算修正案、可決の公算大 福岡市のJR博多駅と博多港を結ぶロープウエー構想を巡り、市議会(60人)最大会派の自民党市議団(18人)は1日、市の2019年度一般会計当初予算案に計上された実現可能性の検討費5千万円を削除する修正案を提案すると発表した。南原茂会長は「ロープウエー限定の調査は受け入れられない」と述べ、検討費を予備費に移す案を示した。ロープウエーは市議会で反対論が根強く、修正案の可決は確実な情勢。賛成が過半数を突破し3分の2に迫る可能性も出ている。「ロープウエーに絶対反対ではないが、時期尚早で議論ができない」。市議団の打越基安副会長は、与党第1党ながら修正案に踏み切った理由を説明した。ロープウエーは、高島宗一郎市長が昨秋の市長選で公約に掲げ、3選後の今年1月には有識者や市幹部による研究会が「ロープウエーが望ましい」と提言。市議団には「結論ありきで議会軽視だ」との不満が募っていた。一部には「検討だけならいいのでは」との容認論もあったが、市議選(4月7日投開票)が迫る中、「市民にはロープウエー反対の声が多い」との見方も浮上。福岡空港への出資問題などで対立した高島市長とのあつれきも根底にあり、多数決で修正案の提出が決まったという。ほかの会派では、立憲民主や国民民主などでつくる福岡市民クラブ(8人)が、検討費を生活交通の調査に移す独自の修正案を検討中で今後、自民側と調整に入るとみられる。共産党市議団(7人)も独自の案を提出するが、「自民案にも乗ることができる」。福岡維新の会(3人)や緑と市民ネットワークの会(2人)も同調する見通し。一方、与党会派のみらい・無所属の会(5人)は「計上されたのはあくまで検討費」との立場。公明党市議団(11人)は「自民の話を聞いて冷静に対応する」、高島市長に近い自民党新福岡(3人)は「議会の議論を注意深く見守る」と述べるにとどめた。修正案が可決された場合、高島市長は地方自治法に基づく首長の「拒否権」である再議(審議のやり直し)を議会に求め、出席議員の3分の1超が修正案に反対すれば否決することもできる。高島市長はこの日、「市議会の意見をうかがいながら適切に対応する」とのコメントを発表したが、具体的な対応策は示さなかった。 <膨大な無駄遣いと失う資産の事例> PS(2019年2月25、26日追加): *12-1-1のように、米軍普天間飛行場の辺野古移設に関する県民投票は、投票率52.48%・反対72.2%で、同じ言葉を繰り返すだけの政府“説明”にも関わらず、沖縄県民の正しい意思が示されたと思う。辺野古には、*12-1-2のように、軟弱地盤が存在し「地盤改良」という名のさらなる莫大な費用と環境破壊が必要で、工期も長期化することがわかっていた。一方、国内外の空港のある他の離島を使えば軟弱地盤ではない上、埋め立て費用も時間もかからないため、沖縄県民の判断をポピュリズムと呼べる人はいない。 また、*12-2-1のように、2011年3月に起きたフクイチ原発事故のデブリ接触調査が、2019年2月13日に初めて行われ、デブリの取り出しに今後30~40年かかり、これが廃炉の最大の難関・廃炉の実現を占う試金石などと書かれているため、全体として必要になる膨大な費用を明らかにすべきだ。さらに、1~4号機の原子炉建屋を取り囲むように、20年度にも海抜11メートルの防潮堤が建つと書かれているが、東日本大震災でフクイチに押し寄せた津波の高さは15mで、海抜11メートルの防潮堤では意味がないため、またまた本気度が疑われる。 そのような中、*12-2-2に、東日本大震災とフクイチ原発事故からの復興のため2012年2月10日に発足し期限が10年と定めらている復興庁について、「原発事故による福島県の復興は10年ではできず長期にわたるので新しい組織を立ち上げる」と記載されている。しかし、国民は多額の復興税(所得税の2.1%)を支払ってきたため、これまでコストセンターである復興庁が使った予算とそれによって得られた成果を国民の前にガラス張りにすることから始めるべきであり、そんなこともできない既得権益としての新復興庁ならいらない。 なお、*13に、国は「放射能濃度が基準値(8千ベクレル/kg)以下の汚染土は、最大99%再利用可能として福島県内の公共事業で再利用する計画を進めている」と書かれているが、汚染土が未だ野積みされている地域を避難解除している無神経さに呆れる。前にもこのブログに記載したが、8千ベクレル/kgの土砂1t(総計:8,000ベクレルX1,000 kg=800万ベクレル)を人里から離れた山中に捨てるのと、8千ベクレル/kgの土砂1,400万立方メートル(8,000ベクレルX1,000 kgX14,000,000m3X1.7《土の比重t/m3》=約190兆ベクレル)を人が居住している地域で再利用するのは人体に対する影響が全く異なるため、基準値以下か否かで判断するのはまやかしだ。また、放射性物質の濃度は技術開発すれば低減できるわけではなく、エネルギーを放射線として出しながら別の物質に変わるのを待つ必要があり、その半減期は、ヨウ素131は8日、セシウム137は30年、ストロンチウム90は29年、プルトニウム239は2.4万年、ウラン238は45億年などであるため、それらが人体に与える影響を心配するのは単なる「不安」ではなく「科学的」なのである。そのため、厳格に管理しながら帰還困難区域の堤防やかさ上げに再利用するのは可能かも知れないが、環境省が「再利用は県内、県外を問わない」としているのは、日本中に放射性物質をばら撒くことになり、住環境にも農林漁業にも悪影響があって、日本の環境省の見識が問われるのである。 ![]() ![]() ![]() 2018.12.30東京新聞 2018.3.10毎日新聞 汚染土の処理 (図の説明:左図のように、大本営発表ではなく市民が計測した放射能汚染地図では、関東地方もしっかり汚染されている。また、中央の図のように、福島県などの被汚染地域では、未だに汚染土を入れたフレコンバッグが民家や田畑の傍におかれている。そして、汚染土の処理も、右図のように、ほこりを立てたり、地下水と交わらせたりなど、不注意極まりないのだ) *12-1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019022401001712.html (東京新聞 2019年2月25日) 辺野古埋め立て反対が72% 沖縄県民投票、52%投じる 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡る県民投票は24日投開票の結果、辺野古沿岸部の埋め立てに「反対」が72・2%となった。投票率は、住民投票の有効性を測る一つの目安とされる50%を超えて52・48%だった。玉城デニー知事は近く安倍晋三首相とトランプ米大統領に結果を伝達する。県側は民意を踏まえ、改めて移設を断念するよう迫るが、県民投票結果に法的拘束力はなく、政府は推進方針を堅持する見通しだ。「賛成」は19・1%、「どちらでもない」は8・8%。反対票は投票資格者の4分の1に達した。投票条例に基づき、玉城氏には結果を尊重する義務が生じた。 *12-1-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190223-00000023-ryu-oki (琉球新報 2019.2.23) 岩屋防衛相、工事長期化認める 辺野古新基地 軟弱地盤改良へ 「新要素加わった」 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、岩屋毅防衛相は22日の閣議後会見で、軟弱地盤が存在し工期が長期化するとの指摘について「地盤改良という新たな要素が加わったので、その分は(工期が)延びていくとは思う」と述べた。これまで政府は国会答弁などで、一般的な工法により地盤改良が可能であると強調する一方、工期の延長に関しては明確に説明していなかったが、岩屋氏は工事が一定程度長期化するとの認識を示した。政府が長期化を認めたのは初めて。岩屋氏は会見で、軟弱地盤の対応について「一般的な工法を用いて、相応の期間で確実に地盤改良と埋め立て工事をすることが可能だ」と強調した。「相応の期間」がどの程度なのかについては具体的な明示は避けた。軟弱地盤は辺野古の埋め立て予定海域の大浦湾側にあり、防衛省は砂を締め固めたくい約7万7千本を打ち込み、地盤を強化する工法を検討している。県は20日、埋め立て承認撤回を巡る防衛省の審査請求に関して反論の意見書を国土交通省に提出した。その中で防衛省が軟弱地盤の改良に使うくいに650万立方メートルの砂が必要になり、新基地建設が長期化し普天間飛行場の固定化につながることなどを指摘している。軟弱地盤が水深90メートルの地点まで達していることを含め、岩屋氏は22日の会見で「具体的なことは詳細な設計が決まればしっかり説明したい」と話した。 *12-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41168350S9A210C1I00000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2019/2/12) 初のデブリ接触調査 福島第1、直前ルポ 3月で事故から8年となる東京電力福島第1原子力発電所に日本経済新聞の記者が12日、単独取材に入った。13日から始まる炉心溶融(メルトダウン)で溶け落ちた核燃料(デブリ)の本格的な調査に向けた準備作業が進んでいた。デブリの取り出しは今後30~40年かかる廃炉における最大の難関で、廃炉の実現を占う試金石となる。「調査装置がスタンバイしている」。1~4号機の原子炉建屋を眺める高台から、東電の木元崇宏リスクコミュニケーターは2号機の原子炉建屋を指さした。最大15メートルある調査装置は複数のパーツに分かれて、建屋内で出番を待つ。13日早朝から組み立て原子炉格納容器の横の穴から入れてデブリに触れる。建屋の脇には調査に携わる作業員が待機する小さなコンテナが並んでいた。すぐ近くの道から2号機を見上げた。2号機は事故時に水素爆発が起きなかったため淡い水色の原子炉建屋の輪郭がしっかりと残るが、内部の線量は非常に高い。視察時間は5分程度に限られた。2号機の調査は装置の先端にある2本の指でデブリをつまみ、硬さやもろさなどを調べる。政府と東電は2019年度に取り出し方法などを決めて、21年に取り出しを始める計画だ。ただデブリの取り出しは極めて難しい。もし実現できなければ、東電の経営や福島の復興に大きな影響を与えることになる。生々しい姿が残る場所もあった。3、4号機の建屋の間にある中央制御室だ。事故直後に当直の作業員らが対応にあたった最前線に足を踏み入れた。薄暗い部屋をペンライトで照らすと、「格納容器ベント」などと書かれた操作レバーや事故時の走り書きのようなメモが目に付いた。何かを捜していたのか、床に散乱する鍵の束なども大災害の混乱を物語っていた。中央制御室から出て海沿いでは原発構内を津波から守る防潮堤の建設工事が始まろうとしていた。1~4号機の原子炉建屋を取り囲むように、20年度にも海抜11メートルの防潮堤が建つ。17年に政府の地震調査研究推進本部が、千島海溝沿いで巨大地震が近い将来に発生する可能性があると発表したのを受けた対策だ。震災から8年がたち、作業環境を整え、自然災害への備えを万全に、長い廃炉作業に臨む時期だ。すれ違う構内の作業員の「お疲れさまです」との声を耳に福島第1原発を後にした。 *12-2-2:https://blogos.com/article/357375/ (BLOGOS 2019年2月12日) 復興庁 新たな組織立ち上げへ 復興庁は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興のために、 2012年2月10日に発足し、10年間と期限を定められています。トップは、 首相で、事務の統括をする補佐として復興相が置かれています。各省庁、 自治体、団体・企業などの出向者など520人が働いています。10年になる2021 年度には、復興庁は廃止されるため、政府は、復興を引き継ぐ新たな組織を立ち 上げる、と報じられています。原発事故による福島県の復興などは、10年では とてもできず長期にわたるためと、南海トラフ地震など将来の巨大災害に対応する 役割も、新しい組織には担わせることも検討する、ということで、今年夏に閣議 決定する方針です。原発事故があった福島県だけなく、津波被災地の復興事業も 土地のかさ上げや震災弱者などの支援事業などが、2021年3月までには終わら ないことが、復興庁の検証で判明しました。総額32兆円の復興予算は、復興庁の 廃止とともに原則として使えなくなることなどもあり、政府・与党は、新たな組織を 立ち上げて、2021年4月以降も、国が復興事業に関与し続ける必要がある いう認識で一致した、とのこと。しかし、大型公共事業を新たに計画するわけでは ないので、金融庁や消費者庁のような内閣の「外局」として、担当大臣を置く方針、 ということです。国が支援し続けることは、当然のことだと思います。しかし、これ までの復興事業、それを担った復興庁の役割と各省庁の関係など、また、将来の 巨大災害をどのように含めるのか等、しっかり検証して、あらたな形を、私たちにも わかりやすく議論して、進めてもらいたいと思います。これまでも、復興庁に、 自らの省庁の権限が奪われるのではないかという警戒感などから、必ずしも スムーズに運用されていないことがありました。自治体との関係も含めて しっかり議論して、新しい組織を、効果的に働けるものにしてほしいと思います。 *13:http://www.asahi.com/shimen/20190226/index_tokyo_list.html (朝日新聞 2019年2月26日) 福島の汚染土、再利用計画 「最大99%可能」国が試算 地元住民の反対受け難航 東京電力福島第一原発事故後、福島県内の除染で出た汚染土は1400万立方メートル以上になる。国は放射能濃度が基準値以下の汚染土について、最大で99%再利用可能と試算し、県内の公共事業で再利用する計画を進めている。県外で最終処分するためにも総量を減らす狙いがあるとするが、地域住民から「放射線が不安」「事実上の最終処分だ」と反発が出ており、実現は見通せていない。中間貯蔵施設には4年前から汚染土の搬入が始まり、19日時点で235万立方メートルが運びこまれた。2021年度までに東京ドーム11個分に相当する1400万立方メートルが搬入される予定だ。汚染土は45年3月までに県外の最終処分場に搬出されることが決まっている。だが最終処分場を巡る交渉や議論は始まっていない。環境省の山田浩司参事官補佐は「(最終処分を)受け入れていただくのは簡単ではない。現時点では全国的な理解を進める段階だ」と話す。汚染土の再利用はその理解を進める手段の一つという位置づけだ。同省は有識者会議で16年6月、「全量をそのまま最終処分することは処分場確保の観点から実現性が乏しい」として、再利用で最終処分量を減らし、県外での場所探しにつなげる考えを提示。▽「指定廃棄物」(1キロあたり8千ベクレル超)の放射能濃度を下回ったり、下げたりした汚染土を再利用▽管理者が明確な公共事業などで使う▽道路や防潮堤の基礎のように安定した状態が続く使い方――などの条件を示した。また再利用する汚染土の量については18年12月の同じ会議で、濃度低減などの技術開発が最も進んだ場合、1400万立方メートルのほぼすべてが再利用でき、最終処分すべき汚染土は全体の約0・2%、3万立方メートルほどに減らせるという試算を明らかにした。しかし思惑通り進むとは限らない。同省は「再利用の対象は県内、県外を問わない」としているが、実証事業と称して実際に再利用計画を提案したのは県内の3自治体のみ。二本松市など2自治体では住民の反対を受け、難航している。同市で反対署名を集めた鈴木久之さん(62)は「約束を変えて県内で最終処分しようとするもので、再利用はおかしい」と批判する。 <その他の国民負担と生活・産業> PS(2019年3月2、3《図》日追加):*14-1のように、経済同友会が温暖化ガス抑制のため提言をまとめ、政府が2030年の電源構成で原発の比率を20~22%と定めているのを受けて、政府に原発を使い続けるための原子力政策再構築を促したそうだ。しかし、原発は温排水を排出して地球温暖化対策にもマイナスである上、環境にはさらに深刻な被害を及ぼすため、このように科学的合理性を持たず生産性の低い金の使い方ばかりして昔返りしたがる人が、経産省や経営意思決定の重要な場所に多いことが日本の実質賃金が延びない大きな理由である。 また、*14-2のように、東海第二から電気を受け取る東電HDが約1900億円と東北電力・中部電力・関西電力・北陸電力3社が1200億円を原電東海第二原発に資金支援する計画だそうだが、そういうことに支援するくらいなら東電はうなぎ上りに上がった電気料金(これも国民負担であり、上昇は生活や産業を妨害している)を下げるべきだ。そのため、周辺自治体は、もう一度、原発事故が起こって故郷や農地はじめ膨大な資産を失うまで原発稼働を容認し続けるのではなく、速やかに脱原発に向かわせるべきであり、それが損失を最小化する方法だ。 なお、*14-3の東日本大震災は、原発事故がなければ速やかに街づくりや復興ができた筈だが、原発事故によって帰郷や居住が妨げられている。そして、外国人労働者も、こういう場所に住みたくないのは同じである。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2019.3.2東京新聞 2019.2.14西日本新聞 2019.2.21北海道新聞 (図の説明:左2つの図のように、原発事故の影響を強く受けた地域は、当然のことながら水稲の作付を元に戻すことができていない。また、中央の図のように、原発は大災害を想定外として、地震・火山列島である日本全国に広がっている。そして、北海道の泊原発は、右図のように、内浦湾が噴火湾であるため外輪山の上に建設されており、付近は活断層や地震が多い) *14-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190301&ng=DGKKZO41866540Y9A220C1EE8000 (日経新聞 2019年3月1日) 原発利用継続へ「政策再構築を」 経済同友会が提言 経済同友会は28日、二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスを抑制するための提言をまとめた。当面は原子力発電を使い続ける必要があるとしたうえで、政府に「現実を改めて国民に丁寧に示し、原子力政策を再構築すべきだ」と求めた。政府が2030年の電源構成で原発の比率を20~22%と定めているのを受け、目標達成に向けてあらゆる努力をすべきだと訴えた。経済同友会は長期的には原発を減らしていく「縮原発」を主張する一方、環境問題への対応から当面は原発が必要だとの立場をとる。 *14-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13916101.html (朝日新聞 2019年3月2日)東電、東海第二支援1900億円 安全対策3000億円に膨張 再稼働見通せぬ中 原発専業会社の日本原子力発電が再稼働をめざす東海第二原発(茨城県)をめぐり、電力各社による資金支援の計画案が明らかになった。安全対策工事費が従来想定の2倍近い約3千億円に膨らむとし、東海第二から電気を受け取る東京電力ホールディングス(HD)が3分の2に当たる約1900億円を支援する。これに東北電力のほか、中部電力、関西電力、北陸電力の3社も支援することが柱だ。再稼働時期は2023年1月を想定しているが、周辺自治体から再稼働の了解を得るめどは立っていない。自治体の同意を得られずに廃炉になった場合、東電などは巨額の損失を被る可能性がある。福島第一原発事故を起こした東電は、国費投入で実質国有化された。にもかかわらず、再稼働が見通せない他社の原発を支援することに批判が出るのは必至だ。計画案によると、再稼働前の19年4月から22年末までに約1200億円が必要とし、受電割合に沿って東電が8割の約960億円、東北電が2割の約240億円を負担。東電は、東海第二から将来得る電気の料金の「前払い」と位置づけ、銀行からの借り入れで賄う見通し。東北電は前払いか、原電の銀行借り入れへの債務保証の形で支援する。稼働後の23年1月~24年3月に必要な約1800億円は原電が銀行から借り入れる。これに対し、東電が約960億円、東北電が約240億円、中部電など3社が計約600億円を債務保証する。関電と中部電、北陸電は、原電の敦賀原発2号機(福井県、停止中)から受電していたことを根拠に支援に加わる。だが、敦賀2号機は原子炉建屋直下に活断層の存在が指摘されて再稼働は難しく、受電の見通しは立たない。直接電気を受けない東海第二の支援に乗り出すことは、株主らの反発を受ける可能性がある。原電は保有する原発4基のうち2基が廃炉作業中で、再稼働を見込める原発は東海第二しかなく、資金繰りが厳しい。東海第二が廃炉となれば原電の破綻(はたん)が現実味を帯び、原電に出資する電力各社は巨額の損失を被りかねないため、支援を検討していた。 *14-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13916066.html (朝日新聞 2019年3月2日) (東日本大震災8年)細る介護、異郷の施設へ 被災地から170人、青森で入所 東日本大震災の被災地で介護施設が見つからないお年寄りを、青森県弘前市の高齢者福祉施設が受け入れ続けている。8年間で延べ170人。古里に帰れぬままの人も多く、35人が異郷で亡くなった。震災のひずみが行き場のないお年寄りを今も生んでいる。雪深い津軽に、社会福祉法人弘前豊徳会が運営する「サンタハウス弘前」はある。介護老人保健施設などの入所者の2割、66人が岩手、宮城、福島3県の被災地からだ。宮城県気仙沼市の千葉ツヤ子さん(87)は仮設住宅で1人で暮らしていた2015年秋、脳梗塞(こうそく)で入院。要介護度は3、退院後の自立生活が難しくなった。市内に住む息子が近くの施設に申し込んだが、どこも待機が100人以上。病院が困った末に相談したのがサンタハウスだった。入所3年を超えた千葉さん。「みな親切にしてくれる。でもやっぱり帰りたいんだよね」。震災では多くの高齢者施設が被災し、避難所暮らしが難しい要介護者が大勢出た。厚生労働省は特例で、遠くの施設が定員を超えて受け入れてもよいとする通知を出した。名乗り出る施設が少ない中、サンタハウスは新規増床中で、たまたま個室や職員に余裕があった。被災地の病院などに呼びかけ、11年は6人を受け入れた。当初、「緊急事態」は1、2年で終わると考えていた。ところが被災地では施設が復旧しても職員が集まらない。要介護者は増え続けた。サンタハウスで窓口となった宮本航大さん(40)の携帯電話には、自治体の地域包括支援センターやケアマネジャーから相談が途切れなかった。12年以降も毎年数人~二十数人が入所した。最近は、認知症が進んだり、家族との縁が薄れていたりといった人も増えている。現在の入所者のうち、16人が生活保護受給者で、その半数程度は身寄りがないという。一方で帰郷はなかなか進まない。サンタハウスは昨年から、3県にある600施設に空き状況を聞くなどの取り組みを進める。ただ多くのお年寄りにとって、弘前が終(つい)のすみかになる可能性は高い。今年1月19日には89歳の男性をみとった。4日後、気仙沼市から一人暮らしの77歳の男性が入所した。災害公営住宅で倒れているのを民生委員が見つけなければ、孤独死が避けられないケースだった。 ■要介護者は増、人手は不足 被災地では、介護に頼らざるを得ないお年寄りが増え、一方で施設の人手は足りていない。「避難所から仮設、災害公営住宅へと移るたび、環境が変わる。閉じこもり、体調を崩す人が年々増えた」。気仙沼市のケアマネジャーはそう話す。震災で配偶者を亡くしたり、子どもが都市部に出たりして独居になる人も多い。宮城県の沿岸部5地区の65歳以上の被災者約3500人を対象にした東北大の追跡調査によると、要介護認定割合は10年から18年にかけて16ポイント上昇。沿岸部の介護職の有効求人倍率(18年12月)は、気仙沼ハローワーク管内で4・88倍、岩手県釜石管内で4・95倍など高水準の所が多い。施設を増やそうにも、介護職員が集まらない現実がある。一気に進む高齢化、地域や家族の支える力の低下、働き手不足。「日本のあちこちで起きる事態を被災地は先取りしてしまった」と気仙沼市の高橋義宏・高齢介護課長。市は移住者で介護の仕事に就く人に補助金を出すなど対策に躍起だ。サンタハウスの宮本さんは「介護現場では今も震災が続いている」と話す。 <防災に名を借りた公共事業の無駄遣いもある> PS(2019年3月3日追加): *15-1に、東日本大震災後8年の現在、高さ12.5 mの巨大防潮堤の建設が進んだと書かれているが、宮城県による津波痕跡調査の結果では、*15-3のように、気仙沼市の中島海岸付近、南三陸町志津川荒砥海岸付近は21.6m、女川町近辺は18.3mの高さの津波が来襲し、1960年チリ地震津波を想定して決められた10mの堤防・護岸を殆どの場所で越えた。そのため、12.5 mの新しい巨大防潮堤の高さがどういう根拠で決められたのか不明だが、景観や視界を遮るわりには避難のための時間的猶予を与える程度にしかメリットがなく、景気対策だけが目的の理念なき膨大な無駄遣いに見える。 従って、(前にもこのブログに記載したが)標高25~30 m超にあるゴルフ場や農地の方を住宅地として開発し、標高の低い場所に農地・牧場・発電設備・公園などを作って、人や動物はいつでも高い場所に避難できるようにしておくべきである。そのため、*15-2のように、42市町村の過半数が被災の記録を廃棄したのかも知れないが、東日本大震災の記録は防災だけでなく科学研究にも重要な資料であるため、マイクロフィルムにして国立国会図書館に保管するのがよいと思う。また、この大震災と大津波は、海上保安庁・メディア・個人の動画に多く記録されているため、日本地図上に地震・津波の映像を張り付けて誰でも参考にできるようなHPを作れば、人によって異なる視点の気付きがあると思う。なお、住む場所を決めるのは個人の自由だが、次回の地震・津波は想定外ではないため、被害があったら自己責任(=主に自費)で再建すべきで、そのためには個人で災害保険や生命保険に入っておく必要があるが、災害保険料・生命保険料の掛金も該当地域の安全性を考慮して変えるのが合理的だ。 それでも、地震・津波だけなら適切な都市計画をすれば復興に邁進できたのだが、*15-4のように、福島県では本格的なコメ作り再開への環境が整いつつあっても、長い避難の間に農業をやめた人も多く、若い世代はなかなか町に戻ってこず、再開の意向のない農家が45%あるそうで、私はこの数字を尤もだと考える。 ![]() ![]() ![]() ![]() 東日本大震災の津波 *15-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190303&ng=DGKKZO41979240T00C19A3CC1000 (日経新聞 2019年3月3日) (東日本大震災8年)巨大防潮堤 建設進む 東日本大震災の発生から11日で8年となるのを前に、被災地を上空から取材した。福島県では東京電力福島第1原子力発電所事故で使えなくなったゴルフ場や農地に大量の太陽光パネルが設置されていた。岩手県の海岸線では壁のような巨大防潮堤の建設が進む。震災と原発事故が地域に残した影響の大きさと、今なお途上の復興を異例の眺めが物語っていた。2017年に帰還困難区域を除き避難指示が解除された福島県富岡町。再開のメドが立たずに閉鎖したゴルフ場「リベラルヒルズゴルフクラブ」のコースは、黒光りする太陽光パネルに覆われていた。18年12月に設置を終えたという。町内には17年完成の大規模太陽光発電所「富岡復興メガソーラー・SAKURA」もあり、原発事故の影響で増えた遊休農地の利用が進む。緑や黒の土のう袋が並ぶ汚染土の仮置き場はさらに広がり、雑草が茂る周辺の荒れ地とともに重苦しい雰囲気を漂わせる。宮城、岩手両県の沿岸部では海と陸を分かつような防潮堤が目を引く一方、多くの漁港付近に養殖用の漁網が浮かび水産業の再生もうかがえた。岩手県陸前高田市ではそびえ立つ壁のような防潮堤の増設が続く。台形型の防潮堤の高さは12.5メートル。土地のかさ上げ工事に伴いクレーン車やトラックが激しく行き交い、茶色い土ぼこりが舞っていた。かさ上げした土地に約2年前にオープンした商業施設「アバッセたかた」の駐車場には多くの車があり、にぎわいが伝わってきた。 *15-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13917665.html (朝日新聞 2019年3月3日) (東日本大震災8年)被災の記録、残らぬ恐れ 42市町村の過半数、既に廃棄も 東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島各県の42市町村の過半数が、被災時の対応や復興の過程で作成した「震災公文書」の一部を既に廃棄したか、廃棄した可能性がある。朝日新聞の調査で判明した。当時のメモや写真なども10市町村が保存していなかった。保存ルールが統一されていないのが原因で、対策が必要になりそうだ。 ■保存、対応分かれる 公文書管理法は2011年4月施行。内閣府は翌年、震災関連公文書を「国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項」として適切な保存を国の機関に通知した。ただ通知の対象に地方自治体は含まれていない。朝日新聞は1~2月、42自治体にアンケートした。市町村は公文書を、▽1、3、5、10、30年ごとに保存期限を決める▽永年保存する――など、同法や内部規程に沿ってそれぞれ管理している。42市町村に保存期限が過ぎて廃棄した震災公文書があるか尋ねたところ、6市町村が「ある」、16市町村が「可能性がある」と回答。国からの通知文書やボランティア名簿などを廃棄していた。「保存期限がきた」(宮城県多賀城市)、「全て保管するスペースがない」(福島県飯舘村)などを理由に挙げた。今後、保存期限が過ぎると廃棄する震災公文書があるかを問うと、「ある」は12市町村、「未定」は17市町村だった。公文書の管理を各部署に任せている市町村も多く、全庁的な判断の有無とその時期が重要になる。例えば宮城県気仙沼市は昨年になって「当分の間は捨てない」と定めたが、それ以前は捨てていた恐れがある。一方、廃棄した文書が「ない」と回答した岩手県釜石市は12年、「11年度以降の震災公文書は全て永久保存」と決めており、早期の判断で対応が分かれた。また、市町村が公文書として取り扱わなくても、職員の手控えメモやホワイトボードの記録、写真なども震災の重要な記録であるほか、当時の対応を検証できる資料だが、10市町村が「保存していない」と答えた。 ■国・県・民間も保存後押しを 神戸大の奥村弘教授(歴史資料学)の話 災害に関わる公文書は、保存期間の長短に関わらず、被災時の様子や被災後に行政や住民がどのように対応したか示している可能性がある。将来の災害対応に向けた資料として、できるだけ保存していく必要がある。ただ、一自治体で保存していくのは保存場所や人手確保といった課題が残る。場所の確保に加え、被災直後から文書保存に向けた応援職員を派遣するなど、国や県レベルでの保存や支援の仕組みが必要だ。また、被災者や復旧・復興に携わった民間団体レベルでも資料を残す動きを起こすことが、災害の記録と記憶を後世に伝える上で重要になる。(以下略) *15-3:https://www.fukkoushien-nuae.org/2011/07/17/・・ (宮城県調査) 津波、気仙沼・南三陸20メートル超 宮城県は東日本大震災の津波で浸水した県沿岸部について、津波痕跡調査結果をまとめた。気仙沼市、南三陸町の2カ所では、基準海面からの高さが20メートルを超える地点で痕跡が確認された。ほとんどの場所で既存の堤防、護岸を越えていた。調査は4月中旬から6月末、陸上約1200地点、河川約1300地点で実施。海岸線から最も近い場所の痕跡を採用し、東京湾平均海面と比べた高さを計測した。調査地点の中で最も高い位置の痕跡は気仙沼市の中島海岸付近、南三陸町志津川の荒砥海岸付近で、ともに21.6メートルだった。両海岸周辺でも20メートル近い痕跡があった。死者・行方不明者が900人を超す女川町近辺では5.5~18.3メートルで痕跡を確認。児童74人が死亡、行方不明になっている石巻市大川小に近い北上川では、12.5メートルの高さに跡が残っていた。七北田川河口から県南にかけての仙台平野沿岸では福島県境付近が最も高く、15メートル前後に達した。津波で滑走路などの施設が浸水した仙台空港付近は13.3メートルだった。松島町など一部を除き、津波は既存の堤防、護岸(高さ3.2~7.2メートル)を大きく越えた。堤防や護岸の高さは、主に1960年に発生したチリ地震津波や高潮を想定して決められていた。国は6月下旬、堤防、護岸の高さや規模について、県が過去の測定値や歴史文献を踏まえ、入り江や湾ごとに決めるとの方針を示した。県は本格復旧時の高さや工法について検討を進めている。 *15-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201903/CK2019030202000189.html (東京新聞 2019年3月2日) <原発のない国へ 事故8年の福島> (3)帰農へ歩み 不安の種も 収穫されたコメを低温貯蔵するカントリーエレベーターや種苗センターが国道6号沿いに完成するなど、本格的なコメ作り再開への環境が整いつつある福島県楢葉町。農地に置かれていた除染土入りの黒い袋は、めっきり減った。東京電力福島第一原発周辺にある中間貯蔵施設への搬出が進んでいるためだ。町北部の上繁岡地区で、農家の佐藤充男さん(74)はコメ作り再開のため、仲間五人と「水田復興会」を結成した。昨年は八ヘクタールで作付けをし、今年は二倍以上の十八ヘクタールに増やし、近い将来には五十ヘクタールにまで拡大することを目指している。「三年前から徐々に作付けを増やしてきたが、最近では買いたたかれるような風評被害を感じない。譲ってくれと引き合いもかなりあるんだ」と、佐藤さんは語る。「田んぼとして使っていることが大切」と食用米の他、飼料米も大幅に増やす計画で、自宅近くに仲間と共同所有する大型農機の倉庫も建てた。冬の間も準備に余念がない。ただ、長い避難の間に農業をやめた人も多く、若い世代はなかなか町に戻ってこない。「俺は農業が好きだし、仲間とワイワイやるのも好きだからやっている。ただし、この先どうなっていくかは、まだ見通せないな」と話した。町の同じ地区で、塩井淑樹(よしき)さん(68)は風評被害を見越して、コメから観賞用の花「トルコキキョウ」栽培に切り替えた。三年前から七棟のビニールハウスで試行錯誤を続ける。薄い赤紫の花が咲き、出荷を待つハウスもあれば、これから植え付けるハウスもある。「植え付け、出荷を順繰りにしていくから忙しいんだよ。手をかけて形を整えれば、評価も高くなる。自分は見よう見まねでやっているから、まだまだだ。もっとうまくなれば、収入も増えるんだが…」。需要に素早く応える「産地」として市場で認められるには、仲間の農家が多い方が有利。今は三軒にとどまるものの、イチゴの観光農園から転身した三十九歳の男性もいる。幼い子がいて、二十キロ以上離れたいわき市から車で通って栽培する日々。若い担い手は力を込めて言った。「軌道に乗ったとは言えない。話にならないほど収入は減り、これで食べていけるほどではない。原発に依存してきたから、プロの農家は多くはない。でも、生まれ育ったこの地は好きだし、プロとして生き残っていかないと」 ◆農家 再開意向なし45% 楢葉町など比較的汚染度の低い地域では、農地を深く耕して降った放射能を薄め、他の地域では汚れた表土を5センチほど除去し山砂を加えた。放射性セシウムを吸着する鉱物ゼオライトを土に混ぜたほか、農作物の成長期にカリウムを散布。こうした対策で、農作物へのセシウム移行を防げることも確かめられている。福島相双復興官民合同チームが2018年、被災12市町村の農家1429人に実施した調査では、営農を「再開済み」と「再開意向あり」は合わせて40%、一方で「再開意向なし」は45%に上った。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 02:28 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2019,01,09, Wednesday
2019年(平成31年)の新年、おめでとうございます。
(1)人口減少が経済悪化の原因ではないこと ![]() ![]() ![]() 日本の経済成長率推移 “高齢者”割合の急速な増加 人口構造の変化 (図の説明:左図の「経済成長率(数学的には、GDPの変化率)」は、戦後から第一次オイルショックまでは9%前後であり、オイルショックからバブル崩壊時までは4%前後だった。そして、バブル崩壊後は、リーマンショック時にマイナスになったものの、だいたい1%前後で推移している。つまり、誰もが購入したいと思う新製品がある時にはGDPが急激に増え(=変化率が高くなり)、それがなければ安定した状態が続くということだ。また、日本の人口は、中央と右図のように、“高齢者”の割合が大きくなっていくが、これは購入したいと思う需要構造が変化することを示している。そのような中、介護は需要が増えるサービスの代表で、雇用吸収力も大きいため、必要な介護サービスを削減するのは経済にマイナスだ。また、生産年齢人口に入れられない“高齢者”の定義は、寿命が延びれば高くなるのが当然で、女性の労働参加や外国人労働者の受け入れも増えるため、働く人や支える人が足りなくなるという主張は正しくないと考える) 1)世界と日本の人口推移 2100年には、*1-1のように、世界の人口は112億人、日本の人口は8,500万人になり、平均寿命は世界82.6歳、日本93.9歳になるそうだ。しかし、これについては、日本では、機械化・高齢者の雇用・女性の雇用・外国人労働者の受入拡大などのように、既に対応を始めているので問題ないと考える。 また、世界の人口は増え、日本の人口は減るため、2100年の平均出産数は、世界では1.97人まで減り、日本では1.79人に増えるそうで、これは数世代かけて生物的調整が働くからだ。 さらに、60歳以上の人口は、2100年には世界全体で現在の3倍以上になるとのことだが、世界でも平均寿命が82.6歳まで延びるのに、高齢者の定義を「60歳(又は65歳)以上」のまま変えないのが、実態に合わないわけである。 2)人口構造の変化と労働力・需要の変化 政府は、*1-2のように、「国内景気は、緩やかに回復している」としているが、私は金融緩和しなくても景気は回復したと思う。何故なら、東日本大震災等の大災害で多くの都市が壊滅的打撃を受け、リスクの小さい環境のよい街に再生するためには、莫大な公共投資が必要だからだ。そのため、このようにどうせ多額の国費を使わなければならない機会をとらえて、リスクや環境を考慮した進歩した街づくりを行い、無駄遣いの方は徹底してなくして欲しかった。 なお、大災害からの復興で建設に従事する労働力が不足している時に、同時に東京オリンピックや万博の誘致をしたのには疑問を感じるが、外国人労働者の受入拡大が実現したため、労働力のネックは次第になくなると思われる。 私は、個人消費が勢いに欠ける理由は、金融緩和と公共投資で景気を持たせているものの、①年金が主な収入源である65歳以上人口が29%を占めるのに、物価上昇やマクロ経済スライドなどで実質年金を減らしこと ②人口の29%を占める高齢者の社会保障も負担増・給付減にしたこと ③賃金上昇が物価上昇に追いつかず、現役世代の実質賃金も増えなかったこと ④消費税上昇分が物価に上乗せされ、明確に国民負担増となったこと などだと考える。 つまり、可処分所得が減れば、家計が破綻しないためには支出を減らすしかないため、現在は節約することが国民の唯一の選択肢になっており、これが消費者の財布のひもが固い本当の理由なのだ。しかし、景気拡大で、若い男性だけでなく高齢者や女性の雇用も増え、労働参加率が上がったことは重要だった。 3)実質賃金の上昇には、迅速なイノベーションが必要であること ![]() ![]() ![]() ![]() 日米の実質賃金推移 膝軟骨の再生医療 介護の市場規模 燃料電池バス (図の説明:米国は実質賃金が順調に伸びているのに対し、日本は低迷したままである。これは、金融緩和で金をじゃぶじゃぶにして物価を上げはしたものの、「本物の革新」が速やかにできないからだ。「本物の革新」とは、求められる新技術を積極的に作って実用化し、国民生活を豊かにしていくことだが、新しい技術ができると否定やバックラッシュが多く、日本で最初に実用化するのが難しいという状況がある。また、技術や生産の元になる特許権も粗末にされており、この点で、我が国の意識は開発途上国のままなのである) i)日本のイノベーションは、バックラッシュが多くて速度が遅い 日経新聞と一橋大学イノベーション研究センターが、*1-3-1のように、共同で世界の主要企業の「イノベーション力」ランキングをまとめたところ、米国のIT企業が上位を独占し、日本はトヨタ自動車の11位が最高で、楽天とソニーが30位台だったそうだ。 日本のメディアは、イノベーションの例として、既に常識となっているITやAIのクローズアップをすることが多いが、EV・自然エネルギー・自動運転・再生医療・癌の免疫療法・介護制度なども立派なイノベーションであり、それにあった道づくりや街づくりをして実用化していく必要があるにもかかわらず、EV・自然エネルギー・癌の免疫療法・介護などへの逆風を初め、バックラッシュが多くて産業を育てることができず、我が国が損失を蒙っているケースは多い。 ii)高すぎる洋上風力発電機 大手電力が、*1-3-2のように、洋上風力発電設備を建設し始めたのはよいことで、漁業関係者の理解は、その施設が同時に漁礁(魚介類のゆりかご)や養殖施設の役割を果すように設計すればすぐに得られると思う。また、海は国有地であるため、騒音・振動・悪景観などの公害を出さなければ、地元の理解は容易に得られるだろう。 ただ、「東電は、最大100基程度を数千億円かけて建設し、合計出力を原発1基相当の100万キロワットにすることも可能」としているが、風力発電機一基を設置するのに数十億円かかるというのは、1桁高すぎる。このように、ちょっと新しい技術を、いつまでも高価で実用化できないものにしているのも、我が国産業の悪い慣習だ。 iii) 再生医療の遅い進歩 再生医療が商用化の段階に入り、*1-3-3のように、高齢化に伴う膝関節症などにグンゼ、オリンパス、中外製薬、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング等の日本企業が参入しているそうだ。膝関節症は、日本人の5人に1人が患う病気であるため需要が多いが、その他の病気も再生医療で解決できるものが次第に増えていくと思われる。そして、需要増は、他国でも数年遅れで日本と同じ経過を辿るのである。 その再生医療は、私が衆議院議員をしていた2005~2009年の間に、厚労省・文科省・経済産業省が協力して力を入れ始めたもので、日本では医療分野での研究が盛んだったため、この分野で日本企業が世界をリードできる可能性はもっと高かった。 しかし、このような時にネックになるのが公的医療保険でカバーする治療費の範囲であり、理論的には、副作用がなく効果の高い治療法であり、治して介護費用を少なくできるものでもあるため、積極的に多くの症例に使えるようにして治療費を抑え、公的保険でカバーできるようにすることが重要なのである。 iv) オプジーボの発明から見えた日本における特許権の軽視 がん免疫薬は、*1-3-4のように、本庶氏らが1991年に発見した遺伝子「PD―1」の機能阻害でがんを治療できる可能性を示し、京大に特許出願を要請したが、知的財産に関心が薄かった京大は「特許維持費用を負担できない」として拒否したそうだ。 そのため、小野薬品と特許を共同出願したが、本庶氏と小野薬品が結んだ契約では、発明の使用を小野薬品に独占的に認める専用実施権と、本庶氏が受け取る対価の料率などを決め、その対価の料率が1桁小さかったのだそうだ。 しかし、もともと求められていた癌免疫治療薬の売り上げはうなぎ登りで、一人の研究者が思いついたアイデアに端を発した2024年売上額は年4兆円との想定もあり、仮に年4兆円の売り上げで0.5%の特許権料率なら毎年200億円の特許権収入が入ることになる。しかし、日本では、このように知識や技術に対する評価が低く、大切にされないのが問題なのである。 v) 2019年、新時代へのトップの意識 西日本新聞が、*1-3-5のように、2019年1月9日、JR九州の青柳社長と西鉄の倉富社長に新時代へのインタビューをしている。 JR九州の青柳社長は、「地域に応じて最適解を」として、①自動運転技術の導入 ②タクシー・バスとの融合 ③柱は鉄道と不動産 ④商業施設だけでなくオフィス・ホテル・大型コンベンション施設なども開発 ⑤志を共にする企業と連携して街づくりに貢献したい とのことである。 西鉄の倉富社長は、①成長の柱は海外で、ASEANでのマンション・一戸建て住宅、付随する商業施設などを増やしていく ②グループ全体で結束して大型プロジェクトを進める ③福岡空港に『スマートバス停』を導入する ④次世代型開発の一つとして、スーパー、病院、医療・介護サービス付きマンションなど、シニア世代に必要な機能が近距離にまとまっている地域を造る ⑤モニターやセンサーを活用して機械化を進めるなど最適な技術導入や効率化が大事 などとしており、よいと思う。 4)社会保障の負担増・給付減が景気悪化の最大の理由である しかし、厚生労働省は、*1-4のように、2019年に公的年金の財政検証を実施し、当面の年金財政は健全だと確認するが、支給の長期的な先細りは避けられないとしている。しかし、私は、①高齢者が長く働いて70歳超からの年金受給開始も選べるようになったり ②女性の労働参加率が増えたり ③外国人労働者が増えたり ④パート社員へも厚生年金が適用されたり ⑤産業を効率化したり、産業の付加価値を高くしたり ⑥エネルギー料金を海外に支出するのを止めたりすれば、一律に支給開始年齢を引き上げなくてもやれるのが当然だと考える。 そもそも、所得代替率(現役の手取り収入に対する年金額の比率)が50%ならよいというのも根拠はないが、上のような対応をしても年金や社会保障が持続可能でないと言うのなら、厚労省の管理やメディアの報道の仕方に問題があるのだ。つまり、いつまでも負担増・給付減のみを言い続け、それに反対するのをポピュリズムと呼ぶような思考停止は止めるべきである。 (2)改正入管難民法について ![]() ![]() ![]() ![]() 2018.11.10産経新聞 2018.11.14産経新聞 2018.12.25 2018.12.8 西日本新聞 毎日新聞 (図の説明:一番左の図のように、日本国内で働いている外国人労働者は、2017年に約128万人で、既に日本で欠かすことのできない人材となっている。しかし、現在は、外国人を専門的・技術的分野以外は労働者として受け入れておらず、技能実習生として受け入れているため、悪い労働条件を押し付けたり、仕事を覚えた頃に母国に返さなければならなかったりして、雇用者・被用者の双方に不便な状態なのだ。そのため、左から2番目の図のように、分野別に必要とされる人数を労働者として受け入れ、右の2つの図のように、環境整備をすることになったわけだ) ![]() ![]() ![]() 日本とASEAN諸国の 介護人材の需給推計 外国人受入に関する政府の基本方針 人口ピラミッド (図の説明:左図のように、日本の人口ピラミッドはつぼ型になっているが、ASEAN諸国等にはピラミッド型の国も多いため、今なら、その気になれば外国人労働者を受け入れることが可能だ。実際に、介護分野では、中央の図のように、2025年には40万人近くの人材が不足すると言われている。しかし、「入国した外国人も都市に集中するのでは?」「日本人の雇用が奪われるのでは?」と懸念する人もいるので、右図のように、政府の基本方針が出されたわけである) 1)外国人労働者受入拡大について 政府は、*2-1、*2-2のように、2018年12月25日、来年4月からの外国人労働者受入拡大に向けた新在留資格「特定技能」の枠組みを定めた「基本方針」と業種毎に人数などの詳細を決めた「分野別運用方針」を閣議決定したそうだ。 介護や建設などの深刻な人手不足14業種で受け入れを決め、来年4月から5年間で最大34万5150人がこの在留資格を得ることを見込んでおり、関係閣僚会議では共生のための環境整備施策をまとめた総合的対応策も決定したとのことである。しかし、私は、この14業種だけでなく、美容師も労働力確保と技術交流を兼ねて外国人美容師の就労を認めてもらう嘆願書を出したと聞いており、これは意義のあることだと考える。 なお、外国人が大都市圏に集中しないように措置を講じるとのことだが、仕事・住居・医療などの福祉・教育で安心できれば、多少の賃金格差は問題にならないと思う。 2)農業分野の外国人労働者受入拡大 農業分野は、*2-3-1のように、受入人数の見込みは、5年間で最大3万6500人、外国人も栽培管理から集出荷、加工、販売など生産現場の全般の作業に携われるとし、受入農家は雇用労働者を一定期間以上受け入れた経験があることなどを要件とし、受入形態は、農家の直接雇用だけでなく人材派遣業者を通じた受け入れも認めている。 TPPが発効し、*2-3-2のように、九州の農家が「組織化」で対抗するには、大規模化して必要な労働力を確保することが必要だ。そのためには、機械化とともに外国人労働者の雇用が有力なツールとなり、*2-3-3のように、大分県内に、来年にもアジア出身者らを対象として農林業の担い手を育成する国際専門校が開校して、若者の就業・定住を促進し、国際ビジネスの創造や海外販路の拡大も狙うというのは、迅速で頼もしい。 3)介護分野の外国人労働者受入拡大 外国人は日本全国の介護現場で活躍しており、*2-4のように、2019年4月施行の外国人労働者の新たな受け入れ制度では、全職種で介護分野が最多の人数となる見込みだ。介護は、2020年には12.2兆円規模、2025年には15.2兆円規模になる実需であり、2025年には253万人の雇用が見込まれている大きな産業なのだが、何故か粗末にされている。 また、介護現場における外国人の登用は今後も拡大し続けると見込まれ、先進国を中心に介護分野の外国人の受け入れは進んでいるそうだ。そのため、就労のハードルが高い日本を避けて他国に人材が流れる恐れもあるため、外国人が技術をしっかりと習得し、安心して生活を送れる環境を整えなければならないようだ。 さらに、介護だけでなく家政婦も外国人を登用できれば、女性の仕事と子育ての両立が容易になったり、自宅療養がやりやすくなったりするが、男性が大半の議員では気が付かないようだ。 4)外国人労働者の受入環境整備 2019年4月に始まる外国人労働者の受入拡大に向け、*2-5のように、受入環境の整備に重点を置いて各省庁が予算措置を行い、例えば、厚労省は①雇用状況視察 ②受入先の改善指導 ③医療機関の多言語化支援 などの予算を確保し、外務省は将来的な人材の獲得合戦を見据えて、海外での日本語教育や現地での日本語教師の育成・教材開発などを行うそうだ。 そのほか、*2-6のように、外国人と働くには、さまざまな問題が発生し、一律の対応は通用しないそうだが、しばらくやれば問題がパターン化するため、自治体や企業も次第に対応に慣れてくるだろう。 (4)家事労働の軽視と女性差別 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 2018.12.18 ジェンダーギャップ指数順位 2018.9.3 2018.9.5 2018.8.7 西日本新聞 西日本新聞 中日新聞 産経新聞 (図の説明:一番左の図のように、2018年版男女格差報告によると、日本は男女平等度が世界で110位と低い。また、左から2番目の図のように、2011~2017年の内訳では、政治・経済の分野で特に平等が進んでおらず、教育においても中位以下である。また、医師全体に占める女性の割合は21.1%だが、外科系は8.7%しかおらず、戦力としての女性医師への期待の薄さからか、いくつかの医科大学で入試における女性への不利な扱いがあったのは記憶に新しい) 1)日本の男女平等度 スイスの「世界経済フォーラム」は、2018年12月18日、*3-1のように、2018年版「男女格差報告」を発表し、日本は149カ国中110位で政治・経済分野で女性の進出が進んでおらず、G20では下位グループに位置しており、中国(103位)、インド(108位)よりも低かったと報告している。G20で日本より低かったのは、韓国(115位)、トルコ(130位)、サウジアラビア(141位)の3カ国しかなく、この3カ国には悪いが、名誉ある地位とは言えない。 日本の最初の男女雇用機会均等法は、*3-2のように、1985年に国連の「女子差別撤廃条約」という外圧を利用し、経済界の反対を押し切って制定されたが、男女の雇用機会均等を努力義務にまでしかできなかったため、ないよりはよいものの骨抜きの部分が多かった。そして、1997年の改正で、努力義務規定を禁止規定にしたものの、まだ骨抜きの部分があるわけである。 また、保育所は、「(本来は母親が育てるべきものだが)保育に欠ける者への福祉」として整備されたため、十分にはなく、学童保育は存在しなかった。そのため、出産退職せざるを得なかった女性も多く、出生率は落下の一途を辿った。つまり、保育所や学童保育が十分に整備され仕事を継続できるのでなければ、仕事を辞めるか、出産を諦めるしかなかったのである。 これに対し、現在では、将来の支え手である子どもを増やすことを目的として(これも失礼な話だが)、①男性の家事・育児参加 ②社会の子育て支援 ③働き方改革 などを主張する人が多い。しかし、両方が力いっぱい働いている夫婦で、①のように、男性が家事・育児に参加し、③の働き方改革で2人とも5時に終業しても、通勤時間を考えれば、②の社会の子育て支援だけでは過労になる。何故なら、家事は、それだけでも仕事になるくらいの労働量だからだ。そのため、*3-3のように、働く女性の数は、働き盛りの25~44歳で伸び悩んでいるわけだ。 従って、私は、仕事と子育てを無理なく両立するには、保育所や学童保育だけでなく、家政婦の雇用や家事の外注をやりやすくすることが必要だと考えている。 2)管理職や専門職に女性より男性が選ばれる理由は何か i)医大入試における女性差別の衝撃と社会“常識” *3-4-1、*3-4-2、*3-4-3のように、多くの医科大学で不正入試を行い、女子学生や多浪生を不利に扱っていたのは衝撃的だったが、特に、順天堂大学が女子を不利に扱った理由を、①女子は男子より精神的な成熟が早く、受験時はコミュニケーション能力も高いが、入学後はその差が解消されるため補正する必要があった ②女子寮の収容人数が少なかった と、説明したのには呆れた。 このうちの①については、順天堂大学は医学的検証資料として学術論文を提出し、心理学者が、「そのような内容を主張しているわけではない心理学の論文を安易に引用するような姿勢に対して、強い懸念を表明する」という見解を発表したのが、あざやかだった。また、②ついては、東大は、現在では、日本人学生と留学生の男女が共に豊島国際学生宿舎に入れるようにして相互交流や国際交流の推進を図っているのであり、個室なら寮自体が男女別でなくてもよい上、寮に入ることが大学に行くために不可欠なことでもない筈だ。 ただ、「女子の方が精神的な成熟は早いが、後で男子に抜かれる」「女子の方がコミュニケーション能力は男子よりも高いが、数学や論理学は男子の方ができる」などというのは、初等・中等教育でも教師がよく言うことであり、要するに、「成人では、男子より女子の方が仕事の能力が低いため、女子を教育するのは無駄だ」という結論にしたがっているわけだ。 そして、これは、特定大学の医学部だけの問題ではなく、教育段階や企業の採用・研修・配置・昇進段階でよく出てくる女性差別の根拠となっている先入観(社会常識)であるため、女性蔑視をなくすには、この先入観を廃することに正面から向き合わなければならない。 ii)女子だけに保育園の質問するのは何故か? 医学部専門予備校「メディカルラボ」は、*3-4-5のように、女子の合格率が低い大学は、面接で女子に厳しい質問をする傾向があり、ある大学では女子にだけ「患者がたくさん待っている時、自分の子どもが急病で保育園から呼び出されたらどうしますか」と質問をしていたとしている。 共働き時代なので、男子にも同じ質問をしてみればよさそうだが、こういう質問の背景には、医大の入試が大学病院の勤務医採用に直結しているからであるとされ、他学部を卒業して企業の採用試験にのぞむときも同じであるのに、こちらはまだ問題にされていない。 私自身は、「小児科のある病院に病児保育施設を設け、通院圏の保育園や学童保育で病気になった子どもは、まず全員そこに連れて行き、そこで診察した後、保護者が迎えに来るまで預かっておくシステムにすればよい」と考えるが、これは国会議員として地元の保育園を廻って、園長・保育士・親などから意見を聞いて出てきた解であるため、受験生には難しいと思われる。 