左のCATEGORIES欄の該当部分をクリックすると、カテゴリー毎に、広津もと子の見解を見ることができます。また、ARCHIVESの見たい月をクリックすると、その月のカレンダーが一番上に出てきますので、その日付をクリックすると、見たい日の記録が出てきます。ただし、投稿のなかった日付は、クリックすることができないようになっています。
2024,02,04, Sunday
2024.1.30TBS 2023.1.12佐賀新聞 2023.2.5佐賀新聞 (図の説明:左図のように、麻生副総裁が上川外務相を褒めたつもりが、名前を間違ったり、『女性外務相は初』と誤ったり、『美しくないおばさん』と言ったりして物議を醸している。しかし、根本的には、日本全体に蔓延する女性蔑視や高齢者に対する年齢揶揄の習慣がある。そして、この発言の土壌として、1年前のデータだが、中央の図のように、国会議員・地方議員・首長などの政治リーダーに占める女性の割合が著しく低く、女性リーダーはアウトサイダーであるという古ーい“常識”がある。そのため、生活関連の政策が多く、女性議員の存在が重要だと思われる地方議会でさえも、右図のように、女性ゼロ議会が少なくなく、ゼロでなくても女性議員の割合が50%どころか30%を超える議会も希な状況なのだ) (1)女性初の首相は、巧妙に隠された差別にも気づいて闘った人であって欲しいこと *1-1-1・*1-1-2・*1-1-3は、①自民党の麻生副総裁が講演で「そんなに美しい方とは言わんけど、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう。俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」と語った ②立憲の田島氏は、参院本会議で同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただした ③上川氏の「どのような声もありがたく受け止めている」という答弁にも波紋が広がった ④ライターの望月さんは「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が前提になっており、女性の登用をうたいながら、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだ麻生氏ら男性たちが握り続けている現実を映している」とみる ⑤東大の瀬地山教授は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相なら容姿に言及することはなく、女性だけ美醜の評価を加えられる」「政治の世界で女性はアウトサイダーという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出る」とした ⑥次の首相候補との声も上がり始め、20人の推薦人を集めて総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい ⑦共産党の田村委員長も、上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語った ⑧麻生氏は上川外相の容姿を揶揄した発言を撤回し、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた としている。 麻生副総裁の発言の①のうち、「英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取る」については、私は、できない人よりはできる人の方が良いが、それは政治家の仕事というよりセクレタリーの仕事で、政治家の実力を評価したことにはならないと思う。しかし、「女性」と言えば「語学力」「コミュニケーション能力」で評価したり、「おしゃべり」と悪口を言ったりするのは、まさに女性の実力を内容で評価しない女性蔑視の第1だ。 また、「そんなに美しい方とは言わんけど」という発言について、⑤のように、東大の瀬地山教授が「男性の外相なら容姿に言及することはなく女性だけ美醜の評価を加えられる」とされているのは本当だが、より根本的には、「能力のある女性は美しくなく、美しい女性は能力が無い」という一般社会の女性蔑視に、麻生氏も同調しているか、おもねたところがあると思う。 さらに、「俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」という言葉には、④のように、「(現在、リーダーの多くを男性が占めているため)男性の方が能力が上で、男性が評価する立場だ」という女性蔑視が確かに感じられるが、現在、リーダーの多くを男性が占めている理由は、日本では、*3-1のように、教育段階から女性差別して男性に下駄を履かせているからで、*3-2のように、同性の中にも大きな個人差がある。それでも、日本の一般社会は、*3-2の「執筆した論文数が男性より多い有能な女性の中に美人はいない」と言うのだろうか? なお、「おばさん」という言葉には、「おじさん」という言葉と同様、年齢に対する揶揄が感じられ、敬意は感じられない。 しかし、②のように、立憲の田島参議院議員が同調圧力の強い日本社会で上川氏と同じ対応をしなければならないリスクを上川氏にただしたり、⑦のように、共産党の田村委員長が上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべき」と語ったりしたのは、確かに、国会議員の中に女性が増えた効果である。しかし、田島氏の質問に対し、③のように、上川氏が「どのような声もありがたく受け止めている」と答弁されたことについては、上川氏はわかっていないか、もしくは、わざと焦点をずらしてごまかしたと思う。 もちろん、上川氏が、⑥のように、次の首相候補との声も上がり始め、麻生氏に限らず、男女の議員の中に敵を作れば誰もが一票の投票権を持つ民主主義社会で首相になることはできないというジレンマを抱えていることは理解する。 が、国会議事堂の中央広間には4つの台座があり、既に板垣退助(自由民権運動を起こし、日本で最初の政党である自由党党首)、大隈重信(日本で最初の政党内閣の総理大臣)、伊藤博文(日本で最初の内閣総理大臣)の3つの銅像が立っており、4つ目の台座には、日本で女性初の首相が銅像として立ってもらいたいと、私は思っている。そして、その功績は、日本であらゆる女性差別をなくし、最初の女性内閣総理大臣になったというくらいであって欲しく(https://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/gijidou/3.html 参照)、そうでなければ他の銅像と釣り合いがとれない。 (2)女性の実力が公正に評価されない巧妙な差別の事例 *1-2は、①保利耕輔氏は謹厳実直が服を着たような人だった ②群れたがる同僚議員を尻目に夕方は自宅に直行して本や資料を読みふけった ③「予算獲得の陳情団に、普通の国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるが、保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問した」というのが古川衆院議員の佐賀県知事の時の思い出 ④2003年に農相を打診されると教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞 ⑤党憲法改正推進本部長の時には「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増したが、結党時の資料を探し出して「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた ⑥目立つことを嫌い、手柄を誇らず、常に筋を通す と記載している。 このうち⑤の「(結党時の資料を示して)全否定ではなかった」とまで言えたのはよかったが、国民の意識や時代の変化にもかかわらず、結党時と同じことを言うのではまだ弱いと思う。 また、③については、同じ選挙区から出ていたので意義があるわけだが、“本題もそこそこに地元の噂話を聞きたがる普通の国会議員”とは誰のことか?他の地元国会議員に失礼だと思うが、本題は自分発のテーマだったり、毎年似たようなものだったりするため、内容を根掘り葉掘り聞かなくてもわかる議員も多いだろう。 なお、*1-2は追悼文であるため褒めるのが当然ではあるが、①については反対しないものの、②は家で本や資料を読んでおられたとは限らないため、私は「どうしてそれがわかるのか?」と思った。さらに、④の「農相を打診されたが、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞」については、保利氏は教育勅語を諳んじていて、よくその話をしておられたため、教育基本法改正は戦後世代に任せた方がよいと私は思ったし、地元には「農相になればいいのに・・」と言う人が多かったのである。 しかし、私が*1-2で最も問題だと思ったのは、⑥の「目立つことを嫌い、手柄を誇らず・・」という褒め方(≒価値観)である。何故なら、世襲ではない一般の人が目立つことを嫌えば、そもそも国会議員になろうとは思わないし、当然のことながら当選もしないからだ。また、実績(=手柄)を言わなければ内容で評価することができないため、性別・年齢・学歴等の情報からステレオタイプで常識的・観念的な評価をするしかない。 そして、特に女性には謙虚さのみを押しつけ、いかにも女性はくだらない噂話が好きであるかのように言う日本独特の女性蔑視の価値観こそが、政治の世界でも、*3-1と同様に、ジェンダーギャップを大きなままにし、*3-2のように、本当は少数精鋭で生き残っている女性研究者の執筆論文数は男性を上回るのに、それを隠して表に出させず、しばしば手柄を横取りして、女性差別を維持する仕組みにしているのである。 (3)地方議会の担い手不足と女性差別 *2-1は、①議員の担い手不足で、地方議会の空洞化が止まらない ②首長が議会ぬきで補正予算等を決める専決処分が多発 ③災害時等の非常時に限る仕組みのタガが緩み、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ ④4年毎の統一地方選で議員が無投票で決まる割合が右肩上がり ⑤議員は多様な住民の声を取り込む役割を担う ⑥専決処分多発のきっかけはコロナ禍だったが、コロナが落ち着いても「物価高対策のため」等として減らない ⑦議会が機能を十分果たすための改善策は通年制 としている。 また、*2-2は、⑧2018年施行の候補者男女均等法効果で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分ではない ⑨200以上の地方議会で女性0、2割前後で伸び悩む議会も ⑩女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要 ⑪達成には選挙制度の抜本的改革が不可欠 ⑫1人区は無投票が多く現職有利になるため都道府県議選では止めるべき ⑬定数が多いと、党派も多様で女性や若い世代も立候補しやすい ⑭市町村議選では「制限連記制」が選択肢の一つ ⑮「クオータ制」も導入した方がよく、女性候補の多い政党には政党助成金を優遇するなどの方法も ⑯少子化進行は女性議員が少なかったことが大きな要因で、女性が増えれば政策が刷新される ⑰保護者に持ち帰らせていた使用済おむつを保育所で処分するよう求める動きも、女性議員らの議会質問で始まった ⑱生活に身近な議題を扱う市町村の議会に女性や若い世代は不可欠 ⑲海外には地方議会で女性が増えてから国政に波及した例も多く、日本も地方議員を増やせば国会に繋がる可能性 等としている。 このうち②は事実だろうし、③⑥の「災害時等の非常時に限る仕組みが、議会の監視をすりぬける手段となる」のは国の緊急事態条項も同じなので、⑦のように、議会の開催を短く制限しないようにするのは、国の場合も同様である。 また、⑤の「議員には多様な住民の声を取り込む役割がある」というのも事実で賛成だが、①の「議員の担い手不足で地方議会の空洞化が止まらない」は、⑧⑨⑩のように、人口の半数以上を占め生活系の知識が豊富な女性議員が地方議会に著しく少ないことを解決すべきだと思う。 しかし、④のように、4年毎の統一地方選では現職(男性)議員が無投票で再選される割合が右肩上がりに増えているそうで、そこに気の利いた女性が立候補しても、古い価値観で誹謗中傷されたり、家族も含めて妨害されたりして、著しく当選しにくい実情がある。そのため、⑪⑫⑬⑭⑮のいずれかの方法又はその組み合わせで、女性が立候補するのは当たり前、議会に女性が30~50%いるのも当たり前という状況を作るべきだ。 なお、⑰の「保護者に使用済おむつを持ち帰らせていた」というのには、「タイパ(時間あたりの成果)の高さが必要不可欠な共働き女性に何をさせているのか!」と私も思ったが、確かに⑯のとおり、これでは2人目を産む人は少なくなり、少子化が著しく進行するのは当然だろう。そのため、これに対し、女性議員の議会質問で保育所での処分が始まったのは期待通りであり、⑱のとおり、生活に身近な議題を扱う市町村議会に女性議員は不可欠なのである。 最後に、⑲のように、「地方議員を増やせば国会に繋がる可能性がある」という点については、国会議員選挙での公認獲得や選挙応援にあたって地方議員の役割は大きい上に、国民も女性議員の能力を具体的に見ることができるため、地方議員に女性が増えれば国会議員にも女性が増えるだろう。 (4)学術会におけるジェンダー不均衡の発生理由 *3-1は、日米の研究チームが、論文の著者名から性別を推定する方法を開発し、日本・韓国・中国・その他(主に欧米)で1950~2020年に発表された約1億本の論文データを解析したところ、①どの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米より大きい ②個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数は、日本は女性が男性より42・6%少なく、中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少ないため、日本の性差が最も大きい ③女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)のが原因の1つ ④研究論文の共同著者となっている場合も少ない ⑤論文が引用された回数は、日本は女性が男性より19・9%低く、中国・韓国では逆に女性が高い ⑥男性研究者主導論文を過多に引用し、女性研究者主導論文を過少に引用する傾向が日中韓でみられる ⑦女性研究者主導論文の過少引用は日本が最も強い ⑧この問題は国際的な社会課題であり、論文の査読や研究者の雇用などでも起こる としている。 このうち①は、日中韓が儒教国で女性差別が根強いことから尤もだ。しかし、②は、1975年に第1回世界女性会議で女性の地位向上のための「世界行動計画」が採択され、1979年に国連総会で女子差別撤廃条約が採択されて1981年に発効し、1995年に北京で世界女性会議が開催されたりしたのに対応して、中国・韓国はまじめに改善してきたのに対し、日本は政治的・公的活動、経済的・社会的活動における差別撤廃のため、まともに対応しなかったのが原因であることを、私は現場で比較しながら見ていたためよく知っている。 また、③のように、「女性はキャリア年数が短い」とよく言われるが、この統計方法は、結婚で女性が姓を変更すると別人としてカウントするのも理由の1つではないかと思われた。 しかし、④のように、共同著者となる機会が少なく、⑤⑥⑦⑧のように、日本の女性研究者は論文の引用回数が男性研究者より少ないのなら、実力で研究者として昇進する道が閉ざされるため退職せざるを得なくなることも、女性のキャリア年数が短くなる原因の1つだ。そして、多くの男性に思い当たるふしがあると思うが、これが隠された巧妙な差別の結果なのである。 *3-2は、⑨日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は男性より女性の方が多く世界の傾向と逆 ⑩日本の研究者全体に占める女性割合は約2割(総務省2016年調査では15.3%)で米国やEU28カ国の約4割と比較して低い ⑪2011~2015年の研究者1人当たり論文数は、日本の女性が1.8本で男性の1.3本よりもやや多く、他国・地域と異なる ⑫1996~2000年では、より男女差が大きいのが日本の特徴 ⑬エルゼビアは「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいため、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている としている。 ⑩の日本の研究者全体に占める女性割合は約2割で、米国やEU28カ国の約4割と比較して半分というのは、優秀な人の割合が同じであれば、女性は他国と比較して2倍の狭き門をくぐらされて生き残っていることになる。ということは、退職させられた女性研究者の多くが、本来なら新しい付加価値を作れる人だったため、日本社会はもったいないことをしたということだ。 従って、そのような狭き門でも生き残っている女性研究者が、⑨のように、世界とは逆に、直近5年間に執筆した論文数は男性研究者より多く、⑪⑫のように、最近はやや多い程度だが、四半世紀前はさらに狭き門だったため執筆論文数の男女差がより大きかったというのは頷ける。そのため、⑬のエルゼビアの原因分析は、事実に基づいており、公正中立だと思う。 (5)治る病気は治すべき ← 日本で再生医療による治療が遅れる理由 *4-1は、①1型糖尿病(インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が壊れて高血糖状態になる病気)の患者は、生涯インスリン補充が必要 ②20歳以降は行政による医療費助成が終わり、自己負担が重くなる ③20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生する ④佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワークが、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に4月から月額最大3万円の医療費支援を始める ⑤国内の1型糖尿病患者は10~14万人 としている。 しかし、*4-2は、⑥成熟した膵島細胞は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因 ⑦出生前後に増殖する膵島細胞ではMYCL遺伝子が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞に活発な自己増殖を誘発できる ⑧体内でMYCLを発現誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植してモデルマウスの糖尿病を治療した ⑨これにより、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となりうる としている。 1型糖尿病は、①のように、現在は治らない病気であるため、生涯にわたってインスリンの補充が必要だが、これでは患者のQOL(Quality of life)が低すぎ、人生における選択が制限される。さらに、治療には健康保険と高額医療費制度が適用されて当然なのに、②③のように、20歳以降は行政による医療費助成が終わり、月1万~3万円程度の自己負担が生じるというのが、そもそもおかしいのである。 そして、④のように、佐賀市の認定NPO法人が佐賀県在住の25歳までの患者に月額最大3万円の医療費支援を始めるというのは、(何もしないよりは良いが)部分的援助にしかならないため、まず治療に健康保険と高額医療費制度を適用するのが当然と言える。 次に、⑥のように、成熟した膵島細胞は自己複製能を持たないが、⑦のように、出生前後にはMYCL遺伝子が発現して膵島β細胞が活発な自己増殖するため、⑧のように、体内でMYCLの発現を誘導したり、MYCLによって試験管内で増幅させた膵島細胞を移植したりすれば、1型糖尿病を治療でき、これは糖尿病のモデルマウスで既に証明されているのだ。従って、⑨のように、糖尿病を根治する人間の治療法にもなり得るため、これらを素早く実用化すべきである。 MYCL使用法は糖尿病を根治できるため、生涯にわたってインスリンを補充する必要が無く、根治後の患者は普通の生活ができるためQOLが高い。それと同時に、医療保険の視点からは、患者に生涯に渡ってインスリンを補充するよりもずっと安くつき、ビジネスとしても、⑤のように、国内だけで10~14万人の1型糖尿病患者がおり、世界では著しく多くの患者がいるため、市場は十分大きく、トップランナーと2番手以下では利益率の差も大きいのだ。 そのため、再生医療の基礎研究ではトップランナーの日本で再生医療による治療法が普及しない理由は、「政治・行政・経営・メディアの無知と不作為によって、優れた種を発見して速やかに育てることができないから」と言わざるを得ない。 (6)日本でEVと再エネが遅れた理由 日本は、1997年に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)で「地球環境京都宣言」をとりまとめ、それが「京都議定書」として採択された。京都議定書は、CO₂(二酸化炭素)やCH₄(メタン)等6種類の温室効果ガスを先進国が排出削減することを定めており、その有力なツールがEVや再エネなのである。 しかし、日本は、1990年代に、世界に先駆けてEVや太陽光発電機を実用化したにもかかわらず、「EVは音がしないから危ない(!!)」「充電設備が少ない(!)」「発電を化石燃料でするため、EVも地球温暖化に資さない(!!)」「再エネは出力が安定しないから使えない(!)」「太陽光発電は撤去が困難(!!)」等々、考えれば解決策はあるのに、工夫のない変なケチをつけてEVや再エネを普及させなかった経緯がある。 その結果として、*5-1のように、①JAIAが発表した2024年1月のEV輸入販売台数は2カ月連続で増加 ②そのうち2割が中国EV大手のBYD ③独メルセデス・ベンツ等の欧州勢もEV車種を揃えて顧客の選択肢を増やし、輸入EVは販売贈 ④BYDは2023年1月に日本の乗用車市場に参入し、2車種のEVを展開して販売台数は前年同月比約6倍 ⑤BYDの最先端安全装置等が人気で高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い ⑥BYDは、2024年春もセダンEV「シール」を日本に投入 ⑦2025年末までに国内販売拠点を100カ所まで増やして拡販方針 ⑧輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開 ⑨輸入EVは独VWの「ID.4」や独アウディの「Q4 e―tron」など欧州メーカーを中心に売れている ということになった。 このうち①②④⑥は、前年との比較で増加してシェアを増やしたということなので絶対数は多くないが、BYDのEVはスマートで安価であるため、私も好きだ。その上、⑤のように、最先端の安全装置等がついている等の工夫があれば、高級車からの乗り換えや60代以上の高齢者も多くなるのは理解できる。そのため、⑦のように、日本国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販してもよさそうである。 ③⑨の欧州勢のEVは自動車として安心感があるだけでなくスマートでもあるが、値段も高いため、普通の人は買換時期にでもならなければ乗り換えないだろう。しかし、⑧のように、輸入車全体で17ブランドが118モデルのEVを日本で展開するというのは、選択肢が増えて楽しみだ。 一方、日本メーカーは、「京都議定書」から30年近くも経過したのに、PHEVを含めなければ日産3車種、三菱・トヨタ・ホンダ・マツダ各1車種のEVしかない。地球環境に貢献しつつエネルギー自給率を上げるための技術開発をする時間的余裕は十分にあったため、遅れをとって利益機会を逃したのは、もったいなかったわけである。充電設備や水素ステーションは、スーパー・コンビニ・職場・マンション等の駐車場やガソリンスタンドに設置すれば便利だろう。 さらに、*5-2は、⑩太陽光パネル撤去積立金が災害リスクのある斜面に立地する全国1600施設(500kw以上)で不足の恐れ ⑪放置や不法投棄に繋がらないよう適正処理の仕組み作りが不可欠 ⑫2012年開始の固定価格買い取り制度による買い取り期間は10kw以上・20年間で、2032年に買い取り期間が終了し始めて売電価格が大幅下落 ⑬パネル寿命も25~30年程度 ⑭政府は事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を2022年に開始したが、算出根拠が平地での撤去・廃棄費で、割高になる傾斜地は考慮外 ⑮小野田早稲田大学教授:「短期間の検討で立地条件までは議論が及ばず、一部で撤去費が十分でない可能性はある」 ⑯松浦京都大学名誉教授:「排水路等が管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性もあるため、撤去だけでなく植林等が不可欠」 ⑰神戸市:2020年に5万㎡以上の設備新設時に廃棄費の積み立てを義務付け、長野県木曽町:条例で原状回復を制定 ⑱環境省:リサイクル設備を導入する事業者に費用の半分を上限に補助金を出して処理能力を向上させる ⑲丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立して中古パネルの買い取り販売を始めた としている。 このうち⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰については、「固定価格買い取り制度による買い取り期間が終了して売電価格が下がったり、パネルの寿命が尽きたりすれば、太陽光パネルは廃棄」という前提であるため不足だし、「傾斜地に立地すると撤去積立金が不足し、放置や不法投棄に繋がる」というのも不道徳で、かつ工夫がなく、もったいない話である。 何故なら、⑱⑲のように、中古パネルはリサイクルやアップサイクルすることができ、傾斜地は風力発電を設置しつつ放牧するなどのより有効な跡地利用もでき、そうしなければせっかく金をかけて整備した傾斜地や太陽光パネルがあまりにもったいないからである。 (7)付加価値向上・生産性向上と賃金の関係 1)GDP4位転落が改革加速の呼び水か 2022.7.25東洋経済 Wedge Online 2022.1.22 Financial Star (図の説明:左図のように、名目GDPで日本は世界4位に転落しているが、経済規模や順位は為替レートによって大きく変化するのでさほど問題ではなく、日本は他国と異なり30年間も横這いだったのが問題なのである。しかし、国民の豊かさは、中央の図の「1人当たり実質購買力平価GDP」が最もよく表し、これも日本は横這いでアジアの中でも4位に落ちた。また、右図のように、世界の「名目1人当たりGDP《名目しか出ていなかったため使用》」の順位は、1995年の9位から2000年の2位を最高に、その後は次第に下がって2020年には24位に落ちている) *6-1-1は、①日本の2023年名目GDPが世界4位に転落する見通しで、米国に次ぐ2位を2010年に中国に譲り、3位もドイツに明け渡す ②米欧との金利差拡大で2023年末141円/$台と大幅に円安が進み、GDP規模が目減りした要因が大 ③ドイツ経済はマイナス成長に喘いで「欧州の病人」と指摘されており、GDPだけで一喜一憂の必要はない ④日本の成長力底上げも進まない ⑤購買力平価で計算した日本の名目GDPはまだドイツを上回る ⑥今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべき ⑦為替相場次第で順位が変わるため、順位より潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべき ⑧2000年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準に ⑨日本のGDP/人は世界で30位程度と低迷 ⑩全体の規模では経済大国の一角に見えても、実力では見劣りすることを真剣にとらえるべき ⑪対日経済審査後の声明でIMFは「所得税減税等の経済対策は的が絞られていない」等の理由で「妥当でなかった」と評し、痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田政権には厳しい指摘だった ⑫OECDも、人手不足等を展望して、定年制廃止による高齢者就労拡大、女性・外国人の雇用促進を日本に提唱 ⑬労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要 ⑭環境が変化する中で政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべき ⑮成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要 としている。 私は、⑥のように、「転落して初めて改革を加速しよう(転落するまでは、さぼっていてよい)」と考える日本人の発想自体が、④のように、日本の成長力が低く、⑧のように、2000年にドイツ(現在の人口約84百万人)の2.5倍だった日本の名目GDPが四半世紀で同等まで落ち、⑨⑩のように、日本のGDP/人が世界で30位程度と低迷し続けている原因だと考える。 何故なら、時代の変化によって人々のニーズは刻々と変化するので、時代のニーズに適応したり、新しいニーズを提案型で示したりして、高い付加価値のある財・サービスを提供していくためには、政府も民間も日頃から改革し続けている必要があるからだ。 また、①②③⑦のように、名目GDPは為替相場次第で順位が変わるため、⑤のように、購買力平価で計算したGDPを見るのが、為替相場の変動による揺れを廃した本当の豊かさの比較になるが、⑨⑩のように、日本のGDP/人は購買力平価で計算しても世界30位程度と低迷しており、全体のGDPでは経済大国の一角でも、「国民1人当たりGDP」という実力では見劣りするのだ。 そして、*6-1-2のように、一国の経済水準は「GDP総額」ではなく、「国民1人当たりGDP」で比較するのが世界の常識で、日本は2000年の世界第2位から下落を続けて現在は先進国の下の方になっているのだが、経済の話となると株価・景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金等の数字が取り上げられ、国民にとっては最も重要で日本政府にとっては都合の悪い「購買力平価による国民1人当たりGDP」が取り上げられることはないのだ。 さらに、「国民1人当たりGDP(名目ベース)」を主要国と比較して日本の立ち位置を確認すると、バブル期最後の1990年が8位(1990年末のドル円相場:160円/$)で、2000年に過去最高の2位(2000年末のドル円相場:115円/$)となっているため、ドル円相場で割ったドルベースによる国際比較では、2000年が日本経済のピークになっている。 そして、2000年以降の日本経済の低迷は、(理由を詳しくは書かないが)「どの政権も日本経済の凋落を止めることができなかったから」と総括するのが適切で、再度バブルを到来させた政策は、国民にとっては誤りの繰り返しにすぎない。 なお、*6-1-1の⑪⑫⑬⑭⑮については、日本の現状に関してよく分析しており、日本人が頼んで言ってもらったのではないかと思うほど的確な分析であるため、私もそのとおりだと思うし、日本政府はそのようにして欲しいと考えている。 2)再度バブルを起こした金融緩和政策の弊害 ← バブルでは実質賃金は上がらないこと 2024.1.19北海道新聞 2023.10.1日経新聞 (図の説明:左図のように、前年比・年平均の生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、高度成長期・バブル期の1980年代に著しく高く、その後は消費税の導入時や税率引き上げ時以外は0%近傍を推移していたが、2021~2023年にかけてコストプッシュ・インフレにより著しく上がった。また、右図のように、物価上昇率は、生鮮食品やエネルギーなどの頻繁に購入する財・サービスを含む体感と生鮮食品を含まない統計との差が大きいと言われているが、これは事実だ) 2024.2.6日経新聞 2024.1.10中日BIZ 2023.7.21Daily Tohoku (図の説明:中央の図のように、実質賃金《名目賃金/物価水準》が前年同月比0以下の実質賃金減少局面では、左図のように、実質消費が落ち込む。そのため、右図のように、消費者物価指数が高くなると、実質GDP成長率は低くなるのである) 「金融緩和して円の価値を下げる」というのは、財・サービスの価値を計る尺度の価値を下げるということだ。わかりやすく例えれば、「これまで80cmとしていた長さを今後は1mと呼ぶ」と変更すれば、3,776mの富士山の高さは、実際は全く変わらないのに4,720m(3,776m/0.8)と言われるようになる。それと同様に、価値を変更しなかったドルと円の関係である為替相場は円安になり、価値の変わらない財・サービスの値段と株価は相対的に上がったのだ。 ただし、この大きな流れの中で変わらないものがあり、それは名目価値で示された借金や預金の金額だ。そのため、物価が上昇すれば借金や預金の価値が目減りし、それによって借金をしていた人は得をし、預金をしていた人は同じだけ損をするという所得移転がある。そして、借金には、国債・社債・借入金・住宅ローンなどの負債、預金には銀行預金や貸付金などがあるのだ。 そのような中、円の価値を下げると借金のある人が得をして預金のある人が損をし、それらの人の間でこっそり所得移転が行なわれているのだが、それでは通貨の信用がなくなるため、中央銀行の役割には「通貨価値の安定」があり、他国の中央銀行はそれをやっているのである。 一方、日本の中央銀行である日本銀行は、「通貨の安定」ではなく「2%のインフレ目標」を掲げて金融緩和をし続けてきたため、為替相場では円安が進んで輸入品の価格が上がり、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁返しで資源価格自体も上がったため、日本の消費者物価はコストプッシュ・インフレで著しく上がったわけである。 そして、これらの政策の結果はやってみなくても経済学の理論からわかる筈だが、日本政府と日本銀行がやってみた結果、やはり、*6-2-1・*6-2-2のように、実証されたのだ。 つまり、*6-2-1は、①2023年分の毎月勤労統計調査速報で働き手1人あたり実質賃金は前年比2.5%減 ②名目賃金は物価の伸びに追いつかず ③1990年以降で減少幅は、消費増税のあった2014年(2.8%減)に次ぐ大きさ ④昨年の正社員の賃上げ率は名目賃金にあたる現金給与総額が1.2%増 ⑤消費者物価指数は3.8%増 ⑥40代男性は「給料は上がったが、値上げに追いつかず家計は楽にならない。食費を削り暖房器具の利用を控えるなどでやりくりしている」と語る ⑦50代主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す ⑧家計が圧迫されている状況が顕著 ⑨春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率が低めだったため基本給等の「所定内給与」が1.2%増でかなり低い ⑩現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにならず、今年中に実質賃金をプラスにすることは無理 等としており、名目賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、実質賃金が下がり続けていることを示している。 このうち②④⑤⑨は、主として円の価値低下と制裁返しによる輸入品の価格高騰によって物価が上がって消費者物価指数が3.8%増になっているのであるため、消費者が支払う金額の多くが海外に流出して国内に残らず、名目賃金を物価上昇分まで引き上げることができず、企業の中でも輸出が少ないため円安の恩恵を受けにくく、価格転嫁もしにくい中小・零細企業の賃上げ率が低いため、賃上げ率が1.2%増に留まっているのである。 その結果、①③のように、名目賃金は決して物価の伸びに追いつかず、働き手1人あたり実質賃金が「前年比2.5%減」など、大きく減少し続けるのだ。 その上、日本は、退職して年金暮らしの人口割合も高いため、⑥⑦⑧のように、家計が圧迫され、食費を削ったり、暖房器具の利用を控えたりなど、必需品の購入さえ抑えなくてはならない状況になった家計が多く、(7)1)で述べた「購買力平価(≒実質)による1人当たりGDP」は確実に下がって、国民は貧しくなったのである。 そして、国民を貧しくして移転された所得は、日本政府や企業を負債(国債・社債等)の目減りを通じてひっそり潤しているため、⑩はわかっていても、日本銀行と政府は、金融緩和をし続けるのだ。解決策は他にあるのに、無駄使いの限りを尽くしながら、こういうことをする政府を、国民は信用してよいのだろうか? また、*6-2-2は、⑪総務省の2023年家計調査で、2人以上の世帯が使った金は実質で前年より2.6%減 ⑫物価高が家計に打撃を与え ⑬支出の3割を占める食料は前年より2.2%減り、特に魚介類・乳製品の落ち込みが大きかった ⑭家具・医薬品・小遣い・仕送りも減 ⑮外食は10.3%、宿泊料は9.3%増 ⑯物価の影響を含めた名目支出は1.1%増 ⑰財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる ⑱2023年12月の支出は、実質前年同月より2.5%減 ⑲名目では0.4%増えたが、家賃等の住居費をのぞけば前年同月より0.5%減 ⑳家計が節約志向を高めている様子がわかる 等としている。 実質所得が2.5%減少しているのだから、⑪⑫⑱のように、実質消費も前年より2.6%減少し、物価高が家計に打撃を与えたことは明らかだ。そして、⑯のように、物価の影響を含めた名目支出は1.1%増えたのに、⑬のように、食料でさえ前年より2.2%減り、特に価格の高い魚介類・乳製品の落ち込みが大きく、⑰⑲⑳のように、まさに財布から出てゆく金は増えたが、実際に買えるモノやサービスは減り、家計は節約志向を高めざるを得ないわけだが、これは体感と一致している。 従って、当然、⑭のように、家具・医薬品・小遣い・仕送りも減少しているが、⑮の外食や宿泊料が10%前後増加しているのは、外国人観光客の増加に依るところが大きいのではないか? 3)国民を豊かにする持続的賃上げは、どうすれば実現できるか これまでよりも賃金を上げて国民を豊かにするには、民間企業の場合は、「売上高(A)ー売上原価(B)ー販売費・一般管理費(C)ー金融費用(D)ー税金(E)=純利益(F)」のうちの純利益(F)が黒字であることが必要だ。そのため、(A)~(D)のそれぞれに関して、(F)を増やす方法を記載する。 (A) 売上高を増やす方法 売上高は、「販売単価x販売数量」であるため、i)付加価値を上げて販売単価を上げる ii)価値は変わらないが値上げする iii)販売数量を増やす の3つの方法がある。 i)の事例は、(5)で述べた再生医療で副作用をなくしながらこれまで治せなかった病気を治すようなもので、付加価値が高く、最初に開発すれば販売単価が高くても世界で売れるため、販売数量も伸びる。(6)のEVも、再エネ電力は国内自給でき、燃料代を安くすることも可能で、静かで乗り心地が良く、環境負荷を下げるため、ガソリン車より高くても売れる。これが、消費者も納得する単価のつけ方で、それによる増益分は持続的賃金アップに回すことができる。 ii)の「価値は変わらなくても値上げする」事例は、政府が盛んに提唱している方法だが、これでは全体として次々と物価が上がるだけで、すでに実証されたとおり賃金を物価以上に上げることはできないため、実質賃金が下がって販売数量が減り、1人1人の国民は貧しくなる。 iii)の販売数量は、日本だけでなく世界も見据えた現在と将来のニーズに合った製品を提供すれば、世界でシェアを上げて販売数量を増やすことができ、日本は先進国として有利な立場にある。国内だけを見ても、人口が増える年齢層のニーズは高い。 具体例を挙げれば、*6-4-1の介護や訪問介護のニーズは、現在でも高く、人手不足で、近未来には世界各国でニーズが増すことが人口構造や生活様式の変化を見れば明らかである。そのため、「介護は無駄遣い」と言わんばかりに、政府が工夫もなくサービスの対価としての介護報酬を他産業よりも低く抑え、介護サービスの提供体制そのものの維持を危うくさせているのは、再生医療やEVと同様、有望産業の芽を摘んでいることにほかならない。ちなみに、施設で過ごすよりも、ホームヘルパーの手を借りながら自宅で過ごす方が、QOL(Quality of life)が高いのは言うまでもない。 また、*6-4-2のように、客が理不尽な要求をする「カスハラの防止」を条例化する意見が出ているが、客のクレームには合理的なものと不合理なものがあり、不合理なものを前面に出して合理的なクレームまでシャットアウトすると、製品やサービスを改善して付加価値を上げる有効な手段を失う。タクシーやバス運転手の名札義務化は、人手不足で客を無視する対応が増えたバブル期に始まったもので、それなりの効果を出していた。 さらに、最近、うちの富士通製の新しいデスクトップPCがキーボードの上に倒れて画面が割れたので、富士通に電話で修理の依頼をしようとしたところ、電話は全く繋がらず、そのPCを買ったコジマを介して富士通にPCの修理をしてもらったら、画面を取り換えただけで新品を買うのと同じくらいの金額を請求されて呆れた。 呆れた理由は、「新品を買え」と言わんばかりの態度で修理に消極的だったことで、「日本の製造業はここまできてしまったのかー」と思っていたところ、富士通の英子会社が開発し、イギリス全土の郵便局に導入された会計システムで、残高より実際の窓口の現金が少なかったため、イギリス各地の郵便局長らが2000年以降15年にわたり、横領等の罪に問われて収監されたり多額の弁償を強いられたりする冤罪事件が起こっていた。 PCが計算した理論値と窓口の現金額の違いの理由は、(英国発の厳しい監査法人PWCが)監査すればすぐに特定でき、このような冤罪事件を起こす必要はなかった筈だが、日本にとっては、日本企業がこのようなお粗末な製品を作るようになった理由が大きな問題なのである。それは、過度に企業と労働者を守って顧客を疎かにする文化の発生で、この状況は1990年代の共産主義経済が市場主義経済と比較してよい製品を作れなかった時代とよく似ているのだ。 (B) 売上原価を減らす方法 会社には、モノを仕入れて売る事業と、モノを生産して売る事業の二通りがある。 モノを仕入れて売る事業の場合は、「売上原価」は仕入単価が低いほど減少するため、自社の従業員の賃金を上げるためには、仕入単価を下げる方法がある。しかし、輸入品が多く、円安で海外からの仕入単価が上がっている場合はそれができないし、下請けいじめもよくない。 モノを生産して売る事業の場合は、「製造原価」の引き下げを通して「売上原価」を下げることになる。(6)のEVの事例では、部品点数がガソリン車の1/3であるため、組み立て工数が少なく、人手を減らすことができるので、従業員1人当たりの生産性を上げて「製造原価」を下げることができる。そのため、従業員1人当たりの賃金を持続的に上げることができるのだ。 しかし、迅速に1人当たりの生産性を上げて持続的賃上げができるためには、過去の技術にしがみつく必要性をなくすことが重要だ。それには、イ)国民の教育を充実して技術やニーズをキャッチする力を養う ロ)研究力・普及力を上げる ハ)労働の流動性を高めて将来性のある部門に移動し易くするなど、我が国の教育・研究や労働慣行を見直す必要がある。 (C) 販売費・一般管理費を減らす方法 「販売費・一般管理費」は、事業活動費用のうち原価に入らないもので、「販売費」は営業スタッフの給与や交通費・広告宣伝費・配送料・出荷手数料など、「一般管理費」は総務・経理等間接部門の人件費・通信費・消耗品費・原価に含まれない事務所の家賃や水光熱費などである。 そのため、「売上原価」「製造原価」だけでなく「販売費・一般管理費」も人件費を含んでおり、賃金を上げるには「販売費・一般管理費」のうち人件費以外の部分を減らす方法と従業員1人当たりの生産性を上げる方法がある。 (D)金融費用を減らす方法 「金融収益」は預金や有価証券等の受取利息・配当金など財務活動から得られる収益、「金融費用」は支払利息など資金調達にかかった費用で、(D)はそれをnet(純額)で示している。 財務体質の良い企業は金融収益の方が金融費用より多くなるが、借入金等の負債の多い企業は金融費用の方が多くなる。そのため、財務体質を良くして運用を工夫すれば、金融収益が多くなってnetの金融費用が減り、賃上げにプラスになるが、生産性を上げるための投資をすれば一時的に財務体質が悪化し、本当に生産性が上がるのでなければ賃上げすることはできない。 (E)税金を減らす方法 日本国憲法が第30条で「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と定めているため、企業は「売上高(A)‐売上原価(B)-販売費・一般管理費(C)-金融費用(D)」の「税引前純利益」に税法を適用して計算された法人税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払う。 税引前に利益が出ず、法人税法による税務上の赤字である欠損金が発生している企業の場合は、法人税額が0になるだけでなく、その欠損金を翌期以降に10年間繰り越し、翌期以降の利益と相殺することができる。また、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の中小企業に限り、前事業年度に繰戻し還付を請求することも可能だ。 住民税には全企業に均等割があり、事業税には資本金1億円超の企業に「資本割」「付加価値割」の「外形標準課税」があるため、欠損金があっても一定の税金は支払わなければならない。また、住民税・事業税には欠損金の繰り越しや繰り戻し還付制度はない。 そのため、税引前に利益が出ている企業も含め、税金の計算を誤って、本来なら支払う必要の無い税金を支払ってしまう羽目にならないよう、(税務署は払いすぎは指摘してくれないため)税額の計算時には税理士に相談することが推奨される。 なお、個人も同様に、所得税法・住民税法・事業税法等に従って、年間所得に対する所得税(国税)・住民税(市町村民税と都道府県民税)・事業税(都道府県民税)などを支払っている。しかし、現在の日本は、国も地方自治体も会計すら正確にできず、無駄が多くて生産性の低い税金の使われ方が多いため、常により生産性の高い使い方にシフトさせる努力が必要で、それを可能にするためには国際基準の複式簿記による公会計制度の導入が不可欠である。 4)日本の賃金と労働市場の流動姓 *6-3は、①日本の賃金は四半世紀にわたって伸び悩んだ ②労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い ③転職に中立な社会保障・税制の整備を急ぐべき 等と記載している。 このうち、①については、事実なので賛成だが、②については、例えば欧米のような雇用流動姓の高い社会は、日本の年功序列型終身雇用のように「能力があってもなくても一定の年齢までは少ないながらも一定の昇給があり、低くはあるが所得が補償される」ということはない。 さらに、欧米先進国で4半世紀の間に賃金が2~4割上昇した理由は、不景気の業種では簡単にレイオフを行なって仕事のある業種や成長業種に労働移動させるため、各個人の生涯所得が増えるとは限らない。一方、日本はできるだけ正規社員のレイオフは行なわず、社内失業もないように従来の事業に固執するため、これが経済成長を妨げ、全体の賃金を低迷させることとなった。 労働市場が流動的になると、能力のある人は所得の高い仕事に転職する機会も多いが、そうでない人は失業の可能性がある個人差の大きな社会となる。そのため、③の転職に中立な社会保障(失業・年金・医療・介護)や税制の整備は必要不可欠だ。 また、*6-3は、④日本経済の行方を左右するのは賃金 ⑤日本で真に求められているのは経済の衰退を止めて成長軌道に乗せること ⑥その方法はデフレからの完全脱却で、賃金と物価の好循環を作ること とも記載している。 しかし、これまで書いてきたとおり、賃金上昇の源泉は、付加価値をつけて稼ぐ力と労働生産性を上げて生産コストを下げる力である。つまり、付加価値を高め、労働生産性を上げれば、企業は利益を増やし、投資をして生産性を高め、従業員の賃金も上げられるのである。 これに対し、④⑤⑥は、物価と賃金を短絡的に結びつけ、物価を上げれば賃金が上がって経済が成長軌道に乗るかのような主張を行なっており、実際の経済はそういう順番で進むわけではないため、ミスリードである。 さらに、*6-3は、⑦問われるのは賃上げの持続性 ⑧賃金の決定要因は労働需給バランスで人手不足なら賃金は上がる ⑨物価と賃金の間には正の相関関係があるが、日本は長期にわたって物価上昇に賃金が無反応だった ⑩賃金は労働生産性に依存するが、日本の労働生産性は長期にわたって低迷し、賃金を停滞させている ⑪労働市場構造は、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度のため、経済全体の賃金が低下した としている。 このうち⑦の持続的賃上げは、国の一時的な補助金や号令で達成できるのではなく、各企業が付加価値を上げ、生産コストを下げて、本当に経済が軌道に乗らなければできないものである。 また、⑨の物価と賃金の正の相関関係は、鎖国状態の国で無理やり賃金を上げれば、物価も少しは上がるかもしれないが、現代は鎖国状態にはなく、世界市場で自由競争が行なわれている時代だ。その中で、⑩のように、日本の賃金が1990年代から長期にわたって低く抑えられた理由は、i)共産主義諸国や開発途上国が安い賃金で世界市場に参入して製品を輸出し始めたこと ii)日本でも働く女性の割合が増えて労働力供給が増えたこと iii)団塊ジュニア世代が就職時期を迎えて労働力供給が増えたこと iv) 日本企業は、世界市場での競争に勝つために、販売市場が近くてコストの安い地域を世界中で探して製造業を移転させたこと などに依るのである。 それに加えて、⑧の賃金の決定要因は、労働流動性の高い社会であれば労働需給バランスだけなので、人手不足になれば賃金が上がり、人手が余れば賃金は低く抑えられるが、日本は雇用流動姓の低い社会であるため、賃金が労働生産性と比較して高くなると、日本企業も海外の労働者を使って海外で生産することを選び、日本の製造業が空洞化した面も大きい。 なお、⑪の日本の労働市場構造のうち、「非正規雇用/雇用全体」が1984年の約15%から2023年の約4割に上昇し、非正規社員の賃金は正規社員の7割程度で、経済全体の賃金が低下したのは、やはり不健全な労働市場の状態だと言わざるを得ない。 日本企業が非正規雇用を増やした理由は、1990年代の不景気の時に新規の正規採用を抑え、1997年の男女共同参画基本法改正で性別による差別が禁止された時に女性を非正規社員として、労働者に対する差別をなくさなかったことが原因である。 そのため、私は“非正規(労働法で守られない被差別労働者)”という雇用形態は、(本人が希望する場合を除いて)法律で禁止すべきであり、それが、日本国憲法27条1項の「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」や同14条の「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」にも合致する方法だと思う。 ・・参考資料・・ <女性初の首相は、隠された女性差別とも闘って変える人であるべき> *1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15854885.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2024年2月3日) 容姿発言、上川氏対応に波紋 「毅然と対応して欲しかった」「女性のサバイブ、難しい現実」 自民党の麻生太郎副総裁(83)が2日、上川陽子外相(70)の容姿を揶揄(やゆ)するなどした発言を撤回した。この問題をめぐっては、「どのような声もありがたく受け止めている」という上川氏の反応にも波紋が広がっている。「毅然(きぜん)と対応して欲しかった」との指摘があがる一方で、「責めるべきは麻生氏の側だ」と擁護する声もある。どう考えればいいのか。麻生氏は1月28日の講演で「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」「そんなに美しい方とは言わんけれども」と語った。上川氏は30日の会見で「様々なご意見があると承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と述べ、麻生氏の発言への論評を避けた。これにSNSなどで様々な議論がわき起こった。「この同調圧力の強い日本社会で、同じ境遇にある女性たちも、大臣と同じような対応をしなければならないと感じてしまうリスクはないか」。2日の参院本会議で、立憲民主党の田島麻衣子氏が上川氏にただした。上川氏は「ありがたく」の表現はやめたうえで、「使命感を持って一意専心、努力を重ねていく」と述べ、正面から答えなかった。「外相として世界に間違ったメッセージを発信した」(立憲の蓮舫参院議員のX)との批判もあがっている。「百合子とたか子 女性政治リーダーの運命」の著書がある政治学者の岩本美砂子・三重大学名誉教授(67)は「女性が政界でサバイブする(生き残る)のは、まだまだ難しいという現実の表れ。女性の割合がせめて3割になれば」と言う。衆院の女性比率は10%、参院は27%。世界経済フォーラム(WEF)が昨年発表したジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中、過去最低の125位。政治分野では138位に沈む。一方で「次の首相候補にとの声も上がり始めた。政界での立ち位置の影響もある」とも指摘する。麻生氏は政権の中核で、昨年9月の内閣改造で上川氏の登用を推した経緯もある。今秋には自民党総裁選も迫る。「20人の推薦人を集め総裁選に出ようと思えば、麻生氏に反論するのは性別を問わず難しい」とみる。国際人権法の学者で、SNS上のグループ「全日本おばちゃん党」を立ち上げたこともある谷口真由美さん(48)は、社会における女性の立場をおもんぱかる。「女性たちは、セクハラ発言などを受け流すのが度量だとたたき込まれてきた。麻生氏のような発言にさらされ続けると、感覚がまひしてしまう」。谷口さんは2021年、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗氏(86)が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と述べた問題で、当事者側に立った経験もある。森氏が名指しした日本ラグビー協会で、理事を務めていたからだ。「渦中にある当人は自分の思いを言語化しにくい。周りの自民党議員が、代わりに批判して支えて欲しい」と願う。そのうえで上川氏に注文をつける。「首相候補の女性として、一挙手一投足が注目される存在になった。今後は、前にも後ろにもたくさんの女性たちがいることを意識して発言して欲しい」。元自民党衆院議員の金子恵美(めぐみ)さん(45)は「若手の男性議員は、今回の麻生氏のような発言のおかしさに気づき、同調して笑わなくなりつつある。『麻生節』で済まされる時間はもう長くない」と語った。麻生氏は2日、上川氏に関する発言を撤回したコメントの中で、「女性や若者が活躍できる環境を整えていくことが政治の責務」とも触れた。 *1-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/307000 (東京新聞 2024年2月2日) 「なぜ抗議しないのか?」 麻生太郎氏に「おばさん」と呼ばれた上川陽子外相の答弁で議事が紛糾 上川陽子外相は2日の参院代表質問で、自民党の麻生太郎副総裁から「おばさん」と呼ばれたことに抗議しないのかを問われ、「世の中にはさまざまな意見や考えがあることは承知している」と述べるにとどめた。質問に正面から答えていない上川氏の答弁に対し、野党側が抗議し、議事は一時中断した。麻生氏は同日夜「表現に不適切な点があったことは否めず、指摘を真摯に受け止め、発言を撤回したい」とのコメントを発表した。麻生太郎氏へのルッキズム批判に当の本人、上川陽子外相が発言「どの声もありがたく」 ◆「信念に基づき、政治家としての職責を果たす」 立憲民主党の田島麻衣子氏は代表質問で、麻生氏の発言を問題視しなかった上川氏の対応について「同じ境遇にある女性たちも同じように対応しなければならないと感じるリスクはないか」「問題があるとすれば何か」「なぜ大臣は抗議をしないのか」と質問を重ねた。上川氏はこれらの問いに直接答えず「初当選以来、信念に基づき、政治家としての職責を果たす活動にまい進してきた」と説明。現在は紛争解決や平和構築の分野で女性参画を進める「女性・平和・安全保障(WPS)」の定着に向け、力を注いでいるとも語った。その上で「使命感をもって一意専心、(日本人初の国連難民高等弁務官を務めた)緒方貞子さんのように脇目もふらず、着実に努力を重ねていく考えだ」と強調し、「田島議員、ぜひWPS、一緒に頑張りましょう」と締めくくった。 ◆「慎むべきなのは当然」岸田首相の「一般論」 岸田文雄首相は一般論として「性別や立場を問わず、年齢や容姿を揶揄(やゆ)し、相手を不快にさせるような発言を慎むべきなのは当然のことだ」と述べた。上川氏の答弁に対し、立民の議院運営委員会理事が「質問に答えていない」と抗議。与野党の理事が議場内で協議した結果、自民理事が上川氏側に複数回にわたって再答弁を求めたが、上川氏は応じず、約10分間議事が中断した。田島氏は本紙の取材に「上川氏から十分な答弁がなく、がっかりした。たとえ外相でも、女性は抗議できないという自民党の限界が示された」と語った。共産党の田村智子委員長も記者会見で上川氏の答弁について「ジェンダー平等を進めようという立場なら、きちんと批判すべきではないか」と語った。 *1-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15851259.html (朝日新聞 2024年1月30日) 容姿言及、麻生氏に批判 女性差別/「評価する側」前提 自民党の麻生太郎副総裁が、上川陽子外相について「そんなに美しい方とは言わんけれども」などと述べた。上川氏の外交手腕を評価する文脈だったが、「女性差別の姿勢が見て取れる」「今までの暴言の中でも最悪」と批判が広がっている。今回の発言は28日、福岡県芦屋町での講演の中であった。「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」としたうえで、「そんなに美しい方とは言わんけれども、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」などと語った。上川氏の名前も「カミムラ」と誤った。ライターの望月優大(ひろき)さんは取材に「上川氏を褒める文脈であっても、外相としての手腕を語るうえであえて容姿に触れるのは、不必要かつ不適切。女性への差別的な姿勢が見て取れる」と話す。さらに望月さんは「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」という部分に着目し、「『俺たち』が女性たちを評価するという構図が、当然の前提になっている」とみる。「女性の登用をうたいながらも、実際に誰を引き上げるかを決める権力はいまだに麻生氏ら男性たちが握り続けている現実も映している」。東京大学の瀬地山角教授(ジェンダー論)は「上川氏を評価しているのは分かるが、男性の外相についてであれば、容姿に言及することはない。女性だけ美醜の評価を付け加えられる。女性が社会で生きていくうえでのしんどさがうかがえる発言だ」と話す。瀬地山氏は、昨年9月に上川氏ら5人の女性が閣僚に就いた際、岸田文雄首相が「女性ならではの感性や共感力も十分発揮していただくことを期待したい」と述べた問題との共通性を指摘する。「政治の世界で、女性は周縁にいるアウトサイダーだという認識があるから、男性政治家から『俺たちから見て』『女性ならではの』といった発言が出てくる」。麻生氏は問題発言を繰り返しながら、要職にとどまり続けている。副総理兼財務相だった2018年5月には、財務省の前事務次官のセクハラ問題をめぐり、「(女性に)はめられた可能性は否定できない」と答弁して撤回。「セクハラ罪っていう罪はない」との発言も問題になった。共産党の小池晃書記局長は29日の会見で「麻生さんは暴言を繰り返しているが、今までの中でも最悪じゃないか」として撤回・謝罪を求めた。 *1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240202&ng=DGKKZO78174220S4A200C2EAC000 (日経新聞 2024.2.2) 保利耕輔さん(元自民党政調会長) 筋を通す「まっとうな保守」 謹厳実直が服を着たような人だった。ほとんど酒を飲まない甘党ということもあり、群れたがる同僚議員を尻目に夕方には自宅に直行し、本や資料を読みふけった。文相時代には高校野球の始球式の練習をしすぎて腕が上がらなくなり、痛みをこらえて投げた。予算獲得の陳情団が上京すると、ふつうの国会議員は本題もそこそこに地元の新しい噂話を聞きたがるものだ。「保利さんは書類から目を離さず、事業の中身について質問してきた」というのが、古川康衆院議員の佐賀県知事のときの思い出だ。役職を断ることでも知られた。2003年に農相を打診されると、教育基本法改正を巡る与党調整に注力したいとして固辞した。08年には自民党政調会長に指名されたが、「あれもこれもの政策なんかわからん」と難色を示した。仲のよい園田博之氏を会長代理にすることを条件にようやく引き受けた。当選同期だった麻生太郎自民党副総裁の弁を借りると「まっとうな保守」。そうした人柄がよく発揮されたのが、党憲法改正推進本部長のときだ。民主党政権に対抗しようと「自主憲法制定は党是」という声が党内で勢いを増していた。いまの憲法は米国の押し付けだ、と全否定する考え方だ。本当に自主憲法が党是なのか。党本部の薄暗い倉庫に自ら足を運ぶと、結党時の資料を探し出した。書いてあったのは「現行憲法の自主的改正」。全否定ではなかったとして、党のホームページの憲法に関する記述を「わが党は結党以来、『憲法の自主的改正』を『党の使命』に掲げてきました」と書き改めさせた。14年に政界を退く際、後継指名はしなかった。衆院議長を務めた父・茂氏と合わせて「70年も保利と投票用紙に書いてもらった。この先も、とは言えない」と語っていたそうだ。目立つことを嫌い、手柄を誇らない。常に筋を通す。大島理森元衆院議長は「ポピュリズムとはいちばん遠いところにいる政治家だった」と惜しんだ。 =2023年11月4日没、89歳 <地方議会の担い手不足と女性> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240204&ng=DGKKZO78220590U4A200C2MM8000 (日経新聞 2024.2.4) 地方議会、止まらぬ空洞化、首長「専決」数、10年前水準 担い手不足も顕著 地方議会の空洞化がとまらない。審議を担う議員のなり手不足は深刻になる一方だ。首長が議会ぬきで補正予算などを決める専決処分(総合2面きょうのことば)の多発も目につく。2012年の法改正で一定の歯止めをかけたはずが、コロナ禍で急増し、その後の戻りも鈍い。非常時に限るはずの仕組みのタガが緩んだままになれば、住民が行政を監視する地方自治の根幹が揺らぐ。 空洞化を端的に示すのは担い手不足だ。4年ごとの統一地方選で議員が無投票で決まる割合は右肩上がり。23年は改選定数1万4844人の14%(2080人)に達した。財政難や人口減少で定数は減っているにもかかわらずだ。地方自治は首長、議員それぞれを有権者が直接選ぶ二元代表制で成り立っている。とりわけ議員は地域に住んでいることが要件で、多様な住民の声を取り込む役割を担う。議会の力が弱まれば、首長のブレーキがききにくくなる。過去には例えば鹿児島県阿久根市で10年に市長が職員の賞与半減などの政策を次々と独断で進める騒ぎがあった。災害などの緊急時に限り、議会を通さずに予算や条例などを決められる「専決処分」の仕組みが抜け穴になった。当時の片山善博総務相は違法と断じ、歯止めに動いた。12年に改正した地方自治法は専決処分を議会が事後的に承認しない場合、首長が「必要な措置」をとって議会に報告するよう定めた。副知事や副市町村長の選任は専決できないようにした。抑制効果はすぐ表れた。10~12年に市町村合計で年平均1万件を超えていたのが、13年以降は8千件から9千件台半ばに落ち着いた。そのタガが再び緩んでいる懸念がある。きっかけはコロナ禍だった。感染が広がった20年は19年から5割以上増えて1万3千件を超えた。休業する飲食店への協力金などの補正予算が目立った。流行当初の混乱を考えればやむを得ない面はある。18、19年とゼロ件だった千葉県は5件になった。「命にかかわるのでその場で必要なことのみ専決していった」という。問題はその後だ。コロナが比較的落ち着いた22年もデータがそろう都道府県と市で計4500件超と19年より16%多い。22、23年の件数がコロナ前より多いある県は「物価高対策のため」と説明する。近年は疑問符がつくケースも散見される。21年は兵庫県明石市長が全市民への金券配布を専決し、翌年に問責決議を受けた。23年4月には広島県の安芸高田市長が良品計画の出店計画に関する費用を専決で計上した。議会は承認せず、6月に議員提出の修正案を可決した。自治体議会研究所の高沖秀宣代表は「緊急でない例もある。閉会中なら臨時会を開くなどすべきだ」と指摘する。コロナ禍で緊急事態宣言などを繰り返した首都圏でも神奈川県は件数が減った。議会局の担当者は「議会軽視ととられないよう、なるべく臨時会を開いて議決してもらった」と話す。どうすれば議会が機能を十分果たせるのか。ひとつの改善策として広がるのが通年制だ。予算編成などの時期だけ定例会を開くのと異なり、首長の招集を待たずに必要な議案を随時、議論できる。似た仕組みとして定例会年1回制もある。三重県が13年に採用し、翌14年以降は選挙期間を除いて専決処分はゼロだ。通年制などの導入例は全国で100を超えて徐々に増えている。もちろん計約1800の自治体の数に照らせばまだ少ない。地方自治は「民主主義の学校」と称される。それも首長と議会の健全な緊張関係があってこそだ。改革のネジを改めて巻き直す必要がある。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=2024・・=DMM8000 (日経新聞 2023/11/2) 女性増、国会に波及も 駒沢大学教授 大山礼子氏 4月の統一地方選で女性議員が増えた地域もあったが、まだ十分とは言えない。2018年施行の候補者男女均等法の効果が徐々に出て増えたのだと思うが、いまだ200以上の議会で女性がゼロだ。2割前後で伸び悩む議会もある。女性が影響力を持つには議会の3~5割程度を占める必要がある。達成には選挙制度の抜本的な改革が不可欠と考える。都道府県議選では1人区をやめるべきだ。無投票が多く現職に有利になる。定数が多いと党派も多様になり、女性や若い世代も立候補しやすくなる。市町村議選では(複数の候補者に投票できる)「制限連記制」が選択肢の一つだ。「クオータ制」も導入した方がいい。女性候補が多い政党に対して政党助成金を優遇するなどの方法が考えられる。首長や議会が自ら動き、女性の立候補につなげた地域もある。女性議員が半数近い兵庫県小野市では役員に女性を登用した自治会に補助金を出す取り組みなどが功を奏した。女性管理職を増やした県もある。こうした動きの積み重ねも一定の効果は期待できる。そもそも少子化の進行は女性議員が少なかったことが大きな要因だ。子育て中の女性への支援などが手薄だった。女性が増えれば政策が刷新される。保護者が持ち帰っていた使用済みおむつを保育所で処分するよう求める動きも、始まりは女性議員らの議会質問だ。生活に身近な議題を扱う市町村などの議会に女性や若い世代は不可欠だ。女性が増えると若い世代なども増え、多様性のある議会につながる効果もある。議会運営もオンライン化や定例日開催など変化が生まれている。投票率も伸びる。東京都武蔵野市では特に20~30代の投票率が飛躍的に上がった。女性がいることで政策面の期待が高まり、政治への関心が上がったのだろう。有権者が地方議員を自分たちの代表と思えるようになったのではないか。海外では地方議会でまず女性が増え、国政に波及した例も多い。日本も地方議員を増やせば国会にもつながる可能性はある。 <学術会のジェンダー不均衡> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS1D55X1S1DPLBJ003.html (朝日新聞 2024年1月16日) 学術界のジェンダー不均衡、日本が最も大きく 約1億本の論文を解析 日本は、研究者のキャリアの長さや研究論文の引用などで学術界のジェンダーギャップ(性差)が大きく、中国と韓国に比べても後れをとっていることが浮かび上がった。日米の研究チームが1950~2020年に出版された約1億本の論文データを解析した。研究チームの米ニューヨーク州立大バファロー校の増田直紀教授(ネットワーク科学)は「日本の学術界のジェンダーギャップを改善するには、研究職を長く続けられるようにすることが重要。子育てで女性が研究を中断しなくてすむような取り組みや、大学で女性教員を増やすなど、様々な試みをさらに進めてほしい」と指摘している。同校や神戸大、東京工業大、京都大でつくる研究チームは、論文の著者名から性別を高い精度(90%以上)で推定する方法を開発。日本と韓国、中国、「その他(主に欧米)」で、研究者のキャリアと論文の引用・被引用回数などについて性差がないかを調べた。その結果、いずれの国でも研究者数は男性が女性より多いが、男女比の不均衡は日中韓が欧米などより大きかった。個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数をみると、日本では女性が男性より42・6%少なかった。中国は9・3%、韓国は20・2%、その他は31・2%少なく、日本の性差が最も大きく出た。女性の方が研究職としてのキャリア年数が短い(日本では男性より39・6%短い)ことが原因の一つと推測されるほか、研究論文の共同著者となっている場合が少ないことも背景にあるとみられる。年平均でみると、発表論文数はいずれの国でも性差はほとんど見られなかった。論文が引用された回数の指標をみると、日本では女性が男性より19・9%低かったが、中国と韓国では逆に女性の方が高かった。さらに詳しく分析すると、男性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が男性)を過多に引用し、女性研究者が主導する論文(筆頭著者と最終著者が女性)を過少に引用する傾向が日中韓でみられ、とりわけ女性主導論文の過少引用は日本が最も強かった。研究チームの中嶋一貴・東京都立大助教(計算社会科学)は「学術界のジェンダー不均衡をビッグデータから定量的に分析する社会的意義がある研究をできた。この問題は国際的な社会課題で、論文の査読や研究者の雇用などでも起こりうる。今後も、様々な角度からデータ分析し、世に問う研究に取り組みたい」と話している。研究成果が国際専門誌(https://doi.org/10.1016/j.joi.2023.101460別ウインドウで開きます)に掲載された。 *3-2:https://newswitch.jp/p/8732 (NewSwitch、日刊工業新聞 2017年4月20日) 日本の女性研究者は少数精鋭!日本の研究論文数、女性が男性上回る、直近5年に執筆した論文数、エルゼビア調べ 日本の研究者が直近5年間に執筆した論文数は、男性より女性の方が多く、世界的な傾向と逆転している―。こんなデータをオランダの学術論文出版社、エルゼビアが明らかにした。人文社会系を含む同社の論文データベース(DB)による分析だが、日本の女性研究者の“少数精鋭ぶり”がうかがえるといえそうだ。これは同社の調査報告「世界の研究環境におけるジェンダー」で明らかになった。それによると、日本の研究者全体のうち女性の占める割合は約2割(総務省2016年調査では15・3%)。米国や欧州連合(EU)28カ国の約4割と比べて、女性の活躍度はかなり低い。しかし2011―15年の研究者1人当たりの論文数は、日本の女性が1・8本で男性の1・3本よりもやや多く、他国・地域と異なる傾向だった。論文数は96―2000年ではより男女差が大きく、日本の特徴として挙げられる。エルゼビアではこの結果を「日本では女性研究者のキャリア構築が他国より難しいだけに、生き残っている多くの人が有能なのではないか」とみている。調査は同社の論文DB「スコーパス」を活用。著者ファーストネームを基に、ソーシャルメディアの記載などから性別を導き、国別の傾向を分析した。 <再生医療:治る病気は治せばよいのに> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1189121 (佐賀新聞 2024/2/5) インスリン補充、生涯必要 1型糖尿病の佐賀県内患者支援 佐賀市のNPO、20~25歳対象、月3万円、ふるさと納税活用 幼少期をはじめ幅広い年代で突然発症し、生涯にわたってインスリン補充が必要となる1型糖尿病の患者は、行政による医療費助成が終わる20歳以降は自己負担が重くなる。佐賀市の認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」は若者を切れ目なくサポートしようと、佐賀県に住む25歳までの患者を対象に、4月から月額最大3万円の医療費支援を始める。全国で初めての取り組み。1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓の細胞が壊される病気で、主に注射によるインスリン補充が1日に4~5回必要になる。「小児慢性特定疾病」の一つで、18歳未満で発症した人は20歳までは医療費の助成が受けられる。20歳以上の患者は月1万~3万円程度の自己負担が発生し、出費を抑えるために治療の質を落とすケースも少なくないという。同法人はこうした現状から、20歳以上の患者や、18歳過ぎの発症で「小慢」の対象にならなかった患者について、25歳まで支援する体制を整えた。自己負担から所得に応じた一定額を差し引いたうち、月3万円を上限に助成する。財源は、佐賀県の企業版ふるさと納税を通じた寄付で賄う。昨年7月から昨年末までに1千万円を超える金額が集まり、支援の開始時期を今春に決めた。対象となる県内の患者は30人ほどを見込む。国内の1型糖尿病患者は10万~14万人とされる。同法人の岩永幸三理事長(61)は「治らない病気でありながら国の難病に指定されず、経済的な事情で望む治療を受けられない患者がいる。われわれだけでは人手や資金に限りがあり、取り組みが全国に広がることを期待したい」と話す。 *制度や寄付の問い合わせは日本IDDMネットワーク、電話0952(20)2062。 *4-2:https://www.amed.go.jp/news/release_20220214-01.html (東京大学日本医療研究開発機構 2023年2月14日) 成熟膵島細胞を増やすことに成功―糖尿病の根治に向け、新たな再生治療法の可能性を発表― ●発表者 山田 泰広(東京大学医科学研究所 附属システム疾患モデル研究センター 先進病態モデル研究分野 教授) 平野 利忠(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野 大学院生) ●発表のポイント ・成熟した膵島細胞(注1)は自己複製能を持たず、その機能低下が糖尿病の原因となっています。本研究は、出生前後に増殖する膵島細胞でMYCL遺伝子(注2)が発現し、MYCLを働かせると成熟した膵島β細胞(注3)に活発な自己増殖が誘発できることを見出しました。 ・体内でMYCLを発現誘導する、あるいはMYCLにより試験管内で増幅させた膵島細胞を移植することで、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。 ・本研究成果による試験管内での膵島細胞の増幅や、遺伝子治療(注4)による生体内での膵島細胞の増殖誘導は、糖尿病の根治を目指した新たな再生治療法となることが期待されます。 ●発表概要 ・平野利忠大学院生(東京大学医科学研究所 先進病態モデル研究分野)、山田泰広教授(同分野)、京都大学、愛知医科大学らの研究グループは、出生前後に増殖する膵島細胞で高発現するMYCLに着目し、MYCLを働かせることで生体内外の成熟膵島細胞に活発な自己増殖を誘発できることを明らかにしました。また、MYCLによる自己増殖の誘導には、遺伝子発現状態の若返りが関与することを示しました(図1)。さらにMYCLの発現により増殖した膵島β細胞は糖に応答してインスリン(注5)を分泌し、モデルマウスの糖尿病を治療できることを示しました。 ・本研究は、MYCL遺伝子により体外で増幅させた膵島細胞を再び体の中に戻す細胞移植療法や、MYCL遺伝子治療による体内での膵島細胞増幅技術の開発といった、膵島細胞の再生医療開発への応用が期待されます。本研究成果は2022年2月10日(英国時間)、英国医学誌「Nature Metabolism」(オンライン版)に掲載されました。(以下略) <SDGS:EVと再エネの遅れは何故起こったのか> *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78288850W4A200C2TB1000 (日経新聞 2024.2.7) 輸入EV販売、1月11%増 BYDシェア2割 日本自動車輸入組合(JAIA)が6日発表した1月の電気自動車(EV)の輸入販売台数(日本メーカー車除く)は、前年同月比11%増の1186台となり2カ月連続で増加した。そのうち約2割を中国のEV大手、比亜迪(BYD)が占めて存在感を高めた。独メルセデス・ベンツなど欧州勢もEV車種をそろえており、顧客の選択肢が増えたことで輸入EVの販売が伸びている。BYDの販売台数は前年同月比約6倍の217台だった。同社は2023年1月に日本の乗用車市場に参入し2車種のEVを展開している。主力車種は多目的スポーツ車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」だ。最先端の安全装置などが人気で、高級車からの乗り換えや60代以上の顧客も多い。ただ、同社の担当者は「輸入EV全体をみると販売台数はかなり少ない。BYDの認知度もまだまだ低いので高めていく必要がある」と語った。同社は24年春にもセダンEV「シール」を日本に投入し、25年末までに国内の販売拠点を100カ所まで増やして拡販する方針だ。輸入車全体では17ブランドが118モデルのEVを日本で展開している。JAIAは各メーカーのEV販売台数を公表していないが、輸入EVでは独フォルクスワーゲン(VW)の「ID.4(アイディー4)」や同アウディの「Q4 e―tron(キュー4イートロン)」など欧州メーカーを中心に売れている。JAIAの担当者は「欧州メーカーなどが多様なグレードのEVを揃えたことで販売が安定してきた」とした。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240207&ng=DGKKZO78285620W4A200C2CM0000 (日経新聞 2024.2.7) 太陽光パネル、撤去難題、30年代以降、相次ぎ「引退」へ 傾斜地作業は費用割高に 事業終了後の太陽光パネルの撤去積立金が少なくとも災害リスクがある斜面に立地する全国1600施設(500キロワット以上)で不足する恐れが浮上している。放置や不法投棄につながる可能性もあり、適正処理へ向けた仕組み作りが不可欠だ。2012年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)による買い取り期間は10キロワット以上で20年間。32年には各地の施設で買い取り期間が終了し始め、売電価格が大幅に下落する見通し。パネル寿命も25~30年程度とされ、各自治体は発電所の維持管理や更新を怠る事業者の増加を懸念する。高まる不安を払拭しようと政府は再エネ特措法を改正し、事業者に毎月売電収入の4~7%程度を10年にわたって強制的に積み立てさせる制度を22年に開始した。しかし、水準の算出根拠は解体事業者らへのアンケートを基とした平地での撤去・廃棄費。作業難易度が上がるため割高になるケースが多い傾斜地は考慮されていない。制度設計時の議論に参加した早稲田大学の小野田弘士教授は「データが限られる中、短期間での検討であったため立地条件までは議論が及ばなかった。一部で撤去費が十分でない可能性は否定できない」と指摘する。日本経済新聞の調べでは傾斜地に立地する施設は土砂災害(特別)警戒区域など、災害リスクが高いエリアだけでも全体の18%に上る。急な傾斜地での作業は公共事業の予定価格算出に使う賃金水準でみると平地に比べ3割高い(山林砂防工と普通作業員の全国平均を比較)。太陽光開発大手リニューアブル・ジャパンの撤去工事費の試算でも3割程度上振れする。資源エネルギー庁新エネルギー課は「傾斜地では発電効率が高くなることで売電収入も上がり平地より積立額が多くなる場合もある」とするものの、日経が傾斜地の発電効率の高さについて尋ねたところ「データはなく検証はしていない」と回答した。費用不足で放置された場合、災害も誘発しかねない。京都大学の松浦純生名誉教授は「排水路などが管理されず、表面侵食や土砂崩れが起きやすい状況を生む可能性がある。撤去に加え、植林などが不可欠」と話す。第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、30年に再生可能エネルギーを3倍に拡大することに130カ国が賛同した。日本でその中核を担う太陽光の持続可能性を高めることは社会的責務といえる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の試算では使用済みパネル排出量は36年に年17万~28万トン。大量廃棄に備え、撤去や事業終了後の対応を促す狙いを盛り込んだ条例を制定する自治体も出始めた。神戸市は「多額の費用がかかる撤去や災害時のパネル飛散などに対応する」(環境保全課)ため、20年、5万平方メートル以上の設備新設時に、廃棄費の積み立てを義務付けた。長野県木曽町も原状回復を条例で定めた。適正処理を促すには規制だけでなく、事業終了後のコスト低減や再利用などを促す取り組みも必要となる。環境省はリサイクル設備を導入する事業者に対し費用の半分を上限に補助金を出し、処理能力を向上させる。丸紅と浜田(大阪府高槻市)は共同出資で新会社を設立し、中古パネルの買い取り販売を始めた。環境エネルギー政策研究所の山下紀明主任研究員は「太陽光は今後も重要な電源のひとつ。FIT後を見据えた『備え』に力を入れ、将来の懸念を払拭する努力が欠かせない」と指摘する。 <付加価値向上・生産性向上と賃金の関係> *6-1ー1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK097RF0Z00C24A2000000/ (日経新聞社説 2024年2月10日) GDP4位転落を改革加速の呼び水に 2023年の日本の名目国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ世界4位に転落する見通しになった。米国に次ぐ2位を10年に中国に譲り、こんどは3位も明け渡すことになる。米欧との金利差の拡大などを背景に大幅な円安が進み、GDPの規模が目減りした。ドイツ経済は目下マイナス成長にあえぎ「欧州の病人」とも指摘される。逆転は為替変動の要因が大きく、それだけで一喜一憂する必要はない。とはいえ日本の成長力の底上げは進んでいない。今回の事態は怠った経済改革の加速を促す警鐘と受け止めるべきだ。ドイツ連邦統計庁が公表した23年の名目GDPを同年の平均為替相場で換算すると約4兆4500億ドル。日本の統計は同年9月までしか出ていないが、ドイツに並ぶには15日発表の10〜12月期のGDPが前年同期より3割増える必要がある。可能性は極めて低い。円相場は23年末に1ドル=141円台と年初より10円ほど下落した。逆にユーロは対ドルでやや強含み、日独逆転を生んだ。だが購買力平価で計算した日本の名目GDPはなおドイツを上回る。為替相場次第では再逆転も起きうる。順位自体より、潜在成長力の低さや生産性の伸び悩みに注目すべきだ。00年にドイツの2.5倍だった日本の名目GDPは四半世紀近くで同等に近い水準になった。日本の1人当たりGDPは世界で30位程度と低迷する。全体の規模では経済大国の一角にみえても、実力では見劣りすることを真剣にとらえねばならない。国際通貨基金(IMF)は年1回の対日経済審査後の声明で、昨年秋に決めた所得税減税などの経済対策について、的が絞られていないなどの理由で「妥当ではなかった」と評した。痛み止めに終始して中長期の改革に及び腰な岸田文雄政権には厳しい指摘だ。経済協力開発機構(OECD)も人手不足などを展望して定年制廃止による高齢者就労の拡大、女性や外国人の雇用促進を日本に提唱した。労働市場の流動性を高め、成長する分野や企業に人材が移動する仕組みを整えることがなにより重要だ。物価や賃金の上昇が始まり、日銀も超金融緩和策の正常化に動き出している。環境が変化するなかで政府も民間部門も日本経済が抱える構造問題を直視すべきだ。成長促進の方策を的確に練り、迅速に行動に移す必要がある。 *6-1ー2:https://toyokeizai.net/articles/-/605668?display=b (東洋経済 2022/7/25) 「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される、1人当たりGDPは約20年前の2位から28位へ後退 日本は、アメリカ・中国に次ぐ「世界3位の経済大国」とよく言われます(2008年までは世界2位)。ここでの3位は、GDPの「総額」の順位です。しかし、一国の経済水準は、GDPの「総額」ではなく、「国民1人当たり」で比較するのが、世界の常識です。日本の2021年の1人当たりGDPは3万9340ドルで、世界28位です(IMF調査)。2000年には世界2位でしたが、そこから下落を続け、世界3位どころか、先進国の中では下のほうになっています。経済の話題になると、景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金といった数字がよく取り上げられますが、これらは経済の一部分に光を当てているに過ぎません。総合評価としてもっとも大切なのに日本ではあまり注目されていないのが、1人当たりGDPです。日本や主要国の1人当たりGDPはどのように推移してきたのでしょうか。そこから日本にはどういう課題が見えてくるでしょうか。今回は1人当たりGDPを分析します。なお文中のGDPデータは、IMFの統計によるものです。 ●日本はもはや「アジアの盟主」ではない まず、1人当たりGDPを主要国と比較し、日本の立ち位置を確認します。グラフは、日本・アメリカ・中国・ドイツ・シンガポール・韓国の1990年から2021年の1人当たりGDP(名目ベース)の推移です。よく「バブル期が日本経済のピークだった」「バブル崩壊後の失われた30年」と言われますが、1990年は8位で、2000年に過去最高の2位でした。国際比較では、2000年が日本経済のピークだったと見ることができます。2000年以降の日本経済の低迷については、「小泉・竹中改革が日本を壊した」「民主党政権は期待外れだった」「アベノミクスが日本を復活させた」といった議論があります。ただ、この20年間、日本の順位はどんどん下がっており、「どの政権も日本経済の凋落を食い止めることはできなかった」と総括するのが適切でしょう。 *6-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857909.html (朝日新聞 2024年2月7日) (ニッポンの給料)上昇すれど、物価に追いつかず 昨年実質賃金2.5%減、2番目の減少幅 厚生労働省は6日、2023年分の毎月勤労統計調査(速報)を発表し、物価を考慮した働き手1人あたりの「実質賃金」は前年比2・5%減だった。名目賃金が物価の大幅な伸びに追いつかず、減少は2年連続。減少幅は比較可能な1990年以降では、消費増税のあった14年(2・8%減)に次ぐ大きさだった。