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2017.10.18~25 政党に関する時代錯誤の論評とメディアの報道について
(1)民進党議員の希望の党への参集について
 希望の党の政策協定書と公約                 各党の重要政策比較表
 
                                     2017.10.22 
                                      日経新聞
(図の説明:一番左の希望の党の政策協定書には、「希望の党で公認を受ける議員は、憲法改正を支持し憲法改正論議を幅広く進めること」「公認候補となるにあたり、党に資金提供すること」等の記載がある。しかし、憲法変更は党議拘束すら外して議員個人の良心に基づいて議決するのが妥当なくらい重要なテーマであり、他の政策と抱き合わせにした契約で無理やり賛成させるべきものではない。そのため、国民の代表として一人一人の議員を尊重しているのではなく、議員は党の執行部から降りてきた政策を機械的に採決する駒のように考えているわけだが、それは民主主義の基本に反する。また、希望の党は、新しい政党で党に金がないため、公認候補者に資金提供を要求するのは仕方がないのかも知れないが、一定の金額が決まっておらず、公平・公正感がない。なお、各党の重要政策は右の2つの表の通りだ)

1)メディア等の共産党との野党連合に対する批判
 メディアや他党が、「共産党との選挙協力は野合だ」と非難しているが、共産党の主張には、①脱原発 ②消費税増税中止 ③憲法9条の変更反対 など、資本主義・自由主義経済下でも、政府の無駄遣いを減らして国民生活を豊かにするため、賛成できる提案が多い。また、共産党は歴史が長いため人材が多いようで、情報収集力や分析力があるため、「共産党は社会制度の前提が異なる」として、どのテーマについても「共産党の提言だから」として排除すると、せっかくの提言が有意義な成果を生まない結果となる。

 また、子どもが大人のやり方を見て真似することを考えると、少数派をいじめたり、変なレッテルを貼って排除したりするやり方は、将来世代への影響という点でも問題だ。

2)メディアを通して見ていた人が考えた民進党支持率低迷の理由
 民進党をはじめとする野党連合は、森友・加計問題で安倍首相をしつこく追究して内閣支持率を落とし、今回の解散に追い込んだのだろうが、それによって民進党の支持率が上がったわけではなかった。その理由は、①(いろいろな意味で)過去に失敗したリーダーが、頻繁に顔の見える立場にいたこと ②「安倍政権下での憲法改正には応じない」というような対立軸にならない子供じみた批判をしていたこと ③脱原発の思い切った政策を出せなかったこと ④消費税増税で戦おうとしたこと などだろう。

 そのほか、日本のメディアが、政策の違いやその本質的な理由を真面目に報道できず、誰かの人格否定のようなことばかりを集中して報道するため、それよりも次元が高くなっている多くの国民から、「それだけでは任せられない」と思われたという日本独特のメディアの問題もある。

 そこで、民進党は小池氏の「希望の党」と合流することにしたようだが、希望の党は「国会を一院制にする」というような国会の二重チェック機能を無視した政策提言をしたり、公認希望者に自民党より多様性を認めないような政策協定書に署名させたりしたため、それとは考え方の異なる国民を失望させ、民進党の前議員も立憲民主党を立ち上げたり、無所属になったりして、選挙に突入したわけだ。

3)「リベラル」「保守」「革新」「右翼」「左翼」という言葉使いのおかしさ
 希望の党は、民進党議員を受け入れるにあたり、「リベラル(英語:Liberal)でないことを条件にした」とメディアが報道していたが、「Liberal」とは「自由な」という意味で、現代では、「自由」が民主主義国の大前提であり、日本国憲法にも随所に出てくる。そのため、「Liberalである」ことを理由として排除されなかった候補者が本当に「Liberalでない」とすれば、その人は日本国憲法違反の議員となるが、政党やメディアの中心にいる人が、そんなことにも気づかないとは情けない。ちなみに、「保守」と言われている自由民主党の英語名は、「Liberal Democratic Party of Japan」であり、堂々と「Liberal」が冠せられている。

 また、「保守」とは「現状を維持したい勢力」のことであり、「革新」とは「旧来の制度・方法・習慣を変えたい勢力」のことであるため、現行憲法が施行され定着している現在、憲法を変更したいとする自民党やそれに考え方の近い勢力が「革新」で、護憲を基本とする立憲民主党・公明党・社民党・共産党が「保守」と呼ばれるべきだろう。

 つまり、太平洋戦争終了後、日本国憲法の発布と施行で日本の革命は終わり、その日本国憲法が70年にわたって安定的に運用され、日本は平和主義を前提として戦争で膨大な無駄遣いをせずに経済発展してきたのに、メディアや政党がその事実を無視して戦前の発想で分類しているため、「保守」と「革新」の定義が逆になっておかしくなっているのである。

 なお、革命が終わっても、よりよい方向への継続的な改善はやり続ける必要がある(Continuing improvement)が、リセットばかりしている余裕はない。そして、どの分野でも同じだが、改善とは、欠点を直すためによりよい方向への見直しを普段から続けることであり、理由なき改革のための改革は、無駄な仕事を増やしたり、混乱させたり、改悪になったりするため、しない方がよいのである。

 また、「右翼」とは、国会議事堂で議長(戦前は、たぶん天皇)から見て右側に座っている勢力で、「左翼」とは、左側に座っている勢力であるためそう呼ばれたのだろうが、現在は議員数の多い政党順に右から並んでいるため、「右」か「左」かで思想や政策を分けられるわけではない。ちなみに、先日までの衆議院は、与党である自民党は右側、同じ与党である公明党は比較的左側に着席しており、無所属の人が考え方にかかわらず一番左側にいた。

(2)消費税増税について

    
2017.10.1琉球新報         付加価値税率国際比較   税収・歳出・公債

(図の説明:左の2つが、消費税増税に関する各党のスタンスであり、消費税増税をしないことに対してメディアの批判が多い。しかし、右から2番目のグラフのように、日本は消費税率が低いと言われるが、消費税は日本にしかない税制で、ヨーロッパは付加価値税、米国は国税ではない小売売上税があるだけだ。また、右のグラフのように、日本では1989年《平成元年》に消費税が導入されて以来、消費税率を上げるたびに景気回復と称して生産性の低い歳出を増やすため、消費税ができてから国債残高は増えるばかりなのである)

1)世界で唯一の消費税増税を大合唱する日本のメディアと経済界
 「付加価値税(taxe sur la valeur ajoutée:略語TVA」はフランスで考案され、1954年に世界で初めてフランスで導入され、1960年代末からヨーロッパ共同体(“EC”)の統一税制となり、現在はヨーロッパ連合(“EU”)諸国に導入されている。日本では、英語「value-added tax:略語VAT」で呼ぶのが一般的だが、米国には付加価値税や消費税はなく、州・郡・市毎に率の異なる小売売上税(小売りの売上に一度きり課税するもの)があるだけである。

 そして、太平洋戦争後、日本は、シャウプ勧告(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%A6%E3%83%97%E5%8B%A7%E5%91%8A 参照)を受け、直接税を中心とする米国方式の(長くは書かないが)合理的な税制を作った。その税制は、源泉徴収制度により給与所得者等の所得捕捉率や税の徴収率がよいため、今は捕捉できずにいる所得を捕捉できるように改善し、米国方式で首尾一貫した方が、特定の国民の課税済所得に再課税することにならず、公正・中立である。

 また、米国の小売売上税は売上に課税し、欧州の付加価値税は付加価値に課税するため、どちらも納税義務者は事業者である。一方、日本の消費税は消費に課税するため納税義務者は消費者で、納付を事業者が代行する形になっている。そのため、「消費者に完全に転嫁せよ」などと言われるわけだが、日本で付加価値税ではなく消費税が導入されたのは、事業者から反対の声があがったからにほかならない。

 さらに、欧州の付加価値税や日本の消費税には輸出免税があり、これにより輸出事業者は益税となり、還付されることすらある。また、軽減税率が導入されれば、軽減される業種も益税となる。そして、それが、新聞や経団連などの大企業が、消費税増税を自己目的化している財務省とつるんで、社会保障を人質に、世界で唯一の消費税増税を大合唱している理由だろう。

2)消費税しか財源がないわけではないこと
 メディアは、*1-2、*1-3、*1-4、*1-5のように、「①2019年10月の消費税増税を、自公は予定どおり実施して、借金返済に回す分を減らし、子育てや教育の充実に振り向ける」「②他党は増税に反対している」「③消費税増税を凍結すると借金が減りにくくなり、目標だった20年度の基礎的財政収支の黒字化が不可能になる」「④日本は社会保障に見合う財源が確保されておらず、国債発行という将来世代へのつけ回しに頼っている」「⑤従って、負担増こそ論点だ」「⑥消費税増税は誰が政権についても避けて通ることのできない課題で、異論を言う党はビジョンがない」「⑦各党は教育無償化などの再分配政策に傾斜した内容が目に付き、近く日本が直面する少子高齢化に向けた『痛み』を伴う施策を素通りしている」「⑧消費税増税の選挙争点化は、もうやめよう」「⑨消費税10%への引き上げの3党合意はどこへ行った」など、「消費税増税に賛成しないのは、社会保障についてのビジョンを持たないポピュリズム(衆愚)だ」という財務省の主張を記載している。

 しかし、ここで注意しなければならないのは、財務官僚が優秀でも、イ)財務省は消費税増税を自己目的化している ロ)他省庁管轄の事象に関する影響は考慮できない という事情がある。そのため、政治家が有権者である国民の負託を受けて省庁の壁なく全体を見て考察すべきであり、そうすると、幼児教育・高校授業料無償化、大学授業料減免、大学の給付型奨学金拡充が実現すれば、生産性の高い人材が増え、GDPが上がるため、直接税による税収増を見込める。また、景気刺激策・雇用維持策としてのバラマキを辞められるため、理想的な形で歳出削減を行うことができる。そして、そうなるような教育をしなければならないのだ。

 そのため、上の①については、教育・福祉予算が消費税でなければならない理由はなく、②が正論で、③④は、消費税増税を行う度にその言い訳として景気刺激策を行って生産性の低い歳出を増やし、国の借金が増加していることを忘れてはならない。そして、社会保障サービスは、まさに現代のニーズなのである。さらに、⑤⑥⑦については、痛みがあるから良薬とは限らず、害があるだけの政策もあり、⑧⑨のように、理論は別として「何が何でも消費税増税が必要で、それに反対する国民の意識はポピュリズム(衆愚)だ」などと言うことこそ、経済も税制も知らずに傲慢極まりないのだ。

(3)脱原発について


     各党の公約       使用済核燃料の蓄積  新燃岳の噴火と霧島連山
 2017.10.16   2017.10.7           2017.10.11
 西日本新聞    読売新聞             毎日新聞

(図の説明:左の2つが各党の原発政策の要点だ。中央は、各原発に蓄積されている使用済核燃料のトン数で、処理方法は未定であり、原発が稼働すれば増加する。さらに、薩摩川内市にある川内原発は、現在噴火している新燃岳の近くにあり、その新燃岳は一番右の写真の霧島連山の火山の一つなのである。しかし、原発ゼロを明記するほど憲法は細かいことを規定するものではないため、原発ゼロは環境基本法の実行で十分である)

 *1-2には、「原発の扱いも争点で、太陽光などの再生可能エネルギーで代替する計画だが、発電コストが割高のため、膨らんだ買い取りコストが家庭や企業の電気代に上乗せされる」と書かれているが、書くからには、記者は原価計算を理解した記事を書くべきである。また、普及すればコストダウンできるというのも、マーケティングの常識だ。さらに、再生可能エネルギーは国内にある資源であるため、国富が流出することなく国内で循環して税収増に繋がる。

 そして、このようなことは、他人から言われなくても自ら正確な情報を選択して論理的に考えることができる人材を養成しておく必要があり、そのためには、文系か理系かを問わず、教育を充実して達成しておかなければならない知識や論理的思考力の最低水準があるのだ。

 なお、日経新聞は、経産省の広報版のように、*2-1の「現実直視し責任あるエネルギー政策を」という記事を書いており、現実を直視してエネルギー利用の未来を展望すれば、原発を「ベースロード電源」と位置づけて再稼働するのが正しく、国民は現実を見ずに単なる不安を感じているにすぎないかのように記載している。しかし、実際には原発ゼロの道筋は既に何度も示しており、再エネや省エネの技術もある。にもかかわらず、*2-2も、太陽光や風力は天候などで発電量が変わりやすいなどとしており、思考停止が甚だしいのである。

 また、国民負担であれば、経産省は、*2-3のように、原発立地自治体を対象とした国の補助金を、2017年度から原発30キロ圏内の自治体にも支払う仕組みに変更し、2017年度の予算額を45億円とした。もちろん、原発のリスクと隣り合わせの自治体から見れば、国の補助金はないよりあった方がいいが、原発を開始してから今まで全体でどれだけの補助金が支払われたかを、正確に計算しておくべきである。

 さらに、東京新聞は、*2-4のように、東京電力福島第一原発事故の廃炉作業で、国が直接、税金を投入した額が1000億円を超えたと報道している。事業別では、①凍土遮水壁が設計などを含めて約357億8千万円 ②ロボット開発など1~3号機の原子炉格納容器内の調査費約88億4千万円 ③廃炉作業は約1172億6千万円 ④原発事故処理費用は21兆5千億円(このうち東電負担は8兆円) ⑤除染で出た汚染土を30年間保管する中間貯蔵施設は国の負担で金額は未定 という具合で、歳出額が大きい上、関係者が原発事故にたかっている様子もうかがえる。

 そのため、原発を辞めて再生可能エネルギーで代替すれば、教育無償化や社会保障の充実は容易にでき、現代のニーズにマッチしている上、エネルギーを100%国産にできるため、国富を海外に流出させずに国内で循環させることができると言える。

 そのような中、*2-5のように、日立製作所が英国に建設する原子力発電所に対して日本のメガバンクが融資する建設資金に、日本貿易保険(NEXI)を通じて政府が全額補償するそうだが、これは、日本国民にとって、言われなき国民負担のリスクがあるものである。

 また、フクイチ事故による関東の汚染も、*2-6のように、ひどいものであり、*2-7のドイツ人小児科医による講演内容は、日本メディアの記事よりも本当だ。つまり、公害は、原発の方がCO2よりもずっと著しいのである。

(4)憲法の変更と安全保障について

  
                      憲法9条への対応    北朝鮮への対応
    2017.10.20西日本新聞          2017.10.13、15西日本新聞

 *1-1に、自民・希望・維新は憲法改正に積極姿勢を示していると書かれているが、最も変更したい項目は、*3-2のように、党によって異なる。

 憲法9条の変更には、自民、希望、維新が前向きで、共産・立憲民主が反対だそうだが、①憲法9条を変更するのなら、それによって成し遂げられてきた平和主義を捨てるのか否か ②両立させる方法があるのか ③それは、改悪ではなく改善になるのか について検討すべきである。

 なお、*3-4のように、北朝鮮のミサイル実験で「国難だ、国難だ」と騒ぎながら衆議院を解散しているくらいだから、緊急事態条項が不要なことは明らかであるし、北朝鮮問題は5年もすれば落ち着くと思われるため、北朝鮮のミサイル実験を根拠に日本国憲法を変更する必要はないと考える。

 そのような中、西日本新聞は、2017年10月20日、*3-1のように、「22日投開票の衆院選を巡る世論調査では、自民党が圧勝し、憲法改正に前向きな勢力が国会発議に必要な定数465の3分の2(310議席)を獲得する勢いで、選挙後に9条改正などの論議が加速する可能性が高まる」と記載している。しかし、「立憲民主が野党第1党なら“足踏み”」などと、内容の検討もせずに「改憲が前進」という前提で報道するのは中立性を欠き、国民に先入観を与えるのでよくない。しかし、*3-2のように、公明党が改憲に慎重姿勢を示しているため、与党には少し安心感があるのである。

 また、*3-3のように、希望の党は、公認の条件として提出を求めている「政策協定書」で、①憲法改正への支持 ②安全保障関連法については「適切に運用し、現実的な安全保障政策を支持する」 などとした。一般に、改憲派は、「現実に合わせて理想を変更すべきだ」と主張しているが、憲法はあるべき姿(理想)を述べて、現実を理想に近づけるためのものであるため、発想が逆である。「現実に合わせて理想を変更すべきだ」という論法は、わかりやすく書けば、「泥棒がなくならないから、泥棒してもよいことにしよう」という論法と同じである。

 さらに、「日本国憲法は、古くて時代に合わなくなっている」と言っている人がいるが、それなら、どこが古いのでどう変えたいのかを具体的に指摘する必要があるが、憲法を変えなければならないような場所は、私には見当たらない。環境権についても、足りない部分は強化して環境基本法をしっかり守ればよいため、憲法の変更は不要である。

 最後に、核兵器問題については、日本政府が国連に提出した核兵器廃絶決議案の軍縮等に関する表現が後退していることを、国際NGO「ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)」が批判している。ICANは、そういう組織だからこそノーベル平和賞受賞が決定したのであり、こういう正論を言う人たちが、最少は少数派でも次第に世界をあるべき方向に進めるのだ( https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20171021-00000017-ann-int 参照)。

<各党の政策のうち消費税と財政再建>
*1-1:http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/2017/news1/20171007-OYT1T50105.html (読売新聞 2017年10月8日)自民と希望、増税・原発で対立…憲法改正は一致
 政権を争う自民、希望の両党は、消費増税や原発政策などをめぐって対立する。一方、両党は憲法改正を目指す点では一致しており、衆院選の結果次第では、改憲論議が活発化する可能性もある。
◆消費増税
 2019年10月の消費税率10%への引き上げの是非を巡っては、与野党の対立構図がそのまま持ち込まれた。自民、公明両党は予定通り引き上げ、飲食料品などへの軽減税率導入を掲げる。両党は増税分の使い道を見直し、子育てや教育などに重点配分する方針も打ち出した。これに対し、希望、日本維新の会の両党は「凍結」との立場だ。共産党も引き上げ中止を掲げ、立憲民主は「直ちに引き上げることはできない」と見送りを主張した。ただ、野党側が消費増税に代わって確保すると主張している財源については曖昧さも残る。希望は、企業利益の蓄積に当たる「内部留保」への課税を盛り込んだが、「法人税との二重課税になる」との指摘があり、実現性を疑問視されている。
◆原発政策
 自民が公約で、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けるのに対し、野党側は「脱原発」を掲げた。
希望は公約で再稼働に柔軟姿勢を示すものの、原発は新設せず、「2030年までに原発ゼロ」を目指すとした。共産は「原発再稼働の中止」、立憲民主も「一日も早い原発ゼロ」を掲げ、「原発ゼロ基本法」の策定を目指す。
◆憲法改正
 自民や希望、維新は憲法改正に積極姿勢を示している。
自民は「自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消」の4項目で改憲を目指すとした。希望も「憲法9条を含め改正論議を進める」と明記した。9条改正については自民、希望、維新が前向きだが、共産や立憲民主は「9条の改悪反対」を掲げ、反対姿勢を強めている。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171007&ng=DGKKZO21978770W7A001C1MM8000 (日経新聞 2017.10.7) 財源当てなき公約競争、衆院選、主要各党が公表 目立つ曖昧さ、論戦に課題
 10日公示―22日投開票の衆院選に向けた各党の公約(総合2面きょうのことば)が6日ほぼ出そろった。政権選択を争う自民党と新党「希望の党」は消費増税や原子力発電・エネルギー政策で対立する。経済政策はいずれの政党も再分配を重視して聞こえのいい内容に偏りがちで、政策実現のプロセスや財源確保に曖昧さが残る。党首討論や街頭演説を通じて有権者に明確に説明できるかが問われる。希望が6日に発表し、新党「立憲民主党」は7日に公表する。公表済みの自民や公明党、日本維新の会などとあわせ主要政党の公約がそろう。経済政策が大きな対立点として浮かんだ。2019年10月の税率10%への消費増税は自公が予定どおりの実施を掲げた。雇用や所得などの経済環境が良くなってきたと強調する。他党は「一般国民に好景気の実感はない」(希望)として増税に反対する。自公も増収分の使い道は変える。借金返済に回す分を減らし、子育てや教育の充実などに振り向ける。これまでは5兆円あまりの増収分の大部分を借金返済、残りを医療・介護や子育て支援の充実などに充てる予定だった。安倍晋三首相は比率を「おおむね半々にする」と表明した。借金が減りにくくなり、目標だった20年度の基礎的財政収支の黒字化は不可能になる。自民は16年の参院選まで公約に明記してきた「20年度の黒字化」を削除した。政府内で簡易的にまとめた試算では、社会保障費の自然増を年5000億円に抑えるなどの歳出抑制を続ければ22年度に黒字化できる。歳出抑制のタガが緩めば25年度まで遅れる。あくまでも19年10月に消費税率を上げることが前提だが、その増税自体の実現にも曖昧さが残る。首相は9月26日のテレビ番組で「リーマン・ショック級の緊縮状況が起これば判断しなければならない」と語った。
●黒字化27年度に
 希望は消費増税の凍結を公約の筆頭に掲げた。小池百合子代表は6日の記者会見で「いったん立ち止まるべきだ」と強調。菅義偉官房長官は「財源なく大胆な改革を進めるような無責任な議論にくみすることはできない」と述べた。第一生命経済研究所の試算では凍結なら基礎的財政収支の黒字化は27年度にずれる。希望は消費拡大に向けベーシックインカム(最低生活保障)の導入も打ちだした。同研究所の星野卓也氏によると、月に6万5千円を支給する場合、現役世代の1割弱を占める年収200万円未満の世帯に対象を絞っても年5.9兆円が必要。300万円未満なら11.5兆円、400万円未満なら18.3兆円と必要な財源は増える。希望が財源に挙げたのは大企業の内部留保への課税だ。内部留保をはき出させ「雇用創出や設備投資に回す」と明記した。内部留保課税は賃上げや設備投資を企業に半ば強制する手段として政府・与党内で浮かんだこともある。実現していないのは課題が多いからだ。法人税を納付した後に課税するため二重課税になり、賃上げや投資の機運を逆に冷やしかねない。小池氏は6日に早くも内部留保課税の提案を修正する可能性に言及した。生煮え感は否めない。自民、希望以外も財源や工程に不透明な部分が多い。自民が全ての3~5歳児の幼児教育・保育の無償化を明記したのに対し公明は全ての0~5歳児で無償化を掲げた。公明は所得制限をかけて私立高校の授業料も無償化するという。より多くの財源が要るが確保策は示されていない。立憲民主も増税先送りの立場だが代替財源を確保できるかは分からない。「身を切る改革で教育無償化」をうたう維新は国会議員の定数削減などを明記した。共産党は大企業の法人税率の引き上げなどを掲げた。いずれもどれだけの財源になるか見通せない。
●家庭・企業に重荷
 電気料金や安定供給にかかわる原発の扱いも争点になる。希望など多くの党が原発に依存しない方針を示した。太陽光などの再生可能エネルギーで代替する計画だ。政府は12年度から電力大手に再生エネの電気を買い取らせる制度を始めた。まだ発電コストが割高のため、膨らんだ買い取りコストが家庭や企業の電気代に上乗せされる。今年度の上乗せは月額686円。12年度の10倍以上だ。政府は30年度に再生エネの比率を22~24%に高める目標に向け導入を進めてきた。希望の目標どおり「30%」まで高まれば電気代への上乗せはさらに増える可能性がある。今後も原発を使っていく方針を示した自民と日本のこころも新設を認めるかどうかは明らかにしなかった。原発はどんなに長くても60年間で運転を終える決まり。新設しなければいつかはゼロになる。中長期のエネルギー政策の選択肢を示したとはいえない。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13159917.html (朝日新聞社説 2017年10月1日) 衆院選 社会保障の将来 甘い言葉で「安心」得られぬ
 「社会保障制度を全世代型へと転換する。急速に少子高齢化が進む中、決意しました」。衆院解散を表明した記者会見で、安倍首相はそう強調した。「全世代型」への柱として「子育て世代への投資の拡充」を唱え、2年後に予定する消費増税分から財源を確保するとした。その是非を国民に問うという。だが、深刻な少子高齢化も、高齢者向けと比べて手薄な現役世代への支援の必要性も、以前から指摘されてきたことだ。8年前には麻生内閣の「安心社会実現会議」が「全世代を通じての切れ目のない安心保障」を打ち出した。政権交代を経てもこの考えは引き継がれ、旧民主党政権は社会保障・税一体改革大綱で「社会保障を全世代対応型へ転換」すると掲げた。安倍内閣のもとでも、「社会保障制度改革国民会議」が4年前に「全世代型の社会保障」を提言している。方向に異を唱える人はいないだろう。政治の怠慢で進まなかったのが実態である。
■繰り返される議論
 首相官邸が主導し、社会保障を議論する有識者会議が設けられるようになったのは、2000年代に入ってからだ。高齢化で年金や医療などの給付が膨らむ一方、少子化で支え手は減っていく。制度を維持していくには、給付を見直しながら、負担についても保険料や自己負担に加えて税制も一体で考え、縦割りを排して政府全体で検討する必要がある。そうした問題意識が背景にある。以来、内閣が代わるたびに「国民」や「安心」「改革」といった言葉をちりばめた会議ができ、提言がまとめられた。その内容は、多くの部分で重なり合う。「女性、高齢者、障害者が働きやすい環境を整え支え手を増やす」「高齢者であっても負担可能な人には負担を分かち合ってもらう」「子育て世代への支援、若者の雇用不安への対策の強化」……。取り組むべき課題は十数年の議論で出尽くしている。必要なのは、具体策をまとめて実行に移す、政治の意思と覚悟だ。とりわけ、給付の充実と表裏であるはずの負担増を正直に語れるかどうかが試金石となる。
■負担増こそが論点
 安倍首相は、消費増税分のうち、国の借金減らしに充てる分の一部を新たな施策に回し、安定した財源にするとしている。だが、この考え方は危うさをはらむ。日本は「中福祉」の社会保障と言われるが、それに見合う財源が確保されておらず、国債の発行という将来世代へのつけ回しに頼っている。消費税率を10%にしても、不足分の解消にはほど遠い。高齢化などに伴う社会保障費の自然増を毎年5千億円に抑えるやりくりでしのいでいるのが近年の状況だ。消費増税の使途を変えるとなると、社会保障費の伸びを今以上に抑えるのか。あるいは、国債発行に頼ってさらにつけ回しを増やすのか。そうした点も一緒に示さなければ、国民は是非を判断しようがない。給付の充実だけを言い、社会保障制度への影響には触れず、財政再建への見取り図も示さない。そうした態度では、単なる人気取り政策と言うしかない。そもそも、給付が負担を大きく上回る構造を抜本的に改めていくことが問われ続けているのだ。今後、高齢者でも所得や資産に余裕のある人には負担を求めることや、医療・介護の給付範囲と負担のあり方なども検討課題としていかざるを得ないだろう。そうした痛みを伴う改革や負担増の具体案と道筋を示し、将来の社会保障の姿を描く。それこそが政治の役割であり、国民に信を問うべきテーマである。
■一体改革をどうする
 消費税収の使途変更を打ち出した与党に対し、「希望の党」代表の小池百合子・東京都知事は消費増税の凍結を語る。与党との対立の構図を作る狙いのようだが、では社会保障についてどのようなビジョンを持っているのか。希望の党への合流を掲げた民進党の前原誠司代表は、消費税を増税した上で教育や社会保障の充実に充てると訴えていた。統一した見解を早急に明らかにするべきだ。国民のニーズの変化に対応して社会保障の仕組みを見直し、少子高齢社会のもとでも安定した制度にしていく――。誰が政権についても避けて通ることのできない課題である。人口減や財政難の深刻さを考えれば、とりうる政策の幅はそれほど大きくはない。5年前、民主(現民進)と自民、公明の与野党3党が決めた社会保障と税の一体改革は、社会保障とそのための負担を政争の具にしないという、政治の知恵だと言える。風前のともしびの一体改革の精神を大切にするか。目先の甘い話を競い合うか。すべての政党が問われている。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171011&ng=DGKKZO22078940Q7A011C1EA1000 (日経新聞 2017.10.11) 各党「痛み」素通り、公約、再分配に傾く 有権者、狭まる選択肢
 10日に公示した衆院選で各党の選挙公約をみると、教育無償化など再分配政策に傾斜した内容が目に付く。近く日本が直面する少子高齢化に向けた「痛み」を伴う施策は素通りした形で、将来負担を心配する有権者にとって選択肢は乏しい。2012年の社会保障と税の一体改革から5年がたち、各党は再び近視眼的な政策を並べている。
・「幼児教育の無償化を通じ、全世代型の社会保障へ転換」(自民党)
・「幼児教育の無償化、大学の給付型奨学金の大幅拡充」(希望の党)
・「高校授業料無償化、大学授業料の減免」(立憲民主党)
 安倍晋三首相が2019年10月の税率10%への消費増税の使途変更による「全世代型社会保障」の実現を訴えると、各党は公約に教育無償化を明記した。高等教育までを含めた無償化の費用は最大で年5兆円規模に上るが、選挙前に十分議論されたとは言い難い。例えば自民党が打ち出した幼児教育の無償化。公約は「20年度までに3~5歳のすべての子どもたちの費用を無償化する」とうたった。いまの保育料は所得が高い人ほど金額が高くなる制度だが、自民党の公約は所得制限を設けないと読める。高所得者ほど恩恵が手厚くていいのか。本来は大きな争点だが、各党で論戦になっていない。社会保障も同様だ。政府は来年6月に社会保障費の抑制額などを定める財政健全化計画を改定する予定で、負担をどうするかが焦点だ。だが、各党公約は具体像を語らない。「医療・介護費をどのくらい払うのか」「年金はもらえるのか」。有権者に「痛み」を示さず支持を呼び掛けている。消費増税は割れた。希望の党や立憲民主党など野党はそろって増税の延期や凍結を主張し、自公は「リーマン・ショック級の出来事が起きない限り」との条件付きで増税すると約束した。ただ自公も5兆円強の増収分のうち新たに1.7兆円程度の税収を教育などに使う。各党の公約はいずれも財政健全化からは遠く、将来世代にツケを先送りする主張だ。原発政策も争点だ。自民党は1日を通じて安定的に供給できる「ベースロード電源」と位置づけ、再稼働に前向き。希望の党は「30年までの原発ゼロ」を主張した。同党は再生可能エネルギーの割合を「30%」にすると唱えるが、電気代の上昇など経済的な負荷の可能性への言及は乏しい。

