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2022,12,19, Monday
2023年の新年、明けましておめでとうございます。 師走や年初は忙しかったため長引いてしまいましたが、1ヵ月以上かかってやっと完成しました。
(1)防衛費増額のための増税を含む財源について 東京新聞 2022.12.15朝日新聞 2022.12.15毎日新聞 2022.12.23日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本はNATO諸国の標準に合わせて防衛費をGDPの2%にしようとしている。そして、増額分の今後5年間の財源を、左から2番目の図のように、歳出改革で3兆円・決算剰余金の活用で3.5兆円、防衛力強化資金で4.6兆円、増税で3.5兆円賄い、そのほかに建設国債1.6兆円と剰余金の上振れ0.9兆円を見込んでいる。単年度では、2027年のケースで右から2番目の図のようになっており、この12月23日に閣議決定された2023年度予算は、1番右の図のように、コロナが落ち着いたにもかかわらず、114.38兆円と過去最高になっている) 2022.12.15山陰中央新聞 2022.6.20産経新聞 (図の説明:左図は、復興特別所得税を1%下げて防衛税を1%付加するやり方で、そのかわりに復興特別所得税が14年間延長されるというものだ。また、右図は、「防衛費増額の財源をどうすべきか」についてアンケートをとった結果、「今の国の収入の中で使い道を変えて増額すべき」と「増額すべきでない」が多数を占めたことを表している) 1)防衛費増額の財源に法人・所得・たばこ税増税は妥当か 政府は、*1-1-1・*1-1-2・*1-1-3のように、①2023年度から5年間の防衛費を43兆円程度とする方針で ②そうすると、2022年度当初5.2兆円の5年分(25.9兆円)より14.6兆円程度の上積みとなる そうだ。 そして、14.6兆円の財源を、③歳出改革・決算剰余金活用・税外収入等で11.1兆円確保し ④残り3.5兆円を法人税・東日本大震災復興特別所得税・たばこ税増税で確保し ⑤その内訳は法人税7000億~8000億円・たばこ税約2000億円・復興所得税(所得税額に2.1%をかけていた)のうち1%程度を防衛目的税に廻して約2000億円調達し ⑥かわりに復興所得税の期限を当初の2037年から14年間延長し ⑦たばこ税は1本あたり3円上乗せして 調達するそうだ。 しかし、防衛費の財源のために増税しなくても、③の中の歳出改革で賄うべきであり、原発補助金・時代錯誤の農業補助金・エネルギー代金の補助など、適切な対応をとればいらない筈の無駄な歳出がいくらでもあるため、それは可能なのである。 また、⑤の所得税に税率1%の新たな付加税を設けて、現在は2.1%の東日本大震災の復興特別所得税を1%引き下げて合計の税率を2.1%に保ちつつ復興所得税の期間を延長するというのも、2011年に起こった震災の復興は10年程度で速やかにやって欲しいところ、2037年から14年間延長して2051年までもやるのでは、震災復興が復興目的ではなく既得権益となるだろう。 さらに、たばこ税は1本あたり(たった)3円相当増税して防衛財源にするそうだが、喫煙者は肺癌になる確率が有為に高いため、それに見合った金額を増税して医療保険制度の補助にすべきであるし、決算剰余金活用・税外収入は、該当する世代の人口が増えれば増えるのが当然であるのに発生主義でその準備をしてこなかった年金・医療・介護制度の原資にすべきなのである。 なお、政府は増税とは別に、⑧防衛費のうち自衛隊の施設整備や船の建造費など計4343億円を建設国債で賄うそうだが、建設国債は鉄道・道路・送電線の敷設などのように、生産性を上げることによってその後の経済活動に寄与して法人税・所得税などとして戻ってくる固定資産への投資に対して使うものであるため、自衛隊施設や船の建造費のように経済活動で生産性を上げるわけではない消耗品費を建設国債で賄うのは適切でないと、私も考える。 しかし、政府が2022年12月23日に閣議決定した2023年度予算案では、防衛関係費はGDP比1%の目安を超えて1.19%となり、金額で26%増加して過去最大の6兆8219億円となり、これは、ほぼ横ばいの6兆600億円だった公共事業関係費を初めて上回り、一般歳出で社会保障関係費に次いで多かったのだそうだ。 この防衛関係費には、米軍再編経費やデジタル庁が所管する防衛省のシステム経費を含むそうだが、米軍再編経費の中には明らかに無駄遣いに当たるものが多い。また、継戦能力を高めるために、長射程ミサイルや艦艇などの新たな装備品の購入費が1兆3622億円で7割弱増え、装備品の維持整備費も1兆8731億円と5割近く増額したそうだが、これまで機材を共食いさせながら整備してきたような自衛隊に、無駄遣いせずに継戦能力を高めたり、機材の維持管理をしたりする合理的思考があるとは思えないわけである。 2)破壊的活動である防衛費の財源に建設国債の発行は許されないこと *1-2-1のように、政府が戦後初めて、防衛力整備を国債で賄う方針を固めたが、借金頼みで軍拡して国民の財産を灰燼に帰させたのは、ほんの77年前のことである。もう忘れたのだろうか。そして、その時も、強烈なインフレを起こして国民の預金を著しく目減りさせ、それと同時に国債の実価価値を落として返済した。このように国民の生活を無視した同じ失敗の歴史を、何度繰り返したら気が済むのか。 私は、公共事業などの投資的経費には建設国債を充ててよいと思うが、海上保安庁の予算も建設国債ではなく通常の国債を充てるべきだと考える。財政規律は、ここまで失われているのか。老朽化した自衛隊の隊舎であっても、鉄道・道路・送電線のように、その後に生産性を高めて経済を活性化させ、それによって徴収された税で返済することができないのが、建設国債を充てるべきではないと考える理由である。 私は、プロセスが乱暴ではなく整っていたり、説明する言葉が丁寧だったりすれば、妥当性のない内容の政策でも通してよいとは全く思わないが、*1-2-2のように、物価を高騰させ、国民負担を増やし、給付は減らしながら、防衛費を増額して、その財源として新たに増税を打ち出す内容は、まさに国民の生命・財産を大切にしていないと考える。 だからといって、「内閣不信任案」を通して首相を後退させても、さらに強硬な人が首相になればむしろマイナスなので、本当に必要なことは、何故こうなるのかを考えて、それを防ぐことである。なお、沖縄県のあちこちに必要以上に軍事基地を建設するのも、観光を通して金にもなる大切な自然を壊しながら膨大な無駄遣いをしているのに他ならない。 3)2023年度与党税制改正大綱について 上の1)2)の増税は、先見の明ある質の良いものとは決して思わないが、*1-3-1は、それに加えて、12月16日に固まった2023年度与党税制改正大綱は、①NISAが、恒久化・非課税期間の無期限化で拡充された ②欧米は環境問題などを睨んで税制改革を進めているのに、炭素税が先送りされ次の成長策を描けていない ③EV税制は走行距離に応じた課税案があった ④「1億円の壁」という税の不公平是正も踏み込み不足だった ⑤自民党税調は1959年に発足し、11~12月だけ開くのが慣例で、場当たり的な議論に追われている と記載している。 しかし、①は、「分散投資をやりやすくする」という意味ではよいが、分散投資の対象は利益率の低い日本国債や日本企業でなく、利益率が高くて不安定性の低い海外の国債や企業になると思われる。 また、②③については、日本は環境を汚さなければ経済発展しないと考えている人が未だに少なくなく、そのような先見の明なき人がオピニオン・リーダーに多いのが特徴でもあり、復興特別所得税を密かに防衛に流用してもよいとは思うが、環境税・炭素税には拒否感があるのである。東京財団政策研究所の森信さんが、「場当たり的な対応に追われて税体系全体をどうしたいかの議論が置き去りになっている」と言うのは、そういう意味であろう。 ④⑤については、(たとえ東大法学部卒・財務省出身であったとしても)税法は詳しくない国会議員が、支援者から言われた要望をそのまま発言するため、たばこ税は高くできなかったり、企業への現在の負担をできるだけ軽くするため環境税を見送ったりして、先見の明ある税体系の構築ができないのである。そのため、単純な期間の問題ではないのだ。 なお、*1-3-2のように、⑥経済への影響を考慮してカーボンプライシングを2028年度から導入し、小さな負担からスタートする というのは、CO2の削減効果に乏しく、やっている振りにすぎない。また、⑦経産省が化石燃料の輸入業者に「賦課金」を2028年度から始め ⑧電力会社に有償の排出枠を買い取らせる「排出量取引」を2033年度を目途に始める というのも、CO2の排出量に応じた負担になっていないため、不公平感を増すだけであろう。 そして、⑨日本の再エネ利用は遅れているため、欧州等で取り組みが進む中、国内外の投資家から日本企業に向けられる視線が厳しくなって、「対策は待ったなし」という認識が広がったが ⑩EUは、排出量の規制が緩い国からの輸入品に事実上課税する国境炭素税を2026年以降に導入する そうだが、2033年度に新たな賦課金と排出量取引の一部有償化をそろって導入するのでは遅すぎる。その上、負担額も低すぎ、本当は日本が最初に言い出したことであるのに、海外からの圧力で初めて実行に移すところが、リーダーの意識が低く、先見の明がない証である。 (2)戦後安全保障の転換とその内容 すべて2022.12.17日経新聞 (図の説明:新防衛3文書の枠組みは、1番左の図のように、国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画の3つだが、どれも国家を防衛する発想だけで国民を護る視点のないのが根本的問題である。また、新防衛3文書で転換する安保政策は、左から2番目の図のように、中国を意識しての反撃能力・継戦能力強化のためのGDP比2%への防衛予算増額で、防衛装備品を内生産して輸出する準備もしている。そして、右から2番目が10年後に目指す自衛隊の大勢だそうだが、10年後にしては宇宙・サイバー・ミサイル・無人機が手薄で、多くを人手に頼っており、戦闘機の時代に戦艦に頼っていたのと同じ印象だ。本当は、1番右の図のような優先度をつけた最小コストで最大効果を発揮する防衛予算が望まれるが、コストには国民の犠牲も含めるべきだ) 2021.10.23JCP 2022.11.29、2022.12.9日経新聞 2022.12.24Yahoo (図の説明:日本のGDPは世界第3位であるため、他国と同じGDP比2%の防衛予算なら、1番左の図のように、世界第3位の防衛予算になるが、その内容は上の図のとおりだ。そして、防衛費増額のイメージは、左から2番目の図の通りで、その財源は、右から2番目の図のように、歳出改革・決算剰余金の活用・防衛力強化資金・増税とされているが、これらは防衛費以外にも使い道はいくらでもある資金だ。そして、これらの放漫財政を反映して閣議決定された2023年度予算は、1番右の図のとおり、過去最高の114兆3812億円となっているが、これでよいのか?) 1)安全保障の転換内容について 防衛費増額の根拠について、政府は、*2-3-1のように、安保3文書(①国家安全保障戦略 ②国家防衛戦略 ③防衛力整備計画)を定めたが、書かれている内容は、同じことを繰り返している割には曖昧な点が多く、全体としては総花的でまとまっておらず、相互に矛盾する内容も散見される。 そのため、*2-3-2のように、目的意識を明確にした上での優先度が問われる。例えば、無人機やミサイルを配備し、宇宙からの防衛力を強めれば、従来型の有人戦闘機は著しく減らすことができる筈だ。しかし、戦争を前提として準備する以上は、インフラ防護やサイバー防衛は必要不可欠であるのに、原発や送電線はじめセキュリティーに甘い施設の新設も予定され、食料やエネルギーの自給率は著しく低いのである。 これでは、何があっても敵基地を攻撃したり、戦争を始めたりすることなどはできないため、防衛費を増額したからといって国を護ることはできず、防衛費増額は無駄遣いにすぎなくなる。「反撃能力があれば、抑止力になる」という論者も多いが、それは相手国の動機に依存するため希望的観測にすぎず、例えば、ウクライナのように、自国を侵略されれば相手がロシアであっても全力を尽くして闘うのが普通であるため、“抑止力論”は再検討を要するわけである。 そのような中、*2-3-3は、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻はその40日前にサイバー攻撃で「開戦」しており、ウクライナの官民のインフラ全般が攻撃を受けていたと記載している。戦争における非軍事的手段と軍事的手段の割合は4対1だそうだが、日本はサイバー攻撃には本当に無防備なのである。 2)反撃能力保有の意義について *2-1-1は、①政府は国際情勢がウクライナ侵攻や台湾有事のリスクで急変したため ②2022年12月16日、国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画の新たな防衛3文書を閣議決定し ③相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」を保有し ④防衛費をGDP比2%に倍増し ⑤戦後の安保政策を転換して自立した防衛体制を構築し ⑥米国との統合抑止で東アジアの脅威への対処力を高める方針を打ち出し ⑦反撃能力の保有は3文書改定の柱だ と記載している。 つまり、「反撃能力の保有が抑止力となるため、反撃能力は今後不可欠」というのが防衛3文書の柱だそうだが、重要インフラは隙だらけ、エネルギーは殆ど海外依存、食料自給率も極端に低い中で、武器だけ増やしても国民は惨憺たる状態になるというのも、ロシアのウクライナ侵略で明るみに出たことである。 そのため、③④⑦を実行するために、前から存在していた①⑤⑥を理由として、②を閣議決定したようにしか思えない。 3)平和国家の名は、返上したのか? 岸田政権が閣議決定した国家安全保障戦略は、*2-1-2のように、日本周辺の情勢について「戦後最も厳しく複雑な安保環境」だと強調し、反撃能力の保有はじめ防衛力を抜本的に強化して、防衛関連予算を2027年度にGDP比2%に大幅増額するのが柱だそうだ。つまり、「GDP比2%に増額」というのが先にあって、その他の理屈は後から無理矢理つけたため、首尾一貫性や整合性がないのだろう。 また、戦後日本は憲法9条に基づき、「平和国家」として専守防衛に徹してきたことと、他国の領域を攻撃できる反撃能力を保有することは、日米安保条約下で「打撃力」を米国に委ねてきた安保政策を根幹から転換するものであるため、こうした重大な政策転換は国民的議論を行ってから決めるべきだった。ただし、防衛関連は特定秘密が多すぎて充実した議論ができず、議論が空回りしそうなので、これでよいのかとも思う。 そのため、メディアはこの年末年始には、馬鹿笑いするしかないような底の浅い番組ばかりではなく、この点をクローズアップした特集を報道すべきだ。戦争になれば主たる戦力にならざるを得ない若者こそ、防衛費増額・国債発行・増税・戦争の可能性を前に、「政治には関心がない」「選挙に行くのは面倒だ」「政治の話をするのは意識高い系だろう」などと言っている場合ではない筈である。 4)防衛予算における規模先行の弊害 *2-2-1は、①財政力の現実を直視して規模ありきの防衛予算増額を改めるべき ②このまま進めば借金で賄ったり防衛以外の予算を過度に制約したりする ③恒久的支出を増やす以上、安定財源確保が必須 ④国債頼みは財政上の問題に加え、防衛力拡大の歯止めも失わせる ⑤歳出改革で2027年度までに1兆円分を積み上げるとのことだが、「毎年度毎年度いろいろな面で工夫をしていかなければいけない」 とあやふや ⑥政府が実効性ある財源を示せないのは、防衛費の増額が身の丈を超えた規模のGDP2%という「総額ありき」で予算を決めた弊害 ⑦中身を精査して過大な部分を見直すのが先決 ⑧日本が直面する課題は安全保障だけではないため、幅広い視野で適正な資源配分を考えることが政治の役割 等と記載している。 上の①④は全くその通りで、②⑧については、国民の命を護るのに重要な社会保障予算が削られており、本末転倒だ。しかし、③のように、何かと言うと増税すれば国民の可処分所得を減らして、国民の命を護れない。そのため、⑤の歳出改革こそ重要なのであり、時代遅れの補助金が既得権益化しているものをなくしていかなければならないが、これを毎年合理的に判別するには、国に公会計制度を導入して事業毎の費用対効果を適時に見える化する必要があるのである。 これに加えて、*2-2-2は、⑨科学技術費等の国防に有益な費用を合算して省庁横断の防衛費と位置づけ ⑩防衛省予算を増額した上で防衛に有益な他の経費(公共インフラ・科学技術研究・サイバー・海上保安庁等の他省庁予算)を含め ⑪防衛省だけの縦割り体質から脱却して安全保障を政府全体で担う体制に移行 ⑫日本の防衛費は1976年の三木武夫内閣以来GDP比1%以内を目安としてきたが、ウクライナ侵攻を踏まえてNATO加盟国が相次ぎ国防費をGDP比2%にすると表明し、自民党が2%への増額論を唱えていた ⑬2022年度当初で5兆4000億円程度の防衛省予算は、GDP比2%なら約11兆円に達する ⑭柱となるのは「反撃能力」の保有で、ミサイルの長射程化や米国製巡航ミサイル「トマホーク」を導入 ⑮不足している弾薬の購入量を増やすなどして継戦能力も強化 ⑯首相は両閣僚に歳出改革なども含め財源捻出を工夫するよう求めた と記載している ⑥⑫⑬のように、NATO加盟国が相次ぎ国防費をGDP比2%にすると表明したからといって、日本もGDP比2%という「総額ありき」で、⑦のように、中身も詰まらないのに予算を決めるのは意味がない。そのため、⑨⑩⑪のように、防衛に関するものは他省庁の予算でもカウントするのは賛成できるが、⑭⑮のように、柱となるのが「継戦能力」と「反撃能力」の保有、それによる抑止力の期待ではお粗末すぎるのである。 (3)エネルギーの安全保障 エネルギーの安全保障については、a)自然災害や戦争の発生時に被害を最小に食い止められること b)自給率を高くできること c)貿易や経済を通して国民経済に負担をかけず、むしろ活性化させること の3点から見た優位性を検討する。これらは、当然のことなのだが、日本では逆の意思決定がなされることが多いのは何故かを、正確に突き止めて解決しなければならない。 1)再エネについて 国際エネルギー機関(IEA)は、*3-1-1ように、2022年12月6日に公表した報告書で、太陽光・風力などの再エネが2025年には石炭を抜いて最大の電源になるとの見通しを示した。 その理由は、再エネは、各国が自給でき、装置産業であり変動費が無料に近いため、普及すればするほど発電コストが安くなるからで、今では化石燃料や原発の方が安価だなどと言っているのは日本くらいである。しかし、どうして、いつもこういうことになるのか、そこが、日本経済停滞の原因なのである。 また、再エネの普及には、送電網や蓄電池が必要だが、*3-1-2のように、政府は官民で150兆円超の脱炭素投資を見込み、再エネの大量導入に約31兆円を想定しているそうだが、金額が大きい割には、達成目標が2030年度に36~38%と著しく低い。 こうなる理由の1つは、再エネに対して仮想発電所ではなく原発や火力と同じような大型案件を予定するからであり、それでは景観や安全性への懸念から地元自治体が反対するのは当然である。また、送電網の強化も、鉄道網や道路網を利用して陸上でネットワーク上にすれば、敷設・維持・管理を最小コストで行うことができ、安全保障上も優れているのに、広域送電網の整備を海中にするそうなのだ。 また、EUは2026年から炭素価格の低い国からの輸入品に対して国境炭素調整措置の導入を決めたが、日本の炭素税は欧州などよりずっと軽く、開発では日本が先行したペロブスカイト型次世代太陽電池も、早く実用化しなければ普及で世界で置いて行かれるのは必然である。 そして、脱炭素社会の実現には、化石燃料を再エネに転換させる経済改革が必要であるにもかかわらず、政府のGX実行会議は、*3-1-3のように、2022年7月から5回開いて脱炭素化に向けた基本方針を決め、その内容は、①フクイチ事故後「依存度低減」としてきた原発政策を「最大限活用」に変更し ②原発の新規建設や長期運転に踏み込んだが ③原発は、2030年までのCO2排出量半減にも、ウクライナ戦争に伴うエネルギー危機への対応にも間に合わず ④再エネ普及策を徹底的に議論して打ち出すことはしていない とのことである。 つまり、①~④は、CO2排出量削減とウクライナ戦争に伴うエネルギー危機を、大きな予算を使っての原発再稼働・運転延長・新増設の名目として使っただけであり、このようなことの積み重ねが、新技術の普及と日本の経済成長を阻害した上に、世界に類を見ない借金大国にした真の原因なのである。 2)送電網について 政府は、*3-2-1のように、過去10年の8倍以上のペースで、今後10年間に約1000万キロワット分の広域送電網を整備し、太陽光や風力などの再エネによる電気を無駄にせず地域間で効率よく融通できする体制を整えるそうで、これはよいことだ。 ただし、送電の事業主体を電力会社にすれば、現在と同様、送電事業の発電事業からの独立性がなく公正競争も行われないため、再エネ発電事業者にとって不利な送電網利用料金が設定されることは明らかだ。日本は、大手電力会社が地域毎に事業を独占して競争原理を働かせない状態を続けてきたが、送電事業でも同じことが起こっているのである。 そのため、鉄道網を利用すれば発送電事業が分離独立すると同時に、赤字路線に送電収入が追加されるため、損益をプラスにしやすくなる。これについては、送電事業を既得権益とする経産省と大手電力会社が大反対するだろうが、国民に負担をかけない少ない補助金でエネルギー安全保障を確立するためには必要不可欠なことなのである。 そのような中、東京電力パワーグリッドなど大手電力の送配電会社10社は、*3-2-2のように、さっそく電力小売会社から受け取る送電網利用料を2023年度から引き上げて送電網増強やデジタル化といった投資に充てる計画を提出し、経産省の電力・ガス取引監視等委員会の検証が終わったそうだが、このような形で経産省のお墨付きを得て地域独占させてきたことが、工夫もなく日本の電力コストをいつまでも高止まりさせてきた原因そのものなのである。 3)ガス火力について 経産省は、*3-4-1のように、今後の“電力不足”に対応するためLNG火力を緊急建設する方針で、2030年度までの運転開始を念頭に7~8基を作り、建設費を投資回収しやすくする支援策を講じるそうだが、2030年度までの運転開始では緊急時の対応にはならない上、最新ガス火力はCO2排出量が相対的に少ないといっても再エネと違ってCO2を排出するため、地球温暖化対策にならず「長期脱炭素電源」とは言えない。 その上、電力小売りから集めた金を原資にして、新しい技術ではないLNG火力の運転開始から20年間も発電事業者が毎年一定の収入を得ることができるようにするなど論外だ。さらに、経産省のこのような非科学的かつ恣意的対応が、再エネの普及を阻害してコストをいつまでも高止まりさせ、国民に節電を呼びかけなければならないような事態を招いたことを忘れてはならない。 なお、日本は、技術が進んでも馬鹿の1つ覚えのように「資源のない国」だと言う人が多く、石油危機以降もエネルギーの殆どを輸入し続けて、自国の資源は眠らせたままにしている。しかし、これが、*3-4-2のように、貿易収支を赤字にする大きな原因であり、経産省がこのような態度を続けていることが、国内産業を海外に流出させて円安を招いたのでもあって、このように負担増ばかりでは国民の消費が伸びるわけもないのである。 4)原発について(運転延長・廃炉・使用済核燃料・建て替えなど) 左から2022.11.29、2022.12.7、2022.11.29、2022.11.29日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、フクイチ事故後、原発の再稼働は進んでいないが、これは原発がなくても電力を賄えたということだ。しかし、日経新聞は、左から2番目の図のように、日本の既設原子炉は運転開始から年数の経っているものが多く、右から2番目の図のように、運転期間の延長だけでは原子力発電の縮小は避けられないとしている。しかし、それこそ原発の自然消滅であり、待たれていることなのだ。それにもかかわらず、経産省はロシアのウクライナ侵攻や地球温暖化対策を緊急の理由として、1番右の図のように、原発の再稼働・運転期間の延長・《少し改良しただけと言われる》次世代原発の開発や建設を計画しているわけである) *3-3-1・*3-3-2・*3-3-3・*3-3-6・*3-3-7のように、日本政府は、2022年12月22日、GX実行会議を開いて脱炭素社会の実現に向けた基本方針を纏め、原発については、①再エネと原発は安全保障に寄与して脱炭素効果が高いとし ②「将来にわたって持続的に活用する」と明記し ③廃止が決まった原発を建て替え ④運転期間も現在の最長60年から延長し ⑤2050年の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標と電力の安定供給の両立に繋げる としたそうだ。 この方針は、パブリックコメントを経て2023年2月までに閣議決定し、政府の正式な方針にした上で法案提出をめざすそうなので、まずは反対意見をパブリックコメントに書く必要がある。 上のうちの①②については、原発は戦争になれば近くに置いてある使用済核燃料まで含めて巨大な自爆装置になるため、安全保障に寄与するどころか、安全保障を妨害するものだ。まさか、実際に起こるまで、それが理解できないわけではないだろうが・・。 また、③の廃止決定した原発建替を具体的に進め、次世代革新炉の開発・建設に取り組んで建設費用が1兆円規模ともされる原発建替を行うというのは、この電力危機には間に合わず、それに乗じた原発回帰にしても気が長すぎる。その上、コスト感覚が全くなく、無駄遣いが甚だしいにもかかわらず、ここまで非科学的・恣意的な意思決定をする政府(特に経産省)のすることが、信用できる筈はないのだ。 なお、④の原発の運転期間延長についても、「原則40年・最長60年とする制限を維持した上で、震災後の審査で停止していた期間などの分を延長する」そうだが、人が住まなくなった家や使わない機械が朽ちるのと同様、機械は停止していても(停止していればむしろ早く)劣化する。その上、原子炉以外の、例えば使用済核燃料プール・配管・建屋などは原子炉を止めていても使い続けていたのだ。 さらに、*3-3-4のように、海外では運転期間の上限がない国が多いが、国際原子力機関(IAEA)によると、現在60年を超えて運転を続けている原発はなく、地震・津波・火山噴火・台風などのリスクが大きい日本で、「中性子照射脆化」、コンクリートの遮蔽能力や強度がおちる経年劣化などを起こした原発を使うのは、さらに危険なのである。 それでも、原子力規制委員会が安全審査を通過させ、60年超の運転が可能になるようなら、*3-3-5のように、もはや原子力規制委員会は独立した公正な組織とは言えないだろう。 なお、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場も決まらず、総合資源エネルギー調査会原子力小委員会廃炉等円滑化ワーキンググループは、2022 年 10 月 17 日、⑥原子力事業者は毎年度、将来の不確実性も踏まえて認可法人が算定した拠出金を当該認可法人に対して納付する責任がある ⑦認可法人は廃止措置に要する費用の確保・管理・支弁を行う経済的な責任を負う ⑧原子力事業者は毎年度拠出金を納付することにより、各原子力事業者が保有する個別の原子炉に係る廃止措置費用を確保・負担する責任は負わない という中間報告をしたそうだ。 これについて、日本公認会計士協会は、「廃止措置に係る経済的責任は認可法人に移転するのか」「ここでの廃止措置に要する費用の範囲は、『原子力発電施設解体引当金に関する省令』における制度移行時点の総見積額を網羅しているのか」「個別の原子炉に関する廃止措置費用と拠出金間に相関関係がないが、原子力事業者の責任は毎年度の拠出金納付に限定され、各事業者は保有する個別の原子炉に係る廃止措置費用を確保・負担する責任は負わないのか」「新制度下で各原子力事業者が将来にわたって支払う拠出金累計額は事業者が保有する全ての原子炉の廃止措置に実際に要する費用と一致しないことを前提にしているのか」「規制料金によって回収された現行の解体引当金は、新制度下での認可法人への毎年度の拠出金納付義務とは別個で、制度移行時における各原子炉に係る資産除去債務残高は引き継がないのか」等について、会計処理の根拠を明らかにするため確認している(https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/4-9-0-2-20221110.pdf 参照)。 つまり、新制度の下では原発の廃止措置に係る経済的責任は認可法人に移転するが、認可法人への拠出金総額は個別の原子炉に関する廃止措置費用との間に相関関係がなく、廃止措置費用が足りなくなれば、それは国民負担になるということなのである。しかし、いかなる産業も汚染物質はクリーンにしてから放出するのがルールであるため、コストが安いと言いながら原発だけをここまで特別扱いにするのなら、費用を負担する国民に対してその理由を明らかにすべきだ。 5)EVについて 日本経済新聞社が予測する2023年のアジアにおける消費の主役は、*3-5-1のようにEVだそうだが、日本勢は未だにガソリン車のミニバンを主軸としているため、長く日本の自動車ブランドが支配的だった市場において、他国車の新規参入余地が大きくなっているそうだ。 しかし、EVの開発を始めて既に30年近く経つため、未だにガソリン車から離れられず、EVに不当に高い値段をつけているようでは、それも当然のことと言わざるを得ない。 また、*3-5-2のように東海道新幹線の豊橋―名古屋間で停電が起き、下り線では列車に電力を供給するトロリ線をつり下げる吊架線が切れていたため、東京―新大阪間のその復旧作業のために上下線で、最大4時間、運転を見合わせたそうだ。 東海道新幹線では、2010年1月にも車両の集電装置「パンタグラフ」の部品が外れて吊架線とトロリ線の間にある「補助吊架線」を切断し、約3時間20分にわたって停電する事故があったそうだが、パンタグラフを使って集電するから吊架線・トロリ線・補助吊架線などが必要で、これらの敷設費や維持管理費は高いのである。 そのため、新幹線はじめ電車もグリーン水素を使った燃料電池で走るシステムにしたらどうかと思う。そうすれば、電線がなくなって景色がよくなる上に、別途、送電線を敷設して送電料を副収入とすることも可能だからである。 6)ものづくりの「国内回帰」時代は来るか? 製造業の生産拠点が海外移転し、エネルギー・食糧の多くを輸入に頼っていては、日本からの輸出は少ないのに輸入が多く、貿易収支が赤字になって円安になる。また、ものづくりが廃れれば、製品の開発や維持管理のための技術も失われ、経済は成長するどころか縮小してしまう。 そのため、製造業の生産拠点を国内回帰させたいわけだが、*3-5-3のように、一時的な円安で海外から国内への輸送コストが相対的に上がり、国内の人件費が相対的に下がっても、工場の海外から国内への移転は時間とコストがかかるため、生産拠点の国内回帰は「限定的」だろうと、私も思う。 その理由の1つは、国内の人件費が円安で相対的に下がっても、原材料を輸入しながら加工だけ行って採算がとれるほど日本は安い人件費ではなく、生産コストだけを考えれば、原材料の産出地近くや人件費の安い開発途上国で生産を行った方が安価に生産できるからである。 また、人件費が高くても我が国で生産した方がよい場合もあるが、それは、技術が飛びぬけてよいため人件費に見合った高い価格をつけても売れる場合であり、既に生産拠点が海外移転して生産しなくなってしまった現在、我が国の技術がそこまでよいとは言えなくなっている。 それでも、国内に購買力があり、国内生産した方がマーケティング上有利であれば、国内生産する選択もあり得るが、定年退職、物価上昇、負担増・給付減による可処分所得の減少などで購買力が落ちているため、国内生産するマーケティング上のメリットも少なくなっているわけだ。 そのため、これらを根本的に解決するには、単なる加工貿易ではなく原材料やエネルギーもなるべく国内生産すること、国内生産した原材料やエネルギーに国際標準よりも高い価格をつけないこと、よい製品を作るために必要な教育・研究を進めること、何かと言えば政府が国民からぶんどって国民の可処分所得を減らさないようにすること などが、あらゆる努力をしてやるべきことなのである。 (4)食糧安全保障 1)食料自給率について 「腹が減っては戦ができぬ」という言葉の由来はわからないが、それが真実であることは確かだ。しかし、日本政府は武器だけあれば戦えると思っているのか、エネルギー自給率は12%程度、食料自給率は38%程度しかないにもかかわらず、本気で改善しようとしていない。これでは、他国同士が戦争しても、いや単に世界人口が増えただけでも、国民は健康で文化的な生活を諦めざるを得ないのである。 その例が、*4-1-1・*4-1-3のロシアのウクライナ侵攻と円安による飼料や燃料費高騰で農家が厳しい経営状況に直面し、廃業の危機にあることだ。しかし、家畜を飼うのに飼料や燃料費を輸入していたのも無防備すぎ、これでは酪農製品は自給率の中に入れられない。率直に言って、家畜の餌くらいは国内で安価に生産できるべきだと思う。 また、自給飼料づくりを目指して粗飼料を自前で収穫していた人もいたのはよかったが、畑で使う肥料も原料の大半が輸入品だったというのは、家畜の排泄物等を加工して使えば肥料を輸入する必要はなかったのに、と呆れられる。 さらに、トラクターを動かす軽油の価格が上がったそうだが、農機具を電動にすれば牧場や農地での自家発電は容易なのに、毎年同じことを言いつつ、いつまで輸入化石燃料を使うつもりだろう? そのため、 “値上がり分の補塡”や“製品の値上げ”をするよりも、政府と一緒になって自給飼料・自給肥料・自家発電システムの設置等を推進した方がよほど賢いと、私は思う。 このような中、*4-1-2のように、JA全農は、2022年10~12月期の配合飼料供給価格を7~9月期価格で据え置くと発表したそうだが、そもそも全農が輸入依存を進めてトウモロコシのシカゴ相場で飼料価格を変えるような体質にならず、むしろ政府に言って自給飼料・自給肥料・自家発電システムの設置を推進すればよかったのである。そのため、この辺は全体として同情の余地がないのだ。 なお、*4-2は、肥料価格が高騰している理由を、「日本は化学肥料の原料である尿素、りん酸アンモニウム、塩化カリウムの殆どを海外輸入に頼っているため国際情勢の影響を受けやすく、今回の高騰はロシアのウクライナ侵攻でアンモニア・塩化カリウムの生産国上位であるロシアへの経済制裁によって供給が停滞し、中国の輸出規制、肥料の運搬に利用される船舶燃料の高騰、円安などが複合的に関係したから」としている。しかし、この実態を見れば、日本とロシア・中国のどちらが偉いかは明らかだと言わざるを得ない。 そして、農林水産省・都道府県・市町村が国民の血税から肥料価格高騰対策事業を実施して対象期間に購入した肥料購入費の一部を助成するそうだが、種子や肥料等の資材も国内生産できず、無駄なことばかりしながら、何かあれば必ず予算措置による助成を求めるのは情けない限りだ。そのため、このように戦争が起これば生産できなくなる製品は食料自給率に入れず、本当の食料自給率を出した上で、根本的解決を行うべきである。 2)経済安全保障について このように、安全保障の視点からエネルギー政策や食糧政策を見ると、「日本は資源がないから」「加工貿易が適しているから」などと戦後すぐの頃の状態を語って世界の変化に全くついて行っていない理屈をつけ、太平洋戦争前後のように大量に国債を発行して、膨大な無駄遣いを続けている姿が見えてくる。 そのような中、*4-4は、①政府は経済安全保障推進法の「特定重要物資」に半導体・蓄電池・永久磁石・重要鉱物・工作機械・産業用ロボット・航空機部品・クラウドプログラム・天然ガス・船舶の部品・抗菌性物質製剤(抗菌薬)・肥料等の11分野を対象とすることを閣議決定した ②対象分野では国内生産体制を強化し備蓄も拡充する ③そのための企業の取り組みに国が財政支援する ④これにより有事に海外からの供給が途絶えても安定して物資を確保できる体制を整える ⑤いずれも供給が切れると経済活動や日常生活に支障を来すものだ としている。 しかし、⑤の供給が切れると日常生活に支障を来す物資の第一は食糧だが、これには言及していない。また、①の中の重要鉱物は、特定国に依存しすぎないための海外での権益取得の後押しと数か月分の備蓄しか考えておらず、国内や排他的水域内で生産することは考慮外である。そして、ここがロシア・中国・アラビアはじめ現在の資源国との違いなのである。そのため、④のように海外からの供給が途絶えるような有事には、数か月分の備蓄の範囲でしか物資を確保することができず、それでは太平洋戦争時のようになるため、紛争も戦争も決してできないのである。 つまり、②の対象分野は重要なところを逃している反面、資源については相変わらず輸入に頼るシナリオで、そのために、③のように、民間企業の取り組みに国が財政支援するというのだ。これでは、予算をばら撒きたいところにばら撒くため安全保障を口実に使っただけであり、政府が市場を歪めてかえって未来を暗くする。 このように、輸出するものは著しく少なくなったのに輸入することばかり考えてきた誤った政策の連続により、*4-3のように、日本は貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支の低迷が続いて、ついに経常赤字となった。その主な原因は資源高と円安だそうだが、資源高の方は1973年に起こった第一次オイルショック以降の50年間ずっと続いているのであり、それまでの好景気を一変させた最大の理由でもあるのだ。 それでも高い価格で原油を買うことに心血を注いで他の手を打たなかった国が日本であり、政治も縦割りの組織で現状維持重視の行政に従って国民に迷惑をかけ続けているのが、困ったことなのである。 (5)命の安全保障(≒社会保障)について 1)最近の社会保障に関する論調について *5-1-1は、2022年12月19日、①社会保障財源は防衛費の次でいいのか と題し、②国内で生まれる子ども数が80万人を割り込む少子化の危機感があるのか ③どんな判断で政策の優先順位を決めているのか ④首相がトップの全世代型社会保障構築本部と有識者会議が、最も緊急を要する取り組みに「子育て・若者世代への支援」挙げたが ⑤必要となる費用や財源の具体論には言及せず ⑥介護分野の給付と負担の見直しを先送りし ⑦同じ日に政府は今後5年間の防衛予算を現行の1.5倍に増やすことを決めたが ⑧国民や企業の財布には限りがあるため、防衛予算の負担増が先行すれば子育て支援の負担を求めることは難しくなる と記載している。 また、*5-1-1は、⑨国民の暮らしの安心は、安全保障に勝るとも劣らない喫緊の課題で ⑩有識者会議の報告には雇用保険の対象外になっている非正規雇用の働き手支援や、自営業・フリーランス向けの育児期間中の給付金創設など既存の枠を超えた提案もある ⑪巨額の予算を要する児童手当の拡充も「恒久的な財源とあわせて検討」とされたが ⑫かつて「社会保障と税の一体改革」は給付と負担を一体で議論し、全体像を示しながら合意形成を図った ⑬介護保険は要介護度の軽い人向けの給付見直しや利用者負担の引き上げなどの案があるが反対も根強い ⑭それらが無理なら保険料や税による負担増が検討対象になる ⑮結局、財源の議論抜きに改革の前進はない とも記載している。 このうち①③⑤⑦⑧⑨については、太平洋戦争後に政治の指針となっている日本国憲法は、生存権(25 条)、教育を受ける権利(26 条)、勤労の権利(27 条)、労働基本権(28 条)などの国民の権利を明確に保障し、防衛については、前文と9条で平和主義と専守防衛を定めている。その上、経済発展や⑨のような安定した生活が防衛も支えることを考えれば、教育を含む社会保障の優先度の方が高いだろう(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/shukenshi034.pdf/$File/shukenshi034.pdf 、https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/shukenshi033.pdf/$File/shukenshi033.pdf 衆議院憲法調査会事務局 参照)。 しかし、②④については、最初に少子化問題を取り上げたのは私で、その意図は、働く女性は子育てを両立できないため、実質的に出産できない矛盾を突くものであったため、その結果として起こった少子化のみを問題視して危機感を煽るのは、男性リーダーが大多数を占める政治・経済分野の古臭くてセンスの悪い発想だと、私は思っている。 また、日本国憲法が25 条で定める「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」というのは、当然、高齢者・障害者を除外していないため、経済の成熟に伴って医療・介護制度は充実することこそあれ、後退することは許されない。 従って、⑥⑫の「社会保障と税の一体改革」と称する年金・医療・介護分野の給付と負担の見直しは、高齢者の生活を予定外に圧迫して生存権が危ぶまれる状態に陥らせているという意味で適切でないため、ゼロサムゲームではなく、効用を高めながらコスト削減する方法を考えるべきだし、それは可能なのである。 なお、⑩の非正規雇用・フリーランス・一部の自営業は、労働法で護られない雇用を意図的に作っているものであるため、その存在そのものを検証すべきだ。にもかかわらず、雇用保険料を支払っていない人に育児期間中の給付金を雇用保険制度から支払うのは不公平を増す上、「子育ての便益は社会全体が享受する」として育児休業給付の費用を社会全体で負担すべきとの意見もあるが、それなら他の数々の無駄遣いを削って現在の税収から堂々と充てるべきだろう。 また、⑪の児童手当は、現在は0歳~15歳の子に支払われ、その間は所得税の扶養控除を行わない。仮に、これを拡充して16歳~18歳までの子にも支払うようにすれば、その間の所得税扶養控除を行わなければ整合性がとれる。ただし、所得が一定以上の人は、児童手当をもらえず、扶養控除もできないという前より悪い状態になっているため、所得制限は止めるべきだろう。 ⑬の介護保険制度は、要介護度が高い人はもちろん要介護度が低くても自力では暮らせない人のために給付しているもので、未完成の制度であって給付は足りないくらいであるため、これ以上の給付減は人命に関わる。また、要介護状態になっても稼げる人は殆どいないため、利用者負担増も人命に関わる。そのため、このようなことしか言えないような世代を作るのなら、子育ての便益を社会全体が享受するとは言えないため、一昔前と同様、自分の子は自分で育てる方式にし、稚拙であっても自分の子や孫に介護してもらえばよい。何故なら、そうすれば、「育て方が悪かったのは自分の責任だ」として諦めがつくからである。 そのようなわけで、⑭⑮の介護保険料負担については、65歳以上の第1号被保険者と40歳~64歳の医療保険加入者(第2号被保険者)に分けていたずらに複雑化させるのではなく、乳児まで含めた全世代を介護保険制度に加入させ、同じような基準で給付すると同時に、負担は所得に応じて行わせるべきだと、私は考えている(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf 参照)。 2)子育て政策に本当に必要な予算とバラマキ予算について 2021.5.21朝日新聞 2023.1.5東京新聞 2017.4.11Agora (図の説明:左図は、2022年10月から施行された児童手当で、3歳未満1.5万円・3~15歳1万円《3子以降1.5万円》を原則として支給し、年間所得960~1200万円の人には中学卒業まで5千円の特例給付を支給するが、年収がそれ以上の人には全く支給しないというものだ。これに対し、中央の図のように、千代田区は所得制限なく16~18歳の子に5千円支給しており、東京都は0~18歳の子に5千円支給しようとしている。が、合計特殊出生率が2以上でなければ人口を維持できないとする説は、右図のように、1980年代全般に合計特殊出生率が2以下になっても2010年代半ばまでの30年間は人口が増え続けており、科学的根拠がない。これは、寿命の延びにより、3世代以上が同時に生きられるようになったことによるものだ) 厚労省 UN (図の説明:「少子化で人口が減るから経済成長しない」という説もよく聞くが、右図のように、先進国で日本より人口が多いのは米国だけで、先進国で最も経済成長していないのが日本であるため、この説は間違っている。そして、このような非科学的な論理がまかり通って政策決定に影響を及ぼしていることが、むしろ経済の足を引っ張っているのである。また、左図のように、人口が次第に高齢化することは1980年代からわかっていたため、世界では1980年代から退職金は要支給額を正確に計算して積立方式に変更していたが、日本は未だに賦課課税方式をとって「支える人が減るから云々」などと言っているのであり、これは政治・行政の失敗にほかならない。さらに、人口が増える世代もあるため、その世代のマーケットは増えるに決まっている) イ)出産費用について 政府は、*5-1-2のように、子育て世帯の負担を軽減して少子化対策を強化するため、出産時の保険給付として子ども1人につき原則42万円が支払われる出産育児一時金を、2023年度から50万円程度に引き上げる方向で検討に入り、2023年度の増額分は、これまで一時金を支払ってきた健康保険組合などの保険者が負担するが、2024年度以降は75歳以上が加入する後期高齢者医療制度からも財源の7%程度を拠出してもらう方向だそうだ。 しかし、近年の出産は医師が関与して行うため、正常分娩も健康保険の対象にすればすむことであり、場合によっては介護も必要になる。そのため、育児休業給付などなく、育休中は無給なのに社会保険料だけは支払いながら、出産費用は満額自己負担してきた75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度から財源の7%程度を拠出してもらうというのは筋違いも甚だしい。こういうのを“異次元(≒これまで認められてこなかった不合理なことを” 何でもあり“で解禁すること)”と言うから、“異次元”と言う言葉は「やってはいけないこと」の代名詞になるのである。 ロ)児童手当について *5-1-6は、「岸田首相は、“異次元”の少子化対策」を進めるため、子ども家庭庁の小倉氏をトップに、厚労相、文科相、財務相、経産省らの閣僚と有識者が参加する省庁横断の会議を設置し、児童手当の拡充を中心に必要な対策を6月までに纏めるそうで、相変わらず財源確保には負担増の議論が避けられないと記載している。 しかし、①何故、少子化そのものに対する対策が必要なのか ②仮に必要だったとしても、それは児童手当を中心とした経済的支援なのか ③既に税金を払っているのに、子育て支援や教育支出もために、何故、新たな財源確保を要するのか ④これまでの政策を強化しただけの児童手当と消費税増税が、何故、骨太の方針と言えるのか は大いに疑問だ。 児童手当は、現在、上の段の左図のように、原則として0歳~中学生が対象で所得制限があるが、成年に達する18歳(高校卒業時)まで対象年齢を拡大することには、私は賛成だ。しかし、第2子・第3子だから第1子よりも金がかかるわけではないため、第2子以降に差をつけて増額するというのは「生めよ、増やせよ」論に繋がるため、不適切だと思う。なお、0.5~1.5万円/月で子を育てられるわけではないため、所得税にフランスのようなN分N乗方式も取り入れて選択可能にするというのなら、それは骨太の案と言えるだろう。 東京都は、*5-1-3のように、所得制限を設けず、18歳以下の子に月5千円給付し、第2子の保育料無償化も検討するそうだが、国の児童手当を補完はするものの、月5千円給付されたからといって、母の罰を受けて数千万円~数億円単位の生涯所得をふいにしてまで子を産みたいと思う人はあまりいないと思われる。 しかし、人間も遺伝する生物であるため、出産費用を50万円補助してもらったり、1.5万円/月の児童手当をもらったりするから子を産むという人の子よりも、所得制限によって児童手当をもらえない人や子を産んで母の罰を受ければ数千万円~数億円単位の生涯所得をふいにする人の子の方が次世代として有用であろう。そのため、少子化対策は子を産んでも母の罰を受けずにすむ体制にすることが最も重要で、児童手当等も恣意性がすぎるとバラマキや逆向きの出産奨励になるのである。 ハ)保育と学童保育について *5-1-6のように、岸田首相が省庁横断で設置する会議では、幼児教育や保育サービスの量と質の強化、子育てサービスの拡充、育児休業制度の強化なども検討する予定だそうだ。 子ども・子育て支援に関する日本の公的支出割合は1.79%で、OECD平均の2.34%を下回り、フランス3.6%の半分だそうだが、だからといって新たな財源を確保するというのは少子化対策を名目にした負担増である。何故なら、国民は既に多額の税金を支払っており、国は事業毎の費用対効果も不明のままにして無駄遣いの限りを尽くしており、最も重要な教育資金は他の大きな無駄遣いの数々を削って最初に予算にいれるべきだからである。 しかし、子育てする側から見れば、GDPが世界第2位の日本でGDPに対する公的支出割合を問題にして支出金額を増やす必要はなく、教育や保育の質の方がよほど重要なのだ。 そのような中、*5-1-4のように、共働き世帯の増加に伴うニーズの高まりに整備が追いつかず、学童保育の待機が未だ1.5万人おり、東京都の3,465人で最多で、質より前に量が足りていないなどというのは、少子化の最も大きな原因だろう。 なお、東京などの都市部では狭い家で家族がひしめき合って暮らしているが、これも子を産めない原因であるため、通勤時間30分以内の場所に、ゆとりのある住まいを持てる街づくりをすることも、子育ての重要な要件になる。 3)介護保険制度について 2022.12.15佐賀新聞 Homes 2022.12.14Diamond (図の説明:1番左の図のように、全世代型社会保障構築会議は、“全世代型社会保障”と称して高齢者の医療・介護保険料を増やし、左から2番目の図のように、一定の所得以上の利用者の負担を2割にするという報告をしたが、その“一定の所得”とは、生活保護並みの所得なのである。一方、右から2番目の図のように、介護は65歳以上の人と40~64歳の特定疾病患者のうち介護が必要になった人が受けられるが、介護保険料を支払っているのもこの世代だけであり、これこそ全世代型とは言えない。このような状況の中で、1番右の図のように、物価上昇と人手不足により、老人福祉・介護事業者の倒産が増えているのだ) イ)全世代型社会保障構築会議の報告について *5-2-1は、①現在の全世代型社会保障構築会議は社会保障の充実を議論している段階で財源論が後回し ②自営業者も現金給付のある育児休業があったほうがよく、フリーランスも報酬比例部分のある公的年金に加入できるようにすべき ③経済対策に盛り込まれた妊娠女性に10万円相当を配る出産準備金は恒久化が必要な給付充実策なのに恒久財源がないため、消費増税など税財源の議論も避けるべきでない ④財源論と同時に重要なのは高齢者の増加で給付が膨張する医療・介護の効率化 などと記載している。 確かに財源は考えておくべきなので、①②は事実だが、まず他のバラマキと同時に“少子化対策”と銘打ったバラマキもやめるべきであり、各省庁が既得権益を温存したまま国民負担の増加ばかりを考えているようなら、国民は誰も納得しないだろう。 なお、出産準備金を(小遣い程度の)10万円もらえるから妊娠するという女性は滅多にいないため、「医者にかかったら保険適用」とすればよいので、③は不要であり、このようなバラマキのために消費税を増税するなどとんでもない話だ。そして、④のように、高齢者と言えば「医療・介護給付が膨張するから効率化せよ」などと言うのは、高齢者を邪魔者扱いにしており、憲法違反だ。ただし、寿命の延びによって“高齢者”の健康状態も変わっているため、定年退職年齢も含めて高齢者の定義を75歳以上にする必要はあるだろう。 このような中、*5-2-2は、介護業界で倒産が急増し、その理由を、⑤人手不足とコロナ関連の資金繰り支援効果が薄れてきた ⑥物価上昇をサービス料金に転嫁しにくい ⑦将来有望とされた介護市場に事業者が相次いで進出して過当競争が起こった ⑧2009年度の介護報酬大幅プラス改定で倒産は減少に転じたが ⑨2015年以降のコスト上昇の中、介護報酬改定は低調だったので倒産が増えた ⑩2015年以降は介護補助者の高齢化と人手不足で人件費上昇が収益を圧迫 ⑪2020年は新型コロナ感染拡大が介護業界を直撃 ⑫2022年は円安・物価高で光熱費・燃料費・介護用品値上がり ⑬経済活動再開で人手不足が顕在化 ⑭介護業界では物価・人件費上昇・人手不足が同時に表面化 ⑮一般的介護サービスは介護保険で金額が決められており、仕入価格上昇分を販売価格に転嫁できない 等と記載している。 しかし、⑤⑦⑩⑬等に記載されている人手不足については、2001年に介護制度が始まって既に20年も経過しているので、未だに熟練者を中心とした組織的介護ができていないのであれば、淘汰され倒産しても仕方がないと思われる。そして、日本は、せっかく来てくれた(母国では看護師資格を持つような)若い外国人労働者でも、日本語の介護福祉士試験に合格しないという理由で帰国させているのだから、同情の余地がない。 また、⑥⑧⑨⑫⑭⑮の物価上昇や人件費高騰も政府の責任だが、確かにこれに連動して介護報酬が上がるわけではないため、物価上昇や人件費高騰によるコスト増を介護事業者が負担せざるを得ず、経営が厳しくなって倒産に至るのは理解できる。そのため、介護サービス料も物価スライドにしなければ、介護事業者はたまったものではないだろう。 さらに、ここで述べられていないことは、介護は保険内と保険外のサービスの併用が認められており、併用される自費部分を含めてサービス全体の消費税が非課税であるため、仕入れ税額控除もできず、支払った消費税を全て介護事業者がかぶることになり、消費税率が上がれば上がるほど介護事業者の負担が大きくなる点だ。これは、医療サービスも同じであり、これらを解決するには、医療・介護サービスを、非課税ではなく0税率にする必要があるのだ。 しかし、⑪のコロナ対応では、医療・介護システムのレベルの低さが表に出たようで、状況に応じて速やかに入院・訪問看護・訪問介護などに切り替えることができたり、周囲に感染させなかったり、死亡に至らせなかったりする仕組みになっていないことが露呈した。しかし、本当は医療との緊密な連携が必要であるため、(介護施設数が十分になった後に質の低い施設が淘汰されるのは仕方がないものの)国の不作為によって質を上げられないのでは、努力している医療・介護従事者に気の毒な上、高い保険料を支払っている国民も迷惑する。 このような中、*5-2-3・*5-2-4のように、政府は、「全世代型社会保障構築会議」で、介護保険で高齢者の負担を増やす案は結論を来夏に先送りし、報告書には75歳以上の中高所得者の医療保険料引き上げ・将来的な児童手当拡充だけを盛り込むそうだ。しかし、全世代型社会保障を構築するのであれば、介護保険料はすべての働く人が負担するのが当然であるにもかかわらず、75歳以上の大して所得が多いわけでもなく、要介護の状態に直面して生活が破綻しそうな75歳以上の“中高所得者”をターゲットにして保険料や負担率を引き上げようとしているところが、憲法違反なのである。 なお、企業が従業員をどこにでも転勤させ、親や祖父母の介護などできない状態にしておきながら、「現役世代の負担は限界に来ている」などと言っているのは、医療・介護制度の有難味がわかっておらず、勝手すぎる。 ロ)75歳以上の医療保険負担増について 政府の全世代型社会保障構築会議が報告書に、*5-3-1・*5-3-2のように、①給付が高齢者・負担が現役世代に偏る現状を是正するため、75歳以上の後期高齢者の保険料引き上げを明記して全体の約4割の後期高齢者を対象に所得比例部分の負担を増やす ②さらに75歳以上の高齢者に出産育児一時金財源の7%程度を新たに負担させる ③現役世代が負担する高齢者医療への支援金を減らす ④年金収入が153万円超(12.75万円超/月)の中所得者(!?)以上の保険料を増やす ⑤年収1千万円超の高所得者の保険料負担の年間上限額を66万円から80万円に引き上げる ⑥厚労省は少子化の克服や社会保障制度の持続性向上を掲げて、「全ての世代で負担しあうべきだ」とする ⑦高齢者人口は団塊の世代が25年までに全員75歳以上となった後に2040年頃から減少し始めるが、現役世代の減少で人口に占める割合は現在の30%程度から上昇が続く ⑧膨張する社会保障給付には負担能力に応じて全ての世代で公平に支え合う仕組みが必要になる と記載するそうだ。 生活保護でもらえる金額は、憲法25条の生存権「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」によって定められた最低生活費で、現在、単身者なら10万円〜13万円/月、夫婦2人なら15万円〜18万円/月であり(https://efu-kei.co.jp/contents/public-assistance/ 参照)、受給が決まると「国民健康保険」を抜けて医療費全額が生活保護の「医療扶助」で現物支給されて無料になる。しかし、生活保護支給額や最低賃金も、物価スライドして上げなければ生きていけなくなるだろう。 そして、④の年金収入153万円超(12.75万円超/月)というのは、単身者の生活保護費程度であるにもかかわらず、高齢者の場合は中所得者として健康保険料を増やすというのだから、高齢者には憲法25条に基づく生存権を認めないということだ。 つまり、憲法25条は、⑥のように、これまでの政府の失政によって少子化が進んでいようと、社会保障制度の持続可能性が危うかろうと、制度が役割を果たせなければ生存できなくなるため、歳出改革を行い、他の無駄を削って、優先的に護るべき条文なのである。 また、⑦のように、高齢者人口が増えるのは、寿命の延びに従って定年年齢を伸ばさなかったからで、これは下の世代に地位を譲るために高齢者が退いているのにほかならない。そのため、定年年齢の廃止か75歳以上への延長をすれば、現役世代減少の問題は解決し、⑤⑧のように、負担能力に応じて公平に支え合うこともできるのである。 なお、①の「医療費の給付は高齢者に負担は現役世代に偏る」というのは、誰でも退職し高齢者になれば病気がちになるため不公平はない。それより、②の財源の7%程度を75歳以上の高齢者に負担させて出産育児一時金を支払う方が、世代間の不公平が大きい上に少子化防止効果は殆どない。従って、妊娠出産にかかる医療費を保険適用にする方が、よほど合理的なのである。 さらに③のように、現役世代が負担する高齢者医療への支援金を減らすなどと言うのなら、病気のリスクが低い時代に多額の保険料を支払う現役世代の医療保険は必ず黒字になるため、自分が支払ってきた医療保険に生涯加入し続ける仕組みにする方が、筋が通っている上に公平だ。 このような中、*5-3-3は、⑨政府が2022年12月23日に閣議決定した2023年度予算案で社会保障費は過去最大の36.9兆円 ⑩新型コロナ禍で手厚くした有事対応から抜けきれない ⑪コロナの医療提供体制のために17兆円の国費による支援が行われた ⑫最大40万円/日を上回る病床確保料は平時の診療収益の2倍から12倍 ⑬およそ13兆円を計上する年金は、23年度の支給額改定で給付を物価の伸びより抑制する「マクロ経済スライド」を3年ぶりに発動する 等を記載している。 このうち⑨は事実だろうが、⑩⑪については、治療薬やワクチン接種料を無料にする必要はなかったし、そもそも水際対策に不完全さが多く見受けられた。その上、コロナの流行により経済停止期間を長くし過ぎたため、大きな補助が必要となり、何十兆円にも上る無駄遣いがあった。それに加えて、流行期に間に合うように、国内で検査機器・治療薬・ワクチンの製造するなどの役に立つことは何もできなかったのが、大きな問題なのである。 しかし、⑫については、普段からゆとりを持って診療できる体制になっておらず、急に病床を作ってもそのケアをする人材はプレミアムを載せて募集しなければ集まらないため、普段からいざという時の受入体制の整備をしていなかったことが問題なのだ。 また、⑬については、上にも述べたとおり、ただでさえ生存権行使に届かない年金額なのに、「マクロ経済スライド」というもっともらしい名前をつけて、給付を物価の伸びより抑制しつつ、物価を上げる政策を採用し続けており、これは高齢者の生存権を無視した悪知恵である。 4)「マクロ経済スライド」と称する年金抑制策について Hacks 厚労省 厚労省 (図の説明:日本の年金制度の全体像は、左図のように、自営業・学生・その配偶者が入る1号、従業員が入る2号、2号被保険者に扶養される配偶者が入る3号に分かれる。1階の国民年金は、1号被保険者は自分で保険料を毎月納付し、給付は全員が受ける。2階の厚生年金は、事業主が毎月の給与・賞与から被保険者負担分の保険料を差し引いて事業主負担分の保険料とあわせて毎月納付し、その従業員だった人が給付を受ける。3階の納付は任意で、納付した人だけが給付を受ける。中央と右の図は、「マクロ経済スライド」の仕組みとその効果で、賃金・物価の上昇よりも年金支給額の上昇を抑え、国民に気付かれないように実質年金額を下げる仕組みなのである。しかし、もともと低い所得代替率をさらに下げるため、高齢者の生活を成り立たなくさせるもので、これがあるため、年金は早くからもらって自分で運用した方がよいわけだ) イ)「マクロ経済スライド」による年金抑制のからくり 政府は、*5-4-1のように、2023年度の公的年金の支給額改定で、「マクロ経済スライド」を3年ぶりに発動する検討に入ったそうだ。 「マクロ経済スライド」とは、賃金・物価に応じた年金改定率から、現役被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した“スライド調整率”を差し引いて年金給付水準を下げる仕組みで、具体的には、将来の現役世代の最終的保険料の負担水準を定めて、その範囲内で年金給付支出を決めるというものだ。「マクロ経済スライド」は2014年の年金制度改正で導入され、それ以前は「物価スライド」といって年金額の実質価値を維持するために消費者物価指数の変動に応じて翌年4月から自動的に年金額が改定されていたため、恣意性の入る余地はなかった。 そして、このカラクリによって、2023年度の年金支給額は2022年度より僅かに増えるものの、“マクロ経済スライド”によって物価上昇より低く抑えられているため、年金支給額は実質的に目減りする。にもかかわらず、「給付抑制は年金財政の安定に欠かせない」などとして、少子高齢化等に正しく対応して来なかった失政のツケを国民に押し付け、上のように無駄遣いの限りを尽くしながら、年金制度は維持するが生活を維持できない制度にしてしまったことは、決して許すべきでない。 また、*5-4-2は、①年金、医療、介護等をあわせた社会保障関係費は36兆8,889億円で、2022年度当初予算と比べて6,000億円以上増加 ②2025年に団塊の世代が全員75歳以上となり、介護が必要な人の急増等による社会保障費の膨張は避けられず ③「マクロ経済スライド」により年金額は実質的に目減り ④高齢者の負担感が強まって景気回復に水を差す恐れ ⑤コロナ禍の雇用調整助成金支給で雇用保険財政が悪化し、雇用保険料率も2023年度から上がる と記載している。 しかし、①②③④⑤の年金、医療、介護等をあわせた社会保障関係費の増加は、人口構成を見ればずっと前からわかっていたことで、その世代の人口が増えるからニーズも増えるのである。そのため、そのニーズに応えるサービスや技術を開発していれば、それは世界で通用したのに、政治・行政にはこの発想が乏しく、国民を犠牲にしながら景気対策等々と称して無駄遣いをすることしか思いつかなかったために、こういう羽目に陥ったのである。 ロ)物価上昇政策について *5-4-3は、①総務省が2022年12月23日発表した11月の消費者物価指数が103.8となり、前年同月比で3.7%上昇(生鮮食品を除く)して政府・日銀が定める2%の物価目標を上回る物価高が続く ②生鮮を除く食料は6.8%、食料全体は6.9%上昇し ③エネルギー関連は13.3%上昇して ④物価は第2次石油危機の1981年12月の4.0%以来40年11カ月ぶりの伸び率で消費税導入時や増税時を上回る ⑤円安・資源高の影響で食料品・エネルギーなどの生活に欠かせない品目が値上がりした などと記載している。 物価上昇は、購買力平価を落として国民を貧しくさせるものであるため、①のように、政府・日銀が2%の物価目標を定めるなどということ自体が、日銀の役割を放棄して密かに国民生活の質を落としているものである。そのため、それを上回る物価高が続くのを「物価が伸びた」などと褒めるような表現をするのは、経済の知識がないだけでなく国語力や常識もない。もちろん、中央銀行の役割もわかっていない。 さらに、②③⑤のように、食料6.9%、エネルギー関連13.3%上昇というのは、そもそも食料・エネルギーは生活必需品であるため、生活の苦しい人ほど購入割合が高く、耐久消費財は最初に節約できるものであるため、生鮮食品を除いた物価上昇が3.7%というのは、生活実感からはかけ離れており、意味がない。それでも④のように、第2次石油危機の1981年12月の4.0%以来40年11カ月ぶりの“伸び率”などと言っている点が、何も考えられないのか神経がおかしいかのどちらかなのである。 5)外国人の活用について このように、少子化による生産年齢人口の減少を理由に、高齢者への給付減・負担増を行いながら、失業防止を目的とした景気対策は巨大で、女性や高齢者を十分に活用しない制度を採用している矛盾だらけの国が、日本である。 さらに、多様性と活力の源である外国人労働者についても、*5-6-1のように、技能実習制度を温存したままで、「開発途上国の人材育成が目的」と称しながらも、実際には人権侵害に当たるような労働環境で安価に人手を確保する手段として技能実習生を使っているため、労働条件の悪い技能実習制度の存廃を含めて有識者会議による検討が始まったのはよいことだ。 そもそも日本人は、自分もアジア人で有色人種なのに、有色人種を差別したがる人が多い。そのため、日本と開発途上国の賃金格差が小さくなり、外国人労働者への処遇改善が行われなければ、*5-6-2のように、政府が入管難民法を改正して「特定技能」という新たな在留資格を設け、移民受け入れにかじを切っても、外国人労働者に「選ばれる国」にはならないだろう。 しかし、*5-6-5の草加商議所のように、ミャンマー出身者を中心とする「第三国定住難民」の就労を支援し、難民12人を草加市を中心とする事業所で雇用することを決め、社会貢献と同時に地域の中小事業者の人材不足の緩和にも繋げたのは、双方にとってよいことである。地方自治体も、日本語・日本文化・社会制度等に関する講習の手配、住居の確保、安定した収入による生活基盤の構築などを支援する必要はあるが、それ以上の効果があると思う。 *5-6-3は、①高校で外国人受け入れ枠の導入が進まず ②2023年の入試で全国の公立高の73%が特別枠を設けず ③日本語が得意でない生徒にとって一般入試は容易でないため、中学卒業後10%が進学せず、これは全中学生の10倍である ④文科省は自立には「高校教育が重要」と指摘している ⑤外国人労働者の受け入れが拡大しており、子どもが進学しやすい環境を整える必要があり ⑥特別枠設定や試験教科の軽減などを各地の教育委員会に求めたが、必要性が認識されず指導体制の不安もあって対応しない教委や学校が多い と記載している。 ④のように、文科省も自立には「高校教育が重要」と指摘しているのだから、米国と同じように日本も高校まで義務教育とし、入試をしても最終的にはどこかの高校に入学できるようにした方がよいと考える。その上、外国人労働者の子どもは、母国との懸け橋になったり、グローバル人材に育ったりする可能性が高いため、日本語が苦手でも進学できる公立高が近くに一つでもあればよいと思われる。 このような中、*5-6-4のように、外国人の収容ルールを見直す入管難民法改正案が、1月23日召集の通常国会に提出される見通しとなったが、その内容は、⑥難民申請中の送還を可能にし ⑦収容期間の上限は現行通り設定せず ⑧収容に関する司法審査がなく ⑨21年に国会で審議入りした入管難民法改正案の骨格が維持される そうだ。 しかし、日本は難民認定割合が著しく少なく、収容されている外国人を人間扱いせず、入管難民法改正案では、難民申請を原則2回までに制限して、送還を拒否して暴れると懲役1年以下の罰則を課すなど、日本人の私から見ても難民になった人の立場を考えておらず、開発途上国出身者や有色人種への差別が甚だしく、外国人に対して著しい人権侵害を行っているのである。 6)日本の一人当たりGDPと雇用システムについて 2022.9.20JapanData 2023.1.21日経新聞 2022.12日経新聞 (図の説明:左と中央の図のように、消費者物価指数は、ロシアのウクライナ侵攻後の制裁に対する逆制裁によって急激に上がり始め、右図のように、消費支出は、コロナで一旦は下がっていたものの、物価上昇による豊かさなき値上がりによって、また上がらざるを得ないだろう) 2022.12.6日経新聞 2023.1.18日経新聞 2023.1.21佐賀新聞 (図の説明:左図のように、賃金上昇が物価上昇に追いつかないため、賃金は実質マイナスが続いている。また、中央の図のように、平均勤続年数が長い日本は、生産性の高い部門へのスムーズな労働移動が起こらないため、平均賃金の伸びが小さいという結果が出ている。年金も少子高齢化を理由とした「マクロ経済スライド」と称する抑制システムにより物価上昇よりも低く抑えられるので、国民の可処分所得《≒購買力》は下がる一方なのだ) 2023.1.5日経新聞 2023.1.5日経新聞 2021.7.4小野研究室 2016.5.25ITI (図の説明:賃金が上がるには被用者個人も生産性を上げて賃金に見合った働きをする必要があるが、それができるためには、社内のあちこちを移動して永遠に素人でいるのではなく、あるジョブに関しては精通していかなければならない。そのためには、左図のように、ジョブを定義し、それをこなすためのリスキリングを行い、雇用者はジョブの熟練度に見合った賃金を支払う必要があるのだが、終身雇用や年功序列型賃金を採用している場合はこれが難しい。そのため、左から2番目の図のように、日本はジョブ型雇用を導入する企業が少なく、その結果、生産性の高い部門への労働移動も行われにくく、右から2番目の図のように、労働者1人当たりGDP《購買力平価による》が低くなっている。また、1番右の図のように、購買力平価による労働者1人当たりのGDPは、1995年は世界で15位だったが、現在では30位まで落ちている) イ)1人あたりGDPについて まず説明しておかなければならないのは、名目・実質・購買力平価換算のGDPと国全体・国民1人当たりのGDPの違いである。 名目GDPとは貨幣価値とは関係なく単純に貨幣で表したGDPで、現在の日本のように、貨幣価値を下げれば物の値段が上がるため、それを総合計した名目GDPは上がる。また、実質GDPとは、一定の基準日を設けて物価水準を測定し、名目を物価水準で割ったものであるため、国内の物価水準の変動には影響されないGDPである。購買力平価換算は、どのくらいのものが買えるかを考慮したもので、物価の安い国は同じ金額で多くのものを買えるため、購買力平価換算のGDPは高くなる。 また、そもそもGDPとは「Gross Domestic Product (国内総生産)」のことで、1年間等の一定期間内に国内で産出された付加価値の総額である。また、国民1人当たりGDPとは、GDP総額をその国の人口で割った数字であるため、購買力平価換算の国民1人当たりGDPが、その国の国民がどのくらい豊かに暮らしているかを最もよく表している。名目GDP総額は、1人1人は貧しい暮らしをしていても、人口が多かったり物価が高かったりすれば高くなるため、国民は名目GDPの高さと1人1人の生活の豊かさを混同してはならないのだ。 このような中、*5-5-1のように、内閣府は12月23日に発表した国民経済計算年次推計で、日本は1人あたり名目国内総生産(GDP)が2021年に3万9803ドルで、OECD加盟国38カ国中20位だったとしたそうだが、本当の豊かさの指標は、1人あたり名目国内総生産(GDP)ではなく、国民がどれだけのものを買えるかを示す購買力平価による1人あたりGDPで、これは上の図の3段目の一番右のように30位である。つまり、日本は、物価が高くて1人1人の国民は豊かでない国なのだ。 *5-5-1によると、名目GDP総額は2021年に5兆37億ドルと米中に次いで世界3位を維持しているそうだが、GDP総額は人口が多ければ多くなるため、1人1人の国民の豊かさの指標にはならない。 それでも、1人あたり名目GDPが2005年には13位だったが、2021年は20位と中長期で下落傾向にあり、世界のGDPに占める比率も2005年には10.1%だったが16年間で半分の5.2%まで下がった。これは、他国は普通に努力していたが、日本は逆のことを多くやってきたからだ。 このような中、*5-5-5のように、2022年12月の消費者物価上昇率は生鮮食品を除く総合で前年同月比4.0%と41年ぶりの上昇、食料全体では7.0%・生鮮を除くと7.4%と46年4カ月ぶりの物価上昇で、その原因は、資源高と円安でエネルギー価格が上がって身近な商品に値上げが広がったからだそうだ。しかし、これは前年同月比であるため、5年前と比べれば体感で消費者物価は20%以上上がっている。 にもかかわらず、リーダーと称するおじさんたちは、「価格転嫁せよ」「脱デフレして物価が上がれば賃金も上がる」などと馬鹿なことを並べているが、賃金や年金は物価上昇に追いつかないため、実質や購買力平価で比べればデフレ時代の方が国民は豊かだったのである。 そして、ここでも「電気代などエネルギー関連が15.2%伸びた」などとコストプッシュインフレがまるでよいことであるかのように記載しているが、これは再エネを全力で伸ばしてエネルギーの自給率を上げることをせず、ロシアから逆制裁を受けて海外への化石燃料代金の支払いが増えたからにほかならない。そのため、国民を豊かにするどころか貧しくしたに過ぎず、威張るようなシロモノではないのだ。 その上、*5-5-6のように、東電等が3~4割の一般家庭向け規制料金値上げを経産省に申請し、今夏までの料金引き上げを目指すそうだが、経産省の審議会で妥当性が議論されたとしても、地域独占に近い状態で経産省が中に入れば、公正競争とは程遠い結果になることは明らかだ。むしろ、燃料費調整制度による燃料調達コストの上乗せより前に、再エネを負担扱いしてその普及を阻害してきた再エネ賦課金をやめるべきである。 なお、金融緩和して物価が上がれば(これをデフレ脱却と呼んだ)、賃金が上がると今でも言っている人が多いが、物価が上がれば仕入れ価格が上がり、売上価格は可処分所得の減少でむしろ減るため、企業の利益は減る。そのため、賃金を上げる余裕などない会社が殆どであろう。 さらに、国民の可処分所得減少分は、賃金の停滞だけでなく、*5-5-7のような少子高齢化を名目とした「マクロ経済スライド」と称する年金の実質減額によっても起こっている。そのため、国民の殆どが可処分所得減額になっており、その上、物価上昇は、貸付金・預金と同時に借入金・国債の実質価値も減額させるため、国会を通さず国民から企業や国に所得移転を行っているのと同じ効果があるのだ。 そして、行政は無謬性を堅持するため故意にこれを行っており、ずる賢いのだが、そのカラクリを暴いて批判することもできず、空気を読んでみんなで同じことを言っている経済学者やメディアは、故意であれ過失であれ、国民から見れば知性のない役立たずである。 ロ)日本の雇用システム 日本の雇用システムの特徴は、終身雇用(正規雇用従業員を定年まで雇用する制度)と年功序列型賃金(年齢・勤続年数を考慮して賃金や役職を決定)で、その目的は、長期的に人材を育成し、熟練した従業員を囲い込むことである。これは、1つの企業が右肩上がりで成長しながら規模を拡大する時代に合った制度で、正規雇用従業員は、終身雇用と年功序列型賃金によって定年まで安定した雇用と収入を得られるメリットがあった。 しかし、これまでも、一部の正規雇用従業員の終身雇用と年功序列型賃金を護るために、非正規雇用という雇用の調整弁を作ったり、大多数の女性に終身雇用や年功序列型賃金を与えない仕組みを取り入れたりしていたのである。 そして、現在は、1つの事業が右肩上がりで成長しながら規模拡大し続ける時代ではないため、*5-5-4のように、経団連が成長産業への労働力の移動を加速することを新たな柱の一つに据え、優秀な人材の獲得競争によって中長期的な賃上水準の向上に繋げようとしている。 東京都立大の宮本教授の分析では、上の2段目中央の図のように、雇用の流動性が高いほど賃金の伸びが大きく、主要国の賃金の1990年~2021年の上昇率を比較すると、平均勤続年数約4年の米国は日本の9倍、8年の英国は8倍、12年の日本は約6%であり、「日本の労働市場は硬直的であるため、成長産業に人材が移りやすくすることで労働生産性を高めて賃金が増えるという流れを作らなければならない」とされている。 ただ、私は、労働者にとっては、平均勤続年数が短ければ雇用が不安定でリスクの高い状態であるため、働いている期間に多い賃金をもらわなければ合わない、つまり、変動(ボラティリティー)が多ければ儲けは大きくなければ選ばれないというハイリスク・ハイリターンの論理も加わっていると考える。 なお、経済界も構造的賃上げを重視し、経団連は「働き手がスキルを身につけて転職することを肯定的に捉える意識改革が必要だ」と提起して、学び直しの時間を確保しやすい時短勤務や選択的週休3日制、長期休暇「サバティカル制度」の整備といった選択肢を挙げているそうだ。 しかし、他社に転職して不利益なく勤務できるためには、終身雇用と年功序列型賃金ではない雇用システムが必要不可欠である。そして、それは、*5-5-3のように、あらかじめ仕事の内容を定めたジョブ型雇用とジョブの職責に対応した賃金制度であり、これならそのジョブに関する専門性を高める意欲を持つこともできる。欧米ではこちらが普通であり、その円滑な運用のためにジョブ遂行能力を公正に評価する制度もあるため、先入観によって転職した人や女性・外国人・高齢者などを冷遇することも減るのだ。さらに、育児期に休職や退職した女性が、必要以上の不利益を蒙らずに仕事に戻ることも容易になる。 ハ)あるべき社会保障改革は・・ 小塩一橋大学教授は、*5-5-2のように、①改革が必要な最大の要因は経済社会の支え手減少で生産・消費のバランスが国全体で崩れる高齢化圧力だが、実際には65歳以上の高齢層の貢献で支え手は増えている ②社会保障改革は支え手を増やせば問題解決する ③しかし、主役は正規雇用者ではなく非正規雇用者やフリーランス・個人事業主で、支え手が増えても質は割り引く必要 ④社会保険料を通じた社会保障財源への還元も限定的 ⑤被用者保険の適用範囲拡大だけでは問題解決せず、国民健康保険や国民年金といった被用者以外の社会保険の仕組みも改める必要 ⑥在職老齢年金制度のように年金が就業の抑制要因にならない改革も必要 ⑦限られた財源をできるだけ公平で効率的に使うには、年齢とは関係なく負担能力に応じて負担を求め、給付も発生したリスクへの必要性に応じたものにする方針が基本 と述べておられる。 女性・外国人労働者・65歳以上でも働ける人など、これまで働けても支え手としてカウントせず、働いても正規雇用にしなかった人は多く、“生産年齢人口”にあたる日本人男性にも景気対策と称して雇用維持対策を図らなければならなかったのが日本の状態であるため、私も①②③④⑤に賛成だ。 つまり、“生産年齢人口”にあたる日本人男性でなくても、日本で正規雇用として働き、収入を得て社会保険料を納めれば、何の遜色もなく支え手になる。しかし、それには⑥の在職老齢年金制度のように年金抑制が就業抑制の原因にならない改革も必要で、さらに、⑦については、負担の公平性だけでなく、待遇の公平性・公正性によって気持ちよく働ける環境づくりも重要だ。 しかし、「将来世代に迷惑をかけない」などと称して、暮らせないほど少ない年金に「マクロ経済スライド」を適用したり、収入の割に高すぎる介護保険料をさらに引き上げたりするのは、廃墟だった日本を建て直してここまでにしたにもかかわらず、感謝されることもなく食うや食わずの生活を強いられている働けない高齢者にさらなる犠牲を強いるものである。そのため、これは憲法25条違反であることはもちろん、人間としての思いやりのなさを感じるものだ。 そのため、私は、高齢者をATMくらいにしか考えていない自分中心の日本人将来世代よりも、苦労して頑張っているため思いやりとファイトのある外国人難民を支援した方が、よほど役に立つと思うわけである。 (6)子育て予算の「倍増」について ← 予算は規模より内容が重要 政府の全世代型社会保障構築会議が、*5-1-5のように、子育て予算を倍増させる道筋も来夏に示すと記した論点整理案を示し、その内容は、①時短勤務で賃金が減る状況の経済的支援のため、賃金の一定割合を雇用保険から拠出して現金給付 ②フリーランス・ギグワーカー・自営業者向けの子育て支援 などだそうだ。 しかし、年金・医療など他の社会保険から拠出して、育児期の時短勤務で賃金が減るのを補填するなどというのは保険料支払者に対する詐欺行為であるため、日本の保険制度の信頼は失墜するだろう。そのため、雇用に関することは、雇用保険料の徴収範囲を広げるか、料率を上げるか、時短勤務すれば賃金が減るのは必然なので補填を止めるかすべきだ。何故なら、世界の人口は爆発寸前で、日本のエネルギー・食糧自給率は低迷しているのに、そこまでして日本人の出生率を上げる必要はないからだ。 また、*5-1-5は、③医療改革を優先する影響で介護保険の議論は停滞気味 ④負担増を想起させる項目は軒並み削られた ⑤介護費は40兆円台半ばの医療費に比べて今は4分の1程度だが伸びが大きい ⑥早期に給付と負担の見直しに着手すべきだが改革機運が乏しい ⑦年金制度の持続性を高めるため避けて通れないマクロ経済スライドの物価下落時での発動など負担増につながるテーマに触れなかった ⑧社会保障給付費財源は6割弱を保険料、4割を消費税などの公費で賄っているが、その一部は国債を充てている ⑨消費税率の引き上げ時に使い道を拡大して子育て支援にも使えるようにしたが、消費税収は地方分を除く全額を社会保障に充てても賄いきれない状況 などと記載している。 ③⑤⑥ように、介護費の伸びが大きいのは、介護サービスが実需で、介護サービスを要する世代が増加しているため当然であるにもかかわらず、新しいサービスはまるで無駄遣いであるかのように言いたて、その成長を阻むところが日本の経済成長を阻む理由なのである。これは、EV・太陽光発電・癌の免疫療法等も同じであり、無知にも程があるのだ。 また、④のように負担増を言うのなら、全世代型社会保障であるため、働く人全員で収入に応じて介護保険料を支払い、サービスも受けられるようにするのが当然である。祖父母や親を社会的介護に任せられるのは、若い世代も利益を享受しているため、それが嫌なら介護保険制度を止めるしかなかろう。 このような中、⑦の「マクロ経済スライド」は速やかに廃止すべきだ。何故なら、高齢者に有り余る年金給付をしているのではなく、年金保険料を支払ってきた契約に基づいて、生活するのにぎりぎりの金額を支給しているにすぎないからだ。そして、年金保険料を支払わなくてよかった人や目的外支出が多かったため、積立金が不足しているのであるから、政策ミスについては政府が責任をとるしかあるまい。 ⑧⑨の消費税については、貧しい者ほど負担の重い逆進税であるため、私はもともと反対だ。それよりも、歳出の無駄をなくす組み換えをしたり、税外収入を増やしたりして必要な費用を捻出するのが当然であり、(鬼と言われるかもしれないが)私ならできるから言っているのだ。 *5-3-5は、⑩政府は、「『こどもファースト』の経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければならない」と少子化への危機感を強調した ⑪子供政策は「最も有効な未来への投資」 ⑫「新しい資本主義」の柱の「成長と分配の好循環」実現へカギを握るのが賃上げ と記載している。 しかし、⑩のように、「子どもファースト」「子どもファースト」と言っていると、自分中心の子どもに育って、⑪のような「未来への投資」にならない。また、家庭は皆が大切にされるべき場所であるにもかかわらず、「子のためには他の人(特に母親)を犠牲にしてもよい」などという発想を続けていれば、それこそ少子化の重要な原因になる。何故なら、子のために本当に犠牲になりたい人はいないからである。 また、⑫の「成長と分配の好循環実現へのカギを握るのが賃上げ」というのも、“生産年齢人口”に対して稼ぎ以上の賃金を支払っていれば、企業始め国の借金も増えるため、教育に徹底して力を入れ、稼げる人材を輩出して、イノベーションを支援するのが、「未来への投資」になるのだ。 ・・参考資料・・ <防衛費の財源> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221215&ng=DGKKZO66844270V11C22A2MM8000 (日経新聞 2022.12.15) 防衛費増額、3税財源に、法人・所得・たばこ税 自民税調幹部会が素案 自民党税制調査会の幹部会は14日、防衛費増額の財源として法人税、所得税の一部の東日本大震災の復興特別所得税、たばこ税の3つを軸とする素案を示した。政府は復興所得税の期限を2037年から14年間延長する案をまとめた。この一部を防衛にあてる目的税にする案が出ている。党内には反発もあり、週内にまとめる与党税制改正大綱に具体的な税率や実施時期を明記できるかが焦点となる。政府は今後5年間の防衛費を43兆円程度とする方針だ。うち40.5兆円を毎年度の当初予算で手当てする。22年度当初の5.2兆円の5年分(25.9兆円)から14.6兆円程度の上積みとなる。歳出改革や決算剰余金の活用、税外収入などをためておく「防衛力強化資金(仮称)」で計11.1兆円を確保する。残り3.5兆円程度は増税で確保する必要がある。27年度単年でみると防衛費は現状から4兆円ほど増える。このうち1兆円強を増税でまかなう。幹部会が14日に示した素案で法人税、復興特別所得税、たばこ税で1兆円強を確保すると盛り込んだ。24年度以降に段階的に増税する方針。法人税で7000億~8000億円、復興所得税とたばこ税で約2000億円ずつ集める案がある。宮沢洋一税調会長は会合後、記者団に「役員から賛成を得た」と話した。具体的な税率や実施時期は決まっていない。法人税は本来の税率を変えず特例措置を上乗せする「付加税」方式をとる。湾岸戦争の多国籍軍支援や震災復興の財源確保でこの手法を使った。素案には「所得1000万円相当の税額控除を設ける」と明記した。中小企業の9割は増税の対象から外れる見通しだ。復興所得税は37年までの25年間の期限を延長しつつ歳入の一部を防衛財源に振り向ける。宮沢氏は振り向け分について「当分の間、防衛費のための特別な目的税にする」と説明した。復興所得税は所得税額に2.1%をかけている。22年度に4624億円の税収を見込んでおり2000億円なら1%程度に相当する。政府がまとめた14年間の延長案を今後議論する。税率は据え置き、個人の負担感が増えないようにする。1年当たりの負担は変わらないが、実施期間の長期化で実質的には増税となる。素案はたばこ税の活用で「国産葉たばこ農家への影響に十分配慮する」と言及した。党内にはたばこ増税に反対する声があり、段階的に増税する。1本あたり3円上乗せする案がある。政府はこうした増税案とは別に、自衛隊の施設整備に向けて建設国債の発行も検討する。財務省は自衛隊施設は有事に損壊する恐れがある「消耗品」とみて建設国債の適用を認めてこなかった。与党内で発行を認めるべきだとの声が出ていた。政府や自民党内では増税を掲げる岸田文雄首相に対する反発が続く。閣内では高市早苗経済安全保障相や西村康稔経済産業相が賃上げへの影響などを念頭に慎重論を唱える。自民党内でも安倍派を中心に増税自体に反対する声が相次いでいる。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221217&ng=DGKKZO66931760X11C22A2MM8000 (日経新聞 2022.12.17) 防衛増税「24年以降」 税制大綱、規模も明示できず 自民、公明両党は16日に決めた2023年度与党税制改正大綱に、防衛費増額に向けた増税方針を盛り込んだ。法人、所得、たばこの3税で27年度に「1兆円強を確保する」と明記した。導入時期などの具体的な議論は23年に持ち越した。法人税は本来の税率を変えず、納税額に特例分を足す「付加税」方式をとる。税額から500万円を引いた金額の4~4.5%を上乗せする。財務省によると、現在29.74%の実効税率が30.64~30.75%に上がる。中小企業の場合、税額500万円(課税所得2400万円相当)以下は増税にならず、大半が対象外となる。岸田文雄首相は同日の記者会見で「対象となるのは全法人の6%弱だ」と述べた。所得税は税率1%の新たな付加税を設ける。いま2.1%の東日本大震災の復興特別所得税を1%引き下げ、合計の税率を2.1%に保つ。