昨年の春闘では、正社員の賃上げ率(連合集計)が30年ぶりの高水準だったことなどもあり、名目賃金にあたる現金給与総額は、1・2%増(月額32万9859円)と3年連続で増加。しかし、実質賃金の計算に使う消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は3・8%増と、上昇率が大きかった。厚労省の担当者は「今年の春闘でベースアップの水準がどれくらい上がるかを注目したい」と語る。また、昨年12月分(速報)の実質賃金は、前年同月比1・9%減だった。前年割れは21カ月連続だ。武見敬三厚労相は同日の会見で「経済の好循環によって国民生活を豊かにしていくためにも実質賃金の上昇が必要だ」と強調。賃上げしやすい環境整備や三位一体の労働市場改革の推進に取り組む考えを示した。 ■食費削減・暖房も… 買い物客でにぎわう東京都練馬区にあるスーパー「アキダイ」。昨年は食品メーカーからの仕入れ価格の上昇や光熱費の高騰の影響で、1年間で約1千品目を値上げした。鉄道会社に勤める40代の男性は「給料は上がったものの、全く値上げに追いつかず家計は楽になっていない」と語る。昨年は定期昇給で月給が約5千円上がったが、コロナ禍での業績悪化によって抑えられた賞与は元の水準には回復していない。食費を削るほか暖房器具の利用を控えるなど、「何とかやりくりしている」と苦笑した。50代の主婦は「みんな高くて、今日はトマトまで買うのはあきらめました」と話す。夫はシステムエンジニアで、昨年給料は上がっていない。数年前に2人いる子どものうち1人が離れて暮らすようになり、いまは3人暮らし。だが、「家計簿を見ると、4人暮らしのころより、今の方が食費が高い」と肩を落とした。連合総合生活開発研究所が昨年12月に公表した報告書によると、首都・関西圏の企業に勤める2千人へのアンケートで、1年前と比べて賃金の増加が物価上昇より「小さい」と回答したのは約6割に上り、家計が圧迫されている状況が顕著になっている。 ■プラス化は物価減速後 野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストの話 基本給などの「所定内給与」が、1・2%増とはかなり低い印象だ。春闘に含まれない中小・零細企業の賃上げ率は低めだったためとみられる。今春闘の賃上げ率は、昨年より若干高めになると思うが、それでも今年中に実質賃金をプラスにすることは明らかに無理だ。現実的には物価上昇率が下がらないと実質賃金はプラスにはならず、そうなるのは2025年の後半だと思う。物価上昇率が賃金上昇率より高いので国民の生活は圧迫されている。働き手が賃上げが不十分だと判断すれば、消費が落ち込み、物価上昇率の低下が進む。そうなれば、実質賃金がプラスになるのが少し早まるだろう。 *6-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857906.html (朝日新聞 2024年2月7日) 消費支出、3年ぶり減 前年比実質マイナス2.6% 家計調査 総務省が6日発表した2023年の家計調査によると、2人以上の世帯が使ったお金は月平均29万3997円だった。物価変動の影響をのぞいた実質で、前年より2・6%減った。物価高が家計に打撃を与え、3年ぶりに減少に転じた。支出の3割を占める食料は、前年より2・2%減った。大半の品目で消費が減り、とくに魚介類や乳製品の落ち込みが大きかった。ほかに家具や医薬品、小遣いや仕送り金も減った。一方、外食は10・3%、宿泊料は9・3%増えた。コロナ禍の行動制限が解けて、外出する機会が増えたためだ。理美容サービスも2・2%伸びた。物価の影響をふくめた名目の支出は1・1%増えた。財布から出てゆくお金は増えたが、実際に買えるモノやサービスの量は減ったことになる。足元の消費も厳しい。23年12月の支出は、実質ベースで前年同月より2・5%減った。10カ月連続で前年水準を下回った。名目では0・4%増えたが、家賃などの住居費をのぞけば前年同月より0・5%減り、6カ月ぶりのマイナスになった。家計が節約志向を高めているようすがわかる。 ■ギョーザ購入、浜松首位奪還 総務省はこの日、都道府県庁所在地と政令指定市の品目別購入額も公表した。宮崎、宇都宮、浜松の3市で毎年、激しい争いを繰り広げるギョーザの年間購入額1位は、3年ぶりに浜松市に軍配が上がった。2位は宮崎市(前年1位)、3位は宇都宮市(同2位)だった。 *6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240205&ng=DGKKZO78180240S4A200C2KE8000 (日経新聞 2024.2.5) 経済教室:賃上げの持続性(下) 労働市場の流動化こそ王道 宮本弘曉・東京都立大学教授(1977年生まれ。ウィスコンシン大博士。専門は労働経済学。IMFなどを経て現職) <ポイント> ○日本の賃金は四半世紀にわたり伸び悩み ○労働市場が流動的な経済ほど賃金は高い ○転職に中立な社会保障・税制の整備急げ 日本経済の行方を左右するのは賃金だ。日本では2022年春から物価が上昇し、約40年ぶりのインフレとなっている。生活必需品やサービスの価格が上昇するなか、賃金が伸び悩むと、国民生活は厳しさを増す。日本は過去30年間にわたり、低物価、低賃金、低成長、そして高債務の「日本病」に苦しんできた。日本で真に求められているのは経済の衰退を止め、再び成長軌道に乗せることだ。デフレから完全に脱却し、日本経済を新しいステージに移行させるには、賃金と物価の好循環が欠かせない。変化の兆しはある。厚生労働省によると、23年の春季労使交渉では賃上げ率が平均3.6%と1994年以来の3%台を記録した。日本経済新聞社によれば、冬のボーナスも75年の調査開始以来最高だった。24年も賃上げが期待される。しかし問われるのは賃上げの持続性だ。国民の間では「賃上げは一時的」との見方もある。果たして持続的な賃上げは可能なのか。賃上げの持続性を考える際には、そもそも賃金がどのように決まるのかを理解する必要がある。賃金の決定要因としては、主に労働需給のバランス、物価、労働生産性、労働市場の構造の4つが挙げられる。 第1に賃金は労働サービスの価格であり、その需要と供給のバランスにより決定される。労働への需要が供給を上回れば、すなわち人手不足であれば賃金は上がり、逆であれば賃金は下がる。日銀短観の雇用人員判断DIによると、人手不足感は歴史的な高水準にあり、賃金上昇が期待できる。ただし労働需給のバランスが賃金に与える影響は、90年代後半から弱まっていることが指摘されており、今後、労働需給と賃金の関連性が強まるかどうかが注目される。また人口減少に伴う人手不足が賃金に与える影響も注視が必要だ。 第2に賃金と物価は相互に連関するが、両者の間には正の関係がある。日本では長期にわたり、物価が上昇しても賃金が有意には反応しない状況が続いていたが、足元では物価上昇が賃金に影響を与えるように状況が変わりつつある。 第3に経済学では賃金は労働生産性に応じて決まると考えられている。労働生産性が上がれば賃金も上昇するが、日本の労働生産性の伸び率は長期にわたり低迷しており、これが賃金の停滞につながっている。 第4に雇用者の構成の変化も重要だ。日本では過去30年で雇用形態が大きく変化した。非正規雇用者が雇用者全体に占める割合は84年には約15%だったが、今は4割近くまで上昇した。非正社員の賃金は正社員の7割程度であり、相対的に賃金が低い非正社員の割合が高まることで、経済全体の賃金が低下している。 これらの要因は、異なる時間軸で賃金に影響を与える。前者の2つはどちらかといえば短期的な影響を及ぼし、後者の2つは中長期的に賃金に影響する。日本の賃金の推移を振り返ると、97年をピークに減少が続いている。月給はピーク時と比べて1割低く、時給は近年上昇に転じているが、ピーク時とほぼ変わらない水準にある。これは25年に及ぶ日本の賃金低迷が長期的かつ構造的な理由によるところが大きいことを意味する。なお、四半世紀の間に、米国や英国など他の先進国では賃金は2~4割上昇している。本来、賃金は上がるものなのだ。持続的な賃上げのためには、人件費の増加分を価格に転嫁できる環境整備や最低賃金引き上げが重要だ。だが王道は、労働生産性を向上させるとともに、労働市場の二極化などの構造問題に対応することだ。これらを同時に達成できるのが労働市場の流動化である。経済全体の生産性を向上させるには、個々の企業や労働者が生産性を高めるとともに、経済全体の新陳代謝を促進することが欠かせない。労働市場の流動化は、適材適所とスムーズな労働の再配分を通じて、これらを実現できる。実際に、データは労働市場が流動的な経済ほど生産性が高く、その結果、賃金が高い傾向を示している(図参照)。また労働市場が流動的であれば、同一労働同一賃金がマーケットメカニズムにより達成されうる。労働市場の流動性を高めるには、労働移動を妨げる制度や政策の見直しが必要だ。社会保障や税制の改革により転職に中立な環境をつくることが求められる。政府が23年の「骨太の方針」で転職に不利な退職金優遇税制の是正を盛り込んだことは評価に値する。また一定の所得を超えると税や社会保障負担が発生する「年収の壁」は撤廃すべきだ。流動的な労働市場では、人的投資の軸は企業から労働者へとシフトする。労働者の自己啓発投資を促すため、個人の人的投資にかかる費用を課税対象所得から控除する「自己啓発優遇税制」の導入を検討すべきだ。また解雇ルールを明確化して、意欲と能力をもつ若者が活躍できるよう環境を整える必要がある。解雇の金銭補償の実現も重要だ。さらに、労働市場の流動性を妨げている日本的雇用慣行からの脱却を急ぐべきだ。終身雇用や年功賃金などの日本的雇用慣行は、経済・社会構造の変化に伴い時代遅れとなっている。古い体質の雇用慣行の維持や雇用の硬直化は生産性を下げる要因だ。特に賃金体系は働きに見合う報酬を受け取れる仕組みに変えるべきだ。「賃金=生産性」となれば、あらゆる世代が雇用機会に恵まれるし、若年層の所得向上も期待できる。生産性の向上には中長期の成長戦略が欠かせない。多くの企業が画期的な構想で成果を上げつつある。政府は、こうした民間蓄積の成果を最大限に活用するための方策を考えるべきだ。日本経済には変化の兆しがみられる。長年のデフレからの脱却も視野に入ってきた。重要なのは、デフレという穴から出た世界が、単にインフレの世界ではなく新しいステージだと認識することだ。日本経済は人口構造の変化、技術進歩、グリーン化といったメガトレンドの変化に直面しており、インフレだけでなく、これらの変化に適応できる経済を構築することが欠かせない。これは今後数十年の日本のグランドデザインが求められているということだ。包括的かつ大胆な改革パッケージが必須だ。とりわけ、人口が減少し急速に高齢化していく日本では、こうした状況でも国民が安心できる環境をつくることが求められている。高齢化を伴う人口減少下でも強い経済を構築することは可能だ。高齢者が様々な形で社会活動に参加し、生産的に貢献する構造に組み直すことができれば、経済社会のバランスシートは大きく改善する。長寿雇用戦略や健康増進産業の推進、給付と負担のバランスのとれた全世代型社会保障などやれることはまだたくさんある。また将来悲観の払拭のためにも、成長に配慮した財政健全化が欠かせない。人々が「明日は今日より素晴らしい」と感じる社会にしていくことが、持続的な賃上げにもつながると考えられる。 *6-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1191990 (佐賀新聞 2024/2/10) 介護報酬改定、訪問サービス減額は疑問だ 2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題としたのが特徴だ。サービスの対価として介護事業者に支払う報酬を増やし、24年度に2・5%、25年度に2・0%の職員のベースアップ(ベア)を目指す。 介護職員の平均賃金は全産業平均より月約7万円低い。22年には介護の仕事を辞める人が働き始める人を上回る「離職超過」に陥り、多くの事業者が人材確保に頭を痛めている。改定では介護報酬全体で1・59%増額するうち、0・98%分を賃上げに充てる。職員の処遇改善を優先するのは妥当な措置だろう。もっとも、今年の春闘では連合が5%以上の賃上げを目標に掲げており、介護職員のベアが想定通りに実現したとしても、他産業との格差が広がる懸念はある。人材流出に歯止めをかける効果を上げられたかどうか、現場の実態を調べて検証することが欠かせない。事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービスの提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は国民に対し、処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設系サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスでは引き下げられる点だ。訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスで、年100万人以上が利用する。家族にとっても、訪問介護を使うことで仕事との両立が実現できているケースは少なくない。訪問介護の担い手となるホームヘルパーは人手不足が続き、有効求人倍率は約15倍に上る。平均年齢は50代半ばと高齢化。ヘルパー不足による倒産や事業の休廃止も増えている。基本報酬を引き下げると、こうした状況が加速しないか。厚生労働省は報酬減額の理由として、事業者の経営実態を調査したところ、訪問介護分野全体の収益が大幅な黒字だったことを挙げている。処遇改善に取り組む事業者に報酬を上乗せする加算を拡充するので、加算を取得すれば経営にダメージはないと説明する。だが介護現場では、この調査は実情を反映していないとの指摘がある。集合住宅に併設され、その入居者を中心に訪問する事業者の場合、同じ建物内で多数の利用者にサービスを提供して効率よく収益を上げている。訪問介護の収益率は、こうした事業者の存在により高めの結果が出ている可能性があるという。一方で中山間地を含む郡部など、広い範囲に点在する利用者宅をカバーするような、地域に密着した小規模事業者の経営状態は厳しい。ひとくくりに基本報酬を引き下げるのは乱暴ではないか。同一建物を中心にサービスを展開する事業者に対しては、報酬を減額算定する仕組みを強化して対応すべきだ。高齢化は急速に進み、重度の要介護高齢者の増加が見込まれている。在宅介護や在宅医療の役割がより重要になるが、訪問介護による日常生活支援はその基盤でもある。基本報酬引き下げでサービス提供が手薄になり、「介護難民」が増えることにならないか心配だ。 *6-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15857944.html (朝日新聞 2024年2月7日) 「カスハラ」防止条例検討へ サービス業、労組など要望 東京都 客が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を検討している東京都の検討部会が6日、「条例化が望ましい」との意見を示した。これを受け、都が条例化へ検討を進めることになる。都によると、カスハラ防止を目的にした条例は全国的に例がないという。部会は商工団体や労働組合の代表者、大学教授、都幹部らがメンバーで昨秋から検討を続けている。条例化については、カスハラ防止の周知啓発を進める法的根拠として施行を望む意見が出た。業界ごとに異なる事情も勘案し、罰則付きではなく機運醸成や啓発が中心の「理念型」を推す意見も出された。こうした声を軸に今後、業界ごとのガイドラインなどの対策と合わせて、条例の中身が検討されることになる。カスハラは接客業界で広く問題化しており、タクシーやバス運転手が名札義務化をやめるなどの動きがある。サービス業従事者の多い東京で対策強化を望む声が労働組合の連合東京などから上がっていた。 <日本における避難民・移民の受入れについて> PS(2024年2月19日追加):*7-1は、①ウクライナから日本への避難民2098人のうち日本での定住を望む人が39・0%(818人)に急増 ②うち1799人が日本国内で1年働ける「特定活動」の在留資格あり ③最新の国別受入数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人 ④日本財団は延べ約2千人に最長3年間・年100万円の生活費を支援 ⑤首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋に10代の娘2人と来日し、目の不自由な夫も呼び寄せて日本で人生の新しいチャプターを始めると決めた ⑥就労には日本語が欠かせない場合が多いが、殆ど話せない人が3割、簡単な日本語のみが4割 ⑦日本政府は紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する制度を始め、対象者には定住資格が与えられ、日本語習得や生活支援が始まる 等としている。 また、*7-2は、⑧イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザ南端のラファを激しく空爆 ⑨エジプトとの境界にあるラファにガザの全人口230万人の半数以上がひしめく ⑩避難民の多くはシェルターやテントの劣悪な環境で暮らし、安全な飲み水や食料が殆どない ⑪イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じた ⑫アメリカのバイデン大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない」と発言 ⑬人々はどこに行けばいいのかと困っている ⑭米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいる ⑮検問所に近いのにラファでは支援物資が不十分 等としており、2月19日のNHKの報道は、⑯イスラエル軍が南部のナセル病院で2月15日~18日に作戦を続けた結果、WHOが「ナセル病院は1週間の包囲と作戦で既に病院として機能しておらず、約200人の患者の少なくとも20人は緊急転院して治療を受ける必要がある」と訴えた としている。 ウクライナもガザも大変な状況だが、日本のメディアは悲惨さを情緒的に伝えるだけであり、これでは良い解決策は出て来ない。さらに、NHKはチャンネルや時間帯が余っているのに、「政治とカネ」以外の国会中継をまともに行わず、「政治は金まみれで汚い」という悪いイメージを国民に植え付けて民主主義を後退させている上、国民が本質的な問題点を深く考える機会を奪っている。民放は、これに加えて放送時間の1/3が広告であるため、「これが、記者や番組制作者の限界なのか?」と思う次第である。 そのような中、日本では人手不足が叫ばれているのに、上の③のように、最新のウクライナからの受入人数は、ドイツ113万人・ポーランド95万人・チェコ38万人・英国25万人・ロシア121万人と10~100万人単位であるにもかかわらず、日本は、①のように、現在、避難民が2098人おり、そのうち日本での定住を望む人が818人に“急増”し、②のように、1799人にのみ日本国内で1年間だけ働ける「特定活動」の在留資格を与えているとのことである。つまり、日本は、避難民や移民の受入れが極めて少なく、かつ期間限定・就業限定なのである。もちろん、日本に来たばかりの時期は就業困難な人もいるため、④のような生活費支援も必要で、支援額はむしろ少なすぎると思うが、⑥の日本語力については、大部分の日本人が英語でコミュニケーションでき、日本語を話さなくてもできる仕事で日本語は不要であるため、日本語を就労要件にするのは発想が旧すぎると思う。例えば、⑤の美容師のケースでは、日本のやり方を研修した上で外国の美容師資格を持つ者にも日本における就労資格を与えれば十分稼げる。ちなみに、私は、フランス語は全く話せないが、旅行中にパリの美容室に入って英語で必要事項を話した後、黙って座っていたら日本より素敵な髪型にしてもらえたし、ODAでキルギス(旧ソビエト連邦)に行った時に見つけたスカートは、(裏地はついていなかったが)スタイルが抜群で気に入ったため、25年以上も大切に身につけていた。そのため、欧米における洋風スタイルの伝統の重さを実感しており、⑦のように、紛争から逃れた人に難民・移民として定住資格を与えるのは必要不可欠であると同時に、日本にとっても有益だと考えているのだ。 そして、私が疑問に思うのは、パレスチナ自治区のガザ地区は面積365 km²(福岡市よりやや広い)、人口約222万人(福岡市は164万人)と過密な状態で、1947年に国連がパレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分ける決議を採択し、イスラエルが1948年に独立を宣言して以降、火薬庫になっているのに(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/plo/data.html 参照)、どの国も自国への避難民・移民の受入れは表明せず、⑧⑨⑩のように、イスラエルのみを批判し、狭い場所で共存し続けることを強要している点である。疑問に思う理由は、広い国・人手不足の国でさえパレスチナ難民を受入れないのに、狭い土地で「共存せよ」と言うのはイスラエルとってもパレスチナにとっても無理だと思うからだ。そのため、⑪⑫⑭のように、イスラエルのネタニヤフ首相は軍の地上作戦拡大を命令し、バイデン米大統領は「民間人の安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきでない(最短でも6週間)」と発言しておられるが、“民間人の安全を確保する計画”は迅速に作る必要がある。何故なら、⑬⑮のように、検問所に近いのにラファで支援物資が不十分で、避難民はどこに行けばいいのかわからず、⑯のように、2月15日~18日にはナセル病院が既に病院として機能しなくなっている状態だからだ。そのような中、日本は人手不足の国であり、農林水産業・建設業・運送業・介護・観光業・軽工業等で特に労働力が足りないため、人口が減少している地域でガザの住民を入植させればよいと思う。大陸で揉まれながら4大文明の近くで生活し、アラビア語ができ、小麦・オリーブ・家畜の生産に慣れており、我慢強い人々の能力やスキルは、使い方によっては日本人以上なのだから。 *7-1:https://digital.asahi.com/articles/ASS2L6GN3S28ULLI001.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2024年2月19日) ウクライナ避難者、日本への定住希望が急増 「できるだけ長く」4割 ウクライナから日本に避難している人のうち、日本での定住を望む人が、この1年で24・7%から39・0%に急増したことが、日本財団が定期的に実施しているアンケートからわかった。反転攻勢がうまくいかずに戦争が長期化するのを目の当たりにし、「状況が落ち着くまでは、しばらく日本に滞在したい」と答えていた人の多くが帰国を諦めたとみられる。日本に住むウクライナからの避難者は2月14日現在で約2100人。日本財団はこれまで、延べ約2千人に年100万円の生活費を支援。18歳以上を対象に、生活状況や意識を計5回アンケートしてきた。朝日新聞は、日本財団と契約を結び、日本財団からアンケート結果のデータ提供を受けて内容を分析した。第5回アンケート(1022人回答、昨年11~12月実施)で、「できるだけ長く日本に滞在したい」と答えた人が急増し、その1年前の第2回アンケートで24・7%だったのが、39・0%と1・6倍になった。これまで40%前後で最も多かった「状況が落ち着くまで」様子を見ようという人を初めて上回った。 ●「日本で人生の新しいチャプター始める」 首都キーウで美容サロンを営んでいたポジダイエバ・アンナさん(50)は2022年秋、10代の娘2人と来日した。「ミサイルが自宅近くに落ちるのを経験した娘は日本に慣れ、もう戻りたくないと言った。目が不自由な夫も呼び寄せ、日本で人生の新しいチャプター(章)を始めると決めました」 ただ、定住への課題は大きい。アンケートでは、働いていない人は52・8%と半数を超え、働いている人でも4分の3はパートタイムだった。就労には、日本語が欠かせない場合が多いが、ほとんど話せない人が3割、簡単な日本語のみという人が4割だった。 ●専門家「経済的な自立策を話し合える場が必要」 財団による生活費支援は原則として最長3年間で、来年には期限という人が出始める。日本政府は昨年12月、紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する「補完的保護対象者」制度を始めた。対象者は定住資格が与えられ、日本語の習得や生活支援が新年度から始まる。明治学院大教養教育センターの可部州彦(くにひこ)研究員(難民の就労支援)は「戦争が長びくなか、日本での生活を設計する人が増えている。子どもが教育を受けるには資金がどれくらい必要で、就労するにはどんな技能や資格がいるのか。それぞれのライフステージに合わせた経済的な自立策を具体的に話し合える場が必要だ」と話した。 *7-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/ceqjw22lv7go (BBC 2024年2月13日) ラファの避難者ら、イスラエルの地上作戦におびえる 国際社会は攻撃の抑制求める パレスチナ自治区ガザ地区ラファで、人々がパレスチナ人がイスラエル軍の地上作戦におびえている。同軍は12日未明にかけ、ガザ南端のこの都市を激しく空爆した。国連やアメリカなどはイスラエルに対し、多くの民間人を殺傷する地上作戦は実施しないよう警告している。エジプトとの境界にあるラファには、ガザの全人口230万人の半数以上がひしめている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が始まる前はラファの人口は25万人程度だったが、ガザ各地から避難者が押し寄せている。避難住民の多くは、にわか作りのシェルターやテントの劣悪な環境で暮らしている。安全な飲み水や食料はほとんどない。そのラファをめぐり、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は先週、軍の地上作戦を拡大する準備を整えるよう命じたと明らかにした。11日夜から12日未明にかけては、イスラエル軍がラファを空爆した。ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエル軍の空爆とラファでの人質救出作戦により、一晩で少なくとも67人が殺害されたという。現地にいる医師のアフメド・アブイバイドさんは、イスラエル軍の空爆が絶え間なく至る所で続いていると、BBCに電話でメッセージを送った。人々は「どこに行けばいいのかと困っている」状態だとした。こうした状況を受け、国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官は12日、ラファへの攻撃は「子どもや女性を大半とする非常に多くの民間人が死傷する恐れがあり、恐ろしいことだ」と警告。ガザへの「わずかな」人道支援は現在、エジプトが管理するラファ検問所を通過して運び込まれており、それが停止する恐れもあるとした。昨年10月7日のハマスによるイスラエル南部の襲撃では1200人以上が殺害され、250人以上が人質として連れ去られた。一方、ハマスが運営するガザ保健当局によると、イスラエルとの戦闘が始まってから、2万8100人を超えるパレスチナ人が殺害されている。 ●「立ち止まって考えるべき」 アメリカのジョー・バイデン大統領も12日、イスラエルのラファでの作戦について、民間人の「安全を確保する信頼できる計画なしに進めるべきではない」と発言した。バイデン氏は先週、イスラエルによるガザへの報復作戦を「度を越している」と異例の厳しい言葉で批判していた。バイデン氏はこの日、ヨルダンのアブドラ国王と会談。終了後、米政府は「最短でも6週間」の休戦合意の実現に向けて取り組んでいると述べた。イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相も、ラファでのさらなる行動の前に、イスラエルは「立ち止まって真剣に考える」べきだと主張。欧州連合(EU)の外交を取り仕切るジョゼップ・ボレル外交安全保障上級代表は12日、ガザで「あまりに多くの人々」が殺されているとし、イスラエルへの武器の提供をやめるよう同国の友好国などに求めた。BBCにメッセージを送った前出の医師アブイバイドさんは、ガザ南部ハンユニスのナセル病院で勤務していた。しかし、イスラエル軍の空爆で自宅が破壊され、父親は脊髄を損傷。ラファへの避難を余儀なくされたという。ところが現在、ラファからも移動しなければならない可能性に直面している。アブイバイドさんは、どこに行けば安全なのか分からない状態だと話した。「軍の地上作戦が市内でまもなく始まるかもしれず、人々はとてもおびえている」。アブイバイドさんはまた、ラファでは人々の間で多くの病気が見られ、「投薬や治療を受けられる可能性が著しく低下」していることで状況は悪化しているとした。ラファにいる別の医療関係者は、「友人など会う人すべてが、インフルエンザ、コレラ、下痢、疥癬(かいせん)、そして新たにA型肝炎などにかかっていて、どんどん悪くなっている」とBBCに述べた。ラファで避難生活を送っているアボ・モハメド・アティヤさんは、12日未明にかけて空爆があったとき、テントの中で家族と寝ていたとBBCに説明した。「突然(中略)ミサイルがあちこちに撃ち込まれ、発砲があり、飛行機もあちこちに飛んできた。路上のテントと人々の頭上でこうしたことが起きた」。ガザ中部ヌセイラット難民キャンプから避難してきたというアティヤさんは、ヌセイラットではイスラエル軍からの退避指示があったが、この夜のラファでは事前の警告はなかったと非難した。「言ってくれればラファからどこへでも避難していた」。「もう安全な場所はない。どこも安全ではなく、病院さえも安全ではない。人々は死にたいと思っている」 ●支援物資が不十分 検問所に近いにもかかわらず、ラファには十分な支援が届いていない。現地の男性はBBCに、人々は何日も支援を待っており、届いても水の供給は不十分だと話した。ラファの女性は、「水が見当たらず、十分な量を手に入れることができない。水不足で喉がカラカラだ」と述べた。ガザ最大の人道支援組織の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトップは12日、現地の秩序が崩壊しつつあると述べた。ハマスが運営する地元警察のメンバーらが殺害されたり、身の危険を感じて支援物資輸送車の警護に消極的になったりしているという。「地元警察がいなかったため、トラックや輸送車列が略奪に遭い、トラックは何百人の若者らに破壊された」。避難者の中には、飲食物の確保をめぐる不安より、次に何が起こるかわからない恐怖の方が大きいという人もいる。イブラヒム・イスバイタさんは、「以前は食べ物や水や電気の不足について考えていた。でも今は、この先どうなるのか、どこに行けばいいのかが分からずトラウマになっている。これが現在の私たちの日常だ」とBBCに話した。ラファから移動しなければならなくなったら、彼の家族はどこへ行こうと考えているのか。そう問われると、イスバイタさんは「実際のところ、まったく分からない」と答えた。 <GX移行債の支出対象について> PS(2024年2月21,22《図》日):*8-1-1・*8-1-2は、①財務省が新国債「GX経済移行債」の初回入札を実施 ②初年度2023年度に1.6兆円、10年間で20兆円規模を発行予定 ③2050年の温暖化ガス排出実質0に向け産業構造転換を後押しする資金調達 ④海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広い ⑤初年度に製鉄工程の水素活用に2,564億円割り当て ⑥消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素・次世代原子力発電の開発も支援対象 ⑦次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶の技術開発も後押し ⑧EV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大に計4,800億円程度補助 ⑨省エネ性能の高い住宅機器導入・EVを含む低燃費車の購入補助事業に2000億円強充当 ⑩2023年度の1.6兆円からは「燃料アンモニア事業」は除外 ⑪資金使途が多岐で海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声 ⑫政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせて150兆円超の投資に繋げる ⑬環境への貢献度の高さを重視し、通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』の水準が注目された ⑭応募者利回りは0・740%で直近の償還期間10年国債と比べグリーニアムによる利回り差は殆どなかった ⑮償還には2028年度から導入する化石燃料輸入企業への賦課金等を充てる としている。 これらの記述の中には、「環境保護は経済活動には邪魔なものであるため、環境保護に追加コストがかかるのは当然である」「環境保護目的なら利回りの低い債権でも売れる筈である」という、日本が開発途上国時代に振りかざしていた前提が色濃く残っている。 しかし、現代は、環境を悪化させる経済活動は許されず、環境を保護しながら高い利回りを上げることが求められる時代であり、その視点から見ると、⑩のアンモニア混焼は、環境保護が中途半端な上に、コストを上げるため、広く普及することのない技術だ。また、⑨のEV以外の低燃費車も、エンジンとモーターの両方を使うため、環境保護が中途半端なだけでなく、部品点数が多くて労働生産性は上がらずコストダウンも進まず、国内で産出しない化石燃料を使い続けるため貿易収支の改善にもエネルギー自給率の向上にも役立たない。さらに、⑥の中の次世代原発は、地震・火山国で面積の狭い日本に置く場所などなく、使用済核燃料の保管場所も限られるため普及できず、無駄な支出となる。このように、政府も民間も、将来の稼ぐ力を高める技術に投資しなければ、労働生産性は上がらず、貿易収支も改善せず、国民をより豊かにすることのできない、単なる無駄使いになるのである。 そのため、①②③のように、財務省が産業構造転換を後押しする資金調達のため「GX経済移行債」を発行し、⑮のように、化石燃料輸入企業への賦課金等を償還に充てることとしたのは良いが、⑬のように、「環境への貢献度が高いから通常の国債より利回りが低い『グリーニアム』が生じる」と考えたのは甘すぎるため、結果として、⑭のように、グリーニアムによる利回り差がなかったのは当然なのだ。 しかし、日本で遅れている⑨の省エネ性能の高い住宅機器の導入補助金や、⑦の次世代太陽電池・洋上風力発電・水素発電・次世代航空機・次世代船舶技術など、普及すれば環境保護・生産性向上・貿易収支改善・エネルギー自給率向上に役立つ技術への補助金や投資は、国民をより豊かにすると同時に税収も増やすため、無駄使いにはならない。 なお、⑤の製鉄工程の水素活用2,564億円、⑥の消費電力を抑える次世代半導体開発・工業炉の脱炭素、⑧のEV等に使う蓄電池とパワー半導体の国内生産拡大4,800億円の補助は、1990年代末~2000年代始めならスタート段階で必要だったが、現在なら遅れた企業の甘やかしすぎである。今は企業の実質借入金額が年々減っていく時代であるため、国民に負担をかけず自らやればよい。従って、⑫の政府の20兆円の呼び水は10年でもその半額でよく、ましてや病気や要介護状態で働けない高齢者の預金を目減りさせながら負担増まで押しつけるのは論外である。 そして、これが、④⑪のように、海外で広く発行されている再エネ投資に使途を限った「環境債」より資金使途が広すぎて、海外投資家から「グリーンウオッシュ」を懸念する声がある理由であり、私もその批判は正しいと思う。 このような中、太陽光発電は、*8-2-1のように、窓ガラスやビルの壁面などで使える建材一体型の太陽光発電パネルが普及段階に入っており、都市が発電所となって、82.8ギガワット発電できる可能性が高い。そのため、これもまた「高すぎて普及できず、他国に後れをとった」などという事態にならないようにすべきで、まずはビル・マンションの新築や改装工事で義務化したり補助金をつけたりすればよいと思う。 また、*8-2-2のように、フランスは、太陽光発電の適地を増やすため、80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付け、駐車場・農地等に設置する太陽光発電を再エネ拡大の突破口にするそうだ。さらに、*8-2-3のように、青森県つがる市は、再エネ発電促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため2014年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づいて、農地で国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」を稼働させて一般家庭約9万世帯分の電力を供給しているそうだが、風力発電機は田畑に陰を作らずに発電できるため、農地に適している。そのため、農地で再エネ発電をする場合には、「農業の戸別所得補償」のかわりに再エネ発電機設置補助金をつければ、発電能力を著しく大きくできると考える。 2019.12.9HATCH 2022.10.29政治ドットコム 2022.7.29日経新聞 (図の説明:左図のように、都市への人口流入により、過疎地では全国平均より高齢者比率が高く若年者比率は低くなっている。また、中央の図のように、高齢者比率が高くなるほど、空き家比率も高くなる。その結果、このままでは、過疎地は、鉄道・バス・水道等が赤字となり、インフラの維持も難しくなっていく) 2023.2.9政治ドットコム 白書・審議会データベース 2021.11.6日経新聞 (図の説明:左図のように、過疎地で頑張っていた高齢者がついに農業を辞めると、次世代のいない農家で耕作放棄地が増え、中央の図のように、農業総産出額は名目値でも漸減している。また、右図のように、燃油代・餌代の高騰で良質な蛋白源である漁業の産出額も著しく減少しているが、日本は製造業も振るわないため、「食料は輸入に頼ればよい」という考えは甘い) *8-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240211&ng=DGKKZO78400190Q4A210C2EA4000 (日経新聞 2024.2.11) 14日 財務省、「GX移行債」初入札、脱炭素加速、市場どう評価 財務省は14日、新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」の初回入札を実施する。同日は10年債を、27日には5年債をそれぞれ8000億円予定する。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的とした国債の発行は世界初の試みで、10年間で20兆円規模を計画する。正式名称は「クライメート・トランジション利付国債」。2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロに向けた産業構造転換を後押しする資金を調達する。初年度の23年度は1.6兆円を発行する。海外では太陽光のような再生可能エネルギーの発電などに資金の使い道を絞る「グリーンボンド」が普及する。今回は化石燃料を主体とした経済・社会構造からの「トランジションボンド」と区別し、幅広い使途とする。初年度1.6兆円について、政府は製鉄工程の水素活用に2564億円を割り当てる。既存の製鉄は石炭を大量に使い二酸化炭素(CO2)を多く排出する。代わりに水素を使う製鉄技術の確立をめざし、日本製鉄やJFEスチールなどの取り組みを後押しする。消費電力を抑える「光電融合」といった次世代半導体の開発、金属部品などの熱処理に用いる工業炉の脱炭素、次世代原子力発電の開発も支援対象となる。具体的な支援先は未定だが、次世代の太陽電池や洋上風力発電、水素発電、次世代航空機・船舶といった技術開発も後押しする。電気自動車(EV)などに使う蓄電池と、パワー半導体の国内生産の拡大には計4800億円程度を補助する。省エネ性能の高い住宅機器の導入や、EVを含む低燃費車の購入補助といった事業には2000億円強をあてる。資金使途が多岐にわたり、海外投資家からは見せかけの環境対応にすぎない「グリーンウオッシュ」を懸念する声も聞かれる。日本のGX戦略は火力発電の燃料をアンモニアに転換するプロジェクトが含み、「石炭火力の延命」との見方がつきまとう。このため23年度発行の1.6兆円の使途から「燃料アンモニア事業」を除外した。財務省と経済産業省は1月中旬から投資家向け広報(IR)のため欧米各国を回った。財務省幹部は関心の高さを感じたという。SMBC日興証券の浅野達シニアESGアナリストは「グリーンウオッシュへの心配の声は小さくなった。むしろ初物としてのご祝儀相場に乗り遅れまいと需要が高まり、通常の国債より利回りが低くなる『グリーニアム』の水準が注目される」と話す。グリーニアムはグリーンとプレミアムの造語で、環境への貢献度の高さを重視して利回りが低く(債券価格は高く)なることを指す。政府にとっては通常より低いコストで資金調達できる。初回のプレミアムが高くても油断はできない。続く24年度は1.4兆円、その後に残る最大17兆円の発行を控える。「市場から日本のGX政策への信認としての適切なプレミアムを維持できるかが焦点となる」(浅野氏)。政府は20兆円を呼び水に10年間で官民合わせ150兆円超の投資につなげる。脱炭素技術はどれが普及するか見通せず、企業が予見可能性をもって投資に踏み切る環境づくりは欠かせない。資金の使い道や脱炭素の効果を広く開示し、安定的な資金調達をめざす。償還には企業のCO2排出に課金する「カーボンプライシング」の2つの手法を用いる。まず化石燃料の輸入企業に燃料のCO2排出量に応じて賦課金を28年度に導入する。もうひとつは排出量取引で政府が電力会社に排出枠を有償で割り当てる仕組みを33年度に始める。 *8-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS2G62BQS2GULFA00N.html (朝日新聞 2024年2月14日) GX経済移行債8000億円を初入札 幅広い使途、環境債とは別物 財務省は14日、脱炭素化と経済成長をうたう政策の財源にする「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債」の入札を初めて実施した。募集額は8千億円で、償還期間は10年。27日にも償還期間5年のGX債の入札を実施し、年度内に計1・6兆円の移行債を発行する。欧州で幅広く発行されている、再生可能エネルギーなどへの投資に使途を限定した「環境(グリーン)債」とは異なる。脱炭素社会への移行(トランジション)を目的としており、使い道は幅広い。調達したお金は、二酸化炭素(CO2)を排出しない水素を製鉄に使う技術や、電力消費の少ない次世代半導体などの、研究開発の補助金などに使われる。さらに、次世代原子炉の開発やCO2排出を抑えた火力発電などへの投資、経済安全保障上の重要物資と位置づける半導体や蓄電池の供給を安定させるための補助金にも使われる。政府は今後10年間でGX債を20兆円発行し、これを呼び水に150兆円超の官民投資につなげるねらいがある。償還には、化石燃料を輸入する企業に対する賦課金などを充てる。課金制度は28年度から導入する。環境への配慮や社会貢献を使い道とする国債は、同じ発行条件の国債と比べて利率が低く、価格が割高になる「グリーニアム」がつくことがある。ただ、この日の入札でついた応募者利回りは0・740%で、直近の償還期間10年の国債と比べ、利回りの差はほとんどなかった。SMBC日興証券の小路薫・金利ストラテジストは、「事前の予想と比べ、軟調な結果だった」と指摘。業者間の入札前取引の際にグリーニアムが大きく出た反動で、需要が抑えられた可能性があるとして、「投資家が利回りの低さをどの程度まで許容できるかは、まだ流動的だ」と述べた。 *8-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21C8P0R21C23A2000000/ (日経新聞 2024年1月10日) カネカ、壁面用発電パネル生産3倍 ビルが都市発電所に カネカはビル壁面などで使える建材と一体にした太陽光発電パネルの年間生産量を2030年までに現在の約3倍に増やす。都心部ではパネル設置場所が限られており、窓ガラスやビル壁面に潜在需要がある。建材一体型の普及により、現在の国内の太陽光発電能力に匹敵するとの試算もある。ビル群が都市発電所として電源の一翼を担う可能性がある。カネカは窓ガラスなどに使える建材一体型発電パネルを大成建設と共同開発した。自社開発した高性能の太陽電池をガラスの間に挟んで窓ガラスや外壁材として使える。兵庫県豊岡市の既存工場の生産能力を段階的に高める。新工場建設も視野に入れる。30年に現状の3倍となる年産30万平方メートル(東京ドーム6.4個に相当)に増やす。同社の太陽光パネルは住宅向けが中心で現状の売上高は100億円前後だ。カネカは大成建設との共同開発品以外にも複数の商品発売を計画しており、30年に建材一体型のパネルだけで現在のパネル全体と同等の100億円まで増やす考えだ。インドの調査会社IMARCによると世界の建材一体型太陽光の市場規模は、28年までに22年比3倍近い548億米ドル(約8兆円)に達する見通しだ。太陽光パネルは中国メーカーが世界供給の7割を占める。国内勢はカネカや長州産業、シャープなどに限られているが、建材一体型のような付加価値商品で先行する。太陽光発電協会(東京・港)によると今後、建材一体型太陽光発電が導入可能な立地の総数を発電能力に換算すると82.8ギガワット(設備容量ベース)ある。日本国内で稼働している太陽光発電の導入実績(87ギガワット、22年度末)の95%に相当する規模が見込まれる。建材一体型パネルは単体の太陽光パネルと比べて数倍以上コストがかかるが、脱炭素を進めたい企業が持つビルの壁面などに商機がある。環境省が24年度から建材一体型の太陽光発電設備の設置費用について、最大5分の3を補助する制度を導入する予定で今後の普及への期待は高い。AGCも自社開発品の増産検討に入った。同社は2000年から発電ガラスを提供しており、これまでに約250件の施工事例を持つ。24年上期までの工場の稼働率は100%に近い水準だという。30年に向けて生産能力が不足する可能性があり、AGCは工場新設を視野に生産体制の見直しを進めている。ビル用では現在は新築向け商品が中心だが、今後は既存の建物に後付けできる商品の発売も検討する。建材一体型太陽光パネルを巡っては、カネカや積水化学工業などが開発中の「ペロブスカイト」型太陽電池も普及を後押しする技術として注目されている。軽くて曲げられるといった特徴があり、建材を使って発電する場合のコストが下がる可能性もある。政府も補助金を出し官民あげて実用化を急いでいる。 *8-2-2:https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC097NM0Z00C24A2000000 (NIKKEIGX 2024年2月19日) 太陽光適地不足、「併設」で打開 フランスは駐車場義務化 再生可能エネルギーの拡大に向け、太陽光発電の適地が不足していることが世界各地で課題となっている。フランスは80台以上の駐車場に太陽電池と一体化した屋根(ソーラーカーポート)の設置を義務付けた。駐車場や農地、水上などに設置する「デュアルユース太陽光発電」が再生エネ拡大の突破口になりそうだ。 *8-2-3:https://mainichi.jp/articles/20210515/k00/00m/040/064000c (毎日新聞 2021/5/15) 青森の農地に国内最大の風力発電所 風車38基、9万世帯分の出力 1年を通して強い風が吹き抜ける青森県つがる市の農地に、2020年4月から国内最大規模の風力発電所「ウィンドファームつがる」が稼働している。高さ約100メートルになる風車38基の総出力は一般家庭約9万世帯分の12万1600キロワット。年間約18万トンの二酸化炭素(CO2)削減効果が見込まれる。同発電所の建設は、再生可能エネルギー発電の促進と農林漁業の土地利用の調和を図るため14年に施行された「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づき、農地を大半の用地として17年に着工。作付けの繁忙期を避けながら、約2年半かけて完成した。同法による市への協力金はメロンの栽培など農業振興に活用され、「エコな作物」として付加価値も期待される。風車6基が建つ菰槌(こもづち)地区で農業を営む長谷川藤行さん(77)は「ここは夏の寒暖差もあり、メロンなどの作付けにはとてもいい。農業の適地でエネルギーも日々作られ、うれしい」という。市では、政府が昨年末の「グリーン成長戦略」で導入拡大の方針を示した洋上風力発電の計画も進む。運営する「グリーンパワーインベストメント」(東京都港区)事業開発本部の力石晴子・対外連携推進グループ長(36)は「再生エネルギーは地域を強くする。より良い環境を地元の方々と作っていきたい」と話す。 <古代人の親子関係でもわかる時代の現代民法嫡出推定> PS(2024年2月26、27《図》日追加):*9-1のように、人のDNAも全部読めるようになり、最近は遺跡に埋葬された古い人骨に含まれるDNAからでも埋葬された人の血縁関係がわかるようになって、人類の移動経路や文化がより科学的に証明されつつある。それ自体が素晴らしいことだが、ここで強調したいのは、*9-2のように、それでも民法772条は「嫡出の推定」という規定を置き、「妻が婚姻中に懐胎した子は原則として夫の子と推定」「婚姻成立の日から200日を経過後or婚姻解消・取消しから300日以内に生まれた子は、婚姻中の懐胎と推定」など、婚姻関係と妊娠期間を前提とする推定をしており、DNA分析での事実認定はしないことにしている。そのため、実際の親子関係と異なる推定をされた場合に関係者全員が納得できず不幸な思いをしているため、民法722条1項の推定はそのまま、その推定に異議がある場合は関係者の誰からでも要求してDNA解析を実施し、親子関係を明らかにできるよう変更すべきだ。 すべて、*9-1より (図の説明:左の図は、岡山県津山市にある小規模集団の首長の墓《古墳時代》の血縁関係で、父親とその子である異母姉妹が葬られており、母親は実家の墓に入るため葬られていない。また、中央と右の図は、和歌山県田辺湾岸の磯間岩陰遺跡《古墳時代》にある漁民の墓地で、三浦半島の男性との婚姻関係が明らかになっている) *9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78735340U4A220C2TYC000 (日経新聞 2024.2.25) DNAが導く考古学、古墳時代の血縁解き明かす 遺跡を発掘して歴史を解き明かす考古学で墓は有力な手がかりだ。近年、埋葬人骨に含まれる微量のDNAを解析して埋葬された人々の血縁関係を突き止めることが可能になり、注目を集める。収められた土器や装身具から分かるその人の社会的地位などと合わせて分析すると、権力の継承や人の移動が見えてくる。岡山県津山市に三成四号墳という前方後方墳がある。前方部の石棺には30~40代の男性と20~30代の女性が埋葬され、古墳時代の小規模集団の首長の墓とみられる。このほど、国立科学博物館の神澤秀明研究主幹らが2体の人骨の奥歯から細胞の核に含まれるDNAを抽出し、配列を詳しく調べると、この2人は夫婦ではなく親子だとわかった。後方部の石棺には高齢女性と女児が埋葬されていたが、女児は前方部の石棺の男性の子だった。先の女性とは姉妹ということになるが、2人は母が異なっていた。つまりこの古墳には父と腹違いの娘2人が埋葬されており、母たちは埋葬されていないということだ。古墳時代の埋葬人骨の関係を「ここまで詳しく特定できたのは初めて」と、古墳時代の社会構造を研究している岡山大学の清家章教授は話す。古墳時代や平安時代には、同じ墓に入るのは基本的に血族のみだった。結婚後も実家との結びつきが強く、夫婦も死後はそれぞれ実家の墓に入った。また当時は多産多死社会で、死別や再婚も多かったようだ。DNAの解析結果はこうした見方と符合する。庶民の墓についてはどうだろうか。和歌山県の田辺湾岸にある磯間岩陰遺跡は古墳時代の漁民の墓地で、8つの石棺に12体の人骨が埋葬されている。山梨大学の安達登教授らがこれらのミトコンドリアDNAを解析したところ、ほぼ全ての石棺に母方の血縁者同士が埋葬されていたが、一人だけ誰とも母方の血縁関係がない中年男性がいた。この男性の石棺には15歳の少年が先に葬られていたが、彼はほかの石棺の女性たちと母方の血縁関係にあった。男性が女性の誰かの夫で、少年が二人の間の息子だと考えるとつじつまが合う。なぜこの男性は実家の墓に戻らず、配偶者の実家の墓に葬られたのだろう。ヒントは彼らの埋葬方法にある。ほかの遺骨がまっすぐ足を伸ばしているのに対し、2人は膝を曲げ足を開いた形で置かれている。石室の底には貝殻とサンゴが敷かれ、海岸によくある穴だらけの磯石が置かれていた。いずれもこの地域の墓にはみられない特徴だ。実はこれらの特徴を備えた墓が、遠く神奈川県の三浦半島にある。田辺湾岸で作られた鹿の角の釣り針が三浦半島に伝わっており、当時から人の交流があったことがわかっている。男性はおそらく三浦半島から田辺湾岸にやってきて、ここで結婚して息子をもうけたが先立たれ、出身地の方法で埋葬したのだろう。自身が死んだときは実家は遠すぎて戻せず、同じ墓に埋葬されたのではないか。そんな仮説が浮かび上がり、調査が続いている。古墳時代より前の弥生時代の人骨も解析されている。鳥取県東部にある青谷上寺地遺跡からは100体分以上の人骨が出土しており、このうち13体について神澤研究主幹らが核のゲノムを解析した。その結果、現代の本州に住む日本人よりも縄文人寄りの人から、逆に渡来人寄りの人まで幅広く含まれていることがわかった。弥生時代の青谷上寺地には、現代の東京よりもっと多様な人々が暮らしていたらしい。「おそらく広い地域におよぶ交流が頻繁にあったのだろう」(神澤氏)。青谷上寺地は北陸や四国で産出する様々な素材を使って弥生時代の装身具「管玉」を作る職人の町だった。作った管玉は九州北部でも見つかっている。DNAの多様さは交易のハブだった当時の姿を反映しているのかもしれない。考古学に核DNAの解析が用いられるようになったのはここ5年ほどだ。血縁関係という重要な情報を明らかにするDNA解析は「今後、研究における基本的な手段になるだろう」と清家教授は話している。 *9-2:https://xn--ace-yc4g407bukbg65emna7a.com/index.php?%E6%B0%91%E6%B3%95772#:~:text=・・・%80%82 (弁護士法人エースより) 民法772条 (嫡出の推定) 第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。 2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。 注1:婚姻関係にある男女から生まれた子を「嫡出子」といいます。婚姻中に懐胎した子は、嫡出子と推定されます。「婚姻成立から200日経過後に生まれた子」又は「婚姻の解消から300日以内に生まれた子」は嫡出子と推定されます。 注2:民法772条に該当する「推定される嫡出子」の場合、認知届は不要です。 ・推定される嫡出子(推定が及ぶ場合)とは、772条に該当する子供のことをいいます。 ・推定が及ばない場合とは、772条には該当するが、その期間中、妻が夫の子を妊娠することが事実上不可能な場合を言います。例えば、夫が海外滞在中で、肉体関係がないにも拘わらず、妻が妊娠をした場合などがこれにあたります。 ・推定されない嫡出子とは、772条に該当しない嫡出子のことをいいます。例えば「授かり婚」のように、婚姻成立前に妊娠し、婚姻成立から200日以内に産まれた子供は、婚姻関係にある男女から産まれたので嫡出子には該当しますが、772条における「推定」の適用はないので、推定されない嫡出となります。 ・二重の推定が及ぶ嫡出子とは、前婚の父性推定と後婚の父性推定とが重複する場合の嫡出子、つまり前夫との婚姻解消300日以内かつ現夫と婚姻成立200日経過後に産まれた子ということになります。この場合、773条の父を定めることを目的とする訴えによって父子関係を決めます。 <赤松良子さんの死去を悼む> PS(2024年2月29日、3月4日追加):*10-1-1のように、女子学生が極めて少なかった時代の東大卒で、1961年にさつき会(東大女子同窓会)を設立され、1963~67年にさつき会の代表理事を務められ、1979年には国連総会で採択された女子差別撤廃条約に国連公使として賛成票を投じられ、それが1981年に発効した翌年の1982年に担当の局長に就任して男女雇用機会均等法の成立に尽力された赤松良子さんが、2月6日に94歳で死去されて1つの時代が過ぎたことを感じざるを得なかった。ただ、1985年制定の第一次男女雇用機会均等法は差別の禁止が努力義務にされたため、女性を「補助職」という結婚退職を前提とする単純労働に就かせることによる女性差別が残り、これが(私が中心となって)1997年に採用・昇進・教育訓練等で禁止規定にするまで続いた。その第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの1つ目は、*10-1-2の1986年の年金制度改革であり、「サラリーマンの専業主婦は保険料負担をせず、国民年金をもらえる」という第3号被保険者の創設である。これは、フルタイムで働く女性を不利に扱い、パートの非正規社員として働く主婦の年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健康保険の保険料が発生し手取りが減ることによって女性が働かないことを奨励する現象を、現在でも生んでいる。また、第一次男女雇用機会均等法の理念に反して行なわれたことの2つ目は、1980年に三浦友和と結構して山口百恵が引退し、1986年に森進一と結婚して森昌子が引退して2つの才能が消えたことを著しく褒めて報道し、神田正輝と結婚しても歌手を続けた松田聖子は叩かれ続けたようなアホなメディアによる世論の誘導だった。これらの結果、未だに日本では女性蔑視がなくならず、*10-1-3のように、2024年2月にあった日本弁護士連合会の次期会長選挙で東京弁護士会所属の渕上玲子氏が当選し、法曹三者で初めて女性がトップに就いたのだそうだ。確かに、司法には「男性優位」の価値観が残っており、それは裁判結果にも出ている。ちなみに、公認会計士協会は、2016年に関根愛子氏を初の女性会長にしている。 そして、現在でさえ、*10-2-1のように、公的学童保育は待機児童が多い上に利用時間や利用学年に制限が多く、これが共働き世帯の「小1の壁」になっているそうだ。これに対し、企業などが運営する民間学童には、預かり時間が柔軟で学習塾・習い事などのプラスアルファ機能を併せ持ち、親世代からの支持を伸ばしているところもあるそうだが、その一方で、*10-2-2のように、民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れ、保育料とは別に料金を徴収して「付加的保育」と呼ばれる様々なサービスを提供しようとすると、「福祉的観点から“平等”でない」として保育料以外のサービス料を認めない自治体が多いとのことである。しかし、“平等”として最低の保育サービスしか受けられなければ、母親が退職して子のケアに専念するか、子を諦めるかの二者択一にしかならないため、いくら児童手当をもらっても、保育料が無償化されても、少子化は進むだろう。このように、日本は、未だに「子持ちの女性は専業主婦かパートの非正規労働者であるべき(⁇)」という前提を維持し続けているのだ。さらに、*10-2-3のように、岸田首相は「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」と強調されるが、新年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬は引き下げられた。そして、「働く女性は家族の介護はできない」ということを考慮すれば、介護保険制度は必要不可欠であり、特に住み慣れた家で介護を受けられるためQOLの高い訪問介護は重要なのだが、女性が多い介護職の報酬は2021年8月の月給制の月額平均で26万5,216円であり、これは2020年の全産業平均賃金30万7,700円より約4万円も低く、3Kになりがちで責任の重い介護職の労働対価として見合わないのである。そのため、介護人材の不足で介護保険制度の維持にかかわるわけだが、それでも介護職の報酬を全産業平均より高くしない理由は、介護職に女性が多く、「女性のケア労働は、無償か男性の労働以下である」という女性蔑視の固定観念が残っているからだ。 *10-3は、①全国漁協の役員に占める女性割合は2021年度で約0.5%(非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人)に留まる ②19都道府県で女性役員は0 ③理由は「力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないから」 ④「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えがある ⑤船や漁協に女性用トイレがない ⑥女性に適した漁具の開発がない ⑦女性・若者・外国人などの新しい力を入れなければ立ちゆかなくなる ⑧世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や限られた漁獲物の価値向上のためのマーケティング・商品開発など活躍する余白はある ⑨これまでのやり方に固執せず、機械化・マニュアル化・データ活用党で誰もが参加しやすい漁業の方策を探るべき としている。 しかし、①②の状況であるため、女性が全漁連会長になったことはなく、③については、沿岸漁業・養殖漁業は夫婦で従事しているケースが多いのに、女性が表に出ないだけである。また、④は、いい加減にやめるべき迷信であり、⑤は、小さな船なら個室トイレがあれば女性用と男性用を分ける必要も無い。さらに、⑥は、女性に適した漁具というより、魚群探知機(https://sea-style.yamaha-motor.co.jp/tips/gps/001/ 参照)の機能を上げ、力仕事の部分を自動化すれば、誰にとっても容易で生産性の高い漁業になるのだ。しかし、それができるためには、それらの機器を備えた漁船が漁業収入で購入できる価格であることが必要なのだが、日本は先進機器や新しい漁船が高価すぎて普及できないのである。その結果、⑦⑧⑨のように、多様性があった方が漁業の付加価値も上げられるにもかかわらず、多様な人が参加しにくく、生産性も低いため持続可能性さえ危ぶまれる漁業になっているのだ。そして、これは漁業だけの問題ではなく、国民全体の食料の問題なのである。 *10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK072ER0X00C24A2000000/ (日経新聞 2024年2月7日) 赤松良子さん死去、女性活躍の道開く 均等法の立役者 7日死去したことが分かった赤松良子さんは、男女雇用機会均等法の成立に尽力し、「均等法の母」と呼ばれる。小さな体にあふれるエネルギーで、女性の社会進出の道を開いた。大阪の画家の家に生まれ、津田塾と東大で学んだ。大卒の女性を採用するところがほとんどないなか、「婦人少年局」のある労働省に進んだ。男女平等に働きたいと思っても、壁の多かった時代。強みとなったのは、役所の外にも活躍の場を求めたことだ。多くの論文を執筆し、さまざまな人脈を広げた。国際感覚にも優れ、海外研修で欧米の働く女性の状況を見て回った。年齢や分野を問わず、国内外に多くの友人を持つ人だった。緻密で論理的、それでいて明るくユーモアもある。1960年代、女性の「結婚退職制」による解雇を無効とした判決が出ると、赤松良子ならぬ「青杉優子」のペンネームで、雑誌に喜びの評論を書いた。本領を発揮したのが、均等法だ。日本は国連の女子差別撤廃条約への批准を目指しており、そのための国内法整備が必要だった。国連公使として条約に賛成票を投じた赤松さんが82年、担当の局長に就任。経済界の根強い反対に対し、国際社会の流れを説き、根回ししてまわった。一方で、条文の多くが努力義務にとどまり、労働側の反発も強かった。妥協した法律とすることは、本人にとっても重い決断だったろう。「小さく産んで大きく育てる」「ゼロと1は違う」との思いは、その後の改正で結実した。退官後も、非政府組織(NGO)などの立場から活動を続け、生涯現役を貫いた。とりわけ、経済分野よりさらに遅れる政治分野の女性参画に力を入れてきた。「100までやる」と周囲に公言していた。原点には、かつて小学校も卒業できなかったという母親への思いがあっただろう。春には母親の郷里である高知に行く計画も温めていたという。好きな言葉に「長い列に加わる」をあげる。婦人参政権などを求めて戦前から活動してきた市川房枝・元参院議員や藤田たき・元津田塾大学長ら先人の努力に自らも加わり、後輩たちが後に続くのを励ましながら、笑顔で歩き抜けて行った。 *10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240226&ng=DGKKZO78690640S4A220C2TCS000 (日経新聞 2024.2.26) 年金の主婦優遇は女性差別 多くの若い女性が会社員の夫に養われる専業主婦に憧れを抱く時代は確かにあった。高度成長ただ中の昭和37年(1962年)。大映映画「サラリーマンどんと節 気楽な稼業と来たもんだ」に、こんな場面がある。田舎のしょうゆ問屋のひとり娘が商社の支社に勤める若手社員と見合いをし、女友達にこう自慢するのだ。「あたしはサラリーマンの生活に憧れちゃうな。ホワイトカラーは現代のチャンピオンよ!」。折しもその前年、すべての国内居住者が公の年金制度に入る皆年金体制が整えられ、昭和61年(86年)の制度改革で「サラリーマン世帯の専業主婦も国民年金の強制加入対象とし、健康保険の被扶養配偶者が保険料を負担せずに医療給付を受けているのと同様に、独自の保険料負担は求めない」(厚生労働省年金局の資料から抜粋)ことにした。保険料を払わなくとも国民年金をもらえる第3号被保険者の誕生である。3号という呼び方がいかにも昭和的ではないか。ちなみに自営業、農業、学生、無職の人など勤め人以外の人(1号)が月々払う年金保険料は1万6520円(免除・猶予制度あり)。専業主婦も夫が1号なら3号には分類されず、この額を払わねばならない。いま3号でも離婚して無職のままならやはり1号になり、保険料の支払い義務が生ずる。事ほどさように奇っ怪な制度だ。3号は制度開始当初の1093万人から721万人(2022年度末)に減ったが、その98%、709万人が女性だ。主婦の年金問題といわれるゆえんである。問題の核心は、パート社員として働き、年収が130万円以上になると夫の扶養から外れて年金や国民健保の保険料を払わねばならなくなり、手取りがかえって減る「年収の壁」だ。一定規模の企業で働く非正規社員が雇い主と常用的使用関係にあれば厚生年金に入る「106万円の壁」もある。これらの問題を浮かび上がらせたのがコロナ後に顕著になったサービス業の人手不足。3年あまりの鎖国状態を解きインバウンドをどっと招き入れたのだから当然である。飲食、宿泊、交通などを支える働き手がコロナ前の水準には戻ってこず、サービスが滞った。客室が空いていても清掃が間に合わず、泣く泣く予約を断ったホテルがある。経営者がパート・アルバイトの採用を増やそうと時給を上げると、年収の壁に当たるまでの「距離」が近くなり、従業員がさらに就労時間を減らす矛盾にも直面した。いわば厚労官僚の不作為が生んだ人手不足であろう。何とかできないか、という岸田官邸の意を受けて同省が23年10月、苦し紛れに始めたのが「年収の壁・支援強化パッケージ」だ。パート社員が繁忙期に残業するなどして年収130万円以上になっても、一定条件をみたせば夫の扶養にとどまれるようにした。だがサービス業の経営者から歓迎する声はさほど聞かれない。むしろ「問題の実態と複雑な背景をかんがみれば、実効性が十分に発揮されるか不透明だ」(経済同友会「年収の壁タスクフォース」座長の菊地唯夫ロイヤルホールディングス会長)などと、取り繕いを喝破する声が目立つ。従業員側も「政府の支援があっても年収を増やさない」と答えた女性が37%いた(23年12月の本紙ネット調査の結果から)。政権が閣議決定した「女性版骨太の方針2023」は支援パッケージが当座の策であるのを認め、3号制度を見直すよう厚労省に求めている。ところが厚労相の諮問機関、社会保障審議会・年金部会の議論はまことに低調だ。専業主婦に保険料支払いを求めたり消費税の増税論議に火がついたりと、新たな負担論が俎上(そじょう)に載るのを官邸が封印したためでは、といぶかる声が政府内にはある。3号問題は主婦優遇の是正という観点から語られることがもっぱらだが、角度を変えると700万人もの女性を、自立を阻む制度に押し込めて「差別を助長している面がある」(西沢和彦日本総合研究所理事)実態がみえてくる。彼女たちの就労意欲は旺盛だ。内閣府の分析によると、6歳未満の子供をもつ母親の就業率はこの20年間に倍増した。にもかかわらず夫に扶養される立場にとどめ置かれれば、家庭内でおのずと従属的になり、外で働く意欲が弱められ、企業に雇われても低い収入に甘んぜざるを得ない。少なからぬ主婦が差別的な扱いを受け入れているのだ。海外を見わたしても同様の制度をもつ国はない。厚労省退官後にスウェーデン大使としてストックホルムに駐在した渡邉芳樹氏は「日本には3号という難しい問題がある」と、同国の年金改革をリードしたヘドボリ社会相に打ち明けたらこう言われた。「夫婦でも互いに依存せぬよう自立を重視して税制を個人単位にするのが基本。わが国は社会保障も個人単位にした」。英エコノミスト誌は日本の年収の壁を紹介し、主婦の職場復帰が思うに任せない要因を探った特集記事を載せた。3号の廃止を求めているのは連合だ。そのために、所得比例と最低保障の機能を組み合わせた新しい年金制度への衣替えを提唱している。この改革案を真面目に議論する責務が社会保障審にはある。夫への依存を前提にした昭和の年金をいつまでも引きずるのは、みっともない。女性が真に自立するカギは、令和の年金改革である。 *10-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15871849.html (朝日新聞社説 2024年2月25日) 女性初トップ 法曹の景色 変えるとき 法律家が性別に関係なく、のびやかに活動する環境づくりのきっかけにしてほしい。今月あった日本弁護士連合会の次期会長選挙で、東京弁護士会所属の渕上玲子(ふちがみれいこ)氏が当選した。女性の会長は初めてで、裁判所、検察庁を合わせた「法曹三者」でも、これまで女性がトップに就いたことはなかったという。「女性が日弁連のトップになることで景色を変えることが私の責任だ」と述べた。法律家には、法と正義に根ざして社会の課題や紛争を解決し、少数者の人権を守る役割がある。内なる多様性が求められるのは当然のことだ。ところが、女性が法曹になる道は、他の多くの専門職と同様、阻まれてきた歴史がある。初の女性の弁護士誕生は1940年、女性の裁判官、検察官が生まれたのは終戦後の49年になってからだ。今はどうか。「弁護士白書23年版」によると、裁判官と検察官(それぞれ簡裁判事、副検事を除く)、弁護士の女性の割合は、28%、27%、19%。着実に増えてきたとはいえ、半数には遠く及ばない。特に弁護士は、国家公務員である裁判官や検察官に比べて、育児休業など仕事と生活の両立のための制度を使いにくい壁がある。ただ近年、企業や官庁・自治体が弁護士の採用に積極的になり、働き方の選択肢は増えた。企業内弁護士でみると、女性は4割を超えている。日弁連は性別を問わず育児中の会費の免除などを制度化してきた。働きやすくする工夫をさらに考えてほしい。責任の特に重い立場に就く女性の割合は法曹三者とも少ない。最高裁裁判官は現在、15人中3人。しかも、これまでいずれも弁護士や行政官などの出身で、地裁、高裁の裁判官からは出せていない。1970年代には、司法研修所の教官らが女性の司法修習生に「女性は裁判に向いていない」などと差別的な発言をし、裁判官訴追委員会にかかったことさえあった。「男性優位」の価値観が残っていることはないか、裁判所は折に触れて自問すべきだ。近年の最高裁の重要判例をみても、婚外子の国籍や相続、女性の再婚禁止期間、性同一性障害の当事者の権利など、家族や性のあり方をめぐる問題が少なくない。さまざまな属性、背景の人が意思決定に関わることが望ましい。司法試験という門はだれにも開かれていると、若い世代に知ってもらうことも重要だ。法教育の一環で中学、高校などに出向き、法曹の活動を地道に伝え続けている人もいる。広がってほしい。 *10-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240229&ng=DGKKZO78825040Y4A220C2L83000 (日経新聞 2024.2.29) 共働き世帯「小1の壁」崩せ 首都圏、学童待機児童の対策急務、墨田区、3クラブ新設 定員3000人に増 首都圏で小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)に希望しても入れない児童が増えている。2023年度の待機児童数は東京都、埼玉・千葉の両県で全国の4割を占めた。保育施設での待機児童解消が進む中、今度は小学校に上がると子どもの預け先がなくなる「小1の壁」が深刻になっている。こども家庭庁の調査によると、23年5月時点で全国の学童の待機児童は約1万6300人。東京都が約3500人と最多で、埼玉県の約1900人が続いた。共働き世帯が比較的多い首都圏で対策が急務だ。東京都墨田区は24年度予算案に学童クラブ関連経費を約1億5600万円計上した。25年4月ごろまでに3つの公立学童クラブを新設し、区内全体の定員を約3000人にまで増やす。同区では毎年全体の6割の児童が学童クラブの利用を希望。立地などで希望施設の偏りがあり、実際に入れなかった児童は23年度当初時点で約120人に上った。さいたま市は西区の栄小学校など4校で24年度から「さいたま市放課後子ども居場所事業」を始める。保護者の就労などの要件を必要とせず、午後5時まで遊べる利用区分を設けた。保護者が就労や求職活動をしている場合は午後7時まで利用できる。さいたま市の幼児・放課後児童課の担当者は「パート勤務をしている保護者などからは、夏休みをはじめとした長期休業期間のみ放課後児童クラブを利用したいという声も多く、様々な家庭のニーズに対応できる仕組みが必要だ」と話す。公立学童は経済的な負担が少ない一方、利用時間や学年などに制限があり、保護者の就労状況によっては利用できない場合もある。そこで自治体が注目するのが企業などが運営する民間学童だ。預かる時間は柔軟に対応し、独自のサービスを提供する学童が増えてきた。ネクスファ(千葉県柏市)が運営する学童は学習塾の機能も併せ持つ。塾を利用する場合は夕方から算数や国語、英語などを学ぶ。社会課題について調べたり発表したりといった場も設ける。4月には新たに流山市に教室を設け、多くの共働きの子育て世帯が流入している地域で事業の拡大をめざす。工作やプログラミングなどプラスアルファの体験を盛り込み、親世代からの支持を伸ばしているのは習い事一体型の学童保育だ。ウィズダムアカデミー横浜上大岡校(横浜市)にはランドセルを背負った子どもたちが笑顔で集まってくる。ただ見守るだけでなく、子どもたちが自宅で過ごすようにほっとできる環境をつくり出すため挨拶にも工夫をこらす。性別や学年、家庭環境も異なる子どもたちが楽しく過ごすために、力を入れているのが月ごとに選べるアクティビティーだ。ピアノや書道など定番の習い事からプログラミングや理科実験教室まで、保育時間中に様々な体験ができる。習い事や教室をこれまでどおり続けたいという場合は習い事の付き添いにも対応する。平日は送迎ができないという理由で習い事を諦めている家庭も多い。同校は「家庭では家族の会話をゆっくり楽しむ時間にしてほしい」とし、子どもの成長をともに見守る二人三脚のパートナーとなりつつある。全国の学童への登録児童数は23年度、過去最高を更新した。需要が高まる中、学童は子どもが家庭の代わりに過ごす居場所であるだけでなく、学びや成長ができる場所としての役割も求められている。 *10-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240225&ng=DGKKZO78736650U4A220C2EA5000 (日経新聞 2024.2.25) 民間保育園「学び」競う、待機児童減で定員割れに 学研HD・JPHDが体操や英会話 民間保育園を運営する企業が習い事サービスに力を入れている。保育の受け皿の拡大や就学前の子どもの数の減少で保育園に入れない「待機児童」が減少。地域によっては保育園が入園希望者を取り合う構図も出てきた。運営各社は体操教室や英語教育などで魅力を高め、収益的に経営が成り立つ子供の数を確保する「持久戦」を迫られている。こども家庭庁は毎年1度、待機児童数を調査している。最新の2023年4月時点のデータによると、待機児童の数は2680人と17年の2万6081人をピークに9割ほど減少した。こども園を含む保育所などの数は22年比345カ所増の3万9589カ所。定員に対する充足率は89%と全体としては「定員割れ」の状態だ。待機児童問題が深刻だった時代は、施設を開けば定員が埋まった。現在はサービスの質を上げなければ入園希望者を集められなくなっている。保育各社は保育料とは別に料金を徴収して様々な保育サービスを提供し始めた。学研ホールディングス(HD)は一部の園で22年度から体操教室を始めたほか、23年度には英会話プログラムも始めた。43施設中、埼玉や神奈川県内など26施設で提供している。週1回1時間のレッスンで、月6300円。外国人講師のビデオ通話で保育所とつなぎ、保育士が子どもたちの様子を見ながらサポートする。最大手のJPホールディングスは、英語や体操、ダンス、音楽などが習えるサービスを用意。ポピンズも、英語やアートなどの習い事プログラムのほか、アフリカの国立公園や水族館とオンラインでつなぎ、陸や海の動物の生態系を学べるプログラムを導入した。AIAIグループは、22年4月から運動プログラムと算数講座をセットにしたカリキュラムを提供している。運動は映像に映った講師のマネをして10分ほど体を動かす。運動後に机に座って、図形や引き算などの問題をプリント中心に解いていく。保育士が見回り、ヒントを出したり、丸付けしたりする。「付加的保育」と呼ばれるこうしたサービスは、保育園が立地する自治体によっては提供しにくいケースがある。認可保育所は、法律上で児童福祉施設とされる上、主に自治体からの補助金で運営されている。福祉的な観点から「平等」が重視され、保育料とは別にサービス料金をとる付加的保育を認めない自治体が多いからだ。こうした事情から、学研HDの英会話プログラムは保育時間外に実施し、講師などの派遣は外部に依頼。希望する保護者が直接、講師を派遣する事業者と契約する形をとっている。認可保育所と異なり、幼稚園や認可外保育所は比較的に自由に教育サービスを提供でき、預かり時間後も英会話やサッカーなどの課外授業を充実させている施設が多い。横浜市や川崎市のように認可保育所で付加的保育を認める自治体もある。JPHDなど保育各社は付加的保育が認められている自治体でのみ提供している。認めていない自治体では保護者が希望していても認可保育所での習い事は受けられない。保育大手の幹部によると、付加的保育を認めていない自治体から「保育所は福祉施設であり教育を施す場所ではない」「家庭の経済状況によって保育内容に差が出るため容認できない」と言われたこともあるという。日本経済新聞社が23年10月に実施した「サービス業調査」を通じて大手保育事業者に聞き取ったところ、同5月1日時点で「定員割れしている施設がある」と回答した企業は全体の52.8%(19社)にのぼった。定員割れしている施設数が「100施設以上」と答えた企業も2社あった。AIAIグループの貞松成社長兼最高経営責任者(CEO)は「待機児童の減少を受け、保護者が保育所を選ぶ時代になっている。魅力向上のために付加的保育が必要だ」と話す。収益的に経営が成り立たない場合、民間企業が事業撤退し、結果として子供の受け皿が不足する逆戻りの事態も懸念される。子どもの政策に詳しい日本総研の池本美香上席主任研究員は「これまでの政策が待機児童解消に重点が置かれており、保育内容の議論が置き去りにされた。習い事の質のチェックや、経済的な背景による教育格差などこども家庭庁が率先して実態調査し議論すべきだ」と話す。 *10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15 (朝日新聞 2024年2月26日) 訪問介護報酬、実態に見合う改定か 新年度から基本報酬引き下げ、「加算」は手厚く 「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した」。岸田文雄首相がこう強調する新年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに反発が広がっている。現場からは「在宅介護は崩壊する」との声も。 ■「セットで考えて」国は強調 訪問介護の基本報酬はなぜ引き下げられたのか。厚生労働省は二つの理由をあげる。一つは、訪問介護で介護職員の賃上げにあてる「加算」を手厚く配分したことだ。今回の改定では賃上げのため報酬全体を1・59%増という、例年を大きく上回る水準で引き上げた。このうち介護職員の賃上げに0・98%分、残る0・61%分は「介護職員以外」の処遇改善に配分。介護職員の賃上げは報酬への「加算」で対応すると決めた。加算は、職場環境の改善や研修の実施などの要件を満たせば基本報酬に上乗せできる制度。今回、職員のうち介護職員の割合が高い訪問介護では、全サービスで最も高い加算率(最大24・5%)を設定。一方、基本報酬の増減を左右する0・61%分は、事務職など介護職以外が多いサービスに手厚く配分された。もう一つが訪問介護の収支差率(利益率)の高さだ。基礎データとなる「経営実態調査」で訪問介護は2022年度決算が7・8%と、全サービス平均の2・4%を大きく上回った。特別養護老人ホームがマイナス1・0%、介護老人保健施設が同1・1%で赤字となる中、訪問介護は「かなり良かった」と同省はみる。訪問介護サービスは総費用も大きいため、「収支差率の全体を眺め、調整した」(同省担当者)結果、訪問介護の基本報酬は引き下げることになったと説明する。ただ厚労省は、加算を取得していない事業所が新たに取得できれば、基本報酬が下がっても報酬全体では11・8%増になるモデルケースも例示。みとりや認知症関連の加算も充実したとし、「改定は基本報酬だけでなく、全てをセットで考えてほしい」と強調する。加算がとれなければ報酬は減る。同省によると、従来の処遇改善加算を取得できていない訪問介護事業所は約1割、約3千事業所。同省は、3種類あり複雑化した処遇改善加算を統合し、手続きも簡素化して取得を促す。取得が難しい小規模事業者には「伴走型で相談できる仕組みをつくりたい」としている。 ■「高い利益率」根拠に疑義 しかし、厚労省の説明には反論が出ている。引き下げの根拠とした利益率の高さ(7・8%)について、元になった厚労省の経営実態調査のデータに疑問の声があがる。現場関係者の団体などは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった集合住宅に併設され、効率よく訪問ができるタイプの訪問介護事業者の利益率が高いため、全体の数字が押し上げられていると指摘。地域を一軒一軒まわる事業者とは経営状況がまったく異なるとし、カテゴリーをわけて検討すべきものだ、と国を批判する。さらに、経営が厳しい小規模事業者はこの種の調査に応じる余裕がないとし、結果は実態を反映していないとする。経営実態調査では、延べ訪問回数別の分析がある。それによると、訪問回数が月「2001回以上」の事業所は利益率が13%台なのに対し、「201~400回」では1%台と、大きな開きがある。全体として、集合住宅併設型や都市部の大手事業所といった訪問回数が多い大規模な事業所の利益率が高く、小規模事業所が苦しい傾向をうかがわせるデータだ。処遇改善加算を含む全体で考えればプラスだという説明にも異論が相次ぐ。そもそも取得には様々な要件があり、小規模事業所にとって事務負担の重さも指摘される。厚労省は事務負担を軽くして取得を促すとしているが、どの程度効果があるかは未知数だ。さらに、改定後に最も高い区分の加算を取得しても、基本報酬の減額と相殺され、収入が減ってしまう場合がある。NPO法人「グレースケア機構」代表の柳本文貴さんは、事業所の訪問介護事業の23年分の実績をもとに現行と改定後の報酬を試算。処遇改善加算分では年間約144万円の増収だったが、基本報酬引き下げで年間約222万円のマイナスに。全体では年約78万円の減収となった。柳本さんは「厚生労働省が『処遇改善を含めるとプラス』と強弁するのはおかしい。頑張って処遇改善に取り組み、すでに上位の加算を取っている事業所は収入減になるだけだ」と話す。 ■現場は反発「終わりのはじまり」 「基本報酬引き下げは暴挙」。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」(上野千鶴子理事長)、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」(樋口恵子理事長)など5団体は2月初め、引き下げに抗議し、撤回を求める緊急声明を公表した。2400を超す個人・団体から賛同を得た、としている。呼びかけ団体となった「ケア社会をつくる会」世話人の小島美里さんは記者会見で、「在宅介護の終わりのはじまり」と強い危機感を表明した。事業者や介護家族などからも抗議は相次ぐ。NPO法人「サポートハウス年輪」理事長の安岡厚子さんは、ヘルパー不足が原因で昨年春、訪問介護事業所の休止を余儀なくされた。「(介護職員の)地位向上に国が本気で取り組んでいればこんなことにはならなかった」と語り、引き下げは「言語道断」だとする。公益社団法人「認知症の人と家族の会」前代表理事の鈴木森夫さんは、介護を担う家族の介護離職防止のために訪問介護は不可欠で、「(引き下げは)介護のある暮らしを崩壊させる」と訴える。訪問介護員(ホームヘルパー)は介護が必要な高齢者宅で調理などの生活援助や身体介護を担う。介護福祉士や、所定の研修を修了した人らが務める。人材が不足し、有効求人倍率は15・53倍(2022年度)。若い世代が入らず、60代以上が約4割。年収は施設などの介護職員より約17万円少ない(介護労働安定センターの介護労働実態調査、22年度)。東京商工リサーチによると、23年の訪問介護事業者の倒産は67件。調査開始以降で最多だった。(編集委員・清川卓史) ■「基本給」増額すべきだった 川口啓子・大阪健康福祉短大特任教授(医療福祉政策)の話 ヘルパーの介護を受け、最期を自宅で迎えたいと考える人は多く、国も在宅介護を進めようとしている。だが報酬は不十分で、介護業界の中でも特に人手不足が深刻だ。事務手続きが煩雑で負担が大きい「手当」にあたる処遇改善加算ではなく、「基本給」の基本報酬を増額するべきだった。担い手は高齢化が進み、利用者や家族からのハラスメントも後を絶たない。事業者は人材紹介会社に多額の紹介料を払って人材を確保している。経営基盤となる基本報酬の減額が誤ったメッセージとなり、人手不足に拍車が掛かる懸念がある。 *10-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1202912 (佐賀新聞 2024/3/2) 漁協役員に占める女性0・5%、19都道府県はゼロ、農水省調査 全国の漁協役員に占める女性の割合が2021年度は約0・5%にとどまったことが2日、農林水産省の調査で分かった。19都道府県では女性役員が1人もいない。力仕事で長時間にわたる漁に出るのは圧倒的に男性が多く、女性の漁業者は少ないのが現状だが、後継者不足が深刻となる中、識者は「漁業や地域の活性化のため、若い世代や女性など多様な担い手が必要だ」と指摘する。調査は、海沿いの39都道府県と琵琶湖がある滋賀県の計40都道府県で、知事が認可した沿海地区の漁協が対象。848漁協の21年度の業務報告書を基に集計した。それによると、848漁協の役員計8346人のうち、女性は21県に計41人。非常勤の監事や理事が大半で常勤理事は1人だった。都道府県別で人数が最も多いのは広島と熊本の5人。続く福井、徳島、鹿児島が4人、岩手など3県が2人、残る13県は1人だった。熊本県は県の男女共同参画計画に基づき、県内の漁協に対し女性リーダーの育成や積極的な女性登用を働きかけている。アサリを専門とする広島県廿日市市の浜毛保漁協では、役員6人のうち2人が女性だ。福井県の雄島漁協(坂井市)は組合員の約半数が海女で役員10人中4人が女性。全5地区のうち4地区から女性を1人ずつ選んでいるという。徳島県で女性役員がいたのは比較的小規模な漁協で、正組合員の女性の割合も2割以上だった。鹿児島県では、水産会社の女性役員が監事に就いている漁協があった。農水省によると、漁業就業者はこの20年ほどで半減し、22年は約12万3千人。このうち女性は約1割に過ぎない。漁業とジェンダーに詳しい東海大の李銀姫准教授は女性の少なさについて、重労働であることに加え「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えが各地にあるといった文化的背景を説明。船や漁協に女性用トイレがない、女性に適した漁具の開発がないなど、環境が整っていないところもあるという。しかし高齢化や過疎化は深刻で、李准教授は「漁村の景観や食文化などの資源も活用して新たななりわい『海業』をつくり、地域を活性化させる必要がある」と指摘。そのためにも多様な視点は重要で「女性や若い人たちが入りやすくすることは、漁業の持続性につながる」と話している。元水産庁審議官で大日本水産会の高瀬美和子専務の話 漁業者は高齢化し、後継者や人手不足にも悩まされている。女性だけでなく若者や外国人など新しい力を取り入れなければ、いずれ立ちゆかなくなる。世界が持続可能な漁業を目指す中、資源管理や、限られた漁獲物の価値を高めるためのマーケティングや商品開発など、活躍する余白はまだまだあるはず。これまでのやり方に固執せず、機械化やマニュアル化、データ活用などで、誰もが参加しやすい漁業の方策を探っていくべきだ。