*1-5:https://mainichi.jp/senkyo/articles/20171011/ddm/005/070/008000c (毎日新聞 2017年10月11日) 2017衆院選 消費税増税=井出晋平(東京経済部)
●選挙争点化、もうやめよう
 安倍晋三首相は、2019年10月に予定通り消費税率を8%から10%に引き上げることで見込まれる増収分の使途変更を掲げて衆院選に踏み切った。一方、小池百合子東京都知事率いる「希望の党」など野党は、増税凍結・中止を訴え対抗姿勢を鮮明にしている。だが、もう消費税を選挙の争点にするのはやめるべきではないか。政策を巡る議論が深まらないまま、選挙のたびに消費税を「政争の具」にし続ける政治の無責任さを感じずにはいられない。
●唐突な使途変更、解散の「口実」か
 首相は9月25日の記者会見で、10%への消費税増税による5・6兆円の増収分のうち、国の借金返済に充てる予定だった分の一部を幼児教育・保育の無償化などに振り向けると表明。「国民生活に関わる重い決断を行う以上、すみやかに国民の信を問わなければならない」として、衆院を解散した。だが、この首相の説明には首をかしげざるを得なかった。首相が新たな使い道とする教育無償化は、今夏の内閣改造で首相が目玉に据えた「人生100年時代構想会議」で議論を始めたばかりで、会議はまだ1回しか開かれていない。議論が深まらないうちに、首相は▽3~5歳児は完全無償化▽0~2歳については低所得層に限り無償化▽大学生の給付型奨学金の拡充--などと打ち上げた。これでは、構想会議を設置した意味がない。また、首相は全世代型の社会保障制度への転換が「待ったなし」と述べたが、現行制度が高齢者に手厚く偏っているという指摘はかなり前からあった。制度の組み替えの必要性を感じているなら、なぜもっと早く取り組まなかったのか。首相は12年12月の第2次政権発足後、選挙のたびに消費税を争点に据えてきた。14年12月の衆院選では、同年4月の消費税率の8%への引き上げによる消費低迷を理由に、15年10月に予定していた10%への引き上げ延期を表明し、衆院解散に踏み切った。16年7月の参院選では、直前に再び17年4月の増税を延期すると表明した。それまで「リーマン・ショックや大震災のような事態が発生しない限り、予定通り引き上げる」と繰り返していたが、16年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で「世界経済が危機に陥るリスクに直面している」と唐突に表明。リーマン・ショック級の危機が迫っているという強引な理屈で増税延期に持ち込んだことは記憶に新しい。今回は、これまでとは逆に予定通りの消費税増税を表明した。2回の延期で「安倍政権で増税は無理」とあきらめていた財務省内では当初、「増税分を教育無償化の財源にする以上、3回目の延期は無いだろう」と期待する声が聞かれた。だが、その後首相がテレビ番組で「リーマン・ショック級の大きな影響、経済的な緊縮状況が起これば(延期を)判断しなければいけない」と発言したことで、「また延期するかもしれない」と戸惑いの声も出ている。希望の党が消費税増税の凍結を訴えたこともあり、首相が解散の大義とした増収分の使途変更は、自民党の政権公約の6本の柱のうち4番目に後退。「大義なき解散」を取り繕うために使途変更を持ち出した感を改めて強くする。
●10%引き上げの3党合意どこへ
 一方、希望の党や立憲民主党など野党の消費税増税の凍結・中止という主張も賛成できない。特に野党再編の中心となっている希望の党は、安倍政権への対抗姿勢を打ち出すための戦略という思惑が透けてみえる。安倍政権の支持率が低下し、自民党内で「ポスト安倍」として岸田文雄政調会長ら財政再建派の名前が取りざたされていた今夏、ある民進党議員は「自民党がポスト安倍で消費増税に傾けば、小池氏は支持を得やすい増税反対で打って出る」と予測した。増税を表明したのは首相自身だったが、対抗して増税反対を訴えれば票が集まるという計算が働いた可能性は高い。もともと消費税率5%から10%への段階的な引き上げと、増収分の使途を医療、介護、年金、少子化対策の社会保障4経費に限ることは、旧民主党政権時代の12年、自民、公明との3党合意で決めたものだ。その背景には、少子高齢化で年金や医療費が増加を続ける一方、担い手が減少し、このままでは社会保障制度が破綻するとの強い危機感があった。また、有権者の受けが悪いとされる消費税を「政争の具」にしないという狙いもあったはずだ。増税はできれば避けたい選択だ。国民に負担を求める前に税金の無駄遣いをやめ、歳出を徹底的に見直す必要がある。しかし社会保障制度を維持するには、一定の負担が避けられないのも確かだ。国と地方の借金は国内総生産(GDP)の2倍近くに達し、先進国で最悪だ。増税凍結、使途変更のどちらの主張も借金を減らすことにはつながらず、将来不安は消えない。公示された衆院選では耳に心地よい政策ばかりが目立つが、将来世代につけを回すことは許されない。どの政党がこの国のかじ取りにふさわしいか--。我々は、惑わされない確かな目を持つことが求められる。

<エネルギー政策>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171016&ng=DGKKZO22288450W7A011C1PE8000 (日経新聞社説 2017.10.16) 現実直視し責任あるエネルギー政策を
原子力発電をどう利用するかは衆院選の対立軸のひとつだ。自民党は原発を基幹電源と位置づけ再稼働の必要性を訴えている。一方で、野党は実現時期は違うものの原発ゼロを目標に掲げ、再稼働を認めない党もある。エネルギーは社会を支え、供給が途絶えれば影響は大きい。聞こえのよいスローガンを唱えるだけでは困る。現実を直視してエネルギー利用の未来を展望し、責任ある政策を示してほしい。自民党は原発を「ベースロード電源」と位置づけ、再稼働についても原子力規制委員会による安全性の確認と地元同意を前提に進めるとした。前回の衆院選の公約とほとんど変わらず、原発を争点にしたくない姿勢も見てとれる。だが安倍政権のもとで再稼働した原発は5基にとどまり、2030年に電力の2割強を原発で賄うとした政府の目標を達成できるかも、不透明さを増している。世論調査では再稼働を不安に感じる国民がなお多い。原発問題から逃げずに、再稼働がなぜ必要かを丁寧に説くべきだ。政策を見直すべき点がないかも検証が要る。太陽光や風力など再生可能エネルギーの目標はいまのままでよいのか。30年以降の原発比率や新増設はどうするのか。これらの点について方向性を示す必要がある。「30年までに原発ゼロ」を掲げる希望の党や「一日でも早い脱原発を」と訴える立憲民主党には具体的な道筋を示すよう求めたい。両党は原発の代わりに再生エネルギーの比率を増やし、省エネも最大限強化するとした。だが実現への技術的な裏づけや、国民負担がどの程度膨らむかなどが、はっきりしない。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で国際社会に約束した温暖化ガス削減と両立できるのかもきちんと説明すべきだ。立憲民主党は原発ゼロを基本法で定め、希望の党も憲法で明記すると約束した。だがエネルギー利用は国際情勢の影響を受けやすく、政策には変化に対応できる柔軟さも要る。理念と政策は分けて考えるべきではないのか。安倍政権になり原子力政策について国民の声を聞く場は減っている。衆院選を機に各党が正面から向き合い、議論を深めてほしい。

*2-2:http://qbiz.jp/article/120623/1/ (西日本新聞 2017年10月16日) 【争点チェック2017衆院選】(4)原発・エネルギー 活用かゼロその先は
 東京電力福島第1原発事故から6年余り。今後も原発を活用する方針の自民党に対し、大半の政党が「原発ゼロ」を掲げた。原発への不信感は今なお根強く、民意をすくい取ろうとする各党の思惑がのぞく。自民党は公約で「原発依存度を可能な限り低減する」としつつも「重要なベースロード(基幹)電源」と原発を位置付けた。原子力規制委員会が新規制基準の適合を認め、立地自治体の理解を得た原発の再稼働を進める方針だ。政府は2030年度の原発依存度20〜22%を目指す。原発30基程度を再稼働する前提だ。31年度以降も原発を使い続けるならば、新増設や建て替えの議論が避けられない。どこまで原発を「低減」するかも問われるが、自民党の公約にはその記載がない。連立与党を組む公明党は再稼働を容認するが、「原発の新設を認めず、原発に依存しない社会・原発ゼロを目指す」と強調。とはいえ「既存の原発はいずれ廃炉になるから、ゼロになる」(山口那津男代表)として、いつゼロにするのかは明らかにしていない。8党の中で唯一、原発ゼロの目標時期を示したのは希望の党。原発を新設せず、運転開始から40年の原発を廃炉にする原則を徹底することで、30年までの原発ゼロを目指す。ただ、再稼働を認める立場をとっており、どうやって12年余りで原発をゼロにするのかの道筋は示していない。民進党出身の前議員が軸となる立憲民主党は、原発ゼロの実現時期について「一日も早く」と表現。「30年代に原発ゼロ」を目指した民進党のように具体的な期限を掲げなかった。野党共闘する共産党、立憲民主党、社民党は再稼働反対で足並みをそろえた。原発に代わる電源について、共産は「30年までに電力の4割を再生可能エネルギーで賄う」方針。社民は「再エネの割合を50年までに100%」とする目標を盛り込んだ。太陽光や風力は天候などで発電量が変わりやすく、どう需給バランスをとるのか不透明だ。「原発ゼロ」の表現を公約に使っていない日本維新の会は「既設原発は市場競争に敗れ、フェードアウトへ」としている。原発を使い続けるにしても、ゼロにするにしても、将来にわたり、どうエネルギーを安定確保していくのか。政治の責任を背負った答えは明確に示されていない。

*2-3:http://qbiz.jp/article/120595/1/ (西日本新聞 2017年10月14日) 原発30キロ圏も国補助金 糸島など計5億円
 経済産業省が、原発が立地する自治体を対象とした国の補助金を、2017年度から、原発の半径30キロ圏内の自治体にも支払う仕組みに変更していたことが13日、分かった。17年度の予算額は16年度と同じ45億円で、対象自治体は150を超え、新たに支給予定の立地外の自治体は16に上る。対象自治体などによると、支給予定の補助金の総額は少なくとも約5億円に上るとみられる。同省は仕組みの変更を報道発表していなかった。原発事故が起きた場合、広範囲の被害への懸念から、30キロ圏内には再稼働に慎重な自治体もある。経産省は「原発の影響が周辺にも及ぶことが分かり仕組みを見直した。再稼働への同意を得る目的ではない」としているが、原発のコストに詳しい龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「地域再生策として趣旨は理解できるが、補助金を渡すだけという手法には反対だ。再稼働への理解を得たいという意図があるのではと読めてしまう」と指摘した。経産省によると、補助事業は「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業」で、16年度に始まった。主に老朽化などで廃炉が決まった原発が立地する自治体に対し、再生可能エネルギーの普及促進など地域振興の取り組みを後押しする。17年度からは公募要領を変更し、「原子力発電施設からおおむね半径30キロの区域を含む市町村、および当該市町村が属する都道府県」に応募資格を広げた。応募があった自治体の中から、今年4月と7月に補助対象を決めた。北海道電力泊原発(北海道泊村)の30キロ圏では、ニセコ町や岩内町など4町が選ばれた。東京電力福島第1原発や第2原発を抱える福島県では、いわき市と浪江町が対象となった。九州は、九州電力玄海原発(佐賀県)に近い唐津市、伊万里市、福岡県糸島市、川内原発(鹿児島県)周辺の阿久根市、いちき串木野市が支給予定だ。経産省は「事業は日々運用を改善しており、逐一、報道発表することはない。ホームページ上で公表し、説明もしている」とした。

*2-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017081402000112.html (東京新聞 2017年8月14日) 【社会】福島第一 廃炉に税金1000億円超 7月まで本紙集計
 東京電力福島第一原発事故の廃炉作業で、国が直接、税金を投入した額が一千億円を超えたことが、本紙の集計で分かった。汚染水対策や調査ロボットの開発費などに使われている。今後も溶け落ちた核燃料の取り出し工法の開発費などが必要になり、金額がさらに大きく膨らむのは必至だ。廃炉費用は東電が負担するのが原則だが、経済産業省資源エネルギー庁によると「技術的に難易度が高い」ことを基準に、税金を投入する事業を選定しているという。担当者は「福島の早い復興のため、国が対策を立てることが必要」と話す。本紙は、エネ庁が公表している廃炉作業に関する入札や補助金などの書類を分析した。廃炉作業への税金投入は二〇一二年度からスタート。今年七月までに支出が確定した業務は百十六件で、金額は発注ベースで計約千百七十二億六千万円に上った。事業別では、建屋周辺の地下を凍らせ、汚染水の増加を防ぐ凍土遮水壁が、設計などを含め約三百五十七億八千万円。全体の三割を占め、大手ゼネコンの鹿島と東電が受注した。ロボット開発など、1~3号機の原子炉格納容器内の調査費は約八十八億四千万円だった。福島第一の原子炉を製造した東芝と日立GEニュークリア・エナジーのほか、三菱重工業と国際廃炉研究開発機構(IRID)が受注した。受注額が最も多いのは、IRIDの約五百十五億九千万円。IRIDは東芝などの原子炉メーカーや電力会社などで構成する。国は、原発事故の処理費用を二十一兆五千億円と試算。このうち、原則東電負担となる廃炉費用は八兆円とされている。除染で出た汚染土を三十年間保管する中間貯蔵施設は国の負担だが、賠償費用は主に東電や電力会社、除染費用も東電の負担が原則だ。

*2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170902&ng=DGKKASFS01H5T_R00C17A9MM8000 (日経新聞 2017.9.2) 政府、原発融資を全額補償、まず英の2基 貿易保険で邦銀に
 政府は日立製作所が英国に建設する原子力発電所について、日本のメガバンクが融資する建設資金を日本貿易保険(NEXI)を通じて全額補償する。先進国向け案件の貸し倒れリスクを国が全て引き受けるのは異例の措置だ。国内の原発新増設が難しい中、国が全面的な支援に乗り出してメガバンクなどの協力を引き出す狙い。インフラ輸出は中国など新興国勢との競争が激しくなっており、国が他のインフラ案件でも支援拡充に動く公算が大きい。安倍晋三首相は8月31日にメイ英首相と会談し、原発建設の協力推進を確認した。貿易保険(総合2面きょうのことば)の補償対象は日立子会社のホライズン・ニュークリア・パワーが受注した、英中部ウィルファで計画中の原発2基だ。両政府と日立は事務レベルで資金支援の枠組みを詰めて2019年中の着工を目指している。試算によると、事業費は2基で2兆円超だ。英政府と日立、日本政策投資銀行、国際協力銀行(JBIC)が投融資を実施する見込みだが、巨額な資金を調達するには民間融資が不可欠になっている。NEXIは通常、民間融資が焦げ付いた場合に備えた保険を提供し、融資額の90~95%を補償する。今回の英国案件については全額を補償する方向で邦銀と協議に入る。原発事業は東京電力福島第1原発事故以降に安全対策費が膨らみやすく、三菱東京UFJ銀行やみずほ銀行も貸し倒れリスクが大きいと判断しNEXIの全額補償を条件にしていた。過去に途上国向けで全額補償したことはあるが、先進国では例外的な措置だ。数十年程度の長期融資などが補償の条件になる見込みだ。原発事故などが発生した場合、三菱UFJ、みずほ両行は第三者から原発事業への貸し手責任に関して訴訟を起こされるリスクもある。両行は損害賠償に関する日英両政府間の協議などを見極めたうえで最終判断する。国が資金支援で前面に立つのは大きなリスクとも隣り合わせだ。原発建設は徹底した安全対策で工程が長引く傾向にあり事業費が想定を上回るケースも後を絶たない。貸し倒れになったりすればNEXIやJBICのバランスシートを直撃し、税金投入を通じた資本増強が不可避になる。最終的に多額の国民負担が発生する危険を冒しながらインフラ輸出を推進することの是非についても議論が活発になりそうだ。一方で中国は国有企業を中心に国を挙げて大型のインフラ輸出を加速させており、日本も対抗上、相応のリスクを取らなければ激しい受注レースで生き残れない現実もある。英政府は15年、英南東部で中国製の原子炉を先進国では初めて導入することを決めた。安倍政権は今回、全額補償措置などと引き換えに英国側にも官民での資金支援を手厚くするよう要請する。

*2-6:http://useful-info.com/tokyo-is-contaminated-not-safeplace (お役立ち情報の杜 ) 【福島原発事故による内部被ばく】東京は放射性物質まみれであり、安心して暮らせる場所ではない。
 「福島原発事故は収束した」「福島原発事故により放出された放射性物質は健康に影響を与えない」「放射性物質による実被害は無いのに懸念を表明するのは、風評被害につながるのでやめるべきだ」というような「信念」に取り憑かれている人は多いと思います。御用マスコミや芸能人を使った「食べて応援キャンペーン」も功を奏しているようです。「食べて応援キャンペーン」を懐疑的に見ている人もいます。しかしその人たちも、健康被害を心配すべきなのは福島県内だけだと思っている場合が多いのではないでしょうか?世界有数の大都市である東京は福島県から200km以上離れていますが、果たして、安心して暮らせる状態なのでしょうか?「放射能汚染―32カ所が基準超え―東京東部で市民団体調査」というリンク先の情報によると、2014年~2015年にかけて市民団体が調査した結果、国の指定基準を超える高放射能汚染箇所(ホットスポット)が多数発見されました。さらに、ホワイトフードさんは、東京都内公園の放射性物質による土壌汚染状況をまとめてくれています。詳細な数値に関しては、下記リンク先でご確認ください。「この程度の汚染数値だったら大した事ねえよ。気の持ち方次第だよ」なんて言う人もいるかもしれません。放射性物質まみれの環境で暮らすことにより、放射性物質を呼吸や食事などを通して体内に取り込むとどうなるのでしょうか?外部被ばくよりも恐ろしい内部被ばくの危険を避けることはできません。例えば、セシウム137を毎日10ベクレルづつ摂取した場合、500日後には体内の総放射線量は1400ベクレルにも達します(1ベクレルとは、1個の原子が1秒間に崩壊する時の放射線の強さに等しい)。体重70キログラムの大人ならば、1キログラム当たり20ベクレルですが、体重20キログラムの子供の場合、1キログラム当たり70ベクレルになってしまいます。体重1キログラム当たりのベクレル数が多くなるほど心臓に悪影響を与えやすいことが判っています。特に体重1キログラム当たり50ベクレルを超えると、心臓血管系・神経系・内分泌系・免疫系・生殖系・消化器系・排泄系で病的な変化が増加します。セシウム137は、体内の様々な臓器に偏在し濃縮されるのが原因です。人工的な放射性物質には、これ以下なら安全という閾値は存在しません。チェルノブイリ原発事故に伴い、ベラルーシでこの研究を行い発表したバンダジェフスキー博士は逮捕・投獄され、拷問も受けています。日本では特定秘密保護法が成立しており、似たような人権侵害が起こる可能性が高いですね。つまり、内部被ばくによる健康被害は、原発マフィア側にとって都合の悪い事実だということです。2016年6月30日、環境省は、1キログラム当たり8000ベクレル以下ならば一般廃棄物扱いにして全国でリサイクルも可能にするという基本方針を正式決定しましたが、これが犯罪行為だということが理解できたのではないでしょうか?繰り返しますが、人工放射性物質には、これ以下なら安全という閾値は存在しないのです。本来、1キログラム当たり0ベクレルでなければなりません。安倍政権下では、放射性物質による汚染状況調査も健康被害調査もまともに行われていません。福島県内での甲状腺がん発生率が何百倍に増えても、原発事故との因果関係を認めようとしません。福島原発事故により放射性物質は全国に拡散されました。東京の人たちは他人事だと言ってられません。では、何をすべきなのでしょうか?放射性物質に汚染された地域は少なくとも300年は居住することができません。何兆円もかけて無駄な除染作業をするくらいならば、そのお金を移住費用などに充てるべきでしょう。本来、日本政府は下記の施策を即実行すべきです。
  ①放射能レベルの正確な測定を日本全国で行い、結果を全て公表する。
  ②外部被ばくだけでなく内部被ばくの危険についても、最新の知見を国民へ提供する。
  ➂避難・移住地域選定については、最低限、チェルノブイリ基準を適用する。
  ④避難・移住先で不自由がないように、住居、仕事、収入については十二分に援助する。
  ⑤避難対象者の医療費については生涯無料とし、診断結果は本人へ丁寧に説明する。
  ⑥原発は即廃止し、福島原発も含めて廃炉作業は安全第一で進める。
 放射性物質は、目も眩むような閃光を発しません。鼻を突くような異臭がありません。耳をつんざくような爆音もしません。顔をしかめるような激痛もありません。だからこそ、科学的な知識、原発マフィア以外からの情報、健康被害への想像力、冷静な思考力・判断力、雰囲気に流されない自律心などが必要になります。「見て見ぬふり」や「臭い物に蓋」は身を滅ぼします。国民は、自分の身は自分で守るしかないと思います。          以上

