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2013.4.29 科学オンチばかりでは、こういう馬鹿なことをするという事例
      
    水素燃料電池車      エネファーム            屋根用太陽光発電
 「原発がほとんど稼働していないため、政府は2020年の温暖化ガス排出量を1990年比で25%削減する目標の撤回を、5月に国連に通知する方針を固めた」という*1の記事内容は、原発もしくは化石燃料を燃やして発電することしか考えられない人の言うことで、私は驚いた。さらに驚いたことは、そこには、CO2による地球温暖化よりも、原発事故による大規模な放射性物質の放出の方が環境によいという判断があったことだ。この記事は、「だから、原発が必要だ」という、前からある言い訳のようでもある。

 自動車を電気自動車や水素の燃料電池車にすれば、CO2は全く排出されず、地熱発電や汐潮発電を使えば、その水素もCO2排出なしで作ることができる。また、住宅に太陽光発電をつけ、水素による発電装置も併設しておけば、家庭もCO2を排出しないだけでなく、電力供給源となり、わが国のエネルギー自給率が上がる上、国民が支払うエネルギー代金は下がり、災害時の危機管理にもよい。つまり、エネルギーを得る仕組みを変える覚悟があれば、2020年の温暖化ガス排出量を1990年比で25%~30%削減する目標を達成した上、2030年には50~80%削減することさえ可能なのである。そして、これにより、意味のある雇用も生まれる。要は、やる気があるかないかの問題であり、私が首相だったら、世界にそう宣言してばく進するところだ。

 従って、*2の「『3本の矢』の最後の1つである成長戦略」には、エネルギーに関する上記目標も掲げ、そのためのあらゆる努力をすべきだ。そうすることによって初めて、わが国の技術が外国より先んじて開発されたことの成果を得ることができる。わが国の技術が最初に開発されたものでも、わが国が、その成果を得ることができないのは、科学オンチの利害関係者ばかりで政策を決め、外国で実現されたのを見てあわてて追随するという行動パターンをとってきたからである。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130425&ng=DGKDASFS2403G_U3A420C1MM8000 (日経新聞 2013.4.25)
温暖化ガス「25%削減」撤回通知へ 政府、10月めど新目標
 政府は2020年の温暖化ガス排出量を1990年比で25%削減する目標の撤回を、5月に国連に通知する方針を固めた。原発がほとんど稼働していない現状を踏まえて10月をめどに達成可能な新たな目標を定め、11月にポーランドで開く第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)で表明する。温暖化対策に積極的な姿勢を示しながら、エネルギーの安定供給を図る。 25%の削減目標は09年9月に民主党の鳩山由紀夫首相(当時)が国連気候変動首脳会合(気候変動サミット)で表明した国際公約。10年1月に気候変動枠組み条約事務局に提出した。政府は5月をメドに同事務局に削減目標を「COP19までに見直し、新たな目標を提出する」という文書を出し、正式に撤回を通知する。同時に「削減目標を見直している間もこれまでと同等以上の地球温暖化対策を進める」方針も伝える。新しい削減目標では(1)13~20年の原発の稼働状況の見通し(2)20年以降の目標――なども検討対象だ。中央環境審議会(環境相の諮問機関)の地球環境部会で8月にも温暖化ガス排出量の試算を提示。10月中に地球温暖化対策推進本部(本部長・安倍晋三首相)で原案を了承し、意見公募を経て11月に閣議決定する。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130428&ng=DGKDASFS2701X_X20C13A4PE8000 (日経新聞 2013.4.28)
成長戦略、集約に課題 会議乱立で議論拡散も  6月決定へ具体策づくり急ぐ
 政府は大型連休明けから、経済政策の「3本の矢」の最後の1つである成長戦略の取りまとめを本格的に始める。安倍晋三首相は夏の参院選を意識し、女性の活用や農業活性化策などを掲げる構えで、6月中旬に閣議決定する段取りを描く。ただ首相官邸には各分野の対策を検討する会議が乱立し、議論は拡散気味。首相がどう手綱を引くかが成果を左右する。「民間議員の提言を受けた成長戦略の具体策を出してほしい」。古谷一之官房副長官補は26日午後、内閣府の5階に経済産業省や厚生労働省などの幹部を集め、具体策づくりを急ぐよう求めた。
◆「連休返上しかない」
 成長戦略は大胆な金融緩和、積極的な財政出動に続く柱。産業競争力会議は23日で主な論点の議論が一巡し、次回から取りまとめに入る。古谷氏の指示は菅義偉官房長官らの意向を受けたとみられる。別の閣僚も関係省庁に「今までの焼き直しのようなものを出しても国民は満足しない」と迫った。経済官庁幹部は「連休返上で働くしかない」と話す。成長戦略への評価は、参院選の行方も左右しかねないだけに、首相自身も国民の関心を引きつけるのに躍起だ。19日には記者会見で、成長分野と位置付ける医療や女性に関する政策を自ら説明。5月中旬にも首相が会見を開いて新たな分野の目玉策を打ち出す。日銀の黒田東彦総裁が予想を超える大胆な金融緩和で市場を驚かせたように、成長戦略でも世論の関心を呼ぶ施策を並べたい思惑が透ける。とはいえ政治家の掛け声とは裏腹に、政府内には「小出しにしていれば6月に新しいタマを出すのは難しい」(経済産業省幹部)との声が出ている。
◆方向性の違い表面化
 それぞれの会議の方向性の違いも表面化している。産業競争力会議では竹中平蔵慶大教授ら民間議員が提言した東京・大阪・愛知の三大都市圏を中心に規制緩和や税制優遇に取り組む「国家戦略特区」を推進する方針を打ち出した。一方、経済財政諮問会議の民間議員は都道府県ごとの「47特区」の検討を提言した。18日の諮問会議では、ベンチャーキャピタル会社を経営する原丈人氏の提案を受け、企業が成長の恩恵を広く社会に還元する「日本型資本主義」を議論する専門調査会の設置を決定。規制改革の推進などを主張する竹中氏らと意見を異にする。意見集約は難航しそうだ。甘利明経済財政・再生相は成長戦略の調整にあたる事務局長代理に経済産業省の局長を招き、事務局をテコ入れした。「みんなが納得できる戦略は無理」(内閣官房幹部)との見方が強い中、経済成長につなげる戦略を打ち出せるのか。首相の指導力が問われそうだ。

| 資源・エネルギー::2013.4~2013.10 | 12:02 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.27 漁船も早く省エネ化・クリーンエネ化して、毎回、原油価格高騰で影響を受けないようにすべきだ。
                  
 *1の呼子港に係留されたイカ釣り漁船    *2より              *3より

 私が、衆議院議員をしていた2005~2009年の間にも、農業(施設園芸)と漁業が燃油の高騰で廃業寸前になったということで、燃油に補助をつけたことがある。しかし、第一回目は仕方がないとしても、何度も同じことにならないよう、工夫して省エネ化、クリーンエネルギー化しておいてもらいたかったというのが、*1の記事を見た時の私の本音だ。そして、これは、他のどの産業でもやっていることである。

 そのため、前回も、①船をハイブリッドにしたらどうか ②水素燃料にしたらどうか 等々、私は、船に関する提案をしたが、その頃は漁船にまだそういうものがなく、漁業者には漁船を交換する余力も残っていないなどのネックがあった。また、イカ釣り船の明かりもLED電球にしたらどうかと思う。そのため、*1を見て、私が思ったことは、まだ改善されていないのかということだった。

 川口さんは、イカで工夫して新製品をいろいろと出して来られた方だが、一斉休漁は連休とは関係のない日にした方が、せっかく漁業の6次産業化で協力してくれている古賀さんに苦労をかけずにすんだのにと、私は思っている。*2のように、連休前という稼ぎ時に一斉休漁されても、古賀さんの料理店は、何とかイカ料理を出し続けておられるが、一斉休漁の報道で、売り上げが落ちるだろう。「風が吹けば桶屋が儲かる」式に、いろいろなところに波及するのが経済なのである。

 しかし、A重油を使うと港の水を汚し、かつ、原油価格で一喜一憂しなければならない。そのため、*3のように、漁船も、早く省エネ化やクリーンエネルギー化して、燃料費を節約するように進歩すべきだ。そして、わが国の健康によいたんぱく質の自給率を上げている漁業者がやりやすいように、これには、国、造船会社、銀行、リース会社なども協力してもらいたい。

*1: http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130426-OYT1T01416.htm
(読売新聞 2013年4月26日) 燃料高騰に悩むイカ釣り漁船、支援求め一斉休漁
 円安の進行による燃油代の高騰に苦しむ全国のイカ釣り漁船が26日、一斉に休漁に入った。イカの生き作りで有名な佐賀県唐津市の呼子(よぶこ)漁港では、日が暮れても漁船がずらりと並んだまま。県内のイカ釣り漁業者団体の川口安教(やすのり)会長(53)は「燃油代高騰で漁師の生活はますます切迫し、もはや死活問題だ」と訴えた。27日までの一斉休漁には、漁が最盛期を迎えた西日本を中心に約1500隻が参加するという。水産庁によると、燃油代は今年4月時点で1キロ・リットルあたり9万6600円で、円安が進む政権交代前の昨年11月時点より1万円以上高いという。国は高騰分を穴埋めする基金を作っているが、漁業団体は一層の支援を求めている。

*2: http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2444175.article.html
(佐賀新聞 2013年4月27日) イカあります、安心して 呼子・唐津の料理店
 全国いか釣漁業協議会の要請を受け、唐津・玄海地区のイカ釣り漁業者は26日、一斉休漁に入った。イカの町で知られる呼子などで操業する200隻が終日港に停泊し、27日まで燃油価格高騰に「沈黙の抗議」を続ける。イカ料理店などは一年で最もにぎわう大型連休を控え、事前に多めに仕入れて対応。休漁の影響はない見通しで、関係者は「安心して足を運んで」と呼び掛ける。一斉休漁の計画が発表された23日以降、呼子の料理店や旅館には予約客や旅行会社などから問い合わせが相次いだ。24日までに30件を超えた店もあり、中には「イカがなければ、キャンセルしたい」という電話もあった。唐津上場商工会によると、呼子や近隣の料理店、旅館では今週末分のイカはほぼ確保できているという。同商工会会長で料理店を営む古賀和裕さん(57)は「休漁は2日間だけ。28日からは通常通り漁に出るので、しけがない限り、大型連休後半も問題ない」と話す。2008年の一斉休漁の時には「イカ不足」の風評が広がり、客足が遠のいた。「観光客の目的はイカ。足りないと誤解されれば、呼子は観光の目的地から外れる」と古賀さん。同業者らでいけすに泳ぐイカをフェイスブックなどに掲載し、「生き作りあります。安心して来店して」とPRしている。一方、漁船の燃料に使うA重油価格は23日現在、推定で1キロリットル当たり9万2400円。半年で1万円以上値上がりした。呼子は活魚業者や飲食店と直接取引する漁業者が多く、イカの相場は1キロ2300~2500円という。休漁した呼子の漁業者(51)は「昨日捕れたイカは5・5キロ。これでは油代の半分にもならないが、買い手がいてこその漁師。多くの客が来るこの時期の休漁はつらい」と複雑な心境をのぞかせた。

*3:http://hon-ga-suki.at.webry.info/200805/article_20.html
(日本の未来を語りたい 2006年11月22日) 世界初船に水素動力 環境配慮、“廃棄物”を利用
 水素を燃焼させた動力を使った船舶水素エンジンの開発を、山口県下関市の水産大学校と同市内の船舶会社などでつくる産学連携組織「水素エンジン船舶研究会」(代表幹事=松浦福太・日本海洋産業社長)が取り組んでいる。水素エンジンは自動車では実用化されているが、船舶では世界初の試み。水素エンジンは燃焼後、水が排出されるため燃料エンジンに比べて、環境に優しいなど利点も多く、海外からも注目されている。同研究会は21日、水素エンジンを付けた船の公開試験をした。同研究会は、燃料の水素は、同県周南市や宇部市などの化学工場がカセイソーダを精製する際に大量に排出される水素の供給を視野に入れている。各工場が酸素と燃焼させて処理している“廃棄物”の有効利用も可能としている。開発中のエンジンは船外型(10馬力)と船内型(20馬力)の2種類。同研究会は2004年4月に発足、2年がかりで開発した。公開試験には、アイスランドの政府関係者や韓国、台湾からエネルギー事業関係者ら約100人が立ち会った。船外型は軽やかなエンジン音を響かせながら海面に滑りだしたが、船内型は構造上の問題から航行できなかった。開発を手掛ける同大の江副覚教授(水産・海洋機械工学)によると、実用化に向けた課題として、水素の安全性の確保やエンジン性能などが挙げられるという。江副教授は「燃料確保などの課題を克服して研究を重ねたい」と話している。

| 農林漁業::2013.6~2014.1 | 05:12 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.26 通貨の量的緩和のみでは、国民の資産や収入を守らず、国民生活を豊かにできない。それは、バブルの再来にすぎない。(2013.4.27最終更新)
(1)金融緩和の本質
 この頃、*1、*2のように、「デフレ脱却のため、2%の物価上昇が目的で、大胆に金融緩和を行う」というフレーズをよく聞くようになったが、これは目的がおかしい。金融は、実物経済の裏側であり、金融が実物経済を誘導することはできないのだ。確かに、MV=PY(M :貨幣供給量 、v :貨幣の所得流通速度 、P :価格水準、Y :産出物の数量)という現象はあるが、これは、現象を数式で説明したものにすぎず、「貨幣供給量が増えれば、産出物の数量が増える(=景気がよくなる)」という因果関係を示したものではない。そして、実物経済が発展して産出物の数量が増加している時には、それに見合った通貨量を供給しなければ経済がうまくまわらないことを説明している式にすぎないのである。