| 男女平等::2019.3~ | 04:15 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
2023,11,12, Sunday
(1)細田議長と保利元文科省の追悼
唐津市 2022.11.3朝日新聞 2021.11.4読売新聞 (図の説明:前は引き子の法被も粗末だったのだが、保利氏のご尽力でユネスコ無形文化遺産に指定されて山笠の塗り替え費用が国から出るようになったため、少しは豊かになったらしく、山笠の色に合わせて町毎に統一された引き子の絹の法被が見た目も美しくなった) 1)細田前衆院議長の死去について この前の前議員会で衆議院儀長としての元気なお姿を拝見し、「広津さん、頑張ってね」と声をかけて下さっただけに、*1-1のように、メディアが「細田さんが多臓器不全で亡くなった」と報道した時は、「ひどいバッシング続きで苦労が多かったのだろう」と思い、寂しく思った。 細田さんは、「東京教育大学附属駒場高校→東大法学部→通産省→運輸大臣等を勤めた父・吉蔵氏の議員秘書→1990年衆議院選挙で島根県全県区から初当選→11回連続当選」という絵に描いたようなサラブレッドであり、自らの選挙では苦労することのない人だったし、紳士でもあった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E7%94%B0%E5%8D%9A%E4%B9%8B 参照)。 そのため、「一部週刊誌で指摘された女性記者へのセクハラ疑惑」というのは、私が経験したのと同様、本当の性格とは真逆の印象を擦り付けるための週刊誌によるあげつらいだと思われる。また、旧統一教会との接点についても、悪い結論ありきのしつこい質問が多すぎるが、「呼ばれて行ったので、リップサービスをした」というのは本当だろう。 そのため、*1-2のように、自分も経験のある議員仲間は、メディアや野党発の悪評を「またか」と思って気にしておらず、岸田首相は「心から哀悼の誠を捧げたい」「今日までの努力に心から敬意を表す」「様々なご縁で親しくしていただき、先輩としてアドバイスをいただいたことを思い返す」と述べられ、茂木自民党幹事長は「悲しみでいっぱい」と表現され、公明党の山口代表は「自公連立政権をより強固なものにする過程で大きな役割を果たしてもらった」と感謝しておられるのである。 2)保利元文科相の死去について 保利さんも前議員会で度々お会いし、同じ選挙区(佐賀三区)から出ていたため話が通じやすく、選挙区に関する会合等では親しくお話しすることが多かったため、*2-1・*2-2のように、誤嚥性肺炎で亡くなっていたという訃報に触れた時には寂しさを感じた。 保利さんは、「東京教育大附属中学・高校→慶應義塾大法学部→日本精工→日本精工フランス社長→父・保利茂氏の死去で1979年衆議院議員総選挙に佐賀県全県区から立候補し初当選→郵政民営化法案採決で反対票を投じて自民党離党→12回連続当選」という慶応ボーイで、大学時代は陸上部だったそうで、スマートなサラブレッドの一生だった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%9D%E5%88%A9%E8%80%95%E8%BC%94 参照)。 保利さんは、佐賀県全県区から立候補した保利茂氏の選挙を手伝った時、「トラックに荷物を積んで佐賀県中を廻ったが、それでも佐賀方面では殆ど票が入らなかった」とボヤいておられた。佐賀方面は祐徳自動車社長の愛野さん父子の地盤だったからだろうが、金と時間がかかる中選挙区の大変さを垣間見た思いがした。 なお、2005年9月執行の第44回衆議院議員総選挙(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC44%E5%9B%9E%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E7%B7%8F%E9%81%B8%E6%8C%99 参照)については、保利さんは郵政民営化法案採決で反対票を投じたため自民党の公認を得られず、もともと郵政民営化すべきだと思っていた私が自民党公認を得て佐賀3区で闘った。そして、佐賀県連の応援を受けた保利さんが小選挙区で当選し、私は九州比例で当選したが、総選挙後の特別国会で再提出された郵政民営化法案に保利さんたちは賛成票を投じられたものの、自民党を離党されることとなった。 郵政民営化すべき理由は、①国営のままでは郵便貯金を使った国の隠れ債務が発生するため、「隠れ○○」をなくして国の債務は全て国債残高に現れるようにすること ②国営では機動的なサービスができず、サービスも行き届かないこと 等の理由による。しかし、保利さんは自民党佐賀県連の要請で反対票を投じておられたため、自民党佐賀県連は無所属で立候補された保利さんを応援し、ネジレ選挙になったのだ。 その後、2008年に麻生内閣で自民党政調会長に就かれ、2009年8月執行の第45回衆議院議員総選挙では、保利さんが佐賀3区の自民党公認となり、私は九州比例の上位にもならなかったため、みんなの党佐賀3区から立候補して落選したわけである。 3)*2-3の記事で、私がひっかかった場所について *2-3は、①元唐津市議宮崎さんは「先生は厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた」「国のため地域のためを最優先に考え、政治家の範を示す実直な人だった」「唐津、佐賀のために頑張っていただき、本当に感謝の思いしかない」 ②熊本市議は「真面目な人柄で『選挙は情』だとよく話していたのが印象深かった」 ③昭和自動車常勤監査役の福岡修さんは「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」 ④曳山取締会の山内総取締は「誠実で温厚な方だった」「曳山の塗り替えなど省庁との橋渡し役として支えていただいた」 等と語られたそうだ。 もちろんどの人も褒めておられるのだが、①のうち「先生は厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた」と③の「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」というのは、中途半端だったり、徹底しなかったり、厳しくなかったりすれば生き残れないため、当然のことである。 しかし、男性の保利さんの場合は、「自分にも厳しい方だった」と言ってもらえるが、女性の私の場合は、「妥協しない」「優しくない」という批判が加わるため、女性であることにより、本来必要なことと矛盾した要求がなされるのである。 また、②については、選挙は本来なら「政策」が一番大切だが、政策に比べるべきものがない場合には情で決めることになるだろう。しかし、情にはいろいろな要素が入っており、その中には女性への偏見や差別も含まれているため、国民は心してそれを廃すべきである。 なお、④の曳山の塗り替えなどで保利さんが省庁との橋渡し役となっておられたことを、私は現職時代に聞き、それまで高額の費用を町内会が出して町内会費が高かったと言われていたため、無形文化財を支えるために良いことをされたと思っていた。ただし、要求される厳しさと温厚さを両立できるためには、選挙に晒されない秘書がしっかりしていて、憎まれ役を引き受けてくれることが必要なのである。 (2)政治における女性登用と無意識の偏見 2023.3.9日経新聞 2023.6.22日経新聞 2023.6.22西日本新聞 (図の説明:1番左の図のように、世界ではクウォータ制を採用している国が多く、スペインは閣僚の40%以上、フランス・イタリアは下院の公認候補者男女同数・ブラジルも30%以上となっている。その結果、左から2番目と右から2番目の図のように、日本では政治・経済分野の特にリーダー層でジェンダーギャップが大きく、男女平等が進んでいない。1番右の分野別ジェンダーギャップ指数を見ると、政治・経済分野で男女格差が大きく、健康はまあ良いものの、教育は大学以上で専攻選択や大学院進学において男女格差が大きい) 1)日本の政治には女性が少なく世襲議員が多いこと 岸田政権は、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書 2023年版」で日本が146カ国中125位で、特に政治分野が138位と足を引っ張っている状況を改善するためか、「女性活躍」を掲げて東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を示し、第2次岸田再改造内閣で閣僚の女性比率を30%に近づけるよう引き上げられたが、これには、私も賛成だ。 しかし、*3-1のように、少子化対策に育児の実態を反映させようと、2児を育てている加藤元国交政務官をこども政策・少子化担当相に起用されたのは、副大臣を経験していない抜擢人事だからではなく、「(世襲国会議員という特殊な立場で)自分の2児を育てただけで少子化の原因を把握でき、少子化を改善できる」と考えているのなら、子育てを馬鹿にしていると思った。本気で少子化対策を考えているのなら、経験豊富な子育て関係の専門家チームが適任である。 また、首相は、「自民党内に女性議員が少なく、なかなか適任者がいなかった」と漏らされたそうだが、女性5人の閣僚のうち初入閣の3人全員が世襲議員というのも、男性の場合と同様、限られた特殊な経験しかないため問題だ。しかし、自民党の女性議員比率が約1割しかなく、その多くが世襲議員になる理由は、事例を挙げながら以下で詳しく説明するが、根本的には、選挙制度・そこで票を集めやすい候補者の選別と党の公認・メディアの報道の仕方(ここが重要)による国民の投票行動の結果と言わざるを得ない。 なお、6月に閣議決定された児童手当の拡充などを含む「こども未来戦略方針」の財源確保ができていないとされているが、兆円単位の無駄使いが頻発しているのに、政府が社会保障の歳出削減や他の社会保険から少子化対策財源を出すというのは、社会保障を軽んじていると同時に、現在でも不足している他の社会保険財源の流用にほかならない。また、「子ども真ん中・・」というキャッチフレーズは、「子どもが生まれたら、(特に)母親が犠牲になれ」ということであるため、それなら子どもは作らずに仕事に専念しようという女性を増やすだけであろう。 その極端な事例が*3-6で、内容は、自家用車内に児童が放置されて死亡するケースが相次ぐ中、このような事を防ぐ目的として埼玉県議会自民党が9月の定例議会に提出した埼玉県虐待禁止条例案(別名:「埼玉のぶっ飛び条例」)だ。 その内容は、「小学3年生以下の子を自宅等に残したまま外出する(ゴミ捨ても含む)」「18歳未満の子と小学校3年生以下の子だけで留守番させる」「小学生だけで公園に遊びに行かせる」「児童を1人でお使いにやる」「小学校1~3年生だけで登下校させる」を「虐待に当たる」として禁じようとしたものだが、これは子どもを過保護にかつ自由を束縛しながら育ててしまうと同時に、実質的に共働きでは子育てできないようにする条例である。そのため、多くのオンラインによる反対署名で廃案になったが、定例議会に提出する前に、内部で理由を説明して反対できる県議がいなかったのが問題である。 従って、これらの矛盾に平気でいられるのは、年金等の社会保障に頼る必要のない特殊な環境で育ち、育児・介護を含む家事はこれまでもしなかったし、これからもする予定のない(多くは男性の)議員であろう。 2)「女性ならではの感性」を強調すると問題になる理由 *3-2は、①岸田政権は新たな布陣で女性登用への消極姿勢を転換した ②男性だけだった自民党4役人事で小渕優子氏を選対委員長に就けた ③首相は自信に満ちた表情で「女性ならではの感性・共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」と語った ④女性登用の象徴的存在で首相が「選挙の顔」と称した小渕氏は「政治とカネ」をめぐる問題がある ⑤今回の内閣改造で首相を含む大臣20人のうち世襲議員は8人 等と記載している。 世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書」で日本も順位を上げる目的だったとしても、①はよいと思う。しかし、②④のように、小渕優子氏は総額約3億2千万円に及ぶ架空の寄付金を関連団体間で計上したり、支援者向けに開いた「観劇会」の収支を改竄したりして元秘書が政治資金規正法違反(虚偽記載・不記載)で起訴され、罪を認めている。 私は、何のために架空の寄付金を関連団体間で計上したのか不明であるため、小渕氏の関連団体の虚偽記載・不記載が重い罪なのか否かは判断しかねるが、金額が大きいだけに、元秘書のみに罪を負わせて「自分は全く知らなかった」というのはあり得ないと思った。そのため、謝るよりも前に、何のためにそれを行い、それは重い罪に当たるのか否かについて説明すべきだったのだが、そのような時に、父の時代からの元秘書が一人で罪をかぶって小渕氏には影響が及ばないようにしたのは、考え方によっては世襲議員の特権である。 このように、最初から億単位の金があり、熟練した父親時代からの秘書がいて当選回数を重ね易いのが世襲議員である。そして、適材適所か否かは問わず、当選回数を重ねれば大臣や党内の重要ポストにも就いていくため、それが地元に還元されることを期待して、地元は弔い合戦と称して世襲議員を立候補させ、先代に続いて応援する。その結果、⑤のように、内閣は首相を含む大臣20人のうち世襲議員が8人ということになるわけである。 さらに、麻生元首相が2008年9月に最初に小渕優子氏を内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画・公文書管理・青少年問題・食育)として登用した背景には、将来、世襲議員として立候補する自分の息子の面倒をしっかり見てもらいたいという意図があったと言われており、世襲議員同士の助け合いもあるようだ。 *3-3-1は、⑥首相の「女性ならではの感性や共感力を十分発揮しながら仕事をしていただきたい」「土屋品子復興大臣には、女性ならではの視点を最大限に活かし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらう」という言葉は、「ステレオタイプの助長や無意識の偏見」 ⑦「あくまでも適材適所。我が党の中に女性議員は少ないという指摘があったが、より増やしていかなければいけないという問題意識は認識している」 ⑧「現在活躍している女性議員もそれぞれ豊富な経験を持ち、優秀な人材は沢山いるが、今回は経済・社会・外交及び安全保障の3つの柱を中心に活躍できる方を選んだ」 ⑨「女性ならでは」という表現が意味するのは、「女性は育児をするもの」「女性特有の気配り」ということであり、無意識の偏見をばら撒き追認している ⑩第2次岸田改造内閣は、19の閣僚ポストのうち女性は5人で26%、3割に達せず ⑪男性優位組織の過去の成功体験に基づいた構造を変える必要がある」 としている。 *3-2の③と*3-3-1の⑥は、首相は「女性ならではの感性・共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」と語られ、これが「ステレオタイプの助長や無意識の偏見」と言われる」理由は、女性は女性独特の感性や共感力しか持てないという前提があるからだ。 例えば、現実は、生活者や消費者としての視点は、女性だから持っているわけではなく、多くの場合、男女の性的役割分担によって消費・生活・家計を担当している女性が多く、男性は消費・生活・家計を担当していないから持っていないのである。しかし、これを是としているわけではないため、「女性ならではの感性」を強調することは、⑨のように、「ステレオタイプの助長」になるのである。 また、「女性ならではの感性」というのは、(私は思いつかなかったため)「女らしさ」で調べてみたところ、i) 淑やか(態度・服装・話し方・声・雰囲気等) ii) 慎ましい iii) 優しくて細やか iv) 感情豊か v) 子供を護ろうとする本能(母性)が強い vi) 本能的(男性のように理屈や理性を先行させない) vii) 嫉妬は女の常(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%95 参照)等が書かれていた。しかし、これは大した教育も受けられず、婚家に入って子を産み育てることに専念させられた時代・階層の女性の話であって、現在は事情が全く異なるわけである。 例えば、学問や仕事をする上で、慎ましかったり、感情的で本能的であったりすることは、邪魔にはなっても長所にはならない。また、淑やかで優しい話し方などとして、前置きや敬語・謙譲語(使い方の誤りもよく見かける)の多すぎる話し方をされるのも、忙しい時にいらいらさせられ、「要するに何?結論から言って」と思う。つまり、「女性ならではの感性(=女らしさ)」とは、社会的に作られた性(ジェンダー)そのものであって、それをすべての女性に押しつけるのは、論理的で男性よりも優秀な仕事をする女性も多い中、女性蔑視や女性に対する「無意識の偏見」を助長するのだ。 なお、「嫉妬」という言葉は女偏なので、いかにも女性特有のような印象を与えるが、一夫多妻ならともかく、男性の嫉妬も著しく多い。そのため、文字や日本語(漢字は中国語)の中に潜む女性に対する偏見も洗い出すべきで、これは英語では既に行われているのである。 結論として、⑦⑧のように、豊富な経験と能力を持つ優秀な女性議員を増やすことは必須で、そのためには、⑩のように、少なくとも3割の女性議員や閣僚はいるべきである。そして、⑪の男性優位組織が日本でも成功していなかったことについては、後で例を挙げて記載する。 3)理工系大学「女子枠」の公平性について *3-3-2は、①2024年度入試は理工系学部を中心に「女子枠」を設ける大学が多い ②我国では理工系分野で女子の人材育成が必要 ③東京理科大はダイバーシティー推進に力を入れ、女子の少ない工学系3学部16学科に『総合型選抜(女子)』を設けて理工系分野への女子の進学を後押し ④まず大学全体の入学定員の1.2%弱にあたる各学科3人計48人まで、将来リーダーシップを発揮する人材として意欲・向上心のある女子学生を受け入れ ⑤選考方法は調査書・志望理由書等で書類審査を行った上、面接・口頭試問と小論文を実施 ⑥意欲や目標のある人ほど大学入学後も自分を高め、リーダーシップを発揮する人材になり得る ⑦男女で視点や観点が異なるため、研究で多様な角度からの気づきが出て、良い刺激と技術革新を期待 ⑧理工系女子のロールモデルが少ないため就職や卒業後を心配する保護者がいるが、今は理工系女子は活躍の場が多く企業から引く手あまた ⑨女子の少ない学問分野が女子に不向きなわけではなく、『総合型選抜(女子)』は大学からの歓迎の証しということを高校の先生や父母に知っていただきたい ⑩2024年度入試で東京工大・東京都市大等も女子枠を新設、東京工大は2025年度入試で女子枠を募集人員全体の約14%にあたる143人まで拡大 ⑪国内で最初に女子枠を設けた名古屋工大も2024年度入試で女子枠を拡大 ⑫奈良女子大は2022年度に国内の女子大初の工学部開設 ⑬女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化 と記載している。 このうち、⑦の「男女で視点や観点が異なるため、研究で多様な角度からの気づきが出る」というのは、岸田首相が言われた「女性ならではの視点を最大限に活かして欲しい」という言葉とどう違うかと言えば、学問では男性と対等かそれ以上の成績を持ちながら(ここが重要)、男女の性的役割分担によって消費・生活・家計を担当している女性の視点を活かせば、「研究で多様な角度からの気づきが出て技術革新に繋がる」ということである。 それなら、①③④⑤⑥⑩⑪のように、「『女子枠』など作らず、通常の入試で入るのが公平だ」という批判があるが、⑧のように、理工系女子の良いロールモデルが少ないため卒業後の就職や結婚を心配する保護者がいたり、⑨のように、女子の少ない学問分野は女子に不向きだと考える高校教師・保護者・周囲の環境があったりするため、本来は能力があるのに理工系に進学できる学力を備えた女子が少なくなるからである。その例として、⑫のように、女子大には理工系学部のないところが多いし、女子高には男子高と違って理系進学コースのないところが多い。 しかし、これまでも今も、日本の工業は、素材や部品には(マニアックなくらい)強いが、最終製品に弱かった。その理由は、最終製品は生活環境の中で使われ、性的役割分担の下では多くの最終製品が女性に選択されるため、技術者の中に消費・生活・家計を担当している女性の視点がなければ、生活にマッチしたデザインのよい製品ができないからである。 このように、②のように、「理工系分野で女子の人材育成が必要」で、⑧のように、「理工系女子は活躍の場が多く、引く手あまた」で、⑬のように、「女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化している」が、女子学生の周囲の認識や女子の一般入試における実力がついて行っていない現実があるため、「女子枠は不公平」とは言えないのである。 4)副大臣26人・政務官28人の計54人は全員男性で女性0だったこと *3-4・*3-5は、①副大臣・政務官54人の人事で女性は0 ②首相は「チームとして人選した結果」と説明したが、内閣のチームなら閣僚・副大臣・政務官を合わせた政務三役の構成に目を光らせるべき ③多様な国民の意見を政策決定に公平・公正に反映させるため、政治分野での女性参画の拡大は重要 ④「指導的地位に占める女性の割合を2020年代の可能な限り早期に30%程度」とするとしているが、第4次計画の「2020年30%程度」からは後退 ⑤自民党には衆院21人・参院24人の計45人の女性議員がいるが、推薦名簿に女性を入れない派閥が多かった ⑥閣僚になるには副大臣・政務官として経験を積んで専門性を磨いておくことが有用で、女性を副大臣・政務官に就けることは女性閣僚を増やす道 ⑦女性比率が2割に満たない国会議員構成は変えなければならず、国際的に低い水準にある女性議員の数を増やすことも不可欠 ⑧政治分野における男女共同参画推進法は、政党に男女の候補者が均等になる目標設定を求めるが、衆院議員に占める女性割合は1割 ⑨小選挙区の公認候補は1選挙区1人に限られるため、現職を優先すると大半を占める男性を女性に交代させるのは容易でないが、比例代表なら女性を優先して名簿上位にすることが可能 ⑩政治活動・選挙運動中のハラスメント被害には女性が遭いやすいため、議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」は検討に値する 等と記載している。 このうち、①②③④⑥⑦⑧⑨については、全く同感だ。また、⑤については、自民党の派閥の多くが副大臣・政務官の推薦名簿に女性を入れなかったのは、何故だろう? 男性の待機組が多いからなのか、女性は標的にされやすいからなのか、その理由が不明である。 また、⑨に付け加えたいことは、まず比例代表で女性を名簿上位にして当選させ、その後、空いた小選挙区の公認候補にしていけば、現職として活動した後であるため状況がわかっており、小選挙区でも公認すれば当選し易くなるということだ。 これに対し、「比例代表で女性を名簿上位にすること」や「クオータ制」も女性優遇との批判があるが、⑩のように、女性は、そもそも公認されにくかったり、選挙運動中にハラスメント被害に遭い易かったり、良い政治活動をしてもメディアはじめ一般の人のステレオタイプな女性蔑視や無意識の偏見によって評価されなかったりするため、議席の一定割合を女性にする「クオータ制」は、それがなくても議席の30~40%以下になる性がなくなるまで行う必要がある。 (3)一般社会における女性登用と職場における女性蔑視 *4-1は、①2022年度の日本の管理職(企業の課長相当職以上)の女性割合は12.7% ②2022年10月時点で従業員10人以上の企業6000社を調査したところ、企業規模別では従業員数10~29人の企業が21.3%と最大 ③300~999人の企業は6.2%、1000~4999人では7.2%、5000人以上では8.2%と大企業の女性管理職割合が低い ④2021年の女性管理職割合で、日本は13.2%で、スウェーデン43.0%・米国41.4%・シンガポール38.1%と主要15カ国最低 ⑤政府は2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標で、2022年から常用労働者301人以上の企業に男女賃金差の公表を義務づけた ⑥厚労省の担当者は「女性管理職の登用は息の長い取り組み」「引き続き登用率の向上を呼びかけたい」と話す 等と記載している。 また、*4-2は、東大の吉知郁子教授が、⑦雇用は労働者の経済的安定・社会資源の分配・自己確立・成長機会や居場所の提供・孤立防止等の効果を有す ⑧現役世代のセーフティーネットは、良質の雇用確保が最重要課題 ⑨良質な雇用の理想とされてきたのは大企業の正社員で、終身雇用・年功序列・手厚い手当で労働者と家族の生活を支えた ⑩1970~80年代には、男性稼ぎ主が主婦と子ども2人を養う世帯が標準モデルとされ、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度などによりこのモデルを補強した ⑪日本型雇用慣行の標準モデルは、自分自身や家族のケア責任を負わず、仕事に無制限に時間と労力を割ける無限定正社員 ⑫労働者本人は安定雇用と引き換えに長時間労働や転居も伴う頻繁な異動を甘受せねばならなかった ⑬判例は転勤命令を拒否した場合は懲戒解雇も有効とし、長期雇用や高待遇を保証しない企業でも、その解釈は同じ ⑭こうした価値観は健康障害や格差の固定と増大、多様性の阻害といった弊害ももたらした ⑮生活を支えるはずの仕事がストレスを生み、健康を害し生命を失う原因にもなった ⑯女性の労働力率が出産・育児期に落ち込み、出産離職率は約3割に及ぶ ⑰女性が正規雇用で働く割合は20代後半の約60%がピークで、年齢上昇につれて低下するL字を描き、女性労働者の過半数は非正規で働く ⑱晩婚化・非婚化・超高齢化・少子化という不可逆な社会変化が「標準」世帯を過去のものにしている ⑲労働力の先細りや教育水準の高まりを考慮すれば、性別・年齢・婚姻状態を問わず健全な雇用機会を確保することが必要 ⑳日本では男性の有償労働時間が突出して長く世界最長で、その裏返しとして、家事・育児などの無償労働時間は最短で男女格差は5.5倍 等と記載しておられる。 このうち①の課長は「上層部と社員の橋渡しをする中間管理職」であり、⑨のように、日本企業は「年功序列」「終身雇用」のため課長になるまでの平均勤続年数が20年で40代が中心、外資系企業は経験・能力等の「実力」を重視して活躍できる人材をすぐ戦力として適切な役職に割り当てるため「30歳で中間管理職は当たり前」であり、日本企業よりも管理職の平均年齢が低い(https://www.101s.co.jp/column/middle-management-age/ 参照)。 また、IT導入で現場の情報は上層部に直接伝えることが可能になり、フラットな組織の方が状況変化に素早く対応できるため、上層部と現場社員の橋渡し役である中間管理職は最小限に減らすことが可能だ。そのため、中間管理職を管理職に入れるべきか否かは疑問のあるところだ。 それにしても、②③のように、従業員10人以上の企業6000社で、課長まで入れても管理職に占める女性割合は2022年度は12.7%にすぎず、企業規模別に見ると従業員数10~29人が最大の21.3%、300~999人は6.2%、1000~4999人は7.2%、5000人以上は8.2%と、大企業で女性管理職の割合が低い。そうなる理由は、男性社員を採用しやすい大企業ほど男性優先で採用し、研修や配置でも男性を優遇しているためで、これは、男女雇用機会均等法違反である。 そして、④のように、2021年の比較で、女性管理職割合は、日本は主要15カ国のうち最低であるにもかかわらず、⑥のように、厚労省担当者は「息の長い取り組み」「引き続き登用率の向上を呼びかける」などと、やる気のない態度なのである。 なお、政府は、⑤のように、2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標を掲げ、2022年から常用労働者301人以上の企業に男女間賃金格差の公表を義務づけたが、公表しただけで女性役員比率が上がるわけではない上、300人以下の企業の男女間賃金格差は容認されているのである。しかし、企業規模で分けるべきではない。 そして、⑦⑧のように、雇用が労働者の経済的安定・社会資源の分配・自己確立・成長機会や居場所の提供・孤立防止等の効果を有し、現役世代のセーフティーネットとして良質の雇用確保は最も重要であるにもかかわらず、女性労働者はその良質の雇用から除外されているのである。 そして、⑩の「1970~80年代に男性稼ぎ手が主婦と子2人を養う世帯を標準モデルとし、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度等によってこのモデルを補強した」というのは、⑲の教育水準の高まりは戦後の男女平等型教育制度の開始から始まっており、1970~80年代には、既に男性と同じかそれよりも「実力」のある女性も多く生まれていたが、日本企業が良質の雇用機会を与えなかったため、外資系企業で働いていたという事情があり、第3号被保険者制度等は不公平の上塗りでしかなかった。 しかし、どこで働いても、⑪の「仕事に無制限に時間と労力を割けること」が標準だったため、⑫⑬のように、育児・介護はじめケア労働をする人に対するケア労働罰は確実に存在した。そして、⑯のように、女性の労働力率は出産・育児期に落ち込んで出産離職率は約3割に及び、⑰のように、女性が正規雇用で働く割合は年齢が上がるにつれて低下するL字カーブを描き、女性労働者の過半数は非正規で働かざるを得ない状況になっているのである。 そのため、⑱のように、静かに非婚化・晩婚化・無子化が進み、その結果として少子高齢化が進行したのであるため、⑲の性別や婚姻状態を問わない健全な雇用機会の確保は、1960~70年代から必要だったのだ。そして、政治が遅れ馳せながらやっと著しい少子化に気づいた時には、既に手遅れだったのである。 しかし、そう言う私でさえ、近年よく言われる「女性は生理痛が大変で、更年期障害があり、その間に長期育児休暇をとる」というのが本当であれば、やはり女性は戦力にならず、採用・研修・配置で配慮してもやり甲斐がないため、男性を雇いたいと思う。そのため、「すべての女性が、働けないほど生理痛が大変で、更年期障害もあり、それに対する対処方法はない」などという誤った触れ込みをメディアが大々的に行うと、実質的に女性差別を助長することになるのだ。 (4)外国人の登用について 1)政府有識者会議の最終報告書について 2023.11.21、2023.11.20日経新聞 2023.11.25東京新聞 (図の説明:左図のように、日本側にニーズがあるため、外国人労働者総数は増えて180万人以上になっているのだが、中央の図のように、技能実習生の所得は高卒非正規より低く、家族帯同もできない。そのため、右図のように、政府の有識者会議が、技能実習から育成労働に変更する新制度案の最終報告書を出したが、就労期間を3年に限定し、対象分野は特定技能と同じに限定し、《日本語能力と技能が要件を満たせば》1年間で転籍可能にするなど、未だ外国人労働者に対する制限の多い人材鎖国状態である) *5-1-1は、①厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪が相次ぎ人権侵害の指摘がある ②政府有識者会議は、国際貢献を目的とした「技能実習制度」を廃止し、外国人材の確保と育成を目的とした「育成就労制度」にする最終報告書をまとめた ③基本的に3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成 ④受け入れ職種は介護・建設・農業等の分野に限定 ⑤特定技能への移行には技能と日本語試験の合格という条件 ⑥「転籍」は1年以上働いた上で一定の技能と日本語の能力があれば同じ分野に限り認める ⑦実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日しているので、日本の受け入れ企業と費用を分担する仕組みを導入 ⑧農家は新たな制度に期待しつつ、雇用主の負担が増えることを懸念 ⑨1年以上働いていること等を要件に「転籍」を認めるので人材流出を懸念 ⑩「日越ともいき支援会」には、職場での暴力・残業代未払い・妊娠による雇い止めなど実習生からの相談が多く、今年に入って保護した人数は127人。「海外の若者たちが日本に来てよかったと思う制度にしないといけない」と話す ⑪野村総研の木内エグゼクティブ・エコノミストは、「人権侵害の温床は『転籍』問題で、条件が緩和されることで企業も従来以上に実習生の人権に配慮することになる」「日本企業にとっては人材を確保していくための重要な仕組みだが、企業がコストをかけて技能を習得させる努力をしても転籍されるという問題が出る可能性もあり、その場合は国が支援することも検討材料」 ⑫日本は、賃金が上がらず円安も進んで、待遇や働く環境を改善しなければ実習生が来てくれない状況なので、日本経済を支えてもらう長期の視点で見直す必要がある 等としている。 これに加えて、*5-1-2は、⑬最終報告書は現行の厳しい転籍制限で「人権侵害が発生し、深刻化する背景・原因となっている」と記載 ⑭政府有識者会議は、「転籍」の制限期間は現行「3年」から「1年」への緩和を原則としつつ、当分1年を超える制限を認める等の「経過措置」の検討を求めた ⑮政府有識者会議が転籍制限期間延長等の経過措置を「検討」としたのは、地方の事業者や自民党内から「人材が都会に流出する」等の声が相次ぎ、「懸念への対応が必要」と判断したため ⑯経過措置の「当分の間」がどれだけ続くかも透明 ⑰技能実習は2023年6月末時点で全国に約36万人在留、特定技能は2023年6月末時点で約17万人が在留 としている。 日本国憲法は22条第1項で、「何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択 の自由を有する」 と職業選択の自由を保障しており、労働基準法は3条で「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定め、労働組合法は5条2項4号は「何人もいかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われない」とし、職業安定法3条は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない」とし、外国人であることを理由に差別的扱いをしてはならないと規定している。 しかし、①⑩⑪⑫⑬のように、技能実習生は転籍が制限され、人権侵害が発生しても我慢するか、失踪するかしか方法がなく、これが外国人労働者に対する人権侵害が深刻化したり、待遇や働く環境が改善されない背景・原因となっているため、転籍の自由を認めることは重要である。 そのため、⑤⑥⑭⑮⑯のように、政府有識者会議が特定技能への移行に技能と日本語試験の合格という条件を設け、「1年」であっても「転籍」に制限期間や「経過措置」の検討を求めたのは、外国人労働者に差別的労働条件を押しつけ、人権侵害する状況を温存することになる。 これに対し、⑦の「実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日している」というのは、メリットがあるから外国人労働者を受け入れている日本企業が費用を全額負担するのは当然であり、その金額が高すぎるのなら、それこそ日本政府が相手国政府に交渉して下げてもらうべきである。 また、⑧⑨のように、農家が「雇用主の負担が増える」「転籍で人材流出する」等を懸念しているのであれば、i)農協その他の派遣労働事業者が外国人労働者を雇用し、繁忙期の農家に派遣することによって生産性を上げ、外国人労働者の所得を上げる ii)農業法人が外国人労働者を雇用して大規模な農業を行い、自ら及び外国人労働者の所得を上げる iii)外国人労働者にも独立して日本の農業を担えるという夢を与える 等、外国人労働者を使い捨てしなければ、日本で農業に従事したい外国人は多いと思うし、新しい作物を事業化することも可能であろう。 そのため、②のように、政府有識者会議が建前と本音の異なる「技能実習制度」を廃止し、「育成就労制度」に移行する最終報告書を纏めたことは評価するが、③のように、「3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成」するには、日本人と同様、働きながら夜間中学・高校に通う方が効率的で、雇用主の負担も少ない。 さらに、⑰のように、2023年6月末時点で、技能実習約36万人、特定技能約17万人が在留していても、④のように、受け入れ職種を介護・建設・農業等の分野に限定しているため、保育や高齢者の生活援助はじめ政府が思いつかないような多くの産業で外国人労働者を獲得できず、その皺寄せがケア労働をしている女性にかかっていることも忘れてはならない。 2)日本は外国人に「選ばれる国」になれるのか? Nipponcom 出入国在留管理庁 2022.3.23GlobalSuponet (図の説明:少し前のデータになるが、左図のように、国籍別技能実習生の数は、2017年にベトナムが1位になっているが、現在は円安と他国の賃金上昇で日本の優位性が下がっている。このような中、中央の図のように、2019年に「特定技能」という在留資格を作ったが、特定の産業分野に限られ、「技能実習」から「特定分野」に移行するのにも要件を課している。その特定分野は、右図のように、細かく制限されているが、これは日本国内で労働力が余っている時ならまだわかるものの、少子高齢化で人手不足の時代には合わない) *5-2-1は、①「選ばれる国」になれるか否かは今が正念場で、外国人が歓迎されていると感じる環境提供が必要 ②職場や地域社会で外国人が共生できる教育・福祉の基盤づくりが急務 ③6月に「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やし、永住に道を開いて外国人労働者受け入れ政策は今や転換点 ④日本には総人口の2%、約300万人の外国人が暮らして第2世代も社会に出始めている ⑤日本語がままならないまま社会に放り出されて疎外感を感じ、日本社会に溶け込めない外国人を放置しておくのはリスク ⑥浜松市は外国人家庭を訪問して相談に応じるなどきめ細かな支援で学校に通っていない子を0にしているが、多くの自治体はそこまで手が回らない ⑦日本国憲法は義務教育の対象を「国民」としているが、日本は「すべての者」への教育提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約に批准しており、国籍を問わず子に教育を受けさせるのは政府の責任 ⑧外国人がどこでも教育・福祉を受けられるようにすべき ⑨「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」という制約を取り払って日本の外国人受け入れ制度を議論する時 ⑩日本国際交流センターの円卓会議は、外国人を日本社会の一員とし、対等な社会参加で共生社会を築くことを理念に掲げる「在留外国人基本法」を提唱し、そのための基盤整備、財源確保は国の責務とした ⑪企業も意識を変えて長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人と同等にし、優秀な人材は幹部候補として育て、独立を支援するくらいの度量がないと魅力的な会社に映らない ⑫外国人に選ばれる職場づくりは、多様な人材が活躍できるオープンで創造的な企業風土 ⑬豊かで活力ある経済の維持には、開放的な社会であることが前提 ⑭それは古来より海外との交流を深めることで発展してきた日本の歴史 としている。 このうち⑨の「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」と言う人は、メディアや国民だけでなく国会議員にも少なからず存在するため驚くのだが、少子化対策に何兆円も使うより外国人の受入制限を緩めた方が、i)どの産業の人手不足もすぐ補える ii)生産年齢人口が増えるため、少子高齢化の諸問題(負担増・給付減)をすぐ解決できる iii)日本に来る外国人は学びや仕事に積極的な人が多いため、日本文化に良い影響を与える iv)人口密度が高すぎたり、若年層が余っていたりする国もあるため、国際貢献になる v)日本が物価高にならず、国際競争力を持てる 等の理由で著しく効果的である。 従って、①②⑧⑩のように、職場や地域社会で外国人が共生できる教育や福祉の基盤を作り、外国人が歓迎されていると感じる環境を提供して、日本が「選ばれる国」になることは必要不可欠だ。そのため、⑩の日本国際交流センターの「在留外国人基本法」も良いと思うが、私は、外国人差別だけではなく、女性差別・高齢者差別・障害者差別の禁止も含む公民権法を定めるのがBestだと考えている。 しかし、③のように、「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やしたといっても未だ制限が多すぎ、介護は認めるが生活援助は認めないなど、できないことを挙げればきりが無いのだ。そのため、政府は、やれる仕事のポジティブリストではなく、やれない仕事のネガティブリストを作るべきであり、ネガティブリストを作るに当たってはネガティブな理由・ネガティブにしておくことによる日本経済への影響について国民的な議論をする必要がある。 そして、④⑤⑥⑦のように、日本には、現在、総人口の2%、約300万人の外国人が暮らしており、次世代も社会に出始めているそうだが、日本語も学校教育も不十分なまま社会に放り出されれば職業選択の幅が著しく狭くなって疎外感を感じ、犯罪を犯さざるを得なくなる。そのため、浜松市はきめ細かな支援で学校に通っていない子を0にしているが、そこまでできない自治体も多いため、「すべての者」への教育提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約(日本も批准)に従って、日本政府の責任で国籍を問わずすべての子に教育を受けさせるべきである。 さらに、外国人労働者が日本を選んで良かったと思えるためには、⑪⑫のように、企業も長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人男性と同じにし、優秀な人材は幹部候補として育て、将来は独立も支援する必要がある。そして、外国人に選ばれる職場は、多様な人材が活躍しやすい開放的で創造的な職場であり、それは女性にとっても働きやすい職場なのである。 なお、⑬⑭のように、日本が豊かで活力ある経済を維持できるためには、新しいことを好む開放的な社会であることが必要で、それは、i)稲作の伝来 ii)青銅器・鉄器・馬の伝来 iii)ガラス・絹織物の伝来 iv)有田焼・唐津焼等の陶磁器製法の伝来 v)明治維新後の産業革命 vi)第二次世界大戦後の大改革 など海外との貿易、海外からの移民・後術者の招聘、黒船に起因した大改革など、世界の中の日本の歴史そのものである。 *5-2-2は、⑭文科省は海外への留学生を2033年までに年50万人にする目標の実現に向け、給付型奨学金対象者を2024年度に7割増3万人にする方針を固め、国際競争力向上のためグローバル人材の育成を急ぐ ⑮政府の教育未来創造会議は4月、2033年までに日本人留学生を年50万人、外国人留学生を年40万人に増やす提言 ⑯文科省が派遣する留学生の奨学金拡充のため、2024年度予算案概算要求に114億円盛り込む ⑰内閣府の2018年度のアンケートでは、経済的理由や語学力不足で外国留学に消極的な若者が5割超で、2割程度の韓国・米国に比べて消極性が際立つ ⑱高校段階での意欲喚起も重要なので「留学コーディネーター」の高校配置も進める ⑲外国人留学生も受け入れ拡大するため、日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設 ⑳日本の在学者に占める外国人留学生割合は5%で、英国20%、オーストラリア30%と比べて著しく低い としている。 このうち、⑭⑯のように、文科省が海外留学生を増やして国際競争力を向上させるためグローバル人材の育成を急ぎ給付型奨学金対象者を増やすのは良いが、そのための2024年度予算案概算要求が114億円というのは、産業への補助金が兆円単位であるのに対し、教育投資の金額は渋すぎる。何故なら、教育を充実させれば産業への補助金の方が不要で、(政府が邪魔しなければ)日本がトップランナーになることも可能だからである。 また、⑰のように、消極的な若者が韓国や米国の2倍以上を占めるのは、日本では教育者の賃金を低く抑えているため、⑱のように、教育者自身のレベルが低いことも影響を与えていると思う。そのため、⑮のように外国人留学生を増やし、消極的な若者が日本国内にいても世界に目を向けるきっかけを作るのは、外国人留学生だけでなく、日本人学生にとっても良いことなのだ。 なお、⑳のように、日本の在学者に占める外国人留学生の割合も5%で、英国20%、オーストラリア30%と比べて著しく低く、⑲のように、外国人留学生も受入拡大するため、日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設するそうだが、それは良いと思う。ここまでやれば、日本は外国人に「選ばれる国」になれるかもしれないからである。 3)経済に寄与する外国人労働者政策とは? *5-3には、①外国人材の技能水準が企業の生産性を左右 ②現政策は非高技能者割合を高める可能性 ③成長企業を外国人材確保で優遇する案もある として、具体的には、④外国人にとっては受入国の人口・経済政策や出入国管理制度が実質的「国境」 ⑤外国人労働者の増加は受入国の労働市場にも影響をもたらし、自国民の働き方も変える ⑥2020~22年の外国人一般労働者の賃金水準は専門的・技術的分野の労働者と技能実習生・特定技能外国人で大きく異なる ⑦高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が少なくない一方、勤続年数は短くボーナス支給割合も低いことから、日本型雇用慣行下の正社員として働く者は少数で専門的職種に就いてジョブ型雇用される者が多い ⑧技能実習生と特定技能外国人の賃金水準の中央値は2020年~22年の間にそれぞれ1.4万円、3.6万円上昇し、特定技能外国人の2022年の中央値(20.4万円)は高卒非正規労働者の所定内給与額の中央値(19.2万円)より高い ⑨転職制限によって需要独占的だった技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場との接続で競争的になりつつある ⑩高技能外国人を雇う事業所は日本人の賃金も高く、非高技能外国人を雇う事業所は日本人の賃金も低い ⑪ダストマン英ロンドン大教授らは、ドイツの労働市場で地域に流入した移民労働者の技能レベルに応じて企業内の生産技術が変化することを実証 ⑫日本でも高技能者向け技術を使って生産性を高めた企業は賃金が高く、非高技能外国人の雇用を増やして労働集約的となった企業は生産性・賃金が停滞した可能性 ⑬三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる製造業分野の中小企業支援調査では、97%の事業所が自社で技能実習を修了した者を特定技能1号とした際に月給額を引き上げた ⑭2018年時点は全技能実習生の約6割が最低賃金1千円未満(2022年時点)の自治体に在留し、2021年以降は全特定技能外国人で最低賃金1千円未満の自治体に在留する者は5割を下回った ⑮その結果、2022年は最低賃金が1千円以上の都府県で非高技能労働者総数に占める特定技能外国人の割合は有意に高かった ⑯多くの先進諸国で経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限する政策をとるが、現在の日本は専門的・技術的分野の人材以外の外国人労働者にも定住への道を開きつつあり、外国人の受け入れでも大規模な「量的緩和政策」に転じている ⑰高技能外国人と非高技能外国人の新規入国者数は2012年にはほぼ同数だったが、2022年には後者が前者の2.3倍となった ⑱現在の日本は非高技能労働者により選ばれ、非高技能者が日本の外国人労働者の多数派となる日は遠くない ⑲こうした傾向が生じたのは、現行政策が外国人の質と量をともに求めても、技術革新に貢献しうる高度人材には日本で就労する魅力が乏しいから ⑳経済成長というマクロの目標に沿う外国人労働政策を目指すべきと考える 等が記載されている。 私は、公認会計士・税理士として、現在は組織再編によってBig4になっている外資系監査法人及び同税理士法人で働いていたため、海外から日本に進出してきた企業の監査や税務申告を行うことが多く、それをやるためには外資系企業の社長や重要ポストの担当者に話を聞くことが不可決だった。また、日本から海外に進出する企業のために、Big4のネットワークを使って進出国の法制度や税制を調べることも多かったため、日本と海外の事業環境の違いや雇用環境の違いについて、日本系監査法人に勤務して日本系企業ばかりを担当してきた男性公認会計士より知っているだろう。 その私の目から見て、*5-3の記事は、調査やデータに基づき精緻に書かれている点では評価できるものの、経済産業研究所(日本系企業)に勤務している橋本氏が、労働経済学の中の外国人雇用という視点のみから記載しているため、日本経済全体の状況を現場の視点から因果関係を明らかにしつつ説明することが不十分だと思った。 例えば、②⑯⑰の「現政策は非高技能者の割合を高める可能性がある」「多くの先進諸国で経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限しているが、日本だけが外国人受入でも大規模な量的緩和政策に転換している」「2022年に非高技能外国人の新規入国者数が高技能外国人の2.3倍になった」というのは、他の先進諸国が日本より前からずっと多くの難民・移民を既に受け入れ、どの産業も日本の農業・製造業・建設業・保育・介護等のように、必要なサービスも提供できなかったり、人手不足で価格が高止まりして国際競争力に乏しいため世界の大競争について行けなかったりして、重要な国内産業を衰退させてしまったことを無視している。 確かに、⑱⑲のように、「現在の日本は非高技能労働者に選ばれている」とは思うが、「技術革新に貢献しうる高度人材に日本で就労する魅力が乏しい」というのは、外国人にとってのみならず日本人にとっても同じであるため、これら全体に対する日本の解決法は、非高技能外国人労働者の流入を抑えることではなく、日本人を含む全労働者が自己の教育レベルや熟練度を高めたいと思う文化や労働慣行を作ることである。 そうすれば、③のように、成長企業を外国人材確保で優遇しつつ、非高技能外国人労働者(そもそも、この区分は政府が判断できるものではない)を使い捨てにしなくても、また、④のように出入国管理法で非高技能外国人労働者を閉め出しながら、産業に対しては大量の補助金をばら撒いて国民負担を増やすことばかり考えなくても、⑳の経済成長は進む筈なのである。 それでは、どの文化や労働慣行がどう変わるのかと言えば、①⑤⑥⑩⑪のように、外国人材の技能水準は企業内の生産技術を変化させ、日本人労働者の技能水準にも影響を与えて企業の生産性を左右するので、外国人労働者の割合が増えれば受入国の文化や労働市場にも影響をもたらして日本人の働き方をも変える。その著しい事例は高給を支払って外国から技術者を招き、技術移転を計った明治初期であり、外国人技術者がいなければ日本が産業革命を起こすことはできなかったし、高技能外国人を雇った事業所は生産のイノベーションを起こして日本人の賃金も高くできたのである。 なお、⑦のi)高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が多い ii)勤続年数が短い iii)ボーナス支給割合が低い については、まず高技能外国人は賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上でなければ日本に来る理由がないからで、これには住居の広さや快適さも含む(例えば米国で広い一軒家に住んでいた人が、東京で狭いマンション《米国ではアパートメントと呼ぶ》にすむのは嫌がる)ため、高技能外国人を東京に招く時の住居費支給額は著しく高くなるのだ。しかし、日本人はそのような住居で我慢しているのである。 また、ii)の「勤続年数が短い」のは、日本型雇用慣行の終身雇用・年功序列を前提としておらず、職階や年収を上げるためには他企業に移らざるを得ない場合が多いからで、これをジョブ型雇用と呼ぶ。しかし、他企業に移って職階や年収を上げられるためには、受入企業から専門性や熟練度が要求される。そのかわり、専門とかけ離れた部署に次々と転勤させられて専門を磨けないということはないのだ。 さらに、iii)の「ボーナスの支給割合が低い」については、ジョブ型雇用はジョブに見合った年収があらかじめ決まっているため、それを「12で割って毎月もらってボーナスなし」や「16で割って夏冬のボーナスは月収の2ヶ月分づつ」という具合になり、経営者の気分でボーナスの金額が決まるわけではないため、こちらの方が確実だと私は思う。そのかわり、家族手当や会社所有の社宅・療養施設等はなく、その分は年収に含まれており、日本人も含めて賃金体系が単純になっているのだ。このように、賃金体系が違うと、企業文化やそこで働く人の考え方も異なる。 なお、⑧⑨のように、転職制限によって需要独占的だった技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場との接続で競争的になり、技能実習生と特定技能外国人の賃金水準が上昇し、高卒非正規労働者の所定内給与額より高くなったというのは、あるべき姿だ。何故なら、日本人と言うだけで生産性の低い労働者に高い賃金を支払えば、それによって皺寄せを被る人が出るのは確実であるため、日本人であっても、専門性を高めたり、熟練したりしなければならないのは当然だからである。 4)日本列島に来た渡来人が日本の産業革命に果たした役割 現在の人類は全てホモ・サピエンスだ。また、人類のDNAは複雑なので同種の人類は1ヶ所でしか発生せず、現生人類は全て発生したアフリカをいつの時代かに出て他の地域に移り住み、その地域に前からいた他の人類(例:ネアンデルタール人)と混血しながら地球上に広がり、その地域の気候に適応していった人たちだと言える。 日本については、神武天皇の即位を皇紀元年とし、西暦2023年は皇紀2683年になるため、皇紀元年は西暦では紀元前660年で、これはサマリア陥落(紀元前723年)の63年後である。 「記紀(古事記、日本書紀)」によれば、紀元前660年に神武天皇が大和(ヤマト)を平定して初代天皇に即位されたが、天皇は古来から「スメラミコト」と呼ばれ、「スメラ」とは「サマリア人」のことで「サムライ」の語源でもあるそうだ。 また、神武天皇は「ハツクニシラススメラミコト」「カムヤマトイワレビコノミコト」とも呼ばれ、これは日本語では意味不明であるものの、ヘブライ語では意味があり、「神の民であるユダヤ人が集まって建国した最初の栄光ある主」という意味だそうだ(https://nihonjintoseisho.com/blog001/2016/11/21/japanese-and-jews-13/ 参照)。 そして、*5-4は、①紀元前後の約千年にわたり展開した弥生時代の幕を開けたのは、水田稲作や金属器文化を携えて北部九州沿岸部に現れた朝鮮半島からの渡来人 ②2010年代に登場した核ゲノム分析で、列島在来系と渡来人は、縄文時代以前から海を挟んで同じ遺伝子を共有していたことがわかった ③研究チームは、その理由を「旧石器時代の東アジア沿岸部や島々に両者の元となった集団がいたからではないか」と解釈している ④弥生時代の西日本には想像以上に遺伝的多様な集団が存在していた ⑤弥生文化という特定の文化を、特定の集団だけが独占したとは限らない ⑥先進文化をもたらした渡来人が弥生社会の中核だったとみる説と縄文以来の在来人が主体的に外来文化を取り込んで発展させたとみる説がある ⑦核DNAの分析成果と各地の文化的様相を比較検討すれば人間集団と文化の相関関係がわかる 等と記載している。 このうち①については、先日、(私の実家近くの)日本最古の稲作跡がある佐賀県唐津市菜畑の末盧館に行ったところ、2600年前の炭化米が見つかったとして展示されていた(http://www.karatsu-bunka.or.jp/matsuro.html 参照)。 また、②③④は、舟で移動しながら交易や移住をしていたことを考えれば当然と思われるし、実際に、東アジアに住む人々は顔や体型では殆ど区別がつかない。そのため、⑤⑥⑦のように、核ゲノム分析をより広い範囲・多くの検体で行ないつつ、それを文化や言語で補強すれば、先進文化をもたらした渡来人と原住民の関係や集団・技術・文物の伝わり方を科学的に解明できる。 そして、改革や発展は、開放的でイノベーションの起こりやすい、異文化の交わる場所で起こり易いこともわかる筈である。 ・・参考資料・・ <細田議長と保利元文科省を追悼する> *1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231111&ng=DGKKZO76056290R11C23A1MM8000 (日経新聞 2023.11.11) 細田博之氏 死去 79歳 前衆院議長、先月に辞任 前衆院議長の細田博之氏が11月10日午前10時58分、多臓器不全のため都内の病院で死去した。79歳だった。東大卒業後、通商産業省(現経済産業省)へ入った。父の吉蔵元運輸相の秘書を経て、1990年衆院選で自民党から出馬し初当選した。当選回数は11回で、2004年に小泉内閣で官房長官、08年に麻生政権で党幹事長を務めた。14年から21年まで清和政策研究会(現安倍派)の会長として党最大派閥をまとめた。21年11月に衆院議長に就き、体調不良を理由に23年10月に辞任した。10月に辞任表明の記者会見を開き、脳梗塞の症状があり治療していると明らかにした。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点について野党から説明を求める声があがっていた。一部週刊誌で指摘された女性記者へのセクハラ疑惑について記者会見で「心当たりはない」と否定した。死去に伴う衆院島根1区補欠選挙は、衆院解散がなければ24年4月になる見通し。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA104DC0Q3A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2023.11.10) 岸田首相「心から哀悼の誠ささげる」、細田博之氏死去で 岸田文雄首相は10日、前衆院議長の細田博之氏が死去したことについて「心から哀悼の誠をささげたい」と述べた。細田氏が官房長官や自民党幹事長など要職を務めたのを踏まえ「今日までのご努力に心から敬意を表したい」と語った。細田氏と同じ中国地方の出身である点や派閥のトップとして意見交換したと発言した。「様々なご縁で親しくしていただき、先輩としてアドバイスをいただいたことを思い返している」と話した。首相官邸で記者団の質問に答えた。額賀福志郎衆院議長は「与野党を問わず数多くの議員から信頼され、尊敬される政治家だった」との談話を発表した。与野党からも反応が相次いだ。自民党の茂木敏充幹事長は「悲しみでいっぱいだ」と表現した。「議長を勇退されて健康回復にお努めだと聞いていた」と語った。細田氏がかつて会長を務めた清和政策研究会(現安倍派)の塩谷立座長は「頼りにしていた存在で残念でならない」と述べた。公明党の山口那津男代表は「自公連立政権をより強固なものにする過程で大きな役割を果たしてもらった」と感謝した。立憲民主党の安住淳国会対策委員長は細田氏が旧通商産業省の職員だったときから接点があったと明かした。「ざっくばらんな人柄で楽しい人で、今時使わないが『ネアカ』な人だった」と振り返った。日本維新の会の馬場伸幸代表は書面のコメントで「選挙制度改革やカジノを含む統合型リゾート(IR)の法制化などに尽力した功績に感謝と敬意を表する」と記した。細田氏が追及を受けてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点などの問題に関する言及も出た。塩谷氏は「基本的には(生前に)記者会見をしたことが説明責任になると思う」と触れた。安住氏は「立法府の最高責任者として説明責任はぜひ果たしてもらいたかった」と指摘した。国民民主党の玉木雄一郎代表は「十分な説明責任を果たされていないという指摘があり、すっきりしない形で終わってしまった」と話した。細田氏は2021年11月に衆院議長に就き、体調不良を理由に23年10月に辞任した。 *2-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231110/k10014254661000.html (NHK 2023年11月10日) 保利耕輔 元文部相が死去 89歳 文部大臣や自民党の政務調査会長などを歴任した保利耕輔氏が今月4日に亡くなりました。89歳でした。保利氏は昭和54年の衆議院選挙に自民党から立候補して初当選し、連続12回、当選しました。文部大臣や自治大臣、党の国会対策委員長などを務めましたが、平成17年に郵政民営化に反対して離党しました。その後復党し、党の政務調査会長などを歴任しました。そして平成26年の衆議院選挙に立候補せず政界を引退していました。関係者によりますと、保利氏は今月4日に川崎市の病院で亡くなったということです。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1141187 (佐賀新聞 2023/11/10) 保利耕輔元文相死去、89歳、元自民政調会長 文部相や自民党政調会長を歴任した保利耕輔元衆院議員が4日午後、誤嚥性肺炎のため川崎市の病院で死去した。89歳。衆院議長などを務めた父茂氏の後継として会社員から転身し、1979年に衆院佐賀全県区で初当選。12期務めた。教育行政や農政に詳しく、90年に海部内閣で文部相として初入閣。小渕内閣で自治相兼国家公安委員長を務めた。2005年の郵政民営化関連法案の衆院本会議採決では反対票を投じて造反し、自民党を離党した。翌年復党が認められた。08年に党政調会長に就いた。 *2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1141290 (佐賀新聞 2023/11/11) <保利耕輔さん死去>「芯の通った政治家」 地元唐津でしのぶ声 唐津市を中心にした地盤で約35年にわたって衆院議員を務めた保利耕輔さんが4日死去した。「保利党」として支えてきた唐津市の関係者に衝撃が広がった。地域の活性化に力を尽くし、芯の通った政治家としての生き方をしのんだ。保利さんの後援会青年部長を務めたのをきっかけに、交友を深めた元唐津市議の宮崎卓さん(78)=唐津市鎮西町。「先生はとにかく厳しく、中途半端なことを言うとよくしかられた。国のため、地域のためにと最優先に考え、政治家の範を示す実直な人だった」と振り返り、「唐津、佐賀のために頑張っていただき、本当に感謝の思いしかない」としのんだ。選挙時に陣営幹部として関わってきた熊本大成市議(74)は、最後に会ったのは今春の県議選だった。党の公認候補の事務所を回ったといい「元気な姿を見ていたから驚いた」と話しつつ、「真面目な人柄で口数は少なかったが、ゴルフの話になると上機嫌に話されていた。『選挙は情』だとよく話していたのが印象深かった」と語った。昭和自動車常勤監査役の福岡修さん(67)は全ての選挙にスタッフとして関わった。「陣営の関係者に厳しかった分、自分にも厳しい方だった」と振り返る。保利さんが週末に地元入りする時は付き人も務め、元首相の小渕恵三氏が唐津市を訪れる際、あえて渋滞が激しい時間帯に車を走らせて唐津-福岡間の道路整備の重要性を訴える場面に車内で居合わせたという。「地元の困り事を何とかして伝えたいという思いだったのだと思う。真面目な姿勢が党派を超えた支持につながった」と話す。唐津神社の秋季例大祭「唐津くんち」を運営する唐津曳山(ひきやま)取締会の山内啓慈総取締(74)は「誠実で温厚な方だった。ただただ寂しい」。文化庁長官を唐津に招き、国の重要無形民俗文化財に指定されている唐津くんちの曳山(やま)について熱心に説明するなど「曳山の塗り替えなど省庁との橋渡し役として支えていただいた」。「くんちだけでなく、唐津を本当に愛した方だった。唐津を永遠に見守っていてください」と言葉をかけた。 <政治における女性登用と無意識の偏見> *3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASR9F61RYR9FUTFL01V.html (朝日新聞 2023年9月13日) 女性閣僚最多、政権は刷新感に期待 「世襲ばかり」の側面も 第2次岸田再改造内閣が13日、発足する。新内閣の閣僚(岸田文雄首相含め20人)のうち女性は過去最多タイの5人と、改造前の2人から倍増。「女性活躍」を掲げる岸田政権は、東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を示し、内閣の女性比率もそれに近づくように引き上げた形だ。だが一方、刷新感を演出した側面も否めない。過去に5人の女性閣僚を据えたのは、2001年4月発足の小泉内閣と14年9月発足の第2次安倍改造内閣。14年は安倍晋三首相が「女性活躍担当相」を新たに設け、直後の朝日新聞社の世論調査では女性の内閣支持率が36%から44%へと回復傾向を見せた。岸田内閣は支持率が30%台で推移する。直近の8月の世論調査では女性の支持率は35%。男性の30%は上回るものの昨年7月の59%と比べれば落ち込んでいる。政権内には女性の支持獲得が政権浮揚のカギ―との見方もあり、年頭に首相が「異次元の少子化対策」を打ち出したのも、そうした思惑が透ける。 ●少子化対策に育児反映、副大臣未経験で抜擢も 首相は今回の内閣改造で、少子化対策に育児の実態を反映させようと、2児を育てる加藤鮎子・元国交政務官をこども政策・少子化担当相に起用した。44歳で閣内最年少。衆院当選5回が入閣の目安とされる中、加藤氏は3回。副大臣を経験していない抜擢人事となった。さらに重要閣僚の外相には自派閥から上川陽子元法相を起用。首相は周囲に「海外では女性外相は多い」と語り、上川氏を含む女性閣僚の登用が政権が取り組む「女性活躍」推進の体現を狙った。政権幹部は「女性閣僚が5人になったことで、刷新感が出るといい」と期待を込める。ただ、自民党内に女性議員が少ない現状を踏まえ、首相は周囲に「なかなか適任者がいなかった」と漏らした。5人のうち今回初入閣した3人は、加藤紘一・元自民党幹事長の娘である加藤氏を含め、いずれも世襲議員。「古い政治」のイメージが広まれば、期待した「刷新感」が薄れてしまう可能性もある。 ●ジェンダーギャップ、厳しい政治分野 ただ、「女性登用」をPRしなければならないほど、日本の現状は厳しい。新たにこども政策・少子化担当相に就く加藤氏は、女性活躍担当相も兼務するが、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書 2023年版」によると、日本は146カ国のうち125位。とりわけ、138位の政治分野が足を引っ張る。6月の主要7カ国(G7)男女共同参画・女性活躍担当相会合では、小倉将信・男女共同参画相(当時)以外の出席者全員が女性で、日本政治の象徴と批判された。自民党内の女性議員の比率は約1割。民間への働きかけはもちろん、足元の状況打開に向け手腕が問われる。一方、政権の掲げる「異次元の少子化対策」は、今後が正念場だ。児童手当の拡充などを盛り込んだ「こども未来戦略方針」は6月に閣議決定。しかし、24年度から3年間で集中的に実施していく「加速化プラン」の具体的な財源確保策は、今年の年末まで先送りされた。政府は社会保障の歳出削減や、社会保険の仕組みを活用した「支援金制度(仮称)」の創設などによって賄う目算だが、痛みや負担増を伴うもので、今後本格化する与党や経済界との調整は難航をきわめそうだ。来年の通常国会には、少子化対策の関連法案の提出も予定する。野党から厳しい質問が飛ぶことも必至だ。こうした状況に、こども家庭庁では複数の幹部が、組閣前から「安定感のある大臣でないと乗り切れない」と漏らしていた。子ども政策自体の評判も芳しくない。子ども連れや妊婦らの優先レーン「こどもファスト・トラック」の全国展開や、子育てしやすい社会づくりに携わる「こどもまんなか応援サポーター」のサッカー・Jリーグとの連携など、本格実施を前にした関連施策がSNS上で批判を浴びた。朝日新聞が7月に実施した全国世論調査(電話)で、少子化対策の取り組みを4択で尋ねると、「評価しない」が「あまり」「全く」を合わせて65%を占めた。2児を育てる新担当相が、どこまで幅広い世代に少子化対策への理解を広げられるかも問われる。 *3-2: https://digital.asahi.com/articles/ASR9F72G8R9FUTFK01H.html?ref=commentplus_mail_top_20230916&comment_id=17922#expertsComments (朝日新聞 2023年9月14日) 女性登用への消極姿勢を転換 支持率上げ解散、首相が描く再選戦略 岸田政権の新たな布陣がスタートした。岸田文雄首相が女性登用への消極姿勢を転換させたのは、年内でも衆院解散できるよう低迷する支持率を好転させる狙いがある。ただ、新閣僚はそれぞれに重い課題を抱え、その力量が問われる。13日夜、内閣改造を終え、官邸での会見に臨んだ首相は自信に満ちあふれた表情で語った。「女性ならではの感性、共感力を十分発揮して頂くことを期待したい」。今回、際立つのは女性の積極的な登用だ。内閣では過去最多に並ぶ5人を起用し、改造前より3人増やした。男性ばかりだった自民党4役の人事では小渕優子氏を選挙対策委員長に就けた。首相は周囲に「女性閣僚を増やしたい」と漏らしていた。8月の朝日新聞の世論調査での内閣支持率は33%。女性を増やすことで支持率を好転させたい思惑がある。「女性」を前面に押し出して支持率回復につなげた例はある。安倍晋三元首相は2014年の改造で新たに「女性活躍担当相」を設け、女性議員を充てた。直後の女性の支持率は前月の36%から44%に回復。党中堅幹部は今回の女性登用について「首相はいつでも衆院解散のカードを切れるよう組み立てた」とみる。首相が外遊先での会見で「必要な予算に裏打ちされた思い切った内容の経済対策を実行したい」と語ったことで、秋の臨時国会での補正予算成立後、解散に踏み切るのでは、との臆測も出る。首相も周囲に「解散は常に考えている。人事と経済対策をやってからだ」と語り、当面の世論の動向を慎重に見極める構えを示している。衆院解散は来秋の総裁選での再選戦略と大きく関係している。安倍元首相は14年12月に衆院選を行い、与党を大勝に導くと、翌15年秋の総裁選では無投票で再選を果たし、7年8カ月に及ぶ長期政権の足場を築いた。総裁選までそう遠くない時期に衆院選で勝利したことから、国民から選ばれたばかりの総理総裁を、内輪の権力闘争で代えるわけにはいかない、という理屈が働いた。ただ、今回の人事が支持率好転につながるかどうかは不透明だ。女性登用の象徴的存在で首相が会見で「選挙の顔」とまで称した小渕氏には、「政治とカネ」をめぐる説明責任の問題がくすぶる。ベテラン議員は「過去の問題がクローズアップされた影響がどうなるか」と気をもむ。各派閥の意向に沿った順送り人事の側面も強い。当選4回の衆院議員は、衆院解散の有無にかかわらず、総裁選を無風ですませられるよう各派に秋波を送ったとみて、こう揶揄(やゆ)する。「女性を増やしてごまかした感じだが、実態は『人事処遇したので総裁選よろしくね内閣』だ」 ●「世襲」大臣は2人増の8人 今回の内閣改造で首相を含む大臣20人のうち、実の父か母が国会議員だった、いわゆる「世襲」の大臣は8人で、約1年前に発足した第2次岸田改造内閣の6人から2人増えた。首相は祖父の正記氏、父の文武氏ともに衆院議員で、財務相に留任した鈴木俊一氏は善幸元首相の長男だ。こども政策・少子化相として初入閣した加藤鮎子氏は、岸田派(宏池会)会長だった加藤紘一元官房長官の三女。地方創生相で初入閣の自見英子氏も、元郵政改革担当相の庄三郎氏を父に持つ。 *3-3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/e852bbc5e07d95a1a0958e9be74c20cd5c6d5300 (Yahoo、ハフポスト 2023/9/14) 「女性ならではの感性」はなぜ問題?ステレオタイプの助長や無意識の偏見も 「女性としての、女性ならではの感性や共感力を十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」ー。9月13日に発足した第2次岸田第2次改造内閣を巡り、岸田文雄首相の記者会見での発言が波紋を呼んでいる。発言は、過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を誕生させた理由について問われた際に出たもので、Xでは「女性ならでは」がトレンド入り。「使い古されたステレオタイプな表現」などと批判されている。では、「女性ならでは」といった表現はなぜ問題なのか。新聞労連の専門チームがまとめた著書「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(2022年)からポイントをまとめる。 ●「女性ならではの感性や、あるいは共感力」 第2次岸田第2次改造内閣では、上川陽子氏(外務大臣)、土屋品子氏(復興大臣)、加藤鮎子氏(内閣府特命担当大臣・少子化対策)、高市早苗氏(同・経済安全保障)、自見はなこ氏(同・地方創生)がそれぞれ就任した。5人の女性閣僚は過去最多タイだが、この数字は第1次小泉内閣(2001年)、第2次安倍改造内閣(14年)と変わらない。岸田首相は9月13日の記者会見で、内閣改造の実施を報告。冒頭、 「新しい時代を国民の皆様と共に創っていく『新時代共創内閣』である」とした上で、女性閣僚をこう紹介した。「こども・子育て政策や女性活躍は、こども・子育ての当事者でもある加藤鮎子さんに担当してもらいます」「土屋品子復興大臣には、女性ならではの視点を最大限にいかし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらいます」。さらに、フジテレビの記者から「5人の女性閣僚を起用した考え」について聞かれると、次のように回答した。「あくまでも適材適所。我が党の中に女性議員は少ないという指摘があったが、より増やしていかなければいけないという問題意識は認識している」「現在活躍している女性議員もそれぞれ豊富な経験を持ち、優秀な人材はたくさんいる。今回、経済、社会、外交・安全保障の3つの柱を中心に政策を進めていくために活躍できる方を選んだ」。「ぜひ、それぞれの皆様に、女性としての、女性ならではの感性や、あるいは共感力、こうしたものも十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」 ●ジェンダー表現について この「女性ならではの感性」はXでトレンド入りし、ジェンダー平等の観点から発言を疑問視する声も多くみられた。では、岸田首相の発言の問題点は何か。新聞労連の「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」から確認する。このガイドブックは、日本のジェンダー平等に強い危機感を感じている現役の記者たちが執筆。「女性らしさ」などという表現を使ってきたメディアの反省点も踏まえ、ジェンダー表現のリテラシーを社会全体で高めることを目的としている。 ●ステレオタイプの助長や無意識の偏見 まず、岸田首相の発言であった「女性ならでは」という表現については、「『女性ならできて当然』というステレオタイプな考え方を助長する」と指摘している。例えば、育児関連商品の開発談で「女性ならではの発想」、女性管理職について「女性特有の気配り」といった表現がある。しかし、これらの表現は「女性は育児をするもの」、「女性は気配りしなければならない」というステレオタイプな考え方を助長してしまう。そして、たとえ発言した人に差別する意図がなかったとしても、「無意識の偏見をばらまき、追認している」ことにつながるという。これは「マイクロアグレッション(微細な攻撃)」と呼ばれており、「使う側に差別的な意図はなくとも、現状の差別的な状況を追認し、多くの人を苦しめる土台となってきた」と指摘している。つまり、「女性ならでは感性」という岸田首相の発言自体が、現状の差別的な状況を追認し、ステレオタイプな考え方を助長していることになる。 ●自分も当事者だという意識 このようなことから学ぶことは何か。ガイドブックでは、「自分も当事者の視点が必要だ」と訴えている。ジェンダーは性別に関係なく、誰もが当事者となるテーマだからこそ、男性も自分事として考えていかなければならない。また、意思決定の場に女性がいる割合も重要という。ある結果を得るのに最低限必要な数「クリティカルマス」という言葉があるが、組織の中での比率が3割を超えた時に主張が実現すると言われている。日本政府が「指導的地位の女性比率を30%」という目標を掲げているのも、このためだ。なお、第2次岸田第2次改造内閣では、19の閣僚ポストのうち女性は5人。26%で、3割に達していない。ガイドブックの編集チームは「多様な視点が確保されれば、一人一人の『らしさ』が大事にされ、暮らしやすい社会につながる。だからこそ、男性優位組織の過去の成功体験に基づいた構造を変える必要がある」と言及している。 *3-3-2:https://www.asahi.com/thinkcampus/article-100913/?cid=pcsp_top_infeed (朝日新聞 2023.11.8) 理工系「女子枠」、導入する大学の狙いは? 「男女の視点の違いで、現場に技術革新を」 2024年度入試では、理工系の学部を中心に「女子枠」を設ける大学が多く見られます。「女子だけを優遇するのか?」など批判の声もあるなか、なぜ理工系に女子を増やす必要性があるのでしょうか。総合型選抜(女子)をスタートする東京理科大学に、新しい入試の形を始める背景や、どんな人に入ってもらいたいのか、期待することなどを聞きました。 ●意欲と向上心を持つ最大48人を募集 科学技術の分野で活躍する女子を増やそうと、総合型選抜や学校推薦型選抜で、女子に限定した「女子枠」を設ける大学が増えています。2024年度入試から「総合型選抜(女子)」をスタートする東京理科大学では、どのような経緯で導入を決めたのでしょうか。井手本康副学長はこう話します。「わが国では現在、特に理工系分野で女子の人材育成が必要とされています。そこでダイバーシティーの推進に力を入れている東京理科大学でも、特に女子の少ない工学系3学部16学科に『総合型選抜(女子)』を設け、理工系分野への女子の進学を後押しすることにしました。まずは大学全体の入学定員の1.2%弱にあたる各学科3人、計48人までの範囲で、将来的にリーダーシップを発揮する人材として、意欲や向上心のある女子学生を受け入れたいと考えています」選考方法は、調査書や志望理由書などで書類審査を行ったうえで、面接・口頭試問と小論文を実施します。意欲や目標、数学と理科に関する基礎知識、科学的な観点などから、総合的に見て合否を判断します。「大学入試はゴールではなく、人生で成長していくための通過点の一つです。意欲や目標がある人ほど、大学入学後もより自分を高めていけるでしょうし、リーダーシップを発揮する人材になり得るでしょう。総合型選抜は受験生の志望動機などを重視する選抜方法ですから、『東京理科大学でこれを学びたい』『将来こうなりたい』といった意欲や目標があり、本学の学びを通してそれを高めていける学生を見極め、歓迎したいと考えています」(井手本副学長) ●多様性がさらなる技術革新につながる 理工系学部の女子が増えることで、大学はどう変わっていくのでしょうか。「私は化学が専門ですが、女性は男性が気づかないようなことに気づいたり、ものの捉え方が少し違っていたりと、男性と女性とでは視点や観点が異なることを日々実感しています。研究をしていく上で大切なのは、さまざまな角度からの気づきです。意欲や向上心のある女子が増えることで学生にもいい刺激になるでしょうし、研究や開発の現場でも今までになかったような技術革新が起こると期待しています」(井手本副学長)。理工系女子のロールモデルが少ないため、就職や卒業後のことを心配する保護者がいますが、今は理工系の女子は活躍の場が多く、企業から引く手あまたの状況にあります。 「女子が少ない学問分野は女子には不向きだというわけではありません。『総合型選抜(女子)』は大学からの歓迎の証しだということを、高校の先生やご父母の方にも知っていただきたいです」(井手本副学長) ●2024年度入試は「女子枠」の新設ラッシュ 2024年度入試では、東京工業大学、東京都市大学なども女子枠を新設します。東京工業大学は、2025年度入試で女子枠を募集人員全体の約14%にあたる143人まで広げるということでも話題になっています。また、国内の大学で最初に女子枠を設けた名古屋工業大学も2024年度入試で女子枠を拡大するほか、奈良女子大学は2022年度に国内の女子大学では初となる工学部を開設するなど、女性のエンジニアや研究者を育てていこうという動きが全国で活発化しています。東京理科大学では、「総合型選抜(女子)」の動向を見つつ「まずはスモールスタートで、効果検証を行いながら、今後は他の学科や女性に限定しない形への展開も検討していきたいという考えもある」と井手本副学長は話します。大学にとって女子枠の拡大は、意欲的な女子が入学することで、理工系分野の活性化を図るだけではありません。「自分は何を学びたいか」という意欲や目標を重視した入試に移行していきたいということが背景にあるようです。 *3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15746023.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2023年9月20日) 女性起用ゼロ 「活躍促進」は口だけか 首相官邸のひな壇に、ともに並ぶ二十数人が男性ばかりという光景が、異様だとは想像できなかったのだろうか。過去最多に並ぶ5人の女性閣僚が任命された内閣改造から一転、副大臣26人と政務官28人の計54人の人事では、女性の起用はゼロとなった。岸田首相は改造後の記者会見で、自民党が「女性議員の活躍促進を最重要課題に掲げた」と述べたが、口だけと言われても仕方あるまい。多様な国民の意見を政策決定に公平・公正に反映させるために、政治分野における女性の参画拡大は特に重要である――。20年末に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画にそう記したのは、他ならぬ政府自身である。指導的地位に占める女性の割合は、「20年代の可能な限り早期に30%程度」とするとした。第4次計画の「20年に30%程度」から後退した、この目標にすら逆行するようでは「政治分野が率先してあるべき姿を示す」という計画の文言も空しく響く。首相は「(政務三役を)チームとして人選を行った結果」であり、女性2人を起用した首相補佐官も合わせれば、「老壮青、男女のバランス」はとれているという。しかし、実際に考慮したのは、各派閥の要望であり、派閥間のバランスだろう。自民党には現在、衆院21人、参院24人の計45人の女性議員がいるが、推薦名簿に女性を入れない派閥が多かったようだ。ならば、首相官邸が全体を見渡して調整を加えるのが、本来である。秘書官を含め、首相の意思決定を周辺で支える主要な官邸スタッフが、男性で占められていることが、多様性の意義に思いが至らぬ一因となってはいないか。女性に限らず、閣僚になるには、副大臣や政務官として経験を積み、専門性を磨いておくことが有用だ。女性を積極的に副大臣や政務官に就けることは、女性閣僚を増やす道でもある。国際的にも極めて低い水準にとどまる女性議員の数そのものを、抜本的に増やすことも不可欠だ。衆院議員に占める女性の割合は1割に過ぎず、候補者男女均等法が18年に施行された後も、改善の歩みは鈍い。特に対応が遅れていた自民党はようやく、この6月、「女性議員の育成、登用に関する基本計画」を定め、同党の国会議員に占める女性の割合を、現在の11%から10年間で30%に引き上げる目標を掲げた。看板だけに終わらぬよう、候補者の発掘からキャリア形成への支援まで、体系的な取り組みが問われる。 *3-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1129791/ (西日本新聞社説 2023/9/24) 副大臣・政務官 まさか女性起用ゼロとは 先日の内閣改造で副大臣、政務官から女性が消えた。社会全体で女性の登用を進めようと呼びかけていたのは、岸田文雄首相ではなかったか。看板倒れも甚だしい。今回の改造で、閣僚には過去最多に並ぶ5人の女性が就任した。副大臣26人、政務官28人の人事は、一転して女性が一人もいなかった。首相は「どの閣僚にどの副大臣、政務官を付けるのか、チームとして人選した結果だ」と説明した。苦しい言い訳にしか聞こえない。内閣のチームと言うなら、閣僚に副大臣、政務官を合わせた政務三役の構成に首相が目を光らせるべきだろう。女性の適任者が見当たらない場合は、民間に人材を求めることもできるはずだ。首相による戦略的な抜てき人事がある閣僚に比べると、副大臣や政務官は自民党の派閥が推薦した議員の中から選ぶ傾向が強い。当選回数や衆院、参院のバランスにも配慮する。今回はそれを踏襲したとみられる。国土交通相の留任にこだわった連立与党の公明党も、女性の政務三役起用は重視しなかったのだろう。政府は2020年に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画で、指導的地位に占める女性の割合について「20年代の可能な限り早期に30%程度」を目標にしている。現状は政務三役73人のうち女性は約7%でしかない。昨年8月の内閣改造時の約18%から大きく後退している。首相は内閣改造をした13日の記者会見で、女性閣僚について「女性ならではの感性や共感力も十分発揮し、仕事をしていただくことを期待したい」と述べ、批判を受けた。性別による偏見、古い役割分担意識を図らずも露呈してしまった形だ。そもそも、女性比率が2割に満たない国会議員の構成を変えなければならない。政治分野における男女共同参画推進法は、男女の候補者ができるだけ均等になることを目指し、政党に目標設定を求めている。自民党は6月、女性の割合を現在の約12%から今後10年間で30%に引き上げる目標を打ち出した。新人女性の衆院選立候補予定者に100万円を提供し、資金面の支援策を拡大する。問題は候補者調整だ。