新たな付加税の期間は「当分の間」、復興所得税の延長幅は「復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さ」とした。たばこ税は1本あたり3円相当の増税とし、段階的に引き上げる。3税とも増税のタイミングは「24年以降の適切な時期」との表現にとどめた。税目ごとの税収規模も示さなかった。23年の与党の議論は通常は11~12月の税制調査会より早まる可能性がある。自民党税調の宮沢洋一会長は記者会見で「途中段階で(24年度改正とは)切り離すという考え方もある」と述べた。政府は23年度から5年間の防衛費を43兆円とする方針だ。27年度は現状から4兆円弱の上積みが必要となる。2.6兆円強は歳出改革や税外収入などで捻出する。残り1兆円強は増税で確保する必要がある。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221224&ng=DGKKZO67127460U2A221C2MM8000 (日経新聞 2022.12.24) 防衛費26%増の6.8兆円 公共事業費を初めて超す 政府が23日に決定した2023年度予算案で、防衛関係費は過去最大の6兆8219億円となった。22年度当初予算と比べ26%増えた。ほぼ横ばいの6兆600億円だった公共事業関係費を初めて上回り、一般歳出で社会保障関係費に次いで多かった。防衛関係費は米軍再編経費やデジタル庁が所管する防衛省のシステム経費を含む。政府は予算案に先立ち国家安全保障戦略など安保関連3文書を決めた。5年間で43兆円程度をあてる計画で実行への初年度になる。増加は11年連続でこれまでの国内総生産(GDP)比1%の目安をなくした。政府の23年度の経済見通しに基づけば今回の防衛関係費はGDP比で1.19%になる。長射程ミサイルや艦艇など新たな装備品の購入費は1兆3622億円で7割弱増えた。装備品の維持整備費といった「維持費など」も1兆8731億円と5割近く増額し、継戦能力を高める。装備品の調達には歳出が複数年度にわたるものが多い。早期に部隊に配備するため計画で示した施策は可能な限り23年度に契約を予定する。防衛費のうち自衛隊の施設整備や船の建造費など計4343億円は建設国債で財源をまかなう。これまで自衛隊施設などは有事に損壊する恐れがあるとして建設国債の対象経費ではなかった。24年度以降に歳出を持ち越す新たな負担は米軍再編経費などを含め7兆6049億円になった。22年度の2.6倍で23年度予算案の単年での歳出額を超えた。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15502265.html (朝日新聞社説 2022年12月15日) 防衛費の財源 国債発行は許されない 政府が戦後初めて、防衛力整備を国債でまかなう方針を固めた。借金頼みの「禁じ手」を認めれば、歯止めない軍拡に道を開く。即座に撤回するよう首相に強く求める。首相は先日、27年度までの5年間の防衛費を43兆円に大幅増額する方針を示した。このうち約1・6兆円を国債でまかなう方向で検討していることが明らかになった。公共事業など投資的な経費に認められている建設国債を充てるという。戦後日本は、巨額の財政赤字を借金でまかないつつも、防衛費への充当は控えてきた。国債発行による軍事費膨張が悲惨な戦禍を招いた反省からだ。1965年に戦後初の国債発行に踏み切った際も、当時の福田赳夫蔵相は「公債を軍事目的で活用することは絶対に致しません」と明確に答弁している。以来、維持されてきた不文律を、首相は今回の方針転換で破ろうとしている。重大な約束違反であり、言語道断だ。自民党の一部は、海上保安庁予算に建設国債を充てていることを挙げて、自衛隊も同様に認めるべきだと主張してきた。だが、海保は法律で軍事機能が否定されている。自衛隊を同列に扱う理屈にはならない。財政規律は、ひとたび失われると回復が極めて困難になる。巨額の国債を発行し続ける戦後の財政の歩み自体がそのことを示しているはずだ。今回の国債は、老朽化した隊舎など自衛隊の施設整備に充てるという。だが、いったん国債を財源と認めれば、将来、戦車や戦闘機、隊員の人件費へと使途が止めどなく広がるおそれが強い。敵基地攻撃能力の保持に加え、財政上の制約までなくせば、防衛力の際限なき拡大への歯止めがなくなるだろう。戦前の日本は1936年の2・26事件以降、国債発行による野放図な軍拡にかじを切った。それを担った馬場えい一(えいいち)蔵相は、「私は国防費に対して不生産的経費という言葉は使わない」と言い放っている。投資を名分に防衛費を国債でまかなうのは、これと相似形ではないか。防衛費増額の財源では、歳出改革などによる確保策の実効性も疑わしい。復興特別所得税の仕組みを転用する案も浮上したが、復興のための一時的な負担という趣旨を踏まえれば、国民の納得は難しいだろう。国債発行を含めて無理な財源しか示せないのは、首相がGDP比2%という「規模ありき」で防衛費増額を決めたからだ。戦後の抑制的な安全保障政策の大転換を、拙速に進めることは許されない。国民的な議論を重ね、身の丈にあった防衛力のあり方に描き直す必要がある。 *1-2-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1073594 (沖縄タイムス社説 2022年12月15日) [安保大変容:「防衛増税」迷走]議論の進め方が乱暴だ 何ともお粗末な話だ。岸田文雄首相は、13日の自民党役員会で、防衛費増額の財源の一部を増税で賄う方針を示した際、「今を生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」と語った。自民幹部が役員会の後に会見し、首相発言をそのように紹介した。発言を巡ってはツイッターで批判的な意見が相次いだ。14日になって自民党はホームページで「国民の責任」とあるのは「われわれの責任」だったと発言の一部を修正した。自民党の参院選公約には、増税で対応するとの記載はない。発言の事実関係ははっきりしないが、物価高騰のこのご時世に、防衛費増税を打ち出すこと自体、国民不在と言われても仕方がない。岸田政権は、2023年度から27年度までの5年間の防衛費総額を約43兆円とする方針で、27年度以降は年1兆円強を増税で賄う考えだ。具体的な中身もはっきりしないうちに総額の数字だけが先行し、増税を既成事実化するのは、手順があべこべだ。案の定、自民党内からも「内閣不信任に値する」「増税のプロセスがあまりに乱暴だ」などの異論が続出したという。高市早苗経済安全保障担当相は、現職の閣僚でありながら「総理の真意が理解できない」と疑問を呈した。閣内不一致を指摘されると「罷免されるということであれば仕方がない」と居直る始末。首相の指導力に疑問符が付く事態である。 ■ ■ 自民党税制調査会は、たたき台として法人税、たばこ税、復興特別所得税の3税目の増税案を示している。だが、この案も問題が多い。驚きを禁じ得ないのは、東日本大震災からの復興費を賄うための復興特別所得税の一部を防衛力強化に転用するという案だ。年2千億円程度を捻出するというのである。防衛費と復興費用とでは性格が全く異なる。所得税への上乗せを国民が認めているのは、それが復興に使われるからだった。防衛費への転用は、被災地に対する背信行為であり、承服することはできない。政府はこれまで、耐用年数の短さなどを理由に自衛隊施設については建設国債の活用を認めてこなかった。岸田首相も10日の記者会見で国債の活用を否定した。この従来方針も、明確な説明がないまま転換するというのである。 ■ ■ 建設国債が発行できるのは、道路や橋など将来世代に資産として残る公共事業に限られていた。背景には、戦前に国債を大量発行し、軍拡と戦争につながったとの反省があったからだといわれる。主権者である国民は、ないがしろにされていないか。スピード違反というしかないような、このところの猛烈な防衛力強化策は、尋常ではない。沖縄の軍事要塞(ようさい)化を進め、基地の過重負担を固定化させるような増税には強く反対したい。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221217&ng=DGKKZO66929830W2A211C2EA3000 (日経新聞 2022.12.17) 税制改正、成長描ききれず、EVや炭素税先送り 改革、世界から遅れ 2023年度与党税制改正大綱が16日、固まった。少額投資非課税制度(NISA)の恒久化といった成果の陰で、脱炭素のカギを握る炭素税などの議論は先送りとなった。世界の変化に対応する防衛増税や電気自動車(EV)税制も詳細は詰められなかった。欧米が長期的視点で環境問題などをにらんだ税制改革を進めるのと対照的に次の成長策を描ききれていない。大綱の目玉といえるのがNISAの抜本的な拡充だ。制度の恒久化や非課税期間の無期限化に踏み切った。「貯蓄から投資を加速させる」(全国銀行協会の半沢淳一会長)と関係者からも歓迎の声が上がる。手本である英国の個人貯蓄口座(ISA)は恒久化した後も、効果を検証して改良を重ねている。日本もより実効的な投資促進策となるよう制度をさらに磨き上げていく必要がある。グローバル企業の法人税負担の最低税率を15%とする国際合意を踏まえた措置も明記できた。23年に法整備を進め、24年4月以降の導入を目指す。国際合意には企業誘致に支障が出かねないと一部の新興国から反発が出ている。いち早く制度化にこぎ着けられれば国際協調の先導役になれる可能性もある。一方で先送りとなった課題は多い。二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて企業に負担を求める炭素税は22年度改正に続いて棚上げにした。EV税制は走行距離に応じた課税案などに警戒が強く、3年後に枠組みを示すことで折り合った。グリーン対応で成長する制度設計はなお見通せていない。税の不公平の是正という大きな課題にも踏み込みきれなかった。たとえば所得1億円を境に富裕層の所得税の負担率が下がる「1億円の壁」だ。新しい資本主義を掲げる岸田文雄首相が就任当初からこだわり、NISAの大幅拡充とセットで見直すはずだった。与党が中小企業経営者らを含む富裕層への影響を懸念し、機運が後退した。追加の税負担を求める対象は所得が30億円を上回る200~300人程度とごくわずかになった。国の将来を左右する防衛増税は議論が深まらなかった。自民党税制調査会での実質的な協議は約1週間。大綱は法人税や所得税などの活用を明記しながら導入時期など肝心の部分は持ち越した。東京財団政策研究所の森信茂樹氏は「場当たり的な対応に追われ、税体系全体をどうしたいかの議論が置き去りになっている」と疑問視する。「防衛財源捻出のための復興特別所得税の期間延長など全体の受益と負担の関係が一段と見えにくくなり、複雑化した面がある」。米欧は新型コロナウイルス危機後に抜本的な税改革に着手した。欧州連合(EU)は国境炭素税やプラスチック税など新分野の制度設計を率先し、米バイデン政権も企業の自社株買いや法人への課税強化による増収分を格差是正策や次世代インフラ整備に充て、歳出入の中長期の枠組みを国民に示した。(1)デジタル(2)高齢化(3)グローバル課税(4)環境―。国際通貨基金(IMF)のビトール・ガスパール財政局長は2050年に向けて重要になる税の分野を明示している。デジタル化などの急速な変化に加え、環境などの長期的な視点が必要な問題に、各国・地域が向き合うことを迫られている。日本の税制改正を差配する自民党税調は1959年に発足した。以来、年末に大綱をまとめるため基本的に11~12月だけ開くのが慣例になってきた。「日が高い」うちは結論を出さないのが自民党と霞が関と業界団体の長年の習わしだ。そのつど場当たりの議論に追われる体制では世界の政策競争についていけなくなる懸念がある。 *1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15502393.html (朝日新聞 2022年12月15日) 炭素課金、企業側に配慮 まずは軽い負担 排出削減効果は不透明 二酸化炭素(CO2)の排出に課金して削減を促す「カーボンプライシング(炭素課金)」が2028年度から導入される見通しとなった。経済への影響を考慮し、導入まで一定の期間を置いたうえで、小さな負担からスタートする。脱炭素社会の実現に向けた一歩だが、排出削減の効果は不透明だ。経済産業省が14日の審議会で示した制度案は、化石燃料の輸入業者への「賦課金」を28年度、電力会社に有償の排出枠を買い取らせる「排出量取引」は33年度をめどに始めるとした。排出量を減らすほど得をする仕組みにして企業に削減を促す。今でもガソリンや石炭などの化石燃料に課税しているが、一部を除いてCO2の排出量に応じた負担になっていない。当初、経済界からは反対の声が大きかった。欧州に比べて再生可能エネルギーの利用は遅れている。産業の中心は排出量の大きい製造業で、脱炭素のための対策コストが増えることを嫌ったためだ。だが、欧州などで取り組みが進むなかで、国内外の投資家から日本企業に向けられる視線も厳しくなり、対策は「待ったなし」という認識が広がった。炭素課金の導入は、50年の脱炭素社会の実現を20年10月に宣言した菅義偉前首相が検討を指示した。経産省主導でつくった制度案は「成長志向型」と名付けられ、経済界への配慮がにじむ。炭素課金で得られる収入は企業への支援に回すなど、規制と支援をセットにしている。政府は、脱炭素の実現には今後10年間で官民合わせて150兆円超の投資が必要としている。このうち20兆円ほどは23年度以降に発行する「GX経済移行債」(仮称)で調達し、企業に投資を促す支援策に使う。炭素課金で得られる収入はその財源とする計画だ。ただ、経済成長との両立を重視しているため、負担額や導入時期が不十分との見方がある。具体的な課金額は決まっていないが、軽い負担から始め、徐々に引き上げる方針だ。「エネルギーにかかる公的負担の総額が中長期的に増えない」(岸田文雄首相)という。エネルギー関連の賦課金には、再生可能エネルギーの普及費用を電気料金に上乗せする制度があり、これが減少に転じるのは32年度の見通し。このため、新たな賦課金と排出量取引の一部有償化をそろって導入するのは33年度に設定した。気候変動の取り組みは世界的に加速している。欧州連合(EU)は、排出量の規制が緩い国からの輸入品に事実上課税する「炭素国境調整措置(国境炭素税)」を26年以降に導入する見通しだ。EUと同等の規制がないと見なした国・地域からの輸入品の一部に課税する。この日の審議会でも、委員の一人が、今回の制度案ではCO2排出1トンあたりの価格は「多くても3千円程度」と指摘。1万円前後のEUと比べて低く、日本の規制が「十分と見なされるかはわからない」(環境省幹部)という。京都大大学院の諸富徹教授は「温暖化対策に必要な『勝負の10年』を考えると、本格導入の時期は遅すぎるし、負担額も低すぎる」と指摘する。 <戦後安全保障の転換> *2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221217&ng=DGKKZO66931730X11C22A2MM8000 (日経新聞 2022.12.17) 反撃能力保有を閣議決定 防衛3文書、日米で統合抑止、戦後安保を転換 政府は16日、国家安全保障戦略など新たな防衛3文書を閣議決定した。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」を保有し、防衛費を国内総生産(GDP)比で2%に倍増する方針を打ち出した。国際情勢はウクライナ侵攻や台湾有事のリスクで急変した。戦後の安保政策を転換し自立した防衛体制を構築する。米国との統合抑止で東アジアの脅威への対処力を高める。外交・防衛の基本方針となる安保戦略を2013年の策定以来初めて改定した。新たな国家防衛戦略と防衛力整備計画も決定した。岸田文雄首相は16日の記者会見で「現在の自衛隊の能力で日本に対する脅威を抑止し国を守り抜けるのか。十分ではない」と語った。安保戦略は日本の環境を「戦後最も厳しい」と位置づけた。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮や中国の軍事的な脅威にさらされており「最悪の事態も見据えた備えを盤石にする」と明記した。米国は国際秩序を乱す動きに同盟国と一丸で対処する「統合抑止」を掲げる。自衛隊は今まで以上に米軍との一体運用が求められ、安保戦略で実現の道筋を示した。反撃能力の保有は3文書改定の柱だ。「敵基地への攻撃手段を保持しない」と説明してきた政府方針を転換した。首相は16日「抑止力となる反撃能力は今後不可欠となる」と訴えた。反撃能力の行使は「必要最小限度の自衛措置」と定め、対象はミサイル基地など「軍事目標」に限定する。国産ミサイルの射程をのばすほか、米国製巡航ミサイル「トマホーク」も購入する。日米同盟のもと日本は「盾」、米国は「矛」の役割分担で反撃能力を米軍に頼ってきた。自衛隊のこれからの戦略は、迎撃中心のミサイル防衛体制から米軍と協力し反撃も可能な「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」に移行する。サイバー防衛は兆候段階でも攻撃元に監視・侵入などで対処する「能動的サイバー防御」に言及し、法整備の必要性に触れた。日本のサイバー防衛は攻撃を受けた後の対応に重点を置く。米欧のような反撃の仕組みも整っていない。3文書は陸海空の自衛隊と米軍との調整を担う「常設統合司令部」の創設を初めて盛り込んだ。中国を意識し自衛隊の「継戦能力」の強化も提起した。防衛装備品の部品や弾薬などの調達費を現行予算から2倍に増やす。自衛隊の組織は沖縄方面の旅団を格上げする。台湾有事で重要となる空と海の自衛隊員を増やすため、陸上自衛隊から人員を2000人振り替える。宇宙防衛を強化する目的で航空自衛隊は「航空宇宙自衛隊」に組織改編する。中国の現状認識を巡っては安保戦略に「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記した。沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵入などを踏まえ、現行戦略の「国際社会の懸念」から書きぶりを強めた。米欧の戦略と表現をそろえた。防衛費は23~27年度の5年間の総額で43兆円に増やす。現行計画の1.5倍に相当する。27年度には公共インフラや科学技術研究費など国防に資する予算を含めて現在のGDP比で2%に近づける。日本の防衛費は1976年に当時の三木武夫政権で国民総生産(GNP)比で1%の上限を設けた。それ以降はほとんど1%を超えてこなかった。米欧と同水準まで規模を広げて防衛力強化を対外的に示す。日本政府は冷戦期の緊張緩和(デタント)を背景に76年に初めて「防衛計画の大綱」をつくった。当時掲げた均衡の取れた最小限の防衛力整備をめざす「基盤的防衛力構想」からの脱却をはかる。 *2-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/963713 (佐賀新聞論説 2022/12/17) 安保戦略の転換 信問うべき平和国家の針路 岸田政権は外交・安全保障政策の基本指針となる「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を閣議決定した。国家安保戦略は日本周辺の情勢について「戦後最も厳しく複雑な安保環境」だと強調し、防衛力の抜本的な強化を表明。他国のミサイル発射拠点を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有し、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に大幅増額すると打ち出した。戦後日本は憲法9条に基づき、「平和国家」として専守防衛に徹してきた。他国の領域を攻撃できる反撃能力の保有は、日米安保条約の下で「打撃力」を米国に委ねてきた安保政策を根幹から転換するものだ。こうした重大な政策転換が今回、国民的な議論抜きに決められた。岸田文雄首相は先の臨時国会では反撃能力に関して明確な方針を示さず、政府の有識者会議や与党協議など非公開の議論だけで決定。首相は5年間の防衛関連予算を約43兆円とし、財源確保のために増税することも一方的に表明した。極めて不透明で、独善的な決め方だ。新たな安保戦略は「国家の力の発揮は国民の決意から始まる」と記述。防衛増税に関して首相は「今を生きるわれわれの責任」と発言した。だが、国民への丁寧な説明や十分な議論は行われていない。平和国家の基軸を堅持するのか、力に力で対抗する国になるのか。国家の針路を国会で徹底的に審議し、総選挙で国民に信を問うべきだ。安保戦略は、中国を国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」と位置付け、台湾有事の可能性にも言及。北朝鮮は「重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「安全保障上の強い懸念」との認識を示し、日本周辺で「力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」と安保環境の悪化を強調する。その上で、サイバーや宇宙空間での防衛態勢、防衛装備品の研究開発や積極的な輸出などさまざまな分野での防衛力強化を打ち出した。確かにロシアのウクライナ侵攻を機に、国民の不安は高まっている。だが、不安に乗じ、増税まで行う防衛力増強が日本の選択すべき道なのか。GDP比2%の防衛予算は約11兆円で、米中両国に次ぎ、世界で3番目の水準となる。戦力不保持を定めた9条2項との整合性が問われよう。反撃能力は「武力攻撃の抑止」を理由に、長射程のミサイルを導入。安全保障関連法に基づき米国への攻撃も反撃の対象とする。だが、大量のミサイルを持つ国に対して本当に抑止力となるのか。他国の領域への攻撃は、国際法違反の先制攻撃となる恐れも拭えない。安保戦略は、他国が日本を攻撃する「意思を正確に予測することは困難」だとし、相手の能力に応じて「万全を期す防衛力」整備の必要性を主張する。だが、これは軍拡競争で逆に緊張が高まる「安全保障のジレンマ」に陥る論理だ。戦後日本が平和国家の道を歩んだ基礎には甚大な被害をもたらした先の大戦の反省がある。さらに、エネルギー資源の多くを輸入に頼り、食料自給率が低い日本は周辺国との協調が不可欠だ。専守防衛は周辺国との信頼構築の基盤だったと言える。冷静な情勢分析に基づき、地域の緊張緩和に粘り強く取り組む。それ以外に日本が進む道はないことを再確認すべきだ。 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15498361.html (朝日新聞社説 2022年12月10日) 防衛予算増額 「規模先行」の弊害正せ 岸田首相が防衛力強化の財源案を示したが、中身を見ると実現性に乏しいものが多い。このまま進めれば、実質的に借金でまかなったり、防衛以外の予算を過度に制約したりすることになりかねない。財政力の現実を直視し、規模ありきの防衛予算増額を改めるべきだ。首相はおととい、防衛力強化のためには27年度には今より4兆円多い防衛予算が必要になると説明し、そのための財源確保策を示した。過半を歳出改革や特別会計などの余剰資金から捻出し、残る1兆円強を増税でまかなうという。自民党内には国債でまかなえとの声も強いが、恒久的支出を増やす以上、安定財源確保は必須だ。国債頼みは、財政上の問題に加え、防衛力拡大のための歯止めも失わせる。首相の方針は、表向きは国債以外でまかなう姿勢にみえる。だが、内実は極めて危うい。たとえば、活用を見込む決算剰余金は、補正予算の主要財源にされてきた。毎年のように巨額の補正を編成する慣行を改めなければ、防衛費増の分だけ国債が追加発行されることになる。実質的に防衛費を借金でまかなうことに等しい。特別会計やコロナ対策予算の不用分の返納も進めるとしているが、本来目的とする事業に支障をきたす恐れが拭えない。歳出改革も27年度までに1兆円分を積み上げるという。だが、中身は「毎年度毎年度いろいろな面で工夫をしていかなければいけない」(鈴木俊一財務相)とあやふやだ。増税は、実現すれば安定財源になりうるだろう。法人税を軸に検討を進めるという。安倍政権下での法人税率引き下げは、多くが企業の貯蓄や配当に回っており、主に企業に負担を求めるのは理解できる。実施時期などを適切に決めるべきだ。この増税をのぞき、政府が実効性ある財源を示せないのは、前提となる防衛費の増額が身の丈を超えた規模であることを示している。GDP比2%という「総額ありき」で予算を先行して決めた弊害だ。水ぶくれした予算のもとで、専守防衛を空洞化させる「敵基地攻撃能力」のための長距離ミサイルや、費用対効果が疑問視される「イージス・システム搭載艦」の費用が次々に盛り込まれた。中身を精査し、過大な部分を見直すのが先決だ。日本が直面する課題は安全保障だけではない。自民党が「国民共通の重大な危機」と位置づける少子化対策も、財源不足で遅れている。巨大地震などへの備えも必要だ。幅広い視野で適正な資源配分を考えることこそ、政治の役割である。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221129&ng=DGKKZO66365540Z21C22A1MM8000 (日経新聞 2022.11.29) 首相「防衛費2%、27年度」 財源・装備、年内に同時決着、科技費など合算 岸田文雄首相は28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう関係閣僚に指示した。科学技術費などの国防に有益な費用を合算し、省庁横断の防衛費と位置づける。装備品を含む向こう5年間の予算規模と財源確保を年内に同時決着させ、戦後の安全保障政策の転換に道筋をつける。首相が防衛費の具体的水準を明言するのは初めて。東アジアの険しい安保環境を踏まえ先送りすべきでないと判断した。自民党内には安倍派を中心に防衛費を賄うための増税に慎重な意見もある。長期にわたる防衛費増を可能にするための安定財源確保にメドをつけられるかが問われる。首相が28日、首相官邸に浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相を呼び防衛費増額に関する方針を指示した。GDP比で2%との基準を示したうえで、年末に(1)23~27年度の中期防衛力整備計画(中期防)の規模(2)27年度に向けての歳出・歳入両面での財源確保――を一体的に決定すると伝えた。浜田氏が面会後に記者団に明らかにした。日本の防衛費は1976年の三木武夫内閣以来、おおむね1%以内を目安としてきた。ウクライナ侵攻を踏まえ北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が相次ぎ国防費を2%にすると表明し、自民党が2%への増額論を唱えていた。防衛省の予算は2022年度当初で5兆4000億円ほどだ。GDPで2%とするのは防衛省の予算を増額した上で、防衛に有益な他の経費を含める。公共インフラや科学技術研究、サイバー、海上保安庁といった他省庁予算も加える。防衛省だけの縦割り体質から脱却し、安全保障を政府全体で担う体制に移行する。現在のGDPを前提とすると新たな防衛費はおよそ11兆円に達する。柱となるのは相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有だ。ミサイルの長射程化や米国製巡航ミサイル「トマホーク」を導入する。不足している弾薬の購入量を増やすなどして継戦能力も強化する。財源に関する年内決着も指示した。「まずは歳出改革」と指摘したうえで、歳入面で「安定的に支えるためのしっかりした財源措置は不可欠だ」と伝達した。政府の防衛費増額に関する有識者会議は財源を「幅広い税目による国民負担が必要」とする提言をまとめていた。政府内では法人税に加えて所得税、たばこ税などの増税で賄うべきだとの意見がある。一方で政府関係者によると26年度までは財源確保のための一時的な赤字国債発行を容認するという。自民党側の意見に配慮した措置とみられる。首相は両閣僚に歳出改革なども含め財源捻出を工夫するよう求めた。28日の衆院予算委員会では防衛費の財源に関して余った新型コロナウイルス対策予算の活用を検討すると明らかにした。 *2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15504420.html (朝日新聞 2022年12月17日) 安保3文書要旨 ■国家安全保障戦略 《1 策定の趣旨》 パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化で、国際秩序は重大な挑戦にさらされており、対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代になっている。我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。ロシアによるウクライナ侵略で、国際秩序を形作るルールの根幹が簡単に破られた。同様の事態が、将来インド太平洋地域、東アジアで発生する可能性は排除されない。我が国周辺では、核・ミサイル戦力を含む軍備増強が急速に進展し、力による一方的な現状変更の圧力が高まっている。サイバー攻撃、偽情報の拡散を通じた情報戦が恒常的に生起し、有事と平時、軍事と非軍事の境目もあいまいに。防衛力の抜本的強化を始め、備えを盤石なものとし、我が国の平和と安全、国益を守っていかなければならない。この戦略は国家安全保障の最上位の政策文書で、指針と施策は戦後の安全保障政策を実践面から大きく転換するものだ。国家としての力の発揮は国民の決意から始まる。本戦略を着実に実施していくためには、国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を整えることが不可欠だ。 《2 我が国の国益》 主権と独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保。経済成長を通じた繁栄、他国と共存共栄できる国際的な環境を実現する。普遍的価値や国際法に基づく国際秩序を擁護し、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させる。 《3 安全保障に関する基本的な原則》 積極的平和主義を維持。我が国を守る一義的な責任は我が国にあり、安全保障上の能力と役割を強化する。平和国家としての専守防衛、非核三原則の堅持などの基本方針は不変。日米同盟は我が国の安全保障政策の基軸であり続ける。他国との共存共栄、同志国との連携、多国間の協力を重視する。 《4 安全保障環境と安全保障上の課題》 1 グローバルな安全保障環境と課題 パワーの重心がインド太平洋地域に移り、国際社会は急速に変化。国際秩序に挑戦する動きが加速し、力による一方的な現状変更、サイバー空間・海洋・宇宙空間・電磁波領域におけるリスクが深刻化。他国に経済的な威圧を加える動きもある。 2 インド太平洋地域における安全保障環境と課題 (1)インド太平洋地域における安全保障の概観 「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの下、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の実現、地域の平和と安定の確保は、我が国の安全保障にとって死活的に重要だ。 (2)中国の動向 中国の対外的な姿勢や軍事動向は我が国と国際社会の深刻な懸念事項で、これまでにない最大の戦略的挑戦。我が国の総合的な国力と同盟国・同志国との連携により対応すべきものだ。 (3)北朝鮮の動向 北朝鮮の軍事動向は我が国の安全保障にとり、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威に。 (4)ロシアの動向 ウクライナ侵略によって国際秩序の根幹を揺るがし、欧州方面では安全保障上の最も重大かつ直接の脅威に。中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念だ。 《5 安全保障上の目標》 主権と独立、国内・外交に関する政策を自主的に決定できる国であり続ける。領域、国民の生命・身体・財産を守る。有事を抑止し、脅威が及ぶ場合でもこれを排除し、被害を最小化させ、有利な形で終結させる。 《6 優先する戦略的なアプローチ》 1 安全保障に関わる総合的な国力の主な要素 総合的な国力(外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力)を用いて、戦略的なアプローチを実施する。 2 戦略的なアプローチと主な方策 (1)危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取り組みの展開 ア 日米同盟の強化 イ 自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国との連携の強化 ウ 我が国周辺国・地域との外交、領土問題を含む諸懸案の解決に向けた取り組みの強化 エ 軍備管理・軍縮・不拡散 オ 国際テロ対策 カ 気候変動対策 キ ODAを始めとする国際協力の戦略的な活用 ク 人的交流等の促進 (2)防衛体制の強化 ア 国家安全保障の最終的な担保である防衛力の抜本的強化(〈1〉領域横断作戦能力、スタンドオフ・防衛能力、無人アセット防衛能力を強化〈2〉反撃能力の保有〈3〉2027年度に防衛関連予算水準が現在のGDPの2%に達するよう所要の措置〈4〉自衛隊と海上保安庁との連携強化) イ 総合的な防衛体制の強化との連携(研究開発、公共インフラ、サイバー安全保障、同志国との国際協力) ウ 防衛生産・技術基盤の強化 エ 防衛装備移転の推進(防衛装備移転三原則・運用指針をはじめとする制度の見直し) オ 自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化(ハラスメントを許容しない組織環境) (3)米国との安全保障面における協力の深化 米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止力と対処力を一層強化する。 (4)我が国を全方位でシームレスに守る取り組み強化 ア サイバー安全保障 イ 海洋安全保障・海上保安能力(海上保安能力を大幅に強化・体制を拡充) ウ 宇宙安全保障(宇宙の安全保障に関する政府構想をとりまとめ、宇宙基本計画に反映) エ 安全保障関連の技術力向上と積極的な活用(防衛省の意見を踏まえた研究開発ニーズと関係省庁の技術シーズを合致。政府横断的な仕組みを創設) オ 情報に関する能力(人的情報収集など情報収集能力を大幅強化。統合的な情報集約体制を整備、偽情報対策も) カ 有事も念頭に置いた国内での対応能力(自衛隊、海保のニーズにより、公共インフラ整備・機能を拡大。原発など重要施設の安全確保対策も) キ 国民保護の体制 ク 在外邦人等の保護のための体制と施策 ケ エネルギーや食料など安全保障に不可欠な資源の確保 (5)経済安全保障の促進 自律性、優位性、不可欠性を確保し、サプライチェーンを強靱(きょうじん)化。セキュリティークリアランスを含む情報保全を強化。 (6)自由、公正、公平なルールに基づく国際経済秩序の維持・強化 (7)国際社会が共存共栄するためのグローバルな取り組み ア 多国間協力の推進、国際機関や国際的な枠組みとの連携の強化 イ 地球規模課題への取り組み 《7 我が国の安全保障を支えるために強化すべき国内基盤》 1 経済財政基盤の強化(安全保障と経済成長の好循環を実現) 2 社会的基盤の強化(国民の安全保障に関する理解と協力) 3 知的基盤の強化(政府と企業・学術界との実践的な連携強化) 《8 本戦略の期間・評価・修正》 おおむね10年の期間を念頭に置き、安全保障環境に重要な変化が見込まれる場合、必要な修正を行う。 《9 結語》 我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の下に置かれ、将来の国際社会の行方を楽観視することは決してできない。我々は今、希望の世界か、困難と不信の世界のいずれかに進む分岐点にあり、どちらを選び取るかは、今後の我が国を含む国際社会の行動にかかっている。国際社会が対立する分野では、総合的な国力で安全保障を確保する。国際社会が協力すべき分野では、課題解決に向けて主導的かつ建設的な役割を果たし続けていく。普遍的価値に基づく政策を掲げ、国際秩序の強化に向けた取り組みを確固たる覚悟を持って主導していく。 ■国家防衛戦略 《1 策定の趣旨》 政府の最も重大な責務は国民の命と平和な暮らし、そして我が国の領土・領海・領空を断固として守り抜くことにある。ただ、国際社会は深刻な挑戦を受け、新たな危機の時代に突入している。そこで、自衛隊を中核とした防衛力の整備、維持及び運用の基本的指針である「防衛計画の大綱」に代わり、我が国の防衛目標、達成するためのアプローチとその手段を包括的に示す「国家防衛戦略」を策定する。 《2 戦略環境の変化と防衛上の課題》 1 普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家が勢力を拡大している。力による一方的な現状変更やその試みは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に対する深刻な挑戦で、国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しつつある。グローバルなパワーバランスが大きく変化。国家間競争が顕在化し、インド太平洋地域において顕著となっている。さらに、科学技術の急速な進展が安全保障の在り方を根本的に変化させ、各国は将来の戦闘様相を一変させる。いわゆるゲーム・チェンジャーとなり得る先端技術の開発を行っている。 2 我が国周辺国等の軍事動向では、中国は、今後5年が目指す「社会主義現代化国家」の建設をスタートさせる肝心な時期と位置づけ、台湾周辺における威圧的な軍事活動を活発化させるなどしている。その軍事動向は我が国と国際社会の深刻な懸念事項である。北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイル等の増強に集中的に取り組む。関連技術・運用能力を急速に向上させており、従前よりもいっそう重大かつ差し迫った脅威となっている。ロシアによるウクライナ侵略は欧州方面における防衛上の最も重大かつ直接の脅威と受け止められている。また、北方領土を含む極東地域で軍事活動を活発化させている。こうした軍事動向は我が国を含むインド太平洋地域において中国との戦略的な連携と相まって防衛上の強い懸念である。 3 防衛上の課題としては、ロシアによるウクライナ侵略は、高い軍事力を持つ国が、侵略意思を持ったことにも注目するべき。脅威は能力と意思の組み合わせで顕在化する。意思を外部から正確に把握することは困難で、国家の意思決定過程が不透明であれば脅威が顕在化する素地が常に存在する。新しい戦い方が顕在化する中で、それに対応できるかどうかが今後の大きな課題となっている。 《3 我が国の防衛の基本方針》 力による一方的な現状変更やその試みは決して許さないとの意思を明確にしていく必要がある。 1 我が国自体への侵攻を我が国が主たる責任をもって阻止・排除し得るよう防衛力を抜本的に強化する。侵攻を抑止する上で鍵となるのはスタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力である。我が国周辺では質・量ともにミサイル戦力が著しく増強され、ミサイル攻撃が現実の脅威となっている。これに既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつある。反撃能力とは我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の3要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として相手の領域において我が国が有効な反撃を加えることを可能とする自衛隊の能力をいう。有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく。 2 米国との同盟関係は我が国の安全保障の基軸である。日米共同の意思と能力を顕示し、力による一方的な現状変更やその試みを抑止する。侵攻が起きた場合には、日米共同対処により阻止する。 3 1カ国でも多くの国々との連携強化が極めて重要で、地域の特性や各国の事情を考慮した多角的・多層的な防衛協力・交流を積極的に推進する。 《4 防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力》 (1)スタンド・オフ防衛能力 (2)統合防空ミサイル防衛能力 (3)無人アセット防衛能力 (4)領域横断作戦能力 (5)指揮統制・情報関連機能 (6)機動展開能力・国民保護 (7)持続性・強靱(きょうじん)性 《5将来の自衛隊の在り方》 1 重視する能力の7分野では、各自衛隊がスタンド・オフ・ミサイル発射能力を必要十分な数量整備するなど自衛隊が役割を果たす。 2 統合運用の実効性を強化するため既存組織を見直し、陸自・海自・空自の一元的な指揮を行い得る常設の統合司令部を創設する。統合運用に資する装備体系の検討を進める。 3 戦略的・機動的な防衛政策の企画立案が必要とされており、機能を抜本的に強化していく。防衛研究所を中心とする防衛省・自衛隊の研究体制を見直し、知的基盤としての機能を強化する。 《6 国民の生命・身体・財産の保護・国際的な安全保障協力への取り組み》 1 侵略のみならず、大規模テロや原発を始めとする重要インフラに対する攻撃、大規模災害、感染症危機等は深刻な脅威であり、総力を挙げて対応する必要がある。 2 我が国の平和と安全のため、積極的平和主義の立場から、国際的な課題への対応に積極的に取り組む。 《7 いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤》 1 我が国の防衛産業は国防を担うパートナーというべき重要な存在。適正な利益確保のための新たな利益率算定方式を導入する。サプライチェーン全体を含む基盤の強化、新規参入促進、国が製造施設等を保有する形態を検討する。 2 防衛産業や非防衛産業の技術を早期装備化につなげる取り組みを積極的に推進する。我が国主導の国際共同開発、民生先端技術を積極活用するための枠組みを構築する。 3 防衛装備移転三原則や運用指針を始めとする制度の見直しについて検討し、官民一体となった防衛装備移転の推進のため、基金を創設して企業支援をおこなう。 《8 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化》 1 防衛力の中核である自衛隊員について、必要な人員を確保し、全ての隊員が能力を発揮できる環境を整備する。 2 これまで重視してきた自衛隊員の壮健性の維持から、有事において隊員の生命・身体を救うように衛生機能を変革する。 《9 留意事項》 おおむね10年間の期間を念頭に置いているが、国際情勢や技術的水準の動向等について重要な変化が見込まれる場合には必要な修正を行う。 ■防衛力整備計画 《1 計画の方針》 平時から有事まで、活動の常時継続的な実施を可能とする多次元統合防衛力を抜本的に強化し、5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって、同盟国等の支援を受けつつ、阻止・排除できるように防衛力を強化する。おおむね10年後までに、より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する。まず、侵攻そのものを抑止するため、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除できるよう、「スタンド・オフ防衛能力」と「統合防空ミサイル防衛能力」を強化する。また、万が一抑止が破れ、我が国への侵攻が生起した場合に優勢を確保するため、「無人アセット防衛能力」、「領域横断作戦能力」、「指揮統制・情報関連機能」を強化する。さらに、迅速かつ粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念させるため、「機動展開能力・国民保護」、「持続性・強靱性」を強化する。いわば防衛力そのものである防衛生産・技術基盤に加え、防衛力を支える人的基盤等も重視する。 《2 自衛隊の能力等に関する主要事業》 1 スタンド・オフ防衛能力 侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して、脅威圏外から対処する能力を強化する。スタンド・オフ・ミサイルの量産弾を取得するほか、米国製のトマホークを始めとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実な導入を実施・継続する。 2 統合防空ミサイル防衛能力 極超音速滑空兵器等の探知・追尾能力を強化するため、固定式警戒管制レーダー等の整備及び能力向上、次期警戒管制レーダーの換装・整備を図る。我が国の防空能力強化のため、主に弾道ミサイル防衛に従事するイージス・システム搭載艦を整備する。 3 無人アセット防衛能力 用途に応じた様々な情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング用無人アセットを整備する。輸送用無人機の導入について検討の上、必要な措置を講じる。各種攻撃機能を効果的に保持した多用途/攻撃用無人機及び小型攻撃用無人機を整備する。 4 頷域横断作戦能力 (1)宇宙領域における能力 米国との連携強化、民間衛星の利用等により、目標の探知・追尾能力の獲得を目的とした衛星コンステレーションを構築する。 (2)サイバー領域における能力 27年度を目途に、自衛隊サイバー防衛隊等のサイバー関連部隊を約4千人に拡充する。将来的には更なる体制拡充を目指す。 5 指揮統制・情報関連機能 (3)認知領域を含む情報戦等への対処 情報戦に確実に対処できる体制・態勢を構築する。人工知能(AI)を活用した公開情報の自動収集・分析機能の整備、各国等による情報発信の真偽を見極めるためのSNS上の情報等を自動収集する機能の整備、情勢見積もりに関する将来予測機能の整備を行う。 《3 自衛隊の体制等》 1 統合運用体制 常設の統合司令部を創設する。 4 航空自衛隊 宇宙作戦能力を強化するため、将官を指揮官とする宇宙領域専門部隊を新編するとともに、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊とする。 《13 所要経費等》 1 23年度から27年度の5年間における本計画の実施に必要な防衛力整備の水準に係る金額は、43兆円程度とする。 2 本計画期間の下で実施される各年度の予算の編成に伴う防衛関係費は、以下の措置を別途とることを前提として、40兆5千億円程度(27年度は8兆9千億円程度)とする。 (1)自衛隊施設等の整備の更なる加速化を機動的・弾力的に行うこと(1兆6千億円程度)。 (2)一般会計の決算剰余金が想定よりも増加した場合にこれを活用すること(9千億円程度)。 3 この計画を実施するために新たに必要となる事業に係る契約額(物件費)は、43兆5千億円程度とする。 6 27年度以降、防衛力を安定的に維持するための財源、及び、23年度から27年度の本計画を賄う財源の確保については、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設、税制措置等、歳出・歳入両面において所要の措置を講ずることとする。 ■防衛力整備計画の別表 【今後5年間で導入】 ◆スタンド・オフ防衛能力 12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型、艦艇発射型、航空機発射型) 地上発射型11個中隊、島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾、極超音速誘導弾、トマホーク ◆統合防空ミサイル防衛能力 03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上型 14個中隊、イージス・システム搭載艦 2隻、早期警戒機(E-2D) 5機、弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル(SM-3ブロック2A)、能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3MSE)、長距離艦対空ミサイルSM-6 ◆無人アセット防衛能力 各種UAV、USV、UGV、UUV ◆領域横断作戦能力 護衛艦 12隻、潜水艦 5隻、哨戒艦 10隻、固定翼哨戒機(P-1) 19機、戦闘機(F-35A) 40機、戦闘機(F-35B) 25機、戦闘機(F-15)の能力向上 54機、スタンド・オフ電子戦機 1機、ネットワーク電子戦システム(NEWS) 2式 ◆指揮統制・情報関連機能 電波情報収集機(RC-2) 3機 ◆機動展開能力・国民保護 輸送船舶 8隻、輸送機(C-2) 6機、空中給油・輸送機(KC-46A等) 13機 【おおむね10年後に整備】 ◆共同の部隊 サイバー防衛部隊 1個防衛隊、海上輸送部隊 1個輸送群 ◆陸上自衛隊 ・常備自衛官定数 14万9千人 ・基幹部隊(作戦基本部隊《9個師団、5個旅団、1個機甲師団》、空挺部隊 1個空挺団、水陸機動部隊 1個水陸機動団、空中機動部隊 1個ヘリコプター団) ・スタンド・オフ・ミサイル部隊(7個地対艦ミサイル連隊、2個島嶼防衛用高速滑空弾大隊、2個長射程誘導弾部隊)、地対空誘導弾部隊 8個高射特科群、電子戦部隊(うち対空電子戦部隊) 1個電子作戦隊(1個対空電子戦部隊)、無人機部隊 1個多用途無人航空機部隊、情報戦部隊 1個部隊 ◆海上自衛隊 ・基幹部隊(水上艦艇部隊《護衛艦部隊・掃海艦艇部隊》、6個群《21個隊》、潜水艦部隊 6個潜水隊、哨戒機部隊《うち固定翼哨戒機部隊》、 9個航空隊《4個隊》)、無人機部隊 2個隊、情報戦部隊 1個部隊 ・主要装備(護衛艦 54隻《イージス・システム搭載護衛艦10隻》、イージス・システム搭載艦 2隻、哨戒艦 12隻、潜水艦 22隻、作戦用航空機 約170機) ◆航空自衛隊 ・主要部隊(航空警戒管制部隊、4個航空警戒管制団、1個警戒航空団《3個飛行隊》、戦闘機部隊 13個飛行隊、空中給油・輸送部隊 2個飛行隊、航空輸送部隊 3個飛行隊、地対空誘導弾部隊 4個高射群《24個高射隊》、宇宙領域専門部隊 1個隊、無人機部隊 1個飛行隊、作戦情報部隊 1個隊 ・主要装備(作戦用航空機約430機《戦闘機約320機》注1:上記、陸上自衛隊の15個師・旅団のうち、14個師・旅団は機動運用を基本とする。注2:戦闘機部隊及び戦闘機数については、航空戦力の量的強化を更に進めるため、2027年度までに必要な検討を実施し、必要な措置を講じる。この際、無人機(UAV)の活用可能性について調査を行う) *2-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221217&ng=DGKKZO66931250W2A211C2EA2000 (日経新聞 2022.12.17) 防衛支出、問われる優先度、増す脅威、首相「量・質両面で強化」 政府は防衛3文書に新装備の導入や自衛隊の体制拡充を盛り込んだ。サイバー防衛の具体策を詰めるのは2023年以降で、反撃能力の手段である長射程ミサイルの配備は最短で26年度になる。北朝鮮など現実的な危機が迫るなかで、政策の優先度と実行力が問われる。岸田文雄首相は16日の記者会見で3文書改定の重要項目として反撃能力やサイバーなど新領域への対応を挙げた。「日本の能力を量・質両面で強化する」と説明した。3文書はサイバー空間で攻撃兆候の探知や発信元の特定をして事前対処する「能動的サイバー防御」に初めて触れ、導入を明記した。政府はこれから(1)攻撃を受けた民間企業による政府への情報共有(2)通信事業者が持つ情報の活用(3)相手システムに侵入する権限の付与―の3点を検討する。実現には憲法21条の「通信の秘密」との整理や法改正が不可欠だ。事業者が保有する通信網の情報を使えば攻撃元が探知しやすくなる。相手システムへの攻撃も可能になれば重大な被害を未然に防げる。米欧の主要国はサイバー防衛で先行する。重要インフラの停止など脅威度が増すサイバー攻撃への対応は優先度が高いと考えるためだ。政府は23年にも内閣官房にサイバー防衛の司令塔を新設し、どこまで情報の活用が可能か議論に入る。慶大の神保謙教授は「能動的サイバー防御の導入方針は画期的だが、法整備に数年はかかるだろう」と語った。人員の確保も課題だ。自衛隊は27年度までに専門人材を現在の4倍以上の4000人規模に増員する。民間からの登用には情報の保秘体制や報酬の面で壁がある。優秀な人材は民間企業との奪い合いになる。新防衛3文書が「最優先課題」に掲げたのは戦闘機や艦艇の修理などに使う部品と弾薬の備蓄拡大だ。自衛隊は部品不足が常態化し、装備の稼働率は5割強しかない。他の機体向けに部品を流用する「共食い」整備は航空自衛隊だけで年3400件もある。防衛省は23~27年度に投じる単体予算43兆円のうち9兆円をかけて5年以内にこうした状況を解消する。弾薬は中長期の戦闘に十分な量に足りていない。備蓄の7割は北海道に偏在し、台湾有事で影響が避けられない南西諸島の防衛に不安が残る。「有事になれば戦えずに負ける」との声さえあがる状況の是正が急務だが、火薬庫を新設するための地元自治体との調整は難航しがちだ。能力強化を巡っても課題は山積する。代表例は相手の脅威圏外から撃つ長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」。相手のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力の手段にもなる。中国やロシア、北朝鮮が力を入れる極超音速ミサイルを遠方で迎え撃つ技術は現時点でない。地上に落下する局面では最新鋭の地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)や迎撃ミサイル「SM6」などで撃ち落とせるが、防御範囲は限られている。大気圏外を放物線を描いて飛ぶ弾道ミサイルと異なり、高度100キロメートル以下を方向を変えながら飛ぶ極超音速弾に対処する迎撃弾がなければ、抑止力は十分といえない。通常の弾道ミサイルも同時に多数を撃ち込まれればすべてを撃ち落とすのは難しい。迎撃一辺倒では守り切れなくなった現実を踏まえ、日本へ撃てば反撃を受けると認識させて攻撃をためらわせる抑止力を早期に備える必要がある。反撃能力の保有は「時間との戦い」ともいわれる。戦闘で使われた実績がある米国製巡航ミサイル「トマホーク」を購入しても護衛艦への配備は早くて26年度だ。しばらくは抑止力に穴がある状態が続く。台湾有事のリスクが高まるとされる24年の台湾総統選後には間に合わない。中長期の抑止力は極超音速ミサイルの開発が左右する。米国も未開発の段階で、日本が国産の「極超音速誘導弾」を完成させるのは30年代になる想定だ。ロシアはすでに極超音速滑空兵器(HGV)を配備し、中国もHGV搭載可能な弾道ミサイル「東風(DF)17」の運用を始めたとされる。北朝鮮も極超音速ミサイルと称し発射を繰り返す。新型ミサイルに限れば東アジアの軍事バランスはすでに崩れた。限られた予算の中で抑止力強化に効果的な装備や分野を厳選する「賢い支出」という視点は欠かせない。防衛力に完全はなく、体制拡充を求めればキリがない。現実の脅威に対処する方策を見定めつつ、費用対効果を同時に検証する作業が求められている。 *2-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221220&ng=DGKKZO66979290Q2A221C2MM8000 (日経新聞 2022.12.20) サイバー戦争 日本の危機(1)戦争「武力以外が8割」、ウクライナ、40日前に「開戦」 日本は法整備なく脆弱 銃弾やミサイルが飛び交うウクライナ侵攻の裏で、世界はサイバー戦争の脅威に震撼(しんかん)した。日本政府は16日に防衛3文書を改定し、ようやくサイバー防衛を強化する方針を示した。実際に国民を守るには法制度や人材、装備を急いで用意しなければならない。2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻はその40日ほど前に「開戦」していた。3波に及ぶ大規模なサイバー攻撃だ。まず1月13~14日。「最悪の事態を覚悟せよ」とウクライナの70の政府機関でサイトが書き換えられた。2月15日は国防省や民間銀行が標的になる。大量のデータを送りつけてサーバーを止める「DDoS攻撃」だった。第3波は侵攻前日の2月23日。政府機関や軍、金融や航空、防衛、通信など官民のインフラ全般が攻撃を受けた。ロシアには成功体験がある。2014年のクリミア併合だ。侵攻前にウクライナへのサイバー攻撃で通信網を遮断し、官民の重要機関も軍の指揮系統も機能不全にした。ウクライナ軍は実際の侵攻時に対抗できず、短期間でクリミア半島の占拠を許した。 ●戦力差を補完 「非軍事的手段と軍事的手段の割合は4対1だ」。いまもロシア軍を指揮するゲラシモフ参謀総長はクリミア併合前の13年に予告した。現代戦はサイバーや外交、経済などの非軍事面が8割を占めるという意味だ。14年の例を踏まえれば今回もすぐに首都キーウ(キエフ)が陥落しかねなかった。国防費は10倍、陸軍兵力も倍以上とリアルの戦力も大差がある。にもかかわらず泥沼は10カ月も続く。米欧の武器支援は大きいが、主に春以降だ。序盤にウクライナが持ちこたえたのはゲラシモフ論の「5分の4」に入るサイバーの力が大きい。ロシアは14年以降もサイバー攻撃を続けていた。15、16年は電力インフラを攻撃し大規模停電を引き起こした。17年は強力なマルウエア「NotPetya」の攻撃がウクライナを通じて米欧にも被害を与えた。もともとウクライナの通信機器はロシア製が多く「バックドア」と呼ばれる侵入路があった。侵入路から米国に打撃が及ぶと、米政府や米マイクロソフトがウクライナの支援に乗り出した。防衛策をとる過程でロシア製機器は排除し、米国の盾を獲得した。世界最先端ともいわれたロシアの攻撃に対処し続けた結果、防衛の経験と技術も向上した。今回の3波攻撃が致命傷にならず、ウクライナ軍も機能したのはそのためだ。「発覚から3時間以内で対処した」。米マイクロソフトは2月末、今回のロシアによるサイバー攻撃について発表した。攻撃前からロシア内の動向を監視しなければ無理な対応といわれる。同社はロシアが侵攻後に日本を含む40カ国以上のネットワークに侵入を試みた、と6月に公表した。「まず検出能力を養うことだ」と強調した。日本に力はない。「日米同盟の最大の弱点はサイバー防衛。日本の実力はマイナーリーグ、その中で最低の1Aだ」。デニス・ブレア元米国家情報長官は提唱する。元海将の吉田正紀氏は「サイバーは日米で最も格差がある。日本も能力を急速に上げるべきだ」と語る。9月には日本政府の「e-Gov」や東京地下鉄(東京メトロ)、JCBなどがDDoS攻撃を受けた。親ロシアのハッカー集団「キルネット」が犯行声明を出した。折しもロシアは極東で中国などと大規模軍事演習をしていた。仮想敵「東方」から土地を奪還する想定で、サイバーとリアルを連動させたと映る。 ●「逆侵入」できず 中曽根康弘世界平和研究所の大沢淳主任研究員は「日本政府は『ロシアの軍事演習の一環』と分析していなかった」と指摘する。「日本は攻撃者や背景を特定できない」とも話す。サイバーも「専守防衛」で攻撃を感知してから対処する。サイバー防衛は「国の責務」とも規定していない。世界的には異例だ。各国は海外からの通信を監視して攻撃者を特定し対抗措置をとる。「アクティブ・サイバー・ディフェンス(積極的サイバー防衛)」という。12月16日に日本政府が決めた国家安全保障戦略には「能動的サイバー防御」が記されたが具体化は23年以降になる。憲法21条は「通信の秘密」を規定する。外国との通信を監視するなら電気通信事業法の改正が要る。攻撃元の特定には経由したサーバーをさかのぼる「逆侵入」や「探知」が必要だが、不正アクセス禁止法や刑法の改正が前提になる。いまウクライナのような攻撃を受けても盾はない。無防備で国民の安全は守れない。 <エネルギー安全保障> *3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221207&ng=DGKKZO66612400X01C22A2EA2000 (日経新聞 2022.12.7) 再生エネ「25年に最大電源」 IEA予測、石炭抜く ウクライナ危機で急拡大 国際エネルギー機関(IEA)は6日公表した報告書で、太陽光や風力など再生可能エネルギーが2025年に石炭を抜いて最大の電源になるとの見通しを示した。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障への危機感が強まり、各国は「国産エネルギー」の再生エネを急拡大する。侵攻で高騰した化石燃料と比べ、再生エネの発電コストが割安なことも追い風だ。IEAによると、再生エネの発電量は27年までに21年から約6割増えて1万2400テラワット時以上になる見込み。IEAは報告書で「25年初めには再生エネが石炭を抜いて最大の発電源になる」と指摘した。電源別のシェアは21年から10ポイント増えて27年に38%になる。一方、石炭は7ポイント弱減って30%に、天然ガスは2ポイント減の21%になる。再生エネの発電容量は21年に約3300ギガワットで、27年までに2400ギガワット増加する見通し。過去20年に世界が整備してきた規模に匹敵し、現在の中国の容量に相当する。ウクライナ侵攻は、化石燃料の高騰と供給不安を世界で引き起こした。エネルギーを他国に過度に依存するのは大きなリスクになるとの教訓を得た多くの国は、再生エネの拡大をめざしている。輸入に依存する化石燃料と異なり、再生エネは自国領に吹く風や降り注ぐ太陽光で発電できる。最も伸びるのが太陽光で、容量ベースで26年に天然ガスを、27年に石炭を抜く見通しだ。原材料の高騰で発電コストは増えるものの、大半の国では「最も低コストの電源」(IEA)になる。建物の屋根に設置する小規模発電も成長し、消費者の電力料金の負担軽減につながるとみる。風力は27年には水力を抜き、太陽光、石炭、ガスに続く4番目の電源になる。許認可の手続きや電力系統インフラの問題があり、太陽光よりも伸びは緩やかだ。27年までに増える再生エネのうち、太陽光と風力で計9割以上を占める。IEAのビロル事務局長は声明で「現在のエネルギー危機が、よりクリーンで安全な世界のエネルギーシステムに向けた歴史的な転換点になりうるという事例だ」と述べた。けん引するのは米国、欧州、中国、インドで規制改革や導入支援策を拡充している。ウクライナ侵攻の影響を大きく受ける欧州連合(EU)はエネルギーの脱ロシア戦略「リパワーEU」を打ち出し、再生エネの導入目標を引き上げようとしている。米国は今夏成立したインフレ抑制法で再生エネのほか、電気自動車(EV)の普及や水素技術の開発など脱炭素化に重点を置いた。中印は火力発電も温存しながら、再生エネの拡大にも力を入れている。中国は27年までの世界の再生エネの新規容量のほぼ半分を占める勢いだ。各国は太陽光パネルの製造などサプライチェーン(供給網)の多様化にも力を入れている。米国とインドが投資を増やすため、足元では9割の生産能力を持つ中国のシェアが27年には75%に低下する可能性がある。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221223&ng=DGKKZO67083440T21C22A2EA2000 (日経新聞 2022年12月23日) 150兆円投資 見えぬ具体策、GX基本方針、再エネ拡大難路 脱炭素へ勝負の10年 政府は22日に取りまとめたGX(グリーントランスフォーメーション)に関する基本方針をもとに脱炭素投資を加速する。今後10年で官民で150兆円超を見込む。ただ再生可能エネルギーの大型案件は乏しく、民間資金が集まるかも見通しにくい。50年の脱炭素化と足元の電力供給の安定に向けた勝負の10年となるが、大きな金額になるだけに日本の産業競争力を高める実のある投資にする必要がある。 ●大型案件乏しく 政府は150兆円超の投資のうち再生エネの大量導入に約31兆円を想定している。日本の発電量に占める再生エネは2021年にやっと20%を超えた。30年度に36~38%にする目標の達成には太陽光や風力発電を大幅に増やす必要がある。ただ、具体的な再生エネの大型案件は見えていない。景観や安全性への懸念から地元自治体が反対する事例が増えた。開発案件から撤退する大手電力も相次ぐ。再生エネも原発や火力と同じように地元の協力が欠かせないが、国のサポート体制に課題が多い。世界で再生エネの主流となった洋上風力は国土交通省、総務省、自治体などに所管が細かく分かれ、一体的な調整ができていない。基本方針では「再生エネを最大限活用」と明記した。ただ橘川武郎国際大学副学長は16日の経済産業省の有識者会議で「電力が足りないという危機になれば、主力電源の再生エネをどうするかとの話から入るのが普通だが、その話はわずかだった」と疑問を呈した。11年の東日本大震災の直後から課題を指摘されながら、ようやく着手するのが送電網の強化だ。政府は今後10年間で原発10基の発電能力にあたる約1000万キロワット分の広域送電網を整備する。官民の投資による脱炭素産業の育成も欠かせない。再生エネ技術は太陽光パネルなど日本がリードしていたものが多い。ただ開発や実用化の段階で先行しても、量産・普及段階で中国や欧州のグリーン投資で一気に追い抜かれた事例が続く。天候に発電量が左右される再生エネを生かすには蓄電池の大型化やコスト低減が欠かせない。政府は蓄電池産業の確立に官民で7兆円規模を投じる戦略を描く。政府目標では「国内マザー工場の基盤確立」といった項目が並ぶが、競争力が高まるかは見通せない。足元では蓄電池もパナソニックホールディングスより中韓メーカーの方が勢いがある。日本が開発で先行するペロブスカイト型といった次世代太陽電池も今回の投資対象だが、対応を誤れば中国メーカーなどに普及期に抜かれかねない。水素技術も脱炭素の達成には必要で、再生エネから効率よく水素を製造し、貯蔵する技術が今後のカギとなる。水素燃料を得やすくなれば航空機や船舶、製鉄など排出量の比較的多い産業の脱炭素化につながる。 ●排出負担軽く ただ、企業に脱炭素を促す仕組みは遅れている。炭素を値付けして排出に負担を求めるカーボンプライシングの本格導入時期は30年代と遅く、負担も欧州などより軽い。炭素価格は高いほど排出時に負担がかかり企業の抑制意識が高まる。今回の議論では企業の負担が大きく増えないようにガソリンなどにかかる税負担が今後減る範囲内での導入にとどめた。どういったカーボンプライシングなら気候変動対策に効果的かといった本質的な議論でなく、GX債の償還財源の確保目的に終始した面もある。世界では再生エネが急速に普及する。国際エネルギー機関(IEA)によると22年の新規導入容量は319ギガワット。年間の新規導入容量として過去最大だった21年を超える。欧州連合(EU)は26年から炭素価格が低い国からの輸入品に対して事実上の関税をかける国境炭素調整措置の導入を決めた。日本の対策が遅れれば、欧州などで再生エネの電気を使って生産する製品との差が出て競争力に響きかねない。今回の基本方針は、中長期のエネルギー政策を数年ごとに改定するエネルギー基本計画に匹敵するほどの大きな政策転換といえる。議論が拙速で不十分な点も多いが、それらを早期に補強しながら政府や企業が対策に取り組まないと世界との差は開くばかりだ。 *3-1-3:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022122500078 (信濃毎日新聞社説 2022/12/25) GX実行会議 議論の方向間違っている 脱炭素社会の実現には、化石燃料を再生可能エネルギーに転換させる社会や経済の改革が必要だ。その議論が尽くされていない。政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」である。7月から5回開き、脱炭素化に向けた基本方針を決めた。東京電力福島第1原発事故後に「依存度低減」としてきた原発政策を「最大限活用」に変え、新規建設や長期運転に踏み込んだ。一方で、主力電源と位置づける太陽光や風力といった再エネをどう拡大させていくのか。先行きは見通せていない。優先すべき課題は、2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量をほぼ半減させることだ。政府は、ウクライナ戦争に伴うエネルギー危機への対応も強調する。いずれも原発は間に合わず、主力になり得ない。なぜ再生エネのさらなる普及策を徹底的に議論し、打ち出さないのか。脱炭素やエネルギー危機を名目に、原発回帰にお墨付きを与えるための会議だったとしか思えない。GX実行会議は、省庁横断で政策を検討するために設置された。ところが、岸田文雄首相は、経済産業相を担当に任命。たたき台も含めて議論は、原発推進の旗を振る経産省のペースで進んだ。首相自身も初会合で、原発に触れて「政治決断が求められる項目の明示を」と仕向けている。議論は非公開で、外部委員は財界や電力会社の関係者らだ。原発に慎重な考えを持つ人たちを避けて、短期間で政策を転換させた。太陽光の方が安い発電コスト、巨額に上る建設費や維持費、災害や戦争のリスクといった問題が詳細に検討されたとは言い難い。あまりに拙速だ。自然エネルギー財団は、原発に頼らず再生エネの大幅導入と水素の利用で脱炭素化できると分析している。こうした専門家や次代を担う若者も交えて、国民の見える場で議論するべきだ。政府は新たな国債「GX経済移行債」で調達する資金を、次世代型原発の研究開発にも充てる方針を示している。実用化が不確かで、放射性廃棄物の処理問題を抱える原発への投資は誤りだ。部品を外国製に頼る太陽光や風力にこそ投資を向けねばならない。脱炭素社会の構築は、人類にとって持続可能な地球を残すことに意味がある。廃棄物を次世代に先送りする原発は本来、脱炭素社会と相いれない。政策の転換を撤回し、議論し直すよう求める。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221219&ng=DGKKZO66947400Z11C22A2MM8000 (日経新聞 2022.12.19) 送電網、10年で1000万キロワット増 政府計画、再生エネを広域融通 北海道―本州で海底線新設、九州―本州は2倍 政府は今後10年間で原子力発電所10基の容量にあたる約1000万キロワット分の広域送電網(総合・経済面きょうのことば)を整備する。過去10年の8倍以上のペースに高める。太陽光や風力など再生可能エネルギーによる電気を無駄にせず、地域間で効率よく融通する体制を整える。脱炭素社会の重要インフラとなるため、事業主体の電力会社の資金調達を支援する法整備も急ぐ。岸田文雄首相が近くGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で整備計画を表明する。日本は大手電力会社が地域ブロックごとに事業をほぼ独占し、競争原理が働きにくい状態が続いてきた。2011年の東日本大震災では広域で電力をやりとりする送電網の脆弱さがあらわになった。大都市圏が夏冬の電力不足に直面する一方、九州では春に太陽光発電の出力を抑えるといった事態が続いている。50年の脱炭素には再生エネの発電に適した北海道や九州の電気を、東京や大阪に送って消費する体制が欠かせない。ウクライナ危機でエネルギーの供給不安も高まった。地域間の連系線の抜本的な強化を急ぐ。新たに日本海ルートで北海道と本州を結ぶ200万キロワットの海底送電線を設ける。30年度の利用開始をめざす。30年度の発電量のうち、再生エネの割合を36~38%にする政府目標の達成に必要とみている。九州―本州間の送電容量は278万キロワット増やして、556万キロワットにする。27年度までに東日本と西日本を結ぶ東西連系線は90万キロワット増の300万キロワットに、北海道―東北間は30万キロワット増の120万キロワットに、東北―東京エリア間は455万キロワット増の1028万キロワットに拡大する。東西連系線については28年度以降、さらに増強する案もある。過去10年の整備量は東西連系線と北海道―東北間であわせて120万キロワットにとどまっていた。今後10年間は8倍以上に加速させる。巨額の費用の捻出は課題となる。北海道―本州間の海底送電線は1兆円規模の巨大プロジェクトで、九州―本州間の連系線は約4200億円を要するとみている。電力会社を後押しするため、資金調達を支援する枠組みを整える。いまの制度では送電線の整備費用を電気料金から回収できるのは、完成して利用が始まってからとなる。それまでは持ち出しが続くため投資に及び腰になりかねなかった。必要に応じて着工時点から回収できるように改める。23年の通常国会への関連法案の提出をめざす。例えば、海底送電線の建設期間中に計数百億円規模の収入を想定する。初期費用の借り入れが少なくて済み、総事業費の圧縮にもつながると期待する。50年までの長期整備計画「マスタープラン」も22年度内にまとめる。原案では北海道―本州間の海底送電線を3兆円前後で計800万キロワットに、東西連系線は4000億円規模で570万キロワットに増強する。50年までの全国の整備費用はトータルで6兆~7兆円に上ると見込む。 3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221221&ng=DGKKZO67012450Q2A221C2EP0000 (日経新聞 2022.12.21) 送電網利用料引き上げ 10社、来年度から最大16% 東京電力パワーグリッド(PG)など送配電会社10社は電力小売会社から受け取る送電網の利用料「託送料金」を2023年度から引き上げる。送電網の増強やデジタル化といった投資に充てる。1キロワット時あたりの単価は会社によって異なり、4.4~16.0%の範囲での値上げとなる見通しだ。経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会が20日、各社が提出した収入見通しの検証を終えた。10社の27年度までの5年間の年平均の収入を合算すると4兆6836億円になる。現行コストの場合と比べて4.5%増える。もともと6.5%増の計画を出していたが、監視委の査定で圧縮された。10社は今後、23年4月1日からの新しい託送料金を申請する。各社の計画によると1キロワット時あたりの料金単価は企業や家庭向けを合計した場合、東電PGで4.4%増の5.49円。関西電力送配電は7.3%増の5.30円、中部電力PGは7.6%増の4.98円となる。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221223&ng=DGKKZO67083690T21C22A2MM8000 (日経新聞 2022年12月23日) 原発建て替え具体化を明記 GX基本方針、震災後のエネ政策転換 政府は22日、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を開き、脱炭素社会の実現に向けた基本方針をまとめた。原子力について「将来にわたって持続的に活用する」と明記した。廃止が決まった原子力発電所を建て替え、運転期間も現在の最長60年から延長する。東日本大震災以来、原発の新増設・建て替えを「想定しない」としてきた政策を転換するが、実現には課題が多く実行力が問われる。岸田文雄首相は会合で「法案を次期通常国会に提出すべく、幅広く意見を聞くプロセスを進めていく」と述べた。パブリックコメントを経て2023年2月までに閣議決定し、政府の正式な方針にしたうえで法案提出をめざす。方針では再生可能エネルギーと原子力について「安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」と記載した。50年の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標と電力の安定供給の両立につなげる。原発については「次世代革新炉の開発・建設に取り組む」と掲げ、「まずは廃止を決定した原発の建て替えを対象に具体化を進めていく」と記した。建て替え以外の開発・建設については「今後の状況を踏まえて検討していく」とした。運転期間の延長については原則40年、最長60年とする制限を維持したうえで「一定の停止期間に限り、追加の延長を認める」と盛った。原子力規制委員会による安全審査を前提に震災後の審査で停止していた期間などの分を延長する。認められれば60年超の運転が可能になる。政府は11年の東京電力福島第1原発事故を受け、原発の新増設や建て替えは「想定していない」との見解を示してきた。原則40年、最長60年とする運転期間も導入した。今回の基本方針で見直すことになる。原子力政策を巡っては進展していない課題が多い。例えば原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)は最終処分場が決まっていない。「バックエンド」と呼ばれる問題で解決できなければ原発を長期に使っていくのは難しい。首相は22日の会議で「最終処分につながるよう関係閣僚会議を拡充する。政府をあげバックエンドの問題に取り組んでいく」と述べた。基本方針に沿って進展するかは見通せない。関西電力美浜原発などが建て替えの候補地とみられているが、政府は具体的な候補地は示していない。建設費用は1兆円規模ともされ、多額の投資費用を回収する見込みがなければ電力会社は建設を決めにくい。33基ある原発のうち14基は再稼働済みか再稼働のメドが立った。一方、安全審査に合格したものの地元の同意が得られていない原発3基を含む19基は再稼働の見込みが立っていない。政府は前面に立ち再稼働を目指すとするが具体策は乏しい。 *3-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15509882.html (朝日新聞 2022年12月23日) 原発建設へ転換 60年超す運転も可、政府方針 脱炭素、GX会議 政府は22日、原発の新規建設や60年を超える運転を認めることを盛り込んだ「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針案」をとりまとめた。来年に閣議決定し、関連法の改正案を通常国会に提出する。岸田文雄首相の検討指示からわずか4カ月で、2011年の東京電力福島第一原発事故後に堅持してきた政府の方針が大きく転換する。50年の脱炭素社会の実現に向けた取り組みを議論するGX実行会議(議長・岸田首相)が官邸で開かれ、基本方針案が了承された。基本方針案では、原発を「最大限活用する」として二つの政策転換を打ち出した。一つは原発の新規建設だ。政府はこれまで「現時点では想定していない」としてきたが、「将来にわたって原子力を活用するため、建設に取り組む」と明記した。まずは廃炉を決めた原発の建て替えを具体化する。政府が「次世代革新炉」と呼ぶ、改良型の原発を想定している。原発のない地域に建てる新設や増設についても「検討していく」とした。もう一つは、原発の運転期間の延長だ。原発事故の教訓をもとに原則40年、最長20年延長できると定めたルールを変える。この骨格は維持しつつ、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除く。仮に10年間停止した場合、運転開始から70年まで運転できるようになる。事故後の原子力規制の柱としてきたルールが形骸化するおそれがある。 ■<視点>電力危機に乗じた「回帰」 岸田政権が、原発政策を転換する道を選んだ。ウクライナ危機に伴う燃料高騰や電力不足、脱炭素への対応を強調し、再稼働の推進だけでなく、原発の新規建設や運転期間の延長に踏み込んだ。これは原発依存を続けることを意味する。だが、建設は早くても30年代。いま直面する問題の解決策にはならない。原発事故後に安全対策が強化され、建設には1兆円規模の費用がかかる。「核のごみ」を捨てる場所もない。重大事故が起きれば取り返しのつかない被害をもたらすことも経験した。それでも原発に頼り続けるのであれば、国民的な議論が必要だ。岸田政権はこれらの課題は残したまま、目の前の電気料金上昇や電力不足を強調し、原発推進の旗を振る経済産業省を中心にわずか4カ月で結論を出した。原発政策について、国が国民の声を聴いたことがある。原発事故の翌12年、当時の民主党政権は30年の原発比率を決めるために11都市で意見聴取会を開き、討論を通して意見がどう変わるかをみる「討論型世論調査」をした。導き出したのが「30年代に原発ゼロ」という目標だった。私たちの暮らしや企業活動の根幹に関わるエネルギー政策はどうあるべきか。再生可能エネルギーをもっと増やす選択肢は検討したのか。参院選後、解散がない限り国政選挙は3年間ない。時間をかけて丁寧に議論する好機でもあったはずだ。その機会を放棄し、「電力危機」に乗じた「原発回帰」は疑問だ。 *3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15504298.html (朝日新聞 2022年12月17日) 原発回帰「結論ありき」 「新規建設・60年超運転」審議会が了承 経済産業省の審議会「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」は16日、原発の新規建設や運転期間の延長などを盛り込んだエネルギー安定供給の対策案をとりまとめた。月内に開かれる官邸のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で報告する。会議の冒頭、西村康稔経済産業相は「将来にわたって持続的に原子力を活用するため、まずは廃止決定した炉の次世代革新炉への建て替えを対象として具体化を進めていきたい」と話した。さらに、原則40年最長60年の運転期間については、一定の停止期間を除外することで延ばす方針も示し、了承された。原発政策の転換は、岸田文雄首相が8月のGX実行会議で検討を指示していた。経産省の複数の審議会で進めてきた具体策の議論はこの日で終えた。与党も同様の意見をとりまとめている。GX実行会議でも追認されるとみられ、事故以来の原発政策が大きく変わる見通しだ。 ■首相指示を追認・パブコメ後回し 岸田文雄首相の検討指示から3カ月あまり。経済産業省の審議会は、原発政策の転換について議論を終えた。政府は今後、国民から広く意見を募るパブリックコメントをする方針も示している。一方で、審議会の委員からは議論の進め方に「拙速」との声があがる。16日にあった基本政策分科会で示された方針の原案は、8日に開かれた別の審議会「原子力小委員会」でまとめられた。その日の会議の終盤、山口彰委員長がとりまとめにかかろうとしていた中、一人の委員から声があがった。日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の理事を務める村上千里氏だ。村上氏は「パブコメで聴いた意見を踏まえてもう一度議論をするのであれば、国民的な議論が一部なされたと言える。しかし、パブコメが後だと、スケジュール的に議論されないのではないか。納得できない」と主張した。さらに、「運転期間に関しては、この3カ月で出てきた案で議論が国民にも浸透しておらず拙速だ」と注文を付けた。原子力資料情報室事務局長の松久保肇氏も「(基本政策分科会に)報告する前にパブコメにかける必要がある。強引な進め方は政策に対する国民の信頼を損ねる」と続いた。原発に慎重な立場をとる専門家らからは、審議会などの進め方について「結論ありきだ」との批判がある。これに対し、西村康稔経産相は会見で「非常に慎重な方々のご意見のヒアリングなども行ってきている」などとかわすが、審議会は、首相が指示した検討内容に沿った経産省案を事実上、追認してきた。約20人いる原子力小委員会も、明確に「脱原発」の立場から発言するのは2人だけだ。松久保氏は「政策議論が非常に多様性を欠いている」と指摘。パブコメについて西村経産相は9日の会見で「適切なタイミングで実施する」と繰り返すだけだった。原発政策の転換について引き合いに出される事例がある。2011年の東京電力福島第一原発事故後に行われた「国民的議論」だ。当時の民主党政権は30年の原発比率の選択肢を複数示し、討論を通して意見がどう変わるかをみる「討論型世論調査」を取り入れた。さらに、全国11都市で開いた意見聴取会には約1300人が参加したという。こうしたやりとりを踏まえて、当時の民主党政権は「30年代に原発ゼロ」という方針を打ち出した。南山大の榊原秀訓教授は「今回は『討論型世論調査』など熟議型と呼ばれる議論の方法がとられていない。専門技術であったとしても素人の意見を反映するべきだというのが、熟議型とか討議型と呼ばれるものの理念だ。重要政策の決定手段が後戻りしてしまっている」と話す。 *3-3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15513376.html (朝日新聞 2022年12月27日) 60年超原発「未知の領域」 世界に例なし、安全性どう審査 原発の60年超の運転期間を可能にする方針に伴い、安全審査を運転開始30年を起点にして10年を超えない期間ごとに実施する新ルールの骨子案を、原子力規制委員会がまとめた。国民から意見を募るパブリックコメントを実施中。ただ、海外でも60年超の原発はなく、規制委の審査は不透明な部分がある。海外では運転期間の上限がない国が多いものの、国際原子力機関(IAEA)によると現在、60年を超えて運転を続けている原発はない。60年超の安全規制は「未知の領域」(規制委の山中伸介委員長)だ。経済産業省の資料では、米国の運転期間は40年だが、安全審査をクリアすれば20年以内の延長が何度でも可能。1回目の運転延長が認められて40年超の運転に入った原発が2回目の延長を申請し、80年の運転延長が認められた例もある。英国やフランスは、運転期間の制限がない。10年ごとに安全審査があり、運転が認可される仕組みだ。長期の運転をするということは、老朽化対策を含めたコストの増大や、自然災害のリスクにさらされ続けるという側面がある。国の政策転換によって運転ができなくなったケースもある。経済的な理由によって運転をやめた原発もある。フランスでは原子力への依存を段階的に減らす計画の一環として、1977年に稼働を開始した同国内最古の原発が2020年に停止された。ドイツでは東京電力福島第一原発事故後の脱原発政策で8基が停止を命じられた。米国では17~18年ごろ、電力価格低迷などの影響を理由に運転期間が残っていても廃炉を決める原発が相次いだ。日本では地震や津波、火山の噴火、台風などのリスクが比較的大きい。原発事故後、規制委は自然災害への備えの強化や過酷事故対策を義務づけた新規制基準をつくったが、規制委は基準に適合しているかどうかを審査しているに過ぎない。審査をクリアした原発でもリスクは残る。 ■配管など劣化、40年未満でも事故 老朽化のリスクはさまざまだ。原子炉の金属が中性子を浴び続けるともろくなる現象「中性子照射脆化(ぜいか)」のほか、コンクリートの遮蔽(しゃへい)能力や強度は原発が停止していても経年劣化する。東京大の井野博満名誉教授(金属材料工学)は「中性子照射脆化は防ぐ手立てがなく、運転期間が延びれば延びるほど脆化が進むため、その分、リスクも高まる。原発は30年ないし40年運転を前提として設計されており、長期間運転すると原子炉に入れてある監視試験片(原子炉の劣化を予測するための金属片)も足りなくなる。これが運転上の深刻なネックになり、安全性に不安が生じる」と話す。配管やケーブルといった部品の劣化もある。40年未満でも事故は起こる。東京電力柏崎刈羽原発では10月、運転開始25年の7号機タービン関連設備の配管に直径約6センチの穴が開いたと発表。足場を組んだ際に傷がつき、周辺へ腐食が進行。11年ぶりにポンプを稼働させたところ、内側に引っ張られる形で穴が開いたとみられるという。2004年には関西電力美浜原発3号機でタービン建屋の配管が破裂して放射性物質を含まない蒸気が噴出する事故が起き、作業員5人が死亡、6人が重傷を負った。配管の厚みが減っていたという。規制委の山中委員長は21日の会見で、60年目以降についての審査について「50年目の検査に加えて新しい項目を、それぞれのプラント(原発)について特異なものを加えていく必要がある」と述べた。だが、具体的にどうやって安全性を確認するのか示されないままだ。 ■経過措置は「1~3年」 規制委 原子力規制委員会は26日、新たな安全審査のルールの骨子案について、原子力事業者の担当者らとの意見交換会を開いた。規制委側は、新ルールへの経過措置の期間を「1~3年程度」と説明。事業者側からは今後の具体的なスケジュールなどについて質問が相次ぎ、年明けに2度目の会合を開くことになった。事業者などでつくる「原子力エネルギー協議会」の担当者がオンラインで参加した。事業者側は骨子案について「特段の意見はない。事業者として適切に対応していく」と述べた。一方で、具体的な内容が示されていない新ルールで提出が求められる書類の記載内容や、具体的なスケジュールについて質問が相次いだ。規制委の事務局・原子力規制庁の担当者は、30~50年の審査は現行の手法を踏襲するとして「現制度でやっていることを基本的に変えずに移行しようと考えている。現行制度下でやらないといけない安全対策をやっていただければ対応できる」と説明した。 ◆キーワード <原子力規制委員会の新ルールの骨子案> 運転開始30年を起点に、以後10年を超えない期間ごとに事業者による原子炉の劣化評価や長期施設管理の計画を規制委が審査する。