*2-7:http://useful-info.com/ippnw-dr-alex-rosen-lecture (お役立ち情報の杜) 福島原発事故について皆がダンマリしている時こそ、確かな情報を! ドイツ人小児科医による講演内容を紹介。
 IPPNW(=International Physicians for the Prevention of Nuclear War 核戦争防止国際医師会議)の理事会メンバーで、小児科医・医学博士でもあるアレックス・ローゼン氏が、福島原発事故による健康被害に関して講演を行いました。噂や扇動ではなく、すべて、科学的な根拠に基づいた話です。しかも、この公演では、日本政府や東京電力が公表したデータを用いています。それだけでも、原発事故の恐ろしさを十分に説明できるからです。公演内容の要点を以下に述べます。
要点始め *********************
1)放射線と、それが健康に及ぼす影響についての基礎知識
・放射線とはどういうものか?
・よく使われる放射線の単位:ベクレル(Bq)、シーベルト(Sv)
・外部被ばくと内部被ばく
・放射線による被ばくは、細胞の損傷と突然変異を引き起こす。
・これ以下なら安全という閾値はない。
・抵抗力のない人や子供は影響を受けやすい。
・放射線核種と病気の関連
  (ヨウ素:甲状腺ガン、セシウム:固形腫瘍、ストロンチウム:白血病、
  プルトニウム:肺ガン・肝臓ガン)
2)福島原発事故に関する事実
・爆発と、大量の放射性物質放出(東電の公開データより)
・福島事故による放射性物質の降下量分布
・放射性物質の約80%が太平洋へ流れた。陸地が2割で済んだのは風向きによる運である。
・放射性物質による土壌汚染調査の結果。
・吸引、経口摂取による内部被ばくの危険。
・チェルノブイリなら避難しているレベル地域に、多くの日本住民が住んでいる。
・学校、幼稚園、保育園の土壌から高い放射線が検出されている。
・子どもは土に触れる機会が多く、しかも放射能に敏感なので、健康への影響が心配だ。
・取り除いた汚染土壌が屋外に放置されている。これは放射性廃棄物なので、ドイツなら
 キャスクに入れて保管しなければならない。
・こんな環境が子どもたちの通学路になっているのはヒドイことだ。
・モニタリングポストの数値は、実際より低い。
・放射性物質で汚染された飲食物(水道水、果物、野菜、魚介類、牛乳、米、お茶)。
・最大の危険は、長期間の、汚染食料による内部被ばくだ。
・日本では、この先100年も200年も放射性セシウムが地中に残留し続ける。
・WHOは過小評価をしている。
3)これから如何なる健康被害が予測されるか、また、既に起こってしまったか。
・WHOには、放射線に関する専門部署が無い。IAEAという原子力推進団体から提供され
 たデータを用いている。例えば、タバコの害についてフィリップモリスから提供された
 報告書を鵜呑みにしているのと同じだ。
・WHOは、放射線とその影響について、IAEAの承認なしには公表できない契約を結んで
 いる。このスキャンダルは、何十年も批判され続けている。
・WHOのレポートには問題点が多い。
  「放出された放射性物質の量が過小評価されており、東電発表数値よりずっと少ない」
  「福島県外の人々への健康影響が無視された」
  「測定用食料品サンプルの量と選択が不適切」
  「原発利権者に健康被害の説明をさせている」
・福島原発事故後に乳児死亡率が上昇した。チェルノブイリのケースと似ている。
・甲状腺異常が増加した。平時なら、小児の甲状腺ガンは、あり得ないと言えるほど発生
 率が低いのだ。
・甲状腺以外のガンも増加リスクがある。しかも、福島県民だけの話ではない。
 (循環器疾患、視力障害、不妊症、遺伝子への影響)
・精神的影響(ガン発症の不安を抱えながら生きねばならない)は重大な問題だ。
4)個人として何ができるだろう?
・情報を集め、現状を知り、理解し、他の人に伝えることが重要だ。
・「汚染は大したことはない。原子力エネルギーは必要だ」という原子力業界のウソにダマ
 されないこと。
・例えば山下俊一が、「笑っている人には放射能はやって来ない」「年100ミリシーベルト
 でも安全」と言っているが、信じてはいけない。
・政治家を含む原発利権者に対して批判的な質問をすること。根拠を説明させるのが大事。
・民衆の反対圧力が高まれば、これ以上逆らえないと政治家は気付く。
・日本は、自然エネルギー大国であり、再生可能エネルギーで100%まかなうことが可能だ。
・「原発が無くなるとエネルギーが不足する」というウソを信じてはいけない。
・福島県の子どもたちが沖縄で保養している実例紹介。
********************* 要点終わり
 日本各地の原発が再稼働に向けて動いているため、福島原発事故などは過去のものであると思っている人も多いと思います。日本の大手マスコミは、福島原発事故による健康被害について、ほとんど報道していません。「問題ない」「問題ない」という、原発マフィアたちのブラックプロパガンダだけを聞かされていると、誤解や・判断ミスをして、失敗の繰り返しにつながります。原発利権集団(政治家、官僚、メーカー、電力会社、御用マスコミ、御用学者、IAEA、WHOなど)の言い分ばかりを鵜呑みにすることは危険です。原発利権組織と距離を置いているIPPNW(核戦争防止国際医師会議)などの情報も意識的に取り入れて頂きたいと思います。以上

<憲法変更と安全保障>
*3-1:http://qbiz.jp/article/120946/1/ (西日本新聞 2017年10月20日) 9条論議 加速か停滞か
 22日投開票の衆院選を巡る報道各社の世論調査では、自民党が圧勝し、憲法改正に前向きな勢力が国会発議に必要な定数465の3分の2(310議席)を獲得する勢いだ。選挙後に9条改正などの論議が加速する可能性が高まるが、各党が掲げる改憲項目には違いがある。自民、公明の与党だけで3分の2を得ることができるのか、野党第1党がどの党になるかで議論の行方が変わりそうだ。
●自公で3分の2なら…自衛隊明記へ 来年発議も
 自公で3分の2を維持すれば、安倍晋三首相(自民党総裁)が主張する9条への自衛隊明記に向けた議論が進む可能性が高い。首相は公示日の10日、仙台市での街頭演説で「東日本大震災で頑張った自衛隊に『君たちは憲法違反だけど命を懸けろ』と、こんなことが通るはずない」と訴えた。首相は自衛隊明記案の2020年施行を目指し、年内に自民党案をまとめ、来年の通常国会で発議する日程を描く。自民は今回、12年の政権復帰後、初めて改憲を公約の重点項目に位置付け、自衛隊明記を含む4項目を掲げた。各社の調査では、自民単独で300議席を獲得するとの見方もある。自民幹部は「圧勝すれば首相の改憲案に『お墨付き』が与えられたということになる」と語る。「国防軍」創設を記した12年の党草案での発議を主張する石破茂元幹事長らの異論は抑えられ、首相の想定通りの改憲シナリオが一気に進む可能性がある。9条改正に慎重な公明党は公約集で「国民は自衛隊は憲法違反の存在とは考えていない」とあえて記し、改正の必要性に疑問を示す。だが、特定秘密保護法も安全保障法制も、連立維持を重視して最後は成立を容認してきた経緯がある。首相官邸はこれまでも、日本維新の会とてんびんにかけることで公明を動かしてきた。希望の党は「9条を含め改正論議を進める」と公約に掲げており、連携を呼び掛ける可能性もある。
●野党が健闘したら…9条以外の項目優先も
 野党が健闘して自公の3分の2を阻止した場合、発議には希望や維新など、野党の改憲勢力を巻き込む必要が出てくる。だが、希望の小池百合子代表は首相の自衛隊明記案には「疑問がある」と否定的だ。民進党出身者らを中心に異論を唱える場面も予想される。維新も「9条改正」を公約に記載。ただ、松井一郎代表は教育無償化や地方自治を優先事項としており、9条については「自民党案が固まってくれば、まじめに正面から議論したい」と態度を保留している。首相官邸が9条改正を先送りし、緊急事態条項の創設など幅広い合意が得られそうな項目を先行させる「お試し改憲」を目指すことも考えられる。
●立民第1党なら足踏み?
 安保法制を前提とする「9条改悪」に反対する立憲民主党、改憲反対の共産、社民両党と野党系無所属議員が衆院3分の1超となる156議席以上を確保すれば、改憲議論は一気に後退する。だが、3党の公示前勢力は計38議席で、そのハードルは極めて高い。ただ、立憲民主が野党第1党になり発言力を高めれば、希望や維新と連携し、改憲阻止勢力が拡大する可能性もある。

*3-2:http://qbiz.jp/article/120468/1/ (西日本新聞 2017年10月13日) 【争点チェック2017衆院選】(1)憲法改正 改憲勢力の思惑交錯
 「党内外の十分な議論を踏まえ、初めての憲法改正を目指します」。自民党は衆院選の公約で、2012年の政権復帰後、初めて憲法改正を重点項目に位置付けた。首相が5月に9条1、2項を維持した上で、自衛隊を明記する案を提起したことを受け、公約には自衛隊の明記▽教育無償化▽緊急事態対応▽参院の「合区」解消の4項目を列挙。「国会で発議し、国民投票を行う」と具体的な手続きに踏み込み、首相の前のめりな姿勢を反映している。首相は政権復帰直後、改憲発議要件を定めた96条緩和を打ち出し、14年には緊急事態条項新設に意欲を示したが、世論の反発などで実現しなかった。変遷の末に9条に目を付けたのは、災害救助で高い評価を受ける自衛隊の明記に限れば、国民は受け入れるとの読みがあるとみられる。与党内の温度差は公約にも表れている。公明党は「(首相提案の)意図は理解できないわけではないが、国民は自衛隊は憲法違反とは考えてない」「安全保障法制の適切な運用を積み重ね、さらに国民の理解を得ることが大事だ」と書き込み、慎重姿勢を強調した。自公と、希望の党、日本維新の会の「改憲勢力」内でも思惑は交錯している。首相が協力を期待する希望は「9条を含め憲法改正論議を進める」と明記した。小池百合子代表(東京都知事)は00年の衆院憲法調査会で「いったん現行の憲法を停止する、その上で新しいものをつくっていくことに基本的に賛同する」とまで述べた改憲論者だが、首相案には「大いに疑問がある」と異論を唱え、選挙後の対応も見通せない。維新は「国民の生命・財産を守るための9条改正」を盛り込んだ。改憲勢力の拡大に「護憲派」は危機感を強める。共産党は「自衛隊が明記されれば9条2項を残しても死文化し、無制限の海外での武力行使が可能になる」と指摘。社民党は「9条の平和主義を守る」と同調する。共産、社民と共闘する立憲民主党は改憲論議は否定しない立場だが、公約で「憲法違反の安保法制を前提とした9条改悪とは徹底的に闘う」と宣言した。改憲論議の進展は選挙結果に大きく左右される。首相は特定秘密保護法や安保法制の制定前の選挙戦と同じく、街頭演説では改憲にあまり触れないが、首相側近はこう言う。「改憲勢力が増えれば増えるほど、議論は進めやすくなる」
   ◇    ◇
 与野党各党は憲法改正、消費税増税、北朝鮮問題などの主要課題とどう向き合うのか。各党の公約や主張を中心に衆院選の争点を5回にわたって点検する。

*3-3:http://mainichi.jp/senkyo/articles/20171003/k00/00m/010/128000c (毎日新聞 2017年10月3日) 希望の党:公認条件、安保関連法「適切に運用」に
●立候補予定者に求めている政策協定書最終案 「容認」改め
 希望の党が立候補予定者に公認の条件として提出を求めている「政策協定書」の最終案が明らかになった。安全保障関連法について「適切に運用し、現実的な安全保障政策を支持する」としている。協定書案では当初、安全保障関連法に対する「容認」を要求していた。しかし、民進党出身者が受け入れやすくするため、「適切に運用」にとどめた。憲法改正への支持、2019年10月の消費税率の10%への引き上げの凍結なども盛り込んだ。外国人に対する地方参政権の付与反対、政党支部で企業団体献金を受け取らないこと、党への資金提供も求めている。さらに、選挙区のすみ分けを行う日本維新の会を念頭に「選挙協力の協定を交わしている政党への批判は一切行わない」とする文言も加えた。
●政策協定書の全文は次の通り。
 私は、希望の党の公認を受けて衆院選に立候補するに当たり、下記事項を順守すること、当選した場合には希望の党の所属する会派に所属して国会活動を行うこと、希望の党党員として政治活動を行うことを誓います。
1 希望の党の綱領を支持し、「寛容な改革保守政党」を目指すこと。
2 現下の厳しい国際情勢に鑑み、現行の安全保障法制については、憲法にのっとり適切に
  運用する。その上で不断の見直しを行い、現実的な安全保障政策を支持する。
3 税金の有効活用(ワイズ・スペンディング)を徹底し、国民が納める税の恩恵が全ての
  国民に行き渡る仕組みを強化すること。
4 憲法改正を支持し、憲法改正論議を幅広く進めること。
5 国民に負担を求める前に国会議員が身を切る改革を断行する必要があること及び
  いわゆる景気弾力条項の趣旨を踏まえて、2019年10月の消費税10%への引き
  上げを凍結すること。
6 外国人に対する地方参政権の付与に反対すること。
7 政党支部において企業団体献金を受け取らないこと。
8 希望の党の公約を順守すること。
9 希望の党の公認候補となるに当たり、党に資金提供をすること。
10 選挙期間が終了するまで、希望の党が選挙協力の協定を交わしている政党への批判は
  一切行わないこと。

*3-4:http://qbiz.jp/article/120617/1/ (西日本新聞 2017年10月15日) 【争点チェック2017衆院選】(3)北朝鮮問題 明確な対立軸見えず
 核実験や弾道ミサイル発射を続ける北朝鮮。安倍晋三首相(自民党総裁)は、「国難」として北朝鮮への対応を衆院選の争点の一つに掲げたが、各党の公約に大きな対立軸は見えない。「北朝鮮の側から『政策を変えるから話し合いましょう』と言ってくる状況をつくり上げなければならない」。首相は全国を遊説し、北朝鮮に対する圧力強化の重要性を訴える。9月に国連安全保障理事会で採択された経済制裁の完全履行を関係国に働き掛けていくと主張。トランプ米大統領の「全ての選択肢がテーブルの上にある」という軍事的措置を含めた方針を支持している。連立与党を組む公明党は、国際社会との連携を深め「制裁決議の実効性を高めるとともに、対話と圧力で懸案の包括的な解決に取り組む」と歩調を合わせる。野党では、日本維新の会が「問題の解決に向けて、日米韓中の連携をさらに強化する」と主張。希望の党と立憲民主党は与党側と同じく、圧力強化を公約に盛り込んだ。希望は「対話を導く手段として、制裁の厳格な実施を働きかける」、立憲民主は「対話のテーブルにつかせるため、圧力を強める」との立場だ。立憲民主の枝野幸男代表は街頭演説で、度重なる挑発行為を「国難」と強調する与党側の姿勢について、「北朝鮮の脅威をあおっている」と批判している。共産党と社民党は、軍事的措置を含めた米国の方針を首相が支持していることから、「偶発や誤算から軍事衝突が起こり、戦争に発展しかねない」などと強調。北朝鮮の挑発を非難しつつも、「経済制裁強化と一体に『対話による平和的解決』に知恵と力を尽くす」(共産)、「米朝会談を実現し、停戦協定を不戦協定へ切り替えていくよう日本が仲介役となる」(社民)というように、外交努力を重視している。自民と日本のこころは、弾道ミサイルへの対処として、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」の配備をうたう。自民は党内の部会で「敵基地攻撃能力」の保有を求める提言をまとめているが、今回の衆院選の公約には含めなかった。与野党で見解が分かれそうなミサイル防衛能力の強化や防衛予算の増額などの具体的な議論は聞かれない。拉致問題については、いずれの党も解決に向けて尽力することを盛り込んでいる。

<衆議院議員選挙結果と希望の党、立憲主義について>
PS(2017/10/23、25追加):*4-1のように、自民・公明・希望の党・日本維新の会を合わせた「改憲勢力」が、国会発議に必要な3分の2(310議席)を大きく上回って衆院全体の約8割に達したそうだが、これは押し付けられた“賛成”にすぎない。そのため、9条改正を巡って公明党が慎重姿勢を崩していないのが、唯一の希望である。
 希望の党の小池代表はテレビ朝日の番組で、憲法改正について「ようやく国民的議論ができるようになった」と意欲を示されたそうだが、*4-2のように、安全保障に関する政策で候補者を選別した結果、完敗したのだということを忘れてはならない。また、小選挙区は党首の人気に乗って空中戦をすべき場所ではないため、駒のように候補者を当てはめても選挙区の人が受け入れず、余程の有名人でなければ当選しないのは当たり前なのである。そのため、安全保障関連法に反対を表明するなどして希望の党の公約に反し、当選した候補者が離党するのは必然だ。
 なお、希望の党は、「日本のこころ」の中心だった中山成彬氏を九州比例1位にして当選させたが、中山氏は自民党の中でも「右翼」だった。そして、「日本のこころ」の憲法改正草案は、自民党の憲法改正草案よりは文章が整っておりテニヲハまで指摘する必要がないので引用すると、*4-3のように、下の内容の前文を記載し、「日本国のかたち」で「日本国は、天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とする立憲君主国家」と明記している。しかし、憲法は、事実ばかりではない自国の歴史や国土を自慢する場所ではない上、天皇を君主とする日本国を維持するため、国民は犠牲になりながらも喧嘩せず従順で温和なのがよいとするのは、聖徳太子の17条の憲法の時代ではあるまいし、官僚以外の主権者である国民にとっては改悪にほかならない。
 ①日本国は、古来、天皇がしろしめす国であり、国民は、一人一人を大切にする和の
  精神をもって、その悠久の歴史を紡いできた。
 ②日本国民は、四囲を海に囲まれ、四季が織りなす美しい風土の中で、時に自然の
  厳しさと向き合いながら、自然との共生を重んじ、相手を思いやる文化を育んできた。
 ③日本国民は、明治維新を経て、衆議を重んじる伝統に加えて、欧米諸国の英知を
  集めて、大日本帝国憲法を制定し、立憲君主国家を誕生させ、近代国家としての
  発展を目指してきた。
 ④先の敗戦の後、占領下において制定された日本国憲法の施行以来、七十年が過ぎ、
  日本をめぐる国際環境は大きく変わり、新たな対応が求められている。日本国民は、
  ここに新たな時代にふさわしい憲法を制定することを決意した。
 ⑤日本国民は、本来日本人が持つ和と公正の精神、人間尊重の原理の上に立って、
  国家の発展を図り、国民の幸福と利益を増進し、家族を大切にする、明るく温かな
  社会を建設することを誓う。
 ⑥日本国民は、法と正義を基調とする世界平和を希求し、各国間の交流に積極的に
  力を尽くすとともに、あらゆる力を注いで、世界平和の実現に寄与することを誓う。
 ⑦これらの崇高な理想を実現し、将来の世代に引き継ぐ決意を込め、われわれの手に
  より、この憲法を制定する。
 このように、立憲主義とは、「憲法を最高位の法として、それに従って下位の具体的な法律を定め、法治主義で政治を行う」という原理にすぎないため、憲法を変えれば立憲君主主義に変えることも何をすることも可能だ。そして、フランス革命時代とは異なり、現代では立憲主義は当たり前で、憲法の内容が重要なのであり、変えにくいように硬性憲法にしてあるわけである。

*4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22567960T21C17A0PE1000/?dg=1 (日経新聞 2017/10/23) 改憲勢力8割に、国会発議に現実味、9条改正、公明は慎重
 自民、公明両党と憲法改正に前向きな希望の党、日本維新の会を合わせた「改憲勢力」は、国会発議に必要な3分の2(310議席)を大きく上回った。4党の議席は衆院全体の約8割に達しており、発議が現実味を帯びる。ただ9条改正を巡っては公明党が慎重姿勢を崩しておらず、希望の党も一線を画す。今後の改憲議論はなお曲折が予想される。「希望の党も建設的に議論していきたいとの考えを持っている人が多い。希望あるいは維新、他の党派の方々にも賛成してもらえるよう努力したい」。安倍晋三首相(自民党総裁)は22日夜のフジテレビ番組で語った。自民は衆院選で憲法改正を訴えた。首相が特にこだわるのは自衛隊の存在の明記だ。首相は憲法学者に根強い自衛隊の違憲論について「そういう論争がある状況に終止符を打ちたい」と改めて力説した。今後、党憲法改正推進本部での議論を加速させる。ただ、連立を組む公明は9条に手をつけることには慎重だ。山口那津男代表はNHK番組で「国民の理解が伴わないといけない」と強調した。斉藤鉄夫選挙対策委員長は「野党第1党、第2党も含んだ形で、幅広い合意で提案することが国民投票を成功させるうえでも大事だ」と指摘した。改憲勢力は衆院では3分の2を大きく超えるものの、参院ではようやく届く程度。9条改正の実現には、公明党の理解を得るのが不可欠だ。改憲に向けて多数派形成が必要になる状況に変わりはない。自民の二階俊博幹事長は22日夜、党本部で「選挙を終えても、運び方は慎重でなければならない」と述べた。自民は希望や維新との連携を探りつつ、公明の態度軟化を引き出したい考えだ。当初の想定を覆し、野党では立憲民主が議席を大きく伸ばした。「安全保障法制を前提とした憲法9条の改悪に反対」を掲げ、首相と改憲で協力する余地はほとんどない。立憲民主が野党第1党に躍り出ることで「与党プラス野党第1党」による幅広い合意を演出するのは困難となる。希望の小池百合子代表はテレビ朝日番組で、憲法改正について「ようやく国民的議論ができるようになった」と意欲を示した。ただ自衛隊の明記に関しては「種々問題がある」と述べ、慎重な見解を示した。実際の改憲項目や条文づくりは、高いハードルになる見通しだ。首相は改憲論議について自らは前面に出ずに党側に委ねる方針。2020年の新憲法施行を念頭に、18年通常国会で国会発議をめざすかどうかについて「時期ありきではない」と述べた。

*4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22560610S7A021C1EA1000/?dg=1 (日経新聞 2017/10/23) 小池氏「私自身におごり」 希望代表辞任は否定
 希望の党の小池百合子代表(東京都知事)は22日、「政策本位を考えたが、厳しい結果につながっているのは大きな問題で真摯に受け止めたい。敗因を分析しなければならない」と述べた。その上で「私自身におごりがあった。これまでは空中戦でやってきたが、小選挙区はそれだけではだめだった」と強調した。同時に「私自身、都知事選、都議選と完勝させていただき、2連勝だったが、今回は完敗ということをはっきりと申し上げたい」と述べた。自身の進退に関しては「(新党を)立ち上げた責任はある。今後も党運営を責任を持って進めていきたい」と辞任を否定しつつ「国会議員から(国政の)執行部を形成していくことになる」と説明し、国会議員の代表者も置く方向で検討する考えを強調した。民進党出身者の公認をめぐり、一部を「排除する」と発言したことについては「不快な思いを抱かせてしまったことは申し訳ない」と改めて陳謝。その上で「(野党が)調整できる十分な時間があったとはいえない。今の安倍政権を利したかといえば、結果的にその通り」と敗北を認めた。小池氏は「政党は政策が一致してこそ。根幹部分で一致することは必要だったと今も思っている」との持論も展開。希望の党として首相指名選挙をだれにするかを問われると「(衆院選を)勝ち上がってきた皆さんと話し合って決める。国政の方針や運営は国会議員中心に」と述べるにとどめた。出張先のパリ市内やNHK、民放番組などで記者団らの質問に答えた。小池氏の人気に支えられてきた希望は分裂含みの展開になる可能性もある。民進から希望への合流組からは「小池氏頼みには限界がある」と小池氏や合流を主導した前原氏への不満が漏れ始めている。安全保障関連法への反対を表明するなど、党の公約に反する考えを示す候補者も目立ち、当選した合流組が離党するとの観測がある。