iii)診療科による男女の医師の偏在と都市部への偏在 *3-5のように、①女性医師は全員、子育てで現場を離れたり、勤務が制限されたりすることが少なくなく ②診療科で男女に偏在があり ③女性医師だけが都市に集中する というのが、仮に本当で改善できないのであれば、女性医師が戦力にならないと思われても仕方が無い。 しかし、①は、保育所や学童保育が整備され、家政婦を雇いやすくすれば解決できる。また、②は、女性医師が少ない診療課では、女性医師を差別なく採用して活躍させているかについても検討しなければならない。さらに、③については、多くの症例を見ることができる場所に集中したがるのは、女性医師だけでなく男性医師もであるし、都市の方が都合がよいのは、子の教育や配偶者の仕事との調整もあるからで、これは女性医師特有の問題ではないと思われる。 ただ、「軽症患者の夜間救急への対応の必要性」と言われても、本人が重症か軽症かを判断できる場合は少ないため、病院に行くことを国民が躊躇しなければならないようなシステムにするのは感心しない。私は、医療に関する問題の本質は、診療報酬を下げ過ぎたため十分な数の医師を確保することができず、働いている医師に過重な負担がかかっていることだと考える。 参考資料 <人口と経済> *1-1:http://qbiz.jp/article/112572/1/ (西日本新聞 2017年6月22日) 世界人口 2100年には112億人に 国連予測、日本は29位 国連経済社会局は21日、世界人口が現在の76億人から2050年に98億人に増え、2100年には112億人に達するとの予測を発表した。24年ごろまでにインドが中国を抜き国別で1位となり、日本は現在の11位(1億2700万人)から次第に順位を下げ、2100年には8500万人で29位になるとした。経済社会局は最貧国での集中的な人口増加が貧困や飢餓の撲滅などを掲げた国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」履行に向けた課題になると指摘している。予測によると、2100年のインドの人口は15億1700万人、中国は10億2100万人で、両国だけで世界人口の22・7%を占める。上位10カ国のうち、5カ国をアフリカ諸国が占めた。世界全体の平均寿命は2015〜20年の71・9歳から、95〜2100年には82・6歳まで延びる見通し。日本は84歳から93・9歳になる。女性1人が出産する子どもの平均数については、世界全体で同期間に2・47人から1・97人に減ると予想。一方で日本は1・48人から1・79人に増えると見込んだ。高齢化も進み、60歳以上の人口は世界全体で50年までに現在の2倍以上、2100年までに3倍以上になるとしている。 *1-2:http://qbiz.jp/article/146151/1/ (西日本新聞 2018年12月21日) 景気拡大「戦後最長」 12年12月から73ヵ月間に 12月の月例報告 政府は20日発表した12月の月例経済報告で、国内景気は「緩やかに回復している」とし従来の判断を維持した。同じ表現は12カ月連続。茂木敏充経済再生担当相は関係閣僚会議で、2012年12月から続く景気拡大期が今月で73カ月(6年1カ月)に達し、00年代の戦後最長期(02年2月〜08年2月)と並んだ可能性が高いと表明した。12年12月の安倍政権発足以来の景気拡大は、来年1月で戦後最長も超えそうな情勢だが、賃金の伸び悩みで肝心の個人消費が勢いに欠け、実感は広がっていない。茂木氏は記者会見で「日本経済の基礎体力を引き上げることで回復の実感を強めたい」と述べ、人手不足の解消や生産性向上につながる政策実行に注力する考えを示した。月例経済報告は、個別項目では公共投資を「このところ弱含んでいる」として1年ぶりに下方修正。その他は一部の表現変更にとどめた。先行きを巡っては「緩やかな回復が続くことが期待される」とした上で、米中貿易摩擦など通商問題の動向や世界経済の不確実性、金融資本市場の変動などに留意する必要があると指摘した。月例経済報告の景気判断は現段階の政府見解。景気の拡大期間は、正式には専門家でつくる景気動向指数研究会がデータを分析し判定する。 ◇ ◇ ●「最長」に減速の影 賃金伸びず乏しい実感 2012年12月からの景気拡大期が、来年1月で戦後最長を超えそうな情勢だ。ただ、かつての高度成長期とは違って経済成長率は低空飛行。アベノミクスによる円安・株高を追い風に企業業績や雇用は改善したが、賃金の伸び悩みで消費者の財布のひもは固く、好況の実感は乏しい。来年10月に消費税増税を控える中、海外経済は米中貿易摩擦などで減速懸念が強まっており、景気の先行きは予断を許さない。「名目GDP(国内総生産)が過去最大となり、企業収益も過去最高を記録した。雇用・所得環境も大幅に改善し、地域ごとの景況感のばらつきが小さいのも特徴だ」。茂木敏充経済再生担当相は20日の記者会見でこう胸を張った。大胆な金融政策▽機動的な財政出動▽成長戦略−の三本の矢を掲げたアベノミクス。日銀の大規模金融緩和が円安を誘い、堅調な海外経済を背景に輸出が拡大して企業収益が改善。12年12月の安倍政権発足前に1万円台だった日経平均株価は、2万円台まで回復した。しかし賃上げは十分でなく、GDPの半分以上を占める個人消費は力強さに欠ける。内閣府は今回の景気拡大について、名目総雇用者所得の伸びを根拠に「00年代の戦後最長期と比べ、雇用・所得環境が大幅に改善した」と説明した。だが、物価の影響を除く実質ベースの伸び率は年0・9%と、戦後最長期の年1・0%を下回っており「企業が賃上げに踏み込まない限り消費意欲も高まらない」(エコノミスト)との見方は強い。さらに、今回の景気拡大期の実質経済成長率は1・2%と低調。高度成長期のいざなぎ景気の11・5%に遠く及ばず、00年代の戦後最長拡大期の1・6%と比べても見劣りする。少子高齢化に伴う人口減が進む中、人手不足も成長を阻む要因となっており、日本経済の実力を引き上げるような構造改革を進めない限り、企業も賃上げや設備投資を進めにくい。日本が「頼みの綱」とする世界経済にも変調の兆しが出ている。目下の懸案は米中貿易摩擦。今月初旬の首脳会談で中国への追加関税が棚上げされたものの、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)副会長が逮捕されたことで再燃。中国経済には減速感も出ており、金融の引き締め局面に入った米国の景気も先行きは楽観できない。世界的な景況悪化で為替が円高に振れるなどすれば「日本にとって新たな不安材料になる」(大和総研の児玉卓氏)との懸念も出ている。 *景気拡大 経済活動が活発な状態を指す。経済は景気が改善する拡大期と悪化する後退期が交互に訪れると考えられているが、景気の流れがどちらに向かっているか判断するには時間がかかる。2012年12月から続く現在の景気拡大は昨年9月で「いざなぎ景気」を抜き、戦後2番目の長さになったが、内閣府が正式に認定したのは今月だった。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39102650Y8A211C1000000/ (日経新聞 2018/12/19) イノベーション力、米IT突出 トヨタ11位・楽天33位、日経・一橋大「イノベーション力」ランキング 日本経済新聞は一橋大学イノベーション研究センターと共同で、世界の主要企業の「イノベーション力」ランキングをまとめた。首位のフェイスブックやアマゾン・ドット・コムなど米IT(情報技術)企業が上位を独占。日本はトヨタ自動車の11位が最高で、次ぐ楽天とソニーが30位台だった。意思決定や収益力などで日本勢は見劣りする。新たなイノベーションの波が次々と押し寄せるなか、経営のスピードが足りない。意思決定の素早さなど革新を生み出す「組織力」、技術開発の力を示す「価値創出力」、イノベーションの種をうまく育てられるかを示す「潜在力」の3つを指標にした。QUICK・ファクトセットの決算データを使い、金融・不動産を除く時価総額の大きい国内168社、海外150社を対象に算出した。フェイスブック、アマゾン、アルファベット(グーグル)、アップルの米国勢が4位までを占めた。4社の頭文字を取った「GAFA」は時価総額や営業利益、研究開発投資、設備投資がいずれも5年前より急伸した。GAFAは人工知能(AI)や自動運転、次世代の超高速コンピューターである量子コンピューターなど産業や社会を大きく変えうる最先端技術に積極投資する。取締役は少数精鋭で、女性の登用にも熱心だ。「意思決定と事業展開のスピードを高めることにつながっている」と一橋大の青島矢一イノベーション研究センター長は説明する。日本企業のトップはトヨタ自動車の11位にとどまる。設備や研究開発への投資意欲が旺盛で、イノベーションの種を育てる努力への評価は高い。しかし、GAFAとの差は歴然としている。例えば、1位のフェイスブックと2位のアマゾンは、価値創出力に寄与する営業利益が5年間でそれぞれ3655%、417%増えた。潜在力に寄与する研究開発投資や設備投資を大幅に増やしている。成長が資金力を高め、それを将来への投資に充てて事業拡大につなげる好循環を生んでいる。20世紀にはなかった企業の成長戦略だ。平成が始まった1989年、日本企業は時価総額ランキングで上位を独占した。トヨタ自動車や現新日鉄住金、パナソニック、日産自動車、日立製作所、東芝などが入った。約30年たち、上位にいるのはトヨタだけだ。日本勢の低迷はバブル後の経済の低成長が原因ではない。高品質の製品を量産する「日本流」の行き詰まりがある。日本企業は中核部品の開発や作り込み、完成品の組み立てまで自前主義と完璧主義にこだわった。イノベーションが既存技術の延長線上にあった時代には大きな武器だった。だが、イノベーションの条件は一変した。GAFAに代表される新興企業はスピード重視だ。必要な技術は他社から調達して素早く事業化、不完全でも投入して市場の反応を待ち改良する。次々に新事業の開始と閉鎖を繰り返し正解を見つける。こうした手法で社会に欠かせない商品やサービスを作り上げた。日本を代表するものづくり企業も手をこまねいているわけではない。「モビリティカンパニーに変わるために、ソフトバンクとの提携は不可欠」。10月4日、東京都内で開いた記者会見で、トヨタの豊田章男社長はこう語り、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長と固く握手した。両社は自動運転など移動サービス事業で手を組んだ。世界では自動車・IT企業が手を組み、自動運転技術の開発にしのぎを削る。実現にはAIや半導体といった技術だけでなく、ライドシェアなどのサービスや地図データも欠かせない。トヨタは電気自動車向けの次世代電池の開発にも取り組んでいるが、次世代の自動車に必要な要素を押さえるには自前主義では時間がかかりすぎる。パナソニックは津賀一宏社長の号令下、あえて未完成品を世に出す計画だ。スピード感を重視するシリコンバレー流の改革に取り組む。完璧な製品を志向すると投入したころには、市場を席巻されている。問題が残っても先に進める手法を取り入れる。日本マイクロソフト会長などを務めた樋口泰行専務役員ら、スピード経営を体感した幹部が主導する。 *調査の概要 イノベーション力は公開されている決算データから、3つの指標についてスコアを測定した。海外企業も含めて公開されている最新の決算データを使い、日本企業は2018年3月期を基本にした。「組織力」は外部取締役や女性取締役の割合が高いほど経営陣の多様性があり、市場変化に機動的に対応できると判断。役員の数が少なくて平均年齢が低いほど組織運営が柔軟で、意思決定が速いと評価した。「価値創出力」は株式の時価総額や営業利益、売上高に占める営業利益の比率、海外売上高比率などで構成。それぞれについて5年前との変化率を加味した。「潜在力」は研究開発投資や設備投資、販売管理費とそれぞれの5年前からの伸びを踏まえて点数をつけた。一橋大学イノベーション研究センターの青島矢一センター長、和泉章教授、江藤学教授、軽部大教授、清水洋教授、延岡健太郎教授(現大阪大学教授)、大山睦准教授、中島賢太郎准教授、カン・ビョンウ専任講師の協力を得た。 *1-3-2:http://qbiz.jp/article/146749/1/ (西日本新聞 2019年1月8日) 大手電力、洋上風力に熱 低コスト・需要見据え積極投資 開発には地元の理解が鍵に 東京電力ホールディングスや九州電力などの大手電力が、洋上風力発電への積極的な投資に動きだした。洋上は陸上と比べて安定して風が吹き、低い経費で発電が可能だ。「再生可能エネルギーに消極的」という、大手電力のイメージを変える効果にも期待をかける。漁業関係者など地元の理解を得られるかが開発の鍵を握る。東電は昨年11月、千葉県銚子沖で大規模な洋上風力を建設するため、地盤調査を始めた。風力事業推進室の井上慎介室長は「風が安定して吹き、風力発電の支柱を立てるのに適した浅い海が広がっている」と話す。洋上は陸上と違い、一つの区域に集中して風力発電機を設置することができるのも利点だ。将来的には火力発電より発電コストを低減することができるとする見方もある。東電は条件が整えば最大100基程度を数千億円かけて建設し、合計の出力を原発1基相当の100万キロワットにすることも可能だと説明する。銚子沖を含め、今後10年間で200万〜300万キロワットの洋上風力を建設する目標を掲げる。他の大手電力の投資も活発だ。九州電力は西部ガス(福岡市)などと、北九州港で出力約22万キロワット、事業費1750億円の計画を進めており、2022年の着工を予定する。東北電力と関西電力、中部電力の3社は秋田県内の能代港と秋田港の計画に参画している。企業や家庭には環境に配慮し、再生エネでつくった電気を買いたいという需要が増えるとみられる。経済産業省や東電によると、再生エネの固定価格買い取り制度によって営業運転している洋上風力は、長崎県五島市沖の1基(出力1990キロワット)と東電の千葉県銚子沖の1基(同2400キロワット)。一方、計画中の洋上風力の出力を合わせると全国で計500万キロワット程度になるという。国も法制度を整備して後押しする。昨年11月に成立した洋上風力発電普及法は、自治体や漁協が参加する協議会で調整した上で、国が「促進区域」を指定し、最大30年間にわたり発電を許可することが柱だ。大手電力幹部は「新法で漁業などの利害関係者との調整ルールが明確化され、長期にわたり海域が利用できるため、投資計画が立てやすくなる」と話している。洋上風力発電 海上に設置した巨大な風車で電気をつくる再生可能エネルギー。電気は海底ケーブルで陸地に送る。海底に固定した土台の上に風車を設置する「着床式」と海上に風車を浮かべる「浮体式」がある。着床式が世界の主流で、遠浅の海域が広い欧州が先進地域。一つのプロジェクトで総出力100万キロワット規模の大型計画も具体化している。 *1-3-3: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190107&ng=DGKKZO39689860W9A100C1MM8000 (日経新聞 2019年1月7日) 再生医療、商用段階に、患者2500万人の膝治療で実用化 再生医療(総合経済面きょうのことば)が商用化の段階に入る。高齢化などに伴う膝関節の病気に企業が相次いで再生医療を応用する。グンゼは軟骨の再生を促す素材を欧州で発売。オリンパスや中外製薬は培養した軟骨を使う方法の実用化を急ぐ。膝関節の病気は日本人の5人に1人が患うため、その治療は再生医療の本丸と目されている。治療法が浸透し関連産業が活性化すれば、再生医療で日本が世界をリードする可能性もある。再生医療は人体の組織や臓器を再生し機能を取り戻す技術だ。実用化で先行したのは皮膚や心臓などの治療。重いやけど患者は年5千人で、うち60件程度が再生医療技術を治療に生かしている。経済産業省は、2012年に2400億円だった世界の再生医療に関連する市場規模が、30年には20倍超の5兆2千億円に拡大するとしている。今回、各社が着目するのは膝関節の病気「変形性膝関節症」。潜在患者数は高齢者を中心に国内だけで2500万人いるとされる。これまでは手術で人工関節を導入するしか根治する方法はなく、症状の重い年8万人が手術を受けていた。患者数が多い病気に再生医療を応用することで、市場が一気に広がりそうだ。グンゼは1月、軟骨再生を促す繊維シートを欧州で発売する。手術で軟骨に傷をつけると、軟骨のもとになる細胞や栄養分がしみ出す。シートがそれらを取り込み軟骨を立体的に再生する。日本では20年にも臨床試験(治験)を始める。オリンパスは1月、患者の軟骨を培養し体内に戻す治験を国内で始める。23年3月までに承認申請する。中外製薬も、スタートアップのツーセル(広島市)と組み、国内で最終段階の治験を進めている。21年にも承認を得たい考えだ。旭化成は18年10月、京都大学などから、けがで傷ついた軟骨の治療にiPS細胞を使う権利を獲得した。欧米ではスタートアップ企業が再生した軟骨を販売しているケースもあるが、日本企業はより多様な治療法の研究を手がけている。膝軟骨以外にも再生医療の研究が進む。既存の治療手段に乏しい神経細胞の分野がその一つで、このほどニプロが開発した治療用の細胞が、脊髄損傷向け再生医療技術として国に承認された。患者数が多い心不全の治療への応用研究も活発で、慶応大学発スタートアップのハートシードなどが治験を目指している。再生医療で臓器や組織を再生できれば、治療にとどまらず、老化して機能が衰えた臓器の置き換えも可能だ。生活の質を向上させ、寿命を延ばすと期待されている。これまで再生医療が普及しなかったのは、細胞を注入する手術が難しかったり、効果が十分に確認できなかったりしたからだ。富士フイルムホールディングス傘下のジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)が12年から培養軟骨を販売するが、手術が難しく18年3月期の販売額は約3億円(約150件)にとどまる。ただ、ここにきて各社は手術を大幅に簡略化している。今後は公的な保険でカバーできる範囲に治療費を抑えることなどが課題となりそうだ。 *1-3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190109&ng=DGKKZO39787730Y9A100C1EA1000 (西日本新聞 2019年1月9日) オプジーボの対価「桁違い」、本庶氏と小野薬、食い違い生んだ契約 がん免疫薬につながる基礎研究でノーベル賞を受賞した本庶佑・京都大学特別教授と「オプジーボ」を実用化した小野薬品工業。産学連携の類いまれな成功事例だが、対価を巡る仲たがいが影を落とす。背景には両者が交わした契約があった。「小野薬は研究自身に全く貢献していない」(本庶氏)。「我々の努力や貢献もあった」(相良暁社長)。2018年10月の授賞決定後、お祝いムードに水を差す両者の応酬に注目が集まった。 ●水掛け論の発端 本庶氏は「論文に小野薬の研究員の名はない。彼らの言う貢献は『金を出した』という意味だ」と主張。一方で小野薬は本庶氏の恩師の早石修京大教授(故人)の紹介で30年以上、研究員を本庶氏の元に派遣し資金提供してきた。今も毎年5000万円を寄付する。水掛け論でいがみ合うきっかけは、02年に共同出願した特許だ。本庶氏らは91年に発見した遺伝子「PD―1」の機能阻害でがんを治療できる可能性を示した。本庶氏は当初、京大に出願を要請したが、知的財産に関心が薄かった京大側は「(特許を維持する)費用を負担できない」として拒否。小野薬と共同出願した。小野薬は05年、米企業と共同開発を始めることになり、本庶氏と小野薬は1つの契約を結ぶ。これが今に至るまでこじれる原因となる。契約では発明の使用を小野薬に独占的に認める専用実施権と、本庶氏が受け取る対価の料率などを決めた。両者とも具体的な内容は明らかにしていない。本庶氏は「後から見ればとんでもない契約で相場に比べて対価の料率が1桁小さかった」と憤る。大学の研究者では交渉力は弱かった。さらに契約に含む特許の範囲で両者の食い違いも判明。本庶氏は再交渉を迫り小野薬も応じかけたという。そんなときに事態が急変する。米メルクが14年にPD―1の仕組みを応用したがん免疫薬「キイトルーダ」を発売、特許侵害が表面化したからだ。小野薬は共同開発した米ブリストル・マイヤーズスクイブとともに特許侵害を提訴。本庶氏もデータ提出や証言などで貢献し、メルクは特許を認める内容で和解した。ぎくしゃくする両者が他社の特許侵害で共闘する格好になった。本庶氏は事前に小野薬に訴訟協力の対価を求めて「新しい提案があった」という。小野薬はメルクから100億円を超える一時金と売り上げの一部を受け取った。ただ新提案の合意に至らず本庶氏は不信感を募らせる。一方で小野薬は当初の契約に基づいて対応しているとの立場だ。リスクを負って世界初の治療薬を生み出した自負もあり後出しで膨らむ要求に応じる前例は作りたくない。契約内容を含めて相良社長は取材に「今は回答したくない」と答えた。 ●売上額4兆円も こじれる両者の関係をよそに、がん免疫薬の売り上げはうなぎ登りだ。小野薬とブリストル、メルクだけでなく、類似のがん免疫薬が相次いで発売。24年の売上額は年4兆円との試算もある。本庶氏と小野薬の特許が利用されれば、小野薬に巨額の対価が入る。本庶氏は18年12月、若手研究者を支援する「本庶佑有志基金」を京大内に立ち上げた。ノーベル賞の賞金に加えがん免疫薬の対価も充てる考え。「仮に年4兆円の売り上げで0.5%の料率なら5年で1000億円だ」(本庶氏)。小野薬側は若手研究者の支援には賛成しているが、基金へ協力する意思表明はまだない。研究者支援は国の役割で、営利企業は収入を自社の研究開発や株主還元に使うのが本来だ。株主の意向を見極める必要がある。契約した当時と比べて、大学と企業の関係は変わった。政府は大学に対する企業の投資を3倍に増やす目標を掲げ大学に「特許で稼げ」と迫る。ただ大学の交渉力は弱く、企業と対等な契約ができるかは心もとない。京大の産学連携担当者は「本庶先生は大学と企業の今後の関係を対等にするためにも、譲歩せず小野薬と交渉を続けるだろう」と語る。共存共栄のための産学連携の新しい仕組みづくりが急務だ。 *1-3-5:http://qbiz.jp/article/146817/1/ (西日本新聞 2019年1月9日) 2019 新時代へ トップインタビュー(4) ●地域に応じ最適解を JR九州 青柳俊彦社長 −人口減少が進む中、鉄道事業の収益改善が課題となる。 「鉄道は設備の保守点検が宿命で、維持費用を下げつつ安全性、信頼度を高めることが大事。一方で自動運転技術も無視できない。踏切がない場所であれば導入も難しくない。外部で開発、導入されている技術を引き続き勉強していく」「タクシーや乗り合いバスなどとの融合も検討する。地域や利用者にとって一番いい方法を探る。(一部不通が続く)日田彦山線は鉄道での復旧を目指し、自治体との協議を進める」 −2019年度から新しい中期経営計画がスタートする。 「今までの成長をさらに高め、伸ばす計画を策定中だ。10年後のJR九州の姿を描く。新たな時代に合わせて情勢は変わるだろうが、われわれの柱はやはり鉄道と不動産だ」 −熊本や宮崎、長崎など九州各地で駅ビル開発が続く。 「長年『沿線人口を増やす』を合言葉に、九州全体の発展を考えてきた。商業施設だけでなく、オフィスやホテル、大型コンベンション(MICE)施設など、国内外での経験を生かした開発に積極的に取り組む」 −福岡市でも博多駅周辺や博多ふ頭ウオーターフロント地区の再開発計画がある。 「駅ビルでの集客実績は着実に積み上げている。特に博多駅周辺は街が広がって、にぎわいが増した。(博多駅と博多港地区を結ぶ)ロープウエー構想など、人を運ぶ点にも強みがある。大型の再開発案件を取れなかった昨年の反省を踏まえ、志をともにする企業と連携して、街づくりに貢献したい」 ◇ ◇ ●海外事業成長の柱に 西日本鉄道 倉富純男社長 −昨年は福岡市都心部の大名小跡地や福ビル街区、博多区の青果市場跡地など、大きな再開発計画に次々と着手した。 「これまで西鉄が積み上げてきた信頼の力が発揮された1年だったと思う。新しい時代も汗をかくことの重要性は変わらない。グループ全体で結束し、大型プロジェクトを進めていく」 −運営会社に参画する福岡空港が4月に完全民営化される。 「国内線と国際線の連絡バス停留所に、電子表示で外国語にも対応する『スマートバス停』を導入するなど、できることから利便性を改善する。滑走路が2本に増える2025年に向け、商業やホテル機能の計画を前のめりで固めていく」 −今後の重点分野は。 「成長の柱は海外だ。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域でのマンションや一戸建て住宅のほか、付随する商業施設なども増やしていく。国内外での観光需要取り込みも重要で、ホテルも年に1、2棟は着実に開発していきたい」 −天神大牟田線の雑餉隈駅(福岡市博多区)や春日原駅(福岡県春日市)の高架化、駅前開発を進めている。 「次世代型開発の答えの一つは三国が丘駅(同県小郡市)だ。スーパーや病院、医療・介護サービス付きマンションなど、シニア世代に必要な機能が近距離にまとまっている。その地域での暮らしを快適にすることで、沿線人口を増やしたい」 −進む人手不足への対策は。 「モニターやセンサーを活用して保線作業の機械化を進めるなど、最適な技術導入や効率化が大事だ」 *1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181228&ng=DGKKZO39456300X21C18A2EE8000 (日経新聞 2018年12月28日) 年金改革、女性・高齢者に的 来年に財政検証、保険料増へ加入対象拡大 厚生労働省は2019年、公的年金の財政検証を実施する。当面の年金財政は健全だと確認する見通しだが、支給の長期的な先細りは避けられない。これを受け検討する制度改正では、働く女性と高齢者が焦点だ。パート社員への厚生年金適用や、70歳超からの受給開始も選べるようにし、保険料収入を増やす。一方、支給開始年齢の一律引き上げなど抜本改革は見送られる可能性が高い。財政検証は5年に1度実施する。人口構成や経済情勢の変化に合わせ、将来の年金財政の収支見通しなどを作る。「100年安心」をうたった公的年金の定期健康診断という位置づけだ。検証の結果、5年以内に所得代替率(現役の手取り収入に対する年金額の比率)が50%を下回ると見込まれる場合、給付減額や保険料率の引き上げが避けられなくなる。14年に実施した前回の財政検証では、安定して経済成長する「標準ケース」で43年度に所得代替率が50.6%になるという結果だった。足元の景気は緩やかに回復しており、19年の検証でも5年以内に50%を下回る試算は出ない見込みだ。ただ、年金財政を長期にわたり維持できるかの不安は残る。次の制度改正では、年金支給の財源となる保険料を増やす取り組みに軸足を置く。実施することが確実な具体策の一つは、年金の受給開始年齢について、70歳を超えてからも選べるようにすることだ。今の制度は65歳が基準で、60~70歳の間であればいつから年金をもらうか選択できる。健康寿命が延びて、働く高齢者が増えているのを受けた制度見直しといえる。年金は受け取り始める年齢を遅らせるほど、月当たりの支給額が増えるという仕組みだ。70歳で受け取り開始なら、65歳より4割程度増える。制度改正で高齢者の就労がさらに増えれば、年金の保険料収入が増える。働く女性を念頭に、パート労働者の厚生年金加入も促す。今の制度は(1)従業員501人以上の企業で就労(2)労働時間が週20時間以上(3)賃金が月8.8万円以上――などを満たす人が適用対象だ。この基準を引き下げ、厚生年金に加入する短時間労働者を増やしていく方向で検討が進む見通し。ただ、長い目で公的年金財政の持続性を高めるには(1)支給開始年齢(2)保険料率(3)支給額――の見直しを一体的に実施することが不可欠との見方が少なくない。厚労省は支給開始年齢を一律に引き上げなくても、人口減少などに応じて給付を抑える「マクロ経済スライド」で、将来にわたり年金財政を維持できるとの立場だ。ただ、同スライドを過去に発動したのは1度きり。海外では支給開始年齢を60歳代後半にしている国も多く、有識者の間では一律引き上げを検討すべきだとの意見が根強い。 <改正入管難民法> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASLDS3575LDSUTIL003.html?iref=comtop_list_pol_n03 (朝日新聞 2018年12月25日) 外国人労働者、介護など14業種で受け入れへ 閣議決定 政府は25日、来年4月からの外国人労働者の受け入れ拡大に向けて、新在留資格「特定技能」の枠組みを定めた「基本方針」と、業種ごとに人数などの詳細を決めた「分野別運用方針」を閣議決定した。