30~50年の審査は現行の手法を踏襲する。60年超の原発の審査については、議論が先送りされた。現在のルールでは、新規制基準への適合性が認められていない原発(未適合炉)は運転開始40年の時点で運転できなくなるが、新ルールでは、未適合の状態で40年を超えても再稼働できる可能性が開かれる。 *3-3-5:https://www.kochinews.co.jp/article/detail/618170 (高知新聞社説 2022.12.25) 【原発60年超運転】規制委の独立性はどこへ 原子力行政の変質はもはや明らかだろう。原子力規制委員会が、原発の60年を超える長期運転を認める安全規制の見直し案を了承した。現行の規制で「原則40年、最長60年」とされる運転期間は制度上、上限がなくなる。原発を最大限活用する政府方針を追認したと言え、法改正に向けて着々と手続きを進める政府と、完全に歩調を合わせた格好だ。国民の目に規制組織の独立性がゆらいだと映れば、原発そのものへの不信につながりかねない。新たな制度案は、運転開始から30年を迎える原発について、10年以内ごとに設備の劣化状況を繰り返し確認することが柱となる。電力会社には長期の管理計画を策定し、規制委の認可を得るよう義務付ける。規制委は意見公募や電力会社との意見交換を経て、原子炉等規制法の改正案を来年の通常国会に提出する見通しだ。現行の規制で運転期間を40年、60年とする根拠を問う声もあるが、どんな機器も経年劣化は免れまい。安全性への信頼度も低下しよう。明確な基準を設けること自体が、原発依存度の低減という民意を象徴していたといってよい。これまで山中伸介委員長も「経年劣化が進めば進むほど、規制基準に適合するかの立証は困難になる」と説明していた。しかし規制委は今回、運転が60年を超えた原発の安全性をどう確認するか具体的な方法を示すことなく、詳細の検討を先送りにした。こうした対応では、国民が抱える安全性への不安を置き去りにしたと非難されても仕方があるまい。技術的な問題に加え、見直し案の了承に至る経緯は看過できない問題をはらんでいる。東京電力の福島第1原発事故まで規制行政は、電力業界を所管する経済産業省の枠組みの中に位置付けられていた。推進側と規制側が同居する構造で生じたゆがみは、国会の事故調査委員会に事故の背景として指摘され、「(電力業界の)虜(とりこ)」と断罪された。その反省から設置された規制委にとって、独立性と中立性の担保は組織の出発点であり、根幹にほかならない。それにもかかわらず、推進側の経産省との協議は山中委員長の就任から実質3カ月ほどでスピード決着した。事故の最大の教訓だった規制と推進の分離は形骸化し、いつの間にか原発回帰の「両輪」に変質してしまったのではないか。政府は、脱炭素社会の実現に向けた基本方針を決定し、原発の60年を超える運転期間延長や、次世代型原発への建て替えなど原発推進策を盛り込んだ。この姿勢にも疑問を禁じ得ない。事故後掲げてきた原発依存度の低減から方針を転換するのであれば、国民的な議論で合意を得るべきだ。その手順を踏むことなく、法改正を先行させようとする手法は乱暴で拙速に過ぎる。事故の教訓をないがしろにすることは許されない。 *3-3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/969244 (佐賀新聞 2022/12/29) 「原発政策転換」根拠も正当性も薄弱だ 岸田文雄首相は、新増設や運転期間延長など原発政策の大転換を決めた。エネルギーの安定供給と気候変動対策への貢献が理由だが、その根拠は極めて薄弱だ。国の将来を左右するエネルギーに関する重要な政策転換を、非民主的な形で決めるというプロセスには正当性もない。拙速かつ稚拙な政策は棚上げし、エネルギー政策についての熟議の場をつくるべきだ。首相は「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で「将来にわたって持続的に原子力を活用する」とし、次世代型原発の開発と建設を明記。再生可能エネルギーと原発を「最大限活用する」とした。2011年の東京電力福島第1原発事故後、続けてきた「可能な限り原発依存度を低減する」との方針からの大転換だ。世界はロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機と気候危機という二つの危機に直面している。これにどう立ち向かうかという問いへの答えの一つとして、首相が持ち出したのが原子力の拡大だった。だが、日本のような先進国にとって最も重要なのは、30年までの温室効果ガス排出量を大幅に削減することだ。新増設は言うまでもなく、既設炉の再稼働でさえ、短期的な排出削減への貢献は少ない。重要なのは計画から発電開始までの時間が短い再生エネの大幅拡大だ。長期的にも、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や国際エネルギー機関(IEA)などの国際組織が気候危機対策として重要視しているのは省エネと再生エネで、原子力はコスト面でも削減可能性でも劣る。エネルギー危機への対応は、低コストの電力を長期的に供給することが重要だが、この点への原子力の貢献も疑わしい。国際的な研究機関の分析では新設原発の1キロワット時当たりのコストは約13~20セント(17~26円)。商業的な太陽光の同3セント前後とは比べものにならない。海外に比べてまだ高い日本の再生エネのコストも低下傾向にある。逆に福島事故後の新たな安全対策などによって原発の発電コストは上昇傾向にある。原発による価格低減効果は限定的だ。福島の事故は、原発のような大規模集中電源に過度に依存することが安定供給上の大きなリスクになることを示したはずだ。安価な再生エネによる小規模分散型の発電設備への投資を拡大するのが本筋だ。今回の決定は、内容にも問題があるが、それ以上に大きな過ちは政策決定に至るプロセスだ。政策を決めた官邸のGX実行会議で首相が原発政策転換の意思を示したのは8月末だった。以来、経済産業省が傘下の委員会などで急ごしらえの報告書を作成、4カ月後のGX会議で方針が決まった。同会議は電力会社や既存の大企業の代表が中心で、議論はすべて非公開と不透明極まりない。自由化された電力市場で競争にさらされる日本の電力会社自身は、新増設に必要な資金を調達することが難しいことを認めている。欧米では巨額の建設費が障害となり、政府が推進方針を示しても、原発建設が進まないという状況が続いている。日本でも同様だろう。内容面でも手続き面でも多くの問題を含む今回の政策を見直す時間は十分にある。 *3-3-7:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15509791.html (朝日新聞社説 2022年12月23日) 原発政策の転換 熟議なき「復権」認められぬ 根本にある難題から目を背け、数々の疑問を置き去りにする。議論はわずか4カ月。広く社会の理解を得ようとする姿勢も乏しい。安全保障に続き、エネルギーでも政策の軸をなし崩しにするのか。岸田政権が、原発を積極的に活用する新方針をまとめた。再稼働の加速、古い原発の運転延長、新型炉への建て替えが柱だ。福島第一原発事故後の抑制的な姿勢を捨て、「復権」に踏み出そうとしている。到底認められない。撤回し再検討することを求める。 ■拙速とすり替え 首相が原発推進策の検討を指示したのは8月下旬だ。重大な政策転換にもかかわらず、直前の参院選では建て替えなどの考えは明示しなかった。そして選挙後に一転、急ピッチで検討を進めた。民主的なやり方とはとても言えない。新方針は、原発依存の長期化を意味する。原発事故後に掲げられてきた「可能な限り依存度を低減」という政府方針の空文化にもつながる。問題設定の仕方にも、すり替えや飛躍が目立つ。8月の指示で首相は「電力需給逼迫という足元の危機克服」と「GX」(脱炭素化)への対応を原発活用の理由に挙げた。だが、足元の危機と原発推進は時間軸がかみ合わない。再稼働には必要な手順があり、供給力が急に大きく増えるわけではない。運転延長や建て替えは、効果がでても10年以上先の話だ。実現性も不確かで、急いで決める根拠に乏しい。政策の優先順位も転倒している。原発推進に熱をあげるが、安定供給と脱炭素化の主軸は国産の再生可能エネルギーのはずだ。政府も主力電源化を掲げている。まず再エネ拡大を徹底的に追求し、それでも不十分なら他の電源でどう補うかを考えるのが筋だ。 ■数々の疑問置き去り 新方針の内容そのものにも、多くの疑問がある。原発は古くなるほど、安全面での不確実性が高まる。「原則40年、最長60年」の運転期間ルールは、福島第一原発の事故後に与野党の合意で導入され、原子力規制委員会が所管する法律にも組み込まれた。ところが、新方針ではこのルールを経済産業省の所管に移し、規制委の審査期間などの除外を認めて、60年を超える運転に道を開く。議論を避けて長期運転を既成事実化するやり方であり、「推進と規制の分離」をも骨抜きにしかねない。建て替えは、経済性への不安が強い。新型炉の建設費は膨張が見込まれ、政府は業界の求めに応じて政策的支援を打ち出した。国民負担がいたずらに膨らむことになりかねない。新方針がうたう「次世代革新炉の開発・建設」も、当面の現実性があるのは、海外では実用化済みの安全装置を従来型に加えた「改良版」だ。安全面の「革新性」は疑わしい。安全性に関しては、日本には激甚な自然災害が多いことに加え、ウクライナで起きたような軍事攻撃の危険に対処できるかといった懸念もある。何より根源的なのは、使用済み核燃料や放射性廃棄物の扱いだ。原発に頼る限り、生み出され続ける。しかし、核燃料サイクルや最終処分への道筋は、何十年かけても実現が見えていないのが現状だ。これらの問いに、新方針は答えていない。不安に乗じて推進の利点ばかり強調し、見切り発車する構図は、先般の安保政策転換とうり二つである。この4カ月を振り返れば、結論と日程ありきのごり押しだったと言うしかない。 ■事故の教訓を土台に 経産省の審議会では、目的のはずのエネルギーの安定供給に原発が具体的にどの程度役立つかすら、精査されなかった。多く時間を費やしたのは、推進を前提にした運転延長や新型炉建設のやり方についてだ。委員は原発の推進論者が大半で、一部の慎重派が1年ほどかけて国民的な議論を進めるよう求めたが、一蹴された。原発は、国論を二分してきたテーマである。政策の安定には社会の広い理解が不可欠だ。さまざまな意見に耳を傾けて方策を練る手順を軽んじれば、事故で失った信頼は戻らない。政府は今後、国民から意見を募り、対話型の説明会も検討するという。だが、ただの「ガス抜き」なら意味がない。そもそも実のある議論には、原発に利害関係がない人や慎重な人も含め、幅広い分野の識者にもっと参加してもらうことが欠かせない。脱炭素の実現に向けて原発の活用は必須なのかなど、おおもとの位置づけからの多角的な熟議が必要だ。国会の役割もきわめて大きい。各政党が、主体的に議論を起こしてほしい。拙速な政策転換は許されない。事故の惨禍から学んだ教訓を思い起こし、将来への責任を果たす道を真剣に考えるべきときである。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221204&ng=DGKKZO66533040U2A201C2MM8000 (日経新聞 2022年12月4日) ガス火力の建設支援 7~8基、電力逼迫に対応 経産省、事業者募集へ 経済産業省は今後の電力不足に対応するため液化天然ガス(LNG)を燃料に使う火力発電所を緊急で建設する方針だ。2030年度までの運転開始を念頭に7~8基相当の600万キロワットをつくる。建設費を投資回収しやすくする支援策を講じ、建設・運転する企業を募る。LNGの価格高騰でコストの見極めが難しく、企業が脱炭素の観点で慎重になる可能性もある。23年度から25年度までの3年間に企業を募り、計600万キロワット分のガス火力の建設をめざす。国内の冬や夏の最大需要の3%余りにあたる。大手電力会社が持つ火力発電所は運転開始から20~29年を経過しているものが3分の1程度と老朽化が進む。経産省は30年ごろまでに900万キロワット減少する恐れがあるとみている。最新のガス火力は二酸化炭素(CO2)の排出量が相対的に少ない。石炭火力からガス火力に建て替えれば排出量は半分程度になる。日本は再生可能エネルギーの導入や原発の再稼働が遅れている。ガス火力は主力電源で年間発電量に占める割合が最も大きく、21年度に34%ある。ガス火力発電所の建設には数年かかる。30年度に間に合うよう新規案件だけでなく既に設計や建設に着手した案件も支援対象にする。23年度に導入予定の「長期脱炭素電源オークション」の仕組みを使い、事業者を支援する。電力小売りから集めたお金を原資に、運転開始から20年間は発電事業者が毎年一定の収入を得ることができ、投資回収のメドが立ちやすくなる。燃やしてもCO2が出ない水素などを火力発電所で混焼するといったケースが本来は対象だが今回は例外として排出削減対策を当面、猶予する。水素を燃料に混ぜるといった対策を運転開始から10年以内に導入し、50年時点で排出実質ゼロにすることを求める。国内では3月の福島県沖の地震で複数の火力が停止し、電力需給逼迫警報を出す事態となった。経産省は今夏に続き12月から全国で節電を呼びかけている。建設が実現するかは、コストとの見合いを電力会社などがどうみるかが焦点となる。火力発電の稼働は再生エネの普及拡大を受けて収益性が悪化する傾向にある。火力発電所の建設には1000億円前後の投資が必要で、政府が支援策を講じても電力会社などが応募するかは見通せない面もある。今回の対策は中長期の脱炭素化を条件とするものの、短期的には脱炭素の動きと逆行すると海外では受け取られかねない。その点も企業や金融機関の判断に影響する可能性がある。 *3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221117&ng=DGKKZO66056060X11C22A1MM0000 (日経新聞 2022.11.17) 日本の貿易赤字2.1兆円 10月で最大 円安・資源高で 財務省が17日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆1622億円の赤字だった。10月としては、比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。円安と資源高により、輸入額が前年同月比で大幅に増えた。貿易赤字は15カ月連続で、3カ月続けて2兆円を超える赤字となった。10月以外を含めると、過去5番目に大きい赤字だった。輸入は11兆1637億円で、前年同月比で53.5%増えた。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭などの値上がりが響いた。原油の輸入価格は1キロリットル当たり9万6684円と79.4%上昇した。ドル建て価格の上昇率は37.7%だった。円安が輸入価格の上昇に拍車をかけている。輸出は25.3%増の9兆15億円だった。米国向けの自動車や韓国向けのIC(集積回路)などが増えた。輸入は8カ月連続で、輸出は2カ月連続でそれぞれ過去最大を更新した。輸入の増加ペースが輸出を大きく上回り、赤字が拡大している。荷動きを示す数量指数(2015年=100)は、輸入が前年同月比で5.6%上がったのに対し、輸出は0.3%下がった。中国向けの輸出は16.0%の急激な落ち込みとなった。消費不振や住宅不況による中国経済の減速が響いたとみられる。10月の貿易統計を季節調整値でみると、輸入は前月比4.2%増の11兆2054億円、輸出は2.2%増の8兆9063億円、貿易収支は2兆2991億円の赤字だった。 *3-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221223&ng=DGKKZO67078350S2A221C2FFE000 (日経新聞 2022年12月23日) アジアこれがヒット(下)2023年予想 EV普及元年、低価格競う、タタ自は135万円、予約殺到 先行中国は東南アで攻勢 観光業の復活など新型コロナウイルス後を見据えた動きが出てきた2022年。日本経済新聞社が予測する23年のアジアにおける消費の主役は、電気自動車(EV)だ。インドのタタ自動車が低価格を武器に販売を伸ばし、比亜迪(BYD)など中国勢も東南アジアで攻勢をかける。アジア全域でEVが普及し始め、シェア争いが激しくなる。アジアで強力な低価格EVが現れた。タタ自が23年1月以降に納車を予定する「ティアゴ」だ。最初の1万台限定で84万9000ルピー(約135万円)からと、100万ルピー台の同社の既存EVに比べて大幅に安くした。価格の衝撃は大きく、同社によると、10月の予約開始の初日だけで1万台を超える注文が殺到した。「インドで最も待ち望まれ、最も価格が手ごろなEVだ」。地元メディアはそう評する。タタ自が限定価格の対象台数を増やしたところ、11月下旬までに累計2万台を超え、21年のインドのEV乗用車販売台数をも上回った。かつて20万円台という超低価格のガソリン車「ナノ」を投入したが、品質面で敬遠され販売が伸び悩んだ。低価格のEVに再挑戦する背景には、急速に拡大するEV市場で次こそ失敗は許されないとの危機感もある。インドネシアでは中国勢と韓国勢が低価格で競っている。上海汽車集団のグループ会社で格安EVを手掛ける上汽通用五菱汽車が、8月に世界市場向け小型車「エアev」を発売した。価格は約200万円からと、現代自動車の主力モデル「アイオニック5」の3割程度に抑えた。日本勢が主軸とするガソリン車のミニバンよりも安い。エアevの販売シェアが7割以上と市場をけん引する。11月にバリ島で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、公用車として300台が使われ、存在感を一段と高めた。中国自動車大手の奇瑞汽車も攻勢を強める。7月にはインドネシアで約約1300億円を投資し、生産能力20万台規模の工場を現地に建設する方針を明らかにした。現地メディアによると、23年後半にもEVを発売する予定という。ベトナムのビングループも大胆なEV転換を掲げた。「年内にガソリン車の生産を中止する」。傘下で自動車の製造・販売を手掛けるビンファストは、EV専業メーカーになると宣言した。11月末からは米国に輸出を始めた。価格は米テスラの約半分に設定した。ベトナム国内でも高価な電池をリース方式にしてEVの価格を抑え、政府も様々な優遇策で支援して拡大を進める。 ●テスラも対抗 EVを強化する現地企業に対し、テスラも対抗に乗り出した。タイ市場への正式参入を決めた。東南アジアではシンガポールに次いで2カ国目だ。23年1~3月期中に納車を開始し、サービスセンターや充電設備も開設する。主力の「モデル3」の価格はこれまで並行輸入で約1100万円かかったが、約700万円からと大幅に下がる。EVは中国が先行してきた。BYDは主力の「王朝シリーズ」と「海洋シリーズ」を軸に約200万~400万円の中価格帯の需要を開拓しており、22年通年の新車販売台数は200万台に迫る勢いだ。その中国勢も需要が見込める東南アジアに目を向け始めた。22年からEVの海外展開を本格的に始め、すでにシンガポールで高い人気だ。 ●対応急ぐ日本勢 韓国では現代自のアイオニックシリーズが国内や欧州などで好調で、インドネシアでも若年層を狙った販売促進に力を入れる。台風の目となりそうなのが、台湾の自動車大手、裕隆汽車製造(ユーロン)だ。同社が開発・生産を手掛ける初の個人向けEV「LUXGEN(ラクスジェン)n7」の納車を23年後半から始める予定だ。ユーロンとEV合弁を組む電機大手の鴻海(ホンハイ)精密工業は、米国でも別のEVを生産するほか、タイでは国営のタイ石油公社(PTT)と合弁で工場を立ち上げる。英調査会社LMCオートモーティブは「タイとインドネシアを中心に東南アジア各国で、EVは予想より早く普及する」と予測。その上で、「長らく日本の自動車ブランドが支配的だった市場において、新規参入余地が大きくなっている」と指摘する。負けられない日本勢も、トヨタ自動車がタイでEV「bZ4X」を投入。高級車ブランド「レクサス」以外では初のEV投入となる。タイ政府が導入したEV振興策を活用して普及の拡大を急ぐ。これまでEVは日本など一部で普及してきたが、23年はアジア全域で拡大する。各社の戦いは、自動車業界の行方に大きな影響を与える。 *3-5-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQDL72C2QDLUTIL00X.html (朝日新聞 2022年12月18日) 東海道新幹線、停電区間で架線切断 13年前も同様事故 18日午後1時ごろ、東海道新幹線の豊橋―名古屋間で停電が起き、東京―新大阪間の上下線で最大約4時間、運転を見合わせた。愛知県安城市の下り線で架線が切れたことが関係しているとみられる。JR東海は、同日午後11時時点で74本が運休、114本が最大4時間28分遅れるなどして約11万人に影響したとしている。JR東海によると、停電は豊橋―名古屋間の上下線で午後1時ごろに発生。上り線は同18分に送電して同22分に運転を再開したが、下り線は安城市内で列車に電力を供給するトロリ線をつり下げるための「吊架(ちょうか)線」が切れているのが見つかり、復旧作業のため、同41分に再び上下線で運転を見合わせた。運転見合わせは当初、豊橋―名古屋間だけだったが、最終的に東京―新大阪間の全線に拡大した。復旧作業は午後3時半から始まり、約1時間半後に終了。午後5時に順次運転を再開した。切断の理由や、切断と停電の因果関係は不明で、原因を調査中という。東海道新幹線では2010年1月にも、横浜市神奈川区で架線が切れ、約3時間20分にわたって停電する事故があった。JR東海の事故後の発表によると、停電直前に現場を通過した車両の集電装置「パンタグラフ」の部品が外れ、吊架線とトロリ線の間にある「補助吊架線」を切断。2日前にパンタグラフの部品を交換した際、4個のボルトをすべて付け忘れたのが原因だった。 *3-5-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/209491 (東京新聞 2022年10月21日) ものづくり「国内回帰」の時代は来るのか? 円安は追い風だが、識者は不安要素を指摘 急速な円安の進行で海外から国内への輸送コストなどが膨らむ中で、期待されるのは製造業の生産拠点の国内回帰だ。海外から国内に生産を戻す動きは一部で出始め、政府も後押しする方針で、岸田文雄首相は「円安メリットを生かした経済構造の強靱きょうじん化を進める」と強調する。だが、日本の経済成長は見込みづらく、円安という追い風があっても移転に踏み切る企業は現時点では限られそうだ。 ◆海外からの輸送費や人件費が割高に 生活用品大手のアイリスオーヤマは9月、国内販売向けの一部の生産設備を中国から日本に移した。判断の背景にあるのは円安に伴う輸送費の上昇だ。プラスチック製の衣装ケースをつくるための金型を、埼玉県深谷市の工場など国内3カ所に運び込んだ。輸送費のかかる一部製品の生産販売を国内での「地産地消」に切り替えることで、約2割のコスト削減を見込む。 カーナビを製造販売するJVCケンウッドも1月から、国内販売向けの生産をインドネシアから長野県の工場に移している。同社の担当者は、海外工場からの輸送費や現地での人件費上昇を理由に「国内での生産・販売の方がメリットが大きくなった」と説明する。 ◆日本市場の成長力や購買力が不安 ただ、エコノミストの間では、海外工場の国内への移転は時間や巨額の費用がかかるため、国内回帰は「限定的」との見方が多い。帝国データバンクの調査では、原材料の仕入れ確保や価格高騰に直面する企業のうち、生産拠点を国内に戻すと答えたのは1割未満にとどまる。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「成長力のない日本市場は魅力がないため」と指摘。「賃上げで日本国内の購買力が上がらない限り、高成長が見込める国で生産・販売する方がもうかるとみる企業が多い」と話した。 <食糧安全保障> *4-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ966SM6Q89ULUC001.html (朝日新聞 2022年9月7日) ウクライナ危機や円安、飼料高騰で苦境の酪農家 廃業が増える恐れも 飼料や燃料費などの高騰が酪農家を直撃している。行政による支援や乳価の値上げで経営を支える動きが強まっているが、急激な値上がりに対応しきれていない。廃業する酪農家が増える恐れも指摘されている。岩手県滝沢市の武村東(あずま)さん(64)は、3代にわたって牧場を経営してきた。祖父が旧満州から引き揚げて入植し、土地を切りひらいた。しかし、現在は厳しい経営状況に直面している。生産資材の価格高騰が背景にある。特に厳しいのが、トウモロコシを主原料とする配合飼料の値上がりだ。ウクライナ危機や円安などの影響を受けている。農林水産省の飼料月報によると、乳牛用配合飼料の価格(工場渡し価格)は、昨年6月は1トンあたり7万4038円だったが、今年6月には1万円以上(約14%)値上がりし、8万4393円になった。さらに7月からは1トンあたり1万円超の上げ幅となった。武村さんの牧場では配合飼料の費用が経営コストの5割弱を占めるため、打撃が大きい。経営を圧迫する要素はこれだけではない。牛のエサは、配合飼料のほかに、牧草やデントコーン(青刈りのトウモロコシ)などの粗飼料(そしりょう)を混ぜたものだ。武村さんは、円高・円安の影響を受けにくい自給飼料づくりを目指し、粗飼料を47ヘクタールの畑で自前で収穫している。だが、その畑で使う肥料も、原料の大半が輸入品であるため値上がりした。さらに、トラクターなどを動かすための軽油も価格が上がっている。「酪農は輸入産業なんです。円安の影響が厳しい」。酪農家への支援として、国の配合飼料価格安定制度がある。輸入される飼料品目の上昇に応じて値上がり分を補塡(ほてん)する。4~6月は飼料1トンあたり9800円が補塡された。だが、農家にとって十分とは言えず、岩手県は国の制度でまかないきれない分について、配合飼料1トンあたり1千円以内で助成する方向で準備し、市町村でも支援の動きが広がる。さらに、乳業メーカーが酪農家から買い取る際の飲用乳価が、11月から1キロあたり10円引き上げられる。値上げは19年4月以来、3年半ぶり。配合飼料などの高騰に対応したもので、酪農家から生乳販売を受託している指定団体・東北生乳販連は「危機的な状態で、このままでは離農が進むため値上げをお願いした」とする。ただ、乳価の値上げは、難しい問題もはらむ。コロナの影響で消費が落ち込んだ牛乳は供給過剰が続く。保存用に加工された脱脂粉乳の在庫も、全国で10万トンを超えて過去最高水準となっている(5月末時点)。こうした中で小売価格も上がれば、消費低迷を加速させる懸念がある。仕入れ価格が上がる乳業メーカーにとっては、スーパー側との交渉で小売価格に転嫁できなければ、経営状況の厳しさが増す。農業生産資材の急激な価格高騰が、業界全体に大きく影響を与えている。 *4-1-2:https://www.jacom.or.jp/noukyo/news/2022/09/220921-61692.php (JAcom 2022年9月21日) 配合飼料供給価格 据え置き 10~12月期 JA全農 JA全農は9月21日、10~12月期の配合飼料供給価格は7~9月期価格を据え置くと発表した。配合飼料価格は7~9月に1t当たり1万1400円と過去最高の引き上げ額となり1t当たり10万円程度と高騰した。全農によるとトウモロコシのシカゴ相場はロシアのウクライナ侵攻などの影響で高騰し、6月には1ブッシェル(25.4㎏)7.6ドル前後で推移していたが、米国産地で生育に適した天候になったことから7月には同6ドル前後まで下落した。その後、米国産地の高温乾燥などによる作柄悪化懸念から堅調に推移し、現在は同6.8ドル前後となっている。今後は世界的な需給の引き締まりが継続していることに加え、米国産新穀の生産量の減少懸念などから相場は堅調に推移すると見込まれている。また、大麦価格は昨年度からのカナダの干ばつに加え、主要産地のウクライナからの輸出量が減少し世界的に需給がひっ迫していることから、今後は値上がりが見込まれるという。大豆粕のシカゴ相場は、6月には1t470ドル前後だったが、米国産地の高温乾燥による作柄悪化の懸念から8月には同500ドル前後まで上昇した。その後、降雨による作柄改善の期待から下落し、現在は同470ドル前後となっている。国内大豆粕価格は、シカゴ相場の上昇と円安で値上がりが見込まれるという。海上運賃(米国ガルフ・日本間のパナマックス型運賃)は、5月には1トン85ドル前後で推移していたが、原油相場の下落や中国向け鉄鉱石、石炭の輸送需要の減少などで現在は同60ドル前後となっている。外国為替は米国は利上げを実施している一方、日本は金融緩和政策を継続していることから円安は進み、現在は1ドル143円前後となっている。今後は日米金利差の拡大は続くものの、利上げによる米国経済の景気悪化も懸念されるから「一進一退の相場展開が見込まれる」とする。JA全農によると麦類や大豆粕の値上げや円安の進行など値上げ要因はあるものの、トウモロコシ相場や海上運賃など「値下げ要因もあり、原料費の上昇は小幅のため価格を据え置きとした」と話す。全農によると価格が据え置きとなったのは2015年10-12月期以来、7年ぶり。畜産農家にとっては飼料価格が高止まりすることになるが、農林水産省は「配合飼料価格高騰緊急特別対策」を決め、実質的な飼料コストを第2四半期と同水準とするための補てん金を交付する。生産コスト低減や国産粗飼料の利用拡大に取り組む生産者が対象で1トン当たり6750円を補てんする。 *4-1-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/d7e922c94d1e0aed4e1627bb7e1288001a8315c0 (Yahoo、日本農業新聞 2022/12/5) 飼料高騰で酪農家の離農加速 半年で400戸減、指定団体に調査 資材高騰を受け、酪農家の離農が加速していることが分かった。日本農業新聞が全国10の指定生乳生産者団体(指定団体)に生乳の出荷戸数を聞き取った結果、10月末は約1万1400戸と半年前の4月末に比べ、約400戸(3・4%)減。2021年の同期間の約280戸(2・3%)減に比べてペースが加速している。各指定団体は、飼料高による経営悪化を理由に挙げる。11月下旬に、酪農家から生乳を受け入れ販売する全国10指定団体に取材した。出荷戸数減にはごく一部に系統外への離脱も含まれるが、ほとんどが離農とみられる。農水省の農業物価指数によると、飼料は7月以降急激に高騰。飼料価格は2020年を100とした指数で、昨年後半から120台と上昇していたが、今年7月からは140を超える水準が続く。配合飼料だけでなく、「粗飼料高騰の影響が一番大きい」(近畿生乳販連)とみる地域もある。北海道では、副産物となる初生牛などの市場価格急落も要因となったとみられる。 ●若手・中堅でも 今年10月末までの半年間の出荷戸数減少率は、四国を除く全地域で前年同時期を上回った。減少率が4%を超えたのは東北、関東、東海、近畿。昨年の同期間の減少率は、全地域とも1~2%台だった。関東生乳販連は「減少ペースが去年の4割増し」、九州生乳販連は「この1年は去年の倍のペースで離農者が出ている」という。若手・中堅での離農も出始め「後継者不在の高齢農家だけでなく、中堅農家が経営中止している」(東北生乳販連)、「中堅農家がこれだけ離農・離農検討をする状況は過去になかったのではないか」(近畿生乳販連)とする地域もある。離農の加速により、生産基盤が損なわれる懸念も強まる。生乳の需給緩和を受け各地域で生産抑制に取り組んでいるが、一部では「生産調整の割り当て以上に乳量が減ってしまっている」(九州生乳販連)とする。北陸酪連も「数年後の不足感に懸念がある」としている。 *4-2:https://smartagri-jp.com/agriculture/5144 (SMART AGRI 2022.9.5) 肥料高騰はいつまで続く? 国や自治体による肥料高騰対策支援事業まとめ JA全農は2022年6月から10月の秋肥について、前期と比べて最大94%価格を引き上げることを発表しました。これまでに経験したことがないとも言われる肥料の高騰はなぜ起こってしまったのでしょうか。この記事では、肥料の価格が上昇している原因をお伝えしつつ、支援対策として国や自治体で行われている補助事業を紹介します。 ●肥料価格が高騰している理由 日本では、化学肥料の原料である尿素、りん酸アンモニウム、塩化カリウムのほとんどを海外輸入に頼っているため、国際情勢の影響を受けやすい状況にあります。2008年にも肥料の需要増加などを理由に肥料価格の高騰が起こり、一度は落ち着いたものの、2021年頃から再び肥料の原料価格が値上がりし始めました。そのような中で、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まり、さらに深刻化しているのが現状です。ただし、今回の高騰の理由については、アンモニアや塩化カリウムの生産国上位であるロシアへの経済制裁による供給の停滞や中国の輸出規制、肥料の運搬に利用される船舶燃料の高騰、円安などが、複合的に関係していると見られています。 ●肥料価格高騰に対する支援事業とは? 肥料価格高騰対策事業は農林水産省、都道府県、市町村などが各自実施していて、対象期間に購入した肥料の購入費の一部を助成するものです。「化学肥料の低減に向けて取り組む農業者」や「その自治体に住所を有している農業者」などが対象になります。農産物を生産するためには、生産者の人件費だけでなく、種子や肥料などの資材が必要です。これらの価格が上がった分、農産物の価格に転化できればいいのですが、農産物は人間が生活する上で必要なカロリーや栄養素を賄うために必要な共有資源でもあり、JAなどを中心として一定量を常に平均的な価格で供給できる体制が作られてきました。そのため、肥料高騰の分の損失金額を簡単に解消できるようなものではありません。今回のような国や自治体としての助成を行うことは、生産者を守るだけでなく、国内の食料事情を解決するためにも必要不可欠になっています。だからこそ、必要な助成をしっかり受けることも大切です。申請方法は基本的に事後申請式になっているので、肥料を購入したことがわかる領収書や前年分の確定申告書の控えなどの書類を用意しておきましょう。自治体によっては対象作物を限定していたり、補助対象の期間や申請方法などが異なることもあり、すべての生産者が助成を受けられるとは限りません。詳細は住んでいる自治体のホームページで確認してください。 ●2022年度に実施中の肥料価格高騰対策事業 ここでは、農林水産省が行っている支援事業をはじめ、都道府県や市町村が行う事業のひとつをピックアップして、詳しい支援内容や申請方法を紹介します。 □農林水産省「肥料価格高騰対策事業」 ○支援対象 2022年6月から2023年5月に購入した肥料(本年秋肥・来年春肥として使用するもの) ○支援内容 15事項ある化学肥料低減に向けた取り組みメニューを2つ以上行った上で、前年度から増加した肥料費の7割を支援金として交付 ○助成額の算出方法 助成額=(当年の肥料費-(当年の肥料費÷価格上昇率÷使用量低減率(0.9))×0.7 価格上昇率は、農水省が発表している「農業物価統計」を基に算出。本年度秋肥については6月から9月までの価格上昇率が考慮されます。 ○申請書類 ・肥料の購入価格がわかる注文票のほか、領収書または請求書 ・化学肥料低減計画書のチェックシートに、実施または実施予定の取り組みを申告(2つ以上にチェックが付けばOK) ○申請方法 5戸以上の農業者グループで農協や肥料販売店などにまとめて申請(申請に関する不明点は都道府県や市町村、農協などに問い合わせ) ○問い合わせ先 北海道農政事務所 生産経営産業部 生産支援課 https://www.maff.go.jp/hokkaido/annai/toiawase/index.html 東北農政局 生産部 生産技術環境課 https://www.maff.go.jp/tohoku/sinsei/toiawase.html 関東農政局 生産部 生産技術環境課 https://www.maff.go.jp/kanto/seisan/nousan/kankyou/index.html 北陸農政局 生産部 生産技術環境課 https://www.maff.go.jp/hokuriku/guide/soudan/index.html 東海農政局 生産部 生産技術環境課 https://www.maff.go.jp/tokai/seisan/kankyo/hozen/190624.html 近畿農政局 生産部 生産技術環境課 https://www.maff.go.jp/kinki/org/outline/index.html 中国四国農政局 生産部 生産技術環境課 https://www.maff.go.jp/chushi/kikouzu/gaiyou.html 九州農政局 生産部 生産技術環境課 https://www.maff.go.jp/kyusyu/soumu/soumu/soudanmado/soudanmado.html 沖縄総合事務所 農林水産部 生産振興課 http://www.ogb.go.jp/nousui (以下略) *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221209&ng=DGKKZO66679320Y2A201C2EP0000 (日経新聞 2022.12.9) 尾を引く資源高・円安 経常赤字、10月641億円、旅行収支は回復兆し 貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支の低迷が続いている。財務省が8日発表した10月の国際収支統計(速報)によると641億円の赤字で、長期の傾向がわかりやすい季節調整値では6093億円の赤字となった。原数値で単月の赤字は1月以来、9カ月ぶりだが、季節調整値では2014年3月以来、8年7カ月ぶりとなる。資源高と円安の影響が尾を引いている。経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。特定の月に集中する配当の支払いなどの変動をならした季節調整値は6093億円の赤字だった。10月は日本から海外への配当支払い額が原数値より季節調整値の方が大きく、赤字額も大きくなったとみられる。経常収支の季節調整値は従来は1兆円を超える黒字の月が多かったが7月以降は下回っている。10月は6707億円の黒字だった9月からマイナス方向に1兆2800億円変化した。貿易収支の赤字は比較可能な1996年以降で最も大きい2兆2202億円の赤字(原数値では1兆8754億円の赤字)だった。輸入額が前月比5.4%増の11兆991億円となった。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭といったエネルギー関係の輸入額が多かった。原油の輸入価格は円建てで1キロリットルあたり9万6684円と前年同月比79.4%上がった。ドル建ては1バレルあたり105ドル96セントと37.8%の上昇だった。一時1ドル=150円台となった記録的な円安・ドル高が輸入物価の上昇に拍車をかけた。輸出額は前月比3.0%増の8兆8790億円。輸出入ともに過去最高だったが、輸入の増加ペースのほうが上回った。第1次所得収支の黒字が2兆3968億円と前月比25.3%減ったことも響いた。商社や小売りなどで海外から受け取る配当が9月に増えた反動が出た。プラスの変化が出始めたのは旅行収支だ。訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を差し引いたもので、10月は前月の3.6倍の381億円となった。水際対策の緩和で訪日外国人が49万8600人と前月の2.4倍に増えたことが影響した。新型コロナウイルスの感染拡大直前の20年1月は黒字が2735億円に達しており、まだその1割台の水準にとどまる。経常収支の押し上げ効果は限定的だが、拡大の兆しはみられる。SMBC日興証券の宮前耕也氏は今後の見通しについて「原油高と円安の一服や訪日客の増加により経常収支の赤字は拡大しないだろう」とする一方、「海外経済の減速で輸出が伸び悩めば黒字と赤字を行ったり来たりする可能性はある」と予想する。 *4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221220&ng=DGKKZO66981260Q2A221C2MM0000 (日経新聞 2022.12.20) 経済安保、「重要物資」11分野を閣議決定 半導体や蓄電池 政府は20日、経済安全保障推進法の「特定重要物資」に関し半導体や蓄電池など11分野の指定を閣議決定した。対象分野で国内の生産体制を強化し備蓄も拡充する。そのための企業の取り組みには国が財政支援する。有事に海外から供給が途絶えても安定して物資を確保できる体制を整える。半導体や蓄電池のほか、永久磁石、重要鉱物、工作機械・産業用ロボット、航空機部品、クラウドプログラム、天然ガス、船舶の部品、抗菌性物質製剤(抗菌薬)、肥料の各分野を対象とした。いずれも供給が切れると経済活動や日常生活に支障を来す。重要鉱物では特定の国に依存しすぎないよう企業による海外での権益取得なども後押しする。台湾有事をはじめとする中国リスクが念頭にある。11分野のうちレアアースなど中国を供給元とする物資は多い。企業にも中国依存から脱却できる生産体制やサプライチェーン(供給網)づくりを促し調達先の多角化につなげる。各物資の安定供給のための目標や体制づくりなどの具体的な施策は、それぞれの所管省庁が公表する「安定供給確保取組方針」で定める。早いものでは年内から順次公表し、そのなかで企業への支援内容も示す。企業は同方針を踏まえ設備投資や備蓄、代替物資の研究開発など安定的に供給するための計画を申請する。承認されれば補助金や低利融資などを受けられる。政府は22年度第2次補正予算で経済安保推進法に基づく支援に充てる費用として合計1兆358億円を計上した。特定重要物資の指定は5月に成立した経済安保推進法の4本柱のうちの1つだ。サプライチェーンを巡り、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻、新型コロナウイルスの感染拡大などで寸断のリスクが浮き彫りになっている。 <社会保障←命の安全保障> *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15505526.html (朝日新聞社説 2022年12月19日) 社会保障財源 防衛費の次でいいのか 想定を上回る少子化への危機感があるのか。どんな判断で政策の優先順位を決めているのか。岸田首相に問いたい。先週末、首相がトップの全世代型社会保障構築本部と有識者会議が、めざす改革の方向性や今後取り組むべき課題をまとめた報告書を公表した。最も緊急を要する取り組みに挙げたのは「子育て・若者世代への支援」だ。だが、必要になる費用やそのまかない方の具体論は、言及がなかった。介護分野の給付と負担の見直しも、来年の「骨太の方針」に向けて検討するとして、先送りした。同じ日、政府は今後5年間の防衛予算を現行の1・5倍に増やすことを決めた。防衛費が最優先、負担増につながる社会保障の議論は後回し。そんな政府・与党の姿勢が議論に影響したことは、想像に難くない。だが、国民や企業の財布にも限りがある。防衛予算の負担増が先行すれば、さらに子育て支援での負担を求めることが難しくなるのは明らかだ。それで、首相が掲げる「子ども予算倍増」はいつ実現できるのか。国内で生まれる子どもの数が今年にも80万人を割り込むと言われているなかで、あまりに悠長ではないか。少子高齢化が加速するなか、子育て以外の分野でも制度を維持できるのかという不安は根強い。国民の暮らしの安心は、安全保障に勝るとも劣らない喫緊の課題であり、目を背け続けることは許されない。有識者会議の報告には、雇用保険の対象外になっている非正規雇用の働き手への支援や、自営業・フリーランスの人向けの育児期間中の給付金創設など、既存の枠を超えた提案もある。巨額の予算を要する児童手当の拡充も「恒久的な財源とあわせて検討」とされた。こうした提起は、省庁の縦割りを超えた検討が生み出した貴重な成果だ。報告書を土台にさらに議論を深め、具体化を急がなければならない。かつての「社会保障と税の一体改革」では、給付と負担を一体で議論し、全体像を示しながら合意形成を図った。今回もそうした工夫が必要だ。既存の制度も、持続性・安定性が揺らぐ。報告書は負担能力に応じた支え合いを強調したが、それだけで解決できない。介護保険では、要介護度の軽い人向けの給付見直しや、利用者負担の引き上げなどの案があるが、反対も根強い。それらが無理なら、保険料や税による負担増が検討対象になる。結局、財源の議論抜きに改革の前進はない。先送りを続ければ国民生活の土台が崩れていくことを、首相は自覚すべきだ。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/484e6366eb63414d656397f74694c8f8a0e5f4f3 (読売新聞 2022/12/7) 政府、出産育児一時金50万円程度に増額の方向で調整…来年度から少子化対策強化狙い 政府は、出産時の保険給付として子ども1人につき原則42万円が支払われる出産育児一時金について、2023年度から50万円程度に引き上げる方向で検討に入った。子育て世帯の負担を軽減し、少子化対策を強化する狙いがある。近く岸田首相が最終判断し、引き上げ額を表明する。加藤厚生労働相は6日、首相に増額案を提示し、政府内で最終調整が行われている。厚労省によると、21年度の平均出産費用(帝王切開などを除く正常分娩(ぶんべん))は約47万円で、一時金の額を上回った。出産時に脳性まひとなった子どもに補償金を支給する産科医療補償制度の掛け金1万2000円を含めると、約49万円となる。厚労省は、少なくともこの水準まで一時金を引き上げる必要があると判断した。岸田首相はかねて「少子化は危機的な状況にある」として、一時金の「大幅な増額」を表明していた。23年度の増額分は、これまで一時金を支払ってきた健康保険組合などの保険者が負担する。24年度以降は、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度からも財源の7%程度を拠出してもらう方向だ。 *5-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/223507 (東京新聞 2023年1月4日) 東京都、18歳以下に月5000円給付へ 所得制限設けず 第2子の保育料無償化も検討 東京都の小池百合子知事は4日、都庁での新年のあいさつで、少子化対策として新年度から、都内に住む0〜18歳の子ども1人に月5000円を給付する方針を明らかにした。養育する人の所得制限は設けず、関連経費約1200億円を2023年度当初予算案に計上する見通し。(三宅千智) ◆小池知事「国の予算では少子化脱却できない」 小池知事は、22年の全国の出生数が統計開始以来初めて80万人を下回る可能性となったことに触れ「社会の存立基盤を揺るがす衝撃的な事態だ」と指摘。少子化対策は国策として取り組むべき課題としながらも「国の来年度予算案では、ただちに少子化から脱却して反転攻勢に出るぞという勢いになっていない」と批判し、都が先駆けて着手すると強調した。 ◆年間約1200億円、市区町村との調整必要 ただ、実際に給付するには区市町村との調整が必要で、新年度初めからの実施は難しい。都幹部は「新年度のできるだけ早い時期から始めたい」としている。住民基本台帳によると、都内の0〜18歳の人口は22年1月時点で約193万7000人。全員に月5000円を給付すると、年間約1200億円が必要となる。来年度の一般会計当初予算は、過去最高だった22年度の7兆8010億円を上回る見込み。都の合計特殊出生率は21年に1.08で、全国の1.30を下回っている。国立社会保障・人口問題研究所の調査(同年)によると、夫婦が望む理想の子ども数の平均は2.25人となっており、子どもを持たない理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最多だった。また、都は都内の世帯における「第2子」を対象にした保育料無償化の検討も始めた。都内の保育料は認可保育所や認定こども園の平均で月額3万円以上で、第3子以降は無料となっている。都は国の補助制度と合わせて第2子の保育料も無料になる仕組みを検討している。 ◆子育て支援の明確なメッセージ 出生率念頭なら未婚率も考慮を 東京都が打ち出した新たな子育て支援策は、国の児童手当が適用されない16歳以上や高所得世帯をカバーする。全国に類を見ない独自策で少子化に歯止めをかける狙いだが、一律の手当には「ばらまき」の懸念もある。国の児童手当は0〜2歳は1万5000円、3歳から小学校卒業までは1万円(第3子以降は1万5000円)、中学生は1万円。扶養親族が3人の場合、保護者のうち、高い方の所得が736万円未満なら受給対象となる。児童手当の対象外の世帯に向けた特例給付では、扶養親族3人で所得972万円未満なら5000円を受け取れる。東京都千代田区は、児童手当の対象とならない中学卒業後から18歳までの子どもや、高所得世帯の中学生以下の子どもにも月5000円を給付している。小池百合子知事は4日、報道陣に「子どもは生まれ育つ家庭に関わらず等しく教育の機会、育ちの支援を受けるべきだ」と、所得制限を設けない理由を説明した。約1200億円の財源は他の事業の見直しで捻出できるとして「(これは)未来への投資。ばらまきという批判にはまったく当たらない」と述べた。愛知大の後うしろ房雄教授(行政学)は「対象を選別する手間や経費を考えると、所得制限を設けないことは妥当で、子育て支援という明確なメッセージとして評価できる」と話す。その一方で「出生率を念頭に置くなら、子どもが生まれた後だけでなく未婚率も考える必要がある。また、若い世代の所得を引き上げる取り組みなどもないと、ただのばらまきで『東京は金があるからできる』となってしまう」と指摘した。 *5-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221224&ng=DGKKZO67126250U2A221C2EA4000 (日経新聞 2022.12.24) 学童保育待機1.5万人 5月時点 政府、ゼロ目標達成できず 厚生労働省は23日、共働き家庭などの小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)に希望しても入れなかった児童が2022年5月時点で1万5180人だったと発表した。前年同月から1764人増え、3年ぶりに増加に転じた。21年度末までに学童の待機をゼロにする政府目標は達成できなかった。21年は新型コロナウイルスの感染拡大期の預け控えがあった。22年は再び利用の希望が増え、入れない児童が増えたようだ。都道府県別では東京都が3465人で最多となった。学年別では4年生の待機が最も多く、4556人と全体の30%を占めた。前年からの増加幅も最も大きく、770人増えた。共働き世帯増加に伴うニーズの高まりに受け皿整備が追いついていない。学童保育に登録している児童数は139万2158人で過去最高を更新。前年から4万3883人増加した。施設数は前年比242カ所減り2万6683カ所だった。子どもの小学校入学後、夕方以降に子どもを預ける場所がないことを理由に親が就労を諦める現象を「小1の壁」と呼ぶ。親の仕事と子育ての両立を支援するため、学童保育の待機をなくすことが課題の1つになっている。厚労省は「現在実施している施設整備などの施策を着実に進め、なるべく早期の解消をめざす」としている。 *5-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221125&ng=DGKKZO66266160V21C22A1EA2000 (日経新聞 2022.11.25) 子育て予算、人口減にらみ「倍増」、全世代会議の論点整理案、育休支援へ給付新設 政府の全世代型社会保障構築会議は24日、今後の改革に向けた論点整理案を示した。子育て支援ではフルタイム勤務に比べて支援が手薄な時短勤務者やフリーランス向けに新しい給付の創設を検討する。子育て予算を倍増させる道筋も来夏に示すと記した。具体的な財源の確保策は見えておらず、実効性ある支援につなげられるかが問われる。岸田文雄首相は24日の会議で「必要な子ども政策を体系的にとりまとめる」と強調。「来年度の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)には子ども予算の倍増を目指していくための道筋を示していく」と述べた。会議ではこれまで、少子化対策や、社会保障制度の持続性を高めるための負担と給付の見直しについて議論してきた。今回の論点整理案では主に子育て支援、医療・介護保険、勤労者皆保険についての方向性を示した。子育ての分野では具体策を打ち出した。2つの給付措置を創設する。1つ目は育児休業明けで勤務時間を短くして働く人向けの新たな現金給付だ。賃金の一定割合を雇用保険から拠出し、上乗せすることを検討する。時短勤務で賃金が減る状況を経済的に支援する。もう1つがフリーランスやギグワーカー、自営業者向けの子育て支援策だ。こうした働き方では、現在、育児休業の給付を受けられない。代わりの現金給付を通じて育児をサポートする。 ●現状打開に壁も ただ2つの給付はそれぞれ財源や実効性に課題がある。時短給付は雇用保険からの拠出が想定されるが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて雇用調整助成金の給付が拡大し、同保険の財政事情は厳しい。積立金はほぼ枯渇し、新たな財源を捻出する余地は乏しい。実効性への懸念もある。支援を通じて経済的な負担は和らぐが、家事・育児の負担が女性に偏る現状の打開にはつながらない。男性の家事・育児参加を積極的に後押しする施策が欠かせない。フリーランスや自営業者向けの給付も新たな財源が必要になる。自ら選んでその形態で働く人もおり、必ずしも経済的に困窮していない場合もある。線引きが難しい。論点整理案では、2023年の骨太の方針で子ども予算の倍増に向けた当面の道筋を示すことが必要だと明記した。23年度に創設されるこども家庭庁の概算要求は約4.7兆円で、倍増するためには少なくとも同程度の予算が必要になり、ハードルは高い。社会保障給付に施設整備費などを加えた家族向けの社会支出は日本は欧州に比べて見劣りしている。国内総生産(GDP)比で日本は2%だが、フランスや英国、スウェーデンなどは2%台後半から3%台半ばに達し、日本より比率が高い。政府内には企業負担の積み増しや、年金・医療といった他の社会保険からの拠出を求める意見もあるが、どれも一筋縄ではいかない。医療・介護保険制度改革についても言及した。医療では幅広い世代で所得に応じた負担を強化し、膨らむ医療費を賄っていく方針だ。ただ医療の効率化や窓口負担の一層の引き上げといった議論は深まっていない。 ●「介護改革は停滞 足元では医療改革を優先する影響で、介護保険の議論は停滞気味だ。論点整理案をまとめる過程では負担増を想起させる項目が軒並み削られた。介護費は40兆円台半ばの医療費に比べて今は4分の1程度だが、伸びは大きい。早期に給付と負担の見直しに着手すべきだが改革の機運は乏しい。勤労者皆保険では厚生年金の適用拡大などが盛り込まれた。年金制度の持続性を高めるために避けて通れないマクロ経済スライドの物価下落時での発動など、負担増につながるテーマには触れなかった。社会保障給付費の財源は6割弱を保険料、4割を消費税などの公費で賄っているが、その一部は国債を充てている。消費税率の引き上げ時に使い道を拡大し、子育て支援などにも使えるようにした。ただ、主力財源の一つである消費税収は地方分を除く全額を社会保障に充てても賄いきれていない状況になっている。 *5-1-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15520005.html (朝日新聞 2023年1月6日) 「異次元」少子化対策、財源が焦点 省庁横断の会議設置へ 岸田文雄首相が4日の年頭会見で打ち出した「異次元の少子化対策」を進めるため、政府は省庁横断の会議を設置する。6日、首相が小倉将信こども政策担当相に検討を指示し、児童手当の拡充を中心に必要な対策を6月までにまとめる。財源確保には負担増の議論が避けられず、首相周辺は「今年前半の最大の課題となる」と話す。首相は4日の会見で、「児童手当を中心に経済的支援を強化する」と表明。6月にとりまとめる骨太の方針に盛り込む考えを示した。官邸幹部らによると、会議は小倉氏をトップに、厚生労働相、文部科学相、財務相らの閣僚や有識者の参加を想定。企業の協力を得るため、経済産業省を加えることも検討する。児童手当は現在、0歳~中学生が対象で、月5千~1万5千円が支給されているが、所得制限もある。自民党などは対象年齢の拡大や、第2子以降の増額などを求めている。新設する会議ではほかに、幼児教育や保育サービスの量と質の強化、子育てサービスの拡充、育児休業制度の強化なども検討する予定だ。経済協力開発機構(OECD)の調査では、2017年の国内総生産に対する子ども・子育て支援に関わる日本の公的支出の割合は1・79%で、OECD平均の2・34%を下回る。最高のフランスの3・60%の半分だ。議論の最大の焦点は、「異次元」と称する対策の裏付けとなる財源の確保だ。児童手当の拡充だけでも数兆円の財源が必要とみられる。政府内では企業から集める「事業主拠出金」を増やす案や、医療や介護の公的保険から「協力金」を得る案が浮上している。増税を期待する声もある。どれも企業や個人の負担増を伴う。官邸幹部は「検討すべきテーマが多く、防衛費の財源の議論より困難だ」と漏らす。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20221125&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO66266160V21C22A1E ・・ (日経新聞 2022.11.25) 負担と効率化、議論急げ 財源論後回し、裏付け欠く 社会保障が充実されると聞いて反対する人は少ない。だが、そのために保険料や税による国民負担がどのくらい必要なのかが分かると、給付拡充への反対論や慎重論も出てきて、議論が現実的かつ深くなる。今の全世代型社会保障構築会議の議論は前者の段階だ。日本社会の課題に鑑みて必要な社会保障のあり方をまず考える。その後で財源について議論する。こんなアプローチを採り、財源論が後回しになっている。全世代型会議が掲げた改革案は早期に実現すべきテーマが多い。自営業者にも現金給付のある育児休業があったほうがいいし、フリーランスで働く人も報酬比例部分のある公的年金に加入できるようにすべきだ。だが、財源・負担の姿がみえないうちは「総論賛成」の域を出ない。給付の裏付けとなる負担をどうするのか。今後は各論の議論と調整に力を注ぐべきだろう。経済対策に盛り込まれた、妊娠した女性に10万円相当を配る出産準備金は、恒久化が必要な給付充実策なのにそれに見合う財源がない。「給付先行」が議論だけでなく現実になってしまう政権だとすればなおさら負担の検討を急ぐ必要がある。その際、保険料や企業の拠出だけで財源を賄う前提では制度設計に限界がある。消費増税など税財源の議論も避けるべきではない。財源論と同時に重要なのは、高齢者の増加で給付が膨張する医療・介護を効率化する改革だ。診療データの共有などデジタルトランスフォーメーション(DX)によってサービスを効率化し、ムダを排除できれば現役世代の負担軽減に直結し、子育て支援に必要な追加財源も小さくできる。かかりつけ医の制度整備は患者の医療アクセスを確保するだけでなく、医療を効率化する点でも極めて重要な改革だ。診療報酬体系の見直しと一体的に導入すれば、重複診療や重複検査、薬の多剤投与を減らしうる。大改革なので今回の論点整理が示すように、医師と患者の手あげ方式によって「小さく産む」手法を採るのはやむを得ないが、高齢者数がピークになる2040年に向けて、しっかり育てる道筋は立てておくべきだ。 *5-2-2:https://diamond.jp/articles/-/314390 (Diamond 2022.12.14) 「介護事業者の倒産」が過去最多、過酷な業界実態を東京商工リサーチが解説 65歳以上の高齢者が人口の約3割を占め、少子高齢化が進む日本。有望なビジネス市場と目された介護業界でいま、倒産が急増している。すでに1~11月の倒産は135件に達し、過去最多を記録した2020年の118件を上回っている。倒産の急増は、人手不足とコロナ関連の資金繰り支援効果が薄れてきたことに加え、物価上昇をサービス料金に転嫁しにくい業界特有の構造もある。高齢化社会を前に介護業界で倒産が急増している状況を東京商工リサーチが解説する。(東京商工リサーチ情報部 後藤賢治) ●コロナ禍・物価高・人手不足の三重苦で倒産件数が過去最高に 公的要素が強かった介護事業者の倒産は、2000年代初期は年間数件にとどまっていた。だが、将来有望と見込まれた市場に介護事業者が相次いで進出し、一気に過当競争が巻き起こり、倒産は増勢基調をたどった。2002年以降の介護事業者の倒産件数および負債総額は、グラフの通りだ。2009年度の介護報酬の大幅なプラス改定で、いったん減少に転じたが、コスト上昇の中で2015年以降は介護報酬の改定は低水準だったため、再び増勢に転じた。この頃からヘルパーなど介護補助者の人手不足が深刻になり、人件費の上昇が収益を圧迫するようになった。さらにヘルパーなどの高齢化も重なり、2016年以降の倒産は100件超で高止まりした。2020年は新型コロナ感染拡大が介護業界を直撃した。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などで外出自粛を要請され、高齢者や家族もまた感染を恐れて介護事業者の利用を控えるようになった。こうした感染防止策への出費と収入ダウンがダブルパンチとなって経営を圧迫。実際、施設内のクラスターやヘルパーのコロナ感染で通常運営が難しくなったケースもあり、倒産は過去最多の118件に達した。2021年は政府や自治体のコロナ関連支援や介護報酬のプラス改定が下支えし、倒産は前年比31.3%減の81件と大幅に減少。2015年以来、6年ぶりに100件を下回った。ところが、2022年は長引くコロナ禍で資金繰り支援効果も薄れたところに、円安や物価高で光熱費や燃料費、介護用品が急激に値上がりした。さらに、コロナ禍で隠れていた人手不足が経済活動の再開で顕在化し、介護業界は物価と人件費上昇、そして人手不足が同時に表面化した。一般的な介護サービスは、介護保険で金額が決められている。そのため他業界のように仕入価格の上昇分を販売価格に転嫁することは難しい。こうした幾重もの経営リスクの荒波にもまれ、2022年の倒産は1~11月までに135件発生し、倒産の最多記録を塗り替えた。 ●コロナ禍前の利用者が戻らず、売り上げ不振の事業者が急増 2022年に倒産した135件の介護事業者を分析した。詳細は下記の表の通りだ。業種別では、最多はデイサービスなど「通所・短期入所介護事業」が65件(前年同期比282.3%増)と急増した。デイサービスグループ32社の連鎖倒産や運営コストのアップに加え、大手事業者の進出も影響した。「訪問介護事業」も46件(同9.5%増)と増加した。ヘルパー不足や、感染防止の意識が高い高齢者の利用控えなどが響いた。有料老人ホームも12件(同200.0%増)と3倍に増えた。先行投資が過大で、コロナ禍で想定外の環境変化に見舞われて業績が悪化した介護事業者の淘汰が目立つ。形態別では、破産が125件(構成比92.5%)と9割強を占め、特別清算を合わせた消滅型は97.7%に達する。事業継続を目指す民事再生法はわずか3件(同2.2%)にすぎず、介護事業者の倒産はスポンサーが出現しない限り、事業継続が難しいことを示している。原因別では、販売不振(売り上げ不振)が73件(前年比48.9%増)と、大幅に増えた。コロナ前の水準に利用者が戻らず、感染防止対策で利用者数を抑えたことも売り上げ低迷につながった。次いで、連鎖倒産の発生で「他社倒産の余波」が38件(前年同月2件)と急増した。ただ、赤字累積が含まれる「既往のシワ寄せ」は7件(同±0件)と増えていない。これは支援策効果が今も一部では残っているとみられるが、業績回復の遅れた介護事業者では資金繰り難から倒産や廃業が増える可能性を残している。 ●今年11月までに発生した大規模な連鎖倒産 11月末までにグループ全体で38社(うち、6社は負債1000万円未満)が破産した(株)ステップぱーとなー(台東区)の連鎖倒産は、売り上げ至上主義が介護業界になじまないことを印象付けた。同社は、機能訓練特化型デイサービスの「ステップぱーとなー」を主体に、FC事業などを手掛けていた。代表者は介護保険が適用され、初期投資も少額で済むデイサービスに目を付け、積極的に介護事業者を買収した。グループが運営するデイサービスは、北海道から島根県まで全国約150カ所まで拡大していた。グループは独立行政法人福祉医療機構(WAM)から融資を受けていた。WAMは厚生労働省が主管する福祉・医療支援の専門機関で、営利法人でも老人デイサービスセンターを対象に融資を受けることができる。この融資を活かして事業拡大を進めていった。代表が役員を務める企業は50社を超えたが、新型コロナ感染拡大でデイサービス事業の業績は急激に悪化した。それまでも事業の急拡大を金融機関からの新規融資だけでなく、グループ間の資金融通で窮状をしのいでおり、グループの経営を維持するためM&Aを加速して資金を捻出していたが、ついに限界に達してグループ38社が連鎖的に破産に追い込まれた。 ●業界の再編・淘汰は、これから本格化へ コロナ禍前から介護市場への新規参入が相次ぎ、競合から経営不振に陥る介護事業者が増えていた。さらにコロナ禍に見舞われ、施設の利用控えが進む一方で、運営コストは上昇し人手不足も重なった。こうした経営環境が急に変わるわけもなく、2022年の倒産は140件を超える可能性も出てきた。今後、本格的な高齢化社会に入るが、国の財政事情を考慮すると、介護報酬が大幅なプラス改定となる可能性は低い。そんな事情を背景に、小規模事業者は自立を求められているが、介護報酬の単位加算は容易でなく、大手事業者との格差は広がる一方だ。コスト削減が最重要課題と言うのはたやすいが、小資本の事業者が多い介護業界で、IT化や介護ロボットの導入など、多額の先行投資は難しいのが実情だ。さらに、人と人の触れ合いも必要な介護現場では、人手に頼らざるを得ない業務も多い。それだけに介護職員の採用や教育、引き止めなど人材面での負担はますます重要になっている。2022年の介護業界の倒産は、業績不振に起因するケースが多い。今後は運営コスト増大や資金繰り悪化などの本質的な要因に加え、過剰債務による新たな資金調達が難しい事業者の倒産も増えるだろう。また、倒産抑制に大きな効果をみせた「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」は、2023年春から返済がピークを迎えるが、そこには最長3年間猶予された利払いもサイレントキラーのように隠れている。さまざまな経営リスクが重なり、有望市場だったはずの介護業界で倒産が急増しているが、業界再編や淘汰はこれから本番を迎えることになる。 *5-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/962192 (佐賀新聞 2022/12/14) 介護負担、来夏に結論先送り、政府、16日に報告書決定 政府は14日、有識者でつくる「全世代型社会保障構築会議」(座長・清家篤元慶応義塾長)を開き、急速な少子高齢化と人口減少に対応する制度改革案を議論した。介護保険で高齢者の負担を増やす案は、結論を来夏に先送りすることで大筋一致。既に75歳以上の医療で保険料増の方針が決まっているため、影響を見極めて慎重に検討する。16日にも報告書を決定する。報告書には、75歳以上の中高所得者の医療保険料引き上げや、将来的な児童手当拡充などを盛り込む方向。岸田文雄首相がトップを務める「全世代型社会保障構築本部」に提出する。 *5-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/962558 (佐賀新聞 2022/12/15) 「大型サイド」介護負担、結論先送り 生活不安、懸念相次ぐ、企業側と対立、今後も難航 3年に1度の介護保険制度改正を巡り、「給付と負担」見直しの結論が来年夏に先送りになった。年末までに厚生労働省の部会が取りまとめることが通例で、延期は異例だ。利用者の負担増の提案に、当事者らから「生活が破綻する」と懸念の声が相次いだことが背景にある。一方、介護財政を支える企業側は制度維持に向けて現役世代の負担を抑えるよう求める。意見は激しく対立し、今後の取りまとめも難航しそうだ。「認知症の母にちゃんとしたケアができなくなるかもと思うとつらい」。「認知症の人と家族の会」(京都市)が9月からオンラインや郵送で集めた、サービスの自己負担増に反対する署名は10万筆を超えた。母親が「要介護2」と認定され、デイサービスに通っているという人は「利用できなくなったらどうしたらいいのか。介護休暇制度を使える企業はまれだ」とコメントを寄せた。認知症の人と家族の会の花俣ふみ代常任理事は「高齢者は年金暮らしの人が多い上、物価高が生活を直撃している。負担が増えたら生きていけない、という切実な声が出ている」と訴える。現役世代の保険料の一部を負担する企業側は、高齢者にも「能力に応じた負担」を求めている。11月下旬、厚労省の社会保障審議会の部会。1割負担の人のうち一部を2割に引き上げる案について、経団連の担当者は「現役世代はどんどん減っていく。一定所得以上の高齢者の負担を検討すべきだ」と支持。大企業の会社員らが入る健康保険組合連合会の担当者も「現役世代の負担は限界に来ており、制度が危うい」と口をそろえた。「最も改革が必要な介護分野において制度改正の議論を出さないことは、この会議が果たすべき使命から逃げていると言われかねない」。負担増への賛否が噴出し、政府の全世代型社会保障構築会議でも方針を打ち出せない状況に、メンバーの土居丈朗慶応大教授は12月初旬の会合で意見書を出し、早急な決着を促した。だが政府は結論を先送りした。政府関係者は、世論を意識する官邸や与党の意向があると背景を解説する。「介護費はものすごく伸びる。何とかしないといけないが、与党や官邸が慎重だ」 *5-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15498486.html (朝日新聞 2022年12月10日)75歳以上、平均年5300円負担増 医療保険見直し案、厚労省が試算公表 75歳以上の中高所得者の負担増を盛り込んだ医療保険制度の見直し案について、厚生労働省は9日、保険料への影響額の試算を公表した。75歳以上は、高齢者の負担割合拡大に加え、出産育児一時金の新たな負担(年1300円)で平均年5300円の負担増になる見込み。同省は来年の通常国会で法改正し、2024年度からの実施を目指す。制度見直し案では、後期高齢者が現在は負担していない出産育児一時金の財源の7%程度を賄うほか、現役世代が負担する高齢者医療への支援金を減らす。そのため、後期高齢者の4割にあたる年金収入が153万円超の中所得者以上の保険料を増やしたり、年収1千万円を超えるような高所得者の保険料負担の年間上限額を66万円から80万円へ大幅に引き上げたりする。これらの見直しを踏まえた試算によると、現在42万円の出産育児一時金を47万円に上げると仮定した場合、75歳以上の保険料は24年度には平均で年5300円(月440円程度)上がる。内訳は出産育児一時金の引き上げ分が1300円、そのほかの見直しによるものが4千円。所得が高い人ほど多く負担する仕組みを強化するため、年収200万円の人で年3900円、年収400万円で1万4200円、年収1100万円では13万円の負担増。一方、6割にあたる比較的所得が低い人(年金収入のみで153万円以下)は、負担は増えないとしている。出産育児一時金は、岸田政権が大幅増額を表明。来年度から現在の42万円を50万円程度にする方向だ。今は75歳以上の負担はないが、同省は「全ての世代で負担しあうべきだ」として制度を見直す考えだ。一時金の負担による75歳以上の保険料への影響額試算では、一時金が47万円なら平均で年1300円増。50万円なら年1390円程度増える見込みだ。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221207&ng=DGKKZO66607170W2A201C2EP0000 (日経新聞 2022.12.7) 医療、高齢者にも負担増 全世代会議の報告書案、目立つ踏み込み不足 政府の全世代型社会保障構築会議が近くまとめる報告書案の全容が6日、判明した。給付が高齢者、負担が現役世代に偏る現状を是正するため、医療分野では高齢者にも所得に応じた負担を求める方向性を明確にする。子育てや年金でも現役世代の安全網を広げ、少子化の克服や社会保障制度の持続性向上を掲げる。踏み込み不足が目立つほか、安定財源の確保も難題で、実現に向けた道筋を示せるかは見通せない。政府は月内に報告書を正式に決定する。報告書案では少子化が国の存続にかかわる問題であるとし、子育て・若者世代への支援を「急速かつ強力に整備」する必要性を強調した。育児休業給付の対象外となっている非正規労働者や自営業者、フリーランスへの支援を提起した。医療保険制度改革では、75歳以上の後期高齢者の保険料引き上げなどを明記した。全体の約4割の後期高齢者を対象に所得比例部分の負担を増やす。65~74歳の前期高齢者への現役世代からの医療費支援も所得に応じた拠出に見直す。厚生労働省が具体的な検討を進め、来年の通常国会に関連法改正案の提出を目指している。かかりつけ医の制度整備に向けて「必要な措置」を講じることも求めた。厚労省はかかりつけ医の役割を法律に明記するなどの検討を進めており、来年の通常国会に関連法改正案の提出を目指す。医療機関の質を担保する認定制や、責任を持って担当する患者を明確にするための登録制に言及するのは避けた。医療費の窓口負担の一段の見直しや効率化についても踏み込んでいない。介護保険制度については負担増の具体的な記載を見送っている。子育て給付の財源も見えておらず、具体化が急務だ。年金制度の見直しでは、厚生年金や健康保険の企業規模要件の撤廃を「早急に実現」するよう求めた。中小企業などで働くパートら短時間労働者への適用拡大の理解促進に向けて、関係省庁をメンバーとした政府横断的な体制を構築することを要請した。超高齢社会に備え、給付と負担を見直す必要性にも触れた。高齢者人口は団塊の世代が25年までに全員75歳以上となった後、40年ごろから減少し始めるが、現役世代の減少で人口に占める割合は足元の30%程度から上昇が続くと見込まれる。膨張する社会保障給付について、負担能力に応じて全ての世代で公平に支え合う仕組みが必要になるとの問題意識を強調した。 *5-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221224&ng=DGKKZO67126060U2A221C2EA4000 (日経新聞 2022.12.24) 医療体制、遠いコロナ後 来年度予算案、社会保障費、最高の36.9兆円 効率化は薬価頼み 政府が23日に閣議決定した2023年度予算案で、社会保障費は過去最大の36.9兆円となった。3割強を占める医療関係の支出は22年度当初予算と比べて0.5%の増加に抑えたが、薬価の引き下げ頼みの側面は否定できない。新型コロナウイルス禍で手厚くした診療報酬など有事対応からも抜けきれていない。高齢化で膨張圧力が増す中で効率化が欠かせない。「(コロナの)医療提供体制のために主なものだけで17兆円程度の国費による支援が行われた」。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で財務省が11月に示した資料にはこんな記述が盛り込まれた。病床確保やワクチンなどこれまでにかかったコロナ関連費用をざっとまとめ上げたものだ。こうした対策への財源は補正予算を中心に計上してきており、当初予算案では目立ちにくい。ようやく国内でもコロナ対策は平時への移行を探る局面になった一方で、医療体制の有事対応の手じまいは遠い。21年度に2兆円を支出した病床確保料は今年10月に要件を厳格化した。しかし財制審の資料によると1日当たり最大40万円を上回る病床確保料は、平時の診療収益の2倍から12倍の水準だ。コロナ向けの病床確保が通常の医療を圧迫しているという指摘もある。一段の見直しを視野に入れるべき時期に来ている。23年度当初予算案で社会保障は一般会計総額の3割を占める。22年度当初予算と比べて6154億円(1.7%)増えた。医療関係の支出は22年度比で587億円(0.5%)増えて12.2兆円となった。新たな制度改正によって効率化できた分は少ない。厚生労働省は23年の通常国会で、75歳以上の保険料を24年度から引き上げることなどを盛り込んだ関連法改正案の提出を目指している。ただ、現役世代の負担軽減を主な目的としていることもあり、国費の減少分は50億円にとどまる。保険料や公費で賄う前段の患者本人の窓口負担のさらなる拡大といった課題は先送りのままだ。1人当たりの医療費が75歳未満の約4倍に達する後期高齢者は21年から25年にかけて16%増え、2180万人になる見込みだ。負担と給付のバランスを見直さなければ、医療保険財政の持続性が危うくなりかねない。年金の改定分を除いた社会保障費の自然増は4100億円で夏時点の見込みから1500億円圧縮した。半分弱は薬価引き下げによるものだ。社会保障費の抑制は薬価頼みの構図が続いている。その薬価も23年度予算は様相がかわった。今回の改定は対象範囲がもともと決まっていない。前回の改定と同じように7割の品目を対象にすれば厚労省の試算で4900億円の医療費の削減につながるはずだった。ただ、原材料費の高騰で採算が取れない薬への配慮や、新薬の価格を改定前と遜色ない水準に増額する措置が相次いだ。結局、3100億円にとどまり、削減幅は前回から3割弱減った。およそ13兆円を計上する年金は、23年度の支給額改定で給付を物価の伸びより抑制する「マクロ経済スライド」を3年ぶりに発動する。ただ、物価上昇を反映し、年金額は22年度の水準より増える。制度の安定性を高めるにはマクロ経済スライドを物価の下落時でも発動し、給付の抑制を進める抜本的な見直しが必要だが、機運は乏しい。医療や年金に比べて膨張ペースが際立つのが介護だ。2.7%増の約3.7兆円を計上した。年内に示すはずだった給付と負担の見直し案は23年に持ち越した。00年度の社会保障費は約17兆円と、今の半分以下だった。給付は膨らむ一方、22年の出生数は80万人を初めて割り込む見通しで、将来の支え手も減る。団塊の世代が全員75歳以上になり、膨張圧力が一段と増す25年まで残された時間は少ない。 *5-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19AWU0Z11C22A2000000/ (日経新聞 2022年12月20日) 年金抑制「マクロ経済スライド」3年ぶり発動へ 政府 政府は2023年度の公的年金の支給額改定で、給付を抑制する「マクロ経済スライド」を3年ぶりに発動する検討に入った。年金額は22年度の水準より増えるが、物価上昇率には追いつかず実質的に目減りする見込み。給付抑制は年金財政の安定に欠かせないが、過去の繰り越し分も合わせ、大幅な抑制になる見込みだ。23年度予算案に、マクロ経済スライド発動を前提に社会保障関係費として36兆円台後半を計上する。厚生労働省は23年1月に23年度の改定額を公表する。支給額は前年度を上回るものの、物価上昇を補うほどには増えないとみられる。年金額は毎年物価や賃金の増減に応じて改定する。22年度の厚生年金のモデルケース(夫婦2人の場合)は月あたりの支給額が21万9593円だった。今回は足元の物価や賃金の伸びを踏まえて支給水準が3年ぶりに増える見通しだ。専門家は改定のベースになる22年の物価上昇率を2.5%と試算する。公的年金は少子高齢化にあわせて年金額を徐々に減らす仕組みだ。21年度から2年連続で発動を見送り、0.3%分がツケとしてたまっている。23年度の改定では21~23年度分が一気に差し引かれる可能性が高い。 *5-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221224&ng=DGKKZO67117500T21C22A2M10800 (日経新聞 2022.12.24) 年金、財政安定へ給付抑制 医療、年金、介護などをあわせた社会保障関係費は36兆8889億円で、2022年度当初予算比で6000億円以上増える。25年に団塊の世代が全員75歳以上となり、介護が必要な人の急増などによる社会保障費の膨張が避けられない。23年度の公的年金の支給額改定で3年ぶりに給付を抑制する「マクロ経済スライド」と呼ぶ措置が発動する前提で予算編成した。年金額自体は上がるものの、物価上昇の伸びに追いつかないため実質的に目減りする見通し。マクロ経済スライドは物価・賃金の下落局面では発動せず、翌年度以降に持ち越す「キャリーオーバー制度」がある。21、22年度に先送りした0.3%分の「ツケ」がたまっている。23年度は0.3%の減額を見込む。合わせて0.6%となる。22年の物価上昇が2.5%との予測などを踏まえ、支給額は68歳以上は前年度比1.9%、67歳以下は同2.2%の引き上げを想定する。正式な改定率は厚生労働省が23年1月に公表する。高齢者の負担感が強まり、景気回復に水を差す恐れもある。新型コロナウイルス禍で雇用調整助成金(雇調金)の支給が膨らみ、雇用保険財政の悪化が著しい。そのため保険料率が23年度から上がる。4月から労使折半の「失業等給付」の料率が0.6%から0.8%になる。月給30万円の労働者の保険料は現在の月1500円から300円増える見通し。雇調金は企業が従業員向けに休業手当を支払う費用を国が助成する。コロナ特例が長期化し、支給決定額は6兆円を突破した。雇用保険のうち、本来の財源である「雇用保険2事業」だけでは補えず、失業等給付の積立金からも拠出して急場をしのいでいたが、資金が枯渇しつつある。 *5-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221223&ng=DGKKZO67087830T21C22A2MM0000 (日経新聞 2022.12.23) 消費者物価、11月3.7%上昇 40年11カ月ぶり水準、食品・エネルギー目立つ 総務省が23日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が103.8となり、前年同月比で3.7%上昇した。第2次石油危機の影響で物価高が続いていた1981年12月の4.0%以来、40年11カ月ぶりの伸び率となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に欠かせない品目が値上がりしている。15カ月連続で上昇した。政府・日銀が定める2%の物価目標を上回る物価高が続く。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(3.7%)と同じだった。消費税の導入時や増税時も上回っている。調査対象の522品目のうち、前年同月より上がったのは412、変化なしは42、下がったのは68だった。上昇した品目は10月の406から増加した。生鮮食品を含む総合指数は3.8%上がった。91年1月(4.0%)以来、31年10カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は2.8%上がり、消費増税の影響を除くと92年4月(2.8%)以来、30年7カ月ぶりの水準となった。品目別に上昇率を見ると、生鮮を除く食料は6.8%、食料全体は6.9%だった。食品メーカーが相次ぎ値上げを表明した食用油は35.0%、牛乳は9.5%、弁当や冷凍品といった調理食品は6.8%伸びた。外食も5.3%と高い伸び率だった。エネルギー関連は13.3%だった。10月の15.2%を下回ったものの、14カ月連続で2桁の伸びとなった。都市ガス代は28.9%、電気代は20.1%上がった。ガソリンは価格抑制の補助金効果もあって1.0%のマイナスと1年9カ月ぶりに下落した。家庭用耐久財は10.7%上がった。原材料や輸送価格の高騰でルームエアコン(12.7%)などが値上がりしている。日本経済研究センターが15日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均は、生鮮食品を除く消費者物価上昇率が2022年10~12月期に前年同期比で3.61%となっている。23年1~3月期は2.57%になり、1%台になるのは同7~9月期(1.63%)と予想する。主要国の生鮮食品を含む総合指数は、11月の前年同月比の伸び率で日本より高い。米国は7.1%、ユーロ圏は10.1%、英国は10.7%だった。 *5-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221224&ng=DGKKZO67126340U2A221C2EA4000 (日経新聞 2022.12.24) 日本の1人あたり名目GDP、20位に後退 昨年 内閣府が23日発表した国民経済計算年次推計によると、豊かさの目安となる1人あたりの名目国内総生産(GDP)が日本は2021年に3万9803ドルとなった。経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中20位と、20年の19位から低下した。日本では1人あたりの所得が伸び悩み、個人消費の低迷が経済全体を下押ししている。日本が20位となるのは18年以来で、3年ぶり。前年の20年は日本が19位、フランスが20位だったが逆転した。フランスは新型コロナウイルス禍からの景気回復が進み、個人消費が伸びた。1人あたりGDPは20年の3万8807ドルから21年は4万3360ドルと増えた。日本は20年(3万9984ドル)から減った。20年と比べて円安・ドル高だったこともドル建ての1人あたりGDPを押し下げた。後藤茂之経済財政・再生相は同日の記者会見で「長引くデフレで企業は投資や賃金を抑制し、個人は消費を減らさざるを得なかった」と指摘した。05年に13位だった日本の順位は、中長期で見て下落傾向にある。名目GDPの総額をみると、21年の日本は5兆37億ドルとなり、世界のGDPに占める比率は5.2%となった。米中に次いで3位は維持したが、比率としては19年の5.8%を下回り過去最低となった。日本のドル建てでみた名目GDPは10年に中国に逆転され、3位に低下した。世界のGDPに占める比率も05年には10.1%だったが、16年間で半分まで下がった。 *5-5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221221&ng=DGKKZO66987830Q2A221C2KE8000 (日経新聞 2022年12月21日) あるべき社会保障改革(上) 支え手増加の勢い 後押しを (小塩隆士・一橋大学教授:1960年生まれ。東京大教養卒、大阪大博士(国際公共政策)。専門は公共経済学 <ポイント> ○高齢化進む中でも支え手の就業者は増加 ○被用者保険の適用範囲拡大で雇用抑制も ○「全世代」想定する際は将来世代も含めよ 社会保障に関しては、年金・医療・介護各分野で制度改正に向けた日程が具体化し、改革論議が加速している。改革を求める最大の要因は、高齢化がもたらす圧力だ。高齢化は、社会保障を含む経済社会の「支え手」が減少し、生産と消費のバランスが国全体で崩れることを意味する。改革はそのバランスを取り戻すものでなければならない。高齢者向け給付の削減は制度の持続可能性を高める効果があるが、本質的な問題解決にならない。社会保障を経由した公的な扶養を圧縮すれば、家族による私的な扶養もしくは一層の自助努力が必要になるだけだ。高齢化の圧力は財政健全化だけでは消せない。では、社会保障改革はどうあるべきか。話は簡単だ。支え手の増加を目指せばよい。支え手が増えたら、かなりの問題は解決する。ただし私たちの事実認識を改めておく必要がある。意外なことに支え手は減っていない。むしろ増えている。支え手の社会全体における割合をみる場合、生産年齢人口(15~64歳)が総人口に占める比率をみるのが定番だ。だが本来は働いている人、つまり就業者の比率をみるべきだろう。図は1990年を基準として生産年齢人口や就業者数の増減をみたものだ。生産年齢人口の総人口比は、2021年までに約10ポイント低下している。だが就業者数は00年から15年ごろまでは低迷したものの、その後大きく回復し、21年の総人口比は約3ポイント上昇している。支え手は結構踏ん張っているわけだ。貢献しているのは65歳以上の高齢層だ。しかも主役は正規雇用者ではなく、非正規雇用者やフリーランス・個人事業主など被用者以外の就業者だ。出生率の長期低迷が示すように、私たちは人口の再生産から既に手を引いている。少子化対策により産み育てやすい環境は整備できても、出生率の回復までは期待しにくい。一方で、このままでは支え手が足りなくなるから、世の中を回すために働ける者は働こうという調節作用が社会全体で働いているようにみえる。社会保障改革が目指すべき最重要の方針は、支え手回復の勢いをより確実なものにし、人々が支え手として無理なく社会に貢献できる仕組みを構築することだ。