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2024,09,16, Monday
(1)公的年金の財政検証と年金改革
2024.9.2日経新聞 2024.9.16日経新聞 年金Hacs (図の説明:左図のように、労働参加が進めば人手不足が解消し、社会保障の担い手も増える。しかし、中央の図のように、2023年の高齢者就業率は50%超にすぎない。また、右図のように、2号保険者に扶養されている配偶者は年金保険料を払わずに基礎年金を受給できるが、これは他の被保険者との間で不公平を生んでいる。そのため、転勤の多い2号被保険者の配偶者で就業できない人は、2号被保険者とその雇用主に保険料を支払ってもらう仕組みに変更すべきだ) 1)公的年金の財政検証結果について *1-2-1は、①公的年金の「財政検証」結果が発表され、政府は年金水準維持のため年末にかけ制度改正を本格的に議論 ②i)高成長実現ケースは所得代替率56.9% ii)成長型経済移行・継続ケースは57.6% iii)過去30年投影ケースは50.4% iv)1人あたり0成長ケースは45.3% v)5人未満の個人事業所にも厚生年金を適用すれば60.7% vi)週10時間以上働く全ての労働者まで厚生年金適用を拡大すれば61.2% ③国民年金(基礎年金)支払期間5年延長は見送る ④企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やす ⑤人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」 ⑥厚生年金積立金の活用により、基礎年金調整期間を厚生年金と一致させる ⑦基礎年金の保険料納付期間を40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長 ⑧在職老齢年金撤廃 ⑨厚生年金保険料上限引き上げ 等としている。 また、*1-2-2は、⑩一定の経済成長で少子高齢化による給付水準低下は2024年度比6%で止まる ⑪成長率が横ばいで2割近く下がる ⑫高齢者の就労拡大が年金財政を下支え ⑬指標は「所得代替率」で「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す ⑭厚労省がめざす「中長期的に一定の経済成長が続く成長ケース」で、2037年度の所得代替率は57.6%、給付水準は2024年度から6%低下 ⑮最も悲観的なマイナス成長ケースでは国民年金積立金が2059年度に枯渇して制度が破綻 ⑯高齢者・女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がり、積立金が2019年想定より70兆円ほど増えて前回より改善 ⑰60代就業率は2040年に77%と推計(2022年から15%高い) ⑱将来出生率は1.36としたが、2023年の出生率は1.20 ⑲1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は2001~22年度の平均がマイナス0.3% ⑳年金制度の安定には就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援や外国人労働者の呼び込みが必要 ㉑財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも示し、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースで2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円となり男女差が縮小 等としている。 このうち、①のように、年末にかけて年金制度改正を本格的に議論するのは良いが、厚労省は、⑬のように、いつまで「40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻」をモデル世帯とする「所得代替率」を使うつもりなのだろうか? このような世帯は既に少数派で、女性の労働参加を促しながら専業主婦世帯をモデルとするのは自己矛盾している。その上、年金は個人単位で考えなければ働く女性が損をし、㉑のように、2024年度は男性14.9万円・女性9.3万円、成長ケースであっても2059年度に男性21.6万円・女性は16.4万円と年金受給額に男女差が存在するのは、同様に働いても男女間に賃金格差があり、女性の方が在職年数も短くなりがちであることに依るのだ。しかし、これをこそ早急に改めるべきである。 そのため、②の“所得代替率”は、夫婦で稼いできた世帯のケースも出さなければ、多くの世帯にとってどうなるのか不明である。また、経済成長率についても、1人当たりGDPを比較すれば、*1-2-3のように、「子だくさん≒女性の教育水準が低く、働いていないか、低賃金⇒貧乏」であり、⑤⑱の「将来出生率が高くなれば、年金の所得代替率を高くできる」という仮説に基づいた“マクロ経済スライド”は誤りなのである。 また、②⑩⑪⑭のように、経済成長の大きさで年金給付水準を下げるのも、経済成長するか否かの原因が国民にあるわけではなく、厚労省・経産省・農水省・文科省のこれまでの政策にあるため、間違った政策の責任転嫁である。仮に国民に責任の一端があるとすれば、それは、メディアを通した情報で政策の誤りを見抜けず政治家を選んだことに依るが、実態は政治家よりも行政庁の方が強いのである。 さらに、⑲の実質賃金上昇率には、生産性向上と生産性向上に資する産業の育成が必要だが、EV・再エネ・再生医療・介護サービスなどを見ると、これから発展する産業を抑える経産省・厚労省、物価上昇を促す財務省、生産性も上がらないのに賃金上昇を叫ぶ政治など、高コスト構造で日本企業が海外に生産拠点を移すことはあっても、将来性ある企業が日本で育ったり、海外企業が日本に生産拠点を移したりすることは、余程の補助金でもつけなければなさそうだ。 しかし、高齢者の就労については、平均寿命の伸びによって年金受給期間が伸びており、⑫⑯のように、高齢者や女性の就労拡大は年金財政を下支えをしているため、私は、③⑦⑧の国民年金(基礎年金)支払期間の5年延長と在職老齢年金撤廃はやればよいと思うが、健康寿命も伸びているため、年齢による差別(例:役職停止・定年・労災保険の加入年齢制限)の廃止と同時に行なうべきである。そうやって、⑰の60代就業率を100%にしなければ、結局は年金支払期間の延長も受給開始年齢の繰り上げもできないだろう。 また、女性の就労については、年金制度の安定だけでなく本人の老後生活の安定のためにも、④のように、企業規模に関わらず厚生年金加入対象の短時間労働者を増やすのは当然のことであるし、⑳のように、長期就労や就労拡大に繋がる仕事と育児の両立支援が必要であることも言うまでもない。また、外国人労働者の呼び込みも重要である。 なお、物価と賃金の上昇が続く場合には、⑨の厚生年金保険料の上限引き上げは当然のことになるが、⑥の「基礎年金に厚生年金積立金を活用する」というのは目的外使用だ。そして、これまでも、年金積立金が要支給額(=要積立額)という発生主義で認識されず、キャッシュフローだけを見て余っていると勘違いし流用されてきたのが、必要な積立金の不足原因であるため、同じことを繰り返して欲しくない。このように流用を重ねた結果、⑮のように、「年金制度が破綻した」と言って「緊急事態条項」を発動し、契約に基づいて年金保険料を支払ってきた国民が受給権を制限されてはたまったものではないのである。 2)世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係 すべて、*1-2-3の統計メモ帳より (図の説明:左図のように、合計特殊出生率とGDP/人はマイナスの相関関係があるが、アンゴラ・赤道ギニア・ミャンマー・北朝鮮・モルドバはその例外だ。また、GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、中央の図のように、産油国・資源国でGDPの割に合計特殊出生率が高いが、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない国である。さらに、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率が1.3未満の国を拾うと、東アジア・東ヨーロッパの新興国に集中しており、西ヨーロッパ諸国に「成熟した国」とは何かを学ぶべきである) 人口ピラミッド アフリカ ブラジル・中国・フランス・日本 世界とヨーロッパ (図の説明:左図は、アフリカの人口ピラミッドでエチオピア・ナイジェリア・ルワンダ・ザンビアのようなピラミッド型は、多産多死型の国である。中央の図は、多産多死型の国が少産少死型に移行する過程を示しており、ブラジルは1985年頃まで、中国・日本も1950年代まで多産多死型の国だった。右図が、今後の世界とヨーロッパの人口構成を示しており、次第に少産少死型となって、2100年頃には生まれた人が高齢まであまり亡くならないことが予想されている) *1-2-3は、①190の国・地域で合計特殊出生率とGDP/人の相関をグラフにした ②GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人は反比例 ③途上国の人口増大問題解決にはGDP/人を上げるのが正しい ④アンゴラ・赤道ギニアはGDP/人が比較的高いが出生率も高く、その理由は石油収入が必ずしも国民の貧困解消に結びついていない、GDP/人の増加で出生率が低下するまでに10年ほどかかるなど ⑤GDPが低いのに出生率も低いのがミャンマー・北朝鮮・モルドバで、ミャンマー・北朝鮮は圧政国家、モルドバは経済状態悪化 ⑥GDP/人が1万ドル以下の国と赤道ギニアを除くと、GDPの割に出生率の高い国はカタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・イスラエル・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナと多くが産油国・資源国で、GDP/人が必ずしも国民の生活の豊かさを示していない ⑦日本と他の先進国を比較するため、産油国・資源国を除いて合計特殊出生率1.3未満の国をGDP/人が高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人と東アジアと東ヨーロッパに集中 ⑧成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべき としている。 このうち、①②③④⑤⑥は、合計特殊出生率とGDP /人の相関を調べた点が、大変、面白い。そして、日本政府が言う「出生率が上がれば、GDPが上がる」というのは、GDP全体 は少し上がるかも知れないが、GDP/人(国民1人1人の豊かさ)については事実でないことがわかる。 それでは、何故、②のように、GDP/人が数千ドルになるまで出生率とGDP/人が反比例するのかと言えば、GDP/人が数千ドル以下の途上国は産業革命以前で、食糧/人が乏しく教育・医療も普及していないからだ。そのため、③のように、途上国の人口増大問題解決には、GDP/人を上げる(≒食糧《栄養》・教育・医療を普及させる)のが正しい解決策になるのである。 また、④⑥の赤道ギニア・カタール・ブルネイ・バーレーン・アラブ首長国連邦・サウジアラビア・オマーン・ガボン・ボツワナ等の産油国・資源国は、GDP/人は比較的高いが出生率も高く、その理由は、資源からの収入が必ずしも国民の豊かさに結びついていなかったり、宗教上の理由で女性の自由や権利が著しく制限されて女子教育が普及していなかったりするからだ。さらに、アンゴラのように、長期の内戦で経済が疲弊し人口も減少して、復興によってGDPが増加し、食糧・教育・医療が普及して出生率が低下するまでに数十年の歳月がかかることもある。 なお、⑤のように、GDPが低いのに出生率も低いミャンマー・北朝鮮は圧政国家で、同モルドバは経済状態の悪化が原因としているが、⑦の日本・韓国・シンガポール・マカオ・香港などの東アジア諸国も、未だに儒教由来で個人(特に女性)の権利を軽視する国々であり、組織(会社・世帯など)のために個人(特に女性)を犠牲にすることを厭わないどころか尊ぶ風潮の残っている全体主義・集団主義国家(反対用語:個人を大切にする民主主義国家)である。 さらに、スロベニア・チェコ・スロバキア・ハンガリー・リトアニア・ラトビア・ポーランド・ベラルーシなどの東ヨーロッパ諸国は、社会主義という全体主義国家から市場経済社会に加わって日が浅く、社会主義的価値観を持つ国民も多く残っている上に、未だに国民生活が豊かとは言えない状態なのであろう。 そのため、⑧の「成熟した国であるイギリスはじめ西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶ」とすれば、それはまさに第二次世界大戦敗戦後に欧米先進国から日本に与えられた日本国憲法(1946年11月3日公布、https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/174 参照)に書かれている理念そのものであるため、解釈改憲などをして後戻りさせること無く、その理念を実行すれば良かったのだ。 3)非正規労働(特に女性)と低賃金・低年金 2024.9.20東洋経済 2023.12.10日経新聞 2023.10.2読売新聞 2021.3.30日経新聞 (図の説明:1番左の図は、2018年の相対的貧困率で年齢が上がるごとに貧困率が上昇し、中でも1人になった女性の貧困率が上がっている。また、左から2番目の図は、日本の男女間賃金格差で先進国平均の2倍だ。そして、右から2番目の図は、働く女性が増加してM字カーブは解消されつつあるが、子育て後は非正規の仕事しかないため、正規雇用率はL字カーブになることを示している。さらに、1番右の図は、上が年齢階層別正規雇用率で、下は大卒以上の女性の労働力率だが、日本は先進国の中で著しく低いことを示している) *1-3-2は、①2023年は共働き世帯が1200万を超え、専業主婦世帯の約3倍 ②保育所増設・育児休業拡充等の環境整備が進んで仕事と家庭を両立しやすくなったことが背景 ③社会保障・税制は専業主婦を前提にしたものが多く改革が急務 ④2023年の15~64歳女性の就業率は73.3%で、この10年で10.9%の伸び ⑤2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%だが、55~64歳で31%、65歳以上は59% ⑥共働き女性の働き方は、週34時間以下の短時間労働が5割超 ⑦年収は100万円台が最多で100万円未満がその次 ⑧短時間労働が多い理由の1つは「昭和型」の社会保障・税制による専業主婦優遇 ⑨配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は49%で減少 ⑩共働きが主流で各業界で人手不足が深刻さを増す中、官民をあげた制度の見直しが不可欠 としている。 また、*1-3-1は、⑪年金受給月額が10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性は7割弱、「50歳」女性は6割弱になる ⑫どちらも女性の老後が安心というレベルでない ⑬高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある ⑭50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代で、今から働くのは難しいが、働いたり、キャリアアップしたりすることが老後の生活に大きく影響 ⑮女性の低年金は、非正規雇用が多く世帯中心に考え個人単位の生活を想定しなかったことが原因 ⑯国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大は年金財政改善のためで、非正規雇用の老後生活という視線がない ⑰「男女の賃金格差で女性の低年金は当然」という考え方もあるが、男女の賃金格差自体が社会的に認められない ⑱現在働く女性の老後は、現在の高齢女性より数字上は良いが、国民の実感とは距離 ⑲「低年金の人は生活保護に」という考え方は、年金制度は維持できるが、生活保護給付費が増加するため持続可能性が低い ⑳年金を巡る政策は、現在の雇用政策と結びつけて考えるべき 等としている。 このうち、①②③④は、そのとおりであるため、社会保障は、夫婦子2人の専業主婦世帯を標準にするのではなく、個人を中心として共働き世帯の生涯所得を出すべきだ。そうすれば、⑥⑦のように、子育てを原因としてやむを得ず正規から非正規に転換することが、生涯所得の減少にどれだけ影響するのか(=女性にとっての結婚・子育ての機会費用)が明確にわかり、それは出産費用の無償化や結婚・出産祝い金の金額とは2~3桁違うため、教育水準が高くなるほど少子化する原因が特定できて、的確な解決策が出る筈である。 なお、⑧⑨のように、短時間労働が多い理由が、社会保障・税制と雇用における配偶者手当による専業主婦優遇というのは正しいだろうが、⑤のように、2023年の専業主婦世帯は、妻が25~54歳では21~23%、55~64歳では31%、65歳以上では59%と年齢が上がるにつれて所得を得る仕事をする妻の割合が減るが、その理由は、昭和の“規範”の中で生かされ、現在も女性差別・年齢差別が存在している中、65歳以上の女性の雇用は著しく厳しいという社会構造にある。 そして、この状態は、男女雇用機会均等法による均等待遇義務化以前の影響が色濃く残っているからであり、専業主婦に甘んじざるを得なかった妻たちの責任とは言えないため、⑩のように、官民をあげた制度の見直しをするとしても、年金制度の変更は、少なくとも国が男女雇用機会均等法によって男女の均等待遇を義務化した2001年以降に就職した世代からにすべきだ。何故なら、各業界の人手不足は深刻だが、企業の我儘を満たすのが改正目的ではなく、(金銭だけではない)負担と給付の公平性を正すのが最も重要な改正目的だからである。 さらに、男女の雇用が均等ではなく賃金格差が大きいため、⑪⑫⑱のように、年金受給月額10万円未満の割合は、現在「65歳」の女性で7割弱、「50歳」女性でも6割弱になるそうだが、物価が高騰している中で、「20万円未満の年金で老後は安心」などと思う人はいないため、「高齢者は裕福だ」と言っているのがどういう背景を持つ人なのかは、よく見ておくべきである。 つまり、⑬の「高齢女性に厳しく、頑張って働く必要がある」というのは、いかにも「年金額が低いのは本人の責任」とでも言っているかのようだが、高齢女性は、頑張って働いても男女間賃金格差が大きかった上に、女性が働く環境も整っていなかったため、結婚や子育てで退職させられることの多かった世代であることを忘れてはならない。 にもかかわらず、⑭は、「50歳の女性は結婚・出産退職が多かった世代」などと1986年施行の最初の男女雇用機会均等法以降に就職した女性だけが結婚・出産による退職が多かったかのように記載している。しかし、男女雇用機会均等法もない中で働き、均等法を作ることから始めさせられた均等法以前の世代の苦労を無視しているのを許すわけにはいかない。何事も、常識や法律になった後で行なうのは容易であり、先端で常識にし、法律にした世代の方がよほど大変だったのであり、より偉いのだから、その苦労には正当に報いるべきなのである。 なお、⑮のように、女性の低年金は政府が個人の幸福を追求しなかったことが原因であり、⑯のように、国が進める厚生年金の非正規雇用への適用拡大も年金財政改善のためであって国民の老後生活維持・改善という視点ではない。つまり、それは、日本が未だ個人の自由や幸福を尊重する民主主義国家ではなく、国家や組織の論理を優先する全体主義・集団主義国家であり、特に女性・高齢者・外国人から搾取することに罪悪感を感じない国だということなのである。 そして、⑲のように、「低年金のため、生活できない人は生活保護になる」と書かれている年金・医療・介護はじめ社会保障については、1947年5月3日施行の日本国憲法25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に定められている。そのため、「年金制度を維持するために、生活保護給付費が増加するのは云々」という議論は憲法違反である。 従って、⑳の年金を巡る政策は、雇用政策と結びつけて考えるべきなのは当然のことで、それは、組織の便法のためではなく、憲法第13 条に「すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と書かれているとおり、あくまで個人である国民の福利の増進のために行なわなければならないのだ。 4)年金の手取り額について 厚労省 2024.2.27沖縄タイムス 介護保険料の支払方法 (図の説明:左図のように、政府は「マクロ経済スライド」という他国に例を見ないおかしな手法とインフレ政策によって、国民に気づかれないように年金支給率を低下させているが、そうでなくても年金収入は不十分であるため、中央の図のように、高齢者が困窮し、生活保護受給世帯に占める高齢者の割合が増えている。その上、右図のように、65歳以上《第1号被保険者》になると少ない年金収入から介護保険料を徴収し、健康保険と一緒に天引きされる40~64歳《第2号被保険者》まで含めても40歳以上からしか保険料を徴収しないため、年収が減り、介護の必要性が増してから介護保険料を徴収するという保険として誤った制度になっているのだ) 2024.8.29Diamond 2023.2.27、2024.4.5そよかぜ (図の説明:左の3つの図は、額面年金収入200万円の人の社会保険料控除後の年金手取額順位で、ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市だ。しかし、介助が必要になった場合に支給されるサービスは、右から2番目の図のように支援と介護に分かれており、給付財源は公費50%《国37.5%、地方12.5%》、介護保険料50%《第1号被保険者23%、第2号被保険者27%》だが、要支援の一部は地方負担であるため、高齢化率の高い地方ほど保険料が高い割に支援はなかなか受けられない状態になっている。ちなみに、右図のように、要支援は25~50分、要介護2~4では50~110分程度のサービスしか受けられないが、これで何ができるのか疑問だ) *1-4は、①年金定期便記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではない ②年金手取り額は、「額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」である ③所得税・住民税は同じだが、国民健康保険料・介護保険料は自治体により計算式や料率が異なるため、年金手取り額は住む場所で違う ④高齢化の進捗で国民健康保険料・介護保険料は上がっている ⑤22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円、妻は基礎年金のみ、額面年金収入200万円のケースで、手取額ワースト1位は大阪市、ベスト1位は名古屋市・2位は長野市・3位は鳥取市である ⑥国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は約5万円 ⑦介護保険料が最も高いさいたま市と最も低い山口市との差額は約3万円 と記載している。 年金のように支給額が小さい場合には、控除される税金や社会保険料が大きな割合を占め、可処分所得が非常に小さくなるため、①②③は重要な視点だ。 また、④については、高齢化の進捗だけが理由ではないが、国民健康保険料・介護保険料が上昇して、確かに年金生活者は負担しきれなくなっている。そのため、⑤⑥⑦のように、手取額ワースト1位大阪市、ベスト1位名古屋市のように可処分所得の違いが比較でき、国民健康保険料の差額が年間約5万円、介護保険料の差額が年間約3万円もあることが示されたのは新鮮だった。 しかし、地域によって物価水準が異なるため、購買力平価で比べると、むしろ2位の長野市や3位の鳥取市の方が1位の名古屋市より生活にゆとりがあるかも知れない。さらに、ここでも22~60歳まで会社員として働き、その間の平均年収600万円、妻は基礎年金のみという厚労省のモデル世帯しか示されていないのはわかりにくく、年功序列型賃金体系の下で勤務年数が短いため生涯所得が小さくなりそうな大学院卒の個人や夫婦についても示してもらいたい。 5)年金改革の課題 2024.7.3朝日新聞 2019.7.15毎日新聞 2024.7.3朝日新聞 2024.9.23日経新聞 (図の説明:1番左の図は、厚労省の年金財政検証で使われた1959年生まれと2004年生まれの人が65歳時点で受け取る成長型経済移行・継続と過去30年投影ケースの年金額で、成長型経済移行・継続ケースは名目年金額は増えるが物価はそれ以上に上昇するだろう。また、左から2番目の図は、2017年末の男女別厚生年金受給月額分布で、女性は厚生年金を受給している人でも最頻値が9~10万円と下方に偏っている。さらに、右から2番目の図のように、厚労省は未だ会社員と専業主婦世帯を「モデル世帯」としてこれしか試算しておらず、女性の就労を家計補助の位置づけとしか捉えていないが、この発想が保育・学童保育・介護制度の不十分さに繋がり、ひいては女性の年金受給額を下げている。そして、1番右の図は、共働きと専業主婦世帯の年金額だが、共働きの合計が専業主婦世帯《片働き世帯》と大して違わないのがむしろ不自然だ) *1-1-1は、①厚労省は公的年金の財政検証結果を公表して、制度改正の提案を5つ示し、「年金額分布推計」も出した ②将来の出生率等の人口動態や経済成長に関する想定をいくつか置き、各ケースの片働き夫婦のモデル年金を出し、所得代替率は2024年度で61.2%だった ③少子高齢化のため、マクロ経済スライドで所得代替率を下げている ④前回の財政検証ではスライド調整が27~28年続き、所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースもあったが、今回の成長型経済移行・継続ケースではスライド調整期間は13年間で57.6%までしか下がらない ⑤女性・高齢者の労働参加が進み、2012年から2022年にかけて生産年齢人口は約600万人減ったが、就業者数は約400万人増えた ⑥25~34歳女性の就業率は70.7%から82.5%に、55~64歳女性の就業率は54.2%から69.6%に上昇し、男性は高齢者の就業率上昇が顕著で60~64歳は72.2%から84.4%、65~69歳は48.8%から61.6%に急上昇した ⑦積立金運用も好調 ⑧労働参加の進展は前回財政検証時の想定を超えた ⑨労働参加の拡大で公的年金の支え手が増える ⑩被用者保険の適用を巡るムラの解消は急ぐべき ⑪在職老齢年金は速やかに撤廃すべき ⑫女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額分布は、上の世代より受給額が増える ⑬財政検証は所得代替率だけでなく、人生設計を支援する情報提供も行なうべき 等としている。 これに加えて、*1-1-2は、⑭現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円、女性は同16.4万円で2人が夫婦の場合は世帯で月38万円 ⑮金額は物価上昇の影響を除いて算出しているため、今の賃金や消費額と比較可能 ⑯2023年の家計調査で65歳以上・夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額25万959円 ⑰食費・交通費・通信費で4割、教養娯楽費1割・光熱水道費1割 ⑱住居費1割弱・保健医療費1割弱だが、都心の賃貸物件に暮らすと家賃負担が支出の大部分を占め、病気になると医療費急増 ⑲夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」が受け取る年金額は月33万円で、「共働き世帯」より苦しい ⑳月33万円を年間換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度 ㉑これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進む前提 ㉒女性・高齢者が労働参加すれば、担い手が増え、年金額も増える ㉓女性・高齢者の働く意欲を後押しすべき 等としている。 このうち①は良いが、②は片働き夫婦のモデル年金のみを出している点で、時代遅れかつ不十分である。その上、片働き夫婦なら2024年度の所得代替率は61.2%あるかも知れないが、共働き夫婦の所得代替率はずっと低いため、苦労して働いても働き損になりそうなのである。 また、③のように、「少子高齢化を原因として、マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」というのは、要支給額で年金積立金を計上しなかったため、(前からわかっていた)人口構成の変化によって積立金が不足したのを、少子高齢化に責任転嫁しているため率直さに欠ける。また、ただでさえ少ない年金支給額の積立金不足に関し、「マクロ経済スライドで所得代替率を下げる」という解決策しか思いつかないのは、為政者として失格でもある。 さらに、④については、成長型経済に移行・継続しても賃金上昇率より物価上昇率の方が低くなるには、イノベーションによる生産性向上が欠かせないが、イノベーションの種は環境・高齢化・家事の外部化にあるにもかかわらず、政府は、再エネ・EV・自動運転・再生医療・保育・介護等の推進には消極的で、片働き世帯の維持・原発新増設・化石燃料の延命などに積極的なのだから、これではイノベーションを起こして生産性を上げることはできないのである。 私も⑤⑥⑧⑨のように、女性・高齢者の労働参加が進めば公的年金の支え手も増えるため、多様な労働力は多様なニーズ発掘に繋がることと合わせ一石二鳥だと思うが、⑩⑪⑫のように、女性・高齢者が働くことにペナルティーを科すような制度は早急に止め、被用者保険の適用を巡るムラも解消して、働けば報われる社会を作るべきである。また、⑬のように、所得代替率だけでなく人生設計に資する情報提供を行い、将来の年金受給額と不足額を予測可能にすべきだ。 なお、⑦のように、積立金運用も好調だったそうだが、金融緩和による株高が背景であれば、その持続可能性は低い。 また、⑭⑲は共働き夫婦の合計年金受給額が月38万円、夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯(片働き世帯)」が受け取る年金額は月33万円としているが、片働き世帯が共働き世帯より苦しいのは当然であり、むしろ差が小さすぎると、私は思う。⑮については、具体的な計算方法が不明であるため、コメントを控える。 さらに、⑳は月33万円を年間換算すると400万円程度で現在の20代後半の男性の平均年収程度としているが、2人で生活している世帯が1人で生活する世帯より生活費がかかるのは当然であるため、何故、それで良いのかわからない。また、⑯⑰⑱に、2023年の家計調査の結果が出ているが、現在30歳の男性が65歳で年金を受け取る35年後の物価は現在の数倍になっていると予測されるため、どうしても節約できない食費の比重が高くなり(=エンゲル係数が高くなり)、娯楽費を減らさざるを得ないのは明らかだろう。 しかし、どちらにしても言えることは、㉑㉒㉓のように、年金制度のためにも、女性・高齢者本人のためにも、女性・高齢者の働く意欲を後押しして労働参加を進めることは必要である。 (2)現在でもOECD平均の6割しかない日本の公的年金の所得代替率をさらに下げるとは! 2024.1.19Jiji 2024.1.19NHK (図の説明:上の左右の図のとおり、2024年度は、金融緩和と戦争によるインフレの結果、物価上昇率は3.2%、賃金上昇率は3.1%だが、年金改定率は2.7%であり、賃金上昇率は物価上昇率に追いついておらず、“マクロ経済スライド”を適用した年金改定率は賃金上昇率以下であり、これが年金の所得代替率を下げる仕組みだ) 2024.7.29テレ朝 2015.3.3ニッセイ基礎研究所 2022.12.8ニッセイ基礎研究所 (図の説明:左図のように、2024年度の“モデル世帯《妻に収入なし》”の所得代替率は現役男子の平均手取り収入の61.2%となっているが、「妻には収入がない」と仮定しているため、実際の世帯の所得代替率よりも高く表示されている。つまり、共働き世帯の所得代替率は、夫婦の所得合計を分母にしなければ正確ではないのだ。その上、「経済成長したか否かや出生率で所得代替率が変わる」などとしているが、これが賦課方式《自転車操業方式》による年金制度の欠陥なのである。そして、中央の図のように、OECD諸国の公的年金の所得代替率《同じ計算式で比較》は平均65.9%であり、日本の40.8%は韓国の45.2%より低いが、右図のように、出生率は日本より韓国の方が低いため、日本の年金制度は制度とその運用に不備のあることが明らかだ) 1)世界から見た日本の公的年金について *2-2は、①公的年金の財政検証結果で、給付水準は目標の「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った ②「所得代替率50%以上の維持」が100年安心の根幹 ③外国人や女性も含め、働く人が将来700万人余り増えて保険料収入が増加することを見込む ④モデル世帯の給付水準は若い人ほど低く、老後の暮らしは心もとない ⑤「出生率や経済成長の想定が甘い」との指摘がある ⑥政府内には目標をぎりぎりクリアして安堵感 ⑦「50%以上の維持」は年金の受給開始時の状況に過ぎず、「マクロ経済スライド」の影響で年齢を重ねる毎に給付水準低下 ⑧政府はNISAなどで老後への備えを呼びかけ ⑨日本総研西沢理事は「若者の結婚・出産への意欲は低下しており、検証の想定に願望が含まれている」と批判 ⑩実質賃金は減少が続くが、プラスと仮定している ⑪外国人労働者増加も見込む ⑫武見厚労相は「国民年金保険料納付期間5年延長案の必要性は乏しい」と見送りを表明 ⑬与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説 ⑭厚労省は一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃し、パートなど短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方針 等としている。 これに加えて、*2-1は、⑮公的年金財政検証結果は、5年前と比べると改善傾向だが、給付水準低下が当面続くことも示した ⑯政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩めて「支え手」を広げ、年金制度の安定をめざす ⑰老後に備えた自己資産形成の重要性も呼びかけ ⑱基礎年金は満額で月6.8万円だが、少子高齢化が進むとさらに給付水準が下がる ⑲「就職氷河期世代」が年金に頼る時期が近づき、少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要 ⑳単身世帯の所得代替率は、日本32.4%、OECD加盟国平均50.7%で、日本はOECD平均の6割程度 ㉑企業規模要件を廃止し、5人以上の全業種個人事業所に厚生年金加入を適用すると、90万人が新たに厚生年金加入対象 ㉒賃金・労働時間の要件を外し、週10時間以上働く全員を対象にすると新たに860万人が厚生年金に加入し、所得代替率が3.6%上昇 ㉓「マクロ経済スライド」を基礎年金に適用する期間を短くすると、所得代替率は3.6%上昇 ㉔厚生年金保険料の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると所得代替率は0.2~0.5%上昇 ㉕基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担も増すため、財源確保が必要になり、増税論に繋がり易い 等としている。 このうち①②④⑥⑦⑮については、モデル世帯(被用者の夫と専業主婦の妻)の年金所得代替率が現在は現役男子の平均手取り収入の61.2%で、30年後も50%以上であるとしても、1人あたりでは、現在は31%、30年後は25%となる。そして、現在の31%は、⑳の32.4%に近く、年金制度は100年安心かも知れないが、年金生活者の生活は安心ではないということなのだ。 一方、OECD加盟国の平均は50.7%/人で、日本人はOECD平均の6割程度の年金しか受給できていない。何故だろうか? 政府・メディアは、インフレ政策をとり、“マクロ経済スライド”を適用してまで、年金を減額しなければならない理由を、⑤⑨⑱のように、「出生率が低い」「少子高齢化が進んだ」「経済成長しなかった」等と言い訳しているが、それが理由なら日本より条件の悪い国は多かった筈で、他国が日本と違うのは、国際会計基準に従って要支給額で年金積立金を積み、適格な運用を行なって、年金資金の目的外使用をしていないことなのである。 そこで、まずは「年金の要支給額を積み、適格な運用を行なって、目的外使用をしない」ということが名実ともに保証されなければ、いくら国民負担を増やされても国民にとっては見返りがないのだ。また、③⑪⑯のように、外国人・女性・高齢者等に「支え手」を広げて保険料収入を増加させることは必要だが、その目的が「支え手」を広げるだけで、その「支え手」の将来の年金受給を考えていなければ「支え手」の年金受給時には今と同じことが起こるのである。 なお、女性の「支え手」を増やすためには、⑭㉑㉒のように、企業規模要件を廃し、個人事業所にも厚生年金加入を適用し、賃金・労働時間の要件を緩和して週10時間以上働く人全員を対象にして、パート等の短時間労働者の厚生年金加入を拡大する方法がある。 さらに、高齢の「支え手」を増やすためには、*2-3のように、65歳又は75歳まで働くことを前提として労働関係法令を一斉に見直し、高齢者が働くためのインフラを整える必要があり、単に国民年金保険料の支払期間を40年から45年に延長するだけでは、政府及び厚労省の無駄使いを尻拭いするための負担にしかならないため誰も納得しないだろう。 そのため、単に「支え手」を増やすことしか考えていない場合は、⑫⑬のように、内閣支持率が下がるため、年金保険料の納付期間延長や厚生年金の適用拡大はできない。 そのほか、政府は、⑧⑰のように、NISA等を使った老後に備えた自己資産形成も呼びかけているそうだが、⑩のように、インフレ政策で実質賃金減少が続く中、子育てや介護のために所得が減ったり、マイホーム取得に莫大な費用を要したりすれば、老後の備えまでは手が回らなくなるため、少子化・非婚化はますます進むと思われる。 従って、「日本で本当に困っている人」というのは、⑲の「就職氷河期世代」や災害被害者だけではなく、多くの普通の国民もそれに当たるのだ。 2)「会計ビッグバン」と退職給付会計 *2-4は、①日本が1990年代後半から進めてきた会計ビッグバンを加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい ②20年余りの改革で残った主要項目の1つだったリース資産に関する会計基準改正がASBJから発表された ③新基準では中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する ④新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS) ⑤欧米の主要な官民の市場関係者は2001年からIFRSづくりを本格的に始めた ⑥日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた ⑦IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める ⑧官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい 等としている。 レンタル・リース・購入の違いは、誰が所有権を持っているかであり、購入は購入者に所有権が移転するが、レンタルとリースはレンタル会社やリース会社が所有権を持っている。 しかし、リースのうち、i)解約不能リース期間のリース料総額の現在価値が、現金で購入する場合の90%以上 ii) 解約不能リース期間が耐用年数の75%以上 の2要件を満たす場合は、殆ど購入と同じであるため、ファイナンス・リースとして、会計上、オンバランス化していた。 オペレーティング・リースは、上の要件を満たさないリースで、定められた契約期間中に所定のリース料を払って機器を使用し、途中で機器が故障した場合は貸主が修理代を負担して、契約が満了すれば返却するという、契約期間中に機器を借りているだけの取引だ。 そして、リースといってもレンタルに近いものからファイナンス・リースまで、契約にはグラデーションがあるため、会計ビッグバンを主導した私でさえ、③のように、新基準で中途解約可能なものまで含め全リースの資産・負債をオンバランス化するのはやりすぎだと思う。国際会計基準(IFRS)は合理的であるため、多分、リース取引のグラデーションに応じて判断することになっていると思う。 それよりも早く行なうべきだったのは、国際会計基準に定められている退職給付会計の年金への適用である。それは、企業が行なっている厚生年金基金と同じ考え方で、年金給付の要支給額を現在価値で割り引いた数理的評価額を年金に適用し、必要な積立金を積み立てておくもので、これが行なわれていれば、人口構成の変化によって年金支給額を変える必要などなかったのである(https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/taikyu-4_3.pdf 参照)。 (3)高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係 2020.9.23GemMed 2019.3.7日生基礎研究所 2021.6.28NiponCom (図の説明:左図は、1950~2040年の年齢階層別高齢者人口と総人口に占める高齢者人口の割合だが、高齢者人口の割合は「高齢者」の定義によって変わる。中央の図は、男女別の65歳時点の平均余命と健康余命で、どちらも80歳前後までは健康である。また、健康余命も女性の方が長いため、女性の方が退職年齢が低いのは女性差別の結果にほかならない。右の図は、男女の年齢階層別就業率で、60~64歳でも70%程度、70~74歳は30%程度、75歳以上では10%程度しかないが、これは健康余命が80歳前後であることを考慮すれば少なすぎる) *3-1は、①財政検証結果、経済条件が良い場合でも公的年金の給付水準は2030年代後半まで下がり続ける ②給付水準は順調に行っても夫婦2人で現役世代の5~6割 ③老後の生活資金を公的年金だけに頼るのは限界 ④重要性が増すのは、企業年金・個人年金などの任意で加入する私的年金 ⑤公的年金以外の所得がない高齢者世帯が4割強を占め、所得代替率が50~60%の公的年金に依存 ⑥総務省がまとめた2023年の家計調査で無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字で貯蓄等を取り崩して生活 ⑦厚労省は2025年の公的年金制度改正に合わせ、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進める ⑧政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積立可能にする ⑨与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべき」という主張もある 等としている。 このうち①②③⑤⑥は事実だろうが、そもそも夫婦2人で現役世代の5~6割というのは、1人分に換算すれば2.5~3割しかないため、(2)1)に記載したとおり、OECD平均の6割しかなく、あまりに少ないのである。 そこで、④⑦⑧のように、企業年金・個人年金等の私的年金の重要性が増し、政府は、企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充を進め、加入開始年齢の上限を引き上げて退職後も積立可能にするそうだが、勤務していた期間にはそのような制度がなくて積み立てていなかったのに、退職後になって積立できる人は非常に少ないと思われる。そのため、⑨のように、「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てろ」と言うのは無理がある。 特に、現在は第二次世界大戦敗戦後79年しか経過しておらず、焼け跡から這々の体で立ち上がって経済成長まで漕ぎ着けた高齢者が多く残っているのであり、苦しい暮らしの中で子どもを教育したため、大した老後資金は残っていない人が多いのだ。 また、団塊の世代も、戦後、急に出生率が上がって貧しい世の中で幼少期を過ごし、学校も職場も混み合っていて競争が激しく、最初はゆとりのなかった世代なのである。そのため、「公的年金だけで老後を暮らせるというのは幻想だ」というよりも「公的年金以外に老後資金がある」と考える方が幻想なのだ。つまり、「若返ったら、刷新感が出る」と安易に考えていること自体が、軽薄なのである。 *3-2は、⑩「65歳以上とされる高齢者の年齢を引き上げるべき」との声が経済界から上がる ⑪政府内では「人手不足解消や社会保障の担い手増加に繋がる」と期待 ⑫SNSを中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も ⑬高齢者の年齢は法律によって異なり、年齢引き上げの動きが出れば60歳が多い企業の定年や原則65歳の年金受給開始年齢引き上げに繋がる ⑭見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた ⑮定義見直しには踏み込まなかったが、社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要との考えを示した ⑯経済財政諮問会議の民間議員は、「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言 ⑰経済同友会の新浪代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた ⑱日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめた ⑲内閣府幹部は「元気で意欲ある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリングの徹底が重い課題 等としている。 2020年代になって団塊の世代が退職し始め、働き方改革も実行され始めると、少子化も手伝って人手不足状態となった。そのため、⑩のように、「高齢者の定義を65歳より引き上げるべき」との声が経済界から上がり、⑯のように、経済財政諮問会議の民間議員が「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」と提言し、⑰のように、経済同友会の新浪代表幹事が「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べ、⑱のように、日本老年学会は、「75歳以上が高齢者とした2017年の提言が現在も妥当」との検証結果をまとめている。 私は、上の中央の図のように、健康余命が男女とも80歳前後であることを考えれば、日本老年学会の「75歳以上が高齢者」というのが妥当だと考える。また、健康には個人差もあるため、経済同友会代表幹事の新浪氏の「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」というのに賛成だ。また、仕事があれば働き続けた方が、規則正しい生活ができ、刺激もあるため、健康寿命が長いというのはずっと前から言われていることだ。 そのため、⑪のように、人手不足解消と社会保障の担い手増加だけを目的とするのはいかがなものかと思うが、⑫の「死ぬまで働かされる」といった警戒感は当たらない。何故なら、働きたくいない人は、(生活ができれば)何歳であっても仕事を辞めればよく、働きたい人が働けるようにするだけだからである。 ただし、働きたい高齢者が働けるようにするためには、⑬のように、企業の定年と年金受給開始年齢を同時に引き上げ、⑲のように、「高齢者は労災が多い」「高齢者はリスキリングの徹底が必要」などという偏見をなくし、⑭⑮の中の高齢者の定義の見直しこそが重要なのだ。それなくして、「社会保障や財政を長期で持続させるため、高齢者の就労拡大が重要」等というのは、虫が良すぎる。 *3-3は、⑳総務省は65歳以上の高齢者に関する統計を公表 ㉑2023年の65歳以上の就業者数は2022年に比べて2万人増の914万人で20年連続増加 ㉒高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52% ㉓定年延長する企業が増え、高齢者の働く環境が整って高齢者の働き手が人手不足を補う ㉔年齢別就業率は60~64歳74%、70~74歳34%、75歳以上11.4%といずれも上昇 ㉕2023年就業者中の高齢者は13.5%で7人に1人 ㉖65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8% 等としている。 しかし、⑳㉑のように、65歳以上の就業者数が20年連続で増加しても、㉒㉔のように、60~64歳の就業率は74%、65~69歳の就業率は52%、70~74歳の就業率は34%にすぎず、75歳以上の就業率は11.4%に減る。 そして、就業率が下がる理由は、働けないからではなく、㉓のように、人手不足を補うため定年を延長する企業が増え、㉕のように、就業者中の高齢者が7人に1人となっても、㉖のように、65歳以上の就業者のうち役員を除く雇用者は非正規が76.8%で、正規社員としては60~65歳止まりの企業が多いからである。これでは、高齢者の働く環境が整ったとは言えないため、まず年齢による差別をなくすよう法律改正しなければ、高齢者が気持ちよく働くことはできないのだ。 (4)社会保障の支え手拡大について 1)高齢者と女性による支え手の拡大 *4-1は、①今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象 ②65歳以上の人の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」撤廃案は、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要 ③「第3号被保険者制度」の廃止論には厚労省が慎重 ④対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しく、厚生年金に入る要件を緩めることで第3号被保険者を減らす方向 と記載している。 このうち①は良いが、②の高齢者に関しては、75歳以前の定年禁止or定年廃止はじめ関係する労働法制の改正が必要だ。しかし、既に退職させられた人も多く、年金を受給することが前提の割り引いた賃金で、再雇用されたり、他の企業で働いたりしているため、公正性の観点から「在職老齢年金制度」撤廃案は不可欠であろう。 また、③の「第3号被保険者制度」は早急に廃止し、働いている人は社会保険料を支払うことにした方が公正だと思う。しかし、所得税は、2020年の基礎控除額改正時から物価は5~6%高騰しているため、全員の基礎控除額を50万円(48万円x1.05)以上にするのが妥当である。また、給与所得控除額の最低額も、引き下げるどころか物価上昇に合わせて引き上げるべきであり、2020年と比較すれば58万円(55万円x1.05)以上にすべきである。住民税についても、同じだ。 しかし、④のように、政治や政府(厚労省)が第3号被保険者制度廃止に後ろ向きである理由は、政治家こそ普段からの妻の支えなく当選するのが難しい職業であり、厚労省はじめ官庁も残業や転勤が多く共働きに適さない職場環境にあるからだ。しかし、そのような環境の中で、女性政治家や女性官僚は、なるべく夫に迷惑をかけないようにしながら仕事をしているため、人手不足の現在、政治や官庁こそ率先して変化すべきである。 2)外国人材による支え手の拡大 Rise for Business 2024.2.16Diver Ship (図の説明:左図は、在留資格の変遷と在留外国人及び外国人労働者数の推移で、右図は、在留資格別の外国人労働者の推移だ) FUNDINNO 2023.10.23日経新聞 2023.6.19朝日新聞 (図の説明:左図は、技能実習や特定技能評価試験から特定技能1号・2号に移行する過程だが、受入可能な分野には、女性が主として担っているHouse Keeping・保育・看護等の分野が入っておらず、1号の場合は在留期間5年で家族の帯同も許されていない。中央の図は、高卒の日本人と技能実習生の賃金を比較したもので、手数料まで含めれば同年代では、ほぼ同水準だそうだ。右図は、G7における2022年の難民認定数と認定率で、日本は著しく少なく、このような外国人の入国に対する態度の違いが、生産拠点の国外化→産業の流出→経済成長率の鈍化及び食料自給率の低下に繋がっていることは間違いない) *4-2は、①政府がめざす経済成長達成には、2040年に外国人労働者が688万人必要で97万人不足する ②国際的人材獲得競争が激化する中、労働力確保には受入環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要 ③為替相場変動の影響を加味していないため、不足数は膨らむ可能性 ④2019年年金財政検証の「成長実現ケース」に基づき、GDPの年平均1.24%の成長を目標に設定 ⑤機械化・自動化がこれまで以上に進んでも、2030年に419万人・2040年に688万人の外国人労働者が必要 ⑥今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定したが、3年を超えて日本で働く割合が高くなれば不足数は縮小 ⑦政府は2027年を目途に技能実習に代わる「育成就労」を導入し、特定技能と対象業種を揃えて3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替え易くする ⑧課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だが、中小零細企業が自前で教育するのは容易でないため、官民で環境整備に努める必要 等としている。 このうち、①④⑤から、2019年の年金財政検証における「成長実現ケース」に基づけば、機械化・自動化が進んでも、2040年代には700万人近くの外国人労働者が必要であり、100万人近くの外国人労働者が不足することがわかる。 そして、⑥⑦のように、日本の外国人労働者は、原則として来日3年で帰国する前提であるため、政府が2027年を目途に「技能実習制度」に代えて「育成就労制度」を導入し、3年間の育成就労後に(限定は多いが)特定技能に切り替え易くしたところだが、切り替え後もまだ、外国人労働者を生活者として日本社会に包含するわけではない。 しかし、3年や5年で習得できる技術は初歩的なものでしかないため、例えば、多くの外国人労働者が働いている建築現場や介護現場は、熟練労働者が著しく少なく、日本の産業自体の質が落ちて競争力を失っている。そのため、3年などという限定なく日本で働けるようにすれば、外国人労働者の不足数が縮小するだけではなく、熟練労働者が増えて産業の質も上がるのだ。 また、②③のように、為替相場が円安に傾けば、日本で得られる賃金は母国通貨への換算時に安くなる上、国際的な人材獲得競争も激化しているため、労働力確保のためには外国人労働者の受入環境の整備と来日後の労働条件や生活条件が重要な要素になる。それには、⑧のように、外国人に日本語能力を求めるだけでなく、外国人労働者の存在を当然のものとして、その長所を活かしながら、日本社会が包含する体制を整える必要がある。 *4-3は、⑨日本にいる一般的外国人の社会統合政策は長年なかった ⑩「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人がいるが、明確な根拠はない ⑪西欧諸国では、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆ど ⑫中央政府・受け入れ自治体・外国人本人の間できめ細かな仕組みができている ⑬日本で外国人の多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけて欲しいということ ⑭日本にいる外国人に対して政策的支援がなければ、当然、厳しい状況に置かれる ⑮移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れるほど最悪の政策はない ⑯日本の組織に協力したため迫害を受ける恐れが高まったケースがアフガニスタンで起きたが、海外の日本大使館・国際協力機構・NGO等で働いていた現地職員の退避・受入態勢が整えられていない 等としている。 確かに、⑨のように、日本にいる一般的外国人の社会統合政策はない。また、⑩のように、「外国人を入れると賃金が下がる」と言う人も多いが、賃金はその人の生産性によって決めるものであるため、外国人の方に高い賃金を払わなければならない場合もある。そして、その人の生産性に従って決めた賃金は公正で、それが上昇しても雇用主が傾くことはないのである。 そして、⑪⑫のように、外国人を多く受け入れている西欧諸国では、難民でも移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが義務付けられている国が殆どで、中央政府・受入自治体で受入体制ができているそうだ。 日本でも、労働力不足で外国人を多く受入れている自治体が求めているのは、⑬のように、国が予算をつけて受入体制を作ることだそうで、これにより、中等教育まで終わった地方出身者が首都圏に集まって首都圏で働き、首都圏で税や社会保険料を納めるのと同じ効果が生じる。そのため、⑭の日本に来た外国人労働者に政策的支援を行なうことの費用対効果は良いのである。 なお、⑮のように、建前上は「移民政策をとらない」と言いながら、実際には多くの外国人を受け入れて使い捨てにするほど最悪の政策はない。これでは、いくらODAで国民の金をばら撒いても、日本の評判を下げることによって経済上・外交上に悪影響が広がり、かえって高いものにつく。その顕著な例が、⑯のアフガニスタン人に対する扱いで、日本人の根拠無き優越感と利己主義によってチャンスをピンチに変える所業だったのである。 *4-4-1は、⑰各国の間で留学生の獲得競争が激しくなった ⑱教育政策の枠を超え、就職や定住促進策と一体で留学生の受け入れを進めなければ日本は後れをとる ⑲日本は、国内の大学・大学院で学ぶ留学生の増加に成功していない ⑳日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることを止め、大学の受け入れ増に本腰を入れるべき ㉑直面している課題は3つで、i)留学先としての日本の魅力低下 ii)日本では学位(修士、博士)の評価が低い iii)留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていない ㉒留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすくすることが重要だが、これは教育政策の範囲を超える ㉓留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は消極的すぎる ㉔日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要 等としている。 これに関して、*4-4-2は、「全国の私立大学の 53.3%で入学者数が定員割れとなったため、教育効果の客観的把握と情報開示で『大学の供給過剰』を是正すべき」という結論になっているが、私は文部科学省の「18 歳で入学する日本人を主と想定する従来モデルから脱却し、大学を留学生やリカレント教育に活用する」という目標の方が有用だと思う。 何故なら、せっかく投資して作った建物や教授陣等の大学組織を壊すのは簡単だが、現在の日本経済のニーズに沿った教育内容に改善・変化させた方が、付加価値が高くなるからである。 そのような中、⑰⑱は、「各国間で留学生の獲得競争が激しくなり、教育政策の枠を超えて就職や定住促進と一体で留学生受入を進めなければ日本は後れをとる」としているが、私もそのとおりだと思う。 また、⑲㉑㉒のように、留学生が国を選ぶ際に重視する要因は、学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)等が並び、就職しやすいことが重要だそうだが、留学生にとっても就職・昇進の機会が均等でなく、移民可能性も低ければ、留学先として魅力が低くなるのは当然である。これは、日本人が海外の留学先を選ぶ時も同じであるため、よくわかる。 さらに、日本では、学位の評価が低く、これらの留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないため、「日本国内の大学・大学院は留学生の増加に成功していない」と述べられており、大学側もグローバル社会が求める科学・技術や文系学問に科目をシフトする必要はあるとは思うが、日本人学生にとっても状況が同じであるため、尤もだ。 なお、㉓のように、留学生比率に関する現在の政府目標(2033年に学部で5%)は確かに低すぎる。何故なら、世界には母国に大学が足りなかったり、戦争中だったりして、日本に留学したいと考える学生が多い上に、日本にとっては良質の労働力や両国の架け橋となる人材を確保するまたとないチャンスだからである。つまり、このような積極的な学生たちに奨学金を出す方が、時代遅れの産業にドブに捨てるような補助金をつけるよりも、産業のイノベーションにとってずっと効果的なのである。 そして、㉔のように、日本の若者もグローバル社会を理解し、多様な文化・価値観をもつ人々がいることを知り、彼らと協働できることが重要である。反対に、他国の価値感も知らずに、何が何でも日本が一番と思っているようでは、支え手としても期待できない。 そのため、⑳のように、日本語学校や専門学校を含めた「水増し」尺度で考えることは止めた方が良い。日本語学校は、日本の大学への進学や日本での就職のための予備校的位置づけであり、専門学校は学校によっては就職に必要なことを教えるが、大学の留学生増加のために本腰を入れる方が望ましいのである。 ・・参考資料・・ <公的年金の財政検証と年金改革について> *1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240902&ng=DGKKZO83128000Q4A830C2KE8000 (日経新聞 2024.9.2) 財政検証と年金改革の課題(上) 就業率大幅上昇で財政改善、玉木伸介・大妻女子大学短期大学部教授(56年生まれ。東京大経卒、ロンドン大修士(経済学)。専門は公的年金、資産運用) <ポイント> ○労働参加の拡大で公的年金制度は若返り ○被用者保険の適用を巡るムラの解消急げ ○財政検証は人生設計支援する情報提供も 7月3日、厚生労働省は公的年金の財政検証結果を公表するとともに、制度改正の提案(オプション試算)を5つ示した。また今回の新しい試みとして「年金額分布推計」も出された。財政検証とは5年に一度、今後100年間の公的年金を巡るお金の出入りを様々な想定の下で予測し、所得代替率を試算することを柱とする作業だ。将来の出生率などの人口動態や国民所得の伸び(経済成長)に関する想定をいくつか置き、各ケースの高齢者の給付水準(片働き夫婦のモデル年金)を出す。これを各想定下での平均的な現役労働者の可処分所得で割ったものが所得代替率であり、2024年度は61.2%だ。少子高齢化で支え手が減る中で、保険料率を固定しているため、給付は少しずつ削らねばならない。毎年、物価や賃金(保険料はおおむね賃金に比例)の変動率に劣後させるマクロ経済スライドという仕組みにより、所得代替率を下げていく制度設計になっている。これをいつまでやるかと言えば、給付が下がり、今後100年間の年金財政のバランスが確保可能と判断できるまでだ。この期間をスライド調整期間という。現行制度では、1階(基礎年金)と2階(報酬比例部分)の今後100年間のバランスをそれぞれ確保できるまで、スライド調整が続くことになっている。今回の財政検証の大きな特徴は、前回(19年)に比べスライド調整期間が短くなった、すなわち給付の実質価値の引き下げを早めに終えて、より高い所得代替率で安定させても、100年間の年金財政がバランスを失わないという結果になったことだ。これは朗報だ。具体的な数値を見てみよう。前回、スライド調整が27~28年間続いて所得代替率が51.9~50.8%まで下がるケースがあった。これと似た今回の成長型経済移行・継続ケースでは、スライド調整期間は13年間に短縮され、水準も57.6%までしか下がらない。少子高齢化が進んでいるのに、そんなうまい話があるのかといぶかる向きもあろう。だがこれには極めて強力な理由、すなわち日本人がより多く働きだしたことがある。積立金の運用が好調なことも背景にある。12年から22年にかけ、15~64歳の生産年齢人口は約600万人減っている。これに対し、就業者数は13年の6326万人から23年には6747万人へと10年間で約400万人も増えた。特に女性や高齢者の労働参加が進んでいるからだ。13年から23年にかけ、25~34歳の女性の就業率は70.7%から82.5%、55~64歳の女性では54.2%から69.6%に上昇した。男性は高齢者の就業率上昇が顕著で、60~64歳では72.2%から84.4%、65~69歳では48.8%から61.6%に急上昇した。劇的とも言える社会的な変化だろう。こうした労働参加の進展は、前回財政検証時の想定の「労働参加が進むケース」を超えたものだ。図では前回の同ケースの就業者数の想定を破線で示したが、実績(太い実線)はこれを上回る。発射台が高くなっているから、今回の「労働参加漸進シナリオ」でも、40年時点では6375万人と、前回の一番上のケースの6024万人を上回る就業者数が見込まれる。労働参加の拡大は支え手を増やすが、これは現役世代が増えるのと同じ効果を年金財政に対し有する。いわば日本の公的年金制度は労働参加の拡大により若返ったのだ。この若返り傾向がすぐに終わるかしばらく続くかは、自らの働き方に関する国民の選択次第だ。ここまでが現行制度を前提とする財政検証作業の結果の柱だ。これに対し、現行制度を変えていく議論の出発点として、いくつかの提案(オプション試算)が示された。そのうち個々人の働き方との関係が深いものを2つ見てみよう。一つは適用拡大である。適用とは、被用者保険(年金では厚生年金保険)の加入者にするということだ。具体的には、雇われて働いている第1号被保険者(一部の短時間労働者など)や第3号被保険者(パートに出ている専業主婦など)を第2号被保険者(保険料を労使折半)にすることだ。第2号被保険者になれば、基礎年金に加えて報酬比例部分を受給でき、働いて保険料を払った分だけ将来の給付を増やす道が開ける。ところが現行制度では被用者保険の適用に関し、看過し難いムラがある。同じ働き方でも、雇い主がどんな主体であるかにより差がある。例えば週20~30時間の短時間労働者の場合、企業規模が小さいと被用者保険が適用されない。個人事業主に雇用されているとフルタイムでも適用されないことがある。なるべく多くの人が被用者保険に入ることで、こうしたムラを減らしていくのが適用拡大だ。適用のムラがあると、同じ労働でもそのコストとして事業主負担のあるものとないものが生じてしまう。一物二価だ。事業主負担のない「安い労働」があれば、雇う側は労働生産性を上げる努力をしなくなる。適用拡大は、安い労働をなくして日本経済の効率向上を促すものでもある。以前よりはコスト増の価格転嫁がしやすくなっているという経済環境の変化をとらえて、早急に進めるべきだ。また被用者保険の適用がない人々の中には経済的に弱い人もいる。こうした人々に被用者保険のより強力な安全網を及ぼす(包摂する)という発想も必要だ。適用拡大には、事業主負担を回避したい企業の抵抗や個々人の心理的なものなど様々な摩擦があるが、なるべく大胆に拡大すべきだ。もう一つは在職老齢年金の見直しである。現行制度では65歳以降も就労していると、報酬比例部分がカットされる可能性がある。特に、65歳までもそれ以降も正社員の平均的な賃金(年収500万円程度)以上で働く人は、カットが大きくなる(場合によっては全額)可能性がある。現行制度は65歳以降の就労に対するペナルティーであり、今の時代に合わない。年金制度への信頼確保のためにも、速やかに撤廃すべきだ。最後に今回の新たな試みである年金額分布推計に触れる。財政検証はマクロ試算であるのに対し、年金額分布推計はミクロ試算だ。具体的には平均を求める財政検証の枠組みの中で、個々人の年金加入履歴(誰が制度間を移動するかなど)をシミュレーションし、将来の年金額の分布を推計する。推計からは、女性の就業増加と厚生年金加入期間の伸びという社会全体の傾向の結果として、現在の若年女性(将来の高齢女性)の給付額の分布は、上の世代よりも受給額が増える方向にシフトすることが分かる。相対的に高い給付を受ける人の比率が上がり、低年金者の比率が下がる。こうした推計作業は、将来に不安を感じている若年層に対し、合理的なライフプランニングを支える有力な情報提供になり得る。財政検証についてはとかく所得代替率に目が行きがちだが、人々のライフプランニングを支援する貴重な情報も数多く提供されている。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240923&ng=DGKKZO83625000S4A920C2TLF000 (日経新聞 2024.9.24) 夫婦で月38万円 老後の年金十分?「不足」なら自助努力、制度の改革必須 2024年は公的年金の財政状況をチェックする5年に1度の財政検証の年にあたる。厚生労働省はこのなかで将来の給付水準の見通しを示した。現在30歳の夫婦が65歳になった時にもらえる年金額は2人あわせて月38万円。果たして、この金額でぜいたくはできるのだろうか。厚労省が7月に公表した財政検証によると、現在30歳の男性が65歳で受け取る平均年金額は月21.6万円。女性は同16.4万円。この2人が夫婦の場合は世帯で月38万円となる。金額は物価上昇の影響を除いて算出しているので、今の賃金や消費額との比較が可能だ。23年の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は月額で25万959円だ。内訳を見ると、食費や交通・通信で計4割、教養娯楽や光熱水道が1割ずつ、住居と保健医療がともに1割弱を占める。支出額だけなら月10万程度を貯蓄に回すことができる。都心の賃貸物件に暮らす場合、家賃負担が支出の大部分を占める可能性が高い。病気になって医療費が急増する可能性もある。余裕がある暮らしを送れるかは定かではない。夫が会社員で妻が専業主婦の「モデル世帯」だと、受け取る年金額は月33万円だ。老後の資金繰りは共働き世帯よりも苦しくなる。もっとも月33万円を年間で換算すると400万円程度で、現在の20代後半の男性の平均年収程度に相当する。ぜいたくはできないが、一定の水準は確保したとも言える。 ●経済成長が前提 これらの年金額は経済成長や労働参加が一定程度進むという前提を置く。公的年金制度は現役世代が払う保険料を高齢者に仕送りする仕組みだ。女性や高齢者が労働参加すれば、保険料を納める担い手が増える。これによって年金額も増える。ところが、過去30年と同じ経済状況が続く場合は年金額は増えない。共働き夫婦で月25万円、モデル世帯では月21万円となる。24年のモデル世帯の支給額は23万円なので、これよりも減ってしまう。老後に関する政府の23年の調査では「全面的に公的年金に頼る」と回答した人が26.3%、「公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組み合わせる」と回答した人が53.8%いた。2019年には「老後資金2000万円問題」が提起された。公的年金だけでは余裕がある生活を送るには不十分と考え、自助努力で老後の資金を確保する人が増えている。金融相談を手掛けるブロードマインドの柴田舜太氏はファイナンシャルプランナーの立場から資産形成セミナーを午後7時から開いている。9月中旬のセミナーには30人強が参加した。柴田氏がまず説明したのが、政府が個人の資産形成として活用を促進する少額投資非課税制度(NISA)と個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)だ。さらに国内外の株式や債券に投資するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の分散投資手法についても個人が参考にすべき点を解説した。若いうちから少額を積み立てればまとまった資産になる。「時間」を味方につけた長期分散投資の効用を説いた。個人の備えと同時に、行政にできることはまだまだある。年金財政の状況は夫が会社員で妻が専業主婦のモデル世帯で判断してきた。夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。年金のモデル世帯は古いものさしとなってしまった。 ●働く意欲後押しを 公的年金制度にはいわゆる「年収の壁」など女性の労働参加の選択に影響を及ぼす制度が今も存在する。配偶者の扶養下で生活するため保険料を払わずに済む半面、年金は基礎年金だけになり老後の生活が厳しいものになるリスクもはらむ。年金を受け取りながら働き、月収との合計額が多いと年金の一部、または全額が支給停止になってしまう在職老齢年金も廃止や見直しが俎上(そじょう)にのぼる。高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘がある。男女の賃金格差の是正も課題の一つだ。国際的に見ても開きが大きい男女の賃金格差を是正し、時代に合った年金の制度改正を後押しする労働環境をつくる必要がある。日本の人口は56年に1億人を割る。現役世代が減れば年金額が減るため、不安を感じる人は多いだろう。老後の基盤を手厚くするためにも、年内に方針が固まる年金制度の見直しに注目が集まる。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15973877.html (朝日新聞 2024年7月4日) 年金見直し、実現度は 「財政検証」試算を公表 公的年金の「財政検証」の結果が3日、発表された。年金水準を維持するため、政府は、年末にかけて制度改正の中身を本格的に議論する。厚生労働省は、議論に向けて制度を見直した場合の「試算」も公表。取材に基づき、見直し対象となっている各項目の実現度を星の数で示した。国民年金(基礎年金)の支払期間を5年間延長する案は見送る。政府は厚生年金の加入対象者を増やす方針は固めており、さらなる制度改正の項目としてどのような政策を選択するのかが今後の焦点だ。(高絢実) ■公的年金将来見通しの試算4ケース 〈1〉高成長実現ケース/所得代替率56.9% 〈2〉成長型経済移行・継続ケース/57.6% 〈3〉過去30年投影ケース/50.4% 〈4〉1人あたりゼロ成長ケース/45.3% ■被用者保険の適用拡大(★★★) 政府は、厚生年金の加入対象となるパートなどの短時間労働者を増やす方針だ。現在は従業員101人以上の企業のみが対象の「週20時間以上働き、月収8万8千円以上」という基準を、企業規模に関わらず適用する。5人以上の個人事業所で働く、農業や理美容業などの人も現在は適用されないが、業種を問わず対象にする方針。現状だと、労働参加が進んだ「成長型経済移行・継続ケース〈2〉」でも所得代替率は2037年度に57.6%となり、24年度から3.6ポイント減。一方、政府方針の適用拡大=表A=では58.6%に。加えて賃金の条件を撤廃、または最低賃金が2千円程度まで上昇した場合=B=は59.3%、さらに5人未満の個人事業所にも適用=C=すると60.7%で下げ止まる。週10時間以上働く全ての労働者まで拡大=D=すると61.2%となり、24年度と同水準を維持できる。 ■マクロ経済スライド、調整期間一致(★★) 人口減少や長寿化に応じて給付を抑える仕組みは「マクロ経済スライド」と呼ばれる。財政収支が均衡するまでゆっくり「調整」(抑制)していく。国民共通の基礎年金は、低年金の人にとってより重要だ。だが、その調整期間は、基盤の弱い国民年金の財政状況で決まるため、長引いてしまう。そこで、厚生年金の積立金の活用によって調整期間を一致させる。そうして基礎年金の調整期間を早く終わらせることで、基礎年金の給付を引き上げる案だ。ケース〈2〉で3.6ポイント増の61.2%、ケース〈3〉で5.8ポイント増の56.2%まで引き上がる。基礎年金が充実するため収入の少ない人への恩恵が大きいだけでなく、生涯の平均年収が1千万円を超える人を除き、厚生年金の加入者でも年金額が引き上がる。基礎年金の半額を賄う国庫負担が増え、〈3〉で2050年度以降に1.8兆~2.6兆円になると試算された。 ■国民年金の納付期間5年延長(―) 国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を、現行の40年(20~59歳)から、45年(20~64歳)に延長する案。ケース〈2〉では64.7%(7.1ポイント増)、〈3〉では57.3%(6.9ポイント増)となる。国庫負担は徐々に増え、2069年度以降に1.3兆円増の見通し。 ■在職老齢年金の撤廃(★★) 65歳以上で働いている人の場合、賃金と厚生年金(報酬比例部分のみ)の合計が50万円を超えると、年金の一部またはすべてがカットされる。この「在職老齢年金」の仕組みを撤廃すると、働く高齢者の給付が増える一方、そのための年金財源が必要となり、将来世代の厚生年金の給付水準は、ケース〈3〉で0.5ポイント低下する。高齢者の労働参加が期待される一方、高賃金の人の優遇策だという指摘もある。 ■標準報酬月額の上限見直し(★★) 厚生年金の保険料は、月々の給料などを等級(標準報酬月額)で分け、保険料率(労使折半で18.3%)を掛けて算出する。現行の上限は65万円で到達者は全体の6.2%。この上限を引き上げ、75万円(上限到達者の割合4.0%)、83万円(同3.0%)、98万円(同2.0%)にする案を試算した。保険料収入が増え、ケース〈3〉で所得代替率が0.2~0.5ポイント改善する。 ■将来の見通し、4ケース試算 厚労省 公的年金の将来見通しについて、厚生労働省は4ケースを試算した。上から2番目の「成長型経済移行・継続ケース」は、労働参加が進み、経済成長が軌道に乗る想定。現役世代の手取りに対する年金額の割合を示す「所得代替率」は、2024年度の61・2%から57・6%(37年度)と下落幅が抑えられる。3番目の「過去30年投影ケース」は、50・4%(57年度)に落ち込む。平均的な会社員と配偶者の「モデル世帯」の年金は、年齢でどう変わるのか。一覧にまとめた。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000 (日経新聞 2024.7.4) 年金目減り、就労増で縮小 1.1%成長なら6% / 横ばいだと2割、厚労省試算、出生率の想定高く 厚生労働省は3日、公的年金制度の中長期的な見通しを示す「財政検証」の結果を公表した。一定の経済成長が続けば少子高齢化による給付水準の低下は2024年度比6%で止まるとの試算を示した。成長率がほぼ横ばいのケースでは2割近く下がる。高齢者らの就労拡大が年金財政を下支えし、いずれも前回の19年検証から減少率に縮小傾向がみられた。財政検証は年金制度が持続可能かを5年に1度、点検する仕組みだ。年金をもらう高齢者が増え、財源となる保険料を払う現役世代が減るなか、給付水準がどこまで下がるか確認する。政府・与党は検証結果を受けて年内に給付底上げ策などの改革案をまとめる。今回は経済成長率や労働参加の進展度などが異なる4つのケースごとに給付水準を計算した。指標とするのは「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す「所得代替率(総合2面きょうのことば)」だ。4ケースのうち厚労省が「めざすべき姿」とする中長期的に一定の経済成長が続く成長ケースでは37年度の所得代替率が57.6%となり、給付水準は24年度から6%低下する。成長率をより高く設定した高成長ケースでは39年度に同7%減の56.9%となる。成長ケースの方が高いのは、前提となる賃金上昇率が低い分、「賃金を上回る実質的な運用利回り(スプレッド)」が大きくなるためだ。過去30年間と同じ程度の経済状況が続く横ばいケースでは57年度に同18%減の50.4%になる。もっとも悲観的なマイナス成長ケースになると国民年金の積立金が59年度に枯渇し、制度が事実上の破綻となる。5年前は6ケースを試算した。経済成長率などの前提が異なるため単純比較はできないが、所得代替率は最高でも51.9%だった。今回の横ばいケースに近いシナリオでは政府が目標とする50%を割り込んだ。給付水準の低下率は今回より大きい傾向が示された。改善した要因は高齢者や女性の労働参加が進んで厚生年金の水準が上がったことと、積立金が19年想定より70兆円ほど増えたことだ。成長ケースの前提条件には実現のハードルが高いものもある。60代の就業率は40年に77%と推計しており、22年から15ポイント上げる必要がある。将来の出生率は1.36としたが、23年の出生率は1.20だった。1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は01~22年度の平均がマイナス0.3%だった。出生率は早期の回復が見込みにくい。年金制度の安定には就労拡大につながる仕事と育児の両立支援や新たな年金の支え手となり得る外国人労働者の呼び込み強化といった取り組みが要る。年金の給付水準は当面、低下が続くため、あらかじめ老後資産を形成しておく重要性が増す。単身者や非正規雇用の人が低年金にならないよう給付水準の底上げへの目配りも欠かせない。財政検証は65歳で受け取る1人当たり平均年金額の男女別の見通しも初めて示した。24年度は男性が14.9万円、女性は9.3万円。成長ケースでは59年度に男性が21.6万円、女性は16.4万円となり男女差が縮小する。 *1-2-3:https://ecitizen.jp/Gdp/fertility-rate-and-gdp (統計メモ帳) 世界の合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係 合計特殊出生率と一人当たりGDPの関係について相関をグラフにしてみた。まず、数字の得られる190の国と地域で散布図を描いてみた(図1)。国連による人口予測では、アフリカの人口増加が突出しているが、アフリカ諸国の多くは、貧乏で子だくさんの国が多い。グラフから見ると一人当たりGDPが数千ドルになるまでは出生率とGDPは反比例している。途上国の人口増大の問題の解決には、発展途上国の一人あたりのGDPをあげるというのが正しいアプローチである。図1のグラフではずれた位置にあるのが、一つはアンゴラ、赤道ギニア、もう一つはミャンマー、北朝鮮、モルドバである。アンゴラ、赤道ギニアは、一人当たりGDPは比較的高いが出生率も高い。その理由としては、GDPが高いのは原油の生産によるもので、アンゴラはつい最近まで、長期にわたる内戦により経済は極度に疲弊していたこともあり、石油収入が必ずしも国民の貧困解消にまで結びついていないか、GDPの増加によって出生率が低下するまでには10年ほどの期間がかかるということなので、その期間がまだ来ていないと言うことになる。一方、GDPが低いにもかかわらず出生率も低いのが、ミャンマー、北朝鮮、モルドバである。ミャンマー、北朝鮮は、圧政国家であり政治が経済を犠牲にしている国である。モルドバは、ソ連崩壊によって貧困化した国であり、資源供給などロシアに依存する面が多く、ロシア通貨危機等により経済が混乱、度重なる自然災害や沿ドニエストル紛争の影響もあって経済状態が悪化している国である。次に、一人当たりGDPが1万ドル以下の国及び赤道ギニアを除いて作成したの が図2である。GDPの割に出生率の高い国を拾うとカタール、ブルネイ、バーレーン、アラブ首長国連邦、イスラエル、サウジアラビア、オマーン、ガボン、ボツワナということになり、多くが産油国になる。一人当たりGDPというのは石油生産も含んでいるため必ずしも国民の生活の豊かさを示していない面もある。ボツワナは、ダイアモンド、銅等の鉱物資源に恵まれて他のアフリカ諸国と対照的に急速な経済発展を遂げたが、一方でエイズの影響が大きい。国連のUNAIDS(国連合同エイズ計画)によると15歳から49歳までの人の23.9%がエイズに感染しているということである。そのため、出生率は高いものの人口の増加率は高くない。国連の資料によると増加率は年1.23%である。最後に、日本を他の先進国と比較したいので産油国を除いてグラフを作成した。合計特殊出生率が1.3未満の国を一人当たりGDPが高い国から順に拾うと、シンガポール1.26人、マカオ0.91人、香港0.97人、日本1.27人、スロベニア1.28人、韓国1.21人、チェコ1.24人、スロバキア1.25人、ハンガリー1.28人、リトアニア 1.26 人、ラトビア1.29人、ポーランド1.23人、ベラルーシ1.20人となっている。東アジアと東ヨーロッパに集中している。東欧諸国では、人口が減少している国が多く、世界で人口増加率の低い順に、ウクライナ -0.72%、ブルガリア -0.59%、ロシア -0.55%、ベラルーシ -0.53%となっている。今後は、日本と韓国がその仲間入りをするであろう。日本では、不況対策のためにいろいろな政策が考えられているが、大型の公共投資をするしても、総人口の減少が加速すれば、過去のような経済の成長や拡大はもはや起こらないだろう。