 そのため、簡単な例で説明すれば、円の量が2倍になれば、物価が2倍になり、円の購買力が1/2になるため、株価や外貨が2倍になるということで、現在、円安、株高になっているのはそのためである。これは、誰でも、机の上に金を積まれたからといって、国内に有効な投資先がなければ、土地か株か外貨を買って目減りしないようにするのと同じことが、ミクロの行動を足し合わせたマクロでも起こっているということだ(*3参照)。これが行き過ぎると、バブルになる。

 よく言われるように、「足し合わせれば変質する」ということはないと、私は考える。金融緩和による上記の現象が起こる中で、何か変質するものがあるとすれば、為替や株で儲けたような気になって散財する人がいるので、土地や高級品が売れるということである。また、円安になるので、輸出企業の円換算後の利益が増える。しかし、同時に、預金や収入の購買力は1/2になっているため、通常の消費者は節約しなければやっていけず、通常の消費財販売高は減る。これにより、多数の年金需給者や低所得労働者から、どこかへ所得移転が行われる。それはどこかと言えば、借入金の価値も1/2になるため、借入れしていた人は1/2しか返さなくてよいという徳政令が出たのと同じ効果があって、借入金が多いのは政府と企業なのである。

(2)金融緩和のもう一つの影響
 *4のように、給与所得者の収入が物価と連動して上昇しないのは、明らかである。一部、賃金を上げた会社もあるようだが、それは正社員の給料にすぎない。全労働者の給与所得が、物価上昇と比較してどれだけ上昇したかは、来年、統計をとらなければわからないが、単に金融緩和をしただけでは生産性が上がるわけではないので、給料を上げるわけにはいかないのが道理だ。もし、①緩和された資金で電力改革を進めて国産の安い電力を供給できるようにする ②農業改革を進めて農業の生産性を上げられるようにする ③東日本大震災後の東北を、革新的な形で復興して今までとは異なる高い生産性を上げられるようにする など、実物経済で本当に意味のある投資が行われ、実物経済での生産性が上がれば、初めて経常的に労働者の所得を上げることができるのである。景気対策と称する単なるばら撒きを幾ら続けても、同じことが繰り返され、国民を豊かにしないということを、改めて言っておきたい。

 さらに、バブルで土地の値段が上がれば、都市部はさらに住みにくく、事業もしにくい場所となるのは、前回のバブルで経験済みである。

(3)1ドル=100円の為替レートは円安か
 では、1ドル=100円の為替レートは円安かと言えば、リーマンショックの後、アメリカも中国も金融緩和を行って、景気を下支えした。しかし、日本は、財政健全化を行って金融緩和は行わなかったため、円が強くなり、2013年3月には、1ドル=70円台まで行ったのである。しかし、直近5年では、1ドルは100円前後で推移しており、1ドル=70円台では、輸出企業がどんどん日本を離れ、部品メーカーには生き残るところが少なくなる。そのため、私は、1ドル=100円程度が日本の実力だと思っている(http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2013/04shihyou/shihyou3-2.pdf#search='%E7%9B%B4%E5%89%8D3%E5%B9%B4%E3%81%AE%E5%86%86%E3%83%89%E3%83%AB%E7%82%BA%E6%9B%BF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E6%8E%A8%E7%A7%BB' 参照)。もちろん、輸入企業には、円安では困るというところが多いが、日本の実力以上の円高は単なるボーナスだったにすぎないため、1ドル=100円程度の為替レートには耐える、輸出企業がやってきたような企業努力はするべきである。

PS(2013.4.27追加):なお、*5のように、インフレターゲットの設定を主張している人は、「日銀がインフレ目標を設定して大量にお金を供給すれば、人々がインフレを予想して早めに買い物をするため、景気が良くなる」と言う。しかし、インフレを予想したから早めに買えるような物は、家や車など緊急性のないものであり、全体として最も消費金額の大きな毎日消費する消費財は、早めに買ったり先に延ばしたりすることはできず、インフレ状況下では多くの人が節約して消費を控えるものである。そのため、この仮説は当たっていないと思う。それにもかかわらず、このような仮説が出て信奉される理由は、日本では、政策を決定したり、経済について論じたりする人の殆どが男性であり、家や車などの耐久消費財には関心があっても、毎日の消費財については奥さんに任せて家計すら見たことがなかったり、金持ちで毎日の消費について考慮する必要もない人が政治家に多かったりするからである。  ラーメンおにぎりハンバーガーパンカレージュースビール

*1:http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC04009_U3A400C1MM0000/?df=2&dg=1  (日経新聞 2013/4/4) 日銀が新緩和策 資金供給2年で倍 日銀、大胆な政策転換 黒田総裁初の決定会合
 政策転換を訴えるため新たな政策の枠組みの導入も話し合う。黒田総裁は国会答弁で「資産買い入れ基金」と「通常の国債購入枠」の統合を明言している。「物価上昇率が2%に達するまで緩和を続ける」などと約束することも議題となる。詳細な制度設計には時間を要する場合もあるため、議題によっては4月26日の次回会合に結論を持ち越す可能性もある。市場では4日朝から緊迫した空気が漂った。あるメガバンクの外国為替取引を担当する部署では朝の会議で、想定される緩和策と相場の動きを念入りに点検。為替ディーラーは「どのような緩和策が出るにしろ、相場の反応は未知数だ」と緊張気味に語った。新たな枠組みの詳細設計が次回会合に持ち越しになるとの見方もあり、4日午前の日経平均株価は急落。「これで向こう1、2週間は荒っぽい展開が避けられない」。大和証券の成瀬順也チーフストラテジストは目先の相場の波乱を警戒していた。「外国人投資家からは小口の売りが出ている。ただ『日銀の会合で何か好材料が出るかもしれない』という期待は残っており、様子見ムードも強い」。ソシエテジェネラル証券で株式売買の仲介を担当する小原章弘ディレクターはこう話した。

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL150KY_V10C13A4000000/?dg=1
(日経新聞 2013/4/15) 日銀総裁、物価目標「2年程度で」 支店長会議
 日銀は15日、東京・日本橋の本店で各地の経済情勢を報告する支店長会議を開いた。挨拶で黒田東彦総裁は4日に導入した「量的・質的金融緩和」を巡り、「2%の物価安定目標を2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に実現していく」と改めて示した。金融緩和策の波及経路として長期金利の低下や資産価格の上昇を挙げ、「市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる」と強調。「実体経済に表れ始めた前向きな動きを後押しするとともに、高まりつつある予想物価上昇率を上昇させ、日本経済を15年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えている」と述べた。足元の景気動向については「下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられている」と説明。先行きに関しては、内需と海外経済の回復を背景に「緩やかな回復経路に復していく」との認識を示した。また市場について「グローバルな投資家のリスク回避姿勢の後退や国内の政策期待によって、金融資本市場の状況は好転している」と語った。

*3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130408&ng=DGKDASGC0700D_X00C13A4NN1000
(日経新聞 2013年4月8日) 三菱UFJ、海外強化 米で不動産融資買収、優良資産増やす
 三菱UFJフィナンシャル・グループがドイツ銀行から米国の不動産融資事業を買収するのは、強みを持つ米国を伸ばして海外展開を加速させる狙いだ。欧州銀は金融危機や債務問題の影響で資産売却を進めており、財務基盤が強い邦銀が受け皿になってきた。優良資産を積み増して収益力を押し上げる動きが続きそうだ。3メガ銀の2013年3月期決算は最終利益が2兆円に達し、7年ぶりの高水準となる見通し。ただ、国債売買益頼みの収益構造となっており、日銀の新たな量的緩和で貸し出し利ざやの低下も必至。各行とも海外事業の拡大が課題となっている。三菱UFJは高い成長が見込めるアジアと、もともと強みを持つ米国を強化する方針だ。アジアでは昨年末にベトナム大手銀への出資を決めた。米国は3メガ銀の中で唯一、米地銀を傘下に持ち、非日系企業など顧客基盤が厚い。将来的には規模や収益で全米トップ10入りを目指している。欧州銀行の資産売却は規模拡大をめざす邦銀にとって好機といえる。国際通貨基金(IMF)は昨年、欧州銀の資産圧縮規模が13年末までに最大で4.5兆ドルに上ると予想した。いったん落ち着いた欧州債務問題がキプロスを巡る混乱などで再燃の兆しもあり、今後も売却案件が出てきそうだ。

*4:http://www.47news.jp/CN/201304/CN2013042101001767.html
(共同通信 2013/4/21) コメント「所得増えない」69% 共同通信世論調査
 共同通信が20、21両日に実施した全国電話世論調査によると、金融緩和など安倍政権の経済政策「アベノミクス」で所得が増えると思うとの回答は24・1%にとどまった。増えないと思うとの答えが69・2%に上り、期待が広がっていないことが分かった。景気好転を「実感できない」との声が81・9%に達し、「実感できる」は13・7%。一方、安倍内閣支持率は72・1%と、前月の71・1%からほぼ横ばい。内閣不支持は16・0%で0・7ポイント減った。憲法改正の発議要件を過半数へと緩和することには42・7%が賛成し、46・3%が反対した。前回と賛否が逆転した。

*5:http://www.nikkei.com/article/DGXNASGH24009_U3A420C1000000/?dg=1
(日経新聞 2013.4.27)アベノミクスがよく分かる GWに読みたい経済書
 安倍晋三首相が打ち出した経済政策「アベノミクス」が国内外で話題になっている。アベノミクスの効果で円安・株高が進み、日本経済に明るさが広がりつつあるとの評価がある一方で、副作用を懸念する声もある。アベノミクスとはどんな政策で、何が問題になっているのか。ゴールデンウイークの読書向けに、押さえておきたい「アベノミクス本」をご紹介する。(=文中一部敬称略)
■リフレ派の主張をおさらい
 アベノミクスは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」からなる。その中でも特に注目を集め、賛否両論が分かれているのが金融政策である。大胆な金融政策とは、金融緩和のこと。世の中に出回るお金の量を増やして経済を活気づかせ、日本経済の足かせとなっているデフレから脱却する狙いがある。お金の量を増やしてデフレからインフレにする政策をリフレーション(通貨再膨張、略称リフレ)政策と呼ぶ。リフレ政策の導入を早くから唱えていたのが岩田規久男・元学習院大教授、浜田宏一・米エール大名誉教授、伊藤隆敏・東大教授らの経済学者。リフレ派の主張を取り入れて昨年の総選挙で政権交代を果たした安倍首相のもとで岩田は日銀副総裁、浜田は内閣官房参与に就任した。リフレ派の経済学者の主張、論点をおさらいするのに役立つのは岩田の『日本銀行 デフレの番人』と伊藤の『インフレ目標政策』。「日銀がインフレ目標を設定して大量にお金を供給すれば、人々がインフレを予想して行動するようになる」という仮説がリフレ派に共通の基盤である。浜田の『アメリカは日本経済の復活を知っている』も同じ土俵で議論を展開している。いずれか1冊を読めばリフレ派の主張のポイントをつかめるが、リフレ派が展開する「日銀批判」の辛らつさに面食らう読者もいるだろう。

| 経済・雇用::2012.9~2013.6 | 07:50 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.20 わが国は、租税法定主義であるため、適法なら誰であろうと問題はない。朝日新聞のこの記事は、国会議員に、憲法に保障された「法の下の平等」を適用せず、無理にグレイのイメージを擦り付けようとしている民主主義の敵である。
 朝日新聞は、*1のように、「国会議員17人が党支部を介して税優遇を受けて悪いことをした」というイメージの記事に仕立てているが、政党支部に寄付した場合、医療費控除などと同様、一定の計算を経て寄付金控除を受けられることは、所得税法に定められており適法である(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%84%E9%99%84%E9%87%91%E6%8E%A7%E9%99%A4 参照)。そのため、税理士などの専門家は、適法だから問題ないと言うのである。しかし、朝日新聞は、誰にでも平等に適用される適法な寄付金控除と国会議員優遇との区別もつかずに、「納税者の理解を得られない」などと、政治家が何か不正なことをしたかのような言いがかりをつけているのであり、民主主義の敵である。

 実際には、企業と癒着して企業から多額の寄付などを受けていないからこそ、自分で寄付しなければならないのであり、自分で寄付しているということは、企業と癒着していない清廉な議員である証拠だ。そして、誰も多額の金を寄付したくはないが、政治資金が足りず、やむを得ず寄付しているので、「身を削って寄付している。控除や還付があっても決しておかしいことはない」という返事が返ってくるのだ。

 後援会に直接寄付することもできるが、政党支部が寄付を受けて後援会にまわすことがあるのは、税法だけを考えても、政党支部に寄付する方が後援会に寄付するより控除できる範囲が広く、受取勘定を一本化しておいた方が間違いが少ないため、政党支部に一本化しているからだろう。そのため、木原議員の「申告は税理士に任せている。すべて適法かつ適正な税務申告をしていただいている」、今村議員の「税理士に『制度上、還付できる』と言われ、任せていた」、渡辺議員の「税務署に問題がないか問い合わせたところ、『問題ない』との回答があった」という返答は正しく、修正申告する必要はない(私は公認会計士・税理士です)。