*4-3:https://nippon-kokoro.jp/news/policies/kenpo01.php (日本のこころ 2017.4.27) 「日本のこころ」の日本国憲法草案
目次
 前 文
 序 章 日本国のかたち(第一条―第九条)
 第一章 天皇(第十条―第十六条)
 第二章 平和の維持(第十七条)
 第三章 国民の権利及び義務(第十八条―第四十二条)
 第四章 国会(第四十三条―第六十三条)
 第五章 内閣(第六十四条―第七十三条)
 第六章 裁判所(第七十四条―第八十条)
 第七章 財政(第八十一条―第八十六条)
 第八章 地方自治(第八十七条―第八十九条)
 第九章 最高法規(第九十条―第九十二条)
 第十章 改正(第九十三条)
 日本国は、古来、天皇がしろしめす国であり、国民は、一人一人を大切にする和の精神をもって、その悠久の歴史を紡いできた。
 日本国民は、四囲を海に囲まれ、四季が織りなす美しい風土の中で、時に自然の厳しさと向き合いながら、自然との共生を重んじ、相手を思いやる文化を育んできた。
 日本国民は、明治維新を経て、衆議を重んじる伝統に加えて、欧米諸国の英知を集めて、大日本帝国憲法を制定し、立憲君主国家を誕生させ、近代国家としての発展を目指してきた。
 先の敗戦の後、占領下において制定された日本国憲法の施行以来、七十年が過ぎ、日本をめぐる国際環境は大きく変わり、新たな対応が求められている。日本国民は、ここに新たな時代にふさわしい憲法を制定することを決意した。
 日本国民は、本来日本人が持つ和と公正の精神、人間尊重の原理の上に立って、国家の発展を図り、国民の幸福と利益を増進し、家族を大切にする、明るく温かな社会を建設することを誓う。
 日本国民は、法と正義を基調とする世界平和を希求し、各国間の交流に積極的に力を尽くすとともに、あらゆる力を注いで、世界平和の実現に寄与することを誓う。
 これらの崇高な理想を実現し、将来の世代に引き継ぐ決意を込め、われわれの手により、この憲法を制定する。
序章 日本国のかたち
 (日本国の象徴)
第一条 日本国は、天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とする立憲君主国家である。

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続き▽
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2017.10.1 伝統産業のイノベーションとそれを支える人材(2017年10月4、6、8、26、29日、11月1、4、9、10日に追加あり)

      2014.6.9日経新聞             2015.10.6日経新聞

(図の説明:左の2つは、インクジェットで染められた布とその機械、右の二つは、3Dプリンターで作られた有田焼で、伝統工芸も最新技術の導入で進化できることがわかる)

 

(図の説明:写真は博多人形だが、これにロボット技術を加えて、しゃべったり、音楽を奏でたり、一定の動作ができたりするようにすると面白いし、写真を使って亡くなった人とそっくりのしゃべる人形を作ったりすることも可能だろう。上の博多人形は、ロボットでなくても今にも動き出しそうにしているため、リンカーン大統領、マハトマ・ガンジー、サッチャー首相、メルケル首相等のロボットを作って、象徴的な演説や仕草を真似させ、アメリカ・インド・英国・ドイツなどに寄贈すれば、博多人形ロボットを世界で有名にすることができると考える )

(1)伝統産業には、どういうイノベーションが行えるのか
1)織物と染色-秩父銘仙の事例
 銘仙は、*1-1のように、ガシャンガシャンとにぎやかに機織機の音が響く中でほぐし織りにするため両面を使えるそうで、美しくて便利なため世界でヒットさせることもできそうだ。

 しかし、作り方は「父が数時間でできる仕事が、1週間かけてもできない(=生産性が低いため、価格が高くなる)」ということを現代でも繰り返す必要はなく、名人が作った製品と同じものやそれよりも安定したものをコンピューター制御で作れば、飛躍的に生産性を上げながら静かに美しい絹織物を作ることができるだろう。例えば、*2-2の、キヤノンが宮崎工場を自動化して競争力を強化し、製造業の日本回帰事例となっているように、である。
 
 また、染色も、*1-2のようなインクジェットによる染色もできるので、少量多品種生産が容易になった。さらに、現代では、繭を育てる背景の色を変えたり、DNA操作をしたりすれば、繭自体に初めから色や蛍光を持たせることができるため、退色しない美しい絹織物を作ることもできそうだ。

2)陶磁器-有田焼の事例
 有田焼の産地、有田では、現代にマッチした製品を作るため、伝統の中に最新技術を取り入れようとしているが、*1-3のように、佐賀県窯業技術センターが、3Dプリンターで造形した立体モデルを焼成して陶磁器の成形品を得る技術を開発した。

 3Dプリンターでは、インクジェットノズルから吐出したバインダーで粉末材料を固める手法を採用し、有田焼と同じ天草陶石の粉末を使って成形品を造形したが、最初は成形品を取り出す際に崩れてしまい、流動性の確保とバインダーの固着性の向上などを実現して強度を高めていったそうだが、私は、その粉末に冷えると固まり焼くとなくなる接着剤を混ぜておけばよかったのではないかと考える。

 有田焼の場合も、3Dプリンターやインクジェットを使えば、名人はがっかりするかも知れないが、すでに著作権のなくなった過去の名品を高すぎない価格で再現したり、新しい作品を作ったり、書や絵画を有田焼にして残したりすることも可能になり、応用は多岐にわたるだろう。

3)林業の振興-新建材CLTの事例
 直交集成板(CLT)を使えば、*1-4のように、6、7階建ての木造中層ビルも容易に建てられるそうだが、現在は、鉄筋コンクリートよりも総工費が高くなるため使われず、その克服には需要拡大でCLT製造価格が下がる好循環を作るしかないそうだ。そして、欧州に遅れること20年で、日本でもようやく普及段階に入ったものの、普及速度が緩慢なのだそうである。

 日本では、良い方向への変化でも変えるのに20年以上かかり、他国よりもかなり遅れてから追いかけるため、変えようとした人には負担がかかり、最初にその事業にチャレンジしたパイオニア企業は倒産することが多い。これは、我が国で新規事業の利益率が低く、その結果、新規事業の開業意欲が低い一因だろう。そしてすぐ、政府の補助金頼みになるのだが、森林の育成には都道府県の森林環境税を投入しているため、林業は既に「役所が補助している産業」なのである。

(2)労働力としてのロボット
 中国の人民網が、*2-1のように、「超高齢社会の日本を支える『第4の労働力』」として、「日本人の中には、高齢者、女性、外国人という3つの労働力で問題を解決できると考える人もいるが、実際には第4の労働力としてロボットがある」と伝えているのは面白い。

 日本でも、パナソニックが「離床アシストロボット」「自立支援型起立歩行アシストロボット」を開発し、トヨタは歩行不自由な障害者の歩行や起き上がるのが難しい障害者のベッドの上り下り・トイレへの移動を支援するパートナーロボットを作成し、ホンダは利用者の動作に合わせてモーターで歩行を支援する歩行アシストロボットを作っており、今ではロボットが普及向上期に入ったのだそうだ。

 ちょうどEVへの転換で仕事がなくなるとされている自動車部品メーカーは、これまでに培った精密な技術を活かして、航空機やロボット部品などの新技術に転換すればよいだろう。

(3)エネルギーと自動車のイノベーション
1)エネルギーのイノベーション


2017.10.5佐賀新聞   スカイマークの  都道府県別      主要産業の
            民事再生法申請   倒産状況      倒産件数推移 

(図の説明:太陽光発電事業者の倒産は買取制限によって増加し、航空参入したスカイマークも民事再生法を申請した。右の2つは、2015年の都道府県別倒産状況と産業別倒産件数である)

 私が1995年頃に太陽光発電を提案して20年以上が経過し、ドイツは、*3-1のように、フクイチ以後、科学的・論理的に脱原発を行って自然エネルギーを進め、トランプ米大統領のパリ協定離脱表明を受けて離脱に反対する米国の州と連携して引き続き米国を取り込み、温暖化対策で国際協力を進めているのに対し、日本は太陽光発電による電力を制限しつつ原発を再稼働した。そして、これは、新興企業が既得権のある大企業と政府にひねりつぶされた一例となった。

 また、*3-2のように、2017年9月24日投開票のドイツ総選挙では、緑の党の結党以来の主張だった「脱原発」は国の方針として定着し、「ドイツのための選択肢(AfD)」以外はすべての政党が「脱原発」を前提として再生可能エネルギーの拡大を掲げ、緑の党は「2030年までに全電力の需要を再生可能エネルギーで賄う」という公約を打ち出したのだそうだ。私は、「2030年までに全電力の需要を再生可能エネルギーで賄う」という公約も、市場の選択によって前倒しで達成され、それが緑の党の存在意義だと考える。

2)自動車(輸送手段)のイノベーション

 

(図の説明:左は京都市内を走っている中国製のEVバス、真ん中は太陽光発電と組み合わせたEV乗用車、右はロボット掃除機で、どれも日進月歩だ)

 電気自動車も、私が1995年頃に提案して始まったのだが、日本では、何かとEVの邪魔をする世論が多く、ハイブリッド車しか普及しなかった。しかし、*3-3のように、中国ではガソリン車が禁止され、BYDのトップは「中国市場からガソリン車が消える時期は、2030年になる」という見通しを示したそうだ。私は、あらゆる点でEVの方が優れているため、市場の選択によって、変化はそれより早いと考える。

 そのため、トップを走っていた日本は、*3-4のように、仏英両国の2040年までの「脱エンジン」の方針を見て、「ここで競争に負けてはならない」などと言わなければならない羽目に陥っているのだが、「車の動きはもっとゆっくりだろう」と兎さんではなく亀さんの方が寝ている状態であるため、とても競争に勝てそうにはない。つまり、このような油断と誤った方針決定が、技術を遅らせ敗退させるのである。

 なお、*3-5のように、スマホはワイヤレス給電のものがあるため、自動車も駐車場に駐車してスイッチを入れれば充電され、レストランから出てきた時や買い物が終わってスーパーから出てきた時には充電が終わっているということになればなおさら便利だ。そのため、市民は、そういう設備のあるレストランやスーパーを選ぶことになりそうである。

<伝統産業のイノベーション>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/CMTW1709211100003.html (朝日新聞 2017年9月21日) (13)秩父銘仙(秩父市)
◇ハイカラ復活 新たな挑戦
 華やかなデザインと色彩で大正、昭和の女性を魅了した着物「秩父銘仙(めいせん)」=◎。夏目漱石の小説にも登場し、竹久夢二も大正浪漫漂う銘仙姿の女性をたびたび描いた。セメントや材木と並ぶ秩父の近代産業を代表した銘仙の復活へ、若い後継者たちがいま、新たな挑戦を続けている。
◇ほぐし織り 現代に生かす
 秩父市黒谷(くろや)にある織元「逸見(へんみ)織物」。工場を訪ねると、ガシャンガシャンとリズミカルに機(はた)を織る自動織機(しょっき)の音がにぎやかに響いていた。逸見織物は1927(昭和2)年、初代が皆野町の織元から独立して創業した。秩父銘仙協同組合によれば、昭和初期、秩父には約500軒の織元が年に約240万反(1反は約12メートル)を織り、約7割の住民が、養蚕を含む織物関連の仕事に従事していたという。「そこらじゅう機織(はたおり)の音が響いていた」と2代目逸見敏(さとし)さん(84)。銘仙は、絹の経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に組み合わせた平織物の総称。大正、昭和に大流行した模様銘仙は「ほぐし織り」という高度な技法で作られる。1908(明治41)年に地元の坂本宗太郎が「ほぐし捺染(なっせん)」の技法で特許を取得。仮織りの糸をほぐしながら本織りするのでほぐし織りという。新技法は画期的で、型紙で捺染するため大胆でハイカラな柄を織れるようになった。ほぐし織りの工程はちょっと複雑だ。まず真っ白な経糸を並べ、本数と長さを整え(整経(せいけい))、整経した糸を仮織り機でざっと織る(仮織)。仮織りした経糸に、模様を彫った型紙を載せ、染料を塗る(捺染)と、経糸に柄が入る。「つなぎ」をかけ、本織りした糸を「蒸し」て色止め。最後に「整理」と「検査」を経て、反物に仕上がる。織物はかつて一貫生産されていたが、工場経営に変わると分業体制が進んだ。しかし今、各工程の職人の高齢化などで分業を維持できるか難しい状況もある。銘仙は戦後、復興や朝鮮戦争の好景気で日常着として人気を集め、物不足の時代に飛ぶように売れた。ガチャンと機が動くと万単位の金が入る「ガチャ万」と称された「糸へん景気」だったが、昭和30年代に洋装が中心になり、和服も銘仙も廃れた。秩父の織元も現在、数軒に減ってしまった。銘仙を織り続ける逸見織物は貴重なその一つだ。作家宇野千代さんの依頼で、ほぐし織りの桜模様の着物を製作。30年前に長女の恭子さん(49)が3代目を継ぎ、夏銘仙の復活など様々な試みを続けている。ほぐし織りの良さを伝えたいとの思いは秩父市中宮地町の「新啓(あらけい)織物」も同じだ。新井啓一さん(83)が1970年に創業。織り手の妻ヤスさん(85)とともに国認定の伝統工芸師だ。新啓織物では12年前、長男の教央(のりお)さん(49)が2代目を継いだ。インドなど世界や日本各地の織物を見て、ほぐし織りの魅力を再発見。デザイナーとして15年勤めた繊維商社を辞め、元同僚の妻園恵さん(51)ら一家で里帰りした。「両親が織る物は魅力的だと思う半面、携わっていない自分への疑問もあった」。しかし家業を継ぐことに啓一さんからは「苦労するから」と反対された。現実はその通りで、父が数時間でできる仕事が、1週間かけてもできない。「でも、昨日できなかったことが今日は少しだけできる。それが励みになった」。まもなく園恵さんも加わり立ち上げたのが、ほぐし織りのブランド「機音(ハタオト)」。新感覚の色柄の銘仙のほか、園恵さんのセンスで淡い色合いの反物を織りだしている。工場に捺染の仕事場も併設し、自社一貫生産も目指す。反物だけでなくストールやバッグ、綿や麻に素材を変えたほぐし織りも制作。銘仙を現代に生かすため、新たな魅力を探る。長瀞町の清流沿いに看板を掲げる「秩父織塾工房横山」も秩父銘仙の一貫生産を試みる。1920(大正9)年創業の工房には、2代目横山敬司さん(83)が関東一円の工場などから収集した織機類がぎっしり。まるで織機の博物館だ。戦後は夜具(やぐ)地や大手寝具メーカーの発注で大手百貨店に置く座布団カバーのほか、サンローランやエマニュエル・ウンガロなどライセンス物を手がけたが、「原点に返ろう」と草木染に力を入れながら銘仙復活を目指している。「日本は絹文化と生きてきた。絹と絹織物の文化の証しを残すのは自分の使命」と敬司さん。今は3代目の大樹(たいじゅ)さん(56)が敬司さんから一貫生産を目指して学ぶ日々だ。「銘仙の全工程を自分でできるようになりたい。それができる機械がそろっているから」。秩父銘仙は2013年、国の伝統的工芸品に指定された。100年以上の歴史があり、主要部分が手作業という条件を満たし、県内では春日部の箪笥(たんす)などに続く指定で、織物では初だ。逸見織物3代目の恭子さんは今、新企画「STYLE*MEISEN(スタイル銘仙)」に取り組む。秩父や栃木県足利市の職人、服飾デザイナーらと組み、銘仙を洋服に発展させようという試み。香港など海外でも展開し販路を広げる。「現代のファッションとして銘仙を復活させる、ジャパン・メイドの誕生です」
◎秩父銘仙
 絹の経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に組み合わせた平織物「銘仙」は、秩父・足利・桐生・伊勢崎・八王子が五大産地。秩父銘仙の起源は織物の女神が創案した布「千千布(ちちふ)」に由来し、秩父の地名の語源の一つとされる。経糸を仮織りし、型紙を使って模様を先染めして本織りをする。経糸と緯糸の色の重なりが角度によって変化して見える玉虫効果が特徴。染めた糸に織るため表と裏が同じ柄になり、色あせたら裏返して仕立て直しができる。
《ちちぶ銘仙館》 秩父織物や銘仙の資料を収集・展示し、伝統技術の継承を目的に2002年にオープン。本館や工場棟は昭和初期の面影が漂う旧県秩父工業試験場の建物で、国の登録有形文化財。生糸をたぐる作業から織り上げるまで全工程を見学できる。

*1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ0408U_U4A600C1000000/ (日経新聞 2014/6/9) ものづくり進化論:インクジェット、広がる用途 衣類や食品、医療にも
 液体をノズルから飛ばすインクジェット技術。これまでは紙に文字などを印刷する場合に使われることが多かったが、アパレルや食品の製造現場を変えようとしている。ノズルを搭載する先端部品(ヘッド)やインクの改良により、衣服に使う生地に直接柄や模様を描いたり、食品にカラーのイラストや写真を描いたりすることができるようになってきたからだ。医療分野での応用も進み始めた。
■製造工程、2カ月から3日に
 繊維製品を染色する捺染(なっせん)加工を営む工場が集積するイタリア北部のコモ地区。工場の中では、大型のインクジェットプリンターが24時間稼働し、高級シャツやネクタイを量産している。コモ地区では工場の2割程度が、染料と溶剤をまぜた糊(のり)や原版を使う伝統的な捺染から、インクジェットプリンターによる量産に移行しているとされる。長野県諏訪市に本社を置くセイコーエプソンがインクジェット技術をコモのメーカーに提供、同社が印刷機を製造した。従来の捺染方式と違い、版を製造したり、洗浄したりする必要がなく、直接模様などを描くことができるため、1.5~2カ月かかっていた製造工程を、3日~2週間程度まで短縮できる。ぎりぎりまでデザインをいじれるため、「工場の方にデザイナーが(インクジェット方式の導入を)要求することが多い」(インダストリアルソリューションズ事業部の有賀義晴課長)という。エプソンの装置が捺染に使えるのは、同社のインクジェット技術が多様なインクに対応できるからだ。インクジェットには加熱で作った気泡で液体を吐出する「サーマル方式」と、電圧をかけると変形するピエゾ素子にスポイトのような働きをさせて液体を吐出する「ピエゾ方式」があり、エプソンは後者を採用している。印刷画質での違いはないとされるが、ピエゾ方式は液体に熱を加えないためインクの自由度が高いのが特徴だ。そのため、技術供与した製品やエプソンが2013年に自社製造・販売を始めた捺染プリンター「シュアプレスFP―30160」は、絹や羊毛に向く酸性インクや、麻や綿に向く反応インクなど粘度が異なる様々な液体を飛ばすことができる。07年には半導体の微細加工技術を取り込んで開発した新型ヘッドを発表。インクを出すノズルの設置密度が従来機種の2倍で、小型になったうえ印刷の速度や精度も上がっている。同ヘッドを搭載したシュアプレスFP―30160は従来機種に比べて製品自体の体積が半分程度、大きさも3分の1程度だ。
■食べられる印刷
 エプソン以外にも長野県の中信地域にはインクジェット装置を独自で開発するメーカーが多い。特殊プリンターを製造・販売するマスターマインド(塩尻市、小沢啓祐社長)は食品に絵や写真を印刷できる「フードプリンター」を扱う食品業界で有名なメーカーだ。創業者である小沢千寿夫氏が地元の農家に「りんごに印刷できる?」と話を持ちかけられたのが開発のきっかけだ。そこで特殊な液で下塗りをして印刷をしたリンゴを持っていったところ「これ食べられないの?」と聞かれたので、「食べられる印刷」ができる装置の開発に乗り出したという。食品に色をつける「色粉」を液体に混ぜるだけだと、プリンターのヘッドに詰まりやすい。同社はインクメーカーと協力し、食物油の量や種類を工夫し、詰まりにくいインクを開発した。食品に模様を付けるには、焼きゴテを使って食品の表面を焦がしたり、可食インクを判子を押すように食品に載せる手法などを使うのが一般的。だが、専用の焼きゴテを作るのに3万~4万円かかったり、圧力で食品が割れてしまったりするのが難点だった。デジタルデータをもとに印刷するインクジェット方式なら、少量多品種にも対応できるほか、食品を変形させる心配もない。核となるプリントヘッドの部分は、大手のプリンターメーカーの製品を使っているが、食品をヘッドの下で搬送するベルトコンベヤーの制御技術は独自のものだ。同社は6月10日に始まる国際食品工業展「FOOMA JAPAN2014」でフードプリンターの新製品を発表する予定だ。食品を搬送するベルトコンベヤーの幅を2倍の60センチメートルにすることで、製造速度を2倍近くに高めた。大手菓子メーカーの工場にも営業をかける。ご当地ゆるキャラの流行でキャラクターをデザインしたお菓子の需要は増している。また「2020年には東京五輪の開催もある。需要は間違いなく伸びる」(営業部の芦田賀浩課長)という。研究所向けのインクジェット装置を開発・販売するマイクロジェット(塩尻市、山口修一社長)はこのほど、液体の吐出の仕方を自動調節できる新製品を開発した。装置に新材料を入れると電圧のかけ方や電流波形を変えて何度か試行的に吐出し、カメラで飛散の仕方などを捉える。装置にはいくつかの材料の飛散に関する基本データを盛り込んだソフトウエアがあらかじめ組み込まれており、このソフトが基本データを参照しながら、カメラが捉えた画像を吟味して吐出の最適条件を自動的に決める仕組みだ。
■研究開発向けでも脚光
 インクジェット装置は、一定量の液体を精密に出すことができるので、ナノ金属インクによる電子回路の作製やDNAやたんぱく質によるバイオチップの製作など、高価な液体を使う研究開発分野でも使われ始めている。吐出条件を自動調整できれば、材料のロスを抑制できる。同社は5月にはドイツの企業と連携し、液体の流路となるパイプを交換できるヘッドも発売した。薬剤を変えるなど実験内容を変えても、パイプを交換しながら使用を続けることができるため、部品全体を交換するのに比べて費用は3分の1以下で済むという。ものづくりのデジタル化は今後ますます進む。注目が集まる3Dプリンターが速度や精度の面でまだ「量産」に使える水準にないのに対し、インクジェット装置の一部はアナログなものづくりに比べて速度も精度も遜色がないレベルに来ている。製造業や研究所への普及が加速しそうだ。

*1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO91640500R10C15A9000000/ (日経新聞 2015/10/6) 3Dプリンターで有田焼 伝統工芸、デジタルで革新
 佐賀県窯業技術センターは、3Dプリンターで造形した立体モデルを焼成して陶磁器の成形品を得る技術「C3DPO(Ceramic 3D-Direct Print-Out)」を開発した(図1)。石膏型に液状の泥である「泥漿(でいしょう)」を流し込んで硬化させるという従来の成形方法に比べて、大幅な工程短縮や低コスト化、複雑なデザインの実現などが期待できる。
■有田焼と同じ材料
 3Dプリンターとしては、インクジェットノズルから吐出したバインダーで粉末材料を固める手法を採用する市販の装置を導入。この装置で、有田焼と同じ天草陶石の粉末を使って成形品を造形した。開発を始めた当初は、成形品をうまく固めることに苦労したという。粉末材料が3Dプリンター用の純正品とは異なるため、成形品を未硬化の粉末から取り出す際に崩れてしまうのだ。粉末粒径を均一化するなど試行錯誤しながら、流動性の確保とバインダーの固着性の向上などを実現して強度を高めていった。その結果、3Dプリンターで成形品を得られるようになったが、それで有田焼の製品が完成するわけではない。成形品を素焼きし、下絵付けと施釉(せゆう:釉薬を施すこと)をした上で本焼成。さらに上絵付、上絵焼成という工程を経て初めて製品となるからだ。最終的に求められるのは、製品としての品質である。実際、3Dプリンターによる成形品を素焼きしたところ、当初は崩れてしまうことが多かったという(図2)。そのため、従来の石膏型による成形品を焼成する場合とは異なる条件を見出す必要があった。具体的な温度は明らかにしていないが、温度や焼成時間などを試行錯誤することで、陶磁器として完成させることに成功した(図3)。このように、陶磁器の成形品を3Dプリンターで造るためには、3Dプリンターに関する造形条件の工夫だけでは済まない。特に、成形品は製品になる前の中間品である。陶磁器の製造プロセスを構成する他の工程においても、従来とは異なった手法を見出し、それと組み合わせることが求められた。
■シート積層法で原型を造形
 実は、佐賀県窯業技術センターにおける3Dプリンターの活用はこれが初めてではない。まず取り組んだのが、石膏型を造るための基となる原型を3Dプリンターで造ることである。紙をカッターで切断し、積層していく方式の3Dプリンターを10年以上前に導入し、実際の製品に適用した(図4)。ただし、造形後に不要部分(原型ではない部分)を削除したり、角度によっては表面を滑らかにしたりする手作業が必要だったことなどがネックになった。さらに、造形後に時間がたつと変形してしまうこともあったため、原型での活用は続かなかったという。その後、しばらく3Dプリンターの適用は考えず、3Dデータを使って石膏型を切削加工することに取り組んだ(図5)。しかし、型を使う以上は抜き勾配という形状の制約はどうしても発生する。原型や石膏型ではなく、成形品を直接3Dプリンターで造れれば、その制約はなくなる。3Dプリンターの機能や性能が向上したことも踏まえ、再度チャレンジしたことで実現したのがC3DPO技術である。
■熟練技能者の減少対策にも
 有田焼は2016年に創業400年を迎える。近年の売り上げ減少や熟練技能者の減少といった課題にさらされる中、3Dプリンターの活用はこれらを解決する手段の1つになるかもしれない。例えば、3Dプリンターによって直接、成形品を得られることは、複雑な形状だけでなく、ごく少量や単品の生産も容易にする。型のコストを大量生産で吸収する必要はないからだ。一般消費者によるオーダーメード・システムなど、新しいビジネスモデルや市場を開拓できる可能性が広がる。現状では「完全に磁器化していないため、強度が不足している」(佐賀県窯業技術センター陶磁器部デザイン担当係長の副島潔氏)ことが課題だという。今後、さらに造形条件や焼成条件などのノウハウを蓄積して、3Dプリンターを活用した陶磁器の製造技術を確立していく考えだ。