小選挙区の公認候補は1選挙区1人に限られるため、現職を優先する。その大半を占める男性を女性に交代させるのは容易でない。比例代表であれば、女性を優先して名簿の上位にすることができる。議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」は検討に値する。政治活動や選挙運動中のハラスメントは女性が被害に遭いやすい。男性中心の政治風土を改め、女性が力を発揮しやすい環境づくりに与野党で取り組むべきだ。その先頭に立つ自覚を各党のリーダーに求めたい。 *3-6:https://news.yahoo.co.jp/articles/8aca1dea8d63dcf038252e2b00b6d6418d46ec32 (Yahoo 2023/10/9) 「埼玉のぶっ飛び条例」自民党提出の埼玉県虐待禁止条例案に反対するネット署名に賛同が拡大 小学生3年生以下の子どもを自宅などに残したまま外出することは「虐待」に当たるとして禁じるなどした虐待禁止条例案が、13日に埼玉県議会の本会議で採決が行われることを前に、採決に反対するオンライン署名への賛同が広がっていることが分かった。オンライン署名サイト「change org.」では9日午後2時までに、7万人超が賛同の意を示した。サイトによると、9日だけで1万8000人近くが賛同したとしている。8日には「留守番禁止条例」がSNSのトレンドワードになったが、9日にも「埼玉県虐待禁止条例」がトレンドワードになるなど、関心が集まり続けている。同条例案は、埼玉県議会最大会派の自民党が9月定例議会に提出した。自家用車内に児童が放置されて死亡するケースなどが全国で相次ぐ中、こうした事案を防ぐ目的としている。内容は「小学校1年生から3年生だけでの登下校」や「18歳未満の子どもと小学校3年生以下の子どもが一緒に留守番をする」「小学生だけで公園で遊びに行く」「児童が1人でお使いに行く」などの行為を「虐待」として禁じるもの。6日に県の福祉保健医療委員会で可決された。13日の本会議で採決が予定され、可決される見通しになっている。SNS上には「埼玉のぶっ飛び条例、共働きで子育てをすることを想定すれば現実的ではないことなんて容易に分かるだろうに、そうならない人達が政治を回していることが見えたよね」「何を考えたらこんな条例案を可決しようと思えるんだろう」「埼玉県民の子育て世代を虐待することになるのでは?」など、条例案の内容や、提出した自民党の対応にも批判が相次いでいる。 <一般社会における女性登用について> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230815&ng=DGKKZO73590370U3A810C2EP0000 (日経新聞 2023.8.15) 管理職、女性は12.7% 厚労省調べ 昨年度、国際的には低水準 企業の課長相当職以上の管理職に占める女性の割合が2022年度は12.7%だったことが厚生労働省の「雇用均等基本調査」で分かった。過去最高を更新したものの、21年度からの上昇幅は0.4ポイントと限定的で、国際比較では低い水準にとどまる。22年10月時点で、従業員が10人以上いる全国の企業6000社を対象に調査した。企業規模別では従業員数が10~29人の企業が21.3%と最大だった。300~999人の企業は6.2%、1000~4999人の企業は7.2%、5000人以上の企業は8.2%といずれも1割に満たなかった。大企業における女性管理職の割合は総じて低い傾向にある。全体の数字でも国際的に低い水準が続いている。労働政策研究・研修機構によると、21年の日本の女性管理職割合は13.2%だった。スウェーデンは43.0%、米国は41.4%、シンガポールは38.1%と欧米など主要15カ国で最も低かった。政府は30年までに東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を30%以上とする目標を打ち出している。22年からは常用労働者301人以上の企業に男女の賃金差の公表も義務づけた。厚労省の担当者は「女性管理職の登用は息の長い取り組みであり、引き続き登用率の向上を呼びかけていきたい」と話す。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231019&ng=DGKKZO75369360Y3A011C2KE8000 (日経新聞 2023年10月19日) 再考 セーフティーネット(下) 雇用の自律的選択こそ必須 神吉知郁子・東京大学教授(かんき・ちかこ 77年生まれ。東京大法卒、同大博士(法学)。専門は労働法、最低賃金などの賃金規制) <ポイント> ○男性稼ぎ主モデルへの依存は持続不可能 ○無限定な働き方が多様性を妨げる要因に ○日々の労働時間予測・管理の可能性重要 セーフティーネット(安全網)は社会保障制度だけではない。稼働能力のある現役世代にとって、生活保護はほとんど使うことが想定されない最終手段だ。実際に安定した生活基盤を提供する1次的セーフティーネットとして機能しているのは雇用だといってよい。労働力調査(2023年4~6月)によると、就業者約6747万人のうち、雇用されている者は約6067万人と9割に及ぶ。雇用は労働者の経済的生活を安定化させ、社会資源の分配を果たす。同時に能力や技能を発揮して対価を受け取ることで、労働者が保護の客体ではなく主体的に自己を確立し、自尊心や存在意義を確認する場や、成長の機会や人とのつながり、居場所を提供し、孤立・孤独を防ぐ効果も有する。社会にとっては、税や社会保険などのより大きなセーフティーネットを担う基盤ともなる。従って現役世代のセーフティーネットを再考するにあたっては、いかに良質な雇用を確保するかが最重要課題の一つだ。これまで良質な雇用の理想とされてきたのは、大企業の正社員だろう。定年までの長期の雇用保障を前提として、年功的に上昇する基本給に加え、手厚い手当により住宅の取得や教育投資を可能とし、労働者と家族の生活を支えてきた。1970~80年代には、男性稼ぎ主が主婦と子ども2人を養う世帯が標準モデルとされ、社会保障も労働者本人の厚生年金だけでなく第3号被保険者制度や遺族年金制度などによりこのモデルを補強してきた。ではこの失われつつある「古き良き」スタイルに回帰し、拡大を目指すべきか。答えは否、既に不可能だ。晩婚・非婚化、超高齢化、少子化という不可逆な社会の変化は「標準」世帯を遠い過去のものとした。労働力の先細りや教育水準の高まりを考慮すれば、性別や年齢、婚姻状態を問わず、より多様な人々に健全な雇用機会を確保することが必要になる。そのためには、負の側面に目を向けねばならない。日本型雇用慣行における労働者の標準モデルは、自分自身や家族のケア責任を負わず、仕事に無制限に時間と労力を割ける無限定正社員だった。こうした価値観は健康障害や格差の固定と増大、多様性の阻害といった弊害ももたらしてきた。まず労働者本人は、安定雇用と引き換えに、長時間労働や転居も伴う頻繁な異動を甘受せねばならない。法的には19年まで絶対的な労働時間上限がなく、過重労働に歯止めはかからなかった。判例は企業に広範な人事権を認め、転勤命令を拒否した場合には懲戒解雇も有効としてきた。必ずしも長期雇用や高待遇が保証されない企業であっても、その解釈は変わらない。22年度に労災と認定された過労死など(脳心臓疾患、精神疾患)は904件だが、請求件数は3486件にのぼり、健康障害はより多いと考えられる。職場のハラスメントを巡る紛争も増加傾向にある。生活を支えるはずの仕事がストレスを生み、健康を害し生命を失う原因にもなっている。一方、仕事優先の無限定な働き方が求められる労働者には恒常的な他者のケアが難しく、しわ寄せは家族に及ぶ。ケア責任を引き受けるパートナー側の職業生活に制限がかかる。性別役割分業の実態もあり、この影響は女性に大きく出る。女性の労働力率が出産・育児期に落ち込む、いわゆるM字カーブは改善傾向とはいえ、出産離職率はいまだに約3割に及ぶ。また女性が正規雇用で働く割合は20代後半の約60%がピークで、年齢上昇につれて低下するL字を描く。そして女性労働者の過半数は非正規で働いている。日本では男性の有償労働時間が突出して長く、世界最長である(図参照)。その裏返しとして、家事・育児などの無償労働時間は最短で、男女格差は5.5倍に達する。経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の男女格差はほとんど2倍未満だ。長時間無限定労働をスタンダードとする日本型雇用慣行の下では、構造的にワークがライフの、ライフがワークの足かせになってきたのである。もっとも、非正規の処遇が十分であれば、ケアのニーズに合わせた働き方はむしろ多様性の一環と評価できる。例えばパートタイム労働者にフルタイムとの比例的な待遇を保障できれば、格差問題はそれほど深刻ではないかもしれない。だが正社員の本質がフルタイムよりも無限定性にあるとみれば、単純な時間での比較はそぐわない。そして戦後の非正規労働の典型が主婦パートだったため、被扶養者であり家計補助者にすぎないという想定のもと、多くは最低賃金を参照するなど、正社員とは全く異なる制度理念で処遇が決定されてきた。労働契約が有期の場合は、雇用が不安定なため交渉力も弱く、処遇改善の手段をもちえない状況に置かれる。生涯未婚率が高まり単身世帯も増えるなか、様々な事情で働き方に制約のあるすべての人に「セーフ」な雇用機会を保障するには、正社員も含めた働き方の見直しが必須だ。まずは時間外労働を前提とせず、契約で決めた労働時間を守って、十分な生活時間と処遇を確保することだ。労働基準法の上限はいわゆる過労死基準であり、これだけに依拠しては健全な生活は維持できない。休暇も有効だが、自分のケアを他人に任せず仕事と両立でき、共働きやシングルで子育てをしながら持続可能な働き方に転換するには、日々の労働時間の予測、コントロール可能性こそが重要だ。本来的には、時間という貴重な資源の処分がほぼ使用者側に委ねられるという契約解釈自体に再考の余地がある。より労働者の意思を反映した労働条件の決定・変更も課題だ。契約である以上、条件の決定・変更は合意ベースが原則だが、司法判断は使用者の一方的な変更余地を広く認めてきた。特に転勤命令については、労働者の不利益が通常甘受すべき程度かを権利濫用(らんよう)判断の基準としつつ、それが認められたのは家族全員に疾病や障害があり、他に介護者がいないような深刻な場合ばかりだった。現在の社会状況に即して基準を見直し、根本的には変更を望まない労働者の選択が尊重されるべきだろう。また正規・非正規の労働条件格差については、労働契約法などにより不合理な格差が禁止されてきた。しかし昇進や異動といった職務の変更の範囲に正社員との違いがある場合には、特に基本給格差の不合理性は認められないケースがほとんどだ。ここでも正社員の働き方の無限定性がネックとなる。結果的な賃金格差のみならず、評価の仕組みを見直すことが格差是正の手掛かりとなるはずだ。雇用における労働者の自律性確保は、セーフティーネットを自らの手で張ることにつながり、社会保障による再分配では実現できない価値をもつ。過重労働や性別役割分業に依存せず、自律的選択を尊重する雇用のあり方が望まれる。 <外国人の登用について> *5-1-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231124/k10014267741000.html (NHK 2023年11月24日) 技能実習生制度を廃止 「育成就労制度」に名称変更 最終報告書 厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪が相次ぎ、人権侵害の指摘があるとして、政府の有識者会議は今の制度を廃止するとした最終報告書をまとめました。新たな制度は人材の確保と育成を目的とし、名称も「育成就労制度」に変えるとしています。技能実習制度は外国人が最長で5年間、働きながら技能を学ぶことができますが、厳しい職場環境に置かれた実習生の失踪が相次ぎ、人権侵害の指摘があるなどとして、政府の有識者会議は今の制度を廃止するとした最終報告書をまとめました。それによりますと、新制度の目的をこれまでの国際貢献から外国人材の確保と育成に変え、名称も「育成就労制度」にするとしています。そして、基本的に3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成します。専門の知識が求められる特定技能制度へのつながりを重視し、受け入れる職種を介護や建設、農業などの分野に限定します。一方で、特定技能への移行には、技能と日本語の試験に合格するという条件を加えます。また、これまで原則できなかった別の企業などに移る「転籍」は、1年以上働いたうえで、一定の技能と日本語の能力があれば同じ分野にかぎり認めることにしています。期間をめぐっては2年までとすることも検討されましたが、制度が複雑になるなどとして盛り込まれませんでした。さらに、実習生の多くが母国の送り出し機関や仲介者に多額の手数料を支払って来日していることを踏まえ、負担軽減を図るために、日本の受け入れ企業と費用を分担する仕組みを導入します。有識者会議は早ければ来週にも、最終報告書を小泉法務大臣に提出する方針です。 ●農家からは新制度に期待する一方 雇用主の負担増への懸念も 長年、技能実習生を受け入れてきた茨城県内の農家からは、新たな制度に期待する一方、雇用主の負担が増えることへの懸念の声も聞かれました。東京のホテルやレストランなどにいちごを出荷している茨城県鉾田市の農家では、20年以上、外国人材を受け入れていて、今は技能実習生など10人のインドネシア人が働いています。技能実習制度が国際貢献を目的にしながら実際は人手確保の手段になっていると指摘される中、実態にあわせた形で外国人材の確保と育成のための新たな制度となることについて、「村田農園」の村田和寿代表は「実際には労働力となっていて、その中で育成もしてきたので、実際の形に近づくことはいいことではないか」と新たな制度への期待を語りました。この農園では技能実習生ひとりひとりにアルバムを作るなど、大切に育成しているということで、村田さんは「実習生のおかげで農園の大規模化が進められ、非常に助かっています。なくてはならない存在なので、制度が変わっても雇用を続けたいです」と話しています。一方、新たな制度では、これまで原則できなかった別の企業などに移る「転籍」について、1年以上働いていることなどを要件に認めるとしていて、これが実際に広がれば人材が流出するのではないかと懸念しています。また、現在、技能実習生を新たに受け入れる際には、渡航費用や来日後1か月間の宿泊費や研修費用などで1人あたりおよそ25万円から30万円前後を負担しているということです。これに加え新たな制度では外国人が母国で送り出し機関などに支払っている手数料を受け入れ側も負担するよう求めていて、金銭的な負担はさらに大きくなる可能性があります。村田代表は「プラスで費用がかかるのは農家にとっては痛手になります。ただ、実習生のスキルアップのための研修は必要なので、現地で実習生が払っている費用を明確にするなど、適切な仕組みづくりをしてほしいです。農業が選ばれ、事業者が選ばれる環境は厳しくなっているので、受け入れる側としても改善を続けていきたいです」と話しています。 ●支援団体「現場の声を聞きながら新制度を作ってほしい」 技能実習生を支援している団体は最終報告書の内容について一定の評価をした上で、いかにサポート体制を充実させていくかが引き続き課題だと指摘します。東京 港区のNPO法人「日越ともいき支援会」では、2020年からベトナム人の技能実習生の保護などを行っています。この団体には、職場での暴力や残業代の未払い、妊娠を機に雇い止めされたといった実習生などからの相談があとを絶たず、ことしに入ってシェルターに保護した人数は127人に上るということです。技能実習制度を廃止するという最終報告書がまとまったことについて、団体の吉水慈豊代表は「30年続く中で海外からも批判されてきた今の制度をようやく見直そうという国の姿勢は評価できる」としています。一方で「これまで、パワハラやセクハラ、賃金の未払いなどの問題が生じたときにきちんと対応できる体制が整っていないことが大きな問題だった。新たな制度で認められる転籍についてはハローワークなどが支援するというが、外国人の支援に慣れていないと難しい面もある。支援体制が十分整わないまま新しい制度に向かうのは危険で、職を失ったり、今より早く失踪したりする人が続出するおそれもある」と懸念しています。そのうえで「海外の若者たちが日本にきてよかったと思える制度にしないといけない。現場の声を聞きながら新たな制度を作っていってほしい」と話していました。 ●専門家「外国人側と企業側の双方に細心の配慮を」 最終報告書について、外国人労働者の受け入れの問題に詳しい野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「長い間、人権侵害が指摘される温床になっていたのが『転籍』の問題で、非常に厳しく制限されていたが条件が緩和されることで、企業も従来以上に実習生の人権に配慮することになり、労働環境が非常によくなるきっかけとなるのではないか」と評価します。一方で、外国人側だけでなく受け入れる企業側にとってもメリットのある制度にする必要があるとして、「日本企業にとっては人材を確保していくための重要な仕組みだが、企業がコストをかけて技能を習得させる努力をしても転籍されてしまうという問題が出てくる可能性もある。その場合は、国が、支援するといったことも今後、検討材料になってくるだろう」と指摘します。そのうえで「技能実習制度ができた30年前と現在では、日本の経済的立場が変わり、以前は、国際貢献の観点から実習生を受け入れる立場だったが、賃金が上がらず、円安も進んだ結果、待遇や働く環境などを改善しないと実習生が来てくれない状況だ。今回の見直しは日本経済を支えてもらう仕組みという長期の視点で考える必要がある。具体的な制度設計の中で、外国人側と企業側の双方に細心の配慮をはかるほか、実際に動き出したあと、過重な負担を強いていると判断した場合には、柔軟に制度を見直す姿勢も必要だ」と話していました。 *5-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/292093 (東京新聞 2023年11月25日) 結論は「丸投げ」…将来の技能実習の焦点「転籍の制限期間」 有識者会議が最終報告 議論の着地点見いだせず 外国人技能実習制度に代わる新制度を検討してきた政府の有識者会議は24日、新制度「育成就労」の創設を提言する最終報告書を取りまとめた。焦点となっていた別の職場への「転籍」の制限期間は、現行の「3年」から「1年」への緩和を原則としつつ、当分の間は1年を超える制限を認めるなどの「経過措置」の検討を求めた。具体的な内容は盛り込まず、今後の政府・与党の対応に委ねた。政府は提言を基に新制度の詳細を検討し、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する方針。経過措置の内容次第では、転籍制限の緩和が限定的になる可能性もある。最終報告書は、現行の厳しい転籍制限が「さまざまな人権侵害が発生し、深刻化させる背景・原因となっていると指摘されている」と記載。新制度では、就労が1年を超えた上で日本語と技能の一定要件を満たせば、本人の意向での転籍を認めるとした。 ◆「必要な経過措置を求めることを検討する」 一方で、急激な変化を緩和するため「当分の間、受け入れ対象分野によっては1年を超える期間の設定を認めるなど、必要な経過措置を設けることを検討する」よう政府に求めた。設定できる具体的な年数や要件などは示さなかった。新制度案は「人材確保と人材育成」を目的に掲げ、労働者としての受け入れを明確にする。現行制度は「人材育成による国際貢献」を目的にしており、人手不足の現場で労働力の確保に使われている実態との乖離(かいり)が指摘されていた。就労期間は3年とし、一定の専門性を持つ外国人を対象とした「特定技能制度」の水準まで育成。現在は技能実習と特定技能の受け入れ対象分野がばらばらだが、新制度では一致させ、技能実習から特定技能に移行しやすくする。技能実習と特定技能 技能実習は「人材育成による国際貢献」を目的に途上国の外国人を最長5年受け入れる制度で、1993年に始まった。2023年6月末時点で全国に約36万人が在留する。特定技能は、人材確保が困難な産業分野に一定の専門性・技能を有する外国人労働者を受け入れる制度で、19年に開始。技能水準に応じて1号と2号がある。23年6月末時点で約17万人が在留。 ◆「人材確保」と「人権保護」 外国人技能実習制度の見直しを巡り、政府有識者会議が最終報告書で、転籍制限期間の延長などの経過措置を「検討する」と盛り込んだのは、人材確保と人権保護をてんびんにかけるような議論の着地点を見いだせなかったためだ。今後の制度設計では、外国人の人権保護が骨抜きにならないような対応が求められる。一般の有期雇用者と同様に1年での転籍を認めることは、外国人の人権保護を目指した制度見直しの根幹だった。だが、10月に新制度案のたたき台が示されると、実習生を受け入れてきた地方の事業者や自民党内から「人材が都会に流出する」などの声が相次ぎ、有識者会議は「懸念への対応が必要」と判断した。一度は制限期間を「最大2年」に延ばせる例外規定を示したが、賛否が分かれたため削除。「最大2年」の記述すら消えたことで、現行の「3年不可」に近い制限が継続される懸念も残った。経過措置の「当分の間」がどれだけ続くかも不透明だ。自民党内の緩和への根強い慎重論が制度設計に影響する可能性もある。人材確保と人権保護は相反するものなのか。外国人の人権保護を大前提にした上で、地方の不安にどう応えるべきか。政府・与党は知恵を尽くすべきだ。(井上峻輔) *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230813&ng=DGKKZO73560080S3A810C2EA1000 (日経新聞社説 2023.8.13) 〈人手不足に克つ〉「選ばれる国」へ外国人基本法を 日本は外国人に「選ばれる国」になれるのか。今がまさに正念場である。選ばれるには外国人が歓迎されていると感じる環境を提供しなければならない。職場はもちろん、生活する地域社会でも外国人が共生できる教育や福祉の基盤づくりが急務だ。その礎として外国人をどのように受け入れるか、我が国の姿勢を内外に示す外国人基本法を考える時期である。 ●疎外感の放置はリスク 外国人労働者を受け入れる政策は転換点にある。6月に在留資格「特定技能」で長期就労や家族帯同ができる業種を大幅に増やし、永住に道を開いた。賃金不払いや失踪などトラブルが絶えない技能実習制度を廃止し、新制度に移行する議論も進む。技能実習は国際貢献を名目にしながらも、実質的に外国人を景気変動に伴う一時的な雇用の調整弁として扱ってきた。人手不足が恒常化した今、これでは対応できない。人権侵害が指摘される制度でもあり、早急に廃止して特定技能に一本化すべきだ。複雑になっている在留資格も整理したい。制度のわかりにくさは外国人が日本を避ける理由になりかねないためだ。日本にはすでに総人口の2%に相当する約300万人の外国人が暮らしている。外国人比率が1割ある欧州ほどには社会のあつれきはまだ目立たないが、技能実習の受け入れから30年たち、第2世代が社会に出始めている。なかには日本語がままならないまま社会に放り出され、疎外感を感じている若者もいよう。日本社会に溶け込めない外国人を放置しておくのは、欧州の移民問題のようなリスクを抱えていると考えるべきだ。それが顕在化しないうちに社会的に包摂する手立てを考える必要がある。最も重要なのが日本語教育である。多文化共生を進める浜松市は、外国人家庭を訪問して相談に応じるなど、きめ細かな支援で学校に通っていない子どもをゼロにするようにしている。だが多くの自治体はそこまで手が回らない。外国人に日本語教育が行き届かないのは、自治体やNPO任せにしてきたためだ。憲法は義務教育の対象を「国民」としているが、日本は「すべての者」への教育の提供を定めた国連人権規約と児童の権利条約を批准している。国籍を問わず、子どもに教育を受けさせるのは政府の責任である。明治の市町村合併は小学校、昭和の大合併は中学校を運営できるよう自治体を強化するのが目的だった。外国人の住民登録がない自治体はいまや全国に3つしかない。外国人がどこにいても一定の教育を受けられるようにするのが令和の公教育のあるべき姿だ。そこでは教育だけでなく、福祉なども含めて外国人受け入れのあり方を一から考えていく必要がある。これまでは移民の是非をめぐる対立から入り口で思考停止に陥っていた。「移民政策はとらない」「単純労働者は受け入れない」といった制約をいったん取り払い、日本にふさわしい外国人受け入れ制度を議論するときだ。 ●共生社会は国の責務 外国人政策を議論する日本国際交流センターの円卓会議は「在留外国人基本法」を提唱している。外国人を日本社会の一員とし、対等な社会参加で共生社会を築くことを理念に掲げる。そのための基盤整備、財源確保は国の責務とした。賛同できる。各論はさまざま議論があろう。だが、基本法で外国人を歓迎する姿勢を打ち出すことは、人口減少を日本の成長の制約とみている世界に向けて、日本は変わるとのメッセージになるだろう。企業も意識を変えなければならない。長期就労を前提に昇給・昇進や能力開発を日本人と同等にする必要がある。優秀な人材は幹部候補として育て、独立を支援するくらいの度量がないと魅力的な会社に映らないのではないか。外国人を積極的に受け入れる韓国や台湾などとの競争は激しさを増している。外国人に選んでもらえる職場づくりは、多様な人材が活躍できるオープンで創造的な企業風土につながると考えたい。豊かで活力ある経済を維持してゆくには、開放的な社会であることが前提になる。それは古来、海外との交流を深めることで発展してきた我が国の歴史そのものだ。そのDNAを呼び覚ましたい。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230826&ng=DGKKZO73919710W3A820C2EA1000 (日経新聞 2023.8.26) 留学増へ給付型奨学金拡充 来年度7割増3万人に、文科省、国際人材育成急ぐ 海外への留学生を2033年までに年50万人にする目標の実現に向け、文部科学省は給付型奨学金の対象者を24年度に現在に比べ7割増の3万人にする方針を固めた。国際競争力向上へグローバル人材の育成を急ぐ。政府の教育未来創造会議が4月、33年までに日本人留学生を新型コロナウイルス禍前の年22.2万人から年50万人に、外国人留学生を年31.8万人から年40万人に増やすよう提言した。同省が経済面の支援策などを検討していた。派遣する留学生の奨学金を拡充するため24年度予算案の概算要求に114億円を盛り込む。留学支援の給付型奨学金は現在、交換留学など中短期の留学を支援する「協定派遣型」と、学位取得を目指す「学部学位取得型」「大学院学位取得型」などがある。協定派遣型は月額で最大10万円を支給し23年度は約1万6900人が利用している。24年度はこの受給者を約1万3000人分増やし、3万人を対象にする。最大で月11万8000円を支給する学部学位取得型、月額最大14万8000円の大学院学位取得型の受給者は23年度の600人から700人強に増やす。自治体などと連携して高校を卒業してすぐ海外大に進学する生徒らを支援する。内閣府が18年度に若者約1000人を対象に実施したアンケートによると、経済的な理由や語学力不足などを理由に「外国留学をしたいと思わない」と答える若者は全体の5割を超えた。2割程度の韓国、米国などに比べて消極性が際立つ。学位取得を目的とする留学者数は20年に4万2000人だったが、33年には年50万人のうちの15万人に引き上げたい考えだ。実現すればフランス(10万人)や米国(10万9000人)、ドイツ(12万3000人)を抜く規模となる。文科省関係者は「まずは中短期留学者の支援を充実させ、留学機運を醸成したい」と話す。高校段階での意欲喚起も重要とみており、留学情報の発信やプラン策定などを担う「留学コーディネーター」の高校への配置も進める。外国人留学生も受け入れ拡大へ日本学生支援機構に誘致戦略を立案する部署を新設する。諸外国の動向やデータなどを分析して戦略を練る。同機構によると、日本の在学者に占める外国人留学生の割合は5%。英国の20%、オーストラリアの30%と比べ低い。5月に富山市と金沢市で開催された主要7カ国(G7)教育相会合の閣僚宣言では「G7各国間の国際交流をコロナ前の水準に戻し、それ以上に拡大する」と盛り込まれた。同省はG7とともに東南アジア諸国連合(ASEAN)との大学間共同教育プログラムの策定支援や、これらの国から受け入れる留学生への奨学金を拡充する方針だ。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231120&ng=DGKKZO76206190X11C23A1KE8000 (日経新聞 2023.11.20) 経済教室外国人労働者政策の針路(上) 経済成長に寄与する制度に 橋本由紀・経済産業研究所研究員(東京大経済学部卒、同大博士(経済学)。専門は労働経済学、外国人雇用) <ポイント> ○外国人材の技能水準が企業の生産性左右 ○現政策は非高技能者割合を高める可能性 ○成長企業を外国人材確保で優遇する案も 外国人には受け入れ国の人口・経済政策や出入国管理制度が実質的な「国境」となり、就労の可否や働き方は制度や政策の調整の影響を強く受ける。同時に外国人労働者の増加は受け入れ国の労働市場にも多少の影響をもたらし、自国民の働き方も変えうる。本稿では、これまでの政策の帰結としての日本の外国人労働者の現状を踏まえつつ、これからの外国人労働政策を議論したい。図は、賃金構造基本統計調査を基に2020~22年の外国人労働者(一般労働者のみ)の所定内給与額の推移を示したものだ。専門的・技術的分野の労働者(身分系の在留資格者は含まない)と、技能実習生・特定技能外国人の賃金水準や分布は大きく異なっている。賃金分布の差異に加え在留資格取得に必要な学歴や経験の違いも踏まえると、専門的・技術的分野の外国人と技能実習生・特定技能外国人は異なるグループとみなしうる。前者を高技能者、後者を非高技能者とする分類は、多くの研究が用いる区分にも対応する。まず高技能外国人の雇用状況を確認する。筆者が連合総合生活開発研究所(連合総研)のプロジェクトで行った賃金構造基本統計調査の分析結果を紹介しよう。高技能外国人には賃金が日本人正社員と同水準かそれ以上の者が少なくない。図に示すように分散も大きい。一方で勤続年数が短くボーナス支給割合も低いことから、日本型雇用慣行の下で正社員的に働く者は少なく、専門的な職種に就きジョブ型で雇用される者が多いと推測される。次に非高技能外国人の雇用をみてみよう。図の技能実習生と特定技能外国人の所定内給与額の中央値は、20年から22年の間にそれぞれ1.4万円、3.6万円上昇し、分散も拡大している。特定技能外国人の22年の中央値(20.4万円)は、高卒非正規労働者の所定内給与額の中央値(19.2万円)よりも高い。かつて技能実習生の賃金は、事業者が立地する地域の最低賃金を目安とした相場が形成され、分散も小さかった。だが現在は、高まった技能に見合う給与を支払う事業者が増えている。転職の制限により需要独占的となっていた技能実習生の労働市場が、転職が認められる特定技能外国人の労働市場と接続されたことで競争的になりつつある。同調査では、外国人を雇用しない企業と比べ、高技能外国人を雇う事業所では日本人の賃金が高く、非高技能外国人を雇う事業所では日本人の賃金が低いことも確認できた。これは因果関係を示すものではない。しかしクリスチャン・ダストマン英ロンドン大教授らはドイツの労働市場を分析し、地域に流入した移民労働者の技能レベルに応じて企業内の生産技術が変化することを実証している。日本でも、高技能者向けの技術を使い生産性を高めた企業では賃金が高く、非高技能外国人の雇用を増やし労働集約的となった企業では生産性や賃金が停滞していた可能性がある。日本商工会議所の調査によれば、23年度に賃上げを実施した中小企業は62%だった。一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる製造業分野の中小企業支援調査では、97%の事業所が自社で技能実習を修了した者を特定技能1号として雇用した際に月給額を引き上げていた。ここで働きや貢献に応じた賃上げが日本人労働者と特定技能外国人で同時になされなければ、特定技能外国人の賃上げは制度の要請によるもので、生産性や業績の向上を伴わない防衛的賃上げである可能性が示唆される。各都道府県の技能実習生と特定技能外国人の在留者数をみると、18年時点では全技能実習生の約6割が、22年時点の最低賃金が1千円未満の自治体に在留していた。21年以降、全特定技能外国人のうち、これらの自治体に在留する者は5割を下回っている。その結果、22年には最低賃金が1千円以上の都府県では、非高技能労働者総数に占める特定技能外国人の割合は有意に高い傾向があった。特定技能制度創設時に懸念された都市部への移動は既に顕在化の兆しがある。多くの先進諸国では、経済成長に貢献する人材として高技能移民の就労や定住を推進し、非高技能移民は適所で受け入れつつ定住は制限する政策をとる。翻って現在の日本は、専門的・技術的分野の人材以外の外国人労働者にも定住への道を開きつつあり、外国人の受け入れでも大規模な「量的緩和政策」に転じている。そこでは、外国籍者の在留の範囲や期間など線引きに関する議論は後退し、外国人労働政策の新たな課題は求める人材にいかに日本を選んでもらうかとなる。高技能外国人と非高技能外国人の新規入国者数は12年にはほぼ同数だったが、22年は後者が前者の2.3倍となった。現在の日本は、非高技能労働者により選ばれている。この傾向が続けば、非高技能者が日本の外国人労働者の多数派となる日は遠くない。こうした傾向が生じたのは、現行政策が外国人の質と量をともに求めても、技術革新に貢献しうる高度人材には日本で就労する魅力が乏しいからだ。非高技能者にとっても円安により賃金面では日本で働く誘因は低下しているが、門戸の広さや生活環境が評価されて在留者は急増している。10月に公表された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告案は、新制度下での職場変更制約の緩和を提案した。これが実現すれば、非高技能外国人の働きやすさが相対的に高まるため、外国人労働者に占める非高技能者の割合はさらに高まると思われる。では今後の外国人労働政策は何を目指すべきか。政府は制度を順守しない悪質な機関や企業の適正化に重きを置く考え方もある。筆者は、外国人雇用の過程で生じた課題への対処と人手確保に重きを置く方針から、経済成長というマクロの目標に沿う外国人労働政策を目指すべきだと考える。現在の政策は高技能者と非高技能者向けの政策をそれぞれの枠組みの中で適正化しようとする。政策全体の展望は見えにくく、「新しい資本主義」が掲げる人と技術への投資強化や賃上げなどの主要労働政策との直接的な関連付けもない。人材確保のために特定技能外国人の賃金を引き上げる一方で、日本人の賃金を据え置いたり設備投資を控えたりすることは、企業や経済の成長にはつながらない可能性が高い。外国人に「選ばれる国」となるだけではなく、日本人が働き続けたい日本であるためにも、まず必要なことは日本経済の成長である。そこでは、すべての労働者が満足できる水準の所得と活躍機会の提供が不可欠だ。外国人労働政策にも、賃上げや設備投資を進めて生産性を高めた企業を優遇する仕組みを導入することも一案だ。日本的雇用慣行の下で働く正社員を支える存在として外国人労働者を位置け、限定的な機会や処遇しか提供しない非成長企業は選ばれなくなるだろう。 *5-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15753499.html?_requesturl=articles%2FDA3S15753499.html&pn=3 (朝日新聞 2023年9月28日) 「弥生人」像、核ゲノム分析が変える 文化の担い手は?見直し迫られる通説 「弥生人」とは何者か。縄文時代から日本列島に住む在来の人々と、海外から先進技術を持ち込んだ渡来人が徐々に混血しながら弥生文化を担う――。そんな人類学上の通説だった弥生人観が、近年急速に進む核ゲノムの分析で様変わりしようとしている。 ■渡来人と在来人、骨格違うが共通の「縄文的」遺伝子も 紀元前後の約千年にわたり展開した弥生時代。その幕を開けたのが、水田稲作や金属器文化を携えて北部九州沿岸部に現れた、朝鮮半島からの渡来人だ。彼らは遺跡から出土する骨の形の違いから、前代の縄文人とは姿がまったく異なるとされてきた。背が高くてすっきりした顔立ちの渡来人。対して、がっしりした肢体で彫りの深い在来系。両者は徐々に混じり合いながら現在の日本人を形作ったとされる。この説は「二重構造モデル」と呼ばれ、定説となっている。ところが、2010年代に登場した核ゲノム分析でこれが揺らぎ始めた。ゲノムとはすべての遺伝情報のこと。細胞の核が持つ情報量は、それまで分析対象の主流だったミトコンドリアDNAよりもはるかに多い。不可能と思われてきた古人骨の核の遺伝子分析を最新機器が可能にした。18年、日本人の起源をさぐる通称「ヤポネシアゲノム」プロジェクトがスタート。国立科学博物館の篠田謙一館長(DNA人類学)や、国立歴史民俗博物館の藤尾慎一郎教授(考古学)らが分析を重ねてきた。その結果、意外なことがわかってきた。渡来人の故郷である当時の朝鮮半島にも、縄文人に似た遺伝的要素を持つ人々がいたらしいのだ。つまり、二重構造モデルではまったく異質なはずの列島在来系と渡来人が、実は縄文時代以前から海を挟みつつ同じ遺伝子を共有していたことになる。研究チームはその理由を、はるか旧石器時代の東アジア沿岸部や島々に、両者のもととなった集団がいたからではないかと解釈。「(核ゲノムの分析では)骨の観察だけではわからなかった混血の度合いがわかる。従来、在地の人々に形質の異なる人々が入ってきた構図を描いてきたが、そう単純な話ではないことが見えてきた」と篠田さん。藤尾さんも「二重構造モデルも部分的な見直しが必要ではないか」という。生粋の渡来系と考えられてきた安徳台遺跡(福岡県那珂川市)の骨も縄文的要素を含んでいたことや、多量の出土人骨で有名な青谷上寺地(あおやかみじち)遺跡(鳥取市)の分析を通して混血度合いのかなり異なる人々が幅広くいたことも判明。弥生時代の西日本には想像以上に、遺伝的に多様な集団が存在していたようだ。既存の枠組みにも再考を迫る。九州では骨の形をもとに、渡来系が密集する北部九州から山口県の沿岸部に対し、長崎県を中心にした縄文人直系の在地集団を「西北九州弥生人」として区別してきた。ところが下本山遺跡(長崎県佐世保市)などのゲノム分析で、このタイプにも渡来系要素を持つ「ハイブリッド」な人々がいることが明らかに。こんな例は九州中部や南部にも広がる可能性があるらしい。もはや一概に「西北九州」とまとめることが難しくなったわけだ。弥生文化の担い手は誰か。特定の文化を特定の集団だけが独占するとは限らない。だから、先進文化をもたらした渡来人がそのまま弥生社会の中核だったとみる説と、縄文以来の在来人が主体的に外来文化を取り込んで発展させたとみる説が対立してきた。藤尾さんは「核DNAの分析成果と各地の文化的様相をもっと比較検討していけば、人間集団と文化の相関関係がわかってくるかもしれない」と話す。 <有明ノリは独禁法違反ではありません> PS(2023年12月2日追加):*6のように、公正取引委員会が有明海のノリ取引に関し、佐賀県有明海漁協と熊本県漁連の独禁法違反を認定して排除措置命令を出す方針を固め、理由は、①全てのノリを漁協や漁連に出荷することを生産者に求める「全量出荷」と呼ばれる慣行があること ②そのための誓約書を提出させていること ③生産者が独自ルートで取引することを制限していること 等が、拘束条件付き取引にあたると判断したからだそうだ。 しかし、有明海の海苔生産は、i)漁業者全員による海岸のゴミ掃除 ii)佐賀県による森林の育成 iii)佐賀市による海水の養分管理 iv)冷凍網の干し場としての漁港前空き地の利用 v)川に除草剤・農薬・洗剤を流さない 等々、個人の生産者だけではなく地域一丸となった付加価値の高い上質な海苔づくりのための努力があって行なわれている。さらに、佐賀県では(私が衆議院議員時代に提案して)有明海苔をブランド化し、多数の小規模生産者が自由に販売すれば大規模事業者に安く買い叩かれて所得が減り、佐賀県や佐賀市に環流する税金も減るのを防ぐため、つまり有明海苔のブランドと価格を守るために、①②③の“拘束条件”をつけているのである。もちろん、「有明海苔」というブランドに入らない海苔もできるが、これもまとめて等級に分け、買い叩かれず販売するために、なるべく漁協や漁連に集めるようにしている。そのため、この“拘束条件”は独占禁止法違反にあたるものではないと、私は考える。 なお、良い海苔ができるためには、海苔を生産している海や流れ込む川の水を汚染せず、山から栄養塩が流れてくる必要がある。以前は浅草海苔も採れていたのに今では採れないのは、東京港を行き交う船が東京湾を汚しすぎ、川から流れ込む水の水質管理もできていないからで、消費者が高すぎない価格で海苔を買えるようにするためには、多くの地域で海や川の水質に気をつけて海苔の生産量を増やすのが正攻法なのだ。そして、これは、他の水産物も同じである。 *6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15805375.html (朝日新聞 2023年11月30日) 有明ノリ全量出荷、独禁法違反認定へ 佐賀・熊本に排除命令方針 有明海のノリ取引をめぐり、九州3県の漁連や漁協に独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いがあるとして公正取引委員会が立ち入り検査をしていた問題で、公取委は、このうち佐賀と熊本の漁協と漁連の違反を認定し、排除措置命令を出す方針を固めた。関係者への取材でわかった。命令の対象となるのは、佐賀県有明海漁業協同組合(佐賀市)と熊本県漁業協同組合連合会(熊本市)。公取委は、両者に処分案を通知しており、意見を聴いたうえで最終的な結論を出す。関係者によると、公取委が問題視しているのは、全てのノリを漁協や漁連に出荷することを生産者に求める「全量出荷」と呼ばれる慣行。誓約書を提出させるなどの方法で生産者が独自ルートで取引することを制限しており、独禁法が禁止する拘束条件付き取引などにあたると判断した。公取委は昨年6月、福岡有明海漁業協同組合連合会(福岡県柳川市)を含む3者に立ち入り検査に入っていた。福岡は問題点を認め、誓約書を廃止するなどの改善計画を公取委に提出。公取委が6月に計画を認め、違反は認定せずに調査を終了していた。一方で佐賀と熊本は取引手法の違法性を否定し、改善計画も提出していない。公取委はこうした点も踏まえ、違反認定に踏み切る方針を決めた模様だ。 <中国産の花粉がないと受粉できない!?> PS(2023年12月2日追加):ホタテの殻むきを“加工”と呼んで、殻付きホタテを中国に輸出し、殻むき済ホタテを中国から米国に輸出していたのには驚いたが、外国人難民を移民労働者として受け入れれば、無駄な輸送費がかからず、技能レベルの低い人でも日本国内で“加工”でき、働けば日本社会の支え手になる。 そのような中、*7のように、①「幸水(ナシ)」の授粉に使う中国産の花粉が防疫で輸入停止になり、必要な量の花粉を確保できないため、来年は幸水の減産になるかも ②佐賀県は栽培面積の約4割で中国産の花粉を使用している ③農水省は自給体制を整えるよう求めた ④佐賀県内には花粉を共有して大量に保管する仕組みがない ⑤打開策の1つとして幸水より1週間ほど早く開花する「豊水(ナシ)」の花粉の採取が検討されている 等というのも驚きだった。 何故なら、「中国産の花粉がなければ植物の受粉ができない」ということはあり得ず、養蜂家にしばらくナシ畑にいてもらって、ナシの蜂蜜も採取すればよいからである。人間が他のナシから花粉を集めて保存したり、受粉したりすれば、それだけ労力とコストがかかってナシの値段が高くなる上、中国産の花粉がなければナシができないようなら、農水省が言うまでもなくナシを自給したことにはならず、輸送コストをかけて化石燃料を使っている。人手が足りないのなら、それこそ外国人労働者を雇えばよいし、アーモンド・レモン・オリーブ等の人手のかからない作物に転換することもできるため、生産コストを下げる工夫もしたらどうかと思った。消費者は、(贈答品でもらわなくても)果物を存分に食べるくらいのことはしたいのだから。 *7:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1151968 (佐賀新聞 2023/11/30) 佐賀県産ナシ、花粉不足に 中国で「火傷病」発生→農水省、防疫へ輸入停止、生産者、来年の減産回避へ奔走 伊万里市などのナシの産地に、深刻な問題が降りかかっている。授粉に使う中国産の花粉が防疫のため急きょ輸入停止になり、来年の生産に必要な花粉の量を確保できない恐れが出てきた。佐賀県では栽培面積の約4割で中国産花粉を使っており、生産量の大きな落ち込みを回避しようと農家やJA、行政が対策に当たっている。農水省は8月30日、中国で火傷病(かしょうびょう)の発生を確認したとして、花粉の輸入を停止した。火傷病は花粉を介して国内に侵入する恐れがあり、同省は中国産の利用実態を調査。農家やJAに在庫があっても使用しないことや、輸入禁止の長期化を見据えて自給体制を整えるよう求めた。ナシは主に人工授粉をして着果させるが、花から授粉用の花粉を採取するのは手間がかかる。産地では高齢化や人手不足も背景に、手に入りやすい中国産を使う農家が増えていった。佐賀県内は全国に先駆けて出荷する早生種「幸水」の施設栽培の割合が多く、早い時期の授粉に間に合わせるため中国産花粉に頼る傾向がある。県によると、2022年の県産ナシで中国の花粉を使ったのは栽培面積の約4割を占め、全国平均の約3割を上回る。県、関係する市、JAによる対策会議はこれまでに3回開かれ、来年の花粉をどう確保するかが重要課題に挙がっている。県園芸農産課は「国が対策を呼びかけた時は自前で花粉を採取できる時期は過ぎていた。また県内には、花粉を共有して大量に保管する他産地のような仕組みもない」と頭を悩ませる。県は農家ができる対策として、授粉の際に花粉を節約したり、各農家のストックを融通し合ったりすることを呼びかける。ただ、こうした取り組みでも不足を補うには至らず、県が9月に行った農家へのアンケートでは、来年必要な花粉が面積で約2割分足りないという試算が出た。一つの打開策として検討されているのが、幸水より1週間ほど早く開花する「豊水」の花粉の採取だ。現在、ハウス豊水の花が咲き始める2月末ごろに向け、関係者が奔走している。約130軒のナシ農家が加入するJA伊万里の担当職員は「不足分を補うには花粉採取用の豊水の木を何十本、何百本と確保しなければならず、生産者に協力を求めるなど調整している。授粉の適期は3~4日しかなく短期勝負。技術的にも難しく、どのくらいの花粉や人手が必要か、詰める作業をしている」と話す。影響をいかに抑え、生産量の減少をゼロに近づけられるか。産地全体で知恵を出し、助け合うことができるかが鍵を握る。 ■火傷病 ナシやリンゴなどの果樹が感染し、枝や葉が火にあぶられたように枯れ、木全体に及ぶ場合もある。火傷病菌を根絶できる有効な防除方法が確立されていないため、感染すれば伐採による防除が必要になる。日本での発生は確認されておらず、韓国や中国など約60カ国・地域で発生している。 <吉野ケ里遺跡で青銅器鋳型出土> PS(2023/12/7追加):*8のように、①吉野ケ里遺跡(佐賀県神埼市)で「細形銅剣(銅矛)」と呼ばれる最も古いタイプの蛇紋岩の鋳型が出土した ②九州北部は日本で最初に青銅器生産を始めた地域 ③このような鋳型は佐賀9遺跡20点、福岡6遺跡30点、熊本2遺跡4点出土 ④鋳型の石材を調べることで朝鮮半島との関わりが考察でき、青銅器生産の技術がどう伝わったかを考える材料になる とのことだ。確かに、日本人は貿易で手に入れたものを国内生産したがるため、青銅器も同じであろうし、遺跡からの出土品も韓国と北部九州で類似しているため、九州北部は韓国を通じてユーラシア大陸と繋がっていたのだと思われる。 *8:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1154069 (佐賀新聞 2023/12/5) <吉野ケ里遺跡・青銅器鋳型出土>生産技術伝来解明の材料に 蛇紋岩製「全国でも初の出土例」、「謎のエリア」で発見 吉野ケ里遺跡(神埼市郡)の北墳丘墓西側にある「謎のエリア」で見つかった鋳型。鋳型に刻まれた形状から、「細形銅剣(銅矛)」と呼ばれる最も古いタイプと判明した。県文化課は「佐賀平野の遺跡の出土例が今回増えたことで、青銅器生産の技術がどう伝わったかを考える材料になる」と指摘する。県によると、このような最古級の鋳型は佐賀の9遺跡から20点、福岡の6遺跡から30点、熊本の2遺跡から4点出土している。福岡にある一つの遺跡から16点が一気に見つかったケースもある。九州北部は日本で最初に青銅器生産を始めた地域であり、その研究を進める材料の一つといえる。今回、全国でも出土例がないという蛇紋岩の鋳型が見つかったことについて、県文化課は「あまり注目されてこなかった石材を調べることで、朝鮮半島との関わりも考察できる」とする。一方、今回の発見で、吉野ケ里遺跡の南側にあったとされる「青銅器工房」が北側にも存在する可能性が出てきた。県文化課は、関連遺物が日吉神社境内跡地から複数見つかったことをその理由に挙げて、「鋳造に使われた土器製容器が見つかった点が大きい。生産設備の近くに捨てられるケースが多いから」とした上で「昭和60年代、鋳型の破片が、今回の出土地点からさらに西側で出土している。どこかからもたらされたというこれまでの考察を改め、製造拠点があったという可能性が高くなった」と述べた。 <日本の15歳、数学的リテラシーに課題> PS(2023年12月7日追加):*9-1は、①政府は3人以上の子がいる多子世帯は2025年度から所得制限なく子の大学授業料を無償化する方針 ②教育費の負担軽減で子をもうけやすくする ③大学生のほか短期大学・高等専門学校等の学生も含める ④現在、年収380万円未満の世帯は授業料を減免したり、給付型奨学金を出す支援制度がある ⑤政府は、2024年度から年収600万円までの中間層の多子世帯等に授業料を減免すると発表した ⑥今回は、多子世帯は所得制限なく無償化 ⑦政府は近く3.5兆円規模の財源確保策も示す方針だが、社会保障の歳出削減も必要になる としている。 しかし、①②④⑤⑥については、多子世帯の親に恩恵がある点で「とにかく生んでくれ!」という時代錯誤の政策である。また、子育て支援策が重複してきたため、子の育成を中心に考えて所得制限を設けず国公立大学の授業料を1万円/月以下にし、優秀にもかかわらず親の世帯所得が低いため進学が困難な子には奨学金を支給すればよい。国公立大学に絞る理由は、国公立大学はどの受験生にも英数国社理の試験を課し、大学入学前に常識として必要な最低限の知識を身につけることを促すからである。従って③も、本当に勉強して向上したい人だけを優遇すれば良いという意味でやりすぎだ。さらに、⑦の子育て財源に社会保障の負担増・歳出削減も取り沙汰されているが、社会保障間で融通しようとするのは不合理だ。何故なら、自立して社会を支え、社会を引っ張れる大人を育てるために教育支援をするので、教育支援をしっかり行なえば自立しているべき生産年齢人口の大人に景気対策のバラマキをする必要はないからだ。 *9-2は、⑧各国の15歳を対象とする2022年学習到達度調査結果を経済協力開発機構が発表 ⑨日本の数学の授業は「日常生活とからめた指導を受けている」と答えた割合が低い ⑩「先生は日常生活の問題を数学でどう解決できるか考えるよう言ったか」は日本36・1%・OECD加盟国平均51・9%で加盟37カ国中36位 ⑪「先生は日常生活で数学がどう役立つか示して見せたか」は日本28・0%で37カ国中最低 ⑫その理由は各大学の個別入試は数式や図形のみを使った従来型の問題が多く、対策を優先すると演習が増えて社会事象とからめた問題に時間をかける余裕がないから ⑬「数学が大好きな教科か」は「そう思わない」が6割でOECD平均より高い ⑭実社会とからめる指導は生徒の関心を呼びやすく、数学が苦手な子の意欲を引き出す効果 ⑮新指導要領で教える内容が増え、教え込むのに手いっぱいで実生活とからめた授業をする余裕がないと感じる教員も多い ⑯事情は中学も同様で都内公立中学校の50代教諭は「教科書には日常生活とからめた問題が多くない」と指摘 ⑰「例えば米国の教科書には関数の学習でハンバーガーのカロリーと脂肪分の関係を考察するものもあり、互いに考えを出し合い探究する学びや実社会の問題を扱う学びを採り入れていかないと数学嫌いはなくならない」 としている。 日常生活とからめた数のセンスは幼稚園以前から形づくられ、小学校で確立し、中学・高校ではより一般化・抽象化した数学の概念を学ぶのだと、私は思う。例えば、保育園・幼稚園・家庭で、食事の前に「餃子が○個あるけど、みんなが同じ数だけ食べるには、1人何個食べればいい?」「ぶどうは、1人何個食べれば、同じ数だけ食べられる?」など、具体的に数えたり触ったりしながら食べ物を前にして教えれば、幼い子でも数や割り算が頭に入る。小学校では、もう少し学問的に身長・体重・成績などの中央値・平均値・分散・標準偏差等から統計学の基礎を教えられるため、⑨⑩⑪⑭は教え方次第である。そのため、⑮⑯⑰については、指導要領の中に実生活とからめたわかりやすい事例を盛り込んでおけば、先生も生徒も理解し易いだろう。⑫の大学入試の段階は、既に高校で学んだ一般化・抽象化された数学の概念が身についているか否かをチェックするもので、数学と実生活のかかわりは、⑧のように、15歳くらいまでに勉強しておくものだ。なお、⑬の「数学は好きか否か」は、「数学のセンスがなければ論理的・合理的にものを考えることができず、論理的・合理的にものを考えられなければ正しい結論は出せない」と教えておけば、殆どの子どもは数学が好きになろうとするだろう。 *9-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15811208.html (朝日新聞 2023年12月7日) 多子世帯、大学無償化へ 25年度から、所得制限なし 政府方針 「異次元の少子化対策」をめぐり、政府は3人以上の子どもがいる多子世帯について、2025年度から子どもの大学授業料などを無償化する方針を固めた。所得制限は設けない。教育費の負担軽減で、子どもをもうけやすくする。「こども未来戦略」に盛り込み、月内に閣議決定する。対象は子どもが3人以上の世帯。大学生のほか、短期大学や高等専門学校などの学生も含める方針。入学金なども含む方向で調整している。子どもとしての数え方も今後詰める。年収380万円未満の世帯では現在、授業料を減免したり、給付型奨学金を出す支援制度がある。政府は今春、少子化対策として、24年度から、年収600万円までの中間層の多子世帯などに対象を広げ、授業料を減免すると発表した。今回は多子世帯は原則、所得制限なく無償化すると踏み込んだ。政府は6月に、児童手当の拡充などを盛り込んだ少子化対策の「戦略方針」を決定。当初は事業規模を約3兆円で検討していたが、戦略方針の素案公表の直前の5月31日、5千億円ほどが上乗せされた。この際、岸田文雄首相は「高等教育の支援拡充」などを「私の指示で実施することにした」と表明。これまでその内容は明らかになっていなかった。政府は近く3・5兆円規模の財源確保策も示す方針だが、社会保障の歳出削減なども必要になる。 *9-2:https://digital.asahi.com/articles/ASRD54V05RCXUTIL02D.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2023年12月5日) 日本の15歳、数学的リテラシーに課題 教諭ら「授業する余裕ない」 各国の15歳(日本では高1)を対象とする2022年の学習到達度調査「PISA〈ピザ〉」の結果を経済協力開発機構(OECD)が発表した。調査の一環で実施された生徒へのアンケートでは、日本の数学の授業で「日常生活とからめた指導を受けている」と答えた割合が低いとの結果が出た。背景に何があるのか。今月4日、東京都練馬区の都立大泉桜高校の2年生を対象にした「数学Ⅰ・A演習」の選択授業で、新型コロナのPCR検査を題材にした授業が行われた。生徒たちはこれまでの授業で、全員検査の場合と感染疑いのある人にのみ検査した場合のそれぞれの陽性者数などを試算。4日の授業ではこうしたデータを元に、政策としてどちらが妥当かといった点を議論した。検査対象を絞る政策について、生徒からは「無駄な病床を使わなくて済んだ」「感染を広げたのでは」と賛否両論が出た。熱心に議論していた男子生徒は授業後、「おもしろかった。数学は社会とは関係ないと思っていたけど、身近に感じた」。担当した上田凜太郎主任教諭は「データに基づいて判断する力が生徒たちの将来に生きる。価値観や前提によって結論が変わることに数学を通して気づけるのも大きな学び」と狙いを話す。PISAは、多くの国で義務教育修了段階にある15歳時点の学習到達度を測るため、OECDが00年から3年ごとに実施。コロナ禍による1年延期を経て行われた今回の22年調査では、OECD加盟37カ国を含む81カ国・地域が参加した。PISAは毎回、3分野のうち1分野を重点調査しており、今回は数学的リテラシーが対象となった。アンケートで「先生は私たちに日常生活の問題を数学でどう解決できるか考えるよう言った」かを尋ねたところ、「全てまたはほとんどの授業」「授業の半数以上」「授業の半数程度」で指導があったと答えた日本の生徒は計36・1%。OECD加盟国の平均51・9%を下回り、加盟37カ国中36位だった。「先生は日常生活で数学がどう役立つか示して見せた」は計28・0%で、37カ国で最低だった。 ●なぜ教育現場で浸透しない? 「大学入試と関係」の声も 22年度から順次実施されている高校数学の学習指導要領では、日常生活や社会の事象を数理的に捉えて問題を解決する力を養うことが重視されている。ただ、教育現場では浸透しきっていないのが実情だ。都立西高校の森本貴彦教諭は「各大学の個別入試との関係が大きい」。21年に大学入試センター試験に代わって始まった大学入学共通テストの数Ⅰ・Aではキャンプ場から山頂を見上げる際の角度を考える問題や、短距離走での歩数と1歩で進む距離の関係について取り上げた問題などの出題がある。一方、特に各大学の個別入試は数式や図形のみを使った従来型の問題が多いといい、その対策を優先すると演習が増え、「社会事象とからめた問題に時間をかける余裕があまりない」という。数学的リテラシーの日本の結果をみると、成績を6段階に分けたときの上位2層が、前回と比べて統計的に有意に増えた一方、最下位層は11・5%から12・0%と横ばい。アンケートで数学が大好きな教科か尋ねると、そう思わない生徒の割合は6割でOECD平均より高かった。 ●順位は上昇、学校への「所属感」向上 でも… 専門家が読むPISA 実社会とからめる指導は生徒の関心を呼びやすく、数学が苦手な子の意欲を引き出す効果もあるとされる。関東地方の公立高校で数学を教える30代教諭も、各単元ごとに1度は日常の題材を採り入れている。ただ、通常の授業よりも準備などに時間がかかるため毎回扱うのは難しいという。周囲を見ても取り組みが進んでいないと感じる。「新指導要領で教える内容が増えた。教え込むのに手いっぱいで、実生活とからめた授業をする余裕がないと感じている教員も多いと思う」。事情は中学でも同様だ。都内の公立中学校の50代教諭は「教科書には、日常生活とからめた問題が多くはない」と指摘する。自身は独自に開発した教材などを使うが、「多忙で教材が作成できず、教科書に依拠して授業をする教員は多い。その結果、日常生活との関連が弱くなりがちだ」という。西村圭一・東京学芸大教授(数学教育)は「例えば米国の教科書には、関数の学習でハンバーガーのカロリーと脂肪分の関係を考察するものもある。互いに考えを出し合い探究する学びや、実社会の問題を扱う学びを採り入れていかないと、数学嫌いはなくならない」と話す。今回のアンケート結果などを分析した文部科学省の担当者は「残念だ」と受け止める。これまでも高校に入ると計算などの問題演習が増える傾向が指摘されてきたとし、「結果を受け止めて対応を検討したい」と話す。
| 男女平等::2019.3~ | 04:08 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
2021,09,02, Thursday
(1)アフガニスタンについて
(図の説明:1番左の図のように、中村医師はアフガニスタンに2003年から用水路を建設し、用水路が完成した地域には、左から2番目の図のように緑地が広がっている。現在は、右から2番目の図のように、太陽光発電所と羊牧場を併設したり、1番右の図のように、砂漠に風力発電機を設置して動力を得たりすることもできる) アフガンの人口ピラミッド 日本の人口ピラミッド 2018.6.4東洋経済 (図の説明:左図のように、アフガニスタンの人口ピラミッドは富士山型に近く、栄養状態が悪くて医療も普及していないため乳児死亡率が高いことを示す。これは、中央の図の日本の1950年以前《主に戦前》の状態に近いが、日本では、右図のように、戦後、急速に実質GDPが伸び、それにつれて栄養状態が改善し、教育や医療が普及して、一人一人の生産性が前より上がって豊かになり、人口ピラミッドがつりがね型からつぼ型へと変化した。つまり、多産と経済成長は正の相関関係がないだけでなく、教育を通して負の相関関係がありそうなのである) 1)米軍のアフガニスタン駐留終了が人権に与える影響 バイデン米大統領は、*1-1-1のように、「20年間にわたる米軍のアフガニスタン駐留が終了した」と明らかにし、12万3000人の米国人及び米国に協力したアフガン人の国外退避をだいたい終えた後、掃討をめざしていたイスラム主義組織タリバンが復権した。 が、未だ100~200人の米国人が出国できずに残っており、タリバンが求める経済支援と引き換えに自由かつ安全な移動に関する合意を履行するよう求めており、タリバンの報道官の方は米軍撤収について「私たちの国は完全な独立を手に入れた」とツイッターに投稿したそうだ。 *1-1-2は、①タリバンの統治を恐れて空港周辺に出国を望む市民数千人が殺到して死者が出た ②アフガン在住の各国国民や協力したアフガン人の国外退避は緊急を要する最優先事項 ③タリバンは国外退避を望むアフガン人に対し、新たな国造りに必要な人材として空港到着を阻んでいる ④在アフガニスタン米大使館員らは7月13日付の極秘公電で駐留米軍が8月31日に撤退すれば、直後にガニ政権や政府軍は崩壊する恐れがあると警告していた ⑤警告にもかかわらず、米政府はガニ政権とタリバンとの戦闘見通しを誤った と記載している。 また、*1-1-2は、⑥日米欧のG7は8月24日に緊急首脳会議を開いて、退避支援に全力を挙げること・人道危機回避への貢献・女性の権利擁護・テロ対策での緊密な連携を確認 ⑦日本政府は出国を求める人に各自で空港までの移動手段を確保するよう求めたが、市民に自己責任で移動を求めるのは無責任 ⑧日本政府はタリバンと交渉し安全地帯を確保して迎えに行くなどの安全で確実な方法を示すべき ⑨米軍撤退の教訓は、中央アジアの覇権争いを繰り返さず、故中村哲医師が実践したような取り組みで国を再生させること とも記載している。 さらに、*1-1-3は、⑩タリバンは、8月17日に首都カブールで開いた記者会見でザビフラ・ムジャヒド報道官が初めて姿を見せて国際テロ組織を国内から排除する方針を明らかにし ⑪報道官は「外国組織が他国に危害を与えるために国土を使うことを許さない」とも強調し ⑫資金源であるケシ栽培は「金輪際関わらない。そのためにも国際社会の援助が必要」と訴え ⑬ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は、8月17日の記者会見で「タリバンがどのような行動を世界に示すか次第。(政権承認の是非を)判断するのは時期尚早だ」と答え、女性の権利を守らせるために同盟国と連携してタリバンに圧力をかける と記載している。 このうち①は悲惨で、酷い刑がしばしば行われる国では②が不可欠だ。また、③は、タリバンの支配層が新たな国造り要員としてアフガン人の出国をの望まなかったとしても、その意味するところを文字の読めない末端まで理解できるとは限らず、自由な思想を持つリーダーの方がいつ殺されて失脚するかわからないため、残された人はやはり危険である。これは、日本の明治維新から第二次世界大戦以前と同じような状況だ。 従って、④⑤⑥については、⑤の警告に基づいて必要なことを終わらせた後で撤退すれば、①②は起こらず、何とか合格点だったただろう。しかし、日本の⑦も、市民に無理を強いている。⑧は、日本大使館を再開して安全地帯とし、ビザを発行して国外退避したい人をアフガニスタン国外に移送し、その後、日本に空輸するしかないと思われる。 それを可能にするには、⑨や*1-3に書かれている中村医師の実績と今後の日本の援助方針が効くだろう。中村医師は、アフガンを干ばつが襲って農地が砂漠化するのを見て、病気の背景には食料不足と栄養失調があると考え、「100の診療所より、1本の用水路を」と2003年からアフガン東部で用水路建設に着手した。 この用水路は、これまで約27kmが開通し、1万6,500haを潤して砂漠に緑地を回復させ、農民65万人の暮らしを支えている。中村哲医師の灌漑は、現地の人が維持・管理できるように江戸時代に築かれ今も使われている福岡県朝倉市の山田堰をモデルとし、護岸はコンクリートではなく鉄線で編んだ「蛇籠」に石を詰めて積み、そこに根を張る柳を植えて補強したもので、その防風・防砂林の植樹総数は100万本を超えて、工事に携わった人たちは現場で技術を習得して熟練工となり、中村さんは近年、国連機関やJICAとも連携してノウハウをアフガン全土に広めようとしていたのだそうだ。 農林業の技術移転によってアフガン全土に実りの豊かさをもたらすことは、戦争に割く人員を減らして穏やかに暮らすために不可欠な条件だと思われるため、適切な作物を選んで必要な工事を行い、今後の技術支援の軸にすべきだろう。 2)イスラム圏で女性の人権と自由をどう守るか タリバン執行部は、*1-2-1のように、「イスラム法の範囲内で女性の権利を尊重する」と主張しているが、旧タリバン政権下で女性を抑圧した過去があるため、国際社会は女性の人権が守られるのか強い懸念を抱いている。 そもそも、「『イスラム法の範囲内』で尊重される女性の権利」は、女性を1人の人間として男性と差別なく人権・自由を保障するものではなく、アフガン国内の女性が変えることはできない性格のものである。その例として、カブールで美容院の女性の肖像がスプレーで汚されていたり、女性が夫以外の男性の前で着飾ることや目以外の部位を露出することを認めなかったり、女性を拉致したり、女性を職場から追い出したりする事例は枚挙に暇がない。 アフガンで低迷する女性の識字率や社会進出の課題を告発し続けてきた女性記者エストライ・カリミさんは、「西部ヘラート州で、夫が運転する車で取材先に向かっていたところ、銃声が響き、戦闘員に取り囲まれて夫婦で拉致され、モスクの脇にあるタリバンの施設で『運転席の男は誰だ。女が夫や兄弟の同伴なしで出歩けると思っているのか』と尋問され、憤激するタリバン幹部に夫だと説明すると、勤務先や住所も確認され、約1時間後にモスクの宗教指導者がタリバン幹部をなだめて解放された」のだそうだ。 また、タリバン傘下に入った国営テレビ局「RTA」では、画面から女性キャスターの姿が消え、その一人のシャブナム・ダウランさんがSNSに投稿したビデオ声明で「タリバンから『帰れ』『政権が変わったんだ』と追い返された」と訴えた。 さらに、ロイター通信によると、南部カンダハルでは7月にタリバンが銀行を訪れ、女性職員9人に出勤停止を命じ、カンダハルの女子校に勤める女性教員は「学校は閉鎖したままで生徒が心配。たとえ授業が再開しても、科目は宗教に偏るでしょう。進学を志す女子がまた減ってしまう」と憤っているそうだ。 タリバンは政権に就いていた1996~2001年、極端なイスラム教解釈で女性の通学や就労を妨げ、服装を強要して国際的な批判を浴び、今後も女性の行動に一定の縛りをかける恐れが強いため、カブールではタリバンの権力掌握を受け、全身をすっぽり覆う衣装「ブルカ」を買い求める女性が店に殺到したのだそうだ。 アフガンでタリバンが猛攻を続けていた頃から、*1-2-2のように、海外留学中のアフガン人学生からは「また教育が奪われる」と懸念の声が上がっていた。アフガンで裁判官になるのが目標で、3年前に激しい競争の中でアズハル大の奨学金を勝ち取って単身でカイロに来た7人兄妹の長女は、教育を禁じるタリバンが国を支配すれば、「女性で単身留学している私は標的になる。帰国すれば命を狙われる」と話し、医者を目指していた妹は「もう諦めた。ここから逃げたい」と毎日泣いているそうだ。 タリバンが制圧した州都では、教育機関や政府施設が破壊され、一部では女性に体や顔を覆う衣装「ブルカ」の強要も始まったそうで、これらからわかるように、イスラムの女性が「ブルカ」を着たり、教育を受けなかったり、識字率が低かったりするのは、その文化を自ら望んでいるからではなく、支配者に強要されるからなのである。 3)今後の対応について アフガンの状況は、日本の第二次世界大戦前後の状況や女性の地位に似ている。これらを同時に解決するには、日本国憲法に近い徹底した民主主義憲法を導入し、男女平等の民法を制定し、女子差別撤廃条約に調印させ、男女雇用機会均等法や男女共同参画基本法を成立させなければならない。 外圧でそれらを行わなければ、アフガン内部のリーダーは、自由で人権を尊重する人ほど殺されて早く失脚するのである。そのため、私は、*1-3のような経済支援や日本企業の進出を、民主主義に基づく新憲法の導入等を条件として行うべきだと思う。そして、女性を教育して男女共同参画させることは、実は、産業や経済の発展にも大きく寄与するのだ。 (2)日本では、豪雨で繰り返す内水氾濫・外水氾濫 Weathe News 2019.8.29佐賀新聞 2021.8.14産経新聞 (図の説明:今夏は、左図のように、佐賀県《特に嬉野市》で1,000mmを超える雨が降り、低い土地にある市や町で、中央の図のような内水氾濫が起こった。そのうち武雄市や大町町は、2019年にも同じ場所で内水氾濫が起こっており、右図のように、洪水が予想される地域である) 2021.8.14日本TV 2021.8.16佐賀TV 2021.8.14朝日新聞 2021.9.1 順天堂病院 佐賀新聞 (図の説明:1番左の図のように、豪雨時の六角川本流の水面は住宅地の屋根より高く、一部で外水氾濫を起こしたと同時に広い範囲で内水氾濫を起こした。その結果、左から2番目の図のように、武雄市では住宅地が一時は3mも水に浸かった。また、右から2番目の図のように、大町町の順天堂病院も1年おきに1階が水没しており、せっかく病院を誘致できたのに残念なことだ。さらに、1番右の図のように、激甚災害の指定を受けて国庫補助率が上がったのはよかったが、かさ上げしなければならないのは補助率だけではなく住宅地そのものであるため、復旧にしか使えないのは使い勝手が悪い) 1)2021年8月の浸水被害 8月11日から降り続いた豪雨で九州北部の佐賀県武雄市・福岡県久留米市は、*2-1のように、水路や下水道の排水が追い付かず、雨水が地表にあふれる「内水氾濫」が起きて住宅浸水や道路の冠水が相次いだ。武雄市内では支流の内水氾濫に加えて六角川本流も一部で外水氾濫し、東部を中心に住宅地などが濁った水で覆われた。また、武雄市と隣接する大町町の順天堂病院も周囲を泥水で囲まれ、2019年と同様に孤立状態となった。 久留米市では、8月14日午前までの24時間降水量が観測史上最大の387mmとなり、筑後川支流で内水氾濫が起きて4年連続で市街地と田園地帯が水に漬かった。久留米市によると、支流は本流からの逆流を防ぐため合流点の水門を閉鎖し、水は本流にポンプで送るが、処理できなくなった雨水が広域であふれ、ポンプを増やしたり、堤防のかさ上げに取り組んだりしたが、圧倒的な雨量に及ばなかったそうだ。 佐賀県武雄市の被害概要について、*2-2のように、浸水の深さ・内水氾濫の面積・家屋被害数等が、2019年8月に県を襲った記録的大雨より深刻で、2年前の8月は降雨期間が3日間だったが、今夏は7日間(11~17日)続き、総雨量も最大約1,300mm(2年前は最大約500mm)で、六角川の排水ポンプが3回合計8時間50分(前回は1回合計3時間10分)停止し、家屋への浸水被害は2021年8月25日現在で床上1,273棟・床下390棟の計1,663棟(前回は1,536棟)、通行止めは約90カ所(前回は63カ所)、浸水の深さや内水氾濫の面積は2年前より大きく、地滑りの兆候も今回は3カ所で確認されたそうだ。 武雄市は、2年前と比べて内水氾濫が広がった理由を長時間の降雨と六角川の水位上昇に伴って排水ポンプの停止時間が長引いたことなどが影響したとみており、市長は「国交省には内水氾濫対策に目を向けてほしい」とし、ポンプ機能を維持する方策を専門家や国交省の河川事務所と早急に協議する意向を示しているそうだ。 2)国からの支援としての激甚災害の指定とこれから行うべきことについて 佐賀県武雄市や大町町で「内水氾濫」がよく起こる理由は、海抜0m地帯で、有明海に注ぐ六角川の勾配が緩く、満潮時は有明海の海水が上流約29kmまで遡り、広範囲で住宅地が川面より低くなり、雨水が下水道等から溢れることによるそうだ。つまり、標高が低いため自然排水が難しく、もともと浸水リスクの高いこの地域は、上の段の右図のように、洪水予想地域として地図上に記載されているのである。 これに対し、国交省は、六角川と牛津川流域の60カ所以上にポンプを設置し、住宅地に降った雨水を河川に排水しているが、大雨で河川の水位が上昇するとポンプの運転を停止せざるを得なくなり、ポンプによる排水が追いつかなくなる。これは、気候変動によって海面の高さが上昇し、豪雨も激しくなれば、ますます被害を大きくするものである。 確かに、下の段の1番左の図のように、豪雨時の六角川本流の水面は住宅地の屋根より高く、一部で外水氾濫を起こしたと同時に広い範囲で内水氾濫を起こしている。そのため、下の段の左から2番目の図のように、武雄市では住宅地が3mも水に浸かり、大町町の順天堂病院も、右から2番目の図のように、1年おきに1階が水没しているのだ。 これらの被害について、*2-3のように、今回も激甚災害の指定を受けることができ、国庫補助率が上がったのは不幸中の幸いだったが、広範囲に降る自然の豪雨を人工のポンプで排水すること自体に無理があるため、住宅地は土地を交換して高台に移転し、低地でもいつも川の水面上になるようかさ上げして田畑にするのが、今後の被害を免れる唯一の方法だと考える。 私が衆議院議員をしていた2005~2009年の間にも浸水被害があったため、地元の人に「土地のかさ上げか、高台への移転ができないのか」を聞いたところ、「①かさ上げする土がない」「②浚渫していないため、ダムや川の底に土が溜まって浅くなっている」「③それをする人手がない」「④個人の住宅に補助を出すことはできない」などのできない理由ばかりが返ってきた。 しかし、②の浚渫を行えば①の土も出るため、③は外国人労働者を雇用してでもやった方がよいだろう。また、このように頻繁に浸水するのなら、④の個人住宅や病院もかさ上げするか、高台に移転する方法を考えた方が、費用と時間をかけて行う復旧を「賽の河原の石積み」にせずに済むと思うわけである。 ・・参考資料・・ <アフガニスタン> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210831&ng=DGKKZO75292470R30C21A8MM0000 (日経新聞 2021.8.31) 米軍、アフガン撤収完了、米最長の20年戦争終結、米国人ら12万人退避 バイデン米大統領は30日の声明で「20年間にわたる米軍のアフガニスタン駐留が終了した」と明らかにした。掃討をめざしたイスラム主義組織タリバンが復権し、米史上最長の戦争は敗走に近い形で幕を閉じた。国際テロ組織がアフガンを拠点に米国本土を再び攻撃するリスクは消えていない。バイデン氏は声明で、アフガンの首都カブールの空港で米国人やアフガン人の国外退避を支援した米兵に対し「米史上最大の空輸任務を実行した」と謝意を示した。米東部時間31日午後1時30分(日本時間9月1日午前2時30分)にアフガン戦争の終結について国民向け演説を行う。米軍がアフガンの国外に退避させたり退避を支援したりした米国人やアフガン人などの数は12万3000人に上る。ブリンケン国務長官は30日の演説で「米国の軍事面での戦いは終わった。米国のアフガンに対する新しい関与のチャプターが始まる」と強調した。米国の在アフガン大使館を閉鎖し、カタールの首都ドーハでタリバンとの対話を進めていく。アフガンでは100~200人の米国人が出国できずに残っていると明らかにした。アフガン戦争で米国に協力したアフガン人について「期限を設けずに彼らとの約束を守る」と断言。退避を望む米国人と並んで退避支援を続けるとした。タリバンに対して自由かつ安全な移動に関する合意を履行するよう改めて求めた。タリバンが求める経済支援などを念頭に「我々の対応は言葉ではなく行動に基づいて決まる」と指摘し、米国との協力を促した。一方、タリバン報道官は米軍撤収について「私たちの国は完全な独立を手に入れた」とツイッターに投稿。タリバンがカブールを制圧して以降、「恐怖政治」が復活するリスクが浮上している。バイデン氏は4月、約2500人のアフガン駐留部隊を撤収させると表明した。部隊を5800人規模に増やし、米国人に加えてアフガン戦争で米国に協力したアフガン人の国外退避を8月末まで進めると説明してきた。欧州や日本も自国民らを退避させた。泥沼の戦争を批判的にみる世論に配慮し、バイデン氏はアフガン撤収を貫いた。2001年の開戦直後はテロとの戦いを米国民の大半が支持したが、巨額の戦費や米兵の犠牲を伴う戦争に一般国民は恩恵を感じず熱気は冷めていった。バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権は16年末までの撤収を目指したが、治安悪化を受けて断念していた。タリバン復権でアフガン民主化の取り組みは失敗に終わった。アフガン戦争を通じて根付きつつあった女性の権利や報道の自由が後退する可能性が高まる。バイデン氏は軍事力を通じて「国家建設に関与しない」と繰り返し主張しているが、民主主義や人権を重視する外交方針に逆行する。 *1-1-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1381635.html (琉球新報社説 2021年8月26日) タリバン復権と混乱 国外退避に全力尽くせ アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが首都カブールを制圧し、ガニ政権の崩壊から10日が過ぎた。空港周辺にはタリバンの統治を恐れ出国を望む市民数千人が連日殺到し、死者が出るなど混乱が続いている。ベトナム戦争末期に、米大使館からヘリコプターによる脱出を迫られたサイゴンの混乱を彷彿(ほうふつ)とさせる事態だ。アフガン在住の各国の国民や通訳などで協力したアフガン人の安全な国外退避は緊急を要する最優先事項である。各国は結束して退避支援に全力を挙げてもらいたい。バイデン大統領は8月に設定した米軍の撤退期限を維持する考えを強調したが、見通しが甘いのではないか。米メディアによると、タリバンは国外退避を望むアフガン人に対し、新たな国造りに必要な人材だとして空港到着を阻んでいるという。撤退期限の順守ではなく、人命を守ることを最優先させるべきだ。混乱の原因は米国にある。米史上最長の戦争の最終段階で「出口戦略」を誤った。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、在アフガニスタン米大使館員らが7月13日付の極秘公電で、駐留米軍が8月31日に撤退すれば直後にガニ政権や政府軍が崩壊する恐れがあると警告していたと報じた。米軍に協力したアフガン人らの退避手続きを急ぐようブリンケン国務長官らに求めていたという。警告されたにもかかわらず米政府は、ガニ政権とタリバンとの戦闘の見通しを誤った。タリバンによる侵攻が想定外の早さで進み、政府崩壊は予期できなかったというのは言い訳にすぎない。日米欧の先進7カ国(G7)は24日、アフガニスタン情勢を巡る緊急首脳会議を開き、退避支援に全力を挙げ、人道危機回避への貢献や女性の権利擁護、テロ対策で緊密に連携することを確認した。ここは国際社会の結束が求められる局面だ。一方、邦人と日本の協力者を退避させるため日本政府は自衛隊機を現地に派遣した。政府は出国を求める人に対し各自で空港までの移動手段を確保するよう求めている。だがタリバン戦闘員が空港に続く道路に検問所を設け、外国人を一時的に拘束する事態も出ている。丸腰の市民に自己責任で移動を求めるのは無責任である。日本政府はタリバンと交渉して安全地帯を確保して迎えに行くなど、安全で確実な方法を示すべきだ。タリバン政権は2001年、米中枢同時テロを起こしたアルカイダ指導者ビンラディン容疑者の引き渡しを拒んだため、米英軍の攻撃によって崩壊した。米軍はその後20年間、アフガニスタンに駐留したが、国家建設に失敗した。米軍撤退の教訓は何か。中央アジアの覇権争いを繰り返すのではなく、凶弾に倒れた故中村哲医師が実践した持続可能な取り組みによって国を再生させることではないか。 *1-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/world/20210818-OYT1T50258/ (読売新聞 2021/8/19) アフガン制圧したタリバン、「国際テロ組織の排除」強調…政府承認取り付ける狙いか アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンは17日に首都カブールで開いた記者会見で、国際テロ組織を国内から排除する方針を明らかにした。テロの温床になりかねないとする国際社会の懸念を 払拭ふっしょく し、「政府承認」を取り付ける狙いがある。会見には、正体不明だったザビフラ・ムジャヒド報道官が初めて姿を見せた。タリバンは2001年、米同時テロを起こした国際テロ組織「アル・カーイダ」の指導者をかくまい、政権崩壊を招いた。報道官は「外国組織が他国に危害を与えるために国土を使うことを許さない」と強調した。資金源である麻薬原料のケシ栽培についても「金輪際関わらない。そのためにも、国際社会の援助が必要だ」と訴えた。17日には、ナンバー2のアブドル・ガニ・バラダル師がカタールから帰国した。米国とのパイプを持つ穏健派として知られ、「バラダル師を大統領に据え、国際社会との関係構築を進めるのでは」(地元記者)との観測も出ている。ただ、18日にはタリバンの一派で、パキスタンとの国境付近を拠点とする「ハッカニ・ネットワーク」幹部もカブール入りし、タリバン幹部らと協議を行った。ハッカニ一派は各国でテロを引き起こし、米国がテロ組織に指定している。「アル・カーイダ」系のイスラム過激派組織「アル・シャバブ」など各国の武装勢力もタリバンに「祝意」を送っており、タリバンがテロ組織と関係を断絶できるかは不透明だ。一方、米ホワイトハウスは17日、アフガニスタン情勢に関する先進7か国(G7)首脳会議が、来週中にオンライン形式で開催されると発表した。バイデン大統領が、G7議長国を務めるジョンソン英首相との電話会談で合意した。タリバンが主導する新政権の承認などが議題となる見通しだ。ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は17日の記者会見で、タリバンの融和姿勢について、「タリバンがどのような行動を世界に示すか次第だ。(政権承認の是非を)判断するのは時期尚早だ」と答えた。女性の権利を守らせるため、同盟国と連携してタリバンに圧力をかける考えも明らかにした。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15017957.html (朝日新聞 2021年8月22日) アフガン、息潜める女性 政権崩壊1週間 カブールで18日、美容院の女性の肖像がスプレーで汚されていた。その前を歩くタリバンの戦闘員=AFP時事。タリバン強硬派は、女性が夫以外の男性の前で着飾ることや、目以外の部位を露出することを認めていない。アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが権力を掌握し、ガニ政権が崩壊してから22日で1週間となる。タリバン執行部は「イスラム法の範囲内で女性の権利を尊重する」と主張しているが、旧タリバン政権下で女性を抑圧した過去があり、国際社会は女性の人権が守られるのか強い懸念を抱いている。女性が拉致されたり、職場から追い出されたりする事例は後を絶たない。社会は圧制の時代に逆戻りしてしまうのか。 ■タリバン、取材に向かう記者拉致 キャスターや銀行員、職場追われ 「州都を包囲するタリバンの戦闘部隊に見つかり、銃撃された。記者人生で最も死に近づいた瞬間でした」。地元メディア「パジュワク・アフガン通信」の女性記者エストライ・カリミさん(38)は、朝日新聞の取材に応じ、証言した。西部ヘラート州で今月2日、夫が運転する車で取材先に向かっていた。銃声が響き、とっさに顔をうずめた。耳元でサイドミラーが「カン! カン!」と弾をはじいた。戦闘員に取り囲まれ、夫婦は拉致された。カリミさんはモスクの脇にあるタリバンの施設で尋問された。「運転席の男は誰だ。女が夫や兄弟の同伴なしで出歩けると思っているのか」と憤激するタリバン幹部に、夫だと説明した。勤務先や住所も確認された。尋問が約1時間続いた後、モスクの宗教指導者がタリバン幹部をなだめ、解放された。夫婦はパソコンやカメラをバッグに詰め、翌朝の飛行機で首都カブールへと脱出した。同国で低迷する女性の識字率や社会進出の課題を、カリミさんは告発し続けてきた。「駆け出しの15年前、女性記者はほとんどいなかった。女性の尊厳を守りたい一心で書き続けた」。記事への反響が支えだった。ヘラートからカブールに退避して12日後の15日、カブールも陥落した。現在は夫婦で、保護団体のシェルターに隠れて暮らす。タリバンの一部戦闘員が「記者狩り」をしており、外出できない。カリミさんは「15年積み上げたものが政権崩壊と同時に崩れた。やっと女性たちが怒りの声を政治にぶつけられる時代になったのに」と声を落とした。タリバン傘下に入った国営テレビ局「RTA」では政権崩壊後、画面から女性キャスターの姿が消えた。その一人、シャブナム・カーン・ダウランさんはSNSに投稿したビデオ声明で「タリバンから『帰れ』『政権が変わったんだ』と追い返された」と訴えた。ロイター通信によると、南部カンダハルでは7月にタリバンが銀行を訪れ、女性職員9人に出勤停止を命じたという。タリバンは政権に就いていた1996~2001年、極端なイスラム教の解釈で女性の通学や就労を妨げ、服装を強要して国際的な批判を浴びた。今後、女性の行動に一定の縛りをかける恐れが強い。カブールではタリバンの権力掌握を受け、全身をすっぽり覆う衣装「ブルカ」を買い求める女性が店に殺到し、政権崩壊前に1着1千アフガニ(約1400円)ほどだったものが約5倍に値上がりした。カンダハルの女子校に勤める女性教員(29)は「学校は閉鎖したままで生徒が心配。たとえ授業が再開しても、科目は宗教に偏るでしょう。進学を志す女子がまた減ってしまう」と憤った。 *1-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/123786 (東京新聞 2021年8月13日) 「留学女性は命狙われる」「もう帰国できない」 教育禁じるタリバン支配地拡大でアフガン留学生ら悲鳴 アフガニスタンで反政府武装勢力・タリバンが猛攻を続ける中、海外留学中のアフガン人学生が危機感を募らせている。教育を禁じたタリバン政権が2001年末に崩壊して以降、アフガンでは教育が再開し、エジプトの首都カイロにあるイスラム教スンニ派権威機関アズハルの付属大学には若者約300人が留学している。タリバンが支配地域を広げる現状に、学生からは「また教育が奪われる」と懸念の声が上がっている。「なぜアフガンだけ何度もひどいことが起きるのか。私は何でアフガンに生まれたの?」。アズハル大で法律を学ぶララ・アブドラさん(22)が「戦争の日記」と呼ぶ小さな手帳には、1ページ目にこう書いてある。駐留米軍の8月末撤退を見据え、タリバンが侵攻を激化させた3週間前から日記を付け、友人や家族から聞いた現地の状況をつづっている。3年前、激しい競争の中でアズハル大の奨学金を勝ち取り、単身でカイロに来た。女6人、男1人の7人きょうだいの長女。アフガンで裁判官になるのが目標で、父(50)の夢でもある。父は女性が教育を受けることを重視し、母と共にカイロに送り出してくれた。妹たちも姉が目標だ。