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2023.8.17~9.18 日本の経済・財政政策及び環境政策について (2023年9月23日、10月1、3日に追加あり)
(1)日本の財政 ← インフレ政策だけで経済成長し、再建できるわけはないこと


  3023.1.22産経新聞      2021.7.21Monoist       総務省

(図の説明;左図のように、日本の名目GDPは、日本よりも人口の少ないドイツの名目GDPと比較して、2012年には大きな差があったが、2022年には殆ど差がない。この間、日本では金融緩和が続けられ、イノベーションがつぶされたが、ドイツでは逆に脱原発やEV化を計画的に行った。また、中央の図のように、日本における実質GDPは、1991年から1999年までは名目GDPより小さかったが、2000年以降は名目GDPより実質GDPの方が大きい。これは、1991年に崩壊したバブルの後始末が1999年頃までかかり、2000年以降にやっと正常軌道に乗ったからである。さらに、右図は、1995年~2021年の名目GDP成長率と実質GDP成長率の推移であり、殆ど同じ動きをしているが、少しはイノベーションが進んだ1999年以降2009年までは実質GDP成長率の方が大きかったのである)

1)名目600兆円経済だから何か?
 *1-1-1は、「内閣府が発表した4~6月期のGDP速報値で、物価変動の影響を除いた実質季節調整値が3四半期連続プラス成長・前期比1.5%増・年率換算6.0%増だった」と大喜びで書いているが、2022年は上の左図のように、コロナによる経済停止で日本は著しくGDPが下がっていたため、2022年と比較すればもとに戻りつつある現在、GDPが増えるのは当然である。

 さらに悪いのは、個人消費が弱くなっているため、前期比年率で内需はマイナス1.2ポイント、外需はプラス7.2ポイントと輸出に頼って全体を上げており、これは、国民は貧しくなり、先進国に輸出することで稼いでいる開発途上国型経済に戻りつつあるということなのである。

 そして、これは、インフレで実質賃金を下げた上に、65歳以上には100%公的年金生活世帯が24.9%、80~100%公的年金生活世帯が33.3%もいるのに、年金給付額を下げ社会保険料を上げて可処分所得を減らし、インフレ政策で物価を上げたことが原因である。

 そのため、実質GDPが560.7兆円とコロナ前のピーク2019年7~9月期の557.4兆円を超えても国民が貧しくなったことに間違いはなく、需要の大半を占める消費が物価高で落ちて、耐久消費財の白物家電も下押し要因となり、その結果、設備投資も伸びなかったのだ。

 そのような中、*1-1-2は、①日銀は長期金利が0.5%の上限を一定程度超えるのを容認すると決めた ②日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服してインフレの下で新たな成長に向かいつつある ③政府と日銀が慎重な経済運営を続けるなら、名目国内総生産(GDP)600兆円超の思ってもみなかった視界が開ける ④物価が上がりだして名目GDPが押し上げられた ⑤GDPだけでなく、企業の売り上げ・利益・働く人の給与明細・株価・政府の税収などの目に見える経済活動は「名目」で表示される ⑥デフレ脱却が大きな影響を及ぼすのは企業行動 ⑦大企業は、1990年度から2021年度にかけ、売上高が5%増に留まる中で、リストラによって利益を捻出し経常利益を164%伸ばした ⑧企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させた ⑨インフレ到来で2022年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えてバブルの頂点だった1989年以来の高い伸び、中堅・中小企業も合わせた全規模でも売上高は8.7%増えた ⑩売り上げ増の手応えをつかんで、企業は国内で設備投資のアクセルを踏み出し、2023年度の設備投資は名目ベース100兆円台に乗せて過去最高となる勢い ⑪今回の物価上昇のきっかけはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的インフレでコロナ禍からの回復や人手不足も手伝って国内にも価格転嫁や賃上げの波が及んだ ⑫賃金の伸びは物価の上昇に追いつかず、実質賃金は14カ月連続の減少 ⑬消費者物価上昇率は民間エコノミストの予想を平均すると、2023年7~9月期が前年比2.76%で賃金の伸びが物価を上回れば2023年度下期に実質賃金は増加に転じる ⑭家計の所得が消費を後押しする好循環に入るチャンスが巡ってきた ⑮バブル崩壊後、30年あまり続いた光景が変わるにつれ、財政・金融政策も正常化を探る動き ⑯その際に政府・日銀が心すべきは、経済の好循環に水を差さぬこと ⑰政府はインフレの受益者で、税収の自然増が財政を下支えしている 等と記載している。

 このうち、①②は、「日銀の金融緩和(長期金利0.5%の上限)のおかげで、日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレ下で新たな成長に向かいつつある」と主張しているが、上の中央の図のように、この記事が“デフレ”と呼んでいる2000年以降の実質GDPは名目GDPより高い。つまり、「インフレになれば経済成長する」という説自体が正しくないのだ。

 また、③の「政府と日銀がこのまま低金利政策を続ければ名目GDP600兆円超の視界が開ける」というのは、単に尺度となる貨幣価値下がったから同じ実体経済が大きく表されただけである。わかりやすく言えば、1mの長さを現在の半分と決めれば、地球の赤道は(約4万kmではなく)約8万kmになるのと同じだ。そのため、貨幣価値が下がって物価が上がれば、④のように名目GDPが上がるのは当然のことなのである。

 また⑤⑥は、低金利で金利より高い物価上昇が続けば実質金利はマイナスになるため、金を借りた方が得をして金を貸した方が損をする。そのため、預金を持っているよりも、何でもいいから利益を生むものに投資した方がよいということになるが、これが日本企業の投資利益率が低い理由だと再認識した。そのため、私は、日本企業にはなるべく投資しないことにする。
 
 さらに、⑦の「大企業は1990年度から2021年度にかけ、リストラで利益を捻出し経常利益を164%伸ばした」というのは、リストラのやり方には問題が多かったと記憶しているが、利益が出ずいらない部門を整理すればリストラは必要になる。そのため、そういうことが多い時期には、国が財政支出をしてインフラ整備を進め、失業者を吸収するのが定石なのである。

 従って、⑧の「企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させた」というのは、時と場合とやり方に依るのだ。

 なお、⑨の「インフレ到来で2022年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えてバブルの頂点だった1989年以来の高い伸び、中堅・中小企業も合わせた全規模でも売上高は8.7%増えた」というのは、今もバブルになりかかっているため、そのうち整理が必要になると思う。

 そのため、⑩の「企業が売り上げ増の手応えを掴んで、国内で設備投資のアクセルを踏み出し、2023年度の設備投資は名目ベース100兆円台に乗せて過去最高となる勢い」というのは、一部はイノベーションのための本物の設備投資かもしれないが、物価上昇による売上増部分は、近いうちに数量で調整されるため、喜びすぎない方がよいだろう。

 なお、⑪のように、今回の物価上昇のきっかけはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的インフレが主であるため、コストプッシュインフレで、かつ物価上昇分は輸入代金として海外に流出している。そのため、企業に残っているのは、低金利による借り得の部分だけであり、⑫のように、賃金の伸びが物価の上昇に追いつかず実質賃金が14カ月連続減少するのは必然なのだ。

 また、⑬の「消費者物価上昇率は民間エコノミストの予想を平均した」というのも、あまりに意図的で正確ではなく、2023年7~9月期の消費者物価上昇率が前年比2.76%というのは低すぎる。そのため、賃金の伸びが物価を上回って実質賃金が増加に転じ、⑭のように、家計所得が消費を後押しする好循環に入ることはないと思われる。

 従って、⑮⑯⑰については、財政・金融政策が正常化を探るのは当然のことだが、⑰のように、政府はインフレの受益者で、税収自然増が財政を下支えしているだけでなく、インフレで国債実質残高も目減りするメリットがあるため、今となっては、政府は、国民を犠牲にしてもこの状況を変えるのは期待し難いわけである。

2)名目と実質の差が意味すること
 日経新聞は、*1-1-3で、①内閣府発表4~6月期GDP速報値は、名目成長率が前期比年率プラス12.0%でインフレが日本経済の名目値を押し上げた ②デフレで長らく低迷していた名目GDPが世界的な物価上昇を契機に動き出した ③コロナ禍の時期を除けば1990年4~6月期(プラス13.1%)以来の伸び ④企業の売上高・賃金・株価等は名目値なので、インフレによる経済規模拡大で経済指標も上昇する ⑤名目成長率を項目別にみると、個人消費は名目前期比0.2%減だが、インフレの影響で実質は0.5%減 ⑥設備投資は実質横ばい、名目0.8%増 ⑦GDPデフレーターからみた物価上昇率は前年同期比3.4%と3四半期連続プラスで現行基準で遡れる1995年以降最高 ⑧過去の基準も含めて1981年1~3月期以来 ⑨GDPデフレーターの上昇要因は、輸入物価上昇の一巡による押し上げ効果と価格転嫁による国内物価上昇 ⑩賃金も安定的に上昇すれば、日本経済の脱デフレに向けた道筋が本格化する と記載している。

 日経新聞は、④のように、「企業の売上高・賃金・株価等は名目値でインフレによる経済規模の拡大で経済指標も上昇する」として名目値を重視しているが、それは指標となる数字上のことにすぎない。実際には、消費(=実需)は実質でしか行えないため、必ず実質による修正が入るのである。その結果、②とは違って“デフレ”と経済低迷は無関係だったり、⑤の個人消費は実質0.5%減だったり、その結果、⑥の設備投資は実質横ばいだったりという事実があるのだ。

 従って、⑩の賃金の安定的上昇も、企業が実質利益を安定的に上昇させることができなければ起こらず、金融緩和によるインフレ政策だけでは無理なのだ。

 佐賀新聞は、*1-1-4で、⑪内閣府が発表した2023年4~6月期のGDP(季節調整済)速報値は、物価変動を除く実質で前期比1.5%増、年率換算6.0%増 ⑫半導体の供給制約の緩和で自動車などの輸出が伸びた ⑬輸入の減少が統計上プラスに寄与した ⑭物価高の影響でGDPの約6割を占める個人消費は低調 ⑮景気実感に近いとされる名目GDPは前期比2.9%増で、年率換算は12.0%増 ⑯物価高を反映して20年7~9月期(年率22.8%増)以来の高い伸びで、金額も過去最高の590兆7千億円に達した ⑰4~6月期の実質を項目別に見ると、個人消費は前期比0.5%減で、外食・宿泊は伸びたが食料品や白物家電が相次ぐ値上がりの影響で落ち込んだ ⑱設備投資は0.0%増 ⑲輸出は3.2%増 ⑳輸入は4.3%減で、輸入の減少はGDPを押し上げる要因 等と記載している。

 ⑪の2023年4~6月期のGDP(季節調整済)速報値が実質で前期比1.5%増、年率換算6.0%増だったというのも、コロナ禍からの回復途上であることを考えれば当然である。

 また、⑬のように輸入減が統計上プラスに寄与したり、⑰のように個人消費は前期比0.5%減で外食・宿泊は伸びたが食料品・白物家電が値上げの影響で落ち込んだりした結果、⑱の設備投資は0・0%増でしかないのだから、経済の拡大は数字上のトリックにすぎない部分が多い。

3)物価上昇率以上の賃金上昇はない 左 実質所得はプラスにならない


   2022.11.18日経新聞        2023.7.3日経新聞    2023.8.19日経新聞

(図の説明:1番左の図は、前年同月と比較した場合の物価上昇率で、消費税増税によって物価上昇し、国民の節約によって《国民が貧しくなって》元に戻ることを繰り返してきたが、それでも日経新聞は、2020年に3.6%物価上昇したのを「物価の伸び」などと表現している。そして、中央の2つの図のように、必需品でエンゲル係数の高い食品の値上げが8%以上、牛乳の値上げは10~20%に達し、貧しい人ほど物価上昇による負担が大きい結果となった。そして、今回も1番右の図のように、収入以上の支出はできないため、国民は節約して不便になりながら、物価だけは元の水準近くに戻るだろう)

 内閣府発表の2023年4~6月期GDP速報値は、*1-1-5のように、年率換算6.0%増加、GDP成長率は名目年率12%、実質年率3.7%になったが、外需に一時的に支えられ、個人消費・設備投資の内需が弱かった。

 そのため、メディアは、賃上げや投資の実行へ官民で策を練るべきとしているが、日本は、イノベーションや構造改革で生産性を上げない限り、物価上昇率以上に賃金を上げて実質所得をプラスにすることはできないというのが私の結論であるため、以下に、その理由を記載する.。

 i) サービス輸出で訪日外国人のインバウンド消費が堅調だったのはよいが、サービス輸出には観光だけではなく、高度な医療・介護サービスを外国人に提供する付加価値の高いサービスもある。しかし、この10年以上、政府は医療・介護費用を削減することしか思いつかず、日本社会の成熟化を活かした高度な医療・介護サービスを作ることができなかったため、日本は既にこの分野で高度とは言えなくなっていること

 ii) モノを輸出するには良いものを安価に作る必要がある。しかし、新興国はイノベーション等で品質も磨いているが、日本はイノベーションを嫌い、高コスト構造を変えず、わずかな改良しかしなかったため、日本製は品質より数倍高価になり、競争力が落ちていること

 iii) 年率6%成長のうち輸入減の貢献は4.4%分で輸入は4.3%減だったそうだが、輸入の数量減は内需の弱さを映しており、これは、実質所得が目減りして個人消費がマイナスになるからだが、(リーダーが余程の馬鹿でない限り)やってから失敗し、時間と金を無駄遣いしなくても容易に想像できたこと

 iv) 高コスト構造を変えないため、企業は名目利益増加の多くを人件費以外のコスト増に費やさざるを得ず、実質所得がプラスになるほどの賃上げはできないが、これは、*1-1-6や*1-1-7のように、結果として表れていること

 v) 実質所得がマイナスで、預金や債券も目減りし、国民の財産や所得が政府や企業に移転して消費は以前より少なくなるため、内需を当てにした民間設備投資は減ること

 vi) *1-1-6に「日銀が掲げる2%の物価目標」と書かれているが、日銀の2%物価目標自体が国民の目を欺きながら国民の財産や所得を政府や企業に移転する目的であるため、日銀は中央銀行の役割を果たしていないこと

4)年金世帯は物価上昇で必ずマイナスになる

  
    Hacs          厚労省            厚労省

(図の説明:左図が年金制度の概要で、国民年金は65歳以上になれば全員もらえるが、サラリーマンの専業主婦だけはその原資を支払っておらず、制度導入時からその不公平は指摘されていた。しかし、それでも、団塊の世代が支える側にいた時は年金原資が豊富だったので、厚労省は年金原資を使って無駄遣いの限りを尽くし、団塊の世代が支えられる側になる時に『制度が維持できない』として、中央の図の物価スライド制を導入する制度改正をしたのである。物価スライド制のKeyは、右図のように、賃金や物価の上昇時にそれより低い年金支給額上昇にすることによって、年金受給者が気付かぬように年金の所得代替率を下げていくもので、この改正は『高齢者は豊かだ』というデマをメディアを通じて大々的に流すことによって行われた。本当は、年金原資を発生主義で積み立てておくべきだったのだが、現在もそれは行われていない)

 
       総務省          2020.7.21時事    2022.1.31ビジネス日経

(図の説明:65歳以上を“高齢者”と定義して退職させれば、左図の折れ線グラフのように2021年には29.1%が高齢者であり、その後も高齢者の割合は増えていく。そして、中央の図のように、2019年は高齢者の48.4%で公的年金か恩給が総所得の100%を占め、同じく12.5%で公的年金か恩給が総所得の80~100%を占めるのである。従って、右図のように、高齢者の貧困率はうなぎ上りに上がっているのだ)

 年金世帯は、下の段の左図のように、2021年の数字で全世帯の約30%であり、そのうち総所得の100%を公的年金・恩給で賄っている世帯が(2019年の調査だが)48.4%、80~100%を公的年金・恩給で賄っている世帯が12.5%、60~80%を公的年金・恩給で賄っている世帯が14.5%であるため、年金支給額は年金世帯の所得を通して、個人消費に占める割合が大きい。

 *1-3-1も、①世帯主が65歳以上世帯の2022年の1ヶ月平均支出は21万1,780円で全体の39% ②年金暮らし世帯がGDPの15%に影響 ③賃上げの恩恵を受けにくい高齢者の消費活性化がデフレ脱却を左右 ④日本の2022年名目GDPは556兆円で5割は個人消費 ⑤GDP全体の15%程度を年金世帯の消費が担っている 等と記載している。

 このうち①について、平均で21万1,780円/月支出するのは、生活保護の基準となる最低生活費(神奈川県横浜市の場合:185,490円、https://seikatsuhogo.biz/blogs/140 参照)に近く、都市部ではぎりぎりの生活水準で、年金生活者にはこれ以下の人が半分はいるのである。

 また、③の「高齢者は賃上げの恩恵を受けにくい」のは、上の段の中央及び右図のように、「マクロ経済スライド」が導入されたことで、物価上昇と賃上げの恩恵は年金世帯には一部しか及ばないため、物価上昇率を加味すると実質年金支給額はマイナスになるということである。

 つまり、物価上昇は実質年金支給額をマイナスにすることで、②④⑤のように、高齢者に消費を減らさせ、GDPには悪影響を与え、下の段の右図のように、高齢者の貧困を増やすのである。

 しかし、日経新聞は、これがGDPを押し下げることしか問題にせず、新世代の高齢者が自由に所得を使えれば高齢化した国で必ず必要になる高齢者向けのサービス(医療・介護・生活支援を含む)が磨かれることについて全く触れていない。これらのサービスを磨くことは、政府が生産性の低い金の使い方をするよりずっと将来のためになるのに、である。

 なお、*1-3-1は、「65歳以上の無職世帯夫婦の金融資産は1,915万円で、全世帯平均より636万円も金融資産が多い」とも記載しているが、長期間溜めればそれだけ金融資産が多くなるのは当然だが、少ない年金の足しにしたり、夫婦に医療・介護が必要になった時の備えとすべき流動資産なのである。そのため、1,915万円の金融資産というのは、足りなくなる確率の方が高い金額だ。

 *1-3-2は、2023年1月20日、⑥来年度の公的年金額は3年ぶりの増額改定だが、「マクロ経済スライド」の適用で物価高騰に追いつかず実質0・6%の目減り ⑦長期的に年金財政を維持して将来世代の支給水準を確保するための対応 ⑧食料品・光熱費等の値上がりが続く中で年金頼みの高齢者にさらなる痛手 ⑨公的年金制度は現役世代が払う保険料等で高齢者への給付を賄う「仕送り方式」 ⑩高齢者は消費期限が近い「見切り品」の食料品購入が中心で、冬はエアコンなどの電源をオフにして凌ぐ 等と記載している。 
 
 つまり、⑨のように、「仕送り方式(賦課課税方式)」を前提として、⑦のように、「長期的に年金財政を維持して将来世代への支給水準を確保する」として「マクロ経済スライド」を肯定しているが、仕送り方式だから世代間で人口が変動すると年金原資が余ったり、足りなくなったりするのだ。これが、企業会計の年金給付会計のように発生主義で年金原資を積み立てておけば問題は生じず、その考え方はFASB83により1985年には既に世界で認知されていたのである。

 そのため、⑥のように、「マクロ経済スライド」の適用で年金額を実質目減りさせたり、⑧や⑩のように、物価高騰の皺寄せを高齢者に押し付けたりするのは、仕方がないのではなく悪意であると言える。

 なお、*1-3-3は、⑪政府は2023年3月に物価高対策等として予備費から2兆2,226億円を支出すると閣議決定 ⑫「地方創生臨時交付金」に1兆2,000億円 ⑬自治体を通じたLPガス利用者等の負担軽減や低所得世帯へ一律3万円の給付 ⑭低所得世帯の子ども1人につき5万円の給付を実施 ⑮家畜の餌となる配合飼料の価格高騰対策965億円 ⑯輸入小麦の政府売渡価格激変緩和策310億円 ⑰農業用水利施設の電気料金対策34億円 ⑱飼料対策は価格安定制度とは別に8,500円/t支給 ⑲新型コロナ対策として病床確保する医療機関への交付金向けに7,365億円 等としている。 

 しかし、⑪~⑲は、賢い歳出を続けていれば防ぎ得た事象についてその一部を補填しているにすぎず、高齢者に恩恵があるのはそのうちのごく一部であり、本来はこういう事態が起こらないようにすべきであり、また、(1つづつ詳細には書かないが)それはできた筈なのである。

 佐賀県統計分析課がまとめた2023年7月の佐賀市消費者物価指数(2020年を100)は、*1-3-4のように、全体では104.9と4.9%上昇し、うち家事・家具用品は114.7と14.7%上昇、食料は111.9と11.9%上昇など、必需品の物価上昇率が著しく高い。そのため、家計が感じた佐賀市民の消費者物価上昇率は10~15%程度となるが、私が住む埼玉県の場合は体感消費者物価上昇率が20%以上になるため、家計は全体ではなく必需品の消費者物価上昇率を感じていることになる。これは、必需品でなければ高すぎるものは買わないため、当然と言える。

5)“異次元金融緩和”の本当の目的は何だったのか
 *1-2は、①日銀は、2013年1~6月の金融政策決定会合の全議事録を公表 ②この議事録はデフレ脱却のため大規模な金融緩和を掲げて2012年12月に誕生した第2次安倍政権の意向で変わる日銀の姿を示す ③日銀出身の白川総裁時代は「物価目標を『2%』と定めて大規模緩和する」という政権の方針に日銀は抵抗 ④白川総裁は、総選挙の大勝という「民意」を背にした安倍政権の圧力に屈して2013年1月の会合で物価上昇率2%の目標を決定 ⑤投票権を持つ政策委員たちから「目標達成は難しい」とする意見が相次いだ ⑥同年3月、白川氏の後任として安倍政権に起用された財務官僚出身の黒田総裁は着任後すぐ大規模緩和に着手 ⑦黒田総裁は「人々の『期待』に働きかけてデフレを脱却するため、市場に流す金の量を2倍に増やし、2年程度を念頭に2%の物価目標を目指す」と決定 ⑧佐藤審議委員は、大規模緩和の考え方が根本的に誤っている可能性を指摘 ⑨「2%の物価目標」は今も達成されていない 等としている。

 このうち、①②は良いが、⑥⑦の「大規模緩和して市場に流す金の量を2倍に増やせば、人々の期待によってデフレを脱却できる」という考え方は、あまりにも国民や経済を甘く見ているし、根本的に誤りである。

 しかし、④については仕方がないとしても、③⑤⑧の「物価目標を『2%』と定めて大規模緩和する」という安倍政権の方針に、日銀が抵抗したり、委員が反対したりした言葉は、「○○は難しい」とか成功する可能性も一部は残したような曖昧な言い方であるため、経済や金融の専門家にしては、経済の素人に対して、誤解させずに理由を説明する義務を果たせていない。

 そして、私の予想通り、散々な迷惑を国民にかけても、⑨のように「2%の物価目標」は今も達成されていないが、そもそも「コストプッシュインフレでもいいから、ともかく物価上昇させて政府の実質債務を減らそう」という考え方自体が、日本国憲法前文に書かれている国民の福利を完全に無視しているのだ(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)。

6)歳出の正常化について
 *1-4は、①政府は来年度予算編成の基本方針をコロナ禍以降に膨張した歳出について平時に戻していくと決め ②各省庁の予算要求に制限をかける概算要求基準も閣議了解し、配分にメリハリをつけつつ全体の規模を抑える方針だが、例外や抜け穴が目立つ ③最たるものは政権が2倍近くへの拡大を打ち出した防衛費で、防衛費大幅増は今年度予算から始まって他の重要分野や財政健全化にしわ寄せを及ぼしつつある ④子ども政策財源も防衛費増と同様に別枠で、政府は幅広い「歳出改革」による捻出を当て込む ⑤各省庁の裁量性が高い経費の一律1割減を求めた上で、削減額の3倍分までの要求を「重要政策」として約4兆円の特別枠で認める ⑥歳出の「正常化」への試金石は、高騰したガソリンや電気・ガス料金の補助金の扱い ⑦社会保障など他の分野も物価高や賃金上昇に応じた増額を求める声は強まっている ⑧身の丈に合わない予算増を無理に続ければ政策資源の配分を歪めるため、減らせる予算の徹底的な洗い出しが必須の筈 ⑨先進国で最悪水準の借金が積み上がっている ⑩この状況を漫然と続けるのは将来世代への背信 等と記載している。

 ①については、日本はコロナでそこまで経済を止める必要はなく、感染症が流行すればワクチンや医薬品を製造・輸出する科学技術力があって当然の先進国なのだが、厚労省は適切な指導ができなかったため、歳出が膨張しただけで歳入は増えなかった。

 また、日本は膨らんだ予算を縮小するのに、②⑤のように、各省庁の予算要求を一律10%減らすなどめくらめっぽうの乱暴なやり方しかできず、それを補うため削減額の3倍までを「重要政策」として特別枠を認めるなど、かえって無駄遣いを含む歳出を増やす状況である。

 これについては、国際公会計基準(IPSAS)に従い、複式簿記を使用して、速やかに財務書類を公表して各年度の財政政策の影響を国民に報告するとともに、予算委員会では、前年度の財務書類を基にして次年度予算を審議することが解決策になる。

 この際は、当然、省庁毎ではなく事業毎の行政コスト(国民にとっての受益と負担)も計算し、政策について反省しながら、効果の高かった政策を残し、無駄遣いの多かった政策は止める等の作業を繰り返せば、国の歳出生産性は次第に上がるのである。ただし、国や地方自治体で「『効果が高い』とは何か」については、民間企業と全く同じではないため、事前に十分な議論をして定義を決めておく必要がある。

 これらを念頭に考えれば、③④については、より良い代替案のある無駄遣いが多額で、それを、⑦のように、ただでさえ生活が苦しい高齢者予算から一部でも引き出すのは論外である。

 また、⑥の高騰したガソリンや電気・ガス料金への補助金のうち、ガソリンはハイブリッド車の使用で消費が1/2程度に減っているため、価格が2倍になってもあわてる必要はない筈だ。また、電気・ガス料金も、輸入化石燃料に頼り続けてきたから上昇しているのであるため、1995年頃から言っている環境対応をさっさと行っていれば問題はなかった筈である。

 そのため、⑧のように、時代に合わない補助金はかえって資源配分を歪めるので、地球温暖化対策に逆行する予算は真っ先に減らすべきだ。そして、日本政府が内容の検証もせず不適切な政策を採り続けたことにより、日本は、⑨のように、先進国最悪の借金を抱えたが、これは、⑩のように将来世代への背信であるだけではなく、現在及び過去の国民に対する背信でもあり、大変迷惑な行為なのである。

(2)気候変動について
 今年の夏は7月からものすごく暑かったため、私は電気料金度外視で夜もエアコンをつけっぱなしにしていたが、エアコンをつけることさえ節約している年金生活者も決して少なくないため、この電気料金高騰の中でどう過ごされていただろうか。

 そのような中、WMOとEUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、*2-1のように、2023年7月の世界平均気温が観測史上最高となる見通しと発表し、太古の気候を探る研究者は「地球の平均気温は約12万年ぶりの最高気温を記録した」と警鐘を鳴らしたのだそうだ。

 12万5000年前の「エエム紀」の平均気温は現在の工業化前(1850~1900年)と比較してセ氏0.5~2.0度ほど高かったが、今年6月の世界平均気温は工業化前を1.5度以上上回り、国連のグテレス事務総長は「地球の沸騰が始まった」と警告した。

 ただ、12万5000年ぶりの暑さが「エエム紀」と異なるのは、*2-2のように、人間の活動が地球環境に多大な影響を及ぼして起こったことで、そのため現代を「人新世」とする議論が国際地質科学連合で大詰めを迎えているのだそうだ。確かに、現在は人口が多く、影響の大きな公害を出す技術も使うため、注意を怠れば地球に不可逆的な変化をもたらす。

 従って、*2-3のように、IPCCは第6次統合報告書を纏め、温暖化対策の緊急性を強く訴えたが、今年は日本がG7の議長国だったため、G20と連携して積極的な対策を加速すればよかったのに、原発も禁止した「パリ協定」以下の成果しか出さず、意識の高さに違いが見られた。

 さらに、アジア等の途上国で石炭火力への依存度が高ければ、日本は再エネ・蓄電池・省エネ投資等で手伝えばよいのに、*2-5のように、自国でもそれを十分に行わず、石炭火力にアンモニアを混ぜたり、石炭火力から出るCO₂ を貯留したりなど、コストが上がって量にも限りがある提案をし、原発回帰に走ったのは情けない。

 このような結果、*2-4のように、台風の豪雨や線状降水帯が頻繁に発生し、過去最多の雨量を記録するケースも目立っているが、この原因も地球温暖化である。そのため、その原因をなくすか、災害時には短期間の避難ではすまないため安全対策として移転するかしかないだろう。

(3)原発と予算

   
   2023.8.7東京新聞    2023.8.8東京新聞   2024.8.24東京新聞

(図の説明:左図のように、「廃炉作業を行うために、タンクを減らして新しい設備を作る必要がある(科学的根拠ではない)」として、中央の図の仕組みで処理水の海洋放出が始まった。処理水の放出口は、右図のように、陸から1kmしか離れていない水深12mの場所にあるため、汚染物質の濃度は放出口付近及び潮流に乗って東北の太平洋沿岸で高くなると思われる)

1)アルプス処理水の放出について

 *3-2-1は、フクイチの原発処理水は、2023年8月24日午後1時頃放出開始で、①タンクの水を約1200倍の海水で希釈した処理水を22日夜に採取してトリチウム濃度を調べ ②トリチウム濃度は計画の基準1500ベクレル/リットル(国の放出基準の40分の1)を下回り ③トリチウム以外の放射性物質濃度が基準未満であることは確認済 ④原発内のタンクには大半の放射性物質を除去する「多核種除去設備(ALPS(アルプス))」を通した水が約134万トン溜まっており ⑤今年度はこのうち約3万1200トンを放出する計画 ⑥1回目の放出は約17日間かけて約7800トンを流し ⑦放出開始から1カ月程度は、沖合約1キロ先の放水口の周辺で海水を毎日採取し、トリチウム濃度を調べる としている。

 このうち①②より、希釈する前の処理水は180万ベクレル/リットル(=1500ベクレル/リットルX1200=国の放出基準の30 倍)で、⑤⑥⑦より、1回目の放出で約17日間で14兆400ベクレル(=180万ベクレル/リットルX7800X1000 )のトリチウムを海岸から1kmしか離れていない放水口より放出し、⑤より、今年度内に56兆1,600億ベクレル(180万ベクレル/リットルX 31,200X1000)のトリチウムを同じ放水口から放出することがわかる。

 ここでおかしいのは、i) 希釈して薄めれば何でも濃度基準以下にはなるが、それでよいわけがなく、総量で議論すべきこと ii) (理由を長くは書かないが)“国の濃度基準”を満たせば健康被害を起こさないという科学的根拠もないこと iii)海岸から1kmしか離れていない水深12mの浅い放水口から放出すると、(海流の影響があるので詳しい調査が必要だが)汚染物質の濃度は放水口付近や東北の太平洋沿岸で濃くなると思われること である。

 また、そもそも④の「多核種除去設備(ALPS(アルプス))を通した水が約134万トンも溜まっている理由は、事故で溶け落ちた核燃料に地下水が流れ込むのを防ぐために凍土壁を作り、冷却液を循環させて年間十数億円もかけているのに地下水の流入を防ぐことができず、陸側に遮水壁も作ったがそれでも原発建屋に雨水・地下水が流入するのを防げていないからである。

 そのため、③は当然であって欲しいが、それも危うく、「国の濃度基準さえ満たせば、科学的で安全である」と考えていること自体が非科学的であるため、安全にも疑問があるわけだ。

 しかし、*3-2-2も、⑧岸田首相は、「漁業が継続できるよう、政府が全責任を持って対応する」と「風評被害」を恐れる漁業者に強調した ⑨順調に進んでも30年に及ぶのに誰が・どう責任を取り続けるのか ⑩フクイチでは、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため大量の冷却水をかけている ⑪そこへ地下水や雨水が加わって「汚染水」が毎日約90トンずつ出続ける ⑫その「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたものが「処理水」である ⑬政府は、一昨年、濃度を国の基準値未満に薄めた上で海底トンネルで沖合一キロの海に流す方針を決めた ⑭原発構内には1000基を超える「処理水」タンクが林立し、廃炉作業の妨げになるとしている ⑮ALPSを用いても放射性物質はわずかに残り、30年間放出し続ければ膨大な量になる ⑯全国漁業協同組合連合会の坂本会長は「科学的な安全と社会的な安心は異なり、科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるものではない」と強い懸念を表明した 等と記載している。

 このうち、⑧⑯の「風評被害」という言葉は、「根拠のない間違った情報や意図的なデマで生じる経済的損害」という意味だが、⑮のように、国の濃度基準を満たしていても30年間放出し続ければ膨大な量になる。そのため、「濃度が基準以下であれば安全」と考えていること自体が科学的でないため、言葉の使い方も間違っているのだ。

 また、⑨のように、「誰が・どう責任を取り続けるのか」も不明で、放出の意思決定をしていない国民の税金や電力料金で責任をとるのなら論外である。さらに、⑩のように、未だに事故で溶け落ちた核燃料を冷やすために大量の冷却水をかけなければならないのであれば、「冷却水をかけて冷やせばよい」と判断したこと自体に問題があったわけだし、⑪のように、未だに地下水や雨水が流れ込んでいるのなら東電や経産省の工事に問題がある。

 そのため、⑫の「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたという「処理水」がどこまで安全かも疑問になるし、⑬のように、「濃度を国の基準値未満に薄めれば沖合一キロの海に流し続けても安全だ」ということこそ、科学的根拠がない。

 さらに、⑭の「原発構内にある1000基を超える“処理水”タンクが廃炉作業の妨げになる」というのは単なる場所不足による時間切れにすぎず、科学的根拠にはならない。そして、廃炉作業も、いつから始めていつ終わるつもりだろうか?