そこで気になるのは、高齢層の支え手増加のかなりの部分が正規雇用以外で進んでいる点だ。支え手が増えても、その質は相当割り引く必要がある。社会保険料を通じた社会保障財源への還元も限定的となる。高齢の支え手増加が非正規雇用者や被用者以外の就業者の形をとりがちなのは、保険料負担を回避したい企業の意向を反映している。欧州諸国でも事情は似ており、高齢者就業の回復は被用者保険の対象外となるフリーランスや個人事業主がけん引している。全世代型社会保障構築会議の発想は、被用者保険の適用範囲を正規雇用者以外に拡大し、「勤労者皆保険」の実現を目指すというものだ。その方針は正しい。しかし負担軽減のために非正規雇用を進めてきた企業にとっては、これまでとは逆方向に進めということだから、歓迎できる話ではない。適用拡大の結果、かえって賃金削減・雇用抑制が進み、保険料負担が労働者側にのしかかるだけに終わるリスクもある。経済学の教科書が描く保険料負担の「帰着」の典型例だ。被用者保険の適用範囲拡大だけでは、問題は解決しない。取り残される層が必ず出てくる。国民健康保険や国民年金といった被用者以外の社会保険の仕組みも併せて改める必要がある。国保や国民年金の保険料には減免措置はあるが、定額部分があるため、低所得層ほど負担が相対的に重くなる逆進性の問題がある。給付付き税額控除と組み合わせて低所得層の保険料負担を軽減すると同時に、保険料の拠出実績を残すといった工夫があり得る。最終的には社会保障の財源調達は働き方や所得の源泉とは関係なく、所得に連動した仕組みにすべきだろう。支え手を増やすには、年金が就業の抑制要因にならないようにする改革も必要だ。例えば前回の全世代型社会保障改革では、一定以上の賃金を得ると年金が削減される在職老齢年金制度が、65歳以上については見直されなかった。今後、高齢者のフルタイム正規雇用が一般化して賃金が高まると、この仕組みが就業に対するブレーキとなり得る。少なくなった支え手が負担した財源をできるだけ公平で効率的に活用することも、改革が目指すべき重要な方針だ。日本の社会保障給付は20年度には総額132兆円にのぼる。国内総生産(GDP)の約4分の1に相当する。にもかかわらずひとり親世帯や単身高齢者の貧困率は先進国の中でも高いグループに属する。日本の社会保障は年齢を軸に組み立てられており、かなりの部分が若い層から高齢層へという年齢階層間のお金の流れにとどまる。高齢層でも支援が必要な人がいれば、そうでない人もいる。若い層でも同じだ。限られた財源をできるだけ公平で効率的に使うには、年齢とは関係なく、負担能力に応じて負担を求め、給付も発生したリスクへの必要性に応じたものにするという方針が基本となる。所得が低くない高齢者を対象とした医療の自己負担増はこの方針に沿ったものだ。困っていない人を支援するだけの余裕はなくなりつつある。得られた財源の増分を、支援をより必要とする人たちに重点配分すべきだ。そうでないと将来世代に迷惑がかかる。今を生きる全世代にとって、現行の社会保障の恩恵を維持するための最もてっとり早く、そして政治的に最も受け入れやすい改革は「何もしないこと」だ。医療・介護の自己負担や保険料、給付の対象範囲は据え置くべきであり、年金の支給開始年齢や保険料の納付期間も変更してはならない。社会保障のための消費税率の引き上げなど、もってのほかだ――。こうした選択は、将来世代に負担を先送りすることにほかならないが、人口が順調に拡大すれば問題はない。負担を人口1人当たりでみれば、分母の人口が膨らむので、無限の将来まで転がしていけば分数の値はゼロに近づいていく。それならば、将来世代のことを心配する必要はなく、財政赤字も無視して構わない。しかし状況は変わっている。人口は減少局面に既に入っている。1人当たり負担は、分母が減るので膨らんでいく。私たちが私たちの幸せを追求すると、将来世代に迷惑がかかる。民主主義はあくまでも今を生きる全世代の幸せ追求の仕組みだが、人口増加を暗黙裏に想定している。その限界が顔を出しつつある。全世代型社会保障という場合の「全世代」として、私たちは今を生きる全世代を考える。しかし人口減少の下では将来世代もそこに含める必要がある。将来世代に不要な負担をかけないためには、世の中の支え手を増やし限られた財源を大事に活用するという、よく考えれば当たり前のことを意識的に進めるしかない。 *5-5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230105&ng=DGKKZO67326060V00C23A1EA2000 (日経新聞 2023.1.5) ジョブ型、試行錯誤、三菱ケミ、ポスト公募の応募半分/KDDI、学び直しの動機づけ腐心 デジタルトランスフォーメーション(DX)など経済環境の変化が加速するなか、あらかじめ仕事の内容を定めた「ジョブ型雇用」が普及してきた。働き手の専門性や意欲を高めやすく、経団連の提言から2年ほどで導入企業は予定も含めると大手企業の約2割となった。もっとも、仕事とスキルのミスマッチや賃金連動の遅れなど課題もみえてきた。仕事の内容や賃金を「職務記述書(ジョブディスクリプション)」などで定義するジョブ型雇用は、欧米で広く普及する。企業は人材の専門性や意欲を高めやすくなり、働く側は転職しやすくなる。日本では職務を限定せず年功序列の色彩が強い終身雇用が標準だったが、2020年1月に経団連が春季労使交渉の指針でジョブ型を提言して以降、高度人材を求める大手企業で導入が加速している。日本経済新聞が22年5月に実施した調査では、有効回答を得た上場企業と有力非上場企業の計813社のうちジョブ型雇用を導入済みの企業は10.9%、今後導入予定の企業は12%に達した。ジョブ型に欠かせないのが、働き手が主体的に自らのキャリアプランを考え、実現に向けた能力開発に取り組む「キャリア自律」だ。企業側では各部署がそれぞれのポストに必要なスキルを明示して希望者を募る社内公募制をとることが多い。20年秋以降、ジョブ型を段階的に導入した三菱ケミカルは、主要ポストを社内公募に切り替えた。これまでに約2700のポストを公募したが、応募があったのは半分で実際ポストに就いたのは3分の1だ。部署間の人気の格差もあるとみられ、応募がない部署は従来の会社主導の人事などで埋めている。公募手法のノウハウ蓄積を急いでいる。24年度までに全グループ会社にジョブ型雇用を広げる日立製作所は、21年度に社内外で同時に約480件のポストを公募した。グループの人材が就いたのは3割で、残りは経験者採用だった。専門性の高いポストと社内人材のスキルのミスマッチもあるようだ。優秀な経験者の獲得とともに「社内労働市場のさらなる活性化を目指す」(同社)として、24年度にグループ内外で公募し、うち社内人材が異動する件数を、21年度比3倍の500件以上に増やす計画。異動希望の社員と受け入れ部署を仲介する制度も導入予定だ。こうしたジョブとスキルのミスマッチ解消にはリスキリング(学び直し)も重要となる。KDDIは20年のジョブ型雇用の導入に合わせ、高度デジタル人材の育成講座「KDDI DX ユニバーシティー」を始めた。希望者がデータサイエンティストなど5つの職種に必要な知識を学べる。22年7月から段階的に全社員にDXの基礎知識を教える研修も始めた。1人当たりの研修時間は21年度に10.4時間で19年度比で倍増した。学ぶ内容や時間は働き手の自主性に委ねられている面もあり、本人のキャリア自律が不足すると学習効果が上がらないリスクもある。KDDIは社員と直属の上司が定期的な対話を通じて「能力開発計画」を策定し、希望キャリアに就くため必要なスキルを助言するなど、リスキリングの効率を高める工夫もする。木村理恵子人財開発部長は「会社の重点領域への人材配置と社員のキャリア選択のバランスは課題」と話す。職種別賃金が一般的な欧米と異なり、日本のジョブ型では仕事内容と賃金の連動が大きな課題だ。日本の標準的な職能給制度は依然として年功色が強い。これでは、仕事の市場価値に応じた高い賃金を提示し、優秀な専門人材を採用しやすくするジョブ型の利点を発揮しにくい。富士通はジョブ型雇用導入に合わせ、20年以降、段階的に働き手を職責で評価する人事制度を導入したが、基本的に職種別の賃金体系になっていない。「日本は欧米に比べ人材の流動性が低く、職種別賃金市場が成熟していない」(同社)ためだ。人工知能(AI)人材など一部の専門職について高い賃金で処遇したり、コンサル人材を集めた専門子会社に独自の賃金体系を導入したりしている。日立やKDDIも職種別賃金体系は導入せず、一部の高度人材やスキル重視の職種別採用などについて賃金を上積みしている。日本の職種間の賃金格差は10%程度だが、ジョブ型が標準の欧米は40%程度に開くという調査もある。職種別賃金の導入で働き手の一部の待遇が悪化する可能性があるのも、各社が制度刷新に踏み切れない理由のひとつだ。米人材コンサル、マーサーの日本法人の白井正人取締役は「職種別賃金への転換には、転職の増加などの労働市場の構造変化も必要で、移行には10~20年かかる可能性もある」とみる。DXの加速など急激な事業環境の変化に、既存の日本型雇用が対応できないことは明らかだ。ジョブ型導入企業で浮き彫りになった課題に向き合い、組織構造の変化に伴う摩擦を抑えながら働き方改革を継続できるかが問われている。 *5-5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230118&ng=DGKKZO67668430Y3A110C2EA2000 (日経新聞 2023.1.18) 労働移動の加速、賃金の伸び高く 過去30年の上昇率、米英は日本の8~9倍 経団連の報告書は成長産業への労働力の移動を加速することを新たな柱の一つに据えた。優秀な人材の獲得競争によって中長期的な賃上水準の向上につなげる狙いがある。東京都立大の宮本弘曉教授の分析によると、雇用の流動性が高いほど賃金の伸びは大きい。主要国の賃金の1990年から2021年の上昇率を比較すると、平均勤続年数が約4年の米国は日本の9倍、8年の英国は8倍に上る。日本の平均勤続年数は12年で、賃金成長率は過去30年間で約6%と低迷し、海外に比べて大幅に見劣りする。宮本氏は「日本の労働市場は硬直的だ。成長産業に人材が移りやすくすることで労働生産性を高め、賃金も増えるという流れをつくらないといけない」と話す。経済界は「構造的な賃上げ」を重視している。そのため経団連は働き手がスキルを身につけて転職することを肯定的にとらえる意識改革が必要だと提起した。学び直しの時間を確保しやすいよう時短勤務や選択的週休3日制、長期休暇「サバティカル制度」の整備といった選択肢を挙げる。十倉雅和会長は「労働者が主体的にスキルを身につけて自分たちの価値を高めることが本人のキャリアパスや働きがいに資する。社会全体にも貢献する」と働き方改革の重要性を主張する。 *5-5-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230121&ng=DGKKZO67781200R20C23A1MM8000 (日経新聞 2023.1.21) 日本の物価、4.0%上昇 12月 41年ぶり高水準に 総務省が20日公表した2022年12月の消費者物価上昇率は生鮮食品を除く総合で前年同月比4.0%と、41年ぶりに4%台となった。資源高や円安でエネルギー価格が上がり、食品など身近な商品に値上げが広がった。食料の伸び率は7.4%と、46年4カ月ぶりの水準に達した。新型コロナウイルス禍後に回復してきた消費の先行きは、今春の賃上げ水準が左右する。22年を通じた上昇率は生鮮食品を除くベースで2.3%だった。消費増税で物価が上がった時期を除くと、31年ぶりの伸びだった。12月の生鮮食品を除いた指数の上昇率は11月の3.7%から拡大した。4%台は1981年12月(4.0%)以来だ。電気代などエネルギー関連が15.2%伸びた。食料全体は7.0%で、生鮮を除くと7.4%の上昇だった。1976年8月(7.6%)以来の水準となった。原材料の値上がりを受けてメーカー各社が値上げを進めており、食用油(33.6%)やポテトチップス(18.0%)、炭酸飲料(15.9%)などが伸びた。米国や欧州の物価は22年中にピークアウトの兆候をみせている。日本は12月まで伸びが加速した。23年は政府による電気代抑制策が物価の押し下げ要因となる一方、値上げは幅広い商品に広がっている。政府は22年12月に22年度の物価上昇率の予測を総合で3.0%とし、7月の予測(2.6%)から引き上げた。日銀は23年度の生鮮食品を除いた上昇率を1.6%、24年度を1.8%とする。専門家による消費者物価の予測は上振れが続いている。 *5-5-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230121&ng=DGKKZO67781170R20C23A1MM8000 (日経新聞 2023.1.21) 東電、3割値上げ申請へ 家庭向け 今夏までの実施目指す 東京電力ホールディングス(HD)は来週はじめにも一般家庭向け電気料金の値上げを経済産業省に申請する。経産省が認可する規制料金とよばれるプランで、家庭向け契約の過半を占める。申請する値上げ幅は3割前後となる見通し。国の審査を経て今夏までの料金引き上げを目指す。東電が規制料金を上げるのは東日本大震災後に収支が悪化した2012年以来、11年ぶりとなる。実際の値上げ幅は、東電の申請後に経産省の審議会で妥当性が議論された上で最終的に決まる。審査には数カ月程度がかかる見通しで、東電は電力需要が高まる夏までに値上げを実現させたい考えだ。電気料金には「燃料費調整制度(燃調)」に基づいて3~5カ月前の石炭や液化天然ガス(LNG)の輸入価格を自動で反映している。規制料金には転嫁の上限が設けられており超過分については各社が負担する仕組みだ。ウクライナ危機以降の資源高や円安で発電に使う燃料の調達コストが上昇し、東電では22年9月に上限に到達した。電気を売れば売るほど赤字が積み上がる状況だ。足元のLNGの価格はウクライナ危機後のピーク時より2割低くなったが、新型コロナウイルスの感染拡大前の19年12月と比べると2.5倍の水準にある。石炭の価格も5倍になっている。値上げで採算の改善を急ぐ。経営が厳しいのは他の電力会社も同じだ。東北電力や中国電力などの5社も22年11月以降、燃料高などを理由に3~4割前後の値上げを経産省に申請した。北海道電力も検討中だ。経産省の審査では値上げ幅の圧縮に向け、燃料の調達費の抑制や経営の合理化を促す。原発の稼働が進む関西電力と九州電力、中部電力は現時点では値上げを検討していない。 *5-5-7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/951031 (佐賀新聞 2022/11/21) 来年度の年金、実質減額へ、最大0・7%目減り試算 来年度の公的年金額は実質的に減る公算が大きいことが21日、分かった。4月の改定に伴い、金額自体は3年ぶりに増える見通しだが、物価上昇分に追い付かないため。ニッセイ基礎研究所の試算によると、今年の物価は年間で2・5%上昇するが、少子高齢化に応じて年金額を抑制する仕組みが適用され、68歳以上の場合、支給額は1・8%の増加にとどまる。差し引き0・7%分、目減りすることになる。同研究所の中嶋邦夫上席研究員が9月までの統計を基に、物価上昇率を仮定して計算した。67歳までの人は、賃金の変動率を基に計算する仕組みのため、2・1%増となる見通しで、0・4%の目減り。 *5-6-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221214/k10013922771000.html (NHK 2022年12月14日) 技能実習制度見直しへ 有識者会議 制度の存廃や再編含め論点に 外国人が働きながら技術を学ぶ技能実習制度を見直すため、14日から政府の有識者による検討が始まり、制度の存廃や再編も含めて論点とすることが了承されました。外国人が日本で働きながら技術を学ぶ技能実習制度は、発展途上国の人材育成を主な目的とする一方、実際は労働環境が厳しい業種を中心に人手を確保する手段になっていて、目的と実態がかけ離れているといった指摘も少なくありません。制度の見直しに向けて政府の有識者による検討が始まり、14日の初会合には有識者会議の座長を務めるJICA=国際協力機構の田中明彦理事長らが出席しました。冒頭で田中座長は「外国人との共生社会としてありうるべきは、安全・安心で、多様性に富んで活力があり、個人の尊厳と人権を尊重した社会だ。この3つが実現する制度を検討したい」とあいさつしました。今後の論点として、 ▽技能実習制度を存続するか、廃止するか、 ▽人手不足の12分野で外国人が働く「特定技能制度」に一本化して再編するのか等のほか、 ▽技能実習生の受け入れを仲介する監理団体の在り方などを含めて検討することを 了承しました。 委員からは「制度の目的と実態が乖離していることは明らかで、人権侵害と結び付く構造的な原因だ」等の意見が出された一方で、実習生に日本の技術を学んでもらうことで国際貢献を担っているという意義もあるという意見も出たということです。有識者会議は、関係団体から聞き取りを行うなどして来年春に中間報告をまとめ、秋ごろをめどに最終報告書を提出する予定です。 *5-6-2:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202301/0015940804.shtml (神戸新聞社説 2023/1/5) 外国人労働者/「選ばれる国」でいられるのか 少子高齢化が進み、地方を中心に働き手不足が深刻になっている。それらを補うために、政府が事実上の移民の受け入れにかじを切ったのは、2018年12月のことだ。「外国人労働者が引きも切らず来日する」との前提で、政策は作られた。主にアジア諸国から来る若者に介護や農漁業、建設業などの仕事を担ってもらおうと、入管難民法を改正して「特定技能」という新たな在留資格を設けた。改正法は19年4月に施行された。4年近くが経過した今、当初の前提に揺らぎが見える。果たして、日本は働く場として魅力的なのだろうか。まずは、兵庫県内で働くアジア出身者を訪ねることにした。 ◇ 神戸市兵庫区の企業「GOLD(ゴールド) LAN(ランド)D」は、外国人向けに通訳や翻訳、不動産仲介などを手がける。チュ・ディエウ・リン社長(30)をはじめ、従業員25人のうち日本人1人を除く全員がベトナム出身だ。リンさんは母国で大学を卒業後、銀行に職を得た。起業を夢見て日本の専門学校に留学し、18年に同社を設立した。2歳の長男を育てる母親でもある。最近、日本行きを希望するベトナム人が減ったと実感する。同胞が中心だった顧客は、ネパールやバングラデシュからの労働者が目立つようになった。「ベトナムは経済成長で賃金が上がっている。しんどい出稼ぎをするより、自国で働きたいと若者が思うのは自然なこと。国が発展して都会育ちが増え、日本の田舎で働くのに抵抗を感じる人もいる」と話す。 ●縮まった経済格差 円安の影響も無視できない。円はベトナムの通貨ドンに対しても値を下げた。リンさんの部下で営業を担当するルオン・バン・トゥアンさん(26)は「故郷の親への仕送りは、円安でやめた。子どもが生まれ、日本の物価が上がったので、逆にお金を送ってもらうほど」と肩をすくめる。円安を理由に帰国を考える同郷人は多いという。日本の外国人労働者は21年10月時点で約173万人に上る。10年間で2・5倍に増えた。外国人抜きでは回らない職場は多い。さまざま分野で重要な担い手となっている。だが、取り巻く状況は変わった。長期の停滞から抜け出せない日本に対し、アジア諸国は持続的に成長している。経済格差は確実に縮まりつつある。門戸を開けさえすれば日本に来る-との姿勢では、いずれ見向きもされなくなる。今後、日本が外国人労働者をさらに必要とするのなら、どうすれば「選ばれる国」でいられるかを考えるべきだ。それは、ご近所や同僚としての外国人とどう共生するかという個々人への問いかけでもある。 ●進まない処遇改善 丹波篠山市の南部に位置する「篠山学園」は、2年制の介護福祉士養成校だ。同市の全面協力を得て、西宮市の社会福祉法人が17年に開校した。当初は女子学生限定でベトナム人が多かったが、21年秋から男女共学に変更し、インドネシアやミャンマーなどにも募集先を広げた。山村信哉学園長は「アジアの優秀な若い人の獲得競争が年々激しくなっている」と危機感を募らせる。根底には、介護職の処遇改善が叫ばれながらも、それがなかなか進まない日本の現状が横たわる。昨年、政府は技能実習制度の見直しを始めた。途上国の人材育成を目的にした制度でありながら、実習生への賃金未払いや虐待などが絶えない。今春に有識者会議が中間報告をまとめるが、人権を守ることを最優先に、制度廃止も視野に入れて議論を進めなければならない。賃金が長らく低迷する中、経済成長する他国へ向かう日本の若者が増えてもおかしくはない。兵庫県内でも、中東などからの求人を紹介できないか検討する企業が出てきた。外国人の労働を考えることは、この国の労働を考えることだ。次世代にそっぽを向かれないようにするには、待遇面はもちろん、やりがいや将来への希望を示すしかない。 *5-6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230107&ng=DGKKZO67405840X00C23A1MM8000 (日経新聞 2023.1.7) 公立高「外国人枠」なし73% 進学せぬ子、日本人の10倍、本社調査、将来の就労に影響 高校で外国人受け入れ枠の導入が進んでいない。2023年の入試で全国の公立高の73%が特別枠を設けないことが日本経済新聞の調査で分かった。日本語が得意でない生徒にとって一般入試は容易でない。中学卒業後に10%が進学しておらず、全中学生の10倍の水準だ。新型コロナウイルス下の入国制限緩和で外国人労働者受け入れが再び拡大しており、子どもが進学しやすい環境を整える必要がある。高度・専門人材の家族として来日した子どもが制約なく働くには、高卒資格が求められる。文部科学省は指針で自立には「高校教育が重要」と指摘。特別枠の設定や試験教科の軽減などを各地の教育委員会に求めたが、必要性が認識されず、指導体制の不安もあって対応しない教委や学校が多い。4月から高校で日本語を教える授業が単位として認められる。指導の充実を目指す一方で、"入り口"は狭いままだ。22年11月中旬、大阪府立東淀川高校(大阪市)で外国出身の生徒8人が分かりやすい日本語を使った特別授業を受けていた。府内では同校など8校が外国人向け特別選抜を実施し、22年は定員の8割にあたる計約90人が合格した。フィリピン出身のカリーノ・カートさん(18)は「漢字がほとんど分からず一般入試では入れないと思い、この高校を選んだ」と話す。こうした枠がない地域は多い。日経新聞が22年12月、各都道府県教委に23年入試について聞いたところ、一般入試と別に外国人生徒の定員枠や特別選抜を設けるのは27都道府県だった。茨城は県内の全公立高に特別枠を設けるが、北海道は札幌市立高1校のみ。全国では導入は約920校で、全体の約3400校のうち27%にとどまった。枠があっても、受験資格を東京や埼玉などのように「来日3年以内」に限定する例が目立つ。中学に入る前に来日した子どもは対象外となる。外国語の表現を十分理解するようになるには5年ほど必要とされる。NPO法人「多文化共生教育ネットワークかながわ」(横浜市)の高橋清樹事務局長は「3年たっても日本語力が十分でなく、一般入試は困難な生徒が珍しくない」と話す。文科省によると、20年度卒業の中学生で高校や専修学校に進まなかったのは1%未満。一方で「日本語指導が必要」と認定された生徒は10%に上る。授業についていけず中退するケースもあり、21年度の中退率は5.5%と全体(1.0%)との開きは大きい。高卒資格は将来を左右する。外国人材の配偶者や子らが対象の在留資格「家族滞在」で働けるのは原則、週28時間以内。高卒なら就労制限がない在留資格に切り替えられ、生活基盤を築きやすい。米国は高校まで義務教育で英語力にかかわらず進学できる。カナダやオーストラリアは中学校の成績証明書などでの選考が一般的で英語力が不十分でも公立高に進める。東京外国語大の小島祥美准教授は「小中学校段階の日本語教育は自治体間の格差が大きく、高校入試で思考力を評価するには工夫が必要。グローバル人材に育つ可能性を秘めた子どもが高校教育からこぼれ落ちるのは日本社会にとっても損失だ」と話す。 *5-6-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/224937 (東京新聞 2023年1月12日) 「姉のように命落とす人また出る」 収容期限ない入管法改正案の国会提出にウィシュマさんの遺族らが反対会見 外国人の収容ルールを見直す入管難民法改正案が、23日召集の通常国会に提出される見通しとなった。これを受け、2021年3月に名古屋出入国在留管理局で収容中に亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=の遺族らは12日、東京都内で記者会見し「収容について上限設定や司法審査もない法案ならば、外国人の人権がないがしろにされる」と訴えた。入管難民法改正案は21年に国会で審議入りしたが、ウィシュマさんの死亡などを受けて衆院法務委員会で採決が見送られ、同年10月の衆院解散で廃案となった。今回の改正案は旧案を一部修正するものの、難民申請中の送還を可能にし、収容期間の上限は現行通り設定せず、収容に関する司法審査がないなど、骨格は維持されるとみられる。会見でウィシュマさんの妹・ポールニマさん(28)は収容期間の上限設定がなければ「入管が都合のいいよう収容してしまうのではないか」と懸念を示した。その上で「姉は無期限で収容されて健康が悪化し、命を落とした。無期限収容を変えないと、姉のように命を落とす人が出るのが当たり前になる」と訴えた。旧案で、原則として難民申請を2回までに制限し、暴れるなどして送還を拒否した場合に懲役1年以下の罰則を設けるとした点は維持される見込み。もう1人の妹・ワヨミさん(30)は「送還拒否で懲役刑というのは、外国人への人権の侵害で、正しいルールではない」と厳しく指摘した。遺族を支援する弁護団からも批判が相次いだ。高橋済弁護士は「(旧案を巡る)与野党での修正協議やウィシュマさんの事件の反省を全く踏まえてない。収容期間の上限設定がないというのは、国際水準からほど遠い状況だ」と非難。駒井知会弁護士も「現状でも難民条約が守られていないのに、さらに状況が悪化する」と怒りをあらわにした。指宿昭一弁護士は「2年前の法案の骨格を維持する内容なら、法案を出すべきではない。ウィシュマさんの死の真相は解明されてなく、入管施設の改善が進んだとも思えない」と話した。 *5-6-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC134QG0T10C23A1000000/ (日経新聞 2023年1月13日) 草加商議所、難民の就労支援 地域事業所で12人雇用 草加商工会議所(埼玉県草加市)は、政府が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の要請を受け、他国の難民キャンプなどから受け入れる「第三国定住難民」の就労を支援し、難民12人を同市を中心とする事業所で雇用することが決まったと明らかにした。社会貢献活動の一環として難民の雇用を支援するとともに、地域の中小事業者の人材不足の緩和にもつなげる。同商議所は、政府の委託を受けて難民の定住支援に取り組む公益財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部(RHQ)と連携。2022年9月に来日した第三国定住難民第12陣29人のうち、単身者12人について地域での就労支援を決めた。会員事業所とのマッチングや職場見学、面接などを経て草加市内で同商議所を含む5事業所、同県八潮市内1事業所での雇用が決まった。難民はミャンマー出身者が中心。現在、難民はRHQ支援センターの6カ月間の定住支援プログラムを受講中で毎日、日本語や日本の文化、社会制度を学んでいるという。受け入れる6事業所は同プログラム修了後、4月から開始する半年間の職場適応訓練に向け、難民の住居確保や職場での指導体制の準備を進めている。同商議所は訓練終了後、各事業所が正式に雇用契約を締結し、難民が安定した収入を得て生活基盤が整うように協力する。商議所が窓口になった第三国定住難民の就労支援としては、これまでにない規模とみている。野崎友義会頭は「ウクライナ避難民のほか、日本を頼ってきた多くの難民の存在を知り、自分たちにもできる貢献が何かないかを模索してきた。今回の結果を通じて地域の中小企業1社1社が力を合わせれば、大きな国際貢献ができることを証明していきたい」と話している。今後も「難民の就労支援に継続的に取り組むことを検討する」(山崎修専務理事)という。 <街づくりと住宅> PS(2023.1.27追加):*6-1は、①東ドイツ時代に建設された団地の約半数は市営住宅になり ②老朽化が進んで富裕層や若い世代が離れて移民・貧困層の割合が増えていたが ③大規模省エネ改修で ④くすんだ色の外壁や窓枠のデザインが一新 ⑤外壁や屋根の外断熱強化 ⑥窓や扉のトリプルガラス樹脂サッシ化で ⑦エネルギー消費が半分になり ⑧太陽光・風力など豊富な再エネ電力で湯を作って地域暖房や給湯に生かす創エネ設備も整備され ⑨子育て世代が多く引っ越してくるようになって ⑩緑化や公共交通の整備も進み ⑪住宅の省エネ化は化石燃料の使用と光熱費減少だけでなく、健康にもいい「一石三鳥」の効果がある ⑫日本でも建物の省エネ基準強化や太陽光パネル設置義務化などの対策が急務 と記載している。 ベルリンを旅行した時、テレビ塔から街を見下ろし、「ブロックに一つ大きな建物があり、中庭があって、どの部屋にも太陽光が入るようになっていて、緑が多く、わかりやすくて、いい街づくりだ」と私は思った。そのベルリンで、①~⑩のように、市営住宅を徹底して省エネ改修し、デザインを明るくして、再エネ電力で湯を作って地域暖房や給湯に生かす創エネ設備を整備したところ、住民の質が向上して緑化や公共交通の整備が進んだというのは、さすがにドイツの合理性だと思う。 日本にないのは、住みよい街を創るための計画性とその方針に従った個々の誘導だが、ドイツのケースを参考にできる地域は多いし、そうすることによって住民や企業の誘致も進むだろう。さらに、再エネ電力で湯を作って地域暖房や給湯に活かすにあたっては、「日本には適地がない」などとできない理由を並べたがる妨害屋は多いが、日本は地熱が豊富であるため、再エネ電力だけでなく地域暖房や給湯もドイツよりやりやすい筈である。 このような中、*6-2のように、先進的な小城市は「ゼロカーボンシティ」を宣言し、市本庁舎の電力を太陽光発電で自給している。これは、電気料金の高騰の中、自らを救うことになっており、新年度から市民や事業所に向けた啓発にも本格的に乗り出すそうだ。また、市の担当者は「採算性や費用対効果に対する関心が高いが、防災面での活用が第一」「啓発を進めつつ、具体的な脱炭素の取り組みを進める」としているとのことである。 日本にも老朽化した団地や住宅は多いため、街づくり計画を立て、それらを改修したり、建て替えたりすれば、住みやすくなると同時に、資産価値も大きくなる。そして、*6-3は、「日本の社会保障制度は大きく6つあり、それは年金・医療・介護・障害者福祉・生活保護・子育て支援だが、欧州はそれに加えて住宅がある」と記載している。 だが、日本にも都道府県営住宅・市町村営住宅など、戦後の住宅難を解消するために建てられた公営住宅は多く存在し、当初は周辺の一般住宅より近代的な設備を備えていたのだが、時代を経て旧式となり、省エネ創エネ・バリアフリー・デジタル化・電子レンジ/食洗機内蔵型システムキッチン・EV向け駐車場など現代の生活に必要な設備を備えていないため、価値の低いものになっているのだ。そのため、これに対しては、*6-1のドイツ方式が参考になるだろう。 こう言うと必ず、「財政力が乏しい」などと言う人がいるが、高齢者ばかりの積雪地帯に毎年出している雪かき費用は消えてなくなる費用なので、設備が整い、賃料の安い公営住宅に高齢者を移動させ、持家だった場所を買い取って有効活用するとか、ふるさと納税を使って返礼品に賃料の割引をするとか、方法はいくらでも考えられ、要するに工夫次第なのである。 2021.4.22日経新聞 (図の説明:左図は、テレビ塔から見えるのと同じベルリン市街で、ブロック毎の建物と中庭に光と緑のある街づくりが美しい。中央の図は、壁に太陽光発電システムを取り付けたビルだが、右図のような薄くて透明な太陽光発電システムを取り付けた建物もあった方がよいと思う) *6-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15519929.html (朝日新聞 2023年1月6日) (気候危機と住まい 適温で暮らしたい)街を再生、ドイツの公営住宅改修 ドイツ北東部、ポツダム。ベルリンに暮らす建築家で起業家の金田真聡さん(41)は、「ポツダムのスラム街」と呼ばれた巨大団地群が、省エネ改修で変化する様子を2016年から見続けてきた。きっかけは、改修プロジェクトを伝える新聞記事を読んだことだった。「社会問題の解決」も目的だという。省エネ改修が、どう社会問題の解決につながるのか。興味を抱いた金田さんはプロジェクトの関係者に連絡を取り、すぐにポツダム市のドレビッツ地区に向かった。約3千世帯、5500人ほどが暮らす団地は東ドイツ時代に建設され、約半数は市営住宅になっていた。老朽化が進み、富裕層や若い世代が離れ、移民や貧困層の割合が増えていた。金田さんが訪れる数年前、団地を含む地区全体40ヘクタールほどの省エネ改修を市職員や地元の建築家らが提案し、コンペを通過。国や自治体の助成を受け、市営住宅を中心に大規模な改修が始まっていた。くすんだ色の外壁や窓枠のデザインが一新され、明るさを取り戻していく。外壁や屋根は外断熱が強化され、窓や扉はトリプルガラスの樹脂サッシに換えられていった。街の変化が楽しみで、金田さんも地区に通うようになった。家の性能が増すと、エネルギー消費は激減して以前の半分になり、住民の光熱費負担は大幅に軽減された。太陽光や風力などドイツ北部の豊富な再エネの電気で湯をつくり、地域の暖房や給湯に生かす創エネ設備も整備された。地区には、若い子育て世代が多く引っ越してくるようになり、緑化や乗り入れの公共交通の整備も進んだ。プロジェクトの担当者の言葉が印象に残っている。「貧しい人が貧しい環境で暮らさないといけないということはない。あたたかい家に住むことは基本的人権です」。金田さんは2020年、東京・目黒駅近くに、6階建て9戸のマンション「MEGUROHAUS」を建てた。「寒いドイツだから高性能な建築が必要だとみられますが、日本の夏も冬も、広くみれば世界有数の厳しい環境。省エネで快適に暮らせる建築を当たり前にする必要があります」。ドイツ式の外断熱と設備を備えた超省エネ集合住宅で、外気温が2度でも室温は無暖房で14度を下回らない。ただ、計画から完成まで5年かかった。「いい家を広めたいと建てた家でしたが、このペースだと60歳までに4棟しかつくれないとわかり、がくぜんとしました」。地球環境にも住む人にもやさしい建築を一棟でも多くつくりたい。金田さんは、建築設計の現場をデジタル化で刷新し、誰もが省エネ建築を設計できる仕組みをつくることを考えた。現実と同じ建物の状況を3Dで再現する設計手法(BIM)を使い、完成時の光熱費や二酸化炭素(CO2)排出量を算出できるウェブシステムを、エンジニアと2年かけて開発。これで、業務効率を高めながら性能と建設コストを最適化する道が開けるという。日本のゼネコンを退職し、ドイツで働き始めて10年余り。「気候危機対策に取り組むこと自体が、企業にとっても個人にとっても有益で、経済発展につながるという意識を、ドイツにいると強く感じます」。誰もが快適に住める環境をつくり、社会課題の解決につなげる。「自ら行動し、結果で示したい」 ■省エネ化は「一石三鳥」、政策進める欧州 ドイツ政府は1990年代後半には新築を制限し、既存建物の省エネ改修推進にかじを切った。国内に約4千万戸ある建物を取り壊して性能のいい新築を建てるより、社会全体の消費エネルギー削減と経済発展につながるという考えだ。また、ポツダム市があるブランデンブルク州は含まれないが、ベルリン市や、全16州のうち7州で、省エネ性能の強化と再エネ設備の導入があわせて義務化されている。建築物関連からの温室効果ガス排出は、世界全体でみれば排出量全体の2割を占める。欧州には、気候変動と住宅政策、まちづくりを一体化して進めている自治体も多い。住宅の省エネは、化石燃料の使用と光熱費を減らすだけでなく、健康にもいいという「一石三鳥」の効果がある。公営住宅では省エネ化が進めやすく、福祉政策にもなる上に、雇用拡大や地域経済振興などの効果も期待できる。若者が入居しやすくなれば、地域の若返りにも役立つ。住宅政策の専門家によると、日本の公営住宅の性能は一般的に、平均的な住宅より低い。「公的支援によって安く提供する住宅には、高い性能を施すべきではない」とする考えが根強いからという。日本でも、東京都が25年度から、新築建物に太陽光パネルの設置を原則として義務づけることになった。都内では、温室効果ガス排出量は建物関連からが約7割を占める。50年までに住宅の7割が建て替えられるとみられ、義務化の意味は大きい。国土交通省と経済産業省、環境省が住宅の省エネリフォームを支援する制度で連携を始めるなど、ようやく住宅性能の向上に本腰を入れつつある。建物の省エネ基準の強化や太陽光パネルの設置義務化、それに伴う費用の補助など総合的な対策が急務だ。 *6-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/981099 (佐賀新聞 2023.1.25) 脱炭素のまちに熱視線 全国から視察相次ぐ 庁舎の電力自給、年間361トンのCO2削減、地域のチカラ移動編集局 小城編 小城市は「ゼロカーボンシティ」を宣言し、2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにすることを目指している。市本庁舎の電力を自給する太陽光発電設備は、電気料金の高騰の中で全国の自治体から熱い視線が注がれる。新年度から市民や事業所に向けた啓発に本格的に乗り出す。自治体庁舎の非常用電源に関する国の指針を受け、太陽光設備の導入に踏み切った。職員と来庁者用の駐車場の屋根に1200枚、総出力500キロワットの太陽光パネルを載せて発電し、庁舎の全電力をまかなう。余った電力は大型蓄電池にため、不測の事態に備える。国の補助などを受けても約2億4千万円の自己負担が生じたが、成果として年間361トンのCO2排出量の削減につながった。新電力と契約していた年間の電気料金は約1千万円からゼロになった。電気料金の価格が上昇する中で、自治体や議会、民間企業など全国から約40件の視察があった。市の担当者は「採算性や費用対効果に対する関心が高い。ただ、あくまでも防災面での活用が第一と説明している」と話す。市は脱炭素をさらに進める。電力会社から買う電力を非化石燃料に固定する「RE100」の事業に賛同し、市内の低圧受電の市管理施設264カ所で昨年12月からRE100の契約に切り替えた。年間約530トンのCO2削減を見込む。昨年11月に開いた市エコフェスタでは、地球温暖化防止対策をアピール。専門家を招いた無料省エネ診断を開催し、多くの事業所が診断に臨んだ。市は「啓発を進めながら、具体的な脱炭素の取り組みを進めていく」と話す。 *6-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD304AK0Q2A830C2000000/ (日経新聞論説 2022年9月6日) 「住宅」が社会保障になる日 低年金でも生活可能に 日本の社会保障制度には大きく6つのメニューがある。年金、医療、介護、障害者福祉、生活保護、そして子育て支援。だが欧州の主要国では7つあるのが普通だ。欧州にあって日本にないもの。それは「住宅」である。正確に言えば、日本にも住まいを確保するための公的支援はある。生活保護の一部である住宅扶助と、離職などで住まいに困った人向けの住居確保給付金の2つだ。だが、生活保護は厳しい資力調査を経なければ受給できない。住居確保給付金は求職活動中の人だけを対象とし、支援は最長9カ月で終わる。対象者は一部の困窮者に限定され、広く一般の人が使える制度にはなっていない。欧州の多くの国では公的な住宅手当があり、所得・世帯要件を満たせば必ず得られる権利とされている。日本の児童手当のようなイメージだ。フランスでは約2割の人が住宅手当を受給している。公営住宅も日本は見劣りしている。住宅政策の柱と位置づける欧州に比べて供給量が限られ、低所得者が希望しても入居できないことも多い。特に1980年代以降、日本の住宅政策は景気対策としての色合いを強めた。持ち家建設を中心に推進され、公営住宅の比率は低下してきた。高度成長期であれば大きな問題はなかった。多くの会社員が正社員として終身雇用で守られ、福利厚生で企業独自の住宅手当を支給された。だが経済の先行きが見えない時代に入り、不安定な非正規雇用が増加。正社員の住宅手当も、仕事と報酬の関係を明確にするジョブ型雇用の導入で廃止される動きが出ている。もっと大きなうねりは、高齢化と世帯の変化だ。就職氷河期世代で不安定な雇用が続き、結婚もしていない人が、2030年には60歳に到達し始める。家族の支えがなく低年金の単身高齢者が急増すれば、住まいの確保が社会問題になりかねない。ひとり親世帯の割合も9%と1980年の5.7%から上昇した。こうした社会の変化を背景に、17年には住宅セーフティネット法が施行された。高齢者、子育て世帯、障害者らの入居を拒否しないことを条件に、賃貸住宅の家主に耐震化やバリアフリー化の改修費用を補助する制度だ。だがこれで救われる人は限られる。65歳以上の人口が最多になる「40年問題」に備え、住宅政策の刷新を求める有識者は少なくない。「日本の社会保障で整備が遅れてきたのが住まいの支援だ」「より普遍的な家賃補助ないし住宅手当の仕組みに発展させることが重要だ」。今年3月の政府の全世代型社会保障構築会議でもこんな意見が相次いだ。全国で800万戸を超す空き家を活用して高齢者の見守り機能がある公営住宅を確保し、月数万円の住宅手当と2本柱とする。生活保護世帯だけでなく、賃貸住宅に住む低所得世帯や、親元から離れて暮らす大学生らも給付対象とし、社会保障制度の7つめのメニューとして確立する。専門家らの意見からはこんな制度の理想像が浮かぶ。とはいえ実現するには巨額の財源が要るため、政府内の議論は低調だ。仮に生活保護から住宅扶助を切り離し、財源とともに新制度に統合したとしても、兆円単位の追加財源が必要になるはずだ。ウルトラCになりうるのは住宅ローン減税の廃止だ。数千億円規模の財源になる。家賃負担に苦しむ人が増えるのに、持ち家取得者に巨額の支援を続けるのはバランスを欠くとの声もある。ただし各方面の猛反発は必至だ。住宅業界はもちろん、これから家を持とうとしている若い世代も「なぜ自分たちは減税の恩恵を受けられないのか」と憤るだろう。世代間の対立を喚起しかねない。「住まい」を社会保障制度にすると、その影響は広範囲に及ぶ。低年金でも何とか生活できる人が増えるかもしれない。介護のあり方にも一石を投じる。景気や家賃相場への影響も慎重に見極める必要があるだろう。簡単に結論を出せるテーマではない。だからこそ、政府は早く本格的な議論を始めるべきだ。改革の難しさを考えると、残された時間はあまりない。 <政府の誤った対応> PS(2023.1.28追加): 政府は、*7-1のように、今頃になってEVを数分で充電できる高出力充電器の普及に乗り出すそうだが、日本は充電インフラの乏しさがEV導入の壁となり、日産リーフの販売開始(2010年)から13年も経過した後で遅すぎ、最初にEVを開発した国でありながら「EV途上国」となって、十分な創業者利得を得られなかった。これではリスクをとって最初にやった人が損をするため、イノベーションによる経済成長など起こるわけがないのである。 また、EVは再エネ電力を使えば温暖化ガス排出抑制や大気汚染防止の効果が高いにもかかわらず、メディアも、「EVはエンジン音がしないから危ない」「発電に化石燃料を使っているからCO2削減にならない」等々、課題解決を行う方向ではなく、できない理由を並べたてて妨害することに専念していた。このような事例は、太陽光発電はじめ他の技術にも事欠かないため、こうなる原因を究明してなくさなければ、漫然と予算をばら撒いてもイノベーションを起こすことなどできずに、同じことが繰り返されるのだ。 しかし、*7-2-1のように、海藻や湿地が吸収するCO2が世界的に注目され始めており、政府は藻場の分布を調査して吸収量を算定して温室効果ガス排出量を2030年度で2013年度比46%削減する目標に反映させたいそうだ。そして、藻場の生育状況を映した衛星写真画像が不鮮明だったため、専用ドローンで海面に近づいて藻場の生育状況を調査するそうだが、それなら海中ドローンも使って立体画像を撮影し、海水温・透明度・光の強さ・海藻の生育状況・そこで生育する魚介類の量などを自動的に記録した方が、今後のデータの使い道が多いと思う。 このような中、*7-2-2のように、2022年度に唐津市鎮西町串浦の海士が減っていた藻場の再生に取り組んで藻場を11haまで取り戻した成果が評価され、「Jブルークレジット(藻場が吸収するCO2を企業に売買する認証制度)」が認証されたのは良かった。しかし、藻場の減少原因は海水温の上昇であり、その理由はCO2排出だけではなく原発温排水にもあるため、鎮西町では近くにある玄海原発の稼働開始後、串浦付近だけでなく離島でも海藻が減った。そして、東日本大震災後の原発停止期間中に、減った筈の海藻が復活した実績があるのである。そのため、人力で藻場復活の成果が出たのは、上昇した海水温に適応できた海藻を増やしたか、稼働している原発数が減ったためと思われるが、代替可能な発電方法があるのに「安定電源」「安価な電源」などと称して原発を推進し、水産業を落ち込ませて日本の食料自給率を低くしているのは、考えが足りないと言わざるを得ない。 なお、*7-3-1のように、近年の有明海は赤潮による貧酸素化により海苔が不作だった上、先日の寒気による暴風雨で海苔養殖場の支柱が折れ網も壊れて、養殖施設には保険がないため新しい設備投資も難しく、今後の海苔の供給減に繋がりそうだ。そこで、海苔養殖の適温を調べると、*7-3-2のように、12~23℃程度であるため、新のり養殖は北から始まり、九州有明地区等を除いて9月末までに全国でほぼ終わるのだそうだ。そして、他の地域は「陸上採苗」だが、有明海だけは「野外採苗(のり種のかき殻を海苔網に取り付け、海中でのり種を放出させてのり網に種付けする)」で、海水温が23℃以下になっていることが必要であるため、10月中旬から野外採苗を始めるのだそうだ。 話を有明海に限れば、支柱が貧弱すぎたため、しっかりしたものに変えることが必要だ。しかし、有明海は広い遠浅の海であるため、洋上風力発電の適地でもあり、支柱のいくつかを埋め込み式の洋上風力発電機にして土台をしっかり埋めて再エネ電力も同時に販売すればよいだろう。また、海苔の野外採苗はよいが、高い海水温でも育つ苗を選んでいく品種改良をすると同時に、赤潮による貧酸素化を防ぐために、下の段には牡蠣殻だけでなく牡蠣の稚貝も置いて養殖すればさらなる副収入が得られると思う。そのため、副収入で設備設置の借金も返せそうだが、自信がなければ洋上風力発電機部分を他の専門事業者に任せる方法も考えられ、どちらにしても国や地方自治体の協力と支援がなければできないだろう。 なお、宮城県沿岸の海苔漁家は、東日本大震災による大津波ですべてを失い、1漁家8,000万円~1億円以上の被害を出して現在は復興しているそうだが、ここに東電のフクイチ原発処理水が海洋放出されれば、またまた海流と場所によっては気を付けた方がよい場所が出るのである。 宗像市(ふるさと納税の使い道より) 有明海苔、色落ち被害と暴風被害 (図の説明:左図は、近年の磯焼けに歯止めをかけるための作業の様子、中央の図は、赤潮で色落ちした有明海苔、右図は、寒波による強風で支柱が倒れた有明海苔の養殖場。ちなみに、海苔は紅藻・緑藻・シアノバクテリア(藍藻)などを含む食用とする胞子で増える藻類だが、アマモは海中に生える種子植物である。コンブ(昆布)は、生物学上の分類がある前からある名前で、オクロ植物褐藻綱コンブ目コンブ科に属する数種の海藻の一般的名称とのことである) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230104&ng=DGKKZO67293670U3A100C2MM8000 (日経新聞 2023.1.4) EV急速充電器、規制緩和、設置容易に、年内めど 数分で長距離走行も 政府は小型の電気自動車(EV)を数分で充電できる高出力充電器の普及に乗り出す。出力が高い機器の設置や取り扱いに関して適用している規制を2023年をめどに大きく緩め、低い出力と同じ扱いにして利用しやすくする。日本は充電インフラの乏しさがEV導入の壁となっている。自動車産業の競争力を高めるためにも、国内の環境整備を進める。日本は世界的に見て「EV途上国」の状況にある。調査会社マークラインズによると、11月の新車販売に占めるEVの比率は日本では2%にとどまる。中国は25%、ドイツは20%、韓国は9%と日本よりはるかに高い。日本でもEVは他のエコカーより税優遇が手厚く、購入補助もある。それでも消費者が購入をためらう大きな理由の一つが、街角の充電設備が少ないことだ。国際エネルギー機関(IEA)によると、日本の公共のEV充電器(総合・経済面きょうのことば)は21年で約2万9000基。日本より狭い韓国には10万7000基ある。IEAが高速と定義する22キロワット超で見ると日本は8000基で、1万5000基の韓国や47万基の中国に及ばない。家庭用では完全に充電するまでに数時間から10時間超かかってしまう。素早く充電できるインフラの整備を進めるため、政府は23年にも規制を緩和する。ポイントは出力が200キロワット超の充電器も一定の安全性は確保できると判断し、扱いを50キロワット超と同じにすることだ。日本では現在、20キロワット以下には特段の規制はなく、20キロワット超になると安全のための絶縁性の確保など一定の要件を満たす必要がある。50キロワット超はさらに建築物からの距離などで制約がかかる。200キロワット超の充電器は「変電設備」となり、高電圧の電流を変圧する設備との想定で厳しい規制がかかる。屋内に設ける場合は壁や天井を不燃材料で区画する必要があり、設備の形式によっては運営者など特定の人しか扱えない。規制を所管する消防庁が23年中の関係省令の改正を目指す。改正後は200キロワット超の充電器も急速充電設備となり、出力50キロワット超~200キロワットの充電器と同等の扱いで設置しやすくなる。代表的なEVメーカーであるテスラの「モデル3」は、同社が整備を進める出力250キロワットの急速充電器を使うと5分の充電で120キロの走行が可能だ。高出力の機器は小型車であれば数分でかなりの充電をできる。大型の電池を積むEVトラックやEVバスの普及にも欠かせない。現状の規制で200キロワット級の充電器を設置するには、数千万円の設置費や年数百万円の運営費がかかるとみられる。国内で急速充電器を整備する東京電力ホールディングス系のイーモビリティパワーは「規制緩和で設置や運営のコストが下がれば、普及しやすくなる」と歓迎する。日本政府は30年までにEV充電器を15万基とし、このうち3万基を急速充電とする目標を持つ。充電インフラは自動車の開発も左右する。現状のEVは電池やモーターが400ボルトの電圧に対応しているが、200キロワット超に対応するには800ボルトに応じた設計に変更する必要があるとされる。短時間で充電が終わる車種の開発は、商品の魅力向上につながる。EVは再生可能エネルギーを使えば温暖化ガスの排出を抑制する効果が高い。 *7-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/972253 (佐賀新聞 2023/1/6) 海藻のCO2吸収量を本格調査へ、政府、温暖化対策に反映 政府は、全国の沿岸で見られる海藻が吸収する二酸化炭素(CO2)の量について、ドローンを用いた本格調査に乗り出す。海藻が吸収する炭素は「ブルーカーボン」と呼ばれ、新たなCO2削減対策として世界的に注目されている。藻場の分布を調査し、詳細な吸収量を算定した上で、2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する政府目標に反映させたい考えだ。政府は21年度に全国125の主要港湾で衛星写真による藻場の調査を実施したが、画像が不鮮明で十分把握できなかった。そこで22年度から専用ドローンの開発に着手。海面に近づいて藻場の生育状況を詳しく調査できるほか、レーザーを照射すればコンクリートブロックに隠れた海藻も分かるといい、25年度以降の調査開始を目指す。算定方法に関しては、藻場をデータベース化して継続的にデータ更新することや、算定方法に対する科学的裏付けが課題となっており、環境省や国土交通省などが検討を急いでいる。海外では米国とオーストラリアがCO2吸収量算定の仕組みを確立させている。港湾空港技術研究所(神奈川県)などが19年に出した試算によると、全国の藻場のCO2吸収量は年間132万~404万トン。藻場の保全に取り組めば30年には最大518万トンまで増えるという。森林の吸収量は5166万トンだが、今後樹齢が進むと30年には2780万トンまで減るとされ、政府関係者は「藻場の吸収量を増やすことは政府の目標達成にとって重要だ」と指摘する。 *7-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/981061 (佐賀新聞 2023/1/26) 藻場のCO2吸収量、企業に販売 唐津市串浦、脱炭素事業で認証 地元海士らの環境再生評価 海の藻場などが吸収する大気中の二酸化炭素を企業と売買する認証制度「Jブルークレジット」で2022年度、唐津市鎮西町串浦のプロジェクトが佐賀県で初めて認証された。地元の海士(あま)たちが減っていた藻場の再生に長年取り組み、11ヘクタールまで取り戻した成果が評価された。認証に取り組む組合は、同プロジェクトの二酸化炭素吸収量を購入する法人を、27日まで募っている。海中の海藻や湿地が吸収する二酸化炭素「ブルーカーボン」は、脱炭素化の取り組みとして国際的に注目されている。民間のジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)は20年度からクレジット認証を進め、本年度は全国の18事業を選定した。企業は吸収量を購入することで企業活動の発生量を打ち消し、プロジェクト側は売った額を活動資金に充て、さらなる環境改善につなげる仕組み。プロジェクトを行うのは、地元漁師らでつくる任意団体「串浦の藻場を未来へ繋げる会」(11人)。代表で海士の袈裟丸彰蔵さん(45)は、ボランティアなどで20年ほど食害生物の駆除に取り組み、22年5月に団体を立ち上げた。串浦の地先にはガラモやアカモクなどの海藻が茂り、年間に二酸化炭素41・1トンを吸収すると組合から認証された。同組合の桑江朝比呂理事長は「人力で藻場復活の成果が出ているケースは珍しい。地元の素潜り漁師が少ない中で、本気で地道に取り組まれた成果」と評価した。藻場再生は、魚やウニなどの生育環境にもつながる。袈裟丸さんは「自然環境を変える難しさは長年感じてきたが、普段の海の手入れが大切だと思っている。漁師が減って水産業が落ち込む中で、次世代が希望を持てるように活動を続けたい」と話した。吸収量は法人だけが購入でき、1口11万円(税込み)。口数の上限はない。締め切りは27日午後5時まで。問い合わせや申し込みは同組合のメール、jbcredit@jbe.blueeconomy.jp。 *7-3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/6563243fc0c7c6a75874675b6b626571783a2607 (Yahoo 2022/1/27) 「助けてくださいよ…」不作ノリ養殖場に“追い打ち寒波″壊滅状態に 業者からは「仕入れができない」と悲鳴が上がっています。不作に悩む海苔(のり)養殖場を最強寒波が直撃。暴風雨や波の影響で柱が倒れ、網が絡まる被害を受けました。日本有数の海苔の産地・有明海を進む船。寒気の影響で被害を受けたという現場の視察に向かいます。熊本県漁連関係者:「見てごらん…網がないじゃないですか…」。そこにあったのは、見るも無残な現実でした。海苔の養殖場は、網を支える支柱は折れ曲がり、網も壊れている状態。漁連関係者から出るのは落胆の声ばかり。熊本県漁連関係者:「きのう、おとといぐらいから、ここは出荷する予定だったんですよ。たった一晩です、一晩でやられました」「もう再起不能ですね。修理もできないし…」。今回の災害は、日本の海苔の供給に今後、大きく影響する可能性があります。日本有数の海苔の産地・有明海の養殖場が今、危機を迎えています。寒気による暴風雨で一夜にして、養殖場が無残に壊れた状態に。熊本県漁連関係者:「今まで経験したことのない暴風雨ですね。この冬場に初めてですね。『生産』については、保険があるんです。こういう『施設関係』については全然、保険はないんです。だから困っているんですよ。だから、来年また同じように仕事ができるか?というのは、なかなか大変ですね」。新しい養殖場を作るには、設備投資に莫大な費用がかかることになります。熊本県漁連関係者:「もう収穫はできないし、施設はバラバラだし…。なんとか助けて下さいよ…」。全国的な海苔の不作が続くなかで、収穫シーズンに有明海を襲った悲劇。小売店も不安を抱えています。横浜市にある明治27年創業の海苔屋さん。今、歴史的な品不足に苦労しているそうです。商品のパッケージには、タレントの出川哲朗さんの実家の海苔店です。蔦金商店・出川雄一郎社長:「今季は本当に大変。海苔の凶作。産地によっては2割から3割、良くても5割とれているかな?という状況。それに伴って、値段ばっかりドンドン跳ね上がって、本当に今、大変なことになっています」。蔦金では海苔の乾燥から加工、商品化まで行っています。原料の海苔は、まず入札で仕入れるわけですが。蔦金商店・出川雄一郎社長:「わずかながらの海苔を集中して買い付けが行われる。ほとんど大手さんに買い付けられてしまって、正直に言って、我々みたいな所は買うこともできない、買えないっていう状況です」。起こっているのは入札での海苔の争奪戦。この先の不安を隠せません。蔦金商店・出川雄一郎社長:「今年がね、この先、有明をはじめ、とんでもないことになっているので、果たして『うまく仕入れができるかな?』というのが、かなり心配です」 *7-3-2:https://nori.or.jp/information/report/report_002-001.html (海苔養殖振興会 平成23年10月20日) 産地を追って no.2 新のり養殖始まる 1 新のり養殖は北方から 全国の産地で新のり養殖の季節を迎えました。のりが育ち易い海水温度は、23℃から12℃程度と言われています。のり種をのり網に付着させる作業を採苗(さいびょう)と言います。その作業が野外採苗主体の九州有明地区等を除き、9月末までに全国でほぼ終わったところです。その作業方法は前回紹介しましたが、幅約2メートル、直径約2~3メートルの大きな鉄輪(通称:水車と言います)にのり網(約1.8メートル、長さ18メートル)を巻きつけ、水槽(横約3メートル、長さ約4メートル、深さ約50センチ)の底にのりの種(糸状体)が被いつくして黒くなったかき殻を敷き詰め、海水を入れてのり種が海水中に飛び出したところを、のり網に付着させてのり養殖の種網を作る「陸上採苗」作業です。東京湾、伊勢湾、瀬戸内海地区でもほとんど「陸上採苗」が行われていますが、「陸上採苗」でのり種を付着させたのり網を一時冷蔵庫に入れて保管しておき、海水温度がのり養殖に適した温度(23℃以下)になる10月上旬過ぎ頃からのり網を海上に張り込む作業が行われます。そのため、海水温度の下がり具合が早い東日本地区が先に始まります。もう一つの採苗方法である、海中に直接のり網を張り込み、のり種のかき殻を海苔網に取り付けて、海中でのり種を放出させてのり網に種付けをする「野外採苗」も海水温度が23℃以下になっていることが必要ですから、ほとんどを野外採苗で種網作りをしている九州の主力産地の有明海では、10月中旬から野外採苗を始めています。また、採苗の時期は気象、海況の地域差によって多少異なりますが、10月下旬までには全国ののり産地の海域にはのり網が広がり、その様子は冬の風物詩としてニュースになることがあります。ところで、今年度の生産状況を見ますと、いままでとは違ったことが気になります。それは、東日本大震災により壊滅的な被害を受けた、宮城県の今漁期(平成23年10月から平成24年4月頃まで)の生産状態です。 2 “めげない”宮城県のり漁家 今年3月11日に東北地区等を襲った大地震と大津波は、宮城県沿岸ののり漁家に未曾有の被害を与えました。宮城県は、全国のり生産県の第5位を占め、特にコンビニエンス・ストアで販売されているおにぎりに使われているのり質に適した産地として5~6年前から注目され始めていた産地だけに、今後の復興が注目されています。私は、被災から6ヵ月目を迎えた9月1日から3日に掛けて、駆け足ではありましたが、被災地の漁家の方々、また、産地ののり問屋の方々にお会いして来ました。被災された方々の厳しい現実を拝聴し、被災現状を見た時に、地震の大きさと共に、津波の力が想像をはるかに超える強さであることを見せ付けられました。その実状を撮影していますが、それをご覧頂きながら、今後の宮城県のり産業の復興をどのように支援すれば良いのかを考えてみたいと思います。平成23年3月11日は宮城県漁協の第14回のり入札会が、県漁協塩釜総合支所で開かれた日です。入札会が終わったのが午後1時ごろでした。当日午後2時11分頃、私は塩釜総合支所次長に電話を掛け入札の結果を取材し「宮城もようやく生産状態が良くなり、これからが生産の追い込みだ!」と言う声を聞いて、電話を切った直後の出来事でした。遅くなった昼食を食べながらテレビを点けたところ、宮城県に大津波が押し寄せている場面が映し出され、慌てて受話器を取り上げ、つい今しがた話を聞いた塩釜総合支所に電話を掛けたのですが、すでに通話出来ない状態になっていました。 3 その時、のり産地でどのような事が起きていたのか! その時、のり産地でどのような事が起きていたのか! その現状が下の写真(写真1)です。およそ20トンもあるのり製造機械が潰され、鉄くずのようになっています。津波の力の恐ろしさにア然とするばかりです。3月11日午後2時過ぎと言えば、「これまで海水中ののりに必要な栄養である窒素などの不足で品質が今ひとつ良くなかったが、ようやく色がよくなり、品質の良いのりの生産状態が良くなってきたから、これから4月まで生産が進むぞ!」と気合が高まりのり製造に力が入っていた時期でもありました。それを象徴する災害現場の様子が残っています(写真2)。のりを製造中の大型機械(のり製造機械)が、津波に押し流されて潰れ、その機械の中の製造中ののりが無残に放り出されています。この日に製造されていたのりは、次の入札日3月18日に出品されるものだったのでしょう。800万円から1,000万円以上もするのり製造機械だけでなく、その機械の中で製造されていた1万5千枚相当ののりも失われてしまいました。その他に、のり摘み船、海上に張込んでいたのり網、のり製造に必要なのり原藻洗い機など付属機械類などを含むのり製造工場自体の流出など、1漁家あたり総額8,000万円から1億円以上の被害額になるようです。今後これをどのようにして取り戻すことが出来るのか、考えただけで眠れなくなりそうです。被害を受けたあるのり漁家は「ここまで完璧にやられると、泣きたくなるのを通り越して、笑ってしまうより他にないべ・・・」と話してくれました。(以下略) <伝統工芸における新しい付加価値> PS(2023.1.29追加):*8-1-1のように、日本にも五月のぼりや大漁旗などの極彩色の染め物があり、伝統文様を組み合わせたり、身近な風景をモチーフにしたりして、芸術の域に達するような作品もある。また、8-1-2のような絹織物の「銘仙」もあり、裏表なく鮮やかな模様を出せるため、それを活かして現在的な製品を作ることも可能だ。そのため、下の図のように、美術館や博物館に収められているよいデザインを絹のスカーフやカップなどに映すと、新しくて面白い付加価値を持った製品ができる。 また、*8-2-2のように、ホンダの人型ロボットASIMOは残念ながらリタイアしてしまったが、機械丸出しの男性好みのロボットではなく、*8-2-1の岩槻のような、人形作りで一流の産業と組んでロボットを発展させてはどうか?この場合は、人形が昔ながらの手作りだから価値があるわけではなく、人間の特徴を捉えることに長けた産業と組むことによって、人間にとって違和感がなく、傍にいて楽しいロボットが作れると思うからである。 しかし、何をするにも興味を持ってそれをやる人材が必要なので、私は、*8-3のように、外国出身の希望する労働者に技術を教え、人間として適切な待遇を与えて、日本で働いてもらえばよいと思う。特に、被服・人形作りなどは、日本女性が最初に開拓した分野であるとおり、教育で差別された女性であっても熟練できる分野だ。従って、アフガニスタンはじめアフリカなどのイスラム圏の女性でも素晴らしいものを作ることができるし、色彩や文様の文化が混合すれば、むしろ新しくて魅力的なものができると思われるのだ。 大英博物館のロゼッタ石とそのスカーフ 有田焼で作ったピカソの絵 源氏物語絵巻の一場面 (図の説明:1番左は大英博物館所蔵のロゼッタストーンで、左から2番目は大英博物館の土産物店に売っているロゼッタストーン柄で絹シフォンのスカーフだ。私は、そのアイデアが気に入り、記念になるし、使い勝手もよいので、これの紺色を買って使っている。右から2番目は有田焼で作ったピカソの絵で、これも気に入ったため、2種類も買って部屋に飾っている。1番右は源氏物語絵巻の一場面だが、日本でも絹のスカーフやカップに美術館・博物館の展示品を映し、空港、その美術館・博物館の土産物店、デパート等で売ると新しい付加価値が生まれるだろう) *8-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/974782 (佐賀新聞 2023/1/12) 極彩色の染め物12点 「城島旗染工」の城島守洋さん(小城市)、東京・銀座で個展 「城島旗染工」の4代目・城島守洋さん(68)=小城市=の個展が、東京・銀座のノエビア銀座ギャラリーで開かれている。伝統文様を組み合わせた極彩色の染め物が、見る人を楽しませている。3月17日まで。「和の染―現代に息づく伝統文様」と題し、新作12点を展示している。有明海や虹の松原など身近な風景をモチーフにした。「玄界灘」と題した作品は、波の図柄と家紋で使われる雷紋を組み合わせた。緑、黄、赤などの強い色彩と伝統文様が力強い印象を与える。五月のぼりや大漁旗など伝統的な染め物を手がけてきた技法をベースにしながら、伝統文様を大胆に切り取り、組み合わせることで独自の色彩感覚を表現している。2018年には、ニューヨークで個展を開いた。城島さんは「これからの方向性という意味で手応えを感じている。このような染め物があるのを知ってもらい、日常の生活空間の中に取り入れてほしい」と話す。 *8-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67346140V00C23A1L60000/ (日経新聞 2023年1月6日) 絹織物「銘仙」の魅力発信 大正時代から昭和にかけて北関東で生産され、女性の普段着として親しまれた絹織物「銘仙」。これを若い世代向けによみがえらせているのが、アパレルブランドのAy(アイ、前橋市)だ。慶応義塾大学に在学しながら会社を立ち上げた社長の村上采さん(24)は今春、大学を卒業し、地元の群馬県で事業を本格化させる。ブランドを立ち上げた当初は、大学の活動で訪れたコンゴ民主共和国の衣服を扱っていた。しかし2020年に入ると、新型コロナウイルス禍で渡航が難しくなってしまう。大学の講義もオンラインになり、生まれ育った群馬県伊勢崎市に一時的に戻った。同市はかつての銘仙の一大産地。「郷里の文化を継承したい」と、年代物の銘仙を仕入れ、現在的な衣料品によみがえらせる「アップサイクル」という手法で事業を展開することにした。20年9月から大学を休学してビジネスに取り組んできたが、22年に復学。今年3月にいよいよ大学を卒業する。前橋市に拠点を構えて事業に専念する予定だ。銘仙は今ではほとんど生産されておらず、使う生地はいずれなくなってしまう。村上さんの目標は銘仙の要素を備えた織物を工業的に量産し、次世代に残していくこと。「北欧ブランド『マリメッコ』のようなテキスタイルブランドへと会社を成長させ、銘仙の魅力を世界に発信したい」と意気込む。 *むらかみ・あや 1998年、群馬県伊勢崎市生まれ。中学校の授業で地元の銘仙について学んだ。慶応義塾大学・総合政策学部に進学後の2019年にアパレルブランド「Ay」を立ち上げ、20年に法人化した。 *8-2-1:https://mainichi.jp/articles/20221015/ddl/k11/040/070000c (毎日新聞 2022/10/15) 岩槻の人形作り、後世に 伝統技法に焦点 さいたまで特別展 /埼玉 日本有数の人形産地として知られる岩槻の人形作りを紹介する特別展「人形作り いろはの“い”~後世に伝えたい桐塑(とうそ)の技~」が、さいたま市岩槻人形博物館(さいたま市岩槻区本町6)で開催されている。岩槻で受け継がれてきた人形の製作技法に、同館として初めて焦点を当てた展覧会。12月4日まで。桐塑とは、桐の木片を砕いた粉と生麩糊(しょうふのり)を練って粘土状にした素材。桐塑を型で抜いて作った人形の頭部は「桐塑頭(がしら)」と呼ばれ、ほとんどの工程が手作業で施される。頭、手足、胴、小道具、組み立て――と多段階に及ぶ人形製作の工程のうち、特別展は桐塑頭を特集。製作工程と、凹凸のない桐塑生地を自在に操り面相を生み出す緻密な職人技を、実際の道具や素材、模型などで再現した。1~2畳ほどの狭い作業空間で、特殊な道具は使わず小刀や刷毛(はけ)などの技術のみで人形を作った江戸時代からの伝統技法に迫る。人形博物館によると、岩槻には関東大震災(1923年)以降、東京の人形師が疎開して技術が移入されたことなどで人形作りが隆盛したと考えられている。岩槻人形は2007年に経済産業省の「伝統工芸品」に指定され、熟練の職人は伝統工芸士に認定される。一方、生活様式の変化や工程の合理化で、桐塑頭の製造数は減少し、人形の頭部は石膏(せっこう)による製作が主流となった。田中裕子館長は「(桐塑生地や材料などに)実際に手で触れて体感できる展示もある。普段なかなか見られない人形製作の舞台裏に親しめるよう工夫した。見て楽しんでほしい」と話した。午前9時~午後5時、月曜休館。入館料は、一般400円、高校大学生と65歳以上200円、小中学生150円。期間中、特別展を記念して「武州岩槻町屋のれん会」が桐塑頭を模した和菓子を販売している。 *8-2-2:https://response.jp/article/2022/02/07/353971.html (Response 2022年2月7日) ホンダの人型ロボットASIMO、“定年延長”認められず退職へ[新聞ウォッチ] 北京冬季五輪のノルディックスキーのジャンプ男子個人ノーマルヒルで、小林陵侑選手が今大会で、日本勢の初めての金メダルを獲得。きょうの読売、朝日、毎日、産経が1面トップで報じるなど、各紙もスポーツ面などで北京五輪のニュースが目白押し。北京五輪でのアスリートの輝かしい健闘ぶりの話題はともかく、2月5日付けの読売朝刊が「さよならアシモ」というタイトルで、「ホンダの人型ロボット『ASIMO(アシモ)』が、3月末をめどに表舞台を退く見通しとなった」との残念なニュースを取り上げていた。記事によると、アシモは現在、東京・青山のホンダ本社と江東区の日本科学未来館でほぼ毎日パフォーマンスを行っているが、未来館では3月末に終了することが決まったという。ホンダ本社でも同時期に終える方向で調整しており、定期的な実演はなくなるとも伝えている。初代アシモは2000年の発表だったが、10年後の11年にはより人間らしい自然な動作で進化した現行モデルが登場。プロ顔負けでサッカーボールを蹴ったりジャンプをしたり、料理をトレイに載せ上手に運ぶ姿など、愛くるしいパフォーマンスが子供たちにも人気を集めていた。アシモは14年4月に当時のオバマ米大統領が訪日し、日本科学未来館を訪問した際に出迎えて、英語で「お会いできて光栄です」などと歓迎の意を表したほか、日本ばかりでなく、ニューヨーク証券取引所の鐘を鳴らすイベントなどにも招待されるなど、“海外出張”も数多く、地球規模で活躍したホンダを代表する “スーパー人気アイドル”でもあったようだ。読売によると「ホンダは、数年前にアシモの開発は終了しているが、今後も展示やグッズ販売などキャラクターとしては残す方向で検討している。ロボットの開発現場など舞台裏での活用も続ける」という。新年早々、自動運転などを視野に入れた電気自動車(EV)の本格参入を検討すると宣言したソニーは、中止していたロボット事業を復活しており、“戦後最大のベンチャー企業”などと言われていたホンダとソニーの経営方針を巡る意気込みの違いが読み取れる。 *8-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15540965.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2023年1月29日) (多民社会)技能実習、変革迫られる現場 人件費、日本人の1.5倍「即戦力」 業務用ミシンが勢いよく動くと、裁断された布が服に仕立てられ積み上がっていく。岐阜県羽島市の縫製会社ヴェルデュール。ミシンを踏む、ほぼ全員が技能実習生だ。ベトナム出身のデイン・リック・タックさん(39)は「最初は不安だったけど、ここに来られてよかった」と笑った。近藤知之社長(49)は「外国人実習生は、安価な単純労働者ではない」と話す。同社で働く実習生の賃金は岐阜県の最低賃金時給910円を上回り、長時間残業は認めない。宿舎は工場近くの、日本人も暮らすアパート。エアコンなど家電付きの2LDKに4人一組で暮らす。「適正な賃金を払い、宿舎費などを含めれば、人件費は日本人の1・5倍」。それでも、実習生を頼るのは「即戦力の彼女たちがいなければ仕事が回らないから」。求人しても日本人労働者は集まらない。 ■賃金不払い横行 岐阜は日本有数の縫製業が盛んな地域だが、1980年代半ばから中国など人件費の安い国との競争にさらされた。そこで利用されたのが、93年創設の技能実習制度だ。制度の目的は途上国への「技能移転」だが、悪用された。外国人を「研修生」として受け入れた前身の制度では最低賃金制度が適用されなかった。実習制度でも、賃金不払いなどが横行した。月200時間に迫る長時間残業や粗末な宿舎での過酷な生活……。各地で技能実習生への人権侵害がくり返された。米国務省からは、制度が「人身取引」と批判された。「岐阜の縫製業は、不正件数ばかりでなく、悪質な事案が多かった」。取り締まる岐阜労働基準監督署の監督官は話す。だが、近年、変化を感じるという。「いまも不正はあるが、法を守り、状況を変えようという経営者や監理団体が現れ、二極化している」。実は、デインさんも賃金不払いの被害者だ。最初の実習先だった愛媛県の縫製工場では給料が支払われなかった。支援団体とともに転籍の仲介をしたのが、近藤さんが加入する監理団体「MSI協同組合」だ。監理団体は、技能実習生の募集や受け入れ手続きなどを行い、受け入れ企業が適正かを監査し、指導する立場だ。しかし、不正の手口を企業に指南したり、企業の不正を黙認したりする監理団体も存在している。MSIは違う。加入できるのは、不正のないクリーンな企業だけ。事前に加入希望社の「身体検査」を徹底する。加入後の監査は、実習生に待遇や労働環境を直接聞き取る。企業に給与明細発行を義務づける。実習生を支援してきた労働組合出身者が監査する。 ■選ばれる土地へ 縫製会社2社も経営する井川貴裕代表理事(49)は「法律や決まりを守るのは当たり前。会社を、岐阜の縫製を存続させるには、実習生に選ばれる土地にしなければならない」。産業界では、原料調達から製造、販売までのサプライチェーン全体で人権侵害を防ぐ「人権デューデリジェンス」が求められるようになった。国際的潮流だ。政府の有識者会議は、多くの問題が指摘される技能実習制度の見直しにも言及。井川さんは言う。「実習制度には矛盾と問題があり、正すべきところはある。でも、このまま廃止されれば、日本から縫製業はなくなるでしょう」 ◇技能実習制度が創設されて拡大が進んだ30年間は、日本経済が長く低迷した「失われた30年」とも重なります。人権侵害など多くの問題を指摘されながら、低賃金の実習生に頼り、人手不足で依存を深めました。産業や地域はどう変わったのか。制度見直しに向けて政府が議論を始めた今、考えます。 <エネルギーへの無駄遣い> PS(2023.1.30追加):*9-1のように、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で「ESG(環境・社会・企業統治)」投資が注目を集め、中でも再エネからつくる「グリーン水素」が特に注目を集めたそうだ。ドイツのショルツ首相は「再エネを使って水素を製造する水電解ブームを起こすことが目標」と語り、インド最大級の再エネ会社会長も「あらゆる企業が水素に関連した新しい計画を持っている」と語られたそうだが、私も再エネからつくる「グリーン水素」が最も安価にでき、あらゆる面で効用が高いと思う。 このような中、*9-2-3のように、「燃料高の影響で原発稼働状況が家庭電気代を左右する」などと言って、なし崩し的に原発稼働を進めるのは大きな問題である。何故なら、再エネ発電やグリーン水素利用は東日本大震災によってフクイチ事故が起こった2011年から言っており、電力自由化も既に行った筈なのに、その効果が出ないようにするための論調・行動が多く、未だに輸入化石燃料による発電に依存しているのが根本的問題だからである。 さらに、*9-2-1のように、フクイチ事故の除染作業で集めた「除染土」を再利用するなど、よほど放射性物質が好きな人の考えることであろうが、とんでもないことだ。住民の合意形成も重要だが、それ以前に、環境省が除染土の再利用基準として8000ベクレル以下などとしているのは異常としか言いようがなく、環境省でさえこのような発想をしていることが、日本人に大腸癌が多く、その他の癌も増えた理由であり、決して高齢化だけが癌増加の原因ではない。その上、*9-2-2のように、フクイチ原発処理水の海洋放出開始は設備工事完了に伴って「今年春から夏ごろ」に始めるそうだが、分量が多いため濃度についてのみ国際機関による安全性検証を受けても、放出が終わるまではその辺の魚介類は食べられない。そのため、漁業者に500億円の基金を渡せば問題解決するわけではないだろう。 また、*9-3-1のように、「化石燃料による火力発電の脱炭素化を探るため」として、いつまでも移行期と称しCO2貯留やアンモニア混合を奨励するのは、コストが上がる割に効果が薄いため反対だ。にもかかわらず、高い電気料金と大手電力会社へのバラマキを国民に押し付けながら、電力自由化による電力会社の選択肢増加を邪魔している組織(経産省・大手電力会社)は、まさに独占禁止法違反であろう。 なお、JR西日本も、*9-3-2のように、ローカル線を走るディーゼル車両すべてでバイオ燃料を2030年頃に導入する方針だそうだが、バイオ燃料を作るのもコストが高い上に、今から7~8年後の2030年頃ならディーゼル車をグリーン水素で走る燃料電池電車か再エネ電力で走る電車に変える時間も十分にある。乗客は燃料代も含めて乗車賃を払っているのだから、寄り道して無駄遣いするのではなく、目的を明確にして最小コストで最大効果をあげるべきである。 *9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230127&ng=DGKKZO67924720W3A120C2EE9000 (日経新聞 2023.1.27) グリーン水素、注目の的に ダボス会議 投資、次の好機探る 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のニューズレター「モラル・マネー」は世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で注目を集めた「ESG(環境・社会・企業統治)」投資について取り上げた。主な内容は以下の通り。20日まで開かれたダボス会議では、脱炭素に役立つ様々な技術やイノベーションが紹介され、参加者の多くが「次の投資の好機」を探ろうと真剣に耳を傾けていた。会議のプログラムには、新しいタイプの生分解性プラスチックや環境負荷の少ない航空機のジェット燃料、核融合エネルギーなど、ありとあらゆる分野のグリーンテクノロジーを扱う討論会が並んだ。そのなかで特に注目を集めたのが、再生可能エネルギーからつくる「グリーン水素」だ。商用化はまだ初期段階であるにもかかわらず、ほかの技術を突き放した存在感を示した。例えば、ドイツのショルツ首相は「再生可能エネルギーを使って水素を製造する水電解ブームを起こすことが目標だ」と語った。肥料大手企業の幹部は欧州連合(EU)の政治家に対して、水素業界の支援をより迅速に行うことを求めた。インド最大級の再生可能エネルギー会社、リニューパワーのスマント・シンハ会長は「あらゆる企業が水素に関連した新しい計画を持っている」とモラル・マネーに語った。シンハ氏は「エネルギー企業がどのようにグリーン水素を生産しようかと考えているだけでなく、利用する側の企業もどのように調達しようか策を練っている」と説明した。ダボス会議の現地でグリーン水素以外に目立ったのは、米国製の商品を優遇する内容を含んだ米国の歳出・歳入法(通称インフレ抑制法)への不満の声と欧州政府に対応を求める企業幹部の意見だ。輸送や販売、サプライチェーン(供給網)などで発生する間接的な温暖化ガス排出「スコープ3」を正確に計測し、公表することの難しさに直面した企業の不満も関心を集めた。11月に産油国アラブ首長国連邦(UAE)で開催される第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)も話題になった。 *9-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/224939 (東京新聞 2023年1月13日) 原発事故の除染土再利用は「人ごとじゃない」 東電と意外な縁のある新宿の住民らが立ち上がった 東京電力福島第一原発事故後の除染作業で集めた汚染土、いわゆる「除染土」を首都圏で再利用する実証事業が公表されてから1カ月。予定地の一つ、新宿御苑(東京都新宿区)近くで生活を営む人らが腰を上げ、再利用に異を唱える団体を設けた。東電と意外な縁がある新宿。地元の人びとは何を思うか。ほかの地域は人ごとで済ませていいのか。改めて探ってみた。 ◆区民の合意形成図っていない 「地元住民の多くが知らないうちに、話が進められようとしている」。こう憤るのは、文筆家の平井玄さん(70)。実証事業に関する説明が足りないとして12日、新宿区に申し入れをした「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」の世話人だ。環境省は先月9日、新宿御苑を候補地にした実証事業を発表。一般入園者が通常入らない事務所棟裏側の花壇を使い、除染土に覆土して植物を植えるという。21日には御苑に面した新宿1、2丁目の住民を対象に説明会を実施。だが参加者はわずか28人。1丁目に住む平井さんも開催に気づかず、報道で知った。「区民の合意形成を図っているとはとても言えない」。平井さんは危機感を募らせ、28日に除染土問題を考える勉強会を開催。今月7日には区民有志らと反対する会を設立した。 ◆大学教授や弁護士、演劇人、ゴールデン街の飲食店主も 12日に区役所を訪れた際には、区民に実証事業を周知し、安全が保証されない限り除染土の持ち込みを中止するよう、区幹部に申し入れ書を提出した。同行した約20人の顔触れは多彩で、地元住民のみならず、大学教授や弁護士、演劇人、御苑近くにあるゴールデン街の飲食店主も。「除染土の再利用は法律できちんと決まっていない」「福島の負担軽減どころか、汚染の拡散につながるのでは」と疑問を呈し、「区は主体性を持ち、環境省に安全性について問いただしてほしい」と訴えた。新宿は歌舞伎町など歓楽街の印象が強いが、新宿御苑周辺にはマンションも多く、3世代にわたって暮らしてきた人もいるという。平井さんも小学生の頃には新宿御苑でよく遊び、今も3日に1度は散歩する。「幼稚園児も多く訪れ、多くの人が行き交う遊歩道もある。そんな園内でなぜ実証事業をやろうとするのか」 ◆歴代の東電幹部輩出した都立新宿高校 東電と浅からぬ縁があるのも新宿の特徴だ。 御苑そばの都立新宿高校の卒業生からは、歴代の東電幹部も輩出。卒業生でつくる「朝陽同窓会」によると、福島原発事故当時は会長だった勝俣恒久氏、事故後に社長を務めた広瀬直己氏らも名を連ねる。さらに御苑近くの信濃町には2014年2月まで東京電力病院もあった。「母校の近くに(除染土を)持ってこようとしていることについて勝俣氏らはどう思っているのか、問いたい」。何より際立つのが、環境省の前のめりぶりだ。新宿の説明会で紹介された動画「福島、その先の環境へ。」からもうかがえる。除染土を「復興を続ける福島の地に、今も残された課題」と説明。除染土を詰めたフレコンバックが並ぶ福島県内の仮置き場の映像を流しつつ、「果たしてこれは、福島だけの問題でしょうか?」と問いかける。除染土を福島県外で受け入れるため実証事業が必要と言いたいようだが、住民の疑問に真剣に応えようとしているかは心もとない。説明会の資料に記されたコールセンターの受け付けは平日のみで「いただいた『ご意見』については、今後の検討の参考とさせていただきます」と素っ気ない。 ◆「国の言い分を新宿区もうのみに」 平井さんは、国の姿勢が住民を置き去りにしているように見えると言う。「(除染土は)科学的に安全とは言い切れないのに、安全とする国の言い分を、新宿区もうのみにしている」と指摘する。反対する会は24日に発足集会を開くなどし、今後も広く問題を訴えていく。実証事業は現在、新宿区と埼玉県所沢市での実施が公表され、茨城県つくば市でも取り沙汰されるが、除染土の後始末はこれらの地域に限った話ではない。環境省によると、福島県内の除染土は、第一原発近くの中間貯蔵施設に集めた後、2045年までに県外へ運んで最終処分する。集めた除染土は昨年末時点で約1338万立方メートル。最終処分する量を減らし、県外に搬出しやすくするために再利用を唱える。 ◆知らぬ間に除染土が身近に… 問題は、再利用する除染土の放射性濃度だ。農林水産省によると、原発事故前の約50年間、全国の農地の放射性濃度は平均で1キログラム当たり約20ベクレル。一方、環境省が除染土の再利用基準として示すのは同8000ベクレル以下で、およそ400倍だ。廃炉にした原発から出る資材の再利用基準の同100ベクレル以下と比べても80倍と緩い。東京経済大の礒野弥生名誉教授(環境法)は「この基準だと相当な量が再利用される。それに、放射性物質濃度の低い土を混ぜれば、基準値まで薄められる」と危ぶむ。再利用に回る量が増えれば、再利用の対象地域も多くなりうる。「知らぬ間に除染土が身近に」ともなりかねない。厄介な問題は他にもある。福島第一原発からは放射性物質が広範に放出された結果、東北や首都圏で広く除染が実施された。除染土は福島県以外でも岩手や茨城、群馬、千葉など7県の計約2万9000カ所で保管されている。環境省は、袋や容器に入れて密閉し、防水シートをかぶせて遮水したり、盛り土で覆ったりなどの対策を促している。しかし保管後の対応は福島県とそれ以外で異なる。政府が11年11月に閣議決定した基本方針では、汚染土などが「相当量発生している都道府県」では国の責任で中間貯蔵施設を確保すると定めた。該当するのは福島県で、それ以外は現地処理となる。 ◆再利用ありきで実証事業に乗り出す環境省 しかし除染土を抱える福島県外の自治体は複雑だ。学校など44カ所で保管している宮城県丸森町は「国と東電の責任で町外に運び出して処理を」と環境省にかけ合ってきた。町総務課の担当者は「町内には『ごみを捨てた人が片付けず、捨てられた場所の人が処分するのはおかしい』という声もある。国は町外搬出に応じていないが、法改正してでも町外でと国に求めている」と語る。人ごとで済ませられない除染土の後始末。ただ、後始末の方法は根拠が心もとなかったり、不透明なところがあったりする。福島県内の除染土の再利用、福島県外の除染土の現地処理は、時の内閣が閣議決定した方針にすぎない。合意形成が十分なのかという問題をはらんでいる。福島県内の除染土の最終処分に関しては、「現在、有識者会議で協議中」(同省担当者)という。こんな状況なのに、再利用ありきで実証事業に乗りだしているのが環境省だ。ジャーナリストの政野淳子氏は「再利用は法的根拠が薄く、ごり押しはおかしい」と批判した上、「実証事業は既成事実を積み上げるための試みだ。実際に道路工事などで再利用するなら、防護策の検証も必要になる」と指摘する。前出の礒野氏も「福島の事故対応は、今後の土台になる。そもそも再利用をしていいのか、するならどう進めるか、丁寧な議論を重ねるべきだ」と訴える。 ◆デスクメモ 東電の原発による放射能汚染。後始末を担うべきは東電のはずだが、各地に汚染土の受け入れを迫る構図になっている。自然災害のように「誰かのせいで起きたわけじゃない」「復興に向けてみんなで協力を」と言わんばかりに。違和感を抱かせる前提部分。ここから問い直すべきだ。 *9-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/225016 (東京新聞 2023年1月13日) 政府、海洋放出「春から夏ごろ」 原発処理水で関係閣僚会議 政府は13日、東京電力福島第1原発の処理水処分に関する関係閣僚会議を首相官邸で開いた。海洋放出の開始は、設備工事の完了や原子力規制委員会による工事後の検査を経て「今年春から夏ごろ」との見込みを確認した上で、政府の行動計画を改定し、新たに設けた500億円の基金で、放出の影響を受ける全国の漁業者の支援に取り組むことを盛り込んだ。計画には、風評被害が発生した場合に東電が支払う賠償額の算定方法の具体化を進めることや、海洋放出の必要性について国内外への情報発信を拡充することも盛り込んだ。放出前には、国際機関による安全性の検証を受けたことを周知するとした。 *9-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230128&ng=DGKKZO67988190X20C23A1EA2000 (日経新聞 2023.1.28) 家庭電気代、広がる地域差 東電値上げ、関西より7割高 原発稼働状況が左右 大手電力会社の家庭向け電気料金で地域差が拡大する。東京電力ホールディングスなど7社は26日までに3~4割程度の値上げを経済産業省に申請した。申請通りになれば政府による負担軽減策の効果を打ち消し家計の負担は増す。関西電力などは現状、値上げをしない方針だ。燃料高の影響が大きい火力発電への依存度で判断が分かれる。東電の値上げで今夏には首都圏の電気代は関西より7割も高くなる。各社が値上げを申請したのは一般家庭の過半が契約する「規制料金」。各社が任意に料金設定できる自由料金と異なり、値上げには経産省の審議会での審査が必要となる。26日に北海道電力が平均で約3割の値上げを経産省に申請し、値上げの意向を示していた7社全てが申請を終えた。今後は各社がそれぞれ妥当性などを審査され、最終的な値上げ幅や時期が決まる。東電は6月の値上げを目指しており、家庭向け契約全体の3分の2程度にあたる約1000万世帯が対象となる。申請内容をもとに足元の燃料価格から値上げ後の料金を計算すると、代表的なプラン「従量電灯B」の料金は標準家庭で1万1737円と29%上がる。料金を据え置く関電(7497円)よりも約6割高い水準だ。電気代高騰を受けて政府が2月に始める負担軽減策では、1キロワット時あたり7円が割り引かれる。電力会社によってベースの料金に差はあるが、補助額は全国一律だ。割引分を組み入れると、6月の東電の料金は9917円、関電は5677円となる。1月に約2割だった東電と関電の料金差は、7割超にまで広がる計算だ。なぜここまでの料金差が生じるのか。値上げ判断に大きく影響しているのが電源構成に占める火力発電の比率だ。東電は21年実績で77%と、沖縄電力に次いで高かった。一方で、値上げを申請していない関電は43%、九州電力は36%と他社と比べても低水準で推移する。火力発電への依存度が高い電力会社が一様に抱える課題が、原発の再稼働の遅れ。東電は主力の柏崎刈羽原発(新潟県)が安全対策の不備で再稼働できず現状で稼働している原発は1基もない。一方、関電は大飯原発3.4号機(福井県おおい町)など全国で最多の5基が稼働中だ。電源構成に占める原発の割合は21年度実績で約28%だったが、足元ではさらに高まっているもよう。23年には高浜1.2号機(福井県高浜町)の運転も始める。関電の原発稼働率は22年度に5割程度だが、23年度には7割台後半にまで高まる見通しだ。関電の22年度の最終損益は1450億円の赤字となる見通しで、東電ほどではないが今期の業績は厳しい。だが関電は原発の稼働率が1ポイント高まると経常費用を95億円減らせると試算する。原発稼働率が高まれば来期以降、採算改善が見込めるとみて、値上げを見送る判断をしたようだ。火力依存度が大手10社の中で最も低い九州電力も現状では値上げの意向は示していない。玄海・川内の2原発が稼働する同社では電源構成に占める原発の比率が21年度に36%と、全国の大手電力のなかで最も高かった。また九電は固定価格買い取り制度(FIT)で調達した電気も含めた再生可能エネルギーの比率も約2割と東電などより高い。燃料高に左右されず電力を安定供給していくためには、安全に配慮しながら原発を活用しつつ、再生エネの比率を高めていくことが不可欠となる。大手電力の値上げへの姿勢の違いは法人料金にも表れている。東電は4月から法人向けの標準料金も12~14%引き上げる。一方で関電は法人向けでも料金を据え置く方針だ。工場などの立地によって電気代負担に大きな差が生じることになり、拠点間の競争力を左右することになりそうだ。 *9-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05A8V0V01C22A0000000/ (日経新聞 2022年12月25日) 火力発電、脱炭素化探る CO2貯留やアンモニア混合 大手電力などが石炭火力発電所で脱炭素に向けて、燃料の転換などを進めている。発電から出る二酸化炭素(CO2)は国内の4割程度を占める。長期的に温暖化ガスを実質ゼロにするには再生可能エネルギーの活用拡大が求められるが、移行期は電力の安定供給との両立も必要だ。既存の火力発電所で排出量を抑えることが急務となっている。政府は温暖化ガスを2030年度に13年度比46%減、50年までに実質ゼロにする目標を掲げる。この目標に沿い、経済産業省はエネルギー基本計画で30年度の電源構成を示している。発電量に占める再生エネや原子力を増やし、石炭や液化天然ガス(LNG)、石油の化石燃料を使う既存火力の割合を減らす。火力は19年度の76%程度から30年度には41%に抑える計画だ。一定の割合で残る火力で、電力を安定供給しながら、温暖化ガス削減に向けた技術開発が求められることになる。特に石炭はCO2排出量がLNGの約2倍に上る。電力各社は石炭火力の次世代化や効率化を進める。CO2を地下に貯留する「CCS」やコンクリートなどに使う「CCU」と組み合わせることも有望視されている。Jパワーと中国電力は広島県で次世代火力「石炭ガス化複合発電(IGCC)」の実証実験を続ける。石炭から取り出した水素を燃やすことで発電する。発電効率は高効率石炭火力でも40%前後だが、IGCCは46%程度でより効率的に電気を生み出せる。Jパワーは松島火力発電所(長崎県西海市)で従来型をIGCCに転換する計画も進める。26年度の稼働予定で出力は50万キロワット。石炭の消費量を現状比1割減らせる。脱炭素燃料への転換の取り組みもある。東京電力ホールディングスと中部電力が出資するJERAは石炭の碧南火力発電所(愛知県碧南市)で、アンモニアを混ぜて発電する実証実験を始めた。アンモニアは燃やしてもCO2を発生しない。JERAは新技術の開発に実証データを活用し、アンモニアを混ぜる割合を2割まで高める。仮に国内の石炭火力すべてでアンモニアを2割混ぜればCO2排出量は4000万トン減る計算だ。発電からの排出量の約1割にあたる。技術的な課題もある。水素やアンモニアの混ぜる割合を高めるために燃料を燃やす装置の技術向上が欠かせない。三菱重工業やIHIが新技術の開発に乗り出しており、20年代には一部で5割以上を混ぜたい考え。ただ、化石燃料をアンモニアや水素に置き換えられるようになるのは早くても40年代とされる。脱炭素の切り札と目されているCCSも課題はある。経産省は50年時点の目安として年間最大2億4000万トンのCO2の貯留量を想定する。発電からの排出量の半分程度に相当する量だ。ただ、北海道苫小牧市で実施したCCSの政府の実証試験の累計貯留量は30万トンとごくわずかだ。ENEOSホールディングスやJパワーも30年の事業開始を目指して貯留場所を選定しているものの、まだ具体的な場所は決まっていない。アンモニアや水素の活用推進を火力の脱炭素移行戦略の柱の1つに据えるのは今のところ日本勢が中心だ。石炭火力の延命にもつながるという批判が海外の一部の投資家や非政府組織(NGO)から上がっており、国際社会の理解を得られるかも課題となっている。政府は脱炭素による経済成長を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)」を掲げ、10年間で官民で150兆円超の投資が必要とする。みずほ証券によると国内で公募されたトランジションボンド(移行債)の起債額は22年1~11月で3864億円と、21年の200億円から急増する。民間で高まり始めた脱炭素投資の機運を生かせるか問われている。 *9-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF158CQ0V11C22A2000000/ (日経新聞 2023年1月12日) JR西日本、全ディーゼル車にバイオ燃料 脱炭素へ加速 JR西日本は主にローカル線を走るディーゼル車両すべてでバイオ燃料を2030年ごろに導入する方針だ。同社の在来線の4割近くを占める非電化区間の二酸化炭素(CO2)排出を減らす。JR東日本も水素燃料車の実用化を目指すなど、JR各社で脱炭素の取り組みが進む。ローカル線の採算が悪化するなか、軽油より高いコストをどう負担するかが課題となる。日本の鉄道路線(私鉄含む)の非電化区間は全体の3割を占めるとされる。国土交通省によると鉄道事業者(同)のCO2排出量は全体で年993万トン(19年度)。うちディーゼル車両からは5%で比率は大きくない。ただ、車両当たりの排出量ではディーゼル車両は電車の数倍ともいわれる。JR西日本は23年度に山陰線の下関駅(山口県下関市)と長門市駅(同長門市)の区間で走行試験を実施する。軽油をバイオ燃料にすべて置き換える。微生物などから製造し、環境負荷の小さい燃料を使う。ユーグレナや大手商社などから調達する。燃費や走行性能を検証する。バイオ燃料はCO2を吸収した植物などを原料にするため、燃焼しても大気中のCO2総量が増えない。車両を大きく改造しなくても使え、脱炭素対策の初期投資を抑えられる利点がある。ただ、JR西日本によると、現在のバイオ燃料価格は軽油の数倍で、運行コストは増える。JR西日本の全車両のうちディーゼル車両は7%あり、年間2万1000キロリットル(21年度)の軽油を使用している。25年度以降、バイオ燃料の調達量に合わせて車両ごとに転換し、軽油の使用量をゼロにする。30年ごろに全ディーゼル車両へ導入する目標を掲げる。JR東日本は、発電時にCO2を出さない水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を組み合わせた新型車両「HYBARI」(ひばり)の走行試験を22年から始めた。30年の実用化を目指し、非電化区間でディーゼル車両との置き換えを視野に入れる。運輸総合研究所(東京・港)の山内弘隆所長は、航空業界ではバイオ燃料などを使う際のコスト増分を利用者に負担させる議論があることに触れて「ローカル線では(利用者負担の増加は)難しい。バイオ燃料を使う場合には国が補助して支援すべきだ」と指摘する。政府が50年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)達成を目標に掲げるなか、JR各社には赤字区間の多いローカル線で環境負荷を低減するという難しい取り組みが求められている。