*1-4:https://www.agrinews.co.jp/p41984.html (日本農業新聞 2017年9月23日) 新建材CLT普及 林業振興へ加速化急げ
 政府が国産材活用で期待する直交集成板(CLT)だが、普及はまだほとんど進んでいない。コスト高が障害になっている。CLTを使えば6、7階建ての木造中層ビルを容易に建てられるものの、鉄筋コンクリートより総工費が1割ほど高い。その克服には、需要拡大でCLT製造価格が下がる好循環を早くつくるしかない。林業振興に向け、政府は思い切った普及加速支援を急ぐべきだ。CLTは、ひき板を交互に積層接着したパネルで強度がある。壁や床にすれば、柱なしで中層の木造施設を建てられる。鉄筋コンクリートに代わって大量のCLTを使うようになれば、国産材の需要が大きく増えて林業振興に直結する。政府が目指す「林業の成長産業化」の切り札になり得る。CLTの日本農林規格(JAS)が制定され、国内初建築となった2013年が「CLT元年」とされる。昨春に国土交通省が建築基準を整えたことで、CLTは新建材として一般的に使えるようになった。欧州に遅れること20年。日本でもようやく本格的な普及時代に入った。しかし、その普及は緩慢だ。今年3月末までに国の支援を受けて建てられてCLT施設は、全国で51棟にすぎない。ほぼ半数の22府県は皆無だ。国内のCLT8工場の経営は厳しい。稼働率は昨年度がわずか1割で、今年度も3割がやっとの見込みだ。稼働率を高める需要拡大がないと、工場の存続自体が危ぶまれ、製造価格も下がらない。政府は、CLT生産体制を7年後の24年度までに年間50万立方メートルとする目標を掲げている。国内工場における昨年度の製造能力の10倍、製造実績の100倍に匹敵する。この量産体制を実現すれば、CLT製造価格を半減でき、建築工費を鉄筋コンクリート並みにできる算段だ。この目標を必達してこそCLTは独り立ちでき、木造ビル新時代に入る。欧州連合(EU)では来年、CLT生産量が日本の目標の2倍になると推計され、上昇飛行が続く。CLTのオフィスビルやマンション、ホテルなどが次々と建つ。木造は地球環境に優しく、社会的貢献の高いメッセージ性がある。日本は短期間で欧州に追い付かなければいけない。だが、わが国ではCLTは離陸後も低空飛行だ。会社や自治体、個人などの建築発注者が、鉄筋コンクリートに比べたコスト高にひるみ、二の足を踏んでいる。国交省や林野庁などにCLT建築のコスト高を埋める補助金があるが、財源が限定的で普及に弾みがつかない。今はCLT建築の発注増が何より肝要だ。量産によってCLT製造価格が下がれば、それがまた注文を呼ぶ。その経済的循環の早急構築が欠かせない。政府は今年1月に普及の新たなロードマップを示したが、悠長ではいけない。補助金増額をはじめ施策の集中的投入による普及の加速化が求められている。

<労働力としてのロボット>
*2-1:http://qbiz.jp/article/117436/1/ (西日本新聞 2017年8月28日) 中国・人民網おすすめ記事:超高齢社会の日本を支える「第4の労働力」とは
 よく知られているように、日本は深刻な高齢化社会の国だ。人口高齢化にともなう深刻な労働力不足にどう対処したらよいだろうか。日本人の中には、高齢者、女性、外国人という3つの労働力で問題を解決できると考える人もいる。そして実際にはこれ以外に第4の労働力といえるものがある。それはロボットであり、決して冗談を言っているわけではない。「光明日報」が伝えた。日本はこれまでずっと高齢者の生活を支えるロボットの開発を積極的に進め、この分野では世界のトップレベルにある。パナソニック、トヨタ、ホンダといった大企業が相次いで主業務と無関係にみえる介護ロボットの開発に乗り出している。報道によると、パナソニックは車いすと介護ベッドが誘導した新発想の「離床アシストロボット」を開発した。ベッドの高さ、背上げの角度、アームレストの高さを調節でき、ベッドから車いすを分離することが可能だ。車いすは眠ることはもちろん、自動的に血圧や体温をはかる機能も搭載されている。パナソニックが開発した自立支援型起立歩行アシストロボットは高齢者の小さな動きを検知し、この情報に基づいて高齢者の状態を予測し、ベッドからトイレへの移動、ベッドからイスへの移動を支援する。内蔵のモーターが足りない力だけをアシストして、高齢者の自立的動作を支援するため、筋肉の衰えを防ぐことができる。医療者や介護者の負担を軽減し、被介助者にとっても福音といえる。トヨタが打ち出した4種類のパートナーロボットは、下肢麻痺で歩行が不自由な障害者の歩行を支援したり、起き上がるのが難しい障害者のベッドの上り下りやトイレへの移動を支援したりする。そのうちの1つでロボット脚を備えた「ウェルウォークWW‐1000」シリーズは、ロボット脚を膝下部分に装着し、ベルトで太もも、膝、足首、脚にしっかりと固定して、膝の曲げ・伸ばし運動を補助するものだ。ホンダが開発した歩行アシストは、バッテリーを内蔵した腰フレームを腰に巻き、下に伸びた大腿フレームを膝に固定する。利用者の動作に合わせ、モーターで歩行を支援する。利用者の脚の動きを検知して、約1キログラムの力で前後の移動を支える。特定の病気の患者の歩行を支援するだけでなく、高齢者の日常的な動作も支援することができる。日本には脳血管障害の後遺症やパーキンソン病により歩行が不自由な患者が40万人以上いる。こうしたロボットの登場は歩きたいと強く願ってきた人々にとってうれしいニュースだ。
●ロボットの応用は普及段階へ
 介護ロボットは日本のロボット研究の1分野に過ぎない。日本のロボット発展は短い揺籃期を経て、急速に実用期へ突入し、今では普及向上期に入った。日本はロボット産業に極めて大きな期待を寄せており、ロボットを日常生活、公共サービス、工業生産の中で人により近づいたツールにすることを目指している。日本政府は中小企業に対して積極的な経済的補助政策を打ち出し、小規模企業に出資してロボット応用の専門的な知識や技術を身につける指導などを行い、応用ロボットの一層の発展と普及を奨励し、ロボット産業に取り組む企業の積極性を高めている。日本政府の予測では、2020年には日本のロボット産業の規模は2兆6700億円を超え、12年の4倍以上になるという。日本政府が15年に発表した「ロボット新戦略」では「アクションプラン−五カ年計画」が制定され、製造業、サービス業、農林水産業、医療・介護産業、インフラ建設、防災などの主要応用分野をめぐって、ロボットの技術開発、標準化、実証実験、人材育成、ロボット規制改革の実行など具体的な行動が打ち出された。日本は各分野のロボット化推進を通じて、作業の効率と質を大幅に向上させ、製造業やサービス産業などの国際競争力を強化するとともに、「少子高齢化」がもたらす一連の問題の解決をサポートしたい考えだ。注目されているのが、日本のロボット研究の第一人者で「日本の現代型ロボットの父」などと呼ばれる石黒浩氏が、人間そっくりのアンドロイドの研究を続けていることだ。石黒氏によれば、「ロボットは人間を模倣しなければならない」という。なぜなら人の理想的な対話型インターフェースは人であり、人間の脳は人を認識することができ、人間にとって最良の対話方式は人と人との対話にほかならないからだ。そこで人間そっくりのアンドロイドを研究し、人と機械がいかに対話するかを研究している。人間との密な対話が必要な多くの分野では、アンドロイドなら暮らしのニーズにかなり応えられる。特に高齢者や子どもに医療行為や介護を行う場合は、アンドロイドなら利用者の世界に入っていけるという。石黒氏が指導する研究計画では、さまざまなタイプのアンドロイドと高齢者、子どもとの対話が行われている。石黒氏はかつて、「自分のチームが発見したのは、高齢者でも子どもでも、アンドロイドに反感を抱く被験者はいなかったということだ。アンドロイドは認知症や自閉症の患者の介護で、大きな役割を果たすことができると確信する」とも述べている。

*2-2:http://qbiz.jp/article/118392/1/ (西日本新聞 2017年9月9日) 拠点国内回帰進む キヤノン宮崎に新工場 カメラ生産九州に集約 自動化で競争力強化
 キヤノン(東京)が、宮崎県高鍋町にデジタルカメラ製造などを担う新工場を開設するのは、生産拠点の国内回帰の一環だ。同社の国内でのカメラ工場設立は、2008年の長崎キヤノン(長崎県波佐見町)以来。九州に生産拠点を集中し、カメラ組み立ての自動化などを進めた最新鋭の工場を新設することで、競争力を強化する。「カメラはできるだけ日本に残そうと、生産技術を磨いていた。為替が1ドル=100円以上(の円安)であれば採算に合う」。8日に宮崎県庁であった記者会見でキヤノンの御手洗冨士夫会長はこう強調した。同社は現在、カメラ工場を国内に4カ所、海外に3カ所展開。国内は全て九州で、大分県に2カ所、長崎県に1カ所、宮崎県に1カ所ある。キヤノンは国内生産を維持するなどの狙いから、生産の自動化によるコスト削減を進めてきた。16年には、大分キヤノン安岐事業所(大分県国東市)に、自動化に向けた生産技術の研究開発拠点となる「テクノ棟」を設立。九州をカメラ生産の本拠地と位置付けている。今後は、宮崎キヤノンが運営する新工場と、大分キヤノンや長崎キヤノンとの連携を進め、市場動向に伴う需要の変化にも、柔軟に対応できる生産態勢を構築するという。御手洗会長は「今は64〜65%が国内生産。高鍋ができれば70%になると思う」との見通しを示した。一方、新工場の進出先である宮崎県高鍋町の黒木敏之町長は「キヤノンが高鍋町に工場を建てることで、雇用やにぎわいが生まれ、知名度が上がり、町民みんなで歓迎している」と語った。宮崎キヤノン従業員の雇用が維持されることについて、同県の河野俊嗣知事は「全体の雇用が守られるということでありがたい」と話した。 
   ◇   ◇
●製造業回帰広がる
 日本の製造業は2012年ごろから国内回帰の動きが出始め、15年ごろから本格化した。パイオニアは日本市場向けのカーナビ製造の一部をタイから青森県十和田市の工場に移管し、ダイキン工業は中国企業に委託していた家庭用エアコン生産の一部を滋賀県草津市の工場に切り替えた。JVCケンウッドも高級ホームオーディオの生産をマレーシアから山形県鶴岡市の工場に移している。経済産業省の調査によると16年には海外生産を行っている製造業の11・8%が国内に生産を戻した。移管元は中国・香港が66%を占め、人件費の高騰が後押ししているという。

<エネルギーと自動車のイノベーション>
*3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201707/CK2017070602000136.html (東京新聞 2017年7月6日) ドイツ環境相の寄稿全文 「脱原発通じて独は多くを学んだ」
 ドイツのヘンドリクス環境・建設・原子力安全相(65)が本紙に寄稿し、トランプ米大統領が地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱表明したことを受け、離脱に反対する米国の州による「米国気候同盟」と連携して引き続き米国を取り込み、温暖化対策での国際協力を進めていく考えを表明した。パリ協定履行に向け、トランプ政権との対立も辞さない決意を示した形だ。
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 一年あまり前に福島第一原発と周辺地域を訪れ、原子力の利用はいかに甚大なリスクを伴うのかを目の当たりにしました。二〇一一年三月十一日、海底地震が引き起こした津波は日本沿岸を襲い、広い地域が荒野と化し、二万人近い住民の方々が亡くなったり、行方不明になったりしました。その後の数日間に福島第一で起きた原発事故は大惨事となり、当時のドイツで、政治における考え方を根本的に改める契機となりました。ドイツ政府は、国内の原発の運転期間延長を決定したばかりでしたが、政策転換に踏み切り、原発八基の運転を停止し、残り九基も段階的に稼働停止することを決めました。これにより遅くとも二二年末にはドイツの全ての原発が停止することになります。この決定でドイツでは再生可能エネルギーが大幅に拡大しただけでなく、国内の政治論争が納得いく形で収束し、エネルギー政策、気候変動政策の将来のあり方が示されました。ドイツのエネルギーシフトは、同様の計画を進める他国にとってモデルケースとなるだけではなく、むしろドイツ自身が他の部門や業種で構造改革を行う際に役立つ多くのことを学んでいます。ドイツは五〇年までに温室効果ガスニュートラル(排出量と吸収量を相殺)を広範囲で実現しなければなりません。そのために必要な変革を社会とともに形づくり、新たなチャンスが生まれ、皆が社会的、経済的、そして環境的に持続可能な行動をとるようになることを目指しています。この枠組みを定めるのが、一六年末に、パリ協定履行のため長期戦略として策定された「地球温暖化対策計画2050」です。この計画は、経験から学ぶ過程を打ち立て、定めた道筋が削減目標達成のために適切かどうかを定期的に検証することを盛り込んでいます。また、計画は欧州連合(EU)の気候変動政策にも合致しています。ドイツの三〇年温室効果ガス排出削減目標の「一九九〇年比で少なくとも55%削減」も、EUの二〇三〇年目標のドイツ分担分に相当します。エネルギー需要を再生可能エネルギー源で全て賄うまでは、エネルギー部門で脱炭素化を推進するため、特にエネルギー効率を大幅に高める必要があります。これに関してドイツはこれまで日本から学び、今でも活発な交流を続けています。資源効率性の向上もまた、日本とドイツが協力して国際的に取り組んでいるテーマの一つです。日本との協力関係が、二国間でも、また先進七カ国(G7)、二十カ国・地域(G20)といった多国間の枠組みでも築けていることは非常にうれしいことです。昨年の「脱炭素社会に向けた低炭素技術普及を推進するための二国間協力に関する日独共同声明」は、長期的課題や温暖化対策のさらなる局面において、両国が共に進むべき道を示しています。米国政府がパリ協定からの離脱を決定したにもかかわらず、もしくは離脱決定があったからこそ、新たな協力関係が生まれています。ジェリー・ブラウン米カリフォルニア州知事とはつい最近、共同声明に署名を交わしました。知事は、パリ協定を順守するための州の組織「米国気候同盟」で主導的な役割を担っています。パリ協定は現米国大統領の在任期間を物ともせず存続し続けていくと、確信しています。ドイツは、特にフランスをはじめEU内で、そして日本、中国、インドとも協力し、地球温暖化対策をさらに推進したいと考えています。G7ボローニャ環境相会合の共同声明は、協力関係を国際的にどう展開していくのかを示しています。ドイツが議長国を担うG20でも必ずや野心的な成果が得られることでしょう。今年九月にドイツでは連邦議会選挙が行われます。どの政党が政権を担うことになっても、ドイツの温暖化対策の取り組みは変わることなく、場合によってはより野心的目標を掲げ継続されるのは間違いありません。ドイツの経済産業界も確固たる意志でこの政策を受け入れています。日本とドイツは将来も必ず、両国の温暖化対策技術をさらに進展させていくでしょう。(バルバラ・ヘンドリクス=ドイツ環境・建設・原子力安全相)

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/ASK950P7XK94UHBI03T.html (朝日新聞 2017年9月10日) 脱原発「当たり前」、緑の党の支持下落 ドイツ
 24日投開票のドイツ総選挙で、緑の党が「2030年までに全電力の需要を再生可能エネルギーで賄う」との公約を打ち出している。結党以来の主張だった「脱原発」が国の方針として定着。緑の党は支持率が下落傾向にあり、さらに野心的な公約を掲げて党勢回復を狙っている。ドイツでは再生可能エネルギーの発電割合が約3割だが、石炭火力も4割、天然ガスも1割を占める。公約では現在100以上ある石炭火力発電の設備のうち、効率の悪い20設備を即座に停止し、30年までに全て廃止する目標だ。再生可能エネルギーシフトには経済界から、「供給が不安定で、急速な拡大は経済活動に影響する」(ドイツ産業連盟のデニス・レントシュミット博士)との懸念があるが、緑の党のベルベル・ヒューン連邦議会議員は「蓄電池の開発や電力需要のコントロールで、安定化させることは可能だ」と強気だ。ドイツ政府は東京電力福島第一原発の事故をきっかけに、22年までの全原発停止を決めたが、今回の選挙では、議席獲得が予想される政党のうち、新興右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を除くすべての政党が「脱原発」を前提として、再生可能エネルギーの拡大を掲げている。世論調査では、他政党も環境や気候保護をテーマにしているので「緑の党はもはや重要ではない」との意見に57%が「ほぼ同意する」と回答。新たな目標の設定は、存在意義をかけた闘いと言えそうだ。

*3-3:https://www.nikkei.com/article/DGXLZO21456050S7A920C1FFE000/ (日経新聞 2017/9/23) ガソリン車禁止でBYDトップ「中国の車、30年に電動化」、自社電池を外部供給
 中国最大手の電気自動車(EV)メーカーである比亜迪(BYD)のトップの王伝福・董事長(51)は日本経済新聞などのインタビューに応じ、中国市場からガソリン車が消える時期が2030年になるという見通しを示した。中国政府は9月上旬、将来ガソリン車を禁止する意向を表明し、時期は検討中としていた。政策立案にも関わる王氏の発言から今後、急拡大が予想される中国EV市場の内情を読み解く。王氏は21日のインタビューで、中国のガソリン車の廃止時期について「車種別に工程表を決めることになるだろう」と語った。具体的には「20年に公共バスが全面的にEVに代わり、25年にトラックなど特殊車両、30年には全ての車が電動化するだろう」と述べた。その上で、中国のガソリンは現在62%を輸入に依存していると指摘し、「国家の安全上、中国はどの国よりも早く(ガソリン車禁止の)期限を公表し、EVの拡大を急ぐ必要がある」と語った。英国とフランスは40年までにガソリン車などの販売を禁じる方針を示しており、王氏の見解通りなら、中国はそれより早く大きな転機を迎える。王氏は、中国EV最大手として「これまでも先頭に立ち、政府に(EVなどの)政策を提案し、政策を推し進めてきた」と強調。王氏の意向は今後のEV関連の新政策にも、強い影響を与えていくとみられる。実際、王氏は「我々の強みは中国の政策に精通していることだ」と語る。エコカー推進役として政府の信頼も絶大だ。すでに手厚い補助金の後押しを受け、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の「新エネルギー車」(新エネ車=NEV)の販売は昨年、前年比7割増の9万6千台へと急激に膨らんだ。中国政府は今後、中国新車市場が25年に16年比で25%増の約3500万台に達すると予測する。そのうち20%以上を新エネ車とし、700万台の販売を目指す計画だ。普及のカギを握るのは政府が18~19年に導入を予定する「NEV規制」だ。中国でガソリン車を販売するメーカーに対し、販売量に応じて一定量の新エネ車販売を義務付けるものだ。これまで中国政府は、多額の補助金をほぼ自国メーカーのみに使い、市場を独占させてきた。一方、支援のない外資は中国で新エネ車の体制整備が遅れた。そのため厳しいNEV規制をクリアするには、市場をリードする中国のEVメーカーからクレジットと呼ばれる権利を購入しなければならないケースもある。NEV規制の建前は、あくまで環境規制の強化だ。だが実際は中国企業をクレジットでもうけさせ支援するものとも指摘され、外資から反発の声が上がるのが裏事情だ。BYDはNEVの導入後の3年間だけで、クレジット販売で少なくとも140億元(約2400億円)の利益を手にするという試算もある。そんな同社の株価は連日上昇し、香港証券取引所では21日終値は71.65香港ドルと、今月に入り53%も上昇する過熱ぶりだ。当の王氏も「NEV導入は政府の補助金支援に代わる新しい我々への(支援)政策と理解している。利益がどれだけかは不明だが、トップメーカーとして恩恵は受けるだろう」と語った。中国政府はNEVの導入で新エネ車市場の拡大と中国メーカーの後押しを一挙にもくろむ。16年の50万台から25年には700万台へ急拡大を見込んでいるが、課題は無いのか。これに対し、王氏は「電池生産には巨額投資が必要で、最大の今の課題は電池の供給能力だ。このままでは20年以降、市場全体で電池が足りなくなる」と指摘した。対応策として「すでに現在、複数社と合弁生産や自社で生産する電池の外部供給、協力体制について交渉中で、大きなプロジェクトになる」と明かした。さらに独ダイムラーとのEVでの提携関係も一段と強化し、「新モデルの投資を今後行う」とも述べた。政府はNEV規制導入の詳細を近く公表する。外資各社はその動向を固唾をのんで見守らざるをえない状況だ。

*3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170910&ng=DGKKZO20957690Z00C17A9EA1000 (日経新聞社説 2017.9.10) 電気自動車時代の足音が近づいてきた
 電気自動車(EV)シフトの動きが世界的に高まっている。日産自動車はEV「リーフ」の初のフルモデルチェンジを実施し、西川広人社長は「日産のコアになる車」と表明した。米国ではテスラが50万台という破格の予約を集めた「モデル3」の納車を始めた。メーカーだけでなく各国政府もEVの普及に熱心だ。仏英両国は2040年までにガソリン車などの販売を禁止する「脱エンジン」の方針を打ち出した。中国やインド政府、あるいは米国でもカリフォルニアをはじめとする有力州がEVの普及を後押ししている。以前のEVブームは尻すぼみに終わったが、今回は本物だろう。日本としてもここで競争に負けて、基幹産業の自動車を失うわけにはいかない。EV化の波を「脅威」ではなく、電池の部材や車の新素材、関連する電子部品など幅広い産業を浮揚させる「好機」ととらえ、変化を先取りしたい。ただ、いたずらに慌てる必要はない。携帯端末の世界では、スマートフォンがいわゆる「ガラケー」に取って代わるのに10年もかからなかったが、車の動きはもっとゆっくりだろう。米金融大手のゴールドマン・サックスは2040年時点でも世界の新車販売におけるEVの比率は32%にとどまり、エンジン車の45%を下回ると予測する。電池の性能向上や量産体制の確立、さらにリチウムやコバルトなど電池に使用される金属資源の増産にはかなりの時間が必要になる。使用済み電池のリサイクル技術の確立も未解決の課題だ。とはいえ変化の波は確実に押し寄せる。過去100年続いた「エンジンだけが車の動力源」だった時代が終わる衝撃は予想以上に大きいかもしれない。独自動車工業会などは「エンジンがなくなれば、ドイツ国内で60万人以上の雇用が影響を受ける」と試算した。日本でも「脱エンジン」の加速で、一部の自動車部品メーカーなどが痛みを被る恐れはある。こうした負の側面の一方で、EV化は電子部品や軽量な炭素繊維などの需要を広げるだろう。EVは自動運転技術との相性がよく、機械が人の運転手をサポートすることで、交通事故が大幅に減る可能性もある。そして何より排ガスがゼロになるので、新興国を中心に大気汚染に苦しむ地域には朗報だ。EV時代の足音を、冷静に前向きに受け止めたい。