2)国の責任のとり方について
イ)国内の状況
 *3-3-1は、西村経産相がフクイチの処理水放出が始まるのを前に小売業界団体の幹部と面会し、①福島県産水産物等の風評被害が懸念されるので積極的に販売に取り組むよう求め ②都内で開かれた風評対策・流通対策連絡会で小売関連6団体の幹部に処理水の海洋放出後も福島県産の販売継続を要請 ③日本チェーンストア協会の三枝会長は「放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱う」と応じ ④小売業界は消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望し ⑤具体的には、国際機関等の第三者による安全性の厳格な確認・処理水が基準を満たしているかの監視結果の迅速な公表・水産物の検査体制の徹底を求めた ⑥地元漁業者らは処理水の放出により風評被害で売れ行きが落ち込むのではとの懸念を訴え ⑦全漁連の坂本会長らが自民党水産部会に参加して処理水放出に伴う中国・香港の輸入規制を巡り、販路拡大への支援を求めた ⑧中国は処理水放出に反発して日本産水産物の規制を強め ⑨岸田首相は放出と風評被害に「国が全責任を持つ」と強調 ⑩復興庁は処理水処分に伴う対策として水産物・水産加工品の販売支援事業41億円、漁業人材の確保で21億円を24年度概算要求で要求する と記載している。

 また、*3-3-2は、⑪イトーヨーカ堂が、真っ先に処理水放出後も「東日本大震災で被災した生産者を応援していく」とし ⑫イオンも国際基準より厳しい放射性物質の自主検査を実施しながら、関東圏などの総合スーパーで継続販売する方針 ⑬ヤオコーも「商品の見直しはせず販売を継続する」 としている。

 ⑨の岸田首相の「国が全責任を持つ」との発言を受けてか、西村経産相がフクイチ処理水放出が始まる前に、①②のように、都内で開かれた“風評”対策・流通対策連絡会で小売関連6団体幹部に処理水の海洋放出後も福島県産の販売継続を要請し、③④のように、日本チェーンストア協会の三枝会長が放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱うので消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望されたそうだ。ただ、首相・経産相はじめ小売業界幹部は全員男性で、産業振興には熱心でも食品の安全性にはあまり興味がなく、科学に疎い人たちであることを忘れてはならない。

 また、⑤の「国際機関等の第三者による安全性の厳格な確認・処理水が基準を満たしているか」については、政府の言う「食品中の放射性物質の基準値」は、厚労省薬事・食品衛生審議会等の議論を踏まえて設定されたもので、食品の国際規格を策定しているコーデックス委員会(FAO《国連食糧農業機関》とWHO《世界保健機関》の合同委員会)が指標としている年間許容線量1ミリシーベルトを基にしている。しかし、これは、外部被曝を前提とした一般人の許容範囲であり、食品として体内に入る場合は至近距離から被曝するため影響がずっと大きいのだ。

 さらに、フクイチの近くは、基準値以下であっても単一の食品のみに放射性物質が含まれているのではなく、多くの食品に基準値以下の放射性物質が含まれ、その上いろいろな場所で外部被曝もするため、それらを総合するとかなりの被曝量になる筈だが、政府は総合値を表示していないのである。(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/risk_commu_2021_002/assets/comsumer_safety_cms203_220311_02.pdf 、http://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/basic_knowledge/additional_exposure_dose.html 参照)、

 また、IAEAも「日本政府及び東京電力が公表したデータの裏付けを行うために、処理水及び環境中の放射性物質のモニタリングをIAEAと第三者の研究所が独立した立場で実施する」としているが、IAEAには、日本政府が多額の金を出して多くの職員を送っており、また原子力推進機関でもあるため、公正な第三者機関にはなり得ないのである(https://www.iaea.org/ja/topics/response/fu-dao-di-yi-yuan-fa-niokeruchu-li-shui-nofang-chu、https://www.tokyo-np.co.jp/article/261656 参照)。

 このような中、⑪⑫⑬のように、イトーヨーカ堂は真っ先に「生産者を応援する」としたが、東日本大震災後も被災地近くの食品を置き続けたのが消費者を敬遠させた理由なのだ。また、イオンが国際基準よりも厳しい放射性物質の自主検査を実施するのはよいが、私は関東圏にいてもフクイチ事故後は日本海側の水産物しか買っていない。ヤオコーは「商品の見直しをしない」 とのことだが、西部地域や外国製の食品も多いので、それらを選ぶことになるだろう。

 このように頼りない政府に対する消費者の自己防衛策を、政府はじめ生産・販売関係者は、①②⑥⑨のように、「風評被害:根拠のない間違った情報や意図的なデマで生じる経済的損害」と呼ぶが、意図的・組織的に間違った情報やデマを流しているのはどちらだろうか。

 なお、⑥のように、地元漁業者も「処理水放出による風評被害」と表現しているが、本当に、「売れ行きが落ち込む理由は、風評だ」と思っているのだろうか。

 また、⑦⑧のように、全漁連の坂本会長らが自民党水産部会で処理水放出に伴う中国・香港の日本産水産物に対する輸入規制強化を巡って販路拡大への支援を求められたそうだが、それならIAEAやFAO・WHOの地元である米国で販売すればよい。何故なら、米国は肉食が中心で他の食品から内部被曝を受ける機会が少なく外部被曝もしない場所であるため、水産物を口に合うように美味しく加工済・調理済にした製品を輸出すれば売れると思うからである。

 そのため、⑩の復興庁の水産物・水産加工品販売支援事業41億円は、米国や米軍などに販売する水産物加工品製造設備の設置に使ったらどうか。

ロ)中国の禁輸
 *3-3-3は、①8月24日にフクイチ処理水の海への放出が始まり、少なくとも今後30年続く ②中国政府は日本産水産物輸入を同日から全面的停止と発表 ③香港も同日から10都県(福島・東京・千葉・栃木・茨城・群馬・宮城・新潟・長野・埼玉)の水産物禁輸を開始 ④対象は「食用の水生動物を含む水産品」で冷蔵・冷凍とも魚類・貝類・海藻に適用 ⑤2022年の水産物輸出額は中国871億円が1位、香港755億円が2位 ⑥東電は24日午前、海水で希釈した処理水のトリチウム濃度の測定結果を発表したが、国の放出基準の1/40を大きく下回った ⑦東電の小早川社長は「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とコメント ⑦岸田首相は首相官邸で「科学的根拠に基づいて専門家同士がしっかりと議論を行っていくよう中国政府に強く働きかける」と語った としている。

 このうち①は、(3)1)に書いたとおり、放出される放射性物質は全体ではかなりの量にのぼるため、どこからでも輸入でき、自前で漁獲もしている中国が、②④のように、日本産水産物輸入を全面的に停止しても不思議ではないが、放出口の位置と海流によって計測ポイント毎の放射性物質濃度は日々変化し、漁獲海域毎に水産物汚染の度合いは異なる筈である。

 また、③のように、香港も、同日から10都県(福島・東京・千葉・栃木・茨城・群馬・宮城・新潟・長野・埼玉)の水産物禁輸を開始したそうだが、福島・東京・千葉・宮城はわかるが、栃木・茨城・群馬・長野・埼玉は海のない県なので、フクイチ処理水が水産物に与える影響は殆どないと思う。また、新潟は日本海側であるため、海流から考えてかなり後にならなければフクイチ処理水の影響は出ないだろう。なお、海流は逆向きだが神奈川の方がフクイチに近く、水産業の盛んな県である。

 そこで、⑦のように、日本政府は「希釈して薄めて濃度が基準以下になれば科学的根拠に基づいている」という態度を崩さないため、中国が必要な計測ポイントに計測機器を設置し、ポイント毎の放射性物質の濃度を測って報告して欲しい。現在は、計測機器さえ設置すれば自動的に計測して通信することが可能であるため、簡単だと思う。そして、専門家(原子力の専門家だけでなく公衆衛生の専門家も含む)が、データに基づいて議論できる環境を整えるべきである。

 2022年の水産物輸出額は、⑤のように、中国871億円が1位、香港755億円が2位であるため、⑥⑦のように、東電が海水で希釈した処理水のトリチウム濃度測定結果を発表し、「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とコメントしている。しかし、これが電気料金や税金で賄われるのでは、日本国民は二重三重のパンチを受けるのである。

3)廃炉について

  
  2019.12.27、2023.8.25日経新聞   2022.9.11日経新聞   2022.9.1Goo

(図の説明:1番左の図のように、2019年の廃炉工程表改定でプールからの使用済核燃料の取り出し時期が遅れた。そして、左から2番目の図のように、2023年8月現在でも、デブリ取り出し・使用済核燃料取り出しの両方が始まっていない。さらに、右から2番目の図のように、核廃棄物の最終処分場も決まっていないが、1番右の図のように、24基の原発は既に廃炉が予定されているため、仕事は同時に進めればよい筈だ)

 *3-4-1は、①原発処理水海洋放出は廃炉に向けた第一歩 ②処理水を放出しなければ取り出したデブリを保管する場所が確保できない ③今後はデブリ取り出しが難事業 ④放射線量が非常に高く人が近づけないデブリは1~3号機全体で推計880tあるため作業は遠隔操作 ⑤ロボットアームを使い2号機から着手する ⑥東電等によれば1回目で取り出すのは数グラム程度だが、それすら実際に出来るか不明 ⑦日本原子力学会フクイチ廃炉検討委員会の宮野委員長は「政府が示す廃炉計画は具体的な見通しがあるわけではなく、最も難しいデブリ取り出しの手法が描けなければ廃炉の見通しも立たない」と指摘 ⑧原発内部からの溶融燃料取り出しは、政府目標の30年後廃炉完了も見通せていない ⑨国は廃炉について最終的な形を明らかにしていない ⑩政府はデブリ回収に6兆円・廃炉全体で8兆円の費用試算を2016年に公表したが、さらに増えそう ⑪事故賠償や除染も含めると事故後12兆円を既に支出 ⑫費用総額は廃炉の最終的な形も大きく左右し、負担は国民に跳ね返る 等と記載している。
 
 また、*3-4-2は、⑬東電は8兆円もの廃炉費用を捻出できる力が弱く、経営再建の道筋が描けない ⑭2023年度内に最難関とされるデブリの取り出し作業が始まるが、炉内の正確な状況が分からず、取り出す工法も手探りで費用が想定より膨らむ可能性 ⑮廃炉総額約8兆円のうち約6兆円がデブリへの対処 ⑯東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用も全額負担し、賠償も半分払う ⑰東電は新電力への顧客流出で収益基盤が揺らいだまま ⑱原発再稼働が進まなければ、国主導でグループの経営体制の見直しを迫られる可能性 ⑲東電の小早川社長は「財務基盤が安定しなければ、廃炉や賠償などの責任を果たせない」と厳しい表情で語った ⑳廃炉作業を進めるためにも、早期に稼ぐ力を示すことが不可欠 等と記載している。

 このうち、①②は、原発処理水を海洋放出する科学的根拠には全くならず、処理水の貯留に限界があるのも最初からわかっていたため、貯留のために膨大な予算を使った挙句に見切り発車して処理水を海洋放出する方法を採用した理由を、まず明らかにすべきである。

 その上で、③のように、「推計880tあるデブリは取り出しが難事業だ」と言ったり、④⑤⑥⑦⑧⑨のように、「デブリは放射線量が高くて人が近づけないためロボットアームで取り出すが、それも実際に出来るかどうか不明だ」「デブリ取り出し手法が描けなければ廃炉の見通しも立たない」等と言っているのはあまりにも遅すぎ、人間は核燃料を扱うことはできないという事実を意味している。そのため、「原発を維持する」「新しい核融合原発を作って地球上に太陽を作る」などと言うのは、後始末もできない危険物を作って稼働させるという無責任な行為だ。

 また、⑩⑪⑫のように、事故の賠償や除染も含めると事故後12兆円を既に支出しており、政府は2016年にデブリ回収に6兆円、廃炉全体では8兆円の費用試算を公表したが、それらが多様な形ですべて国民負担になる。しかし、他に重要な予算は多いのに、それは削られるため、何を考えてどう予算を決めてきたのかを聞きたい。

 なお、⑬⑭⑮⑯は、「デブリの取り出し作業が最難関で取り出す工法も手探り」「東電は8兆円もの廃炉費用を捻出できる力が弱く、経営再建の道筋が描けない」「東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用も全額負担し、賠償も半分払う」等としているが、それらは原発稼働を決めた時点で覚悟しておくべきことだったため、今さら泣き言を言ったり国民に追加負担を求めたりはして欲しくない。

 私は、東電社員にはレベルの高い人や、良い仕事をする人も多いと思うが、⑱のように、未だに原発にしがみつき、⑳のように、廃炉作業の目途も立たないようなら、既に経営体の体はなしておらず、人材の有効活用もできていないと思われる。

 従って、東電の経営体制は見直した方が良いが、経産省を中心とした国主導では、⑲のように、「財務基盤を安定させ廃炉や賠償などの責任を果たすために国民負担を追加する」という解決策しか思いつかないため、今後の生産性向上に役に立つ電力会社の改革はできず、新たに匙を投げた顧客が、⑰のように、東電から他の電力会社に流出すると思う。

4)非科学的で不合理な原発回帰論

  
2022.11.29、2022.9.30日経新聞   2022.10.2産経新聞   2022.11.29日経新聞   

(図の説明:1番左の図のように、経産省は既存原発の再稼働と60年超の運転期間延長、次世代原発の開発と建設を計画しており、その理由を、左から2番目の図のように、運転可能原発の過半数が既に30年超を経過しており、右から2番目の図のように、原発の40年運転を厳守すると2060年代には稼働できる原発がなくなり、60年まで運転期間を延長しても2080年代に稼働できる原発はなくなり、1番右の図のように、運転期間延長だけでは原発の縮小が避けられないからとしている。しかし、これは原発運転時の高コストの負担や事故時の膨大なリスクと後処理費用の負担、膨大な核廃棄物の処理費負担、技術の不確実性・不安定性など、原発のあらゆる短所に目をつぶった不合理で強引な行動計画である)

   
2022.9.5西日本新聞    2023.2.9、2023.2.11東京新聞    2023.7.27日経新聞

(図の説明:1番左の図が経産省の言う次世代型原発だが、既存原発の改良型なら既存原発と同じ問題が残り、冷却材にNaを使うもんじゅは何年経っても成功しなかった。また、高温ガス炉や核融合炉も爆発のリスクがある上、超高温を発生してタービンを回すシステムはエネルギーロスが多く、冷却時に多量の熱を外部に出すのである。そのため、原発は経済合理性《リスクも金額に換算する》によって自然淘汰されるべき電源だが、左から2番目と右から2番目の図のように、政府は、原発の運転期間を伸ばし、建て替えまで選択肢に入れている。その上、1番右の図のように、原発由来の電力を使わない消費者からまで強制的に原発のコストを徴収すると、政府が介入することで市場を歪めて筋の悪い発電方法を残すことになり、目的不明である)

 これまで書いてきたように、原発は、1966年に日本で最初の商業運転を始めてから57年が経過してなお、平時でも立地地域に税金を投入してやっと運営しており、使用済核燃料の処分先が決まらないばかりか、災害でコントロールを失えば大きな事故となり、莫大な税金を投入しなければ事故処理すらできないシロモノであることが明るみに出て、「原発はコストが安い」という主張は真っ赤な嘘であったことが判明した。

 そうすると、次は「電力の安定供給」「脱炭素社会の実現」「ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化」など、その場限りの思いつきの説明をしているが、災害時にも安定的に電源を供給できるのはむしろ再エネによる自家発電の方なのだ。再エネは燃料電池や蓄電池で電力を溜めれば過不足なく電力を供給でき、戦争や災害時も原発のようにコントロール不能の状態に陥ることなく、国内の資源からクリーンな電力が得られる。そのため、化石燃料はもとより、原発も、既に再エネに完敗しており、原発回帰は筋の悪い政策なのである。

イ)原発回帰ありきのパブリックコメントと有識者会議
 *3-1-1・*3-1-2は、①政府は、原子力基本法に原発活用による電力安定供給や脱炭素社会実現を「国の責務」と明記 ②原子力の安定的な利用を図る観点から60年を超える運転を可能にして、原発回帰を鮮明にした ③電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」で通常国会に提出 ④「原則40年、最長60年」としていた運転期間を原子炉等規制法から電気事業法に移管し、上限維持の上で行政処分や裁判所の仮処分命令などで停止した期間を運転期間の計算から除外できるとした ⑤原発建替・60年超運転等の原発推進策を盛り込んだ政府基本方針はパブリックコメントに4000件近くの意見が寄せられ、多くが原発に反対する声だった ⑥政府が公表した意見公募結果には「フクイチ事故は人間が原発をコントロールできない証明」「将来世代に重大な危険を呼び込む」など政府に再考を求める意見が並んだ ⑦しかし、政府は大筋を変えず閣議決定した ⑧原発に否定的意見に対する政府の回答は、ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化で電力安定供給が危機的状況と強調するのみで ⑨脱炭素効果のある再エネとともに原子力の活用を図るとの説明を繰り返し ⑩原発建替は「廃炉が決まった原発敷地内」とした ⑪原発に否定的な委員からも国民的議論を求める意見が相次いだが、方針決定まで国民の声は聞かなかった ⑫西村経産相は「原子力利用政策の観点でまとめ、安全規制の内容は含まれないため問題ない」と説明 ⑬経産省有識者会議委員も務めたNPO法人原子力資料情報室の松久保事務局長は「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めた。政策決定の手法として許されない」と批判 ⑭政府が原発推進策を盛り込んだ基本方針を閣議決定した日、市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が主催して、永田町の首相官邸前で約100人が抗議行動を展開し、冷たい雨の中で「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせた ⑮国際環境NGO「FoE Japan」事務局長の満田夏花さんは「原子力産業の生き残りのため将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせる民意を無視した閣議決定に断固反対」と強調した と記載している。

 このうち、①は、電力の安定供給には、再エネと蓄電池を組み合わせて普及させれていれば原発は不要であったため、原子力基本法に「国の責務」などと記載して、民間会社の特定の発電方法である原発にいつまでも税金をつぎ込むと、市場を歪めて最善の発電方法が選択されなくなる。そして、脱炭素社会には、原発ではなく再エネ利用のためのインフラを速やかに整備した方が、エネルギーの変動費を0にして産業に役立ち、エネルギー自給率も上げ、温室効果ガスを発生させず、冷却熱を環境に放出しないため温暖化対策としてもBetterなのである。

 そして、これは、原子力村の住民とそこから金を得ているメディアや政治家以外なら誰でもわかることであるため、⑤のように、パブリックコメントに多くの反対意見が寄せられ、⑥のように、「人間は原発をコントロールできない」「将来世代に重大な危険」などの政府に再考を求める意見が並んだのだ。

 また、⑪のように、原発に否定的な委員からも国民的議論を求める意見が相次いだのに、政府は方針決定まで国民の声を聞かず、⑦のように、大筋を変えずに閣議決定したのだそうだ。そのため、⑮の「原子力産業の生き残りのために、将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせる民意を無視した閣議決定」というのは、正しいだろう。

 そして、政府は、⑧のように、ウクライナ情勢を言い訳にし、⑨のように、脱炭素効果を主張するが、それらは再エネや省エネ設備の導入というよりよい選択肢があったため、説得力のある説明にならないのである。さらに、③のように、電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」にして通常国会に提出すると、野党の追及が十分にできず、国民の理解も進まないため、国民の反対を無視して突破するには都合が良いものの、民主主義の原理から大きく外れるのだ。

 つまり、⑫で西村経産相が「原子力利用政策の観点でまとめた」と説明しておられるとおり、原子力利用政策が先にあり、そのために形だけ、有識者会議を開いたり、パブリックコメントを集めたりしたが、その結果を反映する意図はなかったのだと思われる。

 また、②の「60年を超える運転を可能にした」というのは、前にも書いた理由で、科学的根拠がない上に過去よりもリスクが増す方向への政策転換であり、フクイチ事故後の政策転換として不適切である。また、④の「原則40年、最長60年の運転期間から行政処分・裁判所の仮処分命令等で停止した期間を除外できる」としたのも、科学的根拠がなく、過去よりもリスクが増す方向への政策転換なのである。

 これに加えて、⑩の「原発建替は廃炉が決まった原発敷地内」としたのも、武力攻撃に抵抗力のない原発を日本海側に林立させている状態を継続させる決定であり、災害からのセキュリティーも考えていなければ、防衛費増との整合性も全くない。そのため、⑬の「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めた。政策決定の手法として許されない」との批判は正しく、「多面的な意見を吸い上げて纏めていれば、矛盾だらけではないスマートな結論を出せたのに」と思われる。 

 最後に、⑭の政府の閣議決定の日、市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」主催で永田町首相官邸前で約100人が抗議行動をし、冷たい雨の中、「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせられたのは、感心すると同時に敬意を表する。

ロ)根拠薄弱な原発政策の転換
 *3-1-3は、①巨大地震・津波で世界最悪の原発事故を起こして12年経過しても、事故収束の見通しは立たない ②当時の民主党政権は「2030年代に原発稼働0を可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とし ③自民党政権下でも「原発依存度は可能な限り低減」としていた原発政策を、岸田首相は大した議論もせずに大転換して原発最大限の活用を掲げた ④世界のエネルギー情勢を無視した「先祖返り」のエネルギー政策は、根拠薄弱で将来に禍根を残す ⑤「ロシアのウクライナ侵攻が一因のエネルギー危機や化石燃料使用による気候危機に対処するため原発の活用が重要」というのが転換の根拠だが、フクイチ事故は大規模集中型の巨大電源が一瞬で失われるリスクの大きさを示した ⑥小規模分散型の再エネを活用する方がこの種のリスクは小さく気候危機に対して強靱 ⑦フランスでは熱波で冷却できずに多くの原発が運転停止を迫られ、原発が気候危機対策に貢献するという主張も根拠薄弱 ⑧気候危機対策には2025年頃に世界の温室効果ガス排出を減少に向かわせ、2030年までに大幅な削減を実現することが求められるが、原発の新増設も再稼働もこれに貢献せず、再エネ急拡大が答えであることは世界の常識 ⑨岸田首相の新方針は時代遅れの原発に多大な政策資源を投入し、気候危機対策の主役である再エネ拡大のための投資や制度改革には見るべきものがない ⑩この12年間で安全対策等のため原発コストは上昇し再エネコストは急激に低下 ⑪原発の運転期間を延ばせばさらなる老朽化対策が必要になるから、原発の運転期間延長も発電コスト削減効果は限定的 ⑫米ローレンスバークリー国立研究所等の研究グループは、蓄電池導入や送電網整備、政策の後押しなどにより日本で2035年に再エネの発電比率を70~77%まで増やせると分析 ⑬日本のエネルギー政策に求められるのは、この種の科学的成果や世界の現実に関するデータを基礎に熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めること ⑭いくらそれらしい理屈と言葉を並べても、科学的根拠が薄く決定過程に正当性のないエネルギー政策は机上の空論に終わる 等としている。

 このうち①⑥⑦⑧⑩⑪は事実で、地震・津波のリスクを無視して世界最悪の原発事故を起こした上、エネルギー自給率が著しく低く、化石燃料高騰で国民も産業も苦しんでいる日本こそ、②のように、あらゆる政策資源を投入して2030年代に原発稼働0を可能にしなければならなかったし、できた筈なのである。

 しかし、③のように、自民党政権下で「原発依存度は可能な限り低減」として後退し、岸田首相はさしたる議論もないまま原発の最大限の活用に大転換したが、まさに④⑨のとおり、世界のエネルギー情勢を無視して時代遅れの原発に後ろ向きの多大な政策資源を投入し、気候危機対策の主役である再エネ投資や制度改革には見るべきものがないという将来に禍根を残すエネルギー政策なのである。

 なお、⑤の「ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料価格が高騰し、原発の活用が不可欠になった」という政策転換根拠もよく聞くが、化石燃料価格の高騰は、中東産油国が原油価格を70%引き上げた1973年(今から50年前)のオイルショック以来続いているのだ。また、ロシアのウクライナ侵攻による化石燃料価格高騰は、ロシアに対する日本の金融制裁に対する制裁返しであるため、これは、自給率が低いくせに制裁ばかりした国の末路と言える。

 そのような事情の中でも、エネルギー変換を拒み、大量の化石燃料を輸入して国富を流出させ続け、地球温暖化まで招き、化石燃料価格が高騰したからと言っては化石燃料に補助金をつけてエネルギー変更を拒んできた“政策”は、製造業を国内で成り立たなくし、国内にあった産業を外国に追いやってしまった原因の1つであることを忘れてはならない。

 また、⑤の「フクイチ事故は大規模集中型の巨大電源が一瞬で失われるリスクの大きさを示した」というのも事実であるため、原発は安定電源というのも合理性も説得力もない。

 つまり、⑫の米ローレンスバークリー国立研究所等のグループが言うとおり、現在ある技術を最大限に活用しない技術は開発して、蓄電池導入・送電網整備を政策の後押しで行えば、日本は2035年には再エネ発電比率(≒エネルギー自給率)を70~77%まで増やせると、私も思う。

 そして、⑬⑭のように、日本のエネルギー政策に求められるのは、科学的成果や世界の現実に関するデータを基礎に、熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めることで、いくら尤もらしい理屈や言葉を並べても、科学的根拠が薄く決定過程に正当性のないエネルギー政策は机上の空論に終わるだろう。

5)政府の水産事業者向け支援策について
 2)イ)に、私が「復興庁の水産物・水産加工品販売支援事業41億円は、米国等に販売する水産物加工品製造設備の設置に使ったらどうか」と書いてから、日本政府は、*3-5-1のように、中国への輸出依存から転換するための販路開拓等で、①国内消費拡大・生産持続対策 ②風評影響への内外での対応 ③輸出先の転換対策 ④国内加工体制強化対策 ⑤迅速で丁寧な賠償 など合計1007億円の水産事業者向け支援策にをまとめたそうだ。

 このうち、②の“風評”という言葉使いは賛成しかねるし、①の国内消費拡大は、どの海域で獲れた汚染されていない水産物かどうかによって良し悪しが異なる。また、③の輸出先転換でホタテ等の一時買い取り・保管・新規販路開拓支援も、とりあえず買い取って長期間保管し、他の場所に販路を求めるというのでは、汚染されていない水産物かどうかによって評価が全く異なるのである。しかし、⑤については、未だに汚染水が増えている現状では、処理して海に放出しているとしても、東電や政府はそうするしかないだろう。

 しかし、④の「中国に依存している水産物の加工を国内に呼び戻す」として、*3-5-2のように、「加工も中国頼みで、輸出したホタテを中国でむき身に“加工”した後、米国に3万~4万トン輸出していた」というのは、ホタテの殻をとってむき身にするのは加工と呼ぶほどのことではないし、殻つきのホタテを中国の加工場まで運び、そこでむき身にして米国に輸出すれば余分なエネルギーがどれだけかかったかと思われ、呆れた。

 私が書いた「水産物を美味しく加工済・調理済にした製品を輸出すれば売れる」というのは、「日本食キャンペーン」をして日本食として売るのではなく、例えばホタテ(牛肉でも豚肉でもないため、ヒンズー教徒もイスラム教徒も食べられる)であれば、ホワイトシチュー・カレー・ハンバーグ・ギョウザ・シュウマイ・燻製等の相手が好む料理に加工して輸出することを意味していた。ここで注意すべきは、水産物は、日本だけで食べられている食材ではないことである。

 また、中国向けナマコは、干して輸出し、中華料理に使うのが主だったと思うが、中華料理も世界で食べられている料理であるため、その原料として販売したり、調理済にして販売したりすることを意味していた。そのため、商社や食品加工会社の出番なのであり、栄養士の監修の下、美味しくて健康的な料理にして販売すれば、日本らしい付加価値の高い食材になるわけだ。

 ここで、「建設資材が高騰し機械も電気代も値上がりする中、加工は現実的な対策か」「仮に加工施設を国内に設けても、働き手の確保は簡単でない」という声があるが、こういう問題に対する環境整備こそ政府が行うべきであり、現在は、この高コスト構造に負けない付加価値をつけなければ海外販売はできないわけである。

(4)化石燃料と予算
1)日本が遅れる理由は何か
 1990年頃から気候変動に関する指摘があり(発端が私だから詳しいのだが)、1992年に気候変動枠組条約が採択されたが、発効は2年後の1994年だった。また、1997年のCOP3では、日本が主導して京都議定書を採択したが、抵抗も多く、その発効は8年後の2005年であり、気候変動に関する歩みは遅々としていた。しかし、2015年にCOP21でパリ協定が採択され、これは翌年の2016年に発効した。