しかし、教育を禁じるタリバンが国を支配すれば、「女性で単身留学している私は標的になる。帰国すれば命を狙われる」と話す。家族が暮らす西部ヘラート州は、イラン国境付近がタリバン支配下に落ち、州都は陥落目前となっている。「お姉ちゃんの後に続く」と医者を目指していた妹(17)は「もう諦めた。ただ、ここから逃げたい」と毎日泣いているという。タリバンが制圧した州都では、教育機関や政府施設が破壊され、一部では女性に体や顔を覆う衣装「ブルカ」の強要も始まったという。20年前を思わせる状況に、アズハル大の学生らは「もう帰れない」「昔に逆戻りだ」と懸念する。教育が再開したアフガンからは、アズハル大への留学生が大幅に増えた。前学生会長のオスマン・ヌーリスタニさん(26)は「私の世代は教育を受けることができ、みんな必死に勉強してきた。それがまた奪われるのか」と憤る。攻防が続くアフガンでは、国軍約30万人に対してタリバンは約7万人。数では国軍が勝るものの、タリバンに攻め込まれた地域では、国軍が戦闘を放棄して逃げたとの情報もある。在エジプト大使館のアミヌラーク・アフマディ領事は「米軍に頼らずわれわれの手で国を守る必要があるが、国際社会からの財政支援も必要だ」と話す。 *1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASMDB5QJTMDBTIPE01X.html?iref=pc_photo_gallery_bottom (朝日新聞 2019年12月11日) 「100の診療所より用水路」 中村さんが変えた暮らし アフガニスタンで銃撃されて亡くなったペシャワール会(福岡市)の現地代表、中村哲さん(73)が医療から灌漑(かんがい)・農業支援へと活動を広げたのは、アフガンを大干ばつが襲い、農地が砂漠化するのを目の当たりにしたからだ。病気の背景には食料不足と栄養失調があると考えて「100の診療所より、1本の用水路を」と、2003年からアフガン東部で用水路の建設に着手した。これまで約27キロが開通。用水路は福岡市の面積のほぼ半分に当たる1万6500ヘクタールを潤し、砂漠に緑地を回復させた。今、農民65万人の暮らしを支えている。高価な資機材がなくても現地の人が維持・管理できるようにと、現代的な施設ではなく、伝統的な技法を採り入れた。取水堰(ぜき)は、江戸時代に築かれて今も使われている山田堰(福岡県朝倉市)がモデル。護岸はコンクリートを使わず、鉄線で編んだ「蛇籠(じゃかご)」に石を詰めて積み、そこに根を張る柳を植えて、護岸を補強した。防風・防砂林の植樹総数は100万本を超えた。工事に携わった人たちは現場で技術を習得し、熟練工が育った。中村さんは近年、国連機関や国際協力機構(JICA)とも連携して、ノウハウをアフガン全土に広めようと考えていた。ペシャワール会の村上優会長は9日の記者会見で「全ての事業を継続していきたい」と決意を述べた。 <日本 ← 繰り返す豪雨による内水氾濫・外水氾濫> *2-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/785375/ (西日本新聞 2021/8/15) 「同じことの繰り返し」内水氾濫に住民疲弊 久留米、武雄で浸水被害 激しい雨音で眠れずに朝を迎えると、自宅は茶色い泥水に囲まれていた-。14日も豪雨に見舞われた九州北部。佐賀県武雄市や福岡県久留米市では住宅浸水や道路の冠水が相次いだ。水路や下水道の排水が追い付かず、雨水が地表にあふれる「内水氾濫」が起きたという。両市周辺では近年同じ被害が繰り返されており、住民たちは疲れ切った表情を見せた。「大雨が怖く、昨夜から2階で過ごした」。同日午前、武雄市朝日町の自宅から消防のボートで助け出された福田タケ子さん(85)は振り返った。市内では支流の内水氾濫に加え、近くを流れる本流の六角川が一部で氾濫。東部を中心に住宅地などが濁った水で覆われた。市や近隣自治体では2019年にも冠水被害が起きている。自宅が浸水した同市朝日町の樋口勝則さん(56)は、13日夕から避難所に身を寄せる。前回浸水時は避難所で1カ月を過ごし、泥水に漬かった家具の片付けに加え、職場も被災した。「元の生活に戻るのに半年かかった。たった2年で同じことの繰り返し。これからを考えると力が抜けてしまう」と頭を抱えた。市と隣接する大町町の順天堂病院は周囲を泥水で囲まれ、前回に続き孤立状態となった。町によると、雨水が建物内部に入り、入院患者を上階に避難させたという。周辺でも消防への救助要請が相次いだ。筑後川が流れる久留米市。14日午前までの24時間降水量は、観測史上最大の387ミリとなった。支流では内水氾濫が起き、4年連続で市街地や田園地帯が水に漬かった。市によると、支流では本流からの逆流を防ぐため合流点の水門を閉鎖。本流にポンプで水を送るものの、処理できなくなった雨水が広域であふれた。ポンプを増やし、堤防のかさ上げにも取り組んでいるが、圧倒的な雨量に及ばなかった。一部で道路が冠水した市中心部では、消防のボートで助け出される住民がいた。水をかき分けながら各戸を回り、取り残された人がいないかを見回っていた消防隊員は「水位が首の高さまである場所があった」と話した。膝まで水に漬かりながら自力で避難していた女性は「これほどの浸水は初めて。アパートの2階に住んでいるが、1階が浸水したので知人宅に避難する」と声を震わせた。 *2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/12a76f5f1a8d5cbf30e81fd6caefc619ca5c692c (Yahoo 2021.8.26) 大雨 家屋1663棟浸水 「2年前より深刻」 佐賀・武雄市 8月11日から降り続いた大雨で甚大な被害が出た佐賀県武雄市で被害概要がまとまり、小松政市長が25日、記者会見で発表した。浸水の深さや内水氾濫の面積、家屋被害数などが2019年8月に県を襲った記録的大雨より深刻との認識を示し、「被災者の苦しみ、痛みに寄り添いながら一日も早い復旧と生活再建に全力で取り組む」と語った。小松市長はまた被災した市民、事業者らに市独自の生活支援策を検討する考えも示した。武雄市によると、2年前の8月は降雨期間が3日間だったのに対し、今夏の大雨は7日間(11~17日)続き、総雨量も最大約1300ミリ(2年前は同約500ミリ)に達した。武雄市を流れる六角川の排水ポンプが3回計8時間50分(同1回計3時間10分)停止した。家屋への浸水被害は25日現在、床上1273棟、床下390棟の計1663棟(同1536棟)で通行止めは約90カ所(同63カ所)。浸水の深さや内水氾濫の面積は「2年前より大」としている。地滑りの兆候も今回は3カ所で確認された。2年前と比べ、内水氾濫が広がった理由について市は、長時間の降雨と六角川の水位上昇に伴い、排水ポンプの停止時間が長引いたことなどが影響したとみている。この結果、朝日町、北方町、橘町で浸水の被害が大きかったと指摘した。小松市長は内水氾濫による被害が続いていることに「(管轄の)国土交通省には内水氾濫対策に目を向けてほしい。国、県、市町が可及的速やかに対策を打ち出す必要がある」と注文をつけた。今後、ポンプ機能を維持する方策を専門家や国交省の河川事務所と早急に協議する意向も示した。復旧・復興に向けては、新型コロナウイルスの急拡大に伴い、2年前と比べてボランティアが集まりにくい状況にあると報告。小松市長は「被災者支援を2年前より強化する」と語り、2年前に被災しながら再建した事業者らに「もう1回頑張っていただける再建費用の補助検討を現在、進めている」とした。市は災害復旧に関する支援策を9月議会に追加提案する予定。 ◇商工業被害額、店舗など84億円 記録的大雨で多大な被害を受けた武雄市で商工業被害額が25日時点で約84億円(速報値)にのぼることが、同日の県産業振興課への取材で判明した。県によると、同市の中小企業や個人事業主計230店舗が被災。最も多かったのが浸水被害という。さらに被害額は膨らむ可能性もあるという。2019年8月に県内を襲った大雨で武雄市は今回とほぼ同数の約230店舗が被災、被害額は約80億円だった。 *2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/733382 (佐賀新聞 2021.9.1) 大雨被害、激甚災害指定へ 農業分野復旧は佐賀県全域、中小企業支援は武雄、大町 佐賀県内で11日から降り続いた記録的な大雨の被害に関し、棚橋泰文防災担当相は31日の閣議後会見で、激甚災害に指定する見通しになったと発表した。農業分野では地域を限定せず県内全域が対象になる「本激」となり、国庫補助率をかさ上げする。融資による中小企業の再建支援は武雄市、杵島郡大町町に限定する「局激」となる見込み。内閣府によると、農地や農道、水路などの農業用施設や林道の災害復旧事業は、通常の国庫補助率をかさ上げする。過去5年間の実績の平均では、農地は補助率を84%から96%にかさ上げしている。国庫補助の対象とならない小規模な農地でも、交付税措置などで自治体負担を軽減する。被災した市町や農家の財政負担を軽減し、早期復旧を後押しする。これらの措置は地域を限定しない。さらに武雄市、大町町には、中小企業の事業再建のための特例措置を適用する。保証限度額を増額することで、中小企業は民間金融機関から再建資金を借りやすくなる。激甚災害は経済的被害を基準に指定する。県市町が被害額を調査し、各省庁が査定。局激の場合、市町の財政規模ごとに基準額が設定され、基準額を超えた時点で指定の見込みが示される。閣議決定による正式指定には、1カ月ほどかかる見通し。棚橋氏は「被災した自治体は、財政面に不安なく、迅速な災害復旧に取り組んでいただきたい」と述べた。内閣府によると、公共土木分野での被害状況も査定を続けている。早期指定を要望していた佐賀県は「農地などの復旧が本激指定になることはありがたい。適用される措置を活用し、この2年間で再び被災された多くの方の支援に取り組んでいきたい」とした。一方、中小企業への特例措置が、武雄市と大町町に限る局激となることについては「具体的にどういった支援ができるのか中身を精査していく」としつつ、「本激でなければ実施されない『なりわい再建補助金』(復旧費の最大4分の3を公費補助)に関し、局激でも実施してほしいと要望していた。今後の国の対応を注視したい」と述べた。 <アフガンの攻防と女性デモ> PS(2021年9月6、7日追加):*3-1のように、アフガンのタリバン指導部は、制圧した都市で住民財産保護や生活維持に気を配るように戦闘員に指示したが、タリバン戦闘員は、①民家で「50人分の食事を作れ」と要求したり ②民家や学校に放火したり ③降伏した政府軍兵士を処刑したり ④12歳の少女に自分と結婚するよう強要したり など蛮行が目立ち、国連のグテレス事務総長は、8月13日、タリバンを非難した。 アフガン女性は、*3-2のように、9月2~4日、国の発展には女性の力が不可欠だと訴えて女性の教育機会保障・働く権利保障・政治参加保障をするよう求めるデモを行ったが、これに対して、タリバンは催涙ガスを使ったり、小銃の弾倉で女性の頭を殴ったりしたそうだ。タリバンは、8月中旬にカブールを制圧した直後の記者会見で「女性は働けるし、教育も受けられる。女性の権利はイスラム法の枠内で認められる」としたが、BBCのインタビューでタリバン幹部は、「女性が高い地位につくことはない」などと世界の女性を敵に廻すような発言をしている。 そのような中、*3-3のように、9月4日、タリバンは唯一制圧していない北東部パンジシール州を支配下におさめようと抵抗勢力(旧政府軍)と衝突し、米軍制服組トップは、タリバンが権力基盤を固めることができなければ「内戦」に陥る恐れがあると警告したそうだが、国民的英雄マスード司令官の息子で同地域を率いるアフマド・マスード氏は、パンジシール州は「強い抵抗を続けている」と強調している。 アフガンの地形 パミール高原 パンジシール州の位置 パンジシール州の風景 ペシャワール会より Ameba Parstoday (図の悦明:1番左の図のように、アフガニスタンは高い山や高原に囲まれており、水がないわけではなく水利施設が整っていないようで、左から2番目の図のパミール高原も手入れをした場所には緑がある。また、強い抵抗を続けているパンジシール州は、右から2番目の図のように北東部にあり、1番右の図のように、緑豊かな渓谷があって農業の潜在力も大きそうだ) 2016.11.1Ameba Smartagri Smartagri Perfectstone (図の説明:1番左はアフガニスタンの主食である小麦、左から2番目はアフガニスタンの葡萄、右から2番目は同サフランで、戦争前のアフガニスタンは食料自給率100%の農業国だったそうだ。また、1番右の図のように、パンジシール州ではエメラルドも採れる) *3-1:https://www.yomiuri.co.jp/world/20210814-OYT1T50221/ (読売新聞 2021/8/15) 民家や学校に放火、12歳少女に結婚強要…タリバン支配地で蛮行目立つ アフガニスタンの旧支配勢力タリバン指導部は13日の声明で、制圧した都市では住民財産の保護や生活の維持に気を配るよう、戦闘員に指示した。住民を懐柔し、支持を広げる狙いだが、支配地では蛮行が目立ち、国際社会からも批判が高まっている。タリバンは声明で、支配地の拡大は「我々に対する支持があってこそだ」と強調し、タリバンを恐れる住民に「心配する必要はない」と呼びかけた。だが、実態は違うようだ。タリバンが10日に制圧した北部プレフムリの主婦(22)によると、タリバン戦闘員は主婦の自宅に押しかけ、「50人分の食事を作れ」と要求したという。夫はスリッパ商人で、一家は裕福ではないが、肉や野菜、ヨーグルトなどを大量に提供させられたという。プレフムリからカブールに避難してきたリロマさん(43)は本紙通信員に、タリバンが民家や学校などに放火していると語った。リロマさんは、「タリバンの暴虐ぶりは昔と変わっていない」と非難した。カブールの米大使館によると、降伏した政府軍兵士の処刑も確認されている。タリバンは米国と和平合意を交わした昨年2月以降、住民の取り扱いに注意するよう、指導部が戦闘員に指示してきたが、浸透していないようだ。英紙デイリー・メール(電子版)によると、あるタリバン戦闘員は支配地域で、12歳の少女に自分と結婚するよう強要した。戦闘で夫を失った女性も、タリバン戦闘員の妻にされる場合が多い。国連のアントニオ・グテレス事務総長は13日、ニューヨークで記者団に、「アフガンの少女や女性が苦労して得た権利を奪われている。胸が張り裂けそうだ」と語り、タリバンを非難した。 *3-2:https://www.msn.com/ja-jp/news/world/ (毎日新聞 2021/9/5) アフガンで女性デモ 就業や政治参加求め タリバン、催涙ガスで応酬 イスラム主義組織タリバンが実権を掌握したアフガニスタンで2日から4日にかけ、女性の就業や政治参加の権利を保障するよう求めるデモがあった。首都カブールではタリバンが催涙ガスを使うなどし、負傷者が出たという。タリバンは2001年までの旧政権でイスラム教の厳格な教義に基づき女性の権利を制限した。デモ参加者は、国の発展には女性の力が不可欠だと訴えている。アフガンの民間放送局「トロニュース」(電子版)などによると、4日にカブール中心部で行われたデモでは、活動家やジャーナリストらが女性の働く権利や教育の機会の保障を求めるスローガンを掲げて行進した。大統領府に向かおうとしたデモ参加者に対し、タリバンの戦闘員らは催涙ガスを使ったという。ロイター通信は、女性が戦闘員によって小銃の弾倉などで頭を殴られ、血を流していたとの参加者の証言を報じた。参加者の一人はトロニュースに対し「私はタリバン政権崩壊後の20年間で学校で学ぶことができ、よりよい将来のために努力してきた。この成果を失いたくない」と訴えた。同様のデモはカブールで3日にあったほか、2日に西部ヘラートでも起きた。01年にタリバンの旧政権が崩壊するまでの約5年間、アフガニスタンの女性は教育が禁止されるなど厳しい制約下に置かれた。タリバンは8月中旬にカブールを制圧した直後の記者会見で「女性は働けるし、教育も受けられる。社会に必要な存在だ」とする一方、女性の権利はイスラム法の枠内で認められるとも強調した。タリバン幹部は英BBC放送のインタビューで、新政府の省庁で女性職員が元の職場に戻ることを希望すると述べる一方で「高い地位につくことはないだろう」と要職への女性登用を否定した。最終調整が続くタリバン政権の組閣でも、女性は起用されない見通し。 *3-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/bc9b9a7323934577f5db64c0f7b950c62d5ce6d0 (RUETERS 2021/9/5) タリバン、北東部で抵抗勢力と戦闘 米軍幹部は「内戦」警告 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは4日、唯一制圧していない北東部パンジシール州を支配下におさめようと抵抗勢力と衝突した。米軍制服組トップは、タリバンが権力基盤を固めることができなければ「内戦」に陥る恐れがあると警告した。タリバンと抵抗勢力はともにパンジシール州を掌握したと主張しているが、いずれも確かな証拠は示していない。タリバンは1996─2001年にアフガンを統治した際、首都カブールの北にあるパンジシール渓谷を支配できなかった。タリバンの報道官は、パンジシール州の7地域のうち4地域を制圧したと主張。ツイッターで、タリバン兵士が州中心部に向けて進軍していると述べた。だが、国民的英雄マスード司令官の息子で同地域を率いるアフマド・マスード氏に忠実なアフガニスタン民族抵抗戦線(NRFA)は、「数千人のテロリスト」を包囲し、タリバンが車両や機材を放棄したと主張。マスード氏はフェイスブックへの投稿で、パンジシール州は「強い抵抗を続けている」と強調した。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長はFOXニュースで「内戦に発展する可能性が高い状況というのが私の軍事的な見立てだ。タリバンが権力基盤を固め、統治を確立できるか分からない」と述べた。その上で、タリバンが統治を確立できなければ、今後3年で「アルカイダの復活やイスラム国(IS)もしくは他のさまざまなテロ集団の拡大につながる」との見方を示した。こうした中、パキスタンの軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官が4日、カブール入りした。目的は明らかになっていないが、パキスタン政府高官は数日前に、タリバンによるアフガン軍再編成をハミード氏が支援する可能性があると述べていた。 <女性が権利尊重求めデモ> 現地メディアのトロ・ニュースによると、首都カブールでは、十数人の女性がタリバンに女性の権利尊重を求める抗議デモを行ったが、タリバンはこれを排除した。女性らが口を覆い、咳をしながら武装した兵士と衝突するのが映像で確認できる。デモ参加者の1人は、タリバンが催涙ガスやテーザー銃を使用したと語った。タリバンが女性らの頭を弾倉で殴り、出血したと話す参加者もいた。 <新政権は「あらゆる勢力」で構成> タリバン関係筋は、新政権の発表が5日からの週に先送りされるとの見方を示した。タリバン共同創設者のバラダル師は中東のテレビ局アルジャジーラで、新政権はアフガンのあらゆる勢力によって構成されると述べた。複数のタリバン関係者はこれまでに、バラダル師が新政権を率いるとの見方を示している。アルジャジーラによると、カタールの駐アフガン大使は、技術チームによりカブールの空港が再開され、支援物資などの受け取りが可能になったと明らかにした。アルジャジーラの記者は、アフガンの国内線運航も再開されたとしている。国連は、人道危機の回避に向けてアフガン支援拡大を呼び掛ける国際会合を13日に開く。 <自民党総裁選と政策論争> PS(2021年9月8、9日追加):日本のメディアは、アフガン情勢を事前に報道せず、オリ・パラの開催を批判することに専念し、新型コロナ危機は必要以上に言い立て、首相を変えさえすれば物事がうまくいくかのような報道をしていた。その結果、日本は、人を貶めるための不正確な人格攻撃情報であふれ、首相は短期で交代して民主主義政治の貧困を招いている。 そして、河野太郎氏の総裁選立候補の話が出ると、*4-1のように、原子力利権の守護神である経産省は、週刊文春を使って河野氏を人格攻撃する最終戦争に打って出た。私も週刊文春を使った人格攻撃をされた経験があるので知っているのだが、政策でかなわない時、論点をずらし、変なところを誇張して人格攻撃を行い、対象となった人を貶める卑怯な方法がよく使われる。河野氏の場合は、資源エネルギー庁幹部との会議で近く閣議決定される「エネルギー基本計画」に繰り返しダメ出しをしてパワハラを行ったように書かれているが、本当は世界に例を見ない出鱈目な「容量市場制度(大手電力の石炭火力に多額の補助金を与え、再エネ電力供給業者に多額の資金拠出を強制する制度)」の即時廃止又は抜本的改革を主張し、経産省がこれを無視したのだそうだ。また、原発と再エネの電源比率も、経産省は再エネ比率が想定以上に上がるのを妨げて原発の維持拡大に有利な抜け穴を作ろうとしているが、河野氏が「理不尽な内容のままなら閣議で反対する」と言い、経産省が論戦で完敗して、河野氏の「脅し」として一部週刊誌に漏洩し、「個人攻撃」で河野氏を叩こうとしたのだそうである。しかし、次の衆議院議員選挙は表紙を変えればいいのではなく、「脱原発して再エネ移行」を掲げるくらいの政策を掲げるのでなければ、(理由を長くは書かないが)自民党は落選者が続出すると思う。 本来は産業振興のために頭を使うべき経産省だが、このようにやるべきことの逆を繰り返した結果、*4-3のように、日本は労働生産性がOECD加盟36カ国中21位・主要先進7カ国最下位、賃金は唯一下がっている国になった。労働生産性は「付加価値(≒売上高-売上原価《人件費を除く》-経費《人件費を除く》)/総労働時間」であるため、水光熱費や土地代などの人件費以外の経費が高ければ労働生産性は下がり、賃金を労働生産性より高くはできないからである。 なお、付加価値を上げるには、人件費以外の経費を下げる以外に販売単価を上げて売上高を増やす方法もあるが、その基となる技術力も、*4-2のように、中国が注目度の高い科学論文の数で米国を抜いて初めて首位に立ち、年間の論文総数でも2年連続で1位になっているのに、日本は研究者数と研究開発費は世界3位、論文総数は4位であるにもかかわらず、「トップ10%論文数」の順位はインドにも抜かれてG7最下位の世界10位まで転落した。私も、その最大の原因は、「何をやっても日本の技術力は優れたままである」と根拠もなく思い込み、政治・行政がやるべき努力をしなかったことだと考えている。 日本で光熱費を下げて付加価値を上げるには、*4-4のように、変動費0の再エネで100%のエネルギーを賄い、外国に支払っていたエネルギー代金を国内で廻して、エネルギー自給率を100%にするのがよいし、それは可能である。一方、原子炉は、新型で小型でも、冷却時に海水を温め、外国に高い燃料代を支払う必要があり、暴走のリスクが0ではなく、使用済核燃料の処分に多額の費用がかかり、エネルギー安全保障でも劣るため、賢い選択肢とは言えない。そのため、それが見えることは、日本の首相には特に重要だ。なお、脱原発については、2011年のフクイチ事故以降は本気で議論してきており、既に10年も経過しているため、「明日や来年やめろ」というような性急な話ではないだろう。 2019.8.29東京新聞 News.Mynavi 2021.8.10毎日新聞 2021.8.10西日本新聞 (図の説明:1番左の図のように、1997年を基準とした主要国の時間当たり賃金は、日本のみがマイナスになっている。また、左から2番目の図のように、労働生産性は日本がOECD加盟36カ国中21位・主要先進7カ国で最下位だ。また、右から2番目及び1番右の図のように、世界の平均気温上昇による極端現象は明らかに増えており、エネルギーの変換や技術開発はできるかぎり速やかに行わなければならない状況なのだ) 2021.6.10日経新聞 2021.8.26日経新聞 (図の説明:左図のように、日本の国別発電コストは著しく高く、日本の産業は足に重りをつけて競争させられているようなものである。しかし、日本には、中央の図の地熱発電はじめ未利用の再エネがふんだんにあり、これらを使えば安価な電力を実現できる。また、右図のように、今では自家発電しながらエネルギーを使う方法も多くできているため、決断が遅いくらいなのだ) *4-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/e3cdefcb9a0801e0983015441b3fc90dc28995ed (Yahoo 2021/9/7) 経産省による「河野太郎叩き」が意味すること〈週刊朝日〉 自民党総裁選の裏で大戦争が起きている。主役は、原子力利権の守護神・経済産業省の官僚と河野太郎規制改革担当相だ。連戦連勝の河野氏に対して、経産省は「文春砲」で最終戦争に打って出た。先週の週刊文春は、近く閣議決定される「エネルギー基本計画(エネ基)」について、経産省資源エネルギー庁幹部との会議で、河野氏が繰り返しダメ出しする様子を伝えた。普通に読めば、河野氏が理由なくパワハラ発言をしたと読める内容だ。文春は、菅義偉政権の目玉閣僚である河野氏を叩こうと考えた。その姿勢は、忖度報道ばかりの大手マスコミにはないもので貴重ではあるが、この記事はあることを報じていない。実は、この会議に至るまで、経産省と河野大臣、そして、河野大臣直轄の有識者会議「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」の間では、1年近く議論が行われてきたということだ。TFは電力会社から完全に独立した国内最高の専門家4人からなる。そのため、私が見る限り、経産省は論戦で完敗した。経産官僚はネット生配信で毎回恥をさらしたのだ。例えば、文春の記事にあった「容量市場」制度(将来の電力需要に備えるため、電力会社が準備する安定供給電源設備に対して、供給が不安定になりがちな再エネ電力などの供給業者が一定の資金をあらかじめ支払って、設備を維持してもらう制度)は、世界に例を見ないでたらめな制度だ。驚いたことに、大手電力会社の石炭火力に多大な補助金を与え、逆に再エネ電力供給業者に事実上の死刑宣告になるような多額の資金拠出を強制する制度になっている。河野氏は、即時廃止または抜本的改革を主張したが、経産省はこれを無視。エネ基最終案にも即時抜本改革さえ盛り込まなかった。河野氏が怒るはずだ。原発と再エネの電源比率の書き方についての争いも、文春の記事からわかるのは、経産省が、再エネの比率を想定以上に引き上げるのを妨げ、原発維持拡大に有利になるような抜け穴を作ろうとしているということ。30年以上官僚をやっていた私には彼らの魂胆がよくわかる。経産官僚は、電力利権と安倍晋三前総理や甘利明税調会長などの利権政治家の側に立ち、国民の利益を全く無視している。こうした真実を知れば、国民の多くは、経産官僚に対して罵声を浴びせたくなるだろう。やむなく河野氏が、理不尽な内容のままなら閣議で反対すると言ったのは当然のことだろう。それがどうして「脅し」になるのか、意味不明だ。経産省が、内部調整中のエネ基の文言を一部週刊誌だけに漏洩して、「個人攻撃」で河野氏を叩こうとしたのは、彼らの「政策論」が世の中で通用しないと悟ったからだ。つまり、彼らは負けを認めたのだ。官僚と族議員の利権に容赦なく切り込む河野氏の敵は、利権擁護派の官僚と自民党族議員全体に及ぶ。彼らは、週刊文春を味方につけた経産省とともに、かさにかかって河野叩きに出るはずだ。河野総裁や要職での起用の可能性もあるとなればなおさらだろう。マスコミによる河野氏への人格攻撃は、その報道の意図とは関係なく、原発維持拡大などの利権擁護派に利用されていることを国民はよく理解しておかなければならない。 ※「週刊朝日」9月17日号より ■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など *4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15036209.html?iref=comtop_Opinion_01 (朝日新聞 2021年9月7日) 論文引用数、中国躍進の一方で日本10位 科学技術力の岐路、おごり捨てて 桜井林太郎 科学技術政策について考えさせられるリポートが先月、公表された。注目度が高い科学論文の数で、中国が米国を抜き、初めて首位に立ったという。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が、引用された回数が上位10%に入る「トップ10%論文数」を調べた結果で、その国の科学技術力を示す一つの指標となっている。中国は、年間の論文総数でも2年連続で1位となり、「質、量ともに世界一になった」と報じたメディアもあった。知り合いの材料研究者は「10年前、中国の研究者は独創性が高い日本の論文を追いかけていたが、今では中国の論文を日本の研究者が追試していることも多い」と嘆く。ただ、中国が質でも世界一になったと言い切るのは時期尚早という意見もある。理工系のある大学教授によると「中国は自国の科学雑誌への投稿を促し、格が高い雑誌に育てた上で、論文を引用し合う場合も多い」からだ。文科省の研究所の分析でも、英ネイチャーや米サイエンスといった世界屈指の科学誌のシェアでは今なお、米国が圧倒的に強かった。中国は、米国に次ぐ英独の2位争いに加わろうと猛追している段階だ。一方、日本の凋落(ちょうらく)ぶりは目を覆うばかりだ。日本は、研究者数と研究開発費は世界3位で、論文総数は4位。なのに、「トップ10%論文数」の順位は2000年代半ばから下がり続けている。今回はインドにも抜かれ、G7最下位の世界10位に転落した。研究時間の減少や博士課程進学者の減少など、さまざまな要因が原因として挙げられている。しかし、最大の原因は「慢心」にあったのではないか。この10年余り、皮肉にも日本はノーベル賞の受賞ラッシュに沸いた。「中国のノーベル賞はごくわずか。科学技術力は日本が上だ」。そんな話を何度も耳にした。現状の認識がこの有り様では、中国だけでなく、世界から取り残されてしまうだろう。日本政府も危機感を強め、テコ入れを始めた。日本の科学技術力は今まさに分岐点にある。「失われた10年」を「失われた20年」にしてはいけない。 *4-3:https://news.mynavi.jp/article/20191218-941815/ (マイナビニュース 2019/12/18) 「労働生産性の国際比較 2019」公開 - 日本は主要先進7カ国中最下位 日本生産性本部は12月18日、「労働生産性の国際比較 2019」を公表した。これは、同本部がOECDデータベースなどをもとに毎年分析・検証し、公表しているもの。OECDデータに基づく2018年の日本の時間当たり労働生産性は46.8ドル(4,744円)で、OECD加盟36カ国中21位だった。名目ベースで見ると、前年から1.5%上昇したが、順位は変わっていない。日本の労働生産性は、米国(74.7ドル/7,571円)の6割強で、イタリア(57.9ドル)やカナダ(54.8ドル)をやや下回る程度の水準。主要先進7カ国では、データが取得可能な1970年以降、最下位の状況が続いているという。就業者1人当たりの労働生産性は81,258ドル(824万円)で、同じくOECD加盟36カ国中21位だった。日本の1人当たり労働生産性は、英国(93,482ドル/948万円)やカナダ(95,553ドル/969万円)といった国をやや下回る水準。米国(132,127ドル/1,339万円)と比較すると、6割強の水準となっている。1990年代初頭は米国の4分の3近い水準だったが、2010年代に入ってから3分の2前後で推移しているという。 *4-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA07CK60X00C21A9000000/ (日経新聞 2021年9月9日) 脱炭素が問う自民総裁選 原発と再生エネが主戦場 自民党総裁選は17日に告示され、29日投開票する。新総裁が首相になるため、誰が勝つかが関心事だが、そのまま政権公約となる各候補の政策についても国内外の熱い視線が注がれる。政府が掲げた2050年までに国内の温暖化ガス排出実質ゼロ、30年度に13年度比で46%削減する目標に向けた原子力発電と再生可能エネルギーのあり方が論戦の主戦場になる。総裁選は岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相が立候補を表明し、河野太郎規制改革相は10日にも明らかにする。今回の総裁選がこれまでとは異なり、エネルギー政策が注目されるのは、河野氏の脱原発を巡る過去の発言がある。河野氏は東日本大震災直後の11年7月の自民党の総合エネルギー政策特命委員会で原発政策について「放射性廃棄物を出すのに、なぜクリーンエネルギーと言ってきたのか」と批判。12年には超党派議連「原発ゼロの会」の発起人となった。河野氏は8日、内閣府で記者団に「再生エネを最優先に広く取り入れていくのが基本だ」と力説。「いずれ原子力はなくなっていくだろうが、明日や来年やめろというつもりはない」と述べた。「安全が確認された原発を再稼働するのはカーボンニュートラルを目指すうえである程度必要だ」と容認した。脱原発の考え方が変わったのかの質問には「変わっていない」と説明した。一連の発言には総裁選で脱原発に関して過度に焦点が当たるのを回避する狙いもあるとみられる。河野氏は新著「日本を前に進める」(PHP新書)で「与党議員ではできないことも、閣僚として権限を持てれば実現できる。権限があるということは、やる気になれば、実現できる」と記している。岸田氏は8日に発表した経済政策で「再生エネの最大限の導入は当然」とするとともに蓄電池、新型の小型原子炉などへの投資を提唱した。記者会見で原発を巡り「新増設の前に既存の原発の再稼働を進めていくのが大事だ」と話した。2日の日本経済新聞とのインタビューでは「脱炭素目標を掲げる以上は、より丁寧に日本の産業に目配りをし、責任を持って考えていかなければならない」と語った。7月に原案を示したエネルギー基本計画は30年度の電源比率で再生エネの割合を36~38%にした。高市氏は8日の記者会見で環境政策とエネルギー政策を一元的に担う「環境エネルギー省」の創設を主張。天候で変わる太陽光の発電量を補う電源として火力を挙げ、再生エネのさらなる導入と原子力の平和利用を唱えた。新著「美しく、強く、成長する国へ。私の『日本経済強靱(きょうじん)化計画』」(WAC BUNKO)で太陽光のリスクの最小化を提言。「太陽光パネルの傾斜が雨天時に地面を削り取る原因となっている」と指摘した。エネルギー政策の主な論点は電源構成だ。脱炭素へ原子力や再生エネ、火力の構成が適正で、実現可能かどうか。再生エネが季節や時間帯で発電量が変動する可変動電源ならそれを補強する電源とそのコストの議論も国民負担にかかわるだけに避けて通れない。地球温暖化は異常気象を生み、死者が出るほどの高気温や山火事、台風を含めた暴風雨など世界を恐怖に陥れる。生態系の破壊がもたらす異常気象の際限は想像がつかない。地球温暖化が国民の生命と財産を危険にさらす以上、国家指導者は最優先課題として防止策に取り組まなければならない。そのための国際連携も急務だ。総裁選は各候補の脱炭素への決意を確認すると同時にその政策の根拠が精緻で、実現できるのかを見極める場にもしたい。 <計画性なき日本の安全保障政策> PS(2021年9月10、11、15、23日追加):自民党保守派と称する人は、軍備を増強するのに予算を使うことには熱心だが、国民の生命・財産・領土・領海・資源を守る本当の国防計画はないようだ。何故なら、*5-1-1のように、食料自給率は2020年度に37%、エネルギー自給率は2018年に11.8%なのに、それを改善する努力はせず、国民の生殺与奪の権を食料やエネルギーを依存する国に委ねているからだ。 それどころか、*5-1-2のように、日本一の海苔産地である有明海沿岸の佐賀空港にオスプレイを配備することを自己目的化し、九州防衛局(=政府?)は、漁民と地権者は異なるため地権者にアンケート調査をしても意味がないのに、オスプレイ配備計画について地権者にアンケート調査し、土地売却の意向は「条件次第で売却」が最も多かったなどとしているのだ。しかし、重要なのは漁業権を持ち、安心・安全な食料を作っている漁業者であり、オスプレイ配備で隊員や家族ら2千人以上が移住してくることよりも、宝の海で食料生産を続けて食料自給率を上げることの方が、防衛にも協力することになり、地域活性化の上でも重要なのである。 一方で、*5-2-1のように、沖縄・尖閣諸島周辺の領海の外側にある接続水域では、112日間連続で中国海警局の公船「海警」4隻が航行し、領海への侵入も今年は18件起き、日本漁船への接近もたびたび発生し、海上保安庁は巡視船12隻を専従させて警戒を続けているが、中国は尖閣諸島を自国領土と主張し、中国公船の活動は“パトロール”として「釣魚島と付属島嶼は中国固有の領土で海警船が巡航することは法に基づく正当な措置だ」としている。また、中国海警局の元幹部は「365日の活動を可能にする『常態化』は10年以上前から計画されてきたもので、日本側にもその意思を伝えてきた」とし、中国外交筋は「日本側はいつも『領土問題は存在しない』としか言わず、まともに議論する意思がない。日本の漁船が挑発的に尖閣領海に入っている状況からも合意を破っているのは明らかに日本だ」と批判している。 これに対し、加藤官房長官は「極めて深刻な事態。我が国として冷静かつ毅然と対応していく考えだ」と述べ、赤羽国交相も「極めて深刻に受け止めている。海上保安庁では常に相手の勢力を上回る巡視船の隻数で対応し、万全の領海警備体制を確保している。事態をエスカレートさせず、冷静かつ毅然と対応を続けて領海警備には万全を期していく」と述べながら、*5-2-2のように、石垣市が尖閣諸島に行政標柱の設置を目指すと、*5-2-3のように、加藤官房長官は「政府は尖閣諸島および周辺海域の安定的な維持管理という目的のため、原則として政府関係者を除き、何人も上陸を認めない」と語り、肝心なところでは「毅然とした姿勢」どころか「及び腰」なのである。つまり、中国が10年以上前から計画してきた尖閣諸島領有については「領土問題は存在しない」と言ってまともな議論もせず、「冷静かつ毅然と対応する」としながら何もせず、「安定」の名の下に領土を放棄しようとしている。これは、どういうわけか。 *5-3のように、河野氏も「安全が確認された原発を当面は再稼働させるのが現実的」と言われたが、これは新たな安全神話だ。何故なら、原子力規制委員会は「①安全を考える場合、リスク0にならないことを前提に確率論的リスク評価が必要で、不完全性・不確実性はある」「②安全性目標は、他の死亡リスクとの比較や土地汚染に関する根拠(100TBq の根拠等)などある程度の価値判断を含む定性的な上位概念を示すことを考えて良い」としており、この安全性目標から外れていれば何が起こっても“想定外”とし、ある程度の汚染は甘んじるべきという価値判断をしているからである(https://www.nsr.go.jp/data/000227853.pdf 参照)。 また、本当に安全なら、i)電源三法による交付金 ii)原発関連施設の固定資産税 iii)電力会社からの寄付金 などの原発マネー(これまでに支払われた金額は総額2兆5,353億233万円と言われる)は不要な筈だが、原発立地自治体は原発が安全だと思っているからではなく、原発マネーが財政を潤すから原発の立地を受け入れているのである。しかし、1966年に日本で最初の原発が商業発電を始めてから既に55年が経過しているのに、未だに補助金を出さなければ運用できないような発電方法は既に破綻しているため、原発の処理と再エネ100%の実現こそが、汗をかき少し手を伸ばして可能にしなければならない課題なのだ。 なお、「デジタルの力で日本を前に進める」とも言われたが、デジタル化や自動化は民間では1980年代からやっているため、今頃、これを言わなければならないのは行政だけだ。さらに、デジタル化を当然としても個人情報保護や犯罪防止は必要不可欠であるのに、「デジタル化さえ進めば、後はどうでもよい」と考えている点で日本は著しく遅れている。なお、「自民党は保守政党だ」としながら「自民党を変え、政治を変える」と言うのは日本語の意味を間違えている。何故なら、「保守」とは、読んで字の如く「保ち守る」という意味で、「続けられてきた状態を維持し続けること、維持するための取り組み、維持するための主張」を指すからだ。 このような中、*5-4のように、①原子力規制委は中国電力島根原発2号機の安全対策が新規制基準に適合しているとする審査書を決定したが ②県庁所在地にある原発で事故時には46万人の住民避難が課題で ③中国電力は敷地近くの宍道断層による地震は基準地震動が最大加速度820ガルと想定 ④津波は最大11.9mと想定 ⑤三瓶山噴火の火山灰は最大56cm積ると想定 ⑥安全対策費は原発全体で6千億円程度の見積もっている そうだ。しかし、②は、事故時に46万人もの住民がどこに、どれだけの期間避難するつもりか問題であり、③の基準地震動は最大ではなく平均地震動であるため、最大地震動でも使用済核燃料プールの水がこぼれることはなく、管を含む原発のすべての部品が正常であるという前提に無理がある。④⑤については、その前提でよい理由は不明だが、事故が起これば歴史的に重要な地域で取り返しのつかない状況になることを考えれば、①は甘い審査だと私は思う。 なお、*5-5のように、台湾がTPP加盟の正式申請手続きを行うと、日本のメディアは、「⑥中国は中国大陸と台湾は1つの国に属するという『1つの中国』を唱えているため、中国の強い反発が予想される」「⑦対立する中台のTPP加盟を日本などの加盟国がどう判断するか外交的な駆け引きも含めて交渉が激しくなる」などと報道している。これに対し、台湾通商交渉トップの鄧政務委員は、「⑧中国はいつも台湾の国際社会との連携を阻もうとしてきた。もし中国が先にTPPに加盟すれば台湾のTPP参加は不利になる」「⑨台湾のTPP参加は台湾の利益と経済発展のために行うもので、中国の反対があっても彼らの問題だ」などと切り捨てて強い不満を表明されたそうだ。私は、独立国の意思決定に対する⑥⑦の質問や考察は失礼なので、⑧⑨の反発の方が尤もだと思う。また、尖閣諸島と同様、肝心なところで敵対する相手の顔色を見て首尾一貫性がなくなる国は、誰からも信用されなくなるだろう。 MotorFan Quara 2021.8.26山陰中央 2021.4.15Yahoo エネルギー自給率国際比較 食料自給率国際比較 食料自給率推移 尖閣諸島の位置 (図の説明:1番左の図のように、エネルギー自給率は先進国の中でも著しく低く、左から2番目の図のように、食料自給率も先進国の中でかなり低い。また、右から2番目の図のように、食料自給率は一貫して下がっており、政策が悪かったとしか言いようがない。さらに、1番右は尖閣諸島の位置関係を示す図で、沖縄県石垣島と中華民国《台湾》が170kmで等距離であるものの、中華人民共和国《中国》は330kmも離れており、全く関係ないと言える) 2021.4.9産経新聞 Goo 2021.4.29東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、2019年時点で原発の発電量は6%しかなく、2050年までに原発と火力を30~40%にするということこそ、世界の流れに反しており、非現実的である上、理念が見えない。また、左から2番目と右から2番目の図のように、膨大な量の使用済核燃料が満杯に近く貯蔵されており、残りの貯蔵空間は少ないが、最終処分の方法もまだ決まっていない。そして、1番右の図のように、仮に玄海原発が自然災害や戦争による爆撃で爆発すると、歴史的に重要な場所を含む食料生産地域が汚染され、食料自給率は現在の1/4程度減ると思うが、日本政府は食料・エネルギーの自給率や食料の汚染にとりわけ疎いのだ) iMart 2016.6.19Goo 2016.10.21 朝日新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本は北米プレートとユーラシアプレートの上にあり、ここに太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んで、その内側に火山帯がある。そのため、左から2番目の図のように、押されてできた割れ目が多数の活断層になっており、知られている活断層が全てではない上、新しい活断層ができない保証もない。そして、右から2番目の図の熊本・大分の地震は中央構造線から連なる活断層の上で起こったが、特に伊方原発と川内原発は中央構造線に極めて近い場所にあり、図に活断層は描かれていないものの、近くには活断層が多いと考えるのが自然だ。また、1番右の図のように、2016年の鳥取地震では地殻変動によるひずみの集中で地震の起こるメカニズムが初めて明らかにされ、これもノーベル賞級の研究だと思う) *5-1-1:https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/84726 (山陰中央新報 2021/8/26) 食料自給率37% 過去最低 20年度、コメや小麦減少 農林水産省は25日、2020年度のカロリーベースの食料自給率が前年度から1ポイント低下し37%だったと発表した。1993年度と2018年度に並ぶ過去最低の水準。自給できているコメの需要減少や、ただでさえ輸入頼みの小麦の生産量が落ち込んだことが響いた。新型コロナウイルス禍で外食需要減少に伴う消費の落ち込みも押し下げた。新型コロナの影響では、家庭食の増加など自給率向上に寄与する要因もあったが、マイナス面が上回った。 1993年度は記録的なコメの凶作の年で、2018年度は長期的な自給率低下が続く中で天候不順となり、小麦などの生産量が減少し、いずれも37%だった。一方、生産額ベースの自給率は前年度から1ポイント上昇の67%だった。単価の高い豚肉や鶏肉、野菜、果実の生産額が増加した一方、魚介類などの輸入額が減少したため4年ぶりに上昇した。農水省の担当者は「外出自粛で清涼飲料水や土産物の菓子の需要が落ち込んだ」と説明。これらの原料として使用する砂糖類や植物油脂の輸入額が減ったことも上昇要因となった。品目別(重量ベース)の自給率では、コメが前年度と同じ97%、小麦は1ポイント下落し15%となった。野菜は1ポイント上がり80%、魚介類は2ポイント上昇の55%だった。農水省は19年度の都道府県別の食料自給率も発表した。カロリーベースでは北海道が216%で3年連続の1位となり、2位は205%の秋田県。東京都は都道府県別の統計として初めて0%を記録した。島根、鳥取はともに61%だった。 *5-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/735211 (佐賀新聞 2021/9/4) <オスプレイ配備>割れた意見、漁業者ら受け止めさまざま、配備候補地 地権者アンケート結果 オスプレイ配備計画の地権者アンケートで、計画への理解を尋ねた設問の結果は、賛否と「どちらとも言えない」の三つに割れた。土地売却の意向も、賛否に直接的にくくれない「条件次第で売却」が最も多く、地権者や漁業者の受け止め方はさまざまだった。漁協支所の運営委員の一人は、計画への理解について「どちらとも言えない」が3分の1を超えた点を「多くの人が判断しようがなかったのだろう」と推し量る。「説明不足」との指摘が相次いだ九州防衛局の地権者説明会を引き合いに「ずっと判断材料が不足したまま。アンケート結果をもってしても、どっちにも進めようがないだろう」。駐屯地予定地の直接の地権者が所属する漁協南川副支所では、「売却する」が「売却しない」をやや上回り「条件次第」が半数近くだった。微妙な数字で、田中浩人運営委員長は「正式な数字を見たばかりで、コメントする立場でもない。皆さんの考えが表れたものとしか言えない」と口数は少なかった。ただ、「条件次第」が多かった点には「どういう条件なのか精査し、今後、漁協内で協議すべきものと思う」とした。南川副支所の50代のノリ漁師は計画に賛成の立場で、土地を売却すると回答した。結果は「条件付きを含めると売却に賛成が多く、思った通り」と受け止める。配備で隊員や家族ら2千人以上が住み、地域活性化につながると期待する。「今回の結果を機に計画が前進してほしい」と話した。地権者でつくる有志の会の古賀初次さんは、質問が誘導的として疑問を呈しつつ「お金が欲しくない人はいないのだから、条件次第で土地を売ってもいいという人が多いのは当たり前」と指摘した。ノリ漁の準備が始まっており「この多忙な時期に、こんな大事なことを話すなんておかしい」と、漁協が防衛省のペースに乗って議論を進めていると批判した。 *5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP646HKSP62UTIL041.html (朝日新聞 2021年6月4日) 尖閣周辺の中国公船確認、112日連続 最長記録を更新 沖縄・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で4日、中国海警局の公船「海警」4隻が航行しているのが確認された。接続水域での航行は2月13日から112日連続。2012年の尖閣国有化後、最長だった111日連続(昨年4~8月)を更新した。領海への侵入も今年は3日までに18件起き、漁船への接近もたびたび発生。海上保安庁は巡視船12隻を専従させて警戒を続けている。4日は午後3時現在、大正島沖で2隻、久場島沖で別の2隻が確認された。うち1隻は機関砲のようなものを搭載していた。通常、中国公船は4隻で航行していることが多いという。領海は、通常は潮が最も引いている大潮の干潮時の海岸線を基線とし、そこから12カイリ(約22キロ)までの海域をいう。沿岸国の主権が及ぶが、その国の平和や秩序を乱さなければ「無害通航権」といって他国船は事前通告なく通ることが認められる。この領海外側にある24カイリ(約44キロ)までが接続水域だ。沿岸国は犯罪が領海で起きるのを防いだり、違反した船を取り締まったりすることができる。日本は2012年9月に尖閣諸島にある五つの島のうち、魚釣島、北小島、南小島の3島を国有化した。それ以降、中国当局の船が周辺海域に近づく事案が頻繁に発生するようになり、領海侵入も増えた。1年間に接続水域内で確認された日数は12年は91日で、13年には232日に増加。一時期は減少していたが、19年に282日と再び増えると、昨年は333日と過去最多を記録した。頻度とともに懸念されるのは、船舶の大型化や武装化だ。海上保安庁が公開情報をもとに推定したところ、大型船(1千トン級以上)は12年に40隻だったが、昨年は131隻と8年間に3倍以上に増加した。海上保安庁の同水準の巡視船69隻を上回る勢力になっている。また、15年12月に機関砲を搭載した海警船も初めて確認され、以降は機関砲を搭載した船の接近が頻繁に発生している。海警局は18年7月に人民武装警察部隊に編入され、今年2月には武器使用を認める中国海警法も施行された。海上保安庁の奥島高弘長官は5月の定例会見で、尖閣周辺の情勢を「依然として予断を許さない厳しい状況」との見解を示し、「関係機関と緊密に連携して冷静にかつ毅然(きぜん)として対応を続け領海警備に万全を期す」と述べた。加藤勝信官房長官は4日の会見で「極めて深刻な事態と認識している。我が国として冷静かつ毅然(きぜん)と対応していく考えだ」と述べた。赤羽一嘉・国土交通相も4日の閣議後会見で「極めて深刻に受け止めている。海上保安庁では常に相手の勢力を上回る巡視船の隻数で対応し、万全の領海警備体制を確保している。事態をエスカレートさせず、冷静かつ毅然と対応を続けて領海警備には万全を期していく」と述べた。これに対し、尖閣諸島を自国領土と主張する中国は、中国公船の活動を「パトロール」と強調。日本政府が「国際法違反」と指摘している点について、中国外務省の汪文斌副報道局長は4日の定例会見で「釣魚島(尖閣諸島の中国名)と付属島嶼(とうしょ)は中国固有の領土であり、海警船が巡航することは、法に基づく正当な措置だ」と主張した。中国公船は12年の日本の尖閣国有化直後から定期的に航行するようになり、段階的に回数と態勢を引き上げてきた。自身も尖閣周辺のパトロール経験がある海警局元幹部は「365日の活動を可能にする『常態化』は10年以上前から計画されてきたものであり、日本側にもその意思を伝えてきた。当たり前のことができるようになっただけなのに、日本があおり立てて問題を大きくしている」と語る。日中両政府は14年、尖閣問題について「対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐ」などとする4カ条の合意を交わした。だが、中国外交筋は「日本側はいつも『領土問題は存在しない』としか言わず、まともに議論する意思がない。日本の漁船が挑発的に尖閣領海に入っている状況からも、合意を破っているのは明らかに日本だ」と批判する。 *5-2-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1380399.html (琉球新報 2021年8月24日) 石垣市、国に尖閣上陸申請へ 行政標柱が完成、設置目指す 石垣市は23日、尖閣諸島への設置を目指している行政標柱が完成したと発表した。市が昨年10月に、市の行政区域に含まれる尖閣諸島の住所地の字名を「登野城」から「登野城尖閣」に変更したことに伴う取り組みの一環。市は今後、標柱設置のために国に尖閣諸島への上陸申請をしていくが、具体的な時期は未定という。23日に市内であった完成発表会で、中山義隆市長は「尖閣諸島とその周辺を取り巻く環境は大変厳しい状況が続いている。市はこれまで国に対し必要な措置を要請してきたが、いまだ状況に変化がない。尖閣諸島を市民、国民の皆さんに広く正しく知ってもらうことが重要だと考えている」と語った。標柱には石垣島産の御影石が使われ、「八重山尖閣諸島魚釣島」や「沖縄県石垣市字登野城尖閣二三九二番地」などと記されている。製作費は総額約200万円で、ふるさと納税による寄付でまかなった。国から上陸許可が出るまでの間は、この冬のオープンに向けて計画中の「市尖閣諸島情報発信センター」(仮称)で展示を予定している。 *5-2-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/34ca6f79116d9ef11551a757e36c497cba10781c (Yahoo 2021年8月30日) 石垣市の尖閣標柱に日本政府「弱腰」 上陸申請めぐり“中国に屈した発言”も 石平氏「中国の反応など考慮する必要はない」 中国当局が東シナ海での休漁期間を解禁して以降、沖縄県・尖閣諸島周辺には連日、数十隻もの中国漁船が大挙して押し寄せている。日本の領土・領海を守り、先祖から受け継いだ海洋資源を守るためにも、尖閣諸島を行政区域とする石垣市は近く、「行政標柱設置のための上陸申請」を行う方針だが、日本政府は「及び腰」「弱腰」だという。これで、国民の生命や財産を守り抜けるのか。菅義偉政権の胆力が試される展開となっている。 ◇ 第11管区海上保安本部(那覇)によると、尖閣周辺の接続水域外側で25日、約60隻の中国漁船が操業しているのが確認された。中国当局が漁を解禁した16日以降、漁船を確認しない日はなく、19日には最多の約100隻が押し寄せた。海上保安庁の担当者は「接続水域や領海に接近する様子があれば、警告するとともに、違法操業があれば退去させる」と説明した。中国海警局船も要警戒だ。尖閣周辺の接続水域では26日、海警局船2隻の航行が確認された。18日連続で、1隻は機関砲のようなものを搭載していた。巡視船が領海に近づかないよう警告した。こうしたなか、石垣市は、昨年10月に尖閣諸島の字名を「石垣市字登野城」から「石垣市字登野城尖閣」に変更したことを受け、島名などを刻んだ行政標柱を製作し、23日公開した。魚釣島と南小島、北小島、久場島、大正島に設置する方針で、今後、国に上陸申請を行うという。中山義隆市長は同日の記者会見で、「尖閣周辺に中国船が連日出没し、大変厳しい状況が続いている」「これまでも国に対し、尖閣周辺海域の適正な管理や漁業者の安全操業の確保など、必要な措置を要請してきたが、状況に変化がない」「尖閣について国民に広く正しく知ってもらうことが大切だ」などと語った。行政標柱の設置は、日本の毅然(きぜん)とした姿勢を示すことになる。ところが、菅首相の女房役である加藤勝信官房長官は24日の記者会見で、「政府は尖閣諸島および周辺海域の安定的な維持管理という目的のため、原則として政府関係者をのぞき、何人も上陸を認めない」と語った。まだ、上陸申請が出ていない段階で、これを拒否する考えを示したのだ。日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏は「菅政権の考えは、まったく理解できない。尖閣諸島は日本領土ではないのか?現在の状況では、『安定的な維持管理』ができているとは言えない。『中国に屈した発言』としか思えない。これでは、尖閣諸島だけでなく、他の領土も危ない」と懸念を示した。石垣市は淡々としている。企画部の担当者は、上陸申請を提出する時期を「検討中」としたうえで、「今回の標柱設置は、市の行政手続きの1つとして理解していただきたい。今後、申請にあたって政府に説明したい」といい、一切譲歩しない姿勢を示した。菅政権による新型コロナウイルス対策への不満などから、一部の世論調査では内閣支持率が30%を下回る「危険水域」に突入している。菅首相の地元・横浜市の市長選(22日投開票)では、首相が全面支援した候補が惨敗した。尖閣諸島に関する「及び腰」「弱腰」といえる姿勢は、習近平国家主席の中国にナメられ、さらに菅内閣の支持率を下落させかねない。中国事情に詳しい評論家の石平氏は「日本の領土である尖閣諸島について、(中国の反応などを)考慮する必要はない。ここまで中国を増長させた責任は、今回の加藤長官の発言をはじめとする、愚かな姿勢を示してきた日本政府にある。日本の領土であることをハッキリと主張して、行動すべきだ」と指摘した。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210911&ng=DGKKZO75676950R10C21A9MM8000 (日経新聞 2021.9.11) 河野氏「安全な原発は再稼働」 総裁選出馬を表明 河野太郎規制改革相は10日、国会内で記者会見し、自民党総裁選への出馬を表明した。原子力発電所について「安全が確認された原発を当面は再稼働させるのが現実的だ」と強調した。「デジタルの力で日本を前に進める」とも語った。新型コロナウイルス禍を踏まえ「皆さんと一緒に直面する危機を乗り越えていかなければならない」と訴えた。「人が人に寄り添う、ぬくもりのある社会をつくっていきたい」と述べた。総裁選への立候補を表明したのは岸田文雄、高市早苗両氏に続き3人目となった。出馬表明した3人で唯一の現職閣僚になる。規制改革、ワクチン担当の職務は続ける。河野氏は総裁選向けの政策パンフレットで「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」と明記した。持論の「脱原発」政策を推進するとの見方があったため、現実的な路線をとると強調した。冊子は「日本を前に進める」と題し「自民党を変え、政治を変える」と掲げた。会見の冒頭で「自民党は保守政党だ」と指摘し「日本の一番の礎は伝統と歴史、文化に裏付けられた皇室と日本語だ」と力説した。保守層からの支持が念頭にある。記者会見では政府と日銀が掲げる2%のインフレ目標の達成に慎重な考えを示した。「かなり厳しいものがあるのではないか」と説いた。河野氏は10日夜のテレビ東京番組で、原発で燃え残った核燃料を再利用する「核燃料サイクル政策」に言及した。「方向転換することもテーブルの上に載せる必要がある。我々の責任で解決策を見いだし、実行していく必要がある」と話した。過去にも核燃料サイクルに異論を唱えていた。総裁選は17日告示―29日投開票で実施する。3人以上で争う構図になった。河野氏は世論調査で「次の総裁にふさわしい人」の上位に挙がる。日本経済新聞社の8月の調査は16%で首位だった。派閥横断的に若手を中心に衆院選の「選挙の顔」に期待する声がある。 *5-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/740315 (佐賀新聞 2021.9.15) 島根原発2号機が審査合格、全国唯一、県庁所在地立地 原子力規制委員会は15日の定例会合で、中国電力島根原発2号機(松江市)の安全対策が、新規制基準に適合しているとする「審査書」を決定した。これで正式に審査に合格した。合格は10原発17基目。事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉としては4原発5基目となる。全国で唯一、県庁所在地にある原発で、事故時の住民避難が課題だ。中国電は再稼働に向け、本年度内の安全対策工事完了を目指す。再稼働には、原発が立地する島根県と松江市の同意を得る必要があり、時期は未定。原発の30キロ圏に入る鳥取県などの動向も焦点となる。会合では、6月に取りまとめた審査書案に対する一般からの意見公募で、中国電が規制委から借り受けたテロ対策施設に関する機密文書を誤廃棄した問題に関し、「中国電に原発を運転する資格があるのか疑問」などの意見が寄せられたことを規制委事務局の担当者が説明。規制委側は、施設の運用ルールを定めた保安規定の審査の中で、引き続き中国電の改善姿勢を確認していくとした。審査書の決定には5人の委員全員が賛成した。中国電は、敷地近くの宍道断層による地震などを検討し、耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)を最大加速度820ガルと設定。最大で海抜11・9メートルの津波が敷地に到達すると想定し、海抜15メートルの防波壁を建設した。三瓶山(島根県)の噴火で敷地に最大56センチの火山灰が降り積もるとして対策を取る。中国電は2013年12月に審査を申請。18年には、新規稼働を目指して建設中の3号機の審査も申請した。1号機は17年から廃炉作業中。原発全体での安全対策費は6千億円程度と見積もる。 *5-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM230B00T20C21A9000000/?n_cid=BMSR3P001_202109231017 (日経新聞 2021年9月23日) 台湾、TPP加盟申請を発表 中国反発でも加入に強い意欲 台湾当局は23日、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟に向け、正式に申請手続きを行ったと発表した。同日午前、記者会見を開き、行政院(内閣)の報道官が明らかにした。加盟申請は22日午後に行った。中国の強い反発が予想されるなか、TPP加盟に強い意欲をみせた。TPPを巡っては、中国が16日に加盟申請を行ったことを公表したばかりだ。台湾として中国に加盟申請で大きく遅れれば、加盟が困難になるとみて申請手続きを急いだ。台湾の通商交渉トップである鄧振中・政務委員(無任所大臣に相当)は会見で、「中国はいつも、台湾の国際社会との連携を阻もうとしてきた。もし中国が先にTPPに加盟してしまえば、台湾のTPP参加は不利になることが予想された」と述べた。そのうえで、鄧氏は「台湾のTPP参加は、台湾の利益と経済発展のために行うものだ。中国の反対があっても、それは彼らの問題だ」などと切り捨て、強い不満を表明した。さらに「TPP加盟国は、台湾の貿易総額の24%以上を占める。今年、(閣僚級会合のTPP委員会の)議長国である日本とは非常に緊密な関係にあり、今こそ加盟すべき時が来た」と語った。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、2016年の就任時からTPP加盟を悲願としてきた。台湾経済は中国に大きく依存している。台湾からの輸出は4割強を中国が占める。統一圧力を強める中国からの脱却を急ぐには、TPPに加盟し、中国への経済依存度を引き下げる必要があると判断した。ただ中国は、中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を唱えている。台湾のTPP加盟には強硬に反対する姿勢だ。TPPには現在、日本やオーストラリアなど11カ国が加盟している。参加するには、加盟国すべての同意が必要となる。今後、対立する中台のTPP加盟を、日本などの加盟国がどう判断するか、外交的な駆け引きも含めて交渉が激しくなりそうだ。米国の今後の動きも大きな焦点となる。トランプ前大統領は17年1月、TPPから「永久に離脱する」とした大統領令に署名し、TPPから離脱した。バイデン政権が復帰を決定することは容易ではないが、中台の加盟申請でTPPを取り巻く状況は大きく変化しており、米国としても何らかの対応が必要になる可能性がある。 <アフガンへの支援と今後> PS(2021年9月17、18、24日追加):*6-1のように、タリバンが権力を掌握したアフガンで食料不足や物価高騰が深刻で、「①国民の93%が食事を十分にとれない事態で人道危機が迫っている」として、国連は、*6-2のように、9月13日、96カ国が参加する緊急会合で計12億㌦(約1300億円)超の拠出を表明した。グテレス事務総長は、ジュネーブの国連欧州本部で開かれた会合で「②事実上の政府であるタリバンとの関わりなしに人道支援を行うのは不可能」「③経済が崩壊すれば人道支援だけで問題は解決しない」「④国外資産凍結・IMF・世界銀行の支援停止などでアフガン経済はさらなる苦境に陥っている」と訴えたが、ドイツのマース外相や米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は「⑤国際社会の支援を受けたいタリバンは政権発足にあたって女性の人権や旧政権に参加した人の安全などを守るとしていたが、既に多くの市民への暴力が報告された」と、タリバンの実行動に懸念を示されたそうだ。 また、*6-1には、2年前に戦闘に巻き込まれて夫を失い、自身も右足をけがして不自由になり、3歳から14歳までの7人の子どもと逃れてきた避難民女性が首都カブールの公園などにテントを張って暮らしている様子も書かれている。アフガンは食事も十分にとれない国民が93%に上るそうだが、男性は戦闘という破壊活動(生産とは反対の活動)を行い、女性は勉強も就業もできずに次々と7人も子どもを作っていれば、貧しかったり飢えたりするのは当然のようにも思うが、放っておくわけにもいかない。そのため、日本で消費期限が近づく災害用非常食や1年以上備蓄されている備蓄米・脱脂粉乳等々を、団体を通じて援助物資として送ったらどうか。その際、梱包する箱や袋に日本の国名・(男女を含む)作っている人の写真・農村の生産風景・再エネ発電等を映した印刷物を添付し、女性が働かなければ付加価値を高めることは困難で、豊かさは戦争をしても作れないことを示すメッセージにすればよいと思う。 なお、*6-3のように、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧してから、自分たちの権利を守るために声を上げる女性も出てきているが、タリバンのメンバーが抗議デモの女性をムチで打つなど暴力を振るったり、女子学生への教育は認めたが学校で男女の間に仕切りを置いたり、女性は働くことができないと言ったり、女性に頭髪を覆うスカーフやブルカの着用を義務づけたりなど、女性差別が多すぎる。そのため、*6-1のドイツのマース外相や米国のトーマスグリーンフィール国連大使の懸念は的を得ているのである。 こちらが先だが、アフガンに平和・民主主義・人権・平等・信教の自由などを重視する憲法ができ、それに沿った民法・商法・税法等の法律ができれば、その後は、*6-4の中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」やその他の鉄道・道路によって、アフガンで見込まれる非鉄金属・レアアース(希土類)等の資源開発や輸出が期待でき、バーミヤンの石仏などを復元すれば観光の要所にもなれるだろう。 *6-5のように、「⑥G20外相会議は、女性の権利尊重をタリバンに求めることで一致し」「⑦タリバンへの経済制裁については、維持を訴える米国と解除を求める中国で違いが明らかになり」「⑧G7は、タリバンに対し人権尊重・テロ対策・少数派を含む包括的な政権作りを求め」「⑨中国の王毅外相は、人道支援・難民問題に取り組むよう求め」「⑩中国は、タリバンとの意思疎通を続けて包括的な政権作りを促す方針でロシア等と協調して情勢の安定化を図る」とのことだ。⑦については、制裁をちらつかせながら「基本的人権の尊重」「男女平等」「信教の自由」等を定める憲法その他の法律を整備しなければ、⑥の女性の権利尊重はできないし、⑧⑩の人権尊重や包括的な政権作りもできない。そのため、よりよい形で安定をもたらすためには北風と太陽の両方が必要であり、男女平等に関しては、下の1番右の図のように、ドイツ11位・フィリピン17位・米国30位・韓国102位・中国107位・ミャンマー109位・日本120位と儒教・仏教・イスラム教を基盤とする国はキリスト教を基盤とする国より遅れているため、自由・平等・博愛を重視するキリスト教国に先導してもらった方がよいと思う。 2021.9.10 2021.9.8CNN 2021.9.9afpbb 2021.9.17 2021.4.1 TokyoHeadline 日経新聞 毎日新聞 (図の説明:1番左の図は、アフガン女性が命がけで女性差別に抗議している様子で、左から2番目の図は、学校で男女間に仕切りを付けられた様子だ。また、中央の図は、イスラム世界において女性に許された服装で、男性目線のSEX中心でしかない。さらに、右から2番目の図は、鉱山開発のためにアフガンが期待する中国の「一帯一路」だ。そして、1番右の図は、男女格差の小さい順に並べた国名で、アフガニスタンは156ヶ国中156位で全体最下位である) *6-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210912/k10013255411000.html (NHK 2021年9月12日) アフガニスタン 国民の93%が「十分に食事をとれない事態」に 武装勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンでは、食料不足や物価の高騰が深刻になっていて、国連は、国民の93%が食事を十分にとれない事態に陥っているとして、国際社会の支援が急務だと訴えています。アフガニスタンでは、仕事ができなくなったり銀行が閉鎖されたりして、多くの人が現金収入を絶たれ、食料不足や物価の高騰が深刻化しています。首都カブールには、国内各地で家を追われた避難民が公園などにテントを張って暮らしていますが、多くの人は近くの住民などが善意で運んでくれる食料を頼りにして飢えをしのいでいるということです。2か月半前に戦闘で家が破壊され、北部の州から子ども7人と避難してきたという女性は「子どもたちは飢えていて、ひと切れの小さなパンをめぐって奪い合いになっています。このひどい状況から抜け出すためにも支援が必要です」と話していました。WFP=世界食糧計画は、地域事務所の担当者がオンライン会見を開き、タリバンが権力を掌握した8月中旬以降、食事を十分にとれない人は、国民の93%にのぼるとして、支援のための食料の備蓄もなくなるおそれがあると説明しました。担当者は「冬を迎える前に助けを必要としている人たちを救えるかは、時間との戦いになっている」と話し、国際社会の支援が急務だと訴えました。 ●「誰も助けてくれず、取り残されている」 アフガニスタンで、各地での混乱を逃れ、首都カブールに避難してきた人たちは、多くが支援を受けられず、食事が確保できない深刻な状況に陥っています。このうちカブール中心部の公園には2000人余りの避難民がテントを張って生活しています。2か月半前に北部バグラン州での戦闘で家が破壊されたというザル・ベグムさん(42)は3歳から14歳までの子ども7人と逃れてきました。ザルさんは2年前、戦闘に巻き込まれて夫を失ったほか、自身も右足がけがで不自由となりました。着の身着のままで逃れてきたため食料を買う金もなく、近くの住民などが善意で運んでくれる食料だけが頼りですが、子どもたちの飢えをしのぐには十分ではないといいます。ザルさんは「政権の崩壊以降、誰も助けてくれず、取り残されています。私は足が不自由で、子どもたちもまだ幼いので食料の分け前をほかの人たちに取られてしまいます。子どもたちは飢えていて、ひと切れの小さなパンをめぐって奪い合いになっています。このひどい状況から抜け出すためにも支援が必要です」と窮状を訴えていました。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR13CXG0T10C21A9000000/ (日経新聞 2021年9月14日) アフガン支援でジレンマ 「タリバン政権」に米欧慎重、国連が緊急会合、1300億円超の拠出表明 アフガニスタンへの支援を協議する国連の緊急会合で各国は13日、計12億㌦(約1300億円)超の拠出を表明した。イスラム主義組織タリバンによる制圧後、食料不足や経済のまひ状態が続くアフガンに人道危機が迫る。「タリバン政権」の承認に慎重な国際社会は、暫定政権との協力をめぐりジレンマを抱えている。「事実上の政府であるタリバンとの関わりなしに人道支援を行うのは不可能だ」。国連のグテレス事務総長は13日スイス西部ジュネーブの国連欧州本部で開いた会合で、タリバンとの協力は不可欠だと繰り返し訴えた。会合には96カ国が参加した。国連が9~12月を乗り切るために必要としていた目標の6億ドルは達成できる見込みとなったが、グテレス氏は「経済が崩壊すれば、人道支援だけで問題は解決しない」とも述べ、アフガンが直面する現金不足の問題を指摘した。名指しこそしなかったものの、念頭にあるのは米国などが凍結した、アフガン中央銀行の約100億ドルもの国外資産だ。資産凍結や国際通貨基金(IMF)、世界銀行による支援の停止などで、最貧国の一つであるアフガン経済はさらなる苦境に陥っている。現金の不足で銀行は営業停止や引き出しの制限をしている。物価は高騰し、経済はまひ状態にある。国連開発計画(UNDP)によると、既に7割程度だった貧困率は22年半ばまでに97%に上昇する恐れがある。国民の3人に1人は次の食事もままならない状況だという。国際社会の支援を受けたいタリバンは政権の発足にあたり、女性の人権や旧政権に参加した人の安全などを守るとしているが、既に多くの市民への暴力が報告されている。7日に発表した暫定政権の顔ぶれには、国連制裁や米連邦捜査局(FBI)の指名手配対象が含まれた。女性や少数派の姿は見られない。ドイツのマース外相は「良いシグナルではない」と指摘。米国のトーマスグリーンフィールド国連大使も「言葉だけでは不十分だ。実際の行動を見なければいけない」とくぎを刺した。タリバン側との対話や調整を通じた大規模な支援や資産凍結の解除は「タリバン政権」の承認につながりかねないだけに、米欧は消極姿勢を崩さない。人道支援に約6400万ドルを拠出すると発表した米国では、13日の議会下院外交委員会の公聴会で懸念の声が出た。共和党のスコット・ペリー下院議員は「(米国民の)税金をテロ組織へ支払うことは米国の政策なのか」とブリンケン国務長官を問い詰めた。ブリンケン氏は「国連などを通じて支援する」と応じたが、議会の監視は厳しい。一方、隣国パキスタンはいち早く援助物資の空輸に動いた。パキスタンとともにタリバンと密接な関係を持つカタールも「無条件の支援」を国際社会に呼びかけている。12日にはムハンマド副首相兼外相がカブールを訪れた。中国は医療支援などでタリバンと接近している。王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は8日、オンラインで開いたアフガン隣国の外相協議に参加し、「新型コロナウイルスワクチンを第1回分として300万回分寄贈する」と表明した。総額2億元(約34億円)分の食料や越冬物資なども提供すると述べた。ロシア、中央アジア諸国などとともに加盟する上海協力機構(SCO)の枠組みも活用してアフガンへの関与を強める。16日から2日間の日程で、タジキスタンの首都ドゥシャンベで首脳会議を開く。習近平(シー・ジンピン)国家主席がオンラインで出席する見通しだ。中国はアフガンからのイスラム過激派流入を警戒しており、人民解放軍は11日からロシア南部オレンブルク州で実施する対テロ合同軍事演習に参加している。タリバンとの関係を築き、復興を支援することでアフガンを安定させたい考えだ。 *6-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/bdd36bb3e32f4f012c9261580af02629210e2879 (Yahoo、日テレ 2021/9/15) カブール制圧から1か月 タリバン支配下のアフガン女性たちの現状は? アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧してから1か月たち、注目されているのが「女性の権利」だ。旧タリバン政権下でその権利を大きく制限されてきた女性たちの間では、手に入れた自由がまた制限されてしまうのではないかと不安が広がっている。アフガン女性たちに現状を聞いた。 ●自分たちの権利を守るため 声を上げる女性たち 9月、首都カブールで行われた抗議デモ。自分たちの権利を守るために声を上げる女性も出てきている。デモに参加した女性たちは――「仕事に行けない女性、学校に行けない女性の助けになるために外に出ている。私は彼女たちの声になりたい」「アフガン女性は常に女性の権利を訴えてきた。アフガン女性も他の女性と変わりない。なぜ私たちは権利が無いのか。私たちもすべての権利を持つべきだ」。そして、9月8日、ロイター通信によると、タリバンのメンバーが抗議デモに参加した女性らをムチで打つなど暴力をふるったという話も出てきた。 ●旧タリバン政権下で権利を制限されてきた女性たち 1996年から2001年まで続いた旧タリバン政権下では、女性の権利は大きく制限されていた。例えば… ・頭の先からつま先まで全身を覆うブルカの着用義務 ・学校教育、就労の禁止 ・外出は男性親族の同伴が必要 などの制約があった。それが2001年、アメリカ同時多発テロをきっかけに、アメリカがアフガンを攻撃。旧タリバン政権が崩壊したことで、女性たちはそれまでの抑圧から解放された。女性YouTuberたちが登場し、日常生活の様子を動画で配信。おしゃれをして街を歩き、その様子を積極的に発信するなど、タリバン政権下とは打って変わって女性たちが輝いているように見えた。しかし、今回タリバンの支配が復活したことで、せっかく手に入れた自由がまた制限されてしまうのではないかという不安が女性たちの間で広がっている。 ●男女で仕切られた教室 タリバンは、「女性の権利を尊重する」として、12日には女子学生への教育を認めると発表したが、学校では男女の間に仕切りを置いたり、女性は頭髪を覆うスカーフの着用が義務づけられるなどさまざまな条件が課されている。タリバンの復権以降、女性たちはどんな思いで過ごしているのか、アフガン女性2人に話を聞いた。以前NGOで働いていて現在はパキスタンに避難している30代の女性――「タリバンから女性は働くことができないと言われ、新しい方針が決まるまでは家にいるよう言われた」「以前は、人と集まることも仕事もピクニックなども自由にできていたのに、今はそのすべてが奪われた」。日本に留学経験があり、現地の国際機関に勤めていた20代の女性――「出勤しても、オフィスは閉鎖され、タリバンの戦闘員に追い返され、いまだ出社できない状態」「外国人と仕事をしていたことが分かると危害を加えられる恐れがあることから、自宅の書類をすべて燃やした」「銀行にお金をおろしに行ったときには銃で武装したタリバン兵がいて、彼らの意に沿わない行動をしたら死につながってしまうだろう」と不安の中で生活している。20年ぶりに復権したタリバンは国際社会の目を意識して、表向きは女性の権利を保障すると主張している。しかし、女性たちの話や今実際に起きていることを見ていると、女性の権利がどこまで守られるのかは不透明で、今後、国際社会が注視していく必要がある。 *6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210917&ng=DGKKZO75832810W1A910C2FF1000 (日経新聞 2021.9.17) タリバン、「一帯一路」意欲 パキスタンと道路接続も 鉱山開発、進展に期待 アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンが大規模インフラ整備事業「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」への参加に意欲を見せ始めた。中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」の関連で、アフガンの鉱山開発で利点がある。だが、アフガン情勢はなお安定せず、専門家は「中国はアフガンの加入に慎重だ」と指摘する。タリバンの報道担当は16日までに、CPECに加わりたいと述べた。中国とパキスタンを鉄道や道路で結び、同国南西部のグワダルの港を軸に発電所なども整備する計画で500億ドル(約5兆5000億円)前後の投資が見込まれる。鉄道や道路をアフガンに延伸すれば、同国で見込まれる非鉄金属やレアアース(希土類)などの開発を促せるとタリバンは期待しているようだ。アフガンは内陸国だが、パキスタンの港を使えば鉱物の輸出先を広げられる。中国は経済成長に欠かせない資源を大量に確保できる。タリバンを支えてきたパキスタンはアフガンへの影響力を強め、対立するインドをけん制できる。13日にはタリバンのメンバーがカブール近郊のアイナック鉱山を視察した。ロイター通信が報じた。中国企業は2008年、世界有数の銅鉱床があるこの鉱山の開発権を30億ドルで獲得したが、アフガン情勢が不安定だとの理由で、実質的な工事に着手していない。アフガンには未開発の鉱物資源が大量に埋蔵されているといわれる。中国は18年からタリバンにインフラでの協力を持ちかけてきたとされる。タリバンに近い関係者は「口頭では合意した。(タリバンの)暫定政権が国際社会に承認されれば、中国はアフガンで整備を進めるはずだ」と明かした。8日に開かれたアフガン周辺国の外相会議で中国は、アフガン側に穀物、防寒具、医薬品など3100万ドルの緊急支援を約束した。タリバンの報道担当は9月上旬の記者会見で「中国とよい関係を築きたい」と主張した。その前に中国の呉江浩外務次官補はタリバン幹部と電話で協議した。呉氏は「アフガンへの友好政策を励行する」という構えだった。だが、情勢に詳しいチェコの大学の専門家は「中国は焦らない。アフガンへの関与を深めるかどうか慎重に判断するだろう」と指摘する。パキスタンの内相は先週の記者会見で同国とアフガンの発展は相互に影響すると述べ、アフガンのCPEC参加を歓迎する姿勢をみせたが、この専門家は「パキスタンはテロの脅威にさらされており、CPECを広げれば同国のリスクも高まる」と説明した。 *6-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15053909.html (朝日新聞 2021年9月24日) 女性の権利尊重、G20要求 経済制裁、米中に相違 対タリバン イスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したアフガニスタン情勢を協議する主要20カ国・地域(G20)外相会議が22日、オンラインで開かれた。米国務省によると、女性の権利尊重をタリバンに求めることで一致した。一方、タリバンへの経済制裁については、維持を訴える米国と解除を求める中国の姿勢の違いが浮き彫りとなった。米国務省によると、ブリンケン国務長官は外相会議で「制裁がアフガン市民に与える影響を抑えつつ、タリバンに対する制裁は維持する」との意向を示した。米政府は主要7カ国(G7)メンバーと足並みをそろえ、タリバンに対して人権尊重やテロ対策、少数派を含む包括的な政権づくりなどを求めている。タリバンは「人権を守る」などと表明しているものの、実際に行動で示すまでは制裁を維持したい考えだ。一方、中国外務省によると、中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は「制裁を政治圧力のカードとすべきではない」と訴えた。米国や北大西洋条約機構(NATO)の拙速な撤退が混乱を招いたと非難し、人道支援や難民問題に取り組むよう求めた。中国はタリバンとの意思疎通を続けて包括的な政権づくりを促す方針。ロシアなどと協調して情勢の安定化をはかる姿勢を示している。日本外務省によると、茂木敏充外相は「タリバンに対し、多様な民族や宗派を含む包摂的な政治プロセスや、女性らの権利尊重を統一したメッセージで求めていくべきだ」と訴えた。 <無駄遣い・高齢者いじめ・消費税増税は何故起こるのか?> PS(2021年9月20日、10月2日追加):日本記者クラブ主催の公開討論会で、*7-1のように、自民党総裁に立候補した4氏が論戦し、河野氏はエネルギー政策のやりとりで「①私の脱原発は耐用年数が来たものは速やかに廃炉にして、緩やかに原子力から離脱していくことだけ」「②野田さんは将来も原子力に頼った方がいいと思っているのか」「③再エネを増やせなかったのは原発に重きを置こうという力が働いていたから」「④原発のコストが見直されて再エネの方が安いことが明確になった」「⑤核のごみの現実的な処分方法をどうするのかを議論をした方がいい」と言われた。私は、①②③④については、耐用年数が来ていなくても廃炉にすべきものやできるものはできるだけ早く廃炉にすべきだと思う。その代替は再エネ以外になく、日本の場合は再エネ化を進めることによって国や地方自治体に税外収入が入るため、呪縛のように言われている消費税増税を行わず、消費税を廃止することすらできる。また、最悪の事態に備えるのなら、⑤の核のごみも早急に処分すべきだ。 上の⑤を受けてか、*7-2のように、経産省が「⑥廃炉が相次ぎ、低レベル廃棄物の『蒸気発生器』と『給水加熱器』の処分を有用資源として安全に再利用されるなど一定基準を満たす場合に限り例外的輸出を可能にすることを新エネルギー基本計画改定案に盛り込んだ」「⑦電力会社から海外業者への支払いでコストが膨らむ可能性もある」そうだ。しかし、⑥について、私は、国内処分の原則は不要だと思うが、除染する人に被曝の可能性があり、除染の程度も疑問であるため、「放射性廃棄物を有用資源として安全に再利用する」とするのはよほどの放射能好きだ。また、⑦は、これ以上の負担を電力使用者にかけないためにも、安価に処分してくれるのでなければ、密閉した容器に入れて排他的経済水域内の3,000m以上深くて流れのない窪地に沈めるのが最も安価だと思う。しかし、その分量にも限界があるので、これ以上核廃棄物を増やさないことが最も重要だ。 また、*7-3のように、「⑧新型コロナ対策として人流抑制を考え」「⑨個人への給付金を検討し」「⑩緊急事態宣言より強制力の強いロックダウンに向けた法整備をする」と言った人もいたが、⑧⑩は感染症が蔓延しやすく、ワクチンや治療薬を作れない国のすることで、(もう長くは書かないが)日本はこれとは異なる。そして、今回の蔓延と個人の経済破綻は政治による人災であり、経済を止められて破綻した生産年齢人口の人が30万円の給付金をもらっても焼石に水だが、数が多ければ国民負担は大きい。つまり、生産年齢人口の人に補助しなければならないような政策を作ること自体が誤りなのである。 なお、*7-1では、「⑥全額消費税で支える基礎年金への制度変更」の話も出ていたが、これまで年金保険料を支払っていた人への基礎年金の支払いを停止するのは契約違反だ。そのため、最低保証年金を作るのなら、これまでの1~3階はそのままにして、最低生活に満たない人に保障する0階を設けるべきであり、その原資が消費税でなければならない理由もない。例えば、生産年齢人口にあたる人に景気対策として補助する政策をなくし、原発は早期にやめて再エネに変え、国内にある資源を有効に使って国や地方自治体が税外収入を獲得すればよいのである。 その1例は、*7-4のように、排他的経済水域内にコバルトリッチクラストが広く分布しており、コバルト・ニッケル・白金などのレアメタルやレアアース等を含む海底金属資源があるため、(国立公園内の地熱とともに海も国有なので)採取すれば国が税外収入を得られるのだ。 *7-5には、⑪バイク・自動車・航空機等を作ってきたホンダが宇宙事業に参入を表明 ⑫小型の人工衛星を載せるロケットを開発し、2020年代に打ち上げる目標 ⑬月面での作業ロボットも検討 ⑭火星探査の中継地と想定される月面での居住空間作りにも参画 ⑮地球から月面での作業ができる遠隔操作の分身ロボットにも取り組む ⑯地球と月の間の通信には遅延が生じるので、アシモの技術などを活用してスムーズに動かす機能を採用 などが記載されている。他の惑星における住居や作業ロボットは面白く、⑪~⑯は、既に必要な技術を持つ企業が多いので、それらとベンチャー企業を作れば比較的容易にできると思う。