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2025,07,17, Thursday
(1)運輸業・建設業等の人手不足と人材獲得
![]() ![]() 出入国在留管理庁 Connect Job 2025.7.16NHK (図の説明:左図は、就労が認められる在留資格で、*1の特定技能は2018年に閣議決定され、2019年4月から*2の特定産業分野のみで施行されていた。中央の図は、在留資格別外国人労働者数の推移で、2024年には230万人超になっているが、それでも全就業者の3.4%にすぎない。また、右図は、外国人の犯罪率は外国人の数が増えるに従って低下して現在は日本人と変わらず、「外国人はルールを守らず犯罪が多い」と言うのは偏見にすぎないことがわかる。なお、ルールにも憲法違反と思われるものがあるため、ルールもまた時代に合わせて変えるべきである) ![]() 厚労省 2025.7.17日経新聞 (図の説明:左図は、就労目的で日本に来た外国人の状況で、出身国はベトナム・中国・フィリピンの順に多く、現在はインドネシア・ミャンマー・ネパールが増加中である。また、右図のように、これまで少なかった南アジアや中央アジアの国々を開拓する動きも官民で広がっている) 1)運輸業のケース *1-1-1は、①2030年度には運転手の数が2020年度比で27%減り、36%の物流が滞る恐れがあって、物流業界は人手不足が深刻 ②政府は自動車運送業を特定技能に追加して外国人就労枠は上限24,500人 ③SBSホールディングスは、インドネシアに自動車学校を設立して講師を現地派遣し、全寮制で半年間教育して日本の交通ルールや日本語を教え、2026年から年間100人程度のペースで採用して1800人の外国人運転手を採用し、10年で運転手の約3割を外国人にする予定 ③外国人が最長5年間働ける「特定技能」の制度を活用 ④多くがイスラム教徒であると想定して礼拝・食事等に配慮し、働きやすい環境を整備 ⑤賃金は日本人より低い見通し ⑥船井総研ホールディングスも傘下の物流コンサルティング会社、船井総研ロジが外国人運転手を中小企業に仲介するサービスを始め、主にバングラデシュやベトナムからの採用を想定 ⑦ヤマト運輸・佐川急便・福山通運等も外国人採用に乗り出しており、ヤマト運輸・佐川急便は決まったルート配送中心のため日本語が苦手でも働きやすい職種 ⑧特定技能による外国人運転手はバス・タクシー・引っ越し等の運転手も含む ⑨自動運転の実現が見通せない中、地方のバス運行会社等も外国人運転手の確保に動く ⑩物流に限らず、公共交通・介護まで様々なサービスで外国人なしに成り立たない としている。 このうち①⑩は現実であるため、⑧⑨のように、自動運転の実現が見通せなければ外国人運転手は必要である。また、⑦のように、決まったルートを配送するのなら必要な日本語は限られているため、働き易いと思われる。そのため、より簡単な仕事を任せる分だけ、⑤のように賃金が安いのには合理性があるだろう。 しかし、現在、雨が降ったり、暑かったりすればタクシーも来ない状況なので、②のように、政府が自動車運送業を特定技能に追加したのは合理性があるが、外国人就労枠の上限が24,500人で足りるか否かは心配だ。 そのため、③⑥のように、SBSホールディングスがインドネシアに自動車学校を設立して講師を派遣し、教育した上で資質のある人を採用したり、船井総研ロジが外国人運転手を中小企業に仲介するサービスを始めてバングラデシュやベトナムから採用したりしているのは、さすが民間企業の工夫だと思った。 しかし、このように教育費をかけて外国人を採用し、③のように、「特定技能」の制度を使ってもなお外国人の就労機関が最長5年では、採用する企業はロスが多い上に、日本社会は熟練労働者の割合が少なく、結果として働く外国人は意欲を失い、日本人は不便なままになりそうだ。そのため、④の働き易い環境というのは、日本で安心して長く働くことができ、頑張れば昇進して賃金で報われる環境であって、④のようなイスラム教徒向けの礼拝・食事の配慮が第1ではないと思われる。 また、*1-1-2は、運輸業に限らない外国人労働者就労の歴史を述べており、⑪2024年10月時点で外国人就労者数は230万2587人・就業者全体の3.4% ⑫人手不足の深刻化で10年前の2.9倍に増加 ⑬在留資格は、技術・人文知識・国際業務18%、特定技能・技能実習30%、留学生アルバイト14% ⑭1989年に「定住者」資格で中南米の日系人を受け入れ、1993年に表向き技術移転目的として「技能実習制度」を創設したが、低賃金の人手不足対策としての使用が広がった ⑮2019年に「特定技能制度」を導入し、「1号」は最長5年・「2号」は熟練者向けで在留期間の制限はなく、明確に人手不足対策として位置づけた ⑯来日・定住・永住の増加を懸念する声もあり、参院選で与野党が外国人規制強化の是非を議論している としている。 まず、日本国憲法は、前文で「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とし、第17条で「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」、第18条で「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と定めている。 そのような中、⑪⑫⑬のように、人口構造の変化に伴い、2024年10月時点では外国人就労者数は230万2587人となっているが、未だに人手不足の状態が続いているため、⑯のように、来日・定住・永住の増加を懸念したり、公務員である衆議院議員や参議院議員候補者がヘイトスピーチをするなどは、「何を考えているのか!」と思われる。 なお、⑭のように、少しずつ門戸を開いた在留資格のうちの技能実習制度は滞在期間が1号1年、2号2年、3号2年で、3号への移行は実習生の受入れ企業や監理団体が優良だと認めた場合のみ可能だそうだが、このようにいやいや延長していること丸出しの細切れで低賃金の労働条件では、働く意欲を保つ方が困難であろう。 そのため、⑮のように、2019年に「特定技能制度」が導入されたのだが、これも「1号」は最長5年が上限で狭い産業分野に限られる上、在留期間の制限のない特定技能2号を取得するには、i) 特定技能2号評価試験に合格するか、技能検定1級に合格する ii) 監督・指導者として一定の実務経験を積むの2つを満たす必要があって、日本語が母国語であるため比較優位性がある筈の日本人よりも難しく、「2号には進ませたくないぞ」と言わんばかりのハードルなのである。 2)建設業のケース ← 日本人が減った産業を外国人が支えている現実がある *1-2-1・*1-2-2は、働き方改革による残業時間の上限規制(2024年4月から月45時間・年360時間)と高齢化の進行による慢性的な人手不足や生産性の低さが原因で、未完了工事額が約15.4兆円(2025年3月時点、国交省建設総合統計)にも達し、この状況が、i)商業施設や工場建設の遅延 ii)建設費の高騰 iii)設備投資の停滞 などを通じて日本経済に成長力低下をもたらしており、2023年末の建設業における外国人労働者数は約17.8万人(全体の約7.7%)・有効求人倍率は5.22倍(全産業平均の約4倍)となって、建設業界では外国人労働者の受け入れが進んでいる としている。 具体的には、①建設就業者数が2010年比で6%減少し、477万人になった(総務省の労働力調査) ②65歳以上の高齢化率が約2割(80万人)で、10年間で高齢化率が5%上昇した ③加齢で体力が衰えれば若い頃のようには働けない ④かねてから深刻だった人手不足に2024年4月から始まった時間外労働の上限規制で、建設業は月45時間・年360時間までしか残業できなくなり、総労働時間/人が前年比32.3時間減少した(全産業平均14.3時間の2倍以上) ⑤生産性向上を急がなければ民間企業の設備投資や公共投資の制約となり、日本の成長力が一段と下振れする恐れがある ⑥建設作業員が集まらず工事が計画通り進まなかったため、イオンモールは福島県伊達市の店舗オープンを2024年末から2026年下期に延期した ⑦建設業界全体で供給力が縮んでいる ⑧民間の産業用建築物1m²あたり着工単価は2024年に約30万円と前年より18%上昇した ⑨大手建設会社は採算性・工期を重視し、利益率の高い案件を優先している ⑩人材確保で後手に回って採算の良い案件に参入できなかった中小建設会社は廃業が増加している ⑪建設従事者が使える省人化等のソフトウエアの導入量/人は、フランス・英国の1/5である ⑫生産性向上にはデジタル化による効率化が不可欠 としている。 このうち、①②はデータであるため事実だが、老年学会は75歳までは問題なく働けるとしているので、③のように、「65歳以上は加齢で働けない高齢者である」と認識して高齢化率を計算したり、65歳定年制によって退職させたりすることの方に、むしろ人権侵害の問題があるだろう。 また、④の「人手不足の原因には時間外労働の上限規制があるが、これは働かせない改革になっている」「残業しないため、仕事が中途半端にならないよう早めに終わらなければならない」「もっと働いて稼ぎたい」と言う人も少なからずいるため、上限規制ではなく、働いた分だけ支払う規制にしてはどうかと思う。 さらに、⑤⑪⑫のデジタル化による効率化や省人化による生産性向上は必要不可欠で、それがなければ民間企業の設備投資や公共投資の制約となって日本の成長力が一段と下振れする恐れがるが、これらをすべてやったとしても、建設業に進む日本人の若者が著しく減る以上、外国人労働者を積極的に入れなければ、⑥⑦⑧⑨のように、建設作業員が集まらずに工事の遅延が起こったり、建設業界全体で供給力が縮んで着工単価が上がったり、人材確保のできない中小建設会社の廃業が増加したりする。 そのため、「日本人が減った産業を外国人労働者が支えている」というのは事実であり、外国人労働者をまるで邪魔者ででもあるかのように在留資格の交付を小刻みで厳しくするのではなく、家族帯同を容易にしたり、日本人と同様、家族もまた働いたり学んだりできるようにしたりして、日本で働くことのハードルを下げる必要があるのだ。 3)今後、さらに増えるニーズ ← 運輸業は、共働きの増加と高齢化に伴って通販や配達のニーズが増え、建設業は、 インフラの老朽化と適時・適切な維持管理・更新の需要が確実に増えること 2025年1月には、埼玉県八潮市で、下水道管の破損による地盤空洞化で道路が陥没し、トラックの運転手が犠牲になった。また上水道管の破裂事故も頻繁に起きている。 そのような中、*1-2-3は、①財務省所管研究所の調査によると、市町村の公営企業が運営する上水道事業の99%が設備更新に必要な資金を確保できていない ②上水道事業は原則として必要経費を住民が支払う使用料で賄う ③各事業者が現在の設備を維持したまま必要な内部留保を確保するには平均83.2%の料金引き上げが必要で、国交省によると2022年度末の一般家庭の月額水道料金は全国平均3,332円が6,100円程度に上昇する ④将来の収支見通しが甘く、費用を料金に十分に反映できていない自治体が多い ⑤単年度損益は黒字でも、実は手元資金が少なく老朽化した水道管を更新する資金までは準備できていない例も ⑥水道料金を上げると住民の反発が予想され、物価高対策として水道料金を割り引く例も ⑦総務省よると全国の上水道は1975年頃に整備が進み、足元で法定耐用年数の40年を過ぎた水道管が全体の2割超 ⑧手元現金が少なければ、日常的な保守だけでなく緊急時の対応にも支障が出る ⑨京都市は4月に市内の幹線道路地下を走る水道管が破損して広範囲に冠水し、県鎌倉市も6月に水道管が破裂して市内の約1万世帯が断水した ⑩各自治体は必要経費を料金に反映するとともに、近隣自治体との業務の共同化等でコストを削減することが必要 ⑪事業統合・経営一体化も有力な手段 ⑫人口減少をふまえると市街地の集約による水道インフラ縮小も重要な選択肢 等と記載している。 上下水道等の公的インフラは共通した問題を抱えており、それは当然行なわれなければならなかった固定資産の維持管理が適時・適切に行われず、1970年代に整備され老朽化した水道管・下水管を法定耐用年数(約40年)がすぎるまで、減価償却もせず、修繕引当金も積まずに使い続けてきたことである。 そのため、①④のように、収支の見通しが甘くて更新費用を料金に反映しておらず、突然、「上水道事業の99%が設備更新に必要な資金を確保できていない」などという事態が起こるわけだが、本来、設備の更新に必要な資金は、②③⑥のように、現在の使用者が支払うだけではなく、上下水道ができてからこれまでそれを使用してきた使用者も支払うべきだったのであり、民間企業は、皆、そうしているのだ。 その更新や修繕の費用を合理的に見積もって引き当てるのが、会計用語で減価償却引当金・修繕引当金等と呼ばれる負債性引当金なのだが、公的機関は、⑤のように、単年度のキャッシュフローしか見ていないため、耐用年数が過ぎれば当然必要になる「老朽化した水道管を更新する資金」のようなものすら準備できておらず、⑦のように、1975年頃に整備が進み法定耐用年数40年を過ぎた水道管が全体の2割超あり、⑨のように、水道管の破裂事故が多発し始めても、⑧のように、手元現金がないなどと言っているのである。 従って、これは、公的機関の資産管理全般に関する会計の問題であり、財務省は国所有のインフラも含めて、資産・負債に関して必要な引当金を積み立てる普通の会計制度に変えるべきである。しかし、役所には、税務署を除いて会計に詳しい人が著しく少ないため、私は、公認会計士・税理士(含:税務署を退官した人)等の専門家を担当する役所に派遣して、複式簿記の会計制度をきっちり作らせれば良いと考える。 なお、地方自治体側からは、「技術職員の高齢化や人材不足で更新計画の立案・遂行能力が現場に不足している」等の理由が挙げられることもあるが、それは資産・負債に関して必要な引当金を認識せず、耐用年数が過ぎれば更新時期を迎えることすら忘れていたという状態であるため、管理者として不適格と言わざるを得ない。 そのため、*1-2-3は、選択肢として、⑩⑪の近隣自治体との業務共同化や事業統合・経営一体化を挙げているが、上下水道は複数自治体で管理しても住民に支障は無く、むしろ経営の効率化によって安価に使える方が望ましいため、この選択肢は有力な手段である。 しかし、⑫の「人口減少による市街地の集約や水道インフラの縮小」は、都会の人口密集地帯で育った人ばかりがリーダーになっているために出てきた発想で、食料生産・森林管理・エネルギー生産等は、人口密度の低い地域でしか行なわれないため、その人口密度の低い地域で生産に励んでいる人々を不便にすることがあってはならないのである。 さらに、現在なら、分散型で再エネを生産して大量に使う場所に運ぶために、上下水道の更新と合わせて近くに電線を敷設し、送電料収入を得ることも考えられるし、検針や異常検知を自動的に行なってその位置と状況を電波で知らせることも可能である。そのため、更新時には、スマート化やサステナビリティーを含む更新をすれば良いだろう。 4)外国人材のリクルートについて *1-3-1によれば、母国の経済成長で東南アジア諸国からの来日が頭打ちになるのを見据え、また、韓国・台湾との人材獲得競争の激化もあって、日本政府と民間企業は外国人材の供給源を東南アジア中心から南アジアや中央アジアに広げつつあるそうだ。 具体的には、①厚労省が民間団体に委託して南アジア・中央アジアの「送り出し機関」に聞き取りを行い、日本での就労ニーズや制度面の障害を現地調査 ②インド・スリランカ・ウズベキスタン等を想定 ③オノデラグループは、ウズベキスタン移民庁と連携して日本で働きたい若者に半年ほど日本語を教えて特定技能試験合格の上で来日させるプログラム開始 ④同グループは外食・介護など向けに年間200人程度の育成から始めて年間500人に拡大する計画 ⑤日中亜細亜教育医療文化交流機構もウズベキスタンに日本語教育拠点3カ所を設置し、特定技能での日本就労を目指す ⑥ワタミはバングラデシュに研修センターを設立し、年間3,000人の特定技能人材送り出しを目指す ⑦技能実習・特定技能は2024年12月時点で計74万人が働き、国別ではベトナム34万5,619人と半数近くを占めるが、名目GDPが10年で1.8倍になって伸び率が鈍化 ⑧技能実習で10万人超が働いていた中国は、名目GDP/人が7,000ドルを超えた2013年から来日が減って2024年12月は2万5,960人 ⑨厚労省の担当者は東南アジア各国も他国で働く必要が薄れて獲得が難しくなると分析 ⑩韓国は外国人労働者を対象とする「雇用許可制」の年間受け入れ上限を、2021年の5万人程度から3年で3倍に拡大、時給換算最低賃金は既に日本の全国平均並 ⑪台湾も製造業や建設業等で外国人労働者の賃金上昇 ⑫特定技能と技能実習の合計人数はインドが2024年12月時点で1,427人、スリランカ4,623人、ウズベキスタン346人と南・中央アジアからの来日は未だ少なく、人材送り出しの潜在力は高い ⑬インドの2023年の労働力人口は4億9,243万人で毎年1000万人以上増加し、15~24歳の失業率は15.8% ⑭バングラデシュは2024年12月時点で特定技能・技能実習の合計が2,177人で前年同月比1.5倍 ⑮急速な来日拡大には慎重意見や単純労働者受け入れ制限を求める声もあり、20日投開票の参院選で外国人規制が争点に急浮上 としている。 日本では、(1)の1)2)3)はじめ、多くの産業分野で人手不足による限界が明確になっており、⑩⑪のように、韓国や台湾も外国人労働者のさらなる獲得に動いている中、⑦⑧のベトナムや中国のように、自国の名目GDPや賃金が上がって、既に来日が減っている国もある。 そのため、①②⑨⑫⑬⑭のように、厚労省の担当者が東南アジア各国も他国で働く必要が薄れて獲得が難しくなる考えて、民間団体に委託し、人材送り出しの潜在力は高いが未だ来日の少ないインド・バングラデシュド・スリランカ・ウズベキスタンなど南アジア・中央アジアの「送り出し機関」に聞き取りを行い、日本での就労ニーズや制度面の障害を現地調査をするのは当然のことだ。 また、調査を委託された民間団体の方は、③④のオノデラグループのように、ウズベキスタン移民庁と連携して日本で働きたい若者に半年ほど日本語を教え、特定技能試験合格の上で外食・介護向けに年間500人来日させるプログラム開始したり、⑤の日中亜細亜教育医療文化交流機構のように、ウズベキスタンに日本語教育拠点を設置して特定技能での日本就労を目指させたり、⑥のワタミのように、バングラデシュに研修センターを設立して年間3,000人の特定技能人材送り出しを目指したりなど、合理的かつ効率的な外国人材の開発を始めている。 にもかかわらず、⑮のように、i)急速な来日拡大には慎重意見 ii)単純労働者受け入れ制限を求める声 があり、今回の参院選では外国人規制が争点に急浮上した。そして、母国語で働くことができ、偏見がないだけでも優遇されている日本人労働者の職を侵食し、賃金を下げるなどとして、事実ではない言説を流して外国人労働者への偏見を煽る政党や候補者が少なからずあったことについて、私は、「外国人労働者の必要性やグローバリズムをしっかり説明できない国会議員・候補者・メディアの方が資質が低い」と感じた次第だ。 ちなみに、私がEY(Big4の1つ)で勤務していた時、オランダ人のパートナーやフィリピン人の事務員がいたが、オランダ人のパートナーは夕方5時に帰るものの、「電話が少なくて働き易い」と言って朝7時から事務所に来て仕事を始めていて感心した。また、やはり夕方6時には帰りたいフィリピン人の事務員は、弁当を持ってきて、昼食は事務所で食べながら昼休みも仕事を続けるなど、節約しながら効率的に働くことに頭を使う真面目な人だった。 つまり、「外国人は、怠け者で、犯罪率が高く、日本人のお荷物である」と考えている人は、外国人とともに働いたことがなく、「GDPの高い日本に生まれただけで、日本人である自分の方が優れている」などと勘違いしているのではないかと思うわけである。 (2)外国人制度の再設計 ← マイクロソフトの AI 「Copilot」に情報を集めてもらって記載した 1)外国人労働者について 2025.7.17、2024.3.7日経新聞 2022.3.7Global Saponet 2024.6.15読売新聞 (図の説明:1番左の図は、2024年10月末時点の在留資格別外国人労働者の割合で、技能実習が最も多い。また、左から2番目の図は、2019年4月1日に開始された特定技能のうち1号の国籍別の数で、2024年12月末時点では1号283,634人・2号832人である。右から2番目の図は、産業別の外国人労働者の割合である。そして、1番右の図が、外国人労働者のキャリアが途中で途切れることを防ぐために、2024年6月に公布された改正法に基づいて創設された育成就労制度だが、「公布日から3年以内の施行」とされているため、いつから始まるのか不明だ) ![]() 技能実習・特定技能Sapport Center Japan Job School 2023.11.25沖縄タイムス (図の説明:左図は、特定技能1号と2号でできる仕事であり、2025年7月現在では、1号で従事できる仕事は16分野にわたって定義され、各分野で外国人が担う業務が具体的に定められている。しかし、在留可能期間に上限がなく家族も滞在できる特定技能2号には、移行不可能な仕事が多い。そのため、中央の図のように、2025年現在、特定技能2号の分野拡大と1号からのスムーズな移行に向けた制度整備が進行中で、2027年までの本格運用開始が予定されている。右図は、技能実習と新制度である育成就労の比較で、技能実習の目的が建前上は発展途上国に技術を伝える国際貢献であったのに対し、育成就労は人材確保と育成を挙げている点が異なる) (1)の1)2)3)のように、多くの産業分野で人手不足による限界が明確になってきたが、東南アジアからの来日は、4)のように母国の経済成長で頭打ちになるため、日本は人材の供給源を東南アジアから南アジアや中央アジアに広げつつある。 一方、日本の外国人就労制度は、上の段の1番左の図が2024年10月末時点の在留資格別外国人労働者の割合で「技能実習」が20%と最も多いが、下の段の1番右の図のように、1993年に導入された「技能実習」の在留資格は、発展途上国に技術を伝えることを建前としているため、i)最長5年での帰国が前提 ii)原則転職禁止 iii) 家族の滞在禁止 iv)就ける仕事は91職種・168作業(2025年時点) 等、熟練度が低くて単純労働に近い初級レベルの作業ばかりで、日本で結婚・出産すると難しい在留資格変更を要求され、人間としての生活を阻害してきた。 このような技能実習制度の課題と日本における深刻な人手不足を受けて、上の段の1番右の図のように、外国人労働者のキャリアが途中で途切れないよう、2019年4月に「特定技能1号・2号」が創設され、2024年6月21日に公布された改正法で育成就労制度も創設されたが、「公布日から3年以内の施行」という非常にゆっくりした構えなのだ。 また、技能実習を修了した外国人が特定技能1号になるためには、技能検定3級(実技)か技能評価試験(専門級)に合格し、実習先企業が作成した「評価調書」によって技能・勤務態度・生活状況良好と認定される必要があるが、そこまで辿り着くのに約3年かかる。 さらに、「特定技能1号」の対象分野は下の段の中央の図のように16分野となり、2027年までに始まるとされる「育成就労」の受入れ分野は、上の段の1番右の図のように「特定技能1号」と揃えられるようだが、どちらも家族の帯同は原則不可であるため、日本に入国して在留期間の制限がなく、家族の帯同もできるようになるためには、下の段の左図のように、「特定技能2号」の在留資格をとらなければならない。 しかし、特定技能1号から2号への移行に関しては、i)特定技能2号評価試験か技能検定1級(分野により2級)合格 ii) 2〜3年以上の実務経験(分野毎に異なる) iii)移行可能なのは11分野(建設・外食・農業などは可能だが、介護は対象外) iv)管理・指導的立場での業務経験 等の複数の要件をクリアした上で、入管へ在留資格変更申請(審査期間:約2〜3ヶ月)を行う必要があり、2025年3月時点でも特定技能2号で働いている外国人は832人しかいないのである。 つまり、日本は、今でも「外国人労働者は、単純労働に近い初級レベルの作業をし、数年したら母国に帰ってもらいたい」というスタンスでいるわけだ。 このような中、*1-3-2は、全国知事会は、外国人の受け入れ拡大を国に求める提言を纏め、①2027年開始の「育成就労制度」の柔軟な運用を求め ②人口減が加速する中で外国人は地域産業や地域社会の重要な担い手 ③参院選で外国人規制が争点となって過剰な規制強化の懸念 ④外国人受け入れと多文化共生社会実現に国が責任を持って取り組むよう強く要請 ⑤「国は育成就労の受け入れ要件を厳格化して一定以上の日本語能力を要求する方針だが、技能実習の作業職種から大きく減少することを危惧する声が多数の自治体から聞かれる」と指摘 ⑥外国人の受け入れ環境を整えるため、国が主体となって制度設計や財源確保に取り組むことも要望 ⑦多文化共生に向けた施策を担う司令塔組織の設置も提案 ⑧全国知事会の村井会長は「排外主義があってはならない」と強調、静岡県の鈴木知事は政府が設けた在留外国人の犯罪などに対処するための組織を取り上げて「排斥・規制だけが取り沙汰されるようなことは正さなければならない」と述べた としている。 私も、②のように、人口減の中で外国人労働者は地域産業及び地域社会の重要な担い手になっており、この傾向は高齢化率の高い地方ほど顕著であるため、全国知事会が外国人の受け入れ拡大を国に求める提言を纏めたのは当然である。 しかし、世界では外国人材の獲得競争が激化している中、我が国の“技能実習”制度は、発展途上国に技術を伝えることを建前としながら単純労働に近い作業ばかりさせた上で、「5年経ったら帰れ」というスタンスであり、人権も無視してきた。その欠点を補うために、国は、2019年4月に「特定技能1号・2号」を創設し、2024年6月21日に改正法で育成就労制度も創設したが、「公布日から3年以内の2027年頃に開始」とのことである上、①⑤のように、育成就労の受け入れ要件を厳格化し、作業職種も大きく減少しそうな消極的態度なのである。 さらに、③のように、今回の参院選で外国人に対して過剰な規制強化の懸念が生じたため、④⑥のように、全国知事会は、外国人受け入れと多文化共生社会実現に国が責任を持って取り組み、外国人の受け入れ環境を整えるため、国が主体となって制度設計や財源確保に取り組むことも要請し、⑦⑧のように、司令塔組織は多文化共生に向けた施策を担うために設置し、「排外主義・排斥・規制だけが取り沙汰されるようなことがあってはならない」と強調したのだが、こちらの方が国会議員やその候補よりもずっとまともな主張だと、私は感じる。 そもそも、犯罪率が高いのは職にあぶれて生活に困った人である。そのため、「育成就労→特定技能1号→特定技能2号」と進む間に、在留資格がなくなったり、キャリアを中断させられたりすれば、“不法滞在”という(軽微な)犯罪になるし、近年の日本では、年金の目減りで生活に困った高齢者の万引きも増えているのだ。 これに加えて、*1-3-3は、外国人労働者について、⑨「選ばれない日本」に陥る可能性と外国人労働者が特定地域に偏る弊害 ⑩まだ日本の賃金・待遇には魅力があるが、地域に根付かず都市に流入することで負の循環に繋がる可能性 ⑪特定技能人材の退職理由調査は、入社から3カ月以内の退職で最も多かった理由が「人間関係の不満」で、時期を追う毎に「家族・友達・パートナーの近くに転居」が高くなる ⑫業務・職場の不満はどの時期も高いが、「業務内容が合わない」が主原因 ⑬入社1年を超えると定着率が高まる ⑭人材会社は業務内容の理解促進やキャリア意識を持った人材育成をし、雇用側は異文化理解を促進し、自治体は長期就労を見据えた生活基盤確保支援に取り組むべき ⑮生活基盤確保は、家族との住居探し・子供の日本語支援・妊娠・出産のサポートが必要だが、多額の費用がかかるわけではない としている。 このうち、⑨⑩については、確かに開発途上国の人にとっては、日本の賃金・待遇はまだ魅力があるが、米国と違って「頑張れば成功する」という“Japan Dream”は描きにくいため、頑張る人にほど「選ばれない日本」に陥る可能性が高い。 しかし、外国人労働者が地域に根付かず都市に流入することについては、都市は賃金が多くても不動産価格や家賃はじめ物価がそれ以上に高いため、⑭⑮については、自治体が県営住宅や市営住宅などの長期就労を見据えた住宅政策を行なえば、i) 育児と就労の両立支援 ii) 妊娠・出産期の支援 iii)乳幼児期の支援 iv)学齢期の支援 v)中等・高等教育の支援 等の子育て支援や医療・介護制度、年金制度等については既に国が整えているため、開発途上国と比較すれば外国人を差別しない限り悪くない筈である。 そして、働いて日本人と同じように税金や社会保険料を支払い、日本社会に貢献もしている外国人を差別する理由は無いため、⑮のように、キャリア形成に資する人材育成をしたり、異文化に対する理解を深めたりすれば、定着率は上がるだろう。なお、⑪の退職理由は、その地域にコミュニティーができ、外国人に対しても公平・公正が守られるようになれば解決するだろうし、⑫⑬の「業務内容が合わない」というのは、リクルートする際に業務内容をしっかり告げ、その後のキャリア形成のルートも示しておけば双方にとって「はずれ」は減る。 2)難民の受け入れについて ![]() すべて2025.6.20難民支援協会 (図の説明:左図は、2024年末時点で世界で移動を強いられた人の数である。また、中央の図は、主な難民受け入れ国で、難民の73%を中低所得国が受け入れている。そして、右図が、難民認定数と申請者に占める認定率の国際比較で、日本は著しく低い) 上の左図のように、2024年末時点で世界で移動を強いられた人の数は1億2,320万人で、中央の図のように、難民の73%をイラン(350万人)・トルコ(290万人)・コロンビア(280万人)・ドイツ(270万人)・ウガンダ(180万人)など、主に中低所得国が受け入れている。 また、右図の日本における難民認定率は2.2%だが、AIの調べでは、2024年の日本に対する難民認定申請者は12,373人(出身国:スリランカ、タイ、トルコ、インド、パキスタン等)、難民認定数は190人(アフガニスタン:102人、ミャンマー:36人、イエメン:18人、パレスチナ:8人、中国:5人)で、難民認定率は約 1.5%(190人/12,373人)であり、この認定率は国際的に見て極めて低いため、先進国としての日本政府の人権侵害に対する意識・日本における難民の定義・難民認定制度の透明性・難民審査の迅速性に疑問が出るわけである。 また、2023年12月に始まった補完的保護制度では、補完的保護対象者認定数1,661人、うちウクライナ出身者1,618人(約97%)であり、難民認定後は、難民認定された本人は「定住者」又は「永住者」として日本に滞在・就労することが可能で就労に制限はないが、その配偶者は「定住者」になれば就労制限はないものの、「家族滞在」のままでは週28時間までのアルバイトしかできない。子どもは、年齢・就学状況により異なり、「家族滞在」又は「定住者」となる。 このように、日本の難民認定制度は、i)審査基準が非公開で、認定・不認定の判断基準が不明確 ii)審査期間が長期で、結論も不確実性が高いため、申請者の生活が不安定になる iii)却下通知に不認定理由の具体的な根拠が示されない iv)独立した第三者による審査制度や監査制度がない など、命を賭けて来日し難民としての認定を申請している外国人に対して、保護よりも排除を優先した不誠実極まりない態度になっているのだ。 しかし、難民政策が「外交・安全保障・国益」と密接に関係して形成されている中、このような島国根性丸出しのスタンスのままでは、日本はODA等で金をいくらばら撒いても尊敬されず、口づてに伝わる日本の評判は決して芳しくならず、外交で負けるのは必然なのである。 なお、日本で難民受け入れ数が少ない理由を、AIに具体的にリストアップしてもらたところ、以下のとおりだった。 1. 認定基準が極めて厳しい ・ 「個別把握論」など日本独自の解釈により、迫害の証明が困難 ・強制労働や集団的迫害が「迫害」と認められないケースが多い 2. 手続きのハードルが高い ・日本語での証拠提出が求められ、翻訳支援が乏しい ・面接の録音・録画がなく、通訳の質が検証できない 3. 政治的意思の不在 ・難民保護より「管理」の視点が強く、積極的な受け入れ政策が打ち出されていない ・難民問題が選挙や政策議論で優先されにくい 4. 国民の理解・関心の不足 ・難民に対する誤解や偏見が根強く、世論調査でも受け入れに慎重な意見が多数 ・難民を「他人事」と捉える傾向がある 5. 制度設計の不備 ・難民認定を入管が担っており、「保護」より「取り締まり」の視点が強い ・独立した審査機関が存在せず、第三者的な判断が困難 6. 支援体制の脆弱さ ・住宅・就業支援が乏しく、自治体やNPOへの依存度が高い ・難民の定住支援(日本語教育・職業訓練など)が限定的 7. 地理的・歴史的要因 ・島国であるため、難民の流入が物理的に少ない ・難民受け入れの歴史が浅く、制度的蓄積が乏しい 8. 偽装申請への懸念 ・就労目的の「偽装難民」申請が増加したため、制度が厳格化された ・その結果、本来の難民保護目的が後退する懸念がある しかし、現生人類であるホモ・サピエンスは、約30万年前にアフリカで発祥し、地球上の世界各地に広がったものである。また、他の土地に移動した目的は、現在と同様、縄張り争いに負けて逃げたり、新天地を求めて積極的に出て行ったりしたものであろう。 そのため、現生人類の殆どがもともとは移民・難民であり、古代や中世の日本でも渡来人・亡命者・難民的存在の人が日本社会に受け入れられ、農業はじめさまざまな新技術を伝えたり、律令体制の成立・仏教文化の発展などに貢献したりしたのだ。つまり、日本人も、もとは単一民族ではなく、難民受け入れの歴史が浅いわけでもないのである。 3)まとめ ← 現在の外国人就労制度は、外国人労働者のキャリア形成と 生活支援サービスの視点が欠落していること イ)外国人は、キャリアが続かず、家族の帯同もできない産業がある 2025年7月現在、特定技能1号から2号への移行が認められている分野は、建設・造船・舶用工業・ビルクリーニング・工業製品製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連)・自動車整備・ 航空・宿泊・農業・漁業・飲食料品製造業・外食業に限られている。 そして、2024年度に追加された新分野の自動車運送業・鉄道(車両整備と軌道保守)・林業(伐採・育林)・木材産業(製材・合板製造)は、2号が未設定であるため移行できないが、特定技能1号を追加した時点で2号も追加しなければ、キャリア形成のルートを示すことができない。また、介護は、国家資格である「介護福祉士」を取得して在留資格「介護」へ移行すれば、家族を呼び寄せたり、永住したりすることも可能だが、どの分野も2号への移行要件は厳しい。 ロ)家事延長系の産業が疎かにされている 最初から特定技能制度に含まれていない分野もあり、その第1は、家事支援(掃除・洗濯・料理等)サービスである。外国人の家事支援サービスは、高度外国人材が帯同した場合や東京都・神奈川県・大阪府等の特区でのみ限定的に認められているが、高すぎない時給で家事支援サービスを充実すれば、施設に収容しなければならない高齢者や生活支援を必要とする高齢者が減り、それと同時に高齢者の生活の質も上がる。また、共働き世帯の家事労働を減らせば、時間的にゆとりが増えるため、1人で抑えていた子の数を増やすことも可能であり、家事支援は絶対に特定技能1号と2号に加えるべきである。 第2は、保育サービスで、「保育士の資格が必要」というのがその理由にされているが、保育所にも保育士以外でもできる仕事は多いため、介護と同様、特定技能1号で保育助手として受け入れ、保育士の国家資格をとったら在留資格「保育」に移行させ、家族を呼び寄せたり、永住したりすることも可能にすればよいだろう。 なお、医療・看護・介護・教育・保育等の人手不足が深刻な分野は、特定技能1号で受け入れて国家資格を取得させる方法もある一方、国家資格の相互承認(ある国で取得した資格や免許を、お互いの国で同等の効力を持つようにする制度)をする方法もある。 国家資格の相互承認をするためには、教育・訓練の質の同等性が必要だが、それは日本の方が高いとは限らないし、日本の方が高い国に対しては、資格の相互承認が質を揃える作業を通じて国際貢献になる。さらに、国際的な人材移動を促進したり、専門職のグローバルな活躍を支援したりするためには、国家資格の相互承認が日本人にとっても重要なのだ。 (3)参議院議員選挙と外国人政策 ![]() 2025.7.20日経新聞 2025.7.9佐賀新聞 2025.7.3 2025.7.6 2025.7.8読売新聞 日経新聞 沖縄タイムス (図の説明:1番左の図は、外国人に関するメディアの偏った報道をきっかけとして流れた誤りの多い言説を元に、各党が真偽を確かめずに決めたお粗末な対応で、2025年7月の参議院議員選挙の期間に、演説として頻繁に放送された。また、左から2番目の図は、この参議院議員選挙における外国人政策に関する各党の公約だが、数少ないケースを敷衍して「外国人全体が悪い」としている点が、統計学を理解しておらず非論理的である。そして、中央の図が社会保障に関する各党の公約だが、高齢化率が上がる中、負担を増やさず給付を充実するには外国人の力が不可欠であることもわかっていない。さらに、右から2番目の図が、賃上げ等に関する各党の公約だが、労働生産性に見合った賃金でなければ日本に競争力はなくなるのである。最後に、1番右の図が、大学に関する各党の公約だが、公務員が人を国籍で差別することは許されない) 1)主な党の参院選公約について *2-1-1は、①自民党の小野寺政調会長が参院選公約発表で「『違法外国人ゼロ』に向けた取り組みを加速化する」と宣言した ②国民民主党の玉木代表も参院選公約で、差別解消を掲げつつ「外国人に対する過度な優遇を見直す」「国の財政が厳しい状況にあるなら、税金はまず自国民に使うのが当然」とした ③参政党は参院選公約で、外国人労働者の受け入れ制限や入国管理強化により「望ましくない迷惑外国人などを排除」と謳う ④論戦の名を借りた排外主義の喧伝が危ぶまれる ⑤師岡弁護士は「『外国人が優遇されている』と主張して日本人と外国人を分断し差別を煽る行為は、「税金で公的ヘイトスピーチを行なっているもので、人種差別撤廃条約とヘイトスピーチ解消法に基づいて公的機関は選挙運動におけるヘイトスピーチを批判すべき」 ⑥ジャーナリストの布施氏は、「『日本で優越的な権利を有した外国人住民がいる』という主張は事実ではない」「優遇されているとして挙げるなら米軍人で、『外国人が増えると治安が悪くなる』との言説も根拠はないが、米兵による事件事故は多発している」 と記載している。 また、*2-1-2は、⑦政府は「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置し、発足式を首相官邸で開いた ⑧石破首相は「ルールを守らない人への厳格な対応や外国人を巡る現下の情勢に十分に対応できていない制度の見直しは政府として取り組むべき重要な課題」と指摘 ⑨首相は出入国在留管理の適正化・社会保険料等の未納防止・土地等の取得を含む国土の適切な利用管理に対処するよう指示 ⑩首相は発足式で「外国人の懸念すべき活動の実態把握や国・自治体における情報基盤の整備、各種制度運用の点検、見直しなどに取り組んでもらいたい」と求めた ⑪新組織発足は政府を挙げて施策を推進する姿勢をアピールする狙いで、過度な規制強化や権利制限に繋がりかねない懸念 ⑫参院選では外国人政策を巡って与野党が規制強化や共生の重視を掲げる ⑬参院選では自民、国民民主、参政各党が規制の強化を訴え、立憲民主党は外国人の人権保護を掲げている と記載している。 今回の参議院議員選挙で外国人政策が浮上したのは、メディアが外国の運転免許を持っている外国人が日本で運転して事故をおこしたことを連日放送したためだが、運転免許も相互承認で認めているものであるため、日本人も外国で運転させてもらっているのである。そのため、日本の交通法規を教え、その理解度を確かめる手順が疎かだったにすぎない。 しかし、日本で不動産を取得する外国人の中には、投資目的で不動産を買って空き屋のままにしている人もいるため、不動産の値段が高騰して住みたい人が住めないという問題が生じたそうだが、日本人にもそういう人はおり、不動産を投資目的で所有すれば儲かるようにしたことが問題の本質である。もちろん、「安全保障上、ここに外国人は住んで欲しくない」という場所もあるが、そういう場所はあらかじめルールを決めておかなければ、罪刑法定主義にならない。 そこで、①については、自民党の政調会長が参院選の公約発表で「『違法外国人ゼロ』に向けた取り組みを加速化する」と宣言したのだから、これは首相の決定と言うよりは自民党の政策決定である。また、②③のように、国民民主党や参政党も参院選公約で誤った理解の下、外国人の管理強化や排除を主張し、今回の参院選ではこの2党が議席を伸ばしたわけである。 そのため、1965年に国連総会で採択され、1995年に日本も批准している人種差別撤廃条約に基づいて、人種・皮膚の色・出身民族等による差別を撤廃し、教育・立法・行政等を通じて差別の根絶を図り、人種差別的な扇動はやめさせるべきである。 また、日本には、2016年6月施行のヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)もあり、国・地方公共団体に対して「本邦外出身者」に対する不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)の解消に向けた取組・啓発・教育などの対応を求めているのに、④⑤⑥のように、事実ではないことを基に論戦の名を借りて排外主義を喧伝したり、参議院議員候補者や応援の国会議員が税金を使ってヘイトスピーチを行なったりしており、そうした方が票を集められる日本人のレベルにも呆れるほかなかった。 しかし、不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)は、セクハラ同様、「表現の自由」にはあたらず、国連人種差別撤廃委員会は日本に対して実効性ある法整備を勧告している上、欧州諸国ではヘイトスピーチに対する刑事罰を導入している国も多いため、日本でも罰則を備えた法律にすべきだ。 そのような中、石破首相は、⑧⑨のように、「ルールを守らない人への厳格な対応をすべき」としているが、外国人の運転免許も不動産投資も、ルールを破って行なっていたわけではないし、外国人労働者の社会保険料等の未納が日本人より多いわけでもない。そのため、「出入国在留管理の適正化」「社会保険料等の未納防止」「土地等の取得を含む国土の適切な利用管理に対処」というのは、根拠もなく飛躍しすぎているのだ。 さらに、⑦⑩⑪の政府が内閣官房に設置した「外国人との秩序ある共生社会推進室」は、(架空のルールを守らない)外国人の懸念すべき活動を防止するためとして過度な規制強化や権利制限を行なうのではなく、現存するルールの人種差別撤廃条約やヘイトスピーチ解消法の違反者に対して罰則をつけることによって、日本社会の支え手となっている外国人との秩序ある共生社会を実現するようにすべきだ。 そうすれば、その議論の過程で、国民に物事の善悪が明確になるため、⑫⑬の今回の参院選のように、外国人政策で規制強化を訴えた政党が議席を増やすのではなく、外国人にも日本人と同じ人権保護を訴えたまっとうな政党が議席を伸ばすことになろう。 2)参院選の結果、「トップに結果責任があるため、引責辞任すべき」と言うのは非論理的 ← 「権限無きところに責任なし」なので、責任は公約や候補者を決めた人にある *2-4-1・*2-4-2は、①自民党は大敗した参院選の結果に関する意見を聞くため、党本部で両院議員懇談会を開催 ②党総裁の石破首相は「自らの責任は総合的・適切に判断したい」「国家や国民に対して決して政治空白を生むことがないよう責任を果たす」と続投を表明 ③首相は「米国との関税交渉合意実行」「農業政策」「社会保障と税の改革」を続ける理由に挙げた ④懇談会では首相に選挙敗北の責任を取って退陣するよう求める「石破おろし」の声が多数 ⑤森山幹事長は総括委員会を設け、8月中に結論を得た上で「自らの責任について明らかにしたい」と話した ⑥首相続投に反対する党所属国会議員は両院議員総会開催を求める署名集めをし、既に総会開催を要求できる1/3以上の署名を確保し、旧茂木派の笹川農林水産副大臣は必要な署名を集めたと述べた ⑦小林元経済安全保障相は「組織のトップとしての責任の取り方についてしっかり考えていただきたい」と退陣を求めた ⑧「政治空白を作るべきでない」と続投を支持する声は少数 ⑨報道各社の世論調査では参院選大敗要因は石破氏より自民党そのものにあるとの見方がある ⑩両院総会の署名集めは旧茂木派・旧安倍派・麻生派が主導したが、旧安倍派は自民党離れに繋がった政治資金問題を引き起こしたため、「反省の色がないのはおかしい」との声も としている。 選挙前のメディアは、衆議院解散や参議院議員選挙に関する報道が多く、選挙後は「与党が過半数に達しなかったため、石破首相が引責辞任すべき」ということばかり報道し続けており、メディアは選挙や勢力争いが好きなだけで、政策内容はよく理解していないように見える。これには、自民党の部会でメディアに頭取りだけをさせて、議論しているところは見せないことが影響しているため、時々は議論の全過程を見せることが必要だと思われる。 では、⑦の「選挙に負けたから組織のトップが責任をとるべき」という主張は正しいのかと言えば、世界的には、法的・契約的責任などがある場合に責任をとることは正しいが、そうでない場合はトップが引責辞任をして「けじめ」をつけたとし、原因を曖昧にすることで他の関係者を不問に付すことは、むしろ根本的解決を遠のかせると考えられる。 にもかかわらず、日本ではトップの引責辞任が潔いかのように美化されるが、その理由は、i) 1582年に羽柴秀吉と毛利氏が闘った備中高松城の戦いで水攻めをされた毛利方の清水宗治が自刃して講和した武士道に基づく美談がある ii)第2次世界大戦後の日本でもリーダーが戦犯として裁かれただけで、開戦の空気を作ったメディアやその空気に流された国民は戦争責任を問われず、むしろ責任が曖昧にされたことが美化された などである。しかし、そのため、現在でも、同じ構造が残っているのだ。 そして、「自らを正当化するためには、国民を犠牲にしても良い」と考える官の発想は、今回の参院選でも各党の公約に散見され、そういう政策こそが、①の自民党大敗と立憲民主党の伸び悩みの原因である。そのため、②③のように、石破首相が政治空白を作らず、「米国との関税交渉合意実行」「農業政策」「社会保障と税の改革」を続けたとしても、また、⑩のように首相が旧茂木派・旧安倍派・麻生派出身者に交代したとしても、政策立案を官に依存して国民不在の政策を実行している限り、普通に選挙すれば負けるのが当然なのだ。 従って、④⑥のように、両院議員総会を開催して「石破おろし」をしようと、⑤のように、森山幹事長が総括委員会の後に引責辞任しようと、表紙と目次を変えれば本の中身(=政策の内容)が変わるわけではないため、⑨のように、世論調査では「参院選大敗要因は石破氏より自民党そのものにある」と見抜かれているし、⑧のように、事情がわかっている少数のベテラン議員が「むしろ政治空白を作るべきではない」と石破首相の続投を支持しているのである。 3)外国人との共生が不可欠な理由 ![]() 2025.7.23日経新聞 2025.7.31日経新聞 (図の説明:左図が、各年の在留外国人数で、中央と右の図が、*2-2-1に書かれている経済学者へのアンケート結果である) *2-2-1は、①経済学者の66%が「外国人増加が財政収支の改善に寄与する」と回答 ②財政改善の理由は、若年層(20代・30代)が在留外国人の55.9%を占め、勤労世代が中心で、税収・社会保険料収入の増加に繋がり、現時点では給付より保険料と税の負担が上回るため ③労働市場では、建設・運輸などで人手不足を補完し、モノ・サービスの供給不足や価格上昇の抑制に寄与しつつ、日本人との雇用競合は限定的・補完的 ④多様な価値観や考え方が生産性の向上に繋がる ⑤経済学者の76%が「在留外国人の増加が平均的な日本人の生活水準向上に寄与する」と回答 ⑥外国人の定住・高齢化を見据えた子弟への教育・高齢期の給付等の十分な対応が必要 ⑦現在、日本の外国生まれの人口は日本では3%とOECD平均の11%を大きく下回る 等としている。 また、*2-2-2は、⑧人口減少下の日本は外国人の力を借りなければ人手不足で社会機能を維持することも困難 ⑨政府が「移民は受け入れない」という建前を維持しつつ、外国人受け入れを拡大してきたことが矛盾 ⑩その建前を排して外国人の社会統合を真剣に考えるべき ⑪参院選の終盤、政府は「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置したが、国はこれまで外国人政策を自治体任せにし、本気で取り組んでこなかった ⑫日本の社会制度の多くが外国人を想定しておらず制度設計が不十分 ⑬定住を前提とした移民と認めず、一時的な滞在者との位置づけでは共生にも力が入らない ⑭制度の透明性と分かりやすさが社会統合の質を高める ⑮留学生支援も知日派育成の戦略として重要 等としている。 このうち①の「経済学者の66%が「外国人増加が財政収支の改善に寄与する」と回答した理由は、②③⑧のように、現在は勤労世代が中心で税収・社会保険料収入が給付より多く、建設・運輸等の人手不足で供給不足を起こして社会機能を維持すら困難になっている財やサービスの供給を増やして価格上昇の抑制に寄与すること、日本人との雇用競合は限定的・補完的であること などである。 また、⑤の経済学者の76%が「在留外国人の増加が平均的な日本人の生活水準向上に寄与する」と回答した理由は、④のように、多様な価値観や考え方が生産性の向上に繋がるからである。これは、*2-3のように、日本に来た渡来人が鉄器や稲作などを伝えて技術革新を起こしたことによって、日本で人口増が起こったことが既に歴史で証明されているわけだが、*2-3の研究のうちキビやアワは少し乾燥した山間部や寒冷地に適しているため北部九州の土器には確認されず、高温多湿で水稲に適していた九州では稲作が普及したのだ。 つまり、現在も起こっていることだが、外国人の増加によって食文化も多様で豊かになり、多様な価値観や文化の流入とよい方向への取捨選択が、生産性を向上させて日本を豊かするのである。そのため、⑥⑨⑩のように、「移民は受け入れない」などという建前は排して外国人の社会統合を目指し、外国人の定住・高齢化を見据えた十分な対応を行うべきだ。 国は、⑬のように、「定住を前提とした移民は受け入れない」という建前から、⑪のように、外国人政策に本気で取り組んでこなかったため、日本の社会制度の多くが、⑫のように、外国人を想定しておらず、制度設計が不十分である。政府は、参院選の終盤、「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置したが、一時的な滞在者との位置づけでは共生に力が入らないため、⑭のように、制度の透明性と分かりやすさで社会統合の質を高める必要がある。 さらに、⑮のように、留学生や母国に帰還する外国人も知日派・親日派予備軍であるため、粗末にせず育成することが重要だ。現在、欧米では、移民・難民の急増、異なる宗教・習慣・言語などによる文化的摩擦、国境管理、選挙戦略として移民排斥などがかまびすしいが、⑦のように、現在の日本では、外国生まれの人口は3%とOECD平均の11%を大きく下回るため、そのような心配は周回遅れである上、日本は国境管理が比較的容易で、懸念事項についても平等の理念の下で対応が可能なのである。 (4)地方創生とそれに不可欠な外国人労働力 *3-1は、①東京圏への人口の過度な集中是正は不十分 ②東京圏は進学・就職を契機に全国から若者を集める ③基本構想は、東京への転入を止めるのは難しいとして地方の魅力を高めて地方に転出する若者の流れを倍にする目標を掲げたが、これで均衡にできる保証はない ④地方は若者、特に若い女性が働きたくなる場所が少ない ⑤東京から地方への転出増には若者らが仕事を通じて自己実現できる魅力的な職場を地方に増やすことが前提 ⑥石破政権が東京一極集中是正を掲げ続けるなら、まず中央省庁の一部や関係機関を地方に移転させるべき ⑦大胆な税制優遇策を導入して企業の本社移転を促す ⑧地方の居住者もリモートワークによって東京の企業でもっと働けるようにする ⑨基本構想の目玉は、仕事や趣味を通じて居住地以外の地域に継続的に関わる人を「ふるさと住民」として登録する制度の創設で、これでは地方の賑わいや人口増には直結しないため、地方創生2・0も石破政権の政治的なアピールの道具に終わる恐れ ⑩地方税収に占める東京都と東京23区の割合は上昇傾向が続き、豊かな財政を生かして手厚い子育て支援・高校授業料実質無償化等を進めて周りの県からの移住も促す ⑪東京都の独り勝ちは、首都直下地震といった災害への脆弱性を高め、地方の持続可能性も損なう ⑫国土の均衡ある発展のため東京都の豊かな税収の一部を他の自治体にさらに回すことなども議論すべき ⑬専門人材不足で道路、上下水道の管理・更新、介護、保険等の行政サービスを1市町村だけでは実施できなくなり、今後は複数の市町村が共同で実施するか、都道府県が市町村を支援する仕組みの整備が不可欠 ⑭地方自治の充実のため、住民に一番近い市町村に権限を移す地方分権が進められてきたが、今後も職員不足が深刻化する状況で、市町村から都道府県に権限を移すことも考えざるを得ない 等と記載している。 また、*3-2は、⑮自民党は、2014年年末の衆院選公約の柱の1つに「地方が主役の『地方創生』」を明示し、「人口減少に歯止めをかける」と訴えた ⑯自民党は選挙の度に「地方創生」を掲げ、地域の活性化を軸に支持を集めたが、成果は全く見えない ⑰2024年に生まれた日本人の子の数は、統計開始以降初の70万人割れで、女性1人が生涯に産む子の推定人数は過去最低を更新した ⑱多死時代に入って、人口は2024年だけで約92万人減 ⑲与党政権が地方創生、人口減に歯止めといくら連呼しても、反転の兆しすらない ⑳地方の人口減少は加速し、ヒト・モノ・カネの東京一極集中が進む ㉑立憲民主党は、少子化、人口減少、東京一極集中の流れを止め、国に人口戦略を総合的に推進する体制を整えると主張 ㉒体制の必要性は理解できるが、止めることは不可能 ㉓この参院選で人口減を前提に行政サービスをどう維持するか、地域社会をどう守るか議論すべき ㉔石破政権は「地方創生2・0」の実現を掲げ、関係人口、交流人口を拡大させ若者・女性にも選ばれる地域づくりを進めるのが目玉だが新味に欠ける ㉕自民党の公約・総合政策集を見ても地方創生失敗の反省はなく、人口減社会への対応策を羅列するに留まるが、政権与党として骨太の地方政策を示す責任がある ㉖国民民主党は大都市圏への人口集中是正策として「移住促進・UIJターン促進税制」創設、リモート勤務者支援等の地方への移住・企業移転を促す税制を提案 ㉗人や企業が地方に移る方が、東京にいるより支払う税金が少なくて済むといった打開策をさらに検討すべき ㉘東京への集中は災害時のリスクも高めるため、石破政権が防災庁設置などで「災害に強い日本」を実現すると言うのなら、一極集中是正に本気で取り組むべき ㉙日本維新の会は、公約で災害発生時に首都中枢機能を代替できる「副首都」を大阪に作り、多極型社会への移行を目指すと提案 ㉚多極的国土構造は社会の維持のため不可欠で、人口や産業、行政サービスの適正な配置について国民的議論を始める時 等と記載している。 さらに、*3-3は、㉛青森市で7月23日開催された全国知事会議は、人口減対策に最優先で取り組むよう国に求める提言を纏め、総合的対策を展開するための民間企業も巻き込んだ国民的運動推進や庁レベルの「司令塔」設置を要望 ㉜外国人政策を巡り、多文化共生の推進も訴え ㉝人口減対策に関する提言では、女性や若者の意見を取り入れ、働き易く子育てし易い環境を整備することや税制改正等を通じて企業・大学の地方分散を推進することも求めた ㉞知事会としても経済界を巻き込む形で結婚支援策を検討する方針を確認 ㉟外国人政策を巡っては「国は労働者としてしか見ていないが、自治体は生活者として受け入れている」といった意見が相次いだ ㊱外国人の受け入れや定着のために、教育などの環境整備に国が責任を持つよう提言 ㊲地方税財政については、参院選で消費税減税を訴える政党が伸長した影響も議論 ㊳徳島県の後藤田知事は「持続可能な社会保障制度の維持が非常に不安定化している」という危機感を表明 ㊴東京一極集中による地方税の偏在の是正を訴える声も多く上がった 等としている。 1)東京一極集中の是正には首都移転しかないこと 東京に一極集中した理由は、i)徳川幕府が江戸に幕府を置き、明治時代に首都が京都から東京に移され、政治・行政機関が東京に集約されて、国家予算・政策決定が東京中心になった歴史があること ii)そのため、次第に東京に大企業の本社や金融機関が東京に集中し、企業間連携や取引も容易になって、雇用や投資も東京に集まったこと iii)有名大学・研究機関も東京に集中したため、東京に進学先・就職先が多くなったこと iv)その結果、交通網・医療・娯楽・文化施設等も充実し、生活の利便性の高い情報・文化の発信地になったこと v)これにより、若者の進学・定住が加速し、高学歴・高スキルの人材が東京に集まって地方は人口減・空洞化が進んだこと 等である。 そのような中、⑥⑧⑨㉔の「中央省庁の一部や関係機関を地方移転」「地方の居住者がリモートワークで東京の企業で働けるようにする」「居住地以外の地域に継続的に関わる関係人口を増やす」等の部分的移転は、不便や非効率が増すだけで、東京を中心として廻っているサイクルを本質的に解決することはできない。 そのため、「政治・行政→インフラ→経済・文化→教育」等の首都機能の全面的移転と一貫した首都の設計が必要なのであり、それがないことが、⑯のように成果が出ない理由なのである。 従って、⑦⑩⑫㉗のような「大胆な優遇策で企業の本社移転を促す」「地方税収に占める東京都と東京23区の割合は上昇傾向が続く」「国土の均衡ある発展のため東京都の税収の一部を他の自治体に回す」「人や企業が地方に移る方が、東京にいるより税金を安くする」等も、既にあるパイの分配を少し変えるだけの弥縫策にすぎず、国民の生活を豊かにするものではないため、効果が乏しく、持続可能でもないだろう。 しかし、⑪㉘のように、首都直下地震という災害への対応を怠っては、国の持続可能性すら危ういため、上のi)~v)のサイクルを変えるためには、㉙のような大阪での副首都建設というコストばかりかかる対策ではなく、首都移転が効果的だと、私は考える。 海外では、近年、タンザニアが1996年にダル・エス・サラームから国の地理的中心地ドドマに首都を移転し、カザフスタンが地震リスクの回避と政治的安定のために1997年にアルマトイからアスタナへ首都移転した。さらに、マレーシアが行政の効率化とIT政府構想のために、1999年に、クアラルンプールからプトラジャヤへ首都移転し、インドネシアは首都の過密化・環境問題・ジャカルタの水没危機等への対応のために、2024年以降にジャカルタからヌサンタラに首都を移転する予定であり、第2次世界大戦後に首都移転を決めた国だけでも、少なくとも15か国以上ある。 このうち、首都の過密化・環境問題・地震リスクの回避・水没危機への対応・行政の効率化・IT政府構想・地理的中心地という要素は、日本にもそのまま当てはまる。そして、東京一極集中是正・災害対応力強化・地域の自立促進・政治行政システムの再構築を目的として、1992年には、「国会等の移転に関する法律」が制定されて既に首都移転が議論され、1999年には、国会等移転審議会が栃木・福島地域、岐阜・愛知地域、三重・畿央地域を候補地として選定していたのだ。 しかし、現在であれば、イ)顕著になった地球温暖化に対応するため、高原の涼しい場所が省エネで住み易い場所になったこと ロ)長野県駅付近の地盤は比較的安定し、津波や火山災害のリスクも低いこと ハ)南アルプスの眺望や自然環境が美しいこと 二)大阪・京都・名古屋等と比較して地価が安いため、コストを抑えて広い面積を再開発できること ホ)山地で地下建造物も作り易いこと へ)日本の中央部に位置すること ト)リニア中央新幹線で東京から長野県駅まで約40分になること チ)データや文書の保管に適していること 等々の理由で、リニア新幹線の「長野県駅」を下伊那郡などの広域を含む呼称である「南信州駅」として、新首都をそこに決めるのが良いと思う。 2)東京圏への人口集中が止まらない理由 1)のi)~v)の理由で、①②③のように、東京圏に進学・就職のため全国から若者が集まるため、東京への若者の転入を止めるのは難しく、このままでは流入と流出を均衡にできないため、東京圏への人口の過度な集中是正もできない。 また、④⑤のように、地方は若者や特に若い女性が働きたくなる場所が少なく、東京から地方への転出が増えるためには、若者らが仕事を通じて自己実現できる魅力的な職場を地方に増やすことが、確かに必要である。しかし、これを主張すメディアや政党の公約でさえ「女は子どもを産む機械」と言わんばかりのジェンダーに満ちた発想を前提にして物を言っているのだ。 その例は、⑮⑰㉕のように、「女性1人が生涯に産む子の推定人数は過去最低を更新したことが問題である」として自民党が2014年年末の衆院選公約の柱の1つに「人口減少に歯止めをかけることを目的として地方が主役の『地方創生』」を示したり、㉑のように、立憲民主党が少子化・人口減少・東京一極集中の流れを止めて国に人口戦略を総合的に推進する体制を整えると主張したり、㉛のように、青森市開催の全国知事会議が人口減対策に最優先で取り組むよう国に求めたりしていることで、これでは、地方に女性が仕事で自己実現できるような働きたくなる場所が増えないのは当然のことなのだ。 つまり、⑮⑰㉕㉛のように、「人口減が問題だから、生涯に産む子の数を増やせ」とか、㉞のように、「知事会が結婚を推奨する」などというのは、「仕事を通して自己実現したい」と考える女性の自由な選択や生き方を否定する暴力的な発言であり、「女性は、結婚(=家庭責任)・育児・介護で十分に働けない」「女性は昇進に消極的」などという前提が制度設計に組み込まれることで、実際には育児・介護をしておらず昇進に積極的な女性でも、「女性は昇進に不適」と看做されて選択肢を狭められるのである。そして、この手の干渉は周囲との関係が密な地方ほど大きく、これが女性が地方に留まらず、周囲からの古くさい干渉の少ない都市に集まりたがる原因でもあるのだ。 このように、男女雇用機会均等法の理念は、地方に行くほど未だ浸透しておらず、地方自治体は女性職員の採用が進んでも管理職登用は低水準で、女性議員の比率も地方ほど低く、女性議員や女性職員は発言権を持ちにくく、意思決定の場で孤立することさえあって、未だに根強く残る性別役割分業による構造的・文化的障壁があることを、女性は知っていて嫌っているのだ。 そのため、女性を地方に残したいのであれば、まず女性を「産む性」としてのみ捉えるのではなく、女性が男性と同様に敬意をもって扱われ、政治や社会の意思決定の場で遠慮無く発言できるジェンダー平等となる文化や意識構造の再構築が必要なのである。 3)人口減は必然であり、解決可能であること 人口減の問題を声高に主張する人は、⑱⑲⑳㉒のように、「多死時代に入って人口が2024年だけで約92万人減少した」「与党政権が人口減に歯止めといくら連呼しても反転の兆しがない」「地方の人口減少が加速してヒト・モノ・カネの東京一極集中が進む」等と、人口減そのものを問題にしているが、戦後のベビーブームで子どもの数が一気に増えて、1990年代までは「子どもの数は2人まで」という家族計画を推奨していたのだから、日本の人口ピラミッドが坪型になるのは60年前からわかっていたことだ。また、そうでなければ雇用の維持もできなかった。 にもかかわらず、「不動産価格が高くて狭い家にしか住めない」「食料・エネルギーの自給率が低い」等の問題を抱えながら、「人口減少が問題」「不景気だから財政出動が必要」などと主張している人は、同一人物の中で矛盾だらけだ。 そのため、㉝のように、人口減対策に関する提言で、「女性や若者の意見を取り入れ、働き易く子育てし易い環境を整備する」としているのは、「子育てし易いように、非正規やリモートワークなどの多様な働き方ができるようにする」ではなく、「やり甲斐を持って、堂々と仕事ができる魅力的な環境を整備する」に変更した方が良い。また、誰でも年をとるのだから、若者しか見ていない国や地域には住めない。 また、地方における人口減の問題として、⑬⑭㉓のように、「人材不足で道路、上下水道の管理・更新、介護、保険等の行政サービスを1市町村だけでは実施できず、複数の市町村が共同で実施するか、都道府県が市町村を支援する仕組みが不可欠」「この参院選で人口減を前提に行政サービスをどう維持するか、地域社会をどう守るか議論すべき」については、複数の市町村が合理的な範囲で連携や合併すれば済むことである。 そして、これは、30年前の1990年代に行なわれた「三位一体の改革」のうち行政体制の再編と効率化で既に議論したことで、職員不足は広域連携・共同処理・民間委託・応援職員派遣等で解決することになっていたため、将来を見据えてこれらの問題に取り組んでいたのかを、むしろ聞きたい。 なお、㉖のように、国民民主党も大都市圏への人口集中是正策として移住促進・UIJターン促進税制創設・リモート勤務者支援など地方への移住や企業移転を促す税制を提案しているが、(4)1)に書いたとおり、東京への集中は、「政治・行政→インフラ→経済・文化→教育・研究」という循環が歴史的背景を持って有機的に成立しているため、補助金や減税くらいではコストの割に効果が限られるのである。 そのため、私は、リニア新幹線の「長野県駅」付近への首都移転を提案したわけだが、もちろん、㉚のように、多極的で分散型の国土構造を作ることは社会の維持のため不可欠である。その時に、ITを駆使して政府の二重ワークをなくし、AIを使って分散型でも高度なサービスを提供できるようにすれば、地方に住むことはメリットの方が多くてディメリットが少なくなるため、特定の地域に集中しすぎるということはなくなるだろう。 4)人口減解決のKeyは、外国人労働者と難民を含む移民である 首都移転を決め、政治や行政を移転するためには、首都の建設が必要になるが、今度こそ、最初から道路を広くとり、緑の多い自然豊かな町並みにして、21世紀型の交通インフラを張り巡らせなければならない。そのため、既に開発が進んだ現在の“都会”はむしろやりにくいのである。 政治や行政を移転すれば、大企業や金融機関の本社(大きい必要は無い)が集まってきて、お互いの情報交換が容易になるため、経済の要になり、投資が行なわれて雇用も生まれる。この時に、自然が素晴らしい新天地に一流の教育施設や研究施設を集めれば、文字通り「Japan Valley(JPN Valley)」もしくは「Shinsyu Valley」と呼ばれる最先端の都市を造れるだろう。 しかし、新首都を建設して必要な施設を作ったり、松本空港を拡張したり、リニア建設を急いだりするには、リーズナブルな賃金の労働力を多く必要とするため、日本人だけでなく、外国人労働者や難民などの移民の力も必要になる。 なお、外国人政策について、全国知事会議は、㉜㉟㊱のように、「国は労働者としてしか見ていないが、自治体は生活者として受け入れている」「外国人の受け入れや定着のために、教育などの環境整備に国が責任を持つよう提言した」「多文化共生の推進も訴えた」としているが、高齢化が進んで労働力不足に悩んでいる地方や産業にとって、解決のKeyは外国人労働者と難民を含む移民であるため、尤もなことである。 徳島県の後藤田知事は、㊳のように、持続可能な社会保障制度の維持が不安定化していることに危機感を持っておられるが、看護・介護・保育・家事支援など労働力不足がネックになっている産業は、リーズナブルな賃金で働いてくれる労働力が必要不可欠だ。また、これらは女性が担うことの多い職種であるため、移民夫妻の場合なら妻の仕事として有望である。 このように、外国人労働力を活用してその地方の産業を進展させれば、㊴の税の偏在はかなり是正される。また、㊲の地方税財政のうち消費税減税については、最初は付加価値税(企業が負担)を導入しようとしたが、経済界の反対で消費税(消費者である個人が負担)になってしまったものである。しかし、その2税の違いを書くと長くなるため、またの機会に譲る。 (5)地方の仕事・日本人のレベル・日本の低成長理由 ← 地方に仕事を通じて自己実現できる魅力的な産業を創るべき 1)自己実現に繋がる仕事の条件 入社した時や事業を開始した時からすべて満たされるというわけにはいかないが、自己実現に繋がる仕事の条件をAIにリストアップさせた後、私が整理したものが下である。 イ)個人の成長と能力発揮が可能 ・継続的教育の機会(教育・研修・キャリアパス) ・創造性・判断力・主体性発揮可能な業務 ロ)社会的意義と貢献の実感 ・社会課題解決や地域・人々への貢献実感 ・利用者・顧客との関係で感謝や評価を獲得 ・公共性・倫理性が高く、誇りを持てる ハ)働きがいと報酬 ・適正な報酬と安定した雇用形態 ・心身の健康を守れる環境 ニ)働くことの文化的・精神的価値 ・伝統・文化の継承と革新に関与可能 ・自己の価値観や人生観と調和 ・「生き方」「表現」として位置づけ可能 ホ)制度的支援 ・職能評価・昇進・異動等が透明・公正 ・業界全体として持続可能性・革新性を追求 2)それでは、地方の産業である農業を魅力的な産業にするには、どうすればよいか ![]() 季刊 大林 Agli Food NARO (図の説明:左図は、大林組が作成したスマート農業システムで、中央の図が、実際にスマート農機を使って農作業をしている様子だ。また、右図は、耕作放棄地に肉牛を放牧して20日後には農業を開始できる状態になった状況である) 1)のイ)の「個人の成長と能力発揮」については、ICT・スマート農業の導入による技術革新や多様な職能(経営・販売・観光・教育)を統合した職域設計が挙げられる。 また、ロ)の「社会的意義と貢献の実感」には、国民の暮らしを支えている誇りを実感できることがあるだろう。 さらに、ハ)の「働きがいと報酬」については、6次産業化・直販・ブランド化・再エネ電力の販売等による農業収益の改善や季節労働・繁閑差への対応による収入の安定化がKeyであり、それには地域間連携による人材の循環や研修制度の充実、地域産業とのネットワーク構築が考えられる。 そして、二)の働くことの文化的・精神的価値には、「自然を守りながら自然と共に生き、イノベーションにも携われる」ということが挙げられそうだ。 なお、農業には、女性・外国人・若者・高齢者・障がい者が、その長所を活かして容易に活躍できる素地がある。そのため、国がキャリアを継続して永住可能な特定技能制度を整備し、地方自治体が住居・教育等の生活基盤を整備して、農業を従来の3K「きつい、汚い、危険」で「低賃金・補助金なしでは成り立たない」仕事から、新3K「感動・かっこいい・稼げる」と3Y「やりがい・役立つ・夢がある」仕事に変えられることも重要である。 このような中、*4-4-1は、①コメ不足と価格高騰が消費者に不安を与え、随意契約の政府備蓄米放出で落ち着いたが対症療法 ②農家・消費者の双方が安心できるコメ政策必要 ③転作奨励金等を見直して増産に転換し、農家の所得安定と両立させるべき ④米価高騰で「コメの生産量が足りない」という疑念 ⑤「訪日客による外食産業の需要拡大で消費量は減っていない」との指摘 ⑥卸売業者が何重にも関与する流通過程での価格水準不明確 ⑦生産者の自家消費や知人らに配る縁故米の把握できず ⑧石破首相はコメ輸出の拡大を念頭に「増産にかじを切る」と強調 ⑨これまで農政は生産量を抑えて価格維持する手法で、減反政策終了後も人口減によるコメ消費減を見越して飼料米・加工米への転換を促した ⑩立民は水田2.3千円/a、国民は稲作農家に1.5千円/a支給を唱え ⑪支援が農地集約や大規模化の動きを妨げる ⑫農業の担い手は急ピッチで高齢化、担い手不足の深刻化に歯止めをかける対策も必要 ⑬自民党は土地改良・農地集約、デジタル技術導入のため、思い切った予算を確保すると公約 ⑭立民は就農支援資金を10倍に拡充して都市部からの移住を後押ししようとする ⑮国民は若者の新規参入を促すため直接支払制度に「青年農業者加算」を設け、兼業農家も支援対象に ⑯コメ増産や農家所得を支える財源も課題 ⑰農政改革に伴う農業予算の組み替えや洗い直しを検討すべき ⑱日本維新の会は「ミニマムアクセス」の枠外で輸入するコメの関税を時限的に引き下げると訴え ⑲政府はコメ輸出拡大を目標にするが農産物の海外販路開拓は簡単ではなく、良い品質のコメを決められた時期に契約通り出荷することを輸出先から求められる と記載している。 このうち⑨の生産量を抑えて価格を維持する政策は、国際価格より高い分だけ消費者に負担を強いている上、輸出しようにも国際競争力がないという問題を生んでいる。しかし、⑩の水田や稲作農家に1.5~2.3千円/aを支給するやり方では、⑪のように、農地集約や大規模化の動きを妨げる結果、日本の農業全体が低収益・非効率なまま停滞する上に、⑯のように、コメ増産や農家所得を支える財源が問題である。 また、国から補助金を貰わなければ成り立たないような仕事に、新3K「感動・かっこいい・稼げる」は見いだせないため、⑭⑮のように、就農支援資金を10倍にしても、都市部から移住して農業に新規参入したい若者は限られる。つまり、農協や行政による管理が強くて経営の自由度が低い現在の農業は、自由市場で工夫次第で稼げる産業として成長しにくいため、3Y「やりがい・役立つ・夢がある」の達成も難しいのだ。 そして、これが、⑫のように、若者の農業参入が少なく、農業の担い手の高齢化が進んだ原因であるため、⑬⑰のように、土地改良・農地集約、デジタル技術導入のための予算に農業予算を組み替え、農業改革を進めることが重要なのである。 その農業改革には、⑥のように何重にも卸売業者が関与する人材及びコストの無駄を省くため、規模小売店等が農業法人を作って自らのブランドで米その他の作物を作って加工や販売を行なうのが、資本力・販売戦略があって国際競争力がついて、⑧⑲の問題が解決する。さらに、関係する製造業・サービス業が農業法人を作って従業員を農業に従事させると、実際に農作業をしながら必要な機器を考えたり、疲れた従業員をリフレッシュさせたりもできるので一石二鳥だ。 そのため、⑱のように、日本維新の会が「ミニマムアクセス」の枠外で輸入するコメの関税を時限的に引き下げると訴えたことについて、私もこれが良いと思う。本来なら1993年にGATTウルグアイ・ラウンドの農業合意によって日本はコメの輸入自由化を受け入れ、1995年には食管法が廃止され、それから30年も経過しているため、現在は関税0%でもおかしくないのである。そのため、現在の日本の農業者(基幹的農業従事者)の平均年齢が約69.2歳で65歳以上の割合が70%以上であることを考慮しても、今後10年かけて段階的に0%にすれば十分である。 なお、①のように、コメ不足でコメの価格が2倍以上に高騰すれば、日頃はおとなしい消費者も怒りを覚えてコメの消費を減らすので、随意契約で政府備蓄米を放出したのはひとまず良かったが、コメだけ食べて必要な栄養素がとれるわけでもないのに、②③のように、「農家・消費者の双方が安心できるコメ政策のためコメのみを優遇して農家の所得を安定させよう」と考えるのは、いくら何でも勉強不足すぎる。 また、④⑤⑦のように、農協や行政による管理は、予算や補助金の獲得に専念しており、本当に考えるべき要素が抜けすぎているため、早急に止めて情報提供・生産支援・販売支援へのバックアップに留めるのが良い。 3)地方の有望産業である林業は魅力的な産業にできるか ![]() ドローンBiz 2018.8.6日経新聞 Forest Journal (図の説明:左図は、林業を成長産業化させるための森林管理のサイクルを示したもので、中央の図が、航空レーザー・ドローン・衛星画像を使ったスマート林業のイメージだ。そして、右図が、林業用ハーベスターを使用して伐採している様子である) 日本は、国土の約66%(国土面積:約3,780万ha、森林面積:約2,500万ha)が森林で、トドマツ・エゾマツが豊富な北海道約8〜9億m³、スギ・カラマツ中心の岩手県約4〜5億m³、カラマツ・ヒノキ・スギ等の多様な樹種がある長野県約4〜4.5億m³、ヒノキ・スギの人工林が多い岐阜県約3〜3.5億m³、スギ・ヒノキ中心の高知県約3〜3.5億m³、スギの蓄積が多い熊本県約3.5〜4億m³など、北海道・東北・中部山岳地帯・四国・九州は、森林面積も伐採可能な木材の蓄積量も高水準である(林野庁の統計ページ 、 e-Statの都道府県別統計 参照)。 そのため、国産材の活用は地域経済の再生に有効なのだが、現在の日本は、伐採可能な段階に達した人工林の蓄積量が約33億m³(2017年時点)で、年間木材使用量は約7,000万m³程度であるにもかかわらず、木材自給率は約35.8%(2022年)にすぎず、豊富な木材資源があるのに外材依存が続いている状況だ。 これまで国産材が使われてこなかった理由は、i)コストの高さ:伐採に道づくりから始めるため、運搬・加工に多額の費用がかかったこと ii)若者の就業忌避:収益性・安全性・社会的評価の低さが原因で、林業従事者の高齢化と担い手不足が進んだこと iii)外材との価格競争で敗北:円高と輸入自由化によって安価な外国産材に市場を奪われたこと iv)流通の非効率と加工インフラの不足 v)生活者のニーズ(都市型住まい・価格・デザイン)とのずれ 等が原因である。 一方、フィンランドは、国土の約70%が森林で森林資源を国家戦略の柱に位置づけており、バイオ製品・バイオマテリアルへの転換で木材の付加価値を最大化したり、森林のデジタル管理で持続可能な伐採を実現したり、森林所有者を組織化して森林組合による情報提供やマッチング支援を活発に行なったりしている。 また、スウェーデンは、高収益で持続可能な林業をめざして適切な伐採と植林により持続性を確保し、林業を外貨獲得産業として位置付けることによって、年間100億ドル以上の外貨収入を得たり、林業用ハーベスター導入や廃材のバイオマス活用を行なったりしている。 さらに、オーストリアは、効率化と規模の経済を追求し、所有林の集約化によって効率的な森林整備と運搬を実現し、大型製材工場の整備(年間50万㎥以上)で木材供給を安定化し、森林整備と運搬の一体化で作業効率と収益性を向上させたりしている。 そのため、海外の好事例からの日本への示唆は、森林所有者の協力で所有林を集約・大規模化し、航空レーザー・ドローン・衛星画像を使ったスマート管理を行い、林業用ハーベスターを使用して作業を効率化し、工業製品化された安価な木材製品を増やし、流通の無駄をなくして、収穫した木材を高付加価値で使うことである。そうすれば、林業もまた、新3K「感動・かっこいい・稼げる」と3Y「やりがい・役立つ・夢がある」の仕事に変えられるのだ。 なお、私はマンションに住んでいるため、日本家具よりも北欧家具や北欧カーテンの方が部屋にマッチするのだが、北欧では、女性が高い割合で社会の意思決定する立場に進出しているためか、生活者の視点で、住まいの質を高めたり、家具や建材のデザインを決めたりしているように見える。つまり、日本と違って、制度や教育が、デザイン性や創造性を備えた工業製品化を後押ししているわけである。 このような中、*4-4-2は、①長野県林業大学校はドローン操作実習等の新カリキュラムを2026年度から導入 ②林業は人手不足や従事者の高齢化が深刻で、機械化による生産性向上が急務 ③スマート林業や林業経営を習得する新たなカリキュラムで多様な学びのニーズに対応し、即戦力を求める産業界の需要に応える ④新設するのは企業経営と高所作業の2科目で、ほかにスマート林業への対応で林業機械学等の実習を強化 ⑤実習を通じてドローン操作は国家資格の二等無人航空機操縦士を取得できるようにする ⑥進路に応じて2年次でのコースを選択できるよう再編し、マネジメントコースとスペシャリストコースを設ける としている。 林業に使う最新技術は、林野庁・大学・民間企業が連携して開発・実証を進めている下のようなものがあるため、林業大学校は、森林科学・育林技術だけでなく、最新の機器を使いこなせるかっこよくて役に立つ卒業生を輩出しなければならない。 A)センサー測定技術: ・ドローンによるレーザー計測:森林の地形・樹高・蓄積量を高精度で把握 ・地上レーザー(LiDAR):GNSSが届かない急斜面でも3D地形データ取得 ・スマートチェンソー:GPS・加速度・ジャイロセンサー搭載で作業状況を記録 B) 機械・ロボティクス ・ラジコン式伐倒作業車「ラプトル」:急傾斜地での伐倒・搬出を遠隔操作 ・自動走行フォワーダ:搬出作業の自動化で省力化 ・ロボットアームによる伐採:危険作業の代替手段として注目 C) AI・デジタル技術 ・AI地形解析:最適な作業路網を自動設計 ・森林クラウド:森林情報のデジタル管理・共有 ・ブロックチェーン・トレーサビリティ:木材の合法性やCO₂吸収量などの情報を可視化 D) ドローン活用 ・苗木運搬・播種:1時間で500本運搬、10aあたり6分で播種可能 ・Swarm Drone(群制御):峡谷地形でも自律飛行 そのため、①~⑤のように、長野県林業大学校がスマート林業や林業経営を習得する新たなカリキュラムで多様な学びのニーズに対応し、即戦力を求める産業界の需要に応えようとしているのは尤もだと思うが、転職を志す多様な出身の若者にも門戸が開かれるとさらに良い。 しかし、⑥のように、学生時代からマネジメントコースとスペシャリストコースに分けるよりは、最初はすべてを学んで経験し、就職してから自然とマネジメントとスペシャリストに分かれるようにしなければ、技術も現場経験も乏しいためマネジメントとして機能しないマネジメント候補者ができてしまうと思う。 4)地方の産業である水産業を魅力的な産業にするには、どうすればよいか ![]() 2024EPA 2025.8.5日経新聞 2025.2.14時事 (図の説明:左図のように、世界の平均海水温は1880年以降上昇し続け、1970年以降の上昇が顕著だ。また、中央の図のように、日本近海の海水温は過去100年間で1.33℃上昇し、世界平均《0.62℃上昇》の2倍以上だ。さらに、右図のように、三陸沖の水温が平年より最大6℃も高くなるなど、東北沖や北海道沖での上昇が顕著で、海洋生態系や漁獲高に影響を及ぼしている) ![]() 2022.9.13東洋経済 2022.9.13東洋経済 2022.2.17WedgeOnline (図の説明:左図は、世界の漁獲高推移だが、天然ものは資源管理して1990年以降一定、養殖ものが増えて全体として増加している。中央の図は、日本の漁獲高推移だが、1984年の1282万tから2021年には417万tと1/3以下に減少している。右図は、世界銀行資料から作成した2028年の漁獲高だが、世界第6位の排他的経済水域を持っているのに、世界中で日本だけがマイナスになっており、日本の食料戦略は失敗していると言わざるを得ない。何故そうなるのか?) 1.天然漁業について 世界の平均海水温は、1880年以降上昇し続け、特に1970年代以降の上昇が顕著だが、2023年は観測史上最も高温となって平均海水温が20.98℃に達し、台風の強化、サンゴの白化、漁業資源の変化など、海洋生態系に広範な影響を及ぼしている。 その中でも、日本近海の海水温は、上の段の中央の図のように、過去100年間で1.33℃と急激に上昇し、これは世界平均(0.62℃上昇)の2倍以上である。特に、上の段の右図のように、三陸沖の水温が平年より最大6℃も高くなるなど、東北沖や北海道沖での上昇が顕著であり、2023年には記録的な高温が続いて、磯焼けやサンゴの白化など、沿岸の生態系に深刻な影響が出た。また、気温が高くなって豪雨被害が激甚化するなどの影響もあった。 その理由について、*4-4-5は、「『地球温暖化+黒潮流路の変化』によって暖水が東北沿岸まで到達し、「生き物・水産資源・気象にも影響があるはず」とのみ説明しているが、原発からの温排水による海水温上昇もあり、原発の稼働中(温排水により海水温が最大7℃上昇する)には藻場が消失(磯焼け)し、停止中に海藻が回復したという事実もあるため、原発からの温排水の影響も決して見逃せないのである。 そのような中、*4-4-3は、①日本の漁獲量が大幅に減少し、1984年に1,282万tあった漁業・養殖業の生産量は減り続けて、2023年に372万4,300tと最低になった ②減少原因は複数で、i)1982年に「国連海洋法条約」が採択され、200海里内に外国船が勝手に入って漁をしてはいけないことになった ii)その条約により、ピーク時の漁船漁業全体の約4割を占めていた遠洋漁業の生産量が、1990年頃に約1割まで低下した iii)温暖化による海水温上昇が日本近海は世界の海より早く進行し、この100年で1・28度高くなった iv)これにより魚の生息域が変わった v)その結果、日本近海で獲れていた魚が獲れなくなったり、漁獲量が減少したりした など ③海洋環境の異変が進行し続ければ漁獲量減少は今後も進む ④国・自治体・漁業協同組合等は現状の漁獲量減少に歯止めをかけようと、操業期間や漁獲量などの制限を行なったり、養殖業を増やしたりして「持続可能な漁業」の取り組みを行っている ⑤海洋ごみ・海岸に不法投棄されたごみ等による海洋汚染は魚の生態系にも大きな影響を及ぼすため、レジ袋やペットボトルの使用を控えたり、ビーチクリーンや河原の清掃活動に参加したりするなどの海洋環境に貢献できる取り組みで海の資源保全を行うと、魚を食べられる日常を守ることに繋がる 等としている。 このうち①は事実である。しかし、減少原因を、②のi)ii)のように、200海里内に外国船が入って漁ができなくなった「国連海洋法条約」のせいにしているのは、言い訳がすぎる。何故なら、200海里内の面積は日本が世界で6番目に大きく公海で漁をすることもできるからで、世界では下の段の左図のように、資源管理を始める1990年代までは天然ものの漁獲高も増加し、資源管理を始めて以降は養殖ものの漁獲高のみが増加しているからである。 日本では、下の段の中央の図のように、資源管理が始まる1990年代から遠洋漁業も減り始めているが、200海里内で行なう沖合漁業や沿岸漁業はさらに激しく減少しており、海面養殖業もさほど増加していない。その理由は、②のiii) iv) のように、化石燃料の使い過ぎで地球温暖化が進んだと同時に、原発からの温排水の排出もあって、日本近海の海水温上昇が世界の海の2倍の速さで進行して魚の生息域が変わったのに、変化に応じて漁獲する魚種を変えたり、目的の魚がいる場所まで移動したりできなかったため、②のv)の結果になったということなのである。 なお、正しい原因分析をせずに、④のように、資源管理ばかりしてきたため、漁業者は収入減が著しく燃油価格高騰によって出漁コストは増加したため漁業所得が減り、若者が漁業に参入しなくなった。そのため、漁業者の高齢化が進み、多額の資金を要する漁船・漁具のスマート化もできず、現在は悪循環に陥っているのである。 この大きな政策ミスの流れの中で、⑤の海洋ごみや海岸に不法投棄されたごみによる海洋汚染は小さな問題である上、レジ袋やペットボトルは海洋に投棄するより焼却処分やリサイクルにまわされる量の方が大きいため、それらの使用を控えることで漁獲高が上がるとは思えなかった。そして、やはり、それらの使用を規制して控えても、漁獲高は上がっていないのである。つまり、日本政府は、本質的な原因追及と解決を行なわず、国民に不便を強いることのみを行ない、効果が出ない場合は外国のせいにしているわけなのだ。 そのため、日本の水産業を悪循環から好循環に切り替える方策は、イ)国や地方自治体が産学連携して、漁業資源の量や生態系の変化を正確に把握するための科学的調査を実施する ロ)公正中立な科学的調査に基づいて、漁業資源を増やす方法を考え実施する ハ)化石燃料の価格変動に左右されず地方の収入源となる再エネ発電由来のグリーン水素を漁業地帯で量産する 二)漁船をはじめとする船を水素燃料船に変え、漁業者には水素燃料船への買い換え費用を補助する ホ)漁船にスマート機器を積んで漁業の生産性を上げる費用を補助する などが考えられる。 そして、この大きな政策ミスが起こった理由は、a)経産省が原発や化石燃料に固執し、グリーン水素燃料の実装に力を入れてこなかったこと b)既得権益を持つ電力・石油・商社が経産省傘下で、水素燃料への転換に消極的であること c)地方の声・漁業者の声が政策に反映されにくいこと d)政治家や省庁幹部には法学・経済学系の文系男子が多く物理・工学・生物に関する理解が浅いため技術的直感が乏しいこと e)農水省幹部にも法学・経済学系の文系男子が多く、食料安全保証への寄与や栄養学・生物学・生態系に関する知識が乏しいこと 等が挙げられる。つまり、再エネや水素社会は、技術の問題ではなく、政治・行政及び教育の問題なのである。 2.養殖漁業について ウナギが広く国民に食べられてきた理由は、日本の川・湖・田んぼに天然ウナギが広く分布し、筒漁や手づかみで捕獲でき、炭火焼きと甘辛いタレが庶民の人気を博したからである。 では、何故、今では天然ウナギが絶滅危惧種に指定されるほど激減し、養殖ウナギもシラスウナギの乱獲が問題になっているのかと言えば、ニホンウナギはマリアナ諸島付近で産卵すると言われており、黒潮に乗って日本へ来遊し、川を遡上して育った後に、再び海へ戻って産卵する「両側回遊魚」で、海洋環境の変動(海流の変化、水温上昇等)が稚魚の来遊を妨げたり、ダムや堰によって海と川の連続性が失われて遡上・降下が困難になったり、コンクリート護岸によって岩陰や泥底などの隠れ場が消失したりした上に、農薬・生活排水・工業廃水等によって水質が悪化し、川がウナギの生息に適さなくなったことなどが挙げられる。 その上、シラスウナギも養殖用に高値で取引されるため、過剰な捕獲が続いて、特に1970年代以降に漁獲量が激減し、資源の再生産が追いつかなくなったのだそうだ。 そのため、堰に魚道を設置したり、人工産卵場を整備したりするニホンウナギの生息環境改善の取り組みも進行中ではあるが、それだけでは効果が限られるのが現状だ。 そこで、解決策の1つとして、2023年に完全養殖技術が確立され、*4-4-4が、①2024年、国内で流通したウナギは6万941tで、外国産も含めほぼ養殖 ②環境省が2013年に絶滅危惧種に指定したニホンウナギは、マリアナ海溝周辺で産卵し、5~6cmの稚魚に成長し、日本周辺で捕獲されて国内の養殖場で半年~1年半ほど育てられ出荷 ③稚魚は減少傾向で国を挙げて安定供給のための「完全養殖」の研究が進む ④水産研究・教育機構は、2010年に人工稚魚を親魚まで育て、その親の卵を孵化させる完全養殖に世界初の成功 ⑤政府は2050年までに天然稚魚を使わない完全養殖への移行を掲げる ⑥機構とヤンマーホールディングスが稚魚を大量生産できる水槽を開発 ⑦エサもサメの卵から鶏卵や脱脂粉乳等の安価な材料に切り替えて特許取得 ⑧生産コストは2016年に4万円/匹だったが、現在は1,800円/匹に下げたものの天然稚魚の3倍 ⑨水槽の大型化・光熱費削減・エサやり自動化等を進め、将来的には1,000円/匹以下での生産を目指す ⑩ウナギ養殖には、川越市の武州ガスや印章製造販売大手「大谷」など異業種からの参入も相次ぐ と記載している。 このうち①は事実だが、②のうち「ニホンウナギは、マリアナ海溝周辺で産卵する」という点については、生物が地球上の1ヶ所でしか産卵せず、その種が日本内陸の川・湖・田んぼで日常的に見られたというのはむしろ不自然であるため、昔から食べられていたウナギはニホンウナギだけだったのかについても吟味すべきだ。 そもそも、日本の沿岸地域は、新鮮な海水魚を簡単な調理で美味しく食べることができたため、濃い味付けのウナギが好まれるのは新鮮な海水魚を得にくい埼玉県・長野県などの海に面していない地域であり、野生のウナギは泥くささを隠すために、泥抜きをし、炭火で焼くことで香ばしさを加え、濃い味付けにしたのである。そのため、泥底の田んぼや小川で捕獲されたウナギは、ニホンウナギとタウナギが混在していたのではないだろうか。 そして、現在、日本全国で食べられているウナギは、絶滅危惧種に指定されたニホンウナギであるため、③④のように、「完全養殖」のための研究を重ね、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のように、日本政府も2050年までに天然稚魚を使わない完全養殖への移行を目指しているのは良いことだ。 しかし、炭火で焼いて香ばしさを加え、タレで濃い味付けにすれば、材料は鶏肉でも太刀魚でもウツボでも、もともと泥臭さはないため、ウナギ同様に美味しい味になりそうである。 3.他産業に犠牲にされてきた漁業 これまで述べてきたように、漁業は、地球温暖化や原発温排水による海水温の上昇、工業廃水・生活排水・農薬・肥料の川や海への流出による水質汚濁、ダムや堰の設置・沿岸部の埋立・港湾の物流拠点化等による開発によって、知らず知らずのうちに犠牲にされてきた。 その理由の第1は、漁業は海上及び海中での活動が中心であるため、都市に住むリーダーや都市住民から見えにくいことである。また、理由の第2は、漁業は生物資源依存型の産業で生態系に影響されるのだが、環境変化が生態系に与える影響や漁業資源の再生産に関わる研究が遅れ、研究結果が出ても製造業や農業が優先されて漁業が無視されてきたことである。 そのため、日本国民に不可欠で食料安全保障のKeyになる産業であるにも関わらず、漁業振興のための制度整備は後回しにされ、獲りすぎを防ぐ資源管理のみが強調されてきた。 そこで、MicrosoftのCopilot君に、「リーダーたちは、何故、生態系を軽視してきたのか」と尋ねたところ、「海は広くて無限という幻想がある」「生態系に関する知識の欠如とその専門家の排除がある」「縦割り行政で環境省や水産庁の知見が経産省や国交省のインフラ・エネルギー政策に反映されにくい」「開発こそが地域振興で漁業は時代遅れという産業ヒエラルキーの固定観念がある」「環境省は、海は食の提供だけではなく気候調整・水質浄化など生活全体を支えると明言している」などの答えが返ってきて、そのとおりだと思った。 2007年公布の海洋基本法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC1000000033/《私が衆議院議員時代に言い出して作られた》)は、海洋環境の保全と海洋資源の持続的利用の両立を目的とし、「国と地方自治体は、連携して海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進する責務を負う」としている。この海洋に関する施策は、海洋汚染を防止し、海洋環境を保全して海洋生態系を保護する施策を推進しているが、海洋の持続可能な利用には、漁業資源だけでなく、鉱物資源の開発及び利用も含む。 すなわち、日本の排他的経済水域内の資源は国有財産であると同時に、国民共有の財産であるため、国主導で資源戦略としてレアメタル等の採掘を行なえば、これまで失政を重ねて積み上げられてきた日本の財政問題は、国民負担を増やして国民を苦しめることなく解決することができると同時に、技術立国としての競争力強化にも繋がるのである。そのため、後は、やろうという意志の問題だけだったのだ。 5)地方に利益をもたらす再エネ電力の普及は、何故、遅いのか *4-1-1の国連事務総長グテレス氏の寄稿は、再エネ普及が単なる環境対策ではなく、経済・社会・安全保障の根幹に関わる「文明の転換」であることを強く訴えておられ、このうち送電網・蓄電池への投資不足は、日本における政策形成にも当てはまる重要な課題である。 内容は、①クリーンエネルギー時代の夜明けだ ②昨年の世界の新設電源のほぼ全てが再エネでクリーンエネルギーへの投資額が2兆ドル(約300兆円) ③今や太陽光・風力が地球上で最も安い電源で、クリーンエネルギーは雇用創出・経済成長の原動力になっている ④化石燃料への補助金はずっと多いが、化石燃料に固執する国は競争力を損なっている ⑤再エネはエネルギー主権と安全保障の確保に繋がる ⑥化石燃料市場は価格変動・供給網の寸断・地政学リスクに左右されるが、太陽光に価格急騰はなく、風力は禁輸対象にならない ⑦エネルギーの自給自足を可能とする再エネ資源は殆どの国に存在する ⑧再エネの力発揮のため、送電網・蓄電池にもっと投資し、エネルギー需要の増加分を再エネで賄うべき ⑨2030年までに世界のデータセンターの電力消費量が日本1カ国の使用量に匹敵する可能性があり、IT企業は再エネで電力を賄うべき ⑩再エネ関連製品の供給網は特定地域に集中しているが、調達先を多様化し、関税を引き下げ、投資協定を見直すべき ⑪人権侵害や環境破壊が横行する重要鉱物の供給網も改革すべき ⑫太陽光発電に適した地域の多いアフリカの昨年の再エネ投資額は世界の2%にすぎず、開発銀行の融資能力を引き上げて途上国に資金を流入させるべき 等である。 また、*4-1-2は、⑫工場・店舗の屋根に置く太陽光パネルの導入目標策定が国内1万以上の事業者に来年度から義務化 ⑬多くの工場は屋根に重いものを置く設計がされておらず、導入拡大は「ペロブスカイト」が有力選択肢 ⑭化石燃料の利用が多い工場・店舗は2026年度から屋根置き太陽光パネルの導入目標を国に報告する必要 ⑮経産省幹部は「太陽光発電の量を増やすことだけが目的ではなく、日本に技術的強みのある次世代型太陽電池の普及を促す目的もある」とする ⑯積水化学が量産に目途をつけて市場に本格導入が始まるペロブスカイト型の普及促進が念頭 ⑰イオングループは2025年2月までに1469カ所の店舗・施設にシリコン製を導入済 ⑱キユーピーも設置可能な既存工場のシリコン製導入をほぼ終了 ⑲キリンホールディングス(HD)はグループ全体の約7割の工場でシリコン製を導入済 ⑳軽量薄型のペロブスカイトは設置場所が広がるため、イオングループも軽量で移設が容易なら施設の壁・窓・屋内への導入を検討 ㉑ユニ・チャームも建物の側面にも設置でき、倉庫等への展開を期待 ㉒1963年にシャープの量産を皮切りに国産品の製造が広がったが、価格に優れた中国製との競争に負け、パナソニックやソーラーフロンティアが国内自社製造から手を引いた ㉓2025年1~3月に国内出荷された太陽光パネルのうち国内生産されたものは約5% ㉔ペロブスカイト型はヨウ素など主要原料を国内調達でき、国内の積水化学やシャープが技術開発を進める ㉕建設業者等は「安価なパネルと比べると投資に対し発電効率が低い」「50年以上運用する工場で耐用年数10~15年程度の採用は難しい」とする ㉖パネルメーカーは「設置条件が定められておらず、軽さを生かした設置が難しいため、ルール整備も必要」「中国勢も一部で量産を始めており、安価な中国勢に流れてしまう懸念も」とする ㉗SOMPOリスクマネジメントの堀内上席コンサルタントは「設置方法でリスクは変わり、分析が必要」とする ㉘供給体制も未熟で、積水化学は現状の生産ペースでは設置目標義務を賄えない恐れ ㉙日本が先行したシリコン製は国内産業としては衰退し、太陽光発電設備の多くが輸入 ㉚ペロブスカイト型も中国勢が勢い 等としている。 このうち①②③は、事実で喜ばしいことだが、日本は㉒㉓㉙のように、シャープが1963年に灯浮標(ブイ)などの海上設備向け向け太陽電池を量産化し、1967年には宇宙用太陽電池の開発に着手し、1976年には太陽電池付電卓を発売して、1992年には量産可能な単結晶太陽電池で世界最高のセル変換効率22%を達成し、1994年には世界初の住宅用太陽光発電システム(系統連系)を商品化して、2000年には生産量が世界一になったにもかかわらず、国内のメディアからくだらない批判の数々を受けて住宅用太陽光発電システムを十分に普及できず、中国製との競争に破れて手を引いたという、あまりにもったいない歴史がある(https://jp.sharp/business/solar/point/history.html 参照)。 その「くだらない批判」とは、i)太陽光発電は原子力発電よりコストが高い ii)メガソーラーは森林を破壊する iii)太陽光発電は、夜間・悪天候時に発電できないため、バックアップ電源が必要である iv)FIT制度による再エネ賦課金で電気料金増加する v)発電効率が悪い vi)大量のパネル廃棄の懸念 等々だ。 しかし、政府補助まで含めた原価総額を比較すれば、i)は真っ赤な嘘で、ii)は設置する場所の選び方と設置方法の工夫で容易に解決できる。また、iii)は蓄電池を設置すれば解決でき、iv)のFIT制度による再エネ賦課金で電気料金が増加しているかのように見えるのは、他の電源と請求書の書き方が違うだけで実際には国の補助金は、④のように化石燃料の方がずっと多い上に、化石燃料に固執する国は競争力を損なっているのだ。さらに、vi)の大量のパネル廃棄の懸念は、使用済核燃料の廃棄や原子炉の廃炉、事故原発の後処理と比較すれば異次元の安さであり、容易さなのである。 また、v)の「発電効率の悪さ」については、㉕でも言われているが、設置単価あたりの発電量や設置可能面積を考慮すれば、数%の発電効率の違いを問題にする必要はない。また、㉕の「50年以上運用する工場で耐用年数10~15年程度の採用は難しい」というのも、鉄筋コンクリート造りの建物の法定耐用年数が50年であったとしても、窓ガラスの耐用年数は10~30年、その建物で使う自動ドアの法定耐用年数は12年など、機材によって耐用年数が異なるのは普通のことであるため、交換しやすい取り付け方をすればよいのである。 このように、原発事故の放射能汚染と違って工夫すれば解決できる問題を挙げ連ねて、反対のための反対をしてきたのが、日本で再エネ発電が遅れた理由なのである。そして、その間、真面目に取り組んできた中国の製品に敗退し、日本国内出荷の約8割が中国製となり、さらに、③のように、世界では太陽光・風力が最も安い電源になっているにもかかわらず、日本だけが普及を遅らせて相変わらず高止まりしているのだ。そのため、何故、こういう行動になるのかが、深く追求すべき問題なのである。 それに加えて、日本でこそ、⑤⑥⑦のように、再エネは化石燃料市場の価格変動・供給網の寸断・地政学リスクに左右されず、エネルギー主権と安全保障の確保に繋がり、エネルギーの自給自足を可能とするのだ。また、⑧のように、「送電網+蓄電池」にもっと投資して充実すれば、集中電源よりエネルギー安全保障に資するし、⑪の重要鉱物は、日本もEEZ内の海底にレアメタルの相当量の埋蔵が確認されているため、むしろ供給側となって国際貢献すべきなのである。 しかし、最近、⑨のデータセンターの電力消費量の多さを理由に原発の必要性を叫ぶ声が大きいが、データセンターを冷やす電力に原発由来の電力を使えば二重に地球を暖めることになるため、データセンター自体を寒冷地に作って節電したり、データセンターの電力消費量を減らしたり、再エネでデータセンターの電力を賄ったりする工夫をすべきである。 なお、*4-1-1は、国連事務総長グテレス氏の寄稿であるため、⑩⑫のように、再エネ関連製品の供給網を開発途上国に作ったり、アフリカには太陽光発電に適した地域が多いのに昨年の再エネ投資額は世界の2%にすぎなかったことから開発銀行の融資能力を引き上げて途上国に資金を流入させて欲しいという主張もあるわけだが、これには開発銀行を通した資金援助や技術移転を通じてさまざまな支援方法が考えられる。 *4-1-2の㉔のように、ペロブスカイト型はヨウ素など主要原料を国内調達でき、国内の積水化学やシャープが技術開発を進めているため、⑫⑬⑭のように、ペロブスカイト型太陽電池を選択肢として義務化するのは良いと思う。しかし、⑮⑯については、主として積水化学のペロブスカイト型太陽電池の普及を促す目的であっても、義務化するのであれば罰則をつけた方が効果が上がる。また、⑰⑱⑲のように、既にシリコン製を導入済の企業も多く、⑳㉑のように、軽量薄型なら設置可能場所が広がるため、壁・窓・屋内・倉庫に設置された建材一体型で良いデザインのペロブスカイト型太陽電池が設置されているのを、早く見たいと思う。 一方で、㉖㉗㉘㉚のように、ルールについて提案しなければならない側の損保会社やパネルメーカーが「設置方法でリスクは変わり、分析が必要」「設置条件が定められておらず、軽さを生かした設置が難しいため、ルール整備も必要」「供給体制が未熟」等と言ってぐずぐずしている間に中国メーカーが量産して安価で気の利いた製品を作り、またまたペロブスカイト型でも中国勢に敗退しそうである。そして、世界はまた、できあがった製品が安価で使い安く、建物の付加価値を上げる方に軍配を上げるだろう。 5)原発再稼働の是非 イ)原発による公害 *4-2-4・*4-2-5は、①東京電力が2030年代初頭に着手を目指していたフクイチ3号機での溶融核燃料(デブリ)の本格取り出しは2037年度以降にずれ込む ②「廃炉の本丸」であるデブリ取り出しは2号機で先行したが、取り出せたのは計1g未満 ③原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田廃炉総括監は「2051年までの廃炉完了目標は実現の目途が立っていない」と強調 ④東電は「(2号機での)採取は性状分析のためで本格取り出しは全く別」「想定通り進捗した場合でも技術的に不透明な部分があり、東電が実現可能性を1~2年かけて精査」 ⑤3号機原子炉建屋北側の廃棄物処理建屋は本格取り出し前に撤去する必要があるが、廃液等が保管されている建屋解体は難工事で、発生するがれきは高線量の廃棄物となるので保管先確保が必要 ⑥デブリ取り出しルートの原子炉建屋1階にも極めて高線量のエリアがあり、制御棒の関連機器が汚染源らしく除染しても線量が下がらない ⑦取り出したデブリの処分先・処分方法は検討さえ始まっていない ⑧東電は2051年までの廃炉完了目標に拘泥するが、見直しは避けられそうにない ⑨廃炉は、政府と東電が2011年12月にまとめた廃炉工程表に基づいて東電が進めており、これまでも使用済核燃料の取り出しなど多くの作業が遅れたが、2051年までの廃炉完了という大枠は維持 ⑩東電は、3号機の燃料デブリの取り出し開始時期は明らかにしたが、作業期間は「不確かさがある」として示さず、1~3号機で推計880tあるデブリのうち1、2号機は工程も工法も決まっていない 等と記載している。 しかし、②は何度も延期してやっと1g取り出せたのであり、③の廃炉完了目標は実現の目途が立たないというのは、チェルノブイリ原発の事例から考えても最初から想定できたことである。そのため、①④は、東電の希望にすぎず、実現可能性はなさそうだ。 そのため、⑤⑥⑦⑩のように、デブリや高線量のがれきの取り出し工程・工法・処分先・処分方法の検討もなく、⑧⑨のように、単に「2051年までの廃炉完了」を目標にしているだけなのだろうが、人間が近づいて制御することが不可能であるため実現可能性のない目標を掲げて、原発に金を使い続けるのは無責任極まりない。 その上、*4-2-6のように、原発は蒸気機関であるため、熱効率は33%(1/3)しかなく、利用したエネルギーの2倍の67%(2/3)のエネルギーを、温廃水として海に捨てており、冷却に使った海水は、膨大な熱とともに放射能や化学物質も伴って海に排出されるのだそうだ。 この無駄に捨てるエネルギーは想像を絶するほど膨大で、1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させるため、逃げることのできない植物や底生生物は死滅し、逃げることができる魚類は温廃水の影響範囲の外に逃げて海の生態系を変えるため、近海の海産資源が打撃を受けるのだそうだ。 つまり、原発は、事故時の放射性物質の広範な拡散で農業や漁業を壊滅させるだけでなく、平時から温廃水を流して海を温めているのである。そのため、日本近海の海水温上昇は世界平均に比べて高く、特に(5)4)に添付した上段の右図のように、福島県沖と日本海の温度上昇は著しく、これで温暖化しなければ、その方がおかしいくらいなのである。なお、温められた海水からは、溶け込んでいたCO₂が大量に放出されるため、その効果も無視できないそうだ。 現在では、熱効率が50%しかなく化石燃料である火力発電を使わなくても、再エネを電力に変える方法が安価になった。そのため、地方を豊かにしながら、数々の公害をなくす再エネを使わない手はないのである。 ロ)既存原発の再稼働と原発新設の論理破綻 ![]() 2024.8.21東京新聞 2024.10.10 FoE Japan 2024.12.17新潟日報 (図の説明:左図は、世界の電源別発電コストの推移で、大規模太陽光と陸上風力が最も安く、原発はその3倍近くである。また、中央の図のように、原発の建設費用は世界では兆円単位だが、日本では6千億円程度しか見積もっていない。そのような状況下で、右図のように、日本政府は原発推進に舵をきったのである) 2024.12.27、2024.8.21東京新聞 2024.12.27山陽新聞 (図の説明:左図は、電源別の発電コストの比較だが、原子力は事故確率や事故対策費を低く見積もっている上に、国が負担している費用は全く入っていない。経産省が試算した中央の図も、まるで再エネよりも原子力の方が発電コストが低いかのようだが、原子力は試算の下限値、太陽光と風力は試算の平均値が記載されている。そして、再エネには国が負担するコストはなく、右図のような電力会社の再エネ賦課金だけがあるため、再エネ導入に関するコスト《3.9~6.4円》も、原発のコスト12.5円の1/3~1/2になっているのだ) ![]() 2025.7.13東京新聞 2025.7.2 EoE Japan 2013.7.14日本共産党 環境総合研究所 (図の説明:1番左と左から2番目の図が、2025年参院選における各党の原発政策である。また、右から2番目の図が、2004年時点の政府試算による原発コストで、この時、5.3円/kmhとしていたものが、2024年試算で2040年に12.5円/kmhになるとしているわけだが、どちらも原発関連予算以降は含めていないのだ。そして、1番右の図は、若狭湾岸の原発で事故が起こり、海風の北風が吹いた場合の放射性物質の拡散状況で、日本海側の原発の場合はフクイチと異なり、すべて陸地に落ちるため被害はさらに甚大になる) 上のイ)のような状況の中、*4-2-1は、①参院選では原発と再エネをどこまで活用するかで各党が大きく分かれた ②自民・公明両党は、政府のエネルギー基本計画「原子力など脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」を意識し、安全性確認済み原発の再稼働を「最大限活用」へ方針転換し「可能な限り原発依存度を低減」という文言は削った ③国民民主・日本維新の会・参政党は、再稼働だけでなく、次世代原発の研究・建て替え・新増設に積極的 ④立憲民主は再稼働を容認しつつ、実効性ある避難計画と地元合意が前提で新増設には反対、れいわ・共産は原発ゼロを明確に主張 ⑤立憲・共産・れいわは、将来的に電源構成100%再エネを目指す ⑥自民・公明は、再エネ「最大限導入」とするが数値目標はなし ⑦日本は国土が狭く、平地が少ないため、再エネの適地が限られ、海外に比べて導入コストが高くなりがち ⑧天候に応じて出力が変わる再エネをどう制御し、安定的に電力を供給するかも大きな課題 ⑨国民民主・参政党は再エネ賦課金が国民に大きな負担になっているとして停止・廃止を主張 ⑩AI・データセンターの普及で電力需要は増加し、40年度には発電量が22年度比で1~2割増 等としている。 参院選では、①②③④⑤と上の最下段の1番左及び左から2番目の図のように、原発と再エネをどこまで活用するかで各党の政策が分かれた。しかし、日本のように再エネ資源(地熱・水力・風力・太陽光etc.)の豊富な国で、⑥のように、「再エネでエネルギーの100%を賄う」と言えないのは、著しく高コストである原発を推進して、本気で再エネに取り組んでこなかったからにほかならない。 そして、⑦⑧のように、「日本は国土が狭く、平地が少ないため、再エネの適地が限られ、海外に比べて導入コストが高くなりがち」「天候に応じて出力が変わる再エネは安定的に電力供給できない」などと思考停止状態の言い訳をしているが、自然の恵みである再エネは日本にも豊富で、蓄電池を使えば安定供給も可能になり、原発に依存する必要は殆どなくなるのである。 また、⑨のように、国民民主・参政党は「再エネ賦課金が国民に大きな負担になっている」として、再エネ賦課金の停止・廃止を主張していたが、上の中段の右図のように、電力会社の再エネ購入費が原発コストに上乗せされる形で請求書が書かれているのが誤りなのである。もし、電源別に請求書を作りたいのなら、電源別のコスト明細を作り、コストに応じた単価を記載するべきであるし、電源別には請求しないのであれば、再エネだけ再エネ賦課金として上乗せする記載の仕方をするのは、意図的でおかしいのである。そして、そのくらいのことを、人から言われなければわからないだろうか。 なお、⑩の「AI・データセンターの普及で電力需要は増加し、40年度には発電量が22年度比で1~2割増」については、*4-2-2に関連して詳しく言及する。 *4-2-2は、⑪関西電力の森社長が「美浜原発で原発建て替えに向けた地質等の調査を始める」と発表 ⑫新増設の具体的動きは2011年のフクイチ事故後初 ⑬再始動する新増設を、原発への信頼を取り戻し、AI時代の産業構造に作り替える起点にすべき ⑭森社長は「電力需要はデータセンター(以下“DC”)や半導体産業の急激な成長を背景に伸びる。脱炭素を進めるためにも原子力は必要不可欠」と強調 ⑮安全性を高めた新規制基準の下、電力会社は既存原発の再稼働を進めている ⑯電力需要増大や温暖化ガス削減に向けた脱炭素電源の選択肢として原発に目を向ける時 ⑰再エネを最大限伸ばす努力を諦めてはならないが、太陽光・風力発電の適地の偏りや時間・天候で変化する出力の不安定性から再エネだけでは力不足 ⑱電力需要増大の象徴がAI普及を支えるDCで、日本ではDCの9割が関東・関西に集中 ⑲DCの電力需要増大への対応には、北海道・九州等の電源豊富な地域にDCを集約して光ファイバーで通信する方法と、大都市圏で大量・安価な脱炭素電力を供給する方法がある ⑳米国では巨大IT事業者が自社のDC用に原発から直接電力を買ったり、原発に隣接してDCを置いたりする動きが広がりつつあるので、日本でもDC事業者が新たな原発の建設・運営に参画して一定の電力引き取りを確約するといった選択も可能にしてはどうか 等としている。 ⑪のように、関西電力の森社長は「美浜原発で原発建て替えに向けた地質等の調査を始める」と発表されたそうだが、高浜・大飯・美浜原発(関電、11基)と敦賀原発(日本原電、2基)は、福井県の日本海に面する若狭湾岸に林立しており、この地域は、下の段の1番右の図のように、原発事故時には、近畿地方全域が立ち入り不能や耕作不能に陥る場所である。また、原発は、平時から海に温排水を出していると同時に、事故時には高濃度の放射性物質を含む汚染水が日本海に流出する恐れの高い地域で、それは⑫のフクイチ事故を見れば明らかである。 にもかかわらず、⑭⑯のように、関電の森社長がDCの電力需要と脱炭素を根拠に「原子力は必要不可欠」と強調しておられ、「電力需要増大や温暖化ガス削減に向けた脱炭素電源の選択肢として原発に目を向ける時」などとも書かれているが、イ)で述べたとおり、原発はCO₂より海を暖めて地球温暖化を早めている上に、DC最大の電力消費は冷却なので、高地や寒冷地(北海道・東北・中部地方)にDCをおけば、自然冷却可能で冷却効率が良く、このような場所は再エネの宝庫でもあるのだ。一方、⑱のように、DCを関東・関西に集中させ、福井県の原発から電力を供給するのは、地震のリスクが高い上に、冷却効率が悪く、電力消費も大きい。 また、原発事故時には、「電力遮断→冷却不能」「放射線→避難→立入禁止」等が同時に発生するが、DCは電力・冷却・人的アクセスが不可欠であるため、原発事故はDCを稼働不可の状態にする。さらに、通信は、1秒で地球を何周もできる速度であるため、⑲のように、大都市にDCを作って近くの原発から電力を供給する必要は無いし、電源豊富な地域にDCを集約する必要も無い。それよりは、データをバックアップしたり、分散したりすることによって、セキュリティを高める方がよほど重要なのである。 従って、AIやDCによる電力需要の増加は事実であるが、それを理由に原発新設を正当化するのは論理の飛躍であり、「再エネ+蓄電+地域分散型電源」等の他の選択肢が、電力会社の利益のために排除されている。そのために、嘘のコスト計算を行い、環境を度外視し、AIやDCによる電力需要増を理由に論理を飛躍させて原発新設を正当化するのでは、⑬の「再始動する新増設が原発への信頼を取り戻す」どころか、どういう頭で考えればそういう結論になるのかと思うわけである。 なお、⑮の「安全性を高めた新規制基準」といっても、その基準を守れば原発は決して事故を起こさないと言う人はおらず、もちろん言えもしないため、電力会社が既存原発の再稼働を進めているのを、私たちは再エネで電力を100%賄えるようになるまで容認しているにすぎない。しかし、既に、その時期は来たのだから、⑰のように、再エネを最大限伸ばし、出力の不安定性は蓄電池・水素等でカバーすれば良いだろう。 さらに⑳は、米国では巨大IT事業者が自社のDC用に原発から直接電力を買ったり、原発に隣接してDCを置いたりする動きが広がりつつあると述べているが、日本では原発廃棄物処理の経済性や課題も解決されていないのに、米国では原発の廃棄物はどう処分するのだろうか。「原発はコストが安い」などと言う以上は、建設費・運転費・立地自治体の住民対策費・廃棄物処理費・廃炉費・事故処理費等のすべての費用を加算してコスト計算すべきである。 ハ)それでは、原発立地自治体と既存電力会社はどうすれば良いのか 福井県のような原発立地自治体が原発の再稼働や新設に前のめりになる理由は、交付金依存の財政構造で、自治体予算に占める電源立地交付金の割合が高く、交付金による歳出によって公共事業にも金が落ち、原発関連企業やその下請け企業に依存する雇用が多いことである。 そして、原発立地自治体に税金から交付される交付金には、i)発電所立地自治体に交付される電源三法交付金(原発への財政依存や政策誘導の温床) ii)地域活性化名目の地域振興整備費(効果の乏しい使途が多い) iii)廃炉作業に伴う廃炉支援交付金(廃炉を長期化させて継続的依存に陥る可能性が大きい) 等がある。 しかし、放射線による健康被害や原発温排水による漁業被害があるため、原発立地自治体では、普通の産業を誘致したり、発展させたりすることが難しく、地域の将来像が暗くなって、ますます若者が流出するという悪循環が生まれている。そのため、原発立地自治体でも環境意識の高まりで住民の中に原発に対する懸念や反対の声を持つ人は少なくなく、この「昭和のスキーム」は限界を迎えているのだ。 佐賀県の玄海町を例に挙げれば、原発事故のリスク・廃炉の長期化・温排水による漁場環境の変化等の地域の未来に希望が持てない状況が続き、地域産業の多様性も欠如しているため、原発以外での雇用の選択肢が乏しくなり、若者が「暮らしたい」と思える町づくりがなされず、進学や就職を機に都市部へ流出して戻らないという状況が続いている。 これを、令和型のスキームに転換するには、脱原発依存の地域経済を構築することが必要不可欠で、そのためには、農林漁業・製造業・IT・観光等の多様な産業を育成し、農林漁業地帯の再エネを活かした再エネ電力を創って、その電力を使うモデルが必要なのである。 ちなみに、住民が住みたい町の条件は、i)放射線被害の心配がない安全・安心な生活環境 ii)原発関連以外の産業育成による地域の経済的自立 iii)働く場の多様性 iv)チャレンジ機会の確保 v)充実した教育機関 vi)福祉の充実 vii)自身が町作りに関われる体制 等である。 そのため、下の⑨のように、東電の柏崎刈羽原発6・7号機は技術的に再稼働可能だとしても、事故リスクが0でない以上、地元住民の同意が難しいのは当然なのだ。 そのような中、*4-2-3は玄海原発の地元紙である佐賀新聞の記事であり、内容は、①2025年2月に政府が纏めた新エネルギー基本計画はフクイチ事故の反省から掲げた「可能な限り原発依存度を低減」という文言を削除し原発推進を明確化 ②参院選では原発・エネルギー政策の議論は低調 ③政府は原発の電源構成比を2023年度の8.5%から2040年度に約20%に引き上げ方針 ④現在稼働中の原発は14基で目標達成には30基以上の原発再稼働が必要 ⑤古い原発の建て替え要件も緩和して新設に道を開いた ⑥自民党は既存原発より安全性が高いとする「次世代型」の具体化を掲げ、公明党も「総基数は増えない」として容認 ⑦再エネは最大電源と位置づけ2040年度に40~50% ⑧野党はさまざま ⑨東電の柏崎刈羽原発6・7号機は技術的には再稼働可能だが、地元同意が最大のハードルで、東電に原発を動かす資格があるのかが問われている ⑩廃炉作業は困難を極め、デブリ880tのうち取り出せたのは0.9g ⑪「30~40年で廃炉」という目標達成は厳しい ⑫フクイチ周辺の住民避難も続き、六ケ所村の核燃料サイクル施設や核のごみ最終処分場等の課題も未解決 ⑬柏崎刈羽原発は新潟県や東電だけの問題ではないという意識で注視 ⑭地球温暖化対策やCO₂削減は喫緊の課題 等である。 このうち、①②は、政府が纏めた新エネルギー基本計画は、フクイチ事故の反省から掲げた「可能な限り原発依存度を低減」という文言が削除されて原発推進になり、参院選では原発・エネルギー政策の議論は覆い隠されたことを憂えているが、全くそのとおりだ。 また、③のように、政府は、原発の電源構成比を2040年度にはフクイチ事故前と同じ約20%に引き上げようとし、④⑤⑥のように、目標達成には30基以上の原発再稼働が必要として、古い原発の建て替え要件を緩和して新設に道を開き、自民党は「次世代型原発(革新軽水炉・SMR・高速炉・高温ガス炉・核融合炉)は既存原発より安全性が高い」などとしているが、次世代型原発も基本的には蒸気機関であり、熱エネルギーを電気に変換するものであるため、熱効率(カルノー効率)の限界は避けられず、冷却による環境への熱放出は不可避だ。また、事故時には人間が制御することが困難になり、安全性が向上したとしても事故の確率が0にならないことに変わりはない。 その上、⑧のように、野党の主張はさまざまだが、与党は原発推進をしたため、⑦のように、再エネ比率は2040年度でも40~50%にしかならない。しかし、日本の場合は、再エネ100%も可能であるため、⑭の地球温暖化対策には、原発よりも再エネを使った方が良いのである。 なお、フクイチでは、⑩⑪⑫⑬のように、廃炉作業が困難を極め、デブリ880tのうち取り出せたのは0.9gにすぎず、「30~40年で廃炉」という目標は机上の空論でしかなかった。また、周辺住民の避難生活も続いており、六ケ所村の核燃料サイクル施設も核ごみの最終処分場等の問題も未解決であり、これはフクイチや東電だけの問題ではないのである。 それでは「既存の大手電力会社はどうすれば良いか」については、電気のプロである人材が豊富であるため、日本企業がアフリカ等のインフラ整備が不十分な開発途上国に進出する際に伴走して現地でインフラ整備を支援すれば良い。その際には、再エネ技術を使って地域密着・分散型の電力供給モデルを輸出し、SDGsを中心に据えた事業スキームを展開すれば良いと考える。 そして、アフリカ市場で事業展開をするには、*4-5のように、アフリカからの留学生を奨学金で支援し、卒業後に自社に就職した場合は返済を免除したり、特定技能でアフリカ人を雇用したりして、親日的なアフリカ人を育てるのが効果的だと思う。 6)EVについて ガソリンエンジンの熱効率も非常に低く、日常運転時は約15〜30%(アクセル全開状態が少ないため、効率低下)で、最大熱効率でも約40〜41%(ホンダのハイブリッド車「シビック HEV」で最大41%)だそうだ。そして、エネルギー損失の主な原因は、i)冷却損失(熱として放出) ii) 排気損失(排気ガスに含まれる未利用エネルギー) iii)機械損失(摩擦など) iv)ポンプ損失(吸気・排気のためのエネルギー) v)未燃焼損失(燃料が完全に燃焼しない) 等で、ガソリンの持つエネルギー(熱量)のうちタイヤを回すエネルギーは非常に少ないのだ。 そのうち、特にi) iii)は、ガソリンエンジンが約60〜85%のエネルギーを熱として捨てていることで、都市部の「ヒートアイランド現象」を加速し、交通量の多い地域では局地的な気温上昇も起こって廃熱による都市の局地的温暖化を引き起こしている。 また、ii) v)は、排気ガスによる大気汚染を起こして呼吸器疾患・アレルギー・癌などの原因となり、CO₂は地球を温暖化させて気候変動や海面上昇を引き起こす。また、NOₓやPM(微細な粒子)は、酸性雨・光化学スモッグ等の原因となり、呼吸器疾患のリスクを高める。さらに、不完全燃焼によって発生するCOは人体に有害である上、VOC(揮発性有機化合物)は光化学オキシダントの原因となって特に都市部の大気汚染を悪化させているそうだ。 そのほか、燃料の採掘・精製・輸送時に、環境破壊(原油採掘による生態系破壊・精製過程の化学物質排出・タンカーの座礁など輸送中の事故による海洋汚染)も引き起こしている。 そのため、欧州では2035年以降のガソリン車販売禁止を打ち出す国も多く、EVへの移行が加速しており、日本でも2030年代半ばまでに新車の電動化100%を目指す方針が示されている。 そのような中、*4-3-1は、①日産は東南アジア・中東・中南米を想定し、2026年に中国からEV輸出を始める ②中国で開発・生産され価格・性能の両面で競争力のあるEVセダン「N7」を中心に海外展開を図る ③N7はデザイン・開発・部品の選定まで中国の合弁会社が担った初のEV ④広州工場で生産し価格は約240万円からでBYDの競合製品と比べて同水準 ⑤ソフトウェアに中国企業のAI技術を採用し、国によって利用制限がある ⑥日産は中国のEV開発大手IAT社に出資し、輸出仕様のソフト開発を推進 ⑦東風汽車集団との合弁会社で通関業務 ⑧中国は世界に先駆けてEV化が進み、航続距離・車室の快適性・エンターテインメント機能等の性能が高く、国外でも需要あり としている。 日本は、1995年にドイツのベルリンでCOP1が開かれた時から地球温暖化と温室効果ガス削減を提唱し、それと同時に市場投入できるEVの開発に着手した。そして、1997年に京都で開催されたCOP3では「京都議定書」を採択して先進国にCO₂等の温室効果ガス削減義務を課し、2015年にパリで開かれたCOP21は全加盟国が温室効果ガス削減に参加して気温上昇1.5℃以内を目標とし、2023年にドバイで開かれたCOP28では化石燃料からの脱却に初合意してロス&ダメージ基金の運用を開始した(環境省 https://www.env.go.jp/earth/copcmpcma.html)。 つまり、日本は1995年頃から地球温暖化と排気ガスによる公害を認識してEV開発を進めていたのだが、2010年に日産が世界初のEV普及車「リーフ」を市場投入したにもかかわらず、日本のメディアは屁理屈の数々を重ねてEV普及を阻害し、先鞭をつけて世界のトップランナーになった日産を破綻寸前まで追い込んだのである。馬鹿にも程があるのだ。 そして、この構造は、シャープの太陽光発電など他のイノベーションにも言えることで、その間、科学的根拠に基づいて真面目に取り組んできた国に差をつけられ、①~⑧の事態に陥った。 また、*4-3-2は、⑨日本政府はアフリカ諸国とのFTA締結を検討し、日本車を輸出促進 ⑩第9回アフリカ開発会議で発表 ⑪ケニアなど東部8カ国でつくる「東アフリカ共同体(EAC)」との交渉が候補で、最終目標はアフリカ全体とのFTA締結 ⑫ケニアは港湾が整備されており、日本政府は東アフリカをインド洋を通じた物流の要と位置づけてインド・中東諸国と一体の経済圏を築く ⑬アフリカで人口最大のナイジェリアも候補で原油生産量最大・内需拡大中 ⑭西アフリカの物流・工業のハブとして成長中のガーナも連携相手 ⑮港湾から内陸国へ陸路で運ぶのに複数国を通過し、各国の関税が輸送コストの上昇要因になるのでFTA締結で日本企業のビジネス環境を整備 ⑯日本からの輸出は中古車を含む自動車が多く、輸入は鉱物資源の割合が高い ⑰経団連は韓国・インド・欧州が先行するアフリカとの協定整備の遅れで、世界との競争条件で大きな格差が生じたと指摘 としている。 このうち⑨⑩の「日本政府はアフリカ諸国とFTAを締結する」というのは、⑪⑫⑬⑭及び⑮⑰を考慮した時に重要なことだが、⑨⑯のように、日本車(それも中古車)を輸出して鉱物資源を輸入するのでは、未だに昭和の加工貿易・ガソリン車・アフリカ蔑視から抜け出しておらず、これではアフリカ諸国に感謝されずに中国に完敗することは間違いない。 それより、アフリカにEVの製造拠点を作って、環境に負荷をかけない再エネによる分散発電由来の電力で工場を稼働させ、EVを動かすのが、アフリカの自然保護と工業化を両立させる方法である。なお、日産はじめ日本車は、スタイルにスマートさはないが、悪路でもへこたれない丈夫さを持っているため、アフリカに開発・製造・販売拠点を持つのが合理的だと思う。 また、大手電力会社は、アフリカで再エネによる分散発電を普及させることによって、アフリカに進出する日本企業の伴走をするとともに、地元に電力インフラを普及させれば感謝されるだろう。もちろん、道路や上下水道の専門家も必要であるが、日本でやったのと同じ失敗を繰り返して負の遺産を作らないようにすべきである。 7)地球温暖化と食糧不足 イ)地球温暖化の第一次産業への影響 *4-3-3は、①北極の海氷が急速に減少しており、2027年には9月に殆どなくなる予測も ②冷却源である海氷の減少で地球温暖化が加速 ③1999~2024年までの25年間で9.38cmの海面上昇が確認され、島嶼国の気候難民が気候移住を始めた ④世界各地の陸上に点在する氷床や氷河の減少も深刻で、世界の氷河は2000~2023年に年間平均2,730億トン減少して約1.8cmの海面上昇を引き起こした ⑤海面上昇の6割が氷河や氷床の融解を原因とし、3割は海水温が高くなったことによる海水の膨張 ⑥気候変動に伴う記録的な熱波で山火事が頻発し、専門家は人為的な気候変動による気温・雨量の変化が影響と分析 ⑦2024年の森林焼失面積は1,350万haで前年比13%増で、温暖化を加速させる悪循環 等としている。 上の①②のように、冷却源となる北極の海氷が急速に減少して地球温暖化が加速し、北極海の通行が容易になるのは良いものの、③④⑤のように、海氷融解や氷床・氷河の減少に加え、海水温上昇による海水の膨張で、1999~2024年の25年間に9.38cmの海面上昇が確認されたそうだ。 そのうち、海面上昇の6割は氷河や氷床の融解、3割は海水温上昇による水の膨張が原因であり、島嶼国の気候難民が気候移住を始めたそうだが、日本も沿岸部の海岸線が変化したのは既に知られているところである。しかし、海水温上昇の影響は、海岸線の変化に留まらず、海中の生態系の変化や気象の変化に及んで、水産業や農業に悪影響を与えている。 さらに、人為的な気候変動による気温や雨量の変化で、⑥⑦のように、記録的な熱波による山火事が頻発し、2024年の森林焼失面積は1,350万haで前年比13%増となり、森林資源に悪影響を与えた上、さらに温暖化を加速させるという悪循環に陥っている。 ロ)食料自給率向上の必要性 国連の2024年改訂推計では、2050年の世界人口は96.6億人、世界人口のピークは2084年に102.9億人と予測されており、2050年までの人口増加の大部分は、インド、ナイジェリア、パキスタン等の9カ国で発生すると予測されている。それと同時に、これらの国でも製造業が発展し、食料のニーズが高まるため、日本は、輸入にばかり頼っていると食糧不足に陥るのだ。 *4-3-4は、①農水省は政府の生産拡大意向を反映し、米の生産費の削減のため農地の大区画化を進めてスマート技術の導入を加速する ②労働力不足の対応として、水田に種を直接まく直播を普及する ③高温耐性品種や多収性品種への転換も促す ④主食用米の将来的な需給緩和を懸念する声を踏まえ、産地の自主的な長期計画販売への支援も盛り込んだ ⑤主食用米から麦・大豆、米粉用米などへの転換を促す水活を明記 ⑥「農業構造転換集中対策」は5年間で事業規模2.5兆円、うち国費1.3兆円を見込む としている。 米を例にすると、日本では気温上昇で従来の品種が不作となって米不足に陥ったため、③のように、農水省が高温耐性品種や多収性品種への転換を促しているが、佐賀県では、夏の高温障害に対応して既に佐賀県農業試験研究センターが研究・ 開発を行って2009年には「さがびより」を本格的に栽培し、2010年から特A評価を得ている。そのため、高温耐性の美味しい米は既にあるのである。 また、イネの原種は熱帯植物であるため、ベトナムやタイでは二期作・三期作・直播・乾田栽培は普通に行なわれており、②の直播は、労働力不足対応だけでなく、生産性向上にも効果的なのである。さらに、イネを刈る時に茎を長く残して「ひこばえ」から米を収穫すれば、再度、田植えや直播をする必要が無く二番穂の収穫も早い。そのため、地域の気候条件を加味せず、全国一律で年に1度の田植えを行なって米粒の大きさまで規制するのは食料自給率向上に資さない。 従って、気候が異なる産地の自主的な長期計画が必要なことは言うまでもないが、ニーズがあって売れる製品を作っている農業が、④のように、主食用米の需給緩和を懸念する声を踏まえて税金を使って販売支援を行い、今後も高コスト構造を維持する必要は無いと思う。 さらに、コスト低減には、①のような農地の大区画化とスマート化が必要不可欠だが、これも国際価格までのコスト低減圧力があって初めて、速やかに進むものだ。 なお、⑤のように、米粉のためにわざわざ米粉用米を作らなくても、白濁したり炊飯用に適さなかったりする米を余すところなく使えば資源と労力の無駄が減る上に、生産者の所得も増える。また、“主食”の米だけ食べて生きていける筈がないため、主食用米から麦・大豆等への転換や二毛作の推進は必要不可欠である。 しかし、これまでの農政は、金を使う割に生産性が上がらず、農業は、いつまでも保護を必要とする産業から脱皮することができなかった。そのため、⑥の「農業構造転換集中対策」の「5年間で事業規模2.5兆円、うち国費1.3兆円」は、単なる金のバラマキではなく、生産性向上を通して国際競争に勝てる産業にするための基盤整備に使ってもらいたいのである。 ハ)日本で常識化した食料と資源の無駄使い *4-3-5は、①大手コンビニのミニストップの一部店舗で、店内加工した「手作りおにぎり」や総菜食品の消費期限を偽って販売する不正が見つかった ②原因究明と改善策が実施されるまで、全店で店内加工のおにぎり・総菜・弁当の販売を中止 ③国内全1784店のうち埼玉・東京・愛知・京都・大阪・兵庫・福岡の23店で、店内調理後、ただちに消費期限を計算してラベルを貼るべきところ時間をおいて貼るなどして期限を2~3時間過ぎた商品を販売した ④購入者から健康被害の連絡はない 等としている。 ミニストップの23店舗の行為については、①のように、「消費期限の偽装は食品表示制度の根幹を揺るがす不正で、消費者の信頼を裏切る行為だ」という論調の批判が多いが、消費者である私も「日本は食料自給率が低いのに、消費期限や賞味期限の名の下に、食べられる食品を捨てるのはもったい」と思った。ちなみに、私自身は、雑菌がつかないように気をつけて昼食用に作ったおにぎりが余れば、それを夕食や翌日の朝食に食べることもあり、その際には、冷蔵庫に保管したり、食べる前に殺菌目的で電子レンジをかけたりする。 そのため、消費期限切れや賞味期限切れによる食品ロスについて調べたところ、サプライチェーンに賞味期間の1/3以内で小売店舗に納品する「1/3ルール」があり、賞味期間の1/3以内で納品できなかったものは廃棄されるため、i)賞味期限表示の大括り化(年月日から年月、日時から日など) ii)賞味期限の延長(=納品期限の緩和) iii)フードバンク・子ども食堂への食品提供 などの商慣習の見直しや食品リサイクルを含めた食品ロス削減に取り組んでいるとのことだった(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/syokansyu/torikumi2024.html 農水省 参照)。 また、消費者庁も関係5 府省庁と連携して、事業者と家庭の双方で食品ロス削減を目指して「No Foodloss Project)を展開しているそうだ(https://www.jsrae.or.jp/annai/yougo/265.html 参照)。 従って、②③の国内全1784店のうち埼玉・東京・愛知・京都・大阪・兵庫・福岡の23店舗で、販売時間を2~3時間過ぎた商品を販売したため、全店で店内加工のおにぎり・総菜・弁当の販売を中止するというミニストップの対応は、④のように、健康被害の連絡もないのにヒステリックな対応に思えた。販売時間を2~3時間過ぎたら食べられなくなるほど、雑菌の多い作り方をしたり、保存の仕方をしたりしているのだろうか? つまり、食品ロスは、環境負荷・経済損失・倫理を含む複合的な問題であり、杓子定規な運用は必要以上の社会的コストを生むため、作り方・保存時の温度管理・陳列時の鮮度維持方法に応じて消費期限や賞味期限は変えた方が良いと思われる。 それらの管理を、ミニストップのようなチェーン店が一斉に行なうには、セントラルキッチンで纏めて作って在庫を見ながら少量ずつ配送する方法もあるし、急速冷凍・氷結・真空パックなどと併用すれば冷凍技術の進歩により解凍後も「作りたてのような美味しさ」を保てる食品が増えているため、消費期限や賞味期限を「保存条件別に可変」とすることも可能である。 いや、むしろ浜で水揚げされた魚を即座に加工・急速冷凍して、産地の美味しさを維持した惣菜や弁当を全国に配送するような「産地加工・冷凍・全国配送モデル」の方が、「都市部で原料購入・加工・販売モデル」よりも、安価で新鮮なものを届けられる可能性が高く、そうなれば産地も6次産業化して付加価値を上げることができる。しかし、ここでネックになるのが流通コストなのだ。 現在は何でも物価上昇して運賃も上がったため、人口の多い都市部から遠い場所が損することになっているが、外国人運転手の雇用促進・無人運転制度の整備・EVや燃料電池トラックの普及などを国が誘導し、国産の安価な燃料で安く流通できるようにすべきだし、それは可能である。 (6)日本の規制が促すサービス業の質低下 1)物流について *5-1は、①インターネット通販大手のアマゾンジャパンは1日、指定住所までの「ラストワンマイル」の起点となる配送拠点を岡山・千葉・福岡・石川・北海道・東京の6カ所に新設すると発表 ②入荷から保管、梱包、仕分け、配送までできる当日配送専用の拠点も全国16カ所で展開し、数万点の商品を午後1時までの注文で夜間に配送する ③アマゾンの物流施設では自走式ロボットが商品棚を持ち運び、大量の荷物を効率よく発送する「アマゾンロボティクス」を採用し、ロボットは世界300カ所以上の拠点で計100万台導入されている ④より効率的な動きを実現するため新たな生成AI「ディープフリート」を取り入れ、従来より効率を10%高める ⑤8月に名古屋市に延べ床面積12万5,000m²で西日本最大の拠点を稼働し、壁面にも太陽光発電設備を導入して、発電設備容量5,500kW としている。 このうち①②は、現在でも便利なアマゾン通販の買い物がより便利になるため、消費者として歓迎である。そして、その便利さが、③のように、アマゾン物流施設の自走式ロボットによる「アマゾンロボティクス」による安価で迅速な配達ができているのであれば、顧客第一主義で顧客の便利さを増やしても損なうことなく、さらに効率化しているのでアッパレと言える。 また、④のように、より効率的な動きを実現するため新たな生成AI「ディープフリート」を取り入れて従来より効率を高め、⑤のように、名古屋市で稼働する西日本最大の拠点は、壁面にも太陽光発電設備を導入して発電設備容量5,500kWだそうだが、これが、合理的意志決定を続けて発展していく優良民間企業の経営である。 一方、*5-2は、⑥国交省は、物流業界の人手不足対策として再配達を減らし負担削減に繋げる目的で、宅配便の標準サービスに「置き配(宅配ボックス・玄関前への配送)」を検討(現行ルールは対面受け取り前提で置き配は荷物を受け取る側が選択) ⑦置き配は時間を気にせず受け取れるが、盗難・汚損等のトラブルや不在時に業者が敷地内に立ち入るプライバシーやセキュリティ対策が必要 ⑧トラブル防止のための宅配ボックス設置方法も課題 ⑨国交省幹部は「地域で不可欠な物流サービスを持続可能にするため、今の時代に合った合理的なやり方を生み出したい」と説明 ⑩物流各社は、国交省が作った基本ルールを参考に荷主との契約条件などを盛り込んだ「運送約款」を策定 ⑪物流業界の人手不足が深刻化する中、2024年からトラック運転手の時間外労働規制(年960時間)開始 としている。 国交省は、⑪のように、トラック運転手の時間外労働規制(年960時間)が開始され、物流業界の人手不足が深刻化したため、⑥のように、再配達を減らして運転手の負担削減に繋げるため、対面受け取り前提で置き配は荷物を受け取る側が選択できる宅配便の標準サービスに「置き配(宅配ボックス・玄関前への配送)」を検討するとのことである。 しかし、規制官庁は、生産者を護るための負担を消費者に押しつけることしかできないことがこれでわかる。私がそう言う理由は、2Lのお茶8~9本入りを(重たいから)アマゾンで買って家まで宅配してもらったところ、最近、勝手に遠い場所にあるマンションの宅配ボックスに配達されて、自宅に運べず酷い目にあったことが数回あるからだ。 つまり、宅配を頼む理由は様々であるため、配達員の効率性のみを優先するのではなく、消費者である高齢者・障がい者・育児中の世帯・共働き世帯等のニーズに合った配達をしてもらわなければ困るのだ。そのため、明文化して「宅配ボックス優先」から「利用者選択優先」に転換すべきである。 そうすれば、重い荷物の持ち運びが不要になるため、要支援・要介護サービスも効率化でき、要支援者の自立支援もできて生活の質向上に役立つ。また、自治体の地域包括ケアと連携して、宅配サービスだけでなく、見守りサービスも追加すれば、新たな事業機会になる。 そのような中、⑦は、「置き配は時間を気にせず受け取れる」としているが、留守中に玄関前に置いていかれると留守であることが判明するし、マンションでは⑧の宅配ボックス自体が離れた場所にあったり、玄関前には置くスペースがなかったりする。そのため、⑨⑩の「今の時代に合った合理的なやり方」とは、高齢者・障がい者・育児中の世帯・共働き世帯のそれぞれのニーズに合った配達方法を選択できる「利用者選択優先」の運送約款を作ることである。 そして、「利用者選択優先」を実現するためには、注文時に「重量物は玄関配達希望」「重いものは宅配ボックス不可」などを消費者が明示できるようにしたり、AIで荷物の属性を判定して適切な配達方法を提案(例:「この商品は対面配達推奨」)したりする方法がある。また、地域密着型で顔の見える配達員になれば、柔軟な対応も可能になるだろう。 なお、共働き世帯が増えたことによる再配達増加は、夜間配達(18〜21時)を標準化して、夜間に3時間くらい働きたい人(副業・兼業希望の人、年金が不足する高齢者、学生アルバイト等)を配達員として雇用し、夜間手当を支給すれば解決する。 *5-3は、⑫総務省は、各自治体に「最高AI責任者(Chief AI Officer “CAIO”)」と補佐官の設置を促す ⑬人材確保の観点から複数自治体が共同で専門人材を置くことも可で法的拘束力はなし ⑭自治体は住民情報を扱う部署も多いため、AI学習に個人情報等の機密情報を用いることは禁止する ⑮AIを使って住民の相談を24時間受け付けるサービスなど例示 ⑯AI活用で会議の議事録要約で5割、企画書の作成で3割の業務時間を減らした自治体も ⑰自治体が安全に生成AIを活用できれば、人口減少下で地方行政の効率を高められる としている。 アマゾンが「ロボティクス」を採用して当日配送を可能にしている時代に、総務省は、⑫⑬のように、各自治体に「最高AI責任者」と補佐官の設置を促し、人材確保が困難な自治体は複数自治体が共同で専門人材を置くことも可としているが、この調子では効率化も期待薄である。 しかし、⑭の個人情報保護は重要であるものの、介護認定・要支援認定・母子手帳交付・障害者手帳交付・年齢情報などを自治体内の複数部署から統合すれば、AIが属性を分類して支援が必要になりそうな住民を自動抽出して、「この地域には要介護者7人、要支援高齢者15人、妊娠中3人」などと人数を可視化して、声をかけたり、支援漏れを防いだりすることができ、⑮のように、AIによる住民相談の24時間受け付け(残業代不要、コーヒーブレイクなし)も可能だ。 また、⑯のように、AIを活用すれば、会議の議事録要約で5割、企画書の作成で3割の業務時間を減らすことも可能だそうだが、私は、会議中の声を発言者を区別して拾って文字起こしし、会議の要約までAIができるようになれば、会議の議事録作成とその要約にかかる時間は7~8割削減できると思う。そのため、⑰のように、自治体が本当に生成AIを活用できれば、地方行政の効率は高められるだろう。 2)“法定点呼”について *6-1は、①約75%の郵便局(2391局)で法定点呼がルール通り実施されず、日本郵便が国交省の運送事業許可取り消し処分を受けた ②飲酒運転(4件)・業務中の飲酒・飲酒した配達員の事故も ③取り消しで各地の郵便局にあるトラック・バン約2500台が5年間使用不可に ④虚偽の点呼記録作成・管理者不在時の点呼省略等の不正があり、経営陣・管理職の指示を現場が軽んじる体質 ⑤現場で起きている問題を上層部が把握できていない構造的問題 ⑥郵政民営化後も旧体質が残存する懸念 ⑦企業統治の徹底と取締役会の役割強化が必要 ⑧持ち株会社の日本郵政による監督も必要で、郵便物の減少により日本郵便の2025年3月期決算は42億円赤字だったが、今回の行政処分で収益に打撃が生じるのは確実 ⑨日本郵便は下請け企業からの値上げ要請を拒否して公正取引委員会から行政指導を受け、ゆうちょ銀行の顧客情報の不正利用も発覚して、日本郵政・日本郵便ともトップ交代して、旧郵政官僚が社長に ⑩官業への逆戻りを防ぐためにも改革が急務 としている。 これに加えて、*6-2は、⑪軽自動車約3万2000台にも安全確保命令が出て、国交省の監査が継続中で一定期間の車両使用停止等の行政処分検討中 ⑫総務省が「監督上の命令」を発出 ⑬日本郵便は代替手段として自社の軽自動車活用や外部委託で利用者への影響最小化を目指す ⑭国交省は、行政処分でトラック等の車両が使用できなくなる中でも郵便サービスを維持することや再発防止策の着実な実施・見直しを求めている ⑮日本郵政の株主総会で増田社長が一連の不祥事を陳謝 としている。 さらに、*6-3は、⑯日本郵政の株主総会は株主の質問が点呼問題に集中し、この日で退任する増田社長は「極めて深刻な事態」「再発防止策に取り組み、オペレーション確保に万全を期す」「業績への影響は精査中」とした ⑰株主の怒りは収まらず、(民営化前の)治外法権の意識が残り、法律を守る意識がないのではないか」「管理職の能力の問題ではないか」「危機管理能力が経営陣も現場もないのでは」との指摘も ⑱日本郵便は「郵便やゆうパックのサービスは維持する」と強調 ⑲日本郵便は軽四輪にも一定の処分が出ると身構え、委託範囲の拡大を迫られる可能性 ⑳外部委託拡大や再発防止対策でコストが膨らむ見込み ㉑千田社長は「ゆうパックの値上げは今の時点で一切考えていない」と言い切ったが、大規模な不祥事が業績に影響を及ぼすのは時間の問題 としている。 ここで言われている“法定点呼”とは、国交省令である貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条「貨物自動車運送事業者は、運転者に対して対面等で点呼を行い、酒気帯びの有無や体調等に関する報告を求め、確認を行い、運行の安全を確保するために必要な指示を与え、運転者等ごとに点呼を行った旨・報告・確認・指示の内容等を記録し、その記録を一年間保存しなければならない」という規定に基づいて行なわれるものである(貨物自動車運送事業輸送安全規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/402M50000800022 参照)。 しかし、法律である貨物自動車運送事業法は第13条・第14条などで「安全確保の義務」を抽象的に規定しているだけで、「点呼」に関する規定はしていないため、「点呼ルール」は、国交省令の貨物自動車運送事業輸送安全規則で具体的に規定されているだけなのだ。そのため、このルールは法律で定められた規定ではなく、省令による指針にすぎないと言える。 従って、①のように、約75%の郵便局(2391局)で点呼がルール通りに実施されなかったからといって、②があったくらいで人身事故等の重大事故を起こしたわけでもないのに、国交省が日本郵便に対し運送事業許可を取り消し、③⑪⑲のように、事業の継続すら危うくする重い処分を下すのはやり過ぎであり、民主主義の罪刑法定主義に反する。そのため、この件に関して行政訴訟をすれば、日本郵便が勝つかも知れない。 また、貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条を見ると、小学生の箸の上げ下ろしにまで口を出すような細かい指示だが、霞ヶ関からこのような細かい指示を出しても、現場の実態に合っていないため、④のような“不正”があり、現場が経営陣・管理職の指示を軽んじたのではないかと思う。そのため、私は、権限と責任を現場の管理職に下ろし、現場で状況に応じて適切に対応させた方が良いと思う。 私がこういうことを言う理由は、「最近のゆうパックは、電話をしたらすぐ集荷に来て、ヤマト運輸より早くてサービスが良い」という優れたものだったからで、むしろ競争に負けそうな他の物流会社が足をひっぱったのではないかと思うからである。そのため、⑬⑱のように、日本郵便が代替手段を使って利用者への影響最小化を目指し、郵便やゆうパックのサービスを維持するのは有難いが、⑳㉑のように、競争会社に外部委託すれば競争会社は儲かり、コストがかさんで、消費者の費用負担が増えるのである。 ⑤については、むしろ上層部が消費者のニーズと現場のサービスを理解していない構造的欠陥があり、⑥⑩については、省庁が民間企業の個別の経営に口出しを続ければ、せっかく郵政民営化しても、天下りが復活して実質的に旧来の体質に戻るということなのである。 従って、⑦の企業統治の徹底と取締役会の役割強化は必要だが、天下りの経営者ではアマゾンのような民間企業の合理性は発揮できず、今回のような行きすぎた事業許可取り消しによる⑧のような損失は、結局は、運賃上昇やサービス低下に加え、国民の税金で穴埋めされることによって、国民に皺寄せされる。 なお、⑨によると、日本郵便は下請け企業からの値上げ要請を拒否して公正取引委員会から行政指導を受けたそうだが、⑭の事情もあるため、日本郵便はゆうパックを完全子会社化して下請けを減らし、(ラストワンマイルの運転手が日本語が達者であれば消費者は困らないため)敬虔なイスラム教徒で酒を飲まず、健康な若い男性(外国人労働者)を長距離輸送の運転手として雇用してはどうかと思う。 また、点呼を貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条に従って行なわなかったのは、運送事業者としての規則違反であるため、郵便法や日本郵便株式会社法のユニバーサルサービス義務とは直接関係がない。にもかかわらず、⑫のように、総務省が「監督上の命令」を発出したところを見ると、総務省も国交省と同様、この機に天下りを出したかったのだろうか。 ちなみに、⑮の日本郵政の増田社長は一連の不祥事を陳謝したが、次の日本郵政グループのトップ層は旧郵政省(現在は総務省)出身者で固められているそうだ。そのため、日本郵政の株主総会では、⑯⑰のように、株主の質問が点呼問題に集中したが、民営化前の親方日の丸意識を変えるためには、むしろ新経営陣の構成に着目すべきであった。 (7)日本の教育について 1)初等・中等教育 ![]() 2023.3.29東京新聞 2025.8.18日経新聞 2023.1.10フリステWalker (図の説明:中央の図のように、文科省が3年に1度行なう全国学力テストの平均スコアが低下し、その理由として、「教える時間の不足」と「教員の質低下」が挙げられた。しかし、左図のように、3歳以降に民定子ども園・幼稚園・保育園に通う子どもは100%に近くなり、右図のように、高校に通う生徒も100%に限りなく近づいているため、これらを義務教育化すれば「教える時間の不足」は解決する) ![]() 2025.8.18日経新聞 (図の説明:左図は、平日の授業以外の勉強時間で、小学校・中学校とも2021年より2024年の方が減っている。また、右図は、家にある本の冊数《家庭の知性度と正の相関関係》とスコアの関係で、本の冊数が多いほどスコアが高い。確かに、私も勉強時間は左の10%以内に入り、勉強していない時も学校図書館の本や父親の本を読んでいたが、それで読解力がついたと思う) ![]() おばとりっくブログ 2024.4.20日経新聞 2024.4.20日経新聞 (図の説明:左図は、オランダのケースで初等教育開始年齢は4歳で8年間教育した後、12歳で終了する。また、中等教育はVMBO《職業教育》コースなら16歳、HAVO《高等一般教育》コースなら17歳、VWO《大学進学準備教育》コースなら18歳で終了し、学力や発達状況に応じて「留年」や「飛び級」が行われることもある。このほか、義務教育の出口で試験をして留年制度があるのは、フランス・ドイツ・アメリカ・フィンランド・スペイン・ブラジルなど多数ある。中央の図は、教員の受験者数と採用倍率の推移だが、次第に下がっており、右図のように、教職の魅力UP策がいろいろと言われているが、最も重要なのは苦労に報いる社会的評価とそれに連動する報酬であろう) *7-1-1は、①文科省が3年に1度程度行う全国学力テストの経年変化分析調査で、小6の国語・算数、中3の国語・英語で平均スコア低下 ②子ども全体の学力低下がこれほど顕著にデータに表れたのは約20年ぶり ③勉強時間が減少し基礎学力も揺らぐ ④テレビゲームやスマホ利用増加、家庭の経済格差、保護者の「良い成績にこだわらない」姿勢等が背景 ⑤成績にこだわらない価値観は一概に悪いとは言えず、情操・道徳心など成長過程で大切にすべき資質は多く、低下した「学力」自体が非認知能力を含む幅広い学力の一部 ⑥デジタル環境への受け身な接し方が言語能力の劣化に繋がる可能性 ⑦教育現場で教える時間不足、教員の時間的余裕の乏しさ ⑧教員の質低下 ⑨「主体的・対話的で深い学び」重視で定着の確認なし ⑩少子化で高校・大学とも難関はごく一部となって受験プレッシャー緩和、入試以外に学ぶ意味を実感させず学ぶ意欲減退 ⑩背景にある知性と学びの危機に目を向ける必要 等としている。 また、*7-1-2は、⑪文科省は、小中高校の成績の基となる学習評価を見直し、「主体的に学習に取り組む態度」の評価比重を軽減する方針で2030年度以降実施予定 ⑫主体的な態度は2020年度以降、小中高校で評価の観点に加えられ主体性の評価は内申点にも影響するが、客観的な判断が難しいとの指摘 ⑬評価の観点は教科毎に「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つを、小学校は3段階・中学校は5段階でつける ⑭導入当初から学校現場では「何を根拠に評価したらよいのか分からない」という声が上がっていた ⑮評価の透明性と妥当性を高めることで、子どもの意欲向上と管理教育の緩和を目指す ⑯早稲田大学の田中教授は「『主体的に学習に取り組む態度』の評価は教員にとって難しく、評価方法を改善するのは良いこと」「主体性評価が高校入試等で活用される内申点に関わるため、生徒は過度に品行方正な振る舞いを求められ管理教育になった」等と指摘した としている。 イ)子どもの基礎学力低下と社会一般の価値観 ①②のように、文科省が3年に1度程度行う全国学力テストで平均スコア低下して子ども全体の学力低下がこれほど顕著にデータに表れたのは、2008年に学習指導要領が改訂され、ゆとり教育が廃止されてから、約20年ぶりだそうだ。 そして、③⑩のように、子どもの勉強時間が減少して基礎学力が揺らぎ、知性と学びの危機に陥った理由の第1は、文科省自身が、全国学力テストの目的を「義務教育の機会均等と水準の維持向上の観点から、全国児童生徒の学力・学習状況を把握・分析して、教育施策の成果と課題を検証し改善を図ることで、児童生徒個人を評価するためのテストではない」として、まるで学力で児童生徒を評価してはならないかのような意見を持っていることである。 このため、小中学校では、スポーツ大会で優勝した生徒は表彰するが、優秀な成績をとった生徒を褒めることはなくなり、生徒に対しては部活重視で勉強する動機付けを与えることがなくなった。そして、このことは、不適切なものも多い人間が作った単純なルールを偏重し、コートの中の目に見える仮想敵を打ち負かすことしか考えられない、AIやロボット以下の視野の狭い大人を大量生産するという結果を生んでいるのだ。 この文科省のスタンスは、小6の国語・算数、中3の国語・数学・英語等の学科の一部についてのみ全国学力テストを行い、経年変化分析調査は3年に1度程度しか行わないことからも明らかである。本当は、毎年、初等・中等教育の出口にあたる小6・中3・高3の全員に対して、英・数・国・社・理などの全国学力テストを行ない、学校別の基礎学力達成度を明らかにして、次年度以降の改善に繋げることが必要なのである。 しかし、「学力で児童生徒を評価してはならない」という主張は、文科省だけではなく、⑤のi)成績にこだわらない価値観は一概に悪いとは言えない ii)情操・道徳心など成長過程で大切にすべき資質は多い iii)低下した『学力』自体が非認知能力を含む幅広い学力の一部 というように、メディアはじめ世間一般でもよく言われていることなのだ。 正しくは、ii)の情操・道徳心は前頭葉に由来するため、学力と負の相関関係ではなく正の相関関係がある。このことは、犯罪を犯した人の学歴(学力と正の相関関係あり)分布を見れば明らかで、iii)については、全国学力テストの科目を増やせば良い。また、全国学力テストの結果とその後の人生における賞罰を結びつけて相関関係を見れば、道徳心や成功と学力に正の相関関係があることも検証できるだろう。 このように、大人が「成績にこだわらない価値観は悪くない」「情操・道徳心と学力は別で学力のある生徒は狡いことをしているからだ」等と言っていれば、子どもは安きに流れて、⑩のように、少子化で受験プレッシャーが緩和すれば、学ぶ意味を無くして学ぶ意欲も減退するのが当然である。 ロ)公教育の重要性と教員の質 親は、親になるための資格試験を受けて親になったわけではないため、子の家庭環境はさまざまで、④⑥のように、子にテレビゲームやスマホを利用させ放題にしたり、デジタル環境に受け身で接して言語能力を劣化させたり、保護者が「良い成績にこだわらない」という態度を示して子のやる気を削いだりなど、家庭間格差は大きい。 そこで、国民の水準を一定以上に保つために公教育の充実が重要なのだが、⑦のように、「教える時間の不足」「教員の時間的余裕の乏しさ」が長く挙げられ続けても、教育現場で教育の質を落とさずに、これらを改善する対策がとられなかったことは明らかだ。しかし、それが、⑧の教員の質の低さそのものなのである。 まず、教える時間の不足については、日本では、6歳で小学校に入学してそこで6年間過ごし、13歳で中学校に入学して3年間過ごす9年間が義務教育であり、義務教育終了時は15歳だ。オランダは、4歳で小学校に入学して8年間を過ごし、義務教育の中等学校で4〜6年(学校種により異なる)を過ごして、最長13年かけて義務教育が終わる。アメリカ・ドイツは州ごとに制度が異なるため省くが、イギリスは、5歳で小学校に入学して6年間過ごし、中等学校で7年間過ごす11年間が義務教育で義務教育終了時の年齢は16歳だが、その後、16〜18歳は教育又は訓練が義務とされている。また、フランスは、3歳で始まる幼児教育から義務教育に含めて、小学校5年間、中等学校7年間の合計13年間が義務教育で、義務教育終了時の年齢は16歳である。 つまり、義務教育開始年齢を6歳に固定する必要は無く、日本でも、上の上段左図のように、3歳以降は認定子ども園・幼稚園・保育所に入る子どもが100%に近いため、オランダを参考にして3歳から初等教育を開始するか、フランスのように3歳から就学前教育を始めるかすれば、「教える時間の不足」は解決し、過度に親に依存することによる家庭間格差も生じずにすむ。そして、その時に必要となるのは、各段階で時間を無駄にせず、効率的に教えるための年齢に適したカリキュラム編成と教員の質・量の充実なのである。 また、上段右図のように、日本の高校進学率も2020年で男女とも100%に限りなく近づいているため、中学・高校は一貫したカリキュラムを作って義務教育化すれば、学習の無駄を省き、さまざまな学習を効率的に行なうことができる。 さらに、「教員の時間的余裕の乏しさ」は、教員に教育以外の仕事をさせず、部活も専門家に任せてレベルの高い指導をしてもらえばよいのに、いつまでも改善せずに同じ事を言い続けているのでは、教員の質が低いと言わざるを得ない。 なお、教員のレベルについては、フィンランドが修士必須、オランダは修士推奨、イギリス・フランスは学士で教員資格取得者、アメリカは学士である。また、教員の職能開発時間・ICT活用授業の頻度・授業設計の自律性は、他国は高いが日本は低い。 しかし、教員のレベルを上げるには、i)社会的地位の高さ(尊敬される職業で、政策形成・教育改革にも関与できること) ii)報酬と待遇(給与・昇給制度・退職金・福利厚生における他の専門職《医師・技術者・政治家など》との競争力) iii)研究や専門性を磨く機会の多さ などの改善が必要であるため、日本は悪循環に陥っているのである。 ハ)基礎学力がなくては、「主体的・対話的で深い学び」もできないこと 主体的な態度は、⑨⑫のように、2020年度以降に小中高校で評価の観点に加えられ、その評価は内申点にも影響するが、学んだことの定着の確認ができず、客観的判断が難しいとの指摘があった。その評価方法は、⑬⑭のように、教科毎に「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つを、小学校は3段階・中学校は5段階でつけたが、導入当初から学校現場で「何を根拠に評価したらよいのか分からない」という声が上がっていた。 また、⑯のように、主体性評価が高校入試等で活用される内申点に関わるため、生徒は過度に品行方正な振る舞いを求められ管理教育になったという指摘もあり、文科省は、⑪⑮のように、「主体的に学習に取り組む態度」の評価比重を軽減し、評価の透明性と妥当性を高めることで、子どもの意欲向上と管理教育の緩和を目指す方針に変更したそうだ。 しかし、思考・判断・表現は、基礎的な知識・技能がなければ有為に成立しないため、「主体的・対話的で深い学びを重視」と言いながら、基礎的知識・技能を習得する時間を減らせば逆効果となる。また、教員自身が、勉強好きで深い知識を持つ実力者でなければ、子どもの思考・判断・表現を正しく評価して良い方向に導くことはできず、単に品行方正な振る舞いを求めるだけの管理教育になって社会に悪影響を与える。 一方、フィンランドの場合は、教員の質の高さを、修士号取得を必須として教育の専門性の高さを担保し、教科横断型の学習で知識を実生活に結びつける力を育成する点が参考になる。また、アメリカの場合は、実社会の課題をテーマにして調査・発表・議論を通じて学力と思考力を同時に育成するプロジェクト型学習が参考になる。 日本の場合は、文科省が「主体的・対話的で深い学び」と言っても、実社会の課題をテーマにして調査・発表・議論を通じて学力と思考力を同時に育成できる教員の質や教育時間が不十分であるため、教育制度や教員の質に関し、時代にあった制度の再構築が必要になるわけだ。 2)男女別学教育の是非について イ)埼玉県には県立の男女別学高校が未だに存在すること *7-2-1は、①埼玉県教委が保護者・県民との意見交換会で共学化推進方針を説明し、賛否両論噴出 ②保護者の部は子が別学高校に通う父母を中心に18人が参加、県民の部は別学校卒業生や県立高校教員経験者など17人が参加 ③共学化反対の意見は、i)女子の目がないので力をフルに発揮でき、人間力が育つ ii)共学の中学校で性被害を受けた人もいる iii)男女の特性に合わせた教育が必要 iv)異性が苦手な人には別学が必要なので、トップ校だけでなく幅広い学力の層に別学校が必要 v)男女共同参画社会と共学化に相関関係があるのか vi)埼玉には名門校のピラミッド構造があり、女子が男子校に入学したら男子の足を引っ張る vii) 女性しかいない中で女性のリーダーシップが育つ 等々 ④共学化賛成の意見は、i)全国的に知名度のある浦和高校に女子が行けないガラスの天井をなくすべき ii)男子校の文化祭の在り方に違和感 iii)共学化しても結果的に男子校や女子校になることがあるから共学化しても良い iv)女子が入ってきても全く問題なく、県立高校は変化を続けなければいけない 等々 ⑤県教委の考え方は、i)共学化で男女共同参画を推進していくものではない ii)男女で教育活動の差を設けることは考えていない iii)一人ひとりの希望と能力に応じた学校の選択肢を用意したい iv)少子化で学校を再編する際は別学校の共学化も検討対象 などと記載している。 1947年に施行された日本国憲法は、「第14条:すべて国民は法の下に平等で、人種・信条・性別・社会的身分・門地により、政治的・経済的・社会的関係において差別されない」「第15条:すべて公務員は全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」「第26条:すべて国民は法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する」と規定しており、女性より男性を優遇してよいとする条文は全くない。そして、その下部の法律として、「男女雇用機会均等法」「男女共同参画基本法」「ストーカー行為等の規制等に関する法律」などがあるのである。 そのような中、埼玉県教委は、今時、①②のように、県立高校の共学化推進のために保護者・県民との意見交換会を行なったそうだが、その保護者の部には、子が別学高校に通う父母を中心に18人を選んで参加させ、県民の部には別学校卒業生や県立高校教員経験者など17人を選んで参加させたそうだ。しかし、埼玉県民で多額の県民税を支払っている我が家に参加意思を聞かれたことはないため、県民税を埼玉県立高校のために支出するのは止めてもらいたいと思う。 そして、県立高校共学化反対意見には、③のi) vi)の「女子の目がないから力をフルに発揮でき、人間力が育つ」とか「埼玉には名門校のピラミッド構造があり、女子が男子校に入学したら男子の足を引っ張る」などという男性中心の視座のものが多い。こういう男性中心の視座を持つ高校を卒業した男性が、職場でも「女性がいない方が働きやすい」とか「女性は昇進に不向き」などと言って、堂々と男女雇用機会均等法違反や男女共同参画基本法違反をするのである。 また、③のii)の「共学の中学校で性被害を受けた」というのは、女性(or男性)に対するセクハラ又は暴力行為であるため、その場で注意して人間の尊厳やそれを護るための道徳を教えるのも学校の仕事であるのに、それもせずに男女別学にすれば、「性加害は悪いことである」ということを教える機会も失って、おかしな大人が卒業してくるのである。 さらに、③のiii)の「男女の特性に合わせた教育が必要」やv)の「男女共同参画社会と共学化に相関関係があるのか」などと言っている人は、男女平等の憲法や男女雇用機会均等法・男女共同参画基本法を持つ日本で、未だに性的役割分担に基づくジェンダーを主張しているわけだが、これに対し、⑤のi)のように、県教委も「共学化で男女共同参画を推進していくものではない」などと言っているのは、憲法14条・15条及び26条違反であり、教師として質が悪い。 なお、県立高校共学化反対意見の中には、iv)の「異性が苦手な人には別学が必要」という意見もあるが、社会に出て「異性が苦手」などと言っていれば、働く場所はなく、結婚もできない。従って、多感な青春時代に、対等な友人として、また手強い競争相手として、異性と同じ校舎で学び、本当の姿の異性を知っておくことが重要なのである。 さらに、③のvii)の「女性しかいない中で、女性のリーダーシップが育つ」という意見も、言い換えれば、「女性しかいない中でしか女性はリーダーシップを発揮できず、その壁を打ち破る気も無い」という情けないものである。そして、こういう事例の積み重ねが、「女性は昇進に不向きである」という固定観念を作って、他のそうでない女性に迷惑をかけているのだ。 共学化賛成の意見のうち、④のi)の「全国的に知名度のある浦和高校に女子が行けないガラスの天井をなくすべき」は、憲法第26条及び男女雇用機会均等法の趣旨から考えて尤もだ。何故なら、しっかり勉強していなければ、いくら機会均等でも、就職も昇進もできず、その結果、リーダーにもなれないからである。 ④のii)については、私は「男子校の文化祭」に行ったことがなく何とも言えないが、④のiii)の「共学化しても結果的に男子校や女子校になることがあるから共学化しても良い」というのも、女性の能力を低く見ている女性蔑視そのものであり、女性に対して失礼千万である。また、iv)の「女子が入ってきても全く問題なく、県立高校は変化を続けなければいけない」というのは、女性がいると何か問題があるかのようで、これも賛成はしているが、男性中心の視座である。 そのため、⑤の県教委は、ii) iii)のような視点をもっているのなら、iv)のような少子化対策に逃げるのではなく、「男女で公教育に差を設けることは、男女平等の日本国憲法に反し、男女雇用機会均等法や男女共同参画基本法にも反するため、県立高校の公務員として、男女差別はしない」ときちんと説明できなければならないのである。 ロ)女子大学は男女を率いるリーダーを育めるのか *7-2-2は、①2000~2025年に、私立女子大学は25校が共学化・2校が廃止・2校が募集停止して存亡の危機 ②日本の女子大は20世紀初め、「良妻賢母」という実践的ジェンダー・ニーズを満たすために設立 ③この使命は多くの女性が共学の大学に進学するようになった1990年代以降に戦略的ジェンダー・ニーズに移行 ④多くの女子大学は家政など伝統的な学科を廃止してグローバルコミュニケーション等のキャリア志向のプログラムを新設したが、女子大が女性のリーダーシップやジェンダー平等に影響を与えたとする研究は乏しい ⑤日本は国際的なジェンダー平等の指標で一貫して低い順位 ⑥女性理事割合が50%を超えるのは津田塾・白百合・聖心女子大の3校のみ ⑦津田塾・日本女子大は理事会の半数を現職教職員が占めるが、他は1/3未満 ⑧多くの私立女子大は、国公立や私立の一流大学の男性教授がキャリアの終盤に移籍して教授・理事のポストを占める ⑨日本企業の取締役や別の大学で運営経験を持つ男性が退職後に女子大理事に就任するケースも ⑩多くの私立女子大理事会は、エリート男性の第二のキャリアの目的地に ⑪日本女性の自由と社会貢献の拡大は、女子大が女性を意思決定プロセスの中核にしない限りは実現が困難 等としている。 また、*7-2-3は、⑫今年に入って、京都ノートルダム女子大が学生募集停止、武庫川女子大が共学化方針発表 ⑬女子大減少は続くが、今も大学全体の1割弱を占め、存在意義や役割を考える必要 ⑭日本は先進国の中でも政治・経済分野で女性リーダーが圧倒的に少ない ⑮お茶の水女子大の室伏前学長は、「性別役割意識や『わきまえる』という無意識の偏見から離れて過ごせる女子大は、女性がリーダーシップを学ぶ上で優れた場所」 ⑯では、女子大は、どれだけリーダーを輩出し、ジェンダー平等に寄与したか ⑰アジアを含めた海外との比較検証と日本社会に横たわる根深い課題を示すことが女子大の役割では 等としている。 このうち②については、戦前の男女差別や性的役割分担意識が激しかった時代、男子の「旧制高等学校」や「大学予科」に相当する教育機関が女子にはなかったため、女子に限った専門教育機関として、「実践的ジェンダー・ニーズを満たすため」と言って「良妻賢母」を目指す文学・家政学・教育学・栄養学・保育・看護などを中心に教える女専(女子専門学校)ができた。そして、その時代としては先進的な家庭の子女で優秀な女性が女専に入学したため、女専は、その時代の重要な役割を果たしたのである。 しかし、戦後、日本国憲法が施行されて男女共学が原則となってからは、③④のように、優秀な女性は旧帝大でもどこでも入れるようになったため、女専の多くは女子短期大学や女子大学として再編され、現在の女子大の基盤となった。そして、男女雇用機会均等法が施行された1990年代以降は、戦略的ジェンダー・ニーズに移行し始めたのである。しかし、私の96歳になる母は、女専を出ているが、私には「せっかく男女平等の世の中になったのだから、共学校に行きなさい」と言っていたので、本当に男性と互角に仕事や研究をしたいと思う優秀な女性は男女共学校に行き、女子大を選択する女性が社会でリーダーシップをとったり、ジェンダー平等に貢献したりすることは少ないと思われる。 従って、役目を終えた女子大が、①⑫のように、共学化・廃止・募集停止となるのは、抗うことのできない時代の流れであろう。そのため、⑬のように、無理に存在意義や役割を考える必要は無く、それでも一定割合の人は家政学・栄養学・保育などを学びたいと思っているだろうから、共学化してもそのニーズを満たせるようにすれば良いのだ。ただし、⑰のように、アジアを含めた海外との比較検証や日本社会に横たわる根深い課題を研究を通して明らかにすることは、東大でもやっていた人はいるが、女子大の方がやりやすいのかもしれない。 なお、⑤⑭の「日本は国際的なジェンダー平等の指標で一貫して低い順位」「日本は先進国の中でも政治・経済分野で女性リーダーが圧倒的に少ない」というのは本当だが、家政学・栄養学・保育などを学んだ女性が活躍しているのは家庭科の先生や保育所の保母であり、女性であっても政治・経済の素養がなければ政治・経済分野のリーダーにはなれない。 さらに、⑮のように、お茶の水女子大の室伏前学長が「女子大は、性別役割意識や『わきまえる』という無意識の偏見から離れて過ごせるため、女性がリーダーシップを学ぶ上で優れた場所」と言っておられるが、女性の中だけでしか性別役割意識や『わきまえる』という無意識の偏見から逃れられない人が、男女混成の社会でリーダーになれるわけがないのである。そして、⑯のように、女子大は、むしろ性的役割分担意識に支えられているため、社会で多くのリーダーを輩出してはおらず、ジェンダー平等にも寄与していないと思われる。 また、⑥⑦のように、女性理事割合が50%を超えるのは津田塾・白百合・聖心女子大の3校のみで、⑧⑨⑩のように、多くの私立女子大は、エリート男性の退職後のセカンドキャリアとなっているそうだが、女子大は卒業生が大きな力やネットワークを持っているわけではないため、⑪のように、日本女性の自由と社会貢献の拡大を女子大が担うのは、女性を意思決定プロセスの中核に据えても難しいと思う。 3)外国人留学生への支援 *7-3は、①現在14億の人口を擁して人口・経済ともに成長中のアフリカ市場に日本が食い込むには日本語や日本文化に精通した人材育成が必要 ②立命館アジア太平洋大学は学生の半数が留学生で、アジア各国で多くの卒業生が日本とのビジネス交流に力を発揮 ③アフリカも留学生を通じた人材育成を図ることが、アフリカ市場進出の足がかりになる ④大学院生と同様、四年制大学のアフリカからの学部留学生を増やすことが重要 ⑤アフリカ留学生はエリート家庭出身も多く、卒業する学生は本国に戻ってすぐ現地エリートとして活躍するので、親日層の獲得効果が高い ⑥学部のアフリカ留学生は、生活・病気・事故時の突発的対応など生活面の不安が課題 ⑦日本国内に同郷人コミュニティーが殆どないので、「アフリカ留学生支援基金」創設を提案する ⑧緊急の資金貸与・在京大使館からの支援・卒業後の就職で便宜が得られるメニューも揃えば、留学生の自主的登録が期待できる ⑨日本の大学を卒業した留学生のデータベースにもなり、日本企業の高度人材採用に活用できる ⑩米トランプ政権や欧州での移民排斥の中、欧米以外への留学志向が高まっているため、日本は安全性と文化的魅力で好機 等としている。 ⑩の米トランプ政権以前のアメリカは、これまで留学生に対する支援が手厚く、⑤⑥のように、生活面の不安を軽減して親米層を獲得する効果を出していた。具体的には、i)給付型奨学金(成績優秀者や経済的困難者向けの返済不要奨学金で、留学生も対象で専攻分野や出身国に応じた特別枠もある) ii)大学による生活支援(留学生向けオリエンテーション・メンタルヘルス支援・医療保険制度案内・ビザ・就労・文化適応など) iii)キャリア支援と就職連携(大学が企業とネットワークを構築してインターンや就職を支援) iv) コミュニティ形成と文化交流(留学生同士のネットワーク形成や地域住民との交流プログラム) などがある。 また、カナダは、v)公立大学の授業料が比較的安価で留学生にも奨学金がある vi)永住権取得に向けた制度(PGWP)との連携で留学が移民戦略と直結 などである。 日本も、①②③④のように、人口・経済ともに成長が見込まれる市場とビジネス交流するためには、その国から大学院生だけでなく四年制大学の学部に優秀な留学生を積極的に入学させて、日本語や日本文化にも精通した人材を育成することが必要である。 それには、i)のアメリカのように、給付型奨学金を日本人だけでなく留学生にも支給し、特に人手が足りず必要な分野を専攻する学生には特別枠を設ける方法があるし、v)のカナダの例のように、公立大学の授業料を比較的安価にした上で留学生にも奨学金を給付する方法もある。 また、⑦の日本国内に同郷人コミュニティーが殆どないことについては、ii)の大学による生活支援、iii)の大学と企業のネットワークによるキャリア支援・就職連携、iv)の留学生同士のネットワーク作りや地域住民との交流などが考えられる。また、在京大使館の支援も重要ではあるが、日本企業も奨学金支給段階から参加して相談相手となり、インターンや採用に繋げるのが、⑧⑨の高度人材採用に効果的だろう。 このように、人道的支援だけでなく、国際関係・新市場開拓・人材確保の観点から見ても、今の日本で外国人差別を行なっている場合ではないのである。 ・・参考資料・・ <運輸業・建設業等の人手不足> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC209UK0Q5A520C2000000/ (日経新聞 2025.7.2)物流大手SBS、運転手の3割1800人を外国人に インドネシアで養成 物流大手のSBSホールディングス(HD)は10年以内にトラック運転手の3割を外国人にする。外国人が最長5年働ける「特定技能」の制度を活用し、主にインドネシアから1800人を採用する。ヤマト運輸など業界大手も採用に乗り出しており、人手不足が深刻な物流業界において外国人頼みが強まっている。SBSHDはまず年内にインドネシアに自動車学校を設ける。講師を現地に派遣し、日本の交通ルールや日本語を教える。全寮制で半年間学んだうえで来日してもらう。2026年からは年間100人程度のペースで採用を始める。現在は特定技能の外国人運転手はおらず、10年以内に全体の3割に当たる1800人程度にする。多くがイスラム教徒であると想定し、来日後も礼拝や食事などに配慮して働きやすい環境を整備する。賃金は日本人より低くなる見通しだ。政府は24年に外国人在留資格について最長で5年就労できる特定技能1号に自動車運送業を新たに加えた。上限は2万4500人。物流業界ではこの制度を通じ、外国人運転手を採用する動きが広がる。船井総研ホールディングス(HD)も傘下の物流コンサルティング会社、船井総研ロジが中小企業に仲介するサービスを始めた。主にバングラデシュからの採用を想定する。顧客である中小企業の要望に応じ、現地の送り出し機関と連携して面接による資質の見極めや入社前後の研修、採用後のマニュアル整備などを支援する。25年からの3年間で510人を計画し、その後も年200人ペースで仲介する。既に28人の採用が内定したという。このほか、福山通運も今秋にベトナム人を運転手として初めて約15人採用する予定。センコーグループホールディングスは32年度までに100人を採用する。背景には業界の人手不足がある。野村総合研究所は30年度に運転手の数が20年度比で27%減り、36%分の荷物が運べなくなると試算する。少子高齢化に伴う人口減に加え、24年度からは運転手の残業規制が年間960時間までに制限されたことで人手不足に拍車がかかっている。SBSHDといった主に企業向け配送を担う企業だけではなく、個人向けが中心の宅配大手も外国人の採用に乗り出す。ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスでは今秋にも、長距離の幹線輸送やルート配送といった中長距離の拠点間を担う運転手として勤務が始まる予定。佐川急便も長距離や店舗間の輸送で採用を検討している。決まったルートを行き来するため、日本語が不慣れな外国人でも働きやすいとみる。特定技能による外国人運転手はバスやタクシー、引っ越しなどの運転手も含む。船井総研ロジはこのうち、トラック運転手が8割を占めるとみる。自動運転の実現が見通せないなか、地方のバス運行会社なども外国人運転手の確保に動いている。物流に限らず、公共交通、介護まで、様々なサービスは外国人なしには成り立たないのが現実だ。受け入れる企業は外国人が働きやすい仕組みづくりだけでなく、サービスを利用する消費者に受け入れられる環境整備も求められる。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250717&ng=DGKKZO90077840W5A710C2EA2000 (2025,7,17) 外国人材 特定技能・技能実習が3割 ▽…厚生労働省によると、日本で働く外国人は2024年10月時点で230万2587人と就業者全体の3.4%を占める。人手不足の深刻化によって10年前の2.9倍に増えた。高度人材向けの在留資格「技術・人文知識・国際業務」は全体の18%で、製造・建設などの現場で働く特定技能や技能実習が約3割を占める。留学生のアルバイトも14%に上る。 ▽…受け入れが本格化したのは1990年代だ。89年の出入国管理法改正で中南米の日系人を主な対象とする在留資格「定住者」を設けた。93年には、技術移転を通して途上国の経済成長に貢献するとして技能実習を創設した。労働力需給の調整手段ではないとされたが、実際には人手不足の穴埋めとして広がった。 ▽…2019年に導入された特定技能は正面から人手不足対策とうたう。最長5年の「1号」のほか、熟練者向けに在留期間の制限がない「2号」がある。来日や定住・永住の増加を懸念する声もあり、20日投開票の参院選で与野党が外国人規制の強化の是非を議論している。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA091TP0Z00C25A2000000/ (日経新聞 2025年6月8日) 縮む建設業、工事さばけず 未完了が15兆円超え過去最大 【この記事のポイント】 ・未完了の建設工事が過去最大級15兆円超 ・建設就業者が10年で6%減、高齢化率2割 ・生産性向上課題、IT活用は英仏の5分の1 国内で商業施設や工場などの建設が停滞している。建設会社が手元に抱える工事は金額にして15兆円を超え、過去最大に膨らんだ。かねて深刻な人手不足に2024年からの残業規制が拍車をかけている。生産性の向上を急がなければ、民間企業の設備投資や公共投資の制約となり、日本の成長力が一段と下振れする恐れがある。イオンモールは福島県伊達市の店舗のオープンを当初予定の24年末から26年下期に延期した。建設作業員が集まらず、工事が計画通りに進まなかった。「東北地方は人手がもともと少ないうえに各地に散らばっている。確保が難しい」と説明する。こうしたケースは各地で相次いでいる。国土交通省の建設総合統計によると、建設会社が契約したうち完了できていない工事は25年3月に15兆3792億円(12カ月移動平均)に達した。物価上昇も影響し、業界全体のデータを遡れる11年4月以降で最も高い水準で推移する。1990年代初めごろも今と同じように手持ち工事高が積み上がっていた。当時はバブルの崩壊で経済が長い低迷期に入る前で、建設需要の増加が大きかった。対照的に目下の大きな問題は業界全体で供給力が縮んでいることだ。総務省の労働力調査によると、24年の建設関連の就業者数は10年前に比べて6%減り、477万人となった。このうち65歳以上が80万人と2割近くを占めた。高齢化率は10年間で5ポイント上がった。加齢で体力が衰えれば若いころのようには働けなくなる懸念がある。社会全体での働き方改革の不可逆な流れも、こと労働力の確保という部分では足かせになる。24年4月に始まった時間外労働の上限規制で、建設業は原則として月45時間、年360時間までしか残業できなくなった。結果として24年の一人あたりの総労働時間は前年から32.3時間減った。マイナス幅は全産業平均の14.3時間を上回る。限りある人手の争奪戦は激しくなっている。先端半導体の量産を狙うラピダスの工場建設が進む北海道は、従業員10人以上の企業で働く建設労働者数が23年におよそ13万人と前年比23%増えた。所定内給与は月平均32万6000円程度と3万円以上増えた。伸びは全国平均の約1万4000円を上回る。建設会社が利益率の高い工事を優先する傾向も強まる。民間の産業用建築物の1平方メートルあたりの着工単価は、24年におよそ30万円と前年から18%も上がった。ある大手のトップは「採算や工期を十分に確保できるかによって厳格に選別している」と語る。近年は中小の建設会社の廃業も目立つ。人手の確保で後手に回り、好採算の案件にあぶれて生き残りが難しくなっているとみられる。労働集約型の産業構造の改革という古くからの課題も改めて浮上する。大和総研の末吉孝行氏は「日本の建設業は中小が多くIT(情報技術)の導入が遅れている」と説く。建設従事者が使える省人化などのソフトウエアの一人あたり導入量はフランスや英国の5分の1にとどまるというのが現状の試算だ。業界全体で工事をさばく能力が低下した状態が続く弊害は大きい。働き手の確保が難しいのなら、デジタル化などによって生産性を高めるしか道はない。建設業は日本の国内総生産(GDP)の5%程度を占める。内需の柱である設備投資の3分の1ほどにあたる。たとえば工場の建設が停滞すれば、備え付ける機械の投資の遅れなどにも波及する。ただでさえ低成長が続く日本経済のボトルネックになりかねない。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/ask (日経新聞 ASK) 建設業の労働力不足の背景 建設業界では、かねてからの人手不足に加えて、時間外労働の上限規制が導入されたことなどが要因となり、労働力不足が深刻化しています G。 ⚙️ 人手不足と高齢化 就業者数の減少: 2024年の建設関連の就業者数は477万人と、10年前に比べて6%減少しています。高齢化の進行: 建設業の就業者に占める65歳以上の割合は2割近くに達し、高齢化率は10年間で5ポイント上昇しています 。高齢化により、体力の低下から若い頃のように働けなくなる懸念があります。 ⏱️ 労働時間の上限規制 残業規制の導入: 2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用され、原則として月45時間、年360時間までしか残業できなくなりました。労働時間の減少: 結果として、2024年の1人当たりの総労働時間は前年から32.3時間減少し、全産業平均の14.3時間を上回る減少幅となっています。 💰 給与水準と待遇 給与の伸び悩み: 建設業では待遇の低さから若者の就業が進まないことが課題となっています。待遇改善の動き: 一部の企業では、初任給の引き上げやリーダー職の待遇改善など、人材確保に向けた動きも見られます 。積水ハウス建設HDでは、特に評価の高い30〜40歳代のリーダーの年収を前年比40%以上増の約850万円に引き上げました。 🏢 中小企業の状況 廃業の増加: 近年、中小の建設会社の廃業が目立っています 。人手確保が難しく、好採算の案件にあぶれて生き残りが難しくなっているとみられます。IT導入の遅れ: 中小企業ではIT(情報技術)の導入が遅れており、省人化などのソフトウェアの導入量が少ないのが現状です。 🔨 その他の要因 建設需要の増加: 国内各地で再開発事業や工場建設などが行われており、工事需要が高い傾向が続いています。技能者の不足: 技能実習制度に代わる育成就労制度や特定技能制度を通じて外国人の受け入れを進めていますが、韓国やオーストラリアも建設分野の外国人材の受け入れに熱心であり、待遇面での競争も激しくなっています。これらの要因が複合的に影響し、建設業界における労働力不足が深刻化しています。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA01BVM0R00C25A7000000/ (日経新聞 2025年7月2日) 老朽水道管、更新資金足りない 財務省研究所「平均8割値上げ必要」 全国の上水道事業の99%が、水道管など設備の更新に必要な資金を確保できていない恐れがあることが財務省所管の研究所の調査で分かった。更新費用を水道使用料だけで賄おうとする場合、料金を平均で8割引き上げる必要があることも明らかになった。近隣自治体との業務共同化などコスト削減策が急務となる。上水道事業は原則として、必要な経費を住民が支払う使用料で賄う。もっとも、将来の収支見通しが甘く、費用を料金に十分に反映できていない自治体が多いとの見方がある。単年度の損益は黒字を確保できていても、実は手元資金が少なく、老朽化した水道管を更新する資金までは準備できていない例もある。そんな状況でも水道料金を上げると住民の反発が予想される。物価高対策として逆に水道料金を割り引く場合もある。東京都は検針の時期によって今年6月から9月、または7月から10月の4カ月間、都内すべての一般家庭の水道の基本料金を無償にする。 ●月額水道料金は全国平均で3332円 上水道は主に市町村の公営企業が運営している。上水道事業の資金繰りを把握するため、財務総合政策研究所の研究班が全国1241事業者を分析した。財務省が保有する公営企業の2013〜22年度の会計データを活用し、給水人口が5000人を超える事業者を対象とした。年間使用料によって経費を賄えているかどうか、どれだけ現金を手元に残せるかという2つの観点から評価した。全体の99%にあたる1228事業者が事業継続に必要な金額を使用料で賄えておらず、安定的に設備投資に回せるほどの現金を生み出せていなかった。各事業者が現在の設備を維持したまま、必要な内部留保を確保するには、平均で83.2%の料金上げが必要になることも分かった。国土交通省によると、22年度末時点で一般家庭の月額水道料金は全国平均で3332円。単純計算でこれが同6100円程度に上昇することになる。総務省などによると、全国の上水道は1975年ごろに整備が進んだため、足元で法定耐用年数の40年を過ぎた水道管が全体の2割を超える。各事業者は手元の現金が少なければ、日常的な保守だけでなく、漏水など緊急時の対応にも支障が出かねない。実際、老朽化した水道管の漏水事故も全国で起きている。京都市では4月、市内の幹線道路の地下を走る水道管が破損し、広範囲に冠水した。神奈川県鎌倉市でも6月、水道管が破裂して市内の約1万世帯が断水した。各自治体は必要経費を料金に反映するとともに、近隣自治体との業務の共同化などのコスト削減策が必要になる。事業統合や経営一体化も有力な手段で、すでに大阪府内の自治体などが取り組んでいる。人口減少をふまえると、市街地の集約による水道インフラの縮小も重要な選択肢となる。財務省は調査結果を自治体や総務省、国交省などと共有し、毎年の実地監査などに活用する。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250717&ng=DGKKZO90079440X10C25A7EA1000 (日経新聞 2025/7/17) アジア人材獲得、西へ拡大、東南アの成長織り込む ルート多様化、バングラは1.5倍 外国人材の来日が少なかった南アジアや中央アジアの国々を開拓する動きが官民で広がっている。厚生労働省は年度内に日本での就労ニーズなどを現地調査する。日本語教育プログラムなどを始める企業も相次ぐ。東南アジアの経済成長で来日が頭打ちとなるのを見据え、他地域に獲得ルートを広げる。厚労省は民間団体に委託して、南アジアや中央アジアの「送り出し機関」(人材会社)などに聞き取りをする。日本での就労ニーズや制度面の障害を調査する。インドやスリランカ、ウズベキスタンなどを想定する。高級すし店などを手掛けるオノデラグループで特定技能人材の育成と紹介を担うオノデラユーザーラン(東京・千代田)は6月11日、ウズベキスタン移民庁と連携協定を結んだ。早ければ今秋から、日本で働きたい若者に半年ほど日本語を教え、特定技能の試験に合格したうえで来日させるプログラムを始める。外食や介護など向けに年200人ほどの育成から始め同500人に拡大する計画だ。日本に留学を希望する学生を支援する日中亜細亜教育医療文化交流機構(東京・港)も4月、ウズベキスタンの3カ所に日本語教育の拠点を設けた。特定技能として日本での就労を目指す。ワタミは特定技能人材を育成する研修センターをバングラデシュに設立する。同国政府機関の施設で教育プログラムなどを提供する。年間で約3000人を特定技能人材などとして日本に送り出す目標を掲げる。製造・建設・介護などの現場で外国人を雇用できる技能実習や特定技能は2024年12月時点で計74万人が働く。国別ではベトナムが34万5619人と半数近くを占めるものの伸び率が鈍っている。かつて技能実習で10万人超が働いていた中国は1人あたり名目国内総生産(GDP)が7000ドルを超えた13年から来日が減り、24年12月は2万5960人となった。ベトナムは24年に約4500ドルと10年で1.8倍になった。厚労省の担当者は東南アジア各国も近い将来、他国で働く必要性が薄れ獲得が難しくなる可能性があると分析する。韓国や台湾との人材獲得競争も激しくなっている。韓国は外国人労働者を対象にする「雇用許可制」について、21年に5万人程度だった年間の受け入れ上限を3年で3倍に拡大した。時給換算の最低賃金はすでに日本の全国平均に並ぶ。台湾も製造業や建設業などで外国人労働者の賃金が上昇している。南・中央アジアからの来日はまだ少ない。特定技能と技能実習の合計人数はインドが24年12月時点で1427人、スリランカ4623人、ウズベキスタン346人にとどまる。人材送り出しの潜在力は高そうだ。厚労省によると、インドは23年の労働力人口が4億9243万人に上り、毎年1000万人以上増えている。15~24歳の失業率は15.8%に達する。バングラデシュは24年12月時点で特定技能・技能実習の合計が2177人で前年同月比1.5倍になった。急速な来日拡大には慎重意見もある。単純労働者の受け入れ制限などを求める声があり、20日投開票の参院選で外国人規制が争点に急浮上している。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250725&ng=DGKKZO90242720U5A720C2EA1000 (日経新聞 2025.7.25) 「外国人材受け入れ拡大を」 全国知事会、国に要請へ 参院選受け過剰規制懸念 全国知事会は23~24日開催の全国知事会議で、外国人の受け入れ拡大を国に求める提言をまとめた。人材育成や確保を目的として2027年に始まる「育成就労制度」の柔軟な運用などを求める。人口減が加速するなか、外国人は地域産業や地域社会の重要な担い手となる。参院選で外国人規制が争点となったこともあり、過剰な規制強化への懸念は大きい。提言では「外国人の受け入れと多文化共生社会の実現に国が責任を持って取り組むよう、強く要請する」と主張し、技能実習制度の後継となる育成就労制度に関する要望を多く盛り込んだ。技能実習は日本で学んだ技能・技術を出身国の経済発展に生かしてもらうのが目的だが、育成就労は人材の育成と確保を主眼とする。国は受け入れ要件を厳格化し、一定以上の日本語能力を要求する方針だ。知事会は育成就労について「技能実習の作業職種から大きく減少することを危惧する声が多くの自治体から聞かれる」と指摘。受け入れ分野の追加や手続きの簡素化など柔軟な運用を求めた。外国人の受け入れ環境を整えるため、国が主体となり制度設計や財源確保に取り組むことも要望した。多文化共生に向けた施策を担う司令塔組織の設置も提案した。外国人規制は参院選で主要な争点となった。日本で排外主義のような極端な主張が急速に広がっているわけではないが、国民の関心は高まっている。外国人材が地域を支える存在となっている地方自治体の危機感は強く、全国知事会の村井嘉浩会長(宮城県知事)は「排外主義はあってはならない」と強調した。静岡県の鈴木康友知事は政府が設けた在留外国人の犯罪などに対処するための組織を取り上げ「排斥、規制だけが取り沙汰されるようなことは正さなければならない」と述べた。 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250725&ng=DGKKZO90229370U5A720C2KE8000 (日経新聞 2025.7.25) 外国人材、地方での定着が重要 マイナビグローバル代表取締役 杠元樹 外国人労働者の増加に伴い、問題点についても多く議論されるようになった。主な論点は「選ばれない日本」に陥る可能性と外国人労働者が特定地域に偏ることによる弊害である。2つの問題の解決の鍵は「都市部」ではなく「地方」にあり、「入り口」ではなく「定着」にあるのではないか。まず、外国人の採用自体はそれほど大きな課題とはなっていない。外国人留学生の増加もあり、外国人在留数が多い都市部の採用はもちろん、地方においても海外から日本に来る外国人を採用する場合、まだ十分に日本の賃金や待遇に魅力があるからだ。求める給与水準が上昇した中国人やベトナム人の採用は難しくなっているが、日本が選ばれるための対策を優先する状況にはない。多額の費用をかけて採用し、入社までに長い時間を待ったにもかかわらず、すぐに退職して都市部へ移り住んでしまうことが、あらゆる弊害の要因である。早期退職ゆえにその地域に根付かず、都市部へ流入することで一極集中し、地域共生社会を妨げる負の循環につながる可能性があるからだ。定着のために必要なのは外国人労働者特有の退職メカニズムを理解し、雇用主・自治体・人材会社がそれぞれの役割を果たすことだ。マイナビグローバルの特定技能人材の退職理由の調査では、入社から3カ月以内の退職で最も多かった理由は「人間関係の不満」であり、「家族・友達・パートナーの近くに転居」は時期を追うごとに高くなる傾向がある。業務・職場の不満はどの時期も高いが、「業務内容が合わなかった」が主な要因だった。また、入社1年を超えると定着率が一気に高まる。人材会社は責務として業務内容の理解促進やキャリア意識を持った人材を育成し、雇用側は異文化理解のコミュニケーションを促進する教育を行い、自治体は長期就労を見据えた生活基盤確保の支援に取り組むべきだ。生活基盤の確保については、家族との住居探し、子供の日本語支援、妊娠・出産の病院でのサポートが必要だが、必ずしも多額の費用はかからない。地方での定着が進めば、おのずと日本就労の魅力は増加し、過度な都市部への流入を食い止められるはずだ。 <参議院議員選挙と外国人政策> *2-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/416128 (東京新聞 2025年7月1日) 「違法外国人問題」の公約ではりあう自民・国民・参政党…見え透いた「狙い」と危ぶまれる「ヘイト演説」 自民党の参院選公約に盛り込まれた「違法外国人ゼロ」を巡って「こちら特報部」は疑問を呈してきたが、外国人に照準を定めた公約を掲げる政党は他にも出てきている。彼らは「優遇の見直しを」「迷惑外国人を排除」と訴える。危ぶまれるのが、論戦の名を借りた排外主義の喧伝。「違法ゼロ」を訴えるなら、むしろあの問題に目を向けるべきでは。 ◆「外国人の規制で生活苦は解決しないのに」 「『違法外国人ゼロ』に向けた取り組みを加速化します」。自民党の小野寺五典政調会長は6月19日、参院選の公約発表で宣言した。外国人による運転免許切り替えや不動産所有の際に起き得る問題への対応を徹底するという。外国人に照準を定めた公約は、最近耳目を集める他党にも広がっている。一例が国民民主党。昨秋の衆院選で「手取りを増やす」と身近な政策を訴えて議席を4倍に増やし、先の東京都議選は議席数をゼロから9に。参院選公約で差別解消を掲げつつ「外国人に対する過度な優遇を見直す」とし、玉木雄一郎代表はX(旧ツイッター)で「国の財政が厳しい状況にあるなら、税金はまず自国民に使うのが当然」と記す。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「外国人に照準」が広まる背景について「ひと言で言えば受け狙いだろう」と語る。「国民は『生活が苦しいのに、自分たちは政治にないがしろにされている』といった不安を持っている。外国人の規制で生活苦は解決しないのに、外国人に問題があるとあおることで、人気を得ようとしているように見える」。 ◆「選挙になれば、選挙運動としてあちこちで主張される可能性」 目を引くのは参政党も。議席ゼロで迎えた都議選で3議席を獲得。共同通信の6月28、29日の世論調査では、参院選比例代表の投票先として同党を選んだのは5.8%。全党のうち4番手で、国民民主の6.4%に迫る勢い。参院選公約では外国人労働者の受け入れ制限や入国管理の強化により「望ましくない迷惑外国人などを排除」とうたう。その参政党は、これまでどう支持を得てきたか。保守派の言論に詳しい作家の古谷経衡氏は「支持者を取材すると、40〜50代の女性が多い。一度も選挙に行ったことがなかったような『無関心層』が目立つのが特徴」と指摘する。参政党は食品添加物などを否定し、有機農法や自然食品の意義を説いてきた。古谷氏は「『自然食品を徹底すれば健康になり、社会も改良される』というオーガニック信仰は、先進国の比較的富裕な層に受け入れられてきた。政治的な知識がなくても理解しやすい。それが無関心層を引きつけた」とみる。「オーガニック信仰は突き詰めると、体に不純物を入れてはならないという発想」で、コロナ禍で同党が訴えた反ワクチンも同じ考えの上にあるという。ただ「コロナ禍が終わり、反ワクチンが受けなくなったのか、代わりに従来主張していた保守的な政策を再び強く訴えるようになった」。強い危惧もある。反人種差別の政策に詳しい師岡康子弁護士は「『外国人が優遇されている』といった主張は日本人と外国人を分断させ、差別をあおる。選挙になれば、選挙運動としてあちこちで主張される可能性がある」と話す。「税金でいわば公的ヘイトスピーチがなされるが、公職選挙法に守られて市民が止めるのは限界がある。人種差別撤廃条約とヘイトスピーチ解消法に基づき、公的機関は選挙運動におけるヘイトスピーチを批判すべきだ」 ◆外国人優遇?「優遇されているとして挙げるなら米軍人だ」 排外主義に陥りかねない参院選公約。「違法外国人ゼロ」「優遇許さず」に反応するのが、ジャーナリストの布施祐仁氏だ。「『日本で優越的な権利を有した外国人住民がいる』という主張は事実ではない」と述べた上で「優遇されているとして挙げるなら米軍人だ」と語る。「『外国人が増えると治安が悪くなる』との言説も根拠はないが、米兵による事件事故は現に多発している」。沖縄県警がまとめた犯罪統計書によると、1972〜2022年の日本復帰後50年間で、県内での米軍関係者(米軍人や軍属ら)の刑法犯の検挙件数は6163件。昨年は73件で、過去20年で最多だった。 *2-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1509850 (佐賀新聞 2025/7/15) 外国人「制度見直し重要な課題」、首相、在留管理の適正化を指示 政府は15日、外国人に関連する施策を担う事務局組織「外国人との秩序ある共生社会推進室」の発足式を首相官邸で開いた。石破茂首相は「ルールを守らない人への厳格な対応や外国人を巡る現下の情勢に十分に対応できていない制度の見直しは政府として取り組むべき重要な課題だ」と指摘。出入国在留管理の適正化や社会保険料などの未納防止、土地などの取得を含む国土の適切な利用管理に対処するよう指示した。参院選では外国人政策を巡り、与野党が規制強化や共生の重視を掲げ、争点の一つに浮上している。新組織発足は政府を挙げて施策を推進する姿勢をアピールする狙いがあるが、過度な規制強化や権利制限につながりかねない懸念がある。首相は発足式で「外国人の懸念すべき活動の実態把握や国・自治体における情報基盤の整備、各種制度運用の点検、見直しなどに取り組んでもらいたい」と求めた。林芳正官房長官は記者会見で、新組織発足は参院選対策ではないかと問われ「選挙対策との批判は当たらない」と述べた。新組織は内閣官房に設置。入国や在留資格の審査を担当する出入国在留管理庁、社会保障制度を所管する厚生労働省、納税管理を受け持つ財務省などの担当者で構成する。参院選では自民、国民民主、参政各党が規制の強化を訴え、立憲民主党は外国人の人権保護を掲げている。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250731&ng=DGKKZO90369360R30C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.31) 外国人増で財政改善66% 学者47人調査、若年層が寄与、共生へ制度設計半ば 日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象とした「エコノミクスパネル」で外国人政策について聞いた。在留外国人(総合2面きょうのことば)が増えることで財政収支が改善するとの見方が66%に上った。若い外国人労働者が人手不足を補完し、税や社会保険料の支払いも大きいためだ。外国人の定住や高齢化を見据えた制度設計を求める声も多かった。2024年末時点の在留外国人数は約377万人と前年から11%増えた。外国人労働者の受け入れが経済に欠かせないとの見方がある一方、日本人の雇用との競合や、治安への悪影響を懸念する声もある。そこで47人の経済学者に「在留外国人の増加が平均的な日本人の生活水準の向上に寄与するか」を問うた。回答は「強くそう思う」(6%)「そう思う」(70%)の割合が計76%に達した。建設や運輸などの分野では人手不足が目立つ。東京大の田中万理准教授(労働経済学)は「外国人の就業増加によりモノやサービスの供給不足や価格上昇が抑えられる」として受け入れのプラス面を強調した。日本人の雇用との競合も限定的との見方が大勢だった。一橋大の森口千晶教授(比較経済史)は「実証研究によると外国人と日本人労働者は主に補完的関係にあり、日本人の賃金や失業率に負の影響を与えていない」と述べた。多様性のメリットを重視する意見も目立った。東京大の仲田泰祐准教授(マクロ経済学)は「(外国人が)新しい考え方を職場にもたらすことは生産性向上につながり得る」と答えた。在留外国人の増加を巡っては、生活保護など公的支出の増加や社会保険料の未納を不安視する見方もある。調査では「日本の財政収支の改善に寄与するか」も問うと「そう思う」との回答が66%だった。外国人の増加が財政を改善させると経済学者が考えるのは、今の在留外国人が「若い」ためだ。法務省の在留外国人統計によると、24年末時点で20代と30代が在留外国人の55.9%を占める。カナダ・ブリティッシュコロンビア大の笠原博幸教授(国際貿易)は「外国人の受け入れ増は働き盛り世代の割合を高めて税収や社会保険料収入の増加につながる」と答えた。一橋大の佐藤主光教授(財政学)も「現時点で在留外国人は勤労世代が多く、給付による受益以上に保険料や税を負担している」と述べた。外国人の受け入れが長期的に経済や財政の安定に寄与するかは今後の制度設計にかかっている。佐藤氏は「在留外国人の子弟への教育の確保や、高齢期を迎えたときの給付は十分な対応が求められる」と付け加えた。現在、日本の外国生まれの人口は3%と経済協力開発機構(OECD)平均の11%を下回る。先行して移民を受け入れた欧州などでは社会への統合が進まず、外国人受け入れのコストが強調されるようにもなっている。慶応大の小西祥文教授(実証ミクロ経済学)は「多様なバックグラウンドを持つ人々が持続的に共生しうる社会を実現するには、財政支出も含む包括的な多文化共生政策が必要だ」と述べ、長期的な視点を求めた。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90194050T20C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.23) 検証 日本の針路(2)移民政策の矛盾 外国人共生へ建前を排せ 参院選での参政党の台頭は、在留外国人やインバウンド(訪日外国人)の増加に国民がうすうす感じている不満を顕在化させた。政府が建前では「移民は受け入れない」としつつ、現実には外国人の受け入れを増やしてきた矛盾が露呈したといえよう。人口減少が進む日本では、外国人の力を借りなければ人手不足で社会機能を維持することもままならない。排外主義の芽を摘み、民主主義を守ってゆくためにも、建前を排して外国人の社会統合を真剣に考えるべき時期を迎えている。参院選の終盤、政府は急きょ「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置した。その慌てぶりは、政府がこれまで外国人政策を自治体任せにし、本気で取り組んでこなかったと認めたに等しい。政権の枠組みがいかなる形になろうとも、外国人政策を進めてゆくのが参院選で示された民意である。選挙中の指摘には事実に基づかないものもあるが、日本の社会制度の多くが外国人を想定していないのは確かだ。社会のルールを守ってもらうために規制を強化することは必要だろう。 ●定住前提の施策 より重要なのは社会になじんでもらうための共生の充実だ。政府にも共生社会に向け中長期的な課題を挙げたロードマップはある。だが定住を前提とした移民と認めず、あくまで一時的な滞在者との位置づけでは共生にも力が入らない。ドイツは第2次大戦後から多くの外国人労働者を受け入れてきたが、移民と認めたのは2000年代に入ってからだった。そこから社会になじんでもらう統合プログラムを始めた。外国人がコミュニティーを形成するのは自然の流れだが、それが閉鎖的になるのが問題だ。英国は外とのつながりをどの程度保っているかを統合の指標として見える化し、社会の分断を防ごうとしている。こうした取り組みにもかかわらず、欧州では難民危機などもあって排外主義的な勢力の台頭が著しい。日本の在留外国人は総人口の3%だが、増加ペースは年々高まり、参院選で現れたような反発もくすぶる。 ●知日派育む戦略 一口に外国人といっても、永住者、高度な専門職、特定技能、技能実習、留学生、インバウンドなど立場は異なる。それぞれに応じたきめ細かな対応が社会統合の質を高めよう。社会統合を考える際は、既存の制度をより透明でわかりやすいものにしていく視点も要る。外国人に選ばれる国になるうえで重要であり、それは日本人にとってもよいことだ。外国人政策は対外政策の意味もある。学生支援では自国民を優遇する国も多いが、日本は平等主義が一般的だ。留学生の受け入れは各国の指導層に知日派を育てるソフトパワー戦略であると考えたい。参院選では外国勢力の介入も指摘された。この問題に詳しい小林哲郎・早大教授は「防衛省、外務省、総務省などが外国勢力からの情報を検出しているが、それが世論にどのような影響を与えているかといった検証は十分でない」と指摘する。専門家を含めた体制づくりが急務だ。 *2-3;https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90190010S5A720C2CT0000 (日経新聞 2025.7.23) 食文化、縄文→弥生で継続 農耕伝来後も煮炊き料理 奈文研、土器に残る脂質分析 奈良文化財研究所(奈良市)などの研究チームは22日、土器で魚などを煮炊きする縄文時代の日本列島の食文化が稲作伝来後の弥生時代でも継続していたとする成果を発表した。遺跡から出土した調理用土器に残る脂質を分析した。日本列島には朝鮮半島から稲作や、キビやアワなどの農耕が伝わったとされる。研究では、検出方法が確立されているキビの成分に着目。朝鮮半島南部の遺跡(紀元前17~同8世紀ごろ)で出土した土器からはキビの成分が検出されたが、縄文から弥生にかけての九州北部の遺跡(紀元前18~同4世紀ごろ)の土器には確認できなかった。一方で、海産物などの成分は縄文土器と弥生土器のいずれからも検出された。このことから煮炊き調理に関しては従来の食文化が維持されていると結論付けた。研究は英ケンブリッジ大や英ヨーク大と共同で実施。朝鮮半島や九州の土器計258点を対象に分析した。成果は米科学誌にオンラインで掲載された。 *2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250729&ng=DGKKZO90317130Z20C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.29) 首相、続投方針変わらず 森山氏「自身の責任、来月示す」 自民両院懇 自民党は28日、大敗した参院選の結果への意見を聞くため、党本部で両院議員懇談会を開いた。党総裁の石破茂首相は「国家や国民に対して決して政治空白を生むことがないよう責任を果たす」と語り、続投する方針を改めて表明した。懇談会では首相に選挙の敗北の責任を取って退陣するよう求める声が相次いだ。首相は終了後、記者団に続投の考えに変わりないと述べた。懇談会は当初の2時間の予定を超え、4時間半ほど続いた。首相は米国との関税交渉の合意に触れ「実行に万全を期したい」と強調した。コメなどの農業政策、社会保障と税の改革も首相職を続ける理由に挙げた。森山裕幹事長は参院選の結果を総括する委員会を設置する考えを示した。8月中に報告書をとりまとめた段階で、進退も含めた自身の責任を明らかにするとした。森山氏は懇談会後、記者団に「幹事長が責任を取れという意見もあり、真摯に耳を傾けないといけない」と語った。引責辞任に含みを持たせた。首相は懇談会の冒頭で「多くの同志の議席を失うことになった。深く心からおわび申し上げる」と陳謝した。懇談会は意見交換会の意味合いが強い。首相や森山氏は出席者の声を聞き、続投への承諾を得る場と位置づけていた。首相の続投に反対する党所属の国会議員は、重要事項が決められる両院議員総会の開催を求める署名集めをしている。すでに総会の開催を要求できる3分の1以上の署名を確保した。森山氏は記者団に29日の役員会で総会を開く方向で協議する方針を明らかにした。 *2-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250729&ng=DGKKZO90316860Z20C25A7EA2000 (日経新聞 2025.7.29) 首相に退陣要求噴出 自民幹事長「両院総会開催へ協議」 反・石破勢力、総裁選の前倒し視野 自民党が28日開いた両院議員懇談会は石破茂首相(党総裁)への退陣要求が続出した。「石破おろし」を進める勢力は総裁選の前倒しを視野に両院議員総会の開催を要求する方向だ。首相は日米関税合意の履行や参院選の総括を理由に続投する方針を崩しておらず、党内対立は激しさを増す。両院懇談会では2024年の衆院選と今回の参院選に敗北した責任を問う意見が相次いだ。小林鷹之元経済安全保障相は「組織のトップとしての責任の取り方についてしっかり考えていただきたい」と退陣を求めた。出席者によると発言は退陣を求める声が多数を占めた。「政治空白をつくるべきでない」と続投を支持する声もあったものの、少数にとどまった。続投するなら総裁選を実施して勝利をめざすべきだとの意見もあった。森山裕幹事長は両院懇談会で参院選の大敗を検証する総括委員会を設けると表明した。8月中に結論を得たうえで「自らの責任について明らかにしたい」と話した。首相は終了後、記者団の質問に「幹事長の判断としておっしゃったことについて私は言及をすべきではない」と答えるにとどめた。自らの責任に関しては「総合的に適切に判断したい」と述べつつ、続投方針に変わりはないと改めて表明した。倒閣勢力は委員会の設置を「時間稼ぎだ」と批判する。首相に圧力をかける次の一手は両院総会の招集になる。意見交換にとどまる両院懇談会と違い、重要事項の議決権がある両院総会は総裁選の前倒し実施などを議案に出して採択を迫ることができる。党則35条は党所属議員3分の1以上の要求で両院総会を開くべきだと明記する。旧茂木派の笹川博義農林水産副大臣は必要な署名を集めたと述べており、近く党側へ提出すると明らかにした。こうした動きを受け、森山氏は記者団に29日の党役員会で両院総会を開催する方向で協議したいと説明した。開催するかは不透明な面もある。森山氏は26日時点では「どういう内容の署名かという確認も必要だ」と語っていた。要求から7日以内に「招集すべきものとする」との党則規定は努力義務にすぎないとの解釈もある。党執行部が両院総会の開催要求を受け入れなかった先例もある。09年7月、首相だった麻生太郎氏の衆院解散戦略に反発した勢力が3分の1超の署名を集めた。執行部は有効な署名が足りていないと説明し、両院懇談会しか開かなかった。執行部が開催に応じない場合、倒閣勢力は次の選択肢として党則6条の活用を検討する。国会議員と各都道府県連の代表者1人の総数の過半が賛成すれば総裁選実施を前倒しできるとの規定だ。一方で、倒閣勢力は決め手を欠く。報道各社の世論調査から参院選の大敗要因は石破氏よりも自民党そのものにあるとの見方がある。「ポスト石破」の総裁選に名乗りを上げる動きも28日夕までに出ていない。衆目が一致する次の総裁候補が定まらない以上、少数与党下で必要な野党との協力交渉も後回しになる。政策が停滞するリスクがある。両院総会の署名集めは旧茂木派と旧安倍派、麻生派が主導した。旧安倍派は自民党離れにつながった政治資金問題を引き起こしただけに、党内に「反省の色がないのはおかしい」との声もある。足元の動きは非主流派との党内政局の様相が色濃い。国民民主党や参政党に流れた支持をどう取り戻すかという党再生の道筋を示すには遠い。 <地方創成について> *3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1486172 (佐賀新聞 2025/6/17) 「地方創生2・0」国は東京問題と向き合え 政府は地方創生の今後10年の指針となる基本構想を閣議決定した。「地方創生2・0」と銘打つ石破政権の看板政策だ。安倍政権が打ち出した地方創生は、文化庁の京都移転など数えるほどの成果しかない。急速な少子高齢化への対応、人口減少への歯止め、東京圏への人口の過度な集中の是正は不十分なままだ。失われた10年とも言われる状況の打破が政府に求められている。東京圏は進学や就職を契機に全国から若者を集める。2014年に始まった地方創生では、東京圏への転入と転出を20年に均衡させる目標を設定。27年度に先延ばししたが達成は不可能だろう。基本構想は東京への転入を止めるのは難しいとして、地方の魅力を高め、地方へ転出する若者の流れを倍にする目標を掲げた。これで均衡にできる保証はない。地方には若者、特に若い女性が働きたくなるような場所が少ない。転出増には、若者らが仕事を通じ自己実現できる魅力的な職場を地方に増やすことが大前提となる。石破政権が東京一極集中の是正を掲げ続けるなら、まず中央省庁の一部や関係機関を地方に移転させるべきだ。次にこれまで以上に大胆な税制優遇策を導入する。これによって企業の本社移転をさらに促す。地方の居住者でも、リモートワークによって東京の企業でもっと働けるようにするのである。基本構想の目玉が、仕事や趣味を通じて居住地以外の地域に継続的に関わる人を「ふるさと住民」として登録する制度の創設という。目標は10年で登録者1千万人。二地域居住者や「ふるさと納税」する人らを登録すれば、数字は膨らみ「やっている感」は出せる。だが、新制度は地方のにぎわいや人口増に直結しないだろう。登録先に住民税を分割して納付できる制度を提案する声もあるが、総務省は検討しておらず実質は伴わない。このままでは、地方創生2・0も石破政権の政治的なアピールの道具に終わる恐れがある。地方税収に占める東京都と東京23区の割合は近年、上昇傾向が続く。豊かな財政を生かし手厚い子育て支援、高校授業料の実質無償化などを進める。これらの施策は周りの県からの移住も促す。東京都の独り勝ちは、首都直下地震といった災害への脆弱(ぜいじゃく)性を高める。同時に地方の持続可能性も損なう。