 京都議定書とパリ協定の大きな違いは、i) 京都議定書が2020年までの枠組みであるのに対し、パリ協定は2020年以降の枠組みであること ii) 京都議定書は先進国(日本、米国、EU、カナダ等)のみに温室効果ガス削減目標を示していたが、パリ協定ではすべての締約国が対象になったこと である。

 しかし、iii) 京都議定書は「目標達成」を義務としていたが、パリ協定は「温室効果ガスの削減・抑制目標を策定・提出すること」を求めているだけで目標達成を義務とはしていないこと 及び、iv) 2020年以降は、温室効果ガスの削減に関しては世界共通の「2度目標(努力目標1.5度以内)」のみが掲げられていること である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page22_003283.html、https://www.asahi.com/sdgs/article/14767158 参照)。

 このような中、*4-1は、「IPCCが2023年20日に公表した統合報告書でこれまで以上に危機感を打ち出し、その一方で、人類は温室効果ガスを大幅に削減する手段をすでに手にしていると指摘し、この10年間の行動が人類と地球の未来を決めるとした」と記載している。しかし、これは30年前からわかっていたことで、そのために、建材一体型の再エネ機器やEV等の温室効果ガス削減手段を開発してきたのである。

 *4-1は、具体的に、①温室効果ガス排出量が増えるほど温暖化が進むと強調 ②世界で稼働・計画中の化石燃料インフラを使い続けると気温上昇が2度を超える ③「パリ協定」で各国が提出する温暖化対策目標を達成しても2.8度上昇する可能性 ④温暖化が進むほど損失・被害拡大 ⑤水害や海面上昇は堤防などの治水対策で一定のリスクは減らせる ⑥国連のグテーレス事務総長はCOP28までに、G20リーダーのすべてが野心的な新目標を約束することを期待し、温暖化に大きな責任を負う先進国は、2040年までに実質排出0を前倒しするよう求めた ⑦G7の米英独加は2035年に電源の脱炭素化目標を掲げ、仏は2021年に91%を脱炭素化済 ⑧日本は2021年に2030年度の46%削減、2050年の実質排出0を掲げ、2040年の目標はなし ⑨IEAは「世界で導入された再エネは昨年最大4億400万kwで2019年から倍増の見通し」とする ⑩EUは昨年5月に再エネ強化目標「リパワーEU」を決め、2030年時点の再エネ比率を40%から45%に引き上げた ⑪米国はエネルギー安保と気候変動対策の約3700億ドルを含む「インフレ抑制法」が成立し、2030年までに40%前後排出減 ⑪日本の再エネの導入ペースは鈍い ⑫COP28ではパリ協定の下で初めて各国の削減目標の進み具合の評価が行われ、2025年までに新たな目標を提出することになるが、環境省幹部は「まだ何も手が付いていない」と言う ⑬2月閣議決定の「GX実現に向けた基本方針」は、今後10年間で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出するが、発電量に占める再エネ比率を2030年度36~38%と変更なし ⑭大排出源の石炭火力発電燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円を投じるが、技術的に未確立でコストも高く、石炭火力の延命との批判 ⑮日本のGX基本方針には真剣さや迫力がない ⑯「脱炭素経済」移行に遅れれば日本の産業競争力は引き続き低下 ⑰水素・アンモニアの混焼は「見せかけの脱炭素化」と見られ、世界の投資家から理解を得られない と記載している。

 このうちの①④は、科学的に考えれば当然のことである。また、②③のように、気温が上昇すれば、⑤についても、大きく海面上昇すれば、海抜の低い地域は堤防等でリスク軽減するのに費用対効果が著しく悪くなり、ちょっとした豪雨で内水反乱や水害を起こすようになるため移転を余儀なくされ、日本も居住可能地域が狭くなるということだ。

 そのため、⑥のグテーレス事務総長の要請は尤もであり、⑦⑩⑪のように、日本を除くG7各国は早めの電源脱炭素化目標を掲げて実行し、⑨のように、IEAも「世界で導入された再エネは2019年から倍増」としているが、日本は、⑧⑪⑬のように、2040年の目標はなく、2023年2月の閣議決定「GX実現に向けた基本方針」で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出してもなお、再エネ発電比率は2030年度36~38%と変更せず、再エネ導入ペースを意図的に遅くしているのである。

 また、⑭の石炭火力発電燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円も投じるなど寄り道のための無駄遣いも多く、目標を定めて資源を集中しないため、日本のGX基本方針には⑮のように真剣さや迫力がなく、⑰のように「見せかけだけの脱炭素化」になるのだ。

 そして、この調子では、⑯のように、「脱炭素経済」への移行に大きく遅れ、国民に無用の負担を押し付けて生活を圧迫しつつ、エネルギー自給率は相変わらず上がらず、日本の産業競争力は他国と比べてさらに低下し続けて、リーダーシップどころではなくなるわけである。

 何故、我が国の政府はこのような対応しかできないのか? 私が最初に気候変動に関する指摘をしてから30年以上経過するため、その間に見てきて感じたことを書けば、日本政府は必要な情報を総合して纏めることによって合理的な目標を定めることができず(当然、重要性によって順位をつけ、不要なものは除くべき)、何でも混沌とさせたまま、後戻りしたがったり、「ミックス」にしたがったりするからである。

 つまり、日本政府(縦割りに固執した省庁まで含む)は、科学を基礎にしてはじき出した目的に資源を集中させることができず、何でも「ミックス」にして認めることによって政敵を作らないことを重視し、その結果、最も重要な本来の目的を見失うとともに、本来の目的を達成するための国民負担を無視するからである。

 そして、この最も根本的な原因は、初等・中等・高等教育における理系科目の軽視と、空気を読んで狭い範囲の周囲にのみ同調することを教える文化にあるだろう。

2)化石燃料価格引き下げ目的の有害補助金について
 *4-2-1は、①世界銀行は「各国政府が自国産業に出す補助金のうち、環境に有害なものが世界で年間計7兆ドル(約1千兆円)を超える」と公表し ②使い方を見直して環境保護に活用するよう訴え ③補助金のマイナス面に警鐘を鳴らした ④これには不十分な規制で産業を利する「暗黙の補助金」も含む ⑤通常の補助金にも国民生活に不可欠なものがあり、全てを環境保護に振り向けるのは難しい ⑥エネルギー分野では化石燃料価格引き下げにつながる補助金を問題視 としている。

 このうち①②③は全くその通りで、世界銀行は良いことを言うと思う。しかし、④の「暗黙の補助金」については具体例が書かれていないためよくわからないが、例えば、原発に関る種々の補助金、放射性物質や排ガスを出す機器への規制の緩さ等が挙げられるだろう。

 また、⑤の「環境保護に振り向けるのが難しい国民生活に不可欠な補助金」の具体例も書かれていないのでわからないが、例えば農林漁業関係の補助金の一部はそれに当たると思う。

 何故なら、いつまでも農業機械・漁船・トラック・航空機等に化石燃料を使い、「燃油価格が高騰したから補助が欲しい」「コストが合わないから漁に行けない」等々は、私が聞いただけでも20年くらい同じことを言い続けているため、とっくに電動農機・電動船・電動トラック・電動航空機に変更して国内産の再エネ電力でそれを動かしていていい時期だからである。そのため、この20年間、日本政府は膨大な無駄遣いをしながら、何をしていたのかと思う。

 つまり、⑥については、最初は仕方がないため燃料に補助するものの、化石燃料価格の引き下げに繋がる補助金は早々に新機器買い替えのための補助金に変え、とっくの昔に新機器への移行を終えていなければいけない時期であり、化石燃料への補助金ではなく、むしろ炭素税を課して移行を促すべきだったのである。

 また、*4-2-2は、⑦政府は「9月末まで」としていたガソリン補助金を年末まで延長する方針 ⑧補助の長期化は国民負担を増やし脱炭素に逆行 ⑨8月28日時点の価格(全国平均)は185.6円/lと統計開始以降の最高値 ⑩店頭価格上昇の背景は原油価格の高止まり ⑪産油国は減産によって原油相場を維持 ⑫ロシアも原油輸出を減らす方針 ⑬円安・ドル高の進行もガソリン価格を押し上げ ⑭政府が原油高によるガソリン・軽油・灯油等の価格高騰を抑えるため始めた石油元売りへの補助金は、2022年夏は40円/l前後で、現在は10円/l程度 ⑮ガソリン高は家計の負担増に繋がり、特に地方の家計に響く ⑯補助金の長期化は自然な市場メカニズムの働きを抑える副作用もあるため ⑰「補助金の一部を再エネ・省エネ関連の建設費に投じて将来的な光熱費低減に繋げるべき」との指摘もある 等と記載している。

 このうち⑦は、⑪⑫の産油国の減産と⑬の円安で、⑨⑩のように原油価格が高止まりしていれば、それがこれまでの日本政治のツケであっても、今となっては仕方がない。しかし、⑧のように、出口はなく長期化して脱炭素に逆行すると同時に、現在及び将来の国民負担が増えるのだ。

 なお、⑭のように、政府が石油元売りに補助金を出すのは変であり、むしろ⑮のように負担増になった家計がガソリンなどの燃油を購入する際に補助すべきだ。そして、早急に燃油依存を止めるため、ドイツのようにガソリンスタンドに充電設備設置を義務付けたり、充電設備設置に補助したりすべきである。

 そのため、私は、⑰の「補助金の一部を再エネ・省エネ関連の建設費に投じて将来的な光熱費低減に繋げるべき」との指摘に賛成である。そして、1997年のCOP3で京都議定書の採択を主導した日本なら、2000年になったらすぐにそれを開始していなければならなかったし、集中してやれば今のように借金を増やすことなくできた筈なのだ。

(5)再エネと予算
1)ペロブスカイト型太陽電池への期待

  
  2023.9.7Yahoo    2019.12.20Smart Japan   2022.1.13Money Post

(図の説明:左図が、積水化学工業が開発したペロブスカイト型太陽電池ガラスだが、完全に透明にできていない点で改良の余地がある。中央の図は、外壁タイプとシースルータイプの太陽電池の説明だが、外壁なら煉瓦のような模様を印刷できたり、ガラスなら透明ガラスや色ガラスにできたりしなければ、建材としての実用化には遠い。しかし、右図のように、赤外線や紫外線を使って発電し、可視光線は完全透過して、遮熱と発電を同時に行えるガラスも既にできている)

 *5-1-3は、①「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めており ②太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使うため、重さがシリコン型の10分の1 ③薄いフィルム状で折り曲げられ、建物の壁・EVの屋根など場所を問わず自由に設置可能 ④日本で原料を確保しやすいため、国内でサプライチェーン構築可能 ⑤政府は2030年までに普及させる方針で、国内企業を支援 ⑥積水化学工業や東芝が2025年以降の事業化に向け開発を急ぐ ⑦ペロブスカイト型太陽電池は水分に弱いが、積水化学は封止材の技術を使って保護し、耐久性を10年相当に高めた ⑧事業化に欠かせない変換効率も高めた ⑨JR西日本がJR大阪駅北側に2025年の開業を目指す「うめきた駅」に設置する予定 ⑩室内光や曇り・雨天時等の弱い光でも発電可能なため、屋内向け電子商品などにも使われる可能性 ⑪経済波及効果は2030年までに約125億円、2050年までに約1兆2500億円 等と記載している。

 このうち、②③④の性質によって、「ペロブスカイト型」太陽電池は、①のように、注目に値すると私も思う。そのため、⑤のように、政府が2030年までに普及させる方針で国内企業を支援するのは、脱炭素化・エネルギー自給率の向上・脱公害という意味で、大変良いと思う。

 しかし、⑥⑦のように、積水化学工業や東芝などの民間企業が、2025年以降の事業化に向けて、得意技を使って開発を急いでいるのはさらに期待でき、⑨のように、JR西日本が「うめきた駅」に設置することを既に決めているのも頼もしい。なお、⑧の変換効率については、設置可能面積が著しく広いため、シリコン型ほど高める必要はないのではないか?また、⑩のように、室内光や弱い光でも発電でき、電子商品が充電不要になると便利であるため、⑪の経済波及効果は、もっと大きいと思う。

 *5-1-1によると、積水化学工業は、量産で先行している中国勢を追い上げる形ではあるが、強みの耐久性を生かして屋外での需要を開拓しているそうで、量産時期が「2030年まで」というのは少し遅いものの、期待はできる。

 なお、積水化学工業が液晶向け封止材等の技術を応用して液体や気体が内部に入り込まないようにできるのなら、真空複層ガラスの内部を透明なペロブスカイト型太陽電池にし、省エネと発電の両方を行う複層ガラスを作って、公共施設だけでなく、民間のビル・マンション・住宅も標準仕様にして欲しい。中古のマンションやビルの場合は、大規模修繕工事の時に一斉に採用すればよいと思うが、耐久性が10年程度では短すぎるため、もっと長く持つ太陽光発電複層ガラスができれば、ニーズは著しく高くなるだろう。

 また、パナソニックは、*5-1-2のように、2023年8月に、透明なガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を開発し、それはインクジェット塗布製法でガラス基板上に発電層を直接形成するものだそうだ。そして、それを、レーザー加工技術と組み合わせれば、サイズ・透過度・デザイン等の自由度を高めることが可能なのだそうで、大いに期待する。しかし、これなら複層ガラスのペロブスカイト型太陽電池でステンドグラスさえできそうであるため、ウクライナの教会の改修等に利用すれば面白いし、宣伝効果もあると思う。

2)省エネ・創エネ・脱炭素住宅へ
 *5-1-4は、東京都が、①大規模マンションについては断熱性等の環境性能開示制度を既に設けており ②2025年度から、新築の戸建て・中小規模のマンションやビルも事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明することを義務付け、都の評価基準を満たしているか契約前に説明し、買い手が環境に配慮した物件を選び易くする ③2025年度に始める新築戸建てへの太陽光パネル設置義務化と合わせて省エネ住宅普及に繋げる ④説明義務を負うのは都内で年間2万平方メートル以上の物件を供給する事業者で、大手住宅メーカー等の50社程度を想定し、都内の年間供給棟数の半数程度が対象 ⑤建物自体の環境性能のほか、EV用充電設備の設置状況が都の基準を満たしているかも説明させる ⑥パネルの設置義務も供給棟数の多い50社程度が対象で、新築物件の半数程度が対象になる見通し ⑦都内全体で毎年4万キロワット程度の発電能力を生み出せる と記載している。

 東京都は全国で唯一、都立高校入試に男女別定員があり、同じ高校の入試でも男女の合格ラインが違って女性の合格ラインの方が高くなっており、2024年春の入試からこれを全面廃止するという教育面では著しくジェンダー平等から遅れた地域だが、環境については、*5-1-4のように、先進的な規制をした。

 具体的には、②⑤⑥のように、事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明することを義務付けたり、EV用充電設備の設置を推進したり、太陽光パネルの設置を義務づけたりしており、良いと思う。

 しかし、①②④のように、対象物件や事業者を規模で分けると、③の省エネ・⑦の創エネ・⑤の脱炭素効果が中途半端になる上、買い手が環境に配慮した物件を選ぶ時には、建物の規模や事業者の規模、新築か中古かが重要な要素になる。そのため、分けるより、全新築物件・全中古物件に説明義務を課し、中古物件のリノベーションも進めた方が良いと、私は思う。

 なお、この規制は、東京都だけでなく、国が徹底した省エネ・創エネ・脱炭素を国内の全建築物の建築基準に入れるのが良い。何故なら、そうすれば、電力コストが下がり、エネルギー自給率は上がり、災害に強い電力システムができて、脱炭素も進むからである。

3)EVについて
イ)EVバスはBYDから(!?)
 *5-2-1は、①2023年3月に、西東京バスや神奈川中央交通などがEVバスを採用 ②「EVバスはディーゼルバスより音や揺れが少なく乗客に好評」と西東京バスの担当者は語る ③EVバスは、中国のBYDから購入している ④ディーゼルバスは大型2300万円程度、EVバスは4000万円台 ⑤政府は2023年度のEVバス補助率を導入費用の最大1/2に高め ⑥政府や自治体の補助金で一般バスよりも安く導入できるケースもあって、燃料費は少ない ⑦日本バス協会は2023年を「EVバス普及の年」と位置づけ、2030年までに累計1万台を導入する目標 ⑧バス充電に使う電力を発電する際まで含めるとEVバスもCO₂を排出するが、ディーゼルバスの半分で済み、脱炭素効果が大きい ⑨1回の充電に5時間かかるが、EVバスの電気代は「ディーゼル燃料の2/3程度 と記載している。

 このうち②は当然だが、最初は、「EVは音がしないから危ない」「EVは振動しないから自動車らしくない」等々、長所を短所として批判する驚くべき(呆れる)記事が日本のメディアには氾濫していた。そのため、日本国内ではEV化が進まず、③のように、日本のバス会社も中国のBYDからEVバスを購入しなければならない事態になっているのだ。

 また、⑧のように、「発電時にCO₂を排出する」という批判も散見されてきたが、それは、発電を化石燃料か原発に限定するから起こることで、再エネ発電に変えれば完全に脱CO₂・脱排気ガス・脱公害にできるのである。そのため、「何故、そういう前向きな代替案が出ないのか」が、日本の論調の問題点なのだ。

 さらに、④のように、ディーゼルバスは大型2300万円程度、EVバスは4000万円台と、構造は簡単であるのにEVバスの価格をより高く設定し、「環境志向すれば高くなる」という論理にしているが、構造が簡単な自動車を大量生産すればより安くできる筈である。ただし、国内だけでなく世界での販売を視野に入れて生産しなければ大量生産しても需要がないため、価格を高く設定すれば他国に敗退するしかないという循環になっているわけである。

 そのような中、⑤⑥のように、政府はEVバスの補助率を高め、政府と自治体の補助金で一般バスよりも安く導入できるケースもあり、燃料費はEVバスの方が少ないため、①⑦のように、西東京バスや神奈川中央交通などがEVバスを採用し、日本バス協会は2030年までに累計1万台を導入する目標を立てたそうだ。

 しかし、⑨のように、EVバスの電気代はディーゼルバスの燃料より安く、CO₂を排出しない発電方法も多いため、早急に大量生産して「補助金不要」の状態にしてもらいたい。何故なら、日本では、EVもまた、本格的に推進し始めてから既に25~30年も経過しているからである。

ロ)新EVも外国製(!?)
 *5-2-2のように、①スウェーデンのボルボは日本に投入する3車種目のEVの「ボルボEX30」を11月中旬に日本で発売する ②値段は税込み559万円から ③最大の特徴は機械式立体駐車場でも使えるよう小型化したこと ④EX30は全長4235mm、全幅1835mm、全高1550mmと最も小さい ⑤最大航続距離は480kmで急速充電器を使えば約26分で充電残量を10%から80%にできる ⑥日本法人の不動社長は「日本から要望し続けてようやく実現したサイズで、日本の道路・車庫事情に最もフィットする一台」と話した ⑦大型車が好まれる欧米では苦戦が見込まれていたが、予想に反して売れ行きは好調 ⑧小型化で部品数が減り、従来のEVより100万円以上安く、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買える と記載している。

 このうち⑥の「日本の道路・車庫事情に最もフィットする」のが、③④の「立体駐車場対応」の「小型サイズ」であることは事実だが、道路を狭いままにして小型サイズでなければ運転しにくくしているのは、都市計画のない街づくりの結果であるため、日本の街づくりや道路づくりは再考すべきだ。

 しかし、「日本からの要望で実現したサイズ」が、⑦のように、欧米でも売れ行きが好調なのは、どの国にも小路はあるため、小型車の方が運転しやすく、燃費も良いからであろう。

 また、②⑧のように、「部品数が減って安くなり、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買える」というのは、庶民の自動車の買い替えには必要条件であり、この値段ならボルボ車でも買える。ただし、私自身は、①のようなSUV(Sport Utility Vehicle、スポーツ用多目的車)ではなく、流線形のスマートなEVの方が好みだ。

 なお、⑤のように、「最大航続距離480km」では少し不安が残り、5分で900km走れる充電ができるようになれば十分なのだが、「急速充電器約26分で充電残量10%から80%」というのは、現在なら良い方だろう。

4)車の畜電池について
イ)リチウム電池
 *5-3-1は、①リチウムの精製・分離は環境負荷が高いため、環境規制が緩くて労働コストの安い中国に依存し、豪州のリチウム輸出先は9割が中国だった ②豪州には完成車メーカーはなく ③現政権は脱炭素に意欲的で、EV国家戦略を公表し、EV関連産業育成やリチウム等の重要鉱物資源国内加工を後押し ④米フォード・モーターが自動車を製造していたジーロングはEV向け電池工場の建設予定地に変貌し、米企業傘下の電池スタートアップ、リチャージ・インダストリーズが工場の立ち上げを計画 ⑤年間生産能力は最大30GWH、EV約30万台分の電池を供給予定 ⑥2025年に生産開始して2550人の雇用創出予定 ⑦豪州は近年、山火事等の自然災害が深刻化し、気候変動対策を求める声が強まる ⑧アルバニージー首相は化石燃料に依存する経済から「再エネ超大国」への転換を目指す 等と記載している。

 つまり、①のように、リチウム精製・分離の環境負荷が高いため、豪州は輸出の9割を中国に依存していたが、②のように、完成車メーカーがないため、③のように、現政権は、EV関連産業育成やリチウム等重要鉱物資源の国内加工を後押しし、④⑤⑥のように、ジーロングの米フォード・モーター自動車製造跡地に米企業傘下の電池スタートアップが年間生産能力最大30GWHの電池工場と2550人の雇用創出を予定しているとのことである。

 これには、⑦のように、豪州で山火事等の自然災害が深刻化して気候変動対策を求める声が強まり、⑧のように、アルバニージー首相が「化石燃料依存型」から「再エネ超大国」への転換を目指している背景があるそうだ。 

 一方、*5-3-2は、⑨日本の官民は、カナダでEV向け重要鉱物の探鉱・加工・蓄電池生産を含む供給網を構築する ⑩カナダ政府も補助金等で支援し、両国が協力して供給力を高める ⑪これにより、北米での日本企業のEV販売増に繋げ、経済安全保障を強化する ⑫西村経産相が9月21日にカナダを訪問し、ウィルキンソン天然資源相らと蓄電池供給網に関する協力覚書を結ぶ ⑬協力内容はJOGMEC等によるカナダでのニッケル・リチウム等の探鉱 ⑭カナダ政府は現地に進出する日本企業を補助金等で支援する ⑮米国の税額控除対象になるには、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国のFTA締結国から調達し、電池部品の5割を北米で製造・組み立てする等が要件 ⑯日本にとっては供給網の強化も見込める 等と記載している。

 このうち、⑮の米国における税額控除対象要件のために、⑨⑫⑬のように、カナダでEV向け重要鉱物の探鉱・加工・蓄電池生産を含む供給網を構築し、これを⑩のように、カナダ政府も補助金等で支援して、⑪のように、北米での日本企業のEV販売増に繋げ、経済安全保障を強化するのはわかる。

 しかし、*5-3-3のように、2020年8月には、日本のEEZでコバルト・ニッケル等のリチウム電池に不可欠なレアメタルの採掘成功が報告されているのに、未だにほぼ全てを輸入に頼って量産化の目途も立てないのはどうしたことか。採掘・精製・分離の環境負荷や労働コストが高すぎると言うのなら、先進国である豪やカナダのように課題解決して、積極的に国内(EEZも含む)で探鉱・加工・蓄電池生産をすべきである。

 なお、カナダ政府は、⑭のように、現地に進出する日本企業を補助金等で支援し、米国政府は、⑮のように、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国のFTA締結国から調達し、電池部品の5割を北米で製造・組み立てすること等を税額控除対象の要件としているが、日本政府はこういうことは何も行わずに、⑯のように、輸入先の多角化を喜んでいるだけなのだ。この調子では、国民負担が増えるばかりで国民が豊かになれないのは当然と言わざるを得ない。

ロ)全固体電池
 *5-3-4は、パナソニックホールディングス(HD)が、①ドローン等向けの小型の全固体電池を2020年代後半に量産する方針を明らかにし ②3分程度でドローン用電池容量の8割を充電でき、同じ充電に1時間を要するリチウムイオン電池と比べ利便性が高い ③数万回充放電ができ、一般的リチウムイオン電池の約3000回を大きく上回る ④全固体電池はEVの次世代車載電池としてトヨタ自動車も2027〜28年に実用化する方針 とのことである。

 ②③のように、3分程度で電池容量の8割を充電でき、数万回充放電ができるのはよいが、家電でも家庭用蓄電池・コードレス掃除機・ガーデンライトソーラー等々、電気の残量を気にせず使いたい蓄電池はいくらでもあるため、開発し始めてから数年経つのに、①のように「2020年代後半(2025年以降)の量産」などと言っているのは遅すぎる。そのため、これでは他国に抜かれても文句は言えまい。

 トヨタも「次世代EV車載電池としての全固体電池は2027〜28年に実用化」などとしているが、これも遅すぎて、EVはリチウム電池の世界になりそうなのである。

(6)組織再編について
イ)M&Aの使い方
 *5-4-1は、①日本企業同士(イン・イン型)のM&Aが全体の63%を占めた ②相乗効果が見込みやすい国内の事業再編が活発になった ③円安で海外企業を買うハードルが上がって潮目が変わる可能性 ④日本企業同士のM&Aで目立ったのは大手企業が国内投資ファンドと組んで株式を非公開化する動き ⑤東芝はJIPや日本企業20社超の支援を受けて株式非公開化を決めた ⑥半導体材料大手のJSRは政府系ファンドJICによる約1兆円買収を受け入れ ⑦半導体材料の国際競争力を高めるため、国の関与の下で積極投資しやすい環境を整える ⑧経営者の高齢化が進み事業承継目的のM&Aも広がった ⑨2010年代の日本企業のM&Aはイン・アウト型が中心だった ⑩脱炭素社会をにらみ再エネ開発会社の再編も増えた ⑪経産省の「企業買収における行動指針(案)」は企業価値向上に繋がる真摯な買収提案を合理的な理由なく拒まないよう求める ⑫日本は主要先進国の中でも、経済規模に比べてM&Aが少ない 等と記載している。

 日本では、組織再編の1つであるM&Aに他社やファンドへの「身売り」イメージが強いため、⑫のように、日本の経済規模と比較してM&Aが少ない。そのため、⑪のように、経産省が「企業価値向上に繋がる真摯な買収提案を合理的な理由なく拒まないよう求める」という行動指針(案)を出すほどなのだが、本当は、i)企業の成長のため、他社の買収や合併を行って自社にない技術や販売網を獲得する ii)新規事業への出資や事業拡大のため、ベンチャー企業を作る iii)後継者のいない企業が事業承継する 等の前向きな目的を持つM&Aも多く、M&Aは企業価値向上の一つの手段となる。

 そこで、i)の自社にない技術や販売網を獲得するには、①の「イン・イン型」でも⑨の「イン・アウト型」でもよく、ii)のように、お互いの長所を出しあってベンチャー企業を作ってもよいが、⑤の東芝の場合は、⑨の「イン・アウト型」で高すぎる買い物をして大損を出し、公開情報によって不必要なところまで叩かれたため、自らがJIPや日本企業20社超の支援を受けて株式を非公開化することになったという経緯がある。

 そのため、②のような国内企業同士の事業再編の方が、お互いをよく知っているため相乗効果の予測がし易いという長所があるが、国内企業同士では大胆な改革が進みにくいという短所もある。また、⑥⑦のように、国の関与の下で積極投資するという政府系ファンドによる買収が、本当に半導体材料の国際競争力を高めるかどうかについては疑問が多い。

 なお、⑩のように、脱炭素社会を睨んでの再編も増えたそうだが、その例としては、ソニーと本田の折半出資で設立されたソニー・ホンダモビリティ(株)のように、高付加価値のEVを共同で開発・販売し、モビリティ向けのサービスも提供することを目的として作ったジョイントベンチャーがあり、発電や送電についても、お互いの得意技を活かした提携やジョイントベンチャーがあり得るわけである。

 最後に、iii)のように後継者がおらず、⑧のような経営者の高齢化が進んだ企業で事業承継にM&Aを使うのも良い解決策だが、このほかにマネージング・バイアウトという方法もある。 

ロ)そごう・西武買収のケース
 *5-4-2は、①ヨドバシは米ファンドと組んでそごう・西武を買収 ②西武池袋本店・そごう千葉店・西武渋谷店等に出店方針 ③ヨドバシは百貨店中心部に家電売場を設けて集客力を高め、経営再建に繋げる計画 ④西武池袋本店は低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設ける ⑤ヨドバシは人口減の中で効率良く集客でき、インバウンドを見込める都市部での競争力強化が課題 ⑥JR池袋駅や千葉駅近くに店舗があるそごう・西武の資産は魅力 ⑦ストライキ決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満は根強く、労使の信頼関係にはしこり ⑧豊島区や地元の商工会議所もヨドバシの西武池袋本店出店に納得せず ⑨一部の高級ブランドはヨドバシの出店計画に難色、ヨドバシの出店形態によっては百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性 としている。

 私は池袋駅まで40分くらいの場所に住んでいるため、池袋駅に直結した西武池袋本店(以下“西武デパート”)と東武百貨店池袋店(以下“東武デパート”)の両方の顧客だが、東武東上線を利用するので東武デパートの方が改札口に近く便利である。また、食品については、東武デパートの方が安くて品質も良いように思う。

 しかし、衣類は西武デパートの方が良いので、衣類を東武デパートで買ったことはない。ただし、東武東上線は有楽町線や副都心線と直通運転しているため、本当に良い衣類を探したい場合は、有楽町線で銀座に出たり、副都心線で新宿三丁目や渋谷に出たりすれば、選択肢が増える。そのため、西武デパートは、Young向けの細身サイズ(これが“標準”か)の衣類ばかり置いて特色を出さなければ、競争に負けると思われる。

 このような中、2022年度のそごう・西武の業績は、営業利益は25億円と3期ぶりの黒字、純利益はマイナス131億円の赤字で、経営の足を引っ張っているのは3000億円を超える有利子負債だとされている。しかし、①②③のように、ヨドバシカメラが米ファンドと組んでそごう・西武を買収し、百貨店の中心部に家電売場を設ける」という話が飛び込んできた時、私は顧客としてショックだった。

 ショックだった理由は、ヨドバシカメラは量販店で高級イメージがなく、百貨店のイメージとは逆だからである。そのため、⑨のように、一部の高級ブランドがヨドバシの出店計画に難色を示したり、百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性があったりするわけだ。また、池袋駅や街のイメージも変わるため、⑧のように、豊島区や地元商工会議所もヨドバシの西武池袋本店出店に納得しないことが起きるのだろう。 

 しかし、当面の解決策としては、④⑥のように、一階にヨドバシ専用の狭い入口をつけ、低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設けるのなら、百貨店の高級イメージを壊すことなく、駅に直結した家電量販店ができて便利だと、私は思う。そのため、⑤のようなインバウンド客だけでなく、住民も取り込めるのではないだろうか。

 もちろん、⑦のように、ストライキの決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満・不信が根強いのはわかるし、西武デパートの専有面積が狭くなるのも残念だが、それは一等地にある西武デパートを、容積率が増すように建てなおせば解決するのではないか?