しかし、下の図のような海底金属資源を採取する海底作業にも、深海の圧力に耐える強靭な海底作業ロボットと運搬手段が必要で通信の遅延は生じないため、可能な会社は造船会社とベンチャー企業を作って、必要な機械を作ったらどうかと思う。そして、この装置の需要も国内だけではないだろう。 *7-4より (図の説明:左図は*7-4の図1、中央は図5、右図は図6で、日本の南東約1,800km沖にある巨大平頂海山の南斜面に、多量のコバルトリッチクラストが存在することがわかった) *7-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/803028/ (西日本新聞 2021/9/19) 「狙い撃ち」された河野氏のカウンター「原発に頼った方がいいんでしょうか」 「ポスト菅」を決める自民党総裁選(29日投開票)は18日、日本記者クラブ主催の公開討論会で立候補4氏による論戦が本格化。主役を張ったのは、報道各社の世論調査などで「次の首相にふさわしい人」の首位を走る河野太郎行政改革担当相だった。脱原発をはじめ数々のとがった改革志向の持論に対し、他の3氏が質問を集中。河野氏は「守り」の回答を崩さず、時には逆質問して「攻め」に転じる柔軟さも見せた。 ●改革志向の持論に定められた照準 相手を指名して見解をただせる討論会第1部の見せ場は、エネルギー政策のやりとりだった。自民内では少数派である河野氏の脱原発に照準を定め、野田聖子幹事長代行が「総理になったら、速やかに過去の発言を実行してしまうのか」と切り込んだ。河野氏は表情を動かさず、「私が言っている脱原発は、耐用年数が来たものは速やかに廃炉になる。緩やかに原子力から離脱していくことになる、というだけだ」。返す刀で、「野田さんは将来も、原子力に頼っていった方がいいと思っているんでしょうか」と切り返した。手元に準備した資料にはほぼ目を落とさない。「再生可能エネルギーを増やすことができなかったのは、原子力発電に重きを置こうという力が働いていたからだ」「原子力発電のコストが見直されて、再生可能エネルギーの方が安いということが明確になった」。こう畳み掛けた河野氏は、「原子力産業は、あまり先が見通せない」と言い切ってみせた。第2部で、原発の「核のごみ」を埋める最終処分場の場所が決まっていない問題を問われた際は、「もう、現実的な処分方法をどうするのかをテーブルに載せて議論をした方がいい」と一歩踏み込んだ。今回の総裁選。河野氏は支持の裾野を広げたいがためか原発再稼働の容認を明言し、脱原発の姿勢は玉虫色となった。だが、使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」の見直しは掲げ続けており、自民政権の伝統的な原子力政策路線との違いが際立っている。岸田文雄前政調会長は、そのアキレス腱(けん)を突き「(核燃料サイクルの停止は)原発再稼働と両立できるのか」「核燃料サイクルを止めればプルトニウムが積み上がり、外交問題にも発展しかねない」と整合性に疑問を投げ掛けた。 ●「一対一」の討論、最多の5回指名 河野氏の持論の一つである「税金で支える方式への公的年金制度改革」もまた、俎上(そじょう)に載せられた。 高市早苗前総務相は「基礎年金を税金で、となるとかなりの増税になる。年金制度の仕組みそのものに、大きなひずみが出てしまう」、岸田氏も「(消費税は)何%上がるのか」などと追及。これに対し、河野氏は「どれぐらいの年金を、どういう人を対象に支払うかによって税金の必要な額が違ってくる」と慎重な言い回しで言質を取らせない一方、「高齢者でも所得1億円の方に最低保障年金を出す必要はない」とアピールも忘れなかった。この日、候補者同士の「一対一」のやりとりは計12回あり、うち最多の5回で河野氏が質問相手に指名された。力をそいでおくべき標的に位置付けられたことは、自民の同僚議員間における人気は別として、国民的な知名度では頭一つ抜けている現実を裏付けた。 *7-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15048847.html (朝日新聞 2021年9月20日) 放射性廃棄物、海外委託も 国内処分の方針、転換 低レベルの原発主要機器 経産省 原発の放射性廃棄物は国内ですべて処分するという原則に関わる規制が、変わろうとしている。廃炉が相次ぐなか、低レベル廃棄物である一部の大型機器について、処分を海外業者に委託できるように輸出規制を緩和する。新たなエネルギー基本計画の改定案に方針が盛り込まれた。経済産業省が見直し案を検討するが、実施に向けては不透明な部分もある。海外での処分を検討しているのは「蒸気発生器」と「給水加熱器」、「核燃料の輸送・貯蔵用キャスク」の3種類の大型機器だ。いずれも原発の重要機器で、主なものだと長さは5~20メートル前後、重さは100~300トン前後もある。使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)ほど放射能レベルは高くはないが、低レベルの廃棄物として埋設処分などが必要だ。エネルギー基本計画の改定案に「有用資源として安全に再利用されるなどの一定の基準を満たす場合に限り例外的に輸出することが可能となるよう、必要な輸出規制の見直しを進める」と明記された。改定案には、今月3日から10月4日まで意見を公募している。国内ではこれまで原発24基の廃炉が決まり、2020年代半ば以降に原子炉の解体などが本格化する。国内に専用の処理施設がなく、発電所の敷地内で保管したままだと作業スペースが圧迫され、廃炉の妨げになると経産省は説明する。米国やスウェーデンでは放射性廃棄物を国外から受け入れ、除染や溶融をしたうえで、金属素材などとして再利用するビジネスが確立しているという。国際条約では、放射性廃棄物は発生国での処分が原則だ。相手国の同意があれば例外的に輸出できるが、日本は外国為替及び外国貿易法(外為法)の通達で禁じている。経産省は大手電力会社の要望などをもとに、専門家らを交えて検討してきた。国内処分を基本としつつ、対象を3種類の大型機器に絞り、再利用されることなどを条件に例外的に輸出を認める方向だ。法改正をしなくても通達の見直しなどで対応できるという。原発敷地内で保管している大型機器も対象になるとしており、稼働中の原発の廃棄物が輸出される可能性もある。電力会社から海外業者への支払額ははっきりしておらず、コストがふくらむ恐れもある。安全な輸送方法など課題は多い。規制が緩和されても、実施まで時間がかかりそうだ。低レベルの廃棄物は電力会社が責任を持って処分することになっている。原発の稼働や廃炉にともなって増えているが、処分先が決まらないことが大きな問題だ。たまり続ける廃棄物への地元住民らの不安感もあり、海外での処分に期待する見方もある。ただ、国内処分の原則を揺るがしかねないだけに、国や電力会社には十分な説明が求められる。 *7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210920&ng=DGKKZO75906870Z10C21A9NN1000 (日経新聞 2021.9.20) 個人に給付金検討 一律の現金支給は否定 自民党総裁選の各候補は新型コロナウイルスの感染が再び拡大局面に入った場合の対策として、人流抑制を引き続き視野に入れる。個人への給付金を検討する考えを示し、一律の現金支給は否定する。規模や範囲、時期などが焦点になる。河野太郎規制改革相は19日のNHK番組で「次の緊急事態宣言に備えて給付金を一律ではなく、必要性や規模に応じて出せるようにする」と述べた。岸田文雄氏はかねて「非正規労働者や女性、困っている方々には直接給付金を用意しないといけない」と言明する。高市早苗氏は「本当にお困りの低所得者に手厚くする」と語る。野田聖子幹事長代行はクーポンでの配布を主張する。2020年4月に決めた経済対策で1人あたり一律10万円が特別定額給付金として支給された。所得が一定水準を下回った世帯に30万円を配る内容だったのを公平性や支給スピードを重視して転換した経緯がある。河野、高市両氏は緊急事態宣言よりも飲食店の営業制限などへの強制力が強い「ロックダウン(都市封鎖)」に向けた法整備の必要性に言及している。経済的な影響もより大きくなり、個人へのさらなる生活支援の議論が必要になる。 *7-4:http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20160209_2/ (国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立大学法人高知大学 2016年2月9日)5,500mを超える大水深に広がるコバルトリッチクラストを確認~コバルトリッチクラストの成因解明に大きな前進~ 1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)は、国立大学法人高知大学(学長 脇口 宏、以下「高知大学」)と共同で、戦略的イノベーション創造プログラム(※1以下「SIP」)の課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」における「海洋資源の成因に関する科学的研究」(研究代表者:鈴木 勝彦、JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニットリーダー)の一環として、日本の南東約1,800km沖に存在する巨大平頂海山 拓洋第5海山(図1左図)の南斜面において、無人探査機「かいこうMk-IV」(図2)を用いたコバルトリッチクラストの調査を実施しました(※2)。コバルトリッチクラストは、コバルト、ニッケル、白金などのレアメタルやレアアースの資源として期待されている海底の岩石です。今回の調査により、世界で初めて5,500mを超える大水深の海山の斜面においてコバルトリッチクラストの存在を確認し、研究用試料の採取に成功しました。今後、採取したコバルトリッチクラスト試料を詳細に分析・解析することによって、日本周辺におけるコバルトリッチクラストの成因解明に関する研究を進め、海洋資源調査技術の開発につなげていく予定です。 2.研究の背景・目的 形成後時間が経過した古い海山の斜面には、海山を形成する玄武岩や水深の浅い石灰岩等の基盤岩を覆うように鉄・マンガン酸化物を主体とした数mmから10cmあまりの厚さのコバルトリッチクラストが広く分布しており、コバルト、ニッケル、白金などのレアメタルやレアアース等を含む海底金属資源として注目されています(※3)。SIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の「海洋資源の成因に関する科学的研究」課題においても、コバルトリッチクラストが対象となっており、科学的な研究を基にその調査技術の研究開発を進めています。過去にもJAMSTECの船舶・無人探査機を用いた拓洋第5海山の調査が行われており、水深3,000mより浅い海域において、系統的、かつ、連続的なコバルトリッチクラストのサンプリングや厚み計測などの調査が行われてきました。平成21年に海洋調査船「なつしま」航海(NT09-02 leg2、首席研究者:浦辺 徹郎、国立大学法人東京大学教授(当時))において、無人探査機「ハイパードルフィン」を用いて最初のコバルトリッチクラストの現場産状観察と系統的な試料採取が水深1,200mから3,000mまでの連続的な水深で実施されました(図1右図青線)。平成27年には、深海調査研究船「かいれい」航海(KR15-E01、首席研究者:飯島 耕一、JAMSTEC海底資源研究開発センター調査研究推進グループ技術主任)において「かいこうMk-IV」が拓洋第5海山の南方尾根にて潜航し、水深3,491mから3,360mの調査によってコバルトリッチクラストの産状観察と試料採取を行いました(図1右図青点)。JAMSTECにおけるこれまでのコバルトリッチクラストの研究で、採取された試料などから、同位体を用いた年代測定によって、コバルトリッチクラストの成長速度が数mm/百万年であることを明らかにするとともに(Usui et al., 2007; Goto et al., 2014)、モリブデン,タングステン、テルルなどのレアメタルがコバルトリッチクラストに濃集するメカニズムを解明し(Kashiwabara et al., 2011; 2013; 2014)、さらにコバルトリッチクラストの遺伝子解析(Nitahara et al., 2011)などを行って、多様な微生物が生息していることを明らかにしてきました。本調査では、コバルトリッチクラストの成因研究をさらに進めるため、無人探査機「かいこうMk-IV」を用いて、これまでの調査で成し得なかった拓洋第5海山の5,500m以深のコバルトリッチクラストの産状観察や試料採取を行って、拓洋第5海山のような巨大海山の大水深部にコバルトリッチクラストが広がっているかどうかを明らかにすることを計画しました。さらに、コバルトリッチクラストの現場環境と生成メカニズムの理解に向けて、電磁流速計、微生物現場培養・化学吸着実験装置の設置を計画しました。 3.成果 本調査では、無人探査機「かいこうMk-IV」を用いて、世界で初めて拓洋第5海山南方尾根の水深5,500mに広がるコバルトリッチクラストの現場観察に成功し、研究用のコバルトリッチクラスト試料を採取しました。これまでは、詳細なコバルトリッチクラストの調査のために、拓洋第5海山にて水深3,500mまでの現場観察と試料採取が連続的に行われていましたが、そこから2,000mも水深方向に延伸するものです。さらに、水深1,150m、3,000m、5,500mという異なる3つの水深での電磁流速計の設置、現場培養・化学吸着装置を設置しました。これによって、コバルトリッチクラストが形成される環境での有用なメタルを効率的に集めるメカニズムを観察し、さらには、コバルトリッチクラストの成長や有用メタル濃集に関わる微生物の観察が可能になり、コバルトリッチクラストの成因研究に大きな前進が期待されます。今回の調査で、南方尾根水深4,500m付近にコバルトリッチクラストが広がっていることを確認し(図3)、約2cmから約7cmの厚みのコバルトリッチクラストを採取しました(図4)。さらに南方へ進んだ5,500m付近では、崩れた崖が続く海底の所々に板状のクラストや庇状のクラストがあることを確認し(図5)、マニピュレータを使って幅30~40cm、厚さ約3cm~約8cmの板状の多数のクラスト試料を採取しました(図6)。これまで、大水深のコバルトリッチクラストのほとんどが船上からドレッジ(ケーブルで降ろしたバケツ状の採取器具を底引き網のように引っ張ること)によって試料が採取されているために、その試料は転石と呼ばれる現地性を確証できない試料でした。また、有人潜水調査船による火山岩の調査で同時にコバルトリッチクラストが採取された例はありますが、コバルトリッチクラストの調査を目的としていないため、散点的に発見されたものでその広がりは明確ではなく、試料採取も系統的なものではありませんでした。さらに、無人探査機を用いたコバルトリッチクラストの現場観察を系統的に行ったのは、拓洋第5海山の一連の調査のみで、水深も3,500mが最深でした。今回の調査により、拓洋第5海山の深さが5,500mを超える斜面にコバルトリッチクラストの広がりが確認され、さらに試料採取も行えたことから、コバルトリッチクラストの形成メカニズムを解明するための微生物学的・地球化学的機能の分析が行えるようになります。 4.今後の展望 採取したコバルトリッチクラスト試料の化学組成、同位体組成を分析し、水深によるレアメタル濃度(品位)の違いを調べます。そのデータと、海水の溶存酸素濃度や海水の元素組成とを比べることで、コバルトリッチクラストのレアメタル濃度を決めている要素を明らかにすることが期待されます。また、微生物の解析を行うことによって、コバルトリッチクラストに存在する微生物の種類等を把握します。現場培養装置と化学吸着装置は、いわゆる天然での実験装置であり、次年度に予定されている調査航海にて回収を行い、その分析・解析を行うことによって、深海におけるコバルトリッチクラストと海水との相互作用を把握し、コバルトリッチクラストに元素が濃集するメカニズムの全容を把握するとともに、微生物とコバルトリッチクラストの形成開始,成長との関わりを明らかにできることが期待されます。我々は拓洋第5海山をコバルトリッチクラストの成因研究を行うためのモデル地域と位置づけており、これまでの研究の蓄積と今回の成果、および、今後得られるデータにより、コバルトリッチクラストの成因の解明に迫ります。これを基にSIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」における「海洋資源の成因に関する科学的研究」の目的である高品位のコバルトリッチクラストの存在地域の予測と、調査手法の開発につなげます。これらの成果は、コバルトリッチクラストの鉱量評価にも貢献します。 ※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために平成26年度より5カ年の計画で新たに創設したプログラム。CSTIにより選定された11課題のうち、「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)はJAMSTECが管理法人を務めており、海洋資源の成因に関する科学的研究、海洋資源調査技術の開発、生態系の実態調査と長期監視技術の開発を実施し、民間企業へ技術移転する計画となっている。 ※2 深海調査研究船「かいれい」KR16-01 leg1航海(首席研究者:飯島 耕一、JAMSTEC海底資源研究開発センター調査研究推進グループ技術主任、調査期間:平成28年1月9日~1月30日) ※3 コバルトリッチクラストの経済価値 一般社団法人日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の見積もりでは、日本周辺のコバルトリッチクラストの経済価値は、回収率45%を仮定し、約100兆円とされている。現時点で商業的に採掘されている例は無く、深海から環境への影響を適切に評価しながら採鉱する技術を確立する必要がある。環境影響評価についてはSIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の「海洋生態系観測と変動予測手法の開発」課題(研究代表者:山本啓之、JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム生態系観測手法開発ユニットリーダー)において評価手法の国際標準確立を目指している。 *7-5:https://news.yahoo.co.jp/articles/314d36df22c554dc5246e96dffdbef0248786750 (Yahoo 2021/9/30) ホンダ、宇宙事業に参入 2020年代にロケットの打ち上げ目指す ホンダは30日、宇宙事業への参入を表明した。小型の人工衛星を載せるロケットを開発し、2020年代のうちに打ち上げることをめざす。国内の大手自動車メーカーが、打ち上げロケットを本格的に手がけるのは初めてという。月面で作業できるロボットなども、検討していく。ホンダはバイクや自動車、航空機など様々なものをつくってきた。宇宙事業は利益を出しにくいが、新領域に挑戦し、将来の成長の芽を育てたい考えだ。小形の人工衛星は、通信や地球観測などでの利用拡大が見込まれる。まずは高度100キロ程度の地球を周回しない「準軌道」に打ち上げ、距離を伸ばしていく方針だ。若手技術者を中心に19年末から開発をスタートした。エンジン開発で培った燃焼技術を応用する。火星探査の中継地として想定されている月面での居住空間づくりにも参画する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、生活に必要な水や酸素のシステム開発を進める。 ■月面開発に意欲 分身ロボットの実用化も 遠隔操作の「アバター(分身)ロボット」の実用化にも取り組む。月面開発が進む30年代以降に、地球にいながら月面での作業ができるようにする。アバターロボットは、VR(仮想現実)ゴーグルや手の動きを伝えるグローブをつけて操作する。開発中のものでは、コインをつまんだり、缶のプルタブをつかんだりできるようになったという。地球と月の間の通信は遅延が生じるため、人工知能(AI)を使って視線や手の動きなどから操作者の行動を予測し、スムーズに動かす機能を取り入れる。二足歩行ロボット「アシモ」の技術なども活用する。NTTデータ経営研究所によると、40年の世界の宇宙産業の市場は約120兆円で、20年の約40兆円から3倍になる見込みだ。小型衛星からのデータを、災害の予測や農業支援などへ活用することが期待される。民間の宇宙開発は広がっている。電気自動車メーカー、テスラを率いるイーロン・マスク氏の「スペースX」などが、大型ロケットを打ち上げている。国内では三菱重工業が大型の「H2A」を運用している。小型ロケットはコストが下がったこともあり、複数のベンチャー企業が事業化をねらう。ホンダは宇宙事業を大きく育てたい考えだが、競争は激しく開発費もかさむため、利益を出すのは簡単ではない。また、宇宙事業と並ぶ新領域として、4人乗りの垂直離着陸機「eVTOL(イーブイトール)」も開発する。試作機の実験を23年に北米で始め、30年以降の実用化をめざす。
| 男女平等::2019.3~ | 05:31 PM | comments (x) | trackback (x) |
|
2021,06,12, Saturday
2021.3.31Huffintonpost 2021.5.10日経新聞 2021.5.31東京新聞 (図の説明:左図のように、2021年のジェンダーギャップ指数は156ヶ国中120位で、政治・経済は3桁代、教育は辛うじて2桁代、医療も65位と新興国以下だった。また、中央の図のように、日本は、女性の就業率が上がってM字カーブの底は浅くなったが、出産・育児後は労働法で護られない非正規労働者の割合が高くなるため、正規雇用率はL字カーブだ。そして、非正規労働者は専門職の公務員女性にも多いとのことである) (1)女性差別による人権侵害 差別によって不平等な条件を突きつけたり、人生の可能性を狭めさせたりすることは、そもそも人権侵害である。 1)ジェンダーギャップ指数が156か国中120位の理由と日本の現状 世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」の発表によれば、*1-1-1のように、日本は156か国中120位でG7では最下位、アジアの主要国よりも下位で、順位を下げる要因となったのは、経済分野117位、政治分野147位と経済・政治分野の順位の低さだそうだ。 経済分野は、男女間の賃金格差、管理職の男女差、専門職・技術職の男女比が、いずれも100位以下で、中でも管理職の男女差は139位と前年の131位から順位を下げた。日本政府は女性活躍促進を政策に掲げていたのだが、政治分野は世界のワースト10に入り、政治分野のジェンダー不平等は、多様な視点を欠いた政策に繋がっている。 私も、政治分野のジェンダー平等は、個人を尊重し、多様性の確保された社会を実現し、民主主義を発展させ、あらゆる分野で女性の地位を向上させるための必須条件だと思う。しかし、今なお日本社会に厳然と存在する女性に対する偏見・差別・不平等な取扱いによって起こる男性より高いハードルによって、男性より実力がある人でも選挙で公認されにくかったり、公認されて立候補しても当選しにくかったりすることは多いため、その不利を帳消しにするためクオータ制を法制化することは「逆差別」にはならないと考える。 このような中、*1-1-2のように、政治分野の女性参画拡大を目指すためとして男女共同参画推進法が改正され、女性議員の増加のため女性の立候補を妨げる要因であるセクハラ・マタハラ防止策を国や地方自治体に求める条文が新設されたそうだ。2018年に制定された男女共同参画推進法は、地方選挙や国政選挙の候補者数を「できる限り男女均等」にするよう各政党に促したが、努力義務だったため既得権のある男性候補者に阻まれて進まなかった。これにセクハラ、マタハラ防止の規定を入れたら政治分野の女性参画が進むかと言えば、もともとセクハラ・マタハラくらいは跳ね除けられる人しか議員になろうとは思わないため、影響は小さそうだ。 2)女性に多い非正規雇用 *1-1-3・*1-1-4のとおり、女性活躍の機運の高まりを背景に「M字カーブ」は解消が進んだが、子育て後に再就職するには非正規雇用が主な受け皿で、女性の正規雇用率は20代後半をピークに右肩下がりで減っていく「L字カーブ」が新たな課題として浮上している。 そして、内閣府の有識者懇談会が「①正社員に加えて短時間勤務の限定正社員等の選択肢を拡大し、出産後の継続就業率を高める必要がある」と指摘しているように、「②正規雇用以外の働き方が『仕事と育児を両立できる働き方』であり、本人の希望だ」と説明されることが多い。 しかし、「③都内の公立学校の図書館で司書として働く女性も非正規」「④自治体の非正規公務員の大半は女性」「⑤1年毎の採用で気持ちを安定させて働けない」「⑥全国の自治体で働く非正規公務員は約69.4万人で、9割を会計年度任用職員が占め、その3/4以上が女性」「⑦専門性があっても給与は手取りで月約16万円」「⑧契約更新で理由も分からず職場を去らざるを得なかった人もいた」「⑧声をあげにくい人が多く、問題が覆い隠されている」等の現状がある。 非正規雇用労働者が増えたのは、1997 年に男女雇用機会均等法が改正され、1999 年に施行された後であり、「女子差別撤廃条約(黒船)」批准のために国内法を整備するために1985 年に成立した旧均等法が「パート・女性のみ」「一般職・女性のみ」というようなコース別の募集・採用することを均等法違反ではないとしていたのを、改正法は違反としたからである。 つまり、旧均等法ではパートや一般職として女性のみを募集することが許されており、1997 年改正でそれをできなくしたため、「非正規雇用」という労働法で護られない労働者を作って年改正法をザル法化したのだ。そのため、もともと「非正規雇用」は女性に照準を当てており、このように、日本は女性差別を禁止する度にザル法化してきた経緯があるのだ。 なお、1997 年の主な改正点は、「募集・採用・配置・昇進等の雇用におけるすべての場面で直接差別を禁止」「積極的な差別是正措置に対する国の援助を規定」「セクシャルハラスメント防止のための事業主の配慮義務を規定」「均等法違反企業の企業名公表など一定の制裁措置を講じた」などであり、それまではこれらが堂々と行われていたのだ(https://core.ac.uk/download/pdf/229188692.pdf 参照)。 3)女性の自立を応援しなかった日本社会 *1-1-5のように、日本国憲法は「個人の尊重と幸福追求権を定める13条」「法の下の平等に基づき性差別を禁じる14条」「両性の本質的平等を保障する24条」を持っているが、それに反して、正規労働者を護るために、解雇しても支障の出ない労働契約になっている非正規労働者を容易に解雇する。そして、非正規労働者に女性をあてていることが多いため、日本は働く女性を応援せず犠牲にしている社会なのである。 つまり、「非正規労働」は合法的に差別される労働契約であるため、決して自ら好んで選ぶべきではないが、日本政府は出産後の継続就業率を高められる選択肢として推奨しているのだ。 なお、私自身は、差別される側の労働力になるつもりはなかったため、キャリアを積み男性と同じく働いた上で言うべきことは言い、「仕事は自分で選ぶ」「それができるためのキャリアを積む」「空気は読むのではなく作る」ということをやっているのだが、それについて「女のくせに生意気だ(←女性蔑視)」「性格が悪い(←女性差別)」「変わっている(←女性差別)」「夫婦仲は悪いに違いない(←憶測にすぎず、大きなお世話)」等と言われることがあり、要するに「活躍する女性が幸福な姿は見たくない」と思う差別意識の強い人がいるのだ。 4)女性差別によって享受させられた女性の不利益 東京都立高校の普通科一般入試は、*1-2-1のように、募集定員を男女に分けて設定しているため性別によって合格ラインが異なり、対象校の約8割で女子の合格ラインが最終的に高かったそうだ。都立高は全国の都道府県立高校で唯一男女別定員があるためこのようなことが起こるが、埼玉県の場合は男女別定員ではなく受験できる公立高校自体が男女で異なるため、どちらも憲法違反であり、ひどい。 また、合否を中学校が提出する内申点と筆記試験の合計で決めるのも、中学教諭の偏見や先入観が内申点に出やすく、教諭の判断基準は教諭の時代の常識であったとしても(それも疑わしいが)、生徒たちが活躍する時代や場所の常識であるとは限らず、公平・中立にもなりにくいため、私は、内申点を(参考に留めるのではなく)筆記試験と合計することに反対である。 このように、意図的な選抜を繰り返していると、より優秀な人、より努力する人を合格者にすることができないため、時間が経つにつれて選抜の誤謬が結果として現れる。そして、それが、日本の現在の状況を作っているのではないかと思う。 しかし、*1-2-2のように、マイケル・サンデルのように「①成功は努力の結果ではない」「②入学を手助けした親や教師、そもそもの才能や素質があるので本人の功績とは言い切れない」と言ったり、上野千鶴子氏のように「③自分が頑張ったから報われたと思えること自体、環境のおかげだ」として、能力や努力に問題提起する人もいる。 女性に関しては、米国は日本より男女にかかわらず能力を基準として公正に評価する傾向が強いため、日本ほどの女性差別はない。それでもマイノリティーが上昇して成功するには、成功を助ける力より成功を妨げる力の方が大きく、成功にはかなりの努力を要するため、①②は当たらないと思う。さらに、日本は、女性は強い意志と努力がなければ成功できないほど女性が成功するのを妨げる力の大きな環境であるため、環境と才能だけで成功できた女性はいないだろう。 5)結果として変な政策が決まる イ)少子化自体を問題とする政策の誤り 主要国の人口推移と人口 地域別世界人口 人口ピラミッドの形状 (図の説明:左図は、主要国の人口推移と現在の人口で、日本は1960年代後半に1億人を超えたのであり、ドイツは今でも8千万人代であるため、経済成長率には人口以外の要素が大きく関わっていることを示している。中央の図は、地域別世界人口の推移で、中国・インドが属するアジア地域で人口増加率が大きく、世界人口に占める割合も大きい。右図は、人口ピラミッドの形状で多産多死型から少産少死型に替わる時に釣鐘型からツボ型となり、多産多死型の間はピラミッド型をしているのだ) *1-3-1のように、日本では、男性が育児休業をとりやすくする改正育児・介護休業法が成立し、①男性は子の誕生後8週間まで最大4週間の育児休業を取れる ②業務を理由に育休取得に二の足を踏む男性も多いので労使の合意があれば育休中もスポットで就労可 ③休業の申し出は2週間前までに短縮 などが加わったそうだ。しかし、私は、男性がちょっと育児を手伝うには至れり尽くせりだと思った。 何故なら、②の業務が理由で育休取得が困難であるのは女性も同じであるため、出産後に(1)2)の女性の「M字カーブ」ができるのであり、「M字カーブ」の底が浅くなったとしても出産後の女性の就職は非正規雇用が多いため、女性の正規雇用率は20代後半をピークに「L字カーブ」になっているのである。そのため、女性の多くに「『出産しなければ正規雇用として得られた筈の報酬+社会保障』-『出産したため非正規雇用として得られる報酬+社会保障』」という出産・育児による生涯所得の損失があり、非正規になるため労働法による保護もなくなる上、莫大な子育て費用がかかるのである。 このような中、第一生命経済研究所の試算では「③出生率の低下は将来の労働力の減少等を通じて中長期の経済成長力を押し下げる」「④2030年代後半に日本は潜在成長率が0.2%程度のマイナスになる」としているが、③④については、女性・高齢者を含めた労働力を100%利用しているわけではなく、日本の成長率が低いのは成長分野に投資しないからなので、少子化のせいでないことは明らかだ。 ニッセイ基礎研究所の調査では、「⑤持ちたい子どもの数が減った理由で多かったのは、子育てへの経済的な不安」だそうだが、実際には経済的不安・仕事の安定に関する不安・子育てに対する不安・自己実現に対する不安がある。そのため、3・4歳児の教育や大学生向けの奨学金拡充で子育てや教育に対する親の過重負担を軽減するのも大切だが、女性が出産・子育てをしても仕事や研究で自己実現でき、経済的不利益を被らない社会にしなければ出生率は上がらない。 また、*1-3-2も、「⑥新型コロナの影響で、2020年の合計特殊出生率が1.34で5年連続の低下」「⑦2005年の1.26を底に緩やかに上昇し、2015年に1.45となったが、その後は低下基調」「⑧女性の年代別では20代以下の低下が目立ち、30~34歳で最も高く、40歳以上の出生率も少し上がったが、全体として20代以下の落ち込みを補えなかった」「⑨2021年の出生数は80万人割れの可能性が高い」などと出産競争を促す書きぶりだが、文明の進歩によって女性も高学歴化し、出産・子育てによる自己実現の犠牲を嫌って、晩婚化や生涯未婚化したのが最も大きな理由だと思う。 さらに、*1-3-3は、「⑪出生数が最少の84万人になったため、急減の流れを止めたい」「⑫このままだと将来の働き手が減少し、社会保障の担い手不足がさらに深刻になる」「⑬雇用情勢悪化による解雇や給料カットで経済的余裕を失ったカップルが多いことも出生数減少に響いた」「⑭政府は結婚や出産を後押しする観点での新たな支援に乗り出すべきではないか」「⑮出生数最多は第1次ベビーブームの1949年の269万人超で、2019年に90万人を割り込んで第1次ブームの1/3に落ち込んだ」「⑯近代以降、乳児死亡率が下がって子どもを多く産む動機が薄れた」「⑰文明の発展に連れて『多産多死』から『少産少死』へ変化する大きな流れに抗えない」「⑰出生数急減を何とか乗り越えたい」等と記載している。 しかし、現在は⑬の状態なのであり、特に非正規労働者に皺寄せが行っているので、⑫は、まず男女とも正規労働者として100%近い本物の雇用を達成し、本当に人手不足になって初めて移民などの外国人労働者の活用も含めて考えればよいと思う。何故なら、⑭は支援の内容にも依るが、景気対策のバラマキや支援でやっと生活できる人ばかりになると国が潰れるからである。 また、⑮については、このように出生数が1/3に落ち込み、学校や職場は増えているにもかかわらず、第1次ベビーブーム世代と同じく教育や仕事で不利な状況を与えて女性を活躍させず、競争を著しく減らしたことが、日本の働き手の質を落としたのだ。 さらに、⑯⑰は、多く産んでも大人になるまで育つ子が少かった不幸な時代から、殆ど全員が大人になるまで育つため少し産めばよい時代になっても、一般の人がその変化を認識して出産数を減らすという生物的行動をとるまでに1~2世代かかることを意味している。そのため、増えすぎる人口を調整するための出生率低下を超える出生率低下は止めるべきだが、⑰のように、「とにかく出生数急減を乗り越えよう」と呼びかけると、地球が人口を支え切れなくなるのだ。 つまり、日本は、食料・エネルギーを100%以上自給し、これから人口爆発するアフリカ諸国にも輸出できるようにしながら、100%近い本物の雇用を達成し、それでも人手不足があればいろいろと考えるべきである。そのため、教育は、重度障害者でもないのに働くことのできない大人を作らないようにすべきだ。 ロ)遅すぎる対応←「骨太の方針」から 政府は、*1-3-4のように、経済財政諮問会議で今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」原案を公表し、グリーン(脱炭素)、デジタル、地方創生、子育て支援の4分野に予算を重点配分する方針を明記したそうだ。 このうち、2025年度に国・地方の基礎的財政収支の黒字化をめざすとする財政再建目標は、現在は国の財政が現金主義であるため、目標を守ったとしても公正ではなく問題解決もしない。そのため、財政改革の1丁目1番地は、国・地方の財政(年間収支と資産・負債)を複式簿記で把握して発生主義で物を考えられるようにすることで、これをやられると困る人がいるのか、一向に進まないのが現状だ。そして、財政再建と言えば高齢者に対する社会保障費が無駄だから抑えるというのは、今でも社会保障は不十分であるため、高齢者いじめの歪んだ政策である。 また、脱炭素化に向けて、基金や優遇税制で企業の投資を後押しし、炭素を出さないEV・FCVの普及を進め、「再エネの主力電源化に最優先して最大限の導入を促す」としたのはよいが、もともとトップランナーだった日本のEV・FCV・再エネを、環境を軽視して主要国が軌道に乗せ終わるまで応援せず、ここまで遅れさせたのはまずい政策だった。 さらに、デジタル化については、マイナンバーカードの健康保険証や運転免許証との一体化等でカードの普及を加速させる意図があるとのことだが、①個人情報を商業目的で売ることに違和感を感じない ②個人情報もビッグデータなら流通させてかまわないと考える ③民間委託を繰り返すことによってデータ保護に責任を持たない体制を作る など、国民の福利を主にして物を考えない姿勢であるため、マイナンバーカードに多くの情報を連結させるのは危険である。 なお、子育ての良いインフラとなるべき幼保一体化は進まず、2006年10 月1日に施行された認定こども園は、未だ幼稚園と保育所が温存されているため3制度併存となっている。そのため、「子ども庁」を作っても、せっかく省庁再編で減らした省庁をまた増やして予算を増加させ、幼稚園・保育所はそのままにして役所のポストを増やすだけになりそうなので、期待薄だ。 最低賃金の引き上げについては、地域によって異なる物価水準や人によって異なる生産性に見合わなければ、賃金引き上げは改悪になってしまうため、全国加重平均を1000円以上にする必要はないと思う。 最後に、コロナ対策で失敗したのは厚労省はじめ政府であり、その無思慮・無能力を補うため、日本の国民は強制力なしでも自粛したのだ。そのため、「④感染症有事の体制強化で、法的措置を速やかに検討」「⑤緊急時対応のより強力な体制と司令塔を持つ」などというのは本末転倒であり、能力も資格もない所に強力な権限を与えて国民の私権を制限できるようにすれば、基本的人権の尊重や主権在民(民主主義)から外れ、日本国憲法違反になる。 ハ)遅すぎた再エネと地熱発電開発 2021.6.10日経新聞より (図の説明:1番左の図のように、日本は火山帯の上にある国なので、地熱資源が多い。また、左から2番目の図のように、2015年で日本企業が作る地熱発電設備は世界シェアの6割をしめ、日本企業が関わる海外プロジェクトも、右から2番目の図のように多い。それにもかかわらず、1番右の図のように、日本国内の発電量にしめる地熱のシェアが著しく小さいのは、無尽蔵に近い豊富な資源を使わずにいるということだ) 「世界でホットな地熱発電 出遅れ日本も『地殻変動』」とする*1-3-5の見出しは面白いが、発電の安定性に優れ、燃料費は無料で、資源量の豊富な地熱を使用した発電を、日本政府は世界で評価され機運が盛り上がって始めて2030年に発電所を倍増させる方針を掲げたのだから、これも無思慮・無能力の一例である。それどころか、天文学的高コストの原子力発電を安価だと強弁して優先してきたため、これによる財政の損失は著しく大きかった。 これは、地熱資源量で世界第3位の日本の発電量が2020年時点で55万kwに留まり、日本企業のタービンの世界シェアは6割強に達するという対照的な結果を産んでいる。つまり、「政府は、環境も考慮しながら、4の5の言わずに10ットとやれよ」と言いたいのである。 このような中、*1-3-6のように、全国知事会議によって「デジタル化を進める」「5G移動通信システムに対応する通信網を基礎的インフラとして全国に普及させる」「脱炭素社会の実現を再エネ豊富な地方への分散型国土創出のチャンスとする」などの提言がなされたのは注目に値する。 二)非科学的なコロナ対応 政府(特に厚労省とその専門家会議)は、検査・ワクチン・治療薬などのコロナ対応で失敗したことは言うまでもないが、限られたワクチン接種の優先順位でもおかしなことが続いた。そもそも、接種会場に行けないような寝たきりに近い高齢者にワクチンを接種するのは、ワクチン接種による健康リスクが高い上、そういう高齢者が新型コロナを他人に感染させるリスクは低いため、そういう人に接する人(介護士や家族)にワクチンを接種した方が効果的なのだ。 また、ワクチンが十分に供給された後も、*1-3-7のように、64歳以下の接種に優先順位をつけ、無駄に煩雑化して時間の浪費をしている。そのため、市区町村ごとに独自に優先対象枠を設定するのはよいが、なるべく多くの人に素早く接種することが感染を広げないためには最も重要なので、20~30代を優先するというのもおかしいのである。 さらに、五輪は「中止だ」「無観客だ」と騒いでいるメディアが多いが、免疫パスポートを持っている人と直近の陰性証明書を持っている人だけが入場できるようにすれば何の問題もないし、日本なのだから、客席の下に航空機レベルの強力な換気扇を設置しておけば、観客の中に少し陽性者が混ざっていたとしても感染リスクはかなり軽減されるのである。 にもかかわらず、「ワクチン接種が進めば、何となく政権に好感が持たれる」「10~11月にかけて、すべての接種を終える」などのボヤっとした政治的意見が出るのには呆れる。そのため、企業・学校などの職域接種をできるだけ早く始め、終わったところは一般の人にも開放した方がよいと思う。このような場合に、「五輪は特別か」「自治体毎に差が生じるではないか」「免疫パスポートの提示は差別に繋がる」などの悪平等を奨める議論をするのは筋が悪すぎる。 (2)年齢差別による人権侵害 *2-3(図表1) *2-3(図表2) *2-3(図表3) (図の説明:左図のように、65歳の健康余命は、男14.43年・女16.71年であり、75歳でも男7.96年・女9.24年である。また、中央の図のように、平均余命も健康余命も、男女とも伸びている。さらに、右図のように、健康上の理由で日常生活に影響のある人は、85歳未満では50%以下で、85歳くらいから増え始めている) 1)“高齢者”に定年は必要か “高齢”になった時、頭脳や身体の機能がどのくらい衰えるかは、生物年齢によって一律に決まるのではなく、個人差が大きい。そのため、一定年齢になると全員を退職させる「定年」というシステムは、余剰人員があって若い世代の出番がなかなか回ってこないような企業には便利かもしれないが、人材不足の企業にはむしろ不都合なのである。また、年齢を理由に解雇される被用者にとっては、これまでより悪い条件の職場に移動して勤務しなければならず、年齢による差別であると同時に人権侵害でもある。 さらに、65歳以下の従業員しかいない会社は高齢者のニーズを把握できず、ここでも多様性のなさが利益機会を逃す結果となっている。 そのため、健康状態に合わせて負荷を軽くしながら、健康で働ける限りは働いた方が経済的にも健康維持にもプラスであり、同じ生活を続けられた方が被用者にとって精神的負荷が少い。 イ)定年の廃止 現在の一般的定年年齢である65歳は、*2-3のように、仕事、家事、学業などが制限されない健康余命が男性14.43年、女性16.71年(80歳前後まで)残っており、75歳でも男性7.96年、女性9.24年残っているそうだ。 そのため、*2-1-1ように、YKKが正社員の定年を廃止して、本人が希望すれば何歳までも正社員として働けるようにし、生涯現役時代に備え始めたのは妥当である。しかし、これらがうまく機能するためには、役割に応じて給与が決まる役割給(≒能力給・成果給)を採用し、同じ能力・成果なら年齢に関係なく同じ給与になる仕組みが必要だ。そして、「年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりするのは公正でない」というのは正しい。 三菱ケミカルは2022年4月に現在60歳の定年を65歳に引き上げ、将来は定年廃止も検討しているそうだが、給与制度は能力・経験に基づく職能給と、仕事の成果・役割に基づく職務給で構成していたのを、2021年4月から職務給に一本化したそうだ。 三谷産業の場合は、2021年4月から再雇用の年齢上限をなくして65歳以上は1年ごとの更新制としたそうだが、これは年齢だけを理由に雇用条件を変えており、公正とは言えない。 ロ)70歳定年制 ダイキン工業は、*2-1-1のように、希望者全員が70歳まで働き続けられる制度を始め、少子高齢化で人手不足が続く中、企業がシニアの意欲と生産性を高める人事制度の整備に本格的に乗り出したそうだ。しかし、これまで定年が60歳で65歳まで希望者を再雇用していたのは、やはり年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりしており、公正ではなかった。 各社が対応を急ぐ背景には、年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、所得の空白期間をなくすため、2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法があり、従来、企業は従業員が希望する限り65歳まで雇用を継続する義務があったが、法改正で70歳まで就業機会確保の努力義務が課されたからだそうだ。 大半の企業は再雇用期間の単純延長などで対応し、多くは現役時代に比べて2~5割程度給与が下がってシニアのやる気と生産性の低下が課題になっているため、定年を廃止する企業は成果に応じた賃金制度を導入したりして給与の減少を一定程度に留めるそうだ。私は、成果や能力に応じた賃金制度を導入した方が、年齢に関わらず誰にとっても公平でやる気が出ると思う。 世界では定年制は一般的でなく、米国・英国は年齢を理由とする解雇を禁止・制限しているが、日本は定年のない企業の方が2.7%に留まる。その理由は、正社員に対して年功序列型賃金体系を採用し解雇規制も厳しいため、定年を延長・廃止しただけでは生産性に見合わない人への人件費が増加するからだ。ただ、職務を十分に果たせない理由は年齢ではないため、公正な雇用環境とは、成果主義・能力主義による賃金体系にほかならない。 ちなみに、年功序列型賃金や解雇規制によって護られた正規雇用を維持するため、出産後の女性(もしくは多くの女性)に非正規雇用の職しかないのは、雇用の調整弁にされているからである。そのため、女性は、もともと、非正規雇用の職を押し付けられるよりは、(年功序列よりは厳しいかもしれないが)能力主義・成果主義賃金体系の中、正社員として企業間移動も容易である方がずっと公平・公正になるという環境下にあるのである。 ハ)中小企業の対応 *2-1-2のように、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務と定める改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたのを受けて、日本商工会議所が中小企業に対応を聞いたところ、必要な対応を講じているのは約3割に留まることがわかったそうだ。 新型コロナで企業の業績が悪化し、余剰人員が増えて人件費の負担増に繋がる施策の導入は難しそうだが、中小企業に熟練労働者は貴重であるため、もともと定年のない企業も多い。そのためか、必要な対応を講じている企業の具体策は、70歳までの継続雇用制度の導入(65.8%)、定年制の廃止(20.2%)と定年制の廃止も少くない。 2)高齢者医療←“公平”とは何か *2-3に書かれているとおり、平均寿命は0歳の人の平均余命で、64歳以下でなくなる人の死亡時年齢も加えた平均であるため、65歳まで生きた人の平均余命は平均寿命より長い。 そのため、平均寿命を目安にして老後生活のための資産形成をしたのでは不十分な上、健康寿命を過ぎた後は医療・介護の世話になることになる。これは、若い世代が医療・介護保険料を支払っても殆ど医療・介護の世話にならないのと対照的だが、このサイクルはすべての人に起こるものである。 従って、人口構成が変わる国は、若い時代に支払った医療保険料・介護保険料を発生主義で積み立てておかなければ、国民が高齢になった時に医療・介護費を負担できず、まさに現在の日本のような状態になる。しかし、このライフ・サイクルは、今になって初めてわかったことではなく、保険制度を作った時からわかっていたことであるため、適切な対応をしなかった管理者に全責任がある。 そのような中、*2-2-1・*2-2-2は、「①高齢化に対応するため、全ての世代に公平で持続可能な医療保険制度の構築を急ぐべき」「②75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立」「③一定収入とは年収が単身で200万円・夫婦世帯で計320万円以上」「④後期高齢者医療費のうち自己負担分を除く約4割は現役世代の保険料で賄っている」「⑤政府はこの改正が現役世代の負担増を抑える一歩にすぎないことを認識し、さらなる改革を急ぐべき」「⑥厚労省は負担引き上げによる受診減で75歳以上の医療費が年約900億円減少するとみる」「⑦実際の負担は、高額療養費制度の活用で軽減を図れる」「⑧政府の説明は『受診行動の変化のみで健康への影響を分析するのは困難』と繰り返すだけ」「⑨健康診断受診率を高め、疾病を早期発見する環境整備も必要」「⑩今後は資産に着目した制度設計が不可欠なので、高齢者の収入・資産状況を把握するマイナンバーを使った改革を急ぐべき」などを記載している。 このうち、①については、ライフ・サイクルを考慮した時、i) 殆ど医療・介護のニーズがない若い世代が入る保険 と、ii) 医療・介護のニーズが高くなる定年後に入る保険 を分けたことが、保険の原理に反しており、不公平を作っているのだ。その不公平の一部を解消するため、④のように、自己負担分を除く約4割を現役世代の保険料で賄うという恣意的割合での補助を行っているのだが、若い時代に支払った保険で定年後も面倒を見るのが本来の保険の姿である。従って、現在の仕組みなら、若い世代だけが入っている医療保険は大きな黒字になっている筈だ。 また、②③の一定以上の所得を単身で200万円・夫婦世帯で計320万円以上と定めたのは、医療費が0の生活保護家庭と同レベルの所得でも、後期高齢者は医療費窓口負担2割としている点で不公平だ。何故なら、健康寿命を過ぎると、医療・介護を継続的に利用し続けなければならなくなるため、医療・介護費、水光熱費を除いた可処分所得が少なくとも食費・住居費・交際費を支払える程度に残らなければ、最低生活ができないからである。そのため、⑦は最低生活を保障できる金額でなければならないのである。 なお、⑥⑧は、科学的根拠はないが、とにかく高齢者は邪魔だと考える行政の言いそうなことだ。⑨に反対する人はいないと思うが、いくら健康診断をしても最後は誰しも健康寿命が尽きて亡くなるため、かかる医療費・介護費は変わらないと思う。違いは、それが早いか遅いかだけであろう。 ⑤⑩については、高齢者の資産はその人が働いて所得税を引かれた後の税引後所得から貯めたものであるため、ここに課税すれば二重課税になる。また、多くの資産を子孫に残す人は相続税で課税されるため公平性が保たれており、マイナンバーを使って高齢者の資産に手を突っ込もうなどと考えるから、政府に信用がなくなって、マイナンバーカードも普及しないのである。 なお、*2-2-3に、「⑪負担能力を判断する収入に、貯金などの金融資産を含める意見もあるが、稼働所得が少ない高齢者に負担増を求めるのは極力避けなければならない」と書かれているのは本当で、「⑫高齢化がピークに近づく2040年に向け、抜本的な社会保障制度改革は避けて通れない」というのは、私が上に書いた変更を行い、積立金の不足する分は、バラマキの無駄遣いをやめ、日本に豊富に存在する資源の開発を行ってその収益を充てたり、それこそ国債で賄ったりすべきなのである。 (3)外国人差別による人権侵害 1)日本の難民受け入れと「入管法改正案」 *3-1・*3-2のように、政府・与党は、「①現行の出入国管理法では、外国人が難民としての認定を日本政府に申請している間は強制送還できず」「②その結果、施設収容が長期化している」として、「③難民認定申請を2回までに制限して退去命令に従わない際の罰則を設け」「④繰り返し申請する人を送還可能にする規定を盛り込んだ」改正案を、入管施設に長期収容されていたスリランカ人女性が死亡したのをきっかけに、今国会での成立を断念した。しかし、筋の悪いこの改正案は廃案にすべきである。 何故なら、この改正案は、迫害から逃れてきて帰国できない事情のある人への配慮に欠け、国連難民高等弁務官事務所や国連人権部門から懸念を示されていたものであるため、国際水準に沿った入管法改正を行うことが必要なのだ。例えば、日本の2019年難民認定率は0.4%で、米国29.6%やドイツ25.9%より著しく少なく、外国人労働者は労働力の調整弁として受け入れてきた経緯があるため、人権を尊重した抜本的な制度改正が必要なのである。 さらに、出入国在留管理庁は、「退去回避や就労目的が相当数含まれていた」と主張するなど、(母国にいるため外国人より優位な立場にある筈の)日本人労働者の職を護るため外国人の就労を著しく厳しく制限しており、外国人は悪人であるかのような偏見を持って管理している。この行為は、祖国で迫害されて脱出し、日本で保護されるべき外国人を送還して危険にさらす恐れがあるため、人権侵害であるとともに、日本国憲法にも違反している。 しかし、紛争や差別、迫害から逃れてきた難民申請者には高学歴の人も多く、2つの祖国を持つ人は両方の文化を理解して懸け橋になったり、日本企業のグローバル展開に貢献できたりしやすい。さらに、従業員の出身国もまた、多様性があった方が、新しい製品やサービスを開発する機会が増えるので、外国人も排除するより認定基準を変えて活用した方が、双方にってプラスなのである。 2)自分が差別される側だったら、看過できないにもかかわらず・・ 日本で、「差別はいけない」と言って男性はじめ多くの人に賛成してもらうには、人種差別を例に出すのが最もピンとくるらしくて早いというのが、私の経験だ。 そのような中、*3-3は、「新型コロナが中国から世界に広がったことがきっかけで、米国でアジア系の人を標的にしたヘイトクライムが目立つようになり、日本人まで巻き込まれているので差別解消に向けて日本から声を上げるべきだ」という抗議をしているが、アジア出身の人への差別は、(3)1)のように、日本人も行っている。にもかかわらず、多くの米国民に中国人・韓国人・日本人が同じに見えて出自が中国でないアジア系移民まで襲撃対象にされていることを不満に思うのは自分勝手すぎる。 欧米人には、中国・韓国・日本の人は同じに見えるようで、私は台湾の人と米国人の家を訪問した時に「貴女たちは、お互いに言葉が通じるの?」と聞かれて、2人同時に「No!」と答えたことがある。その人は、標準語と関西弁くらいの違いだと思っていたらしい。 もちろん、外交・安全保障で近隣国に毅然として言うべきことは言わなければならないが、それとは別に、アジア人であれ、アフリカ人であれ、人を差別すべきではない。幸運が重なることによって、日本の経済力が長い歴史から見れば瞬間的により進んでいたからといって、日本に住む1人1人が、より優れているわけではないことを心すべきだ。 (4)雇用形態について 正規雇用と非正規雇用の社員間にある“不合理”な格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」のルールが、*4-1のように、2021年4月から中小企業にも適用されたそうだが、合理的な待遇差は認められている。しかし、①厚労省は、基本給では能力・経験、業績・成果、勤続年数に応じて支給する場合は同一の支給、違いがあればその違いに応じた支給を求め ②最高裁は、賞与と退職金などについて格差を認める判断を示し 何が合理的な待遇差の範囲かは曖昧だ。 しかし、①の能力・経験の違いについては、日本は年功序列(勤続年数による評価)の企業が多かったため、能力・経験、業績・成果などを公正かつ正確に評価して報酬に結び付ける文化がなく、合理的な待遇差か否かが客観的ではなく恣意的な説明になるのが問題なのである。 また、②は、企業が非正規雇用を使う目的から、「賞与・退職金・福利厚生に違いがあるのは当然だ」ということになる。また、非正規雇用は短期の雇用になりがちで、労働生産性を高める研修も受けにくく、これは職務を限定せずジョブローテーションを繰り返して専門性の高い人材を育てない正規雇用と相まって、日本の労働生産性を低くする原因となっている。 私も、欧米型の「ジョブ型」雇用の方が労働生産性を高めるとは思うが、ジョブ型雇用は、そのジョブで必要がなくなれば、正規か非正規かに拘らず配置転換ではなくクビにするものだ。そのため、日本のように、社員を正規と非正規に分ける必要はなく、正社員でも成果さえあがれば短時間勤務でもOKで、休職した後でも不利なく復職することができる反面、これらがうまく機能するためには、辞めた従業員の能力・経験を評価して労働者に不利益を与えることなく受け入れる企業の多い労働市場が必要なのである。 日本は、ジョブ型雇用、能力や実績を報酬と結び付けるための評価システム、辞めた従業員の能力や経験を評価して不利益なく受け入れる労働市場に乏しいため、*4-2のように、パート・派遣などの有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新され本人が希望すれば、無期雇用契約に切り替えられる「無期転換ルール」ができたわけだ。 しかし、無期契約は昇給制度を作る必要がなくても人件費が重荷になるため、対応にあたって、③契約更新の回数に上限を設けて5年を超えない運用にする ④無期転換した人材は、特定の仕事には力を発揮するが配置換えをすると能力不足を感じることが多い とする企業もある。 ③は、ザル法化で、④は、*4-3のように、正規雇用の労働者でも専門外の仕事に配置換えすればやる気も生産性も落ち、度重なる配置換えによって専門性も育たなくなるという悪影響がある。そのため、有期労働者の不安定な状況を改善するには、長期の雇用保障や年功賃金で正社員が手厚く保護され、コスト抑制策として非正規雇用が活用されている労働市場の構造を変える必要があるのだ。 そのためには、労働者を犠牲にするのではなく、転職しやすいジョブ型雇用の労働市場を作り、解雇規制の緩和とセットにする金銭補償は会社都合退職金を自己都合退職金の3倍にするなどを行う必要がある。この「会社都合退職金を自己都合退職金の3倍にする」というのは、事業縮小のために希望退職を募っていたオランダ銀行日本支店が行っていたことで、監査に伺っていた私は、その筋の通った徹底ぶりに感心した次第だ。 (5)不合理な政策が通る理由は何か 1)新型コロナワクチンについて 加藤官房長官は、*5-1-1のように、6月17日の閣議後会見で、①新型コロナワクチンの接種を公的に証明する「ワクチン証明書」の交付を市区町村が7月中下旬から始める ②まず書面で交付し、電子交付も見据えて検討を進める ③ワクチン接種の有無による国内での差別を防ぐため、同証明書は海外との往来を主な目的とする という方針を明らかにした。 しかし、①②は、接種券に「新型コロナワクチン予防接種済証」が付いており、接種時にワクチンの種類・接種日・接種場所が記録されるため、ワクチン接種後はすぐに書面による交付ができている。そのため、電子証明は、接種済証を所定の場所に持っていけばできるようにすればよいのである。また、③は、「糖尿病や肥満の人に食事制限するのは差別にあたるので、家族全員が食事制限すべきだ」と言うのと同じくらい不合理で馬鹿げている。 そのため、ワクチン接種済証か直近の陰性証明書の提示を条件にすれば、*5-1-2のような入場者制限・飲食店の時短・酒類の提供制限も不要であり、恩着せがましく少しずつ緩和していただく必要はない。にもかかわらず、「五輪は、中止か、無観客で」などと言っていた新型コロナ対策分科会の“専門家”が、五輪の開催方法については「人の流れを止める」以外の助言もできず、役割を果たしていない。これは、「“専門家”の選び方が悪い」というほかないのである。 さらに、*5-1-3のように、ファイザー製ワクチンの接種対象が12~15歳に広がっているのを受け、小児科学会等が、「③(かかりつけ医による)個別接種が望ましい」「④感染予防策としてワクチン接種は意義があるが、副反応の説明や接種前後の健康観察を入念にするように求める」「⑤基礎疾患がある子どもは、健康状態をよく把握している主治医との相談が望ましい」という見解を発表したそうだ。 しかし、④⑤については同意するものの、③については、健康な子どもは学校で集団接種して問題ないだろう(私たちの世代は普通に集団接種していたが、近年はしないのか?)。それより、日本の場合は、体重に比例してワクチン接種量を加減しないため、体重45kgの痩せた女性が体重90kgの米国人男性と同じ分量のワクチンを接種すれば副反応が強く出るのは当たり前だ。まして、体重30kgの子どもなら分量は1/3程度でよい筈だが、それこそ日本の“専門家”は何も調べておらず、意思決定権者もそれを求めていない点で、勉強不足である。 なお、東京五輪・パラリンピックに合わせて来日する外国メディアの行動を、*5-1-4ように、スマートフォンのGPSを使って管理する方針は、確かに、⑥ジャーナリストのプライバシー権を完全に無視しており ⑦報道の自由を制限するもの であるため、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が強く反発するのは当然で、このような規制をしようと思つくこと自体が恥である。安全を維持するためなら、ジャーナリストはじめ関係者の入国時に免疫パスポートの提示を義務付ければよく、性犯罪者ででもあるかのようにGPSで追いかける必要はない。 最後に、五輪で入場者数の制限・飲食店の時短・酒類の提供制限等をして世界のお祭りに水をかけたりせず、来られた方を「おもてなし」できるためには、*5-1-5の職域接種を五輪までに関係者全員(の希望者)に完了するための経済界の活躍が期待される。新型コロナで損害が大きく、世界標準も知っている航空会社が前倒しでワクチン接種を始めたのは尤もだが、ほかにも政府が職域接種の目安とする従業員千人に満たない中小企業が素早くワクチンを接種できる工夫はあった。そのため、顧客企業が素早く立ち直ることこそが貸付金の返済に繋がる都市銀行・地方銀行・信用金庫等も、顧客企業の従業員や家族まで対象にしたワクチンの集団接種を行い、地域の安全・安心を作り出すのがよいと思う。 2)社会保障について 一定所得(単身:200万円以上、複数世帯:320万円以上)以上の75歳以上の後期高齢者医療費窓口負担を、1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、*5-2-1のように、自民・公明両党などの賛成多数で成立した。田村厚労大臣は、その目的を「①若い人の負担の伸びを抑える目的だ」と述べられ、持続可能な医療保険制度に向けて税制(消費税)も含めた総合的な議論に着手することも明記しているそうだ。ちなみに、現役並所得(単身:年収383万円、複数世帯:520万円以上)とされる人は、雇用の不安定さにかかわらず現在も3割負担である。 これについては、厚労省の杜撰な資金管理を改善することもなく、国民の負担増・給付減ばかりを決めており、日本国憲法25条の「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に違反している(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)。そして、これは人口構成とは関係のない問題だ。 さらに、全世代型社会保障はよいし、若い世代も介護保険制度に加入して負担すると同時に給付も受けられるようにすべきだと思うが、保険制度はリスクの高い人と低い人が混ざっていて初めて成立するものなので、高齢者を労働していた現役時代とは別の保険制度に入れ、「②財源は窓口負担を除いて5割を公費で負担し、残り4割は現役世代からの支援金、1割を高齢者の保険料で賄う」「③75歳以上の人口が増えて医療費が膨らめば現役世代の負担も重くなる」などと言うのは恩着せがましいし、これまで制度の基盤を固めてきた人に対して恩知らずで失礼でもある。 なお、*5-2-2のように、「④高齢者の中には、所得が少なくても金融資産を多く持っている人もいるので、資産も合わせて判断するようにすべきだ」などと、課税済所得から蓄積した金融資産まで考慮して給付を減らすべきだという不公正な理論を展開している人もおり、「高齢者は日本国憲法で護るべき国民のうちに入らないから、理屈はともかく犠牲を払ってもらいたいし、資産だけはもらいたい」という考えが丸見えで、どういう教育をするとこういう利己的な考え方をする人間ができるのか、親の顔を見て苦情を言いたいくらいである。 3)まとめ 私は、東大医学部保健学科卒なので、医療システム・疫学・地球環境・公衆衛生学・母子保健・栄養学・解剖学・人体の健康維持システム・精神衛生・成人病等について大学で習った。しかし、仕事のために公認会計士資格(経済学・経営学・会計学・原価計算・財務諸表論・商法・監査論等が必須だった)をとり、監査で外資系の薬剤会社・医療機器メーカー・銀行・保険会社などを担当し、税理士としては税務申告や金融商品にまつわる税務コンサルティングを行った。そして、国会議員時代は、社会調査を兼ねて佐賀県の地元を1件1件挨拶廻りしながら話を聞き、地方の課題を洗い出して解決法を考えた。 その結果として得た総合力でこのブログを書いているのだが、その目で日本で専門家として意見を述べている人たち(殆ど男性)を見ると、専門の範囲が狭く、丸暗記型で、他分野のことに疎く、小さな範囲の部分最適しか述べていない。それにもかかわらず、女性が意見を言うと、「非科学的」「感情論」等の女性に対する偏見に満ちた理解をするため、始末が悪いのだ。 そのような中、(5)1)の新型コロナについては、下の指摘ができる。 ①中国は当初から「無症状者にも感染力のある人がいる」と指摘していたため、厚労省は クラスターだけを追いかけて武漢ウイルスと呼ぶのではなく、万難を排してPCR検査を 徹底し、蔓延を防止すべきだったのに、それをしなかった。 ②検疫もいい加減だったため、島国であるにもかかわらず水際で止められなかった。 ③医療システムに感染症対応が抜けており、治療すらまともにできないという、日本では 考えられない事態を起こして、日本医療の評価を著しく下げた。 ④政府が治療薬やワクチンの開発・承認を遅らせたため、膨大な金額の支援金で国費を 無駄遣いしたのみならず、新薬や新ワクチンで得られる筈の利益機会も逸した。 ⑤ロックダウンやまん延防止措置など、中学校の校則のように杓子定規な規制を一斉に かけ、それを乱発して、国民の私権を制限した。そして、行政は、これを「断固とした 対応」などと言っている点で質が悪い。 ⑥さらに、日本国憲法に「緊急事態宣言を入れ、大っぴらに国民の私権を制限できるよう にせよ」と言っているのは、憲法改悪の第一である。 また、(5)2)の社会保障については、下の指摘ができる。 ①「社会保障が高齢者に手厚すぎる」などと呪文のように唱え、高齢者への負担増・ 給付減をやり続けて生活を脅かしているのは、家計の分析すらできない人のする ことで、憲法25条違反である。 ②介護保険制度を軽視し続けているのは、自らは家事や介護にあたらないと思って いる男性が大多数の政治だからである。 ③人口減自体を問題視する愚かな論調が多いのも、「子育ては女性の仕事」と信じ、 自らは家計すら考えたことのない男性が大多数の政治だからであろう。 ④「課税済所得から蓄積した金融資産まで考慮して給付を減らすべきだ」などという 理論を展開している人が少くないのは、二重課税の弊害もわからずに政策提言を しているからであり、不公正を招いている。 しかし、国民にも責任はある。何故なら、主権在民の国である日本で議員や首長を選んでいるのは国民だからで、メディアが変な論調を続けてもまともな批判ができず、それに引きずられた意見形成をしているのも国民だからである。 (6)教育と人材 2019.8.1福井新聞 2019.8.1西日本新聞 2020.4.25毎日新聞 Resemom (図の説明:1番左の図のように、小学6年生と中学3年生の全国学力テストは、福井・秋田など北陸・東北の平均が高く、東高西低になっている。また、左から2番目の図のように、九州7県は全国平均以下の地域が殆どで、公立は私立より低いため、何故こうなるかの原因分析が必要だ。また、右から2番目の図のように、教育用PCの普及は2人に1台《これでも自由には使えない》の佐賀県が最も多く、1番右の図のように、電子黒板整備率は佐賀県が突出して高いが、これには、ふるさと納税制度も利用した県を挙げての努力が見える) 先端技術の開発や生産、サービスの提供など、どんな仕事をするにも教育を受けた質の高い人材が行えば、質の高い仕事ができる。ここでいう“質の高い”にはいろいろな要素があり、知識・思考力・体力だけでなく倫理観・勤勉・真面目などの性格を備えていることが必要だが、話を複雑化させないため、以下では、知識と思考力に絞って記述する。 イ)大学入試について 国立大学協会入試委員会が、これまでの「国語」「地歴・公民」「数学」「理科」「外国語」の5教科7科目に「情報」を上乗せして、*6-1-1のように、2025年の大学入学共通テストから、国立大学の受験生に原則として「6教科8科目」を課す案を検討しているそうだ。 プログラミング等を学ぶ情報Ⅰもデータサイエンスによる分析を学ぶ情報Ⅱも大切ではあろうが、私たちの世代は、理系の人でも、プログラミングは大学の教養で、データサイエンスは大学の専門や大学院で学んだため、大学入試で必須科目として高校までの履修を不可欠にするのなら、義務教育を3~18歳にしてゆとりを持って学べるようにしなければ消化不良になりそうだ。それでも、分析するには影響しそうなファクターをあらかじめ予想しなければならないため、知識と経験が必要であり、学校での限られた経験しか持たない生徒には難しそうだ。 また、「義務教育終了段階での高い理数能力を、文系・理系を問わず大学入学以降も伸ばしていく」ことも重要だが、それには、高校では文系も数Ⅲを履修しておく必要がある。何故なら、大学で学ぶ経済学やデータ解析には、個の行動を統計的に集計して全体の行動にする過程があり、それには数Ⅲの微分・積分の理解が必要だからである。 なお、情報を教える態勢は地域によって差があって、教員の確保が急務となっており、文科省の調査では、情報担当教員の2割が「情報免許状保有教員」ではない「免許外教科担任」や「臨時免許状」を持つ教員で、今のままでは新指導要領の内容をきちんと教えることができない学校が出るそうだ。ただし、教育用PCの普及は、むしろ地方の方が進んでおり、電子黒板整備率は佐賀県が突出して高い。さらに、私立と公立のPC整備率を比較すると私立の方が高いので、公立も頑張ってPCを整備し、教えられる人材を教員に採用しなければ教育格差は広がるだろう。 ロ)全国学力テストについて 2019年4月に行われた全国学力テストの結果は、*6-1-3のように、福井県は「①中3は、英語で東京都等と並んで1位、数学も1位、国語は2位」「②小6は、国語2位、算数4位」「③小中とも調査開始以来12年連続で全国トップクラスを維持」「④県教委は授業や家庭学習に熱心に取り組む子どもと教員らの努力の成果と評価」「⑤目的や意図に応じて自分の考えを明確に書いたり、複数の資料から必要な情報を読み取って判断したりするのが苦手な傾向は変わらなかった」「⑥文科省は、学力の底上げ傾向は続いていると指摘した」とのことである。 ①②③は立派な成績で、まさに④のとおりだろう。⑤は、日本人は大人も、自分の考えを明確に述べることを嫌ったり、分析が苦手だったりする人が多い上、TVもまともな意見を出し合って議論する設定の番組が少ないため、子どもも訓練される機会がないのだと思う。そのため、全体の底上げは重要で、⑥は正しい。 一方、全国学力テストについて、*6-1-2は、「⑥全国学力テストの結果をより重視する学校もある」「⑦過去問を解くなどの事前準備が常態化し、本来の調査目的から逸脱している状況もある」「⑧研究者は『学力の一部しか測れないにもかかわらず、現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている』と訴える」「⑨学校側が意識するのは県教育委員会が各公立小中に作成を求める学力向上プランで、全国学力テストの目標点を示した上で、課題の分析や授業の改善を促している」「⑩とにかく結果を優先せざるを得ない状況になっている」等と記載している。 私は、⑨は全体の底上げのために正しいと思う。そのため、⑥⑦⑧の弱点は改善すればよく、⑥⑦については、生徒が初めて受ける形式の試験で何を答えればよいのかわからなければテストする意味がないため、少しは過去問を解く練習も必要だ。また、⑧は、確かに英語・数学・国語しかテストしていないので学力の一部しか測っていないが、それなら科目数を増やせばよい。そのため、「現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている」というのは、責任のある人が責任を果たさず、言い訳しているように見える。現場以外に責任があるのなら、それもまた明確にして改善していくべきで、⑩については、結果が出なければやる意味はないと心得るべきだ。 なお、子どもの実力を正しく把握する上で、学校内や狭い地域内だけでなく、全国規模で比較し検討する意味は大きい。また、公立校のレベルが低ければ、親の資金力が子どもの学力を決め、貧困の連鎖が生まれる。その上、外国人労働者を差別したり、景気対策と称するバラマキをしたりしなければ日本人労働者の雇用を守れず、国際競争に勝てない大人を大量に作り出したりもする。そのため、学力テストを使って子どもの学力を伸ばそうとしていることは重要で、これは、世界でも日本だけではないことに留意すべきだ。 ハ)私立と公立の差 新型コロナの緊急事態宣言中、都立高校は、*6-2-1のように、校内の生徒数を3分の2以下に抑える分散登校を続け、登校しない生徒はオンラインを活用した自宅学習としているが、学校の通信環境や取り組みに差があって出欠確認だけの都立高もあり、生徒や保護者からは「学習が遅れていないか」と不安の声が漏れているそうで、当たり前である。 また、*6-2-2のように、IT・ネット分野専門のミック経済研究所が学校の無線LAN普及率を調査し、「①2015年5月の無線LAN平均普及率は、私立59.3%(中学56.3%・高校61.2%)・公立42.6%(中学40.2%・高校35.0%)だった」「教室数等単位では、私立17.8%・公立16.4%で、特に公立高等学校が2.6%と低い」と発表した。 PC・タブレットを使う時間が長いと、物事を理解したり覚えたりする時間はむしろ短くなり、深く思索することも少なくなるため、成績がよくなるとは限らない。しかし、辞書・参考書・筆記用具・電話と同じ文房具として使いこなせば、今までできなかったことができるし、今はそれをやるべき時代であろう。そのため、私は、教育に使うPC・タブレットは、ゲーム等の無駄な機能を搭載しない教育用の機種を1人1台支給して、通常の授業で使いこなすのがよいと思う。 使いこなし方は、①英語の練習として英語圏のニュースを見る ②地学や歴史に関する映像を見る ③理科の内容を動画で見る ④音楽で本物の演奏を視聴する ⑤美術で国内外の美術館・博物館をリモートで訪れる ⑥体育でダンス等の動画を見ながら練習する など、紙の教科書と担任だけでは不十分になりがちな内容を視聴したり、国内外の同学年の生徒とリモートでディスカッションしたりなど、さまざまに考えられる。そのため、これらに沿う動画を紙の教科書以外に副読本として作成する必要はあるが、一度作成すれば国内外の多くの生徒が使うことができるため、決して高価なものにはならないと思う。重要なのは、本物を見せることだ。 なお、最近、私は中国政府が国家の威信をかけて作ったという「三国志(完全版)、全5巻、日本語字幕付」のDVDを買って、まだ1巻の始めだけだが見た。すると、高校時代に漢文で習った内容が多く入っており、中国の有名な俳優が当時の服装で出ているため中国の歴史が目に見え、中国語の美しさにも触れることができた。これは、日本や欧米の歴史についても行っておけば、世界の人がその国の言葉を感じながら、その国の歴史や文化の由来を理解できると思う。 二)誤った教育をいつまで続けるのか 2021.6.22日経新聞 2021.5.24日経新聞 (図の説明:年代別の接種方針は、1番左の図のようになっている。大学は、左から2番目の図のように、2021年6月21日に集団接種を開始した。また、ワクチン接種の注意点は、右から2番目の図のようになっているが、「注意すべき人」の範囲を広く取りすぎており、誤解や差別を生む。さらに、ワクチンの副作用を、1番右の図のようにしており、大げさだ) 文科省は、*6-3-1のように、高校での「①集団接種を現時点では推奨しない」とする指針をまとめて全国の自治体に通知し、中高生は個別接種を基本とすることになった。その理由を、「②学校で集団接種をすれば、接種への同調圧力を生む恐れがある」「③副作用が出た場合に対応できる医療従事者の確保が困難」とし、「④集団接種する場合は、いじめ・差別を避ける配慮を要請する」「⑤接種を学校行事への参加条件としない」としている。 しかし、①は、子どもを個別に医者に連れて行かなければならない保護者の負担が大きい。また、③で言われている“副作用”のうち、「注射部位の痛み」などは副作用のうちに入らないし、その他も十分な栄養と睡眠をとって1日程度休めば治るものである。さらに、持病があってかかりつけ医のいる人は、かかりつけ医に相談するか、そこで接種すればよいし、②④については、「同調圧力をかけてはならない」「接種できない事情のある人を、いじめたり差別したりしてはならない」と、きちんと生徒に教えるのが学校の役目であり、そのためのよい機会でもあろう。 そして、⑤については、陰性証明書か免疫パスポートを学校行事への参加条件とするのは、教育を継続するために必要なことであり、全く差別には当たらない。 配慮が必要な持病については、*6-3-2のように、厚労省はワクチンを接種できない人に「⑥明らかな発熱」「⑦重い急性疾患」「⑧ワクチン成分に対するアナフィラキシーなどの重度の過敏症の経験」などを挙げているが、⑥⑦は当然だが治ってから接種すればよいし、⑧は、米疾病対策センターが、ポリエチレングリコールに重いアレルギー反応を起こした人への接種を推奨していないだけで、そのアナフィラキシーも接種100万回あたり13件が確認されているのみだ。そのため、根拠もなくワクチンにアナフィラキシーを起こしているのは厚労省の方である。 なお、他に注意が必要な人として、「⑨過去に免疫不全の診断を受けた人」「⑩過去に痙攣を起こした人」「⑪心臓、腎臓、肝臓などに疾患がある人」などを挙げているが、⑨⑩は過去にそうでも現在そうでなければ問題ないし、⑪も疾患の重症度によって異なるため、「注意が必要な人」として指定することでむしろ科学的根拠に基づかない差別を生んでおり、国民のワクチンへのアナフィラキシーを増加させてもいる。そのため、国民に無駄な心配をさせぬよう、(あるのなら)科学的根拠となるデータを速やかに開示すべきだ。 大学の方は、*6-3-3のように、慶応大学などの全国17大学が、ワクチン接種を職場接種として本格的に始め、今後、大学を拠点とした接種がさらに広がりそうとのことである。対面で授業を受けるにも、イベントを行うにも、帰省するにも必要なことなのだ。それにもかかわらず、「中高生には集団接種を推奨しない」というのは、おかしな話である。 ・・参考資料・・ <女性差別> *1-1-1:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210422.html (日本弁護士連合会会長 荒 中 2021年4月22日) 世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数に対する会長談話 2021年3月31日、世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)は、世界各国の男女平等の度合いを指数化した「ジェンダーギャップ指数」を発表した。日本は前回よりも1つ順位を上げたものの156か国中120位と過去2番目に低い順位であり、主要7か国(G7)中最下位で、アジアの主要な国々よりも下位であった。ジェンダーギャップ指数は、女性の地位を、経済、政治、教育、健康の4分野で分析し、ランク付けをしている。例年、経済分野と政治分野が日本の全体順位を下げる要因となっているが、今回、経済分野は117位、政治分野は147位となり、前回から更に順位を下げた。経済分野は、男女間の賃金格差、管理職の男女差、専門職・技術職の男女比のスコアが、前回と同様、いずれも100位以下である。中でも管理職の男女差は139位と前年の131位から順位を下げた。日本政府は女性活躍促進を政策に掲げているが、経済分野でのジェンダー不平等は一向に解消されていない。そして、前回に引き続き、最も深刻な状況にあるのが政治分野である。前回、その前年から19も順位を下げて世界のワースト10に入ったが、今回は更に順位を3つ下げた。国会議員の男女比は140位、閣僚の男女比は126位と低位のままである。このような政治におけるジェンダー不平等は、ジェンダーの視点を欠いた政策につながり、いまだに社会的・経済的に弱者である女性にとって日々の生活に直結する悪影響を及ぼしている。例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大による混乱は、雇用環境の悪化、DV(ドメスティックバイオレンス)や児童虐待の増大、母子家庭の一層の貧困化、女性自殺者の急増などをもたらしたが、これらに対する適切な施策がなされず、むしろ、全国の小中学校に対する突然の臨時休校の要請により、事実上育児の大半を担う女性が就業困難な状況に陥ったり、特別給付金の受給権者が世帯主とされたことにより、DV被害者の受給が困難となったりした。また、国連女性差別撤廃委員会からの勧告や国民意識の変化にもかかわらず、選択的夫婦別姓制の導入は遅々として進まない。女性の政治参画は、あらゆる分野における女性の地位向上のための必須条件である。女性の政治参画なくして、個人が尊重され、多様性が確保された社会の実現や、日本の民主主義を発展させることは不可能であり、女性議員数、女性閣僚数を増加させることは喫緊の課題である。日本の現状は、もはや一刻の猶予も許される状況になく、クオータ制の法制化も含めた具体的取組は急務である。当連合会は、日本の置かれている状況を懸念し、ジェンダーギャップ指数に対し毎年談話を発表しているが、状況は依然として改善されない。2021年2月の公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長(当時)の発言と、同会長を擁護するかのごとき同組織委員会や公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)の対応は、今なお日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いを露呈した。日本社会の男女不平等状態は、国際的な信用さえ失墜させ得るレベルであり、社会の閉塞感にもつながっている。当連合会は、日本政府に対し、日本社会の現状を直視し、個人が性別にかかわらず閉塞感なく生き生きと暮らせる社会を実現するため、職場における男女格差を解消し、女性活躍を更に促進する施策を実施するとともに、女性の政治参画の推進を喫緊の重点課題と位置付け、より実効性ある具体的措置、施策を直ちに講じるよう強く要請する。 *1-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/689591 (佐賀新聞 2021.6.10) 女性の政治参画拡大、改正法成立 政治分野の女性参画拡大を目指す改正推進法は10日の衆院本会議で可決、成立した。女性議員の増加に向けて、セクハラやマタニティーハラスメント(マタハラ)の防止策を国や地方自治体に求める条文を新設。政党や衆参両院に加え、地方議会を新たに男女共同参画の推進主体として明記し、積極的な取り組みを求めた。2018年に制定された推進法は、地方選挙や国政選挙の候補者数を「できる限り男女均等」にするよう各政党に促している。改正法には、女性の立候補を妨げる要因とされるセクハラ、マタハラへの対応が盛り込まれた。国と自治体の責務として、問題発生を防ぐための研修実施や相談体制整備を新たに規定。防止策や問題の「適切な解決」に関し、自主的な取り組みを政党の努力義務として課す。基本原則にも1項を加え、地方議会を含めて推進主体を列挙した。議会を欠席する要件として妊娠や育児を例示し、国や自治体に両立支援の環境整備も求めた。制定当時の付帯決議を踏まえ、超党派で改正案をまとめた。 *1-1-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/107671?rct=life (東京新聞 2021年5月31日) 非正規公務員 新制度から1年 女性たち、苦境改善へ連携 「公共サービスの危機」懸念 DVや児童虐待の相談業務といった仕事の増加に伴い、増える自治体の非正規公務員。大半は女性で、非正規の地位を安定させようと昨年四月に導入された会計年度任用職員制度によって一層つらい立場に追いやられている。期末手当(ボーナス)の支給対象にはなったが、一年ごとの採用が厳格になったためだ。そうした中、苦境に立つ女性たちが、自ら現状を発信、改善を求めていこうと動き始めた。「気持ちを安定させて働きたいけれど、来年のことを考えると…」。都内の公立学校の図書館で非正規の司書として働く女性(44)は不安げだ。現在働く自治体に採用されたのは十二年前。契約を更新しながら、購入図書の選択や本の整理にとどまらず、子ども一人一人の個性や状況に配慮して接し、図書館が安心できる場になるよう心掛けてきた。若手の教員から授業のテーマに沿った本の相談をされることも。新型コロナウイルス禍の今は、本や館内の消毒が新たな仕事として加わった。図書館の使い方などの指導も、密を避けるため、子どもを少人数に分けて何度も繰り返す必要がある。総務省の二〇二〇年の調査によると、全国の自治体で働く非正規公務員は約六九・四万人。うち九割を会計年度任用職員が占め、さらにその四分の三以上が女性だ。期末手当の支給で、女性の年収は百九十万円から二百三十万円に増えた。一方で、更新はあるが、年度ごとの採用が基本となり、雇用の不安定さは増した。「教員と違う立場で子どもと接し、本を手渡すには経験の積み重ねや継続した関係が大事なのに」。専門性を生かせ、やりがいはあるが、給与は手取りで月約十六万円。「夫と共働きで何とか子育てできるが、司書仲間にはダブルワークをするひとり親もいる」と話す。年度ごとの契約で賃金は低く、昇格もない。三月下旬、当事者がSNSなどで参加を募って開いたオンラインの緊急集会「官製ワーキングプアの女性たち」では、さまざまな仕事に携わる非正規職員が窮状を訴えた。DV対応などに当たる婦人相談員の「コロナ禍で相談が増え、やる気だけでは無理」、ハローワーク職員の「コロナで混乱する中で契約更新があり、理由も分からないまま職場を去らざるを得なかった同僚がいた」など内容は多岐にわたった。「住民サービスに不可欠なエッセンシャルワーカーが、こうした状態にあることを、社会全体が課題としてとらえるべきだ」。非正規公務員の問題に詳しいジャーナリストで和光大名誉教授の竹信三恵子さんは訴える。最近はさらなる経費削減のため、官が担ってきた仕事を民間に委託する例も増加。自治体の非正規職員ではないが、そこにも低待遇の働き手がいる。竹信さんは「相談業務などは、従事する側も利用する側も経済的、精神的に余裕がなく、声をあげにくい人が多い。そのため問題が覆い隠されてきた」と指摘する。こうした流れを変えようと、集会の企画者や参加者らは四月、「公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)」を結成した。今後は、問題解決に向けた調査や提言に加え、当事者同士の交流や学習会などを進める予定だ。中心メンバーの瀬山紀子さん(46)は「このままでは公共サービスが崩れてしまう。私たち女性がまとまって動くことで、非正規公務員全体の問題を解決したい」と話す。まずは六月四日まで、当事者から現状を聞きとるアンケートをネット上で実施中。既に八百件以上の声が寄せられているという。回答は、ホームページ=「はむねっと 非正規」で検索=から。集計結果は同月中に公表する予定だ。 *1-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71693340Z00C21A5CT0000/ (日経新聞 2021年5月10日) 女性の雇用、「L字」課題、出産後、正社員比率低く 出産や育児で仕事を辞めることで30代を中心に就業率が下がる「M字カーブ」は長年、女性の労働参加が進んでいない象徴とされてきたが、近年は解消が進んでいる。