成熟した国であるイギリスをはじめとした西ヨーロッパ諸国に成熟した国とは何かを学ぶべきであろう。なお、合計特殊出生率については、国際連合経済社会局が作成したWorld Population Prospects The 2006 Revision HighlightsのTABLE A.15を使用した。一人当たりのGDP(購買力平価PPP)についは、 世界銀行の資料を主に使用し、世界銀行の資料で数字が得られない場合には、IMF、CIAの資料の順で使用した。 *1-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240906/pol/00・・lpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月9日) 女性の「低年金」 改善されるのか、坊美生子・ニッセイ基礎研究所准主任研究員 今年7月に、5年に一度の公的年金の財政検証を政府が公表しました。今後、女性の年金を巡る状況は改善されるとしました。ニッセイ基礎研究所准主任研究員の坊美生子さんに聞きました。 ●女性の老後はこれから良くなる? ――これから女性の年金をめぐる状況は改善されるという財政検証は、実感とはあわない気がします。 ◆将来的に、世代が下れば低年金は解決していくであろうという話と、たとえば今、50歳の女性が老後にどういう状況になるかは同じ問題ではありません。財政検証ではそうした個人の視点が不足しています。財政検証をみると、現在の高齢者(65歳以上)の女性と、今、50歳の女性が65歳以上になった時をくらべると、年金水準は改善はします。たとえば年金受給月額が10万円に満たない人の割合は、現在「65歳」の女性では7割弱に上りますが、「50歳」だと6割弱に減ります。しかし、それは女性の老後が安心になるというレベルではありません。高齢女性にとって厳しい状況が続くことも確かです。厳しい老後にならないためには、今、頑張って働く必要があることに変わりはありません。 ――50歳の女性が今から働くのは難しいのではないですか。 ◆たしかに難しいのですが、私としては、50歳を過ぎても、健康上の問題などがなければ、がんばって働いてほしいと思います。 専業主婦などで、長く働いていないと一歩踏み出すのは難しいとは思います。しかし、非正規でも働けるならば働いたほうが、自身の年金を確保するためにはよいのです。そうしたからといって、老後に自立できるレベルにまでなるとは限りませんが、女性が少しでも自分の生活を守り、人生をコントロールできるようになってほしいと思います。もちろん、現在働いている人も、50歳を過ぎても、新しいチャレンジをして、賃金を上げる挑戦をしてほしいと思っています。今、しっかり働いたり、キャリアアップしたりすることが、老後の生活に大きく影響します。現在、50歳の女性はいわゆる結婚・出産退職がまだ多かった世代です。「当時の社会規範に従って、若い時に仕事を辞めたのに、今さら働けと言われても」と思う女性もいるかもしれませんが、現実問題として、ご自身の老後、特に、夫と死別したり子が独立したりして、「おひとりさま」になった後のことを考えれば、やはり50歳になっても、働くことを選択肢から外してはいけないと思います。 ●女性の非正規の人は ――女性の低年金は非正規雇用の問題と関係します。 ◆2000年代に入って非正規雇用が増えてきても、政策を作る政府の関係者には、非正規は、稼ぎ頭の夫の家計補助として、パートで働いている主婦だ、という意識が強かったのではないでしょうか。世帯単位で考えれば、正社員で働いている夫の賃金・年金があるから問題はないという考え方です。しかし実際には、夫婦が2人とも非正規で同じように家計を担っている、あるいは単身で非正規という人は多くいます。そうした人たちへの対応が遅れてきたのではないでしょうか。世帯を中心に考えてきて、個人単位の生活を想定していなかったことも、女性の低年金の問題が目に入らなかった理由ではないかと思います。 ――現実には、非正規は例外でも、家計補助のためだけでもなくなっています。 ◆ですから年金を考えるうえでも非正規雇用は無視できない要素です。近年、国が進めてきた厚生年金の適用拡大は大きな政策ですが、年金財政を改善する必要に迫られたためにやっている側面が強いと感じます。財政目線ではなく、非正規雇用の人たちの老後の生活をどうするかという、一人一人の生活者の視線はまだ薄いと感じています。 ――女性の低年金は男女の賃金格差が背景にあります。 ◆男女の賃金格差があるから、女性の年金が低いのは当然のことで、男女の賃金格差は年金の問題ではない、という考え方もあります。しかし、「男女の賃金格差が大きいのは当然」という考え方は、もはや社会的に認められないでしょう。政府は大企業の男女の賃金格差の公表(2022年7月の女性活躍推進法の厚生労働省令改正。従業員301人以上)を義務づけました。公表する際の注釈欄で、原因を分析している企業があります。自分たちで問題を認識するようになっていることは大きな進歩です。 ●リアルに伝えなければ ――今の女性は、老後は今の高齢女性より良くなると言われて納得するでしょうか。 ◆数字の上では良くなっていくのですが、国民の実感とは距離があります。本当は、財政検証のような数字と、国民の意識をつないで説明するのは政治家の仕事です。数字が実際の生活にどう反映するかを話してくれる人はいないのか、と思います。国民の反発を恐れて、政府が悪い情報を出しにくいという事情もあります。政治家も年金の話をするのは怖いのかもしれません。しかしおカネの話ですから、リアルに伝えないと、国民も必要な備えができないし、年金制度に対する信頼も結局、低下してしまいます。 ――低年金には生活保護で対応すればいいという考え方もあります。 ◆75歳以上になると、男性も女性も多くの方は体が弱り、働いて稼ぐことが難しくなってきます。ですから、もっと若い時に、あなたの老後はこうなりますと示して、備えてもらわなければなりません。「低年金の人は生活保護に回せばよい」という考え方だと、年金制度を維持することができたとしても、社会全体の仕組みとしては、生活保護の給付費が増加し、持続可能性は低くなります。将来の年金の話をする時には、今の働き方にさかのぼって論じるべきです。年金を巡る政策も、今の雇用政策ともっと結びつけるべきです。特に女性については、若い世代でも、低年金のリスクがあることが分かったので、女性の働き方が、もっと骨太になるように、女性の雇用政策を強化していくべきです。 *1-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240918&ng=DGKKZO83520370X10C24A9EP0000 (日経新聞 2024.9.18) 共働き、専業主婦の3倍に 1200万世帯超す、保育所増、育休整備進む 社会保障なお「昭和型」 夫婦共働きが2023年に1200万世帯を超え、専業主婦世帯のおよそ3倍となった。保育所の増設や育児休業の拡充など環境整備が進み、仕事と家庭を両立しやすくなってきたことが背景にある。ただ、社会保障や税の制度には専業主婦を前提にしたものがなお多く、時代に合わせた改革が急務となる。総務省の労働力調査によると、夫婦とも雇用者で妻が64歳以下の共働きは23年に1206万世帯と前年より15万増えた。さかのぼれる1985年以降で最多となった。夫が雇用者で妻が働いていない専業主婦世帯は最少の404万で前年より26万減っている。男女雇用機会均等法が成立した1985年時点で専業主婦は936万世帯で、共働きの718万世帯を上回っていた。90年代に逆転し、2023年までに専業主婦世帯は6割減り、共働きは7割増えた。23年の15~64歳の女性の就業率は73.3%に達し、この10年で10.9ポイント伸びた。男性の就業率は84.3%で伸びは3.5ポイントにとどまる。専業主婦世帯の割合を妻の年代別に見ると、23年に25~34歳で22.0%、35~44歳で22.9%、45~54歳で21.8%と3割を下回っている。55~64歳では30.8%と3割を超え、65歳以上では59.2%に上る。若年世帯で専業主婦は少数となっている。働く女性が増えた背景には、男女雇用機会均等法が施行され、男女ともに長く仕事を続けるという価値観が一般的に広がったことが挙げられる。同時に保育所の整備やテレワークの普及といった仕事と家庭を両立しやすい環境づくりも進展した。「人手不足のなかで、企業が女性の採用・つなぎとめを進めている」(ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員)といった側面もある。子どもが増え、教育や住居などの費用負担が高まり、子育てが一段落ついたところで共働きに転じる動きも見られる。近年の物価高がそうした動きを強めている可能性もある。共働きの女性の働き方では、週34時間以下の短時間労働が5割超を占める。25歳以上の妻で見ると、どの年代でも短時間が多い。年収は100万円台が最多で、100万円未満がその次に多い。短時間労働が多い理由の一つに、「昭和型」の社会保障や税の仕組みがいまだに残っていることがある。例えば、配偶者年金があげられる。会社員らの配偶者は年収106万円未満といった要件を満たせば年金の保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる。第3号被保険者制度と呼ばれる。第3号被保険者の保険料はフルタイムの共働き夫婦や独身者を含めた厚生年金の加入者全体で負担している。専業主婦(主夫)を優遇する仕組みとも言え、「働き控え」を招くと指摘されている。会社員の健康保険に関しても、保険料を納める会社員が養っている配偶者らを扶養家族として保障している。専業主婦(主夫)を扶養している場合は1人分の保険料で2人とも健康保険を使えるようになっている。配偶者の収入制限がある配偶者手当を支給する事業所は減少傾向にある。23年は事業所の49.1%で、18年と比べて6.1ポイント下がった。税制にも配偶者控除があり、給与収入が一定額以下であれば、税の軽減を受けられる。「働き過ぎない方が得だ」といった考えが残る要因とも言える。共働きが主流となり、各業界で人手不足が深刻さを増すなか、制度の見直しは欠かせない。夫婦が働きながら育児に取り組むためには、企業の長時間労働の是正や学童保育の受け皿の拡大なども急がれる。官民をあげた取り組みが不可欠となる。 *1-4:https://diamond.jp/articles/-/349523?utm_source=wknd_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20240901 (Diamond 2024.8.29) 「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング2024【年金年収200万円編】(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵) 住む場所によって年金の手取り額が異なる――。この衝撃の事実は、意外と知られていない。では、実際にどのくらいの差があるのか。過去にも本連載で取り上げ、大きな反響を呼んだ『「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング』について、国民健康保険料や介護保険料の改訂を反映した「最新版」を作成した。年金年収「200万円編」と「300万円編」の2回に分けてお届けする。まずは「200万円編」をご覧いただこう。 ●住んでいるところで、年金の「手取り額」が異なる驚愕の事実! リタイア後に受け取る年金額は、「ねんきん定期便」で知ることができる。その際に注意したいのは、ねんきん定期便に記載の年金額は「額面」であり、「手取り額」ではないこと。年金収入にも、税金や社会保険料がかかるのだ。「年金から税金や社会保険料が引かれるのですね!知らなかった」と言う人が少なくないが、もっと驚くべき事実は、「年金の手取り額は住んでいる場所によって異なること」である。筆者は手取り計算が大好きな、自称“手取リスト”のファイナンシャルプランナー(FP)だ。本連載でも「給与収入の手取り」、「パート収入の手取り」、「退職金の手取り」など、さまざまな手取り額を試算している。今回は、47都道府県の県庁所在地別の「年金の手取り額ランキング」をお伝えする。同じ年金収入で手取り額に結構な差が発生することを仕組みとともに解説しよう。年金の手取り額は、次のように算出する。「年金の手取り額=額面年金収入-税金(所得税・住民税)-社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)」。同じ年金収入で手取り額が異なる要因は、意外にも税金ではなく、社会保険料にある。ちまたでは「住民税は、自治体によって高い、安いがある」と言われているが、これは都市伝説であり、事実と異なる。住民税は、全国どこに住んでいても原則として同じ(均等割の非課税要件など細かい部分で違いはあるが、所得にかかる税率は変わらない)。所得税も同様に、どこに住んでいても計算方法は同じだ。ところが、国民健康保険料と介護保険料は自治体により保険料の計算式や料率が異なり、手取り額に結構な差が発生する。そして、高齢化が進んでいるため、国民健康保険と介護保険の保険料が上がり続けていることも見逃せない。国民健康保険料は毎年見直され、介護保険料は3年に1回の見直しされ、今年がそのタイミングだ。最新の保険料が公表されたので、本連載では「額面年金収入200万円」と「額面年金収入300万円」の二つのケースについて、50の自治体の手取り額を試算した。今回と次回(9月12日(木)配信予定)の2回にわたって、ランキング形式で紹介する。 ●「額面年金収入200万円」ってどんな人? 50の自治体の手取り額を徹底調査! ランキングを見る前に、今回の調査方法と試算の条件について説明しておこう。額面年金収入200万円のケースは、22歳から60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円の人を想定した。そういう人が65歳から受け取る公的年金の額(老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計)が200万円という水準。イメージとしては、定年退職前の額面年収が800万円くらいの人だ。一方、次回紹介する額面年金収入300万円のケースは、公的年金に加えて企業年金や、確定拠出年金(DC)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、退職金などの年金受取があり、合計で300万円になる人を想定した。ランキング対象は、合計50の自治体。46道府県の県庁所在地と東京都内の4区だ。東京都は23区がそれぞれ独立した自治体なので、東西のビジネス街と住宅街の代表として、千代田区、墨田区、新宿区、杉並区を調査した。国民健康保険料と介護保険料は、ダイヤモンド編集部が各自治体にアンケート調査を依頼し、その保険料データを基に筆者が税額を計算して手取り額を算出した。なお、期日までに未回答だった自治体については市区のウェブサイトを参照の上、それぞれのケースの保険料を算出している。試算条件は、60代後半の年金生活者で、妻は基礎年金のみ。夫の手取り額を試算し、「少ない順番」でランキングしている。それでは、結果をご覧いただきたい。 ●ワースト1位は大阪市! 年金の手取り額は? まず、ワースト1位から25位まで見てみよう。表には、額面年金収入200万円に対する「手取り額」、「社会保険料の合計額」、「税金」、「手取り率(収入に対しての手取りの割合)」を掲載している。税金がゼロであることに注目したい。今回の50の自治体のケースでは、200万円の年金収入(公的年金扱いになる国の年金や企業年金などの合計)から社会保険料を差し引き、配偶者控除を受けると、所得税、住民税ともにゼロとなった。過去にも何回か実施しているランキングだが、大阪市は不動のワースト1で手取り額が少ない。大阪市の財政状況が良くないことが影響しているのだろう。2位から25位までは、数千円の差で過去のランキングと順位が入れ替わっている。ワースト1の大阪市の「手取り率」は89.8%。これをいったん記憶してほしい。筆者はFPになったばかりの頃(28年前)に、自治体によって国民健康保険料の差があることに気が付き、いくつかの大都市の保険料を定点観測していたのだが(変わり者のFPだ)、当時から大阪市は東京23区や横浜市に比べて、ダントツに保険料が高かったことを記憶している。国民健康保険料は、所得割(所得に応じて計算)と応益割(収入がなくても一律に定額がかかるもの。被保険者の数に応じてかかる均等割や世帯ごとにかかる平等割など)の合計額で算出される。このうち、所得割は総所得に料率を掛けて計算する。年金収入だけの人なら「公的年金等の収入-公的年金等控除額-住民税の基礎控除43万円」を指す。以前は、所得ではなく住民税に料率を掛けて算出する自治体があり、東京23区がそうであった。「住民税方式」だと、扶養家族が複数いたり、所得控除が多かったりすると、住民税が少なくなり、それに連動して保険料も安くなる。ところが、15年くらい前に「住民税方式」を採用する自治体はほぼなくなり、代わりに「総所得方式」を採用することになったのだ。扶養控除は反映されないため、扶養家族のいる人にとっては、保険料の負担増につながっている。ともかく、国民健康保険料の計算は複雑。自身のケースを試算したい場合は、お住まいの自治体のウェブサイトで確認しよう。親切な自治体は、保険料シミュレーターを掲載しているので、活用するといい。では、ワースト26位から50位も見てみよう。 ●手取り額が多いのはどの自治体? 手取り率の違いは? ワーストランキング下位、つまり「手取り額」の多い自治体は、1位名古屋市、2位長野市、3位鳥取市という結果になった。とはいっても数千円の差があるくらいだ。ワースト1位の大阪市の手取り額は、179万5225円。手取り額が最も多いワースト50位の名古屋市は、186万5110円で、その差は6万9885円だ。額面の年金額が同じでも約7万円の手取り額の差が出る結果となった。収入200万円に対する7万円は、3.5%。大きな「格差」といってもいいだろう。手取り率にも注目したい。ワースト上位3位までは89.8~91.4%で、ワースト下位3自治体では93.2~93.3%となっている。年金収入が200万円くらいの人は、手取り率が概算で90%前後と覚えておくといいだろう。 ●国民健康保険料と介護保険料 手取りを左右する「格差」は大きい! 最後に、国民健康保険料と介護保険料のワースト3とベスト3を見てみよう。国民健康保険料が最も高い大阪市と最も少ない名古屋市の差額は、約5万円。2倍近い差となっている。介護保険料が最も高いさいたま市と最も少ない山口市との差額は、約3万円という結果になった。年金の手取り額の多寡だけでリタイア後の住まいを決めることはできないが、自治体によって、国民健康保険料と介護保険料が異なることは知っておきたい。額面年金収入が異なると、社会保険料負担割合も変わってくるため、手取り額ランキングの結果は違ったものとなる。 <老後資金について> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000 (日経新聞 2024.7.4) 老後資金の底上げ急ぐ 年金、OECD平均の6割、パート加入要件緩和 自己資産づくり促す 厚生労働省が3日公表した公的年金の財政検証結果は5年前に比べて改善傾向がみられたものの、給付水準の低下が当面続くことも示した。政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩め、「支え手」を広げることで制度の安定をめざす。老後に備えて自己資産を形成する重要性も呼びかける。厚生年金に入っていない自営業者らが加入する国民年金(基礎年金)は現在、満額で月6.8万円だ。この給付水準は少子高齢化が進むにつれ、さらに下がっていく。やむなく非正規雇用になった人が多い「就職氷河期世代」は現在50歳前後で、生活資金を年金に頼る時期が近づきつつある。少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要性が増している。日本の年金水準は国際的に見ても低い。現役世代の収入に対する年金額の割合である「所得代替率」を経済協力開発機構(OECD)の基準でみると一目瞭然だ。単身世帯の場合、日本は32.4%で欧米などOECD加盟国平均の50.7%の6割程度の水準にとどまる。今回の財政検証は5つの改革案を実施した場合の効果を試算した。1つは厚生年金に加入する労働者を増やす案だ。10月時点の加入要件は(1)従業員51人以上の企業に勤務(2)月収8.8万円以上――など。このうち企業規模の要件について政府は撤廃する方針を固めている。財政検証結果によると、企業規模の要件を廃止し、さらに5人以上の全業種の個人事業所に適用した場合、新たに90万人が厚生年金の加入対象となる。成長ケースの試算では基礎年金の所得代替率を1ポイント押し上げる効果があった。賃金や労働時間に関する要件を外して週10時間以上働く全員を対象にすると、新たに860万人が加入することになる。このときの所得代替率は3.6ポイント上がる。財政検証は基礎年金を底上げする別の改革案も試算した。「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金水準を抑制する仕組みについて、基礎年金に適用する期間を短くする案では所得代替率が3.6ポイント上昇する効果がみられた。厚生年金を引き上げる案もある。厚生年金の保険料は月収などから算出する「標準額」に18.3%をかけた金額を労使折半で負担する。この標準額の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると、横ばいケースの所得代替率は0.2~0.5ポイント改善する。改革案には反発もある。基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担が増すため、財源確保が必要になる。増税論につながりやすく、実現には政治的なハードルが高い。基礎年金の抑制期間短縮案も、保険料納付の延長案も、新たに必要な財源はそれぞれ年1兆円を超える。権丈善一慶大教授は「税を含めた一体的な会議体で議論をするのが妥当ではないか」と指摘する。 *2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1273939 (佐賀新聞 2024/7/4) 【年金財政検証】「100年安心」綱渡り、心もとない老後の暮らし 政府は、公的年金について5年に1度の「健康診断」に当たる財政検証の結果を発表した。給付水準は目標とする「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った。ただモデル世帯の給付水準は現在若い人ほど低くなり、老後の暮らしは心もとない。出生率や経済成長の想定が甘いとも指摘され、政府が掲げる金看板「100年安心」は綱渡りとなる可能性をはらむ。 ▽公約 「将来にわたって50%を確保できる。今後100年間の持続可能性が改めて確認された」。林芳正官房長官は3日の記者会見で財政検証の評価を問われて、こう述べた。100年安心は小泉政権が2004年に実施した年金制度改革で、事実上の公約となった。現役世代の平均手取り収入に対する給付水準(所得代替率)の「50%以上の維持」が根幹部分となっている。今回、目標をぎりぎりでクリア。政府内には安堵感が広がる。経済成長が標準的なケースで厚生年金のモデル世帯の給付水準は33年後に50・4%となり、前回検証の類似したケースと比べても改善した。外国人や女性も含め働く人が将来700万人余り増え、保険料収入が増加すると見込んだことなどが要因に挙げられる。 ▽働き続ける ただ「50%以上の維持」は、年金の受給開始時の状況に過ぎない。給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」などの影響で、年齢を重ねるごとに給付水準は低下する。モデル世帯について5歳刻みの推移を見ると、現在65歳の人の給付水準は61・2%だが、80歳になると55・5%に下がる。若い世代ほど給付水準が低くなる特徴もある。現在50歳の人は、受給開始時の65歳で56・7%、80歳になると50%を割る。現在30歳なら65歳で50・4%、80歳では46・8%に落ち込む。このため政府は新たな少額投資非課税制度(NISA)など老後への備えを呼びかけている。厚生年金に加入せず国民年金(基礎年金)だけに頼る人はさらに厳しい。埼玉県深谷市の塗装業片平裕二さん(49)は「年金は当てにできない」と言う。子ども3人を育て家計に余裕はなく貯蓄は難しい。「健康でいられる限り働き続けるしかない」と話した。 ▽願望 検証の前提条件を疑問視する声もある。女性1人が産む子どもの推定人数の出生率は23年が過去最低の1・20だったのに対し、1・36と想定。政府が少子化対策を策定したとはいえ、日本総合研究所の西沢和彦理事は「若者の結婚や出産への意欲は低下しており、検証の想定には願望が含まれている」と批判した。他にも実質賃金は減少が続くのにプラスと仮定しているほか、外国人労働者の増加や株高も見込む。どれか一つでも目算が狂えば、受給開始時の50%割れが現実味を帯びる。焦点は制度改革に移る。ただ武見敬三厚生労働相は3日、国民年金保険料の納付期間5年延長案に関し「必要性は乏しい」と見送りを表明した。実施するには、自営業者らの保険料が計約100万円増え、巨額の公費も必要。与党幹部は「低迷する内閣支持率を考えれば負担増との批判に耐えられない」と解説した。厚労省は、パートら短時間労働者の厚生年金の加入拡大を進める。一定以上の従業員数を定めた「企業規模要件」を撤廃する方針で、保険料を折半する中小企業は反発する。マクロ経済スライドの見直しも国庫負担増が課題となるなど、年末に向けた議論は曲折が予想される。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842570U4A700C2MM8000&ng=DGKKZO81842610U4A700C2MM8000&ue=DMM8000 (日経新聞 2024.7.4) 「65歳まで納付」案見送り 厚生労働省は2025年の年金制度改正案について、国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現行の40年から45年に延長する案を見送ると決めた。他の改革案で一定の給付底上げ効果が見込めるとわかり、負担増への反発も考慮し判断した。厚労省は3日に公表した財政検証結果で、支払期間を65歳になるまで5年延長した場合の給付水準などの見通しを示した。一定の経済成長が進むケースでは将来の年金の給付水準が12%上がる効果が見込まれた。一方で、保険料負担は5年間で100万円ほど増すため「低所得者の負担が大きい」との指摘が出ていた。長期的に年1.3兆円の追加財源も必要で、自民党内に慎重論があった。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240930&ng=DGKKZO83770730Z20C24A9PE8000 (日経新聞社説 2024.9.30) 「会計ビッグバン」を加速し意見を世界に 企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。20年余りの改革で残った主要項目のひとつだった基準改正が13日、日本の会計基準をつくる企業会計基準委員会(ASBJ)から発表された。企業が事業用に借りる建物や設備などリース資産に関する会計処理だ。企業が株主や従業員、取引先に対して、業績や財務状況を説明するための不可欠な道具が「会計基準」だ。日本が1990年代後半から進めてきた「ビッグバン」とも呼ばれる会計改革を加速させ、資本市場にさらに多くの投資を呼び込みたい。現在も中途解約できず購入に近いリースについては、貸借対照表に計上されている。新基準では、中途解約可能なものを含め全てのリースに関する資産・負債をオンバランス化する。2027年度から適用が始まる。約1万社が対応を求められ、自己資本比率が半減する例も予想されるなど影響は大きい。丁寧な説明が必要だ。商船三井が新基準を踏まえた見込み資産量と総資産利益率(ROA)目標の開示を始めたのは参考になる。新リース会計の範となったのは、欧州やアジアなど約150カ国・地域で普及する国際会計基準(IFRS)だ。同基準では19年にリースのオンバランス化が始まった。日本の会計処理が異なると企業の信頼が下がりかねなかっただけに、国際標準に合わせるのは賢明な措置だ。欧米の主要な官民の市場関係者は01年からIFRSづくりを本格的に始めた。折しも日本は1997年の山一証券破綻で失墜した市場の信頼を回復するため「会計ビッグバン」に着手していた。日本はIFRSを改革の先導役と位置づけ、当初から基準設定の議論に専従者を送り、その決定に基づき日本基準の改革を進めてきた。資産価値の変動が財務諸表に反映されやすくなったことなどは、IFRSの影響を受けている。今後は企業買収に関する会計処理なども、国際的な視点で検討を進めてほしい。IFRSづくりを進める財団は、「自然資本」や「人的資本」など非財務分野の基準づくりも進める。今ではIFRSをそのまま使う日本の大企業も増えており、官民をあげて基準づくりの過程への影響力を高めたい。会計の知見を備えた人材の育成や国際会議での意見発信に、官民が一段と取り組むべきだ。 <高齢者の定義と公的年金支給開始年齢の関係> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842330U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 公的年金頼み限界 老後の生活資金を公的年金だけに頼るのには限界がある。財政検証結果によると公的年金の給付水準は経済条件が良いシナリオでも2030年代後半まで下がり続ける。順調にいっても夫婦2人で現役世代の5~6割という給付水準だ。重要性が増しているのは企業年金や個人年金といった任意で加入する私的年金で自己資産を厚くし、老後の生活資金を補完することだ。公的年金以外の所得がない高齢者世帯は足元で4割強を占める。30年間で10ポイントほど減ったとはいえ、所得代替率が50~60%にすぎない公的年金になお依存する傾向がある。総務省がまとめた23年の家計調査によると無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字だった。貯蓄などを取り崩して生活するケースが多いことがうかがえる。厚生労働省は財政検証結果を受けた25年の公的年金制度改正に合わせ、私的年金制度の改革に取り組む。具体的には加入者自らが運用商品などを選び、その成果によって受け取る年金額が変わる企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の拡充を進める。イデコは原則60歳までは引き出せないものの、掛け金の全額が所得税の控除対象となり、運用益は非課税となるなど税控除のメリットが大きい。政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積み立てて資産を増やせるようにする。与党内には「公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てるように訴えるべきだ」という主張も出始めている。 *3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1301634 (佐賀新聞 2024/8/15) 高齢者の定義年齢に引き上げ論、人手不足解消、警戒感も 65歳以上と定義されることが多い高齢者の年齢を引き上げるべきだとの声が経済界から上がっている。政府内では人口減少による人手不足の解消や、社会保障の担い手を増やすことにつながるとの期待が高まる一方、交流サイト(SNS)を中心に「死ぬまで働かされる」といった警戒感も広がる。高齢者の年齢は法律によって異なる。仮に年齢引き上げの動きが出てくれば、60歳が多い企業の定年や、原則65歳の年金受給開始年齢の引き上げにつながる可能性がある。見直し論は政府が6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」を巡り注目を集めた。定義見直しには踏み込まなかったものの、社会保障や財政を長期で持続させるためには高齢者就労の拡大が重要との考えを示した。骨太方針の議論の中で経済財政諮問会議の民間議員は「高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべきだ」と提言。経済同友会の新浪剛史代表幹事は7月に「高齢者の定義は75歳でいい。働きたい人がずっと働ける社会にしたい」と述べた。背景には働き手不足への危機感がある。内閣府の試算では、70代前半の労働参加率は45年度に56%程度となる姿を描く。経済界以外からも提案があった。高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会は6月、医療の進歩などによる心身の若返りを踏まえて75歳以上が高齢者だとした17年の提言が「現在も妥当」との検証結果をまとめた。SNSでは「悠々自適の老後は存在しない」などとネガティブな反応が目立つ。低年金により仕方なく働く高齢者も少なくない。内閣府幹部は「元気で意欲のある人が働きやすい環境を整えたい」と説明するが、高齢者で目立つ労災の抑制やリスキリング(学び直し)の徹底などが重い課題となりそうだ。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83491810W4A910C2MM8000 (日経新聞 2024.9.16) 働く高齢者、最多の914万人 昨年、4人に1人が就業 総務省は16日の「敬老の日」にあわせ、65歳以上の高齢者に関する統計を公表した。2023年の65歳以上の就業者数は22年に比べて2万人増の914万人だった。20年連続で増加し、過去最多を更新した。高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52%と2人に1人が働いている。定年を延長する企業が増加し高齢者が働く環境が整ってきた。高齢者の働き手が人手不足を補う。年齢別の就業率は60~64歳は74%、70~74歳は34%、後期高齢者の75歳以上は11.4%といずれも上昇し、過去最高となった。23年の就業者数のなかの働く高齢者の割合は13.5%だった。就業者の7人に1人を高齢者が占める。65歳以上の就業者のうち、役員を除く雇用者を雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員が76.8%を占めた。産業別では「卸売業、小売業」が132万人と最も多く、「医療、福祉」が107万人、「サービス業」が104万人と続いた。「医療、福祉」に従事する高齢者の数は増えた。13年からの10年間でおよそ2.4倍となった。15日時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者人口は前年比2万人増の3625万人と過去最多だった。総人口に占める割合は前年から0.2ポイント上昇の29.3%で過去最高を記録した。65歳以上人口の割合は日本が世界で突出する。人口10万人以上の200カ国・地域で日本が首位に立った。 <社会保障の支え手について> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240704&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO81842270U4A700C2EA2000&ng=DGKKZO81842300U4A700C2EA2000&ue=DEA2000 (日経新聞 2024.7.4) 高齢者の就労後押し 「働き損」制度の撤廃試算 今回の財政検証は人手不足対策の意味を持つ改革案も試算対象にした。一定の給与所得がある高齢者の年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」の撤廃案だ。現行制度では65歳以上の賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金額が減る。これが高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘があった。撤廃した場合、厚生年金部分の所得代替率は横ばいケースで29年度に0.5ポイント下がる。所得の高い高齢者の就労を後押しする一方で、新たに年5000億~6000億円ほどの財源が必要になるためだ。年金水準の低下と引き換えに、就労拡大を進める案となる。人手不足対策としては、会社員らの配偶者が年金保険料を納めずに基礎年金を受け取る「第3号被保険者制度」の廃止論もある。この制度があるために労働時間を保険料負担が発生しない範囲にとどめる人がおり、就労拡大を妨げる一因になるからだ。厚労省は撤廃に慎重な姿勢を崩していない。対象者が700万人を超えており、いきなり廃止することは政治的に難しいとみている。しばらくはパート労働者が厚生年金に入る要件を緩めることで、第3号の対象者を減らしていく方向だ。財政検証結果によると第3号の対象者は40年度に現在の半分近くに減る見通しだが、それでもなお371万人が残る。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240704&ng=DGKKZO81840020T00C24A7EP0000 (日経新聞 2024.7.4) 外国人材、40年に97万人不足 推計、前回から倍増 政府がめざす経済成長を達成するには2040年に外国人労働者が688万人必要との推計を国際協力機構(JICA)などがまとめた。人材供給の見通しは591万人で97万人が不足する。国際的な人材獲得競争が激化するなか、労働力を確保するには受け入れ環境の整備と来日後のつなぎ留めが重要となる。22年に公表した前回推計は40年時点で42万人が不足するとしていた。今回はアジア各国から来日する労働者数が前回推計よりも減ると見込んだ。為替相場変動の影響は加味しておらず不足人数は膨らむ可能性がある。推計では政府が19年の年金財政検証で示した「成長実現ケース」に基づき、国内総生産(GDP)の年平均1.24%の成長を目標に設定した。機械化や自動化がこれまで以上のペースで進んだとしても30年に419万人、40年に688万人の外国人労働者が必要と算出した。前回推計は674万人としていた。海外からの人材供給の見通しも検討した。アジア各国の成長予測が前回推計時より鈍化し、出国者数は減少すると推測した。この結果、外国人労働者は30年に342万人、40年に591万人と前回推計より減った。必要人数と比べると、30年に77万人、40年に97万人不足する。外国人材を確保する方法の一つは来日人数を増やすことだが、少子化に悩む韓国や台湾も受け入れを拡大している。もう一つは来日した外国人に長くとどまってもらうことだ。今回は62.3%が来日から3年以内に帰国すると仮定した。3年を超えて日本で働く割合が大きくなれば不足数は縮小する。政府も動き出している。27年をめどに技能実習に代わる新制度「育成就労」を導入。特定技能と対象業種をそろえ、3年間の育成就労を終えても特定技能に切り替えやすくする。こうした政策面の変化は今回の推計には反映されていない。課題は安定した生活を築くのに必要な日本語力の習得だ。経営に余裕のない中小零細企業が自前で教育するのは容易でない。自治体主導で複数の企業が学習機会を設けるなど、官民で環境整備に努める必要がある。 *4-3:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20240909/po・・aign=mailpol&utm_content=20240915 (毎日新聞 2024年9月10日) 「日本にいる外国人」への政策は 国境管理と社会統合政策、橋本直子・国際基督教大学准教授 外国人の入国をどうするかという国境管理と、入国した後、日本でどう暮らすかという二つの側面があります。国際基督教大学准教授の橋本直子さんに聞きました。 ◇ ◇ ◇ ――受け入れ後の政策はあまりみえません。 ◆難民として受け入れられたわけではない、日本にいる一般的な外国人への社会統合政策は、長年ほぼなかったと言えます。 最近できた「特定技能」については、少し政策が進みましたが、一般的な外国人の受け入れ後の研修は、日本が長年やってきた難民への生活オリエンテーションの経験からもっと学べる部分があります。今後、日本が外国人の受け入れを増やすのは既定路線です。しかし、受け入れ後の実態や日本社会への影響は十分把握されていません。たとえば、外国人を入れると賃金が下がると言う人がいますが、明確な根拠はありません。まずデータが必要です。 ●居場所はあるか ――政策の空白ですね。 ◆西欧諸国では長年の苦い経験を経て、難民でも一般的な移民でも、入国後に社会統合コースに参加することが、実質的に義務付けられている国がほとんどです。そのために、中央政府、受け入れ自治体、外国人本人の間で、きめ細かな仕組みが作られています。日本にはそのような工夫が欠けています。日本でも外国人が多い自治体が求めているのは、国でしっかり予算をつけてほしいということです。日本にいる外国人に対して政策的な支援がなければ、当然、厳しい状況におかれます。すると、国内から、「入国させるな」というような排外的な主張が出てきます。国境をどう管理するかは、既に国内にいる外国人との共生がうまくいっているかが、おおいに影響します。日本社会のなかで外国人に居場所があり、そのことが国民にきちんと理解されることが重要です。 ●「移民政策はとらない」 ――日本は「移民政策をとらない」ことになっています。 ◆特殊な定義に基づく「移民政策」をとらない建前があるから、社会統合政策を長年やってきませんでした。「いつかは帰る出稼ぎ労働者だから」、国はなにもやらない、自治体や企業、NGOやNPOに任せておけというのが、この30年ぐらいの日本でした。移民政策をとらないと言いながら、多くの外国人を受け入れることほど、最悪の政策はありません。欧州が1970年代から犯した過ちを繰り返してきました。2018年ごろからようやく日本でも動きだしたかな、というのが現在地だと思います。 ●現地職員をどうする ――海外にある日本の大使館や国際協力機構、NGOなどで働いていた現地職員の退避と受け入れの態勢が整えられていません。 ◆日本の組織と協力したために迫害を受けるおそれが高まるケースはアフガニスタンで問題になりましたが、今後も起きえます。こうした人たちをどのような立場で日本に受け入れるかは空白状態です。これでは、優秀な現地職員は日本の組織では働かない方がよい、となってしまいます。一刻も早い整備が必要です。 *4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240916&ng=DGKKZO83485820V10C24A9CK8000 (日経新聞 2024.9.16) 留学生受け入れの課題 就職・定住一体で進めよ、浜名篤・関西国際大学長 各国の間で留学生の獲得競争が激しくなっている。関西国際大学の浜名篤学長は教育政策の枠を超え、就職・定住の促進策と一体で留学生の受け入れを進めないと日本は後れをとりかねないと指摘する。少子高齢化や景気回復で労働力不足が深刻化している。政府は特定技能制度で一定の専門性がある労働者を受け入れ、家族の帯同や無制限のビザ更新にも道を開いた。同制度による来日は増えている。他方、日本国内の大学や大学院で学ぶ留学生の増加には必ずしも成功していない。2023年5月現在の外国人留学生は27万9000人と新型コロナウイルス禍による減少から回復している。だが、このうち大学セクター(大学院・大学・短期大学・高等専門学校等)は約半分の14万人規模にとどまる。日本語教育機関が約9万人と32%を占めるが、コロナ禍中の留学待機者が大挙して来日したことが背景にあり、今後は減る見込みという。日本語学校や専門学校を含めた「水増し」の尺度で考えることはやめ、大学への受け入れ増に本腰を入れるべきだ。筆者は国際教育に力を入れる地方中小大学の学長であり、高等教育研究者として大学政策の国際比較に取り組んできた。本稿では海外調査で得た知見も踏まえ、日本の留学生政策の課題を考える。直面している課題は3つある。第1は、留学先としての日本の魅力低下だ。かつて円高の時代には、母国への仕送りを目的にアジア諸国から日本に留学する人が相当数いたと思われる。現在の日本では給与水準がお隣の韓国を下回るケースが多い。日本学生支援機構の調査結果から留学生の卒業後の進路を見ると、22年度に大学を卒業した約1万6000人のうち、日本で就職したのは38%にすぎない。進学者(21%)を含めても6割弱しか正規ビザを更新できていない。第2に、日本では学位(修士、博士)の評価が低い。台湾では公務員と教員の7割以上が修士以上の学位を取得しており、学位を得ると昇給・昇進が早くなる。公務員は週1日、大学院通学のための休暇が認められる。利用する人が多く、政府高官が「業務に支障をきたすことがある」と嘆くほどだ。留学生大国といわれる英国では1年で修士の学位が取得できる。このため留学生は学部ではなく大学院を選ぶ傾向がある。先ほどの学生支援機構の調査によると、卒業後に日本で就職・進学してとどまる割合は修士課程修了では49%、博士課程修了では34%に低下する。院卒者の処遇と就業機会が不十分だからだろう。第3に、留学生問題を教育政策の範囲でしか扱っていないことがある。カナダの教育テクノロジー企業アプライボードの調査によると、留学生が国を選ぶ際に重視する要因の上位には学費(86%)、在学中の就業機会(71%)、卒業後の就業機会(70%)、移民可能性(63%)などが並ぶ。つまり就職しやすくすることが重要であり、これは教育政策の範囲を超える。各国はこうした点にも目配りして留学生の獲得を競っている。まず、日本と同様に18歳人口減少に苦しむ韓国を見てみよう。20年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の統計によると、世界の留学生に占める韓国のシェアは13位で、中国や日本を下回った。そこで教育部(日本の文部科学省に相当)は23年8月に「留学生教育競争力引き上げ方案」を公表。22年で16万7000人の留学生を27年までに30万人に増やし、「世界10大留学強国」を目指すとした。「方案」には大学・企業・地方自治体の連携を前提にした具体的な戦略が盛り込まれている。地域ごとに「海外人材に特化した教育国際化特区」を指定し、地域の発展戦略とも連携させて留学生の誘致を進めるのはその一例だ。学業支援では在学中のインターンシップなどの機会を大幅に増やし、多くの分野の仕事に触れる機会を提供する。いつ、どこでも韓国語を学べるようテキスト・授業のデジタル化を進め、韓国語能力試験TOPIKもコンピューターで実施する方式にする。就職支援も強化し、中小企業などに就職する場合の特典の付与なども検討する。留学生獲得は人口減少国に限った政策ではない。人口増が続くマレーシアは私立大学の新設認可の条件に「留学生10%以上」という条件を付け、20年に国全体の留学生割合10%を達成した。25年までに25万人の受け入れを目標にしている。日本はどうか。40年の高等教育のあり方を議論している中央教育審議会の特別部会は8月に中間まとめを公表した。そこでは「留学生や社会人をはじめとした多様な学生の受け入れ促進」の重要性を指摘しているが、大学などに努力を求めるだけで具体策はみられない。中間まとめは40年の大学入学者数を留学生を含めても22年度比で2割減と試算する。せめてその半分、1割相当の留学生を獲得する発想がほしい。留学生比率に関する現在の政府目標(33年に学部で5%)は消極的すぎる。日本の若者がグローバル社会を理解し、多様な文化、価値観をもつ人々と協働できるようになることは重要だ。留学生の受け入れは教育上の課題であるとともに、喫緊の社会課題であり産業政策や労働政策、地域振興と一体で進めることが欠かせない。文科省の所管事項と矮小(わいしょう)化せず、法務・厚労・経済産業の各省や自治体も含め、国を挙げて取り組むことが必要だ。具体的には、日本で学位を取得した留学生がフルタイムで就職すれば就労ビザを出すことを制度化してはどうか。文科省が進める地域の「産官学プラットフォーム」を活用して有償インターンシップの機会を設け、収入の確保と就職のミスマッチ防止につなげてもよい。留学ビザの審査期間短縮も有効だ。留学生獲得を巡る国・地域間の競争は激化している。アニメやポップカルチャーをきっかけに日本に関心を持つ海外の若者がいる間に真に有効な施策を講じないと手遅れになる。そんな危機感を強くしている。 *4-4-2:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107061 (日本総研 2024年1月17日) 「私立大学の過半が定員割れ」が示唆するわが国の課題 ―教育効果の客観的把握と情報開示で「大学の供給過剰」是正を― 今年度、全国の私立大学の 53.3%において、入学者数が定員割れとなったことが明らかになった。現実には、地方の中小私立大学ほど経営が悪化し、公立大学化を模索する動きが後を絶たないが、それでは税金を使って、減る一方の学生の奪い合いをしているだけで、問題の本質的な解決とはならない。世界最悪の財政事情にあるわが国にとってはなおのこと、適切な対応ではない。少子化は今に始まった話ではない。しかしながら、文部科学省は 2018 年に中央教育審議会においてとりまとめた「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」において「18 歳で入学する日本人を主に想定する従来のモデルからの脱却」を目標に据えた。これは「留学生頼み」「リカレント頼み」で、国全体としての大学の定員の縮小には手を付けずにすむと見立てたものであったが、その後の現実は厳しい。わが国全体として研究力の低下が近年著しいなか、わが国を選ぶ留学生は思うようには伸びておらず、社会人のリカレント需要を合わせても、国全体としての大幅な「定員割れ」を埋められる学生数を集めるには到底至っていない。大学の定員は「まず学費の安い国公立大学から、都市部の大学から埋まる」現実があり、とりわけ地方の中小私立大学が厳しい調整圧力に晒される結果となっている。しかしながら、地方にも大学は必要であり、入学定員の適切な設定は、国公立大学も含む各大学の教育の成果を維持するうえでも必要なはずである。大学の定員の適正化に、国全体として取り組む必要がある。現状のように「当事者である大学任せ」では、各大学とも学生の定員減が教員数の削減につながるため後ろ向きとなりがちな実態があり、国が果たすべき役割は大きい。諸外国ですでに取り組まれているように、高等教育の客観的な評価を行う枠組みを確立して、その結果を各大学ごと、学部ごと、専攻ごとに、全国で横並びで公表し、「志願者による選別」を促すことで、国全体としての定員の適正化につなげるべきである。わが国の高等教育の機能を維持し、質の向上を図りつつ、大学の供給過剰状態を是正していくことは、わが国社会の活力を維持し、経済の生産性を高めていくうえでも、喫緊の課題であるといえよう。
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2021,02,08, Monday
2019.12.21毎日新聞 2020.4.8 2020.5.27時事 2021.1.29北海道新聞 (図の説明:1番左の図のように、2020年度の本予算は102兆6,580億円で、消費税を増税したのに、9兆2,047億円は債務純増だった。さらに、左から2番目の図のように、新型コロナ対策として第1次補正予算が16兆8,057億円組まれたが、そのうち9兆5,000億円あまりは国民に自粛を求めたため成り立たなくなった企業の救済資金だった。また、右から2番目の図のように、第2次補正予算が31兆9,114億円組まれ、そのすべてが自粛による倒産危機に備える支出だった。さらに、一番右の図のように、19兆1,761億円の第3次補正予算が組まれて、2020年度の支出合計は170兆5,512億円になった。しかし、しっかり検査と隔離をし、新型コロナ関係の機器・治療薬・ワクチンの開発をした方が、少ない支出でその後の経済効果が大きかっただろう) 2020.12.21時事 2020.12.21毎日新聞 2020.12.21毎日新聞 (図の説明:現在、審議中の2021年度予算案は、左図のように、5兆円の新型コロナ対策予備費を計上して、総額106兆6,097億円となっており、このうち43兆5,970億円を新規国債発行で賄っている。また、中央の図は、2020年度第3次補正予算と合わせて、もう少し詳しく使途と財源を記載したグラフだが、より詳しい内訳があった方が本当の姿が見えやすい。しかし、これらの歳出の結果、右図のように、2020年度は歳出と国債残高が跳ね上がり、2021年度の財政も赤字続きになりそうである) FeelJapan 2021.2.1時事 2019.10.16みんなの介護 (図の説明:左図のように、日本の名目経済成長率の大きな流れは、低賃金を武器に加工貿易で欧米先進国に輸出しながら戦後の荒廃した国土を復興していた第1期の9.1%から、オイルショックを境に第2期の4.2%に下落し、バブル崩壊を境に第2期の4.2%から第3期の1.0%に下落したことがわかる。これは、まずエネルギー価格が日本経済の大きな弱点であり、バブルで膨らませていた名目経済成長率もバブルが消えると1.0%前後になったということを示す。それに加え、中央のように、消費税増税による物価上昇や非正規化・高齢化による低所得者割合の増加があり、近年の実質経済成長率は0%近傍だった。しかし、右図のように、実質所得が減少しているのは日本だけで他の先進国は大きく増加しており、その理由は、日々、製品の高付加価値化や本物の生産性向上に取り組んでいるからである) (1)医療崩壊の理由は、政治・行政・メディアの不勉強と無知にあること 1)2021年度当初予算の肥大と税収源 現在、予算委員会で議論している2021年度当初予算案は、*1-1のように、2020年度補正予算と連動し、歳入の40・9%を新規国債発行(借金)に依存しながら肥大化している。これは、新型コロナ禍で歳出拡大圧力が強まり続けたせいとのことだが、コロナ対策として強制的に休業させ損害を出させた上に税収を落とし、日本経済の起爆剤などとして生産年齢人口に対するばら撒きを続けるのはあまりに愚かだ。 また、「日本における財政事情の悪化は、高齢化に対する社会保障費の伸びによる歳出拡大の影響が大きい」などと必ず言われるが、これは予測可能で現在の高齢者が保険料を支払っていた期間に引当金を積んでおくべきだったのに、国は現金主義会計を変更せずにひたすら浪費してきたために起こった国の責任なのである。そのため、政治・行政・メディアが、まるで高齢者に責任があるかのようなことを言うのは、いっさい止めるべきだ。 さらに、日本経済が低迷して税収が回復しないのは生産年齢人口の生産性の低さによるのであり、そうなった理由は、①エネルギー ②資源 ③賃金 等の高コスト構造をいつまでも変えずに現状維持に汲々としていたことが原因だ。私は、①②については、1990年代から解決策を提示していたが、外国だけが2000年代から本気で始めて日本を追い抜いた事実があるのだ。 なお、③の賃金は、イ)付加価値を上げるか ロ)生産性を上げるか ハ)賃金を下げるか しか選択肢はないので、例えば新型コロナを例にとれば、イ)については、役に立つ期間内に検査法・治療薬・ワクチンを開発・実用化・販売する方法があるが、先進諸外国はそうしているのに日本は大学への立入を禁止して試験研究を行えなくしたという政治・行政の愚かさがある。 ロ)についても、新型コロナを例にとると、米国の地方大学が唾液を使った検査法の開発を行い、唾液の方がウイルスを多く含むという結果を出したにもかかわらず、いつまでも唾液では結果が疑わしいかのような非科学的な報道をメディアが行い、日本における検査の生産性を低いままにしておく世論形成を行ったのは生産性の向上に逆行していた。 ハ)については、日本では物価を上げて実質賃金を下げており、このようにして実質賃金を下げている国は日本だけなのだが、これは政治・行政の失敗を国民に皺寄せしているということだ。このような事情があるため、消費が減って法人税・所得税の税収が減るのは当然で、それをカバーするために消費税で薄く広く課税すれば所得に反比例して課税することになって、さらに消費が減る。従って、私は、消費税増税のような筋の悪い法案に賛成したことは一度もない。 2)新型コロナの影響による税収大幅減 1)で述べた通り、日本の新型コロナ対策は問題を解決するための努力をせず、時短や休業を進める宣伝ばかりをこぞって行ったため、*1-2のように、所得が減少したのに応じて各税収が大きく減少し、2020年度は63・5兆円見込んでいた税収が50兆円台前半に落ち込むそうだ。 しかし、それだけではなく、国の愚策によって国民に人為的にもたらされた減収は、全額を国が負担して還付すべきで、2020年度の法人税や2020年の所得税申告書とそれ以前(前年又は過去3年分で既にある)の申告書、同期間に受けた支援金額をまとめた書類を準備すれば、要還付額の計算は正確で容易なのである。 また、減収分の全額が還付されることが明らかになれば、銀行から借り入れを行うこともでき、「GoToキャンペーン」などで不公平に特定の業種だけを支援する必要はなくなる。そして、そのくらいのことを要求しなければ、国の不作為とその結果の国民への皺寄せは、今後も続くと思われるのだ。 3)医療崩壊は、なぜ起こったのか 新型コロナ感染拡大の第3波で医療提供体制逼迫・医療崩壊の危機という声が、*1-3はじめ知事会やメディアで大きかったが、医療提供体制逼迫・医療崩壊の危機が本当に新型コロナ感染拡大によって起こったのかと言えば、そうではない。 具体的には、*1-3に、①緊急事態宣言が出された都府県でコロナ用病床の使用率が高止まり ②重症者の多い東京都で入院先や療養先が決まらない人が多い ③救急患者の搬送困難事案が多発 ④コロナ患者受け入れに伴って通常医療の入院・手術を減らした医療機関も ⑤日本の人口当たり病床数は世界のトップ水準でコロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ないのに医療崩壊が危惧される原因の1つは、コロナ患者の受け入れが公立・公的病院に偏っている ⑥民間病院は中小規模が多く感染症対応が難しいという事情あり ⑦中小民間が回復期の患者を引き受けるといった役割分担に積極的に取り組んでほしい ⑧軽症・無症状者は自宅や宿泊施設で療養するが、容体が悪化し死亡する事例が昨年末から増え、自宅療養中だった男性の容体が急変して死亡した と書かれている。 このうち①②③④は、軽症者・無症状者の隔離に病院を使っていることが原因であり、⑧の軽症者・無症状者は医師・看護師の関与の下、宿泊施設で隔離・療養させる必要があるのだ。また、家庭の事情があって軽症以上でも自宅療養する場合には、その人は患者であって(電話の繋がらない)保健所への連絡や家事は負担になるため、訪問介護(家事支援)・訪問看護・往診などのサポートを受けることができなくてはならないのである。 また、⑤⑥⑦については、(文科省管轄の)大学病院は大規模でエリア分けが可能であるため、中小の民間病院より先に大学病院で中等症・重症の患者を受け入れるようにすべきで、そうした方が研修医の経験にも資する。さらに、疾病は新型コロナだけではないため、「病院に入院したら新型コロナに感染した」という状態では困るのであり、病院の得意分野に応じて役割分担すべきなのだ。 なお、感染症は新型コロナだけではないのに、病気になると大部屋で空気や共同トイレから感染しやすい入院施設に入らなければならないのでは、免疫力の強い人しか入院できない。しかし、病気になると誰でも免疫力が落ちるため、入院施設はすべて陰圧の個室にし、酸素吸入機器等の必要な設備をつけておけば、新型コロナでもこれほど大騒ぎする必要はなかった筈である。 つまり、⑤の「日本の人口当たり病床数は世界のトップ水準で、コロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ないのに、医療崩壊が危惧された」というのは、異なる診療科なので感染症に対応できなかったり、病室が粗末でスタッフも少ないため感染力の強い感染症患者を受け入れられなかったりしたということで、普段からやっておくべき地域医療計画ができておらず、いざという時の入院施設がお粗末だったということなのである。 4)本来やるべきだった新型コロナ対策と検査 広島県の湯崎知事は、1月29日、*1-4-3のように、広島市中心部4区の全住民と就業者合わせて最大80万人を対象とする新型コロナウイルスの無料PCR検査を実施すれば死者や重症者の発生が減り、結果として11~19億円の医療費を節約できるとの試算を発表されたそうだが、私もそのとおりだと思う。 この検査は、無症状者・軽症者が対象で任意だが、少なからぬ死者・重症者・中等症者の発生を予防でき、「プール方式」を利用すれば比較的迅速かつ安価で検査を行うことができる。他の地域も、同様に検査を行って無症状の陽性者に一定期間の自宅待機を要請すれば、早めに感染拡大の芽を摘み取り、経済的な損失を最小限に抑えることができると、私も考える。 そのような中、*1-4-1のように、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・理学療法士等の国家資格を持つ国会議員が参加する自民党新型コロナ対策医療系議員団の本部長を務めておられる冨岡衆議院議員が、「①コロナによる医療体制の逼迫は、東京はじめ3大都市圏はパンク状態で限界」「②人工心肺装置(ECMO)をつけると必要な人手が倍になる」「③過重労働で人手が足りず、勤務日程が組めない事態が危惧される」「④感染拡大状況は地域によってバラツキがある」「⑤全体を見渡して空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムが必要」「⑥全国各地の自衛隊病院を専門病棟として活用する工夫も必要」「⑦経済状況の悪化に伴う自殺者の増加も起きる可能性がある」「⑧LAMP法(*1-4-2参照)などの短時間検査を導入し、検査数を増やして無症状の若年感染者の発見に全力をあげるべき」「⑨オゾン・紫外線・高機能フィルターなどで汚染された空気の除菌をすべき」等と言っておられる。 しかし、⑧の導入も含め、早急になるべく簡便で早く結果の出る検査を充実していれば、①②③④⑤⑥⑦の状態は防げた筈なので、「まだこんなことを言っているのか」と私は思った。また、⑨は世界で需要があるのに、日本にはこれを作れる会社がないのだろうか? そして、②のECMOや酸素吸入は対症療法でしかないため、抗体医薬を含む治療薬を素早く承認すれば治療期間が短くなり、ECMOを使わなければならない患者は増えず、助かる人が増えて、病院の負担は減った筈である。 さらに、⑤の空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムは、私が衆議院議員だった2005~2009年に、夫(脊椎・脊髄外科医)のアドバイスを受けて全国にドクターヘリのシステムを導入したため、既にある。従って、搬送時の工夫さえすれば、都会・離島・山間部を問わず④⑤はすぐできる筈で、⑥の自衛隊病院も使えばよいため、何故、迅速にそういう対応をしなかったのか不思議なくらいだ。 5)物質を介する感染と変異株 島津製作所が、*1-5のように、ノロウイルス向けの検査キット技術を応用して物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットを発売し、PCR検査法により100分でパソコン・ドアノブ・水道の蛇口などを調べて衛生管理に役立てられるそうでよいことだ。 ウイルスの変異株はウイルスが存在する限り常に発生しており、多くの人がマスクをして混雑を避けていれば、空気感染は減少するので物質に付着して長く生存する能力がウイルスの感染力になり、その方向に変異した株が増えることになるだろう。そのため、物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットはより重要になると思われる。 また、私は、外国に行った時は、その国の人の生活を感じられる市場やデパートに必ず行くのだが、欧米で日本よりも新型コロナの感染者が多い理由の1つに、食品の売り方があると思う。例えば、果物などを沢山積み誰もが触って選べる売り方は普段なら豊かな感じがするが、ここに新型コロナウイルスが付着して感染する確率は高い。その点、日本のスーパーはパッケージに包装して販売しているため、洗剤で洗えない食品にウイルスが付着する機会が少ないのである。 (2)社会保障は無駄遣いではなく、他に多額の無駄遣いをしながら社会保障給付を抑制することこそ愚策である 1)国の会計処理について 国立社会保障人口問題研究所は、*2-1-1のように、2018年度の社会保障給付費(社会保険料と税金を主財源とした医療・年金・介護等の給付合計)が121兆5408億円で過去最高を更新したと発表したそうだ。 しかし、まず、2020年10月16日に書かれた記事に利用できる財務情報が2019年度のものではなく2018年度のものだという事実が、国民が支払った金に対する政府のAccoutability(説明責任ではなく受託責任)と使途に関する開示が如何に軽視されているかを示しているのである。 一般企業の決算なら、各国に多数の子会社を持つ多国籍企業でも、2019年度(2019年4月~2020年3月)の決算なら3カ月以内の2019年6月末までに終了して株主総会まで終わっていなければならない。また、法人税申告書の提出期限は決算日から2カ月後の5月末で、延長可能な期間は最大でも4カ月であるため、遅くとも9月末が提出期限になる。 また、内訳を細かく書かずに単に総額が増えた減ったと言っているにすぎないため、①当然増えるべくして増えた金額 ②政策の誤りによって支出した金額 ③運用時に無駄遣いをして支出した金額 の区別がつかない。これは、為政者にとっては責任逃れに都合がよいが、国民にとってはいくら負担しても「足りない」と言われる不都合な状態を作っており、一般企業なら、財務管理ができずに必要な支出と放漫経営による支出を混同しながら倒産していくケースだ。 2)年金について 年金については、*2-1-2のように、0.8%増の55兆2581億円などと増えたこと自体を問題視し、高齢者への給付削減という「痛み」を伴う改革への踏み込みの甘いのが大きな課題とするメディアの論調が多い。 そして、その帰結として、政府は、*2-3-2のように、「マクロ経済スライド」と称する年金支給額の伸びを物価や賃金の伸びより抑制する仕組みを作り、実額年金額を国民に気付かれないように次第に目減りさせるという悪知恵を働かせて、*2-3-1のように、厚労省が現役世代の賃金水準を年金受給額に反映させるルールを適用し、2021年度の公的年金受給額を20年度比で0.1%引き下げると発表したのだ。 さらに、その理由を「日本の公的年金は現役世代の保険料を高齢者の給付に充てる仕送り方式で、少子高齢化が進むと現役世代の負担が増えるから」などとしているが、定年年齢は55歳だったころから60歳・65歳へと上昇しているため、その高齢者が働いていた間に引当金を積んでいれば寿命が10年くらい伸びても全く問題はなかった筈だ。にもかかわらず、いつまでも賦課課税方式を改めず、付加価値や生産性を上げる努力もせずに、大きな無駄遣いをしながら、働かないことを推奨してきた政府の責任は重く、その結果を高齢者に皺寄せしようなどというのは筋違いも甚だしいのである。 なお、*2-1-2に、「2018年度に121.3兆円だった年金・医療・介護等の社会保障給付費は、団塊世代が全員75歳以上になる25年度には140兆円を超え、2040年度には190兆円近くまで膨らむ見通しだ」などと書かれているが、ある年の出生数はその年が終ればわかるため、これらは、今初めてわかることではない。 だからこそ、現役世代が支払った保険料を引退世代の給付に充てる賦課課税方式ではなく、自分のために積み立てる積立方式に変更しておかなければならないと私は1990年代から言っており、民間企業は退職給付会計を導入して積立不足額の積み立てもとっくに終わっているのだが、日本政府は賦課課税方式を維持して無駄遣いを続けつつ現在に至り、「高齢者への給付と負担を見直さなければ現役世代の負担が重くなる」などと未だに言っているのだ。ちなみに、米国で退職給付会計が導入されたのは1980年代であり、国際会計基準もすぐに採用している。 そして、高齢者に皺寄せする現在の日本のやり方は、高齢者に低所得者の割合を増やすため、高齢者割合が増すにつれて、生産年齢人口で賃上げしても日本経済の需要が減ることになる。そのため、悪知恵に基づく変な変更をせずに、真の需要であり今後は世界でも需要が増える高齢者向けのサービスを充実すべきだったのだ。 また、少子化がよく理由に挙げられるが、年金等の高齢者への支出が削られれば、子どもを増やせば自分たちの老後の準備ができず、ますます惨めな老後を過ごさなければならないことになる。そのため、高齢者に対する社会保障の減額という老後不安は、生涯所得と生涯支出を考えれば出生数を減らすことになり、女性はそこまで考えて行動しているのである。 3)医療費について *2-1-1に書かれているとおり、2018年度は医療費が0.8%増の39兆7445億円だったが、診療報酬をマイナス改定して伸びを抑えたために医療機関はゆとりがなくなり、消費税増税分はすべて医療機関の負担になっていた。さらに、合理的な地域医療計画もできていない地域が多かったためか、欧米と比べてほんの少しの感染者数で医療が逼迫し、緊急事態宣言を発して国民に迷惑をかける事態となった。これらは全て政治・行政の責任であり、一方で厚労省が定める薬価が国際価格より高すぎたり、よりよい治療法への変更が行われていなかったりなど、官製市場に起因する無駄遣いも多い。そのため、保険診療と自由診療との併用は不可欠なのである。 なお、*2-2-1のように、(生活保護給付程度の)200万円以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担は2割に引き上げることになり、これに加えて資産の多い(具体的にいくらを言うのか不明)高齢者にも一定の負担を求める案が出ている。しかし、一つの課税所得に対して何重もの負担を課すのは不公平で非常識な政策で、そのためにマイナンバーカードを使おうというのだから、マイナンバーカードは危険なのである。 4)介護について *2-1-1によれば、介護を含む「福祉その他」が2.3%増の26兆5382億円だったそうだが、金額だけが大きくても介護サービスは未だ必要な人に十分に届いているわけではなく、例えば新型コロナで自宅療養する人に介護の手は届かなかった。そして、家事を担う人(主に女性)に過重労働の負担をかけながら、40歳未満の人は介護保険制度に加入不要などという変則的な制度にしているが、これこそ全世代型社会保障にして働く人全員で負担すべきなのである。 また、医療保険・介護保険等の社会保険料から補填される部分は、税金から支出される社会保障給付費とは区別して考えなければならないが、これも故意か過失か、ごっちゃになっている。 なお、*2-2-2には、「当事者・事業者・研究者、識者3人に聞く」として、「①家族支える視点を大切に」「②現場の魅力を高めて人材確保(=賃金を上げる必要性)」「③サービスと負担の議論必要」「④65歳以上の保険料の全国平均は月5,869円。2040年度には9,200円に達するという推計」「⑤2015年度に一律1割だった利用料が一定円以上の所得のある人は2割、2018年度からは特に所得の高い層は3割に上がった」と書かれている。 ここで大きく抜けているのは、「介護の当事者は被介護者であって被介護者がQOL(Quality of life)を下げずに療養できなければならない」という介護の理念だ。しかし、①は「家族を支えるべき」とするに留まり、②は「介護スタッフの賃金を上げるべき」としか言っておらず、③は④⑤のように、これまで「介護サービスの削減と高齢者の負担増」ばかりを言ってきており、介護の理念からほど遠いものだったのである。 しかし、(あなたを含めて)誰もが被介護者になる可能性があり、高齢になって驚くほど少ない年金から毎月5~9千円も取られた上、少ない所得を高所得と言われてサービスの値段を上げたり、サービスの内容を制限されたりしたら、あなたならどう思うだろうか。その時の被介護者の驚きと落胆を、相手の身になって思いやるべきだ。 (3)中途半端で妥協したため、金ばかり使って意味のない政策になった事例 1)東日本大震災のかさ上げ造成について 2011年の東日本大震災で、岩手県大槌町の中心部は、*3-1のように、10mを超す津波にのまれて壊滅状態となったが、町は161億円かけて2.2mかさ上げした。しかし、町が土地取得や住宅建設に200万円以上の補助金を出しても空き地が埋まらないそうで、当然のことである。 何故なら、10mを超す津波に襲われた地域での2.2mのかさ上げは、次の津波の備えにならず、就労先となる産業や住宅を作れないからで、岩手・宮城・福島3県のかさ上げ地域は総事業費が2020年6月時点で4,627億円に上り、ほぼ全額が復興交付金等の国費で賄われたにもかかわらず、活用不能で未活用となってしまったのだそうだ。 しかし、このように安全対策が不十分で住めないような場所なら、震災後に内陸部に移った地権者の多くが戻らないのは当たり前であり、「右肩上がりの時代に確立された復興のあり方が、現状にそぐわない」のではなく、安全対策が不完全なら日本人だけでなく難民を誘致することすらできないのである。 そのため、2013年~2037年までの25年間にわたり、納税者が「復興のためなら」と黙って所得税の2.1%を納税した復興特別所得税の多くを無駄遣いにしてしまったわけだが、このように不完全な造成工事を、同調して進めてしまうのは男性の発想ではないのか? 私は、東日本大震災後、被災地で話をするのは男性ばかりで女性は後ろにいて意見を言わず、東北はジェンダー平等に遅れていることに気がついていたのだが・・。 2)エネルギーの選択について イ)原発について 東日本大震災後、納税者が黙って支払っている復興特別所得税や電気料金に含まれる原発関連費用は、*3-2に書かれている原発事故の後処理にも使われている。 しかし、根拠もなく30~40年で完了するとされた廃炉作業は限界に近づいており、屋根を解放したまま800~900tもそのままにしている燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しすらできないとは呆れる。国と東電が2011年12月に廃炉工程表を掲げてから工程が遅れを重ねているのは、新型コロナよりも過度な楽観主義に基づく非科学的な対応に原因があるだろう。 このように、散々無駄遣いしながら懸命につなぎとめてきたという目標について、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名理事長は、「1年の遅れは、全体の遅れに比べたらたいしたことはない」「今の時点で『40年は無理』なんてとても言えない」「40年を目指して全力でやること自体が、難しい仕事を進める一つの原動力」などと述べているが、そこまで何もできないのに原子力発電などよく始められたものだ。 その上、再稼働・新型原子炉などと言っているのだから、生活や安全を軽視して遊びのようなことばかりしている男性の極楽とんぼには、呆れ果てる。 ロ)発電用アンモニアについて それに加えて、東電ホールディングスと中部電力が出資するJERAが、*3-3-1のように、「CO2を出さない」という理由でアンモニアを発電燃料とするのも、不合理で筋が悪い。 何故なら、排気ガス公害はCO2だけではないのに、「CO2排出量の削減だけが課題で、2050年までにCO2排出量さえ実質0にすればよい」などと公害を小さく考え、*3-3-2のように、着火しにくく、燃焼速度も遅く、燃焼時にNOxを出すアンモニアを、わざわざ海外から輸入して発電燃料にしようとしているからである。 日本は再エネが豊富な国であるため、この試みは、エネルギーの自給率を下げて環境だけでなく安全保障の役にも立たず、もちろん地方創成の役には立たず、事故原発の後処理と同じように無駄が多く、後ろ向きで馬鹿なガラ系の寄り道にしかならない。 3)森林環境税について 春の森 森林育成会社もあるが・・ 2月の梅林 水仙の咲く森 北アルプスの春 わさび田の春 所沢ゆり園 2019年3月に成立・公布された「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」により、*3-4のように、日本の森林の保護・保全・活用に必要な財源を確保するためとして、年額1000円/納税者が各市町村を窓口として国税として2024年から徴収され、一旦国へ納められた後、国から都道府県・市町村に「森林環境譲与税」として交付されるのだそうだ。 その「森林環境譲与税」は、2019年度から都道府県を経由して市町村に既に交付されており、①人口比率 ②木材使用施設・公園などの木材利用率 で交付額が決められるため、実際に森林の維持管理を生業にしている市町村に少なく、人口の多い都市部の市町村に多く支払われるというおかしな結果となっている。 しかし、私は2005~2009年の衆議院議員時代に、国で環境税を導入するように提唱したが国では導入できず、最初に森林環境税が日本の資源でCO₂吸収源でもある森林の手入れをするために地方自治体で創られたのであり、これは木材の利用促進のために創られたものではない。 そして、木材利用の推進は、森林の手入れを促すために副次的に行っているのであり、森林を手入れすることもない人口の多い都市部に多額の「森林環境譲与税」が支払われるのは、はげ山を増やすだけなので本末転倒である。 さらに、森林の間伐のみを目的としてそれに費用をかけ、間伐した木材を打ち捨てておくなどというのは、あまりにもったいなく、その傲慢さは山の神様の怒りを買うだろう。そのため、間伐材を有効利用したり、植林の際に苗を詰め過ぎて植えないようにしたりして、間伐費用そのものは削減を考えるべきだ。 もちろん林業活性化は重要だが、森林の育成・維持管理には、ボランティアではなくプロの森林・林業専門家が関わる必要がある。また、地方が森林環境税を新たな財源として森林の育成・維持管理以外の目的に目的外使用をしないようにしなければ、森林環境税の本来の目的が達せられないため、国民は一人当たり年額1000円の森林環境税を支払う理由がないのだ。 つまり、遊びや無駄遣いではなく、まじめに森林の育成・維持管理という本来の目的に合った使い方をしないのであれば、国民が森林環境税を払う理由はなくなるので、これを絶対に忘れず使途を開示してもらいたいわけである。 (4)女性差別の政策への悪影響 1)オリ・パラ関連団体と五輪33競技中央競技団体の女性理事割合と日本社会 「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」とした森氏の女性蔑視発言を受け、毎日新聞が、国内のオリ・パラ関連団体と五輪で開催される33競技の各中央競技団体における女性理事の比率を調べたところ、*4-1-1のように、五輪選手の5割前後が女性であるにもかかわらず、競技団体の全理事に占める女性割合は、3割超えはテコンドーのみで、女性理事ゼロの団体もあり、女性が会長を務めるのは日本バスケットボール連盟のみであり、全体の平均は16.6%だったそうだ。 また、日本オリンピック委員会(JOC)と森氏が会長を務めるオリ・パラ組織委員会には女性理事が20%いるものの、森氏の差別発言があったJOC評議員会には3.2%しかいなかった。 そして、そういう状況を変えるために、2019年6月にスポーツ庁が、中央競技団体向けの運営指針で各組織の女性理事割合を40%以上と設定し、女性評議員の目標割合を設定することなども提示していた中、女性の発言機会を制限するような森氏の女性蔑視発言「女性を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制を促しておかないとなかなか終わらないので困る」が飛び出したのだそうだ。 2)森氏の女性蔑視発言に対する周囲の反応 イ)スポーツ界トップの空気 東京オリ・パラ組織委員会の森氏の女性蔑視発言に周囲から笑いが起こり、それを報じると、*4-1-2のように、複数のスポーツ関係者が「森会長の冗談じゃないか」と言ったそうだ。 しかし、冗談なら面白くなければならないが、この発言は誰にとって面白いのか? 答えは明らかで、同じような女性蔑視の価値観を持つ人(多くは男性だが、女性にもいる)にとっては面白いが、事実でもないのに批判された人は侮辱を感じつつ笑ってごまかしていただけだ。そのため、そんなことも推測できないような人に調整役ができていたのは、一重に日本女性の忍耐の賜物なのである。 ロ)組織委の対応 国際オリンピック委員会(IOC)は、最初、「森会長は発言について謝罪した。これで、IOCはこの問題は終了と考えている」と言っておられたが、*4-2-2のボランティアの大量辞退・*4-2-3の小池東京都知事の対応・協賛する企業からの苦言を受けて、*4-1-1のように「東京大会組織委員会も会長の発言を不適切と認め、ジェンダー平等に向かう決意を再確認した」という公式声明を発表し、森氏は2月12日の組織委の臨時会合で辞任を表明した。 しかし、*4-3のように、IOCのバッハ会長は森会長に対し、森会長と並ぶ女性の共同会長を置く案を提案しておられたのだそうで、森氏の辞任後は、川淵氏が東京オリ・パラ組織委員会の新会長に就任する見通しと伝えられたが、さすがに、これはなくなった。 私は、森氏の女性蔑視発言がきっかけで会長が変わる以上、会長は女性でなければならないと思う。しかし、政治家が会長になると、東京オリ・パラが政争の具にされて失敗する可能性が高くなるので、会長は政治と無関係な人がよい。 そのため、既に大枠は決まっており、副会長などの補佐が複数いれば具体的な活動は可能であるため、雅子妃殿下に会長になっていただき、東京オリ・パラでは日本語だけでなく英語等の外国語を交えて、オリ・パラ精神にのっとった今後の世界を見渡す挨拶をしてもらってはどうかと思う。雅子妃殿下なら、世界の人が見たいと思っている顔である上、先輩のおじさま方も協力して支えることができるのではないだろうか。 ハ)自民党政治家の反応 自民党政治家の反応は、萩生田文科相が、「『反省していないのではないか』という意見もあるが、森氏は最も反省しているときにああいう態度を取るのではないかという思いもある」と言って森氏をかばったが、苦しい弁解だった。 また、二階幹事長は、*4-2-1で「①森会長には周囲の期待に応えてしっかりやっていただきたい。辞任は必要ない」「②ボランティアの辞退は、即座にそういう反応もあっただろうが、お互い冷静に考えたら落ち着いた考えになっていくんじゃないか」「③どうしてもおやめになりたければ新たなボランティアを募集する」と言っておられ、さらに、*4-2-2では「④男女平等で一貫して教育を受けてきた。女性は心から尊敬している」と言っておられた。 しかし、①は森氏の女性蔑視発言を軽く考えすぎている。また、②は「ボランティアが瞬間的に感情的な行動をとったのだから、落ち着けば変わる」という意味で、「(女性の多い)ボランティアが、軽率な行動をとったのだ」と言っているのだから、やはり女性蔑視だ。その上、③は、「ボランティアなんか、いくらでも集まる」と言っているのだから失礼だ。 それでは、④の「女性は心から尊敬している」という言葉は、本当であれば女性の何を尊敬していると言うのか? 森氏に抗議している女性は、優しさや忍耐強さで尊敬されたいとは思っておらず、公正かつ正当に評価された上で尊敬されたいのだということを忘れてはならない。 二)政財界、メディアの遅れ i)スポーツ・政治・メディアの遅れ スポーツ・政治・メディアで意思決定層に女性が少ない理由を、*4-1-1は、①女性への家事労働負担の偏在 ②社会に根付く強固な性別役割分業意識 ③その中での女性のキャリア蓄積の困難 と記載しているが、どの分野であっても第一線にいる女性は既に①②③をクリアしているのに(そうでなければ第一線にいられない)、このようにして割り引いて考えられるから意思決定層に行けないのであり、決して日本女性に人材がいないわけではない。 なお、*4-2-4に、クリエーティブディレクターとして社会派の広告やイベントの企画などで活躍する辻愛沙子さんの話として、「④この発言を薄めたような出来事は、社会に多い」「⑤森さんの発言は言葉のあやではなく、価値観の根底に根付いている本音だ」「⑥勝手に作られた想像上のヒエラルキーがある」「⑦いつの時代にも『わきまえない女』がいたから、今の私たちに参政権があり仕事もできる」「⑧黙っている方が楽で声を上げる人にヤジを飛ばす方が簡単だけど、連帯したいアクションに対して賛意を伝える言葉を選ぶ人が多かったのはポジティブな動きだった」と記載されており、賛成だ。 これに付け加えれば、短期的には黙っている方が楽かもしれないが、声を上げて社会を変えなければ意思決定層に女性は増えず、そのことは長期的には自分に降りかかってくるのである。 ii)国・地方自治体における女性登用の遅れ 沖縄タイムスは、2月10日の社説で、*4-4のように、「①市民のニーズを把握し地域の実情に応じた政策に取り組むべき地方自治体職員も管理職が男性ばかりでは女性の利益が反映されにくい」「②沖縄県内41市町村の管理職に占める女性割合は14.0%と低く、全国平均の15.8%を下回る」「③部局長・次長級は11.7%(全国10.1%)と1割程度」「④政府が掲げていた『指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度」とする』という目標からほど遠い」「⑤『幹部候補になるまで育っていない』『昇進に消極的』といった声を未だに聞くが、そもそも候補となるための経験やチャンスを男性と同じように与えていない」「⑥昇進への尻込みは、家事や育児の負担が女性だけに偏っている現状や残業を前提とした長時間労働の問題でもある」「⑦地域による登用率のばらつきもある」「⑧政治・行政分野では30%がクリティカルマスとされている」などを記載しており、心強い。 