 ただし、根本的には、豊島区が、全体として雑然とした池袋駅周辺の街を、緑が多くて整然とした品のある街づくりに変貌させることが重要だ。また、池袋駅も、昔の渋谷駅に負けず劣らず迷路のような長い通路を歩かせて疲れさせる駅であるため、駅ビルを建てなおしてどちら側にも簡単に行けるようにすれば、客足は伸びると思われる。

・・参考資料・・
<日本の財政と人口減>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73596380V10C23A8MM0000 (日経新聞 2023.8.15) GDP年率6.0%増 4~6月実質、3期連続プラス 輸出復調、消費は弱含み
 内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比1.5%増、年率換算で6.0%増だった。プラス成長は3四半期連続となる。個人消費が弱含む一方で、輸出の復調が全体を押し上げた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率3.1%増で、大幅に上回った。前期比年率で内需がマイナス1.2ポイント、外需がプラス7.2ポイントの寄与度だった。年率の成長率が6.0%を超えるのは、新型コロナウイルス禍の落ち込みから一時的に回復していた20年10~12月期(7.9%増)以来となる。GDPの実額は実質年換算で560.7兆円と、過去最高となった。コロナ前のピークの19年7~9月期の557.4兆円を超えた。輸出は前期比3.2%増で2四半期ぶりのプラスとなった。半導体の供給制約が緩和された自動車の増加がけん引した。インバウンド(訪日外国人)の回復もプラスに寄与した。インバウンド消費は計算上、輸出に分類される。輸入は4.3%減で3四半期連続のマイナスだった。マイナス幅は1~3月期の2.3%減から拡大した。原油など鉱物性燃料やコロナワクチンなどの医薬品、携帯電話の減少が全体を下押しした。輸入の減少はGDPの押し上げ要因となる。内需に関連する項目は落ち込みや鈍りが目立つ。GDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%減と、3四半期ぶりのマイナスとなった。コロナ禍からの正常化で外食や宿泊が伸び、自動車やゲームソフトの販売も増加した。一方で長引く物価高で食品や飲料が落ち込み、コロナ禍での巣ごもり需要が一巡した白物家電も下押し要因となった。設備投資は0.0%増と、2四半期連続プラスを維持したものの、横ばいだった。ソフトウエアがプラスに寄与したが、企業の研究開発費などが落ち込んだ。住宅投資は1.9%増で3四半期連続のプラスだった。公共投資は1.2%増で、5四半期連続のプラスだった。ワクチン接種などコロナ対策が落ち着き、政府消費は0.1%増と横ばいだった。民間在庫変動の寄与度は0.2ポイントのマイナスだった。名目GDPは前期比2.9%増、年率換算で12.0%増だった。年換算の実額は590.7兆円と前期(574.2兆円)を上回り、過去最高を更新した。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比3.4%上昇し、3四半期連続のプラスとなった。輸入物価の上昇が一服し、食品や生活用品など国内での価格転嫁が広がっている。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230731&ng=DGKKZO73135260Y3A720C2TCS000 (日経新聞 2023.7.31) 600兆円経済がやって来る、特任編集委員 滝田洋一
 日銀は7月28日、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を柔軟にし、長期金利が0.5%の上限を一定程度超えるのを容認すると決めた。日銀は高まるインフレ圧力に負けたのだろうか。いや、逆だろう。日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレの下で新たな成長に向かいつつある。政府と日銀が慎重な経済運営を続けるなら、思ってもみなかった視界が開けるはずだ。601.3兆円。内閣府は7月20日、2024年度の名目国内総生産(GDP)の見通しを発表した。600兆円といえば、15年に当時の安倍晋三首相が打ち出した新3本の矢の第1目標である。15年度の名目GDPは540.7兆円。22年度も561.9兆円と21兆円あまりの増加にとどまる。それが23年度には586.4兆円と前年度比24兆円あまり増え、24年度には600兆円に乗せる。物価が上がりだしたことで、名目GDPが押し上げられるのだ。GDPばかりでない。企業の売り上げ、利益、働く人の給与明細、株価、政府の税収。目に見える経済活動は物価を含む「名目」だ。デフレ脱却が大きな影響を及ぼすのは企業行動である。1990年度から2021年度にかけて、大企業は売上高が5%増にとどまるなか、経常利益を164%伸ばした。リストラで利益を捻出したのである。企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させてきた。インフレの到来でその舞台は一変した。22年度の大企業の売上高は前年度比10.6%増えた。日銀全国企業短期経済観測調査(短観)によれば、バブルの頂点だった1989年以来の高い伸びである。中堅、中小企業も合わせた全規模でも、売上高は8.7%増えた。売り上げ増の手応えをつかんだことで、企業は国内で設備投資のアクセルを踏み出した。23年度の設備投資は名目ベースで100兆円台に乗せ、過去最高となる勢いだ。日本経済団体連合会は4月、27年度に115兆円という設備投資目標を掲げたが、前倒しとなってもおかしくない。今回の物価上昇のきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的なインフレ。コロナ禍からの回復や人手不足も手伝い、国内にも価格転嫁や賃上げの波が及んだ。もちろん、いいことずくめではない。賃金の伸びは物価の上昇に追いついていない。家計のインフレへの不満はここに根差す。5月には物価上昇を差し引いた実質賃金が前年同月比0.9%減少した。実質賃金は14カ月連続の減少。でも減少幅は1月の4.1%減よりぐっと縮まった。春の賃上げ幅が拡大したからだ。連合の集計によると、23年の春闘の平均賃上げ率は3.58%。1993年以来、30年ぶりの高水準になった。7月20日の経済財政諮問会議。有識者である民間議員は「プラスの実質賃金となるよう、賃上げの流れを拡大すべきだ」と提案した。資料に記されたグラフが目を引く。名目賃金の前年比の増加率は22年度上期の1.6%強が、下期には2.0%強に。名目賃金の伸びがこの調子で高まれば、23年度下期にかけ2.5%を上回る姿が描ける。一方、消費者物価上昇率は、民間エコノミストの予想を平均すると、23年7~9月期が前年比2.76%。10~12月期は2.29%と日本経済研究センターは集計する。予想通り賃金の伸びが物価を上回るようなら、23年度下期にも実質賃金は増加に転じる。民間議員がクギを刺すように物価の不確実性は高い。政府によるきめ細かな物価対策は欠かせない。それにしても、家計の所得が消費を後押しする好循環に入るチャンスが巡ってきたのは確かだろう。バブル崩壊後、30年あまり続いた光景が変わるにつれて、財政、金融政策についても正常化を探る動きが出てきている。その際に政府・日銀が心すべきは、経済の好循環に水を差さぬことである。防衛費や少子化対策予算と絡み増税が議論されるが、足元の税収は出世魚のように増加中だ。22年度は当初見積もりの65.2兆円に対し、決算では71.1兆円と6兆円近く上振れした。経済が名目で拡大しだしたからだ。23年度税収の当初見積もりは69.4兆円。前年度の71.1兆円より少ない予想は、政府の名目成長率見通しと整合的ではない。名目成長率見通しの4.4%と同率で税収が増えるなら、23年度の税収は74.2兆円になる勘定。5兆円近い上振れが見込まれる。政府はインフレの受益者であり、税収の自然増が財政を下支えしているのである。デフレ脱却と経済の好循環実現は、岸田文雄内閣の看板政策である少子化対策との関係でも欠かせない。経済停滞のしわ寄せを、特に低所得世帯が被ってきたからだ。35~39歳で配偶者のいる男性の比率を07年と17年で比べると、年収100万~249万円の所得層で低下が目立つ。年収200万~249万円の層を例にとるなら、有配偶者の比率は45.3%から36.2%に低下している。経済産業省はそんなデータを示す。少子化に歯止めをかけるには、真っ先に経済を軌道に乗せ働く人の所得を引き上げる必要がある。バブル崩壊後の日本は経済が軌道に乗りかけると、財政政策か金融政策かでブレーキを踏み、経済を失速させてきた。その轍(てつ)を踏まぬよう細心の注意が必要だ。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73595470V10C23A8EAF000 (日経新聞 2023.8.15) 名目成長、12%に加速、4~6月、物価高で押し上げ
 インフレが日本経済の名目値を押し上げている。内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、名目成長率が前期比年率でプラス12.0%となった。デフレで長らく低迷していた名目GDPが、世界的な物価上昇を契機に動き出しつつある。新型コロナウイルス禍の経済低迷の反動が出た2020年7~9月期(プラス22.8%)以来の高い伸び率となった。コロナ禍の時期を除くと、1990年4~6月期(プラス13.1%)以来の伸びとなる。年換算の実額は590.7兆円となり、コロナ流行前である19年度の水準に比べ33.9兆円多い。企業の売上高や賃金、株価などは名目値であるため、インフレによる経済規模の拡大が進めば、こういった経済指標も上昇しやすくなる。名目成長率を項目別にみると、個人消費は前期比0.2%減だった。インフレの影響で実質は0.5%減と名目より深く落ち込んだ。設備投資は実質でみると横ばいだったが、名目は0.8%増だった。設備投資のコストが高まっている可能性がある。GDPデフレーターからみた物価上昇率は前年同期比3.4%と、3四半期連続でプラスとなった。伸び率は前の期から加速した。伸び率は現行基準で遡れる1995年以降で最も高い。過去の基準も含めて比較すると1981年1~3月期以来の伸び率になる。前期比では1.4%の上昇だった。GDPは輸入を控除項目として全体から差し引く。物価動向を示すGDPデフレーターも同様に輸入物価の影響を全体から差し引いて計算する。資源高で急激に輸入物価が上昇した場合、輸入デフレーターが全体にマイナス寄与するため、GDPデフレーターも落ち込みやすい。実際にロシアのウクライナ侵攻による資源高で22年4~6月期、7~9月期は2四半期連続でデフレーターがマイナスになった。ここに来てデフレーターが上昇しているのは、輸入物価の上昇が一巡したことによる押し上げ効果のほか、価格転嫁が進み国内物価も上昇していることを示す。賃金も安定的に上昇してくれば、日本経済の脱デフレに向けた道筋が本格化する。後藤茂之経済財政・再生相は同日の記者会見で、今後の景気については所得の改善や企業の高い設備投資意欲を背景に「緩やかな回復が続くことが期待される」との見方を示した。一方で「物価上昇の影響や海外景気の下振れリスクには引き続き十分注意が必要だ」と指摘した。

*1-1-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1090961 (佐賀新聞 2023/8/15) 実質GDP、年率6・0%増、4~6月、3期連続プラス
 内閣府が15日発表した2023年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動を除く実質で前期比1・5%増、年率換算は6・0%増だった。市場予想(年率プラス3%程度)を大きく上回り、3四半期連続のプラス成長となった。半導体の供給制約の緩和で自動車などの輸出が伸びた。ただ輸入の減少が統計上プラスに寄与した面も大きく、物価高の影響でGDPの約6割を占める個人消費も低調だった。実質GDPの伸び率は、20年10~12月期(年率7・9%増)以来の大きさだった。景気実感に近いとされる名目GDPは前期比2・9%増で、年率換算は12・0%増となった。物価高を反映して20年7~9月期(年率22・8%増)以来の高い伸びとなり、金額も過去最高の590兆7千億円に達した。4~6月期の実質を項目別に見ると、個人消費は前期比0・5%減。外食や宿泊は伸びたが、食料品や白物家電が相次ぐ値上がりの影響などで落ち込んだのが響いた。設備投資は0・0%増にとどまった。住宅投資は1・9%増、公共投資は1・2%増だった。輸出は3・2%増だった。自動車の伸びに加え、統計上は輸出に区分されるインバウンド(訪日客)消費の伸びが寄与した。一方、輸入は4・3%減だった。原油や医薬品などが減った。輸入の減少はGDPを押し上げる要因になる。こうした結果、GDP全体への影響度合いを示す寄与度は、個人消費や設備投資などの「内需」がマイナス0・3ポイント、輸出から輸入を差し引いた「外需」がプラス1・8ポイントとなり、外需がGDPを大きく押し上げた。国内総生産(GDP) 国内で一定期間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額。内閣府が四半期ごとに公表し、景気や国の経済力を表す代表的な指標とされる。個人消費や企業の設備投資といった「内需」と、輸出から輸入を差し引いた「外需」で構成する。実際の価格で計算した名目GDPと、物価変動の影響を除いた実質GDPがある。前年や前四半期と比べた増減率を「経済成長率」と呼ぶ。

*1-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230816&ng=DGKKZO73624790V10C23A8EA1000 (日経新聞社説 2023.8.16) 内需の弱さ直視し賃金・投資増の歯車回せ
 内閣府が15日発表した2023年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は季節調整済みの前期比の年率換算で6.0%増加した。3%程度だった市場の事前予想を大きく上回り、3四半期連続のプラス成長となった。日本経済は回復の歩みを続けている。名目値は物価高もあって年率12%と2ケタ成長を記録した。実質値は1~3月期の成長率も従来の年率2.7%から3.7%に改定され、GDPの水準は今回、年換算で560兆円台と新型コロナウイルス禍前を上回った。だが「高成長」を額面どおりに受け止められない面もある。外需の一時的な押し上げに支えられ、個人消費や設備投資は力強さに欠けた。内需に弱さが残る現実を直視し、賃上げ継続や投資の着実な実行へ官民で策を練るべきだ。外需のうち輸出は前期比3.2%増とプラスに転換した。統計上、サービス輸出に含まれる訪日外国人のインバウンド消費が堅調だったのは心強い。半面、モノの輸出増には半導体の供給制約の解消といった要因も効いており、海外経済の盤石ぶりを示すわけではない。中国向けの輸出減速には警戒が必要だ。輸入は4.3%減だった。GDP統計では海外から買った分を取り除くので輸入減は成長を押し上げる。年率6%成長のうち輸入減の貢献は4.4%分に及ぶ。輸入の数量減は内需の弱さを映す面もある。個人消費は前期比で0.5%減と3期ぶりにマイナスとなった。事前には小幅増の市場予想が目立った。所得が物価ほどには伸びず、実質でみた所得が目減りしていることが大きい。積極的な賃上げが24年以降も続くかは予断を許さない。構造的な賃上げの機運を絶やさぬよう、官民は一致して取り組むべきだ。設備投資は1~3月期の前期比1.8%増から減速し、0.03%増と横ばい圏にとどまった。日本政策投資銀行の調査では、大企業の23年度の国内設備投資計画は前年度比21%増と、計画値としては1980年代以降で3番目に高い伸びとなった。企業が強気の投資計画を着実に実行に移すには、安定した経済や市場環境の維持が欠かせない。日銀は7月に長短金利操作の運用を柔軟にしたが、債券や外国為替市場は不安定さを抱える。日銀は市場安定へ市場との綿密な対話や情報発信に一層努めてほしい。

*1-1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230819&ng=DGKKZO73729570Z10C23A8EA2000 (日経新聞 2023.8.19) 続く物価高、消費に影 生鮮・エネ除く指数4.3%上昇、食品高止まり、宿泊料伸び拡大 賃上げは追いつか
 物価の上昇圧力が続いている。7月の消費者物価指数は生鮮食品とエネルギーを除く総合指数が前年同月比4.3%上昇し、伸び率は再拡大した。食品や日用品の値上がりは家計を圧迫し、消費は伸び悩む。物価上昇と賃上げの好循環はなお遠く、景気回復の勢いも弱まりかねない。総務省が18日発表した7月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.1%上昇した。伸び率は6月の3.3%から縮んだものの、日銀が掲げる2%の物価目標を16カ月連続で上回る。価格が変動しやすい品目をさらに除いた指数をみると、物価上昇はむしろ勢いを増す。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比4.3%プラスで、2カ月ぶりに伸びを拡大した。消費者物価は2023年度の後半にかけて鈍化するとの見方もあるが、現時点ではまだピークアウトしたとは言えない状況にある。最大の要因は、全体の6割を占める食料の高止まりだ。7月はハンバーガーが前年同月比で14.0%上昇した。10%超えは13カ月連続。プリンは27.5%プラスで、6月の12.6%から伸び率が拡大した。米欧に遅れた価格転嫁の波が続いている。宿泊料は15.1%プラスと、6月から10ポイントほど伸び率を拡大した。インバウンド(訪日外国人)の回復などによる需要の高まりに、政府の観光支援策「全国旅行支援」が今夏以降に各都道府県で順次終了したことが重なった。ほかのサービスも上昇に弾みがついた。携帯電話通信料は10.2%プラスと統計上さかのぼれる01年以降で過去最高の伸び率となった。NTTドコモが7月から新料金プランを投入したことが背景にある。日銀は7月、23年度の生鮮食品を除く物価上昇率の見通しを2.5%に引き上げた。4月の段階では1.8%とみていた。物価上昇率が11カ月連続で3%を超えて推移するなど、物価高が想定を超えて続いている。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「日銀も市場関係者もウクライナ侵攻による輸入物価上昇のインパクトを読み違えた」とみる。過去の物価高局面と異なり「一度ではコストを転嫁しきれず、複数回値上げする動きを読み切れなかった」と説明する。長引く物価高で消費への下押し圧力は強まっている。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の6月の消費支出は実質で前年同月比4.2%減った。マイナスは4カ月連続だ。品目別に見ると、物価上昇の大きな要因となっている食料が3.9%減で、9カ月連続のマイナスとなった。プリンやハンバーガーといった値上げが目立つ品目ほど消費は細っている。6月の実質消費支出はそれぞれ15.4%、13.5%減った。逆に、電気代は燃料価格の低下や政策効果による価格下押しで支出が5.9%増えている。外食は1.8%増とプラスを維持するものの、5月(6.7%増)から伸びを縮めた。サービス消費は新型コロナウイルス禍からの正常化で回復期待が高かったわりには動きが鈍い。勢いを欠く消費は経済成長に水を差す。23年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は季節調整済みの前期比年率6.0%増と高い成長率となったものの、けん引役は復調した輸出などの外需だった。個人消費は物価高を受けて前期比0.5%減に沈んだ。23年の春季労使交渉の賃上げ率は30年ぶりの高水準だったとはいえ、物価の伸びには追いついていない。24年以降に賃上げが息切れすれば、家計の購買力の低下を通じて再びデフレ圧力が強まるとの懸念がにじむ。実際、コロナ禍前の19年10~12月期と足元を比較すると、雇用者報酬は実質で3.5%減っている。高止まりする物価に賃金が追いつかず、消費はほとんど伸びていない。日米欧では米国だけが賃金と消費を伸ばす。秋以降は物価上昇が加速する恐れもある。政府が実施しているガソリンや電気・都市ガスの価格抑制策は延長措置がなければ、ともに9月分で終了する予定だ。第一生命経済研究所の新家義貴氏はガソリン価格抑制の補助金事業が終われば、10月以降の生鮮食品を除く消費者物価指数を0.5ポイント押し上げるとみる。総務省は電気・都市ガスの価格抑制策が7月の物価の伸びを1ポイントほど押し下げたと推計する。対策が終われば、単純計算で1.5ポイントの上昇圧力となるリスクがある。高い物価上昇率は金融政策の議論にも影響を与える。日銀は物価の安定には「まだまだ距離がある」(植田和男総裁)とみて、金融緩和を続けている。ただ、物価上昇の勢いがこのまま衰えなければ、現状の金融緩和策の見直しが焦点となる。

*1-1-7:https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/fis/kiuchi/0808_2 (NRI 2023/8/8) 春闘の妥結と比べて見劣りする実際の賃上げ率:実質賃金の安定的上昇は2025年半ば以降か:長期インフレ期待の安定回復は日銀の責務(6月毎月勤労統計)、木内 登英
●期待外れの賃金上昇率
 労働省が8月8日に公表した6月分毎月勤労統計で、賃金上昇率は期待されたほどには上昇しなかった。現金給与総額は前年同月比+2.3%と、前月の同+2.9%から低下した。残業代やボーナスなどを除く、より変動の小さい所定内賃金も、前年同月比+1.4%と前月の同+1.7%から低下した。この結果、実質賃金は前年同月比-1.6%と前月の-0.9%から下落幅が拡大し、15か月連続での下落となった。賃金上昇率が物価上昇率に追いつかない状況がなお続いており、潜在的な個人消費への逆風が収まっていない。厚生労働省の発表では、今年の春闘で、主要企業の賃上げ率(定期昇給分を含む)は+3.6%と30年ぶりの高水準となった。6月の毎月勤労統計には、春闘での妥結がほぼ反映されているとみられるが、実際の賃上げ率はそれをかなり下回っている。平均賃金上昇率と概ね一致するのは、定期昇給分を含む賃上げ率全体ではなく、ベースアップ部分である。定期昇給分は個人ベースで見れば賃金増加につながるが、企業の人件費全体の増加率を決めるのはベースアップ部分である。退職者と新規雇用者が同数であれば、定期昇給分は人件費全体には影響しない。ベースアップは連合の発表では+2.3%であった。この水準は6月の現金給与総額の前年比上昇率と一致するが、通常は、ベアと近い動きを示すのは、残業代やボーナスなどを除く、より変動の小さい所定内賃金であり、それは6月に+1.4%に過ぎなかった。ベアを公表する企業が必ずしも多くないことから、その集計には誤差が大きいこと、厚生労働省の数字がカバーするのは、従業員5名以上と、零細企業も含むことが両者の差を生んでいるのだろう。零細企業の賃上げ率は主要企業よりも低かったことが考えられる。
●実質賃金が安定的に上昇に転じるのは2025年半ば以降か
 企業の人件費全体や個人所得全体の増加率を決めるのが、定期昇給分を含まないベアであり、それを幅を持って1%台半ばから2%程度とした場合、消費者物価上昇率がその水準まで低下するにはなお時間がかかる。さらに、物価上昇率の低下を反映して、来年の春闘のベアは比較的高水準ながらも、1%台半ばなど、今年の水準を下回ると予想される。物価上昇率が緩やかに低下していっても、賃金上昇率も低下していくため、なかなか両者の逆転は起きないのである。物価上昇率が安定的にベアを下回り、実質賃金が上昇に転じるのは、消費者物価上昇率が0%台半ば程度まで低下する局面であり、それは2025年半ば以降になると予想される。
●日本では長期インフレ率が上振れ
 米国などと比べて日本では、個人の長期のインフレ期待が大幅に上振れていることが注目される。国際決済銀行(BIS)の計算では、2020年末から3%ポイントも上振れ、足元で+5%に達している(図表1・2)。欧米の中央銀行とは異なり、2%の物価目標にこだわる日本銀行が、物価上昇率が上振れる中でも金融政策を修正せず、長期のインフレ期待の上振れを容認してきたことが、大きく影響しているのではないか。この点から、今後、欧米での物価上昇率は比較的迅速に低下する可能性がある一方、日本では、物価上昇率の低下が遅れるリスクがあるだろう。2%の物価目標達成のために、長期のインフレ期待の大幅上昇は望ましい、との意見もあるが、その考えは危険ではないかと思われる。日本経済の実力から乖離した、足元の物価上昇率の大幅上振れや長期のインフレ期待の大幅上振れは、日本経済の安定を損ねかねない。例えば、企業の長期のインフレ期待は個人ほど上昇していないと考えられる中、企業が賃金の大幅な引き上げに慎重な姿勢を崩さず、その結果、この先の賃金上昇率が個人の高い長期インフレ期待に追いつかないことが考えられる。それが明らかになれば、個人は消費を一気に控えるようになるリスクがある。
●YCC柔軟化に留まらず本格的な政策修正を
 賃金上昇を伴う持続的、安定的な2%の物価目標達成にはなお距離がある、と日本銀行は繰り返し述べている。こうした判断は正しく、足元の物価上昇率が一時的に上振れていると言っても、短期的に2%の物価目標を達成することは確かに難しいと思われる。しかし、政治的圧力のもとで日本銀行が10年前に導入を余儀なくされたこの2%の物価目標には、そもそも妥当性はなかった。日本経済の実力を踏まえれば高過ぎることは今も変わらない。日本銀行は2%の物価目標にこだわらずに、日本経済と国民生活の安定のために中長期の物価安定を確保する姿勢をより強く打ち出すべきだろう。その一環として、先般決めたイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化に留まらずに、マイナス金利解除など、より本格的な政策修正に早期に乗り出すべきではないか。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15705085.html?iref=pc_ss_date_article (朝日新聞 2023年7月31日) 異次元緩和への道、不安と高揚 10年前の日銀政策決定、議事録公表
 日本銀行は31日、2013年1~6月の金融政策決定会合の全議事録を公表した。今に続く大規模金融緩和を始めた時期にあたる。過去に例のない規模の緩和に踏み出す高揚感があった一方、失敗のリスクを指摘する意見も出ていたことが明らかになった。当時、日銀が掲げた2%の物価上昇目標は今も達成されず、様々な懸念は現実になっている。(山本恭介、土居新平)。日銀は年2回、10年が経った会合の議事録を半年分ごとに公表している。今回の議事録が描き出すのは、物価が下がり続けるデフレから脱するため、大規模な金融緩和を掲げて12年12月に誕生した第2次安倍晋三政権の意向に沿って変わっていく日銀の姿だ。日銀出身の白川方明(まさあき)総裁(当時、以下同)は13年1月の会合で、政権の求めに応じ物価上昇率2%の目標を決めた。同年3月、白川氏の後任として安倍政権に起用された財務官僚出身の黒田東彦(はるひこ)総裁は、着任後すぐ大規模緩和に着手した。日銀の金融政策の大転換期にあたり、極めて重要な議事録となる。白川総裁時代、物価目標を「2%」と明確に定めて大規模な緩和をするという政権の方針に、日銀はあらがっていた。しかし総選挙での大勝という「民意」を背にした政権の圧力に最後は屈する。
日銀は13年1月21、22日の会合で、2%の物価目標を盛り込んだ政府との共同声明を受け入れることを7対2の賛成多数で決めた。
■委員から異論
 だが、議事録によると、投票権を持つ政策委員たちからは、目標達成は難しいとする意見が相次いでいた。反対票を投じたエコノミスト出身の佐藤健裕審議委員は「実現の難しい目標値を設定して中央銀行の信認が失われることを懸念する」と指摘。やはり反対したエコノミスト出身の木内登英審議委員は「当面1%の物価上昇率ですら、なお達成の目途が立っておらず、2%はあまりにも高い」と述べた。賛成した委員からも、「非常に難しいのは事実であることは認める。だから時間がかかるだろう」(経済学者出身の白井さゆり審議委員)といった声があった。出席者は、政権への注文も忘れなかった。電力業界出身の森本宜久審議委員は「構造改革の着実な実行と財政規律への取り組みを推進されることを期待する」と語った。政府代表として出席していた山口俊一財務副大臣は「機動的な財政政策や成長戦略の実施に取り組む」とは約束した。ただ、「2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現すべく、不退転の決意を持って、積極・果断な金融政策運営をお願いしたいと考えている」と日銀に改めてクギを刺した。
■目立った賛同
 黒田総裁初となる13年4月3、4日の会合。黒田氏は「量・質ともにこれまでと次元の違う金融緩和をおこなう必要がある」と宣言した。人々の「期待」に働きかけてデフレを脱却するため、市場に流すお金の量(マネタリーベース)を2倍に増やし、2年程度を念頭に2%の物価目標を目指すと決めた。「黒田バズーカ」第1弾だ。会合では、黒田氏への賛同が目立った。「安倍自民党総裁の、日銀に2~3%のインフレ目標の達成をめざす大胆な金融緩和を求めるという趣旨の発言によって、デフレ脱却と日本経済回復の期待が生まれた」(経済学者出身の岩田規久男副総裁)。「次を期待させぬよう十分(市場と)コミュニケーションをとっていくことが特に必要」(金融機関出身の石田浩二審議委員)。緩和の効果になお疑問を呈する声もあった。「量を調節することで、インフレ期待や現実のインフレ率を中央銀行があたかも自在にコントロールできるかのような考え方があるとすれば、政策効果のあり方について重大な誤解があると言わざるを得ない」。佐藤審議委員は、大規模緩和の考え方が根本的に誤っている可能性を指摘した。木内審議委員も「非常に大きな不確実性があり、達成までの道筋に関して納得性の高い説明をすることが難しい。政策に対する信認の低下を招き政策効果が減じられるリスクがある」と強い懸念を示していた。あれから10年経って明らかになったのは、物価目標や大規模緩和に対する当時の懸念は杞憂(きゆう)ではなかったということだ。物価目標を達成できないまま、日銀は異例の追加緩和策を相次ぎ導入し、国債や株の保有額は異例の規模に膨らんだ。確かに企業業績は回復し、株価は上がった。ただ、円安の加速は物価高につながり、人々の暮らしを直撃している。大規模緩和を主導した黒田氏は今年4月に退任し、金融政策の手綱は経済学者の植田和男氏が握ることになった。植田氏は就任後3回目となる7月28日の会合で、債券市場がゆがむなどの緩和の副作用を減じる政策修正に初めて動いた。植田氏は会見で、賃金上昇を伴った2%の物価上昇には「まだまだ距離感がある」と語った。異例の緩和をいつまで続けるのか、「出口」はまだ見えていない。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73562150T10C23A8MM8000 (日経新聞 2023.8.13) 年金世帯、脱デフレ左右 消費シェア4割 不安払拭なら資産循環
 賃上げが30年ぶりの高水準となり、消費の押し上げ効果への期待が高まるなか、高齢化社会ならではの課題が浮かび上がってきた。国内の消費支出は65歳以上世帯が4割を占め、年金暮らしの世帯が国内総生産(GDP)の15%に影響する。賃上げの恩恵を受けにくい高齢者の消費活性化がデフレ脱却を左右する。「将来を考えるとなかなか思い切ってお金を使えない」。横浜市の70代の男性はこう話す。孫へのプレゼントなどには財布のひもは緩むが、大きな買い物は控えがちだ。消費支出に占める高齢者の存在感は高まっている。世帯主が65歳以上の世帯の2022年の1カ月平均の支出は21万1780円だった。全体に占める割合は約39%になる。少子高齢化に伴い、20年前のおよそ23%からほぼ倍になった。団塊世代の65歳到達が一巡したことなどから10年代後半から頭打ち傾向にあるものの、団塊ジュニア世代が高齢者になる30年代からは伸びが再加速する可能性がある。持ち家を借家とみなした場合に想定される家賃を除いた消費額をもとに第一生命経済研究所の星野卓也氏が試算したところ、年金暮らしと考えられる平均年齢74.5歳の無職世帯の消費額は22年に33%を占めた。日本の22年の名目GDPの実額は556兆円で、5割を個人消費が占める。GDP全体の15%程度を年金世帯の消費が担っていることになる。消費者物価指数は生鮮食品を除く総合の上昇率が6月まで10カ月連続で3%を超えた。今年の春季労使交渉の賃上げ率は連合の最終集計で3.58%と30年ぶりの水準だ。ただ賃上げの恩恵は年金世帯には及ばず、物価高で年金支給額は実質的に減る。22年の物価上昇などを受け、既に年金を受け取っている68歳以上の人は23年度の支給額が前年度比1.9%増と、3年ぶりに増える。物価の伸び以上に年金額が増えない仕組みになっており2.5%の物価上昇率を加味すると実質的にマイナス圏に沈む。日本総合研究所の西岡慎一氏は物価が今後2%伸びても給付を抑制する「マクロ経済スライド」の発動で受給済みの人の年金の伸びは1%程度にとどまると試算する。この場合、60歳以上で無職の世帯の消費は0.2ポイント押し下げられるという。一方で高齢世帯は金融資産が多い。日銀の資金循環統計によると23年3月末の家計の金融資産は2043兆円と、過去最高だった。19年の全国家計構造調査では、65歳以上の無職世帯の夫婦の金融資産は1915万円で、全世帯平均より636万円も多い。65歳以上世帯の金融資産の7割弱は現預金だ。物価高では現預金の価値が目減りする。今年は日経平均株価がバブル崩壊後最高値となるなど株高で「貯蓄から投資」の機運がある。多くの人が一定の知識を持って適切に資産形成できれば支えになりうる。問題は将来の不安からお金を使おうとする意欲がそがれていることだ。生きている間に必要になる生活費や医療費が見通しにくいと手元の資産を使って積極的に消費しようという気持ちになりにくい。人口に占める65歳以上の比率は20年時点で日本が28.6%と突出する。ドイツが21.7%、米国16.6%、韓国15.8%だ。そもそも米国に比べ日本は消費意欲が弱い。適切に資産形成したり、ライフスタイルにあわせながら可能な範囲で働き続けたりと解はいくつもある。高齢者が過度に不安にならずに消費できる前向きな社会観をつくれるか。需要不足を脱しきれない日本がデフレに後戻りしないためのポイントの一つになる。

