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2015.7.31 原発再稼働と環境意識の低い日本のリーダーの判断ミス (2015年8月1日、2日、3日、5日、8日、10日に追加あり)
      
   フクイチ汚染地図      宝島より      川内原発事故時の汚染地図 
            
       
      川内原発を囲む市町村       原発立地交付金   川内原発付近の火山

(1)論理的・総合的にモノを考えられず、臨機応変な意思決定ができない日本のリーダー
 *1-1に書かれているように、4年前の福島第一原発事故(以下、フクイチ)は、国家存亡の危機(まさに存立危機事態)を招いて今でも収束できておらず、汚染範囲は東北から関東まで及ぶ広い範囲であるため、世論調査では半数以上の人が再稼働に反対しているが、経産省は新たな交付金を作ってまで原発再稼働に回帰しようとしており、いずれは日本の電源の2割以上を原発でまかなう目標を立てている。

 しかし、日本が目指すべきは、国内に存在する豊富な再生可能エネルギーを使うクリーンな社会であり、そのツールは既に出揃っているため、安定した投資環境を作って機器を洗練させることが重要なのだ。具体的には、分散型の新しい電力システムに切り替える方向(新送電網の設置、原発は廃炉して核廃棄物は最終処分)に投資を集中させ、収益源だった原発を失う立地自治体には普通の自治体になるための支援を行い、予定外の原発廃止で生ずる電力会社の特別損失には補償が必要である。

 「原発依存度を可能な限り低減する」としながら政権に復帰した自民党は、「原子力規制委員会がOKした原発はすべて動かす」と変化し、規制委は発電所内に限った物理的安全性を見ているにすぎず、立地自治体は国に責任を転嫁しているが、本当はどちらも責任を持っておらず、フクイチの後、栃木県、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県は、全く除染されていない。

 それにもかかわらず、経産省は、*1-2のように、自民党の原子力政策・需給問題等調査会で原発立地地域への新しい交付金案を示し、再稼働した原発がある自治体に交付金を重点配分して原発の再稼働を促している。そして、これは、首相を安倍首相から他の人に変えたら変わるというものではない。

(2)原発に依る健康被害の例
 東京電力福島第1原発事故と甲状腺がんの因果関係について、*1-3のように、福島県の検討委は「現時点で事故の影響は考えにくい」とし国も追認しているが、その根拠は科学的ではないため、原爆被爆者の治療に長年携わってきた東神戸診療所の郷地所長が、「不都合な5つの事実」と題した論考を7月25日に、福岡県久留米市で開かれる日本社会医学会で発表して反論するとのことである。

 郷地所長は、「事故の影響は考えにくい」とする福島県と国の根拠を、①甲状腺がんの発生率は、県が比較した「避難区域」「浜通り」「中通り」「会津地方」の4地域から市町村別に変えると、福島県の西側3分の1では発生がないなど明らかな差がある ②国の測定方法は、本来個人のリスク評価には使わない方法を採用しており不確実性が高い等々、国の根拠のすべてを否定しているそうだ。つまり、福島県と国は何を護ろうとしているのかと言えば、それは国民・県民ではなく国体・県体なのだ。

(3)再稼働ありきで猪突猛進する薩摩川内原発 (ダッシュ
 このような中、*2-1のように、九電は7月24日、薩摩川内原子力発電所1号機(鹿児島県)の再稼働に向けた最終検査を原子力規制委員会に申請し、順調に手続きが進めば、8月10日に再稼働させるそうで、「九電は7月27日から重大事故を想定した大規模な訓練も計画している」とも書かれているが、これは慰め程度にしかならない。そして、日経新聞はこれを、「国内の原発がすべて止まっている状況が約2年ぶりに解消する」と喜んでいるのだ。

 一方、*2-2のように、鹿児島、熊本、宮崎の3県10市町議会は、再稼働前に九電主催の住民説明会を開くよう求める陳情や請願、決議を採択・可決しているが、九電は、これに応じない方針だそうだ。例えば、原発事故時に鹿児島県出水市の避難者約6600人の受け入れ先となっている熊本県水俣市では、「住民への十分な説明がないまま再稼働に踏み切ることは電力事業者として責任ある態度と思えない」などとする決議を全会一致で可決し、市が九電に要望書を提出している。西日本新聞は、東京電機大の寿楽助教(科学技術社会学:文系)の「再稼働は公共性が高い。もっと積極的に説明すべきだ」という言葉で閉めているが、実際の公共性は大きなマイナスだ。

 同じ西日本新聞は、*2-3のように、「どんなに訴えても、再稼働は止まらないのか」「避難計画の不備が相次ぎ指摘され反対世論も根強い中、国や九電は原発再稼働へ進んでいる」「いまだに尾を引く水俣病もフクイチも、国も企業も責任を取らないという意味で同じ構造」「再稼働は住民の命を無視することにつながり、もはや非人道的行為としか言いようがない」などの住民の声を載せながら、薩摩川内市議が原発視察して「安全対策は十分取られていたが、免震重要棟を完成させるべき」という原発へのさらなる投資を導いている。資源を集中して無駄遣いを排除しなければならない時に、情けない話だ。

(4)ドイツ・フランスの原発削減
 ロビンス博士が、*3-1のように、日本とドイツのエネルギー政策について「日本は自らを小エネルギー国と思い込んでいるが、この考えは言葉の意味の混乱によって生まれたものだ」「日本は(天然ガスを除く)化石燃料には乏しいが、太陽・風力・地熱といった自然エネルギーは主要工業国の中で最も豊富」「日本は、ドイツの9倍もの自然エネルギー資源を有しているが、自然エネルギー電力の導入量はドイツの9分の1に過ぎない」「これは、政界との結びつきが強い地域独占の電力会社が競争を拒んで自分たちの利益を守る構造を日本政府が認めてきた結果だ」などと直言しているが、全くそのとおりだ。

 ドイツ政府は、フクイチ後4カ月のうちに、2001年から2002年にかけて産業界と合意した脱原発スケジュールを復活させ、さらに1年早めて実行することを決め、ドイツの原発17基のうち、発電容量の41%にあたる8基を直ちに停止し、残りの9基の原発は、2015年から2022年の間に停止される予定とのことだ。恣意的な数値を示してドイツのこの政策を間違っていたとする日本の報道記事は多いが、私は、このブログに書かれていることが正しいと考える。

 また、原発依存度の高いフランスも、*3-2のように、2025年までに原発依存度を75%から50%に下げることを柱とするエネルギー移行法案を可決し、原発削減に踏み切るそうだ。今回可決した法案は、代替エネルギーとして風力や太陽光などの再生可能エネルギーや廃棄物のリサイクルなどを進め、3年間で10万の雇用創出も盛り込まれており、原発削減と再生可能エネルギーへの転換は正しい。

(5)嫌われる核廃棄物
 再稼働に積極的な薩摩川内市は、*4-1のように、「使用済核燃料で施設内に貯蔵できるのは再稼働10年間で、国は10年の間に最終処分場を建設すべきだ」「薩摩川内市内に最終処分場を受け入れる考えはない」としている。

 福井県知事も、*4-2のように、「福井県は、発電は引き受けたが、処分まで引き受ける義務はなく、県外で処分すべきだ」としている。敦賀市の渕上市長も、最終処分について「原発に協力してきた自治体に最終処分場まで求めるのはいかがなものか」と否定的な考えを示した。

 北海道では、*4-3のように、放射性廃棄物を持ち込まない「核抜き」条例を設けていることから、経産省の資源エネルギー庁が札幌市内で道内市町村を対象とする処分場選定に関する説明会を開催すること自体に反発が出ている。

 長野市でも最終処分地に関する自治体説明会が開かれ、*4-4のように、出席した自治体職員は「(説明会を)非公開にする内容とは思えなかったし、そうするべきだとも思わない」と述べ、別の自治体職員は「説明会に出席するかどうか悩んだ」「具体的な処分候補地の名前などが挙がると困ると思った」「(説明会に)来たくなかったというのが、どの自治体も本音ではないか」とした職員もいたそうだ。

(6)経営を危うくする企業トップの経営判断ミス
 *5-1のように、東芝の不正会計は社長の独断と組織が原因とされているが、もっと奥深い問題は、①リーマン・ショックで利益が順調に伸びなくなり ②フクイチで原発部門が打撃を受け ③米WHの買収のために米企業の出資で買収資金不足をカバーしていた東芝が、その出資株の買い戻しで隠していた損失が明るみに出そうになって ④それらを正直に財務諸表に反映せず、粉飾してカムフラージュしていたこと が根本的な原因だろう。しかし、①②は、東芝だけに起こった問題ではないため、事実を財務諸表に反映して理由を説明すれば済んだ話だ。しかし、東芝は、原発事業については、この上さらに、フィンランドでの原発交渉権も獲得しており、この事業の筆頭出資社である独イーオン社は、既に撤退を表明しているそうで、トップの経営判断にミスがある。

 しかし、原発事業に関する経営判断ミスは東芝だけにあるわけではなく、*5-2のように、日立も英国の原発事業会社ホライズンを買収して海外展開を強化させようとした。これらは、経産省の原発推進の方が世界に通用すると信じた日本企業のトップが、日本国内では原発新設が難しいから海外で事業拡大しようと海外の原発企業を買収し、機を見て原発から撤退しようと原発事業部の売却先を探していた海外企業から高値で原発事業部をつかまされたということであり、いずれも自国でフクイチのような過酷事故を経験した我が国の経営者の環境意識の低さと洞察力に欠ける不明に依る。

 一方、これから利用価値が高くなるため中国が行っているガス田の開発については、日本政府には、*5-3のように、「中国側が一方的な開発を進めていることに対して、我が国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止を求めている」と言っているだけで、国境線を明確にすることも、共同開発の合意を解消することも、自ら採掘することも、何もしていないという不作為がある。そして、中国がガス田の天然ガス掘削施設を完成させたことを、「一方的だ」として非難しているだけなのだ。

 ここまで政府や経営者が愚鈍で、技術者が、1ミリ、1ミリ進めて必死で稼いでいるものを、バックアップするどころか何メートルも後退させて罪悪感を感じない国はないだろう。そして、これ以上の無駄は許されないため、この愚鈍の根源は徹底して追求し、二度と起こらないようにしなければならない。

<時流を見誤る日本>
*1-1:http://www.asahi.com/paper/editorial.html
(朝日新聞社説 2015年7月30日) 原発再稼働を考える―稼働ゼロの実績を土台に
 東日本大震災後、すべての原発が止まって、まもなく2年がたつ。冷暖房に電気を多く使う夏も冬も、大規模な停電を引き起こすことなく乗り切った。4年前の福島第一原発事故は国家存亡の危機を招き、今も収束していない。原発の怖さを知ったからこそ、不便はあっても原発は止まったままにしたい。各種の世論調査で、半数以上が再稼働に反対しているのは、そんな思いの表れだろう。だが、安倍政権は原発に回帰しようとしている。8月には九州電力川内原発(鹿児島県)を再稼働させて、いずれは日本の電源の2割以上を原発でまかなうことを目指している。なし崩しの原発回帰に、反対する。国民生活に負担がかかりすぎないよう配慮しつつ、再稼働しない努力を最大限、するべきだ。目指すべきエネルギー社会は、再生可能エネルギーが主軸であり、原発が基本的な電源となる社会ではない。
■避けられた電力不足
 朝日新聞は11年7月に社説で「原発ゼロ社会」を提言した。
◆古い原発や危険度の高い原発から閉め、20~30年後をめどにすべてを廃炉にする。稼働させる原発は安全第一で選び、需給からみて必要なものに限る
◆節電・省エネ対策を進めつつ、再エネの開発・普及に全力をあげる。当面は火力発電を強化しても、長期的には脱原発と温暖化防止を両立させる
◆多様な事業者の新規参入を促す電力改革を進め、消費者側の知恵や選択が生きる分権型のエネルギー社会に転換する
 基本的な考え方は、今も変わらない。しかし、この4年間で状況は変わった。最も劇的だったのは、原発による発電がゼロになったことだ。4年前は、全国で原発が動いていた。その後、定期点検のため次々に休止し、一時的に関西電力大飯原発(福井県)が動いたものの、13年9月以降、一つの原発も稼働していない。この間、心配された電力不足は起きなかった。緊急電源をかき集めてしのぐ局面もあったが、節電の定着をはじめ、火力の能力を高めたり電力会社の垣根を越えて電力を融通しあったりすることで、まかなえた。ただし、原発稼働をゼロのまま定着させる環境が盤石になったとは、まだ言えない。大規模発電所から遠方の大消費地に電気を送る集中立地型の供給態勢は、原発事故後もそのまま残る。システムの脆弱(ぜいじゃく)さは克服されていない。電力使用量のピーク時に大きな火力発電所が故障すれば、不測の事態が起きる可能性も消えてはいない。
■システムはなお脆弱
 電力の9割を火力に頼っている現状が持続可能とも言えないだろう。エネルギー源を輸入に頼る以上、為替や価格の変動リスクに常にさらされる。電気料金にしても、国民や日本経済が値上げをどの程度まで許容できるのか。詳細な調査もないままに、値上げが生活や経済活動に深刻な影響を与えることは避けなければならない。国民生活に深刻な影響を与えるリスクはゼロとなっていない。そう考えれば、最後の手段としての再稼働という選択肢を完全に否定するのは難しい。それでも、個々の原発に対する判断は、きわめて慎重でなければならない。「この原発を動かすことで、どんな不利益を回避できるのか」「電力を広域的に融通して電力需要に応えてもなお、再稼働は必要なのか」といった観点から納得のいく説明ができなければならない。原発の安全性が立地条件から見ても十分に確保されていることや、周辺の住民が避難できる手段が整っていることは、当然の前提になる。稼働ゼロの実績は、それだけ再稼働へのハードルを高くしている。こうした状況のもとで、できるだけ早く再エネを育て、分散型の電力システムへと切り替えていく。そのためには、新たな方向へと誘導する政策努力が欠かせない。政府は改革の道筋を立て、送電網の充実、原発のゴミ処分などに資源を集中させる。廃炉を進める態勢づくりや、収益源だった原発を失う立地自治体への支援、原発関連の事業者への経過措置も必要になる。
■原点は福島第一原発
 ところが、安倍政権は逆を行こうとしている。「原発依存度を可能な限り低減する」としながら、原発を維持する方向へ転じて「原子力規制委員会がOKした原発はすべて動かす」と判断を丸投げした。規制委は、発電所に限って物理的な安全性を見るにすぎず、政策全体に責任を負うものではない。立地自治体には「国が責任を持つ」といいながら、具体的な中身はない。川内原発の場合でも住民の安全確保や、火山噴火の問題は積み残したままだ。原発を考える原点は、福島第一原発の事故にある。今、原発は動いていない。この実績を生かすことを考えるべきである。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150731&ng=DGKKASFS30H8T_Q5A730C1PP8000 (日経新聞 2015.7.31) 
再稼働自治体を交付金で優遇 経産省、立地地域の配分見直し
 経済産業省は30日の自民党の原子力政策・需給問題等調査会で、原発立地地域への支援策の案を示した。九州電力川内原発1号機(鹿児島県)の再稼働を控え、原発がある自治体に一律に配っている今の交付金の配分方式を見直す。再稼働した原発がある自治体に重点配分し稼働停止が続く場合は交付金を減らす。新方式では、老朽化で原発が廃炉となる自治体は交付金が無くなる見通しだ。経産省はこの日、「エネルギー構造転換に向けた地域の取り組みに一定の支援を行う」として交付金に代わる財政支援を継続する方針を示した。ただ、金額自体は減る可能性が高いとみられる。政府は、原発がある立地自治体に「電源立地地域対策交付金」を原発の発電量に応じて支払っていた。東京電力福島第1原発事故以降は、原発の停止中も発電量を最大供給力の81%とみなして、自治体に一律で交付金を支払ってきた。使用済み核燃料を保管する中間貯蔵施設の立地自治体も支援する。経産省は同日、日本原子力発電と東京電力が青森県むつ市に建設した中間貯蔵施設について「環境変化が立地地域に与える影響を緩和する」として、財政支援策などを検討していると明らかにした。さらに、関西電力などが中間貯蔵施設建設の検討を進めていることを念頭に「使用済み燃料を安全に保管するため、使用済み燃料の貯蔵能力拡大のインセンティブとなる措置を講じる」との方針を示した。貯蔵施設の建設などを予算措置などで後押しするとみられる。

*1-3:http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201507/0008241533.shtml
(神戸新聞 2015.7.26) 福島原発事故「がん無関係」に反論 神戸の医師が論考発表
 地域別甲状腺がんの発生数と市町村別甲状腺がんの発生数  原爆被爆者の治療に長年携わる東神戸診療所(神戸市中央区)の郷地(ごうち)秀夫所長が、東京電力福島第1原発事故と甲状腺がんの因果関係は「現時点では考えにくい」とする国の姿勢に対し、「不都合な5つの事実」と題した論考を25日、福岡県久留米市で開かれる日本社会医学会で発表する。福島県民健康調査によると、検査対象となる事故当時18歳以下の約38万5千人のうち、今年3月までに103人の甲状腺がんが確定している。福島県の検討委は「現時点で事故の影響は考えにくい」とし、国も追認している。郷地所長は、事故の影響は考えにくいとする国側の根拠を(1)放射線汚染度の異なる福島県内の4地域で甲状腺がんの発生率が変わらない(2)チェルノブイリの甲状腺がんは4歳以下に多発したが、福島で5歳以下はいない(3)福島の子どもの等価被ばく線量は10~30ミリシーベルトと低い-など五つに整理した。その上で、国側の主張と矛盾する複数の研究報告を検討。その結果、(1)甲状腺がんの発生率を、県が比較した「避難区域」「浜通り」「中通り」「会津地方」の4地域から市町村別に変えると、福島県の西側3分の1では発生がないなど、明らかに差異がある(図)(2)国連科学委員会の報告では、チェルノブイリ事故で4歳以下の甲状腺がんが多発したのは5年目以降(3)国の測定方法は、本来個人のリスク評価には使わない方法を採用しており、不確実性が高い-など五つの根拠すべてに疑問を投げ掛けている。郷地所長は「福島原発事故は日本人初の経験。先入観や政治的影響を受けず、白紙から研究していくのが科学的姿勢だ」と指摘している。

<川内原発>
*2-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB24HBS_U5A720C1MM8000/
(日経新聞 2015/7/25) 川内原発、8月10日にも再稼働 九電が最終検査申請
 九州電力は24日、川内原子力発電所1号機(鹿児島県)の再稼働に向けた最終検査を原子力規制委員会に申請した。順調に手続きが進めば、8月10日にも再稼働させる。東京電力福島第1原発事故を教訓とする新規制基準が導入されて以降、初めての原発再稼働になる。国内の原発がすべて止まっている状況が約2年ぶりに解消する。申請したのは、原子炉を起動させるための最終段階となる保安検査で、8月3日に開始する。原子炉周辺の温度と圧力を運転時に近い状態にし、安全機器に異常がないことなどを、1週間程度かけて確認する。九電は7月27日から重大事故を想定した大規模な訓練も計画。最終検査と合わせて問題がなければ、予定通り再稼働が可能になる。川内原発は昨秋に新規制基準に基づく規制委の安全審査に全国の原発で初めて合格している。

*2-2:http://qbiz.jp/article/67522/1/
(西日本新聞 2015年7月27日) 川内再稼働の説明会要求、3県10市町議会に 九電応じない方針
 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を来月に控え、鹿児島、熊本、宮崎3県の10市町の議会が、再稼働前に九電主催の住民説明会を開くよう求める陳情や請願、決議を採択、可決していることが、西日本新聞のまとめで分かった。こうした動きは3月議会時点では鹿児島県内の5市町だけだったのに対し、6月議会で県外にも拡大。背景には再稼働に対する住民の根強い不安感があるが、九電は応じない方針だ。川内原発30キロ圏では昨年10月、計6回の住民説明会が鹿児島県と各市町の主催で開かれた。当初、説明者が県と原子力規制庁の担当者に限られたことに住民側から批判も出て、追加開催となった最後の日置市だけ九電幹部が出席、説明した。九電が主催する説明会は開かれていない。原発事故時の避難計画で鹿児島県出水市の避難者約6600人の受け入れ先となっている熊本県水俣市では、6月議会で「住民への十分な説明がないままに再稼働に踏み切ることは電力事業者として責任ある態度と思えない」などとする決議を全会一致で可決した。これを受けて、市は九電に要望書を提出している。川内原発から約130キロ離れた熊本県荒尾市議会は全会一致で陳情を採択した。陳情を提出した「原発の再稼働を考える荒尾市民の会」共同代表の浦田修行さん(71)は「放射線に距離や県境は関係ない。川内の次は玄海(の再稼働)もある。九電は誠意を持って対応してほしい」と訴える。これらの要望に対し、九電は「以前から原発の周辺地域に限らず、社員ができる限り対面で説明する活動を続けている。現時点で、当社主催の大規模な説明会を開く考えはない」としている。社員による説明は、公民館などで数人から数十人規模で行い、2014年度は約12万8千人を対象に行ったという。東京電機大の寿楽浩太助教(科学技術社会学)は「九電は反対派と討論する形になる説明会は得策でないと考えたのだろう」と指摘。「再稼働は公共性が高い。再稼働後を含め、もっと積極的に説明すべきだ」と求めた。

*2-3:http://qbiz.jp/article/66269/1/
(西日本新聞 2015年7月8日) 川内原発「再稼働、止まらないのか」 反対住民に漂う悲愴感
 どんなに訴えても、再稼働は止まらないのか−。九州電力が全国の原発のトップを切って始めた川内原発の核燃料装填(そうてん)に抗議しようと7日朝、鹿児島県内の反原発団体が原発前で抗議集会を開いた。避難計画の不備が相次ぎ指摘され、反対の世論も根強い中で、国や九電は原発再稼働へ着々と駒を進めている。住民の訴えには、悲愴感さえ漂った。集会では、参加者が次々にマイクを握った。いちき串木野市でデイサービス施設を運営する江藤卓朗さん(58)は「うちの通所者は事故が起きても逃げられない。再稼働はやめて」と声を張り上げた。施設は原発から15キロ。通所者が長時間の避難や避難所生活に耐えられるとは思えない。排せつの世話やボンベによる酸素吸入が必要な人もいる。「施設の70〜90代の通所者22人はほとんどが認知症だ。事故が起こった場合、どう避難させればいいのか」と日々悩んでいるという。熊本県水俣市の「原発避難計画を考える水俣の会」の永野隆文代表(60)は「いまだに尾を引く水俣病も福島第1原発事故も、国も企業も責任を取らないという意味で構造は同じだ」と述べ、「公害の原点」といわれる水俣病と福島事故の共通点を強調した。120人の参加者からも反対のさまざまな思いが聞かれた。薩摩川内市の自営業川畑清明さん(59)は「再稼働は住民の命を無視することにつながる。もはや非人道的行為としか言いようがない」と語気を強めた。九電鹿児島支社前で毎週金曜日、脱原発の街頭アピールをしている鹿児島市のフィットネスインストラクター白澤葉月さん(50)は七夕にちなみ「原発やめて」などと書いた短冊を結んだササで抗議の意思を表現した。「避難計画は穴だらけで、使用済み核燃料の処分方法も確立していない。たくさんの市民が反対しているのに、何で止められないの」と声を詰まらせた。
◆「安全性は十分確保」薩摩川内市議が原発視察
 九州電力川内原発に核燃料が装填(そうてん)された7日、地元の鹿児島県薩摩川内市議16人が使用前検査を受けている川内原発の安全対策状況を視察した。市議の多くは「安全対策が十分取られていた」として、再稼働に肯定的な感想を述べた。市議会の川内原発対策調査特別委員会による視察で、昨年7月以来、福島第1原発事故後は7回目になる。この日は委員9人に希望する市議7人が加わり、6月末までにほぼ完了した安全対策工事の完工状況などを見て回った。昨年7月時点では未完成だった海水ポンプを津波から守る防護壁や、今年6月に設置した電源車やポンプ車を竜巻で飛ばされないように電動チェーンで固定する装置などを約2時間かけて見学した。16人中13人は昨年10月の臨時議会で早期再稼働を求める陳情に賛成、2人は反対、1人は退席した経緯がある。賛成した森満晃市議は「津波や竜巻などに対し過剰ともいえる安全対策を取っており、一安心した」と評価。川添公貴市議は「何度も原発内を見てきたが、安全性は十分確保されており、当然、再稼働すべきだ。そうした中、核燃料装填までこぎ着けたことは喜ばしい」と歓迎した。一方、再稼働に反対する井上勝博市議は「福島の事故を教訓にするなら、事故時の指揮所になる免震重要棟が未完成なのは決定的な問題だ」と批判した。

<ドイツ・フランスの原発削減>
*3-1:http://jref.or.jp/column/column_20140904.php (自然エネルギー財団 2014年9月4日) 連載コラム 自然エネルギー・アップデート、日本とドイツのエネルギー政策:福島原発事故後の明暗を分けた正反対の対応
<この記事は、ロッキーマウンテン研究所のウェブサイトに2014年7月8日に掲載されたエイモリー・ロビンス博士による“How Opposite Energy Policies Turned The Fukushima Disaster Into A Loss For Japan And A Win For Germany”の日本語訳である>
日本は自らを小エネルギー国だと思い込んでいるが、この国民的な考えは、言葉の意味の混濁によって生まれたものである。日本は、化石「燃料」には乏しいが、太陽、風力、地熱といった自然「エネルギー」については、主要工業国のなかでも最も豊富な国である。たとえば、日本は、ドイツの9倍もの自然エネルギー資源を有している。しかし、自然エネルギー電力の導入量はドイツの9分の1(大型水力発電を除く)に過ぎない。これは、日本の技術力が劣悪だったり、産業界が脆弱だったりするせいではない。政界との結びつきが強い地域独占の電力会社が、競争を拒んで自分たちの利益を守るという構造を、日本政府が認めてきたからだ。日本では、強制的な卸電力市場がないため、約1%の電力しか取引されていない。電力会社はほぼすべての送電線と発電所を所有しているので、自分たちの資産の競争相手となる事業者を、好きなように決めることができる。そのせいで、本当の競争市場なら市場の大半を占めるだろう活力ある新しい電力事業者たちのシェアも、2.3%に留まっている。こうした状況が、日本とドイツの電力事情に大きな違いをもたらしている。2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故の前は、ドイツも日本も、電力の3割近くを原発で発電していた。事故後4カ月のうちに、ドイツ政府は、2001年から2002年にかけて産業界と合意した脱原発スケジュールを復活させ、さらに1年早めて実行することを決めた。全政党の賛成を得て、ドイツの原発17基のうち、発電容量の41%にあたる8基を直ちに停止した(そのうち5基が福島原発と同タイプのもので、7基が1970年代から稼働していた)。残りの9基の原発は、2015年から2022年の間に停止される予定だ。2010年、この8基の原子炉による発電量は、ドイツの電力の22.8%を占めていたが、ドイツ政府は、同時に、エネルギー効率化や自然エネルギーやその他の包括的7つの法案を成立させて、脱原発への移行中も完了後も、安定的な、低炭素なエネルギー供給を確実なものとした。ドイツの原発停止は決然と行われたが、これは長年にわたって熟慮された政策展開に基づくもので、福島原発事故の前や後に、周辺7カ国で決められた原発の建設中止や段階的な稼働停止とも整合性を持つものだ。さらに、1980年より前に「エナギーヴェンデ(エネルギー大転換)」という言葉と概念が使われ始めたドイツでは、福島原発事故の20年も前の1991年に自然エネルギーへの移行が正式に始まり、2000年の固定価格買取制度でその動きに拍車がかかった。今では、自然エネルギーの導入量は7000万キロワットをはるかに上回る。この買取制度は、補助金ではなく、自然エネルギーという社会資産に対して、利用者が購入し、事業者が出資・開発するための手段であり、売り手は投資額に応じた相応の利益を期待できる。自然エネルギーのコスト低下とともに固定価格が下落している今は、自然エネルギー事業者が固定価格より高い市場価格から利益を得るのが一般的となっている。こうした統合的な政策枠組みとそれを裏づける確実な分析によって、2011年に原子炉8基が停止し失われた発電量は、その年のうちに、59%の成長率をみせた自然エネルギー、6%のエネルギー使用の効率化、36%の電力輸出の一時的な削減によって完全に補うことができた。2010年と比べた原発発電量の減少分は、2012年までには94%、2013年までには108%が、自然エネルギーの増加で補われている。この調子で自然エネルギーが成長していけば、2016年までに、福島原発事故以前のドイツの全原発発電量を置き換えることができるだろう。間違った報道が拡がっているのとは正反対に、8基の原子炉が停止しても、化石燃料の燃焼量は増加していない。ドイツで自然エネルギー資源が利用される場合は、法的にも経済的にも、常にそれよりコストの高いエネルギー源に取って代わることが求められているため、自然エネルギーによる発電の増加は、常に火力発電の稼働を減少させることになるが、実際のパターンはもっと複雑である。データによれば、2010年から2013年の間に、ドイツの原発による発電量は43.3 TWh(433億kWh)減少し、自然エネルギーによる発電量は46.9 TWh(469億kWh)増加した。その間、発電部門では石炭と亜炭の燃焼量が増加した分だけ、よりコストの高いガスや石油の燃焼量が減少した。エネルギー転換に否定的だったドイツの電力会社の戦略は失敗に終わった。今になって、彼らは、自分たちが長年投資を怠ってきた自然エネルギーのせいで、火力発電所の採算性が悪化し、稼働できなくなったと不平を言っている。大手電力会社が自ら招いたこうした苦難をよそに、ドイツは、効率化・自然エネルギー化を推進し、完全に公正な競争を保障するために、首尾一貫した効果的な戦略をとった。一方日本では、大幅に失われた原発の発電量のほぼすべてを、高価な化石燃料の輸入増加により補った。こうした正反対の政策が、正反対の結果をもたらした。2011年の夏、日本人は見事な団結力で電力不足を乗り切った。うだるような暑さの中、多くの人々が個人的な犠牲を払った。そして、東京では、都の政策により、最大電力需要が1070万キロワット、なんと18%も削減され(大企業では異例の30%減を達成)、東京電力の最大電力需要における原発発電の減少分をほぼ補った。都市部では、東京電力の販売電力量は11%減少した。しかし、ここまでの事例が日本全体で起こったわけではなく、結果として発電所の燃料使用量は増加している。対照的に、電力供給に余裕があるドイツは、電力輸出が輸入を上回る電力輸出国の立場を保ち、原子力が発電の多くを占めるフランスにも輸出を続けている。ドイツによる電力の純輸出は、ここ2年連続して過去最高を記録している。経済においても、日本が低迷するなか、ドイツは活気づいた。エネルギー転換によるマクロ経済的効果の一環として、数十万もの自然エネルギー関連の雇用が生まれた。日本では電気料金が上昇したが、ドイツでは卸電力価格が60%以上下落した。2013年だけでも13%下がり、年間予測価格は8年ぶりの最安値となった。そのために、フランスのエネルギー多消費型企業は、電力価格が4分の1も安いドイツの競合企業には勝てないと文句を言っている。最近流布している「ドイツの産業空洞化」という捏造神話は、まったく皮肉たっぷりの内容だ。というのも、ドイツの大企業が支払っているのは下がり続ける安い卸電力価格であって、その安い卸電力価格を生み出している自然エネルギーへの支払いや、送電網料金の支払いは免除されているからだ。その分の負担は一般家庭にのしかかっているが(電気料金の半分が税金)、供給業者の古い契約が更新されるにつれて、卸電力価格の低下も反映されるようになり、今では一般家庭向けの電力価格も安定してきた。日本による温室効果ガスの排出量は増えたが、ドイツの発電所や産業では、温室効果ガスの増加を抑制している(ドイツでは2013年の発電部門の排出量がわずかに減少した。固形燃料の燃焼量は増えたが、エネルギー効率化が進んだため、発電量の上昇分と比べてわずかに排出を抑制できた)。ただし、正確を期すならば、2012年のドイツ全体の温室効果ガス排出量は厳冬のためにわずかに上昇し、2013年も、ガス価格の急騰、米国市場の縮小による安価な石炭の流入、欧州の温室効果ガス排出取引市場における過当な割り当てという3つの要因によって、石炭火力による電力の輸出が記録的に増加したため、わずかに上昇した。しかし、2014年の第1四半期には、ドイツにおける石炭の燃焼量と温室効果ガスの排出量は再び縮小に転じ、今後もこの傾向が続く見込みである。ドイツの温室効果ガス削減の取り組みは、京都議定書で定められた目標をはるかに超えるレベルで進められており、欧州のなかでもひときわ厳しい条件を達成している。つまり、ドイツの政策は、自然エネルギーに対して公平な送電網へのアクセスを保証し、競争を促し、独占状態を排し、自然エネルギー容量の半分を市民や地域社会が所有できるように支えてきたのだ。2013年、ドイツの原発発電量はこの30年で最小となる一方で、自然エネルギーによる発電量は56%増加し過去最大となった。2014年の第1四半期には自然エネルギーの国内での電力消費に占める割合が平均27%に達し、5月11日には過去最高となる74%の発電を記録した。日本はドイツと比べて、国土が5%広く、人口は68%多く、GDPは74%高く、太陽も風もはるかに優れた資源量がある。しかし、2014年2月に導入された太陽光発電量はドイツの約5分の1に留まり、風力発電に至ってはほとんど導入されていない。2012年、日本の電力のうち、こうした自然エネルギーによる発電が占めた割合は、わずか0.97%(インドの3分の1、世界では29位)で、2013年は1.5%だった。受注パイプラインにあるおよそ4100万kWの電力(その95%が太陽光発電)の大半は、電力会社の形式主義と非協力的な態度によって、合法的に放置されているのだ。日本の政治家は、その日の丸の国旗に示された神聖な太陽以上に、世界市場を支配しつつあるエネルギー源の普及を阻害する旧態依然とした政策を尊重しているようだ。2008年以降、世界で新しく導入された発電容量の半分は自然エネルギーだ。主に風力と太陽光からなる水力以外の自然エネルギーには、2500億ドル(約25兆円)の民間投資が行われ、その導入量は過去3年間で毎年8000万kW以上増加した。世界の4大経済大国のうちの3カ国、中国、日本、ドイツに加え、インドにおいては、今では原発より水力以外の自然エネルギーによる電力量が多くなっている。ここに日本が含まれているのは原発の発電量がほぼゼロだからであり、自然エネルギーに出遅れた先進国であることに変わりはない。ただ、2014年5月に行われた大飯原発の再稼働をめぐる裁判で、安全性を理由に再稼働を禁止する判決が下されたのは意外だった。電力会社の利益より市民の安全が優先された初めての判決である。もしかしたら、これをきっかけに新しい動きが起こり、行政および立法部門によるうわべだけの改革――2016年に実施予定の名ばかりの「自由化」――をしのぐ変化が生まれるかもしれない。世界で最も積極的な原発計画を打ち出している中国でさえ、2012年から2013年にかけて、すでに風力の発電量が原発を上回るものとなった。中国が2013年に導入した太陽光発電量は、太陽光発電の開発国である米国がこれまでに導入してきた全容量よりも多い。しかし、日本は逆の方向へ進んでいる。2012年7月に自然エネルギーの固定価格買取制度が導入され、その後わずか20カ月間で8 GW(800万kW)の自然エネルギーが運転を開始したが、そのうち太陽光が97.5%を占め、風力はわずか1%という状況だ。風力発電、特に最もコストが安い陸上のものは、昔は承認手続きが面倒で時間のかかる独特なものであったために、今では自分たちの地域の送電網に競合企業を入れたくない独占的な電力会社に徹底的に反対されているために、普及が進んでいないのだ。日本風力発電協会は、2050年における陸上風力の市場シェアの目標値として、スペインが3年前に達成したものと同じ数値を掲げている(※2014年6月に新しい目標が発表され、2500万kWから3500万kWへと若干上方修正されている)。こうした事態を生み出した原因を理解するのは難しくない。太陽光発電は、発電コストの高い日中のピーク電力を補うことができるが、その固定価格買取制度の仕組みは、電力会社が得をするようになっている。一方、夜間にも稼働する安価な風力発電が石炭や原子力の代わりに使われるのは、電力会社にとって損となる。電力会社が旧来の「ベースロード」発電所に置き換わるような自然エネルギーの電力を拒否できる権利は、日本の最新の規則でも繰り返し述べられている。電力会社がコストの高い火力発電を使い、運転コストがほぼゼロの風力発電を拒絶しているせいで、世界のなかでも高い日本の電気代がさらに高くなっている。このことを日本の産業界のリーダーたちが知ったら、憤慨するのではないだろうか。2013年後半(ドイツの改革開始から23年後)に日本の衆議院を通過した電力システム改革法案でも、電力会社が安価な自然エネルギーによる電力を拒否することが、理由を問わず認められている。自然エネルギーは送電網の安定性を阻害する可能性があるという人も多い。それでは、2013年の自然エネルギーのシェアが25%を占めるドイツや、47%以上を占めるデンマークの電力が、欧州で最も信頼性が高く、米国と比べても約10倍の信頼性を誇るのはなぜだろうか?この2カ国に加え、2013年の電力の約半分を自然エネルギーで発電したスペイン(45%)、スコットランド(46%)、ポルトガル(58%)の欧州3カ国(どの国も水力発電は多くない)で求められているのは、公平な送電網へのアクセスと公平な競争だけだ。これを必要としていないのは、主要工業国のなかで日本だけである。ドイツではエネルギー利用の効率化も進んでいる。過去3年間、ドイツではGDPが伸びる一方で電力消費量は減少している。1991年から2013年の間、つまり東西ドイツ統一後、ドイツの実質GDPは33%成長したが、一次エネルギーは4%、電力使用量は2%減少し、温室効果ガス排出量も21%減少した。今後、さらに野心的な省エネ計画も用意されている。一方、日本のエネルギー効率化は1970年代には世界トップレベルだったが、その後停滞してしまった。日本の産業は改善を続け、今も11の主要工業国のなかで最も高い効率性を誇る。しかし、産業用コージェネレーション(熱電併給)の導入や商業ビルのエネルギー効率化では10位、トラック輸送分野では8位、自動車では最後から2番目(米国と同位)に甘んじている。実は、日本ではエネルギー価格が非常に高いため、効率化はとても収益性があり、とりわけ、ほとんどの建築物で大きな効果がある。たとえば、京都駅前にある半導体企業「ローム」の本社ビルでは、エネルギー消費量を46%削減、コストは2年で回収した。しかし、東京都の効率化への取り組みなど、いくつかの例外はあるものの、長い間日本の産業を特徴づけてきた「カイゼン」(継続的な改善)が行われている日本のビルはほとんどない。日本の経済と政治の復興には、古い体制を保護するかわりに、新しいエネルギー経済を生み出す自然エネルギー導入とエネルギー効率化への新たな飛躍が必要だ。松尾芭蕉の有名な俳句「古池やかわず飛び込む水の音」に詠まれているように、日本の蛙も飛躍することはできる。だが、いまだ水の音は聞こえてこない。

*3-2:http://www.yomiuri.co.jp/world/20150723-OYT1T50031.html
(読売新聞 2015.7.23) 原発削減法案、仏で可決…依存度50%に
 フランス議会下院は22日、2025年までに原発依存度を75%から50%に下げることを柱とするエネルギー移行法案を可決した。上院は既に通過しており、これで約1年間の審議は終結。世界有数の原発大国は、原発の削減に踏み切ることになる。原発依存度の引き下げは、オランド大統領が12年大統領選で選挙公約として打ち出していた。今回、可決した法案には、代替エネルギーとして、風力や太陽光の再生可能エネルギーや廃棄物のリサイクルなどを進め、3年間で10万の雇用を創出することも盛り込まれた。

<原発地元と核のゴミ処分>
*4-1:http://qbiz.jp/article/65122/1/
(西日本新聞 2015年6月23日)薩摩川内市長、核のごみ「施設内貯蔵は10年間だ」
 再稼働が近づく川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市の岩切秀雄市長は23日の市議会で、川内原発1、2号機の使用済み核燃料の処分をめぐり、「施設内に貯蔵できるのは再稼働後10年間だ。(国内にまだゼロの)最終処分場を国は10年の間に建設すべきだ」と早期建設を促した。市内に最終処分場を受け入れることについては「その考えはない」と明確に否定した。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場について、政府は5月、従来の公募方式から国主導で「科学的有望地」を示すように方針を転換した。川内原発の使用済み核燃料の貯蔵率は現在60・4%。岩切市長は処分場の建設は「国が前面に立って取り組むべき国策だ」と強調し、中間貯蔵施設の建設も促す考えを示した。鹿児島県の伊藤祐一郎知事も11日の県議会で「県内に(最終処分場を)立地する意思はない」との考えを示している。

*4-2:http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/politics/74558.html
(福井新聞 2015年7月3日) 「核のごみ処分、受ける義務ない」 知事「福井県は発電」と考え強調
 原発から出る核のごみ(高レベル放射性廃棄物)の最終処分に関し、福井県の西川一誠知事は2日の県議会一般質問で「福井県は発電は引き受けてきたが、処分まで引き受ける義務はない」と述べ、県外で処分すべきだとの考えを強調した。国主導で処分場を選定する政府の新方針については一定の評価をしつつも「政府が道筋を明確に示す姿勢は見えない」と苦言を呈した。山本正雄議員(民主・みらい)の質問に対する答弁。処分場選定はこれまで自治体からの応募に頼っていたが進まず、政府は5月、国主導で「科学的有望地」を提示するなどの新たな基本方針を決定した。知事は昨年4月まで、処分場選定のあり方を検討する経済産業省の作業部会の委員を務め、基本方針のたたき台の議論にかかわった。知事は答弁で、新方針を決めた後の国の動きに関し「全国9都市での公開シンポジウムや自治体向けの説明会を開いているが、内容は今回の改定の経緯や趣旨の説明にとどまっている」と指摘。「政府が実行体制を強化し、いつまでに何を行うのか、道筋をはっきり示すなどの積極的な姿勢が見えない」と批判した。最終処分に関しては、敦賀市の渕上隆信市長も6月の定例会見で「原発に協力してきた自治体に最終処分場まで求めるのはいかがなものか」と述べ、否定的な考えを示している。経産省は処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)と共同で5月下旬から、自治体向けの説明会を各都道府県で開いている。経産省は開催日程や出席自治体などは公表していない。福井県では6月26日に福井市の県自治会館であり、12市町の担当者が参加した。福井市、小浜市、永平寺町、池田町、若狭町の5市町は、議会開会中であることなどを理由に参加を見送った。

*4-3:http://mainichi.jp/select/news/20150527k0000m040157000c.html
(毎日新聞 2015年5月27日) 核のごみ最終処分場:持ち込まない北海道条例 国に反発
 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を巡り、経済産業省資源エネルギー庁が6月1、2の両日、札幌市内で道内市町村を対象とする説明会を開催することが26日、同庁などへの取材で分かった。政府は22日、国主導で処分場選定を行う新しい基本方針を閣議決定しており、説明会でこの方針を説明する。道は、放射性廃棄物を持ち込まない「核抜き」条例を設けていることから、説明会の開催自体に反発の声も出ている。自治体向け説明会は日時や会場、出席自治体名などがいずれも非公表のまま開かれる。既に大阪や神奈川など全国で始まっている。同庁は22日付で参加を呼び掛ける依頼文を道内の市町村に送付した。非公表の理由について、同庁放射性廃棄物等対策室は「出席したり、発言したりしただけで、処分場立地に関心があると誤解される恐れがある」と説明している。国内で唯一、処分技術を研究開発している日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターがある北海道幌延町は、情報収集のため職員を派遣する方針。同町は道条例と同じ「核抜き」条例を定めており、町幹部は「立地に動くことはありえない」と話している。同じく出席予定の道環境・エネルギー室も「情報収集のためであり、条例の方針は変わらない」と説明する。これに対し、処分場建設に反対する同町の鷲見悟町議は「条例で処分場が建設できない道内で説明会を開く必要があるのか。道や町の情報収集も必要ない」と国などの動きを批判している。最終処分場を巡っては、政府は従来、地方自治体が受け入れを表明する「公募方式」を取っていたが、選定方式に変更した。