都には首都として地方にも配慮した自治体経営を求めたい。それをしないのなら、国土の均衡ある発展のため、東京都の豊かな税収の一部を他の自治体にさらに回すことなども議論すべきだ。これら東京の問題に国は正面から向き合い調整すべきである。専門人材の不足によって道路や上下水道の管理・更新、介護、保険などの行政サービスを一つの市町村だけで実施できなくなってきた。今後は複数の市町村が共同で実施するか、都道府県が市町村を支援する仕組みの整備が不可欠となる。地方自治の充実のため、住民に一番近い市町村に権限を移す地方分権が進められてきた。今後も職員不足が深刻化する状況では、市町村から都道府県に権限を移すことも考えざるを得ない。人口減少が著しい市町村では、住民の生活維持が最優先である。都道府県、国が一定の責任を負いもっと前面に出なければ地域は守れない。 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1507655 (佐賀新聞 2025/7/12) 参院選・人口減少と地方 地域維持の戦略をつくれ 「地方創生」は安倍政権が2014年に打ち出した。年末に行われた衆院選の自民党の公約は「景気回復、この道しかない」とある。公約の柱の一つに「地方が主役の『地方創生』」を明示し、「人口減少に歯止めをかける」と訴えた。自民は選挙のたびに「地方創生」を掲げ、地域の活性化という夢を軸に支持を集めてきた。政権浮揚には一定の効果があったと言えるだろう。しかし、その成果は全く見えない。2024年に生まれた日本人の子どもの数は、統計開始以降で初めて70万人を割り込み、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数は過去最低を更新した。少子化は政府推計より15年も早く進んでいる。多死の時代に入り、24年だけで人口は約92万人も減った。与党政権が地方創生、人口減に歯止めといくら連呼しても、反転の兆しすらないのが現実だ。地方の人口減少は加速し、ヒト・モノ・カネの東京一極集中が進む。これらを止めるのは難しいとされていたにもかかわらず、安倍政権は掲げ続けた。結果から見て、選挙対策だったと疑われても仕方あるまい。立憲民主党が公約で「『地方創生』政策の検証」としたのはうなずける。さらに、少子化や人口減少、東京一極集中の流れを食い止め、国に人口戦略を総合的に推進する体制を整えると主張する。体制の必要性は理解できるが、食い止めることはもはや不可能だと指摘せざるを得ない。この参院選では、人口減を前提に行政サービスをどう維持するか、地域社会をどう守るかをもっと議論すべきだろう。石破政権は「地方創生2・0」の実現を掲げる。関係人口、交流人口を拡大させ若者・女性にも選ばれる地域づくりを進めるのが目玉だ。これまでの創生策で評価が少し高い施策を強調しているだけで、新味に欠ける。自民の公約、総合政策集を見ても、地方創生の失敗への反省はなく、人口減社会への対応策を羅列するにとどまった。政権与党として骨太の地方政策を示す責任があるのではないか。国民民主党が、大都市圏への人口集中の是正策として「移住促進・UIJターン促進税制」の創設、リモート勤務者支援など、地方への移住、企業の移転を促す税制を提案したのは注目したい。東京の独り勝ちは地域社会の存立にも影響する。人や企業が地方に移る方が、東京にいるより支払う税金が少なくて済むといった打開策をさらに検討すべきではないか。東京への集中は災害時のリスクも高める。石破政権は防災庁の設置などで「災害に強い日本」を実現すると言うなら、一極集中の是正に当然、本気で取り組むべきだ。日本維新の会は公約で、災害発生時に首都中枢機能を代替できる「副首都」をつくり、多極型社会への移行を目指すと提案した。維新発祥の地である大阪に副首都を誘致する考えだけに、党勢維持案としての面もあるだろう。それでも多極的な国土構造は社会の維持のためには不可欠だ。もはや自治体間で人口を奪い合うような余裕はない。人口や産業、行政サービスの適正な配置について、国民的な議論を始めるのである。そして、地域の持続可能性を維持する観点から、中小都市を核として地域を守る戦略を急いでつくらねばならない。 *3-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/321212 (日本農業新聞 2025年7月23日) 人口減対策を国民運動に 知事会議が提言 司令塔組織設置も 全国知事会議が23日、青森市で2日間の日程で開幕した。歯止めがかからない人口減少への対策に最優先で取り組むよう国に求める提言をまとめ、総合的な対策を展開するため民間企業も巻き込んだ国民的運動の推進や、取りまとめを担う庁レベルの「司令塔」の設置を要望。外国人政策を巡り、多文化共生の推進も訴えた。会議の冒頭、村井嘉浩会長(宮城県知事)は20日投開票の参院選の結果に触れ、「こうした時だからこそ、なお一層一致団結して、国難とも言える今の状況を克服するために取り組んでいかなければならない」とあいさつした。人口減対策に関する提言では、女性や若者の意見を取り入れた上で、働きやすく子育てしやすい環境を整備することや、税制改正などを通じて企業や大学の地方分散を推進することも求めた。知事会としても今後、経済界を巻き込む形で結婚支援策を検討する方針も確認した。外国人政策を巡っては、「国は労働者としてしか見ていないが、自治体は生活者として受け入れている」(静岡県の鈴木康友知事)といった意見が相次いだ。受け入れや定着のため、教育などの環境整備に国が責任を持つよう提言をまとめた。地方税財政については、参院選で消費税減税を訴える政党が伸長した影響も議論された。徳島県の後藤田正純知事は「持続可能な社会保障制度の維持が非常に不安定化している」との危機感を表明。東京一極集中による地方税の偏在の是正を訴える声も多く上がった。関税措置を巡る日米合意に関する意見も出た。富山県の新田八朗知事は23日午後の会合で、「一定の影響はあると思うが、輸出先の多角化などの課題に、国と地方がスクラムを組んで取り組む必要がある」と指摘した。 <地方の仕事・日本人のレベル・日本の低成長理由> *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90190860S5A720C2FF8000 (日経新聞 2025.7.23) 再エネ普及へインフラ強化 送電網・蓄電池へ投資訴え グテレス国連事務総長寄稿 エネルギーは人類の歴史を形作り、火や蒸気機関、原子力を生み出してきたが、現在はクリーンエネルギーの新時代の夜明けを迎えている。昨年、世界の新設電源のほぼ全てが再生エネだった。クリーンエネルギーへの投資額は2兆ドル(約300兆円)に達し、化石燃料への投資を8000億ドル上回った。太陽光や風力は今や地球上で最も安い電源で、クリーンエネルギーは雇用を創出し、経済成長の原動力だ。一方、化石燃料への補助金ははるかに多い。化石燃料に固執する国は経済を守るのではなく、むしろ競争力を損なっている。再生エネはエネルギーの主権と安全保障の確保にもつながる。化石燃料の市場は価格変動や供給網の寸断、地政学リスクに左右される。太陽光は価格の急騰もなく、風力は禁輸の対象にならない。エネルギーの自給自足を可能とするだけの再生エネの資源は、ほとんどの国にある。再生エネは社会の発展も促進する。電気のない生活を送っている数億人に迅速かつ安価、持続可能な形で供給できる。再生エネに移行する流れが止まることはない。だが、移行の速度と公平性は足りない。開発途上国は取り残され、温暖化ガス排出量は増えている。これを改善するには6つの取り組みが必要だ。第一に政府はクリーンエネルギーが普及するよう尽力する必要がある。各国は今後数カ月で新たな排出削減目標を提出すると約束している。世界の気温上昇を1.5度に抑える道筋を示さなければならない。世界の排出量の約8割を占める主要20カ国・地域(G20)がその先頭に立つべきだ。加えて、送電網や蓄電池にもっと投資すべきだ。これがないと再生エネは本来の力を発揮できない。現状は、再生エネに1ドル投じられるごとに、送電網と蓄電設備への投資は60セントにとどまる。この比率を1対1にする必要がある。さらに、エネルギー需要の増加分を再生エネで賄うべきだ。2030年までには世界のデータセンターの電力消費量が日本1カ国の使用量に匹敵する可能性がある。IT企業などは再生エネで賄うと打ち出すべきだ。エネルギー移行での社会的な公正さへの目配りも必要だ。脱炭素に備え、化石燃料に依存するコミュニティーを支援すべきだ。人権侵害や環境破壊が横行する重要鉱物の供給網も改革しなければいけない。再生エネ関連の供給網は特定地域に集中している。調達先を多様化し、再生エネ関連製品の関税を引き下げ、投資協定を見直す必要がある。最後に、途上国に資金を流入させるべきだ。太陽光発電に適した地域が多いアフリカは昨年の世界の再生エネ投資に占める地域別の割合がわずか2%だった。途上国の財政を債務が圧迫するのを防ぎ、開発銀行の融資能力を大幅に引き上げるべきだ。私たちは、この世界的な移行の機会を逃してはならない。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89832400U5A700C2EA5000 (日経新聞 2025.7.5) 太陽パネル導入に壁、来年度から工場や店設置目標義務 新型、効率・供給に課題 企業の工場や店舗の屋根に置く太陽光パネルの導入目標策定が国内1万以上の事業者に義務化される。多くの工場は重いものを屋根に置く設計はされておらず、導入拡大へは屋根や壁面に設置しやすい軽量薄型の新型太陽電池「ペロブスカイト」が有力な選択肢となる。性能や価格面など企業が導入を急拡大するには課題が山積する。化石燃料の利用の多い工場や店舗は2026年度から屋根置き太陽光パネルの導入目標を国に報告する必要がある。定期的に計画を更新する必要はあるが、3~5年後をめどに掲げる導入目標が達成できなくとも虚偽の目標設定や報告でなければ罰則はない。目標未達でも罰則を設けないのは太陽光発電の量を増やすことだけが目的ではないためだ。経済産業省幹部は「日本に技術的強みのある次世代型太陽電池の普及を促す目的もある」と明かす。積水化学工業が量産にめどをつけるなど、今後市場への本格導入が始まるペロブスカイトの普及促進を念頭に置く。経産省はこれまでも積水化学の研究開発や生産ラインの整備費用やカネカの研究開発費用などを支援してきた。国内に大規模な工場や店舗を持つ企業は脱炭素に向けて太陽光パネルの導入を進めてきた。例えばイオングループは2月までに1469カ所の店舗・施設に導入済みだ。キユーピーも設置可能な既存工場への導入をほぼ終えた。キリンホールディングス(HD)はグループ全体で約7割の工場で導入した。各社が導入を進めるのはシリコン製の太陽電池がほとんど。軽量薄型のペロブスカイトでは設置場所が広がる。イオングループも「軽量かつ移設が容易にできるのであれば施設の壁や窓、屋内への導入を検討する」と関心を示す。ユニ・チャームも「建物の側面にも設置でき、倉庫などへの展開も期待できる」とする。太陽光パネルの国産化再興の一手としての期待もかかる。1963年、シャープの量産などを皮切りに国産品の製造が広がったが、価格に優れた中国製との競争に苦しんだ。パナソニックホールディングスや出光興産子会社のソーラーフロンティア(東京・港)が国内自社製造から手を引いた。太陽光発電協会(東京・港)によると、25年1~3月に国内出荷された太陽光パネルのうち国内で生産されたものは約5%にとどまる。ペロブスカイトはヨウ素など主要な原料を国内調達でき、国内の積水化学やシャープが技術開発を進める。ただ足元ではペロブスカイトの導入拡大へは懐疑的な声もある。建設業者などからは「安価なパネルと比べると投資に対して発電効率が低い」といった声も漏れる。耐久性も課題を残す。耐用年数は10~15年程度とされ、建設大手の関係者は「50年以上運用する工場などでの採用は現状難しい」と話す。設置条件などが定められておらず、「軽さを生かした設置が難しい」(パネルメーカー)といい、ルール整備も必要だ。SOMPOリスクマネジメントの堀内悟上席コンサルタントは「設置方法で(火災や事故の)リスクは変わり、分析が必要だ」とする。供給体制も未熟だ。積水化学は「現状の生産ペースでは設置目標義務を賄えない恐れがある」と懸念を示す。シャープやカネカも製品化を急ぐが、企業が求める量を確保できるか不透明だ。「湿気に弱い点や鉛使用による環境リスクなどの課題がある」(ユニ・チャーム)。「価格面から補助金など資金面での支援の充実が必要だ」(キリンHD)。中国勢も一部で量産を始めている。「安価な中国勢に流れてしまう懸念もある」(パネルメーカー)。ユーザーとメーカー両サイドの不安はつきない。太陽光発電は設備の多くを輸入に頼る。日本が先行したシリコン製は国内産業としては衰退した。ペロブスカイトも中国勢が勢いを増す。技術や環境整備の壁を乗り越えるには官民の目線を合わせた連携が不可欠になる。 *4-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250717&ng=DGKKZO90077710W5A710C2EA2000 (日経新聞 2025.7.17) 〈参院選2025 選択の夏〉原発再稼働の是非は、積極派は電源に「最大限活用」 慎重派、将来は再エネ100%に 参院選では、暮らしや企業活動に欠かせないエネルギーをどうまかなうかも争点になる。原子力発電所と再生可能エネルギーをどこまで活用するかで各党の立場は大きく分かれた。自民党は安全性を確認した原発の再稼働を積極的に認める方針で政策集には「原子力などの電源を最大限活用する」と記した。公明党も「最大限活用」で足並みをそろえ、2024年衆院選の公約にあった「可能な限り原発依存度を低減」との文言も削除した。自公両党は政府が2月にまとめたエネルギー基本計画を意識する。同計画は「原子力など、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」と明記。4年前の前回計画にあった「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削り、原発推進にカジを切った。 ●国民民主は新設 原発活用に最も積極的なのは国民民主党だ。再稼働のみならず、建て替えや新増設も進める。日本維新の会も早期の再稼働や次世代原発への建て替えを認める立場だ。参政党は再稼働を巡るスタンスを明らかにしていないが、次世代原発の研究に積極投資する考えだ。原発に慎重姿勢を取る野党も多い。立憲民主党は再稼働を容認する構えだが、実効性のある避難計画と地元合意を前提にしている。新増設には反対するほか、「すべての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定を目指す」と将来の原発ゼロ方針も維持する。れいわ新選組は「即時使用禁止」、共産党は「速やかに原発ゼロ」をうたう。エネルギーを巡るもう一つの論点が、太陽光や風力など再エネの推進だ。積極的なのは立民、共産、れいわ。いずれも将来の電源構成の100%を再エネでまかなうと主張する。温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」は再エネ拡大を進めて達成するとの立場だ。自公両党は「最大限の導入」とする表現にとどめ、具体的な数値目標は設けなかった。日本は国土が狭く、平地が少ない。再エネの適地が限られるため、海外に比べて導入コストが高くなりがちだ。また天候に応じて出力が変わる再エネをどう制御し、安定的に電力を供給するかも大きな課題になる。再エネの急速な拡大に慎重な党もある。国民民主は再エネ普及のため電気料金に上乗せされている賦課金の徴収停止を訴える。同党は「手取りを増やす」ことにこだわっており、「賦課金が増大し国民に大きな負担になっている」ことを問題視している。 ●家計負担が増大 太陽光発電などの拡大に伴って、25年度の再エネ賦課金は標準家庭で月1500円余り。年換算では1万9000円ほどに増えており、家計にとって無視できない負担になっている。参政党は再エネ賦課金を廃止するとともに「高コストの再エネを縮小」と明記。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱し、カーボンニュートラルの是非そのものを検証すると主張する。日本政府は「50年までのカーボンニュートラル達成」を20年に宣言した。実現には温暖化ガスを排出しない再エネ拡大が不可欠で、導入費用を国民が広く薄く負担するのが賦課金だ。その停止・廃止は「日本が脱炭素に背を向けた」と国際社会から批判されかねない。経済産業省は再エネ賦課金を停止・廃止した場合「発電事業者から訴訟を受けるリスクがある」(幹部)とみる。政府は再エネ電力を火力などよりも高く買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を12年度に始めた。企業や家庭が再エネで発電した電気を電力会社が10~20年間買い取る仕組みで、電気料金に上乗せする賦課金を原資とする。国は一定額での買い取りを約束しており、財源がなくなって買い取りを中止すれば訴訟問題になりうる。再エネ賦課金の総額は年3兆円規模。消費税で約1%分にあたる規模で、代替財源を見つけるハードルは高い。電力需要は今後、人工知能(AI)普及やデータセンター拡大によって増えると政府は見込む。エネルギー基本計画によると40年度の発電電力量は1.1兆~1.2兆キロワット時と、22年度実績より1~2割増える。安定的で安価なエネルギーの確保は、国民の暮らしと企業の国際競争力にも直結する課題だ。安全性を大前提としたうえで、安定性や経済性、脱炭素といった要素をどう組み合わせていくかについて国民的な議論が求められる。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250723&ng=DGKKZO90193750T20C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.23) 原発「脱炭素へ不可欠」、関電、美浜に新設調査発表 AI時代の電源整備 関西電力の森望社長は22日、美浜原子力発電所(福井県美浜町)において、原発の建て替えに向けた地質などの調査を始めると発表した。新増設の具体的な動きは2011年の東京電力福島第1原発の事故後、初となる。再始動する新増設を、原発への信頼を取り戻し、人工知能(AI)時代の産業構造へ作り替える起点にしていかねばならない。森社長は記者会見で、「電力需要はデータセンターや半導体産業の急激な成長を背景に伸びていく。脱炭素を進めるためにも原子力は必要不可欠だ」と強調した。未曽有の被害をもたらした福島第1原発事故から14年。安全性を高めた新しい規制基準の下で電力会社は既存原発の再稼働を進めている。一方で電力需要増大や温暖化ガス削減に向けた脱炭素電源として、原発に対する視線は変わりつつある。電力広域的運営推進機関によれば、国内の電力需要は向こう10年で約6%増える。再生可能エネルギーを最大限伸ばす努力をあきらめてはならない。しかし、太陽光や風力発電の適地の偏りや、時間や天候で変化する出力の不安定性を考えると、再生エネだけでは力不足だ。原発には不断の安全への取り組みや、回復途上の国民の信頼という大きな課題が残る。原発の建設や運転に関わる人材が先細りしている問題もある。それでも選択肢として目を向けるときだ。既存原発の再稼働を進めても、いずれ設備としての寿命を迎える。新設に着手しても稼働開始まで20年単位の時間が必要だ。50年のカーボンニュートラル実現を約束する日本には、そんなに時間が残されていない。電力需要増大の象徴がAI普及を支えるデータセンターだ。日本ではデータセンターの9割が関東、関西に集中する。その需要増大に対応するには2つの方法がある。1つは原発や再生エネといった脱炭素電源が豊かな北海道や九州にデータセンターを集め、光ファイバーで必要なデータをやり取りする方法だ。電力の単位である「ワット」と、通信の単位である「ビット」をつなげて「ワット・ビット連携」と呼ぶ。もう1つの道は、データセンター需要が集中する大都市圏で、大量かつ安価な脱炭素電力を供給する力を高めることだ。関電の美浜原発での建て替えはこれにあたる。重要なのはワット・ビット連携や、美浜原発の建て替えを、AI時代の産業構造転換に弾みをつけるために戦略的に活用していくことだ。米国では巨大IT事業者が自社のデータセンター用に原発から直接電力を買ったり、原発に隣接してデータセンターを置いたりする動きが広がりつつある。同様の取り組みは、日本では難しい。発電事業者は電力を需要家に平等に売らねばならないルールがあり、原発立地地域や特定の顧客だけに電気を安く売ることは原則できない。そこでデータセンター事業者が今後、新たな原発の建設・運営に参画し、一定の電力引き取りを確約するといった選択も可能にしてはどうか。より安い地点を求め移り気なデータセンター事業者を、国内につなぎとめる材料になるはずだ。こうした仕組みを整えることが、原発が立地する地域の電気料金を下げるなど恩恵を目に見える形にする早道でもある。 *4-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1511189 (佐賀新聞 2025/7/17) 参院選 原発・エネルギー/福島事故の教訓忘れずに 政府が原発推進にかじを切る中、参院選で原発とエネルギーについての議論は低調と言わざるを得ない。だが14年前に東京電力福島第1原発事故を経験した私たちにとっては、常に考えなければならないテーマだ。政府は2月、新しいエネルギー基本計画と地球温暖化対策計画をまとめた。福島事故の反省から掲げてきた「可能な限り原発依存度を低減する」の文言を削除し、原発推進を明確にした。電源構成に占める原発の割合を8・5%(2023年度実績)から40年度に2割程度に上げる。また再生可能エネルギーを最大電源として位置づけ、40年度に4~5割にする目標も掲げた。現在動いている原発は14基。基本計画が示す2割にするためには30基を超える既存原発をほぼ全て動かさなければならない。電力需要を賄うためにはいくつもの方法を組み合わせていく必要がある。これが政府・与党の考えだ。基本計画は古い原発を建て替える要件を緩和し、新たな建設に道を開いた。自民党は既存原発より安全性が高いとする「次世代型」の具体化を掲げ、公明党も「総基数は増えない」として容認した。野党はさまざまだ。立憲民主党は「新増設は認めない」とする。日本維新の会や国民民主党は再稼働を推進する姿勢だ。参政党や日本保守党も前向きだ。一方で共産党やれいわ新選組、社民党は原発反対を訴えている。各党の立場の幅は広い。再稼働を巡る現在の最大の課題は、東電柏崎刈羽原発だ。6号機と7号機は既に原子力規制委員会の審査に合格し、技術的には動かすことが可能になっており、東電は6号機を優先する方針を表明している。だが大きなハードルが残っている。再稼働に必要な地元同意である。新潟県の花角英世知事は県民の意見を聞き是非を判断するとしており、市町村長との懇談会や、県民の公聴会を開いている。県民意識調査も9月末までに結果がまとまる。知事の判断時期は近づいているとみられる。重要なのは、福島で事故を起こした東電にとって初めての再稼働になるということだ。技術的にクリアされても、東電に原発を動かす資格がそもそもあるのか。そのことが問われる。柏崎刈羽原発は新潟県や東電だけの問題ではないという意識で注視したい。福島第1原発では今も過酷な廃炉作業が続いている。取り出した溶融核燃料(デブリ)は昨年11月が0・7グラム、今年4月も0・2グラム。全体で880トンと推定されているのに比べ、ごくわずかだ。東電は今後大規模な取り出しをする考えだが、その方法は決まっていない。「事故から30~40年で廃炉」という目標の達成は厳しい状況に追い込まれている。周辺住民の避難も続いている。福島第1原発だけではない。完成延期を繰り返している青森県六ケ所村の核燃料サイクル施設や、核のごみの最終処分場など重要な課題は解決できていない。地球温暖化対策や、二酸化炭素(CO2)の排出を減らす脱炭素の取り組みは喫緊の課題だ。ウクライナや中東の情勢もあり、資源に乏しい日本にとってエネルギー確保に不安な状況が続く。ただ、まだ終わらない福島事故の教訓を忘れてはならない。 *4-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1520936 (佐賀新聞 2025.7.30) 【福島第1原発】「廃炉の本丸」攻略遠、難題山積、見直し不可避 東京電力が2030年代初頭に着手を目指していた福島第1原発3号機での溶融核燃料(デブリ)の本格取り出しが、37年度以降にずれ込む見通しとなった。デブリ取り出しは「廃炉の本丸」とされるが、その前段にも多くの難題が立ちはだかり、なかなか切り込めない。東電は51年までの廃炉完了目標に拘泥するが、見直しは避けられそうにない。 ▽困難 「元々困難だと感じていた。検討を進めれば進めるほど、より深刻に分かってきた」。廃炉の技術支援を担う原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田豊志廃炉総括監は29日の記者会見で、51年までの廃炉完了目標の実現性について、包み隠さず語った。原子力規制委員会前委員長の更田氏は第1原発の廃炉に思い入れが強く、処理水放出などにも率直な見解を示してきた。目標見直しの必要性は「現時点で十分な判断材料はない」と踏み込まなかったものの、現在有力視される取り出し方法も「小さな可能性が見えたというような感じだ」と述べるにとどめ、目標実現のめどが立っていない現状を強調した。 ▽不透明 デブリの取り出しは、建屋の水素爆発を免れて原子炉格納容器内部の把握が進んでいた2号機で先行した。試験的採取との位置付けで、取り出せたのは計1グラム未満。東電は「採取は性状分析のためで、本格取り出しとは全く別」と説明する。3号機での本格取り出し前に12~15年の準備工程が必要との案が示された。「想定通り進捗した場合」との条件付きで、技術的に不透明な部分があるとして、東電が実現可能性を1~2年かけて精査するとしている。3号機原子炉建屋北側にある廃棄物処理建屋は、本格取り出し前に撤去する必要性が指摘された。廃液などが保管されている建屋解体は難工事となるのは必至。発生するがれきなどは高線量の廃棄物となり、保管先を確保する必要がある。デブリの取り出しルートと想定される原子炉建屋1階にも極めて高線量のエリアがある。制御棒の関連機器が汚染源とみられ、除染しても十分に線量が下がっていない。 ▽何年か 3号機での本格取り出しは、原子炉建屋上部に開口部を設けて、細長いポール状の機器を差し込んでデブリを崩す方法と、横から取り出す方法との組み合わせが有力とされたが、その後の工程は今回の検討の対象外だ。さらに1、2号機の取り出しも待ち構える。デブリがある場所や形状、建屋の状況はまちまちで、3号機の進め方が通用するのか予断を許さない。順調にデブリを取り出せたとしても、どこにどのように処分するかは検討さえ始まっていない。東電の小野明廃炉責任者は、51年までの廃炉完了を掲げた国と東電の工程表は「重い」として、見直す時期ではないと強調。一方で「(廃炉が終わるのが)何年とは言えない」と漏らした。 *4-2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16270772.html (朝日新聞 2025年7月30日) 東電、「51年廃炉」は維持 専門家「現実性ない」 福島第一 東京電力福島第一原発の本格的な燃料デブリの取り出し開始時期が、後ろ倒しになった。最難関の作業が遅れることになるが、東電は2051年までとする廃炉完了の目標は維持する考えだ。東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は29日の記者会見で「廃炉完了目標時期を否定する状況ではない」と繰り返した。廃炉は、政府と東電が11年12月にまとめた中長期ロードマップ(廃炉工程表)に基づいて東電が進めている。これまでも、使用済み燃料の取り出しなど多くの作業が遅れた。工程表は改訂を重ねたが、51年までの廃炉完了という大枠は維持されてきた。今回、3号機の燃料デブリの取り出し開始時期は明らかにしたが、作業期間は「不確かさがある」として示していない。さらに1~3号機で推計880トンのデブリがあるが、1、2号機は工程も工法も決まっていない。小野代表は会見で、今後1~2年で1、2号機の準備作業の検討を進めるとして「1~3号機で同時に(デブリを)取り出すのは不可能ではない」と述べ、「どう達成できるかを考えていきたい」と強調した。東電が今回示した工法は、廃炉について助言する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が昨年3月に示した提言をもとにしている。NDFは専門家による小委員会をつくり、デブリに水をかけながら取り出す「気中工法」、原子炉を水で満たす「冠水工法」、デブリを充填(じゅうてん)材で固めて削り出す「充填固化工法」の3案を検討。冠水工法は原子炉や建屋の損傷が激しく、建屋を覆う構造物を設置するのも難しいことから、放射線量を抑えられる充填固化工法と気中工法を組み合わせることを提案した。東電は提案された工法を採用したうえで、原子炉建屋の上に設ける装置を小さくすることで負荷を減らし、原子炉の側面から取り出す方法を示した。ただ、今後1~2年で取り出し工法について検証を進め、必要があれば見直すとしている。早稲田大学の松岡俊二教授(環境経済・政策学)は「37~51年の14年間で、推計880トンのデブリがすべて取り出せると思う人はいないのではないか。現実性のない目標が維持され続けるのは、福島の復興を考える上でも良くない」と指摘する。 *4-2-6:https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-059-10-03-g112(IMIDAS 2010/3/26) 原発温廃水が海を壊す、原発からは温かい大河が流れている(元京都大学原子炉実験所助教 小出裕章) 原子力発電所の稼働に不可欠な冷却水は、その膨大な熱とともに放射能や化学物質をともなって海に排出される。この温廃水(温排水 hot waste water)の存在、あるいは環境への影響が論じられることは少ない。地球温暖化への貢献を旗印として原子力回帰が叫ばれる中、けっして避けられない温廃水の問題を浮き彫りにする。 ●蒸気機関としての宿命 地球は46億年前に誕生したといわれる。その地球に人類が誕生したのは約400万年前。地球の歴史を1年に縮めて考えれば、人類の誕生は大みそかの夕方になってからにすぎない。その人類も当初は自然に寄り添うように生活していたが、18世紀最後の産業革命を機に、地球環境との関係が激変した。それまでは家畜や奴隷を使ってぜいたくをしてきた一部の人間が、蒸気機関の発明によって機械を動かせるようになった。以降、大量のエネルギーを使うようになり、産業革命以降の200年で人類が使ったエネルギーは、人類が全歴史で使ったエネルギー総量の6割を超える。その結果、地球の生命環境が破壊され、多数の生物が絶滅に追いやられるようになった。その期間を、地球の歴史を1年に縮めた尺度に合わせれば、大みそかの夜11時59分59秒からわずか1秒でのことである。今日利用されている火力発電も原子力発電も、発生させた蒸気でタービンを回す蒸気機関で、基本的に200年前の産業革命のときに誕生した技術である。その理想的な 熱効率は、次の式で表される。 理想的な熱機関の効率=1-(低温熱源の温度÷高温熱源の温度) (※それぞれの温度には「K(ケルビン)」の単位で表す絶対温度を用い、「℃」で表す 摂氏温度の数字に「273」を加え、たとえば0℃=273K、100℃=373Kとなる) だが、現実の装置ではロスも生じるため、この式で示されるような理想的な熱効率を達成することはできない。火力発電や原子力発電の場合、「低温熱源」は冷却水で、日本では海水を使っているので、その温度は地域差や季節差を考慮しても300K(27℃)程度であり、一方の「高温熱源」は炉で熱せられ、タービンに送られる蒸気である。そのため、火力発電と原子力発電の熱効率は、基本的にそれらが発生しうる蒸気の温度で決まり、その温度が高いほど、熱効率も上がることになる。現在稼働している原子力発電では、燃料の健全性を維持するため冷却水の温度を高くすることができず、タービンの入り口での蒸気の温度はせいぜい550K(約280℃)で、実際の熱効率は0.33、すなわち33%しかない。つまり、利用したエネルギーの2倍となる67%のエネルギーを無駄に捨てる以外にない。 ●想像を絶する膨大さ この無駄に捨てるエネルギーは、想像を絶するほど膨大である。たとえば、100万kWと呼ばれる原子力発電所の場合、約200万kW分のエネルギーを海に捨てることになり、このエネルギーは1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させる。日本には、1秒間に70tの流量を超える川は30筋もない。原子力発電所を作るということは、その敷地に忽然として「温かい大河」を出現させることになる。7℃の温度上昇がいかに破滅的かは、入浴時の湯の温度を考えれば分かる。ふだん入っている風呂の温度を7℃上げてしまえば、普通の人なら入れないはずである。しかし、海には海の生態系があって、その場所に適したたくさんの生物が生きている。その生物たちからみれば、海は生活の場であり、その温度が7℃も上がってしまえば、その場では生きられない。逃げることのできない植物や底生生物は死滅し、逃げることができる魚類は温廃水の影響範囲の外に逃げることになる。人間から見れば、近海は海産資源の宝庫であるが、漁業の形態も変える以外にない。 ●途方もない環境破壊源 雨は地球の生態系を持続させるうえで決定的に重要なもので、日本はその恵みを受けている貴重な国の一つである。日本には毎年6500億tの雨が降り、それによって豊かな森林が育ち、長期にわたる稲作も持続的に可能になってきた。雨のうち一部は蒸発し、一部は地下水となるため、日本の河川の総流量は年間約4000億tである。一方、現在日本には54基、電気出力で約4900万kWの原子力発電所があり、それが流す温廃水の総量は年間1000億tに達する。日本近海の海水温の上昇は世界平均に比べて高く、特に日本海の温度上昇は著しい。原発の温廃水は、日本のすべての川の水の温度を約2℃温かくすることに匹敵し、これで温暖化しなければ、その方がおかしい。そのうえ、温められた海水からは、溶け込んでいた二酸化炭素(CO2)が大量に放出される。もし、二酸化炭素が地球温暖化の原因だとするなら、その効果も無視できない。もちろん、日本には原子力発電所を上回る火力発電所が稼働していて、それらも冷却水として海水を使っている。しかし、最近の火力発電所では770K(約500℃)を超える高温の蒸気を利用できるようになり、熱効率は50%を超えている。つまり、100万kWの火力発電所の場合、無駄に捨てるエネルギーは100万kW以下で済む。もし、原子力発電から火力発電に転換することができれば、それだけで海に捨てる熱を半分以下に減らせる。さらに、火力発電所を都会に建ててコージェネレーション(cogeneration)、すなわち無駄に捨てるはずの熱を熱源として活用すれば、総合的なエネルギー効率を80%にすることもできる。しかし、原子力発電所は決して都会には建てられない。 ●熱、化学物質、放射能の三位一体の毒物 温廃水は単に熱いだけではなく、化学物質と放射性物質も混入させられた三位一体の毒物である。まず、海水を敷地内に引き込む入り口で、生物の幼生を殺すための化学物質が投入される。なぜなら海水を施設内に引き込む配管表面にフジツボやイガイなどが張り付き、配管が詰まってしまっては困るからである。さらに、敷地から出る場所では、作業員の汚染した衣服を洗濯したりする場合に発生する洗濯廃水などの放射性廃水も加えられる。日本にあるほぼすべての原子力施設は、原子炉等規制法、放射線障害防止法の規制に基づき、放射性物質を敷地外に捨てる場合に濃度規制を受ける。原子力発電所の場合、温廃水という毎日数百万tの流量をもつ「大河」がある。そのため、いかなる放射性物質も十分な余裕をもって捨てることができる。洗濯廃水も洗剤が含まれているため廃水処理が難しい。原子力発電所から見れば、苦労して処理するよりは薄めて流すほうが得策である。 たとえば、昨今話題となる核燃料サイクルを実現するための核燃料再処理工場は、原子力発電所以上に膨大な放射性物質を環境に捨てる。ところが、再処理工場には原子力発電所のような「大河」はない。そこで、再処理工場は法律の濃度規制から除外されてしまった。逆にいえば、原子力発電所にとっては、温廃水が実に便利な放射能の希釈水となっているのである。 *4-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89837470V00C25A7MM8000 (日経新聞 2025.7.5) 日産、中国をEV拠点に 来年から 東南アや中東に輸出 日産自動車は2026年に中国から電気自動車(EV)の輸出を始める。輸出先は東南アジアや中東、中南米を想定している。日産は業績低迷を受けて世界で生産体制を見直している。価格と性能の両面で競争力のある中国製EVを幅広い地域に出荷し、経営の立て直しを急ぐ。日産は4月に中国で発売し、売れ行きが好調なEVセダン「N7」などを中国から輸出する。N7はデザインや開発、部品の選定まで日本の本社ではなく中国の合弁会社が担った初めてのEVだ。中国での価格は11万9900元(約240万円)から。現地のEV大手、比亜迪(BYD)の競合製品と比べても同水準の安さだ。広東省広州市の工場で生産している。N7のソフトウエア機能には中国企業の人工知能(AI)技術を採用している。国によっては利用が制限されている。日産は4月に中国のEV開発大手、阿爾特汽車技術(IAT)に出資した。同社の協力を得て中国市場向けのソフトなどを輸出仕様車に変える。日産の現地子会社が中国の国有自動車大手、東風汽車集団と通関などの実務を担う合弁会社を設立することでも合意した。新会社には日産子会社が6割を出資する。中国は世界に先駆けて車の電動化が進んだことで、EVの航続距離や車室の快適性、エンターテインメント機能などの性能が高い。日産は中国製の低価格EVの需要は国外でも高いとみる。 *4-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250817&ng=DGKKZO90720210X10C25A8MM8000 (日経新聞 2025.8.17) 政府、アフリカとFTA検討 日本車輸出を促進 日本政府はアフリカ諸国と自由貿易協定(FTA)の締結に向けた検討を始める。産学官による検討会を設置し、本格的な交渉入りをめざす。まずはケニアなど物流の要衝になる東部や人口が多いナイジェリアを念頭に置く。日本からの自動車輸出の促進などを期待する。20~22日に横浜市で開く第9回アフリカ開発会議(総合2面きょうのことば、TICAD9)で発表する見通しだ。産学官の検討会で経済連携の効果や課題を2年程度かけて検証する。日本企業の進出意欲の高い国との協議を優先する。ケニアなど東部8カ国でつくる地域経済共同体「東アフリカ共同体(EAC)」との交渉が候補になる。アフリカ全体とのFTA締結を最終目標とする。ケニアは港湾が整備されている。日本政府は東アフリカをインド洋を通じた物流の要と位置づけ、インドや中東諸国と一体の経済圏を築く構想を持つ。東部以外ではアフリカで人口最大のナイジェリアが候補になる。原油の生産量も最大で、内需が拡大する。西アフリカの物流や工業のハブとして成長するガーナなども連携相手に挙がる。港湾から内陸国へ陸路で運ぶのに複数の国を通過するため、各国の関税が輸送コストの上昇要因になる。各国の関税を撤廃し、アフリカ進出を図る日本企業のビジネス環境を整える。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2024年に日本とアフリカは輸出入ともにそれぞれ1兆3000億円程度にとどまっている。日本からの輸出は中古車を含む自動車が多く、輸入は鉱物資源の割合が高い。日本は50カ国を超すアフリカのいずれの国ともFTAや経済連携協定(EPA)を結んでいない。経団連は6月の提言で、アフリカとの協定整備の遅れを指摘した。韓国やインド、欧州勢が先行し「世界の競合企業と競争条件で大きな格差が生じている」と訴えた。 *4-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250817&ng=DGKKZO90715160W5A810C2TYC000 (日経新聞 2025.8.17) 北極の氷消え、地球過熱、50度超の熱波で山火事も頻発 氷が消え地球に熱がこもる。こんな悪循環が加速している。気温上昇を抑える役割を果たしてきた北極の海氷は2030年には消滅するという予測さえある。氷が溶けて海水面が上昇し、太平洋の島しょ国の住民は故郷を離れ始めた。熱波による山火事と感染症も猛威を振るっている。「地球温暖化の最前線」とも呼ばれる北極域は温暖化の影響が最も表れる地域とされる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所によると、24年9月に人工衛星で観測した北極の海氷の年間最小面積は407万平方キロメートルと、衛星観測史上で5番目に小さかった。北極の海氷面積の最小値は長期的に減少傾向にある。米コロラド大などの国際研究チームは24年、温暖化がこのまま進むと27年にも北極の海氷が9月にほとんどなくなる可能性があると国際科学誌で報告した。 ●島から気候移住 北極は地球の冷却源として働くが、海氷が減るとその機能が弱まる。海氷は太陽光を反射して温暖化を抑える役割がある。また海面に蓋をして水分の蒸発量も抑えている。海氷がなくなると、北半球での水の循環が強まり、豪雨や干ばつなどが起きやすくなると指摘されている。同様に深刻なのが、世界各地の陸上に点在する氷床や氷河の減少だ。スイスのチューリヒ大学などの研究グループによると、世界の氷河は00~23年に年間で平均2730億トン減少し、約1.8センチメートルの海面上昇を引き起こしたと推計された。25年5月にはスイス南部のアルプス山脈で、氷河の崩壊によって大規模な土石流が発生し、築600年の家屋が並ぶ歴史ある村が土砂に埋め尽くされた。海面上昇は沿岸部の居住地を奪って移住を余儀なくする「気候難民」を生み出す。太平洋諸島のツバルは、2100年までに国土の約9割が水没する恐れがある。 ●氷河解け海面上昇 23年にはオーストラリアとの間で、年間280人のツバル国民がオーストラリアの永住権を取得できる協定を結んだ。25年7月の申請の締め切りまでに全国民の約9割が申し込んだ。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、1999~2024年までの25年間で9.38センチメートルの海面上昇が確認された。上昇の6割が氷河や氷床の融解を原因とし、3割は海水温が高くなったことによる海水の膨張が影響した。気候変動に伴う記録的な熱波は、世界各地で頻発する山火事にも深く関係する。国内最高気温となる50.5度を記録したトルコでは25年の7月下旬、各地で山火事が相次いで発生した。広範囲が焼失して町や村単位で住民が避難したほか、消火作業にあたった複数人が死亡した。火災によって焼失する森林の面積は近年増えている。米シンクタンクの世界資源研究所(WRI)によると、24年に焼失した森林は1350万ヘクタールで、ギリシャの国土面積に相当する。23年の1190万ヘクタールから13%増加した。25年に入っても、米カリフォルニア州や日本、韓国、カナダなどで大規模な火災が立て続けに発生した。専門家は、いずれも人為的な気候変動によって気温や雨量に変化があったことが影響したとする分析結果を発表している。山火事は被害を出すだけでなく、温暖化を加速させる悪循環も生む。温暖化が進むことで、山火事を引き起こしやすい極端に乾燥した環境をつくる。 ●感染症が拡大 温暖化は蚊が媒介する感染症のまん延を加速する。25年7月から中国南部の広東省仏山市を中心に「チクングニア熱」の感染拡大が続き、7000人以上の感染が確認されている。チクングニア熱は発熱や発疹、関節痛などを引き起こす。世界保健機関(WHO)によると死に至ることはまれだが、ワクチンや治療薬はないという。また15年に1355人だったデング熱の死者数は24年には6991人にまで増えた。高温が日常となったいま、危機への対応は急務となっている。 *4-3-4:https://www.agrinews.co.jp/news/index/326952 (日本農業新聞 2025年8月21日) 農水予算重点事項 生産費減へ大区画化 直播の普及支援 農水省は20日、2026年度農林関係予算概算要求の重点事項を示した。政府が生産拡大意向を示す米が柱。生産費の削減へ、農地の大区画化を進める。労働力不足への対応になるとして、水田に種を直接まく直播(ちょくは)を普及する。主食用米の需要に応じた生産を支える水田活用の直接支払交付金(水活)を明記した。自民党農林合同会議に示した。27日に総額や各事業の額を示す。米の生産性向上へ、農地の大区画化を進める。農地集積・集約化やスマート技術の導入を加速する。共同で利用する機器の導入や、「節水型乾田直播」の検証を支援する。高温に耐える品種や多収性品種への転換を促す。農地の大区画化を巡っては、農家自らの施工による区画拡大などを支える「大区画化等加速化支援事業」も盛り込んだ。同事業では巨大区画化の効果検証や普及も進める。主食用米の将来的な需給緩和を懸念する声を踏まえ、産地の自主的な長期計画販売への支援を盛り込んだ。農家の減収の一部を穴埋めする収入保険制度の普及や、27年度からの新たな環境直接支払交付金の「制度設計」の推進を掲げた。主食用米から麦・大豆、米粉用米などへの転換を促す水活を明記した。議員からは財源確保を念押しする意見が出た。農水省は「水活は需要に応じた生産の核となる部分だと思っている。しっかり対応する」と応じた。共同利用施設の再編など「農業構造転換集中対策」の詳細は要求段階では示さず、年末にかけて詰める。同対策は5年間で事業規模2・5兆円、うち国費1・3兆円を見込む。議員からは既存事業の財源を減らさずに確保するよう求める声が上がった。 *4-3-5:https://digital.asahi.com/articles/AST8L2VVWT8LULFA00DM.html (朝日新聞 2025年8月18日)ミニストップ、おにぎりや弁当の消費期限を偽装 全店で販売を中止 大手コンビニエンスストアのミニストップ(本社・千葉市)は18日、店内で加工した「手作りおにぎり」や総菜食品について、一部の店舗で消費期限を偽って販売する不正が見つかった、と発表した。原因の究明と改善策が実施されるまでの間、全店で店内加工のおにぎりや総菜、弁当の販売を中止する。同社によると、一部店舗で6月下旬、消費期限を記したラベルが二重に貼られたおにぎりが見つかった。同社が調査したところ、国内全1784店のうち、埼玉、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7都府県の23店で不正が確認された。店内で調理後、ただちに消費期限を計算してラベルを貼るべきなのに、時間をおいてから貼るなどして、期限を2~3時間過ぎた商品を販売していたという。これまでのところ、購入者から健康被害の連絡はないという。ホームページでも一連の経緯を説明し、謝罪文を掲載した。 *4-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1509477 (佐賀新聞 2025/7/15) 参院選・コメと農政 増産と所得安定の両立探れ コメを巡る政策が改革を迫られている。随意契約による政府備蓄米の放出で、コメの流通はようやく落ち着く兆しが見えてきたが、対症療法にとどまっている。コメ政策の見直しは避けて通れず、農家と消費者の双方が安心できる政策が必要だ。転作奨励金などを見直して増産に転換する道筋を描き、農家の所得安定と両立させることが焦点になる。昨年からの米価高騰は「コメの生産量が足りないのではないか」という疑念を生じさせた。インバウンド(訪日客)によって外食産業で需要が拡大し、消費量は思ったほど減っていないとの指摘もある。卸売業者が何重にも関与する複雑な流通の過程で、コメがどんな価格水準で取引されているのか、はっきりしない面もある。生産者の自家消費や、知人らに配る縁故米の把握もできていない。石破茂首相はコメ輸出の拡大を念頭に「増産にかじを切る」と繰り返し強調しているが、生産調整見直しの具体策はまだこれからだ。コメ不足と価格高騰が消費者に大きな不安を与えたことを考えれば、生産や流通の実情把握を急ぐべきだろう。これまでの農政は生産量を抑え、価格を維持する手法を続けてきた。減反政策が終了してからも、人口減によるコメ消費の減少を見越して、主食用から飼料米や加工米への転換を促す政策がとられてきた。増産路線に転じるなら、米価が下落した場合に備え、生産者の支援策が必要だろう。立憲民主党は水田10アール当たり2万3千円を農家に支給する「食農支払」の創設を唱えている。国民民主党は稲作農家に10アール当たり1万5千円を交付する「食料安全保障基礎支払」を提案している。農家への所得補償は丁寧に制度を考えねばならない。営農の規模や形態によって、収入保険と直接支払いを組み合わせる工夫があってもいい。ただ、資金支援が農地の集約や大規模化の動きを妨げるのは避けたい。農業の担い手は急ピッチで高齢化している。担い手不足が深刻化するのに歯止めをかける対策も必要だ。自民党は土地改良や農地集約、デジタル技術導入のため今後5年間、思い切った予算を確保すると公約した。立民は就農支援の資金を10倍に拡充し、都市部からの移住を後押ししようとしている。国民は若者の新規参入を促すため、直接支払制度に「青年農業者加算」を設けるとしている。兼業農家も地域の実態を踏まえて支援対象にするという。コメの増産や農家の所得を支える財源も課題になる。転作奨励金などを振り替えれば足りるのだろうか。農政改革に伴い、農業予算の組み替えや洗い直しを検討しなければならない。コメ不足の対策として、日本維新の会は「ミニマムアクセス(最低輸入量)」の枠外で輸入するコメの関税を時限的に引き下げると訴えている。政府はコメの輸出拡大を目標にしてきた。だが農産物の海外販路の開拓はそう簡単ではない。良い品質のコメを決められた時期に、契約通り出荷することを輸出先から求められるのは当然だ。生産拡大につなげるには、冷凍おにぎりや酒類など加工品の輸出も考える必要がある。コメ政策は国内の農業の行方を左右する。選挙戦の渦中でも深さと広がりのある議論を求めたい。 *4-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1279H0S5A610C2000000/ (日経新聞 2025年6月26日) 長野・林業大学校、即戦力化へ新カリキュラム スマート林業に対応 長野県林業大学校(長野県木曽町)はドローン操作実習などの新カリキュラムを、2026年度から導入する。林業では人手不足や従事者の高齢化が深刻で、機械化による生産性向上が急務となっている。スマート林業や林業経営を習得する新たなカリキュラムで多様な学びのニーズに対応するとともに、即戦力を求める産業界の需要に応える。新設するのは企業経営と高所作業の2科目で、ほかにスマート林業への対応として林業機械学などの実習を強化する。実習を通じて、ドローン操作では国家資格の二等無人航空機操縦士を取得できるようにする。また、進路に応じて2年次でのコースを選択できるよう再編し、マネジメントコースとスペシャリストコースを設ける。募集人員は20人で、修業年限は2年間。県によると林業大学校は全国に28あり、定員を充足しているのは長野県林業大学校を含む3校という。1979年の開校以来、836人が卒業し、民間企業や森林組合などに就職している。 *4-4-3:https://mainichi.jp/articles/20250112/ddm/005/070/040000c (毎日新聞 2025/1/12) 日本の漁獲量=回答・金将来 <気になる> 日本の漁獲量(ぎょかくりょう)が大幅に減少しています。1984年に1282万トンあった漁業・養殖業(ようしょくぎょう)の生産量は、この40年間でどんどん減り続け、2023年に372万4300トンと統計開始以降、最低を更新しました。このままだと、いずれ国産の魚が食べられなくなるのでしょうか。減少している背景を探り、持続可能な漁業について考えます。 ◆どうして減っているの? ○国際的規制や海の温暖化で なるほドリ なぜ日本の漁獲量は減っているの? 記者 減少の原因は複数あります。まず挙げられるのは、およそ40年前に国際的なルールで定められた「200海里水域制限(かいりすいいきせいげん)」です。日本の漁船は70年代ごろまで、はるか遠くの外国の海で漁業を行う「遠洋(えんよう)漁業」を盛んに行っていました。しかし、82年に「国連海洋法条約(こくれんかいようほうじょうやく)」という国際ルールが採択されて、それぞれの国の岸から200カイリ(約370キロ)内に外国の船が勝手に入って漁をしてはいけないことになり、日本の漁獲量は徐々に減り始めました。 Q 日本は遠洋漁業が主流だったの? A 水産庁によると、日本の漁業は戦後、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場を拡大することで発展しました。ピーク時の遠洋漁業の漁業生産量は、漁船漁業全体の約4割を占めていましたが、90年ごろにその量は約1割まで低下しました。条約の規定によって、打撃を受けたわけです。 Q ほかの原因は何? A 近年、最も深刻な問題となっているのは、気候変動による海水温の上昇や海洋汚染による海洋環境の異変です。特に、温暖化による海水温の上昇は顕著(けんちょ)で、気象庁によると、日本近海の海面水温はこの100年で1・28度高くなりました。特に直近4~5年間の海面水温の上昇は異常なレベルで、日本近海の温暖化は世界の海よりも早く進行しているという分析もあります。 Q 海の温暖化が進むと、なぜ魚がとれなくなるの? A 魚は種(しゅ)によって適した水温の海域に生息します。このため、海水温の変化によって、魚たちは生息域(せいそくいき)を変えているとみられます。例えば、サワラは暖かい海を好み、もともと東シナ海や瀬戸内海に多く生息していました。ですが、海水温の上昇で日本海などでの生息が確認されるようになりました。このほか、サンマは主に北太平洋に生息し、秋になると千島列島(ちしまれっとう)から日本列島の東岸を来遊するのが主流でしたが、現在はより沖合を来遊するようになっています。これらの魚が生息域を変えることで、日本近海でとれていた魚がとれなくなったり、特定の魚の漁獲量が減少したりしています。 Q 漁獲量が増えている魚もあるの? A 日本の全体的な漁獲量は減少していますが、地域によっては、これまでとれなかった魚がとれたりして、漁獲量が増加している魚の種類もあります。特に、北海道のブリの漁獲量は10年ごろから増え、20、21年は全国トップになるほどに増加しました。宮城県のサバやタチウオ、福島県のトラフグなどは10年前と比べて大幅に漁獲量が増加しています。これらの現象は、地域の名産物(めいさんぶつ)であった魚がそうでなくなったり、反対にこれまでとれなかった魚がとれることでその地域の水産物になったりと、我々消費者にも大きな影響を与えています。現場の漁師からは「海の変化に困惑している」との声が聞かれます。 ◆国産が食べられなくなるの? ○生産力維持へ さまざま工夫 Q このまま漁獲量が減り続けたら、国産の魚を食べられなくなる日がくるのかな? A たしかに、海洋環境の異変が進行し続ければ漁獲量の減少は今後も進むことが予想されます。一方、国や自治体、漁業協同組合(ぎょぎょうきょうどうくみあい)などは現状の漁獲量の減少に歯止めをかけようと、魚介類(ぎょかいるい)の多様性や生産力を維持できる「持続可能な漁業」の取り組みを行っています。例えば、青森県五所(ごしょ)川原(がわら)市は、大和(やまと)しじみの操業期間や漁獲量などの制限を持続的に行い、安定的な生産を実現しています。また、北海道のホタテは多くの水産物が生産量を減らしている中、長年、養殖業も合わせて年間約30万~40万トンの生産を維持し続けており、13年に環境への配慮と水産資源の持続可能性を実現した漁業に与えられる国際的なエコラベル認証を取得しています。 Q 私たちにできることはあるの? A 海にやさしい環境への配慮を一人一人が心がけることが大切です。海洋ごみや海岸に不法投棄されたごみなどによる海洋汚染は、魚の生態系にも大きな影響を及ぼすとされています。エコバッグやマイボトルを使用してレジ袋やペットボトルの使用を控えたり、ビーチクリーンや河原の清掃活動(せいそうかつどう)に参加したりするなど海洋環境に貢献できる取り組みは多くあります。小さな取り組みが海の資源保全につながり、魚を食べられる日常を守ることにつながります。 *4-4-4:https://digital.asahi.com/articles/AST7L13S0T7LUTIL018M.html (朝日新聞 2025年7月19日)進むウナギの完全養殖 細長の水槽で生存率アップ、異業種から参入も 稚魚の不漁によって価格が高騰するウナギを安定的に生産するため、「完全養殖」の研究が進んでいる。19日は土用の丑(うし)の日。ウナギの養殖には、ハンコやガス会社など異業種からの参入も相次いでいる。水産庁によると、2024年に国内で流通したウナギは計6万941トンで、外国産も含めほぼ養殖でまかなっている。環境省が13年に絶滅危惧種に指定したニホンウナギは日本から約2千キロ離れたマリアナ海溝周辺で産卵する。孵化(ふか)した赤ちゃんは5~6センチほどの稚魚(シラスウナギ)に成長し、日本周辺で捕獲された後、国内の養殖場で半年~1年半ほど育てられ、出荷される。稚魚は減少傾向で、国を挙げた安定供給のための研究が進んでいる。千葉県成田市の老舗うなぎ屋「駿河屋」の店主で、全国鰻蒲焼(うなぎかばやき)商協会理事の木下塁さん(48)は「新技術で安定供給につながるのはいいこと。一方で、将来的に供給が増えすぎ、価格が大幅下落する不安もある」と話す。水産研究・教育機構は2010年、人工の稚魚を親魚まで育て、その親の卵を孵化させる完全養殖に世界で初めて成功した。政府は25年先の50年までに天然の稚魚を使わない完全養殖への移行を掲げる。実現のため、低コストで卵からシラスウナギを育てる技術が欠かせず、機構は今年7月、農業機械を販売するヤンマーホールディングスなどと稚魚を大量に生産できる新たな水槽を開発したと発表した。従来の1千リットル規模のかまぼこ形の水槽では数百匹の飼育が限度だった。水槽の直径が50センチ以上になると成長速度と生存率が低下することが確認され、直径40センチ、長さ150センチの新たな細型の水槽を作ると、1千匹を飼育できた。機構の担当者は「水槽の直径が大きいと、7ミリほどの赤ちゃんがエサにたどり着けない可能性があった」と指摘する。水槽の素材も従来のアクリル製から、安価な繊維強化プラスチックに変更。エサも希少なサメの卵から、ニワトリの卵や脱脂粉乳など比較的安い材料に切り替え、特許も取得した。2016年に4万円だった稚魚1匹の生産コストは20分の1以下の1800円に下げたが、天然稚魚の取引価格と比べ、依然として3倍ほど高い。水槽の大型化や光熱費の削減、エサやりの自動化などを進め、機構の担当者は「将来的には1千円以下での生産を目指す」と話す。水産庁によると、国内のニホンウナギの養殖事業者は442(昨年11月時点)に上り、異業種からの挑戦も目立っている。 ●ハンコ販売やガス会社も参入 3年前から地下水を利用して陸上養殖を始めた、埼玉県川越市のガス会社「武州ガス」もその一つだ。「武州うなぎ」として、年間3万匹の出荷をめざす。昨年から機構と完全養殖の共同研究を進める。ウナギの赤ちゃんを人工海水を使った専用の水槽で飼育し、稚魚に成長させることができた。今後は1%に満たない成功率のアップが課題で、責任者の大河原宏真さん(52)は「近隣には老舗のウナギ店が多く、地域貢献につなげたい」と話す。デジタル化や少子化で、印章の市場が縮小する中、印章製造販売大手「大谷」(新潟市)は24年からウナギの養殖に参入した。同社はすでにウイスキーの製造に取り組み、蒸留時に発生する温水を活用し、養殖池の温度を27~30度に保ち、ウナギを育てる。「新潟ウイスキーうなぎ」としてネットで販売するほか、地元のホテルでも提供する。堂田尚子社長は「数千万円の初期投資が必要だったが、ウナギは単価が高いので、生産量を増やしつつ、数年で黒字化を目指したい」と話す。 *4-4-5:https://www.jiji.com/jc/article?k=2025021401087&g=soc (時事通信 2025年2月14日) 三陸沖の水温上昇、過去最大 黒潮の異常進路で―東北大 三陸沖の海水温が2023年以降、平年より6度以上高い状態が続いていることが、東北大などの研究チームの解析で分かった。22年末から続く黒潮の異常な北上が原因で、上昇幅は世界の海と比較しても過去最大。水産業への影響や豪雨など異常気象との関連が懸念される。論文は14日までに、日本海洋学会の英文国際誌に掲載された。黒潮は九州の南から太平洋を北上する暖流。本来は房総半島沖で東に向かうが、22年末ごろから三陸沖を北上し、昨年4月には青森県沖に達した。東北大の杉本周作准教授らは、人工衛星や観測航海で得られた水温データを解析。23年4月から昨年8月までの間、三陸沖の海面水温は平年と比べ6度以上高い状態が続いていた。また、塩分濃度の解析から、黒潮の北上でもたらされた南方の暖かい海水が、水温上昇を引き起こしていることも分かった。影響は水深700メートルまで達し、海面からの熱は上空2000メートルの気温も上昇させていた。黒潮の異常進路は、和歌山県沖で南に大きく蛇行する「大蛇行」が17年以降続いていることや、北海道から三陸沖に南下する寒流の親潮が弱まっていることなどが原因の可能性があるという。杉本准教授は「生き物や水産資源、気象にも影響があるはずで、海水温上昇が私たちの暮らしにどういう影響があるかを評価したい」と話した。 *4-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90722200X10C25A8TL5000 (日経新聞 2025.8.18) がんゲノム検査に財政の壁、制度で対象制限、治療到達は「10万人中7000人」 がんの患者ごとに遺伝子を検査し、最適な治療薬を届ける「がんゲノム医療」を受けた件数が3月末で10万件を超えた。しかし実際に治療薬が見つかった件数は7000件程度に過ぎない。検査条件が末期患者に限られるなど制度設計の問題もあるが、背景には高額な検査費用に対する医療費増への懸念が立ちはだかっているようだ。今年5月、国立がん研究センターは2019年から始まったゲノム医療の中核となる「遺伝子パネル検査」に登録した人が10万例を超えたと発表した。河野隆志・がんゲノム情報管理センター長は「一つの大きな通過点で、より多くのデータを集めて治療の向上に使いたい」と成果を強調する。 ●化学療法後の「最後の手段」 もっとも実際に最適な治療薬が見つかり治療までたどり着いたのは7000件程度と非常に少ない。日本では転移が分かった段階でホルモン療法や化学療法などの「標準治療」を受け、その治療が効かなくなる段階でパネル検査を受ける制度となっている。米カリフォルニア大学の加藤秀明准教授は「転移が分かっても制度上すぐにパネル検査ができない。(日本に闘病中の家族がおり)非常にもどかしい」と打ちあける。足元ではせっかく登場した新薬が、パネル検査を受けないと使えないという「矛盾」も生じている。24年に登場したアストラゼネカの乳がん治療薬「カピバセルチブ」、ファイザーの「タラゾパリブ」の2つは、特定の遺伝子に変異がある患者に使えるが、変異を調べるためにはパネル検査が必要となる。パネル検査は吐き気や脱毛などの副作用を伴う化学療法などが終わった後の体力が落ちた患者が対象となるため、投与できないケースも多い。新薬の承認条件を調べるとこうしたパネル検査が必須となる薬剤は計8種類もあり、今後さらに増える可能性もある。ある大学病院の乳腺外科の専門医は「検査と治療薬の使い方に齟齬(そご)がある」と指摘する。当然のように医療学会や患者団体からは制度改正を求める声があがる。6月にはがんの専門医や研究者でつくる日本臨床腫瘍学会などが「パネル検査の制限撤廃が理想的だ」とする声明を出した。東京科学大学の池田貞勝教授は、患者に適切なタイミングで薬が届かないことについて「規制上の障壁による『隠れドラッグロス』とも呼べる状況だ」と指摘する。 ●高額な検査費用 10万人で560億円 しかし厚生労働省は制度改正に慎重だ。検査対象を制限している点について「患者の生存期間の改善につながるというエビデンス(根拠)が現時点で証明されていない」と説明するが、最大の理由には医療費負担の懸念があるようだ。がん患者の多くは治療薬や検査、入院などを含めて支払いが高額となるため高額療養費制度を活用することが多い。自己負担額の上限が決まっており、仮に年収370万~770万円程度で月額医療費が100万円かかった場合、自己負担額上限は8万7000円程度。残りは公費と保険者の負担となる。もともとパネル検査は高額で、1回あたり約56万円かかる。検査を受ける人が年間で1万人増えると単純計算で56億円。日本で新たにがんと診断される人は年100万人いるとされ、うち1割の患者が検査を受けると560億円の新たな医療費が必要となる。政府関係者は「いまは末期の患者だけだからなんとかなっているが、治療薬も合わせると費用は膨大だ。財源を考えると対象を絞るのは仕方がない」と明かす。米国のパネル検査は転移が分かった段階で速やかに受けられる設計となっており、標準治療後などの条件はない。しかし加入する保険のプランによって受けられる治療・検査の範囲が異なるほか保険料も高額だ。低中所得者にとって金銭的なハードルは高い。英国では費用対効果を厳格にチェックする仕組みがあり受診する病院も自由に選ぶことはできない。高額な治療薬の使用が認められないケースもあり「各国でもある意味で制限されている」(国内専門医)という。日本では画期的な新薬や検査技術が比較的早く承認され、自己負担を抑えながら様々な治療を受けられる。パネル検査の対象が広がればより多くの人が早い段階で、最適ながん治療を受けられるようになる。しかし高齢化が進み、医療費が膨らむなか、高額な検査をいつまでも受け入れていくだけの余力はない。限られた医療財源と画期的なゲノム医療。このバランスをどうとるのか、医療の取捨選択を含めて国民的な議論が必要となる。 *4-5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90722300X10C25A8TL5000 (日経新聞 2025.8.18) 国際競争、社会の理解不可欠 2003年に人類がヒトの全ゲノムを解読して以降、ゲノム情報を医療にいかす取り組みが加速している。特に進展が著しい分野の一つががんだ。一気に数百の遺伝子を調べるパネル検査によって、個々の患者のがんの原因遺伝子を調べられるようになった。そこで始まったのがゲノムデータ集積の国際競争だ。米国は15年からゲノムを活用した個別化医療を目的に2億ドル以上の費用を投じている。18歳以上の成人100万人以上の国民データを集めて、がんを中心に遺伝子情報や血液や腸内細菌などのデータの蓄積を進めている。がんだけでなく希少疾患や遺伝子が原因の先天性の難病といった情報を集めており、世界で先行しているとされる。英国では13年から「ゲノミクス・イングランド」という国家プロジェクトを立ち上げ約10万人分の全ゲノムを解析する取り組みをスタート。すでに解析を終え、その知見から新たな診断技術や治療薬の開発につなげている。現在は追加のプロジェクトを立ち上げ、最大500万人の参加者を集めたゲノム解析事業を進めている。その意味で日本はゲノム解析の後発組といえる。ゲノム医療はがん患者の検査に役立つ新たな選択肢であることは確かだ。ただし患者に質の高いゲノム医療を届けるには、限りある医療財源の課題とその解決、そして日本におけるゲノムデータ構築の目的、意義、利活用方針をこれまで以上に社会に理解してもらうよう周知していくことも大切だ。 *4-5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90723950X10C25A8CM0000 (日経新聞 2025.8.18) 消化器外科医「5000人不足」 がん診療「病院集約を」 厚労省検討会、40年推計 2040年にがん手術を担う消化器外科医が約5千人不足する――。こうした推計を盛り込んだ報告書を、厚生労働省のがん診療に関する検討会がまとめた。「必要な医師数が確保できず現在提供できている手術を継続できなくなる恐れがある」と指摘。高齢化と現役世代の減少が進む中、長時間労働などを理由に、若手医師が消化器外科を避けがちなことが背景にありそうだ。報告書は、治療の効率性を向上し、医師が経験を蓄積して高度な医療技術を維持できるよう、都道府県が医療機関の集約化などを検討する必要があるとした。40年時点で新たにがんと診断される患者は推計105万5千人で、25年の102万5千人と比べ約3%増加。85歳以上は40年に25万8千人で、25年の17万8千人から約45%増となる。検討会では手術の需要と供給のバランスを予測した。需要は、初回手術を受ける患者数が25年で推計46万5千人なのに対し、40年は約44万人で約5%減る。一方、供給側の医師はこれを大幅に上回る速さで減少する。特に外科医の約7割を占める消化器外科では、日本消化器外科学会の所属医師(65歳以下)が25年の約1万5200人から、40年に約9200人へ約39%減少。需給を単純計算すると、約5200人の不足が見込まれるとした。報告書は手術の他、放射線療法では高額な装置の維持が困難になる場合があり「効率的な配置を計画的に検討することが必要だ」と言及。薬物療法は、患者が定期的に継続して治療を受けられるよう、どの地域でも提供できる体制の構築を訴えた。必要ながん医療の体制は、都市部かどうかなどによっても異なる。報告書は都道府県での検討に当たり、患者の医療機関へのアクセス確保に留意するよう求めた。 <日本の規制が促すサービス業の質低下> *5-1:https://mainichi.jp/articles/20250701/k00/00m/020/251000c (毎日新聞 2025/7/1) アマゾン、配送拠点を6カ所新設 年内に全国翌日配送も可能に インターネット通販大手のアマゾンジャパンは1日、指定住所までの「ラストワンマイル」の起点となる配送拠点を国内6カ所に新設し、当日配送専用の拠点も全国16カ所で展開すると発表した。2025年内に翌日配送を全国で可能にし、当日配送できる地域も順次拡大させるとしている。新たな配送拠点は、岡山、千葉、福岡、石川、北海道、東京の6都道県に設ける。さらに入荷から保管、梱包(こんぽう)、仕分け、配送までできる拠点も年内に16カ所整備し、午後1時までに注文した商品を当日の夜間帯に届ける当日配送を数万点の商品で可能にするという。アマゾンの物流施設では、自走式ロボットが商品棚を持ち運び、大量の荷物を効率よく発送する「アマゾンロボティクス」と呼ぶ仕組みを採用。ロボットは世界300カ所以上の拠点で計100万台導入されている。今回、より効率的な動きを実現するため、新たな生成AI(人工知能)「ディープフリート」を取り入れることで、従来より効率を10%高めるという。東京都内で1日開かれた記者会見で、開発子会社の技術責任者タイ・ブレイディ氏は生成AIの技術について「サービスにかかるコストを削減し、顧客からの信頼性も向上できる。まだ始まり。(生成AIは)多くのデータから学び、さらに賢くなる」と期待した。日本での事業開始から25年。アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は「最新技術でネットワークを築いてきた。今後もより良い暮らしに貢献できるよう取り組む」と話した。また、名古屋市に8月、新たな物流拠点を稼働させると発表した。三菱地所が設計し、延べ床面積は12万5000平方メートルで、「西日本最大」の拠点となる。温室効果ガスの排出削減にこだわり、壁面にも太陽光発電設備を導入。発電設備容量は5500キロワットで、米国外では最大規模だという。 *5-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1493859 (佐賀新聞 2025/6/27) 「置き配」標準化検討、国交省、物流業者負担軽減、秋にも方向性 国土交通省は26日、宅配ボックスや玄関前に荷物を届ける「置き配」を、宅配便の標準サービスとする検討に入った。業界で人手不足が深刻化する中、再配達を減らし、負担削減につなげるのが目的。物流業界関係者も交えた検討会の初会合を同日開いた。秋までに方向性をまとめる。置き配は、配達時間を気にすることなく、荷物を受け取れるという利点がある一方、盗難や汚損などのトラブルへの懸念から利用をためらう人もいる。トラブル防止など課題の解消が焦点となりそうだ。検討会は有識者や自治体関係者らで構成。会合は非公開で、国交省によると、出席者からは、受取人が不在時、業者が敷地内に立ち入ることを念頭に、セキュリティーやプライバシー面での対策を求める意見が出た。トラブル防止のため宅配ボックス設置をどのように推進するかといった課題を指摘する声もあったという。会合に出席した国交省の幹部は「地域で不可欠な物流サービスを持続可能なものにするため、既成概念にとらわれず、今の時代に合った合理的なやり方を生み出したい」と説明した。物流各社は、国交省が作った基本ルールを参考に、荷主との契約条件などを盛り込んだ「運送約款」を策定している。現行の基本ルールは対面での受け取りを前提としており、置き配は、荷物を受け取る側が選択する追加サービスとなっているケースが多い。国交省は、ルールを改定し、対面での受け取りに加え、置き配も標準と位置付けることを視野に入れている。物流の輸送力低下 低賃金や高齢化などで物流業界の人手不足が深刻化する中、トラック運転手の時間外労働の上限を年960時間とする規制が2024年4月から始まった。労働環境が改善するとの期待の一方、運べる荷物の量が減り、輸送力の衰えがさらに進むとの指摘がある。インターネット通販の浸透で荷物の量が増えていることも背景にある。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90726060Y5A810C2MM8000 (日経新聞 2025.8.18) 自治体に「最高AI責任者」 総務省が指針 補佐の専門人材も 総務省は地方自治体向けに生成AI(人工知能)の利用手引を作成する。行政事務での活用事例や使用上の注意事項をまとめ、年内にも公表する。生成AIの活用推進や管理を担う最高AI責任者(CAIO)を各自治体に置き、専門知識をもってCAIOの判断を助ける補佐官の設置を求める。 補佐官の設置に関しては、人材の確保が地方では難しいとみられることから、複数の自治体が連携して共同で置くことも想定している。設置に法的拘束力はないものの、自治体側の取り組みを促す。自治体では住民情報を扱う部署が多く、AI学習に個人情報などの機密情報を用いることを禁止するとも明示する。行政事務での活用事例については、自治体での先行事例を示す。AIを使って住民からの相談を24時間受け付けるといったサービスを例示する。AI活用によって会議の議事録の要約で5割、企画書の作成で3割の業務時間を減らした自治体もあるという。利用指針のひな型も用意し、地方行政における生成AIの活用を後押しする。小規模な自治体ほどAIに関する知見をもつ人材の確保に難があり、導入に踏み切れないケースは多い。総務省が6月に公表した調査結果では、政令指定都市以外の1721市区町村で生成AIを導入しているのは全体の3割程度にとどまっていた。導入していないと回答した自治体は半数近くに上り、すでに9割ほどが導入済みの政令指定都市と大きな開きがある。利用指針がない自治体も全国で1000を超える。総務省は自治体が安全に生成AIを活用できるようになれば、人口減少下での地方行政の効率を高められるとみている。 <その規制は意味があるのか> *6-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1498093 (佐賀新聞 2025/7/2) 日本郵便処分 規律不在の原因を究明せよ 安全をないがしろにする法令違反がなぜ放置されてきたのか。日本郵便が国土交通省の行政処分を受けた。集配業務を手がける郵便局の約75%に上る2391局で酒気帯びの有無などを確認する法定点呼がルール通り実施されていなかったためだ。飲酒運転も発覚しており、規律不在としか言いようがない。各地の郵便局にあるトラックやバン約2500台が使えなくなった。異例の重い処分だ。経営陣や管理職の指示を現場が軽んじる体質があるのではないか。現場で起きている問題を上層部が把握できていないこともはっきりした。問題の根は深い。当たり前の規律が社内に浸透していないのは明らかだ。社長だった千田哲也氏は「会社全体の構造問題だ」と述べたことがある。限られた地域や部門だけで起きた不祥事ではないのだ。点呼を法令で決まった通り実施するのは当然だ。しかしそれだけで解決するわけではない。本来あるべき規律が確立していなかったのか、どこかで緩んでしまったのか。17万人の従業員を抱える巨大組織をいつまでも迷走させてはならない。郵便局の法定点呼は配達員を対象に、アルコール検知器を使って確認する。これまでの調査では、繁忙時には手順に沿った点呼が実施されなかったり、管理者がいる時だけ実施したりしていた事例が判明している。「適切に実施した」と虚偽の報告をしていたケースもあったという。日本郵便によると、2024年度に飲酒運転は4件あった。ワインをペットボトルに入れ、配達員が業務中に飲んでいたり、飲酒した配達員が車を塀に衝突させる事故が起きたりした。郵政民営化によって郵便、貯金、簡易保険は日本郵政を持ち株会社とする民間企業に生まれ変わった。民間のガバナンス(企業統治)を受け入れ、誠実に働いてきた従業員が大半だろう。だが民営化以前の古い組織や体質が温存されている面も否定できない。法令順守よりも旧来の慣習が優先されることはなかったか。郵便局の現場でなれ合いのような関係が残っていないだろうか。取締役会を軸に企業統治を徹底することが欠かせない。不祥事隠しを許さず、直ちに取締役に報告し是正する。こうした経験を重ねることが社内に緊張感を生む。持ち株会社の日本郵政による監督も必要だ。郵便物が減少し、日本郵便の25年3月期決算は42億円の赤字だった。今回の行政処分によって、ライバルの物流会社に業務委託せざるを得なくなり、収益に打撃が生じるのは避けられない。安全確認をないがしろにしてきたツケは重く、26年3月期決算にも影響が生じる可能性がある。日本郵便は昨年、下請け企業からの値上げ要請を拒否し公正取引委員会から行政指導を受け、ゆうちょ銀行の顧客情報の不正利用も発覚した。日本郵政、日本郵便ともトップが交代し、旧郵政官僚が社長に就いた。法令順守と企業統治を最優先する布陣だろうが、業務効率化と過疎地を含むサービス維持という基本を忘れてはならない。郵政民営化は国民の選択によって実現した。不祥事によって郵便事業や人事が官業に回帰することはあってはならない。新経営陣の覚悟と知恵が問われている。 *6-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250625/k10014844061000.html (NHK 2025年6月25日) 国交省 日本郵便のトラックなど使った運送事業の許可取り消し 日本郵便が配達員の点呼を適切に行っていなかった問題で、国土交通省は25日、トラックなどおよそ2500台の車両を使った運送事業の許可を取り消しました。また3万台余りの軽自動車を使った事業については早急な対策を求める安全確保命令を出しました。日本郵便では、全国の郵便局3188か所のうち75%にあたる2391か所で配達員に対して飲酒の有無などを確認する点呼を適切に行っていなかったことがことし4月、会社の調査で明らかになっています。この問題について国土交通省は監査の結果、虚偽の点呼の記録を作成するなどの違反行為が確認されたとして、25日、日本郵便の千田哲也社長に対し、トラックなどを使った運送事業の許可の取り消しを伝える文書を手渡しました。この処分によって、トラックやバンタイプの車両、およそ2500台が5年間、配送に使用できなくなります。文書を受け取った千田社長は「多大なるご心配、ご不安をおかけしていることを改めておわびします。この処分を厳粛に受け止め、経営陣が先頭にたって再発防止に取り組みます」と述べました。また、国土交通省は、日本郵便が国に届け出て行っている3万台余りの軽自動車を使った事業について、監査の結果が出るまでに時間がかかるとして、早急な安全対策を求める安全確保命令を出しました。国では今後、監査の結果を踏まえて、車両の使用停止などの行政処分を検討する方針です。 ●日本郵便 “代替手段を確保し利用者への影響 最小限に” 国土交通省が、トラックなどおよそ2500台の車両を使う運送事業の許可を取り消したことを受けて、日本郵便は、代替手段を確保して利用者への影響を最小限に抑えようとしています。 日本郵便は、 ▽およそ2500台のトラックやバンタイプの車両で「ゆうパック」の集荷や郵便局の間の輸送を行っているほか ▽およそ3万2000台の軽自動車や、 ▽およそ8万3000台のバイクで郵便物の配送を行っています。 このうち、今回、許可が取り消されたのは、およそ2500台のトラックなどを使った事業です。 会社では、当面、 ▽自社の軽自動車を活用するほか ▽大手宅配会社などに業務を委託する といった代替手段を確保して、利用者への影響を最小限に抑えようとしています。日本郵便が使用できなくなる、およそ2500台の車両と同じタイプのものは、大手宅配会社2社も合わせて6万台使用していることから、国土交通省は、業務委託などを進めることで影響は抑えられるとみています。一方、国土交通省は、郵便物の配送を担う、およそ3万2000台の軽自動車を使う事業についても、点呼が適切に行われていなかった疑いがあるとして、監査を進めています。この事業について国土交通省は一定の期間、車両の使用を停止させるなどの行政処分を検討する方針です。処分の内容によっては、郵便物の配達などに支障が出るおそれもあることから、日本郵便は、利用者への影響が最小限となるよう対応を検討することにしています。国土交通省と総務省は、日本郵便に対して、コンプライアンスの強化や再発防止の徹底に加え、物流に影響が出ないよう十分な対策をとるよう求めています。 ●総務省 日本郵便に最も重い行政処分「監督上の命令」 総務省は25日、日本郵便が全国の郵便局の配達員に対して法令で定める飲酒の有無などを確認する点呼を適切に行っていなかったとして、会社に対して法律に基づく行政処分「監督上の命令」を出しました。これは、日本郵便に対する処分では最も重いもので、総務省は25日、日本郵便の千田哲也社長に対し、処分を伝える文書を手渡しました。命令では、国土交通省の行政処分でトラックなどの車両が使用できなくなる中でも郵便サービスを維持することや、再発防止策の着実な実施や見直しなどを求めています。文書を受け取った千田社長は「心よりおわび申し上げる。処分を厳粛に受け止め再発防止策に取り組みたい。ユニバーサルサービスを担うものとして、お客様にご迷惑をおかけしないようにしたい」と述べました。 ●日本郵政の株主総会 増田社長が一連の不祥事を陳謝 日本郵政は、郵便局の配達員に対して法令で定める点呼を適切に行っていなかった問題などグループで不祥事が相次ぐ中、株主総会を開きました。この中で増田寛也社長は極めて深刻な事態だとして、一連の不祥事を陳謝しました。日本郵政では、郵便局の配達員に飲酒の有無などを確認する点呼を適切に行っていなかったことや、日本郵便が金融商品の勧誘のため、ゆうちょ銀行の顧客情報を不正にリスト化していたことなど、グループ内での不祥事が相次いで明らかになりました。こうした中、会社は都内で株主総会を開き、冒頭、増田寛也社長は、一連の不祥事について、「極めて深刻な事態であり、この場をお借りして多大なご迷惑と心配をおかけしたことを深くおわび申し上げる」と陳謝しました。株主からは、法令順守の意識が不足しているので、再発防止に向けた組織づくりを徹底してほしいとか、現場の管理職が指導を徹底する体制が不十分だといった意見が相次ぎました。会社側は総会で、不適切な点呼の問題により25日、国土交通省からトラックなどおよそ2500台を使った運送事業許可の取り消しの処分を受ける見通しとなっていることを明らかにしました。処分による事業への影響について会社の担当者は、他社への配送の委託に加え、処分の対象となっていない軽トラックを効率的に運用し、配送業務に支障が出ないよう対応すると説明しました。このあと、増田氏の後任の社長に内定している根岸一行常務ら13人を取締役に選任する議案が可決されました。郵便・物流事業の赤字が続き、処分による業績へのさらなる影響も懸念される中、グループ全体のガバナンスや経営の立て直しが今後の課題となります。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/AST6T2SJFT6TULFA01JM.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2025年6月25日) 郵便・ゆうパックに影響は 日本郵便、一部運送を佐川などに委託開始 日本郵便で集配時の点呼がまともにされていなかった問題は、25日に国土交通省の処分を受け、大口顧客の集荷などに使うトラックが使えなくなる事態に発展した。物流や業績への影響は、どこにどう出てくるのか。25日に都内であった日本郵政の株主総会は、株主の質問が点呼問題に集中した。この日で退任する増田寛也社長は国交省の処分について「極めて深刻な事態」だとし、「再発防止策に取り組み、オペレーション確保に万全を期す」と述べた。業績への影響は「精査中だ」とした。それでも株主の怒りは収まらない。ある株主は「(民営化前の)治外法権の意識が残り、法律を守る意識がないのではないか」と批判。会社側が公表した原因分析や再発防止策を疑問視し、「管理職の能力の問題ではないか」「危機管理能力が経営陣も現場もないのでは」との指摘も出た。 ●ゆうパック値上げ「今の時点では…」 日本郵便によると、今回の処分を見据え、約2500台ある1トン以上のトラックなどは24日までに使用を停止した。これらはおもに、大口顧客からの集荷や近距離の集配局間の運送に使われ、月に約12万便が行き来していた。そのうち4割強は自社の軽四輪で運び、6割弱は社外に委託する方針で、切り替えは19日から順次進めてきた。佐川急便や西濃運輸など多くの同業者に協力を仰いでおり、一部では代替の集荷や運送がすでに始まっている。日本郵便は「郵便やゆうパックのサービスは維持する」と強調している。個人が差し出す郵便やゆうパックの多くは軽ワゴンや原付きバイクで運ばれており、直接的な影響はなさそうだ。ただ、点呼を省いたり偽ったりする不正は、約3万2千台を保有する軽四輪での集配にも同様に及んでいる。日本郵便は今後、軽四輪にも一定の処分が出ると身構えており、委託範囲の拡大を迫られる可能性がある。外部委託の拡大や再発防止の対策でコストが膨らむ見込みで、それが郵便・物流事業の収益を押し下げるのは必至。千田哲也社長は17日の会見で「ゆうパックの値上げは今の時点で一切考えていない」と言い切ったが、大規模な不祥事が業績に影響を及ぼすのは時間の問題だ。 <教育について> *7-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90722000X10C25A8CK8000 (日経新聞 2025.8.18) 小中「学力低下」の背景 知性と学びの危機に目を 小中学生の「学力低下」が確認された。要因は未解明だが子どもの生活や保護者の意識の変化とも関係がありそうだ。原因究明と指導改善を急ぎつつ、社会全体で対応を考える必要があろう。文部科学省は全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の中で、3年に1回程度「経年変化分析調査」を行っている(2020年度は新型コロナウイルス禍で中止)。小6・中3の全員が対象の「本体調査」と違い、教科ごとに約300校を抽出して調べ、測定対象にした学力の中長期的な変動をつかめる。その24年度調査の結果が出た。小6の国語と算数、中3の国語・数学・英語のうち数学を除く4教科で、基準年度の16年度(英語は21年度)より平均スコアが下がった。子ども全体の学力低下がこれほど顕著にデータに表れたのは、ほぼ20年ぶりだろう。2000年代前半、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)などで日本の成績や国際順位が落ち「ゆとり教育」の見直し路線が不動になった。その後、学力水準は回復。20年代にはコロナ禍で世界の学校教育は大きな制約を受けたが、日本は現場の努力もあって学力への影響が非常に少ないと見られていた。それが今回、覆った。教育界には少なからぬ衝撃が走った。1日、文部科学省が開いた全国学力テストの専門家会議で、塩見みづ枝総合教育政策局長は「結果を重く受け止め、真摯に向き合って改善に取り組む」と述べた。委員の校長や教育学者からも「勉強時間(の減少)はショック」「どうしてこうなった、と言いたくなる状況だ」など厳しい発言が続いた。基礎学力の揺らぎも見られる。25年度本体調査の小6算数で「10%増のハンドソープは増量前の何倍か」という問いに「1.1倍」と正答できた児童は41.3%だった。スコアの低下以外にも気がかりな傾向が浮かんだ。保護者への調査によると、平日に1時間以上勉強する児童生徒の割合は小6で37.1%、中3で58.9%で、それぞれ前回21年度の調査から7.8ポイント、9.2ポイント下がった。平日に2時間以上テレビゲームをする子どもは小6で37.1%、中3で41.5%。いずれも前回より10ポイント強増えた。中3の53.3%が平日、2時間以上スマートフォンや携帯電話を使う。前回は41.4%だった。家庭の経済力による格差が広がった。自宅にある本の数を社会経済的背景(SES)の代替指標として層分けして見ると、数学など複数教科で低SES層の子どもほどスコアが大きく低下している。保護者はというと「学校生活が楽しければ、良い成績をとることにこだわらない」という姿勢がコロナ期を境に強まった。小6の保護者の59.7%、中3で52.4%が「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」と答えている。それぞれ17年度の調査を8.4ポイント、7.6ポイント上回った。成績にこだわらないという価値観は一概に悪いとはいえない。情操や道徳心など成長過程で大切にすべき資質はたくさんあるし、学校が誰もが楽しく通える包摂的な場であることも重要だ。低下した「学力」自体、非認知能力を含む幅広い学力の一部にすぎない。すると今回の結果は、どうとらえればよいのか。興味深いのは「やはり」と感じた向きもあることだ。専門家会議の座長を務める耳塚寛明・お茶の水女子大名誉教授はその一人。耳塚氏はPISAの成績のOECD平均が12年前後で頭打ちになり下降していることに着目する。この間、スマホ・ゲームを含むデジタル環境の生活への浸透が世界的に進んだ。「成績低下との因果関係は断定できないが、デジタル環境に受け身で接してばかりいると言語を操作する能力が劣化しやすい。日本だけ、その影響を免れるとは考えられない」と耳塚氏は言う。そのうえで「デジタル環境に能動的に触れ、広い意味での学習に活用することが非常に重要になるのではないか」と問題提起する。元小学校長で全国連合小学校長会長を務めた喜名朝博・国士舘大教授も今回の結果は「実感に合う」という。理由は3点。まず、学校現場で徹底して教えることが減った。教えることが多い一方、教員に時間的余裕がない。次に「主体的・対話的で深い学び」といった学び方が重視されすぎ、定着の確認ができていない。最後に「学ぶ意欲の減退、勉強しなくても進学できるという意識の広がり」を挙げる。教員の問題も指摘する。採用倍率の低下で小学校高学年を教えるには学力に不安のある教員が増え、理想的な授業ができる教員は減った。本体調査では「授業がよく分かる」と答える子どもの割合が各教科で下がっている。少子化で大学も高校も難関はごく一部となり、受験プレッシャーの緩和は極限に迫りつつある。なのに学校教育は入試以外の「学ぶ意味や意義を実感させてこなかった」(喜名氏)。識者2人の話は学力低下の背後にある課題の大きさを感じさせる。今回の結果が重い理由はそれだ。スマホ・ゲームへの接し方をはじめ大人のあり方も考えざるをえない。日本は成人の学力も高いがリスキリングは低調だ。子どもの自己調整力の育成と大人の学び直しの活性化は地続きであり、生涯学び続ける社会の実現に本気で取り組む時ではないか。教育制度との関連では、下の学年の内容を学び直す機会をよりしっかりと保障する必要があろう。今の学習指導要領では、学習の積み上げが特に大事な中学校数学でも「学び直しの機会の設定に配慮する」と書かれている程度だ。学力低下の性急な犯人捜しは避けたい。政策の失敗はあっても問題の一部だ。背景にある知性と学びの危機にこそ目を向ける必要がある。耳塚氏は「危機の要因は多岐にわたる。腰を据えて取り組むべきだ」と訴える。人工知能(AI)を含むデジタル技術の隆盛の中で人の知性の水準と質をいかに保つか。明確な答えはまだ、どこにもない。それへの挑戦の一環と捉える姿勢を持ちたい。 *7-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89830650U5A700C2CM0000 (日経新聞 2025.7.5) 成績「主体性」の比重小さく 小中高で評価見直し、文科省案、客観的な判断困難指摘で 文部科学省は4日、学習指導要領の改訂を議論する中央教育審議会の特別部会で、小中高校の成績の基となる学習評価を見直す案を示した。「主体性」の評価の比重を小さくする。内申点にも影響するが、客観的な判断が難しいとの指摘があった。2030年度以降に実施する見通し。「主体性の表れ方は子どもによって違うのではないか。先生はきちんと見てくれているのかなと思っていた」。東京都目黒区の小学校に娘を通わせる女性(39)は話す。主体的な態度は20年度以降、小中高校で順次、評価の観点に加えられた。教科ごとに、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点についてA~Cで評価。この観点別評価に基づき、各教科の「評定」を小学校は3段階、中学校は5段階でつけている。評定から「内申点」が算出され、高校入試や大学入試などで活用される。主体的な態度を評価の観点に加えた背景には、社会が激しく変化するなかで、自ら課題を見つけ、学んだ内容を生かして解決を目指す人材を育成したいとの狙いがあった。こども家庭庁の23年度調査によると、「うまくいくかわからないことに取り組める」と答えた日本の若者の割合は米国やフランス、ドイツなどと比べて半分以下だ。一方、導入当初から学校現場では「何を根拠に評価したらよいのか分からない」という声が上がっていた。「知識・技能」はペーパーテストの点数、「思考・判断・表現」は作文や発表などに基づいて判断しやすいが、主体性は定量的にはかることが難しい。入試に関係することも踏まえて、納得性を高めようと挙手やノート提出の回数などを基に評定をつける例も多いが、「勤勉さの評価にとどまっている」などとする批判が出ていた。不登校の子どもについては、実際の学習態度を見る機会が少なく、主体性の評価がより難しいという課題もあった。文科省が示した見直し案によると、成績の基となる評価観点を「知識・技能」「思考・判断・表現」の2つに再編する。そのうえで、主体性は総合所見欄などに記述したり、特に強い主体性をみせた児童生徒に「○」をつけたりする。評定をつける際に「○」の有無を勘案するかは、今後検討されるものの、内申点への主体性の影響は現状より減ることになるという。文科省は「過度な評価材料集めを抑制し、段階別に評価することが難しいという特性を踏まえた評価方法にしたい」と説明する。通知表には児童生徒が自分の学習状況を知り、取り組み方を改善したり意欲を向上させたりする狙いがある。評価に納得感がなければ、こうした効果を期待しにくくなる。早稲田大学の田中博之教授(教育工学)は「教員にとって『主体的に学習に取り組む態度』の評価は難しく、お手上げ状態だった。評価のあり方を改善することは良いことだ」と話す。そのうえで「主体性の評価が高校入試などで活用される内申点に関わるため、生徒は過度に品行方正な振る舞いを求められ、管理教育になっている」と指摘。「通知表の総合所見欄などで主体性が肯定的に評価されることは、子どもの長所を伸ばし、意欲向上につながるだろう」と評価した。 *7-2-1:https://digital.asahi.com/articles/AST8R3W91T8RUTNB00KM.html (朝日新聞 2025年8月24日) 県教委と保護者、県民が意見交換 埼玉県立高校共学化めぐり 埼玉県立の男女別学高校の共学化について、県教育委員会と中高生の保護者や県民との意見交換会が23日、さいたま市浦和区の県県民健康センターで開かれ、参加者からは賛否両論の意見が噴出した。午前に保護者の部、午後に県民の部があり、県教委の事務局を担当する依田英樹・高校改革統括監が「主体的に共学化を推進する」と決定した県教委の考え方を説明した。保護者の部には、別学高校に子どもが通う父母を中心に18人が参加した。共学化に反対する父母からは「女子の目がないので力をフルに発揮できる。人間力が育つ」「共学の中学校で性被害を受けた人もいる」「男女の特性に合わせた教育が必要」といった意見が出た。「男女共同参画社会と共学化の相関関係があるのか」などの疑問も呈され、根拠やデータを示すように求めた父親もいた。一方、共学化に賛成する父母からは「男子校の文化祭の在り方に違和感をもった」「全国的に知名度のある浦和高校に女子が行けないというガラスの天井をなくしてもらいたい」といった意見があり、「共学化しても結果的に男子校や女子校になることがある。共学化してもいいのでは」という提案もあった。「異性が苦手な人には別学が必要」という考え方から、「トップ校だけでなく、幅広い学力の層に別学校が必要」という声も複数あった。県民の部には、別学校の卒業生や県立高校の教員経験者など17人が参加した。別学校の卒業生からは「埼玉には名門校のピラミッド構造がある。女子が男子校に入学したら男子の足を引っ張る」「女性しかいない中で、女性のリーダーシップが育つ」などの反対意見が目立つ中、男子校を卒業した男性から「女子が入ってきても全く問題ない。県立高校は変化し続けなければいけない」という賛成意見もあった。依田統括監は「県教委は、共学化で男女共同参画を推進していくという考え方ではない」としたうえで、「男女で教育活動の差を設けることは考えていない。一人ひとりの希望と能力に応じた学校の選択肢を用意したい」とし、「少子化で学校を再編する際には、別学校の共学化も検討の対象になる」などと説明した。 *7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250705&ng=DGKKZO89818130U5A700C2TCR000 (日経新聞 2025.7.5) リーダー育む女子大学に 国際基督教大学教養学部教授 西村幹子氏(2005年にコロンビア大博士(教育学)、専門は教育社会学。神戸大准教授などを経て18年から現職) 日本の女子大学は存亡の機にある。2000~25年に私立の女子大は25校が共学化され、2校は廃止、さらに2校が募集を停止している。マンチェスター大のキャロライン・モーザー名誉教授は、女子大について「実践的ジェンダー・ニーズと戦略的ジェンダー・ニーズがある」と語る。実践的ジェンダー・ニーズは、ジェンダー構造の不平等が前提にある。例えば家庭での役割を支援するために家庭科を教えることなどだ。一方、戦略的ジェンダー・ニーズはジェンダー平等を促すことで満たされ、女性のリーダーシップと自己変革を重視する。アジアでは多くの国に強いジェンダー規範が存在するため、女子大が依然として盛んだ。その中でも戦略的ジェンダー・ニーズに対応している女子大も存在する。バングラデシュのチッタゴンにあるアジア女子大学(AUW)はその好例だ。リーダーシップ開発と変革の力を重視し、アジアの貧困層などに全額奨学金で高等教育を受ける機会を提供している。日本の女子大は20世紀初め、国策の下で「良妻賢母」という実践的ジェンダー・ニーズを満たすために設立された。この使命は多くの女性が共学の大学に進学するようになった90年代以降、戦略的ジェンダー・ニーズに移行した。多くの大学は家政など伝統的な学科を廃止する代わりに、グローバルコミュニケーションなどキャリア志向のプログラムを新設した。しかし女子大が女性のリーダーシップやジェンダー平等に影響を与えたとする研究は乏しい。日本は国際的なジェンダー平等の指標で一貫して低い順位に甘んじている。女性の経済・政治参加が進んでいないためだ。日本の女性が高等教育には比較的容易にアクセスしているにもかかわらず、政治や経済への参加で後れをとっているのはなぜなのか。この難問に答えるため、私は女子大の経営構造を分析し、戦略的ジェンダー・ニーズへの取り組み具合を調べた。東京にある20の私立女子大について、意思決定プロセスにおける女性や教職員(男女双方)の割合を比較した。大学の理事会における女性の参加率は9%から71%まで幅がある。女性理事の割合が50%を超えるのは津田塾、白百合、聖心女子大の3校だけだった。津田塾や日本女子大は理事会の半数を現職の教職員が占めているが、他の大学では3分の1未満だった。では日本の女子大の理事会を誰が支配しているのか。多くの私立女子大では、国公立や私立の一流大学の男性教授がキャリアの終盤に移籍して教授や理事のポストを占めるのが一般的だ。同様に日本企業の取締役や別の大学で運営経験を持つ男性が、退職後に女子大の理事に就任するケースも多い。つまり日本の私立女子大は女性や現職の教職員が意思決定に権限を持たないという特徴がある。多くの私立女子大の理事会は単にエリート男性の第二のキャリアの目的地になっているようにみえる。日本の女性はキャリアにおいて引き続き苦闘しており、男性に比べて家事労働に多くの時間を費やしている。女子大は規模が比較的小さく、学生が教職員と交流する機会が多いため、硬直的なジェンダーギャップの克服に一役買うことができる。日本の女性の自由と社会貢献の拡大は、女子大が女性を意思決定プロセスの中核にしない限りは実現が困難だろう。 *7-2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250705&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO89818130U5A700C2TCR000&ng=DGKKZO89818200U5A700C2TCR000&ue=DTCR000 (日経新聞 2025.7.5) 「平等」への寄与、検証を 今年に入ってからも京都ノートルダム女子大(京都市)が学生募集の停止を、武庫川女子大(兵庫県西宮市)が共学化の方針を発表している。女子大の減少は続きそうだが今も大学全体の1割弱を占めており、その存在意義や役割を改めて考える必要がある。日本は先進国の中でも政治や経済分野で女性リーダーが圧倒的に少ない。お茶の水女子大の室伏きみ子前学長によれば「性別役割意識や『わきまえる』といった無意識の偏見から離れて過ごせる女子大は本来、女性がリーダーシップを学ぶ上で優れた場所」だ。ではどれだけのリーダーを輩出し、ジェンダー平等に寄与したのか。アジアを含めた海外との比較検証と、日本社会に横たわる根深い課題を示すことこそ女子大の役割ではないだろうか。 *7-3: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250818&ng=DGKKZO90688080V10C25A8KE8000 (日経新聞 2025.8.18) アフリカからの留学生支援を 立命館アジア太平洋大学副学長 岡村善文 14億人の人口を擁し、人口、経済ともにさらに成長するアフリカ市場に、どのように日本が食い込んでいくか。8月20日から横浜市で開催されるアフリカ開発会議(TICAD)の重要なテーマだ。立命館アジア太平洋大学では学生の半数が留学生だ。アジア各国で多くの卒業生が日本とのビジネス交流に力を発揮している。現地に日本語を話し、日本の流儀が分かる人材がいることは、日本企業にとって大いに助けになる。アフリカでも同様に、留学生を通じた人材育成を図ることがアフリカ市場進出の足がかりになるだろう。大学院生レベルでは、2013年のTICADで「ABEイニシアチブ(アフリカビジネス教育)」を始動し、すでに10年以上の実績がある。四年制大学の学部生レベルでも同様に、アフリカ留学生を増やすことが重要である。学部生は院生と比べてはるかに良く日本語を学び、日本の社会文化を吸収するからだ。アフリカの留学生はエリート家庭出身も多く、卒業する学生は本国に戻り、ただちに現地エリートとして活躍するため、親日層の獲得効果が高い。しかし、社会経験や生活力のある院生と違い、学部レベルの留学生には特有の問題がある。学費や渡航費は工面しても、学生の親にとっては、子供の生活、病気や事故の時の突発的な対応などが心配になる。アフリカは遠く、日本国内に同郷人コミュニティーがほとんどないため、学生の不安は一層大きい。この不安を低減するため、アフリカからの学生に対し、生活面で困った時など緊急に必要な支出を融資する「アフリカ留学生支援基金」を設けてはどうか。緊急の資金貸与だけでなく、在京大使館からの支援や、卒業後の就職で便宜が得られるようなメニューもそろえれば、留学生たちが自主的に登録することが期待できよう。日本の大学を卒業した留学生のデータベースになり、日本企業の高度人材採用に活用できる。これまでアフリカの学生の主たる留学先は欧米の大学だった。だが、米トランプ政権の政策や欧州での移民排斥の高まりの中、アフリカの学生は欧米以外に視野を広げている。安全にも定評がある日本はアフリカから留学生を導き入れる良いチャンスを迎えている。
| 経済・雇用::2023.3~ | 01:38 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2025,02,03, Monday
(1)農家への所得補償(直接支払い)は最終解でないこと
![]() (図の説明:左図は、我が国と諸外国のカロリーベースと生産額ベースの食糧自給率の比較だが、カロリーでは必要な需要を満たした割合はわからず、生産額では単に高いだけかも知れないため、品目別の国内生産重量が需要重量に占める割合《重量ベース》が最も現状を表しているだろう。また、中央の図は、我が国のカロリーベースの食料自給率の推移だが、これは一貫して下がって2023年度は38%にすぎないため、農業政策の是非が問われるわけである。なお、右図は、品目別食料自給率で、米や鶏卵の最終製品は100%に近いが、途中で海外産の資材や餌を投入している製品は、厳密には国産に入れるべきでない) *1-1-1・*1-1-2・*1-1-3は、①日本の食料自給率の長期低迷と農家戸数・耕作面積減少に歯止めがかからず、原因を突き詰めるべき ②持続可能な食料安全保障を確立するため、これまでの農政の効果を検証する必要 ③立憲民主党・国民民主党は戸別所得補償制度(直接支払制度)という観点から提起を始め、石破首相・森山幹事長も「直接支払いの議論を深める」と語った ④農水省は通常国会に農産物の価格転嫁を後押しする法案を提出予定だが、納税者負担による直接支払いの是非が論点として浮上するのは間違いない ⑤「農家の手取り増を実現させる」という石破首相の強いリーダーシップを期待したい ⑥石破政権の「令和の日本列島改造」「地方創生2.0」に「農家の直接支払い」は含まれない ⑦農家数激減から農家への直接支払いは不可欠 ⑧農林業センサスを見ると、高齢化・中小零細農家淘汰で、2005年に208万5000あった農業経営体数は2020年は109万2000まで半減、10haを境に中小零細農家の淘汰が急速に進んだ ⑨2024年5月の食料・農業・農村基本法の見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で、農家数がさらに減少し、農村コミュニティー維持困難 ⑩工場誘致で零細農家も兼業で生き残っていたが、その条件も失われて大規模化が進んだ ⑪円安インフレで農薬・肥料・飼料・燃料の輸入価格が上昇して農業経営を圧迫 ⑫農家の経営困難を救う所得政策が不可欠 ⑬改正基本法はITを使ったスマート農業技術で規模拡大を図ろうとするが、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなる ⑭農業と農家の衰退状況から、欧米並みの農家への直接支払いを導入することが急務 ⑮農水省が2025年度から始まる中山間地域等直接支払制度の次期対策で「集落機能強化加算は継続しない」という方針を示した ⑯加算を終了する理由の1つに「地域運営組織の設立・連携を行うという趣旨が十分に伝わっていなかった」と都道府県・市町村への説明不足を挙げた ⑰集落機能強化加算は「高齢者の見回りや送迎など、生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援している」 ⑱効果を評価していたのに一転、2025年度予算概算要求で加算の廃止が判明 と記載している。 ここで述べられているポイントの第1は、①②から、食料安全保障を確立するために、食料自給率が長期にわたって低迷し、農家戸数・耕作面積が減少している原因を突き詰めて、農政の効果を検証すべき ということだ。 「腹が減っては戦は出来ぬ」と言うように、いざと言う時に国民が飢えたり、栄養失調になったりするようでは、武器ばかりあっても戦が出来ないのは昔から常識であり、そのため「兵糧攻め」や「水攻め」は味方の兵力を損なわずに相手を屈服させる常套手段となっているのである。 その点、日本の農政は、食料自給率が長期にわたって下がり続け、耕作面積も減少しているため、私は「農業政策を検証しなければならない」という主張に賛成だ。しかし、戸別所得補償制度(直接支払制度)による農業振興では、本物の農業振興にならないため、ポイントの第2~第4に、その理由を記載する。 ただし、*1-5のように、日本の食料自給率はカロリーベースで測られているが、人間はカロリーだけで、まして米や芋だけで健康に生きられるわけではない。そのため、栄養バランスを加味した自給率は、現在、需要のある食品毎の重量に対して国内産(海外産の資材で育てられたものは、当然、除外すべき)の割合を出すのが適切であり、主食と副菜の区別も不要である。 また、ポイントの第2として、③④⑤⑥⑦⑫⑭のように、地方創生には、農家の手取り増を実現させるため、農水省の農産物への価格転嫁後押し法案ではなく、農家の経営困難を救う欧米並みの戸別所得補償制度(直接支払制度)を行なって農家数の激減を防ぐべき であり、事実、⑧のように、農林業センサスでは、高齢化や中小零細農家淘汰により、2005年に208万5000あった農業経営体数が2020年は109万2000まで半減し、特に10ha以下の中小零細農家の淘汰が急速に進んだ という主張がある。 しかし、農業の生産性向上による農業所得拡大には機械化や装置化が必要不可欠であり、それができるためには、経営体の規模拡大が必須である。にもかかわらず、これまで中小零細農家が多く、それを温存してきた理由は、戦後の農地改革で小作農が耕作してきた農地を得て自作農になり、家業として農業を引き継いできたからで、細切れの農地が望ましいからではない。 そのため、高齢化による離農をチャンスとして農地を大規模経営体に集約しつつあり、戸別所得補償制度(直接支払制度)がなければ離農したいような中小零細農家は離農しても良く、その農地は大規模経営農家や農業法人に集約すれば良い仕組にしているのである。 なお、ポイントの第3として、⑨⑩⑪⑫のように、円安インフレで農業資材の輸入価格が上昇して農業経営を圧迫し、工場誘致による兼業で支えていた零細農家もさらに減少して、農村コミュニティーが維持困難になっているが、2024年5月の食料・農業・農村基本法見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で大規模化がさらに進んだ とされている。 しかし、円安インフレによる農業資材の高騰は優に想定を超えていたものの、「2024年5月の食料・農業・農村基本法見直しは、従来の大規模化による農業の生産性向上政策が前提で大規模化がさらに進んだ」というのは、本来の意図通りなのである。そして、今回の円安インフレによる輸入価格上昇が経営を圧迫しているのは零細農家だけではなく、輸出企業でない経営体全体の話であり、それでも零細兼業農家を皆が払った税金で支えなければならないかについては、国民全員が支払っている税金であるだけに疑問である。 さらに、ポイントの第4は、⑬⑮⑯⑰⑱のように、改正基本法はITを使ったスマート農業技術で規模拡大を図ろうとしているが、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなる上に、集落機能強化加算は高齢者の見回りや送迎などの生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援しているにもかかわらず、農水省が廃止を表明した としている。 確かに、中小零細農家の離農が進んで住民が減れば、農村コミュニティーが維持困難になり、人口減少が進めば地域で学校・病院を維持できず、ますます人が住めなくなりそうなのはわかるが、スマート農業を行なう大規模経営農家や農業法人の経営者・従業員が住んだり、別の場所に住んで農地に通ってきたりもできるため、住民の暮らし方を変えれば良いのではないだろうか。何故なら、現状維持ばかり主張しても、むしろ現状維持はできないからである。 なお、集落機能強化加算は、「高齢者の見回りや送迎などの生活支援・集落機能強化・ボランティア確保・インターン受け入れといった人材確保を支援している」のだそうだが、若者の農業離れは農業が面白くない産業だから起こっているのではなく、ムラのために無償労働をしなければならないことが多く、ムラの“文化”による縛りが強いからだと言われている。そのため、高齢者の見回りや送迎などの生活支援や環境の維持は、介護制度やシルバー人材などを使って、ボランティアではなく、正当な費用を払って行なわれるべきであろう。 (2)米作の温暖化への適応と令和の「コメ騒動」 *1-2-1は、①温暖化で水稲の生育可能な期間が延び、再生二期作が広がってきた ②島根県の農事組合法人ふくどみは、2024年4月下旬、1haに早生品種を移植し、8月下旬に1度目の収穫を行って追肥し、11月下旬に2番穂を収穫して、10aあたり762kg確保 ③茨城県のJA北つくばは2024年産で「にじのきらめき」など約1haで実証し、10a収量は2度の収穫で計712kg ④2番穂を収穫しても、収穫せずにすき込んでも「労力は大差ない」 ⑤農研機構の2023年研究成果では、福岡県内の試験で「にじのきらめき」の10a収量は2回合計で950kgで、1番穂を地際から40cmと高く刈ることで地上部に栄養を多く残し、2番穂の収量を確保できるとする としている。 野生の稲は、もともと熱帯~亜熱帯地域に広く自生し、多年生型(結実後も親株が枯れず株が生き続ける)・1年生型(種子により毎年繁殖して枯れる)とその中間型がある。そして、日本でも弥生時代は稲穂だけを刈り取る多年生型栽培法がとられ、現在のように田植えをして1年生型栽培の方法が常識となったのは、比較的新しいのだ。 そのため、①のように、日本が温暖化して亜熱帯に近くなれば、穂の近くだけを刈り取って二期作できるようになるのは自然なことである。そして、その二期作では、②③は1度目の収穫時に地際から刈り取ったため、2回の合計で10aあたり700kg代の収穫しかなかったが、④は地際から40cmと高く刈ることで地上部に栄養を多く残したため、2回の合計が10aあたり900kg代になっている。 1回目の収穫では穂を刈り取りさえすればよいので、残りの茎はできるだけ長く残した方が、2回目の収穫が多くなるのは必然で、④の「労力」は、二期作することを前提とした収穫機ができれば、全く大差なくなるだろう。 そのような中、*1-2-2は、⑥昨夏、店頭からコメが消え、昨年末から1月中旬までに3割価格上昇したコメに、政府は備蓄米放出体制をようやく整えた ⑦遅れた背景は米価維持のため生産抑制に重点を置き、消費者への意識を欠いていること ⑧備蓄米放出での値下がりを睨んで、1月24日以降値上がりが止まった ⑨流通を急に増やして米価が値崩れすることを過度に警戒するのは長年の減反政策のため ⑩政府は2018年に農家や生産者の自主性を重んじるため、主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめたが、農家にコメから麦・大豆・飼料用米への転作を促す補助金は残した ⑪水田活用「直接支払交付金」は、2015~2023年は年平均3200億円程度の横ばいで、2018年の減反廃止後も減らず ⑫政府が産地毎の農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の「目安」を示す仕組みも残した ⑬需給見通しには訪日外国人の急増による需要の広がりが織り込まれていない ⑭生産調整と引き換えに受け取る補助金収入に依存する零細農家が多い ⑮コメの生産コストは0.5~1haでは2万円/60kg超だが、15~20haでは1万円強/60kgと半分になる としている。 ⑦のように、政府が、米価維持目的の生産抑制に重点を置いて、消費者への意識を欠いているのは、何もコメに限ったことではないが、その結果として、*1-2-3のように、2024年の2人以上世帯の消費支出は月平均で30万243円と名目では増えたが、実質では前年比1.1%減という結果になった。これは、物価上昇によって国民が貧しくなり、食料品等の必需品にも節約志向が及んで、「エンゲル係数」は28.3%と1981年以来43年ぶりの高水準になったという統計数値にも出ている。 ちなみに、「インフレになれば、将来の物価上昇を見込んで現在の需要が高まる」と言う人がいるが、「将来、食料品が値上がりする」と考えて、現在、10~20年分の食料品を買い溜めする人などおらず、むしろ将来の物価上昇に備え、現在は節約して貯蓄を増やすものである。 しかし、日本政府は「(本来の意味とは逆の)2%のインフレ目標」を掲げて、「インフレになれば賃金が上がる(実際は、そうはならない)」と言って物価を上昇させ続け、⑥⑧⑨のように、米価も高止まりさせた結果、米価は2024年12月に2023年12月の1.7倍となり、コメは必需品であるため、「令和のコメ騒動」となったわけである(https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20250128.html 参照)。 そして、所得の低い層や年金生活者の中には、食事の回数や量を減らしている人もいるのだが、農水省は、*1-2-4のように、大凶作などに限っていた(⁇)方針から転換して政府備蓄米を放出し、1年以内に同量を買い戻すそうだが、米不足の時に備蓄米を放出するのは備蓄の目的の範囲内だと考える。 なお、政府は、⑩⑪のように、農家や生産者の自主性を重んじるために、2018年に主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめたそうで、私は、それは良いと思う。また、農家に自給率の高いコメから自給率の著しく低い麦・大豆への転作を促す補助金を残したのも妥当だと思うが、家畜飼料に米が最も適しているかどうかについては異論がある。 さらに、⑫⑬のように、「政府が産地毎の農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の目安を示す仕組みを残したが、その需給見通しに訪日外国人の急増による需要の広がりは織り込まれていなかった」そうだが、中央政府が日本全国の生産量の目安を示したり、需要の変動を加味して在庫管理したりするのは無理であるため、生産計画は民間に任せ、許容できない価格変動をした場合に備蓄米というシステムを使って価格調整するのが適切ではないかと思う。 そして、⑭の生産調整と呼ぶ減反政策と減反の見返りに配る補助金は止め、⑮のように、大規模生産が著しく生産コスを下げる米・麦・大豆のような作物は、大規模生産し、生産方法も改善して、国際競争力を持つ生産コストにするのが本当の改革だと考える。 (3)中山間地と畑作物について 「中山間地は、耕地面積が狭いので農業に不利」という主張もよく聞くが、*1-3-1は、①広島県の農業法人は、冷涼な標高800mの山間部から瀬戸内海に面する低地までの県内5市で気温差を生かした栽培をしてリレー出荷し、約130haの全国有数規模でキャベツを周年出荷している ②ドローン・営農支援アプリでの作業記録管理と確認・自動収穫機・QRコードでの苗管理・自動操舵システム搭載トラクターなどのスマート技術を組み合わせて効率を高め、中山間地に適した作業体系を確立している ③農地は農地バンクを通じて借りるなどし、1カ所当たり10~20ha規模に集約した ④大規模生産を支えるのは、スマート技術による作業の効率化 ⑤ドローンを約20台所有し、農薬散布ではトマト・ネギ・サツマイモ・飼料作物も含めて計500ha規模で活用 ⑥搭載カメラで撮影した畑の画像を解析して収量を予測したり、鹿対策として赤外線カメラで畑周りの生息域を特定し、効率的な捕獲に繋げたりしている ⑦20人ほどの従業員が移植・収穫・次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業 ⑧生鮮用やカットサラダ等の加工・業務用としても出荷 としている。 「米か芋さえあれば、人間は生きられる」わけではなく、肉・魚・野菜・果物もバランス良く摂取しなければ健康を保つことはできない。そのため、①のように、中山間地の高低差を利用したり、南北に長い日本の国土を利用したりしてリレー出荷するのは良いアイデアだと思う。 この時、生産効率を上げるには、②のように、スマート技術を組み合わせて使う必要があるが、現在は、米の生産と比較して中山間地でのスマート化は遅れていると言わざるを得ない。しかし、中山間地であっても、③のように、10~20ha規模に集約して、④⑤⑥のように、スマート技術で大規模生産を支えなければ、コスト競争に負けそうだ。 そのため、*1-3-2のように、全国のプロ農業経営者14人が発起人となり、新組織を立ち上げて、「中山間地の狭い農地でも効率的に作業できる農機」「コストを抑えた環境に優しい肥料」「生産現場が使い易い農業技術の開発・普及」のため、農家の視点を取り入れた技術で、農機メーカーはじめ農業関係の企業・団体と作業負担の軽減や生産コストの低減等の経営課題解決を目指しているのは重要なことである。 さらに、⑧のように、生鮮用やカットサラダ等の加工・業務用としても出荷し、さまざまなニーズに対応することは、無駄をなくし、付加価値を増やすことに繋がる。 従って、必要な農機具を迅速に開発して(海外も含む)必要な場所に速やかに提供できるようにしたり、生産物の適格なマーケティングをしたりするために、(農業自体や農業機器の生産も産業なので)農水省と経産省が合併し、双方が長所として持っている知恵を共有するのがBestだと、私は考える。 なお、⑦のように、20人ほどの従業員が移植・収穫・次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業しているとのことだが、有能な従業員を集め、待遇を良くすることができるためには、後で書くとおり、さまざまな方法があるため、政府は規制でそれを妨げないようにすべきだ。 (4)農業に関するその他の意見 1)キャノングローバル総合研究所の「農業に関する6つの提言」 キャノングローバル総合研究所は、*1-4のように、「現在の農政は、基本原則だけでなく、政策手法についても大きな間違いを犯している」として、食料・農業・農村基本法見直しに関して、国民全体の利益という視点から、食料安全保障・多面的機能という利益を確保・向上させる方法を記述している。 確かに、「OECDが開発したPSEという農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である」というのは、尤もであり、正しい。 そのため、「農家受取額に占める農業保護PSEの割合は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%(約4兆円)と高く、日本の農業保護は消費者負担の割合が圧倒的に高い」「日本は直接支払いが少ないことで、欧米の方が手厚い農業保護を行っていると主張する農業経済学者がいるが、事実ではない」というのも、そのとおりだろう。 そして、GDPが大きい筈の日本より、外国の市場の方が豊かさを感じることから、これらは体感とも一致している。旅行や出張で海外に行った時には、その国の市場・スーパー・デパートなどに寄って売られているものの種類・分量・価格を日本と比較すれば、その国の人の暮らし・物価水準・日本における高関税の状況がわかるので、お薦めする。 「日本における高関税の理由は、欧米は直接支払いであるのに対し、日本の農業保護は価格支持中心で国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならず、その関税で農家を守り、それを負担しているのは消費者である」というのも、そのとおりである。 つまり、消費者は国産農産物の高い価格を維持するために、輸入農産物に対する高い関税も負担し、農業保護のため国内消費者が負担する額は「内外価格差に国内生産量をかけたPSE+輸入農産物にかかる高い関税」の両方なのである。これに対し、輸出国であるアメリカやEUは輸入が少ない上に関税も低いので、輸入農産物による消費者負担は殆どなく、PSEを国民負担と考えてよいのだそうだ。 アメリカもEUも、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いによって農家所得を確保しており、直接支払いの方が価格支持より優れた政策であることは、世界中の経済学者のコンセンサスだそうだ。何故なら、価格支持は、市場で実現する価格よりも高い価格を農家に保証するため、需要は減少するが供給は増え、需給が均衡する市場では起きない過剰が生じるからだ。 そもそも、日本では1995年まで戦後の食糧管理制度が残っていたこと自体が不作為だが、それを廃止した際、高い米価を維持するために減反で供給を減少させることを選択し、日本政府は過剰米を防ぐために補助金を出して減反し、その結果、農家のやる気を削いで食料自給率低下と耕作放棄地の増大を招き、金を使った上に食料安全保障からはかけ離れた状況になったのだ。 そこで、*1-4は、提言として「①消費者に負担を強いる農政を転換しよう」「②減反を廃止するだけでよい」「③私的経済の活用で国民負担を減らせ」「④市場を歪ませ不正を生んだ政策の是正を」「⑤食料自給のためにも米の増産と輸出を」「⑥肥大化した農政をスリムにしよう」を主張している。そして、米価高騰時に物価対策とは逆のことを行っている自民党農林族・JA(農協)・農水省の農政トライアングルを挙げているが、JAは自民党の得票源であり、得票を増やすにはJA傘下に多くの農家がいた方が良いことから、この構造改革は大変だろう。 しかし、日本国民の炭水化物摂取の多くは既に米からパンに移り、小麦は消費量の14%しか自給していないのだから、麦や大豆(蛋白質を多く含む)の生産拡大を推進する補助金は必要である。そして、この補助金は私が衆議院議員時代に増やしたもので、1970年からの減反(単に米の生産を止めて休耕田にすること)とは、意図が全く異なる。 さらに、*1-4は、「財務省は減反の補助金を払いたくないため、水田を畑に転換するための補助金を支出しようとしているが、日本に適した農産物は米だ」としている。しかし、必要な栄養をバランス良く摂取するための食糧生産は、米か小麦かの2択ではないし、日本に最も適した農産物が米とも限らない。それに加えて、数年前の国産小麦はパンを作っても膨らみが悪い上に高かったが、品種改良のおかげか現在は膨らみがよくなり、円安で輸入小麦との価格差も小さくなっている。そのため、製粉業界も小麦の品種改良・イースト菌の改良・小麦生産の低コスト化などに協力したらどうかと思う。 なお、*1-4は長いので逐一コメントはしないが、農地の集約が進めば生産コストが下がって国際競争力のある農産物価格になり、消費者負担が減ると同時に、農家所得は増えて農業が魅力的な職業になる。また、産出国や品種による違いを除けば、一物一価でなければおかしい。さらに、最近の米は低温保存で新米と古米の味が違わなくなったので、牛乳等ももっと日持ちして無駄のない保存方法がある筈だ。そのため、それらの進歩を活かすシステムが必要なのである。 2)Presidentの「卵の自給率」など なお、*1-5-1は、最近値段の上がった養鶏農家の集約化と大規模化が進み、10万羽以上を飼う大規模養鶏場も珍しくなく、大規模養鶏場だけで全国の飼養羽数の75%を占め、卵も鶏肉も同様の傾向だが、飼料の大半は主に米国からからの輸入とうもろこしで、これを考慮すると自給率は10%程度だそうだが、それでは食糧安全保障に資さない。 また、卵も最近値段が上がったが、*1-5-2のように、2025年1月31日時点で、今シーズン(2024年秋~2025年春)の鳥インフルエンザは14道県48件発生し、約911万羽が殺処分になり、それと同時に卵の価格が上がって、東京地区ではMサイズで305円/kgとなり、1月上旬から80円上昇したのだそうだ。 しかし、2022年に過去最大の鳥インフルエンザが発生し、26道県84件、約1771万羽が処分されて、東京地区の卸売価格は350円/kgとなり「エッグショック」と呼ばれたが、その後も、鶏舎を改良して一部で鳥インフルエンザが発生しても全体には感染せず、ヒステリックに何万羽も殺処分しないですむようにするとか、外部から鳥インフルエンザウイルスが入り込まない鶏舎の造りにするなどをしなかったのは、むしろ不思議である。 そのため、卵の価格を上げる目的で、鳥インフルエンザと称して鶏を殺処分しているのではないかと思われ、このような後ろ向きのことを改善もなく何年も何年も国費で行ない、養鶏農家を集約したり、卵の価格上昇で消費者負担を増やしたりするのは、論外だと考える。 (5)森林と林業の重要性 1)縄文時代は、本当に農業がなかったのか? *2-3は、①弥生時代に稲作が広がるまでは、クリやドングリを主体とした採集・狩猟・漁労で食料を得ていた ②イネとともにアワやキビが伝わった頃、中国北部では雑穀を中心とした農業社会が起きていた ③縄文時代晩期末の七五三掛遺跡(長野県小諸市)から出土した縄文人の骨のコラーゲン炭素同位体から、アワやキビを食べていた ④縄文時代の畑は確認されておらず、農業社会には至っていない ⑤縄文人は食料生産のために自然を改変する発想がなく、存在するものを管理して収穫増を計るが、植物を育てる田畑を作る発想はなかった ⑥縄文人は周囲をある程度管理して、ヒエやマメ科のダイズ・アズキの栽培化が進んだ ⑦栽培化と農業は同時期に起きたと考えられていたが、急に農業が確立したのではなく、徐々に進んで農耕という程ではないが、管理した土地の周辺のものを採集していた時期があった 等としている。 しかし、我が国の縄文文化を代表する三内丸山遺跡は、縄文前期中葉から中期末葉の約1,700年間の生活の痕跡が継続して発見されるが、遺跡の広がりは約42haと広大で、各時期のゴミ捨て場や盛土は大量の遺物を含み、約1,000年間に廃棄物が堆積した厚さは約2mに達し、その中には土偶・北海道産/長野県産黒曜石・新潟県産ヒスイ・岩手県久慈産琥珀・アスファルトなど特定の産地でしか採れないものもみつかり、交流・交易の範囲の広いことがわかっている。 これは、住民全員が狩猟・採集・漁労などの食糧獲得活動をしなくても、別の生産活動をするプロを養えるだけの生産性の高さが農業にあったということだ。事実、三内丸山遺跡ではクリやクルミをはじめ木の実が多く出土し、土壌中から大量のクリ花粉が検出され、その量的な比率から集落周辺にはクリの純林が広がっていたと推定されるが、クリは人が下草を刈るなどして成長を助けなければ純林にならないため、各種自然科学分析の結果を総合すれば、縄文人は集落の周囲の林に手を加えて有用な植物が育ちやすい環境を作り出し、持続性の高い生活を営んでいたことがわかるそうだ(https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/news/news_002・・・ 2021年8月3日文化庁文化財第二課埋蔵文化財部門 参照)。そのため、①は、農業を「稲作」「畑作」と定義し、クリやクルミの栽培を「採集」に分類している点が誤りであろう。 また、②③のように、七五三掛遺跡出土の縄文人がアワやキビを食べていたことから、縄文晩期に長野県に農業社会があったことは確実で、④の「縄文時代の畑は確認されていない」というのは、田畑は数年放置すれば草地や森に戻るため、「畑が確認されていない」ことをもって「農業社会には至っていない」とは言えず、⑤のように、縄文人は「食料生産のために自然を改変する発想がなかった」とも言えない。そして、人が下草を刈ってクリの木を増やし木の成長を助けたり、アワやキビを栽培したりして、作物の生産性を上げるのは、農業そのものである。 そのため、⑥については、縄文人は、ヒエやマメ科のダイズ・アズキの栽培化を進め、⑦については、人が手を加えて栽培し、生産性を上げ始めた時点が農業の始まりというのが正しいだろう。そして、農業に限らず、技術は生産性の向上を目指して良い物を取り入れながら徐々に進むが、持続可能であるためには、どの時代であっても環境を維持管理することが必要不可欠で、食糧の生産量に応じて養える人口には上限があるわけである。 2)現在の森と林業 イ)鳥獣被害対策 (5)1)で述べたとおり、縄文時代から近年までは、集落の周辺にクリやクルミの林を作ったり、森の動物を狩猟したり、森の恵みを採集したり、森の木を伐採して建物を建てたりして、森林をフル活用していた。 しかし、最近は、*2-2のように、「クマによる人身被害が急増している」と何年も騒ぎ続けながら、警察署の横にある建物の中に入った熊でさえ警察官が見守るだけで手を出せなかったり、「シカやイノシシ等の野生動物による農業や林業への被害が深刻だ」と何年にも渡って言い続けながら、有効な手を打たなかったりすることが頻発している。 また、「野生鳥獣による農作物被害額が2022年度に156億円に及び、その約6割がシカ・イノシシによるため個体数の管理は必要だ」と言いながら、せっかく猟友会がシカやイノシシを狩猟しても「駆除して減らす」だけで利用しないことが多いため、現代人の個人的能力は縄文人以下のように思われる。 なお、「ハンターは趣味の愛好家で、地域のためにボランティアで活動しているため、ハンターの高齢化や数の減少が止まらない」という話も、私が衆議院議員時代から聞いているのに、未だに解決されていないため、大学で森林管理・生態系・狩猟学を一体で教えて森林と野生生物を管理することは重要である。 そして、それは、人口減の時代であっても、*4-1のように、若くして退官する自衛官の希望者に森林管理・生態系・狩猟学などを教えて「森林レンジャー」として雇用したり、国有林で自衛隊の演習をかねて狩りを行い、多すぎる野生鳥獣を減らせば、森林の問題点把握・保護活動・自衛隊の演習が同時にできる。また、民有林であっても、クマが出て危険な場所は、地方自治体などが「森林レンジャー」を雇用して有効に管理するのが良いと思う。 なお、一般住民のゴミの出し方にまで注文が多いと、一般住民も住みにくい上に、ゴミを出せないゴミ屋敷が著しく増えるため、地方自治体が工夫してゴミを出しやすいシステムにすべきである。そして、これらについて、人手不足は言い訳にならない。 ロ)水を育む森林(水源林) *2-1は、①東京都は、水源林として主に山梨県の多摩川上流にある森を買い続け、25,000ha所有する ②1960年代に利根川・荒川水系が上水道に本格利用されるまで、多摩川は都民の「命の川」であり、水源地の荒廃を憂えた東京府(当時)が自ら管理を始めた ③植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保することが目的だった ④山梨県小菅村の森の中で源流域保全のために間伐や枝打ちをする担い手はボランティアの「森林隊」 ⑤世界では各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、地球温暖化もあいまって森林面積は減り続け、それに伴う水不足も深刻化している としている。 水もまた食糧と同様、人口の上限を決める上、農業用水や工業用水も必要であるため、水源林の保全は重要だ。そのため、①②③の東京都の事例のように、大量の水を利用する豊かな自治体が、植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保する目的で森を買って自ら管理するのは望ましいことだと思う。 しかし、⑤のように、各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、森林面積が減り続けて水不足も深刻化するのは論外であるとしても、④のように、日本も「源流域保全のために間伐や枝打ちをする人が意識の高い無償ボランティアで、水を当然のように利用している人は利益を得る」というのも理屈に合わない。そのため、水源林の保全のためにも、労働に見合った適切な報酬を支払って「森林レンジャー」を雇用することが必要不可欠である。 (6)その他の人手不足業種 1)埼玉県八潮市の道路陥没事故と上下水道の更新 ![]() 2025.1.28防災危機管理News 2025.2.3毎日新聞 2025.2.3日経新聞 (図の説明:左図のように、重機が入っているだけで、命をかけて人を救助する筈の多くの消防隊員は突っ立っている。また、中央の図のように、何日もかけてスロープを作ると決定した段階で、被害者である運転手は見捨てられたのだ。そして、右図は、スロープができたら、スロープの強度を高めたり、土嚢を入れたりしているのであり、被害運転手の救助という最大の課題はとっくに忘れ去られている) *3-1-1・*3-1-2・*3-1-3・*3-1-4によると、①28日午前に埼玉県八潮市で県道が陥没してトラック転落 ②「穴の内部に水が溜まり周囲の地盤が不安定で崩落による二次被害の可能性を否定できない」として、2月2日夜になっても消防の救援隊が穴の中に入って運転手を捜索する活動に入らない ③県は穴に繋がる緩やかなスロープ2本を造成し周辺で土壌改良を実施する大規模な工事を続け、現場はショベルカー等の重機やトラックが行き来し、2月1日朝に完成したスロープの強度を強めたり、土囊を入れたりする作業をした ④県等はスロープの完成を受けて本格的な救助活動を進める予定だったが、穴内部の水位が上昇し、消防隊員らの安全確保のため救助活動を中断 ⑤県は破損した下水道管の水の流れが悪くなっているため、管内になんらかの異物があるとみて、ドローン等を使って調査する方針 ⑥運転手の70代男性が閉じ込められた運転席は土砂等に埋もれて確認できない ⑦2月5日に行われた県のドローン調査で、陥没地点の100~200m下流の下水道管(直径4.75m)内にトラックの運転席部分とみられるものが確認 ⑧運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけない ⑨一部が流水につかり、男性の姿は確認できなかったが、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみている ⑩消防は2月9日朝、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開、手がかりが見つからず、崩落による二次被害の懸念が高まり、約30分で打ち切り ⑪運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内の捜索を検討したが、同日、トラックの男性運転手の穴の中での捜索を終了した ⑫県は2月10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けた としている。 上下水道インフラが適時に更新されず老朽化が進んでいることは前から言われていたが、①の1月28日午前に埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故は、想像以上だった。 しかし、事故対応は、②③④⑥⑩のように、「運転手の70代男性が閉じ込められた運転席は土砂等に埋もれている」と考え、県等は「穴の内部に水が溜まり、周囲の地盤が不安定で崩落による二次被害の可能性を否定できないため、スロープが完成すれば本格的な救助活動を進める」として、重機でスロープ2本を造成し、土壌改良を実施する大規模工事を続け、2月1日朝に完成したスロープは強度を強めたり、土囊を入れたりする作業をしたりしていたが、2月2日夜になっても消防の救援隊は穴の中に入って運転手を捜索する活動に入らず、「穴内部の水位が上昇して消防隊員らの安全が確保できない」などとして救助活動を中断した。 そして、丸12日後の2月9日朝、消防は、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開したが、手がかりが見つからず、崩落による二次被害の懸念が高まったとして、約30分で打ち切ったのだ。そして、この間、メディアも、下水道の更新不足・危険性・更新にかかる費用・人手不足ばかりを強調して報道し、不慮の事故で下水道の中に閉じ込められ、最初は生きて消防士と話をしていた哀れな運転手の救助には滅多に触れず、重機で穴を掘ったり、スロープを作ったり、穴の周囲にぼさっと立っている人の写真ばかりで、「あらゆる知恵を出して、生きているうちに(短時間で)人を助け出す」という発想と努力に欠けていた。 そのため、事故に遭った70歳代の哀れな運転手は、下水道の危険性を世の中に広めるための生け贄のようになり、人命の尊さや人命救助のためにいる筈の埼玉県内の消防の無気力・無能を露呈したのである。 しかし、⑤⑦⑧⑨⑪のように、破損した下水道管の水の流れが悪くなっているため、管内に異物があるとみて、埼玉県が2月5日にドローンで調査したところ、陥没地点の100~200m下流の下水道管(直径4.75m)内にトラックの運転席部分とみられるものを確認したそうだ。 そして、トラックの運転席が下水道管の上流側に流れていくわけはなく、流されるとすれば必ず下流側であり、重たいため遠くには行かないので、重機で捜索すると同時に、速やかに下流側からドローンや既にある内視鏡型の排水管検査機器を使って、あらゆる角度からまず被害者である運転手を見つけて助け出すべきだったのだ。 また、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみているが、下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけないとして、同日、トラックの男性運転手の穴の中での捜索を終了したそうで、事故から1週間以上経過すれば被害運転手は亡くなっているだろうが、ここでも被害運転手は見捨てられたのである。つまり、これらは、人手不足の問題と言うよりは、人命尊重意識と教育・応用力・課題解決力・やる気の問題である。 なお、県は、⑫のように、2月10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けたそうだが、これは事故の被害者救出とは関係がない。しかし、今後の下水道管は、管内の様子を自動的に撮影して、位置と画像を無線で報告し、AIでリスク分析するシステムを備えた方が良いと思われる。 2)退職自衛官の再就職について *3-2は、①退職予定自衛官にバス・トラック・タクシーの運転手を紹介する「運輸業合同説明・運転体験会」が陸上自衛隊北熊本駐屯地で開かれ、119人が参加した ②部隊の強さ維持のため、自衛官の定年は一般公務員よりも早い54~57歳の「若年定年制」で、20~30代半ばで退職する任期制もあり、自衛隊は再就職支援に力を入れてきた ③大型車両の運転免許を持っている自衛官は多く、ドライバー不足に悩む運輸業界にとっては「即戦力」となる ④運輸業界から再就職した自衛官OBが説明役で、「健康なら定年なく長く続けられ、(乗客に)挨拶すれば特に会話しなくても構わない(タクシー)」「安定した生活を送れ、地域社会への貢献という点で自衛隊と通じる(路線バス)」等とPRした ⑤来年5月で退官する男性自衛官(55)は「人と接する仕事も楽しそうだし、仕事で運転しているので、路線バスかトラックの運転手を考えている」と話す ⑥熊本運輸支局の岩本輝彦支局長は「2024年問題で運輸業界は慢性的な人手不足で、自衛官は何事も自分で判断できるスキルもあり、どの会社も大いに期待している」と語った としている。 このうち②の「部隊の強さ維持のため、自衛官の定年は一般公務員よりも早い54~57歳」「20~30代半ばで退職する任期制もある」というのは、平均寿命や健康寿命が延びていることを考慮すれば、定年を延長しても良いし、平時は他の職業に従事しながら有事や災害時に招集される予備役として確保しておく方法もある。 しかし、自衛隊を若くして退職した人なら、①③④⑤⑥のように、体力と同時に経験や技量も持っているため、陸自出身なら大型車両の運転免許を活かして人手不足の運輸業界の即戦力として期待できる。そのため、経験や技量を活かした再就職支援をすれば、再就職後も地域社会に貢献でき、その職種は多少の研修をすれば、運輸業界だけではなく、機械化の進んだ建設業はじめ農業・林業でも活かせると思う。 また、空自出身で航空機やヘリコプターのパイロット資格を持っている人であれば、航空・運輸業界だけでなく農業・林業・救急でも即戦力になれそうだし、海自出身で航海士の資格を持っている人なら、運輸・漁業等で活躍できそうだ。つまり、現在は、人手不足で機械化の進む時代であるため、それに合わせた技量を身につけさせれば、人財を無駄なく活用できるのである。 (7)人手不足を言い訳にすべきではないこと 1)退職自衛官の活用 *4-1は、①岸田首相(当時)は、2022年11月28日、防衛費を2027年度にGDP比2%に増額するよう関係閣僚に指示 ②政府与党の「防衛族」は新たな装備品(長射程のミサイル・艦艇・戦闘機等)に予算を誘導しようとする ③現場が欲しているのは人と安心できるキャリアプラン ④安全保障を担う自衛隊・海上保安庁の現場は人集めに苦労 ⑤自衛官採用には定年と再就職先がネック ⑥地方自治体の防災監として採用されるケースも増えたが、正規職員のポストを用意できない ⑦恩給の支払いができなければ、若年定年退職者は社会保険料の企業負担分を国で面倒見るぐらいのサポートがあって良い ⑧制服組でも将・将補クラスは、天下り規制に引っかかって自衛隊独自の再就職斡旋システムを利用できない ⑨採用難と退職後のキャリアプランの難しさがある 等と記載している。 このうち①②は、多くが米国から長射程ミサイル・艦艇・戦闘機等の装備を購入する前提のようだが、i)どういう事態を想定し ii)どのような作戦の中で iii)どのようにその装備を使うのか iv)その有事の時に、(自給率の低い)食糧・エネルギーや武力攻撃に対応していない原発のリスクはどうするのか を全く考えておらず、プラモデルを集めるかのように、国民の血税を源泉とした大きな予算をつけているため、無用の長物を買っている無駄遣いと言わざるを得ない。 また、③④⑤⑨は「自衛官の採用には定年と再就職先がネックで、自衛隊は人集めに苦労し現場は人と安心できるキャリアプランを必要としている」とするが、退職自衛官は体力があり、独特の技量を持っているため、持っている長所をブラッシュアップして再就職すれば、(6)2)に記載したとおり即戦力になれる。そのため、再教育の仕組みと再就職の選択肢を示し、現役の頃からキャリアプランを意識して仕事をし、資格等もとっておくのが良いと思われる。 なお、⑥は「地方自治体で採用されるケースでは、正規職員のポストを用意できない」としているが、地方自治体は、女性や中途採用者を非正規職員にする場合が多く、これは能力や事情による待遇差ではなく、弱者からの搾取であるため、正規職員にすべきである。従って、⑦のように、「社会保険料の地方自治体や企業負担分について、サービスを受けているわけではない一般国民の税金で面倒見る」というのは、全く筋違いなのである。 さらに、⑧は、「制服組でも将・将補クラスは、天下り規制に引っかかって自衛隊独自の再就職斡旋システムを利用できない」としているが、天下りの問題が起こるのは自衛隊が装備品を購入する等の影響力を持つ企業に再就職する場合に限るため、「恩給+自らの能力で得た再就職で得る収入」で何とかすべきであり、これは50代で民間企業を転職した人も同じ条件なのだ。 2)就業者数は最多になっているが・・ ![]() ![]() ![]() CenturyMaruyoshi Airinku 2023.10.9NewsPicks (図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で両方とも減少傾向にあるが、理由は、死亡率の減少・寿命の伸び・教育の普及・結婚願望の低下等だろう。中央の図は、結果として現れた年齢階級別の人口推移で、0~14歳と15~64歳の人口割合が減少し、65~74歳と75歳以上の人口割合が増えている。そのため、“生産年齢人口”の定義を18~75歳と定義しなおすのが、全体から見て適切だと思う。なお、右図のように、明らかに人口構成の変化があるため、商品やサービスのニーズも1990年、2025年、2040年では異なるわけである) *4-2は、①2024年の就業者数は6,781万人と前年から34万人増えて1953年以降最多 ②女性・高齢者の就労が広がったが、女性・高齢者は働く時間が短いため想定より労働力の確保に繋がっていない ③女性・高齢者による就業者増は限界があり、2040年時点の就業者数は最も低いシナリオで5,768万人 ④日本経済は生産性を高めながら人手不足に対応する課題に直面しており、今からAI等を活用した生産性向上で働き手減少に備える必要 ⑤就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)は2024年は61.7%と前年から0.5%拡大 ⑥女性就業者は前年比31万人増の3,082万人で最多、高齢者就業率も65歳以上が前年比0.5%増で25.7% ⑦雇用形態別では正規雇用39万人増、パート・アルバイト・契約社員等の非正規雇用2万人増 ⑧非正規雇用の待遇を同等の業務をする正社員と揃えたり、勤務地を絞る限定社員を廃止して正社員と同じ待遇に揃えたりする企業も ⑨若手人材確保のため、30万円以上の初任給を提示する企業も ⑩介護・建設分野で有効求人倍率4倍超の職種もあるが、事務系は1倍未満 等としている。 2023年度の高校進学率が男女とも99%に近く、大学進学率(短大を含む)が61%である中、⑤のように、就業率を「15歳以上人口に占める就業者の割合」と定義していることは、1950年代の発想であり古すぎる(https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Data/Popular2024/T11-03.htm 参照)。そのため、生産年齢人口を「18~75歳」と定義し、就業率を「18歳以上の人口に占める就業者の割合」と定義するのが、現在の状況にあっていると、私は考える。 また、大学に進学すれば22歳が最低卒業年齢で、大学院の修士課程まで進学すれば24歳、博士課程まで進学すれば27歳が最低修了年齢であるため、この期間は正規雇用で働くことができず、これらの世代で正規雇用率が低いのは当然ということになる。 そして、“生産年齢人口”の定義で65歳を最高齢としたままでは、最高38年(65-27)の正規雇用期間で、男性の場合なら65歳男性の平均余命20年(65~85歳)分・女性の場合なら平均余命24年(65~89歳)分の生活費(公的年金、公的医療・介護保険を含む)も稼いでいなければ困窮することになり、“生産年齢人口”の期間には子育て費用も払わなければならないため、65歳時点で老後生活資金が十分な人はむしろ少ないのである(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=60984?site=nli#:~:text=・・・ 参照)。 そのため、上の左図のように、合計特殊出生率の減少で我が国の出生数が減り、上の中央の図のように、2012年以降は人口が減り始めると同時に65歳以上の割合が増えているにもかかわらず、①⑥のように、2024年の就業者数が1953年以降最多になったのは、女性及び高齢者(65歳以上)の就業率が増えているからであり、これは自然なことである。 にもかかわらず、②③⑦のように、女性・高齢者でパート・アルバイト・契約社員等の非正規雇用が多く、「女性・高齢者は働く時間が短いため想定より労働力の確保に繋がっていない」「女性・高齢者による就業者増は限界がある」などと言われているが、女性が働く時間を短くせず、キャリアも中断せずにすむためには、充実した保育・教育・学童保育・介護制度が必要なのだ。そして、これらのサービスはブルーオーシャンでもあったのに重視されず、女性に無償労働を押しつけてきたことが合計特殊出生率を必要以上に低下させたのだということを、日本政府はまだわかっていないようで、それが、⑩のように、介護分野で有効求人倍率が4倍超もあり、サービスする人が集まらない原因になっているのだ。 なお、⑧の非正規雇用については、アルバイトでなければ、勤務地を限定しようと勤務時間が短かろうと、(報酬金額は変わるだろうが)働いている以上は正規雇用にすべきで、非正規雇用にして社会保険料(医療保険・介護保険・年金保険・雇用保険・労災保険)を払わないのは、企業の大小を問わず、社会保険料を払って支えている人や企業に対して狡いのである。 また、④のように、「日本経済はAI等を活用して生産性を高めながら、人手不足に対応する必要がある」というのは事実で、失業率上昇の心配なく生産性を高められるのは良いことである。 ただ、⑨のように、若手だけを人材確保のために初任給30万円にしてボーナスを入れ年間500万円支払うとすれば、扶養家族のないその新人は、所得税約30万円、住民税約26万円、社会保険料約71万円(厚生年金保険料46万円、健康保険料25万円)の合計約127万円(年収の約25%)を国と地方自治体に払うことになる。給与の高い人は、さらに多くの金額を支払い、40歳以上になると介護保険料も支払うが、これだけの金額を支払っても、無駄使いなく国や地方自治体からのサービスで報われているか否かは、最も疑わしくて重要な問題なのである。 3)外国人労働者、留学生、移民・難民 イ)日本で働く外国人労働者の状況 ![]() Rise For Business 厚生労働省 FUND INNO (図の説明:左図は、在留外国人数と外国人労働者数の推移で、中央の図は、産業別外国人労働者数の推移だが、人手が足りない介護分野や建設業で未だ少ない。右図は、2019年度に始まった在留資格「特定技能」の内容だが、受入可能分野を狭くしている上、家族の帯同を許さない等の制限を多くしている点で、使う人の立場を考えた制度になっていない) *4-3-1は、①日本で働く外国人労働者が2024年10月末は230万2,587人 ②外国人労働者の職場環境改善のため、国は2007年から外国人を雇用した企業・個人事業主にハローワークへの届け出を義務づけ ③国籍別は、ベトナム57万708人・中国40万8,805人・フィリピン24万5,565人 ④増加率は、ミャンマー61%・インドネシア39.5%・スリランカ33.7% ⑤人手不足解消のため2019年度に始まった在留資格で、建設業・介護など16分野の「特定技能」で働く人が20万6,995人 ⑥厚労省は「人手不足等を背景に外国人労働者が増加し、医療・福祉、建設業の増加率が高い」とコメント としている。 “生産年齢人口”割合が低下して日本人の若者が減少すると同時に、日本人の若者の職業選択と求人が合わずに有効求人倍率の高くなる産業が出たり、日本人の生産性と比較して人件費が高すぎ、国内の産業が空洞化してしまうような場合には、外国人労働者の採用が必要不可欠である。 そのような中、①②のように、日本で働く外国人労働者が2024年10月末に230万2,587人となったため、外国人労働者の職場環境改善が必要であるのはよくわかるが、職場環境改善はハローワークに届け出を義務づけたらできるかは疑問だ。 なお、③のように、現在の国籍別外国人労働者数は、ベトナム57万708人・中国40万8,805人・フィリピン24万5,565人だが、増加率は、④のように、ミャンマー61%・インドネシア39.5%・スリランカ33.7%と、(すべてアジアではあるが)より開発途上国の方にシフトしており、これも国別年間所得の差から必然であろう。 政府は、人手不足解消のため、⑤⑥のように、2019年度に「特定技能」という建設・介護はじめ上の右図の産業を加えた在留資格を開始し、現在は「特定技能」で働く人が20万6,995人いるそうだが、これからは日本人の失業率が高くなるわけではなく、人手不足や人件費高騰で既に成り立たなくなっている産業もあるため、政府が(狭い視野で)外国人労働者を受入れられる業種を決めるのではなく、民間のニーズに応じて外国人労働者を受け入れられるようにすべきだ。 また、*4-3-2は、⑦深刻な人手不足で四国は外国人材増加 ⑧多文化共生は日常 ⑨愛媛県は製造業を中心に外国人労働者が増加、地域別では造船業が盛んな今治地域が全体の3割 ⑩独立系造船会社新来島どっくは、491人の外国人労働者が働き、日本人の人材確保が厳しい中で鉄加工全般や塗装等の重要な戦力として活躍 ⑪高知県は四国銀行が人材紹介6社と提携して取引先に外国人材採用を提案 ⑫高知銀行は技能実習生受け入れをサポートする監理団体4団体と業務提携 ⑬香川県は人材紹介8社と連携協定を結び、企業と外国人材のマッチングに乗り出した ⑭香川銀行もノンバンクのJトラストと提携して取引先にインドネシア人材の紹介開始 ⑮徳島県は2024年9月から半年の予定で、外国人のための無料職場体験プログラムを実施して、徳島県内での就職に関心ある留学生と採用に前向きな県内企業との出会いの場を設定 ⑯異なる人種・文化・価値観を尊重する多様性の推進は四国の活性化に不可欠 としている。 上の⑦⑧⑨⑩⑯は、外国人労働者が実際に必要とされており、(日本にいる限り、日本の法律を守ることは当然だが)外国人労働者を受け入れた地域は異なる人種・文化・価値観を尊重して多文化共生しており、⑪⑫⑬⑭⑮のように、県や信用できる企業が地域のため外国人材の採用を提案したり、企業と外国人材のマッチングをしたり、外国人留学生のための無料職場体験プログラムを実施して県内での就職に関心ある留学生と採用に前向きな企業の出会いの場を設定したりしているということで、このやり方であれば前向きで安心できる。 さらに、外国人を雇った企業から「問題なく働けている」「文化や考え方の違いが刺激になる」「海外の知見を取り入れることで、会社全体の活性化に繋がった」等のポジティブな声が聞こえており、外国人材は実際に各地で活躍しているそうだ(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202406_001.html 参照)。 なお、外国人と協働するには言語がネックになる場合が多かったが、*4-6のように、スタートアップがIT(情報技術)を活用して外国人と協働しやすい環境づくりを急いでおり、「カミナシ」が13言語対応の従業員教育サービスを開発したり、「DXHUB」が企業が採用した外国人に日本語教育ソフトを提供して日本語学習の履歴を管理し、その学習履歴を昇給や賞与の判断材料にできるようにしたりしており、言語の壁は低くなりつつある。 ロ)外国人留学生と日本人学生の動向 *4-4-1は、①AI等先端分野人材の確保のため、文科省・東大等がインドからの留学生獲得を強化 ②インドの大学院生300人弱の留学費用を支援し、2028年度迄に留学生を倍増 ③理工系に強いインドから人材を受け入れ、日本の研究力や産業競争力向上に繋げる ④2025年度から文科省はAI等を学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に日本での生活費や大学での活動費として1人300万円支援 ⑤インドで働くITエンジニアの平均年収は約127万円で、支援額は約2.3倍 ⑥留学生支援は1年間で、日本への定着を視野に企業のインターンシップへの参加も促す ⑦受け入れ大学は2025年度に公募し科学技術振興機構(JST)が審査 ⑧東大・立命館アジア太平洋大(APU)等の国内大学、大使館、民間事業者など50を超える機関が2024年度にインド人留学生を増やす連携組織を立ち上げ ⑨人口14億人のインドは伝統的に理工系人材の育成に強く引用数が上位10%に入る「注目論文」数が世界4位(日本は13位) ⑩インド人学生は英語が得意で日本より英語カリキュラムが充実している欧米の大学を目指す傾向 ⑪インドのほか国際的な存在力を増しているアフリカの大学も対象に 等としている。 私はPWCで監査していた時に,インドステイト銀行日本支店(https://jp.statebank/ja/about-sbi-japan 参照)を監査する機会があったが、そこの行員は本当に優秀な人たちだった。また、インドは公用語が英語であるため、EY東京で私が英語で書いた「Tax Opinion」を日本時間の夕方5時くらいまでにEYのインドオフィスにFaxしておくと、翌朝にはネイティブイングリッシュになり、疑問があればそれも記されて送り返してきていた。そのため、時差を有効活用して、速やかに、ネイティブイングリッシュで、外国人にもわかり易い「Tax Opinion」を作成することができたのである。 そのため、①②のように、インドの大学院生の留学費用を支援し、AI等先端分野人材の確保のために文科省・東大等がインドからの留学生獲得を強化し、日本の研究力や産業競争力向上に繋げようとしているのは良いと思う(ただし、先端分野はAIだけではない)。 特にインドは、「0」の概念を発見した国で、⑨のように、伝統的に理工系人材の育成に強く、人口14億人という母集団がおり、引用数が上位10%に入る「注目論文」数が世界4位であるため、③のように、理工系に強いインドから人材を受け入れて日本の研究力や産業競争力向上に繋げるのは経済合理性もある。逆に、日本の「注目論文」数13位という結果は、日本の教育と社会の仕組みが理系に進む人数を制限し、「個性を伸ばし、誰もやっていないことをする」のを嫌う国民性によって、もともと持っている能力を抑えつけた結果であると、私は考えている。 従って、④のように、文科省がAI等を学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に2025年度から日本での生活費や大学での活動費として1人300万円支援することにし、⑥のように、企業のインターンシップへの参加を促して日本への定着進めれば、眠ったような日本にとって良い刺激になると思われる。そのため、⑦⑧のように、東大はじめ、多くの関係機関がインド人留学生を増やす連携組織を立ち上げたのには、期待が持てる。 確かに、⑩のように、インド人学生は英語が得意であり、日本より英語カリキュラムが充実し、かつ就職等で差別されることの少ない欧米の大学を目指す傾向があるため、⑤のように、インドで働くITエンジニアの平均年収の2.3倍の支援額がなければ、日本は選ばれにくいだろう。なお、より開発途上国の方が、日本との平均年収の差が大きいため、⑪のように、アフリカ等の大学も対象とするのが良いと思われる。 また、*4-4-2は、⑫東京一極集中を是正し、地方との人口流出入を均衡させる地方創生の1つとして、国は2018~23年度に徳島県に計29億円を投じたが、県内からの進学者は増えなかった ⑬政府は大学進学・就職で地元を離れる若者が多いことに目をつけ、2018年から10年間、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じ、地方大学への交付金を創設 ⑭地方の教育・研究の一定の底上げに繋がったが、若年層の人口動態を変えるには至っていない ⑮島根大学は人材の質が高まるほど県外の大企業から求人が殺到するジレンマに直面した ⑯日本の成長力を高める地方創生の狙いにそぐわない規制自体が不合理 ⑰企業誘致・賃上げ等の総合的取り組みが必要 ⑱経済合理性に反する改革は持続可能ではなく、むしろ国力をそぐ 等としている。 東京一極集中の原因を「進学時に東京に出るから」と考えた点が誤っているため、⑫⑬⑮のように、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じ、地方大学への交付金を創設しても、県内からの進学者が増えなかったのだと、私は思う。 そのため、この政策は、i)確かな原因分析の後に行なわれたのか(多分、そうではない) ii)交付金創設の効果はどのくらいあったのか iii)東京23区内の大学の定員増禁止は、学生に不便を与えなかったのか 等について、結果から分析して評価されるべきだ。 なお、⑭で若年層の人口動態を変えられなかった理由は、世界を視野に活躍できる魅力的な就職先が都会に多かったり、教授や学友と相互に能力を磨きあえたり、就職に有利だったりする大学が東京はじめ都会に多いからであるため、そのようなメリットがないのに小手先の交付金創設で若者の進路や人口動態を変えることができないのは当たり前だと、私は思う。 従って、⑯⑰⑱ように、規制自体が不合理で日本の成長力を高める地方創生の狙いに合わないため、本当に地方創生をしたいのであれば、地元企業を大きく育てたり、企業誘致をしたりして、地方に魅力的な就職先を作ることが必要であり、不合理な改革はむしろ国力をそぐだろう。 それでは、「地方大学はどうすれば良いのか」については、大学のレベルを上げ、日本と所得格差はあるが優秀な学生の多い国々からの留学生を増やし、独自の魅力を作って、日本人学生にとっても魅力のある大学になるしかない。そのため、留学生や日本人学生のための奨学金・教授陣の強化・大学設備の充実・地元企業との有効な連携などが有効なツールになると思われる。 ハ)難民の移住と日本の難民受け入れについて ![]() 2023.10.9日経新聞 NHK 2023.5.8長周新聞 (図の説明:左図は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治区の地図である。また、中央の図の黄色の部分が中東諸国だが、世界4大文明のうちエジプト文明とメソポタミア文明発祥の地を含み、大陸の中で揉まれてきた地域でもあるため、ここに住む人たちは、日本人にはない物品・文明・商魂のたくましさを持っている。なお、右図のように、これまでの日本は、世界でも著しく低い難民認定数・難民認定率であるため、他国の移民・難民締めだし政策に文句の言える立場では到底ない) *4-5-1は、①ガザはイスラエル軍の攻撃で建物が破壊され、多くの女性・子どもが戦闘の巻き添えとなって死者4万7千人超 ②トランプ米大統領は、パレスチナ自治区ガザから約200万人にのぼる住民を出して米国が所有・再建する復興案を出した ③トランプ氏は「(地中海のリゾート地リビエラのように)復興したガザに住むのは、帰還したパレスチナ人ではなく、世界の人々」と語った ④「居住地として別の選択肢があれば、ガザの人々はそちらを選ぶだろう」「米国がガザを長期的に所有して開発を進めれば、中東に安定をもたらすことができる」とも主張した ⑤ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は「アブラハム合意を次の段階に進めることが目標だ」と語り、イスラエルとサウジアラビアの歴史的な関係正常化仲介への意気込みを見せた ⑥サウジアラビアは、パレスチナ国家樹立を正常化の条件としている としている。 また、*4-5-2は、⑦サウジアラビアは、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させるというイスラエルのネタニヤフ首相の提案を「断固拒否」と発表 ⑧サウジは「パレスチナの人々はその土地に権利があり、彼らは追放されるべき侵入者や移民ではない」と強い言葉でネタニヤフ発言を非難 ⑨ネタニヤフ首相は、サウジ領内にパレスチナ国家を創設する構想を示唆しつつ、「イスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃後、パレスチナ国家は存在すべきではない」との立場を繰り返した ⑩トランプ米大統領は他の中東諸国に対し、ガザからパレスチナ人を受け入れるよう求めたが、エジプト・ヨルダンは拒否 ⑪イスラエルは戦争で荒廃したガザから港や陸路経由で、ガザ住民を移す計画を策定しつつあるが、i)パレスチナ人が移住を望んでいるか ii)どこに移り住みたいか iii)実際に移住が可能か は不明 としている。 さらに、*4-5-3は、⑫農水省は2025年度から外国人が国内の農地を取得する際の要件を厳格化し、農地取得を目指す外国人が農業委員会に残りの在留期間を報告するよう義務化 ⑬短期間で在留期間が切れる場合は、農地を取得できなくする ⑭取得後、農地が適切に耕作されるか判断する上で、残りの在留期間を把握する必要がある ⑮短期間で遠方に転居する場合も農地取得を認めない ⑯外国人やその関係法人が2023年に取得した国内農地は90.6ha、外国人個人による取得は60ha(2199人)・残り(30.6ha)が法人による取得(農水省) ⑰日本は外国人による土地取得を規制していない としている。 ポイント1:パレスチナ人は、ガザに住み続けて生活していけるのか? ガザ地区は、地中海沿岸に細長く横たわり、長さ約40km、幅6~12km、面積365km²(奄美大島712km²、淡路島593km²、種子島444km²、福江島326km²、小豆島153km²)のエリアに約220万人が暮らしている世界で最も人口密度(6018人/km²、ちなみに東京都全体が6425人/km²)の高い場所で、燃料・食料・日用品・医療品等が慢性的に欠乏し、経済や生産活動も停滞して、国連や支援団体からの援助物資で命を繋いでいる場所である。 また、ガザは人口の約45%が14歳以下の子どもで、7割は難民となった人々だが、「パレスチナの人々はその土地に権利がある」「パレスチナ人は移住を望んでいない」と言っても、「パレスチナ人が、これからもガザで子孫を増やしつつ、住み続けていけるのか?」と言えば、「それは無理だろう」というのが、私の結論だ。 従って、①は非常に気の毒なことだったが、イスラエル人かパレスチナ人のどちらかが移住しなければ、いずれ住む場所もなくなって戦争が再発するし、いつまでも国連や支援団体からの援助物資で命を繋いでいるのは誰のためにもならない。 そのため、②③のトランプ大統領の「パレスチナ自治区ガザから約200万人の住民を出して米国が所有して再建する」「復興したガザに住むのは、帰還したパレスチナ人ではなく、世界の人々」という復興案は米国本位すぎて驚いたものの、よく考えれば、④⑤のように、居住地としてより良い選択肢があれば、ガザの人々はそちらを選んだ方が賢い。また、イスラエルではなく米国がガザを所有するのであれば、パレスチナ人がイスラエルに土地を譲ることなく、中東(イスラエル・イラク・シリア・トルコ・パレスチナ・ヨルダン・レバノン・アラブ首長国連邦・イエメン・イラン・エジプト・オマーン・カタール・クウェート・サウジアラビア・バーレーン)に安定がもたらされ、次の段階に進めるだろう。 ポイント2:パレスチナ国家樹立はどこにするのか? サウジアラビアは、⑥⑦のように、パレスチナ国家樹立をイスラエルとの国交正常化の条件としているが、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させることは拒否している。しかし、⑧⑨のように、国土が広く文化も似ている筈のエジプトやサウジアラビアにパレスチナ国家を創設するのは合理的だと思うが、サウジはじめ他の中東諸国(エジプト・ヨルダン)は、⑩のように、ガザからパレスチナ人を受け入れることを拒否したのだ。 また、⑪のように、i)パレスチナ人が移住を望んでいるか ii)どこに移り住みたいか iii)実際に移住が可能かは不明 とされているが、イスラエルが港や陸路経由でガザ住民を移す計画を策定しつつあるのなら、(他にも良い移住候補地はあると思うが)日本も、淡路島(593km²)・小豆島(153km²)はじめ瀬戸内海地域は地中海沿岸と似ており、国境離島でもなく、近年はオリーブやレモンも作り始めており、人手不足の産業が多く、まとまって住むことも可能であるため、(パレスチナ国家樹立候補地にはならないが)移住候補地になり得る。 そして、⑫⑬⑭⑮⑯⑰のように、農地が適切に耕作されるようにするため、農地取得を目指す外国人は農業委員会に残りの在留期間を報告し、短期間で遠方に転居する場合は農地取得が認められないが、難民として在留資格を得て腰を据えて農業をやる場合には、日本は外国人による土地取得を規制していないため、外国人やその関係法人も農地を取得することができ、2023年には外国人やその関係法人が取得した農地が90.6haあるのである。 ・・参考資料・・ <農家への所得補償は最終解ではない> *1-1-1:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/277523 (日本農業新聞 2024年12月17日) 与野党伯仲国会の審議 農家所得増へ合意探れ 臨時国会は21日の会期末に向けて終盤を迎えた。石破茂首相は所信表明演説で、党派を超えた「幅広い合意形成」を掲げた。国民の命と国土を守る農業、農村政策は試金石となる。農家の所得が増え、展望を描ける農政の在り方について議論を尽くし、合意点を探るべきだ。日本の食料自給率の長期低迷や農家戸数、耕作面積の減少に歯止めがかからなくなっている原因を突き詰め、持続可能な食料安全保障を確立できるのか。臨時国会では、これまでの農政の効果を検証する必要があるとの指摘が相次いだ。石破首相も4日の衆院予算委員会で、「日本が世界の中で食料自給力、自給率、それが突出して低いというのはやはり相当な問題なのだろうと思っている」などと述べ、危機感を示した。だが、議論が深まったとは言えない。現行施策の検証や諸外国の事例の研究を含めて、対応は待ったなしだ。食料・農業・農村基本計画見直しの時期でもあり、与野党は農家手取りを増やす具体的な道筋についてもっと踏み込んだ論争を展開してほしい。とりわけ、違いが目立つのが、直接支払いを巡る議論だ。立憲民主党や国民民主党などは、戸別所得補償制度の名称をあえて使わず、直接支払制度の見直しという観点から提起を始めている。石破首相や自民党の森山裕幹事長が、水田政策などの検討の中で「直接支払いについて議論を深める」と語ったことに呼応したものとみられ、与野党双方が一致点を見いだす努力が求められている。一方、石破首相は戸別所得補償制度を念頭に「(農家の)意欲にブレーキをかけるとか創意工夫に水を差すとか、そういうご意見があることは事実」とも述べ、与野党の主張には依然として差がある。農水省は来年の通常国会に農産物の価格転嫁を後押しする法案を提出する予定だが、同法案を巡っては、納税者負担による直接支払いの是非について再度、論点として浮上するのは間違いないだろう。政府・与党が、従来の立場を繰り返すだけでは法案は宙に浮きかねない。各党の主張の隔たりを超えて、農家の手取り増を実現させるという石破首相の強いリーダーシップを期待したい。与野党は、直接支払いを含めて手取りを増やすために必要な農林水産関係予算を確保した上で、山積する農政課題に正面から向き合うべきだ。自民、公明、国民民主の3党は、いわゆる「103万円の壁」の見直しで合意した。どのように実施するか不透明な部分は残るが、石破首相が唱える熟議の成果だろう。農業の直接支払いについても、熟議の合意を求めたい。 *1-1-2:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/285622 (日本農業新聞 2025年2月2日) 集落機能強化加算廃止に思う 疑いの目を持ち続ける 集落機能強化加算は継続しないこととする――。2025年度から始まる中山間地域等直接支払制度の次期対策について、農水省が示した方針だ。加算を終了する理由の一つに「地域運営組織(RMO)の設立・連携を行うという趣旨が十分に伝わっていなかった」と都道府県や市町村への説明不足を挙げている。しかし、落ち度を認めるのであれば、加算を継続したり、あるいは次期対策から加算を使おうとしていた集落協定も含めて救済措置を講じたり、現場が混乱しないよう対応すべきではないかと思う。集落機能強化加算は、高齢者の見回りや送迎など、生活支援をはじめとする集落機能の強化や、ボランティアの確保やインターンの受け入れといった人材確保を支援している。同省によると、23年度は555の集落協定が取り組み、加算が始まった20年度から年々増えている。制度の効果を検証する第三者委員会での議論を踏まえ、同省が昨年の8月に公表した最終評価では、集落機能強化加算を使う協定は「さまざまな組織と連携して活動している割合が高い」と効果を評価していたが一転、同月末の25年度予算概算要求で加算の廃止が判明した。これを受け、議論してきた内容と合わないとして、委員の求めで11月に臨時で第三者委員会を開催。同省は、既に加算に取り組んでいる協定を対象に、新設するネットワーク化加算で経過措置として支援を続ける方針を示したものの、次期対策から加算を使おうとしていた協定への対応など、課題は残っている。11月の第三者委員会で同省が示した資料は加算の廃止を前提としており、加算のマイナス面を強調していると感じた。今回のように同省が進めたい政策の方向性に沿うデータが提示されているケースは他にもあるのではないか――。本当の意味でEBPM(客観的な証拠に基づく政策立案)となっているのか、常に疑問を持ちながら取材に臨みたい。 *1-1-3:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/285872 (日本農業新聞 2025年2月3日) 農家数激減の現状 直接支払い議論、今こそ 慶応義塾大学名誉教授・金子勝(1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、2023年4月から淑徳大学大学院客員教授。著書に「金子勝の食から立て直す旅」など。近著に、「高校生からわかる日本経済」(かもがわ出版)、「裏金国家」(朝日新書)) 石破茂政権は「令和の日本列島改造」で「地方創生2.0」を打ち出した。食品加工業の育成などを打ち出したものの、農家の直接支払いは含まれていなかった。しかし、農家数が激減する状況を考えるならば、農家の直接支払いは不可欠である。足元を見てみよう。5年ごとの農林業センサスを見ると、農家数は急減し、高齢化とともに中小零細農家の淘汰(とうた)が進んでいる。2005年に208万5000あった農業経営体数は、2020年には109万2000まで半減している。この間、10ヘクタールを境にして中小零細農家の淘汰が急速に進んでいる。 ●農村維持難しく こうした状況の下、2024年5月に食料・農業・農村基本法の見直しが行われた。だが、この改正基本法は矛盾だらけだ。同法は、従来の大規模化による農業の生産性向上政策を前提としており、それでは農家数がますます減少し、農村コミュニティーの維持は困難になっていくからだ。リーマンショックに伴う円高によって、工場が次々に海外移転した。加えてアベノミクスが先端産業化を失敗させた。これまで工場誘致政策に伴って零細農家も兼業化で生き残っていけたが、その条件が失われると、皮肉なことに、かねてから農水省が意図していた大規模化が急速に進んでいる。だからといって、農家経営が楽になったわけではない。アベノミクスは実質賃金低下とデフレに伴って農産物価格の低迷をもたらす一方で、円安インフレによって、農薬・肥料・飼料・燃料の輸入価格が上昇して、農業経営を圧迫しているからだ。農家の経営困難を救う所得政策が不可欠だ。改正基本法は、ITを使ったスマート農業技術を使って規模拡大を図ろうとするが、人口減少が進めば、地域で学校、病院などが維持できず、ますます人が住めなくなるだろう。ところが、定住政策もない。 ●与野党で協議を 農業と農家の衰退状況を考えれば、欧米並みの農家への直接支払いを導入することが緊急に必要である。立憲民主党を中心に、民主党時代の農家への戸別所得補償を引き継ぎ、そのバージョンアップを目指している。だが、農家への直接支払いは、もともとは石破首相が農相時代に行っていた主張であったはずだ。一方、かつての民主党政権は戸別所得補償制度から農協を排除するように動いた。農協に独占させるのは間違いだが、排除することも誤りだった。与野党伯仲時代なのだ。政党の狭い利害を超えて、農村の危機的状況を踏まえて農業者の利益本位に考えて、真剣に与野党で協議すべき時ではないのか。 *1-2-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/282099 (日本農業新聞 2025年1月15日) 水稲再生二期作広がる 温暖化、米価上昇で脚光 温暖化で水稲の生育可能な期間が延びる中、生産現場で再生二期作が広がってきた。温暖な西日本で取り組みが先行してきたが、東日本の主産地でも米を安定調達したい卸業者も参画した試みが動き出している。産地からは「米価の回復もあり、機運が高まっている」との声も上がる。「二番穂の再生が旺盛で関心を持った」と、2024年産で1ヘクタールで再生二期作を行ったのが島根県の農事組合法人ふくどみだ。早生品種を4月下旬に移植。8月下旬に1度目の収穫を行った後に追肥、11月下旬に二番穂を収穫した。10アール収量は二番穂が192キロで、全体で762キロを確保した。「水はけが悪く転作が難しい田で、水稲で2回収入を得られるのは有望」とみる。東海地方のある農家は24年産で「コシヒカリ」約100ヘクタールで取り組んだ。二番穂の10アール収量は、一番穂を早く刈り、水を入れた田で約60キロ。「特に24年産は米価が良かったからか、周りでも取り組む農家が多かった」。二番穂を収穫しても、収穫せずにすき込んでも「労力は大差ない」と話す。関東でも取り組みが始まった。茨城県のJA北つくばは24年産で、「にじのきらめき」など約1ヘクタールで実証に乗り出した。同品種の10アール収量は2度の収穫で計712キロ。25年産は4ヘクタールに広げる。実証には大手米卸の木徳神糧も参画。農家の減少が進む中、同社は再生二期作を「米の安定調達に向けた一策」とみる。他産地での展開も検討する。現場で実践が広がる中、農研機構は23年に研究成果を発表。福岡県内の試験では、「にじのきらめき」の10アール収量は2回の合計で950キロ。一番穂を地際から40センチと高く刈ることで地上部に栄養を多く残し、二番穂の収量を確保できるとする。一方、「長い目で見れば地力が落ちて機械代もかさむ。一番穂をより多く取る方が生産コストでは優れる」(別の東海地方の農家)と、慎重な声もある。農水省によると、二番穂から収穫した米であることを理由にした流通上の規制はなく、通常の米と同様に販売できる。イネカメムシの栄養源を田に残さないよう、通常の作型も再生二期作も収穫後は速やかに耕し、すき込むことも重要になる。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250201&ng=DGKKZO86463210R00C25A2EA2000 (日経新聞 2025.2.1) 「コメ騒動」消費者置き去り 値崩れ対策に偏重、備蓄放出「口先介入」でようやく流通増 価格上昇一服 政府が緊急時用に備蓄しているコメを柔軟に放出する体制をようやく整えた。店頭からコメが消えた昨夏の「令和のコメ騒動」から半年、価格高騰に背中を押されてのことだった。後手に回った背景には米価が下がりすぎないよう生産抑制に重点を置き、消費者への意識を欠いてきた長年の農業政策のツケがある。政府が24日に放出準備を表明すると上昇傾向が続いていたコメ相場に変化が表れた。堂島取引所(大阪市)に上場するコメの値動きに連動した指数先物「堂島コメ平均」の31日の終値は、発表前の23日終値から1.6%安だった。日本経済新聞が集計する卸間取引価格は31日時点で、新潟コシヒカリが1月中旬比3%高の4万8500円前後(60キログラム)。昨年末から1月中旬まで3割上昇していた勢いが鈍化した。コメ卸の取引担当者は「24日以降、売り物がかなり増え値上がりが止まった」と話す。備蓄米の放出で値下がりするのをにらんだ対応とみられる。足元の値上がりがこのまま落ち着く可能性はあるものの、備蓄米の放出は対症療法でしかない。そんな手法に踏み切るのにさえ時間がかかるのは、流通を急に増やして米価が値崩れすることを過度に警戒してきた長年の政策があるためだ。象徴的なのは国が主導して生産量を抑える生産調整(減反)だ。1960年代半ばから起きたコメ余りを受けて導入して以降、コメの供給が多すぎて価格が下落するのを防いできた。93年の冷夏による大凶作で供給量が足りなくなる「平成のコメ騒動」が発生しても大きな変化はなかった。政府は2018年、農家や生産者の自主性を重んじるべきだとの判断に転じ、主食米の生産量を都道府県に指示するのをやめた。減反の廃止と呼ばれるが、現実には農林水産省内でも「事実上の減反は今なお残っている」といわれる。理由の一つは農家にコメから麦や大豆、飼料用米へ転作を促す補助金があるためだ。「水田活用の直接支払交付金」と呼ばれる制度の予算は2015~23年の間、年平均3200億円ほどの横ばいで推移する。18年の減反廃止後も減っていない。もう一つは政府が産地ごとの農家やJAなどに需給見通しに基づく生産量の「目安」を示す仕組みが残ったことだ。かつての国が都道府県に生産量の上限を提示する制度はなくなっても、この目安が一定の生産調整につながりやすい。需給見通しは将来の推計人口や1人あたりの消費量といった統計から算出する。昨年のようなインバウンド(訪日外国人)の急増による需要の広がりは織り込まれておらず、需給バランスが崩れたときの対応は難しい。減反による副作用の影響も響いている。減反には農家の収入を安定させる目的があったが、生産調整と引き換えに受け取る補助金収入に依存する零細農家が多くなった。担い手不足や収益の悪化を理由にコメ農家は減っている。農水省によるとコメ農家は20年時点で69万9000戸と10年前から39.7%減った。農家の81.7%は兼業農家が占め、2ヘクタール未満の小規模な経営体が多い。農地全体も減少が続く。田の面積はピークだった1960年代に比べ3割減った。耕作放棄地も広がっており、国内の食料生産能力は弱体化が止まらない。生産効率化に向けては大規模化が必要になる。コメの生産コストは0.5~1ヘクタールで60キログラムあたり2万円を超える一方、15~20ヘクタールは1万円強と半分になる。15ヘクタール以上のコメ生産者は10年間で8割増えたものの、経営体全体の1.7%ほどに過ぎない。効率的な生産体制をつくるための予算は多くない。たとえば「農地バンク」と呼ばれる農地中間管理機構を活用して農地集積・集約などに取り組む予算は過去10年の累計で755億円。転作を促す「水田活用の直接支払交付金」の単年の4分の1に満たない。三菱総合研究所は23年の提言でコメは40年に「自給は維持すら難しくなる」と警鐘を鳴らした。コメや小麦といった主食穀物の輸入依存度を現状のまま維持するには113万ヘクタールの耕地が「死守すべきライン」だと試算し、大規模や中規模の農家を増やすよう主張する。米国農務省が1月に発表した需給見通しでは世界のコメ生産量は24~25年度で年間5億3287万トンの見込みだ。このうち輸出に回るのは1割ほど。日本国内で供給不足に陥ったときに輸入で補うのは簡単ではない。食料安全保障の観点からも国内生産基盤を強化していくことが欠かせない。昨夏からの「コメ騒動」について政府は当初、秋に新米が流通すれば品不足は解消されると説明していた。新米が出ても卸などは予定の数量をなかなか確保できなかった。流通量の不足感から買い姿勢を強める悪循環が起き、コメ価格は高止まりの状態が続いた。繰り返さないためには生産抑制にとらわれすぎる政策からの脱却が重要となる。 ▼備蓄米 政府は不作に備えて一定量のコメを買い上げ、備蓄米として保管している。10年に1度の不作や、不作が2年連続して発生しても対処できる水準として100万トン程度を目安に保存している。毎年20万~21万トン程度を買い入れ、最大5年間保管する。期間を過ぎたら飼料用などとして売却する。低温倉庫で保管し、大部分を玄米で蓄える。備蓄米の入れ替えに伴う売買差損も含めると、2023年度決算で備蓄米制度の運営には478億円の国費がかかった。災害時でも迅速に食料を供給できるように一部は精米状態で保管している。農林水産省は精米備蓄について「15度以下で保管した場合、精米後12カ月経過しても食味は大幅に低下しない」との分析結果を示している。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250207&ng=DGKKZO86589020X00C25A2MM0000 (日経新聞 2025.2.7) 消費支出、昨年1.1%減 2年連続マイナス 12月は2.7%増 総務省が7日発表した2024年の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は月平均で30万243円と物価変動の影響を除いた実質で前年比1.1%減少した。食料品などの物価上昇が消費の重荷となった。認証不正問題による出荷停止の影響で自動車購入が減り、2年連続で減少した。同日発表した24年12月単月の消費支出(2人以上世帯)は35万2633円と実質2.7%増加した。自動車の購入が増えたことなどから5カ月ぶりに増加に転じた。3カ月移動平均でみた支出も0.5%のプラスに転じたことから「食料品の節約志向が続くものの、足元では消費に回復傾向がみられる」(総務省)としている。2024年通年は支出の内訳に占める比率が高い食料が0.4%減と5年連続で減少した。天候不良の影響で値上がりした野菜や果物の購入が減った。2人以上世帯の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%と、1981年以来43年ぶりの高水準となった。交通・通信も4.1%減だった。品質不正問題による一部自動車メーカーの生産や出荷の停止の影響で新車販売が落ち込んだほか、通信では低価格帯プランへ切り替える人が増えたことなどから支出が減った。暖冬で冬場の暖房利用が減ったことなどから光熱・水道も6.8%減少した。24年の勤労者世帯の実収入は実質1.4%増の63万6155円だった。 *1-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1400829 (佐賀新聞 2025/1/31) 農水省、備蓄米放出へ転換、1年以内の買い戻し条件 農林水産省は31日、政府備蓄米の放出に向けた新制度の概要を発表した。価格高騰が続く中、大凶作などに限っていた方針から転換する。1年以内に同量を買い戻すことを条件とし、全国農業協同組合連合会(JA全農)などの集荷業者へ売り渡す運用を想定。民間在庫を正確に把握するため、調査対象を農家や小規模な卸売業者などにも広げる考えだ。農水省が備蓄米運用を定めた基本指針の変更案を同省関連部会に示した。著しい不作といった従来の基準に加え「円滑な流通に支障が生じる場合」にも放出を認める。売り渡し価格や数量などの詳細は今後検討する。実施されれば、供給量が増え価格低下につながる可能性がある。方針転換の背景には、昨夏以降に激化した集荷競争がある。2024年産米の収穫量は前年から18万トン増えたが、主要な集荷業者の昨年11月末時点の集荷量は17万トン減った。コメの先高観を見越した小規模業者や農家が、在庫を抱え込んでいるためとみられる。新制度では、政府が申し出のあった集荷業者に備蓄米を売り渡し、不足している卸売業者向けの販売に充ててもらう。卸売業者を通じ、コメを扱うスーパーなどの小売店に供給される見通しだ。関連部会に先立ち、江藤拓農相は31日の閣議後記者会見で「生産量は増えたのに市場に出てこない」と指摘。店頭価格の高騰を踏まえ、昨年末から備蓄米放出の議論を始めていたことを明らかにした。農水省は併せて、最新のコメの需給見通しを31日に発表した。25年6月末の民間在庫量を、昨年10月に示した見通しから4万トン少ない158万トンに下方修正した。過去最低だった昨年の153万トンからは微増するものの、2番目に低い水準。需要が増えれば、品薄が再発する懸念もある。備蓄米 著しい不作など緊急時に備えて国が保有しているコメ。1993年の大凶作「平成の米騒動」をきっかけに95年から制度化した。適正な備蓄量は100万トン程度が目安で、近年は91万トンで推移している。約5年間、全国にある民間倉庫で保有した後、飼料用などとして販売しており、毎年20万トン程度を入れ替える。備蓄運営は政府の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」に規定されている。 *1-3-1:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/282293 (日本農業新聞 2025年1月16日) キャベツ周年供給確立 スマート技術組み合わせ 中山間地でも効率化 広島の法人 広島県庄原市の農業法人・vegeta(ベジタ)は、約130ヘクタールと全国有数規模でキャベツを周年出荷する。冷涼な県北部から温暖な県南部まで、約10カ所に農地を集約。ドローンや作業支援アプリ、自動収穫機などスマート技術を組み合わせて効率を高め、中山間地にも適した作業体系を確立している。同社は2016年度に15ヘクタールでキャベツ栽培を開始した。現在、栽培地は標高800メートルの山間部から瀬戸内海に面する低地まで県内5市に広がり、気温差を生かした栽培でリレー出荷を展開する。農地は農地中間管理機構(農地バンク)を通じて借りるなどし、1カ所当たり多少の分散はあるが10~20ヘクタール規模に集約している。大規模生産を支えるのが、スマート技術による作業の効率化だ。➀ドローン➁営農支援アプリによる作業記録の管理・確認➂自動収穫機➃QRコードを使った苗管理➄自動操舵システム搭載のトラクター――を活用。これらは、19、20年度の農水省のスマート農業実証プロジェクトで検証した上で導入した。ドローンは約20台を所有する。農薬散布ではトマトやネギ、サツマイモ、飼料作物も含め計500ヘクタール規模で活用する。搭載したカメラで撮影した畑の画像を解析して収量を予測したり、鹿対策として、赤外線カメラを搭載して飛ばして畑周りの生息域を特定し、効率的な捕獲につなげたりしている。同社では20人ほどの従業員が移植、収穫、次作に向けた農地準備の3班に分かれて作業する。円滑に作業を進めるため、作業内容の記録や確認などができるアプリ「アグリノート」を使い、各班で仕事の進み具合を共有。自動収穫機は、収穫したキャベツを機械上で数人がかりで調製・選別できる。販売先は、生協ひろしま、県内お好み焼きチェーン店約50店舗、食品スーパーと幅広く確保。生鮮用の他、カットサラダに向く加工・業務用としても出荷する。同社の谷口浩一代表は「次世代型の経営モデルを作り上げたい」と話す。 *1-3-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/285846 (日本農業新聞 2025年2月2日) 「農家の視点×企業の技術」で新組織 現場が第一、技術発展へ 中山間地の狭い農地でも効率的に作業できる農機、コストを抑えつつ環境に優しい肥料――。そんな生産現場が使いやすい農業技術の開発・普及を進めようと、全国のプロ農業経営者14人が発起人となり、新組織を立ち上げる。農機メーカーなど農業関係の企業・団体なども参加。農家の視点を取り入れた技術で、作業負担軽減や生産コスト低減など経営課題の解決を目指す。新組織は、日本農業技術経営会議(通称プラチナファーミングの会)で、3日に設立総会を開く。設立時の会員数は、農家や企業など50を見込む。設立発起人の一人、ぶった農産(石川県野々市市)の佛田利弘会長は「現場起点のかゆい所に手が届く技術を広めたい」と話す。新組織では、3年間の新規プロジェクトを毎年最大5件立ち上げ、新たな農業技術の開発に取り組む。セミナー開催などを通した技術の普及、新技術の開発に向けた課題掘り起こし、企業や研究機関と農家の契約の調整なども行う。研究機関や企業が開発した農業技術には、高い効果が期待できる一方、農家が使うにはハードルが高いものも少なくない。例えば水稲の2段施肥。環境汚染が懸念されるプラスチック被膜肥料の代替技術として登場したが、専用のペースト肥料でしか取り組めず、導入コストも高いという課題があった。新組織では、発起人が開発した通常の粒状肥料でも2段施肥ができる機械の実証を進め、普及に取り組む。場所ごとに肥料の散布量を変える「可変施肥」でも、小規模農地や中山間地でも導入しやすい農機の開発・普及に取り組む。発起人代表の尾藤農産(北海道芽室町)の尾藤光一社長は「農家が受け身ではなく、主体的に技術革新に踏み出せる風土を農業界につくりたい」と意気込んでいる。 *1-4:https://cigs.canon/article/20230118_7220.html (キャノングローバル総合研究所 2023.1.18) 農業を国民に取り戻すための6個の提言、食料・農業・農村基本法見直しを機に農政を抜本的に正せ 前回は、国民全体の利益に立って食料安全保障や多面的機能という利益を確保し向上させるためには、どのような基本原則に立つべきかについて議論した(2022年12月1日付「戦後農政を総決算せよ」)。ここでは、食料・農業・農村基本法見直しに関する論考の最後として、どのような方法で、それを実現すべきかについて、議論したい。今の農政は、基本原則だけでなく、政策手法についても、大きな間違いを犯しているからである。 ●世界標準から周回遅れの日本農政 OECD(経済協力開発機構)が開発したPSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である(PSE=財政負担+内外価格差×生産量)。農家受取額に占める農業保護PSEの割合(%PSEという)は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%と高くなっている。日本では、農家収入の4割は農業保護だということである。しかも、日本の農業保護は、消費者負担の割合が圧倒的に高いという特徴がある。各国のPSEの内訳をみると、農業保護のうち消費者負担の部分の割合は、2020年ではアメリカ6%、EU16%、日本76%(約4兆円)となっている。欧米が価格支持から直接支払いへ政策を変更しているのに、日本の農業保護は依然価格支持中心だ。国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならなくなる。農政トライアングルの政治家はTPP(環太平洋パートナーシップ)交渉を「国益をかけた戦い」と表現した。その国益とは農産物関税を守ることだった。その関税で守っているのは、国内の高い農産物=食料品価格だ。これで保護しているのは農家であり、負担しているのは消費者である。日本の場合は、小麦や牛肉などのように、消費者は国産農産物の高い価格を維持するために、輸入農産物に対しても高い関税を負担しているので、農業保護のために国民消費者が負担している額は、内外価格差に国内生産量をかけただけのPSEを上回る。これに対し、輸出国であるアメリカやEUについては、輸入が少ないうえ関税も低いので、輸入農産物についての消費者負担はほとんどなく、PSEを国民負担と考えてよい。 ●市場の歪みを財政で処理する日本 農家の所得を保証するのは価格だけではない。アメリカもEUも、価格は市場に任せ、財政からの直接支払いによって、農家所得を確保している。直接支払いの方が価格支持より優れた政策であることは、(食料・農業・農村政策審議会の委員をしている経済学者についてはわからないが)世界中の経済学者のコンセンサスである。価格支持は、本来市場で実現している価格より高い価格を農家に保証しようとする。需要が減少し供給が増えるので、需給が均衡する市場では起きない過剰が生じる。日本では、政府が高価格で米を買い入れていた食糧管理制度の下で、大きな過剰が生じた。EUも同じだった。その過剰を処理するため、日本では補助金を出して減反をし、EUでは補助金を出して国際市場で処理した。つまり、価格支持では、過剰という市場での歪みが生じ、それを処理するために、財政負担が必要となるのだ。直接支払いなら過剰は起きない。アメリカなどから攻められたこともあるが、この問題に気付いたEUは1993年、価格支持から直接支払いに移行した。ただし、同じく補助金を出しても、日本は減産、EUは生産拡大という違いがあった。食料安全保障の観点からは、EUの補助金の方がはるかに優れていた。日本も1995年に食糧管理制度を廃止した際、直接支払いに移行すればよかった。しかし、減反で供給を減少させ、高い米価を維持することを選択してしまった。今は、減反によって事前に過剰米処理をしていることになる。日本の政策当局者にとって不幸だったのは、EUと異なり、日本には、高米価で発展してきたJA農協という圧力団体があったことである。なお、日本の「納税者負担」(直接支払い)が少ないことをもって、欧米の方が手厚い保護を行っていると主張する農業経済学者がいる。日本の農業保護が少ないなどと主張するなら、OECDだけでなく、世界の農業経済学者から相手にされないだろうと思うのであるが、不思議なことに、日本の農業経済学会の中には同調者がいるようである。間違いだと思っている農業経済学者もいると思うのだが、あえて波風を立てないというのが学会の良い所のようだ。日本の農業の場合、専門家の言うことも信じてはいけないのである。 ●提言①消費者に負担を強いる農政を転換しよう 基本法第2条第1項は次のように規定する。「食料は、人間の生命の維持に欠くことができないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることにかんがみ、将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」。さらに、同条第3項は、「食料の供給は、農業の生産性の向上を促進し」と規定する。つまり、基本法は、できる限り安い価格で供給すべきだとし、貧しい消費者にも配慮しているのである。しかし、自民党農林族、JA農協、農林水産省の農政トライアングルは、減反政策を強化してさらに米生産を減少させ、米価を上げようとしている。小麦よりも基礎的な食料だと思われる主食の米について、この価格高騰時にも、物価対策とは逆のことを行っているのである。 ●生活困窮者の声は審議会に届かない 食料・農業・農村政策審議会にも消費者の代表はいるが、豊かな主婦の人たちの代表者であって、貧しい人たちの代表ではない。最近の食料品価格の上昇で、生活困窮者の人たちのためのフードバンクに食料が集まらなくなっている。審議会の消費者代表委員は「多少高くても国産の方がよい」とJA農協の国産国消に同調する人だ。しかし、多少高いどころか、今の食料品価格では満足に食料を買えない人たちがいるのである。生活困窮者の声は審議会には届かない。これまで、消費量の14%しかない国産小麦の高い価格を守るために、86%の外国産小麦についても関税(正確には農林水産省が徴収する課徴金)を課して、消費者に高いパンやうどんを買わせてきた。国内農産物価格と国際価格との差を財政からの直接支払いで補てんするという政策変更を行えば、消費者にとっては、国内産だけでなく外国産農産物の消費者負担までなくなるという大きなメリットが生じる。農業に対する保護は同じで国民消費者の負担を減ずることができるのだ。 ●提言②減反を廃止するだけでよいのだ 農林水産省が努力しなくてもできる政策がある。医療のように、本来財政負担が行われれば、国民は安く財やサービスの提供を受けられるはずなのに、米の減反は補助金(納税者負担)を出して米価を上げる(消費者負担増加)という異常な政策である。国民消費者は納税者として消費者として二重の負担をしている。主食の米の価格を上げることは、消費税以上に逆進的だ。「経世済民」とは対極にある減反は、経済学的には最悪の政策である。減反を廃止するだけでよい。財政的にも3500億円の減反補助金を廃止できる。米価が下がって困る主業農家への補てん(直接支払い)は1500億円くらいで済む。サラリーマン収入に依存している兼業農家には、所得補償となる直接支払いは不要である。米価は下がる。零細な兼業農家は耕作を止めて主業農家に農地を貸しだすようになる。主業農家に直接支払いを交付すれば、これは地代補助となり、農地は円滑に主業農家に集積する。規模拡大で主業農家のコストが下がると、その収益は増加し、元兼業農家である地主に払う地代も上昇する。 ●農地の集約が進めば農村はよみがえる 都府県の平均的な農家である1ヘクタール未満の農家が農業から得ている所得は、トントンかマイナスである。こうした農家のゼロの米作所得に、20戸をかけようが40戸をかけようが、ゼロはゼロである。しかし、20ヘクタールの農地がある集落なら、1人の農業者に全ての農地を任せて耕作してもらうと、1500万円の所得を稼いでくれる。これを地代として、みんなの農家に配分した方が、集落全体のためになる。ビルの大家への家賃が、ビルの補修や修繕の対価であるのと同様、農地に払われる地代は、地主が農地や水路等の維持管理を行うことへの対価である。地代を受けた人は、その対価として、農業のインフラ整備にあたる農地や水路の維持管理の作業を行う。地主には地主の役割がある。健全な店子(担い手農家)がいるから、家賃によってビルの大家(地主)も補修や修繕ができる。このような関係を築かなければ、農村集落は衰退するしかない。農村振興のためにも、農業の構造改革が必要なのだ。国内の米産業を助けるばかりでなく、米価低下は貧しい消費者も助けることになる。食料分野では、減反廃止に勝る物価対策はない。 ●提言③私的経済の活用で国民負担を減らせ 農政は、米価が下がると市場から米を買い上げて米価を維持したり、農家に価格低下分を補てんしてきたりしている。また、2019年から、農家の所得を補償するため、価格低下や災害などで収入が減少した場合に補てんする保険制度を導入している。先物取引は、生産者にとって、将来の価格変動へのリスク回避の行為を行い、経営を安定させるための手段である。具体的に言うと、作付け前に、1俵1万5000円で売る先物契約をすれば、豊作や消費の減少で出来秋(収穫時)の価格が1万円となっても、1万5000円の収入を得ることができる。JA農協は、米が投機の対象となり、価格が乱高下することは望ましくないと主張する。しかし、投機資金で先物価格が2万円に上昇するなら、それは、農家にとっては良いことである。先物価格が上がり、農家が減反に参加しないで米を作り、出来秋に実現した米価が下がっても、農家が受け取る米価は先物価格であって、出来秋の米価ではない。先物価格が上昇すれば、生産者は生産を増やそうとするので、将来の現物価格は低下する。これは市場を安定させる。流通業者も不作で出来秋の価格が高騰しそうなときには、低い先物価格で契約をすれば、リスクを回避できる。先物市場で生産者や実需者の代わりにリスクを負担しているのは、投機家である。JA農協が先物取引に反対するのは、価格が市場で決定されるので、現在の卸売業者との相対取引と異なり、価格を操作できなくなるからである。これまで価格が低下するたびに、政府は財政負担をしてきた。そのような施策があるから、農家は試験的に導入された先物取引にメリットを感じなくなり、これを利用しようとしなかった。利用量が少ないことを主張して、農政トライアングルは先物取引の本格導入を認めてこなかった。しかし、先物のリスクヘッジ(価格安定)機能を利用すれば、価格補てんや保険制度などを行う必要はなくなる。国民負担は軽減される。 ●提言④市場を歪ませ不正を生んだ政策の是正を 2008年に汚染米による不正流通事件が発覚した。カビが生じたミニマム・アクセス米を農林水産省は糊用に売却した。安く政府から買い入れた業者が、主食用などに高く転売して、利益を得た。汚染米8368トンのほとんどが横流しされた。工業用の糊に売却するとトンあたり1万円程度だが、焼酎、あられ、せんべいなどの加工用途だと15万円、食用なら25万円で売却できる。横流しするとかならず儲かるのだ。この問題の本質は、減反政策により主食用の価格を意図的に高く維持する一方、本来主食用と同一の価格では取引されない他の用途向けの価格を安くして需要を作り出し、主食用との価格差を転作(減反)補助金として補てんしていることにある。同じ品質の米に用途別に多くの価格がつけられている「一物多価」の状況が発生するので、これに乗じた不正が発生する。不正をなくすためには、市場の歪みを生じている政策を是正すべきなのだ。 ●政府の介入がなければ一物一価は実現する しかし、農林水産省は、食糧管理制度が廃止され、米の流通規制がなくなったから、米の不正流通をチェックできなくなったとして、2009年米のトレーサビリティ法(「米穀等の取引等に係る情報の記録および産地情報の伝達に関する法律」)を作った。汚染米事件を農林水産省の組織維持に利用したのだ。しかし、2013年に中国産米や加工用米を主食用に横流しした三瀧商事事件が起きている。米のトレーサビリティ法は役に立たなかった。経済政策の基本は、その問題を生じさせている源にダイレクトに対処すべきということだ。ここでは高米価と一物多価が問題なのだ。米の需要を拡大したいなら、減反を廃止して価格を下げ、輸出用の需要を拡大すべきだ。政府の介入が無くなれば、一物一価は実現する。一物多価が生じているのは、生乳でも同じである。生乳も政府の介入を止めて一物一価を実現すれば、アジアの飲用牛乳の需要拡大に向けた生乳の輸出が可能になる。 ●提言⑤食料自給のためにも米の増産と輸出を 食料自給率が低下した大きな原因は、国産の米の価格を大幅に引き上げてその消費を減少させ、輸入麦(小麦、大・はだか麦)の価格を長期間据え置いてその消費を増加させたことだ。1960年頃は米の消費量は小麦の3倍以上もあったのに、今では両者の消費量はほぼ同じ程度になってしまった。大・はだか麦を入れると、米麦の消費量は逆転した。今では、日本人の主食は米ではなく輸入麦なのかもしれない。国産の米をイジメて外国産の麦を優遇したのだ。今では500万トンの米を減産して800万トンの麦を輸入している。高米価で米の需要が減少したので、米価を維持するために減反政策を実施している。2000年から20年以上も食料自給率を45%に引き上げる目標を掲げているにもかかわらず、2000年の40%から逆に減り続け、2021年の食料自給率は38%である。ところが、1960年の食料自給率79%も、今の38%も、その過半は米である。つまり、食料自給率の低下は、米生産を減少させてきたことが原因なのである。 ●減反廃止で自給率は目標を超える 最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止による米の増産とこれによる輸出である。平時には米を輸出し、危機時には輸出に回していた米を食べるのである。日本政府は、財政負担を行って米や輸入麦などの備蓄を行っている。しかし、輸出は財政負担の要らない無償の備蓄の役割を果たす。輸出とは国内の消費以上に生産することなので、食料自給率は向上する。現在の水田面積全てにカリフォルニア米程度の単収の米を生産すれば、1700万トンの生産は難しくはない。国内生産が1700万トンで、国内消費分700万トン、輸出1000万トンとする。米の自給率は243%となる。現在、食料自給率のうち米は20%、残りが18%であるので、米の作付け拡大で他作物が減少する分を3%とすると、この場合の食料自給率は64%(20%×243%+18%-3%)となり、目標としてきた45%を大きく超える。農政トライアングルは、食料自給率の低さを農業の保護や予算の獲得の方便として利用してきた。彼らにとって、食料自給率は低いままの方がよい。 ●日本に最も適した農産物は米だ 今回も麦や大豆の生産拡大を推進するとしている。しかし、これは1970年からの減反=麦等への転作を行ってほとんど効果がなかった政策である。また、財務省は減反の補助金を払いたくないため、水田を畑に転換するための補助金を支出しようとしている。しかし、日本に適した農産物は米である。米はグルテンフリーであるばかりか、体内で合成できない必須アミノ酸を小麦より多く含む。しかも、国産大豆には納豆などの需要があるが、国産小麦は品質が悪く生産も安定しないので、製粉業界から敬遠されている。小麦を輸入している中にあって、国産小麦は長年過剰なのである。製粉業界は農林水産省からさらに国産小麦を押し付けられるのを心配しているだろう。とるべき政策は、減反廃止=米の増産である。財政負担を大幅に削減しようとすれば、減反を廃止すべきだ。しかし、それだと財務省は自民党と正面対決となる。水田の一部を畑にすれば、その面積だけ減反補助金を払わなくて済む。財政負担軽減からすれば次善の策だが、やらないよりはましだ。このように財務省は考えたのだろう。しかし、姑息である。日本で最も優れている農産物は米なのに、それを生産できないようにしようとしている。多面的機能でも、水田の効果は畑を大きく上回る。経済学的にも正当化できない。そろそろ、国民のために真剣に食料安全保障を議論しようではないか。 ●提言⑥肥大化した農政をスリムにしよう 欧米と異なり、農林水産省は、行政が課題を細かく設定し、手取り足取り指導・支援するといったパターナリスティックな対応を行っている。このため、日本の農業施策は細かく複雑なものとなっている。農林水産省には100程度の課があり、一つの課でも多くの事業がある。ほとんどが零細な補助金による事業である。欧米の農業政策は、法律を読めばおおむね理解できる。しかし、日本の場合、法律やそれに基づく政省令には、具体的な事業や仕組みが書かれていないことが多い。その代わり、様々な補助事業ごとに、趣旨や複雑な交付条件、申請書類の様式、申請手続きや事業実施報告の方法などに関する要綱・要領という長く難解な行政文書(都道府県や団体等への通達)が作られる。農林水産省の下請け機関となっている自治体職員は、これを読み込んだうえで、農業団体や農家に事業の趣旨や仕組みを周知徹底し、補助金の申請を手助けしなければならない。これに自治体職員の膨大なエネルギーが投入されてきた。農林水産省は、自治体の職員が地域の農業振興に必要な政策を考案する時間を奪っている。農林水産省が多種多様な補助事業を作る大きな理由は、自分たちの仕事作りである。例えば、2012年から、新しく農業を始めようとする人に対し、研修期間中は毎年150万円を2年間、経営を開始すると毎年150万円を3年間、合計750万円補助する事業を実施している。さらに、新規就農支援資金(借入限度額3700万円:特認1億円、償還期間17年(据置期間5年)の無利子資金)が用意されている。 至れり尽くせりである。 ●整合性のある政策が推進できない ところが、成果はほとんど上がっていない。多額の補助をもらうことで、努力を怠たったり、農業経営に対する厳しさがなくなったりするからである。しかし、農林水産省は金を出しっぱなしで効果を検証しようともしない。この事業を廃止するつもりはない。また、様々な事業が多くの課ごとに作られるため、整合性のある食料・農業政策は推進できない。農家個人所有の田畑の整備のため、毎年1兆円規模の農業土木(基盤整備)事業が、公共事業として農家の負担わずか15%程度で実施されてきた。農家が投資してコストダウンを図っても、農産物価格が低下すると消費者はメリットを受けるが、農家は投資額を回収できなくなると考えて投資しなくなる、これが、農地整備という私的な投資を公共事業で行う根拠だった。その一方で、農産物価格を下げないことを目的とする減反に50年間で9兆円、過剰米処理に3兆円以上を投入した。しかし、農業土木の関係者としては、予算を獲得して事業を行いさえすれば、天下り先が確保できるので、農政の他の部門には全く関心を持たない。畜産についても、価格競争力向上を実現するとして巨額の財政資金を投下しながら、畜産物価格は逆に上がっている。2000万円の所得がある畜産農家を保護するため、貧しい消費者に負担を強いながら、畜産物価格を上げている。そもそも環境に著しい負荷を与えている畜産は、補助するのではなく課税すべきである。野菜、果樹、花については、関税保護もわずかで、その関税もTPP交渉の結果撤廃される。外国からの飼料に依存する畜産のように手厚い補助金もない。しかし、農地資源は、畜産以上に守っている。農政が論理破綻し複雑かつ矛盾の体系となっている今日、我々は食料安全保障や多面的機能という農政の目的に立ち返り、論理整合的でシンプルな農業政策を検討すべきではないだろうか?食料安全保障も多面的機能も、農地資源を維持してこそ達成できる。そうであれば、品目ごとの農業政策や就農補助などこまごました補助事業は全て廃止して、農地面積確保のため、農地面積当たりいくらという単一の直接支払いを行えばよい。このような単一の直接支払いは、EUが長年の改革の末到達した農業保護の姿である。 ●「何ぞ彼等をして自ら済わしめざると」 雑多な補助事業は、農家の創意工夫を削いできた。困ると農政が助けてくれるという他力本願的な経営になってしまった。前回紹介した、柳田國男、石黒忠篤、石橋湛山には、共通の尊敬する人物がいる。二宮尊徳である。また、かれらが共通して主張したのは、「自助」である。柳田國男は主張する。「世に小慈善家なる者ありて、しばしば叫びて曰く、小民救済せざるべからずと。予を以て見れば是れ甚だしく彼等を侮蔑するの語なり。予は乃ち答えて曰わんとす。何ぞ彼等をして自ら済わしめざると。自力、進歩協同相助是、実に産業組合の大主眼なり」(『最新産業組合通解』定本第28巻130ページ参照))。農地の上に、米、野菜、牧草など、何を植えるかは、農家の創意工夫に任せるべきであって、農政が口を出すべきではない。農地を利用しない輸入飼料依存の畜産には直接支払いは交付されない。農家が基盤整備などの土地改良を行いたければ、直接支払いから支出すればよい。農業土木技官がゼネコンに天下るための公共事業予算獲得運動などなくなる。農水省の組織・定員は大幅にスリム化できる。自治体職員は、こまごました零細な補助事業に悩まされなくなる。今の農政はあまりにもわかりにくく、農林水産省の職員のためのものとなっている。国民のための農政とは遠く離れている。 食料・農業・農村基本法見直しに関する筆者の論考は次のとおりです。 ・「食料・農業・農村基本法見直しの背景はなにか 政治に翻弄された農政の軌跡から見えてくる揺り戻しの正体とは」(2022年10月11日付) ・「『改悪』の結末が透ける食料・農業・農村基本法見直し 保護農政への揺り戻し図る農政トライアングルと『お墨付き』のためだけの審議会」(2022年10月21日付) ・「食料・農業・農村基本法見直しのウソとまやかし だまされないために知っておきたい本当のこと」(2022年11月02日付) ・「戦後農政を総決算せよ 食料・農業・農村基本法見直しのあるべき基本原則とは?」(2022年12月1日付) *1-5-1:https://president.jp/articles/-/47124?page=1 (President 2021/6/23) 96%は国内生産なのに「卵の自給率は10%」と農水省が主張するカラクリ、エサが輸入品なら「外国産」扱い 鶏卵の96%は国内で生産されている。しかし農林水産省の統計では「鶏卵の自給率は10%」とされている。なぜそうなるのか。東進ハイスクール地理講師の山岡信幸さんは「諸外国と異なり、日本だけがカロリーベースという計算式を使っている。だから実態と数字が異なっている」という――。 ●品目別で見れば自給率の高い農産物も多い 日本は主食であるお米の一部をアメリカ合衆国などから輸入しています。ただし、輸入分は加工用などに回しており、食用米の自給率は100%です。では、副食、つまり肉や野菜など米以外の農畜産物の自給率はどうなっているのでしょうか。過去の推移も含めて確認しておきましょう。図表1を見てください。太線で示した総合食料自給率は、1960年の79%から、2018年の37%まで、半分以下に低下しています。もし食料輸入が全面的にストップすれば、1日1食になってしまう(?)という数値ですね。しかし、先述の主食の米に加え、鶏卵・肉類・牛乳などの畜産品、野菜、魚介類など多くの食料の自給率はその数値を上回っています。足を引っ張っているのは小麦などの穀物や大豆などに限られます。