*1-3-2:https://mainichi.jp/articles/20230120/k00/00m/040/283000c (毎日新聞 2023/1/20) 年金増、物価高騰追いつかず 「キャリーオーバー」、高齢者負担増も
 来年度の公的年金額は3年ぶりの増額改定となった一方、物価高騰などには追いつかず、実質的には0・6%の目減りとなる。長期的に年金財政を維持し、将来世代の支給水準を確保するための対応だが、食料品や光熱費などの値上がりが続く中、年金頼みの高齢者にとってはさらなる痛手になりそうだ。急激な物価高騰の一方で、年金額が実質的に0・6%目減りするのは、年金額を抑制する「マクロ経済スライド」が適用されるためだ。公的年金制度は、現役世代が払う保険料などで高齢者への給付をまかなう世代間の「仕送り方式」で運営されている。
●来年度から年金額はこう変わる
 現役世代(20~64歳)は2020年の約6900万人から、40年には約1400万人減の計約5500万人になる見通し。一方、高齢者は約3600万人から約3900万人に増え、ピークを迎える。少子高齢化で現役世代が減り、高齢者が増えれば年金財政が悪化の一途をたどる。年金財政を長期的に維持するため、04年の年金改正で導入されたのがマクロ経済スライドだった。しかし、想定外のデフレ長期化で、実際には適用されない事態が続いていた。マクロ経済スライドは賃金や物価の伸びが下がった場合は適用されない。過去約20年で適用がわずか3回にとどまった結果、現在の高齢者の給付水準が想定よりも高止まりし、国民年金の給付水準は47年度には現在より3割減るなど、将来世代へのしわ寄せが懸念される。こうしたマクロ経済スライドの機能不全を補うため、18年に導入されたのが「キャリーオーバー(繰り越し)制度」だ。デフレなどで適用できなかった場合でも、翌年度以降にカット分を繰り越して、物価や賃金が上昇したタイミングで一気に差し引く仕組みだ。
●年金額改定のイメージ(67歳以下の場合)
 今回の賃金上昇分は2・8%。本来なら年金額も同程度の引き上げになるところだが、繰り越し制度が実施され、21、22年度にカットされなかった分を含むマイナス0・6%分が一気に差し引かれることになった。「今の高齢者にとっては厳しい措置だが、将来の現役世代の年金水準を保つためには必要不可欠の対応」。厚生労働省幹部は理解を求めるが、繰り越し分が積み重なった結果、一度に差し引かれる年金額が大きくなれば、高齢者の負担感が増す恐れもある。年金問題に詳しいニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員は「『雪だるま式』に繰り越した分を次々積み重ね、一気に差し引くキャリーオーバーの仕組みは生活への影響が大きい。物価や賃金の変動に関わらず、マクロ経済スライドを部分的にでも常に適用するなどの方法を模索すべきだ」と指摘する。
●エアコンオフ、風呂や食事減らしても…
 高齢者は年金の実質目減りをどう受け止めるのか。「年金の目減りで、さらに生活は苦しくなりそう」。千葉県八千代市で1人暮らしをする高橋芙蓉子さん(80)はため息をつく。現在の厚生年金額は月10万円ほど。家賃が4万円弱かかり、以前から切り詰めた生活を送っていた。そこに物価高とともに、来年度からは年金の目減りも追い打ちをかける。食料品は消費期限が近い「見切り品」の購入が中心で、冬はエアコンなどの電源をオフにしてしのいでいる。東京都世田谷区の斉藤美恵子さん(76)は、介護保険料などを差し引くと月6万円ほどしか手元に残らない。34歳で離婚後、体の弱い母親や子どもの面倒を見ながら、パートなどで働いてきた。「お風呂の回数や食事を減らして何とかやっている。病気になったらどうすればいいのか」。公的年金制度を巡っては、「財政検証」に向けた議論が今後進む。2004年に導入された仕組みで、「年金の健康診断」として、5年ごとに実施される。24年にとりまとめ、25年通常国会で年金関連改正法案の提出を目指す方針だ。少子高齢化で年金制度の「支え手不足」が懸念される中、次期改正に向けては国民年金(基礎年金)の保険料納付期間の延長が焦点になる見通し。現行は20歳以上60歳未満の「40年間」となっている納付期間を、65歳までの「45年間」に延ばすことなどが検討される。将来世代の年金をどうやって確保するのか。模索が続く。
●公的年金改定率の推移
 ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員は「少子化や平均寿命が延びた影響を考えると、年金水準を下げないと財政バランスが取れない」と話す。厚生年金の保険料率は04年から段階的に引き上げられ、17年に現在の18・3%に固定された。中嶋氏は「今の年金受給者は現役時代に、今より低い料率で保険料を納めていた。その分を年金水準の抑制で補っているとも考えられる」と指摘。マクロ経済スライドを適切に実施することで、世代間の不公平感の解消を進めるよう求める。一方で、低年金者への手当ても課題になる。中嶋氏は「賃金変動率より年金額が低ければ、相対的に貧困に陥る高齢者は増える。低年金で、かつ資産もない高齢者には、公的年金制度ではなく、福祉的な制度でサポートすべきだ」と話す。
●マクロ経済スライド
 長期的に年金財政を維持し、将来世代の一定の給付水準を確保するための仕組み。現役世代の減少と平均余命の延びに応じ、毎年4月の改定時に物価や賃金の上昇幅よりも年金額を抑制する。少子高齢化で保険料を支払う現役の人口が減る一方、高齢者への支給は膨らむことから、2004年の制度改革で導入された。

*1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230328&ng=DGKKZO69647960Y3A320C2MM0000 (日経新聞 2023.3.28) 物価高対策2.2兆円 政府、予備費から支出決定
 政府は28日、2022年度予算に計上した新型コロナウイルス・物価高対策の予備費から2兆2226億円を支出すると閣議決定した。22日に決めた追加の物価高対策などの原資とする。国が地方に配る「地方創生臨時交付金」に1兆2000億円を充てる。自治体を通じ、LPガス利用者などの負担軽減や低所得世帯への一律3万円の給付を実施する。自治体の対応とは別に、政府も低所得世帯の子ども1人につき5万円の給付を実施する。この経費に1550億円を支出する。家畜のえさとなる配合飼料の価格高騰対策に965億円、輸入小麦の政府売り渡し価格の激変緩和策に310億円、農業用水利施設の電気料金対策に34億円を充てる。飼料対策は、1~3月期のコスト上昇分の一部を補填する。畜産農家が生産コスト削減などに取り組むことが前提となる。既存の価格安定制度とは別に1トンあたり8500円を支給する。小麦価格の激変緩和は特別会計の事業として実施している。特会の経費が不足しており、一般会計から繰り入れる。新型コロナ対策として、病床を確保する医療機関への交付金向けに7365億円も支出する。年度末の申請増加に備えて積み増す。22年度予算の一般予備費から655億円の支出も決めた。ロシアの侵攻を受けるウクライナの復旧・復興支援や物資提供の経費などとする。コロナ・物価高予備費は22年度に当初と補正で計9兆8600億円を計上した。一般予備費は計9000億円とした。今回の支出後の残額はそれぞれ2兆7785億円、3742億円となる。ほかに第2次補正予算で計上したウクライナ予備費が1兆円残っている。

*1-3-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1096241 (佐賀新聞 2023/8/24) 佐賀市消費者物価 17カ月連続100超え 7月物価高騰続く
 佐賀県統計分析課がまとめた7月の佐賀市消費者物価指数(2020年を100)は104・9と、前月比で0・6%上昇、前年同月比で3・3%の上昇となった。昨年3月以降、17カ月連続の100超えとなっており、物価高騰が続いている。項目別にみると、光熱・水道、被服および履物が前月からわずかに下落し、教育は前月と同じだった。ほとんどの項目でわずかに上昇し、家事・家具用品114・7、食料111・9、教養娯楽108・1だった。野菜や海藻、通信などの値上げ幅が目立っている。

*1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15704189.html (朝日新聞社説 2023年7月31日) 概算要求基準 歳出「正常化」できるか
 政府が、来年度の予算編成に向けた基本方針を決めた。コロナ禍以降、膨張した歳出について「経済が正常化する中で、平時に戻していく」という。当然であり、かけ声倒れに終われば財政の持続性が問われる。具体的な道筋を示すべきだ。各省庁の予算要求に制限をかける概算要求基準も閣議了解した。配分にメリハリをつけつつ全体の規模を抑える役割があるはずだが、相変わらず例外や抜け穴が目立つ。歳出の肥大化が続く懸念が強い。最たるものは、政権が2倍近くへの拡大を打ち出した防衛費を、別枠扱いにした点だ。安定財源を確保しないまま「見切り発車」したのを、予算要求のルールでも追認した。防衛費の大幅増はすでに今年度予算から始まり、他の重要分野や財政健全化にしわ寄せを及ぼしつつある。身の丈に合わない予算増を無理に続ければ、政策資源の配分をゆがめる。弊害を直視し、再考すべきだ。防衛費増と、同様に別枠にした子ども政策の財源について、政府は幅広い「歳出改革」による捻出を当て込んでいる。であれば、減らせる予算の徹底的な洗い出しが必須のはずだ。ところがこの点で、概算要求基準は従来の方式から踏み込まなかった。各省庁に裁量性が高い経費の一律1割減を求めたうえで、削減額の3倍分までの要求を「重要政策」の特別枠で認める。枠は計約4兆円で「新しい資本主義」関連など対象が広い。これで大きな財源をひねり出せるのか、疑問が大きい。歳出の「正常化」への試金石は、高騰したガソリンや電気・ガス料金の補助金の扱いだ。兆円単位の巨費を投じてきたが、秋に期限を迎える。政府は、物価高の激変緩和措置を段階的に縮小・廃止し、影響が大きい層への支援に絞る方針を示した。物価動向が見通しにくい中で、低所得者層への支えは必要だが、一律の補助金をいつまでも続けるわけにはいかない。与党の反発も予想される中、方針を貫けるのか。社会保障など他の分野でも、物価高や賃金上昇に応じた増額を求める声は強まっている。合理的な範囲にとどめられるか。首相の指導力が問われる。20年度以降、コロナ禍や物価高への対応で、政府の歳出は数十兆円規模で膨らんだ。先進国で最悪水準の借金が、さらに積み上がっている。この状況を漫然と続けるのは、将来世代への背信にほかならない。政策の必要性や優先度を厳しく見極め、真に大切な政策を始めるときは安定財源を確保する。そうした当たり前の財政運営に、立ち戻る時である。

<気候変動について>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230731&ng=DGKKZO73196930R30C23A7MM0000 (日経新聞 2023.7.31) 地球「12万年ぶり暑さ」 7月平均気温、古気候学者、温暖化に警鐘 米1.5億人に高温警報
 世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2023年7月の世界の平均気温が観測史上で最高となる見通しだと発表した。観測記録のない太古の気候を探る研究者は「地球の平均気温はおよそ12万年ぶりの最高気温を記録した」と温暖化の進行に警鐘を鳴らす。数十万年前の地球の気候を研究するのが古気候学だ。米地質調査所(USGS)によると、地層や岩、年輪、サンゴ、アイスコア(氷床のサンプル)に保存される地質学的、生物学的な情報を分析し、過去の気候を推察する。例えばアイスコアの場合、古気候学者は数千年以上かけて何層にも積み重なった氷や雪の層を採取し、中に含まれる気泡やちりを解析する。気泡にははるか昔の大気サンプルが保存されており、地球の平均気温と比例する二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの濃度や当時の雨量までわかる。こうしたデータに基づいた気候モデルを作成し、遠い過去の地球の気候を再現する。米シラキュース大学で古気候学と古生態学を研究するリンダ・アイバニ教授は「地球は過去80万年間、およそ10万年の周期で温暖化と寒冷化を繰り返してきた」と話す。12万5000年前、地球は2つの氷河期の間に位置する間氷期と呼ばれる状態にあり、「直近で地球が最も温暖となった時期だ」という。局所的な異常気象や猛暑日を古気候のモデルと一概に比較することは難しい。ただ、観測を続ければ長期的な傾向がわかる。アイバニ氏は「過去10年間の年間平均気温は毎年のように最高記録を更新した」と指摘。「間違いなく12万5000年ぶりの暑さだ」と断言する。間氷期は「エエム紀」とも呼ばれる。南極の氷床サンプルに基づいた気候モデルを見ると、エエム紀の平均気温は工業化前(1850~1900年)と比べ、セ氏0.5~2.0度ほど高かったことがわかる。気候モデルによると、今年6月に世界の平均気温が工業化前の平均気温を1.5度以上、上回った。米西部アリゾナ州フェニックスでは7月に入り、セ氏42度以上の猛暑日が10日以上続いた。フェニックスではあまりの暑さでサボテンも枯れ始めている。7月28日には米国全体で1億5000万人以上が高温警報の対象となった。バイデン米大統領は27日の演説で「(連日の猛暑もあり)気候変動の影響を否定できる人はもういないだろう」と述べた。熱波は欧州やアフリカでも広がっており、国連のグテレス事務総長も同日、「地球の沸騰が始まった」と警告した。事態はさらに悪化する恐れもある。アイバニ氏は大気中のCO2濃度がここまで高いのは350万年ぶりだと説明し、「大気中の温暖化ガスを見る限り、まだまだ温暖化は続くだろう」と強調した。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73569050U3A810C2TLH000 (日経新聞 2023.8.15) 地球史に人の時代現る、「人新世」、環境に大きく影響
 人間活動が地球環境に多大な影響を及ぼすようになった現代を「人新世(じんしんせい)」とする議論が大詰めを迎えている。2024年にも専門家がつくる国際地質科学連合が、地球史に新たな年代を加えるかを決める。地球史と人間の関係を3つのグラフィックとともに考える。地球の歴史は海の誕生や生物の盛衰、気候変動などが節目になってきた。歴史を塗り替えた事件の1つに小惑星の地球衝突がある。白亜紀に栄えた恐竜が絶滅し、新たな章を刻んだ。こうした過去の出来事を地層に残る痕跡からひもとき、地質年代と呼ぶ時代区分に整理してきたのが地球史だ。現代は直近の氷期が終わった1万1700年前から続く新生代第四紀完新世の真っただ中にあった。だが2000年代から始まった人新世の議論は「もはや現代は完新世とは別の時代だ」とする考えに基づく。地球の環境にとって、今の人間の営みは決定的な変化をもたらしているというわけだ。人間の力は大きくなりすぎたのだろうか。19世紀までの産業革命以降、地球は温暖化している。工業社会の進展は豊かな社会を築いたが、深刻な環境問題も招いた。各地の地層からは、人間が地球環境を変えてきた証拠が見つかっている。1950年ごろを境に、化石燃料を燃やした煤(すす)や化学物質、核実験から生じた放射性物質のプルトニウムなどが増えていた。こうした痕跡は地層に残るいわば「科学技術の化石」だ。人間の振るまいが目立つ1950年以降を新たな地質年代と地質学者らが考えるのも自然な流れなのかもしれない。国際地質科学連合の作業部会は7月、人新世の始まりを象徴する場所に、カナダのクロフォード湖を選んだ。湖底の堆積物は地球の変化を克明に記録しているという。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230326&ng=DGKKZO69601710V20C23A (日経新聞社説 2023.3.26) IPCC報告が示す温暖化対策の緊急性
 温暖化による気象災害や食料危機、紛争などの悪化を防ぐための時間は、わずかしか残されていない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第6次統合報告書は、温暖化対策の緊急性を強く訴えた。報告書は気候変動をめぐる今後の国際交渉の土台となる。日本は主要7カ国(G7)議長国として真剣に受け止め、中国を含む20カ国・地域(G20)とも連携して対策を加速する必要がある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前に比べた地球の平均気温の上昇を1.5度以内にとどめる目標を掲げる。だが、報告書によると気温は既に1.1度上がっており、2030年代前半にも1.5度に達する可能性がある。気温が目標を超える期間を短くとどめ、下降に向かわせることが重要だ。それには世界の温暖化ガス排出を25年までに減少に転じさせ、35年の世界の排出量を19年比で約60%減らさねばならないという。パリ協定のもと、各国は25年までに35年の新たな削減目標を提示することになっている。報告書の数値は重要な指標となろう。日本の現行目標は30年度の排出量を13年度比で46%減らし、50%減をめざすというものだ。国際社会から一層の上乗せを求められる可能性がある。見直しの検討を怠ってはならない。報告書は21年10月までのデータに基づいており、ロシアのウクライナ侵攻の影響は含まない。現実にはエネルギーの安定供給を確保するため、化石燃料の利用減を先延ばしする動きもある。石炭火力発電への依存度が高いアジアの途上国などでは、再生可能エネルギーへの転換や省エネの投資が不足している。パリ協定の目標達成は困難を伴う。だが、諦めるわけにはいかない。IPCCのホーセン・リー議長は対策の遅れがもたらす熱波や洪水などの被害拡大に警鐘を鳴らすとともに「報告書は希望へのメッセージでもある」と強調した。再生エネルギーや蓄電池のコストは劇的に下がった。水素製造・利用技術や、火力発電所から出る二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留する技術の開発も進む。日本は化石燃料依存を減らしつつ、こうした技術の普及へ積極的な役割を果たすべきだ。実績を積み上げ、被害や損害の軽減につなげることが大切だ。

*2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1093420 (佐賀新聞 2023/8/19) 豪雨被害 内水氾濫対策の強化急げ
 近畿を縦断するように北上した台風7号のように今年も各地で豪雨による災害が相次いでいる。線状降水帯が頻繁に発生し、過去最多の雨量を記録するケースも目立つ。これらの要因に挙げられるのが、地球温暖化だと言えるだろう。国連のグテレス事務総長は7月末に「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告した。その証拠に7月の世界の平均気温は過去最高だった。気温上昇による台風の大型化、一度に降る雨の量が増える傾向が続くことを前提に、水害防止対策を強化しなければならない。台風7号の対応では、台風が来る2日ぐらい前から、対応を時系列で定めている「タイムライン」の運用を始めた自治体もある。早め早めに避難所を開設し、高齢者らの避難を呼びかけるという予防的な対応を普及させることが不可欠だ。東海道・山陽新幹線や在来線の一部区間では15日、事前に運休を知らせる「計画運休」を実施した。この結果、突然の運転取りやめによる混乱は回避できたと評価できる。一方、東海道・山陽新幹線は16日、静岡県内の豪雨のため半日程度の運転見合わせを余儀なくされた。土砂崩れや、盛り土区間での路盤の崩壊などを警戒してのことであり、安全確保のためやむを得ない措置だろう。ただ、今後は温暖化に伴って豪雨の増加も想定される。突然の運休を増やさないためにも、さらなる土砂崩れの防止対策や路盤強化策の検討も必要ではないか。秋田県で7月に記録的な大雨があり、秋田市では「内水氾濫」が発生して床上浸水する住宅が相次いだ。内水氾濫とは、下水道や水路の排水能力を超える豪雨のため低い場所に雨がたまることを意味する。河川の堤防が切れて浸水する「外水氾濫」とは対策が異なる。国土交通省によると、2020年までの10年間の水害被害額は約4兆2千億円あり、内水氾濫はうち3割を占める。東京都では被害総額の8割超が内水氾濫だ。都市部では、農地のように雨水を地下に浸透させる土地が少ないため、氾濫の被害が増える傾向があると分析できる。対策としては、下水道を更新して排水能力を高めることや、雨水を地下に一時的にためる施設を造るハード対策が中心となる。公園や緑地を整備して地下に浸透させる量を増やす方法もある。ただ、これらの対策には多くの時間や予算がかかることが難点だ。このため自衛策も重要となる。まずは内水氾濫によって浸水する地域を示す自治体のハザードマップを見て、自分が住んだり働いたりする地域が浸水しやすい場所かどうかを把握することから始める。未策定の自治体に対しては、早期の作成を要望する。次に水に漬かっては困る非常時用の発電機やコンピューターなどは、地下や1階に置かないようにする。地下街や地下室に水が浸入しないように止水板や土のうを備え、緊急時に備えた訓練も必須である。車を運転する場合に備えて、アンダーパスのように水がたまりやすい場所の情報を集めておくことも必要だ。内水氾濫の対策に時間がかかる場所については、土地をかさ上げして安全度を高めて住むようにする。それも難しい場所は、居住を避けることも選択肢としたい。

*2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230820&ng=DGKKZO73739880Q3A820C2MM8000 (日経新聞 2023.8.20) 石炭火力、依存断てぬ世界 廃炉超す新設、猛暑も影 迫るCO2許容量
 世界の石炭依存に歯止めがかからない。最大の消費国の中国は足元の石炭火力発電(3面きょうのことば)の量が過去5年を大きく上回る。コロナ禍からの経済の回復に猛暑が重なり、電力需要が膨らむ。欧州もウクライナ危機で天然ガスの供給不安に直面し、なりふり構わず石炭に回帰する動きが出た。総じて石炭火力は新設ペースが廃炉に勝り、脱炭素の目標はかすんでいる。二酸化炭素(CO2)排出量で世界の3割を占める中国は電源の過半を石炭に頼る。フランスの衛星データ会社ケイロスによると、7月の1日あたりの石炭火力発電量は1年前と比べ14.2%増えた。宇宙からのCO2観測に基づく推計だ。1年前の6月に上海のロックダウン(都市封鎖)を解除した。年明けには厳しい移動制限を強いるゼロコロナ政策を撤廃した。段階的な経済の正常化で電力需要が増加傾向にある。さらに今夏は熱波が襲う。北京の気温が6月として観測史上最高のセ氏41.1度に達するなど記録的な暑さで、冷房が欠かせなくなっている。脱炭素で足踏みするのは中国だけではない。国際エネルギー機関(IEA)の7月の報告書によると、石炭需要は22年に世界2位のインドで8%増えた。インドネシアは36%増えて世界5位の消費国になった。世界全体も23年に過去最高を更新する見込みだ。石炭は低コストで安定調達しやすい。新興国はもちろん、先進国も有事には頼みの綱とする。脱炭素の旗振り役だったドイツも例外ではない。ウクライナ危機でロシアからのガス供給が滞り、ハベック経済・気候相は「状況は深刻」と石炭火力の稼働を増やした。フランスも再稼働に動いた。日本は電源の30%前後を占める状態が続く。11年に原子力発電所の事故が起き、依存度が5ポイントほど高まった。削減の道筋は見えていない。米調査団体グローバル・エナジー・モニターによると、世界の石炭火力は出力ベースで新設分が廃止分を上回る。新設は日本を含むアジアで多いほか欧州のポーランドやトルコでもある。新設の5割を占める中国は廃止ペースの鈍化も目立つ。新設による効率化を考慮しても温暖化ガスの排出量が相対的に多いことは変わらない。依存を断てなければツケは早々に回ってきかねない。温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定は産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える目標を掲げる。この一線を超えると熱波や豪雨などのリスクが劇的に高まる。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は3月の報告書で、1.5度目標の達成に許容できる温暖化ガス排出量は残り4000億トンとの試算を改めて示した。現状の年400億トンの排出ペースが続くと10年ほどで限界に達する。国連のグテレス事務総長は「気候の時限爆弾が針を進めている」と危機感をあらわにした。各国・地域が無策なわけではない。英シンクタンクのエンバーによると、世界の再生可能エネルギー発電量は00年から22年にかけて3倍になった。直近10年だけでも1.8倍に拡大した。中国も太陽光や風力の出力増が著しい。立命館大学の林大祐教授は「00年代以降に大気汚染対策、新興産業として国家的に育成してきた」と指摘する。問題は成長する経済を再生エネだけでは支えきれていないことだ。世界全体で石炭による発電量も10年で15%増え、ほぼ右肩上がりが続く。温暖化のもたらす熱波が、温暖化を招く化石燃料への依存を深める。そんな悪循環の構図も足元で浮かぶ。残り10年の猶予がさらに短くなる懸念さえちらつく。

<原発と予算>
*3-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230118 (東京新聞 2023年2月9日) 原発回帰の姿勢、より鮮明に 政府の法改正案判明「国の責務」
 原発活用に向けて政府が通常国会に提出する関連法の改正案が8日、分かった。原子力利用の原則を定めた原子力基本法には、原発活用による電力の安定供給の確保や脱炭素社会の実現を「国の責務」と明記。これまで上限としてきた60年を超える運転を可能にする運転期間の規制は「原子力の安定的な利用を図る観点から措置する」とし、原発回帰の姿勢を鮮明にした。電気事業法や原子炉等規制法など5本をまとめた「束ね法案」で、政府が自民党会合で示した。今月下旬にも閣議決定した上で、通常国会に提出する。「原則40年、最長60年」としてきた運転期間は、原子炉等規制法から電気事業法に移管。上限を維持した上で、2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、安全規制への対応や行政指導、後に取り消された行政処分や裁判所の仮処分命令などで停止した期間を、運転期間の計算から除外できるとした。原子力基本法に、国や事業者が安全神話に陥り、福島第1原発事故を防げなかったことを真摯に反省することを基本原則として盛り込んだ。

*3-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/230548 (東京新聞 2023年2月11日) パブコメでは多くが反対、各地の説明会は途中…でも原発推進を閣議決定 「将来世代に重大な危険」声を無視
 原発の建て替えや60年超運転などの原発推進策を盛り込んだ政府の基本方針は、意見公募(パブリックコメント)に4000件近くの意見が寄せられ、その多くが原発に反対する声だった。しかし、大筋は変わらないまま、10日に閣議決定された。岸田文雄首相の検討指示から半年足らずでの原子力政策の大転換は、一貫して国民の声に向き合っていない。
◆与党内の声には配慮 「敷地内」の1点修正
 「東京電力福島第一原発事故は、人間が原発をコントロールできないことの証明だ」「将来世代に重大な危険を呼び込む」。閣議決定後に政府が公表した意見公募の結果には、政府に再考を求める意見が並んだ。政府の会議で基本方針を決定した後の昨年12月末から約1カ月間実施した意見公募に寄せられたのは計3966件。政府は、類似の意見をまとめて356件の意見内容と回答を明らかにした。原発に否定的な意見に対する政府の回答は、ウクライナ危機によるエネルギー情勢の変化によって電力の安定供給が危機的な状況だと強調。脱炭素効果のある再生可能エネルギーなどとともに、原子力の活用を図るとの説明を繰り返した。意見公募終了後、基本方針の大きな修正は、原発関連では1点のみ。福島事故後に政府が想定してこなかった原発の建て替えについて、対象となる場所を「廃炉が決まった原発」から「廃炉が決まった原発の敷地内」と詳しくした。これは、与党内の原発慎重派の意見に配慮した側面が強い。
◆国民の声聞かず 「被災者をばかにしている」
 基本方針は経産省の複数の有識者会議で内容を検討。原発に否定的な委員からは国民的な議論を求める意見が相次いだが、方針の決定までに国民の声を聞くことはなかった。昨年末に基本方針を決めた後、経産省は1月中旬から経済産業局などがある全国10都市で説明会をスタート。これまでに名古屋市、さいたま市、大阪市、仙台市の4カ所で開き、3月上旬まで続く。説明会が終わらない中での閣議決定に対し、原発事故被害者団体連絡会の武藤類子共同代表=福島県三春町=は10日の記者会見で「何のための意見交換会なのか理解できない。被災地の福島県では開催せず、被災者をばかにしている」とあきれて見せた。
◆「結論ありきで強引。政策決定の手法として許されない」
 規制当局にも反対意見がくすぶる。基本方針は原発を活用する前提として、原子力規制委員会による厳格な審査や規制を掲げる。今月8日の規制委定例会で、原子炉等規制法(炉規法)に規定された「原則40年、最長60年」とする運転期間の定めを経産省所管の法律に移すことに対し、石渡明委員が「必要性がない」と反対。新たな規制制度が決定できるかは不透明になった。西村康稔経産相は閣議決定後の会見で「(基本方針は)原子力利用政策の観点でまとめており、安全規制の内容は含まれていないので問題ない」と説明し、今後も関連法の改正など手続きを進める意向を示した。経産省の有識者会議の委員も務めたNPO法人・原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「反対意見に聞く耳を持たず、原発推進の結論ありきで強引に進めている。政策決定の手法として許されない」と批判する。
◆首相官邸前では反対の声こだま
 政府が原発推進策を盛り込んだ基本方針を閣議決定した10日、東京・永田町の首相官邸前で約100人が抗議行動を展開した。冷たい雨の中、「原発の新増設は許さない」「福島を忘れるな」と声を合わせた。市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」が主催。環境団体や労組など6団体のメンバーらがマイクを握った。国際環境NGO「FoE Japan」事務局長の満田夏花さん(55)は「原子力産業の生き残りのために、将来世代に大きな負担と事故リスクを背負わせることになる。民意を無視した閣議決定に断固反対」と強調。全国労働組合連絡協議会副議長の藤村妙子さん(68)は「福島第一原発の事故から何も学んでいない。老朽原発の稼働は絶対に許されない」と憤った。