*4-4:http://www.shinmai.co.jp/news/20150630/KT150629ATI090019000.php
(信濃毎日新聞 2015年6月30日) 核のごみの最終処分地 長野で自治体説明会
 経済産業省資源エネルギー庁は29日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定についての県内自治体向け説明会を長野市内で開いた。会合は非公開。出席した自治体によると、処分地を地中深くに設ける「地層処分」を予定していることなどの説明があった。自治体側からは説明の内容の確認以外に目立った質問や意見は出なかったという。政府は5月、最終処分地について、自治体の応募を基に選ぶ従来方針を転換し、「科学的有望地」を国主導で示すことを閣議決定。同庁は同月から、処分事業を担う原子力発電環境整備機構と共同で各地で説明会を開いている。詳しい日程などは非公表。この日も出席した自治体名は「処分地の受け入れに前向きだとの誤解を与えかねない」などとして明らかにしなかった。主催者側によると、県内77市町村の半数ほどが出席した。説明会に出席した同庁放射性廃棄物等対策室の渡辺琢也室長補佐は取材に、「放射性廃棄物の処分の必要性や、最終処分の方向性などを説明した」と述べた。科学的有望地については現在、審議会で基準を検討中で、具体的な地域などは固まっていないとしている。出席したある自治体職員は「(説明会を)非公開にする内容とは思えなかったし、そうするべきだとも思わない」と述べた。別の自治体職員は説明会に出席するかどうか悩んだとし、「具体的な処分候補地の名前などが挙がると困ると思った。(説明会に)来たくなかったというのが、どの自治体も本音ではないか」と話していた。

<企業トップの判断ミス>
*5-1:http://blog.goo.ne.jp/thinklive/e/20d7243b72342850a1310991646be684 (THINKING LIVE シンキングライブ 2013年2月27日)東芝の社長交代の異常、赤字業態を黒字にした社長が退任、会長は残る?
 ボクは今回の東芝の人事は、オカシイナーと思っていたが、世間も可笑しいと思っていることが分かった、特に西田会長の交代原因の説明には、ムリがある。この記事は、PC部門が赤字で減収であり、原発事故が原発部門の打撃となったことに触れていない。この記事そのものも、逃げている感じ。原発買収の際に、米企業の出資で買収資金の不足をカバ-、昨年その出資株の買い戻しに応じたことなど、東芝のWH買収にともなう、大ムリの資金繰りの推移についても記者は詳細をご存知のはず、今朝の、日経は東芝がフィンランドの原発交渉権獲得と報じているが、この事業の筆頭出資社の独、イーオン社は既に撤退を表明、160万kwの大型炉から、中型炉に変更も報じられている、さも原発が決定しそうに報道されているが、5000億円が3~4000億円に縮小しても、この資金調達は今のEUでは出来そうもない?
*東洋経済、13/2/27、
 東芝は2月26日、佐々木則夫(63)社長が新設する副会長に就き、後任に田中久雄副社長(62)が昇格する人事を発表した。6月下旬に開催する定時株主総会を経て就任する。西田厚聰(69)会長は留任する。東芝は4年サイクルでの社長交代が恒例となっており、佐々木社長も「自分の社長就任会見の時、4年間で結果を出せるようにしたいと答えた覚えがある」とコメントしたほど。今回の社長交代は既定路線だが、意外な点が2つある。1つ目は、新社長となる田中氏の経歴だ。パソコンの資材調達や生産を担当し、英国、米国、フィリピンと、海外駐在経験は延べ14年と歴代社長の中でもっとも長い。従業員20万人のうち半分が外国で働いている東芝にとって、田中氏の豊富な海外経験が高く評価されたことは納得できる。副社長に就任後は、戦略企画を担当しグループ全体を見てきた経験もある。一方で、花形部門であるPC畑?の西田会長や原発畑?を歩んできた佐々木社長など歴代社長に比べると、田中氏は資材部出身。西田会長は「東芝は34の事業を抱えており、このうち1事業しか経験していない人が経営するのは大変。経営は総合力なので、様々な分野の経験を持つ田中さんを社長に選んだ」とベタ褒めだが、地味な印象がある。西田会長発言、「利益が出ていても売上高が落ちてはダメ」。
*人事についての質問に、答えるのは全て会長、
 しかし、東芝は、09年3月期に3435億円という過去最悪の最終赤字を計上して最大の苦難に直面していた。火中の栗を拾う形となった佐々木社長は、大規模なコスト構造改革で4300億円の固定費を削って事業立て直しに奔走。11年3月期には過去最高益を計上し、黒字体質を定着させている。減収となった背景には、携帯電話や中小型液晶の事業売却や円高も影響している。それでも会見後、記者団に囲まれた西田会長は「利益が出ていても売上高が落ちていてはダメだ。企業は成長しないといけない」と漏らした。副会長の仕事内容は「会長からの特命事項を担当する」であり、具体的なイメージが湧いてこない。*これは全くオカシナ話だ、副会長は会長の、お傍用人?西田会長は1年後、会長を退いて相談役に就くと明言している。東芝には70歳で役員を退くという不文律があり、これに沿う意向だ。副会長ポストはあくまで過渡的なポジションであることを認めた格好だが、西田氏が会長職にとどまる必要性は最後まで判然としなかった。西田会長は経団連の副会長退任後について、「財界活動が減る分、現場を回って社長をサポートしたい」と意欲を語ったが、財界活動を続ける可能性も十分に考えられる。来年5月には、経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長、75)が任期満了となる。3年前に西田会長は経団連会長の候補の1人だったが、東芝の岡村正相談役が日本商工会議所の会長を務めていたことから、2つの経済団体のトップを東芝が努めることにトヨタ自動車が異議を唱えたことで見送られた経緯がある。ただし西田氏は経団連の副会長を退任後、佐々木社長へバトンタッチすることで経団連会長就任の芽がなくなったという見方もある。今回の東芝のトップ人事には、さまざまな思惑が絡み合っているようだ

*5-2:http://jp.reuters.com/article/2012/10/30/tk0541891-hitachi-aquisition-idJPTJE89T00B20121030 (ロイター 2012/10/30) 
日立が英の原発事業会社ホライズン買収、海外展開強化
10月30日、日立製作所は、英国で原子力発電所建設を計画している事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収すると正式に発表した。写真は日立のロゴマーク。都内で2009年2月撮影(2012年 ロイター/Yuriko Nakao)[東京/ベルリン 30日 ロイター] 日立製作所(6501.T)は30日、英国で原子力発電所建設を計画している事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収すると正式に発表した。買収額は6億7000万ポンド(約854億円)。東京電力(9501.T)福島第一原発事故の影響で国内での原発新設が難しいなか、日立は買収により海外での事業拡大を図る。日立は、ホライズンの株式を保有する独電力・エネルギー大手RWE(RWEG.DE)と同業エーオン(EONGn.DE)から全株式を取得し、11月中に買収を完了する予定。RWEとエーオンは買収額を6億9600万ポンドと発表したが、日立の羽生正治執行役常務によると、その金額にはホライズンが保有する現金が含まれており、現金が両社に戻されるため、日立が拠出する買収費用は2600万ポンド下回る。都内で会見した羽生常務は、買収目的について「発電所を建設する場が欲しかった」と説明。また、当初は出資比率が100%となるが、5年ほどかかると想定している許認可取得後の原発建設時には出資パートナーを募る予定で、最終的には過半数の株式を売却したい意向を示した。高額になる原発建設費用を抑えるとともに、日立が現状では事業として関われない電力会社などのパートナーを探す予定。日立は今後、ホライズンの事業計画を引き継ぎ、英国の2カ所での130万キロワット級の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を計4―6基建設する。このうち最初の1基は2020年代前半の運転開始を目指す。日立は原発建設と稼働後の保守・管理を請け負う方針。原発建設費用は精査中として公表しなかった。原発の建設費は1基5000億円前後とされており、資金調達の具体的な手段については、財務アドバイザー(FA)のみずほフィナンシャルグループ(8411.T)と米投資銀行エバコア・パートナーズと相談中で、政府系金融機関からの調達も検討する。羽生常務は、投資回収には18年程度かかる見通しで、出資と融資の割合は3対7を想定していると語った。ホライズンはRWEとエーオン2社が出資し、英国で原発事業を展開するため2009年に設立した。しかしドイツ政府が脱原発政策に転じたのを受け、今年3月に売却する方針を表明、買い手を探していた。日立は20年度の原子力事業の売上高を1600億円だった11年度に比べ、約2.3倍となる3600億円に増やす目標を掲げている。日立の受注が内定していたリトアニアでの原発建設計画が10月の国民投票で反対多数となるなど、海外での事業環境も先行き不透明感が強まっており、今回のホライズン買収で海外開拓に弾みをつけたい考えだ。

*5-3:http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20150722-00000017-jnn-pol
(JNN 2015年7月22日) 政府、中国のガス田開発で新たな証拠写真公開へ
 日本と中国が共同で開発することで合意している東シナ海のガス田開発を巡り、日本政府は、中国が合意に反し、一方的に開発を進めているとして、その証拠を示す航空写真を22日に公開することにしています。「一方的な開発には抗議してきているので、そうしたことも含めて最終調整をして、現状を明らかにしていきたい」(菅 義偉 官房長官)。東シナ海のガス田開発を巡っては、2008年に当時の福田総理と中国の胡錦濤国家主席との首脳会談を受けて、共同開発を行うことで合意しました。しかし、2010年の沖縄県・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事故などで交渉がストップし、その間に中国側が「白樺」ガス田の天然ガス掘削施設を完成させたことなどが判明しています。外務省幹部は「日中関係改善の流れがある中で、一方で、逆の動きがあることは遺憾だ」と中国側に不快感を示しているほか、別の幹部は、写真を公開する理由について「中国側をけん制する狙いがある」と説明しています。中国のガス田開発については21日、閣議報告された「防衛白書」の中で「中国側が一方的な開発を進めていることに対して、我が国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止を求めている」と説明されています。


PS(2015年8月1日追加): 資源エネルギー庁は、長期の全体見通しを立てて判断をすべきだったにもかかわらず、それをせずに日本のエネルギー自給率を下げ続けてOECD諸国最低にし、うなぎ上りに値段の上がっている原油と高い原発に頼って、単価を下げることが可能な太陽光発電を妨害し、日本のエネルギー価格を高止まりさせた戦犯である。そのため、*6のように、資源エネルギー庁の幹部に、「皆さんの持っている知識を知らしめてください」と言うのは、よほどの東大コンプレックスだろう。しかし、世の中にはいろいろな専門家がおり、「東大法学部卒→官僚」は足元にも及ばない知識を持っている人も多いため、「真実の情報を伝えること」や「言うこと」が勇気のいる大切なことであり、そのようなことにこそ「言論の自由」や「表現の自由」が保障されなければならないのだ。

    
   日本のエネルギー自給率推移と       原油輸入単価と太陽光発電単価の推移
    OECD諸国における位置

*6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015073002000254.html
(東京新聞 2015年7月30日) 反原発コメンテーターを「個別撃破」 大西議員、エネ庁幹部に要求
 自民党の大西英男衆院議員(写真、東京16区)は三十日午前、党本部で開かれた原子力政策に関する会合で、原発に批判的なテレビのコメンテーター(解説者)らに関し「個別にどんどん正確な知識を知らせていくべきだ。各個撃破でいいからぜひ行って、皆さんの持っている知識を知らしめてください」と資源エネルギー庁の幹部らに求めた。大西氏は六月、党の勉強会などで安全保障関連法案をめぐり「誤った報道をするマスコミには広告は自粛すべきだ」などと、報道機関に圧力をかける発言を繰り返し、谷垣禎一幹事長から二度にわたり厳重注意を受けたばかり。昨年は国会で女性蔑視のやじを飛ばして謝罪している。大西氏は会合で「安保法制が一段落つけば、九州電力川内(せんだい)原発がようやく再稼働になるが、こういった(再稼働)問題にマスコミの攻勢が行われる」と指摘。解説者らの発言を「ことさら原発再稼働反対の意思を表示している。一般の人たちが聞くと、あたかも日本のエネルギー政策は間違っているというとらえ方をしかねない」と述べた。


PS(2015年8月2日追加):考えたくないことは考えずに“想定外”と説明してきた東京電力福島第一原発事故だが、*7のように、「高さ15.7メートルの津波が襲う可能性があるという試算は、2009年6月までに報告されたにもかかわらず必要な措置を怠って重大な事故を発生させた」という理由で、東電の元3幹部が強制起訴された。検察審査会は、議決で「原発事業者は『万が一にも』発生する津波、災害にも備えなければならない高度な注意義務を負う」と指摘しており、過酷事故の存立危機事態を招く程の大きさを考えれば、私もそう思う。そして、川内原発も、周囲に活火山が多いため、万が一を考えるべきだ。

*7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2015080102100004.html (東京新聞 2015年8月1日) 東電元3幹部 強制起訴へ 「原発 万が一に備える義務」
 東京電力福島第一原発事故の刑事責任をめぐり、東京地検が二度不起訴とした東電の勝俣恒久元会長(75)ら旧経営陣三人について、東京第五検察審査会は三十一日、業務上過失致死傷罪で起訴すべきとする二回目の議決を公表した。三人は今後、裁判所が指定した検察官役の弁護士が強制的に起訴する。市民の判断により、原発事故の刑事責任が初めて裁判で問われる。選挙権のある国民から選ばれた審査員十一人による議決で、七月十七日付。他に起訴議決が出たのは、武藤栄(さかえ)元副社長(65)と、武黒(たけくろ)一郎元副社長(69)。検審は議決で、「原発事業者は『万が一にも』発生する津波、災害にも備えなければならない高度な注意義務を負う」と指摘。勝俣元会長らを「福島第一原発に高さ一五・七メートルの津波が襲う可能性があるとの試算結果の報告を、遅くとも〇九年六月までに受けたが、必要な措置を怠り、津波による浸水で重大な事故を発生させた」とした。東電は〇七年七月に柏崎刈羽原発事故などを経験し、原発が浸水すれば電源を失って重大事故が起きる危険性を把握していたとも指摘。勝俣元会長らは福島第一原発でも地震と津波による事故発生を予測でき、運転停止や防潮堤の建設などの対策を取れば、事故を避けられたと結論づけた。事故では、近隣病院の入院患者が避難を余儀なくされ、衰弱死するなどした。検審は、原発の建物が爆発した際に負傷した東電関係者や自衛官ら計十三人と、死亡した患者計四十四人を被害者と判断した。被災者らでつくる「福島原発告訴団」は一二年六月、勝俣元会長らを告訴・告発。東京地検は一三年九月、津波は予測できなかったとして、捜査対象の四十二人全員を不起訴にした。検審は昨年七月、元会長ら三人を「起訴相当」と議決。地検は今年一月に再び不起訴とし、別メンバーによる検審が再審査していた。


PS(2015年8月3日追加):*8に書かれているとおり、原発過酷事故の際の被害地元は広大な地域であるため、その地域の人は、その時の対処方法を確認しておく必要がある。しかし、原発の過酷事故は、一時的に避難すればよいというような甘いものではなく、熊本県、宮崎県、鹿児島県に住めなくなったり、農水産物が食べられなくなったり、高天原(@宮崎県高原町)に行けなくなったりするのだということを忘れてはならない。にもかかわらず、鹿児島県と薩摩川内市以外の同意はいらないとするのは、再稼働のための便宜でしかない。

       
    2015.8.3、7.7      2015.7.8  過酷事故時の汚染地図 
      東京新聞        西日本新聞    (フクイチ、大飯)
*8:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015080302000117.html
(東京新聞 2015年8月3日) 川内原発 迫る再稼働 鹿児島県外から説明会の要請続々
 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の再稼働が迫るなか、九電に公開の説明会を求める声が、鹿児島県外にまで広がっている。宮崎、熊本両県では、四つの市町議会が決議などの形で意志を表明した。だが、九電は求めに応じていない。原発から七十八キロ東の宮崎県高原(たかはる)町。川内原発がある西からの風が吹くことも多く、市民グループが原発近くから風船を飛ばした実験では、三時間後に町内で拾われたこともある。議会は「事故時に原発の風下になれば、町は壊滅的被害を受ける。まさに『被害地元』そのもの」と主張。説明会を求める文書を九電に送った。中村昇町議(63)は「放射能は県境に関係なく飛んでくる。このままの再稼働は許されない」と焦りをにじませる。隣り合う鹿児島県出水(いずみ)市から避難住民を受け入れる計画の熊本県水俣市では、同議会が「(福島では)いまだ十二万人が故郷を奪われたままなのに、原因の究明は中途半端。市民が不安なまま再稼働に踏み切るのは無責任だ」と安易な再稼働を批判するとともに、説明会を求める決議をした。原発まで百三十キロほど離れた熊本県荒尾市と大津(おおづ)町の議会はいずれも、福島の事故当時、政府が二百五十キロ圏まで避難が必要になる最悪のケースを想定していたことを指摘。「川内原発にあてはめれば九州全域がすっぽり入り、全県が避難の対象になる。説明会は当然」などと訴えた。鹿児島県内では三月以降、原発から約百七十キロ離れた屋久島町議会など六市町議会が九電に説明会を求めてきたが、九電は「個別の要請に応じて話はしている」と、公の場での開催を避けている。


PS(2015年8月5日追加): 8月6日のヒロシマ原爆の日直前の8月5日に原子力規制委が川内原発再稼働の認可を行い、8月9日のナガサキ原爆の日翌日の8月10日に九州の川内原発を再稼働するというのは、唯一の被爆国として皮肉なことだ。また、国の存立をも脅かす規模になるため、決して過酷事故を起こしてはならないリスク機器の運転延長を認めるというのも常識はずれだ。さらに、このような場合に「原発事故の確率は0ではない」などと小賢しげに居直るのは、総合的判断力のない馬鹿である。 ぷん

*9:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/215629
(佐賀新聞 2015年8月5日) 川内再稼働「法令違反だ」 脱原発団体、国会内で集会
 脱原発を掲げる各地の市民団体の代表らが九州電力川内原発1号機(鹿児島県)の再稼働反対を訴える集会が4日、国会内で開かれた。参加者は「運転開始30年を超えて稼働する際に必要な認可手続きに不備があり、法令違反だ」と主張し、説明に訪れた原子力規制庁の担当者に、再稼働延期を申し入れた。九電は、早ければ今月10日に原子炉を起動させ再稼働する方針。集会に参加した各団体は5日、原子力規制委員会前で抗議集会を開く。川内1号機は7月で運転開始から31年。集会に参加した「原子力規制を監視する市民の会」の阪上武代表は「30年を過ぎる前に認可を得る必要があるが、まだ認可がなく、法的に問題がある」と指摘。「規制委は再稼働の日程に間に合わせるため、慌てて5日に認可しようとしている。率先して電力会社を手助けしているとしか思えない」と批判した。


PS(2015年8月8日追加):*10-1のように、特定の理論物理の専門家が、「再生可能エネルギーは蓄電技術が不十分なため、千年先を考えると原子力に代わるエネルギー源があるとは思えず、最終的には核融合発電しかない」などとしているのは、畜電技術は水素燃料や蓄電池の改良などが着々と進んでいる中で、お手盛りの論理の飛躍が過ぎる。また、「一般市民は、発作的に脱原発を訴えている」などとしているのも増長し過ぎで、一般市民は素粒子馬鹿ばかりではないため多面的に検討しているのだ。なお、*10-2のように、既に太陽光発電の普及や節電技術の進歩で猛暑でも電力にゆとりが出ており、日本は自然エネルギーの豊富な国であるためドイツよりも条件が良く、数十年単位や千年単位ではなく数年単位で実現可能なのである。

       
     8月5日の各社       2015.8.8朝日新聞  川内原発周辺の  審査中の原発
     電力使用状況         (*10-2)      医療・福祉施設  

*10-1:http://qbiz.jp/article/68518/1/ (西日本新聞 2015年8月8日) 【再考〜原発再稼動 識者インタビュー】(終)京都産業大教授・益川敏英氏
◆現実的視点が不可欠
−原発についてどう考えているか。
 「化石燃料は、あと300年ほどで枯渇する。シェールガスやシェールオイルの開発が進んでも、枯渇時期が100年ほど延びるだけで、いずれ化石燃料に代わるエネルギー源が必要になる。最終的には核融合発電だろうが、技術的問題が残っている。再生可能エネルギーも蓄電技術が不十分なため、安定的に利用できない。千年先を考えると、原子力に代わるエネルギー源があるとは思えない」
−川内原発(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働に向け最終段階に入った。原発再稼働についての考えは。
 「福島第1原発事故が起きたように、原発はまだ安心して使える電源ではない。使用済み核燃料をどう処分するか、という難題も抱えている。国内に既にたまっているプルトニウムで大量の核爆弾が製造できてしまうのは、怖いことだ。火山と地震が多い日本で、核のごみを地中に埋める処分方法が適切とは思えない。原発は非常に難しい問題を抱えている」 「それでも、背に腹は代えられないというべきか、原発を再稼働するよりほかに方法がないと思う。ドイツは脱原発にかじを切ったと言われるが、リスクや責任を周辺国に転嫁しているだけだ。最も怖いのは、将来的に原子力の人材がいなくなる事態だ。原子力研究はかつて花形だったが、学生の人気が落ちつつあるようだ。一流の技術者が育たなくなれば、原子力は余計に危なくなってしまう」
−国民世論の多くは脱原発を望んでいる。
 「福島の事故を受け、一般市民が不安を覚えるのは当然の反応だが、多くの人が発作的に脱原発を訴えているのは問題だろう。エネルギーは誰もが使わざるを得ない。長期的な視点とリアリズム(現実主義)が不可欠だ」
−長期的には、再生エネの普及拡大が期待できるのではないか。
 「基本的に電気はためられないことが、ネックになっている。大量かつ安価にためられる電池技術が確立され、太陽光や風力を増やせれば、ある程度の問題は解決できる。だが、エネルギー問題は一筋縄にいかない。民間主導、商業ベースでの技術開発には限界がある。原発にしろ再生エネにしろ、300年後を見据えて課題を抽出し、国家プロジェクトとして継続的な研究に取り組む必要がある」

*10-2:http://digital.asahi.com/articles/ASH875HWYH87ULFA01Y.html?iref=comtop_6_02 (朝日新聞 2015年8月8日) 太陽光発電の普及・節電定着…猛暑でも電力にゆとり
 東京都心で7日、最高気温35度以上の「猛暑日」が過去最長の8日連続となるなど、各地で記録的な猛暑が続くなかで、大手電力各社は比較的余裕のある電力供給を続けている。すべての原発は止まったままだが、太陽光発電の普及や節電の定着で、真夏の電力不足の心配は遠のいている。電力供給にどれだけ余裕があるかは、その日の電気の供給力と、一日で最も電力の需要が多いピーク時を比べた「最大電力使用率」でわかる。東京電力や関西電力の場合、これが90%以上だと電力の余裕が「やや厳しい」、95%以上だと「厳しい」とされる。100%に近づくと、必要な電力に供給が追いつかず、停電の恐れがでてくる。7日までの1週間で、東京、中部、関西、九州各電力の最大使用率をみると、95%以上になったのは1日の中部電だけだった。東電では90%以上が4日あり、あとは90%未満の「安定的」だった。関電と九電は震災前に原発依存度が高く、今夏も綱渡りの供給が心配されたが、この1週間、関電で90%以上となったのは8月3日の1日だけ。九電はゼロだ。やはり猛暑だった2013年、関電は7~8月の2カ月間で90%以上が22日間あり、最大使用率が96%に達した日もあった。余裕ができた背景には、電力供給の変化がある。東日本大震災後、安定した電力の供給源だった原発が止まったことで、電力各社は老朽化で止めていた火力発電所もフル稼働するなどして供給力を維持したが、夏場の電力需要のピーク時の供給には不安があった。だが、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)のもと、太陽光発電の導入量がこの5年間で10倍近くに急増。晴れた日に発電量が多くなる太陽光が夏のピークに対応し、電力供給の安定につながっている。一方で、夏のピーク時の電力需要も、震災前と比べて十数%ほど少ない。LED照明への切り替えなど、企業や家庭で節電の取り組みが広がっているためだ。九電は11日にも、川内原発1号機(鹿児島県)の再稼働をめざしている。猛暑続きでも電力供給にゆとりがある日々が続いていることは、再稼働の是非をめぐる議論にも影響しそうだ。


PS(2015年8月10日追加):*11-1には、「安全か振興か」として、地域の安全と経済や振興が二者択一であるかのように書かれているが、他産業の誘致や移住促進を行うためには安全が前提であるため、地域振興は安全の上にしか成り立たない。それに対し、「原発が停止して、受注減で原発関連会社の経営が悪化した(原発関連業者)」「怖いけど『安全』という九電や国を信じて受け入れるしかない(原発作業員向け民宿の女性)」など地元の原発関係者の再稼働賛成意見が掲載されているが、このように一部の人が自分の利益にしがみつくと、地域全体が先進的な新しい事業を始めたり、次のステップに進んだりするチャンスを逃すのである。
 さらに、*11-2のように、長期間の原発停止で、原発の温排水による生態系の破壊が、磯焼けや漁獲高の減少によって水産業に著しく迷惑をかけていたことが明らかになった。このほか、原発が平時から一定量の放射性物質を排出している公害源であることは、前にこのブログに記載したとおりだ。

    
     *11-1より    2014.3.11東京新聞    2014.12.20そもそも総研

*11-1:http://qbiz.jp/article/68551/1/ (西日本新聞 2015年8月10日) 安全か振興か葛藤なお 再稼働目前川内原発の街 「手放しで喜べない」
 福島第1原発のような事故が、いつか起きるかもしれない。でも原発が止まったままでは、この街の生活は成り立たない−。九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の地元では、11日の再稼働が目の前に迫った今もなお、住民たちが「安全」と「経済」のはざまで揺れている。「手放しで喜ぶ雰囲気はない」。川内原発の安全対策工事を請け負う地元企業の作業員男性(59)は、職場の様子を打ち明けた。原発が停止して4年。受注減で会社の経営は悪化し、ボーナスは減少した。リストラの計画もあった。再稼働は待ち望んでいたはずだった。
 なぜ喜べないのか。男性は「福島事故で、原発の現場でも『事故は起こり得る』と考えるようになったから」と話す。手掛けた工事に自信はあるが、想定外の何があるか分からない。就職して32年。原発のおかげで家を建て、子どもも育てた。安全に疑念を抱いたのは初めてだ。原発の南6キロにある自宅には、父親(91)と母親(88)が同居する。ともに足腰が弱く、事故が起きても迅速な避難は難しい。「原発は絶対の技術ではない。早く自然エネルギーにバトンタッチしないと」。原発の東11キロ。旅館やホテルが軒を連ねる薩摩川内市の中心街で、民宿の女性(83)は「怖いけど『安全』という九電や国を信じて受け入れるしかない」とうなずいた。13カ月おきにある原発の定期検査で全国から来る作業員を見込み、27年前に開業した。検査で1カ月半の間は50人収容の宿が満室になった。運転停止後は1日10人前後。4人のパートを半減させ、貯金も取り崩した。ひとたび原発事故が起これば、福島のように地域は崩壊するだろう。「結局、九電さまさまなんよ。川内は『原発の街』だから」。経営を考えると再稼働に期待するしかない。原発を望む海岸では9日、再稼働反対を唱える集会があり、全国から集まった2千人(主催者発表)が「国民の大半は再稼働に不同意だ」とデモ行進した。参加者で、原発の南東8キロに住む主婦馬場園征子さん(74)は憤る。「地元でも、もろ手を挙げて賛成する住民は少ない。一部の権力者の意向だけで進む再稼働に納得できない」

*11-2:http://d.hatena.ne.jp/TAKAO100000/20140414/1397493520
(元高槻市議会議員 和田たかお 2014-4-14) 原発停止で海の生態系に劇的変化が起こっている
 今、日本国中の原発がすべて止まっている。2014年4月12日のMBS「報道特集」は、原発の長期間停止で、その周辺の海に大きな変化が起こっていることを特集していた。その場所の一つは、6月末にも原子力規制委員会の審査が終わり、8月にも再稼働と「産経」が報じている川内原発の南部、いちき串木野市北西部の海だ。川内原発が出来てから、この地区の羽島漁協定置網漁の水揚げは20年で数分の1になったという。これは海藻がなくなったからだという。ところが、原発が2年半稼働停止になっている間に、海藻が生育できる状況に少しずつ変化が生じ、磯辺でもひじきが生育し始めているという。海水温が原発からの温排水で暖められていたのがなくなったのが原因と推定されている。佐賀県の玄海原発周辺でも事情は同じ。2006年に調査したときは全く海藻が生えていなかったのに、現在では海底に少し海藻が生えてきているという。海藻は暖かい海では生育できないのだ。魚も変化している。原発稼働中は南の海の魚が生き残れることで、色鮮やかな魚やキビナゴなど暖かい海に生息する魚が多かったが、それがいなくなっている。若狭湾の原発でも事情は同じ。ここでは京都大学の益田玲爾准教授が。高浜原発近くの海で10年間潜水調査を継続されていた。益田先生によると、高浜原発稼働停止から数日間で、寒さで息絶えている魚を見たと言われる。また、ここでも現在海藻の一種ホンダワラなどが生い茂り始めている。サザエやムラサキウニなどの原発稼働前に生息していた生物が復活、稼働中に見られたガンガゼ(ウニの一種)も稼働停止後2週間で死に、1ヶ月後には長いとげしか残っていなかったという。原発周辺の海は水温が2度高くなっていたのだ。人間にとって空気中の2度はどうにでも調整できるが、魚にとっては生死を分けてしまう水温なのだという。益田先生は火力発電所でも同じ研究をなさっているが、海に変化は起きていなかった。これらの事実から考えても、如何に原発が自然環境を破壊するものなのかよくわかる。原発を「エネルギー基本計画」の中で、ベースロード電源として位置づけ、再稼働に向けてまっしぐらに進む安倍政権の危険性が示されていると言うべきだろう。

| 原発::2015.4~10 | 02:05 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.7.24 教育、保育、福祉について (2015年7月25、26、28、30日、8月19日に追加あり)
   
                      2015.6.7佐賀新聞

(1)少子化は誰の責任か、また、自治体はどう対応すべきか
 *1-1のように、国は認可保育所を希望したのに入所できなくても、①東京都の認証保育所などの保育事業を利用 ②幼稚園の一時預かり等を利用 ③保護者が育休中の場合は待機に含めるかどうか自治体が判断 としており、①〜③を「隠れ待機児童」とみなして集計すると、「認可保育所に入れない待機児童数が多かった98市区町村で、集計されていない『隠れ待機児童』は、4月1日現在、少なくとも約1万3千人に上る」とされる。そして、質の良い保育所に入れるかどうかは「宝くじ」のようらしく、現在、都市部の自治体では待機児童の解消に力を入れているが、未だすべての子どもに満足な居場所を作ることができない状態で、認可外の保育施設を利用すると、一人当たり月に10万円もかかるそうだ。

 しかし、保育施設の充実を最初に訴えた女性は、既にひ孫を持つ年齢であり、最初に学童保育の充実を訴えた女性は、既に孫が中学校に入る年齢である。つまり、働く女性の声を無視して、女性の変化と家族のニーズに合った政策を進めてこなかった政治や行政の対応の遅さが、必要以上に少子化を進め、女性にとっても不幸な現象を招いた。そのため、少子化を「女性や家族の頑張り不足」のせいにするのは、とんでもない責任転嫁である。

 なお、地方では、*1-2のように、来年3月の国公立中学卒業見込み者が前年度より減り、全日制高校の募集定員を40人減らす自治体も現れた。もちろん、認可保育所の待ち行列はなく、保育環境も都会よりよい。そのため、地方では、教育の質を上げて充実させれば、企業誘致や移住が進むと思われる。

(2)教育の充実のうちの学力について
 *2-1に、「①教育関係者、保護者、有識者で構成される佐賀県学力向上対策検証・改善委員会が開かれた」「②委員から『情報収集力や表現力など求められる学力の質が変わってきた』等の意見が出た」「③テストでは、国語は条件に合わせて自分の考えをまとめて書く問題の正答率が低い」「④算数・数学も考え方や理由を説明する記述式の問題の正答率が伸びなかった」「⑤理科は観察、実験の技能や考察に関する問題に苦戦した」「⑥委員から『文章力を磨けばいいという問題ではなく、自分の考えを持っていないと対応できない』などの声が上がった」「⑦上野委員長は『全国学力テストで求められる学力と、教師がこれまで身に付けさせようとしてきた学力にズレがあるのではないか。情報収集力や表現力といった従来と質の違う学力を育む手だてが必要だ』と指摘した」などが記載されている。

 私は、①のように、まじめに教育を考えているだけでも佐賀県は立派だと思うが、②③④⑤⑥については、求められる知識や理論は増えることはあっても減ることはなく、パソコンやインターネットの普及では情報収集のツールが増えただけであり、表現力は表現すべき内容があって初めてものを言うため、小中高では、正しく自分の考えを育むための基礎的知識や論理力を学び、人としての内容を深めるべきだと考えている。そのため、⑦については、「今までどういう教育を進めていたのか?」と少し疑問に思った。

 しかし、パソコンやインターネットの普及で情報収集のツールが増えたというのは、実はすごいことなのだ。何故なら、小中高の生徒でも、国会中継を視聴でき、日本弁護士連合会の意見書を読むこともでき、国内外の政府の公開文書や外国人の論文も入手して読むことができ、どの地域にいても、最前線の情報を入手して考えることが可能になったからである。そのため、企業や大学を退職した人など、これまで最前線で活躍してきた人を小中高に顧問等として採用すれば、質が高くて面白い授業を行い、生徒に新しい見地を開かせる役に立つだろう。

 唐津市教育委員会は、*2-2のように、学力向上策として、教師による一斉指導から、子どもの意見交換の時間を増やし、自ら考える力を伸ばす「アクティブ・ラーニング」のモデル校を増やしているそうだ。これは、生徒に参加意識を醸成するのでよいと書かれているが、私は、教師が教えても、質問や反対意見を歓迎して受け付け、考えさせる指導をすれば、参加意識を高めることができるし、それが本当に必要なことだと考えている。

 一方、児童が授業の進行役を務めて意見交換を行うのは、児童には必要な知識がなく無駄が多いため、私は、特定の科目や特定の日にのみ、アクティブなディスカッションやアクティブなプレゼンテーションを指導するようにした方がよいと考える。唐松地区では、4月の全国学力テストで全学年・全教科が県平均を下回ったそうだが、このような授業方法では学力の低い生徒の参加意欲は高まるかもしれないが、リーダーとなる生徒は先生の代わりまでしなければならず無駄な時間が増えるため、学力の高い生徒の成績が下がって平均が下がると考えられるのだ。また、唐松地区は家庭学習する児童生徒が少ないという結果は、親も含めた意識と習慣が問題なのだろう。

(3)道徳について
 *3-1のように、文科省が教科書検定基準案を作り、「考える道徳」を重視して、「生命の尊厳」「正直・誠実」「公正」「礼儀」「家族愛」「伝統文化」「伝記」「愛国心」「言語活動」「体験学習」「スポーツ」などの幅広いキーワードで、これを進めるそうだ。しかし、これらは、これまでも国語、生物、総合学習、クラブ活動などで、折にふれてやってきたものではないのか?

 また、「一方的な価値観の押しつけではなく、子どもが自分で考える授業になるよう、教材の面から後押しする」と何度も書かれているが、成人ではない未発達の子どもが自分で考えられるようになるまでは、「生命の尊厳」「正直・誠実」「礼儀」「公正」「家族愛(いろいろな形があることも教えてよい)」「愛国心(批判したから愛国心がないわけではなく、愛国心だけでは足りないことも教えるべき)」等の価値観を一方的に押しつけることは教育の一部であり、それらをすべて自分で考えることのできる人はいない。にもかかわらず、それを曖昧にしてきたのが猟奇的犯罪・オレオレ詐欺・いじめ等、人権侵害の多い我が国の現在に至った理由の一つであり、子どものうちに叩き込んでおかなければならない価値感もあるのだ。

 しかし、*3-2のように、現在の「道徳の時間」では、「決まりを守る」などを紹介した副教材が使われてきたが、この副教材の使用に積極的でない教員もいたそうだ。確かに、決まりはどうにでも作れるので、時代遅れだったり不当だったりすることもあり、「決まりを守る」だけではなく、「その決まりは適切か」とか「では、どういう決まりにすればよいか」などを皆で議論して考え、答えを導くのもよい教育である。

<問題1(歴史・政治)>*3-3のように、ロシアの首相が北方領土を訪問する意向を示し、「島に軍事インフラを整備する」という考えを示した。北方領土は、北海道の人にとっては占領されたふるさとで目の前にある島だが、日本が周辺国すべてを見下して米国のみに頼ったツケが廻ってきたようだ。中学生以上の人は(小学生でも可)、どうすればよいかについて考えて下さい。
 
<問題2(道徳・経済)>*3-4のように、日本人の家計の金融資産は1700兆円を超え、安全資産の代表である現金と預金の比率が52%と過半だそうだ。家計の金融資産は個人が老後に備えて蓄えてきたものであるため、60歳以上に偏在しているのは当然で失うわけにいかないものであるにもかかわらず、日本経済を活性化させるという名目で元本が減るリスクのある金融資産を薦めるのは道徳的か? また、日本国憲法に照らして、人の老後の暮らしや人権、幸福を大切にしているだろうか? さらに、インフレ経済にして個人資金をリスク資産に引きつけ、市場の知識すらない人の資金が市場に流れる仕組みを整えることは適切か? 仮に適切な場合があるとすれば、それはどういう場合か?