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2022,09,29, Thursday
(1)安倍元首相の国葬、旧統一教会、日韓トンネルなど
1)安倍元首相の国葬儀に参列して 2022.9.28東京新聞 2022.9.27NNJnews 2022.9.28FNN (図の説明:左図は国葬儀の全貌、中央の図が動画による安倍元首相のピアノ演奏、そして右図が一般献花に訪れた人である) 私も元衆議院議員ということで招待状が来たので、佐賀県まで夫妻で選挙応援に来ていただいた安倍元首相の国葬に参列した。元職の中には、招待状が来たこと自体をTVで批判していた人もいたが、国葬儀と決まった以上は招待状の送付段階で差別する方が不適切であるため、特に世話になっておらず、思い出もない人は自らの判断で参列しなければいいだけではないかと思う。 その国葬は、*1-1-1のように、9月27日に日本武道館で行われ、国内及び各国・地域・国際機関の代表4,183人が参列し、私が集合場所の第一議員会館から武道館までバスで移動した時には一般献花に訪れた人の長い列が見え、午後6時までに約2万3000人が献花したそうだ。 安倍元首相への銃撃事件で警護の不備が浮き彫りになった警察当局は、今回は北海道や福岡など道府県警からの応援も二千数百人含む2万人規模の大規模な警備だったそうだが、数さえ多ければよいわけではないと思う。 その国葬は午後2時に始まり、遺骨を乗せた車が都内の私邸から到着し、国歌演奏と黙とうに続いて安倍氏の生前の映像が流れた。 その生前の映像では、*1-1-2のように、安倍元首相がグランドピアノで「花が咲く」を弾いておられ、全曲を弾いた後に「もう一回、行く?」と話しかけられた時は、かなり練習し暗譜して間違いなく弾かれたものの、決してうまいとは言えない演奏だったため、「もう一度はいい」と思われるタイミングで、微笑みと拍手を誘った。その後、BGMにその「花は咲く」のピアノ演奏を使用して生前を忍ぶ約8分間の映像が流され、さまざまな場面が映し出されたのは、さすがの構成だったと思う。また、19発の弔砲は、ひどく悲しげなかすれた音で鳴った。 2)安倍元首相の「国葬」に関する海外メディアの報道 国葬をめぐっては、野党が批判を強めて反対のデモも起き、海外メディアは、*1-1-5のように、①AP通信:「国葬をめぐって日本が分裂している理由は、与党が超保守的な旧統一教会と癒着しているから」 ②ロイター通信:「岸田首相は旧統一教会と自民党の繋がりを断つと約束したが、党と政権への影響は計り知れない」 ③米ニューヨーク・タイムズ:「(旧統一教会をめぐる問題を指摘した上で)国葬を岸田政権による一方的な押し付けととらえる国民の追悼の念は薄れている」 ④英フィナンシャル・タイムズ:「岸田政権の支持率が急落している中、「岸田首相の苦境は彼のリーダーとしての時間が限られ、日本の首相の不安定な時代に戻るかもしれないという懸念を抱かせた」 等と報道している。 また、*1-1-3のように、⑤CNNテレビ:「安倍元総理大臣は最も長く総理大臣を務め、日本の世界的注目度を高めた。参列できなかった市民が朝早くから献花をしようと訪れている」「多くの人が多額の国費が議会に諮ることなく使われたことに不満を持ち、食べるのに苦労している人もいる中で税金の使い方に問題があるとの意見もあって一日中抗議している」 ⑥欧州メディア:「国葬に関する国民の賛否が分かれている」 ⑦AFP通信:「世論調査では約60%の日本国民が『国葬』に反対」 ⑧韓国連合ニュース:「国葬」に反対する市民グループの集会の様子を詳しく紹介した上で「『国葬』による日本国内の世論の分裂が『国葬』当日に最もはっきりと示された」 と報道した。 このような中、海外の首脳級は元職14人を含む50人前後が参列したがG7の首脳は1人も参列せず、G7の首脳も変わっている上に現職首脳はG7で頻繁に会っているためまあよいとは言うものの、日本メディアは、くだらないことでも政治家を叩きさえすれば権力に抗しているというポーズをとることが、このように世界での日本の地位を弱めていることに早く気づくべきである。 なお、台湾の代表3人は他の海外からの参列者と同様に献花を行い、その際、会場で「台湾」とアナウンスされたが、私は「台湾には『中華民国』という正式名称があるため、そうアナウンスすればよかったのに」と思った。 これについて、中国は「台湾は中国の不可分の一部で、『1つの中国』の原則は国際社会における普遍的な共通認識だ。日本は両国間の4つの政治文書の原則を順守し台湾独立分子に政治的な工作を行ういかなる舞台や機会も与えるべきではない」としているが、これは、日本の曖昧さの弱点を突いてはいるものの、独立国に対する内政干渉だと思う。 3)議員と旧統一教会および関連団体との関係 2)の①②③④に書かれているとおり、日本のメディアは、安倍元首相が殺害された当初から、殺害の不当性や警備の甘さよりも、旧統一教会と国会議員との関係について長時間を割いて指摘してきたが、これが国葬をめぐって日本国民を分裂させた大きな理由となった。しかし、個人的な批判ばかりが多くて、日本の首相が1年毎に交代し、役に立つ構造改革ができない時代に戻るのは困ったものである。 自民党は、*1-2-1のように、旧統一教会及び関連団体と自民党議員との接点を調べたそうだが、「会合への祝電・メッセージ等の送付」は会合に誘われれば普通はするものだ。また、広報誌のインタビューや対談に応じたり、関連団体の会合に出席したり、挨拶したりも、頼まれればするのが普通だ。そして、旧統一教会がどのようにして金を集めたのか、それが罪に当たるのか否かは、国会議員ではなく警察はじめ司法が調査すべきものだろう。 *1-2-2は、⑨日韓トンネルは旧統一教会創始者の文鮮明氏が1981年に提唱し、教団や友好団体が推進 ⑩玄界灘を望む佐賀県唐津市名護屋城跡から南に約1.5kmの山中にコンクリートで固めた大きな穴があり ⑪日本と韓国を海底トンネルで結ぶ日韓トンネル構想は両国を全長200キロを超えるルートで繋ぐ計画で ⑫日本の閣僚からは「荒唐無稽」との声も上がるが、計画推進のための会合には国会議員らも参加 ⑬日韓トンネル構想の事業を担うのは旧統一教会の友好団体、国際ハイウェイ財団 ⑭日韓トンネルは九州北部から長崎県の壱岐・対馬を通って韓国南部までを最短約235kmで結ぶ ⑮総事業費は10兆円と試算 ⑯2010年以降は「日韓トンネル推進会議」が各地に立ち上がり ⑯2011年に徳島県議会が、13年に長崎県対馬市議会が、日韓トンネルの早期建設や着工を求める意見書を衆院に送付した ⑰2015年に設立大会が開かれた「日韓トンネル実現九州連絡会議」の会長は九州大学元総長が務める 等としている。 私は、九州が浮揚するには近くの中国・韓国と密接な関係になるのが有効だと思っていたので、2005年に衆議院議員に立候補した時、日韓トンネルを推奨し、後に国際ハイウェイ財団の福岡集会で挨拶もしたが、これは旧統一教会創始者の文鮮明氏が提唱したからでは決してない(だいたい、そういうことは知らなかった)。にもかかわらず、「日韓トンネル推奨=統一教会と関係あり=金をもらったか、選挙で手伝ってもらった」などとして日韓トンネルの計画自体がおぞましいものであるかのように言うのは、意図的であり的外れも甚だしいのである。 しかし、その後の日韓関係、日本の外交能力、リスク管理能力、防衛能力、メディアの世論形成に鑑みれば、日本が大陸と海で切り離されていることは防衛のためには非常に重要であり、日韓トンネルで陸続きにするのはむしろ危険だという結論に達した。 (2)防衛費増額で日本を護れるのか 1)国の財政状態について 財務省 2020.12.22読売新聞 2021.11.20日経新聞 (図の説明:左図は、国の一般会計における歳出と税収の推移で、最近になるほど差が大きくなっており、箍が外れた感がある。中央の図は、2021年度の一般会計予算で、2020年度にコロナ対策として長期間経済を止めたので税収は減少し、コロナ関係の歳出が5兆円ある。2021年度は、当初予算のほかに経済対策として右図の補正予算が組まれており、コロナ関連と銘打っての無計画で生産性の低い歳出が増加している) 財務省は、*2-1-1のように、2022年8月10日、国の借金(=国債+借入金+政府短期証券)が、2022年6月末時点で1,255兆1,932億円で、同3月末からも13.9兆円増え、0歳児から最長高齢者まで含めた国民1人あたり約1,005万円の借金になったと発表したそうだ。 債務の膨張が止まらないのは、2021年度の税収が67兆円で税外収入が5兆5,647億円しかないのに、当初予算106兆6,097億円(うち新規国債発行43兆5970億円)、補正予算35兆9,895億円(うち新規国債発行22兆580億円)というように、借金を原資にした歳出が多く、物価高対策を盛り込んだ2.7兆円規模の22年度補正予算も財源の全額を赤字国債で賄ったからである。 これにより、日本の債務残高はGDPの2倍を超えて先進国中最悪になったが、これは、成長力に繋がる「賢い支出」をするのではなく、その場限りのバラマキが多かったため、税収増にも税外収入増にも繋がらなかったことによる。 2)防衛費増額について 2022.9.5日経新聞 2022.3.18日経新聞 2022.8.12京都新聞 四国経済産業省 (図の説明:1番左の図が防衛費増額のイメージだが、何から何を護るのに、どういう武器を使い、そのために必要な自衛官は何人かという根本的戦略がないため、省庁間で整合性のない行動をとっている。また、左から2番目の図のように、『武器だけで国を護ることはできない』という認識に至ったのはよいが、実際には経済安全保障の対象は先端技術だけなので、右から2番目と1番右の図のように、食料とエネルギーの自給率低迷が放っておかれたままになっている) 防衛省は、*2-1-2のように、台湾有事を睨んで、2023年度予算概算要求でGDP比1%の上限を撤廃して2%も視野に入る過去最大の防衛費を計上したそうで、日米で進む外交・安全保障の基本戦略「統合抑止(Integrated Deterrence)」の考え方によるとしている。 しかし、名目がそうでも実質はGDP比2%を視野に戦略なき装備品購入計画になっている点が問題である。何故なら、仮に台湾有事への対応が主な増額理由なら、台湾を独立国と認める外交努力を行い、食料・エネルギー・工業製品は外国依存ではなく自給率を高め、ミサイル等の武力攻撃に対応できない原発や使用済核燃料は早急に安全な場所に処分しなければ、実際に戦うことはできないからである。 そのため、*2-1-3のように、何とかごまかしながら5年で防衛費を倍増し、世界3位の「軍事大国」になっても、高額だが決して使えない装備に金をかけただけになりそうなのだ。 3)2022年版防衛白書について 2022年版防衛白書は、*2-2-1のように、防衛費の増加や敵基地攻撃能力の保有などの国家安全保障戦略改定に向けて検討する防衛力強化への前向きな記述が入り、その前提となる周辺国への情勢認識の記述が強められたそうだ。 しかし、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)を念頭に、5年以内の防衛力抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」というのは、NATO諸国とは異なる平和憲法を持つ日本にとっては、単なる予算獲得手段としか思えない。 「防衛費は国防の国家意思を示す大きな指標」と言っても、武器さえあれば戦争ができるわけではなく、日本の場合は、台湾有事への対応にも明確な大義名分がなく、武器以外の準備は全くしていないのが実情だ。 さらに、*2-2-2のように、中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本の安全保障環境が厳しさを増し、2021年10月に中ロ両軍の艦艇が日本列島を一周して、2022年5月には中ロ両軍の爆撃機が日本周辺を長距離にわたって共同飛行しても、日本は抗議を含めて何の対応もできなかったのである。 (3)原発推進に固執した経産省と日経新聞の罪 2022.9.10日経新聞 2022.9.10日経新聞 2022.9.1Goo 2022.9.5西日本新聞 (図の説明:1番左の図のように、ミサイル技術も進歩し、発射の兆候は察知しにくく、弾道が途中で変化するので迎撃もしにくくなっているが、左から2番目の図のように、日本は核廃棄物の最終処分場所も決まっておらず、使用済核燃料は原発近くの高所にあるプールに溜めてあるのだ。そして、右から2番目の図のように、24基の原発が廃炉になるのは喜ばしいことだが、このような無防備な状態を無視して、1番右の図のように、『安全性が増す』などと称して次世代原発に前のめりになっているのは、国民を護ることを考えていない証拠である) 1)戦時における原発と使用済核燃料の危険性 (多分)ロシア軍は、*3-1-1のように、ザポリージャ原発とその周辺で、IAEAの専門家が滞在する中で、原発を狙って砲撃をしかけ、主要な外部電源との接続が途絶して予備の送電網に頼るなどの危うい状況が続いた。しかし、「戦争があっても原発だけは攻撃されない」というのは、超楽天的な希望にすぎない。 日本の場合は、*3-1-2のように、北朝鮮がミサイル技術を高めて弾道弾の4割を変則型にしたため、ミサイルの軌道が読みにくくなり、迎撃が困難になった。しかし、どこの国でも、武器を作る以上は相手国の迎撃をかわすよう進歩させるのが当たり前であるため、これは当然のことであろう。そのため、どこまでやってもいたちごっこであり、旧式の武器は維持・管理・処分に困るわけである。 2)放射性廃棄物の処分について 日本では、*3-2のように、原発等から出る様々な廃棄物の最終処分場が決まっていないにもかかわらず、政府(特に経産省)が原発再稼働拡大に前のめりで、外交・防衛との整合性はもちろん考えておらず、リスク管理が0点である。 そもそも他国を制裁して戦争を仕掛ける前に、放射性廃棄物は人間の手の届かない離れた場所に処分しておくべきだ。フクイチ事故を起こしてもそれをやらず、「(ただCO2を出さないというだけで)他国が原発を使うから日本も原発活用!原発活用!」などと騒ぎたてているのは、何も考えておらず神経が麻痺している。 3)“改良型”の新原子炉なら安全か (これまでの怠惰が祟って)電力需給が逼迫する中、政府の政策転換を契機として、三菱重工・日立製作所などが、*3-3-1のように、安全性を高めた改良型の新原子炉を関電、北電、四電、九電など電力会社4社と共同開発して、2030年代半ばの実用化を目指すそうだ。 この革新軽水炉は既存の加圧水型軽水炉を改良して自然災害や大型航空機の衝突などテロに対して対策を講じるもので、①地下式構造で被害を受けにくくし ②格納容器の外壁を強化し ③破損の確率を既存炉の100分の1未満に減らし ④炉心溶融が起きても溶融核燃料を「コアキャッチャー」でためられるようにして放射性物質を原子炉建屋内に封じ込め ⑤炉心冷却のための電源も充実して事故の影響を発電所敷地内に留め ⑥原発の技術伝承を計る のだそうだ。 しかし、自然災害や大型航空機衝突等のテロ対策を講じただけでは、武力攻撃には全く対応できない。さらに、①②③④⑤は、原発事故を0にするものではない上、膨大な熱エネルギーを作り出し、それを海水で冷やしながら稼働させて、食料の宝庫である海を温めることには、何ら変わりがないのだ。 さらに、万一、事故を起こせば、食料の宝庫である農地を汚染して使い物にならなくするため、そういうリスクのある原発を、⑥のように、原発技術の維持存続自体を目的として多少の改良をし、国民の金をつぎ込んでも国益にならないことには全く変わりがない。 このような中、日経新聞は、*3-3-2のように、しつこく、⑦エネルギーの安定供給と脱炭素の両立へ国が前面に立ち、あらゆる手段を動員する総力戦で臨むべきだ ⑧2050年の電源構成に占める再エネ比は7割に留めて残り3割は原発活用を国主導で行い、脱炭素への移行期間の電力安定供給や資金確保に万全を期すべき 等と記載してきた。 しかし、東海発電所が1966年7月に営業運転を開始してから既に56年が経過しているのに、国の補助金がなければ原発を開発も稼働もさせることができず、放射性廃棄物の処理方法も決まっていないのでは、原発は実用的なエネルギー源としてとっくの昔に落第している。 一方、太陽光発電の補助金制度は、最初は普及目的で1993年にスタートし、2005年に一旦停止した後、2008年度に再開されたが、普及が進んで設置費用が下がったことにより、2013年度までという短期間で終了している(https://nakajitsu.com/column/52080p/ 参照)。 従って、費用対効果・エネルギー自給率向上によるエネルギー安全保障・脱炭素・脱放射性物質・脱温排水のいずれをとっても太陽光を始めとする再エネの方が優れていることが明らかで、“安定供給”を名目として人為的で勝手なエネルギーミックスを決め、原発を優先することは税金の膨大な無駄遣い以外の何物にもならないのである。 なお、玄海原発の立地自治体である佐賀県でも、*3-4のように、現在稼働している玄海原発について佐賀新聞社が県民世論調査したところ、「目標時期を決めて停止」と回答した人が最多の40.3%で「即時停止」の4.6%と合わせて44.9%に達し、「運転継続」の31.0%を上回ったそうだ。そして、原発新増設や運転期間延長には慎重な意見が根強いそうで、これは当然の結果だろう。私は、危険なので「即時停止」したい方だが、「目標時期を決めて停止」するとすれば、3、4号機が40年に達する時が潮時で、使用済核燃料も速やかに搬出すべきだと考える。 (4)日本経済の現状と再エネ投資の有用性 1)貿易赤字と円安の理由 *4-1のように、2022年1~8月の貿易収支通算は12.2兆円の赤字で、通年では2014年の12.8兆円を上回って過去最大になりそうだが、その理由は、円安(8月の為替レート:$1≒135円)と資源高で輸入額は大幅に増えたが、円安の輸出押し上げ効果が小さく、輸出が伸び悩んだからだそうだ。 しかし、これは、今から30年前の1992年頃、日本企業が円高と高コスト構造で国内生産を諦め、世界市場に参入したばかりで人件費等のコストが安かった東欧や中国に進出しはじめた頃から「国内産業の空洞化」として予想され、それを食い止めることもなく現在に至っているものである。そのため、このままなら、貿易赤字と財政赤字の双子の赤字が日本経済の趨勢となり、その結果として、円安はさらに進むだろう。 にもかかわらず、例えば新型コロナでは、科学的根拠もないのにワクチンを害悪視して学校を休校にし、経済は長期間停止させ、結局、マスクからワクチン・治療薬のすべてを輸入に頼り、ワクチン代は全額を国が支払った。そして、経済を止めた代償として、国はまたまた膨大なバラマキを行ったのである。この中で、その後の日本経済にプラスとなる「賢い支出」は1つもなく、これが、ワクチンや治療薬を生産して売った欧米諸国とそれらを高い価格で買っただけの日本の現在の景気の差を作っているのだ。 このように、既に国内産業が空洞化している日本は、世界の貿易量が回復しても「工業製品を輸出する」という経済モデルは成り立たなくなっており、日本の消費者でさえ日本製にこだわらなくなっている(価格と品質の総合で負けている)ため、いつまでも「円安になれば輸出が伸びる」「海外経済が回復すれば外需を取り込める」と考えるのは、現状認識が甘すぎるのである。 このような中、資源高と円安で化石燃料の輸入による国富の海外流出が見過ごせない状態なのに、未だに化石燃料と原発に補助金を出し、再エネによる国産エネルギーへの転換に投資しないのは、自分の国の現状を把握して長所を活かす行動をしていない状態なのだ。 2)再エネ導入の方法と効果 私は、*4-2-1のような東京都の戸建住宅まで含んで太陽光パネル設置を義務化し、住宅メーカーが設置義務を負うとする政策に賛成だ。しかし、マンションを含み新築に限ってしまえば、中古住宅を購入して改装した場合は太陽光パネルの設置が義務づけられないため、太陽光パネルの耐用年数(20~30年)より長く居住できる住宅の売買には太陽光パネルの設置と省エネを義務化するのがよいと思う。 また、東京都だけでなく、全国の自治体で同様に義務化すれば、地球環境によく、地域の富が他地域に電気代として流出するのを防ぎ、災害時の停電被害を最小にすることが可能だ。 従って、再エネは脱炭素時代の主力電源であることに間違いはなく、*4-2-2のように、2050年の電源構成に占める再エネ割合7割というのは、ビルや住宅への太陽光発電設置を義務付ければ低すぎる目標になる。また、産業用電力には、余った太陽光電力や風力・地熱発電など多くの再エネが考えられるため、再エネに投資する方が原発に延々と補助金を出すよりも、ずっと環境によく「賢い支出」になる。 さらに、荒廃農地だけでなく営農中の農地でも、風力発電をしたり、倉庫やハウスに太陽光発電機器を設置したりすることによって、電力を自家消費したり、副産物として販売したりすることが可能になり、農業所得を増やすことに貢献できる。そのため、いつまでも「再エネは不安定」などと言って思考停止しているのではなく、蓄電池の大容量化やコスト低減を行い、エネルギーのイノベーションを加速すべきなのである。 3)再エネへの移行資金 *4-3は、①脱炭素社会の実現はクリーンエネルギー発電を増やすだけでなく ②CO2を多く出す産業の排出抑制が必要 ③国・企業・個人の金を脱炭素社会移行に回す仕組みを整えたい ④政府の見通しは、今後10年間で官民あわせて150兆円の投資が必要 ⑤再エネ普及や蓄電池開発を成長戦略と位置づけ有効な金の使い方を検討すべき ⑥採算が不透明で民間が負いにくい投資リスクは、まず国が引き受けて民間資金の呼び水の役割を果たすべき ⑦新たな国債の償還財源を確保するためカーボンプライシングを早く実行して欲しい ⑧経営者は脱炭素戦略を示し、実行方法を株主と協議すべき ⑨企業が排出抑制を進めるには機動的な資金調達も必要で、銀行や資産運用会社も体制を整えるべき 等と記載している。 私は、①~⑨に大きな異論はないが、③の国の資金や⑦の国債償還財源は、まず原発や化石燃料に対する補助金をなくし、電源は同じ土俵で競争させることから始めるべきだ。その上で、各企業は、有価証券報告書や計算書類で自社のSDGsへの対応を開示し、投資家や消費者はそれを吟味しながらNISA等の投資対象を決めるのがよい。何故なら、SDGsは利益率を我慢して行うべきものではなく、SDGsを行うことが利益率を上げる時代に既に入っているからである。 (5)日本政府が国民生活を軽視する政策に傾くのは何故か? Gen Med 厚労省 2021.8.23日経新聞 (図の説明:左図は高齢者人口及び高齢者割合の推移だが、何歳以上を高齢者と定義するかによって変わる。しかし、中央の図のように、人口ピラミッドの変化はずっと前から言われていることで、ある年に生まれた人の人数はその年が終われば判明するため、今頃になって騒いでいる人は近未来のことを考えていなすぎる。なお、「人口が減るから困る」という論調は、世界人口が産業革命以後に等比級数的に増加し、世界ではむしろ人口過多の方が問題になり始めていることを無視しており、視野が狭すぎると言わざるを得ない) 1)公的年金の引き下げ 公的年金は、*5-1のように、平成17年3月まで「物価スライド制(実質年金額を維持するため、物価変動に応じて年金額を改定する制度)」だったが、制度変更により平成17年4月から「マクロ経済スライド制(年金財政の均衡を保つことができない場合、年金額の伸びを物価の伸びより抑える制度)」という誰にとっても意味不明の言葉を使った国にとって都合の良い制度に変更され、2022年4月から0・4%引き下げられた(https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/hagyo/bukkaslide.html 参照)。 国民年金は、もともと月額6万5千円未満という生活費にも足りない金額しか支給していないため、さらに引き下げれば生活できなくなる。また、この10月から一定以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担も1割から2割に引き上げられたため、介護保険料を払えずに年金の差し押さえを受ける人も全国で2万人を超え、生活破綻している高齢者が多いそうだ。 しかし、この年金制度は、「現役世代が保険料を納めて高齢者を支える『賦課方式(仕送り方式)』で維持されているため、年金額を抑えて制度を維持する必要がある」という説明を何度も聞いたが、実際には、1985年に最初の男女雇用機会均等法が制定されたのと時期を同じくして制度変更を行い、サラリーマンの専業主婦など年金保険料を支払わない人にまで給付対象を広げて、積立方式から賦課課税方式に変更し、専業主婦を優遇したのである(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/07/s0702-2a.html 参照)。 さらに、団塊の世代が生産年齢人口だった時は支払われる年金保険料の方が支給される年金よりずっと多かったため、発生主義で積み立てておけば大きな問題は生じなかった筈だが、日本政府は現金主義でものを考え、余れば目的外の大きな無駄遣いをし、今後は年金給付に必要な原資が足りなくなるから減額するという、その場限りのお粗末な発想をしているわけである。 この状況では、公的年金に対する信頼などは持つ方が悪いかのようだが、そうなると賦課課税方式による年金保険料は税金と同じになり、国民負担率があまりに高くなる。つまり、保険は保険として約束どおりに支払う姿勢がなければ、信用できる保険にはならないのだ。 2)日銀の物価上昇政策 日銀は、*5-2のように、「2%の物価上昇率」を政策目標に掲げ続けているが、そもそも中央銀行の役割は、金融政策によって物価の安定を図り、通貨の信用や国民の財産を護ることであるため(https://www.nikkei4946.com/knowledgebank/visual/detail.aspx?value=215 参照)、中央銀行が物価上昇を政策目標に掲げること自体が世界でも異常なのである。 異常である理由は、日銀は、「現在の物価上昇は資源高や円安による輸入物価の上昇による影響が大きく、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇には至っていないから」と説明しつつ、物価の安定を図って通貨の信用や国民の財産を護るどころか、年金や賃金の実質価値を密かに毎年2%づつ下げて国民生活を犠牲にし、皆が貧しくなるようにしながら国会審議のいらない課税によって政府財政の大赤字を帳消しにしようとしているからである。 そして、日銀は、「超低金利政策による景気の下支えを優先する」として大規模な金融緩和策を維持し続けることを決めたが、FRBは世界標準の金融政策を採って0.75%の大幅利上げを決定しているため、市場では運用に有利な金利の高いドルを買って円を売る動きが定着した。資金の海外逃避は労働力の海外移動よりも容易であるため、日本と他国の金利差が広がれば、このように円安が加速し、円安が続くのは当然のことなのである。 3)医療費について 2022.10.6日経新聞 2022.6.24日経新聞 2021.1.21毎日新聞 2022.9.21厚労省 (図の説明:1番左の図は、健保組合の保険料は年50万円に上るとしているが、私はDINKSで働いてきたため、夫婦それぞれがこれ以上の保険料を扶養家族もないのに支払ってきた。そのため、退職後“に仕送りを受けている”などと言われるのは論外だ。また、左から2番目の図のように、「現役世代が減る」としているのも、国の子ども政策の悪さと職場の多様性のなさせいであり、国民に責任はない。さらに、右から2番目の図が所得判定だが、高齢者なら200万円の所得は豊かな方に入るというのも、生活感がなさすぎる。最後に、1番右の図のように、退職後の後期高齢者だけが入る保険を作れば公費や現役世代からの支援が必要になるのは当然である) 高齢になると病気やけがで医療機関を受診する機会が増えるが、その理由は、身体に備わっている健康維持機能が衰えるからで、これは遅かれ早かれ誰にも平等に起こるものである。 そのような中、日常生活をするだけでもやっとの年金しかもらっていない人は、医療費負担を重いと感じるわけだが、現行制度は、年齢等によって加入する医療保険制度が異なり、窓口で自己負担する割合も異なる。病気やケガをして病院にかかった時の医療費窓口負担割合は、(所得によって異なるが)0~6歳:2割、7~69歳:3割、70~74歳:原則2割、75歳以上等で後期高齢者医療制度に加入する人は、2022年10月から、一般所得者等1割、一定以上の所得がある人2割、現役並み所得のある人3割に変更された。 厚労省は、後期高齢者医療制度の窓口負担を見直した理由を、①75歳以上の後期高齢者の医療費は約5割を公費で負担し、約4割が現役世代の負担(支援金)によって支えられている ②令和4年以降は他の世代より突出して人口の多い団塊の世代が75歳以上になるため、医療費がさらに増大して現役世代の負担が大きくなることが懸念される ③こうした中、現役世代の負担を少しでも減らし、全ての世代が安心して医療を受けられる社会を維持するため 等としている。 ただし、医療機関や薬局で支払った医療費が、同一月内で一定額を超える場合は、超えた金額を払い戻す「高額療養費制度」を設けて年齢や所得に応じて窓口負担額の上限を決め、2割負担となる人は外来のみなら月18,000円、外来と入院を合わせた場合は月57,600円が上限額となるそうだ(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202209/1.html 参照)。 また、*5-3-1は、④2021年度は健康保険組合の半数超で収支が赤字で ⑤赤字が続けば保険料率を上げざるを得ず ⑥赤字要因は医療費増加と65歳以上の高齢者医療への拠出金の増加で、特に75歳以上の後期高齢者が増加し ⑦現役が支払う保険料の4割が高齢者に「仕送り」され ⑧給付と負担の見直しが急務で ⑨健保組合に加入する会社員の場合、社会保険料は医療保険9.0%、介護保険(40~64歳)1.8%、厚生年金18.3%の合計約29%となり、現状は給付が高齢者に、負担は現役世代に偏っており ⑩後期高齢者の保険料引き上げだけでなく、給付抑制も議論する必要がある としている。 しかし、後期高齢者医療制度は私が衆議院議員時代に作られたが、⑦の“仕送り制度”が決まった時から、私は反対していた。何故なら、年齢によってかかる病気の種類や頻度は変わり、これは平等であるため、年齢によって加入する医療保険を変えれば、病気にかかりにくくて治りやすい生産年齢人口のみが入っている健康保険は、支払保険料の方がずっと多くなり、大きな黒字となるからだ。従って、働いていた期間に入っていた医療保険に退職後の高齢者も入り続けなければ、保険制度が成立しないのである。 そのため、①のように、75歳以上の後期高齢者医療費は約5割を公費で負担し、約4割を現役世代が負担することになったわけだが、人為的に4割・5割などと決めた数字にズレが起こるのは当たり前で、団塊世代の多くは、生産年齢人口時代に十二分に保険料を支払っているため、「仕送りした」などという生意気なことを言われたり、④⑤⑥⑩のようなことを言われる筋合いはないのである。日経新聞には、保険の仕組みがわかる人もいないのか? また、②の令和4年以降は団塊の世代が75歳以上になるため医療費が増大する ③現役世代の負担を少しでも減らす などというのも、上の図のように前からわかっていたことなので、団塊の世代が保険料を支払っていた期間に積立てるなどの準備しておかなかった政府(特に厚労省)の責任以外の何物でもない。 従って、⑨⑩については、政府が責任をとって、保険料の支払者にも保険金の受給者にも迷惑をかけない形で解決すべきであり、それには適正な薬価の設定や税外収入を増やして福祉財源に充てる等を行うしかないのだ。 そのような中、*5-3-2のように、「人口の高齢化が進んで医療費が膨らみ、今の社会保障制度は恩恵が高齢者に偏る」などとしているのは、考えの浅い妬みの論理でしかなく、本末転倒の議論でもある。もちろん、全世代が安心して暮らせる「全世代型社会保障」の実現は必要だが、それには介護保険料を全世代で負担し、給付も全世代が受けられるようにするなどの高齢者に犠牲を強いない方法を考えるべきである。 なお、*5-3-3のように、“一定以上の所得”というのが食料・エネルギー等の必需品の物価上昇が広がる中、年金収入とその他所得の合計が単身世帯で年200万円、複数なら320万円というのは、医療・介護関係費用を支払っても生活できる収入ではない。 (6)リーダーの多様性のなさによって歪む政策 1)女性差別(ジェンダー・ギャップ)によって歪んだ政策 2022.7.14朝日新聞 2022.8.12佐賀新聞 2022.4.17日経新聞 (図の説明:左図のように、世界経済フォーラムの男女平等ランキングで、日本は116位と、G7最下位であるのみならず、アジアでも低迷している。また、中央の図のように、特に政治・経済におけるリーダーの登用で男女格差が大きく、その結果、右図のように、大卒女性が高卒男性と同じくらいという、同じ学歴でも年収の差が大きい状態だ) 私は、上の(2)~(5)で、政府・行政が作った政策のうち、環境を軽視している政策、費用対効果が悪すぎる歳出、社会保障や福祉の軽視など、女性の方が積極的に発言したり、活動したりしている課題について述べた。そして、このように歪んだ政策が多い理由は、女性の方が環境や生活に関わる政策に感受性が高かったり、会計管理能力が磨かれていたり、差別を嫌ったりするのに、各界のリーダーには女性が著しく少ないからだと思う。 そして、2022年のジェンダー・ギャップ指数(世界経済フォーラムが国別に男女格差を数値化した指数)では、*6-1のように、日本は調査対象となった世界146カ国中116位、G7最下位で、そのうち政治(139位)・経済(121位)で特にジェンダー・ギャップが大きく、教育(1位)・医療(63位)はジェンダー・ギャップが比較的少ないとされている。 こういう結果になった理由は、①1979年に女性差別撤廃条約が国連総会で成立し、1985年に日本は女性差別撤廃条約に批准したが ②同1985年に最初の男女雇用機会均等法ができた時には女性を補助職として女性差別を正当化し ③同1985年にサラリーマンの専業主婦を3号被保険者として年金制度で優遇し ④1999年に男女雇用機会均等法の努力義務規定を禁止規定に変えると、多くの女性を非正規雇用化して労働法による保護対象からはずした など、実質的には男女平等を実現させない方向への行動をとってきたからである。 しかし、このようにしてジェンダー・ギャップを頑固に温存してきたことは、女性に対する重大な人権侵害であったと同時に、女性がリーダーとして活躍した方が多面的な検討を行えるため経済発展が促されるにもかかわらず、それを放棄してきたということなのである。 2)障害者差別 国連の障害者権利委員会は、*6-2のように、日本政府への審査を踏まえ、障害児を分離した特別支援教育の中止と精神科の強制入院を可能にしている法律の廃止を求めたそうだ。 私は、前から特別支援教育と称して障害児を分離教育するのは、障害児とされた児童に対する差別であり人権侵害であると同時に、その児童から普通教育を受けて生活力を身につける機会を奪うため、問題だと思っていた。その上、日本の“障害児”の定義は、世界でも広い方なのだ。 そのため、これを教育現場の人手不足を理由に実現しないのであれば、生産年齢人口に景気対策として莫大な金額の無駄な補助金を使っていることや、生活力が身につかなかった“障害者”を生涯ケアし続ける費用をどう捻出するのかについても同時に考える必要がある。 さらに、精神科の強制入院を可能にしている法律廃止の実現に、仮に病院団体の反発などのハードルがあるとすれば、それは病院の利益のために障害に基づく差別を行い、強制入院による自由剝奪等の人権侵害を容認するという重大な問題である。 そのため、他国と比べて異例の規模となる約100人の障害者やその家族が日本から現地に渡航し、国連の勧告が障害者権利条約に基づいて行われたことは、当事者が頑張ったのだと思う。 3)外国人差別 2021.5.28日経新聞 2022.3.23GlobalSaponet 2022.6.9日経新聞 (図の説明:左図のように、日本は難民申請数は多いが難民認定率が欧米とは比べ物にならないくらい低く、入国管理庁はとても先進国とは思えない人権を無視した扱いをしている。また、中央の図のように、外国人労働者として入国した人は、問題の多い技能実習生が多く、その人たちが資格外活動もしている。さらに、右図のように、外国人は非正社員の割合が高く、外国人の正社員と比較しても著しく給与が低いが、生産年齢人口の割合が減ると言って騒いでいる日本が、このままでよいわけがない) *6-3のように、「不法滞在」という言葉は移民に罪があるような印象を与え差別的であるため、国連では使わないことになっており、米国のバイデン政権も「alien(在留外国人)」「illegal alien(不法在留外国人)」という呼称を禁じ「noncitizen(市民権を持たない人)」「migrant(移民)」「undocumented(必要な書類を持たない)」という言葉を使う方針で、日本でも法務省政策評価懇談会の篠塚力座長はこの点を指摘しておられたそうだ。 が、政治・行政、NHKをはじめとするメディアでは、「不法滞在」等の差別的な言葉が未だによく使われており、日本は女性・高齢者・障害者だけでなく、外国人に対しても差別の多い鈍感な国と言わざるを得ないのである。 しかし、現在、日本政府も「我が国に入国・在留する全ての外国人 が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見を無くし、日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する共生社 会の実現を目指す」という目標は掲げているため、一般国民も外国人労働者・移民の受け入れを渋ったり、差別・偏見を持ったりするのではなく、公平・公正な態度にすべきだ。 ・・参考資料・・ <安倍元首相国葬・旧統一教会・日韓トンネル> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA251XU0V20C22A9000000/ (日経新聞 2022年9月27日) 安倍元首相の国葬、4200人参列 首相経験者は戦後2例目 政府は27日、日本武道館(東京・千代田)で安倍晋三元首相の国葬を執り行った。国内の政財界や各国・地域・国際機関の代表ら4183人(速報値)が参列した。一般献花に訪れた人は午後6時時点でおよそ2万3000人だった。首相経験者の国葬は戦後2例目で1967年の吉田茂氏以来55年ぶり。国葬は午後2時すぎに始まった。遺骨を乗せた車が都内の私邸から到着し、葬儀副委員長の松野博一官房長官が開式の辞を述べた。国歌演奏と黙とうに続き安倍氏の生前の映像を流した。葬儀委員長である岸田文雄首相は追悼の辞で「あなたが敷いた土台の上に持続的ですべての人が輝く包摂的な日本、地域、世界をつくっていく」と語った。衆参両院議長、最高裁長官、友人代表の菅義偉前首相が順番に立った。菅氏は安全保障法制などに触れて「難しかった法案を全て成立することができた。どの一つを欠いても我が国の安全は確固たるものにはならない」と功績を強調した。天皇、皇后両陛下と上皇ご夫妻が派遣された弔問の使者が拝礼した。秋篠宮ご夫妻や次女、佳子さまら皇族が供花された後、参列者が献花した。海外の首脳級は元職14人を含む50人前後が参列したとみられる。米国はハリス副大統領、インドはモディ首相、オーストラリアはアルバニージー首相が来日した。中国は全国政治協商会議副主席の万鋼氏、韓国は韓悳洙(ハン・ドクス)首相を派遣した。政府は会場に近い九段坂公園に一般向けの献花台を設けた。朝から長い列ができ午前10時の予定を30分早めて受け付けを始めた。政府は国葬への賛否が割れていることを踏まえ、国民や地方自治体に弔意を求めなかった。官公庁や学校は休みとせず、コンサートやスポーツなどのイベントも自粛を求めなかった。 *1-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/52f18ef1e11fda6c67ff417c8a4be82158bfa1ad (Yahoo、スポニチ 2022/9/27) 安倍元首相国葬始まる 生前自ら演奏の「花が咲く」流れ…ネット涙「切なく響く」「だめだ、もう涙腺崩壊」 7月の選挙応援演説中に銃撃され、死去した安倍晋三元首相(享年67)の国葬が27日午後2時すぎ、東京・北の丸公園の日本武道館で始まった。遺骨を抱えた昭恵夫人が入場。遺骨は葬儀委員長の岸田文雄首相、自衛隊の儀仗(ぎじょう)隊長、隊員へと手渡され、式壇の中央に置かれた。その後、松野博一官房長官が「ただいまより安倍晋三・国葬儀を執り行います」と開式の辞を述べた。君が代の斉唱は求められず、自衛隊による演奏のみが流され、その後1分間の黙とうがささげられた。さらに、安倍元首相の生前をしのぶ約8分間の映像が流され、「全身全霊をかけて挑戦する覚悟であります」と決意の演説をする場面などが映し出された。映像のBGMには、安倍元首相自らの「花は咲く」のピアノ演奏を使用。ツイッターには「安倍さんのピアノ演奏『花は咲く』が切なく響く…」「安倍ちゃんのピアノからだ 黙祷から涙止まらん」「安倍さんのピアノをバックにこれまでの軌跡 だめだ、もう涙腺崩壊です」と、感傷に浸るツイートがあふれた。安倍元首相の遺骨はこの日午後、昭恵夫人に抱えられ、東京・富ヶ谷の自宅から、海上自衛隊の儀仗隊に見送られて出発。奏楽は家族の意向で行われず、静かな出発となった。柩車は途中で防衛省を経由し、見送りを受けた後に到着した。岸田首相と自衛隊による堵列(とれつ)が出迎え、19発の弔砲が鳴らされた。国葬は210超の国と地域、国際機関からの要人約700人を含め、国内外合わせ約4300人が参列し、午後2時から開始。秋篠宮ご夫妻ら皇族も参列された。葬儀委員長の岸田文雄首相、友人代表の菅義偉前首相らが追悼の辞を行う。首相経験者の国葬は、67年10月31日の吉田茂元首相以来55年ぶりとなる。警察は全国から最大2万人を動員、威信をかけた警備に当たった。都内では首都高などで午後9時まで交通規制が行われる。会場近くでの一般献花には、朝から多くの人が訪れ、開始時間は30分前倒しされ、午前9時半から始まった。安倍元首相は2期の政権で、日本憲政史上最長の通算8年8カ月、首相を務めた。7月8日、奈良市内で参院選の応援演説中に背後から銃撃され、搬送先の病院で死亡が確認された。岸田首相は国葬の実施を閣議決定したが、国会での審議を経ずに決定した過程などに国民の意見は分かれ、この日も東京・日比谷公園で抗議デモが行われた。 *1-1-3:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220927/k10013839041000.html (NHK 2022年9月27日) 安倍元首相「国葬」海外の反応は? 安倍元総理大臣の「国葬」をめぐる海外メディアなどの反応をまとめます。 ●英 トラス首相「英国との温かい友情 永遠の遺産として残る」 イギリスのトラス首相は、27日、自身のツイッターに日本語と英語の両方で、「安倍元首相の長年にわたる英国との温かい友情は、今日の日英両国の緊密な友好関係の中に、永遠の遺産として残ります」と投稿し、イギリスと良好な関係を築いてきた安倍元総理大臣に哀悼の意を表しました。 ●インド モディ首相「心の中に生き続けることでしょう」 インドのモディ首相は、自身のツイッターに日本語で「安倍さんは偉大な指導者、稀有な人物であり、印日友好に確信を持ってくれている人でした。安倍さんは何百万人もの人々の心の中に生き続けることでしょう」と投稿し、良好な関係を築いてきた安倍元総理大臣に対して哀悼の意を示しました。また、インド外務省によりますと、モディ首相は国葬の後、安倍元総理の妻の昭恵さんと面会し、弔意を伝えたということです。 ●米CNNテレビ 日本武道館の近くから中継 アメリカのCNNテレビは、会場となった日本武道館の近くから特派員が中継し「安倍元総理大臣は最も長く総理大臣を務め、日本の世界的な注目度を高めた。朝早くから参列できなかった市民が献花をしようと訪れている」などと述べました。そのうえで「多くの人たちは、多額の国費が議会にはかることなく使われたことに不満を持っている。食べるのに苦労している人もいるなかで、税金の使い方に問題があるとの意見もある。人々は一日中抗議している」として国葬をめぐって国民の賛否が分かれていることを伝えています。 ●欧州メディア 「国葬」国民の賛否が分かれていると伝える ヨーロッパのメディアは、安倍元総理大臣の「国葬」をめぐって、日本では、国民の賛否が分かれていると伝えています。このうちロイター通信は27日、日本で「国葬」が行われるのは1967年以来だとしたうえで「元総理大臣の殺害がきっかけとなり、与党の多くの議員と旧統一教会とのつながりが明らかになった」と伝えました。またフランスのAFP通信は27日「世論調査では、およそ60%の日本国民が『国葬』に反対している」と伝えました。そしてイギリスの公共放送BBCは、26日の記事に「なぜ安倍元総理大臣の『国葬』は論争になっているのか」という見出しをつけ、多額の費用に反対の声が上がっているとする一方「彼ほど長期にわたって総理大臣を務めた人はいない」と報じました。 ●韓国メディア 日本国内の世論の分裂を伝える 韓国メディアは、一部のテレビ局が会場近くに設けられた献花台の前から中継したほか、安倍元総理大臣の「国葬」をめぐって日本の世論が大きく割れていることに焦点を当てて伝えています。このうち、通信社の連合ニュースは「国葬」に反対する市民グループの集会の様子も詳しく紹介したうえで「『国葬』による日本国内の世論の分裂は『国葬』当日に最もはっきりと示された」と報じました。また、革新系のキョンヒャン(京郷)新聞は「旧統一教会との関係や『国葬』の妥当性をめぐって世論が好意的ではない中で行われた」と伝え、SNSのハッシュタグでは「安倍さんありがとうございました」と「最後まで国葬に反対します」の2種類が多く登場していると指摘しています。 ●台湾メディア「代表3人が献花 会場で『台湾』とアナウンス」 安倍元総理大臣の「国葬」について、台湾の主要なメディアはいずれも東京から中継したり日本の報道を引用したりして詳しく伝えています。TVBSなど各テレビ局は、台湾の代表3人がほかの海外からの参列者と同様に献花を行い、その際、会場で「台湾」とアナウンスされたことを強調しています。日本の一部メディアの「台湾を国扱いするものだとして中国が反発するのではないか」という見方について、台湾の日本に対する窓口機関「台湾日本関係協会」の周学佑 秘書長は27日午前の記者会見で「台湾と日本の間の基本的な人情や義理について中国が抗議する理由は何もないと思う」と述べました。 ●中国 “台湾の参列者の献花 機会与えるべきでない” 中国外務省の汪文斌報道官は27日の記者会見で安倍元総理大臣の「国葬」で台湾からの参列者が献花を行ったことについて問われ「台湾は中国の不可分の一部で、『1つの中国』の原則は国際社会における普遍的な共通認識だ。日本は、両国の間の4つの政治文書の原則を順守し台湾独立分子に政治的な工作を行ういかなる舞台や機会も与えるべきではない」と述べ、日本側をけん制しました。 *1-1-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/fc9ae1bd0641b5889ab142513b6cc1500feff382 (Yahoo、時事通信 2022/9/25) 迫る安倍氏国葬、厳戒態勢 2万人動員、応援も 「信頼回復の第一歩」と幹部・警視庁 27日に迫った安倍晋三元首相の国葬は、警護の不備が浮き彫りになった7月の銃撃事件以降、警察当局が臨む初めての大規模警備となる。警視庁幹部は「信頼回復の第一歩だ」と意気込み、万全を期す構えだ。同庁関係者によると、警備態勢は2万人規模に上り、5月にバイデン米大統領らが来日した日米豪印4カ国(クアッド)首脳会議の約1万8000人を上回る見通しだ。「警察の存在意義そのものが問われる」(大石吉彦警視総監)という警備には、北海道や福岡など道府県警からの応援も二千数百人を見込む。同庁幹部は「想定外があってはならない。無事に完遂させる」と気を引き締めており、東京都内の主要ターミナル駅などには既に部隊が配置された。海外要人の来日本格化を前に、24日には羽田空港(東京都大田区)と都心を結ぶ首都高速道路で、爆発物など不審物の捜索を実施した。銃撃事件の検証では、過去の警護計画を安易に踏襲したと指摘された。別の幹部は「前例踏襲にならないようチェックを徹底している」と語り、従来の大規模警備にとらわれることなく、態勢に不備がないか計画を点検していると強調する。国葬をめぐっては、野党が批判を強め、実施反対のデモも起きるなど逆風も吹いており、同庁幹部は「『自分が正義だ』という攻撃者の心理が生まれかねないムードだ」と危惧する。前兆を捉えにくい組織的背景のない個人の凶行を警戒し、不審なインターネット上の書き込みや、銃や爆発物の原材料の購入に関する情報収集も強化している。国葬当日は、複数の団体が反対デモを予定し、会場となる日本武道館近くの九段坂公園には一般向けの献花台も設置されるなど、周辺には多くの人が訪れるとみられる。このため、大勢の警察官を配置し、群衆に紛れた危険人物の察知やトラブル防止にも力を入れる。東京・富ケ谷の安倍氏の自宅で遺骨を乗せ、会場に向かう葬儀車列の警備も余念がない。生前ゆかりのあった場所周辺も数カ所経由するとみられ、幹部は「沿道も厳重に警備する。もう何もあってはならない」と語気を強めた。 *1-1-5:https://digital.asahi.com/articles/ASQ9W006PQ9VUHBI034.html (朝日新聞 2022年9月27日) 「国葬めぐり、なぜ日本が分裂?」 海外メディアが相次ぎ報道 安倍晋三元首相の国葬をめぐり、世論が二分されている背景などについて、海外メディアの報道が相次いでいる。AP通信は「国葬をめぐって、なぜ日本が分裂しているのか」との見出しの記事を配信し、「与党が超保守的な旧統一教会と癒着していることが、葬儀への反対を大きくしている」と報道。ロイター通信は「岸田(文雄)首相は旧統一教会と自民党のつながりを断つと約束したが、党と政権への影響は計り知れない」と伝えた。米ニューヨーク・タイムズも、旧統一教会をめぐる問題を指摘したうえで、国葬を「岸田政権による一方的な押し付け」ととらえる国民にとって、「追悼の念は薄れているようだ」と伝えた。また、安倍元首相の評価についての分析として「(安倍元首相は)国際舞台では称賛されたが、国内ではそれ以上に分裂が激しく、右傾化政策に反対した人々がいま、無数の不満を口にしている」と指摘している。エリザベス女王の国葬が行われたばかりの英国。BBCは、女王の国葬には参列しなかったインドのモディ首相が安倍元首相に敬意を表するために日本を訪れると指摘した。安倍政権による安全保障政策をめぐっては、論争を引き起こしたとする一方で、識者の見方も踏まえ、ワシントンや、中国に対して懸念するアジアの多くの国々からは歓迎されたとの見方を示した。一方、英フィナンシャル・タイムズは、岸田政権の支持率が急落している現状に注目し、「岸田首相の苦境は、彼のリーダーとしての時間が限られ、日本の首相の不安定な時代に戻るかもしれないという懸念を抱かせた」と指摘した。 *1-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022090801115&g=pol (時事 2022年9月9日) 旧統一教会および関連団体との接点・関係 自民 1、会合への祝電・メッセージ等の送付 97人 氏名公表せず 2、広報紙誌へのインタビューや対談記事などの掲載 24人 氏名公表せず 3、旧統一教会関連団体の会合への出席 (1)議員本人ではなく、秘書が出席した会合 76人 氏名公表せず (2)議員本人が出席したが、あいさつ等はなかった会合 48人 氏名公表せず (3)議員本人が出席し、あいさつした会合 96人 【衆院】逢沢一郎▽赤沢亮正▽東国幹▽池田佳隆▽石橋林太郎▽石原宏高▽石原正敬▽伊東良孝▽稲田朋美▽井林辰憲▽井原巧▽大岡敏孝▽尾崎正直▽小田原潔▽鬼木誠▽菅家一郎▽神田憲次▽北村誠吾▽工藤彰三▽熊田裕通▽国場幸之助▽小寺裕雄▽小林茂樹▽小林鷹之▽小林史明▽坂井学▽佐々木紀▽柴山昌彦▽島尻安伊子▽鈴木馨祐▽関芳弘▽高木宏寿▽高鳥修一▽高見康裕▽武田良太▽武村展英▽谷川とむ▽田野瀬太道▽田畑裕明▽塚田一郎▽土田慎▽土井亨▽中川貴元▽中川郁子▽中曽根康隆▽中西健治▽中根一幸▽中野英幸▽中村裕之▽中山展宏▽西野太亮▽萩生田光一▽鳩山二郎▽平井卓也▽深沢陽一▽古川康▽細田健一▽宮内秀樹▽宮崎政久▽宮沢博行▽務台俊介▽宗清皇一▽村井英樹▽盛山正仁▽保岡宏武▽柳本顕▽山際大志郎▽山田賢司▽山本朋広▽若林健太 【参院】青木一彦▽生稲晃子▽石井浩郎▽井上義行▽猪口邦子▽上野通子▽臼井正一▽江島潔▽加田裕之▽加藤明良▽北村経夫▽古賀友一郎▽小鑓隆史▽桜井充▽佐藤啓▽高橋克法▽豊田俊郎▽永井学▽船橋利実▽星北斗▽舞立昇治▽三宅伸吾▽森屋宏▽山本順三▽若林洋平▽渡辺猛之 (4)議員本人が出席し、講演を行った会合 20人 【衆院】赤沢亮正▽甘利明▽石破茂▽伊東良孝▽大岡敏孝▽小田原潔▽北村誠吾▽木原稔▽佐々木紀▽谷川とむ▽中谷真一▽中山展宏▽古川康▽宮沢博行▽務台俊介▽山際大志郎▽義家弘介 【参院】井上義行▽猪口邦子▽衛藤晟一 4、旧統一教会主催の会合への出席 10人 【衆院】逢沢一郎▽上杉謙太郎▽木村次郎▽柴山昌彦▽萩生田光一▽穂坂泰 【参院】磯崎仁彦▽井上義行▽三宅伸吾▽森雅子 5、旧統一教会および関連団体に対する会費類の支出 49人(うち、政治資金規正法上、要公開の対象議員は24人) 【衆院】青山周平▽池田佳隆▽伊藤信太郎▽伊東良孝▽井上信治▽上野賢一郎▽大岡敏孝▽奥野信亮▽小田原潔▽鬼木誠▽加藤勝信▽神田憲次▽木村次郎▽高木啓▽高木宏寿▽武田良太▽田畑裕明▽寺田稔▽中川郁子▽萩生田光一▽平井卓也▽平沢勝栄▽松本洋平 【参院】上野通子 6、旧統一教会および関連団体からの寄付やパーティー収入 29人(うち、政治資金規正法上、要公開の対象議員は4人) 【衆院】石破茂▽下村博文▽高木宏寿▽山本朋広 7、選挙におけるボランティア支援 17人 【衆院】岸信夫▽木村次郎▽熊田裕通▽斎藤洋明▽坂井学▽高鳥修一▽田畑裕明▽田野瀬太道▽中川貴元▽中村裕之▽深沢陽一▽萩生田光一▽星野剛士▽若林健太 【参院】北村経夫▽小鑓隆史▽船橋利実 8、旧統一教会および関連団体への選挙支援の依頼、および組織的支援、動員等の受け入れ 2人 【衆院】斎藤洋明 【参院】井上義行 (敬称略)。 *1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ945GMFQ92TIPE006.html?iref=com_rnavi_arank_nr03 (朝日新聞 2022年9月4日) 日韓トンネルは「教祖の悲願」 賛同者に大物政治家、教団の狙いとは 玄界灘を望む佐賀県唐津市。かつて豊臣秀吉が朝鮮出兵の拠点とした名護屋城跡から南に約1・5キロの山中に、周りをコンクリートで固めた大きな穴がぽっかりと開いている。穴の上にかかる看板には「日韓トンネル唐津調査斜坑」と日韓2カ国語で書かれていた。日本と韓国を海底トンネルで結ぶ「日韓トンネル」構想は、両国を全長200キロを超えるルートでつなぐ計画。「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の創始者、故・文鮮明氏が1981年に提唱し、教団や友好団体が推進してきた。日本の閣僚からは「荒唐無稽」との声も上がるが、計画推進のための会合には国会議員らも参加していた。記者が訪ねた8月中旬、人の気配はなかった。付近の住民によると、もともとこの辺りは牛の放牧場だった。近くに住む80代の男性は「本工事に向けて、機械を入れるトンネルと聞いている。コロナ禍以前は時折バスが何台も来て、視察をしていたようだ。非現実的な計画で、実現するかどうかはあまり関心がなかった。これまで地元とのトラブルなどはなかったと思う」と話す。 ●「日本を陸続きに…」 関係者が語った教祖の悲願 日韓トンネル構想の事業を担うのは、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の友好団体の一般財団法人「国際ハイウェイ財団」(東京)。1982年に設立された前身の団体のトップには、教団の日本での初代会長を務めた久保木修己氏が就任した。教団の資料や財団によると、日韓トンネルは、九州北部から長崎県の壱岐と対馬の両島を通り、韓国南部までを最短約235キロで結ぶ。総事業費は10兆円と試算する。斜坑がある佐賀県唐津市の土地は広さ約19万4千平方メートル。斜坑の建設費は約21億7500万円で、調査費は約45億6600万円としている。斜坑はトンネル本体の工事に向け、地質調査などを目的に試掘したもの。86年に起工し、2007年までに直径6メートルの坑道を約540メートルまで掘り進めた。所有する敷地の境界に達し、それからは中断しているという。掘り進んだ土地は10年、教団から財団に寄付されている。かつて財団の元幹部はトンネルについて「教祖の悲願」と表現し、「日本(と韓国)を陸続きにして島国でなくするという文鮮明師の考え方に基づく」と、朝日新聞記者らに説明した。構想を後押しする動きは、国内でじわりと広がっていた。10年以降は「日韓トンネル推進会議」が各地に立ち上がった。また衆院事務局によると、11年に徳島県議会が、13年に長崎県対馬市議会が、日韓トンネルの早期建設や着工を求める意見書を衆院に送付した。17年には東京都内で「日韓トンネル推進全国会議」の結成大会が開かれた。財団が共催し、教団の友好団体「UPF(天宙平和連合)―Japan」「平和大使協議会」が協力に名を連ねた。会場では、朝日新聞記者が取材していた。財団の徳野英治会長(当時)が「新幹線に乗って東京からソウルにまいりましょう」と呼びかけると、大きな拍手が起きた。徳野氏は当時、教団の日本の会長でもあった。大会には自民党の国会議員も出席していた。当時、幹事長特別補佐を務めていた武田良太衆院議員は「二階(俊博)幹事長もご招待いただいたが、国会中で日程調整がつかず、私が代わりをさせていただく」と述べ、「この夢を必ずや実現していきたい」。参院憲法審査会長だった柳本卓治・元参院議員は「日韓トンネルで、心だけではなく本当に往来ができるように実現を図っていかなければならない」とあいさつした。元官房長官で、当時日韓議員連盟幹事長だった河村建夫・元衆院議員がビデオメッセージを寄せ、日韓トンネルについて「究極の日韓融合の一つの大きな指標だと我々も認識している」と話した。日韓トンネルに関して名前が出てくるのは、政治家だけではない。15年に設立大会が開かれた「日韓トンネル実現九州連絡会議」の会長は、九州大学の元総長が務める。推進会議の地方組織の会合では、民間閣僚だった元総務相やJR九州元社長らが講演していた。日韓を結ぶ海底トンネルは、過去に日韓首脳の間で話題になったこともある。財団は「過去、日韓の首脳がその意義を認め、賛同の意を何度も表明した国際プロジェクト」と説明する。一方、斉藤鉄夫国土交通相は8月26日の会見で「(国土づくりの方向性を示す)国土形成計画において、日韓トンネル構想を検討したことはない。ちょっと荒唐無稽な構想だと思っていた」と述べた。地元はどうか。 ●試掘坑の見学ツアー 「寄付の口実として利用」指摘 佐賀県によると、単に穴を掘るだけでは県の許認可対象となる「開発行為」には当たらない。一定範囲以上の森林伐採があれば森林整備課で法令に沿った対応をするが、今のところそうしたこともないという。唐津市の峰達郎市長は8月26日の会見で「民間団体が私有地で活動していると理解している。市は一切関与していない」と述べた。さらに「報道で出るたびに、看板に『唐津』の文字が入っていることにちょっと違和感を持っている。できれば看板は取り外してほしいという個人的な気持ちはある」と漏らした。教団が14年に記者に配布した資料には、「日韓トンネル早期実現のために全ての教会員が協力している」「教会と信徒が100億円を超える寄付を行い、財団が調査と建設の事業を担ってきた」などと記していた。ただ、日韓トンネルが絡んだ献金をめぐっては、教団に損害賠償を求める訴訟も過去には起きている。80年代、複数の訴訟で代理人を務めた「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人の山口広弁護士は「教団は献金を集める名目として日韓トンネル計画を利用してきた。政治家や学者らが関与すれば社会的な信用を与えることになり、献金を助長するおそれがある。即刻手を切るべきだ」と批判する。教団がトンネル資金のために借りた金の名義貸しをさせられたとして、元信者が約1億8千万円の損害賠償を求めた訴訟を担当した平田広志弁護士(福岡県弁護士会)は「旧統一教会は、信者らを頻繁に試掘坑の見学ツアーに連れて行った。日韓トンネル計画は、統一教会が意義深い活動をしている印象を信者らに持たせ、活動資金を寄付させる口実として利用された」と語る。財団は、朝日新聞の取材に「多くの団体、個人から貴重な寄付金をいただき、実現に向けての調査、研究、用地確保などを行ってきた」と説明する一方、日韓関係の悪化や日本の経済不況を挙げて「1990年ごろ以降は寄付金募集も決して容易ではない状況にあることは認めざるをえない」とする。さらに「教団批判に注力している弁護士らが、教団に被害を及ぼすことを目的に日韓トンネルを持ち出し、事実に反する内容を繰り広げている」とも主張している。教団は「資金集めのための運動ではない。そのように言われることは大変遺憾だ」と回答した。 ●河村元官房長官「計画、趣旨には賛同」 17年の「日韓トンネル推進全国会議」結成大会に参加した経緯などについて、河村建夫氏は取材に「自分は教団の支援は一切受けていないし、日韓トンネルは教団が推進している計画だと知っていたので積極的に参加したくなかったが、教団から支援を受ける地元山口県の市議に頼まれたのでビデオメッセージを送るだけにした。計画自体は日韓友好につなぐ夢として趣旨には賛同している」と語った。武田良太氏は「無回答」とし、柳本卓治氏は期限までに回答がなかった。 <防衛費増額で日本を護れるのか> *2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220811&ng=DGKKZO63369280R10C22A8MM8000 (日経新聞 2022.8.11) 国の借金、初の1人1000万円 6月末、総額最大の1255兆円 財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券を合計したいわゆる「国の借金」が6月末時点で1255兆1932億円だったと発表した。3月末から13.9兆円増え、過去最多を更新した。国民1人あたりで単純計算すると、初めて1000万円を超えた。債務の膨張に歯止めがかからず、金利上昇に弱い財政構造になっている。企業の業績回復に伴い、2021年度の税収は67兆円と過去最高を更新した。一方、新型コロナウイルス対策や物価高対策などの歳出は増え続けている。低金利が続き利払いは抑えられているが、歳出の増加が税収の伸びを上回り、債務が膨らむ構図になっている。7月1日時点の総務省の人口推計(1億2484万人、概算値)で単純計算すると、国民1人あたりで約1005万円の借金になった。およそ20年前の03年度は550万円で、1人あたりでみると2倍弱に増えた。物価高対策を盛り込んだ2.7兆円規模の22年度補正予算は財源の全額を赤字国債でまかなった。財務省は22年度末には、借入金や政府短期証券を含めた国の借金が1411兆円まで増えると推計している。日本の債務残高は国内総生産(GDP)の2倍を超え、先進国の中で最悪の水準にある。成長力を底上げして税収増につなげる「賢い支出」を徹底する必要がある。 *2-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220905&ng=DGKKZO64040950V00C22A9MM8000 (日経新聞 2022.9.5) 防衛費を問う(1)日米「統合抑止」への変革、日本、台湾有事にらみ概算要求最大 戦略・制度も欠かせず 日本の防衛が歴史的な転換点を迎える。防衛省は8月末、2023年度予算の概算要求で過去最大の防衛費を計上した。国内総生産(GDP)比で1%の上限を撤廃し、2%も視野に入る。大幅に増やす防衛費は何が必要なのか。課題をみる。「統合抑止(Integrated Deterrence)」。日米で進む外交・安全保障戦略擦り合わせのキーワードだ。5月、日米防衛相会談ではオースティン国防長官が促し、事務方の交渉でもこの言葉が軸になっている。統合抑止は米国が新たに打ち出した安全保障の基本戦略で、これまでの軍事力だけではなく、同盟国の能力、サイバーや宇宙の領域を幅広く活用する。米軍単独では中国の脅威に対処できない危機感がある。過去最大となった防衛省の概算要求は、その第一歩だ。これまで日本の防衛費論議は国民総生産(GNP)比1%枠が象徴する「数字ありき」の議論や、どんな装備品を購入するのかの「買い物計画」に偏りがちだった。米国とより連携を深めるなら米国と補完し合う形で装備品を調達し、戦略や制度も見直さなければならない。年末に国家安全保障戦略など3つの政府文書を改定するのもそのためだ。特に台湾有事の対応が問われる。 ●「0発対1250発」 第1段階の統合抑止で最も重要なのはミサイルになる。米国は過去の条約の制約で現在、中距離ミサイルを持たない。日本から中国に届く中距離ミサイルは日米ともに保有していない。条約の対象外だった中国は1250発以上を持つとされる。「0対1250」の圧倒的不均衡の修正が急務だ。日本の防衛省は今回の概算要求で一つの策を示した。相手の射程外から攻撃できる長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」だ。国産の「12式地対艦誘導弾」の射程を1000キロメートルに伸ばす改良費に272億円を計上した。1000発以上を量産する案が取り沙汰されている。政府・自民党内では22年度に沖縄県・石垣島に陸上自衛隊の駐屯地を新設し、ミサイル部隊を置く構想がある。構想通りに配備すれば沖縄の在日米軍基地や台湾に近く、中国側に届く。米国の統合抑止への目に見える関与といえるが、中国の反発も必至だ。米中対立のはざまに入る覚悟もいる。統合抑止は装備だけではない。インフラや制度、組織も日米がともに使えなければ機能しない。「本州にある航空自衛隊の基地を米軍の戦闘機に使わせてほしい」。今夏、米シンクタンク、ランド研究所が実施した机上演習でこんな場面があった。台湾有事の仮想シナリオで米軍幹部が自衛隊幹部に要請した。台湾周辺の米戦闘機は沖縄の在日米軍基地に集中する。中国の攻撃前に分散しなければ、簡単に壊滅しかねない。日本が退避場所を提供できるかが米軍の生命線になる。 ●指揮系統は別々 自衛隊組織の見直しも大事だ。米国が参加する北大西洋条約機構(NATO)や米韓同盟には「最高司令部」や「連合司令部」がある。トップは米軍の司令官だ。日米には統合司令部はなく指揮も別々だ。米韓や日米には朝鮮半島有事にどう協力して対処するかを規定する「共同作戦計画」があるが、日米の間で台湾有事に向けた計画は完成していない。装備や人員の配置、輸送や補給手段などを具体的に定めなければ統合作戦は動かせない。陸海空3自衛隊を束ねる統合幕僚長を務めた折木良一氏は「米国との窓口を担う統合司令官をつくるのが基本中の基本だ。危機になると統合幕僚長は防衛相や首相官邸など文官を補佐する仕事に追われる」と指摘する。統幕長は有事に(1)3自衛隊の統括(2)首相や防衛相への説明(3)在日米軍やインド太平洋軍司令部との調整――をすべて担う。同時並行でこなすのは非現実的だ。南西諸島には全長300メートル以上の米空母が寄港できる港湾設備はない。最新鋭戦闘機が発着できる堅固で長い滑走路も見当たらない。港や空港は国土交通省の所管だ。国・地方あわせて15兆円の公共投資予算で防衛向けは1900億円。従来の防衛費の概念に入らない他省庁の予算は多い。日本は戦後、自らは一度も紛争に巻き込まれたことがない平和国家だった。防衛費増を危険視する向きもあるが、軍事に傾斜する中国や北朝鮮、ロシアが近くにあり安保環境は厳しさを増す。必要な備えがなければ、攻撃は抑止できない。平和を守るには有事をにらんだ備えがいる。 *2-1-3:https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/263975 (山陰中央新報論説 2022/9/5) 防衛費概算要求 軍拡競争に陥る恐れ ロシアによるウクライナ侵攻や台湾を巡る米中の緊張など国際情勢が激しく動く中で、日本はどういう役割を果たしていくのか。問われるのは根本的な外交・安全保障戦略の在り方だ。2023年度予算の概算要求で、防衛省は過去最大の5兆5947億円を計上した。ただ、それにとどまらず「5年以内に防衛力を抜本強化する」という岸田政権の方針に沿って、金額を示さない「事項要求」を多数盛り込んでいる。政府関係者は1兆円程度が上積みされ、当初予算は最終的に6兆円台半ばになるとの見通しを示している。毎年1兆円の増額を続ければ5年で防衛費は倍増し、世界で米中に次ぐ3位レベルの「軍事大国」になる計算だ。しかし、大幅な増額は周辺国を刺激し、軍拡競争に陥ることにもなりかねない。米国と同盟関係にある一方、中国と地理的に近く、両国と深い経済関係を持つ日本が果たすべき役割は、紛争を起こさないための対話を進め、地域の緊張緩和に取り組むことではないか。専守防衛を基本とし、「平和国家」の理念を掲げてきたからこそ周辺国から得られてきた信用もある。その貴重な「資源」を放棄するのか。真の安全保障のための戦略と防衛態勢はどうあるべきか。国会でも真正面から議論し、針路を定めていくよう求めたい。岸田文雄首相は5月の日米首脳会談で防衛費の「相当な増額」を表明。6月の経済財政運営の指針に「防衛力の抜本強化」を明記した。一方、自民党は参院選公約で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国内総生産(GDP)比2%以上を目標としていることを挙げ、大幅増額を訴えた。これまでGDP比1%程度だった防衛費を倍増すれば自民党の要求を実現するものになる。政府は年末までに外交・安保政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書を改定する。焦点は防衛費の増額と、相手国の領域内を攻撃できる敵基地攻撃能力を改称した「反撃能力」の保有を認るかだ。防衛省の概算要求は事項要求の柱として、相手の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」の強化を挙げた。反撃能力の保有が決まれば転用が可能な装備だ。安保戦略改定の議論を先取りし、既成事実化するものと言える。このほかにも攻撃型の無人機の導入や、最新鋭戦闘機の追加取得などを列挙した。専守防衛との整合性が問われよう。配備を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策としてはイージス・システム搭載艦2隻を建造する。従来のイージス艦よりも大型で最新鋭の装備を搭載する計画だ。「焼け太り」ではないか。厳しい財政事情の中で財源はどうするのか。今でも隊員が不足している自衛隊に運用が可能なのか。課題は尽きない。多岐にわたる事項要求について防衛省幹部も「初めてのことで手探りだった」と語る。額を増やすために「かき集めた」のが実情ではないか。「増額ありき」で主導してきた政治の責任は重い。「抑止」のための反撃能力だと主張しても、相手国には攻撃力と映り、結局は軍拡競争に陥る「安全保障のジレンマ」が待っている。対立の構図から脱して、対話の道を開いていく国家戦略こそが求められる。 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15365763.html (朝日新聞 2022年7月23日) 防衛力強化、理解求める記述増 「1人当たりの国防費」比較・敵基地攻撃能力「解説」 防衛白書 2022年版防衛白書は、防衛費の増加や敵基地攻撃能力の保有など、岸田政権が年末の国家安全保障戦略などの改定に向けて検討する防衛力強化について、前向きな記述が入った。前提となる周辺国に対する情勢認識の記述を強めるなど、国民の理解を得たい思惑が垣間見える。防衛費をめぐっては、5月の日米首脳会談で岸田文雄首相が「相当な増額」を打ち出した。自民党は参院選で「NATO(北大西洋条約機構)諸国の国防予算の対GDP(国内総生産)比目標(2%以上)も念頭に、5年以内に防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」と公約に明記した。例年、防衛費の各国との比較は掲載しているが、今年は自民公約と連動するように、NATO加盟国がGDP比2%以上の国防支出の達成で合意していることを書き込んだ。さらに、「(国民)1人当たりの国防費」の主要国比較も新たに掲載した。日本の4万円に対し、米国21万円、中国2万円、ロシア9万円、韓国12万円、英国10万円などとなっており、増額に向けて国民の理解を求めたい意向が透ける。岸信夫防衛相は22日の記者会見で、こうした記載について「防衛費は国防の国家意思を示す大きな指標となる。国民のみなさまに防衛費の現状についてご理解を深めて頂けるように初めて記述した」と話した。日本を攻撃しようとする外国のミサイル基地などをたたく敵基地攻撃能力についても、「急速に変化・進化するミサイル技術への対応」と題した「解説」を新たに設けた。「迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命や暮らしを守り抜くことができるのかといった問題意識のもと、あらゆる選択肢を検討」していると説明。従来の国会答弁も紹介し、「『先制攻撃』を行うことは許されないとの考えに変更はない」と強調した。 ■周辺国の情勢認識、表現強化 防衛力強化の必要性の根拠となる周辺国の情勢認識については、年末の国家安全保障戦略などの改定で本格的に議論されるが、白書でも先行して表現を強めた。ロシアは前年の「注視」から「懸念を持って注視」と変えた。海洋進出や台湾への軍事的圧力を強める中国は「わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念」、核・ミサイル開発を進める北朝鮮は「わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」という表現を踏襲したものの、それぞれ「こうした傾向は近年より一層強まっている」という一文を加えた。特に中国については昨年よりも3ページ多い34ページを割いて詳報し、強い警戒感を示している。日本周辺での活動を「急速に拡大・活発化」させてきたことを踏まえ、「活動の定例化を企図しているのみならず質・量ともにさらなる活動の拡大・活発化を推進する可能性が高い」と懸念を示し、「強い関心を持って注視していく」必要性を訴えた。 ■中国「強烈な不満」 防衛白書について、中国外務省の汪文斌副報道局長は22日の定例会見で、「中国の脅威を誇張し、台湾問題で中国内政に干渉している」などとして「強烈な不満と断固とした反対」を表明。日本側に厳正な申し入れを行ったと明らかにした。汪氏は、白書が「反撃能力」について記述したことなどについて「日本がますます平和主義や専守防衛から遠ざかるのではないかと懸念されている」と訴えた。 ■表紙はAIアート 2022年版の防衛白書は、表紙にAI(人工知能)アートをあしらった。手がけたのは、テクノロジーアーティスト集団「ライゾマティクス」。防衛省として、先端技術を活用するとの意思を示したという。従来は艦艇や戦闘機などの写真を採用することが多かったが、昨年は人気の墨絵アーティストによる騎馬武者の墨絵を採用するなど、「イメージチェンジ」を図っている。今回は、AIに「ハイブリッド化した安全保障上の挑戦に革新的なアイデアと最先端技術で打ち勝つ」というコンセプトをキーワードとして入力。AIが生成した原画を加工した。ライゾマティクスに依頼したのは、省内に設置された「防衛白書事務室」。防衛省事務職員と陸海空の自衛官の計6人で構成する。約500ページに及ぶ防衛白書は、防衛省・自衛隊の任務や防衛政策の説明から世界の国々の軍事動向まで多岐にわたり、「海外の安保関係者も、新版が出るたびに分析している」(防衛省幹部)と言われている。一般の人にも手にとってもらうため、安全保障の専門家だけでなく、出版社や広告会社にも意見を求めた。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220723&ng=DGKKZO62845750S2A720C2EA1000 (日経新聞社説 2022.7.23) 中ロ連携の深化に危機感示した防衛白書 ロシアのウクライナ侵攻は力による一方的な現状変更であり、アジアを含む国際秩序の根幹を揺るがしている。政府が22日に公表した2022年版の防衛白書はこんな危機意識を示し、防衛力を早急に強化すべきだと説いた。中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本の安全保障環境は厳しさを増しており、白書が示した認識はおおむね妥当だろう。政府は年末の国家安保戦略の改定に向け、防衛費の増額などに関する議論に本格的に乗り出す。国民にその必要性を丁寧に説明し、有効な手立てを検討してもらいたい。岸信夫防衛相は巻頭で国際社会がいま「戦後最大の試練」を迎えていると言明した。ロシアのウクライナ侵攻はその一因だが、ロシアが東アジアでも軍事活動を活発にしているのは気がかりだ。白書がとりわけ注目したのはロシアと中国の軍事協力の深化で、「懸念を持って注視する」と記した。両軍の艦艇10隻は21年10月、日本列島をほぼ一周する異例の行動をみせた。今年5月には両軍の爆撃機が日本周辺を長距離にわたって共同飛行した。米国は中国との競争を重視する方針を掲げながらも、当面はウクライナ支援に力を割かざるを得ない。日本が果たすべき役割はその分、重みを増す。中ロが期せずして同じタイミングで挑発的な行動に出る可能性も排除できない。政府はそうした事態も念頭に、備えを怠ってはならない。先の参院選で自民党は防衛費の増額を訴えたが、使い道を具体的に明らかにしなかった。厳しい財政状況で増額が必要ならば、政府・与党は早期に道筋を示して国民の理解を得るよう努めるべきだ。