*3-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1002105 (佐賀新聞 2023/3/10) 事故後12年の原発政策 根拠薄弱な方針転換だ
 巨大地震と津波が世界最悪クラスの原発事故を引き起こした日から12年。われわれは今年、この日をこれまでとは全く違った状況の中で迎えることになった。「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とした民主党政権の政策は、自民党政権下で後退したものの、原発依存度は「可能な限り低減する」とされていた。岸田文雄首相はさしたる議論もないままこの政策を大転換し、原発の最大限の活用を掲げた。今なお、収束の見通しが立っていない悲惨な事故の経験と、この12年間で大きく変わった世界のエネルギーを取り巻く情勢とを無視した「先祖返り」ともいえるエネルギー政策の根拠は薄弱で、将来に大きな禍根を残す。今年の3月11日を、事故の教訓やエネルギーを取り巻く現実に改めて目を向け、政策の軌道修正を進める契機とするべきだ。ロシアのウクライナ侵攻が一因となったエネルギー危機や化石燃料使用がもたらした気候危機に対処するため、原発の活用が重要だというのが政策転換の根拠だ。だが、東京電力福島第1原発事故は、大規模集中型の巨大な電源が一瞬にして失われることのリスクがいかに大きいかを示した。小規模分散型の再生可能エネルギーを活用する方がこの種のリスクは小さいし、深刻化する気候危機に対しても強靱(きょうじん)だ。昨年、フランスでは熱波の影響で冷却ができなくなり、多くの原発が運転停止を迫られたことは記憶に新しい。原発が気候危機対策に貢献するという主張の根拠も薄弱だ。気候危機に立ち向かうためには、25年ごろには世界の温室効果ガス排出を減少に向かわせ、30年までに大幅な削減を実現することが求められている。原発の新増設はもちろん、再稼働も、これにはほとんど貢献しない。計画から発電開始までの時間が短い再エネの急拡大が答えであることは世界の常識となりつつある。岸田首相の新方針は、時代遅れとなりつつある原発の活用に多大な政策資源を投入する一方で、気候危機対策の主役である再エネ拡大のための投資や制度改革には見るべきものがほとんどない。この12年の間、安全対策などのために原発のコストは上昇傾向にある一方で、再エネのコストは急激に低下した。原発の運転期間を延ばせば、さらなる老朽化対策が必要になる可能性もあるのだから、原発の運転期間延長も発電コスト削減への効果は極めて限定的だろう。透明性を欠く短時間の検討で、重大な政策転換を決めた手法も受け入れがたい。米ローレンスバークリー国立研究所などの研究グループは最近、蓄電池導入や送電網整備、政策の後押しなどにより日本で35年に再エネの発電比率を70~77%まで増やせるとの分析を発表した。これは一つの研究成果に過ぎないとしても、今、日本のエネルギー政策に求められているものは、この種の科学的な成果や世界の現実に関するデータを基礎に、熟議の上で合理的で説得力のある政策を決めることだ。いくらそれらしい理屈と言葉を並べ立てたとしても、科学的な根拠が薄く、決定過程に正当性のないエネルギー政策は、机上の空論に終わるだろう。

*3-1-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15726692.html (朝日新聞社説 2023年8月28日) 原発支援強化 経済性あったはずでは
 政府が原発の新たな支援策の検討を始めた。再稼働を資金面で後押しする内容で、採算性が低い原発の温存や国民負担の増大につながる懸念がある。既存原発は経済的だというこれまでの説明とも矛盾する。導入ありきで進めるようなことは、あってはならない。経済産業省が審議会に案を示した。脱炭素電源への新規投資を支援する「長期脱炭素電源オークション」の対象に、再稼働前の既存原発を加える。従来は再生可能エネルギーや原発などの新設と建て替えが主な対象で、既設は火力発電の低炭素型への改修に限っていた。オークションは来年初めに始まる。入札で選ばれると、事業者は建設費や人件費など固定費分の収入を原則20年間得られる仕組みだ。元手は小売会社が払うが、電気料金を通じて国民全体の負担となる。福島第一原発の事故以降、原発の安全対策が強化され、大手各社が再稼働に向けて投じた工事費は計約6兆円にのぼる。今回の案は、安全対策投資の回収を保証し、電力会社側の事業リスクを軽くする狙いだ。電力の脱炭素化や長期的な供給力を確保するための仕組みは必要だろう。ただし、手厚く支援する以上、対象は相応の効果が見込めるものに絞るべきだ。この点で、既存原発を加える案には疑問が多い。経産省はこの制度の検討時、「既存電源の最大限活用のみでは不十分」と審議会で訴えていた。新規電源とは言えない既存原発の再稼働も対象にすれば、制度の趣旨から大きく外れる。原発依存を長引かせ、新技術導入を妨げることにならないか。そもそも政府と電力大手はこれまで、「安全対策工事をしても(既存の)原発には経済性が十分ある」として再稼働を進めてきたはずだ。多額の工事費を投じる方針も各社が経営判断で決めており、そのコストは通常の事業の中でまかなうのが筋だろう。後になって公的な支援を入れるのは理解に苦しむ。経産省が7月末に案を示したのも唐突だ。5月末に成立した原発推進の法改正で「安全投資などの事業環境整備」が盛り込まれたのが根拠だという。だが、法改正の検討段階や国会審議では、具体的な手法は説明しなかった。「原発復権」に向けた政権の政策転換に関心が高まった時には議論を避け、法改正を押し通した後に「次の一手」を繰り出すのでは、不信感を持たれて当然だ。審議会では、市場制度のあり方をはじめ、広い視点で徹底的に議論してほしい。疑問を置き去りにした「見切り発車」を繰り返すことは許されない。

*3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR8S3DMKR8RULBH00J.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2023年8月24日)福島第一原発の処理水問題、原発処理水のトリチウム濃度、基準を下回る 午後1時ごろに放出開始
 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出計画で、東電は24日午前、海水で薄めた処理水を分析した結果、トリチウムの濃度は、計画の基準1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)を下回ったと発表した。
●「理解」得られた?東電の説明は 処理水放出始まっても廃炉見通せず
 トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準未満であることは確認済みで、東電は24日午後1時ごろに放出を始める。会見した東電福島第一廃炉推進カンパニーの処理水対策責任者、松本純一氏は「一段と緊張感を持って対処したい。直接操作にあたる運転員のほか、情報は速やかに発信できるよう準備を整えている。遺漏なきよう実施したい」と述べた。東電によると原発内のタンクには、大半の放射性物質を除去する「多核種除去設備」(ALPS(アルプス))などを通した水が約134万トンたまっている。今年度は、このうち約3万1200トンを放出する計画。1回目の放出では約17日間かけて約7800トンを流す。放出開始から1カ月程度は、沖合約1キロ先の放水口の周辺で海水を毎日採取し、トリチウム濃度を調べる。東電は、22日午前の政府の関係閣僚会議での正式決定を受けて放出の準備を開始。タンクの水を約1200倍の海水で希釈した処理水を22日夜に採取し、トリチウム濃度を調べていた。海水で希釈した処理水は「上流水槽」にたまる。処理水を入れ続けると、あふれて隣の「下流水槽」に流れ込む。下流水槽の底部には、放水口に続く海底トンネルの入り口があり、処理水は自然に放水口から海へ出ていく仕組みという。

*3-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/271966?rct=editorial (東京新聞社説 2023年8月23日) 処理水放出 「全責任」を持てるのか
 東京電力福島第一原発にたまり続ける「処理水」が、海に流される。「風評被害」を恐れる漁業者に対し、岸田文雄首相は「漁業が継続できるよう、政府が全責任を持って対応する」と強調するが、順調に進んでも三十年に及ぶ大事業。誰が、どう責任を取り続けるというのだろうか。福島第一原発では、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため、大量の冷却水をかけている。そこへ地下水や雨水が加わって、「汚染水」が毎日約九十トンずつ出続けている。その「汚染水」から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を取り除いたものが「処理水」だ。原発構内には千基を超える「処理水」のタンクが林立し、廃炉作業の妨げになるとして、政府はおととし、濃度を国の基準値未満に薄めた上で、海底トンネルで沖合一キロの海に流す方針を決めた。ALPSを用いても、放射性物質はわずかに残り、三十年間放出し続ければ膨大な量になる。風評被害を恐れる漁業者の不安はぬぐえていない。政府と東電は八年前、福島県漁業協同組合連合会との間で「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束を交わした。全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長=写真右端=は二十一日、首相=同左端=と面談し、「海洋放出に反対であることには、いささかも変わりない」とした上で「科学的な安全と社会的な安心は異なるもので、科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるものではない」と強い懸念を表明した。約束を反故(ほご)にしての放出開始。いくら首相が「責任を持つ」と繰り返しても、にわかに信じられるものではないだろう。海洋放出の実施については、まだまだ説明と検討が必要だということだ。これほどの難題を抱えつつ、あたかも別問題であるかのように、政府が「原発復権」に舵(かじ)を切るのも全く筋が通らない。日本の水産物輸出先一位の中国は先月から税関検査を強化。七月の輸入量は前の月に比べ、三割以上減少した。拙速な放出開始は将来にさらなる禍根を残す。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230824&ng=DGKKZO73837360U3A820C2EA2000 (日経新聞 2023.8.24) 経産相、福島産の積極販売を要請 小売6団体幹部に
 西村康稔経済産業相は23日、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の放出が24日にも始まるのを前に小売業界団体の幹部と面会した。福島県産の水産物などの風評被害が懸念される中、積極的に販売に取り組むよう求めた。政府の支援策と合わせ、漁業者が事業を継続できる環境を整える。「これからも変わらず三陸常磐ものの取り扱いをしてもらえるようにお願いする」。都内で開かれた風評対策・流通対策連絡会。西村経産相は小売り関連の6団体の幹部に、処理水の海洋放出後も福島県産などの産品の販売継続を要請した。西村氏は「消費者の不安などの声も届くと思うので課題があれば言ってほしい」と連携を呼びかけた。日本チェーンストア協会の三枝富博会長は「放出後も三陸常磐でとれた水産物をこれまで通り取り扱う」と応じた。小売業界は消費者が安心して買い物できる環境を整備するよう政府に要望した。具体的には国際機関など第三者による安全性の厳格な確認、処理水が基準を満たしているかの監視結果の迅速な公表、水産物の検査体制――の徹底を求めた。政府は22日の関係閣僚会議で気象などの条件が整えば24日に放出すると決めた。東京電力ホールディングス(HD)は同日朝に放出の可否を判断し、問題なければ午後1時にも開始する。処理水の放出で地元の漁業者らは風評被害で売れ行きが落ち込むのではとの懸念を訴えている。23日の自民党水産部会には全国漁業協同組合連合会(全漁連)の坂本雅信会長ら漁業関係者が参加した。処理水放出に伴う中国や香港の輸入規制を巡り、販路拡大への支援を求める声が出た。中国は処理水放出に反発し、日本からの水産物の輸入規制を強めている。足元では日本でとれたホタテなど一部の水産物は人件費の安さからいったん中国にわたって殻をとるといった加工後に米国などに輸出されている。輸出維持のため、加工地を日本に戻す支援が必要との主張もあった。岸田文雄首相は放出と風評被害に「国が全責任を持つ」と強調する。政府は不安の払拭のため小売事業者に協力を求めたのに加え、首都圏や福島など東北地方でイベントを開いて水産物などの魅力向上にも努める。23日には復興庁が24年度の概算要求で水産業などへの支援事業を拡充する方針が明らかになった。処理水の処分に伴う対策として水産物や水産加工品の販売支援事業では41億円、漁業人材の確保では23年度当初予算比で14億円増の21億円をそれぞれ要求する。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230824&ng=DGKKZO73838100U3A820C2MM8000 (日経新聞 2023.8.24) 小売り大手、福島産の販売方針変えず ヨーカ堂「生産者を応援」 原発処理水きょう放出
 セブン&アイ・ホールディングスなど小売り大手は、24日以降に東京電力福島第1原子力発電所の処理水が海洋放出された後も福島県産水産物の販売を続ける。イオンは放射性物質の自主検査をしながら、関東圏などの総合スーパーで継続販売する方針だ。販売継続で風評被害を防ぎつつ、フェアを通じて需要を喚起する動きもある。セブン&アイ傘下のイトーヨーカ堂は23日、処理水の放出決定を受けて「東日本大震災で被災した生産者を応援していく」とし、福島県産の販売を続ける考えを示した。食品スーパーのライフコーポレーションやヤオコーなども販売を継続する。ヤオコーは「(福島産を減らすなど)商品の見直しはしない」という。イオンは22日、関東圏などの総合スーパーで福島県産を継続販売すると発表。同時に放射性物質トリチウムの含有量について、国際基準より厳しい自主検査を実施し、サイトで結果を公開する方針を明らかにした。

*3-3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15724835.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2023年8月25日) 福島第一、処理水放出 国産全水産物、中国が禁輸 日本政府抗議、撤廃求める
 東京電力は24日、福島第一原発の処理水の海への放出を始めた。増え続ける汚染水対策の一環で、少なくとも約30年は放出が続く。これを受けて中国政府は24日、日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止すると発表した。香港も同日から10都県の水産物禁輸を始めた。東電は24日午前、海水で希釈した処理水のトリチウム濃度の測定結果を発表した。計画で定める1リットルあたり1500ベクレル(国の放出基準の40分の1)を大きく下回った。ほかの放射性物質の濃度も希釈前に基準未満と確認しており、午後1時過ぎから放出を始めた。放出から約2時間後、沖合1キロ先の放水口周辺の海水を採取する船が原発から出港。1カ月程度は毎日、10カ所で海水のトリチウム濃度を測り、翌日公表する。東電の計画では、今年度はタンク約30基分にあたる計3万1200トンを4回に分けて放出する。トリチウムの総量は約5兆ベクレルで、年間の放出上限22兆ベクレルの4分の1以下。1回目は7800トン分で約17日間かけて流す。これに対し、中国外務省は24日、「断固たる反対と強烈な批判」を示す報道官談話を発表した。その後、中国税関総署が日本を原産とする水産物の輸入を暫定的に全面停止すると公表。対象は「食用の水生動物を含む水産品」。魚類や貝類のほか海藻なども幅広く適用され、冷蔵・冷凍ともに禁輸になるとみられる。中国は原発事故後、福島など10都県からの食品輸入を禁止してきた。さらに、7月から放射性物質の検査を厳格化し、日本産の鮮魚などは実質的に輸入が止まっていた。農林水産省によると、2022年の中国への水産物の輸出額は871億円。全体の約2割を占める最大の輸出先だ。香港も同年の輸出額は755億円で中国に次ぐ2位だった。岸田文雄首相は24日、首相官邸で「科学的根拠に基づいて専門家同士がしっかりと議論を行っていくよう、中国政府に強く働きかける」と語り、中国側に冷静な対応を求めた。外務省の岡野正敬事務次官は同日、中国の呉江浩大使に電話で抗議し、全面禁輸措置の早期撤廃を強く要求した。首相は「水産事業者が損害を受けることがないよう、万全の態勢をとっていく」とも強調した。東電の小早川智明社長は「国内の事業者で輸出に係る被害が発生した場合は適切に賠償する」とのコメントを出した。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230825&ng=DGKKZO73874580V20C23A8MM8000原発処理水放出を開始 (日経新聞 2023.8.25) 「廃炉」目標まで30年、デブリなど難題
 東京電力福島第1原子力発電所の事故から12年を経て、原発処理水の放出が24日始まった。廃炉に向けて一歩踏み出したものの、原発内部からの溶融燃料(デブリ、総合2面きょうのことば)の取り出しという最難関作業が待ち受ける。政府が目標とする30年後の廃炉完了は見通せない。東京電力ホールディングス(HD)は24日午後1時すぎ、原発敷地内にたまる処理水の海洋放出を始めた。23年度は全体の2.3%に当たる3万1200トンを4回に分けて放出する。24日に始めた初回分は7800トン程度を17日間程度かけて流す。51年までの廃炉期間内に放出を終える計画だ。処理水は放出前に海水と混ぜて、薄めた処理水に含まれる放射性物質トリチウムの1リットルあたりの濃度が国の安全基準の40分の1(1500ベクレル)未満であることを確認した。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は24日の声明で、IAEA職員の現場での分析で、トリチウム濃度が「1リットルあたり1500ベクレルの上限濃度をはるかに下回っていることが確認された」と指摘した。政府と東電は漁業への風評被害を防ぐため、監視データを定期的に公表して安全性を国内外に示す。基準を上回る濃度のトリチウムが検出されれば、すぐに放出を止める。東電は25日、環境省は27日にデータを公表する。西村康稔経済産業相は放出開始後に都内で記者会見し「データを透明性高く公表して安全安心を確保し、漁業者の生業継続支援に取り組みたい」と述べた。処理水の放出は長い道のりの一歩にすぎない。今後はデブリの取り出しという難事業が控える。処理水を放出できなければ、取り出したデブリを保管する場所が確保できない。放出が進めばタンクが減るため、廃炉計画の具体化に欠かせない過程だ。デブリはメルトダウンで原子炉から溶けた核燃料が金属やコンクリートと一体化したものだ。1~3号機全体でデブリは推計880トンあるとされる。放射線量が非常に高く、人が近づけない。それゆえ取り出し作業は遠隔操作になる。英企業や三菱重工業などが開発したロボットアームを使い2号機から着手する。東電などによると、1回目で取り出すのはわずか数グラム程度にとどまる。それすら実際に出来るのかどうかは分からない。日本原子力学会・福島第1原子力発電所廃炉検討委員会の宮野広委員長は「政府が示す廃炉計画は具体的な見通しがあるわけではない。一番難しいデブリの取り出しの手法が描けないと廃炉の見通しも見えない」と指摘する。国などは福島第1原発の廃炉作業には事故の発生後30~40年かかるとしている。事故後12年を経て残りは30年程度だ。国は廃炉について最終的な形を明らかにしていない。更地となるのか、ある程度の廃棄物が残るのかによって地元の受け止めも大きく変わる。費用も課題だ。政府はデブリ回収に6兆円、廃炉全体で8兆円との費用試算を16年に公表したが、さらに増える可能性が高い。事故賠償や除染も含めると既に事故後12兆円を支出している。費用総額は廃炉の最終的な形も大きく左右する。負担は国民に跳ね返るだけに国は丁寧な説明が求められている。

*3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73914760V20C23A8TB0000 (日経新聞 2023.8.26) 東電、廃炉費用8兆円 処理水放出も収益低迷、再建遠く
 東京電力ホールディングス(HD)は福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出を始め、2051年までの完了を掲げる廃炉作業はようやく前進した。8兆円に上る廃炉費用を捻出するだけの稼ぐ力はまだ弱く、経営再建への道筋を描けないでいる。政府が海洋放出を24日に決め、東電幹部は安堵した。「今夏での決着は廃炉を進める上で大きな意義がある」。敷地内の保管タンクは利用率が98%に達し、限界に近づいていたためだ。19年度の福島第2の廃炉決定に続き、約10年間議論してきた懸案がようやく解消したが、社内には楽観的な空気はない。23年度内には最難関とされるデブリの取り出し作業が始まる。廃炉総額約8兆円のうち約6兆円がデブリへの対処につぎ込まれる。炉内の正確な状況は分からず、取り出す工法も手探りで費用は想定より膨らむ可能性が高い。東電は廃炉だけでなく除染にかかる費用は全額負担し、賠償も半分程度を支払う。まずは20年代半ばに年3000億円の経常利益を稼ぐ目標を達成しなければ支払いは難しくなってくるが、この10年間で達成したのは16年3月期の1度のみ。23年3月期は資源高で2853億円の赤字となり、道のりは険しい。東電は域外への電力販売や再生可能エネルギー事業の強化などを行ってきたが収益を底上げするほどには至っていない。首都圏中心に約2100万件もの顧客を抱えるが、新電力への顧客流出で収益基盤が揺らいだままだ。東電の火力比率は21年度で77%と沖縄電力に次いで高く、今後も資源高で利益が左右されやすい。過去5年で東電HDの純現金収支は1.2兆円の赤字と大手電力で最も悪い。東電にとって、「経営再建には柏崎刈羽しかない」(幹部)。原発1基で1400億円の収支改善につながるだけに経営の最優先事項として取り組んできたが、いまだ先行きは不透明だ。東電は10月に柏崎刈羽7号機の再稼働を目指したが、テロ対策の不備で原子力規制委員会から運転を禁じられたままだ。原発関連の重要書類の紛失などの不祥事も止まらず、立地自治体も不信感をあらわにし、地元同意も遠のいた。金融機関の姿勢も厳しくなってきている。収益力低下に対応するため、東電は財務基盤の強化を進めてきた。4月にも金融機関から4000億円を新規に借り入れたが、「柏崎刈羽が動かない状況では新規融資は難しい」との声もある。中部電力や日立製作所、東芝との原子力事業の提携や、東電の小売りや再生エネ子会社の外部資本の受け入れ論……。単独では経営再建が難しく、中部電と火力事業を統合したように原発や小売事業でも再編案が度々浮上してきた。原発再稼働が進まない状況が続けば、国主導でグループの経営体制の見直しを迫られる可能性がある。「財務の基盤が安定しなければ、(廃炉や賠償など)福島への責任を果たせない。(計画から)大きく外れている状況は改善しなければならない」。23年3月期に大幅赤字になったことを受けて、東電の小早川智明社長は厳しい表情でこう語っていた。廃炉作業を進めるためにも、早期に稼ぐ力を示すことが不可欠だ。

*3-5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15733888.html (朝日新聞 2023年9月5日) 水産業支援策、5本柱 消費喚起や販路開拓など公表
 東京電力福島第一原発の処理水の海への放出で中国が日本の水産物を全面禁輸したことを受け、政府は4日、水産事業者向けの支援策をまとめた。中国への輸出依存から転換するための販路開拓など5本柱からなり、従来の計800億円の基金に加え予備費から新たに207億円を充てる。岸田文雄首相は同日夜、記者団に「水産業を守り抜くということで、政府、東電がしっかりとそれぞれの責任を果たしていきたい」と述べた。支援策は「『水産業を守る』政策パッケージ」と題して、(1)国内消費拡大・生産持続対策(2)風評影響に対する内外での対応(3)輸出先の転換対策(4)国内加工体制の強化対策(5)迅速かつ丁寧な賠償――の5本柱としている。(1)では、国内消費を促すための「『国民運動』の展開」を掲げた。岸田首相は「国民の皆様にも理解と支援をお願いしたい」として、水産物の消費などを呼びかけた。(3)では、輸出が急減しているホタテなどの一時買い取り・保管や海外を含めた新規の販路開拓を支援する。飲食店でのフェアなどを通じて海外市場を開拓していく考えだ。(4)では中国に依存している水産物の加工を国内に呼び戻すため、加工用機器の導入や人材活用などを後押し。海外輸出を進めるため、国際的な衛生管理の手法であるHACCP(ハサップ)の認定手続きも支援する。

*3-5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15733855.html (朝日新聞 2023年9月5日) 「脱・中国依存」高い壁 国内に加工施設案「現実的なのか」 水産業支援
 中国が日本の水産物を全面禁輸としたことを受け、政府が4日に発表した水産事業者支援策では「輸出先の転換」「国内加工体制の強化」などを柱に「脱・中国依存」をめざす。新たな輸出先として欧米や東南アジアを念頭に置くが、実現のハードルは高い。農林水産省によると、中国への水産物の輸出額は871億円(2022年)で、全体の2割を占め、国・地域別では1位だった。22年のホタテの生産量は51・2万トンで、このうち中国に14・3万トンを輸出。ナマコは5100トンのうち中国向けに1900トンを輸出した。香港向けを含むと、この数字はさらに増える。加工も中国頼みだ。同省は輸出したホタテを中国でむき身に加工した後、米国に3万~4万トンが輸出されていると推定。今回の支援策では、日本国内で加工するための施策も含めた。現場の受け止めは複雑だ。北海道網走市で水産物加工会社を営む根田俊昭さんは「建設資材が高騰し、機械も電気代も値上がりする中、現実的な対策なのか」と疑問を投げかける。仮に加工施設を国内に設けても、働き手の確保は簡単ではないという。「人手がないのに、『カネを出すからすぐ作れ』と言われて、できるのか」と話す。政府は欧米の飲食店などで「日本食キャンペーン」も開く方針だ。岸田文雄首相は、輸出先の開拓を対策とした理由に「世界の和食ブーム」を挙げる。しかし、実際に需要の掘り起こしにつながるかは未知数だ。日本産食品の輸出先は中国を始めとするアジア諸国が中心だ。欧米は市場規模は大きいが、食文化の違いが足かせになっていた。一般的に欧米の衛生規制はアジア向けよりも厳しく、対応に時間がかかる可能性がある。長崎県の養殖・加工業者「橋口水産」の橋口直正社長は、中国の全面禁輸によって「億単位の損失が見込まれている」と話す。ブリの約95%を海外に輸出しており、うち約2割が中国だった。現地でのイベントに出店したり、SNSでPRしたりしてきた。「これから伸ばしていこうとしていた矢先だった」と橋口社長。11月から本格的な出荷シーズンが始まり、さらに影響を受けることが予想される。

<化石燃料と予算>
*4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15587145.html (朝日新聞 2023年3月21日) 1.5度目標、ここが正念場 国連パネル報告「水害・海面上昇、適応に限界」
 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が20日公表した統合報告書でこれまで以上に危機感を打ち出した。一方で、温室効果ガスを大幅に削減する手段をすでに手にしているとも指摘。この10年間の行動が、人類と地球の未来を決めるという。
■再エネ活用「まだ達成の道ある」
 報告書は、改めて温室効果ガス排出量が増えるほど温暖化が進むことを強調。世界で稼働または計画中の化石燃料インフラを使い続けると、気温上昇が2度を超える恐れがあるという。2度は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で掲げる目標だが、各国が提出している温暖化対策目標を達成しても2・8度上昇に達する可能性が大きいとする。IPCCはこれまでも警告を発してきた。しかし現実と落差がある。新型コロナからの回復で景気が復調。ウクライナ侵攻などによるエネルギー危機で欧州を中心に各地で一時的に石炭火力を稼働させる動きがある。国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の二酸化炭素(CO2)排出量は過去最多になった。米環境NGO「世界資源研究所」は「今後数年間で化石燃料からの抜本的なシフトがなければ、世界は1・5度の目標を吹き飛ばす」と危機感をあらわにする。報告は温暖化が進むほど、「損失と被害が拡大する」と危機感を示す。食糧や水不足が増えるが、感染症の世界的流行や紛争などと重なるとより事態は難しくなる。水害や海面上昇は堤防などの治水対策で一定のリスクを減らせるが、「適応」には限界がある。すでに熱波や豪雨などの極端現象が増え、陸や海の生態系に相当な被害をもたらした。世界の食糧生産に悪影響を及ぼし、酷暑の増加で死亡率が増えているという。一方で、報告書は「まだ達成の道はある」と希望を残す。再生可能エネルギーや省エネ対策など100ドル以下の対策を活用するだけで、2030年までに排出量を半減できるという。対策は「政治の関与、制度、法律、政策、資金や技術によって可能になる」としている。規制・経済的手段として、二酸化炭素排出への価格付け(カーボンプライシング)や、化石燃料への補助金の撤廃などに言及した。
■「先進国は目標前倒しを」 遅れる日本
 国連のグテーレス事務総長は主要国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を年内に更新するよう呼び掛けた。「年末の国連の気候変動会議(COP28)までに、すべての主要20カ国・地域(G20)のリーダーが野心的な新しい目標を約束することを期待する」。温暖化に大きな責任を負っている先進国には、2040年までに実質排出ゼロを前倒しするよう求めた。先進7カ国(G7)のうち、米英独加は35年に電源の脱炭素化の目標を掲げ、仏は21年に91%を脱炭素化した。日本は21年に30年度の46%削減、50年の実質排出ゼロを掲げるが、40年に向けた目標はない。IEAによると世界で導入された再エネは昨年、最大4億400万キロワットで19年から倍増する見通し。EUはロシアのウクライナ侵攻後の昨年5月に再エネを強化する目標「リパワーEU」を決め、30年時点でのエネルギー消費に占める再エネ比率を40%から45%に引き上げた。米国では昨年8月、エネルギー安全保障と気候変動対策の約3700億ドルを含む「インフレ抑制法」が成立。30年までに40%前後の排出減を試算している。一方、日本での再エネの導入ペースは鈍い。IEAの試算では19年に810万キロワットで、22年は最大でも980万キロワット。27年時点も同710万キロワット。COP28では、パリ協定のもとで初めて各国の削減目標の進み具合の評価が行われ、25年までに新たな目標を提出することになる。環境省幹部は「正直、まだ何も手が付いていない」と頭を抱える。国立環境研究所の増井利彦氏は「35、40年の目標を出さないと日本の地位、信頼性が失われる」と指摘する。2月に閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」では、今後10年間で150兆円以上の脱炭素投資を見込み、うち20兆円を国が支出する。だが、再エネについては発電量に占める比率を30年度に36~38%にする目標を変えていない。大排出源である石炭火力発電の燃料にアンモニアや水素を混ぜる技術の推進に7兆円を投じる方針だが、技術的に未確立でコストも高く、「石炭火力の延命」(NGO)との批判が根強い。諸富徹・京都大大学院教授(環境経済学)は「欧州や米国は、IPCCが言う1・5度などの実現に沿った政策づくりを進めており、それによって経済成長も実現しようとしている。だが、日本のGX基本方針からは、そのような真剣さや迫力がまったく感じられない。『脱炭素経済』への移行に遅れれば、日本の産業競争力は引き続き低下していく恐れがある」と指摘する。また環境や社会問題に配慮するESG投資に詳しい夫馬賢治・ニューラル社長は「水素やアンモニアの混焼はグリーンウォッシュ(見せかけの脱炭素化)とみられ、世界の投資家から理解を得られない」と指摘する。(関根慎一、編集委員・石井徹)
     ◇
 国連広報センターは今年も、メディアと共同で、気候変動への行動を呼びかけるキャンペーン「1・5度の約束――いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を行う。現時点で、朝日新聞を含む日本メディア127社が参加表明している。20日、発表した。期間は年内いっぱいで、国連総会が開かれる9月18~25日を集中推進期間とし、参加各社が記事や番組、イベントなどで気候変動の現状や対策を発信する。

*4-2-1:https://www.saitama-np.co.jp/articles/33695/postDetail (埼玉新聞 2023/6/29) 環境に有害補助金、年1千兆円超、世界銀行「保護に活用を」
 世界銀行は29日までに、各国政府が自国産業に出す補助金のうち、エネルギーや農業、漁業の分野で環境に有害なものが世界で年間計7兆ドル(約1千兆円)を超えるとの試算を公表した。使い方を見直して環境保護に活用するよう訴えている。補助金のマイナス面に警鐘を鳴らす狙い。ただ、不十分な規制で産業を利している「暗黙の補助金」も試算に含めているほか、通常の補助金にも国民生活に不可欠なものがあり、全てを環境保護に振り向けるのは難しい面もある。エネルギー分野では、化石燃料の価格引き下げにつながる補助金を問題視する。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230903&ng=DGKKZO74127350S3A900C2EA4000 (日経新聞 2023.9.3) 6日 エネ庁、ガソリン価格調査公表、高止まり、補助金は副作用も
 資源エネルギー庁は6日、レギュラーガソリンの店頭価格調査の結果を発表する。円安の進行などで最高値を更新するとの見方が多い。政府は9月末までとしていたガソリン補助金を、年末まで延長する方針だ。補助の長期化は最終的に国民負担を長引かせ、脱炭素にも逆行するとの見方がある。エネ庁は原則、毎週月曜に全国の給油所の店頭価格を調べ、水曜に発表する。8月28日時点の価格(全国平均)は1リットル185.6円と、統計開始以降の最高値を15年ぶりに更新した。6日発表の価格(4日時点)は、円安による原油の仕入れ価格上昇を映して「小幅に上がる」との見方が強い。店頭価格上昇の背景には、ガソリンの原料となる原油価格の高止まりがある。アジア市場で指標となる中東産ドバイ原油の価格は、8月28日時点で1バレル86ドル台半ばと6月初めに比べて21%高い。産油国は減産によって原油相場を維持している。サウジアラビアは7月から続けている日量100万バレルの自主減産を、9月も実施すると決めた。ロシアも9月の原油輸出を減らす方針を示した。供給懸念が意識され、原油相場の先高観は強い。円安・ドル高の進行もガソリン価格を押し上げている。8月28日時点の円相場は1ドル=146円台半ばと、約9カ月半ぶりの円安水準だ。原油は主にドル建てで取引する。円安によって輸入価格が上がれば、ガソリンの価格にも反映されやすい。政府が石油元売りに支給している補助金が、6月から段階的に減っているのも大きい。補助金は22年1月、原油高によるガソリンや軽油、灯油などの価格高騰を抑えるために始まった。同年夏には1リットルあたり40円前後を支給していたが、高騰が収まった現在の補助額は10円程度だ。ガソリン高は家計の負担増加につながる。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は、仮にガソリンの価格が1リットル168円から195円まで上がり、そのまま1年間推移した場合、家計の年間負担増は総額で8780億円に達すると試算する。ガソリン価格の高止まりは特に地方の家計に響く。「自家用車を使う人が多い地方では、都市圏に比べて負担が大きくなる」(斎藤氏)。製油所からの輸送距離が長い長野県や山形県、鹿児島県などでは、平均価格がすでに1リットル190円を超えている。急激なガソリン高に対する批判を受け、政府は9月末に終了を予定していた補助金を年末まで延長する方針を示した。10月中に全国平均のガソリン価格が1リットル175円程度になるよう、段階的に拡充する。13日発表分以降の店頭価格は緩やかに下がるとみられる。ただ、補助金によるガソリン価格の引き下げが経済活動に及ぼす効果は限られるとの見方も強い。石油製品市場に詳しい伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリーの伊藤敏憲代表は、仮にガソリン価格が10円程度抑えられたとしても「一般消費者の負担額は月間で300~400円の減少にとどまり、消費を喚起する効果はほとんどない」と語る。補助金の長期化には副作用もある。ガソリン価格の高騰が需要を抑えたり、よりガソリン消費が少ない車への買い替えを促したりする、自然な市場メカニズムの働きを抑える可能性があるためだ。エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は「足元の高騰を考えると補助金の拡充はやむをえないものの、補助金政策が長引けば最終的に国民自身の負担になる」とした上で「補助金の一部を再生可能エネルギー・省エネ関連の建設費に投じることで、将来的な光熱費低減につなげるべきだ」と指摘する。