このうち①は全くそのとおりで、保育・介護などのサービスを女性に押し付けて、女性を過重労働にしながら社会のニーズを汲み取らなかった経緯がある。また、女性が関わることの多い教育・医療・年金等の社会保障も同様で、これだけの無駄遣いをして借金を積み重ねながら改善どころか改悪してきたのであり、その責任は長く(実質的)権力の座にいた人ほど重いだろう。 また、⑧については、政治だけでなくどこでも最低30%は必要で、その理由は、10人の会議体に女性が1人しかいないのに女性のニーズを口にすれば、残りの9人から「会議が予定どおりに進まない、変わっている」等と言われるが、女性が3人いて女性のニーズを言えば、残りの7人(それでも女性の2倍以上いる)も「そうか」ということになるからだ。しかし、30%というのは、女性が⑥の理由で仕事からドロップアウトしがちである(何を重要と考えるかの問題なので、それも自由)ため謙虚に設定した数字で、本来は50%いても不思議ではないのだ。 そのため、②③は、女性の割合が低すぎるため沈黙する女性もいるだろうし、④のように目標を達せられずに取り下げるなどというのは論外なのである。そして、⑤は昔から言われていたため、(私が提案して)1997年に男女雇用機会均等法を改正して採用・配置・昇進・退職に関する差別を禁止し、それが1999年4月1日から施行されて20年以上も経過しているため、未だに女性の幹部候補が育っていないのなら、20年以上も法律違反をしていたことになる。 なお、⑥については、仕事を続けている女性は解決しているケースが多いにもかかわらず、これを理由に幹部候補の道を閉ざされた上、「昇進しないのは本人の希望」とされているケースが少なくない。そして、⑦は、女性に能力がないからではなく、受け入れ体制が不備であるため意思決定する立場の女性割合が低くなっている証拠なのである。 ・・参考資料・・ <医療崩壊の理由は政治・行政・メディアの無知にあること> *1-1:https://mainichi.jp/articles/20201221/k00/00m/010/225000c (毎日新聞 2020年12月21日) 肥大予算、さらに借金依存 歳入の40.9% 財政再建目標、絶望的に 菅義偉首相にとって初となる2021年度当初予算案は異例ずくめの編成作業をたどった。「菅カラー」の打ち出しに腐心したが、新型コロナウイルス禍で歳出拡大圧力は強まり続け、補正予算と連動した「15カ月予算」は肥大化した。時限的な政策の財源を手当てする補正と違い、当初予算は暮らしやビジネス活動に直結する国家の絵姿。コロナ後の日本経済の起爆剤となるか、それとも将来に禍根を残す結果を招くのか。新型コロナウイルス対応で借金が膨らんだ2020年度に続き、21年度当初予算案も歳入の40・9%を新規国債発行(借金)に依存する編成となったことで、日本の財政悪化は一層、厳しい状況に追い込まれた。政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の赤字規模は、20年度当初段階から10兆円超増えて20兆3617億円。政府は25年度にPBを黒字化させる目標を掲げているが、実現は絶望的な状況だ。日本の財政事情は、高齢化による社会保障費の伸びに伴い歳出の拡大が続く一方、経済の長期低迷で税収の回復は鈍く、歳入不足を国債で補う構図が続いてきた。10年代は税収が徐々に持ち直し、PBの赤字幅も縮小傾向にあったが、コロナ禍で状況が一変した。20年度は3回にわたる補正予算を通じ、歳出総額が175兆円に膨張。一方、歳入は税収が当初見込みより8兆円超下振れして55兆1250億円にとどまったこともあり、国債を大量発行。20年度の新規国債発行額は112兆円に達し、それまでで最悪だった09年度(52兆円)の倍以上に肥大化した。国と地方の長期債務残高は、20年度末に1200兆6703億円となる見込みで初めて1200兆円に到達。国民1人あたり960万円程度に上る危機的な状況にある。政府は「経済再生なくして財政健全化なし」として、まずは経済を回復して税収を増やし、PBの赤字幅を縮小させる従来型の財政改善策を維持する方針だ。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「政府の方針はあまりに楽観的だ」と警告する。政府は一連の経済対策の効果も織り込み、21年度は4・0%程度の経済成長を達成し「経済をコロナ禍前の水準に戻す」としている。だが、「第3波」の拡大など経済への逆風は強まっており、民間シンクタンクの21年度予測は平均3・42%とより慎重な見方が強まっており、税収の回復には時間がかかる恐れもある。これまで積み上げてきた債務のため、21年度当初歳出の22・3%に当たる23兆7588億円は借金の利払いなど「国債費」に消えていく。借金が急増した20年度分の影響は22年度予算から反映される見通しで、国債費はさらに1兆円以上増える見通しだ。小林氏は「将来的には金利上昇のリスクもあり、債務拡大はいつか限界が来る。コロナ終息後は世界的に財政再建の流れが強まることが予想され、日本もたがを緩めず、予算の使い道をしっかりチェックしていくべきだ」と指摘している。 *1-2:https://mainichi.jp/articles/20201127/k00/00m/020/003000c (毎日新聞 2020年11月27日) 国の財政運営にコロナ直撃 税収大幅減 「緊急事態」再発令ならさらに下振れ 新型コロナウイルスの影響で国に入ってくる税金(税収)が大きく減りそうだ。2020年度は63・5兆円の税収を見込んでいたが、民間からは50兆円台前半に落ち込むとの予測も出ている。コロナ対策で今後も歳出の拡大は避けられず、借金頼みに拍車がかかるのは確実。社会のあり方を大きく変えた新型コロナは財政運営の形も変えようとしている。現在、国に入ってくるお金は、税金が約6割、国の借金である公債金などがその他を占める。コロナ禍で経済が失速する中、政府はこれまでに2度の補正予算で計57兆円超を支出した。財源は借金で賄っており、当初予算から合わせた20年度の新規国債発行額は過去最大の90兆円超。政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示す「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の赤字は当初予算段階の9兆円余から66兆円に増えている。税収は時の経済状況に大きく左右される。リーマン・ショック時は51兆円(07年度)から38・7兆円(09年度)へ、ショックの前後2年間で25%近くも下がった。企業業績や雇用情勢に左右される法人税と所得税が減少したためだ。その後は景気回復に伴い、18年度に過去最高の60・4兆円に到達したものの、19年度は米中貿易摩擦による世界経済の減速に加え、年度末になってコロナショックが深刻化。結局、税収は58・4兆円にとどまった。20年度は4~5月に緊急事態宣言が発令され、4~6月期の国内総生産(GDP)は戦後最悪の前期比28・8%減(年率換算)を記録した。その後も経済の持ち直しは緩やかで、7~9月期のGDP(速報値)は年率換算で21・4%増と大幅なプラス成長になったが、コロナ前の水準には戻っていない。第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは、税収は50兆円台前半まで落ち込む可能性があると推計しており、「法人税の下振れが最も大きな要因。緊急事態宣言が再度発令されるようなことになれば、見通しがつかなくなる」と指摘する。国に入ってくる税収は財務省が毎月公表しており、9月末時点での20年度税収実績は、前年同期比0・3%増の16・8兆円。見かけ上は前年と同じ水準を維持しているが、これには法人税のコロナ禍の影響が反映されていない。法人税や消費税には、事業年度の途中に税金を分割前払いする中間納付制度がある。分割・前払いしておいて払い過ぎた分を後から払い戻しを受ける仕組みだ。3月期決算法人の中間納付は11月に集中するため、財務省は「影響が出始めるのはそれからだろう」とみる。税収の内訳をみると、すでにコロナ禍の影響が顕在化している税目もある。外出自粛の影響でガソリン消費が減った結果、揮発油税は10月時点で前年同月比13・6%減。航空需要が蒸発した航空機燃料税は96・2%減となった。酒税(12・4%減)とたばこ税(3・9%減)も低調に推移。消費量の低下で、ただでさえ税収減が続いていたところに、コロナ禍で嗜好(しこう)品を楽しむ機会が減ったことが追い打ちをかけた形だ。政府は「経済再生なくして財政健全化なし」の方針の下、当面は積極財政で景気の下支えを優先する構えだが、足元では感染拡大が再び進行。頼みの需要喚起策「GoToキャンペーン」も運用の見直しを迫られており、財務省幹部は「税収の見通しを立てるのが非常に難しい」と頭を抱える。星野氏は「政策の下支え効果が今後切れてくると、来年以降、所得税収の落ち込みも本格化する恐れがある」と警告する。政府は追加の経済対策のために20年度3次補正予算案を年末に編成する方針だが、税収が減る中でいつまで歳出を増やし続けるのか。厳しい財政運営を迫られている。 *1-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/685121/ (西日本新聞社説 2021/1/27) 医療崩壊の危機 病床確保に民間と連携を 新型コロナウイルス感染拡大の第3波はピークを越えたようにも見えるが、警戒を緩めるわけにはいかない。特に医療提供体制は依然として逼迫(ひっぱく)した状況が続いている。命を救う態勢を早急に立て直す必要がある。緊急事態宣言が出された福岡県を含む11都府県の多くで、コロナ用病床の使用率は高止まりしている。深刻なのは重症者が多い東京都だ。調整が難航し、入院先や療養先が決まらない人が大勢いる。九州では病床使用率の高い水準が継続している熊本県なども心配だ。病床逼迫を背景に救急患者の搬送先がすぐに決まらない搬送困難事案が多発しており、九州も例外ではない。コロナ患者受け入れに伴い、通常医療の入院や手術を減らした医療機関もある。甚大な影響が医療全般に広がっていると考えるべきだ。日本の人口当たりの病床数は世界のトップ水準にある。一方でコロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ない。なのに、なぜ医療崩壊が危惧されるのか。原因の一つに、コロナ患者受け入れが公立・公的病院に偏っていることが指摘されている。日本は民間病院は中小規模が多く、感染症対応が難しいという事情はある。だが民間の力も結集しなければ、国全体のコロナ対応は立ちゆかなくなる。厚生労働省や専門家は以前から把握していた課題のはずだ。日本医師会や日本病院会など医療関係6団体が先日、コロナ患者の病床確保に向けた対策会議を開いた。今後は公立、民間を問わず協力するという。中小民間が回復期の患者を引き受けるといった役割分担に積極的に取り組んでほしい。コロナ専門病院を指定するのも一策だ。迅速に実効性のある対策を打ち出すことが肝要だ。民間病院が患者受け入れに慎重なのは、院内感染防止の負担や風評被害などで収益の悪化が懸念されることも一因だ。政府の感染症法改正案は国などが医療機関に受け入れの協力を「勧告」できる内容だが、まずは財政支援のさらなる拡充などで受け入れを促すべきだろう。軽症者や無症状者は自宅や宿泊施設で療養する。限られた医療資源を有効活用するにはやむを得ない面もあるが、容体が悪化し死亡する事例が昨年末から増えている。福岡県でも自宅療養中だった男性の容体が急変して死亡した。自宅療養者へのケアは大きな課題だと言える。冬場の患者増は、昨年から多くの専門家が指摘してきた。にもかかわらず、医療崩壊の危機を招いた国の責任は重い。政府は現状の問題点を洗い出し、あらゆる策を尽くして患者の受け皿を増やすべきだ。 *1-4-1:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210201/pol/00m/010/003000c?cx_fm=mailpol&cx_ml=article&cx_mdate=20200207 (毎日新聞 2021年2月2日) コロナ社会を考える医療従事者の重い負担 医療崩壊防ぐ支援を、冨岡勉・衆院議員 医師の経験、知識を生かし、自民党の新型コロナウイルス対策医療系議員団本部の本部長を務めている。国会議員であると同時に、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、理学療法士など国家資格を持つ専門家が参加している。2020年3月初旬にスタートし、これまで35回の研究会を行った。各種学会長、製薬・医療機器メーカーなどからヒアリングを行ってきた。政府や専門家会議と党の間をつなぐことが我々の役割だ。 ●「もう限界」 コロナによる医療体制の逼迫(ひっぱく)は、実感としては東京をはじめとする3大都市圏はパンク状態、日本医師会の先生たちの言葉を借りれば「もう限界」だと言える。病床数のような数字からは見えない部分がある。一般の人の目には入りにくい部分に相当、エネルギーの負荷がかかっている。 たとえば防護服の着用一つとっても、勤務時間の前後、あるいは休憩をとるごとに医療用帽子、マスク、手術衣、すべて着替えなければならない。汗もかくし、時間もかかるし、その上なんとしても自分が感染してはならないと思い、非常に神経を使う。通常ならば3日も耐えられないようなことが、毎日続く。 人手の部分でも、勤務日程が組めない事態が危惧されている。救急患者は昼夜問わずやってくるので、過重労働に陥ってしまう。人工心肺装置の「ECMO(エクモ)」がよく知られるようになったが、これをつけるとそれだけで必要な人手は倍にはねあがる。重症者数の増加は現場の人手不足に直結する。医療従事者が持たなくなれば医療は破綻する。手厚い支援体制が必要だ。また感染拡大の状況は地域によってかなりバラツキが出ている。私の地元の長崎では指揮系統を一本化している。通常の医療体制では重症者が周囲の病院から集まる中核病院に負担がかかってしまう。作戦会議場の地図上のランプではないが、全体を見渡して空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムが必要だ。自衛隊からの医師や看護師の派遣は行われているが、全国各地の自衛隊病院を専門病棟として活用する工夫も必要だ。ロックダウンなどの厳しい措置をとれば感染拡大防止には有効だが、経済に深刻な影響が出ることが危惧される。経済状況の悪化に伴う自殺者の増加も起きる可能性がある。放任すれば経済は回復するかもしれないが、感染は拡大する。政治は常にこの相反する政策のバランスをいかにとるかを迫られている。重症化を防ぎ、医療崩壊を防ぐことで経済活動を止めないようにするしかない。今回の緊急事態宣言の発令は遅きに失した感は否めないが、1都3県に限定せず、大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、栃木、福岡の7府県を追加し、計11都府県に対象を広げた。現時点では第1回目の緊急事態宣言を解除した際のような急激な感染レベルの低下は見られず、さらなる延長をする必要がある。 ●短時間検査の導入を 検査体制の充実も必要だ。PCR検査は時間がかかることが問題だ。より簡易で短時間で終わる「LAMP法」などをドライブスルー方式や専門外来病棟などで導入し、検査数を増やし、無症状の若年感染者の発見に全力をあげて取り組むべきだ。検査時間が短ければ再検査も容易だ。東京オリンピック・パラリンピックでも活用できる。体操の内村航平選手の場合は、2日後に3カ所で別々に行ったPCR検査で陰性となり、大会に参加できるようになった。仮に選手が偽陽性だった場合でも、再検査や再々検査に時間がかかると試合に参加できない場合も出てくる。短時間で結果が出る検査法を用いて早く再検査できれば、影響を最小限にできる可能性がある。 ●空気の除菌と「ゾーニング」に関する法改正 手洗いをしたり、机の上を消毒したりはしているが「空気」の除菌については何もしていないのが現状だ。無症状感染者が大声を出したり、せきやくしゃみをしたりして、エアロゾル化した飛沫(ひまつ)粒子が部屋のなかに蔓延(まんえん)する。「オゾン」「紫外線」「高機能(HEPA)フィルター」。主にこの三つを使って、汚染された空気の対策もしなければならない。これまで現代都市のウイルス等感染症に対する対策は非常に脆弱(ぜいじゃく)で、無関心、手を抜いてきたと言わざるを得ない。例えば高層マンションビルの地下飲食店街でクラスターが発生した場合、以後その地下街に客は行くことを敬遠する。場合によっては地下街全体の除菌を考える必要が出てくる。 *1-4-2:http://loopamp.eiken.co.jp/lamp/index.html (栄研科学株式会社) LAMP法とは LAMPとはLoop-Mediated Isothermal Amplificationの略であり、栄研化学が独自に開発した、迅速、簡易、精確な遺伝子増幅法です。 標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマーを設定し、鎖置換反応を利用して一定温度で反応させることを特徴とします。サンプルとなる遺伝子、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を混合し、一定温度(65℃付近)で保温することによって反応が進み、検出までの工程を1ステップで行うことができます。増幅効率が高いことからDNAを15分~1時間で109~1010倍に増幅することができ、また、極めて高い特異性から増幅産物の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができます。 特徴 ◆2本鎖から1本鎖への変性を必ずしも必要としない。 ◆増幅反応はすべて等温で連続的に進行する。 ◆増幅効率が高い。 ◆6つの領域を含む4種類のプライマーを設定することにより標的遺伝子配列を特異的に増幅できる。 ◆特別な試薬、機器を使用せず、Total コストを低減できる。 ◆増幅産物は同一鎖上で互いに相補的な配列を持つ繰り返し構造である。 鋳型がRNAの場合でも、逆転写酵素を添加するだけでDNAの場合と同様にワンステップで増幅可能。 *1-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/627740 (佐賀新聞 2019.1.29) 医療費19億円節約と試算、広島、大規模PCR検査で 広島県の湯崎英彦知事は29日、広島市中心部4区の全住民と就業者合わせて最大80万人を対象とする新型コロナウイルスの無料PCR検査について、実施すれば死者や重症者の発生が減り、結果として11億~19億円の医療費を節約できるとの試算を発表した。検査は原則として無症状者や軽症者が対象で、任意。県は実際に検査を受けるのは約28万人と想定している。これまでの市内の陽性率などを参考に、最大3900人の感染者が新たに判明すると推定。30~50人の死者と50~80人の重症者、110~190人の中等症者の発生を予防できると見積もった。複数の検体を同時検査する「プール方式」を利用し、2月中旬から数週間で終わらせたい考え。予算は10億3800万円と見込み、国の地方創生臨時交付金を充てる。広島市内の新規感染者数は減少傾向にあり、専門家や県議会から大規模検査を疑問視する声も上がる。湯崎氏は記者会見で「市中感染は継続している」と反論。「早めに感染拡大の芽を摘み取ることで、経済的な損失を最小限に抑えることができる」と強調した。 *1-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/631023 (佐賀新聞 2021.2.8) 島津製作所、物質表面コロナ検出、試薬キット、100分で作業完了 島津製作所は8日、物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットを発売した。PCR検査法でパソコンやドアノブ、水道の蛇口などを調べ、衛生管理に役立てる。検出作業は100分で完了する。こうした試薬キットの発売は世界初としている。物質の表面を拭った綿棒を生理食塩水などに浸し、専用濃縮液を加えて検査装置でウイルスの有無を調べる。ノロウイルス向けの検査キットの技術を応用した。公共交通機関や商業施設、介護施設から検査を受託する事業者や、医療機関への提供を想定している。1キットで100回の検査ができ、価格は30万2500円。年間千キットの販売を目指す。島津製は唾液から新型コロナウイルスを検出する試薬キットを既に販売している。担当者は「今回の試薬キットと合わせて総合的に感染対策を提供したい」と述べた。米国立衛生研究所の実験によると、新型コロナウイルスが感染力を維持する最長時間は付着した物質によって異なる。プラスチックは72時間、ステンレスは48時間、段ボールは24時間という。 <社会保障は無駄遣いか> *2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65123410W0A011C2EA4000/ (日経新聞 2020/10/16) 社会保障給付費,過去最高の121兆円 2018年度 国立社会保障・人口問題研究所は16日、2018年度の社会保障給付費が121兆5408億円だったと発表した。前年度から1.1%増えて過去最高を更新した。国内総生産(GDP)に対する比率も22.16%で最も高くなった。金額は社会保険料や税金を主な財源とした医療や年金、介護などの給付の合計。患者や利用者の自己負担は含まない。高齢化や医療の高度化に加え、子育て支援策の充実もあって増加が続く。18年度は医療が0.8%増の39兆7445億円だった。診療報酬のマイナス改定で伸びが抑えられた。年金は0.8%増の55兆2581億円。介護を含む「福祉その他」は2.3%増の26兆5382億円だった。GDPに対する社会保障給付費の比率は09年度に20%を超えた。18年度は前年度より0.21ポイント高まり22.16%になった。 *2-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63348940S0A900C2EE8000/ (日経新聞 2020/9/3) 社会保障給付の抑制進まず 賃上げ推進も将来不安 先進国最速で進む少子高齢化にどう対処するか。第2次安倍政権は働き方改革によって働く女性や高齢者を増やし、社会保障の支え手を増やすことに注力した。ただ高齢者への給付削減という「痛み」を伴う改革への踏み込みは甘く、大きな課題を残している。若年人口の減少で日本は2010年代に入ると構造的な人手不足が強まった。こうした背景から安倍政権は就業者を増やす働き方改革を推進。残業規制の強化、仕事と育児の両立支援、女性の活躍推進などに取り組んだ。女性の就業率は19年に52.2%となり、在任中に右肩上がりで上昇した。65歳以上の就業者も増え、60歳代後半は約半数、70歳代前半でも約3分の1の人が働くようになった。12年12月の安倍政権誕生時に4.3%だった失業率は2%台まで低下。政権が産業界に賃上げを強く促す「官製賃上げ」の効果もあり、大手企業は14年から7年連続で2%台の賃上げとなった。20年5月に成立した年金改革法で、501人以上の企業で働く人に限定されていたパート労働者の厚生年金適用を50人超の企業に拡大していくことを決めた。また60~64歳で働く人に支給する在職老齢年金について、支給が停止される賃金と年金の合計額の基準を現在の月28万円から22年4月に47万円に上げる。働くことで年金が減る仕組みを見直し、より長く働きやすくする。働き手を増やして社会保障の基盤を強くする改革で一定の進展があった一方で、負担増という「痛み」を国民に求める動きは鈍かった。18年度に121.3兆円だった年金、医療、介護などの社会保障給付費は、団塊の世代が全員75歳以上になる25年度には140兆円を超える。40年度には190兆円近くまで膨らむ見通しだ。医療や年金などは現役世代が払った保険料を引退世代の給付に充てる仕送り方式が基本。高齢者への給付や負担を見直さなければ現役世代の負担はどんどん重くなる。会社員の健康保険料率(健康保険組合平均)は政権発足前の11年度に年収の8.0%(これを労使折半)だったが18年度には9.2%まで上がった。いくら賃上げが続いても保険料のアップで相殺されれば現役世代の将来不安は払拭されない。19年12月にとりまとめた全世代型社会保障検討会議の中間報告には、一定以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる案を盛り込んだが、所得の線引きなど制度の具体的な設計は終わっていない。年金や介護で年収や資産の多い高齢者に一定の負担を求める案も議論を避けた。大正大の小峰隆夫教授は安倍政権下の社会保障政策について「高齢者の給付と負担の見直しが手つかずだったことが問題だ」と指摘する。現役世代の将来不安は少子化につながる。19年の出生数は最少の86万人台に落ち込んだ。結婚・出産をしない選択をする若年層が増えている。高齢者から若年層へと給付の配分を見直さなければ少子化のスパイラルは止まりそうにない。新型コロナウイルスの影響で足元の雇用情勢は悪化し始めており、今後は就業者の裾野を広げてきた改革の効果にも影を落としかねない。巨額の政府支出で財政も悪化しており、税金で社会保障の給付を支える力も弱くなることが懸念される。与野党の議論は有権者の受けの良い給付の充実に集中しやすい。日本総合研究所の西沢和彦主席研究員はポスト安倍に対し「国民に対し、社会保障全体のビジョンを自ら語り、粘り強く受益と負担の関係を説明する必要がある」と要望する。 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASNDG5TP9NDGUTFL008.html (朝日新聞 2020年12月14日) 75歳以上の医療負担増や児童手当で結論 政府検討会議 政府の全世代型社会保障検討会議(議長・菅義偉首相)は14日、最終報告となる「全世代型社会保障改革の方針」をまとめた。75歳以上の医療費の自己負担割合について、単身世帯は年間の年金収入200万円以上(夫婦2人世帯は計320万円以上)を対象に、2022年度後半から2割に引き上げることなどを明記した。報告は基本的考え方として「現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直す」とした。菅首相は「少子高齢化が急速に進む中にあって、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度を構築し、次の世代に引き継ぐことが我々の世代の責任だ」とあいさつした。15日にも方針を閣議決定し、必要な法案を来年の通常国会に提出する。医療費窓口負担の2割引き上げの対象は約370万人。窓口負担を増やすことで、75歳以上の医療費の4割(自己負担を除く)を負担する現役世代の負担軽減につなげる。実施後3年間は、1カ月あたりの負担増が3千円を超えない経過措置を講じる。75歳以上の自己負担額は平均すると今より3・4万円多い年間11・5万円となるが、経過措置の期間は年間10・6万円に抑えられるという。待機児童対策として21年度から4年間で約14万人の保育の受け皿を整備し、財源として児童手当の高所得者向けの特例給付を縮小する。子ども2人の専業主婦家庭の場合、いまは夫の年収が960万円以上なら月5千円の特例給付が支給されているが、22年10月分以降は年収1200万円以上だと、特例給付が支給されなくなる。一方、所得基準の算定基準を現在の「世帯で所得が最も高い人」から「世帯合算」に変更する見直しについては、世代間の公平性の観点などから「引き続き検討する」とした。22年度から不妊治療を保険適用とすることも明記し、20年度中にいまの助成制度の拡充を始める、とした。所得制限の撤廃や毎回30万円といった助成の増額を行う。男性の育児休業取得を促進するため、企業に休業制度の周知を義務化することなどを検討する。 ●全世代型社会保障の方針(要旨) ・不妊治療を2022年度から保険適用。実現までの間、20年度内に今の助成制度を拡充 ・待機児童解消へ21~24年度の4年間で保育の受け皿を約14万人分整備 ・児童手当を22年10月から縮小し、待機児童解消策の財源に。子ども2人世帯なら年収1200万円以上の場合、特例給付の対象外に ・男性の育児休業取得へ、出生直後の休業を促す新たな枠組み導入 ・22年度後半から75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に。単身世帯の場合、年金収入200万円以上が対象 ・紹介状なしで大病院を受診する場合、定額負担(5千円)を2千円以上引き上げ *2-2-2:https://www.chugoku-np.co.jp/living/article/article.php?comment_id=628548&comment_sub_id=0&category_id=1124 (中国新聞 2020/3/31) 介護保険20年、増える高齢者 制度を維持するには ▽当事者・事業者・研究者、識者3人に聞く 2000年に始まり20歳を迎えた介護保険制度は、支える高齢者の数が膨らみ続け、このままでは立ちゆかなくなりそうだ。制度を維持していくためには、どんな視点が必要なのだろう。家族、事業者、研究者として介護に向き合ってきた3人に聞いた。 ▽家族支える視点を大切に NPO法人家族介護者 サポートネットワーク・はぴねす 北川朝子代表(60)=広島市安佐北区 介護する家族としては、介護保険制度があって大変ありがたかったと感じています。要介護5の母と2人暮らしでした。最期まで自宅で一緒に過ごせたのは、通所介護や訪問介護のサービスを使えたからです。ただ制度は十分ではありません。要支援1や2では、使えるサービスが限られてしまう。要介護3以上でないと、特別養護老人ホームにも入れなくなった。この20年間、私たちが負担する保険料や利用料は増える一方で、使えるサービスは絞られる方向に進んでいるように感じます。「認定が軽ければ介護は楽」という見方は間違っています。介護は育児と違って、入学や卒業のような区切りがない。介護する側、される側は大人同士で、互いに疲弊する。社会保障費が膨らむ中、在宅介護にシフトする政策が進むのは仕方がないし、施設に入るよりも最期までわが家で過ごしたい人は多いでしょう。それならもっと、介護する家族を支える視点を大事にするべきです。その対策も社会の意識も不足しています。例えば介護離職の問題。私自身、介護のために正社員の職を手放さざるを得なかったし、復職もできなかった。介護しながら仕事を続けられる環境づくりが必要です。介護者が多様化した実態にも目を向けてほしい。介護保険ができて「お嫁さん」に負担が集中することは少なくなりました。でも、家族介護が前提なのは変わっていません。男性の介護者が増え、老老介護は当たり前。声を上げにくい人も多く、支援につながらずに高齢者の虐待や殺人に至った事例も少なくありません。一人親世帯の増加などで、10代の「ヤングケアラー」も増えています。厚生労働省が2018年にようやく家族介護者支援マニュアルを作り、条例で人材育成など支援の仕組みをつくる自治体も出てきました。この動きが広がってほしい。私たちは介護者がやり場のない思いを吐き出せるよう、安佐北区に常設のケアラーズカフェを開いています。こういった居場所が学区ごとにあるのが理想です。 ▽現場の魅力高め人材確保 全国老人福祉施設協議会 平石朗会長(65)=尾道市 介護の現場が抱える一番の問題は人材不足です。全国では、介護施設のベッドは空いているのに、職員を確保できずに入居を断ったり、人手の減った施設に職員を回すためにヘルパーステーションを閉めたりすることが起きています。職員を確保できない最も大きな理由は、働く世代の人口の減少です。介護保険がスタートしたときは、急激な人口減少社会が来るという想定が欠けていました。低賃金で重労働という仕事のイメージも拭い去れていません。でも実際は、大変さもありますが、人生終盤の生活を支える素晴らしい仕事です。経験を積めば給料も上がるようになってきました。ただ、これから人手がもっと足りなくなることを考えると、さらに賃金を上げる必要があります。介護現場の魅力を高める革新も求められています。私が理事長を務める尾道市の法人では、トヨタの元社員の指導で業務改善を進めました。介護に生産性はそぐわないと思うかもしれませんが、合理化が進むと、時間や気持ちの余裕が生まれます。職員の離職を防ぐことにつながり、利用者の満足度も高まります。介護職員がくたびれるのは夜間です。情報技術を活用した利用者の見守りがあれば安心して働けます。専門性を生かした仕事に専念するため、地域の高齢者らに食器洗いやシーツ交換などの仕事で活躍してもらうのも一つの方策です。外国人材の活用も進めるべきですが、日本人と同じように能力に応じて給料を支払うのが正しい姿でしょう。これからも高齢者は増え、介護にかかる費用はさらに膨らんでいくでしょう。放っておけば介護保険制度は破綻し、低所得や身寄りのない人の安全網でなくなってしまう。それは避けるべきです。介護ニーズの的確な把握が欠かせません。安易に「箱物」を増やすと、間違いなく将来の重荷になります。持続可能にするためには、現在の利用料の1割負担を見直し、経済力のある人には負担していただくという考えが必要ではないかと思います。 ▽サービスと負担、議論必要 県立広島大 地域医療経営プロジェクト研究センター 西田在賢センター長(66) 介護保険にかかる費用は制度開始から20年で3倍に膨らみました。これで終わりではありません。高齢者の数がピークになる2040年度にはさらに、今の2倍以上になる見通しです。平均寿命が延びて高齢者の数が増え続けているためです。ただ高齢者を支えていくためには、介護の支出が増えるのは避けられません。一方で、国の借金は昨年末の時点で1110兆円に達し、介護保険制度が始まった00年の2倍になりました。介護や医療にかかる社会保障費が国の借金を押し上げています。このまま「将来へのツケ」が際限なく増え続けていいわけがありません。サービスと負担について議論を進める必要があります。では、どうすればいいでしょうか。医療と介護を一体として考える必要があります。医療費の無駄を削減し、介護にお金を回すという発想が欠かせません。日本の病床数は今も英国の5倍、米国の3倍もあります。医療をほとんど必要としない人が、コストが掛かる病院に入院しているケースがまだ多いのです。その費用を削減し、自宅や介護施設で訪問医療を利用しながら過ごす方に、もっとお金を振り向けることが必要でしょう。医療と介護はもともと連続したものです。関連した保障として社会が理解するべきです。国も「医療と介護を切れ目なく」という政策を打ち出しています。地域ごとに異なる医療と介護の資源をどうやりくりし、高齢者を含む地域住民の生活をどう支えていくかを考えなければいけません。また、介護保険制度を維持していくためには、市民の発想の転換も重要です。サービスは費用がかかるので、あればあるほどいいというわけではありません。住み慣れた地域の中で暮らし続けるためにどんな医療や介護の保障が必要かを考えてほしい。そのために、誰がどれだけ負担をすればいいのかも意識してほしい。現在は40歳以上が介護保険料を払っていますが、医療を支える健康保険と合わせて20歳以上に広げるべきでしょう。 ■財政厳しく見直し重ね 予防重視への転換/右肩上がりの保険料 家族頼みから、社会全体で支える介護へ―。そんな理念で介護保険が誕生してから20年が経った。高齢者が増えて介護保険財政が厳しくなるにつれ、サービスの縮小や、保険料の引き上げを繰り返し、紆余曲折の道のりを進んできた。最初に制度を見直した2005年度には、健康寿命を延ばし、介護サービスに頼らなくていい期間を長くしようと「介護予防の重視」に舵を切った。食費・居住費は保険給付の対象外となった。07年度には、訪問介護大手のコムスンによる介護報酬の不正請求事件が発覚し、事業者の在り方が問われた。15年度は特別養護老人ホームの入居は原則、要介護3以上に狭まった。さらに、要支援1、2の人向けの訪問介護とデイサービスを市町村の事業とし、地域住民の協力を求めるようになった。介護の総費用が増える中で、保険料は右肩上がりを続けている。65歳以上の保険料の全国平均は月2911円から5869円と倍増。40年度には9200円に達するという推計もある。15年度には、利用者の自己負担の公平化も打ち出された。一律1割だった利用料は一定以上の所得のある人は2割に。18年度からは、特に所得の高い層は3割に上がった。 *2-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF221L30S1A120C2000000/ (日経新聞 2021/1/22) 21年度の年金0.1%減額 4年ぶりマイナス、賃金下落反映 厚生労働省は22日、2021年度の公的年金の受給額を20年度比で0.1%引き下げると発表した。現役世代の賃金水準を受給額に反映させるルールを適用したもので、減額は4年ぶり。厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯では228円減の月額22万496円になる。4月分から適用する。自営業者らが入る国民年金は40年間保険料を納めた満額支給の場合で66円減の月額6万5075円になる。年金の受給額は物価や賃金の変動を反映させる形で毎年度見直している。物価は前年の消費者物価指数の「総合指数」が参考指標で、20年は前年と同水準だった。2~4年前の変動率を元に計算する賃金水準は0.1%のマイナスだった。21年度からは賃金変動率が物価変動率を下回って下落した場合、賃金変動率に合わせて年金額を改定する新ルールが導入される。このため、賃金に合わせて年金額が0.1%の減額となる。また人口動態を反映し、年金額の伸びを物価や賃金の伸びよりも低く抑えるマクロ経済スライドは、年金の改定率がマイナスになったため発動しない。20年度までは2年連続で発動していた。 *2-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63400350T00C20A9PPE000/ (日経新聞 2020/9/6) 年金「実質目減り」続く マクロスライドで給付抑制、人生100年お金の知恵(22) 「単純に『年金が増えた』と思っている人は少なくない」。年金セミナーで講師を務める機会が多い社会保険労務士の森本幸人氏はこう話す。セミナーで毎年度実施される年金改定を取り上げると、実額は増えても「実質目減り」になっていることを知らない人が目立つという。 ■物価や賃金より伸びを抑制 年金の実額は確かに増えている。2020年度の受給額は前年度比プラス0.2%の改定だった。厚生労働省がモデルとして示した夫婦世帯の厚生年金(夫婦2人の基礎年金を含む)は月22万724円と458円、国民年金は満額で月6万5141円と133円増えた。実額が増えても実質目減りなのは、物価や賃金の伸びより年金の支給額を抑える「マクロ経済スライド」が適用されたからだ。年金額は物価や賃金の変動率に応じて決まる。20年度の改定率は本来であればプラス0.3%だが、マクロスライドの発動で0.2%になった。森本氏の概算によると金額ベースで厚生年金は約688円、国民年金は200円増えるはずだった。日本の公的年金は現役世代の保険料を高齢者の給付に充てる「仕送り方式」だ。少子高齢化が進むと現役世代の加入者が減る一方で、年金を受け取る人は増える。物価や賃金の上昇率に合わせて年金額を引き上げていくと年金財政が行き詰まりかねないため、マクロスライドが04年の制度改革で導入された。マクロスライドは賃金や物価に基づく本来の改定率から、現役の加入者数と平均余命をもとに算出したスライド調整率を差し引く。景気拡大期などは調整率をフルに差し引くが、原則として年金の名目額を前年度より減らさないという条件がある。 ■「マイナス改定でも発動」議論も このため物価や賃金が下落するデフレ下では実施しない。景気後退期など物価や賃金の上昇率が小さいときは年金額が前年度と同じになるように調整率を一部差し引く。未調整分は翌年度以降に繰り越し、景気回復期などに調整率に上乗せして差し引く。「キャリーオーバー制度」といい18年度に導入された。年金の専門家の間では「マイナス改定となってもマクロ経済スライドを無条件で実施できるよう制度を見直すべきだ」(大和総研の是枝俊悟主任研究員)との声は多い。デフレや低インフレが続けば年金財政が行き詰まる懸念が高まるためだ。年金受給者からの反発が予想されるためマイナス改定が導入されるかどうかは不透明だが、老後の生活設計ではマイナス改定の議論があることも頭に入れておいた方がよさそうだ。 ■ここがポイント 高齢者就労、調整率抑制も 20年度のスライド調整率は0.1%と低い水準だった。「60歳を超えても年金に加入して働く人が当初の想定を上回ったことが一因」(社労士の井戸美枝氏)という。加入者の増加は保険料収入の増加を意味する。1961年4月2日生まれ以降の男性は65歳になるまで公的年金を受け取れない。企業の雇用延長や再雇用など制度も整いつつあり、60歳以降の加入者増加は続く公算が大きい。「加入者の増え方によっては調整率が当面抑えられる可能性がある」と森本氏は指摘している。 <その他の中途半端にして意味がなくなり、無駄遣いになった事例> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210210&ng=DGKKZO68992370Q1A210C2MM8000 (日経新聞 2021.2.10) 東日本大震災10年 検証・復興事業(3) かさ上げ造成、3割空き地 まち再建、定石のその先に 「176平方メートル、795万円」「217平方メートル、990万円」――。岩手県大槌町の「空き地バンク」のサイトに載った町役場周辺の区画図に、売却・賃貸物件の赤い印が30個近く並んでいる。町は土地取得や住宅建設に200万円以上の補助金を出すが「住宅再建のニーズは一段落し、空き地はなかなか埋まらない」と担当者はこぼす。2011年の東日本大震災で町の中心部は高さ10メートルを超す津波にのまれ、壊滅状態となった。前年に過疎地域に指定されていた町は、役場周辺の地区を震災前の半分以下に集約し、161億円かけて2.2メートルかさ上げした。 ●原点は関東大震災 その間にも人口減は加速し、20年春の段階で造成地の3分の1は使う当てがないままとなっている。15年まで町長を務めた碇川豊氏は「町内に就労先となる産業が少なかったことも影響した」と話す。岩手、宮城、福島3県の津波被災地では、浸水した地域をかさ上げし、土地や道路の形を整える「土地区画整理事業」が広く行われた。対象は沿岸部の21市町村、計1890ヘクタールで東京都新宿区の面積に匹敵する。総事業費は20年6月時点で4627億円に上り、ほぼ全額が復興交付金などの国費でまかなわれた。区画整理による「復興」の原点は1923年の関東大震災に遡る。震災で旧東京市の4割強の面積が焼失した後、帝都復興院総裁に就いた後藤新平を中心に、復興事業として初めて大規模な区画整理が行われた。靖国通りや昭和通りなどの幹線道路と共に街並みが整備され、東京は10年足らずで近代都市に生まれ変わった。そのノウハウは戦後、空襲で焼けた各地の市街地整備にも生かされ、区画整理は復興事業の定石となってきた。国土交通省の2020年5月時点の調査によると、3県で区画整理が行われた65地区の宅地の32%は未活用の状態だった。未活用が5割を上回る地区も6つあり、岩手県陸前高田市の今泉地区では7割近かった。 ●止まらぬ人口減 岩手県沿岸部の12市町村の人口は、震災前年から20年までで17%減少。震災後に内陸部に移った地権者の多くは、仕事や子どもの通学を理由に戻っていない。固定資産税の負担などを懸念して土地を売りに出すケースも相次ぐ。「右肩上がりの時代に確立された復興のあり方が、現状にそぐわなくなっている」と、日本大の大沢昌玄教授(都市計画)は指摘。「将来像を複数の自治体で共有し、広域的な視点で復興事業の対象を精査すべきだ」と話す。今回も区画整理によって街の魅力が高まった例はある。宮城県名取市の閖上地区では区画整理とともに小中一貫校や保育所が重点的に整備され、宅地の分譲希望者が殺到して若い世代も増えた。震災の痛手を乗り越え、かさ上げによって安全性を高めた土地をどう生かすか。国全体が人口減に直面するなか、定石にとらわれない新しい街づくりの模索はこれからも続く。 *3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14796615.html (朝日新聞 2021年2月11日) (東日本大震災10年 3・11の現在地)40年で廃炉、無理と言えず 前提のデブリ除去、年内の着手断念 あと1カ月で事故発生から10年を迎える東京電力福島第一原発。敷地内の放射線量はかなり下がったが、廃炉作業は大幅に遅れ、30~40年で完了する目標はかすんできた。廃炉の最終的な姿を語らずに時期だけを掲げるこれまでのやり方は、限界に近づいている。「目標通りできないのはじくじたるものがある」。国と東京電力は昨年12月24日、福島第一原発で2021年中に予定していた溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出し着手を1年程度延期すると発表した。東電の廃炉部門トップの小野明氏は、記者会見で無念さをにじませた。直接の理由は新型コロナウイルスだった。英国で開発中の専用ロボットアームの動作試験が、工場への出勤制限などの影響で滞った。英国では変異ウイルスも猛威を振るい、日本へ運ぶめどもたたなくなった。未曽有の原発事故を受けて、国と東電が11年12月に廃炉工程表を掲げてから、工程は遅れに遅れを重ねてきたが、今回の延期には特別な意味がある。「30~40年後に廃炉完了」と並んでずっと堅持してきた「10年以内のデブリ取り出し着手」という重要目標を断念したことになるからだ。デブリは、溶けた核燃料が周りの金属などと混ざりあって固まった物質。強い放射線を放ち、ロボットすら容易に近づけない。硬さも成分も、どこにどれだけあるかも詳しくは分からない。1~3号機に残る総量は推定で約800~900トン。その取り出しは、前人未到の最難関の事業だ。当初の工程表では、取り出し前に遠隔でデブリを切断・掘削して性状を調べることも想定していた。だが、カメラ調査すら予定通り進まず、進むほどに困難さがみえてきた。国と東電は改訂にあわせ、着手時の取り出し規模を「小規模」から「試験的」へと後退させたが、「10年以内」だけは変えなかった。「30~40年」の全体シナリオを守るための一線だったからだ。今回延期された「2号機での試験的取り出し」で取るデブリの量は数グラム程度。実際の作業は、長さ約22メートル、重さ約4・6トンの特殊鋼製ロボットアームの先端に付けた金属ブラシでデブリの表面を拭ったり、小さな真空容器でチリを吸い取ったりするだけだ。懸命につなぎとめてきた目標が、コロナ禍でついに取り繕いきれなくなったのが実情だ。それでも、廃炉を技術面で率いる原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元・理事長は「1年の遅れは、全体の遅れに比べたらたいしたことない」と話す。廃炉完了の時期を見直す気もない。「今の時点で『40年は無理』なんてとても言えない。もうちょっと調べさせて欲しい。40年を目指して全力でやる。これ自体は、難しい仕事を進める一つの原動力なんです」 *3-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ05C4L0V00C21A2000000/ (日経新聞 2021年2月8日) 発電用アンモニア自社生産 東電・中電系JERA、脱炭素へ 東京電力ホールディングスと中部電力が出資するJERAは、二酸化炭素(CO2)を出さない発電燃料であるアンモニアの生産に乗り出す。マレーシアの国営企業と提携し、水力など再生可能エネルギーを使って製造する。2040年代にはアンモニアだけを燃料とする発電設備を稼働させる考え。CO2排出量削減が課題の電力業界で、燃料から脱炭素化する流れが広がりそうだ。JERAは国内最大の発電事業者でガスや石炭を燃料とする火力発電所を持ち、国内のCO2総排出量の1割強を占める。2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、発電燃料としてアンモニアに加え、水素を段階的に活用する方針だ。発電事業者が自ら脱炭素燃料の製造に乗り出すのは珍しい。このほどマレーシアの国営石油大手ペトロナスと協業に向けた覚書を締結した。生産場所や規模は今後詰める。アンモニアは天然ガスから水素を取り出して製造するが、その過程で大量のCO2が発生する。JERAはCO2排出をなくすため、再エネ由来の電力によるアンモニア製造に取り組む。将来的に水素燃料の製造も目指す。21年度には石炭とアンモニアを混ぜて燃料とする実証実験を愛知県の火力発電所で始める。知見を蓄えながら40年代にはアンモニアだけで燃焼する発電設備を実用化する計画。水素についても、ガス火力の燃料として活用することを目指す。アンモニアは需要の8割ほどが肥料向けに利用されている。CO2を出さない燃料として期待が高まっているが、発電向けの新規需要が増えると供給不足に陥る恐れもある。JERAは発電事業者として自ら燃料開発・製造を手掛けることで、必要量を確保したい考えだ。課題は採算性だ。アンモニアを発電燃料として利用すると、石炭より5割ほどコストが高くなるとみられる。アンモニアを再生エネで製造した場合はさらに割高になる可能性が高い。水素ではアンモニア以上にコストは膨らむとされる。JERAでは開発から調達、発電まで一括で担うことでコストを引き下げることを狙う。政府が50年に目標とする温暖化ガス排出量の実質ゼロに向けては、国内のCO2排出量の4割近くを占める電力分野での脱炭素化が不可欠になっている。アンモニアや水素燃料の活用は、再生エネの導入と並んでCO2排出量の削減効果が大きい。発電事業者が自ら次世代燃料を開発・製造する動きが広がれば、脱炭素化の道筋も見えてきそうだ。 *3-3-2:https://www.keyman.or.jp/kn/articles/1412/17/news169.html (キーマンズネット 2014年12月17日) CO2排出ゼロの新エネルギー「アンモニア発電」とは? 強い刺激臭を持つアンモニアが燃料の「アンモニア発電」はエネルギーに革命を起こすのか。次世代クリーンエネルギー最先端に迫る。 今回のテーマは、CO2を排出しないアンモニアを利用した直接発電技術「アンモニア発電」だ。産業技術総合研究所(産総研)が世界で初めてアンモニアをガスタービンで燃焼させて発電に成功した。化石燃料や原子力への依存から脱却を目指す、低環境負荷の新エネルギー創出への現実的な第一歩だ。 ●「アンモニア発電」とは? 食物に含まれるタンパク質などを微生物が分解する際に発生するアンモニア。アンモニア発電とは、この強い刺激臭を持つアンモニアを燃料とする発電技術のことだ。現在は、アンモニアを直接燃焼させる発電技術と、アンモニアの熱触媒接触分解反応と燃料電池を組み合わせた発電技術とが研究される。今回紹介するのは前者のアンモニアを燃焼させる技術だ。アンモニアは着火しにくく、燃焼速度も遅く、さらに燃焼時に有害なNOx(窒素酸化物)を発生するため、発電に用いる燃料としては不向きとみなされた。しかし2014年9月、産総研 再生可能エネルギー研究センター(福島県)の水素キャリアチーム、辻村拓研究チーム長、壹岐典彦研究チーム付および東北大学との共同研究チームが、定格出力50キロワットのガスタービン発電装置を用い、灯油とアンモニアを燃料にして、約40%の出力にあたる21キロワットの発電に成功した。灯油の約30%相当をアンモニアに置き換えて燃焼させたところ、灯油だけを用いた場合とほぼ同じ出力で発電でき、しかもアンモニアを燃焼させるときに排出される有害なNOx(窒素酸化物)を、やはりアンモニアを使用する触媒(脱硝装置)により10ppm未満にまで抑制することに成功し、環境基準に照らして十分低い環境負荷でのアンモニア発電に見通しが立った。これはアンモニアを利用したガスタービン発電として世界初の成果だ。 *3-4:https://forest-journal.jp/market/23067/ (Foest Journal 2019/11/18) 2024年スタートの“森林環境税”って? 意外と知らない“森林環境譲与税”との違いとは? 国税として2024年から徴収が決まっている森林環境税。あまり話題に上がらないこの税金の正体は何か?林野庁の発表資料を基にわかりやすくまとめてみた。 ●1000円を森林のために負担? 2019年3月に新しく成立、公布された「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」によって、日本の国土を覆う森林の保護、保全、活用に必要な財源を確保するために納税者一人ひとりから徴収されることになる。環境保護や市町村の森林活用、木材利用を促すことが目的だ。林野庁の発表によると徴収開始記事は2024年から、各市町村が窓口となり国税として納税者一人あたり年額1000円が徴収される。林野庁の発表によると、徴収した森林環境税は一旦国へ納められ、国から都道府県と各市町村に「森林環境譲与税」となり交付される。 ●森林環境税の仕組みと使いみち 実は2019年度からすでに、「森林環境譲与税」は各都道府県を経由して市町村に交付されている。人口比率や木材の使用施設、公園などの木材利用率から交付額が決められたようだが、森林を生業にする市町村に交付金割合が低く、人口の多い都市部の市町村に交付金が多く支払われるなど、まだまだ問題も多いのが現実だ。また、交付を受けた市町村はその使用目的を明確に自身のホームページに公開しなければならない。筆者の住んでいる市では森林の間伐費用や、間伐林の管理委託費などにあてられており、財源が確保されているため概ね好評であると市の土木課の担当者は話してくれた。他にも、使いみちが森林の管理、運営やボランティアへの慰労費に当てられている市町村もあるようだ。使用目的を国が定めるのではなく、市町村が独自で決められるという動きは、林業の活性化にも繋がるだろう。 ●森林を身近に感じるチャンス 交付は2019年度より始まっており、納税義務は2024年から始まる。先にも述べたが森林の管理運営だけがこの税金の目的にあらず、地方は新たな財源として地域活性化のために使うことができる。例えば森を使った生涯学習は森林そのものを学習の場としてワークショップや間伐体験を市民向けに発信する財源にあてることができる。森林管理にきちんとお金を掛けることができればレンジャー隊員を養成できて、もしもの災害に備えることもできる。新たな雇用がそこで生まれ、これまで見向きもされなかった事業に陽の光を当てることも可能だ。木材を活用して公園を新たに作ったり、鉄の遊具から木の遊具への交換の財源にしてもいい。使いみちを市町村に託すことで、アイディア次第でできる選択肢が増える。納税する我々はイベントや森林政策に「税金を払っているから参加する」ではなく、近所の森や林業とは何かを知る機会を得るチャンスだと捉えるのが良いだろう。「また増税か?」とうんざりした目で見るのではなく、その使いみちに注目してほしいと切に願う。 <女性蔑視の政策への悪影響> *4-1-1:https://mainichi.jp/articles/20210211/k00/00m/040/081000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20210213 (毎日新聞 2021年2月13日) 声をつないで 女性理事わずか16.6% 森氏発言があぶり出す社会のいびつさ 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)=12日に辞任表明=による女性差別発言を受けて、毎日新聞は、国内のオリ・パラ関連団体と、五輪で開催される33競技の各中央競技団体における女性理事比率を調べた。各競技団体の全理事に占める女性の割合は、平均16.6%にとどまり、女性理事ゼロの団体もあった。「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などの森氏の発言の背景に、女性が意思決定の場に参加することが難しいスポーツ界と社会全体の課題が浮かび上がる。3月8日は「国際女性デー」。この記事を皮切りに、国内外の女性が置かれた状況について幅広く考えたい。(文末に各団体の女性理事割合の一覧を掲載)【塩田彩、藤沢美由紀/統合デジタル取材センター】 ●3割超えはテコンドーのみ、女性理事ゼロは…… 調査は2月6~9日、国内オリ・パラ関連の中央団体3団体と五輪開催競技の中央競技団体35団体に電話とメールで実施した。日本オリンピック委員会(JOC)の女性理事は25人中5人で20%。森氏が会長を務めるオリ・パラ組織委員会でも20%だった。一方、森氏の差別発言があったJOCの評議員会)は、女性は63人中2人で、3.2%にとどまった。中央競技団体の中で女性理事が3割を超えたのは全日本テコンドー協会のみで36.4%。次いで日本体操協会28.6%、日本バレーボール協会27.8%――だった。女性理事がゼロの団体は日本サーフィン連盟で、13人の理事全員が男性だった。女性の競技者割合が比較的高い陸上や水泳の低さも目立ち、日本陸上競技連盟は7.1%、日本水泳連盟は13.8%。リオデジャネイロ五輪で女子選手4人が金メダルを獲得したレスリングは女性理事が1人でわずか4%だった。ソフトボールは五輪競技としては女子種目しかないが、女性理事は24人中5人で20.8%にとどまった。会長職を女性が務めるのは日本バスケットボール連盟のみだった。森氏に「今までの倍時間がかかる」と名指しされた日本ラグビーフットボール協会は、女性競技者が比較的少ないものの、2019年に女性理事が5人に増え20.8%だった。ジェンダーの視点からスポーツ史を研究する中京大の來田(らいた)享子教授は、毎日新聞の調査結果について「少しずつ改善されてきてはいるが、女性の競技人口を考えると、まだまだ不十分。人材が不足し、特定の女性が複数の団体の役職を兼務する状況もある」と指摘する。 ●五輪選手の5割は女性なのに 男女共同参画白書によると、日本の五輪出場選手に占める女性の割合は、04年のアテネ大会(54.8%)で初めて半数を超え、北京大会(49.9%)、ロンドン大会(53.2%)、リオ大会(48.5%)と5割前後で推移している。にもかかわらず、なぜ女性理事の割合は、多くの中央競技団体で2割にも届かないのか。來田教授は、要因の一つとして、指導者としての経験を積む機会が男性と比べて限られることを挙げる。「女子選手を男性指導者が指導するケースは多くありますが、逆はほとんどありません。『女性には男子選手の指導はできない』という偏見がある。けれど、年配の指導者が多く存在するように、指導者には選手と同等のパフォーマンスは求められていないはずです」。中央競技団体には、指導者を経て理事となる人も多い。キャリアを積み上げる際の機会の不平等が、意思決定層に女性が少ない大きな要因となっているのだ。こうした状況の中、スポーツ庁は19年6月、中央競技団体向けの運営指針「ガバナンスコード」で、各組織の女性理事の割合を40%以上と設定し、女性評議員の目標割合を設定することなども提示した。「女性を増やしていく場合は、『発言の時間をある程度、規制を促しておかないと、なかなか終わらないので困る』と言っておられた」など、女性の発言機会を制限するような森氏の差別発言は、この目標に言及する中で飛び出した。実は、国際オリンピック委員会(IOC)はこれまでも、女性参画に向けたさまざまな提言を各国に示してきた。20年以上前の00年にはすでに、「05年までに意思決定層における女性の比率を20%にする」という目標が掲げられている。18年3月には「ジェンダー平等に関する報告書」を発表し、ジェンダー平等促進への取り組みに財源を割り当てることや、「排除のない組織文化を維持、導入すること」などの必要性を指摘した。來田教授は「組織委は報告書を受け、東京大会に向けて具体的に踏み込んだ施策を実施する必要がある。スポーツ界だけで達成できないなら、社会や政府に協力を仰ぎ、社会全体でこの問題と向き合おうと声をかけなければならなかった」と語る。一方、そのIOCも、メンバーリストを見る限り103人のうち女性は38人で36.9%。「平等」には遠いのが現状だ。 ●「森会長の発言は不適切」と組織委が声明 「多様性と調和」を掲げる東京大会の組織委の長が発した女性差別発言。謝罪記者会見を開いて以降も、国内外から批判はやまず、森氏は2月12日の組織委の臨時会合で、辞任を表明した。組織委は7日、公式サイトで「森会長の発言はオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切なものであり、会長自身も発言を撤回し、深くお詫(わ)びと反省の意を表明致しました」とする声明を発表。その中で「『多様性と調和』は東京大会の核となるビジョンの一つ」「ジェンダーの平等は東京大会の基本的原則の一つであり、東京大会は、オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加する、最もジェンダーバランスの良い大会となります」としていた。來田教授は「森氏の発言を『不適切』とするだけでなく、ジェンダー平等のためにどのような施策を講じてきたのか、今後さらに何が必要なのか、組織委やJOCは明示すべきです」と指摘する。「スポーツ界の意思決定層に女性を増やすことは、同質的な集団によって物事が決定される状況を変化させます。女性も男性も一枚岩ではないし、障害のある人やセクシュアルマイノリティーなど、あらゆる人を排除しないスポーツが目標とされている。男性だけの構成を変えることは、より小さな声に気づく組織の入り口になるはずです」 ●政財界、メディアでも女性登用遅れ さらに來田教授は「スポーツ界は社会を映す鏡。社会との関係性の中で改善していく必要性がある」と指摘する。指導者になれば試合や合宿での遠征がついて回る。女性にだけ家事労働の負担が偏っていたり、強固な性別役割分業意識が社会に根付いていたりする状況のまま、女性がキャリアを積むことは難しい。これは社会全体に共通する課題だ。意思決定層に女性が少ない現状は他分野でも同様だ。国会議員に占める女性割合(20年6月時点)は、衆議院9.9%、参議院22.9%。上場企業の女性役員比率(20年7月時点)は6.2%にとどまる。森氏の発言を追及するメディア業界も取り組みが遅れている。新聞労連の調査によると、全国の新聞社38社の役員319人中、女性はたった10人(19年4月時点)。毎日新聞社の役員も女性0人。新聞労連などのメディア労組は9日、業界団体と加盟各社に対し、女性役員比率を3割以上に上げることを要請したと明らかにした。 ●オリンピック・パラリンピック関連中央団体/役員(理事)・委員に占める女性比率 日本オリンピック委員会 20% 日本オリンピック委員会評議員会 3.2% 東京オリ・パラ組織委員会 20% 東京オリ・パラ組織委員会評議員会 16.7% 日本パラリンピック委員会 18.2% 国際オリンピック委員会 36.9% ●五輪開催競技の中央競技団体で会長以下理事職に占める女性比率 陸上競技 7.1% 水泳競技 13.8% サッカー 16.7% テニス 21.2% ボート 17.9% ホッケー 13% ボクシング 4.5% バレーボール 27.8% 体操競技 28.6% バスケットボール 25% レスリング 4% セーリング 25% ウエートリフティング 13.6% ハンドボール 18.5% 自転車 10% 卓球 17.4% 馬術 20% フェンシング 15% 柔道 13.3% ソフトボール 20.8% バドミントン 10% 射撃(ライフル) 19.2% 射撃(クレー) 10.5% 近代五種 5.3% ラグビー 20.8% スポーツクライミング 8.7% カヌー 20.8% アーチェリー 15.8% 空手 13% 野球 11.1% トライアスロン 27.6% ゴルフ 21.9% テコンドー 36.4% サーフィン 0% スケートボード 26.1% *4-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2F54QYP2FUTQP008.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2021年2月13日) 「森会長の冗談じゃないか」 スポーツ界トップの空気感 「83歳の会長の冗談じゃないか」。東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を報じたとき、複数のスポーツ関係者からいわれた言葉だ。今も、そう考えている人はいると思う。問題に感じたのは、一般企業の感覚と離れた「冗談」が公の場のあいさつで通用してしまうスポーツ界トップの会議の空気感だ。背景には、競技団体の意思決定に女性や若い世代が関わりづらかった構造がある。この発言があった3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会はまさに、「女性理事を40%以上にする」などの方針を確認しあう場だった。なのに、最後にあいさつをした森会長の言葉は、JOCが進める方向とは正反対だった。「これはダメだよな」。一緒に発言を聞いていた同僚記者も、私と同じ受け止めだった。JOCが女性役員を増やす方針を示したのは17年4月。スポーツ庁などと「ブライトン・プラス・ヘルシンキ宣言」に署名した。女性枠を設けた日本セーリング連盟など、一部では意識も変わったように思う。それでも、昨年11月の笹川スポーツ財団の調査では女性役員は15%にとどまる。背景はさまざまだ。 ・出産などのライフプランを支える仕組みが確立されておらず、女性が競技から離れて しまう。女性指導者もまだ少ない。 ・そもそも幹部が男性中心で、関わりづらい。 ・子育てや企業で働く若手は休日にある会議や仕事の負担が大きい――など。 JOCをはじめ、これまでの日本の競技団体が選んできた「スポーツを理解している人材」の定義は狭かった。JOC理事を選ぶ選考委員が「選びたいけど、女性がいない」と嘆くのを聞いたことがある。候補に並ぶのは、元金メダリストなど選手時代の肩書や「結果を出した元監督」という強化の実績。自戒を込めていえば、我々メディアも、この構造をあおってきた。もちろん、スポーツ界の「顔」は必要だ。だけど、強化や肩書を重視するあまり、「バリバリとスポーツをしてきた人、続けられる環境にある人」しか関われない世界になっていなかっただろうか。建設的な意見を言える若手や外部の人材を「経験不足」と遠ざけ、社会と離れた特殊な世界になっていなかったか。組織委は辞任を表明した森会長の後任を選ぶため、候補者検討委員会を設置した。「透明性の高いプロセス」をうたうのであれば、検討委が複数の候補者を挙げたうえで、候補者の「公開討論会」をオンラインなどで開き、見識を世に問えばいいと思う。会長を決める権限は理事会だけにある。討論会での発言や、発言に対する社会からの反応が、理事の判断の一助になればいい。「女性だから」「アスリートだから」という固定観念でくくらず、会長にふさわしい能力をもった人を選ぶべきだ。それができて、今後のスポーツ界に浸透するのであれば、今回の問題も意味がある。 *4-2-1:https://www.asahi.com/articles/ASP296F00P29UTFK01G.html?iref=comtop_ThemeLeftS_01 (朝日新聞 2021年2月9日) 森会長発言、二階氏が火に油 若手「公然と批判できず」 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言をめぐり、批判の声が相次いでいる。政府・与党は沈静化を図るが、二階俊博幹事長が会見で森氏を擁護し、火に油を注いだ格好となった。与党内にも発言への批判はあるものの、強い影響力を持つ2人の責任を正面から問う声は出ていない。萩生田光一文部科学相は9日の閣議後の記者会見で、こう言って森氏をかばった。「『反省していないのではないか』という識者の意見もあるが、森氏の性格というか、今までの振る舞いで、最も反省しているときに逆にああいう態度を取るのではないかという思いもある」。しかし、森氏の発言が引き起こした批判の嵐を沈静化しようという政府・与党の狙いはむしろ裏目に出ている。最大派閥出身の森氏や幹事長として権勢をふるう二階氏の影響力を恐れる声もあります。自民党の二階俊博幹事長は8日の会見で、「森会長には周囲の期待に応えてしっかりやっていただきたい」と語り、辞任は必要ないと強調。さらに森氏の発言を受けたボランティア辞退の動きを「瞬間的」とし、「どうしてもおやめになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加するということにならざるを得ない」と語った。この二階氏の発言は、SNS上などで激しい反発を浴びる。共産党の志位和夫委員長は「どこまで国民をなめたら気がすむのか」とツイッターに投稿した。それでも二階氏は9日の会見で、自らの前日の発言について「特別深い意味はない」。改めて森氏の発言は不適切か問われたが、「内閣総理大臣を務め、党の総裁であられた方のことをあれこれ申し上げることは適当ではない」と答えるにとどめた。森氏や二階氏の発言については、政府・与党内からも苦言が出ている。麻生太郎財務相は9日の衆院予算委員会で、森氏の発言について「国益に沿わないことははっきりしている」と指摘。橋本聖子五輪担当相も同じ委員会で、二階氏の発言について「不適切だった」と述べた。とはいえ、野党などから出ている森氏の辞任要求について、政府・与党内に同調する動きは見えない。世耕弘成参院幹事長は9日の会見で「五輪が直前に迫っている。森会長でなければなかなか(難しい)」と語り、森氏の続投を支持。二階氏についても「適切、不適切という立場にありません」と述べた。最大派閥出身の森氏や幹事長として権勢をふるう二階氏の影響力を恐れる声もある。ある自民党若手議員は「本当は森氏は辞任した方がいい」と漏らすものの、公に発言することは避けているという。「党内の立ち位置を考えると、自分が公然と批判するのはこわい」と明かす。閣僚経験者の一人は「森さんや二階さんにお世話になった人ばかりだから、みんな何も言えないんだろう」と話す。こうした姿勢に対し、立憲民主党の辻元清美衆院議員は9日、記者団に与党側から、進退を問う声があがらないことを批判したうえで、「政治が根っこまで腐ってきているように私には見えた」と語った。 *4-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/84974 (東京新聞 2021年2月10日) 二階氏、閣僚からの苦言「論評しない」 ボランティア大量辞退招いた森会長発言で 自民党の二階俊博幹事長は9日の記者会見で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言がボランティアの大量辞退を招いたことを巡り、「静かになったら、その人たちの考えも変わるだろう」と表現したことについて「特別深い意味はない」と釈明した。閣僚から苦言が相次いだことには「いちいち論評を加える必要はない」と語った。 ◆性差別への意識問われ「女性は心から尊敬」 二階氏は、ボランティア辞退への自身の発言に関して「即座にそういう反応もあっただろうが、お互い冷静に考えたら、また落ち着いた考えになっていくんじゃないかということ」だったと真意を説明。性差別への意識を問われて「男女平等で一貫して教育を受けてきた。女性は心から尊敬している」と強調した。二階氏の発言を巡り、橋本聖子五輪相は衆院予算委員会で「ボランティアの不快な思いを真摯しんしに受け止めなければいけなかった。不適切だった」と指摘。麻生太郎財務相も「ボランティアは大会に必要な大きな力。敬意を欠いているのではないか」と苦言を呈した。二階氏は8日の記者会見で、森氏の発言を受けたボランティア辞退の動きについて「そんなことですぐ辞めると瞬間には言っても、協力して(大会を)仕上げましょうとなるのでは。どうしても辞めたいなら新たなボランティアを募集、追加せざるを得ない」と話した。党はその後、「そんなこと」という表現を「そのようなこと」に訂正すると発表した。 *4-2-3:https://mainichi.jp/articles/20210210/k00/00m/050/236000c (毎日新聞 2021年2月10日) 森氏発言に4者協議欠席で「ノー」 小池劇場再び 自民は警戒 東京オリンピック・パラリンピックの開催都市である東京都の小池百合子知事の発言が波紋を呼んでいる。国際オリンピック委員会(IOC)が提案した4者協議を欠席する意向を表明し、女性蔑視発言をした大会組織委員会の森喜朗会長の対応にノーを突き付けた。小池氏の動きに、政府や自民党、組織委関係者には動揺が走る。 ●遺恨ある森氏との綱引きに「デジャブ」 「きちんと落ち着いて進めていく方が良いのではないかと考えております」。小池氏は10日夜の退庁の際、報道陣にこう述べ、4者協議は状況が落ち着いてから開くべきだと指摘した。都幹部は「いま出席したら現在の状況を容認していると受け取られかねない」と説明する。森氏の女性蔑視発言に対する世論の反発は大きく、都幹部の間では「問題が収まらないうちは出席は見合わせた方がいい」というのが共通認識だった。国や組織委にもこうした考えを伝えていたといい、10日朝に「17日開催で調整」とのニュースが流れ、立場を明確にするために欠席の発言をしたとみられるという。女性蔑視発言に対する抗議が都庁に殺到していることも影響している。10日までに寄せられた抗議の電話やメールなどは計1690件、都市ボランティアの辞退が126件。都オリンピック・パラリンピック準備局の担当者が「まさかここまで抗議が来るとは想像以上だ。(森氏について)都に言われてもどうしようもないが、傾聴に徹するしかない」と驚くほどで、4者協議への出席はリスクが極めて高いと判断したとみられる。これまで小池氏は、森氏の会長辞任を求めるかについては「誰がふさわしいかは組織委員会の判断も必要だ」などと述べるにとどめていた。2019年に五輪のマラソン・競歩の札幌移転案が浮上した際、森氏は水面下で国内調整をし、根回しは自民党都議にまで及んだともされるが、直前まで小池氏には知らされなかったなど遺恨がある。それでも都議の一人は「小池さんにとっては、森さんがこのままの状態でいてもらった方がいい。引きずり下ろすメリットは何もない」との考えを示す。ただ、開催都市トップが森氏の発言に厳しい態度を取ったことは重く、大会関係者からは「辞任」圧力になるとの見方が出ている。組織委幹部は「辞任を求めているようなものだ」と語り、政府関係者は「森さんが辞めるしかないという雰囲気になるかもしれない」と警戒を強める。ある都議は「ここで意思を表明するのは衝撃的。知事らしいカードの切り方だ」と話した。大会関係者の間では、森氏の続投はこれまで揺るがなかった。政府や都などの各自治体、IOCとの交渉が求められる組織委の会長職には確かな政治的手腕が求められるためだ。調整や根回しを得意とする森氏が最も手を焼いたのが小池氏で、五輪競技会場の見直しや経費負担の問題では綱引きを繰り返してきたこともあり、五輪関係者の間では「またか」との思いもある。ある政府関係者は「まるでデジャブ(既視感)」と表現しつつも、こう続けた。「小池知事が表に出てきたことで、森会長も簡単に引き下がれなくなった。徹底抗戦するだろう」。(以下略) *4-2-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP2471QPP24UTIL057.html?iref=pc_rellink_04 (朝日新聞 2021年2月5日) 女性蔑視発言、ごまかす笑いが社会の現実 辻愛沙子さん 東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)による女性蔑視発言に、強い批判が集まっています。クリエーティブディレクターとして社会派の広告やイベントの企画などで活躍する辻愛沙子さん(25)は、この発言に「見覚えがある」と言います。記者は4日午後、音声型のSNS「Clubhouse(クラブハウス)」を通じ、辻さんに「公開取材」。一時は1千人を超えるリスナーがその様子を傍聴しました。辻さんが取材に語った内容は次の通り。 ◇ 今回の発言はあまりにひどいですが、これを水で薄めたような出来事は社会にたくさんあり、思い当たる光景がいくつもあります。「これ、ちょっとやばいな」と思ってもごまかすための笑い―。記事の後半では、今回の問題が映した「社会の現実」について語ります。例えば、年上の男性ばかりの会議で女性は私だけだった時。疑問や意見を口にすると、話を途中で遮られ「若いから分からないかもしれないけど」と内容を聞く前に否定される。でも、私と同じことを別の男性が発言したら手のひらを返して称賛される。若い女性は「教える対象」で、対等な議論ができる相手とは思っていないのだと感じました。役職とはまた別に、勝手につくった想像上のヒエラルキーがあるのでしょう。森さんの発言は、ただの言葉のあやではなく価値観の根底に根付いているリアルな本音なんだろうと思います。思っていたとしてもせめて心の中でとどめるのが普通で、それを公の場で言うところに感覚のズレがある。今回の発言があった時、笑いが起こったと聞きます。いまの社会の現実だなと思いました。「これ、ちょっとやばいな」と思ってもごまかすための笑い。そもそも危機感すらないのかもしれません。森さん自身の問題でもありますが、あんな浮世離れした発言を許容してきた側近、メディア、世論も学び、変わっていかなければいけない。4日の謝罪会見で「発言を撤回する」とおっしゃいましたが、「謝罪」はできても、一度発した言葉は事実として多くの人の記憶に残りますから、本当の意味で撤回なんてできません。今回は失言や言葉の選び方のミスではなく、思想そのものから生まれた蔑視発言。もちろん一度の間違いですぐにアウト、とは思っていません。人は誰しも無自覚な偏見を持っていますから、私自身も常々、人はいつからでも気づけるし、学べると肝に銘じています。でも、謝罪会見では記者の言葉を遮ったり、笑いながら答えたり。自身の失言を謝罪する場のはずが「あの場で一番偉い人」として振る舞っていた。間違いに気づき、学び、何もアップデートする気などないんだなという印象でした。一方でツイッター上では3日夜から、森氏が組織委の女性理事について述べた「みんなわきまえておられて」という言葉を逆手に取り、「#わきまえない女」というハッシュタグが盛り上がっています。単なる言葉遊びではありません。いつの時代にも「わきまえない女」がいたから、今の私たちには参政権があり仕事もできる。それに対するリスペクトとシスターフッド(女性同士の連帯)の表れです。黙っている方が楽だし、声を上げている人にヤジを飛ばす方が簡単だけれど、人を黙らせる言葉よりも、連帯したいアクションに対して賛意を伝える言葉を選ぶ人が多かったのは、すごくポジティブな動きでした。今回の発言は、スポーツ界のジェンダーギャップを表したものであり、社会を反映した問題でもあります。スポーツ界は外から見ているととても閉鎖的。中からのアクションだけでなく、外からも変えていけるように声をあげていきたいと思います。 *4-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP2C7GYCP2CUTQP01Q.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2021年2月11日) バッハ氏が女性共同会長提案 川淵氏「森氏から聞いた」 東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の新会長に就任する見通しとなった川淵三郎氏は11日、「森会長から聞いた話」として、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が森会長に対し、森会長と並ぶ女性の共同会長を置く案を提案していたと明らかにした。また、「菅(義偉首相)さんあたりは、もっと若い人を、女性はいないか、と言ったそうだ」とも語った。森会長はどちらの提案も受け入れず、川淵氏に就任を要請した。川淵氏は「菅さんが若い人を、というのは当然の話だと思う」とした一方で、「森さんが83(歳)、俺は84、またお年寄りかと言われるのは不愉快。年寄りだろうが、何だろうが、良い仕事ができるぞ、といいたい」と話した。 *4-4:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/705266 (沖縄タイムス社説 2021年2月10日) [市町村女性登用14%]積極的に不均衡なくせ 市民ニーズを把握し、地域の実情に応じた政策に取り組むのが地方自治体の職員だ。管理職になると、意思決定に関わる機会が増える。その幹部が男性ばかりでは、女性の利益は反映されにくい。内閣府によると2020年4月1日現在、県内41市町村の課長相当職以上の管理職に占める女性割合は14・0%と低かった。全国平均の15・8%を下回っている。さらに部局長・次長級では11・7%(全国10・1%)と1割程度だった。政策に多様な視点を反映させる重要性が増す中、最も住民に身近な自治体で女性の登用が進んでいないことが分かる。政府が最近まで掲げていた「指導的地位に占める女性の割合を20年までに30%程度」とする目標からも、ほど遠い数字だ。なぜ女性管理職は少ないのか。「幹部候補になるまで育っていない」「昇進に消極的」といった声をいまだに聞くことが多い。もちろん女性自身が力をつけることは大事だが、「適材適所」で片づけるのは、必ずしも的を射ていない。そもそも候補となるための経験やチャンスを男性と同じように与えてきたのか。昇進に尻込みするのは、家事や育児の負担が女性だけに偏っている現状や、残業を前提とした長時間労働の問題でもある。男女共同参画社会づくりに関する県民意識調査で、職場での男女の待遇について「平等」と答えた人は約5割にとどまった。 ■ ■ 地域による登用率のばらつきも気になる。市町村の課長級以上の割合は南風原町の30・0%がトップで、浦添市の22・8%と続き、一方、いまだゼロが8村もあった。県レベルでは鳥取県の20・9%が最も高く、沖縄県は13・3%、全国平均は11・1%だった。南風原町の赤嶺正之町長は「実力本位で選んだら、女性が多かった」と話している。正規職員の男女比がほぼ半々というのも、女性が活躍する土台となっているのだろう。都道府県で全国一の鳥取県は、約20年前から知事が登用に積極的な姿勢を示し、その結果、女性の視点を生かして働く幹部が次々と生まれているという。不均衡是正に向けては、指導力を発揮すべき自治体トップの意識も問われてくる。 ■ ■ 集団の中で変化をもたらすために最低限必要な数を「クリティカルマス(臨界質量)」と呼んでいる。政治・行政分野では30%が急激に影響力を及ぼす分岐点とされている。政府は第5次男女共同参画基本計画で「20年までに30%」とする女性登用目標を後退させ、「20年代の可能な限り早期」に先送りした。コロナ禍による影響は女性や子どもなど立場の弱い人たちにより深刻に表れている。行政分野での女性の視点はますます重要になっており、不均衡をなくすことが急務である。 <再エネの時代へ → 原発立地自治体へのアドバイス> PS(2021年2月18、20、27日、3月2日追加):*5-1-2のように、運転開始から40年過ぎて停止中の関西電力高浜1、2号機と美浜3号機で、再稼働に必要な地元自治体の同意手続きが進んでいるが、耐用年数を延長して運転するのは、原子力規制委員会が承認したとしても同委員会の感覚がおかしいという証明にしかならず、原発建設当時より安全に無関心になっているということだ。核燃料サイクル政策は既に破綻し、原発敷地内に保管する使用済核燃料の中間貯蔵施設は県外に確保する約束をしていたそうだが、そもそも中間貯蔵と最終処分を分けて放射性物質を何度も移動させるのは金とリスクが二重にかかり、この費用も国民が負担しているのだ。 佐賀新聞は、*5-1-1のように、「①原発立地23市町村で老朽化する公共施設・インフラの維持管理や建て替えに今後40年間で計約4兆円が必要になる」「②玄海町は660億円見込んでいる」「③フクイチ事故後の原発再稼働・新増設停滞で立地自治体は収入減に直面し、さらなる財政悪化の懸念がある」「④原発誘致による町づくりは転機を迎えている」としている。私は、最終処分方法を早急に決めて原発を卒業するのがBestだと思うので、原発立地自治体がどうすればよいかについて玄海町の例で説明すると、既に交通の便はよくなっているため、i)再エネ関連の産業を誘致する ii)EVやFCVの部品工場を誘致する iii)近隣の農林漁業地帯で行った再エネ発電の電力で水素を作る iv)バイオ産業を誘致する v)西日本新聞や佐賀新聞の印刷部門を誘致する などが考えられる。しかし、それには環境整備が必要で、速やかに廃炉を終えて使用済核燃料も最終処分し、その土地の安全性に懸念のなくなることが必要条件であるため、国の協力が必要だ。また、既に建設されているインフラを有効利用するには、唐津市と合併して玄海町側の施設を使ったり、民間に売却したりするのがよいと思う。 なお、*5-2-1のように、再エネは地域再生の旗手となり得るのであり、日本生命などの機関投資家は2021年4月からすべての投融資判断に企業の環境問題や社会貢献への取り組みなどを考慮するそうだ。そのため、再エネ利用がさらに高まることは確実で、投資家や消費者が選別する時代も近づきつつあり、経産省は「エネルギー基本計画」を早急に見直して再エネを主電源とする政策に変換すべきなのだ。ここで、温室効果ガスの排出を抑制するという名目で原発の再稼働や新増設を後押しするのは、「温暖化や公害の原因はCO₂だけである」と矮小化して考える非科学的で筋の悪い発想だ。 さらに、所沢・飯能・狭山・入間・日高の埼玉県西部5市は、*5-2-2のように、地球温暖化防止に向けて二酸化炭素(CO2)排出を2050年までに実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を共同で宣言し、森林の活用や再エネ普及で連携し、再エネの利用・促進に関する啓発活動や豊かな森林資源を生かした環境学習などに取り組むそうだ。