女性活躍の機運の高まりを背景に仕事と育児を両立できる働き方が広がった結果とみられ、2019年には就業者数が初めて3000万人を突破した。新たな課題として浮上したのが「L字カーブ」だ。子育てが一段落した後に再就職しやすくなったとはいえ、非正規雇用が主な受け皿で、女性の正規雇用率は20代後半をピークに右肩下がりで減っていく。最近はコロナの影響も大きい。内閣府の有識者懇談会「選択する未来2.0」は「正社員に加え、短時間勤務の限定正社員など、選択肢を拡大し、出産後の継続就業率を高めることが求められる」と指摘している。 *1-1-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14891821.html (朝日新聞 2021年5月3日) (憲法を考える)男女平等の理念、遠い日本 「女性の自立、応援しなかった社会」 日本国憲法は、「男女平等」を完全に保障した条文をもつ。しかし、新型コロナウイルス禍のもと、制度や社会におけるジェンダー格差が改めて浮き彫りになっている。施行から74年経った今なお、憲法がめざす理念に日本社会が近づけていないのはなぜなのか。緊急事態宣言下の3月半ば。どしゃ降りの雨の中、東京・新宿の区立公園にたてられたテントに女性たちが吸い込まれていく。弁護士や労組関係者らが開いた「女性による女性のための相談会」。コロナで生活に困る女性を対象としたところ、2日間で20~70代の125人が訪れた。 ■コロナ禍で顕著 関東地方に住む40代の女性は、野菜やお菓子、生理用品を受け取った。昨年6月、新型コロナの影響で仕事を失った。派遣で2年近くコールセンターに勤めてきたが、突然契約を打ち切られた。コロナ対策の1人10万円の特別定額給付金は、支給先は世帯主で、別居する親に配られた。中高生の頃から暴力を受けて疎遠になっていた。年末に失業給付が切れ、何も食べられない日もあった。所持金は1万3千円だった。「立場の弱い女性のほうが安定した仕事がなかったり、支援が届かなかったり。コロナはそんな現実を浮き彫りにした」。個人の尊重と幸福追求の権利を定める13条。法の下の平等をうたい性差別を禁じる14条。そして、両性の本質的平等を保障する24条――。憲法は三つの条文によって男女平等を保障する。しかし、雇用における差別は残り、支援制度も世帯単位で作られ、個人に重きが置かれていない。総務省発表では昨年、非正規雇用の働き手は75万人減ったが、うち女性は男性の倍を占めた。厚生労働省によると、昨年の女性の自殺者は7026人。前年より男性の数は減少したが、女性は935人(前年比15・4%)も増えた。 ■選んでいいの? 相談会スタッフ、吉祥(よしざき)真佐緒さんは「相談を受けて痛感したのは、夫婦間や職場で、空気を読んで口答えせず、自分のことは後回しにする生き方を強いられてきた女性が、本当に多いということだった」と話す。吉祥さんは、DV(家庭内暴力)被害者の相談も受けるが、昨春以降に件数は急増した。「自分が好きなものを飲んで」。相談に来た女性にはまず、日本茶やコーヒー、紅茶を選んでもらう。多くの女性が「え、私が選んでいいの?」と戸惑うという。だから、吉祥さんはこう問いかける。「私たちが持つ当たり前の権利ってなんだろう」と。「彼女たちは家の中で娘として妻として嫁として役割を背負わされてきた。自分にも権利があると考えられる人が多くないのは、女性の自立を応援してこなかった国の、社会の責任ではないか」 *1-2-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/aa55ec861ba9ef03e6ad714d3df5127d3b1dd3cb (Yahoo、毎日新聞 2021/5/26) 都立高入試、男女の合格ラインで最大243点差 8割で女子が高く 東京都立高校の普通科の一般入試は、募集定員を男女に分けて設定しているため性別によって合格ラインが異なる。都教委は毎年30~40校を対象に是正措置を講じているものの、2015~20年に実施した入試では、対象校の約8割で女子の合格ラインが最終的に高かったことが、都教委の内部資料で判明した。1000点満点で最大243点上回るケースや、男子の合格最低点を上回った女子20人が不合格とされた事例もあった。毎日新聞の調べでは、都立高は全国の都道府県立高校で唯一、男女別の定員があり、各校とも都内の公立中学の卒業生の男女比に応じて決まる。合否は中学校が提出する内申点(300点満点)と、国数英理社の筆記試験(700点満点)の合計で決めるが、合格ラインは男女で異なる。著しい格差を防ぐため、都教委は1998年の入試から、特に差が大きい傾向にある高校を対象に是正措置を行っている。定員の9割までは男女別に合否を判定し、残り1割は男女合同の順位で合格者を決めるもので、近年は普通科高校(約110校)のうち30~40校程度で実施している。都教委はその効果を確認するため合格ラインの変化を毎年調査している。毎日新聞が調査結果の資料などの情報公開を求めたところ、都教委は今年3月、15~20年入試の是正措置の対象校(延べ199校)の回答用紙について、校名の特定につながる情報を伏せる形で開示した。このうち無回答や明らかに誤記と考えられるものを除く184校の男女差を毎日新聞が分析した。是正前は約9割の170校で女子の合格最低点が高く、男子との差は、①100点以上=27校②50~99点=41校③40~49点=31校④30~39点=27校⑤20~29点=26校⑥10~19点=8校⑦9点以下=10校。最大で女子の方が426点高い学校もあった。残り1割は男女が同水準か、男子の合格最低点の方が高かった。是正後も約8割の153校で女子が上回った。男子との差は、①5校②14校③5校④13校⑤34校⑥36校⑦46校と全体的に縮小したものの、それでも最大で243点の差がみられるなど是正につながっていないケースもあった。毎日新聞は、是正措置を講じていない高校の男女別の合格最低点についても情報公開請求したが、都教委は「学校の順位付けが可能となり、競争が助長される」などとして不開示にした。男女で合格ラインに差がある現状について、都教委の担当者は「入試が男女別であることは周知しているので、受験生は合格ラインが異なることを理解した上で受けているはずだ」と制度自体に問題はないとの認識だが、「現在の是正措置が完璧ではないことは認識している。世の中の情勢に合わせて改善策を考えていきたい」と話した。文部科学省は「一般論としては、合理的な理由なく性別によって異なる扱いを受けるのは望ましくない」としつつ、「男女別定員制は東京都が『合理的』と判断して採用しているものと考えている」と静観する。 ◇ 今回明らかになった東京都立高校の合格ラインの男女差を含め、入試を巡るジェンダー問題について、ご意見を募集します。毎日新聞東京社会部(t.shakaibu@mainichi.co.jp)まで。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210605&ng=DGKKZO72585360U1A600C2MY5000 (日経新聞 2021.6.5) 実力も運のうち 能力主義は正義か? マイケル・サンデル著 成功は努力の結果ではない 《評》東京大学教授 宇野重規 『これからの「正義」の話をしよう』や『ハーバード白熱教室』で知られるマイケル・サンデルの新著である。現代社会に広がる能力主義の支配に対して問題を提起し、「機会の平等」を超えた共通善の実現を目指すサンデルの議論は、そこであげられている数々の事例の豊富さもあって読むものを飽きさせない。読んでいて、思い起こしたのは一昨年の東京大学入学式における、上野千鶴子名誉教授による祝辞である。その祝辞はいささか型破りのものであった。入学者に対する単なる祝辞にとどまらず、入学者における女性比率の低さや、女子学生の入りにくさに対する厳しい指摘を含むものであった。さらに入学者が、自分ががんばったから報われたと思っているとすれば、そう思えること自体が、「あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだった」という発言は大きな波紋を呼んだ。入学者の努力自体は否定していない上野氏に対し、サンデルはよりストレートである。ハーバードの学生における「自分の成功は、自分の手柄、努力の当然の結果」とする能力主義的な信念の拡大に警鐘を鳴らすサンデルは、入学を手助けした親や教師の存在を指摘し、さらにはそもそもの才能や素質すら本人の功績とは言い切れないと強調する。大切なのは感謝と謙虚さであり、社会の共通善に対する貢献であると説く。それでも現実には、能力主義の信念に歯止めがかからない。格差が拡大する中、成功者はどうしてもそれを自分の努力の結果と思いたがるし、貧困に苦しむものは、単なる経済的苦境のみならず、道徳的な屈辱と怒りに苛(さいな)まれる。難しいのは左派やリベラル派にも、この信念が見られることである。米国のオバマ元大統領もまた、「努力が報われるのが米国」と繰り返した。逆にトランプ大統領は、「才能と努力の許すかぎり出世できる」とはあまり言わなかったという対比は面白い。現実の米国の社会的流動性は低く、金持ちやエリートの世襲の貴族社会が能力主義の名の下に固定化しているとサンデルは指摘する。その批判の鋭さを思うと、処方箋があまり明確ではないことが惜しまれるが、それだけ問題が難しいということだろう。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA034E00T00C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月3日) 迫る少子化危機、育児支援急ぐ世界 持続成長のカギ 世界各国・地域が少子化対策・育児支援策の拡充を急いでいる。日本では3日、衆院本会議で男性が育児休業をとりやすくする改正育児・介護休業法が可決、成立した。米国でもバイデン政権が10年間で1.8兆㌦規模(約198兆円)を投じる対策を打ち出した。背景には新型コロナウイルス危機が加速させた世界的な出生数の減少がある。子育て環境の整備に加えて、出産への経済的な不安を和らげる対策が肝となる。3日に成立した改正育児・介護休業法は従来の育児休業制度に加えて、男性は子の誕生後8週間まで、最大4週間の育児休業を取れるようにする。業務を理由に育休取得に二の足を踏む男性も多いため、改正法では労使の合意があれば育休中もスポットで就労できる仕組みも盛り込んだ。休業の申し出も従来は1カ月前までに必要だったが、2週間前までに短縮した。機動的に取得できる仕組みに目を配った。厚生労働省がまとめている妊娠届などを基に推計すると、21年の出生数は80万人を割り込む可能性が高い。16年に100万人を割り込んでから約5年で年間20万人程度も新生児が減る。出生率の低下は将来の労働力の減少などを通じて中長期の経済成長力を押し下げる。第一生命経済研究所の星野卓也氏が人口の推移などを基に試算したところ、30年代後半に日本は潜在成長率が0.2%程度のマイナスになる。「出生数の急減が続いて少子高齢化が加速すれば、40年代以降も成長率が低迷を続ける可能性がある」と指摘する。今回成立した改正法はあくまで男性の育児参加を促す環境づくりがメーンで、財政支援なども繰り出して国を挙げて支援する海外の各国・地域との差は大きい。バイデン政権が打ち出した少子化対策「米国家族計画」に盛り込まれた対策は幅広い。子育て世帯の生活を支援するため、最長で12週間取れる有給の家族・医療休暇などを提供。低中所得層の家庭へのチャイルドケアの公的支援も増やす。子育て世帯への税額控除を使った実質手当の給付も拡大する。21年に限って導入した同制度では子ども1人につき年最大3000ドル(6~17歳の場合)を給付するとしていたが、これを5年間延長する。教育ではすべての3・4歳児への無償の幼児教育の提供や2年間のコミュニティーカレッジの無償化、中低所得者向けの児童保育の補助やマイノリティー向け奨学金の拡大などをメニューに並べた。米疾病対策センター(CDC)によると20年の米国の出生数は前年比4%減の約360万5000人だった。早めの対策で少子化が少子化を招く負の連鎖を防ぐ。フランスも少子化対策を強化する。7月から男性の育児休暇を従来の14日から28日に延ばす。会社側は最低でも7日分の取得を認める必要がある。男性の育休は子どもの生後4カ月以内に1度で取る必要があったが、生誕後6カ月で2回に分けて取得できるようにもする。日本以上に少子化が深刻な韓国も22年度からは出産時に200万ウォン(約20万円)のバウチャー(サービス利用券)を支給する計画など、財政出動もからめた支援強化を急ぐ。産児制限を40年以上続けてきた中国も少子化から目を背けられなくなっている。5月末には1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。出産にからむ休暇や保険も整える。ニッセイ基礎研究所の調査で、コロナ禍で将来的に持ちたい子どもの数が減った40歳以下の回答者が挙げた理由で最も多かったのは「子育てへの経済的な不安」だった。少子化に対抗するには、育児休暇をとりやすくするなど今回の改正法のような子育て環境の支援に加えて、出産や結婚をちゅうちょさせるような経済不安を和らげる必要もある。政府の子育て関連支出を国内総生産(GDP)比でみると日本は1%台で、欧州諸国の3%台を下回る。省庁横断で取り組む「子ども庁」創設論議が本格化するが、財政支援も含めた少子化対策に各国・地域が本腰を入れるなか、後手に回ればコロナ後の世界経済で存在感を失うリスクをはらむ。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA043NS0U1A600C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202106041436 (日経新聞 2021年6月4日) 20年出生率1.34、5年連続低下 13年ぶり低水準 厚生労働省が4日発表した2020年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.34だった。前年から0.02ポイント下がり、5年連続の低下となった。07年(1.34)以来の低水準となっており、新型コロナウイルス禍の影響も重なり21年には一段と低下する可能性が高い。出生率は団塊ジュニア世代が出産適齢期に入ったことを背景に、05年の1.26を底に緩やかに上昇し15年には1.45となった。その後、晩婚化や育児と仕事の両立の難しさなどが影響し、再び低下基調にある。20年の出生率を女性の年代別にみると20代以下の低下が目立つ。最も出生率が高かったのは30~34歳で、0.0002ポイント前年を上回った。40歳以上の出生率もわずかに伸びたものの、全体として20代以下の落ち込みを補うことはできなかった。20年に生まれた子どもの数(出生数)は過去最少の84万832人で、前年から2.8%減った。婚姻件数は12%減の52万5490件となり、戦後最少を更新。コロナ禍による経済不安や出会いの機会の減少などで、若い世代が結婚に踏み切りにくくなっている。厚労省がまとめている妊娠届の減少などをもとに日本総合研究所の藤波匠・上席主任研究員が試算したところ「21年の出生数は80万人割れの可能性が高い」という。20年の死亡者数は137万2648人となり、前年から8445人少なくなった。高齢化で死亡者数は増加基調が続いていたが、前年の水準を割り込むのは11年ぶり。死因別ではコロナで3466人が亡くなる一方、肺炎で亡くなる人が前年より1万7073人少なくなった。手洗いやマスク着用、接触機会の減少などコロナの感染対策が他の感染症などによる死者数を減らしたとみられる。死亡者数から出生数を引いた自然減は53万1816人と過去最大の減少となった。 *1-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/689885 (佐賀新聞 2021年6月11日) 出生数最少84万人、急減の流れを止めたい 2020年生まれの赤ちゃんは統計開始以降最少の84万832人となった。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は1・34。婚姻件数も52万5490組と戦後最少だった。新型コロナウイルス流行で結婚、妊娠を避ける男女が増え少子化が加速。21年の出生数は従来推計より10年早く70万人台に落ちることが濃厚だ。このままだと将来の働き手減少、社会保障の担い手不足がさらに深刻となる。近隣アジア諸国も同じ状況に危機感を強める。この流れを止めるため、政府、自治体は子どもを産み育てやすい環境を早急に整える政策を具体化しなければならない。コロナ禍で母子への感染不安が高まり、立ち会い出産、里帰り出産も難しくなった。行政側は相談態勢強化、里帰りできない人の育児支援、さらには妊婦が感染の不安なく通院でき、感染した場合でも十分なケアの下で出産できる医療体制整備に一層力を注ぐべきだ。雇用情勢悪化による解雇や給料カットで経済的余裕を失ったカップルが多いことも出生数減少に響いている。今彼らを支えなければワクチン接種が進んでも出生数回復が難しくなる。政府は困窮世帯に3カ月で最大30万円の支給などを行うが、結婚や出産を後押しする観点での新たな支援に乗り出すべきではないか。父親の家事育児参加を促すため、子どもが生まれて8週間以内に計4週分休みを取れるようにする「男性版産休」を盛り込んだ改正育児・介護休業法が成立した。こうした基本的な子育て環境の整備も官民一体で引き続き推進する必要がある。出生数最多は第1次ベビーブームの1949年の269万人超。71~74年の第2次ブームも年200万人を超えた。その後減少し2019年に初めて90万人を割り込み、第1次ブーム当時の3分の1程度に落ち込んだ。移民など国境を越えた人の移動を除けば国の人口増減は出生数と死亡数で決まる。近代以降、母子の栄養、健康状態が改善し乳児死亡率が下がった。そうなれば昔のように子どもを多く産む動機が薄れる。医学の進歩で平均寿命は大きく延びた。感染症流行という突発要因がなくても、こうした「文明の発展」に連れ人口構造が「多産多死」から「少産少死」へ変化する大きな流れにはあらがえない。が、何とかその進行速度は抑えたい。一足早く人口減少期に入った日本のみならず中国、韓国も思いは同じだろう。コロナ禍に見舞われた20年の中国の合計特殊出生率は1・3と日本を下回り、共産党は16年の「一人っ子政策」廃止に続き第3子まで容認する方針を決めた。韓国も20年の出生数が前年比10%減で初めて人口が自然減になった。出生率は0・84と極端に低い。少子化は東アジア全域で加速している。少子高齢化がピークに近づく40年ごろの日本は、ただでさえ不足する就業者の5人に1人が医療・福祉の仕事に取られる社会となることが予想される。それに向け日本政府は、国内の介護事業の要員にアジア諸国からの技能実習生を呼び込む。一方、アジアの高齢化をビジネスの好機と捉え日本式介護事業を輸出する構想も進む。各国の少子化は東南アジア諸国も巻き込む人材争奪を呼び日本の高齢者介護を揺るがしかねない。出生数急減を何とか乗り越えたい。 *1-3-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP697453P69ULFA010.html?iref=comtop_7_06 (朝日新聞 2021年6月9日) 脱炭素など4分野重視、財政目標見直しに含み 骨太原案 政府は9日の経済財政諮問会議で、今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案を公表した。グリーン(脱炭素)、デジタル化、地方創生、子育て支援の4分野に予算を重点配分する方針を明記。2025年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化をめざす財政再建目標は、今年度内にコロナ禍の影響を踏まえて検証するとし、目標時期の見直しに含みを持たせた。骨太の方針は、政府の経済財政運営や来年度予算案の基本となる。昨年9月に発足した菅政権としては初めての方針で、与党などとの調整を経て、6月中旬に閣議決定する予定だ。原案によると、重点4分野のうち、政権がめざす脱炭素化に向けては、2兆円規模の基金や優遇税制などで企業の投資を後押し。炭素を出さない電気自動車や燃料電池車の普及を進める。再生可能エネルギーの主力電源化にも「最優先の原則」で取り組むとした。デジタル化では、9月に発足するデジタル庁を中心に行政手続きのオンライン化を5年以内に進める一方、マイナンバーカードの健康保険証や運転免許証との一体化などでカードの普及を加速させるとした。子育て支援では、児童手当などの既存の施策を総点検し、具体的な評価指標を定めた「包括的な政策パッケージ」を年内につくるとした。与党内で浮上する「子ども庁」については、子どもの問題に対応する行政組織を創設するため、「早急に検討に着手する」と記すにとどめた。地方関連では、都市との賃金格差を埋めるため、菅首相がこだわる最低賃金の引き上げについて、「より早期に全国加重平均1千円とすることを目指し、本年の引き上げに取り組む」と書き込んだ。財政再建については、25年度のPB黒字化をめざす目標を「堅持する」と記し、22~24年度も、社会保障費の伸びをその年の高齢化による範囲におさえるなどの歳出抑制を続けるとした。しかし、目標については、コロナ禍による経済や財政への影響を今年度内に検証し、その結果を踏まえて「目標年度を再確認する」としている。巨額のコロナ対策で財政悪化は加速しており、検証の結果次第では、目標時期が先送りされる可能性もある。 ●「骨太の方針」原案の主なポイント 〈グリーン〉 ・再生可能エネルギーを最優先し、最大限の導入を促す ・成長に資するカーボンプライシングはちゅうちょなく取り組む ・電気自動車や燃料電池車の普及を促進 〈デジタル化〉 ・行政手続きの大部分を5年以内にオンライン化 ・22年度末までにマイナンバーカードをほぼ全国民に 〈地方創生〉 ・都市部と地方の二地域居住・多拠点居住を促進 ・最低賃金はより早期に全国加重平均千円を目指し、本年の引き上げに取り組む 〈子育て支援〉 ・包括的な政策パッケージを年内に策定 ・子どもの課題に対応する行政組織創設の検討に着手 〈コロナ対策〉 ・緊急時対応はより強力な体制と司令塔の下で推進 ・感染症有事の体制強化で、法的措置を速やかに検討 〈財政〉 ・25年度の基礎的財政収支黒字化目標を堅持。年度内にコロナ禍の影響を検証し、目標年度を再確認 ・社会保障費の伸びをおさえる歳出抑制策などを22~24年度も続ける ・歳入面での応能負担を強化する 〈その他〉 ・経済安全保障の取り組みを強化 *1-3-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06D5C0W1A400C2000000/ (日経新聞 2021年6月10日) 世界でホットな地熱発電 出遅れ日本も「地殻変動」 脱炭素の流れを受け、世界で地熱発電が盛り上がっている。再生可能エネルギーの中でも、太陽光や風力のように天候に左右されない安定性が評価され、発電容量は10年で4割増えた。世界3位の潜在量を持ちながら原子力優先で出遅れた日本も、政府が2030年に発電所を倍増させる方針を掲げ、にわかに「地殻変動」が起きている。 ●地熱発電所、2030年に倍増 「地熱は稼働までの期間が長いが(温暖化ガスの排出量を13年度比で46%減らす30年度に)間に合わせたい。環境省も自ら率先して行動する」。小泉進次郎環境相が4月下旬に開発加速を宣言した地熱発電。6月1日には、河野太郎規制改革相が30年に地熱発電施設を倍増する目標を掲げ、脱炭素電源の有力な選択肢として浮上してきた。地熱発電は地下から150度を超す蒸気や熱水を取り出してタービンを回し発電する。昼夜ほぼ一定の出力で発電でき、再生エネ電源の中で安定性は群を抜く。設備利用率は70%強と太陽光、風力の10~20%程度をはるかに上回る。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、20年末の発電容量は1400万キロワットを超え、10年で約4割増えた。直近5年で伸びが著しいのがトルコだ。00年代から政府系の地質調査所が資源量の調査を進め、国策として事業者の参入を促した。英BPなどによると、10年時点で9万キロワットだった発電容量は20年に154万キロワットへ急増した。東アフリカのケニアでも、発電容量が119万キロワットと過去10年で6倍に増えた。国際エネルギー機関(IEA)統計などによると同国の発電容量の半分近くを占める。干ばつで発電量が安定しづらい水力発電所の代替手段として地熱発電が盛んだ。地熱のエネルギー源は地下のマグマの熱で、資源量が多いのは環太平洋火山帯に位置する地域と、アフリカの一部地域やアイスランドなどとなっている。潜在する資源量は米国が3000万キロワットと首位に立ち、インドネシア、日本が続く。世界3位の日本は潜在する資源量2340万キロワットに対し、実際の発電導入量は20年時点で55万キロワットにとどまる。10年前からほぼ横ばいだ。米国やインドネシアが事業者への税制優遇や政府支援などで、20年の導入量をそれぞれ10年比12%増の370万キロワット、同92%増の228万キロワットまで伸ばしたのとは対照的だ。 ●日本の開発コスト高く 日本市場が低調な理由はいくつかある。まず、開発コストの高さが挙げられる。西日本技術開発(福岡市)の金子正彦・特別参与が経済協力開発機構(OECD)の資料などで調べたところ、日本は地熱発電所を建設してから稼働を終えるまでに1キロワット時当たり税抜き10~18円の費用がかかる。これに対し米国は5~9円、ニュージーランドは3~5円と低い。山間部が多い日本は平地主体の海外と比べ工事費が膨らみがちだ。掘削技術や大型の重機をもつ企業も限られる。地熱開発は油田と同じで掘ってみないと正確な資源量が分からない。国内では資源量の調査から稼働まで、平均15年近くかかる。実際の成功率は3割程度といわれ、1本に5億円強かかる井戸を当てるまで複数、掘り続ける必要がある。こうした事業リスクをのんで長期投資できるような民間企業はごく一部に限られる。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の安川香澄・特命審議役は「ある程度まで地熱開発が進んで民間任せになった途端、開発が止まるのはよくあるケース」と指摘する。地熱開発には国の後押しが不可欠なのだ。国内ではオイルショックの起きた1970年代から地熱開発の機運が盛り上がったが、90年代に入ると原発政策に押されて勢いを失った。これが2つ目の理由だ。出力1万キロワットを超す地熱発電所の新設は96年稼働の滝上発電所(大分県九重町)を最後に冬の時代に突入。19年の山葵沢発電所(秋田県湯沢市)まで23年間なかった。業界関係者からは「塩漬けの20年」などと呼ばれる。 ●タービンの世界シェア6割 国内市場が低調な半面、日本企業の技術は世界で求められている。地熱発電用タービンでは、東芝や三菱重工業など日本勢の世界シェアが6割強に達する。「この数年でインドネシアや東アフリカからの引き合いが強まった」と話すのは東芝エネルギーシステムズ海外営業戦略部の川崎博久氏。同社は建設中の発電所を含めて米国やケニアなど11カ国でタービンを納入した。海外メーカーと比べ出力が低下しづらく、長期の使用にも耐えられる点が特長だ。低い温度でも1000キロワットから発電できる小型地熱発電を商品化するなど、この分野では世界の先頭を走る。三菱重工も13カ国にタービンを納入し、特にアイスランドではシェアが55%に達している。同国は地熱発電所の温排水を利用した温泉リゾート「ブルーラグーン」で知られ、自国の電力を全て再生エネでまかなう。三菱重工は地熱開発の初期段階で国営電力と取引が生まれ、その後の連続受注に繫がった。設備の設計や調達、建設まで一括で請け負う点も評価されている。商社も海外企業とEPC(設計・調達・建設)契約を結び、海外でノウハウをためる。豊田通商は現代エンジニアリングと共同で世界最大規模のケニア・オルカリア地熱発電所(最大出力28万キロワット)を受注した。伊藤忠商事と九州電力はインドネシア・サルーラ地区の地熱プロジェクトに開発段階から参加。18年までに3基が稼働し、総出力は33万キロワットにのぼる。脱炭素の流れを受け、日本でも地熱発電は見直されつつある。北海道では環境省が15年に国立・国定公園の「第1種特別地域」の地下で域外から斜めに穴を掘って開発できるよう規制を緩和し、企業の進出構想が相次ぐ。22年に北海道函館市でオリックスが道内40年ぶりとなる大型地熱発電所を稼働。出光興産がINPEXと組んで北海道赤井川村で計画中の地熱発電所は、国内最大級の出力との観測もある。小泉環境相は関係法令の運用見直しなどで、地熱発電の稼働にかかる時間を最短8年まで縮める方針も明らかにした。技術もポテンシャルもあるのに、導入量は低調――。そんな状況を覆す素地が整いつつある。 *1-3-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/690450 (佐賀新聞 2021年6月12日) 全国知事会議、コロナ後の地方像を 今後1年の活動方針を決める全国知事会議が新型コロナウイルス感染症の流行のため2年連続オンライン方式で開かれた。「新型コロナ感染抑制に向けた行動宣言」「ポストコロナに向けた日本再生宣言」などがまとめられたように、コロナ対策が議論の柱となった。会議では多くの知事が、10月から11月にかけ必要な国民のワクチン接種を全て終えるとの菅義偉首相の目標に対し意見を述べている。いつどの種類のワクチンが自治体に供給されるのか早急にスケジュールを示すべきだと強く求めた。さらに千人以上の大企業などから始める職場接種には、地方の中小企業が置き去りにされるとの批判もあった。迅速な接種には、自治体が発送する接種券の有無をどうするかも含めて、地元に接種体制を任せる柔軟な対応が必要ではないか。第5波の可能性、特に感染力が強いデルタ株(インドで確認された変異株の一つ)流行への懸念も強く示された。国の検査体制の充実を求める声が出たのも当然と言える。知事らもワクチンがコロナとの闘い方を大きく変える「ゲームチェンジャー」と認識する。だが、国からのワクチン供給の見通しが立ちにくく、都道府県や市区町村は、態勢づくりに苦労してきた。菅氏が4月に高齢者の接種を「7月末をめどに終了」と表明してからは、達成するよう国から強い圧力を受けている。国と地方の関係は対等ではなく、昔の上意下達に戻った雰囲気である。会議では「まん延防止等重点措置」の適用を知事が要請して政府が決定するまで時間がかかり過ぎるとして、手続きの簡素化を求める意見もあった。緊急事態宣言の対策では、自治体が選べるよう求める声もあった。感染の状況を分かっている自治体が、自ら対策を組み立てられるよう自由度を上げるべきである。病床の逼迫(ひっぱく)に備えて、都道府県境を越え広域搬送する仕組みをつくるべきだとの提案もあった。これらの実現に関係法の改正が必要であれば、今国会を延長してでも国は迅速に対応してほしい。本来なら昨年のうちにコロナ対策や迅速な接種の在り方を広く議論し、必要な態勢を整えておくべきだった。それを政府は怠った。対策に国の戦略性が乏しいのもそのためだ。感染症と最前線で向き合う医療関係者や自治体が、つけを払わされていると指摘できる。コロナ禍は、給付金の支給やワクチン接種での「行政のデジタル化の遅れ」を浮き彫りにし、地域経済を支える飲食や観光、交通などの事業者に大きく影響した。今後の地方活性化の方向性として知事会は、デジタル化を進めるとともに、第5世代(5G)移動通信システムに対応する通信網を基礎的なインフラとして全国普及させるよう提言した。オンラインでの診療や遠隔手術も可能となり都市との医療格差も縮小する。リモートワークの普及にもつながると期待したい。2050年に脱炭素社会を実現するには、再生可能エネルギーの普及が不可欠である。土地や風、バイオマスなどが多い地方には有利だ。知事会が提案する「新次元の分散型国土」を創出するチャンスである。国の地方創生策に手詰まり感があるだけに、コロナ後の国土の在り方、地方重視の国土政策を地方から打ち出すべきである。 *1-3-7:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14937001.html (朝日新聞 2021年6月12日) 64歳以下の接種、誰を優先 各自治体、独自で判断 高齢から順番・20~30代・職種別 コロナワクチン 新型コロナウイルスワクチンについて、1回目の接種を終えた65歳以上の高齢者らが3割となる中、「64歳以下」への接種に乗り出す市区町村が目立ち始めた。感染拡大を防ぎ、接種ペースを加速させるため、市区町村ごとに独自に優先対象枠を設定する動きも広がっている。ワクチン接種について、政府は当初、供給量が限られることなどから、(1)医療従事者ら(2)高齢者(3)基礎疾患のある人、高齢者施設などで働く人、60~64歳の人などと順番を決めていた。だが、ワクチン供給が本格化した5月以降、方針を修正。64歳以下の接種は各市区町村に判断を委ねることとした。各市区町村がこれまで明らかにしている方針をみると、政府が当初示した通りの60~64歳や、教育関係者を対象とするところが目立つ。一方で、独自の優先対象枠を設けるところも。大まかに分類すると、「年代」と「職種」に分かれている。例えば東京都新宿区では、59歳以下の集団接種については20~30代の予約を優先するとしている。都内では7日までの1週間の新規感染者のうち、20~30代が5割近くを占める。こうした状況を踏まえ、新宿区は行動範囲が広く比較的症状が出にくいとされる20~30代にいち早く接種することで、他の世代への感染を防ぐ狙いだ。一方、夏の観光シーズンを前に、沖縄県では観光業界に携わる人を対象とする動きも。沖縄本島北の2島からなる伊平屋(いへや)村では、宿泊業やダイビングショップ、飲食店従業員、島外との唯一の交通手段であるフェリーの船員らの優先接種を始めた。村の担当者は「小さな島の中でも行動範囲が広く、多くの人に触れあう可能性がある人に先に接種してもらうことにした」と説明する。 ■1日100万回、急ぐ政権 政府が64歳以下にも対象を拡大するのは、菅義偉首相が掲げる「1日100万回接種」を、できるだけ早く実現させたいからだ。官邸幹部の一人は「ワクチン接種が進めば、なんとなく政権に好感が持たれる。五輪への雰囲気も徐々に変わってくる」と期待する。「7月末までに高齢者接種を終わらせる」「10月から11月にかけて、必要な国民、希望する方、すべて(の接種)を終える」。首相自らがこうした具体的な目標を掲げることで、コロナ対策が進んでいることを国民にアピールするとともに、自治体などの接種現場を動かす「圧力」とする狙いがある。さらに一般の人も対象にした企業や学校などでの「職域接種」は21日からで、先に準備が整った企業では来週にも始まる。予約に空きの目立つ自衛隊による大規模接種センターについては、対象年齢を64歳以下に引き下げることを検討する。接種機会の公平性をどう担保するかなどの課題も多いなか、政府関係者はこう説明する。「自治体ごとに差が生じるとの意見はあるが、できるだけ早く接種を進めるということこそが、一番大事だ」 <年齢差別> *2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ202BP0Q1A320C2000000/?n_cid=NMAIL006_20210419_Y (日経新聞 2021年4月19日) YKK、正社員の定年廃止 生涯現役時代に企業が備え 日本企業が「生涯現役時代」への備えを急いでいる。YKKグループは正社員の定年を廃止。ダイキン工業は希望者全員が70歳まで働き続けられる制度を始めた。企業は4月から、70歳までのシニア雇用の確保が求められるようになった。少子高齢化に歯止めがかからず人手不足が続く中、企業がシニアの意欲と生産性を高める人事制度の整備に本格的に乗り出した。YKKは4月、国内事業会社で従来の65歳定年制を廃止し、本人が希望すれば何歳までも正社員として働けるようにした。同社は職場での役割に応じて給与が決まる役割給を採用している。今後は会社が同じ役割を果たせると判断すれば、65歳以上でも以前の給与水準を維持できるようにした。「従来も年齢だけを理由に処遇を変えたり、退職させたりするのは公正でないという考えが強かった」と同社幹部は説明する。同社は今後5年間で約800人が従来定年の65歳に到達する見通しだった。その大半が正社員としての雇用継続を希望するとみられる。定年廃止による新規の採用抑制はしない。人件費が増える可能性があるが、人手不足の中、熟練技能者などシニア活用のメリットは大きいと判断した。三谷産業も21年4月から再雇用の年齢上限をなくし、65歳以上は1年ごとの更新制とした。再雇用者になかった昇給制度も設ける。専門知識や人脈を生かし、社内外の技術指導や営業先の開拓など本業以外の仕事で貢献した場合、別途報酬を支払う「出来高払いオプション制度」も新設した。実力あるシニアが現役に近い報酬を得られるようにする。ダイキンの定年は60歳で従来は65歳まで希望者を再雇用していた。今回、再雇用の期間を5年延長した。原則一律だった再雇用者の賞与も成果に応じて4つの段階を設け、最大1.6倍の差がつくようにした。シニアの働く意欲を引き出す。三菱ケミカルも22年4月、現在60歳の定年を65歳に引き上げる。将来の定年廃止も検討している。給与制度は能力・経験に基づく職能給と、仕事の成果・役割に基づく職務給で構成していたが、21年4月から職務給に一本化した。各社が対応を急ぐ背景には21年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法がある。従来制度で企業は従業員が希望する限り65歳まで雇用を継続する義務があるが、法改正で70歳まで就業機会確保の努力義務が課された。年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられるなか、所得の空白期間をなくすための措置だ。大半の企業は再雇用期間の単純延長などで対応するが、多くは現役時代に比べて2~5割程度給与が下がる。シニアのやる気と生産性の低下が課題だ。定年を廃止する企業は、成果に応じた賃金制度を導入するなどして給与の減少を一定程度にとどめる。企業がシニアに期待する役割はさまざまだ。20年10月に60歳定年を廃止したシステム開発のサイオスグループは、IT(情報技術)人材が不足するなか、案件遂行で経験豊富な中高年の技術者取り込みを狙う。成果に応じた評価をシニアでも徹底する。製造業では生産管理部門などでベテラン技術者のニーズがある。一方、専門性のない一般管理職などはシニアのニーズは少ない。三谷産業などは、新たな再雇用制度の開始に合わせ、全社員にキャリア面談を義務付け、定年後を見据えたスキル習得を支援する。定年は世界では一般的でない。米国や英国などは年齢を理由とする解雇は禁止・制限されている。一方、厚生労働省の20年の調査では国内で定年のない企業は2.7%にとどまる。日本の賃金は年功色が強く解雇規制も厳格なため、単純に定年を延長・廃止すれば、人件費増加に歯止めがかからなくなる。みずほリサーチ&テクノロジーズが再雇用などで70歳まで働く人が増えた場合の影響額を20年に試算したところ、65~69歳の従業員にかかる企業の人件費は30年時点で19年比6%増の5.5兆円に、40年時点で同29%増の6.7兆円に増える。定年を廃止する場合、高齢になり職務を十分に果たせなくなったシニアを解雇する仕組みも必要になる。話し合いを通じた双方の合意で契約を終える形を想定している企業が多いが、合意に至らないケースも考えられるからだ。金銭補償などを伴う解雇ルールの策定も求められる。 *2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14894047.html (朝日新聞 2021年5月5日) 70歳まで働く機会、中小の対応まだ3割 コロナ禍、人件費増も重荷 70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務と定める改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたのを受けて、日本商工会議所が中小企業に対応を聞いたところ、必要な対応を講じているのは約3割にとどまることがわかった。新型コロナウイルスの感染拡大で企業の業績悪化が目立つ中、人件費の負担増につながる施策の導入は難しい。中小企業にとって、法改正への対応はハードルが高いことがうかがえる。日商が4月14~20日に全国の会員企業2752社を対象に調査し、76.2%から回答を得た。4月30日に発表した調査結果によると、「必要な対応を講じている」企業が32.6%あった一方、「具体的な対応はできていない」は31.9%。「具体的な対応を準備・検討中」は10.6%だった。日商は「就業規則や労働環境の整備も必要で、コロナ禍で対応が遅れた面もあるのでは」(産業政策第二部)とみている。必要な対応を講じている企業の具体策(複数回答)は、70歳までの継続雇用制度の導入(65.8%)、定年制の廃止(20.2%)の順に多かった。「対象の社員がいない」「対象の社員はいるが、努力義務である」ことを理由に「対応予定はない」と答えた企業も計24.9%にのぼった。「専門職の技術者の再雇用には同一労働同一賃金の対応が課題で、なかなか検討が進まない」との声もあったという。日商は30日、4月から中小企業に適用された「同一労働同一賃金」への対応について、適用直前の2月に実施した調査結果も発表した。回答のあった全国の中小企業約3千社のうち、「対象になりそうな非正規社員がいる」のは445社。このうち「対応のめどがついている」のは56.2%にとどまった。昨年2~3月の前回調査より9.5ポイント増えたが、対応が遅れている企業も多い。 *2-2-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/747686/ (西日本新聞社説 2021/6/1) 高齢医療負担増 公平で持続可能な制度に 急速に進む社会の高齢化に対応するため、全ての世代に公平で、持続可能な医療保険制度の構築を急がねばならない。75歳以上の後期高齢者で一定収入がある人を対象に、医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案の参院審議が大詰めを迎えている。今国会で成立の見通しだ。年収が単身で200万円、夫婦世帯で計320万円以上の約370万人に、2022年度後半から新たな負担が加わる。現役世代並みの所得がある人は既に3割負担になっている。年収には年金も含まれ、負担増は後期高齢者の約2割に当たる。改革の眼目は現役世代の負担軽減だ。後期高齢者の医療費のうち自己負担分を除く約4割は現役世代の保険料から支援金という形で賄われている。本年度は総額6兆8千億円(1人当たり6万4千円)に上る。このままでは団塊の世代が全て後期高齢者となる25年度の支援金は8兆1千億円(同8万円)に達すると厚生労働省は試算する。法案審議でも現役世代の負担軽減に異論はなく、論点は対象の線引きと受診控えによる健康悪化の懸念にほぼ絞られた。厚労省の試算は負担引き上げに伴う受診減を織り込み、75歳以上の医療費が年約900億円減少するとみる。一方、実際の負担については、当初の3年間は外来受診の負担増を月3千円以内に抑える経過措置を設けるほか、高額療養費制度の活用でも軽減を図れるとしている。医療費の膨張を考えると、本来必要がない受診の抑制は重要だ。ただし、本当に必要な受診を我慢した結果、健康が悪化してしまうことがあってはならない。政府の説明は「受診行動の変化のみで健康への影響を分析するのは困難」と繰り返すばかりで、不安は拭い切れない。高齢者側にとって、所得は同程度でも貯蓄の有無や必要な支出の多寡などで経済事情はさまざまだろう。所得ごとの受診記録などを基に健康の悪化につながっていないか、検証を続けることが必要だ。現在3割弱にとどまる健康診断受診率を高めるといった疾病を早期に発見する環境整備も求められる。今回の改革でも、現役世代の負担軽減効果は25年度で1人当たり800円程度にすぎない。法案の付則には、速やかに社会保障制度改革と少子化対策の総合的な検討に着手するよう書き込まれた。大きな宿題だ。後期高齢者医療制度の導入から既に13年になる。来年から団塊の世代が75歳に達し始めることは自明の理だったはずだ。必要な負担を国民に説くことは政治の責務である。改革本丸の先送りはもう許されない。 *2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210607&ng=DGKKZO72637810W1A600C2PE8000 (日経新聞社説 2021.6.7) 高齢者医療の見直し続けよ 75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人の医療費窓口負担を2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立した。政府はこの改正が現役世代の負担増を抑える小さな一歩にすぎないことを認識し、さらなる改革を急ぐべきだ。75歳以上の窓口負担は原則1割だが、今回の改正で単身世帯で年収が200万円以上、夫婦とも75歳以上の世帯では年収が320万円以上あると2割に上がる。約1870万人いる後期高齢者の2割が対象となる。実施日は2022年10月から23年3月までの間で政令で今後定められる。ただ現役世代が背負う荷を軽くする効果はごくわずかだ。後期高齢者の医療費を支えるために、現役世代は20年度に1人あたり6万3000円の支援金を労使で支払った。少子高齢化の進展で10年で1.4倍に増えている。25年度時点では1人あたり7万9700円まで増える見込みで、今改正の抑制効果は年800円程度しかない。新型コロナウイルス禍を理由に法改正を見送らなかったことは評価できるが、これで改革を打ち止めにしては困る。まずは2割負担の対象をもっと拡大し、これを原則とすべきだ。今回の改正だけでは、2割以上を負担する後期高齢者は、現役世代並みの所得があって3割負担になっている約7%の人を含めても全体の約27%にとどまる。22~25年には「団塊の世代」が75歳以上に到達し、現役世代の荷はさらに重くなる。高齢者を一律に弱者と位置づけて手厚く支える従来型の社会保障制度でこの難所を乗り切ることはできない。窓口負担は年齢と所得で線引きしているが、今後は資産に着目した制度設計が不可欠だ。高齢者のなかには所得は少なくても金融資産を持っている人もいる。収入・資産状況を把握するマイナンバーを使った改革を急ぐべきだ。若くても生活に困っている人は支えなければならない。年齢に関係なく、余裕がある人は支える側に回る制度にしたほうがいい。 *2-2-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1334324.html (琉球新報社説 2021年6月7日) 75歳医療費2割負担 社会保障の在り方改革を 一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、参院本会議で成立した。人口の多い団塊の世代が2022年から75歳以上になり始め医療費が急増するため、高齢者に手厚い給付を見直し財源を賄う現役世代の保険料負担を抑える狙いがある。しかし、現役世代の負担軽減効果は限定的だ。逆に高齢者への負担増によって経済的理由から受診控えを招き、健康を損なうことになりかねない。小手先の見直しでなく、社会保障制度の在り方について、徹底的に論議する時期に来ている。21年度の75歳以上の医療費総額は18兆円(予算ベース)で、うち6兆8千億円を現役世代が「支援金」という形で負担している。22年度に高齢者の負担引き上げを1年間実施したと仮定すると、現役世代の支援金は720億円抑制されるが、1人当たりでは年700円、企業負担分を除くと月額約30円にすぎない。一方、2割負担の対象は、単身では年金を含む年収が200万円以上の人か、夫婦の場合は年収が合計320万円以上の世帯の約370万人。都道府県別にみると、沖縄県は15・2%が2割負担の対象になる。厚生労働省の試算によると、3年間の緩和措置を講じても窓口負担の年間平均額が約8万3千円から約10万9千円となり、2万6千円増える見込みだ。負担増による受診控えなどの影響について田村憲久厚労相は「受診行動はさまざまな要因で変わる。分析できない」と述べ、調査予定はないと国会答弁した。想定される影響を試算せず、所得基準を設定して負担増を求めるやり方は不誠実だ。実施後に受診控えの影響を調査すべきだ。日本福祉大の二木立名誉教授(医療経済・政策学)は「能力に応じて負担する考え方は保険料を徴収する時に用いるべきで、医療が必要となった段階では所得にかかわらず平等に給付を受けるのが社会保険の原則だ」と指摘し2割引き上げを批判している。それでは、どういう解決策があるのか。立憲民主党は、2割枠を新設せず窓口負担を原則1割のままとし、代わりに75歳以上の高所得者の保険料上限を引き上げることで、政府案と同等の財政効果を得られると主張する。負担能力を判断する「収入」に、貯金などの金融資産を含める意見もある。しかし、稼働所得が少ない高齢者に負担増を求めるのは極力避けなければならない。高齢化がピークに近づく40年に向け、抜本的な社会保障制度改革は避けて通れない。保険料や税の負担の在り方を議論する必要がある。同時に、結婚したくてもできない若者の貧困解消、子育てしやすい労働環境の改善、先進国の中で最低水準の教育支出の増額など少子化対策に一層力を入れなければならない。 *2-3:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66966?pno=2&site=nli (ニッセイ基礎研究所 2021年2月16日) 2019年における65歳時点での“健康余命”は延伸~余命との差は短縮傾向、保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子 (1)65歳時点の健康余命も延伸 1)65歳の男性/女性の健康余命は14.43/16.71年 現在、一般的に使われている「健康寿命」は厚生労働省の基準によるもので、“健康”とは、「健康上の問題で日常生活に影響がない」ことを言う1。「日常生活」とは、たとえば「日常生活の動作(起床、衣服着脱、食事、入浴など)」、「外出(時間や作業量などが制限される)」、「仕事、家事、学業(時間や作業量などが制限される)」、「運動(スポーツを含む)」等、幅広い。この定義による2019年の健康寿命は、前稿2で示したとおり男性/女性それぞれ72.68/75.38年だった(筆者による概算)。65歳以上の各年齢の健康余命は、65歳時点で14.43/16.71年、75歳時点で7.96/9.24年だった(図表1)。平均余命は、65歳時点で19.83/24.63年なので、余命から健康余命を差し引いて、不健康な期間は男女それぞれ5.40/7.92年となる計算だ。「65歳時点の余命」は「寿命 – 年齢(65)」より長い。これは、平均寿命(=0歳児の余命)が65歳未満で亡くなる人の寿命を含んだ平均であるのに対し、65歳の平均余命は65歳まで生きた人のみで計算した余命だからだ。では、「65歳時点の健康余命」は?というと、やはり「健康寿命-年齢(65))」ではない。これは、健康寿命(=0歳児の健康余命)が65歳未満の不健康な期間も差し引いて計算しているのに対し、65歳の平均健康余命は65歳以降の不健康な期間のみを差し引いているからだ。 2)65歳の健康余命は延伸。平均余命との差は短縮の傾向 2001年以降の65歳時点の平均余命と健康余命の推移を見ると、いずれも延伸している(図表2)。その差は、調査年による差が大きいものの、平均余命と健康余命の差(65歳以上の不健康期間)は、男女ともどちらかと言えば縮小している。2019年は、2004年(15年前)と比べると、男女それぞれ平均余命は1.62年/1.35年、健康余命は96年/2.13年延びており、平均余命と健康余命の差は、それぞれ0.34年/0.78年短縮していた。 (2)健康上の問題で日常生活に影響がある割合は12年間で5ポイント程度低下 では、健康度状態はどの程度改善しているのだろうか。健康寿命の計算に使われているのは、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問である。2019 年の結果は、全体の13.4%(男性12.0%、女性14.6%)が「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答していた。65歳以上の健康上の問題で日常生活に影響がある割合を年齢階層別にみると、男女とも年齢が高いほど健康上の問題で日常生活への影響がある割合が高い(図表3)。この割合は、時系列でみると、男女とも各年齢層で低下しており、2007年と2019年を比較すると、70~84歳で男女ともそれぞれ日常生活に影響がある割合は5ポイント程度低下している。こういった健康状態の改善が、平均余命の延伸を上回る健康余命の延伸につながっている。 (3)国全体では改善傾向。加齢や健康上の問題があっても制限なく日常生活を送ることができる社会の構築も重要 「健康寿命」という言葉は、高齢期における健康や生活に不安を感じている中、広く使われるようになった。2019年の健康寿命は男女それぞれ72.68/75.38年、65歳時点での健康余命は14.43/16.71年であり、いずれも延伸している。健康上の問題で日常生活に影響がある割合が、近年減少していることから、65歳以上では余命の延伸を上回って健康余命が延伸している。こういった健康状態の改善は、喜ばしいことである。しかし、この計算は、もともとは都道府県による健康格差を縮小することを目的として、保健医療に関する取り組みの計画や評価のために行われた。したがって、ある集団において同様の条件で計算し、諸外国や都道府県、時系列で比較するのに適している。一方で、その集団を構成する個人の健康状態は様々な状況にある。概算結果を、個人の生涯設計に適用するとすれば、寿命も健康寿命も「寿命 ‐ 年齢」よりも「ある年齢における余命」の方が長い傾向があること、および、今後、各種健康政策によって健康寿命を延伸したとしても日常生活に影響がある期間は一定期間生じるということだろう。65歳まで生きている人は、平均寿命より長生きすることが予想されるため、平均寿命を目安に老後の生活のための資産形成をするのでは不十分である可能性がある。また、健康上の問題で日常生活に影響がない期間も、健康寿命より長いことが予想される。また、国の政策としては、健康状態の改善と同時に、加齢や健康上の問題があっても、なるべく自立して日常生活を送ることができる社会を構築することも、重要となるだろう。 <外国人差別> *3-1:https://mainichi.jp/articles/20210519/ddm/005/070/039000c (毎日新聞社説 2021/5/19) 入管法の改正見送り 人権重視の制度が必要だ 非正規滞在となった外国人の帰国を徹底させる入管法改正案について、政府・与党が今国会での成立を断念した。各種世論調査で菅内閣の支持率が下がる中、採決を強行するのは困難だと判断した。廃案となる見通しだ。当然の対応である。改正案には人権上の問題が多く、国内外から批判の声が上がっていた。政府は、国外退去処分を受けた人が帰国を拒み、入管施設に長期間収容される状況の解消が法改正の目的だと説明していた。しかし、難民認定申請を事実上2回までに制限し、退去命令に従わない際の罰則を設ける内容だ。帰国できない事情がある人への配慮に欠けていた。政府は、国際水準に沿った形で入管法の改正案をつくり直す必要がある。日本の入管制度には、問題点が多い。昨年6月末時点で入管施設に527人が収容され、うち232人は半年以上が経過している。収容は入管当局だけで決められる。期間の制限もなく、国連の人権部門などが繰り返し懸念を表明してきた。金銭的に困窮したり、労働環境が劣悪だったりして在留資格を失うケースもある。非正規滞在になっても一定の条件の下、社会で生活できる仕組みが欠かせない。世界的に見て厳しい難民認定も見直すべきだ。審査基準が明確に示されていないことが問題だ。野党は、難民認定の権限を法相から独立組織に移し、収容に裁判所の許可を義務づける対案を出していた。参考にすべきだろう。国会審議では、名古屋市の入管施設に半年あまり収容されていたスリランカ人女性が死亡した経緯が問題視された。施設内で体調が悪化したにもかかわらず、必要な医療を受けられなかった疑いが出ている。入管当局の対応が適切だったかどうか検証することは、入管制度を考えるうえで重要だ。政府には真相を解明する責任がある。非正規滞在者が生まれる背景には、外国人を労働力の調整弁として受け入れてきた政策がある。人権を尊重した抜本的な制度改正が求められる。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210603&ng=DGKKZO72533050T00C21A6EA1000+ (日経新聞 2021.6.3) 難民受け入れ、なお慎重 「入管法改正案」成立を断念、送還強化に海外から懸念 政府・与党は出入国管理法改正案の今国会での成立を断念した。現行法では、来日した外国人が難民としての認定を日本政府に申請している間は強制送還ができない。結果的に施設収容が長期化しているとして、改正案は繰り返し申請する人を送還可能にする規定を盛り込んだが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などは懸念を示していた。難民申請者らは安堵するものの、認定率が低い「難民鎖国」を脱する道筋は依然見えない。5月18日、政府が改正案を取り下げたと聞き、埼玉県川口市在住のトルコ国籍のクルド人男性(23)は「よかった」と目を潤ませた。9歳で家族と来日し、4回目の難民申請中。改正案が成立すれば送還の恐れがあった。就労は許されず、県外に出るにも入管の許可が必要だ。「それでも日本に残りたい。クルド人が迫害されるトルコに戻ればどんな目に遭うか分からない」と訴える。 ●一時2万人申請 難民申請中は強制送還されない現行制度について、改正案は3回目以上の申請なら効力を停止できるとの見直しを予定していた。出入国在留管理庁には、申請が乱用されているとの思いがある。申請から6カ月後に一律に就労を認める運用を始めた2010年に約1200人だったのが17年には2万人近くに達した。一方、運用を厳格化すると18年は半減。同庁は「退去回避や就労目的が相当数含まれていたことを示す」と主張する。ただ送還の強化で、本来保護すべき外国人を危険にさらす恐れもある。「非常に重大な懸念を生じさせる」。UNHCRは4月、改正案に強い表現で警鐘を鳴らした。生命や自由が脅かされかねない人の入国拒否や追放を禁止する国際法上の「ノン・ルフールマン原則」を損なうリスクがあるとの主張だ。弁護士らが「監理人」となり、その監督下で入管施設外で生活できる「監理措置」の新設にも批判が相次いだ。300万円以下の保証金支払いを条件に認める仕組みだが、逃亡の恐れがある場合などに監理人が入管側に届け出る義務を課しており、日本弁護士連合会などが「弁護士として依頼者の秘密を守る義務と両立しない」と反対した。日本は難民受け入れに後ろ向きだとして批判されてきた。NPO法人「難民支援協会」(東京)がUNHCRや法務省のデータに基づき作成した資料では、19年に日本で難民認定を受けたのは44人で認定率は0.4%。ドイツ(約5万3千人、25.9%)、米国(約4万4千人、29.6%)などと大きな開きがある。元UNHCR駐日代表の滝澤三郎・東洋英和女学院大名誉教授は「日本では難民に否定的なイメージが強く、政治家も難民問題に消極的だ」と話す。国は認定基準を厳格に運用してきた。中東やアフリカの紛争地から遠く現地の政治情勢などの情報が乏しいことも背景にあると滝澤氏はいう。 ●企業に活躍の場 一方で、紛争や差別、迫害から逃れてきた人を活用する動きもある。 ヤマハ発動機に、アフリカと日本を行き来する西アフリカ出身の30代の男性社員がいる。政治的迫害から逃れるため来日。難民認定を申請中だった19年に、中国留学中の起業経験などが評価され嘱託社員として採用された。今は別の在留資格に切り替えアフリカでの新規事業を担う。「文化や国民性の違いを越えてチームを束ねられる」。同社の白石章二フェローは高く評価する。男性と同社を仲介したNPO法人「WELgee」(東京)によると、16年の設立以来関わった難民申請者ら170人の53%が大学・大学院卒。医師や弁護士の経験者もいる。担当者は「日本企業のグローバル展開に貢献できる人材は少なくない」と説明する。出入国在留管理庁は法改正と別に、海外事例やUNHCRの立場を参考に難民認定のあり方を見直す方針だったが、送還強化を先行しようとし「排除より認定基準を変えるのが先だ」(難民申請に詳しい渡辺彰悟弁護士)と反発を受けた。難民政策の全体像を巡る議論は仕切り直しとなる。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210502&ng=DGKKZO71562630R00C21A5EA1000 (日経新聞社説 2021.5.2) アジア系差別は看過できない 米国でアジア系の人々を標的にしたヘイトクライム(人種差別によって起きる犯罪)が目立っている。新型コロナウイルスが中国から広がったことへの反感がきっかけだが、現地の日本人まで事件に巻き込まれており、海の向こうの話では済まされない。差別解消に向けて、日本から、もっと声を上げるべきだ。3月にジョージア州であったマッサージ店銃撃事件では、アジア系女性6人が亡くなった。米世論調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、コロナ感染が広がった昨年初め以降、アジア系住民の81%が危害を加えられる機会が増えたと感じているという。中国からの移民への差別は前からあったが、コロナに加え、米中関係の悪化も影響し、あつれきに拍車がかかった。多くの米国民には中国人も韓国人も日本人も同じに見えるため、出自が中国でないアジア系移民まで襲撃対象にされている。在米邦人を守る最良の方法は「よく見分けてくれ」ではなく、「ヘイトクライムはよくない」と広く自制を促すことだ。移民問題でよく話題になるヒスパニック(中南米系)の米国流入はこの20年間で70%増えた。実はアジア系は81%伸びている。米国民の中国嫌いを放置すれば、いずれアジア系全般への敵対心を助長しかねない。これは、外交・安全保障政策において、中国に毅然と対峙するのと別の話である。4月の日米首脳会談で、菅義偉首相がバイデン大統領にアジア系差別への懸念を伝えたことは評価できる。内政干渉と受け止められるのではないかと心配する声があったそうだが、菅首相は共同記者会見で「人種による差別はいかなる社会でも許容されないとの認識を共有した」と明言した。米国にもの申したからには、日本における人種差別にも厳しい目を向ける必要がある。すべての人が暮らしやすい世界をつくる一翼を担う気概を持って取り組んでもらいたい。 <雇用形態> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/679481 (佐賀新聞論説 2021年5月21日) 同一労働同一賃金 正社員と非正規社員との間にある不合理な格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」のルールが、4月から中小企業にも適用された。新型コロナウイルスの感染拡大の影響は企業経営に暗い影を落としており、中小企業の対応は決して万全とは言えないのが現状だ。日本商工会議所が2月に全国の中小企業約6千社を対象に実施した調査では、同一労働同一賃金について「対応のめどがついている」としたのは56・2%。前年同期に比べ9・5ポイント上昇したものの、4割強の企業がルール適用開始直前の時期に対応の見通しが立っていないとした。制度は不合理な格差の解消を求めているが、「不合理ではない」と具体的に説明できれば待遇差が認められる。ここに対応の難しさがある。厚生労働省が示すガイドラインは、通勤手当や出張旅費、慶弔休暇などでは正社員と同一の対応を求めている。一方で基本給では、能力や経験、業績・成果、勤続年数に応じて支給する場合は同一の支給を求めているが、「一定の違いがあった場合、その相違に応じた支給」を求める。こうした記述は賞与などでも見られ、あいまいな表現が目につく。さらに昨年10月には、非正規労働者と正社員の待遇格差を巡る訴訟で、最高裁が賞与と退職金などについて格差を認める判断を示しており、こうした事情も関係者を戸惑わせている。企業からは「何が不合理な待遇格差に当たるのか分からない」との声も聞こえる。厚労省は「働き方改革推進支援センター」を各地に設けて企業の相談に対応しており、県内にも佐賀市に設置されている。さらに、佐賀労働局では、昨年6月から同一労働同一賃金特別相談窓口を開設しており、本年度も継続している。相談窓口では、企業が対応の見通しを立てやすいよう細やかで具体的な助言、指導が必要だ。一方、企業側にも人事、賃金、福利厚生など各種制度の見直しへの本気度が問い掛けられている。そもそも同一労働同一賃金は働き方改革の看板政策と位置づけられ、労働人口が減少する中、労働生産性の向上と労働者の生活の質向上を両立させる狙いがある。2019年の日本の時間当たりの労働生産性は47・9ドルと経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中21位で、先進7カ国では最下位。低い労働生産性の要因の一つとして挙げられるのが、「メンバーシップ型」と呼ばれる日本特有の雇用形態だ。職務を限定せずジョブローテーションを繰り返しながら企業に貢献する人材を育成する。年功序列型賃金、終身雇用もこの特徴だ。報酬が勤続年数や労働時間に依存する側面がある、専門性が高い人材が育ちにくい、などの課題が指摘される。労働生産性向上の手だての一つとして注目されているのが、欧米型の「ジョブ型」雇用だ。正社員か非正規かにかかわらず、職務ごとに賃金を規定するスタイルで、メンバーシップ型を「就社」とするなら、業務内容に人を当てはめるジョブ型は「就職」といえる。「ジョブ型」は欧米でも各国で形態が異なるとされる。企業が今抱える課題を踏まえた上で、どのような形態が適しているのか。検討を重ねながら、改善への歩みを着実に進めたい。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210609&ng=DGKKZO72695450Y1A600C2TCR000 (日経新聞 2021.6.9) 「無期転換」より正社員改革を 上級論説委員 水野裕司 労働法の目的は、企業との力関係で弱い立場にある個人を保護することだ。賃金や労働時間など労働条件の決定を企業と個人の自由な交渉にゆだねた場合に、個人は不利な条件を強いられることがある。そこに歯止めをかけるのが労働法の役割だ。労働基準法は残業の制限や時間外労働への割増賃金などの規定を設ける。最低賃金法はこの額は下回れないという賃金の基準を定める。働き手が健康を維持し、生活していけるだけの収入を得られるよう、労働条件決定に程度の差はあれ干渉する側面が労働法にはある。そのなかで介入の度合いの強さが際立つのが、2013年4月施行の改正労働契約法で新設された「無期転換ルール」だ。パート、派遣などの有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新された場合、本人が希望すれば期間の定めのない無期雇用契約に切り替えられるようになった。有期から無期へという労働契約の枠組み自体を変更する権利を、一定の条件のもとで有期契約労働者に与えた点が特徴だ。契約の内容は当事者の自由な意思で決まり、国家は干渉しないという「契約自由の原則」を、正面から修正したものといえる。改正労契法には成立時、施行から8年後に無期転換ルールの利用状況を踏まえて必要な措置を講じるとの規定がおかれた。厚生労働省は今年3月、学識者による検討会を設置。有期労働者への周知や無期転換を申し込む機会の確保など、ルールの普及策を今秋以降まとめる予定だ。気になるのは、企業からみれば強引に無期契約の締結を迫られることの影響だ。労働政策研究・研修機構が企業に無期転換ルールへの対応を聞いたところ、通算5年を超える前も含め、何らかの形で無期契約に切り替えるという企業が6割を占めた。一方、契約更新の回数に上限を設けるなどで、「5年を超えないよう運用」という企業も1割近くあった。無期契約は昇給制度を必ずしもつくる必要がないが、正社員と同様に長期雇用なので人件費が重荷になり得る。人手不足を背景に無期契約に抵抗のない企業が多い半面、コスト増を嫌い、契約更新しない「雇い止め」を辞さない企業もあるのが実態だ。雇用を不安定にする要因になる。無期転換した人材の活用が壁にぶつかる例もある。「特定の仕事には力を発揮するが、配置換えをすると能力不足を感じることが多い」(建設会社)。有期のときと違い、長期雇用が前提になれば職務の柔軟な変更も珍しくなくなる。雇用する側もされる側も負担になる可能性がある。有期労働者は契約更新が企業の裁量による面があり、労働条件の交渉力がとりわけ弱い。その不安定な立場を改善するという無期転換ルールの考え方自体は理解できる。だが、負の影響が少なくないなかでルールの普及を図ることに無理はないのか。無期転換ルールは企業の「採用の自由」の制限にあたる。労働市場の需給調整機能もゆがめる。有期契約で雇用しようと考えている企業を萎縮させることは大きな問題だ。有期労働者の不安定な状況を改善するには、その根本原因に目を向ける必要がある。長期の雇用保障や年功賃金で正社員が手厚く保護され、コスト抑制策として非正規雇用が活用されている構造だ。企業は正社員に転勤や職種転換などを命令できる半面、採用後は解雇が厳しく制限される。正社員の雇用や賃金を雇われて働く人全体の4割近い非正規従業員が支えている。正規・非正規の格差是正には世界でも特殊な正社員システムの改革が不可欠だ。現実には長期雇用は縮小する方向にある。デジタル化の進展で企業はイノベーション力のある人材を外部からも集めなければならない。人材の新陳代謝が求められる。金銭補償とセットにした解雇規制の緩和や転職支援などの政策で、雇用の流動化を推し進めるときに来ている。無期転換ルールも特権的な正社員のあり方も、行き過ぎた労働者保護という点が共通する。日本の労働法制の問題点を象徴している。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71581610U1A500C2CC1000 (日経新聞 2021.5.5) 職歴尊重の判決 「ジョブ型」映す、高裁、専門外への配転「無効」 一般職種も保護の流れ 運送会社で運行管理などを任されていた社員に倉庫勤務を命じた人事異動を無効とする司法判断が注目されている。名古屋高裁が1月、保護するキャリアの対象を高度なIT技術者や医師など専門職から一般的な職務にまで広げた。労働者が積み重ねた職歴と本人の意向を重視した雇用のあり方を後押しするのではないか――。働く人々の期待は大きい。「職種=事務職員(運行管理業務)、職務内容=事務所内での配車など」。東海地方に住む50代の男性は2015年、ハローワークで愛知県内の運送会社の求人を見つけて応募した。男性は「運行管理者」の国家資格を持ち、運転手への乗務の割り振りや疲労度を把握するといった経験を複数の会社で重ねていた。採用面接の際、以前の勤務先を辞めた理由について「運行管理などをしたかったが、夜間の点呼業務に異動させられたから」と説明すると、会社側は「夜間点呼への異動はない」と応じ、男性を採用した。入社後は運行管理や配車を任され、3カ月もたたない16年1月、運行管理者の統括役に任命された。しかし、程なくして「配車方法に偏りがある」という運転手の苦情や高速道路料金の増加などを会社側が問題視するようになる。男性は17年5月、「業務の必要により社員の配置転換を行う」との就業規則に基づき倉庫部門の勤務を命じられた。納得できない男性は「採用時に職種を限る合意があった」として会社を提訴。会社側は訴訟で「職種を限る合意はなかった」とした上で「会社が業界で生き残るために拡大していた倉庫業務の新たな担当者として適性を検討した結果だった」と合理性を主張した。意に沿わない配置転換は多くの働き手にとって避けては通れない。配転命令の合理性については、最高裁が1986年の判決で▽業務上の必要性▽動機や目的の正当性▽労働者が被る著しい不利益――といった判断枠組みを示している。19年11月の一審・名古屋地裁判決は、職種を限定する合意はなかったとしながらも、配転先の業務内容は「運行管理者として培ってきた能力や経験が生かせるという(男性側の)期待に大きく反する」と指摘。業務上の必要性が高かったとは言えず、不慣れな肉体労働を命じられる可能性なども踏まえて「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせた」として配転命令を無効と認めた。二審・名古屋高裁判決も一審判決を支持し「能力や経験を生かせない業務に漫然と配転した。権利の乱用に当たる」と言及。会社側は上告を見送り、判決は確定した。培ったキャリアなどを考慮して配転無効を認める司法判断は、ここ10年ほどで広がってきた。大手企業から転職しプロジェクトリーダーを務めた後に倉庫係への配転を命じられたIT技術者や、外科医が臨床の現場から外された例がある。ただ、これまで法的保護の対象は高度な技能を持った労働者に限られており、名古屋高裁判決は、より一般的な業務も保護すべきキャリアと明確に判断した。この間、人口減少を前提に、限られた人材でいかに成長力を高めていくか、雇用を巡る企業の模索が続いてきた。経団連は20年の春季労使交渉で、職務と職責を明示する「ジョブ型雇用」を高度人材の確保に「効果的な手法」だと指摘。今年1月に公表した調査では、回答した会員企業の25.2%が、正社員に職務・仕事別の雇用区分を設け、このうち35%がジョブ型を導入していた。東京大の水町勇一郎教授(労働法)は「判決はジョブ型雇用など専門性を生かした働き方が浸透する社会情勢を反映している」と評価する。「法的に保護される可能性がある労働者の幅を大きく広げたといえ、個人のキャリア形成の意向を尊重する流れが加速しそうだ」と話している。 <不合理な政策が通る理由は何か> *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP6K3VS4P6KULFA00W.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年6月17日) 「ワクチン証明書」を発行へ 7月から、交付は市区町村 加藤勝信官房長官は17日の閣議後会見で、新型コロナウイルスワクチンの接種を公的に証明する「ワクチン証明書」の発行を7月中下旬から始める方針を明らかにした。当面は、日本からの海外渡航者向けに発行するという。加藤氏は「予防接種法に基づくワクチン接種を実施し、記録を管理している市区町村において、発行していただく」と説明。そのうえで「まずは書面での交付とし、電子での交付も見据えて検討を進める」と述べ、早ければ来週にも自治体に対しての説明を始める考えを示した。政府は、加藤氏のもとに検討組織を設置していた。海外で入国時にワクチン接種の証明を求める動きがあることを踏まえたもので、ワクチン接種の有無による国内での差別を防ぐため、証明書は海外との往来を主な目的とする方針。 *5-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210616-OYT1T50211/ (読売新聞 2021/6/16) 「まん延防止」解除後、イベント制限を「1万人以下」に緩和へ…五輪観客数に適用も 政府は16日、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」を解除した地域で、大規模イベントの参加人数制限を段階的に緩和する方針を固めた。これまで「5000人以下」としていた基準を「1万人以下」とする考えだ。宣言と重点措置の対象地域では、イベントの参加人数は「5000人以下」かつ「収容定員の50%以内」に限られている。今回の緩和は、宣言や重点措置を解除した日から約1か月間の「経過措置」となる予定だ。その後、問題がなければ、さらに人数制限を緩和する見通し。一方、宣言から重点措置に移行した地域では、これまで通り「5000人以下」の制限を続ける。政府は16日、専門家でつくる新型コロナ対策分科会に緩和基準案を示し、了承を得た。会合後、西村経済再生相は記者団に「東京五輪・パラリンピックの観客の上限のあり方を決めたわけではない」と述べた。ただ、7月23日に開幕する東京五輪の観客数上限にも適用される見通しだ。 *5-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14941581.html (朝日新聞 2021年6月17日) 子どもへ「個別接種が望ましい」 説明・健康観察「入念に」 小児科学会など コロナワクチン 子どもに対する新型コロナウイルスのワクチン接種について、日本小児科学会は16日、保護者や子ども本人に丁寧な対応が必要だとして、「できれば(かかりつけ医による)個別接種が望ましい」との見解を発表した。感染予防策としてワクチン接種は「意義がある」としたうえで、副反応の説明や接種前後の健康観察を入念にするように求めている。学会の見解ではほかに、子どもに関わる仕事をしている人へのワクチン接種を終えることが重要だと指摘。基礎疾患がある子どもは、健康状態をよく把握している主治医との相談が望ましいとした。海外では、接種後の10代がごくまれに心臓の筋肉が炎症を起こす心筋炎や心膜炎を起こした例が報告されている。理事の森内浩幸・長崎大教授は「世界でも10代への接種は始まったばかり。データを継続的に集め解析したい」と話した。日本小児科医会も同日、同様の提言を発表した。集団接種、個別接種でそれぞれ配慮すべき点を挙げ、神川晃会長は、「痛みや発熱、だるさなどの反応は高齢者に比べ若い人に出やすい。接種時の緊張も含めてワクチンの成分とは関係の薄い、年齢特有の反応もある」と指摘した。また、個人の意思や健康上の理由から接種をしない子どもが差別を受けないように配慮すべきだとしている。当初16歳以上とされたファイザー製のワクチンの接種対象は、6月から12~15歳へも広がっている。高齢者らへの接種が進んだ一部の自治体では、子どもに対する接種券の配布など、手続きが始まっている。 *5-1-4:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-06-16/QUSDK0T1UM1301 (Bloomberg 2021年6月16日) 東京五輪のGPS使った行動管理、外国メディアが非難-撤回を要求 ●「プライバシーの完全な無視」-国際ジャーナリスト連盟 ●安全を維持するための別の方法を議論するよう促す 東京五輪・パラリンピックに合わせて来日する外国メディアの行動をスマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)機能を使って管理する大会組織委員会の方針に、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が強く反発している。NHKによると、組織委の橋本聖子会長は先週、来日する外国メディアについて入国後14日間を念頭に厳格に行動管理をすると言明。菅義偉首相は、新型コロナウイルス対策のルールに違反した外国人記者を国外退去とすることも検討すると5月に述べていた。これに対し世界中のジャーナリスト60万人を代表するIFJは発表文で、「プライバシーの完全な無視」だとして組織委を非難。この規則を撤回し、安全を維持するための別の方法を議論するよう促した。IFJは「このような予防措置の導入はジャーナリストのプライバシー権を否定し、報道の自由を制限するものだ」と主張するとともに、この制約が課せられるのは来日するメディアに対してだけで、日本のメディアには適用されない点も指摘した。15日には組織委と国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)が選手および関係者向けの新型コロナウイルス対策指針をまとめた「プレーブック」の最新版を発表し、ルールに従わない場合の罰則なども打ち出した。ただ、メディア向けのガイドラインはまだ示されていない。 *5-1-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14940351.html?iref=mor_articlelink02 (朝日新聞 2021年6月16日)職域接種、工夫する経済界 コロナワクチン 航空会社などが前倒しで始めた新型コロナウイルスワクチンの職域接種をめぐり、15日も経済界の動きが続いた。地域の医療従事者への接種から始めたソフトバンクグループが、2回打ち終えればプロ野球の主催試合を半額で観戦OKにする方針を示すなど、自社以外にも接種を広げようとする取り組みも増えている。 ■接種者、半額でプロ野球観戦OK ソフトバンク ソフトバンクグループは15日、東京都内に大規模接種会場を立ち上げ、首都圏の医療従事者への接種を始めた。その会場で孫正義会長兼社長は、職域接種などを含めてワクチンの接種を2回終えて2週間以上たった人は、福岡ソフトバンクホークスの試合を半額で観戦できるようにする計画を明らかにした。若い世代の接種率を高めるきっかけをつくり、経済活動の正常化につなげる狙いだ。同社は詳細は今後詰めるとしている。孫氏は今回の取り組みを機に、他社にも若者の接種を後押しする取り組みが広がることに期待を示した。職域接種の会場は全国15カ所に設け、1日1万人が接種できる体制を整える方針。対象人数は従来の計画より5万人多い15万人に広げ、地域住民10万人も受け入れるという。人数は、さらに追加で増やすことも検討する。 ■ノウハウを系列企業に提供 トヨタ自動車 伊藤忠商事の東京本社には15日、職域接種に使うワクチン1200回分が到着し、本社内に設置された冷凍庫に保管された。同社は21日から、東京と大阪の両本社で接種を始める予定。事業所内保育所の委託先「ポピンズ」の保育士約1500人も含め、約7500人への接種を見込む。接種会場の様子は22日以降、見学希望の企業に公開して参考にしてもらう予定という。ワクチン到着を見守った岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は「多くの人に接種し、早く明るい世の中にしたい」と話した。トヨタ自動車は15日、仕入れ先企業を含めた約8万人を対象に、21日から職域接種を始めることを明らかにした。ピーク時は一日8千人以上に接種し、9月10日までに2回の接種を終える計画。トヨタは車づくりで培った「トヨタ生産方式」を活用して、地元自治体の接種の効率を高めるサポートもしてきた。その成果を職域接種にも生かし、系列企業にもノウハウを提供するという。 ■中小企業対象に集団接種へ 経済同友会 経済同友会は15日、貸会議室大手のティーケーピー(TKP)の協力を得て、会員の所属企業の従業員と家族を対象に、21日から集団での職域接種を始めると発表した。スタートアップなど、従業員1千人未満の企業が対象。まずは希望があった118社の約4万3千人を対象に順次、接種を始める。政府が職域接種の目安とする従業員1千人に満たない、小規模の企業にも接種を広げる狙いだ。同友会の幹事を務めるTKPの河野貴輝(かわのたかてる)社長が、接種会場の無償提供を申し出た。河野氏は記者会見で「中小企業の方々への接種促進に貢献していきたい」と話した。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA03C310T00C21A6000000/?n_cid=NMAIL006_20210604_Y (日経新聞 2021年6月4日) 75歳以上医療費2割負担、関連法成立 年収200万円から 一定の所得がある75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が4日の参院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決、成立した。単身世帯は年金を含めて年収200万円以上、複数世帯では合計320万円以上が対象になる。高齢者に収入に応じた支払いを求めて現役世代の負担を抑制する狙いだが効果は限定的だ。現在、75歳以上の大半は窓口負担が1割だ。現役並みの所得(単身で年収383万円、複数世帯で520万円以上)の人は3割を負担するが全体の7%にすぎない。2割負担の層をつくり、3段階とする。2割負担となるのは75歳以上の約20%で約370万人が該当する。田村憲久厚生労働相は4日の閣議後の記者会見で「若い人々の負担の伸びを抑えていく目的だ。法律の趣旨、意図を国民に理解してもらいながら周知に努めたい」と述べた。導入時期は2022年10月から23年3月の間で、今後政令で定める。外来患者は導入から3年間、1カ月の負担増を3千円以内に抑える激変緩和措置もある。関連法では育児休業中に社会保険料を免除する対象を22年10月から広げることや、国民健康保険に加入する未就学児を対象に22年4月から保険料を軽減する措置も盛り込んだ。3日の参院厚生労働委員会では付帯決議も採択した。窓口負担の見直しが後期高齢者の受診に与える影響を把握すること、持続可能な医療保険制度に向けて税制も含めた総合的な議論に着手することなどを明記した。高齢者に負担増を求める背景には人口の多い団塊の世代が22年から75歳以上になり始めることがある。医療費の急増が見込まれ、政府の全世代型社会保障検討会議が20年12月、改革案をまとめた。後期高齢者医療制度の財源は窓口負担を除いて5割を公費で負担し、残り4割は現役世代からの支援金、1割を高齢者の保険料でまかなう。75歳以上の人口が増えて医療費が膨らめば現役世代の負担も重くなる。厚労省の試算によると21年度の支援金総額は6.8兆円で、現状のままだと22年度に7.1兆円、25年度に8.1兆円と急速に膨らむ。2割負担を導入しても支援金の軽減効果は25年度で830億円にとどまる。現役世代の負担を1人あたり年800円軽減するにすぎない。事業主との折半などもあり、本人の軽減効果は月30円程度と試算される。今後も給付と負担の議論は避けて通れない。 *5-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210605&ng=DGKKZO72615300U1A600C2M10800 (日経新聞 2021.6.5) 所得のみで区別、見直しを 一橋大学教授 小塩隆士氏 全世代型社会保障改革は支え手を増やし、年齢に関係なく能力のある人には負担してもらうという2本柱だ。後期高齢者医療制度の窓口2割負担導入はこれに沿っている。ただ、これだけで社会保障の抱える問題が解決できるわけではない。医療機関での窓口負担は所得のみで判断する。高齢者のなかには所得は少なくても金融資産を多く持っている人もいる。能力に応じた負担に向け、資産も合わせて判断するようにすべきだ。少子高齢化で医療費の伸びが続くなか、2割負担の人を限ったままでは別の方策が必要になる。例えば医療機関のネットワーク化を進めて効率化するなどが検討課題だ。負担引き上げの議論では、高齢者が受診を抑制して重症化し、医療費が膨らむという議論がある。今回の見直しで高齢者の受診行動が変化し、健康に影響を及ぼしたかデータを蓄積し、確認する必要がある。受診抑制の影響は深刻か限定的かはっきりしない。社会保障の支え手を増やすのに少子化対策は欠かせないが、大人になって財政面で貢献するのは時間がかかる。働く意欲のある高齢者の就労環境を整えていくべきだ。働く高齢者の年金を減らす「在職老齢年金制度」は65~69歳の減額基準を引き上げてはどうか。65歳から一律で支えられる側という区切りは非合理的だ。若くても生活に困っている人は支えないといけない。年齢に関係なく、余裕がある人は支える側に回るといった形にした方がいい。 <教育と人材> *6-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP5R4CQQP5KUTIL069.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2021年5月23日) 国立大受験生に「6教科8科目」案 「情報」を追加検討 2025年の大学入学共通テストから、国立大学の受験生には原則として「6教科8科目」を課す――。国立大学協会の入試委員会(委員長=岡正朗・山口大学長)が、そんな案の検討を進めていることがわかった。従来の「5教科7科目」に、プログラミングなどを学ぶ教科「情報」を上乗せする案だ。各国立大は大学入試センター試験時代の04年から、国語▽地歴・公民▽数学▽理科▽外国語の5教科から7科目を課すことを原則としてきた。これに情報を加えた6教科8科目を原則とすることが決まれば、21年ぶりの科目増となる。情報は03年度から高校で全員が必ず履修する教科となり、22年度の高1から導入される新学習指導要領では情報Ⅰと情報Ⅱの2科目に再編される。プログラミングなどを学ぶ情報Ⅰが必ず履修する科目で、データサイエンスの手法を使った分析も学ぶ発展的な情報Ⅱは選択科目となっている。