*1http://digital.asahi.com/articles/TKY201304190520.html
(朝日新聞 2013.4.20) 国会議員17人、寄付還流 党支部介し税優遇受ける 
 現職国会議員の少なくとも17人が、自らが代表を務める政党支部を通して自身の資金管理団体などに寄付し、税の優遇を受けていたことがわかった。いずれの議員も適法で問題はないとしている一方、多くは「徴税する側の政治家として、納税者の理解を得られない」などと今後は優遇を受けない考えを示した。衆参両院の全議員の政治資金収支報告書を調べたところ、17人は2011年までの3年間に、自らが代表を務める政党支部に70万~2835万円を寄付し、同年内に資金管理団体に移すなどしていた。朝日新聞の取材に対し、いずれも税の優遇を受けたと認めた。このほか党支部を介した寄付はあるが、優遇の有無を答えない議員も数人いる。17人の内訳は、自民党の議員が11人、民主党と日本維新の会が各2人、みんなの党と生活の党が各1人。
 井上信治・環境副大臣(自民、衆院東京25)、松下新平・国土交通政務官(同、参院宮崎)、亀岡偉民・復興政務官(同、衆院福島1)ら政務三役3人も含まれている。松下氏は、最高額の2835万円を党支部に寄付していた。こうした会計処理は違法ではないが、「国民の理解を得られない」などとして、自民と民主が所属議員に自粛を呼びかけていたほか、公明は内規で禁じている。維新は今月12日、党規約で禁止する方針を決めた。理由として、17人の多くは政治活動のための資金不足を補うため、議員の自己資金を充てたと回答。党支部を経由したのは、寄付の受け皿として一本化していたためなどと説明している。景気低迷などで企業献金が減少傾向にあり、当選回数が少ない議員を中心に自己資金に頼らざるを得ない状況があるとみられる。井上環境副大臣は11年に2回、計370万円を党支部に寄付。資金管理団体に他の資金を含む計1千万円を2回に分けて移した。事務所によると、井上氏は同年分の所得額から寄付額370万円を差し引いて税務申告をし、約148万円の所得税の還付を受けた。事務所は「政党への個人献金で正当な手続きだ。今後は誤解される恐れがあるので、還付は受けない」とコメントした。
 新原秀人衆院議員(維新、比例近畿)は自民党県議だった11年末に700万円を党支部に寄付し、同日中に資金管理団体に約900万円を移した。「自分が寄付したお金の全部が政治活動に使える『テクニック』だと、自民党時代に党関係者から聞いていた。迂回的な処理で誤解を与えたことは申し訳ない」と答えた。
 選挙前後に資金管理団体の活動が増え、不足資金を補おうと、こうした処理をすることも多いという。上野賢一郎衆院議員(自民、滋賀2)は滋賀県知事に立候補した10年、党支部に160万円を寄付。その後、党支部から資金管理団体に約1千万円を移した。「選挙以外で支部から自分の政治団体に寄付することはない」と説明する。
 一方、こうした会計処理を節税に利用していたと認める元議員もいる。前衆院議員の中川治氏は民主党時代の10~11年、自身が代表の党支部に計470万円を寄付。他の収入とともに自分の後援会に移していた。取材に対し、「節税のために迂回させていた。年に約100万円の還付を受け、住民税をまかなっていた」と明かしている。
     ◇
■税の優遇を受けた議員の政党支部への寄付額(敬称略)
・松下新平(自民・参院宮崎、2835万)「寄付の窓口を政党支部に一本化して、
  足りない分を議員が寄付した」
・岸本周平(民主・衆院和歌山1区、2450万)「節税の趣旨ではないが、やり方
  としてはまずかったかなと思っている」
・山崎力(自民・参院青森、1563万)「寄付金控除制度にのっとっていると思っ
  ていた」
・森ゆうこ(生活・参院新潟、1550万)「節税目的の認識はない。議員本人から
  『寄付は政党支部で受けるように』と指示された」
・中根康浩(民主・衆院比例東海、844万)「身を削って寄付している。控除や
  還付があっても決しておかしいことはない」
・中西健治(みんな・参院神奈川、840万)「迂回したくてしているわけでない。
  今後は直接、資金管理団体に寄付することも検討する」
・山本幸三(自民・衆院福岡10区、725万)「事務所経費の不足分は私が負担
  せざるを得ない。NPOへの寄付と同じで問題ない」
・新原秀人(維新・衆院比例近畿、700万)「寄付したお金の全部が、政治活動に
  使える『テクニック』だと聞いていた」
・竹本直一(自民・衆院比例近畿、500万)「特別の意図や目的はなかったが、
  返納手続きを進めている」
・松村祥史(自民・参院熊本、480万)「後援会の資金が足りなかったから政党
  支部から回してもらった。節税の意図は全くない」
・亀岡偉民(自民・衆院福島1区、400万)「寄付したのは政党支部の資金が足り
  なかったから。落選していたので、金も集まらない」
・井上信治(自民・衆院東京25区、391万)「今後は誤解される恐れがあるので、
  還付を受けない」
・木原誠二(自民・衆院東京20区、325万)「申告は税理士に任せている。すべて
  適法かつ適正な税務申告をしていただいている」
・上野賢一郎(自民・衆院滋賀2区、160万)「たまたま形の上で『迂回』になって
  いるが、意図したものではない」
・今村雅弘(自民・衆院佐賀2区、150万)「税理士に『制度上、還付できる』と言わ
  れ、任せていた」
・井上英孝(維新・衆院大阪1区、100万)「納税者から誤解を受けるようなことを
  したことは反省し、修正申告する」
・渡辺猛之(自民・参院岐阜、70万)「税務署に問題がないか問い合わせたところ、
  『問題ない』との回答があった」

| 民主主義・選挙・その他::警察が勝手な拡大解釈を行った運動員の逮捕事件 | 03:43 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.19 TPP参加推奨派の考え方は、単純で無責任である。本当の原因を分析して問題解決するのが、本来のあり方だ。


 *1は、TPP推進派が農業及び農協に関して持っているイメージと、TPPを、それを打開する手段と位置付けている典型であるため、*1の主張を評価することにより、TPP推進派が、農業を、どの程度、理解して主張しているのかについて述べる。

(1)農協(農業協同組合、JA)とは何か
 農協は、日本で、農業者(農家及び小規模農業法人)によって組織された協同組合で、農業協同組合法に基づく法人であり、事業内容等がこの法律によって規定されている(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E5%8D%94%E5%90%8C%E7%B5%84%E5%90%88 参照)。これによれば、農協の目的は、農業生産力の増進及び農業者の経済的・社会的地位の向上を図ることだ。組合員資格は、正組合員と准組合員があり、正組合員は、①農業を自ら営む農業者に限定 ②組合員が一人一票の議決権を保有 ③組合員は役員や総代になる権利がある ④正組合員の5分の1以上の同意を得れば、臨時総代会を開くよう請求可能 ⑤組合員全員に組合の事業を利用する権利がある ということである。准組合員には、農協に加入手続きをして承諾され出資金の払込みをすれば、農家でない人でもなれ、農協のいろいろな事業を利用することができるが、役員の選挙権はない。

 *1の記事には、「農業を成長産業として再生していくためには、農地法などの規制緩和とともに、農家と密接な関係を持つ農業協同組合を変えていく必要がある」と書いてある。しかし、農家の人が自主的に入っている互助団体である農協が、現在、どういう形で農業の成長を阻害しているのかは書かれておらず、いつも通りの決まったフレーズを並べただけの記事だ。そして、「TPPに入ると農業を成長産業として再生できる」というのも、原因分析をしていないため、解決の処方箋も裏付けや論理的説明のない念仏のようなものとなっており、これは20年前ならまだ当てはまったかもしれないが、今では、かなり改善されているものだ。「大規模な農業法人や強い野菜農家はすでに農協を離れ、独自に販路開拓などに乗り出している」「肥料販売での大口割引の導入」「流通コストの引き下げ」などが、その改善の結果である。

 また、「小規模農家にはなお農協の助けが要る」というのが農協の必要性であり、その結果、地域での農産物のブランド化や転作が進んでおり、リーダーの意識の低いところがやっていないだけである。そして、「様々な方針が強力な中央組織から地域の農協へ伝達されていく仕組みは、農家が生活と事業の改善に向けて立ち上げる協同組合の原点からもかけ離れている」とも書かれているが、何でも分権すればよいと考えるのは馬鹿の一つ覚えだ。一般企業(日経新聞も!)も、中央集権で経営目的にあった場所に集中投資していることを忘れてはならない。問題は、その判断が正しいか否かである。

 さらに、「本来の目的である農業の強化に向け、地域の農協も大胆な自己改革を急いでほしい」というのは、何が農業の産業としての競争力を妨げているのかについて、原因分析もなく話が飛んでいる。問題解決するには、枠組みを壊すことが目的なのではなく、何をどう解決したいから、どこを変えるかの正確な判断が必要なのだ。

 最後に、「お金の流れを透明に」とは、自分に反対する者には不正を働いているようなイメージをつけており、いつものとおり卑怯な書き方である。

(2)それでは、農業を成長産業とするために必要なことは何か
 農業を成長産業とするために必要なことは、私が衆議院議員時代に、地元で聞いた要望や集めた情報からすぐ思いつくことは、下のとおりである。
  ① *2の福岡県開発の種なし柿のような優良品種への品種改良 
  ② 改良した品種を守る知的所有権の保護 
  ③ 地域でブランド化して付加価値をつけるなど、その地域独自のやり方の推進
  ④ 農業への安い国産エネルギーの供給
  ⑤ 安い国産家畜飼料の供給
  ⑥ 安い国産肥料の供給(特に有機肥料)
  ⑦ 安い国産資材の供給
  ⑧ ハウスや農機具など農業機器の進歩と安い価格での供給
  ⑨ 大型機械を使えるための区割りの規模拡大
  ⑩ 農業に魅力を感じる所得を得られるための経営規模の拡大

 現在は、農業に補助金をつけても、農機具やエネルギー代が高すぎるため、次世代の農業を作るのに支障をきたしているが、上の②④⑦⑧は農業関係者の責任よりも、経済産業省の責任の方が大きい。また、①はかなりできているが、さらにやった方がよいものだ。そして、③⑤⑥⑨⑩は、私が衆議員議員になってすぐに気がついたのでやり始めたものが多いが(そのため、佐賀県では進んでいる)、それまでの政治家や農林水産省も、当然、考えてやっておくべきことだった。

(3)解決策は?
 *1には、「農協が融資などで農家を縛ることは許されない」と書かれているが、農家が融資で縛られないためには、一般銀行や信用金庫が農業者に融資できるようにすべきであり、このためには、農業会計基準の導入で農業経営の正確な把握が必要である。そして、これは金融庁の仕事だった筈だ。農業者に選択の権利がなければ、有利な融資は受けられないのである。

 *3のように、JA全中の萬歳章会長は、「日本は自給率が低い。われわれも安定した食料供給をしていきたいが、TPPはそれとは相いれないものだ」と指摘し、これに対し、ニュージーランドのシンクレア大使は、「(日本が)重要品目をすぐに撤廃するのが難しい一面があることは承知している」と述べ、「関税撤廃に例外は設けず品目によって長期の猶予期間を設けた後に、関税撤廃をすれば対処できるのではないか」との考えを示したそうである。その期間が10年になるのか20年になるのか、その間にどういう対策をとるのか、それでも永久に無理な品目もあるのか、食の安全は守れるのか、しっかりと検証した上でなければ、日本の農業継続、食料自給率の向上、国土・環境の保全はおぼつかず、安易にTPPを進めることは、国民に対して無責任である。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130407&ng=DGKDZO53691440X00C13A4PE8000
(日経新聞社説 2013年4月7日) 競争力強化へ農協も大胆な改革を
 農業を成長産業として再生していくためには、農地法などの規制緩和とともに、農家と密接な関係を持つ農業協同組合を変えていく必要がある。大規模な農業法人や強い野菜農家はすでに農協を離れ、独自に販路開拓などに乗り出している。小規模農家にはなお農協の助けが要るとしても、本来の目的である農業の強化に向け、地域の農協も大胆な自己改革を急いでほしい。
●農家支援の原点に帰れ
 日本の農協組織は、統制機関としての色彩が濃かった戦前の産業組合や戦時中の農業会を引き継いでいる。そのため全国農協中央会(JA全中)や全国農協連合会(JA全農)を頂点に都道府県ごとの組織があり、その下に全国約700の地域農協がぶら下がる中央集権型の構造を持つ。金融や生損保まで、幅広く手掛けるのも日本の農協の特徴だ。中央組織で目立つのは政治的な主張だ。安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明した3月15日も、全中は「全国の農業者とともに強い憤りをもって抗議する」との声明を発表した。全国一律のコメの生産調整見直しにも反対している。
 だが、これまでの枠組みを維持しようとすることが、農協の原点である農業生産力の増進や農家の経済的な地位の向上につながるのだろうか。企業との連携が求められる中で、中央組織が経済界と対立する構図も農業の強化のためには好ましくない。様々な方針が強力な中央組織から地域の農協へ伝達されていく仕組みは、農家が生活と事業の改善に向けて立ち上げる協同組合の原点からもかけ離れている。農協の体制のあり方を抜本的に見直すときだろう。個々の農協に求められるのは大胆な意識改革だ。政府は2001年から05年までに、全農に対して計7回の業務改善命令を出した。その過程で政府がまとめた報告書が課題を列挙している。(1)硬直的な販売手法を見直し、経営感覚を持つ(2)農協外部の人材を登用し、倫理を守る体質へ改善する(3)合理化に努め、その利益を組合員である農家に還元する――ことなどだ。農協に示された課題は、いずれも当たり前のものだ。あとは農協自身がどれだけ改革への意識を高め、実行するかにかかっている。肥料販売での大口割引の導入や、流通コストの引き下げといった改善策は評価できる。市場開拓に取り組み、商品開発に力を入れる農協も増えてきた。一方で、改革ぺースの遅い農協もある。まず、農協が競い合う体制が必要だ。政府は02年に農協法を改正し、農協が管轄地域を広げたり、新しい農協を設立したりすることで農家が複数の農協から「いい農協」を選べる仕組みをつくった。こうした制度改革を活用し、それぞれの農協が農家の利便性や負担軽減を競うようになれば、改革への意識は高まるはずだ。農協は、農産物の共同販売や資材の共同購入で独占禁止法の適用を除外されている。ただし、それは農家が農協に自由に参加し、脱退できる環境が前提だ。融資などで農家を縛ることは許されない。
●お金の流れを透明に
 公正取引委員会は07年に、農協にどのような行為が独禁法違反になるかの指針を示した。農協は改めてすべての職員に注意を喚起し、逸脱行為があれば公取委は速やかに是正を促してもらいたい。農協が手掛ける金融業務は、預金量で90兆円にのぼり、メガバンクと肩を並べる。だが、金融庁の加わる農協への検査は知事の要請が条件となり、実施は一部にとどまる。政府もお金が巨大な組織の中でどう管理され、流れているかを厳格にチェックし、透明性を高める体制を考えてほしい。農協の正組合員は農業人口の減少で減り続け、09年以降は農業者以外の人もなれる準組合員の数が上回っている。組織維持のために農家以外から預金を集め、それを運用する金融事業の姿も、農協の原点や農協に対する様々な優遇策からみれば疑問がある。全中は「農家が何を求めているかに応じ、農協は変わっていく」としている。6月には農業強化に向けた提言もまとめるという。農家の経営に役立ち、農業の強化に貢献する本来の目的に沿った組織に変わるべきである。