また、埼玉県内では、他に、さいたま市・秩父市・深谷市・小川町が「ゼロカーボンシティ」を宣言している。そして欧州では、*5-2-3のように、ダイムラーAG社のトラック部門とバス部門が2039年までに欧州・日本・北米の主要3市場で全ての新型車両をCO₂ニュートラルにする目標を発表し、「我々は大型トラックの電動化に初めて真剣に取り組み、今では顧客が使用するEVの全てでパイオニアとなっている」としているが、日本はどうか? このように、*5-3-1の再エネ拡大のための送電網強化は重要で、私も電力は再生エネで100%を賄えるため、くだらないばら撒きはやめてそのためのインフラ整備を行うべきだと考える。また、*5-3-2のように、バイデン次期大統領は環境インフラに4年間で2兆ドル(2021年2月18日現在の1$≒106円で換算すれば約212兆円)投じる公約を掲げたため「ブルーウエーブ」ができているが、日本の有権者・投資家・消費者はどう考えるだろうか? なお、*5-4に、「⑤自動車がガソリン車からEVに切り替わると、国内部品メーカーの雇用が30万人減る」「⑥メーカー各社は新たな事業創出に向け研究開発を加速している」「⑦バッテリーや駆動用モーターなどのEV化で新たに必要となる部品もあり、各社はその開発に力を入れている」「⑧地方自治体も雇用を維持するため、中小企業のEV化対応を支援する動きが出ている」等が書かれている。⑤については、同じ機能の製品を作るなら少人数で作れる方が生産性が高く、排気ガスを出さないのでEVの方が付加価値も高い。そのため、⑥⑦は当然の方向性なのだが、⑧についても、日本にはEV・自動運転・再エネに関する特許が多く、中小企業も参入しやすいため、地方自治体が本気で支援して輸出も視野に大量生産できる体制を整えれば、ピンチに見えた情景はチャンスに替わると思う。 再エネには、*5-5のように、佐賀市が清掃工場から出るごみ焼却熱を利用して年間約3万2千メガワット時を発電しているように、これまで廃棄していたエネルギーを電力に変えるものもある。佐賀市は、2023年度以降は7~8円/kwhになる余剰電力をどうするか考えているそうだが、九電の業務用電力は最安値でも10円以上するため、9円で市の財政に寄与する重要な産業に販売すればよいだろう。例えば、市内の企業や農業などの産業に販売すれば、電力料金が地元で廻り、産業も電力料金が安い分だけ競争上有利になる。これは、ゴミ発電だけでなく、既存ダム等の市有財産に水力発電機を設置して発電しても同じことで、送電線を水道管に沿って埋設し他の再エネ発電事業者の電力も送電すれば、送電料を徴収することも可能だ。そして、多くの市町村がこれを行えば、原発はすぐに廃止でき、化石燃料や原発由来でない確かな再エネ由来の電力を送電することで消費者も選択しやすくなる。さらに、電線の地中化も進むが、これらが電力自由化の効果であり、いつまでも電力安定供給を振りかざしてニーズにあった電力供給を行わず、エネルギー代金を高止まりさせてきた大手電力へのよい刺激になる。 また、送電網は、現在は大手電力のものを使っており、大手電力の都合によるため、独立性も競争もない。そのため、個別の企業や住宅への配電は地方自治体が水道管の近くに電線を埋設して行うのが最も中立的でコスト削減になるだろう。また、地域間融通は、鉄道や高速道路に沿って(なるべく超電導)電線を設置するのが、最低コストになると思われる。送配電設備を持つ組織が配電料や送電料を徴収することができるのは、もちろんのことだ。 そして、COP26の議長国である英政府は、*5-6のように、再エネやEVのインフラ投資を進めるために個人投資家と機関投資家向けに環境債を発行して脱炭素化を加速させるそうだ。環境債は右肩上がりの環境分野への資金調達に限定した債券で、比較的高い利子率に設定できるため、佐賀市のような地方自治体が公債として発行しても支持されると思う。 2020.10.31、2020.12.14 次世代の太陽光発電機 各種風力発電機 日経新聞 (図の説明:左2つの日経新聞の図のように、地方では再エネ電力が余っているのに送電網が不十分で他のエリアに送電できていないが、送電網ができれば、自然エネルギー財団の見解どおり、再エネ100%で電力供給ができる。また、中央の2つの図のように、太陽光発電機器も進歩して軽さ・機能性・美しさを兼ね備えたものができている。さらに、右図のように、風力発電機も進歩して従来型の欠点を克服したものも多く出ている) 燃料電池トラック EVトラック 燃料電池都バス EVバス 全自動木材運搬EV 燃料電池航空機 燃料電池船 燃料電池漁船 燃料電池列車 EV列車 (図の説明:上段のように、交通機関も燃料電池・EVによるトラック・バス・木材運搬機などができており、下段のように、燃料電池・EVによる航空機・船舶・列車もできた。後は、大量生産によってコストと価格を落としながらラインナップを増やすことが課題だが、作って使い始めなければ改良もない) *5-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/631470 (佐賀新聞 2021.2.10) 原発立地23市町村、公共施設維持に4兆円 玄海町は660億円 原発や関連施設が立地するか建設計画がある全国23市町村で、老朽化する公共施設やインフラの維持管理、建て替えに今後40年間で計約4兆円が必要になることが9日、各自治体への取材で分かった。原発関連の交付金や税収を原資に建設されたものが多く、住民1人当たりの負担額は全国平均を大きく上回る。東京電力福島第1原発事故後の原発再稼働や新増設の停滞で、立地自治体は収入減に直面している。さらに財政が悪化する懸念があり、施設の統廃合や建設抑制などで負担軽減を目指している。原発誘致による町づくりは転機を迎えている。各自治体は2015年以降、維持更新費用を試算。総額は市町村の規模により異なるため、住民1人当たりの負担額を見た。総務省がまとめた全国平均は年6万4000円。これに対し、23市町村のうち福井県おおい町が46万7000円と最も多く、17市町村は平均の2倍を超え、最も少ない茨城県東海村でも6万9000円と平均を上回った。学校や医療機関などの公共施設や道路や水道などのインフラの保有量について、19市町村は「過大」「やや過大」と回答。保有量が増えた原因として、9市町村は原発関連の収入増と関係があると答えた。松江市や鹿児島県薩摩川内市などは原発とは関係なく、市町村合併の影響を挙げた。23市町村ごとに、規模の大きい公共施設10施設について原発関連交付金の活用の有無を尋ねると、全230施設のうち136施設が該当。過剰な施設を抱える一因となったことがうかがえる。維持更新費は、18市町村で通常の建設投資の予算額を超え、他の分野の予算にしわ寄せが及びかねない。ほとんどの市町村が施設の統廃合などで負担軽減を進める方針を示した。今回の集計で、第1原発事故の影響で維持更新費を試算していない福島県大熊町と双葉町は対象外とした。費用総額は茨城県東海村が60年間、福井県美浜町が30年間で計算している。 ●玄海町は660億円見込む 九州電力玄海原子力発電所が立地する東松浦郡玄海町は、公共施設やインフラの維持管理などに今後40年間で660億4000万円を見込む。住民1人当たりの年間負担額は29万4000円と、全国平均を23万円上回った。公共施設の保有量は「やや過大」と回答した。保有量と原発関連の収入増とは関係があるとみている。規模が大きい10施設のうち、原発関連交付金を活用したのは8施設に上った。維持更新費については試算していない。 *5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14803656.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2021年2月18日) 老朽原発延命 無責任の上塗りやめよ 核燃料サイクル政策の破綻(はたん)から目をそらし、「原発の運転は原則40年まで」というルールの骨抜きに突き進む。そのうえ電力会社と立地自治体の長年の約束をうやむやにしようとする動きを後押しする。とりわけ国の無責任ぶりが目に余る。運転開始から40年を過ぎ、現在は停止中の関西電力高浜1、2号機と美浜3号機で、再稼働に必要な地元自治体の同意手続きが進んでいる。原子力規制委員会の審査を終えた後、既に高浜、美浜両町の町長と議会は同意し、福井県の知事と議会の対応が焦点となっている。関電は1990年代末、福井県知事の要求に応え、原発の敷地内に保管する使用済み核燃料の中間貯蔵施設を福井県外に確保することを約束した。しかし、いまだに果たせていない。最近では18年、20年と期限を区切りながら実現できず、福井県側は「再稼働に向けた議論に入れない」と反発していた。ところが、である。関電の森本孝社長がこのほど福井県の杉本達治知事を訪れ、23年を最終期限としつつ青森県むつ市を候補地としてあげた。同市には東京電力などが整備する中間貯蔵施設があり、電力各社からなる電気事業連合会が昨年末、それを業界で共用すると表明。関電はそこへの参画を選択肢の一つにするという。むつ市が関電の考えに「あり得ないこと」と激しく反発しているにもかかわらず、杉本知事は「覚悟が示された」と評価し、県議会に議論を促した。一連の動きは、福井県民に示してきた方針を先送り・あいまいにする対応と言うほかない。関電と福井県のトップ会談には、経済産業省資源エネルギー庁の保坂伸長官が同席し、支援を表明。オンラインで参加した梶山弘志経産相は再稼働への協力を知事に要請した。原発政策が「国策民営」と評されるのを地でいく構図である。核燃サイクルは、使用済みの燃料を再処理して再び発電に使う仕組みだが、計画は行き詰まっている。このままでは使用済み核燃料は行き場を失いかねず、その現状への不安が、むつ市や福井県の姿勢の根底にはあろう。そうした根本的な問題に向き合わず、原発の温存へ再稼働を急がせる国の対応は、無責任に無責任を重ねるものだ。原発の40年ルールは、東電福島第一原発の事故を受けて設けられた。電力不足などに備えるため「1回だけ、最長20年延長可」とされたが、その例外規定が次々と適用されている。先行きのない政策に見切りをつけ、現実的な解を探る。その決断と実行が、国と電力会社、自治体のすべてに求められる。 *5-2-1:https://www.jacom.or.jp/column/2020/10/201021-47242.php (JAcom 2020年10月21日) 再生可能エネルギーで地域再生 <日本生命保険は2021年4月から、すべての投融資の判断に、企業の環境問題や社会貢献への取り組みなどを考慮した「ESG」の考え方を採用する。独自に策定した評価基準を用い、経営の透明性や持続可能性の高い企業などへの投資を増やすことで、利回り向上とリスク低減を目指す。(読売新聞10月20日付)、ESGとは、投資環境(Environment)・社会貢献(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別した投資> ●再生可能エネルギーの利用高まる 西日本新聞(10月17日付)は、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」や、環境や社会的責任を重視する「ESG投資」が注目を集める中、二酸化炭素(CO2)排出量を減らす取り組みで企業の社会的評価を高めるため、使用電力をすべて再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱など)で賄うことを目指す企業が増えてきていることを報じている。そして「電気を使う企業も、CO2削減の取り組みによって投資家や消費者から『選別』される時代が近づきつつある」とする。日本農業新聞(10月18日付)の論説も、「農地に支柱を立てて架台を載せ、農地の上で太陽光発電をしながら農業生産にも取り組む営農型太陽光発電の面積が増えている。当初の設備に資金が必要なため、農家が単独で発電事業に参入するのは難しい。優良な連携相手を仲介する仕組みづくりが求められる」と、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の広がりを取り上げている。 ●「エネルギー基本計画」の見直しと再生可能エネルギー 国の中長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」について、経済産業省が見直しに向けた議論に着手した。これを受けて、山陽新聞(10月18日付)の社説は、「二酸化炭素(CO2)を出さず環境に優しい再生エネを最大限活用し、主力電源として機能するよう意欲的な目標に見直すことが求められる」とし、「再生可能エネルギーの拡大」をそのポイントとする。しかし18年度の再生エネ比率は16.9%で、脱炭素で先行する欧州各国は30%前後と比べると、「日本の立ち遅れは否めない」とし、事業者への支援の必要性を訴えている。また、固定価格制度による買い取り費用が電気料金に上乗せされ、家庭や企業の負担が増大していることから、「再生エネの強化と国民負担とのバランスを考慮した議論」を求めるとともに、「原発に対する国民の不信や不安は根強い」ことから、「将来的に原発比率を下げていく道筋を示すべきだ」とする。期せずしてこの7月に「経済同友会」から出された『2030年再生可能エネルギーの電源構成比率を40%へ』と、「自然エネルギー協議会(会長 飯泉嘉門 徳島県知事)」から出された『自然エネルギーで未来を照らす処方箋』が、30年に再生エネの比率を40%まで引き上げることなどを提言していることを紹介し、「天候に左右されがちな再生エネが主力電源となるには、蓄電池の性能向上や送電線網の拡充なども必要となる。技術開発を促し、設備投資の呼び水となるよう、政府は野心的な目標を掲げ、政策誘導することが欠かせない」とする。 ●原発の再稼働、さらには新増設までも後押しする読売新聞 読売新聞(10月17日付)の社説は、「温室効果ガスの排出を抑制しながら、電力の安定供給を確保するという課題にどう対処するか。冷静な議論を通じ、現実的な道を探るべきだ」と、再生可能エネルギーの利用促進にくぎを刺す。再生可能エネルギーの問題点として、「買い取り費用が転嫁された結果、家庭や企業の電気代の負担」が増えることと、発電量の不安定性を指摘する。その不安定性を補うための電源として、「原子力の活用が最も有効だろう」とする。そして、「政府は、新計画で原発の必要性を国民に説明し、責任を持って再稼働を後押しせねばならない。同時に、国民の原発に対する信頼を取り戻すため、官民で安全を一段と高める技術開発を加速させるべきだ。古くなった施設も多く、原発の新増設についても、論議を深めてもらいたい」とまで述べている。 ●中国新聞の見識 中国新聞(10月21日付)の社説は、18年度の電源構成実績が6.2%の原発を、30年度に20~22%程度とした18年7月の閣議決定を取り上げ、「福島の事故を受けて安全対策費がかさみ、『安い』というメリットも失われた。(中略)原発ゼロを望む国民の多さを考えると、そもそも達成不可能な目標だったのではないか。依存度の引き下げが進む国際社会の潮流にも逆行している」と、指弾する。「脱炭素を進めるためにも、再生エネルギーの大幅拡大が必要だ」が、日本は後れを取っている。「発電量が天候に左右されるほか、ドイツなどに比べコスト低減も進んでいない」と、問題点を読売新聞同様認める。だが、「政府の意識は経済界より遅れているようだ」とし、前述の経済同友会提言が、30年の再生エネルギーの比率を、太陽光・風力で30%、水力や地熱などで10%と具体的に示したことを、「欧州各国にも引けを取らない高い目標」と評価する。実現に向けた、政府による明確な意思表示と政策誘導、積極的で継続的な民間投資等々の条件がそろえば、「国民の意識変革や行動変容がさらに進み、道筋も見えてこよう。エネルギー自給率の引き上げや、温暖化対策の国際公約達成にもつながるはずだ」として、新たな基本計画で、再生エネルギーの拡大へと大きくかじを切ることを政府に求めている。その背景として、「私たちは、風水害や地震が頻発する災害列島に住んでいることも忘れてはならない。甚大な被害が懸念される南海トラフ巨大地震や首都直下地震が、30年以内に70%前後の確率で起きると予測されている」ことをあげ、「災害に備えて、小規模分散型発電の可能性も各地域で考え」ることを、我々に訴えている。 ●再生可能エネルギーで地球も地域も持続する 「化石燃料のほぼ全量を輸入に頼る我が国では、温室効果ガス削減のためだけでなく、エネルギーの安定供給と自給率向上のためにも、再エネの大量導入と主力電源化が有効有益であることは論を俟たない。その実現に向けては、さまざまな課題があり、また一朝一夕で解決できるものではない。しかしながら、再エネの主力電源化は、地球の持続可能性の確保、そして日本の経済発展のために、官民が一体となって知恵を絞り、課題解決に取り組むべき最優先課題である」で、経済同友会の提言は終わっている。ソーラーシェアリングが、十数年間耕作放棄地だったところを発電所と優良農地に変えた事例を最近見学した。再生可能エネルギーは、地域再生のエネルギー源となる可能性も秘めている。「地方の眼力」なめんなよ *5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2H7FHYP2HUTNB006.html (朝日新聞 2021年2月16日) 県西部5市が「ゼロカーボンシティ」共同宣言 所沢、飯能、狭山、入間、日高の埼玉県西部5市は15日、地球温暖化防止に向けて二酸化炭素(CO2)排出を2050年までに実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を共同で宣言した。歴史的、地理的に関係が深い近隣5市が、森林活用や再生可能エネルギーの普及などで連携していくという。所沢市役所で宣言文に署名する際、市長らは「自然環境、産業、文化、歴史などそれぞれの市の特長を生かしながら、互いに協力していく」と表明。市ごとの取り組みや、目指す方向性にも言及した。連携する具体的な取り組みは、5市で構成する「県西部地域まちづくり協議会」にプロジェクトチームを設置して、今後検討していく。再生可能エネルギーの利用・促進に関わる啓発活動や、飯能市や日高市が抱える豊かな森林資源を生かした環境学習などを想定しているという。所沢市は昨年11月に市単独で「ゼロカーボンシティ」を宣言しており、他の4市がこれに歩調を合わせた。県内ではほかに、さいたま市、秩父市、深谷市、小川町が、それぞれ宣言をしている。 *5-2-3:https://www.lnews.jp/2019/10/l1028307.html (Lnews 2019年10月28日) ダイムラーAG/2039年までにトラック・バスのCO2排出ガス0へ ダイムラーAG社のトラック部門とバス部門は10月28日、2039年までに欧州、日本及び北米地域の主要3市場で全ての新型車両をCO2ニュートラル(燃料タンクから走行時まで)化する目標を発表した。両部門は2022年までに主要市場である欧州、日本及び北米地域において、車両ポートフォリオにバッテリー式電気自動車(EV)の量産車を含める計画を立てている。また、2020年代の終わりまでに、水素駆動の量産車により航続距離の拡大を目指。第46回東京モーターショーでは、三菱ふそうトラック・バスのブランドであるふそうの燃料電池小型トラックのコンセプトモデル「Vision F-CELL」を世界初公開し、水素分野における活動強化をアピールした。さらに、2022年までに欧州の生産工場をCO2ニュートラル化し、その後他のすべての工場にも拡大する計画を掲げた。ダイムラーAG社のマーティン・ダウム取締役兼トラック、バス両部門代表は、ベルリンで開催した国際サプライチェーン会議の基調講演で「ダイムラーのトラックとバス部門は、パリ協定の目標に明確にコミットしており、業界の脱炭素化に取り組んでいる。2050年までに道路上でCO2ニュートラルの輸送を実現することが、究極の目標。これはコストとインフラの両方の観点において、顧客にとって競争力のある商品の提供を実現出来た時初めて達成できる」。「2050年までに全ての車を完全に刷新するには約10年を要するが、私たちの目標は、2039年までに欧州、日本そして北米地域にて、”燃料タンクから走行まで(Tank to Wheel)”CO2ニュートラルの新しい車両を提供すること。真のCO2ニュートラルの輸送は、バッテリー式電動運転システムまたは水素ベースの運転システムだけの場合に実現する。我々は、大型トラックの電動化に初めて真剣に取り組んだメーカーであり、今日では、顧客が使用する電気自動車の全てのセグメントでパイオニアとなっている」と述べている。なお、「メーカーのあらゆる努力の一方で、2040年時点でも、電気駆動のトラックとバスの総所有コストは、ディーゼル車よりも依然高いことが予想されるため、CO2ニュートラルのトラックとバスの誕生だけでは、普及拡大には至らない。したがって、CO2ニュートラルなトラックとバスの競争力を高めるには政府によるインセンティブが必要。CO2ニュートラルの車両が大幅な救済を得るためにはCO2値に基づいてヨーロッパ全体の通行料を変換、調整することが必要であり、バスに対する補助金プログラム、また全国的な充電および水素インフラ構築、ならびに水素の輸送および燃料補給のための統一基準を構築する補助金プログラムがとりわけ必要」としている。 *5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF143CB0U0A211C2000000/ (日経新聞 2020年12月14日) 再エネ拡大へ送電網の強化を 排出ゼロで研究機関提言 総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の分科会は14日、官民の研究機関の報告を交えて再生可能エネルギーの普及に向けた課題や方策を議論した。各機関とも2050年の温暖化ガス排出量実質ゼロに向けて再生エネの導入拡大の重要性に触れたが、不安定な発電量への対応や送電網の強化などが必要になるとした。報告をしたのは国立環境研究所、自然エネルギー財団、日本エネルギー経済研究所、電力中央研究所の4機関。最も意欲的な目標を示したのは自然エネルギー財団だ。人口減や省エネで50年までにエネルギー需要が20~30%減るなどと見込んだ上で、電力は再生エネで100%をまかなえるとした。導入拡大には広域的な送電網を整備することで発電量の変動や事故に対応することが必要になると主張した。日本は欧米に比べて再生エネの設置に適した場所が少ないという見方に対し、耕作放棄地や空き地などを考慮すれば、地上設置型の太陽光だけでも原発や大型火力およそ100基分にあたる1億キロワット超の設備を置く土地があると指摘した。国立環境研究所は、脱炭素社会を目指す上では自動車や産業部門の電化と再生エネの最大限の活用が必須だと強調した。太陽光と風力は設置の余地が大きいものの、資源が地域的に偏在していることや天候による出力変動を踏まえ、高度なエネルギー需給の調整の仕組みが必要になるとした。再生エネの大量導入に向けた課題を指摘したのが日本エネルギー経済研究所だ。大量に導入された場合、発電している時間帯の電力価格が低下し、投資回収の見込みが立ちづらくなる可能性を指摘した。極めて高い再生エネ比率を目指す場合は、電力供給の途絶リスクに対処するために数十年以上の気象データを使った分析が必要になるほか、適切な導入量は設置の可能性や地元合意、環境への配慮などを評価して決めることが重要になると主張した。電力中央研究所は再生エネの導入拡大は「極めて重要」としたが、排出量の実質ゼロは再生エネ比率100%が前提ではないと指摘。原子力などの既存電源に加えて、水素や温暖化ガスの回収・貯留などの技術も組み合わせて費用の最小化を目指す必要があるとした。その上で陸や海で法規制による設置への影響が少ない地域で優先的に導入が進む場合、50年に発電量に占める再生エネ比率は38~50%になると指摘した。 *5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZASFL06HRM_W1A100C2000000/ (日経新聞 2021年1月7日) <米国>太陽光発電関連が急伸、バイデン政権で環境投資拡大に期待 6日の米株式市場で太陽光発電関連株が急伸している。ソーラーエッジ・テクノロジーズは一時、前日比18.4%高の375.00ドルを付けた。ジョージア州の上院決選投票で民主党が2議席とも獲得し、上院で過半数を握るとの見方が強まった。同党が大統領と上下両院を制する「ブルーウエーブ」となり、太陽光関連株は公約に掲げる環境インフラ投資の恩恵を受けるとの見方が広がった。住宅用太陽光発電パネルのサンランは13.6%高の83.00ドル、太陽光電池のファースト・ソーラーは8.3%高の99.85ドルまで買われる場面があった。民主党のバイデン次期大統領は環境インフラに4年間で2兆ドルを投じる公約を掲げる。太陽光など再生可能エネルギーへの設備投資を促進し、2050年までに温暖化ガスの排出ゼロを目指す。ブルーウエーブが誕生すれば政策の実現性が高まると市場でみなされた。 *5-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/635489 (佐賀新聞 2021年2月20日) EV普及で雇用30万人減も、部品減で、メーカー苦境 自動車がガソリン車から部品数の少ない電気自動車(EV)に切り替わることで、国内の部品メーカーの雇用が大きく減少する恐れがあることが20日、明らかになった。現在300万人程度とされる関連雇用が30万人減るとの試算もあり、メーカー各社は新たな事業創出に向け研究開発を加速。地方自治体も雇用維持するための支援を模索している。EVはモーターでタイヤを駆動して走るため、エンジンなどに関係する部品が不要となり、部品数はガソリン車の3万点から2万点程度に減るとされる。一方でバッテリーや駆動用モーターなどEV化で新たに必要となる部品もあり、各社はその開発に力を入れる。トランスミッションメーカー、ジヤトコ(静岡県富士市)の現在の主力商品はエンジン車向け無段変速機(CVT)だ。「エンジン車があっという間になくなることはない」(中塚晃章社長)としつつ、「イーアクスル」と呼ばれるEVの高速性能を高める新製品の開発を進めている。トヨタ自動車系の部品メーカー、デンソーは昨年、電動化に関連する研究開発などを行う「電動開発センター」を愛知県内に新設した。地方自治体でも中小企業のEV化対応を支援する動きが出ている。静岡県や浜松市でつくる浜松地域イノベーション推進機構が2018年に立ち上げた「次世代自動車センター浜松」は、大学や完成車メーカーなどと連携し、中小企業にEVなどの次世代技術を提供している。担当者は「準備は1年や2年では間に合わない。会員企業が脱ガソリン車に対応できるよう支援したい」と話す。アーサー・ディ・リトル・ジャパンの経営コンサルタント祖父江謙介氏は、自動車部品に関連する雇用は国内で300万人程度とした上で、EV化で1割の約30万人の雇用減少につながる恐れがあると指摘。「海外メーカーはEV開発に経営資源を集中している。日本メーカーが負ければ海外で日本車が売れなくなり、それ以上の雇用減が起こる」と警鐘を鳴らす。 *5-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/636772 (佐賀新聞 2021.2.27) 佐賀市清掃工場電力の利活用を調査 固定買い取り終了で 再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が2023年度に終了することを受け、佐賀市は4月から、市清掃工場(高木瀬町)のバイオマス発電の利活用策を検討する。現行の売却価格が半額近くになることが見込まれており、対応策の調査研究を民間に委託する。関連予算1170万円を盛り込んだ新年度当初予算案を、3月1日開会予定の定例議会に提案する。調査研究の期間は7月から来年2月までの予定で、4月に業者を公募する。先進事例も踏まえ、一定程度の価格で販売できる仕組みづくりを22年度から計画する。バイオマス発電は、ごみ焼却の熱を利用した蒸気でタービンを回し、年間約3万2千メガワット時を発電する。電気は、焼却炉の運転や隣接する健康運動センタープールの温水などに使っている。余った電力約1万8千メガワット時は現在、東京都の新電力会社に1キロワット時当たり最大17円で販売しているが、23年度以降は7~8円になるという。市循環型社会推進課は「地域内で電力を回す方法、売り先などを幅広く検討していきたい。脱炭素社会に向けた取り組みにもなれば」と話す。 *5-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639156 (佐賀新聞 2021/3/1) 英政府が個人投資家向けに環境債、脱炭素化加速、年内発行へ 英政府が個人投資家向けに、環境債を発行することが1日までに明らかになった。ジョンソン政権が掲げる脱炭素化の動きを加速させるもので、年内の発行を目指す。環境債は欧州を中心に既に各国で発行されているが、政府が個人を対象に販売するのは珍しい。英メディアは「世界初」の取り組みと伝えている。ロイター通信によると、英政府は調達した資金を活用し、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)のインフラ投資などを進める。個人向け環境債の発行は英国の公的金融機関、国民貯蓄投資機構(NS&I)が担う。3日に正式に発表する。同時に、機関投資家向けの環境債発行も明らかにする見通しだ。英国は11月に開かれる気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の議長国。既にガソリン車の新規販売を2030年までに禁止することも発表しており、新たな環境債発行で、脱炭素化の議論をリードしたい思惑があるとみられる。環境債は使い道を環境分野への資金調達に限定した債券で、企業を中心に世界で発行する動きが広まっている。 <オリ・パラは普通に開催すべきで、できるのだが・・> PS(2021年2月19日、3月4日追加):*6-1-1に、「①タクシー運転手が自費でPCR検査を受けて『陰性証明』を取るまで職場復帰させないと会社に言われた」「②家族を含め全員が陰性にならないと復帰させないと会社から言われた」「③日本渡航医学会・日本産業衛生学会は『感染者は発症後1週間程度で感染性がほぼ消失する』と考えられている」「④光永弁護士は労災保険の申請を提案している」等が記載されている。不特定多数の客に接する職業は、頻繁にPCR検査をして陰性証明書がなければ就業できないというのは正しいし、①②は妥当だと思う。ただし、発症した運転手本人は、④のように労災を申請すべきだし、発症していない場合もPCR検査費用は接客によるリスクを課している会社負担で行うのが当然だが、③は不確実である。 なお、*6-1-2のように、新型コロナウイルスのワクチン接種も始まっており、ワクチンを接種した人の接種済証明書はPCR検査をした人の陰性証明書に代替できる。そして、これは医療関係者・介護職員・公共交通の運転手だけでなく、不特定多数の客と接する美容師・理容師・宅配配達員・スーパー店員なども同じ状況であるため、職場でまとめてワクチン接種やPCR検査をするのが有効だと思う。 なお、*6-2-1のように、日本医師会の中川会長が、「⑤東京オリ・パラ開催時の外国人受け入れは不可能」「⑥外国の選手団だけでも大変な数で、外国から多くの客が来る」「⑦緩みをつくる政策があったかもしれないが、現状のまま感染者が増えると助かる命に優先順位を付けなければならなくなる」と述べられたそうだ。また、*6-2-2のように、「⑧島根県の丸山知事が、島根県内で実施予定だった東京五輪の聖火リレーに中止の意向を表明」「⑨新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための政府や東京都の対応に不満があり、中止を引き合いにして改善を促すのが狙い」とされている。また、国民も、*6-2-3のように、「⑩東京オリ・パラは中止・延期すべきとの回答が世論調査で全体の7割超を占めた」「⑪世界中から人が来るのは感染拡大に繋がるという理由が最も多かった」とのことだ。 これらのうち、医師会会長の⑤⑥⑦の意見については、不完全な上に外国人差別に繋がる現在の検疫制度を改めさせることも可能な立場の人であるため、何を言っているのかと思った。また、⑧⑨の島根県知事の発言は察するところがあり、知事が国(特に厚労省)に物申すにはこういう言い方しかないのかもしれない。⑩⑪の世論は、メディアの報道を通して形づくられたものであるため、メディアの責任が大きい。 現在、外国から日本に到着した際は、*6-3のように、「⑫日本への入国時は、国籍を問わず出国前72時間以内の検査証明書の検疫所への提出が必要」「⑬検査証明書を提出できない人は検疫所が確保する宿泊施設等で待機」「⑭待機後、入国後3日目に改めて検査」「⑮検査証明書を提出できなかった人は陰性と判定された後も位置情報の保存等について誓約を求める」「⑯検査証明書を提出できなかった人は、陰性と判定された後、検疫所が確保する宿泊施設を退所し入国後14日間の自宅等での待機を求める」「⑰緊急事態宣言解除まで、全ての対象国・地域とのビジネストラック・レジデンストラックの運用を停止し、両トラックによる外国人の新規入国は認めない」「⑱ビジネストラックによる日本人・在留資格保持者も、帰国・再入国時の 14 日間待機の緩和措置は認めない」となっている。 このうち、⑫は、出国前72時間以内の検査証明書ではなく、陰性証明書の提出が必要なのだ。しかし、⑬のように、陰性証明書の提出ができない人が航空機に搭乗していれば搭乗前に陰性だった人にも感染する可能性が高いため、陰性証明書を提出できない人を航空機に搭乗させてはならないのである。そのため、航空会社が搭乗前に空港で検査して陰性証明書を提出できるようにもすべきで、これができていれば、⑭⑮⑯のように、屋上屋を重ねる不要な規制をして外国人を差別的に扱う必要はない。なお、⑰⑱のように、平時はビジネストラック・レジデンストラックによる日本人・外国人の新規入国者を例外としているのであれば、屋上屋を重ねる規制をして外国人を差別的に扱っている反面、一部はザルになっているのである。 そのため、緊急事態宣言解除後も、ビジネストラック・レジデンストラックによる日本人・外国人にも陰性証明書かワクチン接種証明書の提出を義務付けるべきで、これらを徹底していれば、外国人が大量に来日しても問題はないため、オリンピックを通常通り開催できる。また、オリ・パラ選手に母国もしくは日本でワクチンを優先接種しても、リスクの高さとイベントの重要性から考えて不公平にはならないだろう。このような中、日本では、できない理由を並べてワクチンの開発・生産・接種が遅れ、未だに「数が足りない」「オリンピックも完全な形では開けない」等と言っているのは、非科学的で情けない。そのため、何故こういうことになったのかを、全員でまじめに反省すべきである。 なお、*6-4のように、日本航空が、3月15日から6月20日まで国内線に搭乗する希望者に2千円で新型コロナのPCR検査サービスを始めるそうだ。しかし、海外の航空会社とも協力して、航空機への搭乗前にワクチン接種者と感染回復者が持つ抗体保持証明書かPCR検査の陰性証明書のどちらかを提示することを義務付ければ、オリンピックに外国人客が来ることに何の問題もない。そのため、無策の対応をしながら、オリンピックから外国人客を締め出そうと考えるのは、開発途上国でもやらない驚くべき発想だ。 *6-1-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/693719/ (西日本新聞 2021/2/17) 職場復帰にPCR検査必要? 会社と国で割れる見解 「自費でPCR検査を受けて『陰性証明』を取るまで、職場復帰はさせられないと会社に言われた」。新型コロナウイルスに感染した福岡市のタクシー運転手の男性から戸惑いの声が、西日本新聞「あなたの特命取材班」に届いた。厚生労働省は「職場復帰に検査や証明は不要」と通知するが、会社側は「従業員の安心」を理由に検査を求めている。取材班は1月下旬、事案の概要をウェブで公開し、意見を募った。運転手、会社側双方に理解を示す投稿が集まった。果たして専門家の見解は-。ウェブには30件以上の投稿が寄せられた。「会社から、家族を含めて(全員が検査で)陰性にならないと、復帰させないと言われた」。家庭内感染の経験をこう語る投稿名「ぱぱぱぱぱ」さん。「国の通知をもっと広めてほしい。保健所からは再検査しないようきつく言われた」という。一方、会社側に理解を示す意見も。「狭い車内でお客さんと接点があるし、安心のためにも陰性証明はあった方がいい」と「匿名」さん。会社側は男性に検査費用の自己負担も求める。「の」さんは「会社が負担すべきではないか。仕事復帰の条件にするなら、当たり前だと思う」との考えだった。 ◆ 国の見解はどうか。感染症法はまず、新型コロナの患者や無症状病原体保有者に対し、就業を制限している。退院基準について、厚労省は「発症日から10日間経過し、かつ症状が軽快(解熱剤を使用せず熱が下がり、呼吸器の症状が改善傾向にある状態)となり、さらに72時間経過した場合」などと説明している。原則、ホテルでの宿泊療養や自宅療養も同じ。この時点で就業制限も解除となり「PCR検査は必須ではない」とされている。日本渡航医学会と日本産業衛生学会は「感染者は発症2日前から発症直後が最も感染性が高く、発症後1週間程度で感染性がほぼ消失すると考えられている」との見解を示す。 ◆ 陰性証明を求める会社の姿勢をどう考えるべきか。労働問題に詳しい福岡市の光永享央(たかひろ)弁護士は「従業員らの安全衛生を考えると、必ずしも不当な要求とは言えない」とみる。国は「必須ではない」とするが、会社側にも証明を求める理由がある。こうした場合、光永弁護士は労災保険の申請を提案している。国は感染拡大に伴い、仮に経路がはっきりしなくても、リスクの高い業務であれば特例的に労災認定するよう通達。厚労省によると、全国で医療従事者やサービス業など約2千件がコロナ関連で認定され、タクシー運転手も含まれる。光永弁護士は「認定されれば休業補償が得られ、『治癒』と診断されるまでは、検査や診断書に関わる費用が労災保険の対象となる」と解説する。仮に会社が申請に協力しなかったり、当事者が退職したりしていても、労働基準監督署に相談し、自ら申請することが可能という。 【事案の概要】意見の相違、復職果たせぬまま 男性は1月上旬に38度の発熱があり、感染が判明。直前までタクシー乗務を続けており、保健所や医師からは「勤務中に乗客から感染した可能性がある」と言われている。軽症だった男性は保健所の指示通りに自宅療養し、10日間の経過観察が終わった。保健所から「職場復帰しても問題ない」と言われ、勤め先に報告した。ところが、会社側は復帰前にPCR検査による陰性証明の提出を指示。費用は自分で負担するよう求めてきた。男性が保健所の担当職員にあらためて相談すると、「経過観察期間を過ぎており、職場復帰前の検査は不要。仮に陽性反応が出ても、人に感染させる恐れはない」と説明された。保健所職員も見解を会社側に伝えたが、会社側は「社内で感染者が出ればバッシングを受けるかもしれない。従業員の安心のためにも必要」と認めなかったという。「保健所が不要と言うのに、自費の検査を強要されるのはおかしい」と男性。今も職場復帰は果たせていない。 *6-1-2:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0710/covid-19vaccination.html (埼玉県) ●新型コロナウイルスワクチン接種について 新型コロナウイルスワクチンの接種に関する情報を随時掲載していきます。 《留意事項》 「やさしく解説!大野知事の新型コロナ対策」で県民の皆さんからの新型コロナに関する様々な疑問に、大野知事が分かりやすくお答えしています。「やさしく解説!大野知事の新型コロナ対策」 1 接種スケジュール 国がワクチンを準備し、接種の順番を定めることとなり、まずは医療従事者、次いで65歳以上の高齢者、基礎疾患を有するかた、高齢者施設等の従事者、一般の県民のかたの順に接種します。2月の中旬から医療従事者のかたの接種が開始される予定ですが、接種は市町村が、その支援と副反応などの相談は県が受け付けることとなっています。65歳以上の高齢者のかたに対しては、3月にお住いの市町村から接種券が届き、4月から接種が開始される予定です。それ以外のかたには、4月以降に接種券が届く予定です。具体的な接種時期についても追ってお住いの市町村からお知らせが届く予定ですので、いましばらくお待ちください。なお、接種費用は、全額国が負担します。自己負担はありません。 2 ワクチンや副反応について 新型コロナウイルスワクチンのうち、最初に接種を行うことになるファイザー社のワクチンは筋肉内注射のため、接種後に接種部位の痛みや腫れなどの軽い副反応が頻繁に出現するとされています。これらの症状が出たときは、慌てず様子を見ていただければと思います。 他の予防接種と同様、まれに、接種後にけいれんなどのアナフィラキシーショックを起こすことがありますが、その場合は接種会場の医師がすぐに応急処置を行います。また、接種会場から帰宅した後、その日の夜などにショック症状が出現した場合には、24時間対応の県の専門相談窓口にお電話いただければ、看護師と医師が対応いたします。さらに、接種後、徐々に麻痺やしびれ症状などが出現し、かかりつけ医等に受診しても対応が難しい場合には、専門医療機関にスムーズにつなぐ体制を整えています。県民のみなさまに安心して接種していただけるよう、ワクチンの安全性や相談・受診体制に関する情報を広く周知します。(「専門相談窓口」の設置と「専門医療機関」の指定について、3月1日頃に開始を予定しています。) *6-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012200902&g=pol (時事 2021年1月22日) 外国人受け入れ、現状では困難 東京五輪、「医療崩壊が頻発」―日医会長 日本医師会の中川俊男会長は22日、東京都内で開かれた内外情勢調査会で講演した。新型コロナウイルスの感染者数が高止まりする中、「医療崩壊が頻発している」と強い危機感を表明。その上で、東京五輪・パラリンピック開催時の外国人受け入れについて、「受け入れ可能かというと可能ではない」と述べ、現在の感染状況では困難との認識を示した。中川氏は「外国からたくさんのお客が来て、選手団だけでも大変な数だ」と指摘し、患者数のさらなる増加を懸念。五輪開催の可否については明言を避けた。また、年末年始以降の感染者数の急増にも言及。政府の「Go To キャンペーン」などを念頭に「いろいろな緩みをつくる政策があったかもしれない」とした上で、「現状のまま感染者が増え続けると、助かる命に優先順位を付けなければならない状態になる」と警鐘を鳴らした。 *6-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/86465 (東京新聞 2021年2月17日) 「協力難しい」島根県知事が東京五輪の聖火リレー中止の意向 政府や都のコロナ対策に不満…大会開催も反対 島根県の丸山達也知事は17日、県内で実施する予定だった東京五輪の聖火リレーについて、「開催すべきでない」と中止の意向を表明した。県の聖火リレー実行委員会で明らかにした。五輪のリレーは5月15、16日に実施し、パラリンピックは日程調整中だった。「今の時点で中止をお願いするわけではない。状況を見て、(政府と東京都の対応が)改善するかどうかあらためて判断したい」とも述べた。委員会終了後の記者会見で、五輪自体の開催にも反対する考えを表明した。丸山氏は委員会に先立ち、取材に「新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための政府や東京都の対応に不満がある」などと理由を明かした。中止を引き合いに、改善を促すのが狙い。丸山氏は記者会見で「五輪と聖火リレーの開催に協力していくことは難しい」と語った。丸山氏は10日の記者会見でも政府や都を批判していた。丸山氏は2019年4月の知事選で初当選した。 *6-2-3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012400086&g=soc (時事 2021年1月24日) 東京五輪「中止・延期」が7割 感染拡大を懸念―新聞通信調査会 公益財団法人「新聞通信調査会」(西沢豊理事長)は23日、今夏の東京五輪・パラリンピックに関し、「中止、延期すべきだ」との回答が全体の7割超を占めたとする世論調査の結果を公表した。理由は「世界中から人が来ることは感染拡大につながる」が最も多かったという。調査は昨年10月30日~11月17日、18歳以上の男女を対象に実施し、約3000人から回答を得た。五輪・パラリンピックの開催については、「中止すべきだ」との回答が37.9%で最も多かった。「さらに延期すべきだ」が34%で続き、「開催すべきだ」は26.1%だった。「開催すべきだ」とした理由(複数回答)は、「選手が出場に向けて準備している」(67.3%)、「選手の活躍や五輪の活気に元気づけられる」(49.3%)、「誘致や会場建設などの準備が無駄になる」(44.8%)などの順だった。中止や延期すべきだと回答した理由(複数回答)のうち、最も多かったのは「世界中から人が来ることは感染拡大につながる」で83.4%。次いで「コロナ流行が収束する見込みがない」(64.3%)だった。 *6-3:https://www.iace-usa.com/pcr_test (厚労省 2021年2月5日最終更新より抜粋) 日本到着時の最新の検査状況 ※検疫措置の内容・所要時間は流動的であり、予告なく変更となる場合があります。 日本ご帰国のお客様へ 重要なお知らせ ・国籍を問わず、日本への入国に際し(入国・再入国・帰国する者全てに対し)、検疫所へ「出国前72時間以内の検査証明書」の提出が必要です。 ・「出国前72時間以内の検査証明書」が提出できない場合、検疫所が確保する宿泊施設等で待機となります。(検疫官の指示に従わない場合は、検疫法に基づく停留措置の対象となる場合がございます。) さらに、入国後3日目に改めて検査を行い、陰性と判定された場合、位置情報の保存等(接触確認アプリのダウンロード及び位置情報の記録)について誓約が求められるとともに、検疫所が確保する宿泊施設を退所し、入国後14日間の自宅等での待機が求められます。 ・緊急事態解除宣言が発せられるまでの間、全ての対象国・地域とのビジネストラック及びレジデンストラックの運用は停止され、両トラックによる外国人の新規入国が認められません。また、ビジネストラックによる日本人及び在留資格保持者についても、帰国・再入国時の 14 日間待機の緩和措置は認められません。 その他の関連情報、詳細は外務省ホームページまで。 *6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639074 (佐賀新聞 2021/3/1) 日航、希望者に2千円でPCR、国内線の客、15日から 日本航空は1日、国内線に搭乗する希望者向けに2千円で新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査サービスを始めると発表した。日航が費用の一部を負担する。対象となる搭乗期間は今月15日から6月30日まで。搭乗日の7日前までの申し込みが必要。春にかけて転勤や進学で人の移動が多くなるため、安心して飛行機を利用してもらうのが狙い。日航の公式サイトで申し込むことができ、マイレージ会員の登録が必要となる。旅行会社などを通じた団体旅行は対象外。自宅に検査キットが届き、採取した唾液を指定の検査機関に返送する仕組み。返送費用は自己負担となる。結果はメールで本人に通知する。陽性判定が出た場合は搭乗できず、予約した航空券は手数料なしで取り消すことができる。日航は国際線の全乗客を対象に、渡航先で新型コロナの陽性と判定された際の検査や治療、隔離にかかった費用を補償するサービスも無償で提供している。 <女性蔑視の結果である日本の遅れ> PS(2021年2月22日):*7-1に、九電が経産省と同じ見解の原発の必要性を記載しており、「①エネルギーセキュリティ:日本のエネルギー自給率はわずか7%程度しかなく、殆どを海外からの輸入に頼っているため、エネルギーの多様性が重要」「②地球温暖化対策:原発はウラン燃料が核分裂した時に発生する熱を利用して発電しており、発電時にCO₂を排出しない」「③資源の安定供給:ウランは世界各地に分布しているので安定確保が可能で、使い終わったウラン燃料も再処理して燃料として再使用可能」「④地球環境への影響:発電時にCO₂を発生しない」「⑤太陽光は悪天候時・夜間は発電できず、風力は無風時には発電できないなど出力が不安定」「⑥安定的出力を見込めない電力は、ベース電源である原子力の代替として考えることが難しい」「⑦九電はエネルギーの長期安定確保・低炭素社会の実現に向け、国のエネルギー政策の動向を踏まえてバランスのとれた電源開発を行う」としている。 このうち、①②③④は、再エネこそ100%国産化可能で国富を失わずに安定供給でき、CO₂は排出せず、発電時に原発のように温排水や放射性物質を排出することもないため、環境にも地球温暖化にも原発より優れている発電方法だ。その上、原発のような電源地域への交付金の必要性や廃炉・最終処分場等の問題もないため、国民負担が非常に少ないのである。さらに、⑤⑥はスマートグリッドの使用・蓄電技術・広域送電等によって簡単に解決できるため、⑦の結論は発電時にCO₂を排出しないことだけを掲げて原発維持を主張しているにすぎない。 一方で、経産省や電力会社は意思決定層に女性が殆どおらず、非常に狭い視野に基づく理由を並べて現状維持(何も考えなくてよいため最も簡単な政策)を意図してきた。この傾向は、*7-2の森前会長の女性蔑視発言に「日本社会の本音が出た」などと述べた経団連会長にも現れており、再エネ推進・脱原発を主張してきた私に、日本の経済社会は「経済・物理に弱い女は黙っていろ」という馬鹿にした態度の人が少なくなかったのである。しかし、戦後の男女共学の下で同じ勉強をし仕事で経験を積んできた女性を馬鹿にしていたことが、日本の再エネ・電動化技術を遅れさせた原因であり、*7-3の経済同友会の桜田代表幹事は、「⑧女性側にも原因がないことはない」「⑨チャンスを積極的に取りにいこうとする女性が多くない」「⑩多様性を重視しない企業は存続すら危うい」等と言っておられるが、⑧⑨については、このように女性の能力を割引いて考え、女性の実績を認めない日本社会で、チャンスを積極的に取りに行くのはハイリスク・ローリターンもしくはハイリスク・ノーリターンなのである。そのため、⑩を徹底した上でも女性が尻込みしていれば、初めて「女性の側にも原因がある」と言えるわけだ。 そして、このような経験は、どの女性も持っており、それぞれのやり方で解決してきたため、*7-4の東京オリ・パラ組織委員会の森前会長の女性蔑視発言に多くの女性が怒ったのだが、これまで「わきまえて」きた女性は、女性の能力を割引いて考え、女性の実績を小さく評価する日本社会の“常識”を覆すのには貢献しなかったと言える。 *7-1:http://www.kyuden.co.jp/notice_sendai3_faq_necessity.html (九州電力より抜粋) 原子力発電の必要性 ●原子力発電は、なぜ必要なのですか。 原子力発電については、エネルギーセキュリティ面や地球温暖化対策面などで総合的に優れていることから、安全・安心の確保を前提として、その重要性は変わらないものと考えています。 ・エネルギーセキュリティ面 日本のエネルギー自給率はわずか7%程度しかなく、エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っています。その輸入元を見ても、一次エネルギー供給の約40%を占める石油は政情が不安定な中東に大きく依存しているなど、日本のエネルギー供給構造は極めて脆弱な状況にあります。エネルギー供給構造が脆弱な日本では、特定のエネルギーに依存せず、エネルギー資源の多様性を確保しておくことが重要です。日本は2度のオイルショックの経験から、省エネルギーに努めるとともに、原子力や石炭・天然ガスなど、石油に代わるエネルギーの開発・導入を進めてきました。エネルギー資源の多様性を確保する観点からも、原子力発電は必要な電源です。 ・地球温暖化対策面 CO2などの温室効果ガスは、地球温暖化の原因と言われています。原子力発電は、ウラン燃料が核分裂した時に発生する熱を利用して発電しているため、発電時にCO2を排出しません。原子力発電は地球温暖化防止の観点で、優れた発電方法の一つです。 ●原子力発電所の特長は。 ・資源の安定供給 燃料となるウランの供給先が、カナダ、オーストラリアなど世界各地に分布しているので安定した確保が可能です。一度使い終わったウラン燃料は、再処理して再び燃料として使うことが可能です。石油資源の節約になります。ウランは少ない量で大きなエネルギーを発生します。輸送・貯蔵も容易です。原子炉に一度入れた燃料は、1年間は取り替えずに発電できるので、燃料を貯蔵しているのと同じ効果があります。 ・地球環境への影響 発電時にCO2が発生しません。 ●風力や太陽光発電を推進すれば、原子力発電は必要ないのではありませんか。 当社は、国産エネルギーの有効活用、並びに地球温暖化対策面で優れた電源であることから、太陽光・風力・バイオマス・水力・地熱等の再生可能エネルギーを積極的に開発、導入しています。しかしながら、太陽光は悪天候時及び夜間は発電できず、風力は無風時には発電できないなど、気象状況や時間帯によって出力が左右される不安定な電源です。また、太陽光・風力は、雲の状況や風況により、時々刻々の出力変動が大きいことから、その変動を吸収する調整電源が必要です。一方、原子力は、年間を通じてフル出力で運転が可能な電源です。従って、安定的な出力を見込めない太陽光・風力は、ベース電源である原子力の代替として考えることは難しいと考えており、原子力・火力・水力などの電源と組み合わせることにより、電力の安定供給を確保していきます。 ●九州電力における電源開発の考え方は。 当社は、エネルギーの長期安定確保及び低炭素社会の実現に向けて、安全・安心の確保を前提とした原子力の推進や、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの積極的な開発・導入、および火力の高効率化などを推進してきました。当社の今後の電源開発計画については、国のエネルギー政策の動向などを踏まえ、バランスのとれた電源開発を検討していきます。 *7-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14794861.html (朝日新聞 2021年2月9日) 経団連会長「日本社会の本音出た」 森会長の女性蔑視発言 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は8日の会見で、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言について問われ、「コメントは差し控えたいなと思います」と断った上で、「日本社会っていうのは、そういう本音のところが正直言ってあるような気もします。(それが)ぱっと出てしまったということかも知れませんけど、まあ、こういうのをわっと取り上げるSNSってのは恐ろしいですよね。炎上しますから」と語った。問題になっている森氏の発言は「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」というもの。中西氏は「本音」の意味を問われると、「まず、女性と男性と分けて考える、そういう習性が結構強いですね」とし、「長い間、男は男、女は女で育てられてきましたし、それ以外のいろんな意味でのダイバーシティー(多様性)に対する配慮ってのは、まだまだ日本は課題があるんだろうなっていうのは思っていますが、それが、ぱっと出るか出ないか、そんな意味で申し上げました」と説明した。 *7-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/86349?rct=economics (東京新聞 2021年2月16日) 積極的な女性「まだ多くない」 経済同友会の桜田代表幹事 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は16日の定例記者会見で、企業で女性の役員登用が進んでいない理由を問われ「女性側にも原因がないことはない」とし、「チャンスを積極的に取りにいこうとする女性がまだそれほど多くないのではないか」との認識を示した。一方「生産性向上のための技術革新には人材の多様性が必要だが、経営者にはその危機感が足りない」とも指摘。多様性を重視しない企業は「存続すら危うい」と警鐘を鳴らした。辞任表明した東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言については「コメントするまでもなく論外」と批判した。 *7-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14806227.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2021年2月19日) 森前会長発言、女性たちに広がった怒り 性差別の社会へ「もうわきまえない」 伊木緑 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)による女性蔑視発言があった翌日。「女性が入ると会議に時間がかかる」実例として挙げられた日本ラグビー協会で、女性で初めて理事を務めた稲沢裕子・昭和女子大特命教授(62)に取材した。発言の報道に触れた時、「私のことだ、と思った」と言う。発言の後に起きた笑いについて尋ねた時の答えに、胸が締め付けられた。「私も笑う側でした」。稲沢さんが読売新聞記者になったのは、1985年の男女雇用機会均等法の制定前だ。「男社会の中で女性は自分だけという場が多く、笑うしか選択肢がなかった。笑いを笑いで受け流していた」。今回の発言を受け、ツイッターでは「#わきまえない女」のハッシュタグを添えた投稿がわき起こった。森氏が言った「組織委員会に女性は7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」にちなんだものだ。稲沢さんも「わきまえて」きたのだろう。ツイッターの声も「わきまえてなんかいない」という反論よりも、「わきまえてしまったこともあったが、もうわきまえない」という決意が目立った。怒りと共感が広がったのは、大きな組織の役員に就くような女性に限った話ではないからだ。たとえば新型コロナウイルス対策の給付金が世帯主にまとめて振り込まれたために自分で手にできなかった人。勤め先の客が激減し、補償もなくシフトを大幅に減らされた人。結婚後も自分の姓を名乗りたかったのに周囲を説得しきれずあきらめた人。いずれも最近、取材した女性たちの声だ。疑問や怒りを感じながらも、声を上げられなかったり、上げても聞き入れられなかったりして、結果的に「わきまえ」させられた経験のある女性は多い。男性だって同じだ、と思うかもしれない。でも考えてみてほしい。官民ともに意思決定層の大半を男性が占める社会で、女性たちの声が軽んじられ、意見しようものなら疎まれてきたことを。ジェンダー格差を意識せずに生きてこられたこと自体が特権であると、男性はまず自覚するべきだ。 <「うーまんちゅ《Woman衆》応援宣言」は有難い> PS(2021年2月24日追加):日本弁護士連合会会長も、*8-1のように、東京オリ・パラの組織委員会の前会長発言について、「①性別による差別を禁止する憲法14条1項違反」「②女性差別撤廃条約違反」「③男女共同参画違反」「④オリンピック憲章の精神違反」「⑤東京オリ・パラの多様性と調和という基本コンセプト違反」「⑥政府や民間企業が取り組んでいる男女共同参画社会の推進に逆行」「⑦日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いを露呈」「⑧さらに女性に『わきまえる』ことを求め、意見表明を控えよと言わんばかりだが」「⑨意思決定過程において多様な意見が忌憚なく述べられ反映されることは国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理」「⑩少数者が意見を述べることを制止するような風潮は健全な民主主義にも疑問が呈される」と、国際条約・法律・オリンピック精神・民主主義の理念からパーフェクトな批判をしておられる。今後は、裁判官・検事・弁護士・警察官・法律自体に潜む女性蔑視や女性差別にも注目して変えていただきたい。 また、組織や社会の意識改革を行い、幅広い分野で女性登用を推進するために、*8-2のように、沖縄県が「うーまんちゅ応援宣言」に賛同する企業を募集しておられるそうで有難い。さらに、少子化で“生産年齢人口”が減る中、年齢や性別で差別すればそれだけ有能な人材を逃すため、高齢者や女性を公平・公正に登用する機会均等は必要条件であることを加えたい。 なお、*8-3は、「⑪女性蔑視を批判する人からも女性蔑視を感じる」「⑫女性蔑視は、それを見過ごしてきた社会全体の問題である」「⑬舛添前東京都知事の『気配りの達人だからこそ失言も多くなる』という擁護はズレている」「⑭別の属性を根拠とした抑圧を持ち出すのは女性蔑視問題の矮小化だ」「⑮『女性が生きやすい社会は男性も生きやすい』という説明は男女間に存在する量的・質的な抑圧の差を矮小化し、女性の人権や尊厳に理解が及んでいない」「⑯男性中心社会は女性たちが訴える機会を散々奪ってきた」等と記載された掘り下げた記事だ。⑪⑫⑭⑮⑯は全くそのとおりで、そこまで言及できるようになったのかと思うが、舛添氏はキャリア・ウーマン好みだそうで私は女性蔑視を感じたことがないので、⑬は苦しい擁護だと思う。 (図の説明:左図のように、女性の賃金は2019年でも男性の74.3%で、中央の図のように、格差が縮まっているといっても、あらゆる勤続年数で女性の平均給与は男性より低い。また、学歴別に比較しても、あらゆる学歴で女性の年収は男性の年収より低く(70%超程度)、人生の後半に行くほど差が大きい。これにより、女性差別は、女性を低賃金労働者に据え置き、女性から搾取する手段として使われてきたのだということがわかる。これは、女性にとっては「心を傷つけられた」という精神的被害だけではなく、経済的損失という大きな実害があるのだ) *8-1:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210219.html (2021年2月19日 日本弁護士連合会会長 荒 中) 性差別を許さず、男女共同参画の実現を推進する会長談話 2021年2月3日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)の会長(当時)は、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)の臨時評議員会において、スポーツ団体ガバナンスコード(スポーツ庁・2019年6月10日策定)が設定した女性理事の目標割合(40%以上)の達成に関連して、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」、「私どもの組織委員会…(の女性は)みんなわきまえておられて」などと発言した。全世界が注目する東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の長であり、しかもかつて我が国の内閣総理大臣の立場にあった人物が、公式の場で平然と女性蔑視・差別を内容とする発言を行ったことは社会に大きな衝撃を与え、国内外から厳しい非難の声が上がった。かかる一連の発言が、性別による差別を禁止する憲法14条1項及び日本が批准する女性差別撤廃条約の理念に反し、男女共同参画の理念にも悖ることは、改めて指摘するまでもない。さらに、オリンピック憲章は「権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」と定め、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会は多様性と調和を基本コンセプトとしている。上記発言は、オリンピック憲章の精神にも真っ向から反するものである。また、JOC及び組織委員会は、本件に対し、直ちに問題点を明らかにするとともに、差別を許さない組織への具体的な改善策を示す等すべきであった。しかし、適時に適切な対応が取られることはなく、むしろJOC会長は「(謝罪、撤回したのだから会長職を)最後まで全うしていただきたい」などと述べ、擁護の姿勢さえ示していた。性差別解消や健全な民主主義発展のため、意思決定過程により多くの女性が関与すべきことは、現代社会における普遍的価値である。上記一連の事象は、政府や民間企業が挙げて取り組んでいる男女共同参画社会の推進に逆行することはもちろん、今なお日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いの露呈にほかならない。さらに、同会長の発言は、女性に「わきまえる」ことを求め、意見の表明を差し控えよと言わんばかりであるが、意思決定過程において多様な意見が忌憚なく述べられ反映されることが必要であることは、国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理である。女性に限らず少数者が意見を述べることが制止されるような風潮があるならば、多様性と調和を基本コンセプトとする東京オリンピック・パラリンピックの存在意義が問われるだけでなく、ひいては我が国の健全な民主主義にも疑問が呈される問題である。当連合会としても、かかる事態を座視することはできない。当連合会は、JOC及び組織委員会に対し、多様性と調和の実現を目的としつつ、効果的な再発防止策の作成と実施、ガバナンスの見直し、前掲のスポーツ団体ガバナンスコード(女性理事の目標割合40%)達成等に向けて、いち早く取り組むことを望む。当連合会も、「第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」を策定し、性別による差別的取扱いを厳しく禁止するとともに、男女共同参画実現のための目標を定めて取組みを続けているが、今後も性差別を許さず、男女共同参画社会の実現に向けた活動を積極的に展開していく所存である。 *8-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1276386.html (琉球新報 2021年2月23日) 女性登用促進、沖縄県が賛同企業募集「うーまんちゅ応援宣言」 組織内の改革や社会の意識改革を図り、幅広い分野での女性登用を推進するため、県は県内の企業や団体から「Womanちゅ(うーまんちゅ)応援宣言」を募集している。来年度の第6次県男女共同参画計画策定に先駆けてジェンダー平等の実現に取り組むのが狙い。宣言者は女性活躍を推進する県内各分野のリーダーが対象。県女性力・平和推進課が郵送やメール、ファクシミリで受け付けている。申請書は県ホームページ(HP)からダウンロードできる。企業や団体の宣言内容は県ホームページ(HP)などで公開する予定。 *8-3:https://webronza.asahi.com/culture/articles/2021021100002.html?iref=comtop_Opinion_06 (朝日新聞 2021年2月12日) 辞任表明、森喜朗氏的な女性蔑視は、男性誰もが持っているのだから、批判する人々からも感じる女性蔑視を掘り下げてみた 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏が、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」「私どもの組織委員会にも、女性は(中略)7人くらいおられますが、みんなわきまえておられて」などと女性蔑視発言をしたことが、大きな問題となりました。これに対して抗議の意を込めた「#わきまえない女」がTwitterのトレンド1位になったり、各国の在日大使館が「#don't be silent」というハッシュタグを付したムーブメントを展開するなど、連帯も生まれています。その後、「逆ギレ」とも言われた森氏の会見や、「余人をもって代えがたい」(自民党の世耕弘成参院幹事長)といった言語道断な擁護論もありましたが、国内外からの厳しい批判を受けて、2月12日、森氏はとうとう辞意を表明するまでに追い込まれました。女性蔑視は発言した本人だけではなく、それを見過ごしてきた私たち社会全体の問題でもあるという認識も広がりつつあるように思います。多くの世論調査で、「辞任すべきだ」という声が多数を占めたように、女性蔑視に関する社会の問題意識が、確実に変化しているように感じます。 ●森氏を批判しつつもどこかズレている人たち その一方で、森氏を批判する著名人(主に男性)の中には、女性に矛先を向けたり、「ズレている」と思われる意見も散見されます。舛添要一前東京都知事は、自身のTwitterで「森会長の女性蔑視発言は批判に値する」と言いつつも、「気配りの達人だからこそ失言も多くなる」と擁護したり、アメリカの女性参政権運動を模倣して野党の女性国会議員が白いスーツを着用した「ホワイトアクション」に対して、「失笑を禁じえない」と見下すような投稿もしていました。衆院予算委で東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長発言に抗議の意を表すため、白いジャケットを着る立憲民主党の女性議員ら=2021年2月9日 ●「#わきまえない男」は「#わきまえない女」と対にはならない ここまであからさまではなくとも、「#わきまえない女」の波に乗るように一部の男性著名人が投稿した「#わきまえない男」も誤った批判だと思います。彼らはおそらく自分よりも権力を持つ者から「わきまえろ」と言われて忸怩たる思いをした経験があり、「自分もそのような権威主義的抑圧には反対だ!」と言いたいのでしょう。それにNOを言うこと自体は大切です。しかし、森氏の発言で問題になったのは、あくまで女性蔑視です。確かに、男性にも「わきまえろ」という圧力はあるものの、それは主に「年下のくせに」「役職が低いくせに」「新参者のくせに」といったように、別の属性を根拠とした抑圧であって、「男のくせに」という性を理由とした抑圧は、この男性中心社会にはほぼ存在しないのではないでしょうか。つまり、彼らが言いたいのはあくまで「わきまえない年下」「わきまえない部下」「わきまえない新参者」であり、それを「#わきまえない女」と並列するのは不適切です。むしろ、「#わきまえない女」を“中和”させ、「女性」を理由とする強烈な抑圧という今回の問題の本質を見えなくしています。それは女性蔑視問題の矮小化に他なりません。仮に、ここで「#わきまえない女」と対にするのであれば、「#女性に対して性別を理由にしたわきまえる態度を一切求めも期待もしないし、そのような男性を公然と批判できる男」だと思います。 ●「男性の利益」を根拠に説得してはいけない 次に、「女性が生きやすい社会は、男性も生きやすいのです(なので、森氏は辞任しなければならない)」といった発言も、問題を同様に矮小化する危うさがあります。「男性の生きづらさ」という問題は確かにあるものの、それは量・質ともに女性の問題とは大きく異なります。確かに、両者に等しく圧がかかる部分もありますが、基本的には非対称なはずです。つまり、正確に言えば、「女性が生きやすい社会=男性も生きやすい社会」ではなく、「女性が生きやすい社会∩男性も生きやすい社会(両者に共通する部分がある)」です。それにもかかわらず、まるで片方が成立すればもう片方も成立するかのように規定すれば、男女間に存在する量的かつ質的な「抑圧の差」を見えにくくしてしまいます。このような主張は、その正当性を訴えるために、「男性の利益」を根拠としています。ですが、「あなたにも利益があるから」という形で説得をして、仮に森氏のような人たちが賛成に回ったとしても、彼らは自分の利益目当てで賛成したに過ぎません。女性の人権や尊厳の問題には何も理解が及んでいないのです。それでは意味がありません。環境や非正規雇用の問題も含め、企業や自分たちの利益ベースで物事を判断してきことが様々な社会問題を招いてきたのです。ですから、なるべく利益を根拠とした説得は行わないほうがよいでしょう。 ●わきまえない女を「わきまえた女」にしたいのか? では、なぜ彼らはわざわざ「男性の利益」を持ち出すのでしょうか? おそらく、「男性と女性が対立している今の状況が嫌だから、女性にわきまえた態度を求める男性たちにも、彼女たちを受け入れてほしい」と思っているのでしょう。その解決策を考えた時に、「男性のメリットにもしっかりと配慮できる女性なんです!とアピールすれば受け入れてもらえるに違いない!」と考えた結果のように思います。ですが、「男性のメリットにもしっかりと配慮できる女性」というのは、結局「“わきまえた女”」に他なりません。「私たちはわきまえない女です」と言っている女性たちのすぐ横で、「彼女たちはわきまえた女です!」と否定しているわけで、結局森氏の女性蔑視と大きなくくりでは同類に思えて仕方ありません。もちろん、絶対に「男性の利益」を持ち出してはいけないとは思いません。ですが、その際は「両者の利益には共通する部分“も”ある」と正確な言い回しをすべきであって、「女性の主張を男性に受け入れてもらえるための説得材料」としては用いるべきではないでしょう。 ●男性を出すことで女性をまた“バーター”扱いしている そもそも、私たちが暮らす男性中心社会は、これまで女性たちが訴える機会を散々奪ってきました。そしてようやく議題として取り上げられたとしても、結局「男性が抱える課題と抱き合わせにされる」という、まるで“バーター”のような扱いが少なくありません。いつまでたっても一人前の主張として単独では扱われなかったわけです。日本の行政が低用量ピルを何年も認可しなかったにもかかわらず、バイアグラはすぐに認可され、それが批判されるとようやくピルが認可されたという歴史に残る女性差別は、まさにその典型例でしょう。そのような歴史を振り返れば、今回の森氏の件についても、いま「男性の生きづらさ」の問題を同列に机上に乗せるタイミングではありません。まずは当事者である女性の問題に限定するべきだろうと思います。 ●「娘のために」という父親はなぜ「妻のために」とは言わない? 3つ目は、記者会見で森喜朗氏に鋭い切り込みを入れて、多くの人から称賛されたTBSラジオの澤田大樹記者の発言についてです。彼の権力者と対峙する姿勢はとてもすばらしかったのですが、彼がその後にTwitterに投稿した「自分の娘たちが大人になったときに『わきまえろ』と言われたら、どう思うか」という発言には、少々違和感を覚えました。というのも、母親だって、妻だって、(場合によっては)姉や妹だって、同世代の女性の友人たちだって、「わきまえろ」という抑圧の言葉を既にたくさん浴びせられてきたはずだからです。それなのに、どうして真っ先に思いを馳せた対象が娘さんだったのでしょう?確かに、「娘のために」という父親は少なくありません。でも、娘が受けるであろう「未来の不利益」は想像できるのに、自分の周りにいる大人の女性が既に受けた(or受けている)であろう莫大な「過去や現在の不利益」に対して、今なぜ想像力が向かないのでしょうか。そこに、森氏のような女性蔑視の残滓が残っていないか、「娘のために」と言う男性たちは自身に問うて欲しいのです。 ●自分の周りにいる女性に「わきまえろ」と思っていないか 娘という存在は否応なしに親に庇護されている立場であり、多少の口答えをしても、子として“わきまえた女”にならざるを得ない存在です。一方で、大人になれば、個としての意思や論理を持ち、精神的にも経済的にも自立をして、時として男性たちと利害が対立し、批判や非難の矛先を男性に向けることもあります。そのような“わきまえない態度”に対する嫌悪感や忌避感がどことなく存在している男性は少なくないのではないでしょうか。「自分に矛先を向けられるのは嫌だから、彼女たちにはわきまえていて欲しい」と期待している部分があるのかもしれません。このように、男性中心社会で暮らしている私たち男性には、多かれ少なかれ、森氏のような女性蔑視が心の中に潜んでいるように思います。人によって、“大森”なのか、“中森”なのか、“小森”なのかは分かれるでしょう。森氏の発言のような酷いケースには批判を加えつつも、合わせて自らを顧みるきっかけにしたいところです。もちろん私自身も含めて。 <投資は、ESG企業に行うべき> PS(2021年3月5日追加):*9-1のように、ドイツでは、メルケル首相が2011年に日本で起こったフクイチ原発事故を受けて即断した脱原発が支障なく進み、2022年末には全17基の原子炉廃止が計画通り実現するそうだ。日本は、再エネが豊富であるのに、事実ではないできない理由を並べて原発活用を推進し、*9-5のように、アンモニアの輸入まで行おうとしているのだから、エネルギーの高コスト化で経済の停滞を招き、エネルギーの自給率を下げて国力を落とすことを望んでいるかのようである。 また、*9-2のように、①世界の資産運用会社は投資先の温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げ始めており ②2050年排出ゼロの達成に向けて新たな運用商品の提供を始め ③「排出ゼロ」を目指すマネーは約2000兆円と世界の投資マネーの2割に達して ④排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが一段と高まったそうだ。また、米カリフォルニア州職員退職年金基金などは「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」を設立し、スウェーデンの公的年金AP4は2040年までの排出実質ゼロを打ち出し、米ニューヨーク州退職年金基金も2040年までの排出ゼロを掲げているが、日本勢の動きは鈍いのだそうで、日本の対応には相変わらずキレがない。 世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、*9-3のように、2019年度運用実績は4期ぶりとなる損失(8兆2831億円の赤字)を計上し、赤字幅はリーマン・ショックのあった2008年度以来の大きさを記録している。GPIFは、国民年金と厚生年金の積立金を国内外の株式や債券に分散投資しており、運用実績は国民の年金資金を直撃するため、有望企業に投資して儲かってもらわなければ困るのであって、ゾンビ企業の救済に使われるのは目的外使用である。有望企業の要件が、ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)を考慮した経営を行う企業であることは既に間違いないため、投資家は投資先の決定にあたってESGを考慮すべきことになっている。 なお、国際エネルギー機関(IEA)が、*9-4のように、日本政府が掲げる2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ実現に向け、2030年までに脱炭素電源の比率を現行計画より一段と引き上げる必要性を指摘しており尤もだが、この脱炭素電源に原発やアンモニアが含まれないのは当然のことである。 *9-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/89289 (佐賀新聞 2021年3月3日) ドイツ、来年末に脱原発を実現 環境相、再生エネルギーへ集中 ドイツのシュルツェ環境相は3日までに、2011年の東京電力福島第1原発事故を受けて決めた脱原発が「全く支障なく進んでいる」と強調、22年末に全17基の原子炉廃止が計画通り実現するとの自信を示した。事故から10年になるのを前に共同通信の書面インタビューに応じた。事故で原発の危険性を確信し、現在は再生可能エネルギー拡大に集中しているとし、「原子力は危険かつ高コストで、各国に利用中止を呼び掛けたい」と指摘。原発活用政策を維持する日本と一線を画した状況が浮き彫りになった。シュルツェ氏は原発の安全対策を統括している。 *9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD292C30Z21C20A2000000/?n_cid=NMAIL006_20210302_Y (日経新聞 2021年3月2日) 世界の投資マネー、2割が脱炭素へ 投資先の選別厳しく 資産運用会社の間で投資先の温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げる動きが広がっている。世界最大の運用会社ブラックロックも目標設定を検討。「排出ゼロ」を目指すマネーは約2000兆円と世界の投資マネーの2割に達する見通しだ。排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが一段と高まってきた。運用資産8.7兆ドル(約930兆円)の米ブラックロックは2月、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを公表した。気候変動に影響を与える主要企業など世界1100社を対象に対話や議決権行使を通じて一段の対策を求める。50年排出ゼロの達成に向け新たな運用商品の提供も始める。ブラックロック・ジャパンの有田浩之社長は「ネットゼロ社会に向かうのを投資の面でサポートするのが使命」と語る。ブラックロックはネットゼロ・アセット・マネジャーズ・イニシアチブへの参加も検討する。同組織は投資先全体の温暖化ガス排出量を50年までに実質ゼロにすることを目指す運用会社の団体。20年12月に仏アクサ・インベストメント・マネージャーズやアセットマネジメントOneなど30社が共同で設立し、運用資産合計は9兆ドルにのぼる。約1.3兆ドルの運用資産を持つ米インベスコやニッセイアセットマネジメントなども参加を検討中。排出ゼロを明確に目指すマネーは少なくとも約19兆ドルにのぼり、今後もさらに増えるとみられる。投資先の排出実質ゼロをめざす動きは、年金基金や保険会社など資金の出し手(アセットオーナー)が先行してきた。米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)や独保険大手アリアンツなどは19年に「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」を設立。参加は当初の12社から33社に広がり、運用資産は合計5.1兆ドルにのぼる。スウェーデンの公的年金AP4は今年2月、40年までの排出実質ゼロを打ち出し、米ニューヨーク州退職年金基金も40年までの排出ゼロを掲げる。投資家の脱炭素志向が強まり、排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが高まっている。45年までに投資先の脱炭素化を目指すスウェーデンの公的年金AP2は2020年12月、外国株式と社債運用で新たに約250社からの投資撤退(ダイベストメント)を決めた。ブラックロックも温暖化ガス排出量が多く気候変動対応が不十分な企業を、運用担当者が投資先を選ぶアクティブ運用の投資対象から外す可能性に言及した。ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンスは20年11月、投資先に対して石炭火力発電所の新規建設に加え、すでに決まった建設計画もすべて撤回するよう要請した。こうした世界的な潮流の中で、日本勢の動きは鈍い。国内の運用会社で排出ゼロ目標を打ち出したのはアセットマネジメントOneのみ。ニッセイアセットマネジメントなどが検討中だが、出遅れ感は否めない。年金や保険など運用会社の顧客であるアセットオーナーは排出ゼロの方針を明確にしていないところが多い。国内で排出ゼロ方針を明らかにしたオーナーは日本生命保険のみ。運用会社は顧客の意向をつかみ切れていない。機関投資家はESG(環境・社会・企業統治)の観点から投資先企業に排出削減を求めてきた。だが、それで削減量が大きくなったわけではない。対策が遅れれば2100年に世界の国内総生産(GDP)の25%が失われるとの試算もある。脱炭素目標を掲げた投資家の動きが企業をどう変えるかに注目が集まる。 *9-3:https://moneyworld.jp/news/05_00029063_news (Quick Money World 2020/7/6) 世界最大の年金基金・GPIFが高めるESG投資の比率 世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が7月3日発表した2019年度運用実績は厳しいものだった。4期ぶりとなる損失(8兆2831億円の赤字)を計上し、赤字幅はリーマン・ショックのあった08年度以来の大きさを記録。期間損益率は-5.20%(前期は+1.52%)で過去3番目に悪い数字となった。コロナ禍が直撃した運用成果となったが、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のウエイトが大幅に上昇していることに留意したい。 ■四半期として過去最大となる損失 GPIFは19年4~12月期に9兆4241億円の黒字を計上していたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた20年1~3月期に17兆7072億円の赤字(損益率-10.71%)に転落し、四半期として過去最大となる損失・損益率の計上を余儀なくされた。1~3月期は外国株式が10兆2231億円の赤字、国内株式が7兆4185億円の赤字と国内外株式の急落が収益を圧迫した。 ■ESG投資のウエイト上昇 GPIFは国民年金と厚生年金の積立金を国内外の株式や債券に分散投資している。運用資産額は20年3月末時点で150兆6332億円となり、19年3月末(159兆2154億円)に比べて約5.4%減少した。積立金全体の資産構成は、国内株が22.9%(前年同月は23.6%)となり、基本ポートフォリオの中央値(25%)を大きく下回ったが、ESG投資の割合が増加していることが特筆されよう。国内株式に占めるESG投資の割合は11.3%(前年同月は6.0%)にほぼ倍増し、スマートベータや伝統的アクティブ運用の割合を上回った。GPIFは17年度に日本株の3つのESG指数(FTSE RussellによるESG全般を考慮に入れた総合型指数である「FTSE Blossom Japan Index」、MSCIによる総合型指数「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、MSCIによる性別多様性に優れた企業を対象とする「MSCI日本株女性活躍指数」)を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始した。さらに、18年度にはESGのうちE(環境)に特化したS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社による炭素効率性等に優れた企業を対象とする「S&P/JPXカーボンエフィシエント指数」に連動するパッシブ運用も開始。これら4つの指数に連動する運用残高は20年3月末時点で4兆155億円(前年同月比1兆7060億円増)となった。野村証券によれば、20年3月末時点でGPIFの保有比率が高い業種は銀行、建設、電気機器などで、資金純流入が大きかった個別銘柄として東京精密(7729)、ニフコ(7988)、ネットワン(7518)、島忠(8184)などを挙げた。19年度にGPIFがESG投資を積極的に進めたことを踏まえると、これらの銘柄に向けられた資金の多くがESG投資によるものだった可能性があると指摘している。 ■その他年金でもESG投資開始 ESG投資に関して、短期的に運用収益の向上につながるか懐疑的な見方が少なくない。ただ、GPIFの年金運用は、長期的な観点から安全かつ効率的に行うことが求められていることから、長期のリスク管理としてESGを考慮した投資活動が行われている。GPIFが19年度に運用リスク管理ツールを新たに選定するなど、リスク管理を一層強化しており、しばらくは国内株に占めるESG投資の割合が高まる傾向が続くきそうだ。また、GPIF以外の年金ではESGに消極姿勢が目立っていたが、地方公務員の年金を運用する地方公務員共済組合連合会は20年度にも日本株のパッシブ運用でESG投資を開始するもよう。今後もESG関連の動きから目が離せなそうだ。 <金融用語>GPIFとは 正式名称は年金積立金管理運用独立行政法人。日本の公的年金の積立金の管理・運用を行う独立行政法人のこと。世界最大規模の運用資産(2016年末時点で約145兆円)を保有し、英語表記「Government Pension Investment Fund」の頭文字をとって「GPIF」と呼ばれる。 国内債券中心に運用を開始したが、デフレ脱却後の経済環境の変化に対応し収益向上を目指すため、2014年に基本ポートフォリオを見直した。 2017年7月時点の基本ポートフォリオは、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%。また2017年7月からは国内株式運用の一環としてESG投資を開始した。 前身は1961年に設立された年金福祉事業団で、2001年の特殊法人改革により年金資金運用基金が設立。2006年には年金積立金の運用改革で年金積立金管理運用独立行政法人へ改組した。 *9-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/640544 (佐賀新聞 2021/3/4) 日本、一段の脱炭素電源増が必要、30年までに、IEAの報告書 国際エネルギー機関(IEA)は4日、日本のエネルギー政策に関する審査報告書を公表した。日本政府が掲げる2050年の温室効果ガス排出実質ゼロの実現に向け、30年までに脱炭素電源の比率を現行計画より一段と引き上げる必要性を指摘した。現行計画は30年度の発電量に占める比率について、再生可能エネルギーが22~24%程度、原発が20~22%程度、火力が56%程度と設定。夏ごろに政策指針「エネルギー基本計画」の改定を予定している。報告書は、日本が依然として二酸化炭素(CO2)を排出する化石燃料に大きく依存していると説明。排出実質ゼロの実現には低炭素技術の普及の大幅な加速や、規制緩和が必要だとした。原発再稼働が想定より遅れた場合の電力不足分を埋める方法の検討も訴えた。CO2に課税する炭素税などの活用も選択肢の一つだと指摘。企業の技術開発を促すことにつながるとした。ビロルIEA事務局長はテレビ会議方式で資源エネルギー庁の保坂伸長官と会談し「エネルギーの転換を進め、持続可能な経済成長をしてほしい」と述べた。IEAは加盟国のエネルギー政策を審査しており、日本の報告書の発表は16年9月以来、約4年半ぶり。IEAは4日、排出実質ゼロに関する国際会議を31日に開催し、米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)や梶山弘志経済産業相らが参加予定だと明らかにした。 *9-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210305&ng=DGKKZO69681670V00C21A3MM8000 (日経新聞 2021年3月5日) 大電化時代(5)サウジからアンモニア 再生エネ輸入に熱視線 国土の狭い日本で再生可能エネルギーをかき集めても限界がある。ならば国境を越え、世界の力を借りる。輸入がカーボンゼロのカギを握る。2020年秋、サウジアラビアを出た貨物船が日本に到着した。積み荷は40トンのアンモニア。国営石油会社サウジアラムコの関連設備で、天然ガスから作った。国内3カ所の施設に運び込み、火力発電での燃焼実験をした。石炭や天然ガスに混ぜても、アンモニアだけでも燃やせた。「既存の火力発電所を使えて大きな追加投資もいらない。アンモニアは脱炭素の切り札になる」。実験に関わった三菱商事の松宮史明・石化事業統括部長は話す。 ●グリーン水素に アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない。石炭や液化天然ガス(LNG)に混ぜた分だけCO2を減らせる。肥料や冷媒として広く流通し、貯蔵や輸送も容易。政府は30年に年300万トンのアンモニア燃料を導入することにしている。石炭火力で燃料の20%に混ぜると、100万キロワットの大型設備6基分に相当する。オーストラリアでは風力や太陽光で水を電気分解し、CO2を排出しないグリーン水素を作る。日本に運び、燃料電池車や水素発電に生かす。岩谷産業は水素の製造や輸出で豪クイーンズランド州の州営電力会社スタンウェルと提携した。30年代初頭までに年間28万トンの水素を生産する計画。約30万トンの水素があれば、原子力発電所1基分にあたる100万キロワットの発電所を動かせる。スタンウェルのリチャード・バン・ブレダ最高経営責任者(CEO)は「シンガポールなどからも引き合いがある」と話す。水素やアンモニアの国際争奪戦が始まり、日本も国を挙げた対応を迫られる。 ●地元理解難航も 政府は50年までに再生エネが電源に占める比率を現状の3倍近い50~60%に高める。障害は地理的な制約だ。太陽光パネルを置ける森林を除く土地面積はドイツの半分。洋上風力も適した海の面積は英国の1割強だ。あつれきも出始めた。九電工などが長崎県佐世保市の離島で進める太陽光発電。一般家庭約17万世帯に電気を供給する「日本最大規模」の計画だが、地元の合意形成が難航する。目標の年度内の着工は難しそうだ。千葉県銚子沖の洋上風力事業では、地元が設置する漁業振興などの基金への拠出を事業者に求める。輸入に活路を見いだすのは資源小国・日本の伝統でもある。戦後の高度経済成長も、原動力は原油の輸入にあった。物価上昇や労使紛争の増加で石炭に見切りをつけ、石油にカジを切った1950年代。中東の油田開発にも関与し、エネルギーの安定供給につなげた。エネルギー自給率は1割程度で、輸入依存は国家の安全保障を危うくしかねない。環太平洋経済連携協定(TPP)などをテコに国際協調を進め、供給網を整える努力が欠かせない。原油や天然ガスと同じく、再生エネもまた戦略的な海外調達の腕が問われる。「80%まで再生エネを導入すると、太陽光パネルを日本中の建築物に設置し、船の航行に支障があるところにも洋上風力を設置することになる」。政府が昨年末にまとめたグリーン成長戦略。できない理由を並べたようで、さすがに政府も消去したが、当初はこんな表現が検討された。世界の視線は異なる。エネルギー調査会社を営むヤラン・ライスタッド氏は「ダムに太陽光パネルを浮かべ、田んぼにパネルを並べる。日本で再生エネを増やす方法はまだある」と話す。限界まで導入し、足りなければ海外に頼る。輸入は再生エネ不足を埋める最後のピースになる。