介護や建設など14業種での受け入れを決め、来年4月からの5年間で最大34万5150人がこの在留資格を得ることを見込む。閣議に先立って開かれた関係閣僚会議では、外国人の受け入れや共生のための「総合的対応策」の最終案を決定。安倍晋三首相は「外国人が日本で働いてみたい、住んでみたいと思えるような制度の運用、社会の実現に全力を尽くして下さい」と指示をした。この日決定された内容で、政府が出入国管理法の国会審議で「成立後に示す」としてきた新制度の全体像を示す「3点セット」が出そろった。ただ、検討中の施策や抽象的な表現にとどまる取り組みも少なくなく、来春からの実効性は不透明だ。政府は年内に基本方針や分野別運用方針の内容などが反映された政省令についてパブリックコメントの募集を始め、来年3月に公示する方針だ。相当程度の技能が必要な「特定技能1号」の資格を得るには、技能試験と日本語試験に合格しなければならない。基本方針には、全ての業種に共通する内容として、外国人労働者が大都市に集中するのを防ぐ▽悪質なブローカーを介在させない▽外国人の給与は日本人と同等額以上にする――などが盛り込まれた。分野別運用方針には、14業種ごとの、来年4月からの5年間の最大受け入れ見込み人数が明記された。最多は介護の6万人、最少は航空の2200人。技能試験と日本語試験を来年4月から実施するのは介護と宿泊、外食の3業種で、他の11業種は来年度中に実施予定。当面は、試験を受けずに在留資格を変更できる技能実習生が担い手の中心となりそうだ。熟練した技能が必要な「特定技能2号」を活用するのは建設と造船・舶用工業の2業種。技能試験に合格するだけでなく、一定期間の実務経験も必要だ。新設される技能試験は2業種とも、21年度に実施される予定という。 *2-2:http://qbiz.jp/article/146287/1/ (西日本新聞 2018年12月25日) 改正入管法 政府方針を決定 5年間で最大34万5150人受け入れ 政府は25日、改正入管難民法に基づく外国人労働者受け入れ拡大の新制度について、基本方針などを閣議決定し、全容を固めた。深刻な人手不足を理由に、高度専門職に限っていた従来施策を変更。特定技能1号、2号の在留資格を新設して単純労働分野にも広げ、来年4月から5年間で最大34万5150人を受け入れる。外国人が大都市圏に集中しないよう措置を講じるとしたが、地方との賃金格差などを埋める施策を打ち出せるかどうかが課題だ。閣議で受け入れ見込み数などを記載する分野別運用方針、関係閣僚会議で受け入れの環境整備施策をまとめた総合的対応策も決定した。基本方針では、受け入れの必要性を具体的に示すよう関係省庁に要請。対象は14業種で、見込み数は大きな経済情勢の変化がない限り上限として運用する一方、必要に応じて見直し、受け入れ停止を検討することも記した。 *2-3-1:https://www.agrinews.co.jp/p46156.html (西日本新聞 2018年12月18日) 外国人就労で政府案 農作業全般 可能に 雇用側「経験」が要件 改正出入国管理法(入管法)に基づく外国人労働者の新たな受け入れ制度で、農業分野の制度詳細を盛り込む運用方針、運用要領の政府案が17日、判明した。外国人は栽培管理から集出荷、加工、販売など、生産現場の全般の作業に携われるとした。農家など受け入れ側の要件としては、雇用労働者を一定期間以上受け入れた経験があることなどを盛り込んだ。農業の運用方針などの案は、農水省を中心に関係省庁で策定。19日の自民党農林合同会議で審議した上で、政府は年内に正式決定する。受け入れ人数の見込みは、5年間で最大3万6500人とした。農相は、実際の受け入れがこの人数を超えそうな場合は法相に受け入れ停止を求める。事実上の受け入れ上限の位置付けだ。外国人の業務としては、作物の栽培管理や家畜の飼養管理をはじめ、JAなどの施設での作業を念頭に集出荷、選別作業を位置付ける。運用方針を受けて、さらに細かな内容を盛り込む運用要領の案には、農畜産物の製造・加工、販売、冬場の除雪など外国人と同じ職場で働く日本人が通常従事している作業も、付随的に担えることも定める。外国人の受け入れ形態は、農家など受け入れ側の直接雇用か、人材派遣業者を通じた受け入れとする。直接雇用の場合は一定期間以上、労働者を雇用した経験があることが条件。派遣業者を通じた受け入れの場合、一定期間以上の労働者の雇用経験か、人材派遣に関する講習などの受講者を責任者として配置することが必要とした。新制度による就労では、3年間の技能実習の修了者以外は、一定の技能や日本語能力を問う試験への合格が求められる。技能を問う試験の実施主体は公募で決めるが、全国農業会議所が務めることを想定。日本語の能力試験では、難易度の区分で下から2番目の、基本的な日本語を理解できる「N4」以上の水準を求める。 *2-3-2:http://qbiz.jp/article/146551/1/ (西日本新聞 2018年12月30日) TPP発効 九州農家「組織化」で対抗 輸入増、競争激化に危機感 環太平洋連携協定(TPP)が30日発効、海外産の安い農産物の輸入が一層拡大することが予想される。農家は競争激化へ危機感を強め、組織化などで対抗する動きを強めている。福岡県産ブランド「博多和牛」の品質向上を図ろうと、県肉用牛生産者の会(肥育農家70戸)と県和牛改良協議会(繁殖農家51戸)などは11月、「福岡県肉用牛振興協議会」(福岡市)を発足させた。福岡県内では、子牛を誕生させて一定期間育てる繁殖農家と、子牛を買い取って出荷まで育てる肥育農家はつながりが希薄だった。協議会は合同研修などを通じ、飼育環境や飼料に関する情報交換や連携を強化。誕生から出荷まで地域で一貫的に行う形を築き、品質向上につなげたい考えだ。農林水産省はTPP11発効に伴い、牛肉の国内生産額が約200億〜約399億円減少すると試算。協議会会長で博多和牛を生産する堀内幸浩さん(45)=福岡県朝倉市=は「海外からの牛肉は赤身で、霜降りが中心の和牛と激しく競合するとは考えていないが、国際的な競争が強まるのは必至。その中で博多和牛が生き抜くためには質向上は欠かせない」と強調する。熊本県宇城市の酪農家川田健一さん(50)は2016年、同市や熊本市の酪農家4人で株式会社「うきうき」(宇城市)を設立した。乳牛の飼料となるトウモロコシの収穫作業を地域の酪農家から請け負うのが主業務だ。飼料収穫機などの大型機械は自己資金に加え国の補助金、JAからの借り入れで確保。18年は6酪農家の計約33ヘクタールを請け負った。設立のきっかけは酪農家の高齢化や人手不足。牛舎での作業以外に、農地での作物栽培などを行うのが難しくなり、牛ふんの堆肥活用ができず処理に苦慮するという悪循環が見られるようになったためだ。農水省試算では、TPPによる牛乳・乳製品の生産額減少は約199億〜約314億円。うきうきの社長を務める川田さんは「今後は廃業する酪農家の乳牛や施設を引き受けることも考えている。組織化によるコスト削減の強みを発揮し地域の酪農を守りたい」と表情を引き締める。 *2-3-3:http://qbiz.jp/article/146690/1/ (西日本新聞 2019年1月6日) 農林業担い手育成へ国際専門校 九州定住、海外販路狙う 大分県内に来年にも アジア出身者ら対象 政府が外国人労働者の受け入れ拡大を図る中、アジア出身の留学生らを人手不足にあえぐ農林業の担い手に育成する専門学校「アジアグローカルビジネスカレッジ」(仮称)の設立計画が大分県内で進んでいることが分かった。2020年にも開校予定。若者の就業・地元定住を促し、国際ビジネスの創造や海外販路の拡大も狙う。こうした農林業の国際専門学校は全国的に珍しい。昨年11月に発足した設立準備委員会は、九州の農林事業者、学校法人、企業、大学教授、中国の貿易業者らで構成。大分県内の空き校舎を活用し、九州の若者のほか、今後提携するアジアなど10カ国の農業高校の卒業生らに呼び掛ける。総定員は180人、半数程度は留学生を想定している。計画では「グローカル学科」に(1)スペシャリストコース(2)マネジメントコース(3)ビジネス創造コース−を設置。(1)ではコメやユズなど休閑地を活用した九州の特産農作物の栽培や無人の農林業ロボットの操作、(2)では農林業法人の経営ノウハウを学ぶ。(3)は農作物を海外に販売できる人材の育成を目指し、中国・上海やシンガポールなどのバイヤーとウェブ上で交渉する実践的な授業をする。留学生はコース選択の前に1年半〜2年、日本語学科で日本語や商用英語などを学ぶ。卒業生の進路は、農林業法人への就職のほか、耕作放棄地や高齢化した農家の田畑を活用した農林業法人の設立、地元農産品を留学生の母国向けにネット通販する貿易業の起業などを想定。韓国・大邱市の永進専門大や中国・四川省の四川農業大との提携が内定、交換留学も行いたいという。農林水産省によると、15年の九州の農業就業人口は32万7624人で、1990年の4割ほどに減少。このうち30歳未満は9747人と、90年の2割以下に落ち込んでいる。一方、厚生労働省によると、農業に従事する外国人技能実習生は2万4039人(17年10月末現在)。改正入管難民法に基づき、政府はさらに農業分野の外国人労働者の受け入れを拡大する方針。専門学校は新設される在留資格にも対応する授業を目指す。設立準備委の関係者は「卒業生の8割に、九州の農林業に定着してもらうのが目標」としている。 ◇ ◇ ●農林業のプロ育成目指す 九州農業けん引期待 日本の農業現場が高齢化や人手不足に陥る中、政府は外国人労働力の受け入れに前のめりになっている。大分県内で2020年の開校を計画する国際専門学校「アジアグローカルビジネスカレッジ」(仮称)は、単に人手不足解消という狙いだけでなく、海外販路開拓も含め、「農業王国」九州をリードする人材の育成も目指している。農林水産省によると、九州各県の農業就業人口(2015年)は、福岡5万6950人(1990年比58・8%減)▽佐賀2万6244人(同63・7%減)▽長崎3万4440人(同57・2%減)▽熊本7万1900人(同54・5%減)▽大分3万5208人(同60・6%減)−と、大幅に減っている。後継者確保に悩む農家も多い。外国人受け入れ拡大に向け、政府が昨年12月25日に閣議決定した分野別運用方針は、農業分野では「雇用就農者数が現時点で約7万人不足」し、「基幹的農業従事者の68%が65歳以上」といった課題を明記した。4月に創設される新たな在留資格のうち「特定技能1号」では農業分野で最大3万6500人を受け入れる方針だが、在留期間は通算5年。家族帯同が認められ、在留期限を更新できる「技能2号」は「農業分野では、現時点で導入予定はない」(法務省入国管理局)という。アジアグローカルビジネスカレッジは留学生の卒業後の進路として、九州の耕作放棄地を利用した農林業法人や、農産物の海外販売を手掛ける貿易法人の起業など、より専門性の高い「農林業のプロ」を想定。在留期限を更新できる在留資格「経営・管理」などを取得してもらう。設立準備委員会の関係者は「長期間にわたり九州の農業を引っ張るような高度人材の育成につなげたい。母国に戻り、活躍するグローバルな人材も送り出したい」としている。 *2-4:https://www.agrinews.co.jp/p46244.html?page=1 (日本農業新聞 2018年12月26日) 外国人材 介護現場で活躍 欠かせぬ戦力に 資格取得にも意欲的 JA愛知厚生連足助病院 全国の介護現場で外国人が活躍している。来年4月施行の外国人労働者の新たな受け入れ制度では、全職種の中で介護分野が最多人数となる見込みだ。経済連携協定(EPA)で3人の外国人を受け入れ、現場の戦力になっているJA愛知厚生連の足助病院(豊田市)の現場から、メリットや課題を探る。介護医療院を運営する同病院では、フィリピン出身の女性3人が勤務している。双子のヘロナ・アケミさん(24)、ユミコさん(24)姉妹は、2016年に着任した。職員から介護技術や日本語の指導を受け、介護福祉士国家試験合格を目指している。2人は、ホールで昼食を取る利用者に「おいしいですか」「ゆっくり食べてくださいね」と日本語で優しく声を掛ける。利用者の女性は「頑張っているから応援したくなる」と話す。2人は着任前の研修で日本語を勉強してきたが、利用者の方言に苦戦している。アケミさんは「『えらい』という言葉が『とても』の意味で使われるのが分からなかった」と苦笑い。分からない言葉は、職員に尋ねて地道に語彙(ごい)を増やしている。2人はフィリピンの大学で介護を勉強した。「フィリピンでは誰でもできる仕事と捉えられがちで、介護施設も少ない。プロフェッショナルとして働ける日本は魅力的だ」と口をそろえる。「利用者に家族のような温かい介護ができるようになりたい」と前を向く。介護医療院の松井孝子課長は「現場では、日本人の新人と同じようにチェックリストを使って教えている。利用者に丁寧に接し、良い印象を持たれている」と評価する。同病院が外国人を受け入れたのは、介護人材の確保が難しくなっているためだ。看護部の大山康子部長は「地元の高校生が就職する場合、市の中心部の企業に就職する傾向が強い。好景気が続く中、介護職に就く人は少ない」と話す。定年退職した職員を再雇用し人材を確保しているが、中堅、若手の層が薄い。14年、同病院に初の外国人人材としてエンピス・ラブジョイ・パルシアさん(25)が着任した。住む場所も同病院が用意し、ベッド、テレビ、自転車などは、職員が持ち寄り提供した。正月は和服を着る体験会を開き、日本文化に親しめるよう心掛けた。現場での実習に加え、過去の試験問題を解く練習を繰り返すよう指導。ラブジョイさんは18年に国家試験に合格。アケミさんとユミコさんは20年の合格を目指す。同病院では、今後も外国人人材の受け入れを続ける予定だ。大山看護部長は「意欲がある若手人材は貴重だ。3人が頑張る姿を見て、受け入れてよかったと言う職員も増えた」と話す。一方で「日本と海外では介護のやり方が異なる。日本の介護のノウハウを習得したいと考える人材でなければ、現場での活躍は難しい」と説明する。 ●安心できる環境づくりを 外国人介護人材を研究する聖徳大学心理・福祉学部社会福祉学科の赤羽克子教授の話 介護現場での外国人登用は拡大し続けるだろう。新たな受け入れ制度が始まれば、さらに加速するはずだ。一方で、来日して介護福祉士の資格を取得しても、孤独を感じて帰国した例がある。外国人同士のコミュニティーづくりの支援が必要だ。先進国を中心に介護分野の外国人の受け入れが進んでいる。就労のハードルが高い日本を避け、他国に人材が流れる恐れもある。外国人が技術をしっかり習得し、安心して生活を送れる環境を整えなければならない。 <メモ>外国人介護人材の受け入れ EPAに基づく受け入れが08年度から始まり、現在はインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国が対象。17年度までに3529人を受け入れた。介護福祉士候補者として介護施設で就労しながら、資格取得を目指す。他にも、介護福祉士資格を取得した留学生に対する在留資格、技能実習の制度がある。来年4月には、改正出入国管理法(入管法)に基づく新たな受け入れ制度が始まり、国は5年間で5、6万人の人材確保を見込む。 *2-5:http://qbiz.jp/article/146225/1/ (西日本新聞 2018年12月22日) 外国人就労促進へ力 関係省庁予算案 環境整備や技能評価 来年4月に始まる外国人労働者の受け入れ拡大に向け、関係省庁の2019年度当初予算案が出そろった。相談窓口の設置など、受け入れ環境の整備に重点が置かれたほか、技能や日本語評価のための試験実施に向けた予算措置が目立つ。厚生労働省は、受け入れた外国人の雇用状況を確認するための視察や、受け入れ先の改善指導といった体制整備に8億1千万円を計上した。外国人が安心して医療機関にかかれるよう、病院の多言語化支援に17億円を確保。介護現場で働く人が円滑に利用者や他の従業員となじめるよう、日本語や介護技能を学ぶ研修費用などに11億円を充てる。諸外国でも外国人労働者の活用が進んでいる。外務省は将来的な人材の獲得合戦を見据え、海外での日本語教育事業として10億3千万円を計上。現地での日本語教師の育成や教材の開発を行う。文部科学省は、全国50程度の都道府県や政令市を対象に、日本語教育が必要な外国人を把握するための調査費や、各地域に日本語教室をつくってもらうための補助事業費として4億9700万円を見込む。熟練した技能を持つ人に限定した在留資格「特定技能2号」では家族の帯同が認められている。連れてきた子どもに対する就職相談や地域での居場所づくりに取り組む公立高校への補助事業費に1億円を充てた。国土交通省は、建設分野での受け入れ環境整備に2億2400万円を確保。現在の緊急受け入れで不適切な賃金支払いや過重労働が問題化したため、受け入れ業者の実態調査を強化する。航空業界では、今後整備士の大量退職が見込まれ、外国人の受け入れに期待が高まる。海外での整備士養成の現状を調べる費用として1800万円を計上した。日本を訪れる外国人観光客は今年初めて年間3千万人を超え、東京五輪に向けてさらなる増加が見込まれる。観光庁は、観光を担う人材確保に向けて1億4400万円を計上。宿泊業での雇用環境を整えるため、外国人向けセミナーの開催や教材開発を行う。経済産業省は、業界団体を対象に、外国人の労務管理や生活指導のノウハウを伝えるセミナー開催などのため1億円を充てた。農林水産省は、農業と漁業、飲食料品製造業、外食業の4分野で、知識や技能評価のための現地試験を実施する。試験問題作成や、会場設営を支援するために3億5千万円を確保した。法務省は、全国100カ所に多言語で応じる生活相談窓口を設置するため、自治体に20億円(うち10億円は18年度補正予算案)の交付金を配分する。出入国在留管理庁新設に当たり、18年度補正予算案には13億5200万円も盛り込んだ。 *2-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181228&ng=DGKKZO39485570X21C18A2EA1000 (日経新聞 2018年12月28日) 外国人と働く(4) 一律対応は通用しない 「滞納していた保険料を分けて払いたい」訪日外国人や忘年会の会社員でにぎわう東京・歌舞伎町の新宿区役所本庁舎。4階の医療保険年金課の窓口には、12月に入ってもこんな問い合わせをする外国人が足を運ぶ。国民健康保険(国保)の手続きを管轄する部署の課長、村山透(56)は「留学生の来日が集中する4月と10月は外国人が殺到する。12月はすいている方だ」と明かす。区内には12月1日現在、約4万3600人の外国人が暮らしている。中国や韓国、欧米、アフリカなど出身国・地域は計140弱。「日本で一番助かるのは病院にかかりやすいこと」(中国人の女子留学生、20)との声がある一方、月額数千円程度の保険料が未払いの外国人も増加傾向だ。区は4月、納付を促す催告書にベトナム語とミャンマー語、ネパール語を加えた。人数が増え、出身地が広がる外国人住民。地域で向き合う自治体の体制はどうか。JR川口駅東口の複合施設「キュポ・ラ」には埼玉県川口市の協働推進課の窓口がある。応対する職員は3人で、英語や中国語が母国語の「国際交流員」が補助する。この人員で3万3000人の外国人の相談にあたる。生活習慣や納税など、文化の違いに根ざしたトラブルは幅広い。係長の川田一(44)は「何度も説明しないと理解してもらえない場合も多い」とこぼす。多様化する外国人住民に、自治体の一律対応は通用しなくなりつつある。各地の自治体でつくる「外国人集住都市会議」は11月28日、外国人受け入れに関する意見書を東京・霞が関の法務省に提出した。名前を連ねたのは浜松市や群馬県太田市など15自治体で、ピーク時からほぼ半減した。日系ブラジル人対応で連携する目的で設立されたが、出身地が広がり、共有できるテーマやノウハウが乏しくなり、一部の自治体が離脱した。北海道紋別市の水産加工会社、光進水産は外国人技能実習生の住宅で無料Wi―Fiが使えるようにしている。暮らしやすい環境を整え、実習生をつなぎ留めるためだ。それでも、社長の斉藤則光(66)は「日本の若者と同じように、都会に出て行ってしまうのではないか」との不安は消えない。働き手として住み続けてもらうには何が必要か。自治体や企業の試行錯誤は続く。 <家事労働の軽視と女性差別> *3-1:http://qbiz.jp/article/145946/1/ (西日本新聞 2018年12月18日) 男女平等、日本は110位 18年、賃金格差縮小でやや上昇 ダボス会議で知られるスイスの「世界経済フォーラム」は18日、2018年版「男女格差報告」を発表した。日本は調査対象となった149カ国中110位で、賃金格差の縮小などにより前年より順位を四つ上げた。しかし政治、経済分野で依然女性の進出が進んでいないとされ、20カ国・地域(G20)では下位グループに位置、中国(103位)、インド(108位)より低かった。報告書では、日本は女性の議員や閣僚の少なさから政治分野(125位)が低評価で、経済分野(117位)も幹部社員の少なさなどから前年より順位を三つ下げた。「依然として男女平等が進んでいない国の一つだ」と指摘されている。首位は10年連続でアイスランド。2位ノルウェー、3位スウェーデンと北欧諸国が上位に並んだ。G20では12位のフランスがトップで、次いでドイツの14位。米国は51位だった。日本より低かったのは韓国(115位)、トルコ(130位)、サウジアラビア(141位)の3カ国。世界経済フォーラムは「世界全体として政治分野で男女格差が拡大するなど格差解消の動きは足踏み状態だ。このスピードでは完全解消に108年かかる」と強調した。男女格差報告は各国の女性の地位を経済、教育、政治、健康の4分野で分析、数値化している。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190110&ng=DGKKZO39807280Z00C19A1KE8000 (日経新聞 2019年1月10日) 平成の終わりに(5)女性活躍誇れる国 目指せ、多様性向上、企業・社会に益 村木厚子・元厚生労働事務次官(1955年生まれ。高知大文理卒、旧労働省へ。津田塾大客員教授) 〈ポイント〉 ○第1子出産で離職する女性比率高止まり ○育児への男性の参加と社会の支援が重要 ○女性活躍進むが他国に比べスピード遅い 男女雇用機会均等法は、昭和の終わりに近い1985年に制定された。それから30年余りが経過した今日、「女性活躍」は再び政府の最重要課題の一つとなり、これに加えて「働き方改革」が大きな政策課題となっている。本稿では、これらがそれ自体、社会的に重要であるだけでなく、日本にとって最も深刻な社会課題である少子高齢化への対応や、さらには多くの企業が目指す新たな価値創造にとっても重要な役割を果たすことについて述べたい。均等法は、国連の「女子差別撤廃条約」という外圧を借りながら、経済界の強い反対を押し切って誕生した。女性が性別により差別されることなく、かつ母性を尊重されつつ充実した職業生活を営むことを基本理念に、雇用の場での機会と待遇の均等を確保することを目的とした。しかしその後、女性の多くが育児や介護などの家庭責任を負う状況では、女性の活躍どころか、就業の継続そのものが難しいことが次第に明らかになった。このため「育児休業法」(現在は育児・介護休業法)が91年に制定され、子どもが満1歳になるまでの間、育児休業を男女労働者に付与することなどが義務付けられた。これで「均等」と「(仕事と家庭の)両立」という車の両輪がそろった。その後、均等法も育児・介護休業法も順次強化され、さらには2015年に成立した女性活躍推進法で、「機会」の均等のみならず、女性活躍の「結果」が出ているかどうかを企業などが検証し、対策や目標数値を盛り込んだ計画を策定し実行するいわゆるPDCA(計画、実行、評価、改善)の実施と、その内容の公表が義務付けられた。こうした均等と両立の施策の充実により、女性の就業率や管理職比率の向上、男女間の賃金格差の解消などが、平成の全時代を通じゆっくりとではあるが進んだ。だがなかなか変わらない現実もある。育児・介護休業法により女性の育児休業取得率は、07年以降は常に80%を超えるが、男性の取得率はまだ5%台にとどまる。法律は男女労働者を対象にしていても、育児は女性の仕事という構図はほとんど変わっていない。第1子を出産した女性の出産前後の就業状況をみると、結婚して仕事を辞める女性は均等法施行後徐々に減っている。だが第1子の出産後も就業を継続する女性の割合は、10年ごろまでは20%台で推移していた。こうした中で別の大きな問題が顕在化してくる。出生率の低下だ。出生率は80年代半ばごろから低下が続き、05年に史上最低の1.26を記録した。少子高齢化の急速な進展は将来世代への過大な負担を意味する。加えて社会保障負担の増大による財政の悪化により、次世代への負担の付け回しが既に始まっている。社会の疲弊や財政破綻を避け、平成の次の時代、長寿を喜べる社会にするためには、「支え手」を増やすしかない。今の支え手である働く女性を増やすことと将来の支え手である子どもを増やすことは同時に実現できるのだろうか。答えは他の先進国の状況をみれば明らかだ。経済協力開発機構(OECD)加盟諸国のデータをみると、おおむね女性の労働力率が高い国は出生率も高く、逆に女性の労働力率が低い国は少子化に苦しんでいる。女性が活躍する社会が、同時に希望する子どもを持つことができる社会だ。これを日本で実現する鍵は何か。他国の状況や国内のニーズ調査などから政府がたどり着いた結論は、男性の育児参加と社会の子育て支援の重要性だった。具体的には、男性を含めた働き方の改革と保育の充実だ。保育が、男女が子どもを持ち、ともに働き続けるための必要条件であることは疑いがない。このため「社会保障と税の一体改革」の中で、消費税率引き上げによる増収分の一部を保育に充てることになり、ここ数年、急速に整備が進み始めた。この分野は今後も手を緩めてはならない。次は働き方改革だ。各種調査で、子どもを持つ女性が仕事を続けるための条件として挙げたのは、職場全体の勤務時間や両立を支援する雰囲気、勤務時間の柔軟性などだ。日本の残業時間は国際的にみても長く、男性の家事・育児参加の度合いは低い。就学前の子どもを持つ父親の家事・育児時間は日本は1日平均約1時間強で、欧米の半分以下だ。夫の家事・育児参加時間が長い家庭ほど妻の就業継続率が高く、2人目以降の子どもを持つ確率が高いこともわかってきた。妻だけが育児を担う「ワンオペ育児」が少子化につながることが裏付けられた。そして男性の育児参加には労働時間の短縮が必要だ。18年6月には働き方改革関連法が成立した。残業の上限規制、高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)の導入、同一労働同一賃金の推進などが柱だ。長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の導入、多様な働き方に見合う公正な処遇を受けられるルールづくりを目指すものだ。これらが実現すれば、男女がともに、さらには高齢者、障害者など多様な労働者が自分に合った多様な働き方で力を発揮することができる。働き方改革は労働者の健康だけでなく、男女が仕事で活躍し、家庭生活を充実させ、さらには多様な支え手が社会を支えることを可能にし、社会全体の持続可能性を高めるための重要な政策となった。「女性活躍」からスタートして男女の「働き方改革」へと広がってきた政策の方向性は間違っていない。問題は改革のスピードだ。図が示すように、結婚し第1子を出産した後も働き続ける女性は10年ごろから増え始めたが、それでも4割にも満たない。世界経済フォーラムが公表する男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本のランキングは149カ国中110位(18年)と極めて低い。しかも中長期でみると、ずるずると順位を下げている。関連の国際機関に、日本の女性活躍は進んでいるのになぜ順位が下がるのか問い合わせたところ、「日本は良くなっているが、ほかの国はもっと速いスピードで良くなっている」との答えが返ってきた。長時間労働の是正も同様の状況だ。スピードを上げるために政府は何をすべきか。女性活躍や働き方改革の進捗状況を点検し、政策効果を分析し、さらなる対策や目標値を明示して、これを広く国民と共有しながら取り組みを進めていく、すなわち女性活躍推進法で企業に義務付けたPDCAの実施だ。特定分野でのクオータ制(割当制)の導入も検討してよい時期だ。女性活躍も働き方改革も日本社会にとっては最重要課題だが、個々の企業にとってはどうだろうか。まだ多くの企業はこれを「コスト」と受け止めているのではないか。だが調査研究によれば、女性の役員が多い企業は比較的業績が良く、ワーク・ライフ・バランスの取り組みやフレックスタイム制を進める企業は、一定の時間はかかるが大幅に付加価値生産性が上がる。