 上の<問題1>と<問題2>は、生徒にとって簡単に答えが出るものではないが、道徳を含む多くの考慮すべき要素を含むため、多面的に調べてディスカッションし、考えを進めるトレーニングになるだろう。しかし、問題は、教える筈の大人が正解に近いものを作れるか否かである。

(4)ICTを使った教育の事例
 *4-1のように、佐賀県は、タブレット端末や電子黒板など佐賀県が推進しているICT(情報通信技術)教育について、ICT教育改善検討委で学校現場の意見を集約している点で進んでいる。タブレット端末や電子黒板は、先生が書いた黒板を写すという無駄な作業がなくなるのでよいと思うが、タブレット端末やパソコンでは紙上のように思考や論理構成をしにくい。そのため、タブレット端末や電子黒板は、それ自体が学習というよりは、参考書、ノート、鉛筆、黒板のような文房具にすぎないと考えるべきである。

 しかし、優秀な文房具であり、どんな地域に住んでいても、オリジナルの文書や専門家の意見に容易にアクセスして、ものを考えることができるツールだ。そのため、現場の先生には、使いこなし方を勉強していただき、授業に活かしてもらいたい。

 例えば、*4-2の佐賀西高の中国・東アジア史はよいが、「東アジアの国際体制は何が良かったのか」だけではなく、「何がなかったか」も学んで欲しい。さらに、世界史と日本史の年表を並べて学ぶことにより、日本史に書かれていなかった事実も浮かび上がってくるため、それは何かを徹底して追及すれば、歴史の流れを理解した上ですべてを同時に覚えられる。なお、私は、タブレット端末だからといってアニメーション化するのは感心せず、むしろ韓国国立中央博物館と正倉院の宝物の比較などをしてもらいたい。

 また、*4-3のように、致遠館高校では、「自分のお気に入りの物」をテーマに、生徒1人ひとりが英語でスピーチしたそうだが、私は、「英語のスピーチだから内容は簡単でよい(それでは内容が面白くない)」とは思わない。そうではなく、日本国憲法の英文オリジナルと日本語訳を読み比べて違いを指摘したり、生命科学やロボット工学や宇宙に関する英語論文を読んで解説したりなど、内容も充実した方が面白いし、将来の役にも立つ。何故なら、次世代の研究者や社会で活躍する人は、当然のコミュニケーションとして、そのような内容を英語と日本語の両方で話せることが要求されるからである。

<現在の状況>
*1-1:http://qbiz.jp/article/66602/1/
(西日本新聞 2015年7月12日) 「隠れ」待機児童1万3千人 集計方法あいまい
 認可保育所に入れない待機児童数が昨春多かった98市区町村で、「保護者が育児休業中」などを理由に集計されていない「隠れ待機児童」が4月1日現在、少なくとも約1万3千人に上ることが、共同通信の調査で分かった。自治体が待機児童として集計したのは約1万5千人(昨年4月から11%減)。国が自治体に示した基準では、認可保育所を希望したのに入所できなくても、(1)東京都の認証保育所など自治体単独の保育事業を利用(2)幼稚園の一時預かりなどを利用−の場合には、待機児童として集計しない。(3)保護者が育休中の場合は、待機児童に含めるかどうか自治体が判断できる。調査では(1)〜(3)を「隠れ待機児童」とみなした。女性の活躍に不可欠な待機児童の解消問題。国は4月から始まった保育の受け皿を拡充する「子ども・子育て支援新制度」を待機児童ゼロへの切り札にしたい考えだが、集計方法はあいまいで、自治体からは「机上の数字」と冷ややかな声も漏れる。子育てのニーズは多様で悩みは尽きない。
▽宝くじ
 「いつになったら預け先が決まるのか。不安が消えない」。通信設備会社に勤める女性(35)=東京都目黒区=は3月末までの育児休業を延長した。4月から娘(1)を区の認可保育所に入所させようとしたが、申し込みをした施設はいずれも空きがなかったからだ。認可保育所は競争が激しく、難しいと知っていた。さらに都が独自に設置する認証保育所7カ所にも申し込んだが、数十人待ちが当たり前。待機リストが100人以上のところもあり、宝くじに当たるようなものだ。「新しい制度が始まると聞いて期待したけれど何も変わっていない」。マンションを売却し、他の地域へ引っ越すことも考え始めた。目黒区ではこの女性のようなケースを待機児童にカウントしているが、自治体によって対応にはばらつきがある。東京都中野区の女性(31)も認可保育所を諦められずにいる1人だ。昨年4月に当時0歳だった娘を入所させたかったがかなわず、ビルの1階にある認証保育所へ。保育料は月6万3千円。昨年末に再び認可保育所に希望を出したが、だめだった。「広々とした園庭で遊ばせたい」。これからも申し込みを続ける。
▽居場所
 都市部の自治体などは待機児童の解消に力を入れている。共同通信の調査では、昨年4月時点で人数が多かった98市区町村のうち、約6割が今年4月時点で減少し、川崎、大津など4市はゼロになった。保育施設の整備などが理由とみられる。しかし保護者が育休中のケースを除いたりすることが多く、近畿地方のある自治体の担当者は「机上では、ゼロにするやり方はいくらでもある。実態に合っていない」と冷ややかに話した。保育の必要性と行政の関わりをめぐる意見はさまざまだ。埼玉県所沢市では6月、母親が出産し、育休を取った場合に、原則として上の子が保育所を利用できなくなるのは違法だとして、保護者らが市に差し止めを求める行政訴訟を起こした。市側は「育休中は家庭での保育が可能」と説明。保護者側は「子どもにとって保育所に通うのは生活の一部。元の保育所に戻れる保証がないのは不安だ」と訴える。保育問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さんは「待機児童の定義や育休の扱いが自治体の方針で変わり、家族の人生を左右されるのはおかしい。本来はすべての子どもに居場所があるべきだ」と指摘している。
▽選択肢
 新制度は幼稚園と保育所の機能を合わせた「認定こども園」や、0〜2歳児を対象に少人数で子どもを預かる「地域型保育」の普及など、選択肢を広げるのが狙いだ。都内の女性(35)は7月から娘(1)を新設の認定こども園に通わせている。「これまでは仕事を続けるため、月10万円で認可外の保育施設を利用していた。幼児教育の要素もあり、どんな生活になるか楽しみ」とほっとした様子で話す。母親の立場で待機児童問題に取り組む杉並区の曽山恵理子さん(38)は「新制度で保育を利用できるようになった人もいるが、まだまだ厳しい状況は変わらない。多様な声を聞くべきだ」と注文を付けた。

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/211268
(佐賀新聞 2015年7月24日) 県立中高の来年度定員 武雄高40人減
 佐賀県教育委員会は23日、2016年度の県立中学、高校の生徒募集定員を発表した。全日制高校の募集定員の合計は、前年度より40人少ない6440人となる。武雄高校が定員280人を240人に減らす。県立中4校に変更はなく、各校120人を募集する。武雄以外に全日制の募集定員の変更はなく、学科・コースの改編もない。定時制6校の募集定員は前年度と同じ全体で280人。16年度から、普通科の通学区域を現在の4学区から2学区に変更する。これまでの東部、中部を合わせて「東部」学区とし、北部、西部を統合して「西部」学区とする。県教委によると、来年3月の国公立中学卒業見込み者は前年度より65人少ない8544人。旧学区ごとにみると、東部65人減、中部59人減、北部89人増、西部30人減だった。中でも、武雄・杵島地区は前年度も80人減だったことや武雄青陵中の来年3月の卒業者がこれまでより40人減ることを勘案し、武雄高校の定員を減らした。16年度も、募集定員の20%を上限に全日制全36校で特色選抜試験を実施する。県立高の試験日程は、特色選抜が2月9日、一般選抜は3月8、9日、合格発表は3月15日。県立中は1月16日に選抜検査、1月27日に合格を発表する。今回の選抜から、各校の特色を反映して出題してきた「学校独自検査」を廃止する。

<学力>
*2-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/210568
(佐賀新聞 2015年7月22日) 全国学力テスト「求められる質変化」 県学力向上委が分析
 教育関係者や保護者、有識者らでつくる佐賀県学力向上対策検証・改善委員会(委員長・上野景三佐賀大教授)が21日、県庁で開かれた。文部科学省が4月に実施した「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の分析結果が報告された。委員からは「情報収集力や表現力など求められる学力の質が変わってきている」などの意見が出た。全国学力テストは、小学6年と中学3年を対象に国語と算数・数学に理科を加えた3教科で実施した。県教委は小5、中1、2にも独自のテストを実施し、結果をいち早く指導に生かすため、独自集計している。全国の結果公表は8月ごろで、まだ比較はできない。テストでは、国語は条件に合わせて自分の考えをまとめて書く問題の正答率が低く、算数・数学も考え方や理由を説明する記述式の問題の正答率が伸びなかった。理科は観察、実験の技能や考察に関する問題に苦戦した。委員からは「文章力を磨けばいいという問題ではなく、自分の考えを持っていないと対応できない」などの声が上がった。上野委員長は「全国学力テストで求められる学力と、教師がこれまで身に付けさせようとしてきた学力にズレがあるのではないか。情報収集力や表現力といった従来と質の違う学力を育む手だてが必要だ」と指摘した。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/column/ictedu/23901/200032 (佐賀新聞 2015年6月22日) 学力向上へ唐津市試み 「アクティブ・ラーニング」で活路、箞木小で成功、4地区にモデル校
■「授業に集中」大規模校でも効果
 唐津市教育委員会は学力向上策として、教師による一斉指導から、子どもの意見交換の時間を増やし、自ら考える力を伸ばす「アクティブ・ラーニング」のモデル校を増やしている。詰め込み型の知識偏重教育を改めようとする国の方針を“先取り”した試みだが、唐松地区の長期的な学力低迷を打開する狙いが背景にある。市教委は昨年度から学力向上モデル校事業を始めたが、きっかけは厳木町の箞木(うつぼぎ)小が2011年から始めた「司会式授業」。児童が授業の進行役、黒板筆記、タイムキーパーを務め、活発に意見交換する。全国学力テストでは、思考力や表現力を問う記述式問題で、全国平均を大幅に上回る結果を継続的に出している。
◆生徒に参加意識
 京都などでの取り組みを参考に始めた古川元視校長は「今の授業は先生が話しすぎると思う。自分たちで考え、答えを出す方が知識は定着するし、この繰り返しで、自分たちは何をすべきか考える子が育つ」と利点を話す。1年生の算数でも、答えだけでなく、そこに至るまでの考え方を記述させており、思考の過程を重視している。市教委が〓木流を最初に導入したのは、市内一の大規模校となる唐津一中。「司会式」ではないが、4人単位の席に配置し、意見交換やグループ別発表の機会を増やしたことで、生徒の授業参加意欲も高まった。保護者の一人も「居眠りや私語、授業を抜け出す子がほとんどいなくなった」と変化に驚いていた。濱隆朗校長は「やはり一番の生徒指導は『分かる授業』。勉強に自信が持てるようになることで、子どもたちも教室に居場所が見つかる」。教師は毎回の授業で、生徒の思考を手助けするワークシートを用意する負担が生じるものの、「子どもたちが授業に参加するので、心理的な負担は軽減できる」と濱校長。
◆自ら学ぶ力
 1年目の昨年度のモデル校は唐津一中を含め、3地区5小中学校だったが、2年目の本年度は4地区12小中学校に広げた。市教委は小中連携でアクティブ・ラーニングの流れをつくろうと試みている。文部科学省も次期学習指導要領(小学校2018年、中学校19年改定)でアクティブ・ラーニングを盛り込む方針。市教委の牟田口成喜学校教育課長は「私たちの試みは特別なものではなく、国が目指す教育の方向性に沿ったもの。一番規模が大きい一中でできたので、どこでも可能だ」と話す。一方、唐松地区は4月の全国学力テストで全学年、全教科で県平均を下回った。唐津市議会の6月議会では「塾など民間と連携する他の自治体の取り組みも参考にすべきでは」と議員から質問が出るなど学力向上策は急務となっている。県教委が同時期に行った学習状況調査では、平均点の高い三神や佐城と比べて、唐松地区は家庭学習をする児童生徒が少ないという結果が出るなど課題も見えている。「授業で『自ら学ぶ力』をつけることが、家庭学習の習慣につながる」と市教委。学校全体の意識改革をどれだけ進められるかが、授業改善の鍵を握っているようだ。
■アクティブ・ラーニング(AL)
 教師主導による講義型の授業とは異なり、最初に学習の目標が示され、与えられた課題を各自で考え、グループ別やクラス全体で意見を出し合うことで思考力を高める学習法。欧米の教育スタイルで、国内でも導入する大学が増えている。2018~19年度改定の次期学習指導要領に盛り込まれる。文科省はAL導入にあわせ、センター試験に代わり導入する「大学入学希望者学力評価テスト」には記述式問題を盛り込むことを検討している。

<道徳>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11877223.html
(朝日新聞 2015年7月24日) 「考える道徳」を重視 教科書検定基準案 文科省
 これまでの道徳は「教科外の活動」という位置づけで、国の検定を経た教科書はなく、副読本を読むことが中心だった。格上げで検定のルールが必要になり、3月に改訂された新学習指導要領に沿う形で文科省が検討していた。基準案では、教科書全体を通じて、子どもが表現力を高めるために話し合ったり書いたりする「言語活動」や、「体験学習」などを教員が採り入れやすくする工夫を求めた。一方的な価値観の押しつけでなく、子どもが自分で考える授業になるよう、教材の面から後押しする狙いがある。教科書に掲載する物語などの題材は、生命の尊厳や伝記、スポーツなど幅広いテーマを扱うことにした。「礼儀」「公正」「愛国心」など学習指導要領に決められた項目との対応を明示することも盛り込んだ。子どもの発達段階に即し特定の見方に偏らない配慮も求めた。検定基準は9月に正式に決定される。小学校向けの教科書は16年度、中学校向けは17年度に検定され、それぞれ18年度、19年度から使われる。
■<視点>多面的見方、どう配慮
 「読み物道徳」から「考え、議論する道徳」へ。文科省が教科化で打ち出した方向だ。道徳の授業が子どもの考えを縛り、特定の価値観を押しつけるものであってはならない。検定基準案でも、子どもたちが多面的に考えられるような配慮を教科書会社に求めた。それが現実の教科書でどこまで実現できるかは、なお未知数だ。「検定を通じて政権の意向が反映されるのではないか」との懸念もぬぐいきれない。改訂した道徳の指導要領は「正直、誠実」「家族愛」などのキーワードを設けた。基準案でも指導要領に沿い、「伝統と文化」や「先人の伝記」などを必ず盛り込むよう求めている。だが、物事や人物の評価は一つではない。この日も「1人の人間があるところでは英雄、あるところでは犯罪者とされ、簡単ではない」との声が出た。安倍政権は昨年、教科書検定のルールを変え、「愛国心」などを盛り込んだ教育基本法の目標に照らして重大な欠陥があると判断される場合は不合格になるとした。道徳でどう適用されるのか。注視していく必要がある。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11877128.html
(朝日新聞 2015年7月24日) 話し合う道徳、出版社模索 独自教材の余地 課題解決型の学び
 「想定の範囲内で、驚きはない」。23日に了承された検定基準案について、道徳の副読本を発行する出版社の担当者は言う。現在の「道徳の時間」では、「命を大切に」「決まりを守る」など大切なことを物語や偉人の言葉を交えて紹介した文部科学省の副教材「私たちの道徳」が使われている。だが、この副教材の使用に必ずしも積極的でない教員もいるという。このため「私たちの道徳」を参考にしつつ、どんな教員も使いやすい教科書にする必要がある。道徳教育に詳しい上薗恒太郎・長崎総合科学大教授(教育学)も「採択されやすいよう、どんな先生も授業ができるわかりやすい物語が多くなるだろう。その分、経験や理論に裏打ちされた独自の教材も使える余地を残すことが必要だ」と指摘する。具体的には「いじめに対応する内容が学年ごとに盛り込まれ、課題解決型の学習が目玉になるだろう。自己肯定感を高めることを目標に構成し、子どもを支える教科書にするべきだ」との考えを示した。道徳教育が専門の別の研究者は「人間としてのあり方や生き方について、じっくりと考えることのできる工夫」を望ましい教科書の条件に挙げる。「あれっと思ったり疑問を持ったりと子どもの興味・関心を引きつけることが大事」。そうした「考える道徳」を重視するのは、やはり道徳の副読本を作ってきた別の会社だ。編集幹部は「一人ひとりが考え、教室での話し合いにつながる教科書にするため、四苦八苦している」と明かす。別の会社の担当者は「単なる読み物集では足りない。本音で自分を語り、自分とは違う考えを本気で受け止めることの大事さを実感できるものでなくてはならない」と気を引き締める。時間の制約は、各社共通の悩みだ。ある編集者は「教科書づくりは少なくとも1年半前から準備するが、今回は検定申請までに1年もない。急ピッチで作業を進めている」という。
■意識改革が必要
 貝塚茂樹・武蔵野大教授(日本教育史)の話 検定基準からは、子どもに多面的に考えさせる教科書をつくりなさいというメッセージを感じる。これまでのように登場人物の心情理解に偏った指導ではなく、子どもが話し合ったり考えを書いたりする授業ができる教材でなければならない。取り上げる読み物も死刑制度や脳死など、教員も迷うようなテーマ設定が必要だろう。教科書会社にも、これまでのスタイルを変える意識改革が求められている。

*3-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11877130.html
(朝日新聞 2015年7月24日) ロ首相、北方領土訪問意向 「島に軍事インフラ整備」
 実際に北方領土を訪問すれば、大統領時代の2010年、首相時代の12年に続いて3回目。日本政府は強く反発することとなり、安倍晋三首相が目指すプーチン氏の年内訪日も困難になりそうだ。タス通信によると、この日の閣議では、2016~2025年のクリル諸島(北方領土と千島列島のロシア側呼称)発展計画を基本的に承認。国家予算から700億ルーブル(約1540億円)を割り当てる方針だ。メドベージェフ氏は「あそこに行ったことがない者は行ってみるべきだ。いずれにしても、私は行くことを計画している。みなさんも招待する」と述べた。その上で「我々は軍事的なインフラ整備も進めている」と述べた。

*3-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150720&ng=DGKKZO89514130Q5A720C1PE8000 (日経新聞社説 2015.7.20) 1700兆円を経済の再生に生かそう
 日本人のお金に対する保守的な姿勢は相変わらずのようだ。日銀の資金循環統計によれば、2015年3月末の家計の金融資産は初めて1700兆円を超えたが、安全資産の代表である現金と預金の比率が52%と過半だった。家計の金融資産は個人が老後に備えて蓄えたものという面が大きい。慎重に使わなければならないのはもちろんだ。しかし、資金に多少なりとも余裕があるなら、元本が減るリスクがあるかわりに高い収益を見込める投資に回すことは、有力な選択肢のはずだ。
●市場の正しい知識を
 それはめぐりめぐって日本経済を活性化させる効果も持つ。個人が積極的に資産運用に取り組むための環境整備を急ぐべきだ。個人金融資産の6割強は60歳以上に偏在している。一般にこの世代は、教育費や住宅ローンの負担が軽くなる一方、退職金を受け取るため、金融資産の蓄積が進む。高額品を中心とする消費の主役として注目されるだけでなく、リスクマネーの出し手としての役割を期待する向きが多い。現在の60歳以上の人は投資の初心者が多い。まずは投資や資本市場に関して正しい知識を得るための学びの機会が必要だ。東京証券取引所は全国の主要都市に専門家を派遣し、投資のルールや市場の仕組みを教えるセミナーを、12年度から実施している。14年度は41回開催し5500人弱が参加した。投資経験の浅い個人にとって、こうした場でリスクとリターンの関係などを理解することは大切な経験だ。東証だけでなく、証券会社の自主規制団体である日本証券業協会なども含め、多くの市場関係者が個人投資家の裾野を広げる努力を続けてほしい。投資の学習と並んで重要なのは、個人の資金が市場に流れる仕組みを整えることだ。一定金額以内の個人の株式投資について、売却益や配当に税金を課さない少額投資非課税制度(NISA)を、有効に使いたい。金融庁によれば、同制度の導入から1年たった14年末の口座数は825万口座に達した。50歳以下で投資経験が乏しい人の開設が増える傾向にあるという。16年からは親や祖父母が子や孫の代理として投資する場合に非課税となる、ジュニアNISAが創設される。高齢世代から若い世代への金融資産の移転を促す狙いがある。金融機関が長期の視点で資産形成の助言などに力を入れることが普及のカギだろう。個人の資産運用の手段として古くからある金融商品には、投資信託がある。NISAの枠内で投信を持つ個人も増えた。既存の金融機関や運用会社に頼ることなく、自力で有望な企業や事業を見つけ、資金を投じたいと考える人もいるだろう。そうした需要に応えるうえで、インターネットの活用は有効な手段だ。企業がウェブ上で事業アイデアを公開し、個人から小口出資を募るクラウドファンディングが、5月に解禁された。
●個人資金を引きつけよ
 同制度を利用するのは知名度の低いベンチャー企業が多い。監督当局が不正に目を光らせるのは当然だが、ウェブを運営するクラウドファンディング事業者が出資を募る企業に対し詳しい経営情報の開示を促すといった、自主的な取り組みも欠かせない。モノの値段が下がり続けるデフレのもとでは、現金や元本保証の預金を多く持つことが財産の目減り防止につながった。日本経済がデフレからの脱却を果たし、再生の道筋がはっきりとしたものになれば、個人が自己責任に基づいて株式などに資金を投じる動きも強まるだろう。企業にとって個人投資家は、投機的なファンドなどと違って経営をじっくりと見てくれる資金の出し手となりうる。これまでにも増して、企業が個人を引きつけるための努力が必要となる。例えばオリックスは昨年から、1カ月に2~3回の頻度で個人向けの会社説明会を開いている。個人マネーを成長の原資とした企業が、雇用創出やイノベーションを通じて成長の富を社会や個人に還元していく。そんな経済活性化の道筋を、さらに太く、確かなものとしたい。

<ICTを使った教育>
*4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/205623
(佐賀新聞 2015年7月8日) 佐賀県ICT教育改善検討委 学校現場の意見集約
 タブレット端末や電子黒板など佐賀県が推進しているICT(情報通信技術)教育について、県教委は7日、外部メンバーでつくる改善検討委員会の第3回会合を開いた。各委員がそれぞれの立場で意見を述べ、「知事も会の意見を参考にすると発言している。われわれは日和(ひよ)ることなく、思い通りに意見を出していきたい」と強調した。委員会は小中高の校長会や教職員組合の代表、PTA役員、学識者ら15人で構成する。山口知事は議会や会見で「現場の先生の意見を反映した形で検証してほしい」と発言していた。この日は、鳥栖工業高の籾井宏文教諭が「タブレット端末を配って終わり、ではなく、どう使えばいいのか、どういう成果を求めるのかを学校現場に示してほしい」と述べた。端末代の5万円の負担が家庭に重くのしかかっている現状や、基本ソフト(OS)としてウインドウズが適当かどうかといった機器の使い勝手についても疑問を呈した。事業責任者の福田孝義副教育長は「生徒負担をなくすために端末を学校の備品にすれば、自宅に持ち帰って学習効果を高めることができなくなる」と答えた。委員からは「持ち帰ることで得られる学習効果についての検証データを示すべきでは」「端末を購入できないのは教育の問題ではなく福祉の問題だ」などの意見が出た。検討委は過去2回、県教委からの事業説明や有識者の話を聞くことがメーンだった。次回は14日に開き、それまでの議論を山口知事に報告する。

*4-2:http://www.saga-s.co.jp/column/ictedu/23902/195013
(佐賀新聞 2015年6月8日) ICT最前線 学びをデザインするvol.001 佐賀西
■「学びの道具」に試行錯誤
 佐賀県内の公立高校でICT(情報通信技術)を活用した教育がスタートして1年がたった。教室では先生が電子黒板を使って授業を進め、生徒は机の上で開いたタブレット型パソコンに意見などを書き込む。自ら考え、学ぶかたちへと変容していく授業風景-。試行錯誤を重ねながら「学びの道具」としてのICTで、新しい教育をデザインしようと取り組む現場の最前線を月1回、報告する。第1回は、佐賀西高1年7組で世界史の授業を取材した。
■先生、時間効率の向上 生徒、多様な意見を共有
 授業は、中国・東アジア史。中国・漢時代から2千年間続いた体制を基本とした東アジアの国際体制は一体何が良かったのかを学び、考える授業だ。まずは平山智浩先生(47)が、電子黒板(70インチ、フルハイビジョン)に「中国の王朝交代を表した年表」を表示。電子黒板の画面を手で触ってスクロールすると、殷(いん)から後漢、後漢から唐、唐から清までの3つのスライドが示された。次に、授業で配ったプリントと同じ「唐と近隣諸国の地図」を表示。唐の部分に色を塗り、西アジアまで及んだ唐の領域を色分けした。さらに、明時代に南京からインドを経由しアフリカまで航海した「南海遠征航路地図」は、航路をアニメーションで表示。生徒は電子黒板を見ながら、プリントに要点を書き込んだ。授業の後半は、生徒個人の学習用のタブレット型パソコン(PC)を用いて意見を交換した。生徒は学習用PCを起動させ、教師と共有の「教材フォルダ」から当日の学習シートをローカルに保存し、自分の意見を記入した。その間、平山先生は教師用PCで各生徒のパソコンでの書き込み作業を確認できる「机間巡視機能」を使って学習シートをリアルタイムで確認。教室を動き回らなくても、生徒の意見を確認することや支援を必要としている生徒の把握ができるようになり、指導の効率向上と意見収集の時間短縮に効果が上がっているという。机間巡視機能には、生徒が書き込んだ学習シートを電子黒板に順次投影する機能もある。その際は無記名で表示でき、生徒は自分の意見を自由に書くことができるように配慮されてもいる。さらに、ほかのクラスで出された意見も電子黒板で紹介され、多様な考え方を共有できるようにも工夫が施されていた。生徒はこうした意見も参考に、自らの意見を加筆・訂正。中には、自分の意見と気づかなかった意見を区別するために、色を変えて書き込んでいる生徒もいた。最後に、生徒が事前にパワーポイントを使ってまとめていたレポートを電子黒板で紹介。アニメーションや矢印、吹き出しを使うなど随所に工夫がちりばめられ、生徒にとってもいい刺激になっているようだった。

*4-3:http://www.saga-s.co.jp/column/ictedu/23902/202685
(佐賀新聞 2015年6月30日) ICT最前線 学びをデザインするvol.002 致遠館
 「お気に入り」をテーマに、PCを使って携帯型音楽プレーヤーすごさを英語でスピーチする生徒。先生と他の生徒も説明に聞き入った=佐賀市の致遠館高学
■「お気に入り」英語とPCでプレゼン
 佐賀県内の公立高校で行われているICT(情報通信技術)を活用した授業。電子黒板や1人1台のタブレット型学習用パソコン(PC)を使い、新たな教育のかたちをデザインする取り組みを追うシリーズの第2回は、佐賀市の致遠館高校1年2組で英語の授業を取材した。
■3時限目「英語」
 「自分のお気に入りの物」をテーマに、生徒1人ひとりが英語でスピーチする。溝口健一郎先生(37)は終始、英語で授業を進める。
    ◇    ◇
 「Look at this(これを見てください)」。机を並び替えて5~6人の小グループをつくった教室の一角。生徒たちは1人ずつ順番に英語で「好きな物」をスピーチしていく。事前に準備した手書きのプリントの英語を読み上げながら、プレゼンテーションソフトの「パワーポイント」を使い、手元の学習用パソコン(PC)で資料や写真を見せながら発表した。あるグループの生徒が指し示した学習用PCの画面には、漫画本を全巻きれいに並べた写真が現れた。生徒は英語でスピーチを続けながら、画面をスライドする。すると、スピーチ内容に沿った写真などが次々に現れる。発表もいよいよクライマックスに差しかかり、主人公が大けがをした時の画像が現れた、と思ったら左右に小刻みに揺れ始めた。けがを負う“衝撃”をアニメーションで表現したのだ。見ていた生徒からは「おぉっ!」とどよめきが起こった。好きな物の題材は、以前使っていた愛用のランドセルだったり、家で飼っているペットだったりとさまざまだ。パワーポイントのスライドショーやアニメーションなどの機能を使いこなして分かりやすく伝えようとする生徒もいれば、逆に写真は少し見せるだけにとどめ、お気に入りのステッカーや文房具など実物を持ち出す生徒も。表現方法は生徒の自由に任されている。聞き手側の生徒は、プリントに発表者の発音や内容、アイコンタクトを取ったかなど5項目を評価して記入。最後に感想を書いて発表者に渡す。グループ全員が発表した後、クラス全員の前で発表する代表1人を選んだ。クラス全員の前で代表者が発表した後は、生徒同士が英語で質疑応答。質問は理解できても、英語での回答となると言葉に詰まる生徒もいたが、すかさず先生が駆け寄りアドバイス。何とか英語で回答して乗り切っていた。英語でスピーチする表現活動は初めての取り組みだった。プレゼンテーションの練習も兼ねた試みで、今後も学期に1~2回は実施する予定にしている。


PS(2015年7月25日追加):*5のように、細かく検討するのが地方議会のよいところだが、機器のトラブルに対応する支援員は学校ごとに一人置かなくても、市町で業者に委託しておけばよく、そのくらいの予算は出るだろう。「ICTの導入で具体的にどの程度学力が向上するのか」と言われると、やってみなくてはわからないが、これからは、農業、観光はじめ、あらゆる産業でICTを使いこなす必要があり、できない人は置いて行かれると考えた方が良い。

*5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/204040
(佐賀新聞 2015年7月3日) ICT教育で市町、「支援員、予算確保を」、県ICT利活用教育推進協
 佐賀県と各市町が連携してICT(情報通信技術)教育を進める県ICT利活用教育推進協議会が2日、県庁であった。市町の教育長や担当者が現状報告や意見交換を行い、複数の出席者が電子黒板などの機器トラブルに対応する支援員や予算の確保が難しい現状を訴えた。5月1日時点のまとめでは、1学級当たりの電子黒板整備率は、12市町で100%に達していない。ただ県教委によると、本年度中に全市町で達成するという。意見交換では「支援員の確保が厳しい」(鹿島市)、「支援員を1人確保しているが、突発事項があり1人では厳しい」(嬉野市)などの悩みが出た。基山町や上峰町からは予算確保が課題で「ICTの導入で具体的にどの程度学力が向上するのかを議員から問われる」との声も上がった。県が県立学校を対象に実施する支援体制と連動したサポートを求める声も出たが、県教委の福田孝義副教育長は「県立学校を抱え手いっぱい。まずは市町でできる範囲で行ってほしい。ただ、市町が困っていることに関しては一緒に解決策を探っていきたい」と話した。


PS(2015年7月25日追加):企業誘致したり、交流人口を増やしたりするためには交通の便も重要で、その流れの中で、長崎(日本が鎖国していた時代にオランダと貿易していた街)を終点とする九州新幹線西九州ルートのフル規格化の必要性は誰もが認めるところだ。私は、全線を高架化して一階部分を利用すれば、鉄道以外の収入も見込まれるため、建設によってむしろ利益を出すことも可能だと考える。

*6:http://qbiz.jp/article/67490/1/
(西日本新聞 2015年7月25日) 新幹線フル規格化、財政負担見直しを 武雄市が佐賀県に要望
 佐賀県の武雄市新幹線活用プロジェクト(会長・小松政市長)は24日、九州新幹線西九州ルートのフル規格化と沿線自治体の財政負担見直しを求める要望書を、県の副島良彦副知事に提出した。副島副知事は「地元の関心の高さをあらためて認識した」と述べるにとどめた。要望書は、現計画の在来線を使ったフリーゲージトレイン(軌間可変電車)では時短効果が小さく、試験運行もトラブルで昨年11月から休止していると指摘。フル規格化で全線を高架化し、安全性も確保するべきだと要望。国と自治体が折半する建設費も国の負担を増やすよう求めている。小松市長は「佐賀の発展にはフル規格化が不可欠。他の沿線自治体とも協力していきたい」と話している。


PS(2015.7.26追加):*7のように、人文社会系の見直しを求める文部科学省の通達があり、京都大学がこれに否定的であることは、これまでの京都大学の実績から見て納得できる。しかし、教育も、上のように文系出身の人が適している科目ばかりではなく、大学で一般教養さえ身に着ければ役に立つという時代でもない。そのため、大学が社会のニーズにあった知識や技術を習得する場所として機能することは重要であり、多くの生徒はそういう大学を選びたいのではないだろうか?

*7:http://www.kyoto-np.co.jp/education/article/20150726000015 (京都新聞 2015.7.26) 「人文系見直し」広がる波紋 文科省通達に国立大から異論印刷用画面を開く
 文学部の校舎が立ち並ぶ京都大吉田キャンパス。人文社会系の見直しを求める文部科学省の通達が波紋を広げている(京都市左京区) 国立大学に教員養成系や人文社会系の学部・大学院の組織見直しを求めた文部科学省の通達が、波紋を広げている。京都や滋賀では、京都大の山極寿一総長が人文社会系の廃止や縮小に否定的な考えを表明し、滋賀大の佐和隆光学長も国の方針に批判的な立場を取る。一方、地方の国立大学では既に、学部の再編や新設に乗り出す動きがある。
■学長ら批判
 「特に教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院については、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めること」。6月8日、2016年度から始まる国立大学の第3期中期目標を作る際の留意点を伝える通達の中で、文科省は各大学にこう求めた。教員養成系を挙げたのは、18歳人口の減少に伴う教員需要の縮小を見越した対応といえる。一方、人文社会系が標的になった背景には経済界の意向が強く働いたとみられている。企業の競争力強化には、理系や実践的な知識を身に付けた人材が必要という考え方だ。通達には国立大学の学長から強い異論が出ている。京大の山極総長は6月17日の記者との懇談で「大学は今すぐ役立つ人材でなく、未来に役立つ人材を育てるのが使命。人文社会系は教養として重要だ」と力説。多様な知識を身に付けた学生を送り出すためにも、人文社会系は不可欠とする持論を展開した。滋賀大の佐和学長は「政府の産業競争力会議に入っている財界人や学者は、人文社会系の教育が産業振興に貢献していないと考えている」と指摘する。世界の大学ランキングで上位に入る英米の大学で人文社会系の教育研究が活発なことを挙げ、「欧州では人文社会系の学問は存在感がある。批判精神のある人間を育てるためだ。国が大学のランキングを上げたいなら、人文社会系にこそ力を入れるべきだ」と訴える。
■交付金への影響懸念
 文科省はこれまでも、国立大学に教育研究の特色や社会的役割を見直すよう求めてきた。その流れを受け、地方の大学では、教員養成系や人文社会系の定員を減らし、国際教育や文理融合などの新学部を開設する構想が相次いでいる。福井大は2016年度に「国際地域学部」の開設を予定。既存の教育地域科学部の1課程を廃止して、60人分の定員に回す。宮崎大も教育文化学部の定員をほぼ半分に減らし、定員90人の「地域資源創成学部」の設置を計画する。滋賀大も例外ではない。大規模データの解析にたけた学生を育成する文理融合系の「データサイエンス学部」の開設を17年度に目指している。100人の定員は経済、教育の両学部からそれぞれ90人と10人を削減して充てる。背景には国立大学の懐事情がある。収益の4割近くは国が支出する大学運営費交付金。しかも国は今後、機能強化や組織改革の取り組み次第で配分額に差をつける方針だ。佐和学長は「何もせずに交付金を削られるのは耐え難い。時代を先取りした新学部開設で前向きに対応する」と話す。一方、京大は今のところ、学部や大学院の再編は打ち出していない。教育担当の北野正雄理事は「人文社会系だけを取り出して議論するものではないというのが学内の意見だ。学内全体で教員を柔軟に動かせる仕組みを取り入れ、新たな教育や学問分野をつくる」と説明する。


PS(2015年7月28日追加):*8-1に、「生徒は中学1年からいじめを受けていたとみられ、2年生になってもいじめに関して担任に相談していた」「生徒と担任間の『生活記録ノート』に『なぐられたり、けられたり、首しめられたり』と書かれている」「最近の欄で『ボクがいつ消えるかはわかりません』」などの自殺をほのめかす記載があり、いじめを受けていた生徒は担任に相談していたにもかかわらず、担任は生徒同士のトラブルと捉えて対応しなかったということだ。これでは、①いじめを行っている生徒への教育にならない ②周囲で黙って見ていた生徒たちの教育にもならない ③いじめを受けている生徒の人権や生命を護ることができない のだが、このようにうやむやにして放置することはよく行われているのではないだろうか?これでは、子どもを安心して学校に預けられず、学校での道徳教育も不十分だ。
 そして、そのように頼りない教育をしていれば、保護者から苦情が出るのは当然であり、*8-2の「教諭の7割以上が、保護者からの苦情対応に負担を感じている」という結果は真摯ではない。自信を持てる教育をしていれば、保護者から苦情があっても教育方針を説明して納得させることができるだろうし、そもそもクレームは、保護者が求める先生とのコミュニケーションであり、問題解決や改善の源である。また、「研修リポートの作成が負担」とした7割以上の教諭は、生徒に予習・復習を薦めたり宿題を出したりする資格はないだろう。何故なら、研修リポートの作成は、教諭自身の勉強に関する結果報告だからである。さらに、「国や教育委員会の調査対応」が9割近くで最も負担感が高かったそうだが、調査もせずに政策を決めれば机上の空論になるため、教諭であれば、必要十分な調査を行って自分たちで改善案を出せるくらいでなければ、生徒に指導することはできない筈だ。
 なお、「教諭の1日平均在校時間を調べると、小学校は11時間35分、中学校で12時間6分」だそうだが、学校の存在目的は、大人の楽な雇用を増やすことではなく、生徒に質の良い教育を行うことであるため、上のようなことを忙しさのせいにして省略することは許されない。むしろ、他の人ができることで教員の時間をとらないよう事務職を配置したり、余分な教諭を配置して新人の先生にはまず採点・ICT・雑用をやってもらうなど、他の良い解決方法を考えるべきだ。

    
   *8-2より  いじめについて    小中一貫校について   

*8-1:http://mainichi.jp/select/news/20150707k0000e040199000c.html
(毎日新聞 2015年7月7日) 岩手・中2死亡:いじめ自殺か 担任への提出ノートに記述
 岩手10+件県矢巾町で5日、同町の中学2年の男子生徒(13)が電車にひかれ死亡する事故があり、生徒が担任に提出していたノートに他の生徒からのいじめや自殺をほのめかす記述をしていたことが7日、分かった。同町教育委員会は、いじめによる自殺があったとみて調査を始めた。県警紫波署などによると、生徒は5日午後7時半ごろ、同町のJR東北線矢幅駅の線路上で、盛岡発一ノ関行き上り普通電車(4両編成)にひかれ、間もなく死亡した。生徒は線路に飛び込んだといい、自殺とみられる。町教委によると、生徒は中学1年からいじめを受けていたとみられ、2年生になってもいじめに関して担任に相談していたという。生徒と担任間の「生活記録ノート」には「なぐられたり、けられたり、首しめられたり」と書かれ、最近の欄で「ボクがいつ消えるかはわかりません」「ただ市(死)ぬ場所はきまってるんですけどね」などと、自殺をほのめかす記載があった。生徒の死亡を受け、学校は7日に全生徒を対象にアンケートを実施。夜に保護者会を開く。

*8-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11884643.html (朝日新聞 2015年7月28日) 保護者の苦情対応や研修報告書、先生の7割「負担」 文科省、公立小中調査
 公立小中学校の教職員は、どのような仕事に負担を感じているのか。文部科学省が初めて調べ、27日に発表した。教諭の7割以上が「保護者からの苦情対応」や「研修リポートの作成」をあげた。いずれも授業や生徒指導とは別の仕事だった。国際調査で、日本の中学教員の勤務時間が参加国で最長だったことを受けて実施した。全国の公立小中451校の11職種、計9848人を対象に、昨年11月時点の状況を尋ねた。教諭の1日の平均在校時間を調べると、小学校は11時間35分、中学校で12時間6分。その上で、業務を71に分けて負担に思うかを尋ねた。教諭のおおむね7割以上が従事する業務のうち、「負担」「どちらかと言えば負担」の合計が高かったのは「保護者や地域からの要望、苦情対応」など。負担感だけで見ると「国や教育委員会の調査対応」が9割近くで最も高かった。一方、昨年の国際調査で週7・7時間と参加国平均の3倍を上回った部活指導の負担感は、中学教諭でも48・5%と5割を切った。「負担だがやりがいがある」という答えが多かったという。授業や子どもと接する仕事は比較的負担感が低い項目が目立った。


PS(2015年7月28日追加):定住人口を増やすには雇用を増やすのが第一だが、ほかにも教育・保育をはじめ福祉を充実して家族の定住を誘致する方法がある。後者は、関東圏では既に著しい結果の出ている方法で、保育の待ち行列をなくすと移住が進み、再び待ち行列ができる状態だ。

*9:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/212662
(佐賀新聞 2015年7月28日) 5年で5千人を新規雇用 佐賀県版「総合戦略」
 佐賀県は27日、県版の地方創生の総合戦略案をまとめた。若者の県外流出を抑えるため、向こう5年間で5000人の新規雇用を創出するなど4つの基本目標を掲げている。パブリックコメントで8月21日まで意見を募り、9月定例県議会前までに県まち・ひと・しごと創生本部で決定する。関連法や県内人口の将来展望「県人口ビジョン」に基づき、具体的な施策と数値目標を定めた。既に策定した県の新総合計画が知事の任期に当たる4年間を目標にしているのに対し、2019年までの5年間の目標を設定している。基本目標に「安定した雇用を創出する」「本県への新しいひとの流れをつくる」「若い世代に結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「時代に合った地域をつくる」の4本柱を据えた。5000人の新規雇用は、企業誘致による正社員雇用や就農などで目指す。また県外からの移住を促進し、県内大学への進学率を高めるなどして、人口の社会減(転出超過)の減少幅を19年時点で年間1500人に抑える。交流人口の増加につなげるため、5年間で総数1500万人の宿泊観光客数を狙う。自発的な地域づくりに対して学識者らを派遣する取り組みは年々拡大し、60地域を目標にする。合計特殊出生率の目標は1・77と明記したが、さが創生推進課は「強制できるものではなく、子どもを産み育てたいと思う環境づくりを進める中で、結果として年少人口の減少を抑えることにつながれば」と説明している。


PS(2015年7月30日追加):ドクターヘリは、衆議院議員時代に私の提案で始まり、現在は佐賀県はじめ全国で運用されるようになった。今後は、救急でなくても離島や山間部ではヘリを使ってドクターが移動してもよいと思うが、ものすごく高価なヘリであるにもかかわらず、*10のように、心肺蘇生中の医師の腰にドアノブが引っかかってドアが開くようでは、医師も患者も安心して乗れない(心肺停止中の患者も驚いて飛び起きそうだ)。そのため、自動車並みにヘリの安全性を高めて騒音や振動をなくし、ヘリの価格を安くすれば、このシステムは世界(特に過疎地や道路事情の悪い国)でもヒットすると考える。

*10:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10102/213102
(佐賀新聞 2015年7月29日) ドクターヘリ飛行中ドア開く 佐大病院、部品落下か
 佐賀大学は28日、医学部附属病院が運航するドクターヘリ内部の部品が飛行中、ドアが開いた際に落下した恐れがあると発表した。乗員や搬送中の患者らにけがはなく、落下物による事故などの被害報告は入っていないという。落下したのはポリエステル製の日よけ部品で、縦38センチ、横51センチ、重さ55グラム。大学によると、27日午後0時37分ごろ、患者を搬送するため多久市から小城市にかけて上空約300メートルを飛行していたところ、心肺蘇生中の男性医師の腰にドアノブが引っかかり、ドアが開いた。運航後の点検で日よけの部品がなくなっていることが分かった。佐賀大学は「県民や関係機関にご迷惑と心配をおかけして深くおわび申し上げます」とコメントした。


PS(2015年8月19日追加):*11のように、積極的に新聞を使って「読む」「書く」「話す」などの能力を高めるのはよいと思うが、高学年では「分析する」能力も高めた方がよいと考える。例えば、「太平洋戦争中に、新聞はどう報道したか?」「安保締結時は・・」「高度成長期は・・」「バブルについては・・」「原発事故は・・」「沖縄基地問題は・・」等、既に事実と比較して答えのあるものから、まだ答えの出ていないものまで、各社の論調を比較して真実を探ることで、人によって書かれた歴史や言葉を鵜呑みにせず、事実に基づいて自分の考えをまとめる習慣を身につけることが重要である。また、文字を読むのがやっとという低学年向けには、新聞社が文字は平易で内容の充実した「子ども新聞」をネット上に展開すればよく、池上彰さんの解説のように、内容が充実していてわかりやすければ大人でも読むだろう。

*11:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/220175
(佐賀新聞 2015年8月19日) 学校教育に新聞活用 佐賀市でセミナー 教師ら実践例学ぶ
◆記事切り抜きレイアウト ゲーム感覚で片仮名探し
 新聞を使った学校教育の実践例を学ぶ「新聞活用セミナー」(佐賀新聞社、県教委主催)が18日、佐賀市のアバンセであった。朝の読書の時間に新聞を読んだり、気に入った記事をテーマに人前でスピーチするなど、子どもの「読む」「書く」「話す」能力を高める工夫を紹介した。山内中(武雄市)の江口成子教諭は、グループで話し合い、興味を持った記事を切り抜いて自分たちでレイアウトを考えたり、タイトルやコメントを付ける「新聞コラージュ」の実践を発表。「生徒が予想以上に主体的に取り組み、『またやりたい』という声が上がった」と報告した。南波多小(伊万里市)の野中佐栄子教諭は、低学年で片仮名を習った直後に、新聞記事の中からいくつ片仮名を見つけられるかをゲーム感覚で競うなど、新聞に親しむ手がかりになる取り組みを紹介。「子どもが興味を持つ記事はさまざまで教師自身の発見にもつながる」と話した。佐賀新聞社の井手研一販売局長は「新聞は次期学習指導要領の目玉となるアクティブラーニング(能動的学習)に最適」として、「有明抄」の書き写しノートや記者・デスクの出前講座などの活用を呼び掛けた。セミナーには教職員約80人が参加した。

| 教育・研究開発::2014.8~2016.11 | 04:08 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.7.21 集団的自衛権の行使が違憲なのではなく、自国防衛以外での武力行使が違憲なのである (2015.7.23追加あり)
    
  概略図        2015.7.18東京新聞      2015.6.21 2015.7.12東京新聞 
                                   日経新聞
            (図は、クリックすると拡大します)
(1)日米安全保障条約は集団的自衛権そのものであること
 *2の1960年にワシントンで締結された日米安全保障条約(以下、“日米安保条約”)に、「日米は、(中略)両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際平和と安全の維持に共通の関心を有することを考慮して日米安保条約を締結する」と書かれており、当時から、日本が個別的・集団的自衛権の両方を有していると認識していたことが明らかだ。そして、砂川事件判決は、安保条約の合憲性を争った違憲立法審査権の行使において、最高裁が地裁判決を覆して出した判決である(つまり、裁判所も判断が分かれた)。

 その日米安保条約は、5条で「①締約国は、日本国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃は自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて(重要)、共通の危険に対処するように行動することを宣言する」「②前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第51条に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない」「③その措置は、安全保障理事会が国際平和と安全を回復・維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない」としている。

 また、6条で、「①日本の安全と極東の平和・安全の維持に寄与するため、アメリカは、その陸・海・空軍が日本で施設や区域を使用することを許される」「②施設や区域の使用、日本におけるアメリカ軍の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日米間の安保条約第三条に基く行政協定に代わる別個の協定及び合意がなされれば、その取極により規律される」としている。つまり、日米安全保障条約の双務性は、日本の基地提供によって果たされており、日米の地位協定は、今後、変化する可能性もあるのだ。

 このほか、日米安保条約は、「2条:締約国は、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する」「3条:締約国は、継続的かつ効果的な自助・相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として(重要)、維持発展させる」「4条:締約国は、日本の安全や極東の平和・安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する」「7条:この条約は、国際連合憲章(以下、“国連憲章”)に基づく締約国の権利・義務や国際平和・安全の維持を行う国際連合の責任に対し、どのような影響も及ぼすものではない」、「8条:この条約は、日米のそれぞれの憲法上の手続に従つて批准されなければならない」「10条:この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も他の締約国に対して条約終了の意思を通告することができ、その場合はそのような通告が行なわれた後一年でこの条約は終了する」等を定めている。

(2)国連憲章と日本国憲法による戦争放棄の関係
 *3の国連憲章により、国際法上、日本が個別的及び集団的自衛権を有していることは、疑う余地もない。そして、国連憲章と国際司法裁判所は不可分であるため、国際司法裁判所に行っても、日本の集団的自衛権は認められる。そして、国際法は地球上に存在する国間のルールであるため、個別国の憲法や一般法より優先するが、個別的及び集団的自衛権は権利であるため、日本国憲法で放棄することが可能なのである。

 一方、日本国憲法は9条で、「①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」「②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」として戦争放棄しているが、自衛のみは認められると解釈されているため、「どこまでが自衛か」がポイントであり、「個別的」か「集団的」かという区別がポイントなのではない。

 そして、国連憲章51条に、「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際平和と安全維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない」と国際的に定められているため、個別的自衛権と集団的自衛権の境目を日本のみで通じる定義にすることはできない。

(3)安保関連法案衆院通過の経緯とその違憲性
 *1-1のように、政府・与党は「砂川事件の最高裁判決や過去の政府見解を踏まえたものであるため、安保関連法案は問題ない」と主張しているが、私も委員会質問や答弁を聞いていて、それぞれの事態における行使要件や行使内容が曖昧で国際基準からも外れている思った。その上、今回の安保関連法案に合わせるように、憲法改正を準備しているのは要注意だ。