*2:http://qbiz.jp/article/15912/1/
(西日本新聞 2013年4月19日) 福岡県開発の種なし柿、畑で盗難 久留米で苗木19本
 福岡県は18日、県が開発し、県内の農家に限って栽培を許可している世界初の種なし甘柿「秋王」の苗木19本が同県久留米市田主丸町の畑から盗まれた、と発表した。県によると、盗まれた苗木は高さ60〜70センチ。同市の農家が2月に苗木125本を植え、今月10日から3日ほど留守にした間に畑から抜かれていた。農家は13日に気付き、県警に盗難届を出した。
 福岡県は出荷量全国3位の柿産地。秋王は従来の柿よりも大玉で甘いのが特徴で、県が2012年に品種登録。16年度から本格的な販売を目指す。県は11年度からJAを通じ、県内農家に限って苗木を有償で譲渡しており、現在140戸が約7千本を育成している。県は「盗んだ苗木の実を別名で流通させてもDNA鑑定で判別できる。違法な流通と分かれば損害賠償請求などの対応をとる」としている。

*3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=20351
(日本農業新聞 2013年4月12日) 全中会長 断固反対伝える NZ大使「例外なし」示唆
 JA全中の萬歳章会長は11日、東京都内のニュージーランド(NZ)大使館を訪れ、同国のマーク・シンクレア駐日大使と会談しTPPをめぐって意見を交わした。萬歳会長は「全ての品目の関税撤廃を目指 すTPP交渉には断固として反対している」と強調。全中によると同大使は、米など日本の農産物の重要品目について関税撤廃までの猶予を設けることで対処できるのではないかとの考えを示した。これは、「関税撤廃の例外は認められない」との認識を示唆したものといえる。JAグループによるTPP交渉参加国への働き掛けの一環。交渉参加国の駐日大使との会談は9日のオーストラリアに次ぎ2カ国目となる。萬歳会長は「日本は自給率が低い。われわれも安定した食料供給をしていきたいが、TPPはそれとは相いれないものだ」と指摘した。これに対してシンクレア大使は「(日本が)重要品目をすぐに撤廃するのが難しい一面があることは承知している」と述べた。その上で、品目によっては長期の猶予期間を設けた後に、関税撤廃をすれば対処できるのではないかとの考えを示した。また、JAグループの考えは政府に伝えると述べた。会談には、全中の冨士重夫専務が同席した。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 01:58 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.17 サッチャー元英首相の死を惜しむ - 同時に社会で活躍している女性に対する評価上の差別についても語ろう
  

 サッチャー元英首相は、*1、*3のように、1947年にオックスフォード大学化学科を卒業した後、弁護士になっている。これは、当時、同学科を卒業した女性に未来を約束できる適切な仕事が与えられなかったからだ聞いたことがあるが、それは、その30年後の1977年に、日本で東大医学部保健学科を卒業した後、公認会計士となって働いてきた私と状況が似ているので、前から親近感を感じていた。

 サッチャー氏の偉い点は、一つは、親の七光りではなく自分の力で首相になったことで、こういう女性はアジアにはまだ出ていない。また、何を言われようと断固として経済改革をやり抜き、英国を英国病から回復させたことも立派だ。そして、旧ソ連のゴルバチョフ氏を、「一緒に仕事ができる人」と会ってすぐに評価し、英米と旧ソ連との東西冷戦を終結に導いたことは、歴史を大きく進めた卓越した業績である。

 *2については、側近が、「ローマをつくったのはサッチャーじゃなかったからな」と答えたのは面白いが、男性の首相が亡くなった時に、このような毒舌の別れをするだろうかと、私は疑問に思った。私は、どの国も、大した業績のなかった首相でも、送る時には褒め言葉で送るので、イギリスでも、まだ信念を持った強い女性への偏見があるように感じた。また、ベテラン議員が「サッチャー氏に会った私の妻は、彼女の感じの良さに魅入られた」と振り返りながら、「閣僚との関係は決してそうではなかったよ」と真顔で語り、笑いを誘ったとも書かれているが、第三者に感じよくするのは当たり前である一方、部下に好かれることが目的の上司はいないため当然のことだ。しかし、女性上司には、リーダーシップと部下への感じの良さの両方を求めるという、男性上司には求めない矛盾した要求をつきつけている点で、イギリスもまだ本当の男女平等にはなっていないなと思い、再度、サッチャー氏の苦労に敬意を表した次第である。

*1:http://www.nikkei.com/article/DGXNASGU0800Y_Y3A400C1MM8000/
(日経新聞 2013/4/8) サッチャー元英首相死去 「鉄の女」小さな政府推進
 「鉄の女」と呼ばれ1979年から11年間、英国の首相を務めたマーガレット・サッチャー氏が8日、脳卒中のため死去した。87歳。強い指導力で国営企業の民営化や規制緩和を進め、英国経済を復活に導いた。「小さな政府」の下で経済の自由化を実現する政策はサッチャリズムと評され、他の先進国の経済改革に大きな影響を与えた。1925年、英イングランド中部に生まれた。オックスフォード大卒業後、59年に下院議員として初当選。1975年に保守党党首に選ばれ、79年の総選挙に勝って英史上初の女性首相に就任した。頻発していたストライキを規制し、肥大化した財政支出を大幅に削減した。1979年、英首相に就任した当時のサッチャー氏。その後11年間にわたって英首相を務めた。民営化を通じた競争原理の導入で活力を引き出したほか、ビッグバン(金融市場大改革)など市場に多くを委ねる大胆な改革を打ち出した。周囲の反対にあっても信念を貫き、長期低迷で「英国病」と皮肉られていた経済をよみがえらせた。1982年のアルゼンチンとのフォークランド紛争では軍艦を派遣するなど力による外交を展開。米国のレーガン大統領(当時)とは同じ保守主義者として「特別な関係」を築き、反共産主義を鮮明にした。英米の連携が旧ソ連との東西冷戦の終結に道を開いた。

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1100E_R10C13A4000000/?dg=1
(日経新聞 2013/4/11) 「鉄の女」に毒舌の別れ 英国で特別議会招集
 【ロンドン=共同】8日死去したサッチャー元英首相を追悼するための特別議会が10日、招集され、議員らはユーモアと毒舌交じりの英国流スピーチで「鉄の女」と呼ばれた歴史的宰相に別れを告げた。冒頭、キャメロン首相は「サッチャー氏は女性に対する偏見を打ち破り、英国を再び偉大な国にした」と称賛するとともに思い出を披露。サッチャー氏の命令で慌ただしく働く側近に、同僚が「ローマは一日にして成らず」と落ち着いて仕事をするよう忠告したところ、側近は「ローマをつくったのはサッチャーじゃなかったからな」と話し、何事にも性急なサッチャー氏の下で働く身の上を嘆いたエピソードで議場を沸かせた。各党の議員も次々とスピーチに立ち、特別議会は7時間以上に及んだ。閣僚に対する厳しい要求で知られたことを指摘したベテラン議員は「サッチャー氏に会った私の妻は、彼女の感じの良さに魅入られた」と振り返りながら、「閣僚との関係は決してそうではなかったよ」と真顔で語り、笑いを誘った。一方、サッチャー氏の強硬な労働組合対策などに、今も反発する労働党議員の多くは欠席した。

*3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC (マーガレット・サッチャー)
(ポイント)1925年、リンカンシャーグランサムの食糧雑貨商の家に生まれた。1947年、オックスフォード大学の化学科卒業。1951年に10歳年上のデニス・サッチャー(en:Denis Thatcher)と結婚して法律の勉強を始め、1953年に弁護士資格を取得。なお、この当時は女権拡張について強く訴えていた。
 1959年に下院議員に初当選し、1970年からヒース内閣で教育科学相を務めた。1975年2月に保守党党首選挙が行われ、エドワード・ヒースを破って保守党党首に就任。ソビエト連邦の国防省機関紙「クラスナーヤ・ズヴェーズダ」が、1976年1月の記事で、サッチャーを鉄の女と呼び非難したが、この「鉄の女」の呼び名はサッチャー自身も気に入り、その後あらゆるメディアで取り上げられたため、サッチャーの代名詞として定着した。1979年の選挙で、イギリス経済の復活、小さな政府への転換を公約に掲げ、保守党を大勝に導いた。選挙後、女性初のイギリス首相に就任した後、イギリス経済の建て直しを図り、政府の市場への介入を抑制する政策を実施。
 1982年に、南大西洋のフォークランド諸島でフォークランド紛争が勃発し、アルゼンチン軍の侵略に対して、サッチャーは間髪入れずに艦隊、爆撃機をフォークランドへ派遣し、多数の艦艇を失ったものの2ヶ月の戦闘の結果6月14日にイギリス軍はポート・スタンリーを陥落させ、アルゼンチン軍を放逐した。サッチャーの強硬な姿勢によるフォークランド奪還は、イギリス国民からの評価が極めて高い。この際、「人命に代えてでも我が英国領土を守らなければならない。なぜならば、国際法が力の行使に打ち勝たねばならないからである」と述べた。イギリス経済の低迷から支持率の低下に悩まされていたサッチャーは、戦争終結後、「我々は決して後戻りしない」と力強く宣言し、支持率は73%を記録。フォークランド紛争をきっかけに保守党はサッチャー政権誕生後2度目の総選挙で勝利し、これによりサッチャーはより保守的な経済改革の断行を行った。

| 男女平等::2011.12~2013.5 | 02:04 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.14 環太平洋連携協定(TPP)参加の問題について – 特に、医療・農業の視点から
       
        りんごの花              梨畑              洋ナシの花
(1)日本は、“強い”製造業だけを伸ばせばよい国か
 *1のように、日経新聞及び経済産業省は、「競争力が弱い産業を保護することが、最優先の国益ではなく、海外市場を舞台に、強い産業をさらに伸ばし、新しい成長産業を生み出す仕組みを築くことこそが最も重要な国益である」として、「高い水準の自由化を目指すTPPの「純度」を、これ以上落としてはならない」と主張してきた。しかし、これは、農業に関する知識がなく無責任な主張であり、さらに、自由貿易のみしか奨めていない点で、時代遅れの暴論である。
 日本は、シンガポール等とは異なり、1億2000万人が暮らす大国であるため、食料・エネルギーを他国に依存しきっていては、食料・エネルギーの輸出国から足元を見られ、製造業もやっていけなくなる。これは、すでに原油やレアメタルで経験済みだ。しかも、これから地球人口は増加し、食料・エネルギーの価値は高くなるため、農林漁業や鉱業などの第一次産業は、育成すべき重要な産業なのである。そして、現在、これらを支える技術の発展も著しい。
 *1には、「エゴが出やすい2国間協議にとらわれすぎず、TPP交渉でのルールづくりに集中すべきである」とも書いてある。しかし、世界は、日本のエゴを通してくれるような甘い所ではない。その中で、二国間で不可能な交渉は、(親戚同士の)多国間が相手になれば、もっと交渉しにくいことを知って、ものを言うべきである。

(2)TPPの医療における問題点
 *2に、「がんに有効な新しい治療法が世界各国で開発されているが、国内で未承認の抗がん剤による治療は公的な健康保険が適用されない。未承認の抗がん剤を給付対象とする民間の医療保険もなかった。抗がん剤保険は、抗がん剤や、その副作用に対する治療技術が進歩し、入院をせずに通院でがん治療を受ける患者が近年増加していることに対応したものだ」と書かれているが、これは事実だ。
 しかし、問題は、TPPにより、このような状況が放置され、また、先端医療は健康保険の適用外とされ続けて、先端医療を受けたければ、私的保険に入っていなければならないという状況になることである。これにより、保険会社は喜ぶかも知れないが、医療も金次第という状態になり、国民皆保険があっさり崩れてしまう。本来、外国で承認されている薬は、日本でも素早く承認し、国民健康保険の適用対象として国民の命や健康を守るべきなのだ。そうしなければ、国民健康保険料を支払っても、国民皆保険で守られていることにはならない。