なぜ「総合」になった途端に数字が低くなるのでしょう? ●品目別と総合で異なる自給率の計算基準 これには「からくり」があります。品目別の自給率は重量によって計算していますが、総合食料自給率は熱量(カロリー)をベースにした計算なのです。重量当たりの熱量が小さい野菜や果実をたくさん国内で作っていても、熱量の大きい小麦や大豆の輸入が多いため、総合の自給率は低くなっているのです。そのうえ、鶏卵・肉類・牛乳など、飼料(餌)で育てたものは自給分に含まれないことになっています(飼料作物の代表格とうもろこしの自給率がグラフには出てきませんが、ほぼ全量を輸入しており、事実上0%です)。国内の畜産農家が牛や豚や鶏を育てる手間ひまは自給率の分子にカウントされないのです。さらに、この総合食料自給率で分母となるのは、私たちの摂取熱量ではなく供給熱量なのです。つまり国産と輸入の合計から輸出分を差し引いたもの、国内市場に出回った農産物の熱量全体ということです。ということは、莫大な食品ロスも分母に含まれています。日本では、ごくわずかに販売期限を過ぎただけで、推定で140万食分以上のコンビニ弁当が毎日廃棄されているそうです(ジャーナリスト井出留美氏のYahoo!ニュース個人の記事「『24時間営業』だけが問題?全国推定143万個分の弁当を毎日捨てるコンビニはなぜ見切り販売しないのか」による)。先進国では、このような「フードロス」が問題になっており、各地のフードバンク活動でその有効利用が図られるほどです。 ●分母は大きく、分子は小さく 日本人1人1日当たり供給熱量は約2400キロカロリーですが、摂取熱量は約1900キロカロリーですから、2割くらいが廃棄されています。1970年代以降、産業構造の変化によって肉体労働は減少し、日常生活でも自動車利用の増加など利便性の向上で運動量は低下しています。健康志向から「カロリーひかえめ」が好まれる現代では、もう私たちはそれほど多くのカロリーを摂取しないのです。もし、実際に摂取している熱量を分母に計算すれば、自給率は約50%にアップします。このように、分母はなるべく大きく、分子はなるべく小さくなるように計算されたのが「総合食料自給率」なのです。供給熱量ベースで自給率を計算している国は世界的に見てごくわずかであり、一般的には生産額ベースで計算されています。日本の生産額ベースによる食料自給率は66%(2019年)となり、供給熱量ベースの2倍近くに跳ね上がります。保護政策で価格を維持している米や、品質が高く消費者の嗜好に合わせて生産される野菜・果実など、単価の高い農産物の自給率が高いからですね。 ●「自給率の低さ」を強調したい 農林水産省が供給熱量ベースの自給率を公表し始めた1983年といえば、日米貿易摩擦を背景に米国から農産物輸入の自由化が強く求められていた時期です。「外国の安い農産物が大量に輸入されれば、日本の農業は崩壊、食料自給率はさらに低下、国際情勢によって飢餓が訪れる!」と国民の不安感に訴えるには、「今でも自給率はこんなに低い」というアナウンスが必要だったのでしょう。考えてみると、もし海外からの輸入が完全にストップすると、自給率の分子(国内生産)と分母(総供給)は同じになって、食料自給率は100%です。もちろんそれは望ましい状態ではありません。「食の安全保障」という観点から考えるならば、むしろ安定的な食料輸入を可能にする国際関係の確立を図るべきだし、日本農業の振興という観点からは高品質で競争力の高い野菜や果実などの輸出を拡大すべきでしょう。国産農産物にこだわって「食料自給率をできるだけ高めなければならない」という政策目標は、必ずしも正しいとはいえないのではないでしょうか。 ●外国産の卵をスーパーで見ない理由 ところで、先ほどのグラフで品目別に自給率の推移を見ると、さまざまな背景が読み取れます。たとえば、今も自給率96%を維持する鶏卵。新鮮さを求められるが卵自体の冷凍はできず、割れないように長距離輸送するのも困難です。そのような品目の特性上、あまり貿易には向いていませんね。だからほとんどが国産なのですが、それでも4%は輸入です。「価格の優等生」である卵は、スーパーの特売品になることが多いのですが、外国産の卵が売り場に並んでいるのは見たことがありません。実は、殻を除いて冷凍した「液卵」、乾燥させた「粉卵」などの加工品として、菓子の原料、外食産業などの業務用に輸入されているのです(図表2)。 ●進む養鶏農家の集約化と大規模化 ちなみに、卵を産む鶏(採卵鶏)の飼養をする国内の養鶏農家の戸数は年々減っており、全国で2000戸程度にすぎませんが、残った農家は飼養羽数の大規模化が著しく、10万羽以上を飼う大規模養鶏場も珍しくありません。そのような大規模養鶏場だけで、全国の飼養羽数の75%を占めています。肉用のブロイラーでも同様の傾向になっています。いずれにせよ、飼料の大半はおもに米国から輸入するとうもろこしなどです。これを考慮に入れると、卵の自給率は10%程度になってしまいます。 ●「国産野菜」にこだわる意味 鮮度を要求される点では、野菜も鶏卵と同じです。それでも、ほぼ100%だった野菜類の自給率は1980年代から徐々に低下して、現在は77%。多くは冷凍野菜などの加工品ですが、輸送機関・流通の整備によって輸入が可能になってきたことをうかがわせます。中国では、国内の大都市圏にも日本にも近い沿海部の山東シャントン省などで野菜の生産・輸出に力を入れています。ところが2002年には、中国産ほうれんそうの残留農薬が問題となり、その安全性に疑問が投げかけられました。ほうれんそうの中国からの輸入量は激減し、その後も回復できていません。その頃から、外食産業や加工食品に「国産野菜を使用しています」というフレーズを頻繁ひんぱんに見かけるようになりました。しかし、ほうれんそうはともかく、今も中国産を中心に野菜全体の輸入は増加しています。この間の飛躍的な経済成長を背景に、中国みずからの国内において都市住民を中心に安全な食品を求める要請が高まりました。法規制の強化などによって、中国農業の安全管理体制の確立は一定程度進んでいるようです。たまにスーパーで見かける中国産野菜は、大規模生産と安い人件費のおかげで国産野菜に比べてたしかに激安です。とはいえ、あの農薬騒動の記憶が残る日本の消費者としては、値段の魅力だけではなかなか手に取れません。そのため、加工用などに回される割合が高いようですから、結局どこかで口にしているのでしょう。国産にこだわる人も知っておきたいのは、日本も耕地面積当たり農薬使用量が世界トップクラスの農薬大国だということ。最近では、発がん性が疑われる除草剤グリホサートや、生態系への影響が指摘されるネオニコチノイド系農薬などについて、使用禁止に向かう欧州連合(EU)などの潮流に逆行して日本では規制が緩和されています。国産=安全は本当でしょうか。 *1-5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16139800.html (朝日新聞 2025年2月1日) 卵1キロ卸価格、東京で300円超 23年7月以来 鳥インフルエンザの急増の影響で、卵価格が上昇している。卵の卸売価格の目安となるJA全農たまごが31日に発表した東京地区のMサイズ1キロあたりの値段は305円で、1月上旬から80円上昇した。300円超えは、過去最悪の被害の影響が続いていた2023年7月以来の水準。大阪地区は同290円、名古屋地区は同320円だった。31日時点で、今シーズン(24年秋~25年春)の鳥インフルエンザは14道県で48件発生、約911万羽が殺処分の方針となっている。特に年明けから急増し、1月は過去最大だった22年のシーズン(22年秋~23年春)の発生件数、処分数を上回り、特に千葉県、愛知県に集中している。22年のシーズンは過去最大の鳥インフルエンザが発生し、26道県で84件、約1771万羽が処分された。この影響で、東京地区の卸売価格が350円となり、「エッグショック」とも呼ばれた。江藤拓農林水産相は31日の閣議後の会見で、「特に1月に入ってからは異常な事態。いよいよ価格の面で顕著になってきた。22年のシーズンは(卸売価格が)350円まで値上がりしたが、そういう事態は何としても避けたい」と述べた。 <森林と林業の重要性> *2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS573F9BS57OXIE02LM.html (朝日新聞 2024年5月16日) 東京都が買い続ける森 世界的探検家は言う「都民は恵まれている」 始まりは1901年、譲り受けた8460ヘクタールの森だった。最近では2022年度までの10年間で3500ヘクタール以上を購入。東京都はいまも森林を買い続けており、計2万5千ヘクタールを所有する。その面積は都の10分の1以上にあたる。いったいどこに。そして、なぜ。実はその6割が隣接する山梨県にある多摩川上流域の森。そう、この水源林こそ、都が120年以上にわたって守ってきた東京の水のふるさとだ。蛇口をひねれば、すぐに水が飲める――。1960年代に利根川・荒川水系が上水道に本格利用されるようになるまで、多摩川は都民にとって「命の川」だった。そんな水源地の荒廃を憂えた東京府(当時)が自ら管理を始める。植林を進め、土砂の流出や災害を予防し、きれいな水を確保することが目的だった。「森が守られてこそ水の量と質が保たれる。多摩川は世界のモデルといえる存在です」。世界に名だたる川の源流地域を訪ね歩き、2023年の「植村直己冒険賞」を受けた探検家、山田高司さん(66)はそう断言する。 ●守り続けて120年 ボランティアも 今年3月、筒井和行さん(80)=東京都東村山市=は高さ約20メートルのヒノキの上にいた。山梨県小菅村の森の中で、慣れた手つきで不要な枝を切り払った。ここは都が管理する森林ではない。ただ、地権者の同意が得られれば、源流域の保全のため、間伐や枝打ちをしている。担い手は筒井さんのようなボランティア「森林隊」だ。せっせと植林した昔と違って、いまは切られないまま放置された山林も多い。日が差し込まないことで木や草が育たず、土がむき出しになれば、大雨の際に大量の土砂が貯水池に流出し、水を汚しかねない。「水に関心があるし、山をきれいにしたい。若いとき、趣味の登山で自然によくないことをした罪滅ぼしでもあるんです」。そんな思いから筒井さんはこれまでに300回以上、「森林隊」の活動に参加してきた。 ●多摩川の「最初の一滴」を訪ねて 東京湾から西へ138キロ。山梨県甲州市にある笠取山(1953メートル)の山頂付近の岩場が、多摩川の源流とされている場所だ。「水干(みずひ)」と呼ばれ、最初の一滴がしたたる。4月末、その水干を目指して山を登った。先人たちが苗を植えたカラマツ人工林やミズナラといった天然林に覆われ、静けさと美しさを保っている。残念なことに滴は見られなかったものの、水干から下ってすぐのところで、大河に注ぐ最初のせせらぎに出会えた。清らかな流れに手を浸すと、かじかむぐらいに冷たかった。ここを訪れたことがある山田さんの目に焼き付いている光景があるという。1981年に訪ねたアマゾン川源流域のすさまじい森林破壊だ。燃料の薪にするため切り尽くしたり焼き畑にしたりして、一帯が丸裸になっていた。いま世界を見渡せば、各国政府主導の緑化の取り組みは遅々として進まず、地球温暖化もあいまって森林面積は減り続けている。それに伴う水不足も深刻だ。そんななか、都やボランティア、さまざまな人たちの努力もあって、多摩川源流域は1世紀以上にわたって守られてきた。いまも東京における上水道の約2割は多摩川水系が担う。「都民は恵まれている」と山田さん。だからこそ、訴えたいことがある。「もっと水に、もっと森に、もっと環境に関心をもってほしい」 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS6L2R5MS6LUJUB001M.html (朝日新聞 2024年6月19日) クマ被害多発で保護から管理へ 野生動物と人間が共生するには ●2030 SDGsで変える 近年、日本でクマによる人身被害が急増しています。昨年度は被害者が219人(うち死者6人)と過去最多に。一方で、シカやイノシシといった他の野生動物による農業や林業などへの被害も深刻です。SDGsでは生物多様性を保ちながら「陸の豊かさも守る」ことを目指しています。野生動物と人間がどう共生すべきか。被害が多い北東北で、現状と課題を探ります。 ●木の芽やドングリ食い尽くすシカ・イノシシ 5月上旬、岩手県花巻市の山林に、花巻市猟友会の猟師約10人が集まった。猟期は終了しているが、市から有害駆除の委託を受けて、シカを捕獲するためだ。シカを追いあげる「勢子(せこ)」と、猟銃で仕留める「立ち」に分かれて、山中に分け入る。「ここが獣道。踏み固められて、足跡もついているでしょう」。猟友会会長の藤沼弘文さん(78)が斜面を指さした。素人目には見極めが難しい。藤沼さんは獣道の近くで、すぐシカを撃てる態勢に入った。例年、この時期はまだ山に雪が残っていた。だが、暖冬の影響で雪解けが早く、すでに草木が生い茂っている。猟師たちは「シカを探すのが難しい」と顔をしかめた。藤沼さんの携帯電話が鳴った。「温泉街でクマが出た」という市からの連絡だった。山に来ていないメンバーに連絡して、現地に向かってもらった。クマの出没が多発した昨秋には、1日に何件も出動要請があったという。昨年度、岩手県ではクマによる人身被害が49件発生。秋田県に次いで多く、過去最悪の数字となった。今年度も、秋田や岩手ではすでに人身被害が発生している。クマを徹底的に排除してほしい――。被害が多発する地域を中心に、そんな声が高まっている。国は今年、捕獲や調査に国の交付金が出る「指定管理鳥獣」にヒグマとツキノワグマを追加し、これまでの保護政策から管理の方向へかじをきった。だが、半世紀以上山を歩いてきた藤沼さんは危機感を抱く。急増するシカなどへの対策が進まないまま、クマの駆除ばかりが注目されていると感じるからだ。「イノシシやシカが木々の芽やドングリなどを食い尽くした影響で、クマは人里に出るようになったのでは」と藤沼さんは語る。同猟友会では「クマとの共存を考える手帳」を独自で発行し、クマによる被害にあわないために人間がすべきことや、猟友会が近年、シカやイノシシの駆除に追われている現状などを伝える活動もしている。県によると、県内のクマの生息数は、2020年度末で推定3700頭。一方、22年度のシカの生息数は推定約10万2千頭だ。シカは江戸時代に県北部まで広く分布していたが、明治以後の乱獲で姿をほぼ消し、長らく保護される対象だった。それが1970年代から爆発的に増え、20年度以降、県内では狩猟と猟期以外の有害鳥獣捕獲分と合わせて年2万頭以上のシカが捕獲されているが、一向に減らない。 ●個体数把握し対策講じる専門家の育成を 大型野生動物の専門家である岩手大の山内貴義准教授は「シカは植林した苗木や希少な高山植物までも食べ尽くし、林業や自然生態系への深刻な影響が懸念されている」と話す。イノシシは県内では明治末期に一度絶滅したとみられるが、10年代から生息域が広まり、22年度の捕獲数は979頭にのぼった。山内准教授は「シカやイノシシは、クマと食べ物が重複し、冬の間も活動するため、冬眠明けのクマの食べ物が減ったのでは。ここ数年、春先の町中にクマが出没することと無関係ではない」と指摘する。日本の野生動物管理の指導的役割を担ってきた、兵庫県森林動物研究センターの梶光一所長(71)は「人口減少の時代だからこそ、生態学、森林管理、被害防除など多様な分野を学んだ野生動物管理の専門家の育成が必要だ」と強調する。野生動物の個体数を把握・管理して、被害を未然に防ぐため、電気柵の設置といった方策を講じる――。既にその必要性は共有され、被害を防ぐための技術はほぼ実用化されているという。問題は誰が担うかだ。「国の制度や法の改正があるたびに、専門家の育成や配置が重要だとはずっと指摘されてきたのですが……」。環境省によると、昨年度、各都道府県で鳥獣対策にあたる行政職員3603人のうち、専門的な知識を有する人はわずか4.7%。加えて異動があるため、継続的な対応が難しいことも課題だ。昨年、全国で最もクマによる人身被害が多かった秋田県のように、鳥獣管理の専門職員を配置する自治体も出始めたが、まだ少数派だ。国は20年度から、東京農工大を核とした6大学と2団体で検討した野生動物管理学の教育プログラムを支援するなどして、人材育成と配置に着手したところだ。 ●絶滅させない数と地域に許容できる数 国によると、野生鳥獣による農作物被害額は156億円(22年度)で、その約6割がシカ、イノシシによるものだ。国は23年度までの10年間で、シカとイノシシの個体数を半減させる計画をたてたが、シカの目標値を達成できず、計画を5年延長した。捕獲を担うハンターの高齢化や減少が止まらないからだ。ハンターはあくまで趣味の愛好家で、地域のためにボランティアで活動している。各地でクマによる人身被害や目撃情報が急増する中で、現場で対応にあたる人材が圧倒的に不足している。北海道では、自治体からのヒグマ駆除の要請を辞退する猟友会もでている。梶さんは「日本は明治時代にドイツから森林学や狩猟学を導入した。そのドイツでは、教育機関が森林管理と狩猟学を一体で教え、国が森林と狩猟を一体で管理する。趣味の狩猟とは別に、専門的な捕獲者がいる。人口減の時代だからこそ、日本でもそういった専門家が必要だ」。そのうえで梶さんは「地域社会での合意形成」が大事だという。クマの場合、地域ぐるみでゴミを外に放置しないといった対策をしたうえで、人里に居ついた個体は排除する必要がある。「専門家と地元の人が『クマを絶滅させないための生息数』と、『地域にどのくらいの数のクマだったら許容できるか』を十分に話し合い、納得することが大事。正解は一つではない。要は私たちが自然とどう向き合うか、その地域をどう持続させるかを自身で決める必要があるのです」 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250202&ng=DGKKZO86466890R00C25A2TYC000 (日経新聞 2025.2.2) <科学で迫る日本人> なぜ縄文に農業始まらず?管理もとに共生植物が食料に 日本列島には食料になる植物がいくつも持ち込まれた。弥生時代に稲作が普及する前にも農耕とまではいかないが、人の管理をもとに「共生関係」が生まれ、食料につながっていた。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書「サピエンス全史」にある「小麦が人を操った」といったとらえ方とは差があるようだ。日本列島に最初に持ち込まれたイネはどんな品種なのか――。神戸大学の石川亮准教授は弥生時代初期の青谷上寺地遺跡(鳥取市)で出土したイネの籾のゲノム(全遺伝情報)を解析した結果を心待ちにする。この遺跡の籾は水につかっていたためDNAの保存状態がよく、解読できる可能性があるという。イネの研究は進み、もち米かうるち米か、赤色か白色かを決める遺伝子などゲノムの特徴が分かってきた。石川氏は「出土した籾のゲノムをもとに今のイネを品種改良して当時のイネを再現したい」と意気込む。現在のイネは品種改良が進んだもので、当時の社会をはかるにも当時の収量の把握などは重要になる。注目するイネの特徴の一つが、稲穂からの籾の落ちやすさ「脱粒性」だ。時代とともに遺伝子が変異して脱粒性が変わり、今の姿になったのかもしれない。現代の稲作では籾が落ちにくいことで栽培しやすいが、昔は落ちる方が都合がよかった可能性もある。人が栽培することによる遺伝子や形質の変化を「栽培化」という。西アジアの麦、東アジアのイネなどが代表例だ。様々な植物のゲノム解読が進み、栽培化の実像が明らかになりつつある。栽培植物を利用する「農耕」が中心的な役割を果たす農業社会へと進んだ経緯に迫ろうとしている。弥生時代に稲作が広がるまではクリやドングリを主体とした採集や狩猟、漁労で食料を得ていたといわれる。イネとともにアワやキビが伝わったころ、中国北部では雑穀を中心とした農業社会が起きている。日本ではどうなのか。東京大学の米田穣教授らは縄文時代晩期末の七五三掛遺跡(長野県小諸市)から出土した縄文人の骨のコラーゲンの炭素同位体などを解析し、アワやキビを食べていたことを明らかにした。ただ主食のレベルではなかった。縄文時代の畑は確認されておらず、農業社会には至っていないと考えられている。米田氏は「縄文人は食料生産のために自然を改変する発想がなかったように見える。存在するものを管理して収穫増をはかるが、植物を育てるために田畑を作るという発想はなかったのではないか」と指摘する。縄文人の遺跡やその周囲からはクリの花粉が集中して見つかっている。つまり縄文人は周囲をある程度管理していたと考えられている。そこでヒエやマメ科のダイズやアズキの栽培化が進んだ可能性がある。当時を確かめようと、岡山理科大学の那須浩郎准教授らは真脇遺跡公園(石川県能登町)で再現実験を進めている。那須氏は「畑を作らなくても、草刈りをして火入れをするだけで、アズキを増やすことができたのではないか」と話す。実験ではこの方法でアズキの原種のヤブツルアズキを収穫する。こうした簡単な行為だけで、耕起を伴う栽培に負けない収量を得られるとみている。「縄文人は有用な植物の生息環境を構築するという農耕民とは全く別の方法で野生のアズキを維持・管理していたのかもしれない」(那須氏)。従来、栽培化と農業は同時期に起きたと考えられていた。だが、遺跡から出土する植物の栽培化の証拠を年代ごとに調べることで、ずれがあることが分かってきた。栽培化は数千年かけて起きていた。急に農業が確立されたわけではなく、徐々に進んでいたわけだ。農耕というほどではなく、食料の獲得手段の一つとして、管理した土地の周辺のものを採集していた時期があったと考えられている。そこでは人と植物のどちらか一方ではなく、双方が利益を得る「相利共生」の関係があり、人が意図しない形で「共進化」が起きていた可能性がある。例えば、マメ科は縄文時代中期以降に大型化が進んだことが分かっている。「ごみ捨て場で自然に育ったマメのうち、日光にあたりやすい大きな苗が生き残って増え、大型化が進んだのかもしれない」(米田氏)。従来の考古学では、地球の寒冷化や人口増加といった圧力をもとに人類の活動の変化を説明する「ストレスモデル」で考える傾向が強かった。そこから離れ、もっと違う理由を考えるのが今の流れだ。植物にも遺伝的な特徴から、栽培化が起きやすい種類があったかもしれない。例えば、染色体のセット数が少ないタイプは多いものに比べ、1つの遺伝子変異による形質の変化が起きやすい。縄文時代に農耕が起きなかった要因は食糧資源の多様さや堆肥作りに適した家畜の不在など多面的な検証がいるが、共生関係に迫ることで当時の社会が見えてくるだろう。 <その他の人手不足業種について> *3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/AST220466T22UTNB00HM.html?iref=comtop_7_05 (朝日新聞 2025年2月2日) 道路陥没事故、本格的な救助至らず 「時間要する可能性高い」と知事 埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故は2日夜になっても、本格的な救助活動には至っていない。穴の内部に水がたまり、周囲の地盤も不安定で、崩落による二次被害の可能性を否定できないためで、消防は救援隊が穴の中に入り、運転手を捜索する活動には当面移れないとみている。関東地方は2日、気温が下がり、雨天になった。八潮市内でも雨が断続的に降るなか、現場ではショベルカーなどの重機やトラックが行き来していた。1日朝に完成した救助活動を進めるためのスロープ(傾斜路)の強度を強めたり、土囊(どのう)を入れたりする作業を続けた。県などはスロープの完成を受けて、本格的な救助活動を進める予定だった。だが、穴の内部の水位が上昇したことから、消防は隊員らの安全を確保するため、1日夕からスロープの先にある穴に下りての救助活動を中断している。県などは今後、穴の内部の水位を低下させるため、ポンプ車での排水を進める方針。水のない方向にスロープを延長することも検討するという。陥没した箇所には土砂や岩のほか、コンクリート製の箱形の構造物があるという。県によると、破損したとみられる下水道管の水の流れが悪くなっていることから、管内になんらかの異物があるとみて、ドローンなどを使って調査する方針だ。県によると、事故発生から6日目を迎え、穴の大きさは直径31メートル、深さ16メートルにまで広がっている模様だ。運転手の70代の男性が閉じ込められた運転席は土砂などに埋もれて確認できていない。大野元裕知事は2日の県危機対策会議で、「救出や復旧までさらなる時間を要する可能性が高い」と説明。その上で「12市町120万人や事業者の協力のおかげで、下水の流入は下がっているものの根本的な解決には至っていない」と述べた。県は引き続き、洗濯や風呂の使用をできる限り控えるよう呼びかける。 *3-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250209-OYT1T50061/?utm_source=webpush&utm_medium=pushone (読売新聞 2025/2/9) 転落した運転手の捜索活動、30分で打ち切り…手掛かり見つからず今後の予定なし 埼玉県八潮市の県道が陥没し、トラックが転落した事故で、消防は9日朝、安否不明となっている70歳代の男性運転手の重機での捜索を再開したが、約30分で打ち切った。手がかりが見つからなかった上、さらなる崩落による二次被害の懸念が高まったため。消防によると、作業は午前7時半頃に始まり、消防隊員約20人が重機でがれきや土砂をすくう捜索作業に参加した。ただ、運転手の居場所などに関する手がかりが見つからなかった上、捜索範囲を広げるとさらなる崩落を招く恐れがあり、約30分で終えた。消防は今後の穴内部での捜索は予定しておらず、運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内の捜索などを検討するとみられる。事故は1月28日午前9時50分頃に発生。交差点の中央付近が陥没し、トラックが転落した。運転手とは同日午後1時頃に消防隊員と会話して以降、連絡が取れない状況が続いている。消防による捜索は今月1日夜、穴内部で水が湧き出ていたことなどから中断していた。事故現場は土壌がもろく、断続的に下水とみられる水が流れ込んでいることなどから、陥没の穴が拡大。県は穴につながる緩やかなスロープ2本を造成し、周辺で土壌改良を実施するなど、捜索活動に向けて大規模な工事を続けてきた。 *3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/385007 (東京新聞 2025年2月10日) 埼玉・八潮の道路陥没、穴の中での捜索は断念 不明男性の手がかり求め地表から細い穴、下水管の中を捜索へ 埼玉県八潮市の道路陥没事故で、消防は9日、行方が分かっていないトラックの男性運転手について、穴の中での捜索を終了したと明らかにした。今後は下水管内の捜索に軸足を移す。県は10日、管内を常時監視する機材を投入するため、地表に細い穴を開けた。消防や県によると、崩落の恐れがあった地表近くのコンクリート管を8日までに撤去。9日朝、重機で土砂をすくって男性を捜したが、手掛かりは得られなかった。さらなる土砂崩落の恐れもあるため、捜索は30分ほどで中止した。下水管は地下約10メートルにあり、直径は約4.7メートル。ドローンによる管内の調査で、現場の下流100~200メートルの地点でトラックの運転席部分とみられる金属塊が見つかっている。地表から開けた細い穴は直径約13センチ。9~10日に地表から掘り下げ、下水管の表面を破り、金属塊近くの2カ所に通した。距離を測定できる機材や小型カメラなどを投入し、管内の状況把握を試みる。NTT東日本によると、近隣で不通になっていた固定電話400回線は9日までに全て復旧した。 *3-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16146604.html (朝日新聞 2025年2月11日) 陥没、救助見通し立たず 穴側からの活動断念 埼玉県八潮市で県道が陥没してトラックが転落した事故で、安否不明となっているトラックの男性運転手の救助が難航している。運転席部分とみられるものが見つかった下水道管内は、水流や硫化水素の影響で人が近づけない状況だからだ。県や消防は陥没した穴側からの救助は断念。新たな方法を模索するが、発生から10日以上過ぎても見通しは立っていない。5日に行われた県のドローンによる調査で、陥没地点の100~200メートル下流の下水道管(直径4・75メートル)内に、トラックの運転席部分とみられるものが確認された。一部が流水につかり、男性の姿は確認できなかったが、県や消防は男性がこの周辺にいる可能性があるとみている。さらに上流側ではがれきなどの堆積(たいせき)物が管を塞いでおり、陥没地点側は汚水であふれていた。陥没が起きたのは1月28日。当初、消防は穴の内部に隊員を入れたり、クレーンでトラックごと救助しようとしたりしたが、失敗。荷台部分は引き上げたものの現場周辺で崩落が相次いで穴が拡大し、運転席部分はがれきや土砂で見えなくなった。二次災害の恐れもあり、穴の内部での救助活動が難しくなった。その後は、下水道管の破損箇所から穴の中に汚水があふれ出してきた。県は12市町120万人に下水の利用自粛を要請したが、状況は改善しなかった。穴の中のがれきはほぼ撤去されたものの、引き続き土砂崩れの危険があるとして消防は9日、穴からの救助活動を打ち切った。現在検討しているのが、陥没地点から約600メートル離れた下流側のマンホールなどから下水道管内に下りての救助だ。ただ、管内は汚水の流れが速く、高濃度の硫化水素が発生するなど、八潮消防署の担当者によると「通常では人が入れない厳しい環境」。大野元裕知事は「消防庁、自衛隊とレスキュー方法を検討している」とするが、県からも具体的な方策はあがっていない。救助活動に詳しい元東京消防庁警防部長の佐藤康雄さんは、マンホールからの救助について、距離や水流、硫化水素などの課題を挙げ、「不測の事態が起きたときにすぐに脱出できない。安全を担保しながらの作業は至難の業だ」と指摘。運転席部分があるとみられる場所の上部を重機で掘削し、地上から直接救助する方法も考えられるというが、「土砂が崩れないように掘り進めることは難しく、下水道管に穴を開ければ、管全体が壊れてしまう可能性もある」との見方を示した。 *3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS8J3VNVS8JTLVB001M.html (朝日新聞 2024年8月17日) 自衛隊員は「即戦力」 運輸業界が退職予定の自衛官に再就職説明会 退職予定の自衛官に、次の活躍の場としてバスやトラック、タクシーの運転手を紹介する「運輸業合同説明・運転体験会」がこの夏、陸上自衛隊北熊本駐屯地(熊本市北区)で開かれた。自衛官の定年は一般の公務員よりも早く、多くは54~57歳で退官する「若年定年制」をとっている。加えて、20代から30代半ばで退職する任期制もある。いずれも、部隊の卓越した強さを維持するためだ。そのため、自衛隊は再就職の支援に力を入れてきた。今回は九州運輸局熊本運輸支局が自衛隊側に声をかけ、初開催した。大型車両の運転免許を持っている自衛官は多く、ドライバー不足に悩む運輸業界にとっては「即戦力」になるからだ。7月18日にあった体験会には、北熊本に加え健軍駐屯地(熊本市東区)や高遊原分屯地(熊本県益城町)などからも計119人が参加した。運輸業界からは、再就職した自衛官OBが説明役として登場。「健康であれば定年はなく長く続けられる。(乗客に)あいさつさえすれば、特に会話をしなくても構わない」(タクシー)、「安定した生活が送れる。地域社会への貢献という点で自衛隊と相通じる」(路線バス)などとPRした。希望者は駐屯地の構内で運転を体験した。来年5月の誕生日で退官する予定の男性自衛官(55)は「仕事でも運転をしているので、路線バスかトラックの運転手を考えている。人と接する仕事も楽しそうだし」と話す。熊本運輸支局の岩本輝彦支局長は「2024年問題で、運輸業界は慢性的な人手不足。自衛官には何事も自分で判断できるスキルもあり、どの会社も大いに期待している」と語った。 <何事も人手不足を言い訳にすべきではないこと> *4-1:https://president.jp/articles/-/87177?page=1 (President 2024/10/26) 「退職したらハローワークに直行ですよ」現役自衛官が明かす"50代の中年自衛隊員"を待ち受ける厳しい現実、いくら国のために尽くしても恩給も、再就職先もない 自衛官の定年は一般企業によりも早い。2・3曹は54歳、1曹から曹長・准尉・1~3尉は55歳、2・3佐は56歳、1佐は57歳。幹部クラスの将・将補は60歳だ。定年を迎えた自衛官はどうなるのか。ニッポン放送アナウンサーの飯田浩司さんが書いた『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)から紹介する――。 ●「安心できるキャリアプラン」がない 一方に極端に勇ましい言動があり、もう一方には何が何でも話し合いをすればいいというこれまた極端な平和主義論が横行する言論空間。防衛費の増額に関しても、2つの極論がぶつかり合って、現場で真に必要なものが行き届かないことが危惧されています。岸田首相(当時)は2022年11月28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう関係閣僚に指示しました。安保3文書の改定と並んで、岸田政権の安全保障政策の大転換といわれました。立憲民主党などの野党やリベラル系といわれるメディアは、この防衛費の増額により「戦争する国になる!」といったステレオタイプの批判を繰り広げました。一方で、政府与党の中でも「防衛族(防衛省と強い繫がりを持ち、安全保障政策・防衛予算などへの影響力を持つ政治家)」と呼ばれるような人たちは新たな装備品、とりわけ長射程のミサイルや艦艇、戦闘機といった大物をそろえる方に予算を誘導しようとします。しかし、現場は予算の増額によって戦争をしようとしているわけではなく、また、大きな装備品をそろえることを急ぐのでもありません。現場が欲しているのは「人」であり、安心できるキャリアプランの「仕組み」でした。安全保障の現場を担う自衛隊や海上保安庁といった現場は、人を集めるのにも苦労する状況が続いています。自衛隊、海保は「公安系」といった具合に括られて、地元の警察や消防とともに就職説明会を開いたりするようですが、そこで言われるのが、転勤について。士や曹といわれる現場の自衛官たちは地元の部隊に所属すれば地元近辺にいることが多いのですが、それでも部隊改変などのために遠くの任地に配属されるケースもあります。 ●早い人だと「54歳で定年」を迎える 海保も現場の海上保安官は管区内での異動が中心とのことですが、たとえば第一管区海上保安本部は小樽に本部を置き北海道内はすべて管区となりますので、東は根室、北は稚内、南は函館と1日がかりで移動する距離。地元の市町村単位の消防や都道府県単位の警察と比べると、特に地元にいたいという人にとっては一つハードルが高くなります。加えて、採用の際には本人よりも親御さんがそのあたりを気にされると言っていました。一方、幹部となれば話はまったく違ってきます。海保も自衛隊も全国転勤が当たり前という世界。警察もキャリア官僚となれば全国転勤となりますが、それは一握りです。そして、これは自衛官の採用の最前線、地方協力本部を取材した時に特に言われたのですが、採用の際に自衛官の定年と再就職先がネックになってきているという話を聞きました。現場の自衛官は精強さを保つという理由で早期退職制が敷かれています。士といういわゆる兵隊さんはそもそも任期制自衛官と言われる若者たちで、1期2~3年を数期務めて巣立っていきます。そこから任用試験等を経て曹というクラスに昇任すると、定年制となり、2・3曹は54歳で定年。その上の1曹から曹長・准尉・1~3尉(大尉~少尉)で55歳、2・3佐(中佐・少佐)で56歳、1佐(大佐)で57歳定年となります。その上の将・将補(中将・少将)となると最長で60歳定年となります。 それぞれに問題を孕みながらも現状なんとか回している状態とのことですが、まず一般企業や他の公安系公務員と比べても定年が早いだけに、現場で若年層をリクルートしようとする時にライバルから「自衛隊は定年が早いから、ウチの方が先々安定するよ」と口説かれるのだそうです。 ●“何か異質のようなもの”として扱われてしまう もちろん、精強さを保つのは安全保障上も重要なことですから制度自体は致し方ない部分があります。実際、陸・海・空三幕の幕僚監部の中にある募集・援護課や現場の地方協力本部も手をこまねいているわけではなく、「援護」と称される再就職支援を積極的に行うことでそれぞれの退職後のキャリアをサポートしていますし、募集の際にもその手厚さをアピールしたりもするそうですが、この少子化の折、子どもの就職にも親が積極的にかかわる時代。となると、より安定を求めて他の選択肢を検討するケースも多いそうです。曹という現場を取りまとめる重要なポストから、幹部自衛官に至るまで、早期退職制度とはいえ最後まで勤め上げ国に貢献したということに変わりはありません。諸外国であれば、賞賛こそすれ再就職先にも困るということはないでしょう。アメリカなどはここまで勤めれば、いわゆる軍人恩給でハッピーリタイアメントという方も少なくないそうです。もちろん、部隊や職種によっては任務の過酷さも米軍は世界一かもしれませんが。海外に出張したり、あるいは研修で海外に赴任したりした現職自衛官が口々に訴えるのが、その扱いの違いです。海外で制服を着て飛行機に乗ろうとすると、「Thanks for your service!」と声をかけられ、搭乗が優先されたり座席に空きがあればアップグレードされたりするなどの優遇を受けられたそうです。社会全体に国家への貢献を評価するという気風があるようなんですね。一方で、日本に帰れば何か異質なもののように扱われ、かつては蛇蝎だかつの如く嫌われた時期もありました。いまだに憲法学者の大多数は自衛隊を違憲の存在としています。 ●「せめて尊敬の気持ちを…」と本音を語った自衛官 そんな肩身の狭さは一体何なのだろうか? 海外に出て、そんな思いにとらわれる人もいます。自衛官は任官の際に、次のように職務宣誓しています。〈私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います〉〈事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め〉ることを誓っているわけです。アメリカのような手厚さがなくてもいいけれど、その心意気にはせめて尊敬の気持ちを持って接してもらいたい。打ち解け、こちらを信用してくれた一部の自衛官の口からこんな本音が漏れてくるのは、夜もだいぶ深まった頃でした。東日本大震災以降特に顕著になりましたが、自衛官に対する世間の見方がそれまでと180度変わって、今では政府内のどの職種よりも国民の信頼が厚くなっています。たとえば、2022年に読売新聞社と米ギャラップ社が実施した日米共同世論調査で、信頼している国内の組織や公共機関を15項目の中からいくつでも選んでもらうと、日本では「病院」が78%(前回2020年調査74%)、「自衛隊」が72%(同70%)、「裁判所」が64%(同57%)でした。 ●退職後も「正規」にはなりにくい それでも、彼ら・彼女らは普段から言動に非常に気を遣っていることが見えてきます。 制度上の理由で早期退職となりますから、その分本来であれば退職金が少なくなってしまいます。勤続20年以上の場合はそれを補う若年定年退職者給付金がありますが、本来は恩給制度等で報いる方法が検討されてしかるべきでしょう。もちろん、援護サイドも頑張っていて、地方自治体の防災監として採用されるケースも増えてきています。平時には現役時の経験を活かして防災や有事への備えを提言し、非常時には古巣の自衛隊との連携をスムーズに行う潤滑油として働く。理想的にも見える再就職で、実際ウィン・ウィンの関係なので防衛省・自衛隊サイドも推している施策なのですが、先方の自治体側もない袖は振れぬでなかなか正規職員のポストを用意できないのが難しいところ。キャリアプランは人それぞれなので、非正規職員となると尻込みするケースもどうしても出てくるようです。また、民間への再就職となると、そもそも50歳を超えてからの再就職は民間から民間でも難しいもの。採用となると、給料の他に社会保険料の企業負担分も面倒を見なくてはなりません。恩給の支払いが現実的でないのならば、せめて若年定年退職者には社会保険料の企業負担分は国で面倒を見るぐらいのサポートがあってもいいと思います。 ●“偉くなった人”ほど再就職先が見つからない 一方、制服組の中でも一握りのトップが将・将補クラス。このクラスになると、自衛隊独自の再就職あっせんシステムである「援護」を利用することができなくなります。「いやいや、でも将や将補まで偉くなった人だったら企業が放っておかないでしょう」「それぞれの専門を活かして退職後も活躍してくれるでしょう」。普通だったらそう思いますが、将・将補クラスとなると一般の公務員とまったく同じで、国家公務員法に基づく再就職に関する行為規制の対象となります。すなわち、それまでの経験を活かすとなると往々にして当該将官と企業との間で利害関係が生ずることになり、それは現職職員による利害関係企業等への求職活動に関する天下り規制に引っかかることになるのです。その上、一般の公務員でしたらこのポジションは次がある、このポジションは上がりだといったようなだいたいの退職時期の相場観があります。自衛隊にもなんとなくはあったりしますが、しかし政治情勢や内外の情勢によって、適材適所で突然の辞令ということも少なくありません。その上、ここまでのクラスになればどの職種にいようとも基本的には激務です。退職ギリギリまで職務に専念しており、再就職活動に時間を割ける人がどれだけいるか、見ている限りはほとんど思い浮かびません。ある同年代の将補など、「もし私が退職となったら、辞令をもらったその足でハローワークに直行ですよ」と赤裸々に話していました。 ●自衛隊を支えているのは「生身の人間」 入口の採用の難しさと、出口の退職後のキャリアプランの難しさ。安全保障の安定なくして繁栄する経済も安定した社会もありません。かつて日本社会においては「水と安全はタダ」といったことが言われていました。しかしそれは、今まで現場の心意気でなんとか保ってきただけだったのではないでしょうか? 今後の少子化も相まって曲がり角に来ています。防衛省・自衛隊に関するニュースというと、防衛費の増額や装備品の購入といったものばかりが並びますが、支えているのは生身の人間です。なんとなく、防衛費増額のニュースを見聞きしていると予算が増えて自衛隊は潤っているような印象になるかもしれません。しかし、内実はこの章で紹介した通りお寒いものでした。飯田浩司『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)飯田浩司『「わかりやすさ」を疑え』(SBクリエイティブ)。見出しから受けるイメージだけに引っ張られず、内実まで伝えることがメディアの仕事だと思いますが、今は記者個人や組織のOBが積極的に発信している例も見られます。「この人のこの分野の情報は信頼できる」といった自分自身の情報源のストックも合わせて見ることで、より深くニュースを理解できるのでしょう。かつては自衛隊員が「戦争をする集団だ」と蔑まれ、制服を着て街を歩けないような風潮までありました。今は表立ってそうしたことはなくなりましたが、社会全体としてリスペクトの醸成やキャリアプランを明確に示せるような仕組み作りこそが、結果としてこの国を支える底力になるのだと思います。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250201&ng=DGKKZO86463520R00C25A2MM8000 (日経新聞 2025.2.1) 就業者最多6781万人 昨年34万人増、正社員に転換進む ミスマッチ、人手不足解消せず 働く人が過去最多となった。総務省が31日公表した2024年の就業者数は6781万人と前年から34万人増え、比較可能な1953年以降で最も多い。女性やシニア層の就労が広がり、正規雇用が増加した。余剰労働力(総合2面きょうのことば)は乏しい。日本経済は生産性を高めながら、どう人手不足に対応するかという課題に直面する。就業者とは15歳以上の人のうち、仕事を持って働いている人や一時的に休職している人を指す。就業者数は景気回復などを反映し、2013年以降、女性やシニアを中心に増加してきたが、新型コロナウイルスの影響で20年、前年比で40万人減少した。その後は緩やかに回復が続き、24年は過去最高だった19年の水準を上回った。15歳以上の人口に占める就業者の割合を示す就業率も24年は61.7%と、前年から0.5ポイント拡大した。女性の就業者は前年比で31万人多い3082万人と最多だった。就業率でみると男性は直近10年間で1.9ポイントの上昇にとどまったが、女性は6.6ポイント上昇した。高齢者の就業率も上昇傾向にあり、65歳以上は前年比で0.5ポイント高い25.7%だった。雇用形態別にみると就業者のうち正規雇用は39万人増と大きく増えたが、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用は2万人増だった。より良い雇用条件を示さなければ、人材が集められない状況が広がっている可能性がある。リクルートの高田悠矢・特任研究員は「企業側の人材ニーズが高まるなか、これまではパートなどで働いていた女性が正社員となっている」と指摘する。小売り大手のイオンはグループで働くパートなど非正規雇用の待遇について、同等の業務を手掛ける正社員とそろえる制度を広げている。食品スーパーのライフコーポレーションは勤務地を絞った社員種別の「限定社員」を廃止し、正社員と同じ待遇にそろえた。若手人材を確保するため、30万円以上の初任給を提示する企業が増えている。アシックスは25年4月入社の大卒新入社員の初任給を24年から2万5000円引き上げ、30万円とする。大和ハウス工業やファーストリテイリングなども30万円以上の初任給を示している。企業側の人手不足感は強い。日銀がまとめた24年12月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、雇用が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」を引いた雇用人員判断指数(DI)は全規模・全産業でマイナス36、先行きはマイナス41だった。厚生労働省によると介護や建設分野では有効求人倍率が4倍を超える職種もある一方、事務系は1倍を下回る。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平・副主任研究員は「求人と求職者のミスマッチが起きている。女性や高齢者は働く時間が短く、想定よりも労働力の確保につながっていないという側面もある」と語る。働く人の増加は経済成長にプラスだ。企業の生産やサービスの供給が増える上、収入増が消費拡大につながり需要が伸びる。社会保険への加入者が増えることで、年金や健康保険の財政的な安定性が高まる。少子高齢化の進展で15歳以上人口は10年代に減少が始まった。女性や高齢者の拡大による就業者の増加には限界がある。労働政策研究・研修機構の推計によると、40年時点の就業者数は最も低いシナリオで5768万人まで落ち込む。今のうちから人工知能(AI)などを活用した生産性の向上などで働き手の減少に備える必要がある。 *4-3-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250131/k10014708111000.html (NHK 2025年1月31日) 日本で働く外国人労働者 去年230万人超で過去最多 日本で働く外国人労働者は去年230万人を超え、12年連続で過去最多を更新したことが厚生労働省のまとめでわかりました。外国人労働者の職場環境の改善などにつなげようと、国は2007年から外国人を雇い入れた企業や個人事業主に対して、ハローワークへの届け出を義務づけています。厚生労働省によりますと、去年10月末時点で日本で働く外国人労働者は230万2587人でした。前の年の同じ時期に比べて25万3912人増え、率にして12.4%の増加で2013年から12年連続で過去最多を更新しました。 国籍別にみると、 ▽ベトナムが57万708人と最も多く全体のおよそ4分の1を占め、 次いで ▽中国が40万8805人 ▽フィリピンが24万5565人でした。 一方、前の年からの増加率では、多い順に ▽ミャンマーが61% ▽インドネシアが39.5% ▽スリランカが33.7%などとなりました。 人手不足の解消につなげようと2019年度に始まった制度で、建設業や介護など16の分野で専門の技能があると認められる「特定技能」の在留資格で働く人は20万6995人でした。厚生労働省は「人手不足などを背景に外国人労働者が増加しているとみられる。特に医療・福祉や建設業の増加率が高くなっている」とコメントしています。 *4-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC014DT0R01C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月4日) 四国の外国人材最多、共生が日常に 今治の造船などで 深刻な人手不足を背景に四国で外国人材が増えている。2023年10月時点の外国人労働者数は届け出が義務化された07年以降で過去最多となった。多文化共生はいまや日常だ。四国の製造品出荷額の約4割を占める愛媛県では、製造業を中心に外国人労働者が増加している。地域別では造船業が盛んな今治地域が全体の3割を占める。独立系造船会社の新来島どっく(愛媛県今治市)では491人の外国人労働者が働く。新型コロナウイルス禍で一時減少したが、入国制限の解除以降はコロナ禍前を上回っている。日本人の人材確保が厳しさを増すなか「溶接作業など鉄加工全般や塗装など重要な戦力として活躍している」と担当者は語る。今後も現状以上の人員を確保する考えだ。高知県では四国銀行が人材紹介の6社と提携し、取引先に外国人材の採用を提案する。高知銀行は9月、技能実習生の受け入れをサポートする監理団体4団体と業務提携した。関心はあるが「どこに相談したらいいか分からない」という企業の声に応える。香川県では香川銀行がノンバンクのJトラストと提携し、取引先にインドネシア人材の紹介を始めた。県も人材紹介の8社と連携協定を結び、企業と外国人材のマッチングに乗り出した。徳島県は9月から半年間の予定で、外国人のための無料職場体験プログラムを実施している。県内での就職に関心のある留学生らと、採用に前向きな県内企業との出会いの場を設ける。夏の阿波踊りには、日本ハムファクトリー(静岡県吉田町)の徳島工場(徳島県石井町)の従業員らでつくる「日本ハム連」が参加。ミャンマーやネパールなど約20人の外国人従業員が日本人と共に生き生きと踊った。高松市中心部の商店街にはインドネシア食材専門店がオープンし、故郷の味を求める人びとが訪れる。異なる人種や文化、価値観を尊重する多様性の推進は四国の活性化に欠かせない。 *4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250215&ng=DGKKZO86746440U5A210C2CT0000 (日経新聞 2025.2.15) インド人留学生に300万円 文科省 人工知能(AI)など先端分野での人材を確保するため、文部科学省や東京大学などがインドからの留学生獲得を強化する。インドの大学院生300人弱の留学費用を支援するほか、現地でリクルート活動を行い、2028年度までに留学生を倍増させる。理工系に強いインドから人材を受け入れ、日本の研究力や産業競争力の向上につなげる。文科省は25年度から、AIなどを学ぶインド工科大などトップ大の大学院生270人程度を対象に、日本での生活費や受け入れ大学での活動費として1人300万円を支援する。文科省によると、300万円は渡航費も含めて日本で1年間生活する上で支障のない金額だという。インド通貨ルピーは対ドルで下落基調にあり、日本の大学の方が欧米の大学より金銭的に留学しやすいという環境もある。人材サービスのヒューマンリソシア(東京・新宿)によると、インドで働くITエンジニアの平均年収は約127万円。支援額は約2.3倍と手厚い。留学生への支援は1年間で、日本への定着を視野に入れて、企業のインターンシップへの参加も促す。受け入れる大学は同年度に公募し、科学技術振興機構(JST)が審査する。東大や立命館アジア太平洋大(APU)などの国内大学、大使館、民間事業者など50を超える機関が24年度、インド人留学生を増やすための連携組織を立ち上げた。SNSで日本の大学や奨学金に関する情報を発信するほか、インド人の留学エージェントが現地の大学を回り、日本の大学の魅力を伝える。人口14億人のインドは伝統的に理工系人材の育成に強い。引用数が上位10%に入る「注目論文」数で日本は13位と低迷するが、インドは4位につける。IT分野をはじめとしたインド人材の獲得競争は世界で激しさを増している。一方、インドの学生は日本に目を向けていない。インド外務省によると、日本への留学生数は22年は1300人。米国(46万5000人)やカナダ(18万3000人)、英国(5万5000人)などと比較して圧倒的に少ない。背景について、東大の北村友人教授(教育学)は「インド人学生は英語が得意で、日本より英語でのカリキュラムが充実している欧米の大学を目指す傾向が強い」と説明する。インドでは日本の大学の知名度が低く、進学先の選択肢に入っていないケースがほとんどだという。そのうえで「日本の大学は教育・研究の質が一定程度高い上、海外に比べて授業料が安いというメリットがある」と指摘。「インドではトップ層の大学以外にも優秀な学生は多く、裾野を広げていきたい」と話す。東大などは日本全体のインド人留学生を28年度までに2倍以上の3000人に増やしたい考えだ。文科省は日印の大学による学生の相互派遣も拡大する。25年度から、共同で留学プログラムを設ける国内大学の資金援助を始める。大学間の単位相互認定を皮切りに、将来的には双方で学位を得られる「ダブルディグリー」といった制度を設けることを目指す。インドのほか、国際的な存在力を増しているアフリカの大学も対象とする。同年度に国公私立大を対象に公募し、12件程度を認定したい考えだ。選ばれれば年間2000万~3200万円の助成を受けられ、29年度までの5年間が対象となる。政府は33年までに日本人留学生を50万人に増やし、外国人留学生を40万人受け入れる目標を掲げている。インドをはじめとした新興国「グローバルサウス」との人的交流の強化で目標達成を後押ししたい考えだ。 *4-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250215&ng=DGKKZO86754130V10C25A2MM8000 (日経新聞 2025.2.15) 〈エビデンス不全〉地方創生の虚実(4)12道県、大学進学で転出拡大 「23区定員規制」効果薄く 「将来は博士号をとりたい」。徳島大学で学ぶ藤井優花さん(20)は地元の徳島県の出身。祖父をがんで亡くしたことなどから内視鏡や顕微鏡を使った研究に興味を持つ。徳島大は青色発光ダイオード(LED)の研究成果でノーベル賞を受賞した中村修二氏の母校。現在、地域の産学官が結集して光技術の専門人材を育成する計画の拠点になっている。国は2018~23年度、県に計29億円を投じた。誤算は藤井さんのような県内からの進学者が思うほど増えていないことだ。23年度も48人と、目標の53人に届かなかった。東京一極集中を是正し、地方との間の人口流出入を均衡させる。地方創生の大きな目標のひとつだった。政府は大学進学や就職で地元を離れる若者が多いことに目をつけた。18年から10年間の時限措置として、東京23区内の大学が定員を増やすのを禁じた。同時に地方大学向けの交付金を創設した。地方の教育や研究の一定の底上げにはつながった。肝心の若年層の人口動態を変えるには至っていない。 ●育てるほど流出 強みの金属素材の分野に磨きをかけた島根大学は学生の地元就職者数が目標に届かない。三浦英生・副学長は「育てた学生を都会に取られてしまう」とこぼす。人材の質が高まるほど県外の大企業から求人が殺到するジレンマに直面する。文部科学省の学校基本調査のデータで19~23年度の大学進学による人口移動を分析すると、37道県は流出超過が続いていた。茨城や香川など12道県は交付金ができる以前の14~18年度と比べて流出が拡大した。東京の流入超過は加速した。大学の定員規制の効果ははっきりしない。23区内の学部入学定員は21年度までの3年間に約2800人増えた。もともと決まっていた学部新設は例外扱いだったことなどが響いている。文科省は「膨大な行政コスト」を理由に、その後は集計していない。日本経済新聞が国の公表資料をもとに数えたところ、21~23年度でさらに約3000人増えていた。そもそも規制自体が不合理との指摘もある。日本の成長力を高めるという地方創生の本来の狙いにそぐわないからだ。東京都の小池百合子知事は「学生の学びと成長の機会を奪うのみならず、大学の教育・研究体制の改革を滞らせ、我が国の国際競争力を低下させることにつながりかねない」と撤廃を求めている。 ●若者の視点欠く 法政大学キャリアデザイン学部の田沢実教授も「当事者である若者の視点が欠けている」と批判する。国による一方的な人口移動の抑制は無理があるとの見方だ。教育や研究が本分の大学に政策的な役割を押しつけるのも限界がある。内閣府の地方創生推進事務局も「企業誘致や賃上げなど総合的な取り組みが必要」と認める。経済合理性に反した改革は持続可能でなく国力をそぎさえしかねない。地方創生という錦の御旗の下、野放図な政策がまかり通っていないか目をこらす必要がある。 *4-5-1:https://digital.asahi.com/articles/AST252P8ZT25UHBI016M.html?comment_id=31653&iref=comtop_Appeal6#expertsComments (朝日新聞 2025年2月5日) トランプ氏の奇策、歴史的成果へ野心 パレスチナの人々置き去りに トランプ米大統領が、パレスチナ自治区ガザから約200万人にのぼる住民を追い出して米国が「所有」し、再建させる復興案を打ち出した。前代未聞の構想は、長年悲劇に見舞われてきたパレスチナの人々を置き去りにしたままぶち上げられた。「ガザを中東のリビエラにする」。トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相との会談後、共同記者会見でこう述べた。イスラエル軍の攻撃で建物は破壊され、多くの女性や子どもが戦闘の巻き添えとなったガザ。死者は4万7千人を超えた。トランプ氏は、荒廃したガザの将来像を地中海のリゾート地リビエラに重ね、そこに住むのは帰還したパレスチナ人ではなく「世界の人々」だと言った。こうした復興案は、不動産開発業出身のトランプ氏らしい「ディール(取引)」とも言えるが、本人は単なる思いつきではないと主張している。トランプ氏は会談の冒頭、「人々は地獄のような生活を送ってきた。ガザは人々が住むべき場所ではない」と語り、居住地として別の選択肢があれば人々はそちらを選ぶだろうと主張。米国がガザを長期的に所有して開発を進めれば中東に安定をもたらすことができるとし、「軽率に決めたことではない。誰もがこのアイデアを気に入っている。何カ月も検討を重ねてきた」と語った。第1次トランプ政権は、米軍の派遣を伴う対外関与は嫌う一方で、宗教的な理由でイスラエル国家の存立に強く共鳴する国内支持層に応え、イスラエルの主張をそのまま実行したような政策を連発した。最大の成果は、イスラエルと一部の周辺アラブ諸国との関係を正常化させた、2020年の「アブラハム合意」の仲介だ。これにはトランプ氏の外交政策に批判的な専門家らの間でも評価する声があり、トランプ氏自身、「ノーベル平和賞に値する」功績としてアピールしてきた。2期目の今回も、大統領選中から「中東に平和をもたらす」と繰り返しており、歴史的成果へ野心を見せてきた。不動産業に携わってきたユダヤ系富豪のウィトコフ中東特使を政権発足前からガザの停戦交渉に参加させるなど、中東外交に力を入れる姿勢を鮮明にし、停戦合意が成立すると自らの成果として誇示。今回の復興案も、こうした流れで準備してきた可能性がある。米国内では、民間人の犠牲と甚大な人道危機を止められなかったバイデン前政権の中東政策への失望が色濃く残る。歴代政権も周辺のアラブ諸国も、前向きで具体的なガザの将来像を示せてこなかったという背景が、これまでの「常識」から逸脱した提案を打ち出す余地を生んでいる。ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)はこの日、記者団にアブラハム合意を「次の段階」に進めることが目標だと語り、イスラエルと地域大国サウジアラビアとの歴史的な関係正常化の仲介へ意気込みを見せた。ただ、サウジはパレスチナ国家の樹立を正常化の条件だとしており、今回のような復興案を打ち出すトランプ政権の思惑通りに進むかはまったく見通せない状況だ。 *4-5-2:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-10/SRF6VBT0AFB400 (Bloomberg 2025年2月10日) サウジ、ガザ住民移住構想を非難-イスラエル首相やトランプ氏が示唆 サウジアラビアは9日、パレスチナ自治区ガザの住民を移住させるというイスラエルのネタニヤフ首相の提案を「断固拒否」するとの声明を国営サウジ通信(SPA)を通じ発表した。サウジは声明で、「パレスチナの人々にはその土地に対する権利があり、彼らが追放されるべき侵入者や移民ではないことを確認する」と極めて強い言葉で同首相の発言を非難した。イスラエルのチャンネル14との先週のインタビューで、ネタニヤフ首相はサウジ領内にパレスチナ国家を創設する構想を示唆。一方で、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃後、パレスチナ国家は存在すべきではないとの自身の立場を繰り返した。トランプ米大統領は4日夜、ホワイトハウスでネタニヤフ首相と会談後に共同記者会見し、米国がガザ地区を所有し、ガザを「中東のリビエラ」と呼ばれるような場所に変えたいと述べていた。同大統領は他の中東諸国に対しガザからパレスチナ人を受け入れるよう求めたが、エジプトやヨルダンはこれを拒否している。トランプ大統領の考えはとっぴなものと思われたが、イスラエルはすでに、戦争で荒廃したガザから港や陸路を経由して住民を移す計画を策定しつつある。ただし、パレスチナ人が移住を望んでいるのか、またどこに移り住みたいのか、そして、実際に移住が可能かどうかは不明だ。 *4-5-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/288655 (日本農業新聞 2025年2月16日) 外国人農地取得を厳格化 農水省省令見直し 短期在留は認めず 農水省は2025年度から、外国人が国内の農地を取得する際の要件を厳格化する。取得を目指す外国人に対して、取得の可否を判断する農業委員会に残りの在留期間を報告するよう義務化。短期間で在留期間が切れる場合は、農地を取得できなくする。農地取得に関するルールを定める農地法の省令を見直す。農地が取得後も適切に耕作されるか判断する上で、残りの在留期間を把握する必要があると判断した。短期間で在留期間が切れる場合の他、短期間で遠方に転居する場合も農地の取得を認めない。同省は「(どのくらいの期間が短期間なのかは)事例ごとに農業委員会が判断することになる。収穫まで数年かかる果樹など、作物によっても変わる」(農地政策課)とする。外国人の農地取得を巡っては、同省は2023年9月、取得を目指す外国人に対し、農業委員会に国籍や在留資格の種類を報告するよう義務付けている。同省によると、外国人やその関係法人が23年に取得した国内の農地は90・6ヘクタール。うち、外国人個人による取得は60ヘクタール(219人)で、残りは法人による取得だった。日本では、外国人による土地取得を規制できない。世界貿易機関(WTO)協定の一部である「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)で、外国人が不利になる規制が禁止されているからだ。ただ、韓国やロシアは、外国人の土地取得について適用を留保しており、取得を規制できるという。日本は締結時に留保しなかった。 *4-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250211&ng=DGKKZO86654250Q5A210C2TB1000 (日経新聞 2025.2.11) 外国人と協働にIT駆使 新興「育成就労」導入にらみ商機、カミナシ、13言語のマニュアル DXHUBはスマホで日本語教育 スタートアップがIT(情報技術)を活用して外国人と協働しやすい環境づくりを急いでいる。カミナシ(東京・千代田)は13言語対応の従業員教育サービスを開発し、2025年度に10万人の登録を目指す。外国人労働者は200万人を超え、27年にも新制度「育成就労」の適用が始まる。言葉の壁などの問題解決にスタートアップが商機を見いだしている。現場の帳票入力を電子化するSaaS(サース)を手掛けるカミナシは1月、新サービス「カミナシ教育」を始めた。動画コンテンツ事業を手掛けるVideoStep(東京・港)と業務提携し、同社から動画マニュアル作成機能のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける。管理者が現場作業の様子を撮影した映像をクラウドにアップロードして編集すると、人工知能(AI)が音声を文字起こしして字幕をつけ、マニュアルを作成する。 ●AIが字幕音読 従業員がパソコンやスマートフォンで動画を閲覧する際に、マニュアルをベトナム語など13言語に翻訳。字幕を日本語と併記して表示したり、AIが母国語で読み上げたりする。従業員は作業の手順を自分のペースで学ぶことができる。現場作業では、教育を担当する管理者によって指導レベルに差があり、研修を終えたかどうかを管理するプラットフォームが存在しないことも多い。従業員の業務の理解度に差があると、企業が提供する製品やサービスの品質にばらつきが出る懸念がある。カミナシは2月中にも個別の従業員がマニュアルの理解度を確認するアンケートに答えたかを一覧で管理できる機能の提供も始める。食品や機械などの製造業を中心に26年6月までに10万人のユーザー登録を目指す。厚生労働省によると、日本で働く外国人の数は23年10月時点で204万人。前の年から12%増え、初めて200万人を超えた。今後もベトナムや中国、フィリピンなどからの人材流入が見込まれている。問題となっているのが言葉だ。仕事の仕方に不明点があっても理解してもらえないと考えて外国人が対話を避けるケースが多発している。在留外国人を対象にした法務省の23年度の調査では、企業など所属先に困りごとを相談しない理由として、最多の15%が「言語の問題で正確な意思疎通が難しいため」とした。企業の方も、指導や監督で苦労している。厚労省が24年12月に公表した雇用実態調査で「外国人労働者の雇用に関する課題」を聞いたところ、最も多かったのは「日本語能力などのためにコミュニケーションが取りにくい」で45%だった。こうした事態に対応しようと、在留外国人向けの通信サービスを手掛けるDXHUB(京都市)は、オンライン日本語教育ソフト「BondLingo」の事業をボンド(東京・新宿)から取得し、福利厚生型のSIMカードの販売を始めた。企業が採用した外国人にスマホ用SIMカードを配布する際に日本語教育ソフトも提供し、学習への取り組みを管理できる仕組みだ。学習履歴は昇給や賞与の判断材料とするなど、外国人労働者向けのインセンティブとして活用できる。 ●定着率向上に力 企業には外国人や家族の日本語学習に関し、機会の提供や支援に務める義務がある。DXHUBの沢田賢二社長は「日本人や他の外国人社員とのコミュニケーションが取れれば職場は働きやすくなり、企業にとっても外国人の定着率向上が期待できる」と話す。翻訳や教育で業務上の情報格差を緩和し、面談などを通じて働きがいや困りごとの有無を確認しても、実態を把握しきれないケースもある。ミツカリ(東京・渋谷)は24年12月、従業員エンゲージメント調査のサービスを、中国語やベトナム語など合計9カ国語に対応させた。同社のサービスは1分程度のアンケート調査を継続的に実施し、満足度やモチベーションを計測する。企業はデータから外国人労働者の労働意欲低下の兆候を早い段階で捉え、離職防止の対策を取ることができる。住居など生活面での支援でも動きがある。家賃保証審査支援のリース(東京・新宿)は24年12月、外国人が不動産会社に賃貸物件の入居申し込みをする際、家賃保証会社の審査担当者が自身では理解できない外国語の支援を受けられるサービスを始めた。リースは、多言語の相談窓口を運営するインバウンドテックと提携し、書類に不備がないかなどの確認作業を支援する。これまでは審査が後手に回り、契約が成立しないケースもあったが、借り手は入居しやすくなる。外国人労働者を巡っては、18年に成立した改正出入国管理法で在留資格「特定技能」が創設され、19年4月から人材の確保が困難な業界への受け入れが解禁された。27年には、過酷な労働環境下で失跡者が増えるなど問題点が指摘されている技能実習制度に代わり、育成就労が導入される見込み。具体的な運用は有識者会議などで詰めるが、1~2年の就労期間などの条件を満たし本人の意向があれば転職も可能になる方向だ。少子高齢化が定着し、人手不足が本格化するなか、優秀な外国人労働者の存在は企業の競争力を左右するようになっている。ルール順守の上で、外国人側の目線にも立ち、課題に対処していく必要がある。 <日本のブルーオーシャンが、日本政府にいじめ抜かれるのは何故か> PS(2025年3月5~8日追加):*5-1-1は、①家族介護を社会的介護に転換するためにできた介護保険スタートからの25年は改悪につぐ改悪の歴史 ②負担増と給付源(=サービス切り下げ)の繰り返し ③一律1割だった利用者負担は所得に応じて一部の人が2割・3割となり、保険料を支払ったのに必要な時にサービスを受けられず介護保険制度の意味減少 ④事業者に支払う介護報酬抑制と訪問介護の生活援助利用を制限する見直し ⑤今年度から訪問介護基本報酬の引き下げ ⑥ホームヘルパーは極めて高い専門性が求められる職種だが、国は「訪問介護は誰にでもできる仕事」とみなし専門性を評価しないのが問題の根底にある ⑦ヘルパーがいなくなれば要介護高齢者が自宅生活することは困難で、介護報酬の大幅引き上げが必要 ⑧介護保険はいじめ抜かれた ⑨さらに国はi)2割負担対象者の拡大 ii)ケアマネジメントの自己負担導入 iii)要介護1・2の介護保険本体からの切り離し 等の改悪を進めようとしている ⑩国は「制度を持続させるため」として介護費用増加を負担増・給付源で調整しようとしている ⑪財源は公費投入の割合を増やすことも選択肢として国が検討すべき ⑫「3世代世帯」の割合低下、独居と夫婦のみ世帯半数超という家族構成の変化で介護費用抑制の環境にはない としている。 家族介護を社会的介護に転換していなければ、家族が癌や脳出血等で長期療養を強いられた時には、介護の専門家でない他の家族が、仕事を辞めたり、進学を諦めたりして、介護しなければならないが、介護は、⑥のように、知識と経験に基づく専門性が求められる仕事であり、愛さえあればできるものではないため、無知や介護疲れによる虐待・ネグレクト・差別が頻発して家族全員が不幸になる。にもかかわらず、国は、確かに、介護の専門性を評価しておらず、介護は妻や子(特に嫁や娘)・孫など家族の誰かがやるものだと考え続けている点が問題なのである。 私は、家族介護を社会的介護に転換する目的で介護保険制度を作った1人だが、①②③⑧⑨のように、負担増・給付源が繰り返され、1律1割だった利用者負担を(高くもない)所得の人に2割・3割負担させるなどする改悪につぐ改悪が続けられて、介護保険制度は確かに25年間いじめ抜かれたと思うが、何故だろうか。また、著しく物価上昇しているのに、④⑤⑦のように、訪問介護の基本報酬を下げて住み慣れた自宅で療養することを不可能にしたり、介護事業者に支払う介護報酬の抑制や訪問介護の生活援助利用の制限等の見直しをしたりして、高い介護保険料を支払ったのに必要なサービスを受けられないという介護保険詐欺になっている。そして、その理由を、国は、⑩のように、「制度を持続させるため(底の浅い決まり文句)」としているが、日本国憲法25条で定められ、優先的に行なわなければならない福祉を加える度に、他の膨大な無駄使いを放置したまま、国民負担を増加させる財源探しを行うこと自体がおかしい上に、保険料を取るだけで必要なサービスも受けられない骨抜きの制度なら持続させても意味が無いのだ。そのため、⑪⑫については、個別の産業に対する時代遅れで効率の悪い補助金や租税特別措置を止めて公費投入割合を増やしたり、介護の社会化で助かる子や孫の世代からも介護保険料を所得に応じて広く徴収し、介護保険料の負担者を所得のある人全員に広げて高齢者の負担を減らしたりすべきなのである。なお、政府が減らそうとしている介護サービスは、高齢化だけではなく、都市への人口集中・家族構成の変化・共働きの増加等で生じた新たなニーズであり、日本のブルーオーシャンの1つでもあるのだ。 また、*5-1-2・*5-1-3は、⑫福岡厚働相は「高額療養費制度」限度額引き上げ案を修正し、長期治療患者は負担額を変更しないと表明 ⑬長期治療とは直近12ヶ月以内に3回限度額に達した場合の4回目からの「多数回該当」で、その限度額引き上げを見送る ⑭現在は平均的所得区分(年収約370~770万円/年、約31~64万円/月)で多数回該当を利用した場合、限度額は4.4万円/月、2024年末決定の当初案では2027年8月に最大7.6万円/月の予定だった ⑮多数回該当の負担増は見送るが、1ヶ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施し、所得区分を細分化して年収約650万〜約770万円/年(約54~64万円/月)は2027年8月から約13.8万円/月に引き上げる ⑯近年は高齢化や革新的治療の広がりで適用件数が増えて医療保険財政を圧迫、厚労省は2024年末に「制度持続のため」として患者負担限度額の段階的引き上げ案を纏めた ⑰患者団体は福岡厚労相との面会後記者会見で、多数回該当以外の限度額引き上げも凍結を求める方針とした ⑱「高額療養費制度」見直しの背景には、「子ども関連政策」の財源確保に向けた医療費抑制がある ⑲2023年末閣議決定「こども未来戦略」は児童手当の大幅拡充など年3.6兆円規模の対策を盛り込み、うち1.1兆円は2028年度までに社会保障の歳出削減で賄うとする ⑳法改正を経ず閣議決定で制度改正できるので「高額療養費制度」に白羽の矢があたった ㉑高齢化や高額薬剤登場で医療費が増え、現役世代の保険料負担が重荷 ㉒財務省は「個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険負担割合は2000年度13.0%で2024年度18.4%になる」とする ㉓政府試算では、高額療養費制度見直しで保険料は年3700億円規模の軽減、加入者1人あたり保険料軽減効果は1,100円~5千円程度/年 としている。 「高額療養費制度」も癌や脳出血等で長期療養を強いられた時、収入が著しく減る上、医療費が高いままで生活費の多くを占めるようになると、「貯金が底を突く時が、生きることを諦める時」になってしまうため、衆議院議員時代(2005~2007年)に、私が作った制度だ。 しかし、瑕疵のある「高額療養費制度」限度額引き上げ案に反対が起こると、⑫⑬⑭⑮のように、福岡厚労相は修正案を出したのだが、その内容は、イ)直近12ヶ月以内に3回限度額に達した場合の4回目からの「多数回該当」にあたる長期治療患者の限度額引き上げは見送る ロ)平均的所得区分(年収約370~770万円、約31~64万円/月)で多数回該当を利用した場合、限度額は4.4万円/月に据え置く(当初案では2027年8月に最大7.6万円/月) ハ)多数回該当の負担増は見送るが、1ヶ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施する 二)所得区分を細分化して年収約650万〜約770万円(約54~64万円/月)は2027年8月から約13.8万円/月に引き上げる というものだった。ただし、ここで示している所得区分は総収入であるため、ここから所得税・住民税・社会保険料を引かれ、水光熱費や家賃の支払いをすると、生活費にできる可処分所得はずっと少なくなる。その状況で、月収31万円から医療費4.4万円/月を支払うのは既に負担が大きく、やはり「貯金が底を突く時が、治療を諦める時」になるだろう。それでは、月収54万円の人は医療費上限13.8万円/月を支払えるのかと言えば、所得税・住民税・社会保険料・水光熱費・家賃等を支払った残額から、医療費を支払った後で、生活費を支払わなければならないため、物価上昇による生活費高騰で家族もいればやはり無理だろう。さらに、単身の新人給与でさえ500万円/年になろうとする時に年収約650万〜約770万円/年の収入が高いとは言えず、私は、耐えられる医療費は月収(年収/12)の10%が上限だと思う。また、リスクは誰にでもあるが発生するか否かは人によって異なる事態に備えるために保険があるのであり、保険ならリスクに備えるための1人あたりの負担額は小さいため、㉓のように、加入者1人あたり保険料軽減効果も1,100円~5千円程度/年にしかならないのである。従って、⑰のように、患者団体が「多数回該当以外の限度額引き上げも凍結を求める方針」としたのは、当然のことである。 にもかかわらず、⑯⑰のように、「高齢化や革新的治療の広がり」を理由とし、またまた「制度持続のため」として、厚労省は2024年末に患者負担限度額段階的引き上げ案を纏めたそうだが、⑱⑲⑳のように、「子ども関連政策」の財源確保のため医療保健から支出するのは、目的外の流用であり、医療保険詐欺であるため、決して許されない。その上、㉑の「高齢化や高額薬剤登場で医療費が増えた」という点については、これらの革新的治療は、大量生産できるようになって普及すれば治療費や介護費を安くする効果があり、それが日本発の薬や治療法であればブルーオーシャンそのものなのである。また、㉒のように、財務省は「個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険負担割合は2000年度には13.0%で2024年度に18.4%になる」としているが、2000年4月に介護制度が始まったのであるため、まじめにサービスを充実していれば今では企業も個人も介護に人手をとられなくてすむようになっていた筈で、そうであれば負担増は当然なのだ。そのため、そういう状況でも「保険料負担が重荷」などと言うような現役世代が育てた子なら、増やしたところでどうせろくな価値観は持っていないだろう。 なお、石破首相が、2025年3月7日、首相官邸で患者団体の代表と面会後、高額療養費の上限引き上げ実施見送りを表明されたのは、誤った政策で突き進むよりはずっとよかった(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA071PL0X00C25A3000000/ 参照)。 それでは、「財源はどこから持ってくるのか」と言えば、常日頃から歳出を見直して、時代遅れになったり、効果がなかったりする歳出は減額や削除し、新たに必要になった歳出やより効果的な歳出に充てるのが当たり前なのである。そして、それを省単位ではなく、政府全体で行なうためには、皆が納得できる主観的ではない客観的な数値が必要であり、その数値を出すためには、網羅性・検証可能性のある複式簿記による会計制度とそれに基づく行政評価が必要なのだ。また、「新たに必要になった」と言っても、義務教育の無償化(日本国憲法4条)や社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上・増進(日本国憲法25条2項)のように、1947年5月3日に施行された日本国憲法に既に明記されているのに、未だに行なわれていない政策は、他の歳出に優先して行なうのが当然である。 そのような中、大きく歳出削減できる例を挙げると、*5-2-1の、㉔政府が2月18日に閣議決定した新エネルギー基本計画は、再エネの活用を掲げつつ「脱炭素」を旗印に原発の建て替えも促す ㉕新エネ基は東日本大震災後に掲げた「原発依存度を可能な限り低減」の文言を削った ㉖原発回帰は大手電力が切望していたが、政府の支援策がなければ投資できない ㉗九電は玄海原発(佐賀県)の2基を廃炉中で、経産省はその分を川内原発(鹿児島県)の「増設」に充てたい考え ㉘関電のある幹部は「エネ基を旗印に、すぐにリプレースできるわけではない」「重要なのは、本当に採算がとれる支援制度が出てくるかだ」 ㉙エネ基は原発建設費の上ぶれ分を電気料金から回収できるようにする制度づくりを進めるとした ㉚「核のごみ」をめぐる課題は解決に遠い である。 何故なら、1966年に日本原電の東海原発が建設され日本で初めて原発が商業運転を開始してから、既に59年も経過しているのに、未だに㉖㉘のように、「政府の支援策がなければ採算がとれない」のであれば、「原発のコストが安い」というのは真っ赤な嘘だからである。その上、㉚のように、膨大な費用を要する「核のごみ」問題は全く解決せず後世に先送りし、フクイチ事故の莫大な事故処理費用もすべて国民負担にし、その上、原発立地自治体への交付金まで国民に支払わせながら、これらを「原発のコスト」に入れていないのだから、原発に競争力がないのはとっくの昔に明らかになっているのだ。また、㉙の原発建設費の上ぶれ分も原発コストにほかならず、㉕㉗のように原発の新増設をするのならそれを電気料金から回収するのは当然だが、電力のユーザーは、このようにして馬鹿高くなった電力は使いたくないからこそ、自家発電するよう努力しているのである。そのような状況で、㉔のように、その場限りの思いつきの理由を並べて、政府が「脱炭素」を旗印に原発の建て替えを促すなどというのは、膨大な無駄使いであり、真っ先に止めなければならないことである。そして、田園・放牧地・山林等に風力発電機を設置して売電料金を農家・林家の所得保証に代え、建物にペロブスカイト型太陽光発電を取り付ければ、2040年度の再エネ割合は「4~5割」どころか100%にでき、同時に農林業の補助金も節約できる上に、国富の海外流出も防げるのだ。 しかも、原発は、*5-2-2・*5-2-3・*5-2-4のように、原発を優位に導く「逆転」のトリックやこれまで無視されていた活断層・大津波・事故による甚大な住民や農林水産業への被害等の問題も多いため、本当に安全を最優先にして国民の命を守りたいのなら、できるだけ早く原発を手仕舞うのが賢明である。 最後に、*5-3のように、日本政府は、2017年に採択され、2021年に発効した核兵器禁止条約の第3回締約国会議に「米国の『核の傘』の下にいる」としてオブザーバー参加もしなかった。しかし、今回は、長年、核廃絶を訴える活動をしてきた日本被団協がノーベル平和賞を受賞して初の締約国会議で、アメリカの「核の傘」の下にいるNATOの加盟国からは1か国も参加せず、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で核抑止力が叫ばれているが、日本は唯一の被爆国であるため、特使を送って核廃絶を訴えるメッセージを出すくらいはすればよかったのである。その上、核による脅迫で保たれる“平和”は、それを脅迫と感じない国が現れれば容易に壊れる危うい均衡であり、戦争が起これば、核兵器を使わなくても原発は自爆し、住民や食糧生産に甚大な被害をもたらすのである。 ![]() 2024.12.27Business Journal 2024.12.17東京新聞 2023.5.9Enetech (図の説明:左図の1番右の棒グラフが「新エネルギー基本計画」による2040年のエネルギー構成で、エネルギーミックスと称して相変わらず原発2割、化石燃料3~4割としており、単価が安くなっても再エネは4~5割と見積もられているにすぎない。また、中央の図は、電源別発電コストの変化とされているが、原子力は、使用済核燃料の最終処分コスト・廃炉コスト・災害発生時の後始末のコストを入れていない超甘の想定でも太陽光発電より高く、今後、ペロブスカイト型太陽光発電が普及すれば、さらに差が開くだろう。右図は、世界と日本の太陽光発電コストの推移で、2022年時点で日本は世界より6.8円高いが、この結果は、できない理由を考えることに専念せず、普及に努力したか否かの差である) ![]() 2024.12.24琉球新報 2025.2.17NHK 2022.6.21SustainableSwitch (図の説明:左図が「高額療養費制度見直し」のイメージで、実質賃金や実質年金は下がっているのに、2025年8月に上限を引き上げ、2027年8月にはさらなる引き上げが予定されている。そして、年収1,650万円で扶養家族なし・40歳未満の例で見ると、所得税《約259万円》・住民税《約125万円》・社会保険料《約158万円》を支払うため、残高は約1,108万円/年《約92万円/月》になり、ここから44.4万円の医療費を支払うと生活費に充てられる金額は約48万円になるが、確定申告時に医療費控除はできるが、深刻な病気になってもこの年収が続く人は少なく、扶養家族がいればさらに苦しいだろう。また、年収1,650万円以上は上限が同じ点もおかしい。中央の図は、「多数回該当」に当たる場合の自己負担上限額を据え置いたイメージだが、長期療養を要する深刻な状況の人から巻き上げる構図は変わらない。右図は、上段右図の太陽光発電コストが下がった理由は、普及して設置コストが下がったからだということを示している) ![]() 2022.2.22東京新聞 2025.1.9東京商工リサーチ 2023.11.1沖縄タイムス (図の説明:左図は、2000年に始まった介護保険制度の介護給付費と要介護認定者数の推移で、2024年3月現在690万人の方が要介護や要支援の認定を受けているそうだが、これは(7)2)の右図のように、高齢者数が増えれば自然なことであるため、意図的に給付費の伸びを抑えればサービス低下に繋がるのだ。そのような中で、政府は、介護事業者に支払う介護報酬の抑制や訪問介護の生活援助の利用制限をしたため、ただでさえ報酬の低かった介護福祉士が減り、2024年は人手不足による事業所の倒産が著しく増えて、やっとできた資産を減らしたのである。その上、政府は、右図のように、年間所得410万円/年《34万円/月》以上を“高所得者”として保険料を引き上げるそうだが、新人社員でも500万円/年の収入がある物価高騰時代に、高齢者は410万円/年が高所得とはどういうことか!) *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/AST2D05J2T2DUTFL00TM.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2025年2月14日) 「いじめ抜かれた」介護保険の25年 利用者への負担転嫁は限界に 「介護の社会化」を掲げた介護保険スタートから間もなく25年。「改悪につぐ改悪の歴史だった」と振り返るのはNPO渋谷介護サポートセンターの服部万里子さんです。制度見直しのどこに課題があるのか、聞きました。 ◇ いま一番問題だと考えているのは、訪問介護の基本報酬が今年度から引き下げられたことです。ホームヘルパーは本来、極めて高い専門性が求められる職種です。しかし、国は訪問介護を「誰にでもできる仕事」とみなし、専門性を評価していない。それが問題の根底にあります。ヘルパーとして働く人がいなくなれば、要介護の高齢者が自宅で生活することは困難になります。介護報酬は大幅に引き上げなければいけない。その財源はどうするか。介護費用の増加を利用者負担に転嫁するのは、もう限界です。公費投入の割合を増やすことも選択肢として、国が検討すべきだと思います。介護保険は、家族介護を社会的介護に転換するためにできました。高く評価しているし、なくしてはいけない制度です。しかし、施行後の25年を振り返れば、負担増とサービス切り下げの繰り返しでした。一律1割だった利用者負担は、所得に応じて一部は2割、3割に。事業者に支払う介護報酬は抑制され、訪問介護の生活援助の利用を制限するような見直しもありました。「いじめ抜かれた介護保険」と私は言っています。さらに国は、2割負担対象者の拡大、ケアマネジメントの自己負担導入、要介護1・2の介護保険本体からの切り離し、といった改悪を進めようとしています。制度を持続させるため、というのが国の言い分です。介護費用の増加を、負担増とサービス利用制限で調整しようとしています。しかし、考えてほしいのです。自宅で暮らす要介護高齢者の世帯構成をみれば、「3世代世帯」の割合は低下し、独居と夫婦のみの世帯で半数を超します。家族のあり方の変化をふまえれば、とても介護費用を抑制できる環境にありません。無理に抑制すれば影響ははかりしれません。利用者負担を1割から2割に上げるというのは、単純に言えば負担額が倍になるということです。各家庭には様々な経済的事情があり、サービス利用をあきらめたり、減らしたりする高齢者が必ず出ます。結果的には要介護度が悪化します。保険料を払ってきたのに必要なときサービスを受けられないなら、なんのための介護保険か。制度の空洞化と言うほかありません。要介護状態になったら人生終わりではなく、その人らしい生き方を保障するのが介護保険であるはずです。未来も維持しなければいけないし、これ以上の改悪は許されません。 *5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/AST253GJHT25UTFL00CM.html (朝日新聞 2025年2月6日) 背景に子ども財源の捻出、保険料高騰も 高額療養費制度の見直し 「高額療養費制度」の見直しをめぐる政府案について、修正が検討されていることがわかった。この制度は、公的医療保険の「セーフティーネット」として機能しており、見直しに対して患者らから反発の声が上がった。政府は少数与党での国会運営を余儀なくされる中、野党の批判にもさらされ、再考を迫られた形だ。ただ、今回の見直しの背景には、子ども関連政策の財源確保に向け、医療費の抑制が求められている状況がある。 ●修正案の決着は…… 2023年末に閣議決定した「こども未来戦略」は、児童手当の大幅拡充など年3.6兆円規模の対策を盛り込んだが、うち1.1兆円は28年度までに社会保障の歳出削減で賄う予定だ。そこで政府が同時に示した歳出削減候補の一つが、高額療養費制度の見直しだった。厚生労働省内にも「できるなら見直しは避けたい」との声があったが、法改正を経ずに閣議決定で制度改正できることなどから白羽の矢が立った。現役世代を中心とした保険料負担の軽減も課題だ。医療費の多くは保険料と税金で賄う。高齢化や高額薬剤の登場で医療費が増える一方、現役世代の保険料負担が重荷になっている。財務省によると、個人や企業などの収入をあわせた国民所得に対する社会保険の負担割合は、00年度に13.0%。それが24年度には18.4%になる見通しだ。政府の試算では、高額療養費制度の見直しで保険料は年3700億円規模で軽減される。加入者1人あたりの保険料軽減効果は、年額で1100円~5千円程度とみられる。こうしたことから、厚労省内には、政府案全体の凍結には否定的な見方がある。長期的に治療が必要な人の負担増を軽くすることで、修正案の決着を図りたい考えだ。 *5-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA146YW0U5A210C2000000/ (日経新聞 2025年2月14日) 高額療養費上げ、長期治療の負担据え置き 厚労相表明 福岡資麿厚生労働相は14日、医療費が高くなった場合の1カ月あたりの患者負担を抑える「高額療養費制度」の限度額引き上げ案を修正し、長期の治療を受けた患者については負担額を変更しないと表明した。がんなどの患者団体との面会で明らかにした。直近12カ月以内に3回限度額に達した場合、4回目から限度額を下げる「多数回該当」の限度額引き上げを見送る。自己負担が増えれば治療を続けられなくなるといった患者からの声に配慮する。現在は平均的な所得区分である年収約370万〜約770万円で、多数回該当を利用した場合の限度額は4.4万円だ。2024年末に決定した当初案では、25年8月から3回に分けて引き上げ、27年8月には最大7.6万円とする予定だった。修正案では引き上げず、現在の4.4万円のままとする。多数回該当の負担増を見送ることで、25年度予算案は修正を迫られる可能性がある。福岡厚労相は患者団体との面会後、報道陣に対し「予算修正は必要だと思う」と話した。1カ月あたりの限度額引き上げは当初案通り実施する。所得区分を細分化し、年収約650万〜約770万円では27年8月から約13.8万円に引き上げる。現在の約8万円から7割高くする。高額療養費制度はがんなどの重い病気にかかって医療費が高額になった場合に、年齢や所得水準に応じて1カ月あたりの自己負担を一定額に抑える仕組みだ。近年では高齢化や革新的な治療の広がりで適用件数が増え、医療保険の財政を圧迫している。制度の持続性を高めるため、厚労省は24年末に患者負担の限度額を段階的に引き上げる改革案をまとめた。その後、患者団体などから経済的負担の増加を懸念する声が強まったことから、改革案の修正を検討していた。患者団体は福岡厚労相との面会後に開いた記者会見で、多数回該当以外の限度額引き上げについても引き続き凍結を求める方針を示した。 *5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16152512.html (朝日新聞 2025年2月19日) 課題山積、原発建設に道 「採算とれる支援」待つ関電 エネ基に建て替え促す制度 政府が18日に閣議決定した新しいエネルギー基本計画(エネ基)は、再生可能エネルギーの活用を掲げつつ、同じ「脱炭素」を旗印に、原発の建て替え(リプレース)も促す内容だ。原発回帰は大手電力が切望していたとはいえ、政府の支援策がなければ投資に踏み込めない事情も浮かぶ。「今後、原子力が重要になるのは間違いない」。九州電力の池辺和弘社長は1月の会見で、こう強調した。新しいエネ基は、東日本大震災後に掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を削り、原発の建設を縛っていた「くびき」を外した。池辺氏は「新設も含めて進めていくべきだ」とも語った。新しいエネ基では、老朽原発を廃炉にした分だけ、別の原発でも原子炉を増やせるとした。九電は玄海原発(佐賀県)の2基を廃炉中だ。経産省は、その分を川内原発(鹿児島県)の「増設」に充てたい考えだ。関連業界も動き始めた。原発メーカーの三菱重工業は、2026年度までに本体の原子力事業の人員を昨年4月比で1割増やす方針だ。今後3年間の生産設備と研究開発への投資額も、前の3年間に比べて3割増やす。泉沢清次社長は「関心を持つ学生が多く、新卒採用はほぼ計画通り」と話す。東芝も原発の設計などにあたる専門人材の採用を増やす。ただ、事態はすぐに動きそうにない。原発の建設について、九電のある幹部は「うちがやるのは、あちら(関西電力)がやったあとだ」とし、当面は様子見の構えだ。関電は美浜原発の2基が廃炉中で、「建て替えの着手に最も近い」(経産省幹部)とされる。森望社長も、リプレースや新増設について、「検討を始めなければならない時期に来ている」との考えを繰り返し口にする。だが、関電のある幹部は「エネ基を旗印に、すぐにリプレースできるわけではない」とも語る。「重要なのは、本当に採算がとれる支援制度が出てくるかだ」。エネ基では、原発の建設費の上ぶれ分を電気料金から回収できるようにする制度づくりを進めるとした。だが、具体策はこれから。関電の幹部は「投資の予見性など、具体的な話が見えてきてからだ」と釘を刺す。一方、「核のごみ」をめぐる課題は解決に遠く、核燃料サイクルも順調には進んでいない。今回実施したパブリックコメントでも、原発の安全性や「核のごみ」についての意見が寄せられ、新しいエネ基でも「懸念の声があることを真摯(しんし)に受け止める」と加えた。関電の関係者は「リプレースの検討に向けた次のステップに踏み出すと、すぐに表明するのは難しいだろう」と話す。 ■洋上風力・太陽光、拡大急ぐ 再エネ2040年度に「4~5割」 新しいエネ基では、再エネも「最大限活用する」と強調した。電源構成に占める割合を、いまの2割から40年度に4~5割にする。政府は50年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると約束しており、達成には再エネの普及が欠かせない。とくに期待するのが洋上風力発電だ。政府は40年までに出力3千万~4500万キロワットの事業化をめざす。いまは領海内に限っている設置場所を、排他的経済水域(EEZ)にも広げるため、関連法の改正案を今国会に提出する予定だ。ただ、コスト面では厳しい。国の公募に応じて秋田県沖と千葉県沖で計画を進めていた三菱商事は、建設コストの高騰などで採算の見通しが悪化。24年4~12月期決算で522億円の減損処理をした。経産省は次回の公募から、コストの上昇分を電力の買い取り価格に上乗せできるようにするなどの対応を急ぐ。自然エネルギー財団の大林ミカ氏は「成長途上の洋上風力産業で日本がリーダーシップをとるためには、半導体産業と同じくらい比重をかけるべきだ」と指摘する。もう一つの柱が、太陽光発電のいっそうの普及だ。日本はすでに平地面積あたりの発電量が世界トップクラスにある。東日本大震災後に始まった再エネの固定価格買い取り制度(FIT)で各地にメガソーラーがつくられた効果が大きいが、建設の余地が少なくなっている。近年では、景観への悪影響などから「迷惑施設」とされつつある。そのため今回のエネ基では、軽くて曲げられる次世代の「ペロブスカイト太陽電池」に注目。40年に約2千万キロワットを導入すると打ち出した。いま普及している「シリコン系」と比べて耐久性が劣り、コストも高いが、政府は日本の将来の産業の核になると期待し、導入拡大やコスト削減を後押しする方針だ。再エネの導入に関する経産省の審議会で委員長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授は、シリコン系についても「空港などの公共施設を活用すれば、拡大余地はまだある」と指摘。今後の再エネの普及には「自治体との調整など、公的な介入が重要になる」と話す。(多鹿ちなみ) ■LNG、陰の主役 火力45%想定も、確保探る 今回の計画で「陰の主役」とささやかれるのが、液化天然ガス(LNG)だ。石炭や石油よりも温室効果ガスの排出が少なく、足元の電源構成の30%超をLNG火力が占める。出力の変動が大きい再エネを補助し、水素の原料にもなるため、「重要なエネルギー源」と位置づけた。エネ基では電源構成に占める火力の割合を、いまの約70%から40年度は3~4割に減らすとしている。だが、経産省は脱炭素化がうまくいかなければ、火力が45%を占めると想定する。経産省内では「現実的にはこちら(45%)」との見方が強く、LNGへの依存は続きそうだ。ただ、LNGはほとんどを輸入に頼り、国際情勢によって価格が跳ね上がるリスクもある。日本エネルギー経済研究所のまとめでは、長期契約によるLNGの確保量は減少していく見通しだ。新しいエネ基でも、LNGを安定して確保することの重要性を書き込んだ。そんななか、トランプ米大統領は前政権が制限していたLNGの輸出の再開にかじを切った。7日の日米首脳会談では、日本が米国からLNGの輸入を拡大することで合意。トランプ氏はアラスカ州のLNG事業について、日米共同開発を検討するとも言及した。米国はロシアや中東に比べて地政学リスクが低い。ただ、アラスカ州の事業は巨費がかかると見込まれる。資源開発大手INPEXの上田隆之社長は「何十年間も計画は実現しなかった。寒い場所でのパイプラインの建設費など解決しなければならない課題がある」と語るなど、警戒感も広がる。さらに、日本が大量のLNGを受け入れることになれば、脱炭素化の遅れにもつながる。 ■<考論>リスクどこまで甘受、議論を 寿楽浩太・東京電機大教授(科学技術社会学) 化石資源が乏しいなかでエネルギーを確保する方法を追求してきた日本には、頼りになるのは原発だ、という考えは古くからある。脱炭素化の流れで、再びそうした考えが出てきても不思議ではない。しかし、原子力の利用に今後どのぐらいのお金がかかるか、積極的に国民に開示すべきだ。そのうえで他の利点やリスクも踏まえて、複数の選択肢を提示してほしい。また、これまでは原発か、再生可能エネルギーかといった「技術の選択」に、やや議論が偏ってきた。その技術によって何を優先して実現しようとするのか、どういうリスクや不都合を甘受するのかが本当の論点だ。原発には重大事故のリスクが伴う。どこまで許容するのか、正面からの議論が必要だ。限られた専門家だけで決定し、「政府の政策を受け入れてください」というやり方は限界にきている。 ■<考論>「電源2割が原発」実現困難 橘川武郎・国際大学長(エネルギー政策) エネルギー基本計画を議論する政府の審議会は、「電気が足りない=原発が必要」とする考えが支配的で、一時は2040年の電源構成に占める原発の割合を25~30%とする数字が打ち出されそうになった。最終的に2割に収まったが、それも実現は困難だろう。前回21年に定めた30年時点の電源構成は、原発を20~22%とした。いま動いている原発に加え、原子力規制委員会が再稼働を不許可とした日本原子力発電敦賀原発2号機や、審査中の9基を含めた27基が稼働することが前提になる。ただ、どう甘く見ても20基前後。原発は頼りにならない。政府は今後、原発の新増設や建て替えを進めるため投資環境を整えようとしている。だが、簡単に進まないだろう。電気が足りないなら再生可能エネルギーでまかなうべきだ。ペロブスカイト太陽電池の実用化、洋上風力の支援拡充といった議論をするのが筋だ。 *5-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/374011 (東京新聞 2024年12月17日) 政府、発電コスト「原子力12.5円、太陽光8.5円」と試算…それでも原発を優位に導く「逆転」のトリック 経済産業省は16日、2040年度時点の電源別の発電コストを公表した。発電にかかるコストは、原子力が事業用太陽光(メガソーラー)を上回った。専門家が「計算の前提条件が、原子力など既存の大型電源に有利」と疑問を呈する甘い想定の中でも、原子力が安いとは言えなくなっている。 ◆エネルギー基本計画の基礎となる試算 経産省が有識者会議に示した発電コストは「均等化発電原価(LCOE)」と呼ばれ、3年ごとに見直される。経産省は17日にエネルギー基本計画の政府素案を公表する予定で、今回の試算を基に計画の決定に向けて素案を議論していく。エネルギー基本計画の改定に伴い、2021年の試算では、2030年度にすべての発電所を新設する想定で建設や運転の費用を計算していたが、今回は2040年度に新設する想定へ変更した。主な電源の1キロワット時当たりの費用は、原子力が2021年の11.7円以上から12.5円以上に増加。事業用太陽光は11.2円から8.5円に減少した。陸上風力は14.7円から15.3円に、液化天然ガス(LNG)火力は10.7円から19.2円に上がった。2021年の数値と比べ、原子力は事故発生確率を引き下げたものの、事故防止の追加的対策費や燃料代が増加したことが影響。太陽光や着床式洋上風力は量産による効果で安くなった。火力は二酸化炭素排出対策や円安による燃料代の高騰で大幅に上がった。電力システムに接続したときに追加で発生する「統合コスト」を加味すると、原子力が太陽光を下回る可能性が高いとした。 ◆「再エネへの政策経費が高すぎる」 今回の試算について、龍谷大の大島堅一教授は「原子力は安く見積もられている」と指摘。理由として、 ▽事故対策工事費が新規制基準の審査申請時の価格を基準にしており、許可時までに実際に上昇した分が反映されていない ▽事故発生確率を引き下げる根拠が不十分 ▽福島第1原発の放射性廃棄物処分費が入っていない ーを挙げた。 大阪産業大の木村啓二准教授は再生可能エネルギーの試算について「太陽光や風力にかかる2040年度の政策経費が高すぎる」と指摘。再エネに不利な統合コストについても「電力システムの前提次第で大きく値が変わり、LCOEに単純加算する議論はナンセンス」(大島教授)との批判がある。試算では蓄電池の活用や需給の細かな調整で、統合コストを抑えられる可能性も示された。 *均等化発電原価 実際にある発電所のデータを参考に、建設費、維持費、燃料費を含めた総経費を、運転期間中の総発電量で割って算出する。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)などの国際的な指標となっている。原子力は事故対応費用が膨らむ恐れがあるため、下限値のみを示している。 *5-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1412731 (佐賀新聞 2025.3.2) 【福島事故の教訓】「厳しい要求ためらわず」石渡明・元原子力規制委員に聞く 2011年3月の東京電力福島第1原発事故を招いた古い体質は、14年後の今も完全には解消されていない。「原子力ムラ」とは無縁の地質学者から原子力規制委員会の委員となり、自然災害の審査を担った石渡明さんは、安全を追求するには電力会社に厳しい要求をすることをためらってはいけないと訴える。(共同通信編集委員・鎮目宰司) ▽大津波 ―事故の教訓は何だと考えていますか。 約千年前の平安時代に東北地方の太平洋岸を大津波が襲ったことは、1990年代に東北大の地質学者が論文で公表していました。2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でも同様に大津波が生じ、複数の原発を襲いました。福島第1では可能性を考えた対策をしなかったため、大事故が起きたのです。 ―規制委の前身である経済産業省原子力安全・保安院や東電は公表済みの情報をすくい上げて生かせませんでした。知り得た重要な情報は議論をした上で、必要な点を原発の安全対策にすぐ反映することが大切だと考えています。当時の内情を詳しく知らないので一般論ですが。 ▽活断層 ―2014年、事故後に発足した規制委入りを引き受けたのはなぜですか。 震災直後に岩手県や宮城県で津波の調査をして、悲惨な状況を目の当たりにしました。自然災害への備えをしないと原発が危ないのは明らかでした。委員への就任を打診されて「やらざるを得ない」と。国難ですから。 ―規制委では、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)の断層問題を担当しました。危険性を直視しない体質が見えたと思いますが。 原子炉から約250mの位置に活断層があり、これとは別の断層が原子炉の真下を走っている。真下の断層もずれるのではないかという問題です。ずれる可能性があると分かれば運転は認められません。原電としては「ずれる可能性はない」と、そういうデータを次々と出してくる。一方で不利なデータは無視する。規制委の初期の会合ではかなり戦闘的な態度でした。現地を見て、データを点検すると、原子炉に向かって伸びている断層は何度もずれた結果、岩が幅広くぐちゃぐちゃに壊れていました。壊れた岩の厚さは平均で70cmもある。原電は、この断層は原子炉のかなり手前で消えて直下の断層にはつながらないと説明するのです。驚きました。 ▽重い判断 ―結局、敦賀2号機は規制委の基準に適合しないとの結論でした。 もちろん他にも多くの問題がありました。しかし、原発内を走る活断層は1990年代には専門書で存在が示されていた。原電がこれを認めたのは2008年です。対応が非常に遅いと思います。 ―分かったらすぐ対応するという教訓とは正反対ですね。 いったん運転を許可した後でも、重要な発見や情報が得られれば、対応するまで運転を認めない運用が規制委では新たに可能となりました。重い判断ですが、必要なら積極的に行うべきです。自然災害は本当に予測が難しく、特に原発では安全性を確保するために十分な余裕を持った対策をしておかなければなりません。大地震はもちろん、大津波や火山噴火はめったに起きないので、国内外での情報収集を怠らないことが必要です。 *いしわたり・あきら 1953年神奈川県生まれ。東京都立高教諭などを経て金沢大教授、東北大教授。岩石学、地質学。2014~2024年原子力規制委員。 ▽「言葉解説」東京電力福島第1原発事故 2011年3月11日の東日本大震災で大津波が発生し、浸水した福島第1原発(福島県)では原子炉などを冷却する機器の多くが動かなくなり、一部の原子炉では核燃料が溶け落ち、建物が爆発した。東北地方の太平洋岸では貞観(じょうがん)地震(869年)の大津波などが知られており、福島第1の津波対策を懸念する声があった。東電も経済産業省原子力安全・保安院(2012年に原子力規制委員会に改組)も情報に接していたが、有効な手を打たなかった。 *5-2-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16162119.html (朝日新聞 2025年3月4日) (東日本大震災14年)福島の農業 米作り、福島ブランドを再び 東京電力福島第一原発事故は田畑だけでなく、福島県の農産物のブランドも傷つけた。事故から14年が経ち、県産品離れは解消の方向に向かっているが、試行錯誤は今も続いている。 ■全袋検査を経て、徐々に価格復調 原発事故の前、福島県は主食用の作付面積が北海道、新潟県、秋田県に次ぐ全国4位の米どころだった。県によると、避難指示が出た12市町村には県内全体の農家の15%にあたる1万4600戸がいた。放射性物質による汚染などでの作付け制限は約6800戸の8500ヘクタールの農地に及び、2011年産のコメ生産量は前年比2割減の35万トンに落ち込んだ。特に原発がある沿岸部のコシヒカリの出荷量は、震災前の3万トン前後から3分の1に減った。原発事故は米価の下落も招いた。周囲を山に囲まれ、寒暖差が大きな会津盆地で栽培された会津産コシヒカリは、ブランド米として知られていた。しかし、12年以降に全国平均に近づき、震災前に上回っていた北陸産にも逆転された。福島市や郡山市がある県中央部や沿岸部のコシヒカリの価格は、事故前の全国平均並みから、さらに低い水準になった。JA福島中央会の今泉仁寿常務理事は「売り場の『棚』を他の産地に取られた。その分は業務用米に回った」と振り返る。県産米のうち、約7割は弁当や外食用の業務用米で、比率の高さは毎年全国1~3位を推移している。原発事故後、初めての収穫となった11年秋、佐藤雄平知事(当時)はサンプル調査を元に「安全宣言」を出した。しかし、その後、基準値超のセシウムが検出されるコメが相次ぎ、消費者の不安を招いた。その反省から、県とJAなどは翌12年、約1千万袋(1袋30キロ)の玄米を全て検査する世界初の「全量全袋検査」に取り組んだ。科学的には、地区ごとなどにコメを抽出する「サンプル調査」で十分との指摘もあったが、県内での米の生産額の1割弱にあたる年間60億円をかけ、全て検査するという「消費者向けの分かりやすさ」を重視した。15年産で基準値超のコメがゼロになっても、19年産まで続け、その後も避難指示が出た地域に限って全量全袋検査を続けた。今泉さんは「流通では風評被害が残っているが、消費者の忌避感はかなりなくなった」とみる。県は21年、震災前から開発してきたブランド米「福、笑い」をデビューさせた。栽培の条件を満たした農家に生産を限り、粒が大きく、強い甘みと香りが特徴で、高価格帯での販売をめざす。県産米の輸出も復調している。 ■沿岸部、営農再開一歩ずつ 一方、沿岸部では、原発事故の影響で営農再開ができない地域が残っている。避難指示が出た12市町村全体の営農再開率は、24年3月時点で49・7%だが、26年3月に6割にする目標を掲げる。22年に中心部の避難指示が復興拠点として解除された大熊町では今年、解除されたエリアで稲作の再開をめざす。町農業委員会などが、実証栽培を続けてきたが、収穫された米のセシウムは基準値を下回っている。同会長の根本友子さん(77)は「一歩一歩ですが、一人でも多くの人に大熊のお米のおいしさを思い出してもらいたい」と営農再開の広がりに期待する。 ■急落乗り越え、完全回復めざす 「フルーツ王国」と言われる福島県を代表する果物、モモ。ふるさと納税の返礼品としても人気だが、原発事故では大きな打撃を受けた。2011年度の東京都中央卸売市場における、福島産モモの1キロ平均単価は222円と、全国平均より4割安だった。樹木に付着した放射性物質を除染するため、生産者やJAは次の冬、1本ずつ洗浄した。約460本あるモモの木をすべて高圧洗浄機で洗い流した福島市のモモ農家、大宮篤司さん(67)は「極寒期の作業で身体的にも精神的にも大変だったが、前に進むためには頑張るしかなかった」と振り返る。それでも需要は回復せず、市場には行き場を失った県産のモモが山積みになり、安く買いたたかれた。「売れば売るほど赤字が膨らみ、地獄だった」(JA全農福島幹部)。安全性や味の良さのPRなど地道な活動で、県産モモの平均単価は18年度、原発事故前の10年度(438円)を上回る491円に回復。23年度は627円に上がったが、依然として全国平均よりも1割ほど安い。「一度ついた風評は根深く、完全払拭は容易ではない」と県の担当者は話す。(以下略) *5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1411306 (佐賀新聞 2025/2/19) 核兵器禁止条約 参加こそ「橋渡し」になる 核廃絶の流れに日本政府が背を向けている。3月に米ニューヨークで開かれる核兵器禁止条約の第3回締約国会議について、これまで通りオブザーバー参加も見送ると表明した。核兵器禁止条約は2017年に採択され、21年に発効した。核兵器の開発や実験、保有、使用や威嚇を禁止する。核を巡る国際的枠組みの歴史上、最も踏み込んだ内容で、核を持たない国々や非政府組織(NGO)の取り組みで実現した。だが核拡散防止条約(NPT)で核保有を認められている米ロ英仏中の5カ国を含む核保有国や、米国の核に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国は参加していない。米国の「核の傘」の下にいる日本も加わっておらず、条約の履行状況を話し合う過去2回の締約国会議にも出席していない。日本政府に参加を訴えてきた被爆者の取り組みは、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞で勢いがついた。被団協は1月、石破茂首相と会い、発言もできるオブザーバー参加を要請した。だがこの時、石破首相は明確な考えを示さなかった。政府側からは、あらかじめ「平和賞の祝意を伝えるもので、意見交換の場ではない」として条約には触れないとの意向が示されたという。石破首相は政府の代わりに与党議員を派遣することを検討したが、自民党の森山裕幹事長は「考えていない」と否定。公明党は議員を派遣するが、政府代表ではなく曖昧さは拭えない。日本政府は参加しない理由として(1)核保有国が参加しておらず、実効性がない(2)米国による核抑止力の正当性を損ない、国民を危険にさらす―ことを挙げている。米国に安全保障の根幹を委ねる日本にとって、条約のハードルは確かに高い。しかし今年は被爆80年。被団協のノーベル平和賞受賞という追い風の中、被爆国が今動かなければ一体いつ動くというのか。一番の問題は、政府として参加するにはどんな方法があるか、模索した形跡がうかがえないことだ。日本が米国に協議を持ちかけたような動きも見えず、今回の石破首相とトランプ米大統領の首脳会談でも、議題にすら上らなかった。こうした状況は、条約発効時の菅義偉元首相、さらに広島選出をアピールした岸田文雄前首相の時から変わらない。それだけ難しい問題だとも言えるが「なんとか参加したいが、できない」ではなく、最初から行かない理由を探しているようにしか見えない。NATO加盟国でもドイツやノルウェー、ベルギーなど、これまで締約国会議にオブザーバー参加し、意見表明した国がある。そのことで、条約に加わるかどうか、すぐに決断を迫られるようなことにはなっていない。「核保有国と非保有国の橋渡しをするのが日本の役割」というのが政府の立場だ。そうであれば、オブザーバー参加して被爆当時の状況や被爆者の現状を説明し、核による惨禍を訴えるべきだ。条約に参加できないのであれば、その理由を明確に伝えることも必要だ。核保有国がその場にいないとしても、メッセージは伝わる。そのことがまさに「橋渡し」になるのではないか。 <トランプ関税と日本> PS(2025年4月6、7日追加):*6-1-1・*6-1-2は、①トランプ米政権は全世界に対する一律10%の関税・国毎の関税率「相互関税」を発表 ②米国外製造の全輸入車は、自動車メーカーの生産拠点を米国に移設させるため、現行に上乗せして25%の関税を発動し、乗用車は2・5%から27・5%・一部トラックは25%から50%に ③2029年1月まで続く第2次トランプ政権の適用除外なき恒久措置 ④日本の自動車産業に大打撃 ⑤米国外生産の主要自動車部品にも25%の関税発動 ⑥原則無課税で輸出入できる「米国・メキシコ・カナダ協定」に適合した自動車は米国製部品使用割合に応じて関税率引き下げ ⑦日産自動車は今夏にも米国向け主力車の国内生産を一部現地生産に切り替え ⑧生産移管は中小の部品サプライヤーに打撃 ⑨トヨタ自動車の北米法人は、メキシコ・カナダからの輸入分を対象として現地の部品メーカーに関税に伴うコスト上昇対応を支援すると伝え、米国での販売価格は当面維持する方針 ⑩自動車は日本の基幹産業で、製品出荷額は国内総生産(GDP)の約1割に相当 ⑪生産移管はGDPの押し下げに繋がるため、政府は国内の空洞化対策を急ぐ必要 としている。 日本のメディアは、①②③④のように、トランプ関税とそれが日本の基幹産業と言われる自動車の輸出に与える影響について多くを語っているが、下の段の左図及び⑦⑨のように、自動車メーカーは米国販売の高い割合を既に現地生産しているため、その割合を高めれば問題解決できる。また、⑤⑧の自動車部品メーカーは、現地生産について行くか、これを機会に日本国内で他産業の部品や完成品も作る等の前向きなことを考えた方が良い。他国は進歩しているため、日本だけがいつまでも⑩⑪のように、自動車のみを日本の基幹産業とし、加工貿易の比較優位幻想にとらわれて、アメリカが関税を上げればGDPが下がるなどと言いながら現状維持に汲々としていると、世界では経済的地位も生活水準も現状維持すらできずに次第に落ちていくものだ。なお、⑥のように、原則無課税で輸出入できたためメキシコに作ってしまった自動車工場は、最初に自動車の大量生産を行い、従業員の賃金を上げて従業員が「T型車」を買えるようにして、従業員を広告塔としてT型車を大量販売することに成功し、資本主義のうねりを生んで20世紀の社会まで変えた米国フォードのマーケティング方式を使えば良いと思う(https://www.webcg.net/articles/-/44857 参照)。それでは、「日本国内に残る部品メーカーが入るべき他産業は、どれが有望か」と言えば、これから国内で大量のインフラ更新が必要で、新しい街作りや最新技術を取り入れた住居への更新もしなければならないことを考えれば、自らの得意技をさらに磨いてそれらの分野に進出するのが良いと思う。また、今後、ブルーオーシャンになりそうな有望分野の例を示すと、*6-3-1のようなAI搭載ロボット(1台ですべてをこなす必要はない)や、*6-3-2のような幹細胞(iPS細胞に限らない)による再生医療に使う細胞増殖そのものや増殖装置の生産もあり、新しいアイデアを製品にして市場投入できるためには、これまで培ってきた精緻な技術が必要であるため、有望分野は多い。また、私は、日本で販売する米国製品や中国製品(BYD等)も日本で作るよう促してもらいたい。 また、*6-2-2は、⑫トランプ米大統領が「我々の友人(日本)が、私たちに米やその他を売らせたくないから(米国産の米に)700%の関税を課している」と語った ⑬日本政府は米・農家を守るため、米の輸入を原則認めてこなかったが、1995年に方針転換した ⑭無関税で米を輸入するミニマム・アクセス米以外は、341円/kg関税をかけている ⑮日本政府は2000年代のWTO交渉で米の国際的な平均価格を約44円/kgとして参考値で「778%」との高めの関税率を示したことがある ⑯直近の米国産うるち精米中粒種(23年度)は約150円/kgであるため、341円/kgの関税を率にすると227% としている。 令和6年産の日本産米は、Amazonで調べると、北海道産ゆめぴりか1,080円/kg、佐賀県産さがびより1,420円/kg、熊本県産ヒノヒカリ1,449円/kg、新潟県産コシヒカリ1,118円/kg、岡山県産あきたこまち976円/kgであるため、*6-2-3のように、関税を払っても米国産米491円/kgの方が安いが、⑯の227%の関税も十分に高関税であり、日本人はこれを払っているのだ。そのため、⑫~⑮のように、トランプ米大統領の古い思い込みを批判する前に、この外圧を利用して米はじめ農産物も自由貿易化し、日本国民や他産業に迷惑をかけないようにすべきだ。その時、食糧安全保障を堅持して農家を護る方法は、下の段の図の説明に書いたとおり、農家の農業法人化・大規模化を促し、スマート農業を普及させてコストダウンさせながら、直接支払に替えて農家に再エネ発電設備設置補助を十分に行なって電力収入を農家の副収入に加え、同時にエネルギー安全保障と環境維持を達成することである。そして、これは、私は10年以上前から言っていることで、その間、真面目に進めていればとっくに実現できており、無駄なバラマキをせずにすんだのである。 なお、日本農業新聞論説は、*6-2-1のように、⑰米国は貿易赤字が膨らみ、2024年は約1兆2000億ドル(約185兆円)で過去最大 ⑱トランプ大統領は「国家非常事態に当たる」「米国経済を復活する」と強調する ⑲米国の貿易赤字の大半は自動車・その部品・半導体など工業製品によるもので、農林水産物は米国が圧倒的な貿易黒字であるため、米の関税を持ち出すのは筋違い ⑳「相互関税」の公表に先立ち米通商代表部(USTR)は、日本の牛肉やジャガイモなどの検疫体制も問題視した 等としている。 このうち⑰⑱については、米国も双子の赤字が大きく、GDP2位の中国に迫られ、輸入ばかりしているわけにはいかない状況なのだから、日本の農業もあちこちに甘えてばかりでは困る。また、⑲の工業製品は自助努力で世界競争に勝っている部分が大きく、「農林水産物は米国が圧倒的な貿易黒字」というのも、あらゆる方法で改善すべきだ。しかし、下の段の中央の図のように、農業は誤った保護の仕方をして本来ある活力を抑え続けたため、改革してもそれが成長に繋がらず、農業人口も食料自給率も減り続けているという実績なのである。そして、日本の財政赤字/GDPは、250%を超え、米国の120%程度の2倍以上であることも忘れてはならない(https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/900009877.html 参照)。 ![]() 2025.1.25日経新聞 2023.1011世界コネクト GDFreak (図の説明:左図は、日本の最近20年の貿易収支の推移で、2011年以降は赤字続きであるため、トランプ関税を馬鹿にできるような状態ではない。また、中央の図は、2019年の輸出《約11兆円》輸入《13兆円》の内訳で機械類・輸送用機器の輸入も多く、実際に日本製の電気製品を探すのは難しいくらいであるため、「日本が加工貿易に比較優位性を持つ」などという状態はとっくに失われており、右図のように、中国はじめアジア各国が、安い物価水準と安価な労働力を背景に、日本に輸出しているのだ) ![]() すべて、2025.4.6日経新聞 (図の説明:左図は、日本の基幹産業と言われている自動車メーカーの米国販売額を現地生産と日本からの輸出に色分けして示したもので、既に現地生産の割合が高いので、それをさらに増やせば問題解決できる。中央の図は、日本のコメ輸入を巡る動きで、1995年までも食管法があったが、1995年にこれを廃止して食糧法を施行したものの、2004年までは価格が市場で決まらなかった上、未だに著しい高関税で国内産のコメを護っている。そして、右図のように、輸入米は米国産が最も多いため、そろそろ関税をなくして農家の農業法人化・大規模化を促すと同時に、直接支払に替わる農家への再エネ発電設備設置補助を十分に行なえば良いと思う) *6-1-1:https://mainichi.jp/articles/20250403/k00/00m/020/077000c (毎日新聞 2025/4/3) トランプ政権、25%の自動車関税を発動 日本の自動車産業に大打撃 トランプ米政権は3日、米国外で製造された全ての輸入車に対する25%の関税を発動した。現行の関税に上乗せする形で、乗用車が2・5%から27・5%、一部トラックは25%から50%に引き上げられる。適用除外は設けず、2029年1月まで続く第2次トランプ政権の恒久的措置としている。日本の自動車産業に大打撃となる。海外にある自動車メーカーの生産拠点を米国に移設させる狙い。3日午前0時1分に発動すると明記した布告に、トランプ大統領が署名していた。米国外で生産された主要自動車部品に対しても、5月3日までに25%の関税を発動する。原則無課税で輸出入できる「米国・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)に適合した自動車については、米国製部品の使用割合に応じて関税率を引き下げる。USMCAに適合した部品に関しては、非米国産部分のみに課税できるプロセスを確立するまで適用されない。トランプ氏は2日に全世界に対する一律10%の関税や、国ごとに関税率を分けた「相互関税」を発表したが、自動車や主要自動車部品には適用されない。 *6-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250406&ng=DGKKZO87855040W5A400C2MM8000 (日経新聞 2025.4.6) 日産、米に生産一部移管 輸出回避、国内で減産 中小供給業者に影響恐れ 日産自動車が今夏にも、米国向け主力車の国内生産を一部現地生産に切り替える検討に入った。生産を担う福岡県の工場で減産し、輸出を回避してトランプ米政権が発動した追加関税の影響を抑える。生産移管は中小の部品サプライヤーに打撃となる。政府は国内の空洞化対策を急ぐ必要がある。日産は多目的スポーツ車(SUV)「ローグ」の国内生産の一部を米国に移管する方向で検討している。ローグは米国の主力車で、福岡県にある工場と米国の工場で生産している。追加関税の発動後に国内からの生産移管の動きが明らかになるのは初めて。日産の2024年の米国販売は約92万台で、そのうち16%の約15万台を日本から輸出している。主力拠点である福岡の工場は年50万台の生産能力があり、ローグを年12万台程度生産している。減産は一定規模になるもようで、中小のサプライヤーを中心に地域経済に影響が出る恐れもある。過去には海外への生産移管により、国内工場の縮小につながったことがある。日産は国内のサプライチェーン(供給網)を維持するために100万台必要だった。生産台数は24年に約66万台まで減っており、日産の国内生産の再編にも追加関税が影響を与える可能性がある。業績不振の日産は構造改革の一環で、4月以降に米国工場の生産ラインの一部でシフトを半減し、ローグなどを減産する計画だった。追加関税の発動を受けて減産計画を撤回し、一転増産する方針を決めた。トランプ政権が発動した関税政策では、日本などから輸入する自動車に対して25%の追加関税がかかる。福岡県で生産した車両は米国への輸出コストがかさむことになる。日産は日米で車両生産を調整し、関税の影響を抑える。今後、他の自動車メーカーでも国内から米国への生産移管が広がる可能性がある。自動車は日本の基幹産業で、製品出荷額は国内総生産(GDP)の約1割に相当する。生産移管はGDPの押し下げにつながるため、国内の空洞化対策は大きな課題となる。政府は中堅、中小の自動車部品メーカーの事業強化に向けた支援にも取り組む。副大臣や政務官などを自動車産業が集積している地域、関連工場に派遣する。他の日本の自動車メーカーも対応策を急いでいる。トヨタ自動車の北米法人は現地の部品メーカーに、関税に伴うコスト上昇への対応を支援すると伝えた。メキシコ・カナダからの輸入分を対象とし、米国での販売価格は当面維持する方針だ。トヨタは日本のメーカーで最も多く自動車を日本から米国に輸出している。日本の取引先については「当面のオペレーションを維持する」と伝えており、日本から輸出する分については今後、対応を検討するようだ。 *6-2-1:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/298480 (日本農業新聞論説 2025年4月4日) 米国の相互関税と日本 農業への悪影響許すな 米国が貿易相手国に同じ水準の関税をかける「相互関税」を導入し、日本からの輸入品に24%の関税を課す。トランプ大統領は、日本が米にかけている関税にも言及した。一方的な措置は、世界貿易機関(WTO)協定に反するだけに、関係国と協調し、見直しを強く求めるべきだ。米国は貿易赤字が膨らみ、2024年は約1兆2000億ドル(約185兆円)と過去最大に膨らんだ。トランプ大統領は「われわれの生活を脅かす国家非常事態に当たる」とし、関税措置で「(米国経済を)復活する」と強調した。相互関税は、安全保障上の脅威に対する国際緊急経済権限法に基づくもので、中国には34%、韓国には25%、欧州連合(EU)には20%をかける。これとは別に、輸入車には25%の追加関税を導入した。各国の反発は必至であり、「貿易戦争」につながる恐れがある。日本に24%の関税をかける根拠については、日本が米国からの輸入品にかけている関税が平均で46%になっていることを挙げた。その一例としてトランプ大統領は、日本の米を引き合いに出し、「700%の関税を課している」と言及した。高関税を印象づけようとするもので到底、容認できない。米国の貿易赤字の大半は自動車とその部分品、半導体など工業製品によるものだ。農林水産物は、米国が圧倒的な貿易黒字であり、米の関税を持ち出すのは筋違いである。日本が外国から米を輸入する場合、WTO協定に基づき、年間77万トンものミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)と1キロ当たり341円の関税をかけている。第1次トランプ政権時に締結した日米貿易協定でも認められ、共同声明で「協定が誠実に履行されている間、協定と共同声明に反する行動を取らない」としていた。米国の姿勢は、約束を反故(ほご)にするものだ。「相互関税」の公表に先立ち米通商代表部(USTR)は、日本の牛肉やジャガイモなどの検疫体制も問題視した。今後、非関税障壁として圧力も強まるとみられる。日本の農業は、幾多の貿易自由化の結果、生産基盤は弱体化し、食料自給率(カロリーベース)は38%に低迷している。政府・与党は、農林水産物・食品の輸出に力を入れ、30年までに5兆円を目指す。茨城大学の西川邦夫教授は「日本の米輸入制度がターゲットになっていることは明らか。輸出戦略の見直しが迫られる」と指摘する。自動車産業を守るために、日本の農林水産物、農業・農村を犠牲にするようなことがあってはならない。 *6-2-2:https://digital.asahi.com/articles/AST443FLPT44UTIL004M.html (朝日新聞 2025年4月5日) トランプ大統領「日本は輸入米に関税700%」 発言は「誤り」 【トランプ米大統領の発言】「日本では、我々の友人(日本)が(米国産の米に)700%の関税を課しているが、それは私たちに米やその他のものを売らせたくないからだ」(4月2日、米ワシントンのホワイトハウスでの「相互関税」に関する発表で)。トランプ米大統領が2日にホワイトハウスでの「相互関税」に関する発表で語った。江藤拓農林水産相はその後、報道各社の取材に「論理的に私も計算しても、そういう数字が出てこない。なかなか理解不能だ」と述べた。 ●一定枠超えた輸入米、1キロ341円の関税 政府は主食である米や農家を守るため、米の輸入を原則認めてこなかったが、1995年に方針転換した。無関税で米を受け入れる最低枠「ミニマム・アクセス(MA)」を設け、現在は年間約77万トンを輸入し、米国が最も多く半分近くを占める。一方、この枠外で輸入した米には価格に関わらず、1キロあたり341円の関税をかけ、2024年度は今年1月末時点で991トン(暫定値)を輸入する。ランプ氏が示す「700%」の根拠は不明だ。しかし、日本政府は2000年代の世界貿易機関(WTO)の交渉で、米の国際的な平均価格を1キロあたり約44円とし、参考値で「778%」との高めの関税率を示したことがある。最初の設定が高ければ、交渉で関税率を引き下げても、一定の税率を維持し、輸入量を抑える狙いだったとみられるが、現在はこの数字は当てはまらない。 ●「トランプ氏にうまく使われている」 元農水官僚で、国際貿易交渉に詳しい明治大の作山巧専任教授に関税率の試算を依頼した。農水省によると、直近の米国産うるち精米中粒種(23年度)の価格は1キロ当たり約150円で、関税率に換算すると227%と、トランプ氏が主張する「700%」には遠く及ばなかった。作山氏は「かつての交渉では日本が米を守るために高い関税率を示した。それをトランプ氏にうまく使われているのでは」と指摘する。 ●結果判定=「誤り」 政府は無関税で米を輸入する一定量の枠を設け、この枠外で輸入する米には1キロあたり341円の関税を課す。専門家が直近の米国からの輸入米の価格(2023年度、1キロ当たり150円)を元に、341円で関税率を試算すると、227%だった。 *6-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250406&ng=DGKKZO87854770V00C25A4EA2000 (日経新聞 2025.4.6) コメ政策、内外から圧力 米騒動や関税で強まる 「閉鎖的」批判、改革促す 日本の閉鎖的なコメ政策に内外から圧力が強まっている。「令和の米騒動」を受けて小売りや外食業界はコメ輸入のニーズを高め、米国も日本の高関税の象徴としてやり玉に挙げる。農家保護を優先した守りの農政を脱し、増産や農地集約といった改革路線への転換が欠かせない。農林水産省の農林水産物輸出入情報によると1~2月の米国産コメの輸入量は7万423トンで前年同期比19%増だった。貿易統計を基に分析すると政府経由の輸入が全体の99%以上を占める。民間輸入も58トンと少量ながら3倍になった。小売りや外食で外国産コメを使う動きが広がっている。24年夏にスーパーなどの店頭からコメが消えた「令和の米騒動」が引き金となった。イオンは10日ごろから米国産と国産のコメをブレンドした新商品「二穂の匠」を発売する。米国産と国産を8対2の比率でブレンドし、4キロ2780円(税抜き)と割安感を出す。兼松は12月までに1万トンを輸入する見込みだ。吉野家ホールディングスは牛丼チェーン「吉野家」で2024年春から国産米と外国産米のブレンド米に変更した。輸入米を扱う大手卸の担当者は「外食産業はコメを使ったメニューをなくせない危機感がある。調達の選択肢として輸入米を求めている」と明かす。国産米の価格高騰によって、足元では輸入米の方が割安になっていることも一因という。農水省は25年1月に備蓄米放出にかじを切った。計21万トンの備蓄米を入札2回に分けて市場に順次供給しているものの価格抑制の効果はなお限定的だ。農水省によると、スーパーのコメ5キログラムの平均価格(3月17~23日)は4197円だった。前年同期比で2倍超の高値が続く。この状況が米国には好機と映る。「強い輸入需要を反映している」。米通商代表部(USTR)が3月末に公表した25年の貿易障壁報告書はあるデータに着目し、こう強調した。日本政府が無関税で輸入したミニマムアクセス米を国内の卸業者などが落札する際、国に事実上の関税として支払うマークアップ(輸入差益)だ。制度を導入した1995年度以降、輸入差益が24年末に初めて上限の1キログラム292円に達したことをUSTRは見逃さなかった。トランプ米大統領も2日の相互関税の発表時、日本が「コメに700%の関税をかけている」と非難した。通商問題に詳しいオウルズコンサルティンググループの菅原淳一シニアフェローは米政権にとって700%という数字が「不公正さを強調するのに都合がよく、関税の正当性を示す上でインパクトがある」と指摘する。米国産コメの主産地はカリフォルニア州など民主党の地盤が多い。従来は共和党政権にとって日本のコメ市場の開放の関心は薄いとされてきた。その状況に変化が生じつつある。米国の高関税政策への対抗として農産品に報復関税を設ける国が相次ぎ「米国内で農業者の不満を抑える必要が出てきた」(菅原氏)ためだ。トランプ氏らが日本のコメ関税に重ねて言及する一因とみられる。江藤拓農相は700%という主張は「理解不能だ」と反発する。関税はキロあたりの従量制で、輸入価格に定率の税をかけていない。700%という税率はそもそも存在しないという立場だ。米国側の主張に不正確さがあったとしても、日本のコメ政策が閉鎖的だとの指摘は否めない面がある。国内外で同時に高まる圧力は日本の農政転換の契機になる。コメ価格を下げすぎないことが農水省にとって長年の最重要課題だった。国内の主食用米の需要は人口減を背景に年10万トンほどのペースで減っている。国が産地ごとに生産量を割り振る減反政策は18年に終了したものの補助金を通じた実質的な調整は続く。そのひずみが米騒動であらわになった。JAや大手卸以外の小規模業者の参入が相次ぎ、在庫の全体像を正確につかめない政府の不備も混乱に拍車をかけた。米価高騰が常態化すれば個人消費の重荷になりかねない。 農水省によると、農業を主な職業とする基幹的農業従事者(概数値)は24年に前年比4%減の111万人で、05年の半数ほどに減った。65歳以上の担い手が7割を占め、後継者不在を理由とした耕作放棄が一気に進む可能性がある。東京大の鈴木宣弘特任教授(農業経済学)は「農産物が関税を巡る交渉カードになる可能性はある。コメ輸入によって価格が下がりすぎれば日本の農家は立ちゆかない。もし輸入が途絶した場合、食料危機に直結することにも注意が要る」と指摘する。国土の維持や食料安全保障の観点から農家を支援する仕組みは欧州などで例がある。「国内の増産を支援しつつ、コメ農家の収入を補填するような仕組みの構築が必要だ」と話す。水田集約などを通じて生産性を高める取り組みも不可欠になる。農業全般に意欲ある働き手の新規参入をしやすくし、人工知能(AI)など最新のデジタル技術を活用したスマート農業を普及させることも急務だ。従来型のばらまき補助金では実現は難しい。規模や立地の観点で高い生産性を実現できる農業従事者を重点的に育てる仕組みも検討が必要だ。用水路などのインフラを維持するためにも一定の集約は避けられない。米国の高関税政策は世界の自由貿易体制を揺るがした。食料の多くを輸入に頼る日本にとって国内農業を強くする政策が求められる。 *6-3-1:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250103-OYT1T50003/ (読売新聞 2025/1/8) スマホのように、1人1台のロボット…AI進歩で「夢物語ではない」近未来 ●[AI近未来]第1部<1> 「今から持ち上げますね。どこか不快感はありますか」。ベッドに寝かせたマネキンに、人型ロボットが話しかける。左手を背中に差し伸べ、起き上がらせようとするロボット。キッチンを模したスペースでは、容器に入ったお茶を一滴もこぼさずコップに注いでみせた。東京都新宿区にある早稲田大の次世代ロボット研究機構。産学の開発チームを率いる同大の菅野重樹教授(66)が、我が子を見守るようにその様子を見つめる。1人に1台、一生寄り添う――。4月に開幕する大阪・関西万博では、そんなコンセプトの人型スマートロボット「AIREC(アイレック)」が披露される。アイレックの頭脳にはAI(人工知能)が搭載されている。人間がロボットの手や腕を遠隔操作することで、AIが人の動作を学習。体を起き上がらせたり、トイレを掃除したり、様々なスキルを習得した。料理にも挑戦中。スクランブルエッグなら、フライパンで卵の固まり具合に合わせた混ぜ方をマスターした。菅野教授は、アイレックが人の暮らしを支え、人と共生する社会を思い描く。10年先には、人の指示を受けて洗濯物を畳んだり、火加減が難しいオムレツを作ったり、人を手助けする動作が増える。家事だけではなく、健康も管理。人の体に機器を当てて超音波検査を行い、病気やけががないか調べる能力も身につける。そして2040年、アイレックは研究室を飛び出す。50年には社会に溶け込んで、人の意図をくみ取って動き回る。家の中では、住人の指示がなくても率先して好みの料理を作ったり、掃除をしたりする。住人の体調が悪く、歩くのも難しければ、車いすに乗せて病院に付き添う。「スマートフォンのように、生まれた時からロボットが家庭にいて人を支える未来が待っている」と語る菅野教授。1970年の大阪万博では、携帯電話の原型「ワイヤレステレホン」や「動く歩道」が注目され、今や社会に広く普及した。スマートロボットの構想も決して夢物語ではない。人とロボットが一緒に暮らすうちに、人は、家族のように愛情を抱き、ロボットも人の感情や価値観を理解して動く日が来る――。菅野教授は、開発の延長線上にそんな未来を予想する。AIの進歩によって、人の暮らしや社会のありようは、さらに変容する可能性を秘める。野村総合研究所によると、世界のAI研究者約2800人への調査を基にした論文(2024年)では、今後10年以内に、〈ロボットが洗濯物を畳む〉〈小売店の従業員がロボットに置き換わる〉といった変革が50%の確率で実現する可能性があるとされた。野村総研の森健デジタル社会・経済研究室長は「2030年代にはAIの搭載されたロボットが、一部の肉体労働も担い始めるとの見方が多い」と話す。研究者の間では、AIの近未来に楽観と悲観が交錯している。同論文では、68%の回答者が「良い結果の方が悪い結果よりも起こりやすい」とした。一方、「人類滅亡のような極端に悪い結果が起こる可能性がゼロではない」とする回答者も58%に達した。AIによって暮らしの豊かさや経済成長、医療の進歩などが期待される一方、雇用の喪失や、偽情報の拡散による社会の分断、軍事への悪用といった懸念は根強い。 ◇ 人間と会話しているかのような文章を生み出す生成AIが急速に広まってから2年余り。さらに進化を続けるAIは「ドラえもん」のように人を手助けしてくれるパートナーになるのか。それとも、人の知能を超え、人類の命運を左右する脅威になるのか。AI社会の近未来を展望する。 *6-3-2:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20250321-OYT1T50142/ (読売新聞 2025.3.21) iPS細胞移植後に2人の運動機能が改善、脊髄損傷患者が自分で食事をとれるように…世界初 慶応大などの研究チームは21日、脊髄損傷で体がまひした患者4人にiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した細胞を移植した世界初の臨床研究で、2人の運動機能が改善したと発表した。2人は食事を自分でとれるようになり、うち1人は立つことができたという。チームは「移植した細胞が損傷を修復した可能性がある」とみている。臨床研究を行ったのは慶大の中村雅也教授(整形外科)、岡野 栄之ひでゆき 教授(生理学)らのチーム。横浜市で開かれている日本再生医療学会で結果を報告した。発表によると、患者は受傷後2~4週間の18歳以上の4人で、受傷した首や胸から下の運動機能や感覚が完全にまひした。チームは健康な人のiPS細胞から神経のもとになる細胞を作り、2021~23年、患者1人あたり約200万個の細胞を傷ついた脊髄に移植。患者は機能回復を促す通常のリハビリなどを続けた。移植の約1年後に有効性を検証した結果、運動機能の5段階のスコアが1人は3段階、1人は2段階改善した。残る2人は治療前と同じスコアだったが、改善はみられたという。今回の臨床研究は安全性を確認するのが主な目的で、重い健康被害は確認されなかった。有効性はさらに精査する。チームはまひが固定した慢性期患者を対象にした治験を27年に行う方針を明らかにした。脊髄損傷は交通事故などが原因で、国内の新規患者は年間約6000人。慢性期の患者は10万人以上とされる。
| 経済・雇用::2023.3~ | 01:27 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2025,01,17, Friday
(1)日本製鉄によるUSスチール買収の経緯
![]() 2025.1.5日経新聞 2025.1.7日経新聞 2025.1.8山陽新聞 (図の説明:1番左の図は、2023年12月18日に日鉄がUSスチールの買収計画を発表し、それと同時にUSWが反対を表明して政治を巻き込み、2025年1月3日にバイデン大統領が買収計画阻止を発表するまでの経緯で、左から2番目の図がバイデン大統領の声明骨子だ。バイデン大統領のUSスチールの買収中止命令を受けて、日鉄とUSスチールは、右から2番目の図のように、バイデン大統領に対する行政訴訟とクリーブランド・クリフス及びUSW会長に対する民事訴訟を起こした。また、訴訟された相手方は、1番右の図のような発言をし、訴訟準備をしている) *1-1-1のように、「最終判断は大統領に委ねる」としたCFIUSの判断によってバイデン米大統領が2025年1月3日に出された米鉄鋼大手USスチールの買収中止命令について、日鉄の橋本CEOは1月7日に記者会見を開き、①安全保障に関する米当局の審査は結論ありきの政治介入だ ②買収計画を諦める理由も必要もない ③日鉄のUSスチール買収を阻止したい競合クリーブランド・クリフスが全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長と連携してバイデン氏に働きかけた ④国家安全保障の観点から審査されたのでないことを示せればバイデン氏らとの裁判に勝訴できる ⑤関税政策だけで産業が強くなるわけではなく、日鉄の独自技術をUSスチールに供与することでUSスチールの立て直しに繋がって米国の国家安全保障強化に資する ⑥(トランプ氏は)製造業を強くして製造業の労働者に豊かな暮らしと明るい未来を与えたいと言っており、買収計画はその趣旨に沿う と述べられ、⑦1月6日に日鉄とUSスチールは買収を巡る政治介入でバイデン氏らを、違法な買収妨害行為でクリフスとゴンカルベスCEO及び全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長を提訴した と述べられたそうだ。 そして、*1-1-2は、日鉄の森副会長兼副社長も、⑧理不尽な扱いを受けて引き下がるわけにはいかないため、徹底抗戦する ⑨訴訟の狙いは買収実現に向けた対応であり、必要な措置を粛々と実行する ⑩対米外国投資委員会(CFIUS)の安全保障上の審査は「当社が自主的に示した国家安全保障協定案に書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも質問や懸念の表明は全くなく、誠実さに欠ける」 とされている。 このうち、③については、*1-2-1・*1-2-2のように、米CNBCテレビが、1月13日、⑪米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携してUSスチールを買収する可能性がある ⑫クリフスがUSスチールを全額現金で買収し、買収後にUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」のニューコアへの売却を検討している ⑬クリフスは当初USスチール買収に意欲を示していたが、日鉄に競り負け、日鉄による買収が失敗した場合はUSスチールを買収するとしていた ⑭クリフスの買い取り額は$30/株台後半で日鉄の同$55/株を下回る ⑮クリフスは買収後、USスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す 等と報道しており、クリフスのゴンカルベス最高経営責任者(CEO)もペンシルベニア州の工場で開いた記者会見で、⑯「私には(USスチール買収の)計画があり、日鉄が現在の買収計画を破棄することが買収の前提になる」と述べられたことから確かだろう。 しかし、合併や買収には反対する人が必ずいるため、実行時まで秘密にしておくのが普通だが、日鉄は、i)競り合った時点で秘密にできなくなり、反対派が政治を巻き込んでしまっている。また、⑬⑭のように、クリフスと競りあった時のクリフスの買い取り価格は$30/株後半であるのに、日鉄はその倍近い$55/株で買おうとしており、ii)クリフスの2倍近くの高い価格で買えば、USスチールの収益力や資産価値から見て高すぎるのではないかという危惧がある。さらに、iii)買収が成立しない場合は(どのような事情でも?)日鉄がUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する可能性がある というのも、日鉄が結んだ買収契約の甘さと売り手市場を感じさせる。 そのため、ii)の理由から、*1-3のように、USスチールのCEOも日鉄と共同で、⑦のように、バイデン氏やクリフスとゴンカルベスCEO、USWのマッコール会長を提訴しているのだろうが、日鉄もまた提訴でもしなければ、iii)によって、(このような事情でも?)USスチールへの5億6500万ドル(約890億円)もの違約金支払義務が生じる羽目になっているのだ。 一方、*1-1-1のように、トランプ次期米大統領は「関税によって、USスチールは、より高収益で価値のある企業になる」と投稿しておられ、USWの組織票を目当てにトランプ氏とバイデン氏が買収計画に反対したのであれば、①②④⑥はいばらの道になる。また、USスチール買収に反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長は、記者会見で「バイデン氏が決めた買収阻止は、トランプ次期政権でも覆らない」と述べられ、同日の声明で買収阻止を歓迎し「組合員や国家安全保障にとって正しい行動であることに疑いの余地はない」とされている。 さらに、*2-5のように、イエレン米財務長官が「日本製鉄によるUSスチール買収計画への中止命令については、大統領に提出するため徹底的に分析した」と述べられており、政府横断組織の対米外国投資委員会(CFIUS)が詳細に分析・審査した結果、バイデン米大統領に最終判断を委ね、バイデン米大統領が買収中止命令を出したという段階を経ているため、⑧のように、「理不尽な扱い(日本にもよくあるが、日本人が米国で訴訟をすれば不利)を受けて引き下がるわけにいかない」のはわかるが、⑨のように、訴訟が買収実現に繋がるとは考えにくい。 また、⑩の「CFIUSの安全保障上の審査は日鉄の国家安全保障協定案に書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも質問や懸念の表明が全くなく、誠実さに欠ける」というのも、安全保証とさえ言えば非公開の部分が多く許されるため、一蹴されそうであるし、日鉄は、*2-1及び*2-4のように、USスチールの買収を通じて米国事業を強化するため、経済合理性を無視した必要以上の譲歩をしているように見える。 なお、⑪⑫のように、米鉄鋼大手クリフスは米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携してUSスチールを買収し、クリフスがUSスチールを全額現金で買収した後にUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」をニューコアに売却することを検討しており、*2-3のように、日鉄がUSスチール買収を巡る違法な妨害行為で提訴したことを受けて、USWは強く反論する姿勢を示し、クリフスは訴訟準備を整えているそうだ。 さらに、*2-4のように、USWのマッコール会長は、⑰USスチールは日鉄による買収提案以前に老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先した ⑱日鉄は買収後もUSスチールのこの計画を踏襲し、電炉に生産を移すことは明らかで、雇用を脅威にさらす」と批判し、これに対し日鉄は2024年12月30日、米政府に、⑲買収後もUSスチールの製鉄所の生産能力を10年間減らさず、減る可能性がある場合に米政府は拒否権を発動できる などと提案している。 私は、⑲については、“生産能力”があったとしても需要のないものを作り続けることはできないため、マッコール氏の「この提案は不可抗力を含む」に私は賛成であるし、日鉄も「10年間」という制限をつけている上、民間企業の稼働に政府が拒否権を発動するというのは、自由主義・市場経済の放棄であって、米国にはなじまないと考える。そのため、これは、必要以上で経済合理性のない譲歩である。 なお、米政府の買収中止命令という不可抗力でも「買収が成立しない場合は、日鉄がUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する」という契約を本当に締結しているとすれば、それは異常に甘い契約である。そのため、違約金を回避するには、日鉄が米政府を提訴することが必要不可欠になるのかも知れないが、そういう不利な契約を結ぶようでは、米国での事業はおぼつかないのだ。 また、*2-4で、マッコール氏はUSスチールのブリット最高経営責任者(CEO)ら経営陣が日鉄による買収が成立した場合に報酬を獲得することを取り上げているが、何かと多くのメリットがあるから、*1-3のように、ブリット氏はバイデン米大統領が日本製鉄の買収を阻止したことに「バイデン氏の行動は恥ずべきもので腐敗している」という声明を出してくれたのだろう。 (2)今後とればよいと思われるスキーム変更 ![]() 2025.1.5日経新聞 2025.1.11東京新聞 2025.1.14日経新聞 (図の説明:左図のように、日本からの対米直接投資残高は5年連続最多だが、日本からの投資を減らせば他国が上回るだけである。また、中央と右の図が、ロサンゼルス火災の跡だが、東日本大震災の時と同様、信じられないほどの規模であり、各国の救援が必要と思われる) 金融緩和だけで産業が強くなるわけではないのと同じく、⑤のように、関税政策だけで産業が強くなるわけではないが、日鉄の“独自技術”というものが電炉であれば、それはUSスチール傘下の電炉会社「ビッグリバー・スチール」もニューコアも持っている技術であるため、特にUSスチールの立て直しに繋がって米国の国家安全保障強化に資するとは言えないだろう。 しかし、米政府が買収中止命令を出すという不可抗力があり、⑮のように、クリーブランド・クリフスは、「買収できた後にはUSスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す」と言っており、⑯のように、「日鉄が現在の買収計画を破棄することが、リーブランド・クリフスによるUSスチール買収の前提になる」ということなので、USスチールが会社分割して日鉄とジョイントベンチャー(US-Japanスチールと名乗る)を作り、ジョイントベンチャーに行かなかった方をクリーブランド・クリフスに売却すれば、日鉄は違約金を支払わずに済み、利害関係者全員が望みを叶えられる。 そして、*1-2-1は「買収計画を審査してきたCFIUSはバイデン氏の命令を受けた計画の破棄期限を当初の2月2日から6月18日まで延長することを決めた」としているため、USスチールは、2025年3月末等の早い時期に会社分割し、米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残るA集団と、US-Japanスチールとしてロサンゼルスかペンシルベニア州南部に本社を置くB集団に分けて資産査定を行なう必要があるが、これはBig4の監査法人に依頼すれば正確にできる。 なお、USスチールの会社分割過程で、ペンシルベニア州ピッツバーグに残るA集団には、クリーブランド・クリフス組に行きたい労働者と設備、US-Japanスチールには日鉄組に行きたい役員と労働者・設備を移すようスキーム変更をすれば、日鉄はUS-Japanスチールに投資することによって無駄なカネを使わずに新技術を用いる工場に設備投資することができ、これは、USスチールのブリット最高経営責任者(CEO)はじめ経営陣の意志決定によって可能である。 もともと、⑰のように、USスチールは日鉄による買収提案以前に老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先していたそうであるため、この会社分割は容易であろう。また、名前を「US-Japanスチール」とすることで、米国人・米国政府・USスチール関係者も納得でき、米国の鉄鋼業界は寡占に陥らず、日本からの投資を無駄なく使って技術革新を進めることができる。そのため、⑱の日鉄の電炉生産も容易になる筈だ。 私が、US-Japanスチールの本社をロサンゼルスに置く案を示したのは、*4のように、米カリフォルニア州ロサンゼルスで7日に発生した山火事が10日も続いて、これまでに125平方キロの土地が焼失し、高級住宅地パシフィック・パリセーズ、イートン、ケネス、ハースト、リディア地区の山火事がなお燃え続けているからだ。 カリフォルニア州のニューサム知事は、民主党の次期大統領候補であり、エネルギーの技術革新にも熱心な人であるため、この火事が本当に天災なのかどうかは疑問の余地が残るが、焼失した地域の家屋や自動車を再生産しなければならないことは確かで、電炉による製鉄の需要は多くなる上、カリフォルニア州の新しい街づくりや環境規制について行ければ、世界で通用する。そのため、電炉だけでなく、水素を使ったCO₂排出0の革新的製鉄プロセスも速やかに行なうべきである(https://green-innovation.nedo.go.jp/article/iron-steelmaking/ 参照)。 なお、カリフォルニアの火災は大規模であったため、東日本大震災で米軍が「ともだち作戦」をしてくれたように、日本の自衛隊や米国進出企業も「ともだち作戦」をして、火災の後片付けを手伝いつつ、復興に力を貸したら良いのではないかと思う。 (3)その他の情報 *3-1のように、日鉄が1月6日に米大統領のUSスチール買収禁止命令やCFIUSの審査の無効を求める訴訟を提起し、トランプ次期米大統領は自身のソーシャルメディアへの投稿で日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画に否定的な考えを述べたことで、日鉄の株価は一時2.1%安の3,091円に下落したそうだが、これは日鉄株主の懸念の現れであろう。 また、*3-2は、「訴訟提起以外に日鉄が今後取りうるのは、買収の枠組み変更で、141億ドル(約2兆2千億円)でUSスチールの完全子会社化を目指してきたものを、出資比率を抑えた資本提携に切り替えて米国市場で鋼材の生産・販売を強化する形」としている。 しかし、日鉄が買収完了後にUSスチールにEVモーターに欠かせない「無方向性電磁鋼板」の製造技術や高炉の操業・整備技術、脱炭素技術などを供与するのであれば、USスチールが会社分割して必要な土地・建物・設備・従業員を現物出資することにより、日鉄とジョイントベンチャー子会社(US-Japanスチール《仮称》)を立ち上げ、日鉄が過半数の株式を保有して最先端の製品を作れば良いと思うわけである。 ・・参考資料・・ <日本製鉄によるUSスチール買収の経緯> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06BCF0W5A100C2000000/ (日経新聞 2025年1月7日) 日本製鉄会長、米当局の審査は「結論ありきの政治介入」 日本製鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)は7日、東京都内の本社で記者会見を開いた。バイデン米大統領が3日、米鉄鋼大手USスチールの買収中止命令を出したことを受け、安全保障に関する当局の審査について「最初から結論ありきの政治介入があった」と述べた。買収計画を「諦める理由も必要もない。(中止命令を)到底受け入れることはできない」と強調した。日鉄とUSスチールは6日付で不当な政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴していた。橋本氏は会見で提訴の理由などについて説明した。安全保障上の懸念を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)については「正しい手続きで審査が行われれば違った結論になったはずだ」と述べた。日鉄のUSスチール買収を阻止したい競合のクリーブランド・クリフスが、全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長と連携しバイデン氏に働きかけたとし、「こともあろうにこの働きかけに応じ、政治的に介入した」と批判した。国家安全保障の観点から審査されたものではないと示せれば、バイデン氏らとの裁判に「勝訴できる可能性はある」と語った。勝率や訴訟日程を問われると「今申し上げるタイミングではない」と述べるにとどめた。6日にはトランプ次期米大統領が自身のSNSに「関税(引き上げ)によって(USスチールは)より高収益で価値のある企業になる」と投稿していた。橋本氏は「関税政策だけで産業が強くなるとは決して思えない」とし、日鉄の独自技術をUSスチールに供与することで同社の立て直しにつながり「ひいては米国の国家安全保障の強化に資する」と強調した。実際に中止命令が訴訟を通じて無効となれば、トランプ政権下のCFIUSで再審査されることになる。「(トランプ氏は)製造業を強くして製造業の労働者にもう一度豊かな暮らしと明るい未来を与えたいと言っている。(買収計画は)その趣旨に沿っている」と、トランプ政権の理解を得られるとの見方を示した。日鉄のUSスチール買収を巡っては、23年12月の発表以来、USWのマッコール氏が一貫して反対している。85万人の組合員が所属するUSWの組織票を目当てに、トランプ氏とバイデン氏がいずれも買収計画に反対して政治問題化した。CFIUSは安全保障上の懸念の有無を審査してきたものの最終判断は大統領に委ね、バイデン氏は1月3日に中止命令を出した。橋本氏は過去1年の買収計画の交渉を振り返り「反省点はない。あらゆる手は尽くした」と総括した。日鉄は6日付で買収計画に不当な政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴したほか、買収妨害行為でUSWのマッコール氏、クリフスと同社CEOも提訴した。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250107&ng=DGKKZO85884030X00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.7) 日鉄副会長「徹底抗戦する」 日本製鉄によるUSスチール買収はバイデン米大統領を含む米政府や競合企業を訴える異例の事態に発展した。買収計画を統括する森高弘副会長兼副社長は6日、オンラインでの取材に応じ「理不尽な扱いをされて引き下がるわけにはいかない。徹底抗戦していく」と述べた。森氏は訴訟の狙いについて「買収実現に向けた対応だ。必要な措置を粛々と実行していく」と主張した。これまでの対米外国投資委員会(CFIUS)による安全保障上の審査については「誠実さに欠けるものだった」と指摘した。「当社が自主的に示した国家安全保障協定案には書面でのフィードバックがなく、複数回の面談でも(CFIUSからの)質問や懸念の表明が全くなかった。実質的な協議がないまま判断を大統領に委ねた」と説明した。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250114&ng=DGKKZO86032320U5A110C2MM0000 (日経新聞 2025.1.14) 米クリフスとニューコア、USスチール買収へ連携 米報道 米CNBCテレビは13日、米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが米鉄鋼最大手で電炉メーカーのニューコアと提携し、USスチールを買収する可能性があると報じた。クリフスがUSスチールを全額現金で買収し、買収後にUSスチール傘下の電炉会社をニューコアに売却することを検討している。バイデン大統領は3日、日本製鉄によるUSスチール買収計画を阻止した。クリフスは当初USスチール買収に意欲を示していたが、日鉄に競り負けていた。日鉄による買収が失敗した場合はUSスチールを買収するとしていた。クリフスの買い取り額は1株当たり30ドル台後半で日鉄の買収計画(同55ドル)を下回る。クリフスがUSスチールを買収すれば、米国の高炉や自動車用鋼板生産で100%近いシェアとなり、反トラスト法(独占禁止法)に抵触する可能性がある。抵触を回避するため、買収後に電炉子会社をニューコアに売却するとみられる。報道によるとクリフスは買収後、USスチールの本社を米東部ペンシルベニア州ピッツバーグに残す。クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は13日、ペンシルベニア州の工場で開いた記者会見で、「私には(USスチール買収の)計画がある」と述べた。日鉄が現在の買収計画を破棄することが買収の前提になると説明した。報道に関してはコメントしなかった。ニューコアの担当者は「コメントできない」としている。日鉄とUSスチールは6日、買収を巡る政治介入があったとしてバイデン氏らを提訴した。阻止命令の無効と再審査を求めている。両社は違法な妨害行為でクリフスとゴンカルベスCEO、全米鉄鋼労働組合(USW)会長も提訴した。買収計画を審査してきた対米外国投資委員会(CFIUS)はバイデン氏の命令を受けた計画の破棄期限を当初の2月2日から6月18日まで延長することを決めた。 *1-2-2:https://jp.reuters.com/economy/industry/7EELRETKK5LY7M5KVPHTC2TMNU-2025-01-13/ (Reuters 2025年1月14日) 米クリフス、同業とUSスチール買収計画 CEO「日本は中国より悪」 米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス(CLF.N),が同業ニューコア(NUE.N)と連携し、USスチール(X.N)の買収を目指す準備を進めていることが、関係筋の話で13日分かった。それによると、買収額は1株当たり30ドル台後半となる見通しで、日本製鉄の提案である1株当たり55ドルを大きく下回る。クリーブランド・クリフスは現金でUSスチールを買収し、USスチールの子会社「ビッグリバー・スチール」をニューコアに売却する計画だという。USスチールの本社はピッツバーグにとどまる見通し。クリーブランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベスCEO(最高経営責任者)は記者会見で、2023年に拒否されたUSスチール買収の提案を再び行う考えを示したが、詳細については明言を避けた。「取締役会と経営陣の意向を実現するオファーを出せる立場にいることをうれしく思う」とし、買収によって「米国は良くなり、強くなる」と強調した。 *1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250105&ng=DGKKZO85854050V00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.5) 「恥ずべき行動」バイデン氏を批判 USスチールCEO 米鉄鋼大手、USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は3日、バイデン米大統領が日本製鉄による買収を阻止したことに対し「バイデン氏の行動は恥ずべきもので、腐敗している」との声明を出した。同氏は買収阻止は米国の経済安全保障を危険にさらすとし、「経済・安全保障上の重要な同盟国である日本を侮辱している」と批判した。USスチールは日鉄による買収は米鉄鋼業の競争力を高め、中国の脅威に対抗するものだと正当性を主張してきた。ブリット氏は「(買収阻止で)北京の中国共産党幹部は街頭で踊っている」とコメントし、買収阻止は中国が得をするだけだと非難した。その上で、「投資こそが我々の会社や従業員、地域社会、米国のすばらしい未来を保証する。我々はバイデン大統領の政治的な腐敗と戦うつもりだ」として引き続き日鉄による買収の実現を目指す考えを強調した。一方、日鉄のUSスチール買収に反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長は3日記者会見し、バイデン氏が決めた買収阻止について「トランプ次期政権でも覆らないだろう」と述べた。同日の声明では買収阻止を歓迎し、「組合員や国家安全保障にとって正しい行動であることに疑いの余地はない」とした。 <訴訟> *2-1:https://mainichi.jp/articles/20250107/k00/00m/020/242000c (毎日新聞 2025/1/7) 日鉄、USスチール買収中止命令受け二つの訴訟 狙いと勝算は? 米大統領を相手取るという前代未聞の提訴に踏み切った日本製鉄。大統領の中止命令を取り消し、審査を担った対米外国投資委員会(CFIUS)に再審査を迫る行政訴訟と、買収を阻止するため大統領と結託したとして競合企業などに対し損害賠償を請求する二つの訴訟を起こした。日鉄の狙いはどこにあるのか。勝算はあるのか。 ●「競合と結託し政治介入」日鉄の見立て 「訴訟を通じて示されていく事実が、憲法や法令に明確に違反したものだというのが示されると確信している。勝訴の可能性はある」――。7日に記者会見した日鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)はこう力を込めた。2023年には競合で米鉄鋼大手のクリーブランド・クリフスが全米鉄鋼労働組合(USW)の支援を受け、USスチール買収に名乗りを上げ、日鉄に競り負けたことがあった。橋本氏が一定のリスクを覚悟してまで提訴したのは、競合他社と結託したバイデン大統領が政治的に介入し、CFIUSの適正な手続きを踏まず、大統領命令を出したとみているからだ。ただ、審査のやり直しを求めるにしても、大統領が安全保障を理由にすると、どのように結論を導き出したのかといったことは開示されず、日鉄にとって反論の余地もない。そこでクリーブランド・クリフスやUSW会長を提訴し、行政訴訟と民事訴訟を同時並行で行うことで、バイデン氏との関係をあぶり出し、それを証拠に再審査に臨もうという算段だ。橋本氏は「今回は通常の裁判と違って、勝訴するとCFIUSの審査がやり直しになるので、それが新政権、新しいメンバーによって、新しい手続きで進められる。米国に資するものであるということを説明することで理解を得られる」と語り、今月就任するトランプ政権下での再審査に望みをつなげたい考えを示した。ただ、米政府への訴訟なので「そもそも訴訟で争うことができない」などとして、日鉄側の訴えを却下するよう、政府が裁判所に働きかける可能性もある。USWとクリーブランド・クリフスは6日、いずれもトップの名で声明を発表し、「根拠がない」として争う構えを明確にするなど強気だ。 ●買収に高いハードル、欠かせぬ米国事業 審理に進んでも長期に及ぶ可能性もあり、仮に勝訴しても、再審査の道が開くだけで、日鉄が掲げる今年3月末までとした買収完了の目標には到底間に合いそうにない。買収へのハードルは高く、このまま不成立となることも考えられる。その場合、日鉄は海外戦略の再構築が求められることになる。米国市場は日鉄が得意とする自動車用の鋼材も含め高級鋼材のニーズが強く、鋼材需要は日本の1・7倍ある。今後も人口増が見込まれ、業界の再編も進んでおり、稼ぎやすく「なんとしても米国事業は当社の戦略に欠かせない」(橋本会長)市場だ。買収が不成立に終わっても、日鉄には資本提携など出資枠組みの変更や電炉だけを買収するという手法も残る。ただ、資本提携にとどまれば日鉄の高度な技術をUSスチールに100%供与することは難しく、買収で得られるシナジー効果は薄れてしまう。日鉄はすでに米国で欧州アルセロール・ミタルとの合弁「AM/NSカルバート」を運営しており、同社の業績は好調だ。日鉄はUSスチールの買収が完了すれば、競争法上の理由でカルバート株を売却すると公表しているが、買収が不成立ならば、カルバートの運営を継続し、同社を足がかりに市場を拡大する戦略も残される。「いい案件があれば単独出資にこだわらず、ジョイントベンチャーや現地の会社に出資というのも選択肢」(アナリスト)という見方もある。日鉄が米国市場とともに有望視し、アルセロール・ミタルと合弁事業を手掛けているインド市場をさらに伸ばすというのも成長戦略の一つになる。24年の世界鋼材需要は前年比で減少するが、インドは過去最高を更新する見通しだ。USスチールの買収が不成立ならば、もともと日鉄がホームマーケットとしているASEAN(東南アジア諸国連合)に注力しつつ、インドへの投資を拡大するというのも現実解になりそうだ。 *2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/d4894350ead6d6bdca8d40df4cd61432d28c9a10 (Yahoo、Reuters 2025/1/7) 日本製鉄の訴訟提起、クレジットにはネガティブ=ムーディーズ 格付け会社ムーディーズは7日、日本製鉄が米USスチールの買収計画に関連し訴訟を起こしたことは、日鉄のクレジットに対してネガティブとの見解を示した。日鉄は6日、USスチールの買収に不当介入があったとして、米大統領の買収禁止命令や対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の無効を求める訴訟など複数の訴訟をUSスチールと共に提起したと発表した。ムーディーズのVPシニア・アナリスト、ローマン・ショア氏は、訴訟提起により「買収を巡る不確実性が高まり、(日鉄の)クレジットにとってはマイナス」との認識を示した。買収が頓挫すれば、国内市場での需要減を補うための海外成長戦略の実行が遅れることになるとした。ただ、訴訟に敗訴し買収が実現しなかったとしても、日鉄には違約金支払いなどの影響を相殺できる「財務上の柔軟性」があるとも指摘。海外ではインドなどの成長市場でも投資を拡大させる余地があり、「USスチール買収失敗による下振れリスクの緩和にもなる」としている。買収が成立しない場合、日鉄はUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が発生する可能性がある。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250107&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO85890190X00C25A1MM0000&ng=DGKKZO85890260X00C25A1MM0000&ue=DMM0000 (日経新聞 2025.1.7) 米鉄鋼労組「買収阻止は国益」 クリフスは「訴訟の準備」 日本製鉄が6日、USスチール買収を巡る違法な妨害行為で提訴したことを受け、全米鉄鋼労働組合(USW)会長と米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスの最高経営責任者(CEO)が同日声明を発表した。USWは強く反論する姿勢を示し、クリフスは訴訟準備を整えていると明らかにした。USWのデービッド・マッコール会長は6日、日鉄による提訴を受け、「訴状を精査中だ。根拠のない主張には断固として反論していく」とし対抗策を辞さない方針を示した。USWは日鉄によるUSスチール買収に一貫して反対してきた。バイデン米大統領は3日に買収計画の阻止を決めた。マッコール氏は「日鉄によるUSスチール買収の試みを阻止することで、バイデン政権は米国に重要な利益をもたらし、国家安全保障を守り、我が国の重要なサプライチェーンを支える国内鉄鋼産業の維持に貢献した」と称賛した。クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベスCEOは6日、「我々は訴訟の準備を整えており、法廷で事実を明らかにすることを楽しみにしている」とコメントした。 *2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN110A10R10C25A1000000/ (日経新聞 2025年1月11日) USW会長、日鉄による提訴は「根拠がない脅迫だ」 全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長は10日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチール買収を巡って違法な妨害行為があったとして同氏を提訴したことを受けて反論を表明した。マッコール氏は日鉄の提訴は「根拠がない脅迫だ」とし「軽薄な申し立てから組合を強く守る」と強調した。同日、提訴を批判する動画を公開した。マッコール氏はバイデン大統領が阻止を命じた日鉄による買収は「我々の工場の将来を脅かし、国家安全保障を危険にさらすことは明らかだ」と話した。その上で、USスチールは日鉄による買収提案以前に、老朽化したペンシルベニア州のモンバレー製鉄所への投資を中止し、USWに属さない同州南部の電炉工場への投資を優先したと強調。「日鉄は買収後もUSスチールのこの計画を踏襲し、電炉に生産を移すことは明らかだ」とし、雇用を脅威にさらすと批判した。日鉄は2024年12月30日に米政府に対し、買収後もUSスチールの製鉄所の生産能力を10年間減らさないことを提案。減る可能性がある場合に米政府は拒否権を発動できるとした。マッコール氏は「この提案は不可抗力を含む」とし、労働者が反発した場合、日鉄が約束を守らず、生産能力削減に踏み切るのは確実だと強調した。さらにマッコール氏はUSスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)ら経営陣が日鉄による買収が成立した場合に報酬を獲得することを改めて取り上げ、「傲慢で、従業員や株主、地域社会や顧客のことなど気にかけていない」と批判した。 *2-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN090DX0Z00C25A1000000/ (日経新聞 2025年1月9日) 日鉄のUSスチール買収「徹底的に分析した」 米財務長官 日本製鉄によるUSスチール買収計画への中止命令について、イエレン米財務長官は8日、米CNBCのインタビューで「大統領に提出するため徹底的に分析した」と述べた。計画に安全保障上の懸念があるとした判断の根拠などは語らなかった。買収計画は政府横断組織の対米外国投資委員会(CFIUS)が審査をしたが意見がまとまらず、昨年12月23日にバイデン米大統領に最終判断を委ねた。CFIUSの議長は財務長官が務める。イエレン氏はインタビューで、審査について「言えることはほとんどない」と断ったうえで「CFIUSはいつも通り(計画を)詳細に分析した」と述べた。バイデン氏に「徹底的な分析」を報告したうえで「CFIUSとしてアドバイスした」と話した。 <その他の情報> *3-1:https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/HBQPREXZCZMFDOM6LHW3O6VBM4-2025-01-07/ (Reuters 2025年1月7日) 日鉄株が軟調、USスチール買収計画に否定的なトランプ発言を嫌気 日本製鉄の株価が逆行安となっている。トランプ次期米大統領が自身のソーシャルメディアへの投稿で、日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画に否定的な考えを述べたことが伝わり、嫌気されている。株価は一時2.1%安の3091円に下落した。トランプ氏は「関税によってUSスチールはもっと収益性の高い価値ある企業になるのに、なぜ彼らは今、買収されたいのだろうか」と指摘。市場では「トランプ氏の大統領就任によって状況が好転するとの思惑を後退させる材料として、短期的な売りが強まったようだ」(国内運用会社のファンドマネージャー)との声が聞かれる。日鉄株は6日、バイデン米大統領が安全保障上の懸念を理由に日鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画の中止を命じたことを嫌気して軟化したが、トランプ次期大統領の判断で状況が覆り得るとの思惑が支えの一つとなり、下げは限定的だった。日鉄は6日、USスチール買収計画に不当介入があったとして、米大統領の買収禁止命令や対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の無効を求める訴訟などを提起したと発表。きょう午前に橋本英二会長が開いた会見後、株価はやや下げを強めた。市場では「目新しい材料が見当たらず、改めて売られたのではないか」(同)との見方が聞かれる。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250105&ng=DGKKZO85853820V00C25A1EA2000 (日経新聞 2025.1.5) 日鉄、資本提携も選択肢 買収阻止 今後のシナリオ、スキーム変更 相乗効果、薄れる懸念 日本製鉄によるUSスチール買収計画にバイデン米大統領が中止命令を出す異例の事態となった。日鉄はUSスチールと共同で買収計画を「決して諦めない」と声明を出し、今後の方策を模索する。まず日鉄は米政府を相手取り訴訟を提起する方針だ。その他には資本提携やトランプ次期米大統領との交渉といったシナリオが選択肢に入る。訴訟提起以外に日鉄が今後取りうるのは、買収の枠組みの変更だ。141億ドル(約2兆2千億円)でUSスチールの完全子会社化を目指してきたが、出資比率を抑えた資本提携に切り替えて、米国市場で鋼材の生産・販売を強化する形だ。ただ出資比率に関わらず対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の対象になるため、比率を抑えたとしても成立するかどうかは不明だ。日鉄は買収完了後にUSスチールに電気自動車(EV)のモーターに欠かせない「無方向性電磁鋼板」の製造技術や高炉の操業・整備技術、脱炭素技術などを供与する考えだった。ある日鉄幹部は「100%出資でやらなければ技術を供与できない」と述べていた。出資比率を抑えた場合、技術面の相乗効果が薄れてしまう恐れもある。JPモルガンは3日、「今後は(USスチールが南部に持つ)電炉買収に関心を示す企業が出てくる」とコメントした。電炉は環境負荷の少ない製鉄手法で日鉄は日本でも設備投資を進めている。今後、電炉のみの単独買収を視野に入れる可能性はある。電炉工場の従業員は今回の買収計画に反対した全米鉄鋼労働組合(USW)に加盟していない点も日鉄には魅力に映るかもしれない。米国の既存事業を堅実に伸ばす選択肢もある。日鉄は米国に、欧州の鉄鋼大手、アルセロール・ミタルとの薄板製造の合弁会社「AM/NSカルバート」を持つ。USスチールを買収すれば競争法上の懸念からカルバートの株式をミタルに売却するとしていた。買収計画が頓挫すれば合弁の運営を続けることになる。森高弘副会長兼副社長は「どちらかを選択するならばUSスチールを選ばなければならない」と述べていたが、カルバートは「有望なキャッシュカウ事業」(国内証券大手アナリスト)と評価されている。現在は7億7500万ドルを投じて電炉建設も進めている。この電炉と薄板をつくる既存の圧延工程を合わせれば製鉄の上工程から下工程までの一貫製鉄の体制が完成する。6月までに買収計画が成立しない場合、日鉄はUSスチールに5億6500万ドルの違約金を支払う義務が生じる可能性がある。 <ロサンゼルスの山火事は偶然か> *4:https://www.bbc.com/japanese/articles/cd0j5pn0vdlo (BBC 2025.1.11) 米ロサンゼルスの山火事、死者11人に 強風で被害拡大のおそれも 米カリフォルニア州ロサンゼルスで7日に発生した山火事は10日も続き、これまでに少なくとも11人の死亡が確認された。また、これまでに125平方キロの土地が焼失し、約18万人が避難した。 高級住宅地パシフィック・パリセーズ、イートン、ケネス、ハースト、リディア地区で、5件の山火事が依然として燃え続けている。鎮圧率は3%から75%とまちまちで、カリフォルニア州の消防当局は、今後数日の間に風が強まれば、さらに被害が発生する可能性があると警告した。ジョー・バイデン米大統領は8日に「大規模災害」を宣言。災害救援のための連邦政府の資金援助を増額している。こうした中、被災地で窃盗が多発していることから、パシフィック・パリセーズとイートン地区では午後6時から翌午前6時までの夜間外出禁止令が発令された。また、200人以上の警官がパトロールに当たっている。またロサンゼルス警察は、9日にロサンゼルス郡とヴェンチュラ郡の境界で発生した火災について、1人を逮捕したと発表した。放火の容疑者とされた人物は事情聴取を受けたが、当局は放火の疑いで容疑者を逮捕するには「十分な理由がない」と判断した。しかし、容疑者は重罪に対する保護観察違反で逮捕され、捜査は継続中だという。米メディアは、パリセーズの山火事について放火捜査官が原因究明を進めていると報じている。ロサンゼルス郡消防本部のトニー・マローン本部長は、もしも出火原因が放火だと判明した場合、死者はすべて殺人によるものとして扱われると述べている。 ●州知事は水不足の調査を支持、トランプ氏から批判も カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事は、消防隊が消火用水の確保に苦労しているという報告について、第三者調査の開始を求めている。ニューサム知事はソーシャルメディア「X」への投稿で、ロサンゼルス水道電力局の責任者とロサンゼルス郡公共事業局の局長に宛てた手紙を共有。「消火栓からの水の供給が失われたことが、一部の住宅や避難経路を保護する努力を妨げた可能性が高い」と説明した。知事は、地元の消火栓の水圧の低下と、貯水池からの水供給の不足について調査が必要だとしたうえで、「このようなことが再び起こらないようにし、一連の壊滅的な火災と戦うためにあらゆる資源を利用できるようにするため、包括的な点検が必要だ」と述べた。民主党のニューサム州知事の対応については、共和党のドナルド・トランプ次期大統領がしきりに批判を重ねている。次期大統領はニューサム知事の辞任を要求し、「アメリカで最も美しく素晴らしい場所の一つが焦土と化している」と述べた。実際、ロサンゼルス市消防局の予算は昨年、1760万ドル削減されており、キャレン・バス・ロサンゼルス市長が批判されている。これに対しニューサム知事は、次期大統領をカリフォルニア州に招待すると述べるとともに、山火事を「政治利用」しないよう強く求めた。ニューサム氏は「X」で公開した書簡で次期大統領に、自分に同行して「被害状況を直接目にする」よう呼びかけた。「この偉大な国の精神に則り、私たちは人間を襲う悲劇を政治利用したり、傍観者として誤った情報を広めたりしてはならない」、「家を失って将来に不安を抱える数十万のアメリカ人は、迅速な復旧と再建を確実にしようと、私たち全員が被災者の最善の利益のために全力を尽くしている姿を見るべきだ」と、知事は強調した。 ●多くの著名人が家を失う 今回の山火事では、多くの著名人が自宅を失ったことを明かしている。米俳優メル・ギブソン氏は、ロサンゼルスの山火事で自宅が焼失したことを明らかにした。ギブソン氏は、著名ポッドキャスターのジョー・ローガン氏の番組収録中に、この災難に見舞われたという。ローガン氏は、気候変動否定派として知られている。取材に対してギブソン氏は、テキサス州オースティンで「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」にゲスト出演している最中に、自宅の近隣が「火事になっている」と知り、「落ち着かない気持ち」だったと述べた。また、マリブの自宅が「完全に焼け落ちた」と述べ「これはかなり衝撃的で、感情的なものだ」と述べた。「自分の持ち物がすべて灰になったことで、物の重荷から解放された気分だ」。ギブソン氏はローガン氏のポッドキャスト内で、ニューサム州知事を批判。ニューサム氏が「森林の管理をする」と言っていたが「何もしなかった」と述べた。「私たちの税金はすべてギャヴィンのヘアジェルに使われたんだと思う」とギブソン氏は語った。ギブソン氏の家族は避難命令に従い、無事だったという。有名ホテルのオーナー一族でリアリティー番組TVスターのパリス・ヒルトン氏も自宅を失った。ヒルトン氏は、ソーシャルメディアで自宅の残骸の動画を共有し、「この悲しみは本当に言葉では表現できない」と述べた。このほか、英俳優サー・アンソニー・ホプキンスも自宅を失ったと報じられている。1996年、2000年、2004年のオリンピック(五輪)でアメリカを代表した水泳選手のギャリー・ホール・ジュニア氏は、この火災でパリセーズの自宅と、獲得した五輪メダル10個を失ったと語った。ホール氏は、「3分しか行動する時間がなかった」と話し、「メダルよりも犬を選んだ」と語った。また、俳優ジェニファー・ガーナー氏はMSNBCのインタビューの中で、山火事で友人を失ったことを明かした。 ●サセックス英公爵夫妻が支援センター訪問 英王室のサセックス公爵夫妻は10日、パサデナの救援センターを訪れ、消防士や警察官などの初動対応者や被災者と面会した。ハリー王子とメガン妃は、4年前にカリフォルニア州モンテシートに移住。これは、最も被害が大きかったパシフィック・パリセーズから北へ約1時間半の距離にある。地元メディアが放送した映像では、ハリー王子とメガン妃が、食料を供給している慈善団体ワールド・セントラル・キッチン(WCK)の現場で、パサデナのヴィクター・ゴードン市長と話している様子が映っている。ハリー王子とメガン妃は、避難を余儀なくされた友人を自宅に招いたとされている。夫妻はウェブサイトで声明を発表し、「友人や愛する人、またはペットが避難しなければならない場合、あなたが自宅に安全な避難場所を提供できるなら、ぜひそうしてください」と語っている。(英語記事 Death toll rises as governor confirms hydrants issue 'impaired' LA wildfires fight/ Mel Gibson says his home burned down in LA fires) <日本における水素社会・EV・自動運転システムの遅れ> PS(2024年1月20日追加):*5-1-1のように、中国は、国がビジョンを掲げて保証した新たなパイに民間企業が殺到して競争する自由競争型の産業形成であるため、国のビジョンが正しい限り無駄のないイノベーションが生まれ、変化のスピードも速い。そして、中国の太陽光発電・リチウムイオン電池・電気自動車(EV)は、日本が先行した技術であるにもかかわらず、日本が迷走したり後退したりしている間に、中国が世界市場を奪って中国のビジョンの正しさを証明した。また、日本が世界に先駆けて提案してきた水素社会の創出も、中国は2022年の国家戦略を背景に爆発的に投資を拡大させてサプライチェーン全般で一気に実用段階に突入したが、日本は相変わらず屁理屈をこねて迷走している。しかし、地球温暖化は確かに起こっており、エネルギー自給率向上も間違いなく必要であるため、世界に水素社会が到来することは確実なのである。しかるに、米国では、*5-1-2のように、トランプ大統領が、バイデン政権で認められなかった化石燃料開発の許認可を拡大する意向を示し、「エネルギー資源を解き放ち、インフレを迅速に克服し、地球上で最も安価なエネルギーを実現する」と言明しているが、化石燃料を自国で採掘して安価に使える国は数少ないため、化石燃料に舵を切れば世界では売れない自動車や機械を作ることになって、EVの技術開発はそれだけ遅れるのだ。つまり、日本の従来型技術を重視する管理主義的産業政策や米国の時代遅れの産業政策こそが、イノベーションを遅れさせ、市場経済を歪めて、経済を停滞させ、ひいては国力を弱めているのである。 そして、次に実用化しなければならない技術は、高齢化社会と人手不足を受けて、*5-2-1や*5-2-3の自動運転・自動操舵システムなのだが、これも2000年代に日本政府に伝えていたにもかかわらず、中国では既に自動運転タクシーが公道を走っているのに、日本ではまだ国交省が新東名高速で自動運転トラックの発着実験をしている段階だ。そして、*5-2-2のように、高齢者に運転を止めさせて活動不能にし、要介護者を増やす方法しか思いついていない。しかし、米西部カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で1月7日に発生した火災による焼失面積は160km²以上で、現在のところJR山手線内側の面積の約2倍に相当するため、新しいまちづくりをするにあたっては、(長くは書かないが)その地域が乾燥しすぎない方法を考えることと、新しい交通システムに対応できる道路システムを作ることが必要なのである(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE103TB0Q5A110C2000000/、https://news.yahoo.co.jp/articles/1126d0064da2b6e0ac711f16ba0f9e51949e6af0 参照)。 *5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250119&ng=DGKKZO86154430Y5A110C2EA3000 (日経新聞 2025.1.19) EVの次に来る対中敗北 中国には産業育成やインフラ建設の猛烈なスピードを指す「中国速度」という言葉がある。年初に訪れた広東省深圳市でもその光景を見ることができた。高層ビルの合間を小型の段ボールを抱えたドローンが行き交い、公園内の配送スポットで家族連れが次々と楽しそうに有名チェーンの食べ物やドリンクをドローンから受け取っていた。ドローンを使って低空域で展開される経済活動を意味する「低空経済」という概念が国家の戦略性新興産業に指定されたのは2023年末。あっという間にサービスの具体化が進んだ。日本はそんな中国速度に何度も苦い思いをさせられてきた。中国の「三種の神器」となった太陽電池やリチウムイオン電池、電気自動車(EV)はいずれも日本が先行した技術だが、気がつけば後発の中国にあっさりと世界市場を奪われた。そして今、日本が譲れないはずの重要分野が再び中国に脅かされている。日本が世界に先駆けて提案してきた水素社会の創出だ。中国は22年の国家戦略などを背景に爆発的に投資が拡大し「つくる」「運ぶ」「ためる」「使う」というサプライチェーン全般で一気に実用段階に突入した。エネルギー情報会社のライスタッド・エナジーの推計によると、再生可能エネルギーで製造するグリーン水素の24年の生産能力は中国が22万トンと世界の過半を占める。水素をつくる電解装置は低価格を売りにした輸出も始まり、早くも「第四の神器」との声もある。利用面では水素利用に適した長距離トラックや大型バスの導入が進む。将来的に化学品や鉄鋼生産での巨大需要も見込まれる。足踏みする日本を尻目に、中国の水素産業はいち早く大量生産と需要拡大の成長サイクルに入ったかにみえる。そのような流れの先に世界で本当に水素社会が到来すればどうなるだろうか。石油に代わる重要エネルギーで中国に圧倒的な主導権を握られる。水素は脱炭素時代のエネルギー安全保障そのものだ。日本にとって今よりリスクが高まる悪夢の時代となりかねない。日本は現実を認識し早急に戦略を練り直す必要がある。その過程は日本の産業政策の「負けパターン」を見つめ直す作業でもある。日本の産業政策は国が企業を管理する「調整型」の性格が強い。「日の丸連合」は代表的な形態だ。資源を集中しやすい半面、競争が少なく、既存の知見が基盤で未知の可能性の追求が制約される側面がある。日本の水素戦略もその発想の延長線上にある。最大の力点を日本企業が既に商品化した燃料電池乗用車や家庭での利用拡大に置いた。一方で将来のエネルギー安保に関わる水素調達は最初から自国生産でなく輸入を軸とした。ビジョンよりも「グリーン水素生産に必要な再生可能エネルギーが普及していない」との現実問題に対応した。洋上風力発電など日本の国土に適した技術を伸ばす選択肢もあったが、企業にしてみれば国の目標が明確でなければ開発リスクには及び腰となる。今や同技術は欧州や中国で花開く。中国の産業政策は逆を行く。ときに無理筋にもみえる目標を掲げる「ビジョン型」だが実際の産業形成は「自由放任型」というハイブリッドだ。国家が保証する新たなパイに企業が殺到し「バトルロワイヤル」を展開する。ムダや問題も多いがスピードは速くイノベーションも生まれやすい。米国も国家資本主義に傾く。人工知能(AI)や量子、半導体――。いずれも国家の産業政策力を問う競争だ。まずは限界を迎えた従来型政策を変える「日本速度」が試される。失敗を繰り返している余裕はない。 *5-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO86166470Q5A120C2MM0000/ (日経新聞 2025年1月20日) トランプ氏「米、4年間の衰退に幕」 就任前に演説、化石燃料の開発拡大 トランプ次期米大統領は19日、20日の就任を前に首都ワシントンで演説し「我が国をかつてなく偉大な国にする。20日正午にこの国を取り戻す」と表明した。就任初日に不法移民の強制送還などの大統領令に署名すると明らかにした。「勝利集会」と名付けた約1時間ほどの演説はイベント施設「キャピタルワン・アリーナ」で実施した。トランプ氏は支持者を前に2024年の米大統領選で「我々は勝った」と切り出した。バイデン政権から「災害、インフレと高金利に苦しむ経済、壊滅的な国境危機を継承する」と主張した。「20日から歴史的なスピードと強さで行動し、我が国が直面するあらゆる危機を修復する」と述べ、「4年間の衰退に幕を下ろし、米国の強さと繁栄、誇りを取り戻し、新しい時代が幕を開ける」と訴えた。トランプ氏はエネルギー・環境政策について、バイデン政権で認められなかった化石燃料の開発の許認可を拡大する意向を示した。「エネルギー資源を解き放ち、インフレを迅速に克服し、地球上で最も安価なエネルギーを実現する」と言明した。米国に直接投資を呼び込む意欲を示した。米国で1000億ドルの大型投資を計画するソフトバンクグループ(SBG)などに触れ、「選挙に勝ったからこそできた投資」と唱えた。米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から米国内で大規模投資をすると伝えられたとも明かした。トランプ氏は看板政策である不法移民の強制送還に関する大統領令を20日に出すと明言した。同日夕刻までに「国境への侵入を停止し、すべての不法移民は何らかの方法で自国に戻ることになる」と発言した。「主権のある領土と国境の管理を迅速に再び確立し、米国内で活動する不法滞在のギャングを一人残らず国外追放する。米国史上最大の強制送還作戦を開始する」と述べた。イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意を自らの成果にあげた。「(米大統領選での)歴史的な勝利の結果としてのみ実現した」と話した。ロシアによるウクライナ侵略については「終わらせる。中東の混乱を止め、第3次世界大戦が起こるのを防ぐ」と断言した。ミサイル防衛システム「アイアンドーム」を建設し、米国内に設置するよう軍に指示する方針も示した。演説では20日にカナダとメキシコに25%の関税を課す大統領令に署名するかどうかには触れなかった。不法移民の流入などを理由に国家経済の「緊急事態」を宣言したうえで関税を引き上げるとの見方が出ている。20日に連邦議会議事堂内のロタンダ(円形の大広間)で大統領就任式で宣誓や演説を終えた後も同じ場所で演説し、施設内でのパレードにも臨む。20日のワシントンは厳しい寒さが予想されトランプ氏は就任式を異例の屋内開催に切り替えた。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1118E0R11C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月24日) 新東名高速で自動運転トラック発着 国土交通省が実験 国土交通省は新東名高速道路の浜松サービスエリア(SA)で自動運転トラックによる発着の実証実験を2024年12月4日に公開した。自動発着は、高速道路でのトラックの自動運転に必要な要素技術の1つ。24年度末には、他の要素技術をまとめて、発着だけでなく拠点間の走行における一連の流れを検証する。高速道路でのトラックの自動運転の実現に向けて、一般道への中継地点で運転手の乗り降りなどが必要になる。今回、決められたエリア内でトラックが自動で発着できるかどうかを検証した。実験では、SAまでドライバーが運転し、そのまま自動運転に切り替わり、指定のエリアに駐車した。発車も自動で行い、合流地点から再び手動に切り替えた。 ●商用車メーカーや日本工営が参画 検証に参加したのは、高速道路で自動運転トラックの実用化などを進める経済産業省・国交省委託事業「RoAD to the L4」のテーマ3コンソーシアム(幹事会社:豊田通商)の参加企業とトラックの自動運転技術を手掛けるスタートアップのT2(東京・千代田)だ。テーマ3には、いすゞ自動車や日野自動車などの商用車メーカーの他に日本工営などが参画している。実験では、テーマ3のトラック5台、T2のトラック1台の計6台が参加した。トラックには周囲の状況を確認するためのカメラやレーザー光を使った高性能センサーのLiDAR(ライダー)、位置情報を推定する測位衛星システム(GNSS)センサー、車両の向きなどを検知する慣性計測装置(IMU)などを取り付けている。トラックは全て、ドライバーが介入することなく指定のエリアで発着を完了した。T2技術開発本部の辻勇気本部長は「それぞれの機器から得られた情報を統合して走行させる技術を内製している」と話す。 ●24年度末までに新東名100キロ区間で実証 国交省は高速道路での大型トラックの自動運転に向けて、自動発着以外にも本線との合流を支援するシステム、落下物や工事規制などの情報を提供するシステムなど、まずは5つの要素技術を検証していく。テーマ3のリーダーを務める豊田通商グループのネクスティエレクトロニクス(東京・港)の小川博技監は「車両単体での障害物検知では、範囲が限られるためにトラックの車線変更が困難なケースがある。(インフラ側の)外部支援によって、安全かつ継続的に運行できる」と話す。24年6月には、新東名高速道路の未供用区間を使用して、各要素技術の検証を実施した。24年度末までに、駿河湾沼津SA─浜松SA間の約100キロメートルの供用区間でそれぞれ実証する。25年度以降には、合流区間における加速レーンがより短く難度が高い東北自動車道でも展開する予定だ。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240422&ng=DGKKZO80179970R20C24A4CM0000 (日経新聞 2024.4.22) 高齢ドライバーの運転、中止前に「代替手段検討を」 日本老年学会が提言 高齢ドライバーの増加に伴い、日本老年学会は21日までに、高齢者の自動車運転に関する提言を盛り込んだ報告書を公表した。認知機能や身体機能の衰えを定期的に把握し、運転継続が難しい場合は行政や地域からの適切な支援を受けつつ、中止する前に代替手段を検討すべきだとした。オンラインで記者会見した荒井秀典・学会理事長は、高齢者の運転技能は多様だとし「高齢運転者と危険運転者を同一視するような差別的なイメージは誤り。社会全体で多面的な取り組みを推進する必要がある」と強調。その上で「ゼロリスクにできる限り近づけるにはどうすべきか、科学的に示したい」と話した。報告書は、高齢運転者は視機能、認知機能、身体機能の低下から運転技能が低下することがあり「死亡事故などを起こす危険性が高い状況にある」とした。免許更新の際などに適切な運転技能の判定が必要だという。一方、運転を中止した高齢者は、継続した高齢者と比べて要介護状態になるリスクが高かった。運転中止前に、自身で運転する以外の代替手段を検討すべきだとした。 *5-2-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/283074 (日本農業新聞 2025年1月19日) 自動操舵精度向上へ RTK基地局設置 JAあいち経済連 JAあいち経済連は、トラクターやコンバインなどの自動操舵(そうだ)装置の精度向上につながるRTK(リアルタイム・キネマティック)基地局を県内の4カ所に設置し、運用を始めた。県域のJAグループとしては、都府県で初めての取り組みで、生産者の省力化を後押しする。「JAグループ愛知RTK基地局」という名称で17日から運用を始めた。自動操舵装置は、トラクターやコンバインなどの位置情報を、人工衛星から受信し、設定した経路の自動走行を可能とする装置。JAグループ愛知では、農作業の省力化を目的に、この装置の普及を進めている。人工衛星だけで受信する位置情報では約30センチの誤差が生じる。人工衛星に加え、新たに設置したRTK基地局からも位置情報を受信することで、誤差を2、3センチまで縮小できる。種まきや畝立てといった、高い正確性を要する作業での活用が期待できる。経済連は今後、生産者向けの実演会やJA農機担当者向けの研修会などで、利用方法やメリットを伝え、RTK基地局と自動操舵装置の利用拡大に取り組む。経済連の担当者は「生産者の省力化に貢献していきたい」と話した。 <ホンダ・日産の経営統合は意味があるのか?> PS(2025年2月1日追加):*6-1によると、ホンダ・日産の経営統合スキームは、①ホンダ・日産が共同で持株会社を設立し、両社を持株会社にぶら下げる形で事業統合 ②ホンダが持株会社の経営をリード ③両社は強固な事業基盤を構築して自立 ④経営統合合意に達するには日産の事業構造計画「ターンアラウンド:(i)グローバル生産能力:20%削減 (ii)グローバル人員数:9000人削減 (iii)販売管理費の削減 (iv)会社資産の合理化 (v)設備投資と研究開発費の優先順位を見直し(https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20241107513619/ 参照)」の実現が条件 としている。しかし、このスキームでは両社が共同で作った持株会社の下に、ホンダ・日産という財務的に“自立した”会社がぶら下がるだけであるため、連結決算上、一瞬は世界販売台数約750万台という世界第3位の自動車グループになったとしても、互いの長所を活かすシナジー効果は出そうにない。 そのため、仮に統合するとすれば、持株会社の下には、「国・地域別販売子会社」「研究開発子会社」「電動車製造子会社」「ハイブリッド車製造子会社」「水素燃料車製造子会社」「電動・水素燃料航空機及び同エンジン製造子会社」「電動・水素燃料船及び同エンジン製造子会社」等の機能別子会社をぶら下げて、それに適した人材を両社から選んだり希望者を募ったりして配置し、全体として両社の水素燃料や電動化等の得意分野を活かしつつ、また、これまでなかった分野は他企業との提携を目指すのが発展的経営統合になる。何故なら、NTTのケースでは、最初は固定電話が主流だったため、NTTdocomoやNTTdataなどの子会社に出向させられた人は、出世コースから外れたと思って落ち込んだが、現在ではNTTdocomoが主流になっているのと同じことが起こると思われるからである。 また、日産の事業構造計画“ターンアラウンド”は、*6-2のように、⑤全従業員の7%にあたる9,000人の削減 ⑥世界生産2割削減 ⑦販売低迷で収益が悪化した米キャントン工場(ミシシッピ州)・スマーナ工場(テネシー州)の2つの完成車工場とエンジン等製造のデカード工場(テネシー州)の生産体制縮小 ⑧従業員の早期退職募集 ⑨日産車体湘南工場(神奈川県)の生産体制縮小と従業員の日産車体九州(福岡県)への配転 であり、⑩工場統廃合を含む再建策が出ないと再生は難しく、日産側の示す内容次第で統合協議を白紙に戻す可能性(ホンダ幹部) ⑪統合の方向性については2月中旬発表 となっている。 しかし、「アメリカ国内に製造拠点を作ってもらいたい」というのは、大統領が誰であっても変わらないため、⑦の米国内の工場削減はむしろ慎重に検討すべきだ。さらに、日産の販売低迷は、女性が好む電動車や高齢者・障害者が必要とする運転支援車を、荒っぽい男性が好むいかついスタイルにしたり、サクラのように子どもっぽいかわいらさを強調しすぎて機能は低いというように、販売ターゲットを見据えたマーケティングとデザインの悪さに理由がある(この点でも中国車や韓国車の方が、よほど優れている)。そのため、改善策は、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のような現在の販売数量に合わせたコスト削減一択ではない。両社は、⑪のように、統合の方向性については2月中旬に発表するそうだが、このような大志を持った統合でなければ意味が薄いし、*6-3の三菱自動車はじめ他業種の企業も提携するに値しないと感じると思う。 *6-1:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03049/122300011/ (日経日経クロステック 2024.12.23) ホンダと日産の経営統合、最終合意は「両社の自立」が条件 ホンダと日産自動車が、経営統合に向けて動き出した。両社は2024年12月23日、経営統合に向けた基本合意書を締結し、協議を本格化させた。2025年6月の最終合意を目指す。今回の経営統合が実現すれば、世界販売台数が約750万台の世界3位の自動車グループとなる。ホンダと日産は共同で持ち株会社を設立し、両社を傘下に収める形で事業を統合する。両社のブランドは存続させる。持ち株会社の設立時期は2026年8月を予定する。持ち株会社の社長は、ホンダが指名する取締役の中から選ぶ予定である。当初はホンダが持ち株会社の経営をリードする方針だ。12月23日に東京都内で開いた会見で、ホンダ社長の三部敏宏氏は「持ち株会社をつくるだけではなく、両社が強固な事業基盤を構築して自立することが前提になる」と強調した。経営統合の検討が最終合意に達するには、日産が進める事業構造計画「ターンアラウンド」が実現されることが条件になる。同社社長兼最高経営責任者(CEO)の内田誠氏は同日の会見で、「統合の検討を始めたことで、重要な一歩を踏み出した。ターンアラウンドの成果を形にしていくことが、当社の大きな責任」との決意を示した(以下、略)。 *6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/7b7e582de051fe2a27bd240b8707f0a136978c2a (Yahoo、毎日新聞 2024/1/31) 日産の事業再生をホンダが見極めか 統合の方向性、2月中旬発表へ ホンダと日産自動車の統合協議を巡り、両社は31日、統合の方向性について2月中旬に発表すは業績不振の日産の事業再生計画の取り組み状況をみて、1月末をめどに経営統合の協議をさらに進めるかどうか判断するとしていた。日産が策定する計画をホンダ側が慎重に見極めているとみられる。両社は31日「統合準備委員会でさまざまな議論を進めている段階で、2月中旬には方向性を発表できるように進めていきたい」とするコメントを発表した。ホンダと日産は2月13日、2024年4~12月期連結決算の発表が控えている。両社は昨年12月、本格的な経営統合の協議入りを発表。今年6月に統合契約を結び、26年8月に両社が傘下に入る持ち株会社を設置する計画だ。日産は昨年11月に公表した事業再生計画で、全従業員の7%にあたる9000人を削減し、世界生産も2割減らす方針を示しており、その実現に向け、作業を急いでいる。日産によると、販売低迷で収益が悪化している北米事業を巡り、米国のキャントン工場(ミシシッピ州)とスマーナ工場(テネシー州)の二つの完成車工場と、エンジンなどを製造するデカード工場(同)で生産体制を縮小する。これに伴い従業員の早期退職を募る方針で、対象者に通知する。また、日産関係者によると、国内では日産車体湘南工場(神奈川県平塚市)で生産体制を縮小し、従業員を日産車体九州(福岡県苅田町)に配置転換するなどの検討を進めている。これまでホンダの三部敏宏社長は「(日産の事業再生は)絶対的な条件だ」と話している。日産が踏み込んだ再建策を示す必要があると考えているホンダ幹部は「工場の統廃合を含む再建策が出ないと再生は難しいのではないか。日産側の示す内容次第で統合協議を白紙に戻す可能性もある」との強い懸念を示した。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16134326.html (朝日新聞 2025年1月25日) 三菱自、統合見送りへ 上場維持し協業模索 ホンダ・日産 ホンダと日産自動車が経営統合して発足させようとしている持ち株会社に、三菱自動車は参画しない方向で調整していることが24日、わかった。日産の持ち分法適用会社で上場も維持するという、今の状態を保つ案が有力視されている。三菱グループの意向も踏まえて近く最終判断する。ホンダと日産は、今年6月に最終合意できれば、来年8月に上場を廃止し、新設する持ち株会社にぶらさがることを検討している。三菱自はこの持ち株会社の傘下には入らず、三菱自の株式の27%を持つ日産とホンダとは、プロジェクトごとに協業する道を探る。三菱自の判断の裏には、企業規模で大きく上回るホンダや日産の間で埋没することへの恐れがある。三菱自の時価総額はホンダの10分の1ほど。持ち株会社に参画する場合、統合比率は小さくなり、経営の自主性は失われる可能性が高い。関係者によると、最終判断に向けては、三菱グループの意向が鍵を握っているという。三菱自の筆頭株主は日産だが、三菱商事や三菱重工業も大株主に名を連ねる。ホンダや日産がつくる新会社に参画して上場廃止となれば、三菱グループからは事実上外れてしまいかねない。関係者は「三菱グループとして三菱自を手放すということは考えづらい」と明かす。三菱自の加藤隆雄社長は昨年12月、ホンダと日産が経営統合の協議入りを表明した記者会見に同席。今年1月末をめどに協議に合流するか判断するとしていた。また、今月10日には「我々の立ち位置は(ホンダや日産と)少し違う。必ずしも経営統合ありきとも言えない」と語っていた。同社は24日、「決まった事実はない」とコメントしている。
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2024,10,28, Monday
衆議院議員選挙期間中であり、私が他の事で忙しくもあったため、しばらくブログを書きませんでしたが、再開します。