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2020,06,09, Tuesday
(図の説明:左と中央の図のように、米国とフランスでは、新型コロナの流行期に超過死亡率が発生している。これは、検査数が足りず、患者の把握が不十分であれば当然生じるものだが、日本では、右図のように、3月以降の超過死亡率は公表されていない) (1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政 健康保険等の保険が適用される医療費・薬代は非課税取引とされているため、患者が医療機関で保険を使って診療を受けた場合に支払う医療費には消費税が加算されない。しかし、病院が購入した財・サービスの仕入れには普通に消費税がかかり、非課税売上に対する仕入税額控除はできないため消費税を転嫁できず、消費税分をすべて医療機関が負担することになっている。(https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/6205.htm 参照) これは他産業と比較して著しく不公平・不公正であるため、「保険が適用される診療だから消費税を課さない」ということを貫徹するのなら、非課税取引ではなく0税率の課税取引か免税取引として医療機関が支払った消費税は医療機関に還付すべきだ。この不公平・不公正税制により、コロナ禍以前から病院経営は圧迫され、医療機関の弱体化や危機は起こっていたが、これが続くと、既にある医療システムが崩壊するとともに、医療従事者の質が落ち、国民の命がさらなる危険に晒される。 この点について、*1-1のように、日本病院会が、「(現場を知らない素人の思い付きで部分的に行われる)診療報酬への上乗せでは不公平・不公正を解消できないため、課税化への転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきだ」と2019年8月7日に、2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出したが、今のところ無視されている。 なお、一つの医療法人が、「医療福祉」と「その他の産業」の双方を事業として行っている場合は、他の産業と同様、仕入れを売り上げに紐づけしたり、案分したりして計算するのが適切だと考える。そのほか、(何故か)著しく高価な医療器械の購入や個室・陰圧を標準とした病室への設備投資を促進する税制を拡充し、特別償却や加速償却を可能にすることも重要だ。 さらに、基幹病院として公的運営が担保された医療法人は、赤字になっても維持しなければならない診療科や病床があるため、国もしくは地方自治体からの補助金や寄付制度が必要である。 このように、不公平・不公正な消費税制のため、*1-2のように、全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッド等の購入時に支払った消費税を診療費に転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかったそうだ。このほか、診察に使う機器やガーゼなどの消耗品は病院が購入時に消費税も支払うが、病院の負担になっている。私大の付属病院はじめその他の病院でも同じことが起こっている。そのため、病院側はコスト削減の工夫を重ねているそうだが、医療器具は日本とは思えない粗末なものが多く、衛生器具を節約するのは危険であるため、まずは消費税制の不公平・不公正を解消すべきだ。 JA厚生連の病院も、*1-3のように、経営状況が厳しいそうだが、消費税10%への増税で医業収益が減っていたことに加えて、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収になっているのだ。基幹病院は、いつでも満床では困るのであって、普段から空床確保分も含めた診療報酬を支払っておくべきだ。そのため、新型コロナで初めて思ついたように、減収支援・医療従事者への危険手当・医療物資や機器の配給体制・病院が赤字続きで地域医療が崩壊しないようにしなければならない等々と言っているのは、近年の厚生行政の失敗にほかならない。 (2)新型コロナの検査抑制による医療崩壊 1)人命よりも行政の組織防衛優先の考え方 確かに、安倍首相や官邸は「しっかりやります」と繰り返したが、*2-1のように、厚生労働省の動きは一貫して鈍く、PCR検査は1日2万件に届かなかった。その背景にあったのが国立感染症研究所が感染症法15条に基づいて2020年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」で、「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。 検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わったが、「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」という限定付きで、その姿勢は2020年5月29日の最新版でも変わらないそうで、非科学的この上ない。しかし、厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いたため大都市中心に経路不明の患者を増やし、日本全国で外出を自粛しなければならない羽目になった。 厚労省は、自らが適当に作ったルールにこだわり、現実との齟齬を無視するような感染症対策の失敗は今回が初めてではなく、2009年の新型インフルエンザ流行時も疫学調査を優先してPCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中して、いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかって関西の病院を中心に人々が殺到し、2010年にまとめた報告書で反省点を記した。 その内容は、「保健所の体制強化」と「PCR強化」だそうだが、保健所を通したことがPCR検査が目詰まりになった原因だ。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文科省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰で、首相が「使えるものは何でも使えばいいじゃないか」と語っても組織防衛の方が優先する意識では、厚労省は命を託すに足りない組織なのである。さいたま市の保健所長は、「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」と話したが、これは事実だろう。 19世紀に始まった日本の官僚機構は、日本が後進国で先進国の欧米諸国を目標にして駆け抜ければよかった時期には強力に機能したが、日本が先進国となり自らがモデルを作らなければならなくなってから機能しなくなった。その理由は、官僚機構は、前例や既存のルールにしがみつきがちで、目の前の現実を把握し、それに対応しながら工夫して新しいものを作りだすことが苦手な組織だからである。 政府が有効な対策を打たなかったため、コロナ第2波に備えて必要なのは「日本モデル」の解体だと、*2-2は主張している。ただし、原因は、安倍首相ではなく、厚労省はじめ行政であり、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができたのは、検査すら十分に行わないため国民が危機感を感じて自粛したという「日本ならではのやり方」だったのだ(!)。 こうなった理由は、COVID-19が指定感染症に指定されたためで、これにより「①感染者は無症状でも強制入院となり」「②厚労省はこの時COVID-19の無症状感染者の存在を想定しておらず」「③厚労省が指定感染症に指定する4日前の1月24日には、『ランセット』が無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた」のだそうだ。さらに、「④無症状者も入院させなければならないため早くから病院体制の崩壊が心配され」「⑤これがPCR検査の大幅抑制に繋がり」「⑥厚労省担当課の勉強不足と不作為が国家的悲劇を生み、国立感染症研究所・保健所・地方衛生研究所が束になって行ったのが『日本モデル』」なのである。 また、「⑦新型コロナ襲来に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制は殆ど歯が立たず、多くの『超過死亡』を出したが根拠となる数字の説明がなく」「⑧PCR検査による新規感染者数はCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるため、『ランセット』が単純な超過死亡数をリアルタイムで活用することを求めており」「⑨体制としての保健所の限界は、PCR検査体制についても、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらないという状況だった」のだ。従って、保健所の人員を増やすのではなく、検査に保健所の仲介をなくすことが必要不可欠なのである。 2)検査抑制による医療機関の外来診療拒否と重症化は、医療崩壊そのものである PCR検査が抑制されたことによって、*2-3にも、「⑩留学先のカナダから帰国して間もない女性が39度近い熱を出したが、医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話も繋がらず、内臓疾患だったことが判明した」「⑪日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり」「⑫政府は検査能力を増強したが、目標の『1日2万件』を達成したが、実際の検査数は半数にも満たなかった」「⑬同様の事例が各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースも多かった」という状況になった。 重症化リスクのない人にはPCR検査は不要だと何度も聞かされたが、*2-4のように、新型コロナの感染者が心臓・脳・足などの肺以外で重い合併症を患う症例が世界で相次ぎ報告されており、回復した人も治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクが指摘されている。しかし、ウイルスは診療科に分かれて感染するわけではないため、重症化するにつれて身体全体に症状が出るのは当然なのである。 また、検査しなかったために新型コロナと判定されずに亡くなった方は、*2-5のように、「超過死亡」に入るが、今年は偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多く、毎週20〜30人の超過死亡が起きていたのに、データを発表した感染研は「原因病原体が何かまでは分からない」としている(??)。 (3)新型コロナの病院への一撃 日経新聞は、*3-1のように、「①不要不急な診療は控えて、医療費を節約せよ」「②軽い風邪や腹痛、花粉症は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品で凌ぐことができたのだから、風邪なら自力で治そう」「③高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった」などの呆れる医療政策を書くことが多い。 そのうち、①については、先延ばしが可能だということと不要であるということは違う上、②については、軽い風邪や腹痛なのか重い病の前兆なのかを自分で勝手に判断することほど危ういものはないため、まずあらゆる検査のできる基幹病院で診断を確定してから、そこで治療を受け続けるか、近くの医院に紹介してもらうか、売薬ですませるかを決めなければ、病を重症化させてしまってあらゆる方面で被害甚大になる確率が高くなる。そのため、国民皆保険を自慢している日本で何を言っているのかと、私は常日頃から思っている。 さらに、③についても、高度医療を提供する大学病院や専門病院も、PCR検査を自由にできなかったばかりに、新型コロナの院内感染を恐れて患者が減ったり、手術を先延ばしせざるを得なくなったりして損失を蒙っているのである。 なお、病院経営に悪影響を与えているのは、新型コロナの流行以前からの消費税の満額負担と現場の真実をチェックしない観念的な医療改悪政策によるものであるため、コロナ対応病院への資金援助も必要だが、その後は改悪ではない地域医療の再構築を進めるべきである。無医村ではあるまいし、セルフメディケーションしなければならないようでは困る。 また、馬鹿の一つ覚えのようにオンライン初診・再診とも言っているが、オンラインでは得られる情報量が少ないため、補助的にしか使えないことも何度も書いた。さらに、“軽症”の定義もおかしく、“軽症のコロナ感染者”とはどの程度の人を言うのか。定義を曖昧にしたまま、どこで治療するかや医療資源を最適配分するにはどうするかなどは語れないのである。そして、医療保険の加入者や納税者としては、受診や検査を小さくケチって命を危険に晒された上、何十兆円もの補助金を使われる羽目になったようなことこそ、やめてもらいたいのである。 自民党医師議員団本部長の冨岡氏は、*3-2のように、「④日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れたので、第2波に備えて体制の拡充が急務だ」「⑤これまで検査せずに医療費を抑えた面はあったが、かえって医療費が増える」「⑥政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい」「⑦最短2~3時間で終わるLAMP法も導入すべきだ」「⑧抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい」と述べておられる。 このうち、④⑤はやはりそうだったかと思われ、⑥⑦はそのとおりだが、⑧は妊婦・医療従事者・教員・その他の必要な人には行うべきだ。そうして検査数を重ねるうちに、特徴がわかり評価が確定するものだ。 また、*3-3のように、「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などとした他に類を見ない受診目安を作り、小さくケチってPCR検査が遅れた結果、重症化したり死亡したりした人が出て大きな損害になったことについては、その妥当性について十分な検証が必要である。 従って、*3-4のように、厚労省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院については、病気の基本である感染症を考慮するのは当然のことであるため、感染症病床の有無を考慮しないような人が医療再編や医療制度について語ること自体が間違いなのである。 なお、*3-5のように、新型コロナ対策でコストがかさんだり、一般患者が感染を恐れて受診を控えたりして病院経営が揺らいでおり、医療従事者へのボーナスなどの一時金をカットせざるを得ない病院や施設が相次いでいるそうだ。つまり、感染拡大前から病院にぎりぎりの経営を強いて経営を脆弱にし、すでにあった医療制度という重要なインフラを壊しかけていたのが、厚労省・財務省の病院いじりであり、その結果、国民に重大な損失を蒙らせているのである。 (4)新型コロナの経済対策 1)新型コロナを利用した無駄遣い 加藤厚労大臣は、5月22日、*4-1のように、新型コロナ関連の解雇や雇い止めが5月21日時点で10,835人に上り、雇用情勢が日を追うごとに悪化していることを明らかにした。しかし、業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給される筈の雇用調整助成金も、なかなか振り込まれず困っている事業者が多いそうだ。 持続化給付金も、民間委託して目的外の経費を多く使った上に守秘義務も危うい方法を取るよりも、税務署か地方自治体に一括委託すれば、税の支払いは普段から自動振替にしている人が多いため、預金口座の問題が生じず、還付金や給付金の支払いにも慣れている。そのため、退職者を臨時雇用して仕事をこなせば、正確で早く、年金も節約できるだろう。 なお、*4-2の観光割引予算1兆6,794億円とその約2割を占める外部委託の事務費3,000億円も無駄が多すぎる。そのため、PCR検査・抗体検査・治療薬・ワクチンなどを充実して早く正常な状態に戻すことが重要なのだ。 2)政府による布マスクの全戸配布 安倍首相が全戸配布された布マスクは、6月になってうちにも届いた。しかし、*4-3のように、「質か量か」という選択をさせられ、検品もしていなかったため、質の悪すぎるものが散見されたようだ。 私は、マスクと言えば、使い捨ての不織布マスクしか知らない世代が、布マスクでは防御できないなどと言っていた中で、10枚重ねのガーゼマスクは、私の子どもの頃には標準的だったし、洗って繰り返し使える製品でもあるため、親近感を感じた。また、その後、よい布マスクが出てくるきっかけにもなったが、支出金額は多いのに品質が悪すぎたのはよくない。 しかし、この布マスクを作るにあたっては、「①生地は中国・ベトナム・スリランカなどのアジア各国で探して集めた」「②タイとインドネシアで生地を加工した」「③縫製は中国の加工業者に依頼した」「④検品も中国」「⑤興和の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くもので、それでは期日までに調達できない恐れがあるので政府側が断った」「⑥介護施設など向けの布マスク21.5億円分の契約書には不具合が見つかっても興和の責任を追及しない条項が入った」「⑦配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は、緊急を要する発注だったのでこのような契約を結んだ」と書かれている。 このうち、①②③④については、マスク一つを作るのに、生地も加工も検品も外国で行い、それも運賃をかけて数か国を渡り歩いている点で無駄が多い。この頃、日本国内では休業や自粛で人が余っていた筈なのに、国民の税金が海外で使われたことは情けない。また、⑤のような縫い目のずれはどうでもよいが、マスクは徹底的に清潔に作られたか否かが最も重要なのに、そこが危うい。さらに、⑥⑦のように、緊急を要するから不具合が見つかっても興和の責任を追及しないという契約は、一見優しそうだが、国民を愚弄している。そのため、このような国になっては、日本製は終わりだと思う。 (5)新型コロナだけが原因ではない介護崩壊 特別養護老人ホーム・老人保健施設・有料老人ホーム・グループホームなど入所系の高齢者施設で、*5のように、4月末までに利用者380人余り、職員170人の合計550人余りが感染し、このうち約10%の60人が死亡したそうだ。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者が占めており、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しているとのことである。 富山市の老人保健施設の例では、介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者が多く、深刻な人手不足で最低限の食事や水分をとらせるだけで着替えをしたり体を拭いたりすることが殆どなく、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らず、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造だったそうだ。個室ですらない高齢者施設は設備が悪くてプライバシーにも欠けるため、高齢者施設を全室個室にし、身体の清潔を保ち、栄養をとれる食事を出すくらいの福祉は、憲法第25条に基づいて行うべきである。 (6)(じわじわ続く)年金崩壊 2020.5.21朝日新聞 2019.12.25毎日新聞 (図の説明:現在の年金制度は、左図のようになっている。これについて、高齢化社会と健康寿命の延びを踏まえて、中央及び右図のように、年金改革が行われた) 年金改革関連法が、*6のように成立したが、その主な内容は「①非正規雇用労働者への厚生年金の適用」で、「②現在は週20時間以上30時間未満働く労働者は従業員数501人以上の企業のみで厚生年金への加入が義務づけられているが、2022年10月からは101人以上、2024年10月からは51人以上に改める」というものだ。 ①②により、新たに約65万人が厚生年金に加入すると見込まれるが、「小規模企業で働く労働者は老後の生活保障がなくてもよい」ということになる理由は、年金保険料支払者の増加のみを目的にして厚生年金への加入要件を決めているからだ。これは、国民の立場から社会保障の必要性を定めている日本国憲法第25条の「1項 すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項 国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に反する。従って、憲法は変更する前に守るべきだ。 また、「③年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている」「④今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない」「⑤しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ」「⑥全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない」「⑦国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示された」「⑧基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まない」については、年金資産管理で失敗した省庁の説明を鵜呑みにして書いているだけであり、メディアとしてレベルが低い。 具体的には、③は途中から賦課課税方式に変更した政策の失敗によるもので、年金保険料を支払ったのに受給する段階になって反故にされる世代が出ていることこそ年金崩壊である。また、④によって実質年金が減らされ、これまで日本を支えてきた高齢者が生活できなくなる事態を生んでおり、これこそ憲法25条違反だ。⑤⑧については、現役世代への(買収すれすれの)膨大な補助金や無駄遣いをやめて自ら稼がせることを考えるべきで、日本で実質GDPが増えないのは、⑥のような「痛みの分かち合い」ばかりを主張する価値観によるところが大きいのだ。なお、⑦はよいことだが、定年延長や定年廃止とセットでなければ議論できない。 (7)日本における経済分析の問題点 (図の説明:左図のように、2000年に導入された介護はニーズの高いサービスだったため、2020年には12兆円市場に伸びたが、政府は供給を抑制し続けている。また、中央の図は、「年代別1人当たり所得は、70歳以上で20代・30代より高く、高齢者は金持ちだ」という主張に資するものだが、年金だけで年間192万円/人の所得のある高齢者は滅多にいないため、このグラフの下になった数字の出所が重要だ。また、保育サービス不足は1970年代から言われているが、今でも充実しておらず、右図のように、教育費の高騰とあいまって少子化の原因となっている) 豊かな高齢化社会で共働きが主流になった日本では、医療・介護・保育・家事支援サービスやその関連製品が必要不可欠で付加価値も高い。しかし、政府(厚労省・財務省)は一貫してこれを抑え、従来型の加工貿易(特にガソリン車の輸出)に固執した(経産省)。そのため、日本は経済成長率も出生率も上がらなかったが、それでもこういう政策を維持してきた。何故か? 1)経済分析と呼ぶに値しない“経済分析” 内閣府が、*7-1のように、2020年5月18日に発表した2020年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は、物価変動の影響を除いた実質成長率は前期比0.9%減、このペースが1年続くと仮定した年率換算は3.4%減だったそうで、これには2019年10月からの消費税増税・新型コロナに対応した外出自粛による個人消費の低迷・訪日外国人客の減少等の影響がある。 しかし、現在の日本は、安い賃金を活かして国内で製造し輸出して、国民は貧しい生活を耐え忍ぶ人件費の安い開発途上国を卒業した。そして、国内の個人消費がGDPの6割近くを占め、世界に先駆けて高齢化して人口に占める65歳以上の高齢者割合が30%を超える国なのである。そのため、実質年金額を減らし、消費税増税を行って高齢化社会で必要とされる財・サービスへの消費を抑えたのは、国民の福利を削ったと同時に、高齢化社会で求められる財・サービスの開発にもマイナスになったのである。 この現状を直視せずに、100年1日の如く、従来型の自動車輸出や住宅投資に依存しようとし、原油や天然ガスの輸入を景気のバロメーターにしていることが経済分析を意味の薄いものにし、とるべき政策を誤らせている。こうなる理由は、日本の経済学者が統計学(数学の中の微分・積分を使う)・社会学(実地調査をする)・人間行動学(行動を決める要素を調べる)に弱く、欧米で作られた公式を丸暗記しているだけで現在のミクロの実態を反映した新しいマクロ経済学の公式を作ることができず、現在の日本及び世界の現実に合った経済分析ができないため、「従来どおり」を繰り返して誤った政策に導くからである。 そのため、このまま進めば、新型コロナで外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだのは一時的であるものの、長期的にも日本経済は下降するだろう。 2)政府が進めるインフレ政策 *7-2には、「①生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、前年同月より0.2%下がり101.6だった」「②新型コロナの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった」「③市場では指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い」「④物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まった」「⑤品薄が続いたマスクは5.4%上昇した」「⑥増税の影響で外食が2.7%上がった」「⑦外出自粛による需要の高まりを背景に生鮮野菜は11.2%上がり、キャベツは48.2%上昇した」「⑧損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9.3%上昇した」「⑨増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94.0%下がった」などが記載されている。 この記事は、インフレがよいことでデフレが悪いことであるかのような論調で書かれているが、本来の中央銀行の仕事は、貨幣価値を安定させて国民の財産を守ることであり、意図的にインフレを起こして国民の財産を目減りさせることではない。 さらに、物価は、⑤⑦⑧のように需要が多ければ上がり、①②③のように消費者の財力やニーズの低下があれば下がるという現象であるため、④のように、デフレだから金融緩和して物価を上げようとすると、国民の財力がますます低下して節約を強いられるので、やはり物価は上がらない。そして、こうした国では、企業の投資も起こりにくい。なお、需要が増えないのに原油価格の上昇などのコスト要因で物価が上がるのをスタグフレーションと呼び、悪いインフレである。また、⑥⑨のように、政府の政策によって物価が著しく変動することもあるわけだ。 3)“新自由主義”は悪いとする歪んだ論理 個人の諸自由を尊重して封建的共同体の束縛から解放しようとする価値観に反対する人は現在の日本にはいないと思うが、その理由は、*7-4のように、自由を至上の価値とする近代西欧社会で育まれた自由主義が、現在では日本国憲法の中で「人が生まれながらに持っている人権」「人間がかけがえのない個人として尊重され、平等に扱われ、自らの意思に従って自由に生きるために必要不可欠な権利」として明記されているからだ。それには、私も120%賛成である。 日本国憲法第12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と明記し、具体的には「精神的自由権:思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20条1項前段)、集会・結社、表現の自由(21条)、学問の自由(23条)」「経済的自由権:居住・移転、職業選択の自由(22条)、財産権の不可侵(29条)」「身体的自由権:奴隷的拘束や苦役からの自由(18条)、法定手続の保障(31条)、住居の不可侵(35条) 被疑者・被告人の権利保障(33条、36~39条)」等の条文がある。 これに対し、*7-5は、新自由主義とは20世紀の小さな政府論のことで、「①政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策」「②緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い」「③アダム・スミスは、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要性を説いた」「④20世紀に大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった」「⑤1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率が大きな問題となり、小さな政府への改革が広まった」「⑥日本も80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた」「⑦日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対している」「⑧小泉政権は新自由主義改革を推進し、郵政民営化・社会保障費の抑制などが遺産となっている」としている。 しかし、1995年前後以降は私が関与しているので知っているのだが、このうち①は、現場を知らない省庁が自らの権力を維持するために細かい規制を作って意地悪く運用すれば、民間も新しいことができなくなり経済発展を阻害するため、重要なことなのだ。また、国が破綻しないためには、膨大な無駄遣いを排除する必要があり、②の緊縮財政・外資導入・国営企業の民営化・適切な補助金カットなどは進めたが、そのために必要なリストラならともかく、公共料金の値上げや本当に必要なセーフティーネットの削減を意図したことはない。まして夜警国家になるなど前近代的で、これらは将来大きな政府に戻したい官僚が企んだことだろう。 また、③のアダム・スミスが言う「神の見えざる手」とは、「市場における需要と供給が生産調整をすすめ、市場の自由を徹底することが経済発展を進める」と説いているもので、これは共産主義・社会主義経済が失敗し、市場主義に移行してから復活したことで歴史的に検証済だ。ただし、市場の失敗もあるため、補足的に④のケインズ主義政策が行われたのであり、ケインズ主義政策ばかりでは国家財政が破綻するのは時間の問題で、社会保障もできなくなる。 日本では、1980年代に、⑥の第2次臨時行政調査会による行政改革が行われ、⑦のように、無駄遣いが多く効率の悪い官僚的性格を廃し始め、小泉政権は⑧のように郵政民営化を進めた。しかし、私が自民党内でいくら反対しても社会保障費抑制を進めたのは、財務省と厚労省である。 つまり、私は、ここでいう“新自由主義改革”を推進してきたので知っているのだが、社会保障はもともとは保険で行われており、管理の杜撰・給付の不合理以外は主張したことがない。また、政府の役割を治安維持や防衛に限定することは、歴史的教訓を踏まえない愚行だと思う。 しかし、*7-3のように、新自由主義という言葉が、ニュースや論説で批判のためによく登場するのは事実で、その内容については「国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線なのに、一部のメディアや知識人がそれを新自由主義のせいにしたがっている」「物事を正しく理解し、議論するには明確な言葉を使うことが必要不可欠である」「新自由主義などという定義と正反対の使用がまかり通る言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはできない」というのは、全くそのとおりだと思う。 なお、マクロン政権が環境政策の一環としてガソリンと軽油を増税したように、環境問題を税制で解決することは大きな政府とは関係なく、私は“アリ”だと考えている。何故なら、政府が放っておけば外部不経済として環境を汚した者が得する場合に、政府が介入して無料のものを有料にし、望ましい方向への切り替えを促すことができるからだ。しかし、これが適切に行われるためには、政府の見識の高さが必要なのである。 (8)資源の使い方と財源 1)国有林の民間による伐採 2019年5月16日に、全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、*8-1のように、衆院農林水産委員会で可決され、6月5日に参議院も通過した。 しかし、国有林・民有林の両方とも先祖が大切に育てた木材資源であり、特に全国の森林の3割を占める国有林は国民の財産だ。そのため、「低迷する林業の成長を促す」という建前の下、特定の民間に大きく開放することは、対価として徴収する権利設定料や樹木料の安さから、せっかくある国民の財産を叩き売りすることとなり、「森林を守る」「資源を活かす」などの発想がないことも明らかである。 さらに、伐採後の植え直し(再造林)は別の入札で委託して国民の血税を使って行うとのことであり、金を使うことしか考えない政治と行政では、国の財政破綻による緊急事態で、イタリア・ギリシャのように社会保障が削減されるのは時間の問題となるわけだ。 2)放牧の中止 山の多い日本では、山を賢く使って放牧すれば、家畜を畜舎に閉じ込め、外国から餌のトウモロコシを輸入して、脂肪の多すぎる肉を作る必要はない上、食料自給率も上がる。 しかし、*8-2のように、農水省は、豚や牛などの放牧制限をしようとしており、何をしているのかと思う。豚熱でもワクチン接種すれば放牧して問題ない上、それ以外の地域まで畜舎の整備を義務化する科学的根拠もないだろう。 オーストラリア・アメリカ・カナダ・ヨーロッパでは当然の如く放牧している。そして、その方が家畜のストレスが少なく、家畜の免疫力が向上して病気にも強いため、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などに繋がるのである(まさか、これが困るのではないでしょうね)。そのため、雨風に備えて一定の畜舎はあった方がよいものの、舎外飼養の中止要請は非科学的だ。つまり、農水省は科学的根拠もなく、農家への影響調査もしていないようなことを、改正案に盛り込むべきではない。 3)地方創成 新型コロナ以前から、*8-3のように、東京圏在住者は地方暮らしに関心があると答えており、コロナ後は、さらに都市住民の田園回帰志向が強くなっている。 「やりたい仕事」は、「農業・林業(15.4%)」が最多で、「宿泊・飲食(14.9%)」「サービス業(13.3%)」「医療・福祉(12.5%)」が続き、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かったそうだ。これらは、今後のニーズを考えれば自然であるとともに、東京一極集中を解消するためにも有効である。 しかし、地方圏暮らしへのネガティブイメージに「公共交通の利便性が悪い(55.5%)」「収入の減少(50.2%)」、「日常生活の利便性が悪い(41.3%)」などが挙がっているのも当たっており、農林漁業等々で稼げなければ夢破れて二度と田園回帰志向は起こらないだろう。さらに、教育・医療・公共交通の充実による生活の利便性は、人口が増えればある程度はよくなるものの、意識的な充実が不可欠だ。 4)公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築 厚労省は、*8-4のように、新型コロナで入院病床が逼迫したのを受け、感染症対応の視点が欠如していた約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしするそうだ。 しかし、地域で重複している診療機能を役割分担して効率化したり、社会的入院をなくして高齢者施設を充実しながら、医療提供体制の無駄をなくしたりすることは重要だが、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増するから、2018年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らすというような単純な医療費・病床数削減を目的とした病院統合なら1人当たりの福祉が小さくなるだけであるため賛成しない。 また、近隣に競合病院があっても、セカンド・オピニオンを得るために重複して受診することもあるため、新型コロナの検査基準のように「非科学的でも、ともかく病院には行かないで欲しい」などという価値観を持って医療体制の再構築をしようとしている厚労省は、命を託せる省庁ではないことが明らかになったのだ。 さらに、少子高齢化で、急病・大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性が低くなるというのもおかしく、高齢になると多発する脳血管疾患や心疾患は「高度急性期」「急性期」そのものであり、そこで命が助からなければリハビリといった「回復期」病床に行くこともないため、結論ありきの非科学的な議論はやめるべきだ。 最後に、病院は重要なインフラであり、病院がなくなれば、都会から移住するどころか、現在住んでいる人もその地域に住めなくなる。そのため、厚労省が狭くて短い視野で考えた無茶な病院再編や効率化を実現させないために、公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築に関わる意思決定は地域が行うべきだ。そして、その財源は、資源を安くたたき売ったり投げ捨てたりせずに、有効に使うことによって出る。 (9)研究と特許の意義 経済学の公式が「与件」として「一定で変わらない」と仮定している要素に、「技術進歩」がある。1953年にワトソン・クリックがDNAのらせん構造を発見して以来、目覚ましい進歩を遂げている生命科学の進歩も無視されており、今回の新型コロナ騒動に際して100年前のスペイン風邪と同じ公式を使っていたというのは、聞いて呆れた。 そして、日本では、政府もメディアも、生命科学者が瞬く間にウイルスの遺伝情報を読み、その弱点を突いたワクチンや治療薬を作れることを無視していたため、人材はいるのに技術開発で先んじて特許権を得ることを放棄させた。また、国内外の経済封鎖を続けることによって経済に大きなダメージを与え、それをカバーするために血税から多大な支出をしている。どうして、こういうことが起こるのかといえば、そういうことの全体を瞬時に考慮できる専門家をリーダーにしていないからである。 1)新型コロナのワクチン・治療薬に対する他国と日本の対応 米国は、*9-2のように、米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援し、自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて欧米医薬企業の実用化を後押ししている。中国や欧州も国を挙げて開発を強化している。 日本の政府及びメディアは、ワクチンや治療薬の開発と実用化に消極的で、「ワクチンができるには数年かかる」「国民は我慢して自粛せよ」「安全性が・・」と繰り返した。そして、「ワクチンができたら国際協調で、分けてね」という態度だが、そんな先進国に優先的に分けてやる国などない。このようにして、世界は「Japan Passing」になりつつある。 2)癌の免疫薬に対する日本の情けない態度 日本人の死因トップになった癌の治療は、今でも外科的手術・放射線治療・化学療法が標準療法と定められているが、*9-1-2のように、本庶京都大学特別教授が最初に癌免疫治療薬「オプジーボ」を開発・実用化しようとした時は、日本では製薬大手も消極的で、米国のブリストル・マイヤーズが先に実用化に手を貸してくれたと聞いている。 そして、日本で癌免疫治療薬「オプジーボ」が有名になったのは、本庶教授がノーベル賞を受賞した後だった。さらに、オプジーボはじめ免疫薬は革命的な薬で副作用が小さく、さまざまな癌に効き始めているのに、日本では厚労省が頑なに癌の標準治療を「外科手術」「抗癌剤による化学療法」「放射線療法」として免疫療法を厳しく制限している。これによって、日本国民は免疫薬による治療を著しく受けにくいと同時に、免疫薬の開発者も年間数百億円にのぼるロイヤルティーを逸した。厚労省のこの非科学的態度は、国民の命よりも既に抗癌剤を売っている製薬大手の利益を重視するものではないのか? このような環境の中では、免疫療法を開発してきた研究者も厳しい環境に耐えなければならなかったし、開発後もロイヤルティーで被害を受けている。つまり、リスクをとったのは製薬会社だけでなく、一生をかけたリスクをとって先頭に立っている研究者もであるため、本庶教授が「オプジーボ」の特許収入として小野薬品工業に約226億円の支払いを求めて大阪地裁に提訴された気持ちはよくわかる。この場合、組織を重視して個人の貢献を軽視する日本の風土もまた、日本の研究開発人材を生きにくくしているのである。 なお、*9-3のように、日本農業新聞が2020年6月8日の論説で、「コロナ危機と文明、生命産業へかじを切れ」と題して記事を書いているのは、生命産業に従事する多くの労働者が関心を持って読むのでよいと思うが、ここでも「消費をあおり、資源を乱費する欲望の新自由主義」と記載しているのは、新自由主義の定義を誤っている。もう少し勉強してから記事を書かないと、国民を誤った方向に誘導することになるが、日本農業新聞は自由主義から封建制・官僚制に戻したいのだろうか? 3)自動運転車及びサポカー開発の遅れ (図の説明:左図のように、近年は交通事故による死者数が減少傾向で、よいことだ。右図の年齢階級別の「死亡事故件数/免許人口10万人」では、確かに75歳以上で死亡事故が多いように見えるが、①85歳~100歳をひとくくりにしているため、この階級は他の3倍の年齢層が入っている ②高齢者は地方に多く都市部の生産年齢人口より運転時間が長いため、運転免許を持つ人を分母にするのではなく運転時間を分母にしなければならないのではないか と思う) 近年、誰か一人が重大な事故を起こしたとして、そのグループに属する人全員に運転免許を返納させることが流行しているが、特定のグループの人に運転免許を持たせないことは、外出の機会や就職の機会を奪うため人権侵害になる。 東京都池袋で高齢運転者の運転する車が暴走したケースでは、松永真菜さんと長女の莉子ちゃんが死亡した事故を受けて、*9-4-1のように、夫の拓也さんが事故5日後に「運転に不安がある人は運転しないでほしい」と訴え、その結果、*9-4-2のように、家族などから年齢を理由に運転しないことを強制される高齢者が増えた。しかし、これは年齢による差別であり、自分の家族が身体の不自由な高齢者の運転で交通事故に遭ったからといって、全高齢者の運転を禁止する資格にはならない。 高齢者の運転では他にも事故が起こっているが、その割合が若者より高いかといえばそうでもないし、コロナ自粛で誰もがわかったように、外出できないことは高齢者にとってもストレスであり、不便にしたり身体を悪くさせたりする。そのため、私は、高齢者のみに限定免許創設するよりも、さっさと安全運転サポートを進歩させ、それを標準装備にすればよかったと思う。 なお、自動運転車や安全運転サポカーについても、技術開発の遅さ・国民への我慢の強制・国の対応の遅さは、新型コロナのワクチン・治療薬や癌の免疫療法と同じで、これは、国民の福利を押し下げながら、今後は世界でニーズが見込まれる日本の技術を収益に結び付けることを不可能にしているので賢くない。 4)EV活用の遅れ EVもまた、日産自動車が世界で初めて市場投入したにもかかわらず、*9-5-1のように、2020年6月3日現在、日本は重要市場になっておらず、重要市場になっているのは中国で、日本電産は中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に駆動モーターの開発拠点を新設し、成長の柱と位置づけるEVの開発を2021年には稼働させるそうだ。 独コンチネンタルも2021年に天津市に開発センターを設置する予定で、独ボッシュもまた現地企業と合弁を組んでEV用駆動モーターの供給を目指すそうなので、環境とエネルギーの両面からEVが主役になった時には中国が自動車先進国になるだろう。 また、日本電産は、5月27日、*9-5-2のように、同社のEV用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたことを喜んで発表しているが、当然だ。 ・・参考資料・・ <医療崩壊を加速させた消費税制> *1-1:https://gemmed.ghc-j.com/?p=27985 (Gem Med 2019.8.15) 病院の消費税問題、課税化転換などの抜本的解決を2020年度に行うべき―日病 病院の消費税問題について、診療報酬の上乗せでは不公平等を解消することはできない。課税化転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきである。日本病院会は8月7日に、こうした内容を盛り込んだ2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出しました。 ●診療報酬プラス改定では、個別病院の消費税負担の不公平等を解消できない 日病の税制改正要望は次の8項目(国税5項目、地方税2項目、災害医療拠点としての役割と税制1項目)で、このうち▼消費税関連(国税の(1))▼診療報酬の事業税非課税(地方税の(1))▼固定資産関連(地方税の(2))の3点を「優先」的に措置すべき項目として強調しています。 【国税】 (1)控除対象外消費税について、個別病院ごとの解消状況に不公平や不足などが 生じないよう、税制上の措置を含めた抜本的措置を講じる (2)医療法人の出資評価で「類似業種比準方式」を採用する場合の参照株価は、 「医療福祉」と「その他の産業」のいずれか低いほうとする (3)医療機関の設備投資を促進するための税制を拡充する (4)資産に係る控除対象外消費税を「発生時の損金」とすることを認める (5)公的運営が担保された医療法人に対する寄附税制を整備する 【地方税】 (1)医療機関における社会保障診療報酬に係る事業税非課税措置を存続する (2)病院運営に直接・間接に必要な固定資産について、▼固定資産税▼都市計画税 ▼不動産取得税▼登録免許税―を非課税あるいは減税とする 【ほか】 激甚災害に相当するような地震・台風・噴火などの大規模災害が発生した場合に、地域医療の重要な拠点としての役割を果たす医療機関・介護施設に関しては、その機能復旧を支援するための税制上の特段の配慮を行う。 要望内容を少し詳しく見てみましょう。まず国税(1)の「消費税」については、現在、保険診療(言わば診療報酬)については「非課税」となっています。したがって、医療機関等が物品購入等の際に支払った消費税は、患者・保険者負担に転嫁することはできず、医療機関等が最終負担しています(いわゆる控除対象外消費税)。この医療機関等負担を補填するために、特別の診療報酬プラス改定(消費税対応改定)が行われていますが、当然、「医療機関等ごとに診療報酬の算定内容は異なる」ことから、どうしても補填の過不足が生じます。2019年10月に予定される消費税対応改定では、病院の種類別に補填を行うなどの「精緻な対応」が図られますが、「病院の種類による不公平」是正にとどまり、個別病院の補填過不足を完全に解消することはできません。このため、昨年(2018年)夏には四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)とが合同で、▼消費税非課税・消費税対応改定による補填は維持する▼個別の医療機関ごとに、補填の過不足に対応する(不足の場合には還付)―という仕組みの創設を要望しました(関連記事はこちらとこちら)。「消費税非課税制度の中で個別医療機関等への還付を認めよ」との要望ですが、与党の税制調査会は「税理論上、非課税制度を維持したまま税の還付を行うことはできない」とし、事実上のゼロ回答を突きつけました(関連記事はこちら)。日本医師会は、このゼロ回答に対し、なぜか「消費税対応改定の精緻化により、消費税問題は解消した」としています。しかし病院では▼物品購入量が多く(特に急性期病院)、補填不足が生じやすい▼クリニックと異なり、いわゆる四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置で、概算経費率を診療報酬収入が2500万円以下の医療機関では72%、2500万円超3000万円以下では70%、3000万円超4000万円以下では62%、4000万円超5000万円以下では57%の4段階とする)などの優遇措置もない―という事情があることから、四病院団体協議会では「補填の解消に向けた更なる対応が必要」と判断(関連記事はこちら)。今般、日病では、この四病協判断に則り、さらに「診療報酬での対応は、最終的に消費税負担を患者・保険者に求めることとイコールである」点も考慮し、「病院」について、消費税問題の抜本的措置(課税化転換や、保険診療設備・材料の仕入れを非課税とするなど)を講じるべきと強く要望しているのです。また国税(3)では、地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの構築に向けた設備投資を国全体で促す必要があるとし、具体的に▼病院用建物・医療機器・医療情報システム等に関する法定耐用年数の短縮▼地域医療構想や医療計画に沿った病院の機能分化を行うための設備投資に対する税制負担軽減制度の充実―などを行うよう求めています。一方、国税(5)では、社会医療法人や特定医療法人などの「公的運営が担保された医療法人」について、「寄附」を▼所得税法上の寄付金控除の対象▼法人税法上の損金―とすべきと要望。あわせて、公的医療法人へ不動産を贈与する場合、「贈与税」という障害をなくすため、租税特別措置法第40条の「譲渡所得税非課税申請」を当然に受けられるようにすべきとも求めています。また優先項目にも盛り込まれた地方税(2)では、一般の医療法人においても、国公立・公的病院や社会医療法人と同様に、病院運営に直接関係する不動産について「固定資産税・都市計画税を非課税」とすることを提案。あわせて看護職員等の職員寮などの病院経営に間接的に必要な不動産について、固定資産税などの非課税・減税措置を設け、病院経営の安定等を図るべきと切望しています。 *1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM8L4G3QM8LULBJ003.html (朝日新聞 2019年8月19日) 消費税分969億円、国立大病院が負担 経営を圧迫 全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッドなどの購入時に支払った消費税を診療費に十分転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかった。診療報酬制度の仕組みによるもので、病院の経営を圧迫しているという。診察に使う機器やベッド、ガーゼなどの消耗品は、病院が購入時に消費税も支払う。一方、公的保険の医療は非課税のため、患者が支払う初診料や再診料などの診療報酬点数に消費税の相当分も含めることで、病院側に補塡(ほてん)する仕組みになっている。だが、初診料や再診料はすべての医療機関でほぼ同額で、高額化が進む手術ロボットなどの先進機器を購入することが多い大学病院などでは消費税分の「持ち出し」が大きいという。全国の国立大病院でつくる「国立大学病院長会議」の試算によると、1病院あたりの補塡不足は平均で年約1・3億円(17年度)。税率が8%になった14~18年の5年間で計969億円に上った。私大の付属病院などでも同様の傾向と見られるという。医療の進歩にともない、高精度な放射線装置、全身のがんなどを一度に調べることができるCT、内視鏡手術支援ロボットなど、1台数億円する医療機器が登場した側面もある。ある大学病院の医師は「医療機器の更新ができなくなると、患者さんにしわ寄せがいく」と嘆く。厚生労働省は「おおむね補塡されている」としてきたが、16年度のデータを調べたところ、補塡率は病院全体で85%にとどまり、国立大病院を含む68カ所の特定機能病院では平均62%だった。同省は、税率が10%になる際は、病院の規模を考慮して、入院基本料などの点数を上げることで対応することにしている。同会議の山本修一・常置委員長は「厚労省に検証を要請するとともに、補塡が十分にされるか注視していきたい」と話している。 ●増税分は節約で対応 病院側はコスト削減の工夫を重ねている。米国製の手術支援ロボット「ダヴィンチ」は、難しい手術にも対応できるが、価格は約3億円。がん治療用の高精度な放射線装置は1台3億~5億円など、このような機器を導入すると、消費税分だけで数千万円かかる。国立大学病院長会議の小西竹生・事務局長は「こうした高度な医療を提供する大学病院ほど赤字幅が大きくなる」と話す。コスト削減の一環として東大病院(東京都文京区)など39カ所が取り組んでいるのが、入院用ベッドのリサイクルだ。病院の地下の一室には、予備のベッドや乳幼児用のベッドなど、数多くのベッドが保管されている。その片隅にはリモコンや手すりなど、一部が故障したものもある。ベッドは1台数十万円するため、更新が滞っている。同会議が大学病院にある2万8千床を調べたところ、耐用年数の8年を超えて使われていたベッドは約7割にのぼった。15年以上使われていたものも3割弱あった。大学病院は平均700床以上あり、消費税の補塡(ほてん)不足などで経営は苦しく、手術や検査に使う医療機器と比べて更新は後回しにされがちだ。ただ、病院関係者は「整備が不十分だと転倒事故などにつながるおそれもある」と話す。従来は一部が壊れると廃棄していたが、部品を修理したり、まだ使える部品を専門業者がメンテナンスしたりした後、別の病院に融通する仕組みだ。新品は1台数十万円だが、部品なら数万円で済む。病院で使うガーゼや手袋などを複数の病院で共同調達する試みも始めた。カテーテルやアルコール綿など多くの製品について、現場の看護師がサンプルを比べて品質を確認。品目を絞ったり大量購入したりすることで、価格を下げてもらっている。2016年度に始め、導入前と比べて数億円の削減につながったという。東大病院の塩崎英司・事務部長は「消費税の補塡(ほてん)不足で経営が苦しい中、今後も知恵を絞って取り組みたい」と話す。 *1-3:https://www.agrinews.co.jp/p50985.html (日本農業新聞 2020年6月5日) [新型コロナ] 厚生連病院支援を 自民議連で要望相次ぐ 自民党の議員連盟「農民の健康を創る会」(宮腰光寛会長)は4日、東京・永田町で幹事会を開き、新型コロナウイルス対策について議論した。新型コロナによる影響でJA厚生連の経営状況が厳しいことを受け、出席した議員からは、地域医療を守る厚生連の一層の経営支援を訴える声が相次いだ。JA全中やJA全厚連の役員らが出席。厚生連病院は、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収となっていることを全厚連が報告。医業収益が前年同期比で、半分になった病院もある。病院への財政的な支援を早急に確立することや、空床確保分の減収に対する支援拡充、医療従事者などへの危険手当の支給、医療物資や機器を国が責任を持って供給体制を整備することなどを求めた。宮腰会長は「地域医療崩壊は何としても避けなくてはならない。第2波、第3波に耐えられる医療提供体制を整えていく必要がある」とあいさつ。三ツ林裕巳衆院議員は一層の経営支援を求め「新型コロナ対策を一生懸命整えた厚生連の経営が滞ることは避けなければならない」と、訴えた。永岡桂子衆院議員は厚生連が感染者数を抑える役割を果たしてきたとし「赤字続きで倒れることはあってはならない」と支援を求めた。野村哲郎参院議員は新型コロナ患者を受け入れていない病院も経営は厳しいと見解を示し「地域医療を守るため、全ての厚生連の経営状況のチェックをするべきだ」と呼び掛けた。 <検査抑制による医療崩壊> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200609&ng=DGKKZO60128210Y0A600C2MM8000 () 検証コロナ 危うい統治(1)11年前の教訓放置 、組織防衛優先、危機対応阻む 新型コロナウイルスの猛威に世界は持てる力を総動員して立ち向かう。だが、日本の対応はもたつき、ぎこちない。バブル崩壊、リーマン危機、東日本大震災。いくつもの危機を経ても変わらなかった縦割りの論理、既得権益にしがみつく姿が今回もあらわになった。このひずみをたださなければ、日本は新たな危機に立ち向かえない。日本でコロナ対応が始まったのは1月。官邸では「しっかりやります」と繰り返した厚生労働省の動きは一貫して鈍かった。「どうしてできないんだ」。とりわけ安倍晋三首相をいらだたせたのが自ら打ち出した1日2万件の目標に一向に届かないPCR検査だった。その背景にあったのが感染症法15条に基づく「積極的疫学調査」だ。病気の特徴や感染の広がりを調べるのが疫学調査。「積極的」とは患者が病院に来るのを待たず、保健所を使い感染経路やクラスター(感染者集団)を追うとの意味がある。厚労省傘下の国立感染症研究所が今年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」では「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わった。とはいえ「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」の限定付き。その姿勢は5月29日の最新版の要領でも変わらない。厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いた。それが大都市中心に経路不明の患者が増える一因となった。疫学調査以外にも検査を受けにくいケースがあり、目詰まりがようやく緩和され出したのは4月から。保健所ルートだけで対応しきれないと危機感を募らせた自治体が地元の医療機関などと「PCRセンター」を設置し始めてからだ。 ●疫学調査を優先 自らのルールにこだわり現実を見ない。そんな感染症対策での失敗は今回が初めてではない。2009年の新型インフルエンザ流行時も厚労省は疫学調査を優先し、PCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中した。いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかると、関西の病院を中心に人々が殺到した。厚労省は10年にまとめた報告書で反省点を記した。「保健所の体制強化」「PCR強化」。今に至る問題の核心に迫り「死亡率が低い水準にとどまったことに満足することなく、今後の対策に役立てていくことが重要だ」とした。実際は満足するだけに終わった。変わらない行動の背景には内向きな組織の姿が浮かぶ。厚労省で対策を仕切るのは結核感染症課だ。結核やはしか、エイズなどを所管する。新たな病原体には感染研や保健所などと対応し、患者の隔離や差別・偏見といった難問に向き合う。課を支えるのは理系出身で医師資格を持つ医系技官。その仕事ぶりは政策を調整する官僚より研究者に近い。専門家集団だけに組織を守る意識が先行する。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文部科学省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰だった。首相は周囲に「危機なんだから使えるものはなんでも使えばいいじゃないか」と語った。誰でもそう思う理屈を組織防衛優先の意識がはね返す。 ●「善戦」誇る技官 「日本の感染者や死亡者は欧米より桁違いに少ない」。技官はコロナ危機での善戦ぶりを強調するが、医療現場を混乱させたのは間違いない。「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」。4月10日、さいたま市保健所長がこう話し市長に注意された。この所長も厚労省技官OB。独特の論理が行動を縛る。02年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、12年の中東呼吸器症候群(MERS)を経て、韓国や台湾は備えを厚くした。対照的に日本は足踏みを続けた。厚労省に限らない。世界から一目置かれた日本の官僚機構は右肩上がりの成長が終わり、新たな危機に見舞われるたびにその機能不全をさらけ出してきた。バブル崩壊後の金融危機では不良債権の全容を過小評価し続け、金融システムの傷口を広げた。東日本大震災後は再開が困難になった原発をエネルギー政策の中心に据え続けた。結果として火力発電に頼り、温暖化ガス削減も進まない。共通するのは失敗を認めれば自らに責任が及びかねないという組織としての強烈な防衛本能だ。前例や既存のルールにしがみつき、目の前の現実に対処しない。グローバル化とデジタル化の進展で変化のスピードが格段にあがった21世紀。20世紀型の官僚機構を引きずったままでは日本は世界から置き去りにされる。 *2-2:https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020060700001.html?page=1 (論座 2020年6月7日) 何一つ有効な対策を打たなかった安倍首相が言う「日本モデルの力」とは?、コロナ第2波に備え必要なのは「日本モデル」の解体だ!、佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長 未曽有のパンデミック状況を呈するコロナウイルスがこの秋から冬にも大きい第2波となって襲い来る予測が広まる中、対策を立てるべきはずの安倍内閣からは危機感がまったく伝わってこない。この原稿を書いている6月6日の首相動静は以下の通りだった。<午前8時現在、東京・富ケ谷の私邸。朝の来客なし。午前中は来客なく、私邸で過ごす。午後4時9分、私邸発。午後4時20分、官邸着。同30分から同50分まで、加藤勝信厚生労働相、菅義偉官房長官、西村康稔経済再生担当相、西村明宏、岡田直樹、杉田和博各官房副長官、北村滋国家安全保障局長、和泉洋人、長谷川栄一、今井尚哉各首相補佐官、樽見英樹新型コロナウイルス感染症対策推進室長、森健良外務審議官、鈴木康裕厚労省医務技監。午後5時10分、官邸発。午後5時27分、私邸着。《時事通信より》>土曜日だから夕方に職場に着くこともあるが、午後4時30分から始まった会議の顔ぶれから推して、政府のコロナ対策会議であることは間違いないだろう。だが、職責上これだけのメンバーを集めておいてわずか20分しか情報を交換しなかったということは、どう考えればいいのだろうか。まず、現在の仕事環境の常識を考えれば、わずか20分の会議はオンラインで済ませるべきものだ。しかし、20分という時間をよく考えてみれば、本当はメール連絡だけで済む話かもしれない。司会役が発言し、数人の事務連絡、報告があって終わりだ。対策などについて議論し合うことなどはこの短い時間では不可能だ。 ●緊急事態宣言は「緊急手段」であって「対策」ではない 「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います」。安倍首相は5月25日、緊急事態宣言解除の記者会見の冒頭、こう発言した。「今回の流行をほぼ収束させること」など本当にできたのか。安倍首相のこの発言に関しては様々な疑念が湧いてくるが、最も驚くべき発言は「日本モデルの力を示した」という言葉だろう。時事通信の6月6日の世論調査では、コロナウイルスに対する安倍政権の対応について60%の人が「評価しない」と答えている。この世論調査通り、安倍政権はコロナウイルス対策については何一つ有効な対策を打ち出せなかったと言っていいだろう。もちろん、緊急事態宣言を対策と呼ぶ人はいないだろう。あらゆるレベルの経済を痛めつける緊急事態宣言は対策と呼べるようなものではなく、感染の波及を食い止める最後に残された緊急手段に過ぎない。何一つ有効な対策が打てなかった安倍首相が発言した「日本モデルの力」とは一体、どういうものなのだろうか。コロナウイルスに対して安倍政権が最初に打った「日本モデル」の対策を振り返ってみよう。 ●COVID-19を指定感染症に指定した愚策 1月28日に厚労省はCOVID-19を感染症法に基づく指定感染症に政令指定。この指定のために、感染者はたとえ無症状であっても強制入院させられることになった。厚労省はこの時、COVID-19の無症状感染者の存在を想定していなかった。無症状者や軽症者は病院以外の企業療養所などで静養隔離するという韓国が取った賢明な政策への道は、これによって閉ざされてしまった。無症状者でも入院しなければならないために早くから病院体制の崩壊が心配され、PCR検査の大幅抑制につながった。ところが、厚労省がCOVID-19を指定感染症に指定する4日前の1月24日、世界の医学界で注目されているイギリスの「ランセット」誌は、無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた。指定感染症担当の結核感染症課の担当者たちがこの論考をいち早く読んで対応を考えていれば、COVID-19の無症状者の存在を重視し、指定感染症には指定しなかっただろう。厚労省担当課の勉強不足と不作為が生んだひとつの国家的悲劇だ。そして、この感染症法に基づく指定感染症に政令指定したために、基本的な「日本モデルの力」が働くことになった。国立感染症研究所と保健所、地方衛生研究所が束になった「日本モデルの力」である。 ●「日本モデル」への大きな思い違い コロナウイルス第2波の襲来を前に私が訴えたいのは、この「日本モデルの力」の解体である。恐ろしいことだが、安倍首相は本当に心から「日本モデルの力を示した」と思っているのかもしれない。しかし、これは大変な思い違いである。コロナウイルスの襲来の前に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制はほとんど歯が立たなかったのである。このままの体制で第2波の襲来を迎えれば惨憺たる結果を招くだろう。それを示すにあたって、まず5月27日の佐藤章ノート『「超過死亡グラフ改竄」疑惑に、国立感染研は誠実に答えよ!』で指摘した国立感染研公表の「超過死亡」グラフ問題の再取材結果を報告しよう。この問題は、有効なコロナウイルス対策を進める上で国際的に注目されている「超過死亡」統計のグラフが大きく変化していた疑惑で、公表している国立感染研と並んで統計を担当している厚生労働省の健康局結核感染症課が取材に応じた。まさに指定感染症を担当する課だ。この問題を簡単に復習しておくと、国立感染研のHPに5月7日に公表されていた「超過死亡」のグラフが、緊急事態宣言が解除された日の前日の5月24日、まったく違う形のグラフに変わっていたという問題だ。この変化によって、5月7日公表グラフでは2月中旬から3月終わりにかけて大きい「超過死亡」が見られたのに、5月24日公表グラフではその「超過死亡」分がそっくり消えていた。あまりに大きく変動していたために、「超過死亡」記事を紹介した私のツイートに対して、私のフォロワーの方々から「改竄されたのではないか」との声が多く寄せられたが、統計数値を直接取りまとめている国立感染研は、私の問い合わせに素っ気ない回答しか与えなかった。この国立感染研に代わって直接取材に答えたのは、感染研とともに「超過死亡」統計を担当する厚労省結核感染症課に所属する梅田浩史・感染症情報管理室長と、同室の井上大地・情報管理係長。6月2日、取材に応じた。 ●厚労省結核感染症課の主張 取材の結論をまず示しておくと、梅田、井上両氏は「超過死亡」統計グラフの作り方を懇切丁寧に説明したが、最終的に誤解を解くデータについては最後まで明らかにしなかった。梅田、井上両氏の説明を噛み砕いてシンプルに示しておこう。二つのグラフの間で大きく変化していたのは2月17日から3月29日にかけての死亡数。厚労省は東京都23特別区の保健所に対して、死亡小票を作った時点から2週間以内に死亡者や死因などを報告するように通知しているが、今年の場合、コロナウイルスへの対応に忙しく、「週によっては三つか二つの保健所からしか報告が来ない時もあった」(梅田感染症情報管理室長)という。23特別区からの報告がそろわない時には、仕方なく「報告保健所数の割合の逆数を乗じて」(国立感染研HP)いる。つまり、例えば23区のうちひとつの保健所からしか報告がなく、その報告が死亡者数5人であれば、「報告保健所数の割合」23分の1の「逆数」である1分の23に5人を乗じて、死亡数を115人と推定する、という計算法だ。これが厚労省の通知通り2週間以内に報告が出そろえば大した問題は生じないが、今回のように、1か月以上過ぎても報告がほとんど来ない事態ともなれば大変な問題となる。グラフのあまりの大きな違いに「改竄ではないか」という疑念まで生んでしまう。グラフが大きく変化していた論理はわかった。では、この厚労省結核感染症課の説明は正しいのだろうか。 ●根拠の数字は頑なに示さず 理由を述べたこの論理については、私はもちろん説明を受ける以前から知っていたが、その根拠となる数字については最後まで「公表していない」という返事しか聞けなかった。何月何日にどの保健所が何人の死亡者数を報告という数字をすべて明らかにすれば、先ほど紹介した計算をしてすぐに結果が出るのだが、なぜか明らかにされなかった。「新型コロナに対する超過死亡の数字が重要だということは我々も理解しています」。こう語った梅田感染症情報管理室長は、COVID-19対策が注目されている現在、第2波の襲来が予想されている今年秋までにCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計を作ることを私に明言した。しかし、1か月以上経っても、東京都23特別区内にある保健所から死亡者数の報告さえ上がってこない現状で、そのようなCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計など作って運用できるのだろうか。井上情報管理係長によれば、保健所は、報告書の死因欄に「肝臓癌」や「肺炎」などと手書きで書き、OCR(光学的文字認識)機械にかけるという。だが、OCRにかけようとパソコンに直接入力しようと、まず「2週間以内」という時間は遅すぎる。「ランセット」はCOVID-19対策のためにリアルタイムでの「超過死亡」数値の活用を訴えている。「ランセット」は、PCR検査による新規感染者数がCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるために、単純な「超過死亡」数をリアルタイムで活用することを求めているのだ。PCR検査数が極端に少ない日本にこそ求められるリアルタイム統計だが、「2週間以内」ではあまりに遅すぎるし、コロナ対応に忙殺されていたとはいえ、1か月経っても死亡者数さえ報告されない現行の保健所体制ではまったく意味をなさない。未知のウイルス襲来に忙殺奮闘された保健所職員の方々の努力を軽視しているわけではない。COVID-19のようなパンデミック・ウイルスを迎え撃つ体制としては、保健所には限界があると言っているのだ。 ●保健所の仲介をなくせ! 体制としての保健所の限界は、「超過死亡」統計の問題だけではない。基本的なPCR検査体制については、さらに明確に指摘できる。私自身、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらなかった(佐藤章ノート『私はこうしてコロナの抗体を獲得した《前編》保健所は私に言った。「いくら言っても無駄ですよ」』参照)。私のような事例は特別なものではなく、社会的には「検査難民」という言葉まで生まれた。これは文字通り保健所のキャパを超えていることを表している。しかし、例えば、ここで発想を変えて、保健所の仲介をまったくなくしてみたらどうだろう。何か困るようなことはあるだろうか。毎年のインフルエンザの検査は保健所などは通さない。かかりつけの開業医から民間検査会社にまっすぐ検査依頼が行くだけだ。だが、そうなるとPCR検査依頼が殺到して医療崩壊を招きかねないという心配の声が出てくる。その問題の対策には二つの方法が考えられる。まず、COVID-19を感染症法に基づく指定感染症から外して、無症状者や軽症者は医療機関以外の施設に大量に入所できるようにする。次に、韓国が全国69の既存病院をコロナ専用病院に転換させたように、COVIDー19を迎え撃つ医療体制の再構築を進めることだ。 ●医系技官の天下り問題 このような政策転換は努力すれば可能だが、実は問題は簡単ではない。保健所体制の問題には、厚労省や国立感染研などを含む医系技官の人事問題、つまり天下りの問題が絡んでいるからだ。この問題に関しては、医系技官問題を細大漏らさず知り尽くす上昌広・医療ガバナンス研究所理事長が懇切丁寧に解説してくれた。その説明に耳を傾けよう。戦前にできた保健所は元来、徴兵制度のサポートシステムだった。強兵養成のために栄養失調などを事前にチェックする役目を負い、戦後はGHQの下で、性病検査やチフス、コレラ、結核対策に活用された。GHQは保健所長に医師を充てる政策を採り、食中毒取り締まりなどの「衛生警察」の役割も担わせた。このため、保健所は戦後に特殊な権限を持つ役所に生まれ変わり、同時に厚労省の前身である厚生省もGHQの指揮下で、高等文官試験(現在の国家公務員試験)を通らなくても同省の官僚となれる医系技官制度を採用する。この医系技官官僚が独特の人脈を形成し、厚労省と国立感染研、そして保健所や地方衛生研究所との間で独自の人事交流、つまり天下りのネットワークを形作っていく。ところが、保健所そのものは中曽根康弘政権時代以来、行財政改革の主要な標的とされ、その存廃問題が常に医系技官たちのトラウマとなってきた。1990年代のエイズウイルスやO157、あるいは2000年代に入ってからのSARSや新型インフルエンザなどはそのような心配から医系技官たちを解放してくれた。しかし、COVIDー19の場合はPCR検査のキャパがあまりに大きく、放っておくと保健所体制をはるかに超えるPCR検査の流れができてしまう。そうなると、保健所不要論の声がまた大きくなり、再び悪夢の行財政改革の標的とされてしまう。保健所がPCR検査仲介の権限をしぶとく手放さない深い理由はそこにある。 ●第2波に備えてPCR検査拡充を! 中国は5月14日から6月1日の19日間で、武漢市民の「全員検査」を実施し、約990万人にPCR検査を受けさせた。1日あたり約52万人の計算だ。これにはかなり劣るがニューヨーク市は1日あたり4万件のPCR検査が可能になった。翻って日本の場合は、全国で1日あたり2万2000件のPCR検査が可能になったと厚労省が5月15日に発表している。この差は、アイロニカルに表現すれば、まさに安倍首相の言う「日本モデル」から来ている。つまり、日本独特の保健所体制に絡む医系技官の人事問題に由来しているのだ。PCR検査自体は難しい検査ではない。民間検査会社や大学の研究室ではまだまだキャパが余っている。人の手を介さない全自動機械も日本のメーカーが開発製造している。しかし、保健所が検査仲介の権能を手放して検査会社に検査の自由を認めない限り、検査会社も全自動機械などは導入しない。安倍首相は現在のところ、PCR検査拡充を阻むこのような問題に取り組む姿勢を微塵も見せていない。医療体制の再構築なども念頭にはないようだ。このままでは第1波と何ら変わらない体制のまま大きい第2波を迎えることになるだろう。安倍首相は本来、中曽根元首相や小泉純一郎元首相の流れを汲み、積極的な行財政改革に取り組むのではないかと見られていた。トラウマを抱える医系技官人脈にとっては警戒すべき政権だった。ところが、当の安倍首相にはそのような問題意識はまるでないことがまもなく明らかになり、天下りを夢見る医系技官にとっては夢を紡ぐ安全安心の政権と転じることになった。COVIDー19第2波の危機的な状況を前にしても、そのような問題に気が付いている節は安倍首相にはまるで見えない。「第2波の危機を前に、基本的なPCR検査の拡充などはまったく絶望的ですね」。私の問いかけに上昌広・医療ガバナンス研究所理事長は深く頷いた。この記事の筆者であるジャーナリストの佐藤章さん、記事に登場する医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さん、東京都世田谷区長の保坂展人さんをオンラインでつないだ論座主催の公開イベント『「私はコロナから生還した」~感染したジャーナリストが語る検査の実態。