*3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170910&ng=DGKKZO20925630Y7A900C1MY1000 (日経新聞 2017.9.10) スマホ・車 どこでも充電、置くだけ 走るだけ 感電なし
 電線を使わずに電気を送るワイヤレス(無線)給電が身近になりつつある。電動自転車などに電気を供給する国内初の実験が始まったほか、人気スマートフォン(スマホ)の最新型にも搭載されるとみられている。宇宙空間でつくった電気を地上へ送る研究もある。いつでもどこでも電気が充電できる「電線のない社会」が実現するかもしれない。京都府南部に位置する精華町役場。今年3月、新しい電動自転車が登場した。見た目は普通の自転車だが、前カゴに板状の受電装置があり、専用の送電装置の前に駐輪すると無線を受けて充電できる。無線は電子レンジにも使うマイクロ波を使う。充電は安全面を考慮し職員がいない夜間だけ。1回の充電で約25キロ走れる。同町は研究所が点在する関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)があり、業務に自転車は欠かせない。森田吉弥健康推進課長は「重いバッテリーを取り外す手間が省けて便利だ」と話す。同町では5月、役場の5階にある企画調整課内の壁に貼り付けた温度計へ無線給電する実験も始めた。配線が難しい壁近くの温度が簡単に分かり、空調を管理しやすい。得られたデータは高齢者施設で入居者の体調などを把握するセンサーの開発に役立てる。これらの装置は京都大学と三菱重工業、パナソニックが共同開発した。いずれも政府の国家戦略特区で電波法の規制緩和を受けた国内初の実証実験だ。篠原真毅京大教授は「無線給電の普及に向けた大きな一歩になる」と強調する。電気自動車(EV)も無線給電の用途として期待されている。三菱電機は2つのコイルの間で磁界の変化を介して電気を伝える「電磁誘導方式」で、高効率の無線給電装置を開発した。「自宅に設置した太陽光発電との間で、電気を簡単に融通できる」(同社)。英国の高速道路では、走行しながら充電できる専用レーンの計画も進む。EVと無線給電の組み合わせにより、燃料補充の心配がない、新しい自動車社会が誕生しそうだ。実用化が先行するのは携帯電話だ。電磁誘導方式を採用する。普及を後押しするため、中国語で「気」の意味を表す「Qi(チー)」という規格が2010年に始動した。世界の携帯機器や自動車のメーカーなど約240社が、同規格を運営するWPCという団体に参加している。欧米を中心に、互換性のある製品が200点近く市場に出ている。今年2月には、米アップルがWPCに加盟した。9月12日に発表するスマホ「iPhone(アイフォーン)」の新型に同規格による機能が搭載されるとみられている。篠原教授は「無線給電の知名度が一気に上がる」と期待する。Qiの送電能力は現在15ワットまで。60ワット、120ワットと能力を上げていく計画だ。能力が高まれば携帯電話から照明やテレビ、パソコン、掃除機まで用途が広がる。家庭から電源コードがなくなるかもしれない。同規格の日本代表を務めるロームの鈴木紀行通信スマートデバイス課長は「新サービスが生まれたり、生活が便利になったりする」と話す。コンセントが要らず、水にぬれても感電の心配がないため、喫茶店のテーブルに置くだけで充電したり、屋外の自動販売機などから電気をもらったりもできる。充電機能を売りにした机や照明機器、カバンなども登場しそうだ。こうした商品が身の回りにあふれれば、「充電」という意識すらなくなるかもしれない。地球規模の研究も進んでいる。京大の石川容平特任教授は宇宙空間で太陽光により発電し、地上に送る「宇宙太陽光発電」技術の実現を目指している。静止軌道に浮かべた太陽光パネルで電気をつくって、海中に設けた装置にマイクロ波で送り、いったん蓄えた後に、陸上へ送電する構想だ。石川特任教授は「世界全体を網羅して安定的に電力を供給する全く新しい送電網が実現できる」と力を込める。大きな期待が集まる無線給電にも課題はある。一つは安全性だ。電磁波の人体影響に詳しい京大の宮越順二特任教授は「長期の評価はまだ十分ではない」と指摘。篠原教授と協力し今年度からマイクロ波による影響研究を始める。もう一つは電波を扱う規格だ。携帯電話使用時に発生する電磁波との干渉が指摘されている。普及には電波法を見直す必要があるが、日本は欧米に比べて出遅れており、国内メーカーは危機感を抱く。無線技術の進歩で生まれた携帯電話はこの数十年で、ビジネスや生活スタイルを大きく変えた。「第2の無線技術」といえる無線給電が普及すれば、新たな経済社会が生み出されるだろう。

<医療のイノベーション>
PS(2017年10月4日追加):医療もイノベーションを繰り返してきた伝統産業と言えるが、私は衆議院議員時代(2005~2009年)に再生医療を進め、日本は世界でリーダーになれるかに見えたが、*4-4のSTAP細胞はじめ、日本ではiPS細胞以外の研究は嘘か邪道であるかのような批判をして排除するようになったため、またまた先端研究が世界に遅れ始めている。
 例えば、*4-1のような体性幹細胞を利用した臨床研究は、皮膚などの体細胞に遺伝子を導入することがないためiPS細胞よりも問題が少なく、外国では進んでいるのだが、日本では手術や抗癌剤治療や放射線治療などで既に造血機能が低下したり免疫機能が損傷したりしている患者にしか適用されないので、効果が低い。
 また、臍帯血にも生命力あふれる元気な幹細胞が含まれているが、*4-3のように、臍帯血を違法に患者に移植していたとして医師ら6人が再生医療安全性確保法違反の疑いで逮捕され捜査されるのだそうだ。しかし、“違法”とはいっても、法律が医学研究より先を行くわけではないため、これでは日本で先進医療やその研究を行うのは医師にとっては危なすぎることになり、頭脳流出の原因になるだろう。また、治療による深刻な副作用であれば、現在の癌の標準治療の方がむしろすさまじいため、これらに関する検証は、抗癌剤を作っている薬剤会社の側に立ちがちな厚労省だけでなく、本当に公正に比較できる学者組織が行うべきである。
 さらに、*4-2のように、厚労省は癌の免疫療法に有効性を認めず実態調査をするそうだが、最も安全で賢い治療方法は、もともと体が持っている免疫機能を利用したり、それを強化したりして治すことであるため、「患者自身のリンパ球を使うものや癌ワクチンなどは科学的な効果が確立されていない」などとして研究や治療を禁止するのではなく、研究者に必要なバックアップを行って安定した結果を出せる治療法を確立すべきである。そして、文系出身の役人も、こういう知識を持って、知識に基づき正しい判断ができる教育をしておくことが必要だ。

*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13104676.html (朝日新聞 2017年8月27日) (科学の扉)体性幹細胞、変える治療 再生医療の研究、iPS・ESに先行
 自分の体の中に存在し、骨や神経など特定の組織を再生する能力を持つ体性幹細胞(組織幹細胞)を利用した臨床研究が、iPS細胞やES細胞に先行している。従来の治療をどのように変えていくのだろうか。幹細胞は、体を構成する様々な細胞に変化する分化能と、自分と同じ細胞に分裂できる自己複製能を併せ持つ。中でも、受精卵の中にある細胞を取り出して作るES細胞や、皮膚など体の細胞に遺伝子を導入して作るiPS細胞は、体の中のどんな細胞でも作り出せ、多能性幹細胞と呼ばれる。一方、幹細胞のうち、体の中に元々存在し、決まった組織や臓器の中で働くのが体性幹細胞だ。傷ついて古くなった細胞を入れ替えたり、病気やけがで失われた細胞を新しく補ったりする役割を担う。体性幹細胞には、赤血球や白血球などの血液をつくる造血幹細胞、神経系をつくる神経幹細胞、骨や軟骨、脂肪などへの分化能がある間葉系幹細胞などがある。幹細胞の機能を使った再生医療では、安全性の評価などに課題があるiPS細胞やES細胞に比べ、体性幹細胞の研究が実用化に近づいている。札幌医大の研究グループは2014年、脊髄(せきずい)を損傷した患者に、自分の骨髄液から分離した間葉系幹細胞を静脈内に投与して神経を再生させる臨床試験(治験)を開始。神経や血管系に分化する能力を持つ間葉系幹細胞は骨髄細胞の中に0・1%程度含まれる。これを1万倍に増やし細胞製剤にして点滴すると、患者の体内で傷ついた神経に細胞が集まり、その働きを取り戻すことが期待されている。国は16年に「高い有効性を示唆する結果が出ている」として、承認審査の期間を短縮する「先駆け審査指定制度」の対象に指定し、治験も終了。同大は、骨髄の間葉系幹細胞を脳梗塞(こうそく)患者に静脈投与し、後遺症の軽減を目指す治験も進めている。
■「親知らず」活用
 ただ、患者自身の幹細胞を使う方法は、摘出する際に体へ負担がかかり、培養に時間やコストがかかる問題もある。そこで、他人の良質な幹細胞を大量に培養し、必要な患者の治療に使う方法も研究されている。東海大の佐藤正人教授(整形外科学)は、ひざの軟骨がすり減る変形性膝(しつ)関節症の8人を対象に、患者自身のひざから取りだした軟骨細胞を培養したシートを患部に貼り付け、軟骨を再生させる効果が全員にあったことを確認した。細胞シートが特殊なたんぱく質などを出して、ひざの骨にある骨髄由来の間葉系幹細胞を活性化し、軟骨が再生すると考えられるという。今年2月からは、先天的に指が6本ある多指症の赤ちゃんから、手術で切除した指の軟骨の提供を受け、細胞シートに培養して患者に移植する臨床研究を始めた。佐藤さんは「軟骨は他人の細胞でも拒絶反応が起こりにくい。乳児の細胞は増殖能力が高く、修復を促す成分も多い」と話す。抜歯後に捨てられていた「親知らず」が歯周病の治療に役立つ可能性も見えてきた。東京女子医大の岩田隆紀准教授(歯周病学)は歯の根と周囲の骨(歯槽骨)の間にある歯根膜に着目した。歯根膜は間葉系幹細胞が豊富に存在し、骨の再生を促す役割があるが、歯周病の患者では部分的に失われている。そこで、抜歯した親知らずから歯根膜を採取して培養した細胞シートを歯の根元に移植し、骨の欠損部に一緒にいれた骨補填(ほてん)材(リン酸カルシウム)が骨に置き換わって周囲の骨を再生させる方法を考えた。重い歯周病10人を対象に患者自身の親知らずを使った臨床研究では、骨が平均で約3ミリ回復した。すでに、20代前半の健康な人の親知らずから細胞シートを作り、患者に移植する研究の準備を進めている。岩田さんは「1本の歯から約1万人分のシートができる。大量生産することでコストの大幅な削減が見込める」と言う。
■商品化、ごく一部
 再生医療の「治療薬」はごく一部で商品化されているが、研究の多くは安全性や有効性の確認を進めている段階だ。ロート製薬と新潟大の寺井崇二教授(消化器内科学)は7月、他人の脂肪組織に含まれる幹細胞を培養し、肝硬変の患者に点滴する治験を開始すると発表した。肝硬変は、肝臓の組織が炎症を繰り返して硬くなる「線維化」を起こす。マウスの実験で、脂肪由来の幹細胞を投与すると線維化が改善したため、治験をすることになった。寺井さんは「脂肪の採取は体への負担が比較的軽く、美容整形などで余っているものが入手しやすい」と話し、20年度の承認を目標としている。沖縄県は今月、再生医療の産業化を進める目的で、「脂肪幹細胞ストック事業」を琉球大などに委託することを決めた。琉球大医学部や再生医療ベンチャーのセルソース(東京都)の加工施設で、医療機関から提供された脂肪組織から幹細胞を抽出し、長期的にストックする技術を構築することを目指す。琉球大の清水雄介特命教授は「脂肪幹細胞の性質は個人ごとに大きな差があり、治療に適したものを選ぶ方法も確立していない。まず多くの細胞をストックして、個人ごとの異なる性質を解析することが不可欠だ」と課題を挙げる。
<治療法確立の分野も> 体性幹細胞による再生医療としてすでに治療法が確立しているのが、白血病などの治療における造血幹細胞移植だ。抗がん剤や放射線治療によって骨髄の造血機能が損傷した患者に、正常な造血幹細胞を移植して回復させる。骨髄液を採取して患者に移植する骨髄移植は1970年代に開発された。造血幹細胞はほかにも、特別な薬を投与すると全身の血液に流れ出す末梢(まっしょう)血幹細胞や、赤ちゃんと母親を結ぶ臍帯(さいたい=へその緒)と胎盤の中に含まれる臍帯血にも含まれており、それぞれ移植に使われている。

*4-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13164507.html (朝日新聞 2017年10月4日) がん「免疫療法」、調査へ 厚労省、拠点病院など434カ所 効果、不確かなケースも
 厚生労働省はがんの「免疫療法」について、有効性が認められておらず、治療費を患者が全額負担する治療があるとして、初の実態調査をすることを決めた。対象は、地域のがん医療の中心となるがん診療連携拠点病院など434カ所。加藤勝信厚労相は3日の閣議後会見で「どういう形で実施しているのか、速やかに調査したい」と話した。免疫療法は、体内の異物を攻撃して排除する免疫のしくみを利用して、がんを治すことを目指すもの。オプジーボなどの新しいタイプの薬・免疫チェックポイント阻害剤は、一部の進行がんで保険適用されている。一方、患者自身のリンパ球を使うものやがんワクチンなどは科学的な効果が確立されていない。研究目的の臨床試験でなければ、治療費は全額患者負担となる。こうした自由診療は民間クリニックだけでなく、国が指定するがん診療連携拠点病院でも実施し、多額の費用を患者が払うケースもあるという。国立がん研究センターの若尾文彦・がん対策情報センター長は「効果が確認されていないことなどの説明を十分せずに患者側の期待をあおり、多額のお金を使わせるのは問題だ」と指摘する。厚労省は、どれだけの拠点病院が免疫療法を実施しているかや安全管理体制などについて調査する。

*4-3:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/461079 (佐賀新聞 2017年9月6日) 無届け臍帯血移植、患者保護へ規制を見直せ
 他人の臍帯血(さいたいけつ)を違法に患者に移植していたとして、医師ら6人が再生医療安全性確保法違反の疑いで逮捕された。リスクが高い医療行為であるにもかかわらず、厚生労働省が認めた委員会で審査を受け、同省に届け出るという定められた手続きを踏まなかったというのが直接の容疑。安全性に問題がある移植が行われていた疑いも指摘されている。捜査で実態を明らかにするとともに、安全性や有効性に問題がある類似の医療行為から患者を守るため、再生医療に関する現行の規制や患者への情報提供の問題点を洗い出し、早急に対策を進めるべきだ。臍帯血は、赤ちゃんのへその緒や胎盤から採取される血液で、さまざまな血液細胞に成長できる幹細胞を多く含む。臍帯血移植は白血病などの治療法として確立しているが、容疑者らは、別のがんの治療や美容目的など、効果未確認の移植を行っていたとされる。再生医療安全性確保法は2014年施行。自由診療で幹細胞の移植を受けた患者が死亡した問題などをきっかけに検討が進み、今回が初の刑事摘発だ。同法がなければ、医師と患者の合意の下で行われる自由診療に当局のメスが入ることは、深刻な健康被害が明らかになるなどしない限り考えにくかった。法は一定の役割を果たしたと言える。一方で、現行の規制に深刻な不備があることもはっきりした。移植に使われた臍帯血は、09年に経営破綻した民間の臍帯血バンクから流出したものだとされる。国内には、白血病患者らの治療に使うため、産婦から任意で提供を受けた臍帯血を保存する公的バンクが複数ある。これらは法に基づく許可制で、臍帯血の品質確保のための基準もあるが、他人への移植を前提とせずに有償で臍帯血を預かる民間バンクは規制の対象外。破綻時の対応も業者任せで、保管方法に問題があれば、健康被害に結びつく可能性がある。日本で人工多能性幹細胞(iPS細胞)が開発されたこともあり、再生医療の研究は国が積極的に推進し日々のニュースにも登場する。それだけに患者の期待も膨らむが、多くの再生医療はまだ研究段階にあり、長期の効果やマイナス面ははっきりしていない。そうした現状での大きな問題は、再生医療と称し患者に提案される個別の自由診療の安全性や有効性について、患者自身が判断できる材料が非常に乏しいことだ。再生医療安全性確保法は「認定再生医療等委員会」と呼ばれる委員会が治療計画を事前に審査することで一定の安全性などを担保する仕組みだが、委員会の審査の質にはばらつきがあることや、治療後のフォローが十分なのかといった疑問も指摘されている。改善が急務だ。患者が自由診療の具体的な中身を他の医療機関と比較することも難しい。厚労省は、再生医療に携わる医療機関の情報提供を、患者に役立つ形に見直す必要がある。日本再生医療学会は、一般の人から再生医療の相談を受け付ける窓口を開設する方針を決めた。これも実施を急いでほしい。患者が相談したり、疑問を寄せたりしやすい仕組みを常設することは、患者を助けるだけでなく、問題ある医療機関の情報を、学会や当局が把握するにも有益だ。

*4-4:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48272 (「週刊現代」2016年3月26日・4月2日合併号)小保方さんの恩師もついに口を開いた!米高級誌が報じたSTAP騒動の「真実」
 小保方さんは間違っていたのか、それとも正しかったのか—アメリカの権威誌に掲載された記事には日本で報道されていない新たな証言が書かれていた。世界中が彼女に注目し始めている。
●すさまじい駆け引き
 「私は、STAP細胞は正しい、確かに存在すると100%信じたまま墓場にいくつもりだ」。こう語るのは、小保方晴子さん(32歳)の恩師、アメリカ・ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授だ。バカンティ氏は、小保方さんが発表し、後に撤回された「STAP細胞論文」の共著者でもある。小保方さんが、自らの言葉で綴った手記『あの日』が、海の向こうでも話題になっている。アメリカで有数の権威を持つ週刊誌『NEW YORKER』(ニューヨーカー)の電子版に、一連のSTAP騒動を検証する記事が掲載されたのだ。筆者は、アメリカ人のデイナ・グッドイヤー女史(39歳)。'07年まで『ニューヨーカー』の編集者として勤務し、その後、ノンフィクション作家として独立した人物である。冒頭のバカンティ氏の言葉は、グッドイヤー女史のインタビューによって騒動以降、初めて明らかになったものだ。在米の出版社社員が現地の様子について語る。「バカンティ教授が取材を受けたのも『ニューヨーカー』だからこそです。それくらいこの雑誌で記事が組まれることはステータスでもあるんです。この記事を掲載するに当たって編集部は約半年にもわたり、準備をしたそうです。かなり気合が入った記事であることは間違いない。小保方さんが手記を出したことで、世界が再び彼女に注目しています」。『ニューヨーカー』はアメリカ雑誌界の最高峰に君臨。読者層は知的好奇心が高く、「高級で権威がある雑誌」と認識されている。紙の雑誌の発行部数は100万部以上。電子版も好調で、こちらも100万人以上の会員数を誇る。一本一本の記事が丁寧に書かれている総合誌で、非常に読み応えがあるのが特徴だ。小保方さんに関する記事のタイトルは「THE STRESS TEST」。幹細胞研究の世界はまさに陰謀、欺し合いが錯綜している。そこに細胞に対して行う「ストレス・テスト」を引っかけ、ストレスに弱い者は、科学界で生き残れないことをこの記事は示している。グッドイヤー女史は日本中を巻き込んだ「STAP」騒動をどう分析しているのか。まず小保方さんの登場について記事ではこう書かれている。「この仕事(STAP)の背後にいた『革命児』が小保方晴子であった。彼女は男性中心の日本の科学界に女性として一石を投じた。彼女は他の女性に比べて、男たちとの駆け引きの中で生きることに長けていた。そして独創的な考えの持ち主であると賞賛されていた」(『ニューヨーカー』より・以下カッコ内は同)。その小保方さんを引き上げた人物こそ、バカンティ教授だった。「小保方がバカンティ教授の研究室にやってきた時、バカンティはすぐに『彼女にはopen‐minded(心の広さ、進取の気性に富む)と、明敏さがある』ことに気づいた。ただしバカンティは当面、細胞にストレスを与えると幹細胞を作り出す可能性があるという仮説を伏せておいた。彼がもっとも避けたかったのは、留学生が自国に戻って、他の誰かの研究室で彼女のアイディアを展開することにあった。バカンティは私にこう言った。『私の主な懸念は、我々はハルコを信用できるのかだ』と」
●「彼女には才能がある」
 だが、バカンティ氏の懸念は杞憂に終わる。小保方さんは彼の研究室で信頼を高めていった。「小保方の下でリサーチ・アシスタントとして働いたジェイソン・ロスはこう言った。『彼女がいかに才能があるかは、誰もが分かった。ハルコのような才能のある人はそう多くはいない』。それに対して小保方はこう返した。『日本では女性研究者は二流です。たとえ年下の大学生でも、男性が必要としたら、女性は顕微鏡を使うのを諦めないといけません』」。やがてバカンティ教授の元での短期留学を終えた小保方さんは、日本に帰国し、'11年に理化学研究所(CDB)の研究員に。そこで「STAP騒動」のキーパーソンである若山照彦教授のチームに所属する。そして本格的にSTAP細胞の研究に取り組んでいく。「生物学者の山中伸弥がノーベル賞を受賞したとき、CDBの研究者たちの野心は奮い立った。CDBのチームは、自分たちの発見が山中の発見と張り合う、いや山中の研究をobsolete(時代遅れ、廃れた)にしてしまうとまで考えた」。その一方で、当時の小保方さんについては、「小保方はCDBでの昇進は早かったが、うまく適応できてなかった。アメリカ的になっていたので、元同僚たちによると小保方は、日本の研究所の厳格なヒエラルキーにイライラしているように見えた」。と記している。'12年、STAP細胞発見への意欲を見せる小保方さんのもとにもう一人の協力者が現れる。それが騒動中に自殺した笹井芳樹・元CDB副センター長だった。笹井氏のもとで、小保方さんは論文を再構築する。そして'14年、ついに世界的権威を持つ科学雑誌『ネイチャー』にSTAP論文が掲載される。日本のメディアは割烹着姿で顕微鏡をのぞき込む小保方さんを「リケジョの星」、「ノーベル賞級の発見」と煽り持ち上げた。だが、風向きが急速に変わり始める—。「ブランドン・ステルという名の神経科学者が'12年に創設した『PubPeer』というオンライン・フォーラムがあり、そこでは誰もが科学論文を分析して議論することができる。STAP論文は彼らにとってまさに、好奇心をそそる材料であった。2週間も経たないうちに、匿名のユーザーが論文に掲載された画像の2つがほとんど同一のものであることに気づいた」。STAP論文の発表は世界に衝撃を与えると同時に、世界中の研究者からの検証にさらされることにもなった。これこそが「ストレス・テスト」なのだ。このテストにバカンティ氏と小保方さんは耐え抜くことができなかった。「ハーバード大学の科学者でボストン小児病院の幹細胞移植のディレクターであるジョージ・ダレイは私にこう言った。『当時、世界中の私の同僚たちは、お互いにメールをしあって、おーい、何が起きているんだ。うまくできたか? 誰も成功してないのか、と言い合っていた』」
●今も信じている
 グッドイヤー女史によると、ダレイは「STAPは幻想である」ことを立証するための論文を『ネイチャー』に発表する準備を始めたという。さらにダレイは2回にわたって、バカンティ氏に間違いを諭そうとしたが、無駄に終わったという。「ダレイは私に『バカンティは自分が正しいと思い込んでいる』と言った。そして、昨年の9月、『ネイチャー』はダレイのSTAPに関する論文を掲載した。そこには小保方の主張を正当化すべく7つの研究室が再現をしようとしたが、すべて失敗したと書かれていた。この論文の共著者であるルドルフ・イェーニッシュは、遠慮することなく私にこう言った。『小保方が若山にいろいろ混ざった細胞を渡したことは明らかだ。若山は彼女のことを信じてそれを注入した。そして美しいキメラができた』」。バカンティ氏は一度、小保方さんに「データの捏造はしてないのか」と尋ねたが、小保方さんの答えは、「それならこんなに時間をかけて実験はしない」だったという。さらに記事の中には、バカンティ氏は論文撤回後もSTAP細胞作製に向け、いまも研究を続けていると書かれている。断っておくが、『ニューヨーカー』に掲載されたこの記事は、誰が正しいと断定はしていない。あくまでそれぞれの当事者に取材し、主張を丁寧に拾ったものである。騒動以降、口を閉ざしたままだったバカンティ氏が、今も小保方さんを信じ続けていることは、この記事を読めば十分に伝わってくる。筆者のグッドイヤー女史は今回、記事を書くにあたって小保方さんとメールでコンタクトを取ったことを明かしている。「小保方は『私はスケープゴートにされた』と書いてきた。『日本のメディアはすべて、若山先生が犠牲者で、私がまったくのろくでなしと断定した』とも」。小保方さんは今、どんな思いで、何を考え、日々を過ごしているのだろうか。


<エネルギーから考えた街づくりのイノベーション>
PS(2017/10/6追加):*5-1に「①経産省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で、太陽光発電のさらなる価格引き下げを行い、最終的には10円前後を目指して、今後は競争を通じて民間で自律的に市場を拡大していくよう促す」「②小規模な発電にも入札対象を広げることを検討する」「③太陽光発電の導入費用は、日本が1キロワットあたり約30万円と欧州の2倍であるため、事業者には安価で質の高い設備などの一層の技術革新が求められる」と書かれている。この①②③については、最初に太陽光発電を導入した事業者には普及を促す目的で高い買取価格を20年間保障し、普及後は次第に市場に委ねる方法が正しい。にもかかわらず、最初に太陽光発電を発明した日本では、普及が遅れて技術が進まず、欧米の5~10円/kwhに及ばない状況となっているのは、油断と妨害の結果である。なお、電力のコストは「賦課金」ではないため、記者は原価計算を踏まえて正確に議論すべきだ。
 また、*5-2には、「①柏崎刈羽原発6、7号機に原子力規制委員会が安全審査に事実上の『合格』を出し、再稼働にようやく動き出した」「②日本では再生エネでベースロード電源を担うのは難しい」「③原発1基再稼働させれば同規模の火力発電に比べてコストは年350億~630億円、二酸化炭素(CO2)排出では260万~490万トンを減らせる。」「④政府は原子力の総発電量に占める割合を2030年度に20~22%とはじく」などが書かれている。しかし、原発に絶対安全はなく、事故を起こせばCO2どころではない公害を引き起こし、使用済核燃料の最終処理まで考慮すれば発電コストは最も高いため、①②③④こそ、環境後進国日本の思考停止による見解だ。そして、再生可能エネルギーの制約として書かれている内容は、使用済核燃料の処理よりもずっと簡単に解決でき、外国では既に実践されているものである。そのため、分散発電を前提とした良質で安価な機器が増え、それを使った街づくりが進めば、100%再生可能エネルギーによる電力社会は、石炭から石油に転換したよりも早いスピードで来るだろう。