白書は中国に関して昨年と同じ表現で「安全保障上の強い懸念」を示した。台湾との軍事バランスが中国有利に傾き、その差は広がっていると指摘した。台湾有事が日本と無縁ではないとの認識は浸透しつつある。日本経済新聞社の世論調査でも、現行法で、あるいは法改正をしてでも台湾有事に備えるべきだと9割以上の人が回答している。白書はミサイル発射を繰り返す北朝鮮を引き続き「重大かつ差し迫った脅威」と位置付けた。台湾、朝鮮半島いずれの有事への備えでも米国や友好国との共同軍事訓練の拡充は有効だ。現行法に抜け穴がないかも点検すべきだ。 <原発推進に固執した経産省と日経新聞> *3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15407450.html (朝日新聞 2022年9月5日) 原発周辺での砲撃続く IAEA6人滞在中 ザポリージャ ロシア軍が占領するウクライナ中南部ザポリージャ原発とその周辺では、国際原子力機関(IAEA)の専門家が滞在する中、4日も砲撃が続いた。ロシア側とウクライナ側は互いに原発を狙って攻撃をしかけていると主張。3日には主要な外部電源との接続が途絶し、予備の送電網に頼る危うい状況が続いている。ロシア国防省は4日、ウクライナ軍が同原発を攻撃するため、ドローン8機を使用したと発表した。8機はいずれもロシア軍により撃退されたとしている。一方、ロシアの独立系の調査報道サイト「ザ・インサイダー」は、2日から3日の夜にかけてロシア軍の多連装ロケット砲が原発に隣接する場所から発射されているとする動画を、4日公表した。「ロシアは送電線を破壊してウクライナへの送電を止め、ロシアへの送電を狙っている」との見方を示している。現在、原発には6人のIAEA専門家が滞在。今週中にも2人が「常駐」する態勢に移行して原発の監視と支援を担う。IAEAのグロッシ事務局長は3日の声明で、「原発周辺の状況に強い懸念を抱いているが、我々がそこに滞在し続けることが最も重要だ」と述べ、可能な限り職員の常駐を続ける考えをあらためて示した。市民生活にも影響が出ている。ウクライナのメディアは4日、原発の地元エネルホダル市の市長の話として、人道支援物資を運ぶトラックが砲火で届かない状況が2日間続いていると伝えた。 *3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220911&ng=DGKKZO64235330R10C22A9MM8000 (日経新聞 2022.9.11) 北朝鮮弾道弾 「変則型」4割 新型の迎撃困難に、日米韓、抑止が急務 北朝鮮がミサイル技術を高め、迎撃が難しくなってきた。2019年以降に発射した弾道弾を分析すると、迎撃が難しい変則軌道が少なくとも4割弱、兆候を読みにくい固体燃料が7割強を占めた。16~17年から一変した。核搭載できる様々な飛距離の新型を開発し、日米韓の隙を突く。「核は絶対的な力であり、朝鮮人民の大きな誇りだ」。金正恩(キム・ジョンウン)総書記は8日の演説でこう述べ、核・ミサイル開発への決意を強調した。最高人民会議は同日、核兵器の使用条件などを定めた法令を採択した。北朝鮮は22年前半だけで28発以上の弾道ミサイル(総合2面きょうのことば)を発射した。最多だった19年の年間25発を上回る水準だ。韓国政府系の研究機関は北朝鮮は1月以降の発射で最大870億円を費やしたと分析する。北朝鮮の推定国内総生産(GDP)の2%に相当する。制裁で厳しい経済状況の北朝鮮が開発を急ぐのはなぜか。発射するミサイルの変化を追うと狙いが浮かぶ。防衛省や韓国軍の発表をもとに分類し、16~17年の40発と19年以降の70発を比べた。変化が顕著なのが燃料だ。17年までは液体燃料型が大多数を占めていたのが直近は固体燃料型が主軸になった。「スカッド」や「ノドン」といった旧型に代わり、ロシアや米国が開発し配備するミサイルと類似した「KN23」や「KN24」が登場した。固体燃料は発射前の数日以内に注入する必要がある液体燃料と比べ、情報収集衛星などで発射の兆候を探知しにくい。一度充填すると保存できない液体燃料と異なり燃料付きで保管できる強みもある。日米韓に察知されずに奇襲しやすくなる。北朝鮮はトンネルに隠した鉄道貨車から撃つといった手法も試みた。弾道を巡る技術開発も進む。17年までは放物線状の通常軌道ばかりだった。19年以降は3分の1超が途中で向きを変える変則軌道の発射だと分析された。左右方向に向きを変える例も出てきた。日米韓の軍事拠点への打撃力確保を意図する。韓国軍が射程110キロメートルとみる新型弾は軍事境界線付近から韓国のソウルや米韓軍が基地を置く平沢(京畿道)に届く可能性がある。KN23は佐世保(長崎県)や岩国(山口県)の在日米軍基地を圏内におさめる。北朝鮮は開発の動きを止めない。金正恩氏は21年の朝鮮労働党大会で、5年間の方向性として「固体推進の大陸間弾道ミサイル(ICBM)」と「戦術核」などを示した。ICBMは米本土などを狙う長距離ミサイルだ。これまで北朝鮮のICBMは新型の「火星17」を含め液体燃料だった。固体燃料型を配備すれば素早く核ミサイルを撃てるため米国への脅威が高まる。もう一方の戦術核は開発が進む短距離弾への核弾頭の搭載を意味する。弾頭の小型化には高度な技術が必要になる。このため日米韓の専門家には北朝鮮が7回目の核実験に踏み切るとの観測がある。北朝鮮は核・ミサイルの技術を高めて優位に立とうとする。防衛大の倉田秀也教授は「在韓・在日米軍は核を持たない。戦術核で脅せば米軍に介入をちゅうちょさせ、戦争の初期段階で主導権を握れると考えている」と指摘する。日米韓の対応は遅れている。日本は年末までの国家安全保障戦略の改定で敵の軍事拠点への「反撃能力」の保有などを検討する。それでも発射時点で日本を狙うミサイルを特定するのは難しい。倉田氏は「米国を扇の要に日米韓で共同対処する体制構築が必要だ」と話す。米韓とともに北朝鮮に核・ミサイルの使用をためらわせる抑止策を立てることが急務になる。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220911&ng=DGKKZO64235680R10C22A9EA2000 (日経新聞 2022.9.11) 原子力政策転換の行方(5)核のごみ 先送りの連鎖 EU、処分場とセットで議論 早期解決、原発活用へ必須 原子力発電所の再稼働拡大の検討に着手した政府にとって、議論が欠かせないのが「バックエンド」と呼ばれる放射性廃棄物の処分のあり方だ。日本では原発などから出る様々な廃棄物の最終処分場が決まっていない。政府は原発の「最大限活用」を強調するが、核のごみ問題や、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策は宙に浮いたままだ。2011年に事故を起こし、廃炉作業が進む東京電力福島第1原発。東電は8月25日、22年後半に取りかかる計画だった2号機の溶融燃料(デブリ)取り出しの時期について1年半程度延期すると明らかにした。デブリは1~3号機の内部に880トンある。処分先は決まっておらず、取り出し作業を順調に進められるのかも見通せない。東電は廃炉などに関連して福島第1で32年ごろまでに約78万立方メートルの廃棄物が出ると試算する。敷地内に一時的な保管施設を建設中だ。将来は最終処分場に移す考えだが、場所は未定のまま。東電は「国と東電、福島県などが協議して決める」と説明するが、議論は進んでいない。原発事故による放射性廃棄物は原発敷地外にもある。事故で飛散した放射性物質によって汚染された土壌やがれきだ。その量は約1400万立方メートルにもなると見込まれている。処理を担う環境省は福島第1周辺の1600ヘクタールの敷地を中間貯蔵施設にしている。45年までに福島県外に運ぶ約束だが、持ち出し場所は見えていない。商用原発からもがれきや使用済み制御棒といった放射性廃棄物が生じる。廃炉を決めた原発や検討中のものは福島第1を除いて18基ある。20年10月に北海道の寿都町などが文献調査に応募した最終処分場は、使用済み核燃料を再処理した際に生じる「ガラス固化体」を埋めるためのものだ。原発の解体時に出る放射性廃棄物などのほとんどは対象外で、電力会社は別に最終処分場を探さなければならない。海外では原発の活用拡大と処分場はセットで検討が進む。欧州連合(EU)は7月、環境面で持続可能な事業を定めた「EUタクソノミー」で原発をグリーンな事業と認定した。その要件として、原発から出る高レベル放射性廃棄物の処分施設の具体的な計画をつくることを求めた。日本は廃棄物の処分を進める主体が縦割りになっている課題がある。大学や研究施設から出る放射性廃棄物は文部科学省などが所管する。商用炉は電力会社、福島の中間貯蔵施設は環境省などと担当が分かれ、関係官庁が放射性廃棄物の処分で密に連携し、全体像を描こうとする様子はない。バックエンドにはサイクル政策の問題もある。使用済み核燃料を再利用するため加工する日本原燃の再処理施設は25年間も完成延期を繰り返す。総事業費は14兆円にも上るが、事業化のメドはたたない。再処理施設が稼働しないため、電力各社は使用済み核燃料を各原発の敷地内にため込む。関西電力は自社の原発が立地する福井県に対し23年までに搬出先の県外候補地を確定すると約束した。青森県むつ市の中間貯蔵施設の活用を探ったが同市の宮下宗一郎市長は核燃サイクルの行方が不透明なことを指摘する。「むつ市は核のゴミ捨て場ではない」と慎重な姿勢を崩さなかった。福島の廃炉などを巡る費用は数十兆円に上るとの試算もある。足元では資源高で電気代も高止まりする。原発の議論を先送りしてきた結果、多くの課題が残されたままになっている。とはいえ原発を止めたままでは日本のエネルギー安定供給は成り立たない。カーボンゼロとエネルギー供給を両立させるためには原発をどう稼働させていけるかを考える必要がある。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220930&ng=DGKKZO64742970Z20C22A9TB1000 (日経新聞 2022.9.30) 三菱重工、改良型の新原子炉 4社と開発、2030年代実用化に道 政府の政策転換が契機 三菱重工業は29日、安全性を高めた新型原子炉「革新軽水炉」を関西電力など電力会社4社と共同開発すると発表した。革新軽水炉は既存の原発技術を改良し、次世代原子力発電所の中では実用化に最も近いとされる。2030年半ばの実用化をめざす。日立製作所なども新型原子炉の開発に取り組む。各社が実用化を急ぐのは、政府の政策転換が契機だ。運転開始から30年以上たつ原発が過半を占める実情もある。三菱重工や関電、北海道電力、四国電力、九州電力の電力4社が実用化をめざす革新軽水炉は既存の加圧水型軽水炉(PWR)を基に改良する。出力は120万キロワット級。安全性を高める。自然災害や大型航空機の衝突などテロに対して対策を講じる。地下式構造で被害を受けにくくし、格納容器の外壁を強化し、破損の確率を既存炉の100分の1未満に減らす。東日本大震災の教訓を生かす。仮に炉心溶融が起きた場合でも溶け出した核燃料が外部に漏れないよう原子炉容器の下に備えた「コアキャッチャー」でためられるようにし、放射性物質を原子炉建屋内に封じ込める。炉心冷却のための電源も充実することで事故が起きても影響を発電所敷地内にとどめられるという。今回の新型原発は安全性の面で最も実用化に近いとされる。既存原発と基本構造が近く、既存軽水炉をもとに原発事故後に定められた新規制基準に対応する。他の次世代原発は規制の面が壁になる。例えば小型モジュール炉の場合はコンパクトな設計にするために既存軽水炉と異なる構造で、それに見合う規制が新たに必要になる。三菱重工などの背中を後押しするのが政府の方針転換だ。電力需給が逼迫するなか原発の新増設・建て替えを想定しない震災以降の方針を転換して次世代原発の開発・建設を検討する。ウクライナ危機を受けたエネルギーの安全保障問題も大きく響いている。政府の方針転換を踏まえ、産業界でも具体化に向けた動きが出始めた。三菱重工が既存の技術を基にした新型原発を開発を急ぐのは、残された時間は少ないという事情もある。稼働から30年以上経過する原発は運転可能なベースで国内にある33基の過半の17基になる。原子炉等規制法で定められた運転期間は原則40年間で、60年までの延長が認められているものの、40年以降は稼働原子炉が急減する見通しだ。新増設が具体的にどこまで進むかはまだ見えないが、政府内で想定される候補地の一つが関西電力美浜原発(福井県美浜町)だ。1、2号機は廃炉作業が進行中で、残る3号機も稼働から40年超がたった。関電も「新増設や建て替えがおのずと必要になる」との立場で、東日本大震災前には1号機の後継について自主調査も始めていた。原発の技術伝承が難しくなっているという側面もある。三菱重工にとり原発新設は09年に北電が運用を始めた「泊3号」以来。ただ建設を含めると20年近くのブランクがある。納入済みの24基(合計出力約2000万キロワット)ではほぼすべて主体となってEPC(設計・調達・建設)のノウハウを積んできたが、「なんとか踏みとどまれているが技術伝承は厳しくなっている」(三菱重工の泉沢清次社長)。供給網の維持にも課題がある。三菱重工によると原発供給網のうち原子力に特化した技術を持つ企業は約400社以上あるが、11年以降は厳しい経営状態が続き、事業撤退を決める会社が拡大傾向にある。川崎重工業は原子力事業を手がけ、日本初の商業用原発である日本原子力発電の東海発電所向けなどに蒸気発生器を提供した実績もあった。ただ11年の震災を機に人員が1割に減ったことも響き、2021年に撤退した。日立や東芝などが手掛ける沸騰水型軽水炉(BWR)を採り入れる電力会社の動きも注目される。東京電力ホールディングスの小早川智明社長は9月中旬の記者会見で、「まずは(休止中の)柏崎刈羽原子力発電所7号機の再稼働に向け安全最優先で諸課題に取り組む」と発言した。原発新設が進むかは自治体の了承もカギだ。原発は法律上、安全審査を通過すれば稼働できるとされているが、安全審査を通っても再稼働していない原発が現状7基ある。電力会社が各都道府県や立地自治体と安全協定を結び、自治体に「拒否権」があるからだ。岸田文雄首相は「国が前面に立ってあらゆる対応をとる」と話すが、事故リスクを抱える地元自治体とどう折り合いをつけるかが重い課題になる。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220926&ng=DGKKZO64610670V20C22A9MM8000 (日経新聞 2022.9.26) 原発、国主導で再構築を 再生エネ7割目標に、エネルギー・環境、日経緊急提言 「移行期」の安定と脱炭素両立 日本経済新聞社はエネルギーの安定供給と脱炭素の両立へ国が前面に立ち、あらゆる手段を動員する総力戦で臨むべきだとする緊急提言をまとめた。2050年の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率7割を目指す。原子力発電所の活用の体制を国主導で再構築し、脱炭素への移行(トランジション)期間の安定供給や資金確保に万全を期す必要がある。世界はロシアによるウクライナ侵攻など、地政学リスクの増大に伴うエネルギーの供給不安と、地球温暖化との関係が指摘される異常気象の増加という「2つの危機」に直面している。提言は論説委員会と編集局が検討チームをつくり、専門家らと議論を重ねてまとめた。2つの危機への対処が国家の将来を左右するとの認識の下、12のテーマについて取るべき道筋を示した。エネルギー危機を克服し、脱炭素を着実に進めるためには、国の強いリーダーシップが不可欠だ。そのためにエネルギー・環境政策を統合的に立案・遂行する司令塔となる「総合エネルギー・環境戦略会議」(仮称)を首相直轄下に置くことを提案した。そのうえで温暖化ガスの排出ゼロを実現するまでの移行期間のエネルギー安全保障を確保しながら、脱炭素時代の最適なエネルギーの組み合わせ(エネルギーミックス、総合・経済面きょうのことば)を追求する必要がある。脱炭素時代の電源構成はコストや供給の安定性を考慮しながら、再生エネ比率7割の高みを目指すべきだ。残り3割は原発と温暖化ガスを排出しない「ゼロエミッション火力」で確保する。ただ、足元で再生エネの比率は約2割にとどまる。データセンターの増加などで電力需要は増えるとの試算もある。再生エネ比率6~7割は発電量を4~5倍に増やす計算となり簡単ではない。実現には太陽光や風力、地熱などあらゆる再生エネを伸ばす政策的な措置が必須となる。新築住宅への太陽光発電パネルの設置義務化や、洋上風力発電の入札対象区域の拡大などが求められる。原発は再生エネを補完する脱炭素電源である。しかし、東京電力福島第1原発の事故から11年が経過しても原発に対する不信感は払拭できていない。安全や透明性の確保を前提に活用すべきだ。原発事業は巨額の建設・運営費や事故時の損害賠償リスクを考えると、事業会社が全責任を負う現行の国策民営の仕組みには限界がある。推進に最適な形態の検討が欠かせない。再稼働に事実上、必要な地元の同意を得る交渉に国が前面に立つことなども提起した。新増設について政府がいつまでに何基が必要か、工程表を示すことも求めた。火力発電は段階的に減らして脱炭素化する。移行期間の設備の維持・更新についても必要な資金供給の枠組みを整えなければならない。温暖化ガスの排出量が多い石炭火力は新設せず、脱炭素化の時期を可能な限り前倒しする。燃焼させても温暖化ガスを出さない水素やアンモニアとの混焼や、二酸化炭素(CO2)の回収技術との組み合わせを義務付け、50年までに排出実質ゼロへ移行する。脱炭素を成長戦略に位置付けるには資金の役割がカギを握る。黒字化が見通しにくい高難度の技術研究などに国が投資し民間資金の呼び水となるマネーの循環をつくることがポイントになる。鉄鋼や化学など温暖化ガス排出の多い産業の脱炭素を促す資金供給も重要になる。移行期間の産業や技術の脱炭素化を促すには「移行金融」が大きな役割を果たす。日本が先頭に立ち、移行の定義や情報開示、効果検証の仕組みをつくり、アジア各国の金融・市場当局と連携すべきだ。原則全ての上場企業に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく開示を促す。2000兆円に及ぶ個人金融資産の大半を占める預貯金の活用を促すため、移行金融を支える債券を少額投資非課税制度(NISA)の投資対象に加えることも提唱する。資金の循環には財源の確保が不可欠だ。「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」の償還財源として活用するためにもCO2に値付けするカーボンプライシングの導入議論をまとめ、実行に移さなければならない。省エネルギーは既存の技術を使うことができ、費用対効果が高い対策である。大規模ビルだけでなく、中小ビルや住宅も省エネ基準を満たすよう義務化するなど、さらなる深掘りを求める。エネルギー・気候変動政策の国民理解を促すため、住民参加型の対話の場を設けることも促している。 *3-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/927133 (佐賀新聞 2022/10/3) <佐賀県民世論調査>玄海原発3、4号機の今後「目標時期決め停止」最多40% 「運転継続」は31% 佐賀新聞社が実施した県民世論調査で、九州電力玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の今後について「目標時期を決めて停止」と回答した人が最多の40・3%だった。「即時停止」を求める4・6%と合わせると44・9%になり、「運転を継続」の31・0%を上回った。政府は電力の安定供給に向けて原発の新増設や運転期間の延長を検討する方針を打ち出しているが、原発立地県の県内では慎重な意見が根強いことがうかがえる。玄海原発の今後について地域別に見ると、「運転を継続」とした割合は玄海町が7割を超える一方、玄海原発から半径30キロ圏内(UPZ)に位置する唐津市と伊万里市ではいずれも2割台だった。支持政党別では、自民党支持層は継続と停止が4割ずつと拮抗きっこう。立憲民主党や社民党、共産党などの支持層と支持政党がない人は、停止を求める意見が継続を上回った。「継続」の回答者からは「電力不足が懸念される現状では、安全面を考慮しながら運転を継続すべき」のほか、「日本はただでさえ資源がなく、原発は増やすべき」と電力の需給逼迫ひっぱくへの不安などを背景に増設を求める声もあった。「停止」の回答者からは「もし玄海原発で福島の様なことが起これば、家にも故郷にも住めなくなる」「地震大国の日本にはリスクが大きすぎる」など、東京電力福島第1原発事故を踏まえ、安全性に疑問を呈す意見が相次いだ。今後の原発依存度については「下げるべき」が31・5%と最多で、「ゼロにすべき」の14・7%を合わせると脱原発の意見が46・2%となり、「高めるべき」の9・1%、「現状維持」の27・1%を合わせた36・2%を10ポイント上回った。山口祥義知事は9月の県議会一般質問で「佐賀県においては、原子力発電はその依存度を可能な限り低減し、再生可能エネルギーを中心とした社会の実現を目指すべき、との考えに変わりはない」と答弁している。 <日本経済の現状と再エネ投資> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220916&ng=DGKKZO64378870V10C22A9EP0000 (日経新聞 2022.9.16) 貿易赤字最大、輸出増鈍く、8月2.8兆円、資源高打撃 産業構造変化で円安の恩恵薄れる 8月の貿易収支は過去最大の赤字となった。1~8月の通算は12.2兆円の赤字で、通年でも2014年の12.8兆円を上回って過去最大を更新する可能性がある。円安と資源高が重なり輸入額が大幅に増えた一方、円安の輸出押し上げ効果は限定的で輸出は伸び悩んでいる。新型コロナウイルス禍からの回復基調に乗り遅れたまま、先行きには不透明感も漂う。8月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆8173億円の赤字となった。比較可能な1979年以降、単月として過去最高となった。輸出額は前年同月比22.1%増の8兆619億円、輸入額は49.9%増の10兆8792億円だった。原粗油の輸入通関単価は円建てで87.5%上昇し、輸入額全体を押し上げた。8月の為替レートは1ドル=135円08銭と前年同月に比べ22.9%の円安・ドル高だった。内閣府が15日試算した輸出入数量指数の季節調整値をもとに足元の貿易の動きをみると、輸出は前月比3.2%低下と落ち込んだ。米国向けは13.0%上昇と好調だったが、欧州連合(EU)向けが15.5%低下し、アジア向けも7.4%落ち込んだ。急激なインフレなどで欧州の景気に陰りが出ている上、ゼロコロナ政策を掲げる中国の一部都市で厳しい行動制限がなされている影響が出ているとみられる。コロナ禍からの回復で、日本の輸出は出遅れ感がある。オランダ経済政策分析局がまとめる世界の貿易量は今年6月時点でコロナ前の19年平均を9.5%上回るまで回復している。日本の輸出は今年8月になっても19年平均を3.8%下回る。サプライチェーン(供給網)の途絶で自動車生産が滞るなどの要因が重なり、海外経済が回復する流れを外需経由でうまく取り込めていない。為替レートが円安に振れても輸出が伸び悩む背景の一つに国内製造業の生産基盤が弱体化したことも大きい。経済産業省の製造工業生産能力指数(15年=100)は7月時点で95.2とコロナ前(19年平均)を3.0%下回る。国内製造業の生産能力はリーマン・ショック以降、設備投資の手控えや海外移転などで縮小が続いており、能力指数は1984年ごろの水準まで落ち込んだ。円安による単純な輸出拡大効果を狙える産業構造ではなくなりつつある。「円安は企業収益の拡大などで経済全体には最終的にプラス効果がある」とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は指摘する。財務省・内閣府がまとめた7~9月期の法人企業景気予測調査では、急激な資源高にもかかわらず企業全体の今年度の経常利益は0.9%増とプラスの見通しだ。今後は企業の稼ぎがどこまで経済全体に循環するかが重要となってくる。米欧各国が利上げにかじを切る中、海外経済の先行きは不安感が強い。中国もゼロコロナ政策を維持する見通しで、アジア全体の供給網も途絶リスクが継続する。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「貿易赤字の局面は長引くだろう。22年や22年度は過去最大の赤字額となる可能性が高い」とみる。政府ではインバウンド本格再開に向け水際規制を大幅緩和する検討も進む。貿易統計にはあらわれないサービス関連の国際収支がどう動くかも焦点となる。 *4-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15433880.html (朝日新聞 2022年10月3日) 太陽光パネル義務化案 戸建ても対象、情報発信丁寧に ネットワーク報道本部・笠原真 新築建物に太陽光パネルの設置を義務づける制度づくりに東京都が動いている。戸建て住宅まで含む仕組みは全国初だ。年末の都議会に条例改正案を提出し、成立すれば2025年4月から始める。義務は、戸建て住宅の場合、建築主ではなく大手住宅メーカーが負う。各社に発電量のノルマが課され、それをクリアするだけの太陽光パネルを販売物件に設置する。メーカーを対象にすることで、太陽光パネルを含め省エネ住宅の普及が進むと都は期待し、都内の太陽光発電導入量を61万キロワット(19年度)から200万キロワット(30年度)に増やせると見込む。都が5月に意見を公募したところ、約3700件が集まり、賛成56%、反対41%だった。設置費は一般的な戸建てで約100万円だ。都は「初期費用は売電や節電を通じ10年で回収可能」などと強調する。だが都内の住宅価格は上昇が続く。「さらに負担が増せば住宅購入を諦める人が出る」(大手住宅メーカー担当者)という心配の声はある。都は、初期費用をゼロにするリース事業者や住宅購入者に対し、何らかの支援をする方針だ。義務の対象となる建物は最大で年約2万5千棟。耐用年数が20~30年とされるパネルの大量廃棄時期を見据え、都はリサイクルの課題を検討する協議会も先月設立した。実は、新築建物へのパネル義務化は京都府や群馬県で先行例があるが、戸建て住宅は対象外だ。国も昨年「30年までに新築住宅の6割にパネル設置」という目標を定めたが、地域ごとに日照量が異なる事情もあり、全国的な義務化には踏み込まなかった。 ■東京都の取り組みに熱視線 国全体と比べれば都内は地域差が小さいうえ、都の制度案は、メーカーが立地条件を考慮し、パネル設置に適した住宅を柔軟に選べる仕組みになっている。空き地の少ない都内で太陽光パネルの普及を進めるには屋根の有効活用が現実的だ。東京都は全国最大の電力消費地。「30年までに温室効果ガス排出量を00年比で半減させる」という、国より高い目標を設定しているが、20年度時点の削減率は3・7%にとどまる(速報値)。運輸部門で二酸化炭素排出量が50・7%減った一方、住宅など家庭部門では逆に32・9%も増えており、現状への危機感は強い。前真之・東京大准教授(建築環境工学)は「東京都ほど環境政策の立案能力がある自治体は他にない。全国に広まるかは都の取り組み次第」と言う。同様の義務化方針を9月に表明した川崎市の担当者は「都が住宅メーカーの理解を得られれば我々も追従しやすい」と熱い視線を送る。意見公募では「台風に耐えられるのか」といった声が寄せられた。適地が想定通りに確保できるのかという疑問も専門家から上がる。家計、景観、環境、防災、電源構成。生活に身近な論点が多岐にわたる。都は、都民や事業者の理解が得られるよう制度の作り込みと丁寧な情報発信に努める必要がある。 *4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220926&ng=DGKKZO64596570U2A920C2M12400 (日経新聞 2022.9.26) 再生可能エネルギー 導入拡大へあらゆる適地を掘り起こす 再生エネは脱炭素時代の主力電源である。これを最大限伸ばす必要がある。国は第6次エネルギー基本計画の策定作業において、2050年の電源構成に占める再生エネを5~6割とする参考数値を示した。これに甘んじることなく、6割を超え、7割の高みを目指すべきだ。12年度に始まった固定価格買い取り制度(FIT)の後押しもあり、20年度の電源に占める再生エネ比率は11年度比で2倍近い19.8%に増えた。ただし、50年時点の電力需要は電力を大量に消費するデータセンターの増加など情報化の進展や電動車の普及などにより足元の1.3~1.5倍に増えるとの試算もある。再生エネ比率6~7割の達成には発電量ベースで20年度実績の4~5倍の再生エネ導入が必要となる。しかし、拡大をけん引してきた太陽光発電は足元で、単年度の導入量は減少傾向にある。発電コストも21年には14年比で4分の1の水準まで低下したが、ここ数年は下げ止まり、むしろ上昇している。再生エネ7割はこれまでの方策の延長線上では実現が難しい。社会経済構造の転換を大胆に進めつつ、利用が遅れている太陽光発電の適地を掘り起こし、風力発電や地熱発電などあらゆる再生エネを伸ばす政策的措置が必要となる。導入適地を最大限活用するとともに、需要家側のさらなる省エネの取り組みや技術革新と組み合わせて再生エネ比率7割に近づける。 ●新築住宅への太陽光発電パネルの設置義務化を まず、住宅だ。科学技術振興機構によれば、住宅屋根は全国で9900平方キロメートル分の利用可能面積がある。新築住宅への太陽光パネルの設置を原則、義務化してはどうか。50年までに住宅屋根の30~50%に置き、8000万~1億3000万キロワットの出力を確保する。太陽光発電システムの設置には1戸あたり100万~200万円の費用がかかる。政府・自治体による導入補助や減税措置などの支援策が欠かせない。制度づくりにあたっては地域や立地条件の違いも考慮する必要がある。政府は30年までに国・地方公共団体が保有する設置可能な建物や土地の半分に太陽光パネルを導入し、40年に100%とすると定めている。現状は進んでいる自治体でも20%程度とされ、この徹底と導入の加速を求める。工場や倉庫、工業団地、商業施設の屋根・土地についても、太陽光パネルの設置可能面積は7600平方キロメートルと、住宅に迫る規模がある。この積極活用を促し、4500万~5000万キロワットの出力を確保する。全国に28万ヘクタール存在する荒廃農地も活用すべきだ。荒廃農地のなかでも、農地として再生利用が困難とされる19万ヘクタールの土地について農地の認定を解除したうえで太陽光発電の設置場所にも使えるようにする。農地に支柱を立てて太陽光パネルを置き、農作物栽培を続けながら上部空間で発電する営農型は農業経営の改善にもつながる。農地利用の拡大へ転用許可などの規制緩和を徹底し、農地活用で1億8000万~2億キロワットの出力を確保する。 ●洋上風力発電は入札対象区域の拡大を 海に囲まれた日本において洋上風力発電は大きなポテンシャルがある。この活用を促すために、海外の風力発電プロジェクトに比べると小規模にとどまる、1件あたりの入札対象海域を拡大する。地元調整や送電線確保などに国が初期段階から関与する「日本版セントラル方式」を最大限活用する。国の洋上風力産業ビジョンは40年までに3000万~4500万キロワットの洋上風力の導入計画を掲げる。この最大値である4500万キロワットの目標を達成したうえで、入札対象区域の拡大などにより50年までに導入規模を上積みする。4000万キロワット超の陸上風力とあわせ、風力全体で出力1億キロワット規模の導入を目指す。再生エネの導入拡大には時間や天候によって出力が変動する場合の供給安定策が欠かせない。日射や風の予測と発電量予測を高精度化し、需給調整に役立てる。再生エネの適地が多い地域と大消費地を結ぶ基幹送電線の整備を急ぐ。北海道と東北・本州をつなぐ海底直流送電線や東日本と西日本をつなぐ周波数変換所の増強を優先し、完成の前倒しを検討する。 ●地熱発電の完成までの時間短縮へ 地熱発電は安定出力が見込める再生エネである。日本は米国、インドネシアに次ぐ世界3位の資源量がありながら、導入量はトルコやケニアを下回る10位にとどまる。国は30年度の導入目標を150万キロワットとしFIT支援の対象に位置付けながら、FIT導入後の稼働は10万キロワット程度にとどまる。地熱発電は完成までに10年単位の時間がかかる。この短縮に取り組まねばならない。地熱資源の調査や開発など初期段階から国と企業が緊密に連携し、案件組成を迅速化する。現状で3~4年かかる環境アセスメントを2年程度に半減するために、行政手続きの効率化を追求する。地熱に加え、水力やバイオマス発電などをあわせて6500万キロワット程度の出力を目指す。 ●蓄電池の開発・産業化を国の重点に 蓄電池は再生エネの出力変動の調整に大きな役割が期待されている。家庭、業務・産業、電力ネットワークの各場面で蓄電池導入を促進すべきだ。30年度時点で家庭用の導入コストは工事費含め20年度比4割に、業務用は4分の1へコストを下げる必要がある。政府は電池産業の育成を重点分野に位置付け、電池の大容量化やコスト低減に取り組まねばならない。イノベーションはエネルギー転換の成否を左右し、脱炭素時代の国家や企業の力を分ける。この認識の下、総額150兆円のGX(グリーントランスフォーメーション)資金を長期的視野に立って効果的に投じる必要がある。折り曲げることができる「ペロブスカイト型」太陽電池や、浮体式洋上風力発電など、脱炭素技術の開発と早期実装へ産官学が連携し、産業化を国が支援する。 ●エネルギーの地産地消へスマートシティ拡大を 大型発電所から発電した電気を送電線で遠隔地の大消費地に送る「大規模集中発電」から、再生エネや蓄電池、電気自動車(EV)などを組み合わせて、発電した場所で電気を消費する「分散型」の電力システムへの移行は、災害などへの耐久力を高め、安定供給にも寄与する。政府の国家戦略特区を活用した「スーパーシティ」や、民間が主導するスマートシティなど、地域単位での地産地消モデルの拡大を後押しする。 ●透明性の確保へ、事業者に地域との対話を義務付け 再生エネ事業を規制する自治体条例が増加している。20年度時点で130を超す自治体が規制を導入し、岡山県や兵庫県のように県全体で導入する例もある。再生エネと地域の共生へ、事業者に住民との対話を義務付け、透明性ある形で工事や運営について説明する必要がある。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220916&ng=DGKKZO64380790W2A910C2EA1000 (日経新聞社説 2022.9.16) 脱炭素への移行に資金の好循環確立を 脱炭素社会を実現するためには、クリーンエネルギーを使った発電を増やすだけでなく、製鉄など二酸化炭素(CO2)を多く出す産業の排出抑制がどうしても必要だ。多額の資金も投じなければならない。国や企業、個人のお金を脱炭素社会への移行に回す仕組みを整えたい。政府の見通しでは、2050年に温暖化ガス排出実質ゼロを目指すうえで、今後10年間で官民あわせて150兆円の投資が必要となる。再生可能エネルギーの普及や蓄電池の開発などを成長戦略と位置づけ、有効なお金の使い方を検討する必要がある。採算が不透明で民間が負いにくい投資のリスクは、まずは国が引き受け、民間資金の呼び水としての役割を果たすべきだ。新たな国債の発行も選択肢のひとつとなる。償還財源を確保するためにも、CO2に値付けするカーボンプライシングの議論に早く結論を出し、実行してほしい。国が先導するとはいえ、技術の評価や商用化は、民間に委ねたほうが効率的に進む。150兆円の多くの部分は、企業や個人のお金で賄う必要がある。手元に300兆円の現金・預金を持つ日本企業は、かねて株主から投資を増やすよう求められてきた。今こそ経営者は脱炭素戦略を具体的に示し、実行への手立てを株主と協議すべきだ。企業が排出抑制を進めるには、機動的な資金調達も必要だ。銀行は融資に機動的に応じる体制を整えるべきだ。資産運用会社も、企業が脱炭素に必要な資金を調達するための債券を投資対象として検討してほしい。2000兆円の個人金融資産も、脱炭素を後押しする力となりうる。岸田文雄首相は、少額投資非課税制度(NISA)の拡充に取り組む方針だ。目先の議論の中心は制度の簡素化や株式投資枠の拡大だが、脱炭素移行を目的とするさまざまな債券を対象に加えることも、一案ではないか。こうした「移行金融」を根づかせるために、銀行や運用会社が脱炭素技術を評価するための専門性を高めることが欠かせない。個人も含め、地球温暖化の深刻さを改めて認識すべきだ。日本が「移行金融」の取り組みを強めれば、国際的な注目が増し、外からの投資も呼び込める。それを技術開発に生かすなど資金の好循環を確立したい。 <日本が生活系の政策を軽視するのは何故か> *5-1:https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/158451 (中國新聞社説 2022/4/23) 年金引き下げ 抜本的見直し議論せよ 人生100年時代を支える制度と言うにはあまりに心もとない。今月から0・4%引き下げられた公的年金のことである。引き下げは2年連続。賃上げが抑えられていることが理由である。保険料を40年間、満額納めた人が受け取れる国民年金の月額は、前年度比で259円減って6万4816円となる。コロナ禍のご時世だ。「このくらい我慢せねば」と思うお年寄りもいるかもしれない。だがロシアのウクライナ侵攻などによる原油高に、20年ぶりの円安が重なって物価は上がっている。今後も続く可能性がある。物価高の一方で減額が続けば暮らしはさらに傷む。納得できない人も増えてこよう。年金は老後の生活を支える「財布」である。政府はほころびを改め、年金増額につながる経済対策にも取り組まなくてはならない。年金制度は現役世代が保険料を納めて高齢者を支える「賦課方式(仕送り方式)」で維持されている。現役世代が減る中、負担をこれ以上増やせない事情も分かる。しかし「原資がない」だけでは問題は何も解決しない。特に気になるのは物価が急に上がる、現在のような局面である。年金の増減を決めるのは、物価ではなく賃金の変動率にならうのが現行ルールだからだ。企業が今の原材料高を乗り越えて賃上げ増を実現できるならいい。しかし賃上げできなければ、物価は上がっているのに年金は減額される事態が恒常化されかねない。安倍政権下の経済政策で株価は上昇したが、企業は利益をため込むだけで賃金上昇につながらなかったことを忘れてはなるまい。賃上げが進まず、年金の目減りが続けば、しわ寄せは現役世代にも及ぶ。年金に対する信頼が低下すれば、制度そのものが崩壊の危機に見舞われる。にもかかわらず岸田政権の経済対策はばらまきが目立つ。ご破算になった、年金生活者への5千円給付がその最たる例だろう。その場しのぎでは、日本経済の再生どころか満足な賃上げすら難しいのではないか。2022年度の年金制度見直しの柱はシニア労働者の拡大である。平均寿命が延びる時代にはうなずける点も多い。だが高齢者に長く働いてもらうことで保険料を多く納めさせ、行き詰まった年金財政を立て直そうというのならば都合が良すぎる。物価が上がればそれに伴って年金額も増え、下がれば減るという制度ならば納得もいこう。しかし現実の仕組みはそうはなっていない。加えて、現役世代人口の減少や平均寿命の延びに応じて年金額を抑える「マクロ経済スライド」の導入で、30年後の受取額は今より2割も目減りするのが現実なのだ。国民年金だけでは今でも厳しいのに、10月からは一定以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担も1割から2割に引き上げられる。介護保険料を払えず、年金の差し押さえを受けた人も全国で2万人を超えている。年金額を抑えて制度を維持しても、国民生活が破綻してしまっては意味がないだろう。年金制度を信頼に足る仕組みに改めるべきだ。今夏には参院選も控えている。各党は抜本的な年金見直し案を公約に掲げ、議論を戦わせてもらいたい。 *5-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/44ebb91592db58d85b172cd79ce68677ebcedece (Yahoo、毎日新聞 2022/9/22) 日銀、金融緩和策維持を決定 持続的物価高に至らずと判断 日銀は22日に開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持することを決めた。政策目標に掲げる2%の物価上昇率は、4月から5カ月連続で達成しているものの、資源高や円安による輸入物価の上昇による影響が大きく、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇には至っていないと判断した。超低金利政策による景気の下支えを優先する。21日には米連邦準備制度理事会(FRB)が0・75%の大幅利上げを決定。市場では運用に有利な金利の高いドルを買って円を売る動きが定着し、為替相場は円安傾向が続いている。日米の金利差がさらに広がったことで、円安が一段と加速する可能性がある。 *5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA034A10T01C22A0000000/ (日経新聞 2022年10月5日) 健保組合、21年度は半数超赤字 高齢者医療へ拠出金重く 全国に約1400ある健康保険組合の半数超で、2021年度は保険料収入から医療費などの給付を差し引いた収支が赤字だったことが明らかになった。前年度の33%から急増した。医療費の増加に加え、65歳以上の高齢者医療への拠出金が膨らみ、大企業の組合でも赤字が相次ぐ。赤字が続けば保険料率を上げざるを得ず、給付と負担の見直しが急務になる。健保組合は従業員と勤務先が毎月払う健康保険料をもとに、医療費の支払いなどの保険給付、健康診断などの保健事業を担っている。主に大企業の従業員と家族ら約2900万人が加入する。6日に公表予定の1388組合の決算見込みによると、21年度は全体の53%にあたる740組合が赤字となった。20年度の33%から大きく上がった。全組合の収支を合計すると825億円の赤字で、約3千億円の黒字だった前年度から大幅に悪化した。合計が赤字になったのは8年ぶりだ。赤字要因の一つに、現役世代が入る健保組合から65歳以上の高齢者医療への拠出金がある。収入が乏しい高齢者を支えるためだが、75歳以上の後期高齢者の増加とともに医療費が伸び、拠出金が膨らむ。21年度は保険料収入が前年度比1%増の約8.2兆円だったのに対し、拠出金は約3.6兆円と3%増えた。現役が払う保険料の4割が高齢者に「仕送り」されている形だ。拠出金は後期高齢者医療制度ができた08年度に比べると、1兆円以上増えた。健康保険組合連合会は25年度には約4兆円になると試算する。比較的余裕がある大企業の組合でも赤字が相次いでいる。日本生命保険の健保組合は21年度に20億円を超える赤字だった。赤字は14年度以来で、過去最も大きい。当面は保有資産を取り崩して対応するが、保険料率の引き上げも検討する。新型コロナウイルス禍で20年度に受診控えが起き、21年度は反動で医療費が増えた面もある。日立製作所の健保組合は受診が急増し、21年度の収支が赤字になった。トヨタ自動車も赤字だった。健保組合は独立採算で、赤字が続けば保険料率を上げざるを得ない。21年度は決算ベースで3割弱の組合が料率を上げた。労使折半する保険料率は21年度の平均で収入の9.23%と過去最高の水準にある。被保険者1人当たりの保険料は年49.9万円で、08年度比では約11万円増えた。料率は中小企業の従業員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の10%前後に近づく。健保組合の支出につながる医療費は伸びが続く。厚生労働省が9月に公表した21年度の概算の医療費は44.2兆円で、前年度から4.6%増えた。健保組合全体の保険給付費は8.7%増の4.2兆円だった。社会保険料は現役世代の大きな負担だ。健保組合に加入する会社員の場合、介護保険の平均料率である1.77%と、厚生年金の18.3%を加えると29.3%になり、収入の3割近くに当たる額が公的な保険料に回る。現状の医療は給付が高齢者に、負担は現役世代に偏っている。10月からは一定の所得がある後期高齢者の窓口負担が2割に上がったが、現役世代の保険料などを抑制する効果は25年度で830億円にとどまる。政府は「全世代型社会保障」の実現を掲げ、負担と給付の見直しに向けた議論を始めた。年末までに結論を出す。後期高齢者の保険料引き上げなどを検討するが、高齢者の反発も予想される。給付を抑える仕組みも議論する必要がある。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221006&ng=DGKKZO64919470V01C22A0EP0000 (日経新聞 2022.10.6) 社会保険負担、格差見直し急務 健保組合の半数超が赤字 現役世代、保険料膨張続く 社会保険の負担が会社員などの収入を圧迫している。人口の高齢化が進んで医療費が膨らみ、健康保険組合による保険料の引き上げが相次ぐ。今の社会保障制度は恩恵が高齢者に偏る。政府が掲げる「全世代型社会保障」の実現には、高齢者にも一定の負担を求め、医療費などの給付を抑える改革が欠かせない。会社員らの現役世代による社会保険の負担は膨らみ続けている。健康保険組合の加入者が労使折半で負担する保険料は2021年度に1人あたり年49.9万円と、08年度比で約11万円増えた。40歳になると介護保険の保険料も払う。健康保険の料率に介護保険の平均料率である1.77%と、厚生年金の18.3%を加えると29.3%になる。収入の3割近くに当たる額が公的な保険料に回っている。背景には国全体で見た医療費の伸びがある。厚生労働省が9月に公表した21年度の概算の医療費は44.2兆円で、前年度から4.6%増えた。健保組合全体の保険給付費は4.2兆円と、8.7%増えた。健保組合の加入者は現役世代だが、その中でも平均年齢が少しずつ上がり、必要な医療費が増えている。高額な薬剤や治療法の登場といった医療の高度化も医療費の増加につながり、保険料が上がる要因になる。給付費の元手となる保険料は大きな伸びが見込めない。現役世代の人口が減っているうえに、収入も伸び悩んでいるためだ。保険料算定の基準となる標準報酬月額は21年度の平均で約37.7万円と、前年度比0.3%増にとどまる。医療費や高齢者医療への拠出金の伸びに見合うだけの保険料が入らないと、健保組合は料率を上げざるを得ない。平均料率はすでに9.23%と、中小企業の従業員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の10%前後に近い。健保組合が赤字に耐えられず解散すれば、加入者は協会けんぽに移る。協会には1兆円規模の国費が投入されており、加入者が増えると国費負担も増す。将来世代に負担のつけ回しが起きる。負担の世代間格差の是正は急務だ。10月からは一定の所得がある後期高齢者の窓口負担が2割に上がった。ただ、現役世代の保険料などを抑制する効果は25年度で830億円にとどまる。政府は全世代型社会保障の実現に向けた議論を始めており、年末までに結論を出す。後期高齢者の保険料引き上げなど反発が予想される大胆な改革案にも踏み込む必要がある。 *5-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221003&ng=DGKKZO64814460T01C22A0PE8000 (日経新聞社説 2022.10.3) 高齢者医療の改革を続けよ 75歳以上の高齢者が支払う医療費の窓口負担割合が10月から一部変更になり、一定以上の所得がある約370万人が1割負担から2割負担に引き上げられた。年金収入とその他所得の合計が単身世帯で年200万円、複数なら320万円以上あると対象になる。食料品などの物価上昇が広がるなかで負担増を求めることになるが、2025年9月末までの3年間は毎月の負担増を最大で3000円に抑える配慮措置が実施される。政府や自治体はこうした措置も対象者に丁寧に説明し、負担増への協力を求めてほしい。今回の負担増は高齢者の医療を支える現役世代の負担を軽くするのが狙いだ。75歳以上の医療費は患者負担を除いた費用の5割を税金、4割を医療保険を通じて現役世代が支払う支援金、1割を高齢者の保険料で賄う。高齢者の増加で医療費が膨らむと、現役世代の負担が重くなっていく。ただ今回の改革で現役世代の重荷を軽くする効果は限定的だ。支援金の総額は21年度の6.8兆円が25年度に8.1兆円に増える見通しだが、この伸びを抑える効果は25年度時点で830億円しかない。大企業会社員の場合、労使折半後の現役1人あたりの保険料軽減効果は月にわずか33円だ。効果が小さいのは負担増の範囲が小幅だからだ。今回の対象者は75歳以上の約20%。現役並み所得があって3割負担がすでに適用されている人は約7%なので、今後も約73%は1割負担が続く。さらに1カ月あたりの医療費負担の上限額は見直しの対象外だ。2割負担の対象者でも外来受診のみの場合で1万8000円、入院があっても世帯で5万7600円と、これまでと変わらない。2割負担の対象者を広げるとともに、所得だけでなく資産に着目して能力に応じた負担を求める改革が急務だ。薬や検査の重複を減らす仕組みづくりなど医療の効率化も欠かせない。現役世代の負担を抑える改革をこれで打ち止めにしてはならない。 にしてはならない。 <リーダーの多様性のなさによって歪んだ政策> *6-1:https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61c2aaebe4b0bb04a62b19cd (Huffingtonpost 2022年7月13日) ジェンダーギャップ指数2022、日本は116位。政治・経済分野の格差大きく、今回もG7最下位、世界経済フォーラム(WEF)が国別に男女格差を数値化した指数。日本は調査対象となった世界146カ国のうち116位だった 世界経済フォーラム(WEF)は7月13日、男女格差の大きさを国別に測って比較する「ジェンダーギャップ指数2022」を発表した。日本は調査対象となった世界146カ国のうち116位だった。156カ国のうち120位だった前年からわずかに順位をあげたが、主要7カ国(G7)では引き続き最下位となった。特に衆院議員の女性割合の少なさなど政治参加分野の格差は引き続き大きかった。また経済分野については前回(117位)より順位を下げた。 ●経済、政治の格差大きく WEFは世界の政財界のリーダーが集う「ダボス会議」を主催する国際機関。ジェンダーギャップ指数は、「経済」「教育」「医療へのアクセス」「政治参加」の4分野のデータで、各国の男女格差を分析した指数。4分野の点数は、いくつかの小項目ごとの点数で決まる。小項目を集計する際は、標準偏差の偏りを考慮したウェイトをかけている。 ただし、4分野の点数から算出される総合点は、4分野の平均になっている。スコアは1を男女平等、0を完全不平等とした場合の数値で、数値が大きいほど男女格差の解消について高い評価となる。日本は今年も経済(121位)と政治(139位)で格差が大きく、順位が低かった。一方で教育(1位)や医療(63位)では、格差はない、もしくはほとんどないと評価されている。 ■政治分野 「政治参加」については、以下の3つの小項目で評価される。 ・国会議員(衆院議員)の女性割合(133位、スコア0.107) ・女性閣僚の比率(120位、0.111) ・過去50年の女性首相の在任期間(78位、0) 2018年に成立した「政治分野における男女共同参画推進法」では、男女の候補者ができる限り均等となることを掲げ、各政党に男女の候補者数について目標を定めるよう努力義務を課している。しかし、この法律が成立して初めて迎えた2021年の衆院選では、当選者に占める女性の割合はわずか9.7%にとどまり、前回(2017年)を下回った。政府は、2025年までに国政選挙の候補者に占める女性の割合を35%にする目標を掲げているが、衆院選でこの目標を達成したのは共産と社民のみだった。なお、衆院議員の女性割合で評価されるジェンダーギャップ指数には関連しないが、今回の参院選(7月10日投開票)では181人の女性候補が立候補し、35人が当選した。候補者全体の割合で見ると33%、当選者全体で見ると28%となりいずれも過去最多に。一方で政党別で見ると差があり、候補者について「2025年までに35%」という政府目標を達成したのは立憲、国民、共産、れいわ、社民の5党にとどまった。 ■経済分野 「経済的機会」分野は、以下5つの小項目で評価される。 ・労働参加率(83位、スコア0.750) ・同一労働での男女賃金格差(76位、0.642) ・収入での男女格差(100位、0.566) ・管理職ポジションに就いている数の男女差(130位、0.152) ・専門職や技術職の数の男女差(-)*スコア、順位の記載なし 経済分野については、前回(117位)より順位を下げた。労働参加率や管理職ポジションに就いている数の男女差のスコアが下がったことが背景にある。経済的な権利についての男女格差をめぐっては、世界銀行が世界190カ国・地域の職場や賃金、年金など8つの分野で男女格差を分析した調査もある。3月に発表された最新の調査で、日本は前回の80位タイから103位タイに大きく順位を下げた。移動の自由や年金制度では格差がないとして満点の評価だったが、職場の待遇や賃金などで低い評価となった。一方、男女の賃金格差の是正に向けては、具体的な政策も動き出している。厚生労働省は7月8日、従業員が301人以上の企業に対し、男女間の賃金格差の開示を義務付ける「女性活躍推進法」の省令改正を施行した。岸田文雄首相は1月の施政方針演説で「世帯所得の向上を考えるとき、男女の賃金格差も大きなテーマ。この問題の是正に向け、企業の開示ルールを見直します」と言及していた。格差を可視化し、是正に向けた取り組みを促すことが狙いだ。 ●1位はアイスランド、世界の傾向は 今回のジェンダーギャップ指数2022で1位となったのはアイスランドで、13年連続で「世界で最もジェンダー平等が進んでいる」と評価された。2位以降はフィンランド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデンが続いた。上位5カ国の顔ぶれは前回と同じだった。世界全体の傾向についてWEFは、新型コロナウイルスの感染拡大後、ジェンダー格差が広がったが、それを縮小する動きは力強さに欠いていると指摘。労働力の中で格差が広がっており、「生活費の危機的な高騰が女性に強い打撃を与えると予想されている」と分析した。 *ジェンダーギャップ指数とは 各分野での国の発展レベルを評価したものではなく、純粋に男女の差だけに着目して評価をしていることが、この指数の特徴だ。ジェンダーギャップを埋めることは、女性の人権の問題であると同時に、経済発展にとっても重要との立場から、WEFはこの指数を発表している。 *6-2:https://www.sankei.com/article/20220909-DFB5Z26PRBJ7BPXAWZIMIMLOPQ/ (産経新聞 2022/9/9) 特別支援教育中止など要請 国連委が日本政府に勧告 国連の障害者権利委員会は9日、8月に実施した日本政府への審査を踏まえ、政策の改善点について勧告を発表した。障害児を分離した特別支援教育の中止を要請したほか、精神科の強制入院を可能にしている法律の廃止を求めた。勧告に拘束力はない。さらに実現には教育現場の人手不足や病院団体の反発などのハードルの存在も指摘される。特別支援教育を巡っては通常教育に加われない障害児がおり、分けられた状態が長く続いていることに懸念を表明。通常学校が障害児の入学を拒めないようにする措置を要請したほか、分離教育の廃止に向けた国の行動計画策定を求めた。精神科医療については、強制入院は障害に基づく差別だと指摘。強制入院による自由の剝奪を認めている全ての法的規定を廃止するよう求めた。勧告は障害者権利条約に基づいており、日本への勧告は平成26年の条約締結後、初めて。審査は8月22~23日、スイス・ジュネーブで日本政府と対面で行われた。審査では、他国に比べ異例の規模となる約100人の障害者や家族らが日本から現地に渡航していた。 *6-3:https://webronza.asahi.com/national/articles/2022091200002.html?iref=comtop_Opinion_06 (朝日新聞 2022年09月16日) まるで入管の「広報」だった。NHK「国際報道2022」の問題点、「国際報道」の名が泣くミスリードの多さ(児玉晃一 弁護士) NHK-BS1で2022年8月31日午後11時45分から放送された「国際報道 2022」を見て驚きました。SPOT LIGHT〈不法滞在の長期化 日本の入管に密着〉と題する特集が、入管当局からの情報のみに依拠したような内容だったのです。放送後、私は個人として番組宛てに抗議文を送りました。他の人々や団体からも意見が寄せられたようで、NHKは9月12日の同番組で「8月31日の放送について様々なご指摘をいただきました。情報を追加してお伝えします」と〈在留資格のない外国人 現状と課題〉を放送。その中で、滞在者の人数など内容の一部について「誤解を与える伝え方をした」と謝罪しました。しかし、「国際報道」という番組名とはおよそかけ離れた8月31日の放送は、「誤解を与えた」という程度ではなく、より深刻な問題をはらんでいたと考えます。改めて、その問題点を指摘したいと思います。 ●誤った印象与えた「不法滞在」という言葉 まず、特集のタイトルにあった「不法滞在」という用語についてです。番組中、この用語は何度も無批判で繰り返し、使われていました。ですが、これは、国連では常に移民に罪があるような印象を与えるため差別的なので使わないことになって久しい言葉です。法務省政策評価懇談会の篠塚力座長もこの点を指摘しています(注1)。米国バイデン政権も2021年4月に、移民・関税執行局と税関・国境警備局にこれまで使用されてきた「alien」(在留外国人)や「illegal alien」(不法在留外国人)といった呼称を禁じ、代わりに「noncitizen」(市民権を持たない人)や「migrant」(移民)、「undocumented」(必要な書類を持たない)という言葉を使う方針を示しました(注2)。2021年12月21日に出入国在留管理庁が公表した「現行入管法上の問題点」1ページでは、「我が国に入国・在留する全ての外国人 が適正な法的地位を保持することにより、外国人への差別・偏見を無くし、日本人と外国人が互いに信頼し、人権を尊重する共生社 会の実現を目指す」とされています(注3)。差別・偏見をなくすためには、国連あるいは米国の例にならい、出入国在留管理庁が率先して、差別・偏見を助長するような「不法滞在者」「不法入国者」などの用語を用いず、「非正規滞在」と呼ぶべきです。今回の報道は、そのような問題意識を全く持つことなく、出入国在留管理庁の用いる「不法滞在」という用語を無批判に用いています。これでは「国際報道」の番組タイトル名が泣きます。 注1)2022年2月28日法務省政策評価懇談会(第66回)会議資料会議 資料1-2 5ページhttps://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho05_00034.html 注2)https://courrier.jp/news/archives/242206/ 注3)https://www.moj.go.jp/isa/content/001361884.pdf ●「非正規滞在者が増加」と強調した誤り 8月31日の番組では、2021年1月1日のデータをもとに「不法滞在者」が5年前(2016年62818人)に比べて2万人増え、約8万人となったということが強調されていました。ですが、入管庁が公表したデータによれば、2022年1月1日時点での「不法残留者」は66759人で、2021年に比べ16109人、19.4%減少しています(注4)。2016年と比較しても、約4000人、約6%増えたに過ぎません。2022年のデータは3月29日には公表されていました。それなのに、8月31日の放送で2021年のデータを使った理由について、9月12日の番組では「2022年は在留資格を失った外国人の一部の内訳が揃っていなかったため、データの揃っている2021年の数字を使うこととし」たと釈明していました。しかし、入管庁の公表データでは一部の内訳が揃っていない、ということはなく、8月31日の放送は総数を示しただけで内訳は関係ありませんでした。さらに、もう少し長い時間軸で見れば、2016~21年だけのデータで「増加」とすることにも疑問があります(以下、人数のデータは2021年版「出入国在留管理」日本語版44ページによる)。非正規滞在者は、1993年には約30万人いました。そこからすると番組が指摘した2021年の82868人でも3分の1以下ですが、こうした数字は示されませんでした。また、退去強制手続について米国やEUと比較していたにもかかわらず、非正規滞在者の人数には触れていません(ちなみに、2019年における米国の非正規滞在者は1030万人とのことで、まさに桁違いです=注5)。このようなデータの選び方・使い方は視聴者に「不法滞在者の増加が深刻だ」と感じさせる「印象操作」ではないでしょうか。さらに2016年から21年までに非正規滞在者が2万人増えた原因についても言及がありませんでした。この点について、2021年2月16日に行われた法務省政策評価懇談会での出入国在留管理庁当局は次のように述べています。「私どもの見立てといたしまし ては、近年、政府全体で観光立国実現に向けた取組が進められてきた結果、外国人入国者数が大幅に増加した。これが不法残留者数の増加に少なからず影響しているものと考えております」。「技能実習制度の技能実習1号ロ又は技能実習2号ロという在留資格から不法残留になった者が3割以上の増加になってございますので、御指摘の技能実習生の失踪者からの不法残留問題というのは事実として存在することだと理解してございます」(2021年2月16日、法務省政策評価懇談会議事録より)。つまり、観光立国で入口を緩めたために短期滞在が増えたことと、経済を支えるための歪んだ政策で本来就労を目的としないはずの技能実習・留学生を受け入れた結果、在留期限を過ぎた滞在(オーバーステイ)が増加したことが理由なのです。こうした要因分析もせずに、単に人数の増加だけを強調する報道姿勢は、公正なものとはいえないでしょう(注6)。 注4)本邦における不法残留者数について(令和4年1月1日現在)出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00003.html 注5) https://www.americanimmigrationcouncil.org/research/immigrants-in-the-united-states 注6)オーバーステイが増えたのは国策の結果だった(2021年3月31日、児玉晃一 note) ●家族の結びつき省みない事例紹介 番組では、非正規滞在となったタイ国籍の女性が婚約者と日本で暮らしたいと訴えていた事例と、受刑歴のあるブラジル国籍の日本滞在20年におよぶ、妻子のいる男性の事例をとり上げていました。番組全体のトーンから、非正規滞在で強制送還されるのが当然なのに「ごねている」という印象を与えるようなとり上げ方でした。ですが、市民的政治的権利に関する国際規約(自由権規約)17条は、家族生活への恣意的干渉を禁止し、同23条1項は家族の保護を、同2項は「婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をしかつ家族を形成する権利は、認められる。」としています(注7)。番組が取り上げたような事例は、ヨーロッパ人権裁判所の判決例や規約人権委員会の意見からすると、強制送還が当然違法とされるべきケースです(注8)。ここでも「国際報道」という視点が欠けているように思います。 注7)市民的政治的権利に関する国際規約 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html 注8)2021年4月21日衆議院法務委員会で参考人として発言した際に利用した資料(2021年4月23日児玉晃一 note)の資料⑨「犯罪歴のある外国人と家族の保護裁判例」 https://note.com/koichi_kodama/n/ndd29c4a00456 ●「強制送還」をめぐる不正確な表現 さらに、番組では、「強制的に退去強いることなし」という表現が使われていましたが、これは明らかに事実に反します。下表は、入管庁の2020年版「入管白書」59ページからの引用です(注9)。名古屋出入国在留管理局に収容中の2021年3月6日に亡くなったスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)についての調査の報告書では「一度、仮放免を不許にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要あり」とされており、収容を強制送還に追い込む手段としていることを当局が行っていたことが明らかになっています(注10)。さらに、帰国費用が自己負担となっており、その準備ができないことが非正規滞在の長期化の原因であると述べられていましたが、入管法52条4項は「退去強制令書の発付を受けた者が、自らの負担により、自ら本邦を退去しようとするときは、入国者収容所長又は主任審査官は、その者の申請に基づき、これを許可することができる。」としており、法律は国費送還が原則なのです。その原則を曲げて本人負担させようとした結果、様々な事情で帰国を拒否している人達が送還に応じず、非正規滞在の期間が長期化するのは、当然のことです。なおフランスでは庇護希望者に対し、チケットや帰国後の助けとなる費用を渡しているとのことです(注11)。このような国際比較の観点も、番組にはありませんでした。番組では強制送還に従わない場合に罰則がないとも述べられていました。これは、2021年廃案になった入管法案審議の際にも出入国在留管理庁が繰り返し述べていたことと同じです。ですが、オーバーステイだけでも入管法70条による罰則はあります。この点に言及せず、命令に従わない場合の罰則がないことだけを述べるのはミスリードです。そもそも、国連の恣意的拘禁作業部会は、2018年2月7日付改訂審議結果第5号は次のように述べています。「移住者による非正規入国・滞在は犯罪行為と見なされるべきではない。よって非正規の移住を犯罪行為と見なすことは、自国の領土を保護し非正規移住者の流入を規制するに際して国に認められる正当な利益として許される限度を超える。移住者を、国家あるいは公共の治安および/または公衆衛生の維持の観点からのみ犯罪者と認定し、または犯罪者として扱ったり、判断してはならない」。番組の中で、このような国連文書を一顧だにしなかったことは大いに疑問です。以上のとおり、8月31日「国際報道2022」の出入国在留管理庁の言い分に沿った情報のみに依拠した内容は、「国際報道」の名に値するものではありませんでした。残念です。番組の名に恥じない、国際的な視点に立った報道を望みます。 注9)2020年版「入管白書」https://www.moj.go.jp/isa/content/001335866.pdf 注10)「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局 被収容者死亡事案に関する調査報告書」58ページhttps://www.moj.go.jp/isa/content/001354107.pdf 注11)国際人権ひろば No.140(2018年07月発行号) https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2018/07/post-201814.html 注12)国連恣意的拘禁作業部会 審議結果第5号(移住者の自由の剥奪)第10パラグラフ <ジェンダー平等へ←国税庁や裁判所の旧さをなくすべき> PS(2022/10/17追加): *7-1・*7-2のように、「①寺田総務相が事務所を置くビルの一部を所有する妻に2012~21年合計2688万円(267万円/年)の賃料を支払っていたのが身内への政治資金の支払いで疑問」「②人件費から源泉徴収していなかったので脱税」と一部の週刊誌が書き、立憲民主党も「③証明できる書類がないのではないか」と質問したため、寺田総務相は「④適正価格だ」「⑤妻は会社社長で扶養家族でない」「⑥経済的に別の主体なので合法的な行為」「⑦(納税証明書は妻の)個人情報で、適正に申告して納税していることは税理士が確認した」と説明された。 寺田総務相の奥さんは、池田勇人元総理の孫・池田行彦元外相の姪で、会社社長でもあるため、寺田総務相の扶養家族ではなく、寺田総務相が事務所を置く東京都内のビルの一部を所有して267万円/年の賃料を受け取っている状況は容易に想像できる。そのため、①は10年分まとめて書くことによって必要以上に誇張しており、寺田総務相の④⑤⑥の回答は正しいと思う。また、②も、業務委託契約に基づいて報酬を支払う場合の源泉徴収範囲は限定されているため、源泉徴収していないから直ちに脱税とは言えないし(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2792.htm 参照)、その範囲は、税務申告を行う税理士や監査を行う公認会計士がアドバイスするので間違いはない筈で、いちゃもんに見える。また、③についても、⑤⑥のように、奥さん(私人)は別の経済主体で扶養家族ではないため⑦は正しいし、税理士は資格をかけて代理人として確定申告しているため間違ってもいないだろう。 では、何故、このような事例が極悪なことをしたような言い方をされるのかと言えば、例えば、税理士の妻が代理人として弁護士の夫の確定申告を行い、報酬をもらったところ、同一世帯内での支払いであるとして否認され、最高裁まで行って弁護士・税理士夫妻が負けた事例がある。しかし、夫婦であっても、税務上は個人単位で申告しており、経済的にも独立採算である夫婦は多いため、税理士が申告しても無償と看做すのは税務署も裁判所も旧すぎるわけである。そのため、私は、このような事例で変ないちゃもんをつけられないようにするには、税法・政治資金規正法等の改正が必要で、これを機に寺田総務相や自民党にはそれをお願いしたいわけだ。 *7-1:https://nordot.app/950930751189532672?c=39546741839462401 (共同通信社 2022/10/7) 総務相、妻に賃料支払い問題なし 「価格適正、脱税でない」 寺田稔総務相は7日の記者会見で、自身の政治団体が、事務所を置くビルの一部を所有する妻に賃料を支払っていたことに関し「何ら問題ない。価格も適正だ」と述べた。で脱税と報じられたことに触れ「事実に反する。誠に遺憾だ」と語った。法的措置などは現時点で考えていないとした。既に岸田文雄首相に報告。首相から「適正な処理ならそれでよい。説明してほしい」と指示されたと明らかにした。寺田氏は妻について、会社社長を務めており、自身の扶養家族ではないと強調。と主張し、身内への政治資金の支払いを疑問視する声を否定した。 *7-2:https://mainichi.jp/articles/20221015/ddm/005/010/132000c (毎日新聞 2022/10/15) 妻の納税証明を総務相提出拒否 事務所賃料支払い 寺田稔総務相は14日、自身の政治団体が妻に事務所の賃料を支払っていたことを巡り、立憲民主党が要求していた妻の納税を証明する書類の提出を拒否する意向を文書で伝えた。「(妻の)個人情報だ。適正に申告し、納税していることは既に税理士が確認している通りだ」と回答した。立憲の山井和則国対委員長代理は記者団に「証明できる書類がないのではないか」と述べ、17日からの衆院予算委員会で追及する意向を示した。これに関連し、自民党の世耕弘成参院幹事長は記者会見で「しっかりと(寺田氏)本人が説明することが重要だ」と語った。寺田氏は12日、2012~21年に政治団体が事務所を置くビルの一部を所有する妻に計2688万円を支払い、妻は納税したと税理士が確認したとの文書を立憲に提出。立憲は十分な証明にならないとして証拠書類の提示を求めていた。 <無駄遣いのオンパレードと日本の弱体化は、何故、起こるのか> PS(2022年10月20、21日追加):*8-1-1・*8-1-2のように、ガソリン・電気(多くが化石燃料で発電)・ガス料金の値上がりを、またまた“緊急策”として補正予算で巨額の補助金を計上して抑えようとするのは、放漫財政であるだけでなく環境維持にも逆行する。また、“困窮する層に的を絞ったきめ細かいやり方”というのは、恣意的に線を引いて複雑化する上に不自然な分断を作るため、私は、電力会社の再エネ賦課金を廃止するのがよいと思う。何故なら、他の電源には賦課金などは課しておらず、それどころか補助金を使って市場ではなく政治が時代に逆行する不合理な電源の選択をしているからである。そのため、送電線敷設に予算を使った方が、財政支出によって景気を保ちながら金利を上げることができ、エネルギー自給率の向上にも資するため、その後はエネルギー価格高騰に右往左往する必要がなくなり、経済効果が大きい。にもかかわらず、政府は、電気料金・ガス料金・ガソリン・灯油に環境に逆行しながら負担軽減策を導入し、電気料金は電力会社各社に支援金を支払う形で利用者負担を減らす支援制度にするそうなのだ。何故、これほど無駄遣いばかりの政策を行うかについては、「これらの企業関係者に選挙を手伝ってもらったから」くらいしか理由を思いつかないから参るわけである。 また、*8-1-3のように、政府は「原子力ムラ」である経産省の審議会「総合資源エネルギー調査会」を通して原発政策を転換し、再稼働加速・運転期間延長・新型炉建設の検討をするそうだが、原発の課題や方策については何の科学的・経済的検討も解決策の提示もしておらず、またまた“緊急避難的に”“外国でやっているから”という理由なのであり、この調子では決して安全第一にはならず、再度「安全神話」を作るだけだと言わざるを得ない。 なお、「再エネは安定電源でないため、原発をベースロード電源にする必要がある」という反論もよく聞くが、*8-2-1の住商やオリックス等のように大型蓄電池を送電線に繋げば再エネを主力電源化することは可能だし、「EVも化石燃料で発電した電力を使えばCO₂削減にならない」という思考停止の反論をする人もいるが、これらは工夫もせずに現状維持を主張しているにすぎないため、次の発展に繋がらないのだ。従って、国は、終わりかけたエネルギーに補助し続けるより、送電線・蓄電池・EVなどの将来に向けた投資に補助した方がよいわけである。また、*8-2-2のように、地方自治体は、ごみのリサイクル率を高めて処理経費を削減したり、草木類を別に回収して堆肥やチップとして資源化したり、ごみ焼却熱で発電したりもしており、工夫次第で税外収入を増やしながら財政支出を削減することは可能なのである。 今、自民党の宮沢税制調査会長が、*8-3-1のように、「自動車重量税に適用する『エコカー減税』を2023年度税制改正で見直しておられるそうで、その内容は、①税優遇の適用基準を厳しくして対象車種を絞り ②国が定める燃費基準の達成度合いが低いHVの減税幅を縮め ③EVには高い税優遇を維持する 方向とのことだ。しかし、2010年に世界初のEVを市場投入した日産自動車は、ゴーン元会長逮捕で後退し始めており、あまりに遅すぎた。何故なら、2000年代に①②③のようなことをしていれば、Excellentだったが、既にEVというだけではなく、高齢者・障害者も自由に自動車を利用することができ、運賃や保険料を安くできる自動運転という付加価値も加えて税優遇した方がよい時代になっているからである。 一方、*8-3-2のように、仏ルノーは日産自動車への43%の出資比率を引き下げ、両社が出資比率を15%に揃える協議を行っており、また、EVとエンジン車を別会社にして本体から切り離し、EV新会社には日産も出資を検討しているそうだ。つまり、これは、ゴーン元会長の解任以降、日産が赤字決算となって業績がV字回復する見込みのない「お荷物子会社」になったため、ルノーにとっては、静かに日産とエンジン車という「リスク」を切り離し、エンジン車の会社は次第に縮小するチャンスなのである(https://maonline.jp/articles/is_exit_from_renault_dominance_lucky_for_nissan221013 参照)。つまり、世界では、得意技を活かして伸ばせなければ魅力のない会社となり、得意技もない魅力もない会社とお情けで提携関係を持ち続ける会社はないため、日本政府や日産もモタモタしていれば、他の電動車に強い会社と提携し直される可能性が高いのだ。 *8-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15450152.html (朝日新聞社説 2022年10月20日) 電気ガス代軽減 弊害大きい手法やめよ ガソリンに続き、電気やガスの料金でも、広く値上がりを抑え込む政策が検討されている。緊急策だとしても、巨額の補助の割には効果が薄く、弊害が大きい手法だ。困窮する層に的を絞ったきめ細かいやり方に改める必要がある。電気・ガス料金は、この1年で2~3割上がったケースが多く、来年春にも大幅な値上げが見込まれる。政府は、その前に負担軽減策を導入しようと検討を急いでいる。物価高対策では、まずガソリンや灯油への補助が1月に始まり、先月には岸田首相が電気料金で対策をとる考えを示した。さらに与党の声に押される形で都市ガスも加わり、LPガスでの導入を求める声も出ている。対象は広がる一方だ。確かに、代替の利かない必需品の急騰は、余裕のない家計や事業者にとって負担が重い。何らかの対策は必要だ。だが、すべての利用者を対象にした一律の価格抑制は、恩恵が富裕層や好業績の企業にも及び、値上がりを通して自然に消費が抑えられる市場の働きが損なわれる。省エネや脱炭素化も妨げる。使われる公金も、ガソリン補助だけで年末までに3兆円に達する。朝日新聞の社説はこうした点を繰り返し指摘し、手法の変更を求めてきた。経済産業省の審議会でも、ガソリン補助の延長を漫然と繰り返すことに、批判が多く出ている。ところが政府は、「激変緩和策」のはずのガソリン補助の出口を示さないどころか、同様の手法を電気・ガスにも広げようとしている。いったん始めるとなかなかやめられない危うさを理解しているのだろうか。電気やガスでは、これからの冬の供給に不安があるのを忘れてはならない。状況次第では大がかりな節約が求められる。政府自身が「節電ポイント」への支援など節電・節ガスを促す準備をしているはずだ。その時期に使用料金を大きく抑えれば、ブレーキとアクセルを同時に踏むちぐはぐな状況になりかねない。物価高は多くの分野に広がっているが、個々の商品価格に政府が介入し続けることには限界がある。政府は9月に、住民税非課税世帯への5万円の現金給付を決めたが、生活に困る人は他にも多い。支援を本当に必要とする対象を見定め、速やかにお金を配る仕組みの重要性は、コロナ禍以降たびたび指摘されてきた。いまだにそれを整えようとせず、場当たり的な対処を続けるのなら、怠慢のそしりを免れない。そろそろ具体的な検討を真剣に進めるべきではないか。 *8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15445632.html (朝日新聞 2022年10月15日) ガス代も負担軽減策 電気代は来年早期に開始 自公党首合意 財政支出さらに拡大 岸田文雄首相(自民党総裁)は14日、公明党の山口那津男代表と首相官邸で与党党首会談を行い、政府が月内にまとめる総合経済対策で、電気料金に加えてガス料金にも負担軽減策を導入する方針で合意した。必要な費用は臨時国会に提出予定の補正予算案に計上する。すでに実施済みのガソリンや灯油の価格抑制策の継続も確認した。エネルギー高騰対策で財政負担が大きく膨らむことになる。両党首は会談で、来年春以降の急激な電気料金の上昇に備え、電力会社各社に支援金を支払う形で利用者の負担を減らす新たな支援制度で合意。激変緩和の幅は段階的に縮小するとしつつ、来年1月以降できるだけ早いタイミングで開始をめざすとした。ガスについては「値上がり動向、事業構造などを踏まえ、電気とのバランスを勘案した適切な措置を講じる」ことを確認。都市ガスを対象に負担軽減策を導入する方針で一致した。ガソリンなどの燃油価格の抑制策では「来年1月以降も補助上限を調整しつつ引き続き実施」するとしつつ、「その後、補助を段階的に縮減する一方、高騰リスクへの備えを強化する」ことで合意した。首相は会談後、記者団に「国民生活に高い効果のある具体的な政策を積み上げ、中身も規模も国民に納得していただける思い切った経済対策をしていきたい」と語った。会談では、子育て支援策も経済対策に盛り込む方針で一致。妊娠時から出産・子育てまで一貫して相談に応じて支援につなぐ「伴走型相談支援事業」や、0~2歳児の親への経済的支援としてオムツなどの商品で使えるクーポン券を発行する方向で調整している。 *8-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15449126.html (朝日新聞社説 2022年10月19日) 原発政策転換 議論の幅が狭すぎる 原発が抱える数々の難題を脇に追いやり、推進に好都合な点ばかり訴える。そんな「結論ありき」の議論で、重大な政策転換を進めていいのか。課題や方策について多角的に検討を尽くすことが、政権の最低限の責務である。政府はこれまで、11年前の福島第一原発事故の教訓を踏まえて、原発は「可能な限り依存度を低減する」としてきた。ところが、岸田首相は8月、再稼働の加速、運転期間の延長、新型炉建設の検討を指示した。この「原発復権」に向けた地ならしの舞台になっているのが、経済産業省の審議会「総合資源エネルギー調査会」だ。年末までに結論を出すという。そこでの議論では、原発推進を前提にした意見が大勢を占める。原発を動かせば電力供給の安定化につながる、温室効果ガスを出さず脱炭素化に役立つ、といった利点の強調がほとんどだ。早速、政策での支援の強化も検討されている。だが原発は、事故対策はもちろん、放射性廃棄物の処分や核燃料サイクルの行き詰まり、将来の経済性低下など、長年の懸案が山積みだ。そうした点については表面的な議論に終始し、中身は深まらない。なぜこれほど、議論の幅が狭くなってしまうのか。審議会の議題と人選は経産省が決めている。委員の多くは、原子力研究者や電力業界と関わりが深い有識者、経済人だ。原発に懐疑的な視点から意見を述べる人はごく一部しかいない。これで十分な調査と審議ができるのか、極めて疑わしい。通り一遍の議論で、推進官庁の提案にお墨付きを与えるだけの役回りになるのではないか。審議会でも、慎重派委員から「国民各層とのコミュニケーション、結果ありきでないオープンな議論が必要」との意見が出た。政府は指摘を真摯(しんし)に受け止め、熟議ができる環境を整えなければならない。4カ月での新方針決定というのも、あまりに急だ。エネルギー問題は激動期にあり、複雑さを増している。原発の位置づけは、電気の使い方を将来にわたって左右する大きなテーマだ。安定供給や脱炭素の効果だけでなく、課題やコストとリスク、他の選択肢との比較など、さまざまな観点から検討を重ねることが欠かせない。審議会を含め、さまざまな専門家をバランスよく集め、透明性を確保した議論の場が必要になる。かつて、産官学の「原子力ムラ」が政策を主導するなかで「安全神話」が広がり、11年前の惨事に行き着いた。異見を排除した閉鎖的な議論が何をもたらすか。深く顧みるべきだ。 *8-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61089980U2A520C2TB2000/ (日経新聞 2022年5月25日) 大型蓄電池、送電線と直結、電力調整、法改正が追い風 住商やオリックス参入 送電線と直結して発電所のように使う「系統用蓄電池」に参入する企業が相次いでいる。住友商事は2023年度内に北海道で電気自動車(EV)の電池を束ねたシステムを稼働する。オリックスなども23年度以降の参入を目指す。関連法制の改正や電力の需給調整力を売買する新市場の開設を新たな商機ととらえ、技術革新を急ぐ。住友商事は日産自動車と共同出資するフォーアールエナジー(横浜市)と協業し、北海道千歳市で22年度にも出力6000キロワットの大型蓄電池の建設を始める。約700台分のEV電池をひとつにまとめて蓄電池とみなす。23年度に稼働する。住商は鹿児島県薩摩川内市の廃校の跡地で系統用蓄電池の実証実験をしてきた。22年4月には福島県浪江町で実証機を稼働し、北海道での設置は17~18年ごろから検討してきた。実用化のめどが立ったため、運用を決めた。今後、北海道の他の地域や東北、九州などにも広げ、26年度までに計10万キロワットの導入を目指す。オリックスは関西電力と共同で参入する。開発する蓄電池の出力は数万キロワットの見通しで、23年度以降の稼働をめざす。オリックスが出資する地熱発電大手の米オーマット・テクノロジーズは系統用蓄電池も運用している。オリックスと関電はオーマットの知見も生かして日本市場を開拓する。ENEOSは北海道室蘭市の室蘭事業所で23年度内に稼働する方針だ。一般的な家庭用蓄電池換算で数千台に及ぶ大型蓄電池を計画しており、22年内にも建設を始めるとみられる。ミツウロコグループホールディングスも22年末に北海道で運用を始める。企業の参入が相次ぐ背景には電気事業法改正や電力市場の整備がある。政府は3月に電気事業法改正案を閣議決定し、23年4月の施行をめざす。改正案では今まで曖昧だった系統用蓄電池の役割を明確にした。送電線に接続され、売電する電力の合計が1万キロワットを超える蓄電池を「発電事業」と位置づけた。今の法律は蓄電池を単体で送電線につなげるケースを想定していない。電力市場の広がりも追い風だ。系統用蓄電池の収益確保の手段として期待される市場は大きく3つある。電力の需給を調整して報酬を得る「需給調整市場」と電力の供給力を売買する「容量市場」、翌日の電力量を取引する「卸電力市場」だ。企業が特に期待するのは需給調整市場だ。市場は調整力を提供するまでのスピードなどを基準に5つに区分される。今は15分以内に対応できる調整力までだが、24年からは10秒以内や5分以内に対応できる調整力のやりとりが始まる。系統用蓄電池は瞬時に電力を調整できるため、短い時間での調整を求める市場の開設は追い風になる。容量市場は将来の発電能力を売買しており、20年からオークションが始まった。一定の出力を確保できる系統用蓄電池が増えれば、電力小売事業者は数年先の夏や冬の電力需要期をにらみ、あらかじめ必要な電力を手当てしやすくなる。卸電力市場は30分ごとに電力を取引する。最近では発電所のトラブルなどが起きると市場価格もすぐ急騰しがちだ。系統用蓄電池を使えば、市場価格が安い時間帯に電力を買ってためておき、高い時間帯に売るというビジネスに応用できる。日本の電力需給は不安定だ。3月には季節外れの寒波で、東京電力ホールディングスと東北電力の管内で初の電力需給逼迫警報が出た。4月になると東北電など複数の大手電力が再生可能エネルギーの発電事業者に太陽光発電の出力を抑えるよう要請し、わずか1カ月で需給環境が一変する極端な事態に陥った。電力ガスなどエネルギー関連の法制度に詳しい西村あさひ法律事務所の松平定之弁護士は「太陽光などの再生エネのさらなる導入と送電網の安定性とのバランスをとるためにも蓄電池は不可欠だ」と指摘する。蓄電池をもっと普及させないと電力の安定供給はおぼつかないままだ。蓄電池の課題は高コストだ。今のエネルギー基本計画によると、産業用蓄電池の発電コストは19年度時点で1キロワット時当たり約24万円。政府は30年度時点で同6万円程度まで下げる目標を掲げるが、コスト減への工程表は定まっていない。各社は系統用蓄電池に参入するが、実際に市場が動き出さなければ収益を特定するのは難しい。送電線の空きが少ないのも難点だ。蓄電池から電力を送りたくても、空きがなければ送れない。国の機関は送電線の容量を現在の約2倍に増やすには3兆8000億~4兆8000億円の投資が必要とみる。誰がいつ、どのように投資するかは未定だ。企業の参入意欲を冷え込ませないためにも、電力システムの抜本的見直しが欠かせない。 *8-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221015&ng=DGKKZO65156810U2A011C2L83000 (日経新聞 2022/10/15) (データで読む地域再生)ごみ処理 八王子市、焼却熱で発電、環境配慮の新施設 首都圏の自治体では、埼玉県鶴ケ島市の近隣市町がごみの分別収集徹底や効率的な処理でコスト削減に取り組んでいる。神奈川県座間市は家庭から出る可燃ごみのうち、草木類を分けて収集することでごみ処理量の削減につなげた。東京都八王子市や栃木県矢板市などでは、環境に配慮した高効率処理施設の建設が相次いでいる。埼玉県鶴ケ島市と毛呂山町、鳩山町、越生町の4市町は埼玉西部環境保全組合を組織し、共同でごみ処理に取り組んでいる。同組合は効率的にごみを処理するため、現在の処理施設が稼働する前からごみの分別や適正な処理方法について計画を立てた。各市町ごとのごみ排出傾向を徹底的に分析し、2026年度までに1人あたりの家庭ごみの排出量で2%前後、事業者系ごみで5%程度の削減を目標に定める。23年4月には約190億円を投じた最新鋭のごみ処理施設、埼玉西部クリーンセンター(同県鳩山町)が稼働する。