医師は、行政はどうする?』を無料で公開しています。新型コロナウイルスに感染した佐藤さんの体験をもとに、医師である上さん、首長である保坂さんがコロナ対策の課題について語り合う内容です。ぜひご覧下さい。 *2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/610611/ (西日本新聞 2020/5/23) 帰国後に39度の熱…PCRなぜ受けられない? 検査なおハードル高く 新型コロナウイルス感染が急速に広がった際、自らの症状に不安を感じて行動しながらも、感染の有無を調べるPCR検査を「受けられなかった」という不満がくすぶった。日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり、政府は検査能力を増強。目標の「1日2万件」を達成したとするが、依然として実際の検査数は半数にも満たない。「次女が急に高熱を出した。もしかしてコロナかもと不安になりました」。福岡県北部に住む男性(61)は5月上旬、留学先のカナダから帰国して間もない次女(23)が39度近い熱を出したと明かす。医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話もつながらない。やむなく自宅療養を続けたという。発熱5日目、クリニックの医師が保健所に連絡し、次女はようやくPCR検査を受けた。結果は陰性だったが、男性は「家族は不安で仕方なかった」と話す。次女は内臓疾患と判明した。同様の事例は各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースもある。厚生労働省によると、国内のPCR検査能力は3月上旬の1日約4200件から2万3139件(5月17日現在)に伸びた。ただ、実際の検査数は平日で1日5千~8千件ほどで推移する。感染者の減少傾向を踏まえても、検査能力と検査数に大きな隔たりがあるのはなぜか。改めて検証した。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60063940V00C20A6EA1000 (日経新聞 2020.6.6) コロナに後遺症リスク 重篤な合併症 治療長期化も 「肺以外に影響」報告相次ぐ 新型コロナウイルスの感染者が重い合併症を患う症例が、世界で相次ぎ報告されている。心臓や脳、足など肺以外で重篤化するケースが目立つ。世界では300万人近くが新型コロナから回復したが、一部で治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクも指摘され始めた。各国の研究機関は血栓や免疫システムの異変など、合併症のメカニズム解明を急ぐ。 ●俳優が右足切断 「きょう右足が切断されます」。米演劇界最高の栄誉とされるトニー賞にノミネートされたブロードウェー俳優、ニック・コーデロさん。新型コロナに感染して4月上旬、集中治療室(ICU)で治療を受けていた。重い肺炎症状に加えて表れたのが、右足の異変だ。血液の塊である血栓が生じ、つま先まで血液が行き渡らなくなった。血栓を防ぐため抗凝血剤が投与されたが、血圧に影響を及ぼし腸の内出血を併発、切断を迫られた。妻はインスタグラムで「ニックは41歳で持病もなかった。どうかみなさん、新型コロナを甘くみないで」と訴えた。新型コロナが肺以外に影響を及ぼす合併症の症例は、欧米をはじめ世界各国で報告されている。原因の一つとみられるのが、ウイルスが血管に侵入して形成する血栓だ。英医学誌ランセットに掲載された研究で、ウイルスが血管の内膜を覆っている内皮細胞を攻撃する証拠を発見。著者の一人、米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のマンディープ・メウラ医師は日本経済新聞の取材に「(攻撃が)心臓や脳、腎臓など複数の臓器で起きている」と指摘する。オランダの医師らの研究によると、新型コロナに感染してICUに入った患者184人のうち、31%で血栓を伴う合併症がみられた。多くが血栓が肺動脈を塞ぐ「肺塞栓症」で、一部の患者は「脳梗塞」も併発した。本来はウイルスの侵入から体を守る免疫システムが、正常な細胞まで攻撃してしまう現象も合併症を引き起こす一因とみられている。この過剰な免疫反応は「免疫暴走」とも呼ばれ、何らかの理由で過剰に反応し臓器や血管を傷つける。乳幼児が発熱や発疹など「川崎病」に似た症状を引き起こすケースも、米国だけで5月中旬までに約200の症例が報告された。 ●正常機能戻らず 重い合併症の広がりは治療の長期化や後遺症リスクを高める。中国・武漢の医者団が新型コロナを克服した25人の血液サンプルを調べたところ、ほとんどが重症度合いにかかわらず正常な機能を完全に取り戻していなかった。国際血栓止血学会は、回復した患者に退院後も抗凝血剤の服用を勧めるガイドラインを発表した。イタリアの呼吸器学会は新型コロナから回復した人のうち、3割に呼吸器疾患などの後遺症が生じる可能性があると指摘。地元メディアによると、少なくとも6カ月は肺にリスクがある状態が続く懸念があるという。「最初の症状から69日が経過したが、倦怠(けんたい)感が残る。目が痛くて断続的な頭痛がある」(カナダの男性)。重症化は免れても後遺症や長期化に悩む人は多い。米ボディー・ポリティックが感染者640人を対象に4月下旬から5月上旬に行った調査によると、9割が完全に回復しておらず、症状は平均して40日間続いていると回答した。もっとも、ウイルスが血栓の形成や過剰な免疫反応を引き起こすメカニズムは解明されていない。メウラ医師は「内皮細胞にどのように侵入するのか、抗凝血剤の投与が役立つのかまだはっきりしていない」と話す。コーデロさんのように抗凝血剤が機能しない場合もあり、医療現場では手探りの治療が続く。米ジョンズ・ホプキンス大によると、650万人を超えた新型コロナの感染者のうち約280万人がすでに回復した。だが治療の長期化や重症化に悩む患者は多く、医療保険など各国のセーフティーネットや医療インフラへの負担も深刻だ。治療薬やワクチンの開発と並び、重症化に至る仕組みの解明や対策が不可欠になる。 *2-5:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72582 (現代 2020.5.17) 東京の3月のコロナ死者、発表の10倍以上?「超過死亡」を検証する、国立感染研のデータから 長谷川学 ●「少なすぎる」疑いの目 5月11日、小池百合子東京都知事は、都の新型コロナ陽性者数公表に関して、過去に111人の報告漏れと35人の重複があったことを明らかにした。保健所の業務量の増大に伴う報告ミスが原因だという。同じ日の参院予算委員会。政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の尾身茂副座長は、「確認された感染者数より実際の感染者数がどれくらい多いか」と聞かれ、「10倍か、15倍か、20倍かというのは今の段階では誰も分からない」と “正直” に答弁した。先進各国に比べ、PCR検査件数が格段に少ないのだから、感染者数を掴めないのは当たり前のことだ。小池、尾身両氏の発言は、いずれも新型コロナの「感染者数」に関するものだ。だが実は、東京都が発表した今年3月の新型コロナによる「死亡者数」についても、以前から「あまりに少なすぎる。本当はもっと多いのではないか」と、疑惑の目が向けられてきた。東京都が初の新型コロナによる死亡を発表したのは2月26日。その後、3月中に8人の死亡が発表されている。この頃、東京都ではまだPCR検査を積極的に行っておらず、2月24日までの検査数はわずか500人余りにとどまっていた。このため「実際は新型コロナによる肺炎で死亡した人が、コロナとは無関係な死亡として処理されていたのではないか」という疑いが、以前から指摘されていたのだ。 ●「超過死亡」とは何か これに関連して、国立感染症研究所(以下「感染研」)が興味深いデータを公表している。「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」(以下「迅速把握システム」)のデータである。この迅速把握システムは、約20年前に導入された。少し前置きが長くなるが、概要について述べよう。東京(23区のみで都下は対象外)など全国の21大都市における「インフルエンザ」による死者と「肺炎」による死者の数を合計し、毎週、各地の保健所から集計する。この2つの死者数の変化を追うことを通じて、全国のインフルエンザの流行状況を素早く把握しようという狙いだ。なぜ「インフルエンザ」だけでなく「肺炎」による死者もあわせて集計しているのか。例えば、お年寄りがインフルエンザ感染をきっかけに入院しても、そのまま亡くなってしまうケースは少なく、実際にはさまざまな治療の結果、最終的に「肺炎」で亡くなることも多い。そうした死者も漏らさず追跡し、インフルエンザ流行の影響を総合的に捉えようという考え方だからだ。専門的には、このような考え方を「インフルエンザ流行による超過死亡の増加」という。今回注目すべきは、迅速把握システムの東京都のデータ(次ページの図「東京19/20シーズン」)である(注・19/20とは19年から20年のシーズンという意味)。 ●インフルは例年より下火だったのに 図の「-◆-」で示された折れ線は、保健所から報告されたインフルエンザと肺炎による死者数を示している。ご覧のように、今年の第9週(2月24日〜)から第13週(〜3月29日)にかけて、それまでに比べて急増していることが分かる。この急増の原因は、いったい何なのか。この時期、東京ではインフルエンザは流行していなかった。1月、2月のインフルエンザ推定患者数は、前年同時期の4分の1程度。今年は暖冬で、雨も多かったこと、そして国民が新型コロナを恐れて手洗いを良くしていたことも影響したと考えられている。インフルエンザが流行っていなかったのに、なぜ、この時期に肺炎による死者が急に増えたのか。医師でジャーナリストの富家孝氏はこう推測する。「まず考えられるのは、新型コロナによる肺炎死でしょう。警察が変死などとして扱った遺体のうち、10人以上が新型コロナに感染していたという報道もありました。2月、3月は、まだ東京都はPCR検査をあまり行っていませんでした。検査が行われなかったら、当然、新型コロナの死者数にはカウントされません。実際にはコロナによる重症肺炎で亡くなっていた人が、コロナとは無関係な死亡と扱われていた疑いがあります」 ●偶然とは思えない多さ 金沢大学医学部の小川和宏准教授もこう話す。「今年はインフルエンザの感染者数が少なかった上に、2月末から3月末はインフルエンザのピーク(毎年1月末から2月初めの時期)も過ぎている。この超過死亡は、新型コロナによる死亡を反映している可能性が高いと思います」。では、「隠れた死者」は何人いたのだろう。再び図をご覧いただきたい。「超過死亡」とされるのは、図の赤線(閾値)を超えた部分だ。江戸川大学の隈本邦彦教授が解説する。「東京23区内で過去のデータから予測される死者数がベースライン(緑線)です。どうしても年によってバラツキがありますから、そのベースラインに統計誤差を加えた閾値(赤線)を設定し、それを超えた分を “超過死亡” と判定しています。つまり今年は、偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多かったということです。それが5週連続、しかも毎週20人以上というのは異常だといえます」。図のように、超過死亡は今年第9週(2月24日〜)に約20人にのぼった。その後も、第13週(〜3月29日)まで毎週20〜30人の超過死亡が起きていた。合計すると、およそ1ヵ月の間に100人以上。東京都が発表した3月中の新型コロナによる死亡数8人の10倍を超える。 ●「原因病原体はわからない」 データを発表した感染研は、この超過死亡をどう捉えているのだろうか。感染研に質問したところ、「このシステムは超過死亡の発生の有無をみるものですが、病原体の情報は持っておりませんので、その原因病原体が何かまでは分かりません」と、木で鼻をくくったような回答だった。なお感染研発表の過去の東京都のデータを調べると、前シーズン(18-19年)と前々シーズン(17-18年)にも超過死亡はあったが、これについて感染研は「インフルエンザの流行が非常に大きかった」と回答した。なぜ去年の出来事はインフルエンザとわかるのに、今年は不明という回答になるのだろう。とはいえ、この超過死亡が新型コロナによるものかどうかは、遺体がPCR検査もされずに荼毘に付されてしまったいまとなっては、実証する手立てがない。一方、感染研発表の東京都のデータからは、死者数とは別の大きな問題も浮かび上がる。図のように2月24日以降、東京23区で超過死亡が急増していた。新型コロナウイルス発生を中国政府が正式に発表したのは、今年1月9日。同23日には武漢市が都市封鎖された。日本でも1月下旬以降、徐々に感染者が確認され、2月13日には国内初の死者が出て、人口が密集する東京での感染爆発は不可避とみられていた。そうした状況下で、2月24日以降5週間にわたって、人知れず週20〜30人もの超過死亡が確認されていたのである。なぜ、この重大なサインに当局は目を留めず、活かそうとしなかったのか。「原因病原体が何かまでは分かりません」で片づけられる話ではない。 ●今にして思えば… 前出の隈本氏が首を傾げる。「インフルエンザが流行していないのに、2月下旬に東京23区で週に約20人の超過死亡が発生していた事実は、通常なら2週間後の3月上旬には感染研の迅速把握システムに届いていたはずです。その時点で、感染研の担当者や厚労省の専門家会議のメンバーの誰かが気付いて、“東京が大変なことになっているかもしれない” と警鐘を鳴らしていたら、PCR検査態勢の拡充を含め、より早期の対応が可能だったはずです」。だが実際には、小池東京都知事が新型コロナ対策で本格的に動き始めたのは、3月24日に東京オリンピックの延期が正式に決まってからだった。そして東京都の新型コロナ感染者数は、先に感染が広がった北海道に比べてずっと少なかったのに、東京オリンピック延期が決まった後から、急激に右肩上がりで増えていった。「もし2月下旬に発生し始めた週20人以上の超過死亡が新型コロナのためだとなると、その時点でオリンピックどころではなくなったでしょう。しかし、もしそうした “忖度” のために、税金を使って集めている迅速把握システムが捉えたデータが生かされなかったとしたら、何のためのシステムなのか。東京都や国の責任は重いと思います」(隈本氏)。なぜこの貴重なデータが早期に検証され、コロナ対策に生かされなかったのか。今後、経緯を厳しく検証していく必要があるだろう。 <病院への新型コロナの一撃> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200522&ng=DGKKZO59429720S0A520C2EA1000 (日経新聞 2020.5.22) コロナ禍で通院激減 「不要不急」が問う医療、医療資源、最適配分に一石 新型コロナウイルスが猛威をふるい始めてこの方、私たちは「不要不急」という言葉を幾度となく聞かされてきた。この四字熟語は医療にもあてはまるのだろうか。企業の健康保険組合と協会けんぽ、公務員などの共済組合や船員保険を合わせた被用者保険の3月の医療費動向が判明した。総額は1兆1257億円、患者が医療機関にかかった件数は9415万件。前年同月と比べると、医療費の1.3%減に対し、件数は11.5%減と大きく落ち込んだ。何が読み取れるか。 ●風邪なら自力で 3月は初旬こそ外出を自粛する空気は強くなかったが、半ば以降はイベントや会合の中止が相次いだ。通院の見合わせや先送りをする患者が目立ちはじめたのは、この頃だ。こんな仮説は成り立たないだろうか。軽い風邪や腹痛、花粉症などにかかった人は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品(OTC医薬品)でしのいだ。従来は地域の診療所や病院の外来診療に頼っていた軽い病の治療が、自分で手当てをするセルフメディケーションに取って代わった。感染症の専門家は軽い風邪症状の人には自宅療養を呼びかけていた。手洗いや消毒の徹底による予防効果もあろう。一方、高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった。この結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった―。医療関係者の多くは、医療に不要不急はあり得ないという。慢性疾患を抱えた高齢者には、待合室で長時間すごすのを避けようと、通院を見合わせた人もいる。それが原因で病状が重くなることがあってはなるまい。半面、自らの体調を知り、調子が悪ければ自己判断・自己負担で薬をのんで治すのも医療のひとつのかたちだ。「不要」ではなくとも受診が「不急」であるケースはあろう。健康保険証があれば医療機関へのアクセスが原則自由な日本は、主要国で最も医師にかかりやすい国のひとつだ。早期治療を促す利点があるが、そのぶんコロナ禍による受診抑制を招きやすいのではないか。英国営医療制度(NHS)が採用した人工知能(AI)診断アプリのようなしくみを日本でも保険適用すれば、受診抑制による治療の遅れをくい止める効果が期待できよう。むろん同国とは医療費の負担構造が違うので、一概には比べられないが。 ●病院経営に影響 注目すべきは緊急事態宣言下の4月の動向だ。厚生労働省は重篤・重症のコロナ感染者を受け入れ専門治療にあたっている大学病院などに対し、特例としてICU(集中治療室)の入院料を2倍に上げた。だが採算は改善せず、コロナ対応病院の経営はおしなべて苦しい。隔離用の陰圧病室を新設したり空き病床を確保したりするコストがかさむからだ。政府・与党が編成に着手した2020年度第2次補正予算案は、コロナ対応病院への資金援助が欠かせまい。地域の診療所などはどうするか。日本医師会は2次補正に資金援助を計上すべく厚労省への働きかけを強めている。省内には初診・再診料の加算を模索する動きがある。セルフメディケーションへの移行や予防の徹底が効いているとすれば、医療機関の減収分をほかの患者や健康保険が負担する診療報酬で補填するのは筋が通るまい。診療報酬を上げるなら、オンラインの初診・再診料を増やし、コロナ後も見すえた新しい医療態勢に誘導するのが望ましい。4月に入り、規模の大きな総合病院にも、外来患者が急減したり不急の手術を先送りしたりし、収入の落ち込みが目立つようになったところがある。コロナ禍という特異な状況のもとで、専門性や診療科の違いによる繁閑の差が広がっている。軽症のコロナ感染者は感染予防を徹底させた地域の診療所で治療する選択肢もあろう。そのための設備や資材を国費で援助するのは、納税者の納得を得やすい。人材配置を含め、医療資源を最適配分するにはどんな資金援助が効くか。データをつぶさに読み取り、根拠に基づく政策立案を徹底するときである。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60069950V00C20A6EA3000 (日経新聞 2020.6.6) 新型コロナ 政策を聞く〈検査体制〉民間機関、参入しやすく 自民・医師議員団本部長 冨岡勉氏(長崎大院修了。医学博士。衆院厚労委員長など歴任。党政調副会長。石原派。衆院比例九州、71歳) 日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れた。第2波が起こりかけた時に正確に把握できるよう体制の拡充が急務だ。再流行の予兆を感知したらすぐにクラスター(感染者集団)対策を強化し、小さな流行に抑えるためだ。これまで過剰に検査せず医療費を抑えた面はあったが、再流行の兆しをつかめずに大規模な感染拡大につながればかえって医療費は増える。PCR検査の体制を強化するには米国や韓国で普及するドライブスルー方式の検査センターを増やす必要がある。短時間で検体を採取できるため効率がよい。病院で医師や患者が集団で感染するリスクを減らせる。ドライブスルー方式は日本の医師会や自治体で導入が増え始めている。政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい。PCR検査に類似し最短2~3時間で終わる簡易な「LAMP法」もドライブスルー方式で導入すべきだ。無症状者らを対象にコロナの感染の有無を一定の精度で早く判定できると期待する。抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい。無症状者らが診断後にPCR検査も受けたら二度手間になる。 *3-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20200606&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2020.6.6) PCR遅れ 国会検証を 立民・幹事長 福山哲郎氏(京大院修了。民主党政権で外務副大臣や官房副長官など歴任。参院京都選挙区、58歳) 感染の実態を十分把握しているとは言いがたい。検査のために保健所などに設置した帰国者・接触者相談センターは電話がつながらないケースが相次いだ。「37.5度以上の発熱が4日以上続く」とした受診目安も壁となった。軽症、無症状者を含めた感染者数の全体像を把握しなければ必要な対策は打てない。PCR検査を増やすべきだ。ドライブスルー方式は院内感染を防ぎ、検査数を増やせるメリットがある。韓国やドイツなどではドライブスルー方式を2~3月に導入した。感染者を早期に発見し隔離することで感染防止につなげようとしたのだろう。日本も自治体が積極的に導入したのは評価できる。国が経費を負担するのが不可欠だ。第2波に備え、抗体検査も組み合わせ検査数を増やしていくのが欠かせない。妊婦や医療従事者、教員などに優先的に受けさせるべきだ。屋外拠点や電話ボックス型の検査ブースの活用も有効だろう。医療機関とは空間を別にして数多く検査ができるシステムを開発せねばならない。PCR検査がなぜ進まなかったのか十分な検証が必要だ。国会にコロナ問題検証委員会を設け、要因を分析すれば今後の検査拡充につながる可能性がある。(随時掲載) *3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14502069.html (朝日新聞 2020年6月5日) 病院再編、感染症考慮 厚生労働省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院について、安倍晋三首相は4日の参院厚生労働委員会で「感染症病床を担い、感染症対策において重要な役割を果たしていることは認識している」と述べ、今後は感染症対策も考慮して議論を進める方針を示した。厚労省は昨年9月、再編統合の必要があるとして424の公立・公的医療機関を名指ししたが、感染症病床の有無などは考慮していなかった。しかし、新型コロナウイルスの患者を多く受け入れている感染症指定医療機関の多くは公立・公的病院で、病院団体などから見直しを求める意見が示されていた。 *3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496109.html (朝日新聞 2020年5月31日) 医療担い手、待遇悪化 ボーナス3分の1に/給料10%減… コロナ恐れ受診減 新型コロナウイルスで、医療や介護の働き手の待遇が悪化している。感染対策のコストがかさみ、患者や利用者が減って、経営が揺らいでいるためだ。一時金をカットせざるを得ない病院や施設も相次ぐ。国は医療・介護従事者へ最大20万円を配る予定だが、減収分を補うのは難しい。一部では雇い止めや、休みを指示する一時帰休などもみられ、雇用をどう守るかも課題だ。医療機関のコンサルティングを手がけるメディヴァによると、一般の患者が感染を恐れて受診を控える動きがめだつ。同社が全国約100の医療機関に感染拡大の前後で患者数の変化を聞いたところ、外来患者は2割強、入院患者は1~2割減った。首都圏では外来は4割、入院は2割減。とくにオフィス街の診療所では、在宅勤務の定着で会社員らの患者が落ち込む。メディヴァの小松大介取締役は「非常勤医師の雇い止めも出ている。夏のボーナス支給見送りを検討している施設も散見される」と話す。実際、看護師らの給料や一時金が下がるケースが続出している。日本医療労働組合連合会(医労連)が28日にまとめた調査では、愛知県の病院が医師を除く職員の夏の一時金を、前年実績の2カ月分から半減させることを検討。神奈川県の病院では夏の一時金カットに加え、定期昇給の見送りや来年3月までの役職手当の2割カットなどを検討しているという。医労連の森田進書記長は「職員の一時金1カ月分はだいたい30万円。コロナ患者を受け入れている医療機関の勤務者には最大20万円が支給されることになったが、賃下げ幅が上回る可能性がある」と話す。職員の夏の一時金を、当初想定していた額の3分の1に引き下げる病院もある。埼玉県済生会栗橋病院(同県久喜市、329床)は、新型コロナの入院患者も受け入れている。4月の病院収入は前年同月より15%減で1億2千万円減った。院長は経営環境について「つぶれるんですか、というレベルだ」と打ち明ける。看護師や臨床検査技師ら職員の夏のボーナスについて、感染拡大前に想定した額の3分の1にまで減らさざるを得ないという。全国医師ユニオンが都内で16日に開いたシンポジウムでも、懸念の声があがった。千葉県内の民間病院に勤める研修医は「すでに給料が10%カットされた病院もある。現場でのストレスが強くなるなかで給料まで下がったら、もうやっていられないという人も出てくる」と訴えた。大病院のなかには、業務が減っている一部の職員について、一時帰休を検討するところも出てきた。今後予想される「第2波」に向け、医療従事者の雇用の安定が求められる。 ■経営、もともと脆弱 背景には、感染拡大前から病院がぎりぎりの経営を強いられ、脆弱(ぜいじゃく)だったことがある。病院の収入は診療報酬制度に基づく。手術や入院などの診療行為ごとに値段(点数)が決められている。国は医療費が膨らみすぎないように点数を抑制してきた。厚労省の医療経済実態調査によると、精神科を除く病院の2018年度の損益率(収入に対する利益の割合)は、マイナス2・7%の赤字。利益を出しにくい構造で、患者が少しでも減れば経営が揺らぐ。介護の分野でも構造は同じ。国が定める介護報酬も抑制されていて、事業者には余裕が少ない。感染対策の費用がかさむ一方で、サービスの利用者が減り経営を圧迫している。国は診療報酬の上乗せやデイサービスの条件緩和など対策をとろうとしているが、実態の把握は十分ではない。厚労省の医療経営支援課は「病院団体が調べたデータなどを踏まえて経営支援に何ができるか考えていく」という。 ■病院や介護施設における待遇悪化の主な事例 【病院】 <愛知> 医師以外の固定給職員の夏の一時金が前年から半減の1.0カ月分 <沖縄> 正規、臨時職員の夏の一時金が前年の約3割減の0.8カ月分 <神奈川> 定期昇給見送り。正規職員の夏の一時金が前年の約3割減の 1.0カ月分+3万円。6月から来年3月まで役職手当2割カット、 管理職手当1割カット <東京> 一部の職員に一時帰休を実施 【介護施設】 <和歌山> 夏の一時金が前年の約2割減の1.5カ月分 <神奈川> 基本給を平均約2割減らし、定昇は見送り。年間一時金が前年から 半減の2.0カ月分 (日本医療労働組合連合会調べ。労使交渉は継続中で支給内容は変わる可能性がある) <新型コロナの経済対策> *4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/526293 (佐賀新聞 2020.5.23) コロナ解雇1万人超 加藤勝信厚生労働相は22日の記者会見で、新型コロナウイルス関連の解雇や雇い止めが21日時点で1万835人に上ったと明らかにした。政府が緊急事態宣言を発令した4月から急増し、5月だけで全体の7割近い7064人を占める。雇用情勢が急速に悪化している実態が浮き彫りになった。厚労省は2月から、解雇や雇い止めについて見込み分も含めて都道府県労働局の報告を集計している。月ごとに見ると、2月が282人、3月が835人、4月が2654人。5月は20日時点で5798人だったが、21日には7064人となり、千人以上増えた。加藤氏は「日を追うごとに増加している」と懸念を示した。業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給する雇用調整助成金などを利用して、雇用維持に努めてほしいと強調。大規模な解雇や雇い止めの情報を把握した場合は「ハローワークの職員が企業に出向き、雇用調整助成金の活用を働き掛ける」と述べた。厚労省は解雇や雇い止めの集計に関し、現在は正社員と非正規労働者を区別しておらず、加藤氏は「(今後は)正社員と非正規労働者の動向が分かるよう事務方に指示している」と語った。パートら非正規労働者は正社員に比べて解雇されやすく、労働組合関係者の間では派遣社員の大量雇い止めなどへの懸念が広がっている。 *4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/528535 (佐賀新聞 2020.5.29) 観光割引、事務費が3000億円、「高すぎる」と野党が問題視 新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた観光・飲食業を支援する政府のキャンペーンを巡り、外部への事務委託費が最大約3千億円と見込まれることが分かった。予算総額1兆6794億円の約2割を占める可能性があり、立憲民主、国民民主などの野党会派が29日開いた合同部会では「事業者に恩恵が行き届かない恐れがある」と問題視する声が出た。政府は新型コロナの収束を見据え、本年度第1次補正予算にキャンペーン費用を計上。旅行商品を購入した人に半額相当を補助したり、飲食店のインターネット予約などにポイントを付与したりする。事務作業は外部に委託するが、費用の上限は3095億円に設定。人件費、広報費に充てることを想定している。事務局の公募を既に開始、6月中に選定する。赤羽一嘉国土交通相は29日の衆院国交委員会で、関係業界が多岐にわたるため、事務局の作業は「時間とコスト、手間が相当かかる」と指摘。上限額の設定は適正との認識を示した。その上で、最終的な委託費用は「絞られる」とも述べた。野党の会合では「事務局への費用がかかりすぎると、本当に必要な事業者の支援が不十分になる」「地域の消費を喚起できるような仕組みにしてほしい」といった意見が出た。 *4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496375.html (朝日新聞 2020年6月1日) 布マスク「質より量」、迷走 政府、早さ重視 国内検品断る 4月1日の安倍晋三首相の全戸配布の表明から2カ月。いまだ大半の世帯に届いていない「布マスク」は、安倍政権の迷走の象徴となっている。マスク不足の中、調達の現場ではなにが起きていたのか。「3月中に1500万枚、4月中に5千万枚ほしい」。2月後半、最大の受注企業となる「興和」(名古屋市)の三輪芳弘社長は政府からの依頼に驚いた、と振り返る。枚数の桁が違った。「量ですか、質ですか」。納期を考えて優先事項を尋ねる三輪氏に政府の担当者は言った。「量だ。とにかく早くほしい」。医薬品や衛生品などをつくる同社が生産するマスクは不織布の使い捨てが主流だったが、布マスクも少数ながら取り扱っている。政府は生地の調達を含めて一貫した生産ができるとみて依頼した。だが、この時点で、政府の担当者も同社も、のちに「アベノマスク」とも言われる全戸配布の布マスクになるとは想像していなかった。課題は山積みだった。ガーゼの生地は中国やベトナム、スリランカなどアジア各国で探し、かき集めた。ただ、その時点では政府の発注書もない、いわば「口約束」だった。つくった布マスクを政府が買い取るという確約もない中で作業は始まった。生地はタイとインドネシアで加工。縫製は中国の加工業者に依頼し、約20カ所を確保した。2週間で急きょ集めた作業員は計1万人以上。日本人社員は感染を避けるため赴任先から帰国させており、日本語が分かる現地スタッフを通じて加工業者らとやりとりした。これとは別に検品場所も中国で約20カ所探し、ピーク時には数千人が作業にあたった。同社は当初、品質を担保するため国内での検品を強く希望。しかし、同社の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くというもので、「それでは期日までに目標の半分も調達できないおそれがあるということで、政府側が断った」(政府関係者)という。同社は日本から検品の担当者を現地に行かせ、監督させようとしたが、出入国制限などのため断念した。こうした経緯は異例の契約にもつながった。3月17日に結ばれた介護施設など向けの布マスク、21・5億円分の契約書には、隠れた不具合が見つかっても興和の責任を追及しないとの条項が入った。配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は「緊急を要する発注だったためにこのような契約を結んだ」と話す。縫製作業が始まったのは3月21日ごろ。同月26日、三輪氏は首相官邸で開かれた会議に出席。最初につくったサンプルを持参した。首相が全世帯に2枚ずつ布マスクを配ると表明したのは、その6日後だった。布マスク計画に関わった政府関係者は言う。「マスクが国民に行き渡るようにしろ、というのが官邸の意向だったが、これほどの量を短期間で確保するなんて元々厳しい目標だった」。前例のない計画に、やがてほころびが出た。 <介護崩壊> *5:ttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200508/k10012422701000.html (NHK 2020年5月8日) 新型コロナで“介護崩壊”の危機? 高齢者施設で いま何が 老人ホームなどの入所系の高齢者施設で、4月末までに少なくとも550人余りが新型コロナウイルスに感染し、このうち10%にあたる60人が死亡したことが全国の自治体への取材でわかりました。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者などが占めていて、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがあ (図の説明:左の図は米国、中央の図はフランスの超過死亡数のグラフで、このような事態の中で、山形の超過死亡数が出るのは極めて自然なのだが、右図のように、日本はこれまでカウントしていた超過死亡数の公表を3月以降、中止している) (1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政 る」と指摘しています。 ●高齢者施設関連 国内死者の15% 新型コロナウイルスの感染が先に深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となっていて、NHKは全国の自治体に4月末時点での高齢者施設での感染状況を取材しました。その結果、特別養護老人ホームや老人保健施設、それに有料老人ホームやグループホームなど入所系の高齢者施設では、少なくとも利用者380人余り、職員およそ170人の合わせて550人余りが感染し、このうち10%にあたる利用者60人が死亡していたことがわかりました。このほか、デイサービスなどの通所系施設やショートステイなどの短期入所系施設でも利用者と職員合わせておよそ190人が感染し、このうち利用者6人が死亡していたほか、訪問介護事業所でも利用者と職員だけで合わせて30人余りが感染していました。さらに愛知県では、デイサービスに関連して2つのクラスターが発生し、利用者と職員、それに利用者の家族や接触者などを含めて合わせて90人余りの感染が確認され、このうち20人が死亡しています。これらをすべて合わせた高齢者施設関連の死者は少なくとも86人で、国内で感染が確認され死亡した人のおよそ15%を占めています。 ●感染拡大が続く高齢者施設 各地の高齢者施設では5月に入ってからも利用者や職員の間で感染が広がり続けています。 ▽札幌市の介護老人保健施設 集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて30人の感染が明らかに。 ▽京都市内2つの有料老人ホーム 利用者と職員、合わせて12人の感染が確認。 ▽千葉県市川市の介護老人保健施設 集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて3人の感染が明らかに。(いずれも7日 までの1週間)。感染者が出たことを受けて休業を余儀なくされている施設も出ています。 福島県古殿町の介護施設では、5月3日にデイサービスを利用している90代の女性の 感染が確認されたため、14日まで休業する措置をとり、消毒作業を行いました。 ●なぜ消毒難しい? 特有の事情とは 新型コロナウイルスの感染者が出た高齢者施設の消毒作業を手がけている団体が、認知症の高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画を公開し、入居者の一部が部屋にとどまったまま作業をせざるをえない高齢者施設特有の難しさを証言しました。消毒作業を手がける全国の24の企業で作る団体「コロナウィルス消毒センター」は、依頼者の許可を得て、4月13日に北海道千歳市にある認知症のある高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画をインターネットの動画投稿サイトで公開しました。3階建ての建物の中にあるこのグループホームは、1階の入居者と職員の合わせて10人が感染し、このうち入居者1人が死亡しました。センターによりますと、感染していない入居者は避難できる場所がないため部屋にとどまっていました。このため、まず感染者が出た1階の消毒作業を行い、次に2階の入居者を消毒が済んだ1階に移して2階の消毒を行うといった形で、各階ごと順番に作業を進めなければならなかったということです。消毒作業は、次亜塩素系薬剤、アルコール製剤、それに抗菌剤をそれぞれ噴霧するなどして拭く三段階の方式で行い、共有スペースや入居者の個室のほか、布団などを含め部屋に置かれているすべての物を念入りに消毒したということです。コロナウィルス消毒センター事務局の春日富士さんは「グループホームの運営会社の代表は、消毒を依頼する電話をかけてきた際、開口一番『助けてください』と話し、非常に切迫した様子だった。高齢者施設の場合、感染していない入居者はその場所に残るという選択肢しかなく、入居者も職員も不安を感じている。特に職員は非常に疲弊している印象を受けた」と話していました。 ●対策も防ぎきれぬ 集団感染が発生した高齢者施設の中には、感染者が全員入院し再発防止策が取られて事態が収束に向かったと見られていたのに、再び感染者が出たケースもあります。東京 大田区の特別養護老人ホーム「たまがわ」では、4月1日に職員の感染が明らかになり、入所者79人と職員52人がPCR検査を受けました。その結果、職員は全員陰性でしたが、入所者12人の感染が確認されました。しかし、入院先はすぐに確保できず、数十キロ離れた武蔵野市や立川市などまで範囲を広げて病院を探し、ようやく1週間後に感染した入所者全員が入院できました。それまでの間は、感染した入所者を一部の部屋に集め、医療機関で使うような防護服がない中で、簡易的な予防衣を着てゴーグルと手袋をつけて食事や排泄の介助などを続けました。感染者が出たため、作業を委託していた清掃や給食、それに警備の会社が従業員を派遣できなくなり、施設内の清掃なども職員がやらざるを得ない状況になったということです。施設を運営する社会福祉法人「池上長寿園」の杉坂克彦常務理事は、「感染した入所者が入院するまで1週間もかかるとは思わなかった。感染に気をつけながら1日中入所者の介助をして、職員は精神的にも肉体的にも、かなり疲弊していた」と話しました。保健所からは、調査の結果、現段階で感染経路はわかっていないと連絡があったということです。その後、施設内の消毒を行うとともに、食堂でとっていた食事を居室でとるように変更するなど、感染防止策を徹底しましたが、感染した入所者が全員入院してから1週間余りたち事態が収束すると思われた4月18日、新たに職員1人の感染が確認されました。さらに12日後の先月30日、今度は入所者1人の感染が確認されました。この入所者の濃厚接触者と判断された入所者3人は、症状が出ていないとしていまだにPCR検査を受けられず、施設内で隔離する対応を続けているということです。杉坂常務理事は、「通常の体制に戻そうかと考えていた矢先に、職員と入所者の感染が新たに判明し、まだ続くのかと感じました。感染防止策をさらに徹底していくが、これ以上施設内で感染を広げないためにも、防護服の確保やPCR検査の拡充を進めてもらいたい」と話していました。 ●欧州 死者の半数近くが介護施設で暮らす人 日本よりも先に新型コロナウイルスの感染が深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となりました。感染者や死者が最も多いアメリカでは、ジョンズ・ホプキンス大学のまとめで、これまでに7万3000人余りが死亡しています。高齢者施設での死者をまとめている民間の財団によりますと、情報が公開されている23の州の高齢者施設だけで、合わせて1万人以上が死亡したということです。このうちおよそ半数が、死者数が最多のニューヨーク州に集中していて、今月4日までに5000人近くが高齢者施設で死亡したとみられています。こうした状況はヨーロッパも同じで、死者3万人余りとアメリカに次いで死亡した人が多いイギリスでは、当初集計が困難だとして統計に含めていなかった高齢者施設など病院以外の場所で死亡した人を含めるよう変更した結果、死者数が4400人余り増えました。フランスではおよそ7000ある高齢者施設の半分近くで感染者が確認されていて、2万5000人を超える死者のおよそ4割、9600人余りが高齢者施設で死亡しています。ドイツでも7000人を超える死者のうち少なくとも2500人が高齢者向けなどの福祉施設で死亡していました。WHO=世界保健機関のヨーロッパ担当の専門家は4月23日の会見で「各国の推計によると、ヨーロッパで亡くなった人の半数近くが長期滞在型の介護施設で暮らしていた人たちだと見られる」と指摘しています。 ●専門家「日本でも感染者や死者 さらに増えるおそれ」 国内の高齢者施設での感染状況について、高齢者の介護や施設に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「現段階でも大変高い死亡率になっていると受け止めているが、欧米では死者に占める高齢者施設の入所者の割合が高いことを考えると、日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しました。そのうえで今後の対策について「今は医療崩壊を招かないよう病院については大変多くの対策がとられているが、介護施設はどうしても二の次になっていて、感染が広がっている中でも具体的な支援策が十分講じられていないのが現状だ。国や自治体は最低限、マスクや消毒液、防護服の確保など、感染を拡大させないための手当てをしたうえで、職員や入所者が早い段階でPCR検査を受けられるようにするとともに、施設内で集団感染が発生しても介護の質が落ちないよう職員のバックアップ体制を作る方策を早急に考えていく必要がある」と述べました。そして「介護崩壊を起こさないよう、長期的に新型コロナウイルスがある生活の中で介護サービスを維持していく仕組みを検討していくべきだ」と話しました。 ●老人保健施設でクラスター いったい何が 富山 人口10万人当たりの新型コロナウイルスの感染者が全国で3番目に多い富山県。富山市の老人保健施設で発生したクラスターが、220人近くいる感染者の4分の1以上を占めています。この施設では入所者だけでなく施設の職員の感染も相次ぎ、“介護崩壊”直前の状況になっていました。富山市の老人保健施設「富山リハビリテーションホーム」では、4月17日に入所者の感染が初めて確認されて以降感染が広がり、これまでに入所者と職員合わせて58人が感染、このうち入所者8人が死亡しています。施設には県から、診療や感染拡大の防止にあたる医療チームが派遣されていて、このうちの1人、富山大学附属病院の山城清二教授がNHKの電話インタビューに応じました。山城教授は4月23日と24日に施設内を視察したあと、25日から診療にあたり、入所者の健康状態を確認したうえで重症者を搬送するなどの対応をとったということです。施設で勤務している介護士や看護師にも感染が広がったため、5人程度の職員で40人余りの入所者のケアに当たっていたということで、山城教授は「非常に少ない人数で対応していてケアが行き届いていなかった。“介護崩壊”直前のぎりぎりのところでやっていて、あと1人職員が感染すれば完全に崩壊していた」と指摘しました。施設には介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者も多くいますが、深刻な人手不足のため、最低限の食事や水分をとらせるだけで、着替えをしたり体を拭いたりすることはほとんどできていなかったということです。“介護崩壊”を防ぐため、富山市などが富山県内の老人介護施設でつくる協議会に対して介護士の派遣を要請した結果、今月2日以降介護士と看護師合わせて6人が応援に入り、体を拭くなどのケアをカバーできるようになって、状況は徐々に改善されているということです。 ●症状相次いでも 適切な対応とらず… 一方、この施設では、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らなかったことや、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造がクラスターを引き起こしたとみられることが市の関係者への取材で分かりました。市の関係者によりますと、この施設では入所者の間で発熱などの症状が相次いだあとも感染を疑わず、保健所に相談してPCR検査を受けさせるなどの適切な対応を取っていませんでした。施設で最初に感染が確認された80代の女性のケースでは、4月7日に熱が出て、10日にはしゃがれ声、13日にはせきやたんといった症状も出ていましたが、症状が悪化して救急搬送された指定医療機関でPCR検査を行ったのは、発熱の9日後の16日でした。女性と同室だった90代以上の入所者は、4月9日に熱が出て、14日にはせきやたん、しゃがれ声の症状も出ていましたが、指定医療機関に搬送されて検査を受けたのは16日でした。この女性は翌日に死亡し、その後、感染が確認されました。さらにこの施設では、入所者の多くが相部屋で、部屋や風呂を共同で利用するなど、感染が広がりやすい構造になっていることがクラスターを引き起こしたとみられることも分かりました。 ●高齢者施設は どうすればいいのか? 感染症が専門の厚生連高岡病院の狩野惠彦医師は、高齢者が入所する施設の中で感染が広がるリスクについて「人と人との距離が近く接触度の高い生活をしているので、一度ウイルスが持ち込まれるとクラスターが発生しやすくなる。感染が収束に向かうような流れがあっても、最後の最後まで気が抜けない環境であることに変わりはない」と指摘しています。そして、施設内で感染者や疑わしい人が出た場合は、個室に移動させて隔離し対応する介護職員を限定することや、入所者や職員が食事する際、換気のいいところでなるべく離れて食べるといった対応を速やかにとることが大切だとしています。一方で、人手や施設の構造など施設ごとの事情があるとしたうえで「個室が難しければ、カーテンで仕切ってそこから出ないようするなど、感染リスクを下げるために与えられた環境で可能な対応を考えていく必要がある」と話しています。そのうえで、今後高齢者が入所する施設の中でクラスターを防ぐために必要なこととして「クラスターの発生には1つのことが理由になっていることもあれば、いくつかの事情が重なっていることもある。海外や国内で起きた事例から学んで、対策の見直しを行うことが求められる」と話しています。 <年金崩壊> *6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14494753.html?iref=comtop_shasetsu_01 (朝日新聞社説 2020年5月30日) 年金改革 残る課題の検討を急げ 年金改革関連法が成立した。非正規雇用で働く人たちに厚生年金の適用を広げることなどが柱だ。適用拡大は長年の懸案で、今回の見直しは半歩前進だ。ただ、積み残しとなった課題も多い。制度の安定と将来不安解消のため、次の改革に向けた議論を急がねばならない。雇われて給料をもらう人は厚生年金に入るのが原則だ。しかしパートなどで週の労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者は、「従業員数501人以上」の企業で働く人にだけ加入を義務づけている。この要件を22年10月に「101人以上」、24年10月に「51人以上」に改める。約65万人が新たに厚生年金に加入すると見込まれる。本人の年金が充実するのに加え、厚生年金の支え手が増え、年金財政の改善にもつながる。新たに保険料の負担が生じる中小企業への支援、当事者への丁寧な説明を通じて理解を得つつ、着実に進めたい。そもそも厚生年金に加入するかどうかが、勤め先の規模で異なるのは不合理だ。野党は24年10月に企業規模要件をなくす修正案を提出し、安倍首相も「撤廃を目指すべきだ」と述べた。にもかかわらず今回、廃止時期を示せなかったのは遺憾だ。いつまでにこの要件を撤廃し、それを実現できる環境をどのように整えるのか。議論を深める必要がある。コロナ禍で経済が打撃を受け、今後の景気の動向は見通しにくい。年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている。ただ、今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない。しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ。全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない。参院では、コロナ後の経済・社会の動向も踏まえた年金財政の検証を求める付帯決議がつけられた。作業の前倒しも含め、検討を急ぐべきだ。昨年の財政検証では、国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示されたが、これも付帯決議で、今後の課題として先送りされた。政府・与党内で、基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まないためだ。今は65歳まで働くことも一般的になっており、見直しは待ったなしだ。財源の議論も含め、これ以上の先送りはできない。 <日本における経済分析の問題点> *7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202005/CK2020051802000225.html (東京新聞 2020年5月18日) <新型コロナ>GDP年3.4%減 2期連続マイナス 1~3月期 内閣府が十八日に発表した二〇二〇年一~三月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期比0・9%減、このペースが一年続くと仮定した年率換算では3・4%減だった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が緊急事態宣言を発令する前だが、外出自粛で個人消費が低迷。訪日外国人客の減少も響き、約四年ぶりに二・四半期連続のマイナス成長となった。項目別に見ると、GDPの六割近くを占める個人消費が前期比0・7%減。政府による二月末のイベント自粛要請で「自粛ムード」が広がったため、外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだほか、自動車や衣服の消費も振るわなかった。外食や宿泊などのサービス消費額は今回、外出自粛の影響をより正確に反映させるため、業界統計を基に推計する異例の手法を採った。従来は一~二月の実績から三月分を推計していたが、これではサービス消費が急減した状況を織り込めず、実態と懸け離れると判断した。輸出は6%減で一一年四~六月期以来のマイナス幅。統計上は輸出にカウントされる訪日客の消費が減り、世界経済の減速で半導体製造装置の出荷が滞ったことも響いた。一方、輸入も国内消費の弱さを背景に原油や天然ガスの減少などで4・9%減となった。企業の設備投資は0・5%減。新型コロナ感染拡大の収束が見通せない中、先行きの不透明感から投資を先送りする企業が増えたとみられる。住宅投資も4・5%減った。この他、物価の変動を反映し、生活実感に近いとされる名目GDPの成長率は0・8%減。年率で3・1%の減少となり、実質と同じく二・四半期連続のマイナスだった。一九年度のGDPは、実質が前年度比0・1%減と五年ぶりにマイナス。名目は同0・7%増と八年連続のプラスだった。 *7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/525813 (佐賀新聞 2020年5月22日) 消費者物価が3年4カ月ぶり下落、4月0・2%、コロナで原油安 総務省が22日発表した4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月より0・2%下がり101・6だった。下落は2016年12月以来、3年4カ月ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった。市場では当面、指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い。物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まってきた。3月は0・4%の上昇だった。昨年10月の消費税増税の影響を除いた4月の下落率は0・6%となった。品目別ではガソリンが9・6%、灯油が9・1%それぞれ下落した。いずれも原油価格がすぐに反映されやすい。ホテルなどの宿泊料は訪日外国人の激減で7・7%下がった。新型コロナでイベント中止や冠婚葬祭の縮小の動きが出て、切り花は1・9%下落した。総務省の担当者は「電気代やガス代は(原油安の影響が)少し遅れて数カ月後に出てくる」と、ガソリンなどを含めたエネルギー価格が一段と下がる可能性を指摘した。一方、品薄が続いたマスクは5・4%上昇し、上げ幅は3月よりも1・3ポイント拡大した。増税影響で外食が2・7%上がった。生鮮食品を除いた指数には含まれないものの、外出自粛による需要の高まりを背景に、生鮮野菜は11・2%上がり、キャベツは48・2%も上昇した。新型コロナと関係なく価格変動が大きかった品目では、損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9・3%上昇。増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94・0%下がった。生鮮食品とエネルギーを除いた4月の指数は0・2%の上昇で、伸び率は0・4ポイント縮小した。 *7-3:https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO4170568025022019000000/ (日経BizGate 2019/3/6) 「新自由主義」という謎の言葉~「小さな政府」という意味ではないの?~ 「新自由主義(ネオリベラリズム)」という言葉がニュースや論説によく登場します。最近では、フランスで反政府運動「黄色いベスト」の抗議デモにさらされるマクロン政権の政策路線が新自由主義的だと言われます。けれどもこの新自由主義という言葉、なんとも正体不明です。いちおうの定義はあるものの、実際には、どう考えても定義と正反対の意味で使われることが少なくありません。たとえるなら、赤は「血のような色」と説明された後で、青空を指差して「ほら、赤いでしょう」と言われるようなものです。これでは頭が混乱します。たとえだけではわからないでしょうから、新自由主義がどのように正体不明で、人を混乱させるのか、具体的に見ていきましょう。まず、新自由主義の定義を確認しましょう。辞典では「政府などによる規制の最小化と、自由競争を重んじる考え方」(デジタル大辞泉)、「20世紀の小さな政府論」(知恵蔵)などと説明されています。これらの定義は明確です。言い換えれば、経済に対する政府の介入を否定する考えです。ところが実際には、この定義に当てはまらない政策や考えを新自由主義と呼び、批判するケースをしばしば目にします。 ●「小さな政府」をめざしているのに増税や金融機関救済 たとえば、冒頭で触れたマクロン仏政権です。マクロン大統領は、企業活動の活性化のため雇用・解雇をしやすくしたり、財政赤字の削減のため公務員を減らしたりする策を打ち出しています。なるほど、これらの政策は「小さな政府」をめざすという新自由主義の説明に素直に当てはまります。しかし、マクロン政権に抗議する「黄色いベスト」運動が広がったきっかけは、これらの新自由主義的な政策ではありません。政府が環境政策の一環として今年1月から実施する予定(抗議を受け今年は見送り)だった、ガソリンと軽油の増税です。増税は、政府が経済への介入を控え、小さな政府をめざす新自由主義の定義には当てはまりません。予算規模の拡大につながりますから、むしろ正反対の「大きな政府」の政策です。最近では燃料増税だけでなく、雇用・解雇の規制緩和や公務員削減といった新自由主義的な政策に対しても抗議が広がっているのは事実です。けれども、そもそも増税という大きな政府路線への反対からデモが始まったのに、それが小さな政府をめざす新自由主義に対する抗議だと報じられてしまうと、読者や視聴者は混乱しますし、事実の本質をゆがめかねません。似た例は、米国でもあります。2008年にリーマン・ショックと呼ばれる金融危機が起こったときのことです。当時はブッシュ(子)政権で、英国のブレア政権や日本の小泉政権と並び、新自由主義の権化のように言われていました。しかしリーマン・ショックで米国経済への不安が広がると、ブッシュ大統領は総額7000億ドル(約70兆円)の総額不良資産救済プログラム(TARP)法案に署名し、金融機関の救済に乗り出します。もちろん、政府が経済への介入を控える新自由主義の定義とは正反対です。税金を投入したこの救済策に対しては、米国内で強い批判が巻き起こりました。けれどもなぜか、今でもブッシュ政権は新自由主義だと言われます。オンライン百科事典のウィキペディアでは、ブッシュ大統領の政策について、新自由主義、小さな政府の方針と重なるところが多いと記しています。同じ政権の政策に、新自由主義的なものとそうでないものが混在することはあるでしょう。けれどもリーマン・ショックのような重大な出来事に対し、明らかに新自由主義の定義に反する対応をしたにもかかわらず、その政権の性格を新自由主義という言葉で表現するのは、適切とは言えません。青空を「赤い」と言うようなものです。ブッシュ政権は自由貿易を信奉すると言いながら、国内の鉄鋼業を保護するため、鉄鋼輸入に対し関税や数量制限をかけたりしました。この点からも新自由主義というレッテルは疑問です。 ●都合が悪くなると放棄されるか、ねじ曲がる程度の「原理」に基づく? マクロン、ブッシュ両政権の例から気づく点があります。国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線であるにもかかわらず、一部のメディアや知識人はそれを新自由主義のせいにしたがることです。そうした解説は現実と食い違うので、無理が目立ちます。たとえば、新自由主義批判の代表的な論客であるデヴィッド・ハーヴェイ氏は著書『新自由主義』(作品社)で、新自由主義は市場への国家の介入を最低限に保つ理論だと述べる一方で、現実には「新自由主義的原理がエリート権力の回復・維持という要求と衝突する場合には、それらの原理は放棄されるか、見分けがつかないほどねじ曲げられる」と言います。苦しい説明です。都合が悪くなると放棄されたり、ねじ曲げられたりする程度の「原理」は、そもそも原理と呼ぶに値しません。「建前」とでも呼ぶのが適切です。経済への介入を控えるというのはあくまで建前にすぎず、本音では増税や企業救済、輸入制限といった大きな政府路線をためらわない。こう説明するほうが、はるかにすっきりします。そう言われても、新自由主義を批判する知識人は、すんなり従うわけにはいかないでしょう。ハーヴェイ氏を含め、彼らの多くはマルクス主義を信奉する左翼やそれに賛同する人々で、大きな政府を支持するからです。政治的な敵として攻撃する相手は、たとえ現実と食い違っても、小さな政府をめざす新自由主義者でなければ都合が悪いのです。明治学院大教授(社会学)の稲葉振一郎氏は、新自由主義といわれる経済学の諸学派には、ひとくくりにできるような一貫性のある立場は見出せないと述べます。そのうえで、あたかも実体のある新自由主義というイメージの「でっち上げの主犯」は、批判すべきわかりやすい対象を見出したい、マルクス主義者たちなのではないかと厳しく問います(『「新自由主義」の妖怪』、亜紀書房)。以上の説明で、新自由主義とは表面上の定義と実際の意味が食い違う、謎の言葉である理由がわかったのではないでしょうか。物事を正しく理解し、議論するには、明確な言葉を使うことが欠かせません。新自由主義という、定義と正反対の使用がまかり通るような言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはおぼつかないでしょう。 *7-4:https://kotobank.jp/word/%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-77046 (自由主義) 個人の諸自由を尊重し,封建的共同体の束縛から解放しようとした思想や運動をいう。本格的に開始されたのはルネサンスと宗教改革によって幕をあけた近代生産社会においてであり,宗教改革にみられるように,個人の内面的自由 (信教の自由,良心の自由,思想の自由) を,国家,政府,カトリック,共同体などの自己以外の外在的権威の束縛,圧迫,強制などの侵害から守ろうとしたことから起った。この内面的諸自由は,必然的に外面的自由,すなわち市民的自由として総称される参政権に象徴される政治的自由や,ギルド的諸特権や独占に反対し通商自由の拡大を求め,財産や資本の所有や運用を自由になしうる経済的自由への要求へと広がっていった。これらの諸自由の実現を求め苦闘した集団や階級が新興ブルジョアジーであったため,自由主義はしばしばそのイデオロギーであるとみられた。しかし各個人の諸自由を中核とした社会構造は,その国家形態からみれば,いわゆる消極国家,中性国家,夜警国家などに表象されるように,自由放任を生み,当然弱肉強食の現象を現出させることになり,社会的経済的に実質的な平等を求める広義の社会主義に挑戦されることになった。しかし,20世紀に出現した左右の独裁政治の実態は,自由主義が至上の価値としてきた内面的自由,政治的社会的諸自由などが,政治体制のいかんにかかわらず,普遍的価値があることを容認せしめ,近代西欧社会に主としてはぐくまれてきた自由主義は再評価されている。 *7-5:https://kotobank.jp/word/%E6%96%B0%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-298677 (新自由主義) 政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策。債務危機の解決をめぐって国際通貨基金(IMF)など国際金融機関が融資の条件として債務国に採用を求めたこともあって、急速に中南米各国に広まった。緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い。ベネズエラ大統領選でのチャベス政権誕生やエクアドル政変、アルゼンチン、ボリビアでの暴動など、新自由主義への反対を掲げた市民の動きが目立ち、南米の左派政権誕生の原因となった。 20世紀の小さな政府論を新自由主義と呼ぶ。18世紀イギリスの思想家、アダム・スミスは『国富論』で、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要を説いた。その後20世紀に入ると、大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった。しかし、1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率などが大きな問題となり、イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権を皮切りに、減税、規制緩和、民営化を軸とする小さな政府への改革が広まった。日本でも80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた。ただ、日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対してきた。つまり、日本の場合、保守の自民党の中に小さな政府と大きな政府という相対立する思想が同居しており、政策が円滑に決定されない。「官から民へ」というスローガンを唱えて登場した小泉政権も、新自由主義改革を推進するために、党内の抵抗勢力との間で複雑な駆け引きを繰り返してきた。結果的には、郵政民営化や社会保障費の抑制など新自由主義的政策が小泉政権の遺産となった。 <資源の使い方と財源> *8-1:https://mainichi.jp/articles/20190516/k00/00m/040/193000c (毎日新聞 2019年5月16日) 国有林、過剰伐採の恐れ 民間開放拡大 法改正案衆院委可決 全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、16日の衆院農林水産委員会で自民、公明両党と国民民主党、日本維新の会の賛成多数で可決された。21日の衆院本会議で可決されて参院へ送られる見通し。全国の森林の3割を占める国有林の伐採を民間へ大きく開放し、低迷する林業の成長を促すとしているが、伐採後の植え直し(再造林)が進まなければ国土の荒廃につながりかねないなどの懸念も浮上している。現行の国有林伐採は農林水産省が数ヘクタール程度について1~数年単位で入札。再造林は別の入札で委託している。同案はこれに加え、数百ヘクタール規模の「樹木採取区」で公募した業者に「樹木採取権」を付与。大規模集約化による効率化を図り、対価として一定の権利設定料と樹木料を徴収する。 *8-2:https://www.agrinews.co.jp/p51016.html (日本農業新聞 2020年6月8日) 放牧経営どうなる 中止、畜舎義務化 懸念広がる 農水省基準案に「唐突」「根拠は」 農水省が7月決定を目指す家畜の「飼養衛生管理基準」の改正案に、豚や牛などの放牧制限につながる事項が盛り込まれたことで、放牧で豚を飼育する農家に波紋が広がっている。豚熱のワクチン接種地域の24都府県で豚の放牧が実質できなくなり、それ以外の地域でも豚や牛は畜舎の整備などを義務化する。長年の経営を抜本的に見直さなければならない農家もいる中、科学的根拠を示さず案を示した同省の姿勢に疑問の声が相次ぐ。全国で放牧に取り組む養豚農家は140戸。自然に近い形で育て、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などにつなげてきた。一方、基準案は「放牧の停止又は制限があった場合に備え、家畜を使用できる畜舎の確保又は出荷もしくは移動のための準備措置を講じること」「大臣指定地域に指定された場合の放牧場、パドック等における舎外飼養の中止」などと明記。11日まで国民からの意見を募集しており、7月までの決定を目指す。放牧中止を余儀なくされる養豚農家らは「根拠を示してほしい」「国は放牧を推進してきたのに矛盾する」などと基準案の内容を疑問視する。長野県安曇野市で40年前から放牧豚を飼育してきた藤原喜代子さん(59)は「根本的に経営が変わる。理由を教えてほしい」と話す。畜産試験場で豚熱が発生しても、放牧で150頭を飼育する藤原さんは防疫と放牧を両立させて発生を防いできただけに、放牧を危険視する根拠の提示を求める。同省は5月13日に改正案をホームページなどで周知したが、理由は明記していない。事実上の放牧中止にまで踏み込んだ内容にもかかわらず、農家への影響調査はしていないという。同省の対応に静岡県富士宮市の「朝霧高原放牧豚」代表、関谷哲さん(45)は放牧豚ができなくなれば経営が成り立たなくなるだけに「どういう状況を放牧というのか、屋外に豚を出してはいけないのかなど、全く説明がない」と困惑する。大臣指定地域の豚熱のワクチンを接種する24都府県以外にも波紋は広がる。熊本県山都町で120頭を飼養する坂本幸誠さん(62)は、豚熱対策として4月に700万円かけて放牧場に550メートルのフェンスを設置した。「放牧でストレスのない環境で免疫力が向上し、病気にも強い。10年かけて、やっとここまできた」と坂本さん。顧客は放牧で飼育する希少種だから取引しているという。簡易畜舎はあるが、放牧中止の準備を求める同省の基準案に「寝耳に水。防疫と放牧は両立できるはず」と訴える。鹿児島県伊佐市で黒豚1000頭を飼育している沖田健治さん(61)も「豚熱はいつどこで発生してもおかしくなく、ワクチン接種地域以外にも影響は大きい」と指摘する。熊本県天草市で50頭の豚を飼育する大橋範子さん(46)は「放牧する養豚農家は、誰もが伝染病対策の大切さを考えている。突然案を示すのではなく、どんな対策ができるのか農家と考えてほしい」と要望する。 *8-3:https://www.agrinews.co.jp/p50881.html (日本農業新聞 2020年5月24日) 東京圏在住 半数「移住に関心」 農業人気 田園回帰志向強く 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部は、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県在住者を対象に行ったアンケートの結果を公表した。東京圏在住者の半数が地方暮らしに関心があると答え、都市住民の田園回帰志向が浮き彫りになった。「やりたい仕事」の最多は「農業・林業」だった。j調査は、東京一極集中の解消に向けて移住を促進するために、同本部が今年1月、東京圏在住の20~59歳の男女1万人を対象にインターネットで実施した。東京圏在住者全体の49・8%が、1都3県以外の地方圏暮らしに関心があると回答した。出身別では東京圏出身者は45・9%、地方圏出身者では61・7%に上った。「やりたい仕事」では「農業・林業」が15・4%で最多。「宿泊・飲食サービス」(14・9%)、「サービス業」(13・3%)「医療・福祉」(12・5%)が続いた。また、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かった。一方、地方圏暮らしへのネガティブイメージは、「公共交通の利便性が悪い」(55・5%)が最も多く、「収入の減少」(50・2%)、「日常生活の利便性が悪い」(41・3%)などが挙がった。同本部は「新型コロナウイルスの影響が及ぶ前の調査だが、コロナ禍で地方への関心層は一層、高まる可能性もある。新型コロナウイルスが収束し、都道府県をまたいで行き来ができるようになれば、地方暮らしをPRしていく」と説明する。 *8-4:https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20200612.inc (山形新聞社説 2020.6.12) コロナと公立病院再編 危機に強い医療構築を 厚生労働省は新型コロナウイルス流行で入院病床が逼迫(ひっぱく)したのを受け、約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしする。同省が主導した従来の検討では、感染症対応の視点欠如が明らかだ。経済合理性を優先して病床削減を進めれば国民の生命を守れない。コロナの教訓を生かし、効率的かつ危機に強い病院再編に向けて仕切り直しをすべきだ。病院再編は、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増する2025年を見据え病院の統合や診療機能の役割分担、病床数削減も含めて医療提供体制を見直す。厚労省は再編に向けた議論を促すため昨年秋、診療実績が乏しいか、近隣に競合病院があり、再編・統合が必要と判断した約440の公立・公的病院を都道府県に伝え、地域で結論を出すよう求めた。本県では県立河北、天童市民、朝日町立、寒河江市立、町立真室川、公立高畠の各病院が該当し、県は四つの2次医療圏に設置した地域医療構想調整会議で議論を促している。寒河江市は来月、市立病院と県立河北病院の統合を軸とした検討を進めるよう県に要望する。病院再編の検討は少子高齢化に伴うものだ。急病や大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性は低くなる一方、高齢者のリハビリといった「回復期」病床のニーズが高まる。厚労省はこれらを調整し、18年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らす方針だ。だが地方側は、赤字が深刻な公立病院改革の必要性は認めつつ、病院名を挙げての再編要請には「地域医療の最後の砦(とりで)だ。個別事情を評価していない」と反発し、議論が難航していた。そのさなかに新型コロナの感染拡大が起きた。2月時点で全国の感染症指定医療機関の病床は約2千床。政府は当初、5千床の緊急確保を表明したが、とても足りず、5月末で1万8千床をようやく確保できた。一時は東京、石川で用意した病床の約9割が埋まり、感染症への危機対応の弱さが浮き彫りになった。しかも公立病院は感染症病床の約6割を担っている。再編が必要とされた公立・公的病院約440の中には感染症指定医療機関53病院が含まれ、コロナ対応の拠点となっており、それを考慮しない病床削減は地域の理解を得られない。厚労省の有識者会議で有事対応への余力維持を求める意見が出ているのも当然だろう。公立・公的病院は過疎地での医療や、救急、小児医療など採算が取りにくい部門を引き受けている。だが少子高齢化で医療や病床のニーズが変わるのに合わせ病院、病床の機能を効率化していかなければ将来の医療費負担は重くなる一方だ。同時に、コロナの教訓を踏まえ、感染症流行拡大に即応できる体制を強化しなければならない。ただし未知のウイルスに備え常時多くの空きベッドを抱えれば人件費など医療機関の経営コストが過重になりかねない。しかもコロナ患者を受け入れた公立病院の9割以上が通常の診療ができず減収に苦しむ問題も起きた。複雑な連立方程式であり最適の解を見いだすのは容易ではないが、官民とりわけ地域の英知を結集し展望を開きたい。 <研究と特許> *9-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/531307 (佐賀新聞 2020.6.5) ノーベル賞本庶佑氏が法廷闘争へ、がん免疫薬の特許巡り小野薬品と 本庶佑京都大特別教授は5日、自身の研究チームの発見を基に開発され、ノーベル医学生理学賞の受賞にもつながったがん免疫治療薬「オプジーボ」の特許収入として、小野薬品工業に約226億円の支払いを求め、今月中旬にも大阪地裁に提訴すると発表した。新たながん治療薬の種を見つけた研究者と、リスクを取って実用化に結びつけた製薬企業の収入配分を巡る対立は法廷に持ち込まれる。本庶氏は収入を若手研究者の支援のため設立された京大の基金に充てる考え。本庶氏は記者会見し「話し合いで解決したかったが誠意ある回答が得られず、やむなく訴訟を決意した」と説明。「アカデミアの成果を社会がきちっと評価することが必要だ」と訴えた。小野薬品の広報担当者は「内容を正確に把握できておらず、コメントは差し控える」と話した。本庶氏は2006年、小野薬品と収入配分に関する契約を締結。だが「金額が著しく低く不当だ」として11年以降、見直しを求め交渉していた。本庶氏は、14年に小野薬品から「特許を巡る米国の製薬会社との訴訟に協力すれば条件を見直し、その会社から得られる特許使用料の40%を配分する」と提案され、協力。しかし裁判終了後にほごにされたと主張する。一方の小野薬品は、この提案内容で両者が合意したとは認めていない。今回求める約226億円は、17~19年に米国の製薬会社から小野薬品に入った特許使用料の約39%。本庶氏によると、小野薬品は40%ではなく「1%分を支払う」と通知してきており、その差額に当たる。小野薬品は19年、本庶氏が求めてきた料率の引き上げではなく、京大への最大300億円の寄付を提案。だが本庶氏は受け入れず、協議を続けていた。オプジーボは体内の免疫細胞に作用し、がんへの攻撃を継続させる薬。14年に国内で発売され、皮膚のがんから肺、腎臓などへと用途が拡大してきた。 *9-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO78790300T21C14A0X11000/ (日経新聞 2014/10/24) 15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬 日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD-1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆けて実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫薬とは――。 ■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価 「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった小野薬の抗PD-1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそう評価する。ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野薬が生み出せたのか。1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD-1」という分子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD-1が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15年かかったことになる。当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」など免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的だった。そんな中で小野薬だけが"しぶとく"開発を続けてきた背景には「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らかの治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長兼取締役)という。もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーでは断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD-1抗体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。しかし抗PD-1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」(河上教授)。 ■年間数百億円のロイヤルティー効果 副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田本部長)という。足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD-1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界の目が注がれている。 *9-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20200523&be・・ (日経新聞 2020.5.23) ワクチン量産 設備が壁 特殊な技術 欧米勢が先行 日本、資金支援を検討、 ワクチン、国家の争い激化 国際協調に課題 、 米、コロナ関連に1300億円/中国、年内に実用化めざす 新型コロナウイルスのワクチン開発を巡り各国が激しい主導権争いを演じている。先行する米国は自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて、欧米医薬企業の実用化を後押しする。中国も国を挙げて開発を強化しており、欧州勢も世界競争に割って入る。国際協調でワクチン開発を支援する動きもあるが、国主導の開発スピードが加速している。米国で新型コロナワクチン開発を支えるのが、米生物医学先端研究開発局(BARDA)だ。BARDAはバイオテロなどに対応するために2006年に設立。米保健福祉省(HHS)の傘下組織で国の予算で運営されている。米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援する。BARDAは米でコロナ感染が深刻化した3月初旬以降、新型コロナ案件に集中している。投じた金額は12億ドル(1300億円)を超える。BARDAは開発を支援するだけでなく、開発を終えてすぐに供給できるように生産体制の構築まで視野に入れ巨額資金を投じる。すでにジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と設備投資費用10億ドル(約1千億円)を折半して、10億回分の新型コロナワクチン供給契約も締結した。BARDAは米バイオ企業モデルナにも約4億3000万ドル(約460億円)を投じる。ワクチンの有効性を確認する前から投資を決断し、同時に大量に買い取る契約も結んだとされる。4月30日、国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は21年1月までにワクチンを数億本供給する計画の存在を明らかにした。「有効かどうか答えが出る前に、リスクをおかして生産増強を進める」(ファウチ所長)。詳細は明らかになっていないがBARDAの存在が見え隠れする。米国は自国への供給を最優先としているが同様の動きは広がっている。中国では政府と関係の深いバイオ企業や研究所で3つのワクチン治験が進む。開発費用や治験の設計、製造体制まで政府の支援を受けていると言われる。安全性重視の欧米と違い有効性確認を優先するため実用化スピードは速い。支援を受けるカンシノ・バイオロジクスが手掛けるワクチンは世界で初めて有効性を確認する治験まで進んでおり、年内実用化を目指す。中国は自国だけでなく、途上国にも供給することで外交的な影響力拡大も狙う。ワクチン開発を急ぐのは米中だけではない。英国でワクチン治験を始めたオックスフォード大学は4月30日、製薬大手の英アストラゼネカ(AZ)との提携を発表した。英国政府も同大に2000万ポンド(27億円)を助成。年内に1億回分のワクチン製造体制を構築し英国民への供給を急ぐ。欧州連合(EU)もドイツの有力ワクチンメーカーに8千万ユーロ(約94億円)の研究助成を決めたのも、優先供給を狙う米国から同メーカーを防衛するためとされる。ただ、仏製薬大手サノフィのポール・ハドソン最高経営責任者(CEO)は「(ワクチン開発支援で)欧州委員会がBARDAレベルに達していない」と指摘し、開発スピードなどで遅れかねないと懸念する。国際的な官民連携組織である感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は「平等なアクセス」を理念とする。支援を受けた企業は手ごろな価格で分け隔てなく供給することが求められる。ただ、CEPIの支援は研究開発が中心で、BARDAのように供給体制構築まで踏み込まない。日本もCEPIに資金拠出している。国内では内閣府などが所管する日本医療研究開発機構(AMED)がワクチン開発を支援する。支援規模は小さく、治験などの助成に限る。世界がワクチン開発で覇権争いを繰り広げるなか、海外製ワクチンが日本に速やかに輸入されるという保証はない。国産ワクチン開発を急ぐためにも、制度、資金だけでなく生産体制にそそぐ必要がある。 *9-3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613631/ (西日本新聞 2020/6/3) 高齢運転対策「終わりはない」池袋暴走の遺族訴え 改正道交法成立 高齢者運転対策を盛り込んだ改正道交法が2日、衆院本会議で可決、成立した。契機となったのは昨年4月、東京・池袋で高齢運転者の車が暴走し、松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3)=が死亡した事故だった。悲しみの淵にありながら事故防止を訴え続けた夫拓也さん(33)は、法改正を「大きな一歩だけど、終わりではない」と語る。都市と地方の格差、免許返納者の生活支援など課題は残されている。インターネットのビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で思いを聞いた。事故の5日後、拓也さんは会見で涙ながらに訴えた。「運転に不安がある人は運転しない選択を考えてほしい」。犠牲者を減らしたい一心だった。6月には福岡市早良区で80代男性の車が逆走し、10人が死傷する事故も発生。「また起きた。もっと伝えられることがあったのでは」と自分を責めた。