平成の次の時代の企業の最大課題は新たな価値の創造だ。女性をはじめ多様な人材が活躍できるダイバーシティー(多様性)の実現はそのための大きな原動力だ。そう認識し、本気で取り組む企業が増えれば、改革のスピードは上がり、企業の成長と社会の成長の好循環が生まれる。 *3-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39490190Y8A221C1EA4000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2018/12/28) 働く女性3000万人、超えられぬ壁 働き盛り伸び悩む 働く女性の数が3000万人の大台を目前に足踏みしている。総務省が28日発表した11月の労働力調査によると、女性の就業者数は2964万人(季節調整値)で前月に比べ7万人減った。順調に増えてきたが、5カ月ぶりに減少に転じた。高齢者や学生ら若者が女性の働き手を増やすけん引役だが、全体の底上げには25~44歳を中心とする働き盛りの世代の動向がカギとなる。11月の就業者数は男女合わせて6713万人。このうち男性は3749万人で全体の56%。30年前は6割だったが、働く女性が増えて男女比率は半々に近づいている。11月の女性の就業者数を年代別に17年末と比べると、伸び率が最も高いのが15~24歳だ。就業者数は284万人で13%増えた。全体の伸び(3%)を大きく上回る。13~17年はおおむね240万~250万人台で推移してきた。少子化で人口が減るなか、18年に急増した要因は「時給上昇と労働条件の緩和だろう」とSMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは話す。有効求人倍率は1.6倍を超え、人手不足は深刻だ。アルバイトを募集する際、時給を上げ、就業は週1回でも良いといった条件にするなど、学生にとって働きやすくなった。景気要因の大きい学生の雇用状況に対し、65歳以上の高齢女性で働く人は安定して増えそうだ。11月の就業者数は366万人で、17年末と比べると11%増だ。一方、就業率は17.9%。65歳以上の男性の就業率が33.6%で、高齢女性の伸びしろは大きい。気がかりなのは働き盛りにあたる25~44歳。就業者数は17年末に比べ1%減った。働く意欲は持っていても、子どもを預けることができず就労を諦めている女性もいる。都市部を中心に保育所に預けられない待機児童は全国で約2万人にのぼる。働き続けられる環境整備が欠かせず、政府は対策を急ぐ必要がある。 *3-4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASLD92PS3LD9UBQU001.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2018年12月9日) 不適切な入試、岩手医科大・金沢医科大・福岡大でも 岩手医科大、金沢医科大、福岡大の3私立大が8日、一斉に各大学で会見を開き、医学部入試で「文部科学省から不適切な点があると指摘された」と公表した。募集要項で明記せずに現役生や地元高校の卒業生ら、特定の受験生を優遇していたが、いずれも「問題ないと思っていた」と釈明した。文科省は同省幹部の汚職事件をきっかけに、東京医科大の医学部入試で不適切な得点操作が発覚したことを受け、全国81大学の医学部入試を調べている。10月に「複数の大学で不適切な入試が行われている」と発表し、大学の自主的な公表を求めていた。岩手医科大は、34人が受験して7人が合格した今年の編入試験で、同大歯学部の出身者3人を優遇した。地域医療に貢献する人材育成のために出願時に約束させている、付属病院や関連病院で卒業後6年以上、勤務する条件を守る可能性を重視したという。佐藤洋一・医学部長は「出身者に優位性を持たせるのは、私学の裁量の範囲内と考えていた」と話した。今年度入学の一般入試で不合格となった7、8人より、評価が明らかに低かった1人を追加合格させた点も、不適切と指摘されたという。判断の基準について問われた佐藤医学部長は、「公表を差し控えたい。特定の属性で合格させておらず、不都合な点はないと考えていた」とした。金沢医科大は今年度のAO入試で同窓生の子ども、北陸3県(石川・福井・富山)の高校の卒業生、現役生と1浪生に加点していた。同窓生の子は10点、石川の高校出身者には5点、富山、福井については3点、現役・1浪生には5点を加えていた。編入試験でも北陸3県の高校出身者や年齢に応じて得点を調整。これらの操作によって約10人が不合格になったという。さらに、一般入試の補欠合格者を決める際にも年齢を考慮していた。会見した神田享勉(つぎやす)学長は「大学の機能を保ちながら、北陸の医療を支えていくのは困難。同窓生の子どもや現役・1浪生、北陸3県出身者の方が地域に残るというデータがある」と得点調整の理由を説明した。福岡大では、高校の調査書の評価を点数化する際、現役生を有利にしていた。一般入試の評価では、1浪は現役生の半分で、2浪以上は0点だった。2浪以上は受験できない推薦入試でも、同様に差をつけていたという。「高校時代の学力・成績も評価したかったが、卒業から年数が経つと基礎学力評価の有効性が下がる」として、2010年度入試から始めたという。11月下旬に文科省から不適切との指摘を受けて再検討し、高校側の保存期間を過ぎて調査書を提出できない浪人生もいることなどから「不適切」と結論づけた。月内に第三者を含む調査委員会を設け、追加合格などを検討するという。会見はいずれも午前11時に開始された。この日になった理由を問われ、3大学とも「近く、一般入試の出願が始まるため」と同様の説明をした。会見日時が重なったことについて、福岡大の黒瀬秀樹副学長は「びっくりしている。示し合わせているわけでは全くない」と話した。 *3-4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASLDB76NZLDBUBQU00X.html?iref=pc_ss_date?iref=pc_extlink (朝日新聞 2018年12月11日) 順大・北里大で不適切な医学部入試 女子など不利な扱い 順天堂大と北里大は10日、医学部で女子や浪人回数の多い受験生を不利に扱う不適切な入試を行っていた、と発表した。順大は「女子はコミュニケーション能力が高いため、補正する必要がある」として、面接などを行う2次試験の評価で、男女で異なる合格ラインを用いるなどした。北里大は今年度の一般入試で繰り上げ合格者に連絡する際、男子や浪人回数の少ない受験生を優先させた。順大によると、不適切な入試の結果、2017、18年春の入試で計165人が不当に不合格となった。順大はこのうち2次試験で不合格となった48人(うち女子47人)を追加合格にする方針を示した。順大は女子を不利に扱った理由について①男子よりも精神的な成熟が早く、受験時はコミュニケーション能力も高いが、入学後はその差が解消されるため補正する必要があった②女子寮の収容人数が少なかった――と説明。ただ、この問題で設置した第三者委員会からは、いずれも「合理的な理由はない」と指摘された。新井一学長は「当時は大学の裁量の中で妥当と判断した。不適切とされたので、今後はなくす」と謝罪した。北里大は今後、第三者委を設置して対応を検討する。医学部入試をめぐって不適切な入試を認めたのはこれで8大学になる。 *3-4-3:https://digital.asahi.com/articles/ASLDC4389LDCUBQU00H.html?iref=pc_ss_date?iref=pc_extlink (朝日新聞 2018年12月11日) 「女子の方がコミュ力高い」 順大、医学部入試で不利に 医学部入試での女子差別が再び明らかになった。順天堂大は10日に会見を開き、男女によって異なる合格ラインを設定していたと明らかにしたうえで「女子の方が精神的な成熟が男子より早く、コミュニケーション能力が高い。ある意味で、男子を救うためだった」と説明した。「受験生、保護者、関係者に多大な心配とご迷惑をおかけし、深くおわび申し上げます」。午後4時に始まった会見の冒頭、新井一学長と代田浩之医学部長は、深く頭を下げた。順大が文部科学省から「不適切」との指摘を受けて、10月に設置した第三者委員会の報告書は、女子と浪人回数の多い受験生を構造的に不利に扱っていたと指摘した。出願者の半分近くを占める「一般A方式」の1次試験では、一定順位を下回る受験生については性別、浪人回数、調査書の評価によって異なる合格基準を設定。女子や浪人回数の多い男子は、2次試験に進むことが困難だった。面接などを行う2次試験では地域枠と国際枠を除く全ての入試区分で、男女について異なる合格ラインを設定。順大は1次試験の順位をランクごとに分け、2次試験の成績(満点は5・40~5・65点)を組み合わせて合否判定する。1次試験の評価が男女で同じランクの場合、女子の2次試験の合格ラインが0・5点厳しかった。この仕組みは遅くとも2008年度から行われていたという。報告書によると、順大は男女で異なる取り扱いをした理由を第三者委に「入学後に男性の成熟が進み、男女間のコミュニケーション能力の差が縮小され、解消される」と主張。多数の教職員が「女子受験者に対する面接評価の補正を行う必要があった」と説明し、医学的な検証をした資料として学術誌の論文も提出していた。だが、第三者委は「面接では受験者個人の資質こそが性差よりも重視されるべきだ」と指摘し、「合理性はない」と退けた。順大は医学部の1年生が全員、寮で生活する。順大は「女子寮の収容力に限界があり、合格者を制限する必要があった」とも述べたが、第三者委は「新たな寮ができた後も合格判定基準が変わっていない」として合理性を認めなかった。17年度と18年度の2次試験を再判定した結果、計48人(うち女子47人)を追加合格とし、今後、28日を期限に意向を確認して希望者全員の入学を認める。その分、19年度入試の募集定員を減らす。2年間の1次試験で不合格とされた計117人には入学検定料を返す。2次試験を受けさせない理由について代田医学部長は「過去の入試と来年度の入試の難易度を合わせるのは難しい」とした。16年度以前の受験生については補償を含めて「考えていない」という。会見で新井学長は「当時は私学の裁量の範囲内だと考えていた」と話した。第三者委の指摘を受けて「現時点では不適切だった」と述べ、19年度入試からこうした扱いは全廃するとともに、調査書も評価に入れないと説明した。自身の進退を含めた処分は「不正ではないので考えていない」という。文部科学省の調査によると、順大の過去6年間の平均合格率は男子9・16%、女子5・50%。女子と比べて男子の合格率が1・67倍となり、全国81大学で最も高かった。順大が当初、文科省の調査に不正を否定していた点を問われ、新井学長は「補正という考えであり、差をつけているという認識はしていなかった」と説明した。北里大も10日、18年度の一般入試で繰り上げ合格者に連絡する際に、男子や浪人年数の短い受験生を優先させていたと公表した。記者会見はせず、ホームページに掲載した。北里大によると、入学者に占める女子の割合や、22歳以上の受験生の合格率が、ほかの私立大医学部より高いという。担当者は「合格した男子学生の辞退率が高く、抜けた部分を埋め合わせるためだった」と話した。今後、第三者委を設置して、18年度以前の入試についても調べ、不利に扱った受験生らへの対応を検討する。 *3-4-4:https://digital.asahi.com/articles/ASLDL4DZNLDLUBQU008.html (朝日新聞 2018年12月18日) 順天堂大入試「コミュ力」問題、心理学者が相次ぎ懸念 順天堂大医学部の入試で、女子のコミュニケーション能力が高いため男子の点数を補正した、と大学側が説明した問題に関連し、「日本パーソナリティ心理学会」(理事長=渡辺芳之・帯広畜産大教授)が16日、大学側が根拠として第三者委員会に米テキサス大教授の1991年の論文を提出したことについて、「そのような内容を主張しているわけではない心理学の論文を安易に引用するような姿勢に対して、強い懸念を表明する」などとする見解を発表した。同会には、パーソナリティー研究に関わる心理学者らが参加している。見解では、「入学試験において、パーソナリティーに関係する心理学の研究知見を特定の人々に対する不利益な扱いの根拠として引用する事例が発生した。研究成果に対して多様な解釈があり得ることはもちろんだが、他の研究分野の知識を、その研究本来の文脈や目的から離れて不適切に引用することは好ましいことではない」としている。これとは別に、三浦麻子・関西学院大教授ら心理学者の有志も16日、声明を発表。「根拠」とされた論文は「児童期から成人期までのパーソナリティー発達と男女差を検討したもので、『女性の方が精神的な成熟が早く、相対的にコミュニケーション能力が男性より高い傾向がある』という知見を提出したものではない」として、根拠として用いたことを「非科学的」と批判。「性別ごとの平均値による比較を個別の人物評価に一律に当てはめるべきではない」とし、「心理学研究の素朴な引用によって差別的言動を正当化する行為全般に、心理学者として断固抗議する」としている。 *3-4-5:https://digital.asahi.com/articles/ASLCH4F21LCHUTIL019.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2018年12月15日) 医学部入試、選ぶ側に裁量 女子だけに保育園の質問も 医学部入試に関する調査を進めてきた文部科学省は14日に最終報告を公表し、改めて公正な入試の必要性を訴えた。「入試が不適切だった」と公表した各大学も、選抜方法を改めるとしている。ただ、「何が公正か」という課題は残る。特に医学部の場合は、ほとんどの大学が面接を含む2次試験を行っており、選ぶ側の裁量が大きい。面接試験は、患者と接するコミュニケーション能力や丁寧に説明する力など、医師に求められる資質や適性をみるために大切とされる。主に医学部に進む東京大理科3類では2018年度入試から11年ぶりに復活し、19年度入試は九州大を除く全ての医学部で行われる。ただ、面接は学力試験と比べ、面接をする人の「主観」に左右されやすい。不正発覚の発端となった東京医科大の小西真人・入試委員長は、2年間で101人を不正に不合格にしていたと発表した11月7日の会見で「完全な客観性は面接には無理。大学側に、ある一定の裁量があることは確か」と語った。各大学の男女の合格率や面接内容を分析してきた医学部専門予備校「メディカルラボ」(本部・名古屋)によると、女子の合格率が低い大学は、面接で女子に厳しい質問をする傾向がある。ある大学では女子にだけ「患者がたくさん待っている時、自分の子どもが急病で保育園から呼び出されたらどうしますか」と質問をしていたという。複数の医師は、こうした質問の背景に、入試が大学病院の勤務医の「採用」につながっているという面があると指摘する。同校本部教務統括の可児良友さんは「男子や現役を多く確保したいという大学側の意識が変わらないと、現状が変わらないかもしれない」と不安だ。2次試験の問題は、面接だけではない。得点配分を公表していない私立大も多く、運用が不透明との批判がある。文科省の調査で「不適切な疑いがある」と指摘を受けた10大学のうち、ただ一つ、「問題はなかった」との立場の聖マリアンナ医科大(川崎市)の場合、1次の学力試験は400点満点。2次試験では100点ずつの小論文と面接に加え、調査書などを点数化して合格者を決めているが、この部分の配点は募集要項に記しておらず、評価基準もなかった。文科省はこの点数化の際、「女性より男性、多浪生より現役生が、顕著に高い」と指摘したが、大学側は「受験生を個々に総合評価している」と反論した。同大の広報担当者は取材に「面接官によって、男子や現役に高くつける人はいるかもしれないが、一律に加点していることはない」と答えた。14日の会見で柴山昌彦文科相は同大との見解の相違について「かなり大きな溝がある」として第三者委員会による調査を求めた。ただ、大学側は実施しない方針という。 *3-5:https://digital.asahi.com/articles/ASLCK2JPSLCKUBQU003.html?iref=pc_ss_date?iref=pc_extlink (朝日新聞 2018年11月17日) 診療科で男女偏在・都市に集中… 入試不正の背景は 医学部入試で受験者の性別で差をつけてきた背景には、診療科による男女の偏りや都市部への偏在など、医療界が抱える問題がある。専門家は一連の入試不正を社会全体で考える契機にすべきだと指摘する。女性医師は子育てなどで現場を離れたり、勤務が制限されたりすることが少なくない。2016年の厚生労働省の調査によると、外科など長時間や不規則な勤務が強いられる診療科では女性は1割にも満たない。皮膚科(47%)や眼科(38%)などで割合が高く、特定の診療科に偏っている。女性外科医のキャリア支援を続ける日本女性外科医会役員の明石定子・昭和大学准教授(乳腺外科)は「一連の問題が明るみに出て入試改革が進んで現場で女性が増えれば、医療界も変わらざるを得なくなる」と話す。昔と比べて、時短勤務などの制度は広がりつつある。だが、明石さんは「家庭を重視して勤務負担を軽減すればいいわけではない」とも指摘する。「時短の時期が長くなれば医師としてのキャリアを短くしてしまう。育児中であってもキャリアを積める仕組みが必要だ」と話す。医師の労働条件が改善できない理由の一つに、都市に医師が集中し、へき地で深刻な医師不足になっている実態がある。辺見公雄・全国自治体病院協議会名誉会長は「最近は『すめば都』ではなく、『都がすみか』という傾向がより強まっている」という。同協議会が地域医療を支える自治体病院に今春行ったアンケートによると、医師の労働時間短縮について、48%が「実施できない」と答えた。辺見さんは「出身地とは離れた地域でも何年か診療できる若い人材が求められていることを理解して欲しい」と話す。働きやすい病院の認証事業を手がけるNPO法人イージェイネットの瀧野敏子代表理事は医療機関の合理化を進めることも重要だと指摘する。軽症患者の夜間救急への対応の必要性など検討課題は多いという。「合理化できるかもしれない労力の担い手を、事情を抱えてフル稼働できない女性医師らに求めるのではなく、『それは必要なのか』と国民も巻き込んで考えていくべきだ」と話す。 <運輸部門の生産性の低さを何とかしよう> PS(2019年1月13日追加):日本では、道路が混んで自動車が低速でしか走行できず、運輸部門の生産性が著しく低い時代が何十年も続いているが、中国では、民主主義や一人一人の国民の豊かさに不安はあるものの、6車線道路やリニア・モーターカーができ、EVシフトを進めているという点で、必要なことを着々とやっているように見える。また、日本発のアイデアだった「電動化」「自動運転化」は、日本ではバックラッシュを受けてゆっくりとしか進まないが、世界では、*4-1-1、*4-1-2のように、短期間で市場投入の時代に入った。 もちろん、電力を化石燃料で作っていては意味がないが、*4-2-1のように、JXTGエネルギーも洋上風力発電の開発を国内外で検討する考えを示しており、私は、再生可能エネルギーで安く電力を作り、給油所を水素充填及び充電拠点に替えて、燃料電池車やEVを相手として安くエネルギーを販売すればよいと考える。そして、安い電力や水素を得るには、このほかに、*4-2-2のような黒潮発電や地熱発電もあり、*4-3のように、経産省が、発電コストの引き下げを促すために風力発電を2021年度から全面入札制にするとのことである。 さらに、*4-2-3のように、自立した水素エネルギー供給システムも作ることができる。 *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20190113&bu=BFBD9496・・ (日経新聞 2019年1月13日) 自動運転・電動車で新戦略 フォード・都市と連動/VW・3600億円投資 北米自動車ショー 開幕した北米国際自動車ショーで、自動車産業の潮流である「自動化」「電動化」の強化へ世界大手が新戦略や大型投資を表明した。米新車販売は2017年に8年ぶりの減少となったが、中国に次ぐ世界2位市場として3位日本の3倍以上の規模。進取の気性にも富む。依然、米市場での浮沈が経営戦略を左右する。米フォード・モーターは14日に発表会を開き、都市インフラを重視した自動運転構想を表明した。ジェームス・ハケット最高経営責任者(CEO)は「駐車場の空き状況と連動したナビゲーションなど、都市インフラとの連動」を提案した。次世代型の都市構想を打ち出すうえで初期段階から車両との連携を進め、燃費節約などにつなげる方針だ。フォードは21年に自動運転車の導入を計画しており、ハケットCEOは「まずは自動運転を使った移動・輸送受託のビジネスモデルを広げることに注力する」と中小企業なども顧客とすることを示唆した。電動化対策としては、フォードは22年までに電気自動車(EV)など電動車40モデルに最大で110億ドル(約1兆2200億円)を投資する。今後の新製品開発はトラックや多目的スポーツ車(SUV)を軸にする方針。20年には主力のピックアップトラックでハイブリッド版を投入するほか、SUV型のEVも発売する。従来の20年までの投資計画規模は45億ドルで、2.4倍だ。新技術をテコに、米国全体で自動車産業を再興しようとの機運が高まっているようだ。米運輸長官のイレーン・チャオ氏は14日、「技術革新を促すよう政策を仕分けし、米国の競争力を高めて雇用を生み出す」と積極的に新技術の利用促進を進める方針を強調した。例に挙げたのが米ゼネラル・モーターズ(GM)が申請したハンドル、ペダルなしの自動運転車の導入だ。GMのメアリー・バーラCEOは「完全自動運転への大きな一歩」と自動運転やEVへの熱意をアピールした。自動運転に関する米国の政策方針として、チャオ運輸長官はトップダウン式に特定の技術を推すことはせず「技術中立的」に官民連携を進めることを強調した。安全性試験の仕組みや安全に関わるデータベースの確立で連携していく。企業の取り組みが依然、カギを握ることになり、GMやフォードが新戦略を打ち出すのもこのためだ。フォードの発表会では創業家のビル・フォード会長が「10年前は死にかけていたがデトロイトは復活した」と宣言していた。確かに都市の中心部は再投資され、きれいな公園が整備され、ニューヨークにあるようなこじゃれたレストランが増えており、復権を印象づけていた。自動運転などを巡っては、米グーグルなどIT(情報技術)大手も交えた異業種との競争にも一歩も引かない構えを見せたといえる。米国重視はビッグスリーだけではない。独フォルクスワーゲン(VW)も3年間で、北米に33億ドル(約3660億円)以上を投資することを表明、積極的な北米展開をアピールした。ショー開催期間中に披露される各社の車種は、米国で人気の大型車が中心になる見通し。一般公開は20日からで、ここ数年は80万人規模が来場する。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190113&ng=DGKKZO39971690S9A110C1EA5000(日経新聞 2019年1月13日)米GM、キャデラックにEV 中国に的 米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は11日、高級車ブランド「キャデラック」で電気自動車(EV)を発売する計画を明らかにした。中国などのEV需要の高まりを受け、高級EVを品ぞろえに加える。「シボレー」「ビュイック」の両ブランドは販売車種を絞り込み、グローバルで設計や部品を共通化して収益性を高める。米ニューヨークで開いた投資家向け説明会で、メアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)が明らかにした。同社のEVは「シボレー・ボルト」が主力だが、EVでも最大市場の中国でのシェア拡大に向け、中国の富裕層に人気が高い「キャデラック」ブランドでEVを追加する。GMは発売時期や車種を明らかにしていないが、開発中の新型充電池を搭載し、フル充電で300マイル(約480キロメートル)以上の走行距離をめざしているとみられる。高級EVの市場では米テスラなどがライバルとなる。中国の新車市場は18年に28年ぶりに前年実績を下回ったもようだ。GMの販売も前年割れとなったが、「キャデラック」ブランドの販売は20万台超と17%増加した。バーラCEOは「足元の市況は厳しいが、長期的には中国はまだ成長が見込める」とコメント。19年は新型車とモデル改良を含めて過去最多の20車種以上を中国に投入する。昨年11月に北米で完成車とエンジンの計5工場の生産を休止すると発表した。トランプ米大統領は雇用減につながるとして同社を批判しているが、バーラCEOは「規制や通商の変化など課題は多く、経済環境が堅調なうちに手を打っておく必要がある」と改めてリストラの必要性を強調した。北米の生産再編と合わせて「シボレー」「ビュイック」ブランドの車種を絞り込む。20年前半までに中国やブラジル、メキシコなどの新興国向けに設計と部品を共通化した小型車や多目的スポーツ車など8車種を投入し、地域ごとに異なる既存の車種と置き換える。 *4-2-1:http://qbiz.jp/article/147084/1/ (西日本新聞 2019年1月12日) JXTG、洋上風力発電に意欲 石油最大手が再生可能エネ強化 石油元売り最大手JXTGホールディングスの事業会社、JXTGエネルギーの大田勝幸社長(60)は12日までに共同通信のインタビューに応じ、洋上風力発電の開発を国内外で検討する考えを示した。「最初は単独でできないので、他社との提携を考えたい」と話した。地球温暖化問題で事業環境の激変が予想されており、再生可能エネルギーを強化する。「投資規模は言える段階ではないが、再生エネはやらなくてはいけない」と語り、ガソリンなどの石油製品に依存しない経営体制をつくることを目指す。一方、今年4月に出光興産と昭和シェル石油が経営統合することが決まり、石油元売りは再編で先行したJXTGとの2強体制になる。「規模で勝るJXTGは統合効果も大きい。出光・昭和シェルの2、3歩先を行く」と話した。JXTGは今年、給油所のブランドを「ENEOS(エネオス)」に統一し、サービス向上に力を入れる。ブランドを統合後も当面併存させる出光・昭和シェルと比べ、強みだと指摘した。米国は対イラン制裁で、原油禁輸に関し日本などを一時的に適用除外としたが、今春に復活する見通しだ。イラン原油について「採算性の魅力がある。条件が整えば輸入を継続したい」と述べた。 *4-2-2:http://qbiz.jp/article/147088/1/ (西日本新聞 2019年1月13日) 「黒潮発電」本格実験へ IHIが離島向け 鹿児島沖で今夏から IHIは今年夏から、黒潮の流れを利用した「海流発電」の実用化に向けた本格的な実験を鹿児島県・トカラ列島沖で実施する。出力100キロワットの装置を海中に設置し、2020年まで1年間実験する。実用化の目標は20年代初め。将来的には出力2千キロワット級に大型化し、コスト削減を図る。離島向けなどに新たな再生可能エネルギーとして売り込みたい考えだ。海流発電は、九州から本州の太平洋側を南から北へ向かう黒潮の流れを発電に生かそうという日本独自のアイデア。黒潮の流れは天候や時間帯に左右されないことから、太陽光や風力などと異なり、安定した電力が得られる自然エネルギーとして注目されている。同社が開発した実験用の発電装置は三つの円筒状の構造物を組み合わせたもので、長さと幅は約20メートル。円筒二つの先端に取り付けた直径11メートルの羽根が回って発電する。海底の土台(シンカー)とワイヤでつながれた装置は、たこ揚げのように海中に浮いて発電。装置は水面下約50メートルにあり、上を船舶が通過しても支障はない。羽根は風力発電のようにゆっくり回るため、海洋生物にも影響はないという。同社は17年夏にもトカラ列島沖で7日間、この装置で実験しており、今回は1年間かけて台風などの影響も調べ、実用化に向けた課題を探る。今回の実験が成功すれば、実用化に向け前進。将来的には、装置を複数並べて発電することも可能という。現在の発電コスト目標はディーゼル発電と同程度の1キロワット時当たり40円ほどだが、「大規模太陽光発電に匹敵する20円以下が将来目標」(機械技術開発部海洋技術グループの長屋茂樹部長)。ディーゼル発電を使っている離島などに売り込んでいきたいという。 *4-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190113&ng=DGKKZO39909860R10C19A1MY1000 (日経新聞 2019年1月13日) 水素を生かす(中)駅でエネルギー供給 災害時も JR東日本の武蔵溝ノ口駅(川崎市)は構内で使う電気や温水の一部を、自立した水素エネルギー供給システムでまかなっている。