政府は18年に公表した成長戦略のなかで「義務教育終了段階での高い理数能力を、文系・理系を問わず大学入学以降も伸ばしていけるよう、大学入学共通テストで基礎的な科目として情報Ⅰを追加する」との方向性を打ち出した。今年3月には、共通テストの問題作成を担う大学入試センターが、25年実施の共通テストから出題教科に情報を追加する方針を発表。出題範囲は情報Ⅰの内容とした。国大協入試委の議論は、こうした流れのなかでスタートした。一連の議論は非公開で行われており、関係者によると、共通テストで情報を使いたい大学も不要だとする大学も、それぞれ一定数あるという。今月18日のオンライン会議では、25年から6教科8科目にすることについて「生徒の学習環境がまだ整っていない」と反対する声も出た。だが、「国を挙げてデジタルと言っている時に入試に入れないのは違うという意見が多く、引き続き議論することになった」(関係者)という。国大協事務局は取材に「入試委の内容は非公開」と回答した。大学入試をめぐっては、「教科・科目の変更が大きな影響を及ぼす場合には、2年程度前には予告・公表する」という文部科学省の定めた「2年前ルール」がある。国大協入試委が「25年の共通テストから6教科8科目を原則とする」と決めた場合、各大学はそれを踏まえ、遅くとも22年度にはそれぞれの大学の方針を正式に決めることになりそうだ。 ●「『第三の失敗』にならないよう」 情報を教える態勢は地域によって差があり、各地で教員の確保が急務となっている。文科省が47都道府県と、高校を設置していない神奈川県相模原市を除く19政令指定都市を対象に実施した調査では、昨年5月1日時点で、情報担当教員5072人のうち2割以上の1233人が、情報免許状保有教員ではなく、校内の他教科の教員が1年以内に限り教えられる「免許外教科担任」や「臨時免許状」を持つ教員だった。これまで情報は、「情報の科学」「社会と情報」のうち1科目を必ず履修する形で、プログラミングを学ぶ「情報の科学」を選ぶ生徒は約2割だった。だが新指導要領のもとでは、全員が情報Ⅰでプログラミングを学ぶことになる。ある公立高校の教員は「いまのままだと教員が不足し、新指導要領の内容をきちんと教えることができない学校が出る恐れがある」と話す。それだけに、そもそも共通テストで情報Ⅰの内容を出題すること自体に慎重な検討を求める声も根強い。全国高等学校長協会は昨年11月、大学入試センターに「出題科目とするには解決すべき事項が多い」として「課題を解決した上での実施」を要望した。大学関係者の間でも意見は一様ではない。情報処理学会の理事で、情報教育に力を入れてきた中山泰一・電気通信大教授は「情報Ⅰは文理問わず身につけるべき内容。国立大はぜひ課すべきだ」。一方、国立大教員の一人は「学習環境が整わず地域間格差も大きい現状のまま、国立大受験生に課すのは難しい」と語る。大学入試をめぐっては近年、目玉改革が相次いで頓挫した。共通テストでの英語民間試験の活用が19年11月、受験生の住む地域や家庭の経済状況による格差の問題から見送りに。さらに共通テストの国語と数学での記述式導入も翌月、採点の質の確保などの課題が解消し切れず見送られ、受験生や高校を混乱させた。ある県立高校の教員は「6教科8科目への移行が『第3の失敗』にならないよう、受験生の立場に立って検討してほしい」と話す。 ◇ 〈教科「情報」〉2022年度の高1から適用される新学習指導要領では、プログラミングも行う情報Ⅰ(必ず全員が履修する科目)、発展的な情報Ⅱ(選択科目)に再編された。情報Ⅰは、「情報社会の問題解決」「コミュニケーションと情報デザイン」「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータの活用」の4領域からなる。すべての生徒がプログラミング、ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベース(データ活用)の基礎などを学ぶことになる。 【大学入学共通テストへの「情報」導入をめぐる主な動き】 2018年3月 文部科学省、22年度からの高校の新学習指導要領を告示。教科「情報」は 情報Ⅰと情報Ⅱの2科目に再編 6月 政府が「未来投資戦略2018」を公表。「大学入学共通テストで基礎的な科目 として情報Ⅰを追加」 2019年11月 共通テストでの英語民間試験の活用見送り 12月 共通テストの国語と数学での記述式問題導入も見送り 2020年4月 小学校でプログラミング教育開始 2021年1月 第1回共通テスト 3月 大学入試センター、25年の共通テストから情報を出題する方針を表明 2022年4月 高校の新学習指導要領スタート 2025年 新学習指導要領に基づく共通テスト実施(国立大受験生は6教科8科目受験が 原則に?) *6-1-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/745124/ (西日本新聞 2021/5/27) 全国学テ「結果」に追われる学校 「目的逸脱」事前準備が常態化 小学6年と中学3年を対象とした全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が27日に行われる。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年は中止されたため、2年ぶりの実施。導入から丸14年が経過し、テスト結果をより重視する学校もみられる。過去問を解くなど事前準備が常態化し、本来の調査目的から逸脱している状況も。研究者は「学力の一部しか測れないにもかかわらず、現場だけが結果責任を問われ、追い詰められている」と訴える。「事前練習は当たり前。目標点を掲げて達成を要求する校長もいる」。福岡県内の公立小に勤める30代の女性教員はため息をつく。勤務校では歴代の小6の得点から「弱点」を分析し、市販の教材で何度も事前練習する。前任校では過去問が使われていた。学校側が意識するのは、県教育委員会が各公立小中に作成を求める「学力向上プラン」。2017年度から全国学力テストの目標点を示した上で、課題の分析や授業の改善を促す。計画的な改善につなげるのが目的だが、女性教員は「とにかく結果を優先せざるを得ない状況になっている」。佐賀県内の公立小中では毎年、全教員参加の校内研修で自校の得点を分析し改善点を話し合う。50代の男性教員が勤める公立小では週3日、1時限前の20分間をドリルやプリント学習に充てる。男性教員は「子どもの朝の様子を観察し、ケアする時間も大切なのに」と釈然としない。学校現場が対策に追われる現状を踏まえ、全国学力テストの在り方に疑問を呈する研究者は少なくない。国の専門家委員会委員で、福岡教育大の川口俊明准教授は「そもそも目的と手法にずれがある」と強調する。国は(1)学校現場の指導改善(2)国の政策に反映-という二つの目的を掲げる。川口准教授は「指導のためなら、学校で行う普段のテストで十分。政策に生かすためなら、子どもの実態を正しく把握する必要がある。事前準備などの対策を取る学校がある中で、全員対象の現行調査は結果が偏る可能性が高い」と説明する。世界各国の学力テストの状況を編著にまとめた福岡大の佐藤仁教授によると、日本では実施から約3カ月後に結果が学校現場に通知されるが、ドイツでは授業改善に特化したテストの結果が2~3週間後には教員に伝わる。ノルウェーでは学校ごとの得点を公表するが、子どもの家庭環境など数ある情報と一緒に示されるという。佐藤教授は「『学力』の一部しか測れないにもかかわらず、日本にはテスト結果に敏感に反応する文化があり、責任は学校が問われる。行政、保護者、地域が一緒に改善点を考えることが大切だ」と提起する。子どもへの評価がテストに偏る中、居場所を失う子どもたちもいる。熊本県の公立小で特別支援学級を担任する50代男性教員は、問題用紙をくしゃくしゃにした子を目の当たりにした。「解けない子には嫌な時間でしかない。学力の意味がテストに矮小(わいしょう)化されていることは分かっていても、学校では学力を問い直す議論はない」 *全国学力テスト:2007年、小6と中3の全員を対象に国語と算数(数学)の2教科でスタート。民主党政権が10年に抽出調査に切り替えたが、自民党政権下で13年に全員対象に戻った。現在は理科と英語(中3)も3年に1度行っている。18年8月には大阪市長が学力テストの成績を教員らの給与に反映させる意向を表明(後に撤回)し、学校現場への圧力や負担が問題となった。 *6-1-3:https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/905866 (福井新聞 2019年8月1日) 全国学力テスト福井は中3英語1位、2019年度、トップ級の順位維持 文部科学省は7月31日、小学6年と中学3年の全員を対象に4月に行った2019年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。公立校の平均正答率を都道府県別に見ると、福井県は、初めて実施された中3英語で東京都などと並び1位、数学も1位、国語は2位だった。小6は国語2位、算数4位。小中ともに調査開始以来12年連続で全国トップクラスを維持した。国語と算数・数学の2教科は、これまでの基礎知識を問うA問題、知識の活用力をみるB問題が統合され、知識活用力が一体的に問われた。中3の英語は「読む、聞く、書く、話す」の4技能をみる試験が行われ、機器がそろっていない一部の学校で未実施となった「話す」を除く3技能の結果が公表された。福井県は国公私立270校の1万3727人が参加。公立の平均正答率は中3の英語が59%(全国平均56・0%)、数学は66%(同59・8%)、国語は77%(同72・8%)だった。小6は国語が72%(同63・8%)、算数が69%(同66・6%)。県教委はテストや学習状況調査の結果を受け「授業や家庭学習に熱心に取り組む子どもと、熱心に指導する教員らの努力の成果」と評価。一方で、各教科で課題もあるとし、8月上旬に開く教員対象の研修会で結果の分析と授業改善策を伝えるとした。県内の市町別の結果は公表せず、各市町教委に判断や対応を委ねている。文科省は全国の小6、中3の計201万7876人分を集計。中3英語の4技能のうち「書く」では、2枚の図を比較して25語以上で考えを記す問題で正答率が1・9%にとどまり、基本的な語や文法を活用した表現ができていなかった。国語と算数・数学は小中とも、目的や意図に応じて自分の考えを明確に書いたり、複数の資料から必要な情報を読み取って判断したりするのが苦手な傾向は変わらなかった。平均正答率は従来と同様に秋田や石川、福井などが上位を占める状況が継続。ただ、下位も全国平均とは正答数で1問程度の差で、文科省は「学力の底上げ傾向は続いている」と指摘している。 *6-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/105934 (東京新聞 2021年5月23日) Wi-Fi未整備168校も…格差くっきり、都立高のオンライン授業 学習遅れ懸念の声 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言中、東京都立高校は、校内の生徒数を3分の2以下に抑える分散登校を続けている。登校しない生徒はオンラインを活用した自宅学習としているが、学校側の通信環境や取り組みに差があり、生徒や保護者から「学習が遅れていないか」と不安が漏れる。 (土門哲雄、松尾博史) ◆無人の教室からスマホで授業 都教育委員会は4月29日~5月9日の大型連休中、授業のある日も全ての高校生を登校させず、自宅学習の「全面オンライン」とした。連休後の分散登校は、登校日や時間帯を学年ごとに分け、自宅学習ではオンラインの活用を促している。連休中の7日には、都立向丘むこうがおか高校(文京区)でオンライン授業が報道公開された。生徒がいない教室で、飯塚大貴だいき教諭(27)がスマートフォンを使って化学基礎の授業を配信し、1年生のクラス40人が自宅からタブレットなどで参加。同時双方向のライブ形式で行われ、生徒からも画面越しに質問が飛んだ。滝本秀人校長は「通信回線が命綱。オンライン授業は学校全体で取り組むことが大切」と強調。同校は連休後も自宅学習で同時双方向のオンライン授業を続けている。 ◆未整備校では出欠確認だけ ただ、こうした学校ばかりではない。都教委の教育政策課によると、高校のほか特別支援学校なども含めた都立校のうち、無線LANのWi―Fiが全教室に整備されているのは2020年度末時点で87校で、全体の約3分の1にとどまる。通信環境が不十分な残りの168校は、当初の計画を1年前倒しして本年度中にWi―Fiを整備するという。未整備のある都立高は、大型連休中に同時双方向で各学年一斉に行ったのはホームルーム(HR)の出欠確認だけだった。生徒は事前に用意された授業動画を見たり、課題学習に取り組んだりした。副校長は「同時双方向のオンライン授業は通信環境が厳しく、できない」と打ち明ける。この高校は感染者が確認された昨年末以降、6限までの通常授業は行わず、4限で終え、感染リスクが高まる昼食前に生徒を帰宅させている。電車の混雑を避ける時差通学で始業も遅らせ、通常の50分授業を40分に短縮している。連休後は午前と午後で4限ずつに分け、学年ごとに分散登校を続けている。 ◆都教委「本年度中に全校に」 同校の3年の女子生徒は「本当なら授業がもっと進んでいるはずなのに。他の学校より遅れてないか」と不安を隠せない様子。母親も「感染拡大から1年以上たち、私立は通信環境も充実しているのに」と残念がる。こうした声に、都教委の担当者は「オンラインを活用した学習は同時双方向のライブ形式に限らず、繰り返し見られる動画配信のニーズも高い。本年度中にWi―Fiを全校に整備し、環境を改善する」と理解を求めている。 *6-2-2:https://resemom.jp/article/2015/09/25/27046.html (Resemom 2015/9/25) 学校の無線LAN普及率、私立と公立に差…MIC調査 IT・ネット分野専門の市場調査機関であるミック経済研究所は、学校の無線LAN普及率などのアンケート調査結果を発表。無線LANの平均普及率(平成27年5月時点)は、私立学校が59.3%、公立学校が42.6%。アクセスポイントのメーカーシェアでは、バッファローがトップだった。ミック経済研究所の同調査は、2015年5~6月にアンケート調査で実施。無線LANの現在の普及率や導入無線LANアクセスポイントメーカーの掲出回数・シェアなどについて、私立中・高等学校の186法人、公立の小・中・高等学校を管轄する全国教育委員会229団体から回答を得た。また、遅れている無線LANの導入促進に役立つ調査レポートとして回答者にフィードバックしている。平成27年5月時点の無線LANの平均普及率(学校数単位)は、私立学校が59.3%(中学校56.3%、高校61.2%)であるのに対し、公立学校が42.6%(中学校40.2%、公立高校35.0%)。教室数等単位での平均普及率は、私立学校17.8%、公立学校16.4%。特に、公立の高等学校は2.6%と低い割合となっている。公立学校の中では小学校の普及率が比較的高く、学校数単位では45.8%、教室数等単位では17.7%だった。同社では、「無線LAN普及の決め手はタブレット端末で、私立学校の普及率の方が高いのはタブレット端末の活用がより進んでいるから」と分析している。平成29年度までの導入予定を調査しており、私立学校で73.6%、公立学校で53.1%と、文部科学省が平成29年度の目標数値に掲げる「普及率100%(教室等数ベース)」に及ばない状態となっている。無線LANのアクセスポイントのメーカーシェアのトップは、50.8%を占めるメルコグループのバッファロー。ついで、アライドテレシス9.8%、シスコシステムズ7.5%、富士通4.2%が続いた。同社では、各社を学校が選択した理由と各社の特長を解説。バッファローの選択理由では、バッファロの強みである「手頃な価格(予算の範囲)」が多くあがっており、私立学校では「システム開発・導入会社の推薦」も多かったという。2位のアライドテレシスの選択理由では、公立学校が「手頃な価格」、私立学校が「ICT関連製品の取引業者の推薦」をあげていた。 <行き過ぎた規制で台無しの五輪> PS(2021年6月24、25日、7月7日追加):東京五輪の観客向けガイドラインは、*7-1のように、新型コロナを理由に「①祝祭感のあふれる会場にしてはならない」として、「②飲酒禁止(会場内販売・持ち込みの禁止)」「③直行直帰」「④接触・飛沫感染を防ぐため、観戦中もマスク着用・大声を出すなどの応援禁止」「⑤ハイタッチや肩を組んでの応援も禁止」などの多くのルール順守を観客に求め、守らなければ退場などの厳しい措置をとるそうだ。 しかし、②③④⑤は、まるでイスラム教のラマダンのようで、①では、オリ・パラを行う意味がない。また、そのようなルールを作った理由が国内の飲食店などに合わせることだというのだから、馬鹿げている。しかし、ワクチン接種した人と陰性証明のある人しか会場に入れなければ、混雑したからといって感染するリスクは殆どない。また、国内の飲食店も従業員がワクチン接種を済ませ、「こういう時期ですから」と断って、ワクチン接種した人と陰性証明のある人しか入れないようにすれば普通に営業できるため、「飲酒規制」や「時短要請」などを行う必要がなくなり、五輪を稼ぎ時にしながら「おもてなし」することもできるのだ。 そのため、*7-2のように、埼玉県は、「新型コロナ蔓延防止等重点措置が継続中で解除後も何らかの制限を設ける可能性があるから、さいたま市で実施される五輪のバスケットボールとサッカーの夜遅い競技を無観客とするよう大会組織委員会に要請された」とのことだが、大野知事が「考えにくい」からといって科学的根拠があるわけではないため、埼玉県民としては変なことをして世界に医療後進国であることを発信しないで欲しいと思う。そして、「自分は健康でないから危ない」と思う人は、その間、家でTVを見ていれば良いのである。 一方、英政府と欧州サッカー連盟は、*7-3のように、観客が入場時に新型コロナの陰性証明かワクチンの接種証明を提示するルールを残し、7月にロンドンで開催するサッカー欧州選手権の準決勝と決勝に6万人超の観客入場を決めたそうだ。ドイツのメルケル首相はこれに反対しておられるようだが、この点については、私は英国政府に賛成だ。 23日に公表されたデータによると、新型コロナワクチンの接種回数は、*7-4のように、累計3,438万回を超え、2回接種を終えた人も1,037万人になったそうだが、「⑥高齢者の1回目接種率が67%と最も高い佐賀県は、重症者の病床使用率が2%まで抑えられた」等の効果が明らかであるのに、「⑦希望する人への接種を10~11月までに完了させる目標」というのは遅すぎる。さらに、「⑧厚労省内で『接種率と新規感染者数減少との因果関係は証明が難しい』」という声がある」というのは呆れるほかなく、河野規制改革相が、「⑨申請が殺到して、1日に可能な配送量が上限に達し、モデルナ製ワクチンを供給できる量の上限にも達しそうなので、企業での職場接種の新規受け付けを一時休止する」と発表したのも驚きで、むしろ佐川急便等の民間にワクチンの入荷・保存・管理・配送までを一括して任せた方が、厚労省よりスムーズに行ったのではないかと思った。 *7-5のように、政府が、7月12日~8月22日の間、東京都に4度目の新型コロナ緊急事態宣言を発令し、東京五輪の都内会場は無観客にすると伝えられている。これには、五輪を政治利用した政党やメディアも悪いが、ワクチンや治療薬の開発・承認・接種が遅く、五輪を中止か無観客にするという非科学的な選択しかできないのに、「東京の感染増を万全の態勢をとって抑えていく」などと述べている点で、政府も情けない。私自身は、スカスカの会場で行われる感動の伝わらない五輪など見たくもないし、五輪の主役は選手だけでなく観客も含まれるため、仮に私が五輪の会長だったら「今後は絶対に日本で開催しないように」と言い残すだろう。 2021.6.24日経新聞 2021.5.12News24 2021.6.5日経新聞 (図の説明:左図のように、観客に直行直帰・飲酒禁止などを求めているのは小中学校の校則のようだし、「37.5度以上は入場不可」としているのは、無症状感染者のいることがわかっているため「ワクチン接種証明書か陰性証明書の提示」に変更するのが正しい。また、ワクチンは変異株に効きが悪いという弁解もよく聞くが、有効性が中央の図に示されており、これを否定するには同レベルの調査に基づく科学的根拠が必要である。さらに、ワクチン接種は、右図のように、職場でSpeedyに行われているため、政府は、これに全面協力すべきだ) *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210624&ng=DGKKZO73197860U1A620C2EA1000 (日経新聞 2021.6.24) 五輪観戦、違反なら退場も 酒禁止決定・ハイタッチNG・応援は拍手 東京五輪・パラリンピックの観客向けガイドラインが23日公表された。新型コロナウイルス禍で飲酒の禁止や「直行直帰」など過去大会と比べ観客に多くのルール順守を求め、守らなければ退場などの厳しい措置もとる。大会組織委員会の橋本聖子会長は「祝祭感のあふれる会場にはならない」と話す。東京大会では酒類を会場内で販売せず、持ち込みによる飲酒も禁止した。飲料大手が大会スポンサーで当初は同社の酒類を販売する計画だったが、酒類提供の検討が明らかになるとSNS(交流サイト)などを中心に反発が広がった。組織委は専門家の意見を踏まえスポンサーとも協議。橋本氏は23日、記者会見で「少しでも国民に不安があるようなことがあれば、断念しなければいけない。スポンサーからも同意を得た」と説明する。接触や飛沫感染を防ぐため、コロナ禍五輪の観戦方法は大きく変わる。ガイドラインは観戦中もマスクを着用し、大声を出したりタオルを振り回したりする応援は行わないよう明記した。周囲の観客とハイタッチや、肩を組んでの応援も禁止となる。好プレーには声援ではなく拍手を促す。他の観客と距離を確保し、会場内を不必要に移動しないことなどで協力を求める。組織委は一部の競技会場について、トイレや売店の混雑状況をスマートフォンで確認できる仕組みを導入する。競技が終われば密を回避するために分散退場し、どこにも立ち寄らず自宅や宿泊先に直帰するよう求める。座席番号が分かるようにチケットの半券やデータは最低14日間保管することも要請する。観戦後に陽性が確認されれば保健所に観戦日時や座席位置を申告できるようにする。組織委は、ガイドラインの実効性を高めるために、順守しない観客に入場拒否や退場措置をとることもあるという。 *7-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/3cb34625693b1917401ccdaad767cf944db9afcf (Yahoo 2021/6/22) 夜遅い競技、埼玉県「無観客で」 バスケとサッカー、組織委に要請 埼玉県は22日、さいたま市で実施される東京五輪のバスケットボールとサッカーに関し、夜遅い試合を無観客とするよう大会組織委員会に要請したと明らかにした。同市では新型コロナウイルスまん延防止等重点措置が継続中で、解除後も何らかの制限を設ける可能性があり、大野元裕知事は記者団に「観客有りは考えにくい」と述べた。県によると、さいたまスーパーアリーナで実施予定のバスケットボールは一部の試合が午後9時~11時。埼玉スタジアムでのサッカーも午後11時終了の試合がある。特例で無観客とするよう大野知事が組織委の橋本聖子会長に要請し「検討する」と回答があったという。 *7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210624&ng=DGKKZO73190060T20C21A6FFJ000 (日経新聞 2021.6.24) 英、観客6万人超に拡大 サッカー欧州選手権、インド型流行で感染増、独伊首相が懸念 英政府と欧州サッカー連盟(UEFA)は7月にロンドンで開催するサッカー欧州選手権の準決勝と決勝について、6万人超の観客入場を決めた。世界が注目する試合をテコに、新型コロナウイルスからの復活をアピールする。足元では感染力の強いインド型(デルタ株)が流行し、欧州では懸念も広がる。東京五輪の開幕を控え、コロナ禍での大規模イベント開催に関心が集まる。UEFAが22日に発表した。準決勝は7月6、7日、決勝は11日に「サッカーの聖地」とされるウェンブリー競技場で開催する。収容可能人数(9万人)の75%まで入場させる計画だ。UEFAのチェフェリン会長は「この大会は、人々の暮らしが通常に戻りつつあることを確信させるための希望の光だ」とした。同競技場で開催中の予選では収容可能人数の25%に絞っており、準決勝と決勝では一気に3倍に増やす。観客は入場時に新型コロナの陰性証明か、ワクチンの接種証明を提示するルールは残す。米国では大リーグやフットボールで観客の収容数を緩和する動きが広がるが、欧州でこの規模で入場させるのは珍しい。これに対し、欧州首脳は相次いで懸念を表明した。ドイツのメルケル首相は22日、「スタジアムを埋めることが、良いことだとは思わない」と述べたと公共放送ZDFが伝えた。イタリアのドラギ首相も21日の記者会見で「感染リスクが非常に高い国で開催しないことを支持する」と語り、決勝をローマで代替開催することを示唆した。念頭にあるのが、英国で流行するデルタ株だ。感染力が従来型よりも40~80%強いとされる。足元ではデルタ株の影響で感染者数が再び拡大し、1日に1万人を超える日が続く。政府はワクチン接種を急ぐことで重症者や死者を抑える考えだが、大勢が集まるイベントでの感染増への懸念はぬぐえない。主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれた英南西部コーンウォールでは、開催中に感染者が増えていたことが分かった。英紙ガーディアンによると、コーンウォール地方の10万人当たりの感染者数は3日時点で約5人だったが、16日には約131人に急増した。G7サミットでは小さなリゾート地に要人警備などで6500人の警察官が集まった。ブラジルで開催中のサッカー南米選手権では各国の選手やスタッフらの感染も確認された。AP通信によると、22日までに140人が感染した。感染対策を徹底しないと、新型コロナの収束が遠のく可能性もある。東京五輪では、競技会場の収容人数を最大1万人とすることが決まっている。大会組織委員会などによると、1日あたりの観客数は、最も多い日で約20万人を見込む。欧州選手権は五輪の直前に開かれるだけに、収容人数の論議は当面注目を集めそうだ。 *7-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2351H0T20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月23日) ワクチン2回完了、1000万人超 職場接種は受け付け休止 政府は23日、新型コロナウイルスワクチンに関し、2回の接種を終えた人が1037万人になったと発表した。累計の接種回数も3438万回を超えた。65歳以上の高齢者のうち1回目を終えた割合も5割に迫る。接種率の高い一部地域で新規感染や重症化を抑えられている事例が出ている。1日あたりの接種回数も政府目標の100万回に近づく。23日公表のデータによると、9日が99万回で最多だった。14日は101万回だったが、同日は月曜日で、集計の仕組み上、土日に接種した医療従事者分を一度に計上している。政府は希望するすべての人への接種を10~11月までに完了させる目標を掲げる。まずは重症化しやすいとされる高齢者からワクチンを普及させ、感染拡大防止の効果を期待する。国のワクチン接種記録システム(VRS)への入力の集計によると、22日時点で1回目の接種は高齢者向けで1748万9340回となり、全体の49.2%に達した。2回目まで終わったのは566万5012回と15.9%だった。米ファイザー製は3週間、米モデルナ製は4週間の間隔を空けて2回目を打つため、7月中旬には半数を超す高齢者が2回の接種を終える見込みだ。菅義偉首相は23日、首相官邸で開いた新型コロナ対策の進捗に関する閣僚会議で「1回接種した高齢者の人口は半数程度となっている」と説明した。「新規陽性者に占める高齢者の割合は、先月末の17%台から直近では11%台まで低下した」とも語った。接種が先行する地域で感染状況が落ち着いてきた例が出ている。高齢者1回目が67%と最も接種率が高い佐賀県は重症者の病床使用率が2%まで抑えられ、新規感染者は4日以降で5人以下を維持している。高齢者の1回目接種率が59.7%の和歌山県は接種の進捗と並行して新規感染者は減り、2ケタとなったのは5月29日の17人が最後だった。6月22日には県民向けに1万円を上限に県内での旅行代金を割り引くキャンペーンを始めるなど、経済活動の正常化をめざす。厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」も23日の会合でワクチンの効果を分析した。同会合の資料によると2月から先行して医療従事者への接種を始めたのに伴い、クラスター(感染者集団)の発生場所のうち医療機関が占める割合は2月15日で3割ほどだったのが、6月21日時点で3%まで下がった。感染状況は緊急事態宣言や飲食店の時短営業、クラスター対策など複合的な要因があり、ワクチンの効果がどの程度かが分析されているわけではない。厚労省内でも各種のデータを分析し「接種率と新規感染者数の減少との因果関係は証明が難しい」との声はある。全国で多くの人が免疫を持って感染しにくくなる「集団免疫」を得るには課題がある。なかでも懸念されるのはより感染力が強いインド型(デルタ株)の拡大だ。インド型が新規感染者の9割ほどを占める英国は21日時点で成人の1回目接種が82%、2回目は60%に上ったものの、感染は再び広がっている。京大の西浦博教授がアドバイザリーボードで示した試算では、日本でも東京五輪が開幕する7月23日時点でインド型が新型コロナの68.9%を占める。世界保健機関(WHO)の研究者は昨年8月に新型コロナの感染を断ち切るには少なくとも60~70%の人が免疫を持つ必要があるとの見方を示した。感染力が強い変異ウイルスの広がりで、こうした割合の想定も上がるとの指摘が出ている。アドバイザリーボードは23日の会合で、ワクチン接種で高齢者の重症化抑制に期待を示す一方で「今後リバウンドが懸念される」との見解も示した。感染拡大を急速に招けば「結果的に重症者数も増加し、医療の逼迫につながる」と指摘した。ワクチン接種に関連し、河野太郎規制改革相は23日の記者会見で、企業での職場接種の新規受け付けを25日午後5時で一時休止すると発表した。申請が殺到し、モデルナ製ワクチンを供給できる量の上限に達しそうだと判断した。「相当な勢いで申請をいただいている。1日に可能な配送量は上限に達しているので一度ここで申請を休止したい。このままいくと供給できる総量を超えてしまう」と述べた。同じくモデルナ製を使う自治体の大規模接種会場向けも23日で新規の受け付けを止めた。すでに1回目を接種した人の2回目分は確保している。モデルナ製を使う自衛隊の大規模接種センターや大学での接種分は別枠で確保しており運用に支障はないという。厚労省はモデルナ社からワクチンを6月末までに4000万回分、9月末までにさらに1000万回分の供給を受ける契約を結んでいる。河野氏によるとこれまでの申請で、企業と大学と合わせて3300万回分、自治体の大規模接種会場で1200万回分をそれぞれ超えた。当面の対応は「若干、綱渡りのようなオペレーションになるかと思う」と話した。 *7-5:https://www.tokyo-np.co.jp/article/115172 (東京新聞 2021年7月7日) 東京に緊急事態宣言を発令へ、8月22日まで 東京五輪、都内は無観客で調整 政府は7日、東京都に4度目の新型コロナウイルス緊急事態宣言を12日から発令する方針を固めた。まん延防止等重点措置を延長する当初方針から転換した。23日に開会式を迎える東京五輪の都内の会場を無観客とする方向で調整する。沖縄県の緊急事態宣言は延長する。埼玉、神奈川、千葉、大阪の各府県のまん延防止等重点措置は延長する見通しだ。いずれも8月22日が期限。政府対策本部を8日に開いて正式決定する。緊急事態宣言下で開催される異例の五輪となる。東京都に宣言を発令すれば6月20日に解除して以来。北海道と愛知、京都、兵庫、福岡各府県に適用中の重点措置は期限の11日までで解除する方向だ。政府は宣言の対象地域では酒類を提供する飲食店への休業要請を引き続き行う。条件付きで午後7時まで容認していた重点措置の地域での酒類提供は原則停止とする。ただ知事の判断で緩和措置も可能とする。菅義偉首相は7日、10都道府県に発令している重点措置を巡り、西村康稔経済再生担当相や田村憲久厚生労働相ら関係閣僚と協議した。その後、東京の感染増を「万全の態勢をとって抑えていく」と記者団に述べた。五輪観客数の扱いについては、東京などの重点措置の対応を決定した上で、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などの代表による5者協議で決まると強調。「地方においては全体的に下げ止まりの傾向だ」とも語った。 <非科学的な政策(その1:新型コロナ対策)> PS(2021年6月28日、7月1日追加): 公衆衛生学が専門で英国キングス・カレッジ・ロンドンの教授だった渋谷さんが、*8-1のように、「感染症対策の基本は、①感染経路の遮断(マスク・手洗い・三密回避) ②検査による感染者の把握と隔離 ③ワクチン」だが、「日本では①がメインで、国民の自主的努力に頼ってきた」「②の検査は抑制された」「③のワクチン承認プロセスが何カ月も遅れた」と言っておられるのに、私は全く賛成だ。つまり、政府(特に厚労省)は、国民の努力のみに頼り、邪魔こそすれ応援しなかったのである。 その上、ワクチンを接種していない日本の一般人の方がずっとリスクは高いにもかかわらず、*8-2のように、来日前にワクチン接種し陰性証明を持っているウガンダ選手団の2人に「デルタ株」の感染があり、空港検疫を「すり抜けた」として、練習もさせずにホテルで待機させ、市の職員4人を濃厚接触者に認定しているのは非科学的だ。何故なら、選手は健康な人であり、「デルタ株」であってもワクチン接種で本人の重症化は防がれており、短期間で陰性に戻ることができる筈で、他人への感染力は小さいので、関係した人にPCR検査を行って陰性であることを確かめればすむからだ。そして、このような簡単な理屈もわからない人は、愚鈍であると同時に国籍による差別をしている。 また、*8-3のように、東京五輪のプレーブックは、「④2回の陰性証明」「⑤大会期間中、検査を毎日選手に受けてもらう」「⑥日本の一般市民との接点を極力減らし、社会へのリスクを減らす」「⑦特定の場所の間を公共交通を使わずに移動」「⑧食事は競技・練習会場、宿泊施設レストラン・ルームサービス等の限定された形」「⑨五輪期間中の選手村での滞在は、各選手の競技開始5日前から終了2日後まで」というルールを決めたそうだが、④⑤はまあよいとしても、⑥⑦は、現在のワクチン接種率なら「日本の一般市民との接点を極力減らし、選手の感染リスクを減らす」と書き替えるべきである。さらに、⑧は、検査で陰性同士の人が接しても全く問題ないため、世界から集う選手の交歓という五輪の核となる特性を感染症対策を理由に過度に制限しており、⑨は、「競技が済んだらさっさと国に帰れ」という規定で、それでは選手も日本に来た意味が半減するだろう。そのため、私は、日本に来た選手に専用バスかはとバスを使ったオプションを企画し、日本の工場や観光地を巡るコースを準備したらよいと思う。この時、「おもてなし」をする日本人が全員ワクチン接種済であることが必要なのは言うまでもない。 なお、*8-4のように、「五輪を無観客にすべき」というメディア等の大合唱で与党政治家も無観客開催の方向になびいているそうだが、感染者数だけ発表して「命が一番大切」などと粋がっていても意味がない。それより重要なことは、①中等症・重症の人が何人いるか ②それが首都圏や全国の医療をひっ迫させる数か ③その数で医療が逼迫するとすれば、その理由は何か ④ワクチン接種を全力で行って感染者数を減らす などである。「国民一丸となって」「総力戦で」など、まるで太平洋戦争中のように、非科学的で無責任な政策の責任を国民に押し付けるのは止めてもらいたい。 2021.4.26毎日新聞 2020.10.29東京新聞 2021.6.23日経新聞 (図の説明:左図のように、日本全体の重症者数は最も多かった1月でも1000人程度であり、中央の図のように、重症化率は高齢者ほど大きい。また、右図のように、ワクチン接種率が高い地域ほど重症者の病床使用率は小さい。そのため、健康で若いワクチン接種済のオリンピック選手や関係者に重症者が出る確率は非常に低く、病床逼迫の理由とはならないだろう) *8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14953444.html (朝日新聞 2021年6月28日) (新型コロナ)現場から 日本の感染対策、国民の努力頼み 渋谷健司さんに聞く 公衆衛生学が専門で、英国キングス・カレッジ・ロンドンの教授だった渋谷健司さんは5月に帰国し、福島県相馬市で新型コロナウイルスワクチンの接種事業を支援しています。日本のコロナ対策をどうみるか。オンラインで話を聞きました。 ―日本の対策はどうですか。 感染症対策の基本は三つです。一つ目が感染経路の遮断、つまりマスクや手洗い、三密を避けること。二つ目が検査をして感染者を見つけ隔離する。三つ目が免疫をつけるワクチン。日本では一つ目がメインで、国民の自主的努力に頼ってきました。敬服するほど皆さん努力してきたと思います。二つ目の検査は、ずっと抑制されてきた。社会経済を回すための検査がもっと必要だと私は主張してきましたが、なかなか増えません。多くの人が安心を求めて民間検査をしているのも日本の特徴だと思います。 ―三つ目のワクチンは? ワクチンの承認プロセスは何カ月も遅れました。日本人での治験をせずに緊急承認する選択もあったのに、そうしなかった。緊急時ではない平時のプロセスでやっているようにみえます。 ―福島県相馬市の新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長に就任しました。 今は国難の時期で、ワクチンは最も優先順位が高い医療問題。貢献したいという思いで来ました。英国ではワクチン接種が進むにつれ感染者が減り、日に日に社会が明るくなってきました。日本でもワクチンの効果が数字に表れてくると、どんどんよい方向に変わっていくと思います。ただし集団免疫がつくには時間がかかります。接種したからといって安心せず、感染症対策の基本を継続していく必要があります。 ―相馬モデルと呼ばれる方法の特徴は? 接種する日時を地区ごとに決めた集団接種を基本としています。予約は不要で、その日に会場にくればいい。7月中旬には、16歳以上の希望者への接種がほぼ終了する見込みです。新型コロナに打ち勝つにはスピード勝負で、総力戦になります。会場設営の仕方や、どうやって滞在時間を短くするかなど、ノウハウをほかの自治体とも共有できたらいいと思います。 *8-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/96d397fe797163dfa4349f7bb0ca9c997b3a4cef (Yahoo 2021/6/26) 検疫「すり抜け」感染発覚……来日前にワクチン接種のウガンダ選手団、「デルタ株」に感染 東京オリンピックへの出場で来日したウガンダ選手団で新型コロナウイルス感染が確認された2人について、デルタ株(インド型)だったことが分かりました。選手らは来日前にワクチンを接種していましたが、2人目は検疫をすり抜ける形で発覚しました。 ■空港検疫「すり抜け」対策は 東京オリンピックのため来日したウガンダ選手団の1人が、成田空港の検疫で新型コロナウイルス陽性が確認されましたが、感染していたのはインドで確認された「デルタ株」だったことが25日、分かりました。他の選手らはホストタウンの大阪府泉佐野市に移動した後、ホテルで待機していましたが、そのうちの1人も23日に陽性が判明しました。市の職員4人も濃厚接触者に認定されました。選手らは全員、来日前にワクチンを接種していました。大阪府の吉村知事は25日、「空港で陽性がもうすでに分かったのであれば、周りの一緒に行動している選手団に広がっている可能性は十分あるわけだから、その段階で止めておかないと、より広がってくる可能性が高いのではないか」と述べました。吉村知事は、ホテルで待機していた1人についても、スクリーニング検査でデルタ株(インド型)だったことを明らかにしました。空港検疫をすり抜け、感染が発覚したケースとなりました。厚生労働省は、検疫で選手らの感染が判明した場合、濃厚接触の疑いがある人を別の専用バスで合宿先まで運ぶことを検討しているといいます。 ■ホストタウン「計画」変更で… 25日夜、セルビア選手団のホストタウンになっている埼玉県富士見市では、ボランティアへの説明会が行われ、遵守事項や、「おもてなしの心」をいつも意識することの大切さが伝えられました。市のオリパラ担当課長が案内してくれた体育館では、7月20日からセルビアのレスリング選手の合宿が行われる予定で、国際基準のレスリングマットを(今後)2面ほど用意するということです。「当初はレスリングの実際の競技の体験を、(市民が)一緒に選手と交わってやろうということも企画はしていたのですが、残念ながらそういう状況がつくれなくて」と残念がります。選手には毎日のPCR検査や、移動の制限が求められます。市民は選手たちと距離を取った観覧席からのみ練習を見学できるよう、計画しているといいます。 *担当課長 「『市民に(感染の)影響が出るのか』と心配されている市民の方も多いですが、セルビア共和国の方もしっかりとした心構えで来ていただけるということで、無事最後まで成功できるような形を取りたいとは思っています」 *8-3:https://www.yomiuri.co.jp/column/henshu/20210511-OYT8T50056/ (読売新聞 2021/5/14) 「プレーブック」が語る「安心・安全」な東京五輪の開催とは 新型コロナウイルス感染症は収束する気配が見えず、今夏の東京五輪・パラリンピック開催に向けた世論の懸念が高まっている。大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などは4月28日以降、大会期間中の感染症対策指針をまとめた「プレーブック」第2版を公表したが、「安心・安全」な大会開催に、どこまで迫れるのだろう。 ●変異型ウイルスの拡大受け、対策レベルを向上 2月に初版が公表された「プレーブック」は、日本政府や国内外の感染症専門家などの知見を得て、選手、役員、報道関係などの対象ごとに、コロナ対策の指針をまとめたものだ。6月に最終版を出す予定という。第2版の特徴は、変異型ウイルスという新たな課題を意識し、対策のレベルが上がったことだ。選手や関係者が日本入国時に提出を義務づけられる「陰性証明」は、各国で受ける検査が1回から2回に増やされた。入国直後のフォローも厳格化。大会期間中選手に受けてもらう検査も、4日に1度程度としていたものが、原則毎日に引きあげられた。より感染が広がりやすいとされる変異型ウイルス。検査の網の目を細かくして早期に捉え、リスクを抑える狙いだろう。検査頻度を上げて大会参加者の安心を確保するだけではなく、日本の一般市民との接点を極力減らす「バブル」と呼ばれる考え方も徹底、社会へのリスクも減らす方針だ。選手・関係者は入国後、14日間の自己隔離を免除される代わりに、事前に提出・承認を受ける「行動計画」に従い、宿泊施設と練習・競技会場など特定の場所の間を、公共交通を使わずに移動することを求められる。感染リスクが高まりやすい食事についても、競技・練習会場、宿泊施設のレストランやルームサービスなど、限定された形で取ってもらうという。「バブル」は各国で開催されてきた国際競技大会でも採用された手法で、状況によっては参加者に、かなりの負担をかけることになり得る。五輪期間中の選手村での滞在は、各選手の競技開始5日前から終了2日後までと、世界から集う選手の交歓という五輪の核となる特性も、感染症対策が最優先される中ではお預けだ。ただ、選手は「コロナ陽性」となれば大会参加の夢を絶たれてしまうため、バブルの中で行動することが自分やチームを守るための方策ともなる。IOCのクリストフ・ドゥビ五輪執行局長は、選手団によるプレーブックの順守に自信を見せる。 *8-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/113820 (東京新聞 2021年6月30日) 4都県まん延防止延長検討 五輪無観客の可能性浮上 政府は、新型コロナウイルス対応のまん延防止等重点措置を7月11日までの期限で適用している10都道府県のうち、東京など首都圏4都県について延長も視野に検討に入った。政府関係者が30日、明らかにした。感染再拡大(リバウンド)が続いており、感染状況を注視した上で来週中に判断する。政府内には緊急事態宣言発令に言及する声もある。重点措置延長や宣言発令がされれば、7月23日に開幕する東京五輪と重なり、無観客開催の可能性も浮上している。先週末に「東京が下げ止まるかが重点措置の延長の可否に影響する」と指摘していた首相周辺は「厳しい状況になってきた」と述べた。 <非科学的な政策(その2:開発を妨害するのはよくない規制と過去の常識)> PS(2021年6月30日追加):*9-1に、富士フイルムHDが、「①900億円投じてバイオ医薬品の開発製造受託拠点を増強」「②ワクチン原薬の生産能力を米国で2倍に増強し、英国でも遺伝子治療薬の原薬の生産能力を高める」「③富士フイルムはバイオ薬のCDMOに注力して事業買収や設備増強を積極的に進めてきた」「④富士フイルムは、CDMO分野でデンマーク工場の設備を増強し、米ノースカロライナ州に新工場の稼働計画がある」「⑤写真フィルムで培った技術を活用してバイオ薬のCDMO事業に参入した」「⑥AGCは英製薬大手アストラゼネカから米国工場を約100億円で買収し、デンマーク工場は約200億円投じて生産能力を増強」と書かれている。 このように、今まで培ってきた技術を活かして日本企業がバイオ医薬品産業に力を入れているのだが、投資先は欧米であって日本ではなく、その理由は、i)日本国内では承認を得にくいため、医薬品開発をすれば外国に負けること ii)希望者に治験を行うことすらメディアの批判に晒されること iii)そのため実用化や普及に絶望的時間を要すること iv)開発後の知的所有権もままならないこと v)従って、欧米で承認されたものを輸入した方が早いという判断になること 等が挙げられる。つまり、今の日本のやり方では、医薬関係のハイテク化に遅れるのである。 それでも、*9-2は、「⑦苦い教訓から政府はワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定」「⑧国家としてのワクチン戦略が不在だった」「⑨モデルナには米政府の手厚い支援があり、米政府は感染症を重大な安全保障の問題と位置付けている」「⑩ワクチン市場は米欧メーカーが席巻している」「⑪癌・高血圧・糖尿病等の薬は安定した需要が見込めるが、感染症は事前に分からない」「⑫そのため、民間企業だけでワクチン開発に取り組むのは経済合理性に乏しく、政府との二人三脚が欠かせない」「⑬先立つものはカネで、ワクチン敗戦を語る識者は費用負担の構えができているだろうか」などと記載している。しかし、⑪のような「ワクチンのニーズが事前にわからない」会社にワクチンの企画・開発は無理であるため、⑫⑬のように政府が予算をつぎ込んでも公共事業化するだけである。そのため、日本人の科学力を上げ、よいアイデアを持つ人に資金的バックアップをすることが必要なのであり、その際には、i)、ii)、iii)、iv)、v)をまず解決して、関係する周囲からの妨害がないようにすべきなのだ。 このような中、立憲民主党の議員が、*9-4のように、「⑭東京オリ・パラの選手が新型コロナに感染して重症化したらベッド不足にならないか」「⑮選手・関係者に多数の感染者が出れば、東京都民のベッドが不足し、医療が逼迫するのではないか」と質問し、内閣官房のオリパラ推進本部事務局の担当者が、「⑯毎日検査をして行動管理・健康管理も行うし、選手から陽性者が発生した場合でも殆どは無症状か軽症であることが想定されている」「⑰一般の集団に比べ、選手は若い人が多いため、重症化して入院病床が埋まることは考えにくい」としたそうだ。 しかし、⑭⑮は医療の逼迫を盾にして五輪中止か無観客に追い込むための批判のように思う。何故なら、EUでは、*9-5のように、2021年7月1日からワクチン接種完了と新型コロナからの回復データを空港等で提示すれば、事前の検査や隔離期間が免除され、こちらの方が科学的だからである。その上、五輪の選手はワクチン接種証明か陰性証明を持って来るとりわけ健康な人で、(日本政府の想定だから信じられないという不幸はあるものの)⑯⑰は妥当な判断と言えるからだ。それでも、「医療逼迫」を心配する人がいるのなら、選手村を租界のように扱って、可能な国には選手団に医師を随行させればよいだろう。その理由は、随行してくるドクターも健康管理や感染症の初期治療はでき、日本の医療に負担をかけることが著しく減るからである。 *9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210630&ng=DGKKZO73398500Z20C21A6TB1000 (日経新聞 2021.6.30) 富士フイルム、バイオ薬900億円追加投資 米英拠点に、ワクチン原薬を増産 富士フイルムホールディングスは900億円を投じ、バイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)の拠点を増強する。米国でワクチン原薬の生産能力を2倍に引き上げ、英国でも遺伝子治療薬の原薬の生産能力を高める。新型コロナウイルスの感染拡大を受けワクチンなどの需要は伸びている。同社はCDMO向けの投資を積み増し、この分野のシェア拡大を目指す。バイオ薬は細胞培養や遺伝子組み換えなどのバイオ技術を使ってつくる。バイオ薬の製造設備は投資負担が重く、高い生産技術が求められるため、製薬会社が外部の企業に製造を委託する動きが広がっている。富士フイルムはこのバイオ薬のCDMOに注力している。事業買収や設備増強を積極的に進めており、今回の900億円の投資により、この分野への累計投資額は6000億円程度にのぼることになる。富士フイルムは29日、900億円の投資を発表した。三菱商事との共同出資会社、フジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズが米国に持つ生産拠点に細胞培養タンクなどを導入する。「遺伝子組み換えタンパク質ワクチン」の原薬の生産能力が約2倍に増える。このワクチンは遺伝子組み換え技術を使ってウイルスのタンパク質をつくり、これを投与して免疫反応を引き出すもので、新型コロナ向けの利用も見込まれている。英国工場でも、遺伝子を体内に入れて病気を治す遺伝子治療薬の生産開発棟を新設し、同拠点での原薬生産能力を10倍以上に拡大する。バイオ薬の一種である抗体医薬品向けでも中小型の培養タンクを追加し、生産能力を3倍に増やす。今回の投資に先立ち、富士フイルムはCDMO分野で、デンマークの工場の設備増強や、米ノースカロライナ州に新工場を稼働させる計画を打ち出してきた。さらなる積極投資に踏み込む。富士フイルムは写真フィルムで培った技術を活用し、2011年にバイオ薬のCDMO事業に参入した。世界で十数%のシェアを持つとみられ、ロンザ(スイス)に次ぐ2位グループに入る。バイオ薬のCDMO市場は年平均10%程度で成長している。足元ではコロナ用ワクチンや治療薬の生産で、市場の需給も逼迫している。富士フイルムのバイオ薬のCDMO事業は米バイオ医薬品大手バイオジェンから事業を買収した効果もあり、21年3月期の売上高が1000億円超と前の期から7割増えた。25年3月期には売上高を2000億円に引き上げ、その後も年率20%の成長を目指している。バイオ薬のCDMOは投資競争の様相だ。2位グループの一角、韓国サムスンバイオロジクスは20年に約1550億円を投じる新工場の建設を決めた。AGCは英製薬大手アストラゼネカから米国工場を約100億円で買収し、デンマーク工場では約200億円を投じて生産能力を増強する。 *9-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210622&ng=DGKKZO73109490R20C21A6EN8000 (日経新聞 2021.6.22) ワクチン開発、カネの覚悟を 新型コロナウイルスのワクチン開発で米英に後れを取った日本は、ワクチンを入手するために涙ぐましい努力を払った。日本への帰国直前の杉山晋輔駐米大使(当時)が、米ファイザーのブーラ最高経営責任者(CEO)と直談判で供給を確保するなど、異例の交渉を余儀なくされた。苦い教訓を基に政府は6月1日、ワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定した。文書には従来の開発・製造体制の問題点が率直につづられている。一読して明らかなのは、国家としてのワクチン戦略が不在だったことである。日本でファイザー製と並んで接種されている米モデルナ製。モデルナはバイオベンチャーと紹介されることが多いが、日ごろから開発には米政府の手厚い支援がある。同社は2013年から米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)から2500万ドル(約27億5000万円)の支援を受けている。保健省からは16年に最大1億2500万ドルの研究資金を得た。緊急時である今回のコロナ禍に際し、ワクチン開発のために追加で9億5500万ドルの政府資金が注ぎ込まれた。米政府が感染症を重大な安全保障の問題と位置付けていることがハッキリする。モデルナの創業時に遡ると、マサチューセッツ州のベンチャーキャピタルから資金と人材が提供されている。日ごろからの力の入れようの差が、コロナ禍で浮き彫りになったといえる。次の感染症に備えて日本も開発を強化すべし。外野席から説教するのは簡単だが、経済的条件を直視する必要がある。国内のワクチンの市場規模は、コロナ前の19年で3200億円。10兆円の医薬品全体の3%あまりにすぎない。世界のワクチン市場4兆円の約8%を占めるが、市場は米欧メーカーが席巻している。しかもワクチンは製薬会社にとり経営リスクが大きい。がんや高血圧、糖尿病などの薬は安定した需要が見込めるが、感染症はいつ、どれだけ発生するか事前には分からない。民間だけでワクチン開発に取り組むのは経済的な合理性に乏しい。モデルナの例が物語る政府と企業の二人三脚が欠かせないのである。日本政府はその方向を模索しようとしているが、先立つものはカネ。ワクチン敗戦を語る識者は費用負担の構えができているのだろうか。 *9-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73398810Z20C21A6TB1000/ (日経新聞 2021年6月30日) 東芝、再生医療で新会社、独立し意思決定を迅速化 東芝は、再生医療向けの装置・ソフトウエア事業を新会社として独立させる。研究開発を主導していた研究者2人が新会社に出資し、代表取締役となる。2人が議決権の過半を握り、東芝の出資比率は2割未満に抑える。東芝から独立した企業となることで、意思決定のスピードを速め、拡大が見込まれる再生医療の市場を取り込む。新会社のサイトロニクス(川崎市)は細胞を培養する際の管理を効率化できる機器とシステムを提供する。資本金(資本準備金含む)は1億9000万円で、7月1日から営業を始める。東芝のほか、ベンチャーキャピタル(VC)のビヨンドネクストベンチャーズ(東京・中央)が出資する。東芝は同事業に関わる知的財産を譲渡する。再生医療は、やけどの治療として皮膚の細胞を培養して患者に投与するなどする。サイトロニクスが開発する装置は、再生医療向けに培養する細胞が入った容器を設置するだけで微細な画像を自動で取得し解析できる。従来品に比べて5分の1程度に小型化し、無線通信を活用できる。機器を置く装置内部の温度や湿度を一定に保てる。研究機関や医療関連企業など向けに売り込み、2030年をメドに年間の売上高100億円を目指す。早期の新規株式公開(IPO)も検討する。 *9-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP6Z6FQBP6ZUTFK01D.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年6月30日) 五輪選手、陽性でもほぼ無症状か軽症? 政府が想定説明 東京五輪・パラリンピックの選手が新型コロナに感染して重症化したらベッド不足にならないかという疑問に対する政府側の答えは、「選手に陽性者が出てもほとんど無症状か軽症」だった。30日にあった立憲民主党の会合でのやりとり。出席した国会議員からは「希望的観測だ」と懸念する声が上がった。立憲議員が「選手・関係者に多数の感染者が出れば、東京都民のベッドが不足し、医療が逼迫(ひっぱく)するのではないか」と質問。内閣官房のオリパラ推進本部事務局の担当者は「日々、検査をし、行動管理も健康管理も行う。仮に選手から陽性者が発生した場合でも、ほとんどは無症状、あるいは軽症であることが想定されている」と説明。「地域医療に支障を生じさせないよう対応する」と述べた。これに対し、議員からは「命の選別が起きる事態をどう想定するのか」といった厳しい意見も出た。この担当者は会合後、朝日新聞の取材に、大会組織委員会の医療の専門家から、管理が行き届いた選手について「仮に陽性者が出ても、症状が出る前に陽性と分かるだろう」との見解を得ていると語った。そのうえで「一般の集団に比べ、選手は若い人が多い。重症化し、入院病床が埋まるということは考えにくい」との認識を示した。 *9-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR25EXU0V20C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月30日) EUがワクチン証明本格稼働へ 1日から、感染増リスクも 欧州連合(EU)で新型コロナウイルスのワクチン接種を証明するシステムが7月1日から本格稼働する。夏のバカンス期に観光などを目的とした多くの人の移動にお墨付きを与え、景気浮揚につなげる考えだ。EUでも変異ウイルスの感染が広がりつつあり、人の移動の正常化と感染抑制の両立の取り組みが成功するか注目を集めている。EUが導入する「デジタルCOVID証明書」には、ワクチン接種完了や新型コロナ感染からの回復といったデータが記録され、QRコードのついた形でデジタルや紙で発行される。空港などで提示することで、事前の検査や隔離期間が免除される。EUの欧州委員会の提案に基づいて、加盟27カ国が5月までに証明書の共通書式や技術面の仕様で合意した。6月からギリシャやドイツなど7カ国が先行導入して以降、準備が整った加盟国からシステムに接続してきた。30日時点で27加盟国中21カ国が導入済み。EU非加盟のノルウェーやアイスランドなども加わっている。証明書の狙いは、人の移動を活発にし、新型コロナで打撃を受けた経済の再生につなげることだ。EU統計局によると、外国人による宿泊回数は2020年で約4億回と前年から7割減った。なかでもギリシャ(77%減)やスペイン(79%減)、キプロス(83%減)など南欧諸国の落ち込みが目立つ。EUでは、新型コロナを機に加盟国が相次ぎ国境管理などの制限措置を導入した。域内の移動を自由化した長年の欧州統合の成果が長期間損なわれれば「EUの結束に悪影響が出る」(EU高官)との懸念も強い。20年はEU全体でマイナス成長になったが、観光業への経済依存度が大きい南欧諸国が受けた打撃はとりわけ大きい。観光立国のギリシャはEU規模の証明書の導入を当初から主張してきた。同国のホテル協会の関係者は「観光客は戻り始めたが、まだとても不安定な状況だ。本格的な観光復活には証明書が不可欠だ」と語る。加盟国は移動規制や店舗の営業制限の緩和に動き出している。スペインなど南欧の一部では屋外でのマスクの着用義務も解除され、市民生活は平時に戻りつつある。EU復興基金の資金も7月には加盟国への分配が始まる見通しで、景気には好材料が多い。ユーロ圏の成長率が20年の6.6%減から21年は4.5%増に改善すると予測する独コメルツ銀行は「21年末には景気はコロナ危機前の水準に戻る」と分析する。「絶えず警戒し続けねばならない。変異ウイルスが急速に広がっている」。フォンデアライエン欧州委員長は6月25日の記者会見で油断を戒めた。足元では感染力の強いインド型(デルタ株)の感染が広がっている。EUの専門機関、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は23日、8月末までにデルタ株の感染が全体の9割に達するとの予測を公表した。当初遅れていたワクチン接種の速度は上がっている。ECDCによると、少なくとも1回の接種を終えた成人は28日時点で59%に上る。だが、より高い効果を得られる2回目の接種を終えた人は36%にとどまる。このまま多くの人が移動する夏のバカンスシーズンを迎えることへの不安はくすぶっている。 <非科学的な政策(その3:不要な規制・外国人に対する差別と人権軽視)> PS(2021年7月3、6日追加):*10-1のように、大会組織委員会が国立競技場で実施する開閉会式を無観客とする方向で検討しているそうだが、「接種を受けていない人への不公平な扱いや不当な差別に繋がる」などという馬鹿なことを言わずに、*10-3のワクチンパスポートを活用すれば、「50%以内で1万人が上限」「50%以内で5千人が上限」「無観客」などの科学的根拠のない規制を行って経済に迷惑をかけず、五輪も有観客で行うことができたのだ。 また、*10-2のように、五輪の取材のために来日するワクチン接種済の記者に、「①GPSで行動確認」「②水際対策アプリのダウンロード要求」「③観客への取材制限」等の行動制限を設けたことに対し、アメリカの有力紙12社が「④個人のプライバシーと技術上の安全面を軽視している」「⑤制限が来日する記者に限られることは不公平」「⑥報道の自由を侵害しないよう再検討を求める」と連名で大会組織委員会に抗議文を送ったのは全く尤もであり、私も外国人差別が過ぎると思って呆れていたところだった。 さらに、そのワクチンの職場接種は、*10-4のように、「ワクチン供給が追いつかなくなったため」として政府が新規申請受付を停止しているが、職場接種した人は自治体で接種する必要がないため、年齢を問わず接種券を素早く発行し、既接種者を自治体が直ちに把握できるようにして、1人の人にワクチンを二重に準備することがないようにすればよかったのだ。その理由は、接種券なしで職場接種を行えば接種済の入力に手作業の時間を要するため、既接種者をすぐ把握することができないからだ。そして、合理的にやってもワクチンが足りないのであれば、英アストラゼネカ製や米ジョンソン&ジョンソン製を使えばよいのである。 なお、*10-5の「⑦政府が自治体等の接種実態を正確に把握できずにいる」というのは、(申し訳ないが)デジタル庁を作ると言いながら、どこまでアホかと呆れさせられる。何故なら、「⑧どこで」「⑨誰に」「⑩どれだけの数量を接種したか」「⑪それぞれの場所の在庫と不足数量はどれだけか」は、ポスシステム(1980年代からスーパーやコンビニで使っているシステム)を使えば、何カ所で接種してもすぐ把握できるからだ。しかし、行政による代理登録はしてよいものの、手作業を入れずに集計できるよう、接種券を発行して番号管理をする必要はあった。そのため、「国がどんどん打てと急がせた」などと文句を言うのは、まるで自治体はやりたくなかったのにやっているようで感心しない。実際には、必要以上に年齢制限をして接種券を発行しなかった自治体にも責任があるだろう。 *10-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE025TZ0S1A700C2000000/ (日経新聞 2021年7月2日) 五輪開閉会式、無観客で検討 8日にも5者協議 東京五輪の観客数を巡り、新型コロナウイルス対策で東京都などに発令中の「まん延防止等重点措置」が延長される場合、大会組織委員会が国立競技場(東京・新宿)で実施する開閉会式を無観客とする方向で検討していることが2日、関係者への取材で分かった。収容定員の「50%以内で最大1万人」としていた観客上限を見直す。その他の大規模会場や夜間の一部試合を無観客にする案も浮上している。組織委は8日にも政府や都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)と5者協議を開き、観客上限の見直しについて検討する。前回6月21日の協議で五輪の観客を最大1万人などに決める一方、都などへの重点措置が今月12日以降も続くなどした場合、無観客も含め対応を検討するとしていた。現在の政府基準では、重点措置下でのイベントの観客は「50%以内で5千人」が上限となっている。過労で一時静養していた小池百合子東京都知事は2日、都庁で公務復帰後初めての記者会見に臨み、都内で新型コロナ感染が再び広がっていることから「無観客も軸に考えていく必要がある」との認識を示した。組織委の橋本聖子会長は同日の定例記者会見で「政府が示す基準にのっとって5者協議を行いたい。無観客も覚悟しながら対応できるようにしていきたい」と述べた。組織委は観客上限を超過した販売済みチケットの再抽選を行い、6日に結果を公表する予定だった。上限の見直しが必要になる公算が大きく、延期を検討している。 *10-2:https://news.goo.ne.jp/article/fnn/world/fnn-204309.html (Goo 2021/7/2) 米有力紙が組織委に抗議文 来日記者の取材制限に 東京オリンピック・パラリンピックの取材で来日する記者らに設けられた行動制限に対して、アメリカの有力紙12社が、連名で大会組織委員会に抗議文を送ったことがわかった。来日する記者は、GPS(衛星利用測位システム)での行動確認が設けられるほか、水際対策アプリのダウンロードが求められ、観客への取材も制限される。これに対し、6月28日、ニューヨーク・タイムズ紙など有力紙12社が、連名で「個人のプライバシーと技術上の安全面を軽視している」と、大会組織委員会に抗議文を送った。制限が、来日する記者に限られることは不公平だとし、報道の自由を侵害しないよう再検討を求めている。 *10-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/114256?rct=politics (東京新聞 2021年7月2日) ワクチンパスポートを今月下旬に発行 経済活性化への期待の半面、接種受けない人への差別招く恐れも 政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種歴を公的に証明する「ワクチンパスポート」を7月下旬に書面で発行する。外国への渡航時だけでなく、国内でもコロナの感染拡大で落ち込んだ経済効果への期待も高いが、接種を受けない人への差別を招く恐れもある。政府は当面、国外での利用のみを想定している。欧州連合(EU)では夏休みの時期を前に、1日から域内共通のコロナワクチン接種のデジタル証明書の運用を本格的に開始した。日本での発行について、加藤勝信官房長官は1日の記者会見で「システムの試行などを行った上で、具体的な発行を開始したい」と説明。デジタル化は「検討を進めている」と話した。 ◆申請、発行は市区町村 ワクチンパスポートは、仕事や留学で外国へ入国する際、隔離や検査などの措置が緩和されることが期待される。正式名称は「新型コロナウイルスワクチン接種証明書」となる予定で、氏名や旅券番号、ワクチンの種類や接種日などを日本語と英語で記載する。当面は国外での利用に限定し、日本への入国時で活用するかは今後検討する。早期に交付するため、まずは紙による申請・交付を行い、A4サイズの偽造防止用紙に印刷する。費用は国が負担する。申請先、発行主体は市区町村になる。 ◆経団連は早期活用を提言 経団連は6月24日、ワクチンパスポートの早期活用を求める提言を政府へ提出。国内での活用として(1)飲食店などでの各種割引、特典の付与(2)国内移動、ツアーでの活用(3)イベント会場での優先入場(4)介護施設や医療機関での面会制限の緩和ーなどを挙げた。 ◆国内での活用は「検討が必要」と官房長官 ワクチン接種については、持病など健康上の理由などから受けられない人や副反応を心配して希望しない人もいる。パスポートの活用は、接種を受けていない人への不公平な扱いや偏見が生じるとの指摘もある。加藤氏は2日の記者会見で「国内での接種の事実は、接種済証で証明できる」とした上で、ワクチンパスポートの国内での活用に関しては「接種の有無で不当な差別的扱いを行うことは適当でなく、検討が必要」と話した。 *10-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/700570 (佐賀新聞論説 2021.7.3) 職場接種申請停止、ワクチン供給に全力を 企業、大学を対象とする新型コロナウイルスワクチンの職場接種は、ワクチン供給が追いつかなくなったため本格開始の2日後に政府が新規申請受け付け停止を発表した。再開の見通しはつかず、このまま打ち切りになる可能性もある。自治体や自衛隊による接種を補う職場接種は、菅義偉首相が掲げた10~11月までに全希望者へ打ち終える目標に向け、作業加速化の切り札だった。しかしスピードを優先するあまり、需要見通しを甘く見た上、過大な量の申請をチェックする態勢なども未整備だった。大企業は早く申請して接種が進む一方、医療従事者確保など準備に時間を要した未申請の中小企業は、はしごを外された形だ。前例のない大規模ミッションとはいえ、やみくもな「強行軍」では国民の命と健康を守り切れない。市区町村による接種向けのワクチンも滞り始めた。政府はワクチン供給を軌道に戻すことに全力を挙げてほしい。政府は、若者を含む現役世代の接種率を一気に上げようと、同一会場で最低千人程度に2回打つことを基本に職場接種を開始した。使うのは5千万回分の供給契約を結んだ米モデルナ製ワクチンで、うち3300万回分を職場接種に割り当てた。だが早々に申請が供給を上回るペースとなり受け付けを止めざるを得なくなった。現場を混乱させる朝令暮改の対応だと言わざるを得ない。河野太郎行政改革担当相は原因に関し、従業員約千人の企業がワクチン5千回分を求めるなど過大な申請が散見されると述べた。実際に多すぎた例もあるだろうが、家族や取引先、近隣住民まで接種対象を広げるよう求めたのは政府だ。民間のやる気を駆り立てながら、過大請求を指摘するのはちぐはぐな対応と言わざるを得ない。企業や大学には反発、戸惑いが広がる。受け付け停止直前に駆け込み申請したが、予定する複数会場のうち一部にワクチンが回らない企業もある。経済同友会は地方で計画していた中小企業対象の集団接種を取りやめた。打ち手や会場を確保しながら申請できなかった企業は、それまでの手間やコストが無駄になる。この混乱の責任は重い。政府はモデルナ製の逼迫ひっぱくを受け、都道府県などが新たに開設する大規模接種会場向けをモデルナ製から米ファイザー製に切り替え、余ったモデルナ製500万回分を職場接種に回す方針だ。異なるワクチンのすみ分けがきちんと管理できるなら、こうした融通を利かせて危機を乗り切りたい。ただ、市区町村による個別・集団接種に従来使用されてきたファイザー製も現場に十分届かなくなっている。大阪市は、医療機関からの申請に追いつかないとして7月から個別接種向けのファイザー製供給を制限した。自治体や医療機関の一部に在庫が滞留し、必要な地域に回らないのが原因とされる。政府は自治体と連携し、早急に在庫の実態を調べて配分先を再調整してほしい。また政府は英アストラゼネカ製1億2千万回分も調達契約済みだが、まれに血栓症の副反応があるため使用を見送っている。だが海外では十分な接種実績と効果が報告されている。ワクチン供給の逼迫解消には、リスクを慎重に見極めた上、比較的安全とされる60歳以上に限定して使う選択肢もあり得るのではないか。 *10-5:https://digital.asahi.com/articles/ASP757H8DP75ULFA024.html?iref=comtop_AcsRank_05 (朝日新聞 2021年7月6日) 「どんどん打て」急かされた結果…接種記録遅れ現場混乱 新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、政府が自治体などの接種実態を正確に把握できずにいる。接種回数や自治体の在庫量は、国のワクチン接種記録システム(VRS)で一元的に管理するが、接種の入力が煩雑で遅れるケースが相次ぐ。ワクチン不足を訴える自治体が出ているなか、今後の配送計画にも影響を及ぼしかねない。 「VRSの作業は煩雑で負担になる。接種に注力させてほしい」。大阪市はこうした大阪府医師会からの要請を受け、診療所などから個別接種がすんだ人の接種券を回収し、登録作業を代行している。国は接種券の情報を瞬時に読み取る専用端末を全国に配布。医療機関や自治体が接種の際に登録する仕組みだが、個別接種を行う市内約1800の診療所などのうち、9割がVRSの端末の利用を希望しなかった。このため、接種日から登録まで平均1カ月のタイムラグが発生。市の集団接種会場では、当日のうちにVRSの登録を済ませるのとは対照的だ。松井一郎市長は、「VRSの作業に手間がかかり、(診療所などでの)接種人数が抑えられるなら本末転倒」と、登録より接種を優先してきた事情を強調する。ただ、市の人口は大阪府内の3割を占め、府全体の接種率に大きく影響する。吉村洋文知事からの要請もあり、7月以降は接種券をこまめに回収するなどして登録遅れを1週間に縮める対応を取っている。行政による代理登録は、大阪市だけでなく、東京都世田谷区でも行われている。VRSの入力遅れは、地域ごとにさまざまな事情で生じており、政府が掲げた「1日100万回接種」の目標達成も実際の達成と発表まで最大15日間の遅れがあった。そもそも、VRSは国がリアルタイムに接種記録を管理するためにつくり、ワクチンの在庫把握にも利用される。ところが、「国がどんどん打てと急がせた」(官邸関係者)ことで、自治体の入力が追いつかず現実とシステム上の数字にギャップが生まれた。こうした状況に、政府内の調整を担う河野太郎行政改革相は、7月からVRSへの登録実績に応じてワクチンの一部を傾斜配分する方針を表明。接種登録の作業が遅れている自治体は、システム上は接種が進んでおらずワクチンが余っていると見立てた。自治体側からは反発が出ており、7月の自治体へのワクチン配送量が6月より約3割減になるところにこの傾斜配分が加わったことで、全国の自治体に「ワクチンが足りなくなる」との懸念が広がった要因の一つとなった。さらに接種状況の把握を難しくさせたのが、6月から始まった企業や大学の職域接種だった。自治体での接種と異なり、接種券がなくても従業員名簿や学生簿で管理することで接種を可能にした。後日、自治体から本人に接種券が届けば企業や大学に提出して、VRSに登録してもらう。このため、自治体からすれば、住民の誰が職域接種を済ませたのかすぐに分からず、接種計画が立てづらくなった。官邸関係者は「職域接種により、自治体全体での接種が早いのか遅いのか見えなくなる。ブラックボックスになってしまった」と説明する。自治体接種で使われる米ファイザー製と、職域接種で使われる米モデルナ製は、年内に計2億4400万回分(1億2200万人分)が供給される見通し。接種対象となる約1億1千万人分のワクチンは確保されているが、7月以降は自治体への配送量が減る。今後、ワクチンの配分を「最適化」させるには、正確な接種状況や迅速な在庫量の把握が欠かせない。河野氏は6月23日の記者会見で、今後のワクチンの配送計画について「目をつぶって綱渡りをするようなオペレーションにならざるを得ない」と漏らした。そのうえで、在庫を減らして必要なものを必要な時につくるトヨタ自動車の生産方式を引き合いに見通しを語った。「自動車工場のようにジャスト・イン・タイムというわけにもいかない。すぐにVRSで(職域の)数字が見えないので、正直ちょっと厳しいと思っている」 <不合理な政策(外国人への不公平・不公正な規制と人権侵害)> PS(2021年7月4日追加):*11-1のように、米国務省が世界各国の人身売買に関する2021年版報告書で日本の外国人技能実習制度の悪用を問題視した。具体的には、「①手取り13万5000円と聞いていた給与は8万円ほどだった」「②社長の従業員に対する暴力や嫌がらせがあった」「③実習制度は劣悪な職場でも仕事を変えられない職場移動の自由がない仕組み」「④多くの実習生が劣悪な環境でも働き続けるしかない」「⑤2019年に7割以上で労働時間や残業代支払いなどでの違反があった」などで、技能実習の建前の下で、搾取・パワハラ・人権侵害が横行しているため、私も技能実習制度を廃止して人権を守る受け入れ制度をつくるべきだと思う。 また、*11-2の上毛新聞(群馬県の地方紙)によると、「⑥2020年に県警が摘発した在日外国人は、433人と過去10年で2番目に多かった」「⑦日本人を含めた全摘発数に占める割合は前年比0.5ポイント上昇の10.9%で2年連続全国最高だった」「⑧新型コロナの影響で失職した外国人がコミュニティーを頼って群馬県に集まっていることが影響した」「⑨罪は、窃盗95人、傷害・暴行66人、詐欺8人、薬物事犯26人、入管難民法違反187人(過去10年最多)」「⑩国籍別では、ベトナム212人、ブラジル41人、中国34人、フィリピン33人、ペルー18人でベトナム人増加に伴って摘発も増えた」とのことだ。しかし、このうち、⑨の入管難民法違反は、日本人にはない罪で不合理なほど厳しい上、窃盗は⑧の新型コロナの影響で失職した外国人が生きるための最後の手段として行ったものと考えられる。そのため、この2つを除けば、県警が摘発した在日外国人は151人(=433-95-187)・4.1%(151/《433/0.109-95-187》)となって、日本人の犯罪率と変わらないのではないかと思う。つまり、いかにも外国人が悪いことをする人であるようなイメージを作っているが、その罪の多くは外国人に課された不公平・不公正な待遇に起因するものと言える。 また、*11-3の難民保護でも、相手の立場に立って考えない人権侵害が多く、具体的には「⑪10年代には紛争激化で世界の難民数が増え」「⑫紛争や人権侵害のため母国に住めず、日本に難民申請する人が増加した」にもかかわらず、「⑬法務省は申請増に歯止めをかけようと、2018年に難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化し」「⑭2020年の難民認定率を0.4%に留めたため先進国の中で極めて低い水準になった(カナダ56%、英国46%)」。さらに、「⑮在留期限が切れて不法残留者となった人は2021年1月時点で8万2868人に達して、摘発され帰国するまで入管施設に留めおかれ」「⑯名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容され、仮放免を求めてハンガーストライキを起こし体調を崩した収容者も多い」という状況だ。つまり、日本が好きで日本に来てくれた人をひどい目に合わせて追い返すことによって、その一族を根っこからの日本嫌いにするという愚策を行っているわけだ。 2021.2.7上毛新聞 2021.5.28日経新聞 2021.5.28日経新聞 (図の説明:左図のように、群馬県警における在日外国人の摘発数が上がったそうだが、その内訳は、外国人に課された不公平・不公正な待遇に起因するものが半分以上である。また、中央の図のように、日本への難民申請者の数は高水準が続いているのに、日本は難民認定を厳格化して認定割合を0.4%に留めている。そのため、右図のように、第三者機関による審査制度は必要だが、そもそも先進国並みの認定水準にして人材鎖国をやめることが必要不可欠だ) *11-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/114281 (東京新聞 2021年7月2日) 「搾取」の汚名負った外国人技能実習制度 米国務省の人身売買報告書が指摘 米国務省が1日発表した世界各国の人身売買に関する2021年版の報告書で日本の外国人技能実習制度の悪用が問題視されたのは、多くの実習生が劣悪な環境でも働き続けるしかない状況に追い込まれているからだ。日本の技術を母国に持ち帰ってもらう「国際貢献」の理念は色あせ、逆に「搾取」の汚名を負った。 ◆「手取り月13万5千円」、実際は8万円 「稼げないし、職場のいじめが怖くて逃げ出すしかなかった」。元実習生のベトナム人男性(30)は2日、本紙に2018年の実習先での経験を明かした。125万円を借金して来日したが、手取り13万5000円と聞いていた給与はわずか8万円ほど。社長の従業員に対する暴力や嫌がらせから、「次は自分かも」と不安に陥り、半年ほどで逃げ出した。 ◆7割以上の事業所で労働時間などの違反 いったんは入管施設に収容され、今は仮放免中。働くことは認められない。コロナ禍で航空便がないため帰国もできず、生活に窮して支援団体に保護された。そもそも実習制度は劣悪な職場であっても簡単に仕事を変えられない仕組みだ。この男性のような失踪者は19年、9000人近くに上り、その後も後を絶たない。厚生労働省によると、技能実習生は毎年増え、昨年10月で40万2356人。外国人労働者の23・3%を占める。賃金は月平均16万1700円で、外国人労働者全体の同21万8100円を大きく下回る。19年に実習先約1万事業所を調べると、7割以上で労働時間や残業代の支払いなどで違反があった。 ◆指宿弁護士は「制度廃止を」 人身売買と闘うヒーローに選ばれた指宿昭一弁護士は2日、「実習生はブローカーへの手数料などで多額の借金を背負い、職場移動の自由はなく、低賃金やパワハラなどがあっても働き続けなければならない。実習制度はまさに人身取引的な労働の根源だ」と指摘。「制度を廃止し、中間搾取されず、人権も守られる受け入れ制度をつくるべきだ」と話す。 *11-2:https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/272265 (上毛新聞 2021/2/7) 在日外国人の摘発数 2020年は433人 群馬県警 半数がベトナム人 2020年に県警が摘発した在日外国人(永住者、特別永住者などを除く)は433人と過去10年で2番目に多かったことが6日、群馬県警のまとめで分かった。このうちベトナム人が212人と国籍別で最多。日本人を含めた全摘発数に占める割合は前年比0.5ポイント上昇の10.9%となり、2年連続で全国最高となった。新型コロナウイルスの影響で失職した外国人がコミュニティーを頼って群馬県に集まっていることなどが影響したとみられる。国籍別では、ベトナムがほぼ半数を占めたのをはじめ、ブラジル41人、中国34人、フィリピン33人、ペルー18人と続いた。刑法による摘発は196人(前年比15人減)で、このうち窃盗が半数近い95人に上った。次いで、傷害や暴行などの粗暴犯が66人、詐欺などの知能犯が8人。特別法での摘発は237人(11人増)。入管難民法違反が187人で過去10年で最多となり、覚醒剤取締法違反などの薬物事犯は26人などだった。昨年9月に発生した前橋市のホテルで女性経営者が刺殺された強盗殺人事件で県警はベトナム人の男を逮捕。10月には、北関東で家畜や果物が相次いで盗まれた事件に絡み、入管難民法違反容疑でベトナム人の男女13人を逮捕した。群馬県によると、県内の外国人住民は昨年12月末時点で6万1461人で、県人口の約3%。県警組織犯罪対策課によると、在日外国人の摘発は16年256人、17年338人、18年368人、19年437人と増加傾向にある。県警による全摘発人数に占める割合も16年5.2%、17年7.4%、18年8.4%、19年10.4%と上昇が続いている。同課は、県内に住むベトナム人の増加に伴い、摘発も増えていると指摘。「犯罪が減るよう適切に取り締まるとともに、多文化共生への対策にも取り組む」とした。 *11-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2334E0T20C21A5000000/ (日経新聞 2021年5月28日) 難民保護、政策手薄の10年 日本の認定率は0.4% オーバーステイ(超過滞在)などの理由で在留資格のない外国人の保護のあり方が注目を集める。政府・与党は入管施設での長期収容を防ごうと出入国管理法の改正を目指したが野党が反発し今国会での成立を見送った。難民認定をはじめ入管行政は効果的な政策が打たれないままだ。「きょう食べるものにも困っている」。NPO法人の難民支援協会(東京・千代田)には、生活や就労などの支援を求める外国人からの連絡が年間4000件近く寄せられる。最近は新型コロナウイルス禍で困窮した人からの相談が急増しているという。紛争や人権侵害のため母国に住めず日本に難民申請する人は増加傾向にある。申請者数はピークの2017年に1万9629人となり10年に比べ16倍に達した。協会は「難民は仲介人らを通じ国を探す。入国できそうな国の航空券を取り入管などで保護を求めることが多い」と指摘する。難民が日本を訪れるのは多くの場合「偶然、査証(ビザ)が発給された」ためだ。日本に来る難民はもともと、ベトナム、ラオス、カンボジア人が中心だった。ベトナム戦争の「ボート・ピープル」が典型例として知られる。02年に中国の日本総領事館に北朝鮮の脱北者が駆け込む事件が発生。それを機に、難民の申請要件を緩和し、認定前の仮滞在を可能にした改正入管法が04年に成立し申請がしやすくなった。政府は10年、申請者の就労も一律で認めた。年間1000人程度だった申請者数は14年には5000人に。入管の人手不足もあり「就労目的で申請を悪用したとみられる事例が増え審査期間も長くなった」(出入国在留管理庁)。10年代には紛争の激化で世界の難民の数も増えた。日本は観光客の誘致へビザの発給要件を緩和したこともあり難民が来日する事例も増えた。法務省は申請増に歯止めをかけようと、18年、明らかに難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化した。支援団体は日本の認定率を問題視する。19年は1万375人の申請に対し認定は44人と、0.4%にとどまった。56%のカナダ、46%の英国に比べ低水準が際立つ。在留期限が切れて日本に残る不法残留者は今年1月時点で17年に比べ3割多い8万2868人に達する。そうした人は摘発され帰国するまで原則として入管施設にとどまる。3月に名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容されていた。仮放免を求めハンガーストライキを起こし体調を崩す収容者も多い。難民申請を繰り返す人が多く入管施設は逼迫する。「送還忌避者」は20年12月時点で3100人にのぼる。「入管法改正の背景には送還忌避があとをたたない状況がある。迅速な送還の実施に支障が出て収容が長期になることの要因となっていた」(上川陽子法相)。法務省は入管法改正案で長期収容の問題解決を目指した。3回目以降の申請は強制送還の対象になるとの規定を設けた。現在は認定申請すると回数や理由に関係なく送還できない。強制送還が可能になると収容者は減るが帰国先で迫害を受けかねない。野党は「人権侵害のスリーアウトルール」と呼び反対の論拠にした。法務省は外国人の受け入れを広げるため難民に準じた新資格「補完的保護対象者」を提案した。母国が紛争中の人を念頭に難民と同じように定住者の資格で在留を認める。筑波大の明石純一准教授は法改正の必要を強調する。それだけでは長期収容の問題は解決せず「難民認定などを審査する入管の体制強化が必要だ」と話す。支援団体などは難民認定を入管当局ではなく専門性の高い独立機関がすべきだと主張する。日本の入管行政はこの10年間、申請の急増に対応する政策が手薄だった。改正案の成立は見送りになったが長期収容の問題は残る。入管法改正案の今国会成立が見送られた背景には、スリランカ人女性の死亡事案がある。死亡の経緯を巡り野党が法務省の説明不足を指摘し、事実関係の提示がなければ採決に応じない姿勢を示した。法務省は遺族が求めた女性の映像の公開に消極的だ。遺族は「真実で公正な答えが欲しかった」と訴えた。出入国在留管理庁によると、収容中の外国人が施設で死亡した例は2007年以降17件起きている。現在の入管行政は難民申請者の増加に追いついていない。生活が苦しく就労も不安定で、申請にいたるケースも多い。外国人の人権保障を巡り、世界から日本に向けられる視線は厳しい。スリランカ人女性の死亡事案についても世界が納得する説明がないと、日本への不信感は高まるだろう。
| 男女平等::2019.3~ | 04:56 PM | comments (x) | trackback (x) |
|