妻子が事故に遭った時間に手が震え、見ていない事故の瞬間の光景が目に浮かんだ。同様の経験をした遺族たちと出会い、交通政策の勉強を始めた。東京生まれ、東京育ちの拓也さん。車でないと買い物や病院さえ行けないという地方の窮状を知った。免許が自尊心そのものという人もいる。「『運転しない選択』を迫った発言は短絡的だった」と省み、今はこう考える。「高齢者を切り離して事故は防げるが、今生きてる命を見放すことになる。事故で奪われる命も、車を手放すことで脅かされる日常も望まない」。高齢化に伴い、75歳以上の運転免許保有者数は昨年までの10年間で140万人も増えた。改正道交法は、一定の違反歴がある75歳以上への実車試験の義務付けや安全運転サポート車(サポカー)の限定免許創設を定める。「従来の免許更新は足が不自由など体の機能を調べていなかった。一定の効果は出る」と期待する。一方、サポカーへの過信が事故につながらないか懸念する。自動ブレーキの作動には多くの条件があり、池袋の事故もサポカーで防げなかった。「技術を過信しないよう正確な情報発信が必要」と求める。拓也さんの活動は世の中を動かした。運転免許の返納件数は昨年、過去最多の約60万件に上った。「高齢の親の説得などそれぞれの家庭の頑張りに支えられた結果」と受け止める。事故は高齢者だけが起こすものではない。誰もが加害者にも被害者にもなる。高齢者運転対策が「若年者と高齢者の対立構造になってほしくない」と願う。「1人でも命が守られれば、2人の命を無駄にしないことにつながる」と一周忌を機に実名を公表し、会員制交流サイト(SNS)などでも発信を始めた。「僕の寿命が尽きたとき、2人に『生ききったよ』と言えるようにしたい」。事故のない社会のために、前を向く。 *9-3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613906/ (西日本新聞 2020/6/4) 高齢運転者の免許返納急増 10人死傷の多重事故から1年 福岡市早良区で高齢ドライバーの車が逆走して10人が死傷した多重事故から4日で1年。事故を機に高齢者を中心に運転免許証の自主返納が急増していることが西日本新聞の調べで分かった。昨年、九州7県の返納件数は5万6578件と2018年の1・3倍。今年も新型コロナウイルスの影響が本格化した4月以外は高止まりが続いている。警察庁によると、昨年は75歳以上のドライバーによる死亡事故件数は401件。免許人口10万人当たりの件数は6・9件で、75歳未満の2・2倍だった。九州7県の昨年1月以降の月別返納件数(西日本新聞調べ)は、東京・池袋で男性=事故当時(87)=の車が暴走して母子2人を死亡させた事故が同4月に起き、同5月は全県で増加。福岡市の逆走事故があった同6月は、福岡(2381件)▽佐賀(418件)▽熊本(786件)▽鹿児島(804件)の4県で最多になった。今年1月には大分(628件)▽宮崎(520件)の両県で最も多くなり、免許返納に対する意識が浸透していることをうかがわせる。年齢別では75歳以上が6~7割を占めた。各県警もあの手この手で高齢運転者の対策を進めている。福岡県警は3月に交通安全を啓発する専用車を導入。認知機能や体力が低下した高齢者の運転を疑似体験し、身体能力を測定できる機器を備える。公共施設などを巡回し、運転を見つめ直すきっかけにしてもらう狙いだ。佐賀県警は、運転寿命を延ばす一方、免許証を返納しやすい環境づくりを進める。昨年4月に「シルバードライバーズサポート室」を設置し、70歳以上を対象にした無料の運転技能教習には昨年5~12月に87人(平均年齢78・6歳)が参加。今年4月からは基山町役場でも返納ができるようにした。久浦厚室長は「知恵を出しながら高齢運転者に寄り添った対応を進めたい」と話した。 *9-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59924040T00C20A6MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200603_Y (日経新聞 2020/6/3) 日本電産、中国にEVモーター開発拠点 日本級の規模 日本電産は中国に駆動モーターの開発拠点を新設する。成長の柱と位置づける電気自動車(EV)用が中心で、2021年に稼働させる計画。人員規模は約1千人と日本の中核拠点と同規模になる見通し。米国との政治対立や新型コロナウイルスの感染問題で中国展開に慎重な企業も増えるなか、日本電産は中国を重要市場と位置づけている。米国も含めた複数の拠点整備で、現地の需要を取り込む。中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に設ける。EV用の駆動モーターに加え、家電製品などに使うモーターの開発にあたる。人員規模は滋賀県の開発センターと同程度になる。このうち、300~400人程度がEV用駆動モーター専任となる予定。中国に設置済みの2拠点でも増員し、EV関連の技術者は現状の約100人から数年後に650人に増やす。競合も中国での拠点開設を急いでいる。独コンチネンタルが21年に天津市に開発センターを設置する予定。独ボッシュも現地企業と合弁を組み、EV用駆動モーターの供給を目指す。日本電産はシェア拡大とコスト競争力を高めるうえで、現地で開発強化が欠かせないと判断した。米中が貿易問題で対立を深めており、米国が中国製品への制裁を強めるとの懸念から、外資企業が中国の拠点を他国に移す動きが広がるとの見方も出ている。ただ、日本電産は米国でもエンジン冷却用などの車載用モーター拠点を抱えるほか、米中西部のセントルイスには家電や産業用モーターの事業拠点を持つ。米中は世界の二大消費国でもあるだけに、両国に拠点を構えることで、さらなる成長につなげる。 *9-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59635330X20C20A5000000/?n_cid=DSREA001 (日経新聞 2020/5/27) 日本電産のEV用モーター、吉利汽車が採用 日本電産は27日、同社が手掛ける電気自動車(EV)用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたと発表した。2019年4月に量産を始めた最大出力150キロワット型を吉利汽車向けに改良し、新型のインバーターを採用するなどして走行性能を高めた。E-Axleは内燃自動車のエンジンにあたる駆動用モーターにインバーターやギアなどを組み合わせた基幹部品。吉利汽車のハイエンド新型EV「Geometry C」に採用された。既に量産している150キロワット型のE-Axleを、吉利汽車向けに改良し供給する。同社のEV用駆動モーターの受注見込みはE-Axleやモーター単体を合わせて4月時点で26年3月期までに1600万台と、中国や欧州を中心に採用が増えている。日本電産はEV用駆動モーターを今後の成長を担う中核製品と位置づけており、30年に世界シェア35%の獲得を目指す。 <日本の教育について> PS(2020年6月16日追加):米国は世界から留学生を受け入れ、比較的差別なく要職にもつけており、中国人も同様に扱ったため、*10-1-1のように、「①テキサス州にある世界有数の癌研究機関が、疫学・分子生物学の研究を手掛ける3人の中国系研究者(教授も含む)を追放した」「②ジョージア州のエモリー大学が、2人の中国系米国人の神経科学の研究者夫妻(教授を含む)を解雇した」「③ナノ化学の世界的研究者でノーベル賞候補でもあったハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が、中国政府が進める『千人計画』に協力して年間15万ドルに加えて毎月5万ドルの報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に虚偽の説明をしていたため逮捕された」等のことが起きている。米国は、これまで世界の優秀な頭脳が米国内で働き、研究して特許を得ることによって利益を得てきたのだが、中国が「千人計画」で優秀な中国人研究者を呼び戻して飛躍的に研究開発力を高め始め、世界の新技術の覇権争いに負ける可能性すら出てきたことから、これらの行動に踏み切ったものだ。中国人の方は、母集団の多さや勤勉さもあって、世界のどの国に行っても活躍しているため、市場主義に変革した中国に帰っても活躍できるだろう。 一方、日本は、優れた人材が新市場を作りだして富を生みだすにもかかわらず、*10-1-2・*10-2のように、研究者等の育成を疎かにしている。研究者だけでなくビジネスパースン(businessperson)も、少ない母集団から選ばれた人材よりも留学生も加えた多くの人材から選ばれた方が優秀になるのは当然である上、留学生は2つの文化を理解して擦り合わせることができるため、気付くことが多いのである。にもかかわらず、日本が今の段階で、学生給付金等々で留学生差別を行うのは、人材確保・国際戦略の両面で誤っている。 さらに、日本では、いつまでたってもできない理由を並べて解決せず、*10-3-1のような保育士不足や、*10-3-2のような教員不足・学童保育施設不足が言われるが、子どもは生まれた時から周囲の環境を感じながら1人の人間としての美意識や価値観などの感性を形づくっていくものであるため、教育投資を疎かにすべきではない。従って、私は、コロナ危機を境に、*10-3-3のように、9月入学制度を採用するか否かにかかわらず、義務教育開始を5歳か3歳からにするのがよいと思う。何故なら、できるだけ前倒しして教育することによって無駄な時間を過ごさせず、無理なく楽しく必要な知識や理解力・判断力などを身に着けさせるのが、日本に住む子どものためだからだ。 2017.3.28毎日新聞 アフリカ諸国の人口ピラミッド 2020.5.5佐賀新聞 (図の説明:左図のように、日本の1950年の人口ピラミッドは、中央の現在のアフリカの人口ピラミッドと似た二等辺三角形の多産多死型だったが、現在は少産少死化が進んで人口構造が変わった。そして、日本では、生産年齢人口や教育期間人口の割合が減ったため、学校にはゆとりがあり、留学生や移民を受け入れる余地は大きくなった筈である) *10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60224600R10C20A6000000/?n_cid=DSREA001 (日経バイオテクオンライン 2020年6月10日) ワクチン開発競争 実力増す中国、いらだつ米国 新型コロナウイルス感染症を契機に、米国と中国の対立が深まっている。その主戦場の1つがワクチン開発だ。製薬業界で新しい医療用医薬品(先発医薬品、いわゆる新薬)を生み出した経験を持つのは、これまで欧州や米国、日本ばかりだった。しかし中国は近年、新薬の研究開発力を飛躍的に高めている。中国が米国に先んじてワクチン開発に成功する可能性も否定できない。「最初にワクチン開発に成功した国が世界に先駆けて、その国の経済と世界的な影響力を回復するだろう」――。4月末、米国で医薬品の審査・承認を担当する米食品医薬品局(FDA)の元長官であるスコット・ゴットリーブ氏は、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発の重要性について、こう見解を述べた。米国がワクチン開発に血眼になるのは、世界で最も感染者数の多い自国民を救うのにとどまらず、ゴットリーブ氏が言及したように、世界の覇権争いの行方を左右すると考えるからとみられる。とりわけ意識するのが中国だろう。トランプ米大統領が「中国ウイルス」と連呼するほどに「敵視」するのが中国だ。一昔前であれば、創薬大国の米国に中国がワクチン開発で先着する可能性はゼロだった。これまで中国が得意としてきたのは、生薬や後発医薬品(特許切れした先発医薬品と同等の医薬品)の開発・製造であり、新薬の研究開発経験はほとんど無かった。しかし、「過去10年で、中国の新薬の研究開発力は飛躍的に高まっている」と製薬業界の関係者は口をそろえる。世界に先駆けて、中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に成功する可能性もある。 ■中国、新薬・ワクチン開発に軸足 これまで中国は海外留学から帰国した研究者などに多額の研究費を投じ、大学・研究機関のレベルの底上げを図ってきた。近年は最先端のiPS細胞や間葉系幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)などを用いた細胞医薬や遺伝子治療などを含め、新薬の研究開発を手掛ける中国のスタートアップが続々誕生。中国政府が、医薬品の規制をグローバルの規制に近づけたり、医薬品の臨床試験の環境を整えたりしたこともあり、中国企業は、「中国での後発医薬品の開発」から、「世界での先発医薬品の開発」へと軸足を移している。2019年11月には、スタートアップの中国ベイジーンが米国で悪性リンパ腫というがんの治療薬「BRUKINSA」(一般名ザヌブルチニブ)の承認を獲得。先端的な創薬技術や開発力が求められるがん領域の新薬を、中国企業が生み出せることを世界に印象付けた。同様に中国は感染症領域のワクチンの研究開発にも力を入れてきた。一般的にワクチンは健常者に打つため高い安全性が求められ、種類によっては製造が難しく、開発・製造するのは簡単ではない。ただ、中国企業がワクチンを開発・供給できれば、自国のためだけでなく、公衆衛生上、感染症が大きな課題であるアジアやアフリカなどで存在感を増すことにもつながるという、中国政府の戦略もあるのだろう。13年10月には、中国生物技術集団傘下の成都生物制品研究所が開発・製造した日本脳炎ワクチンが、世界保健機関(WHO)の事前認定基準に準拠していると認められた。同基準はWHOが途上国などへ医薬品を供給するに当たって、医薬品の品質、安全性、有効性などを事前に確認するためのもの。中国製のワクチンがWHOの認定を受けるのは初めてのことだった。最近では、アフリカで問題になっていたエボラ出血熱に対して、欧米企業に並んで、中国スタートアップのカンシノ・バイオロジクスが独自技術を活用したワクチンを開発し、中国政府から緊急時と国家備蓄向けの承認を獲得。同ワクチンは国連の下、アフリカに派遣された中国の平和維持軍や中国の医療専門家などに投与されている他、アフリカでの臨床試験が計画されていた。今回、新型コロナウイルス感染症に対しては、世界で100品目超のワクチンの開発が進められている。その中で、スタートアップである米モデルナ、英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカと並び、先頭を走っているのがカンシノだ。同社はエボラ出血熱に対するワクチンと同じ基盤技術を活用。ウイルスのたんぱく質(具体的にはスパイクたんぱく質)の遺伝子を、風邪の原因の1つであるアデノウイルスからつくった、人に害のないアデノウイルスベクター5型というウイルスの運び屋に搭載し、体内でウイルスのたんぱく質をつくらせるワクチンを開発した。このワクチンに関しては、「もともとアデノウイルスベクター5型に免疫のあるヒトには効きにくいのでは」といった懸念が挙がっているものの、カンシノは着々と開発を進めている。既に少数の被験者を対象に安全性を確認する第1相臨床試験を終え、最適な投与量を決める第2相臨床試験を500人を対象に進めているところだ。さらに今後カナダで同ワクチンの臨床試験や製造を行うことも計画している。ワクチンが実用化されるまでには、新型コロナウイルス感染症が流行している地域で数多くの被験者を対象に第3相臨床試験を実施して、安全性、有効性の確認が必要となる。いずれにせよ、現状では中国のスタートアップが新型コロナウイルス感染症のワクチン開発の先頭集団にいることは間違いない。もっとも、新型コロナウイルス感染症に対しては相当数のワクチンが開発されていることから、複数のワクチンが実用化される可能性が高く、「ワクチンの製造能力や特徴に応じて、高齢者向け、小児向けなど、使い分けが進むのではないか」と業界関係者はみている。そのため、カンシノのワクチンも、(仮に臨床試験がうまく行ったとして)製造能力がどの程度あるか、副反応など安全性がどの程度か、どの国で承認を得られるかなどによって、世界で使い分けられるワクチンの1つになるだろうと考えられる。 ■FBI、中国を名指しで異例の警告 中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発で存在感を増していることについて、いら立っているのが米国だ。20年秋に大統領選を控えるトランプ大統領が、対中強硬姿勢を先鋭化させている影響もあるにせよ、米国政府が以前にも増して、中国の動きに神経を尖らせていることは間違いない。米連邦捜査局(FBI)と米国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティー専門機関(CISA)は5月13日、新型コロナウイルス感染症の研究を手がける米国の大学・研究機関や企業に対して共同で警告を発出した。警告では、中国を名指しした上で「中国政府とつながりのあるハッカーが、米国の研究機関から新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬、検査に関するデータを不正に取得しようとしているケースが、複数回確認されている」と指摘。疑わしい活動があれば、積極的に報告するように呼びかけた。米国は以前から、中国によるサイバースパイ活動を批判してきたが、FBIとCISAが共同で警告を出すのは異例のことだという。なお中国政府は今回の警告について、「米国による中傷だ」として反論している。もっとも、バイオ・医学分野での米中対立は最近始まった話ではない。米国では数年前から公的資金で実施されたバイオ・医学分野の研究成果が、中国に不当に利用されているのではないかという懸念が強まっていた。それを印象付けたのは18年夏、著名な研究者でもある米国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長が、全米の大学や研究機関へ送付した1枚の書簡だ。NIHは米保健福祉省(HHS)傘下で様々な医学研究を手掛ける研究所の集合体であるとともに、年間300億ドル(約3兆2000億円)以上という莫大な研究費をバイオ・医学分野の研究者に配分している政府機関である。米国でバイオ・医学分野の主要な研究を手がけるアカデミアの研究者で、NIHからの研究費を得ていないものはほとんどいない。コリンズ所長は公表した書簡の中で、「残念ながら、米国のバイオ・医学分野の研究の清廉性を脅かす存在がある」と明らかにしたのだ。清廉性を脅かす存在が誰なのか、書簡では具体的な国名などには言及しなかったが、「NIHが支援した研究に基づく知的財産を、一部の研究者が他国政府など外部組織へ盗用している」「NIHが支援した研究者が、他国政府など外部組織から相当な研究費を得ているにもかかわらず、情報を開示していない」といった違反行為の具体例を挙げ、他国政府が関与している可能性を示唆。違反行為を減らすため、NIHとして政府機関や研究コミュニティと協力して取り組みを進める方針を示した。 ■米で相次ぐ中国系研究者の追放 さらに19年春、NIHは米国の大学や研究機関に対し、他国政府など外部組織とのつながりを開示していない研究者について、情報提供するよう要請したとされる。これまでの事態の推移をみると、研究の清廉性を脅かす存在として、NIHの念頭にあったのは、やはり中国ということになるだろう。19年春以降、米国では、「中国と関わりがあるにもかかわらず、その事実を開示していなかった」などとして、バイオ・医学分野の研究者が何人も大学から解雇されたり追放されたりしている。19年4月、テキサス州にある世界有数のがん研究機関MDアンダーソンがんセンターが、疫学や分子生物学の研究を手掛ける3人の研究者を追放した。3人はいずれも中国系で、中には教授も含まれていた。また、19年5月には、ジョージア州にあるエモリー大学で、神経科学の研究を手掛けていた、教授を含む2人の中国系米国人の研究者夫妻が突然解雇された。研究室はその日のうちに閉鎖され、研究室のウェブサイトにもつながらなくなった。20年1月には、ハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が逮捕された。逮捕の理由は、中国政府が進める「千人計画」に協力し年間15万ドルに加えて毎月5万ドルという莫大な報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に対し虚偽の説明をしていたため。これまで数々の受賞歴を持つ、ナノ化学の世界的な研究者であり、ノーベル賞の受賞者候補の1人でもあったことから、全米で大きく報道された。バイオ・医学分野ではこれまで、直接的なスパイ活動をしたというよりも、「中国との関係を開示していなかった」ことを理由に研究者が追放・解雇されたり逮捕されたりするケースが相次いでいるのが実態だ。しかし今回、FBIとCISAが警告を出したことで、今後、中国絡みのバイオ・医学分野のサイバースパイ活動に関しても、具体的なケースが出てくる可能性がありそう。新型コロナウイルス感染症のワクチン開発競争が決着しても、バイオ・医学分野での米中対立は続くことになりそうだ。 *10-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN6F7F61N69PLZB01M.html (朝日新聞 2020年6月14日) 京大総長、学生給付金を批判 「留学生差別、おかしい」 新型コロナウイルスの影響で困窮する学生を対象にした国の「学生支援緊急給付金」が、外国人留学生だけ成績の良さを申請要件にしている問題で、京都大の山極寿一(じゅいち)総長(68)が9日、朝日新聞のインタビューに応じた。要件を「差別的だ」と批判した上で、留学生を排除しない姿勢を取ることが「日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になる」と訴えた。同給付金を外国人留学生が申請する場合、「成績が優秀」「出席率が8割以上」といった日本人学生にはない要件を満たす必要がある。批判の声が出ており、山極氏はネット上の反対署名運動の呼びかけ人の一人にもなった。インタビューで山極氏は「(同給付金は)生活困窮者への支援だ。成績を重んじる奨学金とは目的が違う」と述べ、成績要件を批判。「日本人学生の要件は基本的に経済的な事情だけ。留学生も、経済事情が逼迫(ひっぱく)している人に支給するのが本筋だ」と指摘した。留学生に対する日本政府の方針について、「日本も少子高齢化でだんだん労働者人口が減っていく。外国の優秀な学生を頼らなければいけなくなる時代が目の前に来ている」「優秀な留学生を集めるには、日本の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だ」と述べ、「差別するのはおかしい」と批判した。留学生の自主性を尊重することの重要さも強調。「(在学中の数年間に)どう教育を得るかは、学生が自分でスケジュールを立てるべきだ」とし、文部科学省が前年度の成績を申請要件にしたことに疑問を呈した。国立大の総長が国の仕組みに反対する運動に加わった理由については、「だいたいいつも、教員の立場に立っている」として、「現場の教員が『留学生と日本人を、我々は差別したくない』という声を上げることが大事だ。直接留学生と向き合う現場の教員が出すメッセージは強い」と話した。山極氏は、野生ゴリラ研究の第一人者として知られる。「私は、アフリカ赤道直下の『ゴリラの学校』に留学した」と自らの経験を紹介。「(ゴリラは)決して排除することなく私に接してくれた。それはゴリラの社会を知る上で大変に役立った。現場に行って、いろんな人と付き合って、様々な知識を学ぶのが留学の良さだから」とも述べ、留学生を排除せず、多くの人を受け入れる姿勢が大事だと訴えた。京都市立芸術大も同様の方針を示していることについても触れ、「個性を開花させる芸術家養成の大学であることを考えれば、そういう認識を持ったのはごく当然と思う」とも発言。「京都は文化や芸術に特化する大学が多い。留学生も多く、国際感覚を持った大学や教員も多いのではないか」との考えを示した。この問題をめぐり、要件に反対する大学教員らがネット上で賛同署名を呼びかけたところ、10日午前0時の締め切りまでに1701筆が集まった。うち大学教員は1100人を超えた。署名は5月26日から集め、呼びかけ人には京都大の山極氏ら約40人が名を連ねた。15日にも文部科学省に結果を届ける。 ◇ 学生支援緊急給付金 新型コロナウイルスの影響でアルバイト収入が減るなど、困窮した学生に対する国の給付金。大学が学生から申請を受け付けて推薦者リストを作り、リストに基づいて日本学生支援機構(JASSO)が最大20万円を支給する。外国人留学生にだけ「成績優秀」の申請要件が設けられた。 ●山極総長への単独インタビュー 山極寿一・京都大総長との主なやりとりは以下の通り。 ―京都大は留学生に成績要件を付けないことにしましたね 「今回は生活困窮者への支援だ。日本人学生にも(給付金の支給)条件が六つあるが、基本的に経済的な事情だけだ。だから、留学生も、成績のいい人だけというのでなく、生活困窮者、経済事情が逼迫(ひっぱく)している留学生に支給するのが本筋だと思う。奨学金とは目的が違う」「英国のオックスフォード大では、自国民の学生の年間授業料は130万円なのに、アジアの学生は390万円と3倍を要求している。日本は決して高いお金を払ってもらうことを目的に『大学ビジネス』として留学生を集めているわけではない。その意味では、日本は他の国に比べて、留学生と日本人とを差別していない」「このコロナ騒ぎで国境を越えた移動が制限され、オンラインの遠隔授業が組み合わされる形式になり、さらに激しい留学生獲得競争にさらされている。日本に来てくれる優秀な学生、日本を好きになり日本で働いてくれる、あるいは自国に帰っても日本のために尽くしてくれる留学生を育てるためには、またとないチャンス。この好機をとらえて国際的に発信しなければ、英語圏になかなか太刀打ちできない。大学ランキングは英語圏(の大学)が強いわけですから」「英語を母国語としない国として、優秀な留学生を集めるためには、日本人の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だと思う。(政府は)なぜそれをやらないのか」 ―大学教員による署名の呼びかけ人の一人になりましたね 「文部科学省と話をしても、『各大学に最終的な判断をお任せしている』と言われて終わり。やっぱり現場の教員が声を上げていくことが大事なんです。留学生と向き合う教員が、『日本人学生と留学生を一緒に教育しようとしてるんだ』という態度を出す。このメッセージが強い。文科省の態度がひっくり返らなかったとしても、そういうメッセージが伝わればいいと思っている」「成績が良い悪いに関係なく、みんな一生懸命に生活を成り立たせ、学問に励んでいる。そのバランスのとり方によって成績が良くなったり悪くなったりするわけじゃないですか。そこで各大学がその成績上位を選ぶ(給付金)というのは、やっぱりおかしいわけでね。だって、4年間、あるいは2年間、学生が大学に在籍する中で、どういうふうに教育を得ていくかは、学生が自分自身でスケジュールを立てるわけだから。そこまで我々が介入するものではない。我々が今するべきは、本当に今、学業を続けられなくなって困っている学生をきちんと選別して、支給してあげられるようにすることだ」「(大学としての方針を決める前に署名を呼びかけたのは)僕はだいたいいつも、教員の立場に立っているからです」 ―自身の留学体験は 「私は『ゴリラの学校』に留学したからね。アフリカの赤道直下の」「今はインターネットを使えば、既存の知識は何でも手に入る。現場に行って、いろんな人と付き合って、伝統知など様々な文字になっていない知識を学ぶっていうのが留学の良さだから。私はゴリラの知識まで学ばせていただいた。それはもうすごく、私の中では貴重な体験です」 ―そういう体験をより多くの人にしてほしいと 「学生個人が金太郎あめみたいになってもらっては困るわけです。我々は工業製品を作っているわけじゃない。それぞれが個性を持った、違う育ち方をする学生を相手にしている。違う目標を持ち、個性を持った学生に育ってほしいと思っているわけですよ。だから、日本人は日本人だけでいてはいけないし、いろんな国の学生と入り交じってほしい。その時に、彼らが対等に付き合うことが重要。我々が対等な扱い方をしなければ、そういう環境は生まれません」 ―ゴリラは対等に扱ってくれましたか 「まあねえ、出来の悪いゴリラとしてなあ、扱ってくれたと思うよ。もちろん、ゴリラとして認めてくれたわけじゃなくて、やっぱり外部者なんだけど、決して排除することなく、ゴリラの流儀で、私に接してくれた。それはゴリラの社会を知るうえで、大変役に立ったね」 ―日本も留学生に対してそういう社会であるべきだと 「それが日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になると思う。日本は軍事力もなければ、いまは経済力も弱っている。日本が今、示すべき大きな力は、学術と教育力だと思う」「日本政府にとって、お金をかけずに国際戦略として一番有効なのは、大学や教育を通じてアフリカやアジアの国と手を結ぶこと。日本の大学で学んだ人たちが日本のファンになってくれるネットワークを作るべきなんですよ。留学生をこれまでも大事にしてきたんだから、同じように大事にしてよ、ということです。今度だけ差別するっていうのはおかしいじゃない、ってことです」(聞き手・小林正典) ◇ 〈やまぎわ・じゅいち〉 1952年生まれ。京都大の大学院理学研究科長・理学部長などを経て、2014年から総長。日本学術会議会長も務める。専門は人類学・霊長類学。著書に「ゴリラ」「暴力はどこからきたか」など。 *10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54653250R20C20A1MM0000/ (日経新聞 2020/1/22) 「ポスドク」支援へ奨学金拡充・採用増 政府が総合対策 政府がまとめる若手研究者支援の総合対策案が明らかになった。博士課程の大学院生を対象に、希望すれば奨学金などで生活費相当額を支給して研究に集中できるようにする。企業に協力を求め、理工系の博士号取得者の採用者数を2025年度までに16年度比で1千人増やす。若手研究者ら「ポスドク」を取り巻く環境を改善し、研究力の強化につなげる。23日に開く総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍晋三首相)で決める。日本で若手研究者を取り巻く環境は厳しい。博士号の取得後、大学の教員になれず企業にも就職できない「ポスドク」問題が指摘されている。企業でも博士号取得者は他国に比べて少なく、100万人あたりの人数は米国やドイツ、英国、韓国の半分以下とされる。優秀な研究者が日本での研究を見切って海外留学をめざす人材流出の問題もある。政府は今後の目標として、修士課程から博士課程に進学した大学院生のうち約5割が、学内奨学金などで月15万~20万円の生活費相当額を受給できる状況の実現を盛り込んだ。博士課程の大学院生は18年度は約7万4000人で、このうち修士課程からの進学者は約3万2000人に上る。博士号取得者の企業への橋渡しも支援する。博士号取得者の採用者数は16年度は産業界全体で約1400人だった。これを25年度までに65%増やす目標を明記した。企業には博士課程の大学院生を対象とする長期有給インターンシップの設置を促し、官民連携による若手研究者の発掘にもつなげる。政府も博士号を持つ国家公務員の待遇改善を検討する。若手研究者向けに大学教員の採用の間口も広げる。今回まとめた支援策では40歳未満の大学教員の割合を3割以上に高める目標を盛り込んだ。16年度は23.5%だった。若手研究者を巡っては大学内の事務作業に煩わされ、十分な研究時間を確保できないとの声もある。25年度までに学内事務の半減を求め、政府側も関連する手続きの簡素化に取り組むとした。 *10-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/524492 (佐賀新聞 2020.5.19) 保育士1万7000人不足 9月入学で政府試算 政府は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、9月入学制を来年導入した場合、未就学児が一時的に増えるため保育士が約1万7千人不足するとの試算をまとめた。都市部を中心に保育施設の確保が困難になることも指摘した。関係者が18日、明らかにした。安倍晋三首相が学校休校の長期化を踏まえ、各府省に課題の洗い出しを指示していた。政府はこれを基に、6月上旬にも論点整理をまとめる。試算では、来年9月の小学校新入生は4月入学の場合より約40万人増える。この学年は17カ月の年齢差が生じるため「発達段階の差が大きい」として指導の工夫や学校、教員への支援も必要とした。夏場の入試の熱中症対策も課題に挙げた。 *10-3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN5J5W43N5GUTIL052.html (朝日新聞 2020年5月17日) 9月入学で教員2.8万人不足の推計 待機児童も急増 新型コロナウイルスの感染拡大で政府が検討している「9月入学」を来秋から実施した場合、学校教育や保育などにひずみを生みかねないことが、苅谷剛彦・英オックスフォード大教授の研究チームの推計でわかった。新1年生を4月生まれから翌年9月生まれまでの17カ月に再編し、特に施策を取らなければ、初年度は、教員は約2万8千人が不足し、保育所の待機児童も26万人超に上り、地方財政で3千億円近くの支出増が見込まれると試算した。 ●教員不足、大都市で深刻に 9月入学「教育の質低下も」 研究チームは、教育社会学の研究者やシンクタンク代表ら計7人。地方教育費調査や学校基本調査、社会福祉施設等調査などをもとに推計した。9月入学は、緊急事態宣言の対象が全国に広がり、休校が長期化するなか、学習の遅れを取り戻す時間を確保するために一部の高校生や東京都、大阪府などの知事が導入を求めた。安倍晋三首相も14日の記者会見で「有力な選択肢の一つだ」と言及している。政府は6月上旬をめどに来秋からの9月入学について論点や課題を整理する方針で、自民党が設置した「秋季入学制度検討ワーキングチーム(WT)」は5月末~6月初旬に政府への提言をまとめるという。文部科学省が主に検討しているのは、小学校開始年齢の遅れを解消するために、2021年9月の新入生を14年4月2日生まれから15年9月1日生まれまでと5カ月分増やす案だ。研究チームの推計では、この場合、新入生は例年より42万5千人増え、1・4倍になる。14年4月2日生まれから15年4月1日生まれの児童は保育所に5カ月長くいることになるため、初年度、地方財政支出は2640億円、教員は2万8100人が追加で必要になり、保育所は新たに26万5千人、学童保育は16万7千人の待機児童が生まれる。一方、文科省は、現行の学年の区切り(4月2日生まれから翌年4月1日生まれまで)を変えずに、新学年を9月1日から始める案も検討する。ただ、この場合、児童全体の教育が5カ月後ろ倒しになり、小学校の開始が遅い児童で7歳5カ月からとなる。欧米は6歳が主流で、韓国や中国も6歳。日本の児童はそれよりさらに1年以上遅れることになる。推計では、学校教育の支出や教員、学童保育の待機児童の大きな増加は見られないものの、保育所の待機児童26万5千人は初年度だけでなく毎年生まれ続ける。苅谷教授は推計をふまえ、来秋からの9月入学について「学校教育だけでなく保育などのシステムを崩壊させ、子育て世代の働き方に大きな影響を与える。エビデンスに基づいた冷静な議論が必要だ」と話す。 *10-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200603&ng=DGKKZO59886200S0A600C2EA2000 (日経新聞 2020.6.3) 9月入学、「義務教育5歳から」軸 政府・自民検討 首相「来年度は難しい」 始業や入学の時期を9月に変える「9月入学」を巡り、政府は2022年度以降の課題として検討を始める。義務教育の開始年齢をいまの6歳から半年ほど前倒しして国際標準に合わせる案が軸だ。幼稚園の入園時期を早める構想もある。20~21年度の導入は見送り、中期的に検討する。9月入学を議論する自民党のワーキングチーム(WT)は2日、安倍晋三首相に21年度までの導入は見送るべきだと提言した。首相は「法律を伴う形で改正するのは難しい」と述べた。WTの柴山昌彦座長は記者団に「国民に理解をいただける形でじっくり検討するのがふさわしい」と語り、9月入学は中期的に議論する意向を表明した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校を受け、提言では「学びの保障は一刻の猶予も許さない喫緊の課題」と明記した。9月入学に関しては「国民的合意や実施に一定の期間を要する」と指摘し「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と結論づけた。9月入学の検討は続ける。提言は「秋季入学制度の導入の方式について」と題した文書を添付した。小学校の入学年齢を前倒しするか遅らせるかなどの違いで5案を示した。政府・自民党では、6歳0カ月からの就学年齢を5歳5カ月に前倒しする案を軸に検討する。同案では現行制度と同様に4月2日から翌年4月1日生まれを一学年にするものの入学は9月にする。4月2日以降に6歳になる児童は前年9月に小学校に入学するため、就学年齢は最年少で5歳5カ月になり、現行制度より7カ月早まる。「前倒し」をすれば義務教育が早まり、現在より若い年齢で学力が上がる期待がある。米国の一部の州や英仏独、オーストラリアは5歳で小学生になる子どもがいる。新型コロナに伴う休校で今年の4月入学を9月に遅らせる案があがった際も、政府・自民党内では「義務教育の開始が遅れる。国際競争を考えれば米欧にあわせて『前倒し』にすべきだ」との声が根強かった。提言では幼稚園の入園を前倒しする案も示した。課題もある。移行期の年は小学1年生が大幅に増え、教員や教室を増やす必要がある。移行期の1年生は数が多いまま進級する。受験や就職で他の世代より激しい競争を強いられる懸念がある。前倒し案への賛成論は多い。経団連の井上隆常務理事は「義務教育の開始年齢や入学時期を欧米とそろえれば、大学の国際化に直結して産業界の人材獲得にプラスとなる」と語る。9月入学に反対する声明を5月に出した日本教育学会の広田照幸会長(日大教授)も「国際的にも幼児教育の開始時期は早まっている。選択肢の一つとして議論する価値はある」と話す。新型コロナで当初浮上した9月入学論は、4月の入学を同じ年の9月に遅らせて休校による授業不足を補うものだった。海外の秋入学に足並みをそろえれば留学生の派遣や受け入れが進み、国際化につながるとの意見があった。最年少の入学者は6歳5カ月になり、義務教育の開始が米欧主要国より大幅に遅れる。提言は「影響が大きいため、就学年齢を後ろ倒ししないことを基本に考えるべき」と記した。提言に示した5案には文部科学省の案も含めた。(1)1年で移行するために最初の1学年だけ対象を広げる(2)対象を段階的に変えて5年かけて移行する――の2つだ。提言は「首相の下の会議体で各省庁一体となって、専門家の意見や広く国民各界各層の声を丁寧に聴きつつ、検討すべき」と促した。提言を参考に政府は今夏までに今後の方針を示す見通しだ。 <地方では、“高齢者”の就労は普通であること> PS(2020年6月18日):*11-1のように、農業分野では新型コロナの影響で日本酒の消費が落ち込み、原料の酒造好適米「山田錦」の産地に影響が表れているそうだが、「酒は百薬の長(適量の酒はどんな良薬よりも効果がある)」と言われているように、麹菌は他の菌を殺して自身が生き残るためにアルコールを作っているのだと思われるため、新型コロナウイルスの抗体を作らせることもできそうだ。そして、これは甘酒・味噌・醤油・酢・ワイン・ヨーグルト・納豆・チーズ等でも起こり得るため、近くの大学と共同研究して新型コロナはじめ各種ウイルスへの抗体を持つ発酵食品を作れば世界で売れると思う。そうすると、*11-3のように、減少するばかりだった地方の生産年齢人口も増加に転じるのではないか? なお、生命科学は、現在のところ、漁業で、*11-2のように、1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹のニジマスをふ化させるところまで進歩している。 さらに、*11-4のように、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が2020年3月31日に参院本会議で成立し、政府は将来的な義務化も視野に入れている。しかし、70歳まで働く機会を確保できるようにするのはよいが、働き手の保護に欠けるのはよくない。では、65歳以上の高齢者は働く能力が低いのかといえば、*11-3のように、基幹的農業従事者の平均年齢は2019年には66.8歳となり、農業は「生産年齢人口」「高齢者」の定義を変えなければならないくらい高齢者に支えられている。もちろん、次世代の人材確保や若者の地方移住は喜ばしいことだが、主たる生産者としての女性や“高齢者”の存在にも気がついてもらいたい。 (図の説明:左図は、実った稲で、中央は、農業就業人口とその平均年齢の推移だ。また、右図は、林業の従事者数と林業及び全産業の高齢化率・若年者率の推移だ) *11-1:https://www.agrinews.co.jp/p51077.html (日本農業新聞 2020年6月14日) [新型コロナ] 日本酒低迷、米産地を直撃 契約3割見直しか 需要回復いつ… 兵庫 型コロナウイルスの影響で日本酒の消費が落ち込む中、原料の酒造好適米の産地に影響が表れている。酒造好適米の生産量日本一の兵庫県では需要が3割落ち込むとの想定もあり、契約予定数量の見直しを迫られている。来年産以降の生産計画に影響する可能性があり、生産者に不安が広がる。 ●来年産計画に影響も 酒造好適米「山田錦」の作付面積が、地域の水田面積の8割を占める兵庫県三木市吉川町。県内の主力品種「コシヒカリ」から遅れること約1カ月後の5月30日、「山田錦」の田植えが本格的に始まった。生産者の表情は険しく「収穫する頃、世間はどうなっているのか」。苗を見つめながら同町冨岡地区で水稲15ヘクタールを手掛ける冨岡営農組合の西原雅晴組合長は出来秋を不安視する。産地関係者の「悩みの種」は、新型コロナ禍に伴う日本酒の消費減だ。日本酒造組合中央会によると、出荷量は2月が前年同月比9%減、3月が同12%減、4月が同21%減と月を追うごとに落ち込む。5月は集計中だが、4月と同水準とみられる。同中央会は「流通在庫が積み上がっているところもあり、事態は数字以上に深刻」と分析する。産地にも影響が出始めている。JA全農兵庫では4月中旬以降、今秋収穫される2020年産の契約数量の見直しを求める問い合わせが、取引先から相次いだ。「当初の契約予定数量(約1万5000トン)の3割の見直しを迫られるとの想定もあり、現在協議を進めている」(全農兵庫の土田恭弘米麦部長)。深刻な事態を受け、全農兵庫は4月下旬、県内のJAみのり、JA兵庫みらい、JA兵庫六甲と共同で、県内生産者に緊急通知を発出。酒造好適米から主食用品種などへの転換を呼び掛けた。ただ、多くの農家が苗作りを始め「変更できない農家が大半。問題が表面化した時点で手遅れだった」(JA関係者)。当初の生産計画から減産できたのは「数%」(同)だった。冨岡営農組合は緊急通知を受け、酒造好適米の作付面積を1割減らし、主食用品種に切り替えた。「山田錦」に比べ10アール当たり収入は半減する見込みだが、西原組合長は「産地と酒造メーカーは一蓮托生(いちれんたくしょう)。酒造メーカーが苦しむ中、産地も減産に協力したい」と覚悟を決める。兵庫県も独自支援に動く。20年度6月補正予算案に酒造好適米の産地支援を盛り込んだ。余剰在庫の解消に向け、米粉など日本酒以外の用途向けに19年産の酒造好適米を販売する際、販売価格の下落補填(ほてん)に60キロ1万800円を支給。20年産の作付け転換や消費喚起にも取り組む。ただ、影響の長期化は避けられない見通しだ。「自粛ムードが続き、日本酒の需要はすぐに回復しない」(同中央会)とみられるためだ。土田部長は「来年産以降の生産計画の見直しも避けられない」と肩を落とす。西原組合長は「日本酒を飲んで、産地を応援してほしい」と呼び掛ける。 *11-2:https://www.chunichi.co.jp/article/73300 (中日新聞 2020年6月15日) ニジマス、試験管で大量増殖 東京海洋大が世界初、養殖に貢献 ニジマスの卵や精子のもとになる生殖幹細胞を、試験管で大量に増殖させることに世界で初めて成功したと、東京海洋大の吉崎悟朗教授(魚類養殖学)のチームが15日付の国際的な科学誌の電子版に発表した。たった1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹がふ化した。順調に成魚に成長しており、貴重な水産資源の魚を保護しつつ、大量生産を可能にする技術として期待される。吉崎教授は、養殖生産や絶滅危惧種の保全に貢献したいと説明し「ニジマスに近いサケやマスの仲間ならば、数年で保全事業に活用できる。クロマグロへの応用も5年程度で実現化を目指したい」と話した。 *11-3:https://www.agrinews.co.jp/p51096.html (日本農業新聞 2020年6月17日) 担い手さらに減少 60代以下100万人割れ続く 担い手を含め農業に携わる人材の減少と高齢化に歯止めがかからない。販売農家の世帯員のうち主な仕事を農業とする「基幹的農業従事者」は2019年時点で140万人と5年間で27万人減った上、60代以下は100万人を割り込んだ状態が続いていることが農水省のまとめで分かった。一層の減少・高齢化が見込まれる中、生産基盤を維持するには、60代以下の人材をどう確保していくかが喫緊の課題となる。基幹的農業従事者は、1995年に256万人いたが、05年に224万人、15年に175万人、19年に140万人と大幅な減少が続いている。若年層の減少が止まっておらず、60代以下は95年の205万人から05年には135万人に減少。その後、15年は93万人と100万人を割り、19年はさらに81万人にまで落ち込んだ。高齢化も進展。平均年齢は95年に59・6歳だったが、05年に64・2歳に跳ね上がった。15年は67歳、19年は66・8歳と依然として高い水準で推移する。同省は、農地の維持、活用策などを検討するため5月に新設した「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」で、基幹的農業従事者は「今後一層の減少が見込まれる」との見方を示した。農業生産を支える層の減少に伴い、「農業の持続可能性が確保できない地域が増加する可能性がある」と指摘する。人材確保に向けて、同省は、新規就農や第三者も含めた経営継承を引き続き推進する方針だ。新型コロナウイルス感染拡大の中で「食の大切さに改めて気付いたり、地方への移住を希望したりといった動きもある」(就農・女性課)とし、若年層の参入・定着に一層力を入れる方針。農業の働き方改革や地域の受け入れ態勢の整備も重視する。新たな食料・農業・農村基本計画は、基幹的農業従事者数と農業法人の従業員・役員らを合わせた「農業就業者数」を30年に140万人確保する方針を掲げる。同省は、現状の傾向が続けば30年に131万人に減ると見込む。人材確保に結び付く実効性のある対策を講じることができるかが問われる。 *11-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN306GWKN30ULFA010.html (朝日新聞 2020年3月31日) 70歳まで働けるよう、改正法が成立 企業に努力義務 70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が31日、参院本会議で可決、成立した。来年4月から適用され、政府は将来的な義務化も視野に入れる。健康な高齢者の働き手を増やし、人手不足に対応するとともに、年金などの社会保障の担い手を厚くする狙いがある。いまの法律は企業に対し、定年廃止、定年延長、再雇用などの継続雇用といった対応をとることで従業員が65歳まで働ける機会をつくることを義務づけている。改正法はこれを70歳まで延長し、現在の三つの対応に加え、別の会社への再就職、フリーランス契約への資金提供、起業の後押し、社会貢献活動への参加支援の四つも選択肢として認める。企業には七つのうちのいずれかの選択肢を設けるよう努力義務を課し、どれを選ぶかは企業と労働組合が話しあって決める。起業の後押しといった雇用契約を結ばない選択肢をとる場合、従業員の収入が不安定になるおそれがあるため、改正法は企業に従業員や勤め先と業務委託契約を継続的に結ぶよう求める。厚生労働省は今後つくる指針の中に働き手の保護策を盛り込む方針だ。新型コロナウイルスの感染拡大が企業業績を急激に悪化させるなか、今回の見直しは企業の人件費負担を増やす要因になりうる。現在は約8割の企業がいったん退職してから賃金水準が低い契約社員などで再雇用する方法をとっているが、70歳に延長した場合も、多くの企業は同じように契約社員などでの再雇用を選ぶとの見方がある。この日成立した関連法には、兼業や副業をする人の労働災害を認定するしくみを見直す改正労災保険法や、定年後に再雇用されて賃金が大きく下がった人に65歳まで支払われる「高年齢雇用継続給付」を縮小する改正雇用保険法なども含まれる。 <遺伝子から人類の進化を辿る> PS(2020年6月21日):*12-1のように、 中国公安当局が“犯罪捜査を名目に”、全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めているそうだ。もちろん、①遺伝子を調べて犯罪を起こしやすい人をあらかじめ逮捕するのは人権侵害である ②遺伝子による判定は、第三者の検証が入りにくいため日本の捜査でも冤罪を生んでいる などの理由で、国民統制や犯罪捜査に使われれば悪である。 しかし、純粋に科学的に調査すれば、中国のようなユーラシア大陸の人類の交差点で男性7億人分の「遺伝子地図」を作成すれば、人類の進化の過程を辿ることができるため興味深い。また、*12-2のウイルスが、③どの民族に ④いつ感染して ⑤どういう理由で優位性を持って人類の進化を演出したか を解明することができ、東アジア人が新型コロナウイルスに強い理由も人間側の遺伝的要素からわかるかもしれない。また、日本でも地域ごとに調査すれば、⑥どういう民族が ⑦いつ ⑧どこから ⑨どのくらいの人数 ⑩日本列島に移住してきたか がわかると思う。 このように、新型コロナ致死率・その他の死亡率等を比較すればいろいろな調査に役立つため、*12-3・*12-4の原因別死亡数は、WHOで統一した基準を作って国際比較できる形で正確に出した方がよいと思われる。 2020.5.11毎日新聞 *12-4より 2020.6.12西日本新聞 (図の説明:左図は、2020年5月4日現在の各国の新型コロナによる「死亡率/人口100万人」の推移で、欧米が高い。中央の図は、2020年5月16日現在の各国の新型コロナによる致死率「死亡者数/感染者数」「死亡者/人口10万人で、検査数や死亡原因の特定に違いはあるが、やはり欧米で高い。右図は、2020年6月11日現在の日本の死亡率だが、日本全体では中央の図の4.4%より高い5.2%《938/18,008X100》で、中国の5.5%に近い) *12-1:https://www.sankei.com/world/news/200618/wor2006180033-n1.html (産経新聞 2020.6.18) 中国、男性7億人分の「遺伝子地図」作成 国民統制を強化 中国公安当局が犯罪捜査を名目に全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めていると、米紙ニューヨーク・タイムズが17日、オーストラリアの研究機関の調査を基に報じた。国民統制が一層強まる恐れがあり、外国の人権団体だけでなく中国内でも一部当局者が反対しているという。中国では既に人工知能(AI)による顔認識技術などを駆使した捜査による人権侵害が指摘されているが、DNAのデータベースの一部も既に犯罪捜査に利用され始めているという。公安当局は2017年、小学生男児を含めた全国の男性を対象に血液採取を開始。3500万~7千万人のサンプルを採取し、それを基に全男性の遺伝子地図作成を目指している。データベースを使えば男性1人の遺伝子情報で、その親族も特定が可能。対象を男性に絞っているのは犯罪率が高いためとしている。犯罪と無関係の親族らの人権が損なわれる恐れや当局が情報を乱用する懸念もあり、人権活動家らは遺伝子地図により公安当局が「空前の権力」を手にすると批判している。 *12-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59746430Z20C20A5MY1000/?n_cid=SPTMG053 (日経新聞 2020/5/30) 人類に宿るウイルス遺伝子、太古に感染 進化を演出、驚異のウイルスたち(2) 地球上にはいろいろなウイルスがいる。人類の進化にもウイルスが深くかかわってきた。太古のウイルスが人類の祖先の細胞に入り込み、互いの遺伝子はいつしか一体化した。ウイルスの遺伝子は今も私たちに宿り、生命を育む胎盤や脳の働きを支えている。新型コロナウイルスは病原体の怖さを見せつけた。過酷な現実を前に、誰もが「やっかいな病原体」を嫌っているに違いない。ウイルスが「進化の伴走者」といわれたら、悪い印象は変わるだろうか。母親のおなかの中で、赤ちゃんを守る胎盤。栄養や酸素を届け、母親の「異物」であるはずの赤ちゃんを育む。一部の種を除く哺乳類だけが持つ、子どもを育てるしくみだ。「哺乳類の進化はすごい」というのは早まった考えだ。この奇跡のしくみを演出したのはウイルスだからだ。レトロウイルスと呼ぶ幾つかの種類は、感染した生物のDNAへ自らの遺伝情報を組み込む。よそ者の遺伝子は追い出されるのが常だが、ごくたまに居座る。生物のゲノム(全遺伝情報)の一部と化し、「内在性ウイルス」という存在になる。内在性ウイルスなどは、ヒトのゲノムの約8%を占める。ヒトのゲノムで生命活動などにかかわるのは1~2%程度とされ、ウイルスが受け渡した遺伝情報の影響は大きい。見方によっては、進化の行方をウイルスの手に委ねたといっていい。哺乳類のゲノムに潜むウイルスは注目の的だ。東京医科歯科大学の石野史敏教授は、ヒトなど多くの哺乳類にある遺伝子「PEG10」に目をつけた。マウスの実験でPEG10の機能を止めると胎盤ができずに胎児が死んだ。PEG10は、哺乳類でも卵を産むカモノハシには無く、どことなくウイルスの遺伝子に似る。状況証拠から「約1億6000万年前に哺乳類の祖先にウイルスが感染し、PEG10を持ち込んだ。これがきっかけで胎盤ができた」とみる。胎盤のおかげで赤ちゃんの生存率は大幅に高まった。ウイルスが進化のかじ取りをしていた証拠は続々と見つかっている。哺乳類の別の遺伝子「PEG11」は、胎盤の細かい血管ができるのに欠かせない。約1億5000万年前に感染したウイルスがPEG11を運び、胎盤の機能を拡張したようだ。ウイルスがDNAに潜むのには訳がある。「生物の免疫細胞の攻撃を避け、縄張りも作れる」(石野教授)。ウイルスは生きた細胞でしか増えない。感染した生物の進化も促し、自らの「安住の地」を築きたいのかもしれない。東海大学の今川和彦教授は「過去5000万年の間に、10種類以上のウイルスが様々な動物のゲノムに入り、それぞれの胎盤ができた」と話す。ヒトや他の霊長類の胎盤は母親と胎児の血管を隔てる組織が少ない。サルの仲間で見つかる遺伝子「シンシチン2」は、約4000万年前に感染したウイルスが原因だ。さらにヒトやゴリラへ進化する道をたどった一部の祖先には、3000万年前に感染したウイルスが遺伝子「シンシチン1」を送り込んだ。初期の哺乳類はPEG10が原始的な胎盤を生み出した。ヒトなどではシンシチン遺伝子が細胞融合の力を発揮し、胎盤の完成度を高めた。本来のシンシチン遺伝子はウイルスの体となるたんぱく質を作っていたが、哺乳類と一体化すると役割を変えた。父親の遺伝物質を引き継ぐ赤ちゃんを母親の免疫拒絶から守る役目を担っているとみられる。石野教授は「哺乳類は脳機能の発達でもウイルスが進化を助けた」と指摘する。「複雑になった脳の働きを、ウイルスがもたらす新たな遺伝子が制御しているのだろう」。ウイルスが「進化の伴走者」と言われるゆえんだ。ウイルスの影響がよくわかる植物の研究がある。東京農工大学や東北大学などのチームはウイルスがペチュニアの花の模様を変える様子をとらえた。花びらの白い部分が、ゲノムに眠るパラレトロウイルスが動き出すと色づく。ダリアやリンドウでも似た現象がある。東京農工大の福原敏行教授は「一部はウイルスの仕業かもしれない」と語る。哺乳類のように進化の一時期に10種類以上の遺伝子がウイルスから入った例は見つかっていない。哺乳類も、形や機能の進化にウイルスを利用してきたのだろう。進化の歴史を隣人として歩んできたウイルスと生物の共存関係は今後も続く。 *12-3:https://www.yomiuri.co.jp/national/20200614-OYT1T50084/ (読売新聞 2020/6/14) 「コロナ死」定義、自治体に差…感染者でも別の死因判断で除外も 新型コロナウイルス感染症の「死者」の定義が、自治体ごとに異なることが、読売新聞の全国調査で分かった。感染者が亡くなった場合、多くの自治体がそのまま「死者」として集計しているが、一部では死因が別にあると判断したケースを除外。埼玉県では10人以上を除外したほか、県と市で判断が分かれた地域もある。専門家は「定義がバラバラでは比較や分析ができない。国が統一基準を示すべきだ」と指摘している。 ■全員精査 厳しく 読売新聞は5月下旬~6月上旬、47都道府県と、県などとは別に独自に感染者集計を発表している66市の計113自治体に対し、集計方法などを取材した。これまでに感染者の死亡を発表したのは62自治体。このうち44自治体は、死因に関係なくすべて「死者」として集計していた。その理由として、「高齢者は基礎疾患のある人が多く、ウイルスが直接の死因になったのかどうか行政として判断するのは難しい」(東京都)、「全員の死因を精査できるとは限らない」(千葉県)――などが挙がった。感染者1人が亡くなった青森県は「医師は死因を老衰などと判断した。感染が直接の死因ではないが、県としては陽性者の死亡を『死者』として発表している」と説明している。 ■「区別は必要」 一方、13自治体は、「医師らが新型コロナ以外の原因で亡くなったと判断すれば、感染者であっても死者には含めない」という考え方で、埼玉県と横浜市、福岡県ではすでに除外事例があった。埼玉県は12日時点で13人の感染者について、「死因はウイルスとは別にある」として新型コロナの死者から除外。13人はがんなどの死因が考えられるといい、県の担当者は「ウイルスの致死率にもかかわるので、コロナなのか、そうでないのかを医学的に区別するのは当然だ」と話す。横浜市でも、これまでに死亡した感染者1人について、医師の診断により死因が別にあるとして、死者から除外したという。 ■県と市でズレ 福岡県では、県と北九州市で死者の定義が異なる事態となっている。北九州市では、感染者が亡くなればすべて「死者」として計上している。これに対し、県は、医師の資格を持つ県職員らが、主治医らへの聞き取り内容を精査して「コロナか否か」を判断。この結果、これまでに4人の感染者について、北九州市は「死者」として計上し、県は除外するというズレが生じている。また、62自治体のうち残る5自治体は「定義は決めていないが、今のところコロナ以外の死因は考えられず、死者に含めた」などとしている。厚生労働省国際課によると、世界保健機関(WHO)から死者の定義は示されていないといい、同省も定義を示していない。だが、複数の自治体からは「国が統一的な定義を示してほしい」との声が上がっている。 ●国「速報値と捉えて」 厚労省は12日現在、「新型コロナウイルス感染症の死亡者」を922人と発表している。都道府県のホームページ上の公表数を積み上げたといい、この死者数をWHOに報告している。一方で同省は、新型コロナによる死者だけでなく国内のすべての死亡例を取りまとめる「人口動態統計」を毎年公表している。同統計は医師による死亡診断書を精査して死因が分類されるため、新型コロナの死者は現在の公表数よりも少なくなるとみられる。国として二つの「死者数」を示すことになるが、同省結核感染症課の担当者は「現在の公表数についての判断は自治体に任せており、定義が異なっていることは承知している。現在の数字は速報値、目安として捉えてもらいたい。統一された基準でのウイルスによる死者数は、人口動態統計で示される」と話している。 ●識者「統一すべきだ」 大阪市立大の新谷歩教授(医療統計)は「死者数は世界的な関心事項で、『自治体によって異なる』では、他国に説明がつかない。国際間や都道府県間での感染状況を比較するためにも、死者の定義を国が統一し、明示すべきだ」と指摘する。患者の治療に当たっている国立国際医療研究センター(東京)の大曲貴夫・国際感染症センター長も「医療従事者にとって、死者数は医療が適切に行われているかどうかを見定める指標の一つ。第2波に備える意味でも、ぜひ定義を統一してほしい」と求めた上で、「迅速性が重要なので、『陽性判明から4週間以内に死亡したケース』など、人の判断を挟まない方法が良いのではないか」と提案している。 *12-4:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14724 (Web医事新報No.5014 2020年5月30日発行) [緊急寄稿]日本の新型コロナ対策は成功したと言えるのか─日本の死亡者数はアジアで2番目に多い(菅谷憲夫) 、菅谷憲夫 (慶應義塾大学医学部客員教授,WHO重症インフルエンザガイドライン委員) 、登録日:2020-05-20、最終更新日: 2020-05-20 1.SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)の日本の流行 世界保健機関(WHO)は,本年3月11日に新型コロナウイルス〔SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)〕のパンデミックを宣言し,日本国内でも,2020年3月から流行が本格化した。4月7日に,東京,神奈川,千葉など7都府県に緊急事態宣言が出て,4月16日には,宣言が全国に拡大された。5月に入り,日本の流行も終息傾向が見られるようになった。Social Distancingや休校の効果が出てきたものと思われる。 2.緊急事態宣言解除の影響 これからの問題は,休校,外出やイベントの自粛,飲食店の休業,テレワークなどの対策が解除されると,流行が再燃する可能性が大きいことである。今,欧米諸国では,ロックダウンの解除,reopeningが課題となっている。国によって差はあるものの,5月中旬から徐々に厳しい外出禁止措置が解除されつつある。これがどのような影響をもたらすかは注目されるところである。ロックダウン期間中に人々が免疫を獲得したわけではなく,またSARS-CoV-2が完全に消失するとは考えられず,単に厳しい外出制限により人と人の接触が減ったので,患者数が一時的に減少したに過ぎない。夏になると,気候により流行が下火になると期待する向きもあるが,インドやフィリピンの流行状況を見ると,インフルエンザほどの季節性は望めないのではないかという意見もある。 3.日本のSARS-CoV-2対策は優れていたか 政府を中心に,日本の死亡者の絶対数が欧米に比べて少ないから,日本のSARS-CoV-2対策は優れていたとか,成功したという論調が,最近多く聞かれる。ところが,アジア諸国は欧米諸国に比べて,感染者数も死亡者数も圧倒的に少ない事実がある。そして,アジア諸国間で,人口10万人当たりに換算した死亡者数を比較すると,日本は,フィリピンに次いで2番目に多く,日本の対策が優れていたとは言い難い(表1)。欧米諸国での人口10万人当たりのSARS-CoV-2感染者数は,アジア諸国に比べて10倍から100倍以上も多い。スペイン,イタリア,フランス,英国での感染者数は,10万人当たり275〜492人にもなるが,インド,中国,日本,韓国,台湾では,10万人当たり1.9〜21.5人に過ぎない。日本は,10万人当たり感染者数では,シンガポール,韓国,パキスタン等に次いで,5番目に位置する。シンガポールでは,最近,外国人労働者の宿舎で集団発生が起きたために,例外的に感染者数が488人と急増した。現時点での日本の感染者数は1万6203人,死亡者数は713人である(5月16日)。致死率を計算すると,4.4%(713/1万6203)と,かなり高率である。日本の例年の季節性インフルエンザの致死率は,1000万人のインフルエンザ患者数で,5000人の死亡者が出ていると仮定すると,0.05%(5000/1000万人)程度であるから,その約100倍の致死率となる。いずれにしろ,日本の感染者数は,国際的にも批判されたが,RT-PCR検査数が異常に少ないことが影響し,信頼できる数値とは言えない。 4.世界各国のSARS-CoV-2致死率 世界各国の致死率(死亡者数/感染者数)は,欧米諸国では極めて高く,英国,フランス,イタリア,スペインなどでは,12〜15%となる(表1)。これは,1918年のスペインかぜの欧米の致死率1〜2%をはるかに超えて,驚くべき高値である。不明の点も多いが,欧米での高い致死率は,長期療養施設での流行により,多数の高齢者が死亡したためとも報道されている。アジア諸国の致死率は,インドネシアとフィリピンは6%台と高いが,中国が5.5%,日本は4.4%である。韓国が2.4%,台湾が1.6%と低い。表1を見ても,アジア諸国の致死率は,欧米諸国よりも明らかに低い。欧米よりもアジア諸国の死亡者数が少ないという現象は,スペインかぜの経験とは真逆であり,説明が困難である。例えば,スペインかぜの死亡者数は,アジア全体で1900万から3300万人で,欧州全体で230万人と報告されている(表2)。1918年当時は,アジアに比べて欧州諸国が社会経済的に圧倒的に優位だった影響と説明されてきた。社会経済的な格差は大幅に改善されたとはいえ,現在も欧州諸国が優位であると考えられるにもかかわらず,アジア諸国の死亡者数が少ない理由は説明がつかない。 5.人口10万人当たりSARS-CoV-2の死亡者数 欧米諸国とアジア諸国での,SARS-CoV-2流行のインパクトの違いは,10万人当たりの死亡者数で比較すると,一段と明確となる(表1)。スペイン,イタリア,フランス,英国での死亡者数は,10万人当たり40〜60人にもなる。欧米諸国の中で,流行を徹底的に抑え込んだと高く評価されるドイツでも,10万人当たり死亡者数は9.5人であるが,対照的に,アジアで最も死亡者数の多いフィリピンでも,10万人当たり0.77人に過ぎない。インド,中国,日本,韓国,台湾などでは,10万人当たり0.03〜0.56人となる。欧米諸国とアジア諸国との差は明らかである。日本とドイツの人口10万人当たりの死亡者数を比べると,0.56人対9.47人で17倍差があり,特に多くの死亡者が出ているスペインと比べると,0.56人対58.75人で,実に105倍となる。まさに,欧米諸国ではSARS-CoV-2流行のインパクトは桁違いに大きい。欧米とアジアとの死亡者数には,100倍の違いがあるが,原因は不明である。可能性として考えられるのが,①人種の差,②年齢構成の違い,すなわちアジア諸国では若年層が多い,③BCG接種の影響,④欧米諸国では,高い感染力を持ち病毒性の強い,アジアとは別のSARS-CoV-2流行株が出現した─等が考えられる。 6.日本の死亡者数はアジアでワースト2 欧米諸国と比べて死亡者数が少ないというだけで,日本のSARS-CoV-2対策が成功したという報道は誤りである。人口10万人当たりの死亡者数をアジア諸国で比べると,1位はフィリピン,2位が日本であり,日本は最も多くの死亡者が発生した国の一つである。注目されるのは,医療崩壊した武漢など,SARS-CoV-2の発生源とされた中国を上回っている点である(表1)。最も死亡者が少ない国・地域は台湾で,感染者数440人で死亡例はわずかに7人である。台湾の人口は2370万人なので,この割合を日本に当てはめると,患者数2350人,死亡者数は37人と驚異的な低値となる。日本では700人以上の死亡者が出たが,対策によっては,まだまだ多くの命を救えた可能性がある。 7.今季は大規模なインフルエンザ流行が予測される 2019/20年シーズンの日本のインフルエンザ流行は,例年よりも数週早く,11月中に各地で注意報が出て大流行が懸念されたが,結局,A/H1N1pdm09による流行のみで,A/香港型(H3N2)の流行はなく,2020年1月には終息した。また,2018/19年シーズンに流行がなかったB型インフルエンザも出現せず,2年連続して流行がなかった。約700万人程度の患者数と言われ,小規模の流行に終わった。したがって,2020/21年シーズンは,A/香港型(H3N2)とB型による,大規模な混合流行の可能性が高い。 8.おわりに 日本では,欧米と比較してSARS-CoV-2死亡者数は少ないことは事実である。しかし,それは日本の対策が成功したとか,優れていたわけではない。アジア諸国の感染者数,死亡者数は,欧米に比べて,圧倒的に少ないのであり,その中では,最大級の被害を受けているのが日本である。今,第2波の問題が世界のトピックとなっているが,日本を含めたアジア諸国では,第2波は,欧米諸国と同じような激甚な流行となる危険性もある。そのため,日本の第2波対策は,欧米の被害状況を詳しく分析して,慎重に立案,準備する必要がある。特に今季は,A/香港型とB型の大規模なインフルエンザ混合流行が予測され,インフルエンザとSARS-CoV-2の同時流行にも備える必要がある。 <地方住まいの長所と短所> PS(2020年6月22日):*13-1のように、2019年度の「森林・林業白書」は、2015年の国連サミットで採択され①気候変動対策 ②森林の持続可能な管理等の17目標を掲げた国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集したそうだ。森林は、地球温暖化防止・水源涵養、国土保全、教育など幅広い機能があり、日本は国土の2/3を森林が占め収穫期でもあるため、大切に使えば大きな資源になる。しかし、そのためには、「スマート林業」「3Kからの脱却」「若者に魅力ある産業への脱皮」を急いで山村を再生する必要があり、国民は一部の企業を潤わせるために森林環境税を支払うのではないため、山から得られる「富」を地元に還元して魅力ある山村造りに役立てることが重要だ。また、せっかく育てた国有林を、民間企業に皆伐させ、造林は国が環境税を使って責任を持って行うなどという呆れた政策を作らない国民を育てるためには、子どもをコンクリートで作られた都市ではなく、自然の近くで育てて自然の美しさ・素晴らしさ・すごさ・貴重さを肌身で感じさせる必要がある。そこで、地方の学校では、*13-2のように、近くの森林や農園に児童の手で巣箱を設置し、森や農園や巣箱の中の変化の様子をカメラで撮影し、ITを使って学校のパソコンに映し出せる仕掛けをしたらどうかと思う。なお、現在の科学は、*13-3のように、太陽系外に地球に似た公転軌道をもつ第2の地球をすばる望遠鏡が発見し、太陽系内でも火星や月には人間が住めそうとのことだ。 しかし、地方に住むにあたって不便なのは、*13-4・*13-5のような公共交通機関における赤字路線の存在と廃止の危機だ。私は、工夫すればいろいろなやり方があると思うが、人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が5月27日に成立し、国交省は、路線維持への自治体の関与を強めることで影響を最小限にとどめたい考えだそうだ。路線廃止だけでなく、多様な利用をして黒字化したり、自治体の総合戦略とあわせて駅ビル・駅前の街づくり・産業・住宅地などとセットで考える必要があるため、確かに自治体主導にするのがよいだろう。 (図の説明:1番左は十勝千年の森、左から2番目は人間がかけた巣箱で子育て中のフクロウの雛だ。また、右から2番目は、手入れされた森林で、1番右は、庭にかけた巣箱で子育てしているシジュウカラだ) EV電車 燃料電池電車 貨客混載 超電導電線敷設 (図の説明:電車だけ考えても、1番左のEV電車、左から2番目の燃料電池電車などに変更して電力を自ら作る方法がある。また、右から2番目のように、宅急便などと組んで貨客混載したり、1番右のように、線路に超電導電線を敷設し、地方から都市への送電を担って稼ぐ方法もある。なお、電車は自動運転にすれば、人件費が節約できるだろう) *13-1:https://www.agrinews.co.jp/p51121.html (日本農業新聞論説 2020年6月20日) 林業白書 成長と循環で再生促せ 政府が閣議決定した2019年度の「森林・林業白書」は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集した。時代の要請に沿った役割発揮への期待を込めたが、成否の鍵は山村の再生が握る。SDGsは、2015年の国連サミットで採択された。持続可能な世界を実現するため、貧困や飢餓の撲滅、気候変動対策、森林の持続可能な管理など17の目標を掲げた。2030年までの実現に向けて、世界的な取り組みが始まっている。森林は、地球温暖化防止や水源のかん養、国土保全、教育など幅広い公益的機能がある。日本の森林は、国土面積の3分の2を占め、公益機能の発揮に期待が高まっている。白書は「伐(き)って、使って、植える」という循環利用を基本にした管理が、SDGsの実現に貢献することを示した。特集で取り上げたのは、政府が掲げる森林・林業の成長産業化と、SDGsに沿った管理の両立を目指す決意表明とも言えよう。ただ森林・林業の現状は楽観できるものではない。木材の自由化政策と木材価格の低迷で、山村は廃れ、所有者や境界が分からない森林、手入れの届かない森林が目立つ。担い手不足と高齢化も深刻で、このままでは、成長産業化どころか、森林を維持することも危うくなる。林野庁は、所有者が放置している森林を林業経営者の管理に委ねる森林経営管理制度や森林環境税の導入で、循環利用にてこ入れをする。白書は、そうした政策の背景と狙いを詳しく示した。国民理解には必要なことだろう。難問は山村の再生である。若者が定住できるように魅力ある山村の創造が必要だ。機械化による「スマート林業」を進め、「きつい、汚い、危険」の「3K」イメージを払拭(ふっしょく)し、男女を問わず若者に魅力ある産業への脱皮も急ぐ必要がある。「担い手」である森林組合の活性化を促し、林家や林業従事者の経営と生活を安定させる環境がなければ、成長産業化と循環利用との両立は困難だろう。日本の森林は、戦後に植えた人工林を中心に主伐期を迎えている。いわゆる収穫期だ。国産材の利用も増えている。SDGsへの貢献と併せて、森林・林業に追い風が吹いていると言える。これを、山村再生につなげる必要がある。宝の持ち腐れにせず、計画的で適切な伐採と活用を進めるべきだ。その際に、山から得られた「富」をきちんと地元に還元し、魅力ある山村づくりに役立てることが肝心だ。一部の木材企業だけが潤って、森林を守る人たちが暮らす山村が衰退するようでは、循環利用の森林・林業を展開することはできない。白書は、「山村の活性化」を巡って地元に利益を還元する必要性を示した。しかし、山村社会のインフラ整備や就業機会の創出などに関する記述は厚みに欠ける。今後の課題である *13-2:https://www.agrinews.co.jp/p51141.html (日本農業新聞 2020年6月22日) 絶滅危惧「ブッポウソウ」 ブドウ園に巣箱 害虫駆除で一石二鳥 広島県世羅町のワイナリー 絶滅危惧種の渡り鳥「ブッポウソウ」を利用してブドウの害虫を駆除するプロジェクトが広島県世羅町で始まった。ワインブドウを栽培する園地に巣箱を設置して繁殖を促し、葉を食害するコガネムシ類を捕食してもらう。薬剤防除を減らすことで、生産者の負担を減らしながら、鳥の生育数の増大、良質なブドウで地域の特色を打ち出したワイン作りを目指す。ブッポウソウは、羽が青色でハトより小さい夏鳥。越冬場所の東南アジアから4月末~5月上旬に、本州や四国、九州に飛来する。昆虫を食べ、コガネムシなど甲虫類を好む。ただ、営巣場所が減り、急激な生息数の減少で、近い将来絶滅の可能性が高いとされる環境省のレッドリストでIB類に指定される。電柱などにも営巣することから、生息数の回復に巣箱の設置が有効という。プロジェクトは町産ブドウでワインを造る「せらワイナリー」を経営するセラアグリパークが始めた。三原野鳥の会の指導を受け、同社にブドウを出荷する世羅ブドウ生産組合と連携する。せらワイナリーと隣接するせら夢公園自然観察園では、野鳥の会が昨年初めて巣箱を設置し、ひなが巣立ったことを確認した。今年は組合員19戸が、園内や周辺の柱に巣箱30個を設置した。セラアグリパークは、巣箱を設置した園のブドウで造った商品をブランド化する計画だ。 *13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200531&ng=DGKKZO59745590Z20C20A5MY1000 (日経新聞 2020.5.31) 「第2の地球」公転軌道 地球に似る 太陽系外惑星 すばる観測 太陽系外で生命が存在できる領域にあり「第2の地球」の候補とされる惑星が、地球と似た公転軌道をもつことが、国立天文台のすばる望遠鏡による観測でわかった。この領域にある惑星の軌道が詳しくわかったのは初めてで、生命の生息条件を探る一歩になるという。東京工業大学や自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターなどのチームが、みずがめ座の方向、約40光年の距離にある赤色わい星「トラピスト1」を観測した。周囲には少なくとも7つの惑星が公転し、うち3つは生命がすめる領域「ハビタブルゾーン」にあり岩石でできている。このゾーンは恒星から適度に離れていて熱すぎたり冷たすぎたりせず、液体の水が存在できる。研究チームは、米ハワイ島にあるすばる望遠鏡に搭載した観測装置でトラピスト1を調べた。観測中にハビタブルゾーンにある2つの惑星を含む3つの惑星が、トラピスト1の前面を横切るように通過した。トラピスト1が放つ光の変化を詳細に調べたところ、自転軸の傾きが判明。惑星の公転軌道面に対してほぼ垂直であることがわかった。太陽系の惑星は太陽の自転軸に対しほぼ垂直の軌道で回っているが、太陽系外では軌道が傾いた惑星もある。軌道の傾きは、恒星から受ける放射線や紫外線の変化を通じて環境を左右している可能性がある。成果は軌道の傾きと環境を探る研究の出発点になるという。 *13-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527823 (佐賀新聞 2020.5.28) 伊万里-唐津、1億9300万円赤字 JR九州、線区別収支公表 JR九州は27日、1日1キロ当たりの平均通過人員が2千人未満だったのは2018年度に17線区あり、営業損益が全て赤字だったと発表した。佐賀県内の線区の赤字額は筑肥線(伊万里―唐津)が1億9300万円、唐津線(唐津―西唐津)は2億2900万円で、ローカル線の厳しい現状が改めて浮き彫りになった。同社が線区別の収支を幅広く公表したのは初めて。沿線の自治体や住民に利用促進の手だてを考えてもらいたいとして、青柳俊彦社長が福岡市での会見で説明した。「将来的な鉄道網の維持可能性を高めるために知恵を出し合いたい」とし、複数の線区で立ち上げた自治体との検討会で対策を講じる考えを示した。運賃などの営業収益から、運行にかかる人件費や燃料代などを営業費として差し引いた金額を公表した。伊万里―唐津では営業収益3900万円に対し、営業費は2億3200万円、唐津―西唐津は営業収益3300万円、営業費2億6200万円だった。筑肥線の唐津―筑前前原(福岡県)と筑前前原―姪浜(同)、唐津線の久保田―唐津は2千人以上で、公表の対象外としている。JR九州管内には全59線区があるが、公表対象を限定した点について青柳社長は「ローカル線では30年前と比べて平均通過人員が7割以上減っているところもある。まずスポットを当て、一企業だけで維持するのは大変だということを理解いただく」と述べた。17線区を廃止したり、バスなど別の交通形態に転換したりする可能性に関しては「結果としてあるかもしれないが、今の段階でそれらを前提に議論することは考えていない」と話した。赤字額が最大だったのは日豊線の佐伯(大分県)―延岡(宮崎県)間の6億7400万円。災害の影響があった日田彦山線などは公表していない。 *13-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527934 (佐賀新聞 2020.5.28) 地域の足、自治体主導で、改正地域公共交通活性化再生法が成立 人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が27日、参院本会議で可決、成立した。過疎地域などでバス路線の存続が難しくなる前に、自治体が後継事業者を公募するなど、対策を早期に検討する制度を創設。住民の足が途切れないようにする。バス事業は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛で乗客が大幅に減少しており、路線撤退が増える恐れもある。国土交通省は、路線維持に対する自治体の関与を強めることで、影響を最小限にとどめたい考えだ。新制度では、採算割れなどを理由にバス事業者が路線廃止を想定し始めた段階で、自治体が対策に着手する。人口や住民の年齢層など地域の実態に応じて(1)コミュニティーバス(2)乗り合いタクシー(3)マイカーを使う自家用有償旅客運送―といった存続の選択肢を検討。事業者を公募するか、自治体が直接運営する。一方、地方都市を念頭に、路線バスの参入審査に地元自治体の意見を反映させる仕組みも設ける。新規参入により、客を奪い合って経営が悪化したり、通勤・通学など利用客が見込める時間帯だけに運行が集中して不便になったりする恐れがあるためで、国は自治体の意見を参考に、認可するかどうか決める。
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2019,08,30, Friday