災害時にライフラインが寸断されても、一時的な滞在場所として利用可能だ。上り線のホームには東芝が開発したシステムが3基並んでいる。ホームの屋根に敷いた太陽光パネルで発電し、貯水タンクの水を分解して水素を作る。水素はタンクに貯蔵するほか燃料電池で発電する。照明だけでなく、夏はミストシャワーを動かす電力になる。温水も供給できるため、冬はベンチを温める。腰掛けると、じわりと暖かい。水素の製造、貯蔵、利用を一貫してできるのが特徴だ。2017年にJR東日本の駅で初めて導入した。横幅6メートル、高さと奥行きが2.5メートルのコンテナ型で、船やトラックで運べる。国内では横浜市や宮城県など各地で設置が始まった。海外での利用にも期待を寄せる。東芝エネルギーシステムズの中川隆史担当部長は「水素を身近なエネルギーとして役立てていきたい」と話す。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190113&ng=DGKKZO39975400S9A110C1MM8000 (日経新聞 2019年1月13日) 風力発電で全面入札制 経産省、21年度から 発電コスト下げ促す 経済産業省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で2021年度以降、安い電力だけを買う「入札制」を風力発電に全面的に導入する方針だ。欧州などに比べ発電コストが高止まりしているため、事業者に低コスト化を促し競争力を高める。太陽光でも入札制の範囲を拡大する方針で、再生エネ全体で育成から競争への比重を高める。17日に開く有識者会議で風力発電について「早期の入札制導入を検討する」との方針を示す。国が募集量と買い取り価格の上限を決めた上で売電の希望価格を募る方式。安い電力を示す事業者から順番に買い取り契約をするため、値下げ圧力がかかる。入札による買い取り価格はFITの固定価格買い取り同様、電気代に上乗せされる。19年度の買い取り価格は陸上風力が1キロワット時あたり19円で、洋上風力は同36円。洋上風力には一部案件で入札制を実施する方向になっていた。FIT法の見直しを予定している21年度以降には固定買い取り制度ではなく、入札制への全面切り替えを原則とする。背景にあるのは風力発電コストの高さだ。直近では1キロワット時あたり13.9円と世界平均(8.8円)の約1.6倍になっている。欧州は入札制を広く導入し、発電事業者に競争を促したことで発電コストを抑えた。経産省は30年に発電コストを世界平均並みの8~9円にする目標を掲げるが、現状のままでは達成が厳しいとみられる。高額買い取りが事業者のコスト削減を遅らせていた面もあるとみて、入札制で努力を促す。再生エネでは太陽光でも入札制の対象が拡大されるなど競争路線が加速している。現状の再生エネ比率は16%でこのうち風力は0.6%にとどまる。政府は再生エネを「主力電源」と位置づけ、30年度に再生エネを22~24%まで比率を高める方針。風力を1.7%にする目標を掲げている。 <エネルギーの自給率と長期戦略について> PS(2019/1/18追加): *5-1に、「①日立が再エネ価格の急落で英国での原発建設計画を凍結する」「②再エネ価格の急落は想定外だった」「③日立は2012年11月、英ホライズン・ニュークリア・パワーを買収して英国事業に乗り出していた」「④原発新設を手がけていないと保守や廃炉などの技術も保てない」「⑤ビッグデータ分析やAIの活用などは膨大な電力を消費するため、再エネだけではカバーできない」「⑥日本は長期を見通す議論が不足している」「⑦原発をエネルギー政策のなかでどう位置づけていくかの将来像が固まらないとビジネスとしての原発は存続できない」と書かれている。しかし、①②③⑥については、簡単な装置で発電でき、燃料を使わず、公害の少ない再エネ価格の急落を想定できず、フクイチ後に英ホライズンを買収したことこそ(英国は、これで十分メリットがあった)、経営者として長期を見通す能力に欠けていたのである。また、④⑤は言い訳に過ぎず、⑦のビジネスとしての原発なら国民負担による政府補助金に頼ることなく、事故時には製造物責任法に基づく損害賠償を行い、最終処分まで含めてビジネスベースに乗せるべきであり、従って原発はビジネスにはならないということだ。 なお、*5-2のように、九電は、費用対効果が十分でないとの判断から、出力559,000kwの玄海原発2号機を廃炉にする見通しになったそうだ。リスクまで考慮すると、再稼働している玄海3、4号機、川内1、2号機も早く終わり、原発よりずっと簡単な装置で発電でき、燃料を使わず、公害の少ない再エネに移行するのが、長期的にはより安価になるだろう。 *5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40153500X10C19A1TJ3000/?nf=1 (日経新聞 2019/1/17) 日立が英計画の凍結発表 再生エネ台頭、原発に誤算 日立製作所が原子力発電事業の存続をかけて取り組んできた英国での原発建設計画を凍結する。再生可能エネルギーによる電力価格の急落など、当時は想定していなかった誤算が重なり苦渋の決断を強いられた。原発事業をリスクとみる投資マネーの動きも圧力になった。東原敏昭社長兼最高経営責任者(CEO)は17日の記者会見で、凍結理由を「経済合理性の観点からすると、諸条件の合意には想定以上の時間を要すると判断した」と説明した。英国政府との協議は今後も続ける。一方的な打ち切りにすると「英国政府に対し巨額の違約金が発生する可能性がある」(交渉関係者)との懸念もあったようだ。日立は2012年11月、英ホライズン・ニュークリア・パワーを買収して英国事業に乗り出した。発表当時、原発担当役員は「原発を建設する場所がどうしても欲しかった」と語った。原発新設を手がけていないと保守や廃炉などの技術も保てない――。11年の東日本大震災時に起きた原発事故で逆風が吹くなか、望みをつなぐ一手だった。英国には原発でつくった電気を市場価格より高く買い取る制度があり、採算を確保しやすいとの判断もあった。だが、事業環境は大きく変わった。太陽光や風力といった再生エネの台頭だ。技術革新や普及に伴う規模の効果により再エネによる発電コストは年々低下。英国で実施された洋上風力発電の入札では、落札価格が17年までの2年で半分になった。原発の電気を高く買い取るための実質的な国民負担は年々重くなり、政府は修正に動いた。英政府が日立のプロジェクトに対し内々に示した買い取り価格は1千キロワット時あたり70ポンド(約9800円)台前半。先行する他の原発に比べ約2割低かったという。この水準では採算が狂う。危機感を募らせた日立の中西宏明会長は18年5月、英メイ首相と会談し、他の部分での支援を求めた。英政府が用意したのが資金調達コストを下げる仕組みだ。総事業費3兆円のうち2兆円超を英国側が融資するというものだ。残りの資金は日立、日本企業、英国政府・企業がそれぞれ3分の1ずつ出資することにした。トップ会談でつかんだ果実。これを第2の誤算が打ち消した。東京電力ホールディングスなど国内電力の出資拒否だ。日本企業からの出資者集めは日本政府の役割だったが、説得は難航した。特に、日立がつくる沸騰水型軽水炉(BWR)の使い手である東電が動かなかった。「事故を起こし再稼働も進まない中では国民の理解が得られない」。他の電力も見送りに傾く。投資家の目も厳しくなった。「原発のように先行きが不透明な事業を持つ企業の株を中長期で持ちたいとは思わない」(国内投資顧問幹部)。日立も意識しており、ある首脳は昨夏「(国内では原発再稼働が進まず)膨大な資産が何の収入も生んでいない。投資家からみたらそれだけでバツだ」とこぼした。11年に原発事業からの撤退を決めたライバル、独シーメンスと比べ、日立の時価総額は3分の1にとどまってきた。国内企業の中では構造改革に先行したにもかかわらず、株価は日経平均にも見劣りする。英国での計画凍結が伝わった今月11日は前日比9%上昇した。原発事業そのものにも資金は集まりにくくなっている。「ホライズンへの出資を希望していた企業やファンドも、再生エネが台頭するにつれ離れていった」(日立幹部)。ただ、ビッグデータ分析や人工知能(AI)の活用など、今後の産業の進化を支える技術の多くは膨大な電力を消費する。東原社長は17日の記者会見で「エネルギーの安定供給を考えると、再生エネだけでカバーはできない」と強調した。原発なしで電力需要をまかない続けられるのかは明確でない。1月7日。経団連会長の立場で、政府への要望を聞かれた中西氏はこう答えた。「日本は本当に大丈夫か、長期を見通す議論が不足している。エネルギー問題はその典型だが、方向付けに対する議論をどの政治家もやらない」。原発をエネルギー政策のなかでどう位置づけていくか。将来像が固まらないと、ビジネスとしての原発は存続しえない。 *5-2:http://qbiz.jp/article/147063/1/ (西日本新聞 2019年1月12日) 玄海原発2号機廃炉へ 稼働38年、安全対策費多額に 九電、年度内にも結論 九州電力が玄海原発2号機(佐賀県玄海町、出力55万9千キロワット)の再稼働を断念し、廃炉にする見通しになったことが分かった。廃炉となった玄海1号機と同様、安全対策工事などで多額の費用がかかり、投資効果が十分に得られないとの判断に傾いたとみられる。早ければ2018年度内にも最終判断する。玄海2号機は1981年3月に稼働。2011年1月に定期点検に入って以来、運転を停止している。原則40年とされる運転期限は21年3月で、再稼働し、運転期間を延長するには、1年前の20年3月までに国に申請するルールがある。運転延長を目指す場合、申請前に約半年に及ぶ「特別点検」を実施する必要もあり、実際には19年中の存廃決定を迫られている。運転延長には東京電力福島第1原発事故後の新規制基準に適合させるため、テロに備えた特定重大事故等対処施設(特重施設)などの整備が必要。九電は再稼働した玄海3、4号機用に設ける特重施設との共用は距離的に難しいと判断、単独での建設も用地確保が困難とみている。加えてケーブルの難燃化対応なども必要で、安全対策にかかる費用の総額は「廃炉にした1号機とあまり変わらない可能性がある」(幹部)という。九電が再稼働した原発4基に投じた安全対策費は計9千億円超。2号機の安全対策工事の期間も見通せず、20年間の運転延長では経済性が十分に担保できないと判断したもようだ。一方、再稼働済みの玄海3、4号機の出力は各118万キロワット、川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)は各89万キロワットある。さらに石炭火力で100万キロワットの松浦発電所2号機(長崎県松浦市)が今年稼働予定、九州の太陽光発電の総出力は800万キロワットを超えるなど、供給面では、出力が小さい玄海2号機を再稼働する意義は薄れている。廃炉費用364億円が見込まれる玄海1号機と同時期に廃炉を進めることで、効率的に作業ができる利点も考慮したとみられる。全国では福島第1原発事故後に7原発10基(福島第1を含まず)が廃炉を決め、老朽原発を中心に選別の動きが進んでいる。 <思考における基礎知識の重要性> PS(2019年1月19日追加):*6-1に、厚労省は、「(外国人材の受け入れ拡大による効果については考慮していないが)ゼロ成長で高齢者や女性の就労が進まない場合には、2040年の就業者数は2017年に比べて1285万人減る」という推計を出したそうで、これを解決するには、労働参加率を上げて量を増やすだけでなく、労働力の質を上げることも重要だ。そのため、*6-2のように、①幼児教育・保育の無償化で、子どもが早くから教育を受けられるようにする ②高等教育の負担を軽減する ③保育所や学童保育の整備で女性の就労を容易にする 等が必要だ。 しかし、私は、質の確保という意味から、認可外保育施設を無償化対象として永続させることには賛成できない。そのかわり、*6-3のように、学童保育や保育所に待機児童が多いため、就学年齢を3歳からとし、0~2歳は保育、3歳以上は小学校と学童保育という分け方をして、教育の質も同時に充実させるのがよいと考える。 なお、*6-4のように、厚労省は「毎月勤労統計」を2004年~2018年に東京都で1/3しか実施せず、これが法律違反だということで大騒ぎになっているが、無作為抽出すれば全数調査しなくても正確な統計にすることはできるため、2018年に東京都分を3倍にしたのは一概に誤っているとは言えない。また、統計上の平均値を基にして、個人の失業(又は育児・介護休業)給付額を決めるのは論理的でなく、保険料掛金に反映される失業・育児・介護休業直前の個人の給与を基にして決めるべきである。現在はコンピューター時代で、個人を管理することは容易で必要不可欠でもあるため、個人の直前の給与や掛金の払込履歴を基にすべきだ。ちなみに、日本は失業率が低いので失業保険にゆとりがあり、育児・介護休業する場合の給付も包含できるわけだ。 *6-1:http://qbiz.jp/article/147116/1/ (西日本新聞 2019年1月15日) 就業者数が1285万人減 2040年、初の推計 厚生労働省は15日、雇用政策研究会(座長・樋口美雄労働政策研究・研修機構理事長)を開き、経済成長がない「ゼロ成長」で高齢者や女性の就労が進まない場合、2040年の就業者数は17年に比べて1285万人減るとの推計を示した。研究会は雇用促進策や人工知能(AI)などの技術を活用できる環境の整備を求めている。高齢者数がほぼピークを迎える40年時点の推計を出すのは初めて。4月からの新たな外国人材の受け入れ拡大による効果については「制度が始まっていない」として考慮していない。一方で、日本語教育の充実や生活者としての外国人支援の推進が必要と指摘した。推計では、25年と40年の各時点の就業者数を算出。17年の就業者数が6530万人だったのに対し、25年は448万人減の6082万人になり、40年は5245万人にまで落ち込む見通しだ。17年と40年を比べると、男性711万人減、女性575万人減と、男性の減少幅が大きい。厚労省は「人口減少が原因」としている。産業別では、17年から40年にかけて最も減少するのは、287万人減が見込まれる卸売・小売業だった。221万人減の鉱業・建設業と206万人減の製造業が続く。他が減少する中、医療・福祉分野だけは103万人増加する見通しだ。厚労省は、女性活躍や高齢者雇用政策が一定程度の効果を上げた場合の就業者数も試算。25年は17年比187万人減の6343万人、40年は同比886万人減の5644万人だった。 *6-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13796591.html (朝日新聞 2018年12月4日) 「市町村の負担、1000億円減」 幼保無償化、政府案軸に調整 来年10月に始まる幼児教育・保育の無償化で新たに必要となる財源について、政府は3日、年間8千億円のうち市町村負担を当初案より約1千億円少ない約3千億円とする案を地方側に示した。地方側も歩み寄る姿勢を示し、この案を軸に調整が進む見通しとなった。ただ、政府は認可外保育施設を無償化対象とする方針を変えておらず、保育の質の確保は課題のままだ。宮腰光寛少子化対策担当相ら関係4閣僚と、全国知事会、全国市長会、全国町村会の各会長が無償化について協議するのは、11月21日に続いて2回目。国は、新たに公費負担が生じる認可外施設などについて、当初案で3分の1としていた国の負担を2分の1に引き上げる譲歩案を示した。地方側は「評価する」と表明したうえで、持ち帰って検討するとした。安倍政権は昨年秋の衆院選の目玉公約として無償化を打ち出したが、負担割合については十分な調整を欠いた。昨年12月の「国と地方の協議の場」で、地方6団体が「国の責任で、地方負担分も含めた安定財源を確保」と主張したことなどから、「地方も負担に理解を示している」(内閣府幹部)と解釈したからだ。政府は今年11月になって、地方も消費税率引き上げによる増収分から無償化の財源を出すのは当然だとして当初案を示したが、地方側は「負担割合に関する説明は一切なかった」「国が全額負担するべきだ」と猛反発、混乱が広がった。保育の質の確保も課題となった。政府は、認可保育園に入れずに認可外施設を利用する家庭への対応として認可外施設も無償化の対象とする方針だが、指導監督基準を満たしていない認可外施設も多い。地方側は「劣悪な施設に対して公費を投入することは耐え難い」と訴えた。根本匠厚生労働相は3日の協議で国と地方の協議の場を新設し、無償化の対象とする認可外施設の範囲などについて議論する方針を説明した。ただ、譲歩案には保育の質の確保に向けた対応策の詳細は盛り込まれていない。 ■高等教育の負担軽減、負担割合了承 低所得者世帯の子どもが大学などへ進学する際の負担軽減策は、国と地方の負担割合がおおむね了承された。授業料や入学金の減免は(1)国立・私立の大学や短大などは国が全額(2)公立の大学・短大などは設置する都道府県・市町村が全額(3)私立専門学校は、国と都道府県が半分ずつの割合とし、給付型奨学金は国が全額を負担する。ただ、知事会からは専門学校が集中する大都市圏への財政的な配慮を求められ、今後関係する省庁が対応を検討する。主な支援対象は住民税非課税世帯(年収270万円未満)で、国公立大の学生は国立大の授業料標準額(約54万円)を全額免除し、私立大生は約71万円を減額する。給付型奨学金は教科書代や自宅外生の家賃なども対象になる。 *6-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018122801001178.html (東京新聞 2018年12月28日) 学童保育、1万7千人入れず 小学校高学年で増加、厚労省公表 厚生労働省は28日、共働きやひとり親家庭の小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)について、利用を希望しても定員超過などで入れない待機児童は、今年5月時点で1万7279人だったと公表した。1~3年生の低学年で減少する一方、4~6年生の高学年は増加。全体では前年より109人増えた。子育てをしながら働く女性が増えているため利用希望者も年々拡大。政府は2018年度中に待機児童を解消する計画だったが、需要の高まりを受けて達成時期を21年度末へ先送りした。9月に公表した新たな計画では計152万人分の利用枠を確保することを目標に掲げている。 *6-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13853478.html (朝日新聞 2019年1月18日) 過少給付、延べ2015万人に 統計不正、厚労次官ら処分へ 厚生労働省の「毎月勤労統計」をめぐる問題で、同統計をもとに給付水準が決まる雇用保険や労災保険、船員保険で本来より少なく給付されていた人が、延べ約2015万人になることが分かった。当初公表の人数から約42万人増える。厚労省は11日の発表で計約1973万人としていたが、精査した結果、失業手当や育児休業給付などを含む雇用保険の対象者が約42万人上積みされたという。過少給付は雇用調整助成金などの助成金30万件でもあった。追加給付に関する費用は、事務費やシステム改修費などの約200億円を含めて約800億円に上る。政府は、問題が発覚する前の昨年12月21日に閣議決定した2019年度予算案を見直し、この問題の対応に必要な予算を反映させた予算案を18日に閣議決定し直す予定。こうした対応は極めて異例だ。一方、根本匠厚労相は同省の鈴木俊彦事務次官らを処分する方向で検討に入った。同省関係者によると、省内に設置された特別監察委員会の検証結果を踏まえて、具体的な処分内容を決めるという。この問題では、04年からの不正な抽出調査の無断実施や、本来の全数調査に近づけるために昨年1月に始まったデータ補正が組織的に行われ、隠蔽(いんぺい)された疑いが出ている。 ■閉会中審査、24日に開催 衆院厚労委員会は17日、24日に閉会中審査を行うことを決めた。審議時間は、与野党の同委員会の筆頭理事の協議で4時間で合意した。 PS(2019年1月20、26、30日追加): *7-1のように、改正入管難民法成立を受けた外国人労働者受入拡大制度で、①大都市圏に外国人が集中しない措置を講じる ②2019年4月からの5年間累計で最大34万5150人を受け入れる ③農漁業は派遣の雇用形態も認める ④外国人への支援に関する総合的対応策に各種行政サービスの多言語化を推進する ⑤報酬は日本人と同等以上にする 等が定められ、これを受けて、ジャガイモやビワの生産で屈指の長崎県が、深刻な人手不足から外国人労働者を雇う「派遣会社」を設立して県内の農家や農業生産法人に強力な“助っ人”の派遣を始める計画だそうだ。しかし、このようなニーズのある地域は、九州・沖縄だけでなく、中国・四国・中部・北陸・東北・北海道にも多いと思われる。 一方で、*7-3のように、ホンジュラスなど母国での暴力やギャング犯罪を逃れ、より良い生活を送る機会を得ようとして、2018年10月半ばから、幼い子供のいる家族連れで数千人が中米を北上しメキシコ経由で米国に入ろうとしているそうだ。いくら移民に寛容なアメリカでも、そう次々と移民の入国を認めると失業者が増えて困るだろうが、ホンジュラス(元スペイン領)は、*7-4のように、農業・牧畜・林業が盛んで、メロン・コーヒー・高原野菜・果樹・トウモロコシ・バナナ・柑橘類・サトウキビ・アブラヤシなどを生産している国であるため、日本で農業をやりたい人を募集すると、日本の農業における人手不足が解消するとともに、これらの農業生産に慣れた人を雇うこともできるのではないだろうか。なお、*7-5のように、国土交通省が2018年4月から「全国版空き家・空き地バンク」の本格運用を始めており、就農希望者向けには「農地付き空き家」も検索できるそうだ。これには、各地域の防災・生活支援情報・小学校区も表示できるとのことで、移住の準備はかなり整っていると言える。 また、耕作放棄された荒廃農地が2017年に28万3000ヘクタールに上り、*7-6のように、再生には受け手の確保が課題というもったいない状況だが、世界には、住む場所を追われて難民となっている人も多いため、これを結び付けるのはよいと思われる。また、日本は稲作・畑作を前提としてモノを考えるため、抜根や区画整理を必要不可欠とするが、放牧・木の実・その他の栽培を選択肢に加えれば、必要な整備は変わる。そのため、最も風土を活かした経済性に富む栽培について、輸出や外国人労働力を含めた広い視野で考え直し、地域が産学連携して賢い基本計画を作った上で、国に支援を求めるのがよいと思われる。 2019年1月30日、*7-7のように、日本農業新聞に「地方創生の地方版総合戦略の77%が都会のコンサルティング会社などに外部委託して策定されていたことが専門機関の調査で明らかになった」と書かれている。私も、監査法人在籍中にそういう調査をしたことがあるのでわかるのだが、東京のコンサルティング会社は、日本や海外の類似市町村の例を速やかに調査し、自治体や地域の人から情報を集めて文章に纏めるのはうまいが、その地域の長所を使った今後の発展戦略を本当に企画できるわけではない。そのため、地方自治体が、通常業務(ITによる効率化が容易)にかまけて長期基本計画の策定を重い負担だと考えるのは職務放棄だ。しかし、過去にコンサルティング会社が作った長期基本計画があれば、それをたたき台にして新しく必要な調査を加え、新計画を策定することが容易であるため、それは無駄ではなかったと考える。なお、「自発性を促す仕組みを・・」という意見もあるようだが、子どもではないので、地方自治体が中心となって地域の住民や産業界の意見を聞きながら基本計画を作るのは当然だろう。 ![]() ![]() ![]() ![]() 2018.10.26BBC *7-1:http://qbiz.jp/article/145771/1/ (西日本新聞 2018年12月14日) 大都市圏集中防止を明記 農業、漁業は派遣認める 外国人就労拡大の全容判明 改正入管難民法などの成立を受けた外国人労働者受け入れ拡大の新制度の全容が13日、政府関係者への取材で分かった。制度の方向性を定める基本方針には、大都市圏に外国人が集中しないような措置を講じると明記。分野別運用方針では、国会答弁と同じく来年4月から5年間の累計で最大34万5150人を受け入れ、農業と漁業は派遣の雇用形態も認めるとした。外国人への支援内容を盛り込む総合的対応策には各種行政サービスの多言語化推進を記載した。政府は25日にも基本方針を閣議決定し、分野別運用方針なども年内に定める。基本方針によると、外国人が大都市圏などに過度に集中しないよう「必要な措置を講ずるよう努め」、失踪者が出ないよう関係機関が連携する。人手不足で受け入れが必要なことを客観的かつ具体的に示すよう関係省庁に求め、分野別運用方針に書き込む受け入れ見込み数を、大きな経済情勢の変化がない限り、上限として運用する。報酬額は日本人と同等以上を求め、新在留資格「特定技能1号」の外国人への支援内容として、出入国時の送迎や住宅確保、生活オリエンテーション実施、日本語習得支援、行政手続きの情報提供などを挙げた。分野別運用方針では、雇用形態はフルタイムで原則直接雇用だが、季節で仕事量が変わる農業と漁業は派遣も可能とした。業種ごとに主な業務内容も示し、介護は訪問系サービスを対象外とした。同一業種内や業務内容が似ていれば転職も認める。総合的対応策では、行政や生活の相談に多言語で応じる一元的窓口の創設を支援すると規定。多言語化推進の項目としては医療、災害情報を国から自治体へ伝える全国瞬時警報システム(Jアラート)、110番、運転免許試験などを示した。新制度に関する省令の骨子案も判明。受け入れる外国人は18歳以上とし、一時帰国を希望した際は休暇を与え、本人が帰国旅費を捻出できない場合は負担することを受け入れ先に義務付ける。 ●「左官」「接客」など業務記載 運用方針 外国人労働者の受け入れ対象業種や見込み数を記載する分野別運用方針は、新制度の根幹部分を担う。概要案は11月14日に政府が提示したものと同じ、14業種を対象に5年で最大34万5150人という内容で、「精査中」と注釈を付けた。業種ごとに、新在留資格「特定技能1号」取得に必要な試験内容や雇用形態、建設業なら「型枠」「左官」といった主な業務も記載した。資格取得に必要な技能試験は、業種を所管する各省庁が新設する。いずれの業種も日本語能力判定テスト(仮称)か現行の日本語能力試験の通過が求められる。政府は当面、ベトナムなどアジア8カ国で判定テストの受験ができるようにし、利用状況を踏まえて受験地拡大を検討。介護業はさらに専門的な介護日本語評価試験(仮称)も受ける必要がある。従事する主な業務も示し、造船・舶用工業では「溶接」「塗装」、宿泊業では「フロント」「接客」などを挙げた。介護業は入浴や食事を助ける「身体介護」などで、「訪問系サービスは対象外」と注記された。原則直接雇用だが、農業と漁業は、季節で仕事量が大きく変わるため、派遣も可能。「風俗営業関連の事業所に該当しない」(外食業)など、受け入れ先に特に課す条件も明記した。 *外国人の就労拡大 少子高齢化などを背景とした人手不足に対処するため、入管難民法を改正し、在留資格「特定技能1号」「同2号」を新設した。一定技能が必要な業務に就く1号は、在留期限が通算5年で家族帯同を認めない。熟練技能が必要な業務に就く2号は期限が更新でき、配偶者と子どもの帯同も可能。資格は生活に支障がない程度の日本語能力が条件で、各業種を所管する省庁の試験を経て取得するほか、技能実習生からの移行も多く見込んでいる。 *7-2:http://qbiz.jp/article/147376/1/ (西日本新聞 2019年1月19日) 長崎県、農業に外国人材活用 派遣会社設立へ 元技能実習生の確保目指す ジャガイモやビワの生産で屈指の長崎県が深刻な人手不足に悩まされている。高齢化も著しく、重労働の現場は「技能実習生」抜きには成り立たないのが実情。県は近く外国人労働者を雇う「派遣会社」を設立、農繁期を迎える5月をめどに、県内の農家や農業生産法人に強力な“助っ人”の派遣を始める計画だ。県によると、派遣会社は県の出資団体や民間企業が共同で出資。外国人は派遣会社と契約する仕組みで、賃金や待遇は、その派遣会社に所属する日本人労働者と同一にする。重労働現場での外国人材活用を認める改正入管難民法(4月施行)は、技能実習を3年間経験した外国人に対し、農漁業や介護など14業種での就労を認める方針。期間は5年間。派遣会社は同法に該当する「元技能実習生」を労働力として確保、契約を目指す。