*5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21969410W7A001C1MM0000/?n_cid=NMAIL004 (日経新聞 2017/10/6) 太陽光買い取り価格、さらに下げ 18年度20円弱に
 経済産業省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で、太陽光発電のさらなる価格引き下げに乗り出す。2018年度にも産業用の買い取り価格を現在の1キロワット時21円から同20円弱とする見通しで、最終的には10円前後を目指す。再エネの導入拡大に向け国が手厚く支援してきたが、今後は競争を通じ、民間で自律的に市場を拡大していくよう促す。FITは再エネでつくった電気を大手電力が一定期間、同じ価格で買い取るよう国が定めた制度。参入事業者が収益性を見通しやすくする目的で、12年度に導入した。経産省はこのほどFITに関する有識者会議「調達価格等算定委員会」で18年度以降の見直しに向けて議論を始めた。年度内に結論を出す。12年度に制度を導入した際の産業用の買い取り価格は1キロワット時あたり40円だったが、産業用は17年度は21円となっている。また、同省は17年度からは2千キロワット以上の大規模な太陽光発電に対し、欧州などで普及する入札制を導入し、さらなる価格下げを促している。今秋に予定する初の入札の結果を踏まえた上で、現在21円の入札上限価格についても今後、引き下げるほか、より小規模な発電にも入札対象を広げることを検討する。太陽光の普及が進み、入札制が多い独仏、米国などは1キロワット時あたりの太陽光発電による電力価格は5~10円が相場で、日本の半分から4分の1と低い。経産省が太陽光発電の導入費用を調べたところ、日本は1キロワットあたり約30万円と欧州の2倍に上る。事業者には安価で質の高い設備の導入など、一層の技術革新が求められる。より発電効率の高い太陽光パネルやパワーコンディショナー(電力変換器)を使ったり、効率的な保守管理サービスを利用したりする必要がある。再エネ導入を加速させるためFITで手厚く支援してきて、太陽光の普及は進んだ。しかし事業者側のコスト競争力はまだ低い。経産省幹部は「日本でも大幅なコスト削減を進め、競争力のある電源にしていく」とし、買い取り価格の引き下げや入札制度の導入で、太陽光関連事業者の「自立」を促す。同省は太陽光に限らず、風力、水力、バイオマスなど他の電源でも価格の引き下げを進める方針だ。FITの背後で高まる消費者負担に配慮する面もある。標準家庭が月々の電気代で負担する再エネ促進のための「賦課金」は、17年度で686円と、12年度の57円から跳ね上がった。30年度には1千円を超える見通しで、対応を迫られている。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171006&ng=DGKKZO21827100T01C17A0EA1000 (日経新聞 2017.10.6) 環境後進国ニッポン(下)思考停止 もう許されない
温暖化対策と安定的な電力供給を両立する原子力発電は過度な依存を望めない。一定量の電力を低コストで安定供給できるベースロード電源の議論は堂々巡りが続く。
●再稼働弾み期待
 東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)。原子力規制委員会が安全審査に事実上の「合格」を出し、再稼働にようやく動き出した。事故を起こした福島第1原発と同じ「沸騰水型」で初の合格内定。経済産業省は同型原発の再稼働に弾みがつくと期待する一方で、「東電を適切に指導したい」と気を引き締める。同意が必要な地元の反応はなお厳しい。1年前の選挙に勝って新潟県知事に就いた米山隆一氏。福島原発事故の県独自の検証が済むまで認めない立場に固執し、3年ほどかけるという。東電は理解を得る活動を急ぐ。政府が報道各社の世論調査を分析したところ、福島事故直後から今まで「再稼働賛成1に対し反対2」の構図のままだ。経産省は原発再稼働をベースロード電源と位置づける。1基再稼働させれば同規模の火力発電に比べ、コストは年350億~630億円、二酸化炭素(CO2)排出では日本全体の0.2~0.4%にあたる260万~490万トンを減らせる。政府は原子力の総発電量に占める割合を2030年度に20~22%とはじくが、16年度は2%。経産省によると、目標達成には全国にある42基のうち30基程度の再稼働が要る。12基が安全審査を待つが、達成はなかなか厳しい。老朽化による廃炉かリプレース(建て替え)かの判断を迫られる原発も出てくる。同省幹部は「30年以降、原発の新増設がなければ20~22%は維持できない」と語る。想定する水準を確保できなければどうするのか。今の総発電量に占める再生エネの割合は15%(大規模水力含む)。30年度は原子力より高い22~24%になるとみる。ただ天候や日照時間に左右される太陽光や風力は電力が安定しない。国境をまたいで送電網がつながる欧州では、再生エネの普及するドイツと、原発大国のフランス間で電力の融通が成り立つ。現時点の日本では再生エネでベースロード電源を担うのは難しい。地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾主席研究員は「再生エネの普及と技術の革新を進めながら、火力と原子力を使うのが現実的」と話す。再生エネの不安定さを液化天然ガス(LNG)火力で調整して、発電量を安定させられる。
●地熱は10年停滞
 ベースロード電源の可能性を秘めた再生エネもある。火山国、日本で資源豊富な地熱発電だ。世界3位の約2300万キロワットの資源量があるとの試算があり、日本の電力の総設備容量の約1割にあたる。だがここ10年間は50万キロワット超で大きく変わらず、ニュージーランドやアイスランド、トルコ、ケニアに抜かれた。停滞の理由は内向きの事情だ。適地の8割が国立・国定公園内にあり、景観との兼ね合いで慎重論との一進一退になりがち。温泉地に重なり関連業者の懸念もある。環境を論じるには温暖化と密接に関わるエネルギー政策が欠かせない。衆院選でも争点となり、希望の党代表の小池百合子東京都知事は30年までの原発ゼロを主張。それなら代替エネルギーを示すべきだ。東日本大震災で原発を軸とする構成が壊れて6年半。思考停止を乗り越え、エネルギーの将来像を議論する時だ。

<農林漁業のイノベーション>
PS(2017年10月8日):*6-1に、「①地方銀行による農林業への融資残高が2017年3月末時点で約5400億円に上り、資金需要は拡大傾向」「②各行は農家への助言強化や農家が生産から流通までを手掛ける『6次産業化』を後押しするサービスを拡充し、需要の取り込みに躍起」「③強い農業には生産技術に加え、生産計画や財務管理といった企業経営で求められるノウハウが必要だ」と書かれている。農林漁業のイノベーションにも資金が必要であるため、①のように銀行が融資先として認識し始めたことはよいことで、②③に述べられている農林漁業の経営管理は非常に重要だが、無理に融資して貸しはがしすることにならないよう、銀行も情報収集力や人材を活かして農林漁業の得意先と一緒に育って欲しい。
 このような中、*6-2のように、「森林環境税(仮称)」を財源に市町村が管理の行き届いていない森林を整備し、担い手への集積・集約化を進める仕組みの構築を目指すとのことだが、CO2を吸収するのは森林に限らず、環境を汚している主体からはそれに見合った金額を徴収したいので、私は「環境税」という名前にした方がよいと考える。なお、木材の価格低迷で森林の所有者が森林を管理する意欲を無くしている点については、*6-3の大川のように、日本各地に家具の街があるため、これも伝統産業のイノベーションを行い、現代の住生活にあったおしゃれな家具を安価に作れるようにした方がよいだろう。何故なら、消費者は、自分の家に合わない家具やないものは欲しくても買えないのであり、この要求を満たせば輸出も可能だからである。


 2017.10.7西日本新聞

(図の説明:地方銀行の農林漁業への貸付残高、農林漁業金融公庫/日本政策金融公庫の農林水産事業への貸付が増え続けている。また、合板用材の国産割合も増加中だ)

*6-1:http://qbiz.jp/article/120196/1/ (西日本新聞 2017年10月7日) 地銀の農業融資5千億円超 大規模化、企業参入背景
 地方銀行による農林業への融資残高が2017年3月末時点で約5400億円に上ったことが7日、分かった。農業の担い手減少が続く一方、農家の大規模化や異業種からの企業参入を背景に資金需要は拡大傾向にあり、融資残高も年々増加している。各行は農家への助言強化や、農家が生産から流通までを手掛ける「6次産業化」を後押しするなどサービス拡充の動きを活発化させ、需要の取り込みに躍起だ。第二地方銀行協会などの集計では、第二地銀を含む地銀の13年3月末以降の農林業の融資残高は年100億円超のペースで増え、16年3月末時点で5千億円を突破した。長野県地盤の八十二銀行の17年3月末の農業融資残高は215億円で、前期から41億円伸ばした。農家との接点を増やそうと6次産業化や経営に関する講座などを開催。強い農業には生産技術に加え、生産計画や財務管理といった企業経営で求められるようなノウハウが必要だと訴えてきた。農業の専任担当者は「高い経営感覚を持った農家が増えれば、資金供給先も増える」と期待。企業から農業参入の相談があれば、経営計画の策定や、その後の販路開拓を後押しする。地域の基幹産業である農業に自ら参入して知見を蓄積しているのは鹿児島銀行(鹿児島市)。運転資金がかかる畜産向け融資も堅調で、17年3月末の残高は528億円と全国の地銀でトップだ。昨年9月に農業法人「春一番」を共同出資で設立し、銀行から出向した4人がタマネギとオクラを生産。「農業経営の理解が深まり、どうすれば稼げるかを考える意識が高まった」(鹿児島銀の担当者)といい、営業力強化へ増員を予定する。6次産業化を推進する西日本シティ銀行(福岡市)は農業融資の残高を17年3月期までの5年間で約16倍に拡大。宮崎銀行や常陽銀行(水戸市)、宮城県地盤の七十七銀行、北陸銀行(富山市)といった有力地銀も残高の伸びが目立った。

*6-2:https://www.agrinews.co.jp/p42095.html (日本農業新聞 2017年10月6日) 森林管理 委託を促進 所有者の責務 法で規定も 規制会議
 政府の規制改革推進会議は5日、農林ワーキング・グループ(WG、座長=飯田泰之明治大学准教授)の会合を開き、林業改革について議論した。「森林環境税(仮称)」を財源に、市町村が管理の行き届いていない森林を整備し、担い手への集積・集約化を進める仕組みの構築を目指す。管理が困難な所有者に市町村への委託を促すため、適正に管理する責務をいかに法的に課すかが焦点となる。年内に結論を取りまとめる方針。同会議では9月の初回会合で、今期の重要課題のひとつに林業の成長産業化を掲げ、年内に結論を出すとしている。具体的には、意欲ある林業経営者に、森林の管理を集積・集約化する仕組みの構築を目指し、こうした仕組みを補完する市町村の役割などを詰める。所有者が管理できない森林について、市町村が受託し、作業道の整備や間伐などをした上で、担い手となる経営体に再委託する仕組みを検討する。一方、こうした市町村の取り組み財源として、与党は2017年度の税制改正大綱で、18年度の税制改正で森林環境税を創設する方針を示している。焦点となるのは、森林所有者にいかに市町村への委託を促すかだ。農水省によると所有者の約8割は経営意欲が低く、さらにそのうちの7割は主伐の意向がない。こうした中で、自ら管理する意向がない所有者に、市町村への委託を促すため、所有者に対して森林を適正に管理する責務を法律で課すことを検討する。来年の通常国会での森林法改正か、新法の制定も視野に入れる。この日の同WGの会合では、総務省が森林環境税の検討状況を報告。財源の使途について、間伐や作業道の整備の他、森林の所有者を特定する調査にも充てるとした一方、地方公共団体からは、森林の状況に応じて柔軟な使い方ができる仕組みを求める声が上がっていると説明した。

*6-3:http://qbiz.jp/article/120204/1/ (西日本新聞 2017年10月8日) 1万点の家具 展示販売 大川木工まつり始まる
 家具のまちの秋恒例イベント「大川木工まつり」が7日、大川市酒見の大川産業会館と大川中央公園をメイン会場に始まった。市内外の家具メーカー約200社が最新の約1万点の商品を展示販売しているほか、木工体験などさまざまなイベントがある。9日まで。会館横の市文化センターでは、東京を拠点に国内外で活躍する男女2人組のアートユニット「ミレイヒロキ」さんが、市内の倉庫に眠っていたタンスやベッドなどに色鮮やかな花を描いて再生させた作品を展示。木工体験では、南米生まれの箱形楽器「カホン」を作るコーナーもあり、親子連れでにぎわっている。8日は午前10時55分から木工まつりパレードがあり、市出身の歌手大川栄策さんや俳優の陣内孝則さん、騎手の的場文男さんが市民約500人とともに練り歩く。酢の醸造蔵や製材所などを巡る工場見学バスツアー「職人めぐり」(無料)も実施する。大川商工会議所=0944(86)2171。


<農業とJRのイノベーション>
PS(2017年10月26、29日追加):農業は起伏のある広い土地を有しているため再生可能エネルギー生産の適地であり、*7-1のように、京大農学研究科とNTTデータ経営研究所が「エネルギー創造・利用型農業」の実用化・普及に向けた組織を立ち上げたそうだ。そして、京大付属農場は、既に透過光型の太陽光発電パネルを園芸温室の天井や妻面に貼って、農産物の生産性を落とさずに発電する実験を始めたそうで、早期の実用化が望まれる。これらの製品は、世界で受け入れられるに違いない。
 なお、発電した電力は消費地に送電しなければならないが、近距離ならNTTの線やガス管・水道管に併設した電線を使うことが可能だ。長距離なら、*7-2のようなJRが送電事業に進出して超電導電線を敷設するのがよいと思われる。つまり、JRが送電子会社を作って事業の多角化を行えば、連続した土地という既にある資産を使って収益を挙げることができ、駅ビル・マンション・大型開発地でも創電すれば、さらに収益拡大が可能だ。そうすると、鉄道利用者が少ない路線も貨物運搬や送電線敷設場所を兼ねて存続することができるだろう。
 さらに、*7-3のように、環境省は国立公園をドローンで空撮し、外国人観光客を増やすため外国に発信するそうだが、外国人だけでなく、(楽しみながら歩いた方が健康に良い)高齢者も対象とすれば利用者数が増える。そのため、高くない入場料をとる形で国立公園や国定公園内に遊歩道や乗り物を組み合わせて配置すればよいだろう。そこで、*7-2の耶馬日田英彦山国定公園内にある日田彦山線は、生活路線としてだけでなく、日本史のKeyである標高1200mの英彦山や日田を通る観光路線としても使い、鉄道沿線に、春は梅・桃・みかん・りんご・アーモンド・桜・菜の花、夏は大豆・蕎麦・ひまわり、秋は楓など、その地域にあった花と収穫を楽しめる植物を農林業や地域の人と協力して植え、絶景を作ればよいと思われる。
 




(図の説明:上の段の左からEVトラック、EV軽トラ、EV電車だ。また、下の一番左はBMWの自動運転車で、中央は自動運転車の仕組に関する説明である。そして、一番右の図は超電導電線の説明で、電動化・自動運転化の技術も既にあるため、JRはじめ多くの産業がこれらの技術を使ってコストダウンし、損益分岐点を下げるのは容易な筈である)

*7-1:https://www.agrinews.co.jp/p42292.html?page=1 (日本農業新聞 2017年10月26日) 「創エネ」組織を発足 農家の収益向上に 京大とNTTデータ経営研
 京都大学農学研究科とNTTデータ経営研究所は25日、農産物とエネルギーの両方を作る「エネルギー創造・利用型農業」の実用化・普及に向けた組織を立ち上げたと発表した。名称は「グリーンエネルギーファーム(GEF)産学共創パートナーシップ」といい、ヤンマーやパナソニック、和郷園、京都府など同日の時点で23団体が参加。京都府木津川市にある同大学付属農場を拠点とし、研究開発や制度設計、政策提言などをしていく。現在のエネルギー消費型の農業を、創出型に転換させる。そのモデルを、大学と産業界が提携して作り出す。農作物を生産するとともに、エネルギーを作る“創エネ”の考え方を農業に導入し、農家の収益性向上につなげる。具体的には、太陽光や風力、小水力、バイオマス(生物由来資源)などを利用した発電事業に農業者が参入しやすいように、大学と企業などで技術開発の共同研究や事業開拓を手掛ける。作物の生育に必要な色の光だけを透過させ、それ以外の光は発電に使うような太陽光発電システムの開発や、農業とエネルギーを一緒に作る「農・エネ併産」型農業の収益性の実証などを進める。「農・エネ併産」に必要な制度や政策の提言もする。企業や大学への研究支援にも取り組む。将来は農場で生産した電力や水素で農場の電力自給や地域へのエネルギー供給ができるような社会へとつなげる構想を描く。京都大学の付属農場では既に透過光型の太陽光発電パネルを園芸温室の天井や妻面に貼り農産物の生産性を落とさず発電する実験を始めている。GEFパートナーシップには、新興の電力会社、電気、通信、ガス関係企業の他、金融機関や農業法人などが参加。大学も、京都大学以外に5大学が入っている。今後も多くの企業や団体の参加を呼び掛けていく。NTTデータ経営研究所によると、欧州では化石エネルギーを大量に消費する今の農業を見直す方向にある。農場で農産物と併せて再生可能エネルギーを作り出し農産物のブランド化を目指す。

*7-2:http://qbiz.jp/article/121273/1/ (西日本新聞 2017年10月25日) JR九州上場1年、多角化で成長をけん引 被災や赤字線…鉄道事業には課題
 JR九州が東京証券取引所第1部に株式上場して、25日で1年。企業の合併・買収(M&A)による多角化や九州域外への進出など、鉄道以外の事業を積極的に展開、成長のけん引力になっている。一方で本業の鉄道事業は実質的に赤字が続き、地震や豪雨で被災、復旧のめどが立たない路線もある。上場企業として、鉄道事業の改革をどう進めるのか。2年目の課題は重い。広い敷地に、黄色い建設機械がずらりと並ぶ。世界最大の建設機械メーカー「キャタピラー」の九州地区での販売を担う「キャタピラー九州」(福岡県筑紫野市)。今月、JR九州が販売・リース事業を買収し、傘下に収めた。JR九州から出向した山根久資(ひさし)社長は「JR九州グループの建設会社への営業や、駅ビル工事などへのアプローチも積極的に進めたい」と、組織力を生かした経営に意欲を見せる。これまでもドラッグイレブンなど運輸関連とは異業種のM&Aを進めており、JR九州の青柳俊彦社長は「九州を元気にする事業、鉄道と相乗効果を生む事業で(M&Aを)考えていきたい」と、さらなる事業拡大を狙う。
    *   *
 困難視されていた上場を果たしたJR九州。原動力となったのは、事業多角化による収益の拡大だ。駅ビルやマンション、流通や外食など幅広い事業を手掛け、2017年3月期の連結売上高3829億円のうち、鉄道以外が約6割を占める。9月には、福岡市中央区の九州大六本松キャンパス跡地に複合施設の商業エリアをオープン。同社にとって初の沿線外での大型開発となった。青柳社長は「六本松で一つの実績ができた。応用する場所はたくさんある」と強調する。九州外での事業展開にも力を入れる。14年の東京に続き、今年6月には那覇市でホテルを開業。今後はアジアへの展開も加速する構え。タイ・バンコクに現地法人を設立し、ホテルなどを視野に不動産開発を本格化させる。
    *   *
 鉄道以外の事業が拡大を続ける半面、最大の課題は鉄道事業の収支改善だ。7月には路線ごとの輸送密度(1日1キロ当たりの平均利用者数)を初めて公表。現状を理解してもらい、鉄道網の在り方への意識を高めてもらう狙いだが、利用者の少ない沿線では廃線への懸念が募る。7月の九州豪雨で被災した日田彦山線では、復旧の見通しも示していない。青柳社長は赤字ローカル線に関し「今回のような大きな災害があった場合、ゼロから鉄道を造るようなもの」と指摘。日田彦山線については地元に現状などを説明し、意見を聞いた上で鉄道以外での輸送も検討する可能性を示唆する。沿線の自治体関係者は「JRから見れば利用者は少なくても、生活には重要な路線。早期の全線復旧を望む」と訴える。青柳社長は上場前の15年、国会で「路線の廃止は検討していない」と明言。一方で、不採算路線に対する投資家の厳しい目があるのも事実だ。地元や株主の理解を得ながら、いかにして鉄道の収支改善を図るか、経営手腕が問われる。

*7-3:http://qbiz.jp/article/121580/1/ (西日本新聞 2017年10月29日) 国立公園の魅力 ドローンで空撮 環境省、外国人向けに発信
 環境省は、国立公園を訪れる外国人観光客を増やすため、小型無人機「ドローン」を使って上空から動画を撮影、無料で配信する取り組みを始める。インターネット上での閲覧や海外のテレビ局に無償提供し、番組で紹介してもらうことを想定している。環境省が訪日外国人旅行者の誘致に向けて「国立公園満喫プロジェクト」に指定した8カ所を2017〜18年度に撮影する。17年度は阿寒摩周(北海道)、十和田八幡平(青森、岩手、秋田)など、18年度は阿蘇くじゅう(熊本、大分)、霧島錦江湾(宮崎、鹿児島)などが対象。それぞれ特徴となる美しい自然を収録する。撮影や編集は主にNPO法人「ネイチャーサービス」(埼玉県坂戸市)に依頼。動画は同法人のサイトなどにアップされる。公開時期は調整している。政府は20年までに訪日外国人旅行者を4000万人に増やす方針。関連して国立公園の訪日外国人利用者数を16年の546万人から、20年には1000万人まで増やす目標を掲げている。

<産業と社会のイノベーション>
PS(2017年11月1日追加):日本が先行のチャンスを失ったのは、*8-1の「量子コンピューター」だけでなく、EVもその一例だ。そして、先行する技術にケチをつけ、その技術をビジネスに結びつけて変革するのを妨げたのは、ほかならぬメディアと経産省だった。なお、創造は規則的なサイクルになってはおらず、サイクルだと考えること自体に意味がない。そして、企業は市場のニーズにあった事業を行い、市場によい提案を行い続けなければ、市場からそっぽを向かれ淘汰されて、世界の先頭に立つどころか技術も失うのである。
 そして、まず、*8-2のように、次世代エコカーはEVが中心でFCVが置いてきぼりになった状態を「雌伏」と表現しているが、「雌伏」とは「女性は負けて伏せる」という意味であるため、女性に対して失礼である。しかし、このように、メディアは女性蔑視用語を多く使い、「女性は劣った存在だ」という先入観を社会に広めているのだ。
 また、EVもFCVも、(1995年前後に私が電気自動車を提案して)日本発の技術だったのに外国に追随せざるを得なくなったのは、①EV用電池を改良することを考えずにEVの航続距離にケチをつけることに専念した ②部品点数が少ないEVの価格を高止まりさせた ③FCVの燃料である水素を再生可能エネルギーで水を電気分解して作るのではなく、輸入した化石燃料から作ることを考えた など、関係者があまりにも馬鹿だったからである。ちなみに、水素だけを作って皆で使うと「酸素不足」という公害が起きるため、再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を作り、一緒に発生した酸素も車内に放出するなどして使う必要がある。
 なお、EVの航続距離が延びた現在、仕組みが簡単で爆発の危険のないEVの方が、より乗用車に向いていることは明らかになった。しかし、FCVの開発は無駄だったわけではなく、大きな馬力を必要とするトラック・電車・飛行機などではFCVの出番も多いだろう。さらに、電車も新幹線まで含めてFCVにすれば、建設・維持コストを低く抑えることができる。そのような中、EV・FCVへのシフトでガソリン車の部品を作っていた会社が苦境とのことだが、現在の日本は、*8-4のように、(私の提案で)航空機を作ることも可能になったため、公害を出さない燃料電池を使った航空機部品を作れば、付加価値の高い仕事をすることができる。この時、輸入品で作るアルミ部品を使う必要はなく、炭素繊維を使って強く軽くした方が燃費にもよいのだが、日本企業は炭素繊維も含めていつまでも製品価格を高くしておくのが問題なのである。
 さらに、*8-3のように、長府工産が水素給湯器を事業化し、まず家庭用・小規模事業所向け給湯器として商品化するそうで、これも価格を安くして普及させれば規模の利益が得られるが、ここが技術をビジネスに繋げるポイントの一つだ。


  2017.11.1日経新聞       2017.11.1日経新聞      2017.11.1日経新聞

(図の説明:中国・インドなどの人口が多い新興国で論文数や基礎研究の伸びが著しいのは当たり前だが、日本は基礎研究力が減少し、応用開発力の伸びも小さいため、全体として革新力が低い。米国は1位を保っているため、違いが出る理由を明らかにして改善すべきだ)