(3)TPPの農業における問題点
 *3のように、19道県が農林水産業に対するTPPの影響を試算したところ、全道県で生産額が減少し、千葉、茨城などでは牛乳・乳製品で、生計を立てられる農家がゼロになることを意味する「全滅」と判定されるなど、大きな影響が出ることが浮き彫りになった。農林水産物の減少額を最も多く想定したのは北海道の4,762億円で、道の農業産出額の約47%に達する。鹿児島、宮崎、茨城、栃木、千葉、岩手を含めて計七道県が約3~4割にあたる1,000億円以上減少するとした。
 つまり、日本の食料生産基地である北海道、九州はじめ各地で、TPPにより農業が壊滅的打撃を受けると言っているのである。これにより、農業に関連して発展してきた製造業やサービス業も打撃を受け、地方経済は疲弊するが、これを少数の強い工業製品の輸出が増えれば代替できると考えているのなら、計算が弱すぎる。

(4)では、どうすればいいのか
 これまでのメディアの報道を見ていると、1)官が作った政策を、2)政治家が追認して実行し、3)記者クラブメディアを総動員して、それがよいことであるかのように広報し、国民を納得させるという、いつものメンバー内のやり方は、既に行き詰っている。
 そのため、*4のように、「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」が設立され、文系・理系を問わず多様な分野の大学教員867人が参加し、全国の大学教員が連帯して広範なTPPの危険性を国民に情報発信していく決意を表明した」のは嬉しいことだ。
 そして、「TPP推進派との公開討論や政府の影響試算の分析・検証、各国の事情に配慮したアジアの柔軟な経済連携のルール作りなどを研究し、交渉脱退を求める運動につなげる」そうだが、是非、そうして欲しい。政府の影響試算などは、原発のコストと同様、結果を導くために作られたものにすぎないため、専門家の目、科学の目で分析すれば、すぐに崩れ去るものである。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130413&ng=DGKDZO53927250T10C13A4EA1000
(日経新聞社説 2013.4.13) TPP交渉 これからが国益高める本番だ
 環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる日米間の事前協議が決着し、日本の交渉参加が事実上、決まった。新しい貿易・投資のルールを築く作業に、ようやく加わることができる。安倍晋三首相は「国家百年の計だ」と意気込みを語った。これからが本番である。現在11カ国が加わる交渉は、既にかなり進んでいる。大枠合意の目標期限は10月だ。多くの時間は残されていない。駆け足で追いつかなければならない。交渉の入り口に立つまで、これまで日本の政治は遠い回り道をしてきた。これ以上、時間を無駄にしないために、日本が通商政策で追求すべき国益とは何かを、しっかり認識しておく必要がある。
 国内市場に聖域を設け、競争力が弱い産業を保護することが、最優先の国益ではないはずだ。海外市場を舞台に、強い産業をさらに伸ばし、新しい成長産業を生み出す仕組みを築くことこそが最も重要な国益である。
 最短で3カ月後の正式参加までに、ルールづくりはさらに進むだろう。日本企業と日本人が力を発揮するために、どのような通商ルールが必要なのか。短期間で交渉に反映させるために、官民をあげて知恵を絞らなくてはならない。日米事前協議の合意は、日本の交渉参加に反対する米自動車業界の要求を色濃く反映した内容となった。米国側の関税削減を先送りし、技術の基準や流通制度などについて、TPPとは別に日米間で交渉を続けることが決まった。投資や検疫など様々な非関税障壁についても、日米2国間の枠組みで交渉する。米国は1990年代に経験した日米構造協議、包括経済協議を念頭に、2国間の枠組みを使って日本に市場開放の圧力をかけるつもりだろう。日本の参加表明が遅れたため、米国からの注文が増えた印象はぬぐえない。日本が聖域の論議を持ち出した影響で、米国や他の交渉国で保護主義的な主張が息を吹き返すのも心配だ。高い水準の自由化を目指すTPPの「純度」を、これ以上落としてはならない。新設する日米の枠組みが過去の日米協議と本質的に異なるのは、一方的制裁を定めた米通商法の効力が失われている点だ。対立的にせず、対等な立場で、是々非々で議論できるはずだ。米国の個別業界のエゴが出やすい2国間協議にとらわれすぎず、TPP交渉でのルールづくりに集中すべきである。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130410&ng=DGKDZO53777170Z00C13A4PPD000
(日経新聞 2013.4.9)抗がん剤治療の保険続々 国内未承認の薬も対象に
 がん患者が受ける抗がん剤治療を対象にした保険や特約が充実してきた。抗がん剤によるがん治療を受ける患者が増えるなか、保険会社は顧客の要望に応えて商品のラインアップを増やしている。最近では、未承認の抗がん剤まで対象とする保険も登場している。国立がん研究センターによると、がんの3大治療法である手術、放射線、抗がん剤のうち、抗がん剤治療を受ける患者は約4割にのぼる。抗がん剤の開発が進んでいることが背景にある。
 東京海上日動あんしん生命保険の「抗がん剤治療特約」は、通院や入院を問わず抗がん剤治療を受けたときの費用を給付対象とする。受け取れる金額は月5万円と10万円の2パターンから選べる。アフラックも「生きるためのがん保険デイズ」で、入院しなくても抗がん剤治療費用を保障するプランを販売している。オリックス生命は2012年6月に「がん通院特約」を発売した。抗がん剤、放射線治療などで通院した場合は日数の限度なく給付金が支払われる仕組みだ。ソニー生命の「抗がん剤治療特約」は給付金額を月5万~15万円から1万円ごとに選べる。住友生命は3月、がん保障特約「がんPLUS」を発売した。医師ががん治療の目的に使用する抗がん剤を、公的医療保険の適用外となる未承認の場合でも給付対象としている。将来誕生する新薬も対象に含まれる。通院による治療にも適用される。
 がんに有効な新しい治療法が世界各国で開発されているが、国内で未承認の抗がん剤による治療は公的な健康保険が適用されない。未承認の抗がん剤を給付対象とする民間の医療保険もなかった。抗がん剤保険は、抗がん剤や、その副作用に対する治療技術が進歩し、入院をせずに通院でがん治療を受ける患者が近年増加していることに対応したものだ。厚生労働省によると、外来での抗がん剤治療の実施は11年に14.1万件に達し、05年の2.3件人から約6倍に増えている。

*3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013041290065607.html
(東京新聞 2013年4月12日) TPP 19道県が農林水産業試算 乳製品「全滅」
 政府が環太平洋連携協定(TPP)に参加した場合を想定し、十九の道県が地元の農林水産業への影響を独自に試算していることが本紙の調べで分かった。全道県で生産額は減少。千葉、茨城などでは牛乳・乳製品で、生計を立てられる農家がゼロになることを意味する「全滅」と判定されるなど、大きな影響が出ることが浮き彫りになった。十九道県で計一兆六千億円減る計算で、他の二十八都府県も含めれば、総額で三兆円減少するとした政府試算を上回る可能性が高い。政府は三月十五日、安倍晋三首相がTPP交渉参加を表明した際、農林水産業への影響試算を公表。
 十九道県は、これを受けて独自に試算を行った。政府試算と同様に、交渉参加十一カ国との関税が即時撤廃されて、米国などから安い農産品が輸入されるという前提で計算。ただ、地域の生産量や競争力をほとんど考慮していない政府試算と違い、各道県が県内の状況に合わせて独自に評価した。農林水産物の減少額を最も多く想定したのは北海道の四千七百六十二億円で、道の農業産出額の約47%に達する。鹿児島、宮崎、茨城、栃木、千葉、岩手を含めて計七道県が約三~四割にあたる一千億円以上減少するとした。政府試算は各品目がTPP参加により生産が減少する率を一つの数字に統一して計算した。例えば牛乳・乳製品は減少率45%と計算したため、消費者の人気や品質の差が与える影響が、数字からは見えなかった。減少率を個々に割り出した十九道県の調査では、茨城、栃木、千葉など十一県は牛乳・乳製品を「全滅」と判定。外国から安い価格の加工乳が入り、そこから乳製品をつくるようになるため、壊滅的なダメージが出ると予測されている。一方、政府が70%減とする豚肉は、生産額日本一の鹿児島が減少率を45%としたのに対し、滋賀や高知は「全滅」と試算した。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=20308
(日本農業新聞 2013年4月11日) 大学教員867人 反TPPで結束 国民に危険性発信
 「環太平洋連携協定(TPP)参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の代表者6人は10日、東京・永田町の参院議員会館で記者会見を開き、全国の大学教員が連帯して広範なTPPの危険性を国民に情報発信していく決意を表明した。文系・理系問わず多様な分野の大学教員867人が9日までに同会の趣旨に賛同。TPP推進派との公開討論や政府の影響試算の分析・検証、各国の事情に配慮したアジアの柔軟な経済連携のルール作りなどを研究し、交渉脱退を求める運動につなげる考えだ。
 TPPの危険性が国民に理解されていないとして東京大学の醍醐聰名誉教授ら17人が呼び掛け人となり、交渉参加阻止を目指す大学教員の組織化を提案。安倍晋三首相による3月15日の交渉参加表明の撤回と、事前協議の即時中止を求める要望書を掲げて同月28日から賛同人を募り、2週間足らずで経済、国際、地域論、社会学、教育、医療、物理、化学など800人を超える広範な分野の大学研究者が趣旨に同意した。要望書は9日、政府に提出した。記者会見では、交渉参加表明と併せて政府が公表したTPP参加の影響試算の分析に加え、農業経営者や流通・加工など関連産業の事業者の所得や、地方財政への影響などを独自に試算する考えを示した。また交渉参加国との事前協議について政府に情報公開を求め、内容を分析し発信する。醍醐氏は「ほぼ全領域を網羅した研究者がTPPの危険性を指摘している。研究を基に理解を呼び掛け、情報を発信する社会的使命を大学の研究者は持っている」と同会の意義を強調した。
 また、横浜国立大学の萩原伸次郎名誉教授は「さまざまな場面で賛同者を広げ、交渉脱退への道筋をつくる」と述べた。慶応義塾大学の金子勝教授は「交渉参加は日本の法体系の根本を揺るがしかねない問題だ。不正確な情報を正し、公正に検証し、冷静な議論を深める」と指摘。東京大学大学院の鈴木宣弘教授は「TPPではなく、柔軟で、均衡ある発展、住民の幸せにつながるアジアの経済ルール の方向性を示したい」と話した。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 07:08 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.11 日本国憲法の改正について (2013年5月24日最終更新)
(1)誰が作ったかが重要なのか
 「占領軍が作った憲法なので自主憲法を制定する。それが自民党の結党理由だ」というのは、自民党内でも一部の人が強く言っていたにすぎないことであり、戦後生まれの多くの自民党議員が同じ考えというわけではない。私は、憲法は内容が大切であり、どこをどう変えたいから国民投票したいのかを議論すべき時だと思っている。
 私は、中学生の時、教科書に日本国憲法が添付されてきたので、何故か自分でそうしようと思って、憲法全文を一年間毎日、声を出して読んだ。そのため、日本国憲法の考え方はすべて素直に頭に入っているが、これは、憲法学者が建前と現実を調整するために、こねくりまわして解釈した憲法論より、日本国憲法の本質だろう。そして、日本国憲法は、自由、平和主義、国民主権を徹底したもので、全体として素晴らしいものであり、変えるより、まず徹底して実践すべきだと思っている。これだけの民主主義憲法が国民の内部から一挙に生まれることは難しい。それは、太平洋戦争に負けなければできなかったことであり、この憲法が、太平洋戦争の唯一の遺産ではないかとさえ思っている。

(2)目指すのは、どういう国家観なのか
 日本国憲法(http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/kenpoupeji.htm 参照)は、前文で、自由・平和主義・国民主権について述べた後、1条~8条で天皇の地位と行為の範囲を述べているが、これはよいと思う。9条で、以下のように戦争放棄を述べ、2項で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」としているのが自衛隊の存在と矛盾しており、そのため、今まで超解釈がまかり通ってきたが、他国に侵略することはなくても、他国の侵略から防衛する必要はあるので、ここを事実に即して改正するのには、私も賛成である。
 第9条 [戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認] 
  ①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力に
    よる威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
  ②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
    認めない。
 10条以降の条文の基本的人権、法の下の平等などについては、私は非常にいい憲法だと思っている。しかし、*2のように、自民党政調会長の高市氏は、「私は憲法改正のために国会議員になった。憲法は国家観に関わる。常に選挙の争点になるべきで、国家観による政界再編が最後の正しい姿だ」と述べられている。それならば、現憲法のどの国家観が納得できず、どういう国家観に変えようとして憲法改正を発議しているのか、その内容を具体的に説明し、総選挙で国民に問うべきだ。民主党ができたか、できなかったかは、国民にとってはどうでもよい話だ。