(1)日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約 *1は、①日本被団協のノーベル平和賞受賞決定 ②衆院選公示を控え、日本記者クラブの党首討論会で安全保障をめぐる議論が白熱 ③核兵器をめぐる議論で自民党と他党の立場の違いが浮き彫り ④首相(≒自民党)は核抑止力を重視している ⑤立憲の野田代表は、日本は唯一の被爆国で、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容する発言をしている日本のトップでいいのか」「核兵器禁止条約にせめてオブザーバー参加すべき」と述べた ⑥共産党の田村委員長は「核兵器禁止条約を批准すべき」「核抑止は核兵器を使う脅しで、被爆者の願いを踏みにじるもの」とした ⑦公明党の石井代表は、「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」とオブザーバー参加に賛成 等としている。 日本は、2度も原子爆弾を落とされた唯一の被爆国で、その上、戦後に「原子力の平和利用」として作られた原発では、自然災害に起因する世界最悪の福島第一原発事故を起こし、未だに解決の道筋も見えない国である。そのため、人類に被爆(外部被曝・内部被曝を含む)という著しい危険をもたらす核兵器の廃絶や脱原発の推進こそが日本に与えられた天命だと、私は思う。 そのような中、①のように、日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことは、大変、喜ばしいことだった。しかし、②③④⑤⑥のように、日本政府は、安全保障上の“核抑止力”を理由として、核兵器禁止条約に批准するどころか、オブザーバー参加すらしてこなかった。しかし、「核兵器を持つことに依る抑止力」というのは、核兵器を持ちたいと思う人の希望にすぎず、むしろ現実的でないと私は考える。 そして、本当の核抑止力は、戦後の長期にわたって被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶や平和の尊さを発信し続けたことによって培われ、それがノーベル平和賞を通じてヨーロッパの国によって橋渡しされつつあるのではないだろうか?そのため、⑦のように、日本政府が“橋渡し(具体的に何をしたのか?)”した形跡はないと思うのである。 (2)長崎原爆の被爆者と日本政府の対応 ![]() 2022.7.29民医連 2024.8.7朝日新聞 2024.9.3朝日新聞 (図の説明:左図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地とされず、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれてきた。そして、中央の図の○の「被爆体験者」が、今回の訴訟の原告である。また、右図のように、「被爆体験者」の症状は、「被爆者」と違って放射線の影響ではなく、被爆体験による不安が原因の精神疾患とされてきた。しかし、精神疾患が原因で白血病や癌になるのでないことは常識だ) 1)地元紙の記事から 長崎原爆に近いエリアの佐賀新聞は、*2-2のように、①長崎地裁は被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出した ②岸田首相は全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表 ③同時に判決を不服として控訴 ④被爆体験者の医療費以外の各種手当は被爆者との差が大 ⑤救済策・訴訟対応とも被爆体験者の反発は強く法廷闘争は続く ⑥国が被爆者認定の在り方を見直す以外に解決はない ⑦国は「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持し、被爆体験者への現行医療費助成は精神疾患とその合併症や胃癌など7種類の癌に限定した上、申請時と年1回の精神科受診を義務化している ⑧広島高裁が援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて新基準に基づく被爆者認定を進めている広島と差が残り、差の原因は「長崎には客観的な降雨記録がないため」とされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果等を根拠に一部援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限り被爆者と認めた ⑨長崎では1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定され、その後、周囲に特例区域が追加されて全体として援護区域は広がったが、線引きは旧行政区画に沿って行われた ⑩原爆由来の放射性物質の影響が行政区画通りに広がる筈がなく不合理であることは明らか ⑪国は画一的線引きではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を調査結果等と突き合わせて精査し判断すべき ⑫被爆体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超えるが、長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった と記載している。 また、長崎原爆地元の長崎新聞は、*2-1のように、⑬長崎原爆の爆心地から半径12kmの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている ⑭違いは国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうかで、被爆者には「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めている ⑮被爆者は、被爆者健康手帳を交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担され、状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当も受けられる ⑯被爆体験者は、2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)の医療費支給に留まる ⑰長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者は多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島のみに適用され、長崎は対象外になっている 等としている。 ポイント1:被爆エリアについて ← 黒い雨が降った地域だけを加えても不十分である 日本政府は、⑨⑩のように、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域を指定し、その後、周囲に特例区域を追加したが、旧行政区画に沿って線引きした。しかし、原爆由来の放射性物質が行政区画通りに広がるわけがないため、被爆エリアの定義自体が不合理なのである。また、⑪のように、被爆エリア(≒援護区域)外にいた人の証言・当時の状況・健康被害の状況を疫学的に調査して統計処理したものは、客観的・科学的な根拠そのものなのだ。 また、⑧の広島高裁は被爆者と認めたものの、本当に「“黒い雨”を浴びた人のみが被爆者か?」と言えば、原発事故で明らかになったとおり、被曝には内部被曝もあるため、放射線量の高い地域で収穫された作物を食べた人やその地域で呼吸していた人も被曝者になる。 つまり、これまで、日本政府は、i)原爆で焼け死んだ人(熱による焼死) ii)被爆直後に著しい放射線障害を起こした人(強い外部被曝) のみを被爆者として認定していたが、実際は、iii)黒い雨を浴びた人(緩やかな外部被曝) iv)黒い雨が降ったため放射線量の高くなった地域で収穫された作物を食べた人(内部被曝) v) 放射線量の高い地域で呼吸していた人(内部被曝)も健康被害を受けるため、被爆者なのである。 従って、⑰のように、長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った多くの体験者は被爆者であり、広島のみに黒い雨被害者を被爆者と認めたのは片手落ちであると同時に、直接、黒い雨にあった人のみを被爆者としているのも、未だ不足なのである。 ちなみに、長崎原爆が投下された時、佐賀市の飛行機工場で尾翼を作っていたという私の母は、真っ青な空にモクモクと黒いキノコ雲が上がり、女学生の友人と「あれは何だ。何だ」と言っていたところ、しばらくして「新型爆弾だ」という情報が入ってきたのだそうだ。従って、佐賀市からでも見えた長崎原爆による「灰(粉塵)」や「黒い雨」は、かなり広い範囲で降ったと推測でき、狭い行政区画や⑬のような爆心地から半径12kmの同心円内に収まっていたわけがない。また、現在、90~100歳代のこのような多くの人たちの貴重な証言は、広く集めて記録しておく必要がある。 ポイント2:被爆者と被爆体験者の定義について 国は、⑨⑬のように、爆心地から半径12kmの同心円内にいても原爆投下時に国が定める地域(旧長崎市全域と特例区域)の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」に分け、⑭のように、被爆者には、「原爆放射線による健康被害」を認め、被爆体験者には、被爆体験に起因する「精神的疾患」のみを認めているのだそうだ。 違いの根拠は、国は上のi)ii)しか「原爆放射線による健康被害」のある被爆者と認めず、iii)iv)の人は、被爆の影響はないのにうるさく言う「精神的疾患」だとしているからである。 その結果、⑮⑯のように、被爆者は被爆者健康手帳の交付を受けてほぼ全医療費が公費負担・状況に応じ健康管理手当(月3万6900円)や介護手当・葬祭料等の各種手当が支給されるが、被爆体験者は2002年度開始の支援事業で精神科受診を前提に精神疾患やその合併症(癌7種が昨年度追加)への医療費支給に留まっているのである。そして、これは⑧の広島高裁判決との不均衡や長崎地裁判決の分断による公平性の問題以前に、緩やかな外部被曝や内部被曝の健康への悪影響を認めないという国の頑なな態度の問題なのである。 ポイント3:被爆(外部被曝・内部被曝を含む)の健康への影響について 国は、⑦のように、「被爆体験者に精神的な悩みは認めるが、被爆者と違って放射線の影響はない」という立場を堅持しているが、それが医学的に正しいのかと言えば、緩やかな外部被曝や内部被曝の影響を無視しているため、正しくない。また、内部被曝による胃癌等発生が精神疾患によるものであるわけがないため、被爆体験者への現行医療費助成に精神科受診を義務化しているのは、賠償費用を抑えるために意図的にやっているとしか思えない。 従って、①のように、長崎地裁が被爆体験者の一部を被爆者と認める判決を出したのは、少しは良かったし、②のように、岸田首相が全被爆体験者に医療費助成を拡充して被爆者と同等にする救済策を発表したのは何もしないよりは良かったのだが、被爆者や被曝者の定義を、国は最新の科学に従って見直すことが重要だ。そうすれば、④⑫のように、生存者の数が減っても賠償金額は増えるが、被害者を犠牲にする不公正を続けるよりは、ずっとましであろう。 そして、③⑤⑥のように、国が被爆者認定の在り方を科学的に見直す以外に納得は得られず、裁判は続き、国の不作為による被害者は増える。そのため、裁判所も、黒い雨が降ったか否かだけではなく、緩やかな外部被曝や内部被爆の健康影響を認め、日本政府に心の問題(≒精神的疾患)などと言わせてはならないのである。 2)全日本民医連(https://aequalis.jp/feature/cherish.html)の見解について ![]() 2024.9.9NHK Radio Active Pollution 玄海原発 プルサーマル裁判の会 (図の説明:左図の黄色と黄緑色のエリアが、爆心地から半径12km以内で「被爆体験者」とされた人の住んでいた地域だ。しかし、半径12kmで小さすぎることは、中央の図の福島第一原発事故によって著しく汚染された地域から明らかで、地形・風向き・降雨によって放射性物質の広がり方は異なる。これを、長崎県と風向きが近い玄海原発でシミュレーションした地図が右図であり、半径80kmでも汚染される地域がある。ちなみに、チェルノブイリ原発事故では、移住義務ゾーンが右図の赤・橙・黄緑の地域、移住権利ゾーンが右図の緑色までの地域となっている) 全日本民医連による*2-3の記事は、①原爆の熱線や黒い雨を浴びながら行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たちが“被爆体験者”で、放射能の影響ではなく原爆体験のストレスで病気になったとされている ②長崎の被爆地は2度にわたって範囲が広がったが、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形 ③図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではなく、ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者 ④被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない ⑤被爆体験者には「被爆体験の不安が原因で病気になった」と書かれた「被爆体験者精神医療受給者証」が交付される ⑥こんなおかしな仕組みは放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向でできた ⑦被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はなく、放射能の影響が考えられる癌などは対象外で、例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃癌」になった途端、医療費助成が打ち切られるという矛盾した制度 ⑧長崎民医連は2012~13年に被爆体験者194人を調査し、約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があった ⑨長崎県連事務局次長は「被爆者の認定指針はじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めており、根本的に間違っている」と指摘 ⑩被爆体験者とされる鶴さん(85歳)は、爆心地から東へ7.3kmの旧矢上村で被爆し、同じ村内の隣の集落は被爆地になったが、山の尾根の反対側の鶴さんの集落は被爆地と認められなかった ⑪1945年8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見たが「梅干みたいに赤黒かった」 ⑫父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した 等としている。 全日本民医連の記事は、①③④⑤⑦のように明確に書いてあるため、よくわかった。そして、⑥⑨は、私の推測と同じだが、これは、水俣病でも福島第1原発事故でも行なわれたことであり、今後起こる原発事故や公害による被害者に対しても行なわれるだろうから、国民は、それも折り込んで意志決定しなければならないのである。 さらに、長崎民医連は、⑧のように、2012~13年に被爆体験者194人を調査して、その約6割に下痢・脱毛・紫斑等の放射線による急性障害があったことを確かめているが、これは、世界の学会誌に掲載された論文だろうか? もしそうでなければ、速やかに体裁を整えて、世界の学会誌に論文を掲載した方が良いと思う。 なお、被爆体験者とされている⑩⑪の鶴さんは、爆風で舞い上がった大量の放射性物質を含む粉塵がそのまま降ったり、雨に混じって黒い雨となって降ったりすれば、山の尾根の反対側の集落であっても緩やかに外部被曝し、内部被曝もする。そのため、⑫のように、全員ではないが、家族が早逝しているのだろう。 従って、②の長崎の被爆地は、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形というのは、円形でないから正しくないとは思わないが、あまりに範囲が狭すぎるため、被爆者全員の健康管理をしていないことが明らかだ。ただし、戦争による被害は原爆による被爆だけではないため、被害者全員に補償していたら際限が無く、殆ど補償されていないとも言えるのだ。 (3)衆議院議員選挙におけるエネルギー政策への審判 ![]() 2023.8.1東京新聞 2024.9.25西日本新聞 資源エネルギー庁 (図の説明:左図が全国の原発の状況で、再稼働済が11基あり、その中には使用済核燃料貯蔵率が80%以上のものが多い。また、中央の図は、再稼働審査に合格した原発の使用済核燃料保管状況だが、殆どが80%以上である。そして、右図が高濃度放射性物質を陸地で最終処分する方法で、地上から300m以上離れた地下深くで、1000年~数万年も管理しなければならない《https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-02-11.html 参照》わけだが、誰の金で、誰が管理するのか、無責任極まりないのだ) ![]() 2022.8.21東京新聞 2023.7.27日経新聞 2024.10.29NOTE (図の説明:左図は、フクイチ事故原発の汚染水《トリチウムを含む処理水》を海に放出する議論だが、トリチウム濃度が国基準の1/40未満であっても、分量は優に40倍を超えるため総量では基準を超え、第一次産業に損害を与えていることは明白だ。そのような中、中央の図のように、“脱炭素電源オークション”として、原発の新設・建て替え・既存原発の安全対策費やアンモニアを使う火力など、将来性のない電源に対して電気料金から支援金を出す仕組を作ったのは無駄に国民負担を増やすものでしかない。そのようなことの積み重ねが、右図の今回の衆議院議員選挙の結果であり、原発地元の新潟県・佐賀県では全選挙区で立憲民主党が勝ち、福井県・鹿児島県でも自民党の原発推進派が落選する結果となったのである) 1)衆議院議員選挙における候補者の態度 *3-1-1は、①3年前の前回衆院選から十分な議論もなく原発政策は大きく変化 ②岸田前政権は次世代型原発へのリプレース・最長60年としてきた既存原発の運転期間延長など、福島第一原発事故(以下、“フクイチ事故”)を受けて進めた「脱・原発依存」から大きく舵を切り、なし崩しで原発回帰が進む ③今回の衆院選で議論は低調 ④原発利用については、自民党・日本維新の会・国民民主党が推進の立場で、共産党・れいわ新選組が脱原発、立憲民主党は公約では触れず党綱領に原発ゼロを明記 ⑤薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者は発言内容は違えど運転延長には容認 ⑥原発利用とセットで語る必要のある「核燃料サイクル」も実現が見通せず ⑦高レベル放射性廃棄物を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドもなし ⑧選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が2002年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都町と神恵内村、玄海町の3自治体のみ としている。 衆議院議員選挙の立候補者が、③のように、脱原発を口にしない理由の第1は、自民党の場合は大手電力会社から寄付だけではなく選挙協力も得ているから、国民民主党・民主党の場合は、大手電力会社の労組から選挙協力を得ているからである。 また、理由の第2は、経産省はじめ原子力エネルギーを維持したい人の発言力が強く、政治家・候補者・メディアはじめ国民の多くが、これに対抗できる知識や力を持っていないからだ。そのため、政権批判と言えば、国民に賛成されやすい「政治とカネ」論争ばかりになるのだが、これは国民を馬鹿にしすぎているだろう。 そのような事情から、①②のように、自民党の岸田前政権は選挙で審判を仰ぐことなく、フクイチ事故を受けて進めた「脱原発依存」から、なし崩しで原発回帰を進め、④のように、立憲民主党は党綱領に原発ゼロを明記しているが、公約では触れなかった。 それでは、よく言われるように原発はコストが安いのかと言えば、後で詳しく述べるとおり、⑥⑦⑧の如く、高レベル放射性廃棄物の処理はできず、リスクが高いのに使用済核燃料を各原発に溜め込んでおり、国が無駄金をばら撒かなければ一歩も前に進まない金食い虫なのである。 なお、⑤のように、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する自民・立憲の候補者が運転延長に容認している理由は、選挙は票数の勝負であるため、候補者の主張に反対の人が多いと得られる票数が減って不利になるからであろう。 しかし、選挙結果を見ると、*3-1-4のように、原発地元である新潟県・佐賀県では立憲民主党がすべての小選挙区を制し、福井2区でも原発推進派で自民党系の高木氏が落選した。そして、従来は自民党が強かった鹿児島県も、1区立民・2区野党系無所属・3区立民が小選挙区を制し、4区の森山氏(自民党幹事長)だけが自民党なのである。そして、この結果については、「政治とカネ」問題が大きいと言われてはいるが、原発の地元は、他の地域と違って真剣に原発のリスクについて考えていることを忘れてはならない。 なお、日本の経済団体は、*3-1-5のように、経団連の十倉会長が、⑨自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢を構築し、政策本位の政治を進めることを強く期待 ⑩与党の敗因は政治資金を巡る問題への国民の厳しい判断 ⑪待ったなしの重要課題に原子力の最大限活用を含む とし、日本鉄鋼連盟の今井会長は、⑫安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する としている。 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬連立与党の枠組みがどうであれ、デフレからの完全脱却に不退転の決意で臨むべき とし、経済同友会の新浪代表幹事は、⑭与野党問わず現実を直視してしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めて欲しい としている。 つまり、経産省の意向を強く受けている経団連の十倉会長は、⑨⑩⑪のように、問題は「政治とカネ」だけなので、自民党・公明党を中心とする安定的な政治態勢で政策本位の政治を進めることを期待し、原子力の最大限活用は待ったなしの重要課題だ としている。また、日本鉄鋼連盟の今井会長も、⑫のように、原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待する としているのだ。 しかし、このように日本の経済界の大企業が安定のみを追求して、イノベーションを軽んじた結果、日本は「失われた30年(https://toyokeizai.net/articles/-/325346 参照)」を経験したのだということを、決して忘れてはならない。 そして、あまりにもパッとしない発言だったため、十倉氏の経歴を調べたところ、1974年東京大学経済学部卒の74歳(学生運動が盛んで、学生が勉強していない時期)で、現在は住友化学株式会社代表取締役会長であり、経団連会長である。しかし、積水化学はペロブスカイト太陽電池を2025年に事業化する(https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/12/news047.html 参照)のに対し、住友化学は大分工場で購入電力を100%再エネ化しただけで、次の大きな利益機会であるペロブスカイト型太陽電池には参入していない。 また、日本鉄鋼連盟会長で日本製鉄社長の今井氏は、1988年東大院金属工学研究科修士修了、1997年マサチューセッツ工科大博士修了で、旧新日本製鉄出身初の技術系社長で脱炭素化対応(≒電炉推進)にあたってきた人なので、脱炭素の安定電源として原発の新設・建て替えを含めた原子力の活用を強く期待するのもわからなくはないが、原発は高コストで温排水を出す電源であるため、SDGsの役に立たない上、コストダウンも難しい。そのため、もっとスマートな代替案を考えて欲しいと思ったのである。 なお、AGCは、建築用ガラスの性能(遮熱・断熱性)と太陽光発電の性能を併せ持つ建物のガラス部位で発電することによって、カーボンニュートラルに貢献しようとしており、私も使える限り使いたいと思うのだから、これは当たるだろう。 また、日本商工会議所の小林会頭は、⑬のように、デフレからの完全脱却を求めておられるが、原発等への無駄で膨大な補助金を削らずに新しい財源を確保するためとして国民負担を増やし続ければ、国民の可処分所得が減るためデフレからの脱却などできるわけがないのである。さらに、経済同友会の新浪代表幹事の⑭の発言は、「何が無視できない重要な現実なのか」を知力を尽くして議論していないため、何も言っていないのと同じである。 2)原発は採算性が悪く、巨額で不透明な補助金によってのみ成り立っていること *3-1-2は、①原発コストは陸上風力・太陽光より高くなり、海外では採算を理由に廃炉も ②日本政府の試算でも原発コストは上昇 ③年度内に予定されるエネルギー基本計画改定で原発活用方針が盛り込まれれば国民負担増 ④日本政府はフクイチ事故後、原発依存度を可能な限り低減する方針を掲げたが、岸田政権がGX基本方針で「原発の最大限活用」に転換 ⑤エネルギー安全保障・CO₂排出抑制を理由に掲げても、事故の危険性とコスト高騰あり ⑥米国ラザードが発電所新設時の電源別コストを発表し、建設・維持管理・燃料購入費用を発電量で割って算出する原発のコストは陸上風力・太陽光発電の3倍以上 ⑦経産省作業部会の計算でも2030年新設原発の単純コストは11.7円/kwhで、陸上風力・太陽光と同じ ⑧実際には単純なコストだけでなく補助金等の政策経費を含めて算出すべき ⑨太陽光・風力は大量生産で安くなるが、原発は量産効果が働かない ⑩原発活用でも電気代が下がるとは考えられない としている。 原発は、安価で安定的な電源だと言われ続けてきたが、原発のコストは、本当は、⑧のとおり、電力会社が支払う単純コストだけではなく、国が支払う補助金等による膨大なコストも含めて算出するのが正しい。 しかし、補助金を加えない単純コストだけを比較しても、①⑥⑨のように、原発は大量生産することができず、太陽光・風力は大量生産できるため、普及して量産効果が出れば出るほど太陽光・風力の方が安くなり、これは最初からわかっていたことである。 そして、原発を推進したい経産省の作業部会でも、⑦のように、やっと2030年新設原発の単純コストが11.7円/kwhで陸上風力・太陽光と同じになるとしているが、この日本の遅れは、原発には膨大な補助金をつけて推進し、太陽光・風力の普及には消極的だった結果なのである。 なお、②③⑤⑩のように、原発のコストは、日本政府の試算でも事故の危険性とコスト高騰で上昇している上に、再エネと比較してエネルギー安全保障に資さず、CO₂排出は抑制するが地球温暖化抑制にも公害防止にも資さず、原発の活用で電気代が下がるわけでもなく、エネルギー基本計画の改定で原発活用の方針が盛り込まれれば、むしろ国民負担は増すのである。 それでも、④のように、岸田政権は、十分な議論もなく、GXを理由として、「原発依存度を可能な限り低減する」という方針を掲げたのだが、思いつきのこじつけで1人前の大人を説得することはできない。 また、*3-1-3は、⑪CO₂等の温室効果ガス排出を減らす発電所の改修・新設を対象として発電会社が国の補助金を受け取る「長期脱炭素電源オークション」が始まった ⑫補助金原資には電気料金も含まれる ⑬発電会社への補助額等の内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できない ⑭発電会社は施設等の維持費を積算し、経産省が所管する電力広域的運営推進機関の入札に応じて落札できた場合に維持費に相当する国の補助金を受け取れる ⑮個々の落札価格や受取期間は公表されず、資源エネルギー庁の担当者曰く「必要な時が来たら情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」 ⑯原発対象の補助金を受ける中国電力も「経営戦略上、回答を控える」とした ⑰初回2023年度は新設・建て替えに補助対象が絞られ、今月手続きが始まった2024年度から「新規制基準へ安全対策工事が必要な原発」も対象 ⑱龍谷大の大島教授は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めないものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかを公開するのが当然」と語る ⑲NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木理事長は「落札価格が公表されなければ、応札の基本ルールが機能しているのかどうかもチェックできない」と指摘 ⑳国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機がどれだけ補助金を得るのかを、NPO法人「原子力資料情報室」が、「公表されている落札総額を落札総容量で割り、1kw当たり平均落札価格を5万8254円と計算し、これに同原発の容量を乗じて766億円とはじいた ㉑「原子力資料情報室」の松久保事務局長は「殆ど知らされることなく極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘 等としている。 そもそも、大量の温排水を出す原発を温室効果ガス排出を減らす発電所と認定すること自体が奇妙だが、これは、⑪⑫⑭のように、国民が支払う税金を使った補助金と電気料金から拠出させる支援金を「長期脱炭素電源オークションを通したから」と正当化して、主に原発に配ることが目的だったのだろうと、公認会計士として外部監査の経験を持つ私は推測する。 そして、再エネを普及させるための補助金は著しく少ないため、⑬のように、補助額の内訳を示すことはできず、⑮のように、資源エネルギー庁の担当者は、個々の落札価格や受取期間を公表せず「資料の作成も取得もしていない」とし、⑯の中国電力もそうするのであろう。⑰の「新設・建て替え」「新規制基準へ安全対策工事」は、原発が対象であることが明らかであることから、私の推測は、さらに裏打ちされたわけである。 このように、時代に合わなくなったことに対する補助金をなくさずに、時代が求める新しいことをする度に「財源は?」と称して国民負担を増やせば、そのうち国民負担を100%にしても新しいニーズを満たすことはできなくなるだろう。そのため、必要なことは、情報開示した上で国民の審判を受けることだが、国民を馬鹿にしているのか、それが行なわれていないのだ。 従って、私は、⑱⑲の意見に全く賛成であるし、⑳のように、NPO法人「原子力資料情報室」が、限られた情報からできるだけのことをして、中国電力島根原発3号機に766億円の補助金が渡されたであろうことをはじき出したのはアッパレだと思う。 さらに、㉑のように、簡単なことを複雑化して国民が事実を把握できないようにし、不透明にしてやりたい放題やることこそ、民主主義から大きくはずれている。そして、こういうことができないようにするためには、国の会計を複式簿記・総額表示に変更して迅速に決算を行ない、政策毎にかかる金額の内訳を示して行政評価できるようにする以外にはないのだ。もちろん、そうされると都合の悪い人は抵抗するだろうが、これは既に殆どの国でやっていることなのである。 3)女川原発の再稼働にかかった費用と再稼働の是非 ![]() 2024.10.29Yahoo 2024.10.29毎日新聞 2024.10.29Nippon.Com (図の説明:左図は、現在の女川原発の様子で、中央の図が、同原発の安全対策のために行なった工事だ。そして、右図が、2024年10月末時点の原発の稼働状況である) *3-1-6は、①東北電力が、13年半ぶりにに女川原発2号機を起動 ②事故を起こしたフクイチと同じ「沸騰水型」初 ③被災地及び東日本の原発再稼働初 ④女川原発2号機は東日本大震災で敷地内震度6弱を観測し、約13mの津波が押し寄せて外部電源の多くが失われ、港にあった重油タンクが倒壊し地下室が浸水 ⑤その後、想定される最大クラスの津波に備えて防潮堤の高さを海抜29mにかさ上げし、地震被害を抑えるため原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行って、2020年に原子力規制委員会の審査に合格 ⑥震災後の安全対策工事費用約5700億円 ⑦テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」は再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内の設置が義務で、期限の2026年12月までに約1400億円かけて建設予定 ⑧政府は脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発最大限活用方針 ⑨電力各社は、新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発も地元の理解を得た上で再稼働を目指す ⑩女川町長は「継続的な安全性向上を求める」 ⑪宮城県知事は「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」 ⑫地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できるか課題 ⑬東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減見通しだが、電気料金の値下げに慎重 ⑭武藤経産大臣は「大きな節目になる」 ⑮使用済核燃料は原発建屋内の燃料プールで一時的保管されているが、既に79%に達し、再稼働に伴って今後4年程度で満杯 等としている。 東北電力女川原発再稼働のためにかかる費用は、⑤⑥のように、i)想定される最大の津波に備える防潮堤の海抜29mへのかさ上げ ii)地震被害を抑える原子炉建屋内の配管・天井等の耐震補強 iii)テロ等に備える「特定重大事故等対処施設」であり、i)ii)の安全対策工事に約5,700億円かけたところで、原子力規制委員会は審査に合格させている。また、iii)のテロ等対策費には約1,400億円かかるそうだが、再稼働に必要な原発工事計画の認可から5年以内に設置すればよく、建設期限は2026年12月なのだそうだ。 そこで疑問に思うのは、イ)いつも甘い“想定”の最大津波は本当に29mが上限なのか ロ)実際に29mの津波(ものすごい分量で、勢いのある水の塊)が何度も押し寄せた時に、防潮堤の薄い壁は耐えられるのか ハ)津波が来た時、海水が逆流する内水氾濫は起きないのか である。「津波や巨大地震はない」という甘い“想定”で、原発を低い場所に建てた上に、重要な施設を地下に置いたため、ほんの13年前にフクイチ事故は起き、①②③④のように、女川原発も危ういところだったのだから、忘れたわけはない筈だ。 その原発に、電力の全消費者が支払う電気料金から支出される支援金を約5,700億円もかけて弥縫策のような工事を行い、さらに約1,400億円かけるテロ等対策は未完成で、完成したところで武力攻撃には無力なのに、原子力規制委員会は審査に合格させたのである。そのため、消費者である国民は、二重・三重に馬鹿にされ踏みにじられているのであり、政策をチェックして選挙に行くこともなく、ぼんやり(or熱狂して)野球ばかり見ている場合ではない。 そして、政府は、電力の全消費者が支払う電気料金から支援金を支出する理由として、⑧のように、「脱炭素社会実現・エネルギー安定供給に向けて原発を最大限活用する方針」「生成AIの普及による電力消費の増大」等を掲げているが、前にも書いたとおり、原発は、脱炭素は実現できても海に温排水を排出しているため地球温暖化防止の役には立たず、漁業に多大な迷惑をかけて食糧自給率を落とし、集中電源は、北海道胆振東部地震やウクライナ戦争で明らかになったとおり、エネルギー安定供給にもむしろ資さないのである。 しかし、「電力の全消費者が払う電気料金から安全対策費に関わる支援金が出る」などといううまい話は滅多にないため、⑨のように、電力各社は新潟県柏崎刈羽原発・茨城県東海第二原発等の東日本を含む各地の原発でも再稼働を目指しているが、いくら安全性を重視しても「事故0」はなく、原発事故は巨大事故に繋がるため、地元が理解しないのは当然なのだ。 そのような中、⑩⑪の女川町長・宮城県知事の「継続的な安全性向上を求める」「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい」というのは、原発維持や安全対策工事の経済効果を見ているのかも知れないが、無理な要求である上に視野が狭くもある。 また、宮城県知事は「住民の避難計画は訓練しながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要」としているが、住民が避難して何処へ行き、どういう生活をし、誰が生活の面倒を見て、原発事故の収拾費を出すのは誰かを考えるべきだし、⑮のように、原発建屋内の燃料プールで“一時(本当は長期)”保管されている使用済核燃料は、既に容量の79%に達しており、再稼働すれば4年程度で満杯となるのであり、これは原発のリスクをさらに増している。 その上、⑫のように、地震・津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」の場合、宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大事故が起きれば住民が安全に避難できないのは能登半島地震で経験済で、そもそも事故や災害が起きたら避難しなければならないような場所に住宅地等があること自体、「一寸先は闇」なのである。 なお、⑬のように、東北電力は再稼働で600億円/年程度のコスト削減の見通しだが、電気料金の値下げはせず、⑭のように、武藤経産大臣は「大きな節目になる」と言われているが、どういう節目になると言うのだろうか。 4)再エネ・EVのエネルギー自給率向上・食糧自給率向上・地方創生との相乗効果 ![]() 2022.1.13MoneyPost Panasonic PRTimes (図の説明:左図のように、建物を透明な太陽電池で覆うと、太陽光のエネルギーが電力に変換される分だけ環境への放熱が減るため、発電と温暖化防止の両方を実現できる。しかし、建物に無様な太陽光発電装置をつけるわけにはいかないため、中央の図のように、ガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池が開発された。また、右図のように、瓦型の太陽電池もあるため、住宅はもちろん城や寺などの伝統ある建物で使うと面白い) ![]() AGC トヨタイムス 2019.7.20日経BP (図の説明:左図のように、AGCもサンジュールという建材一体型太陽光発電ガラスを生産し始めており、様々なデザインがある。また、中央の図のように、トヨタは、街の景観に馴染ませながらビル壁面等で発電できる、レンガや板の模様を出せる太陽光パネルを作った。さらに、右図のように、駐車場や道路で発電できる太陽光発電もある) ![]() アグリジャーナル 国際環境経済研究所 ナゾロジー (図の説明:左図は、農業と風力発電のコラボレーションで、様々な設置方法が考えられる。また、中央の図は、温室に設置した透明な太陽光発電だが、日本のガラス室やハウスの設置面積は42,000haあるため、コストが見合って太陽光発電できればかなりの発電規模になるそうだ。さらに、右図は、シリコン型太陽光パネルの下で放牧されている羊だが、パネルが太陽光をエネルギーに変換しながら太陽光を遮るため、その分涼しくなって羊の成育がよくなったそうだ) イ)ペロブスカイト型太陽電池について *3-2-1は、①日本発のペロブスカイト型太陽電池の投資ラッシュが中国で開始 ②中国の新興6社が工場建設の計画で内外から流入する投資マネーが生産を後押し ③中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う ④中国・江蘇省無錫市で極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場完成が近づき、「世界初のGW(100万キロワット)級の生産基地」へ ⑤福建省アモイ市では大正微納科技が100MW級の工場を建設中で2025年に量産開始、発明した桐蔭横浜大学宮坂特任教授の教え子、李鑫氏が最高技術責任者 ⑥日本発の技術だが宮坂教授は技術の基本的な部分に海外で特許取得しておらず、量産で中国企業先行 ⑦太陽光から電気への変換効率は2009年の発明当時は3.8%で実用化に遠かったが、現在は最高26%台まで上昇し理論変換効率(33%)上限に近い ⑧カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍) ⑨日本勢は積水化学工業が25年の事業化を目指してシャープ堺工場の一部取得を検討 ⑩パナソニックホールディングスは2026年に参入方針 ⑪中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保する意志 ⑫ペロブスカイト型は、曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるため、発電効率もシリコン型と比べて優位 ⑬大正微納の馬晨董事長兼総経理は「ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わる」と話す 等としている。 上の図のように、様々に工夫された太陽電池は、⑬のとおり、都市部の建物の外壁・ガラス・瓦などの建材や道路・駐車場と一体化させれば、街そのものを発電所に変化させることができる。そして、太陽光エネルギーのうち電力エネルギーに変換された分は、熱エネルギーとして放射されないため、二重に地球温暖化防止に役立つと同時に、電力の自給率向上・防災・分散型発電にも資するのである。 そのため、上の図の瓦型やガラス型だけでなく、トヨタの板目模様やレンガ模様を印刷したペロブスカイト型太陽電池のようなものをビルやマンションの壁面に貼り付ければ、街の景観を保ちながら、スマートに太陽光発電をすることが可能である。 しかし、日本という国は、仮に研究で先を行っても、⑥⑦のように、「太陽光から電気への変換効率が悪い」等々の思いつく限りの欠点を並べられて、「世界特許をとらない」「市場投入が遅い」「大規模生産できない」「製品が高い」などの結果となるのであり、世界競争時代に勝つための製造業の基本がわかっていない。しかし、欠点は、⑫のように、ペロブスカイト型は曇天・早朝・夕暮れ等の弱い光でも発電できるので発電効率もシリコン型と比べて優位であったり、設置可能面積が広かったり、製品を改良したりして、解決が可能なのである。 その点、中国は、①②③④⑤のように、可能性を見いだせば、短所を改良しながら、大規模投資・大規模生産・市場投入するため、手頃な価格で販売することが可能で、近年は、日本人も中国製の製品を使うようになっている。特に、EVと太陽光発電は、米国が過去の製品を護るための保護主義に陥っている中で、中国の1人勝ちになりそうだ。 なお、カナダの調査会社プレシデンス・リサーチは、⑧のように、「ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は2032年に24億ドル(約3400億円で2022年の26倍)としているが、スマートな建材一体型太陽電池の種類が増えれば、世界中で現在の建材に替えて使えるため、24億ドル(約3400億円)どころではないだろう。 このような中、⑨⑩のように、積水化学が、2025年の事業化を目指してフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発中で、パナソニックは、建材としてのガラスの代替を目指して建材ガラス基板にペロブスカイト層をインクジェット塗布して作る手法を使って2026年に参入するそうだ。しかし、日本政府も、過去の製品に固執して腰が重いため、⑪のように、中国企業の方が、日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打って世界シェアを確保しそうなのである。 ロ)蓄電池について 米大統領選において、何故か大差で勝利したトランプ前大統領は、「メキシコ・その他の国々からの輸入車に新たな関税を課す」「EVを推進する多くの既存政策を撤回する」としていたため、就任初日に、環境保護局(EPA)及び運輸省の自動車関連規則撤廃に着手する計画を示しているそうだ。 しかし、米国のゼロエミッション輸送協会は、「今後4年間は、これらの技術が今後何世代も米国の工場で米国の労働者によって開発・採用されるのを確実にする上で極めて重要だ」として、時間稼ぎできたことを喜んでいるようである(https://jp.reuters.com/markets/global-markets/BMDUUSY2RJJWFBLYLTOCFNGFCQ-2024-11-07/ 参照)。 そのような中、*3-2-2は、①米テスラは、ヤマダホールディングスの全国1000店ある店舗で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダは住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込む ②天候によって発電量が変わる太陽光電力の需要と供給を調整するには蓄電池を増やす必要がある ③テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量13.5kwhと大きく、競合国内メーカーと比べて容量当たり単価が安い ④米欧では既に複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっている ⑤太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電し、足りない時に販売して収入を得る仕組みで、電力の需給バランスも調整できる としている。 これに加えて、*3-2-3は、⑥経産省は、2025年度にも再エネ発電と蓄電池を併用する事業者の発電量に応じて上乗せして交付する補助金額を現状の2倍程度に拡充し、海外に比べて遅れた蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げる ⑦日本の再エネは太陽光の普及が特に進み、昼間に電気が余って発電停止が頻発 ⑧電気を溜めるのが解決策だが蓄電池が高くて使えていない 等としている。 このうち②⑦は、2012年7月に再エネ固定価格買取制度(FIT)が始まった当初から問題になっていたのに、それから12年後の現在でも⑤を説明しなければならず、④のように、米欧では、とっくに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」が広がっているのに、日本では、⑧のように、「蓄電池が高くて使えない」などと何の問題解決もできていないのが異常である。そして、何故そうなったのかが、最も重要だ。 そして、③のように、米テスラの蓄電池の方が国内メーカーよりも容量当たりの単価が安い上にデザインも優れ、①のように、ヤマダが全国1000店ある店舗で米テスラの蓄電池の注文を受け、住宅や太陽光発電設備と組み合わせて蓄電池を販売し、家庭の再エネ需要を取り込むというのは、家電に対する国内メーカーの衰退の著しさを感じた。何故そうなったのか。 また、⑥のように、経産省は、再エネ発電・蓄電池併用の事業者への補助金を2倍程度に拡充し、「海外に比べて遅れた」蓄電池普及を後押しして再エネの有効活用を広げるそうだが、「どんなイノベーションも、海外より遅れる」という我が国の状況をなくすためには、海外と比較して太陽光発電や蓄電池の普及が遅れた理由を追求し、それを解決することが最も重要であろう。 ハ)地方創生と再エネについて ![]() JA苫前 2022.8.24日経BizGate 長崎大学 (図の説明:左図は、広大な農地と風力発電の組み合わせ、中央の図は、牛の放牧と風力発電の組み合わせであり、風力発電からの電力収入を副収入とすることによって、国際競争力のある価格で農業生産を行なうことが可能だ。また、右図は、風力発電と養殖の組み合わせで、さまざまな組み合わせが考えられるが、どれも、再エネ収入を地方創生に活かしながら、食料・エネルギーの自給率向上にも資する点で優れている) *3-3は、①石破政権は、人口減・社会的基盤維持等の地方が抱える課題解消をめざし、首相官邸で閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合 ②2025年6月に纏める「骨太の方針」に今後10年間を見据えた具体的施策を盛り込む ③柱は、i)安心して働き暮らせる地方の生活環境 ii)東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散 iii)付加価値創出型の新しい地方経済 iv)デジタル・新技術の徹底した活用 v)「産官学金労言」の連携と国民的機運の向上 ④首相は11月中に纏める経済対策に関して「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出等の取り組みを支援する」と強調 ⑤首相は倍増方針を示した地方創生交付金に関し「金額だけ増やしても意味がない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った ⑥首相は、2014年9月発足の第2次安倍改造内閣で初代地方創生相を務め、2014年12月に決定した長期ビジョンに「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んで、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが地方の環境は依然厳しい ⑦首相は11月8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければ先の展望はない」とした ⑧国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した将来推計人口は、2056年に1億人を割って9,965万人になり、2070年に8,700万人 ⑨総務省住民基本台帳人口移動報告では、2023年の東京圏は転入者数が転出者数を上回って28年連続転入超過、地方は人口流出が続く ⑩首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動は、10年間で全国33の道県で男性より女性が多く転出」とし、婚姻率上昇を念頭に若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えた としている。 このうち①②⑤は良いと思うが、④については、農林水産業の高付加価値化は、例えば中食にまでして利便性を高めるような高付加価値化は良いが、価格のみを上げて贈答品で貰いでもしない限り果物も食べられないような国になっては、国民が困る。また、観光産業も、サービスは変わらないのに価格だけが上がるような高付加価値化では、国民が貧しくなって困るので重点化の内容が重要である。 また、首相は、⑥⑧のように、第2次安倍内閣で地方創生相を務められ、「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込まれて、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとされたが、人口減は止まらなかった。しかし、戦後のベビーブームで増えすぎた人口が減るのは自然現象だろうと、私は、思う。 そして、⑨⑩のように、東京圏でのみ転入者数が転出者数を上回り、地方は人口流出が続いて、特に若年世代の人口移動は男性よりも女性の方が多く転出する社会的増減が起こっているため、首相は、婚姻率を上昇させる目的で、若者・女性に選ばれる地方の実現を訴えられたのだそうだ。しかし、「人口を増やすために婚姻率を上昇させよう(『生めよ増やせよ』論に近い)」などという発想自体が、女性に嫌われ、より自由で行動を縛らない東京に女性が転出するのだということを決して忘れてはならない。 1953年生まれの私の経験では、進学・就職・結婚年齢だった1970年~80年代は、東京でも女性差別・女性蔑視の発言・行動が横行していたため、多くの女性が活路を求めて日本から海外に出て行き、日本に残った人も東京の外資系企業に勤務するなどして活路を開き、そういう女性たちの行動や実績が男女雇用機会均等法制定に繋がって、東京では女性差別・女性蔑視を緩和させたのである。 しかし、その私でも埼玉県で活動すると、「女性は、科学的知識のない人、専門家でない人、細かい人、やさしくあるべき人、お茶くみやお酌をする人、男性の後ろにいるべき人」等のジェンダーまるだしの言葉や態度に不快な思いをすることが多い。そのため、もっと田舎で「科学的知識のある女性」や「専門家である女性」のサンプル数が少ない場所では、状況はさらに悪いだろう。つまり、女性は、「女性に対して差別や偏見の残っている地域に住んで無駄な苦労をしたくない」と思っているのであり、可能であれば差別や偏見の少ない地域に移動するのである。 そのため、⑦のように、首相が「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない」と思われるのであれば、まず「人口を増やすために、婚姻率を上昇させよう」などという「生めよ増やせよ」論を止め、女性が周囲からの敬意を感じながら自由に働ける地方創生をすべきである。 また、首相は、③のように、柱を5つに分解されているので、この柱に従って意見を述べる。 i)「安心して働き暮らせる地方の生活環境」について 女性差別のない職場・生活物資の調達・保育・教育・医療・介護などの日常生活に必要な財・サービスは、安心して働き、暮らしていくために必要不可欠なインフラだ。そして、女性は、自分に苦労が降りかかってくるこれらの点をしっかり比較して住む場所を決めているのであるため、未だに不合理な点が多いのは早急に改めるべきである。 ii)「東京一極集中リスクに対応した人や企業の地方分散」について 東京に一極集中する理由には、便利さ・多い職業の選択肢・給与水準の高さ・子の教育における選択肢の多さなどがあるが、東京は、首都直下型地震や水害のリスクが大きく、東京で育った子は、自然に関する暗黙知が少ないという問題もある。そのため、優良企業が地方に分散し、地域住民に条件の良い職場を与えられれば、その効果は多くの分野に波及すると思われる。 iii)「付加価値創出型の新しい地方経済」について 付加価値を創出しない産業はこれまでも続いて来なかったが、いち早く新しい時代のニーズを捕らえれば、付加価値率は高くなる。 それでは、「新しい時代に顕著になったニーズは何か?」と言えば、a)環境と両立する経済 b)地球規模の人口増加に備えるエネルギー・食糧自給率の向上 c)共働きを前提とした家事の外部化 d)国内で少子化が起こる原因の正確な分析とその解決 e)災害による被害の最小化 などであり、これらを同時に解決できるのが、地方への人口分散なのである。 しかし、地方への人口分散を促すには、④のように、地方でも日常生活に不可欠なサービスを維持向上させ、新技術を活用した高付加価値型の企業を増やさなければならないのだ。 iv)「デジタル・新技術の徹底した活用」について “デジタル化”は、2000年代の始めから盛んに言われていることなので、「新技術≒デジタル化」という論調は、他の先進技術を知らないことを意味する。また、セキュリティー・通信の秘密・個人情報の保護などは、デジタル化を口実に犠牲にして良いものではないが、日本ではしばしばそれが混同される点が問題だ。 その他の新技術には、農業や水産業における品種改良、医療における癌の免疫療法や幹細胞・IPS細胞を使った再生医療などの生物系の新発見を応用したものも多いが、日本政府は化学療法を優先するなど、生物系の新発見・新発明への理解が乏しい。そして、これは、生物系の理論を学習することを疎かにしてきた中等教育・高等教育の問題だと思う。 v)「『産官学金労言』の連携と国民的機運の向上」について “産官学”の連携はよく言われてなじみがあったが、これに“金(金融)”を加えたのは、設備投資をして生産性を上げるには何らかの形で金融の関与が不可欠であるため納得だ。 “労”については、人口減と人手不足の中、政府が景気対策を行なって無理に雇用を作らなければならないような人材を生み出さないためには、基礎教育・再教育の充実とやる気の育成が重要である。 “言”については、メディアはじめ言論人の役割が大きいが、近年は、馬鹿でもわかるカネ・女・数合わせ・犯罪・スポーツに関する報道ばかりが多く、メディアの構成人が生物・物理・化学等の科学的知識に乏しいためか、国民に対して教育効果を発揮できていないのが現状だ。 (4)先端技術と教育 1)高級カメラを超えたスマホカメラ *4-1は、①シャオミやアップルのスマホカメラ機能が大幅に向上 ②レンズの改良と画像補正技術を磨いて高級コンパクトカメラに匹敵する写真を撮影可能 ③日経新聞は複数機種で撮り比べた ④アップルは「iPhone16 Pro」に光学5倍の望遠カメラを搭載して画像処理で撮影後の色調編集を実現 ⑤シャオミは「Xiaomi14 Ultra」にライカと共同開発した4つのレンズを搭載して、光学で5倍、デジタルで最大120倍のズームが可能 ⑥サムスンは「Galaxy S24」に背景加工機能搭載 ⑦ソニーの「Xperia 1 6」は暗所でも撮影できる ⑧シャープの「AQUOS R9」もライカ製レンズを搭載 ⑨スマホ本体の台数は2028年に2024年比8%の成長に留まるが、スマホ向けのカメラモジュール市場は47%の成長見込み ⑩日経新聞が、シャオミ・アップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べたところ、ズームアップした場合には高校生10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と言った ⑪デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うが、リアルと加工の境目はどこかという課題が内在 等としている。 最近のカメラはどれも、画像を引き伸ばした時に解像度の低下が少ないので感心していたが、①②④⑤⑥⑦のように、スマホカメラも望遠機能を搭載し、デジタルなら画像処理して最大120倍のズームまで可能で、撮影後の色調編集もできるそうなので、さらに感心した。しかし、私自身は自分のスマホで写真や動画を撮影するのは最小限に留めており、その理由は、写真や動画はメモリーを食うため、その他の機能まで使えなくなっては困るからである。 なお、ドイツのレンズはカールツァイスもライカも良いと言われているが、シャオミもシャープもライカのレンズを搭載しており、日本のレンズは、高いのに品質がついていっていないのか、全く影を潜めているのが気にかかる。 また、日経新聞が、③⑩のように、シャオミやアップルの最新機種と日本の大手カメラメーカーの高級コンパクトデジカメを使って約5km離れた東京スカイツリーを撮り比べ、ズームアップした場合の感想を聞いたところ、高校生10人全員が「(中国の大手スマホメーカー)シャオミの写真が一番きれい」と言ったそうで、隔世の感がある。 そして、⑨⑪のように、デジタルズームは、画像を引き伸ばす際に解像度の低下をデジタル処理で補うため「リアルと加工の境目はどこか」という課題が内在するが、スマホ向けカメラモジュール市場は2028年に2024年比47%成長の見込みなのだそうだ。 それでは、日本のカメラメーカーはどこに活路を見いだしたら良いのかと言えば、i)日本で最終製品を作る自動車のドライブレコーダーや自動運転に使用する ii)中古のビルやマンションも増えたため、大規模修繕時にドローンで写真を撮れば要修理箇所がわかるようにする iii) 写真で公共インフラのチェックをし、要修理箇所をもれなく把握できるようにする 等に可能性が大きいのではないかと思う。 しかし、これらをやるためには、「官僚主義を廃し、時代に合う規制に変更し、無駄な支出を減らす」という強い意識が必要であるため、日本もイーロン・マスク氏を政府効率化省のヘッドに頼みたいくらいだ。 2)農林水産業について イ)果樹園のケース *4-2は、①中央果実協会が果樹産地の担い手育成等事例発表会を開いた ②大分県は2023年までの10年間で200人が新規就農 ③県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進めて成果を上げた ④園地の確保・未収益期間の長さが就農の壁で、果樹の担い手は2020年までの20年で半減、60歳以上が8割 ⑤果樹価格や輸出攻勢に魅力を感じる人が増えて反転攻勢の好機 ⑥果樹の新規就農者確保には積極的誘致が重要で、DM等で働きかけ農家以外の人や異業種法人の参入が増えた ⑦就農者が小規模園地で1~2年経験を積む間に育苗や園地整備を推進し、その園地に加えて整備された園地も渡して未収益期間を削減 ⑧就農者に渡すため園地を集約するには、地権者らへの説明を丁寧に進める取り組みも不可欠 ⑨広島県世羅町の光元組合長は、47haの大規模梨園をジョイント仕立て(https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450008/p581138.html 参照)とリモコン式草刈り機を導入して維持 としている。 果樹だけでなく農家全体が担い手不足で、④のように、60歳以上の担い手が8割になったというのは、労働の割に収益性が低いことから尤もだが、農家の子も職業選択の自由があるため、農業に魅力を感じる人の中から新たな担い手を探さなければならない。従って、⑥のように、DM等で働きかけて農家以外の人や異業種法人からも新規就農者を確保するのは良いと思う。 そして、⑤のように、果樹価格の上昇や輸出可能性に魅力を感じる人は多いだろうが、果樹をはじめとして農産物の価格が上がりすぎると、農産物も存分に食べられないほど相対的に国民が貧しくなるため、食品価格の値上げには慎重であるべきだ。 そのため、⑦⑧⑨のように、梨園を47haと大規模化してジョイント仕立てにし、未収益期間を短くし、リモコン式草刈り機等も導入して生産性を上げられたのは良いと思うし、大規模化による生産性の向上は、新規就農者に渡すために複数の農家の土地を集約できたからこそ可能だったのである。 これに加えて、瀬戸内海沿岸地域なら、レモンやオリーブ等、現在ニーズが高まっていて、手間が少なく、温暖化した気候により適した作物を作り、園地に風力発電機を置いて副収入を得たり、草刈りを草食の家畜に任せたりすれば、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスがより良くなるだろう。 そして、①②③のように、大分県が、県主導で園地の基盤整備・技術習得支援を進め、2023年までの10年間に200人が新規就農にこぎつけたことは、大きな成果だったと思う。 ロ)水産業の養殖のケース ![]() ![]() 2018.7.23流通研究所 (図の説明:最新データではないが、左図のように、世界では漁船漁業による漁獲高は一定で、海面及び内水面養殖業による漁獲高が著しく増えている。また、国別では、右図のように、中国・インドネシアの漁獲高が著しく増えている) ![]() 2018.7.23流通研究所 2017.11.24海と日本 2024.11.17JAcom (図の説明:これも最新データではないが、左図のように、日本では遠洋漁業・沖合漁業の漁獲高が著しく減少し、沿岸漁業は少し減少して、海面養殖業は増加している。そのため、日本は遠洋漁業を減らして他国で捕獲したり養殖したりした魚介類の輸入に変更した可能性がある。また、中央の図のように、産業革命後100年間の海水温上昇は、2017年のデータで世界は0.53℃であるのに対し、日本近海は、日本海側で1.20~1.70℃、太平洋側でも0.70~1.10℃と世界平均より高く、これには地球温暖化だけではなく原発の影響も考えられる。さらに、右図のように、2024年7月における日本近海の海面水温は、平年より3~5℃も高いところが多く、 先入観のない科学的原因分析と解決が必要である) *4-3は、①陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階 ②丸紅はノルウェーのプロキシマーシーフードと共同で「閉鎖循環式」を採用、電力の15%は敷地内太陽光発電で賄ってサーモンを養殖 ③NTTグループはCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来はこの藻を飼料に使って環境負荷を軽減しながらエビを養殖 ④技術力・資金力を持つ大企業の大量生産が水産供給網を変えつつある ⑤陸上養殖する理由は、i)地球温暖化・乱獲の影響で天然魚の水揚げ不安定 ii)海面養殖は水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権で新規参入困難 ⑥そのため、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 ⑦国内の陸上養殖サーモンは三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んで参入 ⑧世界の漁業・養殖業生産量は2022年に2億2,322万tで10年前と比較して25%増 ⑨海面養殖は48%増と急増だが、適地が限られ中長期拡大は難しい ⑩陸上養殖の世界市場は2029年に2023年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増 等としている。 このうち、②は、餌やふんで汚れた水をバクテリア分解と散水で浄化して再利用し続ける「閉鎖循環式」を採用している点が技術進歩している上、商社がノルウェーの水産企業で高い養殖技術を持つプロキシマーシーフードと共同で取り組んだ点が、情報力や販売ルートを活用してシナジー効果を出していて面白い。また、⑦のように、商社の三井物産・三菱商事・伊藤忠商事も別のパートナーと組んでサーモンの陸上養殖に参入している。 しかし、養殖は餌の調達とその価格が問題であるため、③④のように、NTTグループがCO₂を効率的に吸着する藻の研究を進め、将来は、この藻を飼料としてエビを養殖するというように、技術力・資金力のある大企業が本業で培ってきた能力を活かしてなら、研究開発し大量生産することも可能だろう。 なお、(3)4)ハ)の「長崎大学」の画像は、離島を利用して沖合養殖と洋上風力発電を行い、養殖産業と洋上風力発電産業の共生の扉を開いて社会実装を検討しているもので、三井物産環境基金の助成を受けているそうだ。確かに、これまで漁業に使われていなかった離島や洋上風力発電機の下を使えば漁業権の問題が起こりにくく、洋上風力発電機の設置も容易になり、発電機の下ではさまざまな養殖を行なうことができる。また、島で加工することも可能であるため、多くの問題が一挙に解決するだろう(https://www.mitsui.com/jp/ja/sustainability/contribution/fund/results/1229586_13007.html 参照)。従って、⑨のように、「海面養殖は適地が限られる」と考えるのは、時期尚早である。 さらに、世界人口が増え、良質の蛋白質を求めるようになれば、水産資源への依存は不可欠であるため、⑧⑩のように、世界の漁業・養殖業の生産量は2022年に10年前と比較して25%増、陸上養殖の世界市場は2029年に2023年と比較して88%増となり、今後も増えることが予想される。そして、日本の場合は、洋上風力発電と結びつければ、海面・海中・海底を使った養殖の可能性が増すのである。 また、⑤のように、陸上養殖する理由は、i)地球温暖化や乱獲による天然魚水揚げの不安定化 ii)海面養殖における水温や寄生虫等の影響 iii)漁業権による新規参入の困難性 であり、⑥のように、大手企業が大規模生産するには陸上養殖が最適 とされているのである。 しかし、*4-3-2は、i)について、地球温暖化による環境変化のみに責任転嫁がなされすぎた結果、現象の中に矛盾が多いとし、令和2年発行の水産白書は、サケ・サンマ・スルメイカの不漁の原因が、海水温・海洋環境変化・外国船による漁獲の影響等で、日本の乱獲や水産資源管理の問題は書かれていないとしている。が、日本では、漁師の数も漁獲高も減少しているため、私には、漁師の乱獲が不漁の原因とは思えないのだ。従って、観念的ではなく、他の原因も含めた正確な原因分析を行ない、それに基づいた解決策を考えるべきである。 ii)については、それもあるかも知れないが、陸上養殖する場合は広い土地と堅固な設備を要し、維持費も高そうなので、iii)をクリアするには、これまで漁業者が使ってこなかった離島や沖合の風力発電機付近に養殖設備を作るのも有力な案だと思う。 3)教育投資は最優先の課題なので、財源は他に先んじて確保されるべき ![]() ![]() 2022.5.2日経新聞 Kidsdoor Tokyo 大学入学年齢 (図の説明:左図のように、日本の人口100万人あたりの博士号取得者数は先進国の中で低い方だ。また、中央の図のように、高等教育の学部学生数は中国が飛び抜けて多く、これらは今後の経済を左右するだろう。また、右図のように、日本は大学入学年齢が飛び抜けて若く、高校卒業時に大学に進学した後は再教育では大学が使われないことを意味しており、大学に入っても早くから就職活動を開始するため、落ち着いて勉強する時間は少ないと思われる) ![]() 2024.4.20日経新聞 2023.3.29東京新聞 (図の説明:中央の図は、教員の人気低迷が続き、採用倍率が下がっていることを示しているが、教員の質の確保は倍率向上だけが解決策ではないだろう。また、左図のように、政府は教員の確保に向けた政策として働き方改革を挙げているが、自己管理しながら働き甲斐を感じて積極的に働く人材こそが指導者にふさわしいと思われる。また、管理職でない教員の待遇については、働いた時間を正確に記録し、それに対する残業手当をつけつつ、教員でなければできない仕事とそれ以外の仕事を分けていき、効率性を高めるのが良いと思うし、教科担任制は科目によっては対象年齢をもっと下げても良いくらいである。なお、右図は、3歳以上では100%近い子どもが幼稚園か保育園に通っていることを示しており、幼児教育を充実させれば、時代に合わせて多くのことを無理なく教えられることがわかる) 1947年5月3日に施行された日本国憲法は、「第26条:①すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する。②すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」と定め、同年にこれを反映する教育基本法が定められた。 そして、教育基本法は、2006年に発展的改正が行なわれ、日本国憲法の精神にのっとって、教育の目標として「第2条:①学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培い、健やかな身体を養う ②個人の価値を尊重し、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養い、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養う ③正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んじ、公共の精神に基づいて主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う ④生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養う ⑤伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」と定め、そのほかに「生涯学習の理念」「教育の機会均等」「幼児教育」「社会教育」「政治教育」等が書かれており、必要な理念は述べられている。(https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html 参照)。 そのような中、*4-4は、イ)資源が少なく少子高齢化が進む日本に公教育の充実は重要 ロ)長時間労働や教員不足で屋台骨が揺らぎ、大幅な教員の増員が不可欠 ハ)教育投資は未来への投資で、財源確保に向け国民的納得の得られる議論を本格化すべき 二)公立学校教員は教員給与特措法に基づいて残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われるが、文科省は教員増や勤務時間の削減を進めつつ上乗せ分を13%に増やすとして年1千億円規模の増額を求め、財務省は文科省案では働き方改革が進まず教員不足は解消されないとして時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した ホ)労働環境が厳しいままでは、教員のなり手は大きく増えないと考える教育関係者が多い へ)いじめ・不登校など多くの問題を抱える中で教員らを増やさず労働時間を減らすのは難しい ト)日本の小中学校教員の仕事時間は、中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあって、国際的に見ても長い チ)過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある としている。 教育基本法の中の①②④のように、「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度・真理を求める態度・創造性」等を教育段階で養っていれば、イ)の「日本に資源が少ない」という問題は既に解決できており、既存の資源を減らすこともなかったであろう。そして、それは数少ない“エリート”だけでできるものではなく、一般国民が高い意識を持って現場からアイデアを出していかなければならないものであるため、公教育の充実は必要不可欠で、その内容は教育基本法に沿った質の高さが求められるのである。 また、ハ)の教育投資は1947年以降は必要不可欠な投資だったのであり、それをやるために新しく財源を確保すべきという話ではない。つまり、既存の事業に対し漫然と行なってきた無駄な補助金よりも優先して教育投資を行なえば、その効果は想像以上なのである。 このような中、ロ)二)ホ)チ)のように、「公立学校教員は長時間労働だが残業代ではなく基本給の4%を一律上乗せした給与」「(少子化しているのに)教員不足で大幅な教員増が不可欠」「過酷な労働環境を嫌って志願者が減って教員不足が常態化」等としている。 つまり、「教育の充実=教員の増員←給与体系の問題」という側面でしか捉えておらず、最も重要な「教育の目標」である「国民の質の向上(=教育の質の向上)」が語られないのだ。そして「教育の質」から見れば、へ)の「いじめ・不登校などの多くの問題」をいつまでも解決できないのは教員の質の問題であり、数の問題ではないと思われる。 また、いつまでも同じことをやっている「労働時間」の問題も、中等・高等学校は地方自治体立であるため、それを解決するのは各自治体と教員の意志であり、ひいては教員の質の問題になる。私は、教員も一般企業と同様、働いた時間に応じて残業時間を記録し、残業時間に応じて残業手当を支給すればよいし、残業が多いのに成果が上がらないのであれば、正確に原因分析をして事実に基づいた解決策を考えるべきだと考える。 さらに、ト)には「中学校に部活動があり、複雑な家庭環境の子や過度な要求をする保護者への対応等もあるため、日本の小中学校教員の仕事時間は国際的に見ても長い」と書かれているが、学校毎に素人の教員が監督をする部活動を置いて生徒の役に立つのかが問題であるし、そもそも部活動ばかりしていても「学問の自由を尊重しつつ、幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養う」教育はできないのである。 最後に、「複雑な家庭環境」は教員だけで対応できるものではないため、学校から自治体の援助に繋げ易いルートが必要であるし、「過度な要求をする保護者」とはどういう保護者か知らないが、学校教育が保護者(一般に教育の素人)の教育まで担わなければならないことも当然あるため、それに耐える教員の質と仕組みが必要なのである。さらに、近年は当然のクレームまで「カスハラ」のジャンルに入れて自ら進歩の道を閉ざす社会的風潮があるが、適切な判断でそれを止めなければ、日本はますます遅れていくと思う。 (5)女性の人権・職業選択の自由・職業教育 ![]() 第一生命経済研究所 2023.11.25日経新聞 2023.9.30日経新聞 (図の説明:左図は、1990年1月~2022年7月の生鮮食品と生鮮食品を除く食品の価格水準の推移で、1990年1月と比較して2022年7月は生鮮食品が36%、生鮮食品を除く食品が33%上がっている。なお、食品は貧しくなっても節約には限度があるため、エンゲル係数(食料費/消費支出)の分子になっている指標である。また、中央の図は、2022年1月~2023年10月までの物価上昇率で、頻繁に買う品目《食料品等》ほど物価上昇率が高く、4年弱で10%近くも物価上昇している。また、右図は、2018年半ば~2023年半ばの体感物価上昇率と統計上の物価上昇率の差であり、統計上の物価上昇率との間に11.4%もの差がある。そのため、物価上昇率は、全体で薄めたり、生鮮食品を除いたりして出すのではなく、生鮮食品も含めて頻繁に購入するものについては、分類して出したり、全体で出したり、戦後の長期累積で出したりするべきだ) 1)所得税・住民税における年収の壁について <所得税・住民税の計算方法> ![]() 財務省 Miney Foward Ten Navi (図の説明:左図は、給与所得者の所得税額の計算で、給与収入からそれを得るための必要経費である給与所得控除を差し引き、残った所得から基礎控除等の人的控除を差し引いた課税所得に、累進税率になっている税率をかけて税額を出す。しかし、人的控除のうち、子の扶養控除は児童手当の開始とともに廃止されるべきものであったし、配偶者控除は夫婦それぞれの基礎控除の充実と同時に廃止すべきだ。また、中央の図は、個人住民税には全国一律の均等割と所得割があることを示しているが、地方税には、そのほか法人住民税・事業税・固定資産税・都市計画税・不動産取得税・自動車税・地方消費税・森林環境税などもあるため、物価上昇で税収が増える筈の税目もあり、また努力次第でふるさと寄付金も入るのだ。さらに、右図は、住民税の配偶者特別控除一覧だが、夫や妻の所得によって配偶者の寄与度が変わるわけではないのに、夫と妻の所得によって配偶者控除の額が複雑怪奇に分けられるようになり、累進税率で所得税額が決まっていることなど全く無視した公正・中立・簡素から外れた制度となっている) 2024年11月21日の新聞に「自公国が103万円の壁引き上げ明記」と書いてあるが、途中には、*5-1-2・*5-1-3のように、①「基礎控除等を103万円から178万円に拡大」という公約を掲げた国民民主が衆議院選挙で躍進 ②国民民主は「最低賃金上昇率1.73倍に合わせて上げるべき」と提起 ③現在は、被用者は給与所得控除55万円と基礎控除48万円をたした年103万円まで非課税だが、178万円に上げると年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減る ④控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられ、その後約30年間据え置かれた ⑤政府は国民民主の訴え通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算 ⑥一律10%で課す地方税収の減少は4兆円程度と所得税減収よりも大 ⑦減税額は所得の多い人ほど大きくなるが、減税率は低所得者ほど大きい ⑧控除額引き上げは被扶養者の労働時間を延ばして収入増と労働時間確保の効果 ⑨年収の壁も労働者不足を招く原因 ⑩2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の1/3に相当する巨額の財源を、国民民主は税収の上振れ・予算の使い残し・外国為替資金特別会計の剰余金を充てると説明 等の議論があり、その議論は今も続いている。 このうち②については、国民民主が103万円から引き上げるべきとした178万円は、最低賃金の上昇を基に計算した数字であり、最低賃金の引き上げは給与引き上げを促す象徴的意味が含まれているため妥当か否かに議論があるが、そもそも103万円の壁にひっかかるため労働時間を制限する人は最低賃金に近い人であるため、⑧⑨を考慮するとともに、今後は、給与引き上げも最低賃金の引き上げに続くと仮定すれば妥当である。そして、①は、膨大な無駄使いをしながら、こっそり国民負担を増やし続けた政府への国民の怒りの結果なのである。 なお、所得税の「給与所得控除」は事業者の必要経費にあたる給与所得者の必要経費で、「基礎控除」は個人の生活費等の納税者の事情を加味して無理なく納税できるよう皆に対して設けられたものであるため、物価上昇すればどちらも上げるのが当然で、④のように、1995年までは物価上昇に合わせて引き上げられてきたのだ。 その後、1995~2012 年までは物価上昇が0近傍であったため、これらの控除金額は据え置かれたが、2013年以降は(5)の一番上の左と中央の図のように、日銀の金融緩和で物価が上昇し始めたので、本来なら物価上昇に応じて上げるべきだったものである。さらに、一番上の右図のように、体感インフレ率は2023年だけで11.4%の差があるため、2013年以降の累積では、(正確な資料はないが)国民民主が出した1.73倍に近いと思われる。 その上、③の「被用者の給与所得控除55万円」というのは、2018年度の税制改正で2020年分から38万円だった基礎控除額を48万円に引き上げた際に、給与所得控除の最低額を65万円から55万円に引き下げたもので、物価上昇による必要経費増とは逆向きの変更だったのである。従って、65万円の給与所得控除を112万円(65x1.73)にし、38万円だった基礎控除は66万円(38x1.73)にするのが物価上昇に見合った引き上げ額だが、きりの良さと⑦も考慮すれば、最低給与所得控除85万円、基礎控除額90万円くらいが適切であろう。 また、同じく2018年度の税制改正で、公的年金等控除は、2020年分から基礎控除が一律10万円引き上げられた代わりに10万円引き下げられ、改正前120万円だった金額が公的年金にかかる雑所得以外が1000万円以下なら110万円、1000~2000万円なら100万円、2000万円超なら90万円と物価上昇に反して引き下げられたものであり、現在の控除額を前提としても1.73倍にするのが妥当だ。 これに対し、⑤のように、政府は「控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減になる」などとして躊躇しているが、政府は、物価上昇で国民生活を圧迫しながら名目上増えた税収を享受していたのであるため、物価上昇に応じて本来なら引き上げるべきだった控除の財源は増えた税収に決まっている。さらに、皆の基礎控除額を上げるのだから配偶者控除は廃止すべきで、そのために児童手当を払っているのだから子の扶養控除も廃止すべきなのである。 そして、⑥のように、一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と所得税の減収より大きく、*5-1-4のように、自治体の財政が苦しいとして全国知事会長を務める宮城県の村井知事が強い言葉で懸念を表明されているが、上記の理論は地方税も同じである。 さらに、そもそも全地方自治体の個人住民税を「一律10%(市町村民税の所得割6%、県民税4%)」としたのは2007年からであり、「全地方自治体の税率を同じにしなければならない」という地方税法自体が地方自治に反するため、各地方自治体が自由に住民税率を決められるようにすべきだ。そして、自治体の経営努力の結果が、税率引き下げ・福祉の充実等を通して「住民の移動」という形で現れるようにすべきなのである。 2)社会保険料における年収の壁の問題点 <年収の壁の存在とその影響> ![]() 2022.8.12PRESIDENT 2024.11.7日経新聞 Ten Navi (図の説明:左と中央の図のように、年収100万円以上になると住民税が課税され、103万円以上で所得税も課税になる。また、年収106万円以上で51人以上の企業なら社会保険料が発生し、130万円以上になると全企業で社会保険料がかかる。さらに、150万円以上になると配偶者特別控除が減少し始めるため、働いても手取りの減る領域が存在する。さらに、年金収入に対する所得控除は120万円だったが、物価上昇にもかかわらず2020年分から110万円減らされた) 日本国憲法は、25条で「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めており、これに基づいて「社会保険」、「公的扶助」、「社会福祉」「公衆衛生」等の社会保障制度が整備されている。 しかし、社会保障制度の負担は、世帯単位なのか個人単位なのかも一貫せず、国民のためにならないご都合主義の制度設計も頻発したため、社会保障の負担をしない人・加重な負担をして見返りのない人・そもそも制度から漏れている人など、社会保障制度の矛盾が見過ごせなくなり、信頼を失っているのだ。そのため、「そもそも社会保障は、世帯単位なのか、個人単位なのか」という根源的な問題から出発する必要があろう。 そのような中、*5-1-1は、①「年収の壁」には「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」がある ②103万円を超えると、企業が配偶者手当を打ち切るケースが多い ③「106万円の壁」は51人以上の企業に勤めるパート労働者の年収が約106万円に達すると社会保険に加入する義務が生じて、社会保険加入前より手取りを増やすには年収約125万円まで働く必要がある ④年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある ⑤年収150万円以上で配偶者特別控除が段階的に減らされて夫の税負担が増える と記載している。 また、*5-2は、⑥厚労省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃方向 ⑦企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃し、週20時間以上の労働時間要件のみ残して「約106万円の壁」廃止 ⑧200万人が新たに年金・医療の社会保険料対象 ⑨社会保険加入で、医療保険で傷病手当金等の手当が厚くなり、厚生年金加入で老後の低年金リスクを軽減し、加入者増により将来世代の年金受給水準を改善する効果 ⑩改正の背景は最低賃金上昇 ⑪今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しで、学生除外要件も残すが、企業規模要件と賃金要件はなくなって、5人以上の個人事業所も全ての業種が対象 と記載している。 まず、社会保険料に関する「年収の壁」について述べると、①③⑥⑦⑧⑨の「106万円の壁」は、従業員50人以下の企業に勤めるパート労働者は社会保険料を支払う必要が無く、老後は低年金で、就業時の傷病手当もないのが、そもそも問題である。 そのため、「新たに200万人が年金・医療の社会保険料対象となって将来世代の年金受給水準を改善する」という以前に、本人への社会保障を手厚くし、他の労働者との公平性を保つためにも、「106万円の壁」は廃止するのが筋だ。しかし、⑪のように、5人未満の個人事業所が対象にならなければ、ここで働く労働者は、依然として社会保障の対象外に置かれるのである。 なお、「106万円の壁」を廃止したことによる手取りの減少を社会保険加入前まで戻すには、年収約125万円まで働く必要があるそうだが、⑩のように、最低賃金は上昇しているのだから働けば良いし、それもできなければ労働時間を週20時間以内に抑えれば良いだろう。 従って、④の「年収130万円以上なら企業規模にかかわらず社会保険に加入する必要がある」というのは、年収にかかわらず年金・医療・介護等の社会保証は必要であるため、社会保障制度が世帯単位であれば世帯の誰かが代表して支払うし、個人単位であれば個人が社会保険に加入して所得(≒負担力)に応じて負担するのが合理的であろう。 最後に、①⑤の「103万円の壁」「150万円の壁」のうち、「103万円の壁」は、本人に所得税がかからない年収上限であり、これを178万円まで上げるかどうかの議論が、現在、行なわれているのである。また、「150万円の壁」は、配偶者である夫か妻の配偶者特別控除を満額(38万円)受けられる被扶養者の年収上限のことだが、仮に「103万円の壁」が「178万円の壁」になれば、②や「150万円の壁」は不要になるので、廃止すれば良い。 3)選択的夫婦別姓制度について ![]() 平和政策研究所 2020.12.29 2024.9.17 日経新聞 産経新聞 (図の説明:1番左の図は、1979年女子差別撤廃条約以降の選択的夫婦別氏制度をめぐる経緯で、左から2番目の図は、2022年内閣府調査による姓の変更に関する意識調査だ。また、右から2番目の図は、夫婦の氏に関する各国の法制で、1番右の図が日本で旧姓の通称使用が通用する範囲だが、通称が堂々と広く通用できなければ通称使用には不便が残るのである) *5-3-1は、①立民が、議論の場である衆院法務委員会委員長ポストを獲得し、導入賛成の公明・自民内の一部議員を取り込む考え ②公明は、衆院選公約で「選択的夫婦別姓制度導入推進」と明記 ③国民民主・共産などは導入賛成 ④立民中堅は、「夫婦同姓を見直すことは家族観・社会のあり方に大きな影響を与えるため、丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘 としている。 上の①②③④によると、国会は党議拘束がなければ多くの議員が選択的夫婦別姓制度に賛成するようで、これには「『選択的』夫婦別姓制度だから、強制ではない」という説得の効果があると思うが、「姓(氏)」に関する利害関係は、結婚する両性だけにあるのではなく、子の利益・氏の存続・外部からの判別可能性も含むものである。 そのような中、*5-3-2は、氏の歴史として、⑤徳川時代は農民・町民に氏はなく ⑥明治8年2月13日の太政官布告で氏の使用が義務化され、その時は妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制で ⑦明治31年民法(旧法)成立で、夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する夫婦同氏制へ ⑧昭和22年改正民法750条で夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する夫婦同氏制へ ⑨同791条で嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は、離婚の際の父母の氏、非嫡出子は母の氏 と記載している。 歴史を見ると、確かに、⑤のように、徳川時代は農民・町民など平民には氏がなく、明治時代になってから、⑥のように、太政官布告で氏の使用が義務化され、この時は、中国・韓国と同じく妻の氏は実家の氏とする夫婦別氏制度だったが、その意味は、子は婚家のものだが、「腹は借り腹」で妻は婚家の一員ですらないということなのである。そして、現代でも、台湾はそうだし、日本でも「女は子を産む機械」「嫁して3年子無きは去る」などと言う人がおり、その考え方が根本にあると考えられる。 しかし、これでは余りに妻や母の立場が不安定で男女不平等であるため、日本では明治31年成立の旧民法で、⑦のように、「夫婦は家を同じくすることにより、同じ氏を称する」とする夫婦同氏制が施行され、その分だけ中国や韓国よりも妻や母の立場が法的安定性を持ったのである。 そして、⑧のように、昭和22年改正の戦後民法は、750条で「夫婦は婚姻の際に定める夫又は妻の氏を称する」とする男女平等の夫婦同氏制を施行し、⑨のように、同791条で「嫡出子は父母の氏、子の出生前に父母が離婚した時は離婚時の父母の氏、非嫡出子は母の氏」とした。つまり、非嫡出子だけは母の氏を使うよう義務化されたのであり、日本の夫婦別氏制度は儒教の影響による男女不平等の流れをくむもので、その発想は今も残っているため要注意なのだ。 なお、*5-3-2は、⑩「選択的夫婦別氏制」の議論は女性の社会進出や男女平等推進の社会的気運の中で起こった ⑪2021年10月に最高裁大法廷で夫婦同姓を定めた民法規定は合憲という判決が出され、制度の在り方は国会で論じ判断されるべきと明言 ⑫内閣府の2021年世論調査では、結婚での改姓が多くの人に「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴と認識 ⑬夫婦同氏は新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとってセーフティネットの役割 ⑭選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失して安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする可能性 ⑮子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果 ⑯夫婦が別氏を選択することで子供の氏の選択という新たな課題 ⑰子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益 ⑱夫婦の名字・姓が違うことによる夫婦間の子どもへの影響の有無について、69%の人が「子供にとって好ましくない影響」と回答 としている。 1995年頃、最初に言ったのが私であるため知っているのだが、⑩⑪は事実である。私がそれを言った理由は、結婚で姓を変えると、i)仕事のキャリアが中断する ii)(女の子だけの場合)実家の姓が残らない iii)離婚したのに、その姓で有名になった前夫の姓を使わざるを得ない人がいる iv)女性だけ離婚が表面に出るのは不公平 などの理由からだった。 そのため、⑫の内閣府の世論調査で、結婚での改姓が「新たな人生の始まり」や「夫婦の一体感」の象徴と認識する人が多かったり、⑬のように、新婚期に初めて価値観をすりあわせて夫婦アイデンティティを形成するなどというのは、回答者に改姓しない男性が多く含まれていたり、そういう状態で結婚した男女は考えが甘かったりするのだと思う。 ただ、⑭のように、選択的夫婦別氏制導入で、制度的に「家族名としての氏」が消失するのは確かに困る。しかし、家族名としての氏が消失すると夫婦のアイデンティティが形成されないようなら、その結婚は誤りであるため、結婚前に結婚しない決断をした方が良かったのだ。 しかし、子どもは親を選べず、自分の親が互いに相手をけなし合っているのではなく尊敬しあっていることが自分の存在を肯定する要素であるため、⑮⑯のように、両親が同氏で自分も同じ姓であることが確かに家族への帰属意識や安心感を持たせる効果がある。また、⑰のように、子の氏を「早期かつ安定的に決定すること」が子の利益であり、⑱のように、夫婦の名字・姓が違うのは子にとって好ましいことではないだろう。 文化を含めた諸外国との比較について、*5-3-2は、⑲英・米は氏の変更は基本的に自由・豪・仏は同氏、別氏、結合氏のどれも可・独は同氏が原則で別氏・結合氏も可・中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可・伊は夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏・韓国は別氏が原則 ⑳日本の氏は家族全員が同じ氏を世代を超えて受け継ぐので、中国・韓国と同じ「身分規定の認識としての名前」に相当 ㉑韓国は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序を重視、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味が氏にある ㉒別氏を選択する夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない ㉓日本は夫婦同氏制を原則とすべきだが、日常生活における不利益は解消されるべきで、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の旧姓の通称使用拡大と法制化が望ましい ㉔選択的夫婦別氏制導入は氏に関する男女不平等の是正にはならない 等としている。 ⑲のように、英・米のように氏の変更が基本的に自由というのも、氏の意味を考えた時に疑問に思うが、豪・仏・独は同氏が原則で別氏・結合氏が可能であり、やはり原則は同氏なのである。また、伊は、夫は自分の氏で妻は自分の氏または結合氏と日本より男女不平等に見える。 なお、⑳㉑のように、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、韓国は妻だけ別氏が原則で同じ氏を世代を超えて受け継ぎ、氏には始祖を同じくする父系親族組織への所属を表す意味があるのだそうだ。そのため、儒教を基にする国で妻の別氏が原則の国は、むしろ男女不平等で結婚における妻・母の立場の法的安定性が低く、㉔のように、選択的夫婦別氏制度の導入は男女不平等の是正にはならないのである。 さらに、*5-3-2は、㉒のように、「別氏の夫婦は共通の氏という婚姻関係の有無を判別する要素を持たない」と記載しているが、確かに他のカップルが夫婦別氏の場合、私の経験では、長期間その2人が夫婦であることに気がつかなかったという不便があったが、自分の場合は、逆に配偶者の属性が知られないためステレオタイプな偏見を持たれず、自由に仕事をできるメリットがあった。 そのため、私も、今は、㉓のように、「日本は夫婦同氏制を原則とし、家族名としての氏は残したまま、日常生活においては氏を変更する個人の旧姓の通称使用を法制化し、拡大するのが良い」と考えており、法制化のやり方は、民法750条「1項:夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」に「2項:婚姻の際に定める氏が旧姓と異なる者は、旧姓を通称として使用することもできる」と加え、これに伴って戸籍法16条も変更することになる。 4)主体的に家事をせず、エンゲル係数の意味もわからない男性の「群盲象を撫ず」発言 *5-4は、①エンゲル係数(食費/消費支出)が日本で急伸し、G7で首位 ②身近な食材が値上がりして負担が家計へ ③実質賃金が伸び悩み、仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった ④食費割合の高い65歳以上の高齢者割合が2024年29.3%とトップ、エンゲル係数が高くなり易い土台がある所に物価高が直撃 ⑤生活の質の劣化懸念 ⑥スーパーで表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」、コメも大幅値上がり ⑦「庶民の味」の食材ほど上昇が激しい ⑧総務省消費者物価指数(2020年=100)で2023年の上昇率は5年前と比べて鶏肉12%、イワシ20%、サンマ1.9倍 ⑨日本のエンゲル係数は2022年で26%、2024年7~9月期は28.7%まで上昇 ⑩大和総研の矢作主任研究員は「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」 ⑪家計調査(総世帯)で食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、2023年15.8%と10年前より3%高い ⑫SOMPOインスティチュート・プラスの小池上級研究員は「係数上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべき」 ⑬小池上級研究員は「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」 等と記載している。 このうち①②④⑥⑦⑧⑨⑪は、統計数値であるため事実だろう。 しかし、③の「仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯が家事の時短のため割高な総菜等の中食依存が強まった」というのは、エンゲル係数の分子である「食費」しか見ていないため誤りだ。何故なら、共働きでなければ所得が減るため、分母の「消費支出」がさらに小さくなり、相対的に節約に限度のある食費の割合が高くなるからだ。わかり易く言えば、所得が減れば、子どもの塾や習い事を止めさせ、夫の小遣いを減らして、家族の食費を確保するしかないのだ。 また、⑩は、「割高でも中食に依存せざるを得ない世帯が増え、女性の社会進出加速が食費の負担増の一因になったのでは」とまるで中食(調理食品)が悪であるかのような言い方をしているが、栄養士が監修し、生産現場に近い場所で加工調理されてくる中食(調理食品)は、材料が新鮮なうちに加工され、調理時に捨てる部分は運ばないので運賃や家庭ごみが減り、残渣は生産現場で餌や肥料にアップサイクルできるのだ。 そして、最も重要なことは、⑬の「効率よく働く」を個人レベルでなく、社会レベルで達成しているのであり、共働き夫婦の家事の時短だけではなく、単身者や食事を自分で作れない高齢者に食事を提供することによって、要支援者にかかる支援時間を減らしているのである。 なお、小池上級研究員は、⑬で、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと悠長なことを言っておられるが、家事は外部委託すれば自給1,500円程度の仕事であり、週40時間、月4週間働けば24万円(1,500円/時間x40時間x4)稼げる仕事であることをご存じだろうか。そして、それに保育や介護が加われば、さらに高くなるのである。 そのため、共働きで家事も負担している場合の日本の妻は、「給与+24 万円」の働きをしているため、家事を負担していない男性とは異なり、いつも最大の効率で働くことを考えているのであり、それでも睡眠時間は世界1短いのだ。そのため、「効率よく働いて長時間労働を是正すれは、時間的な余裕が増えて割高な中食に頼らなくてすみ、自炊を楽しむこともできる」などと言うのは、「自分を基準に考えて、何をとぼけたことを言っているのか」と思われた。 結論として、⑫のとおり、「エンゲル係数の上昇は、生活レベルの低下が原因」にほかならないのである。 ・・参考資料・・ <日本被団協のノーベル平和賞受賞と核兵器禁止条約> *1:https://digital.asahi.com/articles/ASSBD3QDFSBDUTFK004M.html (朝日新聞 2024年10月12日) 核禁条約、際立つ消極姿勢 「核共有」言及で問われる被爆国のトップ 衆院選公示を15日に控え、与野党の政策論議が熱を帯びてきた。日本記者クラブの12日の党首討論会では、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が決まったことを受け、安全保障をめぐる議論が白熱。とくに核兵器をめぐる議論では、自民党と他党との立場の違いが浮き彫りになった。相手を指名して質問する討論会の前半。立憲民主党の野田佳彦代表は石破茂首相を指名し、議論の口火を切った。「昨日、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。日本は唯一の被爆国であり、被爆の悲惨さを語り継ぎ、核廃絶、平和の尊さを発信し続けてきた」。そして、こうたたみかけた。「そんな時に、核共有、核持ち込みを許容するような発言をしている日本のトップでいいのか」 ●地位協定改定、野田氏「後押ししてもいい」 野田氏が突いたのは、核抑止力を重視する首相の持論だ。首相は就任直前の9月下旬に米シンクタンクに寄稿した論文で、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを踏まえ、「米国の核シェア(共有)や核の持ち込みも具体的に検討せねばならない」と強調した。野田氏はこの主張に疑問を示し、「(核兵器の保有や使用などを全面的に禁じる)核兵器禁止条約にせめて、オブザーバー参加するべきだ」と訴えた。共産党の田村智子委員長も首相を指名して「条約を批准するべきだ」と迫った。首相は「核廃絶の思いは全く変わらない。そこに至るまでの道筋をどうやって現実にやっていくか」と説明。だが、過去にウクライナが核兵器を放棄したことがロシアのウクライナ侵略を招いた背景にあるとの主張を展開し、「核抑止力から目を背けてはいけない。現実として抑止力は機能している」と強調した。核禁条約への態度をはっきりと示さない首相に対し、田村氏は「核禁条約に背を向けている」と批判。「核抑止は、いざとなれば核兵器を使うという脅しで、被爆者の願いを踏みにじるものだ」と指摘した。安倍、菅、岸田政権は核禁条約を批准せず、オブザーバー参加も見送ってきた。しかし、自民党と連立を組む公明党は「核兵器国と非核兵器国との橋渡しを担っていくことが日本にとって非常に重要な役割」(石井啓一代表)とオブザーバー参加に賛成の立場。今回、日本の条約批准を訴えてきた日本被団協のノーベル平和賞受賞が決まったことも、オブザーバー参加すら拒む自民党の消極姿勢を際立たせている。自民中堅は「政府は核禁条約から逃げ続けている。被団協とは正反対の姿勢で、政権浮揚には全くならない」と手厳しい。首相は討論会で「今までの政府の立場との整合性もあり、政府の長として軽々なことは言わない。抑止力を認めながら、核兵器の廃絶が本当に両立可能なのか。検証は必要だ」と述べるにとどめた。一方、首相は、就任後トーンダウンさせていた持論の日米地位協定の改定について「必ず実現する」と踏み込んだ。この日の討論会でも、自身が防衛庁長官だった2004年の沖縄国際大での米軍ヘリ墜落事故について改めて言及。「あの時の衝撃を忘れられない。沖縄県警が全く触れられず、機体も全部回収された」と振り返った。地位協定改定に消極的な米国との交渉を念頭に「相手のある話なので、どんなに大変かよく分かっている」としつつも、「これから党内で議論し、各党とも議論を進める」と意欲を見せた。野田氏も日米地位協定改定については「石破さんもおっしゃっているならば、私どももそれは後押しをしてもいいと思う」と協力する姿勢を示した。首相はもう一つの持論の「アジア版NATO」については「仕組みとして機能しないと思わない」と強調。「まず議論から始めなければ、何を言っても結実はしない」と述べ、自民党内での議論を進める考えを示した。 ●「減税」「給付」主張の野党 財源は語らず 各党が力を入れる経済政策についても論戦が交わされた。立憲の野田氏は、アベノミクスの「副作用」を克服していく必要があると主張。その点をどう認識しているか、首相に問うた。首相は「実質GDPはほとんど上がらず、実質賃金は下がりすらしたこともある。突き詰めれば、コストカット型の経済ということだった。これから先は、付加価値をつけて、それにふさわしい対価をきちんと得られ、個人消費が上がっていかない限り、デフレ脱却はあり得ない」と強調した。国民民主党の玉木雄一郎代表は、首相が「倍増する」とした地方創生の交付金の効果を疑問視した。首相は「全く効果を発現しなかったものもある。徹底して検証し、効果的な地方創生に使っていく」と答えた。各党の党首からは、負担減を軸とした政策を掲げる発言が相次いだ。共産の田村氏は中小企業への直接支援を訴えた。立憲の野田氏は、税金控除と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入を掲げ、「本当に困っている方に的を絞った対策だ」と主張。国民の玉木氏は、賃金上昇が継続するまで「金融緩和と積極財政を続ける」と明言し、ガソリン税に上乗せされている旧暫定税率の廃止も訴えた。一方、こうした施策の裏付けとなる財源や負担について、各党首とも積極的には語らなかった。公明の石井氏は、日本維新の会が公約に掲げる高齢者医療費の負担増について、「後期高齢者の窓口負担が3割になると、急激な負担増になる」と指摘した。維新の馬場伸幸代表は、すべての国民に一定額を支給する「ベーシックインカム」制度の導入を挙げ、「いろんな形で所得補償をしていく」と述べた。れいわ新選組の山本太郎代表は、首相に対して「消費減税に踏み切るべきだ」と迫った。首相は「消費税は景気にほとんど影響されない。社会保障の財源にあてなければいけない」と述べ、消費減税は「今のところ考えていない」と明言した。経済界からも早期導入を求める声が上がる「選択的夫婦別姓制度」についても議題になった。導入の是非を問われた首相は「議論を引き延ばすつもりはない。自民党内できちんと結論を得たい」と述べた。法案を党議拘束を外して採決することには「あまり賛成ではない」と述べた。維新の馬場氏は「戸籍制度をきちんと守っていくことを前提に賛成だ」と、家族同姓制度は維持したうえで、旧姓の通称使用を広げる考えを示した。 ●自民非公認候補、推薦の公明「地元の判断」と釈明 自民派閥の裏金事件を受け、「政治とカネ」の問題にどう向き合うのかも論戦になった。首相の後ろ向きな姿勢を浮き彫りにしようと、党から議員に渡され使途公開の義務がない政策活動費について、国民民主の玉木氏が切り込んだ。「政策活動費を使わない、使う、の方針を示していただきたい」と切り出し、自民党の公約を逆手に取って、こう追及した。「公約には廃止を念頭に見直すという言葉がある。廃止を公約に掲げた選挙で政策活動費を使うのはあまりにも矛盾だ」。これに対し、首相は「政策活動費自体は合法だが、どう見ても違法の疑いがある使い方はしない」と強調し、使途公開にも難色を示した。廃止については「遠い先のことではなく」としつつ、「国会においてもきちんと議論したい」と具体的な時期は示さなかった。煮え切らない首相の答弁に、玉木氏は「使い道を公開しない限り、違法か適法に使ったかはわからない」と、過去に刑事事件になった元自民議員の例を挙げて、首相の姿勢を批判した。政治とカネの問題への姿勢をめぐっては、自民と連立を組む公明にも疑問の目が向けられた。公明は公約で「クリーンな政治の実現」を前面に打ち出しているにもかかわらず、自民が非公認とした裏金問題に関与した2人を推薦。その矛盾を突いたのが、関西の小選挙区で公明党との「すみ分け」を解消し、初めて全面対決する維新の馬場氏だ。推薦した理由を問われた公明の石井氏は「当初は自民が公認しない方については、自民からの推薦の要請がないから、推薦は多分ないとの前提で考えていた」などと説明し、司会者が「発言をまとめてください」と促される場面も。その後の主催者との質疑でも「党本部が『この人はだめだ、あの人はだめだ』と上から命令をするわけではない」と、あくまでも地元の判断だと強調するなど苦しい釈明に追われた。公明が候補を擁立する小選挙区や、比例区での票を積み上げるため、推薦したとの見方がもっぱらだ。与党が防戦に追われる中、追い風に乗り切れない野党の姿も露呈した。政権批判票をまとめるためには、野党の候補者一本化が必要だが、公示日まであと3日と迫っても党同士の協議は進んでいない。それでも立憲の野田氏は「限られた時間だが、最後まで粘り強く、対話のチャンスがある限りはやり続けていきたい」と語るのみ。これに対し、共産の田村氏は、いらだちをのぞかせてこう訴えた。「裏金を暴いて追及の先頭に立ってきたのは共産だ。共産の候補者を降ろすことを前提として、裏金議員との対決というふうに話が進むのはいかがなものか」 <被爆者の定義> *2-1:https://nordot.app/1210406327982293009 (長崎新聞 2024/9/22) 「新たな救済策」で何変わる? 長崎の被爆体験者…手当など被爆者と大きな格差 広島との分断も 長崎原爆の爆心地から半径12キロの同じ円内であっても、原爆投下時に国が定める地域の中にいれば「被爆者」、外にいた場合は「被爆体験者」と分けられている。根本的な違いは、国が「原爆放射線による健康被害」を認めるかどうか。被爆者には認める一方、体験者については否定し、被爆体験に起因する「精神的疾患」だけを認める形だ。このため救済策に大きな格差がある。被爆者には被爆者健康手帳が交付され、ほぼ全ての医療費が公費で負担される。状況に応じて健康管理手当(月3万6900円)や介護手当、葬祭料など各種手当も受けられる。一方で、体験者は2002年度開始の支援事業により、精神科受診を前提に、精神疾患やその合併症(がん7種が昨年度追加)の医療費支給にとどまる。手当は一切ない。こうした被爆者との差に加え、体験者は原爆由来の「黒い雨」を巡る広島との分断にも直面。長崎で原爆投下後の黒い雨や灰などに遭った体験者も多いが、黒い雨被害者を被爆者と認める国の基準は広島だけに適用され、長崎は対象外だ。岸田文雄首相が今回示した救済策によって体験者も精神科受診が不要となり、医療費助成の対象疾病が被爆者とほぼ同じになる。一方で手当はないままだ。被爆80年近くがたち、全国の被爆者は約10万7千人で、最も多い37万人台(1980年代)から3割弱に減った。これに伴い国の被爆者援護費も減少。当初予算ベースで2023年度は約1188億円と、ピーク時の01年度から約470億円減った。一方、県内の被爆体験者(第2種健康診断受診者証所持者)は今年7月末現在で5111人。体験者への医療費助成については、23~25年度予算の概算要求で毎年12億円程度となっている。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1327282 (佐賀新聞 2024/9/26) 「被爆体験者」救済策 これが「合理的解決」か 国が指定した援護区域外で長崎原爆に遭ったため、被爆者と認められない「被爆体験者」の救済策を岸田文雄首相が自ら発表した。年内に全ての体験者を対象に医療費助成を拡充し、被爆者と同等にするという。現状より前進ではあるが医療費に限った措置であり、各種手当も支給される被爆者との格差は依然として大きい。そもそも体験者の願いは、戦争の「特殊の被害」(被爆者援護法)を受けた被爆者認定そのものであることを忘れてはならない。首相は同時に、体験者の一部を被爆者と認めた長崎地裁判決を不服として控訴する方針も表明、期限の24日に実行された。首相は「長崎原爆の日」の8月9日、現地で体験者と初めて面会し「合理的に解決するよう指示する」と明言した。これが「合理的解決」なのか。程遠い。救済策、訴訟対応ともに体験者側の反発は強く、法廷闘争はこれからも続く。国が被爆者認定の在り方を根本から見直す以外に、解決への道筋はないことを知るべきだ。被爆体験者に対する現行の医療費助成は、精神疾患とその合併症や、胃がんなど7種類のがんに対象を限定。しかも申請時や毎年1回、精神科を受診することが必要だ。救済策では、対象疾病の制限や精神科の受診要件を撤廃する。その点では被爆者並みとなるが、放射線に起因する疾病に罹患(りかん)していることなどを条件に、被爆者に支給される各種手当は対象外のままだ。これは国が、被爆体験者には精神的な悩みは認められるが、被爆者と違って放射線の影響はないとの立場を堅持しているからだ。その姿勢を改めて鮮明にしたと言え、体験者側の反発も当然だ。これでは、広島高裁が3年前、援護区域外で「黒い雨」を浴びた84人全員を被爆者と認め、国がこの司法判断を受け入れて、新基準に基づく被爆者認定を進めている広島との格差は残り続ける。この差は、長崎には客観的な降雨記録がないためとされていたが、長崎地裁判決は長崎市の証言調査の結果などを根拠に、一部ではあるが援護区域外に「黒い雨」が降ったと判断、そこで原爆に遭った原告15人に限って被爆者と認めた。長崎の援護区域は、爆心地から南北約12キロ、東西約7キロの極めていびつな形だ。爆心地から遠くにいた人が被爆者認定され、より近くにいた人が体験者にとどめられたという例も少なくない。もともとの国の区域指定に問題があると言わざるを得ない。長崎では、1957年に旧長崎市全域を中心に被爆地域が指定された。その後、周囲に特例区域が追加され、全体として援護区域は広がったが、こうした線引きは旧行政区画に沿って行われた。原爆由来の放射性物質の影響が、行政区画通りに広がるはずがなく、不合理であることは明らかだ。国は画一的に線引きするのではなく、援護区域外にいた人の証言や当時の状況を、これまでの調査結果などと突き合わせて精査し、個別に判断すべきだ。長崎県によると、体験者は約6300人に上り、平均年齢は85歳を超える。長崎訴訟の原告44人のうち4人は判決を聞くことなく亡くなった。時間がない。体験者に「国に見捨てられた」と感じさせてはならない。 *2-3:https://www.min-iren.gr.jp/?p=45956 (全日本民医連 2022年7月29日) 被爆体験者ってなに? 長崎には“被爆体験者”という聞き慣れない言葉がある。原爆の熱線や黒い雨を浴びながら、行政区分の線引きで被爆者と認定されない人たち。放射能の影響ではなく、原爆体験のストレスで病気になったというのだ。「被爆体験者の“体験”って、いったいなに?」と話すのは長崎市香焼町の津村はるみさん(76歳)。1945年8月9日の原爆投下、生後19日の津村さんは布団ごと吹き飛ばされた。庭で洗濯物を干していた曾祖母は熱線を浴び、背中が真っ赤になった。母は乳がんや子宮がんを患い、津村さん自身も50歳の時に甲状腺がんを手術。「少しでも体調が悪いと、がんではないかと不安になる」と言う。長崎の被爆地は当初、旧長崎市と隣接する村の一部だった(図のピンク)。2度にわたって範囲が広がったが(青と緑)、国が市町村の境界線に沿って線引きしたため、爆心地から南北12km、東西約5~7kmの楕円形だ。図の黄色部分は爆心地から半径12km圏内だが被爆地ではない。ここで被爆した人は「被爆者」ではなく「被爆体験者」と呼ばれる。被爆者には「被爆者健康手帳」が交付され、健康管理手当の支給に加え医療費の自己負担はない。一方、被爆体験者に交付されるのは「被爆体験者精神医療受給者証」で、受給者証には「被爆体験の不安が原因で」病気になったと書いてある。放射能の影響をできるだけ狭い範囲に限定したい政府の意向で、こんなおかしな仕組みができた。被爆体験者は精神疾患に伴う合併症のみ自己負担はないが、放射能の影響が考えられるがんなどは対象外。例えば「睡眠障害」で「胃潰瘍」なら自己負担はないが、「胃がん」になった途端、医療費助成が打ち切られる矛盾した制度だ。津村さんは爆心地から南へ約9・7kmの旧香焼村で被爆したが、被爆地ではないため被爆体験者。「受給者証をもらうためには精神科の受診が必要だが、抵抗がある。そもそも私たちは精神病なのか。どうして被爆者と認めてくれんとかな」。 ●こんなこと許されるか 爆心地から半径12km圏内で被爆した全ての人を被爆者として認めてほしいー。「長崎被爆地域拡大協議会」(以下、協議会)は2001年から、長崎民医連や長崎健康友の会と協力して、国や県、市に要望してきた。長崎民医連は12~13年、被爆体験者194人を調査、約6割に下痢、脱毛、紫斑など放射線による急性障害があった。県連事務局次長の松延栄治さんは「被爆者の認定指針をはじめ、国の被爆者援護行政全般が予算の枠ありきで物事を決めている。これは社会保障政策も同様で根本的に間違っている」と指摘する。同じ被爆地でも、広島に被爆体験者はいない。広島高裁は昨年7月、広島で放射性物質を含む黒い雨を浴びた原告84人全員を被爆者と認める判決を出した。原告には爆心地から30km圏内の人もいた。厚労省は判決を受け被爆者認定指針を見直す方針だが、長崎の被爆体験者は対象外とした。協議会副会長の池山道夫さん(80歳)は長崎健康友の会副会長も務める。「広島も長崎も同じ原爆。何が違うのか。こんなことが法治国家として許されるのか」と怒る。協議会は高裁判決を踏まえ、12km圏外の原爆被害の実態調査を始めることを決めた。 ●梅干みたいな太陽 長崎市平間町の鶴武さん(85歳)は、爆心地から東へ7・3kmの旧矢上村で被爆。同じ村内の隣の集落は被爆地だが、山の尾根の反対側に当たる鶴さんの集落は認められなかった。「祭りも運動会も一緒にやってきた。なぜ分断されるのか」と言う。8月9日、爆風で舞い上がったすすで空が暗くなり、当時8歳の鶴さんは肉眼で太陽を見た。「梅干みたいに赤黒かった」。父は54歳、姉は27歳、弟は42歳で亡くなり、鶴さん自身も脳梗塞や胃潰瘍で入院した。「緑の手帳ばもらっているが、ピンクをもらえれば人として安心する。※ 広島は認めて、なぜ長崎は認めないのか、不思議か。私たちには先がない。生きているうちに原爆手帳を」と訴える。 ●「壁を突破したい」 協議会会長の峰松巳さんは95歳。長崎市深堀町に一人で暮らしている。「高齢化で子どもを頼って引っ越す会員も増えているが、県外に移住すると受給者証は返還しなければならない。こんな酷い制度を変えるために活動している」と語る。峰さんの11人の兄弟姉妹のうち、4人は幼くして早逝。その後も白血病や肺炎で3人が亡くなったが、誰も被爆者とは認められなかった。「放射能の影響を小さく見せたい米国の意向で、日本政府は被爆地域を狭く限定している」と憤る。協議会の山本誠一事務局長(86歳)は、原爆で一緒に吹き飛ばされ9歳で亡くなった友人が忘れられない。この友人は原爆投下から下痢が続き、60日後に突然亡くなった。一緒に運動してきた仲間が、受給者証を交付された半年後にがんになり「手帳は使えない」と無念のうちに亡くなったことも。「何度打ち砕かれても、多くの人の支えで運動を続けてきた。民医連や友の会をはじめ、皆さんと一緒に壁を突破したい」と山本さん。4年前に心筋梗塞の手術をし、3本のステントが体内に残る。「まだ、死ぬわけにはいかないのです」。 ※被爆者に交付される被爆者健康手帳の表紙はピンク色、被爆体験者精神医療受給者証は緑色 <衆院選と原発・エネルギー政策> *3-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/224cf2459efb29b2e698decc9df4c9aa11c37c8f (Yahoo、毎日新聞 2024/10/23) 議論深まらぬ原発政策 原発立地でも「選挙戦では触れもしない」 3年前の前回衆院選から原発政策は大きく変わった。岸田前政権は次世代型原発へのリプレース(建て替え)や、最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めるなど、十分な議論がないまま、福島の事故を受けて進めてきた「脱・原発依存」から大きくかじを切った。なし崩しで進む原発回帰だが、今回の衆院選でも議論は低調なままだ。「原発の20年延長の話は、もう夏前には終わった感じ。衆院選では話題になっていない気がする」。九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市で飲食店を経営する40代女性は振り返る。川内原発では、1号機は7月に原則40年とされる運転期間を超え、国内で4基目となる最長20年の延長期間に入った。2025年11月には2号機も40年を超える。運転延長を巡っては、20年の知事選で「安全性の検証」を訴えた塩田康一氏が初当選。22年に九電が原子力規制委員会に運転延長を申請すると、23年10月には市民団体が約4万6000人の署名を集め運転延長の是非を問う県民投票条例制定を求める直接請求をするなど議論の盛り上がりを見せた。だが、県議会は条例案を否決。同年11月には原子力規制委が延長を認可し、翌12月には、薩摩川内市の田中良二市長や塩田氏が相次いで容認した。今年7月の知事選では、原発について目立った議論が交わされることなく、産業振興などを訴えた塩田氏が延長反対を掲げた新人に大差を付けて再選。今月20日には薩摩川内市長選が告示されたが、田中氏以外の立候補はなく、あっけなく無投票再選が決まった。衆院選では、原発の利用について、自民党、日本維新の会、国民民主党などが推進の立場なのに対し、共産党、れいわ新選組は脱原発を掲げる。立憲民主党は、公約では触れていないが党綱領に原発ゼロを明記する。だが、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する、自民と立憲の候補者は発言内容は違えど、いずれも運転延長に容認の立場で、大きな争点となっていない。市民団体「川内原発建設反対連絡協議会」の鳥原良子会長は「立地する地元では、原発関連の仕事に就いている人も多く、争点にしたくないだろうけど、選挙でしっかり考えを示すべきだ」と注文する。福島の事故後、玄海原発(佐賀県玄海町)の2基を含め原発4基が再稼働している九州電力管内は、全国でも電気料金が低く抑えられている。ただ、原発賛成の立場を取る市民からも「安全性について『わかりにくい』『不安だ』という声はある。市民に理解してもらうよう説明してほしい」との声が上がる。一方、原発利用とセットで語る必要がある「核燃料サイクル」も、実現が見通せないままだ。原発から出る使用済み核燃料を再処理し、核燃料として再び原発で使う計画だが、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場ではトラブルが続き、1997年の完成予定だったのが27回も延期されている。再処理工場が稼働できたとしても、再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドも立たない。最終処分場に絡んでは5月、玄海町が原発立地自治体として初めて、選定調査の第1段階である「文献調査」受け入れを表明。脇山伸太郎町長は「国民的議論の喚起」を求めた。だが、安全性や風評被害への懸念は強く、どの自治体も簡単に手を挙げられないのが現状だ。選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が02年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、玄海町の3自治体にすぎない。国内で原発が稼働して半世紀超。使用済み核燃料は各地にたまっており、原発利用の賛成、反対を問わず最終処分場整備は避けては通れない問題だ。だが、脇山氏の願いとは裏腹に、県内の選挙区でも議論は深まっているとは言い難い。玄海町の調査受け入れに積極的に関わった町議会原子力対策特別委員会の岩下孝嗣委員長は「選挙戦では政治資金の話ばかりで原発政策には触れもしない。(放射性廃棄物の処理など)『バックエンド対策』はまだ国民全体がよそ事のような感じだ。エネルギー安全保障など、本来国にとって大事な政策をもっと訴えてほしい」と求めた。 *3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/348660 (東京新聞 2024年8月21日) 原発コストは太陽光発電の何倍?アメリカの最新試算でわかった驚きの数字 次期基本計画でどうする日本政府 原子力発電のコストが上昇している。米国の最新の試算では、既に陸上風力や太陽光より高く、海外では採算を理由にした廃炉も出ている。日本政府の試算でもコストは上昇傾向だ。年度内にも予定されるエネルギー基本計画(エネ基)の改定で、原発を活用する方針が盛り込まれれば、国民負担が増えると指摘する専門家もいる。 岸田文雄首相(資料写真) ◆岸田政権は「原発を最大限活用」 政府は福島第1原発事故後、エネ基で原発の依存度を「可能な限り低減」する方針を掲げてきた。しかし岸田文雄政権発足以降、2023年のGX基本方針などで「原発を最大限活用」と転換。エネルギー安全保障や二酸化炭素の排出抑制を回帰の理由に掲げるが、事故の危険性に加え、コスト高騰のリスクもはらむ。米国では23年、民間投資会社ラザードが発電所新設時の電源別コスト「均等化発電原価(LCOE)」を発表。原発のコストの平均値は、陸上風力や太陽光発電の平均の3倍以上だった。経年比較でも原発のコストは上がり続け、14年以降、太陽光や陸上風力より高くなった。均等化発電原価 発電所を新設した場合のコストを電源種類別に比較する指標。建設、設備の維持管理、燃料購入にかかる費用を発電量で割って算出する。日本では、1キロワット時の電力量を作るのに必要な金額で比較することが多い。経済協力開発機構(OECD)や国際エネルギー機関(IEA)の国際的指標として使われる。単純なコストだけでなく、補助金など政策に関連する費用を含めて算出する場合もある。国内では、経済産業省の作業部会がLCOEを計算。21年の調査では30年新設の想定で、原発のコストは1キロワット時あたり最低で11.7円。前回15年、前々回11年を上回った。一方、陸上風力や太陽光のコストは21年でみると、原発とほぼ変わらなかった。 ◆専門家「再稼働でも再エネ新設と同程度」 東北大の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授(環境政策論)は、「原発の建設費用は1基あたり1兆~2兆円」と説明。コスト上昇の要因として、事故対策費用がかかる上、量産が難しいことを挙げる。「最近の原発は事故対策を強化した新型炉が中心で、技術が継承されておらず、高くつく。太陽光と風力は大量生産で安くなったが、この効果が原発では働きにくい」と指摘する。経産省はエネ基の改定に合わせ、年内にも最新のLCOEを発表する見通し。明日香氏は「今年は21年と比べ、原発新設のコストが上がるのが自然。再稼働でも再エネ新設と同程度という調査もある。政府は原発の活用を進める上で、はっきり『安いから』とは言わないだろう」とみる。 ◆原発活用でも「電気代下がるとは考えにくい」 海外でも日本と同様に、原発推進にかじを切る国は増えている。しかし、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「近年はコスト高で原発の廃炉や計画断念、建設遅延が相次いでいる」と指摘。実際に国内の原子力研究者らでつくる研究会のまとめでは、米国で11年以降、13基が経済的な理由で閉鎖された。松久保氏は「国内も、原発の活用で電気代が下がり、国民の負担軽減になるとは考えにくい」と話している。 *3-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/360944 (東京新聞 2024年10月18日) 「原発も対象」巨額の新補助金、詳細なぜ「黒塗り」…集めた電気料金も原資 島根3号機に年700億円試算も 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を減らす発電所の改修や新設を対象に、発電会社が補助金を受け取れる国の制度が今年から始まった。補助金の原資には市民が払う電気料金も含まれる。しかし発電会社への補助額など内訳は開示されず、原発を含めた電源への資金の流れは把握できないようになっている。 ◆23社の52電源に総額4102億円が この制度は「長期脱炭素電源オークション」。1月に入札が行われた。発電会社は施設などの維持費を積算し、経済産業省が所管する電力広域的運営推進機関(OCCTO)の入札に応じる。落札できた場合、維持費に相当する補助金を受け取れる。補助額は各社の落札価格が基になる。OCCTOによると、初年度の2023年度の募集は最大1000万キロワットで、23社計52電源が総額4102億円で落札した。水力発電やバイオマス発電、蓄電池のほか、原発では唯一、中国電力の島根3号機(131万キロワット)が含まれる。 ◆価格の情報公開請求には「非開示」 個々の落札価格や受取期間は公表されていない。東京新聞は個別の落札価格などについてOCCTOに情報公開請求をしたところ、「非開示」となった。「事業者の経営方針や事業活動の情報と考えられ、公表対象ではない」とした。制度を設計した経産省資源エネルギー庁への情報公開請求では、文書不存在を理由に「不開示」だった。同庁の担当者は「必要な時が来たら(OCCTOに)情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」とする。原発を対象に補助金を受ける中国電力にも尋ねたが「経営戦略上、回答を控える」とした。 ◆支払いを拒めないのに負担させられる 初回の2023年度は新設や建て替えに補助対象が絞られたが、今月手続きが始まった2024年度からは「新規制基準への安全対策工事が必要な原発」も対象となる。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めない税金のようなものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかが分かるよう公開するのが当然だ」と語る。NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「落札価格が公表されなければ、応札価格が低い順から落札するという基本ルールが機能しているのかさえチェックできない」とも指摘。この懸念について、エネ庁の担当者は「OCCTOを信頼するしかない」と話した。長期脱炭素電源オークション 発電した電気(キロワット時)を売買する卸電力市場に対し、発電能力(キロワット)を取引する容量市場の一つ。再生可能エネルギー拡大の影響で、卸電力市場での電気価格が低下し、大手発電会社が保有する大規模電源の投資回収見込みが不確実になったことが導入の背景にある。発電会社が電源維持のために必要な金額をキロワット単価で応札し、低い順から落札。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)実現に向け、毎年400万〜600万キロワットを調達し、化石燃料から脱炭素電源への移行を目指す。ただ初回は将来の脱炭素化を条件にLNG火力も参加した。 ◇ ◆落札すると人件費など20年間保証 脱炭素電源の発電会社を対象とする補助金で、個別の落札価格などが公表されておらず各社が得る金額は不明だ。国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機はどれだけの補助金を得るのか。NPO法人「原子力資料情報室」が公開情報で試算すると、年間700億円を超えた。この制度では、発電会社はまず年間の固定費(建設費や人件費など)に当たる金額をキロワット単価で応札する。落札すると、固定費分が収益の一部として原則20年間保証される。ただ実際の売電収入と合わせると収益の二重取りとなるため、売電後の利益の9割を還付する。 ◆「国民の理解が得られるとは到底…」 同NPOは今回、公表されている落札総額を落札総容量で割り、1キロワット当たりの平均落札価格を5万8254円と計算。これに同原発の容量を乗じ、766億円とはじいた。補助金を受け取れる「制度適用期間」も非公表のため、原則通り20年だと計1.5兆円。OCCTOによると、落札電源の3分の1が20年を超える受け取り期間に設定している。ここから還付金が発生するが、補助が巨額なのは変わりない。同NPOの松久保肇事務局長は「ほとんど知らされることなく、極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘する。 *3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241028&ng=DGKKZO84404960Y4A021C2EAF000 (日経新聞 2024.10.28) 自民独占 8県どまり 小選挙区、前回より6県減、新潟・佐賀は立民が独占 自民党は27日に投開票した衆院選の小選挙区で、山形、群馬、熊本など8県の議席を独占した。前回2021年衆院選の14県から6県減らした。自民党派閥の政治資金問題などが影響した。立憲民主党が新潟、佐賀両県、日本維新の会が大阪府のすべての小選挙区を制した。自民が独占したのは、山形、群馬、富山、鳥取、山口、徳島、高知、熊本の8県。徳島、熊本両県は今衆院選で新たに加わった。独占が崩れたのは、青森、石川、福井、山梨、岐阜、滋賀、島根、愛媛の8県だ。滋賀県は維新、そのほかの選挙区はすべて立民が議席を奪った。岐阜4区では立民の元職、今井雅人氏が自民前職を破った。福井2区は政治資金収支報告書に不記載があり、自民から公認されずに無所属で出た高木毅元復興相が落選した。滋賀1区は前原誠司元外相とともに国民民主党を離党した後、教育無償化を実現する会を経て維新に移った斎藤アレックス氏が議席を得た。島根1区は細田博之元衆院議長の死去に伴う24年4月の補欠選挙で当選した立民前職の亀井亜紀子氏が議席を維持した。和歌山1区は自民新人、山本大地氏が競り勝った。23年補選では維新の林佑美氏が当選していた。2区は今回無所属で出馬した旧安倍派「5人衆」のひとりで、参院からくら替えした世耕弘成元経済産業相が議席をとった。党が追加公認をすれば和歌山県も自民の独占県になる。立民は新潟県5小選挙区すべてで前職と元職が議席を得た。同県2区では政治資金問題を巡り自民から公認を得られず無所属で出馬した細田健一氏が議席を逃した。佐賀県も前回衆院選に引き続き立民がすべての議席を独占した。維新は大阪の全19選挙区で勝利した。維新は21年衆院選まで公明党が議席を持ってきた大阪府と兵庫県の6選挙区で初めて候補者を立てた。大阪府の4選挙区はすべて維新、兵庫県の2選挙区は公明が議席を獲得した。維新はこれまでの党の看板政策である「大阪都構想」への協力を得るため公明現職のいる小選挙区への擁立を見送ってきた経緯がある。23年4月の統一地方選で大阪府議会に加え、大阪市議会でも過半数を獲得し、候補者の擁立に踏み切った。 *3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241029&ng=DGKKZO84423330Y4A021C2EP0000 (日経新聞 2024.10.29) 経団連「政策本位の政治期待」 自公中心、安定訴え 経団連は28日、自民党と公明党の与党が過半数を割った衆院選の結果について十倉雅和会長の談話を発表した。「自民党・公明党を中心とする安定的な政治の態勢を構築し、政策本位の政治が進められることを強く期待する」と訴えた。与党の敗因に関して「政治資金を巡る問題に国民が厳しい判断を下した」との認識を示した。「待ったなしの様々な重要課題に直面している」と主張し、成長と分配の好循環や原子力の最大限活用、賃上げへの環境整備などに迅速に取り組むよう求めた。日本商工会議所の小林健会頭は談話で「連立与党の枠組みがいかなるものであれ、デフレ経済からの完全脱却などに不退転の決意で臨むべきだ」と唱えた。経済同友会の新浪剛史代表幹事は「与野党問わず現実を直視した上でしっかりと議論を尽くし、必要な政策を前に進めてほしい」と要求した。業界団体では日本鉄鋼連盟の今井正会長(日本製鉄社長)が「安全を大前提とした新設・リプレース(建て替え)を含めた原子力の活用を強く期待する」とのコメントを発表した。石破茂首相は連立政権の枠組みの拡大など野党の協力を引き出す道を探る。自民党内で連携を模索する声がある日本維新の会や国民民主党は衆院選で消費税の減税を提起した。経団連の十倉氏は22日の記者会見で「暮らしをよくするために消費税を下げるというのはやや安直な議論ではないか」と批判した。 *3-1-6:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241029/k10014622291000.html (NHK 2024年10月29日) 宮城 女川原発2号機が再稼働 福島第一原発と同タイプで初 東北電力は29日夜、宮城県にある女川原子力発電所2号機の原子炉を起動し、東日本大震災で停止して以来、13年半余りを経て再稼働させました。事故を起こした東京電力福島第一原発と同じタイプの原発で、このタイプでは初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。東北電力女川原発2号機は、13年前の巨大地震と津波により外部電源の多くが失われ、地下の設備が浸水するなどの被害が出ましたが、その後、防潮堤を海抜29メートルの高さにかさ上げするなどの安全対策を講じて、2020年に原子力規制委員会による再稼働の前提となる審査に合格しました。その後、安全対策の工事や国の検査などが終わったことを受けて再稼働することになり、女川原発2号機の中央制御室では、29日夜7時に、東北電力の運転員が核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く操作を行い、原子炉を起動させました。東北電力によりますと、作業が順調に進めば夜遅くにかけて原子炉で核分裂反応が連続する臨界状態になり、11月上旬には発電を開始する見通しだということです。女川原発2号機は、事故を起こした東京電力福島第一原発と同じBWR=「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、このタイプの原発では東日本大震災のあと初めての再稼働となり、被災地の原発が再稼働したのも初めてです。また、国内でこれまでに再稼働した12基の原発はすべて西日本に立地していて、東日本にある原発の再稼働は初めてです。政府は、脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け原発を最大限に活用する方針で、12月には同じ「沸騰水型」の中国電力島根原発2号機の再稼働が計画されています。また、電力各社は、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発や、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発など東日本を含む各地の原発についても、今後地元の理解を得た上で再稼働することを目指しています。 ●女川町長 “緊張感と責任感持って慎重に対応を” 女川原発が立地する自治体のひとつ、女川町の須田善明町長は「原子炉の起動は一番の大きな山とは言えるが、送電接続をもって再稼働であり、プロセス全体の安全面の確認が完了するまで状況を注視していく。東北電力に対しては営業運転の段階までしっかりと工程を進め、作業では点検などを着実に実施し、安全上の不備がないよう緊張感と責任感を持って慎重に対応するよう求めている。引き続き進捗状況などの分かりやすい情報提供や、現在の枠組みにとどまることのない継続的な安全性向上を求める」とするコメントを発表しました。 ●宮城県知事 “安全最優先で作業を” 女川原発2号機が再稼働することについて、宮城県の村井知事は午前中に開かれた定例の記者会見で「東北電力は安全最優先で作業を進めてほしい。少しでも異常があった場合にはためらうことなく作業を止めて、県民に積極的に情報公開をしてほしい」と述べました。そして、「事故後被災した原子炉としては初めての再稼働で、他の原発と違って非常に注目度が高いと思っている。私もこの前、視察をしてきたが、本当にここまでやるのかと驚くほどの対応をしていた。安全度は極めて高まったと思っているが、なお油断することなくしっかり対応していただきたい」と述べました。その上で事故が起きた場合に備えてまとめた住民の避難計画については「いざというときに計画のとおり住民が動いてくれるのか、動作がちゃんとするのか。訓練をしながら常にブラッシュアップし、見直しを進めていくことが重要だと思っている」述べました。 ●13年前の被害とその後の対策 女川原発2号機は、東日本大震災の際に、敷地内で震度6弱の揺れが観測され、約13メートルの津波が押し寄せました。周辺環境に放射性物質が漏れることはありませんでしたが、原発に電気を送り込む外部電源の多くが鉄塔の倒壊などで失われたほか、敷地の下の港にあった重油タンクが倒壊したり、「熱交換器」と呼ばれる設備がある地下室が浸水したりするなどの被害が出ました。このため、東北電力は再稼働に向けて、2013年から地震や津波などの際の事故に備えた安全対策工事を進めてきました。具体的には、想定される最大クラスの津波に備えて、防潮堤の高さを海抜29メートルにかさ上げしたほか、地震による被害を抑えるための原子炉建屋内にある配管や天井などの耐震補強を行いました。さらに、事故が起きても、原子炉を7日間冷やし続けられる量に当たるおよそ1万トンの水をためられる貯水槽の設置や、ケーブルを入れる管を燃えにくい素材で覆う工事など、さまざまな面で安全対策を講じてきたということです。こうした対策で、東北電力は13年前のレベルの地震や津波にも耐えられるとしています。安全対策工事をめぐっては、東北電力は当初、完了時期を2016年3月と発表していましたが、追加工事などを理由にその後7回の見直しが行われ、ことし5月下旬にようやく完了に至りました。震災後の安全対策工事にかかった費用は、約5700億円にのぼるということです。また、テロなどに備えるための「特定重大事故等対処施設」は、再稼働に必要な原発の工事計画の認可から5年以内の設置が義務づけられていて、期限となる再来年12月までに、約1400億円かけて建設する予定だということです。 ●再稼働で600億円程度のコスト削減か 東北電力によりますと、82万5000キロワットの出力がある女川原発2号機が発電を再開することで、年間で一般家庭の約162万世帯分の電気を賄うと試算されています。東北電力が供給する電力量の構成は、火力発電が67%を占めていますが、今回の再稼働で火力発電所で使っていた燃料費の削減につながり、来年度は、今年度の燃料価格に基づく試算で600億円程度のコストが抑えられる見通しだということです。ただ、東北電力では再稼働に伴って電気料金の値下げをするかについては慎重な姿勢を示しています。昨年度、最終的な利益が2261億円と過去最高となりましたが、その前年度までの2年間はロシアによるウクライナへの侵攻で、天然ガスなどの燃料価格が高止まりしたことなどから赤字となり、自己資本比率が低い水準が続いています。このため東北電力は悪化した財務基盤の立て直しが必要だとしていて、経営の効率化の進捗などを総合的に判断したうえで、電気料金が値下げできるか検討するとしています。 ●武藤経産相「大きな節目になる」 女川原発2号機が再稼働することについて、武藤経済産業大臣は29日午前、「大きな節目になる」と述べました。11月上旬には発電を開始する見通しについては、「東日本における電力供給構造のぜい弱性や電気料金の東西格差、経済成長機会の確保という観点からも、再稼働の重要性は極めて大きい。東日本としては震災後、初めての原子炉起動で大きな節目になり、安全最優先で緊張感をもって対応してほしい」と述べました。そのうえで、新潟県にある柏崎刈羽原発の再稼働については、「地元の不安の声や地域振興の要望を踏まえながら、再稼働への理解が進むよう政府をあげて取り組んでいきたい」と述べました。 ●再稼働の背景 脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向け、政府は原子力発電を最大限に活用する方針で、安全性の確保を前提に地元の理解を得た上で、東日本大震災のあとに運転を停止している原発の再稼働を進めていくことにしています。再稼働の背景にあるのは、1つは日本の化石燃料への依存です。国内の電力供給は約7割が火力発電に依存していて、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、サプライチェーンの混乱によって供給不安の問題も出ました。政府としては、原発の活用で化石燃料への依存度を下げ、エネルギーの安定供給につなげたい考えです。もう1つは、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げる中で、脱炭素電源を増やしていく必要があるためです。今後、国内でも電力需要が増加していく可能性も指摘されています。生成AIの普及が急速に進む中で、不可欠なデータセンターや、半導体の製造工場などの建設が拡大するとみられ、こうした施設は大量の電力を消費します。全国の電力需給を調整しているオクト=電力広域的運営推進機関によりますと、東日本大震災後、省エネや節電の進展などを背景に、全国の電力需要は減少傾向にありました。しかし今後、電力需要は上昇に転じ、9年後の2033年度にはデータセンターなどの新増設によって約537万キロワットの需要が増える見込みだとしていて、政府はこうした需要に応えるためにも、原発の再稼働を進めていく必要があるとしています。 ●使用済み核燃料 4年程度で満杯に 原発の運転で出る使用済み核燃料は、青森県六ヶ所村にある再処理工場に運ばれる計画となっていますが、完成時期が遅れているため、全国の原発に留め置かれた状態が続いています。用済み核燃料は、原発の建屋の中にある燃料プールで一時的に保管されていますが、東北電力によりますと、女川原発2号機ではすでに燃料プールの管理容量の79%に達していて、再稼働に伴って今後4年程度で満杯になる見通しです。このため、東北電力は使用済み核燃料を女川原発から搬出するまでの間、金属製の容器に入れて保管する乾式貯蔵施設を敷地内に設置し、2028年3月に運用を開始する計画です。ただ、原発の立地自治体からは、再処理工場の完成が遅れる中で、施設内に長期間にわたって使用済み核燃料が留め置かれるのではないかという懸念も出ています。 ●原子力規制委も態勢強化 国内で初めて「BWR」=「沸騰水型」の原発が再稼働するのにあわせて、検査を行って運転を監視する原子力規制委員会も、態勢を強化しています。これまで再稼働してきた「PWR」=「加圧水型」とは内部の設備が異なるほか、運転操作にも異なる部分があるため、検査官には、検査や運転の監視にあたってそれぞれのタイプに合わせた対応が求められるということです。検査官の中には「BWR」の検査に携わった経験のない職員もいて、原子力規制委員会では、検査官に改めて知識を確認してもらおうと、研修を増やして態勢を強化しています。2023年秋以降、原発の中央制御室を模したシミュレーターを使って、トラブルが起きやすい起動の手順を確認する研修をこれまで9回開催し、約30人の検査官が受講したということです。原子力安全人材育成センター原子炉技術研修課の白井充課長は「BWRとPWRはシステムの構成や動きが異なるため、検査官がそれぞれに対応できるようにしている。起動やトラブル対応などを重点的に学習してもらった」と話していました。 ●「PWR」と「BWR」 全国の稼働状況は 東京電力福島第一原発の事故のあと新たに作られた規制基準の審査に合格し再稼働したのは、女川原発2号機で13基目です。国内には33基の原発がありますが、これまでに再稼働した12基はいずれも西日本に立地しているほか、事故を起こした福島第一原発とは異なる「PWR」=「加圧水型」と呼ばれるタイプでした。一方、福島第一原発と同じ「BWR」=「沸騰水型」と呼ばれるタイプは国内に17基あり、東北電力や東京電力など東日本にある原発の多くがこのタイプですが、再稼働したのは女川原発2号機が初めてです。女川原発以外では、柏崎刈羽原発6号機と7号機、東海第二原発、島根原発2号機がすでに新しい規制基準の審査に合格していて、このうち島根原発2号機は12月に再稼働する計画となっています。ただ、柏崎刈羽原発は地元の了解が得られておらず、東海第二原発は避難計画の策定などが課題となっていて、「BWR」の再稼働がどこまで進むかは見通せない状況です。 ●専門家に聞く「PWR」「BWR」の ”違い” 「PWR」と「BWR」。なぜこうした違いが生じているのか。経緯や安全性について、原子力規制庁の元幹部で長岡技術科学大学の山形浩史教授に聞きました。 Q.「BWR」と「PWR」は安全性に違いはあると考えていますか。 『BWR』は、原子炉を覆っている格納容器が『PWR』に比べて小さいという特徴があります。福島第一原発の事故では、炉心が溶けるという、設計では考えていなかったような事態が起こりました。小さい格納容器では余裕がなくて、事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなって、蒸気と一緒に放射性物質が放出されました。福島第一原発の事故以前の対策では、炉心が溶けるというような事態を考えた場合には、格納容器が小さい『BWR』は不利であったということになります Q.福島第一原発の事故後に行われてきた対策について、どのように考えていますか。 事故で発生した蒸気の圧力に耐えられなくなりそうになったら、弁を開けて蒸気を放出させるという対策を新しく要求しています。ただし、そのまま放出すると蒸気と一緒に放射性物質が放出されてしまいますので、水などに放射性物質を吸着させます。こうした対策を『BWR』には特別に要求をしています。ですから、新しい規制基準を満足していれば、『PWR』と同等、またはそれに近いレベルまで安全性を高められたということになります Q.世界では「PWR」が主流、国内では「BWR」と「PWR」が半々となっています。「BWR」と「PWR」は、コスト面で違いがあると考えていますか。安全面、コスト面ともに大差ないと思います。原子力発電所はもともと原子力潜水艦の技術が使われています。原子力潜水艦が『PWR』だったので、地上も同じ『PWR』から始まりました。先行したものが技術や審査の実績が積み上がってくるので、電力会社としてもそちらのほうが経営面でのリスクが少ないということになるかと思います。日本の場合は『PWR』と『BWR』の両方ありますが、電力会社が、昔からPWR系のアメリカのメーカー、BWR系のアメリカのメーカーのどちらとつきあいがあったのかで分かれたのだと思います。 Q.なぜ「BWR」のほうが再稼働が遅くなったのでしょうか。 新規制基準が施行された日に電力各社が『PWR』の審査の申請をしました。『PWR』はフィルター付きベントの設置が求められていなかったため、新しい検討要素がなく対応が早くなったのではないかと考えられます。最初に鹿児島県の川内原発の審査が進み、1つ前例ができるとほかの『PWR』の審査も進むようになりました。少し遅れて『BWR』の申請が出され、技術力のある東京電力の柏崎刈羽原発の審査が進みました。しかし、テロ対策の不備があり、東京電力の事情で大きく遅れたということだと思います。東京電力を追うように審査が進んだ東北電力の女川原発、中国電力の島根原発が再稼働することになったのだと思います。 Q.「BWR」の再稼働にあたって、事業者にはどのようなことが求められますか。 『BWR』にはフィルター付きベントという安全装置がありますが、これ使う時は放射性物質が少なからず出ます。そういうことがあるかもしれない。それを起こさないために今何をするのか。そういうことをしっかり考えてほしいです。周辺地域に対しての影響というのは大きなものがあります。これを肝に銘じて安全対策に取り組んでいただきたいと思います。 ●避難計画の課題 宮城県の牡鹿半島に位置する女川原発2号機で重大な事故が起きた際には、住民を安全に避難させることができるかが課題となります。元日に起きた能登半島地震は、地震や津波と原発事故が同時に起きる「複合災害」となった場合の課題を改めて突きつけました。1つ目は住民の避難路の確保です。能登半島地震では地震による土砂崩れなどの影響で道路が通行止めになって避難できず、孤立した集落も多く見られました。宮城県によりますと、牡鹿半島では住民が避難に使う3つの県道には、あわせて92か所で土砂崩れなどの危険性がある「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」があります。さらに、巨大津波が発生した場合には、2つの県道であわせて14か所が、津波による浸水で通行できなくなるおそれもあります。課題の2つ目は、被ばくを避けるため、まずは自宅など建物の中にとどまる「屋内退避」についてです。国の指針では原発で重大な事故が起きた際、原則、半径5キロ圏内の住民は即時に避難し、5キロから30キロの住民は自宅などに屋内退避するとされています。しかし、能登半島地震では住宅をはじめ多くの建物が倒壊しました。専門家からは仮に倒壊しなかった場合でも、巨大地震のあとは、倒壊の危険性がある自宅にとどまり続けることは困難だと指摘されています。こうしたことについて宮城県は、国や関係機関などと連携してヘリコプターや船などあるゆる手段を使って住民を避難させるなどとしていますが、「複合災害」が起きたときの避難計画の実効性を、いかに高めていくのかが問われることになります。 ●再稼働反対の人たちが抗議活動 29日午前中、女川原発のゲート前には、再稼働に反対する団体などから約30人が集まりました。プラカードや横断幕を掲げ、「周辺住民の被ばくや生活の破壊を全く顧みず、私たちの声を全く無視した再稼働を許すことはできません」などと訴えました。また、東北電力の樋口康二郎社長への申し入れとして、能登半島地震から避難への不安が大きくなり、避難計画を示されても安心できないことや、東京電力福島第一原発の事故の復旧に見通しが立たず立ち入ることができないふるさとがある状態で、同じようなことがあってはならないなどと訴えました。そして、ゲートの方向に向かって「再稼働するな」などと声をあげていました。抗議を行った団体は申し入れ書をゲート前で提出したいと東北電力側に打診しましたが断られたため、郵送したということです。女川から未来を考える会の阿部美紀子代表は「原発は避難を強いるほど危険な代物で必要ない。東北電力は地元の人に聞くと逃げることは大変困難だと身をもって感じるはずだ」と話していました。 ●住民“安全に避難できるのか“ 原発周辺の住民からは、地震や津波と原子力災害が重なる複合災害が起きた時に安全に避難できるのか、心配する声があがっています。女川原発がある牡鹿半島の牡鹿地区の行政区長会、会長を務める鈴木正利さんは29日の再稼働について「すでにそこにできていて、動いたことのある原発なので、今さらどうすることもできないし、賛成でも反対でもない」と話しました。その上で原発が半島部分にあるため、東日本大震災やことしの能登半島地震の経験も踏まえて、もし事故が起きた時に住民が安全に避難できるかが重要だと話します。震災では、鈴木さんが住む牡鹿半島の先端にある鮎川地区には8メートルを超える津波が襲い、半島のあちこちが土砂崩れや津波による浸水などで通行止めとなりました。このため車による避難は難しく、震災の時、港が流されてきたがれきなどで使えなくなった経験から、国や自治体が考える船を使った避難も簡単ではないと指摘します。また、天候によってはヘリコプターによる避難も難しく、現実的なのは地区にあるコンクリート造りの集会所に退避することだと言います。東日本大震災の時には集会所に最大300人の住民が避難したということで、鈴木さんは放射線から身を守れるよう気密性を高めた防護施設に改修するよう求めています。鈴木さんは「震災では港は転覆した船や養殖いかだ、魚網などであふれ使えなかった。この集会所は地域の中心にあり、お年寄りも歩いて来られる場所にある。放射線から身を守る施設に改修してもらえれば、ここで何日か安全に避難できる」と話していました。 ●経団連 十倉会長“エネルギー自給率向上などに貢献を期待” 経団連の十倉会長は「安全性の確認と地元の理解が得られ、原子炉が起動し、再稼働への大きな一歩が踏み出されたことを歓迎する。ここに至るまでの関係者のご尽力に心から敬意を表したい。引き続き、円滑に営業運転が開始されるよう、準備を着実に進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「国際的に遜色のない価格での安定した電力供給は国民生活と企業活動の基盤であり、女川原子力発電所2号機が、エネルギー自給率の向上とカーボンニュートラルの双方に資する電源として、大いに貢献することを期待する」としています。 ●同友会 新浪代表幹事“経営者として 再稼働を心から歓迎” 経済同友会の新浪代表幹事は、「震災によって多大な被害を受けた立地地域の自治体をはじめ、関係各位の尽力に敬意を表する。半導体事業、データセンター、生成AIなどにより、今後、電力需要の大幅な増加が見込まれる。また、わが国のエネルギー自給率向上や脱炭素化の取り組みに際しては原子力発電は非常に重要な手段の一つでありわれわれ経営者としても再稼働を心から歓迎する」というコメントを発表しました。そのうえで「世界で最も厳しいとされる新規制基準の審査に合格した原子力発電所については、立地地域を含め、広く社会のステークホルダーに対して丁寧でわかりやすい説明と信頼醸成に努め、早期に再稼働が進むことを期待している。第7次エネルギー基本計画策定の議論が進められているが原子力発電所の再稼働を含め、安定的なエネルギーの確保はわが国の未来にかかわる重要なテーマである。この取り組みを進めるため、さまざまなステークホルダーとの熟議を含め、経済同友会としても責任ある対応を進めていきたい」としています。 ●日商 小林会頭“電力価格安定や脱炭素などに向け再稼働不可欠” 日本商工会議所の小林会頭は「立地地域をはじめ関係者の尽力に深く感謝と敬意を表するとともに大いに歓迎したい。東北電力におかれては、安全の確保を最優先に再稼働、営業運転再開に向けた取り組みを進めていただきたい」というコメントを発表しました。そのうえで「電力の価格安定と需要増加への対応、脱炭素の推進に向けて、原子力発電所の再稼働は不可欠である。女川原発2号機に続き、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6・7号機など安全が確保された原発の早期再稼働に向け、地元理解の促進など政府が前面に立った取り組みを期待する」としています。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240920&ng=DGKKZO83568530Z10C24A9FFJ000 (日経新聞 2024.9.20) 日本発の次世代太陽電池、中国が量産先手、「ペロブスカイト」新興6社が工場計画、新市場覇権狙う 日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト」の投資ラッシュが中国で始まった。少なくとも中国の新興6社が工場を建設する計画で、国内外から流入する投資マネーが生産を後押しする。中国各社は量産体制をいち早く整え、新市場での覇権獲得を狙う。中国・江蘇省無錫市で、極電光能が30億元(約600億円)を投じた工場の完成が近づく。2023年4月に着工し、同社によるとペロブスカイト型として「世界初のギガワット(GW、100万キロワット)級の生産基地」となる。敷地面積は約1153平方メートルで、生産ラインのほか研究センターや倉庫なども備える。ここから南へ約1000キロメートルに位置する福建省アモイ市では大正微納科技が100メガワット(MW)級の工場を建設中で、25年には量産を始める。ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授の教え子である李鑫氏が最高技術責任者(CTO)を務める。各社の公式発表によると、中国では少なくとも6カ所でペロブスカイト型の建設プロジェクトが進行中だ。江蘇省昆山市では、中国太陽電池大手の協鑫集団(GCLグループ)傘下の昆山協鑫光電材料が23年12月に起工した工場の建設が進む。急速な技術発展と市場拡大を期待してマネーが流入している。太陽光から電気への変換効率をみると09年の発明当時はわずか3.8%で、実用化に程遠い水準だった。これが試作品レベルとはいえ現在は最高26%台まで上昇し、理論変換効率(33%)の上限に近づく。カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ペロブスカイト型太陽電池セルの市場規模は32年に24億ドル(約3400億円)と22年の26倍に成長する。協鑫光電には寧徳時代新能源科技(CATL)、騰訊控股(テンセント)、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどが出資した。大正微納には、みずほフィナンシャルグループと深圳力合科創集団が共同設立したベンチャーキャピタル(VC)の瑞穂力合基金などが資金を投じた。瑞穂力合の高級投資総監、張一欧氏は「当社の出資を通じて日本と世界市場の開拓につなげてほしい」と語る。日本勢では、積水化学工業が25年の事業化を目指し、シャープ堺工場(堺市)の一部取得を検討している。パナソニックホールディングス(HD)は26年に参入する方針だ。自社開発したペロブスカイト型太陽電池と、住宅の建材を組み合わせ「発電するガラス」としての用途を開拓する。日本発の技術だが、発明した宮坂教授は技術の基本的な部分について海外で特許を取得しておらず、量産では中国企業が先行した。中国企業は日本勢に比べて投資の規模が大きく、先手を打ってシェアを確保しようとしている。「曲がる」点が最も注目されるペロブスカイト型だが、発電効率でも一般的なシリコン型と比べた優位性が高い。大正微納の試験では、ペロブスカイト型は年間の合計発電量でシリコン型を大幅に上回った。曇天や早朝、夕暮れなどの弱い光でも発電できるためだ。同社の馬晨董事長兼総経理は「中国では広大な土地に太陽光電池を敷き詰める集中型が一般的だった。ペロブスカイト型が普及すれば、都市部の建物の外壁などで発電する分散型に代わるだろう」と話す。課題は山積している。生産面ではパネル基板に太陽光を吸収するペロブスカイト層を薄く均一にコーティングする難易度が高く、大型パネルを安定的に量産するのが難しい。このためフィルムに比べて表面に付着させやすいガラス基板の量産が先行する見通しだ。ただガラス基板では「軽く」「薄く」「曲がる」というメリットが失われる。フィルムを使ったパネルを大型化することが開発の焦点となる。 ▼ペロブスカイト型太陽電池 太陽光を吸収するためにペロブスカイトと呼ぶ薄膜材料を使う太陽電池のこと。ペロブスカイトは八面体の結晶構造を持つ化合物。ロシアの科学者ペロブスキー氏が天然鉱物から発見し、その名前にちなんで命名された。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84313960U4A021C2MM8000 (日経新聞 2024.10.24) テスラ、蓄電池を全国販売 ヤマダと連携、1000店規模 家庭の再エネ需要に布石 米テスラはヤマダホールディングスの店舗で家庭用蓄電池(総合2面きょうのことば)を販売する。全国1000店の家電量販店で蓄電池の注文を受け付け、ヤマダの住宅や太陽光発電設備と組み合わせる。蓄電池と量販の大手が連携し、家庭での再生可能エネルギーの需要を取り込む。太陽光発電は家庭で発電した電力を国が決めた価格で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)を契機に導入が一気に広まった。2023年度までの日本の住宅用太陽光の設置件数は累積で330万件ある一方で、蓄電池の累計出荷台数は産業用を含めても93万台にとどまっていた。国は30年度に再生エネの普及率で36~38%の目標を掲げ、太陽光発電は14~16%程度を占める主要な電源だ。天候によって発電量が変わる太陽光の供給と電力需要を調整するには蓄電池を増やす必要がある。家庭に蓄電池が普及すれば再生エネの安定供給につながる。テスラが家庭用蓄電池「パワーウォール」を全国規模の小売店経由で売るのは初めて。これまでは同社が認定する施工店経由の販売が中心だった。ヤマダは全国に約1000店の直営店を展開しており、まずは25日に開店する神奈川県平塚市の店で販売を始める。年内にヤマダの大阪市内や松江市の店でも実機を展示して販売を始め、沖縄を除く全国に順次広げる。施工はテスラの認定施工会社が担う。テスラの蓄電池は、容量が平均家庭の1日分の消費量に当たる13.5キロワット時と大きく、競合の国内メーカーと比べて容量当たりの価格が安い。ヤマダでの販売価格は工事費などを含めて208万7800円。シャープやニチコンなど競合の大容量商品(工賃込み)の市場価格と比べて、容量当たりの価格は3割以上安い。日本で現在販売している家庭用蓄電池は米国で生産したものを輸入している。ヤマダは国内の家電市場が伸び悩むなか、電気自動車(EV)や住宅、家具といった非家電領域を開拓し、再成長を目指している。蓄電池を巡っては日本で新たな市場が拡大する見通し。米欧ではすでに複数の家庭に設置した蓄電池を束ねて制御する「仮想発電所(VPP)」と呼ばれる電力ビジネスが広がっている。太陽光パネルを設置した家庭の電力が余っているときに充電しておき、電力が足りない時にためた電気を販売して収入を得る仕組みだ。市場に余剰電力があるときには蓄電して、電力の需給バランスも調整できる。テスラも米国ではVPPを展開し、世界の設置台数は累計で75万台超ある。日本では沖縄県の一部でサービスを導入しており、設置台数が増えれば全国への展開も視野に入れる。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83771040Z20C24A9NN1000 (日経新聞 2024.9.30) 再エネ・蓄電池の併用支援 経産省、補助金を増額 経済産業省は2025年度にも、再生可能エネルギーの発電と蓄電池を併用する事業者への支援を拡充する。発電量に応じて上乗せして交付する補助金の額を現状の2倍程度に増やす。海外に比べて遅れる蓄電池の普及を後押しして、再生エネの有効活用を広げる。日本の再生エネは太陽光の普及が特に進んでいる。昼間に電気が余る傾向があるため、発電を停止する事態が頻発している。電気をためるのが解決策だが、蓄電池の導入コストが高く再生エネの発電事業者の多くが活用できていない。経産省はこうした状況を踏まえ、蓄電池を活用する「FIP」と呼ばれる再生エネの発電事業者を対象に、交付する補助金の額を現状から増やす。他の事業者に比べて発電量1キロワット時あたり1円程度上乗せしている交付額を、2円程度に増額する。FIP事業者に対する現在の上乗せ額は初年度が1円程度で、徐々に支援規模を縮小しながら数年間上乗せが続く仕組みになっている。初年度を含めて3~5年程度、現状の金額から倍増する案がある。詳細は24年度末までに専門家の意見を踏まえて詰める。例えば2018年度に事業用の太陽光発電を始めていた場合、国のベースの支援額は1キロワット時あたり18円だが、陸上風力は20円、洋上風力は36円だった。ベースの支援額は再生エネの種類や事業開始年度で異なる。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84687330Y4A101C2EA3000 (日経新聞 2024.11.9) 政府、地方創生に5本柱 閣僚会議が初会合 東京一極集中是正やデジタル活用 首相「付加価値を創出」 政府は8日、首相官邸で地方創生策を検討する閣僚会議「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合を開いた。石破茂政権は地方創生を看板政策に掲げる。人口減や社会的な基盤の維持など地方が抱える課題の解消をめざす。2025年度予算案で関連交付金を倍増する計画だ。首相が本部長を務め、全閣僚で構成した。副本部長には林芳正官房長官と伊東良孝地方創生相が就いた。25年6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、今後10年間を見据えた具体的な施策を盛り込む見通し。(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境(2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散(3)付加価値創出型の新しい地方経済(4)デジタル・新技術の徹底した活用(5)「産官学金労言」のステークホルダーの連携と国民的な機運の向上――を柱に据えて議論する。首相は商工会議所や行政、教育機関、金融機関、労働組合、地方新聞社・テレビ局からなる有識者会議の立ち上げを表明した。地方が直面する問題などを検証して政策立案に生かす。11月中にまとめる経済対策に関し「農林水産業、観光産業などの高付加価値化、日常生活に不可欠なサービスの維持向上、新技術を活用した付加価値創出などの取り組みを支援する」と強調した。倍増方針を示した地方創生の交付金については「金額だけ増やしては何の意味もない。重点化し、ばらまきという批判を受けないようにしたい」と語った。地方創生は首相にとって思い入れのある政策だ。14年9月に発足した第2次安倍晋三改造内閣で初代の地方創生相を務めた。同年12月に決定した長期ビジョンには「2060年に1億人程度の人口を確保する」と盛り込んだ。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが、地方を取り巻く環境は依然として厳しい。首相は8日の会合で「10年間の成果と反省を生かさなくてはならない。反省は何なのか検証しなければこの先の展望はない」と述べた。「地方創生2.0」を掲げて改めて政策をてこ入れする。10月28日の記者会見では「日本創生」を訴え「地方と都市が結びつくことにより日本社会のあり方を大きく変える」と呼びかけた。国立社会保障・人口問題研究所が23年に発表した将来推計人口によると、56年には1億人を割って9965万人になり、70年には8700万人になる見通しだ。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、23年の東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は転入者数が転出者数を上回り、28年連続で転入超過を記録した。地方の人口流出が続く。首相は10月の所信表明演説で「若年世代の人口移動をみると10年間で全国33の道県で男性より女性の方が多く転出した」と説明した。婚姻率の上昇を念頭に、若者や女性に選ばれる地方の実現を訴えた。経済産業省は閣僚会議の設置を受けて各地域の経済産業局長らが出席する会議を開き、地方企業の声を集める。8日の会議で設備投資などの現状を報告した。 <先端技術と教育> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83766580Z20C24A9TB2000 (日経新聞 2024.9.30) スマホ、高級カメラのみ込む、小米やiPhone、画質大幅アップ 加工技術の「リアル」争点 中国の小米集団(シャオミ)や米アップルのスマートフォンのカメラ機能が大幅に向上している。レンズの改良と画像補正技術を磨き、数十万円するような高級コンパクトカメラに匹敵する写真が撮れるようになった。ただ、日本経済新聞が複数機種で撮り比べをしたところ、リアルと加工の境目はどこかという課題も見えてきた。「驚異的な新しいカメラで魅力的な写真の体験ができる」。日本時間9月10日にアップルが開いた新製品の説明会で、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は新型iPhoneのカメラ機能の向上についてこう強調した。新機種「iPhone16 Pro」ではアップル史上最長の焦点距離をもつ光学5倍の望遠カメラを搭載した。画像処理を活用し、撮影後の細かな色調の編集を実現した。スマホ各社はカメラ性能を高めた新機種を国内で相次ぎ発売している。2023年のスマホ出荷台数で世界3位のシャオミは5月、旗艦モデル「Xiaomi14 Ultra」を発売した。独高級カメラメーカーのライカと共同開発した4つのレンズを搭載し、光学で5倍、デジタルズームで最大120倍のズームができる。韓国サムスン電子は4月に発売した旗艦モデル「Galaxy S24」は、撮影後の背景を簡単に加工できる機能を売り物とする。ソニーグループ傘下のソニーが6月に発売した「Xperia 1 6」は暗所でもきれいに撮影できるのが強みだ。7月発売のシャープの「AQUOS R9」もライカ製のレンズを搭載する。各社がカメラ機能に力を入れる背景にはスマホ市場の成熟化がある。データ処理速度など基本性能の差異化が難しいなか、カメラはインスタグラムなどSNSに写真を投稿する層をつなぎとめるのに欠かせない機能として重要度を増している。米調査会社IDCによるとスマホ本体の台数は28年に24年比で8%の成長にとどまる見通し。それでもスマホ向けカメラモジュール市場は、調査会社のグローバルインフォメーションとマーケッツアンドマーケッツによれば、同期間で47%の成長が見込まれる。キヤノンやニコンなどカメラメーカーにとってはスマホの進撃は脅威だ。カメラ映像機器工業会(CIPA)によればデジカメの総出荷額は08年の2兆円超から、足元では7000億円台に沈む。国内では08年にアップルが初めてのスマホを発売し、市場シェアを奪ってきた。調査会社のMM総研(東京・港)は「人工知能(AI)など技術向上でスマホのカメラ機能の向上は間違いなく続いていく」と指摘。コンパクトデジカメに続き、高級デジタル一眼などカメラメーカーの主力の領域をのみ込む可能性もある。実際にスマホカメラの性能はどれだけ高性能なのか。日本経済新聞では今回、シャオミとアップルの最新機種と、比較対象としてユーザーの評価が高い日本の大手カメラメーカー製の高級コンパクトデジカメ(19年発売、価格20万円前後)を使い、東京都千代田区の日経本社ビルから直線距離で約5キロメートル離れた東京スカイツリーを撮り比べした。スマホ、デジカメともスカイツリーの全景は新聞の印刷には十分すぎる高い水準の写真が撮れた。こだわりのあるカメラ愛好家やプロのカメラマンでなければ、3枚に大きな違いを感じないだろう。次に、ズームアップして撮影したところ、明らかな差が出た。シャオミのスマホでは地上450メートルに位置する「天望回廊」とその下の鉄骨部分がクッキリと写った。それと比べるとデジカメはコントラストが低く、ややかすみがかって見える。アップルはデジカメに比べ色合いで青みが薄れた。何をきれいと感じるかは人それぞれだが、SNSを活発に利用する高校生10人に3枚の印象を聞いたところ、10人全員が「シャオミの写真が一番きれい」と答えた。シャオミのズーム写真の秘密を探るため、別の対象も撮影してみた。最大ズームで路上にいる人物に焦点をあてたところ視覚障害者用の黄色のブロックの凹凸が塗りつぶされたように平たんになった。ビル屋上の看板は絵の具で描いた絵画のようになった。シャオミ日本法人でスマホなどの製品開発に携わる安達晃彦プロダクトプランニング部本部長は「実用的に撮影できるのは30倍まで。最大120倍まで撮影が可能だが、デジタル処理感が強くなる」と加工感を認める。一般的にデジタルズームでは画像を引き伸ばす際に解像度の低下が起きる。それをなんらかの機能で補うのがメーカー各社の技術の見せどころになるが、そこには「現実を写しているのか、現実を作り替えているのか」という問題が内在している。楽しむことを優先するなら加工は積極的に肯定されるが、記録を優先するなら不安が残る。そして、リアルと加工の揺れ幅はAIの普及で大きくなっている。シャオミやアップルなどのスマホメーカーに限らず、カメラメーカーの最新デジタルカメラにもAIによる補正機能が搭載されるようになっている。プロの写真家で組織する日本写真家協会では、生成AIによる作成物は写真ではなく「画像」と見なしているが、ノイズ処理や色の補正を含めたAIのテクニックまでは線引きできていないという。会長の熊切大輔氏は「業界で議論されないまま技術だけが発達してしまった。ルールを決めていく必要がある」と話す。 *4-2:https://www.agrinews.co.jp/farming/index/260594 (日本農業新聞 2024年9月24日) 果樹産地の担い手確保 優良事例を発表 中央果実協会 中央果実協会は24日、果樹産地での担い手育成などに関する事例発表会をオンラインで開いた。大分県農林水産部は、2023年までの10年間で200人が新規就農者したと紹介。園地の確保や未収益期間の長さが就農の壁となる中、県主導で園地の基盤整備や技術習得の支援を同時並行で進め、成果を上げているとした。同協会は、果樹の担い手は、20年までの20年で半減し、60歳以上が8割を占めていると説明。一方、果樹の価格や輸出の攻勢などに魅力を感じている人らが増えているとし、反転攻勢へ大きな好機を迎えているとの考えを示した。大分県農林水産部の河野雅俊氏は、07年から行う基盤整備の取り組みを紹介した。果樹の新規就農者の確保へ「積極的な誘致が重要」として、ダイレクトメールなどを活用して働きかけを展開し、特に農家以外の人や異業種の法人などの参入が増えていると報告。経営展開のシミュレーションを示して、参入を円滑に進めているとした。就農者が1、2年間、小規模な園地で経験を積む間、並行して育苗や園地整備を推進。その後、その園地に加えて、整備された園地も渡すことで、未収益期間の削減につなげているとした。就農者に渡すための園地を集約するには、地権者らへの説明などを丁寧に進める地道な取り組みも不可欠として、「最低でも1、2年は必要」とも指摘。同じ目標を持ったチームを県や市町村、JAや生産者で作り上げることも重要とした。世羅幸水農園(広島県世羅町)の光元信能組合長は、47ヘクタールの大規模な梨園を維持する仕組みを紹介。ジョイント仕立てを導入し、リモコン式草刈り機の活用なども進めているとした。 *4-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241024&ng=DGKKZO84307860T21C24A0TB3000 (日経新聞 2024.10.24) 陸上養殖サーモン大量出荷 NTT、エビ国内大手に、丸紅など4商社でノルウェー輸入に迫る 海ではなく陸地で魚介類を人工的に育てる陸上養殖が日本で大規模な商業化の段階に入る。丸紅が販売するサーモンが10月中にも店頭に並ぶほか、NTTグループは2025年3月にもエビを出荷する。技術力と資金力を持つ大企業による大量生産で、水産のサプライチェーン(供給網)が変わり始めた。9月下旬、富士山の麓にある静岡県小山町の養殖場では出荷を1カ月後に控えた数百匹の魚が遊泳していた。丸紅がノルウェー企業のプロキシマーシーフードと共同で取り組んできた国産アトランティックサーモンが、いよいよ首都圏のスーパーなどで生鮮食品として販売される。プロジェクトの起点は2020年に遡る。プロキシマーはオスロ証券取引所に上場する水産企業で、高い養殖技術を持つ。丸紅は販売代理について協議。22年に10年間の国産陸上養殖サーモンの独占販売契約を結んだ。まずは25年末までに計4700トンを富士山麓から出荷する計画で、27年には国内最大規模の年5300トンに増やす。全てすしネタに使うと仮定すると3億貫分に相当する量だ。 ●資本力生かす なぜ陸上養殖なのか。天然魚は地球温暖化や乱獲の影響で水揚げが安定しない。海面養殖は水温や寄生虫といった自然環境の影響があるほか、漁業権が必要で新規参入が難しい。大手企業が資本力を生かして大規模に生産するには陸上養殖が最適なのだ。環境負荷の軽減に寄与する利点も大きい。プロキシマーは今回、「閉鎖循環式」と呼ぶ仕組みを採用した。餌やふんで汚れた水をそのまま排水せず、バクテリア分解と散水で浄化し再利用し続ける。さらに航空輸送を伴わない分、サーモン1キロあたり12キログラムの二酸化炭素(CO2)排出削減効果も見込める。施設の運営に必要な電力の15%は敷地内の太陽光発電設備で賄う予定だという。単純な生産コストは海面養殖に比べて割高だが、大規模生産による効率化や消費地までの輸送時間短縮による鮮度の向上、環境負荷軽減などを総合的に考慮すると、十分に収益性を確保できる。プロキシマーのヨアキム・ニールセン最高経営責任者(CEO)は「想定通りの魚の質に仕上がっている。数年後には同規模の養殖場を新たに建設したい」と、既に日本での増産が視野に入っていることを明かす。国内の陸上養殖サーモン事業は三井物産、三菱商事、伊藤忠商事もそれぞれ別のパートナーと組み参入。いずれも今後3年程度で本格出荷が始まる見込みだ。各社が公表する年間生産量(計画値)は4商社合計で2万1300トンと、今の主要供給元のノルウェーからの輸入量(約3万トン、生鮮・冷蔵)に迫る。自給率向上に一役買うだけでなく、追加の設備投資で生産量がさらに上乗せされれば輸出産業に育つ可能性もでてくる。大手商社だけではない。通信各社も陸上養殖に注目する。大企業としての資本力を生かせるだけでなく、情報サービスで既に生産者や卸売・小売事業者と接点があり、有利な立ち位置にいるためだ。「水産業の工業化と標準化をなし遂げたい」。NTTグループ子会社で陸上養殖を手掛けるNTTグリーン&フード(東京・千代田)の久住嘉和社長は意気込む。静岡県磐田市にある敷地面積1万3000平方メートルのスズキの部品工場跡地に巨大なエビ養殖場を建設中だ。12月稼働、来年3月にも初出荷を見込む。8月に関西電力から買収した磐田市内のエビ養殖場と合わせ26年度には年産約200トンとなる。水産大手のニッスイが年産110トンの陸上養殖施設を稼働済みだが、それを超えてエビ陸上養殖で国内最大手に浮上するとみられる。陸上養殖のエビは臭みがなく、病気などを防ぐ薬品の使用量が少なくすむ。また、NTTグループの研究所ではCO2を効率的に吸着する藻の研究を進めている。将来、この藻を飼料に使って環境負荷の軽減につながる養殖事業に育てる考えだ。ソフトバンクはあらゆるものがネットにつながるIoT技術を駆使して養殖が難しいとされるチョウザメの養殖実証に乗り出した。日常の食卓には上らないが、卵のキャビアは高値で取引される。 ●世界市場9割増 世界の漁業・養殖業生産量は22年に2億2322万トンで10年前に比べ25%増えた。天然魚などの海面漁業の生産量はほぼ横ばい。海面養殖業は48%増と急増しているが、適地が限られるため中長期な今後の拡大は難しいとされる。人類の胃袋を満たす伸びしろは陸上養殖だ。調査会社のグローバルインフォメーションによると陸上養殖の世界市場は29年に23年比88%増の99億9000万ドル(約1兆5千億円)に急増する。日本にとっては、食の安全保障の観点からも陸上養殖の重要性は増している。政府は食用魚介類の自給率を32年度に94%に引き上げることを目指している。23年度は50%台だった。背景には中国など近隣諸国・地域との漁獲競争が激しくなっているほか、気候変動でサンマやスルメなど身近な水産物がとれにくくなっている危機感がある。これまでの日本の養殖は小規模事業者が多く、生産性の向上が課題だった。大企業の本格出荷で構図が変わる。消費者の選択肢が広がるだけでなく、水産大国ニッポンの復活も見えてくる。 *4-3-2:https://suisanshigen.com/2020/06/20/article24/ (水産資源管理 2020年6月20日) 過去最低と最高の水揚げ量 この違いは何か? ●世界全体と日本の水揚げ量の傾向は逆 農林水産省から2019年、そしてFAO(国連食糧農業機関)から2年ごとに出される世界全体の水揚げ量(2018年)が発表されました。日本の水揚げ量は、416万㌧と1956年以降の比較しうる数量で過去最低を更新中。1980年代の1,200万㌧台から滑り落ちるように減少が続き止まりません。ところで、これまで主な減少要因とされてきたマイワシの水揚げ量は、減少要因どころか2011年の震災以降10万㌧台を回復し、2019年は50万㌧を超え、減少を続ける水揚げをかろうじて支える位置付けになっています。つまり、マイワシの減少が、日本の水揚げ量が減り続ける原因ではなかったのです。一方で、世界全体の水揚げ数量は、引き続き右肩上がりを続けています。2018年は天然と養殖で合計2億1千万㌧(海藻類3千万㌧含む)と過去最高を更新中です。天然と養殖物は、ほぼ半々。ただ、天然物の漁獲に関しては、主に北米、北欧、オセアニアなどの漁業先進国が、サステナビリティを考えて漁獲をセーブしているので、今後は養殖物の比率が増えて行くことでしょう。ただし、サーモンを始め養殖魚の多くはエサを必要とするので、その供給が課題です。 日本と世界の傾向がなぜこんなにも違うのか?その原因と明確な答えを出し続け、皆さんに水産資源管理の大切さに気付いていただきたいというのが、当サイト(魚が消えて行く本当の理由)の目的です。 ●成長乱獲と加入乱獲そして投棄が同時多発 小さな幼魚を獲ってしまえば魚は大きくなりませんし、産卵する親が減れば産まれる卵の量は減ってしまいます。また漁獲した魚を小さかったり、産卵後で痩せていたりで価値が無いため投棄してしまえば資源は減少します。残念ながら日本で、様々な魚で同時に起こってしまっている現象です。その結果が、様々な魚種、そして全体でも過去最低という水揚げ量につながっています。 ●魚と海水温 海水温の高い低いが、水産物の資源量に影響を与えるのは当然です。農作物の収穫量も気温に影響されるのと同じです。しかしながら、日本では魚の資源が減少した理由について、海水温の上昇を安易に使いすぎています。そしてそれは「矛盾」という形で現れます。資源量に水温の影響があるなら、より漁獲量を減らして資源量の維持を図る予防的アプローチがされるべきです。しかし、供給が減ることで魚価が上がり、よりたくさん獲ろうとする力が働いて資源を潰してしまう例があちらこちらにあります。そしてとどのつまりが、環境の変化に対する責任転嫁。地方の深刻な衰退につながっています。令和二年発行の水産白書にサケ・サンマ・スルメイカの不漁に関するコラムがあります。不漁の原因は、海水温、海洋環境の変化、外国船による漁獲の影響などが出ていますが、日本が獲り過ぎてしまったこと、水産資源管理に問題があったことは何も書かれていません。 現実的には、主に資源管理の問題で、資源状況が悪化して不漁になっているのです。かつてのノルウェー、現在の中国はそれに気づき対策を取っています。 ○スルメイカの例:海水温の上昇ではなく、東シナ海の産卵場での海水温の低下が不漁の原因として挙げられています。海水温は低いのではなく高いので問題になっているのではないでしょうか?(漁師のつぶやき)。 ○マイワシの例:水温が低い寒冷レジームで増えると言われています。現在資源量が増加していますが海水温は下がってきているのでしょうか? ○サンマの例:水温が高いため日本の沿岸に魚群が来る量が減っていると言われています。ところで、上記のサンマとマイワシの漁場も時期もほぼ同じです。同じ海域でも水温がサンマには高くてマイワシには低く影響しているのでしょうか? ○イカナゴの例:水温の上昇が資源量が激減した主な理由とされていますが、一方で青森で激減した理由は海水温が低いからと矛盾しています。また、緯度が高く海水温の上昇を日本同様もしくはそれ以上影響を受けているノルウェーの2019年の資源量と漁獲量は皮肉にも大幅に増えています。 ○ニシンの例:水温の上昇が資源減少の主な理由の一つとされてきました。しかし、2019年は1.5万㌧と過去10年の平均より2.5倍増加しています。北海道は水温が低下したのでしょうか?。 ○カツオの例:海水温が高いことに影響を受けるなら、南太平洋から回遊して来るカツオの量は減少していますが、増えるはずではないでしょうか? ●クジラが食べる影響 クジラはどこに多いのか? クジラは、大量の魚を食べます。アラスカなどで群れでニシンを追い込んでひとのみにする映像をご覧になった方もいるでしょう。IWC(国際捕鯨委員会)からの脱退で調査捕鯨を止めた海域は南氷洋で、そこでは最も多くクジラが生息しています。日本の周りばかり魚をたくさん食べてしまうクジラがいるのではありません。クジラはエサになる水産資源が豊富な海域に来ます。ちなみに、太平洋と大西洋、そして南氷洋に生息するクジラの推定生息数を比べてみましょう。最も資源量が多いミンククジラでは、日本の周りを含む太平洋(推定約2.4万頭)より、大西洋の方がはるかに推定生息数が多い(推定約14.5万頭)ことが分かります。南氷洋はさらに多い(推定51.5万頭)です。つまり、クジラが食べる影響についても、日本だけ特別に影響があるわけではないのです。かえってノルウェー、アイスランドなどの方が影響が多いことが予想できます。しかし魚の資源量では、マダラ、マサバ、ニシンなど同じ魚種でもそれらの国々の方が資源量が多く、サイズも大きいという逆の現象が起きています。その違いこそが、まさに科学的根拠に基づく水産資源管理が行われているか否かなのです。 *4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083074.html (朝日新聞社説 2024年11月14日) 教育への投資 財源確保へ本格議論を 資源が少なく少子高齢化が進む日本にとって、公教育の充実は極めて重要だ。だが長時間労働や教員不足によって、屋台骨が揺らいでいる。現状の打開には教員らの大幅な増員が不可欠だ。教育への投資は、未来への投資である。財源確保に向けて、国民的納得の得られる議論を早急に本格化する必要がある。教員のなり手不足に対処するとして、文部科学省が来年度予算の概算要求に盛り込んだ給与制度の改正案について、財務省が真っ向から対立する案を示した。公立学校の教員には、教員給与特措法(給特法)に基づき、残業代の代わりに基本給の4%を一律に上乗せした給与が支払われている。文科省は、教員増や勤務時間の削減を進めながら上乗せ分を13%に増やすなどとして、年1千億円規模の増額を求めた。一方、増額を抑えたい財務省は、時間外勤務を減らせば段階的に上乗せ分を増やす案を示した。文科省案では働き方改革は進まず、教員不足は解消されないとする。確かに、給特法の枠組みの下で給与を増やしても、労働環境が厳しいままでは、なり手は大きく増えないと考える教育関係者は多い。働き方改革の実行を強く迫る財務省案を評価する意見もある。だが、いじめや不登校など多くの問題を抱える中、教員らを増やさずに労働時間を減らすのは難しい。1人当たりの業務量が減らなければ、持ち帰り残業や残業隠しといった問題が増えるとの指摘もある。財務省案だけで状況が好転するとは思えない。日本の小中学校教員の仕事時間は、国際的にみても特に長い。中学校には部活動があり、複雑な家庭環境の子や、過度な要求をする保護者への対応などもある。過酷な労働環境を嫌って志願者が減り、教員不足は常態化しつつある。いじめや不登校は早期対応が大切なのに、一人ひとりの子どもと十分に向き合う余裕がない教員が多い。改善に必要なのは、教員やスクールカウンセラーなどの充実だ。政府は、省庁間の綱引きに終わらせず、社会の未来を左右する教育政策の優先度を上げ、どう財源を確保すべきか、トータルな議論を深めてもらいたい。働き方改革を強力に推し進める仕組みの構築も急務だ。教育委員会が教員の健康を守る役割を果たせていないなら、第三者が目を光らせる仕組みの導入を検討してもよい。学校現場に意識改革を促し、教員が心身ともに余裕を持って能力を発揮できる環境を整備しなければならない。 <女性の人権・職業選択の自由・職業教育> *5-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA067I30W4A101C2000000/ (日経新聞 2024年11月7日) 103万円だけじゃない「年収の壁」 働き控えの要因に、「103万円の壁」ポイント解説① 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党が掲げて話題となっている「103万円の壁」だけでなく、106万円や130万円といった壁もある。それぞれの内容を知ることが働き方や経済政策を考えるカギになる。まずは税の壁だ。パート労働者の年収が100万円を超えると住民税、103万円を超えると所得税がかかる。所得税は基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円あるため合計額の103万円までは税金がかからない。課税されるのは103万円を超えた部分だけなので、税負担が発生しても年収が増えれば手取り自体は増えていく。一見すると「壁はない」ように映る。ところが、実際には年収が103万円を超えないように働く時間を抑える人が少なくない。103万円を超えると企業が配偶者手当を打ち切るケースが多く、世帯収入が減るのを避けようとするためだ。19歳以上23歳未満のアルバイト学生は103万円を超えると特定扶養控除がなくなって親の税負担が一気に増える。この影響を避ける狙いもある。106万円と130万円は社会保険料の壁だ。51人以上の企業に勤めるパート労働者なら年収が約106万円に達すると、社会保険に加入する義務が発生して保険料を払わなければならない。年収130万円以上になると企業規模に関係なく加入する必要がある。年収106万円で社会保険に入ると、年15万円程度の社会保険料の負担が発生する。105万円までで働くのをやめた場合よりも手取りが減ってしまう。加入前よりも手取りを増やすにはおおむね年収125万円になるまで働く必要があり、負担感が大きい。年収150万円の壁は配偶者特別控除に関係する。この金額を超えると配偶者特別控除が段階的に減り始める。手取りは働いた分だけ増えるものの、夫の税負担が増えるため働き控えの一因となる。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/74fb418a8a406caff427548b8fef9561179c72eb (Yahoo 2024/11/8) 基礎控除等の「103万円の壁」が178万円に拡大した場合の影響とは?国民民主党の躍進で話題のテーマを解説 令和6年10月に行われた衆議院選挙で国民民主党が躍進しましたが、国民民主党が掲げていた公約の1つに「基礎控除等を103万円から178万円に拡大(※)」というものがあります。基礎控除等の額が実際に上がるかどうかは今後の話ですが、今回はいわゆる103万円の壁が178万円に移動した際に起こり得る変化について解説します。 ●103万円から178万円に引き上げる根拠は? 国民民主党が基礎控除等を103万円から178万円に引き上げようとしている根拠として、最低賃金上昇率があります。バブル崩壊後、平均年収はほぼ横ばいなのに対し、最低賃金については約30年前の1995年から1.73倍になっています。現在の基礎控除等の103万円を1.73倍すると約178万円となりますので、178万円の数字には一定の根拠が示されています。 ●控除額の引き上げによる変化1:所得税の減税効果 国民民主党は、基礎控除等を103万円から178万円に拡大した場合、大きく3つの効果があるとしています。1点目は、所得減税の効果です。所得控除等の額が大きくなれば、その分だけ課税所得金額は減りますので、算出される所得税は小さくなります。減税「額」は所得が多い人ほど大きくなりますが、減税「率」で考えた場合、控除額の拡大は低所得者ほど恩恵があるとしていますので、働いている人にとっては一定の節税効果が期待できます。 ●控除額の引き上げによる変化2:被扶養者の労働時間の確保 2点目は、扶養されている人の労働時間を調節できるようになる効果です。所得税では、扶養している配偶者や子どもの数に応じて、配偶者控除や扶養控除を適用できますが、扶養対象者となる人の所得金額が一定以上になると控除を適用できなくなります。扶養されている人の中には、扶養の枠を超えないよう労働時間を調整している方もいますので、103万円の壁が働く時間を短くしている要因の1つとされています。基礎控除等が178万円まで拡大すれば、扶養対象のまま働ける時間も長くなりますので、控除額の引き上げは節税効果だけでなく、労働時間を延ばすことで収入を増やす効果もあります。 ●控除額の引き上げによる変化3:労働者不足の解消 3点目は、最近社会的な問題となっている企業の労働者不足の解消です。現役世代の人口減少も、労働者不足となっている業界が増えている要因ですが、年収の壁も労働者不足を招いている要因です。世の中にはパートやアルバイトをしている人もいらっしゃいますが、働いている人が家族の扶養となっている場合、扶養対象者に収まる範囲で働きます。最低賃金の引き上げが話題となっていますが、時給が上昇すれば103万円に達するまでに要する時間は短くなりますので、被扶養者が年間で働ける時間は時給が上がるほど少なくなります。国民民主党の玉木代表によると、学生などをアルバイトとして採用している企業は、1人当たりの労働時間が減少したことで、年末の忙しい時期に働ける人を確保できないことが問題となっていると指摘しています。減税に関する施策は基本的に労働者に対するものが多いですが、103万円の壁については労働者側だけでなく、雇用側にとってもメリットがある話です。103万円の壁が動くかどうかは国会で議論されることになると思いますが、もし国民民主党の主張がそのまま通れば、多くの方が節税効果等を享受できる可能性が高いです。 *5-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241113&ng=DGKKZO84751960T11C24A1EP0000 (日経新聞 2024.11.13) 103万円の壁ポイント解説(4)178万円案、財源課題 国民民主「消費活発に」 税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指す「年収の壁」。国民民主党は衆院選公約に基づき、所得税がかかり始める「課税最低限」を103万円から178万円に上げるよう求め、与党と協議している。所得税は収入から一定額を除いた金額に税率をかける。会社などに勤める人は給与所得控除55万円と基礎控除48万円を足した年103万円までが非課税となる。控除額は1995年まで物価上昇に合わせて引き上げられていた。その後はおよそ30年間、103万円のまま据え置かれている。国民民主は最低賃金の上昇率1.73倍にあわせて上げるべきだと提起する。178万円への引き上げによって年収200万円の人で所得税と住民税を合わせた税負担が9.1万円から5000円まで減ると見積もる。政府は国民民主の訴える通りに控除枠を広げると7兆~8兆円の税収減となると試算する。一律10%で課している地方税収の減少が4兆円程度と、所得税の減収よりも大きくなる計算だ。2024年度当初予算で見積もった消費税収(23.8兆円)の3分の1に相当する巨額の財源について、国民民主は税収の上振れや予算の使い残し、外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金を充てると説明する。玉木雄一郎代表は「7兆円分、国民の『手取り』が増えれば、消費も活性化し、企業業績も上がり法人税収も消費税収も増える」と主張する。政府の試算ほど税収は減らないとの考えも示す。年収の高い人ほど減税額が大きくなるとの批判については、「今、払っている税金と比較した場合の『減税率』は明らかに所得の低い人ほど大きくなる」と反論している。 *5-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16085774.html (朝日新聞 2024年11月17日) 「103万円の壁」引き上げ、地方悲鳴 税収減「たちどころに財政破綻」 国民民主党が実現を訴える「103万円の壁」の引き上げに対し、地方自治体で懸念や反発が広がっている。実施で生じるとされる税収の減少が、苦しい自治体財政を直撃しかねないためだ。「国民民主のおっしゃる通りやった場合は、たちどころに財政破綻(はたん)するだろう」。強い言葉で懸念を表明したのは、全国知事会長を務める宮城県の村井嘉浩知事だった。13日の記者会見で「税収が減れば結果的に住民サービスが下がる。非常に心配している」と語った。国民民主の訴えは、所得税の非課税枠「103万円」の引き上げとともに、地方税である住民税の非課税枠も引き上げを求めるものだ。政府は、税収減は国と地方あわせて7兆~8兆円となり、うち地方税分は4兆円程度と試算した。村井知事は、政府試算を前提に推計したとして、県と県内35市町村の住民税関連で約620億円の税収減になると発表。「私が総理ならば首を縦に振らない」と語った。総務省によれば、神奈川県や仙台市など、少なくとも30以上の県や市が、税収減への懸念を表明している。多くは、実施するなら減収分を穴埋めする措置が必要だと訴えているという。国民民主は、自治体の懸念に対する解決策を示していない。玉木雄一郎代表は7日、記者団に対して「(解決するのは)政府・与党の責任だ。我々は予算の全体像はわからない」と述べた。それでも、過半数割れした与党は、政権運営に必要な協力を得るために国民民主の要求を無視できない。今後本格化する協議の行方を、関係者は固唾(かたず)をのんで見つめている。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241109&ng=DGKKZO84689270Z01C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.9) 「106万円の壁」撤廃へ 厚生年金の対象拡大 厚労省が調整 週20時間以上に原則適用 厚生労働省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃する方向で調整に入った。配偶者の扶養内で働く人が手取り収入の減少を意識する「106万円の壁」はなくなる。労働時間要件は残る見通しで、週20時間以上働くと原則として厚生年金に入ることになる。同省は企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃する方針も固めている。賃金要件の月8.8万円は、年収換算で106万円程度となる。実現すると200万人が新たに対象になる試算だ。25年は5年に1度の年金制度改正の年にあたる。厚労省は近く開く審議会で要件の見直しについて議論して、年末をめどに詳細を詰める。25年の通常国会で改正法案を提出する考えだ。賃金要件はこれまで、年金や医療の社会保険料を払うため手取りが減ることから、就業時間を短くするなど労働者の働き控えにつながるとの指摘がされていた。ただ、社会保険に加入することで、労働者は将来受け取る年金を増やすことができるほか、医療保険の保障として、傷病手当金など手当が手厚くなるメリットがある。改正の背景には近年の最低賃金の上昇がある。24年度の最低賃金の全国加重平均は1055円で、23年度から51円上昇した。週20時間働くと月額賃金が8万8000円を上回る地域が増えており、厚労省は将来的に賃金要件が事実上不要になると判断した。今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しだ。学生除外要件も残す。企業規模要件と賃金要件はなくなり、さらに5人以上の個人事業所は全ての業種が対象になる方向だ。現行制度では、配偶者の扶養内で働くパート労働者は、従業員51人以上の企業で週20時間以上、月額賃金8.8万円以上、学生ではないといった要件を満たすと、厚生年金に入る必要がある。厚生年金に加入することで老後の低年金リスクを軽減できるほか、加入者が増えれば将来世代の年金の受給水準を改善する効果も期待できる。 *5-3-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241113-OYT1T50280/?utm_source=webpush&utm_medium=pushone (読売新聞 2024/11/14) 「夫婦別姓」で揺さぶりかける立憲民主、自民・公明の一部取り込み図る…衆院法務委員長ポスト獲得で議論主導 立憲民主党が、選択的夫婦別姓制度の導入に向けた議論で自民党に揺さぶりをかけている。議論の場となる衆院法務委員会の委員長ポストを獲得したことで国会での議論を主導し、導入に賛成する公明党や自民内の一部議員を取り込みたい考えだ。立民の辻元清美代表代行は13日、党ジェンダー平等推進本部の会合で、選択的夫婦別姓を導入する法案の早期提出を目指す考えを示し、「公明や自民の一部の人にも呼びかけて、国民運動として実現に向け進めていきたい」と意欲を示した。立民の野田代表は選択的夫婦別姓導入の布石として、衆院法務委員長に立民の西村智奈美衆院議員を就けた。委員長は委員会開催や議事進行などで大きな権限を持つ。野田氏は8日に党のX(旧ツイッター)に投稿した動画で、法務委員長ポストを「どうしても取りたかった」と説明。選択的夫婦別姓について、「野党は全部、一致・協力できると思うし、公明も多分賛成で、非常に効果的な委員会だ」と期待感を示した。選択的夫婦別姓を巡り、自民内では、保守派を中心に反対論が根強いものの、9月の党総裁選に立候補した小泉進次郎・前選挙対策委員長や河野太郎・元デジタル相が肯定的な姿勢を示すなど、賛否は割れている。公明は衆院選公約で「導入を推進」と明記しているほか、野党では国民民主党や共産党などが導入に賛成の立場だ。野田氏は与野党の賛成派をまとめれば、衆院で過半数を確保し、導入のための法案を可決することも可能だとみている。11日のテレビ番組では「少なくとも来年の通常国会の冒頭には(法案を)出せるよう環境整備をしたい」と語った。立民内には、自民に参院での法案可決、成立を迫るため、「来年度予算への賛成を交換条件とすることも可能だ」(ベテラン)との意見も出ている。ただ、夫婦同姓を見直すことは家族観や社会のあり方に大きな影響を与えるため、立民中堅は「丁寧な合意形成を図るべきで、与党との取引材料に利用していいテーマではない」と指摘した。 *5-3-2:https://ippjapan.org/archives/7266 ( 2022年9月6日) 日本における「氏」の役割と今後の方向性 —選択的夫婦別氏制の検討— ※IPP-Youth政策情報レポートは、若手研究者および学生等の政策研究グループである「IPP-Youth政策研究会」がまとめたレポートです。 第一章 はじめに 近年、わが国の「家族」の在り方が大きく変わってきている。例えば、過去30年で世帯構造の構成は大きく変わった。いわゆる「標準家族」とされていた「夫婦と未婚の子のみの世帯」は39.3%(1989年)から29.1%(2018年)に減少している(厚労省2018)。他方で「単独世帯」は20.0%から27.7%に、「夫婦のみの世帯」も16.0%から24.1%に上昇している。その背後には、晩婚化・非婚化、少子化、離婚の増加、世代分離など、様々な要因がある。また1997年以降、「共働き世帯」数が「男性雇用者と無業の妻」世帯数を上回り、その後も増加を続けている。高度経済成長期に大衆化した「夫は仕事、妻は家庭」という家族モデルも過去のものとなりつつある。それに伴い、夫婦の氏の在り方を含む家族に関わる様々な制度・政策について、改革を望む声が多くのメディアに取り上げられるようになった。私たちは改めて、それらの課題を見つめなおす重要な時を迎えている。本稿では、昨今活発化している選択的夫婦別氏制を巡る議論に着目し、日本社会において「氏」の果たす役割と重要性を考察することを通して、今後の「氏」の在り方に関する方向性について検討したい。以下では、まず第二章においてわが国における「氏」をめぐる歴史的経緯を紹介し、第三章で日本において「氏」が夫婦・家族関係に与える影響について考察し、第四章で日本における「氏」の特徴と役割について検討する。そして以上の議論を踏まえて、第五章において具体的な制度の方向性について検討していきたい。 第二章 「氏」に関する歴史的経緯と現状 第一節 歴史的経緯と法制度の現状 まず、日本における「氏」の歴史をさかのぼってみる。江戸時代、氏を持つことは武士の特権であり、庶民は公には氏をもっていなかった。しかし、「屋号」という形で「家」を示す名称は広く使用されていた。それが、明治3年の太政官布告にて庶民にも氏の使用が許され、明治8年には氏の使用が義務化された。当初、妻の氏は実家の氏を用いること(夫婦別氏制)とされたが、既に夫婦同氏の意識や慣行が庶民の間で広まっており、妻が夫の氏を称することが慣習化していったと言われている(『明日への選択』編集部 2021、法務省HP)。明治31年の民法成立時、江戸時代に発達した「家制度1」が民法の中で規定され、家を同じくすることにより、同じ氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。戦後の民法改正に伴い、「家制度」は廃止され、夫婦は、夫または妻の氏を称すること(夫婦同氏制)とされた。改正民法は、旧民法以来の夫婦同氏制の原則を維持しつつ、男女平等の理念に沿って、夫婦は、その合意により、夫または妻のいずれかの氏を称することができるとした(法務省HP)。2022年現在、下記の通り夫婦は婚姻の際に同一の姓を称し(民法第750条)、子は親の氏を称することとされている(同法第791条)。 ■ 民法(明治二十九年法律第八十九号)抄 (夫婦の氏) 第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。 (子の氏) 第七百九十一条 嫡出である子は父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚した ときは、離婚の際における父母の氏を称する。 2 嫡出でない子は、母の氏を称する。 第二節 選択的夫婦別氏制をめぐる経緯 「選択的夫婦別氏制」についての議論は、女性の労働参加率の上昇に代表される女性の社会進出や、男女平等を推進する社会的気運の中で起こってきた。1979年に国連総会において女子差別撤廃条約が採択され、1985年に日本が当該条約に批准した。翌年には労働基準法の改正とともに男女雇用機会均等法が制定された。このような法制度の改革を背景として、1991年の法制審議会民法部会(身分法小委員会、以下単に「民法部会」)において夫婦別姓についての審議が開始された。1994年から1996年にかけて議論が重ねられ、1996年に選択的夫婦別氏制が明記された「民法の一部を改正する法律案要綱2」が答申された。しかし、その後、国民各層からの反対を受けて本法律案の国会提出は断念された。その後、表立って目立った動きはなかったが、2015年に最高裁大法廷にて夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が出て以降、各所で議論が再燃している。2021年には自民党内において選択的夫婦別氏制の賛成派と反対派の議論が活発化し、関連する議員連盟が成立した。同年10月には最高裁大法廷にて、夫婦同姓を定めた民法規定は合憲であるという判決が再度出されたが、その制度の在り方については、国会で論ぜられ判断されるべき事柄であることも明言された。10月末日に行われた衆院選においても、各党が氏のあり方についての公約を掲げ、国民が注目する論点の一つとなった。 第三章 選択的夫婦別氏制度が家族に与える影響 我が国における選択的夫婦別氏制の導入に関する議論は、主に個人の権利と法律の観点から行われることが多く、家族への具体的な影響を扱った論考はあまりない。本章では、夫婦と子供のアイデンティティの観点から、選択的夫婦別氏制の影響を論じる。 第一節 「夫婦アイデンティティ」への影響 まず、「夫婦アイデンティティ」に着目して考えてみる。夫婦アイデンティティとは、「私たちはこのような夫婦である」という感覚を指す(Emery et al. 2021)。夫婦は、結婚前は別々の個人であったが、結婚後は生活様式や外部との関わり方にある程度の共通性が生じてくる。そうした共通性に対する自覚と、それが一貫して続いているという認識が夫婦アイデンティティの要素である。夫婦アイデンティティが安定している時、夫と妻が共に「わたしたち」として物事を判断しやすく、夫婦の関係へのコミットメントが高まりやすい。一方で、何らかの事情により、共有していた価値観や信念、優先事項に疑問が生まれると、夫と妻が物事の判断基準を個人の内に求めるようなる。そうすると、「わたしたち」感が揺らぎ、関係を維持する力が弱まるという。安定した夫婦アイデンティティを形成するためには、夫婦が互いに適応していくことが必要となる。夫婦としての家庭生活と友人関係や仕事のバランス、日常生活や性生活の取り決め、互いの実家との関わり方、子供を産む時期や人数などに関して話し合い、ルール作りをしていくことが適応につながる(野末 2015)。しかし、夫婦の互いへの適応は、決して容易なことではない。互いに適応するためには、夫婦が互いの生活や考え方をすり合わせる必要があるが、元々夫婦はそれぞれ別々の考え・習慣をもった家庭で育った他人である。そのため、日本人同士の夫婦でも「異文化結婚」と言ってよいほど、夫婦や親としての役割観、男女の性質に関するイメージ、家事や子育ての仕方、人間関係のパターンなどあらゆることが異なっている(野末2019)。一方で、夫婦という関係は特別視されるため、他の関係以上に相手への期待が高い。その期待と現実の間に生まれた葛藤を解決できない場合、失望や怒りを覚えたり、結婚自体を後悔したりすることもある(野末2015)。夫婦アイデンティティの形成とは、夫婦の違いを前提に互いの立場をすり合わせ、夫婦という連体として物事の進め方とその根底にある考え方、情緒的な支え合いの在り方を調整していくことだと言えよう。このように見ると、夫婦アイデンティティは結婚後即座に安定するものではなく、少なくとも新婚期をかけて、葛藤をはらみながら徐々に醸成されるものだと言える。そうだとすれば、夫婦同氏は夫婦アイデンティティ安定にとって、重要な役割を果たしている可能性が高い。内閣府が2021年に実施した世論調査によれば、「婚姻によって、ご自分の名字・姓があいての名字・姓に変わったとした場合、どのような感じを持つと思いますか。(〇はいくつでも)」という質問に対し、54.1%が「名字・姓が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と回答しており、39.7%が「相手と一体となったような喜びを感じると思う」と回答した(図1、内閣府2022)。この調査結果からは、結婚にともなう改姓が、「新たな人生」の始まりと夫婦の「一体感」の象徴として認識されていることがわかる。すなわち、夫婦同氏は、新しく夫婦アイデンティティを形成せねばならない新婚期の夫婦にとって、葛藤があっても自分たちは結びついているという感覚を与えるセーフティネットの役割を果たしている可能性があるのである。他方で、選択的夫婦別氏制を導入した場合、婚姻時に全ての夫婦が同氏か別氏かの選択をする必要が生じる。また、制度的には「家族名としての氏」が消失することになる。仮説的にではあるが、選択的夫婦別氏の導入は、日本の夫婦が安定した夫婦アイデンティティを形成することを困難にする一因となる可能性が提起される。 第二節 子供への影響 次に、子供への影響を考えてみる。選択的夫婦別氏制の導入を検討する際に、避けて通れないのが「子供の氏」の検討である。多くの場合、子供は両親の結婚時には生まれていないか声をあげられるほど成熟していない。そのため、夫婦にとっての「個人の尊厳」を優先するあまり、子供の利益は軽んじられる可能性が高く、配慮が必要である。子供が両親と同氏であることは、子供に家族への帰属意識を育み、安心感を持たせる効果がある。他方で、夫婦が別氏を選択することで、子供の氏の選択という新たな課題が生じることが指摘されている(篠原 2021、『明日への選択』編集部2021)。篠原(2021)は、夫婦同氏制の改正を目指す場合、子の氏の決定の仕組みについての検討が必須となると指摘している。氏が個人のアイデンティティの基盤を成すとすれば、子供のアイデンティティの基盤となる氏を決定する仕組みの整備は、「子供の利益」の観点から求められる。いかなる仕組みとなるとしても、子供の氏を「早期かつ安定的に決定する」ことが子供の利益となる。子供の氏の決定が、夫婦アイデンティティの不安定化を招くことのないよう、慎重な制度設計が必要となるだろう。世論も夫婦別氏が子供に与える影響については懸念を抱いている。内閣府(2022)の世論調査において、「夫婦の名字・姓が違うことによる、夫婦の間の子どもへの影響の有無について」、約7割(69%)の人が「子供にとって好ましくない影響あると思う」と回答している。家庭内で父母が子供に対して情緒的安定を保障することは重要な家族機能であるが、夫婦が別氏であること(片方の親と氏が異なること)や、子供の氏の決定に関する事柄が、子供の情緒的安定を損ねるようなことは防ぐべきである。夫婦アイデンティティの形成、そして子供を含めた家族アイデンティティの形成に対して、選択的であろうと夫婦別氏が与える負の影響についての考慮はあってしかるべきである。国際結婚した家族など、同氏でない家族でも十分な夫婦・家族アイデンティティを形成しているという意見もあるが、次章で扱うように、氏のはたらきは各国の文化によって異なる。国際結婚など特異な文化的前提を持つ例外をもって、夫婦同氏のはたらきを軽視するのは拙速である。その影響範囲が正確に想定できない事柄については、できるだけ小さな変更で対応することが望ましい。 第四章 日本における「氏」の特徴と機能 我が国では、各国と比較して、選択的夫婦別氏制を導入していないことが時代遅れのように語られることがある。しかし、各国の文化によって「氏」の意味合いは異なる。したがって、選択的夫婦別氏制度の導入を検討するにあたり、「氏」や家族に関わる文化の影響を考察しておく必要がある。本章では、日本における「氏」が示す内容と、その機能について論じる。 第一節 文化による「氏」の意味の違い 各国の夫婦の氏に関する制度を見てみると、イギリス・アメリカは氏の変更は基本的に自由であり、オーストラリア・フランスは同氏、別氏、結合氏(双方の氏をつなげた氏)のいずれも可、ドイツは同氏が原則で別氏・結合氏も可、中国は別氏が原則で同氏・結合氏も可、イタリアは夫が自分の氏で妻は自分の氏または結合氏、韓国は別氏が原則となっている。夫婦別氏が可能な国もあるが、氏のあり方は国の文化によって異なる点に着目する必要がある。まず、氏が意味するものにおいて違いがある。名前に関する人類学の議論によれば、名前には①「身分規定の認識としての名前」と②「自由な創造物としての名前」の二種類がある(上野 1999)。上述した中では、少なくとも中国・韓国の氏は氏族名・家族名を表し、①の「身分規定の認識としての名前」に相当する。対して、英米は氏の変更が自由であることから、②の創造物としての性質を持つと考えられる。日本の氏も世代を超えて受け継がれること、家族全員が同じ氏を名乗ることから、①の「身分規定の認識としての名前」に相当するといえる。ただし、同じ「身分規定の認識としての名前」としての氏を持っていても、中国・韓国と日本の氏が表す集団の性格は異なる。隣国の韓国や中国は原則別氏だが、それは血統を重要視しており、歴史的にも生家の氏を名乗り続けることが当然とされているためである。特に、韓国の場合は、誰がどの先祖を祀るのかという祖先祭祀の秩序が重視され、家族より広く始祖を同じくする父系親族組織への所属を表すという意味が氏にはある(仲川 2016、上野 1999)。一方、日本の氏も古くは「家(イエ)」を表し、代々継承されるものではあるが、「家」は祖先祭祀の単位ではない。上野(2003)によれば、日本では韓国のような縦の親族組織(単系親族組織)は部分的にしか存在せず、祖先祭祀の単位は「家族」である(上野 2003)。日本の「家」の性格は、財産の共有範囲や経営共同体のまとまりであるとされる。百姓身分においてすら、そのような「家」が戦国時代(16世紀)に成立し、武士の前以外では「苗字」に相当するものが使用されていた(坂田 2016)。それが、明治民法の成立を契機に、「家」に所属していた家産の所有権が家長に移されたことで(宇野 2016)、氏の表す範囲が現在の「世帯」に相当する家族へと変化したと考えられる。つまり、日本の氏は、明治以前はその氏が示す「家」への、明治以降は主に世帯としての家族への帰属を表す身分関係を表示する役割を持っていたのである。ただし、韓国のように完全な縦の親族関係を示すものではなく、生活を共にする共同体としての「家」「家族」を指示していたと考えられる。このように、氏に関係する制度は、各国の異なる歴史的背景や文化を反映している。そのため、他国の状況は日本に夫婦別氏を導入する理由にはならない。 第二節 日本における氏の身分関係表示機能 では、氏のはたらきに関わる日本の文化的特質とはどのようなものか。それは、日本人に特徴的な「うち」と「そと」の区別である。日本人は、「うち」と「そと」の中間にいる人々から氏で呼ばれることにより、その人々が持つ結婚・家族に関わる規範・期待を自分の行動に反映してきた。多くの関係する研究において、日本人の人間関係のあり方は、人々の親密さの距離に応じて三層に分類されている。その三層とは、①「内」である親しい身内や仲間の世界、②「中間」である遠慮や義理や体面がからむ知人の世界、③「外」である遠慮も義理も働かない無縁の他人の世界の三層である(岩田 1982)。このうち、①の親しい身内や仲間の世界は明確に「うち」であり、互いに無理を言っても許され、私的に立ち入ったことをうちあけても許される。一方、③の無縁の他人の世界は明確に「そと」であり、互いに期待を持っておらず、裏切られることもないので、遠慮することなく粗野な行動を取ることもできるという。注目したいのは、②の知人の世界である。②の関係は、互いに名前や地位を知り、個人的な接触によってある程度人柄を知っている顔見知りのような関係である(岩田1982)。あるいは直接には知らなくとも何らかの既存のネットワークで支えられた範囲の人間関係といわれる(中根1972)。そこではある種の「道義的期待」が相互に形成され、この期待を裏切らないであろうという相手に対する一種の信頼感が形成される。そして、こうした「道義的期待」が、義理や遠慮として表れる日本人の「責任意識」の中核をなすという(岩田1982)。ここで重要なのは、この②の知人関係では、氏で呼びあうことが一般的だということである。橘(2010)は、誰に対してもファーストネームで呼びかける文化のある英語圏等と比較して、「日本人のコミュニケーションは良くも悪くもお互いが一定の心の距離を保ち、相手から離れた遠いところにおいて行われる」と述べている。つまり、日本人は氏で呼び合うことによって互いの距離を測り、「うち」と「そと」を区別しているのである。日本人の人間関係における以上のような特徴は、日本において氏が果たす「身分関係表示機能」の重要性を浮き彫りにする。②の知人関係にある人々は互いに氏で呼び合い、その人間関係は日本人の責任意識の元となっている。つまり、日本人は②の知人関係にある人々に、家族への帰属を示す氏で名乗ったり呼ばれたりするとき、家族または夫婦に関する規範の遵守を期待されていると感じ、その期待を行動の基準とする可能性が高い。具体的には、夫婦間の貞操や家族の生活保障に関する権利義務などについての規範の遵守が期待されると考えられる3。選択的夫婦別氏制の導入により、氏から家族名としての性質が失われる場合、家族に関わる規範の遵守を期待される機会が減る。まず、別氏を選択する夫婦は、共通の氏という、②の知人関係にある人から見て、婚姻関係にあるか否かを判別する最もわかりやすい要素をはじめから持たないことになる。また、同氏を選択する夫婦も、同一の氏で名乗り呼ばれたとしても、その氏が家族名として扱われる機会は減る。例えば、結婚式や葬儀などの冠婚葬祭において、従来は「○○家・△△家式場」「◆◆家斎場」などのように案内されたが、選択的夫婦別氏制度の導入により個人名に置き換えられていくだろう。それに応じて、参席者も冠婚葬祭を家族というより個人の行事として受け取ることが考えられる。このように、別氏でも同氏でも、選択的夫婦別氏制度により全ての夫婦は規範遵守を期待される機会が減りうる。それにより、日本人の家族に関する規範意識や行動は大きく左右されるだろう。以上のように、夫婦の氏が持つ意味は各国の文化によって異なり、氏に関係する制度は単純に国家間で比較することができない。また、人々が氏で呼び合うことが一般的な日本社会においては、氏が家族への所属を表すかどうかは、人々が家族に関する規範の遵守を期待されたと感じる機会の多さと関係している。そして、選択的夫婦別氏制度の導入はその機会を減らす可能性が高い。選択的夫婦別氏制度を検討するにあたり、これらの点を考慮に入れる必要がある。 第五章 具体的な政策の方向性—旧姓の通称使用の法制化— 第三章及び第四章で考察した氏の果たす役割を踏まえて、日本においては夫婦同氏制を原則とすべきであると考える。ただし、日常生活における不利益は解消されるべきであり、家族名としての氏を残したまま、氏を変更する個人の尊厳を最大限尊重する方法を検討すべきである。家族にかかる法制度は人々の生活のあり方、国家のあり方に影響し得る重要な事柄であるため、中長期的な影響が定かでない中においては、できるだけ小さな変更で現実にある課題を解決することが望ましい。具体的な方向性としては、旧姓の通称使用の拡大、さらには法制化を支持する。参考までに、旧姓の通称使用を拡大する場合と、選択的夫婦別氏制を取り入れる場合の差異について整理する。表2の通り、旧姓の通称使用を拡大する場合、旧姓を通称使用する人は実質的に二つの氏を使い分けることになる。ただし、家族名としての共通の氏は保持されるので、家族としての身分表示機能は保たれる。当然、子供も家族共通の氏を持つこととなる。選択的夫婦別氏制を導入する場合、個人の氏は一つであり、家族で見れば別氏家族は家庭内に氏が二つ存在することとなる。また、子供の氏についても検討が必要となる。旧姓の通称使用拡大と選択的夫婦別氏制導入の主な違いは、氏が家族名としての役割を持つかどうか、という点である。以下では、選択的夫婦別氏制に関する主な論点に対して、旧姓の通称使用の拡大を支持する立場から考察する。 ①個人のアイデンティティの喪失について 夫婦同氏制は、改氏によって個人のアイデンティティを喪失させる場合があると指摘されている。氏名は人格の重要な一部であり、選択的夫婦別姓を取り入れることにより人格権を保護することが可能となるという(太田・石野 2010)。先述した通り、内閣府(2022)の世論調査によると、「(結婚に伴い)名前が変わったことで、新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」と答えた人の割合は54.1%、「相手と一体となった喜びを感じると思う」と答えた人は39.7%である。他方で、「今までの自分が失われてしまったような感じを持つと思う」と回答した人は9.7%、「名字・姓が変わったことに違和感を持つと思う」と答えた人は25.6%である(図1)。この結果から、5割以上の人は結婚時に氏が変わることを肯定的に捉えていることがわかる。ただし、少数であれアイデンティティの喪失を感じる人が存在しているのも事実である。太田・石野(2010)によれば、結婚による改姓が人格面で個人のアイデンティティの感覚と強く関連するのは、「自己の同一性を形成しにくい女性」とされている。自己の同一性の安定には、主に青年期までの親子・家族関係が重要である。人格面のアイデンティティについては、夫婦別氏制度による補完機能を強調するよりも、家族支援の課題として考える方が、該当する人のウェルビーイングに資するのではないかと考える。もちろん、個人のアイデンティティを尊重することは重要であるが、社会制度の変更を伴う場合は、社会として守っていくべき家庭や子供の福祉との比較衡量を慎重に行うべきである。個人のアイデンティティの尊重を過度に重視した結果、家庭が軽視されたり、子供の福祉が損なわれたり、ひいては社会の混乱が引き起こされることがあってはならない。既に実施されている旧姓の通称使用拡大によって大半の課題が解決するのであれば、それで十分ではないだろうか。 ②社会生活上の不便・不利益について 婚姻時の改氏によって、社会生活上の不便・不利益が生じることは明らかであり、この点についてはできる限り解決する必要がある。従来、女性は職業活動を行うことが少なかったため、あまり問題として認識されてこなかったが、女性の社会進出に伴い、その課題が浮き彫りとなった。男女を問わず、婚姻して氏を改める人が不便・不利益を被らないようにすることは、当然必要なことである。こうした改氏による不便・不利益は、旧姓使用の拡大・法制化により対応可能である。現在、旧姓使用可能な領域は拡大を続けており、パスポートや運転免許証、マイナンバーカード・住民票では旧姓併記が可能となった。各種国家資格や免許についても、令和4年6月現在、大半の国家資格や免許で旧姓使用が可能となっている4(内閣府男女共同参画局 2021)。確かに、従来の法制化を伴わない旧姓使用の拡大については、効果に疑問が呈されてきた。主に、①旧姓使用を許可する企業や団体により、旧姓を使用できる範囲が異なること、②社会保険や年金、納税など、戸籍名が必要な場合は旧姓を通称として使用できないこと、の2点が懸念されている(鈴木2016、富田2020)。しかし、これらの懸念は旧姓使用の法制化により解消しうる。①の各企業や団体による旧姓使用を認める範囲の違いは、法制化によって旧姓使用の適用範囲を定めることにより、基準を明確にできる。また、②に関して、戸籍名が必要となる法的手続きの問題は、旧姓使用の法制化に旧姓の戸籍への併記を含めることで対応できるという議論もある。以上のことから、旧姓使用を法制化することで、家族名を保持したまま、社会生活上の不便・不利益を最大限解消することができるのではないかと考える。 ③男女不平等の解決策となるか 婚姻に際し氏を変える人の大半は女性であるため、選択的夫婦別氏制の導入により、男女の実質的不平等を解消することができるという意見がある。現行の同氏制は、制度だけ見れば夫婦の同意によって夫または妻の氏を選択するという男女平等の発想に基づくものになっている。内閣府の世論調査(2022)では5割以上の人が婚姻時の改氏に対して肯定的な意見を持っている。つまり、必ずしも強制的に改氏しているわけではなく、両者が納得したうえで肯定的に氏を改めている人も多くいるということである。そして、選択的夫婦別氏制の導入は必ずしも氏に関する男女不平等の是正にはならないという点を強調したい。例えば、仮に選択的夫婦別氏制が導入され、意に沿わない改氏をしなくて済むようになるとしよう。しかし今度は、子供の氏をどうするかという問題が生じる。子供の氏を決める際に、男女間の不平等が形を変えて現れる可能性は十分にあるだろう。実質的不平等を解決するためには、社会生活上の不便・不利益の解消が重要である。旧姓の通称使用法制化によって、氏を改める者とそうでない者との不平等感も薄まることが期待される。 第六章 おわりに 内閣府は「家庭は、子どもが親や家族との愛情によるきずなを形成し、人に対する基本的な信頼感や倫理観、自立心などを身に付けていく場でもある」(内閣府2004)としている。冒頭で述べた通り、世帯構造の構成は近年大きく変わってきているが、家庭が社会の安定と発展に果たす役割が重要であることに変わりない。家族に関わる制度は、人々の日々の生活に直結するものであると同時に、社会のあり方にも大きく影響を及ぼすものである。そのため、日本の社会にとってどのような選択が最善なのか、国会はもちろんのこと、国民の間でも丁寧に議論を重ねて方向性を見出す必要があるだろう。夫婦の氏に関わる制度の在り方については、既に旧姓の通称使用拡大が積極的に行われている。日本の文化や社会風土を踏まえれば、さらなる不便・不利益の解消にむけては旧姓使用の法制化など、夫婦同氏を原則とした対策を検討すべきではないか、というのが本稿の立場である。本稿が、日本における氏制度の在り方を検討する際の一助となれば幸いである。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241117&ng=DGKKZO84854750X11C24A1MM8000 (日経新聞 2024.11.17) エンゲル係数 日本圧迫、G7で首位 時短優先、割高でも中食 消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」(総合2面きょうのことば)が日本で急伸し、主要7カ国(G7)で首位となっている。身近な食材が値上がりし、負担が家計に重くのしかかる。実質賃金が伸び悩むなかで仕事と家事の両立に課題を抱える共働き世帯は、家事の時短のため割高な総菜など中食への依存が強まる。支出に占める食費の割合が高くなりやすい高齢者の急増も係数急伸の背景だ。生活の質の劣化が懸念される。「スーパーの買い物でレジに立つのが怖い」。東京都の40代女性はこぼす。表示される値段は「肌感覚で数年前の2倍」。最近はコメも大幅に値上がりした。「計算すると、食費の割合が30%を超えている」。家計調査(総世帯)によると、日本のエンゲル係数は2022年で26%。経済協力開発機構(OECD)のデータから計算した米英独仏の同時点の水準を上回る。24年7~9月期は28.7%まで上昇するなど傾向は変わらない。係数が20%を下回る米国は、医療費などの負担が極端に重く、相対的に食費の割合が低くみえる面もある。外食機会の多さ、なかでもファストフードの利用頻度が高いかなど各国の食生活にも左右され、単純比較はしにくい。三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「エンゲル係数には各国の食文化も影響する。最高水準だから日本が貧しいとは言えない。ただ、『上がり方』に日本の課題がにじむ」とみる。日本のエンゲル係数は他国より上昇が急ピッチだ。「所得が伸び悩む一方、高齢化の進展も早い」(上野氏)のも要因だ。OECDによると、日本は可処分所得の伸び率がほかの先進国に比べて低迷しているうえ、65歳以上の高齢者の割合はトップで、24年は29.3%を記録した。エンゲル係数が高くなりやすい土台があるなか、物価高が直撃。値上がりの率でみると、「庶民の味」とされる食材ほど上昇が激しい。総務省の消費者物価指数(20年=100)で23年の数値を5年前と比べると、上昇率は鶏肉12%、イワシ20%、サンマにいたっては1.9倍だ。24年前半も同様の傾向が続いた。大和総研の矢作大祐主任研究員は「女性の社会進出の加速も食費の負担増の一因になったのでは」とみる。20代後半や30代前半女性の正規雇用率はこの10年間で約14ポイント上昇した。正社員同士の共働き世帯にとっても、仕事と家事の両立が改めて課題となる一方、働き方改革は道半ばだ。その結果、「割高でも総菜といった中食などに依存せざるを得ない世帯は増える」(矢作氏)。実際、家計調査(総世帯)では食費に占める中食(調理食品)の割合は上昇基調で、23年は15.8%と10年前より3ポイント高い。こうした現状についてシンクタンクのSOMPOインスティチュート・プラスの小池理人上級研究員は「事情が異なる米国のような水準を目指す必要はない」としながらも、「係数の上昇自体は生活レベルの低下の示唆だということも直視すべきだ」と話す。生活の質を保つ策はあるのか。小池氏は企業や政府も含めた「実質賃金の継続的な上昇と生産性向上の取り組み」の必要性を指摘する。矢作氏は「生産性の真の意味合いの整理から始めるべきだ」と訴える。効率よく働くことで長時間労働を是正すれは、短い時間で今と同じかそれ以上の所得が得られる。時間的な余裕が増えれば割高な中食に頼らなくてもすむ。自炊を楽しむこともできる。エンゲル係数の急伸は食にとどまらず、働き方を含めた日本人のライフスタイルのあり方を問いかけている。