ごみ処理能力は1日当たり130トンと現在の高倉クリーンセンター(鶴ケ島市、同180トン)を下回るが、同組合の担当者は「リサイクル比率を高めてごみ処理経費を削減し、組合の自主財源を多く確保できるようにしたい」と話す。神奈川県内の市町村でごみ処理費用の削減率が2番目に大きかった座間市は1人あたりのごみ排出量が最も少ない。可燃物や不燃物などの分別協力が定着し、21年度の家庭系可燃ごみの排出量は約1万9300トンと、前年度比7.8%減った。市によると、21年度から可燃ごみにまとめられがちな草木類を別に回収し、堆肥やチップとして資源化していることも削減につながった一因という。連携協定を結ぶ小田急電鉄の廃棄物管理サービス「WOOMS(ウームス)」を活用。草木類の収集は可燃ごみと同じ日だが「収集車が草木類のある集積所をウームスのシステムにデータ入力し、草木類専用の後続車が最短ルートで収集している」(市の担当者)という。環境省の一般廃棄物処理実態調査によると、神奈川県の20年度の1人あたりのごみ事業経費が11年度比で7.3%減と、関東・山梨の8都県で唯一減少した。神奈川のごみ事業費が県全体で減った要因は県内の7市町村がごみ袋を有料化し、分別を本格化したためという。ただ、横浜市、川崎市はまだ有料化しておらず、大都市部のごみ処理コスト削減の取り組みは今後本格化するとみられる。千葉県や栃木県、東京都、茨城県は1人あたりのごみ事業経費は高めで、削減の取り組みは道半ば。東京都では八王子市内の可燃ごみを焼却処分する館クリーンセンター(同市)が1日、本格稼働した。旧清掃工場跡地に169億円を投じて整備。屋外にはビオトープ(植生物の生息帯)や散策路を整備し、ごみの焼却時に発生する熱を使ってタービンを回転させ、発電する環境配慮型施設にした。焼却炉を2基備え、1日あたりの処理能力は計160トン。ごみ焼却熱で発電した電力は施設や八王子市役所などで利用する。栃木県矢板市では、近隣市町との広域行政組合が運営する処理施設の設備が老朽化していたため、環境性能を高めた広域処理施設、エコパークしおやを矢板市内に建設。19年に本格稼働した。同施設ではごみ焼却時の熱を利用して発電し、その電力を利用して施設内でフィットネスジムや入浴施設を運営している。焼却後の灰は埋め立てなどに再利用している。粗大ごみとして持ち込まれたが、再利用できる椅子や机、棚といった家具を無償で譲渡する抽選会を開催するなど、ごみの削減に努めている。 *8-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221015&ng=DGKKZO65175800V11C22A0EA2000 (日経新聞 2022年10月15日) 「エコカー減税、基準厳しく」 自民税調会長車種絞り込み検討 自民党の宮沢洋一税制調査会長は14日、日本経済新聞とのインタビューで、自動車重量税に適用する「エコカー減税」制度を2023年度税制改正で見直すと明らかにした。税優遇の適用基準を厳しくして対象車種を絞り、国が定める燃費基準の達成度合いが低いハイブリッド車(HV)などの減税幅を縮める。電気自動車(EV)は高い税優遇を維持する方向だ。自動車重量税は車検の際に支払う。エコカー減税制度では燃費性能が高い自動車の税を減免する。現行制度の期限が23年4月末に迫っており、どう見直すかが焦点の一つだった。今の制度では、燃費基準を達成した車種は初回の車検時に免税となる。基準を75%達成すれば50%の減税、60%達成なら25%減税と、燃費性能によって差をつけている。宮沢氏は「(自動車メーカーには)燃費を常に改善してもらわないといけない。基準を少し厳しいものにしていくことになると思う」と述べた。HVやガソリン車で免税、減税のハードルを上げメーカーの技術革新を促す。EVは現在の免税措置を続ける案がある。燃費に応じ購入額の1~3%を課税する「環境性能割」を減免する基準もより厳格にする方針だ。自動車関連税制の抜本改革は23年度改正では見送る考えだ。宮沢氏は「EVを含めたモビリティー全体の税のあり方を考えないといけない」と語り、走行距離に応じて課税する案も含め、制度の見直しを中長期で進める必要性を強調した。温暖化ガスの排出に金銭負担を求める炭素税などのカーボンプライシング(CP)は「どういう債券や国債が発行され償還するかという話になって初めて税の出番になる」と説明。23年度改正の導入を見送る意向だ。政府は脱炭素分野の財源として「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」(仮称)を検討中だ。宮沢氏は一連の詳細な設計が年末までに決まらないとの見通しも明らかにした。国際的な税逃れを防ぐ制度改正にも着手する。経済協力開発機構(OECD)で法人税負担の最低税率を15%とする仕組みが大枠で合意されたことを受け、23年に国内の法整備を進める。詳細なルールを巡り22年末まで国際交渉が続く。交渉がまとまる前提で国内法の改正案を「来年の国会にできれば出したい」と述べた。導入後は低税率国に子会社を置く日本の親会社に対し、日本の税務当局が最低税率との差分を課税できる。企業誘致などを狙い、各国が法人税引き下げを競う「底辺への競争」に歯止めをかけると期待されている。法人事業税の外形標準課税についても「何らかの手当てはしなければいけない」と話した。資本金1億円超の企業が課税対象で、経営が悪化した企業を中心に1億円以下に減資する例が相次いでいる。「外形標準課税逃れのような行為が散見される」と指摘した。 *8-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221019&ng=DGKKZO65255540Z11C22A0MM8000 (日経新聞 2022.10.19) ルノー「日産と関係対等に」 仏ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は17日、日本経済新聞の取材に応じ、日産自動車との提携関係を「より対等にする必要がある」と述べた。両社はルノーから日産への43%の出資比率を引き下げる交渉をしている。日仏連合は経営危機に陥った日産をルノーが1999年に救済して発足し、ルノーが運営の主導権を握ってきた。世界3位の自動車連合の経営形態が転換点を迎える。ルノーは日産株を43%保有する筆頭株主で、日産も15%のルノー株を持つ。だが、仏会社法の規定で日産が保有するルノー株には議決権がなく、日産はかねて規模で劣るルノーが優位な資本関係の見直しを求めていた。両社はルノーが日産株の一部を手放し出資比率を15%にそろえることを軸に協議を進めている。ルノーの出資比率が40%未満に下がると、日産のルノー株には議決権が生まれる。デメオ氏は日産株の売却について「機微に触れる話だ。コメントできない」とした。そのうえで「日産との議論はとても建設的だ。非常に複雑で様々な議題があるが、解決策を見つけようとしている」と述べ、協議が進んでいることは認めた。ルノーは15%を出資する筆頭株主のフランス政府とも日産との交渉などについて協議している。日産幹部によると、仏政府は現時点で引き下げに反対の姿勢は示していないようだ。ルノーは99年、約6000億円を投じて日産に37%を出資した。カルロス・ゴーン被告を日産の最高執行責任者(COO)として送り、完成車や部品などの5工場を閉鎖した「日産リバイバルプラン」などのリストラで経営を立て直した。2016年には日産が三菱自動車に34%を出資し日仏連合は3社に拡大した。仏政府は14年に特別法を設けて2年以上株式を保有する株主に2倍の議決権を与えた。ルノーの経営への関与を強めたうえで、日産の経営に介入する懸念が生じた。ゴーン元会長が18年に逮捕されてルノーが経営統合を提案し、両社の関係がぎくしゃくしたため、資本関係の見直しは棚上げされた。ルノーはトヨタ自動車など他の自動車大手に比べて規模が小さい。電気自動車(EV)の開発や生産には巨額の費用がかかるため、保有する日産株を売却して資金を捻出する必要がある。仮に3割の日産株を売却すると、18日の終値では6000億円弱の資金が手に入ることになる。デメオ氏は両社の提携関係について「これまでは片方が勝って、片方が負けるという状況があった。連合の新たな幕を開けることに意味がある」と述べた。日産は幹部人事にルノーの指名権があるなどルノー優位の提携関係に不満を募らせていた。ルノーは2月、EVとエンジン車をそれぞれ別会社にして本体から分離する計画を発表した。EVの新会社には日産が出資を検討しており、デメオ氏は「(EVの専門会社を設けることで)より多くの製品開発が実現でき、日産にも利益をもたらすだろう」と話した。 <防衛費増額で継戦能力向上が見込めるのか> PS(2022年10月23日追加):*9-1は、①政府が防衛力の抜本的強化を目指して有識者会議をスタートさせ ②年末までに数回会合を行って年内に改定する「国家安全保障戦略(NSS)」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」に反映させ ③2月上旬には提言をまとめて「中期防衛力整備計画(中期防)」を来年度予算に反映させる ④防衛力の抜本的強化は継戦能力向上と敵基地攻撃能力保有が焦点 ⑤自民党内ではNATO諸国の国防費予算GDP2%以上と同様、日本も防衛費を5年以内にGDP比2%以上とすることを求める声が強まり ⑥2022年度当初予算GDP比1%の5.4兆円の防衛費を5年間でGDP比2%まで引き上げるには毎年約1兆円程度ずつ増額していく必要 ⑦安易な国債発行は将来にわたる国民の負担増で、将来の成長期待の低下を通じて企業の設備投資を抑制し、経済の潜在力を低下させる ⑧受益者である企業と国民が相応の負担をする法人税引き上げと個人所得税引き上げを行って財源とするのが妥当 等と記載している。 このうち、①②③④については、北朝鮮を標的にした敵基地攻撃能力の保有とNATO諸国の国防費予算GDP2%以上に合わせることが目的だそうだが、今後、本当に必要な防衛力の検討がなされていない。また、⑤⑥は、日本はGDPが大きいため、GDP比を同じにすれば平和国家であるにもかかわらず防衛予算はNATO諸国よりずっと大きくなるため、比率ではなく支出額とその目的適合性を検討すべきだ。さらに、無人化・自動化が進んでいる現在、人件費・糧食費は減って当然であるし、海洋国家日本で陸上自衛隊の経費が最も大きいというのも変である。従って、⑧のように、防衛予算の増額で企業と国民が受益者になるというのは甘い幻想に過ぎず、そうなるためには、正確な目的設定とそれに沿った政策間の整合性・査定が必要なのである。なお、⑦のように、安易な国債発行を行えば国債の返済と利払いで予算の多くが占められる結果となり、社会保障等の国民の生命を守る歳出を削減したり、0金利政策を変更できずに国民の財産を毀損したりすることになる。つまり、歳入・歳出・国債残高を通じて、すべては繋がっているのだ。 このような中、岸田首相は「政府全体の資源と能力を総合的かつ効率的に活用した防衛体制の強化を検討する」と強調しておられるが、省庁間の政策ベクトルの方向を揃えることは必要不可欠なので、そのための関係省庁の関連費用を「国防関係予算」から支出するのはアリだろう。 現実には、(国際法規違反と非難しても)戦争となれば兵糧攻めは定石であり、ウクライナはクリミア橋を爆破し、ロシア軍は、*9-2-1・*9-2-2のように、電力インフラを主な標的として40発のミサイルとイラン製の突入自爆型無人ドローン「シャヘド」を16機発射し、これに対してウクライナ軍がミサイル20発とシャヘド11機を撃墜したものの、南部ザポロジエやオデッサ、ミコライフ、西部リウネ、フメリニツキー、東部ハリコフなどの各州で電力等の重要インフラが損傷したそうだ。このうち、ザポロジエ原発の安全は最も心配だが、原発で集中発電しているリスクの大きさが改めて明白になった形だ。 バイデン米大統領は、*9-3のように、「世界は冷戦が終わって以来初めて『世界最終核戦争』の危機に晒されており、ウクライナ侵攻のプーチン氏にとっての『出口』を模索中」と言われたそうだが、現在は、核戦争以前に原発を自爆させることも容易であり、その世界への悪影響は著しく大きいのである。 2022.9.5日経新聞 東京新聞 2021.1.10Yahoo 2021.10.23JCP (図の説明:1番左の図が「防衛費増額のイメージ」で、GDP比2%という数字が目標になっているだけで、5年後に本当に必要か否かの検討がされていない上、米軍基地再編費は除かれている。また、左から2番目の図が、NATO諸国と日本の防衛費のGDP比で、NATO諸国の目標であるGDP比2%より小さいとしているが、右から2番目の図のように、日本のGDPは世界で3~4番目に大きいため、単純に比率を同じにすれば防衛費も世界で3~4番目に大きくなるのである。それを示したのが1番右の図だが、政策の連携がされていないため、憲法に反してまで世界で3~4番目に大きな防衛費を使っても機能しないのが日本の根源的問題なのである) 2022.1.4朝学ナビ Clearing Mod (図の説明:左図は、2022年度予算案のポイントで、歳出は約107兆円で10年連続過去最大だが、日本経済は低迷しているので歳出内容をチェックすべきだ。また、約5兆円の防衛費も過去最大で、右図のように無駄が多いのに拡大圧力が強い。そのような中、約36兆円《歳出全体の約1/3》の社会保障費が大きすぎるとして圧縮圧力が強いが、本当に国民の生命・財産を第1に考えるなら、国民全体が関係する社会保障費の圧縮は極めて慎重で合理的根拠に基づかなければならない筈である。国債費も過去最大で24兆円あるが、国債残高は増加しているため、利払い負担は増える一方である。右図は、防衛関係費の内訳で、人件費・糧食費が約45%、隊別では陸上自衛隊38.2%が最大だが、少子化で偵察衛星・無人機・ミサイル・無人ドローンの時代に兵員数は多い必要がないと思われるため、人件費・糧食費は半減させてよいだろう。また、装備品の購入単価が著しく高く、高額予算の割には大したことができていないため、もっと安上がりで効果的な方法を考えるべきである) *9-1:https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/fis/kiuchi/1003 (NRI 2022/10/3) 本格化する防衛力増強、防衛費増額と財源の議論 執筆者:木内 登英、エグゼクティブ・エコノミスト ●防衛力の抜本的な強化に向けた有識者会議がスタート 日本の防衛力の抜本的な強化を目指す政府が、その検討を本格化させている。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が9月30日に初会合を開いた。年末までに数回の会合を行い、2月上旬をメドに提言をまとめる。その議論は、年内に改定する「国家安全保障戦略(NSS)」、「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」の3文書に反映される。さらに、「中期防衛力整備計画(中期防)」は来年度予算に反映される。2013年に改定された「国家安全保障戦略(NSS)」、2018年に改定された「防衛計画の大綱(防衛大綱)」は概ね10年程度で改定されることが想定されている。また、「中期防衛力整備計画(中期防)」は5年間の計画だ。この3つを同時に改定することは、日本の防衛政策の大きな転機となることは間違いないだろう。有識者会議はその見直しのプロセスに国民目線を反映させる役割を担っている。 ●脆弱な継戦能力の向上と「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有が焦点に 同会議の初会合に内閣官房国家安全局が提出した資料では、「国際秩序は深刻な挑戦を受けている」、「2025年には中国の軍事的影響範囲は西太平洋全体に及び、米中の戦力バランスも中国側に傾く」との見方を示し、国防上の危機感を強調している。防衛力の抜本的な強化では、継戦能力の向上と敵のミサイル拠点をたたく「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有が、2つの大きな焦点となる。弾薬は最大2か月ほどしかもたないといった試算があるうえ、精密誘導弾についても数日しかもたないとの指摘もあり、脆弱な継戦能力の向上が焦点となる。また、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有は北朝鮮を念頭に置いたものだ。北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃するには技術的に限界があることから、抑止力として浮上しているのが、この「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有だ。8月末に公表した来年度予算案の概算要求で防衛省は、敵基地攻撃能力にも使える射程が長い「スタンド・オフ・ミサイル」の量産などを既に盛り込んでいる。しかし攻撃するには、まず相手の着手を認定する必要があり、その前に攻撃すれば国際法違反の先制攻撃となってしまう、あるいは相手が先制攻撃と受け止めてさらに攻撃の度を増すリスクがあるなどの課題があり、実際の運用には大きな課題を抱えている。その中で、保有するだけで十分な抑止力を発揮できるのかが焦点となるだろう。 ●防衛費増額は数字ありきではなく省庁横断、官民協力が重要 岸田首相は防衛費の抜本的強化を打ち出す一方、「必要な防衛力の内容の検討、予算規模の把握、財源の確保を一体的かつ強力に進めていく」との3点セットを示してきた。単純に防衛費の積み増しを求める声も自民党内には強まる中、こうした方針は重要であり評価できる。自民党内では、北大西洋条約機構(NATO)諸国が国防費予算をGDPの 2%以上とすることを目指していることを念頭に、日本でも防衛費を5年以内にGDP比2%以上とすることを求める声が強まっている。2022年度当初予算で防衛費はGDP比1%の5.4兆円だった。これを5年間でGDP比2%まで引き上げるには、単純計算で毎年約1兆円程度ずつ増額していくことが必要となる。しかし数字ありきではなく、いかに効率的に防衛力を強化することができるかを検討すべきだ。岸田首相は「政府全体の資源と能力を総合的かつ効率的に活用した防衛体制の強化を検討する」と強調している。単純に防衛庁の予算を増額するのではなく、省庁横断で防衛力強化に取り組むために、各府省庁の関連費用を「国防関係予算」として創設することが検討されている。例えば防衛費の規模に関して、政府は海保経費や科学技術費、インフラ整備費などを含めた考え方を検討している。NATOの基準に従って、日本の海保に当たる沿岸警備隊にかかる費用も防衛費に含めることも検討しているのである。「官民の研究開発や公共インフラの有事の活用」も検討されている。従来は行われてこなかった軍民両用(デュアルユース)である。有事に自衛隊が使いやすい空港、港湾などが想定されている。与党内では、他省庁に計上されていた予算を防衛費予算に付け替えることで、防衛費を形だけ膨らませることになってしまうことを警戒する向きもある。しかし、省庁横断で、そして官民協力で防衛力強化に取り組むことにより、いたずらに予算が増加することを抑制しつつ、効率的な防衛力の向上を図ることは重要なことだ。 ●国債発行で賄えば経済の潜在力を低下させ将来の防衛力低下も さて、防衛力強化、防衛費増額で大きな課題となるのはその財源の問題である。政府内では、法人税率引き上げによる財源確保、あるいはそうした財源の確保ができるまでの「つなぎ国債」の発行、あるいは通常の国債発行、などが検討されている。厳しい国際情勢を踏まえれば、防衛費の増額は一時的な措置となる可能性は低いことから、恒久財源を確保することが望まれる。安易に国債発行で賄えば、それは将来にわたる国民への負担増となり、世代間の負担の公平性の問題以外に、将来の成長期待の低下を通じて、企業の設備投資の抑制などをもたらし、経済の潜在力を低下させる。それは、将来に向けての防衛力の強化という方針に逆行してしまうだろう。また、財源の確保ができるまでの「つなぎ国債」で決着しても、結局は財源の確保ができずに、なし崩し的に通常の国債発行で借り換えられてしまう可能性もあるだろう。従って、当面は「つなぎ国債」で資金を賄うとしても、財源はしっかりと確定させておく必要がある。 ●法人税引き上げと個人所得税の引き上げの組み合わせも選択肢か 仮に年間5兆円規模の恒久財源を消費税率引き上げで確保する場合には、消費税率を2%ポイント引き上げる必要が生じる。ただし増税による財源確保で、現在主に検討されているのは法人税の増税である。バイデン米政権が主導する形で、世界の法人税率引き下げ競争に歯止めが掛かってきたことが、その検討の背景にある。法人税収は2021年度に13.6兆円に達した。その税率は国と地方の実効税率ベースで29.74%である。5兆円の防衛費増額分を法人税率引き上げで賄う場合には、実効税率を37.4%まで8%ポイント近く引き上げることは必要な計算となる。これはおよそ20年前の水準まで法人税率を戻すことを意味するものだ。ただし、国際的な税制の環境が変わって法人税率が引き上げやすくなったから、法人税率引き上げで防衛費増額分を賄う、つまり、取りやすいところから取るという発想は必ずしも妥当ではない。防衛力の強化で誰が利益を得るのか、という受益者を特定し、受益者に相応の負担を求めるとの考え方が重要なのではないか。有事の際に国内の生産施設や内外の物流施設が被害にあえば、企業活動に甚大な支障が生じる。この観点から、企業が相応の負担をするのは適切だろう。他方で、防衛力の強化によって国民の生命が守られるのでれば、国民もその受益者であり、相応の負担を求められるべきではないか。東日本大震災後の復興特別税と同様に、法人税引き上げと個人所得税の引き上げの組み合わせで財源を確保することも、検討すべきではないか。 (参考資料) 「防衛力有識者会議、12月上旬メド提言 安保戦略に反映へ」、2022年10月1日、日本経済新聞電子版 「省庁横断「国防費」提言へ 首相「政府全体の能力活用」-政府内、財源に法人税案」、2022年10月1日、日本経済新聞電子版 「防衛費増、財源論が本格化 法人増税案、復興債が先例」、2022年10月1日、日本経済新聞 「安保戦略、有識者が初会合」、2022年10月1日、朝日新聞 「防衛費、枠組み議題に 海保経費など一括算入で懸念」、2022年10月1日、産経新聞 *9-2-1:https://www.yomiuri.co.jp/world/20221022-OYT1T50090/ (読売新聞 2022/10/22) ロシアの重要インフラ攻撃、米欧は「民間人巻き込む無差別攻撃」と非難…安保理 国連安全保障理事会は21日、ウクライナのエネルギー関連施設を含む重要なインフラ(社会基盤)へのロシアの攻撃を巡り、緊急会合を開催した。米欧は民間人を巻き込む無差別攻撃として非難した。会合は、フランスとメキシコが要請した。フランスの国連大使は「ロシアはウクライナの都市を無差別に攻撃することで、ウクライナ国民の士気をくじこうとしている」と批判した。米国などは、ウクライナへの攻撃にイラン製の無人機(ドローン)が使用されたと強調した。英仏独の3か国は21日、イラン製無人機の使用疑惑の調査を国連に求める書簡を国連事務総長と安保理に提出した。国連は「加盟国からの情報は分析する用意がある」(事務総長報道官)との立場だ。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は会合で、露軍によるイラン製ドローンの使用を否定。英仏独の書簡に触れ、「調査すれば、国連事務局との関係を見直す」とけん制した。 *9-2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/92a26b4e49c0025737b3d33ba4aedb45dcbdfb17 (Yahoo、産経新聞 2022/10/23) ロシア、電力インフラ攻撃継続 南部では複数集落を放棄 ウクライナ軍参謀本部は22日、ロシア軍が電力インフラを主な標的として40発のミサイルとイラン製の突入自爆型ドローン(無人機)「シャヘド」16機を発射したと発表した。うちミサイル20発とシャヘド11機を撃墜したが、南部ザポロジエやオデッサ、ミコライフ、西部リウネ、フメリニツキー、東部ハリコフなどの各州で電力などの重要インフラが損傷したとした。また、同参謀本部は22日、ロシアが一方的に併合を宣言した南部ヘルソン州を流れるドニエプル川の西岸地域で複数の集落を露軍が放棄したと指摘した。露軍は同川の西岸地域に位置する州都ヘルソン市で市街戦の準備を進めるとともに、同川の東岸地域に防衛線を構築し、実効支配する南部クリミア半島方面へのウクライナ軍の前進を防ぐ思惑だとみられている。電力など民間インフラへの攻撃について、ウクライナは戦争のルールを定めた国際法規違反だと非難。ゼレンスキー大統領は22日のビデオ声明で、停電の復旧作業が進んでいるとした上で、国民に節電を要請。「停電の中でさえも、ウクライナ国民の生活はテロ攻撃を行うロシアよりも文明的だ」と述べ、国民に団結と忍耐を呼び掛けた。ロシアはクリミアと露本土を結ぶクリミア橋で8日に起きた爆発を「ウクライナのテロ」だと主張し、「報復」として10日からウクライナ各地の電力インフラなどにミサイルやドローンによる大規模攻撃を開始。ウクライナのエネルギー当局は19日時点で、約40%の電力インフラ施設が破壊されたと発表していた。東・南部の戦線で劣勢に立つロシアは橋での爆発を口実に電力インフラを攻撃し、ウクライナ軍の兵員・物資輸送を妨害するとともに、国民の戦意をくじく狙いだとする観測が強い。 *9-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/80d8d5d85de0d6b67c26ae5e759be47a29ab7581 (Yahoo、時事 2022/10/7)冷戦以来初の「世界最終核戦争」の危機に 米大統領 米国のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は6日、世界は冷戦(Cold War)が終わって以来初めて「世界最終核戦争」の危機にさらされているとして、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領にとってのウクライナ侵攻の「出口」を模索していると述べた。バイデン氏はニューヨークで開かれた民主党の資金調達イベントで、人類が世界最終戦争の危機にさらされるのは1962年のキューバ危機以来だと述べた。専門家はプーチン氏が使うとすれば小型戦術核の可能性が最も高いとしているが、バイデン氏は限定された地域への戦術攻撃であろうと、大惨事の引き金になりかねないと警告した。バイデン氏は「プーチン氏が戦術核兵器や生物・化学兵器を使う可能性に言及するのは、冗談で言っているわけではない。ロシア軍の戦果は期待を大きく下回っていると言えるからだ」との見解を示した。また、プーチン氏による核の脅しは「冗談ではない」として、「われわれはプーチン氏にとっての出口を見極めようとしている。彼はどこに出口を見いだすだろうか?」と語った。 <不合理な防衛費使用の果てに> PS(2022年11月3、4日追加): 韓国軍の合同参謀本部は、北朝鮮が11月3日午前7時40分頃、首都ピョンヤン郊外から日本海に向けて長距離弾道ミサイル1発を発射し、飛行距離約760km、高度約1920kmで、マッハ15で飛行したと発表した。これについて、*10-1-1は、①ミサイル発射で宮城・山形両県等にJアラートが発令され、住民に避難が呼びかけられ ②一時は日本列島を越えて落下したという情報もあったが ③午前9時頃、ミサイルは日本上空を通過していないというニュースが流れ、政府が日本海に落下と修正した と記載しているが、北朝鮮から7時40分頃に発射されたマッハ15のミサイルの飛行ルートを、日本政府が午前9時過ぎに初めて確認したとすれば、多額の防衛費をかけても満足に守備もできないことが明らかであるため、これまで使った多額の防衛費はどこに消えたのかと思う。 一方、*10-1-2は、④北朝鮮は、2022年3月24日にも大陸間弾道ミサイルを発射して北海道・渡島半島の西方約150kmの日本のEEZ内に落下させており ⑤今回のミサイルが通常軌道で発射されれば米国全土に到達する可能性があり ⑥落下海域は過去の北朝鮮による発射で最も日本列島に近く ⑦岸田首相は「許されない暴挙で断固非難する」と強調し、「制裁を含む対応を日米、日米韓で実施したい」とされたが ⑧ミサイルの領域(領土・領海)内への落下や我が国の上空通過が想定されなかったためJアラートやエムネットは作動させなかった とする。しかし、⑦の制裁が効くのは、日本に大きく依存している国だけなので、いつまでも制裁が効くと考えるのは甘い。そのため、日本の領土・領海・領空を侵したり、侵さなくてもEEZ内に落下させたりすれば漁業者や航行する船舶に危険が及ぶので応酬するとあらかじめ言っておき、演習を兼ねて反撃すればよいと思う。相手も演習なら、こちらもそれを迎撃する演習をして問題ないし、日本は能力が低すぎて迎撃できないのを特定秘密にしているわけではあるまい。 ただし、迎撃能力が低くてミサイルを完全には迎撃できないことも十分に考えられるため、その場合は、*10-2のように、原則40年・最長60年としていた原発の運転期間を運転開始30年後から10年以内毎に建物・原子炉の劣化具合を“審査”すれば60年超運転することを可能にしたり、小型原子炉は比較的安全だから新設して原発を維持しようなどと言うのは無謀な計画すぎる。そもそも、構築物のうち耐用年数の長い競技場用の鉄骨鉄筋コンクリート造スタンドでも耐用年数は45年で、コンクリート敷・ブロック敷・れんが敷・石敷舗装道路は15年、爆発物用防壁・防油堤は25年、放射性同位元素の放射線を直接受けるもの15年、塔・柱・がい子・送電線・地線・添加電話線36年、送電用地中電線路25年などが通常の耐用年数なのに(http://tool.yurikago.net/583/yurikago/ 参照)、強い放射線を直接受け、高圧に耐えなければならず、事故時には被害甚大になる原発だけは60年を超えて使用できると考えること自体、非科学的で、セキュリティーに甘く、著しく非常識なのである。 上記のように、防衛費・原発や生産年齢人口への景気対策と称するバラマキには莫大な予算をつけながら、国民の命に直結する介護については、「介護全体にかかる費用が2022年度に13.3兆円と2000年度の介護保険制度創設時と比較して約3.7倍になったため、給付と負担の見直しが必要」として、*10-3のように、⑨介護サービス利用時の原則2割負担への引き上げは見送るが ⑪65歳以上の介護保険料を引き上げる議論を始め ⑩(65歳以上が支払う保険料は既に創設時の2倍超の6000円超だが)現行サービス維持には65歳以上の介護保険料を2040年には月額平均9,000円程度(現在の1.5倍)にする必要があるとし ⑪現在は国の目安で所得に応じて9段階、平均月6,014円、年間所得320万円以上の最も高額な人は月10,224円だが ⑬さらに高所得の階層を作って10段階以上とし負担額を引き上げられないかを探る などとしている。 が、65歳以上の人の多くは、生産年齢人口時代の所得よりも大きく減った年金所得から介護保険料や医療保険料を事業主負担なく全額自費で支払っているため、生産年齢人口の人より可処分所得がずっと少なく、⑪のように、年間所得320万円以上が所得の多い人に当たり、月10,224円(年間12万円以上)もの介護保険料を支払っているのである。にもかかわらず、⑪⑫⑬のように、さらに65歳以上を標的にして介護保険料を引き上げたり、⑨のように、介護サービス利用時の負担を引き上げたりするというのは、高齢者に対する福祉・生活・人権を考慮していない。 その上、介護保険制度は、高齢者だけのためにあるのではなく、親等の介護のため離職を余儀なくされそうな生産年齢人口や自らが生産年齢人口でも病気や出産のため介護を受けたい人が、家族に負担をかけずに尊厳を持って介護を受けられることを目的に作ったものなので、65歳という年齢で分けること自体が著しくナンセンスなのである。そのため、「給付と負担の見直し」は、介護を受けることができる年齢制限をなくし、所得に応じて負担額を決めるのが妥当で、そうすれば薄く広い負担となって高齢者に過度の負担をかけずにすむのだ。なお、プロによる介護は、共働き・高齢化社会の進展に伴ってニーズが増えるのは当然であり、政治・行政が不適切(ここが重要)な節約をしなければニーズは次第に大きくなるのが自然であり、高度サービス産業として発達することによって、あとに続く国にノウハウの輸出ができる筈だったのだ。 *10-1-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/0c91e16ff4281c7f651be8d99b5818b12e302fe9 (Yahoo、毎日新聞 2022年11月3日) Jアラート発令、宮城・山形などで緊張走る 「予測の精度上げて」 北朝鮮のミサイル発射により宮城と山形両県などに3日朝、全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令され、住民に避難が呼びかけられた。一時は「日本列島を越えて落下」という情報もあり、県庁や漁業関係者に緊張が走った。両県などによると、午前10時現在で被害の情報はないという。宮城県はJアラート発令直後の午前7時50分に危機管理警戒本部を設置した。県庁5階の復興・危機管理部には職員が慌ただしく出入りし、情報収集にあたった。午前8時50分ごろまでに、操業中の漁船に被害がないことを確認。県警や消防にも被害情報は入っていない。午前9時ごろには「ミサイルは日本上空を通過していない」とのニュースが流れたが、千葉伸・県危機管理監は報道陣に「政府からの正式な連絡がまだなので、通過したと想定して県内に落下物などがないか確認にあたる」と話した。防災担当者らによる会議後、復興・危機管理部の佐藤達哉部長は「Jアラートに驚いた県民は多いと思うが、落ち着いた行動が大事だ」と呼びかけた。一時は上空を通過したとの情報もあり、漁業関係者が警戒を強めた。県漁業協同組合気仙沼総合支所の男性職員(60)は「ここ最近頻繁に起きているので、正直な所『またかや』と思った」と話し「政府には北朝鮮にけん制をするよう発信を続けてほしい」と要望した。政府が日本海に落下と修正したことに対しては「二転三転するのも困るので、予測の精度は上げてほしい」とため息をついた。一方、日本三景の松島では、紅葉シーズンに加えて全国旅行支援などもあり、大勢の観光客が滞在していた。大阪府岸和田市から修学旅行に来ていた高校の男性教諭は「出発の直前にアラートがなり、宮城上空を通過したと知りびっくりした」と驚いた様子。すぐに落下との情報が入り、生徒らも落ち着いて行動したといい、予定通り遊覧船に乗船した。栃木県から幼い子どもら家族4人で旅行に来ていた30代の男性は「一瞬怖いと思ったが、結局何も起きず、Jアラートに慣れすぎて、あまり緊急性を感じなくなってしまっている」と本音を漏らした。JR東日本によると、午前7時50分ごろから、東北新幹線の小山―盛岡駅間▽上越新幹線の高崎―新潟駅間▽北陸新幹線の飯山―上越妙高駅間で、それぞれ安全確認のため一時運転を見合わせた。午前8時6分に運転を再開したが、一部に遅れが生じた。JR東日本東北本部によると、宮城県内の在来線でも約20分の遅れが発生した。 *10-1-2:https://mainichi.jp/articles/20220324/k00/00m/030/365000c (毎日新聞 2022/3/24) 北朝鮮弾道ミサイル、米本土到達の可能性 通常軌道で発射なら 防衛省は24日、北朝鮮が午後2時33分ごろに弾道ミサイル1発を発射し、午後3時44分ごろ、北海道・渡島半島の西方約150キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとみられると発表した。韓国軍合同参謀本部によると発射地点は平壌の順安(スナン)付近と推定され、飛行距離は約1080キロ、最高高度は約6200キロ。飛行時間(約71分)と最高高度はいずれも過去最高で、日本政府は新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級とみて警戒を強めている。日本の船舶・航空機などへの被害は確認されていない。防衛省は、通常よりも高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射したと分析。2017年11月に発射されたICBM「火星15」の飛行時間約53分、最高高度約4500キロを大きく超えており、「新型のICBM級ミサイルと考えられる」とした。今回のミサイルが通常軌道で発射された場合、米国全土に到達する可能性がある。落下海域は過去の北朝鮮による発射で最も日本列島に近いとみられ、北朝鮮のミサイル技術の進展を裏付けた。発射は日米韓などを強くけん制する狙いとの見方が出ている。韓国軍は対抗して地対地ミサイルなど計5発を発射した。岸田文雄首相は24日、訪問先のベルギー・ブリュッセルで記者団に「許されない暴挙で断固非難する」と強調。「国連安全保障理事会決議に違反する」とし、制裁を含む対応を日米、日米韓で実施したい考えだ。現地の主要7カ国(G7)首脳会議でも取り上げる意向を示した。日本政府は、国家安全保障会議(NSC)の関係閣僚会合を首相官邸で開き、松野博一官房長官や岸信夫防衛相らが情報を分析。経済制裁を担当する鈴木俊一財務相も出席した。北朝鮮に対しては北京の大使館ルートを通じて厳重抗議し、松野氏は記者会見で「一方的に挑発をエスカレートさせている」と非難した。一方で政府は今回、全国瞬時警報システム(Jアラート)や緊急情報ネットワーク(エムネット)は作動させなかった。松野氏は会見で「ミサイルの領域(領土・領海)内への落下や、我が国の上空通過が想定されなかったため発出しなかった」と説明した。北朝鮮のミサイル発射は今年に入って11回目。北朝鮮は2月27日、3月5日に順安からICBM級の新型ミサイルを発射。16日にも同じ順安からミサイルを発射したが、この時は発射直後に爆発して失敗した。 *10-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15463756.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2022年11月3日) 原発運転、60年超も可能案 規制庁提示、30年以降10年ごと審査 原則40年、最長60年とする原発の運転期間のルールに代わり、原子力規制庁は2日、運転開始から30年を起点にして10年を超えない期間ごとに建物や原子炉の劣化具合を審査する案を示した。経済産業省が検討する運転期間の延長方針が前提で、この案では60年超の運転が可能になる。原子力規制委員会は、年内にも原子炉等規制法(炉規法)の改正案の骨子をまとめる方針。現行の「40年ルール」は2011年の東京電力福島第一原発の事故後に導入された規制の柱の一つ。運転開始40年を前に原子炉容器の劣化などを調べ、規制委が認めれば1回だけ60年まで延ばせる仕組みだ。これとは別に、運転30年から10年ごとに事業者の運用や管理などの評価もなされる。規制庁の案では、これらを合わせる形で運転開始30年から審査を始める。以後10年を超えない期間ごとに事業者による原子炉の劣化評価や長期施設管理の計画を規制委が審査する。審査をクリアすれば、60年超の原発も稼働できるという。運転期間の延長は、8月のGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議での岸田文雄首相の指示を受け、経産省が検討。10月に規制委に対し、現在は炉規法で規定されている運転期間を利用政策側(経産省)の法律で規定し直す方針を説明した。規制委の山中伸介委員長は「運転期間は利用側で決めること。規制委が意見を述べるべきではない」と発言。制度の見直しを規制庁に指示していた。 *10-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA3121A0R31C22A0000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2022年11月1日) 介護保険料、高所得者の引き上げ議論 抜本改革は尻込み 厚生労働省は31日、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の介護保険部会を開き、65歳以上が毎月支払う介護保険料の引き上げに向けた議論を始めた。所得が高い人を対象に検討する。3年に1度の制度改正では目玉の一つだった介護サービス利用時の原則2割負担への引き上げは見送る公算が大きい。膨張する費用が課題となる中、抜本改革には尻込みの状況だ。介護保険制度の次回の改定時期である2024年度に向け、厚労省は本格的な議論に着手している。介護全体にかかる費用は22年度に13.3兆円(予算ベース)と00年度の制度創設時から約3.7倍になった。介護保険の「給付と負担」の見直しが必要になっている。65歳以上が支払う保険料は既に創設時の2倍超の6000円超になった。現行のサービス内容などを維持する場合、65歳以上の介護保険料は40年に月額平均9000円程度と現在の1.5倍になるとの試算を厚労省は示している。ただ高齢者全体で一律に負担増を求めるのは難しいとの指摘は多い。31日の部会で厚労省は「負担能力に応じた保険料設定についてどう考えるか」と議論を促した。介護保険料は自治体が決めている。国が目安をつくり、所得に応じて9段階の基準を示している。平均は月6014円で、最も高額なのは年間所得320万円以上の人で月1万224円だ。厚労省はさらに高所得の階層をつくって10段階以上にし負担額を引き上げられないか探る。自治体によっては既に先行して階層を増やすところもあり、厚労省は参考にして制度設計する。国が段階を増やせば、現在の国の目安と同等に9段階で運用するほとんどの自治体が追随する見通しだ。所得の低い人の保険料を引き下げる案もある。ただ、この見直しによる増収効果はそれほど大きくないとみられる。介護保険を巡っては制度維持に向けて抜本的な改革が待ったなしの状況だ。俎上(そじょう)に載るのが、サービスを利用した場合の利用者負担を原則1割から2割に引き上げる改革案だ。3年前の前回改定時も高齢者の負担増への懸念から先送りした。今回も既に議論は下火になっている。現在は原則1割負担だ。所得に応じて2割を支払っている人もいるが要介護(要支援含む)認定の人の5%程度、3割の人が4%程度にとどまる。原則2割にすれば一定の効果がある。介護サービスを受ける人は75歳以上の後期高齢者が多く、厚労省は原則2割負担は家計への影響が大きいとみている。介護以外の社会保障制度改革との見合いもあるようだ。医療保険制度でも後期高齢者の保険料引き上げが検討されている。後期高齢者が医療と介護の双方で負担増となるのは理解を得にくいと厚労省はみている。厚労省はサービス利用時の2割負担について、所得の高い人に絞って対象の拡大を図る方向だ。31日の部会では後期高齢者の医療保険制度で2割負担の対象者が所得上位30%である点を紹介した。厚労省は議論を踏まえ、年末には介護保険制度の改革に向けた意見をまとめる方針だ。24年度の実施を目指している。小手先の見直しにとどまらず、制度全体を見据えた議論が欠かせない。 <環境汚染に熱心な国、日本> PS(2022年11月10日追加):環境NGOの国際ネットワーク「気候行動ネットワーク」が、*11-1のように、①国際協力銀行や日本政策投資銀行などが石炭・石油・天然ガスに2019~21年に平均で約106億ドル(約1・6兆円)と世界最多の投資を行い ②日本政府はCO2を出さないとしてNH3を石炭に混ぜる方式を海外に輸出しようとしているのは「偽りの対策」だ として、日本を化石賞に選んだそうで、私も賛成だ。何故なら、今から石炭・石油に投資するのは気候変動対策に逆行する上、自然エネルギーでH2 を作れば安価に国産のクリーンな燃料ができるのに、わざわざ化石燃料を輸入してH2 を作り、燃やせば窒素酸化物が出る燃料を作るのは、コストを上げてクリーンさを放棄する方法だからである。 また、経産省が、何が何でも原発を稼働させようと、*11-2のように、③「原則40年、最長20年延長」の現行規定を維持する案 ④運転期間の上限を設けない案 ⑤「原則40年、最長20年延長」を維持しつつ停止期間を運転期間から除く案 ⑥停止期間を除外せず運転開始から30年を起点に10年を超えない期間毎に建物や原子炉の劣化具合を審査していく案 を検討しているそうだが、前のめりで、安全性の確認を規制委が担うとしても、目視でどれだけ正確に確認できるかは疑問で、安全第一とは言えない。何故なら、運転休止中も配管・ケーブル・ポンプ・弁などの設備・部品は劣化するし、原子炉のように交換できないものもあるからで、私も原則40年の運転期間をゆるめることは認められないし、これを強行すれば日本政府は国民を守る責務を放棄していると思うが、それでもここまで原発が好きなのは何故か? さらに、*11-3のように、⑦佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画で、防衛省が「駐屯地予定地以外の隣接する土地も購入する」 ⑧「駐屯地からの排水は西側と東側の樋門(ひもん)から分散して行う」と文書化した ⑨防衛省は排水を海水と混ぜて塩分濃度を調整し空港西側の樋門から放流する案を複数示したが、組合員への説明会で追加の説明を求める声が上がって東側樋門からも放流するように要望が出ていた ⑩海水との混合に関してもノリ養殖に影響が出ないように調整する比重の数値を明示した そうだが、⑦により、漁業などは放棄して土地を売却したい人の要望で話を進めたことが明らかだ。また、⑧の西側と東側の樋門から分散して排水しても汚染水が広がるだけで意味はなく、⑨の排水を海水と混ぜて規定内にしても大量に流すことに違いはない。さらに、⑩は比重を重くしてノリ養殖に影響が出ないようにすれば、汚染物質が底に溜まって貝やヒラメなどの海産物に悪影響を与える。つまり、海は下水処理場ではなく、水産物という食料を確保するには自然を護ることが大切で、クリーンにした処理水しか流せないのである。全員、何か勘違いしていないか? *11-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQCB2RCPQC9ULBH00G.html (朝日新聞 2022年11月10日) 日本に化石賞 化石燃料投資「1.6兆円で世界最多」 COP27 国連の気候変動会議(COP27)で、温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」に9日、日本が選ばれた。環境NGOの国際ネットワーク「気候行動ネットワーク」(CAN)が選んだ。化石燃料への公的資金の投資額が世界最多となったことなどを理由にした。受賞の根拠となったのは、米NGO「オイル・チェンジ・インターナショナル」が8日に公表した調査結果。国際協力銀行や日本政策投資銀行などによる石炭や石油、天然ガス事業への投資額が、2019~21年の年平均で約106億ドル(約1・6兆円)になり世界最多だったという。投資額の多い国はカナダ、韓国、中国、米国と続く。さらに、日本政府が、燃やしても二酸化炭素を出さないアンモニアを石炭に混ぜて発電する方式を海外に輸出しようとしていることは「偽りの対策」で、「石炭発電を延命させるものだ」と批判。途上国の「損失と被害」の支援ではなく、破壊の元となる化石燃料に公的資金を使っているとしている。化石賞はCOPの期間中ほぼ毎日発表されるが、COP27ではこの日が初めて。日本はこれまでも毎年のように受賞している。 *11-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15468995.html (朝日新聞 2022年11月9日) 原発の運転延長、世論意識し調整 経産省が2案、「停止中除外」有力 最長60年と定めている原発の運転期間について、経済産業省は8日の原子力小委員会で、三つの案を示した。経産省は小委員会での議論もふまえ、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除外することで延ばす方向で最終調整している。原発の運転期間は、2011年の東京電力福島第一原発事故後に原子炉等規制法(炉規法)が改正され、原則40年、最長20年延長できると定められた。この日の原子力小委員会で、経産省は今の規定を維持する案のほか、運転期間を延ばす2案を示した。一つは運転期間の上限を設けない案。もう一つは「原則40年、最長20年」の骨格を維持しつつ、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除く案だ。経産省の資料では、除外案について、「事業者が予見しがたい、他律的な要素による停止期間」を運転期間に含めず、20年の延長期間に追加すると説明。具体例として、再稼働に必要な原子力規制委員会の審査や、運転を差し止める司法判断で停止している期間などを挙げた。経産省内では、この案が最有力となっている。背景にあるのが、世論への配慮だ。「上限撤廃」は無制限に運転を続けるとの印象を与えかねない。原発事故の教訓で生まれた制度だけに、一切なくなるとなれば大きな反発を生む可能性もある。小委員会の議論でも「原子力の利用のみを徹底することはやや行きすぎと思われる」との意見が出た。委員長の山口彰・原子力安全研究協会理事も「国民から理解していただくことが前提」と述べた。一方で、経産省は除外する期間の詳細は示していない。すでに40年超の運転を始めている関西電力美浜3号機(福井県)の場合、審査の申請から再稼働まで6年ほどかかった。こうした期間が候補となりそうだ。北海道電力泊1~3号機は審査が10年近く続いている。今後、運転開始から40年を迎えて延長する場合、20年に加えて10年前後を追加で延ばせることになる可能性がある。いずれの案でも、安全性の確認は規制委が担う。すでに停止期間は除外しない前提で、運転開始から30年を起点に10年を超えない期間ごとに建物や原子炉の劣化具合を審査していく案を示している。 ■「事故の教訓ないがしろ」 市民団体 原発の運転期間の延長には、安全性への懸念が根強くある。全国の約100の市民団体やNGOなどは7日、国会内で集会を開き、原則40年の規定を維持するよう規制委に申し入れた。反対する3663人分の署名も提出した。声明では「老朽原発を動かすことは極めて大きな危険を伴う。交換できない部品も多く、点検できる範囲も限定的だ」と強調。運転期間の規定を炉規法から削除することは「福島原発事故から得た教訓をないがしろにし、国民を守るべき責務を放棄するものだ」と批判する。経産省は、再稼働に必要な審査などで停止した期間を運転期間から除外する方向だ。停止中は核燃料から出る中性子による原子炉の劣化がないとしているが、声明では「運転休止中も、配管やケーブル、ポンプ、弁などの設備・部品が劣化する。原則40年を運転期間とする規定をゆるめることは到底認められない」としている。 *11-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/945269 (佐賀新聞 2022/11/10) <オスプレイ 配備の先に>防衛省、漁協要望に踏み込んで回答 予定地以外の土地購入、排水は分散放流 協定見直し会議で回答提示 佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画で、防衛省が「駐屯地予定地以外の隣接する土地も購入する」「駐屯地からの排水は西側と東側の樋門(ひもん)から分散して行う」と従来の説明より踏み込んだ対応の確約を文書化していたことが9日、分かった。県有明海漁協が自衛隊との空港共用を否定した協定の見直しに応じることを決めた1日の幹部会議で、県を通して示されていた。県は、協定見直しの可否を判断する漁協全15支所の代表者らによる検討委員会が1日に開かれるのを前に、漁協から要望を聞き取り、防衛省に対して「回答書」として明文化するよう求めていた。防衛省が取得を目指す駐屯地予定地31ヘクタールは全て漁協南川副支所の所有だが、ここを含む空港西側一帯の約90ヘクタールは早津江、大詫間、広江の3支所にも地権者がいる。これまでは予定地以外の土地に関し「駐屯地開設ごろの売却の可能性や範囲について地権者の考えを伺いたい」としてきたが、回答書では「予定地を購入後、隣接する土地も購入する」と明記した。漁協が重要視していた駐屯地からの排水対策を巡っては、防衛省は排水を海水と混ぜて塩分濃度を調整し空港西側の樋門から放流する案を複数示していた。それでも夏に開いた組合員への説明会では追加の説明を求める声が上がり、東側樋門からも放流するよう要望が出ていた。防衛省は、排水場所の変更について「議論のテーブルにのせる」という表現でにとどめていたが、回答書では「分散して排水する」と確約。海水との混合に関してもノリ養殖に影響が出ないように調整する比重の数値を明示した。その上で今後も組合員向けに説明会を開いていくとした。また、防衛省は「駐屯地に米軍の常駐計画はない」とする考えも回答書に記載した。夏の説明会で組合員から米軍についての考えを文書化するよう求められていた。山口知事は9日の県議会一般質問で、漁協が抱えるさまざまな懸念について、防衛省に「口約束ではなく文書化を迫った」と答弁し、回答書の存在を明らかにした。回答書は1日付で、県の担当者が検討委員会に示した。検討委員会で漁協は、空港建設時に県との間で結んでいた協定について「空港を自衛隊と共用できる」と変更することに応じた。
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2022,06,26, Sunday
(1)原発事故と原発
2022.6.17熊日新聞 2022.6.17熊日新聞 2011.4.9朝日新聞 (図の説明:左図は、フクイチ事故に国の責任があるか否かを問う訴訟に関する最高裁判決で、国は責任がないとした。しかし、国に責任がないとする判決を出したのは、中央の図のように、9判決のうち3判決にすぎず、原発のない関東の裁判所のみである。実際には、右図のように、予測できた筈の869年貞観地震・津波と同規模の地震・津波が発生し、地下に置いてあった非常用バッテリーは水の底に沈んで使えなくなったのである) 2011.4.6朝日新聞 TEPCO (図の説明:左図のように、フクイチは日本で最初にできた原発だが、その後にできた原発も貞観地震・津波と同規模の地震・津波を想定して作られてはおらず、活断層の存在・火山噴火・武力攻撃については殆ど考慮されていない。それにしても、右図のフクイチは、あまりにもセキュリティー対策が疎かで、フクイチ事故は起こるべくして起こったように見える) 2021.1.13日経新聞 2020.12.22Media.Moneyfoward (図の説明:原発のコストは上がる一方だが、左図のように、超電導送電システムの開発も進んでいる。また、中央の図のように、ドイツの再エネ発電買取価格は現在の機器でも他の発電方法より安価になっており、日本で高止まりしているのは普及を妨げる力が働いているからだ。なお、右図のように、レンズで集光すると太陽電池は1/500の面積ですむため、太陽光発電のコストはさらに下げることが可能だ) 1)エネルギーと環境に関する各党公約(原発推進派及び容認派) エネルギー・環境に関する与党の公約は、*1-1のように、自民党は、①エネルギー・物資の安定供給のため、内外資源を開発し再エネは最大限導入 ②安全が確認された原発は最大限活用 ③カーボンニュートラル実現のため水素・アンモニアの商用化に繋がる技術開発と実装に向けて支援 ④脱炭素を成長分野と位置づけ、今後10年で150兆円超の官民投資を実現 で、公明党は、⑤経済安全保障の観点から一次エネルギー供給の国産化推進 ⑥年間20兆円に及ぶ化石燃料輸入の最小化 ⑦徹底した省エネや再エネの主力電源化に取り組み ⑧原発依存度を着実に低減し、原発に依存しない社会を目指す である。 このうち、①④⑤⑥⑦⑧は賛成だが、②は、日本に安全が確認された原発などないことがロシアのウクライナ侵攻によって明るみに出た。また、③の水素の商用化に繋がる技術開発や実装は遅すぎるくらいだが、アンモニアはコスト面でも生産量でも頼れるエネルギーにはなり得ないため無駄遣いだ。 また、日本維新の会は、⑨フクイチ事故を踏まえて原発再稼働にかかる国の責任と高レベル放射性廃棄物の最終処分等に係る必要な手続きを明確化するため「原発改革推進法案」を制定 ⑩原発再稼働にあたっては各立地地域に地域情報委員会を設置して住民との対話と合意形成の場を作り ⑪水素等の活用や研究開発に積極的に取り組む とし、国民民主党は、⑫電気料金の値上げと電力需給の逼迫を回避し、海外への富の流出を防ぐため、法令に基づく安全基準を満たした原発は再稼働する ⑬次世代炉等への建て替えを行う ⑭再エネへの投資を加速し、分散型エネルギー社会の構築を目指し、洋上風力・地熱の活用に注力する としている。 ⑨⑩は、「原発なら何でも国の責任」というのは、原発に関する国の予算の無駄遣いが大きすぎるので卒業すべきだし、いくら地域住民と対話しても環境と安全を重んじる人が原発維持に合意することはない。さらに、⑫も、原発再稼働や新設をしたい経産省が再エネの普及を阻害して、未だに電力需給の逼迫などと言っているのであり、法令に基づく安全基準を満たしたからといって安全でもないことが既に明らかになっているため、原発再稼働を進めるのは反対だ。 さらに、⑬の「次世代炉は完全に安全」などと言っている人もいるが、人は避難できるが田畑・山林・海は避難できないため、本当に“完全に安全”と思う次世代炉なら地産地消するために経産省・日経新聞本社・自分の地元などに作ることで地域住民と対話して合意形成を行えばよろしかろう。なお、⑭は、今は当たり前なので、できない理由を並べず徹底すれば、次世代炉も含めて原発は不要になる。 2)エネルギーと環境に関する各党公約(原発撤廃派) 立憲民主党は、①2030年の温室効果ガス排出を2013年比で55%以上削減、2050年までの早い時期にカーボンニュートラル実現 ②2030年までに省エネ・再エネに200兆円を投入 ③2050年に2013年比で60%省エネ、再エネ100% ④化石燃料・原発に依存しない社会実現 ⑤原発の新増設は認めず で、日本共産党は、⑥2030年度までにCO2を2010年度比で50~60%削減目標 ⑦省エネ(エネルギー消費4割削減)と再エネ(電力の50%)を組み合わせて実行 ⑧即時原発0 ⑨石炭火力から計画的に撤退し2030年度に原発と石炭火力の発電量0 である。 このうち、⑥⑦⑧⑨は、①③④⑤をより厳しいものにして数値目標を明確に記載したもので、可能であるため、私は賛成だ。また、②のように、省エネ・再エネの普及に補助金をつけた方がよいかもしれないが、200兆円という金額ありきではなく、必要額を環境税(化石燃料・原発に関連づける)と並行して行うのがよいと思う。 また、れいわ新選組は、⑩2030年の石炭火力発電0 ⑪2050年のカーボンニュートラル達成のため、大胆な「自然エネルギー」の地域分散型普及 ⑫自然エネルギー100%達成までの繋ぎのエネルギー源の主力はガス火力 ⑬原発は即時禁止して国有化 ⑭立地地域への補助金は継続し ⑮新産業への移行に国が責任が持つ とし、社民党は、⑯脱原発を進める ⑰「原発ゼロ基本法案」を成立させ、原発・原子力関連施設の廃止に向けた具体的なロードマップ作成 ⑱老朽原発の再稼働を許さない ⑲2050年までに自然エネルギーへの完全転換と温室効果ガス排出0達成 ⑳そのために地球環境と両立する産業の育成や雇用の創出を推進 としている。 このうち、⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑰⑱⑲⑳は賛成だが、⑭は補助のしすぎだと思う。何故なら、立地地域は、現在、既に使用済核燃料の保管に対し「危険料」として税をかけており、電力の購入者が電力料金としてそれを支払うことで補助金の役割をしているからで、それでも早く原発と使用済核燃料を撤去して原発より安全で付加価値の高い新産業に移行したいからである。 3)原発事故で国の責任を認めなかった最高裁の判決は妥当か 東京電力福島第一原発事故で被害を受けた住民らが国に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁第二小法廷は、*1-2-1のように、国の責任を認めない判決を言い渡した。 判決は、①フクイチ事故以前の津波対策は防潮堤の設置が基本で、それだけでは不十分という考えは有力でなかった ②2002年に国が公表した地震予測「長期評価」に基づいて、東電子会社が2008年に計算した最大15.7mの津波予測は合理性を有する試算だった ③現実の地震・津波は想定より大規模で、防潮堤を設置させていても事故は防げなかった ④国が東電に対策を命じた場合、試算された津波に対応する防潮堤が設置されたと考えられるが、仮に防潮堤を設置していても海水の浸入を防げず、実際の事故と同じ事故が起きた可能性が相当ある ⑤国が規制権限を行使しても事故は防げず、国家賠償法上の違法性はない が多数意見だったのだそうだ。 そして、この判決の結果、原発政策は「国策民営」で進められてきたが、賠償義務は従来通り東電だけが負うことになり、後続の同種訴訟でも国の責任は否定されそうとのことである。 しかし、2011年4月6日、*1-2-3のように、東電の福島第一原発が津波に襲われた後、被害が拡大した理由に非常用ディーゼル発電機等の設置場所に安全設計上の問題があった疑いが浮上し、原子力技術者が、⑥各建屋に繋がれている電気ケーブル・パイプ等をコンクリートで覆って岩盤と接するよう工夫した工事などは繰り返されたが ⑦非常用ディーゼル発電機の設置場所や海水ポンプがむき出しの状態で置かれていたことを見直す検討はなかった ⑧想定した津波高で原子炉建屋は安全な位置にあると判断していたことが理由としてあるが、発電機の位置等を変えようとしても原子炉建屋の中に収納できるスペースはなく、設計の大幅変更に繋がり ⑨もし改修に踏み切ったら大規模な工事になって多額のカネがかかり ⑩当時は設計通りに作ることが至上命題だった と証言している。 その背景には、1960~70年代の建設当時、原発先進国・米国の技術を移入して日本はそれを学ぶ過程にあり、⑪福島第一原発はGEの設計を東芝と日立製作所が試行錯誤しながら学ぶ練習コースのようなもので、福島第一原発に六つある原子炉のうち1~5号機はGEが開発した沸騰水型炉で非常用発電機の場所やポンプの構造はGEの基本設計通りだった ことがあるそうだ。 私も、⑦の非常用ディーゼル発電機等が地下に置かれていたのを津波に襲われた映像を初めて見た時に変だと思ったが、非常用ならあらゆる事態を想定しておくのが当たり前であるため、発電機の位置を変えるとすれば、⑧の原子炉建屋内ではなく背後の丘陵に新建物を作るのが当然だと思う。何故なら、そうすれば原子炉建屋内で事故が起こっても非常用ディーゼル発電機は無事であり、⑨のような大工事にもならないからである。 また、⑩⑪のように、「原発先進国米国の技術を移入して日本はそれを学ぶ過程にあったため、非常用発電機の場所やポンプの構造をGEの基本設計通りにした」というのも、米国の広い国土と日本の狭い国土に地震津波が頻発する自然環境の違いを無視しており、「次世代炉は完全に安全」などとして、また同じことを繰り返そうとしているのには呆れるほかない。 さらに、朝日新聞は、2011年4月9日、*1-2-2のように、⑫東電は2011年4月9日、福島第一、第二原発の東日本大震災による津波被害の調査結果を公表し、第一原発1~4号機(標高10m)の海側壁面で確認された津波の高さは14~15mで、地上から4~5mの高さまで波が達した ⑬元々は津波は敷地に達しない想定(高さは5.7m)だった ⑭東日本大震災が起きる前から想定以上の津波が起きる危険性は指摘されていたが ⑮防波堤を後から高くすると当初の津波対策は甘かったという指摘を受けるということで改良せず ⑯国の規制も改良を妨げたという指摘もある と記載している。 これらは取材して書かれているため証言と考えてよいが、⑬のように、最初に想定た津波が5.7mと低すぎ、⑫のように、実際には標高10mの海側壁面で確認された津波高が14~15mで、最初の想定以上の津波が起きる危険性は、⑭のように前から指摘されていたにもかかわらず、⑮⑯の理由で改良しなかったのであるため、原発事故が想定外とは全く言えないのである。 そのため、2021年3月10日に共同通信が、*1-2-4で⑰平安時代の869年に起きた貞観地震の大津波が福島沿岸に及んだことが解明され始め、政府の地震調査委員会が貞観津波の研究成果を公表すると知った経済産業省原子力安全・保安院に対し、東日本大震災の4日前に東電は以前から社内で計算していた高さ15.7mの津波想定を初めて報告した と記載しているのは変で、「国には責任がない」というこの判決を導くためのお膳立てのように見える。 なお、*1-3のように、政府の地震調査研究推進本部が2002年に地震予測の「長期評価」を公表し、福島沖を含む太平洋側の広い範囲でマグニチュード8クラスの大地震が起こる可能性を指摘し、大津波の恐れも警告し、これを根拠に東電の子会社が2008年に福島第1原発に最大で約15.7mの津波が到達すると試算していたのであるため、想定すべきことを想定していなかったことを「想定外だった」として免責するのはおかしいし、適切な対策をとっていれば事故は回避できたと思われる。 加えて、このブログの2011年10月3日に「注水が止まれば30分で燃料棒がメルトダウンすることは前からわかっていたということと爆発の映像」と題して私が記載しているように、フクイチ事故以前に、注水が止まれば30分で燃料棒はメルトダウンし、3時間で圧力容器を貫通することを説明した動画があって、それは311以前に作られたものだった。つまり、津波が到達しなくても、強い地震が起これば地震の揺れで配管が破断したり、使用済核燃料プールにひびが入ったり、プールが傾いて水が外に漏れたりする可能性があることは想定内だったのである。 4)今後の原発政策に関する結論 日経新聞は、2022年6月27日、*1-4-3の社説はじめ全面で、①エネルギー危機克服へ2022年の参院選で原発の役割を問え ②無駄を排しエネルギー消費を減らす節電の定着は重要だが ③電気が足りない異常事態を招いた問題の原点に戻って長期的対策を急がねばならない ④各党は脱炭素社会への移行を睨み再エネ重視で大きな違いはないが、分かれるのは原発の活用で ⑤自民党は安全確認された原発の最大限の活用を公約に掲げ ⑥維新は安全確認できた原発の再稼働を訴え ⑦国民民主は既存原発の再稼働と次世代軽水炉・型モジュール炉等への建て替えにも言及し ⑧公明党は再稼働を認めた上で将来は原発に依存しない社会を目指し ⑨立民は原発の新増設を認めない立場だが ⑩原発は稼働中、CO2を殆ど出さない特長があり ⑪ウクライナ危機はエネルギー安全保障の重要性を再認識させたため ⑫参院選で、原発がなぜ必要か、国民の理解をどう得るか、原発をやめるなら代替手段をどう確保するかについて議論すべきだ と、原発推進の記事を掲載している。 このうち、②③はそのとおりだが、⑪は、ウクライナ危機はエネルギー安全保障の重要性と同時に原発の危険性も再認識させたため、このように原発推進に都合の悪いことは無視する体質が変わっていないようだ。 また、⑩については、原発は、稼働中にCO2は出さないが、CO2よりずっと有害な「放射性物質」を放出して国民に迷惑をかけた上、その処分費用負担させる。また、普段からトリチウムを含む温排水を排出して海を温めていることも見逃せず、これらを都合よく無視するのも原発の特徴だ。 ④⑤⑥⑦⑧⑨については、既に1)2)に記載しているとおりで、このように合理的な説明をしても、①⑫のように、「参院選で、原発がなぜ必要か、国民の理解をどう得るか、原発をやめるなら代替手段をどう確保するかについて議論すべき」などと、「原発が必要だ」と言わない国民は理解していないかのように書くところが、全体が見えてもいないくせに傲慢なのである。 このような中、*1-4-1のように、⑬最高裁判決がフクイチ事故に「国の責任はない」とし ⑭住民側弁護団の馬奈木弁護士は 「それでも私たちはまだ原発をやり続けるんですかと最高裁から問われたようなものだ」と言い ⑮事故から11年経過しても住民が避難先から帰れない自治体があって ⑯事故の廃炉作業もおぼつかないのに ⑰与野党から原発再稼働を求める声が上がり ⑱政権は6月に「原発を最大限活用する」という方針を閣議決定した のだそうだ。 私は、今、最も問われているのは、現在の意思決定権者の科学に対する総合的な理解力だと思う。また、経産省にあった旧原子力安全・保安院の担当者が、私が衆議院議員時代に私の議員会館事務所を訪れて、「原発は、絶対安全です」と何度も繰り返したのを鮮明に覚えているが、「3条委員会」になっても、原子力の専門家だけで構成され、「原発を稼働させたい」という動機のある規制委に、独立性があるとはとても言えない。 何故なら、初代規制委員長の田中氏は、「ロシアが原発を攻撃してテロ対策施設がより重要になったのに、その施設がなくても稼働するという議論にするのがおかしい。急いで(対策を)やれというのが普通でしょう」と指摘しておられるが、こういうことを言い始めると規制委員長交代になるからである。 また、*1-4-2は、⑲原発事故の翌年に原発に頼らない電気を届けるため設立された「グリーンコープでんき(福岡市)」が、「原発事故の賠償負担金を経産省の省令によって電気代に上乗せされたのはおかしい」と国を相手に起こした ⑳「託送料金(送電線使用料)」に使用済み核燃料の再処理費用など原発のコストが含まれ、フクイチ事故の賠償が膨らんだ分のうち約2兆4千億円も託送料に上乗せして消費者から薄く広く回収できるよう、経産省が2017年に省令を改正した と記載している。 ⑲⑳は本当におかしいし、これは再エネの普及を阻んで原発を推進したい経産省の企みだと、私は思う。何故なら、他国は、再エネ普及に補助金を出し、再エネ普及のための送電線整備も行っているのに、日本は、大手電力会社が地域独占して総括原価方式を採用していた時代に整備した送電線で再エネ電力を送電させ、再エネ電力の送電料に利用者には電源選択の余地がなかった原発のコストや原発事故の処理費用まで含めているからである。 結論として、私がこのブログで何度も述べたように、大手電力会社の既存の送電線を使って送電するのではなく、地域間の電力融通は鉄道や道路の敷地を用いて超電導電線を通すことによって行い、小売電力の配電は水道管・ガス管に沿って電線を埋設することによって行えば、既存の電力会社から独立した送配電システムになって関係のない経費は加算されない。そして、そのための経費は、変動費0の再エネを普及させるための投資なので、国が補助金を出せばよいのだ。 (2)核禁条約会議と被爆国の役割 1)被爆国の使命と日本政府の行動 核兵器禁止条約は、核兵器の非人道性に焦点を当て、核兵器の製造・保有・使用や核兵器による威嚇を全面的に禁止する国際条約で、現在の批准国は62カ国・地域となっている。しかし、非人道性を訴え続けた日本の被爆者の運動が結実したのに、*2-1-1のように、日本政府は、署名・批准をしていない。 核兵器に関する日本の重要性は、広島・長崎の惨禍を知る唯一の戦争被爆国で、「核兵器を絶対に使ってはならない」というメッセージを国際社会に広げる牽引役にふさわしいことだが、日本政府は核禁条約不参加の理由に、①核兵器国が1ヶ国も参加していない核禁条約は非現実的 ②核禁条約に反対している米国(同盟国)との信頼関係 を挙げて、③日本政府としては、オブザーバー参加もしないと表明した。 しかし、④日本と同じ米国の「核の傘」の下にあるNATO加盟国のドイツ・ノルウェーやウクライナ危機を受けNATO入りに転換したフィンランド・スウェーデンはオブザーバー参加しており、これはロシアの核の脅威に欧州が直接向き合う中でも、核廃絶の目標を見据えて核禁運動に協調していく決意の表れに見える。 そのため、*2-1-2も、⑤ロシアのウクライナ侵略により世界が高い核のリスクに晒されている今こそ「核兵器を許さない」と声を上げ、核廃絶への連帯を強める時で ⑥日本政府が参加しないのは極めて残念だ ⑦大国が核で張り合う恐怖の均衡の上に平和は成り立つのか と記載している。 2)「核保有≒抑止力」と言えるか? 核禁止条約第1回締約国会議が、*2-2-1・*2-2-2のように、オーストリアの首都ウィーンで開かれ、最終日(2022年6月23日)に、*2-3-1のように、「ウィーン宣言」が採択された。会議の中で「長崎県被爆者手帳友の会」会長で医師の朝長さんが英語で演説し、「核保有国の加盟に向け、最大限の圧力をかけなければならない」「米国の『核の傘』の下にあって条約に参加していない日本について、とても悲しく被爆者は泣いている」と表明された。 核禁止条約締約国会議の初代議長に選出されたのは、オーストリア外務省のクメント軍縮局長で、①ロシアのプーチン大統領が核兵器使用を示唆し、国際社会に動揺が広がる中 ②会議場には核軍縮の機運をこれ以上後退させてはならないとの切迫感があり ③条約に猛反発した米国などの核保有国には軟化の兆しもかすかに見えるが ④「唯一の戦争被爆国」である日本は米国の核抑止力に固執し、国際社会に落胆が広がった とのことである。 日本政府は、⑤核保有国が参加しておらず、条約には実効性がない ⑥保有国と非保有国の橋渡し役こそ日本の目指すべき道だ と強調しており、⑦北朝鮮の核・ミサイル開発・中国の軍拡の中で米国の核抑止力に傾斜を深めたい本音があり ⑧各国関係者の間には日本の締約国会議欠席に批判が広がった のだそうだ。 私は、武器はどれも非人道的だが、核兵器のように無差別大量虐殺を行う兵器は、やはり禁止すべきだと思う。さらに、①のように、核を持っていれば抑止力になるとは限らず、自国にマイナスのことをされれば(核など持っていなくても)懸命に闘うのが人間の習性であるため、他国にマイナスのことはしないよう心掛け、必要なことは率直に言うが、なるべく仲良くしておくのが最も戦争の抑止力になると考える。 その点、日本の場合は、*2-2-4の尖閣諸島の例を挙げると、⑨中国艦船の領海侵入が常態化しているのに ⑩石垣市が尖閣諸島の字名変更に伴い、各島への標柱設置のための上陸を国に申請すると不許可にし ⑪尖閣周辺海域の現状は中国艦船が攻撃性を増し「乗っ取られている」という危機感があるのに ⑫政府は「遺憾である」「力による現状変更は認められない」の二言で片づけ ⑬国際社会に我が国の領土であることを明確に示していない のである。 つまり、何をされても⑫⑬のように、自国の領土であることを主張することさえしなければ外交以前であり、本当に乗っ取られても誰も味方しないだろう。そのくせ、自国は大したこともないのに、むやみに他国を馬鹿にしたり批判したりして、敵を増やすだけ増やし、自らが被爆国であることも忘れて、⑤⑥⑦のようなことを言っているのだから、救いようがないわけである。 3)核兵器禁止条約第一回締約国会議で「ウィーン宣言」「ウィーン行動計画」採択 核禁条約第一回締約国会議は、*2-3-1・*2-3-2のように、日本時間の6月23日夜遅く、①「核なき世界」の実現を国際社会に呼びかける「ウィーン宣言」と、②核廃絶に向けた具体的な取り組みをまとめた「ウィーン行動計画」 を採択して閉幕したそうだ。 「ウィーン宣言」は、③核廃絶を実現する決意を再確認。核兵器が二度と使われない唯一の方法は核廃絶 ④核の使用や威嚇は国際法違反 ⑤未だ9か国が約1万3000の核兵器を保有していることを深く憂慮 ⑥核兵器保有国と核の傘の下にある同盟国が核兵器依存を弱めるために真剣に取り組まず、逆に核兵器を維持・強化していることは遺憾 ⑦核兵器は不名誉で正当性がないという強固な国際規範を構築 ⑧国際機関、NGO、被爆者、核実験被害者、若者団体などと連携 ⑨核軍縮と不拡散の基礎である核拡散防止条約は核兵器禁止条約と相互補完関係 ⑩核兵器禁止条約にまだ参加できない国にも「核兵器のない世界」という共通目標への協力を呼びかけ、核兵器の非保有国が条約に参加することを妨げる核保有国の行為を憂慮 等とした。 また、「ウィーン行動計画」は、⑪条約の締約国を増やすため取り組む ⑫被爆者や核実験の被害者への支援や救済を進める ⑬核拡散防止条約とは補完し合う関係 ⑭「2つの条約の調整役」を任命する 等としているそうだ。 なお、日本政府は核禁条約第一回締約国会議にオブザーバー参加もしなかったが、広島市の松井市長と長崎市の田上市長が出席し、国際NGO・平和首長会議を代表して演説されて、「(核兵器が)使われれば(世界)全体が滅ぶ」「人類全体の課題だ」「核兵器廃絶しかない」「日本政府がオブザーバー参加しなかったことは残念」等と、議場で訴えられたそうだ。 (3)日本の外交と安全保障について イ)各政党の公約について 外交・安全保障に関する各党の政策は、*3-1のとおりで、外交・安全保障としながら、これまでの他国へのバラマキ以外の外交の不十分さには触れず、防衛力強化の路線だけが目立つことには注意すべきだ。 まず自民党は、①国家安全保障戦略を改定して新たに国家防衛戦略・防衛力整備計画を策定し ②NATO諸国の国防予算(GDP比2%以上)を念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ ③来年度から5年以内に防衛力抜本的強化に必要な予算水準を達成し ④弾道ミサイル攻撃を含む我が国への武力攻撃に対する反撃能力を保有する としている。 次に公明党は、⑤専守防衛の下、防衛力を着実に整備・強化し ⑥予算額ありきでなく、具体的に何が必要かを個別具体的に検討して真に必要な予算を確保する ⑦唯一の戦争被爆国として核共有に断固反対し ⑧非核三原則を堅持しつつ、核兵器禁止条約批准の環境整備をする としており、私は賛成だ。 ④は、「反撃能力」と名を変えた「敵基地攻撃能力」であり、先制攻撃との線引きが危うい上、どういう状況の下で、どの国を対象にするのかについて疑問が多く、外交で解決できる場合も多いと思われる。 また、①は防衛力強化だが、②③は、i)どこが敵国で ii)どういう装備を持っているので iii)外交でどう対処をしながら iv)追加的に必要な最小限の防衛装備は何で v)どの国と共同して防衛するのか を示しておらず、国の配置や歴史が異なるNATO諸国の国防予算(GDP比2%以上)と同レベルにするだけの話であるため、思考停止であると同時に無駄遣いが多すぎる。 さらに、日本維新の会は、⑨日本の安全保障に対する不安を根本的に解消し、将来にわたり戦争を起こさず、国民の生命・財産を確実に守るため「積極防衛能力」を構築 ⑩防衛費のGDP比2%への増額、最先端の技術革新を踏まえた防衛力整備 ⑪憲法9条に自衛隊の明記等を行った上で核拡大抑止についてタブーなき議論をする としている。 ⑨⑩⑪については、「積極防衛能力」を持てば、何故、国民の生命・財産を確実に守り、日本の安全保障に対する不安を根本的に解消できるかについての説明がない。むしろ、戦争によって国民の生命へのリスクは上がり、防衛費に割かれる予算のために年金・医療・介護・教育・保育などの社会保障予算が削られ、国民の財産は物価上昇や税・社会保障の負担増によって目減りすることを考慮していない。 なお、国民民主党は、⑫自分の国は「自分で守る」理念に基づき、自立的安全保障体制を目指し ⑬同盟国・友好国との協力を不断に検証し ⑭抑止力の強化と自衛目的の反撃力を整備し ⑮サイバー、宇宙なの新領域に対処できるよう専守防衛に徹しつつ必要な防衛費を増額する としている。 ⑫⑮の「新領域」「専守防衛」「自分で守る」理念は当然で、同盟国・友好国に頼りすぎは禁物だが、⑬は口先だけでなく真摯に検証して態度を決めなければ、同盟国は頼りにならず、周囲は敵ばかりという結果になるだろう。また、⑭は、核による抑止力の強化と敵基地攻撃能力の強化を言っていると思うが、これは昭和時代(一世代前)の戦争形態だ。 一方、立憲民主党は、⑯弾道ミサイルなどの脅威への抑止力と対処能力強化重視 ⑰日米同盟の役割分担を前提としつつ着実な防衛力整備 ⑱防衛費は総額ありきでなく、メリハリのある予算で防衛力の質的向上を図り ⑲「核共有」は認めない ⑳尖閣諸島はじめ我が国の領域警備に万全の体制で備えるため「領域警備・海上保安体制強化法」を制定 とする。 このうち、⑯は核による抑止力の強化と敵基地攻撃能力の強化を言っていると思うが、既に他国への侵略は悪とされ、核軍縮と核不拡散の基礎である核拡散防止条約と核兵器禁止条約が締結されている時代であるため、これは昔の戦争形態である。このような中、⑰⑱⑲⑳は、i)利害対立する敵国はどこか ii)それに対する防衛方法のイメージは何か iii)適切な外交を先に行ったか iv)それが効かない場合のみの防衛に焦点を絞ったか を明確にし、必要最低限の防衛予算を作るべきだ。 また、日本共産党は、21)「敵基地攻撃能力」の保有など、「専守防衛」を投げ捨てて日本を「戦争する国」にする逆行を許さず 22)安保法制を廃止して立憲主義を取り戻し 23)軍事費2倍化を許さない 24)核兵器禁止条約に参加して唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶の先頭に立つ とする。 私も、21)、 23)、24)に賛成だ。また、22)も、法律の成立過程で内容が適切か否かの吟味があまりなされず、わかりにくくしたまま議論を進めて可決になだれ込んだ感があったため、何を想定し、どこまで外交で解決を図った後に、何が起これば、どういう論理で、集団的自衛権行使に移行するのかを、0ベースで検討しなおすべきだと考える(https://toyokeizai.net/articles/-/77597、https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/complicity_secret/secret/problem.html 参照)。 れいわ新選組は、25)専守防衛と徹底した平和外交で周辺諸国との信頼醸成を強め 26)日本は国連憲章の「敵国」条項によって、敵基地攻撃能力や核配備など重武装は不可能なので 27)唯一の戦争被爆国として核兵器禁止条約を直ちに批准し、「核なき世界」の先頭に立つことにより地域の安定をリードする とする。 また、社民党は、28)ウクライナ情勢に便乗した防衛力大幅増強や「核共有」に反対 29)平和憲法の理念を活かし、外交の力で平和を実現 30)非核三原則を守り、核兵器禁止条約に署名・批准し、被爆国として核なき世界を目指す 31)沖縄の在日米軍普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設断念を強く求め、辺野古に新基地は作らせない とする。 私は、25) 29)には賛成だが、国同士の利害対立は外交だけでは解決しないこともあるため、防衛は外交のバックアップができるようにすべきで、無力では役立たないと思う。また、26)は事実だが、戦後75年も経過しているのに、未だに国連憲章に「敵国」条項があることを変えるべきではないのか? ただし、国連憲章の「敵国」条項がなくなったとしても、敵基地攻撃能力や核配備は一世代前の戦争方法であり、現在は使えない武器で無駄遣いにしかならないため、28) 30)には賛成だ。 さらに、31)については、在日米軍普天間基地を閉鎖・撤去し、辺野古に新基地を作らなくても、(4)で述べるとおり、離島に基地を作っているため、あれもこれもは必要ない筈である。 ロ)「専守防衛」をどこまで問い直すのか 神戸新聞は、6月20日の社説で、*3-2のように、①岸田首相はバイデン米大統領に防衛費の相当な増額の決意を伝えた ②専守防衛は戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条に基づき、安全保障を巡る議論は「平和国家」としての戦後日本の歩みを踏まえたものでなければならない ③何を見直し何を守るのか、熟考と冷静な判断が求められる ④自民党は参院選の公約で「抑止力と対処力の強化」を掲げ ⑤防衛費はNATOが掲げるGDP比2%以上の目標を引用し ⑥5年以内に必要な予算水準の達成を目指すとしており、これまで1%程度だった防衛費が約5兆円上積みされ ⑦高市早苗政調会長は「必要なものを積み上げれば10兆円規模になる」と述べられた と記載している。 ①④⑤⑥⑦のように、他国の現状を見つつ、国の位置関係や歴史的背景は無視して真似するだけでは、いくら金を使っても防衛はできず、無駄遣いにしかならない。何故なら、有効に防衛するには、その国固有の状況を分析して防衛の方針をたて、それに沿った外交・防衛計画を作って、ピンポイントで必要最小限の予算を充てるべきだからである。 しかし、日本の場合は、太平洋戦争時に、この歴史的・地理的・経済的・科学的分析を行わず、満州事変では自作自演の鉄道爆破を行い、軍部が予算獲得のために争って、「やれやれ、どんどん」と他国に侵略して、敗戦に至った。 そして、それが過去のことなら良いが、今でもその感覚が変わっていないと思われる局面が散見されるため、先人たちが決定した②は、今でも重要であり続けており、③のように、時代に合わせて何を見直し、何を守るかは、慎重な判断が求められるわけである。 ハ)憲法9条の変更について 私は、岸田政権が憲法9条を変えたがっているというよりは、自民党にそういう声が強いのだと思うが、*3-3のように、①ロシア軍のウクライナ侵攻を利用して、日本の防衛力強化や核シェアリングを主張する人が少なくなく ②「日本に憲法9条があるから、ウクライナのゼレンスキー大統領は日本に武器支援を求めなかった」というのは事実で ③9条のおかげで日本は世界の信頼を勝ち得てきたし ④「9条を高く掲げることが日本の平和を守り抜く唯一の道だ」というのも本当で ⑤参院選では憲法9条を守ろうとする候補者を増やすべきであり ⑥「軍事費を増やせば、社会福祉・医療・介護・教育等の費用が使えなくなる」というのも事実だと思う。 そもそも、「社会福祉・医療・介護・教育等の費用は、消費税から支払うものだ」と決めつけている人がいるのも、それなら他の税は何に使うのかと思われ、世界で唯一の非論理的な税の使い道を唱えているのも日本だけなのである。 (4)武力攻撃事態における離島の国民保護計画について 琉球新報が、6月20日、*4-3のように、①(沖縄戦の教訓から)有事に沖縄県民140万人の避難は非現実的 ②(台湾有事を想定して米軍が南西諸島に臨時の攻撃拠点を置くという報道から)攻撃すれば沖縄が反撃されるのは当然で、沖縄から移動すべきは住民ではなく軍事基地 ③(ウクライナで成人男性の出国が制限されていることについて)戦争に国民を動員する権力の姿勢は疑問 ④女性への性暴力がない戦争はなく、自分が犠牲になることも踏まえて考えるべき 等の意見を掲載した。 このうちの③④について、「ウクライナの成人男性は出国が制限されて気の毒だ」「戦争が始まると性暴力に至らなくても、男性が威張り出してたまらないな」と、私は感じていた。さらに、経済の視点から見ると、戦争が始まれば生産活動をやめて破壊活動に移るため、命がけで働いても物資が不足しインフレが起こる。そのため、戦争によいことはないが、侵略されたら自衛するしかないだろう。 また、①については、*4-1に記載されているように、「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓があり、「自衛隊がある程度は取り残された人を守りながら戦闘することも想定されるが、中短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの攻撃に耐えながら住民を避難させる余力はないため、自治体にやってもらうしかない」というのが実態かもしれないが、こういう場合、他国はどうしているだろうか? ②については、安倍元首相が「台湾有事は(存立危機事態に当たるため)日本有事」と言われたが、日本が「(台湾を含めて)1つの中国」としている限り、台湾への支援は無理があろう。 しかし、(日本の領土である)尖閣諸島で不測の事態が発生した場合は沖縄県が戦場になり、沖縄県民は人間の安全保障を要求しているが、有事の際の国民保護法による島外避難には大量の航空機や船舶を必要とするため、全住民の島外避難はほぼ困難だと記載されている。 そして、*4-1・*4-2は、他国からの武力攻撃事態などの有事に備え、自治体が住民の避難誘導をする国民保護計画に基づいて、石垣市・宮古島市の全市民避難に必要な航空機の数や避難所要期間を見積もったところ、宮古島は150人搭乗の航空機で381機(観光客分を含む)、石垣島は同435機で1日45機運航した場合には全市民の避難にかかる期間が「9・67日」と見込まれたそうだ。 ただし、⑤武力攻撃事態等の有事が何の予兆もなく起こって、まだ観光客がおり ⑥150人搭乗の航空機しか使えず ⑦あらかじめ避難した住民は全くいない という条件設定は不自然だ。そして、現在は人間第一に考える時代であるため、離島に自衛隊基地を作るからには沖縄本島か本土の希望する場所にあらかじめ住宅を提供し、普段から使えるようにしておいて、戦闘が近づいてから避難しなければならないのは働き盛りの屈強な人のみにし、(自衛隊機の方が危ないため)大型の民間機で避難させるのが当たり前だろう。 (5)おかしな日本外交の事例 日本の外交は、他国に甘えながら理屈の通らない苦情を言うことが多い。その一つが、*5-1の①中国が東シナ海の日中中間線の中国側海域で、ガス田の掘削施設を完成させたのを確認し ②日本外務省が「度重なる抗議にもかかわらず、一方的な開発を進めていることは極めて遺憾」として中国に強く抗議した という事実だ。 何故なら、①については、日中中間線付近であっても中国側の海域でガス田掘削施設を完成させるのは、中国の自由で他国に相談する理由はないため、②のように、「一方的な開発」として「度重なる抗議」をするのがおかしいからである。