県が2017年11月に県内の全7農協と複数の法人に「不足する労働力」を確かめたところ、年間を通じて約300人が不足する、との回答が寄せられた。そのため派遣会社の雇用数は発足当初50人を目標とし、受け入れ態勢を整えながら3年で300人にする。県は外国人材の住居について、受け入れる法人の社員寮や農家での住み込みを想定。外国人が地域社会にうまくなじむには住民の理解が不可欠で、県農林部は「地域に連絡協議会を設置してもらい交流会を開き、外国人が安心して暮らせるようにする」としている。 ●現行制度では課題多く 県が設立する派遣会社で雇用予定の「技能実習生」は、低賃金や長時間労働が問題になってきた。派遣会社ではこうした問題が起きぬよう県は指導を強める。1993年に始まった現行の技能実習制度では、実習生は国内の「監理団体」が受け入れ、工場や農家に派遣。実習生は派遣先と雇用契約を結ぶ仕組みで、その報酬は同じ場所で働く日本人労働者と「同等以上」(技能実習法)との定めがある。団体は、派遣先を指導する責任を負う。しかし、外国人労働の受け入れを巡る国会審議では、最低賃金以下や長時間の労働を強いられ、失踪する問題が顕在化。出入国管理白書によると、2017年に失踪した実習生は全国で7089人に上り、13年(3566人)に比べてほぼ倍増した。県が県内の監理団体に行った調査では、17年12月から18年11月の1年間に15人が失踪したという。問題の根底には、実習生を「安価な労働力」とみなす一部受け入れ現場の意識の低さがある。白書では、17年に実習生を受け入れた全国213機関で発覚した不正行為は計299件。賃金不払いが139件で最も多く、本人の同意がない契約書を作るなどが73件、労働関係法令違反が24件と続く。一方、技能実習生がより良い賃金や待遇を求めて都会に出て行くケースもあり、失踪の一因にもなっている。政府は法務省入国管理局を「出入国在留管理庁」に格上げし、受け入れ先の監督、外国人労働者の指導や支援を強化。県設立の派遣会社も、同庁の指導を受けながらの運営となる見通しだ。 *7-3:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-45987807 (BBC 2018年10月26日) 中米の「移民キャラバン」 数千人が米国目指し川のように北上中 10月半ばから数千人が中米を北上し、メキシコ経由で米国に入ろうと集団で移動している。その多くが幼い子供のいる家族連れで、ホンジュラスなど母国での暴力やギャング犯罪を逃れ、より良い生活を送る機会を得ようとしている。国連推計にいると、この「移民キャラバン」の人数は約1000人から7000人以上に膨れ上がった。「人の川」のようだと言う人もいる。報道写真家エンカルニ・ピンダード氏が、グアテマラから国境を越えてメキシコに入る人たちの様子を記録した。「移民キャラバン」は10月13日、犯罪の多発するホンジュラスのサンペドロスーラを出発した。そこからヌエベ・オコテペケまで歩き、グアテマラに入った。しかし、移民に対する強硬姿勢を掲げて当選したドナルド・トランプ米大統領は、11月6日の中間選挙を目前に、移民キャラバンの米国入国は認めないと宣言。メキシコとの国境に米陸軍を出動させ、メキシコとの国境を閉鎖する方針という。「キャラバンを見るたびに、あるいはこの国に違法に来る、あるいは違法に来ようとしている人たちを見るたびに、民主党のせいだと思い出すように。この国のどうしようもない移民法を変えるための票を、民主党がくれないんだ!」とトランプ氏はツイートした。別のツイートでは、移民の集団の中には「犯罪者や、正体不明の中東の人間が混ざっている」と、具体的な証拠を提示しないまま主張した。ピンダード氏撮影の写真では、移民が掲げたプラカードに「移民は犯罪じゃない。国境なしで自由を」と書かれている。集団はグアテマラを通過して19日から20日にかけて、メキシコ国境にたどり着き、両国を隔てるスチアテ川にかかる橋を目指した。そのほとんどはホンジュラス人で、バックパックにホンジュラスの旗をくくりつけていた人もいた。橋の反対側ではメキシコの連邦警察や軍の数百人が待ち受けていた。メキシコ当局はこれに先立ち、適切な旅券や査証を持たない人は入国を認めない方針を示していた。入国審査官は押しよせる移民の書類を1人ずつ確認したため、19日夜までに入国が認められたのはわずか300人で、5000人が橋で待たされ続けた。6日にわたり歩き続けた移民の中には、暑さと疲労のため、国境の橋で気絶する人もいた。橋のグアテマラ側で待つ人たちのいら立ちがつのり、投石する人も出た。警察は催涙ガスでこれに応えた。続いた混乱のなか、数人が負傷し、数人の子供が親とはぐれてしまった。この父親と息子は催涙ガスを浴びながら、それでもお互いを離さなかった。国境で36時間待ち続けた挙句、検問所で正式にメキシコ入りできたのはわずか600人だった。待ちくたびれて、メキシコ当局に強制送還されるのではないかと恐れる人の中には、橋からロープをつたってスチアテ川に入ったり、飛び込む人もいた。その場しのぎのいかだに乗った移民もいれば、川を泳いで渡った人もいた。無事にメキシコに入った人たちは、国境沿いの街、シウダード・イダルゴの中央広場に集まり、喜びを分かち合った。地元の人たちの演奏に合わせて踊る人たちもいた。メキシコ側の地元の人たちは、移民を支援している。寝泊りする広場に衣類や食料を届けたり、特に体力のない人たちを自家用車に乗せたりしている。しかし、定員オーバーのトラックやSUVに乗るのは、場合によっては危険だ。グアテマラで1人、メキシコで1人、乗った車両から落ちてホンジュラス人が命を落としているという。それでも旅を続ける人たちは、色々な場所で可能な限りの休憩をとりながら、北へ北へと移動している。米国国境まではまだ数週間かかる見通しだ。 *7-4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%82%B9 (ウィキペディアより抜粋) ホンジュラス 1.中東部(エル・パライソ、フランシス・モラサン、オランチョ県) … 国土中央部の山地と山間部の盆地と首都を含む行政の中心区域。植民地時代に鉱山と牧畜開発進められる。今日も農牧林業が盛んである。 2.南部(チョルテカ、パジェ県) … 中央山地南麓に広がる平野部。植民地時代には鉱山と牧畜開発が行われ、アグロインダストリーと輸出用メロンの生産を行っている。また、パン・アメリカン・ハイウェーが通り、太平洋岸の輸出港サン・ロレンソンを有する。 3.中西部(コマヤグア、インティプカ、ラ・パス県) … コマヤグア平野と山岳地帯。平野部でセメント工業、食品工業が発達し、山岳地域でコーヒー豆、高原野菜・果樹を生産している。 4.西部(コパン、レンビラ、オコテペケ県) … 全体に山地。トウモロコシ、コーヒー豆、タバコの生産と谷底平野では牧畜が営まれ、アグロインダストリーが行われている。 5.北西部(コルテス、サンタ・バルバラ、ヨロ[ジョロ]県) … 山地と河川の働きによって形成された堆積平野とがカリブ海まで広がる。バナナ、柑橘類、サトウキビ、牧畜など多様な農業が展開している。このほか金属、科学、セメント工業なども発達している。サン・ペドロ・スラは空港、幹線道路、鉄道の交差点であり、外港プエルト・コルテスは大西洋の主要港となっている。 6.北東部(アトランティダ、コロン、グラシアス・ア・ディオス、イスラス・デ・バイーア県) … カリブ海岸に卓越する堆積平野と島嶼部。人口密度が低く、バナナ、アブラヤシなどのプランテーション農業が盛ん、観光開発が進行。 *7-5:https://www.agrinews.co.jp/p43782.html (日本農業新聞 2018年4月12日) 空き家・空き地バンク 全国情報を一元化 国交省 インターネット上で全国の空き家情報を一元化し、空き家を持つ自治体と空き家に住みたい人をマッチングする国土交通省の「全国版空き家・空き地バンク」の本格運用が4月から始まった。同省の空き家対策事業の一環で、空き家情報を全国規模で集約したのは初めて。就農希望者向けに「農地付き空き家」も検索できる。同省は「農ある暮らしへの潜在的な移住希望者を掘り起こせる」(不動産業課)と強調する。 ●農村への移住促す これまで自治体が個別に発信していた空き家情報を集約し、物件の設備や概要などの情報を統一。利用者が希望の条件を基に地域を問わずに検索できるようにした。空き家の利活用を進め、地方への移住を後押しする。農地付き空き家だけでなく、「店舗付き空き家」の検索項目も作り、就農希望者や、農村で起業したい人らの移住を促し、地域活性化につなげる。全国版空き家バンクを運営するのは2社。4月1日時点で「LIFULL」には2411件、「アットホーム」には1004件の登録がある。ネット上で全国版空き家バンクと検索し、いずれかのホームページ(HP)に進む。それぞれのHPに農地付き、店舗付きの特集ページが設けられており、値段順、面積順で比べて選ぶことができる。空き家バンクに取り組む約700の自治体のうち、半数以上の492自治体が参加。試行運用した昨年10月から半年で、売買101件、賃貸41件が成約しており、本格運用でさらに増える見通しだ。 ●農地付き物件も 農地付き空き家は204戸が登録。物件情報の他に、各地域の防災、生活支援情報も掲載する。地震での揺れやすさや浸水の可能性、買い物施設や小学校区などを、物件の周辺の地図に重ねて表示できるようにした。今後さらに参加する自治体が増えるとみられる。人口減が進む中で、空き家の利活用は社会問題になっており、同省は「自治体や所有者が、空き家を活用するきっかけにしたい」と期待する。 *7-6:https://www.agrinews.co.jp/p46539.html (日本農業新聞 2019年1月26日) 荒廃農地 再び増加 「再生困難」は19万ヘクタール 17年 耕作が放棄され作物が栽培できなくなった荒廃農地が、2017年は前年を2000ヘクタール上回る28万3000ヘクタールとなり、増加傾向に転じたことが農水省の調査で分かった。森林化が進むなどして再生が困難な農地は、調査開始以来の最大の19万ヘクタールとなった。食料・農業・農村基本計画で掲げる耕地面積の目標440万ヘクタールを達成するには、荒廃農地をいかに減らすかが欠かせず、受け手の確保などが課題となる。全国の荒廃農地は、16年に28万1000ヘクタール(前年比3000ヘクタール減)となり、それまでの増加傾向が減少に転じていた。再生利用された農地が前年比6000ヘクタール増の1万7000ヘクタールに上ったことなどが追い風となったが、17年になって再び増加傾向に戻った格好だ。17年に再生利用された農地は1万1000ヘクタールにとどまった。荒廃農地のうち、再生利用が困難と見込まれる面積は、17年になって19万ヘクタールとなった。08年に調査を始めて以来最大となった前年をさらに7000ヘクタール上回った。一方、抜根や区画整理などで栽培が可能になる面積は前年度から6000ヘクタール減少し、9万2000ヘクタールとなった。基本計画では、25年時点で耕地面積440万ヘクタールを維持する目標を立てる。「中山間地域直接支払交付金や基盤整備事業などで、現在の年間再生ペースは1万ヘクタールを超えている」(同省地域振興課)が、目標達成には荒廃農地の発生を21万ヘクタールに留めつつ、 14万ヘクタールの発生抑制なども必要になる。都道府県別に見ると、再生利用された面積が前年よりも増えたのは6県だけだった。再生利用の面積が483ヘクタール減り、前年の4割の334ヘクタールにとどまった福島県は「年によって増減が変動するが、農地が再生しても、利用する受け手を確保するのが難しい状況は続いている」(農村振興課)と話す。 *7-7:https://www.agrinews.co.jp/p46575.html (日本農業新聞 2019年1月30日) 地方創生「総合戦略」―77%が委託 “現場発”どこに? 外注先は東京集中 安倍政権の「地方創生」政策が来年度で一区切りを迎え、次期計画策定に向けて政府や自治体が動きだす。ただ、地方創生の基盤となった地方独自の計画「地方版総合戦略」の8割が、都会のコンサルティング企業などに外部委託して策定されていたことが専門機関の調査で明らかになった。農家ら住民の声を生かす“現場発の地方創生”に向けた仕組みを求める声が上がる。 ●第2期へ自治体に負担感 地方創生政策は、人口減少や地域経済の縮小に対し、「まち」「ひと」「しごと」を柱に数値目標を掲げて2015年度から始まった。自治体は今後5年の政策目標や施策の基本方向を盛り込んだ地方版総合戦略を策定。国は、戦略策定などに1市区町村当たり1000万円超を交付した。地域の将来設計を描く総合戦略だが、地方自治総合研究所が18年に公表した調査結果では、回答した1342市町村のうち77%がコンサルタントなど外部に策定を委託したことが判明。「事務量軽減」「専門知識を補う」が主な理由で、外注先は東京都内に本社を置く企業に集中していた。把握できた598市町村の外部委託料は40億円を超した。同研究所は「形式的に作った自治体が多い」と問題提起する。20年度は新たな「地方創生」政策に入ることから、内閣官房は1月28日、第1期の総合戦略に関する検証会を発足させ、第2期に向けた目標設定の在り方などを議論した。来年度は、国も自治体も5年間の検証と戦略の見直しをする年になる。ただ、地方自治体にとって新たな策定は重い負担だ。「住民の声を反映させた戦略が理想だが、通常業務もありコンサルに任せざるを得ない」(関東の自治体)、「前回は国からの指示でJAや銀行に会議に入ってもらい議論して作ったが、次はできるだけ簡素化させたい」(関東甲信の自治体)などの声が上がる。 ●福岡県赤村 議論重ね“おらが政策”に 人口3000人の福岡県赤村。15年に国に提出した地方版総合戦略は、農家や子育て中の女性ら住民によるワークショップを重ね、村の強みや弱みを議論した上で作り出した。農業や観光など各部門の課題を洗い出したことから、ワークショップに参加した農家の男性は「村の農業政策に当事者意識が持てるようになった」と感じる。認定農業者の増加や子育て支援の充実など、他の自治体も設ける目標から、大学との連携による新規ビジネス立ち上げなど独自の目標も多く設けた。戦略をきっかけに、地域おこし協力隊も導入。現在は村の農作物を販売する特産物センターの売り上げ向上やトロッコ列車など、観光分野の新規事業に着手している。担当した同村政策推進室の松本優一郎係長は「認定農業者数など目標達成が非常に厳しい分野もあるが、目標は村で積み上げた数字で、作成までのプロセスに意味があったと思う」と話す。来年度の策定と検証を控える同村。およそ50人の役場の正職員での見直しや検証の事務負担はあるが、同村は「住民の声をまた何らかの形で反映させたい」(政策推進室)考えだ。米粉の商品化などを進める協力隊の長瀬加菜さん(39)は「再び戦略を作るなら、私も関わってみんなと話し合いたい」と意欲的だ。ただ、同村のように住民を交えたワークショップで作り上げた地方版総合戦略を策定した自治体はわずか。もともと各自治体は同戦略とは別に総合計画を立てている。外部委託せずに市職員が戦略を作った西日本の自治体は「次期はコンサルに任せないと負担が重い。総合計画があるのに、戦略を作る意味もよく分からない」と本音を明かす。 ●自発性促す仕組みを 地方自治総合研究所の今井照主任研究員の話 地方のための税金が、結果として東京の企業の利益になってしまった。地方版総合戦略の策定は、国が時間を区切り市町村を上から評価し、市町村の自発性が生かされなかった。国が自治体を審査するような現状の地方創生の仕組みは改めるべきだ。計画を作るのなら、例えば小学校区など地域の単位で住民が議論して積み上げるような仕組みが必要だ。農家も声を上げてほしい。 <“高齢者”雇用期間延長が年金に与える効果について> PS(2019年1月21日追加): *8-1に、日経新聞の郵送世論調査で、70歳を過ぎても働く意欲を持っている人が3割以上を占めるが、その理由は老後の不安(社会保障負担増・給付減)に備えた収入確保だそうだ。しかし、働くことは、社会の支え手である喜び・これまで培ってきた人的ネットワークの維持、それらによる健康の維持など多様な福利があり、公的年金の支給開始年齢が原則65歳になった現在では、65歳までの収入確保は必要不可欠となった。そして、この解決法を「中福祉・中負担」か「高福祉・低負担」かの二者択一で求めるのは、他の要因を不変と見做している点で誤っている。 また、*8-3のように、すべての民間企業が定年を65歳に延長しているわけではないからといって、公務員の65歳への定年延長に反対するのは不毛な足の引っ張り合いにすぎず、公務員から完全70歳定年制を施行してもらってもよいわけだ。そうすれば、①少子化の中、新しく公務員にする優秀な若者(税金で養われており、自らは稼いでいない)の数を減らせるし ②公務員に“高齢者”もいた方が高齢者のニーズを汲み易い上、③(働かない人に支払う)年金を減らすことができ ④結果として年金資産の要積立額が減る。さらに、⑤天下りさせるコストが不要になり ⑥働いている方が病気になりにくいため、医療費も抑えられるだろう。 そのため、私は完全な70歳以上定年制を民間企業に広げてもよいと考える。退職給付会計を使っている民間企業なら、「退職時~退職時の平均余命」に退職年金を支給することを前提として退職給付引当金を引き当てるので、退職年齢を60歳から70歳に引き上げた場合には退職給付引当金の要引当額が約10年分減少し、それを繰り戻して新規投資に利用することができる。これは、新規就業者の給与と退職者への年金を二重に支払うより、安上がりでもあるだろう。 なお、*8-3には、「政治家が人事権を握ったので、政治家の顔色を見る幹部官僚が増え、忖度を生む土壌になった」という誤った記載がもう1つある。日本国憲法に定められた国民主権の下、選挙で有権者の負託を受けたのは政治家であって官僚ではないため、政治主導が民主主義の具現であり、それによって変な運用になっていたのであれば、民主主義制度を変えるのではなく、正しく原因分析してその部分を変える必要があるのだ。 また、*8-2のように、年金支給額は物価上昇も加味すれば下がる一方で、社会保障負担は高齢者で特に上昇している。それで100年先まで制度が持続しても、制度の本来の役割は果たせないため、上記のようにいろいろな方法を考えるべきであり、「給付を抑制して高齢者から将来世代に財源を回し、制度を持続させさえすればよい」という発想は思考停止だ。つまり、厚生年金の加入対象を拡大させ、高齢者も働ける環境整備を行い、年金資金の徴収・運用・支払いなどを目的にかなった公平・公正で正確なものにすべきなのである。 そして、*8-4の「消えた年金」問題は、旧社会保険庁(現在の日本年金機構)の年金管理のいい加減さによるものだが、2007年からは改善し始めたのであり、漏れや不適切な管理・運用は1961年に国民皆年金制度が発足して以来行われていたことだ。また、「年金特別便」を送って本人に職歴や加入期間を確認する方法で正確な年金記録を作ることを提案したのは、当時衆議院議員だった私で、確認して外部証拠を入手するのは監査の手法であるため、改善に着手した第1次安倍政権を叩いて退陣させたのは、全く的外れだった。現在では、年金定期便(https://kotobank.jp/word/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E7%9A%86%E5%B9%B4%E9%87%91-182588 参照)が本人に定期的に送られているため、その内容をチェックし、間違いがあったら日本年金機構に速やかに連絡するのが、本人の正当な注意の範囲となっている。 ![]() ![]() ![]() ![]() 年金特別便 年金定期便 2018.6.19西日本新聞 (図の説明:一番左が、社会保険庁の記録内容を本人に確認するために送った年金特別便で、中央の2つは、現在、定期的に本人に送られている年金定期便だ。内容の年金支給金額を見て、不愉快になったり不安になったりすることもあるかもしれないが、気を付けてチェックしておく必要がある。それによって、老後の資金計画が立てやすくもなる。なお、一番右のグラフの“高齢者”が働く理由は、収入の確保が大きいものの、決してそれだけではないことを示している) *8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190121&ng=DGKKZO40135950X10C19A1MM8000 (日経新聞 2019年1月21日) 「70歳以上まで働く」3割、郵送世論調査 老後に不安も 日本経済新聞社が初めて実施した郵送世論調査で、70歳を過ぎても働く意欲を持っている人が3割を占めた。働いている人に限定すると37%に上る。2017年の70歳以上就業率(15%)を上回り、高齢者就労を促進する政府の取り組みにあわせて労働参加が進みそうだ。一方で8割近くが老後に不安を感じている。社会保障の負担増や給付減に備え、長く働いて収入を確保しようとする様子がうかがえる。何歳まで働くつもりかを聞くと平均66.6歳だった。高年齢者雇用安定法では希望者全員を65歳まで雇うよう義務づけているが、これを上回った。60歳代に限ると平均は69.2歳に上がり、70歳以上まで働く意欲のある人が45%を占めた。就労と密接な関係にある公的年金の支給開始年齢は現在、原則として65歳だ。基礎年金(国民年金)は20~59歳が保険料の支払期間で、60~64歳は支払わないが原則支給もない。一定のセーフティーネットを維持しつつ、働く意欲のある高齢者には働いてもらえるような社会保障改革の議論が急務になっている。雇用形態別で見るとパート・派遣社員らで70歳以上まで働くと答えた人は34%だった。年収別では低いほど70歳以上まで働く意欲のある人が多い傾向があった。300万円以上500万円未満の人は32%、300万円未満は36%に上った。収入に不安があるほど長く働く必要性を感じるとみられる。老後に不安を感じている人は77%を占めた。30~50歳代で8割を超えており、この世代では不安を感じる理由(複数回答)で最も多いのはいずれも「生活資金など経済面」だった。全体では健康への不安が71%で最も多く、生活資金など経済面が69%で続いた。老後に向けて準備していること(複数回答)を聞くと「生活費など資金計画」が46%で最多。続いて「健康づくりなど予防活動」が41%で、「具体的な貯蓄・資産運用」をあげる人も33%いた。将来の生活に必要なお金を得るための取り組み(複数回答)として、最も多かったのは「預貯金」で59%。「長く働くための技能向上」も13%に上っており、生涯現役を見据えスキルアップに意欲を示す傾向が強まりそうだ。一方、社会保障制度のあり方を巡っては意見が割れた。「中福祉・中負担」と、財政状況から現実味の乏しい「高福祉・低負担」がそれぞれ3割で拮抗した。年収別でみると、高所得者は「中福祉・中負担」を支持する一方、所得が低くなるほど「高福祉・低負担」の支持が高い傾向にあった。安倍政権が実施した社会保障改革は介護保険料の引き上げなど高収入の会社員らの負担が増える施策が目立つ。社会保障制度の持続性を高めるには、対象の多い低所得者層の負担や給付の見直しが欠かせないが、改革の難しさがうかがえる。いま幸福かどうかを10点満点で聞いたところ、平均は6.4点。既婚者で子どもが小さい世帯ほど点数が高かった。10年後の点数について「現在と同程度」を5点として尋ねると、平均5.5点と現状よりやや高い結果だった。調査は日経リサーチが18年10~11月に、全国の18歳以上の男女を無作為に抽出して郵送で実施。1673件の回答を得た。回収率は55.8%。 *8-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019012102000141.html (東京新聞社説 2019年1月21日) 年金額の改定 安心の傘を広げたい 公的年金の二〇一九年度の支給額が決まった。物価・賃金が上がったためわずかな増額となる。だが、将来の給付額は目減りしてしまう時代だ。さらなる制度改正を通じて安心の傘を広げたい。年金額は物価や賃金の増減に合わせて変わる。一九年度は基準とする過去の物価、賃金とも上昇した。年金額もそれに合わせて増えるが、新年度はその上昇分より少し低く伸びを抑えられる。物価・賃金の伸びより上昇率を抑える仕組みが働くからだ。だから実質的には額の目減りになる。なぜこんな仕組みがあるのか。年金の財政を将来も維持するためだ。この仕組みを使って百年先まで財源を保つことを狙っている。 この仕組みは〇四年の制度改正で導入されたが、物価・賃金が下がるデフレ下では使わないルールだ。長くデフレが続いたため過去には一五年度に初めて動いただけで、新年度が二度目になる。支給開始年齢を六十五歳から引き上げるとの声もあるが、この仕組みが動く限りそうしなくても財源は確保できる想定だ。それに支給開始年齢の引き上げは今受給している高齢者には適用されない。若い世代が対象となる。一方、給付抑制の仕組みは今の高齢者から将来世代に財源を回す制度だ。大人世代は子や孫に持続できる制度を渡す責任があるが、そうならこの仕組みの理解が進むよう政府は粘り強く説明をし続ける責務がある。今年は五年に一度の年金財政の“健康診断”である財政検証が公表される。年金制度の今後百年の見通しを冷静に注意深く見たい。そうはいっても年金額が目減りしていくことは変わらない。課題は低年金になりやすい低所得労働者の支援だ。職場の厚生年金に加入できないパートなど非正規の人は自ら国民年金に入るしかないが、年金額は不十分だ。厚生年金に加入できれば保険料負担は減り年金額は増える。加入条件は一六年秋に緩和され既に約四十万人が加入したが、まだ雇用者の一部だ。非正規で働く高齢者が増えている現状では、もっと対象を拡大させるべきだ。既に受給している低年金高齢者の支援も必要である。消費税率が10%になるとそれを財源に最大月五千円を給付する制度が始まる。だが、これも額は十分とはいえない。高齢者も働ける環境整備や、安価な住宅の供給など複眼で高齢期の生活を支える策を考えたい。 *8-3:https://business.nikkei.com/atcl/report/16/021900010/032900064/ (日経ビジネス 2018年3月30日) 「定年延長」固まり、霞が関改革が急務に、現状のまま「65歳」なら組織停滞は必至 ●数百万人の公務員が定年延長の対象に 森友学園問題で官僚のあり方が問われている中で、官僚の定年を現在の60歳から65歳に引き上げる動きが着々と進んでいる。政府は2月に関係閣僚会議を開いて定年延長を決定。2019年の通常国会に国家公務員法などの改正案を提出する見通し。2021年度から3年ごとに1歳ずつ段階的に引き上げ、2033年度に65歳とする。この手の官僚の待遇改善の常ではあるが、国家公務員全体を対象にし、地方公務員も巻き込んで制度改革を打ち出している。65歳定年になる対象の公務員は数百万人。決して高い給与とは言えず天下りなど無縁の、現場の公務員を巻き込んで制度変更することで、国民の反対論を封じ込めるが、このままでは最も恩恵を受けるのが霞が関の幹部官僚になる。長い時間をかけて段階的に変えていくというのも官僚の常套手段で、一度決めてしまえば、経済情勢や国や地方自治体の財政状態がどう変わろうと、着々と定年年齢が延びていく。一方で、「2033年度の話」と聞くと遠い将来の話のように感じるため、国民の関心は薄れる。なぜ、公務員の定年引き上げが必要なのか。「無年金」時代を無くすというのが理屈だ。公務員年金の支給開始年齢は段階的に引き上げられているが、2025年度には65歳になる。定年が60歳のままだと定年後すぐに年金が受けとれず、無収入になってしまう、それを防ぐためだというわけだ。一見正論だが、それなら民間企業に勤める人も事情は同じだ。だが、民間企業が定年を65歳に延長しているかといえば、そうではない。現在、企業は、高齢者雇用安定法という法律で60歳以上の人の雇用促進を義務付けられている。定年を延長するか、定年自体を廃止するか、再雇用するかの3つのうちいずれかを選択するよう求められているのだ。ご存知のように多くの企業は「再雇用」を選択している。これまでの給与に関係なく、その人の働きに見合うと思う金額を提示、働く側はその金額に納得した場合、嘱託社員などとして働く。納得できずに別の会社に転職していく人も少なくない。 ●60歳までの「身分保証」は今後も継続 だが、単純に「定年延長」となるとそうはいかない。それまでの給与体系に準じた金額を支払うことになる。もちろん「役職定年」を導入するなど、人件費総額が膨らまない工夫をしている会社がほとんどだ。政府は公務員の定年引き上げについて2017年6月に「公務員の定年の引上げに関する検討会」を設置し、制度設計などについて検討してきた。座長は古谷一之官房副長官補。財務省出身の官僚である。