| 経済・雇用::2023.3~ | 10:44 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2024,07,06, Saturday
このところ多忙だったため2ヶ月近くもかかりましたが、やっと工事完了となりました。
(1)経済におけるイノベーション(技術革新)の重要性 ![]() 2022.7.25東洋経済 2023.12.25読売新聞 キャノン・グローバル研 2024.6.13日経新聞 (図の説明:1番左の図は、主要国の1990~2021年までの名目1人当たりGDPの推移で、左から2番目の図は、2022年の主要国名目1人当たりGDPだが、この2つから、日本は名目でも著しく順位を下げたことがわかる。また、右から2番目の図は、購買力平価による1人当たりGDPの推移で、購買力平価による日本の伸びも他国と比較して緩やかだ。1番右の図は、人口増加率とイノベーションの関係で、OECD諸国ではこの2つに相関関係のないことがわかる) *1-1は、①経済停滞の原因はイノベーションの欠如 ②技術革新はミクロで、人口動態とは無関係 ③民間企業が主役だが金融や国も役割重要 として、具体的に、④2023年にドイツ(人口は日本の2/3)とGDPが逆転し、日本経済の凋落が続いている ⑤2025年にはインドにも抜かれて日本のGDPは世界5位となる見通し ⑥生活水準と密接な関係を持つ名目GDP/人は、2000年は世界2位、2010年18位、2021年28位まで転落した ⑦購買力平価ベースでは世界38位で、アジアの中でもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に及ばない ⑧GDP/人の水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではなく、「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP) ⑨全要素生産性上昇はイノベーション(技術革新)に依る ⑩日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である ⑪OECD諸国のグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率は相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係がある ⑫日本経済の将来を考えると、人口減少を言い訳にせず、民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要 ⑬日本で生じている人口減少は省力化イノベーションを促す ⑭高齢者増加は高齢者特有の財・サービス提供や介護のハイテク技術活用等を必要とする ⑮日本が抱える人口減少や高齢化の課題は、イノベーションを生みだす素地である ⑯経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくため金融機関の果たす役割も重要 ⑰政府が時代の変化に対応できなければイノベーションを阻害して国力低下を招く と記載している。 上の①~⑰は、全くそのとおりで賛成だ。つまり、国内で誤りを100万回述べても、結果として統計上に表される事実は変わらないため、これまで人口減少を経済停滞の原因として語ってきた無能な政治家・官僚・メディア関係者・経済学者は、誤った情報を無批判に垂れ流し、国民をミスリードして貧しくさせた責任をとって、意志決定する第一線から退くべきである。 特に、⑥のように、1人当たりの名目GDPは2000年の世界第2位から2021年には世界第28位まで転落し、⑦のように、購買力平価ベースでは、世界38位となってシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)にも及ばなくなったのだ。 その理由は、政府の無駄使いによって、日本の国債残高の対GDP比が251.9%と世界第2位のイタリア143.2%を大きく引き離して世界第1位となり、財務省はじめ日本政府は「国民全体が貧しくなれば文句は出ないだろう」と考えて金融緩和を続け、これに他国への制裁返しも加わって、著しい物価上昇を引き起こすことによるステルス増税を行なってきたからで、ここに国民の生活や福利の向上という理念は全く見られないのである。 また、⑧⑨⑩のように、GDP/人の水準を決めるのは、全要素生産性(TFP)であり、全要素生産性上昇はイノベーションに依るのに、(後で詳しく述べるが)日本政府は現状維持に汲々としてイノベーションを阻害する政策をとり、経済を停滞させる政策が多かったのだ。何故か? その上、⑪のように、人口増加率の高さは先進国ではイノベーションとは相関関係がなく、途上国ではむしろ負の相関関係があるのに、各国の人口動態や日本の食料自給率・地球の食料生産力を考えることもなく、「人口減少が問題だ」と叫んできたリーダーは、無知というより故意であろう。何のために、そういうことをしたのだろうか? (2)イノベーションの具体的事例 1)環境は、イノベーションの宝庫だったこと ![]() 2023.7.3、2023.8.25日経新聞 2024.7.5日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、既に再エネ技術はあるのに、新規再エネ導入容量で日本は停滞し、炭素価格《=環境意識》はアジア各国より見劣りする。また、左から2番目の図のように、建物の断熱・設備の省エネ・再エネ・EV利用によって安全で環境にも財布にもやさしいエネルギー政策ができるのに、これらの技術進歩は遅遅としている。そして、右から2番目と1番右の図のように、再エネと比較して危険性が高く、2050年頃にやっと発電の実証実験ができるとされている核融合発電に膨大な国費を投入しているのだ) *1-2-1は、①政府が環境政策の長期的な指針である第6次環境基本計画(以下“計画”)を閣議決定 ②現代社会は気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面と指摘 ③人類活動の環境影響は地球の許容力を超えつつある ④計画は天然資源の浪費や地球環境を破壊しつつ「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘 ⑤経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めつつ「新たな成長」を実現する考え ⑥GDP等の限られた指標で測る現在の浪費的「経済成長」に代わって計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング」を最上位に置いた成長 ⑦計画は森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調 ⑧これを社会変革の契機としたいが、根本的な変革の実現は容易でない ⑨最初の計画ができて30年、この間の経済停滞も深刻だが、日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れ ⑩長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできた ⑪計画の実現には環境省の真価が問われるが、現実は極めてお寒い状況 ⑫計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」と、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘 ⑬首相をはじめ政策決定者や企業のトップが悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが必要 等と記載している。 今頃になってではあるが、①③⑦のように、政府が人類の活動の環境への影響が地球の許容力を超えることを認め、環境政策の第6次環境基本計画を閣議決定して、森林等の自然を「資本」と考える重要性や地下資源文明から再エネ等に基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調したのはよかった。しかし、⑨⑩のように、経産省をリーダーとする既得権益に変革を阻まれ、既に最初の計画から30年も経過した結果、日本は停滞の30年を過ごした上、トップランナーだった筈の環境政策も世界に大きな後れをとったのである。 ただし、②の「気候変動・生物多様性の損失・プラスチック汚染の三つの危機に直面としている」というのは、生物は絶滅と進化を繰り返すものであるため現状維持が何より重要とは限らないし、プラスチック汚染は、環境を汚していないものまで過度に禁止して国民に不便を強いるより、ゴミの分別回収を(いつまでも複雑怪奇で不便なままにしておかず)簡単にして、再利用を進めればよいと思われる。 なお、日本政府が、人間に直接被害を与える放射性物質や化学物質による環境汚染には無頓着で、気候変動については30年前から指摘しているのに、未だ中途半端な対応しかしていないのは何故だろうか。 さらに、④⑤⑥が、新たな成長かと言えば、GDPを増やす方法は、需要者のニーズにあった製品やサービスを提供することであるため、環境や国民の年齢層を無視した製品やサービスしか提供しなければ、需要が減ってGDPも落ちるのが当然である。また、浪費したものは蓄積されないため、いつまでも進歩のない貧しいままの生活が続くのだ。 つまり、国民の「ウェルビーイング」の1要素である国民1人あたりGDPを増やして国民を豊かにするためにも、ニーズに合った技術革新が必要で、無理に化石燃料を浪費して地球環境を破壊しても、国民を豊かにすることはできないのである。 その上、日本の場合は、化石燃料を輸入に頼って国富を外国に流し、国民を貧しくしているため、エネルギーを再エネに変更すれば、国産エネルギーに替わって国富が流出しないという大きなメリットがある。さらに、東京大と日本財団の調査チームが、*1-2-2のように、南鳥島沖のEEZ内等に、レアメタルを含む「マンガンノジュール」が大量に存在することを発表したが、日本政府の動きは鈍く、未だ国内用にも輸出用にも採取していない状態なのだ。 この調子では、⑧のような社会変革はいつまで経ってもできず、⑪⑫⑬のように、環境省だけではなく、首相はじめ政策決定者・企業のトップ等の今後の数年間の取り組みが重要なのだが、省エネや再エネへの資金投入はケチケチしながら、*1-2-3のように、危険な上に大量の熱を発生する核融合に多額の資金を投入するようなことが、日本政府の大きな無駄使いなのである。 2)EV・再エネ・バイオは特にイノベーションのKey技術だったこと *1-3-1のように、経産省も、①失われた30年の状態が今後も続けば、2040年頃に新興国に追いつかれる ②特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ ③日本経済停滞の理由は企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたから ④このままでは賃金も伸び悩み、GDPも成長しない ⑤今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある ⑥停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要 ⑦スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もある ⑧政府も一歩前に出て大規模・長期・計画的に投資を行う具体策を検討 等としているそうだ。 このうち③は事実で正しいが、現在は、④のように、生産性の向上よりも高い賃上げを連呼して労働コストを上げ、円安と物価上昇により原材料費・エネルギー・不動産のコストも上げているため、問題意識とその解決策が逆である。そのため、このような状態が今後も続けば、①⑤のように、名目GDPでもインドに抜かれて世界5位となり、実質GDPはますます減少して、2040年頃には新興国に追いつき追い越されるというのが正しい展望だろう。 そのような中、経産省は、②⑥のように、「停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要」とし、「特に半導体・蓄電池・再エネ・バイオへの積極投資が成長のカギ」としているそうだ。しかし、エネルギー分野では、日本がトップランナーだったEV・再エネで経産省がバックラッシュを行なってイノベーションを妨げ、バイオ分野でも、日本がトップランナーだった再生医療と免疫療法で厚労省が高すぎる(有害無益な)ハードルを作って進捗を妨げたため、イノベーションを進めてきた先端企業の方が淘汰される結果となったわけである。 これらの総合的結果として、*1-3-3のように、抗生物質も、原料物質はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在では抗生物質原料のほぼ全量を中国等の国外に依存している状況で、国産化するのに、またまた、政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を新たに設けなくてはならばいそうだが、その原資は国民の税金なのである。 さらに、イノベーションの源泉は研究開発であるため、⑦のように、スタートアップ・大学・研究所が連携することも重要だが、大企業もイノベーションに繋がる技術開発をせずに、旧来型の技術を護る意志決定だけをしていればよいわけでは決してない筈だ。 そのため、*1-4のように、「教育環境の改善は待ったなしだが、国からの運営費交付金が減って財務状況が厳しい」等として、東京大学が学部学生で現在は入学料282,000円・授業料年間535,800円の授業料を2割上げる検討をしているそうだが、⑧のように、政府が時代遅れだったり的外れだったりする大規模・長期・計画的な投資を行うより、大学への進学率を上げてイノベーションを担える母集団を増やし、イノベーションの基礎となる教育・研究を充実する方が重要なので、充実した教育・研究を行なうに十分な交付金や研究費を大学に支給すべきなのである。 なお、東京大学は授業料全額免除の対象を世帯収入年600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げるとしているそうだが、世帯収入が600万円であっても、535,800円の授業料は夫婦と子1人で自宅通学の場合以外は負担が重すぎる上、親と学生の進路希望が異なるケースでは、世帯収入は学生にとっては何の意味もなく、学生の方が親よりも次の時代を見ている場合も少なくない。そのため、国公立大学の授業料は、下げたり無償化したりすることはあっても、上げるのは論外なのである。 3)技術革新の効果と研究者の処遇 *1-3-2のように、小野薬品工業の売上高は、2014年に癌治療薬「オプジーボ」を発売してから、2023年度までに3.7倍に伸びたそうだ。オプジーボをはじめとする免疫療法は、自己の免疫に働きかけて癌を攻撃させる治療法であるため、標準治療と呼ばれる従来型の癌治療法(薬物療法・手術療法・放射線療法)と異なり、治療を受ける人への副作用が著しく少なく、身体的負担も少なくてすむのが特徴だ。 これが技術革新の効果であり、現在はオプジーボが当初の1/5の薬価になったため、小野薬品が困ったと書かれている。しかし、免疫に働きかける治療法なら理論的にはどの癌にも効く筈であるため、対象となる癌の種類を増やす研究をすれば、皆にとってハッピーな結果になる。そのため、国は、このような技術革新を推進すべきなのであり、間違っても免疫療法を“標準治療”の下位に位置づけるべきではない。 また、このような技術革新を促す研究は容易ではないため、研究者に特許料を支払うことを惜しんではならないし、そういうことをすれば、日本で、もしくは日本企業と研究開発をしたい研究者はいなくなるという覚悟をすべきである。 (3)観光への投資について 1)国立公園の魅力向上について 岸田首相は、*1-5-1のように、①2031年までに全国に35カ所ある国立公園で民間を活用した魅力向上に取り組む ②環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大に繋げる ③地方空港の就航拡大に向け、週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示 ④インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る ⑤2030年に訪日客数6000万人・消費額15兆円が政府目標 ⑥地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策を重点的に取り組む ⑦オーバーツーリズム対策として観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島・高山・那覇等の6地域を加える 等とされた。 私は、これまで大切に維持してきた日本の国立公園を観光に活かすのに賛成だが、適正な入場料を徴収して環境を保全し、大自然を美しく保たなければ、観光地としての魅力もなくなる。そのため、①②はセットであり、高級リゾートホテルだけでなく、長期間滞在できるようなホテルや民宿も必要だと思う。 また、③の地方空港の就航拡大も重要だが、「地方空港に降り立てば、空港に新幹線が乗り入れており、地域内を容易に移動できる」というような利便性も重要な付加価値だ。日本の空港は、何故か、国際空港と国内空港が分かれていたり、空港と鉄道が接続していなかったりして、移動に労力を使わせ、旅行者やビジネスマンに不便な思いをさせているのが現状なのだ。 それでも、④のように、インバウンドは2024年に過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入るそうだ。しかし、山国で面積は九州よりも小さく、人口は約897万人と日本の1/14のスイスは、年間平均観光客数が2500万人、のべ宿泊客数は5500万人で、観光産業収入は2021年に170億スイスフラン(177.07円/スイスフランx170億スイスフラン≒3兆円)であるため、⑤の日本の目標は、スイスと比較すればまだ低い。 私も、*1-5-2の観光列車ユングフラウ鉄道に乗ってユングフラウヨッホに行ったことがあるが、日本人の利用客数が年間10万人以上もいるだけあって、列車の乗換駅にカタカナで「←ユングフラウヨッホ」と書かれていたのには参ったほどだ。 ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3,454mに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅で、麓のクライネシャイデック駅から、スイスの美しい景色を眺め、山の中を繰り抜いたトンネルを通過すると、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登りきり、頂上では欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできる。私が最初に地球温暖化を意識したのは、鉄道で登ってきた地元の老夫婦が「この氷河はどんどん短くなっているのですよ」と言った時だった。なお、帰りは、ハイキングコースを降りることもでき、高齢者や障害者でも観光を楽しむことができるようになっていて、観光地としての配慮が行き届いている。 また、私は、*1-5-3の標高4,478mのマッターホルンにも1990年代に行ったが、ツェルマット(その時からガソリン車禁止だった)からゴルナーグラート鉄道(ツェルマットの街とゴルナーグラート山頂を結ぶスイスの登山鉄道)で展望台まで上り、帰りはハイキングを楽しむこともできるようになっている。スキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園で、納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されていたが、最近の科学で「ヨーロッパ最古」の納屋が発見されたのだそうだ。 一方、日本では、*1-5-4のように、「富士山の麓の観光地でオーバーツーリズムが深刻化している」等として、山梨県富士河口湖町では富士山を隠す黒い幕を設置したり、富士吉田市ではマナー悪化の解決策として人気スポットの有料化を検討していたり、通りの商店から「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」という苦情が出たり、市街地以外の場所でも駐車場やトイレ不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入り等の観光客のマナーの悪さが問題となっているそうだ。 しかし、これらは、観光地としての準備不足に依るところが大きいため、地元の議員や観光協会・商工会議所の会員が、スイスのユングフラウヨッホやマッターホルン等に視察に行き、周囲はどのような整備をしているか等を調査研究して、観光地として長期的に地元の立地を活かす方法を考えた方が良いと思う。 ⑥⑦の地方への誘客促進とオーバーツーリズム対策については、山だけでなく海や川もあり、火山・断層・温泉にも事欠かず、食材が豊富な日本であれば、全国の地域がその特色を活かして観光客を分散受け入れすることができるだろう。そうすれば、スイス並みなら単純計算で42兆円(≒3兆円x14)の観光収入があってよい筈なのだ。それには、オーバーツーリズム対策としての補助金よりも、観光客を分散誘致できる交通体系と地域作りが重要だろう。 2)訪日外国人旅行者向け「二重価格」について *1-5-5は、①地方自治体で訪日外国人旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」検討の動き ②観光資源維持のための財源確保が狙い ③実際に導入する場合は本人確認に手間やコスト ④清元姫路市長は「市民と訪日外国人旅行者との2種類の料金設定があっていいのではないか」とした ⑤大阪市の横山市長も「有効な手の一つ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向き ⑥京都市の松井市長は、地元住民の公共交通料金を観光客より低くする市民優先価格の導入を公約に掲げて当選 ⑦二重価格や外国人からの金銭徴収制度は外国人に対して不公平な印象や歓迎していない印象を与える と記載している。 私も、①について、市民の税金で賄っている施設であれば、市民の入場料を安くしたり、無料にしたりする合理性はあるが、訪日外国人旅行者というだけで日本人との間に二重価格を設定する合理性はないと考える。そのため、②の観光資源維持の財源確保は、全員から入場料を取り、維持管理費を支払っている日本人集団の入場料を割引するのが筋であろう。それなら、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートの提示で、住所を確認すれば③は解決する。 なお、④については、姫路城は姫路市の所有にはなっているが、修復費は国が出しているため、姫路市民だけを割引するのも変である。⑤⑥についても、所有者が誰か、管理費・修繕費を出しているのは誰かによって、その財源となっている集団に入場料の割引をするのは合理性があるのだ。しかし、⑦のように、外国人と日本人に二重価格を設定したり、外国人からのみ金銭を徴収したりするのは、確かに、外国人に対して不公平であり、訪日外国人を歓迎していない印象を与える。 (4)日本の農業について ![]() 農業白書 ミノラス 農水省 (図の説明:左図は少し古い資料だが、日本では今でも小麦の消費量に対して生産量が著しく少ないため、消費量の多くを輸入している。また、中央の図のように、米と麦の国民1人あたり年間消費量は、「小麦は一定」「米は著しく減少」だが、その理由は、栄養指導の効果と他の食品から栄養をとることが可能な現在の経済状況がある。そして、右図は、米・小麦・肉類の生産量だが、米は減ったと言っても余り気味、小麦や肉類はその多くを輸入依存という状況だ) ![]() ![]() ![]() 2022.9.26日経新聞 2023.7.27読売新聞 農水省 (図の説明:左図のように、2020年の小麦の自給率は15%程度にすぎない。また、これらの結果、中央の図のように、日本のカロリーベースの食料自給率は、他の先進国と比べても低迷し続けており、右図のように、2022年度では、生産額ベースの食料自給率は58%あるものの、カロリーベースの食料自給率は38%にすぎないのである) 1)「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内改定について 令和6年改正後の食料・農業・農村基本法(以下、「同法」)は、第1条で「食料・農業・農村に関する施策について、食料安全保障確保等の基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、食料・農業・農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする」と述べている(https://www.maff.go.jp/j/basiclaw/attach/pdf/index-12.pdf 参照)。 また、同法第2条は「食料は、人間の生命維持に欠かせないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることに鑑み、将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態)の確保が図られなければならない」としている。 価格に関しては、同法第23条で「国は、食料価格形成に当たり、食料の持続的供給に要する合理的な費用が考慮されるよう、食料システムの関係者による理解の増進、合理的費用の明確化促進、その他必要な施策を講ずる」とし、第39条で「国は、農産物の価格形成について、消費者の需要に即した農業生産を推進するため、需給事情及び品質評価が適切に反映されるよう、必要な施策を講ずる。国は、農産物価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずる」としている。 そして、政府は、*2-1-1のように、「食料・農業・農村基本計画」を2024年度内に改定して食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めたそうだが、食料の需要者である国民は、物価上昇で実質賃金が下がり、年金も“マクロ経済スライド”によって所得代替率が下がり続けてエンゲル係数が上がっているため、これ以上値上げすれば、いくら合理的費用を明確化しても国民が良質な食料を合理的な価格で入手することはできないと思われる。 一方、エネルギーや農業資材も輸入に頼って円安・戦争による価格高騰の打撃を受けているため、同法第42条の「国は農業資材の安定的な供給を確保するため、輸入に依存する農業資材及びその原料について、国内で生産できる良質な代替物への転換の推進、備蓄への支援その他必要な施策を講ずる。国は、農業経営における農業資材費の低減に資するため、農業資材の生産及び流通の合理化の促進その他必要な施策を講ずる。国は、農業資材価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずるものとする」は重要だ。 これらの要請を同時に満たすイノベーションの例が、同法第45条「国は、農業と農業以外の産業の連携による地域の資源を活用した事業活動を通じて農村との関わりを持つ者の増加を図るため、これらの事業活動の促進その他必要な施策を講ずるものとする」という地域資源を活用した事業活動の促進で、農地への風力発電設置、小水力発電設置、ハウスへの太陽光発電設置によるエネルギーの自給や地域資源を使った飼料・肥料の生産等である。 なお、*2-1-1は、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直しが必要としているが、同法第22条は「国は、農業者・食品産業事業者の収益性向上に資するよう海外需要に応じた農産物の輸出を促進するため、輸出を行う産地の育成、農産物の生産から販売に至る各段階の関係者が組織する団体による輸出のための取組の促進等により農産物の競争力を強化するとともに、市場調査の充実、情報の提供、普及宣伝の強化等の輸出の相手国における需要の開拓を包括的に支援する体制の整備、輸出する農産物に係る知的財産権の保護、輸出の相手国とのその相手国が定める輸入についての動植物の検疫その他の事項についての条件に関する協議その他必要な施策を講ずるものとする」と定めており、食料自給率を上げたり、農林水産物の輸出を促進したりすれば、人口が減少しても生産インフラを縮小する必要はない筈である。 また、農業を担う人材の育成や確保については、同法第33条で「国は、効率的かつ安定的な農業経営を担うべき人材の育成及び確保を図るため、農業者の農業の技術及び経営管理能力の向上、新たに就農しようとする者に対する農業の技術及び経営方法の習得の促進その他必要な施策を講ずるものとする」と定め、第34条で女性の参画促進、第35条で高齢農業者の活動促進も定めているが、これだけで十分ではないだろう。 *2-1-2は、①東京都の出生率が1を割り、都知事選では子育て支援・少子化対策が大きな争点の一つになっているが、住宅費が極めて高い東京で多くの子を育てられる広い家を持つのは普通の人には無理で出生率が他地域より低いのは当然 ②人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ無意味 ③生活環境の良い地方で働いて家族を形成する選択肢の提供が必要 ④有力候補者の政策が、水・食料・エネルギーという生存に不可欠な資源は金さえ出せばいつでも買える前提 ⑤国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるべき ⑥日本は高度成長期以来積み上げてきた貯金を食いつぶし、衰弱の局面にある ⑦食料・エネルギーの海外依存を続ければ富の国外流出も大きく、これらを自給する体制を立て直すこと・地域における雇用機会の創出・人口再生力の回復は一体である ⑧国の形のグランドデザインを問う論争が必要で、日本に残された時間は長くない と記載しており、完全に賛成である。 つまり、農業・食品・エネルギー関係の人材は、都市からの移住や外国人の移住でも賄うべきなのだ。 2)穀物を燃料にすれば、世界の栄養不良と地球温暖化が解決するというのか *2-2-1は、①国際社会のフードセキュリティーは「飢餓0」 ②具体的にはi)飢餓の終了 ii)食料安全保障達成と栄養状態改善 iii)持続可能な農業促進 ③その結果、i)全ての人が食料を得られる ii)誰も栄養不良に苦しまない iii)小規模農家の生産性向上・所得向上で食料安全保障と栄養状態改善 iv)フードシステムが持続可能 ④改正基本法は輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格形成、環境と調和のとれた食料システムの確立を新たに追加 ⑤日本は、1951年には全就業者数の46%が第1次産業に従事、2022年は3%に減少し、必要な食料は食品の生産性向上と輸入によって調達し、餓死者・栄養不良人口は少ない ⑥問題はiv)の持続可能性 ⑦少数の生産者と大量輸入で今後の食料安全保障は確保されるか ⑧食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメ ⑨コメの国内生産を守るため、コメをエタノールの原料としてはどうか ⑩米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している 等と記載している。 このうち、①~③の国際社会のフードセキュリティーには賛成だ。しかし、④のうちの「輸出で食料供給能力を維持すれば、国内の自給力が維持される」という説はあまりに甘いと思った。何故なら、栽培品目を変えれば、必要な圃場の形・灌漑方法・農機の種類・施肥の方法等が変わるため、慣れないことをすれば生産性が著しく落ちるからである。 また、⑤⑥⑦のように、現在の日本は、少数の生産者の生産性向上と大量輸入によって必要な食料を調達でき、栄養不良の人口は少なくてすんでいるが、工業化はどこの国でも進むものの、食料生産できる農地には限りがあるため、世界人口が増加している中、このままでは日本も今後の食料安全保障を約束することはできないし、世界の「飢餓0」も達成できないと思われる。 そのような中、突然、⑧のように、「食料安全保障上最大の問題となる農作物はコメだ」というのは、コメだけ食べて栄養バランスが保てるわけではないため、結論がおかしい。その上、⑨のように、食品であるコメを、酒ではなくエタノールの原料としたり、⑩のように、同じく食品であるトウモロコシ・サトウキビからエタノールを作ってガソリンに添加して使用するなど、世界の「飢餓0」に貢献するどころか逆のことをしつつ、さらに地球温暖化防止にも資さない提案をするのは、何を考えているのかと思う。 3)農地規制を撤廃すれば、食料自給率が向上するのか *2-2-2は、①食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民1人1人が入手できる状態」という国連食糧農業機関(FAO)の定義では、食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、食料の利用・摂取までサプライチェーンの全てが確保されることで、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障が脅かされるのかを分析しなければならない としており、これには完全に賛成だ。 また、*2-2-2は、②国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきたが、自給率は食料安全保障への評価を表さない ③食料自給率は市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果で、消費者に選ばれた国産品の割合が現在の38%ということ ④これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う とも記載している。 しかし、③の「現在の食料自給率38%は消費者が選んだ食品の組み合わせの結果」というのは正しいが、製造業はどの国でも20~30年の時間差で近代化でき、世界人口は増え続けているため、日本も食料輸入力をいつまでも高く保ち続けることはできず、食料の62%を輸入に頼っていれば、日本人は良質な食料を合理的な価格で安定的に入手することもできなくなり、結果として、②の食料安全保障も保たれなくなるであろう。 また、④についても、これまで述べてきたとおり、消費者ニーズのあるものを生産性を高くして生産すれば国民負担増にならないが、問題は、何が何でもコメコメと言い、何かやろうとする度に補助金をばら撒く農業政策にある。 さらに、*2-2-2は、⑤国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しく、食料自給率向上が目的化して豊かさが犠牲になるのでは本末転倒 ⑥食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきでない ⑦平時と異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要で、「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定して、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者に増産を求める とも記載している。 このうち、⑤⑥については、日本は開発途上国でないため、先進国同士の食料自給率を比較すると、カナダ・オーストラリア・米国・フランスはカロリーベースで100%以上、ドイツも84%を自給しており、日本の38%は著しく低い。もちろん、国境を閉ざさなくても、国内生産の食料が輸入食料に質と価格の総合で勝てばよいわけだが、現在は国内生産は価格が高いため生産額ベースの自給率は高いが、経済活動の結果は価格で世界に負けているのである。 なお、⑦については、(4)2)で述べたとおり、有事の際にあわてて“政府が重要とする食料”を“必要物資”と指定して生産者に増産を求めても、大したものを供給できるわけがないため、これは絵に描いたモチ、つまり安全神話にすぎない。 これに加えて、*2-2-2は、⑧食料安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーはじめ国家安全保障の一環として総合的な法体系の中で議論すべき ⑨有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保 ⑩農業を担う労働力は高齢化が進んで農業労働人口は急速に減少し、農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性も、2020年の61万8千円と比べて2022年の58万3千円は低下 ⑪農業従事者の減少と高齢化は農地の荒廃に繋がり、2022年で約430万haある耕地面積の利用率は91%で1割近い農地が利用されず ⑫日本農業の持続的発展には、農地の維持・保全と効率的利用が最優先の課題 ⑬高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されており、100haを超える規模の経営も珍しくないが、その多くは分散した農地を合わせての100haで、多くが借地であるため区画整理等の基盤整備を自由に行えない とも記載している。 ⑧については、全く賛成だが、⑨の有事に備える農業生産力が平時は別のものを作っていても維持・確保できるというのは、上に書いたとおり、安全神話にすぎない。 また、⑩⑪⑫⑬は事実だが、小規模でも自分の土地を持って現在農業を行なっている人から無理に農地を取り上げて農地の大規模化を進めることは、資本主義国の日本ではできない。そのため、農業の労働生産性を上げることを目的として、高齢化して離農する人から次第に農地を集め、現在は「分散した農地を合わせて」ではあるが、次第に大規模化してきたわけである。もちろん、今後、区画整理等の基盤整備を行なって大規模な農業機械を導入し、生産性を上げる必要があることは言うまでも無い。 さらに、*2-2-2は、⑭農地の効率的利用を妨げているのは農地法で、農地を耕作する農業者か農地所有適格法人でなければ農地を取得できない ⑮一般の株式会社は、賃借は可能だが農地取得はできず、基盤整備などの長期投資が困難 ㉒経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべき ⑯農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件なので、農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づける等の新たな制度が必要 とも記載している。 このうち⑭⑮については、本当に農業をする気のある株式会社なら、子会社か関連会社として農地所有適格法人(https://www.pref.kagoshima.jp/ag02/sangyo-rodo/nogyo/keiei/06002005.html 参照)を作ればよいため、それも行なわずに農地を取得したいというのは、農地取得後に土地の使用目的を変換することを意図しているのではないかと思われる。そして、それでは、⑯の「有事にも国民を飢えさせない」という食料安全保障は達成されないのだ。 例を挙げれば、一般株式会社であるICT会社・農機会社・食品会社・建設会社・銀行等が、子会社か関連会社として農地所有適格法人を作り、従業員を交代で農業に従事させることによって、もとの事業との間にシナジー効果を出すこともできるだろう。 最後に、*2-2-2は、⑰質の高い国内農産物と世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障 ⑱肥料・飼料など、多くの生産資材も輸入に依存するため、国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱 ⑲国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる ⑳シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている ㉑最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる とも記載している。 しかし、⑰は今後も続けられるとは限らず、⑱については、あまりに輸入に頼りすぎているため、これらも考慮すれば食料自給率38%も怪しくなる。もちろん、⑲⑳㉑のように、国際市場の動向を詳しく分析したり、貿易相手国と友好関係を維持したりすることは重要だが、おんぶにだっこされてばかりではまともな交渉はできず、“平和維持のため”と称して相手の言いなりになり、国民には我慢を強いるしかなくなることを忘れてはならない。 4)武蔵野銀行の試み ![]() 耕作放棄地でのスマート放牧 耕作放棄地のオリーブ園化 オリーブ (図の説明:左図は《耕作放棄地に限る必要はないが》放牧して餌代と人手を節約しつつ、健康な牛を育てる方法。中央の図は、耕作放棄地をオリーブ園に変えたケース。右図はオリーブ) *2-3は、①武蔵野銀行の新入行員が、同行アグリイノベーションファームで田植えをした ②農業は埼玉県経済の柱の1つで、同行は農業関連の融資も手掛ける ③同行は新たな産業の創造・高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦・23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる ④同行は、田の面積を9500㎡に増やし、その2割を新入行員が田植えして、残りは実証実験としてドローンで種まきする ⑤農業の大変さを身をもって体験することで、農業の課題に当事者意識を持って向き合う人材を育成できる 等と記載している。 農業は、②のとおり、埼玉県の経済で重要な位置を占めるので、銀行が農業関連の融資も手掛けてイノベーションを進めることは重要だが、従来の不動産担保による融資では農業への融資金額は限られる。そのため、①③④⑤のように、行員が農業に参加することで身をもって農業の課題と可能性を知り、融資や企業とのマッチング等の側面から解決策を考え実行していくことは、銀行にとっても地域にとっても有益である。従って、研修の終わりには、新人に農業や農業融資に関するレポートを書かせ、できの良いものは取り入れることがあって良いだろう。 このほか、他業種の従業員が農業に関わると有益な事例は、(4)3)にも述べたとおりで、ICT企業や農機企業の従業員の場合なら、屋内で緻密な作業ばかりしていると心身の健康に悪いが、時々、農業に従事することで日の光を浴びながら力仕事をして心身の健康を回復しつつ、農業の課題である省力化・スマート化の方法等について具体的に考えることによって、事業間のシナジー効果が生まれる。 また、食品会社の従業員が農業に関わると、農業に従事することによって外で仕事をして心身の健康を保ちつつ、原料である農産物の改良や原料の使い方の無駄を省く方法を考えるなど、事業上の課題解決にも結びつけられる。 さらに、建設会社の場合であれば、農業体験することによって心身の健康を保ちながら、農業の省力化やスマート化に対応する農業施設や農業の基盤整備について考えることができる。 5)ふるさと納税反対論への反論 ← 地方の視点から ![]() 2024.7.26佐賀新聞 2024.7.26佐賀新聞 22年度受入順 (図の説明:左図はふるさと納税寄付額の推移で、順調に伸びているのは良いことだと思う。中央の図の右側に、ふるさと納税の課題として「好みの返礼品やポイント還元率で返礼品を選ぶ」と書かれているが、公平なルールの下で競争原理が働いて自治体・生産者・仲介業者の努力が反映されているため、批判には当たらない。また、「寄付が一部の自治体に集中する」という批判も、住民税を徴収しにくい第一次産業地帯に集中しているのだから、自治体の努力に応じて住民税の偏りの是正が行なわれているのであり、良いことだ。その結果として、右図のような受入額の順位になっているのであり、下位に位置する都道府県は良識ある工夫をすれば良いだろう) *2-4-1・*2-4-2・*2-4-3によれば、ふるさと納税に関する主な反対論は、①返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向がある ②ネットショッピング感覚で、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中し、地方を活性化する理念と乖離している ③魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出る ④手数料の寄付額に占める割合が47%に達する ⑤都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満がある ⑥仲介サイトで各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競う ⑦自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資である などである。 このうち、⑤の都市部の自治体の不満は、住民税の徴収方法を知っていれば、本末転倒であることがわかる筈である。 住民税には、企業等が負担する「法人住民税」と個人が負担する「個人住民税」があり、それぞれに「道府県民税」と「区市町村民税」がある。計算方法は、所得割(前年の所得に税率を掛けて計算)と均等割(一定の所得がある人全員が均等に負担)の合計で、税率は地方税法で全国一律10%(道府県民税2%、市民税8%)と定められているが、自治体の条例によって増減もできる(https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/49732/ 参照)。 また、住民税の使途は、福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等)、教育(小・中学校、図書館等)、土木(道路、公園、下水道事業等)、消防(消防、救急、防災等)、衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等)等の主として住民に身近な行政サービスである。 イ)住民税が多く集まる地方自治体は何処か 住民税は、課税所得の多い個人や利益の多い企業が集まる地域で豊富に集まる。 そのため、住民税が多く集まる地域は、「集積の外部経済」を効かせて生産性を上げるために、インフラ・技術・労働・情報を優先的に集めた地域になる。日本は、国策として集中を進め、優先的にインフラを整備して労働・技術・情報を集めて製造業関係の企業を立地させたため、そこに生産年齢人口にあたる労働者が集まり、その他のサービスも整ったという経緯があるのだ。ただし、現在は、集めすぎによる外部不経済も起こっている。 従って、利益の多い企業や課税所得の多い個人は、現在は、これらの優先的に開発された地域に多く流入しており、そうでない地方自治体や農林漁業中心の地方自治体からは、生産年齢人口の労働力が流出しているのである。そして、これは、個々の地方自治体の努力の結果ではない。 それでは、「農業は不要な産業なのか」と言えば、世界人口の増加、新興国や開発途上国における製造業の発展、食料安全保障を考えれば、上に述べてきたように、不要どころか重要な産業なのである。 ロ)住民税の使途の偏在 住民税の使途は、以下のとおりだ。 i) 福祉(子育て、医療、高齢者福祉、障がい者福祉等) より多く福祉を必要とする人は、元気に働いて多くの住民税を支払っている健康な生産年齢人口の大人ではなく、子ども・高齢者・病気で所得のない人などである。そして、その割合が高いのは、国策で優先的にインフラを整備し、労働・技術・情報を集めた地域以外の地域なのだ。 ii) 教育(小・中学校、図書館等) 小・中・高の公教育を受けている生徒も、地方自治体がその資金を出しているが、所得がないため住民税は支払っていない。 iii) 土木(道路、公園、下水道事業等) 優先的にインフラを整備した地域は既に整っているが、そうでない地域は現在も整備されておらず、整備中である。 iv) 消防(消防、救急、防災等) 消防や防災のニーズは何処でもあるが、救急の出番は高齢者の割合が高い地域で多そうだ。 v) 衛生(保健、ごみ処理、病院事業、水道事業等) ごみの分量は、飲食店は多くなるなど個人によって異なるため、ごみ処理が無料である必要はなく、無料であることより、さっと取りに来る利便性の方が好ましいと、私は思う。しかし、保健・病院・水道事業は、優先的にインフラを整備されなかった地域でも必要であるため、その地域の住民の負担は重くなる。 そのため、ふるさと納税は、地方出身で都会で働いていた私が、税理士として申告書を書きながら住民税の偏在に気づき、提案してできたものである。それに対し、②のように、「農林漁業を中心とした返礼品が人気の一部自治体に寄付が集中する」とか、⑤の「都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向で不満」などというのは、背景を無視した利己的な反論である。つまり、それは、国策によってもともと住民税には偏在が生じているという背景を無視した主張なのだ。 また、③の「魅力的な返礼品のあるなしで、自治体間に格差が出ることがいけない」というのも、努力もせず棚からぼた餅を期待することをよしとするもので、それでは日本の衰退は必然である。さらに、①のように、比較可能でお得感の強い自治体を選べるからこそ、返礼品やその展示の仕方に工夫が促され、通販でも十分に売れる商品も出て地方を活性化させるのである。 確かに、私も、④の手数料の寄付額に占める割合が47%というのは高い割合だとは思うが、商品開発費・広告宣伝費・販売費まで含んでいると考えれば、その支出は地方自治体の判断であり、高すぎるとも言えないだろう。 なお、仲介サイトで返礼品を比較できるのは、寄付者にとってだけでなく、出品者にとってもよいことだと、私は思う。そのため、⑥⑦のように、「サイトが寄付に応じたポイント付与を競い、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっている」として、総務省が「特典ポイントは、本来の趣旨とずれている」と指摘し、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張していることに関し、私は、総務省が箸の上げ下ろしにまで口を出すと、護送船団方式という最低の速度でしか進まないシロモノができあがるため、出品する自治体の判断に任せた方が良いのではないかと思う次第である。 6)業務用野菜の国産増について *2-5は、①農水省は輸入依存の加工・業務用野菜国産シェア奪還に向け、9月から品目別商談イベントを開く ②国産への切り替えが期待できる野菜で、産地・流通業者・実需者の橋渡しをする ③国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割 ④同省は、タマネギ・ニンジン・ネギ・カボチャ・エダマメ・ブロッコリー・ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定 ⑤プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く としている。 上の④は典型的な日本の野菜であるため、①~③のように、農水省が「重点品目」に指定して音頭をとらなければ輸入品が選択されるというのがむしろショッキングだが、日本産は高いので業務用では特に輸入依存になるのだろう。 そのため、⑤の冷凍技術や安価な栽培方法など、質だけではなく価格も含めて競争力をつけるしかないと思う。 (5)金融緩和と物価高 1)赤字財政と金融緩和政策 ![]() 社会実績データ 2024.4.20佐賀新聞 2024.7.21西日本新聞 (図の説明:左図のように、2023年の消費者物価指数は、1970年と比較すれば37%、2012年と比較すれば13%程度の上昇をしているが、この割合は体感より低い。また、中央の図のように、よく言われる前年や2~3年前との物価比較は、預金・債権などの資産の目減りを無視しているため、大きな意味がない。そのため、右図のように、消費者物価指数は実質GDPより低いが、これは実質所得と実質資産の目減りを反映して、国民が消費を抑えているからである) ![]() 2024.5.9日経新聞 2023.1.20毎日新聞 2024.7.5日経新聞 (図の説明:左図のように、実質賃金はマイナスが続いているが、その理由は生産性が向上していないからである。また、中央の図のように、物価上昇にもかかわらず公的年金は一定である上、介護保険料の負担が著しく増えたため、高齢者の実質可処分所得は著しく減少した。そのため、右図のように、実質消費支出は減っており、その代わりに増えたのが公的支出なのだが、これは生産性を向上させるものではなくバラマキが多いのである) *3-1-4は、①総務省発表の6月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数は107.8で前年同月と比べて2.6%、生鮮食品を含む総合指数は2.8%上昇 ②政府が電気代・ガス代等の負担軽減策を縮小したことで電気代・ガス代が値上がり ③日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている ④エネルギー上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した ⑤電気代13.4%と大幅上昇・都市ガス代3.7%上昇で、生鮮食品を除く消費者物価指数の伸びを0.47ポイント押し上げた ⑥電気代は5月に再エネ普及賦課金の上昇で16カ月ぶりにプラス 等と記載している。 また、*3-1-2は、⑦財務省が発表した税収は72兆761億円と4年連続過去最高 ⑧インフレ環境の継続で名目GDP成長率のプラスが定着し、税収の増加傾向は続く ⑨金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的 ⑩歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要 ⑪内閣府による2023年度名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスで2022年度の2.5%プラスから上振れ ⑫円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与して法人税収は15兆8606億円で前年度から6.2%伸び、所得税収は22兆529億円で2.1%減少し、消費税収は23兆922億円で0.1%増加 ⑬日銀の金融政策修正等の影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇し、国債利払費の増加が財政圧迫の可能性 ⑭新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる 等と記載している。 このうち①は、2024年6月の消費者物価指数は2020年と比べれば生鮮食品を除く総合指数は107.8で7.8%の上昇だが、上の段の左図のように、アベノミクス開始時点(2012年末)と比較すれば12.8%程度、バブル崩壊前の1988年と比較すれば22.8%程度の物価上昇をしており、その分、国民の購買力が下がって、資産と所得が政府・企業にステルス移転したのである。 その結果、⑦⑧⑫のように、税収が上振れし、国が赤字国債を発行して無駄遣いしてきた穴埋めがなされた。そして、この間に、バブルの反省をし、本物の改革を断行するために、景気対策として再エネの普及等に役立つインフラ整備をしてきたのなら、その後の生産性が上がるため我慢もできるが、そうではなく、⑪のように、名目国内総生産が上振れしただけなのだ。 それにもかかわらず、⑥のような馬鹿を言い、“景気対策”と称してバラマキしつつ、⑩の歳出構造は改革していないため、今後の生産性向上も財政再建もおぼつかないのである。 これに加えて、ロシアに対する制裁返しで輸入に頼りきりの燃料価格が上昇したため、②③④⑤のような燃料費上昇による物価上昇が加わったのだが、この偶発的な事件を、③のように、あたかも「日銀の物価安定目標2%を超える上昇」と言っている点も呆れる。何故なら、中央銀行の役割は、物価を安定させ、通貨の価値を維持して国民の財産を護ることであって、物価上昇目標をたてて、国民からのステルス増税に加担することではないからだ。 経済学では、「ジョンブル(典型的に真面目なイギリス人の名前)も2%の利子率には満足できない」と言うように、2%以上の実質金利があるのは当然なのだが、日本は、⑨⑬のように、いつまでも「金利ある世界が現実となれば国債利払費の増加が財政圧迫の可能性」などと言わざるを得ず、⑭をはじめとして無駄使いばかりが多いため、将来性に欠けるのである。 2)国の歳出改革について ![]() 2023.2.16日経新聞 2022.12.23読売新聞 2023.11.11北海道新聞 2023.12.22日経新聞 (図の説明:1番左の図は、日本の財政状況で主要国最悪になった。左から2番目の図は、2023年度当初予算で114兆3,812億円だが、これに右から2番目の補正予算13兆1,992億円が加わり、合計127兆5,804億円となった。1番右の図は、2024年度当初予算で112兆717億円だが、これに補正予算が加わるかどうかは現在のところ未定だ) 上の左図のように、日本における政府債務の対GDP比は258.2%であり、これはイタリアを優に超えて主要国最悪になっており、その5割を日銀が保有している。こうなった理由は、日銀が公開市場操作(貸出金利の引き下げ)や「買いオペ」等の手段で政策金利を引き下げ、金融緩和を行なって資金の供給量を増やし、景気を良くして物価を上昇させようとしてきたからである。 しかし、金融緩和はカンフル剤にすぎないため、経済構造改革をして生産性を上げることなく金融緩和を長期間続けたことによって、政府債務は増え、円の価値が下がって、円安や悪い物価上昇、株価の上昇などが起こっているわけだ。 それでは、「借金だらけの政府支出は、どういうところになされたのか?」と言えば、2023年度は中央の2つの図のように、社会保障費(36兆8,996億円)が最も大きい。しかし、これは憲法に規定されていたり、国民との契約に基づいて支払われたりするもので、高齢化に伴って増えることはあっても、減らしてよいようなものではない。 次に大きな支出は、国債費(当初予算25兆2,503億円)と国債元利払い(補正予算1兆3,147億円)の計26兆5,650億円で、2023年度末には普通国債の累積残高が1,068兆円に上る国債の償還分と利払い費の合計である。元本の返済と利払い費を合計して表示する公会計基準はわかりにくくて良くないが、国債残高が少なければ元本の返済と利払い費の合計も少ないことは明らかだ。なお、金利が上がれば国債の利支払い費も増えるが、特殊な事情でもない限り、安い金利の資産を持ち続けたい人はいないのである。 3番目に大きな支出は、地方交付税(当初予算16兆3,992億円)である。これは、地方自治体が再エネ発電をしたり、産業振興をしたりして、国への依存度を下げれば下がるものだ。 4番目に大きな支出は、防衛費と防衛力強化資金(11兆2,415億円=当初予算6兆8,219億円+3兆,3806円+補正予算1兆390億円)である。防衛費は細かく分けて1つ1つの項目を小さく見せているが、総額では2023年度に11兆2,415億円を支出している。そのため、11兆円以上の支出の費用対効果を検証すべきだが、私は、原発等の危険施設を残したまま、食料も燃料も殆ど輸入に頼りつつ、どんな理由があろうと決して戦争などできるわけがないため、日本における防衛費の費用対効果は著しく低いと考えている。 5番目に大きな支出は、公共事業費(7兆3,622億円=当初予算6兆600億円+補正予算1兆3,022億円)だが、古くなった設備の更新や再エネ電力の送電線等のニーズを満たし、インフラという観点から生産性の向上に資しているのかは大いに疑問だ。 右から2番目の補正予算で、2023年度には、そのほか、i)低所得者世帯への7万円給付1兆592億円 ii)ガソリン・電気・ガスの補助延長7,948億円 iii)次世代半導体研究開発基金6,175億円などが支出されており、ii)の7,948億円はロシア・ウクライナ戦争に加担したことによる費用(=防衛費の一部?)に入るだろう。 1番右の2024年度当初予算における歳出・歳入の内訳は、2023年度に36兆8,996億円だった社会保障費が37兆7,193億円に増え、26兆5,650億円だった国債費も27兆90億円に増加している。地方交付税交付金は、16兆3,992億円から17兆7,863億円に、防衛費は11兆2,415億円から7兆9172億円に減少しているが、補正予算を組めば、2024年度の歳出はさらに増加する。 しかし、2024年度当初予算の中には、教育・研究開発費及び公共事業費は現れないくらい小さな割合だ。教育や研究開発がイノベーションの基となり、公共事業改革がインフラの面で生産性を上げる必要条件であることを考えれば、生産性を上げるための本質的なことはせず、金をバラマキ続けてきたことが、イノベーションを妨げ、日本の停滞を招いたのだと言えるだろう。 ところで、今日(8月14日)、岸田首相は来月の総裁選立候補を見送ると発表された。私は、岸田首相の原発推進には全く賛成できない(これは首相を変えれば変わる問題ではない)が、NISAを制限でがんじがらめの制度から、非課税期間無期限化・非課税上限額拡大を行なって、より投資しやすい新NISAに変換されたことは、長銀出身の首相らしいと思って評価している。 しかし、メディアは、この間、政治資金規正法違反報道や首相の進退・衆議院解散など、誰かを貶めて首を切ることばかりを興じて報道し、視聴率の高い時間帯に野球・馬鹿笑いの番組を長時間配置するなど、まともな政策論議をして見せることによって国民(子供を含む)に深く考えさせることができなかった。これは、教育の問題に端を発しながら、民主主義を担うべき国民の劣化を促している。 3)メディアの主張する歳出改革について *3-1-1は、①政府が6月に公表した骨太の方針案は、財政拡張路線からの転換 ②自民党の積極財政派に配慮して2022年以降は避けていた国・地方の2025年度のPB黒字化目標を3年ぶりに明記 ③内閣府試算では2025年度PBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収める等の歳出改革を続ければ黒字化可能 ④2025~30年度予算編成方針は「PB黒字化を後戻りさせず、債務残高のGDP比を安定的に引き下げる」 ⑤2030年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らみ、元本償還も含む国債費は2024年度では一般会計の2割超 ⑥利払い費が膨らめば社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる ⑦金利上昇しても、インフレで名目成長率が底上げされれば税収も増え、財政健全化に繋がる ⑧経団連の十倉会長は経済財政諮問会議で「PB目標は単年度で考えるのではなく、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべき」とした ⑨小泉政権で策定した2006年骨太方針は社会保障費を毎年2200億円圧縮する等の数値目標を明記し、2011年度黒字化を打ち出した 等としている。 また、*3-1-3は、⑩政策の優先度を見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要 ⑪PBは税収増で上ぶれし、大型補正予算を組まなければ2025年度には小幅なプラス ⑫金利が上昇すれば国債利払いも増加 ⑬無駄な支出と赤字抑制に最大限努めるべき ⑭閣議了解された概算要求基準は「施策の優先順位を洗い直し予算を大胆に重点化」とする ⑮物価や人件費上昇で歳出拡大圧力が強い ⑯少子高齢化対応はじめ、重要な政策課題も多い ⑰防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱い ⑱「重要政策」を優遇する特別枠と金額を明示しない「事項要求」対象が広い ⑲賃上げ促進・官民投資拡大・物価高対策などが例示されている ⑳物価高で苦しむ家計や事業者を支えると言うが、対象を広げれば財政悪化 ㉑各省庁は予算要求の段階で費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべき ㉒安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図 等としている。 このうち①は、賛成だが、②④については、補正予算を組めば実現できない。また、⑩⑬⑭㉑を本当の意味で行なうためには、日頃から費用対効果の高い賢い支出を選び続けていく行政評価可能な複式簿記による公会計制度を採用しておくべきで、現在それをやっていないのは、*3-4に書かれているとおり、主として日本とアフリカだけなのだ。これについては、⑧のように、経団連の十倉会長が経済財政諮問会議で少し触れられているが、民間企業は、当然のこととして、月次でそれを行なっているのである。 また、③⑨のように、歳出改革と言えば「高齢者の社会保障費の伸びを抑える」案しか出ないのは、実際の高齢者の生活を見ておらず、観念的な政策決定をしているからである。 さらに、⑤⑥については、いつまでも0金利政策を続けるわけにいかないことは明らかで、これまで0金利政策をとっていた間に必要な改革をし、国債残高は減らしていなければならなかったのであり、既に過去の蓄積を使い果たして時間切れになったということだ。しかし、未だに⑦⑪のように、「インフレで名目成長率が底上げされれば税収が増えて財政健全化に繋がる」と言っているのは、国民の生活については全く考えていないということだ。 なお、⑫の「金利が上昇すれば国債利払いも増加する」や⑮の「物価や人件費上昇で歳出が拡大する」というのは当然であるため、⑲の賃上げ促進政策と官民投資拡大、⑳の物価高対策と日銀のインフレ目標は矛盾した政策なのである。 確かに重要な政策課題は、⑯の少子高齢化対応だけではないのに、⑰の防衛費増額は、日本の財政状態から見て大幅すぎる。また、㉒のように、無駄使いとバラマキを繰り返した挙げ句、「足りなくなったら安定財源の確保として消費税を上げれば良い」と考えるのも、国民の生活について全く考慮しておらず、どういう人にこういう発想が浮かぶのか、むしろ疑問である。 4)金利正常化と円高について ![]() 家づくりコンサルティング 2022.6.21トウシル 2022.6.22SMBC (図の説明:左図は長期金利《名目》の推移で2016年から0近傍が続いているが、実質金利はここから物価上昇率を差し引いたものであるため、さらに低く、消費者が節約せざるを得ないのは当然なのだ。また、中央の図は、主要国の金利だが、日本は突出して低いため投資が外国に出るのも当然なのである。右図は、日本人がどこに投資するかを考えている様子だ) 2024.6.25日経新聞 2022.10.21三井住友アセットマネージメント (図の説明:左図は1900年からの対ドル為替レートと日本・米国の物価の推移で、第2次世界大戦敗戦後の著しいインフレとその後のインフレ停止は、物資不足による物価高から預金の引き出しが集中したこと等により、幣原内閣がインフレ抑制と資産差し押さえの目的で旧円から新円への切替えを行い、旧紙幣は一部を除いて無効にしたからで、国民から見ればひどいことをしたものだ。右図は、1971年以降のドル円相場であり、1973年に変動相場制に移行した後、日本の貿易黒字拡大に伴って次第に円高となり、1995年4月19日の79.75円/$と2011年10月31日の75円32銭/$が円の対ドル高値であり、これを受けてアベノミクスが始まったのである) *3-1-5は、①円相場は2024年4月29日に1ドル160円24銭、2024年6月22日に再度1ドル159円80銭台の円安になり、米金利上昇とドル買いを誘った ②政府・日銀の円買い為替介入を受けて、円は151円台まで上昇した ③その後、日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進み、輸入企業のドル調達もあって円の下落基調が続く と記載している。 また、*3-2-1は、④低い政策金利が円安・インフレの弊害を招き ⑤日銀は、金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げた ⑥金利全般が上昇して住宅ローンや企業の借入金利に影響が出るが、2%台半ばにある物価上昇率を勘案すれば実質的金利は依然マイナス ⑦目標とする2%以上のインフレが27カ月続く ⑧石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国は、円安が輸入コスト増に直結して物価上昇の引き金になる ⑨GDPの5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは物価高による節約志向が原因 等としている。 さらに、*3-2-2は、⑩日銀は7月末の金融政策決定会合で「追加利上げ」と「量的引き締め」を決めた ⑪国も企業も家計も、これから金利の規律と向き合う ⑫インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然 ⑬日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことはなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む ⑭公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された ⑮日経平均株価は2日に史上2番目の下落 ⑯日本国債発行残高は1082兆円で日銀が53%を保有するが、巨大な買い手がいなくなれば金利は急騰する ⑰財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望し、ある大手銀行は「長期金利が1.2%になれば国債買いに動くが、現在は1%を切っており動く地合いではない」とする 等と記載している。 このうち、①②③は、1ドル160円前後から151円前後まで動いたから円高になったとは思わないが、1ドル75~80円/$の時に円売りドル買い介入して得ていたドルを、150~160円/$の時に円買いドル売り介入して売れば、財務省は膨大な為替差益を実現することができて税外収入を得られる。しかし、これは過去の蓄積の食い潰しにすぎないため、そう威張れるものではない。 また、④のように、低い政策金利が円安・インフレの弊害を招いたことは事実だが、⑤のように、日銀が金融政策決定会合で短期金利の誘導目標を0・25%程度に引き上げても、⑥⑦のように、物価上昇率が2%なら実質金利は-1.75%程度になるため、住宅ローンの借り手・企業の借入・公的債務への国民からの所得移転は続いているのである。つまり、一般消費者の生活への配慮なき主張だ。 なお、円の為替相場が下がれば、⑧のように、エネルギー・食料・原材料の多くを輸入に頼っている日本では、「円安=輸入コスト増」となり、さらなる物価上昇に繋がるため、これらを総合した結果、⑨のように、GDPの5割超を占める個人消費は、物価高によって節約せざるを得ず、消費は不本意ながらマイナスが続いているのである。 つまり、低金利政策を長くとって貨幣価値を下げれば弊害の方が多くなるのであり、日本は、⑫⑬のように、1995年以降政策金利が1%を超えたことがなく、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込んでいるそうだが、インフレ率が2%で推移するのなら政策金利は少なくとも4%程度まで上げなければ実質金利2%は実現しないのである。 そのため、名目2%程度の金利では、⑩⑪の「追加利上げ」と「量的引き締め」を行なったことにはならず、国・企業・家計が金利の規律と向き合うことにもならない。従って、⑭のように、公表翌日に円相場は148円/$台までしか上がらず、⑮のように、日経平均株価が「史上2番目の下落」をしたのは、これまで円の価値が下がっていたため、円で計られる株価は上がっていたが、それが円の価値の回復に伴ってその分だけ修正されたにすぎない。 なお、⑯のように、「日本国債発行残高1082兆円のうちの53%を、日銀が保有している」というのもすごいが、その日銀が引けば債権価格が下がって金利は急騰するだろう。しかし、⑰のように、長期金利が1.2%でも実質金利がマイナスである以上、民間にとって日本国債は持ち損になるのである。 5)金利正常化と株安について *3-2-3は、①内外の株価や円相場の不安定な動きが続くが、日銀と市場との対話が不十分 ②日銀がさらなる利上げ姿勢を示したことが円の急伸を招いた ③世界で日本株の下落が際立ったのは、ハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れ等の米国要因に円の急伸が重なったから ④日銀が7月末金融政策決定会合で利上げを決めた直後、FRBが9月利下げの可能性を示唆し日米金融政策の方向性の違いが強く意識された ⑤日銀の内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しした ⑥経済・物価が想定通りに推移して円安を背景に物価の上振れリスクに注意する必要性が判断材料となったが、説明が首尾一貫していない ⑦日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に市場との対話を見直してほしい 等としている。 日経新聞は、①②⑦のように、「株価下落は日銀の市場との対話不足にある」と主張しているが、「(配当+譲渡損益)/株価」は債権の金利と株式のリスクを加味した値に落ちつくため、金利を上げれば株価が下がるのは当然のことだ。そして、投資家は、それも織り込み済でファンドにするなどしているため、日銀と市場の対話が不十分だったとは、私は思わない。 しかし、メディアの指摘を受けて、⑤のように、日銀の内田副総裁が火消しを行なったため、⑥のように、首尾一貫性がなくなった。なお、日本の経済と物価は、米国とは違ってディマンドプル・インフレになっているのではなく、ウクライナ戦争と円安を背景として輸入物価の値上がりで起こるコストプッシュ・インフレになっているため、④のように、日銀が利上げを決め、FRBが利下げの可能性を示唆するという方向性の違いがあっても、おかしくはない。 つまり、これまで日本政府が行なってきた政策と、その結果として起こっている経済状況が株価下落の原因であるため、日本株の下落原因を、③のように「米国要因」に求めるのは、米国への責任転嫁になると思う。 また、*3-2-4は、⑧日本株のボラティリティーが高まり、急激な下げへの警戒が残る ⑨避難先銘柄は食品や小売り、住宅関連等の業種 ⑩総菜製造のフジッコや製粉会社のニップン等はベータ値が0.05程度で、市場全体の値動きに対する感応度は極めて小さい ⑪内需中心で業績が安定している企業や財務レバレッジの低い企業のボラティリティーが小さくなる ⑫食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期まで10期連続の営業増益 ⑬営業地盤を地方に置く銘柄も、業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先 ⑭大規模ホームセンターのジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落した時にむしろ株価上昇 ⑮外国人持ち株比率が高いとボラティリティーは高い ⑯日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されている ⑰ディフェンシブ性の高い銘柄は市場シェア拡大が期待できるとしてヘルスケアや投資指標面での堅実な公益株 としている。 私は、⑧のように、日本株のボラティリティーが急に高まったとは思わないが、⑨⑩⑫⑭のように、避難先銘柄が、食品・小売り・総菜製造・製粉・ホームセンターであることには、消費者の行動から納得できるし、面白いと思った。何故なら、食品の節約には限度があるが、節約する場合には惣菜・小麦粉・液卵を使ったり、ホームセンターで買い物したりというように、これらは節約時にむしろ需要が増す業種だからである。 また、⑪⑬⑮のように、内需中心だったり、借入金の割合が低かったり、営業地盤が地方にあったり、外国人持ち株比率が低かったりして、為替・金利・グローバルな景気に左右されにくければ、企業のボラティリティーが小さいのも納得できる。 ⑯のように、日本株と比較して株価変動の小さい米国株市場でもディフェンシブ性の高い銘柄が物色されているというのは、利率が高くてリスクは低い方が良いに決まっているが、興味深い。ここで、⑰のように、ディフェンシブ性の高い銘柄が、市場シェアの拡大が期待できるヘルスケアと堅実な公益株というのも尤もだが、日本政府は、高齢化や女性の社会進出で需要が伸びるヘルスケアの業種や地球環境を護りながらエネルギー・食料の自給率を高める業種を軽んじている点が合理的でない。 6)家計と日本経済 *3-2-5は、①内閣府発表の2024年4~6月期GDPは、前期比の年率換算で実質3.1%増だが、前期からの反動要因が大きい ②景気の弱さは主にインフレの長期化による家計圧迫に原因があるため、大規模財政出動や日銀の追加利上げ牽制は打開策にならない ③政策対応は物価抑制・低所得世帯等への家計支援に力を入れる時期 ④4~6月期プラス成長の最大要因はGDPの約半分を占め、景気のエンジン役である個人消費が5四半期ぶりに増加へ転じたためだが、前期の自動車認証不正問題の悪影響の反動で4~6月期の消費が大きめに出た ⑤総務省の家計調査から長引く物価高に節約で対抗し、食品等の必要なものに絞って金を使う家計の実情が浮かび上がる ⑥定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから先行きの消費改善を予想する声があるが、減税は一時的で、全世帯の3割を占める高齢世帯に賃上げは無縁 ⑦円安が是正され物価が落ち着くまで消費は低空飛行 ⑧他のGDP主要項目は、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加して全体のプラスに貢献 ⑨円安による輸出企業の好業績や認証不正問題からの回復が投資増に ⑩今後は日銀の政策変更による金利上昇や株価・円相場の影響が避けられないが、相場の荒い変動は投資手控えに繋がる ⑪輸出から輸入を差し引いた外需は、2四半期連続のマイナスでGDPの足を引っ張る要因 ⑫訪日客需要は堅調だったが、中国の成長減速等から輸出の伸びは輸入の伸びを下回った ⑬この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方 ⑭米景気や利下げの行方が株価の波乱要因で円相場にも影響 ⑮その場しのぎの減税や電気・ガス代の補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道 としている。 上の①②④⑤⑥⑦は全くそのとおりで、久々に正確な記事に出会ったような気がするが、特殊な理由でGDPが前期より増加した四半期の数値を4倍して年率に換算するのは粉飾に近い。 また、③については、物価抑制・低所得世帯等への家計支援のうち物価抑制は必要だが、低所得世帯等への家計支援は、i)“低所得世帯”の範囲が狭く、金額も小さいため殆ど意味がない ii) 所得税・住民税・社会保険で既に所得の再配分は終わっている iii)“低所得世帯”の定義を広くしてさらに配分すると二重・三重の不正確な配分となり、バラマキになる と思う。 そのため、⑮も含め、分配を考えるなら負担力主義で正確に計算する所得税を利用し、所得税制に不完全な部分があれば、それを改正するのが正攻法だ。さらに、電気・ガス代の補助よりも、再エネを利用しやすくする補助の方が、単に国の債務を増やすのではなく、地球温暖化防止に資しながら、日本のエネルギー自給率向上にも役だつ。 そのため、政府が迅速にEV・再エネに舵をきる方向性を示していれば、⑧の企業は設備投資の方向性を早い時期に決めることができ、設備投資を増やして景気回復と生産性向上の両方を達成できた筈だ。そうすれば、ガソリン車を合格させるための⑨のような認証不正問題を起こす必要も無く、日本が景気対策の膨大なバラマキで世界1の債務国になる必要もなかったのである。 ⑩については、今後は日銀による政策金利の上昇が株価や円相場に影響することもあるだろうが、投資するからには、投資信託等を使って専門家に任せるか、自分自身が勉強してリスク管理を行なう必要がある。 また、⑪⑫のように、「輸出から輸入を差し引いた外需がマイナス(貿易赤字)で、訪日客需要だけが堅調だった」というのは、日本のグローバルな製造業は円高とコスト高で既に中国はじめ新興国に出てしまい、日本国内で製造した製品を輸出する“加工貿易”には比較優位性がなくなってしまったということだ。しかし、製造業が衰退して良いわけはないため、飛躍的に付加価値や生産性を高くする研究を行ない、できた製品は速やかに社会実装して、さらに進歩させる仕組みが必要なのである。 つまり、⑫⑬⑭のように、いつまでも「日本の景気が米国や中国に大きく左右される」などという責任転嫁の姿勢はよくないし、それを卒業するには、足下ばかり見てその場しのぎの政策を積み重ねても、無駄が多すぎてマイナスにしかならないということだ。 (6)国民生活を考慮しない政策がまかり通る理由 ← 男女の教育格差と女性の社会的地位の低さ ![]() 2024.8.23朝日新聞 2022.8.1MarkeTRUNK 2023.11.2日経新聞 (図の説明:左図は、全国にある公立の男女別学高校数で、2024年4月には42校に減っているものの、その3/4が関東に集中している。そして、教育格差とアンコンシャスバイアスによって、中央の図のように、男女雇用機会均等法の存在にもかかわらず、民間企業の管理職に占める女性の割合は著しく低い。そして、これが、右図のように、欧米と比較して日本の男女間賃金格差が大きくなっている理由だ) ![]() ![]() 2022.8.1MarkeTRUNK 2023.6.21日経新聞 (図の説明:左図は、民間企業の雇用者の各役職に占める女性割合についての目標と現状を示したものだが、もともとは2020年までにすべて30%にするという「202030」というのが目標だった。しかし、目標をたてても実践しなかったため、日本の男女平等度ランキングは、右図のように、世界で125位という先進国だけでなく、アジアでも低い方になったのである) 1)未だに男女別学を主張する人々 *3-3-3は、①かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進んだ ②2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫った ③元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は、今年4月に記者会見して「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調 ④共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも「公立の別学校も選択肢の一つとすべき」と反論 ⑤7月下旬、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出 ⑥浦和一女で「討論会」を開いて「男女別学高校の共学化」を議題にすると「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」等、共学化反対一色になった ⑦埼玉県内の中高生と保護者を対象にアンケートを実施したところ、別学校の生徒3割を含む高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割 ⑧1947年に男女共学等を定めた教育基本法が施行され、多くの公立高校で共学化が進められた ⑨全国的には公立の男女別学高校は減っているが、北関東や東北などで別学校が残り、2024年4月現在、別学校があるのは宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島の8県42校で、埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に3/4が集中している ⑩共学の場合でも男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある ⑪法の下の平等を定めた憲法14条は性別による差別を禁止しているため男女共学が原則で、自宅から最も近い公立高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば違憲判断が出るかもしれない 等としている。 このうち①は、⑧⑪の教育基本法や憲法に基づいて、本来なら1947年に行なわれなければならなかったことであるにもかかわらず、⑨のように、公立の別学校が宮城・埼玉・群馬・栃木・千葉・島根・福岡・鹿児島で42校も残っており、埼玉・群馬・栃木に32校とその3/4が集中しているのである。そして、これは、この地域におけるジェンダー平等の遅れを物語っている。 このような中、②のように、2023年8月、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫ったのは評価できる。しかし、③で市民グループ「共学ネット・さいたま」が「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」としたのには賛成だが、元高校教諭らが「社会的なリーダーになるには、高校で男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要」と強調したのは失望だ。何故なら、男女格差はそのような考え方の教諭によって教育によって社会的に作られるものが多く、本当は、社会のリーダーになるためには、男女にかかわらず男性優位を前提としない感性を持って働くことが必要だからである。 日本でも、⑩のように、確かに「男子の方が、共学校でも発言機会が多い」という場面はある。しかし、社会に出れば男女別にリーダーになる昇進競争をするのではないため、女子生徒も、共学校の中で実力を発揮する訓練をし、堂々と発言する練習もして、職場では男女別ではない競争に静かに勝たなければならない。 従って、④⑥⑧のように、浦和第一女子・川越女子の同窓会長が公立の別学校を支持し、浦和一女の生徒が討論会で「電車の中で怖い思いをした」「異性がいると不安」「異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」などと言っているのでは、「浦和一女の“伝統”とは、どういう伝統か」とむしろ聞きたくなるのであり、ジェンダー平等に大きく立ち後れていると言わざるを得ないのだ。 しかし、男女別学高校の討論会で「男女共学の方に賛成だ」と言うのは、男女共学高校に通った経験が無く、異性に変な関心を持っているとの誤解を受けかねず、学校の方針に逆らって内申書の評価を下げることにもなりかねないため、実質的に不可能だろう。そのため、⑦のように、埼玉県内の中高生と保護者のアンケートでは、高校生の回答は「共学化しない方がよい」が6割、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割になっているのだと思われる。 なお、男女別学を嫌う親は埼玉県内の公立高校に子どもを通わせておらず、高い学費を支払って東京都の私立中高一貫校に通わせたり、そもそも埼玉県に住んでいなかったりするため、アンケートの母集団に入らない重要な集団がいることを忘れてはならない。そのため、高校生やその保護者にアンケートをとったり、⑤のように、広い世界を知らない高校生が県庁を訪れて男女別学の維持を求める要望書を提出したりするのは無意味であり、「高校生は、そんなことをする暇があったら周囲に異性がいようといまい集中して勉強した方が良く、それも修養の1つだ」と、私は思うわけである。 また、*3-3-4は、⑫県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが「公教育」に関する考え方 ⑬公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平 ⑭進学実績で県内トップとされる浦和高校が男子校で男女の教育機会に格差を生んでいる ⑮東大の2024年の合格者数は、埼玉県内の公立高校では男子高の浦和が最多44人、続いて共学の大宮が19人、女子校の最多は浦和第一女子と川越女子で2人ずつ ⑯別学維持を求める署名を7月下旬に県教委に提出した浦和高校3年の男子生徒は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できる方が選択肢は広がる」 等としている。 私は、⑫⑬⑭⑯に、全く賛成である。⑮については、どういう“伝統”ある学校かは知らないが、首都圏にあって人口の多い県でありながら、浦和第一女子高校は2名(理1:1名、理2:1名)、川越女子高校は2名(文学部:1名、法学部:1名)と、男子高の浦和高校、共学校の大宮高校と比較して東大への合格者数が著しく少ない。この男女格差は、教育格差によって形成された部分が大きい上に、男女別学を嫌う親は埼玉県に住まないため、遺伝格差も出ているかも知れない。埼玉県は、それでいいのか? さらに、*3-3-5は、⑰埼玉県教委は「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表したが、共学化の方法や時期・校名は明記せず具体的な進め方を先送りした ⑱県教委は、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展等の社会の変化に応じた学校教育の変革が求められる」「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」とした ⑲日吉教育長は、「結果的に別学校を存続させる可能性を含めて総合的に考える」「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」とした ⑳曖昧さが残る報告書に、賛否両派から不満の声が漏れた 等としている。 私は、⑰は「主体的に共学化を推進する」と言いながら、⑳のように、先送りしてうやむやにしようとする消極性があると思う。しかし、青少年期の教育は1年1年が重要な位置を占めるため、親は裁判に訴えるのではなく、他の地域に引っ越すか、子の数を制限して私立や塾に通わせざるを得ず、この教育インフラの差は企業誘致や不動産価格に響いていると思う。 また、⑱のうち、学校教育の変革は「外圧によって仕方なく」ではなく自ら率先して行なって欲しいし、私は、高校の3年間、男女が協力するだけでなく、同じ教育を受けた場合の女性の実力を男性が身をもって知ることは、社会に出た後に男性が女性を上から目線で見る男性優位のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくすのに最も効果的だと思っている。そのため、⑲の公立高校の共学化は、一刻の猶予もなく速やかに行なうべきなのだ。 2)日本における男女間賃金格差の原因 ← 日本には「ガラスの天井」以前に「壊れたはしご」すらない女性が多いこと *3-3-1は、①ガラスの天井=十分な能力があるにもかかわらず、性別・人種等の要因で昇進が妨げられること ②壊れたはしご=女性が昇進するために上るはしごが元々壊れており、1段目から男女格差が生じていること ③はしごの1段目はグループ長・主任などファーストレベルの管理職 ④第一段階の地位に就く女性割合の低い構造が女性の昇進を阻むハードル ⑤男女の昇進格差をなくすには壊れたはしごを生み出す構造を見直すべき ⑥日本政府は2003年に「あらゆる分野の指導的地位の女性割合が2020年までに30%程度に到達することを目指す『202030』目標」を発表した ⑦役職に就く女性割合は、現在、目標の30%に届かない ⑧EUはジェンダー平等推進に取り組んできたが、管理職に就く女性比率に関して加盟国間で大きな差があり、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意 ⑨EU域内の上場企業は、2026年6月末までに、社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成できない企業は場合によって罰則対象 ⑩男女共同参画局の調査で、日本の女性役員割合は12.6% ⑪2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国中でも韓国・中国・ASEAN諸国より低順位 ⑫2022年3月にエコノミストが発表したガラスの天井指数で日本は29ヶ国中28位 ⑬OECD調査で日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位 ⑭ガラスの天井が生まれる要因にアンコンシャスバイアス(「女性は仕事より育児をすべき」「女性に力仕事は任せられない」等の無意識の偏見・思い込み・根拠なき決めつけ)がある ⑮女性に対する偏見・思い込みが組織に根付いていると、女性の昇進が妨げられる ⑯アンコンシャスバイアス解消には自分に無意識の偏見があることを自覚する必要 ⑰物事を判断する際に偏見が働いていないか検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除く第一歩 等としている。 *3-3-1の記述は、①②③④のように、「ガラスの天井」と「壊れたはしご」を明確に定義し、⑤のように、「壊れたはしご」を生み出す構造を見直すことが、男女の昇進格差をなくすのに不可欠だとしている点が優れているが、日本には、非正規社員や限定正社員など、壊れたはしごすら見えない働き方をしている女性が多い。 そして、⑮⑯⑰のように、正社員であっても、女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると昇進が妨げられるため、そのアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を解消するには、自分に無意識の偏見があることを自覚し、物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが必要であるとしている点も正しい。 しかし、⑭のように、アンコンシャスバイアスとは「無意識のうちに持っている偏見・思い込み・決めつけである」という定義には賛成だが、その事例の中に「女性に力仕事は任せられない」とあるのは説明不足だと思う。何故なら、オリンピック競技でも、例えばウエイトリフティングの記録は男子の方が重いバーベルを持ち上げ、女子でもトランスジェンダーが記録を出し、100m競争をしても同様だからだが、それでは女性に力仕事はできないのかと言えば、現在では、機械を使ったり、工夫したりして、力任せではなく頭を使って、効率的に同じ以上の結果を出すこともできるからである。 なお、「仕事より育児をすべき」というのは、日本では子どものいる男性には言わないにもかかわらず、独身や子どものいない女性にまで言う人が少なくない。しかし、これは仕事の能力とは関係のない場合が多いため、女性に対する単なるハードルだったり、セクシャルハラスメントだったりするのである。そして、このような女性の昇進を妨げるためのバイアスは挙げればキリが無いが、これらが意識的又は無意識的に女性の昇進を妨げ、その結果として、日本では、⑥⑦のように、日本政府が2003年に「202030」を目標にしたにもかかわらず、役職に就いている女性割合は30%にも届かず、これがさらなるバイアスを生んでいるのである。 また、⑩⑪⑫⑬のように、日本の女性役員割合は12.6%にすぎず、2021年のジェンダー・ギャップ指数は156ヶ国中120位で先進国中最低、アジア諸国でも韓国・中国・ASEAN諸国より低く、ガラスの天井指数は日本は29ヶ国中28位で、日本の男女間賃金格差は38ヶ国中ワースト3位だが、どうしてそういうことになるのかは、こちらが聞きたいくらいだ。 一方、EUは、⑧⑨のように、ジェンダー平等推進に取り組んできたが、加盟国間で管理職に就く女性比率に大きな差があるため、2022年6月に上場企業の役員比率男女均衡を義務付けることに合意し、域内上場企業は2026年6月末までに社外取締役の40%以上又は全取締役の33%以上に女性登用が必要で、基準を達成しなければ場合によっては罰則対象になるそうだ。加盟国のESG経営を通して経済にプラスになることでもあるため、TPPもEUに合わせたら良いと思う。 また、*3-3-2は、⑱日経新聞の集計で女性役員のいない東証プライム上場企業は69社で全体の4.2% ⑲政府は2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定 ⑳現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならず、役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要 ㉑就業者の半分近くが女性なのに、管理的職業従事者の女性比率は14.6% ㉒政府目標達成には女性社員の育成も必要 ㉓「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材 等としている。 日本政府は、⑲のように、2023年6月に「2030年までに女性役員比率30%以上」「2025年までに女性役員比率19%」を目標に設定しており、現在は、⑱⑳のように、女性役員のいない東証プライム上場企業が69社・全体4.2%あり、現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには男性が務めている2500以上のポストを女性のために空けなければならず、役員の数を増やして女性を登用するには3800近いポストの新設が必要なのだそうだ。しかし、本来なら、空けて2020年までにやっておくのが筋である。 さらに、㉑のように、管理的職業従事者の女性比率が14.6%しかいないそうだが、男女雇用機会均等法は1999年の改正で「採用・配置・研修・退職で男女差別をしてはならない」と男女差別禁止を義務化している。そのため、それから25年後(四半世紀後)の現在になっても、㉒のように、「政府目標達成には女性社員の育成も必要」などと言っているのは、この間、様々な手練手管を使って均等法違反をしてきたということにほかならない。 なお、㉓は、「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内人材」としているが、見せかけの女性役員割合の増加ではなく、本当に企業文化を改革して業績を上げるには、現在の上司が想像できる範囲外の社内人材である必要があると、私は思う。 *3-3-6は、㉔男女間賃金格差は労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響がある ㉕問題解消には、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠 ㉖男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然だが、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向 ㉗育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多いことが影響 ㉘複数の研究が女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差に繋がる ㉙世界47ヵ国・11万人を対象とした調査で、女性は仕事の社会的意義をより重視する傾向 ㉚アメリカのMBA学生を対象とした研究では社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない ㉛この選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因 ㉜選好理由は、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのか ㉝この研究結果は企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆 ㉞女性の少ない金融業界は、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる 等と記載している。 このうち㉔には賛成だが、㉕については、日本では、i)男女差別のない雇用機会(採用)があるか ii)給与や昇進機会の実質的男女平等があるか iii)結婚・子育てが不可能なほど、転勤・残業が多くないか iv)長く働くことができ、老後生活の安定が保てるか などが、女性の職業選択の条件になっていると思う。 これらの条件に照らせば、㉞の「女性が少ない」という日本の金融業界は、総合職なら過度の転勤があり、そうでなければ昇進機会が著しく限られて給与も上がらないため、能力の高い女性の選択肢には入りにくいのである。しかし、日本の金融機関が女性を補助職としてしか採用していなかった時代でも、私が監査で行っていた外資系の金融機関は、1980年代から日本企業に行けなかった優秀な女性を多く採用しており、管理職の女性も多かった。 また、㉖の「男女共に給与や昇進機会を重視するのは当然」というのはそのとおりだが、「女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する」というのは、「女性は仕事より家事を重視する」というアンコンシャスバイアスに基づいている。 具体例として、「公認会計士」という同業種で比較すれば、男女とも本人の同意なき転勤はない。また、通勤時間が長過ぎれば、それに時間と体力を奪われて十分な仕事ができないため、仕事で競争に敗れるのは男女とも同じなのだが、家事分担の多い女性の方が余計に効く。また、柔軟性ばかり気にする人は、仕事の能力で競争に敗れて昇進しないものの、MBA取得目的の留学や出産目的の休職も認められており、監査法人が語学留学させてくれることも多い。 そして、㉗の「育児・介護などの家庭内責任を担う女性が多い」については、そのために(私が経産省と)1990年代後半に介護保険制度を作り始めて2000年には介護保険制度が創設され、現在は40歳以上の人が介護保険料を払っているため、家族が介護しなくても十分な介護を受けられるようにしてもらいたいのだ。本当は、働く人全員に介護保険料を払って貰いたいのだが、現在は40歳以上の人のみであるため、介護保険料は高いのに必要な介護や生活支援の1/4~1/2くらいしかなされていないのは論外で、さらに保育や学童保育も税金を使って整備してきたにもかかわらず、未だ不十分なのは何をやっているのかと思う。 また、2002年に香港で行なわれた世界会計士会議に出た時、シンガポールの女性会計士が世界会計士会議に来ていて「子どもが2人いて、フルに働いており、現在マネージャーです」と言っていたので、「子どもが2人もいて、どうやってフルに働いているのですか」と聞いたところ、「フィリピン人の家事労働者を2交代で回して家事を全部やってもらっている」という答えだった。日本の場合は、「女性間の差別だ」と言うおかしな論調があったり、家事労働に従事する外国人労働者を制限したりしており、働く女性が子を育てるには犠牲が多すぎるのである。 さらに、㉘の「女性は競争が少なくリスクの小さい仕事を好む傾向がある」というのは、ハイリスク・ハイリターンかローリスク・ローリターンでなければ採算が合わないのは男女とも同じだが、現在の日本では、女性が仕事で昇進しようとすると、さまざまな嫌がらせや間接差別のため、男性よりハイリスクになることが多いようである。 なお、㉙㉚の「女性は仕事の社会的意義をより重視する」「社会的意義が高いと感じられる仕事なら女性は15%低い賃金を受け入れ、男性は11%低い賃金までしか受け入れない」というのは女性に対して失礼であり、男女とも「儲かりさえすれば公害を出して社会に外部不経済を与えても、何をしても良い」という発想は、教育を通じて止めさせて欲しい。また、給与は能力の反映であるべきで、「社会的意義の高い仕事だから、給与は低くて良い」などということは全くなく、むしろ社会的意義の高い仕事ほど給与は高くなければならない筈である。 以上から、㉛の「女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む」という男女の選好の違いは、現在の日本では、公共部門は採用されれば男女差別が少なく、金融部門はガラスの天井・壊れたはしごが存在する上、中には壊れたはしごすら見えない女性も多くいるという現実があるからだと言える。そして、㉝のように、選択肢の多い能力の高い女性は合理的な職業選択をするが、その選好理由は、㉜の「女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響している」のではない。 ・・参考資料・・ <経済における技術革新の重要性> *1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81334460S4A610C2KE8000 (日経新聞 2024.6.13) 日本経済復活の条件(上) 人口より技術革新、将来左右、山口広秀・日興リサーチセンター理事長(1951年生まれ。東京大経済学部卒。元日銀副総裁。13年から現職)、吉川洋・東京大学名誉教授(1951年生まれ。エール大博士(経済学)。専門はマクロ経済学) <ポイント> ○経済停滞の原因はイノベーションの欠如 ○技術革新はミクロで、人口動態と無関係 ○民間企業が主役だが金融や国も役割重要 日本経済の凋落(ちょうらく)が続いている。2023年には人口が日本の3分の2のドイツと55年ぶりに国内総生産(GDP)が逆転した。25年にはインドにも抜かれ、日本経済は世界5位となる見通しだ。私たちの生活水準に密接な関係を持つ1人あたりGDPの順位低下はさらに劇的だ。00年には名目ベースでルクセンブルクに次ぎ世界2位だったが、10年に18位、21年には28位まで転落した。購買力平価ベースでは世界38位だ。アジアでもシンガポール(2位)、台湾(12位)、韓国(30位)に遠く及ばない。1人あたりGDPの水準を決めるのは、人口や人口の変化率ではない。労働者一人ひとりにどれだけの資本ストックが装備されているかを表す「資本・労働比率」と全要素生産性(TFP)だ。資本・労働比率の高低は、工事現場でクレーンやブルドーザーを使い働いているか、それとも1人1本のシャベルやツルハシで働いているかの違いに相当する。全要素生産性の上昇は、ハード・ソフト両面を含む広い意味での技術進歩によりもたらされるが、イノベーション(技術革新)と言い換えてもよい。資本ストックの増強も多くの場合、新しい製品や品質改良、あるいは生産工程における生産性向上を伴うから、全要素生産性の上昇と同様にイノベーションの成果といえる。結局1人あたりGDPの上昇をもたらすのはイノベーションだ。失われた30年といわれる日本経済の停滞はイノベーションの欠如が原因である。日本でイノベーションが振るわなかったのは人口の減少が原因であり仕方がないとの指摘があるが、イノベーションの本質を理解しない誤った考え方だ。イノベーションというコンセプトを経済学の中に定着させたシュンペーターは、それがどこまでも「ミクロ」であることを強調した。イノベーションの担い手は、マスとしての人口を相手にしていないのだ。例えば新しい時代を切り開いた米国のハイテク企業4社(GAFA)の時価総額は12年から22年にかけて385%上昇したが、この間の米国の人口増加はわずか6.2%だ。人口とイノベーションは別物である。経済協力開発機構(OECD)諸国についてみると、世界知的所有権機関(WIPO)が公表するグローバル・イノベーション・インデックス(GII)と各国の人口増加率との間には相関関係がない(図参照)。OECDに加盟していない途上国の場合にはむしろ明確な負の関係、すなわち人口増加率が低い、あるいは減少している国の方がイノベーションが活発であるという傾向がみられる。イノベーションはどこまでもミクロで、マクロの人口動態と直接の関係はない。日本経済の将来を考えるとき、人口減少を言い訳にしてはいけない。民間企業がミクロレベルでイノベーションを行うことが重要だ。「もう買うものがなくなった」との声も聞かれる。既成のプロダクトへの需要が飽和点に達したということだが、それは飽和点を打ち破るための新しいプロダクトの創造の夜明け前ということだ。実際、多くの企業で新しいプロダクトの開発が進められている。こうした成果が1人あたりGDPの向上につながるのだ。1707年創業で、伊勢神宮土産の定番として名高い「赤福餅」を手掛ける老舗和菓子店は、数年前から消費者の嗜好の変化に対応すべく新しい洋菓子を開発している。これはまさにイノベーションだが、その背景には人口の減少とは別の「時代の変化」がある。ある漁網メーカーでは需要が落ち込むなか、サッカーのゴールネットの品質向上に力を注ぎ、漁網づくりの技術を使い六角形のネットを開発した。ゴールの瞬間、ボールが一瞬止まったように見える効果を劇的に演出することに成功した。あるアルコール飲料メーカーは、缶ビールの蓋を開けた瞬間にキメ細かい泡が吹き出て、ジョッキで飲む生ビールのような風味を味わえる製品を開発した。「泡を出さない」缶ビールから「泡を出す」缶ビールへと発想が転換され、缶内側の加工方法の変更など新しい工夫が集積された結果だ。日本で生じている人口減少はそれ自体が省力化のイノベーションを促すことは間違いないし、そうした例は数多くみられる。今後人口減少が加速するなか、こうした省力化のためのイノベーションの必要性は一層高まると考えられる。さらに高齢者の増加に対しては、高齢者特有の財・サービスの提供のほかに、介護のためのハイテク技術の活用などが求められる。現にそうした活用は広がっているし今後利用の余地は広がっていく。1つや2つのイノベーションでは済まない。日本が抱える人口減少や高齢化という課題は、イノベーションを生みだす素地になっている。経済の新陳代謝を促しイノベーションを推進していくために、金融機関の果たすべき役割も重要だ。企業がいわゆる「死の谷」を乗り越えてイノベーションを事業化するには、金融面での支援が欠かせない。これまでは新陳代謝促進に向けて、リスクテイクとリスク回避の適切な使い分けも十分でなかった。金利のある経済の到来で、金融機関のリスクテイク能力の果たす役割は大きくなっている。イノベーションの主役は民間企業だが、国も無縁ではない。政府が時代の変化に対応できずに国力の低下を招いた例としては、04年度に始まったスーパー中枢港湾政策がある。コンテナ取扱個数でみた世界の港湾ランキングで、1980年にはトップ20に4位の神戸をはじめ3港がランクインしていた。しかし21年にはトップ40にランクインする港はない。日本はハブ(中核)機能を失った。一方、成功例もある。例えば00年代に入ってから急増した海外からのインバウンド(訪日外国人)だ。ビザ(査証)免除や発給要件の緩和、観光庁の設立、統計整備、ICT(情報通信技術)を利用したインバウンド消費の把握など、政府による必要な施策を積み上げた成果だ。国費の投入はそれほど大きくはない。「ワイズスペンディング(賢い支出)」ならぬ「ワイズアクション」が奏功した。もちろん国の施策だけではなく、外国人向け高級ホテルの建設、外国人のニーズに対応した新たな商品やサービスの提供、外国人との対話に対応できるスマホによる翻訳機能の開発といった様々な革新的なアイデアが功を奏した結果でもある。まさに官民が協力し、ツーリズムにおけるイノベーションが起きた。人口減少が続くなか、今後のイノベーションの発展については、とかく悲観的な見方が多い。しかし実際には、ミクロレベルのプロダクトイノベーションを含めたイノベーションの動きはすでに始まっている。 *1-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1274461 (佐賀新聞 2024/7/5) 新しい環境基本計画 社会の根本変革への契機に 政府が環境政策に取り組む際の長期的な指針となる第6次の環境基本計画が閣議決定された。 現代社会は、気候変動、生物多様性の損失、プラスチックに代表される汚染の三つの危機に直面していると指摘。人類の活動が環境に与える影響について、地球の許容力を超えつつあるとした。 「目指すべき文明・経済社会の在り方を提示」するというのが計画の触れ込みである。この点に関し計画は、天然資源を浪費し、地球環境を破壊しながら「豊か」になる現在の経済成長の限界を指摘。経済や社会の活動を地球環境の許容範囲内に収めながら「新たな成長」を実現するとの考えを打ち出した。国内総生産(GDP)など限られた指標で測る現在の浪費的な「経済成長」に代わるものとして計画が打ち出したのは、現在と将来の国民の「ウェルビーイング(高い生活の質)」を最上位に置いた新たな成長だ。計画は、森林などの自然を「資本」と考えることの重要性や、地下資源文明から、再生可能エネルギーなどに基づく「地上資源文明」への転換の必要性を強調した。今のような経済成長を無限に続けることはできず、人類は地球の限界の中で活動を行うべきだとした点は、これまでにないものとして評価できる。これを社会変革への契機としたい。だが、根本的な変革の実現は容易ではない。最初の基本計画ができてから今年で30年。この間の経済の停滞も深刻だが、同時に日本の環境政策も欧米に比べて大きな後れを取った。長い間に築かれた既得権益にしがみつく勢力が大きな政治的発言力を持ち、変革を阻んできたからだ。計画の実現には環境省の真価が問われるのだが、現実は極めてお寒い状況だ。水俣病患者団体などとの懇談の場で、職員が団体メンバーの発言中にマイクを切断して厳しい批判にさらされた。環境省が登録に多大な努力を傾けた世界自然遺産、北海道・知床半島の中核地域では、携帯電話基地局の設置工事を不透明な手続きで認可した。気候危機対策上、重要なエネルギー政策やGX(グリーントランスフォーメーション)政策は経済産業省主導で進み、環境省の声が十分に反映されているとは言い難い。こんな状況では市民の信頼を得た環境政策によって、社会変革をリードすることはできない。環境政策はもはや、環境省だけの仕事ではない。変革実現のためには、岸田文雄首相のリーダーシップと勇気が不可欠なのだが、この点でも期待薄だ。首相の日常の言動からは、深刻化する環境問題への関心も危機感もまったく感じられない。基本計画は「環境・経済・社会すべてにおいて勝負の2030年」だと、今後、数年間の取り組みの重要性を指摘した。首相をはじめとする政策決定者や企業のトップが、悪化する地球環境への危機感を共有し、限られた時間の中で社会の根本的な変革に勇気を持って取り組むことが求められる。それなしには基本計画が打ち出した新たな経済も社会も実現せず、計画は単なる紙切れに終わるだろう。その結果、われわれは劣化した環境と貧困や食料難などの社会問題が深刻化し、安全や安心とはほど遠い社会を、次世代に引き渡すことになってしまう。 *1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1266377 (佐賀新聞 2024/6/21) レアメタル含む岩石2億トン、南鳥島沖、25年採取目指す 小笠原諸島・南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内の深海底に、レアメタル(希少金属)を含む球状の岩石「マンガンノジュール」が2億トン以上あることが確認されたと、東京大と日本財団の調査チームが21日発表した。2025年以降、民間企業などと共に商用化を目指した試験採取を始める計画だという。21日に記者会見した加藤泰浩東京大教授は「経済安全保障上、重要な資源だ。年間300万トンの引き上げを目標にしている。海洋環境に負荷をかけないようにしつつ開発を進めたい」と話した。チームは今年4~6月、水深5200~5700メートルの海底を100カ所以上調査。遠隔操作型無人潜水機(ROV)で、約1万平方キロメートルに高密度に分布しているのを確認した。計約2億3千万トンあると推計される。一部を採取して分析したところ、レアメタルのコバルトは、国内消費量の約75年分に相当する約61万トン、ニッケルは約11年分の約74万トンあると試算された。25年以降、海外の採鉱船などを使い1日数千トンの引き上げを目指す実験をするとともに、民間企業などと商用化に向けた体制構築に取り組む。マンガンノジュールは、岩石の破片などを核とし、海水などの金属成分が沈着してできる。海底鉱物資源として期待されており、東京大や海洋研究開発機構などが16年に、同じ海域に密集していることを明らかにしていた。今回の調査では古代の大型ザメ「メガロドン」の歯を核としたマンガンノジュールも複数見つかった。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81872280U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.5) 核融合、多国間協力に壁 実験炉ITER 完成8年先送り、米中、独自開発進める 日本は2国間を強化 日本、米国、中国、ロシアなど「7極」が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)の完成が、当初の2025年から早くても33年に先送りとなった。多国間協力が順調に続くかは見通せない。米国や中国は独自開発も進めており、核融合発電(きょうのことば)の実現に向けた戦略が日本にとって重要になる。核融合は太陽と同じ反応を地上で再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを生み出せる。ただ、技術的なハードルが高く、膨大な開発資金が必要なことから、国際協力を軸に開発が進んできた。 ●部品不具合響く それが日本、欧州連合(EU)、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参加するITERだ。ITERは核融合で生じるエネルギーを発電に利用できるかどうかを確かめる研究施設で07年にフランスで建設が始まった。投入量の10倍のエネルギーを取り出す成果を目指す。当初は18年の完成を目指していたが、25年に切り替えた。しかし、25年の完成についても、新型コロナウイルスの感染拡大による作業の遅れや部品の不具合で遅延する可能性がここ数年報じられてきた。3日、ITERは部品の不具合などを理由に完成の遅れは8年になると発表した。仏紙によると、総事業費は遅延などを受けて250億ユーロ(4兆3000億円)近くに達する見通しだ。これまでの想定より50億ユーロほど増える。開発の遅れの背景には多国間協力の複雑さがある。ITERでは各国が担当している部品を製造し、「物納」してフランスで組み立てる方式をとる。今回、不具合があったのは核融合を起こす中心部である真空容器だ。真空容器の外側に取り付けられるサーマルシールドと呼ばれる熱を遮蔽する板の冷却用配管に亀裂が見つかったという。部品の製造を担った韓国が納入した時点で、設計との誤差があった。ITERは溶接で誤差を補えるとみていたが、フランスの規制当局は認めなかった。ほかにも真空容器の壁の素材を作業員の安全のために変更する方針で、組み立て作業をやり直す。バラバスキ機構長は3日の記者会見で「プロジェクト全体の遅れを最小限に抑える」と説明した。 ●国際連携の象徴 東西冷戦終結の前後に構想が固まったITERは国際宇宙ステーション(ISS)などと同様に、壮大な科学プロジェクトを国際連携で進める象徴だった。ITERには米国などと急速に関係が悪化する中国やロシアも参加しており、今後、協力が続くかは不透明な面もある。ITERの遅れは各国の核融合開発の戦略に影響を与える。ITERは当初50年代の核融合発電の実現を見据えたプロジェクトだったが、海外を中心に早期の実用化を見据えた動きが活発になっている。米国や中国は40年代に発電する炉の建設を目指している。中国は発電能力を備えた試験炉の建設にすでに着手している。米国はITERとは別の方式で核融合を起こす実験装置を国立研究所が持ち、22年に世界で初めて投入量を上回るエネルギーの「純増」に成功している。日本などはITERの成果をもとに原型炉を建設して、50年代の発電を目指してきた。今もITERとの協力を開発の中心に据えているものの、2国間協力にもかじを切り始めている。日米両政府は4月の首脳会談に合わせて、核融合に関する共同声明をまとめた。両国の企業や研究機関の人材の交流や研究施設の相互利用などを盛り込んだ。核融合施設に部品を納入する企業を中心に国が産業界と連携し、世界的なサプライチェーン(供給網)の構築を目指すことも盛り込まれた。日本は米国との協力強化に先立ち、23年12月にEUとも核融合の推進に関する声明を出している。米国や欧州など西側諸国との協力を強化することで実用化にこれ以上の遅れが生じないようにする狙いがある。 *1-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15920162.html (朝日新聞 2024年4月25日) 2040年、日本は新興国並み 半導体やバイオ投資、成長のカギ 経産省見通し 「失われた30年」の状態が今後も続くと、2040年ごろに新興国に追いつかれ、海外より豊かでなくなる――。経済産業省が24日、こんな見通しを明らかにした。半導体やバイオ医薬品の開発などに思い切って投資しないと、国が貧しくなって技術の発展も遅れ、世界と勝負できなくなるおそれがあるという。今後の経済産業政策の指針とするため、経産省が課題や展望をまとめた。経産省は日本経済が停滞した理由として、企業が安いコストを求めて生産拠点を海外に移し、国内での投資を控えていたと指摘。このままでは賃金も伸び悩み、国内総生産(GDP)も成長しないとみる。今後、GDPで世界5位に後退するとの試算もある。停滞から脱するには、国内投資の拡大とイノベーションが重要だとする。とくに半導体や蓄電池、再生可能エネルギー、バイオ産業への積極投資が成長のカギを握る。スタートアップや大学、研究所を連携させる必要もあると指摘。それに伴って、所得を伸ばしてゆくという筋書きだ。経産省は「政府も一歩前に出て、大規模・長期・計画的に投資を行う」とし、具体策を検討する。岸田政権が6月にもとりまとめる「骨太の方針」に反映し、具体策を来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。これまでも経産省は半導体産業への巨額の支援を実行してきた。21~23年度は計約3・9兆円の予算を計上。今回示した見通しは、政策の正当性を主張し、今後も続けさせる目的もあるようだ。今月9日に開かれた財務省の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会では、経産省が主導する半導体支援などの産業政策について、「財政的に持続可能なものではない」などとの意見も出た。増田寛也分科会会長代理は「強力な財政的出動の効果は、厳密に検証しなければいけない」と話す。今後、経産省と財政再建をめざす財務省で綱引きがありそうだ。 *1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15958978.html (朝日新聞 2024年6月15日) オプジーボの先へ:下 「特許の壁」乗り越え、挑む海外展開 小野薬品工業の売上高は、2014年にがん治療薬「オプジーボ」を発売してから、23年度までで3・7倍に伸びた。一方でその間、オプジーボによる二つの壁に直面した。ひとつは、価格が高いとの批判だ。いまは、さまざまながんの治療薬として認められているが、日本では当初、患者が少ない皮膚がんの一種(メラノーマ)の治療薬として売り出した。投じた研究開発費なども考慮して採算が取れるよう、国が決めた薬価は100ミリグラム約73万円だった。ところが、翌15年に患者が多い肺がんに使えるようになると、1人当たり年3500万円かかり、米英の2~5倍などとして批判にさらされた。「公的医療保険制度を崩壊させかねない」などとして、国は16年、当時は2年おきだった薬価改定を待たず、半額にする緊急値下げを決めた。その後も引き下げが続き、今は当初の5分の1だ。当時社長の相良暁は「自分の体を切られるぐらいのつらさがあった」。だが、こうも考えたという。「自分でコントロールできることと、できないことがある。コントロールできないことにいくら思い悩んでたって変わらない。だから、できることに専念する」。もうひとつは、共同研究をした京都大学特別教授の本庶佑との訴訟だ。本庶は18年、オプジーボにつながる研究でノーベル生理学・医学賞を受賞。その後の20年6月、契約通りの特許使用料を得られなかったなどとして、約262億円を払うよう小野薬品を訴えた。「対応を間違ったら、小野薬品のレピュテーション(評判)が悪くなってしまう。社員やその家族にも迷惑をかける」。相良はリスクを感じ、21年に和解に応じた。本庶に解決金などで50億円を支払い、若手の研究者を支援するための基金として230億円を京大に寄付することにした。だが、本庶と結んだ特許料の契約の内容を変えることには応じなかった。製薬会社に限らず、企業は大学などと組み、さまざまな研究や開発に取り組んでいる。成功すれば目立つが、失敗することも多い。企業はそのリスクを負って資金を出している。「研究が大きな成功につながったら、もともとの契約を変更して上乗せしてしまうと、産学連携に禍根を残すのではないか」。この裁判は自分たちだけの問題ではないと考えていた。この先に待ち構えるのは、製薬業界にはつきものの「特許の壁(パテントクリフ)」だ。オプジーボの特許は、国内では7年後の31年に切れる。ほかの薬の特許切れも迫り、価格の安い後発薬(ジェネリック)が出れば、会社の売り上げは大幅に落ち込む可能性がある。この4月に社長の座を滝野十一(56)に譲り、会長になったのは、オプジーボのその先を考えてのことだ。海外での経験が豊かな滝野とともに海外展開に本腰を入れる。手始めに米国のバイオ医薬品ベンチャーを約24億ドル(約3765億円)で買収することを決めた。2年後には自社開発したリンパ腫の薬を米国で売り出す計画だ。この会社が持つ欧米での販路を生かす。相良が社長に就く前後の2000年代、国内外で製薬会社の合併が相次いだ。「変わり者」の小野薬品にも声はかかったが、乗る気はなかった。17年に300年を迎えた会社の歴史の重みを感じ、「未来に引き継いでいかなあかん、名前をなくしちゃあかん」。思いは強い。人体の仕組みの解明や人工知能の高度化といった技術の進展で、薬の作り方は変わり続ける。「真のグローバルファーマになることに、真剣に本気になって取り組む」。特許の壁も乗り越え、自前で生き残るため、海外に挑む。=敬称略 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81874780V00C24A7MM8000 (日経新聞 2024.7.5) 抗生物質も脱中国 薬の安定供給へ国産化 明治や塩野義、政府が支援 抗生物質の原料のほぼ全量を中国など国外に依存している状況を変えようと官民が国産化に動く。輸入が途切れれば十分な医療を受けるのが難しくなるためだ。政府が補助金や国産品を買い取る支援制度を2024年度にも新たにつくる。抗生物質は抗菌薬ともいい、細菌や体内の寄生虫を殺したり、増えるのを抑えたりする薬。抗生物質がなければ細菌性感染症の治療や手術ができない。院内感染が増える恐れもある。世界保健機関(WHO)は各国に十分な量の抗生物質を確保するように呼びかけている。抗生物質の市場規模は400億~500億ドル(6.4兆~8兆円)とされる。WHOは「地球規模の公共財」と呼ぶ。抗生物質の最終製品は日本国内でも製造するが、原料物質である「原薬」はコストが見合わないとして国内からの撤退が進み、現在はほぼ全量を国外に依存する。手術などでよく使う「ベータラクタム系」の抗生物質の原薬はほぼ100%を中国から輸入する。19年には中国の工場の操業が停止した影響で、国内で抗生物質が品薄になり、手術を延期した例もあった。政府は22年、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に指定した。現在は複数のメーカーが国内で原薬製造の設備投資を進める。厚労省は明治ホールディングス系のMeiji Seikaファルマと、塩野義製薬系のシオノギファーマが率いる2つの事業を支援し、設備投資を2件合計で約550億円補助することを決めた。本格的な供給開始は25年度以降だが、現状では大規模なロットで効率生産する中国産には価格面で対抗できない可能性が高い。採算が合わないと判断したメーカーが再び撤退する恐れがあるため、厚労省は国産原薬が継続的に使われるための制度を整備する。具体的には原薬メーカーや供給先の製薬会社への補助や、国が製品を買い取る形で原薬メーカーに一定額を支払う制度などを検討する。抗生物質の原薬の輸入単価は5年間で数倍になり、安定供給へのニーズは高い。各国も確保に取り組んでいる。米国は23年、国防生産法を活用して重要な医薬品の国内生産に向けた投資拡大を表明した。英国は抗生物質の開発を促すため、メーカーに固定報酬を支払う「サブスクリプションモデル」を24年に本格導入した。 *1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81579030R20C24A6CM0000 (日経新聞 2024年6月22日) 東大、授業料2割上げ提案、学長「教育改善待ったなし」 「進学機会に格差」の声も 東京大の藤井輝夫学長は21日、学生との意見交換の場である「総長対話」を開き、授業料を2割上げる検討案を示した。世帯収入に応じた経済的支援の拡充も併せて検討中だとしたが、一部の学生や教員は「進学機会の格差拡大につながる」と反対している。20年間据え置いてきた授業料の値上げに踏み切れるのか。財務状況が厳しい地方国立大はトップ大の動向を注視している。「国からの運営費交付金が減る中、設備の老朽化や物価、光熱費、人件費の増大などに対応しなくてはならない」「教育環境の改善は待ったなしだ」。藤井学長は同日夜、オンラインで開催された総長対話で、画面越しに学生にこう訴えた。授業料収入はグローバル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に充てると説明した。文部科学省の省令は国立大の授業料の標準額を年53万5800円とし、最大で20%まで引き上げられると定めている。関係者によると、藤井学長が示した検討案は、現在標準額としている授業料を上限である年約10万円増の64万2960円とする内容。「経済的に困難な学生の支援を厚くするのは必須」とした上で、授業料全額免除の対象について、現在は世帯収入年400万円以下の学部生としているところ、同600万円以下の学部生と大学院生に対象を広げることなども話したという。同600万~同900万円の学生についても、状況を勘案して一部免除とするとも述べた。導入時期については「学生の皆さんの意見も踏まえてさらに検討を進めたい」と明言しなかったという。値上げには賛否がある。ある東大教授は「充実した教育や研究には費用がかかる。現状では全く足りていない」と理解を示す。一方で学生や教員の一部は「格差の拡大につながる」「大学院への進学に影響を及ぼす」などと反対する。学生らは14日、国からの運営費交付金の増額などを求める要望書を文科省に提出した。総長対話に臨んだ学生も「値上げされれば、首都圏出身者が多いといった学生の偏りが助長されかねない」と主張。別の学生は経済支援について「状況を勘案するというが、支援が適用されるかどうか判別がつかない場合は進学を諦める層がいるのではないか」と疑問を投げかけた。約2時間続いた対話は値上げ反対の声が大半だった。教養学部学生自治会が5月下旬に実施した学生アンケートでは、回答した2000人超の学生のうち、9割が値上げに反対だった。東大の2021年度の調査で、学部生の保護者の世帯年収は1050万円超が4割を占めた。関東出身は55%と半数を超える。授業料が上がれば、地方の学生などのアクセスがますます困難になるとの懸念は根強い。地方国立大も東大の判断を固唾をのんで見守る。近畿地方のある国立大学長は「地方大は東大より厳しい経営環境にある。授業料を上げられるなら上げたい」と漏らす。一方で九州地方のある国立大幹部は「地方は都市部と比べて家庭の平均収入が低く、授業料を上げれば、門戸を狭めてしまう恐れがある。値上げを決めて『悪目立ちしたくない』という思いもあり、すぐには難しい」と複雑な胸の内を明かす。標準額からの引き上げは19年に東京工業大が初めて実施。同省によると、現在標準額を超える授業料を設定しているのは東京芸術大や一橋大、千葉大など計7大学で、すべて首都圏にある。この幹部は「京都大や大阪大、東北大などの旧帝大が追随するかどうかが、国立大に値上げの波が広がるポイントではないか」と予想する。国立大を取り巻く環境は厳しさを増している。物価高などで研究や教育のコストが高まる一方、基盤的経費である国からの運営費交付金は減少傾向にあるためだ。国立大学協会は7日、国立大の財務状況が「もう限界だ」とする声明を出し、運営費交付金の増額に向けた社会の後押しを求めた。同協会の永田恭介会長(筑波大学長)は「(20%の)上限までの引き上げについては、各大学の裁量に任せるほかない」としつつ国立大一律での値上げは難しいとの見解を示している。文科省幹部は標準額や上限の変更について「現時点では検討していない」と述べるにとどめた。 *1-5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA192VJ0Z10C24A7000000/ (日経新聞 2024年7月19日) 首相「国立公園35カ所の魅力を向上」 高級ホテル誘致へ 岸田文雄首相は19日に首相官邸で開いた観光立国推進閣僚会議で、2031年までに全国に35カ所ある国立公園で、民間を活用した魅力の向上に取り組むと言及した。環境保全を前提に高級リゾートホテルも含めて誘致し、訪日消費の拡大につなげる。地方空港の就航拡大に向け週150便相当の航空燃料の確保を含む緊急対策を講じるよう指示した。「秋に予定する経済対策を念頭に取り組みを加速してほしい」と述べた。首相はインバウンド(訪日客)について「2024年は過去最高を大きく更新して3500万人、旅行消費額も8兆円が視野に入る勢いだ」と明らかにした。政府は30年に訪日客数6000万人、消費額15兆円の目標を掲げる。首相は、地方への誘客促進と、訪日客の急増に対応するオーバーツーリズム対策に重点的に取り組む方針を示した。地方の空港では航空便の燃料不足により新規の就航や増便ができない問題が表面化している。オーバーツーリズム対策として、観光庁が補助金を出す「先駆モデル地域」に小豆島(香川県)や高山(岐阜県)、那覇(沖縄県)など6つの地域を加えると表明した。成果を踏まえ対策の参考となる指針を年内にまとめるよう求めた。日本政府観光局(JNTO)が19日に発表した訪日客数によると1〜6月は1777万人ほどで、同期として過去最高だった19年の1663万人ほどを上回った。 *1-5-2:https://www.jiji.com/jc/v4?id=swiss14070005 (時事 2024年7月21日) イノベーション立国スイス~山と湖とハイテクと~ ●伝統の観光地にも革新 日本とスイスは2014年、国交樹立150周年を迎えた。幕末に日・スイス通商条約を締結して以来の関係だが、観光面での結び付きの強さで知られる。アルプス有数の観光列車ユングフラウ鉄道は利用客数で日本人は年間10万人以上と1、2位を争う。ユングフラウ鉄道の終点ユングフラウヨッホは、3454メートルに位置する欧州で最も標高の高い鉄道駅として、「欧州の頂上」と呼ばれる。ふもとのクライネシャイデック駅から、登山者に難攻不落と恐れられた断崖絶壁の「アイガー北壁」を眺めたり、山の中を繰り抜いたトンネルを通過したりしながら、登山家が数十時間掛けるところを50分超で登っていくが、空気が薄くなり徐々に息苦しくなる。3000メートルを越えた辺りからは、頭がぼんやりし、めまいも覚える。隣に座っていた男性の「酸素を多めに取り込んだ方がいいですよ」とのアドバイスに従い、深呼吸を繰り返すと少し楽になった。ほうほうの体で頂上駅に到着すると、頂上には晴れ間が広がり、雪に覆われた峰々の間に形成された欧州最大というアレッチ氷河を目の当たりにできた。 頂上駅には、日・スイスの友好関係の象徴として、富士山五合目簡易郵便局から寄贈された日本の赤い郵便ポストが置かれ、公式のポストとして現役という。1912年にユングフラウ鉄道が開通した伝統観光地にも競争力を維持するために「革新」が求められているという。同鉄道マーケティング担当者のシュテファン・フィスターさんは「新しい要素があれば、再訪してもらう理由になる」とリピーター開拓の必要性を訴える。鉄道工事の様子などを再現したアトラクション施設を開設したり、急増するインド人観光客に合わせてインド料理レストランをオープンしたりと営業努力に余念がない。さらに、日帰り観光を望むアジアからの観光客のニーズを見据え、「開業以来の100年で最大のイノベーション」という、観光拠点グリンデルワルトから頂上までの所要時間87分を45分に大幅短縮するロープウェー建設の計画も進んでいる。 *1-5-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOLM120N70S2A211C2000000/ (日経新聞 2023年1月12日) スイスの人気観光地 アルプス最古の集落で驚きの歴史 1865年、英国人のエドワード・ウィンパーが、ヨーロッパのアルプスを象徴するマッターホルンを制覇した。標高4478メートル、独特な形状を持つ険しい頂きは、スイス南部でイタリア国境に接するヴァレー州ツェルマットの背後にそびえている。マッターホルン登頂という画期的な成功によって、ヨーロッパ全域で登山が盛んになった。ただ、その快挙も、このスイスの村にとっては長い歴史の1ページにすぎない。「クルトゥーアヴェーゲ」(文化の道)と名づけられた新しいハイキングトレイルでは、この名高いリゾートの"別の顔"に出会うことができる。このトレイルの整備は10年計画で進められており、今後6年間で、6つの集落を通るおよそ20キロメートルのルートがつながる予定だ。かつてツェルマットの農村地帯に欠かせなかった、牧歌的な牧草地にたたずむ数百年前のカラマツ材の納屋は、トレイルの見どころになっている。「ツェルマットは、毎年、何百万人もの旅行者でにぎわいますが、町の中心から15分ほど歩けば、500年前の暮らしに触れることができます」。ヴァレー州のツム・ゼーを目指して歩きながら、トレイルの共同設立者である民俗学者のヴェルナー・ベルワルド氏は話す。現在、トレイルの5つの区間のうち2つの区間がハイカーに開放されている。ツム・ゼーは、この開放された区間にあり、居住者がほとんどいない集落のひとつだ。世界屈指のスキーリゾートとして有名になる前のツェルマットは、数百年の間、焦げ茶色の納屋が点在するのどかな楽園だった。納屋は穀物の保存や乾燥肉の製造、家畜の飼育に使用されており、人々がこの地方特有の気候を生き抜くために不可欠な建物だった。この地方はアルプスを越える主要な塩の交易路の中継地点であったにもかかわらず、中世後期(1300~1500年ごろ)の生活を記録した文書はほとんど残っていない。名高いマッターホルンの山頂からわずか10キロメートル弱の地点にある、トレイルの設立者たちは、科学技術と数世代にわたる地元の知識を駆使して、この歴史の空白を埋めようと取り組んでいる。 ●ツェルマットの昔に思いをはせる クルトゥーアヴェーゲとして案内標識のある最初のトレイルが開通したのは2019年だった。ツェルマットの中心部からツムットまで標高差約300メートルを登る、距離にして3.2キロメートル強の道のりだ。その途中には、注目スポットとして説明看板が設置された14の「ステーション」が設けられている。そのひとつは、数百年前の羊小屋で、この地方の方言では家畜小屋を意味する「ガディ」と呼ばれている。岩壁の張り出し部分にへばりつくように建つカラマツ材の納屋には、複数の中世の住宅の梁(はり)と窓が再利用されている。中間地点の雑木林を抜けると、石が積まれた場所がある。これは、古い牛小屋の跡だ。トレイルで最もぞっとするようなコース(現在は安全のためロープが張られている)の最後にあるのは、オオヤマネコを捕獲するために作られた250年前の石造りのわなだ。ツェルマット地域では、2つしか発見されていない。2021年に開通したクルトゥーアヴェーゲの第2区間は、登山道というより、のんびりとした村の散策路に近い。このトレイルは、1300~1600年ごろに建てられたツムットの家畜小屋、住居、納屋(きのこ型の支柱がある穀物用の納屋)の間を縫うように続いている。ある家畜小屋は、ツェルマットの農業社会を支えた女性たちに関する展示スペースに転用されている。地元在住のオトマール・ペレン氏が監督した展示では、昔の写真に、ヴァレー州の主要穀物であるライ麦の束や牛の飼料などを「ツチフラ」と呼ばれる籐(トウ)で編んだ背負いかごで運ぶ女性の姿がある。「ツェルマットの人々は、1950年代まで穀物と牛で生計を立てていました」と、トレイルの創案者であるルネ・バイナー氏は話す。彼は、地元の歴史協会である「アルツ・ツェルマット協会」の会長で、ツェルマットの発足に関わった旧家の子孫でもある。 ●ほぼ自給自足の暮らしだった集落 2023年夏に開通予定の第3区間では、ハイカーは4つの集落(フーリ、フレッシェン、ツム・ゼー、ブラッテン)を通る4.8キロメートルの道を下り、ツェルマットの起源となった土地を歩くことができる。まとめてアロレイトと称されるこうした集落は、独立を放棄して、ウィンクルマッテン、ツムット、イム・ホフ(今日のツェルマットの旧市街)に加わった。1791年、これらの集落は、古い方言で「牧草地のそば、または上」を意味する「Zer Matt(ツェル・マット)」というひとつの共同体に統合された。1891年にフィスプ~ツェルマット間の鉄道が通るまで、ツェルマットの集落は、ほぼ自給自足で暮らしていた。だが、この鉄道によって観光業が盛んになると、納屋の多くが放棄された。拡大する氷河を避けるため「レゴのように」解体された納屋もあったことを、フレッシェン近くの家畜小屋を調査している際に、ベルワルド氏が話してくれた。この家畜小屋には、近くのイム・ボーデンにあった住居の資材が再利用されている、とトレイル整備チームは確信している。イム・ボーデンは、14~19世紀のヨーロッパの小氷河期に、ゴルナー氷河に飲みこまれてしまった集落だ。この区間の最後は、香り高い松林を歩き、20世紀初頭のティーハウスに到着する。教師の職を引退後にアマチュア歴史家に転向したクラウス・ユーレン氏によれば、このティーハウスは英国人観光客向けに建てられた多くの店のひとつだという。女性たちが経営するこうした店は、1927年までツェルマット観光のピークシーズンだった夏に、土産物や軽食、高山植物の花束などを販売し、ツェルマットの山岳高級レストランの先駆けとなった。 ●「ヨーロッパ最古」の納屋を発見 クルトゥーアヴェーゲの実現には、科学が重要な役割を果たしてきた。バイナー氏は長い間、ツェルマットの集落は納屋や住居に刻まれた年代よりも古い、と推測していた。だが、それを証明するには、動かぬ証拠が必要だ。そこで、"樹木の探偵"、マルティン・シュミッドハルター氏の助けを借りた。年輪年代学者のシュミッドハルター氏は、スイスアルプスの非常に辺ぴな集落で、木造建造物が建設された年代を特定する調査に20年間携わってきた。「通常、樹木は冬に伐採し、翌年の夏に家屋の建設に使用します」と、シュミッドハルター氏は説明する。シュミッドハルター氏は、2012年からクルトゥーアヴェーゲの現場調査を本格的に開始した。現在のツェルマット~ツムット間のトレイルにある複数の建物から、鉛筆ほどの木材サンプルを採取し、分析作業に取りかかった。顕微鏡下で木材の年輪を算出したデータに対してコンピュータープログラムを実行すると、心電図に似たグラフが大量に出力される。これらの結果から、樹木の誕生と死の時期を特定できる。この調査では、2つの驚くべき発見がもたらされた。まず、ツェルマットの町を見下ろす見晴らしのよい高原に残る納屋が、700年以上前のヨーロッパ最古の納屋であることが、2019年に判明した。クルトゥーアヴェーゲ最初のトレイルにあるヘルブリッグ・シュターデルという納屋のデータから、この集落の誕生は1261年にさかのぼると確認されたのだ。ヨーロッパの年輪年代学の研究者たちは、「ツムットはアルプス最古の集落である」というシュミッドハルター氏の2つ目の主張にも同意した。それまでは、同じヴァレー州にあるゴムス谷のミュンスターがアルプス最古の集落とされていた。第3区間は完成間近で、あと2つの区間の整備が残っている。このため、クルトゥーアヴェーゲ沿いでは、もっと多くの発見が期待される。地域の歴史がさらに明らかになる可能性が、トレイルの設立者たちを後押ししている。「まだ、すべてが解明されたわけではありません」とベルワルド氏は話す。「だからこそ、興味津々なのです」 *1-5-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS7M2VZ9S7MUZOB004M.html (朝日新聞 2024年7月21日) 富士山と五重塔の名所、大混雑で入場料徴収も? 観光公害で市が検討 富士山のふもとの観光地でオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化している。富士山を隠す黒い幕が設置された山梨県富士河口湖町だけでなく、隣接する富士吉田市でもマナー悪化の問題に直面し、人気スポットの有料化などの対策が検討されている。連日、多くの外国人観光客が詰めかける市中心部の「本町通り」(国道139号)。両脇に延びるレトロな商店街と、その先の富士山を写真に収められることで人気の「映えスポット」だ。だが、本町通りは片側1車線。周辺の路地では、団体客を降ろすワゴン車が頻繁に一時停止し、車の通行を妨げていた。通りの商店からは「観光客が店でトイレを借りるばかりで買い物をしてくれない」との苦情も出ていた。 ●訪日客急増、市街地のほかの場所でも問題に そこで市は6月1日、通りに面した土地に有料駐車場をオープンした。事業費は1億8千万円。敷地内にトイレも設け、車の乗降場所としても周知を図る。コロナ禍を経て急増した外国人観光客によって市内は活気づく一方、市街地のほかの場所でも駐車場やトイレの不足のほか、ごみのポイ捨てや民家の敷地への立ち入りなど、観光客のマナーの悪さが問題となっている。市は5月下旬に会議を開き、課題を洗い出して対策を講じることを確認した。中でも対応が急がれているのが、新倉山浅間公園だ。園内のデッキからは富士山を背に「五重塔」と呼ばれる園内の忠霊塔が一緒に撮影でき、桜の名所としても人気だ。ここで訪日客が急増している。市によると、コロナ禍前の2019年度の入園者は約54万人だったが、23年度は約2・4倍の約130万人となった。園内のトイレはごみやペーパーで便器が詰まる被害が頻発し、ペットボトルのポイ捨ても散見された。市の担当者は「当面は観光客の流れを抑制し、清掃やごみ処理をさらに徹底しなければならない」と指摘する。 ●混雑緩和へ、公園とデッキつなぐ乗り物も検討 そこで浮上するのが、公園で入場料を徴収する構想だ。市幹部は「強制ではなく任意の『協力金』という形も考えられる。いずれにしても前向きに検討したい」と明かす。園内のデッキにつながる398段の階段が混雑し、高齢者や障害者がたどり着くのが困難だったとの声も上がっている。市は、観光客をデッキに誘導する乗り物を新設して混雑緩和を目指す検討も始めた。現在、エレベーター、エスカレーター、スロープカーの3種類が候補に挙がっている。小林登・経済環境部長は「観光客と市民の共存を第一に考えたい。実現したいが、市民に負担をかけるのは避けたい」とし、財源や効果を考慮して判断する。 *1-5-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA216960R20C24A6000000/ (日経新聞 2024年7月17日) 訪日客向け二重価格、関西自治体が検討 納得感カギに 地方自治体でインバウンド(訪日外国人)旅行者向けのモノやサービスの価格を高く設定する「二重価格」を検討する動きが広がってきた。観光資源を維持するための財源を確保する狙いがある。実際に導入する場合は本人確認に手間やコストがかかる課題がある。外国人を歓迎していないとも受け取られかねないため、丁寧な制度設計が欠かせない。「市民と外国から訪れる人と2種類の料金設定があっていいのではないか」。兵庫県姫路市の清元秀泰市長は6月中旬、世界遺産で国宝の姫路城(姫路市)の外国人入場料を引き上げる案に言及した。外国人を30ドル(約4760円)、市民を5ドルにする構想を披露した。現在の18歳以上の入場料は国籍問わず千円で、いまの為替水準なら外国人は4倍超になる計算だ。清元市長は文化財として保護していくための費用に充てる必要性を指摘する。これを受けて大阪市の横山英幸市長も記者団に「有効な手の一つだ」と語り、大阪城で価格差をつけることに前向きな考えを示した。京都市の松井孝治市長は地元住民の公共交通料金を観光客より低くするという市民優先価格の導入を公約に掲げて当選した。国籍によって区別する二重価格については「差別する合理性がどこまであるのか」と疑問を呈する。海外では二重価格を採用している国も多い。たとえばエジプトのピラミッドは地元やアラブ諸国の観光客と、そのほかの観光客の価格差は9倍だ。インドやネパールでも導入されている。二重価格以外でも、対策の財源を確保しようとする動きがある。大阪府の吉村洋文知事は府内を訪れる訪日客から数百円程度を徴収する制度を導入する意向を示す。二重価格や外国人から別途お金を徴収する制度には課題がある。一つは外国人に与える印象や不公平さの問題だ。日本人と差をつければ訪日客を歓迎していないと受け取られる可能性がある。横山市長は「2025年に万博があるから、海外の方に後ろ向きにとられないメッセージの出し方をしなければいけない」と語る。博覧会国際事務局(BIE、本部パリ)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長は4月に来日した際、大阪府が検討する徴収金について「潜在的な来場者は歓迎されていないと感じる」と懸念を示した。府が設置した有識者会議でも「なぜ外国人のみに負担を求めるのか、租税条約や(法の下の平等を定めた)憲法14条を踏まえて整理してほしい」との声が出た。負担を重くすればネガティブに受け止められて訪日客増加の流れに水を差す可能性もある。今は円安を背景に日本で割安に消費できることが訪日客の増加につながっている面があるが、円高に振れれば訪日客の負担感は重くなる。運用面のハードルもある。二重価格を導入する場合、日本に住む外国人と訪日客を見分ける仕組みが欠かせない。人員の負担が増えたり、新たなシステムを導入したりする必要も出てくる。観光産業では足元の人手不足が深刻で、追加で人員を雇うのは容易ではない。立教大学の西川亮准教授は「導入する場合は外国人を差別しているように受け止められ、日本の良さが伝わらなくなってしまうのは避けなければいけない」と指摘する。「『日本文化を知ってもらうためのガイドツアーを提供する』とか『普段公開していないエリアを見ることができる』など、体験の質を上げるために価格に差があるという説明がきちんとできるかどうかが重要だ」と指摘する。 <日本の農業と食料安全保障> *2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240613&ng=DGKKZO81345960S4A610C2EP0000 (日経新聞 2024.6.13) 農業基本計画、年度内に改定 政府、価格転嫁へ法制化も 政府は12日、「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の会合を首相官邸で開いた。今後の農政の中長期の指針となる「食料・農業・農村基本計画」の2024年度内の改定、食品・農産品の価格転嫁を促すための法制化を進めることを決めた。岸田文雄首相は価格転嫁に加えて、人口減少に対応した農業用インフラの保全管理の見直し、森林組合や伐採業者といった林業経営体の集約の促進について、それぞれ25年の通常国会で法制化を目指すよう指示した。基本計画は改定に向けて今夏にも議論を始める。従来の計画では自給率の目標のみを掲げていた。改正食料・農業・農村基本法が5月に成立したのを受け、自給率に加えて目標に据える「その他の食料安全保障の確保に関する事項」の具体案を検討する。価格転嫁を巡っては、生産者や加工業者、小売業者間での価格交渉をしやすくするため、価格に占める肥料や燃料、輸送費などサプライチェーン(供給網)全体のコスト構造を整理し、費用が上がった場合に交渉を促すような仕組みを想定している。政府は今後の農林水産業の政策の全体像を示した。今国会での成立を目指す「食料供給困難事態対策法案」について、食料供給が困難な事態の定義などを定める基本指針を25年中に策定することも盛り込んだ。 *2-1-2:https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/244147 (日本農業新聞 2024年7月8日) [論点]東京都知事選に思う 国の政策論議とは別物 法政大学教授 山口二郎 本稿の執筆時点で、東京都知事選挙の選挙戦は終盤を迎えている。自治体の首長の選挙なので、東京の税金をいかにして東京都民の福祉のために使うかが政策のテーマである。それはあまりにも当然のことなのだが、豊かな大都市で住民のためのサービスを競うという形の政策論議に、これからの国全体の政策論争が引きずられることには、危うさを感じる。 ●特殊な東京の事情 東京都における出生率が1を割り、子育て支援、少子化対策が大きな争点の一つになっている。もちろん、これらの政策を拡充することは必要だが、東京の出生率が他の地域より低いのは当然である。住宅費が極めて高い東京で、たくさんの子どもを育てるための広い家を持つことは、普通の人には無理である。人口減少対策は国全体の形のデザインの中で議論しなければ、無意味である。東京に住みたい人の自由は尊重するが、雇用機会のためにやむを得ず東京に集まる若い人々に対し、生活環境の良い地方で働き、家族を形成するという選択肢を提供することが必要となる。もう一つ気になることがある。有力な候補者の政策が、平穏無事な自然環境と経済状況を前提としていることである。都知事候補者に農業や食料のことを考えろというのは、ないものねだりである。それにしても、水、食料、エネルギーという人間の生存に不可欠な資源はお金さえ出せばいつでも必要なだけ買えるという前提がこれからも続くと楽観すべきではない。日本がシンガポールのような都市国家であれば、都知事選挙の政策論争はそのまま国政のそれに重なるだろう。しかし、日本は大都市だけでなく、山地、農地、離島などを抱えた多様な国土を持っており、さまざまな職業を持つ人が各地に定住して、社会を構成している。それが日本という国の魅力でもある。 ●〝土台〟を守るには 従って、国政選挙の争点は都知事選挙の争点とは異なるはずである。今の日本は、高度成長期以来積み上げたさまざまな貯金を食いつぶし、衰弱の局面に入っている。最近の円安はその象徴である。食料とエネルギーの海外依存を続ければ、富の国外流出も大きくなる。これらを自給する体制を立て直すことと、地域における雇用機会の創出、人口再生力の回復は、一体の課題である。国政では、岸田文雄政権が迷走を続け、自民党内からも退陣を求める声が出てきて、政局は混迷を深めている。岸田氏あるいは次の首相の下で、遠からず解散、総選挙が行われるに違いない。その時には、国の形のグランドデザインを問う論争が必要である。日本に残された時間は、そう長くない。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81826740T00C24A7KE8000 (日経新聞 2024.7.4) 食料安全保障の論点(中) コメの工業利用で生産守れ、三石誠司・宮城大学教授(60年生まれ。神戸大博士(経営学)。専門は経営戦略、アグリビジネス経営。宮城大副学長) <ポイント> ○国内農業は従事者減で持続可能性が課題 ○米国などは穀物をエタノール原料に活用 ○コメの食用以外の用途開拓し官民支援を 肥料・飼料や生産資材の高騰で、食料安全保障への関心が高まっている。その確保を理念に位置づけた改正食料・農業・農村基本法も5月に成立したが、取り組みが問われるのはこれからだ。そこで食料安全保障をめぐる国内外の状況を俯瞰(ふかん)してみたい。食料安全保障は通常「フードセキュリティー」と訳されるが、厳密には同じではない。国際社会におけるフードセキュリティー概念は、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づく。17のゴールを定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール2「飢餓をゼロに」に、フードセキュリティーが含まれている。具体的には第1に飢餓を終わらせること、第2に食料安全保障の達成と栄養状態の改善、第3が持続可能な農業の促進――である。これら3つが達成された場合に想定される成果として、世界食糧計画(WFP)が定めた内容は4つある。(1)全ての人々が食料を得られ(2)誰も栄養不良に苦しまず(3)小規模農家が生産性と所得向上により食料安全保障と栄養状態を改善し(4)フードシステムが持続可能であること――である。これは1996年の世界食糧サミットで、フードセキュリティー成立のための4要件(食料の入手可能性・アクセス・活用・安定性)として示されていたものを精緻化している。この目標の達成に向けた対策の対象となるのは、通常なら途上国、それも食料の供給不安が高い国や、自国だけでは食料調達に困難を生じる国、栄養不良人口が多い国などである。当該国政府と協力しながら、国際機関・国際社会がどう支援するかが中心となる。したがって、世界の多くの国は日本にフードセキュリティーの問題など存在しないと認識しているのが現実であろう。しかし、決してそのようなことはない。途上国とは異なる、日本のような先進国型のフードセキュリティーについて議論することも重要である。さて、日本にとっての食料安全保障とは「日本人が必要とする食料の安定供給を確保すること」だ。改正前の基本法では「将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」(第2条)と定められていた。今回の改正により、この部分は「将来にわたって、食料安全保障(良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう)の確保が図られなければならない」という形に修正されている。食料に限らず世界的に、安全保障の概念自体が国家から個人レベルに拡大していることを受けたものだ。さらに改正基本法では、輸出による食料供給能力の維持、食料の合理的な価格の形成、環境と調和のとれた食料システムの確立などが新たに追加されている。また多面的機能の発揮では「環境への負荷の低減」を追加。農業の持続的な発展および農村の振興は「農村の人口の減少その他の農村をめぐる情勢の変化」や「地域社会の維持」を踏まえた形に修正されている。全体として、1999年制定の旧基本法の構成を維持しつつ、その後の四半世紀の環境変化を反映した表現が各所で追加された形と理解してよいだろう。食料安全保障をめぐる物理的・社会的・心理的環境は各国で異なり、一律の物差しでの判断は難しい。それでも、栄養不良人口の増減などの大きな変化を見ながら、一定の流れをとらえることは可能である。日本における切り口のひとつは、産業別就業者数の推移が示している。1951年当時、全就業者数の46%が第1次産業に従事していた。これが2022年にはわずか3%へと減少。今や日本は完全に第3次産業中心の国になった。過去70年以上の間に、全体の就業者数が1.9倍に増加し、第1次産業従事者は8分の1に減少したにもかかわらず、餓死者や栄養不良人口は途上国と比較すれば極めて少ない。必要な食料は国内関連分野の生産性向上と、購買力を背景とした輸入により調達してきた。これは、先述したWFPの(1)~(3)に相当する。問題は(4)の持続可能性である。総人口約1億2500万人で食料自給率が38%(22年度)なら、単純計算で4750万人分の食料を自給できる。1次産業従事者が205万人なので、生産者1人で23人の人口を支える構図だ。圧倒的少数の生産者と大量輸入で、今後の食料安全保障は確保されるのか。これこそが目を背けてはいけない点である。ウクライナ危機以降、これまでの食料システムを支えてきた暗黙の前提が顕在化した。それは「世界が安定し、貿易に支障がない限り」である。人々は何となく意識していたが、ようやく国内生産の本当の重要性を肌で感じ始めている。日本の場合、食料安全保障上の最大の問題となる農作物はコメである。減少を続けるコメの国内生産を守るために取り得る選択肢は「流れに任せる」か「個別対応を積み重ねる」か、「少し異なる視点からコメを捉えなおす」かである。現状は個別対応の積み重ねだ。国・地方自治体・民間企業・JA・地域共同体などが、生産を守るために苦労して対応しているのが実情であろう。しかし農家の高齢化が進む一方、新たな就農者も増えていない。こうした現実も直視すべきである。流れを変えるには一定の仕掛けが必要だ。一案だが、コメの国内生産を守るために食用以外の用途をもう一度、真剣に考えてみたらどうか。工業用原料としてのコメ、より具体的にはエタノール原料としての可能性である。例えば米国はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビからエタノールを作り、ガソリンに添加して使用している。かつて米国のトウモロコシは需要の9割が国内飼料用であったが、現在は需要の約半分が工業用需要、その8割がエタノール需要である。米国もブラジルも、自分たちの土地に最適な作物を作り、食用以外にも徹底活用している。これに対して日本では、まだコメの活用は食用と飼料用中心である。日本では年間700万トン以上のコメを生産可能だ。食用に限らず、工業用利用を徹底的に検討した方がよい。道が開ければ、インフラとしての水田を生かして農家は思い切りコメを作り、国内需要に振り向けられる。それを官民あげて支援することが、国内で完結した食料安全保障の確保につながる。バイオエタノールに限らず、コメを原材料としたバイオマスプラスチックなど、新産業の構築までを視野に入れて工業利用を検討すべきである。それができて日本はコメの潜在力をすべて活用したことになる。 改正基本法は輸出による食料供給能力の維持を掲げる。しかし輸出はあくまで有利な価格の時や「パック米」など付加価値を付けた製品を中心とすべきであり、安値での原材料輸出競争に自ら参入する必要などないといえる。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240705&ng=DGKKZO81854730U4A700C2KE8000 (日経新聞 2024.7.5) 食料安全保障の論点(下) 農地規制撤廃で効率向上へ、本間正義・アジア成長研究所特別教授(51年生まれ。アイオワ州立大博士。専門は農業経済学。東大名誉教授) <ポイント> ○食料自給率向上、目的化なら国民負担増 ○農地法の所有規制は長期的投資の妨げに ○輸入確保へ自由貿易や平和維持に努力を ウクライナ戦争や中東紛争で地政学的な不安定さが増すなか、食料安全保障への関心が高まっている。5月に改正された食料・農業・農村基本法も食料安全保障を前面に押し出した。改正法では、食料安全保障を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人が入手できる状態」と定義している。これは国連食糧農業機関(FAO)の定義に沿ったものだ。FAOが言う食料安全保障は食料の存在と安定供給、食料への物理的・社会的・経済的アクセス、さらには食料の利用・摂取にいたるまで、マクロからミクロに及ぶ食料のサプライチェーン(供給網)のすべてが確保されることだ。したがって、それぞれの国・社会はその供給網のどこにボトルネックがあり、食料の安全保障がおびやかされるのかを分析しなければならない。現在の日本の食料安全保障体制に対する国際的な評価は悪くない。英エコノミスト誌の関連組織であるEconomist Impactが、世界113カ国を対象に世界食料安全保障指数(GFSI)を公表している。「手頃な価格」「入手可能性」「品質と安全性」「持続可能性と適応」という4つのカテゴリーで、68項目の要因に基づいて計測したものだ。日本はこの指数で113カ国中の第6位(2022年)。図1に12~22年の指数の推移を中国・韓国との比較で示したが、一貫して日本が上位にある。国内では食料安全保障の指標として食料自給率が取り上げられ、低さが問題とされてきた。だが本来、自給率は食料安全保障への評価を表すものではない。食料自給率は、市場で手に入る食品の中から消費者が選んだ食品の組み合わせの結果だ。消費者に選ばれた国産品の割合が、現在の38%という自給率だ。これを無視して食料自給率を高めようとすれば、消費者の選好を損なうだけでなく、国民の負担増を伴う。国家の安全保障で軍備拡張を基本とすれば、防衛費が増えて国民生活が犠牲となることに似ている。国境を閉ざす国の食料自給率は高いが、その食は貧しい。食料自給率の向上が目的化し、豊かさが犠牲になるのでは本末転倒だ。従来の基本法では、約5年ごとに農政の指針を示す食料・農業・農村基本計画で、食料自給率の目標を設定していた。改正基本法でも自給率が目標の中心であることに変わりはない。しかし食料自給率はあくまで経済活動の結果で、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきではない。一方で、平時とは異なる有事の際の食料供給体制を整えることは重要だ。改正基本法に合わせて6月に成立した「食料供給困難事態対策法」は政府が重要とする食料や必要物資を指定し、世界的な不作などで供給が大きく不足する場合、生産者にも増産を求める。しかし、それだけで不測時に対応できる体制になるとはいいがたい。そもそも食料の安全保障は農業政策のみで解決できる問題ではなく、エネルギーをはじめとする国家安全保障の一環として、総合的な法体系の中で議論すべき問題だ。有事に備える食料安全保障体制の確立に欠かせないのは農業生産力の維持・確保だが、農業を担う労働力の減少と高齢化が著しい。図2に示すように、2000年に240万人いた基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)は、23年に116万人まで減少した。数だけでなく、その中身が問題だ。75歳以上の割合は2000年では13%だったが、23年には36%を占める。65歳以上では70%を超える。一方、50歳未満の従事者は11%でしかない。また新規就農者は22年で4万6千人ほどいるが、多くが定年帰農などの高齢者であり、50歳未満は1万7千人に満たない。なかでも土地や資金を独自に調達して営農を始めた新規参入者は全体で4千人以下だ。農業労働力の弱体化は労働生産性の向上を遅らせ、他産業との格差を拡大する。農業従事者1人当たりの農業付加価値額でみた農業の労働生産性は、22年で58万3千円にとどまる。農業労働人口が急速に減少しているにもかかわらず、20年の61万8千円と比べても低下した(23年度「食料・農業・農村白書」)。農業従事者の減少と高齢化は、農地の荒廃につながる。22年で約430万ヘクタールある耕地面積の利用率は91%で、1割近い農地が利用されていない。日本農業の持続的発展のためには、農地の維持・保全と効率的利用は最優先すべき課題だ。高齢化で耕作されない農地は一部の担い手に集積されているといわれ、100ヘクタールを超える規模の経営も珍しくない。しかし、その多くは分散した農地を合わせての100ヘクタールだ。また多くが借地であり、区画整理など、自由に基盤整備を行えるわけではない。農地の効率的利用を妨げているのが農地法だ。農地を耕作する農業者か、一定の要件を満たした法人(農地所有適格法人)でなければ農地を取得できない。賃借は可能だが、一般の株式会社は農地が取得できず、基盤整備などの長期投資が困難になっている。原則耕作する人しか農地を所有できないということは、例えれば、サッカー競技場の所有権がそこでプレーするサッカー選手にしかないのと同じだ。このような規制は撤廃し、経営形態にかかわらず農地所有を認め、貴重な農地の効率的利用を図るべきだ。農地の確保・保全は有事に国民を飢えさせないための必要条件だ。農地所有を自由化し、平時には効率的な農地利用を行い、有事には栄養効率を重視した生産体制に移行する法的整備とともに、農地所有者には農地保全を義務づけるなどの新たな制度が必要だ。現在、日本の食卓は多彩で、それを支えるのは国内生産と輸入だ。質の高い国内農産物と、世界から食材が届く環境を守ることが平時の食料安全保障だ。肥料や飼料など、多くの生産資材も輸入に依存する。国内生産とともに安定的な輸入を確保することも、食料安全保障の大きな柱だ。国際市場の動向を詳しく分析し、貿易相手国との友好関係の維持や輸送・情報インフラの充実を図らなければならない。そして何より自由貿易体制の維持だ。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しいが、日本はWTOをはじめとした国際機関や貿易交渉でリーダーシップを発揮することが求められる。かつて、シュンペーターの高弟でもあった農業経済学者の東畑精一は「食料が不足して国が危うくなるのではない。国が危ういときに食料も不足してくるのである」と、農業政策にのみ食料の安全保障を求めることを戒めている。最も重要なのは言うまでもなく平和の維持だ。地政学的リスク軽減のため何をすべきか。外交努力と日本のプレゼンス向上、国際的な開発支援などに最大限の努力をすることが、すべての安全保障の基本となる。 *2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1086Y0Q4A610C2000000/ (日経新聞 2024.6.12)武蔵野銀行、新入行員が田植え 生産者目線で課題を理解 武蔵野銀行はこのほど、さいたま市内の田んぼで新入行員による田植えを実施した。農業は埼玉県経済の柱の一つで、同行は農業関連の融資も手掛けている。自ら田んぼに入って農業の苦労や楽しさを知ることで、顧客の目線に立ったきめ細やかな課題解決策を提案できる可能性がある。 新入行員96名が6日、同行の武蔵野銀行アグリイノベーションファーム(さいたま市)で田植えを行った。田んぼに足を取られながらもペアで協力し、1苗ずつ丁寧に植えていった。長堀和正頭取も田植えの作業に汗を流した。同行は新たな産業の創造、高齢化をはじめとした農業の課題解決の一環として、2015年から小麦、23年から米の栽培や加工品製造に取り組んでいる。田んぼの面積を昨年比約3倍の9500平方メートルに増やし、そのうち約2割を新入行員が田植えした。残りは実証実験としてドローンで種まきをした。収穫量は合計で3700キログラムを見込み、販売も行う予定だ。人材育成も体験の目的の一つ。長堀頭取は「農業の大変さを身をもって体験することで、担い手不足などの課題にも当事者意識を持って向き合える。今後携わる仕事にも役立つ」と期待を込める。実地で知った課題を地域経済の活性化に結びつける。 *2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81837430T00C24A7TB1000 (日経新聞 2024.7.4) ふるさと納税新方針で波紋 さとふる、楽天で賛否割れる 仲介サイトでポイント付与禁止 ふるさと納税の仲介サイトでポイント付与を禁止する総務省の方針について、サイト運営大手のさとふる(東京・中央)など2社は日本経済新聞の取材で賛成する方針を示した。競合の楽天グループはすでに反対意見を表明しており、大手の反応が分かれた格好だ。消費者の関心が高いふるさと納税を巡る制度変更に事業者が揺れている。仲介サイトは多くの自治体の情報をまとめて載せ、希望する返礼品を手軽に探せる手段として定着している。ポイントがつく点も人気の理由だ。だが、総務省は6月25日、ポイントを付与する仲介サイトを通じ、自治体がふるさと納税を募ることを2025年10月から禁止すると発表した。いち早く反応したのが楽天Gだ。6月28日、仲介サイト「楽天ふるさと納税」上に方針撤回を求める声明を出し、賛同者を集めるオンライン署名も始めた。三木谷浩史会長兼社長はX(旧ツイッター)に「地方に恩返しという思いをぶっ潰そうとしている。断固反対する」と投稿した。ほかの大手に聞き取り取材したところ、さとふるは「今後の健全な発展につながる整備と考えている」と賛成する意向を示した。「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京・品川)はポイント付与を終了しており、制度変更にも賛成した。「ふるなび」を運営するアイモバイルは賛否を明らかにしなかった。総務省が制度変更を決めたのは、自治体がサイト事業者に支払う手数料の一部がポイントの原資になっているとみるためだ。松本剛明総務相は7月2日の記者会見で「ポイント付与による競争が過熱している。ふるさと納税の本旨にかなった適正化をめざす」と理解を求めた。同手数料は寄付額の1割前後とされる。総務省によると、22年度は全国で4517億円の経費がかかり、寄付額に占める割合は47%に達する。ポイント付与を禁じ、自治体に残る寄付額を増やす狙いがある。一方、事業者側は全社がポイント原資は「自社負担だ」と主張した。お金に色をつけることは難しく、原資に関する双方の言い分は平行線をたどる様相を強めている。ふるさと納税は地域活性化などを目的に08年度に始まった。名称は「納税」だが、税制上は寄付として扱う。22年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新し、08~22年度の累計では約4兆3000億円に上る。楽天Gなどは成長領域とみて経営資源を注いできた。ポイント還元による集客ができなくなれば、サイトの利便性向上や掲載情報の充実など、別の付加価値を競う必要性が高まる。さとふるは手続きの簡素化や配送体制強化を検討している。 *2-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1287476 (佐賀新聞 2024/7/25) ふるさと納税、初の1兆円超え、利用者、過去最多1千万人規模に ふるさと納税制度による寄付総額が2023年度に初めて1兆円を超えたことが25日、分かった。寄付で居住自治体の住民税が軽減される。利用者も増加し、過去最多の1千万人規模に達する見通し。返礼品の品目充実や、仲介サイトによる特典ポイントが寄付を後押しする形となっている。物価高騰下の節約志向も追い風となった。総務省が来週にも自治体別の寄付額を含めて集計を公表する。特典ポイントに関して総務省は「本来の趣旨とずれ、過熱している」と指摘。来年10月からポイントを付与する仲介サイトの利用を自治体に禁じる方針で、寄付の動向に影響する可能性もある。返礼品は和牛や海産物、果物などが人気で、自治体も寄付獲得を目指して品目を拡充している。仲介サイトの運営業者によると、物価高が続く中、近年は日用品を選ぶ利用者も増えている。ふるさと納税制度が始まった08年度の寄付総額は81億円だったが、寄付上限の引き上げなどで人気が集まり、18年度に5千億円を突破。返礼品を「寄付額の30%以下の地場産品」に規制した影響で一時減少したが、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要もあって再び増加に転じ、22年度は9654億円だった。一方、総務省は自治体間の過度な競争を抑止する見直しを重ねており、23年度は年度途中で返礼品の調達や経費に関するルールを厳格化した。ふるさと納税は、自治体を選んで寄付すると、上限内であれば寄付額から2千円を差し引いた分、住民税と所得税が軽減される。都市部の自治体は住民税の減収額が寄付額を上回る傾向にあり、不満が出ている。 *ふるさと納税 生まれ故郷など地方を活性化するため2008年度に始まった。自己負担分の2千円を除いた額が住民税、所得税から差し引かれる。控除額には上限があり、所得や世帯構成などに応じて変わる。豪華な返礼品を呼び水とした自治体の寄付獲得競争が過熱。19年6月からは返礼品は「寄付額の30%以下の地場産品」とし、ルールを守る自治体だけが参加できる制度に移行した。返礼品を含む経費は寄付額の50%以下に抑える必要がある。 *2-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1288102 (佐賀新聞 2024/7/26) ふるさと納税1兆円】買い物感覚、被災地応援も、自治体間の格差解消課題 ふるさと納税の2023年度の寄付総額が1兆円を突破した。地域を応援するという趣旨で08年度に始まり、好みの返礼品を選べる仲介サイトの普及もあって寄付が急増。被災地を応援するといった使い方もある。ただネットショッピング感覚での利用により、人気の特産物などがある一部の自治体に寄付が集中。自治体間の格差解消が課題となっている。 ▽理念 「ここまで利用が広がるとは思っていなかった」。総務省幹部は1兆円突破に驚きを隠さない。政府の理念は、納税者が故郷やお世話になった地域などを寄付先に選んでその使われ方に関心を持ち、自治体では選ばれるまちづくりの意識醸成を通じて地域活性化につなげる―というものだ。大手仲介業者トラストバンクが今月実施した調査によると、寄付を通じ「知らなかった自治体を知った経験」が「ある」と答えた人は72・2%に上った。「特定の地域のファンになった経験」が「ある」は52・7%だった。能登半島地震では、被災地を支援しようと、返礼品を受け取らない寄付も広がった。仲介サイトでは、被災者を励まそうとする寄付者のコメントも掲載。返礼品なしで、前年度の約10倍に当たる約14億7千万円が集まった石川県珠洲市の担当者は「非常にありがたい。復旧復興に役立てたい」と話す。 ▽不満 利用が拡大する中で、理念との乖離も目立つようになった。仲介サイトでは各地の返礼品を見比べることができ、サイトは寄付に応じたポイント付与を競っており、返礼品やポイント還元率を比較しながらお得感の強い自治体を選ぶ傾向が強まっている。総務省は、来年10月からは自治体に対し、ポイントを付与する仲介サイトの利用を禁じる。別の総務省幹部は「仲介業者の節度を期待していたが、見過ごせなくなった」と打ち明ける。制度は、地方に寄付が回っていくことで、都市部との税収格差を是正する目的もあった。実際、横浜市、名古屋市など大都市の税収減は大きく、不満が高まっている。ただ、地方に恩恵が広く行き渡ったわけでもない。22年度の寄付額全体の6割が上位1割の自治体に集中。和牛や海産物といった人気の返礼品の有無が左右する。多額の寄付を集める自治体が、子育て支援などを充実させて周囲から移住者を吸い寄せているとも指摘される。政府関係者は「地方の自治体間でも勝ち負けが鮮明になっている。不満をため込む地域は少なくない」と説明。格差是正の役割は果たし切れていないと認める。 *2-5:https://www.agrinews.co.jp/news/index/248722 (日本農業新聞 2024年7月28日) [シェア奪還]業務用野菜の国産増へ 9月、品目別商談会 農水省 輸入に依存する加工・業務用野菜の国産シェア奪還に向けて、農水省は9月から品目別の商談イベントを開く。国産への切り替えが期待できるタマネギやカボチャ、ブロッコリーなどで、産地と流通業者、実需者の橋渡しをし、国産野菜の利用拡大を後押しする。国内で消費される野菜の6割を占める加工・業務用は、輸入が3割を占める。国産への切り替えを進めるため、同省は4月に「国産野菜シェア奪還プロジェクト」を立ち上げた。イベントは、同プロジェクトの一貫で開く。生産者や流通事業者、加工・冷凍メーカー、小売りなどの参加を想定。事業者間のマッチングを促す。同省は、国産への切り替えが期待できる品目として、タマネギ、ニンジン、ネギ、カボチャ、エダマメ、ブロッコリー、ホウレンソウの7品目を「重点品目」に指定。イベントは重点7品目から始め、ニーズに応じて品目を増やしていく。他にも、同プロジェクトに参加する会員向けに、冷凍技術などに関する勉強会を開く。加工・業務用野菜の国産利用を増やすには、産地間の端境期に収量をどう確保するのかが課題だ。同省は「冷凍保存などで、年間を通じて安定的に供給する体制づくりが重要」(園芸流通加工対策室)とみる。 <物価高を進めた日本の金融緩和> *3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240728&be=NDSKDBDGKKZO81327・・ue=DMM8000 (日経新聞 2024/6/12) 財政、拡張路線に転機 骨太方針、「基礎収支25年度黒字化」復活 金利ある世界意識 政府が11日に公表した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)原案は財政拡張路線からの転換がにじむ内容となった。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の2025年度黒字化目標を3年ぶりに明記し、「金利のある世界」を見据えて財政健全化に目配りした。成長投資と歳出改革の両立を探る。原案はPBについて「25年度の国・地方を合わせた黒字化を目指す」と盛り込んだ。もともと18年の骨太方針で打ち出した方針であるものの、自民党の積極財政派に配慮して22年以降は明示を避けていた。政府は目標自体は堅持しているとの立場をとりつつ、昨年の骨太方針も「これまでの財政健全化目標に取り組む」という曖昧な書きぶりにとどめていた。目標年度の提示は財政健全化への姿勢を従来より踏み込んで示すことになる。25年度の黒字化を目標としてきた現行計画は達成が視野に入りつつある。内閣府が1月に発表した試算によると25年度のPBは1.1兆円の赤字で、社会保障費の伸びを高齢化の範囲に収めるなどの歳出改革を続ければ今のところ黒字化が可能な範囲にあるという。原案は後継計画として6年間の「経済・財政新生計画」を示した。25~30年度の予算編成の基本方針とする。PB黒字化への前進を「後戻りさせることなく」、債務残高のGDP(国内総生産)比を安定的に引き下げると記した。 ●成長と両立必須 背景にあるのは、日銀によるマイナス金利政策の解除だ。骨太原案は「金利のある世界への移行」をにらみ、利上げによる国債の利払い費増加に「懸念」を訴えた。内閣府は30年度の国の利払い費は名目長期金利が2.4%の場合は14.8兆円と、金利が1.0%のケースに比べて2.5兆円膨らむと見積もる。元本償還も含む国債費は24年度は一般会計の2割を超す。利払い費が膨らめば、社会保障や成長投資など政策経費の余地が狭まる。第2次以降の安倍晋三政権による「アベノミクス」は超低金利政策を背景に高成長を求める財政運営だったといえる。金利が成長率よりも低いため利払い費は軽く、財政規律が緩む一因になったとの指摘がある。一方で、金利が上昇してもインフレによって名目成長率が底上げされれば税収も増えるため、財政健全化につながるとの見方もある。「賢い支出」を徹底したうえで成長につながる投資は必要になる。利払い費の増加を警戒した今回の書きぶりは財政再建を進めるために、成長率などの経済前提に慎重な立場をとったことがうかがえる。原案が言及した実質成長率は1%だった。向こう6年間の計画期間や人口減が加速する30年代以降について「実質1%を安定的に上回る成長を確保する必要がある」と強調した。その上で「さらに高い成長の実現をめざす」とも書き込んだ。目標設定の土台となったのは内閣府が4月に初めてまとめた社会保障や財政に関する60年度までの長期推計だ。長期金利が名目成長率を0.6ポイントほど上回る財政面に厳しい設定で将来推計をはじいたところ、実質成長率が平均1.2%でも社会保障費が膨らむと57年度ごろにPBが赤字に陥るという試算となった。国と地方のGDP比の債務残高も40年度ごろに下げ止まり、60年度に180%ほどまで再上昇する絵姿を示した。金利が成長率を上回る状況が常態化すれば、安定成長を続けるだけでは財政健全化はおぼつかないことになる。PBの一定の黒字幅を確保し続けるには、実質1%成長の持続と歳出改革の両方に取り組まなければならない。財政規律に傾斜した今回の骨太原案には不安要素もある。次世代半導体の量産に向けて「必要な法制上の措置」を検討するとした点だ。企業の投資計画の予見可能性を高めるために「必要な財源を確保しながら」複数年度の支援を実施する方針だが、財源確保の具体策は定まっていない。 ●米でも利払い増 新たな経済・財政計画にも解釈の余地が残る。経団連の十倉雅和会長は4日、民間議員を務める経済財政諮問会議でPB目標は「単年度で考えるのではなくて、複数年度で安定的に黒字基調となるような水準を目指すべきだ」と語った。景気変動があれば、単年度の赤字は許容するとの考えがのぞく。原案の調整過程では単年度赤字の含みをもつ「黒字基調」の使用に前向きだった内閣府と慎重な財務省との間でさやあてがあった。結果として「黒字基調」は使わなかったものの、単年度赤字でPBが遠のく可能性はある。財政健全化の計画は頓挫の歴史を繰り返してきた。小泉純一郎政権で策定した06年の骨太方針では社会保障費を毎年2200億円圧縮するなどの数値目標を明記し、11年度に黒字化すると打ち出した。その後の麻生太郎政権はリーマン危機への対応などで数値目標を棚上げした。民主党政権ではPB黒字化の実現を「遅くとも20年度までに」とずらした。18年に策定した現行目標「25年度黒字化」も大型の補正予算を組めば達成は難しくなる。利払い費の負担増は日本だけの問題ではない。米政府の対GDP比の財政赤字は23年度に6.3%と22年度から0.9ポイント悪化した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げで利払い費が増えたことが背景にある。財政赤字は中長期で拡大する見通しだ。中東情勢の緊迫が続き、台湾有事を心配する声も強まっている。「金利ある世界」に向けて財政余力を確保しておくことは地政学リスクや首都直下型地震のような大災害に対応するためにも急務となる。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81839890T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 税収最高もかりそめの改善 昨年度72兆円、物価高が押し上げ、予算不用額は高止まり 歳出構造の改革不可避 財務省は3日、2023年度の国の一般会計の決算概要を発表した。企業の好業績やインフレを背景に税収は72兆761億円と4年連続で過去最高となった。金利ある世界が現実となり利払い費の増加が迫る中、税収の上振れによる財政改善は一時的ともいえる。いまのうちに歳出構造の改革を進めて財政の規律を回復させる必要がある。税収は22年度の71兆1373億円を上回り、2年連続で70兆円を突破した。インフレは名目成長率を押し上げて税収にもプラスに働く。内閣府によると23年度の名目国内総生産(GDP)は前年度比5.0%プラスだった。22年度の2.5%プラスから上振れした。23年度補正予算段階では69兆6110億円と22年度実績を下回ると見込んでいた。法人税の納税制度が変わった影響で還付が増えたことなどから年度前半の伸びは鈍かった。23年4月~24年4月の累計の税収は59兆5193億円と前年同期を2兆円程度下回っていたが、5月分の法人税収が伸び、大幅に上回る結果となった。法人税収は15兆8606億円で、前年度から6.2%伸びた。想定よりもおよそ1.2兆円上振れした。1991年度(16.5兆円)以来の高水準で、5月分は7兆4867億円と過去最高だった。円安で企業の海外事業の利益が膨らんだことも寄与した。所得税収は22兆529億円で、2.1%減少したが、想定をおよそ0.8兆円上回った。企業の賃上げの動きの広がりで給与所得が増えた。消費税収は23兆922億円で0.1%増加し、過去最高となった。年度前半に還付金が増えたことなどが減収要因となったが、国内消費は堅調に推移した。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「24年度は定額減税が減収要因になるが、インフレ環境の継続とともに名目GDP成長率のプラスが定着する中で、税収の増加傾向は続くだろう」と分析する。ただ足元では日銀の金融政策修正などの影響で長期金利が1%を超える水準まで上昇している。今後は国債の利払い費の増加が財政を圧迫する可能性がある。税収が伸びているうちに歳出構造改革を進める必要がある。現状は心もとない。予算計上したが結果として使う必要のなくなった不用額は6兆8910億円だった。赤字国債発行を取りやめたが、過去最大だった22年度の11.3兆円に次ぐ規模だ。不用額の大きさは予算の見積もりが精緻になされたかや、無駄な支出を計上していなかったかの目安になる。新型コロナウイルスの感染が広がる前まではおおむね1兆~2兆円台で推移してきたが、コロナ禍を機に大規模な補正予算が組まれるようになり金額も拡大した。その年度に使われなかったお金としては次年度への繰越金もある。不用額は繰り越しても使われる見込みがないお金とも言える。そもそも無駄な予算計上だった可能性を否定できない。新型コロナ禍で膨張した危機対応予算を圧縮する「平時化」が求められる。岸田文雄首相は年金受給世帯などへの給付金を計画しており、財源として24年度補正予算の編成を念頭に置いている。政府は高成長の実現や歳出改革の継続によって25年度の国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化が視野に入っているとする。税収の上振れが次の経済財政試算にどの程度反映されるかに左右されるが、黒字化がより近づく可能性もある。税収の上振れは与党などからの経済対策を求める声につながりやすい。大規模な補正予算を編成すればPB黒字化は困難になる。予算の平時化に向けては「今回の補正予算が試金石になる」(財務省幹部)。規模ありきで不要な支出を積み増す慣行から脱却できるかが問われる。 *3-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998370.html (朝日新聞社説 2024年7月31日) 国の予算編成 手を緩めず歳出改革を 政府が来年度予算編成にあたっての要求基準を決め、各省庁の作業が始まった。財政健全化の目標が来年度で達成できるとの試算も示したが、楽観できる状況ではない。政策の優先度を厳しく見極め、歳出構造の見直しに真剣に取り組む必要がある。歴代政権は20年ほど前から、国・地方の「基礎的財政収支」の黒字化をめざしてきた。政策経費を新しい借金なしでまかなえることを意味する。財政再建に向けた「最初の一歩」の目標だ。新しい試算は、基礎的収支が税収増で上ぶれし、今の目標の25年度には小幅なプラスになるとした。ただ、近年恒例の大型補正予算を年度途中に組まないのが前提で、実現性は依然不透明だ。 財政全体をみれば、金利の上昇で国債の利払いも増える見込みだ。気を緩めず、無駄な支出と赤字の抑制に最大限努めなければならない。足元では物価や人件費の上昇が続き、歳出拡大の圧力が強まっている。少子高齢化への対応をはじめ、重要な政策課題も多い。各省庁は予算要求の段階で、費用対効果を十分精査し、必要性の見極めを徹底すべきだ。閣議了解された概算要求基準も、「施策の優先順位を洗い直し、予算を大胆に重点化する」とうたう。各省庁の要求額に制限をかける仕組みだが、昨年同様、「例外」や抜け穴が多く、かけ声で終わる懸念がぬぐえない。防衛費は、政権が決めた大幅増額の計画に沿って別枠扱いにした。安定財源の確保は先送りされたままで、他分野へのしわ寄せや財政健全化の遅れを招く構図が強まる。「重要政策」を優遇する特別枠と、金額を明示しない「事項要求」の対象も広い。賃上げ促進や官民投資拡大、物価高対策などが例示されているが、歳出膨張に十分歯止めをかけられなかった昨年の繰り返しになる恐れがある。政府が昨年から掲げる「歳出の平時化」がどこまで本気なのか。まず試されるのが、岸田首相が先月唐突に打ち出した今秋の経済対策だ。物価高で苦しむ家計や事業者を支えるというが、政治的アピールを優先し、対象をいたずらに広げれば、規模が水膨れし財政悪化を招くだろう。そもそも今の予算編成の手法は、中長期で財政の持続性を保つ視点が薄い。概算要求基準の対象は当初予算だけで、継続的な事業を補正予算に回すことが常態化している。補正も含めた通年や数年単位で歳出に一定のたがをはめ、その中で配分を適切に見直す仕組みを考えるべきだ。 *3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240719&ng=DGKKZO82181150Z10C24A7MM0000 (日経新聞 2024.7.19) 消費者物価6月2.6%上昇 電気・ガス代押し上げ 総務省が19日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が107.8となり、前年同月と比べて2.6%上昇した。政府が電気代やガス料金などの負担軽減策を縮小したことで、電気代やガス代が値上がりした。前月の2.5%上昇から伸びが拡大した。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.7%の上昇だった。2年10カ月連続で前年同月を上回った。依然として日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている。エネルギーの上昇率は7.7%と前月の7.2%から拡大した。電気代が13.4%と大幅に上昇し、生鮮食品を除く指数の伸びを0.47ポイント押し上げた。都市ガス代も3.7%上昇した。電気代は23年1月に始めた補助金の影響でマイナスの推移が続いたものの、5月に再生可能エネルギー普及にかかる賦課金が上昇し16カ月ぶりにプラスに転じていた。政府補助は5月使用分で半減となり、6月のCPIから押し下げ効果が縮小した。電気代の上昇は2カ月連続。6月の政府補助による電気代の押し下げ効果はマイナス0.22ポイントだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.2%上昇した。生鮮食品を含む総合指数は2.8%上がった。食料は3.6%の上昇だった。オレンジの原産国での天候不良が不作を招いた影響で果実ジュースが32.1%上昇した。さくらんぼも15.7%上がった。昨年夏や今季の収穫期における猛暑が影響した。食料の上昇幅は前月の4.1%からは縮小した。猛暑による影響でルームエアコンの需要が拡大し、家庭用耐久財は3.9%上昇した。宿泊料も19.9%伸び、前月の14.7%から上昇幅が広がった。全品目をモノとサービスに分けたうち、サービスは1.7%上昇だった。前月は1.6%で上昇幅は拡大した。外食は2.8%上昇して、前月から横ばいだった。 *3-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240622&ng=DGKKZO81585450S4A620C2MM0000 (日経新聞 2024.6.22) 円一段安、159円後半 米景況感上振れでドル買い 21日のニューヨーク外国為替市場で対ドルの円相場が下落し、一時1ドル=159円80銭台とおよそ2カ月ぶりの円安・ドル高水準を付けた。同日発表の米企業の景況感が市場予想を上回り、米金利上昇(債券価格の下落)とドル買いを誘った。米S&Pグローバルが21日発表した米国の6月の購買担当者景気指数(PMI、速報値)は総合が54.6と前月から0.1ポイント上昇し、2022年4月以来2年2カ月ぶりの高さになった。米景気が好調を維持し、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ転換に時間がかかるとの見方から、米金融市場ではPMI公表後に米金利上昇とドル高が進んだ。円相場は4月29日に34年ぶり円安水準となる1ドル=160円24銭を付けたあと、政府・日銀の円買い為替介入を受けて151円台まで上昇した。ただ、その後は日米金利差に着目した円売り・ドル買いが進んでいるほか輸入企業によるドル調達もあり、円の下落基調が続いている。PMIの調査期間は6月12~20日。総合指数は好不況の分かれ目となる50を1年5カ月続けて上回る水準で推移している。21日発表の6月のユーロ圏のPMIは総合指数が前月から低下しており、米景気が他国・地域よりも底堅い様子を映した。米PMIの内訳をみると、サービス業の指数は55.1と0.3ポイント上昇し、2年2カ月ぶりの高水準だった。53.7への低下を見込んでいた市場予想を上回った。個人消費がなお堅調で、サービス業の新規受注が拡大している。 *3-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1292925 (佐賀新聞 2024/8/2) 日銀が追加利上げ、金利正常化を明確にせよ 日銀は、政策金利の追加利上げと国債買い入れの減額計画を決定した。後者は予告通りだが、利上げを予想した市場関係者は直前まで多くなかった。異次元緩和を終えながら、日銀が金利正常化の意図をあいまいにしてきたためだ。依然低い政策金利が円安とインフレの弊害を招いている。金利修正を明確にすべきだ。日銀は金融政策決定会合で、政策金利である短期金利の誘導目標を0・25%程度へ引き上げることを決めた。異次元緩和を3月にやめ、マイナス金利を解除して以来の利上げとなる。一方、長期国債の買い入れは現状の月6兆円程度から、2025年度末をめどに3兆円程度へ半減することを決めた。前回6月の会合で減額方針を決定していた。国債購入による長期金利抑制は異次元緩和のもう一つの柱であり、買い入れ減額は国債保有を減らす「量的引き締め」となる。追加利上げと相まって金利全般が上昇し、住宅ローンや企業の借入金利に影響が出てこよう。しかし、2%台半ばにある足元の物価上昇率を勘案すれば、実質的な金利水準は依然マイナスであり極めて低い。金利上昇による経済への影響を、過度に警戒する局面ではあるまい。むしろ懸念すべきは、植田和男総裁をはじめ日銀の姿勢と情報発信だ。賃上げを伴った好循環を理由に異次元緩和を終え、目標とする2%以上のインフレは27カ月続く。それでもまだ望ましい物価上昇ではないと、正常化への金利見直しに慎重姿勢を崩していないからだ。市場参加者はもとより、物価高の苦境にある国民には理解し難い。日銀は今回、当面2%前後の物価上昇が続くとの見通しを公表。その度合いに応じて政策金利を上げていく考えを明らかにしたのは、一歩前進と言えるだろう。最近の円安は、米国の金利高止まりだけが原因ではない。低金利修正に腰の引けた日銀の姿勢に、正常化は遅れると市場参加者が見込んだ点が為替相場に反映している。石油など原材料の多くを輸入に頼るわが国では、円安が輸入コスト増に直結し、物価上昇の引き金となる。帝国データバンクの食品メーカー調査によると、春からの急激な円安を受けて、秋に再び値上げラッシュが襲う見通しという。国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費が昨年4~6月期以降ずっとマイナスなのは、物価高による節約志向が原因だ。金融政策が円安を通じて、かえって消費と景気の足を引っ張っている「逆効果」を日銀は直視すべきである。日銀の金融政策を分かりにくくしている原因が、2%目標の硬直的な運用にあるのは明らかだ。13年に政府との共同声明に明記されて以来、日銀の政策運営を縛ってきた。柔軟で機動的な政策運営を可能とするため、政府と日銀で見直しに着手する時だろう。日銀は今回の利上げを物価の上振れリスクなどに対応するためと説明するが、額面通りに受け取る市場関係者は少なかろう。それよりも円安と物価懸念から金利修正を暗に求めた政府・与党関係者の発言が影響した、との見方に説得力がある。緩和要求が常だった政府・与党から利上げ発言が出てくること自体、異例である。それだけ日銀の政策運営がずれている証拠と理解したい。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB096MG0Z00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月4日) 脱・日銀依存で戻る規律 日本経済は変わるか、金利が動く世界へ 日銀が7月末の金融政策決定会合で追加利上げと「量的引き締め」への具体策を決めました。日本経済は脱・日銀依存へとさらに一歩踏み出します。連載企画「金利が動く世界へ」は、戻ってくる金利の規律が政府、企業、家計にどんな変化をもたらそうとしているのかに迫りました。日銀が追加利上げを決断し、同時に国債保有を圧縮する「量的引き締め」も開始した。日本経済は中央銀行による金利コントロールから、市場原理による「金利が動く世界」に戻る。国も企業も家計も、これからは金利の規律と向き合うことになる。「インフレ率が2%で推移するなら、政策金利も2%程度まで戻すのが自然だ」。7月末に追加利上げに踏み切った日銀。日本は1995年以降、政策金利が1%を超えたことがないが、日銀関係者は利上げのゴールを2%程度と見込む。超低金利が続くとみていた市場にはサプライズとなり、公表翌日の1日に円相場は1ドル=148円台まで買い戻された。一方で日経平均株価は2日に史上2番目の下落幅を記録。市場は揺れながら「金利が動く世界」へ向かう。早期安定の試金石は、まさに中銀の統制を解く債券市場にある。日本国債の発行残高は1082兆円。日銀はその53%を保有する「池の中の鯨」だ。巨大な買い手がいなくなれば、金利は急騰リスクを抱える。財務当局は「大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める」と切望する。民間銀行などは日本国債の9%を現在保有するが、約10年前は39%(317兆円)と最大のプレーヤーだった。「国内銀行だけで200兆円は国債を買える。ただ、長期金利の最終水準がみえてこないと買いに行けない」。あるメガバンク首脳はそう思案する。確かに民間銀行に国債を買い入れる余力はある。ただ、金利が上昇し続ければ保有国債に含み損が発生する。ある大手銀行は長期金利が1.2%になれば本格的な国債買いに動く腹づもりだが、現在は1%を切っており「動く地合いではない」。最大の問題は国債取引の人の厚みもノウハウも薄れていることだ。ある大手銀は日本国債の取引担当がわずか2人。30年前は10人超いたものの、金利が動かなくなってチームを縮小した。国債取引で中核的な役割を果たす「国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー)」も、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)が資格を返上したほか、欧州系のアール・ビー・エス証券(当時)なども撤収した。1998年の資金運用部ショック、2003年のVaRショックと、かつて国債市場は金利急騰で大混乱したことがあった。当時と異なるのは、国債のトレーダーも運用機関も層が薄くなり、金利急変動の耐性がないことだ。長期金利は経済の好不調に合わせて上下動するのが自然な姿だ。日銀が国債の大量購入で長期金利を人為的に抑えつけると、世界のマネーフローは為替相場でしか調整できなくなった。極端に開いた日米金利差で発生したのが歴史的な円安だった。「円売りが連鎖してキャピタル・フライト(海外への資本逃避)になれば、1ドル=300円も冗談でなくなる」。ある自民党議員は海外投資家に真顔でそう脅された。円売り連鎖という目先の苦境は遠のいた。とはいえ、秩序だった市場を取り戻さなければ、次なるリスクを抱え込む。S&Pグローバル・レーティングなど主要格付け機関は、財政悪化にもかかわらず日本国債の格付け見通しを「安定的」と据え置いている。その理由は、皮肉にも日銀による巨額の国債買い入れ策があったからだ。民間主体で国債相場を支えきれないなら、財政悪化はそのまま国債格下げリスクとなる。邦銀の格下げにも直結し、日本企業のドル調達難という新たな危機となる。中央銀行頼みのツケはすぐにはなくならない。市場のプレーヤーの厚みを取り戻す必要がある。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0979Q0Z00C24A8000000/ (日経新聞社説 2024年8月9日) 日銀の市場との対話は十分だったか 内外の株価や円相場の不安定な動きが続いている。様々な要因が絡み合うなかで、日銀がさらなる利上げに積極的な姿勢を示したことが「予想外」との反応を生み、円の急伸を招いた。日銀と市場との対話は本当に十分だったといえるのか。市場の安定を確保するためにも問題がなかったかを改めて点検し、丁寧な意思疎通を心がけてほしい。世界で日本株の下落が際立ったのはハイテク株への売り圧力や経済指標の下振れといった米国の要因に円の急伸が重なったためだ。日銀が7月末の金融政策決定会合で利上げを決めた直後、米連邦準備理事会(FRB)が9月に利下げに動く可能性を示唆し、日米金融政策の方向性の違いが強く意識されたことも大きい。日銀の内田真一副総裁は7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と火消しに動いた。市場の動向とともに企業や消費者の心理に変化がないか細心の注意を払うのは当然としても、説明が首尾一貫していないように聞こえる。日銀は8日、利上げを決めた会合での「主な意見」を公表した。経済や物価がおおむね想定通りに推移しているとの見方に加え、円安を背景に「物価の上振れリスクには注意する必要」との認識が判断材料となったことがわかる。正副総裁らが会合前に情報を発信する機会が限られたこともあり、日銀が円安のリスクへの懸念をより強めていることは市場には十分に伝わっていなかった。事前に市場にすべてを伝える必要はないものの、結果をみれば、市場との対話が円滑だったとはとても言えまい。日銀は今回の市場急変の混乱を教訓に、市場との対話を見直してほしい。一方、市場の落ち着きを前提にすれば、金融政策の正常化を封印するのは適切な判断ではない。主要国で日本だけが金融緩和を長く続けた。そのことが円売り取引の膨張を許し、円急伸の遠因となった側面は否めない。投機資金の動きや影響を注視しつつ、望ましい政策のあり方を探ってほしい。