 また、*1-3に書かれているとおり、その場限りの慰めで真面目に答えていない答弁も多く、内容を正確に説明しようという意欲に欠けていた。しかし、現在は、専門家を含む多様な人がインターネットで国会質問を視聴しているため、TVなどのマスメディアさえコントロールしておけばよいというのは甘い。TVの方は、国民を腑抜けにするのが目的であるかのように、スポーツ、事件、台風ばかりに長時間を割き、まともに安保関連法案を分析した局は少なく、編集者のレベルが疑われる程だったが、これにより、インターネットで国会中継を視聴できたか否かで国民の間に大きな情報格差が生まれただろう。

 もちろん、*1-2のように、「○○事態で地球の裏側まで武力行使が可能」というのは、国連憲章では認められていても日本国憲法で認められていないため違憲だ。また、本当に差し迫った国境警備についてはグレーゾーン事態とされ、変化がない。そのため、国民が安保法案の必要性を認めるには、逐条で従来の法律と新法案の比較、変更理由、上位法や国際法との整合性を一覧表にして議論すべきだ。

 しかし、全体として、私は、戦争に懲りて平和の理念に基づき文章が練られた国連憲章や日本国憲法と異なり、今回の安保関連法案は、筋が悪すぎて欠点を指摘して修正すれば済むというものではないため、*1-4、*1-5に書かれているとおり、廃案にして出直すしかないと思う。

<安保関連法案衆院通過の経緯>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150621&ng=DGKKZO88335600Q5A620C1TZJ000 (日経新聞 2015.6.21) 合憲性巡る議論再燃、集団的自衛権の行使容認 与野党、判決・学説挙げ激突
 集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案の国会審議で、合憲性を巡る議論が再燃している。政府・与党は過去の最高裁判決や政府見解を踏まえたもので問題はないと主張、民主党などは行使できる要件が曖昧なことや立憲主義の観点から憲法違反とみる。戦後、自衛権と9条の整合性が論じられてきたのを踏まえ、論争の構図を点検した。法案で認める集団的自衛権の限定行使を「合憲」とする政府・与党の主張は、1972年の政府見解を根拠とする。(1)憲法の下で自衛権を有する(2)国民の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処するため必要最小限度の範囲に限る――との内容だ。
●立憲主義で反論
 ただ、72年見解の結論は集団的自衛権の行使が「憲法上許されない」。政府は法案の下敷きとなる2014年7月の閣議決定で解釈を変えた。安保環境の変化を理由に、密接な関係にある他国への攻撃でも国民の権利が根底から覆される明白な危険があれば、自衛権を行使できるとの結論を導いた。見解の(1)と(2)の基本的論理も維持し、合憲と主張する。閣議決定時から憲法学者や野党から「立憲主義」の観点で違憲論が相次ぐ。立憲主義は憲法で国家権力を制限する考え方で、時の政権が憲法の解釈を大幅に変えるのに否定的だ。4日の衆院憲法審査会で自民党推薦で発言した長谷部恭男・早大教授は「従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない」と指摘。民主党も岡田克也代表が17日の党首討論で安保法案を「違憲だ」と断じた。そもそも終戦直後は自衛権を持つかが焦点だった。1946年、吉田茂首相は国会で、自衛権は一切ないとの立場を表明した。だが50年に「自衛権は存する」と軌道修正。この年、朝鮮戦争が起こり米国の求めに応じて警察予備隊が発足した。54年には自衛隊が創設され、政府は憲法9条の禁じる「戦力」にあたらないとの論理を採用したが、その合憲性は問われ続けた。最高裁が自衛権に関する判断を示したのが砂川事件判決だ。都内の米軍立川基地へのデモ隊乱入を契機に、米軍駐留の違憲性が争点となった。59年の最高裁判決は違憲とした第一審判決を破棄。自衛権については「自国の存立を全うするために必要な自衛の措置をとり得るのは当然」とした。
●砂川判決で補強
 安保関連法案の集団的自衛権行使容認で、政府・与党は砂川判決を根拠の補強材料とする。「自衛の措置」は個別的、集団的を明記せず「集団的自衛権行使が認められないと言っていない」(高村正彦自民党副総裁)とみる。田中耕太郎最高裁長官が補足意見で「厳格な意味での自衛の観念は存在せず、自衛はすなわち『他衛』、他衛はすなわち自衛という関係がある」と述べたのを、集団的自衛権行使の容認発言とみる向きもある。憲法学者の多くは批判する。長谷部氏は15日の記者会見で「問題とされたのは日米安保条約で、集団的自衛権の行使は争点になっていない」と強調した。これに対し、安保法案の合憲性を主張する百地章・日大教授は「(判決は)集団的自衛権を射程に入れていた」と指摘している。冷戦後は国際協力での自衛隊活動の範囲拡大の合憲性が論じられた。イラク派遣差し止めを巡る名古屋高裁判決で、航空自衛隊の空輸活動を違憲と判断した。安保関連法案も後方支援活動で「武力行使との一体化」を巡る議論がある。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015071202000124.html
(東京新聞 2015年7月12日) 自民「違憲」批判ショック 憲法審査会ブレーキ
 衆院憲法審査会の審議がストップしている。先月の審査会で、自民党推薦を含む参考人の憲法学者三人全員がそろって安全保障関連法案を「違憲」と批判したため、党執行部が安保法案審議への影響を懸念して、審査会開催にブレーキをかけたからだ。憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を可能にする安保法案の今国会成立を目指すと同時に、改憲に向けた審議も急ぐ両にらみの国会運営は進んでいない。六月四日の審査会で、参考人として出席した自民推薦の長谷部恭男・早稲田大教授のほか、民主推薦の小林節・慶応大名誉教授、維新推薦の笹田栄司・早稲田大教授の三氏全員が安保法案を「違憲」と指摘。法案の問題点がさらに鮮明になった。自民党執行部は、審査会の審議に関し「安保法案に影響のないやり方をしてほしい」(佐藤勉国対委員長)と求めた。審査会幹事を務める船田元・党憲法改正推進本部長は「審査会はしばらく休む予定だ」と明言。その時点で開催が決まっていた六月十五日の地方公聴会を最後に、審査会は開かれていない。昨年末の衆院選で、与党は衆院での改憲発議に必要な三分の二以上の議席を維持した。自民党は緊急事態条項や環境権の新設に絞った改憲なら各党の賛同を得やすいとみて、審査会の審議を急ごうとした。来年夏の参院選で、次世代などを含めた改憲勢力で三分の二以上の議席を参院でも確保して最初の改憲を実現し、二回目以降の改憲で九条見直しを視野に入れる。これに対し、審査会委員がいる党のうち、民主党は「安倍晋三首相の下での憲法論議は危ない」(岡田克也代表)と慎重。護憲を掲げる共産党は審議自体に反対で、公明党も審議を急いでいなかった。一方、世論の反対にもかかわらず、政府は五月に安保法案を国会に提出した。首相は提出に先立つ訪米時に「この夏までに成立させる」と表明。「国会無視だ」と野党が反発する中、法案審議が始まった。法案をめぐる与野党対立の余波が、審査会に及ぶのは時間の問題だった。参考人の違憲発言で当面は審査会を開けなくなり、首相周辺は「安保法案と改憲を同時に進めようとして、改憲スケジュールに影響が出てしまった」と悔やむ。自民党に改憲論議をせかされていた公明党幹部は「改憲、改憲と急ぐから、回り道する結果になるんだ」と皮肉った。
<憲法審査会> 憲法に関する総合的な調査や改正原案を審査する国会の機関。憲法改正手続きを定めた国民投票法に基づき2007年8月、衆参両院に設置された。委員数は衆院50人、参院45人で、各党の議席に基づき配分される。11年11月から実質的な審議が始まり、現在は改正が必要と主張する項目などをめぐる議論に入っている。改憲原案が提出された場合、両院の憲法審査会が審査後、両院でそれぞれ総議員の3分の2以上が賛成すれば60~180日の間に国民投票が実施される。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11867903.html (朝日新聞 2015年7月19日) (審議検証 安保法制:4)答弁あいまい、議論平行線 政府の裁量、確保狙う
 安倍政権は16日の衆院本会議で、安全保障関連法案を可決、通過させた。論戦の舞台が参院に移るのを前に、国会審議を検証する最終回は、首相らが詳細な説明を避けたり、はぐらかしたりする場面がなぜ多かったのか、議論が深まらなかった原因を考える。「残念ながら国民が十分に(法案を)理解している状況ではない」。今月15日。衆院特別委員会の最後の質疑で安倍晋三首相はこう認めつつ、その直後に採決に踏み切る正当性を強調した。「しかし国会議員は国民から責任を負託されている。国会議員は法案を理解したうえで議論をし、100時間を超える議論を行ってきた」。だが、特別委で116時間半を重ねた審議では、首相ら政府側が同じ答弁を繰り返したり、抽象的な表現でぼやかしたりする場面が目立った。正面から説明しない姿勢は、法案審議の初日から始まっていた。5月26日の衆院本会議。集団的自衛権の前提となる「存立危機事態」とは何か。自民の稲田朋美政調会長が「典型例とはどんな事態か」と問うと、首相はこう答えた。「典型例をあらかじめ示すことはできないが、国民生活に死活的な影響を生じるか否かを総合的に評価して判断する」。首相はその後も具体的な説明を求められると、「総合的に」「全般的に見て」「客観的に」判断するといった言い方を繰り返した。6月17日の党首討論では、民主の岡田克也代表が「どういう時に存立危機事態になるのか」とただした。だが、首相は「政策的な中身をさらすことにもなるから、そんなことをいちいち述べている海外のリーダーはほとんどいない」などと説明を拒んだ。岡田氏はこれに対し「今の答弁を聞いて、やはり(法案は)憲法違反と思った。何が憲法に合致し、何が違反するのか、法律できちんと決めなければいけない」「『客観的、合理的に判断』と言うのは判断の丸投げと一緒。白紙委任だ」などと激しく批判した。政府側が、法案の条文を読み上げて質問をやり過ごそうとする場面も目立った。野党は、後方支援での活動範囲を「非戦闘地域」から「戦闘が行われていない現場」に広げる危険性を再三ただしたが、中谷元・防衛相は、「戦闘現場となる場合はただちに活動を休止、中断する」との法案のくだりを繰り返した。なぜ、あいまいな答弁を繰り返すのか。今回の安保関連法案は集団的自衛権の行使も含め自衛隊の活動を飛躍的に拡大させる。米軍など他国軍による戦争に後方支援という形で関わる可能性も格段に増える。防衛省幹部は「将来、どんな事態が起きるのかは分からない。政府が裁量する幅はできるだけ広くしておきたい」と語る。そんな政権の姿勢が、詳しい説明を拒む首相らの答弁につながっている。具体的な説明を求める野党との議論は平行線のままだった。政府には、反対意見と向き合い、議論を深めようという態度も欠けていた。6月4日の憲法審査会で、参考人意見を述べた憲法学者3人から法案は「違憲」と指摘されると、菅義偉官房長官は会見で「『違憲じゃない』という著名な憲法学者もいっぱいいる」と反論。具体的な人数を問われると「数(の問題)ではない」とはぐらかした。首相の答弁にもこうした姿勢がにじんだ。5月28日の特別委では、民主議員に「早く質問しろ」とヤジを飛ばし、陳謝に追い込まれた。今月15日の特別委では、首相は法案への「国民の理解が進んでいない」と認めつつ、現時点での「無理解」は問題ではないとも取れる言葉が飛び出した。「60年安保(条約)改定時、PKO法案の時も国民の理解はなかなか進まなかった。しかしその後の実績を見て、多くの国民から理解や支持を得ている」。
■「邦人救出」語られず
 衆院では、ほとんど論じられなかった法案や論点も多い。特別委の浜田靖一委員長(自民)が採決後に「法案を10本束ねたのはいかがなものか」と漏らすほど、一括で質疑するには内容が多岐にわたっていたためだ。海外でテロリストや武装集団などに拘束された日本人を救出する「邦人救出」については、衆院特別委でほとんど議論されなかった。過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件などで紛争地のリスクに関心が高まったが、新たな安保法案でどこまで対処できるのかは語られなかった。法案では、国連平和維持活動(PKO)での自衛隊任務も拡大し、武器の使用基準も緩和される。これについても、踏み込んだ議論は少なかった。特別委の参考人質疑で、伊勢崎賢治・東京外大大学院教授は「停戦合意が破られても撤退できない」と、PKOの現場の危険性を指摘した。しかし、首相は野党の質問にも「停戦合意をはじめ参加5原則が前提」と原則論を述べるにとどまっている。安保法案と連動する形で、18年ぶりに改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)をめぐる議論も乏しかった。自衛隊は米軍にどこまで協力するのか。なぜ米軍以外にオーストラリア軍なども連携対象に追加するのか。安保政策と密接不可分な外交政策についても参院での論戦が期待される。

*1-4:http://www.y-mainichi.co.jp/news/27887/
(八重山毎日新聞社説 2015年7月18日) 首相「国民の理解進まず」も採決強行
■黒塗りされた内部文書
 16日、衆議院平和安全法制特別委員会で審議中の安全保障関連法案が怒号が飛び交うなか、自公両党の賛成多数で強行採決され17日参議院へ送られた。「安全保障法案」は憲法学者やマスコミの世論調査、自民党きっての防衛問題のエキスパートで、内閣の一員である石破茂地方創生担当大臣までが国民の理解を得られていないと発言するなかでである。安倍総理自身も委員会の答弁で「残念ながら国民の理解は進んでいる状況ではない」と述べ、浜田委員長は「法律を10本束ねたというのはいかがなものかと私も思っている」と述べるなど国民の理解を得られていないとしながら、なぜ強行採決をするのか。16日安倍首相は衆議院本会議での可決後「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。この認識のなかにおいて、日本国民の命を守り、戦争を未然に防ぐため絶対必要な法案だ」と述べた。参議院でも審議が行われるが、与党の賛成多数と「60日ルール」で法案成立は確実の情勢だ。戦後日本の安全保障政策は大転換し、積極的に戦争できる国になる。憲法を完全に空洞化させるこの法案が、国民を戦争に巻き込む危険極まりない法案であることは明白だ。15日の審議中、「陸上自衛隊イラク復興支援活動状況について」の黒塗りされた内部文書が問題とされ、取り上げられたが強行採決であいまいにされた。これは重大な問題である。秘密保護法を盾に議員や国会への報告書などが、黒塗りされ提出されたら、自衛隊の行動は全て秘密にされ主権者である国民の知る権利を奪うもので到底容認できない。秘密保護法も廃止すべきである。
■世論に背を向けた市議会決議
 強行採決の前日、石垣市議会が「安全保障関連法案」の早期成立を求める意見書を可決し百田尚樹氏や自民党議員などの報道圧力への抗議決議は否決した。石垣市は異常ではないか。中山市長が誕生して以来、尖閣問題を背景に中国脅威論をばらまき、市議会議員が魚釣島に上陸し、ナショナリズムをあおり、辺野古基地建設賛成を叫ぶなどどう考えても尋常ではない。基地の騒音被害など議員の目には映らないのだろうか。法が成立すれば沖縄の基地が強化され基地被害が拡大するのは目に見えているではないか。意見書は「わが国の安全を守るためには、日米間の安全保障、防衛協力体制を強化することが求められており、そのためには、平時からあらゆる事態に対処できる切れ目のない法制を整備する必要がある」「わが国の安全と国民の生命、そして国際社会の安全を確保するための平和安全法制について徹底した議論を進め、平和安全法制の今国会での成立を図るよう要望する」と結んでいる。危険極まりない法案を「平和安全法制」と呼べるだろうか。国民は「戦争法案」と呼んでいるのだ。石垣市議会が「徹底した議論を」と採択した翌日、衆議院特別委員会で強行採決した。議論は一夜で徹底したと市議会は思っているのだろうか。
■沖縄屈辱も抗議決議否決
 それとも、もう一度徹底した議論をと意見書を出すのだろうか。「報道機関への言論圧力および沖縄県民侮辱発言への抗議」が否決された。反対意見を述べた議員は「決議文の内容は作家の百田尚樹氏の発言を問題視しすぎており、表現の自由に対する抗議決議だ」と述べている。表現の自由なら何でも許され、抗議もできないというのか。県民や県紙への侮辱を侮辱と感じない議員たちが、平和憲法を空洞化させ、世論に背を向けた時代錯誤の決議や否決愚行では議会史上最大の汚点であろう。

*1-5:http://www.asahi.com/paper/editorial.html
(朝日新聞社説 2015年6月16日) 「違憲」の安保法制―廃案で出直すしかない
 国会で審議されている法案の正当性がここまで揺らぐのは、異常な事態だ。安倍内閣が提出した安全保障関連法の一括改正案と「国際平和支援法案」は、憲法違反の疑いが極めて濃い。その最終判断をするのは最高裁だとしても、憲法学者からの警鐘や、「この国会で成立させる必要はない」との国民の声を無視して審議を続けることは、「法治への反逆」というべき行為である。維新の党が対案を出すというが、与党との修正協議で正されるレベルの話ではない。いったん廃案とし、安保政策の議論は一からやり直すしかない。
■説明つかぬ合憲性
 そもそもの間違いの始まりは集団的自衛権の行使を認めた昨年7月1日の安倍内閣の閣議決定である。内閣が行使容認の根拠としたのは、集団的自衛権と憲法との関係を整理した1972年の政府見解だ。この見解は、59年の砂川事件最高裁判決の一部を取り込み、次のような構成をとっている。
 ①わが国の存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを9条は禁じていない。
 ②しかし、その措置は必要最小限の範囲にとどまるべきだ。
 ③従って、他国に加えられた武力攻撃を阻止する集団的自衛権の行使は許されない。
 歴代内閣はこの考え方をもとに次のように説明してきた。日本は国際法上は集団的自衛権を持っているが、憲法上は集団的自衛権を行使できない。行使できるようにするためには、憲法の改正が必要だ――。ところが閣議決定は、①と②はそのままに、③の結論だけを必要最小限の集団的自衛権は行使できると改めた。前提となる理屈は同じなのに結論だけを百八十度ひっくり返す。政府はその理由を「安全保障環境の根本的な変容」と説明するが、環境が変われば黒を白にしてよいというのだろうか。この根本的な矛盾を、政府は説明できていない。入り口でのボタンの掛け違いが、まっとうな安全保障の議論を妨げている。
■安保政策が不安定に
 この閣議決定をもとに法案を成立させるのは、違憲の疑いをうやむやにして、立法府がお墨付きを与えるということだ。その結果として可能になるのが、これまでとは次元の異なる自衛隊の活動である。限定的とはいいながら、米国など他国への攻撃に自衛隊が反撃できるようになる。政府の判断次第で世界中で他国軍を後方支援できるようになる。弾薬を補給し、戦闘機に給油する。これらは軍事的には戦闘と表裏一体の兵站(へいたん)にほかならない。9条のもと、私たちが平和国家のあるべき姿として受け入れてきた「専守防衛の自衛隊」にここまでさせるのである。リスクが高まらないわけがない。世界が日本に持っていたイメージも一変する。その是非を、国民はまだ問われてはいない。昨年の衆院選は、間違いなくアベノミクスが争点だった。このとき安倍氏に政権を委ねた有権者の中に、こんなことまで任せたと言う人はどれだけいるのか。首相が国民の安全を守るために必要だというのなら、9条改正を提起し、96条の手続きに従って、最後は国民投票で承認を得なければならない。目的がどんなに正しいとしても、この手続きを回避することは立憲主義に明らかに反する。数を頼みに国会を通しても、国民の理解と合意を得ていない「使えない法律」ができて、混乱を招くだけだ。将来、イラク戦争のような「間違った戦争」に米国から兵站の支援を求められた時、政府はどう対応するのか。住民への給水などかつて自衛隊が実施した復興支援とは訳が違う。派遣すれば国民は反発し、違憲訴訟も提起されるに違いない。断れば、日米同盟にヒビが入る。かえって安全保障体制は不安定になる。憲法学者から「違憲」との指摘を受けた後の対応を見ると、政権の憲法軽視は明らかだ。砂川事件で最高裁がとった「統治行為論」を盾に、「決めるのは我々だ」と言い募るのは、政治家の「責任」というより「おごり」だ。
■憲法の後ろ盾は国民
 先の衆院憲法審査会で、小林節慶大名誉教授がこんな警告を発している。「憲法は最高権力を縛るから、最高法という名で神棚に載ってしまう。逆に言えば後ろ盾は何もない。ただの紙切れになってしまう。だから、権力者が開き直った時にはどうするかという問題に常に直面する」。権力者が開き直り、憲法をないがしろにしようとしているいまこそ、一人ひとりの主権者が憲法の後ろ盾となって、声を上げ続けるしかない。「憲法を勝手に変えるな」。

<日米安全保障条約>
*2:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html
(1960年1月19日@ワシントン) 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
 日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。
第一条
 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第二条
 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
第三条
 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第四条
 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第五条
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
第七条
 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
第八条
 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。
第九条
 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
第十条
 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。
 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。
 千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国のために
 岸信介
 藤山愛一郎
 石井光次郎
 足立正
 朝海浩一郎
アメリカ合衆国のために
 クリスチャン・A・ハーター
 ダグラス・マックアーサー二世
 J・グレイアム・パースンズ

<国連憲章>
*3:http://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/ (国連憲章)
<序>
 国際連合憲章は、国際機構に関する連合国会議の最終日の、1945年6月26日にサンフランシスコにおいて調印され、1945年10月24日に発効した。国際司法裁判所規程は国連憲章と不可分の一体をなす。国連憲章第23条、第27条および第61条の改正は、1963年12月17日に総会によって採択され、1965年8月31日に発効した。1971年12月20日、総会は再び第61条の改正を決議、1973年9月24日発効した。1965年12月20日に総会が採択した第109条の改正は、1968 年6月12日発効した。第23条の改正によって、安全保障理事会の理事国は11から15カ国に増えた。第27条の改正によって、手続き事項に関する安全保障理事会の表決は9理事国(改正以前は7)の賛成投票によって行われ、その他のすべての事項に関する表決は、5常任理事国を含む9理事国(改正以前は7)の賛成投票によって行われる。1965年8月31日発効した第61条の改正によって、経済社会理事会の理事国数は18から27に増加した。1973年9月24日発効した2回目の61条改正により、同理事会理事国数はさらに、54に増えた。第109条1項の改正によって、国連憲章を再審議するための国連加盟国の全体会議は、総会構成国の3分の2の多数と安全保障理事会のいずれかの9 理事国(改正前は7)の投票によって決定される日と場所で開催されることになった。但し、第10通常総会中に開かれる憲章改正会議の審議に関する109条 3項中の「安全保障理事会の7理事国の投票」という部分は改正されなかった。1955年の第10総会及び安全保障理事会によって、この項が発動された。
<国際連合憲章>
 われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互いに平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いることを決意して、 これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。よって、われらの各自の政府は、サン・フランシスコ市に会合し、全権委任状を示してそれが良好妥当であると認められた代表者を通じて、この国際連合憲章に同意したので、ここに国際連合という国際機構を設ける。
 第1章 目的及び原則    第2章 加盟国の地位    第3章 機 関    第4章 総 会  
 第5章 安全保障理事会    第6章 紛争の平和的解決    
 第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動   第8章 地域的取極
 第9章 経済的及び社会的国際協力    第10章 経済社会理事会    
 第11章 非自治地域に関する宣言   第12章 国際信託統治制度   第13章 信託統治理事会
 第14章 国際司法裁判所   第15章 事務局   第16章 雑則   
 第17章 安全保障の過渡的規定   第18章 改正    第19章 批准及び署名  
第1章 目的及び原則  
第1条
国際連合の目的は、次のとおりである。
1.国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整または解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。
2.人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。
3.経済的、社会的、文化的または人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語または宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。
4.これらの共通の目的の達成に当たって諸国の行動を調和するための中心となること。
第2条
この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。
1.この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
2.すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。
3.すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4.すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
5.すべての加盟国は、国際連合がこの憲章に従ってとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合の防止行動又は強制行動の対象となっているいかなる国に対しても援助の供与を慎まなければならない。
6.この機構は、国際連合加盟国ではない国が、国際の平和及び安全の維持に必要な限り、これらの原則に従って行動することを確保しなければならない。
7.この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。但し、この原則は、第7章に基く強制措置の適用を妨げるものではない。
第2章 加盟国の地位
第3条
国際連合の原加盟国とは、サン・フランシスコにおける国際機構に関する連合国会議に参加した国又はさきに1942年1月1日の連合国宣言に署名した国で、この憲章に署名し、且つ、第110条に従ってこれを批准するものをいう。
第4条
1.国際連合における加盟国の地位は、この憲章に掲げる義務を受託し、且つ、この機構によってこの義務を履行する能力及び意思があると認められる他のすべての平和愛好国に開放されている。
2.前記の国が国際連合加盟国となることの承認は、安全保障理事会の勧告に基いて、総会の決定によって行われる。
第5条
安全保障理事会の防止行動または強制行動の対象となった国際連合加盟国に対しては、総会が、安全保障理事会の勧告に基づいて、加盟国としての権利及び特権の行使を停止することができる。これらの権利及び特権の行使は、安全保障理事会が回復することができる。
第6条
この憲章に掲げる原則に執拗に違反した国際連合加盟国は、総会が、安全保障理事会の勧告に基いて、この機構から除名することができる。
第3章 機関
第7条
1.国際連合の主要機関として、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会、国際司法裁判所及び事務局を設ける。
2.必要と認められる補助機関は、この憲章に従って設けることができる。
第8条
国際連合は、その主要機関及び補助機関に男女がいかなる地位にも平等の条件で参加する資格があることについて、いかなる制限も設けてはならない。
第4章 総会
【構成】
第9条
1.総会は、すべての国際連合加盟国で構成する。
2.各加盟国は、総会において5人以下の代表者を有するものとする。
【任務及び権限】
第10条
総会は、この憲章の範囲内にある問題若しくは事項又はこの憲章に規定する機関の権限及び任務に関する問題若しくは事項を討議し、並びに、第12条に規定する場合を除く外、このような問題又は事項について国際連合加盟国若しくは安全保障理事会又はこの両者に対して勧告をすることができる。
第11条
1.総会は、国際の平和及び安全の維持についての協力に関する一般原則を、軍備縮小及び軍備規制を律する原則も含めて、審議し、並びにこのような原則について加盟国若しくは安全保障理事会又はこの両者に対して勧告をすることができる。
2.総会は、国際連合加盟国若しくは安全保障理事会によって、又は第35条2に従い国際連合加盟国でない国によって総会に付託される国際の平和及び安全の維持に関するいかなる問題も討議し、並びに、第12条に規定する場合を除く外、このような問題について、1若しくは2以上の関係国又は安全保障理事会あるいはこの両者に対して勧告をすることができる。このような問題で行動を必要とするものは、討議の前または後に、総会によって安全保障理事会に付託されなければならない。
3.総会は、国際の平和及び安全を危くする虞のある事態について、安全保障理事会の注意を促すことができる。
4.本条に掲げる総会の権限は、第10条の一般的範囲を制限するものではない。
第12条
1.安全保障理事会がこの憲章によって与えられた任務をいずれかの紛争または事態について遂行している間は、総会は、安全保障理事会が要請しない限り、この紛争又は事態について、いかなる勧告もしてはならない。
2.事務総長は、国際の平和及び安全の維持に関する事項で安全保障理事会が取り扱っているものを、その同意を得て、会期ごとに総会に対して通告しなければならない。事務総長は、安全保障理事会がその事項を取り扱うことをやめた場合にも、直ちに、総会又は、総会が開会中でないときは、国際連合加盟国に対して同様に通告しなければならない。
第13条
1.総会は、次の目的のために研究を発議し、及び勧告をする。
a.政治的分野において国際協力を促進すること並びに国際法の斬新的発達及び法典化を奨励すること。
b.経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的分野において国際協力を促進すること並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を実現するように援助すること。
2.前記の1bに掲げる事項に関する総会の他の責任、任務及び権限は、第9章及び第10章に掲げる。
第14条
第12条の規定を留保して、総会は、起因にかかわりなく、一般的福祉または諸国間の友好関係を害する虞があると認めるいかなる事態についても、これを平和的に調整するための措置を勧告することができる。この事態には、国際連合の目的及び原則を定めるこの憲章の規定の違反から生ずる事態が含まれる。
第15条
1.総会は、安全保障理事会から年次報告及び特別報告を受け、これを審議する。この報告は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を維持するために決定し、又はとった措置の説明を含まなければならない。
2.総会は、国際連合の他の機関から報告を受け、これを審議する。
第16条
総会は、第12章及び第13章に基いて与えられる国際信託統治制度に関する任務を遂行する。この任務には、戦略地区として指定されない地区に関する信託統治協定の承認が含まれる。
第17条
1.総会は、この機構の予算を審議し、且つ、承認する。
2.この機構の経費は、総会によって割り当てられるところに従って、加盟国が負担する。
3.総会は、第57条に掲げる専門機関との財政上及び予算上の取極を審議し、且つ、承認し、並びに、当該専門機関に勧告をする目的で、この専門機関の行政的予算を検査する。
【表決】
第18条
1.総会の各構成国は、1個の投票権を有する。
2.重要問題に関する総会の決定は、出席し且つ投票する構成国の3分の2の多数によって行われる。重要問題には、国際の平和及び安全の維持に関する勧告、安全保障理事会の非常任理事国の選挙、経済社会理事会の理事国の選挙、第86条1cによる信託統治理事会の理事国の選挙、新加盟国の国際連合への加盟の承認、加盟国としての権利及び特権の停止、加盟国の除名、信託統治制度の運用に関する問題並びに予算問題が含まれる。
3.その他の問題に関する決定は、3分の2の多数によって決定されるべき問題の新たな部類の決定を含めて、出席し且つ投票する構成国の過半数によって行われる。
第19条
この機構に対する分担金の支払が延滞している国際連合加盟国は、その延滞金の額がその時までの満2年間にその国から支払われるべきであった分担金の額に等しいか又はこれをこえるときは、総会で投票権を有しない。但し、総会は、支払いの不履行がこのような加盟国にとってやむを得ない事情によると認めるときは、その加盟国に投票を許すことができる。
【手続】
第20条
総会は、年次通常会期として、また、必要がある場合に特別会期として会合する。特別会期は、安全保障理事会の要請又は国際連合加盟国の過半数の要請があったとき、事務総長が招集する。
第21条
総会は、その手続規則を採択する。総会は、その議長を会期ごとに選挙する。
第22条
総会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる。
第5章 安全保障理事会
【構成】
第23条
1.安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。総会は、第一に国際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに対する国際連合加盟国の貢献に、更に衡平な地理的分配に特に妥当な考慮を払って、安全保障理事会の非常任理事国となる他の10の国際連合加盟国を選挙する。
2.安全保障理事会の非常任理事国は、2年の任期で選挙される。安全保障理事会の理事国の定数が11から15に増加された後の第1回の非常任理事国の選挙では、追加の4理事国のうち2理事国は、1年の任期で選ばれる。退任理事国は、引き続いて再選される資格はない。
3.安全保障理事会の各理事国は、1人の代表を有する。
【任務及び権限】
第24条
1.国際連合の迅速且つ有効な行動を確保するために、国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせるものとし、且つ、安全保障理事会がこの責任に基く義務を果すに当って加盟国に代って行動することに同意する。
2.前記の義務を果すに当たっては、安全保障理事会は、国際連合の目的及び原則に従って行動しなければならない。この義務を果たすために安全保障理事会に与えられる特定の権限は、第6章、第7章、第8章及び第12章で定める。
3.安全保障理事会は、年次報告を、また、必要があるときは特別報告を総会に審議のため提出しなければならない。
第25条
国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する。
第26条
世界の人的及び経済的資源を軍備のために転用することを最も少くして国際の平和及び安全の確立及び維持を促進する目的で、安全保障理事会は、軍備規制の方式を確立するため国際連合加盟国に提出される計画を、第47条に掲げる軍事参謀委員会の援助を得て、作成する責任を負う。
【表決】
第27条
1.安全保障理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
2.手続事項に関する安全保障理事会の決定は、9理事国の賛成投票によって行われる。
3.その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。但し、第6章及び第52条3に基く決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない。
【手続】
第28条
1.安全保障理事会は、継続して任務を行うことができるように組織する。このために、安全保障理事会の各理事国は、この機構の所在地に常に代表者をおかなければならない。
2.安全保障理事会は、定期会議を開く。この会議においては、各理事国は、希望すれば、閣員または特に指名する他の代表者によって代表されることができる。
3.安全保障理事会は、その事業を最も容易にすると認めるこの機構の所在地以外の場所で、会議を開くことができる。
第29条
安全保障理事会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる。
第30条
安全保障理事会は、議長を選定する方法を含むその手続規則を採択する。
第31条
安全保障理事会の理事国でない国際連合加盟国は、安全保障理事会に付託された問題について、理事会がこの加盟国の利害に特に影響があると認めるときはいつでも、この問題の討議に投票権なしで参加することができる。
第32条
安全保障理事会の理事国でない国際連合加盟国又は国際連合加盟国でない国は、安全保障理事会の審議中の紛争の当事者であるときは、この紛争に関する討議に投票権なしで参加するように勧誘されなければならない。安全保障理事会は、国際連合加盟国でない国の参加のために公正と認める条件を定める。
第6章 紛争の平和的解決
第33条
1.いかなる紛争でも継続が国際の平和及び安全の維持を危うくする虞のあるものについては、その当事者は、まず第一に、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない。
2.安全保障理事会は、必要と認めるときは、当事者に対して、その紛争を前記の手段によって解決するように要請する。
第34条
安全保障理事会は、いかなる紛争についても、国際的摩擦に導き又は紛争を発生させる虞のあるいかなる事態についても、その紛争または事態の継続が国際の平和及び安全の維持を危うくする虞があるかどうかを決定するために調査することができる。
第35条
1.国際連合加盟国は、いかなる紛争についても、第34条に掲げる性質のいかなる事態についても、安全保障理事会又は総会の注意を促すことができる。
2.国際連合加盟国でない国は、自国が当事者であるいかなる紛争についても、この憲章に定める平和的解決の義務をこの紛争についてあらかじめ受諾すれば、安全保障理事会又は総会の注意を促すことができる。
3.本条に基いて注意を促された事項に関する総会の手続は、第11条及び第12条の規定に従うものとする。
第36条
1.安全保障理事会は、第33条に掲げる性質の紛争又は同様の性質の事態のいかなる段階においても、適当な調整の手続又は方法を勧告することができる。
2.安全保障理事会は、当事者が既に採用した紛争解決の手続を考慮に入れなければならない。
3.本条に基いて勧告をするに当っては、安全保障理事会は、法律的紛争が国際司法裁判所規程の規定に従い当事者によって原則として同裁判所に付託されなければならないことも考慮に入れなければならない。
第37条
1.第33条に掲げる性質の紛争の当事者は、同条に示す手段によってこの紛争を解決することができなかったときは、これを安全保障理事会に付託しなければならない。
2.安全保障理事会は、紛争の継続が国際の平和及び安全の維持を危うくする虞が実際にあると認めるときは、第36条に基く行動をとるか、適当と認める解決条件を勧告するかのいずれかを決定しなければならない。
第38条
第33条から第37条までの規定にかかわらず、安全保障理事会は、いかなる紛争についても、すべての紛争当事者が要請すれば、その平和的解決のためにこの当事者に対して勧告をすることができる。
第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動
第39条
安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。
第40条
事態の悪化を防ぐため、第39条の規定により勧告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当時者がこの暫定措置に従わなかったときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。
第41条
安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。
第42条
安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。
第43条
1.国際の平和及び安全の維持に貢献するため、すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基き且つ1又は2以上の特別協定に従って、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する。この便益には、通過の権利が含まれる。
2.前記の協定は、兵力の数及び種類、その出動準備程度及び一般的配置並びに提供されるべき便益及び援助の性質を規定する。
3.前記の協定は、安全保障理事会の発議によって、なるべくすみやかに交渉する。この協定は、安全保障理事会と加盟国との間又は安全保障理事会と加盟国群との間に締結され、且つ、署名国によって各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない。
第44条
安全保障理事会は、兵力を用いることに決定したときは、理事会に代表されていない加盟国に対して第43条に基いて負った義務の履行として兵力を提供するように要請する前に、その加盟国が希望すれば、その加盟国の兵力中の割当部隊の使用に関する安全保障理事会の決定に参加するようにその加盟国を勧誘しなければならない。
第45条
国際連合が緊急の軍事措置をとることができるようにするために、加盟国は、合同の国際的強制行動のため国内空軍割当部隊を直ちに利用に供することができるように保持しなければならない。これらの割当部隊の数量及び出動準備程度並びにその合同行動の計画は、第43条に掲げる1又は2以上の特別協定の定める範囲内で、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が決定する。
第46条
兵力使用の計画は、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が作成する。
第47条
1.国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の軍事的要求、理事会の自由に任された兵力の使用及び指揮、軍備規制並びに可能な軍備縮小に関するすべての問題について理事会に助言及び援助を与えるために、軍事参謀委員会を設ける。
2.軍事参謀委員会は、安全保障理事会の常任理事国の参謀総長又はその代表者で構成する。この委員会に常任委員として代表されていない国際連合加盟国は、委員会の責任の有効な遂行のため委員会の事業へのその国の参加が必要であるときは、委員会によってこれと提携するように勧誘されなければならない。
3.軍事参謀委員会は、安全保障理事会の下で、理事会の自由に任された兵力の戦略的指導について責任を負う。この兵力の指揮に関する問題は、後に解決する。
4.軍事参謀委員会は、安全保障理事会の許可を得て、且つ、適当な地域的機関と協議した後に、地域的小委員会を設けることができる。
第48条
1.国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の決定を履行するのに必要な行動は、安全保障理事会が定めるところに従って国際連合加盟国の全部または一部によってとられる。
2.前記の決定は、国際連合加盟国によって直接に、また、国際連合加盟国が参加している適当な国際機関におけるこの加盟国の行動によって履行される。
第49条
国際連合加盟国は、安全保障理事会が決定した措置を履行するに当って、共同して相互援助を与えなければならない。
第50条
安全保障理事会がある国に対して防止措置又は強制措置をとったときは、他の国でこの措置の履行から生ずる特別の経済問題に自国が当面したと認めるものは、国際連合加盟国であるかどうかを問わず、この問題の解決について安全保障理事会と協議する権利を有する。
第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
第8章 地域的取極
第52条
1.この憲章のいかなる規定も、国際の平和及び安全の維持に関する事項で地域的行動に適当なものを処理するための地域的取極又は地域的機関が存在することを妨げるものではない。但し、この取極又は機関及びその行動が国際連合の目的及び原則と一致することを条件とする。
2.前記の取極を締結し、又は前記の機関を組織する国際連合加盟国は、地方的紛争を安全保障理事会に付託する前に、この地域的取極または地域的機関によってこの紛争を平和的に解決するようにあらゆる努力をしなければならない。
3.安全保障理事会は、関係国の発意に基くものであるか安全保障理事会からの付託によるものであるかを問わず、前記の地域的取極又は地域的機関による地方的紛争の平和的解決の発達を奨励しなければならない。
4.本条は、第34条及び第35条の適用をなんら害するものではない。
第53条
1.安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
2.本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。
第54条
安全保障理事会は、国際の平和及び安全の維持のために地域的取極に基いて又は地域的機関によって開始され又は企図されている活動について、常に充分に通報されていなければならない。
第9章 経済的及び社会的国際協力
第55条
人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の平和的且つ友好的関係に必要な安定及び福祉の条件を創造するために、国際連合は、次のことを促進しなければならない。
a.一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的及び社会的の進歩及び発展の条件
b.経済的、社会的及び保健的国際問題と関係国際問題の解決並びに文化的及び教育的国際協力
c.人種、性、言語または宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守
第56条
すべての加盟国は、第55条に掲げる目的を達成するために、この機構と協力して、共同及び個別の行動をとることを誓約する。
第57条
1.政府間の協定によって設けられる各種の専門機関で、経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的分野並びに関係分野においてその基本的文書で定めるところにより広い国際的責任を有するものは、第63条の規定に従って国際連合と連携関係をもたされなければならない。
2.こうして国際連合と連携関係をもたされる前記の機関は、以下専門機関という。
第58条
この機構は、専門機関の政策及び活動を調整するために勧告をする。
第59条
この機構は、適当な場合には、第55条に掲げる目的の達成に必要な新たな専門機関を設けるために関係国間の交渉を発議する。
第60条
この章に掲げるこの機構の任務を果たす責任は、総会及び、総会の権威の下に、経済社会理事会に課せられる。理事会は、このために第10章に掲げる権限を有する。
第10章 経済社会理事会
【構成】
第61条
1.経済社会理事会は、総会によって選挙される54の国際連合加盟国で構成する。
2.3の規定を留保して、経済社会理事会の18理事国は、3年の任期で毎年選挙される。退任理事国は、引き続いて再選される資格がある。
3.経済社会理事会の理事国の定数が27から54に増加された後の第1回の選挙では、その年の終わりに任期が終了する9理事国に代って選挙される理事国に加えて、更に27理事国が選挙される。このようにして選挙された追加の27理事国のうち、総会の定めるところに従って、9理事国の任期は1年の終りに、他の9理事国の任期は2年の終りに終了する。
4.経済社会理事会の各理事国は、1人の代表者を有する。
第62条
1.経済社会理事会は、経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的国際事項並びに関係国際事項に関する研究及び報告を行い、または発議し、並びにこれらの事項に関して総会、国際連合加盟国及び関係専門機関に勧告をすることができる。
2.理事会は、すべての者のための人権及び基本的自由の尊重及び遵守を助長するために、勧告をすることができる。
3.理事会は、その権限に属する事項について、総会に提出するための条約案を作成することができる。
4.理事会は、国際連合の定める規則に従って、その権限に属する事項について国際会議を招集することができる。
第63条
1.経済社会理事会は、第57条に掲げる機関のいずれとの間にも、その機関が国際連合と連携関係をもたされるについての条件を定める協定を締結することができる。この協定は、総会の承認を受けなければならない。
2.理事会は、専門機関との協議及び専門機関に対する勧告並びに総会及び国際連合加盟国に対する勧告によって、専門機関の活動を調整することができる。
第64条
1.経済社会理事会は、専門機関から定期報告を受けるために、適当な措置をとることができる。理事会は、理事会の勧告と理事会の権限に属する事項に関する総会の勧告とを実施するためにとられた措置について報告を受けるため、国際連合加盟国及び専門機関と取極を行うことができる。
2.理事会は、前記の報告に関するその意見を総会に通報することができる。
第65条
経済社会理事会は、安全保障理事会に情報を提供することができる。経済社会理事会は、また、安全保障理事会の要請があったときは、これを援助しなければならない。
第66条
1.経済社会理事会は、総会の勧告の履行に関して、自己の権限に属する任務を遂行しなければならない。
2.理事会は、国際連合加盟国の要請があったとき、又は専門機関の要請があったときは、総会の承認を得て役務を提供することができる。
3.理事会は、この憲章の他の箇所に定められ、または総会によって自己に与えられるその他の任務を遂行しなければならない。
【表決】
第67条
1.経済社会理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
2.経済社会理事会の決定は、出席し且つ投票する理事国の過半数によって行われる。
【手続】
第68条
経済社会理事会は、経済的及び社会的分野における委員会、人権の伸張に関する委員会並びに自己の任務の遂行に必要なその他の委員会を設ける。
第69条
経済社会理事会は、いずれの国際連合加盟国に対しても、その加盟国に特に関係のある事項についての審議に投票権なしで参加するように勧誘しなければならない。
第70条
経済社会理事会は、専門機関の代表者が理事会の審議及び理事会の設ける委員会の審議に投票権なしで参加するための取極並びに理事会の代表者が専門機関の審議に参加するための取極を行うことができる。
第71条
経済社会理事会は、その権限内にある事項に関係のある民間団体と協議するために、適当な取極を行うことができる。この取極は、国際団体との間に、また、適当な場合には、関係のある国際連合加盟国と協議した後に国内団体との間に行うことができる。
第72条
1.経済社会理事会は、議長を選定する方法を含むその手続規則を採択する。
2.経済社会理事会は、その規則に従って必要があるときに会合する。この規則は、理事国の過半数の要請による会議招集の規定を含まなければならない。
第11章 非自治地域に関する宣言
第73条
人民がまだ完全に自治を行うに至っていない地域の施政を行う責任を有し、又は引き受ける国際連合加盟国は、この地域の住民の利益が至上のものであるという原則を承認し、且つ、この地域の住民の福祉をこの憲章の確立する国際の平和及び安全の制度内で最高度まで増進する義務並びにそのために次のことを行う義務を神聖な信託として受託する。