(3)具体的に憲法のどの条文をどう改正するのか、及び、その理由を開示すべきだ
 自民党の憲法改正案(http://www.dan.co.jp/~dankogai/blog/constitution-jimin.html の比較表参照)は、多くのことを変更しようとしている。そのため、どういう趣旨で、どういう条文に変えたいのか、国民に説明すべきだ。自民党内の総務会を通ったとは言っても、他の仕事で忙しい人、憲法に関心の薄い人、反対の人は次第に出なくなる会合を重ねて、党内の意見を集約したにすぎない。小選挙区で有権者の意志とは異なる与党議員数が実現し、その中の一部の議員の主張で憲法を改正すれば、国民全体から見れば、非常に少数の意見によって憲法が変えられることになる。そのため、憲法改正の趣旨は、その内容を逐条解説し、一つ一つ、個別に国民に問うべきである。そうしなければ、なし崩し的改憲になるのは目に見えている。

(4)96条の改正から始めるのは適切か
 日本国憲法は、96条で改正要件として、1)国会が衆参両院のすべての議員の3分の2以上の賛成を得て発議する 2)国民投票での過半数の賛成で承認する ということを定めており、通常の法律より改正が難しい。そして、殆どの国の憲法がそうであり、それが世界標準だ(http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/b55b9146bbd00daeb3402cf21d1a4ee6 参照)。憲法改正が一般の法律改正よりやりにくくなっているのは、憲法が一般の法律より上位にある国の基本方針で、その時々の為政者による人権侵害などの津波に負けないようにするためで、変えにくいこと自体に意味がある。そのため、私も、*3、*4と同様、まず96条を改正するというのは邪道であり、改正したい条文とその理由を国民に説明し、96条に従って改正すべきだと思う。

*1:http://mainichi.jp/select/news/20130406k0000m010135000c.html
(毎日新聞 2013年4月6日) 安倍首相:予算委で持論「占領軍が作った憲法」
 「占領軍が作った憲法だったことは間違いない。形式的にはそうではないが、占領下に行われたのは事実だ」。安倍晋三首相は5日午前の衆院予算委員会で、現行憲法に関する持論をぶった。首相は7月の参院選後をにらみ、憲法96条の定める改憲の発議要件を衆参各院の「3分の2以上」から「過半数」に緩和する方針を示しているが、もともとは「自主憲法制定」が悲願。「(占領下の)7年間に憲法や教育基本法、国の形を決める基本的な枠組みができた。(独立時に)真の独立国家をつくる気概を持つべきではなかったか」と冗舌だった。質問したのは民主党の細野豪志幹事長。サンフランシスコ講和条約締結から61年となる今月28日に政府が「主権回復の日」の式典を開くことに絡め「私は憲法を前向きに評価する。戦後の認識が自民と民主で違う」と憲法観の違いを強調した。式典には、主権回復後も占領下に置かれた沖縄から反発も出ている。首相は「昨年が60年の節目だったが(民主党政権下で)できなかった。毎年やる式典ではない」と来年以降の開催には慎重な考えを表明。沖縄が返還された5月15日の式典開催も「考えていかなければならない」と沖縄への配慮を示した。

*2:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130406/stt13040611310004-n1.htm
(MSN産経ニュース 2013.4.6) 高市氏「国家観で政界再編」 改憲めぐり公明との連立解消示唆
 自民党の高市早苗政調会長は6日の読売テレビ番組で、憲法改正に関し「憲法は国家観に関わる。常に選挙の争点になるべきで、国家観による政界再編が最後の正しい姿だ」と述べた。さらに「私は憲法改正のために国会議員になった。私たちは絶対何が何でもこれをやり抜く」と訴え、夏の参院選で憲法改正を前面に掲げる考えを強調。憲法改正に慎重な公明党との連立解消もあり得るとの認識を示した格好だ。一方、高市氏は、憲法改正を掲げる日本維新の会の綱領については「国の歴史と文化への誇りなど、価値観が一致するところが結構ある」と賛同。同じ番組に出演した維新共同代表の橋下徹大阪市長は重ねて改憲の必要性を強調した。

*3:http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201303217214.html
(愛媛新聞社説 2013年3月21日) 憲法改正の発議 「3分の2」緩和は邪道の極み
 衆参両院が憲法審査会を再開した。ひときわ目を引くのが憲法96条改正論だ。まずは憲法改正のルールから変えようという動きが政界で急速に広がっている。安倍晋三首相はあえて国会答弁で踏み込んだ発言をする。96条は、衆参両院でそれぞれ総議員の「3分の2以上」の賛成があれば改正を発議できるとする。その後の国民投票で「過半数」が賛成すれば承認されると定めている。首相らは発議要件の「3分の2以上」を「過半数」にしたいという。平和条項の9条などと比べ、イデオロギー色の薄い手続き論ならば、議論と合意がしやすいと踏んだのだろう。実際、制度改正に思い入れのある日本維新の会、みんなの党が同調している。
 ただ、改正発議のハードルを通常の法案可決と同じ過半数に下げると、憲法は極端に軟性化しかねない。与党本位の憲法改正に道を開いたとしても、実はもろ刃の剣だ。与党の地位とて不変ではない。96条改正に反対だった政治勢力が政権に就いた場合、今度は過半数の賛成によって再び3分の2へと戻す発議がなされる局面もありうる。国民投票が控えるとはいえ、無用な政治の浪費を繰り返すことになりかねない。スポーツの試合で片方に有利なルールがまかり通るのであれば観客はしらけよう。集団的自衛権の扱いや二院制のあり方といった憲法をめぐる核心の議論よりも、手続き論を優先するのは邪道の極みというよりほかない。
 憲法は時の政権の都合で憲法秩序をゆるがせない。96条は権力者を縛る憲法の本質であり、最高法規性のあらわれである。どんな理由があっても96条の改正は許されないとする学説さえあるほどだ。日本の憲法は改正されたことがない。ただ、それは自民党が問題視するハードルの高さが原因でないのは明白だ。憲法改正を試みた米国や欧州の国々は、ハードルが低いわけではない。硬性の程度は日本とさほど変わらず、多くは二院の3分の2要件を乗り越えて改正を成している。
 憲法改正は国会や国民の納得を得るために、どれだけ政治的な努力が注がれてきたかが問われる。欧米の国々は幅広い合意を得る過程を怠らなかったということだ。発議要件の緩和は、改憲のハードルを下げるというよりも、むしろ国民投票へのハードルを下げる。国のかたちを直接民主制のように描いていく覚悟が、どれだけ今の政治家にあるのかと問いたい。憲法公布直後の一時期を除けば、96条のあり方はほとんど議論されていない。立憲政治を見つめ直すための論戦は大いに結構だ。そして「3分の2」が意味する重さに気づく機会になればいい。

*4:http://mainichi.jp/feature/news/20130409dde012010003000c.html
(毎日新聞 2013年4月9日) 特集ワイド:憲法96条改正に異論あり 9条を変えるための前段、改憲派からも「正道じゃない」
 もしかしたら憲法9条改正よりも、こちらの方が「国家の大転換」ではないのか。憲法改正のルールを定めた96条の改正問題。改憲派が目の敵にし、安倍晋三首相が実現に意欲を燃やすが、どこかうさんくささが漂う。実は「改憲派」の大物からも異論が出ているのだ。【吉井理記】
 「憲法議論は低調だ。なぜなら結局、(改憲発議に要する)国会議員数が3分の2だから。2分の1ならすぐに国民投票に直面する。そこで初めて、憲法問題を議論する状況をつくり出すことができるのではないか」。先月11日の衆院予算委員会。民主党の議員から改憲への考えをただされた安倍首相は96条を改正するメリットをそう強調し、改正への意欲をにじませた。
 96条は改憲に(1)衆参両院のそれぞれ3分の2以上の議員の賛成で国会が改正を発議し、国民に提案する(2)国民投票で過半数が賛成する−−の2段階が必要と規定している。(2)の手続きを定めた国民投票法は第1次安倍内閣の07年に成立、10年に施行された。
 焦点は(1)だ。安倍首相は「3分の2以上」から「過半数」への緩和を目指す。今年に入り民主党、日本維新の会、みんなの党の有志が96条改正に向けた超党派の勉強会を発足させた。既に改憲派は衆院で圧倒的多数を占めており、今夏の参院選で定数242の3分の2、162議席以上になれば条件は整う。昨年8〜9月の毎日新聞の世論調査では96条改正賛成は51%、反対は43%だった。
    ■
 「絶対ダメだよ。邪道。憲法の何たるかをまるで分かっちゃいない」
 安倍首相らの動きを一刀両断にするのは憲法学が専門の慶応大教授、小林節さん(64)だ。護憲派ではない。今も昔も改憲派。戦争放棄と戦力不保持を定めた9条は「空想的だ」と切り捨て、自衛戦争や軍隊の存在を認めるべきだと訴える。改憲派の理論的支柱として古くから自民党の勉強会の指南役を務め、テレビの討論番組でも保守派の論客として紹介されている。その人がなぜ?
 「権力者も人間、神様じゃない。堕落し、時のムードに乗っかって勝手なことをやり始める恐れは常にある。その歯止めになるのが憲法。つまり国民が権力者を縛るための道具なんだよ。それが立憲主義、近代国家の原則。だからこそモノの弾みのような多数決で変えられないよう、96条であえてがっちり固めているんだ。それなのに……」。静かな大学研究室で、小林さんの頭から今にも湯気が噴き出る音が聞こえそうだ。

PS(2013年5月24日追加):一流の学者たちが頑張ってくれており、心強いです。ただし、強めるのは、政治家の権力だけでなく、官僚の権力もでしょう。
*5:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013052301001904.html
(東京新聞 2013年5月23日) 96条改正「憲法への挑戦」 主張超え学者結集
 改憲の発議要件を緩和する憲法96条改正に反対の学者が「96条の会」を発足し、代表の樋口陽一東大名誉教授らが23日、東京・永田町で記者会見して「96条改正は憲法の存在理由そのものへの挑戦だ」とする声明を発表した。発起人は憲法学者や政治学者ら36人。護憲派だけでなく9条改正を唱える改憲論者も含まれており、主張の違いを超えて大同団結した。声明は「96条を守れるかどうかは権力を制限するという立憲主義にかかわる重大な問題。(改正は)政治家の権力を不当に強めるだけだ」と訴えた。自民党などは発議要件を衆参両院の3分の2以上の賛成から過半数にすることを主張している。

| 日本国憲法::2013.4~2016.5 | 05:21 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.9 汚染水漏出問題は、海への排出をしないという前提のない杜撰な環境意識の下で生まれたものである。このような行動主体を信用してよいわけがない。
   
                *1より                         *3より
(1)国及び東京電力に、放射性物質を海に流さないという基本方針はあったのか?
 *1のように、3枚の遮水シートを敷いただけの貯水池に汚染水を貯めていたのだから、もともと、放射性物質を決して漏らさず海に流さないという基本方針はなかったと思われる。何故なら、遮水シートの耐久性は長くはなく、貯水池の構造があまりにも貧弱だからだ。そして「水漏れの予兆」というべき異変があった時にも、東電は水漏れを否定する方向で調査を進めていたのだから、「絶対に自然界に出さない」「海に流さない」という意識はなかったと考えるのが妥当である。

(2)放射性物質を含む水は危険だと言う認識はあるのか?
 東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理は七日の会見で、「あらためて整理すると(水位の低下を)確認できるが、日々の作業で認識するのは難しい」と語ったそうだが、それでは、測っていたこと自体が無駄である。さらに、*2によれば、漏れた量は推定百二十トンと書かれているが、雨で増えた水量もあるので、減った水量のみが流れ出した水量ではない筈だ。これらを総合して考えれば、危険な毒物を排出しないように管理しているという意識がない。

(3)今後、汚染水をどうするつもりなのか?
 *2によれば、「福島第一には大小七つの貯水池が造られ、合計容量は五万八千トンで、処理水は、放射性セシウムの大半が除去されているが、ストロンチウムなどは残っている」とされる。これでは、環境に排出することは不可能であり、今後も溜めていくしかない。しかし、処理するというのは、環境に排出できるレベルまで処理することであり、そうでなければ意味がない。いったい、いくらかけて処理設備を導入し、今後、どれだけの期間にどうするつもりなのか、明らかにすべきだ。これは、最初に予算を使って処理設備を導入する時から見えていなければならない展望であるため、「うっかり・・」「試行錯誤で・・」「結果論だ」などという言い訳を聞く必要はない。

(4)土中にしみ込んだ汚染水が海に流れることに関する意識の低さ
 *3の「土壌に漏れれば海へ出るという可能性は考えていなかった」、*4の「貯水槽の外側で放射性物質が検出されて初めて気がついた」などというのは、土中にしみ込んだ汚染水は、地下水となって海に流れ込むことについて少しも考えていない。こういう人が広報をやっているのだから、他の人の意識も推して知るべしである。現在、日本の環境基準では、毒物を環境に排水してはならず、毒物を出す企業は、浄水してから排水しなければならない(http://www.env.go.jp/chemi/tmms/lmrm/02/ref02.pdf#search='%E6%97%A5%E6%9C%AC+%E6%AF%92%E7%89%A9%E3%81%AE%E6%8E%92%E6%B0%B4'参照)。日本では、政府と東電が揃って、これに反する行為を行っているのだから、とうてい中国を批判できるような状況ではない。