経済や物価の動きに応じて金融緩和の度合いを調整していく試みは、長い目でみた経済成長と市場の安定のためにも欠かせない。だからこそ日銀には、入念な市場との対話と精緻な情勢分析を通じ、適切な政策運営につなげる不断の努力を強く求めたい。 *3-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB058TK0V00C24A8000000/ (日経新聞 2024年8月12日) 日本株激動、「避難先」銘柄は 相場低連動・還元策に注目 日本株のボラティリティー(変動率)が高まり、急激な下げへの警戒は残る。荒れ相場の駆け込み寺となる銘柄は何か。相場全体の値動きに対する感応度や配当利回りなどの指標でスクリーニングしたところ、食品や小売り、住宅関連などの業種が浮かび上がった。QUICKのデータを使い、東証株価指数(TOPIX)採用で時価総額100億円以上、予想配当利回りが2.5%以上などの条件を満たす銘柄を抽出し、対TOPIXのベータ値(60カ月)が低い順に並べた。新型コロナウイルス禍の影響を考慮し、短期(180日)のベータ値が平均より低いことも条件とした。ベータは個別株と相場全体の動きの相関を表す値。TOPIXなどの指数と同じ動きなら「1」となる。1より小さくなるほど感応度が小さく、相場の調整局面で下値抵抗力を発揮する。内需中心で業績が安定している企業のほか、財務レバレッジの低い場合などに小さくなりやすい。投資家からの関心を表す指標とも解釈できるため、外国人持ち株比率と一定程度の負の相関があるとされる。「世界が本格的なリセッションに向かうのであれば、低ベータ銘柄への投資が有効になる」(野村アセットマネジメントの石黒英之チーフ・ストラテジスト)。リストで目立つのが食品銘柄だ。総菜製造のフジッコや製粉会社のニップンなどはベータ値が0.05程度。市場全体の値動きに対する感応度が極めて小さい銘柄群といえ、日経平均が連日で大幅下落した8月1日からの3営業日も株価下落率は日経平均(20%)より10ポイント以上小さかった。業績の安定性も注目される。食品メーカーや外食への液卵販売を主力とするイフジ産業は前期(2024年3月期)まで10期連続の営業増益だった。液卵事業は「今年に入って販売数量が前年を上回り回復傾向にある」(同社)といい、25年3月期の営業利益は前期比12%増と過去最高を計画する。営業地盤を地方に置く銘柄にも注目だ。業績がグローバル景気に左右されにくいため、世界的なリスクオフ局面では有望な投資先になる。茨城県や千葉県などの関東圏で大規模ホームセンターを展開するジョイフル本田はベータ値がマイナスで、市場全体が下落したときにむしろ株価が上昇しやすいという珍しい特徴を持つ。ジョイ本田株は8月5日までの3営業日で6%安にとどまった。このほか栃木県に本社を置くドラッグストアチェーンのカワチ薬品、北関東を中心にスーパーマーケットを展開するエコスといった小売銘柄もベータ値が低い。 リスクオフ局面では投資家の関心が配当に集まりやすいため、還元実績や財務体質に注目することも重要だ。福岡県などを地盤に住宅建材・設備をてがけるOCHIホールディングスは、24年3月期まで13期連続で増配中だ。今期から「連結配当性向30%以上」との目標を新たに導入し、積極的な還元姿勢を打ち出している。化粧品のノエビアホールディングスも23年9月期まで12期連続で増配している。株主還元を含めたキャッシュマネジメントに注力し、自己資本利益率(ROE)は過去5期平均で13.2%と、同業他社に比べて高い。足元の配当利回りは4%台と、東証プライム市場の平均(約2.6%)を上回っている。 ●米国株、公益・ヘルスケアに資金シフト 「ディフェンシブ株をポートフォリオに加えるのは今からでも遅くない」。米モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏は8月初めの相場急変を受けて投資家向けリポートにこう記した。ディフェンシブ株に対する景気敏感株のリターン優位は4月頃にピークをつけたと指摘。過去のリスクオフ局面に照らし合わせれば、ディフェンシブ株への資金シフトはここからある程度時間をかけて進むとみる。日本株に比べ株価の振幅が小さい米国株市場でも物色はディフェンシブ性の高い銘柄に向かっている。S&P500種株価指数が直近の高値をつけた7月16日からの騰落率をみると、上位にはヘルスケアや公益株が多く並ぶ。業績の変動が小さく、相対的に配当利回りが高いことなどがリスクを回避したい投資家からの関心を集めている。ヘルスケアでは医療施設運営のHCAヘルスケアやユニバーサル・ヘルス・サービシズ、産業用品大手スリーエムのヘルスケア部門として4月に分離上場したソルベンタムなどに買いが集まっている。英バークレイズが7月下旬、「市場シェア拡大が期待できる」などとしてHCAヘルスケアの目標株価を376ドルから396ドルに引き上げるなど、4〜6月期決算発表を経て好業績を再評価する動きも出ている。 公益ではエジソン・インターナショナル、エバーソース・エナジーなど電力会社が高い。予想配当利回りが4%前後、予想PER(株価収益率)が14〜16倍台と、割高感のあるテック株などに比べた投資指標面での堅実さに注目が集まっているようだ。市場全体の値動きに対する感応度であるベータ値が低い銘柄が物色されていることも特徴だ。米国防総省を主要顧客とする防衛企業のノースロップ・グラマン、ニューヨーク市に電気やガスなどのインフラを供給するコンソリデーテッド・エジソンは、対S&P500のベータ値(60カ月)が0.3程度と小さい。その中で米国では日本と異なり消費株が敬遠されていることには注意が必要だ。「労働市場が軟化し、米国の投資家は消費株をリスク視している」(米ゴールドマン・サックスのチーフ米国株ストラテジスト、デイビッド・コスティン氏)。失業率の上昇や賃金上昇の鈍化によって消費意欲の減退が予想され、スナック食品のケラノバなど一部の銘柄を除けば軟調な消費株が目立つ。ヨガウエアなどスポーツ用品のルルレモン、美容小売りのアルタ・ビューティーの株価は3週間で約2割下落した。 *3-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301927 (佐賀新聞 2024/8/16) 力強さ欠く景気 物価抑え家計を支援せよ 内閣府が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)は、前期比の年率換算で実質3・1%増だった。2四半期ぶりのプラス成長だが落ち込んだ前期からの反動要因が大きく、景気は依然力強さに欠けると言えよう。不安定な株価や円相場、海外経済への懸念から先行きの不透明感も拭えない。このため経済対策による大規模な財政出動を求めたり、政策正常化へ向けた日銀の追加利上げをけん制したりする声が出てくると見込まれる。だが、景気の弱さは主にインフレ長期化による家計の圧迫に原因があり、これらは打開策とならない。政策対応としては物価抑制と、低所得世帯などへの家計支援に力を入れるタイミングだ。4~6月期がプラス成長となった最大の要因は、GDPの約半分を占め景気のエンジン役である個人消費が、5四半期ぶりに増加へ転じたためだ。しかし内容を見ると楽観できる状況にはない。前期の1~3月期は自動車の認証不正問題の悪影響が濃く表れ、その反動で4~6月期の消費が大きめに出たとみられるからだ。総務省の家計調査などからは、長引く物価高に節約で対抗し、食品など必要なものに絞ってお金を使う家計の実情が浮かび上がる。定額減税と大企業を中心にした高水準の賃上げから、先行きの消費改善を予想する声はある。だが減税は一時的に過ぎず、全世帯の3割を占める高齢世帯は賃上げにほとんど無縁である。円安が是正され、物価が落ち着くまでは消費の低空飛行が続くと見ておいてよいのではないか。ほかのGDP主要項目では、企業の設備投資が2四半期ぶりに増加し全体のプラスに貢献した。円安による輸出企業の好業績や、認証不正問題からの回復が投資増につながったとみられる。だが今後は日銀の政策変更による金利上昇に加え、株価や円相場の影響が避けられまい。相場の荒い変動は投資手控えにつながる点を警戒したい。一方で、輸出から輸入を差し引いた外需は2四半期連続のマイナスとなり、GDPの足を引っ張る要因に働いた。統計上の輸出に当たるインバウンド(訪日客)需要は堅調だったとみられるが、中国の成長減速などから輸出全体の伸びは鈍く、輸入の伸びを下回った。中国は不動産不況が引き続き景気に影を落とす見通しだ。その上で、この先の日本の景気を大きく左右しかねないのが、米国経済の行方と言えるだろう。インフレ退治の金融引き締めにもかかわらず底堅く成長してきたが、最近の統計は雇用の冷え込みを示唆。連邦準備制度理事会(FRB)は9月にも利下げへ転じる見通しで、米国経済は軟着陸できるかどうかの分水嶺(れい)にあるためだ。米景気や利下げの行方が株価の波乱要因となり得るだけでなく、円相場に影響する点は改めて言うまでもあるまい。岸田文雄首相の退陣表明により、秋に予定される経済対策をはじめ政策運営の先行きは見通しにくい状況となった。しかし力強さを欠く景気の現状を見れば、その場しのぎの減税や電気・ガス代補助ではなく、家計の購買力を回復させるインフレ抑制と分配強化が経済政策の正道であることは明らかだろう。次期政権には、その点に正面から取り組んでもらいたい。 *3-3-1:https://www.profuture.co.jp/mk/recruit/strategy/40122 (MarkeTRUNK 2022.8.1) ガラスの天井の意味は。壊れたはしごとは違う?女性やマイノリティのキャリアアップの障壁 ガラスの天井とは、十分な能力を持つ女性やマイノリティが、不当に昇進を制限されることだ。日本は女性の社会進出に関して諸外国に遅れを取っており、多様化する社会においては早急な課題解決が求められる。ガラスの天井の意味や壊れたはしごとの違い、解決のためのキーワードなどを見ていこう。 ●ガラスの天井、壊れたはしごの意味 ガラスの天井とは、女性の社会進出における問題を喩えた言葉である。男女が平等に働ける社会を実現するうえで、ガラスの天井は大きな課題とされている。 また、壊れたはしごも女性の働き方に関わるキーワードだ。ここでは、ガラスの天井や壊れたはしごの意味、日本政府が掲げる目標、諸外国における男女の働き方について解説する。 ○ガラスの天井とは ガラスの天井(=グラスシーリング)とは、十分な能力があるのにもかかわらず、性別や人種などの要因によって昇進が妨げられる状態を表す。目には見えない障壁をガラスに喩えた言葉で、特に女性やマイノリティが不当な扱いを受ける場合に用いられる。ガラスの天井を初めて使用したのは、企業コンサルタントのマリリン・ローデンだ。のちにウォールストリート・ジャーナル紙の紙面でも用いられ、ガラスの天井の概念が世間に広く浸透した。1991年には、アメリカ連邦政府労働省が公的な場面でガラスの天井を使用している。また、2020年のアメリカ大統領選で史上初の女性副大統領が誕生し、ガラスの天井が破られたと話題になったニュースは記憶に新しいだろう。 ○壊れたはしごとは 壊れたはしごとは、女性が昇進するために上る階段(はしご)は元々壊れており、1段目から男女格差が生じていることを意味する。ここでの1段目とは、グループ長や主任のようなファーストレベルの管理職を指す。壊れたはしごの概念が提唱されるまで、女性の社会進出を阻む要因はガラスの天井であると考えられていた。しかし近年の調査では、そもそも第一段階の地位に就く女性の割合が少ない構造となっていることが、女性の昇進を阻むハードルだと結論づけられている。上級職レベルで女性の昇進を改善しても、上級職に到達できる女性の数が少ないため、根本的な解決にはつながらない。昇進における男女格差をなくすためには、壊れたはしごを生み出す構造自体を見直す必要があるのだ。 ○政府は「女性管理職比率30%」を掲げているが・・ 女性の社会進出における課題を問題視し、政府は2003年に「『2020年30%』の目標」を発表した。これは、あらゆる分野の指導的地位に就く女性の割合が、2020年までに30%程度に到達することを目指すものである。目標達成のためにさまざまな施策が実施されているが、その成果は期待を上回るほどではない。役職に就く女性の割合を確認すると、1989年から徐々に上昇してはいるものの、現状は目標の30%に届いていないことが読み取れる。2020年には女性の参画拡大に関する成果目標が見直され、「第5次男女共同参画基本計画」において以下の基準が定められた。現状値を2025年の目標値まで引き上げるために、今後も女性の活躍を促す施策の実施が検討されている。 ■「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標 グラフ:「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年12月25日閣議決定)における成果目標 参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」 ○EUでは上場企業の役員の男女均衡義務化 2022年6月、EUは上場企業における役員比率の男女均衡を義務付けることに合意した。EUはこれまでにもジェンダー平等の推進に取り組んでいたが、管理職に就く女性の比率に関しては加盟国の間で大きな差があった。新たに合意されたルールでは、取締役に登用する男女の最低割合が定められている。域内の上場企業は、2026年6月末までに社外取締役の40%以上、または全取締役の33%以上に女性を登用しなければならない。基準を達成できない企業には理由や対策の報告が求められ、場合によっては罰則の対象となりうる。 ●調査でわかる日本の現状 実際のところ、日本における男女の社会進出にはどれくらいの格差があるのだろうか。各種調査を参考にして、日本の現状を把握しよう。 ○女性管理職の比率、日本は10%台 男女共同参画局の調査によると、日本の女性役員割合は12.6%となっている。過去数年間における女性役員数は増加傾向にあるが、諸外国に比べるとまだまだ低いことがわかるだろう。 諸外国の女性役員割合(2021年の値) フランス 45.3% イタリア 38.8% スウェーデン 37.9% イギリス 37.8% ドイツ 36.0% カナダ 32.9% アメリカ 29.7% 中国 13.8% 日本 12.6% 韓国 8.7% 参考:内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」 諸外国の女性役員割合が高くなっている背景には、クオータ制の導入が影響している。クオータ制とは、女性の登用割合を役職ごとに規定し、基準を満たすことを義務化するものだ。発祥であるノルウェーをはじめ、クオータ制は各国における女性役員割合の増加に大きく貢献した。 ○ジェンダー・ギャップ指数は156か国中120位 世界経済フォーラム(WEF)は、男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数を毎年発表している。2021年は156か国を対象に調査が行われ、日本の総合スコアは0.656、順位は120位であった。これは先進国の中でも最低レベルの結果である。アジア諸国の中では、韓国や中国、ASEAN諸国よりも順位が低く、ジェンダー平等に関して日本が遅れを取っていることが読み取れる。 参考:内閣府男女共同参画局「共同参画」2021年5月号 ○ガラスの天井指数では29か国中28位 2022年3月に経済週刊誌エコノミストが発表したガラスの天井指数において、日本は29か国中28位であった。ガラスの天井指数はエコノミストが2013年から毎年発表しているもので、男女間の賃金格差や育休取得状況などの10項目を元に順位が決められる。日本以外には、スイスやトルコ、韓国が下位を占めており、これらの4か国の順位は10年間変動していない。エコノミストは、「女性が家族と仕事の選択を迫られる日本と韓国が下位にとどまっている」と指摘している。 参考:The Economist「The Economist’s glass-ceiling index」 ○男女間賃金格差、38か国中ワースト3位 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の男女間賃金格差は38か国中ワースト3位であった。具体的には、男性の賃金の中央値を100とした場合、女性の賃金の中央値は77.5となっており、22.5ポイントの差が開いている。以下の表は、主要各国の男女間賃金格差をまとめたものだ。各国の値を見ると、日本における男女間の賃金差が大きいことがわかるだろう。 国名 女性賃金の中央値 男女賃金格差 OECD加盟国平均 88.4 11.6ポイント イタリア 92.4 7.6ポイント フランス 88.2 11.8ポイント 英国 87.7 12.3ポイント ドイツ 86.1 13.9ポイント カナダ 83.9 16.1ポイント 米国 82.3 17.7ポイント 日本 77.5 22.5ポイント 参考:東京新聞「男女の賃金格差、開示を義務化へ 主要国でも格差大きい日本、女性の働きにくさ要因」 ●解決のためのキーワード ガラスの天井を解決するためのキーワードとして、「アンコンシャスバイアス」や「ESG経営」が挙げられる。多様化が進む現代で企業が生き残るためには、ガラスの天井を取り払い、女性の社会進出を支援する取り組みが不可欠だろう。ガラスの天井を取り除くためには、アンコンシャスバイアスに気づくこと、そしてESG経営を行うことが有効である。女性やマイノリティが働きやすい社会を作るために、ガラスの天井の解決につながるヒントを確認しておこう。 ○アンコンシャスバイアスの気づき ガラスの天井が生まれる要因として、アンコンシャスバイアスの存在が指摘されている。アンコンシャスバイアスとは、無意識のうちに生じる偏見や思い込み、根拠のない決めつけなどを意味する。たとえば「女性は仕事よりも育児をすべきだ」、「女性に力仕事は任せられない」などは、アンコンシャスバイアスの代表例だ。女性に対する偏見や思い込みが組織に根付いていると、ガラスの天井の発生につながり、女性の昇進が妨げられてしまうだろう。アンコンシャスバイアスを解消するためには、自分の中に無意識の偏見があることを自覚しなければいけない。自分の言動に対する相手の反応を観察し、無意識のうちに他者を傷つけていないかどうかをチェックしよう。物事を判断する際に偏見が働いていないかを検証することが、アンコンシャスバイアスを取り除くための第一歩である。 関連記事:アンコンシャスバイアスの具体例は?仕事上で気をつけたい対策 ○ESG経営の取り組み ESG経営とは、以下の3つの領域を考慮して経営を行うことを意味する。 ・ Environment:環境 ・ Social:社会 ・ Governance:企業統治 昨今は、ESGを投資の基準にするESG投資が注目を集めており、ESG投資額は世界中で増加傾向にある。ESG経営を理解するために、キーワードである「ESG」と「ダイバーシティ&インクルージョン」について見ていこう。 ■ESG ESGとは、投資家が企業投資を行う際の判断基準のひとつである。近年は環境や社会の持続可能性が懸念されており、ESGへの取り組みが企業の長期的な成長につながるという見方が強い。 関連記事:ESGとSDGsとの違いとは?意味や背景、人事として取り組めることを解説 ESGには世界共通の基準や定義が存在しないが、一般的には以下の3つで構成される。 ・ E:自然環境に配慮すること ・ S:自社が社会に与える影響を考えること ・ G:企業における管理体制が整っていること 内閣府男女共同参画局の資料では、半数以上の投資家が企業の女性活躍情報を投資判断に活用していることが明らかになった。女性活躍情報には女性役員比率や女性管理職比率などが含まれており、女性の昇進とESG経営の関係性の深さがうかがえる。 参考:内閣府男女共同参画局「女性活躍情報がESG投資にますます活用されています~すべての女性が輝く令和の社会へ~」 ■ダイバーシティ&インクルージョン ダイバーシティ&インクルージョンとは、組織において多様性が認められ、個々が強みを発揮できていると実感できる状態を指す。企業イメージの向上につながることや、ライフワークバランスに対する意識の高まりなどの理由から、企業ではダイバーシティ&インクルージョンの実現が求められている。また、組織として多様性を認め合う環境整備を推進することは、ESG経営の一環としても重視されている。ESG経営に取り組むのであれば、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方に基づいた企業運営が不可欠なのだ。 関連記事:インクルージョンとは?ダイバーシティとの関係や推進のためのポイント ●まとめ ガラスの天井とは、性別や人種などの見えない障壁によって、女性やマイノリティの昇進が妨げられることである。さまざまな調査からもわかるとおり、日本では女性の社会進出に関して諸外国から遅れを取っている。また、壊れたはしごも女性の昇進に関するキーワードだ。壊れたはしごとは、ファーストレベルの管理職に就く女性が少ない構造こそが女性の昇進を阻んでいる、という考え方を意味する。女性にとって働きやすい社会を実現させるためには、ガラスの天井や壊れたはしごの解決が不可欠だ。女性の昇進の妨げとなりうるアンコンシャス・バイアスの解消、女性の活躍につながるESG経営などに取り組み、ガラスの天井のない組織づくりを始めよう。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240820&ng=DGKKZO82880910Q4A820C2EA1000 (日経新聞 2024.8.20) 女性役員ゼロなお69社 プライムの4% 政府目標期限、来年に 前年度からは半減 女性役員がいない東証プライム上場企業は69社で、全体の4.2%であることが日本経済新聞社の集計でわかった。政府が女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)で掲げた「女性役員ゼロ企業0%」の目標期限は2025年に迫っている。24年3月末と23年3月末時点で東証プライムに上場する1628社を対象に、23年度(23年4月期から24年3月期)の有価証券報告書「役員の状況」記載の男女別役員数から算出した。最も数の多い3月期決算企業は、6月末の株主総会での役員選任を反映している。女性役員ゼロの企業は前年度の146社(9.0%)から半減。ドラッグストア運営のGenky DrugStoresで3人が社外取締役に就くなど81社が新たに「ゼロ状態」を解消した。政府は23年6月にまとめた女性版骨太の方針で「30年までに女性役員比率30%以上」の目標を掲げた。同年12月の閣議決定では「25年までに女性役員比率19%」を中間目標に設定している。女性役員の数自体は3083人で全体の16.2%と前年度比で2.6ポイント増えたが、企業単位では「19%」の達成企業は540社(33.2%)、「30%以上」は122社(7.5%)にとどまる。現状の役員規模で「女性役員30%」を実現するには、今は男性が務める2500以上のポストに女性が就かなければならない。役員の数自体を増やして女性を登用するには、3800近いポストの新設が必要になる。ただ就業者の半分近くが女性にもかかわらず、管理的職業従事者の女性比率は14.6%(24年版男女共同参画白書)。政府目標の達成には女性社員の育成も求められる。女性役員比率が最も高い(9人中5人)人材サービスのディップの女性役員は全員が社外だ。女性社外役員候補の研修などを担うOnBoardの越直美最高経営責任者(CEO)は「社外役員はガバナンスの面から必要だが、企業文化を変え業績を上げるのは社内の人材」と話す。アステラス製薬は1991年入社の広田里香氏が取締役に就任、サンゲツは97年入社の高木史緒執行役員が取締役に選任された。 *3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15998419.html (朝日新聞 2024年7月31日) 男女別学 公立共学化、どうする埼玉 20年ぶり再燃、生徒から存続訴えも かつて東日本中心に多くあった公立の男女別学高校は共学化が進み、今では主に残るのは埼玉、群馬、栃木の3県だけになった。そんな埼玉県で、共学化を求める勧告を受けた議論が大詰めを迎えている。約20年前は「存続」と結論づけたが、男女共同参画が進む中で再度対応を迫られた県教育委員会は、8月末までに結論を出す。発端は2023年8月30日、埼玉県の第三者機関「男女共同参画苦情処理委員」が、県内に12校ある別学校を早期に共学化するよう県教委に迫る勧告だった。同様の勧告は02年に続いて2度目だが、県内では賛否の表明が相次ぐ。元高校教諭らの市民グループ「共学ネット・さいたま」は今年4月に記者会見し、「公立高校が性別による募集をするのは合理的な理由がない」と説明。「社会的なリーダーになるためには、高校生活の中で、男女の格差を体験する機会を積み重ねて調整する力が必要だ」と強調する。トランスジェンダーの生徒が、将来、履歴書の学校名で性的マイノリティーであることが明かされてしまう懸念も指摘する。これに対し、共学化に反対する浦和、浦和第一女子、春日部、川越女子の別学4校の同窓会長らも直後に会見し、「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と反論した。ジェンダーによって傷ついた体験を抱え、安心できる環境を求めて別学を選んだ人もいることや「女子校の方が女子のリーダーを育てやすい」などと指摘し、別学の維持を訴えた。7月下旬には、別学12校と共学2校の高校生約50人が県庁を訪れ、別学の維持を求める約3万4千人分の署名や意見交換の要望書を提出した。女子校2年の生徒(16)は「対話を重ねることで私たちの考え方を知ってもらい、共学化を止めたい」と話した。浦和一女では昨秋、全校生徒が参加する恒例の「討論会」を開き、「男女別学高校の共学化」を議題にすると、発言は反対一色となった。「電車の中で怖い思いをした。異性がいると不安」「女子校に入って、良さに気づいた」。3年生の一人(17)は議論を振り返り、「埼玉では別学も共学も選択できる(のがいい)。異性と一緒に人間関係を学びたい人は共学校に行けばいい」と語る。ただ、ジェンダーをめぐる社会の意識が多様化する中、02年の勧告時とは状況が変わったとの見方もある。前回は、別学校のPTAらでつくるグループが約27万人の反対署名を知事に提出し、県議会では別学維持派が超党派の議員連盟を結成するなど、高校の内外に波紋は広がった。だが、今回はそこまでの大がかりな動きはない。ある県議は「約20年前は県民を巻き込んで盛り上がったが、いまはジェンダー平等などが叫ばれ、社会の空気が明らかに変わった」と話す。 県教委は今年1~3月、別学12校の同窓会や保護者から意見を聞いた。4月19日からは、県内の中高生とその保護者を対象にアンケートを実施し、約7万500件の回答が寄せられた。別学校の生徒3割を含む高校生の回答では「共学化しない方がよい」が6割だった一方、中学生の回答は「どちらでもよい」が6割で最多だった。県教委は、アンケートはあくまでも「参考資料の一つ」と説明する。各高校の生徒や保護者らの意見を踏まえ、8月中に別学校のあり方をまとめた報告書を公表する。 ■共学化、背景に共同参画・少子化 全国的には、公立の男女別学高校は減っている。戦前は男女別の教育が基本だったが、1947年に男女共学などを定めた教育基本法が施行。連合国軍総司令部(GHQ)主導の教育改革により、多くの公立高校で共学化が進められた。一方で、北関東や東北などでは別学校が残った。GHQの担当者によって地域ごとに温度差があったためで、埼玉では当時、同じ地区に男子校と女子校がある場合は共学化しなくてもいい方針になったとされる。文部科学省の学校基本調査によると、男子のみ、女子のみが通う別学の公立高校は64年度は全体の13%にあたる382校(男子のみ210、女子のみ172)あった。その後は、男女共同参画意識の高まりや、少子化の影響で共学化や統廃合が進んだことなどで、2023年度には全体の1%の45校(男子のみ15、女子のみ30)まで減った。福島県では別学校が約20校あった1993年、県の有識者会議が「男女共同社会が進行するなか、共学化を逐次進めていく必要がある」と答申。03年までにすべて共学化された。01年度に22校の別学校があった宮城県も、10年度までに県立高校をすべて共学化した。県教委によると、「多感な高校時代には男女が共に学び理解し合う環境が望ましい」などとして、当時の知事が主導したという。最近も、少子化に伴う定員割れなどを理由に、和歌山県内唯一の公立女子高が23年度末に閉校。5校の別学があった鹿児島県でも、男子校1校が4月に共学化し、別の男子校1校も26年度から段階的に共学になる予定だ。朝日新聞の調べでは、24年4月現在、別学校があるのは宮城、埼玉、群馬、栃木、千葉、島根、福岡、鹿児島の8県で42校。埼玉と群馬に各12校、栃木に8校と北関東に4分の3が集中する。男女別学高校について、盛山正仁文科相は3月の会見で「男女別学を一律に否定するものではない。それぞれの学校の特色、歴史的経緯等に応じて、設置者において適切に判断されるべきだ」との見解を示している。 ■教育内容が大事、別学にも利点 昭和女子大の友野清文特別招聘研究員(ジェンダー教育学)の話 共学化すれば、男女共同参画社会が進むという単純なものではない。大事なのは、ジェンダー問題に向き合う各学校の教育方針であり、教育の内容だ。志望する生徒がいるのであれば、公立でも別学を選択できる環境を残すことは一定の意味がある。共学の場合でも、男子の方が発言機会が多いとの米国の研究もある。共学の方が「性差」を意識する機会が多く、別学の方がより自分らしく過ごし、学べる面もある。今、文部科学省は公立の普通科高校の個性化・多様化を進めている。別学の議論は、高校のあり方を考えるいい機会だ。埼玉の別学校は伝統を基盤により新しい教育を探れる可能性がある。これから進学する生徒やその保護者の意見を踏まえ、検討する必要がある。 ■憲法は性差別禁止、共学が原則 明治大の斎藤一久教授(憲法学)の話 法の下の平等を定めた憲法14条は、性別による差別を禁止している。憲法に従えば、男女共学が原則だ。性別によって入学を制限する別学校は、憲法違反の疑いがある。一方で、別学が必要だと結論づけるとすると、十分に合理的な理由があるかが論点になる。別学維持を主張する理由として、よく「伝統」が挙げられるが、行事の違いなどは根拠にならない。女子校はリーダーシップを育成できるという意見もあるが、内申書などで、もともとリーダーの資質がある女子を入学させているに過ぎない。公立高校で別学という選択肢が必要な合理的な理由があるなら、小中学校にも必要になってしまう。自宅から最も近い高校を受験できない生徒が訴訟を起こせば、違憲判断が出るかもしれない。 *3-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASS8C3HP6S8CUTNB00RM.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年8月13日) 公立の男女別学は選択肢?不公平? 割れる意見 危機感持つ卒業生も 2023年8月、埼玉県の第三者機関である男女共同参画苦情処理委員が、浦和や浦和第一女子など12校ある県立の男女別高校の共学化を求める勧告を出した。県教委は8月末までに、苦情処理委員への報告をまとめる。共学化か、別学維持か――。報告を前に、共学化をめぐる議論を追った。県立の男女別学高校の共学化をめぐる大きな論点のひとつが、「公教育」についての考え方だ。「公費で賄う公立高校が性別を理由に入学を拒否するのは不公平だ」。共学派推進の市民団体などは昨年8月の勧告以降、会見などで活発に意見を表明してきた。別学校の多くは地域の伝統校で偏差値も高めのため、「選択できるのは学力の高い一部の生徒に過ぎず、そもそも公平性に欠ける」との声が上がる。また、逆に「地域の進学トップ校に行こうとしても、共学という選択肢がない」(県北部の中学3年生)との声もある。なかでも、進学実績で「県内トップ」とされる浦和高校が男子校であることが、男女の教育機会に差を生んでいるという批判は根強い。国内最難関とされる東大の2024年の合格者数をみると、県内の公立高校では浦和が最多の44人。続く共学の大宮の19人と2倍以上の開きがあった。女子校で最も多いのは浦和第一女子と川越女子で2人ずつだった。一方、別学維持を求める署名を7月下旬に県教育委員会へ提出した浦和高校3年の男子生徒(17)は「私学のほうが学費が高い。公立で別学を確保できている方が選択肢が広がる」と語る。別学が私学だけになると、金銭面で余裕がない人の選択肢が狭まるのではないかとの懸念だ。県によると、県内の高校生に占める私立の生徒の割合は約3割。授業料は県立の全日制が年11万8800円、私立の平均は年約40万3千円だ。文部科学省の調査(21年度)によると、授業料、修学旅行費、学校納付金などにかかる「学校教育費」は、公立高30万9千円、私立高75万円でさらに差が大きかった。一部の私立高生は、国の就学支援金に埼玉県の助成を上乗せすれば授業料平均額相当(年40万3千円)の補助を受けられるが、所得制限で補助を受けられない家庭もあり、物価高騰などで負担が重くなっているという。県教委による男女共学校の保護者らへの意見聴取でも「男女別学は特色ある学校という観点からも意義がある」「地理的に(公立の)男子校しかないのであれば問題だが、そういった状況ではない」などと別学維持を求める意見も挙がる。別学校の同窓会長らは「公立の別学校も選択肢の一つとすべきだ」と訴えている。ただ、少子化の影響もあり、地域によっては別学校が選ばれなくなっている状況もある。昨年度の県立の別学校(全日制)の入試倍率をみると、春日部1・50倍、川越1・47倍、浦和1・38倍、浦和一女1・37倍など県南部周辺が高かった。一方で、熊谷1・11倍、松山女子1・04倍、松山1・02倍、熊谷女子0・99倍、鴻巣女子0・92倍など、県北部では1倍を割る高校もあった。熊谷女子の卒業生という中学3年の保護者(47)は現状への危機感を口にする。「倍率が1倍を切ったのには驚いた。少子化が進むなか、地域によっては別学校も男女共学化で、より魅力的な学校像を探る時期なのかもしれない」。 高等学校(全日制)の学校教育費の内訳 <公立> <私立> 入学金 1万6千円 7万1千円 授業料 5万2千円 28万8千円 修学旅行費等 1万9千円 2万6千円 学校納付金等 3万2千円 11万5千円 図書・学用品等 5万3千円 6万4千円 教科外活動費 3万9千円 4万7千円 通学関係費 9万1千円 12万9千円 その他 4千円 7千円 合計 30万9千円 75万円 ※文部科学省の22年度「子供の学習費調査」より *3-3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16016631.html (朝日新聞 2024年8月23日) 公立高共学化「主体的に推進」 埼玉県教委、別学12校の方法・時期先送り 埼玉県で伝統校を中心に12校ある県立の男女別学高校の共学化をめぐり、埼玉県教育委員会は22日、「主体的に共学化を推進していく」とする報告書を公表した。ただ、共学化の方法や時期、校名などは明記せず、具体的な進め方は先送りした。昨年8月、県の第三者機関の男女共同参画苦情処理委員から「早期の共学化」を勧告され、1年以内の報告を求められていた。同様の勧告を受け、県教委が2002年度にまとめた報告書では「当面維持」としていた。今回の報告書では、「男女共同参画の推進や急速なグローバル化の進展」など社会の変化に応じた学校教育の変革が求められると指摘。「高校の3年間を男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」と述べ、「今後の県立高校の在り方について総合的に検討する中で、主体的に共学化を推進していく」と結論づけた。一方、別学校の共学化に当たっては、「県民の意見を丁寧に把握する必要があるため、アンケートや地域別での意見交換、有識者からの意見聴取などを実施していく」とし、具体的な時期などは示さなかった。日吉亨教育長は22日の記者会見で、結果的に別学校を存続させる可能性を含めて「総合的に考える」としつつ、「推進と言っている以上、12校の共学化をゴールとしてイメージして考える必要はあると思っている」と話した。(杉原里美) ■賛否両派から不満 今回の勧告は「県立の男子高校が女子の入学を拒んでいるのは、女性差別撤廃条約に違反する」という県民の苦情が発端だった。県教委は別学校や共学校の保護者、生徒、市民団体などから意見を聴取。県内の中高生とその保護者を対象に記名式のアンケートも実施した。この間、共学化賛成派と反対派が鋭く対立。賛成派の市民団体「共学ネット・さいたま」が4月に記者会見を開くと、その1週間後に浦和、浦和第一女子など別学4校の同窓会長らが会見を開いて反論した。激しい対立を背景に、報告書は共学化への道筋を明確に示さなかった。勧告は、県立高校の「公共性」の観点から別学校を問題視したが、報告書は別学校に「一定のニーズ」を認め、共学校も選択できることを踏まえ、「男女の教育の機会均等を確保している」と評した。あいまいさが残る報告書に対し、賛否両派から不満の声が漏れた。共学ネット・さいたまの清水はるみ世話人代表(72)は「県教委が主体的に推進するという(報告書の)意義はあるが、具体的な計画が何もない。共学化を進める検討会議を立ち上げてほしい」と注文。男子校の浦和高校同窓会の野辺博会長(71)は「県民の意見を無視した報告書。共学化推進が明記され残念だ。すぐに共学化しないとも受け取れるが、また数年後に同じことを繰り返すのではないか」と反発した。 *3-3-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240826&ng=DGKKZO83007160V20C24A8TYA000 (日経新聞 2024.8.26) 〈多様性 私の視点〉男女賃金差、職業選択が影響 東京大教授 山口慎太郎氏 男女間賃金格差は依然として課題であり、労働市場の公平性や社会の持続可能性に大きな影響を及ぼしている。この問題を解消するためには、職業選択における男女の違いを理解することが不可欠だ。男女の異なる職業選択の背景には、仕事に求める要件の違いが大きくかかわっている。男女ともに給与や昇進機会を重視するのは当然として、女性は特に働き方の柔軟性や通勤時間といった非金銭的な要素を重視する傾向が強い。これには、育児や介護といった家庭内の責任を担う女性が多いことが影響していると考えられる。また、複数の研究は、女性は競争が少なく、リスクの小さい仕事を好む傾向があることを明らかにしており、これも職業選択の男女差につながっている。さらに、最新の研究によると、仕事の持つ社会的意義を重視する度合いにも男女間で大きな差があることが明らかになっている。世界47ヵ国、11万人を対象とした調査では、女性が仕事の社会的意義をより重視する傾向が強いことが分かっている。アメリカのMBAプログラムに通う学生を対象とした研究によると、社会的意義が非常に高いと感じられる仕事であれば、女性は15%低い賃金を受け入れるが、男性は11%低い賃金までしか受け入れない。このような選好の違いが、女性が公共部門に多く従事し、男性が金融部門に進む傾向を生む一因となっている。こうした選好がどこから生じるのかについては明確な答えは出ていないが、女性は他人を助けるべき、男性は経済力を持つべきという社会的規範が影響しているのかもしれない。この研究結果は、企業が能力の高い女性をどのように採用するかを考える上で重要な示唆を与える。例えば、女性の少ない金融業界においては、業務が持つ社会的意義を強調することが、女性の関心を引き付ける効果的な手段となりうる。また、政府が公共調達や税制などを通じて、企業の社会的責任(CSR)に対する努力を優遇することで、企業の取り組みを後押しすることができるだろう。 *3-4:http://www.newstokyo.jp/index.php?id=299 (都政新聞 2011年4月20日号) 局長に聞く、会計事務の専門集団、会計管理局長 新田 洋平氏 東京都の各局が行っている事業の内容を、局長自身によって紹介してもらう「局長に聞く」。31回目の今回は会計管理局の新田洋平氏にご登場いただいた。出納事務以外にも、石原知事自身が自らの最大の功績と自負する新公会計制度改革を推進するなど、目立たないながらも重要な業務を担っている。 ●出納事務を通じ都政運営に貢献 ―会計管理局は、その仕事の中身が都民にわかりにくいと思われています。 我々は都民向けの具体的な施策を持つ他局と違い、都民からは見えにくい組織の典型だと思います。各局が施策を実施するのに伴って、例えば工事請負代金などいろいろな支払が生じますが、我々は、そうした支払の実務を担っています。支払事務以外では、都民の皆さんからいただく税金や使用料、あるいは国庫補助金や都債収入などの、収入面での実務も取り扱っています。間接的ではありますが、都民や企業との関わりが深い仕事です。地味で見えにくいのですが重い責任を担っており、各局とペアを組んで円滑な都政運営に努めています。 ―出納事務の責任の重さはわかりますが、それ以外ではどのような仕事を行っていますか。 東京都は、将来に備えて必要な資金を基金として積み立てており、手元資金約3兆8千億円のうち、2兆8千億円が基金となっています。これを遊ばせておくわけにはいかないので、支払までの間に効果的な運用を図っています。21年度実績では3兆8千億円の資金を運用した結果、低金利時代にも関わらず188億円の運用収益をあげています。我々は、交通局、水道局、下水道局などの公営企業を除いた各局のほか、警視庁や東京消防庁も含めた収入支出や資金管理も行っています。一例として、東日本大震災を受けて警視庁や東京消防庁の出番が増えており、緊急な資金対応の必要性も生じています。東京消防庁がハイパーレスキューを福島などの被災地に派遣した際にも、急遽、資金が必要になったということで、深夜に用意しました。 ●公会計制度改革を全国でリード ―新公会計制度の導入は石原都政の大きな目玉ですね。 石原知事自身、3期12年の最大の実績は、「会計制度改革だ」と述べていますが、知事のリーダーシップによって導入した複式簿記・発生主義会計は、貸借対照表などを見れば、官庁会計の専門知識のない一般都民の方でも東京都の財政状況がわかるすぐれものです。例えば、21年度一般会計決算で見ると、都の資産は29兆円で、負債は8兆円です。つまり都の正味財産は差し引き21兆円あり、非常に健全だということがわかります。一方、国は21年度の一般会計決算で、資産は260兆円ありますが、負債は650兆円にも達しており、390兆円もの債務超過の状態にあることがわかります。国家財政は非常に厳しい状況にありますね。 ―行政のトップである首長の理解はどうですか。 各自治体の首長さんとお話しすることがありますが、特に大阪府の橋下知事や町田市の石阪市長は非常に理解が深いですね。橋下知事が就任して、大阪府には膨大な隠れ借金があることが明らかになりましたが、実態をわかってもらうためには従来の官庁会計ではダメだということで、石原知事に協力要請があり、我々もそれに応えてきました。その結果、大阪府では今年度から、東京都の方式に準じた会計制度の試験運用を行っています。都内では町田市が来年度から新公会計制度の導入を目指しています。一方で、各自治体の職員が導入に前向きであっても、首長さんの理解がなければ前に進まないのも事実です。首長さんの認識を変えてもらう必要があることから、昨年、知事から指示を受け、首長向けのパンフレットを作成しました。その中に「置いてきぼりの日本」ということで、世界各国の中で複式簿記を導入している国とそうでない国を色分けした世界地図を掲載したのですが、日本が世界の大きな潮流から取り残されていることがひと目でわかります。知事もこの点を取り上げて、「日本の周辺で複式簿記を導入していないのは、北朝鮮とパプアニューギニアくらいだ」と、機会あるごとに発言しています。 ―公会計制度改革の重要性は、これからも増してきますね。 都民・国民に対する説明責任などを考えれば、抽象的な言葉で語るよりも具体的な数字でわかりやすく伝えることが今後ますます重要になってきます。複式簿記・発生主義会計の導入は、いまや「必要」を超えて「必然」だと思います。もちろん当局の基本的な業務は、最初にお話ししたように出納業務です。先ほどの東京消防庁の例のように毎日、多くの職員が汗をかいているということを是非、都民の皆さんにもおわかりいただければと思います。 *3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16018363.html (朝日新聞 2024年8月26日) 越境入学、元議長が再三要求 担当者の上司らに 千代田区 東京都千代田区立小中学校へ区外から通う越境入学で不正な申請があった問題で、仲介した元区議会議長が保護者から金品を得た2021年度入学のケースでは、区教育委員会側が越境入学を制限していた中で、元議長が再三にわたり区教委幹部らに要求していたことが関係者への取材でわかった。その後、審査を通っていた。このケースを含めた5件で、保護者の勤務地が千代田区内にあるよう装う虚偽の書類などが作成され、申請されたことが判明しているが、区教委は取材に、いずれも「虚偽の認識はなかった」と説明。元議長の働きかけは「審査に影響していない」としている。元議長は嶋崎秀彦氏(64)=区発注工事を巡る汚職事件で有罪判決。複数の関係者によると、元議長は20年秋ごろ、東京都江東区の女性から、子どもが千代田区立中へ越境入学できるよう要望を受けた。自身の支援者である千代田区内の店舗に、女性が店で勤務しているよう装った就労証明書の作成を依頼した。元議長は申請の直前、区教委に申請を許可するよう要求。担当者は、受け入れを制限していることなどを理由にすぐには受け入れなかったが、元議長はその後も上司らに電話するなどし、許可するように求めたという。区教委によると、この区立中では21年度入学で、「保護者の勤務地が区内」という基準での受け入れは運用として取りやめていた。女性は虚偽の証明書を申請資料として提出し、区教委の審査を経て、21年度の入学が許可された。元議長は女性側から銀ダラや最中(もなか)を受け取ったという。千代田区教委によると、同区への越境入学では基準が11項目あるといい、満たす項目があれば審査の対象になる。江東区の女性のケースについては、就労証明書について「虚偽だという認識はなく、その認識の上で適切な事務処理を行った」と説明。就労要件だけではなく「特別な事情」もあったとしたが、どの項目にあたるかは明らかにしなかった。 ■千代田区、受け入れ減少傾向 千代田区にある公立校は小学校が8校、中学校が2校(中等教育学校を除く)。区教委によると、越境入学の受け入れは減少傾向にある。小学校で2012年度に入学が認められたのは86件あったが、23年度には14件と2割弱まで減少。中学校では12年度は64件で、23年度は25件と4割弱になった。千代田区の越境入学の審査基準は11項目あり、どの項目を審査で採用するかは学校ごとに異なるという。11のうち、保護者の勤務先が学区内にあり、共働きなどで放課後の保護などの配慮を必要とする「就労要件」にあてはまるケースが以前は8割以上だったが、就労要件のみでの受け入れを認める学校は減少。20年度は小中合わせて6校あったが、23年度は3小学校になった。中学校は21年度から原則として就労要件のみでの受け入れをしていない。背景には、区立校の人気に加え、区内にマンションなどが建設されて子どもの数が増え、区外を受け入れる余裕が無くなったことがあるという。 <日本のエネルギー基本計画について> PS(2024.9.1追加):*4-1-1・*4-1-2は、①東電HDは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じて大型変電所を新増設 ②AI普及をにらんだ電力インフラの整備が課題でデータセンターが集まる首都圏に変電所新増設計画の半数集中 ③2030年までに全国で18カ所の大型変電所新増設が計画、うち約半数は首都圏 ④工場等の新設時は電力会社に使用量を伝えるが、供給量が足りなければ建設できない ⑤九電はTSMCの新工場建設に合わせて熊本県内2カ所の変電所増強を決定 ⑥北電もラピダスの新工場のため、2027年に南千歳で変電所を新設 ⑦日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少したが、2023年度を底に増加に転じる見通し ⑧データセンターは膨大な計算が必要な生成AI普及でサーバー1台当たり消費電力が10倍近くに増える ⑨日本政府は再エネ豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている ⑩河野氏は自民党総裁選を前に脱原発を修正し、「電力需要の急増に対応するため、原発再稼働を含めて様々な技術を活用する必要がある」「EVの急速な普及で、再エネをこれまでの2倍のペースで入れたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」とした ⑪自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める 等としている。 しかし、日本は「首都直下型地震や富士山の噴火がいつ起こっても不思議ではない」と言われている地震火山国で地熱も豊富なため、データセンターは、⑨の日本政府のように、再エネが豊富な地方に分散させるのが、リスク管理まで含めて合理的である。にもかかわらず、①②③のように、首都圏にデータセンターを増やすため送電網を増強し、④⑤⑥⑦⑧⑩のように、データセンター・半導体生産・EVの普及を口実に原発再稼働や原発新増設を主張するのは、原発推進のための理由の後付けにほかならない。そして、下の図のように、世界では再エネ拡大とともに再エネの価格も下がっており、技術進歩とともにさらに再エネ設置可能面積は増えるのであるから、「エネルギー・ミックス」と称してあらかじめ電源構成を定めそれに固執する馬鹿な日本では、技術進歩しても再エネを増やせず、再エネ価格も下落しないのである。さらに、自民等総裁選に出るという河野氏は、⑪の理由から脱原発を修正されたそうだが、これが選挙時には大手電力会社の応援を受け、多額の寄付金をもらっている自民党の限界だと思われた。 そもそも、*4-2-1のように、巨大IT企業の米アップルは、再エネ100%の取り組みを行なっており、2030年までにサプライチェーン全体で温室効果ガスの排出を「実質0」にすると宣言して、実際にサプライチェーン全体で使用した再エネは前年から倍増したのだ。これに対し、日経新聞等は「コストが課題」などと主張するが、コストなら原発ほど高いものはなく、再エネの方がずっと安い。そのため、1500社以上の半導体・IT企業が集中するシリコンバレー(米国カリフォルニア州サンフランシスコ、サンマテオ、サンホセ、サンタクララ付近の渓谷地帯)には、日本が「原発は安全な安定電源だ」と言って原発に執着していた1990年代始めから、現在と同じ型の風力発電機が並んでいた。私は飛行機からそれを見て通産省(当時)に太陽光発電機器の開発・普及を提案したのだが、「女性の言うことなんか、(どうせ大したこと無いから)聞かなくて良い」と考えた馬鹿が再エネ普及を妨害して日本を遅れさせた事実があるのだ。 さらに、*4-2-2は、⑫全国的にバスや鉄道の廃線が増える中、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている ⑬地方は急速な人口減少等で路線バスの9割以上が赤字で、運転手の確保も容易ではなく、公共交通網の維持が厳しい ⑭大分県玖珠町は、人口減少が続き、高齢化率も約40%と大分県の平均を上回り、郊外ほど移動手段がなく、町民が住み慣れた場所に住み続けられない ⑮そのため、コミュニティーバスの運賃を下げ、自宅前まで迎えに行くデマンド交通への転換を始めて、高齢者の外出を促す 等としている。 このうち⑫⑬については、バスの小型化・EV化・自動運転化を行い、道路や駐車場の屋根に太陽光発電機を設置して発電し、安価に給電するシステム(https://www.shindengen.co.jp/products/eco_energy/ev_wireless/ 、 https://www.audi.jp/e-tron/charging/ach/?utm_source=yahoo&utm_medium=cpc&utm_content=_21278479597_160526617325_698993347831_kwd-317363273911&utm_campaign=02NN_SCH_F01%28AudiChargingHub%7CYSA%7CSEA%29&utm_term=p_%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%20%E5%85%85%E9%9B%BB 参照)にすれば、バス運行の損益分岐点が著しく下がるため、再エネの豊富な地方から始めて事例を見せればよいと思う。また、⑭⑮のように、バスが自宅前まで迎えに行けば高齢者の外出が促されるのは確かだが、他の乗客もいるため、EVを完全自動運転化して高齢になっても自家用車に乗れるようにするのがBestだ。さらに、農林漁業は人口密度の低い地域で行なう産業であるため、その従事者の利便性を無視して「赤字路線は廃止してコンパクトシティーにすれば良い」という主張は、全体を見ていないのである。 ![]() 2024.2.8Sustech 2023.2.27日経新聞 2022.12.23朝日 2024.5.15日経 (図の説明:1番左の図のように、G7各国は脱炭素電源への転換を推進し、2035年までの電力部門の完全又は概ね脱炭素化に合意しているが、原子力を20~22%も使う不合理な電源ミックス目標を設定しているのは日本だけである。何故なら、左から2番目の図のように、技術が進歩すれば太陽光発電できる場所も広がるため、あらかじめ電源ミックスを定めることなどできないからで、米国の「内訳なし」かドイツ・イタリアの原子力0が正解なのだ。にもかかわらず、右から2番目の図のように、日本は原発に関する諸問題が何一つ解決できず、原発は金食い虫であるのに、原発の運転延長を決め、建て替えや新増設まで検討している。1番右の図は、2040年度の電源構成の見通しを決めるエネルギー基本計画だそうだが、合理性のあるリーダーシップは見られず、未だに費用対効果の悪いバラマキや国富の国外流出が散見されるのだ) ![]() ![]() ![]() Kepco Asuene 2024.8.30日経新聞 (図の説明:左図のように、日本のエネルギー自給率は著しく低いが、これは再エネを増やせばすぐに解決できる。また、中央の図のように、再エネは真剣に普及させれば価格が下がるのは当然なので、「再エネは高い」というのは原発再稼働・新増設の言い訳にすぎない。また、右図の「データセンターへの電力供給のため原発再稼働・新増設が必要」というのも、データセンターは地方の再エネの豊富な地域に分散させるのが地方の活性化と危機管理の上で合理的であるため、原発再稼働・新増設の言い訳であろう) *4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240830&ng=DGKKZO83119170Q4A830C2MM8000 (日経新聞 2024.8.30) 送電網、首都圏で集中投資 データ拠点需要増、東電4700億円、AI普及へ安定供給 電力会社がデータセンターや半導体工場の増加に対応して送電網(総合2面きょうのことば)を増強する。東京電力ホールディングスは2027年度までに送電網の増強に4700億円を投じ、大型変電所を新増設する。データセンターが集まる首都圏に変電所の新増設計画の半数が集中しており、安定供給に向けて人工知能(AI)の普及をにらんだ電力インフラ整備が課題となってきた。電力広域的運営推進機関が3月にまとめた各社の開発計画をもとに、日本経済新聞社が電力需要の拡大に対応した大型変電所の新設と増強分をまとめた。30年までに全国で18カ所の新増設が計画されており、そのうち約半数となる8カ所が首都圏となる。容量ベースでも約4割を占める。東京電力パワーグリッド(PG)は27年度までの5年間で産業向けを含む送電設備の増強に約4700億円を投じる。直近5年間と比べ3倍に増やす。6月には24年ぶりとなる大型変電所を千葉県印西市に新設した。東電PG管内では多摩や相模原などでもデータセンターの開発計画が相次ぐ。金子禎則社長は「印西と同規模の集積地が5~6カ所あり、消費需要は33年度までに700万キロワット増える」とみており、エリア内での変電所の増強を進める。発電所で作られた電力は効率良く運ぶために電圧を高めて送電する。変電所は段階的に電圧を下げて顧客に供給する役割を担う。変電所の能力はエリア内の電力需要を基に決めている。工場などの新設時には電力会社に使用量について伝えるが、供給量が足りなければ建設できない。電力会社は需要の増加に合わせて、変圧器や送電線を増強する。半導体工場の誘致を進める九州や北海道でも変電所が不足している。九州電力は台湾積体電路製造(TSMC)が新工場を建設するのに合わせ、熊本県内の2カ所の変電所の増強を決めた。投資額は100億円超となる見通し。北海道電力もラピダスの新工場を見据えて、27年に南千歳で変電所を新設する。日本の電力消費は省エネ機器の浸透や人口減少で段階的に減少が続いてきたが、23年度を底に増加に転じる見通し。電力広域的運営推進機関の試算では33年度までの10年間で消費電力が4%増える。データセンターは膨大な計算が必要な生成AIの普及でサーバー1台当たりの消費電力が10倍近くに増えることもある。変電所の新増設だけでなく、老朽化した設備の更新や再生可能エネルギーへの対応に向けての投資も増えている。消費者の負担を抑えるには電力需要の分散が課題となる。日本政府は再生可能エネルギーが豊富な地方にデータセンターを新設する事業者に補助金を出すなどして地方分散を進めている。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA305AX0Q4A730C2000000/ (日経新聞 2024年7月31日) 河野太郎氏、脱原発を修正 AIで電力需要増え「活用必要」 河野太郎デジタル相は31日、茨城県で東海第2原子力発電所(東海村)や高速実験炉「常陽」(大洗町)を視察した。記者団に「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含めて、様々な技術を活用する必要がある」と述べた。自民党総裁選を前に「脱原発」色を修正した。「生成AI(人工知能)が急速に発展し、データセンターのニーズが増えている」と指摘した。電気自動車(EV)の急速な普及に言及した。「再生可能エネルギーをこれまでの10年間の2倍のペースで入れられたとしても2050年のカーボンニュートラルに間に合わない」と話した。「原発再稼働、再エネから核融合に至るまで、色々な幅の中で何ができるようになるか」を検討する必要性があるとの見解を示した。31日にはX(旧ツイッター)でも一連の視察を報告した。日本の電力需要が増加に転ずる予測があることに触れた。河野氏はもともと脱原発を訴え、原発ゼロへの道筋を明確にするよう訴える立場だった。再エネを最優先し、最大限導入することを主張してきた。2021年の前回総裁選に出馬した際は将来の脱原発を目指しつつ「安全性が確認できた原発は再稼働するのが現実的」との姿勢をとった。今回はさらに原発活用の必要性を前面に出した。エネルギーは河野氏が「ライフワーク」と位置づける政策のひとつだ。祖父の一郎氏は当時の経済企画庁長官として1957年の日本原子力発電の設立にかかわった。今回視察した東海第2原発は日本原電が運営している。2011年の東日本大震災で停止して以降、安全対策工事を進めているものの再稼働に至っていない。国際エネルギー機関(IEA)が7月に公表した報告書は「安定した低排出電源の必要性などから、原子力発電が地熱発電とならんで魅力的な存在になりつつある」と指摘する。河野氏も31日の発言で「再生可能エネルギー、それから原発というゼロエミッションの電源で必要な電力需要をまかなうのは日本だけじゃなく、各国がやらなければいけないことだと思う」との認識を表明した。経済成長やEVの浸透などで電力需要は世界的に伸びている。報告書は23年に2.5%だった世界の電力需要の成長率が24年は4%ほどと過去20年で最高水準になる見通しを示している。こうした環境変化も河野氏の発言の背後にあるとみられる。国が基本方針とする「核燃料サイクル」については「予算を投じる以上、効果をきっちり見る必要がある」と語った。岸田文雄首相の自民党総裁の任期は9月末までだ。その前にある総裁選に向け、河野氏は有力な「ポスト岸田」候補のひとりとして名前が挙がる。7月26〜28日の日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査で次の総裁にふさわしい人を聞いたところ5%が河野氏と回答した。最も多かった石破茂元幹事長の24%、小泉進次郎元環境相の15%と差がついている。河野氏は21年の総裁選の党員・党友票で当選した首相を上回った。一方で国会議員票で差をつけられて1回目の投票も決選投票も敗れた。自民党の国会議員は原発推進派が多数を占める。21年の総裁選は脱原発への懸念から賛同を得られなかった側面がある。原発推進の立場を打ち出すことはエネルギー政策で距離を縮めて、議員の支持を広げることにつながりうる。河野氏は31日、量子科学技術研究開発機構(QST)の那珂フュージョン科学技術研究所(茨城県那珂市)にも足を運んだ。核融合エネルギーの早期実現のために日本と欧州が共同で実施するプロジェクトの進捗を確認した。河野氏は「世界に打って出ていける技術開発は温暖化対策という意味でも、日本経済の未来にとっても大事なことだ」と言明した。 *4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ4G72C7Q4GUHBI016.html (朝日新聞 2022年4月15日) アップル、再エネ100%の供給元倍増 「外圧」うけ日本は20社増 米アップルは14日、同社向けの製品をつくるのに100%再生可能エネルギーを使うサプライヤー(供給元)が213社となり、1年前からほぼ倍増したと発表した。日本企業は9社から29社となった。日本は欧米よりも再エネの普及が遅れているとされる。巨大IT企業という「外圧」が日本企業の環境戦略に変化を与えている。同社の再エネ100%の取り組みに参加する企業は25カ国に及び、主要取引先の大半が含まれる。日本企業では、シャープやキオクシアなどが新たに参加した。欧州の参加企業は11社増えて25社となった。中国でも23社が新たに加わった。年間2億台以上のiPhone(アイフォーン)を売るとされるアップルの存在感は大きく、参加企業は年々増えている。アップルは2030年までにサプライチェーン(部品供給網)全体で温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすると宣言している。昨年同社が供給網全体で使用した再エネは前年から倍増した。現在の取り組みは、年間で300万台近いガソリン車を削減するだけの効果があるという。同社は日本や中国で太陽光発電プロジェクトに投資をしたり、供給元に助言をしたりして、再エネ導入を支援する。アップル担当者は昨年、日本などでの課題として、「コスト効率が良く信頼できる再エネにサプライヤーがアクセスするうえで、世界の多くの地域で政策が障壁になっている」と話していた。同社は日本について今回、企業が発電事業者と直接契約して電気の供給を受ける「電力購入協定(PPA)」と呼ばれるしくみが広がるなど、「クリーン電力の新たな選択肢が増えている」と指摘した。 ●コストが課題 それでも「対応している企業が選ばれる」 電子部品大手の村田製作所(京都府長岡京市)は、2050年度までに会社で使うすべての電力を再生可能エネルギーでまかなう目標を掲げている。しかし、米アップルとの取引にかかわる事業については、30年度までに前倒しで達成できるよう、優先して取り組んでいる。同社の生産子会社の金津村田製作所(福井県あわら市)では、昨年11月、同社の工場として初めて再エネ使用率100%に踏み切った。使う電力のうち自社の発電で13%をまかない、残る87%は再エネ由来の電力を外部から買っている。いずれは自社発電を50%まで高める計画だ。工場内の駐車場の屋根などに太陽光発電パネルを敷き詰め、独自に蓄電システムも開発した。天気や気温などの気象条件と工場の稼働状況を過去のデータとも照らし合わせて分析。翌日に発電できる量と使う電力量を予測して、無駄なく再エネを使っているという。いま工場で発電できる再エネは年間74万キロワット時。二酸化炭素排出量を年間368トン削減できるという。同社の工場は北陸地方に多く立地している。豪雪地帯だと冬場は天候が悪くて太陽光発電が思うように使えない。それでも、再エネ100%にこぎ着けた金津村田製作所のしくみを、ほかの工場にも広げる考えだ。日本では再エネの購入費用が比較的高く、規制なども多いため、調達が難しい傾向にあるとされる。費用面だけでみれば再エネ100%は割に合わない面もある。しかし、同社は売上高に占める海外比率は9割に達している。取引先だけでなく、消費者の環境意識にも目配りが必要だという。担当者は「今後はますます、きちんと対応している企業が選ばれるだろう」と話している。2020年からアップルの再エネの取り組みに参加している素材メーカーの恵和(本社東京)では、グローバル企業の取引先から再エネ利用に取り組んでいるかどうかの調査が増えているという。同社の広報担当者は、「自信を持って『はい』と答えられる」と話す。仕入れ先に対しても、環境や人権関連についての調査をしているという。同社は、アップル向けにディスプレーの光学フィルムを納入している。和歌山県にある工場では、三重県の風力発電所から再エネを購入。アップル向けの製品では再エネ100%を実現しているという。ただ、世界的に資源価格が高騰するなか、「再エネの需要も高まっており、奪い合いになりつつある」といい、コスト面が一番の課題だという。 ●再エネ100%に参加する主な日本の供給元 (かっこ内は供給している主な製品) ・村田製作所(電子部品) ・アルプスアルパイン(同上) ・ヒロセ電機(同上) ・TDK(同上) ・ジャパンディスプレイ(液晶パネル) ・シャープ(同上) ・キオクシア(半導体) ・ソニーセミコンダクタソリューションズ(同上) ・恵和(フィルム) *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240831&ng=DGKKZO83154270R30C24A8MM8000 (日経新聞 2024.8.31) 交通網再生へ計画1000超 自治体、事業者・住民と連携、大分・玖珠町 バス運賃下げ利用者増 全国的にバスや鉄道の廃線が増えるなか、自治体が交通網の維持・確保に知恵を絞っている。事業者や住民と連携して今後のあるべき姿を示す「地域公共交通計画」の作成数は4月末で1052まで増えた。自治体あたりの作成数が最多の大分県では、計画に基づいたバス運賃の引き下げなどで利用者を増やす動きも出てきた。地方圏では急速な人口減少などで路線バスの9割以上が赤字に陥っている。運転手の確保なども容易ではなく公共交通網の維持は厳しさを増す。国は2020年の法改正で、運営体制や路線網などの再構築に向けたグランドデザインとなる地域計画の作成を自治体の努力義務とした。地域計画は県や市町村のほか、複数の自治体が共同で作成するケースもある。自治体あたりの計画数を都道府県別に見ると大分県が1.11と自治体数を上回って最多となり、広島県、富山県が続いた。大分県は県が主導して東部や中部など6圏域別に計画を作ったほか、多くの自治体が単独でも作成している。県地域交通・物流対策室は「市町村合併もあって広い面積に人口が分散している自治体が多く、交通網の維持への危機感が強い」と説明する。同県玖珠町は21年3月に県と共同で西部圏(日田市・九重町・玖珠町)の計画を作った。同町は人口減少が続くうえ、高齢化率も約40%と県平均を上回る。宿利政和町長は「何とか利用者を増やして公共交通を守りたい。このままでは郊外になるほど移動手段がなくなり、町民が住み慣れた場所に住み続けられなくなる」と話す。地域計画に沿って今年4月には「ゾーン制運賃」を導入した。従来、町のコミュニティーバスと民間の路線バスは、目的地が同じでも運賃が異なるなどの弊害があった。新運賃はJR豊後森駅など中心区域は大人が150円で、区域外は300円とした。大分交通グループの玖珠観光バスは長距離区間で600円を超えることもあったが半額以下になった。コミュニティーバスの運賃も距離に応じて最大200円だったが一律150円となり、4~7月の利用者は前年同期を上回った。宿利町長は「バス会社の減収分は町が補填するうえ、利用者を一定数確保できれば地域計画に基づいた国の補助もある」と強調。「分かりやすい運賃は増加する訪日客の呼び水にもなる」と期待する。玖珠町と同じ西部圏の九重町は、3月に町単独の地域計画も作った。路線バスの幹線から延びる枝線の改善が大きな柱で、10月にはコミュニティーバスのデマンド交通への転換を始める。日野康志町長は「バス停まで歩くのもつらいという高齢者が増えた。自宅前まで迎えに行くデマンド交通で高齢者の外出を促したい」と話す。広島県福山市は県境を接する岡山県笠岡市と共同で3月に地域計画を作った。両市内はバスやタクシーの運転手不足が深刻化しており、交通空白地が広がりかねない。福山市は計画に基づいて交通事業者などと「バス共創プラットフォーム」を設立。ライドシェアなど新たな交通サービス導入の検討を始めた。国は24年度末に1200の地域計画作成を目標とする。東京大学の中村文彦特任教授は「住民の理解を得てこそ持続可能な公共交通を実現できる」と指摘。「遠回りのように見えるかもしれないが、実証運行や体験乗車会などを通じて住民の意見を聞く機会を重ねていくことが実効性のある計画作りにつながる」としている。 <漁業と環境> PS(2024年9月7日):*5-1は、①日本は海藻・海草由来のブルーカーボン創出で先行 ②日立等の産官学連合が下水処理技術を用いた藻場造りの技術開発に乗り出した ③関連技術開発の裾野が広がれば海外での事業拡大に繋がる ④生育中のワカメの全長は約2.5mまで育ち、栄養素を適切に追加供給すればさらに成長がよくなる ⑤下水処理した後に海に放流するきれいな水に含まれる栄養価を高めて周辺の海藻を茂らせる ⑥ブルーカーボンはワカメ・コンブ等の海藻、アマモ等の海草が水中のCO₂を吸収した後に、ちぎれたり枯れたりして海底に長期貯留される仕組み ⑦世界の陸域のCO₂吸収量は年77億トン、海域の吸収量は同102億トン(国土交通省) ⑧場所や季節によっては、栄養が足りず痩せすぎた海となり、海藻がウニなどに食べ尽くされる磯焼けや漁獲量減の要因にもなるため、日立は下水処理の水質制御技術を活用し、処理工程の微生物濃度や送り込む酸素の量などを調節して栄養塩濃度を適切に制御する技術を開発する ⑨水中カメラを使って水中の画像データなどから藻場の生育状況を精度高く計測できるシステムの活用も進める ⑩実際に下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自然界への影響が大きいため、自治体や漁業関係者などとの調整も必要で実現のハードルが高い 等としている。 このうち、①②③④⑤⑦⑨は、始めたのが遅すぎたくらいだが(何故なら、有明海の海苔は既にそれをやっているから)、⑩の「下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自治体や漁業関係者などとの調整で実現のハードルが高い」は、⑧の「海藻がウニ等に食べ尽くされ、磯焼けや漁獲量減の要因にもなっている」ことの解決策にもなる。その理由は、磯焼けの原因となっているウニ等を捕獲してブルーカーボンで育つワカメを自由に食べられる形のケージに入れたり、育ったワカメを収穫して捕獲したウニに餌として与えたりすれば、⑥のように、育ったワカメ・コンブ・アマモなどを海底に放置するのではなく有効に使えるからで、それを思いつかないのは、国交省と水産庁が全く別の組織で相互に連絡すること無くやっているからだろう。 また、動物と植物の両方の性質を持ち、鞭毛を使って動くことができ、CO₂を吸って酸素を吐き出しながら光合成によって成長する、ワカメや昆布と同じ藻類のユーグレナ(和名:ミドリムシ)は、59 種類もの栄養素をバランスよく含むため(https://www.euglena.jp/whatiseuglena/ 参照)、下水処理後の栄養塩を含む水でユーグレナを育てれば、*5-2-1のように、餌代がネックになっている魚介類の養殖で、わざわざ「昆虫」を育てて粉にしなくても低魚粉の飼料作りに役立つ。 さらに、*5-2-2のように、人口増加で拡大する世界の胃袋を満たし、持続可能な食材供給と両立させるため、三井物産がインド・南米・アフリカ等で鶏肉・エビの現地大手企業へ出資して生産段階でCO₂排出が少ないたんぱく資源の供給網を構築しているのはよいが、それを日本国内ではできないというのが情けない。「鶏は牛・豚を使う料理に、美味しくて高脂血症を起こさない優れた代替材料として使える」と思うので、私も最近は鶏肉を多用しているが、その鶏や養殖エビの配合飼料にもユーグレナは使える。つまり、ユーグレナは、59種類の豊富な栄養素を持つため、飼料に使うことで味や品質が向上することが研究によって明らかになっており、食糧と競合しないため持続可能な国産飼料として有効なのだ。従って、「農林水産物やその加工品は輸入しなければならない」という固定観念を捨て去り、日本の資源を余さず使うことで食糧を安価に作り、環境に貢献しつつ食料自給率を高めて輸出もできる体制をつくる必要がある。 ![]() すべて、2024.9.5日経新聞 (図の説明:1番左と左から2番目の図のように、下水処理場から出る窒素・リンを含む処理水と大気中のCO₂を使って海藻がすくすく育ち、同時に海水も浄化される研究が進んでいる。また、右から2番目は、世界で動物性タンパク質のニーズが高まるが、三井物産は、1番右の図のように、鶏とエビに焦点を定めて海外で出資しているそうだ。そして、日経新聞は、同じ日にこれらの記事を掲載しておきながら、育った海藻等を餌にして日本で魚介類の養殖や養鶏を行なうことは思いつかないのが不思議だが、都市出身の人ばかりが記者になっているのだろうか?) *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240905&ng=DGKKZO83243160U4A900C2TB3000 (日経新聞 2024.9.5) 日立、ワカメ育てCO2吸収 下水処理技術で藻場再生、「ブルーカーボン」日本の産官学が主導 海洋生物に二酸化炭素(CO2)を吸収させる「ブルーカーボン」が日本で進んでいる。日立製作所など産官学連合が、下水処理技術を用いた藻場造りの技術開発に乗り出した。日本は海藻・海草由来のブルーカーボン創出で先行している。関連する技術開発の裾野が広がれば、企業の海外での事業拡大にもつながる。大阪府阪南市の沿岸部から約100~400メートルの沖合。等間隔に並ぶブイの間で、試験生育中のワカメが海中で揺れる様子が船上からはっきり見える。日立や月島JFEアクアソリューション、大阪公立大など18の企業や団体、自治体の産官学連合が進める大阪湾でのブルーカーボン創出の実証だ。日立の研究者らが3月に沖合に出て生育中のワカメの全長を測ると約2.5メートルまで育っていた。海水中の栄養素などを変化させない状態の生育状況で「栄養素を適切に追加供給すればさらに成長がよくなる可能性は十分ある」。船上ではこんな声があがった。ブルーカーボンはワカメやコンブなどの海藻やアマモなどの海草が水中のCO2を吸収した後に、ちぎれたり枯れたりして海底に長期貯留される仕組みだ。海藻・海草由来のブルーカーボンの貯留期間は数千年と言われる。国土交通省所管の港湾空港技術研究所によれば世界での陸域のCO2吸収量は年77億トンに対し、海域での吸収量は同102億トンと陸より多い。浅海域だけでも同40億トンある。日本は国土は小さいが、海岸線の長さと海洋面積はともに世界6位とブルーカーボンを手掛ける余地は大きい。これまで海藻の育成手法の開発など海での技術開発が主だったが、舞台が陸にも広がり始めた。今回の産官学の実証では下水処理場を活用する。下水を処理した後に海に放流されるきれいな水に含まれる栄養価を高めることで、周辺域の海藻を茂らせる。ワカメの生育実証をするのは阪南市沖で同市近隣の下水処理施設の放流域だ。通常、下水処理後の放流水は栄養塩と呼ばれる窒素とリンの濃度が低水準で厳格に管理されている。だが、管理が行き過ぎる場合があるという。プロジェクトを統括している日立研究所の脱炭素エネルギーイノベーションセンタの圓佛伊智朗氏は「場所や季節によって、栄養が足りずにやせすぎた海となり、海藻がウニなどに食べ尽くされる磯焼けや漁獲量減の要因にもなっている。栄養塩の適切な制御で豊かな海を実現したい」と話す。産官学連合の技術を結集して実証する。日立は下水処理の水質制御技術を活用。処理工程の微生物濃度や送り込む酸素の量などを調節して、栄養塩濃度を適切に制御する技術を開発する。月島JFEアクアは下水処理水由来の栄養塩類を必要な箇所に届ける放流方式を開発する。KDDIはこれまで水上ドローン技術をブルーカーボン計測に活用してきた。漁船などの船上で海に潜ることなく、水中カメラを使って水中の画像データなどから藻場の生育状況を精度高く計測できるシステムの活用を進める。ただ実際に下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自然界への影響が大きい。自治体や漁業関係者などとの調整も必要で、実現のハードルは高い。現状の海の栄養塩の濃度でワカメがどれほど生育するかを把握し、今後試験場などで栄養塩を増やしてワカメがどれほど育つかなどの基礎実証を進める。ブルーカーボンに関連した製品開発が日本で相次いでいる。東洋製缶グループホールディングスは海藻の養分となる鉄がゆっくりと水中に溶け出すガラスを開発した。これまでに全国60カ所以上の漁港や防波堤に採用された。養殖の難しい沖合でブルーカーボンを創出する開発も始まった。海洋向け建築資材を手掛ける岡部は、深さ30メートル以上でも海藻を育てられる多段式の養殖設備を作った。深度に合わせて海藻の種類を変えられる。産官学で40年までに年100万トン超の吸収量創出を目指すENEOSも、沿岸や沖合での養殖技術の開発を進める。ブルーカーボンを巡っては、環境省が国連に報告する温暖化ガスのインベントリ(排出・吸収量)に海藻・海草由来のブルーカーボンを世界に先駆けて反映した。脱炭素対策の有効な手として注目が集まるなか、ブルーカーボンで削減したCO2量をクレジットとして販売する動きも日本で進んでいる。ブルーカーボンクレジットの認証団体である、国交相の認可法人ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE、神奈川県横須賀市)の発行実績は23年度で2000トン超と、海外と比べて突出している。他のクレジットと比べると規模はまだ小さいが、生物多様性確保などの環境価値が評価され、森林クレジットなどに比べて5倍以上高値で取引されている。上下水道コンサルの東京設計事務所(東京・千代田)は今回の産官学プロジェクトに関係する自治体支援や、ブルーカーボンをクレジット化するためのノウハウづくりを検討する。クレジット化できれば、下水道事業者や沿岸部の漁業者などの参入を後押しできるとみている。JBEの桑江朝比呂理事長は「クレジット創出ノウハウなどに対して海外からの問いあわせが増えている」と語る。実際にJパワーはオーストラリアで現地の大学と組み、実証を進めている。日本として様々なノウハウが確立できれば、関連技術や機器の輸出拡大につながる。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20240905&be=NDSKDBDGKKZO8113507003062024QM8000%5CDM1&bf=0&c=DM1&d=・・DTB2000 (日経新聞 2024/6/4) 魚養殖、「昆虫」エサに 価格変動大きい魚粉を代替 安定供給で生産拡大狙う これからの魚は「昆虫」で育つ――。水産養殖の現場で、代表的なエサである魚粉を補う飼料として、たんぱく質が豊富な昆虫からつくる飼料が注目され始めた。昆虫飼料を安定的に供給することで、価格変動の大きい魚粉に頼るよりも養殖現場のコストを抑え、養殖物の生産を拡大しようという動きが広がりつつある。マダイの海面養殖量が日本一の愛媛県から、2024年秋、エサの一部に昆虫飼料を使って育てられた約1万3000尾のマダイ「えひめ鯛」が出荷される見込みだ。愛媛大学と企業の連携による取り組みで、カブトムシなどの仲間にあたる甲虫の一種の幼虫「ミールワーム」を粉末状にして混ぜた飼料を与えてマダイを育てている。通常の養殖のエサはカタクチイワシなどを原料にした魚粉の割合が半分程度とされる。愛媛大の三浦猛教授(水族繁殖生理学)が開発した飼料は昆虫由来などを混ぜることで魚粉を30%程度、将来は20%まで抑えるという。23年には第1弾となる「えひめ鯛」を8000尾出荷し、連携先企業の社員食堂などで提供された。ミールワームの油分の調整やコストを下げるなどの工夫を重ねながら、26年には数十トンの飼料を生産できるテストプラントの設置を計画しているという。三浦教授は「4~5年後には市場への出荷を目指す」と意気込む。矢野経済研究所(東京・中野)が23年にまとめた推計によると、昆虫たんぱく質飼料の国内市場規模(メーカー出荷金額ベース)の見通しは27年度に4億9200万円。まだ普及し始める段階とみられるが、22年度の40倍弱に増える。魚粉の量を少なくした低魚粉飼料は27年度に22年度比7割ほど多い664億1200万円との予測だ。養殖の現場で現在中心的な飼料である魚粉にはカタクチイワシなどが使われるが、カタクチイワシはペルー沖などからの供給が不安定になりやすく、需給によっては価格が高騰する。安定した量の供給と低コストを実現できる代替原料が望まれている。鳥などの残りかすや大豆ミールといった原料が使われているが、近年はたんぱく質が豊富な昆虫に注目が集まる。将来を見越し、企業の動きも活発になってきた。住友商事は昆虫飼料を手がけるシンガポールのスタートアップ、ニュートリションテクノロジーズに出資し、日本の独占販売権を取得した。昆虫飼料はアメリカミズアブ(BSF)の幼虫を粉末状に加工している。現在は観賞魚のエサとして出荷されているが、今後はマダイの海上養殖での活用を検討しているという。30年までに3万トンの輸入販売を目指す。住友商事アニマルヘルス事業ユニットの李建川チームリーダーは「昆虫を使った飼料はサステナブルな取り組み」と話す。世界の人口増加で水産物の需要が高まるなか、養殖は拡大傾向が続く。国際食糧農業機関(FAO)によると、世界の水産物で養殖が占める割合は21年時点で57.7%だった。日本は農林水産省の調べでは21年時点で22.8%。養殖の拡大余地が大きい中で、昆虫由来や低魚粉の飼料の役割は増す。東京海洋大学の中原尚知教授(水産経済学)は「飼料の新たな選択肢が増えていくことは望ましい。今後、輸出できるまで成長した際には原材料の持続可能性や安全性なども求められる」と話す。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240905&ng=DGKKZO83239810U4A900C2TB2000 (日経新聞 2024.9.5) 三井物産、鶏・エビで供給網、インド・南米など3社に出資 持続可能な食材に重点 三井物産が動物性たんぱく質の確保を急いでいる。インドや南米、アフリカなどで鶏肉やエビの現地大手企業へ相次ぎ出資し、生産段階で二酸化炭素(CO2)排出が比較的少ないたんぱく資源の供給網を構築する。人口増加で拡大する世界の胃袋を満たすことと、持続可能な食材供給の両立に商機があると見込み、成長の活路を見いだす。 ●事業利益2倍 「自然資本と調和し、健康に資する食の選択肢を増やす」。堀健一社長は、エビと鶏が経済性と環境対応の両方を満たすたんぱく源と定める。食と農に関する事業の本部長を務めた経験から、「2021年の社長就任時からたんぱく質分野は伸ばしたいと思っていた」とする肝煎り事業だ。26年3月期に動物性たんぱく質事業の純利益を23年3月期比で2倍以上となる300億円超に引き上げる方針だ。市場の成長性は申し分ない。経済協力開発機構(OECD)の調査では33年の鶏肉生産量は1億6000万トンと21~23年の平均と比較して1.4%増加する。牛肉(1.1%増)や豚肉(0.5%増)より高い成長率だ。インドの調査会社フォーチュン・ビジネス・インサイツによると世界のエビ市場は32年に742億ドルと23年比で8割伸びる。鶏や養殖エビは牛や豚よりも飼料効率が良く、1キログラムのたんぱく質の生産で排出される温暖化ガスは牛肉の2分の1~5分の1程度とされ環境負荷が比較的小さい。環境に配慮しながら、増加する人口を支えられることが市場成長を期待できる背景だ。伊藤ハム米久ホールディングスに4割出資する三菱商事やプリマハムに45%出資する伊藤忠商事、畜産に強い丸紅といった同業他社が牛や豚といった食肉で先行する。相対的に存在感の小さい三井物産でも鶏やエビでは入り込める余地があるとの思惑もある。三井物産は26年3月期までに1400億円を動物性たんぱく質事業に投じる計画。既に24年4月までに計1000億円超を投じて鶏肉とエビで3社への出資を決めた。堀社長は「パイプライン(投資候補)はまだまだある」とし、残り400億円を既存案件の出資比率向上や東欧やアフリカなどで交渉が進む新規案件の取得などに振り向ける構えだ。各出資先企業の地産地消を基本としつつ、国際的な供給網構築の足がかりとしてそれぞれを活用していくのが三井物産の事業戦略だ。鶏肉では400億円弱を出資して25年3月期中に持ち分法適用会社にする予定のスネハ・ファームズ(インド)がグローバル展開をけん引する。同社は飼料調達から育成、加工、販売まで鶏肉供給を一貫して手掛け、インドの鶏肉消費の1割に相当する年間2億羽を供給する。三井物産は鶏肉処理機械で国内シェア8割を持つ子会社のプライフーズ(青森県八戸市)などグループ各社と連携し、低温物流や鮮度維持、加工品開発で知見を取り入れ輸出に向けた供給力拡大の下地をつくる。佐野豊執行役員(食料本部長)は「ブラジル、タイといった鶏肉輸出大国に伍する安い鶏肉が出来る」とにらみ、ブロイラー生産量を29年までに現在の2倍の約50万トンまで拡大する計画だ。エビでは24年3月期に20%出資した世界最大のエビ養殖事業者インダストリアル・ペスケラ・サンタ・プリシラ(IPSP、エクアドル)を供給網の核にする。同社の年間輸出量は23万トン超。22年は世界のエビ貿易量の6%を占めた。現在は冷凍状態で米国や日本などに輸出している。今後は同じく35%超出資する世界最大のエビ加工業者ミンフー・シーフード(ベトナム)でエビフライなどに加工して世界に流通させる戦略だ。ファンドを通じて出資するオランダの畜水産種苗事業者とも連携し、より育成効率の高いエビの品種や飼料を開発し、エビ養殖に一貫して取り組む体制の構築も視野に入れる。 ●争奪戦過熱も 堀社長は動物性たんぱく質事業強化の進捗状況について「いいペースで実現しているが、5合目だ」とする。順調に成長しても、26年3月期時点の連結純利益見通し全体の3%を占める事業に過ぎないが、27年3月期以降の次期中期計画でも引き続き注力分野に据える見込みだ。たんぱく質確保は世界中の課題だけに、投資案件の争奪戦が今後過熱する可能性があるのは懸念材料だ。エクアドルは交渉に6年、インドは3年かけたことで他社が入り込む余地がない関係を築けたという。競争が厳しい中で、有望企業を早期に見つける目利き力を磨く。商社ビジネスの基本の徹底が、三井物産の今後の動物性たんぱく質事業の持続可能性を左右する。
| 経済・雇用::2023.3~ | 04:05 PM | comments (x) | trackback (x) |
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2023,12,11, Monday
(1)日銀の金融緩和・物価上昇・円安政策が引き起こしたこと
![]() 2023.6.16TDB EconomicOnline 2023.8.19、2023.8.25日経新聞 (図の説明:左図は、2008~2023年のドル円相場で150円/$前後と円安だ。また、中央の図のように、欧米の中央銀行は物価安定のために公定歩合を引き上げたので、コロナと戦争による物価上昇が一段落しつつあるが、日本は好景気でないにもかかわらず、日銀のインフレ政策によってコストプッシュインフレによる物価上昇が続いている。そして、右図のように、輸入依存である上に購入頻度の高いエネルギー・食料の値上がり率が高いため、日本の消費者の物価実感は前年のみとの比較でさえ14.7%の上昇と著しい) ![]() 2022.11.11WeeklyEconomist 2023.7.22東京新聞 2023.11.15日経新聞 (図の説明:左図のように、携帯電話料金が下がったのは可処分所得を上げることに“寄与”したが、円安とロシア・ウクライナ戦争でエネルギーと食料の物価指数は著しく上がって可処分所得を下げることに“寄与”した。そして、輸入価格の上昇を通して国富が海外に流れたため、中央の図のように、消費者物価指数が上がると同時に実質賃金は下がった。それでも「賃金は物価以上に上げられる」と言っている人は、マクロ経済もミクロ経済もその繋がりも理解していない人である。そして、右図のように、物価上昇に伴って消費需要とそれに伴う民間投資が減り、効率の悪い公的需要でそれを埋めることはできないため、ますますGDP成長率が下がっているが、これは政策を見ればやってみなくても明らかなことである) ![]() 2022.6.7Diamond 2022.5.8読売新聞 2022.5.30Economist (図の説明:左図は、1995年を100とした主要国の実質GDPの推移で、2021年時点でアメリカは180超だが、日本は120程度でイタリアといい勝負だ。また、中央の図は、2022年までの日本の実質GDPの推移で、2020年にコロナで異常な変動をした以外は0近傍にいる。何故こうなったかを分析するため、右図の名目GDPの見ると、政府消費と帰属家賃が伸びて民間消費と総投資が減っている。つまり、政府消費ばかりが増え、民間の可処分所得が減ったため、経済が落ち込んだことを意味している) 1)円の価値の下落 *1-1-1のように、2023年12月11日午前の東京外国為替市場円相場は145円/$だ。これは、*1-1-2の150円台/$より少しは円高になったものの小さな変動で、趨勢は一番上の段の左図のように、2012年の70円台/$を最高の円高として、円安方向へ移行している。 もちろん、2012年の70円台/$は日本いじめとも思われる円高で、日本企業は海外移転を迫られ、(政府が為替相場を操作することはできないため)100~120円台/$に至るまでの日銀の金融緩和は必要だったと思うし、それが当時の日本の実力だっただろう。しかし、この間に政府がなすべきだったことは、産業構造改革のための歳出であって景気対策のバラマキではなかったため、景気対策のバラマキを大合唱していた人々は全て、経済敗戦の戦犯である。 そして、日銀は、「2%のインフレ目標を達成していない」などとして大規模な金融緩和を続けたため円の価値が下落して円安が進み、ロシア・ウクライナ戦争でエネルギー・食料の供給が減ったことも影響して、日本では、輸入依存でかつ購入頻度が高く、生活必需品でもあるエネルギーと食料の物価が著しく上がった。そのため、一番上の段の右図のように、2023年の物価実感は前年同月比でさえ14.7%の上昇となったのである。 確かに、円安は自動車等輸出企業の利益増やそれに伴う賃上げ効果も一部にはあるが、日本の製造業は1990年代に始まった世界の大競争時代(生産コストの安い共産主義諸国が市場参入して起こったもの)に、為替レートが100円/$以下だったため、既に生産コストの安い東欧・中国・東南アジアなどに移ってしまっている。 その上、今では、人口構成は退職した高齢者の割合が高く、新製品の研究開発を疎かにしたため輸出競争力のある製品が生まれにくくなっており、国内の製造業の競争力や稼ぐ力は弱くなっているのだ。そのため、食料・エネルギー・原材料の輸入コスト増による物価上昇のディメリットの方が大きくなっている。 このような中、根本的解決をせずに政府・日銀が「円買いドル売り介入」をしても、円安の動向を変える力にはなり得ない。また、*1-1-2も「国内の消費者物価(生鮮食品を除く)」と記載しているが、生鮮食品を除いた消費者物価上昇率は、実際に消費者が直面している物価上昇率とはかけ離れているため、数字のトリック以上の意味は無い。 従って、エネルギーは、いつまでも輸入依存の原油に頼らず、食料は、その生産過程まで含めて自給率を向上させる方向での歳出改革を行なう必要があり、地球温暖化対策と合わせてこれらの課題を同時に解決する方法が、農林漁業地帯や地方で再エネ発電を行なってエネルギー自給率を上げ、電力料収入を農林漁業地帯や地方に入れることによって人口の地方分散と食料自給率向上を行なうことなのである。しかし、理系音痴が政策作成をしているため、未だ高い化石燃料への郷愁が止まらず、その輸入が減らないのである。 なお、植田日銀総裁は、「賃上げを伴う安定的な物価上昇ではない」などとして大規模緩和を続けておられるが、日本のインフレは、有望産業を潰したり減らしたりし、教育や研究開発を疎かにして競争力のある製品を生まれにくくしているため、物価高に賃上げが追い付くわけがないのである。その結果として、(1)2)の実質所得と消費支出の減少が起こっているのであるため、その説明は2)で行なう。 2)実質所得と実質消費支出の減少 *1-2-1のように、厚労省が11月7日に発表した9月の毎月勤労統計調査速報で、1人当たり実質賃金は前年同月比2.4%減少し、18ヶ月連続のマイナスだそうだ。ここでも、「物価高に賃金上昇が追いつかない」と書かれているが、それなら、そのうち賃金上昇が物価上昇を超える筈であるため、今は超えない理由を書くべきである。 しかし、第二次産業(製造業)の多くは既にコストの安い海外に移転しており、第一次産業(食料・エネルギー・鉱物)は輸入が殆どだ。その上、アメリカのように、生産性が上がったわけではなく、付加価値の高い製品を開発して市場投入したわけでもないため、私は賃金が長期的に物価上昇を超えて上がる要因はないと思っている。さらに、現在の日本は、高齢や女性であることを理由に働けない人の割合が高いため、可処分所得の少ない世帯が増えているのだ。 また、第三次産業のうち高齢者や働く女性が増えれば有望産業になる筈の家事支援・介護・医療については、政府は開発するどころか抑えることばかり考えている。しかし、本当のニーズを無視した官製の産業政策を無理に進めても、金がかかるばかりで成功がおぼつかないため、実質賃金のマイナスは続くだろう。 そして、実質可処分所得が減れば、*1-2-2のように、(泥棒でもしない限り)実質消費支出も減少させざるを得ない。特に物価上昇の激しい食料等の生活関連や住宅支出が減って消費を押し下げ、つまりは国民を貧しくして政府支出を増やしているということだが、それは実質GDP成長率が上がらない良い事例なのであり、悪循環に陥っていると言える。 3)実質GDPの減少 *1-3-1は、2023年7~9月速報値では、実質GDPが年率換算で2.1%減少し、その理由は、①物価高を受けて国内総生産(GDP)全体の5 割超を占める個人消費の不振 ②企業の設備投資の落ち込み ③住宅投資や公共投資もマイナスで、国内需要は総崩れ ④輸出は自動車は増えたが、インバウンド(訪日客)消費が振るわず ⑤新型コロナウイルス禍からの景気回復に急ブレーキがかかった と記載している。 外需(輸出)を伸ばしたければ、国内の生産コストが世界の大競争に勝てるだけの低さでなければならないが、現在の日本は、価格転嫁による物価上昇をすすめ、さらに賃金上昇・働き方改革・外国人労働者の締め出し等で、それとは逆の政策を採っている。 「それなら付加価値を上げればよいではないか」という意見も出るが、新型コロナワクチンや治療薬の開発・速やかな製造の例のように、付加価値の高い新製品を製品化して市場投入するための教育・研究開発・迅速な市場投入体制ができておらず、これは再生医療・EV・再エネ等の他の技術についても同じことが言えるのだ。一方、四半世紀で実質GDPが1.8倍になったアメリカは、これができているのである。 それらの結果、内閣府が2023年12月8日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値では、*1-3-2のように、GDPが年2.9%減に下方修正され、内需の柱である個人消費が節約のため下方修正された。 4)実質賃金低下による節約で生じるエンゲル係数の上昇 「エンゲル係数」とは「家計の消費支出にしめる食費の割合(%)」で、食費など必需品の節約には限度があることから、実質可処分所得が低ければ低いほどエンゲル係数は高くなる(女子生徒は、これを中学校の家庭科で習った)。 そのような中、*1-4-2は、①我が国のエンゲル係数は2022年6月に26.0%まで低下して2023年7月に28.2%に上昇 ②エンゲル係数上昇は食料品を中心とした物価上昇による実質収入減が主因 ③高齢者の多い無職世帯は化石燃料等の資源高が支出を押し上げ、(食費の割合である)エンゲル係数の上昇を抑制 ④食料・エネルギー価格上昇は低所得者層を中心に購入価格の上昇を通じて購買力を低下させた ⑤我が国は低所得者世帯の割合が上がり、高所得者世帯の割合が下がって家計全体が貧しくなった ⑥実質賃金の低下に加え、高い食料品価格上昇による家計の節約志向がエンゲル係数を上げた ⑦食料・エネルギーなど国内で十分に供給できない輸入品の価格上昇による物価上昇は「悪い物価上昇」 ⑧国内需要の拡大によって物価が上昇し、企業収益の増加を通じて賃金が上昇し、国内需要が更に拡大する好循環が「良い物価上昇」 ⑨輸入原材料の価格高騰を原因とした食料・エネルギー価格の値上げによる物価上昇は、国内需要の拡大を伴わず、家計の節約を通じて国内需要を委縮させる ⑩世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口増加・所得水準向上による需要拡大・脱炭素化や都市化による農地減少で逼迫 ⑪日銀は2%の物価目標を設定し、名目賃金上昇率+3%、実質賃金上昇率+1%の姿が理想的であるとする ⑫そのため実質賃金が17カ月連続マイナスの現在、インフレ率が2%を超えても日銀が理想とする「2%物価目標」には程遠い 等としている。 このうち、①②④はそのとおりだが、③の高齢者は、年金給付減をはじめとして社会保険料・税金・医療・介護費の増加により名目可処分所得が減少し、その上で化石燃料等の資源高が支出を押し上げたため、食費を増やすこともできずエンゲル係数の上昇が抑えられたのだと思う。無職の生活保護世帯も、同様に購買力低下が著しいだろう。 また、物価高騰によって実質預金残高も目減りしたため、⑤のように、低所得者世帯の割合が上がって家計全体が貧しくなった。そして、⑥のように、実質賃金低下と食料品価格上昇により、家計は節約せざるを得ず、食費を増やせる世帯はエンゲル係数を上げたが、食費も増やせない世帯はエンゲル係数を上げることさえできずに、食事を減らして対応したということである。 さらに、*1-4-2は、⑦⑧⑨のように、現在の日本で起こっている物価上昇は、「悪い物価上昇」であって「良い物価上昇」ではなく、むしろ家計の節約を通して国内需要を委縮させていることがわかっていながら、⑪⑫のように、日銀の「2%の物価目標」は妥当で、実質賃金上昇率+1%になるまで金融緩和を続けなければならないとしている。 しかし、米欧の中銀で掲げている「2%の物価目標」は、インフレ率が6~7%など高い時期に長期的物価安定目標を2%に抑えるというもので、日本のように「物価上昇率0は、デフレで景気が悪いからだ」として無理に物価上昇率を2%に上げるため金融緩和をしているのとは正反対なのだ。日本には、故意か過失か、これがわかっていない政治家・メディア・経済学者が多く、国民を貧しくして困らせても金融緩和を続ける口実になっているのである。 なお、⑩のうち「世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口増加・所得水準向上による需要拡大・都市化による農地減少で逼迫する」というのは正しいが、「脱炭素化すると食料・エネルギー需給が逼迫する」という主張は化石燃料や原発を継続して使うための故意の誤りである。何故なら、農林漁業地帯で再エネ発電をして副収入を得させれば、農林漁業従事者が減らず、人口の過度な都市への集中や農地の減少などを防げるからである。 また、*1-4-1は、⑬7~9月期の実質国内総生産(GDP)は3四半期ぶりのマイナス成長 ⑭物価高で打撃を受けた家計が節約を進め、消費が腰折れした日本経済の姿 ⑮消費回復には賃上げ継続が欠かせず、2024年の春闘が鍵 ⑯物価は2年前と比べて2~3割上昇 ⑰「会計の時に驚く。なるべく特売品を買う」 ⑱「エンゲル係数」は1~9月、2人以上の勤労者世帯で月平均26.3%に上がり、「雇用者報酬」は前年同期比2.0%減少 ⑲首相は「デフレ完全脱却に向けた千載一遇のチャンスが巡って来ている」として、経団連の十倉会長らに2024年春闘で2023年を上回る賃上げを求めた ⑳減税や大規模緩和で経済を支え続けても中長期的な潜在成長率は伸びず、OECDによると2022年時点の潜在成長率は日本0.5%、米国1.8%・ドイツ0.9%以下 ㉑賃上げとともに経済を中長期的な軌道に乗せられるかどうかも大きな課題 と記載している。 ⑬⑱は事実に基づいた主張であり、⑭⑯⑰がその原因だが、⑲のように、「悪い物価上昇」を「デフレ完全脱却に向けた千載一遇のチャンス」と表現するのは、状況を理解していないか、無謬主義のごまかしである。そして、⑮⑲㉑の賃上げを行なったとしても、「悪い物価上昇」下の賃上げが実質賃金上昇に繋がるわけはない上に、賃上げの恩恵に預からない人の割合も高いため、経済を中長期的な軌道に乗せて「良い物価上昇」に繋げることはできないのだ。 そして、⑳のとおり、減税や大規模緩和で経済を支え続けても、バラマキでは中長期的な潜在成長率を伸ばすことができない。そのため、OECDによる日本の2022年の潜在成長率は0.5%にすぎず、必要なことをしてきた米国の1.8%・ドイツの0.9%を下回っているのである。 5)金融緩和(=市場金利の低下)と債券価格・株価・為替の関係 イ)市場金利と(国債を含む)債券価格の関係 市場金利が上がると債券価格が下がるが、その理由は、売買差益を見込んで債権を買う投資家にとって重要なのは債券価格で、市場金利が上がると市場より金利の低い債券は買い手がなくなり、市場金利と一致するまで債券価格が下落する調整が働くからである。 ロ)円の為替変動と債券価格の関係 円高になると(国債を含む)円建て債券の価格が上がる理由は、海外を含む投資家が為替差益を狙って円建て債権を購入し、円建て債券の人気が上がるからである。逆に、円安になると、円建て債券の価格は下落する。 ハ)市場金利と株価の関係 金融引き締めで市場金利が上がると、配当が市場金利の高さと株式のリスクに見合う水準まで株価が下落する調整が働く。また、金融引き締めは、景気を押し下げる効果もあるため、それ織り込んだ株価の下落もある。 反対に、金融緩和が行われて市場金利が下がると、企業は借入れコストが下がるため投資を増加させるが、どの国のどの地域で投資を増加させるかは、①高いコスト競争力 ②良い消費マーケットの存在 ③研究開発に好都合な条件 等の長所を持つ場所になるため、金融緩和を行った国で投資されるとは限らない。 日本は、戦後復興期から高度経済成長期まで、①の高いコスト競争力によって投資され、製品が輸出される開発途上国型だったが、その後は、②の良い消費マーケットの存在で投資される成熟経済型になった。しかし、実質賃金が下がり、貧しい人の割合が増えた現在は、②も怪しくなった。③については、前にも書いたとおり、日本は、研究開発に基づく迅速な市場投入がやりにくい国であるため、日本企業でも研究開発施設を海外に持つところが少なくない状況がある。 二)株も債券も円もトリプル安・・ このような中、*1-5には、①2023年9月28日の東京金融市場は株式・円・国債が売られる「トリプル安」となった ②その理由は、米景気が底堅く、米長期金利は年4・642%と16年ぶりの高水準で、FRBが金融引き締めを続けるとの観測になったこと ③そのため、連日円安が進んで150円/$に近くなった と記載されている。 しかし、外国為替市場に関しては、日本は金融緩和による超低金利政策を10年以上も続けているため、日米の市場金利差(≒経済の実力差)から金利の低い円を売って金利の高いドルを買う動きが続いており、9月27日のニューヨーク市場・9月28日の東京市場で為替相場が149円台/$になったのは驚くに当たらない。なお、12月15日の現在、為替相場は141円台である。 また、日経平均株価が短期的に少々下がっても、この10年の長期を見れば金融緩和による超低金利で株価が上昇し続けた後である。そのため、金融緩和は既に限界に達し、株価もピークを迎えたとしても不思議ではなく、それが高下駄を履いた上での日本企業の実力なのかも知れない。 (2)税の原則は公正・中立・簡素 ← 減税できるなら公正・中立・簡素の方向でやるべき 1)物価高の家計負担緩和のためとする補正予算について *2-1-1は、①政府は物価高に対する家計負担緩和策として経済対策を決定 ②13兆1992億円の補正予算が財源 ③首相主導の所得税・住民税合計4万円/人の減税は2024年6月からで補正予算に含まれず ④共同通信の世論調査では、非課税の低所得世帯向け7万円給付を含めて「評価しない」が6割超 ⑤「防衛力強化増税等の負担増が控え、財政悪化も懸念」「減税や給付財源は増税回避や財政再建に用いるべき」がその理由 ⑥首相は「経済を立て直した上で防衛力や子ども政策を国民に協力してもらうため、増減税は同時実施にならない」と断言し ⑦首相は「減税は経済の好循環を生むため、物価高を上回る賃上げまで可処分所得を下支えする」と繰り返す ⑧首相の答弁は財政の行く末まで憂慮する国民に対し説得力に欠ける ⑨国民の不信感は保身を図る首相の姿勢にも根差す ⑩自民5派閥がパーティー収入を政治資金収支報告書に過少記載していた問題に、首相は信頼回復のため党として「どう対応すべきか考えたい」と述べた としている。 このうち①②については、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁返しで資源価格のコストプッシュインフレが起こっており、それでも日銀が金融緩和を続けている大きな流れの中で、物価高に対して多少の家計負担緩和策を採ってもらっても家計にとっては焼け石に水である。しかし、政府歳出は「兆円」単位であり、その借金も最終的には国民が返済しなければならないため、④の「『評価しない』が6割超」というのはよく理解できる。 また、③については、全員に給付した方が迅速であるのに、所得税・住民税の減税という、もらった人はピンと来ず、忘れた頃に配賦する形になったのは意味不明だった。 なお、⑤の防衛力強化増税や⑥の子ども政策による国民負担増について、首相は⑦のように、「減税は経済の好循環を生むため、物価高を上回る賃上げまで可処分所得を下支えする」と繰り返しておられるが、コストプッシュインフレで国富の海外流出が増えており、防衛費として経済の生産性を上げない歳出をしていれば、日本経済が継続的に物価高を上回る賃上げをして実質可処分所得を増やすのは不可能であろう。 また、子ども政策への歳出も、これまでの実績を見る限り、高齢者に負担贈・給付源を押しつけながら、(1つ1つを長くは書かないが)費用対効果の低い使い方をしてきたため、⑧のように、首相の答弁は空手形となり、将来まで考える国民に対して説得力を持たないのである。 確かに、首相は、(首相の選抜方法やメディア・野党の揚げ足取り志向から仕方がない面はあるのだが)自民党内の派閥・現職国会議員・官僚等に少しずつ妥協し、それによって何をしたいのかも明確に説明できなくなって、政策目的は「首相を続けたい」ということ以外は国民に見えなくなっているため、⑨の意見が出るのである。 なお、⑩の政治資金収支報告書への過少記載については、メディアは「誰かの首を取る」ことを目的とした非論理的で感情的な報道に終始しているが、くだらないことで首相や大臣を次々に交代させたり、衆議院解散に持ち込んだりしてきたのが、日本経済が世界の中で停滞した大きな理由の1つなのである。 そのため、首相は、i) 政治資金収支報告書の作成を複式簿記による会計に変更して網羅性・検証可能性を制度的に担保する ii) 会計責任者はじめ関係者は徹底して記載漏れをしない癖をつける iii) 外部監査人に財務諸表の適法性や正確性について保証してもらう(今も外部監査人はいるが、現在の会計制度で保証まではできないため、保証はしていない) 等の内容で、政治資金規正法の会計制度と外部監査制度の改善を行なって信頼回復を計るべきだ。 2)与党税制改正大綱について *2-1-2は、自民・公明両党の2024年度税制改正大綱で、①4万円(所得税3万円・住民税1万円)の定額減税実施で年収2千万円超のみ除外 ②子育て世帯と若い夫婦に限り、省エネ基準適合住宅等取得でローン限度額最大1000万円上乗せ維持 ③住宅リフォーム減税も子育て環境のための改修工事を対象に追加 ④2024年12月から高校生の子がいる世帯に1人10,000円/月の児童手当支給、扶養控除は所得税38万円→25万円、住民税33万円→12万円に縮小 ⑤デフレ脱却のため物価高を上回る賃上げや経済成長を後押しする法人税減税(赤字の多い中小企業は税額控除できなかった分を5年間繰り越し可) ⑥首相は「税収増を還元」と言われたが、鈴木財務相は「過去の税収増は政策的経費や国債償還に既に充てられ、減税しない場合と比べて国債発行額は増加」と国会答弁 等としている。 これに加えて、*2-1-3は、⑦個人も企業も減税が並び、負担増を徹底的に回避して財政規律を省みない ⑧財政悪化がもたらす将来不安が広がる ⑨時代の要請に合致した改革の構想や方向を今年の大綱から読み取ることはできない ⑩定額減税と非課税世帯等への給付には5兆円規模の国費を投入 ⑪中長期の防衛政策を考えれば安定財源の確保を急がねばならないため、法人税だけでも先行して増税できなかったのか ⑫児童手当を高校生の世帯にも支給する代わりに扶養控除を縮小するのは賛成しない ⑬中小企業の賃上げを支援する制度も拡充されたが、赤字会社が6割以上を占めることを考えれば税制以外の手段を含めて「次の一手」を考える時期 とも記載している。 このうち、①⑥⑦⑧⑩の「5兆円規模の国費を投入して行なう非課税世帯等への給付と定額減税実施は、財政規律を省みず、国債発行額を増加させ、財政悪化の将来不安が広がる」という主張は、全体の収支を見るべきであるため、正しいと思う。 また、⑨のように、時代の要請に合致した改革の構想や方向を考えるべきであることには賛成だが、⑪の中長期の防衛政策は、i)辺野古の埋め立て ii)オスプレイの使用 iii)兵器の遅れ 等、考え直さなければならないテーマは山ほどあるのに、1度決めたことは無駄でも推進するという姿勢であるため、高い金を払うばかりで役に立たないように見える。つまり、支出は、より効率的かつ効果的な方向への絶え間ない見直しを組み込んだ制度でなければならないのだ。 さらに、時代の要請に合致した改革の方向性を考えれば、食料・エネルギーの自給率向上は不可欠であるため、②③のように子育て世帯や若い夫婦に限ることなく、省エネ基準適合住宅等の取得を推進したり、省エネ性能を上げる製品や改修工事に補助したりすることは、安全保障上及び国民の可処分所得向上の両方のために効果的である。また、世界人口が爆発しつつあるのに、むやみに出産を奨励し、外国人労働者を閉め出すのは時代錯誤だ。 そして、税の公正・中立・簡素の原則から言えば、④⑫の児童手当を支給する世帯の扶養控除は縮小するのではなく、なくすべきである。何故なら、児童手当と扶養控除は目的が同じで、納税者のみを優遇する扶養控除から児童手当に変更したのであるため、両方を残せば二重取りとなって不公正だからだ。また、ちょこちょこ変な縮小を入れると、負担率の曲線がおかしくなり予測できなくなって公正でなくなり、所得税の計算も複雑になって簡素から離れる。 なお、⑤⑬については、そもそもの理論が間違っているため、物価高を上回る賃上げを続けられるためには継続的にばら撒きを続けなければならず、これは不可能だ。しかし、赤字になった企業は、賃上げするか否かにかかわらず、赤字を7年間繰り越せるのが世界の趨勢である。 3)「年収の壁」について *2-2-1は、①年収が一定額を超えると税・社会保険料が増える「年収の壁」対策が10月から開始 ②「税の壁」は収入103万円超で本人の所得税が発生、150万円超で配偶者の配偶者特別控除減少により配偶者の税負担増加 ③「社会保険の壁」の第1は、従業員101人以上の会社・収入106万円超・週20時間以上勤務で厚生年金・健康保険加入が義務 ④これに対する政府の対策は、賃上げ・手当などで手取り減を補う企業に対し、10月以降に壁を越える従業員1人について3年間で最大50万円助成 ⑤「社会保険の壁」の第2は、収入130万円超で配偶者の社会保険の扶養からはずれ、週30時間以上勤務しないと厚生年金等に加入できず、国民年金保険と国民健康保険に入るため、新たに保険料負担が生じるが将来の厚生年金受給というメリットはない ⑥本人の年収が一定以上になると配偶者の会社が配偶者手当を打ち切る「配偶者手当の壁」もあり、数十万円/年になるため、政府は配偶者手当を廃止・縮小して基本給や手当を増額する等の見直しを企業に求めている 等としている。 また、*2-2-2は、⑦助成策で手取り減がなくなるか否かは勤務先の活用次第で壁を越える人全員が対象になるわけではない ⑧助成金がない場合に106万円を超えて手取りが戻る収入は125万円だが、大きく上回るほど目先の収入と将来の厚生年金が増えるため、(介護や子育てで難しい場合を除き)賃金増の流れを生かしてなるべく大きく超えることが長寿の女性に有効 ⑨130万円の壁も回避を狙うだけでなく、週30時間以上勤務して厚生年金加入を考えることも将来の安心に有効だが、厚生年金加入後に130万円未満での手取りを回復するには150万円台の年収が必要 ⑩そこまで勤務時間を延ばせない場合は106万円で厚生年金に加入できる101人以上(24年10月からは51人以上)の会社への転職を考える選択肢も ⑪短時間労働でも厚生年金に入れる対象企業の適用を徹底的に拡大し、働く人すべてに社会保険を適用するのが本来の解決策 と記載している。 基礎控除は、1947年に「納税者本人の生活維持のための必要経費」という趣旨で開始された制度で、当初は全納税者一律に同じ金額が適用されていたが、2020年に所得2,400万円以下:48万円、2,400万円超~2,450万円以下:32万円、2,450万円超~2,500万円以下:16万円、2,500万円超:0円と所得税法が改正され、現在は一律でない。また、住民税の基礎控除も、現在は所得が2,400万円以下の場合に43万円なのである。 しかし、基礎控除の趣旨は「納税者本人の生活維持のための必要経費」なのだから、所得にかかわらず同じ金額を控除するのが理論的に正しい。そのため、2020年の改正は、「税法を知らない奴が、小さくこねくりまわして煩雑にした挙げ句、理論から外れた」という感が否めない。 また、所得税の基礎控除額が、2020年分から(所得が2,400万円以下の場合に限り)38万円/年から48万円/年(4万円/月)に“引き上げられた”のは良いが、4万円/月では納税者本人だけでも生活を維持できない。そのため、「健康で文化的な最低生活」として生活保護を参考にすると、「納税者本人の生活維持に必要な経費」は、少なくとも10~13万円/月(120~156万円/年、住む地域によって異なる)になる。そのため、所得税の基礎控除額は一律150万円、住民税の基礎控除は住む地域によって120~156万円に変更してもおかしくないし、社会保険料についても同様である。 この基礎控除額の増加を行なった上で、①~⑥の「年収の壁」は、複雑怪奇で妻が働くことを阻害しているため、「税の壁」も「社会保険の壁」も完全に撤廃し、どんな企業で何時間働いても、所得があれば所得税法に従って応分の負担をし、また、社会保険関係法令に従って応分に社会保険料も納め、社会保険加入の利益を享受できるようにして、働いた人が損をしないようにするのが、現代の公正・中立・簡素・平等を満たすやり方である。 なお、「年収の壁」に対する政府の対策は、⑦⑧⑨⑩のいずれも、細かく区切って複雑にしただけで、税や社会保険料を支払う人の立場には立っておらず、公正・中立・簡素からもかけ離れており、平等に応分の負担をさせているわけでもないと言わざるを得ない。 さらに、⑧の「介護や子育てで働くことが難しい場合」というのは、介護保険制度の不備や保育・学童保育の不備による不利益を女性に押しつけ、女性労働者にL字カーブを作らせて損をさせている原因であるため、そういうことが起こらない制度を作るのが筋である。 4)消費税について イ)直接税と間接税の違いと税制改革への提言 *2-3-3のように、国民が支払う税金には直接税(所得税・住民税・法人税等)があり、そのうち所得税は、累進課税制度で所得に応じて5%~45%までの税率で税金を支払う((https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm 参照))。また、住民税には、誰もが同じ金額を支払う「均等割(5,000円:道府県民税1,500円、市町村民税3,500円))」部分と、所得に比例して支払う「所得割(所得の10%(道府県民税4%、市町村民税6%))」部分があり、全体としては所得の多い人ほど高率の税を支払うことになっている(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html 参照)。 また、直接税のうちの法人税は、企業等の資本金の金額(1億円以下か否か)や利益の金額(年800万円以下の部分とそれを超える部分)で15~23.20%と税率が異なる(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm 参照)が、私は、資本金の金額や利益が年800万円以下か否か等で税率を変えるより、全企業に繰越欠損金の7年間の繰り越しを認めた方が、税のために企業が会社分割する必要もなくなり、公正・中立・簡素だと思う。 このように、直接税は、個人の所得や企業の利益に応じて支払う税額を計算するため、不景気になれば支払税金が減る。そのため、不況時には税率が下がって有効需要の減少を抑え、好況時には税率が上がって景気の過熱を鎮める景気変動緩和の仕組みが税制の中に備わっており、これをビルトインスタビライザーと呼ぶ。 一方、間接税は商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金で、消費税・地方消費税・酒税・たばこ税・揮発油税・自動車税・自動車重量税・関税などがあり、納税するのは製造業やサービス業等の事業者だが、実際に負担するのは消費者となっている。 このうち、消費税・地方消費税の税率は、消費税7.8%・地方消費税2.2%の合計10%だ。また、消費税が導入された理由は、i)直間比率のバランス ii)高齢化社会の財源確保 iii)物品税の問題解消 の3つと主張されてきた。 しかし、i)の「直間比率のバランス」は、ヨーロッパと単純比較して「日本は間接税の割合が低い」ということで始まった理論だが、実際には直接税の方が所得や利益に応じて税率が変化するビルトインスタビライザー機能を備えているため、優れた税制なのである。そのため、シャウプ勧告によって戦後日本が税制の参考にしたアメリカは、「間接税は良い制度ではない」と評価しており、国の消費税は存在しない。 また、ii)の「高齢化社会の財源確保」については、年金・医療・介護制度は税ではなく保険であるため、積み立て方式をとっていれば人口構成が変わっても税金から補填する必要は無かった筈である。にもかかわらず、保険料を支払う生産年齢人口の割合が高かった時代には将来の支出を見越して積み立てることをせず、無駄遣いの限りを尽くし、使う段階に至って初めて足りなくなったなどと言っているのだ。そのため、足りなくなったのは国民の責任ではなく同情に値しない上、消費税が本当に高齢化社会の財源確保に使われるか否かも怪しいわけである。 さらに、「社会保障のコストは、消費税で賄わなければならない」などと決めている国は日本以外にはなく、税収はずべて国庫に入るので税収全体から必要な歳出を行ない、継続的に無駄を廃して効果の高い歳出にしていくのが当然の姿だ。しかし、現在の日本は、公会計が単式簿記である上、決算結果の出る時期が著しく遅いため、そういう当たり前のこともできず、他分野の大きな無駄を放置したまま、全体の支出額が大きいというだけの理由で社会保障を削ることに専念するという馬鹿なことをしているわけである。 なお、現在も物品税が残っているたばこは、小売定価580円(20本入り)のものの場合、たばこ税・たばこ特別税(304.88円、52.6%)と消費税(52.73円)が二重にかけられており、支払税額が合計357.61円で税率が61.7%となっている(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d09.htm#a03 参照)。しかし、たばこは、肺癌等々の健康被害をもたらして医療費を使うため、複数税率にした消費税(70~100%)のみをかけて禁煙に誘導しつつ、消費税収に加えるのが合理的だと思う。 同様に、現在も物品税が残っている酒は、ビール(350ml入りで、酒税70円、消費税19.91円、合計税率41.1%)、日本酒(1800ml入りで、酒税198円、消費税185円、合計税率18.8%)、ウイスキー(700ml入りで、酒税301円、消費税188円、合計税率23.6%)など、酒の種類やアルコール度数によって細かく決められている(https://www.mof.go.jp/tax_information/qanda010.html 参照)。 そして、酒も酒税と消費税の両方がかけられる二重課税の状態であり、公正・中立・簡素でもない。しかし、飲み過ぎは健康被害をもたらして医療費を使うため、アルコール度数の高いもの、分量の多いものを高めに設定した複数税率の消費税(30~50%)のみをかけ、消費税収に加えるのが合理的だと、私は考える。 さらに、現在も物品税が残っている揮発油税・自動車税・自動車重量税についても、自動車は既に必需品であって贅沢品ではないにもかかわらず、消費税と両方がかけられる二重課税の状態になっているため、消費税に一本化するのが妥当である。ただし、化石燃料には環境税を課して、グリーン化の原資ににするのが良いと、私は考える。 最後に、関税については、各国とも自国の経済や安全保障の方針にしたがって決めているところがあって一概に言えないため、ここでは割愛する。 ロ)インボイス制度の導入について *2-3-1は、①インボイス(適格請求書)制度の開始から1ヶ月、2023年10月分請求書の処理が本格化する中で中小・新興企業などで混乱 ②企業毎に異なる請求形式の違い対応や登録番号の確認作業で業務負担増加 ③10月に入っても企業の9割で今後の対応に懸念を持つとの調査結果 ④帝国データバンクのアンケートで「対応が遅れている」とした回答が3割、「事務作業負担増加等の懸念がある」とした回答が9割 ⑤都内の電気工事会社は請求書をインボイス番号記載形式に変更して8月末に取引先各社に郵送で案内したが、番号のない請求書を送ってくる取引先が散見された ⑥登録が必要とされる免税事業者160万者のうち登録済は9月末時点で106万者 ⑦つぼ八の担当者はインボイス制度について「免税事業者を設けるべきではない」と制度の廃止を求める ⑧インボイスとは、事業者毎の登録番号や税率毎の消費税額等を記載した請求書や納品書で、仕入れ時に支払った消費税額を納税時の納税額から差し引くためには仕入れ先からインボイスを受け取る必要 ⑨インボイス発行事業者の登録をしていないとインボイスを発行できず、大企業は基本的に発行事業者への登録を取引先に促すが、小規模事業者やフリーランスで様子見の動きが根強い 等と記載している。 このうち①②③④⑤⑥⑧は、どれも「インボイス(適格請求書)制度の開始で、その準備が大変だ」という苦情だが、日本の消費税の見本になったヨーロッパの付加価値税(消費者に転嫁されるとは限らない)はインボイス制度を採用している。つまり、日本で消費税を最初に導入した時、インボイス(請求書)への明確な記載を義務づけずに仮定の多い計算をさせて妥協することにしたのが、日本の消費税計算がややこしい上に、公正・中立・簡素のいずれでもなくなった根本原因であり、それに慣れた人が変化に抗して苦情を言っているにすぎないのだ。 また、⑦の免税事業者とは、前々年度の課税売上高が1,000万円以下で消費税の申告や納付を免除されている事業者のことで、売上も仕入も消費税込みで計算するため、二重課税の排除が適切になされているかどうかは場合による(https://www.yayoi-kk.co.jp/invoice/oyakudachi/menzeijigyosha-shohizei/ 参照)。 そして、⑨の小規模事業者やフリーランスも、課税事業者(適格請求書発行事業者の登録申請を行い、登録事業者番号《インボイス登録番号》を取得すればインボイス《適格請求書》の発行が可能)にもなれるし、要件に該当すれば免税事業者にもなれるため、小規模事業者やフリーランスを例に挙げてインボイス制度に苦情を言うのは我儘すぎる。 ハ)社会保険診療に係る消費税について 医療の中の社会保険診療は非課税取引であるため、医療機関が社会保険診療を提供する際に患者から消費税を受け取ることはないが、そのかわり、医療機関は社会保険診療を行うために購入した医薬品・設備等を購入する際に支払った消費税を仕入税額控除することもできない。その結果、現在は医薬品・設備等の購入にかかった消費税は医療機関が負担することになっている。 そのため、厚労省は、「診療報酬や薬価等を設定する際に医療機関等が仕入れに際して支払う消費税を反映して点数を上乗せすることで対応をしている」と主張しているが、医療の進歩に合わせて速やかに診療報酬や薬価の点数を上乗せできているとは思えず、実際、高価な設備を導入して高度な医療を行なう大病院ほど、消費税負担の大きさに耐えかねているのである(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/140401.pdf 参照)。 そのような中、*2-3-2は、①日本医師会は「令和6年度 医療に関する税制要望」で社会保険診療に係る消費税は、診療所は非課税・病院は軽減税率による課税取引に改めるよう要望した ②昨年の税制要望では「小規模医療機関等」は非課税、「一定規模以上の医療機関」は軽減税率を適用するよう要望したが、「一定規模」の線引きが課題だった ③そのため「診療所」「病院」という医療法上の区分が客観的でよいとして集約した ④非課税のまま診療報酬による補塡を求める有床診療所が多かった理由は、課税取引にすると存続が難しいという意見が多かったから ⑤社会保険診療に係る消費税が非課税であることについて、日本医師会は「控除対象外消費税が医療機関の経営を圧迫している」として、ゼロ税率・軽減税率・患者への還付制度などにより解消することを求めてきた 等と記載している。 このうち①②③については、医療機関の中に非課税と軽減税率適用を作ることは、ご都合主義による制度の複雑化であるため容認できない。また、④のように、「課税取引にすると存続が難しい」というのも、消費税の益税によって存続しているということであるため、消費税の趣旨に反する。 そのため、私は0税率を推奨するが、その理由は、医療機関が社会保険診療を提供する際に患者から消費税を受け取ることなく、医薬品・設備等を購入する際に支払った消費税は仕入税額控除して医療機関が支払った消費税の還付を受けることができるからだ。そうでなければ、高価な設備や先端の医薬品は使えず、救える命を救えなかったり、要介護者を増やしたりする。 従って、⑤の中の0税率がよいと思うが、物価上昇・賃金上昇の時代に診療報酬を減らして真面目に働いている医療機関を潰せば、結局は国民が困るため、診療報酬の点数は消費税にかかわらず、他産業並みに上げるべきだ。また、小規模な医療機関でも、税務申告にあたっては税理士を使っているため、消費税に関する手続きを税理士に任せれば医療従事者の仕事は増えない。 そして、このように、さまざまな消費税率を使っても正確な会計処理や税務申告を行なうことができ、支払った人に税率と税額を明確に示すことができるのが、インボイス制度のメリットなのである。 (3)国を挙げての組織的高齢者虐待 ← そんな子は1人もいらないのだけど ![]() 日本金型工業健保 2023.11.2毎日新聞 2022.11.7時事 (図の説明:1番左の図のように、介護保険料は40~64歳の人が27%、65歳以上の人が23%を支払うことになっており、人口構成が変わっても負担割合が固定されているため、個人の負担割合は毎年変わる。また、40歳以下の人は介護保険料を支払わないため、全世代が介護保険制度の福利を享受できるわけではなく、全世代が支えてもいないため、不公平感が大きい。その上、左から2番目の図のように、65歳以上の第一号被保険者の介護保険料は、自治体の介護にかかる年間予算の23%を第1号被保険者の総数で割った額であるため、自治体の責任ではない自治体間の人口構成の違いが第一号被保険者の介護保険料にまともに影響する。そのため、本来は、国が集めて必要な予算を配賦すべきである。そして、右から2番目と1番右の図のように、現在でも所得に比して高い高齢者の医療保険料・介護保険料・医療費負担・介護費負担をさらに引き上げ、少子化対策に流用までしようとしているのだから、これは国を挙げての組織的高齢者虐待である) ![]() ![]() ![]() すべて厚労省 (図の説明:国民皆保険制度のメリットを、厚労省は、左図のように述べている。しかし、個人が支払う医療費には医療保険料の支払いまで含むため、中所得層以上にとっては、働いている期間に公的医療保険の高い医療保険料を支払い、退職して診療を受ける段になると、それまでの貢献に対する感謝の念もなく、恩着せがましく制限ばかりされるよりは、最初から民間保険に入って全額自費で負担した方がよほど安い。また、中央の図が、現在の我が国の現在の医療制度だが、出産費用を保険適用にしたり、就学前の子の医療費負担を1割にするためならともかく、国民が支払った医療保険料を少子化対策に流用するなどというのは論外だ。さらに、右図のように、「若人と高齢者の費用負担関係が不明確」という批判を受けて75歳以上をすべて後期高齢者医療制度に入れたのだそうだが、人口構成が変わればかかる病気の頻度も当然変わるため、明確に分けることこそ恣意的で非科学的になる元凶だ。そのため、この改悪によって、決して高齢者に負担をかけるべきではない) 1)本当に少子化対策になっているか *3-1-1は、①政府は2026年度までに国・地方合わせて年3.6兆円の追加予算を投じて児童手当・育児休業給付を拡充する ②児童手当は所得制限撤廃・高校生までの支給期間延長・第3子以降の月3万円への増額をする ③3人以上の多子世帯の大学授業料は2025年度から無償化 ④税制改正で子育て世帯は2024年も住宅ローン減税対象の借入限度額を現行の最大5000万円で維持 ⑤「こども誰でも通園制度」を2026年度から全国展開 ⑥保育士1人がみる子どもの人数を国の基準より少ない25人にした場合、運営費補助 ⑦2025年度から両親ともに育児休業を取得すれば、28日間まで育休給付を手取りの実質10割に増額 ⑧子育て世帯の生命保険料控除を最大6万円に引き上げ ⑨政府は2024年度からの3年間で少子化対策に集中して取り組み、初年度は国と地方で1兆円の予算計上 ⑩2024年度予算案は財源確保を待たずに大規模な財政出動を決めたが、政策効果が不透明な施策も ⑪児童手当の所得制限の撤廃を巡って経団連の十倉雅和会長は「納得感が少ない」と批判、効果が十分検証されないまま給付を積み増す手法に経済界を中心に異論 ⑫今回の対策が出生増に繋がるかも不透明 と記載している。 このうち①については、年3.6兆円の追加予算を投じてまで児童手当を拡充しても、②③のような「第3子以降の月3万円への増額」「3人以上の世帯の大学授業料無償化」では、子の間に不公平が生じる上に問題が複雑化する。そのため、第3子以降の児童手当を増額するよりも、全員の大学授業料を低廉化することの方が重要だ。 また、④の「子育て世帯の住宅ローン減税対象借入限度額最大5000万円維持」や、⑧の「子育て世帯の生命保険料控除を最大6万円に引き上げ」はあってもよいが、それより自然が近くて物価が安く、ゆとりのある住宅を入手することが容易な地域に人口を分散した方が、子どもの感受性を豊かにし、職住接近できて親が子育て時間を捻出することも容易だと考える。 しかし、⑦のように、育児休業給付の充実として「28日間まで育休給付を手取りの実質10割に増額」しても、(鶏ではあるまいし)28日で子が育つわけではないため、無意味だろう。 なお、地方に人口分散すると言っても、その地域の雇用(男女とも)・保育・学童保育・教育などが充実していなければ、「子育てに適した地域」という選択肢に入らない。そのような中、⑤の「こども誰でも通園制度」は良いと思ったが、i)利用料を払えば ii)いつでも iii)誰でも利用できる のではなく、「専業主婦の母は月10時間までしか利用できない」というのでは話にならず、こういうことにケチるのはマイナスでしかないと思った。 さらに、⑥のように、「保育士1人がみる子どもの数」は、現在は「0歳児:3人、1・2歳児:3人、3歳児:6人、4・5歳児:30人」で、来年度から4・5歳児を25人に見直すことになった(https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20231226a.html 参照)そうだが、満6歳以上の小学生でも30人学級にして欲しいという声がある中で、4・5歳児を25人も見る保育士の負担は大きすぎるだろう。その解決策としては、保育士の基準を15~20人に1人と増やす方法もあるが、各クラスに保育士ではない保育助手(例:教職や子育ての経験がある人)を置く方法もある。 また、政府は、⑨⑩⑪⑫のように、「2024年度は国と地方で1兆円の予算計上」「財源確保ができておらず、効果が不透明な施策も」「効果不検証のまま給付を積み増す手法に、経済界を中心として異論」だそうだが、私はどこに使われるかわからない児童手当を多く支給するよりも、保育・学童保育・教育のコストを無償化又は低廉化した方が、出生増に繋がる上に、質の高い子が育って、将来の無駄遣いが少なくなると考える。 *3-1-3は、⑬2024年度の文教関係予算は前年度比1.0%増の4兆563億円 ⑭公立小中学校の教職員給与に充てる国の負担金を増額して初任給を5.9%引き上げ ⑮教員の長時間労働是正に向け、働き方改革の推進に重点を置いた ⑯今は1人の教員が算数や理科などほぼすべての教科を担当しているが、小学校高学年で教科ごとに担当する教員が異なる教科担任制を進め ⑰2024年度に全国で1900人増員するために40億円計上 ⑱2024年度からは教員が授業準備や指導に集中できるよう事務作業を担う「教員業務支援員」をすべての公立小中学校で配置するため、2万8000人分の81億円を盛り込んだ と記載している。 学校は、教職員が楽に働ける場所であることが目的ではなく、子に質の高い教育を与えることが目的の場所である。そうでなければ、親自らが教えたり、塾に通わせたりしなければならないため、親の負担が著しく、誰が親であるかによって子の教育格差も大きくなるのだ。 そこから出発すると、⑬⑭⑯⑰のように、公立小中学校の教職員の初任給を引き上げて優秀な教員を採用できるようにするとともに、小学校でも高学年では教科担任制を進めるのは良いと思う。そして、そのための文教関係予算の増額は必要だろうが、それはあくまで、⑮のような教員の長時間労働是正目的ではなく、教育の質向上が目的でなければ困る。 ただし、教育の質向上が目的であっても、教員の事務作業を減らして教員が教育関係の仕事に集中できるようにするため、⑱のように、事務作業を担う「教員業務支援員」をすべての公立小中学校に配置するのは必要なことであるし、そのための予算も必要だ。 そして、それらの予算は、他省庁のバラマキ景気対策や時代遅れの産業政策を廃して捻出するのが当然であり、それができるのは政治しかないのである。 2)少子化対策の財源←子育て重視に名を借りた高齢者虐待と詐欺 *3-1-2は、「少子化財源、全世代で負担」と題して、①3.6兆円の予算を確保し、児童手当の拡充や保育サービスの充実に充当 ②財源は、i)社会保障費抑制 ii)既存予算活用 iii)医療保険に上乗せする後期高齢者を含む全世代からの拠出支援金 ③会社員なら収入に一定割合をかけた金額の拠出をする形が有力 ④健康保険組合等が公的医療保険の保険料に上乗せして集める ⑤経団連・連合・健康保険組合連合会は「現役世代に負担が集中しないようにすることが重要」と全世代負担の必要性強調 ⑥収入額に一定割合をかける仕組みにすると、稼ぎが多い現役世代に負担が偏る ⑦予算を確保できるまでの不足分はつなぎ国債 ⑧基礎年金は59歳で支払いが終わり、介護保険料は40歳から ⑨「支援金制度は、社会保険の流用」という専門家の批判 ⑩社会全体で能力に応じて負担できる消費税を財源とすべきとの声がある 等と記載している。 このうち①の3.6兆円の予算は、原発維持目的の電源三法交付金廃止、農業補助金の選別(https://no1pac.com/?p=1557 参照)、民間企業なら自分でやるべきことへの補助金の廃止(https://www.navit-j.com/service/joseikin-now/blog/?page_id=30631&yclid=YSS.1001256002.EAIaIQobChMIhbu55e6ugwMVJNkWBR37jw24EAAYAyAAEgI7G_D_BwE 参照)など、思い付きで次々と増やして古くなっても残ったままの補助金の整理・統合を行って叩き出すべきだ。 にもかかわらず、②のように、社会保障費を抑制すれば、現在ニーズがあって増えている医療・介護費が削がれる上、④のように、後期高齢者を含む全世代から医療保険に上乗せして支援金を拠出させれば、このような社会保障のなかった時代に自分で子育てしたり、子育てを諦めたり、自ら親を介護したりした高齢者にとっては二重負担である。そのため、現代の子育て支援の恩恵に預かれない世代に費用を負担させるのは公正でも公平でもないし、生産年齢人口の減少ならば女性・高齢者・外国人労働者の活用で十分に賄えるのである。 そのような中、③⑤⑥のように、これまではなかった制度を作ってもらいながら、「稼ぎが多い現役世代に負担が偏る」などと主張し、退職して稼ぎのなくなった高齢者から支援金を拠出させようとする現役世代を育てたのは誰か、それこそ親や教師の顔が見たいし、これまで高い税金を払って他人の子の教育費を支援してきたこと自体が馬鹿馬鹿しく感じられるのである。 また、⑦も、時代遅れの補助金をカットして予算を確保するのでなければ、無限に予算が膨らみ、日銀に引き受けてもらって国債残高を無限に増やすしかなくなるが、それでは(1)1)で述べたように、円の価値が落ちて多くの弊害が生じるわけである。 なお、⑧の基礎年金は、平均寿命が延びて、2024年4月からは65歳までの雇用確保が義務付けられるため、59歳で支払いを終える必要はなく、65歳で支払いを終えれば十分である。 しかし、介護保険制度は、65歳以上の人と40~64歳の特定疾病患者のうち介護が必要になった人を支える仕組みとされているが、64歳以下で特定疾病患者でなくても介護が必要な人はいるため、あまりに不自然な制限をつけすぎているのだ。そこで、私は、働く人すべてが介護保険料を支払うと同時に、介護や生活支援の対象となり、若くして介護や生活支援が必要になった人でも支えられる仕組みにすべきだと考える。 なお、⑨の「支援金制度は社会保険の流用」というのはそのとおりで詐欺に近く、またもや目的外使用であり、これと同じ杜撰さが年金積立金不足も招いたのである。従って、この杜撰さを直さずに、⑩のように、消費税増税等で財源を賄っていけば、国民負担だけが著しく上がり、(理由を長くは書かないが)日本経済は今後も停滞すると言わざるを得ない。 3)財政健全化と称するご都合主義の財源論 そもそも、保険とは、損害保険の場合は、自然災害・ケガ・盗難・損害賠償責任等で損失が生じた時に、その損失を保険の加入者間で分散して負担する仕組みであり、必要な掛け金は損害発生のリスクに応じて算定される。また、保険会社も自社の事業リスクを分散するため、他の保険会社に「再保険」を行うことが多い。 また、民間医療保険の場合は、保険金・給付金の支払いに充当する「純保険料」と保険会社の人件費や広告宣伝費等の経費に充当する「付加保険料」で構成され、「純保険料」には、解約払戻金や満期時の保険金支払いに充当する「生存保険料」と死亡時の支払いに充当する「死亡保険料」がある。そして、純保険料は保険加入者が病気にかかったり、死亡したりするリスク(≒年齢・既往歴・性別等)を基に計算され、付加保険料は保険会社の経費の違いで変わる。 つまり、保険とは、リスクを分散して負担するために考えられた制度で、被保険者のリスクの高さに応じて純保険料が計算され、それに保険会社の経費である付加保険料を加えて保険加入者の支払保険料が決まる論理的なサービスであって、所得再配分のツールではないのだ。 しかし、公的保険が、被保険者のリスクの高さではなく、“負担能力”に応じて保険料を徴収するのであれば、それは「保険」から逸脱している。さらに、*3-2-2のように、「財源確保」「応能負担」等と称して保険金の支払い時(=サービス提供時)にまで所得に応じて支給金額を変えれば、所得と国民負担の曲線は滅茶苦茶になり、「保険の仕組み」から遠く逸脱して、もはや「保険」とは言えない状況になっているのだ。 その上、*3-2-1のように、少子化対策のうちの医療費以外の財源を医療保険料に上乗せして徴収すれば、それは医療保険の目的外使用(=流用そのもの)であり、そのようなことをすれば、理論的に計算された筈の保険料が足りなくなるのは当然なのである。そのため、「歳出改革」等と称して平気でこのようなことを主張する人は、保険の仕組みが全くわかっていないと言わざるを得ない。 このような中、*3-1-4は、①少子化対策の財源が課題 ②政府は医療保険料ルートで2028年度時点に年間1兆円を「こども・子育て支援金」として集める予定 ③再分配効果を高めるには幅広い国民が負担能力に応じて協力する仕組みが要るが、支援金は応能負担の視点が弱い ④高齢者にも負担を求める制度にしたのは良いが、総人口の15%超を占める75歳以上の負担分は7%程度 ⑤所得だけでなく資産の保有状況に応じて世帯の負担額を決める仕組みを導入し、現役世代の負担軽減をすべき ⑥政府は支援金制度がフル稼働する2028年度までに歳出改革を徹底する ⑦医療費・介護費の抑制に直結する歳出改革に取り組むべきで、これを欠けば現役世代の負担感はどんどん強まり、出産意欲にも響きかねない ⑧少子化の大きな要因は未婚化で、若い世代が就労で経済基盤を安定化させるための支援こそ急ぐべき ⑨いったん非正規になると抜け出せない硬直的労働市場の改革や正規・非正規の処遇格差の是正等が重要 等としている。 このうち、①については、1947年5月3日に施行された日本国憲法は26条で「I.すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する II.すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」と定めているため、教育は優先事項であり、(3)2)で記載したとおり、他省庁の無駄な補助金を廃止して捻出すべきもので、どういう形であれ、新たに国民負担を増やして財源を確保すべきものではない。 また、②については、医療保険料ルートで2028年度時点に年間1兆円を「こども・子育て支援金」として集める予定とのことだが、それでも新たな負担になることは同じだし、③の再分配効果は既に所得税・相続税の累進課税制度で行なわれており、保険料はリスクに応じて計算すべきもので、所得の再分配を行なうためのものではないことを、(多分)意図的に無視している。 また、④の「高齢者にも負担を求める制度にしたのは良い」というのも、高齢者は児童手当や教育無償化などなかった時代に自前で子育てした人であることを考えれば二重負担を強いているため、(総人口の何割であろうが)子育て適齢期の終わった人から子育て支援金を徴収するのは誤りだ。さらに、⑤についても、資産は課税済所得から形成されたものであるため、相続以外で資産に応じて世帯の負担額を決めるのは、税の基本から外れる二重課税にほかならない。 そのため、⑥の「政府は支援金制度がフル稼働する2028年度までに歳出改革を徹底する」というのであれば、それは的外れの積み重ねでわけのわからない負担になると思われる。 さらに、⑦の「医療費・介護費の抑制に直結する歳出改革に取り組むべき」等とうるさく言うのなら、医療・介護の高い公的保険料を支払うのには嫌気がさすので、医療・介護の公的保険制度を全部止めて民間保険で賄い、民間保険に入れない人は子に面倒を見てもらえばよい。そうなると、子育てに金を使うより自分の老後に備えて金を貯めておく必要があるため、出生率はさらに下がるが、やってみなければわからない人が多いので、やってみせるしかない。生産年齢人口の減少は、高齢者・女性・外国人労働者にチャンスを与えれば補えるため全く問題ない。 なお、⑧の「少子化の大きな要因は未婚化」というのは正しいが、若い世代が就労で経済基盤を安定化させるには、政府の支援ではなく非正規雇用の廃止と共働きの推進が必要なのである。つまり、⑨のように、非正規雇用の割合が多く、正規雇用になりたくてもなれない労働市場は、1990年代後半になってできたのであり、その解決には「正規・非正規の処遇格差の是正」ではなく、労働法で守られない非正規雇用の廃止が必要なのである。 最後に、*3-2-3は、土居慶大教授の話として、⑩経団連の提言は財政健全化への経済界の強い思い ⑪社会保険料率は過去最高水準で、企業の持続的賃上げにも影響大 ⑫金融資産も含めた「経済力」に応じて負担を考えるべき ⑬政府・与党の議論は進んでいない ⑭給付を増やして負担も増やすのか、給付自体を減らすのか、制約をなくした議論が必要 としている。 しかし、⑫のように、課税済所得から形成された金融資産に相続以外で課税すれば二重課税になることは、慶大教授でもわかっていないようだ。そのため、⑬のように、政府・与党も議論を進めないのだろうが、⑩のように、経団連が財政健全化を言うのなら、時代遅れの産業政策補助金を自ら整理し、役割を終えた租税特別措置も廃止して、生産年齢人口の大人に対する補助金を減らすようにすべきである。また、⑪については、企業が社会保険料を負担しない非正規雇用を廃し、短時間労働でも正規雇用として雇い、休職や転職も容易化すればよいだろう。 4)年金給付減と診療報酬・介護保険料の負担増 イ)「マクロ経済スライド」という名の公的年金実質価値減少装置 年金は、1973年に公的年金額の実質的価値を維持する制度として「物価スライド」が導入され、具体的には前年(1月から12月まで)の消費者物価指数の変動に応じて翌年4月から自動的に年金額が改定され仕組みになっており、これが私的年金にはない公的年金の長所だった。 しかし、平成16年(2004年)の年金制度改正で、平成17年(2005年)4月から年金財政の均衡を保つことができない場合に給付水準を自動的に調整するとして、「マクロ経済スライド」が導入された。これにより、年金額の伸びを物価の伸びより抑えて公的年金額の実質的価値を減らして年金制度を維持することとなり、公的年金の大きな長所がなくなったのである。 ただし、目立たないように年金額の実質的価値を減らすには、物価の伸びが大きくなければならない。そのために、日銀の物価上昇政策が、(他に色々と屁理屈をつけてはいるが)物価を上昇させるために行なわれたのだと言える。 そして、*3-3-1は、①2024年度の公的年金の支給額改定では、給付を抑制する「マクロ経済スライド」が2年連続で発動される前提で予算編成 ②年金額自体は上がるが、物価上昇の伸びほど増額にならないため実質的目減り ③2024年度の年金改定率は厚労省が2024年1月に公表し、6月の受け取り分から適用 ④マクロ経済スライドは年金財政の安定化のために導入され、物価の下落局面では発動しないため、長引いたデフレ下では十分に給付を抑制できず、この20年ほど年金を「払いすぎる」状態だった ⑤払いすぎた年金は将来世代の給付を抑えて帳尻を合わせざるを得ず、調整は基礎年金で2046年度まで抑制が続く見込み としている。 もともと、年金は、i)支払いもしないのに給付されるサラリーマンの専業主婦に目的外給付をしており ii)団塊の世代が生産年齢人口にあたっていた時代に厚労省の外局だった「社会保険庁」が、単年度主義でものを考えて年金原資が余っていると勘違いし、目的外支出を行なったため大きな積立不足に陥った のであるため、国民には全く責任がない。 にもかかわらず、「マクロ経済スライド」というわけのわからない名前をつけて、物価を上げながら実質年金支給額を減らしている点で、高齢者の生活を全く考えていないし、頭の使い方が歪んでいる。本来なら、「物価スライド」のまま、厚労省の政策ミスで足りなくなった年金原資は、それこそ国債を発行してでも最初の契約を守るべきなのである。 ロ)介護保険料引き上げ *3-3-3は、①厚労省は2024年度から65歳以上で年間合計所得420万円以上の介護保険料を引き上げる方針 ②住民税非課税世帯等の低所得者は引き下げる ③現在は、国が所得に応じて基準額を9段階に分け、65歳以上の保険料は国の基準を参考に市町村が決める ④現在の最も高い所得区分は年間合計所得が「320万円以上」で、新たに「420万円以上」「520万円以上」「620万円以上」「720万円以上」の4段階を設けて13段階にする ⑤現在の保険料基準額の全国平均は月6,014円(21~23年度)で、9段階の最も高い所得区分で基準額の1.7倍だったが、新たに設ける10~13段階は1.9~2.4倍に引き上げる ⑥所得再分配機能を強めることで、これまで低所得者の負担軽減に投じてきた公費382億円分(国と地方で折半)を浮かせ、介護職員の処遇改善などに回す と記載している。 自分や親が介護保険制度の世話になる確率(=要介護になるリスク)は、所得とはむしろ逆相関の関係にあり、所得の高い人ほど、元気に働いており、要介護になるリスクは低い。逆に、自分が要介護状態になれば、働けなくなって所得がなくなる上に、治療費・介護費がかかるため、生活が苦しくなる。そのため、元気なうちから、病気や事故のリスクに備えて自分で蓄えたり、介護保険でリスク分散したりするのが介護保険制度の役割なのであり、介護保険制度の役割は間違っても所得の再分配ではないのだ。 そのため、上の①~⑥は、政策としては介護保険制度の目的を誤っており、地方によって異なる年齢構成をならすために国が介護保険制度を持っているのに、地方の負担を多くしたりして本来の趣旨から大きく外れた。そのため、ここまでご都合主義で目的をすり替えるのなら、厚労省は信頼できないため、「公的保険は止めて、民間の保険を使った方がよい」という結論にならざるを得ないのである。 ハ)医療・介護費用の負担贈について *3-3-2は、①「2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者になり、国の医療費が膨らむ」と予想 ②医療・介護を支える負担が現役世代や企業に偏れば投資や賃上げの壁になる ③経団連は、2024年度税制改正への提言で「全世代の国民が負担する消費税が公平で安定的」「社会保障財源として消費税引き上げが有力な選択肢」とした ④高齢者医療を支える現役世代からの拠出は増え続け、健康保険組合からの拠出金は後期高齢者医療制度が発足した2008年度は約2.7兆円、2022年度は3.4兆円で、2026年度は4兆円を超える見込み ⑤「年間保険料負担/人」は2008年度38.6万円、2022年度51.1万円 ⑥マイナンバーを通じて個々人の経済力を把握し、資産の保有状況に応じた課税のほか、社会保険料や自己負担引き上げについても検討すべきとも提言 ⑦日本の家計における純金融資産は約1600兆円、保有額1億円以上の富裕層が全体の約22%保有 ⑧野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「社会保障制度を支えるため中長期的な安定財源として消費税引き上げが適切」と指摘 等としている。 このうち①については、高齢になるほど慢性疾患の有病率が上がるため、団塊の世代がすべて後期高齢者になって後期高齢者の割合が増えれば、医療費だけでなく介護費も増えるのが当然で、これは1970年代からわかっていたことである。 しかし、②の「医療・介護を支える負担が現役世代や企業に偏れば投資や賃上げの壁になる」という主張については、それなら医療・介護を公的保険で賄わず、昔と同様、個人の責任にすれば、現役世代や企業は助かるのかという選択になる。何故なら、介護保険制度は2000年に始まったため、団塊の世代を含む高齢者は、既に家族の責任で介護を行なってきたからだ。 また、医療保険は、1956年時点では日本の人口の約1/3が未加入で、1958年の国民健康保険法改正により初めて全ての市町村で地域保険制度の設立が義務化され、1961年に国民皆保険が達成された(https://japanhpn.org/ja/historical-1/ 参照)のであるため、現在の後期高齢者は適切な医療を受けることもままならず、個人で対応していた時期が長かったわけである。 そのため、良い医療・介護保険制度ができたにもかかわらず、「支える負担が現役世代や企業に偏れば投資や賃上げの壁になる」というのは、企業や現役世代の甘えとエゴが激しすぎるため、公的医療・介護保険制度を廃止して、それがないケースを実感させる必要があるだろう。 なお、③⑧の「全世代の国民が負担する消費税が公平で安定的」「社会保障制度を支えるため中長期的な安定財源として消費税引き上げが適切」などと言うのは、(2)4)イ)で述べたとおり、間接税である消費税は景気にかかわらず「安定的!」に徴収されるため、景気が悪くて所得が低くなると税率が高くなり、同じ年でも所得の低い人ほど消費性向が高いため税率が高くなるという悪税なのである。そのため、これを「公平」とか「適切」などと言うのは、税に関する知識がないため意見を言う資格のない人であろう。 また、④⑤の後期高齢者医療制度が発足した2008年度は私も自民党衆議院議員だったため、私は自民党の部会で「後期高齢者医療制度のような意図的な区分をすると、必ず問題が起こる」と言って反対したが、暴走して決まってしまったものだ。 問題が起こる理由は、それまでは高齢者も国保や被用者保険のそれぞれに加入し、各医療保険の責任ではない加入者の年齢構成の違いによって生じる医療費の差を調整するという保険として当然のことをしていたのだが、2008年に「現役世代と高齢者世代の負担を明確にし、公平な制度とする」「これからも安心して医療を受けることができるように、老人医療費を被保険者(加入者)も含めた社会全体で支えあう」などと称して後期高齢者医療制度導入し、75歳以上のすべての高齢者を独立した保険制度(後期高齢者医療制度)に入れ、公費(税金)5割、国保と被用者保険からの支援金4割、高齢者の保険料1割という意図的な支援割合を決めたからである(https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info02d-35.html 参照)。そして、このような意図的な割合を決めれば、人口構成が変わって保険の使用頻度が変われば、保険の理論から外れて公平にならないのは当たり前なのである。 さらに、⑥⑦のように、マイナンバーを通じて個々人の経済力を把握し、資産の保有状況に応じて課税したり、社会保険料や自己負担を引き上げたりすれば、サービスの提供価格が所得によって変わり、既に累進課税で所得税を支払っているため、二重どころか、三重、四重、五重の負担になる異常事態だ。そのため、「日本に置いておくのは生活に必要な当座資金だけ」ということにしなければならなくなる。 二)診療報酬と介護報酬の引き上げについて *3-4-1は、①政府は2024年度の診療報酬改定で、医療従事者の人件費など本体部分の改定率を0.88%として医療現場の賃上げに繋げる ②「薬価」部分は1%近く引き下げて全体の改定率はわずかにマイナス ③医療費は5割が保険料・4割が税金・1割が患者の支払う窓口負担で成り立つ国民負担そのもの ④本体のプラス改定で薬価引き下げに伴う保険料や医療にかかる税金の軽減効果が打ち消される ⑤国民負担の抑制が進まず、医療分野の歳出改革が不十分になる恐れ ⑥厚労省と日本医師会等は他産業と足並みを揃えられるよう、本体部分の大幅な増額を求めていた ⑦財務省は診療所の利益率は高く、マイナス改定しても賃上げできると主張 ⑧本体改定率0.88%のうち薬剤師・看護師・看護助手等の賃上げ分0.61%、入院患者の食費引き上げ0.06% ⑨賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度の見通し ⑩2023年度の予算ベースの医療費は48兆円で高齢化等により医療費は自然に増える ⑪政府は2024年度に同時改定する介護報酬の改定率もプラスにして人材流出に歯止めがかからない介護現場の賃上げを後押しする ⑫診療報酬を全体でマイナス改定しても介護報酬等の増額分を含めれば社会保険料の負担は増える 等としている。 医療・介護従事者も物価上昇に見合った賃上げを行なわなければ実質賃金が下がり、他産業との賃金の差が大きくなれば人材が流出する。そのため、財務省が、⑦のように、「診療所は利益率が高いためマイナス改定しても賃上げできる」と主張したとしても、医師は資格を取るためのコスト(時間と費用)が大きく、間違った診断をすれば人の人生を変えてしまうため、長くない働き盛りに他産業より利益率が高かったとしても、決して「儲けすぎ」にはならないだろう。 従って、⑥のように、「厚労省と日本医師会等が他産業と足並みを揃えた本体部分の大幅な増額を求めていた」というのは理解できる。 また、①⑧⑨のように、政府が2024年度の診療報酬改定で医療従事者の人件費等の本体部分の改定率を0.88%として上げたのは良いが、「そのうち薬剤師・看護師・看護助手等の賃上げ分0.61%、入院患者の食費引き上げ0.06%」「賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度の見通し」などというのは、あまりにも箸の上げ下ろしにまで干渉しすぎていると思う。 私は、むしろ慢性疾患の患者は通院頻度を減らし、1回あたりの診療報酬を上げた方が合理的だし、②の「薬価」も「薬の処方しすぎ」はやめて、価格はメリハリをつけるべきだと考える。 また、⑩の「2023年度の予算ベースの医療費は48兆円で高齢化等により医療費は自然に増える」というのは、1970年代からわかっていた当然のことであるため、医療費を節約するには、医療行為も自由診療と併用できるようにして、自由診療で100%支払ってもニーズのある効果的な医療行為や投薬を、その価格(ここが重要)で速やかに保険診療に移行する(つまり、専門家と患者という市場で価格決定させる)のが最善だと思う。 なお、③④⑤の「医療費は5割が保険料・4割が税金・1割が患者の支払う窓口負担で成り立つ国民負担そのもの」「本体のプラス改定で薬価引き下げに伴う保険料や医療にかかる税金の軽減効果が打ち消される」「国民負担の抑制が進まず、医療分野の歳出改革が不十分になる恐れ」等というのは、価値のないサービスに負担だけがあるのではないため、失礼な言い方である。 さらに、⑪のように、「政府は2024年度に同時改定する介護報酬の改定率もプラスにして人材流出に歯止めがかからない介護現場の賃上げを後押しする」のはよいが、他産業と比較してとかく3Kになりがちな介護現場の賃金が他産業よりも大きく見劣りするのでは、人材流出が止まらない。そのため、⑫については、より理にかなった経営方法を考えつつも、福利を享受できる社会保険はそれこそ全世代で支えるべきだと思う。 そのような中、*3-4-2は、⑬政府は介護サービスの公定価格である介護報酬を2024年度から1.59%引き上げる ⑭1.59%のうち介護職員らの賃上げ分に0.98%を充て、賃上げした事業者の仕組み変更に伴う追加費用や光熱費高騰対策で0.45%分を追加予定 ⑮結果、全体で実質2.04%相当の増額予定 ⑰政府はロボットでの巡回やセンサーでの見守りなどを導入する施設に報酬を加算する ⑱介護報酬の財源は利用者が払う原則1割の自己負担を除き、40歳以上の個人と企業が拠出する保険料と税金で半分ずつ賄う ⑲国の介護費用は23年度13.8兆円、1.59%増えると2200億円弱増加 ⑳厚労省の調査で、介護サービスの2022年度利益率は平均2.4%で前の年度から0.4%低下し、特別養護老人ホームは初めて赤字に転じた としている。 このうち⑬⑭⑮の「介護サービスの公定価格である介護報酬を2024年度から1.59%引き上げる」「そのうち介護職員らの賃上げ分0.98%」というのは、物価上昇に追いついていないため、介護職員の実質賃金は下がる。また、他産業の賃上げ率以下であれば、他産業と介護職員の賃金格差はさらに広がるため、この大きな賃金格差を容認している理由をまず聞きたい。 また、1番上の右図のように、物価実感(食料・光熱費等の購入頻度の高いものの物価上昇率)は13~15%であるため、「賃上げした事業者の仕組み変更に伴う追加費用や光熱費高騰対策0.45%」をすべて経費上昇分にあてても不足するだろう。そして、これが、日銀のインフレ政策の結果なのである。 なお、政府は合理化と言えば、必ず、⑯のような、i)ロボットでの巡回 ii)センサーでの見守り 等のIT化をイメージしているが、人の使い方も、iii)専門職以外でできる仕事は、専門職以外に移動する iv)(洗濯・掃除・食事などで)外注できることは外注する v)外国人労働者を活用する など、経営上、合理化できることはまだまだ多い。 そのため、それらを行なえば、⑲のような利益率低下や特別養護老人ホームの赤字を解決する一助にはなると思われる。また、介護も自費負担と併用できるようにすれば、「本当はもっと生活支援をして欲しいのに、ホームヘルパーに中途半端で帰られてしまった」ということがなくなり、訪問介護センターの利益も増えるだろう。 その介護の財源については、⑰⑱のように、「介護報酬の財源は利用者が払う原則1割の自己負担を除き、40歳以上の個人と企業が拠出する保険料と税金で半分ずつ賄う」「国の介護費用は23年度13.8兆円、1.59%増えると2200億円弱増加」などとされているが、そもそも介護保険制度の対象を40歳以上にする根拠はないため、まず「働く人すべて」に拡大すべきである。 ・・参考資料・・ <日銀の金融緩和・物価上昇・円安政策について> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL110D00R11C23A2000000/ (日経QUICK 2023年12月11日) 外為12時 円相場、下落 145円台半ば 米利下げ観測後退や株高で 11日午前の東京外国為替市場で、円相場は下落した。12時時点は1ドル=145円42〜43銭と前週末17時時点と比べて1円34銭の円安・ドル高だった。11月の米雇用統計が労働市場の引き締まりを映す結果となり、早期の米利下げ観測がやや後退。日経平均株価が大きく上昇したのも「低リスク通貨」とされる円の売りを促した。円は145円57銭近辺まで下げ幅を広げる場面があった。8日発表された11月の米雇用統計で雇用者数の伸びが市場予想を上回り、失業率は前月から低下した。米連邦準備理事会(FRB)による早期の利下げ観測が後退したとして米長期金利が上昇し、日米の金利差拡大を意識した円売り・ドル買いが出た。東京市場では国内輸入企業による円売り・ドル買い観測も相場を下押しした。日銀がマイナス金利政策を早期に解除するとの思惑は円相場を下支えしたものの、「12月に決めるかは疑問」(国内銀行の外為ディーラー)だとの声もあり、相場が急伸した前週に積み上がった円買い・ドル売りの持ち高を縮小する動きも広がった。円は対ユーロでも下落した。12時時点は1ユーロ=156円55〜58銭と、同1円24銭の円安・ユーロ高だった。11日午前は日経平均が一時600円あまり上昇し、対ユーロでも「低リスク通貨」とされる円には売りが増えた。ユーロは対ドルで下落し、12時時点は1ユーロ=1.0765〜66ドルと同0.0014ドルのユーロ安・ドル高だった。 *1-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1121365 (佐賀新聞論説 2023/10/05) 円安150円台 緩和見直し弊害抑えよ 円相場は一時、1ドル=150円台と約1年ぶりの円安ドル高水準をつけた。背景にあるのが日銀の大規模な金融緩和だ。日本経済の下支えに緩和政策は必要だが、高インフレの下で過度の低金利を続けることは副作用を増幅させる。足元の円安がまさに該当しよう。円安は物価高をさらに悪化させかねない。円相場は150円台の直後に一時急上昇し、外国為替市場に「政府・日銀が円安阻止へ市場介入に踏み切ったのでは」との観測が広がった。だが金融政策が変わらなければ、介入しても効果は限られる。日銀は弊害の抑制へ大規模緩和の見直しを急ぐべきだ。円安には自動車など輸出企業の利益増や、それによる賃上げのプラス効果の半面、輸入コスト増による物価上昇のデメリットが伴う。政府・日銀が昨年9月、約24年ぶりの円買いドル売り介入に踏み切ったのも物価対応のためだった。足元の状況はこの時に似ている。国内の消費者物価(生鮮食品を除く)は食品などの値上げが響き、8月まで12カ月続けて3%以上の上昇率を記録した。物価を左右する原油価格は産油国の協調減産などで再び高騰。ここに円安が重なれば原油だけでなく、穀物など輸入原材料のコスト全体を押し上げる恐れがある。今の円安は、日本と米欧の金融政策の違いによる金利差拡大に主因を求められる。米欧は昨年来、インフレ退治のために利上げを実行。それでも物価は沈静化せず、金融引き締めの長期化を余儀なくされている。これに対して日銀は、長期金利を0%程度に固定する緩和策の部分修正を7月に実施しながらも、大規模緩和は基本的に変更せず、円が売られやすくなっていた。この状況では、たとえ介入で一時的に勢いを弱められても、円安傾向を変えるのは難しい。金融政策の方向性の違いに加えて、円安の背景には日本経済の構造的な要因がある点も見落とさないようにしたい。石油・ガスをはじめ食品などの原材料を輸入に頼る点は、外貨での支払いが円売りにつながりやすい。自動車のような輸出競争力のある製品が生まれにくくなった点や、企業が海外投資で得た外貨を円に交換しなくなった点なども、円安の背景に挙げられよう。日銀の「2%目標」を上回る物価高になって、はや1年半近く。政府が「デフレではない状況」と認めるのに日銀はインフレに手を打たず、大規模緩和を続けている。植田和男総裁は「賃上げを伴う安定的な物価上昇ではない」とその理由を強調するが、物価高に賃上げが追い付かない状態は既に16カ月も続く。対応が後手に回っていないだろうか。導入時から賛否のある物価目標に固執するあまり、円安や財政規律低下の弊害だけでなく、国民生活への感度が鈍っているようで気がかりだ。2%目標とともに、マイナス金利のような極端な緩和策が現状でも必要なのか、この機に問いたい。岸田文雄首相は、10月末をめどにまとめる経済対策に物価高への対応を盛り込む方針だ。電気・ガスやガソリンの価格抑制策に焦点が当たるが、家計や中小企業に打撃の大きい円安を見過ごしていいはずはあるまい。政策連携を図り、円安是正に資する日銀との意思疎通を深める時だ。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231107&ng=DGKKZO75919130X01C23A1MM0000 (日経新聞 2023/11/7) 実質賃金9月2.4%減 18カ月連続マイナス 基本給は1.5%増 厚生労働省が7日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価を考慮した実質で前年同月比2.4%減った。マイナスは18カ月連続となる。物価高の勢いに賃金上昇が追いつかない状況が続いている。実質賃金のマイナス幅は前月の2.8%からはやや縮小したが、なお2%台だ。実質賃金を算出する指標となる物価(持ち家の家賃換算分を除く)は3%台の上昇が続いており、賃金が目減りする状態にある。足元では名目賃金は緩やかに増えている。1人当たりの現金給与総額は前年同月比1.2%増の27万9304円だった。プラスは2022年1月から21カ月連続となる。現金給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は1.5%増で、5カ月連続で1%台の伸びになった。賃上げ効果が一定程度反映されている可能性がある。就業形態別にみると、正社員ら一般労働者は1.6%増の36万3444円、パートタイム労働者は1.9%増の10万2135円だった。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20231107&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO75919130X01C23A1MM0000&ng=DGKKZO75919440X01C23A1MM0000&ue=DMM0000 (日経新聞 2023/11/7) 消費支出2.8%減少 総務省が7日発表した9月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は28万2969円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比2.8%減少した。マイナスは7カ月連続となった。食料など生活関連や住宅への支出が減り、消費を押し下げた。QUICKがまとめた市場予測の中央値の2.7%減を小幅に下回った。8月は2.5%減で減少幅は2カ月ぶりに拡大した。消費支出を構成する10項目のうち8項目で前年同月を下回った。 *1-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1143147 (佐賀新聞 2023/11/15) 7~9月GDP、年率2・1%減、3期ぶりマイナス、個人消費不振 内閣府が15日発表した2023年7~9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は物価変動を除く実質で前期比0・5%減、年率換算は2・1%減だった。22年10~12月期以来、3四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高を受けた個人消費の不振に加え、企業の設備投資も落ち込み、新型コロナウイルス禍からの景気回復に急ブレーキがかかった。物価変動の影響を含んだ名目のGDPは4四半期ぶりに落ち込み、前期比0・04%減、年率換算は0・2%減だった。景気実感に近いとされる名目の数値もマイナスとなったことで、景気の停滞感が強まっている。実質GDPを項目別に見ると、GDP全体の5割超を占める個人消費は、自動車販売や食料品が落ち込んで前期比0・04%減、設備投資は半導体製造装置に対する投資の減少が響いて0・6%減だった。住宅投資や公共投資もマイナスで、国内需要は総崩れだった。輸出は自動車が増えた一方、輸出に区分されるインバウンド(訪日客)消費が振るわず、0・5%増にとどまった。輸入は著作権使用料の増加などで1・0%増えた。GDP全体への影響度合いを示す寄与度は、個人消費や設備投資などの「内需」がマイナス0・4ポイント、輸出から輸入を差し引いた「外需」はマイナス0・1ポイントだった。内需のマイナスは、自動車輸出の増加に伴うとみられる民間在庫の減少が大半を占めた。22年10~12月期の実質GDPはこれまで年率換算で0・2%増だったが、0・2%減に改定された。23年1~3月期と4~6月期は年率換算で3・7%増、4・5%増と高成長が続いていた。 *国内総生産(GDP) 国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額。内閣府が四半期ごとに公表し、景気動向や国の経済力を表す代表的な指標とされる。実際の価格で計算した名目の数値と、物価変動の影響を除いた実質の数値があり、実質がより重視される。前年や前四半期と比べた増減率を「経済成長率」と呼ぶ。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231208&ng=DGKKZO76787190Y3A201C2MM0000 (日経新聞 2023年12月8日) GDP年2.9%減に下方修正 7~9月改定値 個人消費下振れ 内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%減、年換算で2.9%減だった。11月の速報値(前期比0.5%減、年率2.1%減)から下方修正した。個人消費などが弱含み、4四半期ぶりのマイナス成長となった。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.5%減、年率2.0%減だった。成長率への寄与度は内需がマイナス0.6ポイント、外需がマイナス0.1ポイントだった。速報値では内需がマイナス0.4ポイント、外需がマイナス0.1ポイントの寄与度となっていた。内需の落ち込み幅が広がり、全体を押し下げた。内需の柱である個人消費は速報値の前期比0.0%減から0.2%減に下方修正。2四半期連続のマイナスとなった。最新の消費関連統計を反映した結果、食品や衣服などの消費が弱含んだ。品目別に見ると、衣服などの半耐久財は0.5%減から3.2%減に、食品などの非耐久財は0.1%減から0.3%減に下振れした。設備投資は前期比0.6%減から0.4%減に上方修正した。マイナスは2四半期連続となる。財務省が1日に公表した7~9月期の法人企業統計などを反映した。金融・保険業を除く全産業の設備投資が季節調整済みの前期比で1.4%増えた。非製造業が持ち直した。民間在庫の寄与度は前期比でマイナス0.3ポイントからマイナス0.5ポイントにマイナス幅が拡大した。在庫を積み増す動きが速報値での想定より弱かった。住宅投資は0.1%減から0.5%減に落ち込んだ。公共投資は前期比0.5%減から0.8%減に下方修正した。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比5.3%上昇した。 *1-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1143818 (佐賀新聞 2023/11/16) 【GDP3期ぶりマイナス】やむなく節約、消費腰折れ、物価高の打撃鮮明、賃金鍵 7~9月期の実質国内総生産(GDP)は3四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高で打撃を受けた家計がやむなく節約を進め、消費が腰折れしてしまった日本経済の姿が鮮明に浮かんだ。消費回復には賃上げの継続が欠かせず、2024年の春闘が鍵を握る。根本的には経済の底力を高めることも必要で、支持率の低迷する岸田文雄首相にとって経済運営の成否に政権の浮沈がかかる。 ▽エンゲル係数 11月中旬、兵庫県川西市のスーパー「阪急オアシス キセラ川西店」で自営業北島美代子さん(77)は、魚売り場を訪れた。物価は2年前と比べ、2~3割上がったと感じている。「会計の時に驚く。なるべく特売品を買う」。この日は「魚の日」。阪急オアシスのような比較的高級なイメージの店でも「曜日販促」を取り入れ、来店頻度を高める狙いだ。エイチ・ツー・オー(H2O)食品グループの松元努取締役専務執行役員は「値上げの中でご来店いただくため、客のニーズを見極めたい」と話す。総務省の家計調査によると、消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」は1~9月、2人以上の勤労者世帯で月平均26・3%となり、比較可能な00年以降の各年平均値を上回った。エンゲル係数がここまで上がった背景について、第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「賃金上昇が物価上昇に追いついていない」ことを指摘する。生活水準にかかわらず食費には一定程度支出する必要があるためだ。指摘を裏付けるように、今回のGDPで賃金などを示す「雇用者報酬」は前年同期比2・0%減と低迷した。 ▽チャンス 政府が経済運営でとりわけ重視しているのが賃金上昇だ。「デフレ完全脱却に向けた千載一遇のチャンスが巡って来ている」。15日に官邸で開いた政労使会議。首相は経団連の十倉雅和会長らに24年春闘で23年を上回る賃上げを求めた。だが賃上げをする余裕のない中小企業は多い。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「中小企業が24年春闘で23年の賃上げ率を上回るかどうかは見通せない」と話す。 ▽米欧下回る実力 物価高に対応しようと政府が11月決定した経済対策には所得・住民税の減税や給付金のほか、ガソリンや電気代の補助金など家計を支援する内容が並んだ。総額は17兆円を超え、財政難の中で繰り出す対策として不適切だとの見方も広がった。今回のGDPが振るわなかったことを「岸田首相は対策の規模が適切だと訴える材料に使う」と、ある政府関係者は予測した。日銀の金融政策についても「大規模緩和から出口へ向かいにくくなった」(エコノミスト)との観測が浮上する。だが減税や大規模緩和で経済を支え続けても、中長期的な経済の実力を示す潜在成長率はなかなか伸びない。経済協力開発機構(OECD)によると22年時点で日本は0・5%にとどまり、米国の1・8%やドイツの0・9%を下回る。今回の経済対策には、半導体生産支援やデジタル化、リスキリング(学び直し)といった成長に向けた施策も盛り込まれた。岸田政権にとっては賃上げとともに、経済を中長期的な軌道に乗せられるかどうかも大きな課題となっている。 *1-4 -2:https://www.dlri.co.jp/report/macro/288062.html (第1生命経済研究所 永濱 利廣 2023.11.6) エンゲル係数上昇の主因は実質賃金低下、~食料・エネルギー価格上昇に伴い拡大する生活格差~ 経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が足元で高水準にある。エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされている。最近の我が国のエンゲル係数上昇は、実質実収入の減少と食料品の相対的な価格上昇が主因となっている。その背景には、明らかに賃金上昇が食料品を中心とした物価上昇に追い付いていない実質賃金の低下がある。一方で、高齢者世帯が多く含まれる無職世帯のエンゲル係数は低下傾向にある。背景には、新型コロナ感染に対する恐怖心緩和に伴うサービス支出の拡大があるが、依然としてコロナ前より高水準にあることから、必ずしも生活水準の上昇とは言えない。政府の小麦売り渡し価格が10月から1割以上下がっていることや、原発処理水の問題で海産物の価格が下がっていること等から、食料品の値上げラッシュはピークアウトしつつあるが、中長期的には人口の増加や海外の所得水準向上等に伴う需要の拡大に加え、脱炭素化や都市化による農地減少等も要因となり、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続する可能性が高い。全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大する。更に深刻なのは、我が国の低所得者世帯の割合が高まっている一方で、高所得者世帯の割合が低下傾向にある。こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより企業や家計がお金をため込む一方で政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれてきたことを表している。その結果、我が国では高所得者層の減少と低所得者層の増加を招き、家計全体が貧しくなってきた。本当の意味でのデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となる。そうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえよう。そのためには、実質賃金の上昇が不可欠となる。 ●22年度以降上昇に転じるエンゲル係数 経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が足元で高水準にある。特に二人以上世帯では2022年6月に26.0%まで低下したものが、今年7月には28.2%まで上がっている。 エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされている。 ●エンゲル係数上昇の主因は実質賃金低下 実際、直近2023年8月のエンゲル係数を前年比で見ても+2.2ポイント上昇を記録している。しかし、食料品の値上げが相次いでいる一方で食料品の消費量は減っているように見える。そこで、エンゲル係数の変化幅を食料品の消費量、すなわち実質食料支出と相対価格および全体の消費性向と実質実収入、非消費支出に分けて要因分解してみた。すると、実質食料支出と税金や社会保険料などの非消費支出がいずれも▲1.0ポイントの押し下げ働く一方、実質実収入の減少が+2.3ポイント、食料品の相対物価が+1.3ポイント、消費性向すなわち消費量全体の減少が+0.4ポイントそれぞれ押し上げ要因になっていることが分かる。消費性向すなわち可処分所得に対する消費の割合が下がった背景には、値上げに伴い節約志向が強まったことが推察される。一方、食料品の相対価格上昇の背景には、政府の物価高対策で電気ガスなどエネルギー価格が抑制されたことで相対的に食料品価格の値上がりが上回ったことが推察される。そして最大の押し上げ要因である実質実収入減の背景には、30年ぶりの賃上げが実現したにもかかわらず、賃上げがインフレに追い付いていないことが考えられる。つまり、実質賃金の低下に加え、相対的に高い食料品価格の上昇、家計の節約志向の強まりがこのところのエンゲル係数押し上げの実体である。なお、無職世帯に限ったエンゲル係数はそれほど上昇していないが、その背景にはコロナからのリオープンやエネルギー価格の上昇が関係している可能性がある。というのも、無職世帯の10大費目別の支出ウェイトの変化を見ると、足元では交通通信と教養娯楽のウェイトが拡大しているためである。つまり、高齢者の多い無職世帯では、コロナショック以降に行動制限が敷かれていたことで機会を奪われてきたサービス消費が持ち直す一方で、ロシアのウクライナ侵攻に伴う化石燃料等の資源高が特に交通費の支出を押し上げてきたことがエンゲル係数の上昇を抑制しているといえる。 ●足元の物価上昇は「悪い物価上昇」 こうした食料やエネルギーといった国内で十分供給できない輸入品の価格上昇で説明できる物価上昇は「悪い物価上昇」といえる。そもそも、物価上昇には「良い物価上昇」と「悪い物価上昇」がある。「良い物価上昇」とは、国内需要の拡大によって物価が上昇し、これが企業収益の増加を通じて賃金の上昇をもたらし、更に国内需要が拡大するという好循環を生み出す。しかし、ここ元の物価上昇は輸入原材料価格の高騰を原因とした食料・エネルギーの値上げによりもたらされている。そして、国内需要の拡大を伴わない物価上昇により、家計は節約を通じて国内需要を一段と委縮させている。その結果、賃金上昇が物価上昇に追い付かずにエンゲル係数が上昇していることからすれば、「悪い物価上昇」以外の何ものでもない。なお、10月から政府の小麦売り渡し価格が1割以上下がったことや、原発処理水の問題で海産物価格が下がっていることからすれば、短期的には食料品の価格上昇自体は減速が期待される。しかし、世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口の増加や所得水準の向上等に伴う需要の拡大に加え、脱炭素化や都市化による農地減少等も要因となる。このため、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続すると見ておいたほうがいいだろう。 ●生活格差をもたらす食料・エネルギー価格の上昇 ここで重要なのは、食料・エネルギー価格の上昇が、生活格差の拡大をもたらすことである。食料・エネルギーといえば、低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる傾向があるためだ。事実、総務省「家計調査」によれば、可処分所得に占める食料・エネルギーの割合は、年収最上位20%の世帯が15.7%程度なのに対して、年収最下位20%の世帯では27.0%程度である。従って、全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大する。更に深刻なのは、我が国の低所得者世帯の割合が高まっている一方で、高所得者世帯の割合が低水準にある。事実、総務省の家計調査年報で年収階層別の世帯構成比を見ると、年収が最も低い200 万円未満に属する世帯の割合は2000年から2022年にかけて拡大している一方で、年収が最も高い1500万円以上に属する世帯の割合は2000年から2022年かけて低下している。こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより、企業や家計がお金をため込む一方で政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれていることを表しているといえよう。そして、我が国では高所得者層の減少と低所得者層の増加を招き、結果として家計全体が貧しくなってきたといえる。 ●日銀の出口判断に重要な賃金 これに対し、日銀はインフレ目標2%を掲げている。しかし、輸入食料品価格の上昇により消費者物価の前年比が+2%に到達しても、それは安定した上昇とは言えず、『良い物価上昇』の好循環は描けない。つまり、本当の意味でのデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となる。そしてそうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえよう。となると、「2%の物価目標」達成をどう判断するかが重要となってくるが、ここではやはり賃金の動向が重要になってこよう。というのも、植田新体制になって日銀はフォワードガイダンスに賃金を盛り込んでいるからである。そして具体的に日銀は2%の物価目標を念頭に置いた場合、名目賃金上昇率+3%、つまり実質賃金が+1%上昇する姿が理想的であると説明している。このため、現時点で実質賃金が17カ月連続でマイナスであることからすれば、いくらインフレ率が2%を超えているとはいえ、日銀が理想とする「2%物価目標」とは程遠いと言えよう。となれば、少なくとも来年の春闘の結果が賃金に反映されるまでは金融緩和の出口には向かえないということになろう。 *1-5:https://digital.asahi.com/articles/ASR9X7G7QR9XULFA012.html?iref=comtop_list_01 (朝日新聞 2023年9月28日) 株も債券も円も…トリプル安 「日本当局にできることは限られる」 28日の東京金融市場では、株式と円、国債が売られる「トリプル安」の様相となった。米国の金融引き締めが長期化しそうだとの観測から、米金利が上がったことが大きな要因。円安が連日進み、1ドル=150円を試す展開となった。起点の一つは、27日のニューヨーク市場で原油先物価格が約1年1カ月ぶりに1バレル=94ドル台まで上昇したことだ。米景気が底堅く、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めを続けるとの見方から、米長期金利は年4・642%と16年ぶりの高水準をつけた。これにつられて、28日の東京市場でも長期金利の指標となる新発の10年物国債利回りが一時、0・750%まで上昇(国債価格は下落)。2013年9月以来の高水準となった。金利上昇は景気を押し下げる効果があるほか、相対的に株式への投資魅力が薄れるため、日米で株価が下落。日経平均株価は前日比499円38銭(1・54%)安の3万1872円52銭で終えた。700円弱、下落する場面もあった。終値で3万2千円を割るのは約1カ月ぶり。この日、3月期決算企業の中間配当を受ける権利を取得できる27日の翌日だったことも、日経平均の重しになった。外国為替市場では日米の金利差が改めて意識され、円を売って金利が高いドルを買う動きが続いている。27日のニューヨーク市場で円相場は約11カ月ぶりに1ドル=149円70銭台まで下落。28日の東京市場では買い戻しの動きもあったが149円台で推移した。午後5時時点では前日同時刻より30銭ほど円安の1ドル=149円31~32銭。心理的な節目となる150円が目前に迫り、市場では政府の為替介入への警戒感が強まった。SMBC日興証券の野地慎氏は「米金利の上昇が収まるまで、日本の当局にできることは限られ、市場の動きを牽制(けんせい)するしかないだろう」と指摘。ただ、米金利の上昇はあと1~2カ月で止まり、「次第に円高方向に向かうのではないか」とみる。 <減税するなら公正・中立・簡素の方向でやるべき> *2-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1151260 (佐賀新聞 2023/11/29) 補正予算成立 国民の疑念晴れぬままだ 臨時国会は2023年度補正予算が成立し、終盤に入った。岸田文雄首相は論戦のヤマ場を乗り切ったと受け止めているかもしれないが、内閣支持率の下落を招いた国民の疑念は晴れないままだ。残る会期で説明責任を果たさなければ、政権から離反した民意は戻るまい。10月20日に召集された臨時国会の会期は、12月13日までの55日間。9月に第2次岸田再改造内閣が発足した後、初の本格論戦の場だった。政府は、物価高の家計負担を緩和するとして新たな経済対策を決定。対策の財源となる13兆1992億円の補正予算案を国会に提出した。首相主導の所得税と住民税合わせて1人当たり4万円の減税は、24年6月からの実施で補正予算の枠外だが、質疑ではその当否が最大の焦点になった。共同通信の世論調査で、非課税の低所得世帯向けの7万円給付を含め「評価しない」との回答が6割を超え、他社の調査でも同傾向だったからだ。減税されても、防衛力強化のための増税など負担増が控えていることや、財政悪化への懸念が主な理由だ。減税や給付の財源は、増税回避や財政再建に用いるべきだというわけだ。首相は「経済を立て直した上で、防衛力や子ども政策について国民に協力してもらう」と強調、増減税は同時実施にならないことから「矛盾しない」と断言した。減税の狙いに関しては、経済の好循環を生むため、物価高を上回る賃上げまで「可処分所得を下支えする」などと繰り返し訴えた。それでも内閣支持率が20%台に落ち込むのは、国民が減税を次の衆院選に向けて政権浮揚を図る方策とみなしていることも要因だ。首相は「選挙目当て」を否定するが、財政の行く末まで憂慮する国民に対し、首相の答弁は説得力に欠けていると言わざるを得ない。今国会では、公選法違反事件に関与した法務副大臣や過去の税金滞納を認めた財務副大臣ら自民党出身の3人の政務三役が辞任した。首相は人選を「手腕、経験、他の候補との比較を踏まえて行った」と釈明した。だが実態は、来年秋の自民党総裁選再選の障害となる党内の不満を抑え込むため、派閥推薦や年功序列に重きを置いたはずだ。国民の不信感は、保身を図るかのような首相の姿勢にも根差していると重ねて指摘しておきたい。国民の疑念をさらに増幅させたのは、自民5派閥がパーティーの収入を政治資金収支報告書に過少記載していたと告発された問題だ。21年までの4年分だけでも計約4千万円に上っている。各派閥は「事務的ミス」として順次報告を訂正しているものの、組織的、継続的な裏金づくりと疑われても仕方ないだろう。首相は信頼回復のため党として「どう対応すべきか考えたい」と述べたが、追及をかわす一時しのぎの発言であってはならない。対応策を早急にまとめ明らかにすべきだ。同様の問題は立憲民主党議員の資金管理団体でも発覚しており、与野党で取り組む課題でもある。内閣支持率の下落原因を聞かれた首相は「一つや二つではないと思う」と分析した。そう認識しているのであれば、国民が抱くさまざまな疑問に国会の場で丁寧に答え、改めるべきは改める謙虚な政権運営に努めなくてはならない。 *2-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/296097 (東京新聞 2023年12月15日) 与党の税制大綱がうたう「支援」のちぐはぐさ 扶養控除を一部縮小、今ほしい減税の恩恵は2024年6月に 自民、公明両党は14日、2024年度の税制を見直す与党税制大綱を決めた。1人当たり計4万円の定額減税を24年6月から実施するほか、住宅ローン減税の拡充など子育て支援策が並んだ。一方、高校生年代(16~18歳)の子どもがいる世帯の扶養控除を縮小する方針だ。 ◆若い夫婦などに住宅ローン減税優遇維持 定額減税は所得税が3万円、住民税で1万円だが、年収2000万円超の所得制限を設けた。賃金や物価の状況に応じて「家計支援の措置を検討する」と記し、延長の可能性を含んだ。子育て世帯と若い夫婦に限り、省エネ基準適合住宅などを取得するとローン限度額を最大1000万円上乗せすることで、住宅ローン減税の優遇を維持する。住宅リフォーム減税では子育て環境のための改修工事を対象に追加。23歳未満の子どもを育てる人を対象に、生命保険料控除の上限を現行の4万円から6万円にする方針も入り、25年度大綱に向けた来年の議論で決める。ただ住宅購入などに対象が限られるため、優遇の使い勝手は悪い。一方、24年12月から、高校生年代の子どもがいる世帯に原則1人当たり月10000円の児童手当が支給されることを受け、扶養控除を縮小する。控除額は所得税で年38万円から25万円に、住民税で33万円から12万円となるが、手当から税負担を差し引いた金額は富裕層でも現行より増える。ただ、控除縮小は来年は行わず、正式決定を来年に持ち越した。 ◆防衛増税の時期先送り 裏金問題が影響 デフレ脱却のため、物価高を上回る賃上げや経済成長を後押しする法人税の減税策も並ぶ。大企業は高い賃上げ率の要件を新設し、より積極的な企業を優遇する。赤字の多い中小企業の賃上げを促すため、税額控除できなかった分を5年間繰り越せる制度も新設する。昨年と同様、防衛費増額のための増税時期の決定を先送りした。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は「増税には政権の力が必要。昨今の政治状況は自民党にかなり厳しい風が吹いている」と14日の会見で述べ、政治資金パーティーを巡る裏金問題の影響があることを隠さなかった。 ◇ ◆首相肝いり「分断招かない」は看板倒れに 14日に決まった2024年度与党税制改正大綱の柱が、岸田文雄首相が打ち出した定額減税だ。減税対象を自ら絞らない方針を示していたが、与党税制協議会が出した結論は年収2千万円超を除外する所得制限の導入。また、一人当たり4万円の減税額を来年6月の納税額から一気に引き切れないため、経済効果が生まれるとしても、後ずれする可能性がある。首相肝いりの政策は看板倒れになりつつある。「子育て世帯の分断を招くようなことはあってはならない」。定額減税が先月の経済対策に盛り込まれる前から、首相はこう強調し、所得制限を設けない考えだった。だが、自民党内では当初から、所得制限の導入に前向きな考えが大勢で、慎重姿勢だった公明党が自民党に歩み寄った。自民党の宮沢洋一税調会長は14日の会見で「1〜1.5%の誰が見ても富裕層と言われる方に限定した。分断に当たらない」と説明。ただ減税の恩恵を受けられない層が実際に生まれるため、首相が当初想定した通りにはならなかった。 ◆減税で「手取りが増えた」の実感は薄そう 減税は給付に比べて、事務面で支援が遅れがちで即効性に劣るとされる。先月2日の経済対策の閣議決定後に、その問題点を会見で問われると、首相は「ボーナス月の6月に賃上げと減税の効果を給与明細で目に見える形で実感できる」と反論した。だが、家計への効果は遅れそうだ。ある税理士は「所得税の減税分3万円を納税額から一括で差し引くことができる人は、給与収入が50万円以上ぐらいの人からだ」と指摘。減税処理が数カ月にまたがるため、手取りが一気に増えたと「実感」できる人は多くはなさそうだ。子育て中の場合は、扶養控除などの適用でまず納税額が減っているため、さらに差し引くことが可能な額が小さくなり「実感」は乏しくなる。一方、厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、物価変動を加味した実質賃金は10月まで前年同月比19カ月連続のマイナスを続けており、賃上げの方の効果も心もとない。 ◆賃金上昇なければ財政がさらに悪化する恐れも 「税収増を還元する」。今回の減税は首相のこうした掛け声をきっかけに、具体化された。だが、「過去の税収増は政策的経費や国債の償還に既に充てられている。仮に減税をしない場合と比べれば、国債の発行額が増加する」と鈴木俊一財務相は先月の国会で答弁。財政的には還元に当たらず、余裕がないという認識を示した。減税は原則1回限りだが、賃上げや物価高の状況次第では「所要の家計支援の措置を検討する」との文言が大綱に入り、継続される可能性が残った。本格的な賃金上昇が生じなければ、景気浮揚につながらず、財政がどんどん悪化する危険もはらむ。 *2-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1160547 (佐賀新聞 2023/12/16) 税制改正大綱 時代に合った改革なのか 自民、公明両党は2024年度の与党税制改正大綱を決めた。岸田文雄首相が実現を求めた所得税、住民税の定額減税を中心に、個人も企業も減税がずらりと並んだ。負担増を徹底的に回避し、財政規律を省みない内容だ。増税や物価高への批判をはね返そうとする政策だが、定額減税に対する世論の評価は芳しいものではない。財政悪化がもたらす将来不安はじわりと広がっている。アベノミクスが始まって10年がたち、経済情勢は大きく変化し、安倍政権以来の政策は多くの分野で転機を迎えている。税制も例外ではない。しかし、時代の要請に合致した改革の構想や方向を、今年の大綱から読み取ることはできない。定額減税と非課税世帯などへの給付には5兆円規模の国費が投入される。除外されるのは年収2千万円超の富裕層だけだ。1人当たり4万円のばらまき型の支援は本当に必要なのだろうか。首相はこれまでの税収増を国民に還元すると訴えた。しかし鈴木俊一財務相が指摘したように、増加した税収は既に使ってしまっている。最近の税収は前年同期を下回るようになっている。定額減税によって、税収の穴は一段と広がるだろう。防衛力強化のための法人税、所得税の増税は今年も決定を見送られた。大型減税を実施した所得税はともかく、法人税だけ先行して決められなかったのだろうか。企業だけ負担が先に決まることに経済団体は反発するだろうが、一部だけでも財源を確定する意味は大きいはずだ。中長期の防衛政策を考えれば安定財源の確保を急がねばならず、政治や経済情勢の変化に対応し臨機応変に行動する必要がある。釈然としないのは扶養控除の縮小だ。高校生年代の子どもがいる世帯を対象に、所得税で年38万円から25万円に、住民税で年33万円から12万円に引き下げる。中学生までだった児童手当を拡充し、高校生の世帯にも支給する代わりに、扶養控除を縮小するという。児童手当の支給額は、控除縮小に伴う所得税などの増額分よりも大きいから、問題ないように見える。しかし、首相は「異次元の少子化対策」を掲げている。高校生がお金のかかる年代であることを考慮すれば、二重に支援することは不自然ではない。あえて扶養控除を縮小する必要があるのか。財政規律を守るのであれば、定額減税の対象を年収によってもっと絞り込めばいい。扶養控除を継続する財源を生み出すことができるはずだ。最優先するべき政策は少子化対策ではないのか。本当に支援が必要な層を考え、減税や給付が行き渡るようにする仕組みをつくらねばならない。扶養控除の縮小を正式決定するのは来年だ。見直す時間は十分にある。中小企業の賃上げを支援する制度も拡充されたが、赤字会社が6割以上を占めることを考えれば、税制以外の手段を含め、「次の一手」を考える時期に来ている。大綱は財政悪化を踏まえ、今後は法人税率の引き上げを視野に入れた検討が必要だと指摘した。法人税を引き下げ、企業の投資を拡大するこれまでの政策はどの程度効果があったのか、真剣に検証してほしい。「稼ぐ力」の源泉を見極め、効率的な支援に転換することは、次世代の税制に直結する課題でもある。 *2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75238600T11C23A0PPK000 (日経新聞 2023.10.14) 「年収の壁」対策が始動、勤務先の方針、まず確認 年収が一定額を超えると税や社会保険料が増えるいわゆる「年収の壁」に対する政府の対策が10月から始まった。ただ壁については誤解も多く、まずは壁越えのメリットとデメリットの正確な理解が重要だ。そのうえで今回の対策の活用法を考えたい。年収の壁には税の壁と社会保険の壁がある。税の壁の一つは103万円を超えると本人に所得税が発生し始めること。厚生労働省の実態調査によると、これを就業調整の理由とする人が複数回答で49.5%と多い。実際は壁を1万円超えても所得税が500円増えるだけで収入増の大半は手取りの増加となる。しかし「103万円超えが手取り減につながるとの漠然とした誤解で就業調整している人は依然多い」とファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏は話す。もう一つの税の壁は150万円。これを超えると配偶者特別控除が少しずつ減少していき配偶者の税負担が増える。通常は妻の収入増が上回り世帯の手取りは減らないが、やはり多くが就業調整の理由として挙げている。「税の壁での就業調整は意味がないことを認識すべきだ」(社会保険労務士の井戸美枝氏) ○ ○ 社会保険に関する壁は106万円と130万円がある。大きく超えない限り、保険料負担が収入増を上回り手取りが減る。今回の対策は主に社会保険の壁を対象にしたものだ。 まず106万円の壁。従業員101人以上の会社で月収8万8000円(年収換算で約106万円)を超え、週20時間以上勤務などの条件も同時に満たすと、厚生年金や会社の健康保険に入ることになる。それまで配偶者の扶養に入っていた第3号被保険者は年16万円程度の保険料負担が発生し、手取りが減る。壁を越える前の手取りになるには収入を125万円程度に引き上げることが必要だ。厚労省の調査では20.6%が就業調整の理由として挙げる。しかし厚生年金加入で将来の厚生年金が受給できるようになり、長生きすることが多い女性は通常は将来の受給額合計が保険料を上回る。会社の健康保険は病気やケガの際に収入の3分の2の傷病手当金が支給されるなど給付が手厚い。保険料を払って分厚い社会保障を受ける一般の会社員と同じ状況になるだけだが「『働き損』という実態と異なる呼び方を信じて就業調整するケースも多い」(社会保険労務士の岩城みずほ氏)。また月収8万8000円は契約した賃金で決まるので残業代は含まない。年末に就業調整しても無意味だが、十分理解されず人手不足の要因になっている。ただ目先の手取りが減ることを嫌う人が多いのも事実。そこで今回の対策では賃上げや手当などで手取り減を補う企業に対し、10月以降に壁越えをする従業員1人あたり3年間で最大50万円を助成する。ポイントは従業員に直接ではなく企業に支給し、具体的な活用策を委ねる点だ。企業によって活用内容が異なる可能性が大きいため、壁越えを考えている人は勤務先がどんな方針をとるか、よく確認し相談することが必要になる。例えば同じ職場に過去にすでに保険料を負担して厚生年金加入で働いている人がいる場合、新たに106万円を超える人だけを手当や賃金増の対象にすれば不公平で、不満が広がる。企業が公平さを維持したい場合、過去に壁越えをした同程度の収入の従業員全体にも手当や賃上げを検討することになる。これにより新たに壁越えをする人だけでなく職場に広く手取り増を促す「呼び水」にすることが政策の狙いだ。しかし助成金はあくまで新たに壁越えをする人の人数分しか出ない。このため職場で広く公平な手当や賃上げを実施したい企業は、助成金以外に自社で財務的な負担が生じるケースも多そうだ。財務的な負担が無理なら、助成金の適用を見送る可能性もある。 ○ ○ もう一つの社会保険上の年収の壁は130万円。130万円以上になると配偶者の社会保険の扶養をはずれる。しかし106万円の壁と異なり、通常の厚生年金の加入条件である週30時間以上の勤務でないと厚生年金などに加入できず、国民年金保険と国民健康保険に入ることになる。新たに保険料負担が発生する一方で将来の厚生年金の受給などはなく、単純に保険料負担だけが起きるという意味では本当の壁だ。130万円の計算には残業代なども含むため年末などに就業調整が起きる。実態調査では56.6%が就業調整の理由として挙げる。今回の対策では130万円を超えても、それが人手不足に対応するための追加的な残業など一時的なものであることを事業主が証明すれば、扶養をはずれなくてもよいことにする。原則として連続2年までが上限だ。ただどんな場合に「一時的」と判断するかは勤務先に確認したい。企業の配偶者手当も年収の壁となっている。本人の年収が一定以上で配偶者の会社が配偶者手当を打ち切ることがある。配偶者手当は年に数十万円にもなることがあるため大きな手取り減だ。今回の対策では配偶者手当を廃止・縮小し、基本給や手当を増額することなどの見直しを企業に求める。配偶者手当の基準で最も多いのは103万円。しかし配偶者手当を見直す企業は増えており、103万円で手当を打ち切る会社は22年に2割と15年の4割強から急減している。配偶者の勤務先の基準が変わっていないかを確認することが必要だ。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20231014&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO75238600T11C23A0PPK000&ng=DGKKZO75238670T11C23A0PPK000&ue=DPPK000 (日経新聞 2023.10.14) 老後に備え大きく壁越えを 助成策で手取り減がなくなるかは勤務先の活用次第で、壁を越える人全員が対象になるわけではない。助成金がない場合、106万円を超えて手取りが戻る収入は125万円だが、大きく上回るほど目先の収入と将来の厚生年金が増える。介護や子育てで難しい場合を除き、賃金増の流れを生かしてなるべく大きく超えることが長寿の女性には有効だ。130万円の壁についても回避を狙うだけでなく、週30時間以上の勤務にして厚生年金加入を考えることも将来の安心には有効。ただ厚生年金加入後に130万円未満での手取りを回復するには、150万円台の年収が必要になる。そこまで勤務時間を延ばせない場合、106万円で厚生年金に加入できる101人以上(24年10月からは51人以上)の会社への転職を考える選択肢もある。今回の対策は25年に予定される抜本的な改正策がとられるまでの原則3年の時限措置。法改正には保険料や給付水準の在り方を巡り様々な案が出ているが、新たな不公平の発生や複雑化の懸念も多く、簡単ではない。年収の壁への様々な誤解の解消とともに、短時間労働でも厚生年金に入れる対象企業の適用を徹底的に拡大し、働く人すべてに社会保険を適用することが本来の解決策だろう。 *2-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231105&ng=DGKKZO75868900U3A101C2EA1000 (日経新聞 2023.11.5) インボイス開始1カ月、混乱続く 10月分の処理本格化、様式バラバラ、記載に不備 業務負担大きく インボイス(適格請求書)制度の開始から1カ月あまり。10月分の請求書の処理が本格化するなか、中小・新興企業などで混乱が続いている。企業ごとに異なる請求形式の違いへの対応や、登録番号の確認作業で業務の負担が増している。10月に入っても企業の9割で今後の対応に懸念を持つとの調査も出ている。「アプリやソフトウエア販売、電子商取引(EC)販売を手掛ける事業者の一部で10月以降、急きょ自社でインボイス発行が必要な取引が相次いだ」。家計簿アプリや会計ソフトを手掛けるマネーフォワードの松岡俊経理本部長は想定外の対応に追われた。アプリの販売プラットフォームの米アップルや米グーグル、ECサイトの米アマゾン・ドット・コムなどで、発行の仕組みがバラバラだったからだ。例えば同じアプリ販売でもアップル経由の場合、アップルがインボイスを直接交付するが、グーグルでは事業者側に交付義務が発生している。マネーフォワードは1年ほど前から準備してきたが、10月に入って取引先への周知や税務署への確認、アプリの利用規約の記載変更などの対応に追われることになった。帝国データバンクが10月6~11日までに実施したインボイス制度への対応状況に関する企業アンケートでは対応が遅れているとした回答が3割にのぼり、全体の9割で懸念事項があると回答した。懸念の多くが事務作業負担の増加だった。「10月から請求書を紙から電子に切り替えて発行してほしい」。防災設備設計・施工の紘永工業(横浜市)は、納入先10~20社から請求書のフォーマット変更の依頼が相次いだ。各社が独自システムを使っていることが多く「アカウントの登録作業に手間がかかった」(経理担当者)。都内の電気工事会社は請求書をインボイス番号記載の形式に変更し、8月末に取引先各社に郵送で案内をした。だが、取引先の請求書担当に届いていないためか、番号のない請求書を送ってくる取引先が散見される。制度への登録が必要とされる免税事業者160万者のうち、登録が済んだのは9月末時点で106万者。出前館では10月以降も一部の配達員が登録を進めており、その確認作業に追われている。辻・本郷ITコンサルティング(東京・渋谷)の菊池典明税理士は「買い手は免税事業者に対しては、どれほど課税分を負担してもらうか改めて交渉する必要がある。今後も対応で混乱する可能性もある」と指摘する。小規模な取引先の多い外食産業の負担も続く。つぼ八は「登録番号の確認作業や請求書の準備などで業務時間が増えている」と話す。10月分の請求書送付は今後増える見込みで、番号の確認作業でさらなる業務負担の増加を懸念する。インボイス制度について同社の担当者は「免税事業者を設けるべきではない」と制度の廃止を求める。居酒屋「金の蔵」などを展開するSANKO MARKETING FOODSは従業員の立て替え精算で使うシステムで番号を自動で読み取れないケースが多発。経理部が1枚ずつ領収書を確認するなど「想定以上に負担が増えた」という。免税事業者側でも混乱も起きている。建設作業員を中心に構成する全国建設労働組合総連合(全建総連)には「一人親方」と呼ばれる個人事業主の一部から「取引先から課税事業者登録を突然求められ、登録しなければ単価を下げると通知された」との報告が入った。公正取引委員会はインボイス制度を巡り一方的な取引価格の引き下げは独占禁止法の違反につながる恐れがあるとして注意を促している。だが、実際のビジネスの現場で値決めを巡り混乱が広がっている恐れもある。 ▼インボイス 事業者ごとの登録番号や税率ごとの消費税額などを記載した請求書や納品書。仕入れ時に支払った消費税額を納税時の納税額から差し引くには仕入れ先からインボイスを受け取る必要がある。 インボイス発行事業者の登録をしていないと発行できない。大企業は基本的に発行事業者の登録を取引先に促す考えだ。だが、小規模事業者やフリーランスでは登録について様子見を続ける動きは根強い。 *2-3-2:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=22704 (日本医事新報社 2023年9月8日) ■NEWS 社会保険診療の消費税、診療所は非課税、病院は軽減税率に―日医が来年度税制改正要望 日本医師会は9月6日の定例会見で、「令和6年度 医療に関する税制要望」を公表した。社会保険診療に係る消費税について、診療所は現行の非課税のまま診療報酬上の補塡を継続しつつ、病院においては軽減税率による課税取引に改めるよう要望した。日本医師会は昨年の税制要望では、社会保険診療に係る消費税について、「小規模医療機関等」は非課税のままとし、「一定規模以上の医療機関」は軽減税率を適用するよう要望、「一定規模」をどこで線引するかが課題となっていた。6日の会見で宮川政昭常任理事は、「線引に当たって有床診療所の取り扱いが焦点となり、全国有床診療所連絡協議会と協議し、アンケートもとった。その結果、非課税のままを望む声が多かった。このため「診療所」「病院」という医療法上の区分が客観的でよいと(会内の)委員会でまとまり、このように集約した」と報告。非課税のままで診療報酬による補塡を求める有床診療所が多かった理由については、「有床診療所は規模が様々で、課税取引にすると存続が難しいという意見が多かった」と説明した。社会保険診療に係る消費税が非課税となっていることについて、日本医師会は長年、「控除対象外消費税」が医療機関の経営を圧迫しているとして、ゼロ税率や軽減税率、患者への還付制度などによりこれを解消することを求めてきた。仮に医療機関の種別により消費税率の取り扱いが変わる場合、これまで消費税分として補塡されてきた診療報酬を引き下げることや、いわば一物二価となるために患者にわかりやすい説明が必要になるなど、課題も多いとみられる。 *2-3-3:https://www.nta.go.jp/taxes/kids/hatten/page02.htm (国税庁) 「税のしくみ、税の種類と分類」より抜粋 <直接税> ●所得税 ◎個人の所得(収入から経費などを引いたもの)に対してかかる税金です。 ◎所得が多くなるほど、税率が高くなります。 個人の所得にかかる税金のことを「所得税」といい、会社で給料をもらっている人や自分で商売をして利益を得ている人にかかります。所得税は、1年間のすべての所得からいろいろな所得控除(その人の状況に応じて税負担を調整するもの)を差し引いた残りの所得(課税所得)に税率をかけて計算します。税率は、所得が多くなるほど段階的に高くなる累進税率となっており、支払い能力に応じて公平に税を負担するしくみになっています。会社に勤めている人と自分で商売をしている人では、納税方法が異なります。 ●住民税(道府県民税・市町村民税) ◎住んでいる(会社がある)都道府県、市区町村に納める税金です。 ◎道府県民税も市町村民税も一括して市区町村に納めます。 道府県民税と市町村民税は合わせて「住民税」と呼ばれており、住民がそれぞれ住んでいる(会社がある)都道府県や市区町村に納める税金です。「住民税」は住民(や会社)が平等に負担する金額(均等割)と、前年の所得の額に応じて負担する金額(所得割)から成り立っています。「住民税」も所得税と同じように、会社に勤めている人と、自分で商売をしている人で、納税方法が異なります。 ●法人税 ◎法人(会社)の所得に対してかかる税金です。 ◎決算期(それぞれの会社が決めた年度)が終わったあとに確定申告をします。 株式会社など法人の所得にかかる税金のことを「法人税」といいます。会社は決算期ごとにその期間の所得をもとに税額を計算して申告・納税をします。 <間接税> ●消費税・地方消費税 ◎商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金です。 ◎納税するのは製造業やサービス業などの事業者ですが、負担するのは消費者等です。 「消費税」は、消費一般に広く公平に負担を求める間接税で、最終的には商品を消費したり、サービスの提供を受ける消費者が負担し、事業者が納税します。事業者は、消費者等から受け取った消費税等と、商品などの仕入れ(買い入れ)のときに支払った消費税等との差額を納税することになります。消費税の税率 は7.8%、 地方消費税の税率 は2.2%、これらを合わせて10%の 税率になります。 ※ 消費税等とは、消費税(国税)と地方消費税(地方税)のことをいいます。 ●酒税 ◎日本酒、ビールなど、お酒にかかる税金です。 ◎製造者または輸入者が納税しますが、負担するのは消費者です。 日本酒やビール、ウイスキーなどのお酒にかかる税金のことを「酒税」といいます。 アルコール分1度以上の飲料が対象になり、税額はお酒の種類やアルコール度数によって細かく決められています。製造者または輸入者が納税しますが、価格に含まれているため、負担しているのは消費者です。 ●たばこ税・たばこ特別税 ◎たばこにかかる税金です。 ◎製造者または輸入者が納税しますが、負担するのは消費者です。 紙巻たばこやパイプたばこなど、各種のたばこにかかる税金のことを「たばこ税・たばこ特別税」といいます。製造者または輸入者が納税しますが、価格に含まれているため、負担しているのは消費者です。たばこ税は国に納められる国税と、地方に納められる地方税に分けられます。 ※地方税分は、道府県たばこ税と市町村たばこ税の合計です。 ●関税 ◎輸入品にかかる税金です。 ◎原則として、輸入者が納税します。 外国から日本に品物を輸入しようとする場合、その輸入品にかかる税金のことを「関税」といい、原則として貨物の輸入者が納めます。 ●揮発油税・自動車税・自動車重量税など 自動車に関連する税金には、揮発油税(ガソリンにかかる税金)や、自動車税(自動車を持っている人にかかる税金、自動車重量税(自動車の重さに応じてかかる税金)などがあります。 <国を挙げての組織的高齢者虐待 ← そんな子はいらない> *3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231223&ng=DGKKZO77216930T21C23A2EA4000 (日経新聞 2023/12/23) 子育て重視 予算も税も、集中強化初年度は対策1兆円 児童手当など給付拡充 政府は22日、少子化対策の強化に向けた「こども未来戦略」を発表した。2026年度までに国・地方合わせて年3.6兆円の追加予算を投じ、児童手当や育児休業給付を拡充する。税制改正では子育て世帯の減税を盛った。巨額の支援策が出生増につながるかの検証も欠かせない。22日に官邸で開いた会議で決めた。歳出改革の道筋を示した改革工程と、子ども政策の基本方針となる「こども大綱」もまとめた。政府は24年度からの3年間で少子化対策に集中して取り組む。初年度は国と地方で1兆円の予算を計上した。対策の司令塔となる、こども家庭庁の24年度予算案は総額で前年度比9.8%増の5兆2832億円を充てた。目玉は児童手当の拡充だ。所得制限を撤廃して高校生まで支給期間を延ばす。第3子以降は月3万円に増額し、0~18歳まで受けられるようにする。24年10月分から始める。3人以上を育てる多子世帯の大学の授業料は25年度から無償化する。親の就労を問わず保育を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」は26年度から全国展開する。4~5歳児クラスの保育士の負担を軽減する。保育士1人がみる子どもの人数を国の基準より少ない25人にした場合に運営費を補助する。25年度からは両親ともに育児休業を取得すれば、28日間まで育休給付を手取りの実質10割に増額する。税制面でも子育て世帯に配慮する。ローンを組んで住宅を購入した際に所得税などの負担を減らす住宅ローン減税について、子育て世帯は24年も減税対象の借入限度額を現行の最大5000万円で維持する。生命保険料控除も広げる。課税対象となる所得から支払った保険料に応じて一定金額を除外する。現状では12年以降の契約の場合は所得税で最大4万円を控除しており、最大6万円に引き上げる。