*8-1: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171101&ng=DGKKZO22923560R31C17A0MM8000 (日経新聞 2017.11.1) 活路はどこに(1)瀬戸際の技術立国、新たな創造の循環を
景気回復や株高が続きながら、高揚感に欠ける日本社会。新産業を生み続ける米国や急成長する中国に押され「技術立国」の看板が色あせているためだ。問われるのは技術を生かし社会や産業を変革するイノベーション(革新)の力。世界は進化する人工知能(AI)など新たな産業革命のさなかにある。技術立国をどう再建するか。その挑戦がニッポンの未来のかたちをつくる。神奈川県厚木市のNTT物性科学基礎研究所。大型冷蔵庫よりも大きい箱型の「量子コンピューター」試作機を研究者が整備する。11月27日から公開し、顧客に無償で利用してもらうためだ。小さな粒子で起きる物理現象を利用する量子コンピューターを使えば、3年以上かかるデータ処理を理論上、1秒でできる。あらゆる機器にAIが載る時代の基幹技術で、西森秀稔東京工業大学教授が理論を提唱するなど日本が先行してきた。NTTは試作機の公開で実用化へ一歩進むが、世界はその先を行く。「未来へようこそ」。カナダ・バンクーバー郊外にあるスタートアップ企業、Dウエーブ・システムズの本社は垂れ幕で顧客を迎える。同社は2011年、世界で初めて量子コンピューターを商用化した。「ドクター・ニシモリがもたらした変革に我々は鼓舞されている」。営業部門トップのボウ・エワルド氏は笑みを交えて語る。Dウエーブ製は得意な計算領域が限られる「簡易型」だが、デンソーとの利用契約を決めるなど実績を重ねている。「性能は我々の方がずっと上だが、Dウエーブはマーケティングがうまい。日本はそこが弱い……」。NTTの技術者はこうぼやく。だが、世界が高性能の製品ができるまで待ってくれると考えるのは、楽観的すぎる。時代や市場の変化に即応し、革新を実現する経営力の貧しさがにじむ。日本は明治維新後、欧米の模倣(イミテーション)から出発し、技術を改良(インプルーブメント)して魅力的な商品を創ってきた。最近のノーベル賞ラッシュは日本が発明(インベンション)で力を持ったことの証左だが、それをビジネスに結びつけ、社会を変える革新力では後手に回る。日本の革新力は現在、世界でどんな水準にあるのか。日本経済新聞社は日米独中韓5カ国について、革新力を示す4つの指標を選び、06年と16年を比較した。日本は「稼ぐ力」を示す上場企業の営業利益の合計が11%増えた。しかし、7.3倍の中国などに遠く及ばず、伸び率は最低。産業の「新陳代謝力」を示す株式公開から10年未満の企業の時価総額は約半分に減った。「基礎研究力」を示す科学技術の有力論文数を推計すると、米中独韓は大幅に増えたが日本は2%減少。「応用開発力」を示す国際特許の出願も中国が追い上げ、日本は4指標を総合した「革新力指数」が伸び悩む。瀬戸際の技術立国・日本をどう立て直せばいいのか。同じコンピューター分野にヒントがある。「AIの利用が世界で広がれば、コンピューターを動かす電力が足りなくなる」。ペジーコンピューティング(東京・千代田)の斉藤元章社長はこんな問題意識でスーパーコンピューターの開発に取り組んでいる。世界のスパコン開発は13年以降、中国勢が計算速度で独走する一方、消費電力をどう抑えるかという難題が浮上する。ペジーなどスタートアップ2社は半導体回路を工夫し、機器を液体に直接浸して冷やす独自手法で電力消費を抑える。10月には、日本最速の計算速度と世界トップ級の省エネ性能を両立したスパコンを開発したと発表。技術ありきという発想を転換したことが日本を最前線に呼び戻した。市場のニーズに真摯に耳を傾け、「使われる技術」を生み出す新たな創造のサイクルを築ければ、日本は世界の先頭に立つ力があるはずだ。

*8-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13207933.html (朝日新聞 2017年11月1日) 燃料電池車、雌伏の時 「究極のエコカー」復権のカギは価格
 次世代エコカーの開発競争が電気自動車(EV)を軸に激しさを増し、水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)には逆風が吹きつける。インフラ整備が進まず、車両価格も高いためだ。FCVは、二酸化炭素(CO2)を出さない水素で走る「究極のエコカー」。巻き返しのチャンスはあるのか。「FCVへの我々の取り組みが後退したわけではない」。開幕中の東京モーターショーで、トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長は力をこめた。10月25日、報道陣向けのプレゼンで、「水素社会実現へのトヨタの『変わらぬ意志』の象徴」と語り、FCVのコンセプトカーを披露した。FCVは燃料電池で水素と酸素を反応させ、生み出した電気でモーターを動かして走る。トヨタは、電池の発電効率などを上げて、水素の充填(じゅうてん)1回で航続距離1千キロの実現をめざす。2014年末に世界で初めてFCV「ミライ」を販売したトヨタは、モーターショーでEVの試作車や、EV用次世代電池を開発する計画を打ち出した。ルロワ氏が強調しなければ、FCVに対するトヨタの姿勢に疑問符がついたはずだ。今回のモーターショーは、本格的なEV時代の幕開けを告げた。新たなFCVを出展しているのは、トヨタと独ダイムラーのメルセデス・ベンツぐらいだ。航続距離は日産自動車のEV「リーフ」の400キロに対し、ミライの650キロが上回る。一方、国内のインフラ数は、EVは約7100(急速充電)あるが、FCVは約100。車両価格はFCV700万円台、リーフは最安のグレードで約315万円。いずれも国などの補助金があるものの、EVの方が手が届きやすい。ベンツは、外部電源で充電もできるプラグインFCVを出展。水素による航続距離は437キロだが、備えたバッテリーだけでも49キロ走れる。水素が切れても走れ、インフラ不足をカバーする。来年から生産を始め、ドイツや日本、米カリフォルニア州などで販売する計画だ。FCV開発を担当するダイムラーのゲオルグ・フランク氏は、「長距離走行やバスやトラックにはFCVが向いている。いまもガソリン車とディーゼル車があるようにEVとすみ分けできる」とみている。FCVもEVもエコカーとして注目されるが、地球温暖化対策としては、どちらもまだ不十分だ。水素は、天然ガスなどの化石燃料からつくる方法が主流で、その過程でCO2が発生する。EVも石炭や石油など化石燃料でつくった電気を使えば、CO2の発生量を大きく減らせない。ただ、発電時にCO2を出さない原発の再稼働に慎重な日本にとって、水素は大きな可能性を秘める。風力や太陽光、バイオガスなど自然エネルギーを生かし、CO2を出さずに水素をつくる実験が全国で進む。究極のエコカーを実現できる供給網づくりもFCVの普及に急務となる。FCVの技術は日本勢の一部が優位に立つが、内外の他社も巻き込まないと広がりに欠ける。「クラリティ」を昨春発売したホンダは米ゼネラル・モーターズと組み、新たなFCVを20年ごろに投入する。こうした仲間づくりも課題だ。追い風もある。20年の東京五輪で水素社会の幕開けを世界に示そうと、政府は水素ステーションを160に増やす目標を立てる。九州大の佐々木一成・水素エネルギー国際研究センター長は「EVが注目を集めるいまはFCVにとって雌伏の時。東京五輪までには新型車が出てくる。インフラ整備を進めるためにも、車両価格をどこまで下げられるかが、FCV復権のポイントになる」と話す。

*8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22893630Q7A031C1LC0000/ (日経新聞 2017/10/31) 長府工産、水素給湯器を事業化 年明けに展示場・実験施設
 住設機器販売の長府工産(山口県下関市)は水素を燃料とする給湯器を開発、事業化に乗り出す。自社の石油給湯器の技術を応用、水素バーナーを製品化する。本社内に水素給湯器のほか燃料電池、蓄電池、モデルルームなどを備えた水素利用の実験施設を年明けをメドに設ける。水素燃料が一般に普及する前に先行して、生産技術を確立する狙いだ。トクヤマ、東芝燃料電池システム(横浜市)、岩谷産業などとのグループで昨年末に山口県周南市の水素型コージェネレーション(熱電併給)システムに納入した実験機の技術をもとにする。この際、水素と空気を混合してガスコンロのように円形に噴出し、点火する手法の水素バーナーを開発。炎の熱を水に伝える部分の構造は石油給湯器の方式を採用した。冷水から80度のお湯にする加温能力を確保した。今後は外装ケースの小型化と家庭用水素バーナーの構造を詰め、まず家庭用・小規模事業所向け給湯器として商品化する。価格は一般の石油・ガス給湯器並みの30万円以下を目指す。当面は災害用の水素ステーションを導入する予定の自治体や近隣の企業向けの販売を進める。水素は単位体積あたりの熱量がガスなどの3分1程度しかなく、燃料費は3倍とあって、現時点でコスト面で化石燃料の代替にはならない。水素給湯器は水素をエネルギー源として活用する「水素社会」を目指す自治体で必要な機器として提案する。将来は太陽光・廃棄物由来や、工場からの副生で得る水素を燃料とする発電・蓄電システムが普及するとみて、参入を決めた。今回、水素給湯器をはじめとする関連技術のショールームとして本社敷地内に実験施設を設けることにした。水素ボンベの収納庫、純水素型燃料電池、水素給湯器、水素由来の電力と湯を利用する設備としてシャワー室や洗面所、パソコンを置いたコンテナ型のモデルルームを設ける。家庭用蓄電池や電気自動車も置き、接続できるようにする予定。現在工事を進めており、年明けにもオープンできる見通しだ。長府工産は1980年に住設機器の商社と部品メーカーが統合して発足した。2017年3月期の売上高200億円のうち、9割超が他社製太陽光システムの販売で、残りが自社開発の給湯器、風呂釜、温水暖房製品になる。昨年から「フューチャー10」という長期計画を掲げ、メーカー機能を強化して売り上げの3割程度を占める構造としたい考えだ。水素関連の機器開発もその一環。
▼水素社会 エネルギー源を水素を中心とすることで二酸化炭素(CO2)排出ゼロとする社会。日本では経済産業省が2014年6月(16年3月改定)に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」をまとめた。第1段階は家庭用燃料電池、燃料電池車(FCV)の普及。家庭用燃料電池は30年時点で530万台、FCVは25年にハイブリッド車並みの価格を目指す。

*8-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13207896.html (朝日新聞 2017年11月1日) MRJ部品調達、神鋼から変更も 三菱重工が検討 
 三菱重工業は31日、開発中のジェット旅客機「MRJ」にデータが改ざんされた神戸製鋼所製のアルミ部品が使われていた問題で、部品の調達先変更を検討する方針を明らかにした。この日、東京都内で開いた2017年9月中間決算の会見で、小口正範常務執行役員が「(調達先を)今のままいくのか、変えるのかは当然検討の俎上(そじょう)にある」と述べた。米国などで試験飛行中のMRJは、垂直尾翼の付け根や胴体の骨組みの一部などに神鋼製の部品を使っている。「安全性に問題はない」(小口氏)という。また、MRJの設計見直しについて、三菱重工は同日、「秋までに完了させる」としていた従来の方針を事実上撤回した。ただ、設計の見直しが終わった部品から順次、製造を始めており、20年半ばに納入を始めるスケジュールは維持する。


<運転支援の標準装備へ>
PS(2017年11月4日追加)*9のように、「高齢ドライバーは症状を自覚していなくても認知症の恐れがある」などと言って免許の返納や取り消しを推奨するのは、人生100年時代に高齢ドライバーの足を奪い、家にひきこもらせ、意気消沈させて命を縮めるため感心しない。また、高齢者でなくても、居眠り運転・疲れ・飲酒運転・病気・よそ見、乱暴な運転などで交通事故を起こす人は多いため、世界に先んじてアクセルやブレーキを備えた車には運転支援機能を標準装備するという規制に変更すべきだ。

*9:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201711/CK2017110202000244.html (東京新聞 2017年11月2日) 認知症のおそれ 3万人 増える高齢ドライバー
 七十五歳以上の高齢運転者を対象にした認知症対策が強化された改正道交法が施行された今年三月十二日から九月末までの半年間に、検査で認知症の恐れがあると判定されたのが三万人超に上ったことが、警察庁のまとめで分かった。このうち、六百九十七人が医師に認知症と診断され、運転免許が取り消し・停止された。警察庁によると、施行からの半年で、百十一万七千八百七十六人(暫定値)が認知機能検査を受け、認知症の恐れがあると判定されたのは2・7%の三万百七十人。このうち免許の自主返納などを除き、七千六百七十三人が医師の診断を終えた。施行後半年で受診者が千九百三十四人だった昨年一年間の四倍増となった。認知症と診断されて免許が取り消された人が六百七十四人、免許が停止されたのが二十三人だった。ほかに医師の診断待ちなどが約一万人いるため、これらの人数はさらに増える見通し。七十五歳以上で免許を自主返納したのは、今年一~九月で十八万四千八百九十七人(暫定値)で、過去最多だった昨年一年間の十六万二千三百四十一人をすでに上回っている。「認知症の恐れ」と判定された人数を都道府県別で見ると、多いのは愛知の千五百三十六人、茨城、神奈川の千二百五十六人など。東京は八百十六人だった。警察庁は「医師会などとの協力で、改正道交法は円滑に施行されている。高齢ドライバーの増加を見据えて、さらなる対策を検討する」と説明している。
◆生活の足 支えが課題
 改正道交法の施行後半年で、認知症と判明して運転免許が取り消し・停止となった高齢ドライバーは、既に昨年一年間の人数を上回った。七十五歳以上の免許保有者は二〇二一年までに百万人増える見通しだ。事故防止への取り組みが急がれる一方で、高齢者の生活を支える視点も欠かせない。運転できる車種や時間帯などを指定する限定免許の検討など、運転能力に応じたきめ細かな対策が模索されている。昨年十月、横浜市港南区で集団登校中の児童に突っ込んだ軽トラックのドライバーは、認知症であることが事故後に判明した。当時八十七歳の男性は症状を自覚しておらず、小学一年の男児ら八人が死傷したものの「過失責任が問えない」として不起訴になった。警察庁では、昨年末に五百十三万人だった七十五歳以上の免許保有者は、二一年には六百十三万人になると推計。事故をどう防ぎ、日常の移動手段の確保など、高齢者の生活をどう支えていくかが課題になる。同庁は有識者らの検討会議を設置。初期の認知症などを念頭に、認知機能に応じた対策を調査研究するほか、アクセルとブレーキを踏み間違えても加速を抑える「安全運転サポート車」などに限定する運転免許に関して、海外事例などをもとに導入の可否を検討している。
<認知機能検査> 3年ごとの免許更新時に加え、更新前でも認知機能の低下が疑われる信号無視、逆走などがあった場合、受検を義務化。約30分の筆記検査で、指定の時刻を示すように時計の針を文字盤に書いたり、イラストを記憶して何が描かれていたかを答えたりする。点数に応じて「認知症の恐れ」「認知機能が低下している恐れ」「記憶力・判断力に心配がない」の3段階に分類。認知症の恐れがある場合は医師が診断し、認知症ならば運転免許が取り消し・停止になる。

<製品の社内検査に国家資格?>
PS(2017年11月9、10日追加):*10-1のように、EUの欧州委員会は、2017年11月8日、EU域内で販売する自動車のCO2排出量を、2030年に2021年の目標に比べて3割削減する規制を発表し、電気自動車(EV)などの環境対応車普及を後押しするそうだ。燃料の変更は、日本にとって最もメリットのあることで、日本の自動車メーカーは20年以上前から環境対応車を手がけるチャンスはあったため、2020年には、①新車はすべて環境対応車にする ②電力は再生可能エネルギー由来にする などが可能な筈で、いつも外国の後ろからあわてて追いかけることしかできないのは情けない限りだ。
 そのような中、日産自動車は(日本人ではない)ゴーン社長のリード下で、世界最初のEVを実用化したが、日本のメディアはEVの航続距離の短さや静かさなど、何でも悪くしか報じなかったのを、私は忘れていない。そして、EVは既に世界競争が始まっており、競争相手は日本のメーカーだけではないのに、*10-2、*10-3のように、1)日産自動車が無資格の補助検査員らに完成車両の検査をさせていた 2)補助検査員は正規検査員の判子を使って検査結果を記す書類に押印していた 3)国土交通省は、長年にわたり検査現場で組織的な偽装工作が行われていた疑いがあるとみて実態の解明を急いでいる 4)日産自動車検査員テストで解答を見せて受験させた などを問題にしているのである。
 私は、この報道が行われ始めた頃から、企業の工場内で行われる最終検査に国家資格が必要であることの方が異常で、今からEVを売り出そうとしている日産自動車への嫌がらせではないかと感じた。何故なら、①現在の平均的な車を前提としている国家資格を持っている従業員と持っていない従業員の間で、日産車の検査能力に有意な差があるとは思われず ②仮に国家資格を持っていたとしても、企業に従属している企業内資格者が検査すれば独立性はない上 ③企業は製造物責任があることによってユーザーから厳しく評価されている からであり、1)2)3)は、電気製品などの工場内最終検査に国家資格が必要ないのと同様、国土交通省のシステムの方がおかしい。そして、あまり意味のない資格なら、4)のように、日産自動車が検査員テストで解答を見せて受験させたのはよいことではないものの、その国家資格に意味を感じていなかったことが原因とも考えられる。
 このような中、*10-4のように、中国は、「中国資本の出資比率50%以上」という合弁規制を緩和し、自由貿易区で新エネ車等をつくる場合に限り自由化して高度技術を持つ外資を誘致する政策に変更したそうだ。そのため、これまで外資が経営権を握れなかった規制が解除され、外資系メーカー主導の現地生産が可能になるため、日産などは中国の自由貿易区で新エネ車を作って輸出した方がやりやすい上、種々のコストが下がる。ここで、中国の賢さは外資のノウハウを入れつつ遅れていた自国の産業を育成し、自国企業に競争力がついた時点で外資と競争させて産業を高度化しようとするビジョンがある点で、日本の愚かさは優良企業を技術付で追い出そうとしているビジョンのなさである。
 なお、日本のメディアはあまり報じなかったが、*10-5のように、トランプ米大統領が来日された際に、2017〜2018年に米国と協力して石炭火力発電所と原発の建設を世界に広げることに合意したのであれば、日本は温室効果ガス削減にも消極的であるため、「化石賞」に選ばれたのは尤もであり、馬鹿にも程があると言わざるを得ない。


                               2017.11.7東京新聞
(図の説明:1番左の図のように、CO2排出量の総量は中国が世界一だが、一人当たりのCO2排出量は米国・韓国・ロシア・日本と続く。そのため、左から2番目の図のように、意識の高い国はEV化を進めて内燃機関を禁止しつつある。従って、次世代環境車はEVが中心になると思われ、右から2番目のグラフはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の伸びを高く見積もりすぎている。その結果、日本では、一番右の図のように、EVのホープを追い出そうとしているが、これは太陽光発電のシャープが追い出されたのと同じ愚かな構図だ)

*10-1:http://qbiz.jp/article/122338/1/ (西日本新聞 2017年11月9日) EU、車CO2排出量3割削減へ 30年、EV普及促す
 欧州連合(EU)の行政執行機関に当たる欧州委員会は8日、域内で販売する自動車の二酸化炭素(CO2)排出量に関する規制を発表し、2030年に21年の目標値に比べ3割の削減を要求した。ガソリン車やディーゼル車では達成が難しいとみられ、電気自動車(EV)など環境対応車の普及を後押しするのが狙い。日本メーカーも対応が求められる。日本政府による今後の排出量目標にも影響を与えそうだ。地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」の策定で中心的な役割を果たしたEUの環境規制は世界で最も厳しいとされる。欧州委には、これを一段と強化し温暖化対策をリードしたい思惑もある。EUの乗用車のCO2排出量目標は21年が1キロ走行当たり平均95グラム。欧州委は25年にこれを15%、30年に30%それぞれ減らすとしている。日本の環境省によると、日本は20年に122グラムを目標としており、中国が20年に117グラム、米国は25年に97グラムとなっている。フランスは40年までに石油を燃料とするガソリン車やディーゼル車の販売終了を目指す方針を表明している。ただ、規制導入には加盟各国や欧州議会の承認が必要で、協議は曲折も予想される。大手自動車メーカーが本社を構えるドイツなどが反発する可能性がある。欧州自動車工業会は30年のCO2排出削減量は21年比で2割が妥当だとの考えだ。

*10-2:https://mainichi.jp/articles/20171005/k00/00m/020/063000c (毎日新聞 2017年10月4日) 日産 組織的偽装か 検査しない有資格者の印
 日産自動車が無資格の補助検査員らに完成車両の検査をさせていた問題で、正規の検査員が自分の判子をあらかじめ補助検査員に渡していたことが4日、分かった。補助検査員は正規検査員の立ち会いなしでこの判子を使い、検査結果を記す書類に押印していた例があった。国土交通省は、長年にわたり検査現場で組織的な偽装工作が行われていた疑いがあるとみて実態の解明を急ぐ。日産は、神奈川、栃木、京都、福岡にある国内すべての完成車工場で、正規検査員に交じって補助検査員が日常的に出荷前の最終段階の検査を行っていた。最終検査は、1台ごとに8人程度で分担。ブレーキの利き具合などをチェックするもので、検査を通らないと出荷できない。日産によると、全国で正規検査員は305人、補助検査員は19人いる。補助検査員が検査する際、書類への押印も含めて正規検査員が立ち会うが、不在時には補助検査員が自分1人だけで押印した例があった。書類上は複数の項目の検査を1人の検査員が同時に行ったことになり、書類を調べた国交省が不自然さを指摘して発覚した。国交省は3日、京都と栃木両工場に抜き打ちで立ち入り調査を行った。今後、他工場でも実態把握を進める。日産は既に在庫約3万4000台の再点検に着手。週内に計24車種を対象に販売済みの約121万台のリコール(回収・無償修理)を届け出る。原因究明と再発防止策を10月末をめどに報告する。

*10-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201711/CK2017110702000118.html (東京新聞 2017年11月7日) 【経済】日産、検査員テストで不正 解答見せ受験させる きょう生産再開
 日産自動車は六日、新車の無資格検査問題を受け停止していた国内向けの生産と出荷を、七日から順次再開すると発表した。再開が決まったのは完成車を組み立てる全六工場のうち、グループのオートワークス京都(京都府宇治市)を除く五工場。また第三者調査では、正規検査員を認定するテストで解答を見せ受験させるなど教育面の不正が六工場であったことが分かり、国土交通省はこれらの問題是正を再開の条件とした。国交省の検査で不正が発覚してから約一カ月半ぶりに事態が正常化へ向かうが、ずさんな品質管理体制が改めて浮き彫りになった。日産によると、追浜工場(神奈川県横須賀市)など五工場が、部品メーカーからの調達を含む準備が整い次第、生産と出荷を始める。国交省は各工場に立ち入り検査をした結果、生産体制について一定の見直しが進んだと判断した。関係者によると、正規従業員が出荷前の最終検査に携わる運用を確実にするため、当面は以前より生産ペースが大幅に落ちる可能性があるという。新たに判明した不正は、試験で解答を見せたことに加え、本来七十二時間が必要な受講時間を短く済ませた例があった。日産は時期や規模を明らかにしていないが、正規検査員約三百人全員への再教育や再試験を実施し始めたという。また、各工場で検査スペースを独立させ週一回の外部監査を行い、現場で適正に運営されているかどうか確認する。日産の無資格検査は九月十八日の国交省の立ち入り検査で発覚。公表後も不正が続いたことが判明し、十月十九日に国内向け生産、出荷の全面停止を発表した。国交省は今月六日にオートワークス京都を立ち入り検査し、これで不正が発覚した国内全六工場に検査が入った。京都も対策が十分だと認定されれば、生産と出荷を再開する見通し。

*10-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13221582.html (朝日新聞 2017年11月10日) 中国、車の合弁規制緩和へ 自由貿易区の新エネ車に限定
 中国外務省の鄭沢光次官は9日、中国資本の出資比率が50%を下回らないという自動車メーカーの合弁規制を、自由貿易区で新エネルギー車などをつくる場合は試験的に自由化すると述べた。外資系メーカー主導の現地生産が可能となりそうだ。2018年6月までに実施する。国営新華社通信が報じた。既存の規制は、外資が経営権を握れない点が問題視されていた。中国の習近平(シーチンピン)指導部は19年から自動車メーカーに、電気自動車など一定量の新エネ車の製造・輸入を義務づけるなど、新エネ車大国化を推し進めている。出資比率を緩和することで高度な技術を持つ外資を誘致。現地企業と競争させて中国の自動車産業を高度化しようとしている。新華社通信によると、鄭次官はこの日、米中首脳会談の成果について記者団に説明する席で、出資比率の規制緩和を明らかにした。

*10-5:http://qbiz.jp/article/122452/1/ (西日本新聞 2017年11月10日) 日本、化石賞をダブル受賞 石炭火力広げ、目標消極的
 世界の環境保護団体で組織する「気候行動ネットワーク」は9日、地球温暖化対策の前進を妨げている国を指す「化石賞」に、日本と、「先進国」をそれぞれ選び、ドイツ・ボンの気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)会場で発表した。日本は先進国にも含まれるため、不名誉な化石賞のダブル受賞となった。日本が単独で選ばれた理由は、トランプ米大統領が来日した際、2017〜18年に米国と協力して石炭火力発電所と原発の建設を世界に広げることに合意したため。先進国は、歴史的に温室効果ガスを大量に排出してきたにもかかわらず、削減目標の引き上げに消極的なため。

| 経済・雇用::2016.8~2017.12 | 04:39 PM | comments (x) | trackback (x) |

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