<再エネと予算>
*5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230818&ng=DGKKZO73688770Y3A810C2EA2000 (日経新聞 2023.8.18) 積水化学、曲がる太陽電池量産 30年までに 100億円投資
 積水化学工業は2030年までに次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」の量産に乗り出す。軽くて折り曲げられる同電池では中国勢が量産で先行するが、積水化学は強みとされる耐久性を生かして屋外での需要を開拓し、中国勢を追い上げる。ペロブスカイト電池は太陽光パネルで主流のシリコン製と比べ、重さは10分の1程度と軽く、折り曲げやすい。ただ、水分に弱く耐久性に課題があり、現在ではスマートフォン向けなど用途の広がりに欠ける。積水化学は液晶向け封止材などの技術を応用し、液体や気体が内部に入り込まないよう工夫。10年程度の耐久性を実現している。100億円以上を投じて製造設備を新設し、30年時点で年数十万平方メートルのペロブスカイト型太陽電池を生産する。発電量は数十メガワット。フィルムに結晶の膜を塗布しロール状に巻いて連続生産する。すでに30センチメートル幅のフィルムでエネルギー変換効率15%を達成した。シリコン型の20%以上に及ばないが、技術開発を進めて変換効率をさらに高めていく。より効率の良い1メートル幅での生産の準備を進めており、コスト競争力も高める。太陽光パネルの分野では、かつてシリコン型の開発・実用化でも日本勢が先行していたが、中国勢の攻勢で多くが撤退に追い込まれた。同様の事態を避けるため、日本政府は4月、ペロブスカイト型太陽電池の普及支援を打ち出し、公共施設で積極的に設置するなど需要を創出したり、量産技術の開発や生産体制の整備を支援したりする。ペロブスカイト型の技術支援はエネルギーの安定供給も背景にある。主な原料のヨウ素の世界シェアは日本が2位で国内で調達しやすく、供給網が寸断された場合に備えることもできる。積水化学は政府の支援策によっては生産量を増やす可能性もある。日本は山間部が多いなど、従来型太陽電池に適した立地が少なくペロブスカイト型の市場性は大きいと言われている。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。

*5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/0df32a5bc122ac8c2934cd8234646f0255df848d (Yahoo、スマートジャパン 2023/9/7) 「発電する窓」をペロブスカイト太陽電池で実現、パナソニックが実証へ
 パナソニックは2023年8月、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発したと発表した。今後、技術検証を含めた1年以上にわたる長期実証実験を、神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)内のモデルハウスで実施する。ペロブスカイト太陽電池は、軽量かつ柔軟に製造可能という特徴を持ち、ビルの壁面や耐荷重の小さい屋根、あるいは車体などの曲面といった、さまざまな場所に設置できる次世代太陽電池として期待されている。また、塗布などによる連続生産が可能であること、レアメタルを必要としないなどのメリットも持つ。パナソニックではこれまでに、従来の結晶シリコン系の太陽電池と同等の発電効率を有し、実用サイズ(800平方センチメートル四方)のモジュールとして世界最高レベルという17.9%の発電効率を持つペロブスカイト太陽電池を開発している。今回開発したガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、これらの成果を生かし、ガラス基板上に発電層を直接形成したもの。同社独自のインクジェット塗布製法と、レーザー加工技術を組み合わせることで、サイズ、透過度、デザインなどの自由度を高め、カスタマイズにも対応可能だという。
パナソニックでは今後の実証の結果などをふまえ、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池をさまざまな建築物そのもののデザインと調和する「発電するガラス」として展開していく方針だ。

*5-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BIZ0U3A410C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023年5月12日) 曲がる次世代太陽電池、ビル壁面で発電 25年事業化へ
 次世代の「ペロブスカイト型」太陽電池が注目を集めている。薄いフィルム状で折り曲げられるため、場所を問わず自由に設置しやすい。原料を確保しやすく、国内でサプライチェーン(供給網)を構築しやすい利点もある。政府は2030年までに普及させる方針を打ち出し、国内企業を支援する。35年には1兆円市場に育つとの試算もある。積水化学工業や東芝が25年以降の事業化に向け開発を急ぐ。ペロブスカイト型太陽電池は太陽光の吸収にペロブスカイトと呼ぶ結晶構造の薄膜材料を使う。重さが従来のシリコン型の10分の1。折り曲げられるため、建物の壁や電気自動車(EV)の屋根などにも設置できる。一方で水分に弱いため、実用化には高い発電効率を維持しながら、耐久性が課題となる。「実用化できる基準には達した」。積水化学はこれまで1日ももたずに壊れてしまったペロブスカイト型の耐久性を10年相当に高めた。液晶向けで培った液体や気体などが部品の内部に入り込まないようにする封止材の技術を使い、太陽電池を保護した。シリコン型の耐久性は約20年であり、R&Dセンターのペロブスカイト太陽電池グループ長の森田健晴氏は「耐久性を高められなければ、事業化には致命的だ」と話す。事業化に欠かせない発電の変換効率も高めた。30センチメートル幅で変換効率15%(シリコン型は20%以上)を達成した。薄いペロブスカイト型はシリコン型よりも熱を逃がしやすく、変換効率の低下につながる電池の温度上昇を抑えられる。今後は実用に近い1メートル幅での開発を目指す。積水化学は東京都下水道局森ヶ崎水再生センターなど複数の拠点で実証実験を実施しており、設置方法を含む実用化を検討している。現状では発電する薄膜に欠陥が生じやすいほか、歩留まりも悪く、製造コストはシリコン型に劣るという。今後は軽さを生かして物流コストなどを抑えることで、設置までの全体のコストでシリコン型に対抗する。25年度に事業化する方針であり、JR西日本がJR大阪駅北側に25年の開業を目指す「うめきた(大阪)駅」に設置予定だ。ペロブスカイト型は敷地を確保しにくい都心での発電が可能となる。室内光や曇りや雨天時など弱い光でも発電可能なため、屋内向けの電子商品などに使われる可能性がある。実験レベルでは高い変換効率を達成しており、耐久性やコスト面で改善が進めば、中国勢が優位に立つシリコン型に対抗しうる太陽電池として期待が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年から「グリーンイノベーション基金」で次世代太陽電池の開発に約500億円の予算を確保している。30年度までに一定の条件下での発電コストをシリコン型と同等の1キロワット時14円以下の達成を目指す。経済波及効果は30年までに約125億円、50年までには約1兆2500億円を見込む。東芝もグリーンイノベーション基金に採択された企業の1つだ。26年度ごろの事業化を目標に掲げる。広い面積にペロブスカイト層を均一に塗布する独自技術を開発し、703平方センチメートルの大面積で変換効率16.6%を達成した。現在の耐久性能を明らかにしていないが、耐久性の向上と低コストな製品の開発を進めているという。カネカはNEDOが補助するペロブスカイト型だけでなく、シリコン型と2層で重ねる「タンデム型」の開発も進めている。設置済みのシリコン型をタンデム型に置き換えることで、発電効率を高める狙いだ。同社が開発した結晶シリコン太陽電池はトヨタ自動車の新型プリウスのプラグインハイブリッド車(PHEV)などで採用された実績がある。素材開発から量産まで一気通貫で自社で担える強みを生かす。ペロブスカイト型は09年に桐蔭横浜大学(横浜市)の宮坂力特任教授が発明した。だが海外で特許取得をしていなかったことや、各国政府の研究開発支援の充実で、海外との開発競争は激化している。21年にポーランドのサウレ・テクノロジーズが工場を開設した。中国でも大型パネルの量産が始まっている。ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。価格もシリコン型に比べ高額だ。日本企業がコストや性能で優れた製品を量産できれば勝機はある。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。
●国内で供給網、エネルギー安保でも注目
 政府がペロブスカイト型太陽電池の開発を後押しする背景にエネルギー安全保障がある。現在主流のシリコン型は原料であるシリコンの供給を中国に依存しており、有事の際に生産が止まるリスクがある。ペロブスカイト型は太陽光の吸収材料に日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素を使う。他の原材料も国内で確保しやすいため、国内でサプライチェーンを完結できる可能性がある。株式市場では関連銘柄としてヨウ素メーカーにも注目が集まっている。ガラス最大手AGC子会社の伊勢化学工業が国内シェアの30%を、K&Oエナジーグループが15%を占める。ペロブスカイト型が普及した場合、国内のヨウ素使用量はどれくらい増えるのか試算してみた。ペロブスカイト層の厚さを1マイクロメートルとし、ペロブスカイト結晶の密度から単位面積当たりのヨウ素量を計算すると、1平方メートルあたり数グラムとなる。国内の0.5メガワット以上の太陽光発電施設が占める面積と同程度、ペロブスカイト型が設置されると仮定すると、ヨウ素の必要量は数十トン程度と、国内の年間生産量の1%に満たない。日本発のペロブスカイト型太陽電池は市場規模の成長力とエネルギー安保の両面から実用化への期待が高い。一方で関連企業の業績への影響は未知数であり、銘柄選びには冷静な見極めが必要だ。

*5-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230825&ng=DGKKZO73877020V20C23A8MM0000 (日経新聞 2023.8.25) 東京都、住宅メーカーに省エネ効果の説明義務、購入時の判断基準に
 東京都は住宅の省エネ化を加速する。新築の戸建てや中小規模のマンションについて、2025年度から事業者が買い手に建物の断熱性や省エネ効果を説明するよう義務付ける。都の評価基準を満たしているか契約前に説明し、買い手が環境に配慮した物件を選びやすくする。大規模なマンションについては断熱性などの環境性能の開示制度を既に設けており、より小さな物件に網を広げる。25年度に始める新築戸建てへの太陽光パネル設置義務化と合わせ、省エネ住宅の普及につなげる。延べ床面積2000平方メートル未満の中小規模のマンション、戸建ての注文住宅や分譲住宅について事業者に説明義務を課す。同じ規模のビルも対象とする。説明義務を負うのは都内で年間2万平方メートル以上の物件を供給する事業者で、大手住宅メーカーなど50社程度を想定する。都内の年間供給棟数の半数程度が対象となる見通しだ。事業者に幅広く説明義務を課すのは「自治体初とみられる」という。23年度中に制度の詳細を固め、都民や事業者への周知を始める。25年4月1日以降に建築確認が完了する物件が対象となる。建物自体の環境性能のほか、電気自動車(EV)用の充電設備の設置状況が都の基準を満たしているかも説明させる。都は事業者への訪問調査などを通じ、説明義務を果たしているかどうか確認する。年度ごとの履行状況も事業者に報告を求める。履行状況は都のホームページで公表する。対応が不十分な事業者には都が指導、助言して改善を促す。都内の新築着工棟数のうち2000平方メートル未満の物件は全体の98%にのぼり、その9割を住宅用途が占める。都内で排出される二酸化炭素(CO2)の3割は家庭由来だが、事業所など産業分野に比べて削減の取り組みは遅れ気味だ。東京都によると、家庭からのCO2排出量は21年度の速報値で1729万トンで2000年度に比べて34.8%増加した。都内全体では00年度比で9.2%減っており、家庭部門の排出削減は脱炭素の大きなカギを握っている。パネルの設置義務も供給棟数の多い50社程度が対象で、新築物件の半数程度が対象になる見通しだ。都内全体で毎年4万キロワット程度の発電能力を生み出せるという。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73587900U3A810C2TEB000 (日経新聞 2023.8.15) EVバス、導入相次ぐ 補助金・燃料費減が後押し、30年までに1万台目標
 全国で電気自動車(EV)バスの導入が相次いでいる。3月には京王グループの西東京バス(東京都八王子市)や神奈川中央交通などが採用した。業界団体は2030年までに累計1万台の導入目標を掲げる。「ディーゼルバスよりも音や揺れが少ないと乗客に好評だ」。EVバス3台を運行している西東京バスの担当者はこう語る。バスは中国のEV大手の比亜迪(BYD)から購入した。
自動車検査登録情報協会によると、国内で稼働するEVバスは22年3月末に約150台だったが、さらに23年4月末までの直近1年超で100台以上が納車されたようだ。3月だけで少なくとも10社が運行を開始した。背景には脱炭素の動きを受けた政府や自治体の補助金がある。政府は22年度までEVバスの導入費用の最大3分の1を補助してきた。一般的なディーゼルバスの価格は大型で2300万円程度なのに対し、EVバスは4000万円台。自治体の補助金も併用すると、一般のバスよりも安く導入できるケースも想定される。補助金でコストを抑えられるほか、従来型のバスに比べてエネルギー費(燃料費)を減らせることも普及を後押ししている。新型コロナウイルス禍からの経済再開も影響している。「人流の回復を受けてEVバスの導入を本格化した」(富士急行)など、これまで控えてきた車両更新をきっかけにする会社も目立つ。EVバスは脱炭素の効果が大きい。2台を運行する神奈川中央交通によると、一般的にEVバスは走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。EVバスの充電に使う電力を発電する際まで含めるとCO2を排出することになるが、ディーゼルバスが走行時に排出する量の半分で済む。バスを走らせる費用も安い。1回の充電に5時間ほどかかるが、EVバスの電気代は「ディーゼル燃料を使う場合の3分の2ほど」(導入した事業者)だという。追い風も吹く。政府は23年度の補助率を導入費用の最大2分の1に高めた。補助予算も前年度の約10倍にあたる100億円規模に引き上げた。日本バス協会は23年を「EVバス普及の年」と位置づけ、30年までに累計1万台の導入を目指すとしている。国内のバス台数の5%程度だが、導入が加速する可能性もある。今後の課題は補助金依存からの脱却だ。現在、日本向けにEVバスを大量供給できるのはBYDとEV商用車開発のEVモーターズ・ジャパン(北九州市)の2社程度だ。乗用車のように国内外のメーカー間での価格競争はまだ起きていない。トルコの商用車メーカーのカルサンやジェイ・バス(石川県小松市)が23~24年度に販売を開始する計画などもある。補助金が減額された場合でも、競争力のある価格を実現できるかが導入のスピードを左右する。

*5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15725527.html (朝日新聞 2023年8月26日) ボルボ新EV、日本好みに 小型化実現
 スウェーデンのボルボ・カーズは24日、電気自動車(EV)の新型SUV(スポーツ用多目的車)「ボルボEX30」を11月中旬に日本で発売すると発表した。税込み559万円から。最大の特徴は、日本法人の要望に応えて、機械式立体駐車場でも使えるよう小型化したことだ。EX30は日本に投入する3車種目のEVで、全長が4235ミリ、全幅が1835ミリ、全高が1550ミリと最も小さい。日本は国別の売り上げで上位10位以内に入る重要市場のため、日本で利用者が多い機械式立体駐車場に収まるサイズにした。日本法人の不動奈緒美社長は朝日新聞の取材に「日本から要望し続けてようやく実現したサイズ。日本の道路・車庫事情に最もフィットする一台だ」と話した。サイズを日本に合わせたため、大型車が好まれる欧米では苦戦が見込まれていたが、予想に反して売れ行きは好調だという。米国では6月に販売を始め、すでに想定を上回る9千台の受注があった。不動氏は「米国でも欧州でも、大都市では日本と同じニーズがあったのではないか」とみる。最大航続距離は480キロで、急速充電器を使えば約26分で充電残量を10%から80%にできる。小型化で部品数が減ったため、従来のEVより100万円以上安く、国や自治体の補助金を使えば400万円台で買えるという。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73915390V20C23A8TEZ000 (日経新聞 2023.8.26) 豪州、車電池で産業育成 EV国家戦略公表、リチウム加工促進、再エネ投資に1.4兆円基金
 オーストラリアが電気自動車(EV)関連産業の育成に取り組んでいる。現政権は脱炭素に意欲的で、今年、EV国家戦略を初めて公表したほか、リチウムなど重要鉱物資源の国内加工も後押しする。国内産業を化石燃料や鉱物資源の産出から、付加価値の高い産業へ多様化する狙いがある。「この豪州初の電池工場は、産業界が長らく求めてきた聖杯だ」。5月、豪州南東部ジーロングを訪れたマールズ副首相兼国防相は強調した。かつて米フォード・モーターが約900人を雇用し自動車を製造していた同地は、EV向け電池工場の建設予定地へと変貌をとげようとしている。米企業傘下の電池スタートアップ企業、リチャージ・インダストリーズが工場の立ち上げを計画する。年間の生産能力は最大で30ギガ(ギガは10億)ワット時で、EV約30万台分の電池を供給できる。2024年5月ごろまでに着工し、25年から生産を始める予定だ。2550人の雇用創出を見込む。豪州は自動車産業の「空白地帯」だ。17年にトヨタ自動車などが工場を閉鎖し、豪州で生産する完成車メーカーはない。高い賃金や年100万台程度の小さな市場規模、市場の大きな国から遠いといった背景により、完成車メーカーが戻るのは容易ではない。だがEVシフトを呼び水に、電池製造やリサイクルなど関連産業を育成する機運が高まっている。転機となったのが22年5月の労働党政権の誕生だ。国として30年までの温暖化ガス排出削減目標を05年比43%減と定めたほか、エネルギーや鉱業など排出量の多い企業の削減義務を強化するなど脱炭素を推し進めた。豪州では近年、山火事など自然災害が深刻化し、より踏み込んだ気候変動対策を求める声が強まっている。国は150億豪ドル(約1.4兆円)規模の基金を立ち上げ、EV技術などへの投資を後押しする。豪州は天然ガスや石炭を産出しているが、アルバニージー首相は国内電源や輸出で化石燃料に依存する経済から「再生可能エネルギー超大国」への転換を目指す。4月に公表した初のEV国家戦略では「豪州には部品や電池などEV供給を支える製造業を育成する能力がある」と関連産業の発展に自信をにじませた。伊藤忠総研の深尾三四郎上席主任研究員は「豪州にはEVシフトでも傷む雇用がなく、むしろ新たな雇用を創出する」と指摘する。豪州は脱炭素に欠かせない資源も豊富だ。米地質調査所(USGS)によると、豪州は電池材料に使うリチウム鉱石生産の47%を占め、埋蔵量も24%とチリに次いで2番目に多い。EV普及に伴って、リチウムの世界需要は40年に20年から40倍に増える見通しだ。チリは4月にリチウム生産を国有化する方針を打ち出しており、カントリーリスクが相対的に低い豪州への関心が高まっている。既に米テスラやフォードが豪州の鉱山会社、ライオンタウン・リソーシズとリチウムの供給契約を締結している。だが実現には課題も多い。リチウムを電池材料として使うための不純物を除く精製・分離の工程は環境負荷が高い。そのため、環境規制が緩く労働コストも安い中国に依存してきた。豪州のリチウム輸出の9割は中国へ向かう。米ホワイトハウスによると、中国は世界のリチウムの6割の精製を担う。政府は6月に公表した重要鉱物資源戦略で海外からの投資の誘致方針を示した。国内での精製・分離を目的とした設備投資などへの助成金枠として5億豪ドルを充てる。テスラなど完成車メーカーも豪州に加工能力の増強を求めている。豪州にとっても国内で資源の付加価値を高められれば、より高く売れるメリットがある。世界で脱炭素の流れが強まる中、豊富な埋蔵資源をもつ豪州の強みを国内産業への発展につなげられるか。EVシフトは大きな転機となりそうだ。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA131IQ0T10C23A9000000/ (日経新聞 2023年9月14日) 日本、カナダでEV電池供給網 北米販売を後押し、両政府合意へ
 日本の官民がカナダで電気自動車(EV)向けの重要鉱物の探鉱、加工、蓄電池の生産を含むサプライチェーン(供給網)を構築する。カナダ政府も補助金などで支援し、両国が協力して供給力を高める。北米での日本企業のEV販売増につなげるほか、経済安全保障を強化する。西村康稔経済産業相が21日にもカナダを訪問し、ウィルキンソン天然資源相らと蓄電池のサプライチェーンに関する協力覚書を結ぶ。想定する協力内容はまず、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などによるカナダでのニッケルやリチウムなどの探鉱だ。カナダは重要鉱物の埋蔵は多いものの、技術力や人材面など生産能力に課題を抱える。米地質調査所(USGS)によると、カナダのリチウムの埋蔵量は中国の半分程度で世界有数の規模だ。その半面、生産量でみると中国の2%ほどにとどまる。日本と協力することで生産量を増やす。日本の素材・電池メーカーが、カナダで採掘した重要鉱物の加工や、その鉱物を材料に使う蓄電池の生産工場を建てることを視野に入れる。西村氏の訪問にはパナソニックホールディングスやトヨタ系のプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)といった電池メーカーや、商社などが同行する。カナダ政府は現地に進出する日本企業を補助金などで支援する構えだ。産業育成や雇用創出に期待する。カナダでの電池生産は米国での日本メーカーのEVの販売促進につながる。米国はインフレ抑制法(IRA)で、EVの新車などを購入する消費者に最大で7500ドル(約110万円)を税額控除している。日本車は現在、対象に選ばれていない。対象になるには、車載電池に使う重要鉱物の4割を米国や米国の自由貿易協定(FTA)締結国から調達するほか、電池部品の5割を北米で製造・組み立てするなどの要件がある。カナダで調達や加工をすることで、条件が満たしやすくなる。日本にとっては供給網の強化も見込める。日本は現在、中国やチリなどからリチウムを輸入している。一部の国に依存するのは供給途絶のリスクが大きい。とりわけ蓄電池の生産はエネルギーや気候変動政策の観点で競争力に直結する。西村氏はシャンパーニュ革新・科学・産業相とエング国際貿易相と、人工知能(AI)やクリーンエネルギー、量子といった産業技術に関する覚書にも署名する。量子コンピューターの研究開発では経産省所管の産業技術総合研究所と、カナダ国立研究機構(NRC)の協力を盛り込む。日本は冷却に必要な冷凍機など素材分野で強みを持つ。

*5-3-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200821-OYT1T50273/ (読売新聞 2020/8/21) 日本EEZでコバルトやニッケル採掘に成功…リチウム電池に不可欠なレアメタル
 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は21日、日本の排他的経済水域(EEZ)でコバルトやニッケルを含む鉱物の採掘に成功したと発表した。リチウムイオン電池に不可欠なレアメタル(希少金属)で、中国依存度が高く、国産化が課題となってきた。採掘場所は、南鳥島南方沖の海底約900メートル。7月に経済産業省の委託事業として、レアメタルを含む鉱物「コバルトリッチクラスト」を約650キロ・グラム掘削した。JOGMECの調査では、同海域には、年間の国内消費量でコバルトは約88年分、ニッケルは約12年分あるという。コバルトやニッケルは、電気自動車などに使うリチウムイオン電池に不可欠な材料だ。希少性が高く、日本は国内消費量のほぼ全てを輸入に頼っている。超高速の通信規格「5G」時代を迎えて、通信機器への活用も急増し、世界的に取引価格が上昇している。国産化は国内産業の競争力強化にもつながる。経産省は「掘削成功は、レアメタルの国産化に向けた大きな一歩」とし、量産に向けて掘削技術の検証などを進める方針だ。

*5-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF127F90S3A910C2000000/ (日経新聞 2023年9月12日) パナHD、全固体電池を20年代後半量産 ドローン用など
 パナソニックホールディングス(HD)は12日、ドローン(小型無人機)など向けに開発中の小型の全固体電池を2020年代後半に量産する方針を明らかにした。実用化できれば、3分程度でドローン用の電池容量の8割を充電できる見込み。同様の充電に1時間程度を要する現状のリチウムイオン電池に比べ、利便性が大幅に高まるとした。パナソニックHDがこれまで社内向けに開催していた技術展示会を報道陣や取引先企業に初めて公開し、全固体電池について説明した。金属材料の組成など詳細は明らかにしなかったが、想定する充放電回数は数万回とした。一般的なリチウムイオン電池の回数とされる約3000回を大きく上回る。全固体電池は電気自動車(EV)の次世代車載電池として期待されている。トヨタ自動車は27〜28年にも実用化する方針。パナソニックHDの小川立夫グループ最高技術責任者(CTO)は全固体電池の車載向けへの転用は、自動車メーカーと緊密に連携する必要があるとし「自社単独でできるものではないため、コメントできない」と述べた。展示会では木質繊維を使い強度を高めたプラスチック素材や、太陽光を電気に変換せずにそのままエネルギーとして使い水素を製造する装置なども披露された。

*5-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73591180U3A810C2EA2000 (日経新聞 2023.8.15) M&A、日本企業間で8割増 上期6.8兆円、株価底上げへ国内事業再編が活発 円安、海外買収難しく
 日本企業同士のM&A(合併・買収)が増えている。今年上期の買収額は約6兆8000億円で前年同期比8割増えた。株価の底上げに向けて、より相乗効果が見込みやすい国内での事業再編が活発になってきたためだ。円安で海外企業を買うハードルも上がっており、海外に成長を求めてきたM&Aの潮目が変わる可能性がある。金融情報会社リフィニティブによると1~6月の日本関連のM&A全体は約10兆8000億円と2割弱増えた。このうち「イン・イン型」と呼ぶ日本企業同士のM&Aは日本関連のM&A全体の63%を占めた。通年で75%だった2009年以来の高水準だった。件数でもイン・イン型は前年同期比3%増の1828件で、件数全体に占める割合は76%だった。09年当時はリーマン・ショック後の不透明感から「イン・アウト型」と呼ぶ日本企業による海外M&Aが急減した。半面、国内企業の再編が増えたことでイン・イン型の比率が上がった。損害保険ジャパンと旧日本興亜損害保険が経営統合を決めたのも同年だ。23年1~6月はイン・アウト型も約3兆2000億円と3割増えたが、イン・イン型の伸びが上回った。日本企業同士のM&Aで目立ったのは大手企業が国内投資ファンドと組んで株式を非公開化する動きだ。東芝は日本産業パートナーズ(JIP)や日本企業20社超の支援を受けて株式非公開化を決めた。買収額は約2兆1000億円。物言う株主(アクティビスト)を含む複雑な株主構成を整理し、出資企業と連携して再成長を目指す。半導体材料大手のJSRは政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)による約1兆円買収を受け入れた。半導体材料の国際競争力を高めるため、国の関与のもと、積極投資しやすい環境を整える。経営者の高齢化が進むなか、事業承継目的のM&Aも広がった。オリックスによる通販化粧品大手ディーエイチシー(DHC、東京・港)の買収は約3000億円で、承継目的のM&Aでは過去最大級だった。10年代の日本企業のM&Aはイン・アウト型が中心だった。人口減少による国内市場の縮小をにらみ、海外に成長を求める傾向が強かった。日銀の大規模緩和のもと、国内金融機関から買収資金を低コストで調達できたことも大きい。もっとも、海外子会社をうまく経営できない企業も多く、巨額の減損損失を計上する企業も相次いだ。日本企業はこうした経験をふまえ「より相乗効果を発揮しやすい国内再編に注力するようになった」(JPモルガン証券の土居浩一郎M&Aグループ責任者)。東芝やJSRのように、生き残りに向けて戦略的に買収を受け入れる企業も出てきた。脱炭素社会をにらみ再生可能エネルギー開発会社の再編も増えている。NTTのエネルギー子会社は国内火力発電最大手JERAと組み、カナダの年金基金傘下にあったグリーンパワーインベストメント(GPI、東京・港)を約3000億円で買収した。豊田通商はソフトバンクグループ(SBG)からSBエナジー株式の85%を1200億円で取得した。1ドル=140円台まで進んだ円安がイン・アウト型のM&Aのハードルを高めている面もあるが、国内企業同士のM&Aは今後、一段と活発になる可能性がある。要因の一つが株式市場からの圧力だ。東京証券取引所が今年3月末、上場企業に資本コストや株価を意識した経営を要請した。1倍割れの低PBR(株価純資産倍率)に沈む企業に対する市場の目は厳しくなっており対応を迫られている。「M&Aによる業界再編は収益性向上のための有力な手段となる」。政策面の追い風も吹く。経済産業省が策定中の「企業買収における行動指針(案)」は企業価値向上につながる真摯な買収提案を、合理的な理由なく拒まないよう求めている。7月にはニデック(旧日本電産)が工作機械メーカーのTAKISAWAへ買収提案し、同意が得られなくてもTOB(株式公開買い付け)を実施すると明らかにした。日本は主要先進国のなかでも、経済規模に比べてM&Aが少ないとされる。国内再編を軸にM&Aが身近になれば、結果的に国際競争力の強化にもつながりそうだ。