足元では急速に少子化が進む。23年の出生数は70万人台前半との試算もあり、過去最少を更新する見込みだ。婚姻数も増加に転じる兆しが見えない。岸田文雄首相は「若年人口が急減する30年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」と訴えてきた。24年度予算案では財源確保を待たず大規模な財政出動を決めたが、政策効果が不透明な施策も少なくない。児童手当の所得制限の撤廃を巡って経団連の十倉雅和会長は「納得感が少ない」と批判した。効果が十分検証されないままに給付を積み増す手法には、経済界を中心に異論が出ている。子どもの虐待対策など子育てとは直接結びつかない施策も盛り込まれた。今回の対策が出生増につながるかも不透明だ。京都大の柴田悠教授の試算によると、1人の女性が生涯に産む子どもの人数を示す「合計特殊出生率」の押し上げ効果は0.1ポイント程度にとどまるという。柴田氏は「若者の結婚や出産を阻む一因は長時間労働だ。是正のために労働基準法の改正やデジタル化など政策が介入できる余地は大きい」と指摘する。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231110&ng=DGKKZO76018640Z01C23A1EP0000 (日経新聞 2023.11.10) 少子化財源、全世代で負担、政府「支援金制度」具体化へ議論 後期高齢者も対象に 少子化対策の財源の一つとして政府が創設する「支援金制度(仮称)」の具体化に向けた議論が9日、始まった。医療保険の仕組みを通じ後期高齢者を含む全世代が支援金を拠出する。現役世代に負荷が偏る可能性もある。政府は2024年度からの3年間、少子化対策を集中的に進める。年3兆円台半ばの予算を確保し、児童手当の拡充や保育サービスの充実にあてる。予算の財源は(1)社会保障費の抑制(2)既存予算の活用(3)支援金――の3本柱で捻出する。28年度までの間に順次確保する予定で、確保できるまでの不足分はつなぎ国債の「こども特例公債(仮称)」で補う。政府は当初、1つの柱ごとに約1兆円ずつ賄う青写真を描いていた。ところが予算規模が3兆円から3兆円台半ばに急きょ膨らんだこともあり、年末までに詳細を詰めることになった。柱の一つになる支援金制度は、医療保険料に上乗せする仕組みになる見通し。会社員なら、収入に一定割合をかけた金額の拠出をする形が有力だ。公的医療保険の徴収ルートを使い、健康保険組合などが保険料に上乗せして国に代わって集める。こども家庭庁は9日、経団連や連合、健康保険組合連合会などから支援金制度に対する意見を聞いた。参加者からは「現役世代に負担が集中しないようにすることが重要だ」など全世代の負担する必要性を強調する意見が多く上がった。政府側は「負担増」のイメージ払拭に躍起になっている。同庁が会合で示した資料は「子育て世帯にとっては給付が拠出を大きく上回る」とメリットの大きさを強調したものだった。だが収入金額をもとに拠出金を算定するなら、相対的に収入が多い現役世代の負担は大きくなる。医療保険制度には、支援金の徴収対象となる加入者の裾野が広いという特徴がある。若年層から後期高齢者も含め幅広い世代が保険料を出す。基礎年金の場合は59歳で支払いが終わり、介護保険料は40歳からだ。それでも収入額に一定割合をかける仕組みにすれば、稼ぎが多い現役世代に負担が偏る。今でも現役世代は収入の約3割を社会保険料に充てている。さらなる負担に理解を求めるなら、使い道を透明にして負担を見通しやすくすることが前提だ。政府は使い道や支援金の充当割合などを法律で縛り、拠出にも上限かける方針だ。毎年度の拠出規模を決める時は、経済界などから意見も聞く。特別会計「こども金庫(仮称)」も新設し、支援金や育児休業給付向けの雇用保険料の動きを見えやすくする。政府は歳出改革で保険料の伸びを抑え、その範囲内で支援金を導入する。岸田文雄首相は「実質的な国民負担の増加にならない」と強調する。ただし保険料の伸びを抑えることは高齢者らが受ける医療・介護サービスの見直しにもつながる。少子化対策には、消費税収を一つの財源とすることが消費税法で定められているが政府は増税による財源捻出を否定してきた。消去法的に浮上した選択肢が保険料への上乗せだった。社会保険料は「第2の税」とも言われるが、消費税よりは引き上げの痛みを生活のなかで実感することは少なく増税ほど反発は起きない。経済界は9日の会合で表向き反対しなかったが「少子化対策と言われると正面から反対しにくい」(参加団体の幹部)というのが本音だ。支援金制度には「社会保険の流用だ」という専門家の批判がある。経団連は社会保障制度を維持するため、将来の消費税引き上げを「有力な選択肢の一つ」としている。セーフティーネットの社会保険より、社会全体で能力に応じ負担できる消費税を財源とすべきだとの声は根強くある。 *3-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231223&ng=DGKKZO77207710S3A221C2M10600 (日経新聞 2023.12.23) 教育 教員増員で働き方改革 2024年度の文教関係予算は前年度比1.0%増の4兆563億円とした。公立小中学校の教職員給与に充てる国の負担金を増額し、初任給を5.9%引き上げる。教員の長時間労働の是正に向けて働き方改革の推進に重点を置いた内容とした。いまは1人の教員が算数や理科などほぼすべての教科を担当している。この負担を軽くするために小学校高学年で教科ごとに担当する教員が異なる教科担任制を進める。必要な教員として24年度に全国で1900人増員するために40億円を計上した。24年度からは教員が授業準備や指導に集中できるよう、代わりに事務作業を担う「教員業務支援員」をすべての公立小中学校で配置する。2万8000人分の81億円を盛り込んだ。 *3-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231224&ng=DGKKZO77223430T21C23A2EA1000 (日経新聞社説 2023/12/24) この少子化対策で将来に希望が持てるか 政府は新たな少子化対策「こども未来戦略」を閣議決定した。少子化を日本が直面する「最大の危機」と位置付け、具体策である加速化プランは3.6兆円規模となる。若い世代が安心して結婚や出産の希望をかなえる一歩にしたいが、課題はなお多い。なによりまず、財源だ。政府は医療保険料のルートを使い、2028年度時点で年間1兆円を「こども・子育て支援金」として集める予定だ。再分配の効果を高めるには幅広い国民が負担能力に応じて協力する仕組みが要るが、支援金は応能負担の視点が弱い。高齢者にも負担を求める制度にしたのは良いが、総人口の15%超を占める75歳以上の負担分は7%程度にとどまる。所得だけでなく、資産の保有状況に応じて世帯の負担額を決める仕組みを導入するなどして現役世代の負担軽減につなげていくべきだ。政府は支援金制度がフル稼働する28年度までに歳出改革を徹底するとし、岸田文雄首相は「実質的な追加負担は生じさせない」と繰り返してきた。この方針を巡り、政府は23~24年度に実質的な社会保険負担の軽減効果が0.33兆円あるとした。だがこの算定には無理がある。政府は医療従事者らの賃上げで医療・介護費が増える分を、国民一般の賃上げ率の範囲内なら「負担」に含めないと説明している。そんなつじつま合わせではなく、医療費や介護費の抑制に直結する歳出改革に取り組むべきだ。これを欠けば現役世代の負担感はどんどん強まり、出産意欲にも響きかねない。対策の中身にも注文がある。新たなプランは児童手当の高校生までの延長や所得制限の撤廃、多子世帯の大学無償化などの経済的支援を多く盛り込み、開始時期も明記した。ただ少子化の大きな要因は未婚化だ。若い世代が自らの就労で経済基盤を安定させるための支援こそ急ぐべきだ。いったん非正規になるとなかなか抜け出せない硬直的な労働市場の改革や、正規・非正規の処遇格差の是正などが重要になる。これらの施策は、若い世代だけでなく幅広い世代に関わる。子育てに時間を割けない長時間労働の慣行や、女性に偏る家事・育児分担を変えていくことも同様だ。今の日本の社会のあり方自体が、少子化を招いている。そうした危機感を社会全体で共有したい。 *3-2-1:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231108-OYT1T50219/ (読売新聞 2023/11/9) 「異次元の少子化対策」、財源は医療保険料に上乗せ方針…子育て世帯以外は新たな負担 政府が「次元の異なる少子化対策」の財源確保のため新たに設ける、国民から広く支援金を集める制度の概要案が判明した。負担能力に応じて医療保険料に上乗せして徴収する方針を初めて明記した。こども家庭庁は、9日に「支援金制度(仮称)」の設計に向けた具体的な議論を始め、年末に結論を出す。政府は少子化対策の拡充のため、今後3年間で年3兆円台半ばの追加予算確保を目指している。「徹底した歳出改革」で財源を捻出し、足りない分を主に支援金制度で補う方針だ。支援金制度は、保険加入者が拠出する支援金を子育て世代への給付などに充てる仕組み。概要案は、子育て世帯は「給付が拠出を大きく上回る」とする一方、それ以外の人には「新たな拠出となる」と説明。過度な負担とならないよう、「拠出額は負担能力に応じた仕組みとする」とした。支援金は、医療保険の仕組みを活用して徴収・納付する方向で、健康保険組合などが実務を担う仕組みを検討する。支援金の使い道については、「妊娠・出産期から0~2歳の支援策にまず充当する」との案が盛り込まれた。政府が6月に決定した「こども未来戦略方針」では、支援金制度の詳細については先送りしていた。 *3-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRD56KFJRD5UTFL004.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2023年12月5日) 少子化対策の財源 医療・介護の「3割負担」拡大 「応能負担」鮮明 政権の掲げる「異次元の少子化対策」の財源確保策の一つ、社会保障の歳出改革に関して、政府は5日、2028年度までに実施を検討する具体的なメニューを盛り込んだ改革工程の素案を示した。医療・介護では、「現役並み」の所得がある高齢者について、窓口負担や利用料を「3割負担」とする対象の拡大を検討。支払い能力に応じた「応能負担」の仕組みを一層強化する。与党との調整を経て、年末までに閣議決定する方針。少子化対策は年3・5兆円の事業規模。既定予算の活用、医療保険料とあわせて徴収する支援金(仮称)に加え、改革工程での捻出で、政府は段階的に実施する充実策が出そろう28年度までに財源を確保する考え。それぞれ1兆円程度と見込む。改革工程は各項目の実施時期を①来年度②28年度まで③高齢者数がほぼピークとなる40年ごろまでの3段階に整理。その上で「働き方」「医療・介護」「地域共生社会」の三つの視点で素案を示した。28年度までの医療・介護の改革メニューには「応能負担」を色濃く反映。「給付のあり方」や「給付と負担のバランス」について「不断の見直しを図る」と明記した。医療の窓口負担は現在、70~74歳は原則2割、75歳以上は原則1割で、「現役並み所得」の人に限って3割負担。介護の利用料も「現役並み」の人が3割負担だ。素案では「現役並み」の判断基準の見直しについて「検討を行う」と明記。介護サービスは、医療に比べて長期間利用する影響も踏まえるとした。医療・介護保険の負担では、金融所得や資産も勘案するとした。把握や反映の仕方も検討する。医療の窓口負担額の上限を定めた「高額療養費制度」も、「応能負担」と賃金や物価の上昇状況などを考えて見直しを検討するとした。介護では、ケアプラン(介護サービスの計画)の有料化や、軽度者(要介護1、2)の生活援助サービスなどの市町村事業への移行について、自治体が介護計画を策定する時期にあわせ27年度までに「結論を出す」とした。ただ、改革工程には財源をどれだけ捻出できるのか示されず、検討メニューを挙げるにとどまった。高齢者の負担増は反発を招く可能性があり、岸田内閣の支持率が最低水準で推移する中、財源確保につなげられるかは見通せない。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75270590T11C23A0EA4000 (日経新聞 2023.10.14) 「財政健全化への強い思い」 土居丈朗・慶応大教授 土居丈朗・慶応大教授の話 経団連の提言は財政健全化への経済界の強い思いの表れといえる。社会保険料率は過去最高の水準にあり、企業の持続的な賃上げにも影響は少なくない。金融資産も含めた「経済力」に応じて負担を考えるべきだという視点も重要だが、政府・与党の議論は進んでいない。給付を増やして負担も増やすのか、給付自体を減らすのか、制約をなくした議論が必要だ。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20231223&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO77207430S3A221C2M10600&ng=DGKKZO77207750S3A221C2M10600&ue=DM10600 (日経新聞 2023/12/23) 年金 2年連続で給付抑制 2024年度の公的年金の支給額改定で給付を抑制する「マクロ経済スライド」が2年連続で発動される前提で予算編成した。年金額自体は上がるものの物価上昇の伸びほどの増額にならないため実質的に目減りする。24年度の改定率は厚生労働省が24年1月に公表する。4~5月分をまとめて支給する6月の受け取り分から適用する。マクロ経済スライドは年金財政の安定化のために導入されたが物価の下落局面では発動しない仕組みだ。そのため長引いたデフレ下では十分に給付を抑制できず、この20年ほどは年金を「払いすぎる」状態だった。払いすぎた年金は将来世代の給付を抑えて帳尻を合わせざるを得ない。こうした調整は23年度に終わる予定だったが現状では基礎年金で46年度まで抑制が続く見込みだ。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75270540T11C23A0EA4000 (日経新聞 2023.10.14) 医療・介護負担「公平・応分に」、経団連、消費増税を念頭 全世代型の改革を提言 経団連が医療や介護、年金など社会保障制度の改革への働きかけを強めている。13日に発表した提言では、2025年度までに制度や財源を抜本的に見直すよう求めた。高齢化に伴う保険料の引き上げで現役世代や企業の負担は増している。経団連は制度の持続性を高めるには、消費増税による財源の確保が避けられないと見る。2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者になり、国の医療費が膨らむと予想されている。医療や介護を支える負担が現役世代や企業にかたよれば、投資や賃上げの壁になりかねない。経団連は「消費増税」の必要性を強調している。9月に出した24年度税制改正への提言で、全世代の国民が負担する消費税が公平で安定的と指摘し、社会保障財源として「引き上げは有力な選択肢」と踏み込んだ。十倉雅和会長も「消費税の議論から逃げるべきではない」と訴える。国民の負担となる増税にあたっては給付の見直しも欠かせない。「中長期視点での全世代型社会保障の議論を求める」と題した13日の提言では「税も含めた中長期の全世代型社会保障改革のグランドデザイン」を25年度に描くよう政府に求めた。具体的には24年度の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の議論が本格化するまでに社会保障の将来見通しを明らかにすべきだとした。骨太の方針は例年、5月の大型連休後に政府内での調整が本格的に進む。経団連が訴えるのは「公平」かつ「能力に応じた負担」だ。高齢者医療を支えるための現役世代からの拠出は増え続けている。大企業の従業員らが加入する健康保険組合からの拠出金は後期高齢者医療制度が発足した08年度にはおよそ2.7兆円だったが、22年度は3.4兆円に膨らんだ。健康保険組合連合会は26年度に4兆円を超えると見込む。1人あたりの年間の保険料負担は08年度の38.6万円から22年度は51.1万円まで増えた。13日の提言では富裕層や高齢者の金融資産に言及した。マイナンバーの活用などを通じて個々人の経済力を把握し、資産の保有状況に応じた課税のほか社会保険料や自己負担の引き上げについても検討すべきだとした。日本の家計における純金融資産は約1600兆円で、保有額1億円以上の富裕層が全体の約22%を保有する。十倉氏は9月に都内での講演で「応能負担という観点からは資産に着目した負担のあり方も考えていくべきだ」と発言した。財政の健全化や社会保障制度の見直しを求める声は広がっている。民間有識者でつくる令和国民会議(令和臨調)は6日、国家の財政運営を監視する独立機関の設置を国会などに求める提言を発表した。財政収支や税・保険料の国民負担について長期予測を立て、歳出の余力などを評価する仕組みづくりを目指す。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「社会保障制度を支えるための中長期的な安定財源として、消費税の引き上げが適切ではある」と指摘する。負担増の議論を避けず、効率的な給付も含めた社会保障制度の見直しについて国民的な議論が必要と指摘する。 *3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15824389.html (朝日新聞 2023年12月24日) 所得420万円以上、介護保険料増へ 65歳以上、低所得者は減 厚労省 65歳以上の介護保険料について、厚生労働省は2024年度から年間合計所得が420万円以上の高所得者は引き上げる方針を決めた。住民税非課税世帯などの低所得者は引き下げる。22日に開いた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で明らかにした。65歳以上の保険料は、国が示した基準を参考に市町村が決める。国は所得に応じて基準額を9段階に分けている。現在の最も高い所得区分は、年間合計所得が「320万円以上」。ここに新たに「420万円以上」「520万円以上」「620万円以上」「720万円以上」の4段階を設けて、計13段階とする。今の保険料の基準額の全国平均は月6014円(21~23年度)。9段階の最も高い所得区分で基準額の1・7倍だったが、新たに設ける10~13段階は1・9~2・4倍に引き上げる。これら引き上げの対象となる被保険者は計約145万人。また、世帯全員が住民税非課税となっている第1~3段階では保険料を引き下げる。最も低い第1段階では基準額の0・3倍から0・285倍に、第2段階では0・5倍から0・485倍、第3段階では0・7倍から0・685倍にする。計約1323万人が対象となる。所得再分配機能を強めることで、これまで低所得者の負担軽減に投じてきた公費382億円分(国と地方で折半)を浮かせ、介護職員の処遇改善などに回す。一方、介護保険の利用料を2割負担する人の対象の拡大は見送り、「27年度の前」までに結論を得るとした。金融資産の保有状況の反映や、1~2割の間に細かく負担区分を設けることも検討する。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231216&ng=DGKKZO77019730W3A211C2MM8000 (日経新聞 2023.12.16) 診療報酬本体0.88%上げ 来年度改定、負担抑制進まず、全体では小幅減 政府は2024年度の診療報酬の改定で、医療従事者の人件費などに回る「本体」部分の改定率を0.88%とする最終調整に入った。医療現場の賃上げにつなげるためにプラス改定とする。薬剤費など「薬価」部分は1%近く引き下げ、全体の改定率をわずかにマイナスにする。本体のプラス改定により、薬価の引き下げに伴う保険料や医療にかかる税金の軽減効果は打ち消される。国民負担の抑制が進まず、医療分野の歳出改革が不十分になる恐れはある。22年度の改定率は本体でプラス0.43%、薬価はマイナス1.37%だった。本体について今回は前回を大幅に上回る改定率とした。改定率は24年度の予算編成の焦点だった。12月下旬までに武見敬三厚生労働相と鈴木俊一財務相による閣僚折衝で正式に決める。両氏は15日、首相官邸で岸田文雄首相と協議した。診療報酬は病院や診療所が公的医療の対価として受け取る収入にあたり医療費の総額を示す。診察料や入院料など医療の技術料にあたる本体と薬価に分かれる。2年に1度改定する。厚労省と日本医師会などは他の産業がおよそ30年ぶりとなる高い水準で賃上げしたのを受け、足並みをそろえられるよう本体部分の大幅な増額を求めていた。財務省は診療所の利益率は高く、マイナス改定しても賃上げできると主張していた。本体改定率0.88%のうち、薬剤師や看護師、看護助手などの賃上げ分で0.61%、入院患者の食費の引き上げに0.06%をあてる。賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度になる見通しだ。医療費は5割が保険料、4割が税金、1割が患者の支払う窓口負担で成り立つ国民の負担そのものだ。23年度の予算ベースの医療費は48兆円で、高齢化などにより医療費は自然に増える。24年度の診療報酬全体の改定率が0%でも医療費は8800億円増える見込みだ。このうち保険料で4400億円、患者が医療機関で支払う金額は1100億円増える。0.1%程度のマイナス改定では医療費を500億円ほど抑制する効果しかない。政府は24年度に同時改定する介護報酬の改定率もプラスにする見通しだ。人材流出に歯止めがかからない介護現場の賃上げを後押しする。診療報酬を全体でマイナス改定しても、介護報酬などの増額分を含めると社会保険料の負担は増える可能性はある。医療分野の歳出改革が進まなければ、政府が28年度までに年3.6兆円規模を追加で確保するとしている少子化対策の財源にも響きかねない。財源の原資には医療や介護の歳出改革で捻出した税金や、医療保険料に上乗せして国民や企業から広く徴収する支援金を充てる。支援金は26年度から始め、歳出改革や賃上げで保険料負担を軽減した範囲内で導入することになっている。首相は「実質的な追加負担を求めない」と表明している。診療報酬本体を前回を上回るプラス改定にしたことで、薬価のマイナス改定による保険料の負担軽減効果は小さくなる。「追加負担を求めない」とする首相の方針もおぼつかなくなる。診療報酬本体の改定率を巡っては厚労省と財務省が0%程度~1%超の範囲で具体的な水準を探っていた。調整は難航し、首相に判断を委ねた。 *3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231217&ng=DGKKZO77028990X11C23A2MM8000 (日経新聞 2023.12.17) 介護報酬1.59%上げ 来年度改定、賃上げへ ロボ活用で加算 政府は介護サービスの公定価格である介護報酬を2024年度から1.59%引き上げる方向で最終調整に入った。定期改定では3回連続の増額で、プラス幅は09年度に次ぐ高い水準だ。他産業と比べて低い賃金水準や、物価高などによる事業者の経営悪化を考慮し、増額が必要だと判断した。鈴木俊一財務相と武見敬三厚生労働相が近く折衝し正式に決める。介護報酬は3年に1度見直す。前回の21年度改定は0.7%の引き上げだった。今回の1.59%のうち介護職員らの賃上げ分に0.98%をあてる。1.59%の増額とは別に、賃上げした事業者向けの加算の仕組みの変更に伴う追加費用や、光熱費の高騰対策で0.45%分を追加する予定だ。結果として、全体では実質2.04%相当の増額になるとみられている。政府は今回の改定でロボットでの巡回やセンサーでの見守りなどを導入する施設に報酬を加算する仕組みも新設する。20日に開くデジタル行財政改革会議で方針を決める。人手不足の解消に向け、デジタル化に関する数値目標も新たに設ける。IT(情報技術)やロボットを活用する事業者の割合は29%にとどまるが、26年に50%、29年に90%に高める目標を示す。介護報酬の財源は利用者が払う原則1割の自己負担を除き、40歳以上の個人と企業が拠出する保険料と、税金で半分ずつをまかなう。国の予算ベースの介護費用は23年度に13.8兆円で、1.59%増えると2200億円弱の費用増になる。大幅な増額となった背景には介護事業者の厳しい経営状況がある。厚労省の調査では介護サービスの22年度の利益率は平均2.4%で前の年度から0.4ポイント低下した。特別養護老人ホーム(特養)は初めて赤字に転じた。24年度は6年に1度の診療報酬との同時改定となっている。これまでは医療従事者の人件費に回る診療報酬の本体部分の改定率が介護報酬を下回ることはなかった。診療報酬本体の改定率は0.88%の増額となる方向で、同時改定では初めて介護が上回る。障害者への福祉サービスを手掛ける事業者に関する「障害福祉サービス等報酬」は1.12%引き上げる。 <1月1日の地震と1月2日の航空機事故> PS(2024年1月4日追加):2024年1月1日16時10分頃、スマホが「地震です!地震です!今すぐ避難して下さい!」と叫んだのでTVをつけたら、*4-1-1・*4-1-2の能登地震が発生していた。地震の現場は志賀原発・柏崎刈羽原発の近くで、日本海側でも大地震が起こり、津波も来て、地震に伴う大火災が発生することもあることを再認識した次第だ。しかし、日本海側は大地震への準備が薄いらしく、耐震化の進んでいない鉄筋コンクリオートの建物がごろっと倒れていたり、狭い範囲に木造の古い建物がぎっしり並んでいたりして災害を大きくしたようだ。今回は、原発事故に繋がらなかったのが不幸中の幸いだったが、原発建設時に断層の有無などは調査しておらず、「新しい断層はできない」という保証も全くないため、日本海側も原発立地の適地ではないと思われた。 そのような中、*4-2-1・*4-2-2のように、1月2日17時50分頃には、羽田空港の滑走路で、新千歳空港を出発して羽田空港に着陸しようとしていたJAL516便と、能登半島地震救援のため羽田空港から新潟航空基地に向かおうとしていた海上保安庁の航空機が衝突し、双方が炎上する事故があって、これにも驚かされた。脱出用シューターを使うなどしてJAL516便の乗客・乗員が全員脱出できたのは良かったが、海保機は羽田航空基地所属だったそうで、今の時代、混雑する羽田空港ではなく、厚木航空基地の所属にした方が良いと思われた。 ![]() 2024.1.2Whether News 2024.1.3日経新聞 2024.1.4毎日新聞 (図の説明:左図のように、今回の能登地震は震央が広い範囲に分布しているため、かなり広い範囲で地面の歪みが修正されたらしいことがわかる。また、中央の図のように、長い断層も多くできている。さらに、基礎を深く打ち込んでいないらしく、右図のように、鉄筋コンクリートの建物がコロッとひっくり返っているのが印象的だ) *4-1-1: https://digital.asahi.com/articles/DA3S15830697.html?iref=pc_shimenDigest_national2_01 (朝日新聞 2024年1月4日) 国道寸断、迫る72時間 通信も途絶、捜索難航 能登地震 能登半島を最大震度7の地震が襲って2日がたち、被災者の生存率が落ち込むと言われる「発生後72時間」が迫る。救出要請が相次ぐなか、細長い半島の先端という地理的な特性や交通網の寸断が壁となり、捜索は難航している。 ■輪島市長「水・食料、全然足りない」 「地震発生から42時間が近づいている。人命優先。市民の皆さんの命を救いたい」。3日午前9時半に、石川県の災害対策本部が開いた会議。オンラインで参加した珠洲市の泉谷満寿裕(ますひろ)市長は、画面越しにこう訴えた。画面には、各地から届く物資を集約する県や、幹線道路の復旧を担う国土交通省、人命救助にあたる消防や自衛隊の幹部ら。泉谷市長は「救助要請に対応できていないところが72件ある。まだまだ倒壊した家屋に閉じ込められている方が多くいると思う」と説明した。「能登半島の大動脈」と言われる国道249号が寸断され、通信が途絶し、被害を把握する自治体の動きも阻まれた。輪島市では、3日午後の時点でも行方不明者の人数が「不明」、住宅の損壊戸数は「多数」のまま。坂口茂市長は3日夕、「いまだ225件の救援要請がある」と明かした。「建物の下にいるから助け出して欲しい」「孤立している」などといった内容の要請が寄せられているという。自身も発生時から、自宅近くの町野支所での避難生活を余儀なくされた。3日になって陸自ヘリで移動し、約17キロ離れた市の本庁舎に入り、第6回となる会議に初めてオンラインで加わった。会議では、自らの避難経験も踏まえて「水や食料が全然足りていない」「電気がなくて暖をとれない」と窮状を伝えた。ほかの被災自治体からも「仮設トイレが限界」「携帯電話がつながらない」と、支援を求める声が次々に上がった。 ■「被害把握に困難」政府、態勢を強化 岸田文雄首相は3日午前、首相官邸で記者団に「被災者の救命救助は時間との闘いであり、まさに今、正念場であると感じている。倒壊した建物の下で救助を待っている方がまだ多数いると報告を受けている。人命第一で救急、救助に全力を尽くしている」と述べた。この日、現地で救命救助などにあたる自衛隊の人員を倍増させた。被災自治体からの要請を受け、救助犬も急きょ2倍以上に増やした。能登半島という地理的特性などから、政府も被害の全容を把握し切れていないのが現状だ。能登地方を震源とする強い地震が発生したのは1日午後4時10分で直後に日没を迎えた。首相は3日の会見で「日没後、夜間における活動があり、実態把握においてさまざまな障害があった」と語った。地震によって山間部などで道路が寸断。携帯電話の通信障害も起きた。林芳正官房長官は3日の会見で「通信障害などで、被害の把握に困難があった」と語った。能登半島最北部は一人暮らしの高齢者も多く、ある官邸幹部は「連絡が取りづらく、小集落の把握が難しい」と語る。 ■自衛隊、隊員を倍増 自衛隊は3日から被災地で活動する隊員を約2千人に倍増させた。3日朝の時点で、救助が必要な被災者は輪島市に70人、珠洲(すず)市に60人いると把握しており、救助犬も投入。この日午後1時までに珠洲市で少なくとも3人を消防隊員とともに救助するなどした。防衛省幹部は「今はとにかく人命救助が優先」と話す。自衛隊は1日夕の地震発生直後、日本海上空に航空機を飛ばして情報収集。航空自衛隊輪島分屯基地(輪島市)には住民約1千人が避難したため、埼玉県内の基地から水や食料、毛布をヘリで届けた。道路が至るところで寸断され、倒壊家屋に取り残された人の救出に必要な重機を運び込めず捜索は難航。通信状況が悪く、被災状況を把握するのもままならなかった。そんな中、輪島分屯基地の隊員約40人は、倒壊したビルや家屋に入って手探りで4人を救出した。能登半島を南北に走る県道1号の土砂を取り除き、3日未明に最大積載量4トンまでの車が通行可に。この日は海上自衛隊の艦艇が救援物資を運ぶために輪島港に入ったほか、エアクッション型揚陸艇「LCAC(エルキャック)」による砂浜からの重機搬入も4日朝に始める。国土交通省によると、石川県を中心に3日昼時点で国道や県道の85区間が通行止めだ。高速では解消が進む一方、亀裂や陥没、土砂崩れなどが判明し、前日夕時点の33区間から急増した。ただ、被害が特に大きい輪島市や珠洲市の道路状況は大半が不明のままだという。能登半島には幹線道路が少なく、幅員の狭い道路が毛細血管のように張り巡らされている。急峻(きゅうしゅん)な地形で、落石や土砂崩れのリスクがあり、容易に復旧作業を進められないのが現状だ。 ■72時間過ぎると――脱水・低体温…生存率が低下 山口芳裕・杏林大教授(救急医学)の話 寒冷地での災害で、少しでも早く救出しないと命の危険が増してしまう。72時間を過ぎると生存率が下がる理由は、閉じ込められた被災者は水分摂取が難しく脱水状態になること、低体温になること、暗闇のなか精神的に大きなストレスがかかることが挙げられる。阪神大震災では、救出された人の生存率が初日は75%、2日目は24%、3日目は15%、4日目は5%だったというデータがあり、「72時間」の根拠となっている。ただ、一律に72時間が適用されるわけではなく、捜索の努力は続けるべきだ。これから救出する場合、長時間の強い圧迫で腎不全などに至る「クラッシュ症候群」を念頭に置かないといけない。救出前に点滴を始めて、心停止が起きても自動体外式除細動器(AED)がすぐ使える態勢が必要だ。 *4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240104&ng=DGKKZO77409950T00C24A1PE8000 (日経新聞 2024.1.4) 木造密集地に火災リスク 輪島で200棟延焼、能登半島地震 東京は23区面積の1割強 1日に発生した能登半島地震で、石川県輪島市で約200棟が燃える火災が起きた。現場は狭い範囲に木造の古い建物が並び、地震で大規模火災を引き起こしやすい木造住宅密集地(木密)だった。同様の地域は全国に点在し、東京都内にも8600ヘクタールと23区の1割強に相当する面積が残る。緊急車両が通れる道の確保や建て替え促進などリスク解消策は急務だ。地震発生後、輪島市中心部の「朝市通り」周辺で出火。2日午前にほぼ消し止められるまで約200棟に延焼した。現場は狭いエリアに店舗や家屋が集中。都市防災に詳しい東京大の広井悠教授は火災が広がった要因について「古い木造の建物が密集し、延焼しやすかった」とみる。木密を襲う火災は過去にもあった。1923年の関東大震災で、現在の東京23区の中心部にあたる旧東京市全体の4割強が焼失した。国土交通省は大規模な延焼の危険性や避難の難しさを踏まえ、全国の「地震時等に著しく危険な密集市街地」を集計。2022年度末時点の対象地域は12都府県で計1875ヘクタールに及ぶ。石川県内に該当地域はなかったが、国の定義に該当しなくても古い住宅の密集地は各地に点在し、木密の火災リスクが改めて浮き彫りになった。都は12年、木密解消に向けプロジェクトに着手。鉄筋コンクリートの建物や、延焼を防止する一定の広さがある公園などが占める比率(不燃領域率)を指標とし、同地域が60%未満など高リスクのエリアを木密と定義。広い道路の整備や、建て替えを促す支援を進めてきた。国の集計とは対象地域の定義が違うため面積は異なるが、20年時点の都内の木密は8600ヘクタール。10年時点からほぼ半減したものの、23区面積の14%にあたる地域が残る。広井教授は電気の復旧時に起きる火災を防ぐ「感震ブレーカー」普及など様々な対策の重要性を指摘。「文化的な背景から木造建物を残す地域もあり、それぞれの地域に合った取り組みを進める必要がある」と話す。 *4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15829803.html (朝日新聞 2024年1月3日) 日航機炎上、海保機と衝突 乗員乗客、全379人脱出 海保5人死亡 羽田空港 2日午後5時50分ごろ、東京都大田区の羽田空港C滑走路で、着陸しようとした日本航空(JAL)の516便と、滑走路上にいた海上保安庁の航空機が衝突し、双方が炎上した。警視庁や東京消防庁によると、海保機の5人が死亡、1人が重傷を負い、JAL機の乗客・乗員のうち14人が負傷した。海保機は能登半島地震の救援のため、新潟航空基地に向かおうとしていたという。国の運輸安全委員会は2日夜、航空事故と認定し、調査を始めたと発表した。警視庁は3日、東京空港署に特別捜査本部を設置し、業務上過失致死傷容疑を視野に捜査する。国土交通省によると、JAL機が南側から着陸しようとした際、滑走路上にいた海保機に衝突。その後、滑走路北側まで進み、炎上した。海保機は誘導路から滑走路に進入した可能性があるという。JALは2日夜に会見し、滑走路への着陸許可について「出ていたと認識している」と説明した。JALや東京消防庁によると、516便の乗客は乳幼児8人含めた367人、乗員は12人。この計379人は全員、脱出用シューターを使うなどして脱出した。このうち14人が気道熱傷や打撲などで負傷したが、命に別条はないという。海保機には男性6人が搭乗しており、5人が死亡。機長はやけどを負って重傷だが、搬送時に意識はあったという。3日午前0時現在、JAL機の消火活動は続いており、滑走路は使用できなくなっている。海保機は2日午後8時半に鎮火した。JALや国交省によると、516便(エアバスA350)は2日午後4時15分に新千歳空港を出発し、約1時間半後に羽田空港に着陸しようとしたところだった。海保機は羽田航空基地所属のボンバルディア社製で長さ25・68メートル、幅27・43メートル、高さ7・49メートル。 *4-2-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20240104-OYT1T50105/?ref=webpush (読売新聞 2024/1/4) 羽田管制官「滑走路進入に気付かなかった」…衝突2分前に海保機が「停止位置に走行」復唱 東京・羽田空港のC滑走路上で日本航空と海上保安庁の航空機が衝突した死傷事故で、C滑走路担当の空港管制官らが国土交通省の聞き取りに「海保機の進入に気付かなかった」と説明していることがわかった。管制塔の交信記録にも、海保機に滑走路手前の停止位置への走行を指示してから衝突までの2分間に異常をうかがわせるやり取りはなかった。国交省は当時の詳しい経緯を調べる。羽田空港には4本の滑走路があり、運用中の滑走路1本ごとに管制官2人が担当。うち1人は駐機場から誘導路への移動を担う。補佐役の管制官などもおり、管制塔全体で通常15人程度の体制を取っている。国交省関係者によると、当時管制塔内にいた管制官への聞き取りでは、担当管制官らは海保機が指示と異なる動きをしていることに気付かなかったという。3日に公表された交信記録では、滑走路の担当管制官は日航機と着陸を許可するやり取りをした直後の2日午後5時45分11秒、海保機に誘導路上の停止位置への走行を指示し、海保機側が復唱した。その後、同47分30秒頃に事故が起きるまでの約2分間は、別の民間機2機とのやり取りが行われ、日航機や海保機との交信はなかった。国交省は管制塔内でのやり取りも詳しく調べる。一方、運輸安全委員会は4日午前、日航機の乗務員への聞き取り調査を始めた。男性機長(50)らパイロット3人は社内調査に「海保機を視認できなかった」と説明。航空事故調査官は、事故当時の状況や認識に加え、コックピット内などでのやり取りも確認する。警視庁は4日午前、滑走路上で現場検証を再開した。既に海保機の機長から任意で事情を聞いており、日航機の乗客への聞き取りも進めている。
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2023,10,09, Monday
(1)ふるさと納税について
![]() ![]() (図の説明:左図のように、ふるさと納税額は「ワンストップ特例」の導入や税控除額の引き上げで、2015年以降、急速に増えた。また、中央の図のように、1人あたり実質収支が1万円以上の市町村は農水産業が盛んで人口密度の低い過疎地に集中し、まさにふるさと納税の役割を果たしている。その理由は、ふるさとの納税の返礼品である農水産物が豊富だからで、農水産業は収入が不安定で税をとりにくく、必需品であるにもかかわらず自給率が低迷しているため、真のニーズを発掘して農水産業や食品業の振興に貢献してきたことは大きな成果だと言える) 1)頑張った自治体にエールを送りたい *1-1-1は、①2022年度のふるさと納税額は9,654億円で3年連続過去最高更新 ②「稼ぎ頭」は人口約400人の和歌山県北山村(住民1人当たり収支122万2,838円)で、返礼品の翌日発送をする ③村は小学校に英語圏の教員を招くなど英語教育を重視し、中学生を海外への語学研修に送り出し、渡航・2週間の滞在費用に寄付を充てる ④2位は北海道東部の太平洋に面する白糠町(104万9194円)で、主力1次産品をふるさと納税の獲得に生かし、町税は10億円足らずだが、イクラ等の返礼品人気から2022年度の寄付額は150億円 ⑤2022年に開校した小中一貫の義務教育学校「白糠学園」の整備に寄付を用い、保育料や18歳までの医療費・給食費無償化、出産祝い金など手厚い ⑥人口1人当たり1万円以上黒字だった自治体は449で、その9割が人口5万人以下 ⑦都道府県全体では佐賀県(2万4549円)が黒字最大 ⑧佐賀県では上峰町(61万5,228円)が突出し、危機的だった町の財政は4月から高校生までの医療費を完全無料化できるほど改善、幅広い公共サービス提供が可能となった ⑨2022年度に最も寄付額を集めたのは宮崎県都城市195億円で、返礼品次第で寄付格差が広がる としている。 日本は、都市部に製造業・サービス業の集中投資をしてきたため、地方は企業規模が小さく、農林漁業が中心で、高齢化・過疎化が進みがちである。また、i)製造業・サービス業に従事するサラリーマンは所得が安定しており、所得税・住民税を徴収しやすい ii)高齢等で無職になると、所得税はかからず、住民税も小さい iii)企業の法人税・住民税・事業税は本社・工場のある場所で、その規模に応じて支払う という仕組みになっている。 そのため、②③の和歌山県北山村の徹底した英語教育に寄付額を充てたり、④⑤の北海道白糠町の小中一貫義務教育学校の整備や保育料・18歳までの医療費・給食費無償化に寄付額を充てたり、⑧の佐賀県上峰町のように危機的だった町財政を高校生まで医療費完全無料化できるほど改善して幅広い公共サービス提供も可能になったというのは、大都市には前からあったサービスを、地方はふるさと納税制度による寄付金を使ってやっと行えたということなのである。 従って、国民が地元農水産物の返礼品や政策によって住民税の支払先を決めることができるふるさと納税額が、①のように3年連続で過去最高を更新し、⑥のように、人口1人当たり1万円以上黒字だった自治体の9割が人口5万人以下だったのは大変良いことだと、私は思う。 また、⑨の宮崎県都城市はいつも寄付額が上位なので感心していたのだが、製造業・サービス業が少なく農水産業で日本の食糧自給率に貢献している地方が、優れた農水産物の返礼品で寄付を集めたのは、システム的に生じた大きな格差を少し埋め合わせたにすぎない。にもかかわらず、これを「寄付格差が広がる」などと言って批判するのは、頑張って地場産品を磨いた自治体に対し、悪平等主義を振りかざして嫉妬を煽る的外れの行為であり、その根源には「教育」という重要な問題があるのである。 つまり、後で詳しく書くが、*2-1のように同じ場所でオリンピックを開いて兆円単位の経費を国や都から支出した東京都、*2-2のように同じ場所で万博を開いて作っては壊すだけのパンビリオンの建設費等が約2,300円程度まで上ぶれすると国に援助を求めている大阪府など、無駄遣いの限りを尽くしながら必要なことをしていない大都市が言える苦情は全くない筈だ。 また、*1-2-1は、⑩佐賀県と県内20市町の2022年度のふるさと納税寄付総額は前年度比18.97%増の416億4,278万円で全国5位 ⑪市町別最多は上峰町の108億7,398万円で全国6位 ⑫県内市町で寄付額が多いのは上峰町108億7,398万円、唐津市53億9,861万円、伊万里市29億2,554万円、嬉野市28億4,415万円、みやき町22億3,625万円で10億円を超えたのは7市7町 ⑬ふるさと納税の収支は県内20市町いずれも黒字 ⑭総務省は2019年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けた としている。 農林漁業の盛んな佐賀県は、ふるさと納税制度導入当初から県を挙げて頑張ってきたので、⑩⑪⑫⑬は、結果が出て本当によかったと思うし、これからも産品を磨いてもらいたいと思う。 しかし、総務省は、⑭のように、2019年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けたそうで、地場産品に限るのは良いとしても、その地域が力を入れたい(or急遽売りさばきたい)産物の返礼品にも杓子定規に3割基準を当てはめたり、輸送コストが上がってますます不利になっている遠方の自治体に5割基準を当てはめたりするのは、むしろやりにくさを増すのではないかと危惧している。 2)寄付総額の抑制は必要か 佐賀新聞が論説で、*1-2-2のように、①2022年度に全国の地方自治体が受け入れたふるさと納税総額は1兆円近くに膨らみ ②生活防衛策として返礼品に期待する人も多く増加傾向が続き ③10月から制度が微修正されたが「生まれ育ったふるさとに貢献」という導入の目的からかけ離れたままで抜本的見直しを求めたい ④寄付としながら「官製通販」と批判されるのも頷ける ⑤ふるさと納税は地域経済の活性化に一役買った面があり、返礼品を扱う地元企業は商品開発に力を入れ、売り上げが伸びた ⑥子育て支援等の課題解決に寄付を集め、対策予算を増やすこともできた ⑦空き家となった実家や墓のある自治体に寄付して管理や掃除を業者に依頼できるケースもある ⑧首長、自治体がやる気を出して新しい政策をつくる素地を育てた ⑨人気が出る返礼品を開発しようと営業戦略の専門家を職員に採用する自治体も出た ⑩都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付して税収が移るゼロサムゲームになっている ⑪寄付で潤う自治体が固定化され、公平性が気になる ⑫寄付総額の約半分は返礼品の会社や仲介サイトの運営企業等の収入になる ⑬それは行政が使っていた筈の税収で、住民サービスの低下に繋がる恐れ ⑭政府は東京一極集中是正を目標に掲げた「地方創生」を2014年に打ち出し、その目標は今も堅持しているが、それでも人口集中が続き、税収が都市に集まる構図は変わらない ⑮国土の均衡ある発展による税収平準化は難しい ⑯自治体の税収格差を是正するには、ふるさと納税ではなく、都市部と地方が意見を交わしながら、納得できる是正策を探ることを提案したい ⑰現行制度は高所得者ほど多く寄付ができ、節税効果が大きく、富裕層は例えば「最大20万円」と定額の上限を設定することは可能ではないか ⑱ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか議論し、個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべき としている。 この記事は共同通信により配信されたものだが、佐賀新聞が論説に記載している以上、文責は佐賀新聞にあり、1)のように、佐賀県の首長はじめ自治体の行政が頑張っているのに反する。 また、①⑬については、都市が「税収減で住民サービス低下に繋がる」などと苦情を言うのは、⑭のように、「国が都市に集中投資してきたため生産年齢人口は都市に集まったが、都市は無駄遣いが多くやるべきことをやらなかったのだ」という事実を無視した上、⑪のように、ふるさと納税で頑張った自治体が寄付で潤うことを不公平としている点で、教育に問題がある。 さらに、ふるさと納税で返礼品があり、自治体がそれを育てている以上、②のように、寄付者が返礼品を生活防衛策に当てるのは自由であり、③の生まれ育ったふるさとは、日本であったり、自分の出身地であったり、配偶者の出身地であったりしても良い筈だ。さらに、少なくとも使い道を選んで寄付できるため、膨大な無駄遣いをされるよりはずっと良いのである。 また、④のように、「官製通販」になったおかげで、自治体職員が自分の地域の宝物を発見して金に変えるという発想を持てるようになり、⑧のように、首長や自治体の職員がやる気を出して、⑤のように、地域活性化に一役買ったのである。これは、⑯のように、都市部と地方が意見を交わしても決してできないことなのだ。 また、政策を選んで寄付できたことにより、⑥⑦などの真に求められる財・サービスが開発されたのであり、⑨のように、営業戦略の専門家を職員に採用して人気の出る返礼品を開発しようとする自治体が出たことも、今後の地域活性化に役立つと思われる。 それで、何がいけないのかと言えば、⑩の「都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付して税収が移るゼロサムゲームになっていること」だそうだが、これについての回答は、1)で述べたとおりだ。また、⑪のように、「寄付で潤う自治体が固定化されたから不公平」というのは、「頑張っている自治体がいつも成功しているから不公平だ」と言うのと同じで、悪平等主義を作った根深い教育の問題である。さらに、⑫については、それをもったいないと思えば寄付を受ける自治体自身が職員を増やすなどして行えばよいため、選択の自由があるわけだ。 そのため、⑮⑯のように「国土の均衡ある発展による税収平準化は難しい」「自治体の税収格差是正には、都市部と地方が意見を交わしながら納得できる是正策を探ることを提案したい」というのは、ふるさと納税制度の導入前と同じく、公平にならない上に無駄ばかり生むと考える。 また、⑰の「高所得者ほど多く寄付ができて節税効果が大きいのは問題なので、富裕層は最大20万円のような上限を設定すべき」や⑱の「ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか議論して個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべき」というのは、高所得者は努力して自分に投資し、所得を増やして多く納税している人であることを忘れた成功者叩きであり、これでは国の発展がおぼつかないため、やはり根深い教育の問題と言える。 3)ふるさと納税反対派の悪平等主義に基づく「歪み」論 *1-1-2は、①ふるさと納税が1兆円に近づき、自治体間格差が広がって税収が流出する都市部の不満が膨らむ ②都市部に税収が偏っているとして、地方が求める地方法人課税の偏在是正にも影響するかもしれない ③歪みを正すため、ふるさと納税の拡大に一定の歯止めを考える時期だ ④住民税の税収は13兆円で寄付額は3兆数千億円まで膨らむ余地がある ⑤賃上げで税収増が続けば寄付額はさらに拡大する可能性 ⑥都道府県と市区町村1788自治体のうち10億円以上集めたのは226自治体で合計6,179億円であり、13%の自治体で全体の2/3の額を集めた ⑦上位の顔ぶれは海産物や肉類などの産地に固定化 ⑧ふるさと納税は返礼品の需要が地場産品の振興を支え、知名度の乏しい産地が消費者に知ってもらう意味は大きかったが、制度開始から15年経ってその役割は果たしつつある ⑨高まった知名度を企業誘致や移住に生かし、ふるさと納税に頼らず、税収を増やす道も探ってほしい ⑩ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、メリットも大きいことに批判がある ⑪規模拡大に歯止めをかけるために考えたいのが、都市部に多い高所得層の利用額への上限 としている。 このうち①②③④⑤は、これまで国からの集中投資を受け、日本全国の生産年齢人口を吸収しながら無駄遣いばかりしてやるべきことを怠り、食料もエネルギーも他の地域に依存している大都市が言うべきことではなく、無駄遣いを止めて生産性の高い支出に切り替えればよいのだ。 また、⑥⑦については、「農水産物を生産している、高齢化した過疎地が、よく頑張った」と褒めることはあってもけなすことはない。それどころか、努力もせずにふるさと納税収支を赤字にしている大都市が、妬みがましく苦情を言うことを許す方が、社会に与える影響は悪い。 なお、⑧⑨については、国が地方に投資して企業誘致や移住が進み、大都市との税収格差がなくなってから言えばよいことで、その目途も立たないのに事実に反する不明確なことを新聞に書くのも、根本は教育の問題である。 さらに、⑩⑪の「ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、メリットも大きいため、高所得層の利用額に上限をかけたい」というのは、高所得層ほど自己投資した人で、それを助けたのはふるさと等での教育であり、その結果として、高い税率で高額の所得税・住民税や高い社会保険料を支払っているのだということを忘れた主張である。 また、*1-1-3は、⑫宮崎県都城市は、ふるさと納税の寄付金で、2023年度、大胆な人口減少対策を打ち出し、両事業の予算額は計10億円 ⑬都城市の2022年度寄付受け入れ額は全国最多の195億円で、主要税収である住民税(65億円)の3倍 ⑭市内の返礼品事業者でつくる団体が自費で広告を出すなど官民を挙げた取り組みで、返礼割合を3割以下とする規制が始まった2019年度以降も好調を維持 ⑮寄付を元手に、最大100万円の移住支援金や家賃補助などを用意し、2022年度の移住者は過去最多の435人 ⑯2022年に寄付した人の56%は三大都市圏の住民、累計額の89%は三大都市圏以外の地域への寄付で、制度の狙い通り ⑰上位は北海道や九州の自治体が目立ち、累計寄付額の58%が上位1割に集中 とも記載している。 このうち⑬⑭については、「いつも全国上位にいる宮崎県都城市の工夫はさすがだ」と素直に褒めればよいのだ。また、⑫⑮の使い道も正しいと思うが、それでも2022年度の移住者は過去最多でも435人しかおらず、努力しなくても人口流入の多い都市圏とは大きく異なる。 従って、⑯のように、2022年の寄付者の56%は三大都市圏の住民で、累計額の89%は三大都市圏以外の地域への寄付というのは、制度の狙い通りなのである。そして、⑰のように、上位に北海道や九州の自治体が目立つのは、これらの自治体の危機感の表れであろう。 さらに、*1-1-4は、⑱ふるさと納税は、名目は善意の寄付だが実態は節税手段 ⑲年数千億円の税収が消え、財政の歪みも招いている ⑳利用者が多い大都市の自治体は、住民税収の落ち込みで行政サービスの低下が避けられないとして、制度の見直しを訴えている としている。 ⑱については、そうしか見えないような人間を育てた教育は著しく悪いし、⑲⑳については、何度も書いているとおり、投資で優遇されてきたため生産年齢人口の割合が高い大都市は、無駄遣いをなくして生産性の高い支出をすれば、行政サービスのコストは賄える筈なのである。 (2)国の投資や人口の偏在、不効率な歳出 1)国の投資の偏在と人口の偏在 ![]() ![]() ![]() Gakumonmo(日本の工業地帯) 総務省(人口密度) 2023.1.30日経新聞 (図の説明:左図のように、日本では、太平洋ベルト地帯に工業地帯を作るよう集中的に投資がなされてきた。その結果、中央の図のように、これらの地域で人口密度が高くなり、近年は、右図のように東京圏への人口の社会的移動が多くなって、さらなる人口集中が進んでいる。しかし、人口が集中する地域では、地価の高騰・水不足・混雑が起こり、過疎地では水道や鉄道の維持が困難になり、国全体の食料自給率も下がり、税収の著しい偏りが起きている) 工業地帯を作るための国の投資は、工業地帯そのものの形成だけではなく、原料や製品を運ぶための港湾・鉄道・道路や従業員のための住宅地・店舗・学校・文化施設など多岐にわたる。そのため、その地域はますます便利になって、さらに人を集めるのだが、限度を超えて人口が集まると地価の高騰・水不足・過度の混雑が起きて、工業地帯としての利便性も住環境も悪化する。 また、世界の経済状況が変わり、日本は、とっくの昔に安い労働力を使って米国に輸出する安価な製品を作る工業地帯(太平洋ベルト地帯)が優位な時代ではなくなっているのだが、未だに経産省・メディア・政治家の中には頭の切り替えができていない人が少なからずいるようだ。 イ)東京オリンピック・パラリンピックの事例から *2-1のように、2021年、2度目の東京オリンピック・パラリンピックが東京で開催され、競技会場の建設・改修費や大会運営費を合わせた「大会経費」は開催都市である東京都・組織委・国が分担した。そして、その経費は、招致段階の「立候補ファイル」は7,340億円だったが、最終的には3兆700億円以上となり、そのうち国の負担額は関連経費を含めて1兆600億円以上にのぼって、国の負担額は過疎地も含む国民の税金で賄われることとなった。 私は、前回の東京オリンピック・パラリンピックのために作られた競技場等の建物は、適時に修繕・改修していれば、立て直す必要はなかったと思うため、別の場所で開催するならまだしも、東京という同じ場所で2度もオリンピック・パラリンピックを開催して競技会場の建設費や改修費を国民の税金から出すことには反対だった。その上、無観客になったため、オリンピック・パラリンピックを開催した効果はさらに低まったと思う。 そのため、東京で2度もオリンピック・パラリンピックを開催した費用対効果は、今後のためにも、明確に出すべきである。 ロ)大阪万博の事例 大阪も、これまで国が投資をしてきて人口が集中している地域だが、*2-2のように、2025年に2度目に開催する大阪・関西万博で経費が膨らみ、国の財政支援を検討しているそうだ。 万博の建設費は、約450億円増の約2,300億円程度まで上振れする可能性があり、建設費負担は、国・大阪府市・経済界で3等分することが閣議了解され、地元の府市両議会は再度増額が生じた場合は「国が責任をもって対応」とする意見書を可決しているが、膨らみ続ける万博費用の全容は未だ見えず、政府は、警備費を全額国負担とし、交付金による財政支援も検討しているのだそうだ。 しかし、やるべき本質的な投資は山ほどあるのに、作っては壊すだけの建物を建ててお祭りをし、過疎地を含む国民の税金を無駄に費やす価値がどれだけあるのか、2度目の大阪万博にもまた疑問が多いため、今後のためにも、費用対効果のチェックを明確に行って公表すべきだ。 ハ)札幌冬季オリンピック・パラリンピックの事例 2030年冬季オリンピック・パラリンピック招致をめざしている札幌市は、*2-3のように、2030年の招致を断念し、2034年以降に切り替える方針を固めたそうだ。 私は、汚職や談合でイメージが悪化したから反対するのではなく、特定の都市で2度以上、オリンピック・パラリンピックを開いて「まちづくりの起爆剤」とし、他の地域の国民も支払った税金を原資とする国の支出を得るのに反対なのである。せっかく最初のオリンピック・パラリンピック時に作った都市インフラなら、その街が適時に修理・改修していくべきであり、再度オリンピック・パラリンピックを開いて2匹目のドジョウを狙うのでは、とても賛成できない。 さらに、地球温暖化で積雪もままならず、人工雪を降らせて冬季オリンピック・パラリンピックを開催することになれば、さらに支出が増加し、感動は減少するため、札幌は2034年の招致も断念して、より冬季オリンピック・パラリンピックに適した開催地に譲った方がよいと思う。北海道は、冬季オリンピック・パラリンピックの開催よりもやるべきことが多いのではないか? 2)その他の不効率な歳出事例 1)に書いた事柄は、お祭り騒ぎをして効果の少ない無駄使いをしている例だが、その他にも、*2-4のような無駄使いがあり、それは、従業員の給与を一定以上増やす際に納税額を減らす「賃上げ促進税制」である。 何故、無駄遣いになるかと言えば、賃金を上げられるためには、賃上げした後も長期にわたって企業の利益が確保されなければならないが、いつまで続くかわからず賃上げの一部しか補填されない減税では、黒字企業であっても賃上げは難しく、法人税を支払っていない赤字企業には恩恵がないからである。 そのため、賃上げをさせたいのなら、i) 国として生産性を上げるための投資を促す ii) 電力・ガス・燃油等のエネルギー代金を引き下げる iii) 地代(不動産価格・不動産賃貸料)を安くする など、長期にわたって利益を増加させる政策をとるべきなのだ。 しかし、i)については、生産性を上げるための企業活動はむしろ抑えられて促されず、個人の教育費は著しく高い。また、ii)については、石油ショックから50年を経過してもなお化石燃料にしがみつき、国産の再エネによって電力・ガス等のエネルギー代金を引き下げるためのエネルギー改革やそのための投資は言い訳ばかりして進めず、国富をエネルギー代金として海外に流出させた上、エネルギー自給率を先進国で突出して低い状態においているのだ。 さらに、iii)の地代については、この10年間、不動産価格や不動産賃貸料を上げる方向の政策を採ってきたため、企業のコストは上がり、日本で製造していては利益が出ない状況になって、国内の製造業は瀕死の状態になっているのである。 また、地代の高騰理由には、工業地帯への過度な集中もあるが、過疎地であっても中国・インド・東南アジアと比較して地代・エネルギー・人件費などのコストが高すぎる。つまり、一部の人が得をするための無理筋の政策は、あらゆる場所に響いているのだ。 なお、税収増があるのなら、過剰な国債残高を正常に戻すべく、まず返済するのが筋である。 (3)産業政策について 1)農地の減少と食料自給率低迷の問題点 ![]() Sustainable Blands 2023.10.16日経新聞 (図の説明:左図のように、世界の人口は2050年には97億人になり、アフリカ・インド・中国の順で大人口を抱える。また、「食料が十分にあれば」だが、中央の図のような人口構成になると推測される。日本では、右図のように、「少し人口が減った」と大騒ぎしているが、各国が自国民のために食料を囲い込んだ時、食料自給率が38%しかない日本は、国民を養えないだろう。何故なら、その時点では、工業はどの国も発達しているからである) (2)1)で述べたとおり、国の投資で工業地帯ができ、港湾・鉄道・道路・店舗・住宅地等が整備されれば、関連企業や生産年齢人口がそこに集まり、住民税・事業税の徴収額が増えるため、地方自治体は、優良農地もつぶして工業地帯にした方が税収増になる。そのため、農地が減って食料自給率はますます下がり、空き地になっても農地に戻すことはないが、それでいいのかが問題である。 世界の人口は、2050年には97.4億人になると推計されており、今から27年後の2050年には、インド・中国だけでなく東南アジアやアフリカでも工業化が進んで、技術も高度化する。つまり、工業製品は、日本だけでなくどこででも作れるし、コストの安い国が比較優位であるため、そちらに生産が移行して技術が蓄積されるのである。 しかし、2050年の97.4億人を支える食料が十分にあるかどうかは疑問で、食料不足になれば各国が自国民を優先するのは当たり前であるため、その時の日本は、たった38%の食料自給率で国民を養えるわけがなく、工業製品よりも食料の方が貴重品になるかも知れないわけである。 2)農地減少と食料自給率低迷の解決策は輸入か! このような中、*3-1-1は、①日本政府は、有事(異常気象不作・感染症流行、紛争)に食料不足が見込まれる際、代替調達ルートといった輸入計画を提出するよう、商社やメーカー等の大企業に求める ②農水省が食料安保の一環として2024年通常国会への新法提出 ③植物油・大豆等の栄養バランス上摂取が必要で、自給率の低い品目が対象 ④企業に求める計画に潜在的代替調達網・輸入規模・時期を盛り込むよう促す ⑤国内備蓄で対応困難な時、まず企業に計画の提出を要請し、深刻度に応じて要請から指示に切り替え ⑥輸入価格高騰で国内販売困難時は国が資金面で調達支援 ⑦日本の食料自給率はカロリーベース38%、大豆25%、砂糖34%、油類3% ⑧食料安保の確保には官民挙げて安定的輸入体制を築く必要 としている。 まず、①⑤⑧については、地球温暖化や地球人口増加は、今後30年以上続くのに、政府の対策は足下の異常気象・コロナ等の感染症・ウクライナ紛争による制裁返ししか見ておらず、解決策を輸入ルートの多様化として商社やメーカーに輸入計画の提出を求めている点で落第だ。 つまり、②の農水省の食料安保新法では国民の命も財産も守れず、そもそも発想が表面的で矮小すぎる。世界の長期人口動態と経済動向を見れば、日本は食料自給率を100%以上にすると決め、食料は輸入するものではなく輸出するもので、そのための計画を商社やメーカー等に求めるべきであり、それは可能なのである。 また、③⑦のように、栄養バランス上摂取が必要で自給率の低い品目は、種子・肥料・燃料・農機具まで考慮すれば、米麦から大豆・砂糖・油・肉・魚介類(燃油)まで、呆れるほどすべてであるため、⑥も、どこから金を出して、国が資金面で調達支援をするつもりなのか不明だ。 従って、④の「企業等に求める計画」は、潜在的代替調達網・輸入規模・時期ではなく、農業法人を作っての食糧生産拡大と平時の食糧輸出先でなければならず、化石燃料輸入の仕事をなくす商社は食糧輸出先の開拓のために働くべきである。 3)「適正価格」とは、また値上げか負担増か *3-1-2は、①親類から頼まれた田も含めて合計15haを管理する稲作農家の小倉さんは「稲作だけでは『売上-経費= 100万円以下』で給与所得者平均の458万円に遠く及ばない ②農民運動全国連合会は農水省の「食料・農業・農村基本法」見直し案に「価格保障(政府が実勢価格との差額を農家に支払う)」を提言した ③小倉さんは「食は国が支えるべきで国民合意もできる筈だ」と言う ④農産物価格は基本法改正議論で最大の焦点だった ⑤農水省が公表した改正案の中間とりまとめは、スーパーが食品の安売り競争に走って「生産コストが上昇しても価格に反映することが難しい状況」と指摘 ⑥需給で決まる価格に国が口を出すことには懸念もつきまとう ⑦主婦連副会長の田辺氏は「非正規の人や相対的貧困層をどう考えるか」と値上げに慎重 ⑧澤浦さんは「同じレタスでも、有機かどうか、食味や用途、鮮度など様々な組み合わせで価格が決まり、一律には決められない」「農水省の『適正な価格形成』も、価格を一律に決めれば創意工夫して生産し、付加価値を付けて販売している人には足かせ」 としている。 日本政府の中には、何かと言えば値上げや負担増をしたがる人が多いため、④については容易に想像がついたが、統制経済や配給制度ではあるまいし、⑥のように価格に国が口を出すことは、⑧のとおり、創意工夫をなくさせる。さらに、⑦のように、今でも十分には食べられず、⑤のようなスーパーの安売りに群がる人が多いのは、国民の努力が足りないからではなく、国の政策が悪いからなのである。 確かに、①の小倉さんのように、高齢農家から頼まれた田も含めて合計15haを管理していても、稲作だけでは100万円以下の所得で給与所得者平均の458万円に遠く及ばないということはある。「それなら、何故、米だけ作って、他の作物は作らないのか」と私は聞いたことがあるが、「米が最も機械化が進んでいて簡単であるため、兼業農家は米がやりやすいのだ」というのが答えだった。 しかし、兼業農家は副業であるため、これを基準に考えられては困るし、機械化こそ他の作物でも進めればよい。また、15haを管理することができるのなら、圃場をまとめて自動化しやすくし、管理する圃場面積を拡大すればよく、それこそ国や地方自治体が進めるべきことである。しかし、そもそも農業機械は驚くほど高く、今でも「百姓は生かさず、殺さず」を実践しているのではないかと思うが、これは何故だろうか? このようにして、日本産農産物の価格を上げれば、消費者は短期的には外国産にシフトせざるを得ず、食料自給率はますます下がることが目に見えているにもかかわらず、なのである。 なお、②の「価格保障」は国民負担を増やさないためのあらゆる努力をした後ではないし、③の「食は国が支えるべきで国民合意もできる筈だ」というのも、価格保証以外の持続可能で効果的な方法を考えるべきだと、私は思うわけである。 4)工業について 「すべての森林や農地を、そのまま保全せよ」とは言わないが、農林漁業では儲からないから税をとれないと考え、国や地方自治体が積極的に規制緩和して優良農地に工業団地を作って工場を誘致しても、空き地になっては食料自給率を下げるだけでプラスにならない。 イ)半導体工場について そのような中、*3-2-1は、政府は、①半導体・蓄電池等の重要物資の工場を建設しやすくするため、土地利用規制を緩和し ②森林・農地等の「市街化調整区域」で自治体が工場の立地計画を許可できるようにする ③農地転用手続きにかかる期間を短縮し ④大型工業用地不足が課題の半導体工場建設を後押しして国内投資拡大に繋げる ⑤半導体はじめ戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため、複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設する としている。 また、*3-2-2は、⑥経済安保の観点から半導体・蓄電池・バイオ関連といった分野が対象で ⑦10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資促進策として税制・予算と合わせて出す ⑧全国の分譲可能産業用地面積は2022年時点で約1万haで、2011年の2/3(経産省) ⑨市街化調整区域開発は、「地域未来投資促進法」の規定を使って例外的に活用 ⑩現在は食品関連物流施設・データセンター・植物工場等に限っているが、これに重要な戦略物資工場を追加する ⑪自治体が地域活性化や環境の観点で問題ないと判断すれば、より柔軟に工場誘致可 ⑫農地の場合、通常なら1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮 ⑬農地の転用には地元の農業委員会などの許可が要るなど規制が複数の省にまたがるケースが多いため、国土交通・農林水産・経産の3省が開発許可手続きを同時並行で進める ⑭半導体工場には広い土地と良質な水が欠かせないため、TSMCが熊本に進出して周辺自治体から土地規制の是正を求める声が上がった ⑮九経連は国・県の権限で農地を速やかに産業用地に転用できる規制緩和策を政府に要請 としている。 1980年代から90年代の初めまで、日本は半導体製造で世界一だったが、日米半導体協定・大型コンピュータからパソコンへの主要マーケットの変化・経営トップ層の戦略思考の欠如等により、現在では、世界の市場競争に勝って標準となったデファクト製品がなく、電子機器の頭脳となる最先端のロジック半導体工場も存在しない。 そこで、政府は、①②③④⑥のように、経済安保の観点から半導体・蓄電池・バイオ関連等の重要物資の工場を建設しやすくするため、森林・農地等の「市街化調整区域」で自治体が工場の立地計画を許可できるよう土地利用規制を緩和し、農地の転用手続きにかかる期間を短縮し、大型工業用地不足が課題の半導体工場の建設を後押しして、国内投資の拡大に繋げるのだそうだ。 また、⑤のように、戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため、複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設し、⑦のように、10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資促進策として税制・予算と合わせて出すそうだ。 台湾のTSMCが熊本県に進出した九州は沸き、、⑭⑮のように、周辺自治体や九経連から農地を速やかに産業用地に転用できるよう、規制緩和を求める声が上がった。そして、⑧のように、まだ1万haもの分譲可能産業用地があるのに熊本県の優良農地を潰したのは、半導体製造には広い土地と良質な水が欠かせないため熊本県が適地だったほかに、「九州に世界の先端産業を誘致したい」という九州の強い意志があったからである。 しかし、⑪⑫⑬のように、農地の転用を複雑にし、①⑥⑨⑩のように、対象となる施設を制限した理由は、農地を宅地化しても空き家になったり、農地を工場団地にしても空き地になったりしているケースが少なくなく、使わなくても逆の転用は起こらないため、農地は減る一方だからである。そして、今後は、食料やエネルギーも重要な戦略物資になるため、農地で農業と再エネ発電を行うなど、農業をやっても儲かる仕組みにして食料とエネルギーの自給率を上げることが必要なのだ。 ロ)大学発スタートアップ企業について イ)の半導体については、1970年代から必要性がわかっており、パソコンの普及は1990年代から始まり、既に30~50年間も言われてきたことであるため、「今頃、世界に追いつくために、補助金をつけて誘致か」と、情けなく思うばかりで感動はない。 しかし、*3-3のように、①新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指すスタートアップ企業が全国で増えた ②全国の企業数が5年間で5割増 ③地方の新興企業も5年で5割増 ④長野県は信大発新興が相次いで誕生して8割増 ⑤信大は2017年に知的財産・ベンチャー支援室を開設し、2018年に「信州大学発ベンチャー」の認定を始めて、起業や事業拡大に向けた多彩な支援をする ⑥信大は企業との共同研究が盛んで、特許の出願件数も地方大学でトップクラス ⑦認定企業の一つで2017年創業の精密林業計測(伊那市)が目指すのは地場産業である林業の活性化で、ドローン等を使って伐採に適切な木を判別するなど効率化を進める ⑧地方でも産学官金の支援の輪が広がり、スタートアップを生み育てる「エコシステム」が構築されつつある 等というのは、大いに希望が持てる。 何故なら、①②③のように、新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指すのは、現場から多様な発想が出るため、④⑤⑥のように、大学と企業が持っている知識や技術を活用して行えば、有望なスタートアップ企業が多く出るからである。 特に、⑦のように、現在、本当に必要とされている機械を作れば、日本で当たるのは当然だが、世界でも必要とされるため、⑥の特許は世界ベースでとっておくべきだ。そのため、⑧のように、地方でも産学官金の支援の輪が広がり、それぞれが得意分野を出し合うのは良いことだ。 なお、*3-3で書かれていないことを付け加えると、イノベーションの実現を目指す振興スタートアップ企業が、時代の変化によってこれまでの仕事をなくしたり、事業承継をする人がいなかったりする中小企業と合併すれば、熟練した従業員や製造装置を容易に獲得できる可能性が高い。そのため、マッチする合併の相手探しも、金融機関の重要な仕事になる。 5)エネルギーの変換は遅すぎる上に未だ逡巡 イ)燃料 *3-4-1のように、第1次石油ショックから50年も経過し、化石燃料の有限性やCO₂による地球温暖化は重要な環境問題であるのに、日本は未だ100%輸入の化石燃料にしがみついている。この間に、1997年12月のCOP3では日本の主導で京都議定書が採択され、2005年2月に発効して、日本は脱炭素技術でも先行していたのだが、経産省はじめ日本のリーダーたちは環境対策に熱心でなかったという事実がある。 現在は、英シェルがオランダ・ロッテルダム港の北海に面した一角で洋上風力発電を使って欧州最大級のグリーン水素製造を2025年に開始する予定だ。また、中国は、太陽光発電パネルの生産シェアで世界の8割超を占め、風力発電機は中期的には6~8割を握りそうで、EV向け電池の3/4は既に中国企業が生産しており、脱炭素の主力技術は中国にあるのだそうだ。 また、*3-4-2のように、バイデン米政権は全米7カ所を水素の生産拠点として選定し、70億ドル(約1兆円)の助成で水素の活用を後押しして「水素大国」を目指すそうだが、これは理にかなっている。しかし、そこに三菱重工業のプロジェクトが選定されて、日本への水素輸出を視野に入れるというのは、水素は水と再エネがあればどこででも(月や火星でも!)できるため、馬鹿じゃないかと思う。 さらに、日本は、安価で大量の水素が手に入らなければ製鉄業が日本に残れず、電池を安定確保できなければ自動車産業は窮地に陥り、脱炭素時代のエネルギー覇権をかけたせめぎ合いが過熱するとして、あわててブルー水素と称する天然ガスや石炭などから取り出された水素も輸入しようとしているが、何を考えているのか呆れてものが言えない。 ロ)EVへの変換 1997年に京都議定書が採択される前の1995年頃から、「これからはEVと再エネの時代だ」と(私が発端となって)日本でも言っていたのだが、「現実は・・云々」等と後ろ向きな発言をするメディアはじめリーダーは多く、世界で最初にEVを市場投入してうまくいっていたゴーン氏率いる日産はあのようにされたため、日本のEVはさらに遅れた。しかし、その間、ガソリン車の縛りのない国をはじめとしてEVに参入する国は続いていたため、日本はEVでも出遅れたのである。何故、このようなことになるのだろうか? そして、日本のメーカーであるスズキも、*3-5のように、インドをEVの輸出拠点に位置づけて環境車の世界展開を加速し、2025年に価格が300万~400万円程度のSUVタイプのEVを日本に輸出し、欧州向けは資本提携するトヨタ自動車への供給を検討するのだそうだ。確かに、インドは、市場の成長余地が大きく、製造業全般で製造原価が日本より2割安く、インド人は優秀であるため、インドでの知見を日本に生かすそうだが、これは、生産性を上げずに製造コストを上げることばかり考えてきた日本政府の反省材料である。 また、海外市場はEVの立ち上がりが早く、「地産地消」の観点からトヨタやホンダは米国などでの海外生産を進めているため、近い将来、日本の貿易収支に影響が出るのは確実だ。 (4)地方の人口減とその対策について 1)日本の人口は急減し、そのこと自体が問題なのか ← 答えは「No」である ![]() ![]() ![]() 2017 .4.11Agora 2021.6.25日経新聞 UN (図の説明:左と中央の図のように、1975年以降の合計特殊出生率は2以下で、2005年には1.27まで落ちたが、日本の人口が減り始めたのは2010年代であり、その理由は寿命が延びたことである。また、中央の図のように、政府は2065年に1億人の人口を維持する目標を立てているが、それは食料・エネルギー・土地等にゆとりがあって初めて幸福を呼ぶことである。さらに、日本では「人口が減ると経済が衰退する」という論調が多いが、右図のように、世界の先進国で人口が1億人を超えているのは日本だけであり、常に景気対策のバラマキをしていなければならないというのも日本だけなのである。何故だろうか?) *4-1は、①人口減少のスピードが加速し、速すぎる変化は行政機能を維持する備えが追いつかず、国土管理もできない状況を招く ②住民基本台帳に基づく総人口は昨年1年間に51万人減少 ③日本人は80万人減り、初めて全都道府県で減少 ④外国人が29万人増え、多文化共生の取り組みが重みを増す ⑤東京一極集中は変わらず、首都圏の人口比率は全国の29.3%と上昇が続く ⑥地方の減り方が一段と顕著になり、地方から東京に人を出す余力が失われた ⑦令和臨調は人口の急激な減少に、「変化が速いと対応できず、地域が一気に衰退」と懸念する ⑧人口減少が進む地域で自治体再編・コンパクトシティー化・浸水地域の居住制限・水道やローカル鉄道等のインフラ網再構築等の政策が課題とされて久しい ⑨複数の市町村が共同で行政サービスを担う広域連携が重要となり、自治体のあり方の見直しに踏み込まざるをえないが、住民の理解が得られないため進まない ⑩今必要なのは、人口減少下ではある程度まとまって住む「集住」という方向性を国民全体で共有すること としている。 上の左図の合計特殊出生率は、現在は1.4前後で推しているが、出産適齢期の女性が減るため急激に減少するのは確かである。しかし、これは、①のように、行政機能を維持する備えが追いつかず、国土管理もできないほど急激に起こったわけではなく、出生率や出生数を見ていればずっと前からわかっていたことだ。 その上、私は今から30年前の1990年代初め頃から、働く女性は保育所や家事労働支援者の存在が不可欠だと言ってきたのだが、「女性間に不平等を作る」等々の不合理なことを言って無視されてきた。そして、仕事やキャリアを大切にしたい女性の間で、独身化・結婚年齢の高齢化・無子化・単子化などが進んだという経緯があるのだ。 また、②③④については、家事労働支援者・運転手はじめ多くの分野で外国人労働者を受け入れれば、必要な外国人労働者の増加数は29万人を超えると思うが、*4-5のように、未だ外国人労働者の受け入れに制限をつけ、家事等の無償労働を女性に押しつけようとするから課題解決できないのである。そのため、どうしてそういう発想をするのか、私にはむしろ理解できない。 なお、⑤⑥のように、東京一極集中が続いて首都圏の人口比率が全国の29.3%(約3割)になり、地方の人口減少が著しいのは、東京に働き口が多いという理由だけではなく、これまで女性が活躍できたのが日本では東京くらいだったため、他の地域には女性蔑視が未だ存在し、行政・司法・学校・病院等の生活の場にも女性差別が存在するからである。 ただし、東京等のコンクリートで固められた大都会をふるさとにし、自然に遠い狭い家や団地で育った人の割合が増えすぎると、自然の美しさやその力に対する畏敬の念を持たない人の割合が増し、「食料やエネルギーは作るものではなく、輸入するものだ」というのが“常識”になってしまって、困るわけである。 そのため、私は、⑦⑧⑩の令和臨調等の提言のうち、人口減少が進む地域等での自治体再編や浸水地域の居住制限はあるべきだと思うが、コンパクトシティー化して地方の都会に人を集めれば、さらに食料・エネルギーの生産ができなくなると考える。しかし、水道・鉄道・病院・学校等のインフラを維持できなければ実質的に人は住めないため、散らばって住んでも不便も心配もなく農林漁業に従事できる広域のネットワーク作りが必要なのだ。 それをやらずに、コンパクトシティー化や集住だけを主張しても、もののわかる住民ほど理解しないだろう。しかし、⑨のうち、市町村が合併しなくても共同で行政サービスを担う広域連携は、行政サービスの効率を上げ、既存の資源を有効に使うため必要である。 2)人口減と水道・病院・鉄道の維持について イ)水道について *4-2は、①水道事業は市町村等が運営し、料金収入で経費を賄う独立採算が原則 ②施設にかかる固定費が多く、給水人口が減れば赤字になる ③給水人口30万人以上の市町村の最終赤字割合は1%だが、1万人未満では23% ④人口減による料金収入の減少と老朽施設の改修費用増加で財務状況が悪化 ⑤全国の水道施設投資額は2021年度1.3兆円と10年前から3割増 ⑥岡山市20.6%、御前崎市46%など水道料金の引き上げが続く ⑦各都道府県は「水道広域化推進プラン」に水道水の販売単価を示す供給単価や給水原価の将来予測を盛り込んだ ⑧宮城県は所有権を維持したまま上下水道・工業用水道の計9事業の運営を民間委託し、浄水場の運転管理・薬品調達・設備の修繕の業務を20年間一括で委託し、民間のノウハウでの事業の効率化に取り組む としている。 このうち①⑧については、水道事業は市町村等が運営して独立採算で経費を賄ってもよいし、宮城県のように、運営を民間委託して民間のノウハウを入れて事業の効率化や付加価値の増加に取り組むことも可能だ。 しかし、市町村等の公的機関が運営した場合の欠点は、④⑤⑥のように、普段から固定資産の管理を行っていないため、修繕や改修などの維持管理を適時に行っておらず、急に老朽化したと言って多額の改修費用を要し、それが人口減による料金収入減少の時期と重なって財務状況を悪化させたとして、それを理由に料金引き上げをする点である。 民間企業の長所は、日頃から固定資産の管理を行い、修繕・改修等の維持管理を適時に行うため、突然、多額の老朽施設の改修費が生じることはないが、欠点は、儲からないことはしないため、②③のように、人口が減って赤字になるような水道は引き受けないことである。 しかし、民間企業であれば、「水道事業のためにその市町村の固定資産を引き継いだから、その市町村に給水するだけ」ということはなく、⑦のように、水不足で不潔で不便なくらい水を節約している近くの大都市に広域で給水したり、余った水を利用して新たな事業を開始したりすることが容易であり、そうすれば水道料金を上げるどころか下げることも可能だ。 さらに、私は、水道施設が老朽化しているのなら、これを機会に水道施設と平行して安全な送電網を敷設して送電料をとればよいと考える。その理由は、1)電線の地中化が進む ii)地域の住宅や農地で再エネ発電した電力を、(原発を優先する既存の電力会社の送電網を使わず)集めて売ることができる からで、既存の水道設備に新たな付加価値を加えることができるからだ。それに加えて、通信設備を敷設するのも良いだろう。 つまり、継続的に、水・エネルギー・通信料という固定費を節約することができれば、その地域の人たちは、可処分所得を増やすことができるのである。 ロ)病院について ![]() 2012.12.26Naglly Global Market Surfer 2010.11.30Todoran (図の説明:この章は「人口減少で病院の存続が困難になる地域が多い」という論調だが、日本の人口密度は他国と比べて高くはあっても低くはない。例えば、左図の人口密度で色分けした世界地図で、日本は欧米よりも赤色の濃い地域《人口密度の高い地域》が多いが、欧米の医療システムが日本より劣っているわけではない。中央の図のように、2018年の数値で日本の人口密度は336.6人/km₂であるのに対し、米国の人口密度は33.3人/km₂であり、2050年になっても、この趨勢が大きく変わるわけではない。そこで、日本国内の都道府県別人口密度を見ると、右図のように、北海道や東北でも偏差値が著しく低くはなく、米国よりは高いと思われる。そのため、何でも人口減少のせいにするのではなく、合理的な医療システムを作るべきなのである) *4-3は、①政府は6月25日、2021年の国土交通白書を閣議決定 ②人口減少で2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性 ③公共交通サービス維持が難しく、銀行・コンビニエンスストアの撤退など生活に不可欠なサービスを提供できない ④地域で医療・福祉・買い物・教育等の機能を維持するには、一定の人口規模と公共交通ネットワークが必要 ⑤2050年の人口が2015年比で半数未満となる市町村は、中山間地域を中心に約3割 ⑥地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる人口規模は1万7500人 ⑦基準を満たせない市町村は2015年53%、2050年66% ⑧2050年には、銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村で0になるリスク ⑨コロナ禍で2020年5月の乗り合いバス利用者は2019年同月比50%減少し、公共交通の核となるバス事業者も経営難 としている。 ここには解決策が書かれていないが、①のように、政府が閣議決定したわりには、「技術やサービスは現状のまま」という前提であり、変動要因は人口のみとした点で、思考が浅すぎるか、ためにする議論だと思う。 つまり、②④⑤⑥⑦については、人口が少なくても通常は入院施設のない診療所に通い、深刻な病気の場合は地域の基幹病院にかかれればよい。そして、基幹病院は全市町村に1つ以上ある必要はなく、広域連携して、各診療科に優秀な専門医を置いてある方が望ましいのである。さらに、緊急時には救急車・ドクターカー・ドクターヘリ等を使って、基幹病院に10~15分以内に到着できなければならないが、中途半端な病院を増やすよりは、これらの輸送手段を増やした方が質の高い医療ができる上に安上がりであろう。また、訪問看護や訪問介護制度もあるため、必要な人にはそのサービスがいつでも届くようにすべきである。 なお、③⑨の公共交通サービスは、2050年になっても安全な自動運転車ができていないわけはなく、自家用車・タクシー・バス・トラック等が自動運転車になっていれば多くの問題が解決するため、国交省が力を入れるべきは、高齢者・障害者や山村・農村・漁村の居住者に配慮した乗り物を作り、道路も乗り物の変化にあわせた安全なものにグレードアップすることである。 さらに、③⑧の「銀行・コンビニの撤退などで、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる」というのは、i) 銀行は、ATMを使えばどの銀行の通帳も使えて記帳もできるように通帳の規格を合わせて欲しいし ii) 2050年であればインターネットによる安全(ここが重要)な送金もできるようになっているだろう。 また、私はコンビニが必要不可欠なインフラとは思わないし、現在も離島にはコンビニのないところもあるが、漁協・農協・郵便局等の建物の中に店舗があって、必要なものは買えるようになっている。また、2050年には、アマゾン等の通販もさらに使い安くなっているだろう。 ハ)鉄道について ![]() 2022.7.28日経新聞 2020.5.28朝日新聞 2023.5.2読売新聞 2022.9.2Mdsweb (図の説明:1番左の図は、輸送密度1000人未満の区間で、右下にJR北海道・JR東日本・JR西日本・JR四国・JR九州の赤字額が記載されている。具体的には、左から2番目がJR九州、右から2番目がJR北海道、1番右がJR東日本の赤字路線・区間で、この章では、これらの路線を維持するにはどういう工夫があり得るかを記載する) *4-4のように、①人口減少・マイカーシフト等で利用者が減って地方の鉄道会社は経営が悪化 ②赤字路線はバス転換を含めた議論を迫られている ③JR西日本と東日本は相次いで赤字ローカル線の収支を公表し、バスへの転換の意向 ④JR九州は2020年5月に輸送密度(平均利用者数/km/日)2千人未満の線区で収支を公表して対象の12路線17区間全てで赤字 ⑤JR九州は2019年度に輸送密度の減少が著しい6路線7区間の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げたが、具体的アイデアは未提出 ⑥富山市はJR西日本の富山港線の廃線に伴って線路を引き継ぎ、LRTを導入して市内の路面電車と繋いで便数を増やし、公共交通沿線に家を建てたり、部屋を借りたりする世帯に補助金を出して公共交通沿線に人を集めた ⑦また、公共交通の「おでかけ定期券」が高齢者の外出機会を増やせば医療費を年間8億円抑えられる ⑧鉄道施設を自治体所有として鉄道会社の経営を立て直す「上下分離方式」も選択肢の一つ ⑨滋賀県は県内の鉄道・バス路線の維持のため使う「交通税」の議論を始めた 等としている。 このうち①④は事実だろうが、②③のバス転換は、バスが自動運転でなければバス会社を赤字にする。また、自動運転なら、決まった線路を通る鉄道の方が、誰にとっても安全で早そうだ。 JR九州は、④⑤のように、最初に輸送密度2千人未満の線区で収支を公表して沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げたそうで、この問題意識が上の1番左の図で赤字が最も小さい理由だろう。具体的アイデアは未提出だそうだが、i) ローカル鉄道の先にある農林漁業地帯の貨物を運ぶ ii) 農林業地帯や自社の広大な敷地で再エネ発電を行い、都市に電力を送電して送電料や電力料を稼ぐ iii) 列車をEV化・自動運転化して経費を減らす iv) 駅に付属してコンビニ・道の駅・介護施設等を作って副収入を得ながら、駅の雑務を委託して駅員を減らす v) 鉄道と街づくりを同時に考えて沿線に魅力的な街をつくる vi) 別の鉄道会社と相互乗り入れして利便性を増す などを行えば、鉄道維持のための損益分岐点は大きく変わると思う。 なお、⑥のように、富山市は、富山港線の線路を引き継ぎ市内の路面電車とLRTで繋いで増便数したそうだが、狭い道路で路面電車を増便すれば、混雑して危険性が増すため、私は、これには反対だ。しかし、公共交通の沿線に人を集める政策はよいと思うし、これは富山県だけの問題ではないため、国として進めた方がよいと思った。 さらに、⑦のように外出機会が増えれば健康維持に貢献するため、「おでかけ定期券」は医療費抑制に有効だとは思うが、外出した先で物価が著しく上がっていれば、外出しても不快にしかならないため、政府の高齢者及び消費者虐待にあたるインフレ政策は間違った政策である。 そのため、⑧の鉄道施設を自治体所有として鉄道会社の経営を立て直す「上下分離方式」は、他の選択肢がどれも使えない場合に限る選択肢にした方が良いと思われ、⑨の滋賀県の「交通税」は工夫がなさ過ぎ、他の税は何に使っているのか、疑問に思われた。 3)外国人労働者の受け入れについて イ)日本における外国人労働者の労働条件 ![]() 2018.10.11朝日新聞 2018.10.12毎日新聞 2021.11.9東京新聞 (図の説明:「特定技能」は、2018年成立の改正出入国管理法で創設され2019年4月に施行された制度だが、1番左の図のように、3年間の技能実習か日本語と技能の試験合格者にしか与えられない。このうち、特定技能1号は、左から2番目の図のように、家族の帯同ができず、在留期限も通算5年までとなてっており、特定技能1号は『さまざまな取り組みをしても人材が不足する分野』として12分野のみが指定されている。その結果、右図のように、日本語と技能試験の合格で資格を技能実習から特定技能1号に変更した人が、2021年の前半だけで約3万人いる。) ![]() 2023.5.23読売新聞 2021.11.9東京新聞 2023.7.31読売新聞 (図の説明:政府は、左図のように、今まで特定技能1号でのみ認められていた②~⑪の9分野を特定技能2号の対象に加えるそうだが、当然のことであるし、人手が足りないのはその9分野と介護だけではないだろう。その上、中央の図のように、技能実習生や留学生が転職したくても、転職しにくくなっている実態があるため、自由を制限している理由を解決すべきだ。また、右図のように、これまで国家戦略特区のみで認められていた外国人家事支援人材の在留を一定条件の下で3年程度延長するそうだが、これも3年程度の延長では慣れた頃に帰国するためあまり役に立たず、政府は『熟練』の意味をどう考えているのか疑問だ) 現在の日本政治は、「少子化=生産年齢人口減 ⇒ 労働力不足」として、インフレ政策で高齢者の年金を目減りさせ、社会保険料負担は増やしながら、地方ではとっくに人手不足が始まっているのに、経済対策と称するその場限りのバラマキが多く、国民の誰をも幸福にしない。 そこで、日本で働きたい外国人労働者を労働力不足の分野で受け入れれば、既に育った労働者を獲得できるにもかかわらず、これについては、*4-5-1のように、人権侵害にあたると悪名高かった従来の技能実習制度を改正しようとはしているものの、「1年を超えて就労し、一定の条件を満たせば、転職可能とする」など、労働移動に関する制限が残っており、労働環境の改善効果が限られるので、本気度が疑われる。 具体的には、*4-5-1は、①新しい技能実習制度は、特定技能に統合せず3年間の就労が基本 ②日本語や技能試験に合格すれば2019年創設の「特定技能1号」に移行可 ③特定技能と同様、受け入れ人数の上限を定めて対象業種を一致させる ④転職は同職種に限定して基礎的技能検定と日本語試験の合格が条件 ⑤来日に多額の手数料を払う外国人が多いため、受け入れの初期費用を転職先企業も一部を負担する(案) ⑥転職のマッチングは受け入れ窓口の監理団体・監視機関・ハローワークが担当 ⑦外国人が日本人と同等に、労働者の権利を持って活躍できるよう実効性の高い制度にし、働く場として「選ばれる国」になるべき 等と記載している。 このうち①の新しい技能実習制度は、日本で3年働いて一人前になった頃に、やはり外国人労働者を母国に返す前提であるため、従来の技能実習制度と同様、本人にとっても雇用主にとっても不本意で、雇用主は育てても自社のためにはならないため、技能実習生は低賃金の使い捨て労働者にされることになるのである。 また、②③については、日本語や技能試験に合格すれば「特定技能1号」に移行可能で、技能実習から特定技能へ移行すれば8年間日本に滞在できることになるが、やはり8年後には外国人労働者は母国に帰らざるを得ず、対象業種は増やしても12業種と制限があり、家族の帯同はできないわけである。在留期間が無期限で家族帯同もできる「特定技能2号」も、政府案では対象業種を11業種になるが、やはり分野が制限され、外国人労働者の労働を制限したがっていることに間違いはなく、これは、国内の労働力が余っている時の体制のままである。 なお、日本人でも最初は基礎的技能がなく、障害があったり不登校だったりしたため日本語の読解や計算もできない人が少なくない。一方、外国人でも日本まで来て働こうとする人は、日本人より目的意識を持ち、仕事に真面目であることが多いため、④のように、i)転職は同職種に限定 ii)基礎的技能検定と日本語試験の合格が条件 等としているのは外国人差別であり、差別された人は、当然、不愉快に思うだろう。 しかし、⑤の来日に多額の手数料を払う外国人が多いことについては、そもそも“多額”すぎてはいけないため上限規制が必要だ。また、宿舎や家具などの初期費用を最初の受け入れ企業が提供しているのであれば転職したら返すのが当たり前であるため、外国人労働者がそういう不利益を甘受しても転職したくなるような職場環境を作っているのなら、それを改善すべきである。 さらに、⑥の転職マッチングは、受け入れ窓口の監理団体・監視機関・ハローワークでもできるだろうが、リクルート社などの確かな転職斡旋団体が行った方がよいと考える。むしろ、そうでなければ、⑦のような「外国人が日本人と同等に労働者の権利を持って活躍でき、日本が働く場として『選ばれる国』」にはなれないだろう。 ロ)外国人の家事サービスなど *4-5-2のように、政府は外国人材の受け入れや女性活躍を後押しするため、人手不足の外国人の家事代行サービスを広げ、①家事代行従事者の在留を一定条件の下で3年程度延長 ②マンション管理会社が利用者との契約を仲介できる制度導入 ③外国人の家事代行サービスは2017年から東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・愛知県・千葉市にある国家戦略特区で始まっていた ④母国で家事代行の国家資格を取得したフィリピン人が炊事・洗濯・掃除等を担う ⑤最低限の日本語能力・1年以上の実務経験が求められ、2022年度末約450人を受け入れ ⑥在留期間は最長5年 ⑦サービス提供数は年10%以上伸び、需要に供給が追いついていない ⑧家事代行サービスの国内市場規模は2017年698億円から2025年に2000億円以上に拡大 ⑨需要を見込むのは共働き世帯が多く入居する都市部の高層マンション等 ⑩フィリピン人による英会話指導付き家事代行サービスを展開する事業者も と記載している。 人手不足の家事サービス分野で外国人の活用を広げるのは良いが、①⑥のように在留期間が最長5年・一定条件下でも3年程度の延長では、条件を満たす人でも最長8年しか働けない。しかし、監督なしで家事を任せられるためには、日本の家事に詳しい信頼できる人であることが必要で、そのためには、②の仲介業者等が日本の家事に関する研修をしたとしても、日本の家庭料理や分別回収開始から何年経っても複雑なゴミ出しを任せたり、幼児が信頼してなついたりできるためには、少なくとも数年が必要なのである。 従って、④⑤のように、母国で家事代行国家資格を取得したフィリピン人で、最低限の日本語能力と1年以上の実務経験があっても、頻繁に人が入れ変わるのは御法度であり、このように在留可能期間を短期間に定めているのは、家事を馬鹿にしていると同時に、家事サービスの普及も邪魔している。そのため、この調子では、女性の家事負担を軽くすることはできないだろう。 なお、子育てしながらの共働き・産後や病気療養中の人・高齢者などの介護や生活支援のために家事サービスが必要であることは、私は1990年代から言っており、実需であるため本物のニーズが大きい。そのため、⑦⑧のように、家事サービス提供数は年10%以上伸び、国内市場規模は2017年の698億円から2025年に2000億円以上に拡大し、今後も増えることは明らかだ。 にもかかわらず、③のように、外国人の家事サービスは2017年から東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・愛知県・千葉市にある国家戦略特区のみでしか行われず、⑨のように、需要を見込むのは共働き世帯が多く入居する都市部の高層マンションだけ というのも、実情を把握していない人たちの発想である。 さらに、共働きや単身世帯の家事支援はもちろん必要だが、生活支援や介護もその多くが“家事”であるため、産後・病気療養中・高齢者等の介護や生活支援にも家事サービスは不可欠だ。そのため、人手不足の中で生産性を上げながら生活支援や介護の仕事をしていくには、チームの中に日本語が不得意だったり、介護福祉士の資格を持たなかったりする人がいても、そういう人には日本語や資格のいらない仕事を任せて、工夫しながら全体をこなすことは可能だ。 なお、人手不足で外国人の受け入れを増やした方が良い分野は、家事サービスだけではない。そのため、必要な分野が躊躇なく外国人の受け入れを増やせる改革が必要なのである。 4)イスラエル・パレスチナ問題について ![]() 2022.4.14 2023.10.8 2023.10.29日経新聞 2023.10.15中日新聞 Daiamond 読売新聞 (図の説明:イスラエル・パレスチナ問題は、約2,600年前にユダ王国がバビロニアに征服されて住民のヘブライ人がバビロンに連行されたバビロン捕囚に始まるが、1番左・左から2番目の図のように、第二次世界大戦後や19世紀以降の歴史しか記載していない年表が多い。そのため、右から2番目の戦闘は、イスラエルだけが非人道的であるかのような誤解を生んでいるのだが、その背景には、1番右の図の相関図があり、「ここで中途半端な対応をすれば自国がなくなる」というイスラエルの深刻な状況があることを忘れてはならない) イ)ハマスのイスラエル侵攻とイスラエル軍反撃の経緯 *4-6-2・*4-6-3・*4-6-4・*4-6-5は、①10月7日、ハマスがイスラエルに侵攻して約1400人を殺害し、222人を人質にして衝突開始 ②10月22日、イスラエル軍はイスラム組織ハマスの壊滅を目指しガザ地区北部住民に対し退避要求 ③10月22日、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区のジェニンでモスクの地下につくられた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊 ④10月21・22日、2週間の空爆と完全封鎖によるガザの人道危機に対応するため国連等による支援物資搬入 ⑤ガザ地区に10月21日、人道支援物資を積んだトラック20台が隣国エジプトから初めて入ったが、ガザの人口約220万人の1%向けの1日分 ⑥国連を交えた当事者間の交渉の末、10月22日午後、第2陣のトラック17台がエジプトからガザに入った ⑦国連安保理は、10月18日、議長国ブラジルが提出した「戦闘中断」を求める決議案を否決・米国が「イスラエルの自衛権への言及がない」として拒否権を行使 ⑧10月26~27日、EUはガザへの人道支援を優先するためイスラエルとイスラム主義組織ハマス双方に戦闘中断を要請する文書を採択し、「国際人道法に従ったイスラエルの自衛権を強く支持する」とのイスラエルの反撃への支持は明記 ⑨ドイツは「戦闘中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」と慎重な姿勢を示したが、米国の呼びかけで妥協 ⑩10月26日、アラブ主要9か国外相は、国連安全保障理事会に即時停戦を求める共同声明を発表 ⑪10月26日、イスラエルのガザ空爆が続き、ガザの保健当局は今月7日以降の死者は7,028人と発表 ⑫10月27日、国連総会は、イスラエルとイスラム組織ハマス衝突をめぐる緊急特別会合でアラブ諸国が起草した即時停戦・人道回廊設置・人質解放等を求める決議案を投票全体の2/3にあたる121カ国が賛成、米国・イスラエルは反対、日本は棄権で採択 ⑬10月27日夜、イスラエル軍はイスラム組織ハマスが実効支配するガザ空爆と地上作戦を拡大させ、10月28日に戦車も投入して全面的な地上侵攻に向け一段と圧力を強めた ⑭10月27日夜、イスラエル軍はハマス地下拠点約150カ所を空爆し、「10月7日の奇襲を指揮したハマス司令官の1人を殺害した」と発表 ⑯10月28日、イスラエル軍はガザ北部の住民に対し南部に避難するよう改めて呼びかけ ⑰10月27日以降、ガザでは通信障害が深刻 等としている。 このうち①の衝突開始については、⑦⑧で米国やEUが述べているとおり、イスラエルにも自衛権があるため、今後、同じことが起こらないようにするためには、②のように、イスラエル軍がハマス壊滅を目指すのは当然であろう。そして、ガザ地区北部の一般住民に対しては、②⑯のように退避要求もしているが、ハマスとガザ地区の住民は家族や親戚ではないのだろうか?そのため、⑨のように、ドイツが「戦闘中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」というのも、私は理解できる。 しかし、⑩⑫のように、アラブ主要9か国の外相は、国連安保理に即時停戦を求める共同声明を発表し、国連総会は、緊急特別会合でアラブ諸国が起草した即時停戦・人道回廊設置・人質解放等を求める決議案を、投票全体の2/3にあたる121カ国の賛成で採択している。 イスラエルは、「そんなことには、かまっていられない」とばかりに、③⑪⑬⑭⑰のように、モスクの地下に作られた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊し、ハマスが実効支配するガザ空爆と地上作戦を拡大させ、ハマスの地下拠点約150カ所を空爆し、ガザでは10月7日以降の死者が7,028人となり、通信障害が深刻とのことである。 それでは、「どうやって、これを解決するのか」と言えば、ロ)で述べる「歴史が生んだ難問」を両方が納得できる形で解決しなければならない。 そこで考えるべきは、イスラエルの人口密度も418人/km²で高いが、ガザ地区の人口密度は6,018人/km²で東京都全体の6,425人に迫り、1947年にパレスチナを分割してイスラエルが建国された時とは比べものにならないくらい人口が増えて、人口密度も高くなっているということだ。その上、パレスチナ自治区の人口ピラミッドは、1950年頃の日本と同様、年齢が低いほど人口の多い「富士山型」で、子供や若者の比率が高く、住民の半数近くが20歳未満であるため、これからも人口が増加するということだ。 そのため、国連は、④⑤⑥のように、とりあえず人道支援物資を運んだり、戦闘中断を要請したりすればよいのではなく、パレスチナ人に新天地を与え、過密になった地域からパレスチナ人を移動させ、そのための費用を提供しなければならないのだと思う。 それでは、「どこに移動させればよいか」については、まずは同じイスラム教文化の国が考えられるが、国土が広い上に地球温暖化でシベリアに耕作可能地帯が増えるロシアや、*4-7のように、既に建設中の建物が販売不振でデフォルトを起こして空いており、国土の広い中国も候補にあげられる。 日本の場合は、イスラム教原理主義には対応しかねるが、生産年齢人口が減って人手不足ではあるため、九州・四国・東北・北海道等が外国人労働者として受け入れ、農業・建設業・その他パレスチナ人が得意とする仕事に従事させることは可能なわけである。 ロ)イスラエル・パレスチナ戦争の背景と解決策の提案 *4-6-1は、歴史が生んだ「世紀の難問」と題して、パレスチナ自治区ガザを実効支配している「ハマス」が、10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けて始まったイスラエル・パレスチナ間の大規模な戦闘の背景を述べている。 具体的には、①紀元前10世紀頃、ヘブライ人(後のユダヤ人)の王国がパレスチナにでき、紀元前6世紀に新バビロニアに滅ぼされて住民が捕らわれの身になった ②2世紀前半、古代ローマがユダヤ人を聖地エルサレムから追放し、ユダヤ人は世界各地に散らばった ③第2次大戦中、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツによるホロコーストがあり、ポーランド・アウシュビッツ収容所等で約600万人のユダヤ人が殺害された ④パレスチナ問題の背景には、2千年を超えるユダヤ人の苦難がある ⑤国を滅ぼされ、土地を追われ、民族が離散し、苦難の歩みを続けて安住の地を求めてきたユダヤ人にとって、イスラエル国家建設は歴史的悲願だった ⑥第2次大戦直後の1947年に国連総会決議でイスラエルの建国が決まり、パレスチナの地をユダヤとアラブに分割して聖地エルサレムは国際管理下に置くことになった ⑦1948年に国連決議に基づきイスラエルが独立を宣言し、イスラエルが建国されてユダヤ人が集まった ⑧住んでいたアラブ人約70万人は自宅を追われて「パレスチナ難民」になった ⑨これを認めない周辺のアラブ諸国は宣戦を布告し、一斉にイスラエルに攻め込んで1973年までに4度の戦火を交えた ⑩独立国家を求めるパレスチナの抵抗は今も続く ⑪1967年に、イスラエルはエジプトのガザ地区、ヨルダンの東エルサレムとヨルダン川西岸などを占領 ⑫パレスチナ人は占領に不満を強め、1987年12月にガザから反イスラエル闘争の「インティファーダ」が始まった ⑬この抵抗の中核として生まれたのがイスラム組織のハマス ⑭パレスチナ人の代表として国際社会で認められていたのは1964年創設のパレスチナ解放機構(PLO) ⑮PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相が1993年9月に「オスロ合意」に調印し、ガザとヨルダン川西岸を自治区とし、聖地エルサレムの帰属や難民の扱いはその後の話し合いで決めるとした ⑯イスラエルのラビン首相は1995年、和平に反対するユダヤ教徒委に暗殺され、1996年にはハマス等による自爆テロが頻発 ⑰和平交渉は2000年に決裂してガザとヨルダン川西岸全土で自爆テロが繰り返される第2次インティファーダが巻き起こった と記載している。 現在、①②③④⑤について記載している記事はあまりないが、私は「日本人とユダヤ人」「大和民族はユダヤ人だった」等の本から、ユダヤ人は本当に2千年超の期間、イスラエル国家の建設を信じて待っていたと考える。それが、⑥⑦のように、1947年に国連総会決議でイスラエル建国が決まり、イスラエルにユダヤ人が集まった理由でもある。 一方、⑧⑨⑩のように、そこに住んでいたアラブ人約70万人は自宅を追われて「パレスチナ難民」となり、独立国家を求めるパレスチナの抵抗が現在も続いているわけだが、パレスチナは7世紀にイスラム教が勃興し、638年にエルサレムがイスラム教勢力によって征服され、パレスチナが急速にイスラム化したものである(https://www.y-history.net/appendix/wh0101-055_1.html 等参照)。 つまり、今となっては、ユダヤ人にとってもパレスチナ人にとっても、その地域が「ふるさと」になっているのだが、ユダヤ人の方が先住民であり、2千年超も祖国への帰還を待っていた人々である上、その地域は、今では仲良く共存して暮らすには狭すぎ、人口密度が高くなりすぎた。そのため、新しく農耕・漁労・貿易等々が可能になる地域、人口密度が低い地域、生産年齢人口の割合が少ない地域等に、今回は、パレスチナ人が移住するのがFairだと思うのだ。 そうすれば、⑪⑫⑬⑭⑮⑯のような血で血を洗う闘いは終わり、狭い場所を取り合って闘うのではなく、新しくて広い場所に移動して生産に携わることができ、そうした方が建設的で家族を幸福にもできるだろう。 (5)大都市への過度の人口集中の不合理 1)海面上昇するとどうなるのか ![]() ![]() 2018.9.11リアナビ 2016.1.13Gigazine 2022.1.15Gigazine (図の説明:左図は、現在の東京江東5区で、海抜0m地帯が広がり、海面や河川の水面よりも低い地域に住宅やビルが建設されているので水害の危険性が高い。中央の図は、南極西岸の棚氷だけがすべて溶けた場合の約5m海面上昇時に東京が水没する地域を示しているが、溶けるのは南極西岸の棚氷だけではないため、実際はこれよりも深刻になる。右図は、海面が7m上昇した場合の日本を中心とする極東地域の地図で、沿岸や離島の多くの地域が水没し、それに伴って領海や排他的経済水域も減る) 上の左図のように、現在でも、江東5区は海抜0m地帯が広がり、海面や河川の水面よりも低いため水が抜けにくく、マンションやビルの高層階に「垂直避難」しても浸水が長く続けばライフライン(電気、ガス、水道、トイレ)の断絶や食料不足で生活が困難になる。(https://v3.realnetnavi.jp/column/p/p0295.php 参照)。 それに加えて、*5-1は、英国南極観測局が、①地球温暖化の進行で、温室効果ガスの排出を減らしても、21世紀中は南極西岸の棚氷が溶けるのを止められず ②棚氷がすべて溶ければ世界の海面が最大約5m上昇し ③スパコンの予測モデルで、産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑えても棚氷が溶ける結果は変わらない ④南極西岸アムンゼン海の棚氷分析で氷が溶けた速さは20世紀の3倍 ⑤棚氷がすべて溶ければ世界の海面を最大5.3m上昇させる量 ⑥既に「ティッピングポイント(転換点)」に至っている恐れ ⑥チームのケイトリン・ノートン博士は「何十年も前に気候変動への対策が必要だった」と指摘 等と記載している。 このうち①②④⑤については、地球温暖化では南極西岸の棚氷だけでなく、北極・グリーンランド・南極の他地域の氷も溶けるため、「海面が最大約5m上昇する」というのはかなり甘い見積もりなのだ。 その上、この5m上昇というのは、現在でもしばしば起こっている台風や線状降水帯による洪水や高潮を考慮していないため、水害という視点のみから考えても、東京の海抜20m以下の地域に地下鉄・上下水道等のインフラを作るのは、安全性・経済性の両面で無駄だいうことになる。 さらに、③の産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑えても棚氷が溶ける結果は変わらないというのも、0℃の氷1gを溶かして0℃の水にするのに必要なエネルギーは約80calだが、0℃の水を1℃に上げるのに必要なエネルギーは1calであるため、これまでは大量の氷が緩衝材になって海水温の上昇を抑えていたが、氷がなくなればこれまでよりずっと早く海水温が上昇し、海水の膨張までを考慮すれば、大変、深刻な状況になっているということだ。 なお、海水温上昇の原因には、CO₂の増加や使用済核燃料の空冷による地球の気温上昇だけでなく、海水温自体の上昇もある。そして、海水温自体の上昇の原因には、海底火山の爆発もあるが、人間が使った原発を冷やすことによって出た原発温排水もあるため、化石燃料だけでなく原発もまた、地球の気温上昇や海水温の上昇に影響を与えていることを忘れてはならない。 そのため、⑥の「何十年も前に気候変動への対策が必要だった」というのは、化石燃料の話だけではなく、原発も同じで、速やかに卒業すべきエネルギーなのである。 2)首都直下型地震が起こった場合について イ)東京に資源を集中させるのは、経済性とリスク管理の視点から不合理 *5-2-1は、①2023年9月1日で関東大震災から100年経過 ②人・モノ・機能を集積した首都に直下型大地震は必ず来る ③関東大震災で最も大きな人的被害を出したのは火災 ④陸軍の工場跡地で大勢を巻き込んだ火災旋風が知られ、台風シーズンだった ⑤人口集中した東京での「複合災害」は大きなリスク ⑥隅田川・荒川等主要河川の堤防が決壊すれば下町は大水害 ⑦真夏の地震なら酷暑も脅威 ⑧感染症蔓延下でも避難所の密回避は困難 ⑨首都直下型地震は国の中枢を直撃する ⑩巨大地震のリスクが非常に高い地域に中央政府・立法・司法の機能がこれほど集積しているのは異例 ⑪1つの地震が国の存亡にかかわる恐れ ⑫リスク分散が危機管理の基本だが、首都のリスク管理は不十分 ⑬改めて首都機能の移転・分散を具体的に検討すべき ⑭首都機能分散を含め大胆な事前復興計画を立てれば、日本のグランドデザインにも繋がる ⑮首都東京はどうするべきか防災に留まらない国民的議論があるべき ⑯リスク分散が重要なのは企業も同様 ⑰都内の本社機能が停止して企業全体の事業活動が滞り、倒産の危機に至る可能性も ⑱偽情報を見極める力もつけるべき 等と記載している。 一定の間隔で直下型大地震が起こっていることを考えれば、①②③④⑤は事実である。 その上、⑥及び上の左図のように、現在は、東京江東5区等で海抜0m地帯が広がり、海面・河川の水面より低い地域に住宅やビルが建設されて、堤防と強力なポンプによる排水で都市機能を維持しているため、堤防が決壊すれば街は5~10mの水につかる大水害に見舞われ、堤防の修復が終わって排水が完了するまで水は引かない。しかし、これには、かなりの時間がかかるのだ。 また、停電したコンクリートの街に人口が密集していれば、⑦のように、夏なら酷暑も脅威であり、清潔な水や栄養バランスのとれた食事を入手できずに、人が密集し続ければ、⑧の感染症蔓延もすぐ起こるのである。 さらに、⑩⑪は大きな問題で、例えば1920年 (大正9年1月)~1936年 (昭和11年11月) の17年間で建設され、第70回帝国議会(昭和11年12月)から使用されている国会議事堂は、風格のある建物ではあるが耐震性が低いため、肝心な時に国会を開けないだろう。従って、⑫⑬⑭⑮のように、首都機能は、標高が高くて人口が少なく、緑の多い場所に最新の建物を建設して移転し、リスク分散も行うよう議論を始めるのが賢明だと、私は思う。 企業も、⑯⑰のように、本社・工場を安全で通いやすい場所に移転させ、リスク分散すると同時に、データは必ずバックアップして、どのような災害が起こっても、またサイバー攻撃されても壊れないシステムにしておかなければならない。⑱については、日本人は、一見常識的な嘘には疑わず騙され、偽情報を見極めるのが下手な人が多いように思われる。 ロ)首都直下型地震発生時の東京・神奈川・埼玉・千葉の災害拠点病院について 首都直下地震発生時に関して、*5-2-2は、①国は首都直下地震で最大14万6千人が死傷すると予測 ②1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)で災害時に重傷者の治療を担う災害拠点病院の63%で受入可能患者数が平時を下回り、平時の1割未満とした病院も22%ある ③災害時は道路の寸断・交通の機関マヒで病院に着けない職員が大量に出て、発災6時間以内に集まれる医師数は平時の36%、72時間以内でも73%しかいない ④施設の耐震性・病室のスペース・道路の狭さが問題 ⑤建物の火災・倒壊で多くの重傷者が搬送されても治療を受けられない可能性も ⑥政府の地震調査委員会によると、マグニチュード7程度の首都直下地震の30年以内の発生確率は70%程度で医療体制の強化は喫緊の課題 としている。 また、*5-2-3は、⑦1都3県にある災害拠点病院の約4割が災害派遣医療チーム(以下“DMAT”)を災害現場に派遣したことがない ⑧都道府県指定の災害拠点病院は、1チーム以上のDMATの保有が求められている ⑨2023年3月時点で約1770チーム・約1万6,600人が登録しており、5年毎の更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要 ⑩DMATチーム数は、「3」が11%、「2」が22%、「1」が53%、「0」も5%ある ⑪災害現場への派遣回数は「0」が最多の37%で「1」の21%が続く ⑫派遣経験のない神奈川県の私立病院は「DMATを派遣すれば担当業務の補完要員が必要で、時間外勤務が発生するので、人件費分の支援がないと派遣は難しい」とする ⑬埼玉県内の病院は「希望者はいるが何年も待っており、退職・異動による欠員補充もままならない」とする ⑭DMAT事務局は「都市部は病院数が多く、県単位で受講枠が決まっているため、順番が回ってこない病院もある」と説明している そうだ。 このうち①⑥の「マグニチュード7程度の首都直下型地震の30年以内の発生確率が70%程度で、最大14万6千人が死傷する」というのは、近いうちにかなり確実に起こる大地震で、多くの人が死傷するということであるため、医療面からの準備も喫緊の課題である。 しかし、②③④⑤のように、災害時に重傷者の治療を担う災害拠点病院の受入可能患者数は平時より著しく下回り、その理由は、i) 道路の寸断や交通機関のマヒなどで病院に着けない職員が大量に出る ii) 病院の耐震性・病室のスペース・道路の狭さ等に問題がある 等が挙げられている。しかし、機械設備・器具の故障・停電による機器の停止などの影響もあると思われる。 そのため、病院の耐震化を進めたり、すべての道路を広くして災害時でも救急車両や消防車が通れるようにしたり、災害医療に関わる医師やスタッフの住居を病院近くに置いたりする必要があるのだが、東京はじめ首都圏では、これにも著しい時間と金がかかるのだ。 その上、⑧のように、都道府県指定の災害拠点病院は1チーム以上のDMATの保有が求められ、災害医療にあたるにもその経験が必要だが、⑩のように、DMATチーム数は「3」が11%、「2」が22%、「1」が53%、「0」も5%で、⑦⑪のように、災害現場への派遣回数は「0」が37%、「1」が21%であり、殆ど災害現場で活動したことがないと言っても過言ではない。 その理由には、⑨⑬⑭のように、5年毎の更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要があるが、順番が回ってこないため希望者が何年待っても研修を受けられないこともあり、これはDMAT事務局が本気で取り組んでいないからと言える。 また、⑫のように、人件費分の支援がないとDMATを派遣できないと言う病院もあるが、災害に対応して普段は利益にならないことができるためには、設備やスタッフにゆとりが必要であるため、医療関係者の善意に甘えるのではなく、設備や人件費などの支援が必要である。 全体としては、東京はじめ首都圏の過度の過密状態を解消し、迅速に必要な道路・病院・医療スタッフ等の住居を配置することが必要で、それを進めることができるためには、やはり都市部への過度な人口集中を止めるよう国土計画を作り直すことが必要なのである。 <ふるさと納税> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231007&ng=DGKKZO75103120X01C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.7) ふるさと納税、稼ぎ頭は400人の村、「黒字」自治体3倍 和歌山県北山村、英語教育の原資に ふるさと納税による全国の自治体への寄付額が2022年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新した。都市部では税金の流出が膨らみ、返礼品競争にも批判はあるが、財政基盤の弱い自治体には貴重な財源だ。各市区町村の住民1人当たりの収支をみると「稼ぎ頭」は人口約400人の和歌山県北山村だった。総務省の「ふるさと納税に関する現況調査」から22年度の市区町村ごとの実質収支を算出した。受け入れた寄付額から他の自治体に寄付として流出した控除額と、寄付を得るのにかかった経費を差し引いた。人口1人当たり1万円以上の「黒字」だった自治体数は449で経費を把握できる16年度の約3倍。うち9割が人口5万人以下だった。黒字が最も大きかったのは和歌山県北山村で122万2838円に達した。紀伊半島の山あいにあり、同県とは接さず奈良県と三重県に囲まれた全国唯一の飛び地の村。人口は全国有数の少なさで過疎が進む。ふるさと納税の収益を高めた背景には村に自生する絶滅寸前のかんきつ類「じゃばら」の復活劇があった。特産化へ唯一残る原木から作付面積を広げた。01年に自治体では当時異例の楽天市場で果実や加工品のネット通販を始めたことが突破口となり、生産者が34戸に増えた。顧客目線をふるさと納税にも生かし、17年には返礼品の翌日発送を始めた。村は小学校に英語圏の教員を招くなど英語教育を重視。中学生になると海外への語学研修に送り出すが、渡航や2週間の滞在中の費用に寄付を充てる。「外から人を呼び込む」(地域事業課)ためにも寄付を活用し、渓谷などの大自然を楽しめる体験型観光を拡充する計画もある。2位は北海道東部の太平洋に面した白糠町(104万9194円)。同町も主力の1次産品を町自ら電子商取引で扱ってきた営業感覚をふるさと納税の獲得に生かす。町税は10億円足らずだが、イクラなど返礼品の人気から22年度の寄付額は150億円に迫り全国の市区町村で4位。棚野孝夫町長は「子や孫のために使い道を考える」と強調する。22年に開校した小中一貫の義務教育学校「白糠学園」の整備にも寄付を用いた。町は保育料や18歳までの医療費、給食費を無償とし、出産祝い金なども手厚い。転入ゼロだった子育て世帯を18~22年度は各10世帯前後呼び込んだ。都道府県全体では佐賀県が2万4549円で最も黒字が大きい。全20市町のうち上峰町が61万5228円で突出する。返礼品にそろえたブランド牛や米の人気に加え、20年に町が公開したご当地アニメ「鎮西八郎為朝」の反響も寄付に結びついた。危機的だった町の財政は4月から高校生までの医療費を完全無料化できるほどに改善。「幅広い公共サービスの提供が可能となった」(武広勇平町長)。15年を経た制度は課題も多い。22年度に最も寄付額を集めたのは宮崎県都城市で195億円。返礼品次第で寄付格差が広がる。仲介サイトへの手数料など経費負担も増す。総務省は10月、寄付額の5割以下とする経費の基準を厳しくした。新基準に沿って返礼品の内容など経費の適正化が進めば黒字の自治体は増える可能性がある。京都府は府内市町村と募った寄付を分け合う制度を10月に導入して府全体の底上げを狙う。ふるさと納税に詳しい慶応大学の保田隆明教授は「都市住民の関心を地方に向ける趣旨は実現できている。各自治体は産業育成や交流・関係人口を増やすための『投資』にもつなげてほしい」と話す。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230904&ng=DGKKZO74136280T00C23A9PE8000 (日経新聞社説 2023.9.4) ふるさと納税のひずみ正せ ふるさと納税が昨年度9654億円と1兆円に近づいた。規模拡大に伴い、寄付額の自治体間の格差が広がり、税収が流出する都市部の不満も膨らむ。ひずみを正すため、ふるさと納税の拡大に一定の歯止めを考える時期だ。ふるさと納税は住民税の一部を寄付する制度だ。住民税の税収は13兆円で、単純計算なら寄付額は3兆数千億円まで膨らむ余地がある。賃上げで税収増が続けば、寄付額はさらに拡大する可能性がある。そこで目立ってきたのが寄付額の自治体間の格差だ。都道府県と市区町村の1788自治体のうち、10億円以上集めたのは226自治体で計6179億円。13%の自治体で全体の3分の2の額を集めたことになる。1億円未満の自治体は703と全体の4割に上った。上位の顔ぶれは海産物や肉類などの産地に固定化されつつある。ふるさと納税では返礼品の需要が地場産品の振興を支えている。知名度の乏しい産地が消費者に知ってもらう意味は大きい。ただ制度開始から15年たち、その役割は果たしつつあるのではないか。高まった知名度を企業誘致や移住に生かし、ふるさと納税に頼らず、税収を増やす道も探ってほしい。規模の拡大に歯止めをかけるために考えたいのが、都市部に多い高所得層の利用額に上限を設けることだ。ふるさと納税は高所得層ほど利用率が高く、寄付総額に占める比率も高いとされる。高所得層のメリットが大きいことにはかねて批判がある。政府は所得階層別の利用率や寄付額をデータで示し、改善を図るべきだ。ふるさと納税は都市と地方が互いに支え合う枠組みだ。都市部の不満が限度を超えれば制度の持続性に疑念が生じる。都市部に税収が偏っているとして、地方が求める地方法人課税の偏在是正にも影響するかもしれない。ふるさと納税は税の使い道を自ら選び、納税者意識を高める意義がある。ひずみを改め、本来の意義が見直されるようにしたい。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC121R40S3A710C2000000/ (日経新聞 2023年8月6日) ふるさと納税、潤う地域に偏り 寄付累計4兆円のひずみ、ふるさと納税 15年の中間決算㊤ 「ふるさとを元気に」を目指すふるさと納税が始まって15年がたった。これまでの寄付額は累計で4兆円を超え、9割が地方の自治体に渡った。受け入れ先の自治体や農産物生産者らを活気づけたが、制度のひずみも根強くある。理想のふるさと納税に向け、何が課題かを探る。最大数百万円の移住支援金、全ての子どもの保育料無償化――。宮崎県都城市は2023年度、大胆な人口減少対策を次々と打ち出した。両事業の予算額は計10億円。財源の大部分を賄うのはふるさと納税による寄付金だ。同市はふるさと納税の恩恵を最も受ける自治体の一つだ。22年度の寄付受け入れ額は全国最多の195億円。主要税収である住民税(65億円)の3倍の財源を調達した。同市は14年、特産の「肉と焼酎」に特化した返礼品戦略を打ち出した。「最大の目的は地域のPR」(野見山修一・ふるさと産業推進局副課長)として、当初は寄付額に対する返礼の割合を約6割と高く設定。地域色豊かな特産品とともに「お得な自治体」というイメージを全国の寄付者に印象づけた。市内の返礼品事業者でつくる団体が自費での広告を出すなど官民を挙げた取り組みで、返礼割合を3割以下とする規制が始まった19年度以降も好調を維持している。自治体別の寄付受け入れ額で全国10位以内に入るのは9年連続で、全自治体で最も長い。寄付を元手に人も呼びつつある。最大100万円の移住支援金や家賃補助などを用意した22年度の移住者は過去最多の435人で、対策を強化した23年度は前年度以上の反響があるという。野見山氏は「都市から地方への金や人の流れが生まれている。人口を10年後にプラスに反転させたい」と意気込む。ふるさと納税は08年度の開始当初から全国の好きな自治体に寄付でき、返礼品を受け取れる仕組みだったが、存在感は小さかった。確定申告が必要で手続きの煩雑さなどから、14年度までは年間寄付額が数十億〜数百億円で推移した。潮目が変わったのは15年度だ。確定申告が不要になる「ワンストップ特例」の導入や税控除額の引き上げで、寄付額が同年度に1000億円を突破。返礼品にも注目が集まり、16年度以降、一気に伸びた。22年度の寄付額は過去最高の9654億円で、08〜22年度の累計寄付額は4.3兆円に達した。累計額の89%は三大都市圏(首都圏1都3県、大阪府、愛知県)以外の地域への寄付だ。22年に寄付した人の56%は三大都市圏の住民。「都市と地方の税収格差の是正」という点では、制度の狙い通りの状況になっている。地方は等しく潤っているわけではない。累計の寄付額を都道府県別(都道府県と域内市区町村の合算)にみると最多が北海道の5700億円で、宮崎、佐賀が続く。7道府県が2000億円以上を集めた。一方、広島や山口、徳島など7県は300億円未満で、最少は富山の105億円だった。人口や事業者の減少など課題は地方共通にもかかわらず、北海道や九州の自治体に比べて中四国や北陸地方の自治体への寄付は乏しい。市区町村別でも上位は北海道や九州の自治体が目立ち、累計寄付額の58%が上位1割に集中した。一方、22年度は2割は寄付額よりも住民税控除額が大きい「赤字」だった。ふるさと納税の自治体支援を手がける事業者は「北海道でも海産物の返礼品がある沿岸自治体は好調で、内陸部は苦戦している」と打ち明ける。ビジネスセンスを生かし活性化する地域が出る一方、どこかが税収を奪われるのは制度の仕組み上、避けられない。ただ消費者が好む返礼品の有無で差がつきやすい現状には不満も消えない。 *1-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15716093.html (朝日新聞社説 2023年8月13日) ふるさと納税 ゆがみ拡大 放置するな 名目上は善意の寄付だが、実態は節税の手段になっている。年数千億円の税収が消え、財政のひずみも招いている。そんな不合理や不公正が広がるのを、これ以上放置してはならない。 「ふるさと納税」の利用が増え続けている。昨年度の寄付総額は9654億円で、この3年間で倍増した。背景には、返礼品の競争や仲介サイトの宣伝がある。「ふるさとやお世話になった自治体を応援するため、自分で納税先や使い道を決められるようにする」というのが制度の趣旨で08年に始まった。菅義偉前首相が総務相の時に旗を振り、官房長官時代には、枠の拡大と手続きの簡略化で利用拡大の道を開いた。それとともに、さまざまなゆがみも膨らんだ。最大の問題は、巨額の税金の流出だ。利用者にとって、寄付が枠内なら自己負担は2千円で済む。残りは、利用者が住む自治体の住民税や国の所得税が減ることで相殺されるからだ。その分がすべて寄付先の自治体の手元に残るのなら国全体での収入は変わらないが、そうではない。寄付額の3割が返礼品の費用に、2割が運営業者の手数料などに使われている。膨大な税収が動く中で、その約半分が寄付者や業者の利益に回る仕組みが、合理的だろうか。しかも、利用できる枠は、高所得者ほど大きい。所得の再分配に穴を開ける制度が野放しにされるのは、看過できない。利用者が多い大都市の自治体は、住民税収の落ち込みで行政サービスの低下が避けられないとして、制度の見直しを訴えている。税収減の一定範囲は国が穴埋めしているが、その分も結局は国民負担だ。「ふるさと」への貢献という理念も、実際にはかすんでいる。仲介サイトはまるで商品カタログのようなつくりで「お得な通販」感覚をかき立てる。見返り目当ての人が多く、有名な地場産品をもつ自治体に寄付が集中する傾向も鮮明だ。本来の趣旨からかけ離れた現状を正すには、返礼品の廃止や利用枠の大幅縮小など、制度の根本からの変更が不可欠だ。自治体が対価を払って税収を奪い合う仕組みは持続できない。地域への愛着や寄付金の使い方への共感を基本においた形に改めることが必要だ。しかし、政府の腰は重い。最近、経費算定基準を厳格化したものの、抜本的な見直しは避けている。小手先の対処では、ルールの抜け穴を探す自治体・運営業者との「いたちごっこ」も終わらないだろう。広がる弊害を前に見て見ぬふりを続ける無責任さを自覚すべきだ。 *1-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1084401 (佐賀新聞 2023/8/4) 佐賀県内ふるさと納税416億4278万円 2022年度 過去2番目、全国で5位 佐賀県と県内20市町の2022年度のふるさと納税寄付総額は前年度比18・97%増の416億4278万円で、過去最高だった18年度の424億4094万円に次ぐ額になった。都道府県順位は5位で前年からひとつ順位を上げた。市町別の最多は上峰町の108億7398万円で全国6位に入った。寄付総額の増加は3年連続。18年度以降、424億4094万円-266億4284万円-336億6568万円-350億47万円と推移していた。全国順位は2位-3位-2位-6位だったので2年ぶりに順位を上げた。県内市町で寄付額が多いのは最多の上峰町に続き(2)唐津市(53億9861万円)(3)伊万里市(29億2554万円)(4)嬉野市(28億4415万円)(5)みやき町(22億3625万円)の順。10億円を超えたのは7市7町で、21年度を上回ったのは6市4町だった。上峰町は前年度の2・39倍の寄付を集め、2年ぶりの最多。全国順位も20位から6位に上げて3年ぶりの10位以内に入った。そのほか伸び率が高かったのは江北町の78%増、多久市の59%増、白石町の58%増、吉野ヶ里町の38%増など。ふるさと納税の収支は、寄付額から経費と他自治体に住民が寄付したことに伴う住民税控除額を差し引くと大まかに算出できる。県内20市町はいずれも黒字で、最多は上峰町の60億2200万円余りだった。29億4000万円近い唐津市を含め10億円以上の黒字となったのは3市2町。地方交付税不交付団体は住民税控除額の75%が交付税補てんされるため、実質黒字はさらに増える。ふるさと納税で総務省は、過熱する寄付金集めを抑制するため19年に返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限り、経費は寄付額の5割以下とする新ルールを設けた。ことし10月からは経費に「ワンストップ特例」の事務費を含め、他県産の熟成肉を地場産品と認めないなど、さらに厳格化する。新たな対応を迫られる自治体もある。 *1-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1121980 (佐賀新聞論説 2023/10/06) ふるさと納税 まず寄付総額の抑制を 2022年度に全国の地方自治体が受け入れたふるさと納税の寄付総額は1兆円近くに膨らみ、利用者は約900万人という規模にまでなった。生活防衛策として返礼品に期待する人も多く、増加傾向は続きそうだ。この10月から制度が微修正されたものの「生まれ育ったふるさとに貢献」という導入の目的からかけ離れたままだ。抜本的な見直しを求めたい。ふるさと納税は、2千円を自分で負担すれば、所得に応じて設定される上限額まで、肉類や海産物など自治体の返礼品を仲介サイト経由で受け取ることができる。寄付と銘打ちながらも「官製通販」と批判されるのもうなずける。制度は08年度に始まった。利用促進のため寄付できる額を増やす一方、金券など過剰な返礼品や過熱するお得感競争を背景に、返礼割合を寄付額の3割以下にするなど運用を厳格化。今回は5割以下とされている経費の対象範囲を拡大した。この結果、返礼品の量を減らしたり、必要な寄付額を上積みしたりする「実質値上げ」の例が目立つようになったという。ふるさと納税は地域経済の活性化に一役買った面がある。返礼品を扱う地元企業は商品開発に力を入れ、売り上げが伸びた。子育て支援などの課題解決のために寄付を集め、対策予算を増やすこともできた。空き家となった実家や墓のある自治体に寄付すれば、管理や掃除が業者に依頼できるケースもある。首長、自治体がやる気を出して新しい政策をつくる素地を育てたと評価できる。その半面、人気が出る返礼品を開発しようと、営業戦略の専門家を職員に採用する自治体も出てきた。高齢化や人口減少に直面する中で、優先すべき政策なのか疑問だ。都市部の住民が地方の自治体に返礼品を目当てに寄付し、税収が移るゼロサムゲームになっている問題もある。寄付で潤う自治体が固定化されつつあり、公平性の観点から気になる。それでも国から地方交付税を受ける自治体は、税収減の75%を交付税で補塡ほてんされる仕組みがあるので、影響はある程度緩和される。財政に余裕がある不交付団体には穴埋めがなく大幅な減収となる。豊かな自治体には不利な仕組みと言える。寄付総額の約半分は返礼品の会社や、仲介サイトの運営企業などの収入になる。本来は行政が使っていたはずの税収であり、住民サービスの低下につながる恐れがある。政府は東京一極集中の是正を目標に掲げた「地方創生」を14年に打ち出し、その目標は今も堅持している。それでも人口の集中が続いており、税収が都市に集まる構図は変わっていない。国土の均衡ある発展による税収の平準化は難しい。自治体の税収格差を是正するには、ふるさと納税ではなく、都市部と地方が意見を交わしながら、納得できる是正策を探ることを提案したい。現行制度は、高所得者ほど多く寄付ができ、節税効果が大きいという問題もある。返礼品の廃止はすぐにできないとしても、富裕層については例えば「最大20万円」と、定額の上限を設定することは可能ではないか。ふるさと納税による寄付総額をどの程度に抑えるか、まず議論してほしい。それに合わせ、個人が寄付できる額を段階的に引き下げるべきだ。 <投資と人口の偏在> *2-1:https://mainichi.jp/articles/20220621/k00/00m/050/111000c (毎日新聞 2022/6/21) 実は3兆円超え?試算も 東京五輪「1.4兆円」に関連経費含まれず 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は21日、総額1兆4238億円に上る大会経費の最終報告を公表した。新型コロナウイルスの感染拡大による大会の1年延期などで組織委の「赤字」も懸念されたが、組織委は発表で「これまでの増収努力や不断の経費の見直しなどにより、収支均衡となった」と説明した。 ●大会経費に統一定義なく 競技会場の建設、改修費や大会の運営費を合わせた「大会経費」は開催都市である東京都と組織委、国が分担する。都が招致段階で公表した「立候補ファイル」では7340億円だったが、組織委は開催決定から3年3カ月後の2016年12月、大会経費を1兆5000億円(予備費を除く)と初めて公表した。その後も毎年12月に予算を公表し、おおむね1兆3500億円程度で推移。新型コロナによる大会の1年延期を織り込んだ20年12月の第5弾(V5)予算こそ1兆6440億円に膨らんだが、原則無観客開催になり、チケット収入や警備費用など収入、支出ともに減少したため、最終的にはコロナ前の予算から微増にとどまった。だが、五輪経費を巡る「不透明さ」は常につきまとい、時には政治問題化した。「五輪関連予算・運営の適正化」を公約にして16年7月に初当選した小池百合子都知事は、都政改革本部を設置。本部内の「五輪・パラリンピック調査チーム」は16年9月、開催費用の総額が3兆円を超える可能性を指摘した。その前年、組織委の森喜朗会長(当時)は「最終的には2兆円を超すことになるかもしれない」、舛添要一都知事(同)も「大まかに3兆円は必要」と述べていた。 ●東京五輪・パラリンピック大会経費の推移 組織委は「過去大会を含めて大会経費の範囲には統一的な定義が存在しない」とする。今大会でも「大会に直接必要な経費」としており、開催都市の道路整備や施設のバリアフリー化などは「五輪が開催されなくても必要」として計上しなかった。このため、どこまでが五輪経費で、どこまでが五輪経費ではないのか不明確なまま、開催準備は進んだ。だが、世論の反発をくみ取る形で、五輪経費の全体像を明らかにしようとする動きもあった。都は18年1月、既存体育施設の改修や輸送インフラ、都市ボランティアの育成など総額8100億円を「大会関連経費」として公表した。当時、最新だったV2予算の1兆3500億円に積み上げると、五輪経費は2兆1600億円に膨れ上がった。国の会計をチェックする会計検査院は19年12月、1500億円とされている国負担額が、関連経費を含めて1兆600億円以上になる試算を公表した。都と会計検査院の数字を足すと、五輪経費の総額は3兆700億円以上になる。会計検査院と都は今後、改めて大会関連経費を算出する予定だが、都関係者は「内部の人間同士で、これ以上突っ込まないのでは」と見る。五輪経費の全体像は見えないまま、6月30日で組織委は解散し、残されたチェックの主体は国と都だけになる。政治ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「東京五輪で一番欠けていたのは情報公開。税金がどのように使われたのか知るには、予算以上に決算段階での検証が大事になる。会計検査院と都が関連経費も出した後、改めて国会や都議会でカネやレガシー(遺産)も含めて大会を総括すべきだ」と指摘した。 *2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15761213.html (朝日新聞 2023年10月7日) 万博資金繰り、焦る吉村知事 膨らむ経費、地元反発に危機感 経産相らと面会、対応協議 2025年開催の大阪・関西万博の準備で膨らむ経費に、大阪府や国が財政負担のあり方で頭を抱えている。地元の理解を得たい吉村洋文知事は6日、西村康稔経産相らと対応を協議。府は、国からの財政支援を得られないか検討しているが、政府にとっては国費の負担がさらに増す恐れがあり、調整は難航している。「我々、大阪府市も責任者。会場建設費については、それぞれ負担をして、万博を成功させようというのが基本の考え方だ」。吉村知事は同日、東京都内で西村氏のほか、自見英子万博相らと相次いで面会した後、記者団にこう語った。万博の建設費が約450億円増の約2300億円程度まで上ぶれする可能性があり、面会では、どの費目が増額するのか今後詳細に確認することなどを協議したという。吉村知事が万博の費用負担をめぐって奔走するのは、膨らみ続ける万博の経費に対し、地元の反発が強いためだ。建設費の負担は、国、大阪府市、経済界で3等分すると閣議了解されており、府市の負担はさらに150億円程度増えかねない。建設費が増額すれば、20年に続いて2度目。地元の府市両議会は1回目の上ぶれを受け、再度増額が生じた場合は「国が責任をもって対応」とする意見書を可決している。府幹部は「このままでは府民、市民が納得しない」と危機感を示す。とはいえ、そもそも万博誘致を主導したのは、吉村知事が共同代表を務める日本維新の会。増額分の負担軽減を求めれば、与野党からの批判も避けられない。そこで府が検討しているのが、交付金による財政支援だ。建設費の増額分に予算を充てる分、万博の機運情勢や環境整備にかける事業に交付金を活用すれば、費用負担は3等分との大枠は維持しつつ、府・市の負担を軽減できるためだ。別の府幹部は「普段から府財政は厳しいので、がめつく国の交付金を取りに行く。交付金メニューはたくさんあるので、こちらから提案していかないと通らないだろう」と話す。(野平悠一、岡純太郎) ■政府、「助け舟」に交付金検討 膨らみ続ける万博の経費は、政府にとっても頭の痛い問題だ。会場建設費の上ぶれ分については、国、大阪府市、経済界で3等分すると閣議了解しており、負担割合を変更する考えはない。一方で、警備費や機運醸成といったソフト面での支援について、国の負担も検討している。というのも、8月末に岸田文雄首相が万博の準備遅れを「胸突き八丁の状況」と発言し、政府も本腰を入れ始めたからだ。首相は、2025年春の開幕に向けて周囲に「絶対に間に合わせないといけない」と話し、全力を尽くす考えを示す。こうした首相の方針もあり、西村康稔経済産業相が警備費を全額国が負担する方針を表明。さらに「助け舟」として、政府内で交付金による財政支援も検討している。複数の政府関係者によると、岸田政権の看板政策の一つ「デジタル田園都市国家構想」で創設された交付金の活用論が政府内で浮上している。経産省関係者は「万博は国家事業。開催地の大阪を支えることは当然だ」といい、交付金を用いて大阪の負担軽減を図りたい考えだ。だが、この交付金は、デジタル化により、観光や地方創生につながる取り組みを支援するために創設されたもの。関係閣僚の一人は「交付金の趣旨に反する。絶対に無理だ」と反対姿勢で、調整は難航している。膨らみ続ける万博費用の全容はいまだに見えず、国の財政負担に世論の理解がどこまで得られるかも不透明だ。首相周辺は「もともと維新がやりたいと言って招致したのに……」と恨み節を漏らす。 *2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15761296.html (朝日新聞 2023年10月7日) 五輪汚職の影、機運しぼむ 札幌30年招致断念へ 2030年冬季五輪・パラリンピック招致をめざしている札幌市は30年の招致を断念し、34年以降に切り替える方針を固めた。東京大会での汚職・談合でオリパラのイメージが悪化する中、招致に不可欠となる地元の高い支持率を現時点で得るのは難しいと判断した。秋元克広市長が11日に日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長と会談して断念の意向を表明するとみられる。6日の記者会見で秋元氏は、12日にある国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で「30年大会の開催地決定のプロセスについて議論がある」との見通しを示した。山下会長とは、東京大会の事案の状況を踏まえて「招致を実現するために、どう進めていくべきかを議論する」と語った。秋元氏にとって、30年招致断念の選択肢は早い段階から持ち合わせていたものだ。札幌市の都市インフラは1972年の冬季五輪を機にできたが、老朽化が進む。2015年に就任した秋元氏は、五輪を「まちづくりの起爆剤」と位置づけて招致を推進してきた。しかし、20年からのコロナ禍で市民の招致機運を盛り上げる機会を失った。昨年3月に実施した意向調査では賛成が反対を上回ったが、東京五輪汚職が発覚した昨夏以降は不招致推進デモが頻繁に起きるなど「逆風」が続いた。今年4月の市長選で秋元氏は3選を果たしたが、五輪反対派の2候補が4割強の票を獲得した。秋元氏は昨年12月にIOCが大会の開催地決定の時期を先送りしたことを受けて、「異例」の招致活動の休止に踏み切った。逆風の下、市がとったのが、30年の旗は掲げたまま、34年大会への切り替えも否定しない「両にらみ作戦」だ。北海道新幹線の札幌延伸が30年度末とされていることもあり、市とともに招致を進めてきた地元経済界では「札幌延伸が完了した後の34年大会の方が経済効果は大きい」との声も強まっていた。 ■JOC弱気、IOC冷淡 昨年12月に札幌市とJOCが招致に向けた積極的な機運醸成活動の当面の休止を発表してから、JOCの山下会長が後ろ向きな発言をすることが目立つようになった。今年2月の定例記者会見では「30年招致はより厳しい状況になっていく」。6月の会見では「今の状況で30年は厳しい。特効薬はない」と認めた。複数の関係者によると、山下会長は今年に入ってからバッハ会長を訪ね、30年招致が難しくなった旨を伝えた。そのことで、バッハ会長の怒りを買ったという。IOCは、その前後から、過去に「蜜月」だったJOCに対する冷淡さが目立ち始めた。「札幌」の名前が会見で言及されることが減った。取って代わるように26年冬季五輪招致で敗れたスウェーデンが2月、唐突に30年大会招致に名乗りを上げ、フランスも意欲を表明した。最近、IOCの事務方から漏れ伝わるのはスウェーデンの好評価だ。前回は国内世論の支持率が伸び悩み、政府の財政保証にも手間取ったが、ここに来て政府支援に希望が見えてきたという。札幌が34年大会以降に照準を切り替えるとしても、34年は米ソルトレークシティーが有力視される。02年に冬季五輪を開いた実績、地元の支持率も高いことから、「本命」と評価されている。山下会長は6日、アジア大会が行われている中国・杭州で「今、お話しできることは何もない。昨年12月の記者会見から状況は大きく変わっていないという認識だ」と話すにとどまった。 ■札幌冬季五輪・パラリンピック招致の動き <2014年11月> 上田文雄市長(当時)が26年大会の招致を表明 <15年4月> 市長選で招致推進派の秋元克広氏が初当選 <18年9月> 胆振東部地震発生。招致目標を2030年に切り替え <20年1月> JOCが市を30年大会の国内候補地に決定 <22年3月> 市の招致意向調査で賛成が過半数を占める <8月> 東京地検特捜部が汚職事件で大会組織委の元理事を逮捕 <11月> 東京五輪の運営業務を巡る談合事件で東京地検特捜部が電通などを家宅捜索 <12月> 市とJOCが積極的な機運醸成活動を休止。大会計画案の見直しを表明 <23年2月> 東京地検特捜部が東京五輪の運営業務を巡る談合事件で元組織委次長らを独占禁止法違反容疑で逮捕 <4月> 市長選で秋元氏が3選 <6月> 再発防止策を盛り込んだ大会見直し原案を公表 <7~9月> オリパラの市民説明会や公開討論会を実施 <10月> 大会見直し案の最終案まとまる *2-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231012&ng=DGKKZO75189330S3A011C2EA1000 (日経新聞社説 2023.10.12) 札幌五輪の意義改めて精査を 五輪を取り巻く社会情勢は、この数年で激変した。今後の招致のあり方について、改めて慎重かつ徹底的な議論が必要だ。札幌市が2030年冬季五輪・パラリンピック招致を断念した。秋元克広市長と日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長が11日に会談し、その後の記者会見で発表した。今後は34年以降の開催の可能性を探るという。30年招致が困難なのは、関係者の間では以前から共通認識だった。最も影響が大きかったのが東京五輪を巡る一連の不祥事である。札幌市は市民の不信を払拭しようと説明会や対話事業を行ってきたものの「理解が十分広がっていない」(秋元市長)状況が続いていた。山下会長も「拙速な招致は好ましくない」と述べた。もっとも、34年も有力なライバル都市が名乗りを上げており、国際オリンピック委員会(IOC)が札幌を重視しているといわれた従前とは競争環境も様変わりしている。財政面についても、東京五輪に続いて大阪・関西万博も後から費用が膨らんだことから、札幌でも将来の経費増に対する懸念が根強い。今回の仕切り直しを経ても、招致のハードルが依然高いことに変わりはない。札幌市は今後、招致計画を練り直す見通しだ。その際はなぜ招致活動を続けるのか、そこにどんな意義があるのかを、とことん精査すべきだ。それなくして広く理解を得ることは難しいだろう。市民の意向を正確にくみ取る調査の実施も欠かせない。五輪をバネに地域をもり立てること自体は否定されるものではない。ただ、昔ながらの地域振興が目的の前面に出てくるようなら支持は広がるまい。34年までは10年以上ある。その間、日本社会は様々に変貌していくはずだ。それでも変わらず説得力を持ち得る「札幌五輪」とは、どのような大会であるべきなのか。その明確な青写真を開催都市として示せるかが、今後の招致を左右する。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231015&ng=DGKKZO75288500V11C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.15) 賃上げ減税 効果に限界、中小企業6割が対象外、赤字体質の脱却重要に 政府・与党が年末にかけて詰める2024年度の税制改正で、従業員の給与を一定以上増やす際に納税額を減らす「賃上げ促進税制」の拡充が論点になっている。税負担を軽くしても賃上げや投資に回っていないとの不満が背景にある。賃上げの流れを効率的に加速する対策が重要になる。「税収増などを国民に適切に還元する」。10月末にもまとめる経済対策を巡り岸田文雄首相はこう話す。どの税金を「減税」するかの詳細はこれからだが、こだわりを持つ一つが賃上げ税制だ。原型となる税制は13年度に導入した。21年には14万件程度が適用を受けた。法人税を年2000億~4000億円ほど減免してきた。一方で厚生労働省の賃金構造基本統計調査をみると、パートタイムなどを除く一般労働者の賃金の上昇率は安倍晋三元首相のアベノミクスを支えに伸びた時期を除き、データのある21年度まで1.5%を下回る状況が続く。財務省、経済産業省はこれまでの対策に「効果があったとはいえない」とみる。2つの要因が指摘されている。1つ目は現行の仕組みの弱点だ。納めるべき法人税から差し引く形式のため税優遇は黒字の企業にしか効果がない。大企業で法人税を納めていない赤字法人は21年度に大企業で25.8%あり、資本金1億円以下の中小企業でみると61.9%にのぼる。日本企業の99%超を占める中小に恩恵が及ばなければ賃金の底上げにつながらない。経産省は解消策を提案している。赤字などの理由で法人税の納税額が少なく、賃金を上げた優遇を受けられる分を控除しきれない決算期があった場合、繰り越しを認める制度を中堅・中小企業向けに導入する案だ。黒字になった際にその分を差し引く。ただ日本には単に業績が悪いだけでなく、納税を避けるために経費を膨らませ、あえて赤字を選ぶ中小があるとの指摘もある。制度を導入しても黒字化しないと優遇は受けられない。中小の赤字体質が改善できるかが重要になる。2つ目は優遇策の適用期間だ。経産省はこれまで2年ほどで延長を繰り返してきた制度を6年間延ばす案を持つ。財務省は賃上げ税制など租税特別措置(租特)は「短期集中でこそ効果がある」との立場だ。2~3年が一般的で、5年超は異例だが、経産省は期間が短いと企業が中長期の視点で使いにくいとみる。制度の拡充議論の背景には社員を資本と捉え、教育費用などをコストでなく投資とみなす「人的資本経営」の広がりがある。充実すれば生産性が上がるとの考え方だ。日本企業の人的投資は主要先進国でなお低い水準にある。10~14年の企業の職場内訓練(OJT)を除く研修費用の国内総生産(GDP)比は0.1%にとどまる。米国は2%、フランスは1.8%、英国、ドイツは1%強だ。賃上げ税制には職業訓練費を一定額積み増した場合に法人税の優遇額を増やす規定がある。賃上げも含めた「人への投資」を手厚くして成長力を底上げする狙いがある。企業の意識にも変化の兆しがある。連合の調査によると23年の賃上げ率は3.58%と約30年ぶりの高水準だった。政府はこの流れの加速を目指すが、税によるインセンティブにどこまで効果があるかは検証余地がある。財務省が国会に提出する租特に関する報告書はどの企業が活用したかや、どう使ったかは明確ではない。行政事業レビューなどに基づき情報が開示される予算の歳出に比べると透明性で見劣りする。政策減税の議論には客観的なデータを使った効果の検証が欠かせない。 <農地の減少と食料自給率> *3-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA297ZX0Z20C23A9000000/ (日経新聞 2023年10月1日) 有事の食料輸入計画、商社などに要請へ 政府が新法 政府は商社などを念頭に、有事に食料不足が見込まれる際に代替調達ルートといった輸入計画を提出するよう求める方針だ。異常気象による不作や感染症の流行、紛争といった有事を想定し、重要な食料を確保する見通しを明確にする。農林水産省が2日に開く「不測時における食料安全保障に関する検討会」で示し、年内にも方向性をまとめる。食料安全保障の一環として、農水省が2024年の通常国会への提出を目指す新法へ盛り込む。植物油や大豆など栄養バランスの上で摂取する必要があるものの自給率が低い品目を対象とする見通しだ。企業に求める計画には潜在的な代替調達網のほか、輸入規模、時期などを盛り込むよう促す。対象は商社やメーカーといった大企業を想定する。国内の備蓄で対応が難しくなったときに、まず企業に計画の提出を要請する。有事の深刻度に応じて要請から指示に切り替えることも検討する。輸入価格が高騰し、国内での販売が難しい場合は国が資金面で調達を支援することも視野に入れる。新法では食料安保面での有事対応の司令塔役として、首相をトップとする「対策本部」の新設を定める。食料輸入計画の策定要請は同対策本部の権限の一つに位置づける。日本の食料自給率はカロリーベースで38%と主要7カ国(G7)で最も低い。特に大豆は25%、砂糖は34%、油類は3%にとどまる。食料安保の確保には官民を挙げて安定的な輸入体制を築く必要がある。新法には国内で在庫が偏在する場合の対応として、業務用と民間用の在庫の融通や出荷量の調整などを要請することも対策本部の権限として盛り込む見通しだ。不測時に備え、農水省が平時から卸企業やメーカーなどに民間在庫の報告を求めることも検討する。作付面積や貿易統計から主要な作物の在庫は把握できるが、パンやうどんといった加工品の在庫の全容をつかむことは難しいからだ。 *3-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15764380.html (朝日新聞 2023年10月12日) 農業の現場と基本法改正:2 「適正価格」検討、懐疑の声も 千葉県成田市や栄町の水田地帯。収穫期を控えた7月中旬、稲作農家の小倉毅さん(63)は、雑草が生えていないか、田んぼの様子を見て回っていた。今秋、33回目の収穫期を迎える。できるだけ農薬を使わないのがモットーだ。「もう耕せない」と高齢の親類から頼まれた田んぼも多く、計15ヘクタールを管理する。「展望はないよ。機械が古いけど投資もできない」。売り上げから経費を引いて手元に残るのは、稲作だけでは100万円以下という。給与所得者平均の458万円に遠く及ばない。小倉さんは農民運動全国連合会という団体で活動している。連合会は6月、農林水産省の「食料・農業・農村基本法」の見直し案に対し「価格保障」を提言した。政府が実勢価格との差額分を農家に支払うよう求めるものだ。「農家は細る一方。食は国が支えるべきで、国民合意もできるはずだ」と小倉さんは言う。農産物の価格は、基本法の改正議論で最大の焦点だった。農水省が5月に公表した改正案の中間とりまとめでは、スーパーが食品の安売り競争に走り、「生産コストが上昇しても価格に反映することが難しい状況を生み出している」と指摘。「適正な価格形成」に向けた仕組みづくりの検討を農水省の責務と定めた。これらを受けて農水省が動く。8月に生産・販売・流通に関わる16団体の幹部らを集めて「適正な価格形成に関する協議会」を立ち上げた。だが、需給で決まる価格に国が口を出すことには懸念もつきまとう。あいさつで同省の宮浦浩司・総括審議官は「まずは関係者間で議論できる土俵作りをしたい」と述べ、慎重に議論する考えを示した。主婦連合会副会長の田辺恵子氏も「非正規雇用の人や相対的貧困層をどう考えるのか」と話し、値上げに慎重な対応を求めた。実は農水省は今春、コストの高騰を価格に転嫁する仕組み作りを進めていた。畜産や酪農の関係者を集めた省内の会議で「飼料サーチャージのような仕組みができないか」と打ち出していたのだ。燃料価格を航空運賃などに上乗せする「燃料サーチャージ」が念頭にあった。しかし、この会議は「生産者とメーカーの取引だけに着目しても小売価格に反映することは難しい。単純に反映しても、消費減退を招く」として導入の議論は先送りされた。こうした動きに、現場からも懐疑的な声がある。群馬県昭和村の野菜農家、澤浦彰治さん(59)は、コンニャクや有機野菜の栽培で試行錯誤を繰り返し、親から継いだ農業の規模を拡大してきた。240人を雇い、「小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール」(ダイヤモンド社)などの著書もある。澤浦さんは「同じレタスでも、有機かどうか、食味や用途、鮮度など様々な組み合わせで価格が決まる。一律には決められるものではない」と言う。農水省の「適正な価格形成」に向けた取り組みにも、「ありがたいことだが、価格について一律に決めても、創意工夫して生産し、付加価値を付けて販売している人には逆に足かせになる可能性がある」とみている。 *3-2-1:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023100400652 (信濃毎日新聞 2023/10/04) 半導体工場誘致へ規制緩和 森林や農地も立地可能に 政府は4日、半導体や蓄電池など重要物資の工場を建設しやすくするため、土地利用の規制を緩和する方針を明らかにした。岸田文雄首相は同日、首相官邸で開いた官民連携の会合で「土地利用の規制について、国家プロジェクトが円滑に進むよう柔軟に対応していく」と表明した。森林や農地など開発に制限がある「市街化調整区域」で、自治体が工場の立地計画を許可できるようにする。農地の転用手続きにかかる期間の短縮も図る。10月中にまとめる経済対策に盛り込む方針。半導体などを巡っては大型工業用地の不足が課題となっていた。工場建設を後押しし、重要物資の供給体制を強化する。国内投資の拡大につなげる狙いもある。首相は、半導体をはじめとした戦略分野の事業拠点に必要なインフラ投資を支援するため「複数年かけて安定的に対応できる機動的な仕組みを創設する」とも述べた。規制緩和には経済産業省や国土交通省など複数省庁が関与する。市街化調整区域に指定されている農地の場合、行政手続きが各省庁の管轄でそれぞれ発生するため、これまで約1年かかっている。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA02BH40S3A001C2000000/ (日経新聞 2023年10月3日) 半導体工場の立地規制を緩和 政府、農地・森林にも誘致 政府は12月にも半導体など重要物資の生産工場の誘致に向け土地規制を緩和する。農地や森林など開発に制限がある市街化調整区域で自治体が建設を許可できるようにする。大型工業用地の不足に対応する。税制や予算とあわせて規制改革で国内投資を促す。経済安全保障の観点から半導体や蓄電池、バイオ関連といった分野が対象となる。岸田文雄首相が4日、民間企業や閣僚を集めて首相官邸で開くフォーラムで円滑な土地利用に向けた規制改革に取り組むと表明する。10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資の促進策として税制・予算と合わせて打ち出す。経済産業省によると全国の分譲可能な産業用地面積は2022年時点でおよそ1万ヘクタールある。11年の3分の2ほどに減った。新たに土地を確保するにも用途指定を変更する手続きなどに時間がかかる問題点が指摘されてきた。市街化調整区域の開発は、地域特性を生かした事業を展開する企業を支援する「地域未来投資促進法」の規定を使って例外的な活用を認める。いまは食品関連の物流施設やデータセンター、植物工場などに限り、政府が自治体に開発許可を認めている。関係各省の省令や告示を改正し、これに重要な戦略物資の工場を加える。自治体が地域活性化や環境の観点で問題ないと判断すればより柔軟に工場を誘致できるようになる。手続きに時間がかかる農地の場合は、通常なら1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮する。農地の転用には地元の農業委員会などの許可が要るなど規制が複数の省にまたがるケースが少なくない。このため国土交通、農林水産、経産の3省が連携して開発許可の手続きを同時並行で進める。半導体の工場にはまとまった土地と良質な水などが欠かせない。円安や安定したサプライチェーン(供給網)のため生産拠点を国内に回帰させる動きがある一方、条件に合う工業用地の供給は限られる。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本に進出し、周辺の自治体からは土地規制の是正を求める声が上がっていた。九州経済連合会は国や県の権限で農地を速やかに産業用地に転用できるような規制緩和策を政府に要請した。企業が土地を確保できず進出を断念したケースもこれまでにあったという。TSMC新工場の周辺は半導体関連のサプライヤー企業の集積が相次ぐ。工業用水の確保や道路など物流網の構築は待ったなしの状況にある。熊本県の蒲島郁夫知事は8月、官邸で首相に社会資本整備に関する「緊急要望」を手渡した。政府は機動的なインフラ整備に向けて関係府省が横断で複数年にわたり支援する枠組みを創設する。23年度補正予算案への費用計上に向け調整する。為替相場は円安が続き、日本国内で投資しやすい環境が整う。地方に工場の立地を促し、地域の雇用確保や周辺産業を含めた賃上げにつなげる。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231014&ng=DGKKZO75276130T11C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.14) 地方の新興企業、5年で5割増、産業活性化に貢献 長野県、大学軸に起業支援 独自性のある技術やサービスで成長を目指すスタートアップが全国で増えている。新興企業支援会社のデータベースでは、全国の企業数が5年間で5割増えた。地元大学発の新興が相次いで誕生する長野県は8割増と大きく伸ばす。地方でも産学官金の支援の輪が広がっており、スタートアップを生み育てる「エコシステム(生態系)」が構築されつつある。東証グロース上場のフォースタートアップスが作成した「STARTUP DB(データベース)」に登録されている2000年以降創業の企業を対象に、23年6月末の登録数を18年と比較した。登録は新たな技術やビジネスモデルでイノベーションの実現を目指す企業が対象。全体の登録数は1万5692社で東京都の企業が66%を占めるが、東京以外の自治体の合計登録数も5年で49.5%増と東京と同じ伸びを示した。増加率4位の長野県は信州大学の積極性が目立つ。17年に知的財産・ベンチャー支援室を開設。18年には「信州大学発ベンチャー」の認定を始めた。現在の認定企業は17社で、起業や事業拡大に向けた多彩な支援を受けられる。信大は企業との共同研究が盛んで、特許の出願件数も地方大学でトップクラス。支援室長の松山紀里子准教授は「有望な技術が大学のどこにあるかを把握しており、起業を後押ししやすい」と説明する。認定企業の一つで17年創業の精密林業計測(伊那市)が目指すのは地場産業である林業の活性化だ。担い手不足が深刻になるなか、ドローンなどを使って伐採に適切な木を判別するなど効率化を進める。農学部の特任教授でもある加藤正人社長は「特許取得などで大学の支援を受けており経営もしやすい」と話す。金融機関も支援に前向きだ。22年には長野県が音頭を取り、八十二銀行グループや投資会社などが「信州スタートアップ・承継支援ファンド」を設立。これまでに信大発企業を含めた9社に出資した。奈良県は18社と登録は少ないが増加率は2倍でトップ。就職時の若者の県外流出に悩む奈良市は、独自の起業家育成プログラムを通じて「新興企業のエコシステムをつくりたい」(産業政策課)。7年目の今年のプログラムには6社が参加する。在宅の縫製士をネットワーク化し、高付加価値で小ロットの仕事を発注するヴァレイ(上牧町)の谷英希社長は1期生。「情報不足の奈良でモヤモヤしていたが、プログラムを通じてビジョンを形にできた」と振り返る。16年の会社設立から委託先は約300カ所に増え、年商は1億円を超える。現在は高校生への講演などにも熱心だ。伸び率6位の愛知県は自動車など基幹産業が安定していることで、逆に「新興企業不毛の地」とも言われてきた。クルマの電動化など変革の波が押し寄せるなか、大村秀章知事は「スタートアップで産業構造を変えたい」と意気込む。県が20年に開いたインキュベーション施設には300近い企業が集まる。24年秋には国内最大級の育成拠点「ステーションAi」も開く。スタートアップ育成は国をあげての課題でもある。政府は22年に「5か年計画」を策定。27年度の新興企業への投資額を10倍超の10兆円規模にすることを目指す。日本総合研究所の井村圭マネジャーは「農業や製造業の効率化など地域の課題に取り組む新興企業が増えることで産業の高度化につながる」と強調。「今後も既存企業を巻き込んで地域全体の革新につながるような支援に力を入れる必要がある」としている。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231009&ng=DGKKZO75118950Z01C23A0MM8000 (日経新聞 2023.10.9) エネルギー選択の時 石油危機50年(1) 脱炭素、覇権争い過熱 日本、産業存亡の剣が峰 1973年の第1次石油危機から50年となった。第4次中東戦争に併せて産油国が発動した石油戦略は消費国にエネルギー転換を迫るきっかけになった。ロシアのウクライナ侵攻とパレスチナの衝突再燃に直面する今日の世界は、50年前から何を学ぶべきだろうか。オランダ・ロッテルダム港の突端、北海に面した一角で工事の準備が始まった。国際石油資本(メジャー)の英シェルが計画する、欧州最大級のグリーン水素の製造工場の予定地だ。洋上風力発電を使い、2025年にも生産を開始する。 ●中国に主力技術 関連企業団体の水素協議会によれば23年5月時点で計画中の水素プロジェクトは1千件超にのぼる。1年前比で5割増えた。30年までに3200億ドル(約47兆円)の投資が見込まれる。ウクライナ侵攻後、欧州起点に広がったエネルギー危機と脱炭素のうねりは、世界に構造転換を迫る。変革の奔流から見えてくるのは技術で先行し、優位に立つ国家と企業の大競争だ。別の数字がある。国際エネルギー機関(IEA)によると、太陽光発電パネルの生産シェアは中国が世界の8割超を占める。風力発電機は中期的に6~8割を握る。電気自動車(EV)向け電池の4分の3は中国企業が生産する。脱炭素の主力技術はすでに中国の手中にある。供給網を確保する経済安全保障や資源外交の重要性は、深まる分断の下で、石油の世紀と変わらないどころか、むしろ重みが増す。安価で大量の水素が手に入らなければ製鉄業は日本に残れない。電池を安定確保する道が閉ざされれば自動車産業は窮地に陥る。脱炭素時代のエネルギー覇権をかけたせめぎ合いが過熱するなかで、日本も国の存亡をかけて立ち位置をみつけなければならない。 ●中東依存減らず そこに至る道筋をどう描くのか。そのためには50年前を振り返ってみることだ。エネルギー転換の決断を迫られた73年は、23年の相似形とも言えるからだ。石油危機は高度経済成長に終わりを告げた。田中角栄首相の秘書官として危機対策にあたった小長啓一元通商産業(現経済産業)次官は「中東産の安い石油を臨海部のコンビナートに運ぶことで成し遂げた重化学工業主導の高度成長の転換点だった」と証言する。石油危機後、政府は石油の調達先を中東以外に広げる脱中東、エネルギー利用を石油以外に広げる脱石油、そして徹底した省エネルギーに着手した。これらは成果をあげた。国の政策に基づいて電力会社が原子力発電所を建設する「国策民営」の下で、原発が次々と稼働した。単位あたりのエネルギー消費を示す、製造業のエネルギー消費原単位は90年までに73年比でほぼ半減し、世界屈指の省エネ大国になった。ところが原発事故で振り出しに戻った。石油の中東依存度は22年度に95%と、石油危機時の78%を上回る。11年の東京電力福島第1原発の事故で原発は信頼を失い、化石燃料依存度は9割近くに達した。73年の教訓は成果を誇るのではなく、その後の失速の原因と対策を知ることだ。これが脱炭素時代のエネルギー選択に欠かせない。 *3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231015&ng=DGKKZO75285630U3A011C2EA3000 (日経新聞 2023.10.15) 米、水素生産1兆円助成 三菱重工も対象 7拠点選定 バイデン米政権は13日、全米7カ所を水素の生産拠点として選定したと発表した。70億ドル(約1兆円)を助成し、温暖化ガスを排出しない次世代エネルギーとして期待される水素の活用を後押しする。経済の脱炭素化を促して「水素大国」を目指す。三菱重工業のプロジェクトも選定され、日本への輸出を視野に入れる。水素は燃焼しても温暖化ガスを出さない。長距離トラックや工場の熱源といった電化が難しい分野での活用が期待されている。バイデン大統領は13日、北東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで「米国で製造業を振興する計画の一環だ」と演説した。2024年に大統領選挙を控え、クリーンエネルギー政策の成果と雇用創出をアピールする狙いもある。選挙の「激戦州」にある水素計画も支援対象に含めた。選定されたのはカリフォルニア州やテキサス州、ペンシルベニア州など16州にまたがる7カ所の「水素ハブ」。1カ所あたり10億ドル前後の公的資金が投じられる。 *3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231019&ng=DGKKZO75391490Z11C23A0MM8000 (日経新聞 2023年10月19日) スズキ、インド製EV日本へ 25年にも、世界供給拠点に 輸出モデル転機 スズキはインドを電気自動車(EV)の輸出拠点に位置づけ、環境車の世界展開を加速する。2025年にも日本に輸出し、欧州向けでは資本提携するトヨタ自動車への供給を検討する。インドは市場の成長余地が大きく、製造コストも日本より安い。EVは供給網や各国の産業政策のあり方を一変させ、日本の輸出モデルも変容を迫られている。スズキのEV自社生産はインドが初めて。日本の自動車大手は研究開発や人材などの経営資源が豊富な国内工場で技術を確立し、生産モデルを海外に移転するのが一般的だった。トヨタや日産自動車は国内から始めていた。スズキはEVの中核工場をインドに位置づける格好で異例だ。インドから25年にも日本に輸出・販売するのは価格が300万~400万円程度の小型多目的スポーツ車(SUV)タイプのEVとなる。西部グジャラート州の工場に新ラインを設け、24年秋から生産する。生産は子会社のマルチ・スズキが担う。生産能力は年25万台を想定し、EVのほかガソリン車も生産。スズキは26年に静岡県で軽自動車のEV生産を始める計画で、インドの知見を日本に生かす。EV需要が大きい欧州にも輸出する。小型タイプのSUVの販売に加え、資本提携するトヨタにもOEM(相手先ブランドによる生産)供給する検討に入った。トヨタも欧州でEVのラインアップの拡充を急いでいた。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、インドの製造業全般で原価は日本より2割安い。スズキは現地の乗用車市場でシェア4割を占める最大手で、低コスト生産のノウハウを蓄積している。スズキ幹部は「(輸出先の)欧州などで中国産EVとの価格競争は激しくなる」と話す。世界でシェアを伸ばす中国勢に対抗できるコスト競争力をインドで磨く。日本は円安の影響で輸出競争力が高まっているものの、スズキはインドが最適なEV輸出拠点とみる。インドはEV市場としても有望だ。EV販売台数は23年1~6月にシェアは1%以下と、小さいながら前年同期比6倍と勢いがある。英調査会社グローバルデータによると、EVシェアの23年予測はタタ自動車が70%で突出。外資では中国・上海汽車集団系のMGモーター(10%)が上位だ。EV未発売のスズキは巻き返しが急務だった。海外市場のEVの立ち上がりは早い。「地産地消」の観点からトヨタやホンダは米国など海外でのEV生産計画を進めている。将来、日本の自動車輸出が伸び悩み、貿易収支にも影響が出る可能性がある。 <地方の人口減と影響> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230727&ng=DGKKZO73087590X20C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.27) 人口の急減しのぐ地域社会の確立急げ 人口減少のスピードが一段と加速している。速すぎる変化は行政機能を維持するための備えが追いつかず、国土の管理もままならない状況を招きかねない。急激な人口減少をしのいでいける地域社会の確立は待ったなしである。住民基本台帳に基づく総人口は昨年1年間に51万人減少した。新型コロナウイルスの影響が和らいで外国人が29万人増え、多文化共生の取り組みが重みを増す。日本人は80万人減り、初めて全都道府県で減少した。それでも東京一極集中は変わらず、首都圏の人口比率は全国の29.3%と上昇が続いている。これらは地方の減り方が一段と顕著になり、地方から東京に人を出す余力が失われたことの表れにほかならない。日本人の減少率を都道府県別にみると、前年より1%以上減ったところが昨年の12県から21道県に増えた。従来は東北に目立ったが今年は北陸、四国、九州でも広がった。来年は半数を超えよう。民間の提言組織、令和国民会議(令和臨調)は人口の水準以上に急激な減り方に警鐘を鳴らす。ゆっくり減るなら地域社会も適応しやすいが、変化が速いと対応できず地域が一気に衰退するとの懸念だ。大切な視点である。政府は近く新たな国土計画をまとめる。原案では、2050年に人の住む地域が今より2割減るとの想定から「国土の管理主体を失い、再生困難な国土の荒廃をもたらす」と危惧する。災害や食料安全保障などのリスクも高まり、危機感を訴えるのはよいことだ。ただ対策は物足りない。公共サービスを維持するため、10万人を目安に形成する「地域生活圏」という構想は生煮えで、だれがどう担うのか、よくみえない。複数の市町村が共同で行政サービスを担う広域連携が重要になるが、これは自治体のあり方の見直しに踏み込まざるをえないだろう。人口減少が進む地域で、自治体再編、コンパクトシティー、浸水地域の居住制限、水道やローカル鉄道などインフラ網の再構築といった政策が課題とされて久しい。進まないのは住民の理解が十分に得られていないことにある。今必要なのは、人口減少下ではある程度まとまって住む「集住」という方向性を国民全体で共有することだ。それが浸透して初めて各分野の政策が前に進む。新たな国土計画はこうしたメッセージを伝える一助にしたい。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73560020S3A810C2EA1000 (日経新聞 2023.8.13) 水道代が各地で値上げ 利用者減、老朽化重く 「30年後に3倍」試算も 効率化欠かせず 水道の値上げ実施や検討が相次いでいる。人口減に伴う料金収入の減少と老朽施設の改修費用増加で財務状況が悪化している。現状の経営を続けた場合、30年後に利用者への販売単価が3倍になると試算した地域もある。抜本的な経営改善には値上げ以外の効率化や改善策も欠かせない。岡山市は2024年度、水道料金を平均20.6%引き上げる方針だ。市の試算では31年度の料金収入が23年度比で5%減る一方、資材価格の上昇で投資額は当初想定より1割程度膨らむ。31年度までに生じる281億円の資金不足を値上げで補う。早ければ11月に料金改定の条例案を市議会に提出する。市民負担を考慮し値上げ幅は圧縮した。5月には有識者らでつくる市の審議会に25.3%の値上げ案を提示したが、施設改修などの費用の一部を企業債でまかなうよう計画を見直した。浜松市も値上げの検討に入った。人口減などに加え「電力値上げで送水などの電気料金の負担が増え経営を圧迫している」(同市担当者)。静岡県御前崎市は23~29年度の間に複数回に分け21年度比で平均約46%引き上げる。水道事業は市町村などが運営し、料金収入で経費をまかなう独立採算を原則としている。施設にかかる固定費が多く、給水人口が減れば赤字に陥りやすい。給水人口30万人以上の場合は最終赤字の市町村などの割合は1%だが、1万人未満では23%と経営は厳しさを増す。施設の老朽化も経営を圧迫する。水道施設への全国の投資額は21年度で1.3兆円と10年前から3割増加。相模原市など18市町に給水する神奈川県は今後30年間で改修に約1兆円の投資が必要とみる。いったん料金を引き上げても、人口がさらに減る中で経営体質が変わらなければ一層の値上げが将来必要になる。各都道府県は3月末までにまとめた「水道広域化推進プラン」に、水道水の販売単価を示す供給単価や給水原価の将来予測を盛り込んだ。何も対策を取らず毎年の赤字を料金収入で補おうとする場合、山梨県内の42年度の供給単価は22年度の1.5倍になる。地域によって試算方法は異なるが、青森県の十和田市などを含む上十三地区は30年後に現在の3倍、大分県の佐伯市などを含む南部地区では50年後に7倍強に膨らむ。抜本的な経営効率化を目指す動きも出ている。宮城県は22年度、所有権を持ったまま上水道と下水道、工業用水道の計9事業の運営を民間に委託するコンセッションに乗り出した。浄水場の運転管理や薬品の調達、設備の修繕といった業務を20年間一括で委託する。民間のノウハウを生かして事業の効率化に取り組み、20年で337億円の経費削減を見込む。厚生労働省によると、水道のコンセッション導入は宮城県のみにとどまる。導入ノウハウがまだ乏しいほか、生活に不可欠な水道の「民営化」への住民の抵抗感を懸念する向きもある。各地で検討が進む効率化策が経営統合を含む事業の広域化だ。香川県は18年度に全国で初めて実質的に県全域で水道事業を統合した。国は運営費の削減などが期待できるとし、都道府県に各地域での検討を働きかけるよう促している。ただ県内での広域統合を目指した奈良県と広島県では、奈良市や広島市など中心都市が統合への参加を見送った。人口が比較的多い中心都市では市の単独経営に比べ料金が上がる懸念があるなど難しさが残る。控除され、居住地の自治体にとっては減収となる。人口が多い政令市や東京23区の多くは「税の受益と負担の原則に反する」として制度と距離を置いていた。寄付の増加による税収流出の広がりを受け、減収を補うため返礼品の拡充で寄付集めにかじを切る大都市は増えている。京都市は受け入れ額が前年度比52%増の95億円で、全自治体で7番目に多かった。料亭のおせちや旅行クーポンなど「京都ブランド」を生かした返礼品を増やし、約3000品目をそろえる。「返礼品を通じて市内事業者を支援する」とする名古屋市では、市内に本社があるMTGの「リファ」ブランドのシャワーヘッドや愛知ドビーの「バーミキュラ」のホーロー鍋などが人気で、2.9倍の63億円を集めた。政令市と東京23区の計43市区では、8割で受け入れ額が増えた。神戸市の87%増、堺市の5.6倍など全国の増加率を上回る伸びも目立った。京都市の受け入れ額はほぼ同時期の寄付実績を反映した流出額(23年度の住民税控除額)を上回り、ふるさと納税が広がった15年度以降で初めて「黒字」になった。他の42市区は「赤字」が続き、このうち9割は21年度より拡大した。全国での寄付拡大のあおりを受けた形だ。寄付による流出額は横浜市が全国最多の272億円で、赤字は268億円と18%増えた。地方交付税で流出額の75%は補塡されるが、それでも最終的に60億円超の減収になる計算だ。東京23区など交付税の不交付団体には補塡もない。松本剛明総務相は1日の閣議後の記者会見で「ふるさと納税は個人住民税の一部を自主的に自治体間で移転させる仕組み。結果として住民税の控除額が(寄付の)増収額を上回る自治体は出てくる」と述べ、流出は制度上やむを得ないとの認識を示した。23区でつくる特別区長会は住民サービスに影響が出かねないとして、制度の廃止を含む抜本的な見直しを国に求めている。制度の副作用は他にもある。自治体が寄付集めにかけた経費は22年度で4517億円と前年度から17%増えた。寄付額に対する規模は46.8%と、総務省が上限に定める5割ギリギリだった。経費の約6割は地場産品である返礼品の調達費用で、地域の事業者の収益になる。残りの約4割については、返礼品の送料や寄付仲介サイトの手数料など地域との関連が薄い事業者に回りやすい。経費が増えるほど自治体の税収として地域に還元されるはずの財源が失われる。総務省は地域に回る金額を増やすため、経費の規定を見直す。10月から寄付受領証の送料などを対象に加える。自治体側も新たな経費分の規模縮小などを迫られるが、「返礼品がないと寄付は集まらない」(九州の自治体)との声は多い。明治大学の小田切徳美教授は「返礼品に頼るのではなく、寄付したくなるような事業を掲げていくことが必要だ」と指摘する。地域活性化という制度の趣旨に沿った改善が国と自治体には求められる。 *4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2390A0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月25日) 市町村66%、病院存続困難に 人口減少巡り国交白書 政府は25日、2021年の国土交通白書を閣議決定した。人口減少により2050年に829市町村(全市町村の66%)で病院の存続が困難になる可能性があるとの試算を示した。公共交通サービスの維持が難しくなり、銀行やコンビニエンスストアが撤退するなど、生活に不可欠なサービスを提供できなくなる懸念が高まる。地域で医療・福祉や買い物、教育などの機能を維持するには一定の人口規模と公共交通ネットワークが欠かせない。人口推計では50年人口が15年比で半数未満となる市町村が中山間地域を中心に約3割に上る。試算によると、地域内で20人以上の入院患者に対応した病院を維持できる境目となる人口規模は1万7500人で、これを下回ると存続確率が50%以下となる。基準を満たせない市町村の割合は15年の53%から50年には66%まで増える。同様に50年時点で銀行の本支店・営業所は42%、コンビニは20%の市町村でゼロになるリスクがある。新型コロナウイルス禍は公共交通の核となるバス事業者の経営難に拍車をかけた。20年5月の乗り合いバス利用者はコロナ前の19年同月比で50%減少し、足元でも低迷が続く。白書は交通基盤を支えられないと「地域の存続自体も危うくなる」と警鐘を鳴らす。 *4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15585482.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2023年3月19日) どうするローカル鉄道:1 論点は 鉄道のローカル線が岐路を迎えています。人口減少やマイカーシフトで利用者が減っていたところにコロナ禍が追い打ちをかけ、鉄道会社の経営が悪化しました。赤字路線は今後、バスへの転換を含めた議論を迫られます。地域交通の問題とどう向き合うべきか、考えます。 ■集客へ企画次々、でも遠い赤字解消 JR九州「日常から乗る人、増やさないと」 JR西日本と東日本は昨年、相次いで赤字ローカル線の収支を公表した。バスなどへの転換の意向も示し、注目を集めた。JRの上場4社のうち、その先駆けとなったのはJR九州だ。2020年5月、1日1キロあたりの平均利用者数(輸送密度)が2千人未満の線区で、収支を初めて公表した。対象となった12路線17区間全てが赤字だった。一部の路線では、国鉄民営化後の約30年間で輸送密度が9割落ち込んでいた。管内に大都市の福岡があるが、ローカル線の赤字を補うことは容易ではない。同社は19年度、輸送密度の減少が著しい6路線7区間の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げた。目的は「鉄道の持続可能性を高める」こと。年数回の協議では、乗客を増やすための企画を出し合い、実際に取り組んでいる。佐賀県内を走る筑肥線では、イルミネーション列車の運行が実現した。鹿児島県と宮崎県をまたぐ吉都線では、沿線の幼稚園児が乗る貸し切り列車を走らせた。いずれも数百人ほどの乗客で、収入は10万~15万円ほど。1億~3億円規模の赤字の解消にはほど遠い。JR九州の担当者は「状況を好転できてはいない」と認める。事態の打開には「イベントではなく、日常から乗る人を増やさないといけない」と話すが、具体的なアイデアはまだ出ていないという。検討会では、バスなどへの転換については議論していない。にもかかわらず、一部の自治体からは検討会の開催すら拒まれている。担当者は「赤字ローカル線は経営課題の一つ。国も問題意識を持って動いている中で、私たちの考え方を整理していかないといけない」と話す。 ■LRT生かし、まちづくり 乗客増の富山、医療費抑制の試算も 公共交通を生かしたまちづくりで成功している地方都市がある。立山連峰を望む人口約40万人の富山市の中心部では、ライトレール(LRT)と呼ばれる次世代型の路面電車が走っている。JR西日本の富山港線の廃線にともない、線路を引き継いでLRTを導入。市内の路面電車とつなぎ、便数も大幅に増やした。利用者は増えた。LRTで市役所に来ていた女性(72)は「数年前に車を手放したので、出かける時には(LRTを)使います」と話す。また、夫の転勤で移り住んだという30代の女性も「引っ越す前は地下鉄に慣れていたので、車社会に不安を感じていた。来てみたら街中での買い物や子どもの習い事にLRTが利用できて便利です」と話していた。富山市は、公共交通を軸にした「コンパクトシティー」を掲げ、公共交通の沿線に新たに家を建てたり、部屋を借りたりする世帯に補助金を出している。こうして、公共交通の沿線に自然に人が集まって暮らすようになってきた。さらに、公共交通が高齢者の外出機会を増やすという効果も生まれている。65歳以上が中心部に行く場合、運賃を100円にする「おでかけ定期券」がある。市と京都大学などの調査によると、定期券を持っている人は持っていない人に比べて出かける頻度が高く、歩数も多い。市全体の医療費を年間8億円抑えることにつながる、という試算もある。前富山市長の森雅志さんは言う。「公共交通を軸にしたまちづくりをすると訴えた時、『なぜ今さら路面電車なのか』という声もあった。しかし、1人1台の車社会は質の高い暮らしとは言えない。街中の本屋に行き、映画を見て、食事をする。人と人との出会いが生まれる。公共交通は社会の公共財なのです」 ■たどり着いた「上下分離」 5年かけ議論、負担増を直視 滋賀 ローカル線の運営見直しの選択肢の一つに「上下分離方式」がある。固定費が多い鉄道施設を自治体が所有することで、鉄道会社の経営を立て直す方法だ。滋賀県を走る近江鉄道は沿線自治体との議論を重ね、この上下分離方式にたどり着いた。1896年創業の近江鉄道は「ガチャコン」の愛称で親しまれ、県東部から大阪、京都へ通勤客らを送り出す。ただ、乗客は減り、2022年3月期決算まで28期連続の営業赤字となっている。民間企業だけで維持するのは困難と判断し、自治体に協議を申し入れたのは16年。「自治体からは当初、『本当に赤字なん?』と思われていた。信頼関係がなかった」。担当した服部敏紀・総合企画部長は話す。県と沿線10市町に経営状況を知ってもらう勉強会から始め、18年12月に本格的な協議がスタートした。ときに怒号も飛んだが、議論の羅針盤となったのは第三者による評価だ。県などは外部の調査会社に委託し、鉄道、バス、BRT(バス高速輸送システム)、LRT(次世代型路面電車)の四つを比べた。BRTとLRTは初期投資で100億円以上かかる。バスは30億円もかからず、毎年の赤字額は4.3億円で鉄道より8千万円少なかった。一見有望に見えるが、運転士は人手不足で、運行の維持には懸念があった。もう一つの調査で、交通インフラとしての効果を数字で示した。もし鉄道を廃止すれば、代わりに病院や学校への送迎にバスを使うことになり、渋滞に対応するための道路整備も必要になる。鉄道の維持に年6.7億円が必要なのに対し、こうした代替手段には年19億~54億円かかると試算された。「鉄道にかかる費用は仕方がないと思ってもらえたのだろう」と服部さんは話す。協議は約5年かけ結論に至った。24年度からの転換が決まり、地元は数億円の負担が見込まれる。服部さんは「地域にこの鉄道が必要なのか、関係者が自問自答できた」と言う。 ■公共交通維持へ、「交通税」議論 公共交通の維持費を誰が負担するか、も大きな論点だ。滋賀県は県内の鉄道・バス路線の維持のために使う「交通税」の議論を始めた。実際に導入されれば、全国初となる。使い道は、運行費用や設備投資への補助が想定される。個人県民税や法人事業税などに上乗せする「超過課税」という手法が考えられるという。公共交通が県民の足となっていることを踏まえ、広く負担してもらえるようにする。「鉄道は事業者による営利事業とされるが、道路の場合は傷めば税金で補修される。同じ社会インフラとして位置づけ、みんなで支えることも考えるべきだ」。県の担当者は、税金を使う理由をこう説明する。公共交通の整備や維持に公費を使うことは、諸外国でも珍しくない。県によると、交通税が導入されているフランスでは、法人などに対し、従業員の給与総額の数%を上限に税金をとる。ドイツや英国、米国でも、道路の利用やガソリンの購入時などに税を徴収しているという。 ■「鉄道である必要ない」「安易な廃線には疑問」 アンケートは、ローカル鉄道が走る道府県の住民や鉄道ファンの方々からも寄せられました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/173/で読むことができます。 ●国が責任を持って JR3島会社は民営化の際、経営安定基金の運用益で赤字を補填(ほてん)する話であったが、政府による低金利政策のために、それが成り立たなくなった。路線存続に関わるほどの赤字分は、国が責任を持って税金を投入するか、北海道と四国は再度国有化するべきである。(三重、男性、60代) ●私たちの選択の結果 鉄道は私たちの財産。軽々に廃止すべきではありませんが、ローカル線の厳しい数字を目の当たりにすれば、廃止やむなしかと思います。道路への投資を最優先にし、私たちが利用しないという選択をした結果ではないでしょうか。(広島、男性、70代) ●線路は公道と同じに 上下分離方式にかえ、線路は公道と同じ扱いにする。運行は民間に委託し赤字分を沿線自治体が負う。ヨーロッパでの路面電車などはそのような運用形態で公共交通を維持している。沿線民の心には自分たちの足は自分たちで守るという意識があるのだろう。(埼玉、男性、60代) ●鉄道が残っていれば 利用者が少ないからと、ローカル鉄道を安易に廃線にすることが本当に正解なのか疑問。私が住む町でも十数年前に廃線になった。その後、町に新興住宅地ができ、若い人が増えた。通勤や通学の送迎で道路の渋滞がすごい。今になり、遅延のほとんどない鉄道が残っていれば、と語る人は多い。(福岡、女性、40代) ●鉄道である必要はない 利用者の少ない場所は維持費、環境などを考えても代替交通機関を利用するべきだ。そもそも本数も少なく、ピンポイントの運行ならば鉄道である必要はないと思う。高齢化も進んでいる中、駅までの足などを考えても、バスなどで地域をまわる方がメリットがある。(東京、女性、30代) ●乗客は高校生とオタク 趣味で稚内から那覇まで、JR、私鉄、3セク、公営鉄道の線路を乗りつぶした「乗り鉄」です。ローカル線の主な乗客は高校生と鉄道オタクです。ほとんどの路線に並行して税金で造った道路があり、ビジネスの観点では競争は無理です。バス転換はやむを得ないと思います。(東京、男性、60代) ●矮小化すべきでない ローカル鉄道の存廃にだけ焦点をあてる近視眼的な見方に強烈な違和感を覚えた。地方交通の問題はローカル鉄道に矮小(わいしょう)化すべきではない。人口密集回避、国土保全、リスク分散の観点から「地方」を位置付けるべきである。(富山、男性、60代) ●街のグランドデザインを 街や集落のグランドデザインを、若い住民の意見を採り入れて検討していく必要がある。古くからの住民は、街や駅前がにぎわっていた情景を思い浮かべがちだと思うが、10年、20年後の財政負担を担う人たちの意見を重視すべきだ。(東京、男性、60代) *4-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231023&ng=DGKKZO75489820S3A021C2PE8000 (日経新聞社説 2023.10.23) 技能実習の轍を踏まない制度に整えよ 外国人労働者の受け入れのあり方を検討する政府の有識者会議が、廃止される技能実習制度に代わる新制度の素案を提示した。1年を超す就労など一定の条件を満たせば転職ができるようにする。技能実習は賃金不払いなどの問題が絶えず、転職が原則できないことで多くの失踪者を生み、人権侵害にあたると批判されてきた。労働環境を改善するとともに、転職を容認するのは当然である。新たな制度は3年間の就労を基本とする。日本語や技能の試験に合格すれば、2019年に創設した在留資格「特定技能」に移行できる。特定技能と同じように受け入れ人数の上限を定め、対象業種も一致させる。新制度と特定技能を一体的に運用する形になる。本来は特定技能に統合した方がわかりやすいが、長期就労ができるよう熟練技能者に育成する道筋を示した点は評価できる。最も重要なのは技能実習と同じ轍(てつ)を踏まないことだ。外国人が日本人と同等に労働者の権利を持ち、活躍できるよう実効性の高い制度に整えるべきだ。転職は同じ職種に限定し、基礎的な技能検定と日本語試験の合格を条件とした。ハードルが高くなりすぎないよう配慮が必要だ。学習や受験の機会を与えない企業をチェックする仕組みも要る。外国人受け入れの初期費用を転職先の企業も一部負担する案を示したが、両社が納得できる負担割合を決めるのは難しいのではないか。長く働いてもらえるよう待遇改善に努めるのが本筋だろう。転職のマッチングは受け入れ窓口の監理団体のほか、監視機関やハローワークが担うという。ノウハウが乏しいため、職業紹介会社の活用も検討する必要がある。監理団体は企業と癒着するケースもあり、許可を与える要件を厳格にすることが欠かせない。不適格な団体を排除する審査基準を明確に示してほしい。来日時に支払う多額の手数料が負担となる外国人は多い。素案では受け入れ企業に一定の負担を求める考えを示した。手数料のさらなる高騰につながらないよう監視する必要もあるだろう。手数料の透明化や海外の悪質な送り出し機関の排除は政府が取り組むべき課題だ。日本語学習や生活の支援は自治体とNPO任せにしてきた。今度こそ政府が前面に立たなければ、働く場として「選ばれる国」の実現は遠のく。 *4-5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA27D510X20C23A6000000/ (日経新聞 2023年8月6日) 外国人の家事代行を拡大へ 政府、在留延長や仲介制度 政府は外国人の家事代行サービスを広げる。従事者の在留を一定の条件のもとで3年程度延長したり、マンション管理会社が利用者との契約を仲介できる制度を導入したりする。外国人材の受け入れや女性活躍を後押しする。外国人による家事代行は2017年から国家戦略特区で始まった。母国で家事代行の国家資格を取得したフィリピン人が炊事や洗濯、掃除などを担う。最低限の日本語能力や1年以上の実務経験などが求められ、22年度末でおよそ450人を受け入れた。新型コロナウイルス禍で外国人の入国は減った。家事代行をする外国人の在留期間は最長5年と定められている。20年に入国制限が始まった時より前に家事代行を目的に入国した外国人には現行の最長5年に加えて3年程度の在留延長を認める。マンションの管理会社などがサービスを仲介できるようにもする。今は政府の指針に基づき利用者が家事代行業者と直接契約しなければならない。内閣府や法務省などは23年度中にも指針の解釈を変更し、利用者と事業者が契約を結ぶ際に第三者の法人による仲介を認める。管理会社を通じて契約を得られるようになれば代行業者は同じ建物でまとまった顧客を獲得できる。1日のうちに同じ建物の世帯や近接した地域で順番を組んで効率よくサービスできるようになる。外国人の家事代行を認める特区は東京都や神奈川県、大阪府、兵庫県、愛知県、千葉市にある。22年度はおよそ17万回の利用があった。利用世帯数は5400世帯ほどで17年度の9倍程度に増えた。経済産業省が野村総合研究所に委託した調査によると、家事代行サービスの国内市場規模は17年の698億円から25年に少なくとも2000億円程度に拡大する。需要を見込むのは、共働き世帯などが多く入居する都市部の高層マンションなどだ。フィリピン人による英会話指導付きの家事代行サービスを展開する事業者もある。家事代行サービスの普及は女性活躍の推進に資するとの見方もある。内閣府が22年11月から23年1月に実施した調査によると、育児での配偶者との役割分担で家事代行などの外部サービスを利用したいかの質問に「利用しながら家事をしたい」の回答が74.1%に達した。19年の前回調査より40.6ポイント上昇した。大手のベアーズでは利用者の半数は30〜50代で子育てをしている共働き世帯が占める。世帯年収は800万〜1千万円が多い。都心部でみるとマンション世帯の利用が大半という。業界は人手が不足する。サービス提供数は年10%以上で伸びており、需要に供給が追いついていない状況が続く。ベアーズでは月2500人のスタッフが稼働し、うち240人がフィリピン人だ。 *4-6-1:https://www.at-s.com/sp/news/article/national/1343644.html?lbl=861 (静岡新聞 2023.10.25) 歴史が生んだ「世紀の難問」…イスラエル、パレスチナの争いはなぜ始まった ユダヤ人の苦難、アラブ側の抵抗、わずかに光が差したことも…共同通信記者が基礎から解説 日本から9千キロ以上離れた中東のイスラエル、パレスチナで大規模な戦闘が続いている。発端はパレスチナ自治区ガザを実効支配している「ハマス」というイスラム組織が、10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けたことだった。イスラエル側は報復攻撃に乗り出し、これまでに計7千人以上が命を落とした。犠牲者には幼い子どもや、紛争とは関係のない観光客も大勢含まれている。そもそもイスラエルとパレスチナはなぜ対立しているのか。争いの火種はいつ埋め込まれたのか。長い歴史をひもとき、背景を探った。 ▽イスラエル建国とパレスチナの抵抗 イスラエルとパレスチナが紛争を続ける「パレスチナ問題」の発端は、第2次大戦直後の1948年にまでさかのぼる。イスラエルが建国されてユダヤ人が集まってきたことで、もともとそこに住んでいたアラブ人約70万人が自宅を追われ、難民となってしまったのだ。そうしたアラブ人は「パレスチナ難民」と呼ばれている。イスラエルの占領に反発し、独立国家を求めるパレスチナの抵抗の歴史が今に続いている。まず第2次大戦後の歴史を見てみよう。イスラエルの建国を決めたのは、1947年の国連総会決議だ。パレスチナの地をユダヤとアラブに分割し、聖地エルサレムを国際管理下に置くと決めた。1948年、決議に基づいてイスラエルが独立を宣言したが、これを認めない周辺のアラブ諸国は宣戦を布告し、一斉にイスラエルに攻め込んだ。これが第1次中東戦争と呼ばれ、その後、双方は1973年までに4度の戦火を交えることになった。中でも1967年の第3次中東戦争をイスラエルは「奇跡」と呼ぶ。わずか6日間で圧勝し、エジプトのガザ地区、ヨルダンの東エルサレムとヨルダン川西岸などを占領したためだ。パレスチナ人が占領に不満を強めていた1987年12月、ガザから反イスラエル闘争の「インティファーダ」が始まった。投石するパレスチナ人と圧倒的武力で抑え付けるイスラエル側―。この抵抗の中核として生まれたのがイスラム組織のハマスだ。住民への福祉事業も実施し、貧困層を中心に根強い支持を得ていった。 ▽はかなく消えた「希望の光」 一方、パレスチナ人の代表として国際社会で認められていたのが1964年創設のパレスチナ解放機構(PLO)だ。イスラエルと秘密交渉を進め、PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相が1993年9月、歴史的な「パレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)」に調印。ガザとヨルダン川西岸を自治区とし、聖地エルサレムの帰属や難民の扱いはその後の話し合いで決めることにした。インティファーダは収束し、パレスチナ国家樹立に希望の光が差した。だが和平の機運は長続きしなかった。ラビン首相は1995年、和平に反対するユダヤ教過激派に暗殺され、1996年にはハマスなどによる自爆テロが頻発した。和平交渉は2000年に決裂し、ガザとヨルダン川西岸全土で自爆テロが繰り返される第2次インティファーダが巻き起こった。和平交渉はその後もアメリカ政府の仲介などで繰り返されたが、いずれも頓挫した。国際社会はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を提唱しているが、実現の見通しはない。 ▽ガザは「天井のない監獄」 ハマスは2006年、自治区の評議会選で圧勝したが国際社会に承認されず、2007年にガザを武力制圧した。イスラエルはガザとの境に壁を建設して封鎖。人の出入りも制限されたガザは「天井のない監獄」と呼ばれている。イスラエルはヨルダン川西岸の占領地でユダヤ人入植地を建設し、事実上の領土拡張を続ける。国際法違反だと非難する国際社会の声を無視し、パレスチナ人の住宅をブルドーザーで押しつぶしている。イスラエルとハマスは2006年、08~09年、12年、14年、21年と戦闘を重ね、多くの犠牲を生んだ。一方で2020年以降には、アラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国がパレスチナ問題を置き去りにしたままイスラエルと国交を正常化した。 ▽ユダヤ人、苦難の2千年 歴史的経緯から極めて特殊で複雑な状況にあるイスラエル。日本の四国程度の面積の2万2千平方キロに、約950万人が暮らす。その約74%がユダヤ人だ。パレスチナ問題の背景には2千年を超えるユダヤ人の苦難が横たわっている。紀元前10世紀ごろ、ヘブライ人(後のユダヤ人)の王国がパレスチナにできたが、紀元前6世紀、新バビロニアに滅ぼされ、住民は一時とらわれの身になった。さらに2世紀前半、古代ローマがユダヤ人を聖地エルサレムから追放し、世界各地に散らばった。ディアスポラ(離散)と呼ばれる。辛酸は近現代でも続いた。ヨーロッパのユダヤ人はキリスト教社会で差別に直面。19世紀のロシアでの迫害もあり、国家樹立に向けた意識が高まった。第2次大戦後には、独裁者アドルフ・ヒトラーが率いたナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の実態が明らかになり、ポーランド・アウシュビッツの収容所などで約600万人が殺害されたといわれる。国が滅ぼされ、土地を追われ、民族離散の悲劇に見舞われ―。苦難の歩みを続け、安住の地を求めてきたユダヤ人にとって、イスラエル国家建設は歴史的悲願だった。▽閉じられていたふたが…。イスラエルとパレスチナの憎しみの連鎖に終わりが見える兆しはない。今からちょうど50年前の1973年10月6日、ユダヤ暦の祝日にエジプトとシリアがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けたのが第4次中東戦争の始まりだった。今回、ハマスがイスラエルを奇襲したのは10月7日、ユダヤ暦の祝日だった。「開戦日」を合わせた攻撃だったとみられている。東京大の鈴木啓之特任准教授は「今回のハマスの奇襲は閉じられていた問題のふたを暴力的に開けた」と指摘。パレスチナ問題の解決に取り組む必要性を改めて強調した。 【そもそも解説 「パレスチナ」って?】 東地中海とレバノン、シリア、ヨルダン、エジプトに囲まれた地域。イスラエル領を除くと地中海沿岸のガザ地区と、主に乾燥した丘陵地帯のヨルダン川西岸から成る。ガザ地区の面積は福岡市より少し広い365平方キロ、西岸は三重県と同じくらいの5655平方キロ。パレスチナ中央統計局によると人口は約548万人。パレスチナ人は「パレスチナ地方出身のアラブ人」の意。西岸のラマラに、治安や行政権限を持つパレスチナ自治政府の議長府が置かれている。議長はアッバス氏。イスラエルの公用語はヘブライ語だが、パレスチナはアラビア語。宗教は住民の約92%がイスラム教、約7%がキリスト教。独自の通貨は持っておらず、イスラエルの通貨シェケルが使われている。 【ちょっと深掘り 中東の周辺国の動きは?】 パレスチナ人はアラブ民族で、大半がイスラム教を信仰している。アラブ諸国に加え、ペルシャ民族のイランもイスラム教の国でパレスチナ支持だ。ただ近年、アラブ諸国は中東でのイランの影響力を警戒し、「イランの敵」であるイスラエルに接近、パレスチナ問題はほぼ棚上げにされていた。今回のイスラエルとハマスの戦闘で、イスラエルへの怒りが再び民衆に広がっている。アラブ諸国はイスラエルと4回交戦したが、1979年にエジプト、1994年にヨルダンがイスラエルと平和条約を締結。2002年、アラブ諸国はパレスチナ国家樹立などが実現すれば和平を進めるとの案を採択した。2003年のイラク戦争でイスラム教スンニ派のフセイン政権が崩壊し、イラクにシーア派政権が樹立された。これに伴いシーア派大国であるイランの力が強まり、中東にシーア派の勢力圏を形成した。イランと敵対するイスラエルは危機感をスンニ派のアラブ諸国と共有した。2020年にアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンがイスラエルと国交を正常化。大国サウジアラビアも正常化交渉に乗り出した。イスラエルのネタニヤフ首相は今年9月の国連総会一般討論で「サウジとの歴史的な和平は間近だ」と演説した。イランの核兵器開発を恐れるアメリカは、イスラエルとアラブの関係改善が「イラン包囲網」になるとして融和を歓迎した。パレスチナ問題は事実上、置き去りにされていた。ただ今回のイスラエル軍とハマスの戦闘で、パレスチナ人の犠牲が連日伝えられ、中東各国は衝撃を受けた。サウジはイスラエルとの正常化交渉を保留。イランもパレスチナに連帯し、中東に広がっていた融和の機運は一気に消えた。 *4-6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRBQ6JJNRBQUHBI017.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2023年10月22日) イスラエル、ガザ北部住民に再び退避を警告 地上戦へ「攻撃を増加」 イスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエル軍は22日、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区の北部の住民に対して改めて退避を要求し、地上戦など「次の段階」への準備として攻撃を増やしていると明らかにした。2週間にわたる空爆と完全封鎖で深まっているガザの人道危機に対応するため、国連などによる支援物資の搬入は2日連続で22日も行われた。ガザ市周辺では21日午後、イスラエル軍機がビラをまいた。「北部にとどまることは命を危険にさらす。南部へ退避しない者はテロ組織の仲間とみなされる可能性がある」と記されていた。同軍は13日、地区の北半分に住む約110万人に対し、南側への退避を要求。依然として北部にとどまる住民が多く、改めて警告した。イスラエル軍のハガリ報道官は22日の会見で「戦争の次の段階で(敵からの)リスクを減らすため、北部にあるハマスの拠点への攻撃を増やしている」と述べた。ガザ北部での作戦について、地元紙ハアレツは21日、地上作戦の準備として、空軍が過去数日間にガザ地区北部一帯の高層ビルを破壊したと報じた。ハマスが監視や狙撃に使うのを防ぐ狙いだという。イスラエル人行方不明者の捜索のため、ガザ地区の境界線付近での越境作戦も続けているという。軍トップのハレビ参謀総長も21日、前線に展開する部隊の司令官らと面会。「我々はガザ地区に入る。ハマスの工作員とインフラを破壊する作戦任務に入る」と決意を語った。「ガザは複雑な密集地だ。敵は多くのものを用意しているが、我々も準備している」と述べ、市街戦に備えていることを示唆した。この間も空爆は依然続き、ガザ保健省によると、死者は4651人に上っている。 ●国連5機関「支援物資は十分にはほど遠い」 イスラエル軍は22日、ヨルダン川西岸地区のジェニンでも、モスクの地下につくられた武装組織のトンネル施設を空爆で破壊したとしている。人道危機が深刻化するガザ地区には21日、人道支援物資を積んだトラック20台が隣国エジプトから初めて入った。国境検問所を管理するエジプトとガザを封鎖するイスラエルが米国の仲介で合意し、実現した。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、20台のうち13台の積み荷は医療関係の物資で、外科治療の薬や医療資材、慢性病の薬など。5台は缶詰やパック詰めの食料で、残る2台は「2万2千人のわずか1日分」の飲料水ボトル4万4千本で、ガザの人口約220万人の1%向けの1日分でしかない計算だ。世界保健機関(WHO)や世界食糧計画(WFP)など、国連の5機関は21日に連名で声明を発表。同日の搬入は「小さな始まりに過ぎず、十分にはほど遠い。大規模で継続的なものでなければならない」として、22日以降も規模を拡大して続けるよう求めた。追加搬入については決まっていなかったが、国連を交えた当事者間の交渉の末、AFP通信によると、22日午後になって、第2陣としてトラック17台がエジプト側からガザ側に入ったという。 ◇ ●米国が国連安保理の決議案、イスラエルの自衛権を明記 イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの軍事衝突をめぐり、米国は21日、イスラエルの自衛権について明記した、独自の国連安全保障理事会の決議案を各理事国に示した。ロイター通信が報じた。ロイターによると、決議案では、イスラエルには国連憲章に基づく自衛権があると主張。また、ハマスへの支持を鮮明にするイランに対し、「地域の平和と安全を脅かすハマスなどの組織への武器供給」をやめるよう要求した。一方で、激しさを増しているイスラエルとハマスの軍事衝突についての停戦などには触れていないという。安保理は18日、10月の議長国ブラジルが提出した、戦闘の「中断」を求める決議案を否決。「決議案にはイスラエルの自衛権についての言及がない」として、米国が拒否権を行使していた。 *4-6-3:https://www.yomiuri.co.jp/world/20231027-OYT1T50222/ (読売新聞 2023/10/27) イスラエル・ハマス双方に戦闘中断要請、EU首脳会議採択…慎重姿勢のドイツが妥協に転じる 欧州連合(EU)は26~27日、ブリュッセルで首脳会議を開き、パレスチナ自治区ガザへの人道支援を優先するため、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの双方に戦闘中断を要請する文書を採択した。27か国首脳が署名した文書は「国際人道法に従ったイスラエルの自衛権を強く支持する」とイスラエルの反撃への支持を明記。ガザの人道危機に深刻な懸念を表明し、「人道回廊の設置や(戦闘)中断を含む必要な措置を通じ、支援を要する住民に援助が届くよう要請する」と盛り込んだ。戦闘中断については、フランスやスペインなど多数が支持する一方、ドイツなどは「中断はハマスに有益となり、イスラエルの自衛権を否定しかねない」と慎重な姿勢を示していた。米国が戦闘中断呼びかけに傾く中、妥協に転じた。これにより、欧米はイスラエルの攻撃を支持しつつ、地上侵攻の前にガザの人道危機への対応を求めることで足並みをそろえた。一方で、アラブ主要9か国の外相は26日、国連安全保障理事会に即時停戦を求める共同声明を発表した。イスラエルによるガザ空爆は続き、ガザの保健当局は26日、今月7日以降の死者は7028人に上ると発表した。イスラエル軍によると、ハマスからイスラエルに発射されたロケット弾も7000発を超えた。イスラエル軍は26日、ガザへの攻撃で、ハマスの情報局ナンバー2のシャディ・バルード氏を殺害したと発表した。7日のイスラエルへの奇襲を計画した一人としている。イスラエル政府はガザに連れ去られた人質を少なくとも224人、うち外国籍の最多はタイの54人と発表した。 *4-6-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN26DSX0W3A021C2000000/ (日経新聞 2023年10月27日) 国連総会、ガザ停戦決議案巡り会合 中東・アジアが主導 国連総会は26日、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突を巡る緊急特別会合を開いた。会合冒頭ではイスラエルとパレスチナが互いに非難を繰り広げた。27日にはアラブ諸国が起草した、即時停戦や人道回廊の設置、人質解放などを求める決議案を採決する見通しだ。7日のハマスによる攻撃で衝突が始まって以来、同議題で初の総会の会合となった。会合に先立ち、アラブ諸国を代表してヨルダンがパレスチナ自治区ガザなどでの停戦決議案を出した。イスラエル、ハマス両者への直接的な非難は盛り込んでいない。総会の決議は多数決で採択される。法的拘束力はなく、国際社会の意思を示すことが主眼だ。今回、開催を要請したのはアラブ諸国とロシア、バングラデシュなどアジア諸国だ。背景の一つには安全保障理事会の機能不全がある。安保理の決議は法的拘束力がある。同様の決議案が何度も提案されたものの、米国やロシアといった常任理事国が拒否権を行使するなど、採択に至っていない。もう一つがイスラエルと、同国への支援姿勢を鮮明にする米国への反発の広がりだ。イスラエル軍の空爆でガザの市民の犠牲が増え続けている。空爆停止を求める国際社会の声は強まり、25日には国連のグテレス事務総長がガザの人道危機を巡り「(イスラエル軍の攻撃は)明白な国際人道法違反だ」と述べた。米国も人道的観点から戦闘の一時停止の検討を求めている。26日には各国代表の演説が始まった。最初はパレスチナのマンスール国連大使で、時折声を詰まらせながら多くのガザ市民が犠牲になっている現状を訴え「これは戦争ではなく民間人に対する攻撃であり、犯罪だ」と主張した。「虐殺を止め、人道支援を届けるためにこの決議案に投票してほしい」と語気を強めた。一方、イスラエルのエルダン国連大使は「これはパレスチナ人との戦争ではなく、ハマスとの戦争だ」と強調した。アラブ諸国が提案した決議案にハマスを批判する文言が含まれていないことに対し「恥辱だ」と非難した。停戦決議案を提出したヨルダンのサファディ外相は終始イスラエルを激しく非難し、「安保理が責任を果たさないため、代わりに我々が決議案を提出する。イスラエルがこの決議案を無視することは誰もが知っているが、それでも投票して欲しい」と呼びかけた。フランシス国連総会議長は「ハマスの攻撃は残忍であり、容認できない。同様にイスラエル軍による罪のないパレスチナ自治区ガザ住民への攻撃も深く憂慮する。自衛権は無差別な報復を合法的に許可するものではない」と双方を非難した。人道支援の重要性も強調した。 *4-6-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231029&ng=DGKKZO75689720Z21C23A0MM8000 (日経新聞 2023/10/29) ガザ地上作戦拡大 イスラエル「戦争の新たな段階」 空爆、地下拠点150カ所 イスラエル軍は27日夜(日本時間28日未明)、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへの空爆と地上作戦を拡大させた。28日にかけて戦車も投入し、全面的な地上侵攻に向け一段と圧力を強めた。イスラエルのガラント国防相は28日、「我々は戦争の新たな段階に入った」と述べた。ガザでの作戦は新しい命令があるまで続くと主張した。「新たな段階」の意味は明らかにしていない。イスラエル軍は28日午前、前夜にハマスの地下拠点約150カ所を空爆したほか、7日の奇襲を指揮したハマス司令官の1人を殺害したと発表した。海上からもガザを攻撃したという。イスラエルメディアによると、軍のハガリ報道官は28日午前、地上作戦を継続中だと説明した。「前進している」と述べ、作戦が成果をあげていると主張した。ハマス幹部の殺害で自らに有利になっていると強調した。ハマスは27日夜、ガザ北部ベイトハヌーンや中部ブレイジでイスラエル軍と「激しい戦闘」が起きていると明かした。ハガリ氏は27日の会見で「地上軍の作戦は今夜、拡大する」と表明した。規模は不明だが、イスラエル側はなお全面的な地上侵攻ではなく、準備段階という立場を取っているもようだ。イスラエルは13日以降、複数回にわたり、夜間を中心に地上部隊をガザに送り込んだ。人質の捜索や本格的な侵攻に備えたハマスの拠点破壊などが目的で、25~26日には戦車も投入したが、すぐに撤収させていた。地上作戦の「拡大」を宣言した今回は長時間、ガザ内部での作戦を続ける可能性がある。イスラエル軍は28日、ガザ北部の住民に対し、南部に避難するよう改めて呼びかけた。ガザでは27日以降、通信障害が深刻になっている。パレスチナの通信事業者は同日、空爆で電話やインターネットが「完全に停止した」と明らかにした。民間人の避難やけが人の救出も難しくなっているとみられる。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は28日、ガザの拠点や職員と連絡が取れないと明らかにした。イスラエル軍は27日、ハマスがガザ北部にあるシファ病院の地下に拠点を築き、病院の職員や患者を「人間の盾」に利用していると主張した。ハマスは声明で「噓だ」と否定した。 *4-7:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231026&ng=DGKKZO75590470V21C23A0EA1000 (日経新聞 2023.10.26) 中国不動産・碧桂園「デフォルト該当」 ドル建て債、金融機関が通知 中国不動産最大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)のドル建て債の利払いを巡り、債券の事務手続きを担う金融機関が債権者に対し「デフォルト(債務不履行)に該当する」と通知したことが25日、わかった。米ブルームバーグ通信が報じた。碧桂園は18日に米ドル債の約1540万ドル(約23億円)分の利払いの猶予期限を迎えたが、複数のメディアが支払いを確認できないと報じていた。ブルームバーグによると、米ドル債の事務を担当するシティコープ・インターナショナルが25日までに、期限内に利払いをしなかったことがデフォルトに該当すると債権者に伝えた。碧桂園の海外債券がデフォルトすれば初めてとなる。リフィニティブによると、同社のドル建て債の発行残高は99億ドル(約1兆4800億円)にのぼる。日本経済新聞は利払いやデフォルトについて碧桂園に問い合わせたが、返答を得られていない。碧桂園は18日、「期限内に返済義務の全ては履行することができない見込みだ」と声明を出していた。利払いの有無については明らかにしなかった。デフォルトは通常、当該企業の発表や格付け会社の認定で周知される。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月末、碧桂園の長期格付けをデフォルトに近い状態を示すCaに格下げした。碧桂園は8月に「クロスデフォルト」が起こる可能性についても開示した。1回でも不払いが発生すると他の債券もデフォルトしたとみなす仕組みだ。今回の米ドル債が正式にデフォルトと認定されれば、他の債券にも連鎖が起こる可能性がある。碧桂園は6月末時点で1兆3642億元(約27兆9000億円)の負債を抱え、販売不振により資金繰り難に陥っていた。最大手がデフォルトを起こせば不動産業界全体の信用不安が深まり、中国経済の足かせになりかねない。 <大都市への過度の人口集中の不合理> *5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15775405.html (朝日新聞 2023年10月24日) 南極溶けるの、止められない 温室ガス削減でも、海面5メートル上昇か 西岸の氷、英チーム予測 地球温暖化の進行によって、温室効果ガスの排出を減らしても今世紀中は南極西岸の棚氷が溶けるのを止められないおそれがあると、英国南極観測局の研究チームが発表した。すべて溶ければ将来的に世界の海面を最大約5メートル上昇させる可能性があるという。チームはスーパーコンピューターを使った予測モデルで、南極西岸のアムンゼン海の棚氷を分析。今後の温室効果ガスの排出ペースに応じて五つのシナリオをあてはめたところ、産業革命以降の気温上昇を1・5度以内に抑えたとしても棚氷が溶けるという結果は変わらなかった。20世紀に氷が溶けた速さの3倍という。棚氷は、大陸を覆う氷床が海に張り出した部分で、溶ければ大陸を覆う氷床が海に流れ出しやすくなる。この地域には南極の1割の氷があるといい、正確な試算はしていないとしながら、世界の海面を最大5・3メートル上昇させうる量だという。南極では、今年9月に冬の海氷面積が観測史上最小になるなど、温暖化の影響が顕著に現れている。対策を強化しても悪化を止められなくなる「ティッピングポイント(転換点)」に至っているおそれがある。チームのケイトリン・ノートン博士は「私たちは西南極の氷の融解をコントロールできなくなってしまった。何十年も前に気候変動への対策が必要だった」と指摘した。一方、「化石燃料への依存を減らす努力を止めてはならない。海面水位の変化が遅ければ遅いほど、政府や社会は適応しやすくなる」と話した。論文は英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに掲載された。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74073330R30C23A8EA1000 (日経新聞社説 2023.9.1) 大震災100年、首都防災の死角減らせ 人とモノと機能が集積した東京を揺さぶる大地震は、必ずまた来る。10万人を超す犠牲者を出した関東大震災から、1日で100年だ。改めて教訓に学び、令和の首都防災の死角を減らしていく契機にしたい。丸の内の路面には深い亀裂が口を開け、日本橋や銀座も焦土と化した。関東大震災直後の東京都心の惨状は、直下型地震の脅威をまざまざと伝える。 ●リスク増す複合災害 関東大震災でもっとも大きな人的被害を出したのは火災だ。陸軍の工場跡地で大勢を巻き込んだ火災旋風がよく知られるが、これは実は台風シーズンだったことと関係している。列島付近を進む台風による強風の影響で、火勢が大きく増したとされるのだ。地震に別の災害の影響が加わるこうした「複合災害」は、人口集中に歯止めがかかっていない東京では従来に増して大きなリスクになっている。例えば関東大震災以降、都心で震度6クラス以上の揺れは起きていない。仮に隅田川や荒川など主要河川の堤防が破損した場合、人口の多い下町は大水害にも見舞われることになる。真夏の地震なら、近年の酷暑も別次元の脅威となろう。感染症のまん延下では、避難所での密回避が難しい現実も私たちは目の当たりにした。複合災害への対応は緒に就いたばかりだ。早急に対策を具体化していく必要がある。東京での直下型地震が特別なのは、国の中枢を直撃する点だ。政府は業務継続計画(BCP)を策定しており、各省庁も個別のBCPを持ってはいる。ただ、未体験の直下型地震がどれだけのダメージを霞が関の官庁街に与えるかは読み切れない部分もある。手元のBCPが通用しない可能性もあるだろう。そもそも巨大地震のリスクが非常に高い地域に、中央政府や立法、司法の機能がこれほど集積していること自体が異例だ。1つの地震が国の存亡にかかわる恐れすらある。リスク分散が危機管理の基本であることに照らせば、首都のリスク管理は十分とは言えない。コロナ禍でも東京一極集中の問題は顕在化した。改めて、首都機能の移転や分散を具体的に検討すべきではないか。それは、復興の青写真を事前に描いておくことで再建を円滑にする「事前復興」とも関連する。関東大震災では、発生前に東京市長だった後藤新平がまとめていた都市計画が土台となり、迅速な復興が図られたといわれる。首都機能の分散を含め、大胆な事前復興計画を立てる。それは今後の日本のグランドデザインにもつながるだろう。首都東京はどうあるべきか。防災分野にとどまらない国民的議論があっていい。リスク分散が重要なのは企業も同じだ。大手を中心にBCPの策定は進みつつあるが、それでも大地震が来れば本社機能に大きな損害が出るのは避けられまい。都がまとめた被害想定では、都内の本社機能が停止することで企業全体の事業活動も滞り、倒産の危機に至る可能性が指摘されている。中小企業ではBCP自体が未策定のところも少なくない。震災から会社をどう守るか、これを機に見つめ直したい。 ●偽情報を見極める力を SNS時代だからこそ、情報への接し方は極めて重要だ。関東大震災の直後に発行された雑誌「震災画報」は、混乱の中で「別の大地震が来る」「首相が暗殺された」などと様々なデマが流れたと報じている。とりわけ朝鮮人に関する流言が大量虐殺を招いたことは「軽信誤認の大罪悪」だと強く批判している。最近の震災でも流言は飛び交っている。人工知能(AI)で偽画像を簡単に作れる時代である。今後の災害では、さらに手の込んだデマが流れることを前提として備えなければならない。災害に遭って不安が高まると、流れてくる情報に飛びつき真偽不明のまま周囲に広めてしまいがちだ。だが偽情報は時に人命に直結する。まずは一旦立ち止まる習慣を身に付けることが重要だ。誰がいつ発信したのか。独立した別々の情報源から流れているか。そうした背景を確認し、冷静に真偽を判断する。普段からネット情報に接する際に必要な姿勢でもあろう。学校現場でも、子供向けの情報リテラシー教育に一層力を入れる必要がある。関東、阪神、東日本。この100年、大震災のたび私たちは苦難に直面し、同時に多くの教訓を得てきた。次代の日本を守るため、それらを総動員して備えたい。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74074490R00C23A9MM8000 (日経新聞 2023.9.1) 災害拠点病院、首都直下地震で機能不全、「通常診療確保できない」6割 関東大震災きょう100年 首都直下地震の発生時、1都3県の災害拠点病院(総合2面きょうのことば)の6割で、受け入れ可能な患者数が平時を下回ることが日本経済新聞の調べで分かった。発災6時間以内に集まれる医師の数が通常の3割強にとどまることも判明した。国は首都直下地震で最大14万6千人が死傷すると予測する。医療の広域連携の強化が欠かせない。1日で関東大震災から100年。日経は東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県が指定する計167の災害拠点病院に調査(7~8月中旬)を実施し、107病院から回答を得た。災害拠点病院は災害時に必要な医療機能を備え、地域の救命医療の要となって重傷者の治療を担う。調査によると、災害時に受け入れ可能な患者数を推計している病院は73病院。このうち63%が通常時の受け入れ患者数を下回ると答えた。平時の1割未満とした病院も22%あった。都内のある大学病院は受け入れ患者数を通常の3%にあたる50人とした。担当者は「施設の耐震性が不安だ。周辺道路も狭く救急車両が入れるか分からない」と明かす。北里大学メディカルセンター(埼玉県北本市)の受け入れ患者数は通常の15%。外科の丸山正裕医師は「1月に患者の受け入れ訓練をした。病室にベッドを増やすスペースがないなど課題山積だ」と話す。2.2倍と答えた日本赤十字社医療センター(東京・渋谷)も「被害が長期化すれば1.5倍が限界」とみる。受け入れ患者数が限られる要因の一つが職員不足だ。災害時は道路の寸断や交通機関のマヒなどで病院にたどり着けない職員が大量に出る。調査では75病院が職員の参集率を予測していた。発災6時間以内に医師が集まる割合は平均36%。手術を担う外科系医師は33%でさらに低い。要救助者の生存率が急激に下がる72時間以内の平均も医師は73%だった。看護師は病院近くの寮に住む場合も多く、参集率の平均は発災6時間以内で45%、72時間以内で78%と医師より高いが平時並みの体制が整うのはさらに先だ。建物の火災や倒壊で多くの重傷者が搬送されても治療を受けられない可能性がある。政府の地震調査委員会によると、マグニチュード7程度の首都直下地震の30年以内の発生確率は70%程度。医療体制の強化は喫緊の課題だが、災害拠点病院の指定要件を定める厚生労働省地域医療計画課は「災害時に受け入れる患者数の適正水準は示せていない」と述べるにとどまった。川崎市立井田病院は通常の4.9倍の患者に対応できると回答した。発災1時間後には47%の職員が参集可能と予測。8月から病院近くに家を持つ医師に手当を支給し、災害時の早期参集などにつなげる。鈴木貴博副院長は軽傷者の治療や医薬品の確保についても「地元医師会や薬局と連携を進める」と語る。医療の遅れは首都機能回復や経済復興に大きな影を落とす。行政や病院は医師らが早期に集まり医療を提供できる体制づくりを急ぐ必要がある。域外の病院や自治体との連携強化も重要になる。 *5-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74068990R30C23A8CM0000 (日経新聞 2023.9.1) 拠点病院4割、災害チームDMAT「派遣ゼロ」、現場での救命、対応力に懸念 研修・訓練の拡充欠かせず 1都3県にある災害拠点病院の約4割が、災害派遣医療チーム(DMAT)を災害現場に派遣した実績がないことが日本経済新聞の調査で明らかになった。DMATは被災地での救命医療や広域搬送などを担うが、病院間の活動実績には大きな差がある。DMATは2005年、阪神大震災の教訓などを踏まえ厚生労働省が発足させた。専門的な研修を受けた4~6人の医師・看護師・業務調整員でチームを編成。発災48時間以内に災害現場に駆けつけ、自治体や消防、自衛隊などと連携しながら人命救助にあたる。都道府県が指定する災害拠点病院には1チーム以上のDMATの保有を求められている。23年3月時点で約1770チーム、約1万6600人が登録。5年ごとの更新制で期間中に2回の技能維持研修を受ける必要がある。日経は1都3県の計167災害拠点病院を調査し、107病院から回答を得た。DMATのチーム数は「1」が最も多く、回答病院の53%を占めた。「2」は22%、「3」は11%で、「0」の病院も5%あった。最多は国立病院機構災害医療センター(東京都立川市)の7チーム。11年の東日本大震災や16年の熊本地震などでは数日ごとにチームを入れ替えながら災害現場や被災地の病院で活動に従事した。都内のある私立病院のチーム数は「0」。登録資格を持つ医師が21年に病院を離れた後、チームを編成できない状態が続く。都救急災害医療課は「異動や退職など病院が意図していない要因の場合、指定を外したりしない」と説明。新たな医師の資格取得を促すという。災害現場への派遣回数は「0」が最も多く37%で、「1」の21%が続いた。派遣経験がない神奈川県の私立病院は「DMATを派遣すれば担当業務の補完要員が必要になり、時間外勤務が発生する。人件費分の支援がないと派遣は難しい」と明かす。藤沢市民病院(神奈川県藤沢市)は12回の派遣実績がある。DMATの担当者は「登録資格がある職員が増えたことで通常業務を離れやすくなった。DMATは経験が糧になる」と話す。日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)の派遣実績は8回。DMATの一員として活動する本村友一医師も「研修は役に立つが災害現場で起きるのは応用問題。経験値は大切」と災害派遣の重要性を指摘する。自由回答で目立ったのは、DMAT事務局が運営する登録制度への注文だ。DMATの養成研修は4日間の日程で実施し、筆記と実技試験の合格者に隊員登録証を発行し資格を与える。だが受講者は医師、看護師、業務調整員合わせて年間1500人程度。埼玉県内の病院は「希望者がいるが何年も待っている。退職・異動による欠員の補充もままならない」と訴える。DMAT事務局(災害医療センター内)は「都市部は病院数が多く、県単位で受講枠が決まっているため順番が回ってこない病院もある。現在の体制で研修を増やすのは難しい」と説明する。救急医療に詳しい野口英一・戸田中央メディカルケアグループ災害対策特別顧問は「医療機関の需要に応じて柔軟に養成研修を実施できるような仕組みを国や自治体が連携して構築する必要がある」と指摘する。病院がDMATを被災地に派遣しやすい環境の整備も欠かせない。