*1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013040890070131.html
(東京新聞 2013年4月8日) 東電予兆問題視せず 別貯水池も汚染水漏出
 東京電力福島第一原発の地下貯水池から、高濃度汚染水を処理した水が漏れた事故で、東電は先月二十日ごろには、貯水池の水位がじりじり下がり、池の遮水シートの近くで微量の放射性物質も計測しながら、水漏れの予兆を見逃していたことが分かった。早期に水漏れを疑って対応していれば、漏出量は最小限にとどめられた可能性が高い。東電の危機管理のあり方が問われる。東電の資料によると、問題の貯水池の水位は三月十日前後から不安定になり、二十日ごろには明らかな下降線をたどった。今月五日の公表時には、最高値だった時より0・5%下がっていた。
 東電は遮水シートの内外で放射性物質の濃度も測っている。これまで計測されなかったのに、二十日には、微量ながら放射性物質を計測していた。二つの小さな異変を「水漏れの予兆」と疑うべきだが、東電は逆に、水漏れを否定する方向で調査を進めていた。その根拠としたのが塩素濃度だ。シートの外側では、処理水に含まれる塩分を検知する塩素濃度も常時、計測している。水が外に漏れていれば上昇するはずの外側の値が、二十日の時点では大きな変化はなかったことから、このときは「水漏れはない」という判断に傾いたという。
 東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理は七日の会見で「あらためて整理すると(水位の低下を)確認できるが、日々の作業で認識するのは難しい。危機意識が足りなかった」と述べた。一方、東電は水漏れがあった貯水池の東側に隣接する別の貯水池でも、処理水が漏れていると明らかにした。この貯水池にも処理水約一万一千トンが貯蔵されている。シート外側で採取した水から一立方センチメートル当たり二〇〇〇ベクレル前後の放射性物質と塩素が計測された。東電は、漏えい量は〇・三~三リットルとみている。

*2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013040690135415.html
(東京新聞 2013年4月6日) 福島第一 漏出汚染水120トン 「収束」後、最悪
 東京電力福島第一原発の地下貯水池から、高濃度汚染水を処理した後の水が漏れ出した問題で、東電は六日、漏れた量は推定百二十トンと明らかにした。周辺の地盤に流出した可能性が極めて高い。汚染水の漏出量は二〇一一年十二月に政府が「事故収束」を宣言して以来最大の規模となった。地下の貯水池は、上空に送電線があって地上タンクを造りにくい土地を有効利用するために考案され、地下に深さ数メートルの穴を掘り、三重の遮水シートを施工する方式。
 福島第一には大小七つの貯水池が造られ、容量は計五万八千トン。うち三つの貯水池には既に計二万七千トンの処理水が入っている。処理水は、放射性セシウムの大半が除去されているが、ストロンチウムなどは残っている。水漏れが確認されたのは、三つのうちの一つで、入れられている水量は一万三千トン。三日にシート外側の状況を確認した際、未検出だった放射性物質が検出されたため調べたところ、五日になって一番外側のシートの内側で採取した水から、一立方センチメートル当たり約六〇〇〇ベクレルの放射性物質を確認。塩分濃度も高かったことから、塩分を含む処理水が内側二層の遮水シートを越えて漏出していることが分かった。三層目の外の地盤でも、同二〇~三〇ベクレルの放射性物質が検出されている。漏れが確定的となり、東電は六日朝、隣接する未使用の貯水池に、一万三千トンの処理水を移す作業を始めた。移送完了には五日以上かかる見通し。

*3:http://mainichi.jp/select/news/20130406k0000e040187000c.html
(毎日新聞 2013年4月6日) 福島第1原発:汚染水漏えいで会見 終始苦しい説明
 東京電力福島第1原発の地下貯水槽から汚染水が漏えいした問題で、東電は6日未明から昼にかけて記者会見を2回開いた。最初の会見は、6日午前1時半に開始。終始苦しい説明に追われた。4月3日に貯水槽の外側から採取した水から微量の放射性物質が検出されたが、原子力規制委員会への報告も、会見もしなかったことについて、記者から「本店や現場で漏えいを疑わなかったのか」と問われ、尾野昌之原子力・立地本部長代理は「外部からの影響の可能性などに頭がいっていた。後から振り返ってみれば、証拠が出た時に発表していればよかったなと申し訳ないところもある」と弁明した。東電は、貯水槽の水位が4センチ下がったことについても「誤差の範囲」と認識したと振り返り、「土壌に漏れれば海へ出る可能性があると考えなかったのか」との質問には、「おっしゃる通り。(報告が遅れて)申し訳ない」と陳謝した。その一方で、記者から「薄いシートではなく、なぜもっと頑丈なものにしなかったのか」と問い詰められた尾野本部長代理が、「反論はしないが結果論の部分もある」と言い返す場面もあった。

*4:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG08011_Y3A400C1CR0000/?dg=1
(日経新聞 2013/4/8) 福島第1原発の汚染水漏れ、半月以上気づかず
 東京電力福島第1原子力発電所の地下貯水槽(容量1万4千トン)から汚染水が漏れた問題で、最初に漏洩が発覚した貯水槽では3月10日すぎから、水位が下がり始めていたことが分かった。東電が予兆を見逃し、4月5日まで漏洩を確認できなかったという。外部への放射性物質の流出量もまだ確定されていない状況だ。今回、最大で120トンの汚染水が漏れだしたとみられるのは7つある貯水槽のうちの1つ。1月に完成し、2月上旬から汚染水を入れ始め、ひと月かけて満水にした。その直後から水位が変動し始め、3月中旬以降は下降傾向が続いた。
 3月3日には容量の95%だった水位が、4月4日には94.5%まで下がった。貯水槽の外側で放射性物質が検出されてはじめて漏洩に気づいたという。ほぼ毎日、水位の計測を続けながら漏洩を見逃していた理由について、東電は「差が少ないので評価ができなかった」と弁明する。だが水位を記録したグラフからは明らかに右肩下がりの変化が読み取れる。一方、7日には隣接する別の同型貯水槽(容量1万1千トン)からの汚染水漏洩も発覚した。発見のきっかけは隣の槽での水漏れを受けた調査だった。こちらの貯水槽からの漏洩量は3リットル程度とみられている。全体の漏洩量について東電は最大120トンと見積もっているが「他のデータとの整合性がとれず、まだ確定できない」としている。

| 原発::2013.1~4 | 04:38 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.3 放射性物質が生物に与える影響やBSEとの関係は、真剣に考えるべきだ。(4月4日追加あり)
     
     セシウムを基準とした汚染格付け             *3より
 福島第一原発事故で放射性物質による汚染が起これば、そこで生活する生物(人間も含む)に影響を与えることは間違いない。*1は、これを研究者が研究の名に値する形で調査し、公表した点に意義がある。今後は、食品となる家畜や海洋及び海洋生物の調査もして欲しい。

 現在、狂牛病(BSE)とチェルノブイリ原発事故の関係は、*2のように言われている。家畜も生物である以上、放射線を浴びれば異常をきたすのが当たり前で、私は、*2を信じられる。ウイルスに感染もしないのに、体内で異常プリオンが作られるのは、自分の細胞が変化したとしか考えられない。そのため、「セシウム137(半減期30年)やストロンチウム90(半減期90年)といった放射性物質が大量に放出されたことで、それらが狂牛病や人間のクロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こす有力な候補となる」「チェルノブイリ原発事故由来の放射能で牛が被曝したことにより遺伝子異常が起き、BSE(狂牛病)が発症したのではないか?」というのは、確かにその可能性がある。そして、これは、福島第一原発事故により、現在、日本で起こっていることなのである。

 このような中、*3のように、厚生労働省は、7月にもBSE国内検査免除の月齢を「48カ月以下」に大幅に緩和するとのことだが、これからは、TPP参加を視野に安易に米国に追随することなく、しっかりと検査しなければならない時だ。しかるに、この厚生労働省の方針では、全頭検査による和牛に対するこれまでの信頼もなくし、やることが逆である。こういう姿勢では、仮にTPPに参加しても、日本の農産物輸出は減ることはあっても増えることはなく、これまで安全性で選んでいた国内の顧客も失うだろう。日本の消費者を馬鹿にしてはならない。

*1:http://news.livedoor.com/article/detail/7558754/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter (東洋経済オンライン 2013年4月3日) 福島原発周辺で「動植物異常」相次ぐ チョウやニホンザルなどに異常、研究者が被曝影響と指摘
 福島市や全村民が避難を余儀なくされている福島県飯舘村など、福島第一原原子力発電所からの放射性物質で汚染された地域で、動物や植物に異常が多く見られることが研究者による調査で明らかになった。3月30日に東京大学内で開催された「原発災害と生物・人・地域社会」(主催:飯舘村放射能エコロジー研究会)で、東大や琉球大学などの研究者が、ほ乳類や鳥類、昆虫、植物から見つかった異常について報告した。原発事故による生物への影響についての研究報告は国内でもきわめて少ないうえ、4人もの研究者が一般市民向けに報告したケースはおそらく初めてだ。
■稲の遺伝子に異変
 まず生物への影響に関してシンポジウムで最初に報告したのが、筑波大大学院生命環境科学研究科のランディープ・ラクワール教授。「飯舘村での低レベルガンマ線照射に伴う稲の遺伝子発現の観察」というテーマで研究成果を発表した。ラクワール教授は、つくば市内の研究所で育てた稲の苗を、福島第一原発から約40キロメートルに位置する飯舘村内の試験農場に持ち込んだうえで、放射線の外部被曝にさらされる屋外に置いた。そして生長が進んでいる根本から3番目の葉をサンプルとして採取し、ドライアイスを用いて冷凍保管したうえで、つくばに持ち帰った。その後、「半定量的RT-PCR法」と呼ばれる解析方法を用いて、特定の遺伝子の働きを観察したところ、低線量のガンマ線被曝がさまざまな遺伝子の発現に影響していることがわかったという。ラクワール教授らが執筆した研究結果の要旨では、「飯舘村の試験農場に到着してから初期(6時間後)に採取したサンプルではDNA損傷修復関連の遺伝子に、後期(72時間後)ではストレス・防護反応関連の遺伝子に変化が認められた」と書かれている。「稲に対する低線量被曝の影響調査は世界でも例がない。今後、種子の段階から影響を見ていくとともに、人間にも共通するメカニズムがあるかどうかを見極めていきたい」とラクワール教授は話す。
動物に現れた異常については、3人の研究者が、チョウ、鳥、サルの順に研究成果を発表した。
 チョウについて研究内容を発表したのが、琉球大学理学部の大瀧丈二准教授。「福島原発事故のヤマトシジミへの生物学的影響」と題した講演を行った。大瀧准教授らの調査は、日本国内にごく普通に見られる小型のチョウであるヤマトシジミを福島第一原発の周辺地域を含む東日本各地および放射能の影響がほとんどない沖縄県で採集し、外部被曝や内部被曝の実験を通じて生存率や形態異常の有無を調べたものだ。大瀧准教授らの研究結果は昨年8月に海外のオンライン専門誌「サイエンティフィックリポート」に発表され、フランスの大手新聞「ル・モンド」で大きく報じられるなど、世界的にも大きな反響があった。
※原著論文は下記に掲載
http://www.natureasia.com/ja-jp/srep/abstracts/39035
※日本語の全訳は下記に掲載(研究室のホームページより)
http://w3.u-ryukyu.ac.jp/bcphunit/kaisetsu.html
■飼育実験で被曝の影響を検証
 大瀧准教授は研究の特徴として、1.事故の初期段階からの調査であること、2.事故の影響のない地域との比較研究であること、3.飼育実験により、子世代や孫世代への影響を評価していること、4.外部被曝実験および内部被ばく実験を実施したこと――などを挙げた。
 事故から2カ月後の2011年5月および半年後の9月に福島県などからヤマトシジミを沖縄に持ち帰ったうえで、子ども世代や孫世代まで飼育を継続。一方、沖縄で採集したヤマトシジミにセシウム137を外部照射したり、セシウム137で汚染された野草(カタバミ)を、沖縄で採集したヤマトシジミの幼虫に食べさせた。ヤマトシジミの採集地点は東京都や茨城県(水戸市、つくば市、高萩市)、福島県(福島市、郡山市、いわき市、本宮町、広野町)、宮城県(白石市)の計10カ所で、研究に用いたヤマトシジミの数は5741匹に上った。大瀧准教授の研究では、驚くべき結果が判明した。2011年5月の採集で、ほかの地域と比べて福島県内のヤマトシジミでは、羽のサイズが小さい個体が明らかに多いことがわかったのだ。「地面の放射線量と羽のサイズを比較したところ逆相関が見られ、線量が上がっていくにつれて羽のサイズが小さくなる傾向が見られた」と大瀧准教授はデータを用いて説明した。また、捕獲した個体の子どもについて、「福島第一原発に近い地域ほど羽化までの日数が長くなる傾向が見られ、成長遅延が起きていたことがわかった」(大瀧准教授)。「親に異常があった場合、子どもでも異常率が高くなる結果も出た」とも大瀧准教授は語った。ただし、「これだけの実験では、遺伝性(異常がDNA損傷に基づくもの)であると断言するには十分な証拠とは言えない」とも説明した。
■被曝した個体で生存率が低下
 外部から放射線を照射した実験(外部被曝の検証)では、放射線を多く照射した個体ほど羽根が小さくなる傾向が見られ、生存率が低くなっていた。また、汚染されたカタバミを幼虫に食べさせた内部被曝に関する実験でも、比較対照群である山口県宇部市の個体と比べて福島県内の個体で異常が多く見られ、生存率も大幅に低くなっていた。内部被曝の研究では驚くべき結果も出た。「沖縄のエサを食べた個体と比べ、福島県内の個体は死に方でも明らかな異常が多く見られた」と、大瀧准教授は写真を用いて説明した。さなぎの殻から抜けきれずに死んだり、成虫になっても羽が伸びきれない事例などショッキングな写真を紹介。「(生体の)微妙なバランスが狂ってしまうと死亡率が上がるのではないか」(大瀧准教授)と指摘した。
 続いて東京大学大学院農学生命科学研究科の石田健准教授は、「高線量地帯周辺における野生動物の生態・被ばくモニタリング」と題して講演した。
■通常のウグイスなら、見たこともない「おでき」が…
 石田准教授らは、福島県阿武隈高地の中でも特に放射線量が高く、現在、「帰還困難区域」に指定されている浪江町赤宇木地区(福島第一原発から約25キロメートル)で2011年8月に野生のウグイス4羽を捕獲したところ、「うち1羽から今までに私自身、ウグイスでは見たこともないおできが見つかった」(石田准教授)。これまで350羽あまりを捕獲した経験のある石田准教授が驚くほどの病状で、このウグイスには血液原虫も寄生していた。また、捕獲したウグイスの羽毛を持ち帰って放射線量を測定したところ、セシウム134と137を合わせて最高で約53万ベクレル/キログラムもの汚染が判明した。石田准教授はその後も自宅のある埼玉県横瀬町と福島を15回にわたって行き来し、鳥類の定点観測や自動録音による野生動物のモニタリングを続けている(研究成果の一部は、中西友子・東大大学院教授らの編纂した英文書籍で、シュプリンガー社から3月に出版された。電子ファイルは誰でも無料で自由に読める。
■ニホンザルの白血球数が減少
 そして4人目の講演者として登壇したのが、羽山伸一・日本獣医生命科学大学教授。「福島県の野生二ホンザルにおける放射性セシウムの被ばく状況と健康影響」と題した講演をした。28年にわたってサルの研究を続けている羽山教授は、ニホンザルが北海道と沖縄県を除く全国に生息している点に着目。「世界で初めて原発の被害を受けた野生の霊長類」(羽山教授)として、ニホンザルは被曝による健康影響の研究対象としてふさわしいと判断した。羽山教授は、約3000頭近くが生息する福島市内(福島第一原発から約60キロメートル)で農作物被害対策のために個体数調整で捕獲されたサルを用いて、筋肉に蓄積されているセシウムの量を継続的に調査。性別や年齢、食性との関係などについて検証した。
■福島と青森のサルを比較すると…
 11年4月から13年2月にかけて福島市内で捕獲された396頭のサルと、青森県で12年に捕獲された29頭を比較。土壌中のセシウムの量と筋肉中のセシウム濃度の関係を検証した。その結果、「土壌汚染レベルが高いところほど、体内のセシウム蓄積レベルも高い傾向があることがわかった」(羽山教授)。また、木の皮や芽を食べることが多く、土壌の舞い上がりが多い冬期に、体内の濃度が上昇していることも判明したという。なお、青森県のサルからはセシウムは検出されなかった。「注目すべきデータ」として羽山教授が紹介したのが、血液中の白血球の数だ。避難指示区域にならなかった福島市内のサルについては、外部被ばくは年間数ミリシーベルト程度の積算線量にとどまるうえ、内部被曝量も10ミリグレイ程度にとどまるとみられると羽山教授は見ている。にもかかわらず、ニホンザルの正常範囲より白血球数、赤血球数とも減少しており、白血球は大幅に減少していた。
 「特に気になったのが2011年3月の原発事故以降に生まれた子どものサル(0~1歳)。汚染レベルと相関するように白血球の数が減っている。造血機能への影響が出ているのではないかと思われる」(羽山教授)という。シンポジウム終盤の討論で羽山教授はこうも語った。「本日の講演内容がにわかに人間の健康への研究に役に立つかはわからない。ただし、現在の福島市内のサルの被曝状況は、チェルノブイリの子どもたちとほぼ同じ水準。チェルノブイリの子どもたちに見られる現象がニホンザルにも起こったことが明らかにできればと考えている」