*5-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74073420R30C23A8EA2000 (日経新聞 2023.9.1) ヨドバシ、そごう・西武主要3店に出店 都心需要に的、労使しこり、再建に影 高級ブランドが難色
 そごう・西武を買収する米ファンドと連携する家電量販大手のヨドバシホールディングス(HD)は西武池袋本店(東京・豊島)やそごう千葉店(千葉市)などそごう・西武の主要3店舗に出店する方針だ。百貨店内の中心部に家電売り場を設けて集客力を高め、経営再建につなげる。1日付でそごう・西武を買収するフォートレス・インベストメント・グループと組み、ヨドバシは西武池袋本店とそごう千葉店の別館にあたる「ジュンヌ館」へ出店する計画だ。西武渋谷店(東京・渋谷)への出店も検討する。出店時期や規模は今後詰めるが、西武池袋本店では低層階の一部と中層階以上に家電売り場を設ける考えだ。ヨドバシはそごう・西武の主要な売り場に入り、経営再建と自らの成長の両立を狙う。ヨドバシは都市部の駅前立地を軸に全国で24店舗を展開する。売上高規模でヤマダデンキやビックカメラに次ぐ3位に入る。人口が減るなか、効率良く集客でき、インバウンド(訪日外国人客)を見込める都市部での競争力強化が課題だった。特にビックカメラは千葉市や東京・豊島などの主要都市に店舗を構える。シェア向上にはJR池袋駅や千葉駅近くに店舗があるそごう・西武の資産は、収益力向上に直結する魅力があった。交渉過程でヨドバシは当初は西武池袋本店内の大部分に家電量販を出店する考えだったが、そごう・西武の労働組合や豊島区などの反発を考慮して計画を修正した。「1階と地下1階の売り場はほしかったが、メインは百貨店に譲った」(ヨドバシ首脳)。譲歩してまでもそごう・西武の買収にこだわったのは、都市部の家電量販店競争で勝ち残りに欠かせないピースだったためだ。ヨドバシは百貨店内に家電量販の売り場を設けることで従来は百貨店を利用していない若年層などの来店を促し、そごう・西武の収益力を高める。ヨドバシ首脳は「百貨店に負けないくらい品ぞろえには自信がある。地域の方々に喜んでもらえる店にしたい」と話す。ヨドバシが一筋縄に戦略を実行できるかどうかは不透明だ。売却に関してセブン&アイ・ホールディングスはステークホルダー(利害関係者)の理解を十分に得られなかった。ストライキ決行に追い込まれたそごう・西武労組の不満は特に根強い。寺岡泰博中央執行委員長は8月31日、今後はフォートレスに対して「引き続き雇用維持と事業継続を求めていく」と述べた。労使の信頼関係にしこりが残ったままだ。豊島区や地元の商工会議所もヨドバシの西武池袋本店への出店に対して依然として納得していない。ヨドバシHDの出店形態によっては百貨店の主要テナントである高級ブランドの離反を招く可能性もある。すでに一部の高級ブランドはヨドバシの出店計画に難色を示しているとされる。高級ブランドとの調整は難航が予想される。

<中国不動産不況の突破口は・・>
PS(2023年9月23日):*6-1のように、中国政府が2020年夏に不動産会社に対する融資規制を強化し、金融機関の貸し渋りに直面した恒大集団は、2023年6月末で債務超過額約13兆円(=6442億元X20.32円/元)・販売できない開発用不動産(住宅開発用の土地使用権と建設途中のマンション)約22兆円(=1兆860億元 X20.32円/元)となり、住宅価格下落が本格化すればさらなる評価減で債務超過拡大が避けられず、*6-2のように、マンション建設など3千個のプロジェクトで約28兆円(=1兆4千億元 X20.32円/元)の負債がある中国最大の不動産開発会社碧桂園も社債利子を払えない状態で、*6-3のように、中国主要不動産11社で開発用不動産は約130兆円(=約6兆3500億元X20.32円/元)あり、評価額が3割下落すれば資本が枯渇して債務超過に転落するそうだ。また、11社合計で203兆円(=10兆元X20.32円/元)超の負債(建設・資材会社等への買掛金25%、住宅購入者への契約負債33%)があり、中国政府は、建設業者や建材メーカー等の幅広い取引先に悪影響を与え、社会不安に繋がる法的整理には慎重で、政策金利引き下げ・住宅購入規制緩和等で住宅市場の活性化を狙うが、未完成のまま放置されているビル群も多く、消費者は引き渡し不能を恐れて未完成物件の購入をためらい、効果は限られるそうだ。
 庶民が買える価格まで住宅価格を下げなければならなかったのは理解できるが、「不動産不況も規模が違う」というのが私の印象で、未完成のまま放置されている建設中のマンションが多く、代金支払済の消費者に引き渡しもできず、建設・資材会社の買掛金も払えないというのでは問題が大きすぎる。しかし、現在の中国では、土地は国有で私的所有はできず、開発に土地使用権を購入する仕組みなので、政府が特定の場所を選んで土地の所有権を売却し、その金で建設中マンションの一部を購入して庶民向けの賃貸住宅を建設すれば問題は解決するのではないか?私が上海旅行をした時には、中国の人が「あそこはフランス租界、ここは日本疎開だったんだ」とむしろ誇らしげに日本語で語っているのを聞いたことがあり、中国にとって「租界」は悪い思い出の方が多いかもしれないが、その国の自由を認めたことによって多様で先進的な文化が育まれたメリットもあった。そのため、土地を売った特定の場所は特区にして租界のようにし、例えば、フランス疎開・ロシア租界・ドイツ疎開などができればフランス風・ロシア風・ドイツ風の街づくりをするし、日本疎開ができれば日本風の先進的な街づくりをして、それぞれの国から移り住む人がいれば、いろいろなノウハウが集まって面白いと思うわけである。

   
2023.8.27ZakuZaku  2022.10.12日経ビジネス 2023.9.1日経新聞 2021.7.2日経新聞

(図の説明:左の2つの写真は工事が途中で止まった開発用不動産、右から2番目の図は、2023年6月末で中国の主要11社の開発用不動産が11社の資本合計の3倍超あることを示す貸借対照表である。また、1番右の図は、習近平国家主席が2021年7月1日に天安門広場で開催された中国共産党創立100周年祝賀記念式典で行った演説の骨子で、これまでの100年で貧困問題を解決してややゆとりのある小康社会を建設したことには賛成だが、これからの100年で豊かな中国社会を築くには、政府が力づくで経済《社会現象である》を変えようとすると、きしみが生じてむしろ逆効果になることを述べておきたい)

*6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM280K60Y3A820C2000000/ (日経新聞 2023年8月28日) 中国恒大、22兆円の開発用地が重荷 債務超過拡大も
 経営再建中の中国恒大集団の債務超過額が6月末時点で6442億元(約13兆円)に膨らんだ。負債総額は2兆3882億元(約48兆円)にのぼり、販売のめどがつかないまま抱える1兆860億元(約22兆円)の開発用不動産が重くのしかかる。住宅価格の下落が本格化すればさらなる評価減につながり、債務超過の拡大は避けられない。恒大が27日発表した2023年1〜6月期連結決算は最終損益が330億元の赤字だった。中国の不動産規制(きょうのことば)が導入された2020年夏以降、業績が急激に悪化した。中国上場企業として過去最大の4760億元の最終赤字となった21年12月期と比べて赤字額が1割以下に縮小したのは、住宅用地など開発用不動産の評価減を21億元にとどめたためだ。21年12月期には3736億元の評価減を計上した。6月末の資産総額1兆7440億元のうち6割を占めるのが、将来の住宅開発のために中国各地で仕入れた土地(使用権)や建設途中のマンションなどの開発用不動産だ。評価額は合計で1兆860億元にのぼる。仮に中国の住宅価格が1割下がれば、単純計算で1000億元を超える評価減となる。在庫負担を軽減するために住宅を安売りすれば、保有資産の評価損がさらに膨らむ悪循環を招く。恒大は開発用不動産の評価減を主因とした度重なる赤字計上で債務超過が拡大した。理論上の株式価値は実質ゼロとなっており、28日に香港取引所で約1年5カ月ぶりに再開した恒大株の取引は前回終値に比べ87%安で始まり、79%安で取引を終えた。恒大は28日に予定していた外貨建て債務の再編協議を9月下旬に延期した。債権者への提案には最長12年の債券や関連会社の株式への転換を盛り込む。同社の有利子負債(6247億元)のうち外貨建ての割合は26%に限られ、仮に債権者と合意できても抜本的な経営再建には力不足だ。膨大な開発用不動産は業界共通の課題だ。中国不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は22年末で8838億元にのぼる。住宅上昇局面では虎の子だった開発用不動産が、住宅不況で一転して経営再建の最大のお荷物となっている。さらなる評価減のリスクがぬぐえず、不動産各社の債務超過額が膨らみ続ける懸念がある。中国政府は20年夏、不動産会社に対する融資規制を強化した。負債比率などによって資金調達の規模を制限する「3つのレッドライン」を設定し、金融機関の貸し渋りに直面した恒大などが経営難に陥った。中国政府は建設業者や建材メーカーなど幅広い取引先に悪影響を与え、社会不安につながりかねない法的整理には慎重姿勢を崩していない。中国は人口減社会に入り、長期的にも住宅需要の急回復は見込めない。抜本的な解決を先送りすれば中国景気のさらなる減速を招き、世界経済に影響を及ぼしかねない。

*6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/20c44aaeec00fc89aeadee41547c4ff91f3646ae (Yahoo 2023/8/11) 中国不動産最大手に債務不履行の兆候…「恒大集団以上の衝撃」
 中国最大の不動産開発会社が社債の利子を払えない事件が起き、中国の不動産危機が再び高まっている。デフレの兆しを見せている中国経済を揺るがす雷管になりかねないとの懸念が出ている。売上高基準で中国最大の不動産開発会社である碧桂園(カントリーガーデン)の不渡りへの懸念により、中国の不動産市場が急速に冷え込んでいる。ロイター通信などが10日報道した。これに先立つ7日、同社は2社に対する社債の2250万ドルの利払いを履行できなかった。会社の規模に比べて少ない金額を定められた時期に返済できないほど資金難が深刻であり、会社側は今後の償還計画も明らかにしていない。碧桂園が今後30日間の猶予期間内に利払いができなければ不渡りとなる。2021年、大型不動産開発会社である恒大集団(エバーグランデ)が債務の元利金を償還できず不渡りになり、中国の不動産市場はバブルがはじけ急速に沈滞した。碧桂園は昨年末基準でマンション建設など3千個のプロジェクトと関連して1兆4千億元(1990億ドル)の負債がある。来月には58億元の債務満期が到来し、利子4800万元を払わなければならない。また、34億元相当の債務について返済か延長を決定しなければならないオプションもかかっている。2024年末までに中国国内で24億ドル、海外で20億ドルの債務を返済しなければならない。市場では碧桂園の不渡りへの懸念が急速に広がり、同社の社債価格は暴落している。香港証券市場に上場された株式も、8日に前取引日に対し14.4%暴落するなど、昨年末と比較すれば株価が70%も下落した。ドル建ての中国ハイイールド債券(信用格付けの低い会社が発行した債券)は、今年に入って最低の1ドル当たり平均67セント前後で取引され、碧桂園問題が伝染する様相を呈している。ブルームバーグ・インテリジェンスは9日「碧桂園には恒大集団よりも4倍も多いプロジェクトがあり、支払い不能事態も恒大集団の崩壊よりもさらに大きな衝撃を中国住宅市場に加えるだろう」と見通した。特に、碧桂園は恒大問題の際に当局が不動産市場の崩壊を防ぐために取った資金支援などの最大受恵者となり、これまで市場を支えてきたが、資金難に陥り市場の崩壊が憂慮される。碧桂園は今年上半期の6カ月間、売上1280億元(約2.4兆円)で30%の減少を記録した。碧桂園は中国のすべての省でマンションなどの工事を進行中だが、特に60%がいわゆる3・4等級の中小都市で進行中だ。大都市とは異なり、中小都市では需要の不足で不動産低迷がさらに深刻だ。政府が保証する中央中国不動産有限会社も最近、債務の利払いを定時ではなく猶予期間中に履行した。7月には大連ワンダグループの子会社と政府が保証する遠洋(シノオーシャン)グループも猶予期間の最後に利払いを行なった。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230901&ng=DGKKZO74074560R00C23A9MM8000 (日経新聞 2023.9.1) 中国主要不動産11社、開発用地3割評価減なら債務超過 政策効果は限定的
 中国の不動産開発会社に債務超過リスクが浮上している。主要11社の6月末の開発用不動産(開発用地)は約6兆3500億元(約130兆円)にのぼる。単純計算ではこの評価額がおよそ3割下落すれば現在の資本は枯渇し、債務超過に転落する。開発用不動産は住宅開発のために仕入れた土地使用権や建設途中のマンションを指す。日本経済新聞が2022年の販売上位10社に中国恒大集団を加えた11社の6月末の開発用不動産を集計したところ、合計約6兆3500億元だった。不動産開発会社は入札や相対で開発用地を仕入れ建設会社に建設を発注する。引き渡しまで物件を自社のバランスシート(貸借対照表)上に保有するため、住宅価格の下落局面では評価減のリスクにさらされる。主要11社の6月末のバランスシートは資産総額約12兆3300億元に対し、負債総額が約10兆3400億元。差し引き約1兆9900億元が資本となっている。資産のおよそ半分を占める開発用不動産の評価が32%下がれば資本不足で債務超過に転落する計算だ。主要11社が保有する開発用不動産は経営再建中の恒大が最多で1兆859億元にのぼる。恒大は2021年12月期に3736億元、22年12月期に16億元、23年1~6月期に21億元の評価損を計上した。これが巨額の最終赤字の主因となり、6月末に6442億元の債務超過となった。不動産最大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は6月末時点で2544億元の資産超過だった。ただ8436億元と資本の3倍を超える開発用不動産を抱え、リスクをはらむ。1~6月期決算は恒大と碧桂園の2社が最終赤字、4社が減益、5社が増益と分かれた。資産をどう評価するかは経営陣と監査法人の裁量が大きい。恒大以外は目立った評価減を計上しなかった。11社で計10兆元を超える負債は建設・資材会社などへの買掛金が25%、住宅購入者を対象にした契約負債が33%を占める。中国政府は政策金利引き下げや住宅購入規制の緩和などで住宅市場の活性化を狙う。ただ消費者は引き渡し不能を恐れて未完成物件の購入をためらうようになっており政策効果は限られている。

<ジャニーズ問題と日本のタレント>
PS(2023年10月1、3日追加):旧ジャニーズ事務所は、*7-2のような故ジャニー喜多川元社長の性加害問題があったため、*7-1のように、現在のジャニーズ事務所は被害者への補償に専念し、所属タレントのマネジメント等の業務は新会社に移管する方向で検討しているそうだ。これには、9月7日の会見後、ジャニーズ所属レントを用いるスポンサー企業の間で事務所の人権尊重やガバナンスの不十分さに対する批判が相次ぎ、所属タレントとの契約見直しの動きが止まらず、経団連の十倉会長が9月19日の定例記者会見で「日々研鑽しているタレントの活躍の機会を奪うのは違う」と述べたことがある。しかし、*7-2のように、ジャニー氏個人の問題や隠蔽した組織の問題のみならず、知りながら沈黙していたマスメディアや芸能界の問題は大きいという指摘もある。
 私が、ここでこの問題に触れる理由は、日本の歌謡界や芸能界のレベルの低さは開発途上国より劣ると思うからで、その年にどういう歌が流行ったのか知るため年に一度見る紅白歌合戦では、音楽や歌と言うより数でごまかして運動しているチームばかりが多くて心に響くものがなく、歌謡曲は何十年も女性蔑視丸出しだからである。そのため、*7-2の内容を読むと、こういうのを「枕芸者(芸がないため、性で売っている芸者)というのかな」「他の事務所はどうなのか」と思われたからである。現在のファンは、それしか知らないから、それで満足しているのではないか?そのため、ジャニーズ事務所の所属タレントのマネジメント等の業務を新会社に移管するのなら、例えば、ソニーやヤマハなどの会社が出資して本物の芸術を売れるタレントを本気になって発掘したり、育てたりして欲しいと思うわけである。
 10月2日、*7-3のように、ジャニーズ事務所は、①所属タレントのマネジメント業務を手掛ける新会社を設立し ②新会社(資本構成未定)がタレント業務に必要な知的財産を引き継いで創業家一族は経営に関与せず ③新会社は「エージェント会社」としてタレントと契約を結び仕事獲得等を請け負う ④旧ジャニーズ事務所は10月17日に社名を「SMILE-UP」に変更して被害者への補償手続きを順次進め、被害者救済終了後に廃業する ⑤チーフコンプライアンスオフィサーに企業のリスク管理に詳しい山田弁護士を就任させる 等の立て直し策を発表した。
 このうち①は良いし、②は、1~2日で決まる筈がないため未定で当然だ。また、⑤ように、チーフコンプライアンスオフィサーに企業のリスク管理に詳しい弁護士が就任すれば、ガバナンスについても弁護士と相談しながらやれば間違いない。ただ、④のジャニーズ事務所の被害者への補償額は見積もりでもいいから算定され、新会社へは負担が生じないことが明らかにならなければ、新会社に出資する人や会社は困るわけである。そのため、被害者を早く確定して(例えば10月末で締切など)、各人の機会費用まで含めた損害額を計算し、それを合計して全体の見積額を出す必要があるが、組織再編におけるリスク管理は公認会計士の方が得意である。なお、⑥のように、「新会社の経営陣に喜多川氏が築いたシステムで育ったタレントが就くのは問題があり、スポンサー離れが続く可能性がある」という指摘もあるが、それでは被害者に責任を負わせることによって被害を受けても沈黙を強いるということになるため、人権侵害の上塗りになる。その上、経営陣にタレントもいなければ、具体的な新会社の今後の発展はおぼつかないと思われた。

 
2023.9.15中日新聞 2023.10.3日経新聞     2023.10.2日刊スポーツ

(図の説明:9月7日の会見の後、左図のように、ジャニーズ事務所のタレントを起用した広告停止や契約非更新が相次いだが、タレントに非があるわけではないため、タレントとの個人契約に切り替えた会社もあった。そして、10月2日の会見で、中央と右図のように、役員と従業員が出資してタレントとエージェント契約を結び、タレントのマネジメントや育成を行う新会社を立ち上げ、旧ジャニーズ事務所は10月17日付けで社名変更して被害者の補償に専念し、補償完了後は廃業することになった。これは、マネージド・バイアウト方式の組織再編だが、タレントの今後の世界進出のためには、資本力があって文化に関わる事業を行ってきた世界企業の出資や協力もあった方がいいと、私は思う)

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231001&ng=DGKKZO74912850R01C23A0EA2000 (日経新聞 2023.10.1) ジャニーズ、補償と経営分離 マネジメント新会社、社名を公募へ 藤島氏は出資せず
 ジャニーズ事務所が会社を再編する方針を固めたことが30日、わかった。新会社を立ち上げ、所属タレントのマネジメントなどの業務を移管する。現在のジャニーズ事務所は故ジャニー喜多川元社長による性加害の被害者への補償に専念する。新会社の社名はファンから公募で決める方向で検討しているもようだ。新会社にはジャニーズ事務所前社長の藤島ジュリー景子氏は出資せず、業務にも携わらないとみられる。現在のジャニーズ事務所の社名の変更も検討している。民放各社から「補償とマネジメントを行う組織の分離を検討すべきだ」との声が上がっていた。芸能事務所としての業務と補償を明確に分離する。ジャニーズ事務所は9月7日に会見を開き、喜多川氏による元所属タレントらへの性加害を事務所として初めて認めた。被害者には法的な枠組みにとらわれず補償する意向も示した。引責辞任した藤島氏は代表取締役にとどまり、藤島氏が全株式を保有する株主構成やジャニーズという社名も当面維持するとした。これらの対応について、所属するタレントを広告などに用いるスポンサー企業の間では人権尊重の視点やガバナンス(企業統治)が不十分だとして批判が相次いだ。CM放映の中止など起用を見直す動きが広がった。事態を打開しようと、同事務所は今後1年間、所属タレントの広告や番組出演で得た出演料について受け取らず、タレント本人に支払う方針を示した。ただ、契約見直しの動きは止まらなかった。帝国データバンクによると、テレビCMなどにジャニーズの所属タレントを起用した上場企業65社のうち、半数にあたる32社が起用方針を見直した。経団連の十倉雅和会長は9月19日の定例記者会見で「日々研さんしているタレントの活躍の機会を奪うのは少し違うのではないか」と述べ、所属タレントの救済策を検討すべきだと指摘した。日本商工会議所の小林健会頭も社名について「継続しないほうがいい」と述べた。ジャニーズ事務所は2日、今後の経営方針について会見を開く。被害者への補償の具体策とあわせて再編案についても説明する見通し。

*7-2:https://diamond.jp/articles/-/328852 (Diamond 2023.9.8) 「ジャニー氏は1万円を渡して…」ジャニーズ性加害問題、もし今の法律で裁かれていたら?
 ジャニーズ事務所の性加害問題について「外部専門家による再発防止特別チーム」が「調査報告書」を発表したのは2023年8月末。この中で、故・ジャニー喜多川氏による長年にわたる性虐待の実態が、被害者からの証言の形で記されていた。しかし、いわゆる「男性も性被害者」として認める法改正がなされたのは17年になってからのことだ。法改正が遅れたことによる影響を改めて振り返ってみたい。
●衝撃的な「ヒアリング結果」
 「調査報告書」では、ジャニー氏による性加害は1950年代から2010年代半ばまで続いていたものであり、被害に遭った少年が多数いることが認定された。また、その原因は4つ「ジャニー氏の性嗜好異常」「メリー氏による放置と隠蔽」「ジャニーズ事務所の不作為」「被害の潜在化を招いた関係性における権力構造」と指摘されている。ジャニー氏の個人による問題と、隠蔽した組織の問題の両方があり、さらにその背景には「マスメディアの沈黙」「業界の問題」があったという指摘を、マスコミや業界関係者は重く受け止めなければならないだろう。被害の一端を知りながら、あるいは薄々勘づいていながら、ほぼ全ての人が何も行動を起こさなかったのだ。調査報告書の中で、特に読む人に衝撃を与えたのが、性加害についての「ヒアリング結果」だろう。この中では具体的にどのような被害があったのかについて、匿名の証言が列挙されている。「ジャニー氏は1万円を渡してきたので、これは売春のようだと思った」「私が被害を受けている間、周囲のジャニーズJr.たちは見て見ぬふりをしていた」といった証言が悲痛である。性犯罪については、近年大きな変化があった。23年7月、性犯罪に関する刑法が改正され「不同意性交等罪」や「性交同意年齢の引き上げ」があったことが大きく報道されている。ただ、今回のポイントは「男性が性被害にあった場合」への対処の遅れに注目したい。
●「強姦罪」から名称変更された意味
 男性の性被害に関して言えば、6年前の17年の時点で大きな改正があった。それは、従来の「強姦罪・凖強姦罪」が「強制性交等罪・凖強制性交等罪」に名称変更されたという点だ。ネット上で「罪名を変更しても厳罰化しなければ意味がない」というコメントを見かけたことがあるが、これは単なる名称変更ではない。それまでの刑法では、暴行や脅迫を用いて膣性交(女性器への男性器の挿入)を行うことを「強姦罪」としていたが、改正後は膣性交だけではなく、口腔性交と肛門性交の強要が同等に裁かれることとなったからだ。この改正が「男性も被害者に」と報道されたのは、このためである。また、「強姦」は「女性を姦淫する」という意味であるため、名称が変更され、やや違和感のある罪名となったのである(23年の改正で、不同意性交等罪に改められた)。2017年以前は、口腔性交や肛門性交の強要は「強制わいせつ罪」であり、懲役6月~10年の罪だったため、男性に対する性犯罪は女性に対する性犯罪よりも「軽く」捉えられていたと言える。そんな状況だったのが、17年の改正で「強制性交等罪(旧強姦罪)」の量刑が、懲役3年以上から懲役5年以上に引き上げられることで、厳罰化が進んだのである。
●男児複数人への性加害、懲役20年のケースも
 「調査報告書」を見ると、口腔性交をされたという証言は多く、中には肛門性交をされたという証言もある。これらは、現在の基準であれば懲役5年以上の「不同意性交等罪(17年7月~23年7月12日までは強制性交等罪)」となる。22年の裁判で、男児に対する性的暴行で逮捕された元ベビーシッターの男に対して懲役20年が言い渡された。この事件の被害児童は20人、強制性交等罪での立件が22件、強制わいせつ罪が14件と報道されている。仮定の話に意味はないが、現在の基準で故・ジャニー喜多川氏が裁かれていたとすれば、相当重い懲役となったはずである。しかし、ジャニー氏の存命中にこの問題が発覚していてもどうであったか……。故・ジャニー喜多川氏の加害行為は、わかっている範囲で1950年代から2010年代半ばという。17年の法改正より前の被害については、口腔性交・肛門性交の強要は「強制わいせつ罪」だった。もちろん、そもそも被害申告できなかった人が多いので刑事事件になった可能性は低いが、それでも法改正がもっと早く行われていれば、「男性の性被害」に関する意識の変化はそれだけ早かったかもしれない。
●13~15歳の被害が多いのはなぜか
 また、もう一つのポイントは性交同意年齢だろう。調査報告書を見ると、被害に遭った年齢は10代前半に集中している。「13~14歳時」「14~15歳時」「中学1年頃」「中学2年頃」といった証言が多い。23年の刑法改正まで、日本の性交同意年齢は男女関係なく13歳だった(法改正後は16歳に引き上げ)。13歳未満の者に対しては、性的行為をした時点でアウトだが、13歳に達していた場合、「暴行・脅迫」が用いられたどうかが問われていた(23年の改正前刑法)。「調査報告書」の中では、ジャニー氏が性的行為に及んだ際に明確な暴行や脅迫があったとは記されていない。だからといって、彼の行為が「同意のある性行為」だったと考える人は、今やほぼいないだろうが、これらについて「被害」を立証することは、当時の法律や認識では難易度が高かっただろう。「嫌ならなぜ抵抗しなかったのか」「男の子なのだから逃げようと思えば逃げられたはずだ」と言われてしまったであろうことは容易に想像できる。23年の法改正では性的同意年齢が16歳に引き上げられ、「経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって不利益を憂慮させること」も、「不同意性交等罪」を成り立たせる事由の一つとされた。この条件が当時もあったのであれば、ジャニー氏による加害行為は訴えやすかったはずだ。
●時効の問題
 23年の改正では、性犯罪の時効についても変更があった。不同意性交等罪(改正前は強制性交等罪・凖強制性交等罪)は10年から15年、不同意わいせつ罪(改正前は強制わいせつ罪)は7年から12年に時効が引き上げられた。ただし改正以前に行われた行為については、時効はそれぞれ10年、7年のままである。※ただし改正以前の事件でも改正までに時効を迎えていなければ、改正後の時効が適用される。口腔性交と肛門性交の強要が強制性交にあたるようになったのが2017年だが、強制性交等罪にあたる被害については、そもそも2017年の法改正以降しか問うことができないということだ(それ以前の口腔性交、肛門性交の強要は強制わいせつ罪なので、さかのぼれるのは2016年までだ)。ジャニー喜多川氏は19年に亡くなっているが、死去の直前まで加害行為があったとすれば、被疑者死亡ながら時効を迎えていない被害もあるのだろう。「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は9月4日の会見で刑事告発を行う考えを明らかにしているが、告発を行う人がいるのであれば、この期間(時効が過ぎていない期間)での被害なのではないか。性被害は被害申告までに時間がかかる場合が多く、特に子どもの頃の被害は被害に気づくまでにも時間がかかるといわれる。23年の法改正では、未成年の被害は、成人を迎えるまで時効がストップされることになったが、それでも、最大で33歳までに被害を申告しなければ時効となる。今回、被害を打ち明けた当事者の人々の中には、40~50代以上も多い。これをどう考えるかは、今後社会に向けても問われることとなりそうだ。
【追記】27段落目:※ただし改正以前の事件でも改正までに時効を迎えていなければ、改正後の時効が適用される
(2023年9月27日9:50 ダイヤモンド編集部)

*7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231003&ng=DGKKZO74950020S3A001C2EA1000 (日経新聞 2023.10.3) ジャニーズ、補償後に廃業。新会社に知財移管へ ガバナンスなお不透明
 ジャニーズ事務所は2日、性加害問題からの立て直し策を発表した。所属タレントのマネジメント業務を手掛ける新会社を設立、同事務所は被害者救済に専念し終了後に廃業する。新会社はタレント業務に必要な知的財産を引き継ぎ、創業家一族は経営に関与しない。新会社の資本構成は明らかになっておらず、ガバナンス(企業統治)が機能するかなお不透明だ。ジャニーズ事務所は17日付で社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更し、被害者への補償手続きを順次進める。法令順守に向けて、チーフコンプライアンスオフィサー(CCO)に企業のリスク管理などに詳しい弁護士の山田将之氏が就任。全ての事業活動で子どもの保護と安全を確保するグループの人権方針も策定した。創業者の故ジャニー喜多川氏から性加害を受け、補償を要求した人は9月30日時点で325人いる。2日に記者会見した東山紀之社長は「自分たちでジャニーズ事務所を解体する」と述べた。同事務所は9月の会見で、引責辞任した創業家出身で前社長の藤島ジュリー景子氏が代表権を持ったまま、全株式を持つ株主構成を見直さず、「ジャニーズ」という社名も当面維持するとしていた。所属タレントを広告に起用するスポンサー企業から人権尊重の視点やガバナンスが不十分との指摘が相次いでいた。前回の会見から1カ月足らずでの方針転換となった経緯について、東山社長は「内向きだったと批判されても当然。喜多川氏と完全に決別する」と述べた。ジャニーズの名称を使ったグループについても変更する。藤島氏は関連会社を含めて代表取締役を退任する。新会社は1カ月以内に立ち上げる。藤島氏は出資せず、取締役にも就任しない。資本金は検討中で役員や従業員が出資する。社長は東山氏が兼任し、社名はファンクラブの公募で決める。社外取締役の起用も検討する。新会社は所属する個人のタレントやグループが会社と個別に契約を結ぶ「エージェント会社」とする。エージェント会社はタレントと契約を結び、仕事獲得などを請け負う形をとる。ハリウッドなどでは一般的な契約方法で、国内では吉本興業ホールディングスが、所属タレントが反社会的勢力の会合に参加した「闇営業」問題などを受けて19年に導入した。同事務所が再建に向けて選んだのは「第二会社方式」と呼ばれる手法だ。水俣病の原因企業のチッソは水俣病特別措置法に基づき、11年に事業部門を100%子会社のJNC(東京・千代田)に分社し、チッソは補償業務に特化した。同事務所は広告起用の見直しが相次ぐ所属タレントの活動継続と、被害者の救済を両立する狙いがある。外部の専門家チームは8月末に公表した報告書で、喜多川氏による性加害は半世紀以上に及び、被害者は数百人に及ぶとした。今後は補償額がどの程度まで膨らむか、その原資が焦点となる。非上場企業のジャニーズ事務所は、主要な経営指標を公表していないが、民間調査会社によると売上高は800億円程度。稼ぎ頭はファンクラブ収入だ。「嵐」や「Snow Man」など15グループだけで会員数は累計1100万人超になる。年会費は4000円で、総額500億円前後に上る計算だ。このほか東京都内の所有ビルなどの資産価値は計1000億円程度とみられる。企業の人権侵害を巡る視線の厳しさが増す中、「ジャニーズ離れ」に歯止めがかかるかは不透明だ。帝国データバンクによると、テレビCMなどにジャニーズ所属のタレントを起用した上場企業65社のうち、半数にあたる33社が起用方針を見直した(9月30日時点)。所属タレントを起用した広告や販促物の展開を停止している日産自動車は2日、「事務所が発表した改革や再発防止の取り組みを注視しながら、適切な対応を取っていく」と述べるにとどめた。スポンサー企業は過去との決別の是非について資本構成で判断するとされるが、新会社の構成は明らかになっていない。企業のガバナンス問題に詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授は「現状ではスポンサー離れを食い止めることはできない」との見方を示す。日本リスクマネジメント学会理事長で関西大学の亀井克之教授(リスクマネジメント論)は「新会社の経営陣に喜多川氏が築いたシステムで育ったタレントが就くのは問題がある。スポンサー離れが続く可能性がある」と指摘する。

| 財政 | 02:48 PM | comments (x) | trackback (x) |

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