| 経済・雇用::2023.3~ | 01:20 AM | comments (x) | trackback (x) |
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2023,06,05, Monday
(1)先進技術の導入と国の財源のひねりだし
1)少子化対策について ![]() 2023.3.31東京新聞 2023.5.24佐賀新聞 2023.6.1東京新聞 (図の説明:左図が今後3年間で取り組む主な子育て政策だそうで、大切なものも多いが、整理すべき項目も少なくない。また、中央の図の児童手当拡充では第3子以降の金額が加算されているが、これは不要で、全員の義務教育無償化や公立大学の授業料減額に充てた方がよいと思う。一方、高齢者の医療費・介護費に関して自己負担割合を増やしたり、介護保険の給付やサービスを抑制したりするのは、マクロ経済スライドと称して年金支給額は下げ、一方で介護保険料は上げていることを考慮すれば、明確な高齢者いじめとなっている) 政府は、*1-1-1のように、こども未来戦略会議で「こども未来戦略方針」の素案を示し、①児童手当は親の所得にかかわらず、子が高校を卒業するまで受け取れるようにする ②3歳~高校生まで一律1万円で、第3子以降は0歳から高校生まで3万円支給する ③2024年度中の実施をめざし予算は2024年度からの3年間に年3兆円台半ば ④予算倍増時期は、こども家庭庁予算を基準に2030年代初頭までの実現をめざし ⑤予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵する ⑥16歳以上の子を養育する世帯主が受けられる扶養控除は給付との兼ね合いが検討課題 ⑦親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度」を創設し ⑧夫婦とも育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げて育児休業給付金も増やす 等としている。 このうち①②は、児童手当を配るなら「親の所得にかかわらず0歳~高校卒業まで」とするのが公平だが、「第3子以降は3万円支給」は「生めよ増やせよ論」であるため不要で、もしそこまで予算が余っているのなら、国民負担を増やさず他に使えばよいだろう。 また、③④の「年3兆円台半ば」というのも、イ)子を産み育てるためのネックは何か ロ)本当に子育てを支援するには何が必要か ハ)その支援でどういう効果があるか 等の吟味が行われておらず、「始めに額ありき」で無駄遣いが多くなりそうだ。 そして、⑤のように、少子化対策の予算規模はOECDトップのスウェーデンに匹敵するそうだが、年齢を問わず人を大切にするのではない哲学とその哲学に基づく日本の政策はスウェーデンとは全く異なる。 ⑥については、「高校生の子を養育する世帯主が児童手当の給付を受けても扶養控除をなくすべきでない」という意見が多いが、これは所得税の計算方法を知らないか、欲の皮が突っ張りすぎているかであるため、所得税の計算方法を把握してからコメントすべきだ。 また、⑦の「希望する親が就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる」のは当然のことだ。何故なら、幼な子を持つ親は、そのインフラがなければ、一日中子と向き合って家に引きこもっていなければならず、買い物にも行けず、就職活動もできないため、社会的動物である普通の人なら欝になるのが当たり前だからである。 しかし、⑧については、夫婦一緒に育休を取得する必要はなく、28日程度の短期間の育休をとっても、その間に子が成長して手がかからなくなるわけではないため、現行の育児休業制度に関して取得状況や取得による効果を検証し、本当に必要な支援に集中する必要があろう。 2)少子化対策の財源について *1-1-2は、①政府は「異次元の少子化対策」の財源は示さず「年末までに結論を出す」とした ②医療保険料の上乗せ(年1兆円程度)や社会保障費の歳出削減(年1兆円強)を検討中 ③医療・介護を利用する高齢者の負担増 ④消費税増税は否定し、安定財源は2028年度までに確保、その間「こども特例公債」を発行 ⑤診療報酬・介護報酬抑制は医療・介護の人材不足に拍車をかけ、「医療・介護が崩壊する」との反発もある ⑥財政制度等審議会は「後期高齢者医療費窓口負担の原則2割化」「介護保険2割負担の範囲拡大」を提案 ⑦高校生扶養控除(現行16〜18歳の子1人につき所得額から38万円控除)の見直し方によっては児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性 ⑧2010年に中学生までの子ども手当創設に合わせて15歳以下の扶養控除は廃止 等を記載している。 ⑦⑧については、毎月1万円(年間12万円)の児童手当は所得税率31.6%(=12万円/38万円)以上の人ならもらう額より手取り減の方が大きいが、所得税率を31.6%以上支払う人というのは、その他の所得控除額を差し引いた後で所得が900万円以上(所得税率33%)残る人である。一方、配偶者控除は、1000万円以上の人は0になるため、900万円以上あっても児童手当をもらえるならよしとすべきである。そして、900万円以下の人なら手取りの減少額がもらう額より小さいため、児童手当の目的に合っているのだ。 しかし、②③⑥のように、総額だけを見てめくらめっぽう社会保障費を削減するやり方では、ただでさえ所得が少なくて生活の限界に達している高齢者にさらなる負担増・給付減を強いる上、⑤の診療報酬・介護報酬の抑制が医療・介護の人材不足に拍車をかけて医療・介護の崩壊に繋がることはコロナ禍で既に明確になっているため、ゆとりを増やすことはあっても減らすことがあってはならないのである。 このような中、④のように、安定財源には消費税増税しか思いつかない“有識者”や新聞が多いため、まず新聞にも消費税をかけるべきである。そして、発行した「こども特例公債」の返済には、以下に述べるような人を幸せにしながら行う歳出改革や税外収入の確保が必要である。 3)医療改革 イ)ゲノム創薬と治療 厚労省は、*1-2-1・*1-2-2のように、①約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積し ②蓄積したデータを一元管理し ③個人情報を保護しながら産業界や学術界が幅広く利用できるようにし ④創薬・難病診断・癌治療に繋げ ⑤産学共同事業体に参画する組織に利用資格を持たせ ⑥企業からはデータ利用料を取り、研究機関や大学は無料として ⑦得た知見を協力した医療機関とも共有し ⑧創薬等を通じて研究成果を癌や難病患者の治療に生かし ⑨1人1人の遺伝的特徴や体質に合わせて病気を治療できるようにし、早期発見や予防も可能にして、世界最高水準のゲノム医療を実現させ ⑩ゲノム情報の保護は十分に図られ、不当な差別が行われないようにすることを理念に掲げて 新組織を設立するそうだ。 このうち、①の約30億の全ゲノムを解析してデータとして蓄積するのは、各国で行って現生人類のゲノムの分布状況がわかれば、人類の発祥・交雑・移動・感染症耐性等を、科学的・定量的に把握することが可能になり、創薬・診断・治療だけでなく人類史の研究にも非常に役立つ。 しかし、②のように、厚労省がデータを一元管理し、③⑤⑥⑦のように、産業界・学術界・協力医療機関等に幅広く利用させるのは、ゲノムという個人情報の利用が主目的と思われ、④⑧⑨の創薬・難病診断・癌治療はそのための建前のように見える。 何故なら、ロ)のように、アクセスできる情報量が2倍になれば誤謬発生のリスクは2乗になるのに、あまり訓練しておらず、守秘義務も理解していない人にデータをインプットさせるなど、かなりのリスクを無視して保険証とマイナンバーカードの1本化を急いでおり、そのやり方には、⑩のような、医療情報やゲノム情報を通じた差別を禁じ、人権を大切にする発想が全く見られないからである。 また、癌治療を例にとれば、本当に副作用が少なく治癒可能な治療を目指せば、いつまでも放射線治療や薬物療法(化学療法)を「標準治療」とするのではなく、速やかに免疫療法を「標準治療」としてその薬剤の安価な製造を推進すればよいのに、いつまでも著しい副作用を持つ薬物療法を「標準治療」として、多くの患者や家族に避け得べき苦痛を与えているからである。 さらに、新型コロナ感染症の例では、日本はワクチンすら作れず、抗ウイルス薬ができても厚労省が承認せず、経済に打撃を与えるまで国民を引きこもらせて運動不足にし、精神的苦痛も与えて高齢者の死亡を増やしたが、これらは人権を大切にする発想からかけ離れているのだ。 ロ)健康保険証とマイナンバーカードの一本化は高リスク 日本政府は、*1-2-3のように、「行政のデジタル化を進める」として、改正マイナンバー法を成立させ、2024年秋に現行の健康保険証を廃止する予定だそうだが、マイナンバーカードと保険証を一体化すれば、それだけ不正・誤謬の入り込む確率が上がる。つまり、本人にとって便利なことは、どういう動機を持っている人にとっても便利であるため、健康保険証とマイナンバーカードは別々にデジタル化を進めるのが無難なのだ。 そして、「行政のデジタル化」は、マイナンバーカードで進め、「医療・介護のデジタル化」は、よく訓練を受けて守秘義務も理解している専門家だけがアクセスできる保険証(デジタルでよい)を使って分けるのがよいと思う。 4)再エネの先端技術 イ)ペロブスカイト型太陽電池について ![]() すべて2023.4.3日経新聞 (図の説明:ペロブスカイト型太陽電池は、左図のように、コストが安くてビルの壁面等々いろいろな場所に設置できるため、中央の図のように、実用化を進めている企業が多い。また、右図のように、世界市場は急拡大する予想だ) 日経新聞は、*1-3-1で、①太陽光・風力・水素・原子力・CO2回収の5つの分野で注目される11の脱炭素技術の普及時期を検証 ②G7気候・エネルギー・環境相会合は浮体式洋上風力発電と並び「ペロブスカイト太陽電池等の革新的技術の開発推進」と共同声明に記した ③ペロブスカイト型は薄く、軽く、曲げられ、壁面や車の屋根にも設置できる ④材料を塗って乾かす簡単な製造工程なので価格は半額にできる ⑤ペロブスカイト型の2030年の設置可能面積は東京ドーム1万個分、発電能力600万キロワット(原発6基分) ⑥日本発の技術だが量産で先行したのは中国企業 ⑦基礎的部分の特許を国内でしか取得しなかったので、海外勢は特許使用料を払う必要がない ⑧従来の太陽光パネルも開発・実用化で先行したのは京セラ・シャープの日本勢で一時は世界の50%のシェアを持ったが、国等から補助を受けた中国企業が低価格で量産し市場の8割超を握って日本勢の多くは撤退した 等と記載している。 このうち、①②③④⑤⑥は事実だろうが、⑦は、「特許を国内でしか取得しなかった」という点で、あまりに価値がわからず、世界で売るつもりもなかったと言わざるを得ない。何故なら、この状況なら、日本企業であっても、ペロブスカイト型太陽電池は国内ではなく海外子会社で製造した方が有利で、⑧ともども、せっかく機器を製造してエネルギーを自給できるチャンスだったのに、自らそのチャンスを投げすてているからである。 しかし、ビルや住宅に取り付けて太陽光発電し、都市自体を仮想発電所にするには、ペロブスカイト型太陽電池は重要なアイテムになるため、安価で良いものができれば外国製でも買わざるを得ず、日本の技術はここでも置いてきぼりになりそうだ。そして、この調子では、財源をひねり出せそうにないのである。 ロ)蓄電池について *1-3-2は、①一般家庭が1ヵ月に使う電気200万戸超の太陽光発電電力(石油火力発電換算で200億円分)が使われず捨てられ ②九電は今年度、出力制御で受け入れない電力が最大7億4000万kwhに達すると発表 ③蓄電池に電気を溜め、電気が必要となる時間帯や市場で高く売れる時間帯に放電する取り組みが始まった ④住友商事は北海道千歳市で約700台のEV電池を使って大型蓄電所として北電の送電網に接続する ⑤トヨタは東電HDと提携し、新品EV電池を大型蓄電システム化して送電網に繋ぎ、再エネ電力を有効活用する実証を始める ⑥NTTは再エネ電源を確保するため、その電力子会社がJERAと再エネ会社を3000億円で買収する ⑦4月のG7環境大臣会合で、2035年に温暖化ガスを2019年比60%削減が確認され、異次元の再エネ導入に踏み込まないと達成不可能な数字 ⑧日本のEVは昨年やっと新車販売の2%に達したが、日本全体が保有する自動車のわずか0.25% ⑨EVグリッドは燃料費のかからない究極の国産エネルギー、再エネを限りなく無料に近づける挑戦 等と記載している。 このうち①②は事実だろうが、まだ解決せずに同じことを言っているのが呆れるのである。また、③④⑤⑥のように、蓄電池に電気を溜めて必要な時間に放電するのは、太陽光発電を導入した当初から言っていた当たり前のことなのに、⑦のように、今年のG7環境大臣会合の結果としての異次元の再エネ導入として、今頃あわてているのはむしろ驚きだ。 また、⑧のEVも、2000年代前半には実用化され市場投入もされていたのに、散々、EV普及の足を引っ張った挙句、まだ「日本の普及率は自動車全体の0.25%しかない」等と言い、今頃になって⑨のようなことを言っているのは恥ずかしくないのかと思う。今なら、「EVには蓄電池だけでなく、ペロブスカイト型太陽電池をモダンに搭載して、発電しながら走るEVに」と言うのが、やるべきことであろう。 *1-3-3は、⑩南オーストラリア州は再エネ普及で世界の先頭を走り ⑪太陽光・風力の発電量は州の年間需要157億kwhの約6割に相当し、2030年にすべての需要を賄って2050年には需要の5倍の供給能力を備えて輸出を見据える ⑫米テスラ等の蓄電大手が商機とみて同州に相次ぎ進出し、再エネ・蓄電池関連投資は60億豪ドル(約5500億円)超 ⑬日本で再エネ90%、残り10%を水素火力発電で補う場合、蓄電池が大量に必要で蓄電池が現在の価格なら日本の発電コストは2倍になる ⑭IEAは世界の脱炭素シナリオも2050年の再エネ比率を8~9割とみる ⑮電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギ ⑯有望なのはEVの活用で ⑰シーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは岩石を熱してエネルギーをためる技術を開発し、コストを従来の蓄電池の1/5にした ⑱蓄電コストをどこまで下げられるか、脱炭素時代の電力は蓄電を制するものが覇者となる と記載している。 このうち、⑩⑪⑫は、日本の農林漁業地域でも全く同じことができ、オーストラリアより前からそう言っていたのに、「日本には適地が少ない」「日本には国産エネルギーはない」等々の変な理屈を重ねて変革しなかったことが他国より遅れた原因であるため、こういうことを言っていた人は、重大な責任を感じるべきなのである。 また、⑬のように、日本でやると何でもコスト高で、その結果、従来のやり方を踏襲するばかりで何も進まず現在に至っているが、コストを下げるのは工夫次第で、例えば、大量の蓄電池が必要でも、i) 原料を海底から採掘して国産化したり ii) 安価な材料に変更したり iii) 蓄電池ではなく水素を作って保存し、水素発電でバックアップしたり など、方法は多いのだ。 そして、その国の事情に合わせて方法を組み合わせれば、⑭のIEAの世界の脱炭素シナリオ(2050年の再エネ比率を8~9割)は容易に達成できる筈で、それこそ高コストの上に激しい公害が発生する原発の出番などはない。 従って、⑮⑯の電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギというのは事実で、EVの活用が有望というのは一つの選択肢だが、⑰のような他の方法もあれば、水素にして保存する方法もあるため、⑱の蓄電コストは工夫次第で下げられるのだ。そして、工夫がなければ、日本がまた敗退するのも明確なことである。 ハ)列車と送電線について ← インドの列車事故から ![]() 2023.6.3ANN 2023.6.4TBS 2023.6.5日テレ (図の説明:左・中央・右図のように、日本のTV各局がインドのオディシャ州で起き、275人の死者を出した列車事故について報道しており、原因は、列車の進路を制御する電子連動装置の不具合のようだ。しかし、3日たっても重機で列車を釣り上げて対応した様子がない) インドのアシュウィニ・ヴァイシュナヴ鉄道相が、*1-4-1のように、「インド東部オディシャ州で起きて死者275人・負傷者1175人を出した列車事故は、列車の進路を制御する電子連動装置の変更がおそらく原因だろう」との見方を示されたそうだ。 また、インド鉄道委員会のジャヤ・ヴェルマ=シンハ氏は、「2本の旅客列車が、青信号の下、時速130kmの速度制限を守って走ってきて本線ですれ違う筈だったが、1本の急行旅客列車が誤った信号で支線に入るよう指示を受け、支線にいた貨物列車に衝突して、脱線した車両が対向線路の旅客列車に衝突して起こった」「電子連動装置に問題はなく、信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだが、事故原因調査委員会がいずれ明らかにする」とされている。 そして、モディ首相は、「責任者を厳正に処罰する」としておられるが、広島G7サミットでクアッド首脳会合に出席した後、*1-4-2のように、南太平洋のパプアニューギニアで太平洋島しょ国首脳と会合を開き、太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に気候変動対策・食糧安全保障・デジタル技術などでの支援を打ち出して「我々は多国間で島しょ国とのパートナーシップを強化する。自由で開かれたインド太平洋を支持する」と言っておられたため、その影響で誤った信号が出されたのでなければよいがと思う。 いずれにしても、インドの鉄道はまだ古そうなので、高架にして燃料電池列車か新幹線か超電導リニアを走らせるように、国土計画を作り直してはどうかと思われた。なお、この時、鉄道線路に沿って送電線を敷設すれば、一度の工事で地方の再エネで発電した電力を大量に使う地域に送ることができるため、日本のインフラ関係企業がこれらのアドバイスを行い、インドの若者を雇用して、インドで製造するように手配し、受注すればよいのではないだろうか? (2)G7気候・エネルギー・環境相会合から ![]() 2023.3.21日経新聞 2021.8.9BBC 2023.6.2日経新聞 (図の説明:左図のように、産業革命前と比較して陸地の気温は既に2度上昇しており、中央の図のように、原因は温暖化ガスの排出という人為的なものだ。そのため、世界は温暖化ガスを排出しない再エネを急拡大しているが、公害や排気ガスを排出しないという要請も当然あるのだ) ![]() 2021.3.9中日新聞 2021.8.4Jetro 2023.2.28日経新聞 (図の説明:左図のように、2020年までの発電比率とその後の推計で、各国は著しく再エネ比率を伸ばしているが、日本だけが意図された低迷状態にある。また、中央の図の太陽光発電コストは設備容量が増えるに従って低減しており、これが装置産業の大原則だ。なお、右図のように、太陽光発電機器の種類が増えるにつれて、太陽光発電できる場所も広がる) 1)気候・エネルギー・環境相会合の全貌 G7気候・エネルギー・環境相会合は、*2-1のように、①自動車分野の脱炭素化は2035年までに2000年比でCO₂排出量を50%削減する進捗を毎年確認することで合意したが ②欧米が求めていたEVの導入目標ではなくHVも含めた脱炭素化を目指すことになり ③石炭火力発電廃止の時期は明示せず、化石燃料のCO₂排出削減対策が取られない場合は段階的廃止で合意し ④ ⑤環境分野ではレアメタルなどの重要鉱物は、G7各国が中心となってリサイクル量を世界全体で増加させること ⑥プラスチックごみによるさらなる海洋汚染を2040年までに0にする目標が盛り込まれ ⑦西村環境大臣は「共同声明で気候変動や環境政策の方向性を示すことができ、今後はこの方向性に沿った具体的な対策を進めていくことが重要」述べられた と記載している。 このうち①②は、世界でEVの普及が進む中、欧米各国が「EVの導入目標を定めるべきだ」と主張したのに、日本はHVが多いとして反対したり、既存のエンジン車で活用できる「合成燃料」の技術開発を強調したりしたのは、日本のガラパゴス化の始まりである。何故なら、EVの方が、部品点数が少ないため、コスト低減しながら生産性を上げ易い上に、操作性もよく、気候・エネルギー・環境のどれをとっても優れているからだ。そのため、これからはEVが世界で選択され、欧米各国が「日本は困った国だが、まあ、ご勝手に」を考えたのが目に見えるようなのだ。 また、工場などから排出されたCO₂を原料に合成燃料を製造すれば排出量を実質0にできるともしているが、わざわざCO₂をエンジン車の合成燃料に使用して都市で排気ガスを出すより、農地・山林・農業用ハウス等に撒いた方が植物の成長がよくなることは多くの研究が示している。 さらに、③の石炭火力発電は、段階的廃止に向けて期限を設けるのが正道であるのに、日本が「アジア各国の現状」などと称して廃止時期を明示せず、「(コストをかけて)CO₂排出削減の対策が取れない場合のみ段階的に廃止する」と主張したのは、方向が誤っている。 再エネについては、ペロブスカイト型太陽光発電パネルを普及させるなどして原発1000基分に相当する1テラワットまで拡大させるのが、最もコストが安く、電力需要地でスマートにまとまった電力を得られる。そのため、2030年までに洋上風力発電を原発150基分に相当する150ギガワットにする必要がどこまであるのか、海の環境破壊を防止するためにも、慎重に進めた方がよいと思われた。 EVのバッテリーや半導体材料となるリチウム・ニッケル等の重要鉱物は、中国との間で獲得競争が激しく、経済安全保障上の観点からも安定確保に向けてG7で1兆7000億円余りの財政支出を行って鉱山の共同開発などを支援するそうだが、日本政府は自国の排他的水域内にある重要鉱物や天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりして税外収入を増やそうとはせず、高いコストを支払って資源を輸入し、それによって他国との関係を保とうとしている。しかし、これは、国民を犠牲にしていると同時に、あまりに安易だ。 しかし、「プラスチックごみは、海洋汚染を引き起こす」として2040年までに0にする目標にしたそうで、リサイクルしたり、ゴミとして回収し燃やしつつ発電もして、土壌や海洋に廃棄していないプラスチックまで禁止して国民を不便にする必要は全くないのに、自国民を犠牲にすることについては非常に積極的で、私には全く意味不明だった。 2)G7で強く打ち出された再エネへの移行 G7広島サミットの共同声明で採択された気候変動・エネルギー分野は、*2-2-1のように、①再エネへの移行を強く打ち出し ②「パリ協定」で掲げた産業革命前からの気温上昇を1.5°に抑える目標達成に向けて太陽光発電を現在の3倍以上に増やす目標を掲げるなど世界の再エネ移行を進める土台を作り ③首脳会議でグローバルサウス(新興国・途上国)への再エネ移行支援が入ったが ④先進国はパリ協定で気候変動対策として年間1千億ドルを支援すると約束したが、果たしていない ⑤再エネのコスト低減、中国に依存するレアアース等の重要鉱物の供給網確保を示した「クリーンエネルギー経済行動計画」も別に採択した ⑥脱化石燃料では「段階的廃止」を打ち出したが、天然ガスへの公的投資を容認するなど抜け道も多い としている。 また、*2-2-2は、⑦世界で太陽光等の再エネ導入が急拡大し ⑧IEAは2024年の再エネ発電能力が約45億kwh(2021年の化石燃料に匹敵)になる見通しを公表 ⑨再エネ発電能力は2024年に全電源の5割規模だが、火力等に比べて稼働率が劣るため実際の発電量は5割以下 ⑩再エネは24時間は発電できないが、原発4500基分 ⑪安定電源としての活用には太陽光に比べて導入が遅れる風力の拡大など電源構成の多様化と送電網整備が課題 ⑫再エネ導入は、中国・EUが牽引役で米国・インドも存在感を増す ⑬日本の出遅れは鮮明 ⑭各国は燃料を他国に依存せずに済むとみて、再エネ導入を急いだ ⑮再エネの発電は天候に左右されやすく、変動があるため、発電量の安定には火力や蓄電池を組み合わせる必要 としている。 このうち、①②③はよいことだが、④の年間1千億ドルもの支援は、単なる金銭的援助ではなく、(1)4)ハ)で述べたインドの事例のような、再エネ移行と国土計画・鉄道・送電線の設置等を組み合わせ、最小のコストと労力でスマートに先進国に追いつく計画と助言が必要だ。 また、⑤については、(2)1)で述べたように、日本政府も、自国の排他的水域内にある重要鉱物た天然ガスを採掘して国内で使用したり、輸出したりできるようにすべきだ。 が、⑥のように、いつまでも化石燃料にしがみついたり、*2-2-3のように、原発にしがみついて再エネ発電事業者に対して出力制御を求めたりしているのが、日本で発明された太陽光発電や風力発電等の再エネが、⑦⑧⑨⑫⑬⑭のように、世界で急拡大し、これを中国・EUが牽引して米国・インドも存在感を増しているのに、日本が出遅れている原因そのものである。 そして、これには⑩⑪のように、「再エネ発電は天候に左右されやすくて変動があるため、発電量の安定には火力発電を組み合わせる必要がある」「安定電源としての活用には太陽電源構成の多様化が必要」などと言って、いつまでも蓄電池や送電網の整備を行わなわず、無駄遣いのバラマキばかりしてきたことが、日本が債務残高だけはとびぬけて世界一だが、高コスト構造や生産性の低さは変えられなかった原因なのだ。 3)原発推進法とは! イ)原発の課題は残ったまま、脱炭素も進まず 原発は1966年に商用運転を開始して57年にもなるが、原発立地地域には、今でも国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われており、保存されている使用済核燃料には核燃料集合体1体当たり25万円程度の使用済核燃料税が支払われ、多額の原発投資による固定資産税収入もあって、これらは全て国民が負担している(https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_hyogo34/02/0224_jre/index.htm 参照)。そして、原発は、現在でも課題が多く残っており、未だ解決されていないのだ。 このような中、安全性や経済性の問題に加え、増え続ける使用済核燃料や核燃料サイクルの失敗といった課題が解決されないまま、原発推進関連法が国会で成立し、「原発依存を減らす」から「原発を最大限活用する」に政策が大きく転換された。 *2-3-1は、その具体的内容を、①エネルギーの安定供給と脱炭素化対応を理由に ②60年超の稼働を可能にした ③政府は原発が実際にどれだけその役割を果たせるか、なぜ原発を「特別扱い」するかについては答えず、「あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返しただけだった ④運転期間上限は導入時には「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されたが、政府は「安全規制ではなく利用政策上の判断」と主張した ⑤今回の転換は経済産業省の主導で進み ⑥フクイチ事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」も大きく揺らぎ ⑦政府は再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ と記載している。 玄海原発立地地域の佐賀新聞は、さらに詳しく、*2-3-2のように、⑧原発推進を明確にした「GX脱炭素電源法」が成立した ⑨フクイチ事故後に導入した「原則40年、最長60年」の運転期間規定を原子炉等規制法から電気事業法に移り、運転延長を経産相が認可することで60年超の運転を可能にした ⑩原子力基本法では、原発活用による電力の安定供給や脱炭素社会の実現を新たに「国の責務」とするなど原発に関する重大な政策転換をした ⑪気候危機対策として原発に過大な投資をすることも合理的ではなく、エネルギー政策の失政の歴史にさらなる1ページを加える ⑫オープンで公正な議論を通じて見直しを進めるべきだった ⑬気候危機対策では電力の脱炭素化が急務で、多くの国がそれを進める中、大きく後れを取ってきたのが日本である ⑭1kwhの電気をつくる時に出るCO₂はG7中最大だが ⑮各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発拡大ではない ⑯日本の遅れは脱石炭・再エネ・省エネのすべてが進んでいないことが原因 ⑰原発の運転期間延長や革新的な原子炉の開発などの政府が進めようとしている原発推進策が短期間でのCO₂の大幅削減に貢献しないことは明白 ⑱多くの政策資源や資金が原子力に投入されることで、短期的な排出削減に最も効果的な再エネの拡大や省エネの推進が滞る懸念がある ⑲このままでは化石燃料への依存が続き、安価な電力の安定供給もCO₂排出削減も実現せず、早晩、政策の見直しを迫られる ⑳既得権益と前例にこだわり、正当性も科学的根拠も欠くこのような政策が、いとも簡単に通ってしまうことが日本のエネルギー政策の大きな問題 等と記載している。 ②⑨の原発の運転期間について、日本は「原則40年、最長60年」を10年毎に安全レビューを受けることによって60年超の稼働を可能にしたが、米国は「原則40年、最長60年」のまま、フランス・イギリスは「運転期間の上限規定なし、10年毎に安全レビューを受けることによって運転延長可能」、カナダは「サイト毎に規定」、韓国は「運転上限に関する規定なし」である(https://eneken.ieej.or.jp/data/8397.pdf 参照)。 つまり、日本は原発についてのみフランス・イギリスの制度を真似したのだが、フランス・イギリス・カナダ等は固定資産の耐用年数を会計上も税法上も決めておらず、全ての固定資産について実態に合わせて会社が選んだ耐用年数を使用することができる。しかし、それでも適切な耐用年数を設定するため、問題が起きないのである。 一方、日本は利益の状況に合わせて固定資産の耐用年数を決めるのを防ぐため、税法で固定資産の耐用年数を決めており、会計上も同じ耐用年数を使うことが多い。そして、もし法律で耐用年数を決めていなければ、日本政府や経産省は、①③④⑤⑥⑦に示されるように、科学的根拠が乏しくても、何とかかんとか言って運転期間を恣意的に変えてしまうリスクがあるため、私は、日本では「原則40年」を変えない方がよいと思っていたのだ。 また、⑧⑰のように、気候危機対策としての脱炭素が目的なら原発を推進する必要はなく、⑪⑬⑭⑮に書かれているとおり、電力の脱炭素化が急務なのであり、各国で電力の脱炭素化に貢献したのは石炭火力発電の削減・再エネの拡大・省エネの推進であって原発ではなく、これらの進んでいないことが日本の遅れの原因なのである。 にもかかわらず、①⑩⑪⑱⑲のように、電力の安定供給と脱炭素社会の実現には原発活用が必要不可欠と強弁して原発の推進を「国の責務」とし、原発に無駄な投資をすることで、本来ならCO₂の排出削減に最も効果的な再エネの拡大・送電線の敷設・給電スポットや蓄電池の整備・省エネの推進にまわせた筈の資金が減り、その結果、⑲のように、いつまでも化石燃料への依存が続いて安価な電力供給もCO₂排出削減も実現しない。そのため、⑫のように、オープンで公正な議論を通じて見直しを進めれば、各分野の専門家から熟慮した意見が出て、③のような、お粗末なことにはならなかった筈である。 ロ)フクイチから出た汚染水について←「その場しのぎ」の繰り返しでは・・ *2-3-3は、①汚染水の大元は原子炉建屋へ沁み込む地下水や雨水で ②大量の地下水の噴出は建設が始まった1960年代から問題だった ③安定した岩盤の上に原発を建て、海上から楽に資材を運搬するため、地面を20メートル以上掘り下げたことが原因で ④地下水の発生と排水は運転を開始した後も続いた ⑤2011年のフクイチ事故で地下水はデブリの放射性物質を含み汚染水になった ⑥東電は直後は海に流したが、国内外から酷評されて汚染水と放射性物質を概ね抜き取った処理水を地上タンクに溜めた ⑦2013年にタンクからの水漏れが問題になった ⑧国と東電は建屋に入る前の地下水を海に流すため、2015年に「処理水は関係者の理解なしには処分しない」と漁業者に約束した ⑨実際はタンクが敷地に満杯になるまでには「理解」が進むだろうと楽観視していた ⑩3年後に処理水に取り除かれた筈のストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚した ⑪福島県内の除染で出た汚染土も原発近くの双葉・大熊両町の“中間貯蔵施設”に溜め ⑫当初は最終処分場にする筈だったが、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束し ⑬除染土の県外搬出を法律に明記したが見通しは立たない ⑭国は各地で原発の再稼働・新増設を進めるが、増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理等の深刻な問題から目をそらしている ⑮東電や国の対応は「その場しのぎ」だ としている。 このうち③の20メートル以上の岩盤があったのに、「海上から楽に資材を運搬するため」に地面を20メートル以上も掘り下げ、予備電源まで低い場所に置いていたのは、地下水の問題もさることながら、この地域は大地震・大津波の発生可能性が高いことを無視した判断だったし、①②④は、この間に地下水や雨水が沁み込むのを止める工事をしなかったのだろうか? そして、これらのリスクを無視した判断の連鎖が、2011年の大津波によるフクイチ事故に繋がり、その後、多額の国費を使って国民に負担をかけているのである。 にもかかわらず、⑤⑥⑦⑧⑨⑩のように、フクイチ事故でデブリにふれた地下水が放射性物質を含む汚染水になり、最初はそれを海に流したが、国内外の酷評を受けて放射性物質を概ね抜き取ったとされる“処理水”を地上タンクに溜め、タンクが敷地いっぱいになる頃には国民もフクイチ事故や放射性物質のことを忘れているだろうと楽観視していたが、タンクから水が漏れたり、処理水にストロンチウム等が基準を超えて含まれていることが発覚したりしたのは、当事者は放射性物質に慣れて鈍感になっていると同時に、国民の命をないがしろにしている。 また、⑪⑫⑬の福島県内の除染で出た汚染土についても、、“中間貯蔵”と言い換えて「30年後に県外に運び出す」と約束しても、わざわざそれを受け入れて最終処分場を作らせる自治体があるわけがないため、フクイチ近くの双葉町か大熊町に密閉された施設を作って封じ込めるのが最も低コストで合理的でもあったのに、⑮のように、その場しのぎの言葉を繰り返したのは、国民を馬鹿にしていたと言わざるを得ない。 さらに、⑭の増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理は、本土から離れた場所にある無人島から入る最終処分場を作るか、密閉した容器に入れて3000m以上深い日本海溝の窪みに投棄or保管するなど、安価で合理的な方法が考えられるにもかかわらず、国はこれらの深刻な問題を解決しないをまま、各地で原発の再稼働・新増設を積極的に進めており、その調子で「言うことを信じよ」と言っても無理があるのだ。 ハ)原発の発電コストは安いか? 「原発は発電コストが安い」と言われてきたが、上に書いたとおり、原発が他の発電方法と違うのは、i)保存されている使用済核燃料に使用済核燃料税がかかって電気料金に加算され ii)国民の税金から電源立地地域対策交付金が支払われ iii)平時もトリチウムを含む排水を出し iv)事故時は除染や汚染水の処理に多額のコストがかかってそれを国民が負担し v)高レベル放射性廃棄物の処理で多額のコストがかかることは確実で vi)国民が税金か電気料金かでそれらを支払うため電力会社内の原価計算に現れないステルス・コストも著しく多い ということだ。 それに加えて、*2-3-4は、電力会社内の原価計算でも、①東電の公表資料から、原発の発電コストは火力等の市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がり ②東電が委員会に提出した資料では東電が他社から購入する火力等の電力の市場価格は20.97円/kwh ③東電の原発にかかる発電コストは34.25円/kwh ④2020年4月~23年4月の卸電力市場の平均価格は14.82円/kwhであるため、仮に原発を全基再稼働しても原発の発電コストは市場価格平均を上回り ⑤政府は原発が再稼働すれば電力料金の抑制に繋がると説明するが、原発は燃料代が安くても維持費が高いため、電気料金の抑制効果は殆どないと見るべき としている。 なお、①~④のように、既に作ってしまった原発は稼働させなくても維持費はかかるのだが、電力会社の原価計算に現れないステルス・コストまで加えれば、原発の発電コストは著しく高い。そのため、⑤のようにはならず、最も安価で、地球環境によく、エネルギー自給率を高められるのが再エネとなって、原発の新増設などあり得ないわけである。 二)事実に基づかない発言が多く、やることが中途半端で徹底しない日本 *2-3-5は、①ドイツは1986年のチェルノブイリ原発事故で原発支持だった国民の意見が変わり、社会民主党と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と脱原発で基本合意して2002年に脱原発法を制定した ②福島の原発事故後、メルケル首相が「日本でも原発事故が防げないなら、ドイツでも起こりうる」として「脱原発が妥当」と結論づけた ③日本では「ドイツが脱原発できるのは、原発大国フランスから電力を輸入しているからだ」という論調が多かったが、実際にはフランスの方が輸入超過だった ④「ドイツは褐炭の依存度が高く、気候変動対策に逆行する」との指摘も聞くが、ショルツ政権は2030年までに石炭火力廃止、自然エネルギー80%にする目標を持っている ⑤目標を定めて道筋を示せば、新たな技術や仕組みも開発される ⑥日本はフクイチ事故から12年で原発回帰にかじを切り ⑦最大の問題は長期的ビジョンを持たず、短期的利益を優先し、業界の既得権益を守ること ⑨先日も関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧して公正競争を妨害した と記載している。 このうち①②は、さすがに理論の国ドイツだと思うが、緑の党党首もメルケル首相(物理学者)も優秀な女性であるため、こういう思い切った判断をして進めることができたのだろう。それに対し、私も日本のメディアで③の論調をよく見かけたが、実際にはフランスの方が輸入超過だったとは、本当にさすがである。 また、④⑤については、ショルツ首相も2030年までに石炭火力を廃止して自然エネルギーの割合を80%に引き上げることを目標としており、何とかかんとか言って未だに石炭火力発電所を建設している日本とは大きく異なる。そして、政府がしっかりした目標を提示すれば、民間企業も、安心して新技術の開発に投資したり、組織再編して商品化し、新しい販売網を築いたりすることができるため、イノベーションも進む。 一方、フクイチ事故を起こした日本は、⑥のように、12年で原発回帰にかじを切り、⑦のように、安い電力を供給して産業の生産性を上げたり、エネルギー自給率を上げたりするという長期的ビジョンを持たずに、“足元では”などと言って常に短期的利益を優先し、大企業の既得権益を守るため、いつまでも状況が改善しないのである。 ⑨の関電・九電等の大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧していた事件も、大手電力会社の送配電網しかなく、新電力もその送配電網を使って送電しており、送電子会社が大手電力会社の支配下にあるため必然的に出てきたことだ。 これについては、2015年6月に電力自由化の一環として電気事業法が改正され、2020年4月から送配電部門の中立性を確保するため、法的分離(送配電部門を発電・小売部門と別会社にすること)による発送電分離が行われたが、法的に別会社になっても大手電力の支配下にあれば中立性が保たれない。そのため、中立性を保つには、資本や役員関係も分離し、送配電会社が複数存在するようにして、送電条件を市場競争に委ねなければならないのだ。 (3)G7広島サミットと農業 ![]() Sustainable Brands 農林水産省 (図の説明:左図は世界人口の推移で、2020年以降はアフリカで最も増える予想だが、これは「それだけの人口を養う食料があれば」の話だ。また、中央の図のように、アフリカは未だ日本の第二次世界大戦前後までと同じピラミッド型《多産多死型》の人口構成をしている。なお、食料の枯渇は戦争の始まりになるが、日本の食料自給率は令和3年度で38%と次第に低くなってきており、これは他のG7諸国より著しく低く、世界の食糧事情への貢献もしていない) 1)食料安全保障に関する首脳宣言の全貌 G7広島サミットは、*3-1のように、食料・農業分野は農相会合の結果を受けて首脳宣言を発表し、①ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料安全保障が悪化しているとして「深い懸念」を表明し ②ロシアが世界有数の農業大国であるウクライナを侵攻したことで、食料供給体制が脆弱な国の食料安保が脅かされていると批判し ③G7としてそうした国への支援を続けていくと表明し ④食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるとして ⑤既存の農業資源を活用した生産性向上や技術革新、環境に配慮した持続可能な農業の推進を提起し ⑥学校給食等を通じた健康的な食料確保の重要性も提起し ⑦不当な輸出制限措置回避の重要性も表明して、G20参加国にも要請した そうだ。 このうち、①②③のロシアの行動は、日本はじめG7各国が行った“制裁”のお返しであるため、ウクライナから食料を輸入していた第三国にとっては大きなとばっちりだが、古くからある「目には目を」の論理には沿っており、G7も含めた戦争と破壊の開始が原因と言わざるを得ない。 また、④については、G7の中で食料自給率が38%と最も低く、食料の生産・供給体制を強靭化する必要があるのは日本自身であるため、G7で話し合う前に効果的な行動をすべきだったのは日本である。さらに、⑤の「環境に配慮した持続可能な農業の推進」も、自然を利用して行う産業が自然環境に大きく依存するのは当たり前であるため、「今さら」感が否めない。 なお、「既存の農業資源を活用した生産性向上」が具体的に何を指すかは不明だが、仮に米の消費が減ったから、(稲作を減らすのではなく)米の消費を奨励するのなら、それは栄養面から考えて時代錯誤だ。また、「技術革新による生産性の向上」は重要で、それには自動化・大規模化・需要の多い作物への転作が必要だが、それを妨げる補助金制度は頑固に残っているのだ。 「栄養や食物に関する指導は小学生時代から始める」という意味で、⑥の学校給食等を通じた健康的な食料確保は重要だが、これも日本国内で地域差が大きい。その上、⑦のように、「不当な輸出制限措置回避の重要性」も表明したそうだが、G20参加国に要請する前に日本のような気候の恵まれた国で食料自給率がたった38%と輸出より輸入が著しく超過するような政策は止め、足りない国に輸出できるようにするのが最重要課題であろう。 さらに、*3-1は、G7首脳は首脳宣言とは別に世界の食料安全保障強靭化に向けた「広島行動声明」を出して、⑧世界は「現世代で最も高い飢饉のリスクに直面」していると警告して危機対応の必要性を訴え ⑨飢饉回避のために民間等からの人道・開発支援への投資増加が必要と強調し ⑩農業貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿うよう明記し ⑪全ての人が栄養価の高い食料に安定的にアクセスできることが不可欠だと指摘し ⑫女性や子どもを含む弱い立場の人々や小規模零細農家への支援強化 ⑬既存の国内農業資源の公正かつ適切な利用等の行動を求めた とも記載している。 ⑧は事実だが、恵まれた気候を持っているのに海外からの食料に大きく依存している日本から⑩⑬を言うのはおこがましすぎる。また、⑨⑪の飢饉回避と全ての人の栄養価の高い食料への安定的にアクセスには、国毎に過度な人口増を抑えて適正人口を保つことが必要で、そのためには教育や産業基盤への投資が重要になるため、まず政府が人道・開発支援を行い、民間投資の呼び水にするのが通常の順番だ。それに加え、⑫のように、小規模零細農家への支援を強化し続ければ、自動化・機械化による生産性向上は望めず、その結果、教育の行き届いた豊かな暮らしも健康的な食料確保もできないため、どこかで現状を突破をさせる必要があるのである。 2)日本は食料安全保障の〝弱者〟のままでいいのか? *3-2は、①G7農相会合の共同声明は周囲を海に囲まれ食料の大半を輸入に頼る食料安全保障の「弱者」である日本の意向を反映した ②自国生産の拡大と持続可能な農業を両立する方針をG7で共有した ③日本の農業は、少子高齢化で農家・農地の激減という恒常的課題を抱える ④G7には米国・カナダ等の食料の輸出大国も多いため、輸入国の生産拡大をG7の議題にすることはタブーだった ⑤日本の輸入依存度低減に直結する自国生産拡大は、食料安保に不可欠 ⑥G7は途上国も含めた食料輸入国の自国生産拡大を容認 ⑦ウクライナ危機後の食料供給不安定化・頻発する気象災害・世界的人口増加で、G7内でも食料不足にある現状認識が広がった ⑧生産拡大と持続可能な農業の両立という条件で環境意識の高い欧米の合意を得た ⑨「日本は小規模農家が多く、どう(生産性を拡大)していくかは、イノベーション(革新)が重要になっていく」と野村農水相は強調した と記載している。 このうち①は、「海に囲まれているから、食料の大半を輸入に頼らざるを得ず、食料安全保障の弱者である」としている点で誤りだ。何故なら、広い排他的経済水域に囲まれているからこそ、水産業による食料生産もでき、良質のたんぱく質を入手することが容易な筈だからで、これが細ったのは、環境を壊し、工夫もなく漁船の燃費を高止まりさせていることが原因だからだ。 また、②⑤⑥⑧は当たり前のことで、④については、ドイツ・イタリアを含むG7の要請ではなく、日本が勝手に忖度していたのであり、⑦によって、日本が認識を新たにしたにすぎない。 さらに、③については、農家・農地を激減させたのは、農家を生かさず殺さずにし続けて農業を魅力のないものにしてしまった日本の農業政策の失敗であり、少子高齢化の時代でも他のG7諸国は農家や農地を激減させてはいない。日本の農業政策の失敗の本質は、⑨のように、小規模農家を小規模のまま補助することによって、大規模化しなければできない自動化・機械化等の生産性向上をもたらすイノベーション(革新)をやりにくくしてきたことなのである。 3)農水省の食料・農業・農村基本法改正案について *3-3は、①農水省が食料・農業・農村基本法改正に向け、緊急時の食料増産等を柱とする「中間取りまとめ」を公表した ②1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが実現せず、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機等の食料確保が脅かされる事態が起き ③こうした状況変化を受けて農水省が法改正を議論し始め、2024年の通常国会に改正案提出を予定 ④焦点の1つは緊急時に政府全体で意思決定する体制を整え、農産物輸入急減時に不足が予想される農産物を増産できるようにすることで ⑤どこでどんな作物を作るべきかを政府が生産者に指示することなどを念頭に置き ⑥買い占め防止や流通規制等もテーマとなる ⑦混乱を避けるため、行政命令を発動する基準を明確にし、生産・流通の制限で不利益を被る業者への補償も用意しておく必要 ⑧国民1人1人の「食品アクセス」改善に平時から取り組むことを提起した点は評価できる ⑨日本は大量の食品を廃棄する一方、生活困窮世帯には食べ物が十分に行き届いていない ⑩輸入に支障が生じたときの影響を和らげるため、小麦・大豆・飼料作物など輸入に頼る作物の増産も盛り込んだ ⑪そこで必要になるのが水田の一部の畑への転換で ⑫食料の余剰を前提としてきた農政から、不足も視野に入れた農政に変わることがいま求められている と記載している。 が、①②の1999年制定の現行農業・農村基本法は食料自給率向上を目指したが、実際の食料自給率が次第に下がった理由は、気候変動・新型コロナウイルス流行・ウクライナ危機ではなく、「食品は輸入すればよい」と軽く考えて農業の構造改革を怠り、耕作放棄地を増やし、優良農地をつぶして宅地等にしたためであり、「国の長期計画が欠けていたから」にほかならない。 また、③の法改正の議論はよいが、④⑤のように、国が生産物を決めて強制的に増産する共産主義に酷似した制度は、(理由を長くは書かないが)成功したためしがない。その理由は、国が強制力を発揮する場合は、まさに⑥⑦のように、規制を強化して国民の行動を制限し、⑦のように、事業者に補償することしか思いつかないからである。 従って、国民が食料不足に陥ることなく豊かに暮らし続けられるためには、日本の気候や環境をフル活用して農林漁業を振興し食料自給率を100%以上にすることが必要で、それは⑩⑪のような転作をはじめとした工夫次第でできる。また、⑧のように、国民が心配なく食品にアクセスできるようにするためには、そのための国土計画や適切な人材配置が必要であり、少子化で労働力が不足するのであれば、外国からの移民や難民も使って目的を達成すればよいだろう。 なお、⑨のように、大量の食品を廃棄するのは、生活困窮世帯に食べ物が十分に行き届いているか否かを問わず、その食品を作った人に対して傲慢この上ない態度である。そして、日本で⑫のように食料が余剰していたことなどなく、足りないからこそ海外からの輸入超過が続いてきたのだが、これまでは製造業が輸出超過だったため食品の輸入超過を続けることが可能だったのだということを忘れてはならない。 4)日本で新たに作られるようになった作物 ![]() 野菜の原産地 保存蚕品種の原産地 (図の説明:左図は、現在、日本で普通に作られている野菜の原産地と伝来時期を示したものだ。また、右図は、保存種の蚕の原産地で、もともとは原産地によって特徴が異なっていたが、次第に混血させて長所を集めた蚕が広がっているとのことである) ![]() アーモンドの花 レモンの花 オリーブの実 (図の説明:左図は、アーモンドの花と実、中央の図は、レモンの花と実、右図は、オリーブの実で、少し前まで日本では作られず輸入に頼っていたが、近年、作られるようになった作物だ) 現在は日本で普通に作られている野菜や蚕も、古代・中世・近代・現代等の時代毎に日本に伝来し、品種改良を重ねて定着したものだ。そのため、新たにアーモンド・レモン・オリーブなどが栽培され始めたのも食生活の変化とともに自然の流れで、これからも、気候変動とともに栽培できる作物が多様化することは容易に推測できる。 イ)アーモンド サクランボ・モモ等の果物生産が盛んな山形県で、*3-4-1のように、アーモンド栽培が注目を集めており、アーモンドは①果樹の手入れが簡単で ②乾燥させると1年中販売でき ③農家の冬場の収入源にもなる ため、県産ブランドとしての知名度向上と販路拡大を目指すそうである。 アーモンドの女王と呼ばれる高級種は山形県のブランドになるだろうが、アーモンドの花は桜の花に似ており、食べられる実がなる点で桜よりよいため、(私は桜のかわりにベランダの植木鉢に植えているが)耕作放棄地に植えるだけでなく、並木に使ってもよさそうだ。 ロ)レモン さわやかな酸味で、幅広い料理や飲み物に使われるレモンも、*3-4-2のように、通年で温暖な瀬戸内海地域産だけでなく、近年は近畿・首都圏にも栽培地が広がりつつあるそうだ。もぎたての国産レモンは、皮に防腐剤等がついておらず、安心して皮まで食べられるので、私も近年は国産レモンに切り替えている。 また、私は佐賀県太良町にふるさと納税をして返礼品としてマイヤーレモンを沢山もらった時に、マイヤーレモンの皮ごとレモンジャムを作ったところ、まろやかな酸味に適度な苦みも加わって美味しかった。また、その時に採取した種を植木鉢に撒いたところ、芽を出して埼玉県の冬を元気で越し、今では1mくらいの木になっている。 そのため、*3-4-3のように、ポッカサッポロフード&ビバレッジのようなレモン事業を行っている会社が、2019年4月から国産レモンの生産振興を目的として広島県でレモンの栽培を開始し、レモン商品の開発やレモンに関する研究を行い、消費者が使い易くて健康に良いレモン商品の提案を行ってくれるのは有難いと思う。 ハ)オリーブ オリーブ生産の98%以上は地中海に面した国々で、日本国内に出回っているのはイタリア・スペイン等の輸入品が大半で国産は1%未満だが、国内産地は、香川県の小豆島はじめ、近年は静岡県・大分県等にも広がっているそうだ。 このような中、*3-4-4・*3-4-5は、①民間企業・農家・団体等が相次いでオリーブ栽培に参入し ②オイルだけでなく、瓶詰・葉を使った茶・化粧品などの加工品も増え ③オリーブの収穫は年に1度で木が強くて作業が少なくて済み ④降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適している と記載している。 確かに、地中海沿岸が主産地のオリーブなので、④のように、降水量が少なく温暖で日照時間の長い場所が栽培に適しているのだろうが、多くのタネを撒くと降水量の多い場所でも病気にならず元気に育つものが出てくるため、そういう個体を選んでいけば、③のように、木が強くて降水量の多い場所にも適したオリーブの品種ができるだろう。 そして、①のように、民間企業・農家・団体等がオリーブ栽培に参加して生産量を増やし、②のように、加工品の種類を増やせばよいと思うが、価格が外国産の倍以上するのでは、いくら健康によいといっても日本産でなければならない理由はなくなる。そのため、価格も世界競争に耐えられるものにすべきなのである。そのためには、オリーブ園で風力発電による電力を副産物にする方法があるのではないか? なお、私は料理用の油もオリーブオイルを使うため、オリーブオイルを多く使うことになり、スペイン産を選んでいる。しかし、スペイン産は品質はよいが、干ばつでオリーブの収穫量が半減し、世界的な供給不足と円安があいまって販売価格が上がるのが気になっている。 4)ふるさと納税について 朝日新聞は、*3-5のように、①「ふるさと納税」の仕組みは歪んでおり、貴重な税収を失わせている ②総務省は自治体間競争の過熱を抑えるため、ふるさと納税の返礼品調達費を寄付額の3割以下、送料・事務費を含めた経費総額を5割以下にするルールを定めたが ③2021年度に136市町村が5割を超える経費を費やし、集めた金の半分以上が税収以外に消えた ④総務省が5割規制の対象にしている経費は、受領証明書送料等の寄付後の経費は対象外だが、上位20自治体で合計63億円が「寄付後」に生じていた ⑤松本総務相は「寄付金の少なくとも半分以上が寄付先地域のために活用されるべき」と説明しており、寄付後の費用も対象に含めるべき ⑥5割基準でも寄付後の費用を対象にした上で、継続的な違反自治体は利用から除外すべき ⑦ふるさと納税は、返礼品を手に入れるため、自らが暮らす自治体の行政サービスにかかる費用負担の回避を認める制度 ⑧地方自治の精神を揺るがす ⑨高所得者ほど恩恵が大きく格差を助長する欠陥もある ⑩財政力の弱い地方を中心にふるさと納税に期待する自治体があるのは事実だが、都市と地方の税収格差是正にしても、返礼品となりうる特産品の有無で寄付額が左右される仕組みは望ましくない ⑪ふるさと納税で多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市の地方交付税減額の妥当性が裁判でも争われてきたが、こうした問題が起きたのも制度自体が歪んでいるから ⑫全国では、ふるさと納税により2021年度だけで4千億円近い税収が失われた ⑬経費ルールの中身や運用を見直すに留まらず、制度の存続を含めて根本からの再考を急ぐべき と記載している。 この記事に欠けている発想は、i) 都市部は地方で教育費をかけて育てた子を、住民税を支払う年齢になってから受け入れることで得をしていること ii) 地方はその子を育てた住民税支払額の少ない老親を医療・介護等で支えていること iii) 都市部に住民税を支払う年齢の大人が集中する理由は、(東京で2度もオリンピックを開いた例のように)国が都市部に投資を集中してきたからにほかならないこと iv) 都市部で住民税を支払う年齢の大人を機関車に例えれば、地方がすべて客車では引っ張りきれないこと v) そのため、返礼品となる特産品を作った地方を優遇することで競争させていること vi) 地方も地方交付税を待つだけでなく、よい特産品を作るよう自助努力して欲しいこと というふるさと納税制度を提案した私の思いである。 そのため、①⑦⑬は、「ふるさと納税制度は、歪んでいるから廃止すべきだ」という結論が先にあって、②③⑥⑪⑫の返礼品調達費・経費総額ルールやルール違反等々を持ち出しているが、そもそも集めた寄付金や税金を何に使うかは、その地方自治体の判断に任せられるべきで、それこそが⑧の地方自治の精神である。そのため、「特産品を育てるために、返礼品や返礼品の送料・受領証明書の送付料にどれだけ使うか」も地方自治体の判断に任せればよく、本来は⑤を言うことも不要だ。 また、④についても、税務申告書の送付料をとる税務署がないのと同様、受領証明書の送料くらい地方自治体が出してよいと思うし、⑨の「高所得者に有利で格差を助長する」という記述は、(必ず誰かが言う安易な反対論だが)教育して高所得者になるような人を出した地方には住民税収が全く入らず、そういう努力をしなかった居住自治体にのみ住民税が全額入る方がよほど不公平なのである。 従って、上のiv) v) vi) に照らし、⑩の財政力の弱い地方自治体も、国が少ない地方交付税で援助し続けるのを待つだけでなく、都市の住民が欲しがる人気返礼品(=特産品)を作るくらいの努力はして欲しいので、特産品を返礼品にすることは理にかなっているのだ。つまり、過度の結果平等は悪平等になって意欲を失わせ、すべてを沈滞させるということである。 (4)G7における核の議論について 1)核軍縮に関する「広島ビジョン」 G7首脳は、*4-1・*4-2のように、「1945年の原爆投下で広島・長崎の人々が経験した甚大な苦難を想起させる広島に集い、全ての者の安全が損なわれない核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認する」という「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発表し、内容は①核兵器による威嚇禁止と核兵器不使用(G7の核兵器は侵略抑止・戦争/威圧防止など防衛目的) ②世界の核兵器数減少 ③現実的で実践的な責任あるアプローチを通じて達成される「核兵器なき世界」という究極の目標に向けコミットメントを再確認 ④核戦力とその規模に関する透明性促進 ⑤核分裂性物質の生産禁止条約の即時交渉開始 ⑥包括的核実験禁止条約発効も喫緊 ⑦核兵器なき世界は核不拡散なくして達成できず、北朝鮮に核実験・弾道ミサイル発射を含む挑発的行動の自制要求 ⑧G7は原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると認識 ⑨民生用プルトニウム管理の透明性維持 ⑩民生用を装った軍事用生産や生産支援に反対 ⑪広島・長崎での核兵器使用の理解を高めて持続させる ⑫核兵器による威嚇や使用は許されないと改めて表明 などだそうだ。 G7サミットを広島で開催し、⑪のように、広島・長崎での核兵器使用への理解を高めたのはよかったと思うが、①②④⑤⑦については、「核兵器による威嚇禁止、核兵器の不使用、核兵器数の減少」には賛成するものの、批判の対象がロシア・イラン・北朝鮮だけであり、「G7の核兵器は、侵略抑止や戦争・威圧の防止等の抑止力である」「核戦力とその規模に透明性があれば良い」というのは、一方的すぎて無理がある。何故なら、全員が廃棄するのでなければ、ロシア等も核兵器を廃棄したくないだろうからである。 また、③の「核兵器なき世界は、『現実的で』『実践的な』『責任ある』アプローチを通じて達成される」というのも、そう言い始めてから何年経っても大した進展がないため、それらの言葉は、核兵器なき世界を進めないための言い訳として使われているように思う。 「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指す」というのは、*4-5のように、2016年10月28日に国連総会第一委員会(軍縮)が核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択した時、日本政府はこの決議に反対し、岸田外務大臣(当時)が「具体的・実践的措置を積み重ね、『核兵器のない世界』を目指すという我が国の基本的立場に合致しないから」と釈明された時に使われた言葉だ。 一般には、「日本は核兵器保有国ではないが、米国の核兵器によって間接的に守られているため、核兵器禁止条約に賛成できない」という説明がよくされるが、それでは、本当に日本は米国の核兵器によって守られるのか、『現実的で実践的な責任ある』どのようなアプローチを、その時点から現在までに行ってきたのか、核兵器禁止条約に賛成するよりもそのアプローチの方が功を奏したのか、について具体的な説明が必要だ。 また、日本が核兵器禁止条約に賛成すれば、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し、その亀裂を深める」という説明も意味不明であるため、その理由を明快に説明して欲しい。実際には、核兵器が使用されれば距離の離れた場所でも人間が住めない状態になるため、⑥の包括的核実験禁止条約発効だけでなく、核兵器の禁止と廃棄が必要なのであり、それを提唱するにあたって、日本は歴史的に Best Person になっているのだ。 なお、⑧については、G7のフランスでパリ協定が締結され、脱炭素エネルギーに原子力エネルギーは含まない旨が明記されたし、ドイツはG7広島サミットの最中に脱原発を完了した。そして、原子力の利用が低廉な低炭素エネルギーを提供することに貢献すると主張しているのは主として日本なのであり、実際には原発は低廉どころか著しくコストがかかり、それを税金や電力料金として国民に負担させているのである。 何故、原爆を2度も落とされ、フクイチで世界最悪の原発事故を起こして周囲に激しい公害を撒き散らしながら、日本は原子力エネルギーにしがみつくのかについては、⑨⑫のようなことを言いつつ、⑩のように、民生用を装いながらいつでも軍事用生産に切り替えられる体制にしておきたいのではないかと思われる。しかし、核兵器が必要となる時などあってはならないため、それこそ大きな無駄遣いだ。 2)「広島ビジョン」で核軍縮はできるのか? *4-3は、①G7首脳が被爆地広島で「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示した ②各国首脳は広島平和記念資料館(原爆資料館)を見学し、被爆者と面会した ③この訪問を「核兵器のない世界」の実現への機運を高める契機とすべき ③G7は米・英・仏の核保有国と米国の「核の傘」に守られている日・独・伊・カナダで構成 ④岸田首相はG7首脳の訪問を「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」と評した ⑤G7首脳は「広島ビジョン(核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進)」をまとめた ⑥中長期的には核拡散防止条約体制を立て直す努力が要る ⑦この条約は世界の安定に寄与するだけでなく、米国との戦力の均衡を維持する点でロシアにもメリットがあるはず としている。 私は、小学校の修学旅行で長崎を訪れた時に、平和公園や長崎原爆資料館を見学し、信じられないような光景の絵・展示物・その解説を見て、その惨状に驚いたことがある。そのため、①②のように、G7首脳が広島原爆資料館を見学して被爆者の話を聞き、「人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない」という決意を示したのは理解できるし、よかったと思う。 しかし、③のように、「『核の傘』に守られているから」とか、④のように、「核兵器なき世界への決意を示す点で歴史的」とか、⑤のように、「核兵器不使用継続・核戦力透明性向上・非核保有国との対話促進」のような核兵器廃絶の本質とは異なる悠長なことを言っていては、これまでどおり、核兵器廃絶は進まないと思う。 また、⑥の「中長期的に核拡散防止条約体制を立て直す努力」というのも、現在、核兵器を保有している国の核兵器保有は認めるが、非核保有国が核兵器開発することは認めないということであるため、不公平すぎて守られず、努力しているふりで終わりそうだ。 なお、⑦の「核拡散防止条約がロシアと米国との戦力均衡を維持して世界の安定に寄与する」という説もあるが、“戦力均衡”を目的とする限り、どちらのグループも相手より大きな軍備を持って優位な形で均衡したいと思うため、核軍縮ではなく軍拡への道を進むことになると思う。 3)法の支配に基づく国際秩序とは? 「法の支配に基づく国際秩序」は国際法に基づく国際秩序を指すが、国際法にはi) 条約・慣習法等の様々な基本原則が存在し ii) 歴史的には主権尊重・主権平等・国家の自己保存権・国家独立の原則・国家の交通権・不干渉義務等の原則が基本的権利義務として捉えられてきた。 また、1970年に国連総会友好関係原則宣言は、iii) 国際社会の基本的原則(武力不行使・紛争の平和的解決・国内問題不干渉・相互協力・人民の同権と自決・国際法の適用における平等の原則等)を掲げ iv) 法の前の平等とは「慣習法は全ての国に、条約は全ての締約国に無差別に適用すること」と明記した(https://hiro-autmn.hatenablog.com/entry/2015/05/21/155750 参照)。 そのような中、*4-4は、G7広島サミットは「G7広島首脳共同声明」を発表し、①ロシアによるウクライナ侵攻を「可能な限り最も強い言葉で非難」し ②ウクライナ支援を継続すると明記し ③「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持・強化する」と強調し ④現実的・実践的な取り組みによって「核兵器のない世界」の実現をめざすことも表明し ⑤覇権主義的な動きを強める中国も念頭に「力による一方的な現状変更の試みに反対する」とした 等と記載している。 iii) iv)によれば、独立国である以上、その国の人民に自決権があるため、国の大小にかかわらず、他国への内政干渉や武力行使は許されない。そのため、平等に国際法を適用しても、①のように、ロシアはウクライナへの侵攻に対する非難を免れないが、日本のメディアには、ロシアのウクライナ侵攻以前に、ロシアを馬鹿にしたり、ロシアに対し内政干渉的な発言をしたり、プーチン大統領をけしかけるような発言が多かったりしたのは事実である。また、②のウクライナ支援は、本来なら国連の仲裁で紛争を解決することによって行われるべきだ。 また、④については、(4)2)に記載したとおりだ。 なお、③の「法の支配」は国際法を指し、個別の国が勝手に作った法律が他国を支配できるわけではない。そして、排他的経済水域(領海基線の外側200海里までの海域やその海底で、イ)天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利 ロ)人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権 ハ)海洋の科学的調査に関する管轄権 二)海洋環境の保護及び保全に関する管轄権 が沿岸国に認められている。 一方で、大陸棚も領海基線から外側200海里までが原則だが、例外的に地質的・地形的条件等により国連海洋法条約の規定に従って延長することが可能で、その大陸棚を探査したり、天然資源開発のため主権的権利を行使したりすることも認められている。そのため、日本の排他的経済水域内で中国が自国の大陸棚だと主張している海域については、日本と中国の両方で主権が認められ解決不能になっている(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/zyoho/msk_idx.html 参照)が、このような規定では日本も中国の大陸棚上になってしまうだろう。 さらに、中華民国(台湾)が独立国であれば、台湾についても、iii)の国内問題不干渉・人民の自決・国際法適用における平等が守られなければならないが、1つの中国を認めるのであれば、中華人民共和国として国内問題への不干渉や人民の自決権が守られなければならない。そのため、⑤の「力による一方的な現状変更の試みに反対する」という曖昧な主張は、単に問題を先送りしただけで何も意味していないのである。 ・・参考資料・・ <先進技術導入の仕方と財源> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551430S3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.2) 児童手当・育休給付上げ 少子化対策素案 予算、30年代に倍増 政府は1日のこども未来戦略会議で少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を示した。毎月支給する児童手当は所得制限を撤廃し、支給の期間を拡充する。2024年度中の実施をめざすと明記した。必要な予算は24年度からの3年間に年3兆円台半ばとする。当初見込んだ3兆円ほどから上乗せした。予算を倍増する時期は、こども家庭庁予算を基準に30年代初頭までの実現をめざすと明示した。岸田文雄首相は予算規模に関して「経済協力開発機構(OECD)トップ水準のスウェーデンに達する」と述べた。政府は与党と調整し、6月中にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。児童手当は親の所得にかかわらず、子どもが高校を卒業するまで受け取れる。3歳から高校生まで一律1万円となる。第3子以降の場合は0歳から高校生まで3万円が支給される。一方、16歳以上の子どもを養育する世帯主が受けられる扶養控除は、給付との兼ね合いを検討課題とした。親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設を盛った。両親が就労していないと利用できない現在の制度を改める。24年度から本格実施を見据えて準備する。育児休業の給付金も増やす。夫婦ともに育休を取得する場合、一定期間を限度に給付率を手取りで10割相当に引き上げる。25年度からの実施をめざす。 *1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/253941 (東京新聞 2023年6月1日) 異次元の少子化対策に年3兆5000億円…財源は? 高齢世代は負担増、子育て世代の手取りが減る可能性 政府は1日、「こども未来戦略会議」を開き、「次元の異なる少子化対策」の素案を公表した。児童手当は所得制限撤廃をはじめとする拡充策を2024年度中に実施することを盛り込んだ。24年度から3年間の集中期間に必要となる追加予算は年3兆5000億円に上るが、財源確保の具体策は示さず、「年末までに結論を出す」と先送りした。政府は医療保険料の上乗せに加え、社会保障費の歳出削減を検討しており、医療や介護を主に利用する高齢世代の負担増につながる可能性がある。岸田文雄首相は1日の未来戦略会議で「少子化対策の財源はまず徹底した歳出改革等で確保することを原則とする」と強調した。素案では、児童手当の拡充は減額や不支給となる所得制限を撤廃し、支給期間を「中学卒業」から「高校卒業」までに延長。第3子以降は月額3万円に給付を増やす。育休制度では25年度から、給付金の手取り10割相当への引き上げ(最大28日間)を目指す。財源確保策として、医療保険料の上乗せを念頭に「支援金制度(仮称)」の創設や「徹底した歳出改革」を行うとして、消費税などの増税は否定。安定財源は28年度までに確保し、その間は「こども特例公債」を発行するとしたが、具体的な国民負担の規模は明らかにしなかった。政府は、医療保険料への上乗せで年1兆円程度、社会保障費の歳出改革でも5年かけて年1兆円強を確保することを検討している。歳出改革では公費支出の削減を図る考えで、来年度に改定される診療報酬や介護報酬の抑制などが想定されるが、医療や介護の人材不足に拍車をかけかねず、与党には「医療・介護が崩壊する」との反発もある。高齢者の自己負担増や医療・介護のサービス削減などで負担増となる可能性もある。財務相の諮問機関の財政制度等審議会は5月、社会保障の歳出改革案として「後期高齢者の医療費窓口負担の原則2割化」や「介護保険の2割負担の範囲拡大」などを提案している。政府は素案を「戦略方針」として決定し、6月策定の経済財政運営の指針「骨太方針」に反映させる。 ◆「高校生の扶養控除を整理」するとどうなる? 少子化対策の素案には児童手当の拡充策とともに、「高校生の扶養控除との関係をどう考えるか整理する」との注釈が入った。拡充策である高校生への新たな給付と、既にある税負担軽減を同時に受けられる家庭が出るために浮上した論点だ。だが、控除の見直し次第では児童手当を増やしても手取り収入が減る世帯が生じる可能性があり、与野党などから早くも反発が起きている。扶養控除は子どもや親などの親族を養っている場合に税負担を軽くする仕組み。現行は16〜18歳の子ども1人につき所得額から38万円が控除されている。所得税は所得が高いほど税率も高くなるため、控除による税負担の軽減効果は高所得者の方が大きい。一方、児童手当は所得にかかわらず一定額が給付されるため低中所得者により手厚い支援となる。2010年には当時の民主党政権が「控除から手当へ」との方針のもと、中学生までの子ども手当(現児童手当)の創設に合わせ、15歳以下が対象の年少扶養控除を廃止した経緯がある。拡充策が実現すれば、高校生のいる世帯は児童手当と税負担軽減が併存する。このため、扶養控除がない中学生までとのバランスを踏まえる必要があるというのが政府の考え方だ。扶養控除の見直しには反対論も強い。子育て支援団体が1日に国会内で開いた集会では、与野党議員から「可処分所得を削ってはいけない」「新たな税負担を求めないと言っていたのに実質的な増税だ」と批判が噴出。控除廃止による課税所得の増加で高校無償化の対象から外れる恐れがあるなどの懸念も出た。 *1-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA218FR0R20C23A4000000/ (日経新聞 2023年6月4日) 全ゲノムデータ、一元管理へ新組織 創薬・治療に貢献 厚生労働省は2025年度にも全ゲノム(遺伝情報)のデータを一元管理する新組織を設立する調整に入った。蓄積したデータを患者の診断や治療の質の向上に役立てる。個人情報を保護しつつ産業界や学術界も幅広く利用できる仕組みとし、創薬や難病診断、がん治療につなげる。医療機関などから集めた検体を全ゲノム解析しデータとして蓄積する。産学からなるコンソーシアム(共同事業体)に参画する組織に利用資格を持たせる。企業からはデータ利用料を取り、研究機関や大学は無料とする見通しだ。政府が22年に決めた全ゲノム解析の実行計画の一環として実施する。研究成果は創薬などを通じてがんや難病の患者の治療に生かす。得た知見は協力してもらった医療機関とも共有して活用する。企業の参加を促すため、新組織発足に向けた準備室に人材や技術、資本などで協力した企業にはデータの利用料の割引や優先権といったインセンティブを設けることも想定する。全ゲノム解析はおよそ30億にのぼるすべての塩基配列を読み取る。がん治療の場合、従来の手法に比べて一人ひとりの病状に合った投薬など効果的な治療が期待できる。最適な治療法を早く発見できれば患者の治療に役立つだけでなく、検査の重複を避けられる。手探りで治療を続ける必要もなくなり、医療費の削減も見込まれる。全ゲノム解析は英国などが先行する。12年に当時のキャメロン首相が「10万ゲノムプロジェクト」を始め、18年にがんや希少疾患の患者10万件分のゲノム解析を終えた。医療現場での導入も進み、全ゲノム解析を保険適用の対象にする疾患もある。日本では国の研究事業として19年度から21年度にかけて、がんでおよそ1万3700症例、難病でおよそ5500症例分の全ゲノム解析の実績がある。難病が疑われるものの診断が困難な疾患のうち、全ゲノム解析をして9.4%で何の疾患かを特定できた。研究は進んだものの、学術界や企業がデータを二次活用する仕組みは整っていなかった。創薬への利活用が進まない点が課題として指摘されていた。日本製薬工業協会(製薬協)は「戦略的に一定規模の診療情報やゲノムが集まれば、様々な研究者が同時に研究に着手できる」とゲノム研究の加速に期待を寄せる。データの利活用については「幅広く利用しやすい料金体系とし、利活用までのスピードでも国際競争力のあるデータベースをつくる必要がある」と指摘する。ゲノムは人体の設計図となる遺伝情報で、2本の鎖がらせん状になったDNAからなる。DNAは4種類の塩基からなり、遺伝情報はその塩基の配列で決まる。細胞が分裂する際にDNAの複製に失敗すると遺伝子に変異が起こる。紫外線や化学物質を浴びて傷つき変異することもある。親から変異を引き継ぐ場合もある。こうした塩基配列のわずかな差が、病気の原因となり得る。米欧に比べ全ゲノム解析が遅れる日本としては、国が主導する新組織の設立を足がかりに国民の医療の質の向上を狙う。 *1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15653712.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2023年6月4日) ゲノム医療法案 健全な発展の一歩に 一人ひとりの遺伝的な特徴や体質にあわせて病気を治療し、早期発見や予防を可能にする。そんな「ゲノム医療」を推進する法案が衆院委員会で可決され、参院での審議を経て成立する見通しとなった。世界最高水準のゲノム医療を実現させ、国民が広く恵沢を享受するとともに、ゲノム情報の保護が十分に図られ、不当な差別が行われないようにすることを理念に掲げた。総合的な施策を進める基本計画の策定と、財政上の措置を国に求めている。生まれつき持った遺伝的特徴によって尊厳や人権を傷つけられることがあってはならないという理念は、ユネスコが1997年に採択した「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」などで国際的に共有されている。海外には遺伝情報による差別を禁じた法律を持つ国もあり、患者団体や医療界から早急な法整備を求める要望が出され、超党派の議員で検討を進めてきた。法律ができることは一歩前進だ。すでにがんの遺伝子異常を調べられる検査が公的医療保険で実施され、がんや難病患者を対象にゲノムを網羅的に解析する国のプロジェクトも進められている。将来、様々な病気のリスクが予測できるようになれば、がんや難病に限らず、すべての人に関わる。健全な発展と普及、データ利活用のための環境整備に向け、実効性ある計画づくりを国に求めたい。一方、法案には、差別のほかゲノム情報の利用が拡大することで起こりうる課題に適切に対処するための施策を講じるという条文もある。実際、保険や雇用、結婚、教育などさまざまな場面で差別や不利益を受ける恐れが指摘されている。厚生労働省の研究班が2017年に1万人を対象にした遺伝情報の差別と利用に関する意識調査では「保険加入を拒否・高い保険料設定を受けた」といった経験を持つ人が一定程度いた。生命保険協会は昨年、会員各社の引き受け・支払いに関して、遺伝情報の「収集・利用は行っておりません」とする文書を公表したが、将来的に見直す可能性にも言及する。何をもって差別や不利益とみなすのかは必ずしも明確ではなく、対処するための方策も場面によって変わりうる。まずは実態を把握し、一定の考え方を示しつつ、社会的合意を作ってゆく必要がある。民間でも唾液(だえき)を利用して健康な人の遺伝情報を調べ、病気のリスク判定などを試みるビジネスがある。しかし、判定の方法や根拠は必ずしも確立されているわけではない。質の確保に向けた取り組みやルール作りにつなげていくことが求められる。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71556570S3A600C2MM0000 (日経新聞 2023.6.2) 保険証廃止、マイナ一本化、来秋から、改正法が成立 番号の利用範囲拡大 行政のデジタル化を進めるための改正マイナンバー法が2日の参院本会議で可決、成立した。2024年秋に予定する現行の健康保険証の廃止に向けた制度をそろえた。誤登録などが相次いでおり制度改善には余地がある。政府はマイナンバーカードと保険証を一体にする「マイナ保険証」の普及をめざす。今の保険証は来年秋以降、1年の猶予期間を経て使えなくなる。法改正によりカードを持たない人でも保険診療を受けられるようにする「資格確認書」の発行が健康保険組合などで可能になる。確認書の期限は1年とする方針で、カードの利用者よりも受診時の窓口負担を割高にする検討も進める。カードへの移行を促す狙いだ。乳幼児の顔つきが成長で変わることを踏まえ1歳未満に交付するカードには顔写真を不要とする内容も入れた。政府などの給付金を個人に迅速に配るため口座の登録を広げる措置を盛り込んだ。年金の受給口座の情報を日本年金機構から政府に提供することを事前に通知し、不同意の連絡が1カ月程度なければ同意したと扱う。新型コロナウイルス禍での個人給付では通帳のコピーなどの提出が必要で行き渡るまでに時間がかかった。口座登録の割合が高齢者で低いことを踏まえ年金口座の利用を決めた。税と社会保障、災害対策の3分野に限ってきたマイナンバーの活用を広げる。引っ越しの際の自動車変更登録や国家資格の手続きなどでも使えるようにする。改正マイナンバー法は与党と日本維新の会、国民民主党などが賛成した。個人情報の漏洩防止の徹底や全ての被保険者が保険診療を受けられる措置の導入などを盛り込んだ付帯決議を採択した。政府はマイナカードを「23年3月までにほぼ全国民に行き渡らせる」と号令をかけ、ポイントを付与するなどして国民に取得を呼びかけた。全国民の申請率は8割弱、交付率は7割強に達した。コンビニエンスストアで住民票などの証明書を他人に発行したりマイナ保険証で別人の情報をひもづけたりするなどのトラブルも多く発覚した。システムの問題や人為的な入力ミスに起因している。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230605&ng=DGKKZO71614620V00C23A6MM8000 (日経新聞 2023.6.5) 再エネテックの波(1)貼る太陽光、覇権争い、日本発技術、量産は中国先行 原発6基分「国産化」急ぐ ウクライナ危機に端を発するエネルギー危機は化石燃料に依存するリスクを改めて浮き彫りにした。脱炭素に加え、エネルギー安全保障の面からも再生可能エネルギーの拡大が国や企業の命運を左右する。急速に進化する再エネテックの最前線で何が起きているのか。日本経済新聞は専門家の意見も参考に太陽光、風力、水素、原子力発電所、二酸化炭素(CO2)回収の5つの分野で注目される11の脱炭素技術の普及時期を検証した。実用化が近づくものが目立つなか、ゲームチェンジャーになりうるのが次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」だ。主要7カ国(G7)が4月の気候・エネルギー・環境相会合で採択した共同声明。浮体式洋上風力発電などと並ぶ形で「ペロブスカイト太陽電池などの革新的技術の開発を推進する」と記された。声明で具体名が盛り込まれたのは初めてだ。 ●薄く・軽く・屈曲 2月11日。横浜市にある市民交流施設で、鉄道模型「Nゲージ」を50人以上が取り囲み、感嘆の声を上げていた。珍しいのは模型そのものでなく、その動力を1ミリメートル以下の薄さの太陽電池が供給する点だ。部屋の中の弱い光でも十分な電力を生み出せると実証した。ペロブスカイト型は薄く、軽く曲げられ、従来のシリコン製では不可能だった壁面や車の屋根にも設置できる。材料を塗って乾かすだけの簡単な製造工程で、価格は半額ほどに下がるとされる。日本は山間部が多く、従来の太陽光パネルの置き場所が限られる。東京大学の瀬川浩司教授の試算ではペロブスカイトなら2030年時点の設置可能面積は最大470平方キロメートルと、東京ドーム1万個分になる。発電能力は600万キロワットと原発6基分に相当する。桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した日本発の技術だが、量産で先行したのは中国企業だ。大正微納科技は江蘇省の拠点に8000万元(約16億円)を投じて生産能力が年1万キロワットのラインをつくり、22年夏から量産を始めた。23年には生産能力を10倍にする。宮坂氏は海外での特許出願手続きに多額の費用がかかるため、基礎的な部分の特許を国内でしか取得しなかった。海外勢が特許使用料を支払う必要がなかったことも先行を許す一因となった。日本でも積水化学工業やカネカが25年以降の量産を計画し、東芝やアイシンも事業化をめざす。ただ宮坂氏は「本来、この分野をリードすべき日本の大手電機メーカーは腰が重い」と話す。 ●世界で投資加速 似たような光景は過去にもあった。 従来の太陽光パネルも開発・実用化で先行し00年代には京セラやシャープなどの日本勢が世界で50%のシェアを持った。国などからの補助を受けた中国企業が低価格で量産し、今では市場シェアの8割超を握り、日本勢の多くは撤退した。ウクライナ危機後、再生エネは「国産エネルギー」として存在感を増した。ペロブスカイト型が普及する際に日本がパネルを輸入に頼れば、本質的な「国産」とはなりにくく、エネ安保の死角になる可能性がある。世界では投資競争が加速する。米調査会社ブルームバーグNEFの報告書によると、再生エネや原子力といった低炭素エネルギー技術への企業・金融機関などの投資額は22年に最高の1兆1100億ドル(約160兆円)。前年から3割増えた。中国がおよそ半分の76兆円、米国が20兆円と2番目に多い。ドイツ、フランス、英国に続く日本は3兆円だ。脱炭素で有望な11の技術のうち、ペロブスカイト型や浮体式の洋上風力発電など、半分弱は日本が開発段階では先頭集団にいる。これまで逆転を許すことが多かった普及期に生産支援だけでなく、家庭や企業が導入するインセンティブを高めて市場をつくり、産業として育てられるか。光る技術を生かす政策が重要になる。 *1-3-2:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230613/se1/00m/020/050000c (エコノミストOnline 2023年6月2日) 日本の蓄電ビジネスはNTT+東電+トヨタの共闘で(編集部) 電力の200億円分をドブに捨てている──。6月に値上げされる電気料金の裏側で、こんな現実があることをご存じだろうか。一般家庭が1カ月に使う電気にして200万戸を超える太陽光発電の電気が使われないまま捨てられている。日本で最も再生可能エネルギーの普及が進む九州電力は今年度、出力制御という形で、電力需要がない時間に作り過ぎて送電網で受け入れられない電力が最大で7億4000万キロワット時に達する見込みを発表。仮に、これだけの電気を石油火力で発電すると、約200億円かかる。この無駄をいかに日本全国で減らし、脱炭素を同時に達成するか、という取り組みが始まっている。 ●再エネを使い倒す 国民にとって電気代の高騰は死活問題だ。6月から電力大手7社の電気料金が一斉に値上げされる。値上げ幅は最大40%。ウクライナ紛争による原油・ガス価格の高騰や円安が主因だ。食料価格に加え電気料金の値上げは家計を直撃するが、今秋には政府の電気代補助金が終わり、化石燃料の需要期でさらに高騰することが確実だ。では、どうやって電気代を削り、稼ぐのか。電気代が安い時間帯に太陽光など再エネの電気をあえて大量に使用したり、蓄電池にためる。節電要請に応えて報奨金をもらったり、高く売れる時間帯に電力市場で売るのだ。産業界ではこんな取り組みが始まっている。太陽光の電力が余っていると予想される時間帯に、大量の電力を使う電炉メーカーが、これまで電気代が安かった夜間の操業から、太陽光の電力が余る昼間の時間帯に操業をシフトし、電気代の節約と再エネ利用による脱炭素を同時に実現しているのだ。暑くも寒くもなく、工場の稼働も止まる5月の日あたりの良い連休など、電気の需要が急激に落ちる時期に、大量の発電ができる太陽光発電の作りすぎを吸収するため、蓄電池で電気をため込み、電気が大量に必要となる時間帯や、市場で高く売れる時間帯に放電する取り組みも始まっている。大型蓄電システムとして系統(送配電網)につなげる取り組みも全国で始まった。住友商事はこの夏、北海道千歳市で約700台のEV電池を使い、出力6000キロワット、容量2万3000キロワットの大型蓄電所として北海道電力の送電網に接続する。EVが走っていない時間帯を利用して、マンションに給電し、電力需給が逼迫(ひっぱく)する時期に住宅に戻す取り組みも始まっている。エネルギーベンチャーのREXEV(レクシヴ)は神奈川県小田原市でカーシェアリングと、遠隔操作できるスマート充放電器約100台を使い、乗用に使用していない時間帯のEVの電池を活用し、昨年7月の電力会社の節電要請時に応え、電気代を獲得した。これを1万台まで大規模化する目標で、同社にはNTTや電力・ガス会社も出資している(特集:電力が無料になる日〈インタビュー「EVを蓄電池として利用する」渡部健REXEV社長〉参照)。コストが高い電池を自動車、通信、電力など複数の産業セクターの共有インフラとしてコストをシェアしたり、電池の持つライフサイクルバリューをフルに生かし、電池そのものが持つ収益力を産業の垣根を越えてシェアしたりする取り組みも始まっている。EVで使用するだけでなく、乗用していない時間帯の電池を有効利用したり、乗用に適さなくなった電池を大型蓄電システムとして再利用(リユース)したりして、リチウムやニッケル、コバルトなどの希少資源を取り出しリサイクルするのだ。再エネという燃料費のかからない究極の国産エネルギーを、電池をうまく活用して使い倒そうという試みともいえる。 ●全国に系統蓄電「発電所」 動いたのはトヨタ自動車。EVシフトを本格化し始めたトヨタは5月29日、東京電力ホールディングス(HD)と提携し、新品のEV電池を大型蓄電システム化して送電網へのつなぎ込み、再エネの電力を有効活用する実証を始める、と発表した。日本の電力の1%(約100億キロワット)を使う日本最大の電力バイヤーNTTも動き始めている。再エネ電源そのものを確保するため、電力子会社のNTTアノードエナジーが東京電力と中部電力が折半出資する日本最大の発電会社JERAとともに200万キロワット規模(開発中含む)の再エネ会社グリーンパワーインベストメント(GPI)を3000億円で買収するのだ。主導したのは80%を出資するNTTアノード。同社はこの買収に先行して、福岡県と群馬県で系統につなぐ大型蓄電システムの設置にも乗り出している。群馬県は東京電力HDと共同で設置。福岡県では九州電力、三菱商事と再エネの出力制御の低減に向けた電力ビジネスも検討している。国もこの動きを支援し始めている。4月に系統につなぐ大型蓄電池を発電所として認める法改正を行ったのだ。これに先行して21年度から22年度にかけ、全国28カ所で系統蓄電システムの助成を始めている(図2)。住友商事が北海道で立ち上げる中古EV電池を活用した大型蓄電設備も、この助成を活用した。EV電池を送電網に直接つなぎ込むEVグリッドのワーキンググループも5月29日に資源エネルギー庁で始まった。昨年11月に始まった分散型電力システム検討会の中核となる取り組みで、自動車、電力会社、充電器メーカー、充電サービサーなど複数の業界が横断的に議論し、10年後を見据えて今から準備を始める。例えば、「ただ充電するだけでなく充放電を遠隔操作できるスマート充電器を整備するルールにしておけば、10年後にEVグリッドを整備しやすくなる」(資源エネルギー庁電力ガス事業部の清水真美子室長補佐)といった議論を今から始めておくのだ。国がここまで本気で動いているのには訳がある。国際政治の圧力だ。4月のG7環境大臣会合で、35年に温暖化ガスを19年比で60%削減することが確認された。これは一昨年、菅政権が打ち出した30年の13年比46%を、35年までに65.6%まで引き上げることを意味する。エネルギー基本計画の審議委員を務める橘川武郎国際大学副学長は、「異次元の再エネ導入に踏み込まないと達成不可能な数字」という。この動きに経済産業省は先手を打ってきた。二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアの活用、東北地方や北海道で整備を進める大型洋上風力、再エネ資源が豊富な北海道から首都圏まで電気を運ぶ海底高圧直流送電線の建設構想、国際争奪戦が始まっているリチウムイオン電池の国産基盤の整備、次世代原子炉の開発──などだ。複数の政策が総動員されているが、この中でも早期に確実に削減目標を達成するには、いまある再エネを有効利用して無駄を減らすしかない。それが一番手っ取り早い。 ●GX150兆円の中核 2月10日に閣議決定された日本の「GX実現に向けた基本方針」の中にもこの動きは隠されていた。政府は同日、国債20兆円を含む150兆円の資金投入の内訳を参考資料で明らかにしたが、この内訳に「政策の一つの方向性が見えていた」(橘川氏)という。150兆円のうち、自動車に34兆円(蓄電池7兆円含む)、再エネに20兆円、送配電網(ネットワーク)に11兆円。これに脱炭素目的のデジタル投資12兆円を加えると全体の過半に達する。この77兆円を結びつける触媒がEVグリッドというわけだ。もちろん課題はある。まだまだ低いEVの普及率と充電インフラの整備だ。日本で普及しているEVは昨年やっと新車販売の2%に達したが、日本全体が保有する8000万台のわずか0.25%、20万台に過ぎない。しかしEV普及に向けた動きは加速している。40年のガソリン車全廃を決めているホンダはジーエス・ユアサコーポレーションと組み、20ギガワットの電池の工場建設に4300億円を投じ、27年から日本で生産に乗り出すことを決めた。経産省はこの電池工場に1587億円の補正予算をつける。経産省は年間200万〜300万台のEV国産化に必要な電池として150ギガワットの整備目標を示し、すでに稼働中、開発中のものと今回のホンダの計画を足して「60ギガワットのメドを付けた」(経産省の武尾伸隆電池産業室長)。産業界を横断する取り組みも動き始めている。電池・素材メーカーから自動車、商社、金融、ITなど140社が参加する電池サプライチェーン協議会では、電力のリユース、リサイクルに必要な電池そのもののあらゆる情報を業界横断で共有できるデジタルプラットフォームを作り、24年度までの社会実装を目指す(特集:電力が無料になる日〈電池のリユースは自動車業界の命綱〉参照)。必要なのは、まだ高額な電池を、再利用まで視野に入れ、社会インフラとして自動車・電力・通信・サービスなどセクター横断で共有し、価格を下げて、EVの普及を促す取り組みだ。NTTが基地局などで設置している蓄電池は停電時の非常用電源としても利用でき、通信事業の中で償却できるメリットがある。NTTはこれを全国のNTTビル間で直流送電網につなげる取り組みを始めている。こうした取り組みは電力を大量に消費する産業でも意識され始めている。図2にある通り全国28カ所で経産省の助成をもとに、電力・ガス、石油元売り、鉄道、商社、製鉄、エンジニアリングなどあらゆる業界が系統蓄電池の設置に乗り出している。究極はトヨタと東京電力の戦略的な提携の実現だ。日本総研創発戦略センターの瀧口信一郎氏は「EV用電池がトヨタから東電に流れる形ができれば、潜在的な巨額投資を引き出せる」と指摘する。日本で販売されるEVの電池をリユースで東電が引き取り、エネルギーマネジメントサービスとして電池コストを償却できるビジネスの仕組みだ。 ●東電9兆円の投資先 東京電力HDは30年までに9兆円以上を投じてカーボンニュートラル実現に向けたアライアンスを進める方針を昨年4月に明らかにしている。詳細は明らかにしていないが、蓄電ビジネスを脱炭素の中核に位置付けようとしていることは間違いない。同社はかねてから「EV用蓄電池の活用は重要。当社が保有する蓄電池のノウハウや独自の安全基準、システム化技術を活用し、EV用蓄電池を使って競争力のあるシステム構築する」と語っていた。5月29日のトヨタとの蓄電システム提携が第1弾とすれば、9兆円を原資とするさらに踏み込んだアライアンスに乗り出す可能性もある。産業界と国が連携して始まったEVグリッドの試みは、燃料費のかからない究極の国産エネルギー、再エネを限りなく無料に近づける挑戦ともいえる。 *1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230606&ng=DGKKZO71646260W3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.6) 再エネテックの波(2)脱炭素実現、蓄電池が左右 「価格4分の1」で壁突破 オーストラリア南部の南オーストラリア州。豊かな自然やワインで有名な州はいま、再生可能エネルギーの普及で世界の先頭を走る。太陽光と風力の発電量は州の年間需要157億キロワット時の約6割に相当。2030年にはすべての需要を賄い、50年には需要の5倍の供給能力を備えて州外への「輸出」も見据える。再エネの普及を支えるのが、つくった電気をためこむ蓄電池だ。米テスラなど蓄電大手は商機とみて同州に相次ぎ進出し、再エネ・蓄電池関連の投資は60億豪ドル(約5500億円)を超えた。23年には新たな施設が稼働し、同州の蓄電能力は一気に2倍超に高まる。 ●「捨てる」を回避 電気は需要と供給が常に一致しなければ周波数や電圧が狂い停電につながる。再エネの発電量は天候で変動し、再エネの比率が高まるほど変動幅は大きくなる。電気が余った時にためて足りない時に放出する蓄電池で変動をならす。16年9月には悪天候で再エネの発電量が減ってブラックアウト(全域停電)が起きた。それでも火力発電に回帰せず、蓄電池拡大で再エネの弱点を補った。州政府の元高官は「再エネの周波数や電圧の管理は発電量を増やす以上に重要。停電を起こす急激な変動を避けるために蓄電池は欠かせない」と話す。英調査会社ウッドマッケンジーは電力網につなぐ蓄電池は30年に世界で1億9400万キロワット時と20年比で19倍に膨らむとみる。各国で再エネが普及し、電気を「捨てる」のを避けようと蓄電投資が増える。それでもいまの蓄電池の国際流通価格(1キロワット時で約4万円)では再エネを柱に脱炭素を実現するにはまだ高い。日本で再エネ90%、残り10%を温暖化ガスを排出しない水素火力発電で補う場合、蓄電池が大量に必要になるため、現状の価格なら日本の発電コストは2倍になる。仮に蓄電池が1万円に下がれば上昇幅は4割、5000円なら3割に抑えることができ、電源構成として現実的な選択肢になる。日本経済新聞が21年時点の発電コストをもとに立命館アジア太平洋大学の松尾雄司准教授の論文から試算した。 ●EVや岩石活用 国際エネルギー機関(IEA)による世界の脱炭素シナリオも50年の再エネ比率を8~9割とみる。脱炭素と経済性の両立には、電力網に蓄電池をいかに安く導入するかがカギとなる。有望なのが急速に普及する電気自動車(EV)の活用だ。世界で個人が所有する車の9割は駐車場にとまっている。EVを「電池」とみなして電力網につなげば、蓄電投資を抑制できる。IEAの予測では30年に世界のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)は合計で最大3億5千万台になる。英政府は国内で30年にEVの半数が送電網に接続すれば、原発16基分の1600万キロワットもの電気を補う効果があると試算する。EVは主流のリチウムイオン電池を載せるが、それ以外の蓄電技術の開発も盛んだ。独シーメンス・エナジー子会社のシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーは岩石を熱してエネルギーをためる技術を開発した。コンクリートの建物内に並べた大量の小石に熱を蓄え、水蒸気を出して発電タービンを回す。100万キロワット時の電気を1~2週間蓄える。コストは従来の蓄電池の5分の1になる。20年代半ばの商用化を目指す。EVを組み込むことができる柔軟な電力システムになっているか。どんな蓄電の技術を開発し、どこまでコストを下げられるか。脱炭素時代の電力は蓄電を制するものが覇者となる。 *1-4-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/60c28d58e20926cae61f1556141ddd7a68288da4 (BBC、Yahoo 2023/6/5) 運行システムか信号に問題か インド列車事故、死者は275人、スティク・ビスワス(デリー)、アダム・ダービン(ロンドン) インド東部オディシャ(オリッサ)州で2日夜に起きた列車事故について、インドの鉄道相は4日、列車の進路を制御する「電子連動装置の変更」がおそらく原因だろうとの見方を地元メディアに示した。他方、鉄道相のもとに置かれているインド鉄道委員会は記者会見で「信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだ」と述べた。地元当局は同日、死者数について、二重計上があったとして288人から275人に修正した。アシュウィニ・ヴァイシュナヴ鉄道相はこの後、事故原因は特定されたと述べたものの、詳細は明らかにしなかった。電子連動装置は、特定区間で個々の列車のルートを決め、複数の線路での安全運行を確保するためのもの。今回の事故では、急行旅客列車が誤った信号で支線に入るよう指示を受け、支線に停車していた貨物列車に衝突。脱線した車両が、隣の線路を対向してきた別の旅客列車に衝突した。4日の記者会見で、インド鉄道委員会のジャヤ・ヴェルマ=シンハ氏は、2本の旅客列車は青信号のもと、速度制限の時速130キロを守り、それぞれバラソール地区駅へ向かっていたと説明した。ヴェルマ=シンハ氏によると、2本の旅客列車は本線ですれ違うはずだったものの、南へ向かう「コロマンデル急行」が支線へ進んでしまい、鉄鉱石を積んだ貨物列車に衝突。重い貨物列車はまったく動かず、急行の機関車や一部の車両が、貨物列車の上に乗り上げたという。北へ向かっていた「ハウラ・スーパーファスト急行」は、この衝突現場の横をほとんど通過し終えていたものの、後方の2車両に、脱線した「コロマンデル急行」の車両が当たってしまったという。ヴェルマ=シンハ氏は、「電子連動装置に問題はなく」、「信号の動きが何らかの理由で阻害されたようだ」と述べた。「手動によるものか、偶発的なものか、気候関連か、経年劣化あるいは整備不良が原因か、そうしたことはすべて事故原因調査委員会がいずれ明らかにする」という。デリー拠点のシンクタンク「政策研究センター」の研究員でインフラに詳しいパルタ・ムコパディエイ氏はBBCに対して、列車の進行先が支線に切り替わっていたならば、本線に青信号が点灯するはずはないと話した。「鉄道信号の電子連動装置は、フェイルセイフ(誤作動が生じた場合に安全対応するための設計)になっているはずで、これほどの失敗は前例がない」とムコパディエイ氏は話した。 ■死者数275人に 3本の列車がからむ衝突事故は、現地時間2日午後7時(日本時間同10時半)ごろに起きた。死者数について、地元当局は同日、死者数を275人に修正した。これまで288人と発表していたが、二重計上があったという。負傷者1175人のうち、793人は退院した。安否不明の家族をまだ探している人も複数いる。2本の旅客列車には計約2000人の乗客が乗っていたとみられる。オディシャ(現地語でオリッサ)州のプラディープ・ジェナ知事はBBCに対して、少なくとも187人の遺体の身元が確認できていないと話した。当局は遺体の写真を政府ウェブサイトに掲載する作業を進めており、必要に応じてDNA検査を行うという。捜索・救出作業は3日中に終わり、現在は大破した列車を現場から撤去し、鉄道運行の再開へ向けて取り組んでいるという。インドのナレンドラ・モディ首相は3日に事故現場と、被害者の運ばれた病院を訪れ、責任者を厳正に処罰すると述べた。インドの鉄道網は世界最大級で、毎日数百万人が利用するものの、そのインフラの大部分が改良を必要としている。学校が休みになるこの時期には鉄道利用者が増えるため、車内は非常に混雑することがある。インド史上最悪の列車事故は1981年にビハール州で起こった。超満員の旅客列車がサイクロンにあおられて脱線し、川に落下。少なくとも800人が亡くなった。 *1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM220HO0S3A520C2000000/ (日経新聞 2023年5月22日) インドのモディ首相、島しょ国と会合 中国抑止へ関与 インドのモディ首相は22日、南太平洋のパプアニューギニアで8年ぶりに太平洋島しょ国首脳との会合を開いた。太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に、島しょ国への関与を強めて同地域への影響力を確保する狙いがある。「我々はあなた方の優先順位を尊重する。人道支援であれ開発であれ、あなた方はインドをパートナーとして信頼できる」。会合の冒頭、モディ氏は14カ国の島しょ国首脳に語りかけた。気候変動対策や食糧安全保障、デジタル技術などでの支援を打ち出した。モディ氏は21日に広島で主要7カ国首脳会議(G7サミット)の拡大会合に出席後、パプアの首都ポートモレスビーに向かった。現職のインド首相が同国を訪問するのは初めて。会合では広島で開いた日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」首脳会議の議論にも触れ「我々は多国間で島しょ国とのパートナーシップを強化する。自由で開かれたインド太平洋を支持する」と強調した。パプアのマラペ首相は会合で「我々は大国同士の勢力争いに苦しんでいる」と強調した。モディ氏に「我々の擁護者になってほしい」と求め、気候変動対策やエネルギー高騰などによる財政難への継続支援を訴えた。侵略や植民地支配の歴史をもつ島しょ国には、再び大国の覇権争いの舞台になることへの警戒感が強い。南半球を中心とした新興・途上国「グローバルサウス」として歴史を共有するインドに対して代弁者としての期待を抱く。「インド・太平洋島しょ国協力会議」は2014年にモディ氏のフィジー訪問に合わせて発足した。15年にインドで2度目の会合を開いたが、その後は空白期間が続いていた。今回の会合はインド側の呼びかけで実現した。インドは自国と国境問題を抱える中国が島しょ国の周辺海域の軍事拠点化を進めることに懸念を強めている。中国は06年にフィジーで「中国・太平洋島しょ国経済発展協力フォーラム」を開催。14年には習近平(シー・ジンピン)氏が国家主席として初めてフィジーを訪れ地域への経済支援の拡大を打ち出した。22年4月にはソロモン諸島と安全保障協定を締結した。米国はソロモン諸島やキリバス、トンガに大使館開設を決めるなど巻き返しを図ってきた。 <G7 環境> *2-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230416/k10014040201000.html (NHK 2023年4月16日) G7環境相会合 閉幕 自動車分野の二酸化炭素排出50%削減へ合意 札幌市で行われていたG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合は2日間の議論を終え、閉幕しました。焦点となっていた自動車分野の脱炭素化では、G7各国の保有台数をベースに、二酸化炭素の排出量の50%削減に向けた取り組みを進めることで合意しました。脱炭素社会の実現や経済安全保障の強化などをテーマに、2日間にわたって開かれた会合は共同声明を採択して閉幕しました。それによりますと、自動車分野の脱炭素化については、エンジン車なども含めた各国の保有台数をベースに、G7各国で二酸化炭素の排出量を2035年までに2000年に比べて50%削減できるよう、進捗(しんちょく)を毎年確認することで合意しました。欧米の国々が求めていた電気自動車の導入目標ではなく、ハイブリッド車も含めた幅広い種類の車で脱炭素化を目指すことになりました。また、石炭火力発電の廃止時期は明示しない一方、石炭や天然ガスなどの化石燃料について、二酸化炭素の排出削減の対策が取られない場合、段階的に廃止することで合意しました。一方、環境分野では、レアメタルなどの重要鉱物について、G7各国が中心となって国内外の使用済み電子機器などを回収し、リサイクル量を世界全体で増加させることや、プラスチックごみによるさらなる海洋汚染などを、2040年までにゼロにするという新たな目標が盛り込まれました。議長国の日本としては、脱炭素化に向けて、各国の事情に応じたさまざまな道筋を示せたとしていて、来月のG7広島サミットでの議論に反映させる方針です。 ●西村環境相 「G7各国の結束揺るぎない」 会合を終え、西村環境大臣は「さまざまな国際情勢の中で、気候変動と環境問題に関してG7各国の結束が揺るぎないということを世界に示すことができた非常に意味のある会議だった。今回の共同声明で気候変動や環境政策の方向性を示すことができたが、今後はこの方向性に沿った具体的な対策を進めていくことが重要で、課題だと思う。今回の成果を来月の広島サミットや国連の気候変動問題を話し合うCOP28につなげ、各国で取り組んでいきたい」と述べました。 ●西村経産相「技術を広げ 実装していくことが大事」 会合のあと西村経済産業大臣は採択された共同声明について「各国のエネルギーや経済の事情が違うなかでも多様な道筋を認めながら、それでもカーボンニュートラルを目指すということだ」と述べました。そのうえで「まさにイノベーションが温室効果ガスの排出量の実質ゼロを実現するためのカギだと思う。グローバルサウスとの連携のなかで、技術をしっかりと広げ、実装していくことが大事だと思っている」と述べ、日本として途上国などへの技術協力や投資なども行い、脱炭素の取り組みを支援していく考えを示しました。 ●脱炭素社会実現に向け どのようなメッセージ打ち出すかが焦点 今回のG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合では、脱炭素社会の実現に向けて、どのようなメッセージを打ち出すかが焦点でした。 【自動車分野の脱炭素化】 世界で電気自動車の普及が進むなか、欧米の国々は、電気自動車の導入目標を定めるべきと主張しましたが、ハイブリッド車の多い日本は慎重な立場で、会合の終盤まで調整が続きました。その結果、ハイブリッド車やエンジン車なども含めた各国の保有台数をベースにG7各国で二酸化炭素の排出量を2035年までに2000年に比べて50%削減できるよう、進捗を毎年確認することになりました。日本としては、電気自動車に限った目標ではないため、ハイブリッド車も含む幅広い種類の車で脱炭素化を進められるとしています。 【合成燃料】 その一方で既存のエンジン車でも活用できる「合成燃料」の技術開発の必要性が強調されました。工場などから排出された二酸化炭素を原料に合成燃料を製造すれば排出量を実質ゼロにできます。EU=ヨーロッパ連合も合成燃料の使用を条件にエンジン車の販売の継続を認めることにしていて、次世代エネルギーを推進することで脱炭素化を進めることにしています。 【石炭火力発電】 石炭火力発電についてはヨーロッパの国々が段階的な廃止に向けて期限を設けるべきだと訴えていたのに対して、日本は、アジア各国の現状なども踏まえ、一定程度の活用は必要だというスタンスでした。その結果、石炭火力発電の廃止時期は明示しない一方で、石炭や天然ガスなどの化石燃料については、二酸化炭素の排出削減の対策が取れない場合、段階的に廃止するという内容で決着をはかりました。 【再生可能エネルギー】 再生可能エネルギーの普及に向けては、G7全体で、▽2030年までに洋上風力発電を原発150基分に相当する150ギガワットに、▽太陽光発電については、「ペロブスカイト型」と呼ばれる薄くて軽い次世代型のパネルを普及させるなどして、原発1000基分に相当する1テラワットまで拡大させるとしています。これらの目標は現在と比べて、▽洋上風力で7倍余り、▽太陽光では3倍余りの規模となります。 【重要鉱物】 電気自動車のバッテリーや半導体の材料となるリチウムやニッケルなどの重要鉱物は、中国などとの間で獲得競争が激しくなっています。このため今回の会合では、経済安全保障上の観点から重要鉱物の安定確保に向けた行動計画がとりまとめられました。G7で日本円にして1兆7000億円余りの財政支出を行い、鉱山の共同開発などを支援するほか、電気自動車の使用済みバッテリーなどから重要鉱物を回収するリサイクルを進めるなど、5つの協力を進めることにしています。 【天然ガス】 その上で天然ガスについても、ロシアのウクライナ侵攻のあと安定供給に向けた懸念が高まっていることから、各国で投資を進めることの重要性を確認しました。 天然ガスは石炭などに比べると二酸化炭素の排出量が少なく、日本としては、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国が経済成長と脱炭素化を両立させるうえでも供給量を増やす必要があるとしています。 ●プラスチックごみゼロを目指す新たな目標などに合意 16日閉幕したG7=主要7か国の気候・エネルギー・環境相会合の気候と環境の分野ではリサイクルなどによる循環経済の推進や海洋汚染などを引き起こすプラスチックごみゼロを目指す新たな目標などに合意しました。 【気候変動への対応】 世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるという目標の達成に向け、少なくとも2025年までに世界の温室効果ガスの排出量を減少に転じさせ、2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするためには、経済システムの変革が必要だとしています。そして、中国やインドなどを念頭に、温室効果ガスの削減目標が1.5度の上昇と整合していない主要経済国に対して、ことし11月の国連の気候変動対策の会議「COP28」までに排出削減目標を強化するよう、呼びかけています。 【プラスチックごみ】 生き物などに悪影響を与え、海洋汚染を引き起こすプラスチックごみによるさらなる汚染を2040年までにゼロにするという新たな目標が設定されました。プラスチック汚染をめぐっては、2019年に開催されたG20大阪サミットで、プラスチックによるさらなる海洋汚染を2050年までにゼロにするという目標が合意されましたが、この目標を10年前倒しして、早期の実現を目指す形です。 【侵略的外来種の対策】 固有の生態系に影響を与え、生物多様性を損失させる要因でもあるヒアリなどの「侵略的外来種」について、水際対策など、国際協力の必要性を各国が認識するとともに、侵略的外来種の発生状況や駆除方法などについて、専門家を交えて話し合う国際会議が開催されることが決まりました。 1回目の会議は年内に日本で開催されることが検討されています。 【循環経済】 資源のリサイクルやリユースでエネルギー消費を抑制する「循環経済」の実現の重要性も強調され、企業が取り組むべき行動指針がまとまりました。具体的には、リサイクル材での製造やシェアリングサービスの促進など、資源を効率的に活用するビジネスモデルをつくることや、製造とリサイクルなど異なる業界での連携を強化して供給網全体で資源を有効活用することなどが挙げられています。また、レアメタルなどの重要鉱物について、G7が中心となって国内外の使用済み電子機器などを回収しリサイクル量を世界全体で増加させることも決まりました。 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR5P6FYKR5PULBH006.html?iref=sp_extlink (朝日新聞 2023年5月21日) G7 再生可能エネルギー強調、「作文」ではなく世界を動かせるか 21日に閉幕した、G7広島サミット(主要7カ国首脳会議)で採択された共同声明の気候変動やエネルギー分野では、再生可能エネルギーへの移行が強く打ち出された。「パリ協定」で掲げた産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑える目標の達成に向け、太陽光発電を現在の3倍以上増やす目標を掲げるなど、世界全体で再エネ移行を進める土台をつくった。さらに、首脳会議を経て初めて入ったのが「気候変動に脆弱(ぜいじゃく)なグループの支援が不可欠」という文言だ。グローバルサウスと呼ばれる、新興国・途上国への再エネ移行支援などを想定する。発展に伴い、温室効果ガスの排出増も懸念される中、途上国などに対策の資金が渡らなければ世界全体で脱炭素を目指すことはできなくなる。ただ、IEA(国際エネルギー機関)は、2050年までに排出実質ゼロを達成するには、再エネ投資額を30年までに、現在の3倍以上の年間4兆ドルにする必要があると報告。先進国はパリ協定で気候変動対策として年間1千億ドルを支援すると約束しているが、いまだ果たせておらず、途上国の動きを鈍くしている。そんな中、「投資の質」を高めることも意識。共同声明でIEAに対し、年内に再エネ供給を多様化するための選択肢を提示するよう要請。再エネのコストの低減や、中国に依存する太陽光パネルや蓄電池に必要なレアアースなどの重要鉱物の供給網確保を示した「クリーンエネルギー経済行動計画」も別に採択した。一方、脱化石燃料では「段階的廃止」を打ち出したものの、天然ガスへの公的投資を容認するなど抜け道も多く、先進国としての範を示せたとは言い難い。英シンクタンクE3Gのオルデン・マイヤー氏は、「G7はこれらの目標をどう実現するつもりか、より具体的に説明する必要がある。具体性がなければ、聞き心地のよい作文だとみなされる」と指摘する。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551370S3A600C2MM8000 (日経新聞 2023.6.2) 再エネ電源、世界で5割規模へ 発電能力が化石燃料に匹敵、送電・安定供給に課題 世界で太陽光など再生可能エネルギーの導入が急拡大している。国際エネルギー機関(IEA)は1日、2024年の再生エネ発電能力が約45億キロワットになる見通しを公表した。石炭などの化石燃料に匹敵する規模だ。50年の二酸化炭素(CO2)実質排出ゼロに向けて各国が導入を加速したほか、ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料の輸入依存への危機感が強まったのが要因だ。再生エネの発電能力は24年には全電源の5割規模になるとみられる。ただ火力などに比べて稼働率は劣るため、実際の発電量は5割より低くなる。安定電源として活用するには、太陽光に比べて導入が遅れる風力の拡大といった電源構成の多様化や、送電網整備などが課題となる。IEAによると、世界の再生エネの発電能力は22年に21年比で約3.3億キロワット増えた。23年は4.4億キロワット増え、前年からの増加幅は過去最大となる見通しだ。24年の発電能力は約45億キロワットを見込む。これは21年時点の化石燃料(約44億キロワット、独調査会社スタティスタ調べ)と同規模になる。原子力や火力発電所のように24時間発電できるわけではないが、原発4500基分にあたる。IEAは太陽光は23年の増加幅の過半を占める可能性があり、24年もさらに増えると予測。メガソーラー(大規模太陽光発電所)に加え、屋根に設置するタイプの太陽光パネルの普及が進む。風力も勢いを取り戻す。近年は新型コロナウイルス禍で導入の伸び悩みもみられたが、再び導入増に転じると分析した。中国と欧州連合(EU)がけん引役となる。IEAは23、24年ともに再生エネ導入を最も推進するのは中国とみる。再生エネ市場での「主導的立場を固める」可能性を指摘した。米国やインドも存在感を増す。日本の出遅れは鮮明だ。IEAは中国の23年の発電能力は2億3100万キロワット増えると予測するが、日本は1千万キロワットにとどまる。化石燃料などの電源の発電能力(20年時点)に、24年の再生エネの発電能力予測を単純にあてはめると、全電源の5割程度を占める計算だ。急拡大の背景には、各国のエネルギー安全保障への危機感がある。ウクライナ危機で化石燃料に依存するリスクが浮上。各国は燃料を他国に依存せずに済むとみて、再エネ導入を急いだ。再生エネの発電は天候に左右されやすく、変動がある。発電量の安定には火力や蓄電池を組み合わせる必要がある。IEAは2050年に温暖化ガス実質排出ゼロを達成するには、30年時点で6割程度、50年で9割近くを再生エネでまかなう必要があるとみている。ただ太陽光は製造能力が50年の排出ゼロに十分な拡大をしているが、風力はペースが遅いと指摘している。安定した発電には、電気を無駄にせずに大消費地などに送る送配電網の充実も不可欠だ。蓄電池の大規模な新規設置も必要になる。 *2-2-3:https://nordot.app/1037719559253410388?c=302675738515047521 (共同通信 2023/6/3) 関西電力、初の出力制御へ 4日、再エネ一時停止要請 関西電力送配電は3日、太陽光と風力の再生可能エネルギー発電事業者に対し、一時的に発電停止を求める出力制御を4日に初めて実施すると発表した。休日で工場の稼働が減って電力需要が縮小する中、晴天により太陽光などの発電量が増えて供給過剰になると、需給のバランスが崩れて大規模停電につながる恐れがあるため。出力制御は4日午前9時~午後1時半に実施予定で、制御量は42万~52万キロワットの見通し。関西送配電はバイオマスの発電量を抑制した例はあるが、太陽光や風力を含む出力制御はなかった。再エネの急速な普及により、大手電力会社による出力制御は急増している。関西送配電が実施すると、大手10社では東京電力を除く9社のエリアで行われたことになる。出力制御は、寒さや暑さが和らぎエアコンの使用量が減少する、春や秋の休日に実施するケースが多い。政府は再エネを最大限活用するため、広範囲に電気を融通する仕組みの強化などを急いでいる。 *2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15651890.html?iref=pc_opinion_top__n (朝日新聞社説 2023年6月2日) 原発推進法 難題に背向ける無責任 原発事故の惨禍から得た教訓は、かくも軽いものだったのか。「依存を減らす」から「最大限活用」へ。熟議抜きに政策の反転を押し通した政府と国会の多数派の責任は重い。原発が抱える数多くの難題を解決できるのか。後世に禍根を残すことにならないか。今後も問い続けなければならない。原発推進関連法が今週、国会で成立した。積極活用に向けた国の責務や施策を原子力基本法に明記した。福島第一原発の事故後に導入された運転期間の制限も緩め、一定の要件で60年を超える稼働に道を開いた。朝日新聞の社説は法案に反対し、再考を求めてきた。原発には、安全性や経済性の問題に加えて、増え続ける「核のゴミ」や核燃料サイクルの行き詰まりといった課題が山積する。その解決の道筋も示さずに、なし崩しに「復権」に転じるのは許されないと考えるからだ。エネルギー政策全般の見地でも、いまは再生可能エネルギーを主軸に据える変革を急ぐべきときだ。「原発頼み」に戻れば、道を誤りかねない。進め方も拙速だった。政府は昨年、新方針を数カ月間の限られた議論で決めた。国会は多角的に検討を尽くす責任を負っていたはずだが、議論は深まらなかった。失望を禁じ得ない。政策転換の理由にされたのはエネルギーの安定供給と脱炭素化への対応だ。では、原発が実際にこれらの役割をどれほど果たせるのか。なぜ原発を「特別扱い」する必要があるのか。政府は正面から答えず、「原子力を含め、あらゆる選択肢の追求が重要」と繰り返した。内容が多岐にわたる「束ね法案」にされ、具体策の議論も散漫になった。運転期間の上限は、導入時に「安全上のリスクを下げる趣旨」と説明されていたが、今回政府は「安全規制ではなく、利用政策上の判断」と主張した。大きな変更だが、腑(ふ)に落ちる説明はなかった。結局、根本の問題を含め、数々の疑問が置き去りにされた。この姿勢が続くなら、原発政策が推進一辺倒に硬直化するのは必至だろう。今回の転換は経済産業省の主導で進み、福島の事故を踏まえた政策の根幹である「推進と規制の分離」すら大きく揺らいでいる。政府は、再稼働や新型炉建設の後押しに乗り出す構えだ。だが少なくとも、安全に関する手続きや経済性の見極めをおろそかにしてはならない。そして、いくら目を背けようとも、原発の不都合な現実が消えるわけではない。早晩向き合わざるを得ない日が来ることを、政府と法案に賛成した各党は肝に銘じておくべきだ。 *2-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1049610 (佐賀新聞 2023/6/6) GX原発推進法成立 根拠欠く拙速な決定だ エネルギー関連の五つの法改正をまとめ、原発推進を明確にした「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立した。東京電力福島第1原発事故後に導入した「原則40年、最長60年」との運転期間の規定を原子炉等規制法から電気事業法に移し、運転延長を経済産業相が認可することで、60年超の運転を可能にした。原子力基本法では、原発活用による電力安定供給確保や脱炭素社会の実現を新たに「国の責務」とするなど、原発に関する重大な政策転換だ。悲惨な原発事故を忘れたかのような安易で拙速な決定は受け入れがたい。気候危機対策として原発に過大な投資をすることも合理的ではなく、エネルギー政策の失政の歴史にさらなる一ページを加えることになる。オープンで公正な議論を通じて見直しを進めるべきだ。気候危機対策では電力の脱炭素化が急務だ。多くの国がそれを進める中、大きく後れを取ってきたのが日本だ。1キロワット時の電気をつくる時に出る二酸化炭素(CO2)の量は、先進7カ国(G7)の中で最も多い。各国で電力の脱炭素化に貢献したのは、石炭火力の削減と再生可能エネルギーの拡大、省エネの推進で、原発拡大ではなかった。日本の遅れは、脱石炭と再エネ、省エネのすべてが進んでいないことが大きな原因だ。発電時に出るCO2の大幅削減は時間との闘いだ。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるためには2030年までに大幅な排出削減を実現する必要があり、これができないと手遅れになる。原発の運転期間の延長や革新的な原子炉の開発など、政府が進めようとしている原発推進策が、短期間での大幅削減に貢献しないことは明白だ。逆に多くの政策資源や資金が原子力に投入されることで、短期的な排出削減に最も効果的な再エネの拡大や省エネの推進が滞ると懸念される。このままでは化石燃料への依存が続き、安価な電力の安定供給も、CO2排出削減も実現せず、早晩、政策の見直しを迫られることになるだろう。今回の政策変更は内容も問題ばかりだが、その進め方にも多くの疑問点がある。福島事故を理由に掲げてきた「原発依存度の可能な限りの低減」を撤回し、原発推進にかじを切ったのは22年8月の岸田文雄首相の指示だった。その後、多くの法改正や新政策の議論が経産省を中心とする一部の関係者だけで進められ、短期間の決定となった。意見公募の機会も政府の説明も不十分で、原発事故の被災者や次世代の若者などを含めた多様な利害関係者が意見を表明する場はほとんどなかった。しかも今国会には、電気事業法などの関連する五つの法律をまとめて審議する「束ね法案」の形で提出されたため、審議時間は不十分。多くの疑問に政府が納得できる回答をしないまま、成立に至った。既得権益と前例にこだわり、正当性も科学的な根拠も欠くこのような政策が、いとも簡単に通ってしまうことが日本のエネルギー政策の大きな問題だ。不透明で非民主的な政策決定の手法が根本にある。国の将来を左右する重要なエネルギー政策決定で、いつまでもこのような手法を続けることは日本の将来を極めて危ういものにしかねない。 *2-3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASR5R6VM2R5QUPQJ00J.html?iref=pc_opinion_top__n (朝日新聞 2023年5月27日) 「その場しのぎ」を繰り返した原発 地下水は60年代から問題だった 大月規義(編集委員。大阪大学大学院原子力工学専攻修了。東京電力勤務を経て1994年から朝日新聞記者。昨年から南相馬市に駐在) 東京電力福島第一原発から出る汚染水を、「安全」に処理して海に流すことへの漁業者らの反発。その原因をたどると、東電や国が「その場しのぎ」を続けてきた歴史が垣間見える。汚染水の大もとは、原子炉の建屋へしみ込む地下水や雨水だ。そもそも大量の地下水の噴出は、第一原発の建設が始まった1960年代から問題になっていた。原発を安定した岩盤の上に建て、海上から楽に資材を運搬するため、地面を20メートル以上掘り下げたことが原因と言われる。地下水の発生と排水は、運転を開始した後も続いた。2011年に事故が起きると、地下水は溶け落ちた核燃料(デブリ)の放射性物質を含み、汚染水となった。直後に東電は海に流し、国内外から酷評された。汚染水と、放射性物質をおおむね抜き取った処理水は、地上タンクにため続けた。13年にはタンクからの水漏れが問題になる。それでも安倍晋三首相(当時)は、汚染水の状況を「アンダーコントロール」と世界に発信した。地元は現実との違いに落胆した。そんな国と東電が、建屋に入る前の地下水を海に流すために漁業者の説得に使ったのが、処理水は「関係者の理解なしには処分しない」という15年の約束だ。実際は、タンクが敷地に満杯になるまでには「理解」が進むだろうという楽観に過ぎなかった。3年後には処理水に、取り除かれているはずのストロンチウムなどが基準を超えて含まれていることが発覚。東電は情報をホームページには載せていたと釈明したが、処理問題を話し合う国の会議では説明を省いていた。信頼や理解が地元に根付かないのは、こうした経緯があるためだ。当座をしのぐ対応は、他にもある。福島県内の除染で出た汚染土を、国は原発近くの双葉、大熊両町の中間貯蔵施設にためている。当初は最終処分場にするはずだったが、「中間貯蔵」と言い換え、「30年後に県外に運び出す」と約束し2町を説得した。その後、除染土の県外搬出は法律に明記されたが、見通しは全く立たない。国は各地で原発の再稼働や新増設を進めようとしている。だが、増え続ける高レベル放射性廃棄物の処理など、深刻な問題から目をそらし続けた。そのツケが必ずどこかに回ってくることは、福島の現実が示している。 *2-3-4:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20230601/biz/00m/020/014000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailbiz&utm_content=20230606 (毎日新聞 2023年6月2日) 原発が安いは本当?「東電資料」から見つけた意外なデータ ●原発の発電コストが安いは本当か(上) 東京電力など大手電力7社が6月1日から電気の規制料金を値上げした。政府や電力会社は原発を再稼働すれば燃料代が安くなり、電気料金の抑制につながると主張しているが、本当なのか。東電の公表資料を基に計算すると、原発の発電コストが火力などの市場価格を上回るという意外なデータが浮かび上がった。東電(正確には東京電力ホールディングス傘下で電力を販売する東京電力エナジーパートナー)は、家庭などに供給する電気の規制料金を6月1日から平均15.9%値上げした。東電は福島第1原発の事故後、全ての原発が停止している。ところが今回の電気料金の原価計算では、新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機を再稼働させることを「仮置き」として織り込んでいる。原発2基を再稼働することで、東電は「年間900億円程度の費用削減効果になる」と説明する。これは再稼働に伴い、核燃料代などはかかるが、卸電力取引市場を通じて他社から購入する火力発電などの電力が少なくなるからだという。 ●東電の公表資料を基に計算 大手電力の規制料金の値上げは、政府の電力・ガス取引監視等委員会が消費者庁とともに審査した。東電が同委員会に提出した資料によると、東電が他社から購入する火力などの電力の市場価格は1キロワット時当たり20.97円となっている。これに対して、原発の発電コストはいくらなのか。東電の公表資料によると、再稼働する原発2基で年間119億キロワット時の電力を発電する想定で、その費用の総額は4940億円という。この中には日本原子力発電と東北電力から原発の電力を購入する契約に基づき、東電が日本原電に支払う約550億円と東北電力に支払う約313億円が含まれている。両社の原発は動いていないため、東電が実際に受け取る原発の電力はゼロだが、契約に基づき人件費や修繕費などを「基本料金」として支払うことになっている。年間119億キロワット時の電力を4940億円かけて発電するので、1キロワット時当たりの発電コストは4940÷119=41.51円となる。日本原電と東北電力へ支払う基本料金を除いた東電の原発にかかる費用は4076億円となっており、発電コストは4076÷119=34.25円となる計算だ。 ●原発が全基再稼働したら? いずれも東電が他社から購入する上記の市場価格20.97円を大きく上回る。これなら東電は原発2基を再稼働するよりも、市場から火力発電など他社の電力を購入した方が安く済む計算になる。さらに原発が再稼働した場合はどうか。NPO法人「原子力資料情報室」の事務局長を務める松久保肇氏は、柏崎刈羽原発の2~7号機が再稼働した場合を試算した。松久保氏は経済産業相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会原子力小委員会」などの委員を務めている。松久保氏は東電が政府に提出した公表資料を基に核燃料の単価や原発の固定費などを推計し、発電コストを試算した。柏崎刈羽原発は地元の新潟県柏崎市長が6、7号機の再稼働を認める条件として、1~5号機の廃炉計画を示すよう東電に要請している。このため最も古い1号機を廃炉にすると仮定して計算したところ、2~7号機(設備利用率80%)の発電コストは1キロワット時当たり17.09円となった。さらに日本原電と東北電力の原発が再稼働し、契約通りに東電が電力を購入した場合を加えると、原発の発電コストは同15.96円となった。東電が他社から電力を購入する市場価格(同20.97円)は下回るが、松久保氏によると、2020年4月~23年4月の卸電力市場の平均価格は同14.82円だという。原発を全基再稼働しても、原発の発電コストは市場価格の平均を上回る計算だ。松久保氏は「固定費などは電力会社や原発ごとに異なると思われるため、試算には一定の限界がある」としながらも、「政府は原発が再稼働すれば電力料金の抑制につながると説明するが、原発は燃料代が安くても維持費が高いため、電気料金の抑制効果はほとんどないと見るべきだ」と指摘する。今回の試算について、政府や東電は何と反論するのか。同様の試算をめぐっては、辻元清美参院議員(立憲民主党)が政府に質問主意書を提出している。次回、詳しくお伝えする。 *2-3-5:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20230502/biz/00m/020/008000c (毎日新聞 2023年5月6日)「脱原発のドイツ」はフランスから電力輸入は本当か ここは書かないわけにはいかない。ドイツが4月15日に脱原発を達成した。「とうとうその日がきたのか」と感慨深い。思い出すのは2015年、ドイツに「エネルギーベンデ(大転換)」の取材に出かけた時のことだ。国内最大の電力会社「エーオン」のエネルギー政策担当者が淡々と語っていた。「個人的には原発はクリーンなエネルギーとして優れていると思います。でも、そういう意見を言う段階は過ぎたのです」。誰が政権を取ろうと脱原発は変わらない。電力業界の諦めにも似た認識が覆されることはなかったわけだ。東京電力の福島第1原発事故をきっかけに業界がなんと言おうと脱原発を進めたドイツ。事故の当事者でありながら開き直りのように「原発回帰」にかじを切る日本の政府。いったい何が違うのだろうか。 ●「日本でも原発事故防げなかった」 そもそもドイツの脱原発の方針は20年以上前にさかのぼる。1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに原発を支持してきた国民の意見が変わった。その意向を反映した社会民主党と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と脱原発で基本合意し、02年に脱原発法を制定したのだ。ただ、10年には一時、中道保守のメルケル政権が原発延命を決定した。そこに起きたのが福島の原発事故だ。ここで有名な政府の「倫理委員会」が開かれる。工学者や経済学者だけでなく、哲学者や宗教界の代表者らで構成され、原発事故のリスクや廃棄物、他のエネルギー源との比較などを検討。原発よりリスクの少ない代替手段はあり、「脱原発が妥当」と結論づけた。これとは別に原発の専門家による「原子炉安全委員会」が「ドイツの原発は安全」と報告したが、メルケル首相は倫理委の判断を尊重した。「日本のような技術の高い国で原発事故が防げないなら、ドイツでも起こりうる」との認識からだ。22年までに国内の全原発17基を停止する計画は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機で延期を余儀なくされた。それでも脱原発の方針は揺るがなかった。 ●日本で見かける誤解 もちろん、原発さえやめれば「バラ色」というわけではない。当然課題はあるが、誤解もある。たとえば日本でよくみかける「ドイツが脱原発できるのは原発大国フランスから電力を輸入しているからだ」との論調があるが、事実はどうか。08~21年のドイツと各国間の電力取引総量をみると、輸出量が輸入量を上回り、ドイツは電力輸出国となっている。フランスとの取引の収支でも20年、21年とドイツの輸出超過。つまり、輸入しているのはフランスの方なのだ(原典は「Monitoringbericht 2022」)。フランスが電力輸入に転じた背景には、昨夏、配管の腐食や点検で全原発の半数以上が停止したことや、熱波の影響で一部の原発が出力を抑えざるをえなかったことがある。「ドイツは褐炭(低品質で安価な石炭)の依存度が高く、気候変動対策に逆行する」という指摘も聞く。確かに、22年のドイツの電源構成は風力、太陽光などの再生エネルギーが4割を超える一方で、石炭火力も3割を占める。ただ、10年に比べると3割減。この10年で原発とともに化石燃料も大幅に減らしてきたことがわかる。ショルツ政権は30年までに石炭火力を廃止し、自然エネルギーを80%に引き上げる目標を立てている。褐炭・石炭をフェーズアウトさせるための具体的なシナリオや対策、明確なスケジュールも示されている。簡単ではないが、目標を定め、道筋を示すことで、新たな技術や仕組みも開発されるはずだ。 ●短期的利益優先でよいのか このところ電力価格高騰への不安から、世論が原発維持に傾いていることも指摘される。だが、原発数基を再稼働したからといって、一気に価格を抑えられる見込みがあるわけではない。電力価格の高騰にはさまざまな要因がある。ひとたび事故が起きれば、これではすまない。核のゴミの問題も解決はむずかしい。こうした原発依存のリスクは今後もなくならない。翻って日本はどうか。福島の事故からわずか12年で原発回帰へとかじを切った岸田政権。最大の問題は長期的ビジョンを持たず、短期的利益が優先され、原発事故前からの業界の既得権益を守る方向に傾くことだ。先日も、関西電力や九州電力など大手電力会社が新電力の顧客情報を不正に閲覧し、公正な競争を妨害した。こうした事件が起きるのも、政府が原発を守ろうとする姿勢への便乗ではないだろうか。 <G7と農業> *3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/f25b2a9306abd7f83bcf23d73f1cbbc9691721c0 (Yahoo、日本農業新聞 2023/5/20) 食料安保「深い懸念」 G7首脳宣言 生産性向上を提起 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は20日、広島市のグランドプリンスホテル広島で2日目の討議を行い、最終日の21日を前に首脳宣言を発表した。食料・農業分野では、ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料安全保障が悪化しているとして「深い懸念」を表明。食料の生産・供給体制を強靭(きょうじん)化する必要があるとし、既存の農業資源を活用した生産性向上や環境に配慮した持続可能な農業を推進することを提起した。4月22、23日に宮崎市で開かれたG7農相会合でも、持続可能性を維持しながら国内の農業生産を拡大していくべきだとの見解で一致していた。この成果が、今回の首脳宣言に反映された格好だ。宣言では、国内の既存の農業資源を活用することや、幅広いイノベーション(技術革新)を推進していくことに言及。学校給食などを通じて健康的な食料を確保していくことの重要性も提起された。不当な輸出制限措置を回避することの重要性も改めて表明し、20カ国・地域(G20)の参加国にもこれを講じるよう求めた。ウクライナを巡っては、ロシアが世界有数の農業大国であるウクライナを侵攻したことで、食料供給体制が脆弱(ぜいじゃく)な国の食料安保が脅かされていると厳しく批判。G7として、そうした国への支援を続けていくと表明した。声明は当初、最終日の21日に発表予定だったが、新興国を加えた拡大首脳会議が始まったことなどを受け、G7の討議が事実上終了したとして発表に踏み切った。最終日は、20日に急遽来日したウクライナのゼレンスキー大統領やインドなど招待国の首脳らも加わり、ウクライナ情勢に関した討議を行う。 ●「行動声明」 グローバルサウスと初 首脳宣言とは別にG7首脳は、「グローバルサウス」と呼ばれるインド、ブラジルなど新興・途上の8カ国首脳と初めて、世界の食料安全保障の強靭化に向けた「広島行動声明」を出した。世界は「現世代で最も高い飢饉(ききん)のリスクに直面」していると警告し、危機への備えなどの必要性を訴えた。食料不足や物価高騰の影響を受けやすい8カ国との行動声明は、飢饉回避のため、民間などからの人道・開発支援への投資の増加が必要だと強調。農業貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿うよう明記した。全ての人が栄養価の高い食料に安定的にアクセスできることが不可欠だと指摘し、女性や子どもを含む弱い立場の人々や小規模零細農家への支援強化、既存の国内農業資源の公正かつ適切な利用などの行動を求めた。 *3-2:https://www.sankei.com/article/20230423-SE5XTMBV65ODZGXAK3IBLCF66I/ (産経新聞 2023/4/23) 食料安保〝弱者〟日本、声明作成成功も国内生産拡大に課題 G7農相会合で採択された共同声明は、周囲を海に囲まれ食料の大半を輸入に頼る食料安全保障上の〝弱者〟である日本の意向を反映したものとなった。日本が重視する自国生産の拡大と持続可能な農業を両立する方針をG7で共有した。ただ、少子高齢化による農家や農地の激減といった恒常的課題を抱える日本の農業にとって、声明の順守は容易ではない。G7には米国やカナダなど食料の輸出大国も多く、他国が生産量を増やせば輸出機会の喪失につながる。そのため、「輸入国の生産拡大をG7の議題にすることはタブー視されてきた」(農水省幹部)。だが、食料の大半を輸入に頼る日本にとって、輸入依存度の低減に直結する自国生産の拡大は食料安保を確保する上で不可欠だ。今回の共同声明が「生産性の向上を支援する政策の促進にコミット(関与)する」と明記したことは、G7が途上国も含めた食料輸入国の自国生産の拡大を容認したことを意味する。背景には、ウクライナ危機後の食料供給の不安定化に加え、近年頻発する気象災害や世界的な人口増加の問題が顕在化し、G7内で食料不足にある現状の認識が広がったことがある。さらに、生産拡大と「持続可能な農業とを両立」させるという〝条件付き〟で、環境意識の高い欧米の合意を得るに至った。高度経済成長期に食生活の欧米化が進み、貿易自由化による多くの輸入農産品の国内への流入が自給率の低下を招いた日本の農業。令和3年度の食料自給率(カロリーベース)は38%とG7内では最低だ。「日本は小規模農家が多い。その中でどう(生産性を拡大)していくかは、イノベーション(革新)が重要になっていく」。野村哲郎農林水産相は23日の会見でこう強調した。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230602&ng=DGKKZO71551190S3A600C2EA1000 (日経新聞社説 2023.6.2) 農業基本法の改正で緊急時への備えを 農林水産省は食料・農業・農村基本法の改正に向け、緊急時の食料増産などを柱とする「中間取りまとめ」を公表した。国民に安定して食料を供給し続けるために、不測の事態に対する備えを確かなものにしてほしい。現行の基本法は1999年に制定された。食料自給率の向上を目指したが実現せず、気候変動や新型コロナウイルスの流行、ウクライナ危機など食料確保が脅かされる事態がこの間に起きた。こうした状況の変化を受け、農水省は法改正を議論し始めた。2024年の通常国会への改正案の提出を予定している。焦点の一つは農産物輸入が急減したときの対応だ。中間取りまとめは、緊急時に政府全体で意思決定する体制を整え、不足が予想される農産物を増産できるようにすることを課題に掲げた。どこでどんな作物を作るべきかを、政府が生産者に指示することなどを念頭に置いている。政策で農業を支援しているのは食料確保が目的であり、いざというとき国民に不可欠なものに生産をシフトするのは当然の措置だろう。買い占めの防止や流通規制などもテーマになる。混乱を避けるため、行政命令を発動する基準を明確にするとともに、生産や流通の制限で不利益を被る業者への補償も用意しておく必要がある。国民一人ひとりの「食品アクセス」の改善に、平時から取り組むことを提起した点は評価できる。日本は大量の食品を廃棄する一方、生活困窮世帯には食べ物が十分に行き届いていない。フードバンクなどが食品の寄贈を受け、困窮世帯に提供しているが、運営団体の資金が足りないことも少なくない。政府や自治体が日ごろから団体と連携し、支援を充実させるべきだろう。小麦や大豆、飼料作物など輸入に頼る作物の増産も盛り込んだ。輸入に支障が生じたときの影響を和らげるためには欠かせない。そこで必要になるのが、水田の一部の畑への転換だ。食料安全保障の確保にとって必須の措置と位置づけ、基本法の改正をきっかけに政策を手厚くすべきだ。食料の余剰を前提としてきた農政から、不足も視野に入れた農政に変わることがいま求められている。国民にとって重要なテーマであり、幅広い意見を参考にしながら危機に対応できる新たな食料政策を構築してほしい。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70762710W3A500C2CE0000/ (日経新聞 2023年5月6日) 山形、アーモンド栽培注目 果樹手入れ簡単・冬場の収入源に、知名度向上と販路拡大狙う サクランボやモモなど果物の生産が盛んな山形県天童市で、アーモンド栽培が注目を集めている。果樹の手入れが簡単なのが魅力で、乾燥させれば年中販売でき、農家の冬場の収入源にもなる。県産ブランドとして知名度向上を図り、販路拡大を目指す。天童市の農業、東海林敏也さんは7~8年前からアーモンドの女王と呼ばれる高級種「マルコナ」の栽培を始めた。市内の種苗業、佐藤隆さんと協力。マルコナの生産に挑戦していた鹿児島県南さつま市の農業、窪壮一朗さんから穂木を譲り受け、苗木を育てた。アーモンドと品種が近いモモの苗木を生産する佐藤さんのノウハウを活用し、量産化に成功。市内には東海林さんに加え、仲間の農業者で計1000本以上が植えられた。サクランボやモモは果実を大きくするため、余分な実を間引く摘果や、色づきをよくするための反射シート敷設が必要で手間がかかる。アーモンドは種の部分を食べるためいずれも不要で、果肉が鳥の食害に遭っても品質に問題ない。昨年は約100キロを収穫した。果肉を取り除いて乾燥させれば日持ちし、一年中販売できる。東海林さんや佐藤さんの元には全国から苗の注文や、耕作放棄地対策への活用を模索する自治体からも問い合わせがあるという。徐々に生産量は増えているが、大口の受注先に対応するには足りない。国内で消費されるアーモンドのほぼ全てが輸入品で知名度も低い。東海林さんは「味が良いのに手間がかからない。良さを知ってもらえれば、魅力的な商品になる」と話している。 *3-4-2:https://www.sankei.com/article/20190217-5ZRQCXJLPJJ6ZHR4I56DKUAMNU/(産経新聞 2019/2/17)トレンド 国産レモン栽培拡大 瀬戸内から近畿・首都圏へ さわやかな酸味で、幅広い料理や飲み物に使われるレモン。日本では、通年で温暖な瀬戸内海地域産が有名だが、近年、近畿や首都圏にも栽培地が広がりつつある。もぎたての国産レモンは、温かいレモネードやお酒のレモン割り、焼き菓子などで「皮までおいしい」と親しまれている。 ◆都心に近い畑で 東京・大手町から地下鉄千代田線で北へ37分。千葉県松戸市でつくられる「新松戸レモン」が、今季も約3トン実った。「子供の頃は水田で稲穂が揺れていた。まさかここでかんきつ類が育つとは」。直売所「シトラスファーム」を営む農業、鵜殿敏弘さん(66)によると、戦後の宅地開発で田は埋め立てられ、鵜殿さんも稲作をやめて土地の一部を畑に転換した。弟の芳行さん(60)と地産地消できる作物を探すうち、約30年前、レモン栽培にいきついたという。うまく収穫までたどりつける斜面もあれば、冬に半数が枯れるような畑では、倍の本数を植えるなどして試行錯誤。7年前から出荷に弾みがつき、今は市内8カ所で約500本を育てるまでになった。 ◆2つの町おこし レモンは、ヒマラヤ東部から欧米へ広がったとされる。日本へきたのは明治初期だ。近年は国産レモンの収穫量も伸びており、農林水産省園芸作物課によると、平成元年の1902トンから、27年は1万52トンへ5倍になっている。広島、愛媛両県で8割を占め、和歌山が続く。昨年はレモンを中心に据えた2つの町おこしも始動した。東京の立川市商店街連合会は10月、新産品作りへレモンの植樹式を実施。西日本豪雨で浸水した広島県呉市のとびしまレモンを植えて、今は耐寒性を調べている。初の越冬は今のところ順調で、来月から20本を本格栽培する。収穫までは数年かかる見込みで、それまでは呉のレモンを取り寄せ、ケーキやブリュレ、カルパッチョ、カレーなど、レモンを使ったメニューを商店街の各店が開発する。「豪雨の被災地支援も目的の一つ。栽培を成功させて、友好の印となる商品を作りたい」(石井賢連合会事務局長)。昨年3月には京都で「京檸檬(れもん)プロジェクト協議会」も発足した。日本果汁、宝酒造、伊藤園など府内7企業や生産者14人(4月から17人)、行政が参画し、耕作放棄地を活用し、栽培から販路確保まで取り組む。 ◆皮ごと食べても 新松戸レモンは、もぎたてを直売するため、はちみつ漬けやカクテルなどに、「皮ごと食べてもおいしい」と人気が高い。近隣住民が袋ごと買って、ニンジンりんごジュースに入れたり、レモネードやレモンハイにしたり。飲食店や菓子店にも提供する。「秋はクエン酸が多くて酸っぱい。冬にかけて酸がだんだん抜けて、2月は甘みが際立つ」(鵜殿さん)という。千葉県の温暖な気候がレモンの生育を助けている。「国産といえば瀬戸内レモン。それに比べてうちのは瀬戸際レモンだった」。鵜殿さんは笑う。「レモンの木もここの気候に慣れてくれた。このままいけば十数年後は千葉もレモンの主要な産地になるかもしれない」 *3-4-3:https://www.ssnp.co.jp/beverage/174880/ (食品産業新聞社 2019年4月22日) ポッカサッポロが広島・大崎上島でレモン栽培を開始 国産レモンの生産振興へ ポッカサッポロフード&ビバレッジは2019年4月より、国産レモンの生産振興を目的として、広島県豊田郡大崎上島町においてレモンの栽培を開始する。同社は、1957年にレモン事業を開始して以来、レモン商品の開発やレモンに関する研究を通じて、消費者の身近にレモンがある生活の提案を行っている。昨今、レモンの需要が拡大する中、特に国産レモンの市場が伸長している。一方で、国内のレモン農家において高齢化や後継者不足などの影響から生産や供給が不足しており、高まる需要に十分に対応できない状況となっている。同社は、国内において持続的にレモンの需要を拡大するためには、安定的な生産が必要であると考え、自らがレモンの栽培に携わることで、その課題を理解し、農家の共に生産振興を進め、更なる国産レモン市場の活性化に寄与することを目指す。栽培地は、これまでにレモンの振興などに関する協定を結んで協働している広島県の大崎上島町とし、これまでにも増して地域と共に農業環境づくりに取り組む。 *3-4-4:https://www.chunichi.co.jp/article/45308 (中日新聞 2018年12月9日) 国産人気 参入相次ぐ オリーブ栽培 ◆手間かからず高値で販売 オリーブ栽培が県内で活発だ。民間企業のほか、農家や団体などが近年相次いで参入し、オイルだけでなく、葉を使った茶や化粧品といった関連商品も増えている。オリーブに熱い視線が注がれる理由とは-。湖西市の小高い丘の一・六ヘクタールに八百本余りのオリーブの木が並ぶ。二〇一〇年から栽培を始めた「アグリ浜名湖」社長の奥田孝浩さん(58)は「ことしは裏年に台風24号が重なり、百本以上が倒れた」と苦笑いした。今秋の実の収量は前年の一・六トンから三分の一に落ち込んだが、オイルの瓶詰(百ミリリットル、二千百六十円)は、十一月中に三百本がすぐ完売した。価格は安い輸入品の倍以上だが「健康ブームで需要がある。国産の安心感も強いのでは」と手応えを口にする。ポリフェノールが豊富な葉を粉末にした茶や、オイルの化粧品も市内で営む喫茶店に並べる。シニア世代が買い求め、農園には茶農家や定年間際のサラリーマンらの視察が相次ぐ。静岡、藤枝市などの十二ヘクタールの畑で生産するクレアファーム(静岡市葵区)が四年前に開店したオリーブ専門店(葵区)では、県内産オイルが昨年から店頭に並んだ。十月下旬から今秋の品が入り、店員は「本当によく売れます」と驚く。ろ過しない「生搾り状態」で、劣化は早いが風味や栄養価を損なわない点で輸入品に勝ると自信を見せる。 ◆加工品開発も続々 購入者の多くは加熱せず、パンにつけたり、サラダにかけたりして食べるという。同社は県内産のシラスとワサビを使った瓶詰なども商品化し、消費促進に余念がない。各地で生産が増えているが「競争より相乗効果がある。静岡全体で小豆島を超えたい」と思い描く。国産の希少性から高値で売れるうえ、比較的に栽培の手間がかからないのも参入が増える理由だ。社会福祉法人天竜厚生会(浜松市天竜区)は、就労支援事業所の利用者の仕事の幅を広げたいと、一四年度から敷地の畑などで栽培。収穫や商品のラベル貼りなどできる作業も多く、生きがいづくりになると期待する。オリーブは自治体にも魅力的に映る。掛川市は、畑の整備や苗木購入の補助を始めた。市の担当者は「茶は年に数回刈り取るが、オリーブは一度。木が強くて作業も少なくて済む」。市内では全面的に茶から切り替えたり、副業で始めたりする農家も出てきた。「健康に良く、茶との相乗効果が狙える」。十年後に市内で百ヘクタールの栽培面積を目標に掲げる。県内の主力農産物である茶の消費低迷も反映し、官民でオリーブを推す動きは広がりそうだ。 ◆ほとんどが輸入品 一般社団法人日本オリーブ協会(東京都)によると、オリーブオイルは悪玉コレステロールを減らす脂肪酸「オレイン酸」が豊富で、生活習慣病予防につながる健康効果でも注目されている。国内に出回るのはイタリア、スペイン産など輸入品が大半で、国産は1%未満。国内産地では香川県の小豆島が有名だが、近年は九州などにも広がっている。静岡県によると、県内の栽培面積は二〇一〇年に一・三ヘクタールだったが、一五年は一五・六ヘクタールに拡大。現在は三十ヘクタール超と推計される。県内は日照時間が長く栽培に適しているが、降水量が多く病気が出やすい懸念もあるという。 *3-4-5:https://www.yomiuri.co.jp/local/oita/news/20230525-OYTNT50090/ (読売新聞 2023/5/26) オリーブの花ゆらり 国東 国東市の農園ではオリーブの白い小さな花が咲き、風に揺られている。オリーブは香川県の小豆島が有名だが、同市は小豆島と同じく、降水量が少なく温暖で、日照時間が長いため、栽培に適しているとされる。同市のオリーブ園「国東クリーブガーデン」では、緩やかな斜面にオリーブが植えられており、24日には直径5ミリ程度の白い花が咲いていた。風によって受粉し、実ができて秋に収穫を迎える。栽培の責任者を務める光武慎司さん(31)は「昨年と同様、たくさん咲いている。日々の管理に気をつけて収穫を待ちたい」と話していた。 *3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15634021.html (朝日新聞社説 2023年5月12日) ふるさと納税 根本から制度の再考を 「ふるさと納税」のゆがんだ仕組みが、貴重な税収を失わせ続けている。政府は防衛費や子育て予算の財源確保に苦心しているが、不合理な制度を放置したままでは、負担増への理解は得られないだろう。総務省は4年前、ふるさと納税への返礼品の調達費を寄付額の3割以下にするルールを導入した。自治体間の競争の過熱を抑えるためだ。同時に、送料や事務費も含めた経費総額は5割以下にする基準も定めた。ところが同省によると、21年度に136市町村が、5割を超える経費を費やしていたという。ルールの軽視が甚だしい。集めたお金の半分以上が税収以外に消えていくことを、どう考えているのだろうか。さらに見過ごせないのは、総務省が5割規制の対象にしている経費は「募集に要する」ものに限っていることだ。受領証明書の送料といった寄付後の経費は対象外になっている。朝日新聞が納税額の上位20自治体を調べたところ、計63億円の費用が「寄付後」に生じていた。これらを含めると、上位20自治体のうち13で経費率が5割を超える。松本剛明総務相は5割基準の目的について、「寄付金のうち少なくとも半分以上が寄付先の地域のために活用されるべきという考え方」と説明している。ならば、寄付後の費用も対象に含めるのが当然だ。返礼品の3割基準に違反した自治体は、ふるさと納税の利用ができなくなる。5割基準でも、寄付後の費用も対象にした上で、継続的な違反自治体は利用から除外すべきだろう。そもそもふるさと納税は、返礼品を手に入れるために、自らが暮らす自治体の行政サービスにかかる費用負担の回避を認める制度だ。地方自治の精神を揺るがす仕組みというしかない。所得税を多く納める高所得者ほど恩恵が大きく、格差を助長するという欠陥もある。財政力の弱い地方を中心に、ふるさと納税に期待する自治体があるのは事実だ。だが、都市と地方の税収格差を是正するにしても、返礼品になりうる特産品の有無で寄付額が左右される仕組みは望ましくない。ふるさと納税をめぐっては、多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市への地方交付税減額の妥当性が裁判でも争われてきた。こうした問題が起きたのも、制度自体がゆがんでいるからだ。全国でみれば、ふるさと納税により、21年度だけで少なくとも4千億円近い税収が実質的に失われている。経費のルールの中身や運用を見直すにとどまらず、制度の存続を含めて、根本からの再考を急ぐべきだ。 <G7核> *4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR5M7VRQR5MUTFK027.html (朝日新聞 2023年5月20日) 【要旨】核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン 広島で開かれている主要7カ国首脳会議(G7サミット)は19日夜、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発表した。主な内容は次の通り。 歴史的な転換期の中、G7首脳は1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び長崎の人々が経験した、かつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った。核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する。 【核兵器の不使用】 我々は77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性を強調する。ロシアのウクライナ侵略の文脈における核兵器の使用の威嚇、ましてや核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する。我々の安全保障政策は、核兵器は防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。 【核兵器数の減少】 冷戦終結以後に達成された世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない。核兵器不拡散条約(NPT)は、国際的な核不拡散体制の礎石だ。現実的で、実践的な、責任あるアプローチで達成される、核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」は、歓迎すべき貢献だ。 新戦略兵器削減条約(新START)を損なわせるロシアの決定を深く遺憾に思う。中国による透明性や有意義な対話を欠いた、加速している核戦力の増強は、世界及び地域の安定にとっての懸念となっている。 【核兵器の透明性】 核兵器に関する透明性の重要性を強調し、米国、フランス及び英国が、自国の核戦力やその客観的規模に関するデータの提供を通じて、効果的かつ責任ある透明性措置を促進するためにとってきた行動を歓迎する。まだそうしていない核兵器国がこれに倣うことを求める。 【核分裂性物質】 核兵器または他の核爆発装置に用いるための核分裂性物質の生産を禁止する条約の即時交渉開始を求める。核軍備競争の再発を阻止するための優先行動として、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)への政治的関心を再び集めることを全ての国に強く求める。まだそうしていない全ての国に対し、核分裂性物質の生産に関する自発的なモラトリアムを宣言または維持することを求める。 【核兵器の実験的爆発】 いかなる国もあらゆる核兵器の実験的爆発または他の核爆発を行うべきではないとの見解において断固とした態度をとっている。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効もまた喫緊の事項だと強調する。 【核不拡散】 核兵器のない世界は、核不拡散なくして達成できない。北朝鮮による完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な放棄という目標への揺るぎないコミットメントを改めて表明する。北朝鮮に対し、核実験または弾道ミサイル技術を使用する発射を含め、不安定化をもたらす、挑発的ないかなる行動も自制するよう求める。 【民生プルトニウム】 民生用プルトニウムの管理の透明性が維持されなければならないことを強調する。民生用プログラムを装った軍事用プログラムのためのプルトニウムの生産または生産支援のいかなる試みにも反対する。我々が望む世界を実現するためには、その道がいかに狭いものであろうとも、厳しい現実から理想へと我々を導く世界的な取り組みが必要だ。広島及び長崎で目にすることができる核兵器使用の実相への理解を高め、持続させるために、世界中の他の指導者、若者らが広島及び長崎を訪問することを促す。 *4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19DB40Z10C23A5000000/ (日経新聞 2023年5月20日) G7首脳、核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」の要旨、核なき世界「究極の目標」 主要7カ国(G7)首脳による核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」の要旨は次の通り。 歴史的な転換期の中、我々は原子爆弾投下の結果、広島や長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎とともに想起させる広島に集った。核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書で、すべての者にとって安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認する。77年間に及ぶ核兵器不使用の記録の重要性を強調する。ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損やベラルーシに核兵器を配備するとの意図は危険で受け入れられない。核兵器使用の威嚇、ましてや使用も許されないとの立場を改めて表明する。我々の安全保障政策は核兵器が存在する限りにおいて防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し戦争や威圧を防止すべきとの理解に基づく。世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない。核兵器不拡散条約(NPT)は堅持されなければならない。現実的で実践的な責任あるアプローチを通じて達成される核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。この点で日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」は歓迎すべき貢献である。新戦略兵器削減条約(新START)を損なわせるロシアの決定を深く遺憾に思う。条約の完全履行に戻ることを可能とするよう求める。中国による透明性や有意義な対話を欠く核戦力の増強は世界や地域の安定の懸念となっている。米国、フランスや英国が核戦力に関するデータを提供し透明性を促進してきた行動を歓迎する。そうしていない国がこれにならい、非核兵器国と透明性について対話することを求める。中国やロシアに第6条を含むNPTの下での義務に沿い、関連する多国間及び二国間のフォーラムにおいて実質的に関与することを求める。長く遅延している核兵器または他の核爆発装置に用いるための核分裂性物質の生産を禁止する条約の即時交渉開始を求める。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)への政治的関心を再び集めることをすべての国に強く求める。いかなる国も核兵器の実験的爆発を行うべきではないとの見解で断固とした態度をとる。包括的核実験禁止条約(CTBT)発効も喫緊事項だと強調する。核実験を行う用意があるとのロシアの発表に懸念を表明する。核兵器のない世界は核不拡散なくして達成できない。北朝鮮に核実験や弾道ミサイル発射を含め挑発的な行動の自制を求める。大量破壊兵器や弾道ミサイル計画が存在する限り制裁は完全かつ厳密に実施、維持されることが極めて重要。イランが決して核兵器を開発してはならないとの明確な決意を改めて表明する。すべての国に次世代技術を含め原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の平和的利用の促進で保障措置、安全、核セキュリティーの最高水準を満たす責任を真剣に果たすよう強く求める。ロシアによるウクライナの原子力施設を管理しようとする試みに深刻な懸念を表明する。原子力安全や核セキュリティー上の深刻なリスクをもたらし、原子力の平和利用追求というNPT下でのウクライナの権利を完全に無視するものである。原子力発電または平和的な原子力応用を選択するG7の国は原子力エネルギー、原子力科学、原子力技術の利用が低廉な低炭素のエネルギーを提供することに貢献することを認識する。民生用プルトニウム管理の透明性が維持されなければならないと強調する。民生用を装った軍事用の生産や生産支援のいかなる試みに反対する。平和的原子力活動でのプルトニウム保有量を国際原子力機関(IAEA)に年次報告するとコミットしたすべての国に履行を求める。プルトニウムと同様の責任を持って高濃縮ウランの民生保有量を管理する必要性を認識する。我々が望む世界を実現するためには、その道がいかに狭いものであろうとも厳しい現実から理想へと我々を導く世界的な取り組みが必要である。広島や長崎で目にすることができる核兵器使用の実相への理解を高め持続させるために、世界中の他の指導者、若者、人々が広島や長崎を訪問することを促す。 *4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK18AGW0Y3A510C2000000/ (日経新聞社説 2023年5月20日) 「広島ビジョン」で核軍縮の機運を再び 人類は核兵器の惨禍を二度と繰り返してはならない。主要7カ国(G7)の首脳が被爆地の広島に一堂に会し、世界にこう決意を示した。今回の訪問を「核兵器のない世界」の実現に向けた機運を再び高める契機とすべきだ。G7首脳会議(サミット)が19日開幕した。それにあわせて各国の首脳が広島平和記念資料館(原爆資料館)を40分間見学し、被爆者と面会した。G7は米英仏の核保有国に加え、米国の「核の傘」に守られている日本とドイツ、イタリア、カナダで構成する。その首脳が初めてそろって被爆の実相を目の当たりにし、核廃絶への認識を共有できた意義は大きい。2016年に現職の米大統領として初めて広島に足を運んだオバマ米大統領が原爆資料館に滞在したのは10分間だった。今回は滞在時間が伸び、首脳らの理解も深まったに違いない。ウクライナのゼレンスキー大統領はG7サミットに対面で参加する。ロシアの核の脅威に直面する同氏がこの機会に原爆資料館を訪れれば、核軍縮を巡る国際的な議論の喚起につながるだろう。岸田文雄首相はG7首脳の訪問を「核兵器のない世界への決意を示す観点で歴史的」と評した。世界の注目を広島に集める機会をつくった努力は評価したい。大事なのはそれを行動にどう移すかだ。核軍縮の共同文書としてG7首脳は「広島ビジョン」をまとめた。核兵器不使用の継続や中国を念頭に核戦力の透明性向上のためのデータ共有、非核保有国との対話促進などを打ち出した。ロシアは核の威嚇を繰り返し、中国や北朝鮮は核戦力の増強を加速させている。残念ながら、日本が米国に頼る核抑止力の重要性は高まっている。この状況で「広島ビジョン」で示した取り組みは当面の現実的な方策といえる。中長期的には、核軍縮で中心的な役割を果たすべき核拡散防止条約(NPT)体制を立て直す努力が要る。NPT再検討会議は15年、22年と2回続けて決裂し、最終文書案を採択できずに終わった。NPTは核軍縮に向けた誠実な交渉に臨むよう、核保有国に義務付けている。ロシアは米国と結ぶ新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を撤回すべきだ。この条約は世界の安定に寄与するだけでなく、米国との戦力の均衡を維持する点でロシアにもメリットがあるはずだ。 *4-4:https://digital.asahi.com/articles/ASR5P7234R5PUTFK00G.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2023年5月21日) 法の支配に基づく国際秩序の堅持を表明、G7広島首脳共同声明 広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)は20日、議論の成果をまとめた「G7広島首脳コミュニケ(声明)」を発表した。ロシアによるウクライナ侵攻を「可能な限り最も強い言葉で非難」し、ウクライナ支援を継続すると明記した。声明では、ウクライナ侵攻などを踏まえ、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、強化する」と強調。現実的で実践的な取り組みにより、「核兵器のない世界」の実現をめざすことも表明した。さらに覇権主義的な動きを強める中国も念頭に、「力による一方的な現状変更の試みに反対する」と記した。また、ウクライナ侵攻がエネルギー危機などを引き起こしたと指摘し、同志国と連携して対応するとした。「信頼できるAI(人工知能)」の推進や再生可能エネルギーへの移行、ジェンダー平等やLGBTの人たちが差別されない社会の実現なども明記した。 *4-5:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a192095.htm (平成二十八年十月三十一日 衆議院提出) 質問第九五号:核兵器禁止条約にかかる決議案反対に対する外務大臣の発言に関する質問主意書、提出者 逢坂誠二 日本時間の平成二十八年十月二十八日、国連総会第一委員会(軍縮)は、核兵器禁止条約に向けた交渉を二〇一七年に開始するよう求める決議案(「本決議案」という。)を賛成多数で採択した。しかし日本政府はこの決議に反対した。岸田外務大臣は、同日の会見で、「我が国としましては慎重な検討を重ねた結果、反対票を投じました。反対の理由は、この決議案が、(一)具体的・実践的措置を積み重ね、「核兵器のない世界」を目指すという我が国の基本的立場に合致せず、(二)北朝鮮の核・ミサイル開発への深刻化などに直面している中、核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長し、その亀裂を深めるものであるからであります」と述べている。この岸田外務大臣の発言について疑義があるので、以下質問する。 一 「具体的・実践的措置を積み重ね」とは、具体的にどのようなことを考えているのか。 政府の見解を示されたい。 二 なぜ今回の本決議案に日本が賛成すれば、「核兵器国と非核兵器国の間の対立を 一層助長し、その亀裂を深めるものである」と判断するのか。その理由について、 政府の見解を示されたい。 三 日本は核兵器保有国ではないが、事実上、米国の核兵器によって日本が間接的に 守られていると政府は考えているのか。政府の見解を示されたい。 右質問する。 <稼ぐ力を作り出す研究力・イノベーション、次世代太陽電池> PS(2023年7月2、4日追加):*5-1-1は、①モノやサービスの海外取引結果を表す2022年度経常収支黒字は2021年度比54%減 ②モノの海外取引結果を示す2022年度貿易収支が大幅赤字となった理由は資源価格高騰・円安・最先端半導体/スマートフォンの輸入依存・電気機器貿易収支の赤字等 ③日本の「貿易立国」の地位はあやしくなり ④これを所得収支の黒字で穴埋めした ⑤日本発のイノベーションで新たな価値を生み出す努力が必要 としている。 このうち、②③④については、スマートフォンや電気製品は海外製が多くなり、秋葉原の電気街では電気製品が減って雑貨の展示が増えたことから肌感覚でもわかっていたが、日本にとっては大きな問題である。この貿易収支の赤字を、①④のように所得収支の黒字で穴埋めして何とか経常収支の黒字を保っているのは、過去の蓄積を使っているにすぎないため、世界で競争力を維持するには、⑤のように、日本発のイノベーションを素早く取り込んで産業構造を変えなければならない。にもかかわらず、これをやらないのが他国とは異なる日本の袋小路になっているのだ。また、産業が他国に出てしまえば日本国内の技術は消滅して修理すらできなくなるが、産業を発展させた中国の方は技術が次第に高度化し、自然科学の研究力育成にも努めているため、*5-1-2のように、米国を抜いて世界1になった。研究機関別のランキングでは、中国の機関がトップ10の6つを占め、日本は国別では5位、機関別では東京大18位が最高(京都大44位・大阪大74位・東北大89位)だが、これが人口だけの問題でないことは、ドイツ(人口83百万人)3位、英国(人口68百万人)4位であることから明らかなのである。このような中、日本政府は、*5-1-3のように、「国際卓越研究大学」の最終候補を東京大・京都大・東北大の3校に絞ったそうだが、東京科学大(東京医科歯科大と東京工業大の共同申請)、名古屋大、筑波大、九州大、大阪大、早稲田大、東京理科大を書面や面接審査だけで落としたのは、付加価値を作り出し稼ぐ力を高める研究力とそれによるイノベーションを軽視しすぎた判断だ。 これに加えて、*5-2-1・*5-2-2のように、電気料金を引き上げながら電力供給余裕度が安定供給に必要なぎりぎりの水準に落ち込むとして何年も節電要請をしているが、日本で再エネ導入が進まなかった理由は、低廉・安定電源などと称して原発や化石燃料に頼り続け、変動費無料の再エネを活用するインフラ建設を行わなかったからである。しかし、これだけ地震の多い日本で、武力攻撃にも対応していない原発に多額の補助金をつけて再稼働を促すのは安全神話の復活以外の何物でもなく、それこそが不合理すぎて信頼できない理由なのである。 なお、不自由なく節電するためには、電気製品の省エネ化だけではなく、ペアガラス(特に真空断熱ガラス)をビル・マンション・住宅などに取り付けることを奨励したり、地中熱利用を推進したりすることに補助金を使った方が投資効果が高い。また、*5-3-1・*5-3-2のペロブスカイト型太陽電池は、薄いフィルムに印刷する太陽電池であるため、コストが安く、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすく、何より場所を問わずに設置できるため、ビル・マンション・住宅の壁やEVの屋根に貼って発電することもできる。そのため、2030年より前のなるべく早い時期に普及させるべく補助金を付けて推進した方が投資が生きるが、これもまた、2021年に既にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設し、中国では大型パネルの量産が始まっているのに、日本は未だにモタモタしているのである。 そして、*5-4は、⑥世界は経済・安全保障の両面から脱化石燃料を加速して再エネ導入に邁進 ⑦G7共同声明は「世界の温暖化ガス排出量を2035年までに1019年比60%削減する緊急性が高まっている」とした ⑧日本は再エネの導入でアジア諸国にも後れを取っている ⑨風力発電は2022年に中国約3700万kwh、米国約860万kwh増やしたが、日本は23万kwhでインド・トルコ・台湾より下位 ⑩EUは一定規模以上の公共建築物・商業ビルは2027年までに新築・既設を問わず太陽光発電設置を義務化し、新築住宅は2029年までに義務化の方向 ⑪日本は東京都と川崎市が新築住宅に太陽光パネル設置義務化を決めた程度 等と記載している。 このうち⑥⑦について、再エネ導入は経済安全保障のみならず、環境や国産エネルギーへの転換・高コスト構造からの卒業など日本にとって極めて有意義だが、これまで「不安定」などと言って過小評価していた結果が、⑧⑩⑪になっているのだ。ただし、建材の一部として建物に設置する太陽光発電は静かに自家発電して公害もないのでよいが、大規模風力発電はよほど工夫したものでなければ、低周波を出したり、景観を壊したり、漁業の邪魔になったりするため、⑨のように、砂漠があったり、広い土地があったりする国と単純に比較する必要はないだろう。むしろ、日本が火山地帯にあることを考えれば、地熱を利用した方がよさそうだ。 *5-1-1: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230512&ng=DGKKZO70919500R10C23A5EA1000 (日経新聞社説 2023.5.12) 経常黒字の半減が迫る「稼ぐ力」の育成 日本の稼ぐ力が試されている。2022年度の経常黒字は前年度の半分に減った。海外に支払うお金ばかりが増えれば、経常赤字に陥りかねない。さまざまな面で競争力を高める必要がある。財務省が11日発表した22年度の国際収支統計(速報)では、海外とのモノやサービスなどの取引を示す経常収支の黒字が21年度比で54%減の9兆2千億円となった。モノの輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が、18兆円を超す大幅な赤字になったのが主因だ。ロシアによるウクライナ侵攻で原油や液化天然ガス(LNG)などの資源価格が高騰したところに、一時1ドル=150円台をつけた記録的な円安が重なり、円建ての輸入額が大きく膨らんだ。輸出の伸び悩みも貿易赤字の拡大につながった。自動車が3割近く増えて好調だったものの、かつては稼ぎ頭だった電気機器の伸びが1割に満たなかった。最先端の半導体やスマートフォンは大部分を輸入に頼っており、電気機器の輸入額は22年度に輸出額を上回った。付加価値の高い製品を輸出して稼ぐ日本の「貿易立国」としての地位は、もはやあやしくなっている。貿易赤字が巨額だったにもかかわらず経常黒字を保ったのは、投資で得た利子や配当のやり取りである第1次所得収支が35兆円を超す黒字になったからだ。日本企業が海外で攻めのM&A(合併・買収)を進めた成果であり、配当や現地子会社の内部留保を含めた直接投資からの受取額は支払額のおよそ6倍に達した。貿易収支が赤字でも、所得収支の黒字で穴埋めする「成熟した債権国」として、日本が海外で稼ぐ力を着実につけている表れだ。この流れを止めず、いっそう太くしていきたい。新型コロナウイルス禍で途絶えていた訪日外国人(インバウンド)も急増している。ただ、米巨大テック企業の「GAFA」などが提供するネット広告やクラウドサービスへの支払いが膨らみ、サービス収支全体は赤字のままだ。海外での稼ぎだけでは国内の雇用を保てず、格差の拡大を招くおそれがある。やはり日本発のイノベーションで新たな価値を生み出す努力が欠かせない。日本が経常赤字国に転落すれば、巨額の財政赤字を国内のお金だけで賄えなくなる。それを忘れてはならない。 *5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15672125.html (朝日新聞 2023年6月27日) 中国、自然科学の「研究力」1位に 米国を抜いて初、日本は5位 学術出版社がランキング 自然科学の研究力ランキングで中国が米国を抜いて初めて1位になったと、世界的な学術出版社シュプリンガー・ネイチャーが発表した。研究機関別のランキングでも中国の機関がトップ10の六つを占めた。日本は国別で5位、機関別では東京大の18位が最高だった。シュプリンガー・ネイチャーは科学誌ネイチャーなどを発行しており、毎年、主要学術誌の論文数などをもとに研究力のランキングを発表している。今回は2022年に発行された自然科学分野の82誌の論文を集計した。国別ランキングでは、前年2位の中国が1位になった。米国は前年1位から2位に落ち、3位のドイツ、4位の英国、5位の日本は前年と同じ順位だった。研究機関別のランキングでは、中国科学院が11年連続で首位を守ったほか、中国の5大学がトップ10に入った。2位は米ハーバード大、3位は独マックスプランク研究所だった。100位以内に入った日本の研究機関は、前年14位から順位が四つ落ちた東京大のほか、京都大44位(前年37位)、大阪大74位(同64位)、東北大89位(同103位)の4機関にとどまった。前年87位の理化学研究所は103位だった。 *5-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15673022.html (朝日新聞 2023年6月28日) 「卓越大」候補に東大・京大・東北大 10兆円ファンド支援 世界トップレベルの研究力をめざす「国際卓越研究大学」の最終候補が、東京大と京都大、東北大の3校に事実上、絞られたことがわかった。審査をする文部科学省の有識者会議が来月にも現地視察をして、秋ごろに正式決定する。認定校には、政府が出資する10兆円規模の大学ファンドの運用益をもとに、1校あたり年に数百億円が支援される。この制度は、国際的に戦える研究力を実現し、世界から優秀な人材を集められる大学をめざすもの。昨年12月に公募を始め、今年3月末に締め切った。応募した大学は3校に加え、東京科学大(東京医科歯科大と東京工業大の共同申請)、名古屋大、筑波大、九州大、大阪大、早稲田大、東京理科大の10校。有識者会議は、各大学が提出した運営計画や事業計画を書面や面接で審査をして、3校に絞り込んだ。秋ごろまでに数校程度の内定校を公表する方針だ。認定されると、来年度以降、最長25年間にわたって予算支援を受けられる。国は認定後も6~10年ごとをめどに評価する。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230702&ng=DGKKZO72416950R00C23A7EA1000 (日経新聞社説 2023.7.2) 電力の需給逼迫と料金格差は放置できぬ 政府は7月1日から8月末までの2カ月間、東京電力ホールディングス(HD)の供給区域を対象に、数値目標を定めない節電を要請した。電力供給の余裕度が安定供給に必要とされるぎりぎりの水準に落ち込むためだ。一方、東電HDなど電力大手7社は家庭用の電気料金を6月から引き上げた。その結果、関西電力や九州電力など据え置いた3社との料金格差が開きつつある。政府が導入した負担軽減策を加味した後の比較では、首都圏の料金は関西より3割以上高い。電力は日々の暮らしや経済活動を支える血液だ。必要なときにいつでも、手ごろな価格で使えなければならない。電力の地域格差は生活の利便性や快適さ、ひいては産業立地や企業競争力にも影響しかねない。格差を生む構造的な課題を解消しなければならない。東電エリアの節電は7年ぶりに要請した2022年夏、同年冬に続く。休止中の発電所を最大限活用して供給力の確保に努めると同時に、使い手に無理のない消費の抑制へ協力を促すことが大切だ。刻々と変わる電力需給の逼迫度や効果的な節電方法をわかりやすく伝える工夫が要る。節電に協力する家庭や企業には料金の割引などインセンティブを提供する仕組みを一段と定着させていきたい。ただし、こんな綱渡りを毎年続けるわけにはいかない。供給力を長期で確保することが重要だ。足元で広がる首都圏と、関西や九州との料金格差や供給の余裕度をめぐる違いは、原子力発電所の稼働状況が左右している点を直視しなければならない。関電は5基、九電は4基の原発が再稼働しているのに対し、東電HDはゼロだ。その分、資源価格や為替に左右される化石燃料を使う火力発電の比率が高い。国は安全を確認した原発の再稼働を進めるとする。東電HDは今秋の柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を計画に織り込んでいる。しかし、繰り返される不祥事に、原発の立地自治体からは「東電に原発を任せられるのか」といった厳しい声があがる。東電HDは信頼を得る努力を積み上げるしかない。これに時間がかかるなら、並行して火力発電の供給力維持や再生可能エネルギーの導入拡大へ投資を振り向けることが重要だ。地域を超えて電気を送る送電網の整備も続けていかなければならない。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230701&ng=DGKKZO72410250R00C23A7MM0000 (日経新聞 2023.7.1) 節電要請始まる 政府、東電管内で来月末まで 東京電力ホールディングス管内の家庭や企業を対象にした政府の節電要請期間が1日、始まった。8月末までの2カ月間が対象となる。暑い時間帯には冷房を使って熱中症に気を付けつつ、不要な照明を消すといった無理のない範囲での節電を呼びかけている。政府は2022年の夏は全国規模で節電を要請した。23年は電力需給の見通しが厳しい東電管内に限った。経済産業省によると10年に1度の厳しい暑さを想定した場合、7月の東電管内の供給余力を示す電力予備率は3.1%になる。安定供給に最低限必要とされる3%をわずかに上回る。8月は4.8%、9月は5.3%に高まり、徐々に余力が出てくる見込みだ。西村康稔経産相は6月30日の記者会見で「小さな取り組みを重ねれば大きな効果になる」と述べた。具体的には、不要な照明の消灯や、エアコンや冷蔵庫の設定温度を必要以上に下げないことを求めた。経産省が発表した1~7日までの1週間の電力需給見通しによると、最高気温が30度を超えても予備率は少なくとも12%を確保する。「安定供給に必要な水準は確保できる」としている。 *5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BIZ0U3A410C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023年5月12日) 曲がる次世代太陽電池、ビル壁面で発電 25年事業化へ 次世代の「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めている。薄いフィルム状で折り曲げられるため、場所を問わず自由に設置しやすい。原料を確保しやすく、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすい利点もある。政府は2030年までに普及させる方針を打ち出し、国内企業を支援する。35年には1兆円市場に育つとの試算もある。積水化学工業や東芝が25年以降の事業化に向け開発を急ぐ。ペロブスカイト型太陽電池は太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使う。重さが従来のシリコン型の10分の1。折り曲げられるため、建物の壁や電気自動車(EV)の屋根などにも設置できる。一方で水分に弱いため、実用化には高い発電効率を維持しながら、耐久性が課題となる。「実用化できる基準には達した」。積水化学はこれまで1日ももたずに壊れてしまったペロブスカイト型の耐久性を10年相当に高めた。液晶向けで培った液体や気体などが部品の内部に入り込まないようにする封止材の技術を使い、太陽電池を保護した。シリコン型の耐久性は約20年であり、R&Dセンターのペロブスカイト太陽電池グループ長の森田健晴氏は「耐久性を高められなければ、事業化には致命的だ」と話す。事業化に欠かせない発電の変換効率も高めた。30センチメートル幅で変換効率15%(シリコン型は20%以上)を達成した。薄いペロブスカイト型はシリコン型よりも熱を逃がしやすく、変換効率の低下につながる電池の温度上昇を抑えられる。今後は実用に近い1メートル幅での開発を目指す。積水化学は東京都下水道局森ヶ崎水再生センターなど複数の拠点で実証実験を実施しており、設置方法を含む実用化を検討している。現状では発電する薄膜に欠陥が生じやすいほか、歩留まりも悪く、製造コストはシリコン型に劣るという。今後は軽さを生かして物流コストなどを抑えることで、設置までの全体のコストでシリコン型に対抗する。25年度に事業化する方針であり、JR西日本がJR大阪駅北側に25年の開業を目指す「うめきた(大阪)駅」に設置予定だ。ペロブスカイト型は敷地を確保しにくい都心での発電が可能となる。室内光や曇りや雨天時など弱い光でも発電可能なため、屋内向けの電子商品などに使われる可能性がある。実験レベルでは高い変換効率を達成しており、耐久性やコスト面で改善が進めば、中国勢が優位に立つシリコン型に対抗しうる太陽電池として期待が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年から「グリーンイノベーション基金」で次世代太陽電池の開発に約500億円の予算を確保している。30年度までに一定の条件下での発電コストをシリコン型と同等の1キロワット時14円以下の達成を目指す。経済波及効果は30年までに約125億円、50年までには約1兆2500億円を見込む。東芝もグリーンイノベーション基金に採択された企業の1つだ。26年度ごろの事業化を目標に掲げる。広い面積にペロブスカイト層を均一に塗布する独自技術を開発し、703平方センチメートルの大面積で変換効率16.6%を達成した。現在の耐久性能を明らかにしていないが、耐久性の向上と低コストな製品の開発を進めているという。カネカはNEDOが補助するペロブスカイト型だけでなく、シリコン型と2層で重ねる「タンデム型」の開発も進めている。設置済みのシリコン型をタンデム型に置き換えることで、発電効率を高める狙いだ。同社が開発した結晶シリコン太陽電池はトヨタ自動車の新型プリウスのプラグインハイブリッド車(PHEV)などで採用された実績がある。素材開発から量産まで一気通貫で自社で担える強みを生かす。ペロブスカイト型は09年に桐蔭横浜大学(横浜市)の宮坂力特任教授が発明した。だが海外で特許取得をしていなかったことや、各国政府の研究開発支援の充実で、海外との開発競争は激化している。21年にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設した。中国でも大型パネルの量産が始まっている。ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。価格もシリコン型に比べ高額だ。日本企業がコストや性能で優れた製品を量産できれば勝機はある。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。 ●国内で供給網、エネルギー安保でも注目 政府がペロブスカイト型太陽電池の開発を後押しする背景にエネルギー安全保障がある。現在主流のシリコン型は原料であるシリコンの供給を中国に依存しており、有事の際に生産が止まるリスクがある。ペロブスカイト型は太陽光の吸収材料に日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素を使う。他の原材料も国内で確保しやすいため、国内でサプライチェーンを完結できる可能性がある。株式市場では関連銘柄としてヨウ素メーカーにも注目が集まっている。ガラス最大手AGC子会社の伊勢化学工業が国内シェアの30%を、K&Oエナジーグループが15%を占める。ペロブスカイト型が普及した場合、国内のヨウ素使用量はどれくらい増えるのか試算してみた。ペロブスカイト層の厚さを1マイクロメートルとし、ペロブスカイト結晶の密度から単位面積当たりのヨウ素量を計算すると、1平方メートルあたり数グラムとなる。国内の0.5メガワット以上の太陽光発電施設が占める面積と同程度、ペロブスカイト型が設置されると仮定すると、ヨウ素の必要量は数十トン程度と、国内の年間生産量の1%に満たない。日本発のペロブスカイト型太陽電池は市場規模の成長力とエネルギー安保の両面から実用化への期待が高い。一方で関連企業の業績への影響は未知数であり、銘柄選びには冷静な見極めが必要だ。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230628&ng=DGKKZO72277830X20C23A6TB2000 (日経新聞 ) 曲がる太陽電池 京大発新興とトヨタ開発 EV屋根に搭載目指す 京大発スタートアップのエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)とトヨタ自動車は27日、次世代太陽電池の本命とされる「ペロブスカイト型太陽電池」を共同開発すると発表した。2030年までに電気自動車(EV)の屋根などに搭載を目指す。エネコートはトヨタと組むことで大型化や耐久性の課題を解決し、実用化につなげる考え。エネコートとトヨタは5月に車載向けパネルの共同開発を始めた。太陽電池においてシリコンに代わる材料として注目を集めるペロブスカイトの成分などを見直し、現在はシリコンとほぼ同程度の発電効率を最大で5割高める。トヨタがペロブスカイト型太陽電池で外部企業との共同開発を明らかにするのは初めて。トヨタはプリウスのプラグインハイブリッド車(PHV)や一部EVで車の屋根に太陽電池をつけるメーカーオプションを提供している。23年発売のプリウスの場合、1平方メートル程度のシリコン製のパネルが載る。価格は28万6000円。一般的な気象条件で、年間約1200キロメートル走行分の電気を発電できるとしている。トヨタの増田泰造・再エネ開発Gグループ長は「屋根以外のボンネットなどに置いて面積を2倍に増やせば、計算上は約3倍の3600キロメートル走行分を発電できる」と期待する。一般的な自家用車の年間走行距離は1万キロメートルとされ、3分の1を太陽光でまかなえる計算だ。近距離だけで車を使う人なら、ほぼ充電不要になる。太陽電池を搭載する車はSUBARU(スバル)や韓国の現代自動車なども手がけるが、トヨタによると太陽光だけで実用に耐えられる車は珍しい。エネコートの加藤尚哉社長は「ペロブスカイト型はシリコンに比べて製造工程が少なく、低コスト化も期待できる」と話す。ペロブスカイトの曲げやすい特性をいかし、車体のデザインとマッチしやすい太陽電池の形も探る。 *5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230703&ng=DGKKZO72418330S3A700C2TL5000 (日経新聞 2023.7.3) 日本の「GX」看板倒れ、アジアにも後れ、風力は中国の160分の1 脱炭素分野で日本の出遅れが鮮明だ。世界はウクライナ危機で経済・安全保障の両面から脱化石燃料を加速しており、再生可能エネルギーの導入にまい進する。日本はアジア諸国にも再生エネの導入で後れを取るのが現状だ。岸田文雄政権が掲げるグリーントランスフォーメーション(GX)は足元の具体策を欠き、看板倒れとの印象が拭えない。「2030年までの『勝負の10年』に、全ての部門において急速かつ大幅で、即時の温室効果ガス排出削減を実施しなければならない」。5月21日閉幕の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の会合で、岸田首相は強調した。G7の共同声明には「世界の温暖化ガス排出量を35年までに19年比60%削減する緊急性が高まっている」とも盛り込まれた。これまで日本は30年度に13年度比で46%削減する方針だったが、さらに上積みを目指すとの宣言だ。 ●再生エネ導入予測 ベトナムに抜かれる 勇ましい言葉とは裏腹に、日本の実績は振るわない。たとえば世界で主流になった風力発電。業界団体で構成する世界風力会議によると、22年に中国は約3700万キロワット、米国は約860万キロワット増やした。日本はわずか23万キロワット。原発1基の5分の1程度だ。年間で中国の160分の1しか導入できず、インドやトルコ、台湾よりも下位に沈んだ。国際エネルギー機関(IEA)の22年12月の予測では、主要国は再生エネを急速に増やす一方、日本は伸びが鈍化する。27年の年間導入量予測で日本は最大約710万キロワットだが、同約730万キロワットのベトナムに抜かれる見通しだ。洋上風力発電が日本で大規模に立ち上がるのは30年前後と遅い。広島サミットの共同文書に「再生エネの導入を大幅に加速する」と明記したものの、実態が伴わない。国が30年度時点の野心的な目標として約1800万キロワットを見込む陸上風力も、現状は約460万キロワットにとどまっている。事業者が地元と十分協議せずに景観の観点からトラブルになる案件が相次ぎ、自治体は国とは別のアセスメントを次々に導入する。国と自治体では基準や内容もバラバラで、環境影響評価に約4~5年、工事に約2年もかかるという。新規案件はまとまらず、既にある風車の置き換えすら困難な状況だ。30年の目標には間に合わない。GX基本方針で「再生エネを最優先」と位置づけるならば、国が規制の基準を統一するなど前面に立って推進しなければ大幅拡大はおぼつかない。それでも国は「地域との合意形成に向けた適切なコミュニケーションの不足」と事業者の責任を追及するばかりだ。欧州連合(EU)は一定規模以上の公共建築物や商業ビルで27年までに新築・既設を問わず太陽光発電の設置を義務化し、新築住宅は29年までに義務化する方向で検討している。日本は東京都や川崎市が新築住宅に太陽光パネル設置の義務化を決めた程度で、全国的な広がりを欠く。脱炭素の原資として、二酸化炭素(CO2)排出に価格をつける「カーボンプライシング」を導入する方針だが、規模・時期ともに見劣りする。政府は20兆円規模の「GX経済移行債」をGX基本方針に盛り込んだ。温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標の2050年までに償還を終える。仮に20兆円を30年から50年にかけて完済すれば、12年に導入した地球温暖化対策税の税収規模で換算した炭素価格は排出1トンあたり1000円ほど。欧州の10分の1程度だ。韓国は1600円、中国も1100円と日本を上回る。国際通貨基金(IMF)は30年に1トンあたり75ドル(約1万円)以上にする必要があると試算するが、数字はほど遠い。 ●「GXは曖昧」 米国などが難色 カーボンプライシングの本格導入も遅い。ガスや石油元売りなど化石燃料を輸入する企業が燃料消費時の排出量に応じて負担する「炭素に対する賦課金」は28年度、電力会社にCO2の排出枠を買い取らせる「排出量取引」は33年度と見込むが、インドネシアは23年、ベトナムは26年に導入する。「GXは言葉が曖昧だ」。米国は4月のG7気候・エネルギー・環境相会合の交渉過程で、共同宣言にGXという単語を盛り込むことに難色を示した。日本はGXを日本発の看板政策としてアピールする狙いだったが、各国の賛同は得られず、最終的に一般名詞の「green transformation」という表記にとどまった。再生エネルギーや電気自動車(EV)の拡大をテコ入れし、温暖化ガス排出を減らす規制の導入に汗をかかなければ、日本のGXが世界で評価される日は遠い。
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