1.関係人民の文化を充分に尊重して、この人民の政治的、経済的、社会的及び教育的進歩、公正な待遇並びに虐待からの保護を確保すること。
2.各地域及びその人民の特殊事情並びに人民の進歩の異なる段階に応じて、自治を発達させ、人民の政治的願望に妥当な考慮を払い、且つ、人民の自由な政治制度の斬新的発達について人民を援助すること。
3.国際の平和及び安全を増進すること。
4.本条に掲げる社会的、経済的及び科学的目的を実際に達成するために、建設的な発展措置を促進し、研究を奨励し、且つ、相互に及び適当な場合には専門国際団体と協力すること。
5.第12章及び第13章の適用を受ける地域を除く外、前記の加盟国がそれぞれ責任を負う地域における経済的、社会的及び教育的状態に関する専門的性質の統計その他の資料を、安全保障及び憲法上の考慮から必要な制限に従うことを条件として、情報用として事務総長に定期的に送付すること。
第74条
国際連合加盟国は、また、本章の適用を受ける地域に関するその政策を、その本土に関する政策と同様に、世界の他の地域の利益及び福祉に妥当な考慮を払った上で、社会的、経済的及び商業的事項に関して善隣主義の一般原則に基かせなければならないことに同意する。
第12章 国際信託統治制度
第75条
国際連合は、その権威の下に、国際信託統治制度を設ける。この制度は、今後の個々の協定によってこの制度の下におかれる地域の施政及び監督を目的とする。この地域は、以下信託統治地域という。
第76条
信託統治制度の基本目的は、この憲章の第1条に掲げる国際連合の目的に従って、次のとおりとする。
1.国際の平和及び安全を増進すること。
2.信託統治地域の住民の政治的、経済的、社会的及び教育的進歩を促進すること。各地域及びその人民の特殊事情並びに関係人民が自由に表明する願望に適合するように、且つ、各信託統治協定の条項が規定するところに従って、自治または独立に向っての住民の漸進的発達を促進すること。
3.人種、性、言語または宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように奨励し、且つ、世界の人民の相互依存の認識を助長すること。
4.前記の目的の達成を妨げることなく、且つ、第80条の規定を留保して、すべての国際連合加盟国及びその国民のために社会的、経済的及び商業的事項について平等の待遇を確保し、また、その国民のために司法上で平等の待遇を確保すること。
第77条
1.信託統治制度は、次の種類の地域で信託統治協定によってこの制度の下におかれるものに適用する。
a.現に委任統治の下にある地域
b.第二次世界大戦の結果として敵国から分離される地域
c.施政について責任を負う国によって自発的にこの制度の下におかれる地域
2.前記の種類のうちのいずれの地域がいかなる条件で信託統治制度の下におかれるかについては、今後の協定で定める。
第78条
国際連合加盟国の間の関係は、主権平等の原則の尊重を基礎とするから、信託統治制度は、加盟国となった地域には適用しない。
第79条
信託統治制度の下におかれる各地域に関する信託統治の条項は、いかなる変更又は改正も含めて、直接関係国によって協定され、且つ、第83条及び第 85条に規定するところに従って承認されなければならない。この直接関係国は、国際連合加盟国の委任統治の下にある地域の場合には、受任国を含む。
第80条
1.第77条、第79条及び第81条に基いて締結され、各地域を信託統治制度の下におく個々の信託統治協定において協定されるところを除き、また、このような協定が締結される時まで、本章の規定は、いずれの国又はいずれの人民のいかなる権利をも、また、国際連合加盟国がそれぞれ当事国となっている現存の国際文書の条項をも、直接又は間接にどのようにも変更するものと解釈してはならない。
2.本条1は、第77条に規定するところに従って委任統治地域及びその他の地域を信託統治制度の下におくための協定の交渉及び締結の遅滞又は延期に対して、根拠を与えるものと解釈してはならない。
第81条
信託統治協定は、各場合において、信託統治地域の施政を行うについての条件を含み、且つ、信託統治地域の施政を行う当局を指定しなければならない。この当局は、以下施政権者といい、1若しくは2以上の国またはこの機構自身であることができる。
第82条
いかなる信託統治協定においても、その協定が適用される信託統治地域の一部又は全部を含む1又は2以上の戦略地区を指定することができる。但し、第43条に基いて締結される特別協定を害してはならない。
第83条
1.戦略地区に関する国際連合のすべての任務は、信託統治協定の条項及びその変更又は改正の承認を含めて、安全保障理事会が行う。
2.第76条に掲げる基本目的は、各戦略地区の人民に適用する。
3.安全保障理事会は、国際連合の信託統治制度に基く任務で戦略地区の政治的、経済的、社会的及び教育的事項に関するものを遂行するために、信託統治理事会の援助を利用する。但し、信託統治協定の規定には従うものとし、また、安全保障の考慮が妨げられてはならない。
第84条
信託統治地域が国際の平和及び安全の維持についてその役割を果すようにすることは、施政権者の義務である。このため、施政権者は、この点に関して安全保障理事会に対して負う義務を履行するに当って、また、地方的防衛並びに信託統治地域における法律及び秩序の維持のために、信託統治地域の義勇軍、便益及び援助を利用することができる。
第85条
1.戦略地区として指定されないすべての地区に関する信託統治協定についての国際連合の任務は、この協定の条項及びその変更又は改正の承認を含めて、総会が行う。
2.総会の権威の下に行動する信託統治理事会は、前記の任務の遂行について総会を援助する。
第13章 信託統治理事会
第86条
1.信託統治理事会は、次の国際連合加盟国で構成する。
a.信託統治地域の施政を行う加盟国
b.第23条に名を掲げる加盟国で信託統治地域の施政を行っていないもの
c.総会によって3年の任期で選挙されるその他の加盟国。その数は、信託統治理事会の理事国の総数を、信託統治地域の施政を行う国際連合加盟国とこれを行っていないものとの間に均分するのに必要な数とする。
2.信託統治理事会の各理事国は、理事会で自国を代表する特別の資格を有する者1人を指名しなければならない。
【任務及び権限】
第87条
総会及び、その権威の下に、信託統治理事会は、その任務の遂行に当って次のことを行うことができる。
1.施政権者の提出する報告を審議すること。
2.請願を受理し、且つ、施政権者と協議してこれを審査すること。
3.施政権者と協定する時期に、それぞれの信託統治地域の定期視察を行わせること。
4.信託統治協定の条項に従って、前記の行動その他の行動をとること。
第88条
信託統治理事会は、各信託統治地域の住民の政治的、経済的、社会的及び教育的進歩に関する質問書を作成しなければならない。また、総会の権限内にある各信託統治地域の施政権者は、この質問書に基いて、総会に年次報告を提出しなければならない。
【表決】
第89条
1.信託統治理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
2.信託統治理事会の決定は、出席し且つ投票する理事国の過半数によって行われる。
【手続】
第90条
1.信託統治理事会は、議長を選定する方法を含むその手続規則を採択する。
2.信託統治理事会は、その規則に従って必要があるときに会合する。この規則は、理事国の過半数の要請による会議招集の規定を含まなければならない。
第91条
信託統治理事会は、適当な場合には、経済社会理事会及び専門機関がそれぞれ関係している事項について、両者の援助を利用する。
第14章 国際司法裁判所
第92条
国際司法裁判所は、国際連合の主要な司法機関である。この裁判所は、付属の規程に従って任務を行う。この規定は、常設国際司法裁判所規程を基礎とし、且つ、この憲章と不可分の一体をなす。
第93条
1.すべての国際連合加盟国は、当然に、国際司法裁判所規程の当事国となる。
2.国際連合加盟国でない国は、安全保障理事会の勧告に基いて総会が各場合に決定する条件で国際司法裁判所規程の当事国となることができる。
第94条
1.各国際連合加盟国は、自国が当事者であるいかなる事件においても、国際司法裁判所の裁判に従うことを約束する。
2.事件の一方の当事者が裁判所の与える判決に基いて自国が負う義務を履行しないときは、他方の当事者は、安全保障理事会に訴えることができる。理事会は、必要と認めるときは、判決を執行するために勧告をし、又はとるべき措置を決定することができる。
第95条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国が相互間の紛争の解決を既に存在し又は将来締結する協定によって他の裁判所に付託することを妨げるものではない。
第96条
1.総会又は安全保障理事会は、いかなる法律問題についても勧告的意見を与えるように国際司法裁判所に要請することができる。
2.国際連合のその他の機関及び専門機関でいずれかの時に総会の許可を得るものは、また、その活動の範囲内において生ずる法律問題について裁判所の勧告的意見を要請することができる。
第15章 事務局
第97条
事務局は、1人の事務総長及びこの機構が必要とする職員からなる。事務総長は、安全保障理事会の勧告に基いて総会が任命する。事務総長は、この機構の行政職員の長である。
第98条
事務総長は、総会、安全保障理事会、経済社会理事会及び信託統治理事会のすべての会議において事務総長の資格で行動し、且つ、これらの機関から委託される他の任務を遂行する。事務総長は、この機構の事業について総会に年次報告を行う。
第99条
事務総長は、国際の平和及び安全の維持を脅威すると認める事項について、安全保障理事会の注意を促すことができる。
第100条
1.事務総長及び職員は、その任務の遂行に当って、いかなる政府からも又はこの機構外のいかなる他の当局からも指示を求め、又は受けてはならない。事務総長及び職員は、この機構に対してのみ責任を負う国際的職員としての地位を損ずる虞のあるいかなる行動も慎まなければならない。
2.各国際連合加盟国は、事務総長及び職員の責任のもっぱら国際的な性質を尊重すること並びにこれらの者が責任を果すに当ってこれらの者を左右しようとしないことを約束する。
第101条
1.職員は、総会が設ける規則に従って事務総長が任命する。
2.経済社会理事会、信託統治理事会及び、必要に応じて、国際連合のその他の機関に、適当な職員を常任として配属する。この職員は、事務局の一部をなす。
3.職員の雇用及び勤務条件の決定に当って最も考慮すべきことは、最高水準の能率、能力及び誠実を確保しなければならないことである。職員をなるべく広い地理的基礎に基いて採用することの重要性については、妥当な考慮を払わなければならない。
第16章 雑則
第102条
1.この憲章が効力を生じた後に国際連合加盟国が締結するすべての条約及びすべての国際協定は、なるべくすみやかに事務局に登録され、且つ、事務局によって公表されなければならない。
2.前記の条約または国際協定で本条1の規定に従って登録されていないものの当事国は、国際連合のいかなる機関に対しても当該条約または協定を援用することができない。
第103条
国際連合加盟国のこの憲章に基く義務と他のいずれかの国際協定に基く義務とが抵触するときは、この憲章に基く義務が優先する。
第104条
この機構は、その任務の遂行及びその目的の達成のために必要な法律上の能力を各加盟国の領域において亨有する。
第105条
1.この機構は、その目的の達成に必要な特権及び免除を各加盟国の領域において亨有する。
2.これと同様に、国際連合加盟国の代表者及びこの機構の職員は、この機構に関連する自己の任務を独立に遂行するために必要な特権及び免除を亨有する。
3.総会は、本条1及び2の適用に関する細目を決定するために勧告をし、又はそのために国際連合加盟国に条約を提案することができる。
第17章 安全保障の過渡的規定
第106条
第43条に掲げる特別協定でそれによって安全保障理事会が第42条に基く責任の遂行を開始することができると認めるものが効力を生ずるまでの間、 1943年10月30日にモスコーで署名された4国宣言の当事国及びフランスは、この宣言の第5項の規定に従って、国際の平和及び安全の維持のために必要な共同行動をこの機構に代ってとるために相互に及び必要に応じて他の国際連合加盟国と協議しなければならない。
第107条
この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。
第18章 改正
第108条
この憲章の改正は、総会の構成国の3分の2の多数で採択され、且つ、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって各自の憲法上の手続に従って批准された時に、すべての国際連合加盟国に対して効力を生ずる。
第109条
1.この憲章を再審議するための国際連合加盟国の全体会議は、総会の構成国の3分の2の多数及び安全保障理事会の9理事会の投票によって決定される日及び場所で開催することができる。各国際連合加盟国は、この会議において1個の投票権を有する。
2.全体会議の3分の2の多数によって勧告されるこの憲章の変更は、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって各自の憲法上の手続に従って批准された時に効力を生ずる。
3.この憲章の効力発生後の総会の第10回年次会期までに全体会議が開催されなかった場合には、これを招集する提案を総会の第10回年次会期の議事日程に加えなければならず、全体会議は、総会の構成国の過半数及び安全保障理事会の7理事国の投票によって決定されたときに開催しなければならない。
第19章 批准及び署名
第110条
1.この憲章は、署名国によって各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない.
2.批准書は、アメリカ合衆国政府に寄託される。同政府は、すべての署名国及び、この機構の事務総長が任命された場合には、事務総長に対して各寄託を通告する。
3.この憲章は、中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、アメリカ合衆国及びその他の署名国の過半数が批准書を寄託した時に効力を生ずる。批准書寄託調書は、その時にアメリカ合衆国政府が作成し、その謄本をすべての署名国に送付する。
4.この憲章の署名国で憲章が効力を生じた後に批准するものは、各自の批准書の寄託の日に国際連合の原加盟国となる。
第111条
この憲章は、中国語、フランス語、ロシア語、英語及びスペイン語の本文をひとしく正文とし、アメリカ合衆国政府の記録に寄託しておく。この憲章の認証謄本は、同政府が他の署名国の政府に送付する。
以上の証拠として、連合国政府の代表者は、この憲章に署名した。
1945年6月26日にサン・フランシスコ市で作成した。


PS(2015.7.23追加):*4-1のように、東シナ海で中国がガス田開発を行っている。これについて、外務省が写真を公表し、日本政府は、「一方的な資源開発は極めて遺憾だ」として中止を求め、「中国による一方的な現状変更に対する関心の高まりを総合的に勘案して公表した」とのことだが、中国は、*4-2のように、「中国が管轄する争いのない海域でのガス田開発は全く正当かつ合法だ」としている。
 しかし、①2003年(今から12年前)に問題点が明らかになり、②2008年(今から7年前)に日中両政府がガス田の共同開発で合意した(条約はない)が、③日本がいつまでもガス田開発を行わず、④「一方的な現状変更だ」と中国にクレームをつけるだけであったため、中国が争いのない海域でのガス田開発を行うのは、私も正当で合法的だと考える。
 日本の態度を隣組に例えれば、清らかな地下水に恵まれた住宅地で、井戸を掘る手間と費用を惜しんで飲料水を取りよせて購入している人が、境界近くの自分の敷地に井戸を掘った隣家に対して、「地下水脈は繋がっているのに勝手に現状変更するな。井戸を掘るなら共同でしか許さない」とクレームを言っているのと同じで、日本の主張の方がおかしい。必要な資源であれば、速やかに問題を解決して自分も掘るべきだったのだが、私が衆議院議員だった時、経産省にそう言っても、経産省は「中東から輸入した方が安い」と短期的かつ狭窄な視野でたかをくくっていて何もしなかったのである。ちなみに、小笠原の赤サンゴ事件の時でさえ、日本政府は、公式な抗議や逮捕など大したことは行っておらず、環境に対して中国よりも見識の低い不作為があった。
 なお、*4-3のように中国が主張している大陸棚説は、隣家が「うちと同じ地層の上にある場所はうちの敷地だ」と言っているのと同様に理不尽であるため、放っておかず速やかに交渉して問題解決すべきだったのであり、それは外務省の仕事であるから外務省の不作為だ。

   
                2015.7.22、23日経新聞

*4-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150723&ng=DGKKASDE22H0J_S5A720C1MM8000 (日経新聞 2015.7.23) 中国ガス田開発12基増 東シナ海、写真公表
 政府は22日、東シナ海での中国によるガス田開発の現状を示す航空写真や地図を外務省のホームページで公表した。菅義偉官房長官は記者会見で、「日中中間線」の中国側で2013年6月以降に新たに12基の構造物が確認され、すでに確認済みの4基と合わせて16基になったと発表。「一方的な資源開発は極めて遺憾だ」と批判し、中止を求めた。公表した写真は海上自衛隊機が上空から撮影。天然ガスを掘削するプラットホームで、多くはヘリポートが付いている。菅長官は公表の理由について「中国による一方的な現状変更に対する関心の高まりを総合的に勘案した」と説明。政府内には「ヘリや無人機の展開拠点として利用する可能性もある」(中谷元・防衛相)との見方が出ている。

*4-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE22H0G_S5A720C1000000/
(日経新聞 2015/7/22) 政府、中国ガス田開発の証拠写真を公表 計16基の構造物
 政府は22日、中国が日中間の合意に反し、東シナ海の「日中中間線」付近で一方的に新たなガス田開発を進めていると指摘し、証拠として航空写真などを公表した。周辺海域で中国がガス田開発のために設けた構造物は計16基で、いずれも日中中間線の中国側で建設されている。政府は各施設が中国の軍事活動の拠点となる可能性も念頭に、警戒を強めている。菅義偉官房長官は同日の記者会見で「日中中間線の中国側においてとはいえ、中国側が一方的な開発行為を進めていることは極めて遺憾だ」と抗議した。外務省が同日、ホームページで構造物や構造物の土台の写真と、構造物の位置を示した地図を発表した。証拠写真を公表することで、境界が画定していない海域で中国が一方的に開発を進めている実態を国内外にアピールし、中国をけん制する狙いがある。中国が「ヘリや無人機の展開拠点として利用する可能性もある」(中谷元・防衛相)などの指摘も多く、今後は米国などと連携して警戒態勢を強める考えだ。中国側は「中国が管轄する争いのない海域でのガス田開発は全く正当かつ合法だ」(中国外務省の陸慷報道局長)と繰り返し反論している。東シナ海のガス田開発を巡っては、2008年6月に日中両政府がガス田「白樺」(中国名・春暁)の共同開発で合意。具体化に向けた交渉を進めていたが、10年の沖縄県尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を機に中国側が交渉を一方的に延期した。その後、13年6月に中国による新たな掘削施設の建設が明らかになり、政府が抗議していた。

*4-3:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/tachiba.html
(外務省 平成27年7月22日) 中国による東シナ海での一方的資源開発の現状
1 近年,中国は,東シナ海において資源開発を活発化させており,政府として,日中の地理的中間線の中国側で,これまでに計16基の構造物を確認している。
2 東シナ海の排他的経済水域及び大陸棚は境界が未画定であり,日本は日中中間線を基にした境界画定を行うべきであるとの立場である。このように,未だ境界が画定していない状況において,日中中間線の中国側においてとは言え,中国側が一方的な開発行為を進めていることは極めて遺憾である。政府としては,中国側に対して,一方的な開発行為を中止するとともに,東シナ海の資源開発に関する日中間の協力について一致した「2008年6月合意」の実施に関する交渉再開に早期に応じるよう,改めて強く求めているところである。
1 日中双方は、国連海洋法条約の関連規定に基づき、領海基線から200海里までの排他的経済水域及び大陸棚の権原を有している。東シナ海をはさんで向かい合っている日中それぞれの領海基線の間の距離は400海里未満であるので、双方の200海里までの排他的経済水域及び大陸棚が重なり合う部分について、日中間の合意により境界を画定する必要がある。国連海洋法条約の関連規定及び国際判例に照らせば、このような水域において境界を画定するに当たっては、中間線を基に境界を画定することが衡平な解決となるとされている。
 (注:1海里=1.852キロメートル、200海里=370.4キロメートル)
2 (1)これに対し、中国側は、東シナ海における境界画定について、大陸棚の自然延長、大陸と島の対比などの東シナ海の特性を踏まえて行うべきであるとしており、中間線による境界画定は認められないとした上で、中国側が想定する具体的な境界線を示すことなく、大陸棚について沖縄トラフまで自然延長している旨主張している。
(2)他方、自然延長論は、1960年代に、隣り合う国の大陸棚の境界画定に関する判例で用いられる等、過去の国際法においてとられていた考え方である。1982年に採択された国連海洋法条約の関連規定とその後の国際判例に基づけば、向かい合う国同士の間の距離が400海里未満の水域において境界を画定するに当たっては、自然延長論が認められる余地はなく、また、沖縄トラフ(海底の溝)のような海底地形に法的な意味はない。したがって、大陸棚を沖縄トラフまで主張できるとの考えは、現在の国際法に照らせば根拠に欠ける。
3 このような前提に立ってこれまで、我が国は、境界が未画定の海域では少なくとも中間線から日本側の水域において我が国が主権的権利及び管轄権を行使できることは当然との立場をとってきた。これは中間線以遠の権原を放棄したということでは全くなく、あくまでも境界が画定されるまでの間はとりあえず中間線までの水域で主権的権利及び管轄権を行使するということである。したがって、東シナ海における日中間の境界画定がなされておらず、かつ、中国側が我が国の中間線にかかる主張を一切認めていない状況では、我が国が我が国の領海基線から200海里までの排他的経済水域及び大陸棚の権原を有しているとの事実に何ら変わりはない。

| 外交・防衛::2014.9~2019.8 | 04:27 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.7.16 安いと主張されている原発コストの嘘と、原発事故の処理費用、廃炉費用、核のごみ処理費用について (2015年7月17、22日追加あり)
    
2015.5.27 2015.7.2   経産省原発コスト     エネルギー構成  2030年 
朝日新聞   朝日新聞                                コスト予測

    
 2015.7.3   2015.7.7        2015.7.3         2015.7.8
 河北新報    西日本新聞       西日本新聞         西日本新聞

(1)脱原発の方が合理性があること
 上図及び*1-1のように、経産省は2030年の電源構成を、発電量に占める原発の割合が、現在でも0であるにもかかわらず、「①コストが安い」「②CO2を出さない」などの理由で、20~22%と設定した。しかし、太陽光発電は、九電が買取制限をかけるまで等比級数的に伸び、九州だけで現在でも原発5基分に達しており、大量に生産すればするほどコストが安くなる性格のものである。

 しかし、経産省は、「電気料金の値上がりで家庭や企業の負担がさらに増えれば、経済成長にマイナス」とし、原発の発電コストは1キロワット時で10.3円以上とした。これは、i)過酷事故への対応費を過小に見積もり ii)過酷事故が起きる確率を過小に仮定し iii) 建設中のフランスやフィンランドの原発と比較して、原発の建設費を過小に見積もり iv)自然エネルギーの普及を止めて次のステップへの技術進歩を妨害し v)その結果、本当の経済成長を妨害している。つまり、経産省の理由づけは、原発ありきの電源構成を導くためのものなのだ。

(2)川内原発再稼働最終段階 !?
 そのような中、*1-2のように、九電は7月7日、原子力規制委員会の審査に適合すると認められた川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉に核燃料を装填する作業を始め、8月10日頃に原子炉を起動して、8月13日前後に発送電を開始して再稼働する予定で、2号機についても10月中旬の再稼働を目指し、これは電力不足を理由とした政治判断とのことだが、この発想が極めて古いのである。

 しかし、*1-3のように、九電内部では原発再稼働で大幅な収支改善効果が期待できるという安堵感が広がったということであるため、今後(二度目の過酷事故以降)は、過酷事故の損害賠償もすべて電力会社の負担にすべきである。そうしなければ、国民負担で有害な古い技術の補助をして先進的な技術の足を引っ張り、原発再稼働は収益力を強化するという誤ったメッセージが株主や国民に蔓延して公正な競争にもならず、次々と原発の再稼働が進むことになるからだ。

 さらに、*1-4のように、川内原発1号機が昨年7月に運転開始から30年を迎えたが、原子炉等規制法は30年を超えて運転する場合も原発再稼働認可の条件にはしていない。これに対し、市民団体や野党国会議員から認可なしの再稼働に批判が相次いだそうだが、危機管理に対する人の対応の甘さも含めて、日本は原発を使うべき国ではないのである。それでも、政治・行政は迅速で的確な意思決定ができないため、*1-5のような運転停止の可能性もある司法判断が期待される。

 なお、*1-6に、「原発は倫理的存在か」という記事があり、i)使用済核燃料が原発の高い場所に大量に保管されている ii) 使用済核燃料の処理・処分技術すら確立されていない iii)自分で処理・処分できないものを「他人任せ」にして成立している技術だ などが挙げられ、面倒なことは他人に任せで自分だけが利得を得る態度が倫理的問題だとしている。私は、使用済核燃料の問題も非常に大きいが、核燃料は作る時も、運送する時も、使用する時も人間に被曝を強いるため、使わないのがBestだと考える。

 また、*1-7のように、原発の運転開始から30年以上経過しながら、これまで廃炉などの後始末に道筋をつけずに原発を推進し、今になって廃炉のため克服しなければならない課題が山積しているなどというのは、他の技術ではあり得ないことだ。経産省は、*3-4のように、核のごみの最終処分場に追加財政支援の意向を示しているが、そもそも交付金は、電力会社や原発由来の電力を使用する者が負担するのではなく、税金によって将来も長く賄われる原発のコストだという認識を明確にすべきである。
 
 それにもかかわらず、「原発はコストが安いから、再稼働が必要」などと言う人がいるのは勝手極まりなく道徳に反するし、福島第一原発事故による帰還困難区域、遠くの無人島、深海など、問題の少ない候補地は多いにもかかわらず、発電もしない核のゴミを分散して処理し、膨大な税金を投入しようとしているのも、倫理観に欠ける。

(3)原発事故の賠償
 *2-1のように、東電福島第一原発事故を機に、富山県内の主婦らでつくる市民団体「とやま原子力教育を考える会」が、放射線の危険性や事故の歴史を盛り込んだ中高生向けの冊子「私たちの放射線副読本」をまとめたそうだが、*2-2のように、一般には現在でも放射線の人体への影響を過小評価する教育や政策が行われているのは愚かなことである。

 フクシマの場合は、初めての過酷事故だったため国が責任を持つのも仕方がないが、まさに*2-3のように、東電は賠償額を計7・1兆円と見積もり、これは従来の見通しより1兆円程度増額した。しかし、私も、*2-4のように、住民の健康を守るためには予防しかないため、避難指示解除は、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から慎重に行うべきであると考える。そのため、本当に被害がこれですべてであるとは思っていない。

(4)核廃棄物の処理と最終処分場について
 *3-1のように、スウェーデンでは、エストハンマル自治体のフォルスマルク森の地下450メートルに、原発から出た使用済核燃料を埋め立てる最終処分場ができるそうだ。それは、地層処分で、安全なレベルになるまでの約10万年間、地下深くで保管する手法である。また、*3-2のように、原子力大国のフランスでも、人類の難題「核のごみ」を巡る議論が続いており、未解決である。

 そして、*3-3のように、日本でも原発での使用済核燃料の保管は危険であり、既に余裕もないが、処分場の選定は難航している。私は、日本でも地層処分が最も安全だと思っていたが、国土が狭く温暖で地下水が豊富な日本では適地が少ないため、これでは収益を生まないごみの処分にカネがかかり過ぎ、陸上で候補地を探すのも困難であるため、これ以上の核廃棄物を決して出さないという条件付きで、核廃棄物が絶対に外に漏れない厳重な容器に入れ、8000メートル以上の深海の水が殆ど動かない場所に沈める方法もありではないかと考えている。

(5)九電川内原発と地震・火山
 東電福島第一原発は、津波に関する専門家の意見を無視したため、過酷事故を起こし、取り返しのつかない損害を与えた。しかし、*4-1の九電川内原発(鹿児島県薩摩川内市)は、*4-2のように、「地震・火山対策が不十分だ」と、地震・火山学者が懸念を表明しているにもかかわらず、無視している。 

 鹿児島市から12日間かけて歩いてきたリレーデモ隊も、九電側と小競り合いになり、警察が出動してデモ隊を抑制することになっている。原発の再稼働を心待ちにする事業者というのは、どういう事業者かわからないが、地震・火山など50の学会・協会で組織する「日本地球惑星科学連合」が多くの問題を指摘しているのをどう受け止めているのだろうか。

 そのような中、*4-3のように、同じ火山帯に属する鹿児島県口永良部島新岳が噴火し、これは、マグマ噴火だそうだ。マグニチュード9クラスの地震が起きた周辺で火山噴火が多くなるのは世界的な傾向で、東日本大震災で列島の地殻に加わる力が変わったためとすれば、今後も規模の大きいマグマ噴火が起こりうると考えねばならず、九州とその南の沖合では過去、破滅的なカルデラ噴火が繰り返され、7300年前の薩摩硫黄島噴火では、火砕流が九州内陸や屋久島にまで達したとのことである。

(6)地元の範囲と国民の意見
 *5-1のように、宮台真司首都大学東京教授と杉田敦法政大教授を代表として、「原発の是非で国民投票をしよう」と呼びかける署名が16万筆集まり、また、*5-2のように、玄海原発の地元である佐賀県でも、元佐賀大学学長の長谷川照氏を団長として県内外の市民が、国と九州電力に玄海原発全4基の操業停止を求めて訴訟しており、新たに270人が追加提訴して原告数が9396人になったそうだ。

 *5-3のように、ナガサキでも、「さようなら原発1000万人アクション・ナガサキ」などが主催して、「さようなら原発ナガサキ集会」が、長崎市平野町の長崎原爆資料館ホールで開かれ、約300人が再稼働反対の思いを一つにし、「一体何度『ノーモア』を繰り返せばいいのか」と脱原発を呼び掛けたそうだ。

 なお、*5-4のように、伊万里市の塚部芳和市長は、玄海原発の再稼働を同意する際の「地元範囲」に伊万里市など玄海原発から30キロ圏内を含めるよう要望することを明らかにしているが、30キロ圏内のみならず、原発事故で被害を受ける地域に同意権があるのは当然のことである。

 *5-5のように、四国電力伊方原発3号機が新規制基準に適合しているとした原子力規制委員会の決定に、原発から海を挟んで約45キロに位置する大分県で漁業関係者らが不安を募らせているが、魚は「風評被害」ではなく実際に放射性物質を含み、人体に被害をもたらずだろう。原発のために瀬戸内海の海産物や四国・九州の農産物を台無しにしては、食料自給率や輸出どころの話ではなくなるため、日本の大半の食品に核廃棄物のマークがつく前に、考え直すべきである。

<脱原発の合理性>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11836647.html
(朝日新聞 2015年7月2日) (教えて!電源構成:1)原発コスト、本当に最安?
 15年後の2030年、私たちが使う電気をどのように賄うのか。政府がまとめた電源構成(エネルギーミックス)案は、発電量に占める原発の割合を約2割とし、太陽光や風力は期待されたより抑える内容でした。そんな政府案の課題を8回にわけて読み解きます。初回は原発の発電コストは本当に安いのか―。
■事故頻度、半減見立て
 電源構成とは、全体の発電量に占める最適な電源の組み合わせをまとめたもので、政府は3~5年ごとに見直している。日本は火力に使う燃料の大半を輸入に頼っており、長期の資源調達や設備投資計画を考えておく必要があるからだ。政府は30年度の電源構成を決めるにあたり、「負担増をできるだけ抑える」方針でのぞんだ。電気料金の値上がりと並んで消費増税などの負担増が本格化しており、家庭や企業の負担がさらに増えれば「経済成長にマイナス」と考えた。経済産業省が電源ごとの発電コストを試算したところ、原発は1キロワット時で10・3円以上となり、主要電源のなかでは石炭火力の12・9円、水力の11・0円より安くなった。ここから、負担増を抑えるには「最安」の電源に頼るしかないという理屈で原発は2割必要と結論付けた。「原発比率を高くすれば、すべてが解決する」。宮沢洋一経産相は6月の会見で強調した。東京電力の福島第一原発事故は、いったん原発で過酷事故が起きれば、取り返しのつかない被害が生じることを世界中に知らしめた。それでも原発が最安とされたのはなぜなのか。からくりのひとつは、大きな事故に備えた「事故リスク対応費」にある。ここに含まれる廃炉や損害賠償、除染などの損害費用は、前回の11年時に試算した5・8兆円から9・1兆円に増えはした。ただ、これは経産省も認める「下限」の金額。事故を収束させる見通しが立たないなかで、実際の損害費用は大きく膨らむ可能性が高い。さらに、震災後の新規制基準に基づいて安全対策などが実施された結果、炉心損傷などの過酷事故が起きる回数は対策前より「ほぼ半減した」と見立てた。前回は、50基の原発をベースに「40年に1回」の頻度で事故が起きるとしていたが、「80年に1回程度」に減る計算だ。経産省が「半減」の根拠にしたのは、原子力規制委員会の審査で扱われた事故の「リスク評価」。震災前からの対策などを除いた状態の原発で、どんな原因で心臓部の炉心が損傷し、どのぐらいの頻度で起きるかを分析。安全対策によって事故の可能性がどれだけ減るかを試算したものだ。九州電力は規制委の審査で、再稼働を目指す川内原発(鹿児島県)の事故を起こす頻度が、一つの安全対策で「6割以上減る」との試算を示していた。経産省はこうした電力会社の試算などから、事故頻度はほぼ半減すると追認した。事故対応費は、損害費用を80年に1回程度という事故頻度で割り、それをさらに年間発電量で割って1キロワット時のコストを計算する。その結果、対応費は前回の0・54円から、ほぼ半減の0・3円になった。だが、事故頻度の試算結果を対応費と直接結びつけることには、規制委内でも「違和感がある」との声がある。専門家の一人は「損害費用がどんなに膨らんでも、半減した事故頻度で割れば、たいした被害ではないと言うに等しい結論になる」と指摘する。
■建設費、甘い見積もり
 建設費などの「資本費」にもからくりがある。経産省が試算した建設費は1基あたり4400億円。東北電力東通原発など国内で比較的新しい原発をベースにしたとはいえ、事故前の仕様だ。海外では、原発の建設費は右肩上がりで、日本原子力産業協会によると、建設中のフランスやフィンランドの原発は1基あたりの見積もりが、当初の2・5倍の1兆円超になっているという。原発に詳しい立命館大学の大島堅一教授は、海外の原発は安全性をより高めた最新型で建設費が高くなったとみる。「少なくとも、海外で原発の建設コストが上がっていることの検証が欠かせない」と指摘する。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015070702000273.html (東京新聞 2015年7月7日) 川内原発、7日午後に核燃料装填 検証不十分 最終段階に
 九州電力は七日午後、原子力規制委員会の審査に適合すると認められた川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉に核燃料を装填(そうてん)する作業を始める。その後の検査で問題がなければ八月十日ごろに原子炉を起動し、同十三日前後に発電と送電を開始して再稼働する予定。2号機についても十月中旬の再稼働を目指す。燃料装填により再稼働に向けたプロセスは大詰めを迎える。今後の作業が順調に進めば、東京電力福島第一原発事故を受けて二〇一三年七月に施行された新規制基準に適合した原発として初の運転再開となる。宮沢洋一経済産業相は七日の閣議後の記者会見で「やっとここまで来たかとの思いだ」と述べた。九電によると、川内1号機に入れる核燃料は計百五十七体で、原子炉建屋に隣接する使用済み核燃料プールからクレーンで移動させて原子炉容器に装填する。作業は全て水中で行い、終了までに四日程度かかる見通し。規制委は昨年九月、川内1、2号機が新規制基準に適合していることを認める「審査書」を決定。作業が先行する1号機では今年三月に使用前検査が始まり、今月三日に核燃料の装填に必要な検査が終わった。規制委は燃料装填後も検査を継続し、冷却系配管などの設備に不具合があれば九電に対策を求めるため、再稼働時期がずれ込む可能性もある。九電は今後、重大事故を想定した訓練を実施し、問題がなければ原子炉の起動試験に移る。東日本大震災以降、電力不足を理由とした政治判断で一二年七月、関西電力大飯(おおい)原発3、4号機(福井県おおい町)が再稼働したが、一三年九月の定期検査入り後、国内の全原発が停止している。
◆九電、自治体に説明せず
<解説> 火山の巨大噴火リスクや周辺住民の避難計画の不十分さなどいくつも重要な問題が山積したまま、九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が、再稼働に向けた最終段階に入った。川内原発は、桜島を中心とした姶良(あいら)カルデラをはじめ、数多くの火山に囲まれている。九電は何十年も前に巨大噴火の予兆をつかむことができるため対応は可能だとし、原子力規制委員会もその主張を妥当と判断している。しかし、五月に同県の口永良部島(くちのえらぶじま)新岳の噴火が示したように、ただでさえ噴火予知は非常に難しい。巨大噴火の場合は、現代の科学による観測データがなく、どんな過程を経て噴火に至るかよく分かっていない。火山の専門家からはさらに難しいとの指摘が相次いでいる。使った核燃料は自らが高熱を発するため、二年間はプールの水で冷やしてからでないと外部に運べない。にもかかわらず九電は、核燃料をどこにどう緊急搬出するか、いまだ十分に検討していない。鹿児島県や薩摩川内市は既に再稼働に同意したが、屋久島や種子島などで九電に説明を求める動きが広がっている。だが、九電は公の場で反対意見が出るのを避けるため、説明会を開こうとしない。避難計画は、国際原子力機関(IAEA)が定める国際基準の中で、五つ目の最後のとりでとなる。鹿児島県や周辺自治体の計画はできたが、避難住民の受け入れ態勢の協議などはほとんどされていない。計画に実効性があるのか、規制委も含めどこも検証しない。

*1-3:http://qbiz.jp/article/66278/1/ (西日本新聞 2015年7月8日) 【川内原発燃料装填】社長「動かしてみないと…」 九電「4年ぶり」に安堵と不安
 川内原発1号機は7日、核燃料装填に着手したことで再稼働に向けた最終段階に入った。2011年12月に九州電力が保有する原発が全て停止して3年7カ月。大幅な収支改善効果が期待できる再稼働がほぼ確実となったことで、社内には安堵(あんど)感も広がった。「ここまで長かった。ようやくといった感がある」。九電関係者は大きく息を吐き出した。新規制基準に基づく原子力規制委員会による川内1、2号機の審査が始まったのは13年7月。当初は半年程度で終わるとみられていた。だが、新基準下では全国初の審査とあって、九電、規制委ともに手探りの作業だったことに加え、九電が必要書類の準備に手間取るなどしたことで大幅に長期化。審査終了まで2年弱を要した。原発停止は財務に大打撃を与えた。九電が13年春に値上げした電気料金は、同年7月に川内1、2号機、翌年1月までには玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)も再稼働していることを前提に算出。ところが、長期停止に伴い火力発電の燃料費がかさんだ。15年3月期連結決算で純損益が約1147億円の赤字となり、4年連続の最終赤字を計上。東日本大震災前に6千億円以上あった過去の利益の蓄積も底を突いた。川内1号機は工程が順調に進めば8月中旬にも再稼働し、夏の高需要期に間に合う可能性がある。他電力や市場からの調達は大幅に減らせる。2号機も稼働すれば年平均で月間150億円の収支改善効果があるため、料金の再値上げは当面、回避できる見通しだ。4年以上停止している川内1号機。再稼働までの工程が想定通りに進むかは予断を許さない。瓜生道明社長は「止まっている間に総点検を3回やり、不良箇所は直している。ただ、動かしてみないと分からないという若干の不安はある」と打ち明ける。川内1、2号機が再稼働すれば本年度の黒字化が視野に入る九電。だが、16年4月に始まる電力の小売り全面自由化などの変化に対応していくには、強固な財務基盤が欠かせない。収益力強化のため、川内に続き玄海3、4号機の再稼働も急ぐ構えだ。

*1-4:http://mainichi.jp/select/news/20150711k0000m040056000c.html
(毎日新聞 2015年7月10日) 川内原発1号機:30年超の運転 29日にも認可 規制委
 1号機は昨年7月に運転開始から30年を迎えた。原子炉等規制法は、30年を超えて運転する原発に対し、機器の劣化の評価や管理方針を定めることを電力会社に義務付けているが、再稼働の条件には含まれていない。市民団体や野党の国会議員からは認可なしの再稼働に批判が相次いでおり、規制委の田中俊一委員長は6月の記者会見で「法律上の枠組みが一般的感覚としては理解しがたいことはよく分かる」と述べていた。

*1-5:http://qbiz.jp/article/66283/1/
(西日本新聞 2015年7月8日) 【川内原発燃料装填】注目される司法判断、運転停止の可能性も
 原子力規制委員会の審査基準に適合しているとされた九州電力川内原発で核燃料の装填(そうてん)作業が7日に始まり、原発は再稼働の最終準備に入った。今後、稼働の「壁」として立ちはだかる可能性もあるのが司法の判断だ。周辺住民らが再稼働差し止めを求めた仮処分申し立ての即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部の判断が早ければ年内にも下される。最大の争点は、原発耐震化の基準となる「基準地震動」の妥当性。再稼働したとしても「想定する揺れは小さすぎる」との判断になれば、再び運転停止となることもあり得る。再稼働が近づく原発の差し止め仮処分をめぐっては4月、差し止め決定が出された関西電力高浜原発3、4号機と、却下された川内原発1、2号機で司法判断が割れた。川内原発については先月末、福岡高裁宮崎支部に審判の場が移った。基準地震動は、周辺の活断層が動いた際に想定される揺れのことだ。この数値が「小さすぎる」となると、原発設備はさらなる耐震化工事と、それに伴う費用負担が求められ、運転は続けられなくなる。住民側弁護団の内山成樹弁護士は、九電の地震動が「地域で過去発生した地震の平均値にとどまっており、最大レベルを想定できていない」と批判した。高浜原発の決定を出した福井地裁も、地震動の推定について「実績のみならず理論面でも信頼性を失っている」と再稼働を認めなかった。内山弁護士によると、抗告審で争点となりそうなのが、地震動を導き出す過程で広く使われている「松田式」(断層の長さから地震の規模を推定する式)。「松田式を使った地震動はあくまでも平均像。安全を重視すれば、基準地震動は今より4倍以上必要になるのは明らか」と訴える。松田式を1970年代に提唱した東京大の松田時彦名誉教授(84)も「式自体に妥当性はあると考えている。問題はその使い方だ。原発は十分な安全性が求められる施設であり、基準地震動を平均値にとどめるなら、安全想定としては低いと思う」と指摘している。原発の規制基準の妥当性そのものが問われているとも言えるが、原子力規制庁は「裁判関連は答えられない」と取材に応じていない。九電は「原発の安全性が確保されているという主張が高裁でも認められるよう対応したい」(事業法務グループ)。巨大噴火への対応や避難計画の妥当性についても争点となっており、あらためて司法判断が注目される。