*2:http://tabimag.com/blog/archives/2091 
(オンタイム 2011 年 7 月 13 日) チェルノブイリ原発事故(放射能)と狂牛病の奇妙な関係
<ポイント>
●遺伝子の異変によっても起こる狂牛病
 まず、狂牛病について、もう一度おさらい。Wikiに興味深い記述を発見した。(参照)
2008年9月11日、米国農務省(英語略:USDA)動物病センター(英語:National Animal Disease Center/UADC)で研究を行ったカンザス州立大学のユルゲン・リヒト(Jurgen Richt)教授は、BSEの病原体である異常プリオンは外部から感染しなくとも牛の体内での遺伝子の異変によって作られ、BSEを発症する例につながると発表した。この発表は2006年アラバマ州でBSEを発症した約10歳の雌牛の遺伝子の解析から異常プリオンを作る異変が初めて見つかったことによる。人間でも同様の異変が知られ、クロイツフェルト・ヤコブ病を起こす。つまり、外部から感染しなくても、遺伝子異常で起こる可能性があるということ。ということは、やはり、チェルブイリから約2000キロも離れたイギリスまで届いたという、原発事故由来の放射性物質による可能性も否定できない。放射性物質による被曝で遺伝子異常が起こる可能性があることは、よく知られている事実だ。
●チェルブイリ原発事故と狂牛病発生時期は重なるという事実
 さらに様々な文献をあたっていて、興味深いものを発見した!それは、ハンガリーのブタペスト技術経済大学Budapest University of Technics and Economyの博士課程の学生が2000年に発表した研究論文だ。原文のまま、該当箇所を抜き出してみる。
The Chernobyl accident occurred at 01:23 hr on Saturday, 26 April 1986, when the two explosions destroyed the core of Unit 4 and the roof of the Chernobyl reactor building.
In Britain, the first cases of the Mad-Cow Disease can be dated back to 1986, in the same year when the Chernobyl accident occurred.
 まず、チェルノブイリの原発事故で炉心が破壊され、2度の爆発が起こったのが1986年4月26日土曜日の1時23分であることに触れ、イギリス国内で最初の「狂牛病」が発症したのが同じ1986年に遡ることができると指摘している。このことが示すのは、私が在英時代に狂牛病が騒動になったのは初の死亡者が出たからであって、実はその前から発症していた患者はいたということ。裏を返せば、1986年以前には発症していないということだ。
The Chernobyl accident occurred 15 years ago, nevertheless the caesium-137 (half-life: 30 years) radionuclides and strontium-90 (half-life: 90 years) radionuclides could be the most likely candidates for causing the Mad-Cow Disease in cows and the Creutzfeldt-Jakob Disease in humans.
 そして、チェルノブイリの事故は15年前ほど前のことだが、セシウム137(半減期30年)やストロンチウム90(半減期90年)といった放射性物質が大量に放出されたことに触れ、それらが狂牛病および人間に発症するクロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こす有力な候補となる、としている。つまり、チェルノブイリ原発事故由来の放射能で牛たちが被曝したことで、遺伝子異常が起き、BSE=狂牛病が発症したのではないか?ということになる。
●放射能という目に見えない敵が放つ、形を変えた攻撃
 この研究論文では「科学界は、チェルノブイリ事故の影響を一部分しか究明しておらず、こうした知らない事実が多いにもかかわらず、英国政府もそうした事実を心配もせず、調査しようともしていない」と指摘する。この論文以外にも、調べてみると「狂牛病とチェルノブイリ事故の関連性は否定できない(明らかになっていない)」とする意見もかなりあるようだ。
 チェルノブイリ原発事故は、旧ソ連下にあったということもあり、事故の検証も完璧にはできていないばかりか、放射能が人間や生物、植物などの生態系に与える影響も、いまだよくわかっていない。しかも、突き詰めて調査研究もできていない(事実は「公表されていない」が正しいかも?)…というのが今の現状なのである。それは、そうした調査研究ができるだけの国力のある国のほとんどが原発推進国である、ということと無関係ではなさそうな気がする。
 …と、ここまで書いて、ピンとくる人もいると思うが、今回の福島の原発事故により、今後、狂牛病のような(もしくはそれ以上の?)わけのわからない病気が蔓延する可能性もあるということ。また、上述のWiki引用文にあるように「人間でも同様の異変が知られる」ということも、一応留意しておくべきだろう。放射能という目に見えない敵が仕掛けてくる攻撃は、後で形を変えて現れる…ということを忘れてはならない。

*3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130403&ng=DGKDZO53548770T00C13A4CR0000 (日経新聞 2013.4.6) BSE国内検査免除の月齢、「48カ月以下」7月にも 厚労省
 内閣府の食品安全委員会は3日、専門調査会を開き、BSE(牛海綿状脳症)対策で国内の食肉検査を免除する牛の月齢を「48カ月以下」に緩和することを容認する評価書案を了承した。安全委は意見公募を経て厚生労働省に答申。同省は関連省令などの改正を進め、早ければ7月にも緩和を実施する。これまで検査免除の月齢は「20カ月以下」が対象だったが、4月1日から「30カ月以下」に緩和されていた。日本では飼料規制などの効果で2009年度以降はBSE感染牛が確認されていない。評価書案では「日本のBSE発生防止対策は適切に行われている」と判断。BSE発生の可能性はほとんどないと指摘した。その上で(1)日本では例外を除いてBSE感染牛の月齢が48カ月以上(2)欧州連合(EU)の感染牛の約98%が48カ月以上と推定される(3)仮に日本の牛がBSEの原因となるたんぱく質「異常プリオン」を摂取しても極めて微量で潜伏期間が長くなる――などの理由から検査免除の月齢を「48カ月以下」に引き上げても「人への健康影響は無視できる」と結論付けた。牛肉の輸入を巡っては、今年2月から米国、カナダ、フランスの月齢がいずれも「30カ月以下」、オランダが「12カ月以下」に緩和された。調査会では、輸入を認める月齢についても「30カ月以下」からさらに緩和した場合のリスク評価を検討している。

PS(4月4日追加):国内の検査対象を48カ月齢超とする根拠として、食安委調査会が「(1)感染牛は一部を除けば48カ月齢以上」としているのは、科学的ではなく滑稽ですらある。何故なら、その一部というのは全頭検査していたからこそ発見されたもので、検査しなければ発見されないものであり、月例が低くてもBSEが発生する証拠だからである。そして、発見された一部を例外として除けば統計調査したことにはならない。また「(4)2002年1月以降の生まれでは発生していない」としているのも、福島第一原発事故以降は発見される可能性が上がっている現在、適切でない。さらに「都道府県がBSE全頭検査を一斉にやめられるように廃止を促す」というのは、安全性で差別化してきた産地のブランド価値を落とす行為だ。最後に、BSEの発生リスクが最も低い「無視できるリスク国」(清浄国)に認定されるために安全検査を緩くするというのは、消費者を無視した本末転倒の行為である。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=20190  (日本農業新聞 2013年4月4日)  BSE検査で食安委調査会方針 「48カ月齢超」に緩和 全頭検査廃止も促す
 食品安全委員会プリオン専門調査会は、3日、国内で牛海綿状脳症(BSE)検査を実施する牛の月齢を現行の「30カ月齢超」から「48カ月齢超」に引き上げても「人への健康影響は無視できる」との見解で合意した。意見募集などを行った上で同委員会が厚生労働省に答申する。同省も意見募集を行い、7月にも検査月齢の引き上げに踏み切る見通し。また48カ月齢以下の検査分の補助は打ち切り、全頭検査をやめるよう都道府県に促す方針だ。同調査会は今後、米国産牛肉など輸入を認める月齢のさらなる引き上げについて審議する。
 国内の検査対象を48カ月齢超とする根拠として同調査会は、(1)感染牛は一部を除けば48カ月齢以上(2)欧州連合(EU)の検査で分かった感染牛の98%は48カ月齢以上(3)牛の感染実験で病原体の異常プリオンが検出された月齢は48カ月齢以上(4)2002年1月以降の生まれでは発生していない――ことを挙げた。国内の検査対象は、同委員会の答申を受け厚労省が4月1日に「20カ月齢超」から「30カ月齢超」に引き上げたばかりだ。ただ同省が「30カ月齢超」と併せて、さらなる引き上げも諮問していため検討を続けてきた。輸入牛肉についても同様の諮問を行っている。
 と畜・解体時に除去する特定部位は見直さず、30カ月齢以下の頭部(へんとう以外)、脊柱、脊髄の利用を認めるとした4月1日の規制緩和策を継続する。同調査会は今回の合意を、国内対策の見直しによる健康への影響の「評価書案」としてまとめた。親組織の同委員会に報告し、30日間の意見募集の結果を踏まえて正式に決定・答申する。それを受け、厚労省は検査月齢引き上げのための省令改正などの手続きに入る。検査費用の補助について厚労省は、4月1日の検査月齢の引き上げ時には経過措置として「21カ月齢以上~30カ月齢以下」の分を継続した。しかし、同委員会がさらなる引き上げを答申した際には、国の検査対象以外の補助金は打ち切り、都道府県がBSE全頭検査を一斉にやめられるように廃止を促すとしている。
 政府は、BSEの発生リスクが最も低い「無視できるリスク国」(清浄国)に認定するよう国際獣疫事務局(OIE)に申請しており、5月のOIE総会での決定を目指している。こうした動きも、検査月齢の一層の引き上げと全頭検査の一斉廃止の要請方針につながったとみられる。
 日本の年間と畜頭数は10年度が122万頭で、現行で検査対象外の30カ月齢以下は70%、また検査月齢の一層の引き上げで対象外となる48カ月齢以下は83%だった。

| 内部被曝・低線量被曝::2012.9~2014.4 | 04:53 PM | comments (x) | trackback (x) |

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