そのため、「遺憾(=期待したとおりにならず、残念に思うこと)」という程度の抗議しかできないわけだが、もともと期待に筋が通っていないため誰も気に留めず、抗議する度に日本外交の質の悪さが露呈するだけなのだ。 本当に天然ガスが必要なら、日本もその近くでガス田開発をしたり、もっと運搬に便利な岩船沖油ガス田(新潟県胎内市の沖合約4km)はじめ阿賀沖油ガス田・磐城沖ガス田・片貝ガス田・申川油田・東新潟油ガス田・南関東ガス田・南長岡ガス田・勇払ガス田など日本列島近くのガス田を活用したり、メタンハイドレート(メタンガスが海底下で氷状に固まっている物質)を採取したりすればよく、自分は何の工夫も努力もせずに他人の妨害をすることばかり考えているのは、日本国民から見ても最低なのである。 一方、*5-2-1・*5-2-2のように、スペインで開催されたNATOの首脳会議への岸田首相の出席に合わせ、日本政府は韓国・オーストラリア・ニュージーランド4ヶ国に首脳会合を提案して開催し、インド太平洋で存在感を増す中国を念頭に安全保障や経済をめぐる懸案について協議し、ロシアによるウクライナ侵攻に対する連携の強化も確認した。 そのため、*5-3-1・*5-3-2は、③ロシア議会で6月に地下資源法が改正され、資源開発に携わる外国企業の株式譲渡が盛り込まれ ④ロシアのプーチン大統領が日本商社も出資する「サハリン2」の運営をロシア企業に譲渡する大統領令に署名し ⑤発表で初めて知った萩生田経産相は「直ちにLNG輸入ができなくなるわけではないが、不測の事態に備えた万全の対策をとる必要がある」と言い ⑥日本はG7主導のロシア制裁に足並みを揃えてロシア産石炭・石油の段階的禁輸を決めたが ⑦LNGは増産余地が少なく代替調達先を見つけるのも難しいので、今後もロシアから輸入を続ける考えだったが ⑧首相がロシア・中国を非難して日本とNATOの関係強化を強調したのはロシアだって嫌だっただろう などとしている。 しかし、日本の外交は、⑥のロシア産石炭・石油の段階的禁輸ほか資産凍結(支払規制・資本取引規制)、輸出入禁止、ロシア連邦政府等の日本での新規証券発行・流通禁止、G7サミットでのロシア産金の輸入禁止決定等を既に行い、ロシアに対して既に宣戦布告をしているも同然の状態であるため、③④はロシアから見れば日本に対し「目には目を」という当たり前のことをしたにすぎないだろう。そのため、そういうことも覚悟せず、⑤のように「経産相が発表で初めて知った」などと言うのはお話にならず、⑦は戦争をふっかけながらロシアに甘えているにすぎないため、⑧のように「ここまでしたから嫌だっただろう」などという話ではないのだ。 そのため、私は、北海道に自衛隊を手厚く配備した方がいいのではないかと思っているくらいだが、一方で、ロシアの決定は、サハリン2から手を引き、国内産のLNGと再エネに代替するチャンスにもなった。 従って、今後は、⑨家で節電・創電する ⑩電動車に乗る ⑪再エネを無駄にせず、利用し尽くす ⑫LNGは国内産で代替する ⑬「電気はタービンを回さなければできない」「日本は島国で資源がないから、エネルギー自給率が低いのは当然」などという先入観を捨てる ⑭それをやるための法整備やインフラ整備を全力で行う などが必要になる。 また、全国知事会は、*5-4-1のように、「原発に対しミサイル攻撃が行われる事態になった場合は、自衛隊による迎撃態勢や部隊配備に努めること」「原子力防災対策必要地域が30km圏内まで拡大されたので、社会基盤を整備するため電源三法交付金対象区域を拡大すること」を提言案に盛り込んだそうだが、ミサイル攻撃への自衛隊の迎撃については、私が現職中に自民党の部会で既に質問し、「迎撃しても100発100中ではない」という答えを得ている。また、風向きや地形によって異なるため、「30km圏」よりもSPEEDIの方が正確な汚染範囲の表示に近いが、電源三法交付金が原発のコストに含まれることは間違いないのである。 従って、玄海原発の地元である佐賀新聞が、*5-4-2に、⑮強力な気候変動対策を進めることは急務であり ⑰先進国の殆どが気候変動対策として石炭火力の廃絶を決め、再エネの急速な導入を進め、発送電分離も実現済で ⑱再エネ価格は急速に下がって多くの国で最も安い電源となったが ⑲日本は豊かな再エネ資源があるのに、火力発電への依存が続いて、再エネの普及が遅れている ⑳ガソリン高騰対策補助金・海外化石燃料調達・既存原発早期稼働等の目先の対策ではなく、エネルギーの海外依存を減らし、いかに安定供給を実現するかという長期的な視点に立った政策論争が欠かせない 等と記載しているのに、全く賛成だ。 ・・参考資料・・ <原発事故と原発> *1-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/06/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「エネルギー・環境」 ●自由民主党 エネルギー・物資の安定供給のため、内外の資源開発や再生可能エネルギーの最大限の導入、安全が確認された原子力の最大限の活用を図る。カーボンニュートラル実現のカギとなる水素・アンモニアの商用化につながる技術開発と実装に向けた支援措置を新設する。脱炭素を成長分野として位置づけ、今後10年で150兆円超の官民投資の実現に向け措置を行う。 ●立憲民主党 2030年に温室効果ガス排出を2013年比で55%以上削減し、2050年までの早い時期にカーボンニュートラルを実現する。2030年までに省エネ・再エネに200兆円を投入する。2050年に2013年比で60%省エネする一方、再エネ電気を100%にし、化石燃料、原子力発電に依存しない社会を実現する。原子力発電所の新増設は認めない。 ●公明党 経済安全保障の観点から一次エネルギー供給の国産化を強力に推進し、年間20兆円に及ぶ化石燃料の輸入の最小化を目指す。徹底した省エネや再エネの主力電源化に向けた取り組み等を通じて、原発の依存度を着実に低減しつつ、将来的に原子力発電に依存しない社会を目指す。 ●日本維新の会 東電福島第一原発事故の教訓を踏まえ、原発の再稼働にかかる国の責任と高レベル放射性廃棄物の最終処分などに係る必要な手続きを明確化するため、「原発改革推進法案」を制定する。原発再稼働にあたっては、各立地地域に地域情報委員会を設置し、住民との対話と合意形成の場をつくる。水素などの活用や研究開発に積極的に取り組む。 ●国民民主党 電気料金の値上げと電力需給のひっ迫を回避し、富の海外流出を防ぐため、法令に基づく安全基準を満たした原子力発電所は再稼働するとともに、次世代炉等への建て替えを行う。 再生可能エネルギー技術への投資を加速し、分散型エネルギー社会の構築を目指し、洋上風力、地熱の活用に注力する。 ●日本共産党 2030年度までにCO2を50~60%削減する(2010年度比)ことを目標とし、省エネルギーと再生可能エネルギーを組み合わせて実行する。エネルギー消費を4割減らし、再生可能エネルギーで電力の50%をまかなえば60%の削減は可能。即時原発ゼロ、石炭火力からの計画的撤退をすすめ、2030年度に原発と石炭火力の発電量はゼロとする。 ●れいわ新選組 2030年の石炭火力発電ゼロ、2050年のカーボンニュートラル達成のための大胆な「自然エネルギー」の地域分散型の普及を目指す。自然エネルギー100%達成までのつなぎのエネルギー源の主力はガス火力とする。原発は即時禁止し、国有化する。立地地域への補助金は継続、新産業への移行には国が責任が持つ。 ●社会民主党 脱原発を進める。「原発ゼロ基本法案」を成立させ、原発・原子力関連施設の廃止に向けた具体的なロードマップを作成する。老朽原発の再稼働を許さない。2050年までに自然エネルギーへの完全転換や温室効果ガス排出ゼロを達成する。そのために、地球環境と両立する産業の育成や雇用の創出を推進する。 ●NHK党 安定的なエネルギー供給のために、多様なエネルギー源を採用するべき。原子力発電は極めて重要なエネルギー源として位置づけ、安全が確認された原発について、現状においては電力供給の重要な選択肢として再稼働の検討を政府に積極的に求めていく。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15327572.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2022年6月18日) 原発事故、国の責任認めず 最高裁、避難者訴訟で初判断 対策命じても「防げず」 裁判官の1人、反対意見 東京電力福島第一原発事故で被害を受けた住民らが国に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は17日、国の責任を認めない判決を言い渡した。「現実の地震・津波は想定よりはるかに大規模で、防潮堤を設置させても事故は防げなかった」と判断した。裁判官4人のうち3人の多数意見で、1人は国の責任を認める反対意見を述べた。原発政策は「国策民営」で進められてきたが、賠償義務は従来通り東電だけが負うことになる。後続の同種訴訟でも国の責任は否定されていくとみられる。菅野裁判長、草野耕一裁判官、岡村和美裁判官による多数意見はまず、福島第一原発の事故以前の津波対策について「防潮堤の設置が基本だった」と位置づけ、「それだけでは不十分との考えは有力ではなかった」とした。そのうえで、2002年に国が公表した地震予測「長期評価」に基づき、東電子会社が08年に計算した最大15・7メートルの津波予測は「合理性を有する試算」と指摘。国が東電に対策を命じた場合、「試算された津波に対応する防潮堤が設置されたと考えられる」とした。一方で現実に発生した地震や津波は長期評価の想定よりも「はるかに大規模」で、仮に防潮堤を設置させていても「海水の浸入を防げず、実際の事故と同じ事故が起きた可能性が相当にある」と判断。国が規制権限を行使しても事故は防げず、国家賠償法上の違法性はないと結論づけた。原告側は事故の防止策として、防潮堤に加えて重要設備の浸水対策も検討できたと主張していた。しかし多数意見は、事故の前に浸水対策を定めた法令や知見はないなどと退けた。地裁、高裁段階で主要な争点になった長期評価そのものの信頼性や、長期評価に基づく巨大津波の予見可能性については、明確な判断を示さなかった。一方、反対意見を述べた検察官出身の三浦守裁判官は、国の規制権限は「原発事故が万が一にも起こらないようにするために行使されるべきもの」と強調した。信頼性が担保された長期評価を元に事故は予見でき、浸水対策も講じさせれば事故は防げたと指摘。国は東電と連帯して賠償義務を負うべきだと主張した。東電と国を訴えた集団訴訟は全国で32件あり、約1万2千人が計約1100億円の賠償を請求している。最高裁は、先行した福島、群馬、千葉、愛媛の4訴訟について判断。東電に対しては3月に約3700人に計約14億5千万円の賠償を確定させた。この日は、高裁段階で結論が割れた国の責任について初の統一判断を示した。判決後、松野博一官房長官は会見で「引き続き被災された方々に寄り添い、福島の復興再生に全力で取り組みたい」と述べた。 ■<解説>不作為のそしり、免れない 対策を取ったとしても事故は防げなかった、だから国に責任はない。東京電力福島第一原発事故をめぐる最高裁判決は、こう言っているに等しい。津波予測の信頼性や、何度も対策を求める機会があったことには踏み込まず、事故を回避できたかどうかだけで判断した。当時の「緩い」規制の水準を追認。国が命令を出さなかった妥当性について論じることを避けたとも言える。原発は国策で推進されてきた。事故の被害は取り返しがつかないからこそ、国の規制は専門性を踏まえて最善を尽くすことが期待されてきた。「深刻な災害が万が一にも起こらないように――」。1992年の四国電力伊方原発をめぐる最高裁判決は、こう説いた。しかし、その「万が一」が起きてしまった。2002年の予測公表から9年近くの時間があり、津波が弱点であること、炉心溶融に至る可能性があることも議論されていた。にもかかわらず、東電も国も動きが鈍いままだった。事故の結果の大きさを考えると、「規制当局に期待される役割を果たさなかった」という仙台高裁判決の指摘はなお重い。今回の最高裁判決での反対意見も「規制権限の行使を担うべき機関が事実上存在していなかった」と国の対応を批判した。機器の防水など最低限の対策をしていれば、被害は少しでも小さくなったかもしれない。不作為のそしりは免れない。岸田政権が閣議決定した骨太の方針には、原発の最大限活用が盛り込まれた。安全最優先をうたうものの、原子力規制委員会は審査を済ませた原発でもリスクは残ると明言している。事故は、対策の落とし穴を突いて起こるものだ。事故が起きても国は責任を取らない。その事実を踏まえたうえで、原発活用の是非は議論されるべきだろう。 ■判決骨子 ・福島第一原発の事故以前の津波対策は防潮堤の設置が基本だった ・国の地震予測「長期評価」に基づく東電の津波予測には合理性があった ・だが、実際の地震・津波は長期評価に基づく想定よりはるかに大規模だった ・国が長期評価を前提に東電に防潮堤を設置させても事故は避けられなかった *1-2-2:https://www.asahi.com/special/10005/TKY201104090495.html (朝日新聞 2011年4月9日) 津波の高さは地上から4~5メートル、福島第一原発 東京電力は9日、福島第一、第二原発の東日本大震災による津波被害の調査結果を公表した。第一原発1~4号機(標高10メートル)の海側壁面で確認された津波の高さは14~15メートルで、地上から4~5メートルの高さまで波が達したとした。元々は敷地には達しない想定(高さは5.7メートル)だったが、東電は「今後検証する」としている。壁面の変色などの痕跡から高さを求めた。このほか、上空からの写真に津波による浸水状況を示した画像や、第二原発の敷地内に流れ込んだ津波の様子を撮影した写真なども公開した。 *1-2-3:https://www.asahi.com/special/10005/TKY201104060163.html (朝日新聞 2011年4月6日) 福島第一原発の安全不備 非常設備は改修せず 東京電力の福島第一原発が津波に襲われた後、被害が拡大した理由に、非常用ディーゼル発電機などの設置場所など安全設計上の問題があった疑いが浮上した。1970年代から第一原発の運転を続ける中で、東電は改良工事など対策を講じることはできなかったのか。 ■「大工事になり金かかる」関係者証言 「福島第一原発は、ほかの原発と比べても極端に津波に弱い」。原発の安全確保の基本方針を決める原子力安全委員の一人は、事故から復旧の見通しが立たない中で、こう指摘した。福島第一原発は、国内の商業用原発としては最も古い部類に入り、60年代から70年代にかけて建設された。その後、耐震性などを強化するため、70~80年代にかけて大規模な改良工事が行われた。この工事にかかわった元東電社員の原子力技術者によると、各建屋につながれている電気ケーブルやパイプなどをコンクリートで覆い、岩盤と接するように工夫した工事などが繰り返されたという。ただ、今回、津波の被害を拡大させた疑いがある、非常用ディーゼル発電機の設置場所や、海水ポンプがほぼむき出しの状態で置かれていたことを見直すことについては、この技術者は「検討課題にはなっていなかった」。この理由について、原子力技術者は「想定した津波の高さで原子炉建屋は安全な位置にあると判断していることがまずあるが、発電機の位置などを変えようとしても、原子炉建屋の中に収納できるようなスペースはなく、設計の大幅な変更につながる。その発想は当時なかった」。また、東電の中堅幹部は、「もし、改修に踏み切ったとしたら、大規模な工事になり、多額のカネがかかる。当時は設計通りに作ることが至上命題だった」と話した。この背景には、60~70年代の建設当時、原発先進国・米国の技術を移入し、日本側はそれを学ぶ過程にあったことがある。東電元幹部はこう説明する。「福島第一はゼネラル・エレクトリック(GE)の設計を東芝と日立製作所が試行錯誤しながら学ぶ練習コースみたいなものだった」。福島第一原発に六つある原子炉のうち、1~5号機はGEが開発をした、「マーク1」と呼ばれるタイプの沸騰水型炉。関係者によると、福島第一の非常用発電機の場所や、ポンプの構造は、GEの基本設計の通りだという。一方、6号機からは、原子炉建屋により余裕のある「マーク2」が採用され、70年代中ごろから90年代にかけて建設された福島第二と、柏崎刈羽両原発では「マーク2」の改良炉が主になっている。非常用発電機の位置やポンプを覆う建屋の建設も、東芝や日立製作所が経験を積み、改良していった点だ。だが、後発の原発に盛り込まれた安全設計の進展が、福島第一に活用されることはなかった。原子力技術者は「福島第二などの建設からも何年もたっているわけで、なぜ、福島第一に安全思想をリターンしなかったのかという点は、この大震災があったからこそ悔やまれる。東電は今後、厳しく検証を迫られることになるだろう」と指摘した。 ■「後から直すと、当初の対策が甘かったと指摘される」 一方、「日本では大きな原発事故はありえない」という、「安全神話」に頼る意識も影響した。東日本大震災が起きる前から、想定以上の津波が起きる危険性は指摘されていた。「防波堤をもっと高くできたはずだ」という声は東電社内でも起きている。ただ、東電の中堅幹部がかつての上司に「なぜ改良しなかったのか」と聞いたところ、「後から高くすると、当初の津波対策は甘かったという指摘を受ける。それを避けたかった」ということを言われたという。この中堅幹部は「非常用発電機を原子炉建屋に移すことについても、同じ考えがあったと思う」と話す。安全確保を目的とした、国の規制も改良を妨げたという指摘もある。原子力安全委員の一人は「日本は非常用発電機一つの位置を変えるにも、複雑な許認可が伴う。いまさら言っても遅いが、そのあたりが硬直化している」と話した。 *1-2-4:https://nordot.app/741559458874146816 (共同 2021/3/10) 震災4日前、東電が報告した大津波の想定、「砂上の楼閣―原発と地震―」第9回 2008年夏、東京電力は福島第1原発を襲う可能性がある大津波の想定について、対応を「先送り」した。だが、新たな難題が持ち上がる。平安時代の869年に起きた貞観地震の大津波が、福島沿岸に及んだことが解明され始めたのだ。政府の地震調査委員会が貞観津波の研究成果を公表すると知った経済産業省原子力安全・保安院に対し、東電は以前から社内で計算していた高さ15・7mの津波想定を初めて報告した。東日本大震災の4日前のことだった。 *1-3:ttps://www.kochinews.co.jp/article/detail/572334 (高知新聞社説 2022.6.19) 【原発避難判決】「想定外」なら免責なのか 東京電力の福島第1原発事故から11年余り。避難した住民らが国に損害賠償を求めた集団訴訟で、最高裁は「想定外」の災害を理由として、国の賠償責任を否定した。東電を規制する立場にある国の法的責任の有無について事実上、決着した格好だ。後続の関連訴訟に大きな影響を及ぼすことになる。同様の裁判は全国で約30件あり、今回は福島、群馬、千葉、愛媛の各県で2013~14年に提訴された4件の統一判断。国とともに被告となった東電に関しては最高裁でことし3月、約14億5千万円の賠償責任が確定している。国の責任は高裁段階で群馬訴訟が否定。ほかの3件は認めており、判断が割れていた。一連の裁判では、巨大津波を予測できたか、対策をとっていれば事故を回避できたかどうかが大きな争点となってきた。政府の地震調査研究推進本部が02年に地震予測の「長期評価」を公表し、福島沖を含む太平洋側の広い範囲で、マグニチュード(M)8級の大地震が起こる可能性を指摘。大津波の恐れを警告した。これを根拠に東電の子会社が08年、福島第1原発に最大で約15・7メートルの津波が到達すると試算している。原告の住民側は、それらの予測に基づいて国が防潮堤設置や建屋の浸水対策を命じていれば、全電源の喪失による事故は免れたと主張。一方の国は、長期評価は精度や確度を欠いていたと反論していた。だが、最高裁は津波の予見性に関する評価を避け、「想定外」の自然災害で事故は回避できなかったと結論付けた。実際の津波は規模などが試算を超えており、国が対策を命じていたとしても浸水の可能性は高かったとした。東電の説明をうのみにする旧原子力安全・保安院の規制権限の機能不全を批判しつつも、結果論から極めて形式的に因果関係を否定したと言える。「想定外」なら免責されるというに等しい。安全性を担保すべき規制と事故に因果関係がないのであれば、原発活用の前提そのものが説得力を失おう。何の落ち度もないにもかかわらず、古里を失い、人生を狂わされた住民らには、極めて非合理な結論と映ったに違いない。ただ、事故との直接的な因果関係は認められなくても、国は原発を推進してきた道義的な責任から逃れることはできまい。裁判が長期に及び、原告約3700人のうち、110人以上が古里に戻ることなく亡くなった。なかには自殺とみられるケースもあった。この事実を政府、東電とも改めて重く受け止めなければならない。避難者はいまもなお、約3万人に上る。今回の4件の訴訟を含めた一連の裁判では、文部科学省の「原子力損害賠償紛争審査会」が11年8月に策定した指針を上回る損害が認められている。国は避難者が提訴しなくても被害実態に見合う賠償がきちんと受けられるよう、真摯(しんし)に対応する責任がある。 *1-4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15328653.html (朝日新聞 2022年6月19日) (「国策」の責任 原発訴訟:中)試される規制委の独立性 「それでも私たちはまだ原発、やり続けるんですかと、最高裁から問われたようなものだ」。17日午後、東京都内で開かれた記者会見で、住民側弁護団の馬奈木厳太郎弁護士はそう訴えた。最高裁判決が東京電力福島第一原発の事故について、国の責任はないとしたからだ。事故から11年が過ぎた今も住民が避難先から帰れていない自治体がある上、廃炉作業もおぼつかない。事故は現在進行形だ。だが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰や電力不足などを背景に、与野党から原発再稼働を求める声が上がる。「電気料金の値上げにどう向き合うかが足りない。再稼働にもう一歩踏み込んでほしい」。5月、エネルギー問題に関する首相への提言を議論した自民党の会議で、細野豪志衆院議員はそう発言した。今は自民党だが、原子力規制委員会発足時の民主党政権の環境相。規制委の「生みの親」でもある。求めたのは、テロ対策に関わる施設が未完成でも再稼働を認めること。地震や津波の対策と比べ、優先順位が低いという。政権も前のめりだ。岸田文雄首相は4月、再稼働への審査について「合理化、効率化を図る」と言及。「どこまで再稼働ができるかの追求をしなければならない」と述べた。政権は6月、原発を「最大限活用する」方針を閣議決定した。問われているのは、規制委の独立性だ。原発は「国策民営」で進められてきた。事故当時、規制を担っていた旧原子力安全・保安院は、経済産業省にあり、推進と規制が同居。国会事故調査委員会が報告書で、電力会社の言いなりになる「規制の虜(とりこ)」だったと指摘するほどだった。そのため規制委を、大臣から指揮や監督を受けず、独立して権限を行使する「3条委員会」にした。原発事故の反省と教訓から発足した規制委。安全対策の新たな基準は、事故前に比べてさまざまな面で厳しくなった。それを一度クリアした原発でも、新たな知見が出てくれば基準を引き上げ、対策を義務づける「バックフィット」制度を採用。規制委の会合は原則公開し、電力会社などと面会した場合は議事録をつくるルールを導入した。そもそも規制委を3条委員会にすることは、野党時代の自民、公明両党が求め、当時与党だった民主党政権提出の法案を修正して実現した。規制の独立は事故の教訓の本質とも言える。初代の規制委員長を務めた田中俊一氏は取材に対し、ロシアが原発を攻撃したことでテロ対策の施設がより重要になっているとして「その施設がなくても、という議論にすることがおかしい。急いで(対策を)やれ、というのが普通でしょう」と指摘。「規制委を(独立性の高い)3条委員会にしたのは自民党。初心を忘れている」と話す。規制委の審査を通った原発であっても、事故のリスクは残る。国の責任は結局、あいまいなままだ。 *1-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15328869.html (朝日新聞 2022年6月20日) (「国策」の責任 原発訴訟:下)負担は国民、議論なく 賠償、電気代に上乗せ 福岡地裁で一番広い101号法廷に5月16日、生協の組合員ら約30人が詰めかけた。初めて参加した幼い子連れの母親もいた。「原発事故の賠償負担金を経済産業省の省令によって電気代に上乗せしたのはおかしい」。電力小売事業者「グリーンコープでんき」(福岡市)が、国を相手に起こした訴訟の7回目の口頭弁論だった。「難しくて頭に入らなかった」「裁判官の理解も深まっているのでは」。報告集会で思い思いに感想を述べあった。「でんき」の母体は、九州などで食料品の購買事業などを営むグリーンコープ生協(組合員約42万人)。原発事故の翌年、原発に頼らない電気を届けるため設立された。2016年から電力小売りにも参入した。自分たちが使う電気がどんな電気なのか知りたい。それが出発点だった。野菜の産地や肥料、農薬を調べるように、電気料金の仕組みをひもとくと「託送料金(送電線使用料)」に使用済み核燃料の再処理費用など原発のお金が含まれていた。さらに、事故の賠償が膨らんだ分のうち約2兆4千億円を託送料に上乗せし、消費者から薄く広く回収できるよう、経産省は17年に省令を改正した。国会審議を通さず、経産省の判断で決められる。「どう考えてもおかしい」。組合員の声を受け、代表理事だった熊野千恵美さん(56)らが弁護士を交えて問題点を話しあった。経産省によると、負担額は標準世帯で月18円程度。回収期間は40年。組合員の討議では「負担してもよい」という意見も出た。お金が足りなければ被害者救済が遅れるおそれがある。それでも、経産省が勝手に大事なことを決めるやり方は、子どもたちの未来のためにも認められなかった。「国民に義務を課すには法律が必要。民主主義の根幹を問う裁判だ」。弁護団の馬場勝弁護士はそう説明する。政府は原発事故の賠償費用を東電のほか、原発を持つ大手電力会社や、新電力会社にも負担させた。一方、事故の法的な責任については何も言わなかった。原子力損害賠償法では、事故が起きたときの国の役割は、事業者の「援助」に限ってきたためだ。国から被害者への謝罪もない。「経産省からおわびが一言もないのは理解に苦しむ」。11年3月31日。経産省の会議室に、総務官僚だった岡本全勝氏の強い口調が響いた。当時、津波被災地域を支援する事務方トップだった。原発事故の対応は、津波被災者の支援体制に比べ大幅に遅れた。会議は経産省が主催。津波対策をまねて、福島の避難者を支援する組織を立ち上げようと、各省庁の局長級を集めた。だが、経産省は各省庁に課題と報告をさせるだけで方針をはっきり決めない。原発事故が起きた後に被災地や住民がどうなるかの想定を全くしてこなかった。それが露呈した。各省庁の担当者はいら立ちを感じていた。岡本氏が発言すると、出席者は一様に頷(うなず)いたという。その後、復興庁次官や福島復興再生総局事務局長になっても、岡本氏は経産省から復興庁に出向してくる官僚らに言い続けた。「なぜ経産省は謝らない。原子力安全・保安院がお取りつぶしになり、謝る組織がなくなったからか」。今月5日、東電は原発避難者訴訟のうち、3月に判決が確定した「いわき訴訟」の原告団を福島県双葉町の福島復興本社に呼んだ。集団訴訟の原告団に初めて謝罪する場を設けた。「人生を狂わせ、心身ともに取り返しのつかない被害を及ぼしたことなどに心から謝罪します」。社長名の文書を代表が読み上げただけだが、公の場で非を認めたことに、原告からは一定の評価もあった。政府関係者によると、17日の最高裁判決で国の責任が認められた場合、岸田文雄首相による謝罪も検討されていた。だが、国が勝訴したことで必要はなくなった。不作為の説明も謝罪もないまま、事故処理のお金を国民が負う構造は続く。 *1-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220627&ng=DGKKZO62073210X20C22A6PE8000 (日経新聞社説 2022.6.27) 参院選2022エネルギー危機克服へ原発の役割問え 電気やガス料金が急速に上がり、電力不足への警戒が強まるなかでの参院選である。エネルギーは私たちの暮らしや企業活動を支える血液だ。誰もがいつでも、手ごろな価格で利用できるようにすることは国家の責務である。これをどう取り戻すのか、各党は道筋を示すことが求められる。岸田文雄首相は「電気料金の上昇を抑制し、需給の安定を確保する対策が必要だ」と語り、節電に協力した家庭にポイントを付与し、電気料金の負担を軽減する新制度の導入を表明した。無駄を排しエネルギー消費を減らす節電の定着は重要だ。ただし、「電気が足りない」という異常事態をなぜ招いたのか。問題の原点にたち返り、長期的な対策を急がねばならない。争点となるのは供給力の整備である。脱炭素社会への移行をにらみ、再生可能エネルギーを重視する点で各党の主張に大きな違いはない。分かれるのは原子力発電の活用だ。岸田首相は「様々なエネルギーをミックスする形で将来を考える。一つの重要な要素が原発だ」と語り、自民党は「安全が確認された原発の最大限の活用」を公約に掲げる。野党でも日本維新の会が「安全性を確認できた原発の再稼働」を訴える。国民民主党の公約は既存原発の再稼働とともに、「次世代軽水炉や小型モジュール炉(SMR)などへの建て替え」にも言及する。これに対し、与党の公明党は再稼働を認めたうえで、「将来的に原発に依存しない社会を目指す」と主張する。野党の立憲民主党は「原発の新増設を認めない」との立場を示す。2011年の東京電力福島第1原発の事故から11年が経過しても、国民が原発に向ける視線は厳しい。一方で原発には稼働中、二酸化炭素(CO2)をほとんど出さないという特長がある。ウクライナ危機はエネルギー安全保障の重要性を再認識させた。参院選は原発の位置付けを問う機会だ。原発がなぜ必要なのか。そのために国民の理解をどう得るのか。原発をやめるなら代替手段をどう確保するのか。説得力ある形で示す必要がある。長期視点で議論をたたかわせてほしい。 <核禁条約会議と被爆国の役割> *2-1-1:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/817800 (京都新聞社説 2022年6月19日) 核禁条約会議 被爆国の使命果たすべき 「核兵器を絶対に使ってはならない」という国際社会の確固たるメッセージを広げることが、今こそ求められている。21日から核兵器禁止条約の第1回締約国会議がオーストリアで開かれる。発効1周年の1月の予定から2度延期されての初会議である。この間にロシアはウクライナへ侵攻し、核使用の脅しをかける現実的脅威に世界は直面している。核禁条約は、核兵器の非人道性に焦点を当て、製造や保有、使用や威嚇も全面的に禁止する史上初の国際条約である。批准国は増え続け、既に60カ国を超えている。歴史的な局面に初結集し、核による脅しと軍拡競争の危うさに抗して、核なき世界への確かなうねりを広げることを願いたい。けん引役を担うべきは、広島、長崎の惨禍を身をもって知る唯一の戦争被爆国のはずだ。その非人道性を訴え続けてきた被爆者らの運動が結実した核禁条約なのに、いまだ日本は署名、批准をしていない。岸田文雄首相は、初の締約国会議に日本政府としてオブザーバー参加もしないと表明した。被爆者をはじめ、高まる核の脅威を危ぶむ国際社会から失望の声が上がっており、残念極まりない。岸田氏は「核兵器国は1カ国も参加していない」として核禁条約は非現実的だとし、反対する立場の「同盟国・米国との信頼関係」重視を不参加の理由にあげた。一方、日本と同じく米国の「核の傘」の下にある北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとノルウェーは、締約国会議にオブザーバー参加する。ウクライナ危機を受けてNATO入りへ転換したフィンランド、スウェーデンも同様だ。ロシアの核の脅威に欧州が直接向き合う中でも、廃絶の目標を見据え続け、核禁運動に協調していく決意の表れと見える。核軍拡競争を自制する重要な動きともいえよう。岸田氏が、広島選出の首相としても核なき世界の実現を掲げ続けるなら、被爆国が担う使命に背を向けるべきではない。米国に追従するばかりと各国に見られたままでは、政府が自任する「保有国と非保有国の橋渡し役」は務まるまい。締約国会議は3日間にわたり、条約が掲げる核廃絶に向けた行動計画を議論し、核軍拡の加速に警鐘を鳴らす「政治声明」や保有国への軍縮要求なども行う構えだ。核実験を含め世界各地の「ヒバクシャ」への救済策もまとめる予定にしている。オブザーバー参加でも、日本の被爆者医療・支援の蓄積が大いに貢献できるはずではないか。一方で、政府は開幕前日の20日に開かれる「核兵器の非人道性に関する国際会議」に被爆者団体の2人を含む代表団を送った。過去3回の同会議での被爆者の訴えが核禁条約制定の原動力になったとされる。今回も現地の「核禁ウイーク」に集う各国の若者や市民団体などに体験を語っている。核被害の実相を伝える役割はかけがえがないことを深く認識する必要がある。 *2-1-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/942983/ (西日本新聞社説 2022/6/20) 核禁会議と日本 政府は核廃絶へ連帯せよ ロシアのウクライナ侵略により、世界は冷戦終結後、最も高い核のリスクにさらされている。今こそ核兵器の使用は許さないと声を上げ、核廃絶へ連帯を強める時である。オーストリアで21日に始まる核兵器禁止条約の第1回締約国会議は、その重要な場となる。日本政府が参加しないのは、極めて残念だ。核禁条約は人道的観点から核兵器の生産や使用、威嚇などを全面的に違法と定め、62カ国・地域が批准している。唯一の戦争被爆国として核兵器がもたらす惨禍を会議で伝え、核廃絶の国際世論を喚起する。長崎や広島の被爆者らはその役割を日本政府が担うことを願ったが、岸田文雄首相は背を向けた。会議は核兵器廃棄の過程や期限、核使用・実験の被害者に対する援助などを議論する予定だ。被爆者医療や放射能汚染の知見を持つ日本には幅広い貢献が期待されている。日本は国の防衛を米国の核戦力に頼る。首相は条約に一定の意義を認めながらも核保有国の不参加を重視し、「米国との信頼関係の下に現実的な取り組みを進める」と語る。国際政治の力学という「現実」への配慮だろう。核保有国が動かなければ核廃絶は実現しない。だが、核保有国が約束した核軍縮に反し、兵器の小型化や拡散が進む。業を煮やした非保有国や被爆者らが条約制定に動いたことを忘れてはならない。大国が核で張り合う恐怖の均衡の上に平和は成り立つのか。その危機感と脅威をなくすことへの切望が広がる「現実」にも目を向けるべきだ。会議前日に開かれる核兵器の非人道性を話し合う国際会議には、日本の政府当局者が被爆者と出席する。かつて被爆者が証言し、条約制定の土台をつくった会議だ。それが精いっぱいの関与なのか。政府以外の動きは活発だ。長崎市の田上富久市長は締約国会議でスピーチする予定で、長崎大は被害者支援の政策を提言している。非政府組織(NGO)の発信も目立つ。「政府こそ締約国会議に出て、率先して被爆の実相を訴える役割を担ってほしい」。政府から「ユース非核大使」を委嘱され、締約国会議に参加する長崎市出身の大学生、中村涼香さん(22)の言葉に共感する人は多いだろう。米国の「核の傘」に入る国の中には日本と異なる対応も見られる。北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツとノルウェーは条約を批准していないが、意思決定の権限がないオブザーバーの資格で会議参加を決めた。岸田首相は先月、バイデン米大統領と会談し、共同声明で「核兵器のない世界」を目指す意思を示した。締約国と同じ目標である。核保有国と非保有国の対立は根深い。「将来は条約に核兵器国を結びつける」のが日本の役割と考えるなら、核廃絶に向けて有志国との協調も強めてもらいたい。 *2-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/873682 (佐賀新聞 2022/6/22) 核兵器禁止条約第1回締約国会議 深まる核危機、打開模索、抑止固執の「戦争被爆国」 ロシアによるウクライナ侵攻で核使用の危機が深まる中、核兵器禁止条約の歴史的な初会合が21日開幕した。軍縮推進派の国々や市民社会は「核なき世界」に向け、事態打開の突破口を模索する議論を本格化させた。条約に猛反発した米国など核保有国には軟化の兆しもかすかに見え始めているが、「唯一の戦争被爆国」を掲げる日本は米国の核抑止力に固執し、国際社会に落胆が広がる。 ▽切迫感 「核なき世界の一刻も早い達成は全人類の悲願だ」。割れんばかりの拍手で幕を開けた核禁止条約第1回締約国会議。初代議長に選出されたオーストリア外務省のクメント軍縮局長が、世界への力強いメッセージになると宣言すると、高揚した様子の各国代表団が握手し合う場面も見られた。ロシアのプーチン大統領が核兵器使用を示唆し、国際社会には動揺が広がる。会議場に通底するのは、核軍縮の機運をこれ以上後退させてはならないとの切迫感だ。2017年の条約採択から5年、21年の発効から約1年半。核を違法化した初の条約に命を吹き込み、核保有国を縛る規範力を持たせるための外交努力が今後活発化する。 ▽割れた判断 各国代表団や核実験による被ばく者らが議論に熱を込める会場に、核廃絶を巡る国際的議論を主導してきたと自認する日本政府の姿はなかった。「核保有国が参加しておらず、条約には実効性がない」。政府筋は保有国と非保有国の橋渡し役こそが日本の目指すべき道だと強調する。北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の不透明な軍拡で東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中、米国の核抑止力に傾斜を深めようとする本音も透ける。対照的だったのは、同じ米国の「核の傘」に依存しつつも、オブザーバー参加に踏み切った国々だ。米同盟国のオーストラリア、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツやオランダなどは、核禁止条約を巡る立場の違いを超え、会場の議論に耳を傾けていた。 ▽兆し 核禁止条約に背を向け、非核保有国の批准阻止を図ってきた核保有国が、水面下で同盟国の会議へのオブザーバー参加の黙認に転じたことを示唆する情報も出てきた。「核保有国は核禁止条約への『攻撃』をやめるべきだ」。今月開かれた核拡散防止条約(NPT)関係国の非公式会合で英国がこう述べたと、欧州軍縮筋は明かす。オーストラリアの軍縮筋は「米国が締約国会議を欠席するよう求める圧力を緩めた」との見方を示す。ウクライナ危機で揺れる核の国際秩序維持のため、保有国と非保有国の亀裂をこれ以上深めるのは得策でないとの判断が働いた可能性もある。「見るに堪えない事態だ」。各国関係者の間に、日本の締約国会議欠席に批判が広がる。政府は会議開幕に合わせるかのように、岸田文雄首相が8月開催予定のNPT再検討会議に首相として初出席すると発表した。「何を成し遂げるかが問題だ。美しい演説をするだけでは十分ではない」。言行不一致は許されないと関係筋はくぎを刺した。 *2-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/874014 (佐賀新聞 2022/6/22) 核保有国の加盟に「圧力を」、被爆医師の朝長さんが演説 オーストリアの首都ウィーンで開かれている核兵器禁止条約の第1回締約国会議で22日、「長崎県被爆者手帳友の会」会長で医師の朝長万左男さん(79)が英語で演説し、核保有国の加盟に向け「最大限の圧力をかけなければならない」と強調した。「被爆者は人生の終盤で、核禁止条約の成立を見届けることができてとても幸せだった」と述べた一方、米国の「核の傘」の下にあり、条約に参加していない日本については「私たちの国が核兵器に依存していることがとても悲しい。被爆者は泣いている」と表明した。 *2-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/873788 (佐賀新聞 2022/6/22) 「核被害国と協力」明記、行動計画草案、核禁止条約会議 オーストリアの首都ウィーンで開催中の核兵器禁止条約第1回締約国会議が最終日の23日に採択を目指す「ウィーン行動計画」の草案が22日、判明した。「核兵器の影響を受けながらも未加盟の国と協力する」と明記、唯一の戦争被爆国の日本や核実験の被害を受けた国を念頭に、核廃絶に向けた協力推進を打ち出した。共同通信が入手した草案は6月8日付で8ページ。国名には直接言及していないが、日本や、英国の核実験が行われたオーストラリアは条約に加盟していない。そうした国々に禁止条約への支持を訴え、核の被害者支援など条約が掲げる目標の達成のため密接に協力するとした。 *2-2-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/52528298022c883638e67486c0f329a957fa009f (Yahoo、八重山日報 2022/6/18) 尖閣「上陸する必要ある」 中国の侵入常態化で石垣市長 石垣市の中山義隆市長は17日の一般質問で、尖閣諸島周辺海域で中国艦船の領海侵入が常態化している問題について「決して許されることではない」と非難。「国に対して領土領海を守るようお願いすると同時に市が上陸を行い、国際社会に我が国の領土であると明確に示す必要がある」と訴えた。市は尖閣諸島の字名変更に伴い、各島に標柱を設置するための上陸を国に申請したが、国は不許可とした経緯がある。尖閣諸島問題は市議会で仲間均氏が取り上げた。自ら漁業者として尖閣周辺に出漁している仲間氏は「中国船の動きを見ると、これまでの手法とは全く異なる」と述べ、中国艦船がより攻撃的になっていると指摘。尖閣周辺海域の現状について「乗っ取られている」と危機感を示した。中国側の狙いについて小切間元樹企画部長は、国の見解とした上で「中国艦船の尖閣付近での領海侵入は、既存の国際秩序とは相容れない『力による現状変更の試み』と見られる」と述べた。仲間氏は「日本の領土なのに(政府は)『遺憾である』とか『力による現状変更は認められない』の二言で片づけている。ここに行く船がいつ事故に遭うかも知れないが、誰かが漁をしないと日本の領海ではなくなるという思いだ」と訴えた。 *2-3-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220623/k10013686021000.html?word_result=・・・ (NHK 2022年6月24日) 核兵器禁止条約 初の締約国会議「ウィーン宣言」など採択 ロシアによる軍事侵攻によって核兵器が使用されることへの懸念が高まる中で開かれた、核兵器禁止条約の初めての締約国会議は、3日間の日程を終え、「核なき世界」の実現を目指す「ウィーン宣言」と、具体的な取り組みをまとめた「ウィーン行動計画」を採択して閉幕しました。オーストリアの首都ウィーンで今月21日から開かれていた核兵器禁止条約の初めての締約国会議は、最終日の23日、日本時間の23日夜遅く、▽「核なき世界」の実現を国際社会に呼びかける「ウィーン宣言」と、▽核廃絶に向けた具体的な取り組みをまとめた「ウィーン行動計画」を採択し、閉幕しました。このうち「ウィーン宣言」は、ロシアの名指しは避けながらも「核兵器を使用するという威嚇に憂慮し落胆している。いかなる核による威嚇も明確に非難する」として、核の使用や威嚇を行わないよう、強く求めています。そのうえで「核兵器の存在はすべての国の安全とわれわれの生存を脅かしている。核兵器は不名誉で正当性がないという、国際規範を築く」と訴えています。また「ウィーン行動計画」は50の項目からなり、▽条約の締約国を増やすために取り組むことや▽被爆者や核実験の被害者への支援や救済を進めることなどが盛り込まれています。さらに▽核保有国に核軍縮の取り組みを課すNPT=核拡散防止条約との関係については、「禁止条約とNPTは補完し合う関係だ」として、「2つの条約の調整役」を任命するとしています。初めての締約国会議には、条約を批准した国に加え、条約に参加していないNATO=北大西洋条約機構の複数の加盟国もオブザーバーとして出席し、3日間にわたって合わせて80か国以上が議論を行いました。議長を務めたオーストリア外務省のクメント局長は「各国が協力して成果を上げ、条約に懐疑的な国も議論に参加したことが重要だ。今後は条約を軽視することが難しくなるだろう」と述べ、会議の意義を強調しました。世界の核軍縮をめぐっては、ことし8月、7年ぶりにNPTの再検討会議も開かれる予定ですが、ウクライナ情勢を受け核保有国同士の対立が続く中、行き詰まった核軍縮の方向性を示すことができるかが、問われることになります。 ●「ウィーン宣言」のポイント 核兵器禁止条約の初めての締約国会議で採択された「ウィーン宣言」のポイントは以下の通りです。 ▽核廃絶を実現する決意を再確認する。核兵器が二度と使われない唯一の方法は核廃絶だ。 ▽核の使用や威嚇は国連憲章を含む国際法に反するもので、いかなる核による威嚇も明確に 非難する。 ▽いまだに9か国がおよそ1万3000の核兵器を保有していることを、深く憂慮する。 ▽核兵器保有国と核の傘のもとにある同盟国のいずれの国々も、核兵器への依存を弱め るために真剣に取り組むことなく、逆に核兵器を維持、強化していることを、遺憾に思う。 ▽核兵器は不名誉で正当性がないという、強固な国際規範を構築する。 ▽国際機関やNGO、被爆者、核実験の被害者、若者の団体などと、連携していく。 ▽NPT=核拡散防止条約は核軍縮と不拡散の基礎であり、核兵器禁止条約とは相互に 補完する関係にある。 ▽条約にまだ参加できないという国にも、「核兵器のない世界」という共通の目標に向か って協力を呼びかける。核兵器の非保有国が条約に参加することを妨げる核保有国の 行為を憂慮する。 ●議長 “核の脅威が高まる中でこそ核兵器禁止へ議論進めるべき” 核兵器禁止条約の初めての締約国会議の閉会後、会議の議長を務めたオーストリア外務省のクメント軍縮軍備管理局長は記者会見を行い、NATO=北大西洋条約機構の加盟国を含めた30を超える国が会議にオブザーバーとして出席したことについて「明るい兆しだ。これらの国々が政治的に複雑な立場に置かれているのは理解しているが、禁止条約にとっては前向きな一歩であり、次回の会議にはより多くの国が出席してくれることを願う」と評価しました。さらに「締約国は核兵器による人道上の影響やリスクについて科学的な証拠に基づいて議論していることを示し、国際社会全体にとって極めて重大な問題であることを提起した。これまで懐疑的だった人たちもそれを認め、いまこそこの問題の解決に関わるべきだ」と述べ、核の脅威が高まる中でこそ核兵器の禁止に向けた議論を進めるべきだと訴えました。また、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのフィン事務局長は「これだけ多くの国の代表が集まり、核の脅威や核抑止政策を非難したことは、不確実な世界において極めて重要だ」と述べ、会議の意義を強調しました。そのうえで「核保有国が影響力を強めようと、あらゆる手をつくして各国を軍事的に取り込もうとしているのを、私たちは知っている。いま核兵器を禁止しなければ、さらに多くの国が核兵器を持ち、核の傘に頼り、同盟をつくって世界を分断し、実際に核兵器が使われてしまうかもしれない」と述べ、核抑止に頼らない安全保障政策を模索すべきだという考えを示しました。 ●広島 松井市長 各国代表と会談 オーストリアの首都・ウィーンで開かれた核兵器禁止条約の締約国会議は日本時間の23日、最終日を迎え、会議の合間に広島市の松井市長は各国の代表と会談を行いました。次の締約国会議の議長国となるメキシコの代表との会談で松井市長は、「若い世代に被爆の実相を理解していただく活動をしっかりやっていきたい。メキシコで活動する際には支援をしてほしい」と求めました。これに対し、メキシコ政府代表部のカンプザーノ特命全権大使は、「若者の協力はとても大切です。できる限りの協力をしたい」と応えていました。また、今回の会議にオブザーバーとして出席したノルウェー代表との会談で、松井市長は「NATOの加盟国として揺るぎない立場を示しながらも核軍縮、不拡散を今まで以上にしっかりするという話を伺った。こういう立場でオブザーバー参加できることを改めて見せていただいた」と述べました。これに対し、ノルウェー外務省のオスムンセン特命軍縮大使は「歴史的な経験をしている広島、長崎の被爆者から証言を聞くことはとても力強く本当に感謝している。ヨーロッパの安全保障状況は厳しい状況だし、これまで以上に核軍縮のために努力することが重要です」と話していました。 ●広島 松井市長「大きな世論を動かす大事なきっかけになる」 広島市の松井市長は現地で取材に応じ、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に、「この危機的な状況の中でしっかりしたメッセージを出せたことは核兵器のない世界に向けての大きな世論を動かす大事なきっかけになる。次の会議の手続きも決まり、国際会議で一番重要な中身を議論するための段取りが確保できたことはとても意味あることだ」と述べました。また、オブザーバー参加した国々の発言について、「自分たちの立ち位置をしっかり説明した上で、核のない世界に向けての議論をするチャレンジをしていただいた。手順を尽くせば、議論ができることを示した」と評価しました。そのうえで「日本政府がオブザーバー参加しなかったことは残念だが、今後もこうした会議は続くのでほかの国の知見を踏まえて対応を考えていただきたい」と訴えました。 ●長崎 田上市長 ノルウェー外務省の特命軍縮大使らと面会 23日、長崎市の田上市長はオーストリアのウィーンで開かれた核兵器禁止条約の締約国会議の合間に広島市の松井市長とともにノルウェー外務省のオスムンセン特命軍縮大使と面会しました。田上市長によりますとこのなかで田上市長がノルウェーが核兵器禁止条約には参加せず、締約国会議にオブザーバー参加した理由などを尋ねたのに対し、オスムンセン大使は対話が重要であり、締約国会議に参加することに意義があるという考えが示されたということです。面会の後、田上市長は記者団の取材に対し、「オブザーバー国のスタンスはこれからに向けて非常に大切なあり方を示してくれていると感じた。被爆者や広島・長崎の役割の重要性についてもヒントをいただいた」と話し、核兵器廃絶を目指す今後の取り組みの参考にしたいという考えを示しました。また、田上市長は23日、広島の松井市長とともに核兵器禁止条約に批准しているメキシコのカンプサーノ大使と面会しました。この中で田上市長が「私たちに期待することや果たしてほしい役割があったら教えてほしい」と尋ねたのに対しカンプサーノ大使は「これからも被爆の実相を世界に届けてほしい」と述べました。 ●長崎 田上市長「第一歩となった会議」 締約国会議での一連の日程を終えた長崎市の田上市長は「核兵器禁止条約をこれからの世界のルールにしていくという道が今、始まったという会議でした。第一歩となった会議だと思うし、この条約の意義・意味を多くの人たちに伝えていく必要があると思います」と話しました。また条約に参加していないものの、オブザーバー参加した国々について「オブザーバーの国々は『核兵器廃絶のゴールは共有しているがこういう理由で今は参加できない。でも自分たちも核軍縮は大事だと思うので、できることはしっかりやっていく』という率直で良いスピーチを行っていました」と述べました。そのうえで「日本政府がオブザーバー参加をしなかったのは残念ですが、今回の会議の内容を日本政府に伝え、次回以降は日本がオブザーバー参加するよう引き続き求めていきたいです」と話しました。また田上市長は「若い人による核兵器廃絶を目指す活動が増えていると、各国のさまざまな方々が話をしていました。核兵器のない世界という未来を作っていくためにそうした若い人と一緒になって取り組んでいくのが非常に重要だと感じました」と話していました。 ●長崎の被爆者は 締約国会議が閉幕したあと、長崎の被爆者で医師の朝長万左男さんは「締約国会議には核兵器国や日本のような国が参加しなかったが、オブザーバーの国がある程度参加したので、それなりに良いスタートを切ったのではないかと思います。第1回の締約国会議は成功だったと思います」と話しました。また長崎の被爆者で、日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の事務局長の木戸季市さんは「会議に来て本当に良かったです。世界の人々や国々が核兵器を本当になくさないと人間は守れないという思いが伝わってきました。私の残された人生は核兵器廃絶に向けてとことん取り組んでいこうという思いで決意を新たにしました」と話していました。長崎の被爆者でことし8月9日の、長崎原爆の日の式典で被爆者代表を務める宮田隆さん(82)は「被爆者として期待を持って締約国会議に参加しましたが会議の成果は十分あったと思います。今回の会議でやっと、一歩を踏み出したと思います」と話していました。そのうえで「日本は世界のリーダーとして頑張っていかなければならないという責任があると思います」と話していました。 ●木原官房副長官「現実的な取り組みを進めていきたい」 木原官房副長官は、記者会見で「わが国は会合には参加していないので会合の結果などをコメントすることは差し控えたい」と述べました。そのうえで「まずは国際的な核軍縮不拡散体制の礎石であるNPT=核拡散防止条約の維持・強化に向けて、8月に開かれる運用検討会議で意義ある成果を収められるよう全力を尽くしていく。唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界に向け現実的な取り組みを進めていきたい」と述べました。 *2-3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ6Q3SLVQ6QPTIL00L.html (朝日新聞 2022年6月22日) 日本政府が参加せぬ中 広島、長崎市長「核廃絶」訴え 核禁条約会議、核といのちを考える 核兵器を全面的に禁じた核兵器禁止条約の初めての締約国会議が21~23日、オーストリア・ウィーンで開かれています。日本政府が参加を見送る一方、被爆地の広島、長崎両市長が出席し、21日には「核兵器廃絶しかない」と議場で訴えました。広島、長崎両市長は、国際NGO・平和首長会議を代表し、締約国会議初日の21日に演説した。 ●日本政府は不参加 会長の松井一実(かずみ)・広島市長は「被爆者の『こんな思いをほかの誰にもさせてはならない』という切実な思いは今、痛ましい戦争において被害を受けている人々にも共通する」と述べ、ロシアのウクライナ侵攻で被害を受けた市民に思いをはせた。ロシアのプーチン大統領は核兵器使用を示唆する発言を繰り返してきた。松井氏はそれを止めるため、「核軍縮の進展と核兵器廃絶しかない」と指摘し、「各国や市民社会が一丸となり、核兵器禁止条約を実効性のあるものにする作業に早く着手する必要がある」と訴えた。田上(たうえ)富久・長崎市長も、プーチン氏の発言を念頭に「条約の意義は非常に大きくなっている。『今ここにある危機』を明確に禁止するのは核兵器禁止条約だけだからだ」と語った。田上氏は「道を見失ってしまいそうな時こそ、被爆者の声を思い起こし、勇気にかえてください」と続け、「核兵器を絶対に使わせないという共感の連鎖を世界中に広げていきましょう」と呼びかけた。 ●核兵器が使われれば、滅ぶ」 松井氏は終了後、報道陣の取材に「(核兵器が)使われれば(世界)全体が滅ぶとわかってもらいたい。世界中の都市と情報交換し、一部の国の一部の仕事ではなく、人類全体の課題だとわかってほしい」と述べた。田上氏は「参加したことで関係国や、NGOのみなさんと連携をとれて有意義だ」とした一方、「日本政府がオブザーバー参加しなかったことはとても残念。締約国会議は定期的に開かれるので、ぜひオブザーバー参加してほしいと思う」と話した。 ●松野官房長官「核兵器国が参加していない」 日本政府のオブザーバー参加は、核兵器廃絶を求める国内外のNGOや被爆者らが強く求めてきた。ただ、松野博一官房長官は21日の閣議後の記者会見で、「政府としてオブザーバー参加はしない」と明言した。そのうえで、「(条約に)核兵器国は1カ国も参加していない」と不参加の理由を説明した。 <安全保障について> *3-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/05/ (NHK 2022年6月16日) 外交・安全保障 ●自由民主党 国家安全保障戦略を改定し、新たに国家防衛戦略、防衛力整備計画を策定する。NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す。弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力を保有し、これらの攻撃を抑止し、対処する。 ●立憲民主党 弾道ミサイルなどの脅威への抑止力と対処能力強化を重視し、日米同盟の役割分担を前提としつつ着実な防衛力整備を行う。防衛費は総額ありきではなく、メリハリのある予算で防衛力の質的向上を図る。「核共有」は認めない。尖閣諸島をはじめとする我が国の領域警備に万全の体制で備えるため「領域警備・海上保安体制強化法」を制定する。 ●公明党 専守防衛の下、防衛力を着実に整備・強化する。予算額ありきではなく、具体的に何が必要なのか、個別具体的に検討し、真に必要な予算の確保を図る。唯一の戦争被爆国として、核共有の導入について断固反対する。非核三原則を堅持しつつ、核兵器禁止条約批准への環境整備を進める。 ●日本維新の会 日本の安全保障に対する不安を根本的に解消するため、将来にわたり戦争を起こさず、国民の生命と財産を確実に守るための「積極防衛能力」を構築する。防衛費のGDP比2%への増額、最先端の技術革新を踏まえた防衛力の整備、憲法9条への 自衛隊の存在の明記などを行った上で核拡大抑止についてもタブーなき議論を行う。 ●国民民主党 自分の国は 「 自分で守る」との理念に基づき、自立的な安全保障体制を目指す。同盟国・ 友好国との協力を不断に検証し、「戦争を始めさせない抑止力」の強化と、攻撃を受けた場合 「自衛のための 打撃力 (反撃力) 」を整備する。サイバー、宇宙など新たな領域に対処できるよう専守防衛に徹しつつ必要な防衛費を増額する。 ●日本共産党 「敵基地攻撃能力」の保有など、「専守防衛」を投げ捨て、日本を「戦争する国」にする逆行を許さない。安保法制を廃止し、立憲主義を取り戻す。軍事費2倍化を許さない。核兵器禁止条約に参加し、唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶の先頭にたつことを求める。 ●れいわ新選組 専守防衛と徹底した平和外交によって周辺諸国との信頼醸成を強化していく。日本は国連憲章の「敵国」条項によって、敵基地攻撃能力や核配備など重武装は不可能。唯一の戦争被爆国として、核兵器禁止条約を直ちに批准し、「核なき世界」の先頭に立つことにより地域の安定をリードしていく。 ●社会民主党 ウクライナ情勢に便乗した防衛力大幅増強の動きや「核共有」に反対する。平和憲法の理念を活かし、外交の力で平和を実現する。非核三原則を守り、核兵器禁止条約に署名・批准し、被爆国として核なき世界を目指す。沖縄の在日米軍普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設断念を強く求め、辺野古に新基地はつくらせない。 ●NHK党 現実的な国防力を整えるために防衛費を国際標準とされるGDP2%程度へ引き上げるべき。いわゆる「敵基地攻撃能力」については国民の命と財産を守るため必要な程度を必ず保有すべきと考え、憲法も含めた法整備について国会での議論を求めていく。 *3-2:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202206/0015401133.shtml (神戸新聞社説 2022/6/20) 安全保障/何をどのように守るのか 安全保障が参院選の主要な争点の一つに浮上してきた。岸田文雄首相が米国のバイデン大統領に防衛費の「相当な増額」の決意を伝え、議論を呼んだばかりである。選挙戦ではそれにとどまらず、日本の国是である「専守防衛」を問い直す論戦にも発展しそうだ。ロシアによるウクライナ侵攻が国際社会の平和と安定を揺るがし、北朝鮮の弾道ミサイル発射や中国の海洋進出が日本周辺を脅かす。国の安全に関する国民の関心や懸念が高まっていることは確かだろう。ただ、専守防衛は戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条に基づく。安全保障を巡る議論は「平和国家」としての戦後日本の歩みを踏まえたものでなければならない。何を見直し、何を守るのか。熟考と冷静な判断が求められる。自民党は参院選の公約で「抑止力と対処力の強化」を掲げた。防衛費の増額と敵基地攻撃能力を改称した「反撃能力」の保有が柱だ。防衛費については、北大西洋条約機構(NATO)が掲げる国内総生産(GDP)比2%以上の目標を引用し、「5年以内に必要な予算水準の達成を目指す」とする。1%程度にとどめてきた防衛費を倍増すれば、約5兆円の上積みになる。高市早苗政調会長は「必要なものを積み上げれば、10兆円規模になる」と述べた。専守防衛を逸脱する恐れがある反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有と併せ、これまでの制約をなくす狙いが透ける。岸田首相自身はリベラル派閥を率いているが、選挙をにらみ、安倍晋三元首相をはじめとする保守層の支持を意識したようだ。これに対し、連立与党の公明党は増額方針を容認しつつ「予算ありきでなく」とくぎを刺すが、野党の一部に自民に同調する動きがある。日本維新の会と国民民主党は、増額だけでなく、敵基地攻撃能力保有にも前向きの立場だ。維新は、岸田首相が「政府として議論しない」と明言した米軍との「核共有」の議論も始めるとし、防衛力を必要最小限度とする規定も見直すとするなど、他党以上に踏み込んでいる。立憲民主党は「総額ありきではない」とけん制し、「専守防衛の堅持」を強調する。ただ、批判勢力は共産党や社民党などにとどまる。共同通信社の世論調査では、43%が防衛費を「ある程度増やすべきだ」と答えているが、「今のまま」も36%で、「大幅に増やすべきだ」は12%にとどまる。国民もどうあるべきか思案している状況だろう。抑止力だけでは軍事的な緊張が増す。平和を回復し守るための外交努力や人道支援などの多様な施策について、活発な論戦を期待したい。 *3-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/184620 (東京新聞 2022年6月20日) 「岸田政権は変えたがっている」 都内で憲法改悪に反対する集会 参院選「9条守る候補者に投票を」 22日の参院選公示を前に「憲法9条改悪を絶対許すな!緊急集会」が20日、東京・永田町の衆院第一議員会館であった。参加者らは、ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて日本の防衛力強化や核シェアリング(共有)が必要だとする主張に反対し、対話による外交努力を積み重ねるよう訴えた。主催した「村山首相談話の会」の藤田高景理事長が「岸田文雄政権は、憲法9条を変えたがっている。だが9条があったから、日本は世界の信頼を勝ち得てきた。9条を高く掲げることが日本の平和を守り抜く唯一の道だ」と述べた。山口大の纐纈厚名誉教授は「専守防衛は『必要最小限の防衛力』だったが、このままでは『不必要な最大限の攻撃力』になる」と指摘。元経産官僚の古賀茂明氏は「9条は空文化している。だがウクライナのゼレンスキー大統領は、日本に9条があるから武器支援を求めなかった」と語った。94歳の経済学者暉峻淑子さんは、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所から脱出した子どもたちがおなかをすかせていた姿と、戦中戦後の自分の姿が重なったとし「戦争を止めるために国会に野党議員を送り込めるチャンスだ」と、参院選では憲法9条を守る候補者に投票するよう呼び掛けていた。ジャーナリストの竹信三恵子さんは「軍事費を増やせば、社会福祉や介護、教育費が使えなくなる。そういうことをもっと発信していきたい」と話した。神奈川大の羽場久美子教授は「戦争を始めたら、国内の原発と基地のある沖縄が狙われる。SNSなどで個人が発信し、今日の集会のように市民や研究者、芸術家など皆が戦争をさせないために連帯し、行動していくことが必要だ」と訴えた。 <国民保護計画について> *4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1536480.html (琉球新報社説 2022年6月21日) 国民保護計画の試算 現実離れした想定だ 島しょ県である沖縄では、有事の際の島外避難に大量の航空機や船舶が必要で、全住民の避難が、ほぼ困難であることが明らかになった。「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓から県民は人間の安全保障を要求してきた。ロシアによるウクライナ侵攻を機に「力の論理」に頼り対中強硬論を振りかざすのでは問題は解決しないだろう。有事を回避する最大の国民保護策は「命どぅ宝」の思想の実践と国際協調である。安倍晋三元首相は昨年、「台湾有事は日本有事」と述べた。今年5月には岸田文雄首相が台湾を念頭に「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と発言した。台湾や尖閣諸島で不測の事態が発生した場合、沖縄が戦場になる可能性が高まる。2004年に施行された国民保護法は、外国から武力攻撃などを受けた際、国民の生命、財産を守るための国や自治体の権限や手続きを定めている。この法律に基づく避難計画のひな型となる「避難実施要領のパターン」を県内41市町村のうち宮古島、石垣など7市町が策定している。石垣市の場合、石垣空港の1日の運航可能便数を45機とし、民間機1機に150人が搭乗すると仮定。石垣市民・竹富町民・観光客合計で6万5300人の避難が必要になる。この想定に沿って計算すると、延べ機体数は435機となる。宮古島市の場合は、石垣と同様に1機に150人が搭乗すると仮定すると住民が363機分、観光客が18機分、500人を運べるフェリーの場合は住民が109隻分、観光客が5隻分を必要とする。果たして、これほどの航空機や船舶を一度に確保できるだろうか。現実離れした想定である。77年前の沖縄戦の直前に、県外疎開が実施された。しかし制海権と制空権を失った中で県関係者を乗せた船舶26隻が米軍に撃沈され、4579人が犠牲になった。離島周辺で戦闘が始まった場合、避難用の航空機や船舶の安全確保は難しいだろう。元自衛艦隊幹部は、有事の際に敵国による南西諸島に対する海上封鎖を予想する。海上を封鎖されると船舶による避難は困難だ。中京大学の佐道明広教授(防衛政策史)は「現実には、自衛隊がある程度取り残された人々を守りながら戦闘するという展開が想定される」と指摘する。しかし、島に配備された自衛隊が中短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの攻撃に耐え、かつ住民の安全を確保することは可能だろうか。自衛隊制服組幹部は「自衛隊に住民を避難させる余力はないだろう。自治体にやってもらうしかない」と発言している。沖縄戦で4人に1人が犠牲になった沖縄戦から77年。米軍との軍事一体化を強化する政府の姿勢と沖縄戦の教訓は相容れない。 *4-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1536000.html (琉球新報 2022年6月20日) 石垣では全員避難に10日、宮古は航空機381機必要 市が国民保護計画で試算 他国からの武力攻撃事態など有事に備え、自治体が住民の避難誘導をする国民保護計画に基づき、石垣市と宮古島市が全市民の避難に必要な航空機の数や期間などを見積もっていたことが19日までに分かった。宮古島は観光客分を含む避難に必要な航空機の総数を381機と試算。石垣は1日45機運航した場合、全市民避難の所要期間を「9・67日」と見込んでいる。石垣の想定に沿って本紙が試算すると、避難に必要な延べ機体数は435機となる。台湾有事の懸念を踏まえ、先島など離島からの住民避難の必要性について議論が起こっている。沖縄戦前の県外疎開では、米軍に周辺の制海権を握られる中の海上輸送で、児童や一般の疎開者を乗せた対馬丸が撃沈された。国民保護でも、有事が迫る中で避難用航空機の安全が確保されるか懸念がある。両市は国民保護法に基づく避難計画のひな形となる「避難実施要領のパターン」で試算した。国民保護法に基づく住民避難は国が要避難地域を認定して、都道府県が住民の避難経路などを明示、市町村が避難誘導をする。県によると、県内41市町村のうち読谷村を除く40市町村で国民保護の体制を規定する基本計画を策定済みだが、パターンを策定したのは宮古島、石垣を含め7市町にとどまる。2019年に策定し、5月に市HPに掲載された石垣のパターンでは、石垣空港の1日の運航可能便数を45機とし、民間機1機に150人が搭乗すると仮定。石垣市民・竹富町民・観光客合計で6万5300人の避難が必要になる。この想定に沿って計算すると、延べ機体数は435機となる。宮古島も同年に策定。石垣と同様に150人搭乗の航空機の場合は住民が363機分、観光客が18機分、500人を運べるフェリーの場合は住民が109隻分、観光客が5隻分を必要とする。石垣市の担当者は「民間機の確保や自衛隊対応などについて、国や県と細かい調整が必要だ」と強調した。宮古島市の担当者も「輸送力確保は県が行う。県の計画も踏まえ、国や県と意見交換していきたい」としている。 *4-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1536101.html (琉球新報 2022年6月20日) 有事に沖縄県民140万人の避難は「非現実的」 登壇者ら「移動すべきは基地」 沖縄戦の教訓学ぶ講演会 「慰霊の日」の23日を前に、沖縄戦の教訓を学ぶことを目的としたノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会主催の講演会が19日、那覇市の教育福祉会館で開かれた。5人が登壇し、沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんは有事に県民140万人が避難するのは非現実的だと指摘。台湾有事を想定し、米軍が南西諸島に臨時の攻撃拠点を置くとの報道に「攻撃をすれば沖縄が反撃されるのは当然だ。沖縄から移動すべきは住民ではなく軍事基地だ」と批判した。具志堅さんはこの日も糸満市の荒崎海岸に行き、遺骨と朽ち果てた手りゅう弾を回収したことを報告した。国の責任で戦没者遺骨の収集や返還に取り組む意義について「(やめれば)命を使い捨てにされたことをわれわれが認めたことになる。犠牲者の命を『一銭五厘』(召集令状の切手代)とばかにした責任をとってもらわないといけない」と述べ、過ちを繰り返さないためにも命の重さを知らしめる重要性を訴えた。沖縄国際大名誉教授の石原昌家さんは、ウクライナで成人男性の出国が制限されていることに言及。ひめゆり学徒隊に動員された生徒たちが、学校側から脅されてやむなく動員されたとの「証言と重なる」と述べ、戦争に国民を動員する権力の姿勢を疑問視した。沖縄女性史家の宮城晴美さんは「長い戦争の歴史で、女性への性暴力がない戦争はない」と強調し「いつ自分が犠牲に遭うか分からないことも踏まえ、戦争のことを考えてほしい」と訴えた。この日の講演は動画投稿サイト「ユーチューブ」で23日に公開する。講演会は26日午後1時からも行われる。 <外交> *5-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1536471.html (琉球新報 2022年6月20日) 中国、東シナ海のガス田施設完成 日本抗議「一方的開発は遺憾」 日本外務省は20日、中国が東シナ海の日中中間線の中国側海域で、ガス田の掘削施設を完成させたのを確認したと発表した。施設完成を受け「度重なる抗議にもかかわらず、一方的な開発を進めていることは極めて遺憾だ」として中国に強く抗議した。外務省によると、海上自衛隊が20日、中国側海域にある構造物に掘削機材が据え付けてあるのを発見。分析した結果、ガス田の掘削施設に間違いないと判断した。同省の船越健裕アジア大洋州局長が、在日中国大使館の楊宇次席公使に抗議を申し入れた。船越氏は、東シナ海ガス田開発に関する日中交渉についても、速やかに再開するよう求めた。 *5-2-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1536417.html (琉球新報 2022年6月20日) 日韓豪NZの4国首脳会合を検討 対中けん制、NATOで 日本政府が、スペインで今月下旬に開かれる米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせ、岸田文雄首相と韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳による4カ国首脳会合を開催する案を検討していることが分かった。韓国大統領府関係者が20日、日本から提案を受けたと記者団に明らかにした。海洋進出を強める中国をけん制する狙いがあるとみられる。韓国政府は、日本政府案について今後判断する。会合では「自由で開かれたインド太平洋」推進に向けた協力について意見交換するほか、中国が影響力を急速に拡大している太平洋の島しょ国への支援策も議題になる可能性がある。 *5-2-2:https://www.fnn.jp/articles/-/382371 (FNN 2022年6月29日) 日韓豪NZ 4カ国首脳が会談 NATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に出席するため、スペインを訪問中の岸田首相は日本時間29日午後7時過ぎ、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとの4カ国首脳会談に臨んだ。 NATO首脳会議には、日本のほか、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳が、インド太平洋地域の「パートナー国」として招待されていて、NATOの会議出席を前に、日本時間の29日午後7時過ぎから、4カ国で首脳会談を行った。インド太平洋で存在感を増す中国を念頭に、安全保障や経済をめぐる懸案について協議したほか、ロシアによるウクライナ侵攻に対する連携の強化を確認したものとみられる。これに先立ち、岸田首相は、NATO加盟を目指す北欧スウェーデンのアンデション首相とも会談し、「加盟申請という歴史的決断を支持する」と伝えた。スウェーデンと隣国のフィンランドは、NATO加盟に反対してきたトルコが支持に転じ、加盟に向けて大きく前進している。 *5-3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ716K8NQ71ULFA01N.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2022年7月1日) ロシアによる「究極のいじわる」 岸田首相の行動が「刺激」の見方も ロシアのプーチン大統領が、日本の商社も出資するロシア極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を、ロシア企業に譲渡するよう命令する大統領令に署名した。西側諸国と同調して制裁を強める日本に対し、ロシアは「LNG」という日本の急所を突いて、揺さぶりを仕掛けてきた。ロシアがこうした行動に出る予兆はあったが、とれる対抗手段も限られている。電力やガスの安定供給にも大きな影響が懸念される。「ただちにLNG輸入ができなくなるわけではないと思うが、今後、不測の事態に備えた万全の対策をとる必要がある」。1日夕、経済産業省内で報道陣の取材に応じた萩生田光一経産相はこう語った。政府関係者によると、ロシア側から事前説明はなく発表で知ったという。このため政府は発表内容の精査や情報収集に追われた。日本はこれまで、主要7カ国(G7)が主導するロシア制裁に足並みをそろえ、ロシア産の石炭や石油の段階的な禁輸を決めた。一方、日本の商社が出資するサハリン2のLNGについては「エネルギー安全保障上、極めて重要なプロジェクト」(萩生田氏)とし、撤退しない方針を維持してきた。 ●外務省幹部「やるなよ、やるなよ」 石炭や石油と違って、LNGは増産の余地が少なく、サハリン2に代わる調達先をすぐに見つけるのが難しい。「長期かつ安価なエネルギーの安定供給源」(萩生田氏)として、今後もロシアからの輸入を続ける考えを示していた。日本の足元を見透かすかのように、ロシアが「反撃」に出る予兆はあった。外務省によると、ロシア議会では6月、地下資源法が改正され、資源開発に携わる外国企業の株式譲渡が盛り込まれた。この動きがサハリン2などに波及する可能性もあるとし、外務省と経産省が対応などを検討していたという。サハリン2をめぐっては、2006年にロシア政府の意向で、国営ガス会社が運営会社の株式の50%超を握ることになった「先例」がある。外務省幹部は「『やるなよ、やるなよ』と思っていたが、『やっぱり来たか』という感じだ」と本音を漏らした。ロシアが発表した時期については、岸田文雄首相の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出席がロシア側を刺激したとの見方がある。首相は首脳会議で、ロシアや中国を非難し、日本とNATOの関係強化を強調した。日本政府関係者は「NATOへの出席が影響しているだろう。日本がNATOであそこまで言うのはロシアだって嫌だ」と指摘する。政府は、ロシアの示した条件を慎重に見極めながら対応策を検討している。外務省幹部は言う。「これを守ったら、しっかり先に道があるのかを確認していく作業だ。あちらの条件をのんだのに、結局損をしたら意味がない」 ●サハリン2がストップすればどうなる 「サハリン2」からのLNGがストップすれば、エネルギーの安定供給への影響は避けられない。日本は輸入するLNG全体の8・8%(2021年)をロシアに依存している。その大半がサハリン2で、発電用の燃料や都市ガスの原料に使われている。東京電力と中部電力が出資する火力発電会社JERAや東北電力、九州電力のほか、東京ガス、東邦ガス(名古屋市)、大阪ガス、広島ガスなどがサハリン2のLNGを調達し、電気・ガスを売っている。東邦ガスは、自動車を中心に製造業が集まる東海地区に都市ガスを供給する。LNGの約2割はサハリン2という。昨年末でカタールからの長期調達契約が終了し、サハリン2への依存度が高まった。東邦ガスは「譲渡は報道で知った。事実確認中のためコメントできない」(広報)としている。調達量の半分近くをサハリン2が占める広島ガスは「関係各所から情報収集中で、特に何かお答えすることはない」(広報)としている。LNGを高騰が続く短期契約の「スポット市場」で買うことになれば、電気代やガス代のさらなる値上がりにつながりかねない。この夏は「電力不足」も懸念されている。政府は1日、7年ぶりとなる全国的な節電要請を出し、休止中の発電所も再稼働させて乗り切ろうとしている。LNG火力発電所は、日本の発電量の4割弱を占める主力電源だ。LNGが不足して発電所が運転できなくなれば、電力不足はさらに深刻になる。あるエネルギー関連企業の幹部は「ロシア側は日本の状況が分かっているはず。これはロシアによる究極のいじわるだ」と話す。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC016R60R00C22A7000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2022/7/2) ロシアのプーチン大統領は6月30日、極東の資源開発事業「サハリン2」の運営を新会社に移管するよう命じる大統領令に署名した。日本はサハリン2から液化天然ガス(LNG)需要量の約1割を輸入し、総発電電力量の3%程度をまかなう。電力逼迫のさなか、途絶えることになれば影響は甚大だ。日本のエネルギー戦略、暮らしへの影響を3つのポイントで解説する。 (1)サハリン2とは? どのように日本へガスを運んでいるのか。 (2)代替できるのか? (3)ガス調達できなくなる場合、いつか? (1)サハリン2とは? どのように日本へガスを運んでいるのか。 電気は太陽光以外では、燃料をもとにタービンという大きな羽根を回すことでつくる。火、水、原子、風などの燃料があり、火力はさらに石炭、ガスなどに分かれる。なかでもガス火力発電は日本の消費量全体の4割を占め、有力なエネルギー源となっている。日本のエネルギー全体の自給率はわずか1割程度。古くからエネルギー安全保障、LNG、原油の調達の一極集中が課題で、いびつなバランスの修正にはロシアを組み込むことが必要で、1992年からサハリン2に日本が参画した。ロシア国営ガスプロムが約50%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資する。出資だけでなく、生産量のうち約6割が日本向けであることが特徴だ。ガス大国のロシアは、地続きである欧州へはパイプラインを建設して天然ガスとして供給している。しかし、日本は島国であるため、パイプラインで調達することができない。低温で加圧して液化したLNGの形で、日本に送り込まれている。具体的には、ロシア極東のサハリン沖でガスを採掘し、サハリン島の最南端のプラントで液化し、船で運んでいる。出荷を開始したのは2009年だ。日本では東京湾などでLNG船を受け入れている。サハリン2のLNGは日本の電力やガス会社に供給される。航路は3日程度で、2週間程度の中東より短い。機動力、コストなどの面でも日本のエネルギー戦略の大きな位置を占めてきた。 (2)代替できるのか? サハリン2のLNG生産量は年1000万トンで、うち日本向けは約600万トン。日本のLNG輸入量の約1割を占める。今回、プーチン大統領が署名したことにより、サハリン2には日本から参加する三井物産や三菱商事が今後、運営の枠組みから排除されるリスクが浮上してきた。その場合、一切、日本が調達できなくなる可能性もある。現状、日本の代替案となるのはスポット(随時契約)市場しかない。長期の契約に基づくものではなく、短期的に調達する手法だ。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によって、世界のエネルギー勢力図は激変している。LNG調達のライバルは多く、量の確保は極めて難しい。ガスの脱ロシアを掲げる欧州はロシア産ガスを7000万トン超減らす代わり、スポット市場からのLNG調達や省エネの促進などで需給を保とうと試みる。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2022年のLNGの追加供給余力は世界で600万トンにとどまり、LNG市場の需給は数千万トンの不足に陥る可能性があると分析する。このため、現時点で、日本がサハリン2の代替分を取れる保証はない。さらに、代替できたとしても、企業や家庭の負担は増す。サハリン2の調達価格は単位熱量当たり10ドル前後とされ、スポット価格の数分の1。代替で2兆円近いコストが発生するとの試算もあり、国民に重くのしかかる。 (3)ガス調達できなくなる場合、いつか? 猛暑・発電所トラブルなどが重なり、「電力需給逼迫注意報」が出るような状況での、今回のプーチン大統領による署名。主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催されたタイミングでもあり、日本へ揺さぶりをかけてきた。そもそも、「日本の電気が足りない」は、今年夏は厳しく、冬はさらに深刻、との声が多かった。これがやや楽観論であり、すでに停電リスクが足元に迫ってきていることを浮き彫りにした。ロシアの単なる揺さぶりで、ガス途絶は先、との楽観論もあるが、ドイツは既に、ロシアからパイプラインを通じたガス供給を一部削減され、「非常警報」を発令した。もう一段、危険度が上がれば、ガスの配給制に追い込まれるという。日本に対して、ロシアがガス供給をどうしていくか、現時点で不透明だ。このため、「いつからか」については、「いつサハリン2からのガスがなくなってもおかしくない」のが実情だ。日本は今後、省エネを強化していく方針だが、停電リスクが極めて身近になってきていることを考えなければならない。 *5-4-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/65f42716ff1bffaa7c70f135a5a085265a003cf8 (Yahoo 2022/6/30) ”原発の武力攻撃に備える”提言に盛り込む 全国知事会原子力発電特別委員会 6月30日に全国知事会の原子力発電特別委員会がウェブで開催された。21道府県の知事や担当者が参加し、島根県の丸山知事は委員長として出席。7月に全国知事会に提出する原発の安全対策や防災対策に関する提言案について意見交換した。提言案には、原発に対する武力攻撃などへの対処についても盛り込まれ、ミサイル攻撃が行われるような事態になった場合には、自衛隊による迎撃態勢や部隊の配備に努めることなどが付け加えられている。島根県 丸山達也知事:「この1年間で、状況の変化があったことについて、アップデートしていくと」。また提言案には原子力防災対策が必要な地域が、30キロ圏内まで拡大されたことをふまえ、社会基盤を整備するために使われる電源三法交付金などについても、対象区域を拡大することなどが新たに盛り込まれている。 *5-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/878349 (佐賀新聞 2022/7/1) 参院選―原発・エネルギー 問題から目をそらすな 6月としては異例の猛暑や冷房需要の増加による電力供給の逼迫(ひっぱく)などが大きなニュースとなる中での参院選だ。ロシアのウクライナ侵攻後、ただでさえ上昇傾向にあった原油や天然ガスの価格はさらに高騰し、電力やガソリン料金の値上げにつながった。一方、世界各地で熱波や干ばつ、大規模な豪雨災害などが多発、化石燃料利用を可能な限り減らし、強力な気候変動対策を進めることも急務だ。多くの難題の同時解決が必要なエネルギー政策は国の将来を左右する重要な課題だ。にもかかわらず、選挙の主要な争点となっていないのは大きな問題である。エネルギーや電気の使い方に多くの注目が集まっている今こそ、各党は原子力発電の扱いを含めたエネルギー政策について積極的に論争し、有権者の信を問うべきだ。日本のエネルギー政策と他の先進国とのギャップは非常に大きい。先進国のほとんどが気候変動対策として石炭火力の廃絶を決め、再生可能エネルギーの急速な導入を進めている。発電事業者と送配電網を所有する企業とを完全に分離する発送電分離も多くの国で実現済みだ。再生可能エネルギーの価格は急速に下がり、多くの国で最も安い電源となった。一方で、原発の建設コストは高騰し、多くの国で競争力を失っている。ウクライナ危機をきっかけに欧州諸国は短期的な化石燃料の調達や利用に取り組む一方、再生可能エネルギーの一層の拡大を通じて海外の化石燃料への依存から脱却する政策を打ち出した。だが、日本では気候変動の原因となる火力発電、それも石炭火力への依存が続き、再生可能エネルギーの普及は遅れている。資源小国と言われる日本には、豊かな再生可能エネルギー資源がある。温室効果ガス排出を抑え、資源の海外依存を解消するためには再生可能エネルギーの一層の拡大が不可欠である。日本でも2011年の東京電力福島第1原発事故後、電力市場の自由化が進んだが、欧州並みの発送電分離は実現していない。電力会社から独立した業者によって、透明性が高く、公平な送配電網へのアクセスが保証されていれば、再生可能エネルギーへの投資はもっと進むし、広域の融通も容易になり、需給に余裕も生まれる。日本の課題は多く、難問が山積している。ガソリン高騰対策としての補助金や海外の化石燃料の調達、既存の原発の早期稼働といった目先の対策では解決できないものばかりだ。国政選挙の場では、温室効果ガス排出の早急かつ大幅な削減を実現する一方で、エネルギーの海外依存を減らし、いかに安定供給を実現するかという長期的な視点に立った政策論争が欠かせない。太陽光などの価格が急降下する中、高コストで事故のリスクも高い原発の利用を拡大することに合理的理由があるのか。短期間で一層の再生可能エネルギーの導入や省エネを実現するため、具体的にどのような政策や規制を導入するのか。世界の流れに抗して石炭火力依存を続けることのリスクをどう考えるのか。各党には論争の中で、政策の根拠と将来へのビジョンを明確に示すことが求められている。それが、未来の社会に対する政治家の責任だ。
| 外交・防衛::2019.9~ | 10:19 PM | comments (x) | trackback (x) |
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