*1-6:http://digital.asahi.com/articles/ASH775W3CH77UEHF018.html?iref=comtop_list_pol_f01 (朝日新聞 2015年7月7日) 原発は倫理的存在か
東浩紀(あずま・ひろき) 作家・思想家 1971年生。ゲンロン代表取締役。専門は現代思想、情報社会論、表象文化論。メディア出演多数。主著に『存在論的、郵便的』(1998、サントリー学芸賞受賞)『動物化するポストモダン』(2001)『クォンタム・ファミリーズ』(2009、三島由紀夫賞受賞)『一般意志2.0』(2011)。編著に『福島第一原発観光地化計画』(2013)など
■原発は倫理的存在か
 原発をめぐる議論で「倫理」がなぜ問われるかといえば、それは使用済み核燃料の処理技術が確立されていないからである。「トイレのないマンション」とも揶揄(やゆ)されるように、現在の原発は、使用済み燃料の処理を、長期間保管しその危険性が自然に減衰するのを待つか、あるいは後世の技術開発の可能性に委ねることで成立している。いずれにせよ、いまここで処理できないものを、いつかだれかがなんとかしてくれるという「他人任せ」の態度のうえで成立しているのは疑問の余地がない。面倒なことは他人に任せ、自分だけが利得を得る。そのような態度が「よい」ことであるかどうか。原発の倫理的問題は結局はそこに集約される。日本では福島第一原発事故を機にはじめて関心を向けたひとが多いが(筆者自身もそのひとりだが)、この問題は本質的に事故の可能性とは関係ない。経済性とも関係がない。事故がなくても、いくら経済効率がよくても、使用済み核燃料は蓄積する一方であり、後世の自然環境と人間社会の負担は増える一方だからである。そしてそう考えると、上記の問いに肯定で答えることはきわめてむずかしい。面倒なことを他人に任せ、自分だけが利得を得る。そのような態度が、無責任で責められるべきものであることは、文化的な多様性とは無関係に、多くのひとが同意する価値観だと思われる。そうでなければ、そもそも人間社会は成立しない。つまり、原発は(少なくとも現在の技術水準での原発は)、そもそもが倫理に反する存在なのである。わたしたちは、原発を建設し、運用し、その果実を享受することで、日々倫理に反する行動を行っている。しかし、これは必ずしも原発の即時停止や全廃を意味しない。また、わたしたちすべてが深く反省し、罪の意識に沈殿すべきだということも意味しない。なぜなら、人間の行動は倫理のみで測られるわけではないからである。倫理に反する決定が、別の論理に基づいて支持されることはある。たとえば戦争時の殺人のように。あるいは、地球の裏側で何百万人もの飢えた子どもたちがおり、少額の寄付でその多くの命が救われることがわかっているにもかかわらず、ジャンクフードで日々膨大な食料と資金を浪費しているわたしたちの日常のように。それゆえ、わたしたちが考えるべきなのは、原理的には倫理に反するはずの原発が、それでもいまこの時代に存在が許される、そのときの「条件」とはなにかということである。それは便利だから許されているのか。儲(もう)かるから許されているのか。ほかに手段がないから許されるのか。議論はここから具体論に入り、哲学の手を離れる。最終的な結論はさまざまな要素に依存し、不安定な未来予測にも左右される。たとえば、もし近い将来に画期的な技術革新が生じ、使用済み燃料の危険性が安全かつすみやかに除去できるようになるとするならば、たとえいま原発が倫理に反するように見えたとしても、むしろ建設を推進し、革新の到来を早めたほうが倫理的だということになる。あるいは、多くの人文的問題と同じく、その議論もまた再帰的な構造をもつ。たとえば、もし仮に、ある国で原発が倫理に反するものであることを確認したうえで、それでも慎重な議論を経て稼働が不可避だと判断されたのだとしても、その事実そのものがほかの国で安易な建設を促進するのだとすれば、その副作用は議論の最初の前提を掘り崩してしまうことになる。原発そのものが素直に肯定できる存在ではない以上、わたしたちは、その是非について、未来や他者の視線も考慮しながら総合的に判断しなければならない。以上、原発と倫理の関係について私見を述べた。ではそんなふうに言うおまえは具体的にどう考えているのかと問われれば、筆者は、深刻な福島第一原発事故を経験した日本は、ほかの国とは異なる条件を自覚し、原発の管理について特別の倫理的な役割を果たすべきだと考えている。それゆえ、原発の再稼働はしても新設はせず(リプレース含む)、自然全廃を受け入れるとともに、他方で原子力の研究にはいっそうの力を入れ、新設なしでの研究者と技術者の養成を試みるべきだと思う。しかし、その根拠について記すのは、また別の機会に譲りたい。いずれにせよ、わたしたちが忘れてはならないのは、原発というのは、21世紀初頭の現時点での技術水準においては、そもそも倫理に反する存在、つまり「存在しないほうがいい存在」であり、それゆえ稼働や新設をめぐっては慎重な議論が求められるということである。わたしたちは、すべての議論を、まずこの認識から始めなければならない。さきほども記したように、わたしたちはつねに倫理を守る必要はない。しかし、倫理を破るには、つねにそれなりの「言い訳」が必要になる。そして、その言い訳をどれだけ精緻(せいち)に、説得力あるかたちで、そして普遍的な論理に基づいて作ることができるか、そこでこそ人間の知性は試される。その点で言えば、立地自治体と経済界が望むので新設します、というのは、知性のかけらもない判断である。

*1-7:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11655467.html?_requesturl=articles%2FDA3S11655467.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11655467 (朝日新聞社説 2015年3月18日) 廃炉の決定 「脱原発」を見すえてこそ
 関西電力と日本原子力発電(原電)が、運転開始から40年を超えた原発3基の廃炉を決めた。中国、九州の2社も計2基の廃炉を18日に決める予定だ。運転期間を原則40年とする、福島第一原発の事故後に設けられた規制が初めて適用される。日本の発電所に48基ある原子炉(商業炉)のうち、20基近くが運転開始から30年以上経過している。延長は1回だけ認められるが、特別な審査に合格しなければならず、追加投資の必要も生じる。今後は毎年のように、廃炉にするのか決断を迫られるようになる。 1963年に原子力発電に成功して以来、日本は後始末に道筋をつけないまま原発を推進してきた。このため、廃炉を進めるために解決しなければならない課題が山積している。これらを克服し「廃炉できる国」にしていくことは、脱原発を着実に進める前提にもなるはずだ。
■未解決のゴミ問題
 廃炉事業で最も深刻なのが、ゴミの問題だ。解体にともなって出る使用済み核燃料と放射性廃棄物の置き場所が決まっていない。使用済み燃料については、全量を再処理する「核燃サイクル」を掲げることで直視を避けてきた。しかし、事業は事実上破綻している。使用済み燃料は原発の冷却プールや乾式キャスクに入れて敷地内に保管せざるをえないのが実情だ。特に関西電力は、福井県と「使用済み燃料の保管・処分は県外で」と約束してきた経緯がある。今回、美浜2基の廃炉を決めたことで、この約束とも直面することになる。放射性廃棄物の取り扱いもやっかいだ。線量の多寡によって分別され、それぞれ地中で管理する方針は決まっている。だが、高レベル廃棄物はもとより、低レベル廃棄物も処分地が決まっていない。埋設にあたっての管理基準もこれからだ。処分のめどが立たなければ廃炉作業自体が滞る。実際、国内の商業炉で初めて廃炉を決めた原電の東海原発(茨城県)では低レベル廃棄物の処分法が確立できないため、一度3年延期した原子炉の解体作業の着工をさらに5年先送りしている。政府は高レベル廃棄物の最終処分場について、立候補を待つ方式を改めて、自ら候補地の選定に乗り出す。どこにも決まらなかった経緯を考えれば、選定は難航が予想される。一方的な押しつけにならないよう手続きの透明性とともに、対話する機会を確保することが何より大切になる。
■必要になる地元支援
 原発が立地する地域にも配慮する必要がある。立地自治体には現在、電気料金に含まれる税金を財源とした電源三法交付金が配られているが、廃炉が決まれば対象外となる。経済的な自立の難しい過疎地域で、自治体財政を原発マネーに依存しているところが多いだけに影響は少なくない。お金を理由に立地自治体が原発の維持や建て替えを望む悪循環は断ち切らなければならない。ただ、いきなり住民生活に支障が出ることは避けるべきだ。当面、何らかの財政支援が必要になるだろう。人口も資源も少ない地域の振興は容易ではない。それでも、事故で大きな被害を受けた福島県は、再生可能エネルギーによる再生にかじを切った。福井県でも地域の資源を見つめ直す動きはある。国は、電力消費地との連携をとりもつなど、原発からの自立を積極的に支えることに注力してほしい。
■自由化に沿うものに
 政府は、電力の自由化を進めている。16年度には電力大手の地域独占を廃し、20年度には発送電を分離する計画だ。電気の利用者は、自由に電源を選べるようになる。一方、廃炉は20~30年かかる長丁場の事業になる。そのコストは一体、誰が負担するのか。今回の廃炉にあたっては会計処理のルールが見直され、必要額を電気料金から回収できるようにしている。廃炉費用の負担が電力会社にとって過大であれば、廃炉自体にブレーキがかかるとの考えからだ。今後についても送電網の使用料の一部として広く国民に負担を求める案が浮上している。だが、政策上増やしていく電源ならともかく、配慮が過剰になれば減らしていくべき原発の温存につながる恐れがある。競争上の公平さからも疑問は残る。詰めの論議が必要だ。廃炉の道筋を整えることは一面で、原発を更新しやすい環境をつくることにもなる。しかし、福島第一原発の事故を思えば、脱原発につなげることにこそ、廃炉を進める意味がある。関西電力は同じ17日、40年前後の原発3基の運転延長を求めて、原子力規制委員会に審査を申請している。脱原発依存を着実に進めるのか。政府はエネルギーの将来絵図を明確に示すべきである。

<原発事故と賠償>
*2-1:http://www.chunichi.co.jp/article/toyama/20150706/CK2015070602000029.html (中日新聞 2015.7.6) 放射線の真実記す 県内主婦ら 中高生向け冊子作製
●危険性、原発事故の歴史…
 東京電力福島第一原発事故を機に、県内の主婦らでつくる市民団体「とやま原子力教育を考える会」が、放射線の危険性や事故の歴史を盛り込んだ中高生向けの冊子「私たちの放射線副読本」をまとめた。県内の全教育施設に無償配布する予定で、代表の道永麻由美さん(62)は「同じ過ちを犯さないよう、真実を正しく伝える手助けになれば」と話す。副読本は、A4判全九十一ページカラー刷り。米国・スリーマイル島やウクライナ・チェルノブイリなど、世界で起きた原発事故の年表や放射線による人体への影響、身の守り方を図や表、写真で紹介している。福島原発事故後の二〇一一年九月、文部科学省が発行した副読本の内容が、「福島原発事故についての記載がなく、責任や原因にも触れていない」(道永さん)として、不満を抱いたメンバーらが集まって独自の副読本作製を企画。放射線の恐ろしさを正しく伝えようと、市民からの協力金など五十万円を集め、一二年四月から三年がかりで今年五月に二千部を完成させた。五日は富山市新富町のCiCビルで、メンバー六人が県内の教育施設五百六十九カ所や図書館六十八カ所への発送作業に追われた。副読本は、一冊五百円(税込み)と郵送料で購入できる。問い合わせは道永さん=電090(7083)8190=へ。

*2-2:http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201507/20150704_13015.html
(河北新報 2015年7月4日) <女川原発>事故時「仙台など高線量の恐れ」
 原発の重大事故に備える避難計画をめぐり、前提となる放射性物質の拡散想定の在り方が問われている。民間のシミュレーションでは、東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)が東京電力福島第1原発並みの事故に陥った場合、空間放射線量は県内の広範囲で高くなる恐れがあると判明。ただ原発から30キロ以上離れた仙台市などが避難対象に含まれる事態は想定されていないのが実態だ。「放射性物質は『見えない津波』。汚染の広がり方には地形や風向、風速などが大きく影響する」。民間シンクタンクの環境総合研究所(東京)顧問の青山貞一東京都市大名誉教授(環境政策)はこう強調する。研究所のシミュレーションによると、女川原発の事故想定では、風向きなどによっては、仙台市でも1時間当たりの空間放射線量が数十マイクロシーベルトに達する可能性があるという。地形を考慮した結果は図・上の通り。女川町周辺では西よりの風が多いが、陸地への影響が懸念される「東北東」の風を想定し、風速2メートルの場合の空間放射線量を色分けした。原発から数キロ圏は数百マイクロシーベルトと非常に高く、30キロ圏外の仙台市や七ケ浜町なども20~50マイクロシーベルトに上った。100キロ近く離れた白石市や蔵王町などは10~20マイクロシーベルトなどとなり、地形を考慮しない場合(図・下)より、高線量地域が広かった。原子力規制委員会の新たな基準では、毎時500マイクロシーベルトは即時避難、20マイクロシーベルトは1週間程度以内の避難に該当する。一方、規制委が2012年10月に公表した拡散予測では、避難が必要となるのは女川原発から最大18.3キロと試算されていた。女川原発の事故に備える広域避難計画については、立地自治体を含む周辺7市町が策定中だが、宮城県がガイドラインで示した対象はあくまで原発の半径30キロの区域にとどまる。しかも、国は実際の避難は放射線量の実測値を基に判断し、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は活用しない方針。ただ、30キロ圏で区切ったり、予測を避けたりする傾向には反発の声も出ている。女川原発30キロ圏の登米市の布施孝尚市長はSPEEDIの有用性を指摘し「予測は避難する上で必要な情報だ」と述べている。環境総合研究所のシミュレーションのシステム開発に関わった青山氏は「シミュレーション結果を避難計画の策定などにどう活用するかが重要だ」と訴える。研究所の予測結果について宮城県原子力安全対策課の担当者は「詳細が分からないのでコメントできない」と話している。
[環境総合研究所のシミュレーション]2011年11月~13年4月に開発したシステムで実施。大気汚染研究用などの計算モデルを福島第1原発事故に適用。国土地理院の地形データや気象庁の気象データも活用した。事故の規模、風向、風速などの違いに応じて放射性物質拡散状況を試算、1時間当たりの空間線量を色分けして表示する。約1000パターンをデータベース化。影響が及ぶ人口や事故後に同じ場所に住み続けた場合の積算外部被ばく線量も推計できるという。

*2-3:http://qbiz.jp/article/65547/1/
(西日本新聞 2015年6月28日) 東電賠償、計7・1兆円 時期確定で1兆円増額
 東京電力は、福島第1原発事故による損害賠償の総額を約7兆1千億円と見積もっていることが28日、分かった。近く改定する再建計画(新総合特別事業計画)に盛り込む。政府が避難者への慰謝料支払いなどの終了時期を示したことで、東電が想定する賠償額の全体像がほぼ固まった。従来の見通しより1兆円程度増額した。東電は既に原子力損害賠償・廃炉等支援機構と調整に入っている。両者は週内にも経済産業相に申請し、7月上旬にも認定を受ける見通しだ。政府は12日に決めた福島復興指針の改定版で、避難者への慰謝料に加え、商工業者の営業損害の終了時期を決めた。東電はこれに基づいて、追加の賠償額を計算した。2016年度分で終了する商工業者に対する営業損害や、17年度分で終わる避難者への慰謝料の支払いなどを含めたとみられる。ただ、賠償期間の終了後も営業損害が出たり、政府の目標通りに避難指示が解除できなかったりすれば、賠償総額がさらに膨らむ可能性がある。東電は4月に一部改定した再建計画では、損害賠償の総額を6兆1252億円と見込んでいた。一方、収支見通しに関しては、5月に金融機関に提示した、柏崎刈羽原発(新潟県)が10月から順次再稼働することを前提にした数字を盛り込むもよう。しかし原子力規制委員会による審査の先行きは見通せず、地元の了解が得られるめども立っていない。東電はことし秋から12月にかけて再稼働の時期を本格的に見直し、再建計画を再度改定する方針。

*2-4:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150703_2.html (2015年7月3日 日本弁護士連合会会長声明 会長 村越 進) 避難指示の解除、慰謝料支払の打切りに反対する会長声明
 政府は、2015年6月12日、福島復興加速化指針を改訂し、福島県の居住制限区域と避難指示解除準備区域について、避難指示を遅くとも2017年3月までに解除するとの目標を定めた。両区域の原発事故前の人口は約54、800人であり、避難指示区域全体の7割を占める。また、上記時期までに両区域の避難指示を解除することを前提に、避難指示区域からの避難者に東京電力が支払っている慰謝料について、解除の時期にかかわらず2018年3月分まで支払うよう東京電力を指導することを決めた。しかし、避難指示をいつ解除するかについては、避難指示区域とされている各市町村の実情に応じて判断していくべき事柄であり、上記解除の目標が当該地域の実情を無視して、一律に期限を区切るものであるとすれば、相当でない。当連合会は、住民の健康を守るためには、予防原則を貫徹し、避難指示解除は、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から慎重に行うべきであるとの意見を述べてきた(2013年10月4日付け「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」)。政府の原子力災害対策本部が2011年12月26日付けで示した「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」においても、避難指示の解除については、①年間積算線量が20ミリシーベルト以下となること、②日常生活に必須なインフラや、医療・介護などの生活関連サービスがおおむね復旧し、除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議を踏まえること、の3点を要件として挙げていた。また、解除に当たっては、地域の実情を十分に考慮する必要があることから、一律の取扱いとはせずに、関係市町村が最も適当と考える時期に解除することも可能とするとしていた。両区域の実情を見るに、①除染が未だ進捗していない、②除染後も高い放射線量が測定されている、③インフラや生活関連サービスの復旧の見通しが立っていない、④建築業者の人手不足のため、元の自宅の改修や建て替えをしようにも着工の見通しが立たないなど、あと2年弱で避難指示の解除や帰還の前提が整うとは考え難い地域が多く見られる。避難指示が解除されたからといって、わずか1年間で被害者が元の生活に戻れるものではない。よって、当連合会は、政府に対し、避難指示の解除については、各地域の実情を十分踏まえ、地元や対象住民との協議も十分行った上で、個別に慎重に判断すること、一律に2017年3月までに解除すると期限を区切らないことを求める。また、政府及び東京電力に対し、被害者の被害の実情を十分に踏まえ、避難指示区域からの避難者に対する慰謝料の支払を一律に2018年3月分までで打ち切ることのないよう求める。

<核廃棄物の処理と最終処分場>
*3-1:http://qbiz.jp/article/61427/1/
(西日本新聞 2015年5月5日) 【欧州の脱原発】スウェーデン 核のごみ、共存への覚悟
 日本記者クラブ欧州取材団に参加し、2月、ヨーロッパを訪ねた。使用済み核燃料(核のごみ)の最終処分場の建設計画が進むスウェーデン、脱原発が進むドイツと、再生可能エネルギーでほぼ全ての電力をまかなうアイスランドを紹介する。雪をかぶった針葉樹から木漏れ日が差し、絵本のような銀世界がまぶしく光る。森には希少種のカエルが生息するという。2月、スウェーデンの首都ストックホルムから北約140キロにあるエストハンマル自治体のフォルスマルク。この森の地下450メートルに、原発から出た使用済み核燃料(核のごみ)を埋め立てる最終処分場ができる。着工は2019年で、10年後には国内の原発から出た全ての核のごみが順に運び込まれる計画だ。「心配はしていませんよ。よく調査された結果ですから」。マルガレータ・バイレグレン副市長はさらりと言った。地層処分−。近づけば死に至る強烈な放射線を出し続ける核のごみを、地下深くで保管する手法だ。安全なレベルになるまでに要する時間は、およそ10万年。地域住民は途方もない年月を共存していく。核のごみの処分は、原発を抱える各国の共通課題だ。日本を含む多くの国が地層処分を目指す。ただ、具体的な予定地が決まっているのは2カ国にすぎない。小泉純一郎元首相が視察して話題になった「オンカロ」を建設中のフィンランドと、スウェーデンだけだ。米国とドイツは一度は決めた候補地で住民から反対を受け白紙撤回した。日本は、候補地選定のスタートラインで足踏みを続ける。「私たちは一番安全な場所で処分すべきだと考えている。それがここならば、やるしかない」。副市長は受け入れる理由を話した。事業主体は、国内の電力会社が出資する廃棄物管理会社「SKB」だ。1970年代から適地を探してきた。地層処分に耐えうる地質を持つ地域を選び、地元住民に理解を得るため説明会を重ねてきた。2カ所の最終候補地からフォルスマルクが選ばれた09年には、住民の8割が賛成意見を持つようになっていた。SKBが規制当局に最終処分場の建設許可を申請したのは11年3月だった。福島第1原発事故があった時期と重なる。SKBのクリストファー・エッケルベーグ社長は「事故直後には原子力に否定的な国民が増えたが1、2年で元に戻った」といい、こう付け加えた。「福島の事故が示したのは、核のごみを発電所内のプールに長い間置いておくべきではないということ。ちゃんとした処分場が必要だ」。スウェーデンの首都ストックホルムから南に約340キロのオスカーシャムには、最終処分場の技術を開発してきた「エスポ岩盤研究所」がある。処分場の適地の一つとして1990年に掘削が始まった。最終的に予定地から漏れたが、現在は地層処分の理解を促すため見学を受け付けている。雪で覆われた地上からバスでトンネルに入った。らせん状に約5分下っていくと、地下420メートルに着いた。むき出しの岩盤に水がじわりとしみ出している。「花こう岩に似たもので、18億年前の地層です。最終処分場の建設予定地の地質とよく似ています」。薄暗いトンネルの中で、研究所を運営するSKB社の担当者が説明を始めた。担当者によると地層処分の手順はこうだ。銅製の専用容器に核のごみを収容する。1本ずつトンネル内の穴に入れ、周囲を緩衝材の粘土(ベントナイト)で埋める。国内で出た全量(現在は約6千トン)を60〜80年かけて運び込み、最終的にベントナイトでトンネルを埋め、二度と掘り起こせなくする−。専用容器、粘土、周囲の岩盤という3重のバリアーを施された核のごみは地下で眠り続ける。「人間の環境から孤立させて保管します。ざっと4千世代先まで」
     ◆    ◆
 10万年という遠い将来まで負の遺産を引き継ぐことに不安はないのか。予定地フォルスマルクを抱えるエストハンマル自治体のマルガレータ・バイレグレン副市長は「情報は開かれている。私たちは安心している」と強調した。見返りとして、SKB社は最終候補地になったエストハンマルとオスカーシャムに計250億円を支払う。だが、日本が原発立地地域に出す交付金のような公的な経済支援はスウェーデンにはなく、固定資産税などの税収もない。「金で釣る」といった批判は当てはまらないという。近くの大工ラシュ・イエントさん(56)は「雇用が生まれていいのでは。心配はしていませんよ」と、屈託がない。処分場の最終候補に残った2都市には「原子力に慣れた町」だという共通点がある。ともに原発3基があり、フォルスマルクには中低レベル放射性廃棄物処分場が、オスカーシャムには国内の原発から出る放射性廃棄物の全てを一時的に預かる中間貯蔵施設がある。「放射線への理解や知識が豊かな地域。対話しやすい人たちです」。SKB社のクリストファー・エッケルベーグ社長は、原発がある地域に関連施設が集中する背景にそんな理由があると説明した。
     ◆    ◆
 東京電力福島第1原発事故を経験し、原発政策をめぐる産官学「原子力ムラ」の癒着構造を目の当たりにした日本人には、スウェーデンの人々が楽観的すぎるように思えてしまう。だが日本とスウェーデンには決定的に違う点がある。原発政策に対する国民の信頼の度合いだ。スウェーデンでは原発10基が稼働しているが、これまで大事故は発生したことがない。その延長線上で核のごみ処分場の議論が交わされてきた。さらに、目標達成時期は定めていないが、将来は電源を再生エネ100%にすることを目指すと決めている。79年の米スリーマイルアイランド原発事故後には、規制当局が電力会社に安全対策強化を指示し、事故時に原子炉格納容器の圧力を逃がす「フィルター付きベント」を全原発が取り付けた。日本ではフィルター付きベントは、福島第1原発と同じ沸騰水型の原発での取り付けが広がり始めたばかりだ。九州電力の川内、玄海両原発のような加圧水型では当面取り付けが猶予された。日本は30年遅れている部分がある。日本も原発を稼働させた以上、核のごみの処分から逃れられない。「トイレなきマンション」に例えられる原発の現状の放置は未来の世代に難題を先送りしていることになる。核のごみの処理に道筋をつけるには原発行政への信頼回復が先決だが、福島の事故も収束していない。日本の原発行政の信頼を回復させる取り組みは十分だろうか。
●イブラヒム・バイラン・エネルギー担当相 省エネ 将来100%に
 スウェーデンには原発10基があり、発電量の約40%を支えている。再生エネルギーは現在51%。2020年までに55%まで上がる予測だ。原発は老朽化しており、代替電力を考えなければいけない。将来は再生エネルギーで100%にすることを目指す。スウェーデンでは1980年の国民投票で2010年までの原発廃止が決まったが、前政権が政策を変更して原発の新設が可能になった。だが原発が造られた頃と違い、現在は国が原発事業者への補助を一切しないことで各政党が合意している。経済的な理由から新しい原発を造る事業者は当面出てこないだろう。短期間で原発を廃止すると電気料金が急上昇するため、ドイツと違って原発をゼロにする目標達成時期は定めていない。事業者が安全面や経済面を考慮して廃止していくのがいいと思う。主力の再生エネはバイオマスだ。海岸線が長い国土では洋上風力発電も期待できる。国会に全政党でつくる調査会を設け、将来のエネルギー政策について合意したい。

*3-2:http://mainichi.jp/feature/news/20150507mog00m030009000c.html
(毎日新聞 2015年5月8日) 核のごみ:最終処分場計画で苦悩するフランスに重なる明日の日本
 原子力大国のフランスで、人類の難題「核のごみ」を巡る議論が続いている。北東部ビュールに計画中の放射性廃棄物最終処分場は、1991年以来の長い議論の末、10年後に試験運用を始める予定だが、反対派の運動もあり、操業開始時期は依然、不透明だ。一方、最終処分場の操業まで放射性廃棄物を保管している北西部のラアーグ核燃料再処理工場では、貯蔵施設が満杯となるため拡張計画がスタートした。山積する課題に苦悩するフランスの姿は、明日の日本と重なる。仏ナンテールの裁判所は今年3月末、ビュールの処分場建設計画に反対する6団体が、計画を進めるANDRA(放射性廃棄物管理機関)を相手に起こした訴訟で、訴えを却下する決定を出した。6団体は、ANDRAがビュールの地下水脈の存在を過小評価し、処分場候補地選定に向けて誤った情報を提供したとして違法行為に該当すると主張していた。最終処分場を巡る反対派とANDRAの対立は続いている。24年前の91年、仏政府は最終処分場の建設地に適した場所を決めるため、地下試験施設の建設計画を策定し、地質条件からビュールなど国内3カ所の候補地を選んだ。ビュールは鉄道駅から車で1時間以上離れた小さな農村。一帯は、フランスで最も所得水準の低い地域の一つだ。地下に放射線を遮断する厚さ120メートルの粘土層があることなどから、98年に地下試験施設の建設が決まり、2000年に掘削工事が始まった。現在は地下480メートルに全長1290メートル以上の坑道を張り巡らせている。私は13年6月に地下試験施設内に入ったが、まるでSF映画の宇宙基地のような景観だった。直径約5メートルの坑道をフォークリフトが行き交い、粘土質の岩壁には3200基のセンサーが設置され、地盤の動きを測定していた。職員によると、この場所に最終処分場を建設する場合、岩盤の動きを少なくとも100〜150年間抑えるだけのコンクリートが必要という。放射性廃棄物を貯蔵する空洞は歳月とともに次第に埋まり、コンテナも風化する。放射性物質が岩に染み出すが、粘土層に閉ざされ、外に漏れるまでに10万年以上かかる計算という。政府はビュールの最終処分場をまだ認可していない。地下試験施設と最終処分場は本来、別の計画だ。しかし、地元住民を取材すると、両者を混同し、処分場の建設が既に決定されたと勘違いしている人が多かった。実際、06年に最終処分場の建設基本計画が策定された時も、住民への説明会などが遠隔地で開かれ、民意が計画に十分反映されなかったとの不満が出た。13年には、建設認可申請の条件である住民討論会が、反対運動による妨害を理由に中止された。住民討論会の代替策として、インターネットを使った討論会などが実施され、さらに地元住民代表が専門家と意見交換する「市民会議」がパリで開かれた。この結果などを受け、ANDRAは14年5月、新たな建設基本計画を公表した。当初は25年に操業開始予定だったが、市民会議で性急だとの批判が出たため変更された。新計画によると、17年に認可申請を終え、20年に認可を得られれば、同年中に建設に着手。25年に試験運転を開始する。試験運転の期間は5〜10年と想定している。だが、不測の事態が起きない保証はなく、反対派の動向も不透明だ。市民会議を傍聴する住民の姿は少なく、計画の周知がどこまで進んだのか疑問視されている。政府やANDRAがどこまで真剣に地元住民に必要な情報を伝え、民意を吸い上げようとしたのかは分からない。だが、地元住民の理解や民意を置いてきぼりに計画が進んでいる印象を受ける。中央のエリートたちが時には強引に事を進めるのがこの国の特徴でもある。反対運動の背景には、不十分な住民参加への不満がある。最終処分場計画は、ラアーグ核燃料再処理工場の運営にも影響を及ぼす。運営する仏原子力大手アレバ社は4月、工場内にある高レベル放射性廃棄物の貯蔵施設の拡張計画を発表した。同工場では国内外から受け入れた使用済み核燃料を再処理し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の原料となるプルトニウムを抽出している。再処理の際に残る高レベル放射性廃棄物はガラス固化体にして、国外分は発注国に返還し、国内分は最終処分場が稼働するまでの間、施設内に貯蔵している。アレバ社によると、現在の貯蔵施設は既に満杯になりつつある。今後7年間に2億3000万ユーロ(約297億円)を投入し、約6割増の収容数に拡張する計画だ。現在、地元県などが周辺11市町村の住民に環境への影響などの情報を開示し、意見を求める公共調査を行っている。同社は拡張計画について「最終処分場を待つ間の安全な解決策」としているが、ビュールの動向次第で保管期間が長期化する可能性もある。このように、紆余(うよ)曲折を経てようやく最終処分場の認可申請までたどり着きそうなのが、現在のフランスの状況だ。91年に試験施設の計画が生まれてから既に24年が経過し、この先、反対派の動向にもよるが、操業まで少なくとも15年以上かかる見通しだ。フランスの原発事情を取材して感じるのは、東京電力福島第1原発事故を機に日本で崩れ去った原子力の安全神話が、フランスにはまだ残っているということだ。また、農村部には政府権力に対する無力感が強く、政府の政策を受け入れやすい土壌がある。日本はどうか。ANDRAの職員が、フランスは日本と比べて地震のリスクが低いことを強調すればするほど、私は日本で最終処分場が実現するのか不安になった。青森県・六ケ所村にある高レベル放射性廃棄物をどうするのか。また、各地の原発施設のプールで保管されている使用済み核燃料をどうするか。経済産業省ではようやく、最終処分場の候補地選定調査の準備に取り掛かっている段階だ。だが、悠然と構えている時間はない。原発が稼働する限り、「核のごみ」は刻一刻と増えていくからだ。まずは本格的な議論を早急に始めなければならない。

*3-3:http://qbiz.jp/article/61428/1/
(西日本新聞 2015年5月5日) 日本の最終処分場 選定難航、保管余力なく
 日本は使用済み核燃料(核のごみ)の地層処分を念頭に1970年代から研究を開始した。北海道と岐阜県に研究施設がある。スウェーデンと異なり地震が多い地理的条件もあり、候補地選びは難航している。日本原子力研究開発機構によると、前身の動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が80年代に実施した調査で、活断層や火山などを考慮して全国の88カ所が「適地」に選ばれた。このうち10カ所は鹿児島県にあった。最も多かったのは福島県だった。スウェーデンと同様に原発立地地域と重なった。現在、地層処分を推進するのは、電力会社でつくる原子力発電環境整備機構(NUMO)。2002年に処分場を受け入れる意思のある自治体の公募を始め、過去の地震や火山の影響を調べる「文献調査」に応じれば10億円、その次の概要調査に応じれば20億円と、国は交付金をふんだんに準備した。07年に高知県東洋町が手を挙げたが住民の猛反発を受けて撤回に追い込まれた。そのほかに応じた自治体はない。今年2月、経済産業省は、市町村の公募方式を見直し、科学的な適地を国側から提示していく方針を明らかにしたが、福島の事故で放射性物質の怖さを目の当たりにした今、「地元の理解を得るのは簡単な作業ではない」(NUMO)。だが核のごみの処分は待ったなしの課題だ。そもそも日本は、核のごみを再処理して燃料として再び利用する計画だが、青森県六ケ所村の再処理工場はトラブルが続いて機能していない。九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)など全国で再稼働に向けた動きが進むが、各原発の敷地にある核のごみの保管プールはどこも空き容量は乏しい。最も余裕が少ない玄海原発(佐賀県玄海町)では再稼働して約3年で満杯になる見込みだ。科学者でつくる日本学術会議は再稼働の条件として、明確な核のごみ対策を求めている。既に国内の各原発には計1万4千トン以上の核のごみがある。原発の再稼働に反対であろうとなかろうと、見て見ぬふりはできない。

*3-4:http://qbiz.jp/article/62297/1/
(西日本新聞 2015年5月16日) 核のごみ最終処分場 経産省、追加財政支援の意向
 経済産業省は15日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分に関する有識者会議で、処分場の建設を受け入れる自治体に対し、原発関連の研究拠点整備など新たな財政支援策を設ける方針を示した。選定に必要な調査は3段階あり、第1段階の文献調査で最大20億円、第2段階のボーリング調査などの概要調査時に最大70億円を電源立地地域対策交付金から支給する支援策が既にある。経産省は新たに、第3段階の実証実験や処分場建設決定後について追加の財政支援策を設け、計画を推進させたい意向。難航する処分場建設をめぐっては、政府が2013年末に従来の自治体の公募方式を転換。政府が「科学的有望地」を示した上で、処分場の建設に向けた調査を要請する方向で準備を進めている。

<九電川内原発と火山>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/ASH6M7QH4H6MTIPE054.html
(朝日新聞 2015年6月20日) 川内原発に核燃料搬入、7月7日から 九電が工程見直し
 スクラップ メール 印刷  再稼働を控えた九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)で、原子炉への核燃料の搬入作業が7月7日に始まる見通しとなったことが、19日わかった。九電が原子力規制委員会に伝えた。4日に始める予定だったが、よりスケジュールに余裕を持たせるため工程を見直す。1号機の再稼働は、これまで通り8月中旬を目指している。川内原発1、2号機は再稼働前の最終段階となる規制委の設備検査を受けている。1号機では19日、核燃料を原子炉に入れるために必要な検査を終えた。今週以降に始まる2号機との共用設備の検査は7月3日に終わる見通し。これまでは、4日から約150本の核燃料の搬入作業を始める計画を立てていた。しかし、作業には下請け企業も含めて数百人が関わり、準備に時間がかかることなどから、3日ほど遅らせることになった。搬入は7日から4日ほどで終わり、その後約1カ月の規制委の設備検査を経て再稼働する。ただ、九電はこれまで検査への対応に手間取るなどして再稼働の時期を何度も遅らせており、想定通りに進むかは不透明だ。

*4-2:http://qbiz.jp/article/63167/1/
(西日本新聞 2015年5月28日) 科学者、川内再稼働に懸念表明 地震、火山対策「不十分」
 原子力規制委員会が27日、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に必要な全ての審査手続きを終了した。規制委は「世界最高水準」の審査基準と強調するが、地震や火山を研究する学者からはなお「不十分」との評価が相次ぐ。福岡市の九電本店では再稼働反対を訴えて鹿児島市から12日間かけて歩いてきたリレーデモ隊が九電側と小競り合いになり、警察が出動する騒ぎになった。一方、原発が立地する薩摩川内市では、再稼働を心待ちにする事業者らの切実な声が上がった。地震や火山など50の学会・協会で組織する「日本地球惑星科学連合」は24〜28日、千葉市で学会を開催中。27日は「地球科学の限界と原発」をテーマに研究発表があった。約150の席は全て埋まり、立ったままの傍聴者もいた。九電は川内原発に関し、日本列島の太平洋側で発生するマグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震を厳密に検討していない。除外理由を「敷地から遠く、発生しても震度5弱以上とならないため」という。だが、神戸大の石橋克彦名誉教授(地震学)は「検討対象から除いたのは間違っている」と訴えた。会場からも「震度5強を上回る可能性は十分ある」との指摘があった。同地震を考慮するなら、川内原発の耐震強化の目安となる基準地震動の変更が迫られかねないという。「九電の過誤を見過ごした規制委の審査は、重大な間違いを犯している」(石橋氏)。東京大の纐纈(こうけつ)一起教授(同)は、福井地裁が関西電力大飯原発の再稼働を差し止めた昨年5月の判決で、規制委が外部電源や給水設備に高い耐震性を求めておらず、一定の揺れでその機能が失われる可能性を指摘したことを「正しい」と支持。重大事故時に冷却機能が失われる恐れがあるため、再稼働を認めなかったのは「妥当な判断」との見解を示した。一方、鹿児島地裁が川内原発の運転差し止め仮処分に絡み、再稼働を容認する判断を出したことには「行政判断を尊重する福島の事故前の司法スタンスに戻った」と批判した。火山学者も続いた。静岡大防災総合センターの小山真人教授は、九電が約1万3千年前の桜島薩摩噴火を基に、巨大噴火による敷地内の降灰想定を15センチとしている点を問題視。鹿児島湾内の姶良(あいら)カルデラの噴火データを踏まえれば、風向きによっては1メートルほどになる懸念も十分あるとした。1メートルに及ぶと事故があっても原発に近づくことは難しい。「九電はそのことを意図的に考慮していない」と批判した。火山噴火の監視を専門とする京都大の石原和弘名誉教授も、九電が巨大噴火の前兆が数十年前から始まり、十分に事前準備できると主張していることに「数年前、数カ月前に始まる前例があり、信じられない評価だ」などと述べた。

*4-3:http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201505/0008074957.shtml
(神戸新聞 2015/5/30) 口永良部噴火/原発の再稼働に不安残す
 怒髪天を突く。そんな形容がぴったりの爆発的噴火だった。鹿児島県口永良部島(くちのえらぶじま)の新岳(しんだけ)噴火である。きのう午前、山頂付近から突如、黒煙を噴き上げ、直後の火砕流は数キロ先の海岸まで達した。緑の山が火山灰でたちまち白くなる。風景を一変させる圧倒的な自然の底力。気象庁は噴火警報を発表し、噴火警戒レベルを3(入山規制)から最も高い5(避難)に引き上げた。2007年の運用開始以来、5へ引き上げたのは初めてだ。島民や一時滞在者ら約140人が安全な場所に待避した後、船などで全員、屋久島に避難した。1人が軽いやけどを負っているという。気象庁は、地下のマグマだまりが押し上げられて起きるマグマ噴火とみている。活発な火山活動が続けば島民の避難は長期化する可能性がある。ほとんどが着の身着のままだ。高齢者や病弱の人もいる。住まいや健康対策など、避難生活の長期化に備え、政府は万全を期さねばならない。00年の三宅島噴火では全島避難による島外生活が4年以上続き、生活基盤を島外に移す例も多かった。そうした事例からも学びたい。気になるのは、日本列島の火山活動が活発になったことだ。昨年9月に噴火した御嶽(おんたけ)山(長野県)をはじめ、桜島(鹿児島県)や蔵王山(宮城県)、箱根山(神奈川県)など各地で不気味な現象が続いている。マグニチュード9クラスの地震が起きた周辺で火山噴火が多くなるのは世界的な傾向とされる。東日本大震災で列島の地殻に加わる力が変わったためだとすれば、今後も規模の大きいマグマ噴火が起こりうると考えておかねばならない。九州とその南の沖合では過去、破滅的なカルデラ噴火が繰り返された。地層に痕跡が残る。7300年前の薩摩硫黄島の噴火は、火砕流が九州内陸や屋久島にまで達した。その九州でこの夏、川内(せんだい)原発の再稼働が始まろうとしている。火砕流が防災上の課題であることは九州電力も認める。だが、「問題ない」とする。その理由は火山学者の常識から著しく外れる。噴火の時期や規模を予測するのは現在の科学では難しいが、その限界が理解されていないのだ。これでは備えにならない。口永良部噴火の動向と、及ぼす影響を注意深く見守る必要がある。

<国民の意見>
*5-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015052902000141.html (東京新聞 2015年5月29日) 「原発是非で国民投票を」 署名16万筆集まる
 市民グループ「みんなで決めよう『原発』国民投票」は二十八日、東京・永田町で記者会見し、原発稼働の是非を国民投票で決めるよう求める署名が計十六万五千筆になったと発表した。引き続き署名を集め、国民投票の手続きを定める法律の制定を超党派の国会議員に働き掛ける。グループの代表は宮台真司(みやだいしんじ)首都大学東京教授と杉田敦法政大教授で、署名集めは三十~四十代が中心となり福島原発事故後から全国で実施。二〇一二年六月に十万四千筆を衆参両院議長らに提出した。この日の会見ではさらに五万二千筆を集めたとして請願法に基づき衆参の五党十二議員を通し国会に提出すると説明。ほかにもネットなどで九千筆を集めた。運営委員長の鹿野隆行さん(42)は「グループとしては原発の是非に賛否を表明しない。国民投票という、国民の声が反映される土台を作りたい」と説明。東京都町田市の整体師石崎大望(ひろみ)さん(42)は「選挙以外に自分の意思を政治の場に届けることに希望を感じている」と話した。署名活動の詳細はホームページ=http://kokumintohyo.com/=で。

*5-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10102/196705
(佐賀新聞 2015年6月12日) 玄海原発停止、270人追加提訴
 原発の再稼働に反対する佐賀県内外の市民が国と九州電力に玄海原発全4基の操業停止を求めている訴訟で、新たに270人が11日、佐賀地裁に追加提訴した。14回目の提訴で、原告数は9396人になった。提訴後、原告団は鹿児島地裁が4月に川内原発(鹿児島県)の再稼働を禁じる仮処分申し立てを却下したことに対し、「福島第1原発事故を真正面から見据えず、事故前と変わらない司法判断」などと批判する声明を出した。長谷川照団長は「川内原発の再稼働に反対する人たちの心の支えにもなるよう原告1万人を達成したい」と話した。

*5-3:http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kennaitopix/2015/03/15090603016802.shtml (長崎新聞 2015年3月15日) ナガサキ集会300人訴え
 脱原発を訴える「さようなら原発ナガサキ集会」が14日、長崎市平野町の長崎原爆資料館ホールであり、約300人が再稼働反対の思いを一つにした。県平和運動センターなどでつくる「さようなら原発1000万人アクション・ナガサキ」などが主催。原子力の安全問題に詳しい元慶応大助教授(物理学)の藤田祐幸さん(72)=西海市大瀬戸町=が講演し、「一体何度『ノーモア』を繰り返せばいいのか」と脱原発を呼び掛けた。藤田さんは原発停止分の電力を補ってなお火力発電所の稼働率が低い点を指摘。「原発をすべて火力発電に置き換えることはすでに成功している。全原発を廃炉準備段階にし、金や人員を他に移す方が効率的だ」と強調した。このほか、福島の住民のビデオメッセージの紹介や、再稼働の動きが進む九州電力川内原発(鹿児島県)について地元住民による反対宣言もあった。参加者は集会後、JR長崎駅近くまで「原発いらない」「再稼働反対」と訴えデモ行進した。

*5-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/162077
(佐賀新聞 2015年3月3日) 30キロ圏内も地元範囲に 伊万里市長 知事と会談
 伊万里市の塚部芳和市長は2日の定例記者会見で、17日に予定している山口祥義知事との会談で、玄海原発の再稼働を同意する際の「地元範囲」に伊万里市など玄海原発から30キロ圏内を含めるよう要望することを明らかにした。会談では市長と市議会議長、市区長会連合会長との連名で要望書を提出する予定。地元範囲に関する要望のほか、九電と伊万里市との原子力安全協定締結に県が関与することや、原発交付金を30キロ圏内の避難道路整備や防災行政無線設置にも充当することを求める。山口知事は2月の県議会一般質問で、協定のあり方について「事業者と各自治体が結ぶもので、基本的には当事者間で協議して定めるべき」と答弁している。塚部市長は「答弁を聞く限りはわれわれの要望とは、程遠い状況かもしれないが、伊万里市長の意見も聞いて判断するという答弁もあったので期待したい」と話した。