さすがに財政赤字が続き、国の借金が1000兆円を超えている中で、総人件費が大きく膨らむ案を出すことはできない。「(1)60歳以上の給与水準を一定程度引き下げる」「(2)原則60歳以降は管理職から外す『役職定年制』を導入する」――という「方向性」も定年延長と同時に政府は決めている。きちんと民間並みに改革しようとしているではないか、と見るのは早計だ。裏読みすれば、給与水準を下げるのは60歳以上だけ、しかも「一定程度」。役職定年制も導入するが、「60歳以降」に限り、しかも「原則」である。何しろ、役所は企業と違い、完璧な年功序列システムである。しかも基本的に「降格」はできない仕組みになっている。そうした60歳までの「身分保証」は今後も継続、というわけだ。現状でも役所トップの事務次官の定年は法律で62歳となっており、一般の定年60歳よりも2歳上の「例外」になっている。定年が65歳になるとともに、次官の定年も引き上げられる可能性が高い。具体的な制度設計は今後、人事院が行うが、ここも官僚たちの組織である。「民間並み」という官僚の給与の引き上げを「勧告」するあの人事院だ。もちろん、あまり高いとは言えない給料で一生懸命に働き、大した退職金ももらえない現場の公務員の定年引き上げが不要だというつもりはない。人手不足の中で、働ける人にはいくつになっても働いてもらうことが重要であることも当然だ。そもそも「定年」などという仕組みはなくても良いのかもしれない。だが、そのためには人事制度が柔軟であることが前提になる。きちんと能力に見合った仕事に就き、能力相応の給与をもらう。仕事ができるかどうかに関係なく、同期入省が一律に昇進していく霞が関の仕組みを変えることが前提になる。今、森友学園への国有地売却に伴う決裁文書の改ざん問題で、「内閣人事局」への批判の声が上がっている。首相や官房長官など「政治家」が人事権を握ったことで、政治家の顔色を見る幹部官僚が増えたというのだ。それが「忖度」を生む土壌になっているというのである。公務員は一部の政治家の部下ではなく、国民全体への奉仕者だ、という建前をかざされると、なるほど、利権にまみれた政治家が人事権を握るのは問題だ、と思ってしまいがちだ。だが、そうした官僚のレトリックは本当なのだろうか。内閣人事局ができる前は、各省庁の事務次官が実質的な人事権を握っていた。建前上は各省の大臣が権限を持つが、大臣が幹部人事に口出しをするとたいがい大騒ぎになった。新聞も政治家の人事介入だ、と批判したものだ。 ●「降格」すらできない硬直化した制度 だが、その結果、「省益あって国益なし」と言われる各省の利益最優先の行政がまかり通った。この四半世紀続いてきた公務員制度改革は、そうした各省の利益優先をぶち壊して、「官邸主導」「政治主導」の体制を作ることに主眼が置かれてきた。その、仕上げの1つが「内閣人事局」だったわけだ。霞が関の幹部官僚600人余りについて、内閣人事局が一元的に人事を行う。企業でいえば、子会社にしか人事部がなく、それぞれバラバラにやっていた人事を、統合的に人事を行う「本社人事部」を遅まきながら新設したというわけだ。内閣人事局が国全体の政策執行を前提に人事を行うことが極めて重要だと言える。それでも、政治家が人事を握るのは問題だ、というキャンペーンにうなずいてしまう人もいるに違いない。政治家はダーティーで、官僚はクリーン。政治家は一部の利権の代弁者で、官僚は国民全体の利益を考えている。そんなイメージが知らず知らずのうちに国民に刷り込まれている。では、本当にそうなのか。政治家は選挙制度にいろいろ問題はあるとしても「国民の代表」であることは間違いない。では、官僚は「国民の代表」なのか。私たちは、政治家は選ぶことができる。官僚たちに忖度を強いるような利権誘導型の政治家や政党には、次の選挙で逆風が吹き荒れることになる。国民のためにならない歪んだ人事を行い、歪んだ政策を実行した党は、政権与党から引きずり下ろせば良いのである。だが、私たち国民は官僚をクビにすることはできない。実は政治家も官僚をクビにできない仕組みになっている。公務員には身分保証があるのだ。内閣人事局で人事権を政治家が握ったといっても、官僚ひとり降格することは難しい。逆にいえば、降格できないからポストが空かず、抜擢人事もできない。民間企業では全く考えられない人事システムなのだ。それを維持したまま定年を延長するのは危険だ。組織が一段と高齢化し、若い官僚の権限は今以上に薄れていく。官僚組織が停滞することになりかねない。では、どうするか。定年延長に合わせて、内閣人事局の権限をさらに強めるべきだ。幹部官僚については降格や抜擢、復活ができるようにし、内閣の方針に従って適材適所の配置を行う。身分保証をなくす一方で、幹部官僚については定年を廃止する。年齢に関係なく抜擢し、適所がなくなれば退職していただく。会社の取締役を考えれば分かりやすい。社長に気に入られて若くして取締役になっても、1期でお払い箱になることもある「民間並み」の仕組みだ。幹部官僚は民間からも出入り自由にすれば良い。米国の「政治任用」のような仕組みだ。定年延長という大きな制度改革を前に、霞が関の幹部人事のあり方を変える公務員制度改革をまず行うべきだろう。 *8-4:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO29090100W8A400C1TM1000/ (日経新聞 2018/4/7) 消えた年金 厚生労働省外局の社会保険庁を舞台にした年金スキャンダル。2007年に発覚、管理する年金記録のうち約5000万件が名義不明だった。保険料の納付記録が残っていない事態も判明。前者を宙に浮いた記録問題、後者は消えた記録問題と呼ぶ。名寄せに追われ、延べ1億人の受給者・加入者に加入歴を示す「ねんきん特別便」を送った。社保庁は組織や人事の規律が甘く、その体質を厚労省幹部が見ぬふりをしていたことが不祥事を増幅させた。後始末に翻弄された第1次安倍政権の退陣を早める一因になった。同庁は民間色を強めた日本年金機構に衣替えしたが、年金記録にまつわる不祥事は今も続いている。 <価値がないかのように粗末にされた国民の財産> PS(2019年1月25、28日):*9-1のように、種子法が廃止されたが、優良な種子は農業生産の基礎で、多額の公費を使って開発された国民の財産だ。そのため、農水省が2017年の通常国会で種子法を廃止したのは、農業や知的所有権に対する認識の低さの表れである。それに対して市町村議会が県議会に種子法に関する意見書を提出し、県が独自の条例を制定しつつあるのは少し安心だが、市町村や県だけでは種子の改良費・開発費を賄いきれないため、開発された種子に知的所有権の対価を少し上乗せするなど、改良費や開発費を賄う仕組みを考えるべきである。 また、*9-2のように、林野庁は、規模拡大を目指す林業者が国有林を利用し経営基盤を拡充することができるようにする目的で、意欲ある林業者が国有林を伐採して木材として販売できる制度を新設し担い手育成に繋げるそうだが、国有林もまた国民の税金で育成され、守られてきた国民の財産であるため、管理・伐採権は有償にすべきだ。国の借金が多いから社会保障は負担増・給付減にし、消費税も増税しながら、全国民の財産を特定の国民にプレゼントするのは、あまりにも無節操である。なお、近年の伊万里港は、*9-4のような歴史で、*9-3のように、2018年のコンテナ貨物取扱量が過去最多を更新したそうだ。近くには豊富な林産資源があり、中国木材も進出していることから、原木だけでなく、建材や家具などを徹底して機械加工し、デザインや品質の良い木材製品を生産して輸出もできるようにすると、国産資源を活かした利益率の高い経営ができるだろう。 ![]() ![]() ![]() 2018.3.28朝日新聞 2017.6.21朝日新聞 林野庁 (図の説明:一番左と中央の図のように、それぞれの地域は気候に合わせたブランド農産品を作っているが、それは種子の改良によるところが大きい。また、その種子の供給を民間のみに任せると、食料安全保障(種子も含む)・国民の安全・環境・地域振興よりも営利第一になることは自明だ。そのため、民間企業が種子を供給することを妨げる必要はないが、公的資産である種子を公的に維持・改良していくことも重要だ。また、一番右の図のように、全国民の財産である国有林の利用権を無償で特定の国民に付与するのも、国民の財産を侵害する行為だ) *9-1:https://www.agrinews.co.jp/p46536.html (日本農業新聞 2019年1月25日)種子法廃止に危機感 条例化・準備 10道県 市町村議会 制定へ意見書続々 本紙調べ 主要農作物種子法(種子法)の廃止を受け、日本農業新聞が47都道府県に聞き取り調査した結果、同法に代わる独自の条例を既に制定したのは5県、さらに来年度施行に向けて準備を進めるのは5道県に上ることが分かった。その他、市町村の地方議会から種子法に関する意見書を受け取っている県議会は10県。米や麦、大豆の種子の安定供給への危機感は強く、条例化を求める動きが自治体で広がっている。条例を既に制定したのは山形、埼玉、新潟、富山、兵庫。全国筆頭の種子産地である富山県は、1月に県主要農作物種子生産条例を施行した。種子生産者に安心して栽培を続けてもらう考えだ。来年度の施行に向けて準備をするのは北海道、福井、長野、岐阜、宮崎の5道県。福井県は種子の品種開発や生産に関する独自の条例の骨子案を示して2月4日までパブリックコメントを募集する。4月施行を目指す。政府は、米、麦、大豆の種子の生産と普及を都道府県に義務付けていた種子法を2018年4月1日で廃止した。公的機関中心の種子開発から民間参入を促す狙いだったが、行政の取り組みの後退や将来的な種子の高騰、外資系企業の独占などを懸念する声が続出。農業県などが先行して条例化に踏み切っている。条例に向けて具体的な動きを示していないものの、地方議会から意見書が提出された県は10県に上った。要領・要綱などで種子法廃止後も栽培体制を維持するものの、農家らから品質確保などで不安の声が広がっているためだ。滋賀県は県内19市町のうち大津市、東近江市など14市町の議会から県条例を求める意見書が出ている。同県は「他県の状況や生産現場の声を踏まえて研究していく」(農業経営課)と強調。福岡県も、18年12月時点で県内全市町村の2割に当たる12市町議会から県への意見書が出ている。18年12月には栃木県上三川町議会、千葉県匝瑳市議会などが県に条例制定などを求めた。上三川町は「農家である議員の発案で国と県に要望書を出すことにした」(議会事務局)と説明。年明けも、種子法に関する意見書を市町村議会が出す動きが相次ぐ。福岡県小竹町議会は1月16日、宮城県栗原市議会は18日に県に意見書を出した。条例を既に制定した県は「他県から参考に教えてほしいという問い合わせが相次いでいる」と明かす。条例を制定しておらず、地方議会から意見書を受け取っていない県の担当者も「廃止後も従来通りの対応を要領で進めているので問題ない。ただ、農業に力を入れる中で他県での条例化の動きは無視できない」などと話す。JAグループや農業、消費者団体などから陳情や要望されている県も複数あり、今後も条例化の動きは広がる見通しだ。 <ことば> 主要農作物種子法 1952年に制定、2018年4月に廃止された。都道府県に米、麦、大豆の優良な品種を選定して生産、普及することを義務付けていた。農水省は、都道府県が自ら開発した品種を優先的に「奨励品種」に指定して公費で普及させており、種子開発への民間参入を阻害しているなどとして、17年の通常国会に同法の廃止法案を提出。自民党などの賛成多数で可決、成立した。 *9-2:https://www.agrinews.co.jp/p45927.html (日本農業新聞 2018年11月27日) 国有林伐採権を付与 新たな制度林野庁検討 林業 担い手育成 林野庁は、規模拡大を目指す林業者が国有林を利用し、経営基盤を拡充することができるよう新たな仕組みを構築する。国有林の一定区域を10年単位で伐採できる権利を与え、販売収入を確保し、長期的な経営計画が立てられるようにする。新たな森林管理システムで森林を集積・集約する受け手の確保を狙う。来年の通常国会に法案を提出する。同庁は、規模拡大を目指す林業者に森林を集積・集約する新たな森林管理システムを構築。2019年4月に関連法を施行して制度として動きだす。関連法では所有者が管理できない私有林のうち、採算ベースに乗りそうな私有林について、市町村が意欲があると判断した林業者らに管理を委託できる。一方、同システムは、森林の管理を担う受け手をどう確保するかが課題となっている。このため同庁は、規模拡大に意欲のある林業者が国有林を伐採して、木材として販売できる制度を新設し、「林業者の経営基盤を拡充し、森林の受け手育成につなげたい」(経営企画課)考えだ。具体的には、同システムに位置付けられた林業者らに対し、10年間を基本に上限を50年として数百ヘクタール、年間数千立方メートルの伐採ができる権利を与える。国有林の立木販売では現在、販売先が決まっている場合、最長3年間の契約ができるルールがある。さらに長い期間、伐採できるようにして、長期的な林業経営の見通しを立てられるようにする。国有林の伐採量が増えることで木材価格に影響が出ないよう、権利の取得には条件を設ける。住宅以外の建築物での木材利用や、輸出などに取り組む事業者らとの連携が必要となる。投資だけを目的とする場合には、権利付与の対象にはしない。伐採後の国有林の再生に向けて、権利を得た林業者に対し、主伐と再造林に一貫して取り組むことを求める。造林経費は国が支出する。林業者は具体的な施業計画を作り、実践する。 *9-3:http://qbiz.jp/article/147795/1/ (西日本新聞 2019年1月28日) 伊万里港3年連続最多更新 18年コンテナ貨物取扱量 増便や大型クレーン導入 作業効率向上要因 伊万里港(佐賀県伊万里市)の2018年のコンテナ貨物取扱量が3万7346個(20フィートコンテナ換算)となり、3年連続で過去最多を更新した。同港は九州有数のコンテナ貨物取扱量があり、世界的な拠点港の韓国・釜山港に近く、航路増便やターミナル拡張、大型クレーン導入による作業効率の向上で需要が伸びているという。18年の取扱量の内訳は、輸出9912個、輸入2万7434個でいずれも前年を上回った。輸出はパルプ製品・古紙が最多の70・4%を占め、輸入は家具類34・4%、日用品雑貨15・1%−だった。航路別では釜山の1万4856個が最も多く、前年から3360個増えた。伊万里港は1967年に開港、97年に国際コンテナターミナルが開設した。2013年には大型コンテナ船が寄港可能な水深13メートルの岸壁が完成。博多港などで導入済みだった大型クレーン「ガントリークレーン」を取り入れ、コンテナ荷役のスピードは従来の約2倍になった。福岡、佐賀、長崎県にまたがる西九州道の延伸工事が進み、港周辺の交通アクセスが改善。運搬用の大型車が渋滞に巻き込まれるケースが少なく、港の利便性が向上したという。97年の航路は釜山のみだったが、現在は釜山のほか中国の大連、青島、上海などを結ぶ航路と、神戸港を経由する国際フィーダー航路を合わせ、5航路、週7便が就航している。佐賀県港湾課は「アジアに近い利点を生かし、国際物流の拠点としてさらなる航路開拓や増便を目指したい」としている。 *9-4:http://www.city.imari.saga.jp/13211.htm (伊万里市 2017年9月1日更新) 伊万里港の変遷(下) 今回は、平成9年の伊万里港国際コンテナターミナル供用開始から、現在までの歴史です。 ●発展を続ける伊万里港 伊万里港は、平成9年2月に国際コンテナターミナルが供用を開始し、同年4月から韓国・釜山港との間に国際定期航路が開設されました。ここからコンテナ貨物の国際貿易拠点としての歴史が始まりました。また、平成14年から平成20年までにかけては、久原地区の伊万里団地に中国木材株式会社が進出したことに始まり、木材・水産加工・半導体企業などが次々と進出しました。さらに平成15年3月には、伊万里湾により東西に分かれていた港湾機能を結ぶ『伊万里湾大橋』が完成。待望されていた伊万里港の港湾機能の一体化と、地域のシンボルとしての役割を担っています。 平成25年4月には、伊万里港コンテナターミナルに大型化する船舶に対応するための水深13メートルの岸壁とガントリークレーンの整備が完了し、荷役作業の効率が飛躍的に向上しています。現在では、釜山航路に加え、華南・韓国航路、大連・青島航路、上海航路の4航路、神戸港との国際フィーダー航路が1航路の5航路・週7便が運航しています。航路の増加や施設の整備により、コンテナ貨物の取扱量も順調に増加しています。輸入では、家具・家具装備品、日用品、動物性飼料原料(魚粉) などが主な取扱貨物となっており、約410社が伊万里港を利用して輸入をしています。輸出では、ロール紙、古紙、原木・木材製品などが主な取扱貨物となっており、約160社が伊万里港を利用して輸出をしています。平成28年は、過去最高の取扱量(実入り)を記録し、九州では、博多港、北九州港、志布志港(鹿児島県)に次ぐ第4位となっています。これまで時代の流れとともに様々な役割を果たしてきた伊万里港。次の50年に向け、さらなる発展が期待されます。 ●お問合わせ先 伊万里港開港50周年記念事業推進室 所在地/〒848-8501 佐賀県伊万里市立花町1355番地1 電話番号/0955-23-2466 FAX/0955-22-7213 E-mail/ imariwan-kokudou@city.imari.lg.jp PS(2019年1月30日追加): 私も、*10-1のように、公共部門の民間開放として水道事業民営化への道を開いて民間に運営権を長期間売り渡すと、料金高騰や水質悪化に繋がるのではないかと思ったので、先日、唐津ガスの社長にお会いした時にどう思うか尋ねたところ、「必要な縛りを入れておけばいいんじゃないですか」と言われて、「確かに」と納得した。確かに、電気・ガスは、(料金は上下水道よりずっと高いが)民営化されており、品質の問題は起こっていない。ただ、電気・ガス・水道が別々に道路をほじくり返すと、道路に工事中が増え、生産性が低くなり、多くの人に迷惑をかけるのが問題なだけである。 そのような中、*10-2のように、西部ガスの道永次期社長が、事業の多角化をするという抱負を述べておられるが、高齢化が進む中、消費者にはガスより電気の方が安全という選択も働くため、従来のガス需要はさほど伸びないと思われる。そのため、人が入って作業できる大きさの共同溝を作って電線・ガス管・水道管を道路の地下に埋設し、ITを駆使して管理する事業を、国や地方自治体の補助を受けてやったらどうかと思う。何故なら、ガス管は既に地下に埋設されており、今後は、上下水道管の老朽化や電線の地中化に対する需要が増えるからだ。 *10-1:https://digital.asahi.com/articles/ASLCQ5FM9LCQULBJ00L.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2018年11月25日) 水道事業、民営化に道 海外では料金高騰・水質悪化例も 公共部門の民間開放を政府が進めるなか、水道事業にも民営化への道が開かれる。事業の最終責任を自治体が負ったまま、民間に運営権を長期間売り渡せるようになる。水道法改正案に盛り込まれ、開会中の臨時国会で成立する見通しだ。海外では、料金高騰や水質悪化で公営に戻す動きもあり、導入への懸念は強い。7月に衆院を通過した改正案が22日、参院厚生労働委員会で審議入りした。民営化の手法は「コンセッション方式」と呼ばれ、企業が運営権を買い取り、全面的に運営を担う。契約期間は通常20年以上だ。自治体が利用料金の上限を条例で決め、事業者の業務や経理を監視する。安倍政権は公共部門の民間開放を成長戦略として推進。2013年に閣議決定した日本再興戦略で「企業に大きな市場と国際競争力強化のチャンスをもたらす」と位置づけた。空港や道路、水道、下水道をコンセッション方式の重点分野とし、空港や下水道では導入例が出てきたが、水道はゼロだった。今の制度では、最終責任を負う水道事業の認可を、自治体は民営化する際に返上する必要があり、大きな障壁だった。改正案では、認可を手放さずにできるようにして、導入を促す。 ●300億円超削減、試算 改正を見据えた動きもある。県内25市町村に飲み水を「卸売り」する宮城県は工業用水、下水道と一括にしたコンセッション方式を検討している。人口減少などで、飲み水を扱う水道事業の年間収益は今後20年で10億円減る一方、水道管などの更新費用はこの間、1960億円を見込む。「経営改善にはこの方法が一番」と、県企業局の田代浩次・水道経営改革専門監は話す。県内では、浄水場でのモニター監視や保守点検など多くの業務を民間が担う。県の構想では、これらの運転業務に加え、一部の設備の管理・更新を20年間、民間に任せる。資産の7割を占める水道管はこれまで通り県が担う。バラバラだった業務委託契約を一括にでき、コスト削減効果は計335億~546億円と試算する。浜松市も水道で検討している。管路や設備の更新の必要性が高まる一方で、人口減や節水機器の普及で収益減は確実だ。水道事業の経営は堅調だが、「経営が健全なうちに先手を打つ必要がある」と担当者はいう。同市は今年4月、下水道事業に全国初のコンセッション方式を導入。「水メジャー」と呼ばれる水道サービス大手仏ヴェオリア社の日本法人などが20年間の運営権を25億円で手に入れた。開始から半年たちトラブルはないという。市上下水道部の内山幸久参与は「実施計画や要求水準を定めて、行政が最終責任者として関与することで公共性は担保できる」と話す。 ●安定供給に懸念も だが、営利企業に委ねる負の面もある。先行する海外では水道料金の高騰や水質悪化などのトラブルが相次ぐ。失敗例は監視機能などに問題がみられ、改正案では、水道は国や都道府県が事業計画を審査する許可制とし、自治体の監視体制や料金設定も国などがチェックする仕組みにする。政府は「海外での課題を分析し、それらに対処しうる枠組みだ」と説明するが、「災害や経営破綻(はたん)時に給水体制が守れるか」「海外では監視が機能しなかった」など、不信の声は絶えない。先んじて導入の条例を検討した大阪市は「経営監視の仕組みに限界がある」「効果が市民に見えにくい」などの意見から17年に廃案になった。新潟県議会は今年10月、「安全、低廉で安定的に水を使う権利を破壊しかねない」として、改正案の廃案を求める意見書を賛成多数で可決した。自民党議員も賛成した。拓殖大の関良基(せきよしき)教授(環境政策学)は「水道は地域独占。役員報酬や株主配当、法人税も生じ、適正な料金になるのか疑問だ」とし、「問題が起きたときにツケを払うのは住民だ」と改正案に反対する。東洋大の石井晴夫教授(公益企業論)は「コスト削減や雇用創出といった民間が持つ良い点を採り入れられる」と利点を挙げる一方、「災害時対応への備えは不可欠。料金も『こんなはずではなかった』とならないよう、正確な需要予測や収支見通しを示した上で住民の合意を得るべきだ」と話す。 ●30年で料金5倍…パリは再公営化 フランスでは、世界で民営水道事業を手がける「ヴェオリアウォーター」など「水メジャー」と呼ばれる巨大多国籍企業がある。仏メディアによると、3分の2の自治体が民営を導入している。だが近年は、「水道料金が高い」として公営に転じる動きもある。パリは1984年、二つの水メジャーに水道事業を委託した。だが2010年に再び公営化した。水道料金の高騰が主な理由で、パリ市によると、10年までの30年間で、水道料金は5倍近くに上がったが、10年以降は伸びが止まっているという。現在、4人家庭が毎月支払う平均的な水道料金は30ユーロ(3900円)ほどだ。パリの水道事業を担う公営企業「オ・ドゥ・パリ」のバンジャマン・ジェスタン専務取締役は「水道事業は、水源管理や配水管のメンテナンスなど、100年単位での戦略が必要だ。短期的な利益が求められる民間企業は、設備更新などの投資は、後回しになりがちだ」と話す。「民間企業は株主に利益を還元しなければいけないが、我々にはそれがない。何十年も運営を任せっぱなしにしていると、行政の制御がきかなくなりがちで、不透明やムダな運営も生まれやすい」。南仏ニームでは、半世紀の間、水メジャーに委託し、設備の老朽化が放置されたために、漏水率が30%に至っている様子が報じられた。南東部ニースは、価格を安くすることを理由に13年に公営に方針転換。パリ近郊のエソンヌと周辺自治体も、パブリックコメントを経て、17年から公営事業に転換した。一方、南西部ボルドーのように「上下水道事業すべてを自治体が担うのは負担が大きすぎる」として、公営に戻すのを見送ったところもある。 ◇ 〈コンセッション方式〉 国や自治体が公共施設の所有権を持ったまま、運営権を民間に渡せる制度。2011年のPFI法改正で制度が整備された。契約期間は通常20年以上で、企業は運営権の対価を支払う一方、料金収入や民間融資で施設の建設や運営、維持管理にあたる。自治体は利用料金の上限を条例で決め、事業者の業務や経理を監視する。水道法改正案では、水道は国や都道府県が事業計画を審査する許可制とし、自治体の監視体制や料金設定も国などがチェックするとしている。 *10-2:http://qbiz.jp/article/147926/1/ (西日本新聞 2019年1月30日) ガス以外の事業加速 西部ガス・道永次期社長が抱負 西部ガス(福岡市)は29日、道永幸典取締役常務執行役員(61)が4月1日付で社長に昇格し、酒見俊夫社長(65)が代表権のある会長に就くトップ人事を正式発表した。道永氏は「事業の多角化と液化天然ガス(LNG)ビジネスの展開という2本のレールに列車を走らせることが役割で、スピードアップや軌道修正も行う。(社員や株主、地域社会に)役に立つことを肝に銘じて励む」と決意を述べた。道永氏を起用した理由について、酒見氏は「自由化が進む中、新しい発想、柔軟な発想でリーダーシップを取れることが新社長のポイント。道永氏は行動力やスピード感があり、発想が非常にユニークだと常々感じていた」と説明。熊本地震の対応や、マンション開発・販売会社エストラスト(山口県下関市)の買収でも力を発揮したと評価した。道永氏は事業の多角化に向け、新分野に精通したキャリア採用を積極的に進め、企業の合併・買収(M&A)に取り組む方針も明らかにした。「冒険ではなく、精査してチャレンジする。途中で撤退する勇気は一番大事な勇気だと思っている」と述べた。都市ガスの小売り自由化に伴う競争激化など経営環境は厳しい。西部ガスから九州電力へのガス契約の切り替えは1月20日現在で約7万8千件に上り「厳しい状況が続いている」(酒見氏)。西部ガスは約7万9千件の電気契約を獲得しているが、九電が昨年7月に公表した熱中症予防プランでは先行され後手に回った。道永氏は「もうちょっと競争したいとは思っている」と意欲をみせた。西部ガスは2026年度にガス供給・販売事業以外の売上高をグループで現状の3割程度から5割程度に引き上げるのが目標。ホテルや温浴施設事業への参入、LNG輸出事業に向けたロシア企業との覚書(MOU)締結などを進めている。 *道永 幸典氏(みちなが・ゆきのり)九大経済学部卒。81年西部ガス。執行役員情報通信部長、常務執行役員総務広報部長などを経て、16年6月から取締役常務執行役員。61歳。福岡県筑紫野市出身。 ◇ ◇ ●スピード感、柔軟思考が強み 道永次期社長 ガス事業の「中枢」を歩んでいないと自他共に認める新しいタイプのトップ。入社以来延べ約30年間、IT化の推進や料金算定などシステム関連業務に携わってきた。自由化や人口減少でガス事業の競争環境が厳しさを増す中、従来の手法にとらわれない柔軟な思考で成長を進めることを期待されての抜てきだ。社長就任を打診されたのは1月中旬。「大変だな」と感じた一方「やってやろうというワクワク感、高揚感がある」。持ち前のポジティブな姿勢で前を向く。現在の中期経営計画は2019年度まで。けん引することになる次期計画では、ガス事業の拡大を目指しつつ、現体制が着々と進めていた事業の多角化を加速させる必要がある。鍵となる「スピード感」をこれまでも大切にしてきた。熊本地震ではいち早く現地に飛んで指示を出した。料金システム改定の際は不眠不休で対応した。今後の事業多角化についても、「スモールスタートでできそうな事業で胸に秘めているものがある」と早くも意欲を示す。グループ5千人の従業員を率いるリーダーの在り方として「率先難事」と自ら行動する大切さを挙げる。トップ営業にも積極的に取り組む意向だ。「唯一無二の趣味」と語るゴルフはベストスコア71。「ネットワークづくりには最適のスポーツ」と積極的にラウンドを重ねている。
| 経済・雇用::2018.12~2021.3 | 10:31 PM | comments (x) | trackback (x) |
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