*5-5:http://qbiz.jp/article/66870/1/
(西日本新聞 2015年7月16) 伊方原発の“対岸”大分、漁業者「事故あれば風評被害」
 四国電力伊方原発3号機が新規制基準に適合しているとした原子力規制委員会の決定に、原発から海を挟んで約45キロに位置する大分県では、漁業関係者らが不安を募らせた。「事故があれば漁師の命にかかわるし、大分の魚の風評被害がずっと続く」。大分県漁業協同組合の職員(55)は懸念を深める。「関あじ」「関さば」など高級魚の漁場である大分近海は、原発のある愛媛県の佐田岬半島と目と鼻の先。四国電からは、事故時の補償の話までは出ていないといい、職員は「放射性物質が海に流れれば風評被害が広がり、ますます後継者が減る」と語った。四国電に運転差し止めを求める訴訟を松山地裁に起こしている原告団の一人で、NPO法人「九州・自然エネルギー推進ネットワーク」の小坂正則代表も「近く南海トラフ地震が起こるのは間違いなく、去年と今年は伊予灘と大分で大きな地震もあった。再稼働は理解できない」と批判した。一方、事故が発生した場合に対応に当たる大分県は「(原発については)国と事業者の責任で安全性を確保し、住民に十分理解してもらうことが大事と申し上げてきた。これからもしっかり見守っていく」とする広瀬勝貞知事のコメントを出し、冷静に受け止めた。大分県は、秋に予定される愛媛県の防災訓練に参加し、大分県民向けの屋内退避訓練も実施する予定。


PS(2015年7月17日追加):パブリックコメントには、短い期間で多くの原発再稼働への批判意見が寄せられ、「可能な限り低減」としたのであれば、既に原発割合は0であるため再稼働する必要はない。そして、化石燃料の使用を抑えるためには、自然エネルギーへの変換に資金を集中するのが賢い。

*6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015071702000137.html
(東京新聞 2015年7月17日) 30年電源、原発回帰 最大22%活用決定
 経済産業省の有識者委員会は十六日、二〇三〇年の電源構成比率で、原発の割合を「20~22%」とする報告書をまとめた。意見公募(パブリックコメント)を踏まえ、原案の文言を一部修正した。報告書の決定を受け、政府は実現に向けた施策づくりに乗り出す。パブリックコメントは六月二日から約一カ月実施され、二千六十件の意見が寄せられた。原発の再稼働に批判的な意見が寄せられたことを考え、原発の割合に関して「可能な限り低減」との文言を加えた。委員会ではパブリックコメントで集まった、原発や再生可能エネルギーに対する意見が紹介された。しかし、賛成や反対の詳細な割合は公表しなかった。坂根正弘委員長(コマツ相談役)は「意見を言いたい人が言うだけでバランスを考えた発言がない」と説明した。委員から「原発のリプレース(敷地内の建て替え)がなければ、(20~22%の)目標は達成できない」といった反対意見が出るなど議論は完全には一致しなかった。報告書では、太陽光や水力、風力といった再生可能エネルギーは「22~24%」とし、現在の約二倍に増やす方針も明記した。石炭や液化天然ガス(LNG)などを使う火力は56%とした。


PS(2015年7月22日追加):経産省が安くもない原発のコストを安いと偽り、地方自治体は交付金目当てで大半の国民が反対している原発再稼働を主張しながら、「『重大事故などに国が責任を持つ』と首相に意思表示させよ」とは、エゴが過ぎる。そもそも豊予海峡は海流の流れが早く、潮流発電の適地であるにもかかわらず地の利を活かした先進的な工夫がなく、そのようなところが加圧水型の廃炉研究をしても環境への配慮について信用できない。

*7:http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20150722/news20150722493.html
(愛媛新聞 2015年7月22日) 「責任、首相が表明を」 再稼働問題で知事要望
 国の原子力規制委員会が四国電力伊方原発3号機(伊方町)の原子炉設置変更を許可し、政府が再稼働方針を愛媛県に伝えたのを受け、中村時広知事は21日、経済産業省で宮沢洋一経産相と面会した。国として重大事故などに最終的な責任を持つという首相の意思表示など、8項目の要望を口頭で申し入れた。中村知事は「県民は最高責任者の言葉を非常に重く受け止める」と指摘し、再稼働に関する議論の過程で「最終責任について首相の声を直接聞く機会をつくってほしい」と求めた。沸騰水型軽水炉の東京電力福島第1原発で廃炉作業が行われる中、伊方原発が採用している加圧水型軽水炉の廃炉も研究する必要があると主張。「伊方1号機が(1977年の運転開始から40年を超えて)運転を延長するか今の段階では分からないが、いずれ廃炉となる。ぜひ加圧水型の廃炉研究を伊方で行うよう検討してほしい」と訴えた。宮沢経産相は安倍晋三首相に伝えるとし、加圧水型の廃炉研究に力を入れる必要があるとの認識を示した。

| 原発::2015.4~10 | 12:44 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.7.7 ギリシャ危機を契機として議論が予定されている日本の消費税増税と社会保障削減は、日本の財政再建に適切ではないということ (2015年 7月8日、9日、10日に追加あり)
   
ギリシャの地図   2015.7.6西日本新聞      ギリシャの歴史     6世紀、ビザンチンの地図    

(1)国際通貨基金(IMF)発のギリシャ危機について
 *1-1のように、「①ギリシャは2012年に大幅な債務削減を受けたが、再び危機に陥った」「②国際通貨基金(IMF)は報告書で、ギリシャの財政は新たな金融支援が欠かせないとした」「③IMFは、最も楽観的なシナリオでも2022年に110%の目標を達成するにはGDPの3割超に及ぶ大幅な債務カットが必要になると分析」「④ギリシャのGDPは危機前の2008年から2014年にかけて約25%減った」「⑤雇用情勢も3月の失業率が25.6%とユーロ圏内で最悪」「⑥欧州連合(EU)財務相会合のデイセルブルム議長はこれまでより厳しい条件が必要になるとけん制した」とのことである。

 私は、この場合の処方箋は、失業率が5~8%になるまで仕事を作ってGDPを増やすことであって、まともな生活ができないほど年金を減らして、消費税を上げることではないと考える。年金は、日本と同様に仕事を持って十分に収入のある人は停止することで、削減することが可能だ。

 そのため、*1-2のように、ギリシャが国民投票を行ってEUが求める財政再建策を、反対61・31%・賛成38・69%で拒否したのは正解である。しかし、*1-3、*1-5のように、欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャが緊縮策を受け入れなければ、金融支援の延長や債務減免協議を行わず、ギリシャの銀行への資金供給を据え置くとしている。

 しかし、*1-4のように、中国は、「ギリシャがユーロ圏に留まることができるか否かは、国際金融の安定と経済復興に関わる問題だ。中国は建設的な役割を果たす用意がある」と言っているため、貿易・投資・観光・金融などで協力してもらうのがよいだろう。このほか、ロシアも協力する意志を表明している。

 ギリシャは古代ヨーロッパ文明の発祥の地であり、その近くにはエーゲ海、価値ある遺跡、美しい街並みが数多く残っているが、廃墟のようになってしまったものや消防車の入らない道も多い。そのため、古代遺跡の価値を損なわずに忠実に復元しながら、最新の技術を導入する投資をすればよいと考える。

(2)古代文明遺跡群はどうだろうか
   
 ギリシャの街並み          アテネにある遺跡          ギリシャの彫刻

        
  ポンペイ   エジプト   インドの彫刻    中国、兵馬傭の人物
  の彫刻    の彫刻

 ヨーロッパはじめ、古代文明遺跡のある場所は、建物を壊したり、建て替えたりすることができないため、2000年以上も同じ建物が建っている。そのため、壊れたり、もともと着色されていた色がはげたりしているものが多く、安っぽい復元ではない本当に史実に忠実な復元を行えば、観光資源としてのみならず、ものすごい価値の出るものが多いだろう。さらに、それぞれの文明の発祥、拡散、混合が目に見えるようになり、歴史が「百聞は一見にしかず」となる。そのため、ユネスコは、古代文明遺跡群も世界遺産に認定して、発掘や復元を推進してはどうだろうか。

 その中には、当然、エジプト、メソポタミア、インド、中国、ギリシャ、ローマなどが入り、これらがハイウェイや高速鉄道で結ばれれば、一般の人にとっても面白くなる。(書ききれなかった地域は申し訳ないしょぼん

(3)日本の危機を煽り、間違った解決策を推進する財務省など
 ギリシャ危機に乗じ、財務省が中心となって「①ギリシャの惨状は遠い外国の話ではない」「②日本も財政再建の先送りは危うい」「③増税は消費税率の10%への引き上げを織り込むが、それ以上は封印した」「④歳出の抑制・削減策もメニューこそ並べたが、具体案や実行への道筋は先送り」「⑤経済成長に伴う税収増に頼ることは期待頼みの禁じ手」「⑥医療・介護・年金などの社会保障抑制・削減と増税が必要」「⑦社会保障を持続可能にし、将来世代へのつけ回しをやめるには、痛みを伴う改革が避けて通れない」というメッセージを発している。

 しかし、②③⑤⑦は、どうしても消費税増税をしたい財務省が中心となって言っていることを、殆どのメディアがマイクロホンのように書きたてているだけだ。これを政治が発信しているのではなく、行政が発信していることは、政権が民主党にかわっても同じことをさせられたことによって、既に証明されている。

 また、第三の権力として動いているメディアが行政に協力している理由は、政治家は都合が悪くなれば追い落とせるので怖くないが、行政はそういうわけにはいかないので真に怖く、かつ、消費税が上がれば新聞が生活必需品として軽減税率を適用されるよう運動しているからである。これでは、国民の福利向上のために闘う組織という姿勢はない。

 さらに、ヨーロッパと異なり、福祉国家にはなったこともない日本で、①④⑥のように、国民への福祉削減を言いたてるのは間違っている。そもそも、医療・介護・年金は、国民が若くて健康な間に、それぞれ別に保険料を支払い、年をとって必要になったら給付を受けることを約束していたものであるため、この契約を大きく変更して国民負担を増やし、厚労省の管理運用の不備に関する責任を、ひそかに国民にとらせることは筋が通らないのである。

 そして、⑦のように、「痛みを伴うから、よい改革である」と言うのは考えが浅すぎるとともに虚偽であり、管理運用の不備をそのままにして国民が不足分を補てんすれば、管理運用の不備を改善する機会が失われて、ずさんで無責任な管理運用がそのまま続くのだ。

 古賀茂明氏は、*2-2のとおり、「増税こそがギリシャへの道」としており、私も同じ意見だ。ただ、年金は、定年を延長したりして、高齢者でも十分な収入がある場合には現在でも支給停止になるため、これでよいと考えている。また、株式会社にしさえすれば、何でもよくなるとは思わない。

 「ギリシャにならないために増税」「将来の安心のために増税」というキャッチフレーズは、本当によく使われているが、私も「増税すればギリシャへの道」と考えている。ギリシャの消費税は現在20%だが、消費税は消費する者にペナルティーをかけるため、消費税を高くすればするほどモノが売れなくなり、稼ぐ力が落ちるからである。また、おおざっぱに言えば、公務員は新しく財やサービスを生産する人ではなく、新しく財やサービスを生産した人が払った税金によって養われている人であるため、国全体としては、公務員の割合が高ければ高いほど、国民一人当たりの稼ぐ力が落ちるわけなのである。

 そして、日本も「つい最近まで消費税を1%上げれば2・5兆円税収が入るといわれたが、今は1%上げて2・1兆円しか入らない国になった」「そういう中で、財務省はいま増税しようとしており、そうすると経済はもっと縮小して、税収はさらに減る」というのは本当であるし、理論的にも正しい。

 そして、「稼げるようにする」ためには、農業、医療、新エネルギー、環境車などの比較優位な分野をさらに伸ばさなければならないのであって、政府がそれを妨害することは決してあってはならない。

 なお、「消費税を上げるのは不人気な政策だが、責任与党の政治家はこのような不人気な政策もやらなければならない」というのはおかしい。何故なら、古賀氏が言うとおり、これは戦うべき相手を間違えており、強力な既得権グループとは戦わずに、一番弱い消費者(それも高齢者)を相手に戦って、消費税や物価を上げ、生活を困窮させているからだ。しかし、第三の権力と言われるメディアもこれに加担しているため、まともな政策を行おうとする政治家の方が落選させられる仕組みになっているのである。

<ギリシャ危機について>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150706&ng=DGKKASGM05H1H_V00C15A7NN1000 (日経新聞 2015.7.6) 
ギリシャ経済 いばらの道 EU、債務再編も視野に 財政再建見通せず
 5日に実施されたギリシャの国民投票は、欧州連合(EU)に債務再編を含めたギリシャ支援の仕切り直しを迫る。ギリシャは2012年に大幅な債務削減を受けたが、持続可能な財政運営に戻れず、再び危機に陥った。国民投票の結果が賛成と反対のどちらに転んでも、ギリシャ経済にはいばらの道が待ち受ける。ギリシャの債務は持続不可能――。国際通貨基金(IMF)は2日の報告書で、ギリシャの財政は新たな金融支援が欠かせないと結論づけた。12年のギリシャ支援の際、EUやIMFなど債権団はギリシャ財政を持続可能な水準に戻すため、金融支援や債務カットで合意した。具体的にはギリシャの債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率を、22年に110%を下回る水準まで下げる目標を掲げた。ただ、ギリシャの債務残高は14年時点でGDPの177%と高止まりしたままだ。IMFの2日の報告書では最も楽観的なシナリオで試算しても、ギリシャ債務は20年に150%と高水準が続く。「22年に110%」の目標を達成するには、GDPの3割超に及ぶ大幅な債務カットが必要になると分析した。試算はギリシャがIMFへの返済を延滞して実質的な債務不履行(デフォルト)に陥ったり、資本規制を導入したりする以前の評価に基づく。その後のギリシャ経済の混乱で、財政状況はさらに悪化しているもようだ。これまで新たな債務再編に慎重な姿勢をみせてきたEU側でも、このままではギリシャ財政が立ちゆかなくなるとの見方は浸透している。ユンケル欧州委員長は6月末に物別れに終わった支援交渉の最終局面で、チプラス首相に秋にも債務再編の協議に入る準備があると伝えていた。債務削減は最終的には各国の納税者の負担につながるだけに、ユーロ加盟国の議会などの反発は避けられない。ユーロ圏財務相会合のデイセルブルム議長(オランダ財務相)はこれまでの交渉に比べ「より厳しい条件が必要になる」とけん制する。EU側がギリシャの国民投票で焦点となった緊縮策よりさらに厳しい財政改革を求める可能性もある。ギリシャのGDPは危機前の08年から14年にかけて約25%減った。雇用情勢も3月の失業率が25.6%とユーロ圏内で最悪だ。ギリシャのユーロ残留に向けた新たな金融支援の交渉では、持続可能な財政を取り戻すうえで成長をどう底上げするかも重要な課題となる。

*1-2:http://qbiz.jp/article/66105/1/
(西日本新聞 2015年7月6日) ギリシャ、大差で再建策拒否 国民投票、首相が勝利宣言
 【アテネ共同】欧州連合(EU)などが求める財政再建策への賛否を問うギリシャの国民投票は5日投開票の結果、反対が61・31%と賛成の38・69%に大差をつけ、反対を訴えていたチプラス首相が勝利宣言した。再建策が拒否されたことを受け、EUは対応を協議するが、ギリシャ支援を再開するかは不透明。ギリシャが財政破綻し、欧州単一通貨ユーロ圏から離脱を迫られる事態も想定され、EUは最大の試練に直面した。欧州統合の象徴ユーロは1999年の誕生以来、離脱の前例はない。ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領はユーロ圏首脳会議を呼び掛け、EUのトゥスク大統領は同会議を7日に招集。欧州中央銀行(ECB)が6日に臨時理事会を予定するなど、危機回避に向けた動きが活発化してきた。週明け6日の東京市場で日経平均株価(225種)の下げ幅が一時、前週末終値比300円を超え、ユーロ安が進むなど国際金融市場には動揺が広がった。ギリシャがEUの支援と引き換えにこれまで行ってきた年金支出削減など緊縮策への不満は強く、一段の負担を求める再建策への圧倒的な反対につながった。投票率は62・5%だった。「反緊縮」を掲げるチプラス氏は5日夜のテレビ演説で「ギリシャは歴史的なページを開いた」と述べ「交渉のテーブルにつく」として、1日に失効した支援の再開をめぐりEUとの協議に臨む考えを表明。反対多数の世論を後ろ盾にEU側に譲歩を迫る構えだが、交渉の難航は確実だ。ギリシャは6月末が期限だった国際通貨基金(IMF)への債務返済が滞り、事実上のデフォルト(債務不履行)状態。今月中に満期を迎える円建て債券(サムライ債)や国債の償還ができない恐れもある。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150707&ng=DGKKASGM06H65_W5A700C1MM8000 (日経新聞 2015.7.7) 
ギリシャが新提案へ、EU、緊縮策なお要求 欧州中銀、資金供給を議論
 財政危機に直面するギリシャのチプラス首相は6日、ドイツのメルケル首相と電話で話し、7日のユーロ圏首脳会議でギリシャが欧州連合(EU)による支援を巡る新たな提案を示すことで一致した。EUは緊縮策受け入れが支援の条件という従来の立場を崩していない。ギリシャの銀行の手元資金は枯渇しつつあり、政府は7日から再開を目指していた銀行の営業について8日まで休業を延長すると決めた。ギリシャは6月末に資金の流出を防ぐため、銀行営業の停止と資本規制の導入を発表した。欧州中央銀行(ECB)による支援がなければ銀行が営業を再開しても資金繰りに窮するのは確実とみられている。ロイター通信によると8日までの銀行休業の延長とともに一日60ユーロの現金引き出し制限も維持される。ECBは6日、緊急理事会を開き、ギリシャ銀行への流動性支援について協議した。5日のギリシャ国民投票ではEUが支援の条件として示した緊縮策に約6割が反対を表明し、賛成は約4割にとどまった。チプラス首相は「結果は我々の交渉での発言力を強めた」と発言。緊縮策の緩和や、債務減免などをEUに求める立場を示唆した。しかし、EU側はあくまでもギリシャに緊縮を要求する構え。フランスのサパン財政相は6日、「新たな提案をするのはギリシャ政府だ」と主張。独政府報道官は「交渉の扉は開いている。ギリシャ側の提案を待ちたい」と記者団に語った。ギリシャに残された時間は少ない。銀行機能の停止が長引けば、主力の観光産業だけでなく、すべての商取引に影響が及び、経済全般が打撃を受けるのは避けられない。一方、EUとの交渉を主導したバルファキス財務相は6日、辞任した。チャカロトス外務副大臣が後任に指名された。EUの一部はバルファキス氏の存在が交渉を難しくしているととらえており早期合意へギリシャ側が一定の譲歩をした格好だ。首相はECBのドラギ総裁とも電話協議した。ギリシャ中銀は5日夜、民間銀の資金繰りを支えるため、ECBに「緊急流動性支援(ELA)」=総合2面きょうのことば=の上限を拡大するよう要請した。ギリシャは14日に円建て外債(サムライ債)の償還、20日にECBが保有する国債償還を迎える。債権団からの新たな支援を引き出せなければ、債務不履行(デフォルト)になる見込みだ。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は6日、注意深く情勢を見守っているとの声明を出した。

*1-4:http://www.sankei.com/world/news/150630/wor1506300043-n1.html (産経新聞2015.6.30)中国がギリシャに急接近、狙いは欧州進出の足掛かりか 国債購入約束の情報も…
 欧州を訪問中の中国の李克強首相は29日、ブリュッセルで記者会見し、ギリシャ財政危機について、「ギリシャがユーロ圏に留まることができるか否かは、国際金融の安定と経済復興に関わる問題だ。中国は建設的な役割を果たす用意がある」と述べ、ギリシャ問題に積極的に関与する姿勢を示した。中国は、ギリシャを手がかりに欧州での存在感の拡大を狙っている。中国は、ギリシャの財政問題が深刻化したこの数年間に同国に急接近した。2014年6月19日、李克強首相がギリシャを訪問し、約50億ドル規模の貿易・投資協定を締結。その約1カ月後の7月13日、習近平国家主席もギリシャを訪問し、観光、金融分野などで協力を深めることで合意した。中国の国家主席と首相が1カ月以内に同じ国を訪問するのは極めて異例だ。さらに両国は15年を「海洋協力年」と決め、今春、北京とアテネで祝賀イベントを同時開催した。

*1-5:http://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20150707&bu=BFBD9496
(日経新聞 2015.7.7) 欧州中銀、ギリシャ銀行への資金供給を据え置き
 欧州中央銀行(ECB)は1日、ギリシャの銀行の資金繰りを支えるために実施している資金供給額を据え置くことを決めた。ギリシャの銀行の苦境は当面続くことになりそうだ。一方、欧州連合(EU)も同日にユーロ圏財務相会合を開き、ギリシャが5日に実施する国民投票後までギリシャ政府との交渉は見送る方針を確認した。ECBは「緊急流動性支援(ELA)」という仕組みを活用し、預金流出が続くギリシャの銀行を支えている。資金供給額は毎週見直すが、1日の理事会では上限枠を現行の約890億ユーロ(約12兆1千億円)に据え置くことを決めた。ギリシャ国内では預金流出が進んでいたが、ECBから銀行への資金供給上限が一定額にとどまっているため営業停止などの規制が6月29日から実施されている。ECBは、ギリシャが緊縮策を受け入れればELAの上限枠を見直す用意があるとの立場だ。1日にはユーロ圏財務相会合も開かれた。ギリシャ側がEUなどに要請している金融支援の延長や債務減免などについて改めて協議したが、5日に予定されている国民投票の結果が出るまでギリシャ側と交渉はできないとの見解で一致した。終了後にデイセルブルム議長(オランダ財務相)は「ギリシャ政府が国民投票で(緊縮策受け入れの)否決を国民に勧めている状況では、協議を続ける理由はない」と述べた。

<日本の危機に対するいかさまな解決策>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11832749.html
(朝日新聞社説 2015年6月30日) 日本の財政再建 やはり先送りは危うい
 今年度予算では、財源不足を補うための36兆円余の新たな国債や、満期を迎えた分の借り換えなどで、総額170兆円の国債を発行する。こんなに借金を重ねて大丈夫なのか。発行後に国債が売買される市場で国債価格が急落(金利が急上昇)しないのか。
■市場に潜む危うさ
 国債の大半は、国内の資金、もとをたどれば国民の貯蓄でまかなわれている。逃げ足の速い海外マネーに頼っているわけではないから、大丈夫。こう説明されることが多い。おカネの流れを見れば、その通りだ。ただ、この流れに潜む構図を見落としてはならない。「異次元」とも称される、日本銀行による大胆な金融緩和策である。この政策の柱として、日銀は大量に国債を買っている。昨年秋の緩和策第2弾を経て、そのペースは、政府が市場で発行する分の最大9割に及ぶ。日銀が政府から国債を直接買う「引き受け」は、法律で禁じられている。かつて政府の戦費調達などに日銀が手を貸し、激しいインフレを招いた反省からだ。現状は金融機関を経て購入しているとはいえ、引き受けも同然と言える。何が起きるか分からないのが、市場だ。「日本の国債だけは価格が暴落しない」というわけにはいかない。投機筋などによる売り浴びせをきっかけに混乱が広がれば、企業の借り入れや住宅ローンの金利が急上昇し、景気の悪化に伴って税収が減る一方、国債の利払いは増える。ギリシャの惨状は遠い外国の話ではなくなる。そんな事態を避けるには、政府が「借金を返していく」という姿勢を示し続け、「すき」を見せないことだ。今は日銀が国債の大量購入で波乱の芽を封じ込めている格好だが、日銀の黒田総裁自身が政府に財政再建の大切さを説いていることがそれを物語る。
■成長頼みは禁じ手
 20年度の基礎的財政収支の黒字化を目指す政府の財政再建策は、借金を返していく意思を問う試金石だ。ところが、である。毎年名目で3%台という、実現が難しい成長を前提として、税収も伸びていくと見込む。増税については、1回延期した消費税率の10%への引き上げこそ織り込むものの、それ以上は封印。歳出の抑制・削減策も、メニューこそ並べたが、具体案や実行への道筋は先送りした。経済成長に伴う税収増を目指すのは当然としても、それに頼ることは「期待」頼みの財政再建であり、禁じ手だ。確実な手段は、歳出の削減と増税の二つ。ともに痛みを伴う。まずは歳出の抑制・削減だ。あらゆる分野にメスを入れる必要があるが、焦点は国の一般会計の3分の1を占める社会保障分野だ。高齢化に伴い、放っておけば毎年1兆円近いペースで増え続ける。医療や介護、年金など、社会保障は「世代」を軸に制度が作られ、現役世代が高齢者を支えるのが基本的な仕組みだ。しかし、同じ世代の中で資産や所得の格差が開いていることを考えれば「持てる人から持たざる人へ」という軸を加え、制度を改めていくことが不可欠だ。財政難の深刻さを考えれば、歳出の抑制・削減だけでは間に合わず、増税も視野に入れるべきだ。柱になるのは消費税の増税である。景気にかかわらず増えていく社会保障をまかなうには、税収が景気に左右されにくく、国民全体で「薄く広く」負担する消費税が適している。3年前に政府が決めた「社会保障と税の一体改革」は、そうした考え方を根本にすえる。安倍政権は10%を超える増税を否定するが、それではとても足りない。欧州の多くの国が付加価値税(日本の消費税に相当)の税率を20%前後としていることからも明らかだ。所得や資産に課税する所得税や相続税も、豊かな層に応分の負担をしてもらう方向で見直す。そんな税制を目指したい。
■避けられない痛み
 いずれも痛みを伴う改革だ。しかし、社会保障を持続可能にし、将来世代へのつけ回しをやめるには、避けて通れない。財政の再建から逃げ、放置すれば、いずれ破綻(はたん)しかねない。いったんそうなれば、国民の生活がもっと大きな痛みを強いられる。選挙で選んだ代表を通じ、法律を改正して制度の再設計や負担増を受け入れるのか。金利急騰といった市場の圧力に追いたてられて取り組むのか。民主主義の手続きに基づく負担の分かち合いを選びたい。

*2-2:http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=BYvb8LLFGe4J&p
古賀茂明「増税こそがギリシャへの道。消費税率引き上げの前に『戦う成長戦略』で日本再生を」
 最近話題になっている例えば年金と定年延長の話とか、あるいは復興増税も含め財政の問題、こういうことの関連で「成長をどう考えるか」ということをお話ししておきたいと思います。よく財務省は「日本は1千兆円の借金があって借金で首が回らない。このまま行くとギリシャになる。だから先のことを考えてやはり増税が必要なんだ」と言っています。最近は財務省の幹部が何人もぞろぞろ揃って、各新聞社・テレビ局を回っています。各新聞社は論説委員のエライ方から、何人も集まって、財務省の幹部から御高説を賜る。そういうことをやってます。新聞もかなり色が分かれているので、皆さん、読んでいる新聞が違うと、隣の人と全然違う世界に住んでいる可能性があるんですよ。最近、産経新聞もかなり増税反対のキャンペーンを相当強烈にやって、国税が調査に入りました。それくらい財務省は一生懸命、増税、増税と言っているんですね。
●稼がないから借金が返せない
 「ギリシャにならないために増税」「将来の安心のために増税」っていうキャッチフレーズで、何となく国民の皆さんもやっぱり財政が大変だという理解はある程度深まっている。「やっぱり増税、しょうがないな」と思っている方も多いと思うんですね。ですが、私が今日申し上げたいのは、いまのまま増税していけば確実に「ギリシャへの道」だということです。つまり財務省は「ギリシャにならないために増税だ」と言っていますが、私は「いまのまま増税すればギリシャへの道だ」と反対のことを言っています。その意味するところは、いまギリシャはどうなっているのか見ていただければ分かると思います。借金が嵩んで返せなくなった。ドイツとフランスが助けてくれない限り破綻です、というところに追い詰められているわけです。では、ギリシャは増税しなかったのかというと、ちゃんと消費税を上げています。20%になっています。もっと上げろと言われていますが、すでにこれ以上上げられませんというところまで上がっています。よくギリシャは公務員の数が多いと言われています。メチャクチャ多いので、公務員のリストラをやると言われています。それからムダな歳出が多い、年金カットしろといろいろ言われてます。それらすべてをやりましょうということになっている。でも、それで財政が再建できると思っている人は誰もいないんですよ。マーケットは、そんなことやったって焼け石に水だということをよく分かっています。だから、破綻に追い込まれたんです。なぜそんなのでは駄目だって言っているかというと、ギリシャには稼ぐ力がないんです。借金は大きくたって何の問題もないんです、返せれば。大きな企業で何兆円も借金している企業はたくさんあります。でもそれを返せるだけ稼いでいるんです。だから借金が大きいから潰れるっていうことはないんです。国の経済もまったく同じです。借金が大きいから潰れるんじゃなくて、返せないから潰れるんですね。日本の場合は、もちろん借り過ぎだとは思います。じゃ、借り過ぎちゃった場合にどうすれば返せるのか。もちろんムダも省かなくちゃいけないし公務員改革とかリストラもやらなくちゃいけない。しかし、それだけではだめです。借金を少しでも減らしていくためにどうすればいいのか。結局、日本はいま稼げなくなっているんですよ、それが最大の問題なんですね。ついこの間まで消費税を1%上げれば2・5兆円税収が入るといわれた。消費税1%=2・5兆円と、覚えやすい数字だったので記憶されていると思いますが、実はいまはもう1%上げても2・1兆円しか入らないんです。なぜかというと、この20年間ずっと日本の経済はデフレで縮小しているんですね。「成長」と言うとき、よく「実質経済成長率」というのを使います。実質経済成長率というのは要するに物価上昇分を差し引いた伸び率のことです。その差し引く物価上昇率がマイナスなんです。マイナスを差し引くからプラスになっちゃっう。物価が下がった分、成長が大きく見えるんですね。ところが、我々が普段おカネのやり取りをしている現実の世界においてはずっと日本の経済は縮小しているんです。だから消費税を1%上げても、昔だったら2・5兆円増えたけど、いまは2・1兆円しか増えない、そういうふうになっている。
●消費税を20%にしても追いつかない
 そういう中でいま財務省は増税をしようとしています。そうすると経済はもっと縮小していきます。で、また税収は減ります。足りないからまた増税します、とやっていって消費税を20%まで上げるという。プラス15%の増税です。15%の増税で、仮に1%=2兆円としても30兆円です。今年の国債発行額は44兆円ですから、消費税を20%にしても国債の発行をゼロにはできない。つまり借金は減らないんです。25%にしてぎりぎりトントン。借金を減らすんだったら30%くらいにしなきゃいけない。所得税とか年金とか払った上に、更に3割消費税に持っていかれます。こういう世界で財政再建をしましょうということになるんです。私が言いたいのは、「そんなやり方ではなくて、稼げるようにしなくちゃいけないでしょ」ということなんですね。ではどうやって稼ぐのか。必ず成長分野としてあがるのが農業です。「これから農業ですね。人口もどんどん増えているし、途上国の所得が非常に上がってきていろいろなものをどんどん海外から輸入するようになって農産品は必ず足りなくなります。日本の農業は輸出のチャンスです。これから大きく伸びるんだ」と。それから医療。「高齢者がどんどん増えます。医療を産業化すればこれも大きなチャンスがあります」と言うんです。これも正しいと思います。またエネルギー分野もそうです。「これから原発に頼らない。二酸化炭素を減らさなくてはいけない。だから再生可能エネルギーをどんどん増やさなくてはいけない。この分野もものすごく伸びるんです」と。これも正しいですね。農業、医療、エネルギー、これらを「三つの成長分野」ってよく言うんです。けれども、よく考えると、この三つの分野って全部企業が自由に活動できないんですよ。たとえば三菱商事が三菱アグリカルチャーという会社を作って、小規模農家から土地を買い集めて大規模農業にやります、株式会社で参入しますって、言うのはできないんですね。それから、医療で株式会社は病院を持てません。エネルギーの分野は、電力会社は全部株式会社ですが、それ以外の企業はほとんど自由に参入できない。つまり成長するはずだって言っている世界で、企業が自由に活動できないんです。日本は資本主義で自由主義、その国で企業が活動できないところが成長分野ですって言う。これはほとんど笑い話ですね。だからそれをもっともっと自由にすればいいんですけど、じゃ、どうやって自由にするんですか。自由にしたら困る人たちがたくさんいます。農業なら農協がいる、医療だったら医師会がある、エネルギーなら強力な電力会社が立ちはだかります。それが怖くて自民党は改革に手を付けられなかったんですよ。だから知らないうちにずっと日本の経済が沈んでいたんです。
●戦う成長戦略を実現してほしい
 政権交代のまえは民主党なら柵(しがらみ)がないからできるんじゃないかと、みんな思った。ところが幹事長室に陳情の窓口を作ったら一番に並んだのが農協で、二番は医師会だという笑い話もあるんです。結局戦えなくなっちゃった。組合もいますしね。強いところと戦えない。だから財務省は、民主党、自民党に「是非、消費税を上げてください」と言いに行く。中には、「消費税を上げれば銅像が建つ」って言う政治家もいるんです。消費税を上げるというのは不人気な政策だけれど、でも責任ある政治家は不人気な政策もやらなくちゃいけない、それをやり遂げるのが立派な政治家なんだと思い込んでいるんです。私に言わせるとちゃんちゃらおかしい。なぜかというと、戦うべき相手を間違えているからです。強力な既得権グループと戦うのが怖いから、一番弱い消費者を相手に戦って消費税を上げる。つまり普通は「強きを挫き弱きを助ける」、これが正義の政治ですね。それとまったく逆で「強きを守り弱きを叩く」という方向にいっている。ですから私は、強いところと戦う勇気を持っている政治家・政党、覚悟を持ってる政治家・政党、そういうところを我々が声を出して・・・、声だけじゃなく、投票だけっていうんじゃなくて、おカネを出さなきゃいけないと思ってます。個人の政治献金ですね。そうやって支援していくことによって本当に日本を変えていく。これが「戦う成長戦略」と私が呼んでいる成長戦略です。バラマキの成長戦略ではなくて「戦う成長戦略」を是非やってほしい。ちょっと話し過ぎになりましたので、今回はこの辺にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。


PS(2015年7月8日追加):*3のように、ギリシャは債務減免交渉で瀬戸際と言われているが、素晴らしい気候で景色のよいエーゲ海に無数の島を有しており、冬やバケーションを過ごす格好の場所になるため、北欧、ベネルクス三国、ドイツ等の北国に可能な島を売却して、まず債務を削減したらどうだろうか。

   
                            エーゲ海の島々
*3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11846792.html?_requesturl=articles%2FDA3S11846792.html (朝日新聞 2015年7月8日)
債務減免、瀬戸際の交渉 ギリシャ、銀行の資金切迫
 財務相会合のデイセルブルーム議長(オランダ財務相)は会合後、「非常に困難な状況にある。私たちに(残された)時間はほとんどない」と述べた。ギリシャに金融支援と改革案の内容を早く提出するように求めたという。欧州委員会によると、ギリシャの2015年の政府の借金は、国内総生産(GDP)比で180%に達する見通し。12年に合意したEUの支援プログラムでは、15年に153%、20年には117%としたが、景気低迷や民営化の遅れでシナリオから大きく外れている。政府の総債務残高は13年で3191億ユーロ(約43兆円)。借金を軽くしなければ、ギリシャはさらなる緊縮策をのむ必要がある。チプラス首相は5日の国民投票直後の演説で「債務の問題は交渉テーブルにかけられる」と述べた。債務カットのほか、財政危機国を支援する基金「欧州安定メカニズム(ESM)」から低利で融資を受け、その資金をほかの債務返済にあてる「債務の借り換え」などを求める可能性がある。ギリシャ側が追い風とみるのは、国際通貨基金(IMF)が2日発表した報告書だ。債務削減の目標達成が難しくなっているとして、今後3年間で500億ユーロの資金が必要で、EU側からの少なくとも360億ユーロの支援が必要と指摘。その上で債務減免も必要になるとの見方を示している。EU側は、債務減免への賛否が分かれる。ユンケル欧州委員長(EUの首相に相当)は6月29日の記者会見で、債務減免の話し合いに応じる姿勢を示した。一方、ギリシャ支援に国民の反発が強いドイツは慎重だ。フィンランドのストゥブ財務相は会合前、「ギリシャの財務負担を軽くするのは望まない」と述べた。EUの基本条約は、加盟国がほかの加盟国に財政援助をすることを禁ずる「非救済条項」を定めている。債務削減は、加盟国の事実上の借金の肩代わりになり、条約違反になるとの見方もある。
■財政改革、受諾姿勢も
 そもそも、債務減免が議題にのぼるには、まずはギリシャが、EU側が納得できる財政改革案を示す必要がある。これまでの支援交渉でギリシャは、EU側が求める財政再建の目標や年金改革などの緊縮策を拒否。だが、6月末にチプラス首相はユンケル氏ら支援側トップにあてた書簡で、一部の修正を除いてEU側の改革案を受け入れる準備があるとの姿勢を示していた。ギリシャが示す改革案はこれが土台とみられる。ただ、国民投票では約6割が緊縮策の受け入れに反対しており、さらなる修正を求める可能性もある。改革が不十分だと各国が判断すれば、債務減免の交渉どころではなくなる。ギリシャには時間が残されていない。ギリシャは6日、銀行窓口の閉鎖を8日まで2日間延長することを決めた。ECBも銀行への資金供給への増額に応じておらず、このままEU側との支援交渉が前進しなければ、週内にも銀行の資金が底をつく可能性もある。


PS(2015年 7月9日追加):私もギリシャの国民投票を関心を持って見ていたが、*4-1、*4-2の記事に書かれているように、過去に政府が誤った政策を国民が暮らしていけないような対策で解決しようとするのは政策と呼ぶに値しないため、まず行き過ぎた財政緊縮策と消費税増税に『ノー』を突きつけた民主主義発祥の地、ギリシャの国民投票の結果に敬意を表する。その上で、ギリシャは国民投票によって国民全体が真剣に考えたため、次のステップは団結してやれると期待したい。

*4-1:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0PG09J20150706
(ロイター 2015年 7月 6日) ギリシャ投票結果は「民主主義の勝利」、アルゼンチン大統領が称賛
 財政緊縮策をめぐるギリシャの国民投票結果を受け、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は5日、短文投稿サイトのツイッターに「民主主義と国家の尊厳にとって目を見張るべき勝利」と歓迎するメッセージを投稿した。投票では緊縮策の受け入れ反対が61%となった。同大統領は「ギリシャ国民は、実行不可能かつ屈辱的な緊縮策に『ノー』を突きつけた。われわれアルゼンチン国民にはそれがどういうことか理解できる。自らの死刑執行令状へのサインを強要することは誰にもできないというそのメッセージを、欧州首脳らが理解してくれることを望む」とした。アルゼンチンも2002年に債務危機を経験。債務リストラ提案をめぐり、投資家との係争も起きている。

*4-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150706-00000022-jij-eurp
(時事通信 7月6日) 欧州の反EU政党が称賛=「民主主義の勝利」―ギリシャ国民投票
 ギリシャ国民投票で緊縮反対が確実になると、欧州各国の反緊縮・反欧州連合(EU)政党からは「チプラス政権の勝利」への称賛が相次いだ。スペインで「反緊縮」を掲げて5月の統一地方選で躍進した急進左派政党「ポデモス」のイグレシアス党首はツイッターで「きょう、ギリシャで民主主義が勝利した」と祝意を表明した。ポデモスはギリシャの与党・急進左派連合(SYRIZA)の友党で、イグレシアス党首はチプラス首相の盟友。一方、ロイター通信によると、フランスで勢力を伸ばす極右政党「国民戦線(FN)」のルペン党首も声明を出し「ギリシャ国民からの『ノー』は、健全で新しい道を開くものとならねばならない」と主張した。英国のEU離脱を目指す「英独立党(UKIP)」のファラージュ党首もツイッターで「ブリュッセルによる政治的・経済的脅しと対決したギリシャ人の勇気は素晴らしい」とたたえた。


PS(2015.7.10追加):ヨーロッパの付加価値税(VAT)は、企業がつけた付加価値に対してかかり、レストランを例にとれば、「付加価値=売上-(外部からの仕入+光熱費など経費の支払い)=人件費+利益」となる。つまり、付加価値税は企業が支払った人件費と儲けた利益にかかるペナルティーのように働くため、企業の雇用削減効果やレストランで食べることを控えさせる消費抑制効果があるのだ。1989年に、ヨーロッパの付加価値税を参考にして日本に一般間接税を導入することとなった時には、日本では消費にかかる消費税に変わり、消費者へ転嫁するようになったため、消費抑制効果のみがある。
 なお、*5のように、ギリシャでも商店街がシャッター通りになっているが、全体を素敵に改装して、ギリシャ(ヨーロッパ)らしいセンスの良い品物を置く店にすればよいと思う。私は、25年くらい前、夫とエーゲ海クルーズを含むギリシャ旅行をしていた時に、アテネで黒いミンクのコートを衝動買いして今でも大切に着ているが、買った理由は、自分を引き立ててくれるしゃれたデザインで、日本で売っているワンパターンなデザインのミンクのコートの1/3くらいの値段であり、二度とない「出会い」だと思ったからだった。

    
  スケジュール                   *5より

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150710&ng=DGKKASGM10H2Q_Q5A710C1MM0000 (日経新聞 2015.7.10) ギリシャ、EUに譲歩 増税・年金抑制、財政改革案を提出、7兆円の支援要請
 財政危機に直面するギリシャは9日夜(日本時間10日未明)、新たな金融支援の条件として欧州連合(EU)から求められた財政改革案を提出した。日本の消費税にあたる付加価値税(VAT)の引き上げや年金の給付抑制を盛り込むなどEU側に譲歩した内容。その引き換えとして535億ユーロ(約7兆円)の支援を要請しているもようだ。EUは12日の首脳会議までに、改革案を受け入れて金融支援を再開するか最終的に判断する。地元メディアによると、改革案ではレストランなどへの付加価値税の税率を現行の13%から23%に引き上げる。離島に適用している軽減税率は観光業で豊かな島から段階的に取り払う。法人税は26%から28%に引き上げる。また、年金の支給開始年齢の引き上げのほか、貧しい年金生活者への特別給付制度を2019年までに段階的に廃止する。軍事費は16年までに3億ユーロ減らす内容で、削減額を従来案よりも上積みした。2年間で100億ユーロ以上の収支改善を目指しているもようだ。5日の国民投票では、EUなどが求める緊縮策にギリシャ国民の6割が反対票を投じた。同国政府の新提案に対し、議員や国民から反発の声が上がる可能性はある。ギリシャは8日、ユーロ圏で財政危機に陥った国を支援する枠組み「欧州安定メカニズム(ESM)」を活用した新たな金融支援を申請した。3年間の融資を求める。地元メディアによると、最低でも535億ユーロを求めているもようだ。これまでギリシャは2400億ユーロの支援を受けている。ギリシャは同国の債務を「持続可能にする手段」も求めている。債務の元本削減や、返済期間延長や金利引き下げといった負担軽減を期待しているもようだが、EU側には慎重意見も根強い。ギリシャとEUの交渉は不調に終わり、6月末に金融支援はいったん失効した。ギリシャ政府は8日、同国の市中銀行からの預金流出を防ぐため6月29日から実施している銀行の休業を13日まで延長する方針を決めた。約5年間の緊縮策で疲弊した同国経済は、資本規制でさらに悪化の一途をたどっている。ギリシャは20日に欧州中央銀行(ECB)が保有する同国国債35億ユーロの償還を迎える。返済できなければ、ギリシャの銀行にとって命綱となっているECBによる資金供給が打ち切られる可能性がある。このため、新たな金融支援の獲得が急務となっている。

| 経済・雇用::2014.6~2015.10 | 04:56 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.7.3 教育改革が、ゆとり教育や義務縮小の方向ばかりであったことが、国民が考える基盤となる知識の習得を阻害してきたので、それを直すべきだということ (2015年7月4日、7日に追加あり)
   
2013.10.25朝日新聞                  自民党勉強会での発言と各界の反応              

注)詳しく書くと自慢話になるので書きませんが、私はこういうことを書く資格があって書いています。

(1)公立校教育の充実がニーズであること
1)小中一貫校による義務教育の充実
 *1-1のように、小中学校の9年間の義務教育を一貫して行う小中一貫校を制度化する改正学校教育法が可決成立し、小中一貫校は義務教育学校として地域の実情に応じて学年の区切りを「4・3・2」「5・4」など柔軟に変更できることになったそうだ。学年の区切りは国で統一した方がよいと思うが、小中一貫校は公立校の教育を充実することができるという意味でよいことだ。そして、その義務教育校は、前倒し授業などの弾力的なカリキュラムを可能としている。これらは、既に一部の自治体が小中一貫教育を実施しているため、制度化することにより、小中一貫教育の浸透を図る狙いがあるそうだ。

 しかし、私は、幼稚園まで連結して、イギリスのように入学年齢を5歳もしくは4歳とし、現在よりも2~3年長く無償の義務教育を行って学力や体力の充実を図り、生産性の高い高度な労働をこなすことができる人材を多く輩出するのが、本人にとっても国にとってもプラスだと考える。そのため、小学校から中学校に進学して新しい世界が開けるのを嫌がる生徒の中1ギャップの解消のような後ろ向きの理由ではなく、小中一貫校による義務教育の充実が重要なのだ。

 佐賀県では、*1-3のように、山口知事が教育委員と「県総合教育会議」を開き、「教育大綱」案を示して、「①心身ともにたくましく、郷土を愛し、郷土に誇りを持つ県民の育成」「②知事と県教委が連携・協力して教育・生涯学習・文化・スポーツ振興に関する施策を総合的に推進」を示されたそうだが、私は、②はよいとしても、①の「郷土を愛し、郷土に誇りを持つ県民の育成」は、まず愛せる郷土や誇りを持てる郷土を作ることが重要で、改善するための批判や欠点の指摘を、「郷土を愛していない」「郷土を誇りに思っていない」ひいては「愛国心がない」「反日」などの無意味なレッテル貼りに使うのは、知識や経験に基づいて積極的に議論する教育の不足であるとともに、日本国憲法に定められた「思想・信条の自由」「言論の自由(メディアだけの権利ではない)」に反すると考える。

 委員からは、「学力は全国学力テストの平均点が取り上げられるが、心の教育など多面的観点で子どもたちを見ていくべき」などの意見が出たそうだが、佐賀県の場合は学力が全国平均以下であり、考えるツールとなる知識の獲得が不十分なのが最も重要な問題であるため、まず学力を伸ばすことが不可欠である。何故なら、人間の心は心臓にあるのではなく、主に脳にあり、遺伝子によって組み込まれた本能と出生後に学び体験して得た知識や経験を組み合わせて総合的に考えることにより、個々の判断を積み重ねているものだからである。

 なお、現在、いろいろな分野で劣化が進んでいるのは、学びが疎かになり、考えるためのツールである基礎知識と、それを使って自ら考える姿勢が欠けてきたからにほかならない。

2)高校の教育内容とその充実
 *1-2のように、歴史が進むにつれ日本史や世界史の分量が増えるのは当然であり、その上、その真実性を科学的に証明する手段も増えてきたため、歴史の内容や質は次第に上がる。また、50年前の高校の生物学の遺伝に関する理論は、メンデルの法則や人間のABO式血液型の遺伝くらいだったが、現在では、生物も物理・化学の法則に従って反応を行い、巧みな仕組みでエネルギーを得て繁殖し、驚異的に進化し続けて、地球環境と影響し合っていることを、かなり理論的に説明できるようになった。

 ここで必要な生物学の勉強は、言葉や化学反応を丸暗記することではなく、生命や生態系の仕組みを理解し、物理・化学・遺伝・進化・環境(経済を含む)に関する科学的知識で、それをバックアップすることである。文系でも、それらの基礎知識のない人が法律を作ったり、記者として報道したり、企業を経営したり、政策を作成したりすると、物事の重みや重要性の順序がわかっていないため、浅薄で間違った結果を導くことになる。

 そのために必要なのは、生徒にこれを教えられる先生の実力と生徒がそれを理解できる時間だ。「とにかく短時間でセンター試験のレベルまで成績を上げる」というだけでは、丸暗記を薦めることになり、生物を含む科学の魅力やダイナミックさを教えることができず、後で役立つ知識にはならないからだ。

 そもそも、世の中の事象は、文系と理系とか学科毎に分かれて発生するものではなく、それらの知識を総合的に使って解決すべきものばかりだ。そのため、私は、4~5歳から始まる小中一貫校で前倒ししながらゆっくりと知識を理解させ、総合学習で体験もさせながら、高校終了時には、文系であれ理系であれ、現在の文理の大学教養課程で勉強することの初歩くらいまでは理解させておくのがよいと考える。

3)フリースクールについて
 このような中、*1-4のように、義務教育の場を、フリースクールや家庭学習などの学校以外に広げる制度の創設に向けた動きが出てきたが、これは、「多様な教育機会確保」の名の下に、親の判断で学校に行かない子どもを増やす。これでは必要な基礎知識を習得できていない人が増え、労働者としての質が下がって雇用も確保できないため、結局は本人が不幸だ。また、国も補助金や生活保護ばかり出しているわけにはいかない。

 そこで、外国と比較して不登校の子どもが本当に著しく多いのであれば、日本の学校教育の内容もしくは教え方に問題があるということであるため、真の原因究明を行い、それを速やかに改善すべきだ。

(2)文科省の人文社会系学部規模縮小通知と大学の反論
1)文科省の人文社会系学部規模縮小通知
 *2-1、*2-2、*2-3のように、文科省は、全国の国立大学法人に対し、18歳人口の減少などを理由に、①教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院の廃止や転換に取り組むことなどを求める通知を出し ②各大学法人の強みや特色を明確に打ち出して組織改革に取り組む大学には予算を重点配分する枠組みを盛り込み ③司法試験合格率が低迷する法科大学院には廃止や他の大学院との連合など抜本的見直しを求め ④地域貢献、全国的な教育研究、世界的な卓越教育研究のいずれかを選んで機能強化を進める大学には、運営費交付金を重点配分するとしたそうだ。

 しかし、国立大学で教員養成系の廃止や転換を行い、これを私立大学に任せることは薦められない。何故なら、私立大学は入試科目が少なく、文理双方の深い知識を持って生徒に学問の魅力を教えられる教員を育てることができないからだ。

 また、人文社会科学系の学部・大学院も、大学によって社会への貢献度が異なるため、文科省の画一的な指導は当たらない。そもそも、社会への貢献度は、就職や卒業生の人生をフォローして調査することから始めるべきである。

2)これに対する大学の意見
 小林東大大学総合教育研究センター教授は、*2-2のように、「これまで大学は無駄が許容されてきた。今後は社会の需要に応えるのも大事だが、すぐ成果が出ない、就職率が悪いとの理由で切り捨ててよいか。大学は広い意味の教養を身につける場なのに、工学や経営学などの実学が増え、学問の幅が狭まる懸念もある。個々に状況が異なる大学が自主的に判断するべきだ」としている。

 しかし、成果が出なかったり、就職率が悪かったりするのは、就職先が必要としない人材を作っているせいかもしれず、「大学には無駄が許容されてきた」ということを前面に立てるのは甘えである。ただし、本当に許容されるべき無駄もあり、それは、先進的な研究だが実現できなかったものや社会の基礎知識となるようなものであるため、大学が自ら調査して自主的に変更すべきだ。

 なお、京都大の山極総長は、*3-1のように、「幅広い教養と専門知識を備えた人材を育てるためには人文社会系を失ってはならない。国旗掲揚・国歌斉唱なども含め、大学の自治と学問の自由を守ることを前提に考える」としている。

 さらに、*3-2のように、佐和滋賀大学長は、「『想定内』の通知がいよいよ来たと思うにすぎなかった」「理系の研究は技術革新や産業振興を通じて国益に寄与するが、文系の研究は役に立たない」「1.1兆円の運営費交付金の効率的配分からすれば、文系学部の学生定員・教員数を減らして浮くお金を理系の研究に回すべきだ」「欧州では人文社会系の学識が指導者にとって必須の素養と目されている」「滋賀大は未来志向と文理融合を改革の理念に掲げている」「ジョブズは、『人々の心を高鳴らせる製品を創るには、技術だけでは駄目で、必要なのは人文知と融合された技術だ』と述べている」としている。

 また、*3-3のように、里見国立大学協会長(東北大学長)は、教育学部や人文社会系学部の見直しを求めた文科省通知を批判し、同席した副会長も、「理工系単科大学でも、歴史や社会を知らない学生は困る」(大西隆・豊橋技術科学大学長)、「実学系学部の学生も人文社会学系を副専攻にできる仕組みにしている。多様性が重要」(高橋姿・新潟大学長)と訴えたそうだ。

 私は、基礎知識としてならば、理工系も歴史や社会は高校終了までに勉強しておくべきであるし、文化系も数学・統計学・生物学などは高校終了までに理解しておくことが必要であり、教員は、それを体系的でわかりやすく、かつ魅力的に教えられる人というのが条件になると考えている。

(3)基礎知識不足の事例
 *4-1のように、自民党国会議員が文化人や芸術家との意見交換を通じて「心を打つ『政策芸術』を立案し、実行する知恵と力を習得すること」が目的の勉強会を開いたとのことである。人の心を打ち、受け入れられる政策とは、①正確な現状調査によって作られ ②誰の人権も侵害せず ③現状を改善して国民の福利を増すものであって、芸術ではないため、勉強会にこういう命名をすること自体、教養や政策作成能力がないと考えられる。しかし、このように考える人は政治家だけではなく一般にも多く、これが、知識がなければ思考が浅薄になり、何もできない事例の一つだ。

 しかし、首相側近の加藤勝信官房副長官(東大法学部卒、大蔵省出身)や萩生田光一党総裁特別補佐(明大卒、市議出身)も会合に出席しており、講師として招いたのは放送作家の百田尚樹氏(同志社大法学部卒)で、全員が文系だが、本来は高校終了までに理解しておくべき日本史・世界史の知識に欠けていたと思われる。

 なお、出席者が、会合での数々の暴言をたしなめなかったのは、多かれ少なかれ同じ意見を持っている人が多かったからで、ここで私のように異論を唱えると、「空気が読めない(異論を封じる態度)」「左翼(言論を封じるための意味のないレッテル貼り)」など、週刊文春の名誉棄損事件としてこのブログに記載しているように、メディアから民主主義における議論の重要性を理解しない変な批判をされる可能性が高いため、これも教育の問題である。ちなみに、自民党内は、内部での議論や発言は自由だ。

 「マスコミをこらしめるには広告料収入がなくなることが一番。文化人は経団連に働きかけて」と言ったのは大西衆院議員(国学院大卒、東京都議出身)であり、「沖縄の世論はゆがみ、左翼勢力に完全に乗っ取られている」と言ったのは長尾衆院議員(立命館大卒、明治生命出身)だそうだ。また、井上衆院議員(独協大法学部卒、福岡青年会議所理事長出身)は「沖縄のいびつなマスコミ、後押しする左翼勢力、バックにある中国共産党の工作員の存在」「沖縄メディアは基地反対運動の反社会的行為を報じていない」などとし、この中には法学部出身者が多く、全員が文系であるにもかかわらず、日本国憲法の主権在民、言論・表現の自由、民主主義を理解も実践もしておらず、日本史・世界史の知識も疑われる発言であるのは、文系教育(もしくは法学部教育)の欠陥ではないだろうか。

 そのほかには、*4-2のように、東電福島第1原発海側のトレンチ(地下道)に滞留する汚染水を遮断するために「氷の壁」を作ることが可能だと考えた問題もある。まして、氷やドライアイスを投入すれば凍るかも知れないと原子力規制委員会に属する理系の技術者までが考え、熱交換の基礎知識もなかったというのには驚く。都会で育って公園の噴水くらいしか見たことのない人が、地下水の流量を想像すらできずに、権力さえあれば自然現象も変えられると考えたのか、何故、このような馬鹿な方法をとったのかという原因を明らかにして、そのために使った税金も正確に計算すべきだ。

 つまり、問題解決には、自然に関する暗黙知や総合的な知識が必要であり、そのためには、地方の生徒がもっと勉強して、地方の公立高校から東大に入れる人が増える必要があるのだが、佐賀県は、全県あわせても、東京の女子学院一校分も東大に合格できていないのだから(http://www.inter-edu.com/univ/2015/schools/59/jisseki/ 参照)、これ以上のんびりしてよい状況ではないだろう。

<小中高について>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150617&ng=DGKKASDG17H0O_X10C15A6CR0000 (日経新聞 2015.6.17) 
小中の区切り柔軟に、改正法成立、義務教育の一貫校制度化
 小学校と中学校の9年間の義務教育を一貫して行う小中一貫校を制度化する改正学校教育法が17日、参院本会議で可決、成立した。小中学校と同じく、同法第1条で学校に位置付け、名称は「義務教育学校」とする。2016年4月から施行する。義務教育学校は地域の実情に応じ、学年の区切りを「4・3・2」「5.4」など、柔軟に変更できる。学習指導要領で定めた学年の範囲を超えて、前倒しで授業をするには特例申請が必要だが、文部科学省は省令を改正して、義務教育学校については申請を不要にし、弾力的なカリキュラムを可能とする方針。校長は1人で、教員は原則として小中両方の免許が必要。校舎は離れていても、一体でも設置できる。従来の「6.3」制は、中学校に進学した際にいじめや不登校が増える「中1ギャップ」や、子供の発達の早期化で、現状の学年の区切りでは対応できていない点などが課題に挙げられていた。これらの課題解決や、学力の向上などのために、一部の自治体が既に小中一貫教育を実施しており、制度化で一貫教育の浸透を図る狙いがある。小中一貫校の制度化は、政府の教育再生実行会議が提言し、昨年12月に中教審が答申していた。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150622&ng=DGKKZO88343990R20C15A6CK8000 (日経新聞 2015.6.22) 重み増す理科基礎科目 早まる受験対策、高1から
 3学期制の高等学校では5月中旬頃に1学期の中間テストを行う。1年生にとっては、高校で初めてのテストということもあり、不安を抱えつつ準備をすることになる。窓口に、「すみません、学校の勉強のことなんですけど質問していいですか?」とやって来る1年生も少なくない。中でも、今年よく目にしたのが理科の質問をする生徒だった。1年では、生物基礎・化学基礎を履修する高校が多いのだが、「基礎」とついていても、決して易しいわけではない。特に生物基礎は、中学での学習との差が激しく、生徒たちはかなり難しく感じるようである。生物の担当講師は、「例えば、中学校では、『呼吸』は酸素を吸って有機物を燃やし、エネルギーを取り出して二酸化炭素を出すと習うけれど、生物基礎ではアデノシン三リン酸(ATP)やクエン酸回路といったことまで学ぶ。単に言葉として習っていたものが化学反応としてとらえなくてはならなくなり、きっと頭の中は混乱しちゃうでしょうね」という。2015年度の大学入試センター試験からは、文系志望であっても基本的に理科の基礎科目を2科目受験しなくてはいけなくなったので、理科の基礎科目は入試に直結する科目でもある。学校で学んだときに、センターレベルまでもっていければ理想なので、ここできちんと理解しておきたいと生徒たちが思うのも当然である。もちろん、理系志望者にとっては、その先にある専門科目を盤石なものにするために大切な科目でもある。私の塾では、今まで高1の講座は英語・数学・国語のみで、理科と社会の講座は高2から始めていた。しかし現状を考えると、高1の段階で、理科の基礎科目をある程度固めてしまいたいというニーズが確かにある。そこで、今年の夏休みから理科の基礎科目の講習を開くことにした。文系・理系を問わず、この講座が2年後の入試に向けて有益なものとなってくれるとよいのだが。

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/193905
(佐賀新聞 2015年6月4日) 知事、県総合会議に提示 「教育大綱」案を了承
 佐賀県の山口祥義知事は3日、教育委員との協議の場「県総合教育会議」を開き、教育行政の基本方針となる「教育大綱」案を示した。6月議会で議決される新総合計画の教育関連部分を抜き取って構成した。古谷宏教育長や教育委員5人と意見交換し、おおむね了承された。山口知事が7月下旬にも策定する。大綱は4月施行の改正地方教育行政法で首長に策定が義務付けられた。会議の冒頭、山口知事は「改正法の精神に基づき、政治的中立性を守りながら話し合いを進めたい」と述べた。大綱案は「教育」「子育て」「生涯学習」「文化・スポーツ」の4分野、15の基本施策で構成している。策定趣旨に「心身ともにたくましく、郷土を愛し、郷土に誇りを持った県民の育成」を掲げ、「知事と県教委が連携、協力して教育、生涯学習、文化・スポーツの振興に関する施策を総合的に推進していく」と明記した。期間は2018年度までの4年間とし、社会情勢の変化に合わせて適宜、見直していく。委員からは「佐賀らしさを感じながら進める教育について記載されており、評価できる」「学力は全国学力テストの平均点が取り上げられるが、心の教育など多面的観点で子どもたちを見ていくべき」などの意見が出た。山口知事は、競技性を重視した学校部活動の在り方に疑問を呈し、「教育現場には『こういうもんだ』という考えが多いが、それが本当に正しいのか、結論が出なくても教委で議論すれば、いろんな影響を与えられると思う」と語った。

*1-4:http://qbiz.jp/article/64071/1/
(西日本新聞 2015年6月9日) 義務教育を多様化 フリースクール認定法案提出へ
 義務教育の場を、フリースクールや家庭学習など学校以外にも広げる制度の創設に向けた動きが出てきた。超党派の議員連盟が、法案を今国会に提出する方針を決めた。実現すれば、日本の教育制度の大転換となる。不登校の子どもたちにとって「多様な学びの機会が認められる」と歓迎する声が上がる。一方で、教育の質をどう保証するのかなど課題も多い。不登校の小中学生は1997年度に10万人を超えてから増加傾向が続いており、2013年度は約12万人に上る。受け皿になっているフリースクールは全国に推計で400カ所余り。計約2千人が学んでいるとされ、全体の7割程度は不登校の子どもたちが占めているとみられる。子どもたちは居住区域の公立小中学校に籍を置きながら、活動内容を随時、学校側に報告。実際に登校していなくても、校長の裁量によって卒業が認められている。超党派の議連が今国会に提出予定の「多様な教育機会確保法案」(仮称)は、対象を不登校の子どもに限定。法案の概要によると、保護者が学校などの助言を受けて「個別学習計画」を作成し市町村の教育委員会に申請。計画が認定され、計画を修了したと認められれば、フリースクールや家庭内での学習でも、義務教育とみなされるようになる。法案に期待を寄せる関係者は多い。NPO法人「フリースクール全国ネットワーク」の江川和弥代表理事は「学校に行かないことで家族に責められたり、学校の先生との間であつれきが生じたりすることは少なくなるのではないか。小中学校以外での学習が公に認められることで、フリースクールにも通っていない不登校の子どもたちが表に出るきっかけにもなる」と強調する。公立小中学校の授業料が無料なのに対し、フリースクールは安いところで2万〜3万円、高いところでは7万〜8万円の月謝がかかる。法案には「国や自治体は必要な財政上の支援に努める」と記す予定で、経済的に通うことが困難な家庭にとっても助かる。義務教育制度に一石を投じる法案だが、課題を指摘する声も多い。フリースクールといっても現行では千差万別。数十年の歴史を持ち、100人を超える子どもたちが学ぶところもあれば、個人が数人規模で開いているところもある。質や教育の内容にばらつきがあり、埼玉大の高橋哲(さとし)准教授(教育行政学)は「学校にもフリースクールにも籍を置く『二重学籍』が解消されるのは画期的」としつつも、「教員免許の所持を教える条件にしたり、1人当たりの教えられる子どもの数を定めるなど、一定の学習環境を整備する必要はある」と話す。共栄大の藤田英典教授(教育社会学)は「少子化が進む中で、塾産業は学校教育への参入を狙っている。もともと学習指導要領の枠をはずれているフリースクールに、不登校の支援とは別の意味で塾産業が入り込んでくる恐れがあり、非常に危険」と懸念する。議連は今国会での法案成立を目指し、早ければ17年度から制度をスタートさせたい考えだ。高橋准教授は「不登校を生み出している現在の学校の状況をまず改善するべきだ」とする。「画一的な学習指導要領に拘束されるのではなく、多様な教育が認められるようにしないといけない。一人一人に目が届くよう、1クラス当たりの子どもの数を減らしたり、教師を増やすといった、根本的な施策が必要だろう」
●「社会性獲得に配慮を」福岡県内の関係者
 福岡県内のフリースクール関係者からも期待と懸念の声が聞かれた。NPO法人「青少年教育支援センター」(福岡県久留米市)の古賀勝彦理事長(67)は「学びの場として公的に認められ、フリースクールに通う子どもと保護者の安心につながる」と評価。その上で「教科学習のほか農業体験など自由活動のような教育環境も整えているか、義務教育と認める基準を明確にする必要がある」と注文する。卒業生約200人を送り出したNPO法人「フリースクール玄海」(福岡市東区)の嶋田聡代表(62)は「不登校生は、学校でテストを受けないことで内申の評価が下がり進学で不利になる場合がある。今後、フリースクールでの成績が評価の対象になれば進路の選択肢が増えることになる」と期待。一方で「フリースクールを学校に通えるようになるためのステップとして捉える考えもある。学校や本人が『通学しなくても良い』と受け止めてしまうと社会性を身に付ける機会を失いかねない」と懸念した。 

<文科省の人文社会系学部規模縮小通知>
*2-1:http://www.sankei.com/life/news/150528/lif1505280016-n1.html
(産経新聞 2015.5.28) 国立大学の人文系学部・大学院、規模縮小へ転換 文科省が素案提示
 文部科学省は27日、全国の国立大学に対して人文社会科学や教員養成の学部・大学院の規模縮小や統廃合などを要請する通知素案を示した。理系強化に重点を置いた政府の成長戦略に沿った学部・大学院の再編を促し、国立大の機能強化を図るのが狙いで、6月上旬に文科相名で大学側へ通知する。素案は、同日開かれた国立大の評価手法などを審議する有識者会議で提示された。国立大は6年ごとに中期目標を文科省に提出しなければならず、各大学は通知を参考に6月末に中期目標を文科省へ提出する。通知素案では、少子化による18歳人口の減少などを背景として、教員養成や人文社会科学などの学部・大学院について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むように努めることとする」と明記された。政府の試算では、平成3年に207万人だった18歳人口が42年に101万人まで半減する。文科省は少子化に伴う定員縮小の影響を指摘したほか、文系の学部・大学院の人材育成方針が明確でないなどの理由もあげた。

*2-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11798186.html
(朝日新聞 2015年6月9日) 「国立大、文系見直しを」 ニーズ踏まえ廃止・転換促す 文科省通知
 国立大は2004年度以降、6年ごとに「中期目標」を文科省に提出する義務がある。6月末が16年度からの目標案の提出期限で、認可を受けるには目標が通知に沿っている必要がある。通知は「特に教員養成系や人文社会科学系学部・大学院は、組織の廃止や社会的要請の高い分野に転換する」ことを求めた。例えば、人文社会系の卒業生の多くがサラリーマンになるという実績を踏まえ、大学は地元で必要とされている職種を把握。需要にあった人材を育てる学部に転換するなどといった想定だ。文科省によると、自然科学系は国益に直接つながる技術革新や産業振興に寄与しているが、人文社会系は成果が見えにくいという。国立大への国の補助金は計1・1兆円以上。財政事情が悪化する中、大学には「見返り」の大きい分野に力を入れさせるという考えだ。文科省担当者は「文系を減らして理系を増やすという意味ではない」。別の文系学部への転換も可能だからだ。成果が出にくい分野も、将来の成果を示せれば評価をするという。
■学問の幅、狭まる懸念
 小林雅之・東大大学総合教育研究センター教授(教育社会学)の話 これまで大学は無駄が許容されてきた側面がある。今後は社会の需要に応えるのも大事だ。ただ、すぐ成果が出ない、就職率が悪いとの理由で切り捨ててよいか。大学は広い意味の教養を身につける場なのに、工学や経営学など実学が増え、学問の幅が狭まる懸念もある。個々に状況が異なる大学が自主的に判断するべきだ。

*2-3:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG08HCT_Y5A600C1CR8000/
(日経新聞 2015/6/8) 教員養成系など学部廃止を要請 文科相、国立大に
 下村博文文部科学相は8日、全国の国立大学法人に対し、第3期中期目標・中期計画(2016~21年度)の策定にあたって教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院の廃止や転換に取り組むことなどを求める通知を出した。通知では、各法人の強みや特色を明確に打ち出すよう求め、組織改革に積極的に取り組む大学には予算を重点配分する枠組みも盛り込んだ。教員養成系と人文社会科学系については、18歳人口の減少などを理由に、組織の廃止、社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう要請。司法試験合格率が低迷する法科大学院についても、廃止や他の大学院との連合など「抜本的な見直し」を求めた。(1)地域貢献(2)世界・全国的な教育研究(3)世界的な卓越教育研究――のいずれかの枠組みを選んで機能強化を進める大学には、運営費交付金を重点配分するとした。国立大学法人は6年ごとに中期目標・中期計画を掲げており、16年春からが3期目。各法人は通知を踏まえて目標・計画を策定し、15年度中に文科相が認可する。

<大学の反論>
*3-1:http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20150617000174 (京都新聞 2015年6月17日) 人文社会系学部「京大には重要」 山極総長、文科省通達に反論
 文部科学省が国立大学に人文社会系の学部や大学院の組織見直しを通達したことについて、京都大の山極寿一総長は17日、「京大にとって人文社会系は重要だ」と述べ、廃止や規模縮小には否定的な考えを示した。通達は2016年度から始まる国立大学の中期目標の策定に関する内容で8日に送られた。教員養成系や人文社会系の学部・大学院について、18歳人口の減少や人材需要などを踏まえ、「組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めること」としている。山極総長は「幅広い教養と専門知識を備えた人材を育てるためには人文社会系を失ってはならない。(下村博文文科相が要請した)国旗掲揚と国歌斉唱なども含め、大学の自治と学問の自由を守ることを前提に考える」と説明した。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150622&ng=DGKKZO88343910R20C15A6CK8000 (日経新聞 2015.6.22) 国立大 文科省通知の波紋(上)人文知、民主主義支える、佐和隆光・滋賀大学長
 国立大学に教員養成系や人文社会系の学部・大学院の廃止や改組を求めた文部科学省の通知が波紋を広げている。大学関係者の受け止めを2回にわたって掲載する。初回は通知に異論を唱える一方、改革を進める佐和隆光・滋賀大学長。去る6月8日、全国86の国立大学法人に対し、文部科学省は「教員養成系学部や人文社会系学部・大学院を、組織の廃止や社会的要請の高い分野に転換する」ことを求めるべく通知した。
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 昨今の文部科学行政は産業競争力会議の意向がほぼ完璧に反映されており、こうした通知が出たからといって驚くに値しない。教育学部と経済学部から成る一地方大学の学長を務める私にとっては、「想定内」の公式通知がいよいよ来たかと思うにすぎなかった。理系の研究は技術革新や産業振興を通じて国益に寄与するが、文系の研究は役に立たない。1.1兆円の運営費交付金(国税が原資)の効率的配分という観点からすれば、文系学部の学生定員・教員数を減らして浮くお金を理系の研究に回すべきである――。議長の安倍晋三首相ほか閣僚8人、企業経営者7人、大学教授2人(工学と経済学)から成る産業競争力会議が、このように考えるのは、ある意味、至極もっともなこととうなずける。そういえば、全く同じようなことを半世紀余り前に聞いたことがある。1960年3月、岸信介内閣の松田竹千代文部相(当時)が「国立大学の法文系学部は全廃して理工系を中心とし、法文系の教育は私立大学に任せるべきだ」と言ってのけた。60年安保闘争に参加した大学生の多くが国立大法文系学部生だったことと、理工系振興への経済界からの熱い要望が、大臣発言の背後にあったのだ。同年12月、池田勇人内閣は「所得倍増計画」を公表し、「今後10年間で国民所得を倍増するために、理工系学部に重点的に資金配分する」との施策を打ち出した。ソニーの創業者井深大氏は「これからは国会議員の大半を理工系学部出身者が占めるようになるだろう」と語り、理工系全盛期の到来を予言した。残念ながら、井深氏の予言は当たらなかった。今もって国会議員の大半は文系出身、理系出身者が中央官庁の事務次官に就任する例は極めて少ない。皮肉なことに井深氏の予言が的中したのは、旧ソ連や中国においてのことだった。旧ソ連共産党書記長(ゴルバチョフを除く)、そして中国国家主席は、代々工学部出身者である。なぜ井深氏の予言は日本で的中しなかったのだろうか。答えは簡単で、日本は民主主義国家だからである。自由主義・民主主義の本家本元、欧米先進諸国においては、文系学科の存在感は極めて大きい。とりわけ欧州では人文社会系の学識が指導者にとって必須の素養と目されている。日本の経営者が見れば「役立たず」の典型である歴史学科出身の官僚・政治家が少なくない。昨今、文科省が唱える「思考力・判断力・表現力」を養うには人文社会系の学識が不可欠なのだ。民主主義国家では、企業であれ官庁であれ、旺盛な批判精神を有する人材を求める。人文社会系の学識なくして批判精神なしなのだ。ゆえに全体主義国家は必ずや人文社会知を排斥するし、人文社会知を軽視する国家はおのずから全体主義国家に成り果てる。
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 安倍政権が目指す「日本の10大学を世界のトップ100以内に」を達成するには、人文社会系の研究振興が欠かせない。ランキング上位にいる英米の大学は、人文社会系の分野で高得点を稼いでいる。人文社会系に特化するロンドン経済政治学院の順位は34位。23位の東京大学には及ばずとも59位の京都大学をはるかにしのぐ。世界大学ランキング3位のオックスフォード大学では、学士課程学生の過半が人文系を専攻している。英国の司法、行政、政治、経済の分野で指導者になるには、人文社会知が必須であることを示して余りある。同時に、人文社会系分野での研究者の層の厚さゆえに、同大は世界3位にランクされるのだ。ランキング1位のカリフォルニア工科大、6位のマサチューセッツ工科大には、人文社会系学科が盛りだくさんあり、研究水準は超一流であることをも付記しておこう。このたびの文科省通知は想定内だったと先に書いたが、人文社会系の2学部から成る滋賀大学が何もせずに手をこまねいていたのでは、既存の資源(学生定員と人件費)を削り取られることは必至と見てよい。滋賀大学という一地方大学の学長としての私は、文科省通知にある「社会的要請の高い分野」とは何なのかにつき思いを巡らせ、たどり着いたのが「ビッグデータ時代の人材養成」を目指すデータサイエンス学部の創設(2017年度予定)だった。滋賀大は未来志向と文理融合を改革の理念に掲げている。ビッグデータの大半は広義の社会データであり、人文社会系の学識とデータ解析能力を「融合」した人材養成が産業振興のために不可欠なことを、産業競争力会議員の諸兄姉によろしくご理解いただきたい。こうした取り組みは、滋賀大学だけではない。文科省通知を先取りする格好で、多くの地方大学が人文社会系の学識を生かした資源の再配分、すなわち新学部の創設を競っているのである。スティーブ・ジョブズの名言で本稿をしめくくろう。11年3月、iPad2の発表会でジョブズは、こう語って多くの聴衆を魅了した。「人々の心を高鳴らせる製品を創るには、技術だけでは駄目なんだ。必要なのは人文知と融合された技術なのだよ」

*3-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150622&ng=DGKKZO88344020R20C15A6CK8000 (日経新聞 2015.6.22) 「社会に役立つ」性急すぎる要求
 「大学は社会に役に立つ人材を送り出す必要があるが、最近は近視眼的で性急な要求も多い。もっと温かい目で見てほしい」。15日、里見進・国立大学協会長(東北大学長)は記者会見で、教育学部や人文社会系学部の見直しを求めた文科省通知を批判した。同席した副会長も「理工系単科大学でも、歴史や社会を知らない学生は困る」(大西隆・豊橋技術科学大学長)、「実学系学部の学生も人文社会学系を副専攻にできる仕組みにしている。多様性が重要」(高橋姿・新潟大学長)などと訴えた。一方で、文科省の“威光”をバックに、遅れがちの改革を進める動きも出ている。

<基礎知識不足の事例>
*4-1:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/203186
(佐賀新聞 2015年7月1日) 自民「報道圧力」問題
◆言論の府預かる資質ない
 安倍晋三首相に近い自民党若手国会議員の勉強会で、報道機関へ圧力をかけて言論封殺を探ろうとする発言が相次いだ。安全保障関連法案への理解が広がらない焦りやいらだちが、報道機関への八つ当たりという形で噴出した。言論の府を預かる国会議員として不見識極まりない発言で、稚拙というほかない。勉強会は、文化人や芸術家との意見交換を通じて「心を打つ『政策芸術』を立案し、実行する知恵と力を習得すること」が目的らしい。9月の総裁選で再選を目指す首相の「応援団」的な位置づけで、首相側近の加藤勝信官房副長官や萩生田光一党総裁特別補佐も初回会合には出席していた。非公式の勉強会とはいえ、あまりにお粗末な運営だった。講師として招いた作家の百田尚樹氏は、これまでもさまざまな舌禍を起こしてきた人物だ。政権が心血を注ぐ安保法制の国会審議に影響を及ぼす発言が出るかもしれないと想像力を働かせることはできなかったのか。各議員は報道機関が取材に来ているのを認識していたなら、非公開の場であっても発言が外に出ると自覚すべきだった。与党国会議員の勉強会が「居酒屋での愚痴」レベルの発言に終始したのは笑い話にもならず、その議員に一票を投じた有権者の方が恥ずかしくなる。何よりも会合での数々の暴言をたしなめる言動がなかったことにあきれる。「マスコミをこらしめるには広告料収入がなくなることが一番。文化人は経団連に働きかけて」と言論統制容認をうかがわせる発言をした当人はもちろん、同席議員も国会議員の資質はない。日本国憲法を一から勉強し直し、言論・表現の自由と民主主義の基本認識を深めることを求めたい。さらに「沖縄の特殊なメディア構造をつくってしまったのは戦後保守の堕落。左翼勢力に完全に乗っ取られている」との発言は、見当違いも甚だしい。29日付の本紙に掲載された沖縄タイムス、琉球新報の寄稿を読んでほしい。「県民に判断能力がないと見下すに等しい暴論だ。そんなおごりがあったなら、沖縄の新聞はとっくに県民に葬り去られていた」(琉球新報)との反論は、県民の民意に寄り添う報道姿勢を貫いてきた自負にほかならない。加えて百田氏の発言は、沖縄県民への侮辱以外の何ものでもない。「米軍普天間飛行場は田んぼの中にあった。まわりに行けば商売になると人が住みだした」は全くの事実誤認である。2地元紙が訂正などを求める抗議声明を出したほか、沖縄選出の国会議員や宜野湾市議会も発言の撤回と謝罪を求める声明や決議を出した。百田氏は真摯(しんし)に対応すべきだろう。近年、自民党による「報道への圧力」と取られかねない動きが目につく。昨年11月の衆院解散前にテレビ局に公正報道を求める文書を出したほか、今年4月には番組出演者が「政権の圧力」に言及したテレビ朝日と、やらせ疑惑が浮上したNHKの幹部を呼び、事情を聴取した。圧倒的な勢力を背景に「1強」のおごりが組織内に充満していないか。党はもちろん、政府も内部を顧みて姿勢を正すべきだ。

*4-2:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140814/dst14081408090001-n2.htm
(産経ニュース 2014.8.14) 福島第1、凍らない「氷の壁」断念か 別工法も 19日に規制委が検討
 東京電力福島第1原発海側のトレンチ(地下道)に滞留する汚染水を遮断するための「氷の壁」が3カ月以上たっても凍らない問題で、7月末から投入している氷やドライアイスに効果が見られないことから、政府が「氷の壁」の断念を検討し、別の工法を探り始めたことが13日、分かった。政府関係者によると、19日に原子力規制委員会による検討会が開かれ、凍結方法の継続の可否について決めるという。氷の壁は、2号機タービン建屋から海側のトレンチへ流れ込む汚染水をせき止めるため、接合部にセメント袋を並べ、凍結管を通し周囲の水を凍らせる工法。4月末から凍結管に冷媒を流し始めたものの、水温が高くて凍らず、7月30日から氷の投入を始めた。しかし氷を1日15トン投入しても効果がなく、今月7日からは最大27トンに増やしたが、凍結が見られなかった。12日までに投じた氷は計約250トンに上る。ドライアイスも7日に1トン投じたものの、小さい配管に詰まってしまい投入を見合わせ、12日に再開した。氷の壁が凍結しないことは、規制委の検討会でも有識者から指摘されており、「コンクリートを流し込んでトレンチを充(じゅう)填(てん)すべきだ」との意見があった。政府関係者によると、19日に予定されている検討会では、氷投入の効果を評価した上で、効果がないと判断されれば代替工法の作業に着手するという。規制委は、トレンチにたまっている汚染水が海洋に流れ出す恐れがあることから「最大のリスク」と位置付けており、早期解決を目指している。特に凍結管の中に冷媒を通して水分を凍らせる技術は、1~4号機周囲の土中の水分を凍らせる「凍土遮水壁」と同じで、氷の壁が凍土壁にも影響しないか懸念を示している。氷やドライアイスの投入について、東電の白井功原子力・立地本部長代理は「十分な検討が不足していたという批判はその通り。失敗を次の糧にしていく。当初予定していたことができないことはあり得る」と話している。


PS(2015年7月4日追加):*5-1で、沖縄県の市民が、「県民を愚弄する精神が底流にある」と怒っているのは、“自民党若手議員”の発言の根底に、「自分たちの考えが正しく、沖縄県の市民の意見が歪んでおり、歪んでいる理由は沖縄二誌にある」という上から目線の考え方があり、失礼だからだ。そのため、*5-2で、菅官房長官の沖縄知事への「ご迷惑を掛けて申し訳ない」という謝り方は、誰にどういう“迷惑”をかけたのか不明であり、謝るべきポイントが違っていると考える。翁長沖縄県知事は大変だと思うが、へこたれずに頑張ってほしい。 女性

*5-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/204669
(佐賀新聞 2015年7月4日) 報道圧力に450人抗議、沖縄、首相に謝罪要求
 自民党若手議員の勉強会で報道機関に圧力をかけるような発言が出た問題を受け、沖縄県の市民団体などが4日、抗議の集会を那覇市で開いた。約450人(主催者発表)が参加。「報道・言論の自由を脅かし、民主主義の根幹をも揺るがす。県民を愚弄する精神が底流にある」と非難し、自民党の安倍晋三総裁(首相)にあらためて謝罪を求める決議文を採択した。「言論・表現・報道の自由を守る沖縄県民集会」と銘打ち、市民団体のほか翁長雄志知事を支持する県議が呼び掛けた。

*5-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/204685
(佐賀新聞 2015年7月4日) 菅官房長官が沖縄知事に陳謝、自民勉強会発言で、対話は継続
 菅義偉官房長官は4日夜、沖縄県の翁長雄志知事と東京都内のホテルで会談した。菅氏は6月25日の自民党若手議員の勉強会での沖縄をめぐる発言について「ご迷惑を掛けて申し訳ない」と陳謝した。両氏は今後の対話継続で一致した。翁長氏が会談後、明らかにした。会談は、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる国と県の対立激化を回避する狙いから行われた。この日は、移設問題は話題にならなかった。次回以降で取り上げるとみられる。翁長氏は菅氏の陳謝について「よかった」と語った。「これから何回かにわたる話し合いのベースにする。次回以降は厳しくなる」とも述べた。


PS(2015年7月7日追加):*6は、すべての市町で質が高くて十分な学童保育ができるというのが条件であるため、場所によっては国や県のアドバイスと補助が重要だろう。私は、学童保育の担い手は、定年退職した教員や未採用の若い資格のある人に報酬を払って中心になってもらい、預かった子どもに予習・復習をさせるとともに、地域のプロにも協力してもらって、植林や畑での作物栽培、鳥の巣箱の作成と設置(木材を使った工作と生態系の理解目的)、魚とり、遠足、料理、地場産業(焼物・織物・染色等々)の作品作成、サッカーなど、家庭ではできない教育に役立つ遊びを体験させるのがよいと考える。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/205281
(佐賀新聞 2015年7月7日) 佐賀県、学童保育センター廃止 利用急増「過渡期」不安も
■「子育てし大県」どうなる 「市町主体で運営できる」
 佐賀県は、放課後児童クラブ(学童保育)の質を向上させる目的で6年前から実施してきた「学童保育支援センター事業」を廃止した。県は「市町がノウハウを蓄積し、主体的に運営できるようになったため」と説明する。ただ、「子育てし大県“さが”プロジェクト」を掲げる中での廃止に、市町の担当者や指導員からは「利用する子どもが急増している学童保育の運営は過渡期」と残念がる声が上がり、今後への不安も漏れている。学童保育支援センターは学童保育の充実を目的に2009年度、県内4カ所でスタートした。子どもに直接関わる指導員や保護者、市町からの相談は、最も多い年で1700件を超えた。指導員を対象にした研修会は年間約50回開き、県内全域の学童保育の現状をまとめたガイドブック発行も手掛けた。県は当初、国の基金を活用し3年間を予定していたが、12年度は「質向上」に焦点を当て、センターを1カ所に集約し、県単独予算でさらに3年間継続した。県こども未来課は、この6年間で市町は条例を作って国の基準に沿った運営ができるようになったとしている。さらに開設時間が12市町で30分~1時間半、最長午後7時まで延長され、4年生以上の受け入れを7市町が拡大している。これらを基に「市町は主体的に運営できる」と判断した。一方で、こども未来課によると、本年度当初、指導員を対象にした国の補助事業「現任研修」を実施する予算を組んだ市町は県内でゼロ。県は「困りを抱えている子どもたちへの対応」などをテーマに、指導員も参加できる全7回の研修会を開催しているが、50回を数えた前年度までと比べると、激減している。センターの廃止を受け、県北部で15年以上の経験がある指導員は行政による委託運営もあり、市町職員でも現状把握が進まない現状を挙げ「まだまだ主体的にできる状況となっていない」とセンター事業廃止を不安視する。また「センターの職員は他の市町を巡り、状況を把握していた。いろんなアイデアをもらい、行政とのパイプ役にもなってくれ改善につながってきたのに」と声を落とす。県内で学童保育を担当する市町職員の一人は「事業が昨年度で終わるのであれば、県は昨年度中にノウハウをセンターから引き継ぐ丁寧な仕掛けが必要だったのでは。それがなく、尻切れとんぼになった感じ」と疑問を口にする。減少する指導員研修についても「身近な地域で開いてくれていたからこそ、時間をやりくりして参加できた。指導員の担い手は主婦層が多く、遠くまでは難しい。これからは、どうでしょうか…」。質向上の足踏みを心配している。

| 教育・研究開発::2014.8~2016.11 | 02:04 PM | comments (x) | trackback (x) |

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