日本の出生数推移 一人当たりGDP比較 2019年度政府予算 2018.12.21産経新聞 (図の説明:左図のように、日本の出生数・出生率は戦後の1947~1949年を最高として漸減しているが、中央の図のように、一人当たりGDPは著しく増加している。個人の豊かさは、一人当たりGDPの方がよく表すが、近年は世界の一人当たりGDPも上がり、世界と比較した場合の日本の一人当たりGDP倍率は下がっている。また、右の2つの図のように、政府支出は過去最高に達しているが、社会保障についてはその充実や高齢者の増加で仕方がない面があるものの、投資に当たらない景気対策と称する生産性の低い支出は国全体の生産性向上の足を引っ張っている) (1)高齢ドライバーに対する運転免許返納の大合唱は正しくないこと 1)高齢者の免許証返納を奨める高齢者いじめ *1-1のように、高齢ドライバーの同一の事故が繰り返し報道され、家族に高齢の親に免許返納を提案させたり、強引に免許証を取り上げさせたりして、高齢者に免許返納させようという動きがある。 報道を信じた家族は、「よかれ」と思って善意で老親に免許返納を奨めるわけだが、同世代の高齢ドライバーによる事故が報じられたからといって、運転の必要性や老化の程度は人によって異なるため、他の高齢ドライバーが起こした事故を個人に敷衍するのは妥当ではない。 さらに、まだ運転できる人に無理に免許を返納させれば、仕事や買い物に支障をきたしたり、高齢者を引きこもりにしたりして、健康寿命を縮める。そのため、「運転の自信を失った」「必要でなくなった」と本当に自分で感じる人以外は、家族の勧めがあっても免許を返納する必要はないと、私は考える。 このような中、*1-5のように、警察庁が、①高齢ドライバーに実技試験を課し ②技能に課題があれば安全機能を備えた車のみに限って運転を認める「限定免許」の対象とする 方針を出した。しかし、教習は、高齢者だけを対象とするのではなく、長くペーパードライバーだった人が再度運転を始める時や自動車の仕組みが大きく変わった時もやる必要があると、私は思う。 なお、高齢ドライバーによる事故には、ハンドルやブレーキ操作ミスが多いそうだが、個人を犠牲にして免許を返納させるよりも、安全装置を導入する方が理にかなっている上、それによって新時代のニーズにあった自動車ができるのである。 2)生産年齢人口にあたる人が起こした事故 しかし、*1-2のような生産年齢人口にあたる人の「あおり運転」もたびたび起こっており、これは、1)とは異なり、意図的であって許し難い。そのため、何故、すぐに対策を講じなかったのかが疑問だ。そして、一般の人が気を付けるべきことは、必ずドライブレコーダーを装備して運転時の証拠を残し、事故時に冤罪を押し付けられないようにすることとなる。 また、*1-3のケースは、ワゴン車とバイクの追突死亡事故が発生し、ワゴン車の運転手はスマホの画面でミステリーやホラー系の漫画を読みながら運転を続け、夜間だったことからその様子がフロントガラスに反射して写り、それが本人の車のドライブレコーダーにはっきりと記録されていたのだそうで、このようにたるんだ人が運転しているのは恐ろしいことである。 3)根本的な解決 自動車は既に贅沢品ではなく生活必需品となっており、とりわけ足の悪い人には便利な移動ツールだ。そのため、私が10年以上前から言っているように、*1-4のような手放し運転できる運転支援システムや安全装置の搭載は、EV・燃料電池車・ガソリン車などのエネルギー源や大型・中型・小型車といった車種を問わず、どの車種でも速やかに行うべきである。 (2)個人情報の無断使用と個人情報保護について 1)就職情報サイト「リクナビ」の「内定辞退率」予測データ販売 日経新聞は、*2-1のように、①就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測データを売っていたこと ②リクナビが就職活動の代表的な情報プラットフォームになっていること ③学生の信頼を裏切ったこと について、「個人情報を扱う自覚はあるか」と厳しく糾弾している。 しかし、*2-2のように、日経新聞は経産省の「信頼ある自由なデータ流通政策」に協力してきた。上の③のように「信頼したから」と言ってそれに応える人ばかりではないし、②のように情報プラットフォームになって多数の情報を扱うからより正確な結果が出せるのであり、購入価値のあるデータを作るには多量のデータを分析することが必要だろう。そのため、「プラットフォーマー」だったことが問題なのではなく、個人情報を他の用途で勝手に使用してよいことにしたのが問題なのである。さらに、①の予測は、AIが統計的に推測できるような“普通”の行動をする人にしか当てはまらないことにも留意すべきだ。 また、2013年にJR東日本が「Suica」の乗降データを匿名化して社外に販売し、個人情報保護に反すると批判が相次いだことについて、*2-3のように、匿名化されたビッグデータでもいくつかのデータを組み合わせれば、高確率で個人を特定できることが指摘されている。つまり、「匿名加工すれば個人情報の扱いではなくなり、本人の同意がなくても第三者に提供できる」という指針が間違っているのだ。 2)医療ビッグデータの活用!? 日経新聞は2019年8月21日の社説で、*2-4のように、「①医療ビッグデータを使いこなせ」「②高齢化が進む中、効率的で質のよい医療の提供は重要な課題だが、それを支える検査や治療の記録などの膨大な医療ビッグデータの活用が進まない」「③デジタル技術が生かされておらず、宝の持ち腐れで、医療産業の国際競争力も低下しかねない」などと記載している。 しかし、①は個人情報の悪用に繋がる可能性が高く、②③はデータ提供者の同意の上で治験を行ったり、医療保険会社が使用された薬と治療効果を比較したりすれば、ビッグデータでなくても検証できる。さらに、「新薬開発のためなら個人の権利を無視してもよい」と考える製薬会社があるとすれば、その会社の薬が患者の側に立って開発されたとは思えない。 そのため、厚労省の有識者会議で「用途に公益性があると認められた場合」といってもそれがどういう場合かを吟味する必要があるくらいで、私は、EUのやり方の方が見識があると思う。日本もルールづくりに関与したいのなら、まず「人権」「個人情報」「個性」「差別」などの正しい意味を理解してからにすべきだ。 3)ゲノムデータの収集 東芝は、*2-5のように、従業員のゲノムデータを収集して数万人規模のデータベースを構築するそうだ。断りにくいという社内のプレッシャーはあるものの、これは希望者を対象にしている点で許せる。しかし、個人の生活や遺伝的要因を会社に調べられるのは、(どうにでも使えるという)リスクがある。 なお、東芝は、これによって多くのデータを分析し、特徴別に複数のパターンに分けることで、最適な予防法・治療法の開発に繋げることが可能になるとしているそうだ。 4)マイナンバーカードによる強引なデータ収集 政府は、*2-6のように、個人番号が記載されたマイナンバーカードの普及率を高めるため、年度末までに国・地方の全ての公務員にマイナンバーカードを取得させるそうだ。 国がそうまでするのは、国民一人一人に割り当てられた12桁のマイナンバーで年金・税金・社会保障などを照合し、国民を効率的に監視下に置くのが目的だ。そのため、マイナンバーカードの取得が進まないのであり、その国民の判断は、国が率先してビッグデータを活用して個人情報を使うことを奨めている人権無視の政策を進めていることから見ても正しい。 (3)論調に見る「個人の権利」「社会保障」の軽視 1)年金制度は効率的に運用されているか 日経新聞はじめ多くのメディアは、*3-1のように、①日本の社会保障は「中福祉・低負担」で ②その差を財政赤字が埋めているため ③負担を中レベルに引き上げるべきだ とする。しかし、ここには年金保険料を支払ってきた割に年金をもらえているか、つまり、i)年金資産運用の適格性 ii)年金保険料集金の網羅性 iii)年金管理事務の効率性 iv)年金関係法令の妥当性 に関して検討がなく、足りなくなれば負担増・給付減して国民にしわ寄せすればよいという省庁の発想の受け売りがあるにすぎない。 私から見ると、i) ii)とも不十分で、iv)の年金関係法令が“きめ細やか”と表現される無意味な複雑さも手伝って、iii)の効率性は著しく低い。また、*3-3のように、未納者が多い上に未納者データを紛失したりなど、年金保険料をきちんと集めて管理する風土があるのか否かが疑問という民間企業ではありえないようなことが続いているわけである。 2)支え手の拡大 上記、1)のiv)の年金関係法令に関しては、*3-4のように、支え手を拡大するために、会社員らの入る厚生年金の適用を拡大し、高齢者やパートらの加入を増やす改革に乗り出すとのことだが、パートだから厚生年金の適用がなかったというのは、パート労働者(多くは女性)の生活を全く考えていない法体系だったということだ。 そのため、*3-2の「支え手」を増やす改革を急ぐのは賛成であるものの、「支払われた年金保険料を誠意をもって大切に管理し、できるだけ多くの年金支払いをする」というコンセプトが共有されないまま、負担増・給付減をいくらやっても無駄遣いが増えるだけだと考える。 「少子高齢化の進行で『支える側』の現役世代が減り、『支えられる側』の高齢者の割合が増えた」というフレーズも何度も聞いたが、それは人口構成を見れば1980年代からわかっていたことで、1985年に積立方式を賦課課税方式に変更してばら撒くのではなく、積立方式のまま年金支払いに十分なだけの積立金を備えておくべきだったのだ。 また、「現役世代の手取り収入に対して厚生年金の給付水準『所得代替率』は50%以上あればよい」というのも理由が不明であり、政府の言う「モデル世帯」に国民の何%が当たるのか、さらに国民の一部に関する試算だけをやればよいのか についても疑問である。 平均寿命や健康寿命が延びたので、私は、高齢者も*3-5のように68歳と言わず、75歳であっても「支える側」に入れることにやぶさかではないが、そのためには、就業における高齢者差別がなく、気持ちよく働ける仕事のあることが大前提になるわけだ。 <高齢者いじめ> *1-1:https://www.sankei.com/west/news/190603/wst1906030013-n1.html (産経新聞 2019.6.3) 高齢者の免許返納、説得のポイントは 相次ぐ高齢ドライバーによる事故で、免許証の自主返納を呼びかける動きが広まっている。高齢の親に返納を提案する家族も増えているが、応じないケースが少なくない現状も。半ば強引に免許証を取り上げるなどの強行な手段も考えられるが、家庭内でのトラブルにもつながりかねず、高齢者自身が納得した上で返納することが重要な課題になる。どうすれば説得を受け入れてもらえるのか。「免許を返納した方がいい」。大阪府内に住む80代男性は昨年、同居する50代の息子から免許の返納を持ちかけられた。同世代の高齢ドライバーによる事故が相次いで報じられていたが、それでも返納には抵抗があった。しかし息子も譲らず、妻や孫も加勢。説得は最終的に男性が返納に応じるまで続いたという。「説得に悩む家族の話はよく聞くが、頭ごなしに返納を求めるだけでは、かえってかたくなになってしまう」。高齢社会の問題に詳しいNPO法人「老いの工学研究所」の川口雅裕理事長(55)は指摘する。警察庁が平成27年に75歳以上のドライバーと免許返納者約1500人ずつを対象とした調査では、「家族らの勧め」を返納理由とした人が33%で最も多く、「運転への自信を失った」や「必要性を感じなくなった」を上回った。一方、運転を継続しているドライバーは67・3%が「返納しようと思ったことはない」と回答。「家族の勧めで返納について考えたことがある」は4・7%にとどまっている。高齢者の車の運転に対するスタンスはさまざまで、単なる移動手段としてではなく、運転そのものを楽しみに感じていたり、苦労して手にした免許や車そのものに特別な思い入れを抱いていたりするケースもある。川口さんは「まずは免許や車が親にとってどういう存在なのかを理解することが大切」と話す。車を使う頻度や目的によって、効果的な説得方法は変わってくる。例えば、免許返納者への公共交通機関やタクシーの割引などのサービスは、移動手段として車を利用してきた人には有効だ。一方で、運転自体を趣味にしている場合はメリットとは感じず、車に思い入れがある場合、その“喪失感”を埋めることにはならない。重要なのは、返納後の生活に対して「ポジティブな提案」をすること。車の維持費に充てていた資金で旅行に行くことや、日常生活での新たな趣味や地域活動への参加を提案することが挙げられる。川口さんは「親と同居している人もいれば、疎遠になっている人もいる。返納が必要だと感じたら、まずはコミュニケーションを取ることから始めてみてほしい」と話している。 ■年間40万人超返納も後絶たぬ事故 運転免許の自主返納制度は平成10年に始まった。スタート初年は年間2596人だったが、30年には42万1190人が返納。このうち、75歳以上が半数以上を占める。返納が進む一方、高齢者による事故は後を絶たない。警察庁の調査では、29年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数は85歳以上が年間14・6件。運転免許を取得したばかりの16~19歳の11・4件を大きく上回った。また、75歳以上と75歳未満で比較すると、75歳未満が3・7件なのに対し、75歳以上は7・7件と2倍以上になり、高齢になるほど事故が多くなることが明らかになった。高齢者の免許保有者も増えており、75歳以上の免許保有者は19年に283万人だったのが、30年には564万人に。このうち、80歳以上は98万人だったのが、227万人となっている。 *1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM8N55NSM8NUJHB017.html (朝日新聞 2019年8月20日) 「車遅く頭にきた」容疑者供述 あおり運転自体も捜査へ 茨城県守谷市の常磐自動車道であおり運転を受けた後、男性会社員(24)が殴られ負傷した事件で、傷害容疑で逮捕された会社役員宮崎文夫容疑者(43)=大阪市東住吉区=が「男性の車が遅く、進行を妨害されたと感じて頭にきた」と話していることが、捜査関係者への取材でわかった。男性のドライブレコーダーには、宮崎容疑者が数キロにわたってあおり運転をする様子が映っていたという。県警は20日、宮崎容疑者と、あおり運転の際に同乗し同容疑者をかくまったとして犯人蔵匿・隠避容疑で逮捕された喜本(きもと)奈津子容疑者(51)を送検した。捜査関係者によると、宮崎容疑者は「車をぶつけられたので殴った」と傷害容疑について認める一方、「危険な運転をしたつもりはない」と供述。しかし県警は、ドライブレコーダーの映像などから危険な運転があったのは明らかとみている。そのため、傷害容疑とともに、あおり運転そのものについても、道交法違反(車間距離保持義務違反など)や、あおり運転で被害者に恐怖心を与えたとして暴行容疑などを視野に調べる方針だ。一方、より刑罰の重い自動車運転死傷処罰法の危険運転致傷の適用について、捜査幹部は「現時点で法律の要件を満たす上で困難な部分がある」との見方を示している。同幹部は「今回はあおり運転後に、手で殴りけがをさせた事案で、危険な運転行為で直接的に衝突などの事故により負傷したものでない」と話す。自室で宮崎容疑者をかくまったとして逮捕された交際相手の喜本容疑者は、高速道路上で宮崎容疑者が殴る様子を携帯電話で撮影していたことを認めている。県警は、宮崎容疑者の暴行を止めなかったなどとして、傷害幇助(ほうじょ)容疑も視野に調べを進めている。 *1-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20190630-00132169/ (Yahoo 2019/6/30) スマホ漫画で追突死亡事故 真実を明らかにしたのはドラレコだった ■楽しかった夫婦ツーリングが、一瞬の追突事故で暗転 まずは、この写真をご覧ください。高速道路の事故現場から引きあげられた250ccのオートバイが、レッカー車の荷台に横倒しの状態で積まれています。ハンドル周りは原形をとどめず、車体も大破しています。つい数時間前まで、このバイクには39歳の女性が乗っていました。夫婦で2台のバイクを連ね、ヘルメットに装着された無線機で楽しい会話を交わしながら、泊りがけのツーリング……。しかしその楽しい旅は、自宅まであと少しというところで断ち切られてしまったのです。2018年9月10日、午後9時11分、事故は関越自動車道下り線、大和PAから小出ICの間の見通しのよい片側2車線の直線道路で発生しました。夫の井口貴之さんは左車線を、妻の百合子さん(当時39)はその後ろを走っていました。制限時速80キロの区間でしたが、百合子さんは時速約70キロで走行していたところ、後ろから運送会社のワゴン車が時速100キロのスピードで追突。百合子さんは避ける間もなく、そのままワゴン車の前後輪に轢かれたのです。 ■高速道路上に横たわる妻の変わり果てた姿 無線での会話が、突然の百合子さんの悲鳴とともに途切れたことに異変を感じた貴之さんは、すぐに自分のバイクを路肩に止め、百合子さんの姿を確認しに後方へと戻りました。しかし、目に入ったのは無残な光景でした。百合子さんは40~50秒後に走行してきた後続車にも轢かれ、脳挫傷等の致命傷を負い、命を奪われたのです。現場はその後、7時間にわたって通行止めになったほどの大事故でした。事故の翌朝、ワゴン車の運転手は、「なぜこんなことになったんだ」と詰め寄った貴之さんにこう説明したそうです。「対向車に気を取られて、わき見してしまった」 。結局、運転手は逮捕されることはなく、事故処理されました。 ■ドライブレコーダーに写っていた「スマホ漫画」の動かぬ証拠 ところが、事故から1週間後、思わぬ展開を見せます。新潟県警は、ワゴン車を運転していた男性(当時50)を、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕したのです。夫の貴之さんは語ります。「逮捕後、警察からその理由を聞いて驚きました。わき見という当初の説明は全くの嘘で、加害者は、高速道路に入ってからもスマホの小さな画面で、ミステリーやホラー系の漫画を読みながら、十分に前を見ず運転を続けていたそうです。そして、前方の妻のオートバイに気づかずに追突したのです」 。実は、加害者がスマホで漫画を読み続けていたことは、本人の車のドライブレコーダーにはっきりと記録されていました。夜間だったことから、その様子はフロントガラスに反射して写っており、約4時間にわたってその映像が残されていたというのです。この映像をもとに警察が加害者から事情を聞いたところ、本人が「わき見」ではなく「ながらスマホ(漫画読み)」をしていたことを認めました。また、加害者の車には、運転手の目の動きを感知し、居眠りや脇見を3秒以上検知すると警報ブザーが鳴る装置も取り付けられていましたが、それすらも無視し、マンガを読みふけっていたといいます。時速100キロの車は、10秒間に約280メートル進みます。高速道路で10秒以上前方から視線をそらすことが、どれほど危険な行為なのか……。検察官は、「これは目隠しをして走っているのと同じだ」と述べたそうです。夫の貴之さんは、今回、私に直接連絡をくださった理由について、こう話してくださいました。「加害者の言い分だけで処理をされた交通事故のことを『Yahoo!ニュース』の柳原さんの記事で知り、妻の事故と全く同じだと思いました。もし、ドライブレコーダーに映像が写っていなければ、この事故は単純なわき見運転で処理されていた可能性が大だったでしょう。なぜこんなことで妻は殺され、私たちの人生が壊されなければならなかったのか……。私は、ながらスマホの危険性、そして加害者が嘘をつくことの悪質性を広く世間に知っていただきたいと思うのです」 ■マンガを読みながらの運転は悪質な「危険運転」 この事故は現在、新潟地裁長岡支部で刑事裁判が進行中です。夫の貴之さんは、事故後、心身に大きなダメージを受け、仕事復帰にも長い時間がかかったそうですが、被害者参加制度を利用してご自身も検察官と共に法廷に立ち、6月24日には被告に対して直接尋問を行いました。被告が運送業務に携わるプロドライバーであるにもかかわらず、スマホで漫画を読みながら高速走行をしていたこと、そして、事故直後にそのときの閲覧履歴を消去するなどして事実を隠し、「対向車線のほうをわき見していた」と嘘の供述をしていたことの悪質性に言及し、危険運転致死など重い罪を課してほしいと述べたそうです。「ながらスマホ」による事故のニュースをたびたび耳にする昨今ですが、実際に車を運転していると、信号待ちなどで明らかにスマホに夢中になっているようなドライバーをたびたび見かけます。ドライバーはこの行為の危険性を改めて認識すべきでしょう。ましてや、スマホの小さな画面でコマ割りされた漫画を読みながら、クルマを運転するなど論外です。次の裁判は、7月16日。被告人に対しての論告求刑が行われる予定です。 *1-4:https://news.livedoor.com/article/detail/16991243/ (読売新聞 2019年8月28日) 高速「手放し運転可能」、BMWが国内初実用化 独BMWの日本法人は27日、渋滞した高速道路で手放し運転ができる運転支援システムの搭載を今月から始めたと発表した。同社によると、手放し運転ができる自動車の実用化は国内で初めてという。支援システムはドライバーの疲労軽減が目的で、安全確認は運転手が行う。ドライバーが前方を注視しているかどうかを車内カメラで監視し、よそ見や居眠りの状態が続いたと判断されると警告音などで注意を促す。時速60キロを超えた場合も、ハンドルに手を添える必要がある。報道陣向けの試乗会では、高速道路で前の車に追従して走行し、暗いトンネル内でも車線をはみ出すことはなく、加速や減速もスムーズにこなした。7月生産分以降の最新型「3シリーズ」や「8シリーズ」などに標準装備している。すでに購入した人も、販売店で制御ソフトの更新を有償で行えばシステムが使える。日産自動車も高速道で手放し運転が可能な新型「スカイライン」を9月に発売する。高精度な3次元の地図データなどを駆使して実用にこぎ着けた。 *1-5:https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49134150Z20C19A8MM0000?s=1 (日経新聞 2019年8月29日) 高齢ドライバーに実技試験 警察庁、事故対策へ検討 高齢ドライバーによる交通事故対策として、警察庁は運転技能を調べる実車試験を導入する検討を始めた。高齢者を対象にブレーキやアクセルの操作を試験し、技能に課題があれば、安全機能を備えた車のみに限って運転を認める「限定免許」の対象とする。高齢者による事故の原因は操作ミスが多く、事故のリスクを軽減する狙いがある。2020年度予算の概算要求に調査費2700万円を計上する。高齢者向けの限定免許は早ければ21年度に創設される見通しで、実車試験も同時期の導入を念頭に制度設計を進める。現在は75歳以上のドライバーを対象に免許更新時に認知機能検査を義務付け、検査を経て医師に認知症と診断されれば免許取り消しか停止になる。ただ認知機能に問題がなくても運転技能が衰えているケースがあり、専門家から実車試験の導入を求める声が上がっていた。実車試験の対象者は認知機能検査を受ける高齢ドライバーを想定。アクセルとブレーキの踏み間違いや、対向車線へのはみ出しといった危険な運転の兆候がないかどうかなどを調べる。20年度の調査ではこうした危険な運転について、車の安全機能でどの程度制御できるかを実証する。限定免許の創設は、相次ぐ事故を受けて政府が6月に決めた緊急対策に盛り込まれた。ドイツやスイス、オランダといった先行して限定免許を導入している国では、医師による診断や実車試験の結果などに基づき対象者を決めている。警察庁はこうした各国の事例を基に、新たに導入する限定免許の対象者を判断する基準として、実車試験の結果を活用する方針だ。具体的な試験の項目などについては、対象となる高齢者の負担が重くなりすぎないように配慮する。75歳以上の運転免許保有者は2018年末時点で563万人で、社会の高齢化とともに20年に600万人に増えると推計される。75歳以上による死亡事故は18年に460件発生し、全体に占める割合(14.8%)は過去最高だった。東京・池袋で4月に80代のドライバーの車が暴走し母子2人が死亡するなど、重大事故も後を絶たない。19年上半期(1~6月)に発生した高齢ドライバーによる事故を警察庁が分析したところ、34%はハンドルやブレーキの操作ミスが原因だった。自動車各社は操作ミスの影響を軽減する安全装置の導入を急いでおり、新車の17年の搭載率は加速抑制機能が65.2%、自動ブレーキが77.8%だった。後付けの装置の商品化も広がっている。実車試験の導入を巡っては警察庁が17年に設置した有識者会議の分科会でも議論されたが、「どのような運転が事故のリスクが高いと言えるかという判断基準が明確でない」などの課題が示され、結論は出なかった。 <個人情報の無断使用と個人の特定> *2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190829&ng=DGKKZO49110140Y9A820C1EA1000 (日経新聞社説 2019.8.29) 個人情報を扱う自覚はあるか 個人データを扱う企業としての自覚を問われている。就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が学生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測データを売っていた問題で、政府の個人情報保護委員会が是正を求める勧告を出した。人材サービスへの信頼が損なわれれば、人的資源を効率的に配分する柔軟な労働市場づくりにもマイナスだ。同社は影響の大きさを認識し、再発防止に向けた具体策を早急に示すべきだ。リクナビに登録した学生がどの企業の情報を閲覧したかを、同社は人工知能(AI)で分析。それをもとに内定を辞退する確率を推計するサービスを始め、計38社と契約した。これまでに約8千人分の個人データを本人の同意を得ないまま提供していた。個人情報保護法違反と判断されたのは当然だ。十分に説明しないまま分析に使ったデータも約7万5千人分にのぼり、個人情報保護委は改善を指導した。見過ごせないのはリクナビが就職活動の代表的な情報プラットフォームになっている点だ。学生の間では、これを使わずに就活を進めるのは難しいとの声が多い。他のサイトに比べた優位性を利用して個人データを集めていたのだとしたら、まさに学生の信頼を裏切る行為である。面接でAIが応募者と対話して適性を探るなど、採用選考や人事管理にIT(情報技術)を活用する動きが広がり始めている。業務効率化につながるが、個人データの扱いが公正なことが前提だ。リクルートキャリアには徹底した再発防止策を講じる責任がある。学生にとっては、自分のデータがどの企業に提供されていたのかなどが不明なままだ。同社は説明を尽くさなければならない。個人データの購入企業にも説明責任がある。合否判定に使っていた例は出てきていないが、データの購入目的について、学生の納得のゆく情報開示が求められる。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190820&ng=DGKKZO48719040Z10C19A8MM8000 (日経新聞 2019年8月20日) ワタシという商品(上) リクナビのつまずき 革新の波、使う知恵試す データエコノミーの落とし穴があらわになった。人工知能(AI)が個人の心理を読む時代が現実となり、日本では学生データの利用を巡る「リクナビ問題」が起きた。個人情報を扱う責任を負いながら、便利なデータ社会を実現できるか。課題に直面している。8月上旬、経済産業省にいら立ちが広がった。「最悪のタイミングだ」。職員の一人は唇をかんだ。政府が20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で「信頼ある自由なデータ流通」を提唱。リクナビ問題が発覚したのは、経産省がこの構想を後押しするデータ活用事例集の公表準備を進めているさなかだった。 ●年80万人が利用 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)は2018年以降、学生の十分な同意を得ずに内定辞退率の予測データを38社に販売するなどしていた。年80万人が使うなくてはならない就活の「プラットフォーマー」が震源地だったことで問題は深刻になった。トヨタ自動車やNTTグループ、三菱電機などデータを購入した企業も説明に追われる。日本企業はデータ利用で米国勢などに出遅れ、その経験不足は個人情報の保護意識も鈍らせた。環境や人権に配慮した経営で知られる英蘭ユニリーバは、2年前からAIを採用に使う。「欧州本社も加わり、情報の用途や対象を何重にも確認する」。日本法人でデータ保護を統括する北島敬之さんは話す。データエコノミーの進展は、新たな技術を次々と生んでいる。個人の信用や将来性まで点数化されるようになったが、問われるのは使い手である人の知恵だ。米カリフォルニア州は20年の新規制で、AIで趣味や思想を割り出す手法を制限する。欧州もAIの決定に異議を唱える権利を定めた。慶応大学の山本龍彦教授は「日本は企業倫理も法制度もAI時代に追いついていない」と指摘する。 ●「スイカ」の教訓 マッキンゼー・アンド・カンパニーの推定では、30年までにAIは世界で1400兆円の経済活動を生む。日本も立ちすくんでいては巨大な情報鉱脈にたどり着けない。教訓は13年の「スイカ・ショック」だ。JR東日本がIC乗車券「Suica」の乗降データ活用に動いた直後だった。匿名化して社外に販売したが、説明が足りず個人情報保護に反すると批判が相次いだ。多くの企業が個人データを使う新事業の立ち上げに慎重になった。「国が白黒の判断を下さず、グレーのままにしたのが問題だった」。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は振り返る。ルールが曖昧なままでは前に進めない。リクナビも丁寧な説明が欠かせなかった。適切な手続きを踏めば、学生を特定しない企業単位の辞退数予測などの形で、人材難の各社が機動的な採用に使えた可能性がある。個人も意識を高める必要がある。「後輩には他のサイトと使い分けるよう伝える」。早稲田大学4年の女子学生は憤る一方、内定を得たのもリクナビのおかげと割り切り、最適解を探す。個人情報はデータの世紀の資源だ。使いこなせば、豊かさをもたらす。「ワタシという商品」を巡るトラブルは問題解決の好機だ。企業も政府も個人も、やるべきことは見えている。 *2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM8B2394M8BULBJ002.html?iref=pc_extlink (朝日新聞2019年8月11日)進む匿名データの第三者提供に警鐘 日本でも特定の恐れ 客の購入動向やニーズに応じた商品やサービスを薦めたり、企業の業務の効率化につながったり。ビッグデータは幅広い分野で利活用が広がっているが、前提となるデータの匿名性は保たれているのか――。今回の論文は警鐘を鳴らす。 ●ビッグデータ、匿名化でも高確率で個人特定 海外で指摘 欧米では、先月発表されたこの研究内容は関心を集めた。米紙ニューヨーク・タイムズは「あなたのデータは匿名化されている? だが科学者はあなたを特定できている」、英紙ガーディアンは「データは指紋 ネットの世界ではあなたはあなたが思っているほど匿名ではない」との見出しでそれぞれ報じた。匿名データからの個人の特定をめぐっては、過去に別の研究者が、公開情報に含まれる生年月日、性別、郵便番号から米州知事の病歴記録を特定した。また、有料動画配信サービス・ネットフリックスが提供した匿名化された閲覧履歴情報を使い、研究者が公開の映画レビューサイトの内容と照合して、個人を特定したケースなどもある。米国ではデータがオンライン公開されることが多く、属性にまつわるさまざまなデータが日本より入手しやすい事情はある。ただ、日本でも匿名化して、まとめられたビッグデータの提供が進みつつあり、対岸の火事とはいえない。個人情報保護法が改正され「匿名加工情報」の考えが導入された。2013年、JR東日本が外部に販売していたICカード「Suica(スイカ)」の乗降履歴から、個人が特定される恐れがあると批判を浴びたことがきっかけだった。匿名加工には基準があり、特定の個人の識別につながる氏名や生年月日、住所などの全部または一部を削除したり、住所を県や市までにあいまいにしたりといった要件を満たせば個人情報の扱いではなくなり、本人同意がなくても第三者に提供できる。ただ、匿名加工に関する政府の指針は、あらゆる手法によって特定できないということまでは求めず、現在の一般的な技術レベルで特定できなければよいとしている。また、匿名化の方法の細かいところは必ずしも明確ではないとされる。産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は、個人が識別されない適切な匿名加工の必要性を強調。そのうえで「論文が指摘している問題は匿名加工情報の制度設計でも議論された。一人しかいないようなデータがあれば、どうしてもリスクが高くなる」と話す。個人を特定するために、例えば交通系ICカードの乗降履歴と、別会社のポイントカードの購買履歴などを突き合わせる行為は「照合」と呼ばれ、個人情報保護法で禁じている。政府の「パーソナルデータに関する検討会」の技術担当会合で主査を務めた国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、「購買履歴や治療履歴などは人によって大きく異なるので、(特定につながる)リスクがあると知っておいてほしい」と語る。ただ、データの削除や、あいまいにする加工を進めすぎると、ビッグデータ活用の芽を摘むことになる。国の個人情報保護委員会の担当者は「個人情報保護と利活用のバランスを取り、最新の技術動向も注視していきたい」と話す。 *2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190821&ng=DGKKZO48773980Q9A820C1EA1000 (日経新聞社説 2019年8月21日) デジタル社会を創る 「医療ビッグデータ」を使いこなせ 高齢化が進むなか効率的で質のよい医療の提供は重要な課題だ。しかし、それを支える検査や治療の記録など膨大な「医療ビッグデータ」の活用が進まず、デジタル技術が生かされていない。宝の持ち腐れでは、医療産業の国際競争力も低下しかねない。 ●新薬開発に使いにくく 医療ビッグデータは問診記録や検査結果、投薬情報など多岐にわたる。個人情報として慎重な取り扱いが必要だが、新薬開発や病気予防、健康管理に役立ち医療費抑制にもつながると期待される。国は2018年、個人を特定できないよう医療情報を匿名化して使う仕組みを定めた「次世代医療基盤法」を施行した。医療ビッグデータの利用推進が目的だ。だが製薬企業などにとって使い勝手が悪いという。匿名化したデータでは病気ごとの患者数や薬の処方実績などの統計は出せても、一人ひとりの薬の効き目や症状の推移を把握できないからだ。医療情報は従来、活用よりも保護を重視する考え方が強かった。発想を変えて、十分な情報漏洩対策は施しつつも、創薬などのニーズに即した活用をもっと重視した制度設計にすべきだろう。日本には世界有数の規模を誇る診療報酬明細書(レセプト)の情報を集めた「ナショナル・データベース」がある。ことし5月の法改正で介護データと照らし合わせて解析できるようになった。一歩前進だが、制約はなお大きい。厚生労働省の有識者会議で用途に公益性があると認められた場合にしか、企業は利用できない。自社製品の開発や販売に生かせなければデータの魅力は薄れる。大学や研究機関でも、認められた人が専用の部屋でネットに接続できない端末でのみ使える。クラウドを上手に活用し利便性を高めるなど改善の余地は大きい。電子カルテの情報を使いこなすのも大きな課題だ。記載の仕方が病院や担当科ごとに異なり、国の標準化計画は進展が遅い。医療現場は診療業務に追われシステム改修の余裕がないというが、それだけではない。縦割り組織やメーカーの顧客囲い込み、研究者によるデータ独占など、あしき慣習を絶つ必要がある。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は18年から、全国23の病院の協力を得てレセプトと電子カルテの情報の統合データベースを運用し始めた。副作用の把握を目的としているが、用途や対象病院の拡大を検討してはどうか。利用価値は高いのに基盤整備が途上の分野もある。コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)による診断画像のデータベース構築だ。画像をAIに学習させ、がんや脳疾患の診断を支援するサービスが大きく伸びると予想される。信頼できるデータが豊富なほど診断精度は上がる。ところが、多くの大学や病院がもつ画像は紙焼き写真のみで、もとになるがん組織の保存状態も悪い。関係学会による画像のデジタル化を国が継続的に支援すべきだ。 ●国際ルール積極関与を 今後は遺伝子データの収集も進む。19年から全国の拠点病院で、がん患者の遺伝子を解析して最適な治療薬を探す「がんゲノム(全遺伝情報)医療」が始まった。一定の条件を満たせば公的保険の対象となり、年間数万人分の解析が実施される見通しだ。国立がん研究センターは集約したデータを製薬企業などに最大限開放し、がんの新薬開発などに生かしてほしい。米国のように、データの提供サービスに民間の参入を認めるのも検討に値する。身近なところでは、スマートフォンや腕時計型センサーによる心拍数や血圧、体温、血糖値などの測定が広がり、データが集まりだしている。病気の発症や進行を遅らせ、健康寿命を延ばす研究などに生かせる。こうした遠隔の測定や投薬管理サービスでは米欧のIT企業や製薬企業が先行する。日本人のデータが知らぬ間に海外に流出する可能性もある。データ利用に関する同意項目などに、一人ひとりが注意する習慣をつけたい。個人情報に配慮しながら国境を越えて医療データをやりとりする、データシェアリングの方式を標準化する動きも米欧を中心に活発になってきた。日本も率先してルールづくりに加わるべきだ。 *2-5:https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/news/18/04940/ (日経BP 2019/5/15) 東芝が従業員のゲノムデータを収集へ、数万人規模のデータベース構築 東芝は、「東芝Nextプラン」で新規成長事業の1つに位置付けた精密医療の取り組みの一環として、日本人に特徴的な遺伝子を効率的に解析する「ジャポニカアレイ」によるゲノムデータの収集開始を決定した。また、医療分野のスタートアップ投資に実績のあるBeyond Next Venturesと業務提携契約を締結した。東芝グループは、2018年11月8日に全社変革計画「東芝Nextプラン」を発表し、「超早期発見」「個別化治療」を特徴とした精密医療を中核とする医療事業への本格的な再参入を表明した。また、東芝のDNAであるベンチャースピリットを呼び覚まして新規事業を創出する新たな仕組みとして、100億円規模のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)機能を導入している。疾病は個人の生活パターンや遺伝的要因(体質)によって異なるため、より多くのデータを分析し、特徴別に複数のパターンに分けることで、最適な予防法・治療法の開発につなげることが可能となる。「ジャポニカアレイ」によるゲノムデータの収集開始はその第一歩で、国内グループ従業員の希望者を対象に、ゲノムデータや複数年の健康診断結果などを含む数万人規模のデータベースを構築する。これにより東芝は、「予防医療」の実現に向けた研究開発を、医療研究者をはじめとする医療・ライフサイエンスに携わる機関や企業と共同で推進する。また、精密医療事業の事業化や収益化には社外の力を積極的に活用することも重要となることから、Beyond Next Venturesとの連携を通じ、優良な医療系ベンチャー企業の探索や協業の検討を推進していく。このほか東芝は、精密医療事業を本格的に推進するため「一人ひとりのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を応援します」「積み重ねた技術力と、新たなパートナーシップでこれからの先進医療・ライフサイエンスを支えます」「次の世代も見据えた予防医療にデジタルの力を活かします」の3つを目標とする「精密医療ビジョン」を新たに作成した。東芝グループは、このビジョンのもとに予防から治療にわたる複数のテーマで要素技術などの技術開発に着手しており、研究から実用化に向けたさまざまなパートナーシップを組みながら事業の成長を目指す。 *2-6:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190821/KT190820ETI090002000.php (信濃毎日新聞 2019年8月21日) マイナンバー 強引なカード普及促進策 個人番号が記載されたマイナンバーカードの普及率を高めるため政府は年度末までに国と地方の全ての公務員に取得させる考えだ。そうまでする必要があるのか。カードの普及が自己目的化しているかの強引なやり方には疑問が拭えない。国、地方それぞれの共済組合から職場を通じて交付申請書を配布し、手続きを促す。申請書には家族分を含め、あらかじめ名前などを印字する。霞が関の中央省庁で始めている身分証との一体化も出先機関や自治体に順次広げる。実質的な取得の義務化だ。マイナンバーは、国民一人一人に割り当てられた12桁の番号である。年金や税金などの個人情報を番号で照会し、事務を効率化するとして2016年1月に導入された。預金口座にも適用し、国民の所得や資産を正確につかむことで脱税などを防ぐことも狙う。希望者には、顔写真付きのICカードが交付される。番号のほか氏名、住所、生年月日が載り、身分証明書になる。政府は、22年度にほとんどの住民がカードを持つことを想定するものの、現状は程遠い。交付は今月8日時点で1755万枚、人口比で13・8%にとどまる。申請書を受け取った公務員は提出を拒みにくいだろう。公務員だからといって、本人の希望が前提であるカード取得を強いていいのか。まして扶養家族まで対象に含めるのは普及促進の度が過ぎる。内閣府の世論調査では、カードを「取得していないし、今後も取得する予定はない」との回答が半数を超えている。理由は「必要性が感じられない」が最多で「身分証になるものは他にある」「情報漏えいが心配」と続いた。利点が乏しい一方で不安が残る制度―。国民のそんな受け止めが見て取れる。公務員への働き掛けのほかにも政府は普及策をあれこれ打ち出している。消費税増税に伴う景気対策ではカードを活用した「自治体ポイント」を計画する。21年には過去の投薬履歴を見られる「お薬手帳」の機能も持たせる。カードの利点をアピールしようと活用範囲を拡大していけば、その分、情報漏れや不正利用の心配が膨らむ。脱税防止といった本来の目的がかすんでもいく。普及を図りたいなら、強引な促進策ではなく、制度への国民の理解を広げる努力が先決だ。何のための個人番号か、なぜカード取得を促すのか。出発点に立ち返って丁寧に説明するべきである。 <個人の権利や社会保障の軽視> *3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190820&ng=DGKKZO48739010Z10C19A8EN2000 (日経新聞 2019年8月20日) 社会保障を巡る認識ギャップ 日本の社会保障は「中福祉・低負担」であり、その差を財政赤字が埋めている。これに対して専門家は負担を中レベルに引き上げるべきだと考えている。一方で、多くの国民は福祉水準の方を高レベルに引き上げてほしいと願っている。そして政治は票を意識して国民意識に寄り添おうとするから、認識ギャップは放置され、財政赤字だけが拡大していくことになる。この放置された巨大な認識ギャップこそが社会保障問題の解決を難しくしている最大の原因だ。このギャップを少しでも小さくしていくためには、まずは政治が短期的な人気取りではなく、長期的な国民福祉の安定を考えた議論を展開すべきだ。国民の側も次のような点で社会保障への理解(社会保障リテラシー)を高めていくことが必要だ。第1は、社会保障の給付と負担は一体だという認識を持つことだ。これは当然のようにみえて結構難しい。例えば消費税率を引き上げようとすると「それにより社会保障がどう改善されるのかを示すべきだ」という意見が出る。しかし、現在の低すぎる負担レベルを正そうと消費税率を引き上げるのだから、税率を上げても社会保障のレベルが高まるわけではない。第2は、適切な期待を持つことだ。例えば年金について「百歳までも安心して暮らしていける年金水準にすべきだ」というのは過度な期待である。年金制度があっても自ら老後に備えるのは当然だ。一方、若者たちの中には「自分たちが老人になる頃には年金はもらえない(文字通り受け取る年金がゼロ)」と悲観する向きも多いが、これはあまりにも期待レベルが低い。現行の年金制度は長生きリスクに備えて自己努力を補う有力な手段となっている。第3は、自分自身がどんな形で負担しているかを知ることだ。近年、消費税率の引き上げが遅々として進まなかったこともあって、社会保険料の引き上げが続いてきた。このため勤労者と企業が相対的に重い負担をすることになってしまっている。これは、勤労者が負担する社会保険料は給料から天引きされているため、本人も負担の高まりを認識していないからだ。政治の側と国民の側の双方が社会保障を巡る巨大な認識ギャップを埋める努力をしてほしいものだ。 *3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/538855/ (西日本新聞社説 2019/8/29) 年金の将来 「支え手」増やす改革急げ 5年ぶりの健康診断は厳しい結果だった。放置すれば命を縮めかねない。すぐに大手術をするわけにはいかないが、体力の増強などやるべきことに早急に取り組む必要がある-。厚生労働省が公表した公的年金の財政検証結果から読み取るべきは、こんな結論だろう。少子高齢化の進行で「支える側」の現役世代が減り、「支えられる側」の高齢者が受け取る年金給付水準の低下は避けられない。老後に対する国民の不安は募るばかりだ。厚生年金の加入対象者を拡大するなど、支え手を増やす制度改革で国民の不安解消に努めるべきだ。財政検証では、現役世代の手取り収入に対する厚生年金の給付水準「所得代替率」を試算した。政府にとっては、モデル世帯で所得代替率50%以上を維持という約束が、将来も守られるかが焦点の一つだった。経済成長の度合いによって6通りで試算し、高成長3ケースでは約30年後も約束は守られるとした。5年前の試算結果とほぼ同じで、根本匠厚労相は「経済成長と労働参加が進めば、一定の給付水準が確保されながら約100年間の負担と給付が均衡し、持続可能となる」と強調した。年金制度の「100年安心」をアピールする狙いだ。ただ、それでも現在の所得代替率61・7%からは大幅に低下する。しかも、この3ケースは経済成長と高齢者の就労が順調に進むという甘い条件設定での見積もりだ。それらが低迷するケースでは40%台に落ち込む。楽観を排して見通せば、年金制度も受給者の生活も「100年安心」とは言い難い。不安解消には、年金給付水準の低下抑制が欠かせない。厚生年金の加入対象者を中小企業のパートにまで広げたり、賃金要件を緩和したりすれば、給付水準は改善する。厚生年金の保険料は労使で折半するため企業側の反発が予想されるが、支え手の層を厚くするためにも腰を据えた議論が必要だ。現在は20歳から60歳まで40年間となっている基礎年金加入期間を45年に延ばす案や、厚生年金の加入上限年齢を75歳に引き上げる案などについても、給付水準の改善につながるという試算が出た。これらについても検討してほしい。「就職氷河期世代」の非正規労働者など、老後への備えが十分ではない人は少なくない。無年金や低年金への対策は待ったなしだ。政府は検証結果を踏まえて制度改革案をまとめ、関連法案を来年の通常国会に提出するという。与野党とも政治の責任として、より望ましい年金の将来像づくりに合意できるよう議論を尽くすべきだ。 *3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/403840 (佐賀新聞 2019年7月22日) 年金機構が個人情報紛失、未納者データのDVD 日本年金機構の東京広域事務センター(東京都江東区)が、国民年金の未納者の個人情報が入ったDVDを紛失したことが22日、機構への取材で分かった。未納者の氏名や住所、電話番号が含まれている可能性があるが、情報の流出や悪用は確認されていないという。機構によると、機構は国民年金の保険料未納者に支払いを訪問や電話で催促する業務を外部業者に委託。業者が状況を報告するための情報を記録したDVDを同センターに送付し、届いた後に行方不明になった。機構の担当者は「具体的な個人情報の内容や人数、行方不明になった時期は調査中」としている。 *3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49083190X20C19A8SHA000/?n_cid=NMAIL006(日経新聞2019/8/27)年金、支え手拡大急ぐ パート加入増で給付水準上げへ 厚生労働省が27日公表した公的年金の財政検証では、少子高齢化で先細りする公的年金の未来像が改めて示された。日本経済のマイナス成長が続き、労働参加も進まなければ2052年度には国民年金(基礎年金)の積立金が枯渇する。厚生労働省は一定の年金水準を確保できるよう、会社員らの入る厚生年金の適用を拡大し、高齢者やパートらの加入を増やす改革に乗り出す。 *3-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49054290X20C19A8SHA000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2019/8/27) 年金、現状水準には68歳就労 財政検証 制度改革が急務 厚生労働省は27日、公的年金制度の財政検証結果を公表した。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下する。60歳まで働いて65歳で年金を受給する今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示した。年金制度の改革が急務であることが改めて浮き彫りになった。 <インフラ整備は最初の都市計画が重要であること> PS(2019年8月31日、9月3日追加):*4-1のように、熊本地震からの復興と将来の都市づくりのため、「中心市街地を『歩いて暮らせる上質な生活都市』に転換する新たな街づくりが必要」として、熊本市の大西市長・市の幹部・市の職員・市議など28名の視察団がフランスに派遣されることになり、これに対して、「①市長や議員が飛行機でビジネスクラスを利用する」「②生活再建できない熊本地震の被災者が残される中で、議員が物見遊山のように海外視察に行くことは納税者の理解を得られない」との批判があるそうだ。しかし、①については、一般企業の常識から考えると、市長・議員・市の幹部などが出張時にビジネスクラスを利用するのは当たり前であり、②についても、街づくりが進む前に都市計画をしておくことが重要だ。ただ、本当に都市計画のための見聞であることは大切で、そのためには議員は少人数づつに分かれてあちこちの街を視察し、必要な質問を行い、正確な報告書を提出して、その後の議論に資するのでなければならない。その時は、共産党の議員も分担して、中国・ロシア・東ヨーロッパなどの開発の進みつつあるモデルにしたい都市を視察して報告すると役に立つと思う。 なお、*4-2のように、横浜市で第7回アフリカ開発会議(TICAD)が開かれ、「横浜宣言」に「自由で開かれたインド太平洋」「海洋安全保障」などが入れられたそうだが、それはアフリカの開発とはあまり関係ないだろう。また、尖閣諸島に関しては抗議が甘いのに、何に関しても中国の悪口を言ったり、投資額だけでなく中国独自の取り組みとの違いも際立たせたいなどと中国と競争するためにアフリカ開発援助をしているような発言をしているのは日本の意識が低いと言わざるを得ない。私は、*4-5のように、アフリカ開発銀行のアデシナ総裁が、中国の経済圏構想『一帯一路』について、「アフリカの経済成長に寄与する」「中国が『債務のワナ』の意図を持っているとは思わない」とされているとおり、現在のアフリカは、1950年代の日本と同様に、今から経済成長する地域で、そのためにインフラ整備を必要としており、人口増加しつつある平均年齢の低い国が多いため、借金は経済発展すれば返せると思う。 そして、日本が援助するのなら、アフリカの貴重な自然を破壊せずに開発を進めるため、都市計画を先にたて、民間企業を中心として上下水道・再エネによる分散電源・EV・FCV・携帯電話・パソコン使用などを前提とする「質の高いインフラ投資」をすべきだ。 さらに、*4-3のように、G7首脳会議で日米欧が素早く一致したとおり、2050年までにアフリカ大陸は人口が倍増して25億人になると予想されるため、治安の悪化を防ぐには雇用創出しなければならないが、日本はこの状態を1940~1950年代に経験済であり、これらを解決する方法は、女性も含めた教育・人材づくり・家族計画・経済成長であることがわかっている。そのため、中国と同様、一時的な格差拡大を恐れずに、できる所からやっていくことが必要だろう。 2019年9月1日、日本農業新聞が、*4-6のように、「①人口が倍増するアフリカは、今後の有望成長地域で食料輸入国が多い」「②農業振興で成長を後押ししたい」「③アフリカの食料安全保障も大問題」と記載している。私は、エネルギーは全く排気ガスを出さない再エネ由来の電動にすべきだと思うので、わざわざ食料を作れる田畑でバイオ燃料を作ることには反対で、さらにスマート農業にしすぎると人口増のアフリカで雇用吸収力が低くなるのではないかとも思うが、①であるからこそ②③は非常に重要で、JAグループ等の農業関係団体は技術協力や人材育成が可能だと思う。また、アフリカで技術協力した日本人の方にも貴重な経験になるし、アフリカの家族農業をまとめた農業協同組合との連携や6次産業化もできるだろう。 なお、JA全農が、*4-7のように、組合員の家庭や営農施設向けの電力の販売に乗り出すそうだが、各地域の電力会社から電力を調達するのでなく、ハウス・畜舎・田畑などで再エネ発電を行えば、完全なグリーン電力にでき、営農の大きなコストダウンや農家の副収入確保が可能になる。また、この方式は、アフリカなど電力インフラの遅れている地域でも活用できる。 アフリカのGDPと経済成長率 アフリカの人口ピラミッド 日本の人口ピラミッドの変化 (図の説明:左図のように、アフリカ諸国は変動はあるものの世界平均より経済成長率が高く、これから成長する国々である。中央の図のケニア・ナイジェリア・エチオピアの人口構成は、右図の日本の1940年代、南アフリカの人口構成は1955年くらいに当たり、先進国の援助でスピードが速まりつつ、インフラ・経済・医療・教育の充実は似たような道を辿ると思われる) 世界では最安値の太陽光発電 改良型風力発電機 地熱発電 *4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM8V5392M8VTLVB00B.html?iref=comtop_8_05 (朝日新聞 2019年8月30日) 熊本市、海外視察に1850万円 市長はビジネスクラス 熊本市が今秋、大西一史市長をはじめ、市幹部や市職員、市議ら28人からなる視察団をフランスに派遣することになった。6泊8日で、市負担の予算は計約1850万円。市は視察の理由を、熊本地震からの復興と将来の都市づくりには中心市街地を「歩いて暮らせる上質な生活都市」へと転換する新たなまちづくりが必要で、フランスが欧州の先進事例と説明している。今年6月、熊本市と交流都市の関係にあるエクサンプロバンス市から「日仏自治体交流会議」の準備会議への招待状が大西市長に届き、倉重徹議長にも議員との交流を求める招待状が届いた。これに合わせる形でフランスの3都市を巡る視察団の派遣を企画した。市都市政策課によると、一行は10月30日に熊本を出発。同日夕にストラスブール市に到着。31日に同市の市長を表敬後、公共交通を優先したまちづくりを視察。11月2日にオルレアン市を回り、3日に交流都市のエクサンプロバンス市に移動。翌4日に同市の市長を表敬し、5日まで市内を視察して6日に帰国する。大西市長は県産農産物品の売り込みのため視察の途中でイタリア・ミラノ市を訪問し、エクサンプロバンス市で合流する予定だ。市議会からは倉重議長のほか、自民の寺本義勝議員、小佐井賀瑞宜議員、光永邦保議員、公明の井本正広議員、市民連合の福永洋一議員が参加する予定。参加議員は各会派の代表として選ばれた。視察の準備は昨年から始め、市幹部と職員の費用は今年度当初予算で議決済み。市議会分については、9月定例会に770万円の補正予算案を提出する。経済界から参加する4人の旅費は自己負担という。市長や議員は飛行機でビジネスクラスを利用する予定。市議会事務局によると、交通費や滞在費を含む議員1人あたりの旅費約106万円は全額公費から支出する。議員は視察後の報告書提出の義務が無く、議会事務局が感想を聞き取って報告書を作成する。海外視察の事例については「近年は無く、少なくとも改選前の前期の4年間は無かった」としている。市議6人が同行する海外視察ついて、大西市長は27日の記者会見で「派遣する議員数については議会がお決めになること。熊本市の市電延伸にも色んなご意見があり、多様な方が実際に現地を見て違う角度から将来の熊本について検討する機会。視察の目的も明確でまちづくりの知見を深められる」と説明。倉重議長も取材に対し、「路面電車をいかしたまちづくりやコンパクトシティーを実現した先進国で、なるべくたくさんの議員に一緒に交通体系を体験してもらい、その意見を将来の熊本のまちづくりにいかす」と話す。一方、これまで市議会の海外視察に加わってこなかった共産の上野美恵子議員は「市民の代表として市長と議長の表敬訪問は理解できる。しかし、まだ生活を再建できない熊本地震の被災者が残されるなかで、議員が物見遊山や大名行列のようにゾロゾロと海外視察に行くことは納税者の理解を得られると思えない」と批判している。 *4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190830&ng=DGKKZO49193050Q9A830C1MM0000 (日経新聞 2019年8月31日) TICAD横浜宣言、インド太平洋構想を明記、中国念頭に 民間重視を強調 横浜市で開いた第7回アフリカ開発会議(TICAD)は30日午後、「横浜宣言」を採択して閉幕した。安倍晋三首相が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想にTICADの成果文書として初めて触れ、重要性について認識を共有した。今後のアフリカ開発では民間ビジネスを重視していく姿勢も前面に出した。インド太平洋構想はアジアとアフリカを結ぶインド洋や太平洋地域で、法の支配や航行の自由、経済連携を推し進めるものだ。首相が2016年8月にケニアで開いた前回TICADの基調演説で打ち出した。横浜宣言では同構想に「好意的に留意する」と言及した。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」を意識し、アフリカ諸国が中国に傾斜しすぎないよう促すものだ。アフリカでのインフラ開発では中国の融資に頼り、巨額の債務を負った事例が指摘される。6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)でまとめた首脳宣言や「質の高いインフラ投資原則」を共通認識として歓迎することも盛り込んだ。相手国に返済が難しいほど過剰な債務を負わせないよう、透明性と持続可能性を重視する内容だ。優先事項の一つでも海洋安全保障を挙げ、中国の海洋進出を念頭に「国際法の諸原則に基づくルールを基礎とした海洋秩序の維持」を訴えた。経済連携では「アフリカ開発における民間部門の役割を認識」と盛り込んだ。民間ビジネスを活性化してアフリカ経済の自律性を高める狙いで、政府間が主導する中国の対アフリカ支援との違いを訴えた。首相は閉会式で「民間企業のアフリカにおけるさらなる活動を後押しするため支援を惜しまない」と強調した。アジアでの開発で日本が取り組んだ経験がアフリカでも役立つことを確認し、日本がアフリカ諸国での人材育成を支援する「ABEイニシアチブ3.0」を評価した。日本への留学やインターンを促進し、今後6年間で3000人の産業人材の育成を目指す仕組みだ。女性起業家への支援も歓迎する考えを明記した。アフリカ開発を巡っては中国も00年から中国アフリカ協力フォーラムを計7回開き、18年の会合では3年間で約600億ドルの拠出を表明した。首相も28日の基調演説で今後3年間で200億ドルを上回る民間投資の実現を後押しする考えを示した。ただ投資額だけで対抗するのではなく、中国独自の取り組みとの違いも際立たせたい考えだ。横浜宣言ではTICADの基本理念として日本とアフリカだけでなく国際機関や第三国にも開かれた枠組みだと強調した。同宣言では日本が目指す国連安全保障理事会の常任理事国の拡大を念頭に「安保理を含む国連諸組織を早急に改革する決意を再確認」することも明記した。次回の第8回TICADは22年にアフリカで開く。TICADは前回初めてアフリカで開いており、3年ごとに日本とアフリカで交互に開催する方向性を明確にした。日本が1993年に立ち上げたTICADでは参加する日本やアフリカ諸国で共通する問題意識を盛り込んだ宣言を出すのが通例だ。28日に開幕した今回はアフリカ54カ国のうち過去最高の42カ国の首脳級が参加した。 *4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49225340Q9A830C1EA3000 (日経新聞 2019年8月31日) 人口増リスク、欧米が注視 対立が目立った26日までのフランスでの主要7カ国(G7)首脳会議で日米欧が素早く一致した分野がある。西アフリカのサハラ砂漠南部「サヘル地域」での雇用創出などを通じた開発支援だ。マリやチャドなどサヘル地域5カ国は世界のアフリカへの成長期待をよそに治安が悪化し、統治が機能していない。背景には人口が増えるなかで貧困や若年層の失業が膨らみ、過激派勢力が不満を募らす若者を引き込む負の構図が浮かぶ。2050年までに人口が倍増して25億人になるアフリカ大陸。欧米は「最後の市場」としての潜在性よりも、リスクへの意識を強めているように見える。西アフリカのある高成長国の閣僚も「雇用創出できなければ、人口は文字通りに爆発し、世界の問題になる」と話す。特に地理的に近い欧州は大量の難民流入やテロのリスクに直面する。アフリカの安定成長を促して人口増に伴う雇用を確保し、インフラや衛生整備を進めなければ、食料不足や疫病の流行といった危機も招きかねない。今回のアフリカ開発会議(TICAD)で安倍晋三首相が平和構築への協力を打ち出し、教育や医療支援も強調したのは欧米の懸念に呼応した動きといえる。「スクランブル(先を競った奪い合い)」と形容される最後の市場を巡る各国の競争は思わぬ結果を生む可能性もある。改革を進め、外資を呼び込んで成長する国と、負のサイクルから抜け出せない国との格差が広がる兆しがある。人口予測通りにいけば、50年には世界の4人に1人はアフリカ人となる。世界銀行総裁候補だったナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相は訴える。「アフリカを育むことは世界の未来に直結する」 *4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49216720Q9A830C1EA3000 (日経新聞 2019年8月31日) アフリカ投資拡大へ「人づくり」前面 TICAD閉幕 、膨らむ債務 対処後押し 支援先行の中国を意識 第7回アフリカ開発会議(TICAD)は30日、アフリカの経済成長の進展をめざす「横浜宣言」を採択して閉幕した。日本は会議を通じて民間主導の投資を訴え、政府としては投資拡大の環境を整える人材育成を前面に掲げた。中国の融資で過剰債務を抱える国などの実態を踏まえ、投資や支援で先行する中国に傾斜しすぎないよう促す狙いもある。安倍晋三首相は30日のTICAD閉幕後の記者会見で「日本とアフリカの懸け橋となる人材の育成に力を入れていく」と強調した。治安から公的債務、保健、産業まで投資拡大の前提となる能力向上をはかる。具体策のひとつが今後3年間でのべ30カ国に公的債務のリスク管理研修を実施することだ。ガーナやザンビアへの債務管理やマクロ経済政策を助言する専門家の派遣を決めた。ケニアの鉄道など中国の融資で重い債務を抱えた例が指摘される。財政が悪化すれば円借款などを用いたインフラ支援などが難しくなる。横浜宣言には6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)でまとめた首脳宣言や「質の高いインフラ投資原則」の歓迎を盛り込んだ。過剰な債務を負わせないよう透明性と持続可能性を重視する内容だ。首相は記者会見で「支援は対象国の債務負担が過剰にならないようにしなければならない」と述べた。宣言で「自由で開かれたインド太平洋構想」の評価に初めて触れたのは、中国の「一帯一路」構想を意識した。アフリカ側にも「投資や援助を受ける国を多様化したい」(ジブチのユスフ外相)との声がある。30日の「平和と安定」に関する会合では、河野太郎外相がアフリカ諸国の国連平和維持活動(PKO)の能力向上支援に触れた。ケニアなどのPKO訓練センターで日本の自衛官らによるPKO部隊の研修を充実させる。アフリカでは治安が悪化している地域が多く、地域格差拡大の要因にもなる。アフリカ市場が発展し民間投資が増えるためには情勢の安定が重要だ。 *4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49221200Q9A830C1FF8000 (日経新聞 2019年8月31日) アフリカ開銀総裁「一帯一路は成長寄与」 債務のワナ否定 アフリカ開発銀行(AfDB)のアデシナ総裁は30日、日本経済新聞のインタビューに対し、中国の経済圏構想「一帯一路」について「アフリカの経済成長に寄与する」と評価した。中国が過剰債務の代償としてインフラ権益を奪う「債務のワナ」について「中国がそうした意図を持っているとは思わない」と述べ、中国のインフラ投資を歓迎する姿勢を見せた。アデシナ氏はアフリカの持続的な経済成長にはインフラ整備が欠かせないと述べた。不足している資金を最大で1080億ドル(約11兆円)と予測し、海外から投資を呼び込むことが重要との考えを示した。「一帯一路」については「アフリカの発展に寄与する」と評価した。また、アフリカの一部の国で対外債務が増えていると指摘し、各国が「債務についての透明性を確保し、処理の道筋を示すことが非常に重要だ」と述べた。一方で「アフリカで債務危機に陥っている国はない」と述べ、現時点でのアフリカ諸国の債務水準は問題視しない考えを示した。足元のアフリカ経済については良好との認識を示した。「2019年の平均成長率は4.1%を確保できる」と述べた。今後のリスクに米中貿易戦争と英国の欧州連合(EU)離脱、インドとパキスタンの緊張の3つを挙げた。アデシナ氏は8月28~30日に横浜市で開いたTICADに出席するため来日した。 *4-6:https://www.agrinews.co.jp/p48606.html (日本農業新聞論説 2019年9月1日) 日・アフリカ会議 農業支援で関係強化を 日本政府が主導する第7回アフリカ開発会議(TICAD7)は、民間企業の投資強化など「横浜宣言」を採択して閉幕した。人口が倍増するアフリカは、今後の有望な経済成長地域だ。一方で食料輸入国が多い。日本の先進技術を含め、農業振興で成長を後押ししたい。「後進地域がゆえの先進性」──潜在的な成長力を秘めるアフリカ大陸の可能性はこう表現できる。「横浜宣言」で、民間投資の大幅拡充やデジタル革命へ対応を明記した理由だ。農業面でも同じ。JAグループが6月開設した戦略拠点「イノベーションラボ」。ベンチャー企業と連携し、幅広い分野でITを活用した新規事業の創出を目指す。その一つ、日本植物燃料(神奈川)は、アフリカのモザンビークで新たな挑戦を進める。現地農家にバイオ燃料作物栽培を推進。それを契機に農家に電子マネーを広げ、少額融資などを行う。鍵は普及している携帯電話の活用だ。合田真代表は、情報通信技術(ICT)を駆使し、農林中金やJA全農など総合事業を行うJAグループと連携すれば、「さらに現地の農村を発展できる」と強調する。吉川貴盛農相はTICAD期間中、「農業」部門に参加し、アフリカの食料安全保障確立に関連し、専門家派遣の拡充や、先端技術を駆使したスマート農業の振興などを強調した。TICADでは、二つの視点が欠かせない。地球規模の食料安保と中国の存在感だ。アフリカ諸国はかつて農産物の輸出大国でもあった。だが度重なる紛争や気象災害で国土は荒廃した。豊富な鉱物資源は多国籍企業の収奪に遭う。土地収奪も重なり、アフリカ農業は衰退の一途をたどる。基礎的食料さえも不足し食料輸入大国に転落した。人口増と食料輸入の同時進行は、世界の食料安全保障上も大問題となりかねない。アフリカ大陸の経済成長の潜在力は大きい。今年5月には域内の関税撤廃などを目指す自由貿易協定も発効し、巨大な統一市場への期待も膨らむ。中国やインドに匹敵する13億人の人口で、2050年には25億人と倍増し世界の4分の1を占める見通しだ。巨大な胃袋をどうやって満たすのか。いま一つの視点は中国の動き。2000年からアフリカ協力フォーラムを7回開催。昨年は、3年間で600億ドルを拠出する巨額支援を表明した。米中貿易紛争の激化は、安全保障問題も絡む。こうした中で、今回のTICADでは中国に対抗し日本の存在感を強める戦略的な意味合いも一段と強めた。一方、食料自給率の向上は喫緊の課題だ。農業分野支援は、日本の高い技術力を生かせる。既に干ばつに強い多収性の「ネリカ米」振興は高い評価を受けている。JAグループなど農業団体はアジアの途上国を中心に人材育成に力を入れてきた。今後はアフリカを含め日本の“農協力”発揮の時でもある。 *4-7:https://www.agrinews.co.jp/p48629.html (日本農業新聞 2019年9月3日) 全農 電力販売を本格化 割安提供 家計、営農後押し JA全農は、JA組合員の家庭や営農施設向けの電力の販売に本格的に乗り出す。各地域の電力会社より安価に供給し、家計の負担や営農コストの削減を後押しする。地方では電力小売りへの参入業者が少ないが、「JAでんき」の愛称で北海道と沖縄県、一部の離島を除く全国で展開。2021年度までに累計35万戸の契約を目指す。子会社の全農エネルギーが各地域の電力会社などから電力を調達し、正・准組合員やJAグループ役職員の家庭、営農施設に届ける。電力会社の送電網を使うため、電力の安定性は従来と変わらない。JAを通じて申し込むが、地域のJAが同社や全農と代理事業契約を結ぶ必要がある。家庭用電力の料金は、各地域の電力会社より割安に設定する。自前の発電所などを持たないため料金を抑えられる。全農によると、標準的な4人家族の使用量で、電気料金は5%前後安くなる。使用量が多いほど割安な料金体系で、世帯人数が多い農家は、さらに電気料金の引き下げメリットが受けられるという。ハウスや畜舎などの営農施設向けには、使用実態の調査や料金の試算を個別に行った上で、値下げが見込める場合に切り替えを提案する。営農施設には、地域の電力会社も規模や使用量に応じて割安な料金を設定している場合があるためだ。16年の電力小売り全面自由化で、家庭や小規模事業者も電力会社を選べるようになった。だが、JAの組合員が多い地方では、大都市圏に比べ参入業者が少なく、切り替えが進んでいない。全農はその受け皿となり、組合員の電力コスト削減を目指す。16年に電力事業に参入後、電力の使用規模が大きい精米や食肉などの加工工場、物流センターといったJAグループの施設向けに先行して取り組み、全国的に供給できる態勢を整えてきた。全農は現在、電力事業に取り組んでもらうJAへの説明や提案を進めている。19年度は50JA程度でモデル的に供給を開始。20年度以降、対象となる全てのJAに広げたい考えだ。19年度からの3カ年計画では、契約件数の目標を21年度までの累計で35万戸と掲げた。全農は「安価な電力の供給で家計負担の抑制や営農コストの削減に貢献したい」(総合エネルギー部)とする。従来のLPガスや灯油と組み合わせたエネルギー利用の提案や、営農用エネルギーの総合診断なども展開していく方針だ。 <“普通”信奉(≒同質主義)は、病根の一つである> PS(2019年9月2日追加):持って生まれたDNAと周囲の環境の違いのために発現する多様な個性を、*5のように、“普通”でないから脳機能障害による発達障害だとし、“グレーゾーン”まで含めて医療機関の受診を奨める報道は少なくないが、これは間違った知識を一般の人に与えるのでよくない。何故なら、医師が「経過をみましょう」と言っても、母親が「ママ友」の繋がりで発達障害と診断してくれるクリニックを捜して「むしろ安心した」と言うような状況になるからだ。人の性格や生育スピードにはばらつきがあるので、周囲の大人が「普通でない」と感じたからといって脳機能障害と考えるのは間違いであり、その子に対する人権侵害でもある。 学校や社会に適応できない理由には、くだらないことで仲間外れにしたり、いじめたりする影響があるからで、発達障害というよりは“文化”の方を変えなければならない側面が大きい。そして、社会に出てまで支援を受ける人の割合が多いのは困るため、それぞれの個性を活かした教育や能力開発が必要だ。さらに、普通に働いている大人まで「見過ごされた人」として、その症状を「①空気が読めない」「②ミスを繰り返す」などとしているが、①は、空気を読んで周囲に合わせることしかできない深刻な無思考(他人依存)症候群であり、②は、慣れないことは誰にとっても難しいため仕事ができるためには熟練しなければならないということだ。 (図の説明:最近、左及び中央の図のように、程度の差こそあれ誰にでもある多様性の範囲に入るものまで発達障害として精神障害に入れ、右図のように、相談してケアされることを奨めているが、これはむしろ教育や躾の妨げとなって子どもの機会を奪う) (図の説明:左図のように、人は成績・身体能力・所得・貯蓄高等と同様、性格にも多様性があり、普通と言うのは中央から2σ《95.4%が入る》か3σ《99.7%が入る》内の人だ。そして、3σより向こうの両端にも0.3%《1000人に3人》の人がおり、右端《0.15%、1000人に1.5人》には優秀な人がおり、左端《0.15%、1000人に1.5人》には駄目な人がいて、普通が最もよいわけではない。また、中央の図のように、ばらつきが左右対称に分布している場合は平均値・中央値・最頻値は一致するが、歪んだ分布をしている場合には平均値・中央値・最頻値は異なる。そして、日本は何でも精神障害ということにする結果、世界でも突出して精神病床の多い人権侵害国になっている。ただ、既製服や既成靴を買う場合は「普通」の範疇に入る人の方が品物が豊富でよいのだが、この「普通」も国によって大きく異なることは誰もが知っているとおりだ) *5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14160488.html (朝日新聞 2019年9月2日) (記者解説)発達障害、寄り添うため 特性は多様、早めに専門機関へ 生活文化部・土井恵里奈 ・脳の機能障害が原因とされ、手術や投薬では解決しない。障害特性は一人ひとり違う ・専門家や専門機関と早めにつながり、社会生活上の困難を小さくすることが大切 ・障害を見過ごされた大人、診断されない「グレーゾーン」の人たちの支援も課題 ■診察のため予約殺到 東京都江戸川区の児童精神科クリニック「まめの木クリニック」には、発達障害かどうか診察を求める電話が後を絶たない。「健康診断や学校で(発達の凸凹を)指摘されて来る人、自分で調べて来る人が多い」。上林靖子院長はそう話す。初診予約は年内すでにいっぱい。2年待ちの時もあった。東京都内の女性の長男(中2)は発語が遅く、あちこちにふらふら行くなど落ち着きがなかった。1歳半の健診では「経過をみましょう」と言われ、病院を受診しても「発達障害の疑いはありますが……」とあいまいだった。「ママ友」のつながりで同クリニックを知った。約10カ月待ち、長男が2歳のころ受診。発達障害と診断された。女性はこう振り返る。「むしろ安心した。それまでは情報が得られなくて先が見えなかったから」。今も定期的に長男と通院し、医師や臨床心理士らに相談する。女性は「最初は長男がなぜこんな行動をするのか共感してあげられなかった。子どもへの接し方を学び、子どもが穏やかに生活できるようになった」と話す。発達障害の特性による育てにくさに直面し、周囲に言えなかったり理解されなかったりして悩んでいる人は多い。発達障害かどうかは、成育歴を聞き取る問診や知能検査などを経て医師らが診断する。厚生労働省によると、特性を適切に把握できる児童精神科医は少ない。発達障害の原因は脳の機能障害とされる。手術や投薬で治ることはなく、当事者は特性と生涯向き合う必要がある。だから、医師や臨床心理士といった専門家と早くからつながることが大切だ。上林院長は「発達障害の特性ゆえのやりにくさをうまく乗り越えていけるようにして、社会に送り出してあげることが大切」と指摘する。発達障害は一様ではない。読み書きや計算など特定の課題の学習につまずく「学習障害」(LD)、こだわりが強く、他人の気持ちを想像したり共感したりするのが苦手な「自閉スペクトラム症」(ASD)、衝動性が強かったり、忘れ物や遅刻などの不注意が多かったり落ち着きがなかったりする「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)がある。複数の特性が重複していることもよくある。特性から光や音、接触に過敏だったり、暑さや寒さ、痛みに鈍感だったりする人もいる。 ■高校でも支援の動き 政府も後押ししている。2005年に発達障害者支援法が施行され、早期の発達支援が重要と条文にうたわれた。学校や社会に適応できずに不登校やうつ、引きこもりといった「二次障害」を防ぐためで、「障害の早期発見のため必要な措置を講じること」が国と地方公共団体の責務となった。だからこそ発達障害の疑いのある子どもがいれば、いち早く地元の市役所や町村役場を頼りたい。行政機関は求めに応じて医療機関を紹介してくれる。ただ地域格差があり、都道府県と政令指定市に設置されている「発達障害者支援センター」も支援の窓口だ。発達段階に応じた児童発達支援(未就学児対象)や放課後等デイサービス(小学生から原則高校生まで)も制度化されている。専門性を持った職員から社会的スキルなどを学ぶが、こうした情報も行政とつながることで得られやすくなる。幼稚園や保育所、小中学校には教員や支援員が増やされることがある。高校でも、通常学級に在籍しながら発達の程度に応じた特別な指導(通級指導)を受けることができる。一方、義務教育が終わると支援が行き届かない場面が増える。孤立しないよう、積極的に向き合う高校もある。和歌山県立和歌山東高校では、発達に課題がある生徒の保護者とは入学前の早い時期に面談している。読み書きを苦手にしている生徒に対しては、在籍する通常学級で黒板を書き写しやすくするため、重要なことを黄色の線で囲むなど工夫している。こうした配慮は他の生徒にも好評で、退学者が減るなど全体に好影響をもたらしている。石田晋司校長(58)は「社会に出ると多様な人と関わっていく。得手不得手を助けたり助けられたりすることを学ぶことは、どの子にとってもプラス。人を理解する力をつけることにつながる」と話す。 ■「見過ごされた」大人 困難を抱えていたのに、子どもの時に「見過ごされた」人たちがいる。大人の発達障害だ。昭和大付属烏山病院(東京都世田谷区)には大人の発達障害専門の外来があり、来院者が絶えない。臨床心理士らに付き添われ、怒りや不安の感情との向き合い方や時間を管理するスキルなどを学ぶ。仕事や生活での具体的な困り事を当事者同士が話し合うプログラムもある。「家に食材をため込む」「体調が悪い時は特に片付けが苦手」。当事者たちは日頃の悩みを互いに打ち明ける中で自己理解を深め、解決のアイデアを共有する。障害の傾向はあっても発達障害と診断されない、「グレーゾーン」に置かれる人たちもいる。困難や生きづらさはあるのに、支援の手が届きにくい。神奈川県の男性会社員(31)は子どもの時から忘れ物や遅刻、不注意が多かった。周囲から孤立し、22歳でうつに。発達障害を疑って受診したが、医師からは「ADHDの傾向はあるが断定できない」と言われた。就職活動時はリーマン・ショック。特性を職場に伝えるのはマイナスと考え、言えなかった。職場では複数の業務を同時にこなすのに苦労。転職を繰り返した。2年前、グレーゾーン当事者の支援団体「OMgray事務局」をつくった。定期的に東京に集まり、就労や生活の困り事の解決策などを情報交換する。男性は「社会に普通にいる存在として受け止めてほしい」と話す。女性の当事者会「Decojo」には、診断を受けた人もグレーゾーンの人も参加し、困り事をブログに書き込んでいる。代表の沢口千寛さん(27)は「当事者だけでなく、私たちの行動を理解できず振り回されている人や社会にも見てほしい。理解し合い、歩み寄れるようになれば」と話す。 ■「普通」に見える、でも困っている 学校で職場で手をさしのべて 23万人。発達障害の診断などを受けるために医療機関を受診した人の推計(17年度)だ。受診者といっても、学校に通ったり働いたり子育てしたりと「普通」に見える。でも壮絶に困っている。生きづらさを抱えたまま社会に紛れている。「空気が読めない」「ミスを繰り返す」。当事者の困りごとは切実だが、外からは見えにくい。「怠けている」「だらしない」と責められやすい。「グレーゾーン」だと、相談先も十分でない。病気のように重いほどつらいとは限らないことも、この障害の特徴だ。子どもは自分で苦しさを伝えづらく、いじめにつながりやすい。無理を重ね不登校になった子もいる。大人になると、周囲が助けてくれる場面は少なくなる。特性を抱えながらも、発達障害という言葉さえ知られていない時代に子どもだった人は今、30代、40代を過ぎている。就職氷河期のロストジェネレーション世代とも重なり、非正規雇用など不安定な生活を強いられている人は多い。ひきこもりに陥るなど社会からの孤立が心配だ。当事者の言葉は重い。「人生で普通の人の100倍怒られてきた」「パターンをたたき込んで普通になろうともがく。努力して努力して、でもなれなくて。自分はダメと思い、殻に閉じこもっていく」「社会に出たら迷惑をかける。出ないことが社会貢献」。当事者を縛る「普通」とは何だろう。常識? 標準? ものさしは一つ? いろんな国や言語があるように、一人ひとりの普通は違う。学校にも職場にも地域にも、「苦手ならちょっと代わりに」とさしのべる手がたくさんあるといい。発達障害の痛みを和らげるには、医療より社会にできることが大きい。特効薬がない障害の鎖をほどいてゆく力になるのは、医師や専門家だけじゃない。どこにでも普通にいる私たちだ。 <日本は、本当に法治国家か?> PS(2019年9月3日追加): 総務省が、ふるさと納税の新制度から大阪府泉佐野市を除外した件を審査した「国地方係争処理委員会」が、*6-1・*6-2のように、除外決定の再検討を石田総務相に勧告することを決めて総務省は敗訴したが、これは新制度への参加が認められなかった静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町も同じであるため、提訴すれば速やかに結論が出るだろう。何故なら、日本国憲法に「第84条:あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定められており(租税法律主義)、新たに定められた法律が施行前に遡って効力を持つこと(遡及効)はないからだ。さらに、総務省の通知は、国税庁の通達と同様に一つの考え方であって法律ではないため、総務省が「メチャクチャだ」と感じたとしても通知の順守を強要すれば憲法違反になる。そのため、大阪府知事が、*6-3のように、「総務省のおごり」「国は真摯に受け止めて見直すべき」としているのは妥当であり、メディアや行政は、もっと法律を勉強しておく必要がある(笑)。 なお、佐賀県は、(私の提案で)日本の中でも病院のネットワーク化が進んでいるので、*6-4の東多久町に建設する新病院は、①どのような先進医療を ②どういう新しい施設で市民に提供するか についてのコンセプトを決め、新病院の建設を使い道として県人会や同窓会などで「ふるさと納税」を集めればよいと思う。 2019.9.3東京新聞 2019.8.27朝日新聞 (図の説明:左図には、泉佐野市の勝因は地方税法違反と書かれているが、そもそも租税法律主義を定めた憲法違反である。また、中央の図には、泉佐野市は肉・カニ・米の三種の神器がないと書かれているが、私は農産物でなくても地域を振興する何かであればよいと思う。確かに、右図のように、大阪府泉佐野市・静岡県小山町・和歌山県高野町・佐賀県みやき町は頑張ったわけだが、これは上記の法的根拠で除外される理由にはならないわけだ) *6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/CK2019090302000146.html (東京新聞 2019年9月3日) ふるさと納税 泉佐野市除外、違法か 係争委、再検討勧告へ ふるさと納税の新制度から、大阪府泉佐野市が除外された問題を審査した第三者機関「国地方係争処理委員会」は二日、除外決定の再検討を石田真敏総務相に勧告することを決めた。過去に不適切な寄付集めをしたとして除外した総務省の対応は、新制度を定めた改正地方税法に違反する恐れがあると指摘した。同省が事実上の「敗訴」となる極めて異例の判断を下した。総務省には、勧告の文書を受け取ってから三十日以内に、再検討の結果を泉佐野市へ通知するよう求める。同省は再検討を義務付けられるが、別の理由で改めて除外するのは可能。審査を申し出た市は「主張がおおむね理解された」とコメントした。同様に新制度への参加が認められなかった静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町の三町は勧告の対象外。委員長の富越和厚元東京高裁長官は記者会見で、泉佐野市による寄付集めを「制度の存続が危ぶまれる状況を招き、是正が求められるものだった」と述べ、問題があったとの認識を示した。ただ、それを除外の根拠にすることは認められないと指摘。理由として「改正地方税法に基づく新制度の目的は過去の行為を罰することではない」と説明した。六月開始の新制度は、改正法に基づく総務相の告示で「昨年十一月以降、制度の趣旨に反する方法で、著しく多額の寄付を集めていない」ことが参加基準の一つになった。市はインターネット通販「アマゾン」のギフト券などを贈り、昨年十一月~今年三月に三百三十二億円を獲得。総務省は基準を満たしていないとして五月に除外を決めた。 *6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM9263JXM92ULFA03B.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2019年9月2日) 総務省、泉佐野市に完敗 「メチャクチャだったのに…」 ふるさと納税制度からの除外をめぐる総務省と大阪府泉佐野市の対立で、同省の第三者機関・国地方係争処理委員会が2日、石田真敏総務相に除外の内容を見直すよう求めた。係争委は、法的拘束力のない通知への違反を除外理由にしたことを「法に違反する恐れがある」と認定しており、事実上、総務省の「完敗」となった。係争委の富越和厚委員長は委員会後の会見で、6月の地方税法の改正前の泉佐野市の行為は「世間にやり過ぎと見られるかもしれないが、強制力がない通知に従わなくても違法ではない」と説明した。係争委は今回、改正法の施行後に守るべきものとして総務省がつくった基準を、法改正前の行為にあてはめて除外を判断したとして、違法の疑いがあると認定。同省に直接、除外の判断の撤回までは求めなかったが、総務省が除外の根幹として掲げていた理由は「少なくとも本件で使うべきではない」と退けた。富越委員長は、総務省が泉佐野市を除外する判断を続ける場合は、新たな法的根拠を提示する必要があるとの見解を示した。係争委の勧告に、総務省内では戸惑いの声が上がった。同省幹部の一人は朝日新聞の取材に「泉佐野市の集め方はメチャクチャだったのに。係争委の厳しい判断は受け入れがたい」と話す。一方、政権幹部の一人は「今後訴訟になった時に対応できるよう整理するということ。根本的な問題ではないのでは」との見方を示した。 *6-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM933HCLM93PTIL005.html?iref=comtop_list_nat_n05 (朝日新聞 2019年9月3日) 大阪府知事「総務省のおごり」 ふるさと納税の勧告受け ふるさと納税制度から大阪府泉佐野市を除外した総務省の判断に対し、同省の第三者機関・国地方係争処理委員会が「法に違反する恐れがある」と見直しを求めたことについて、大阪府の吉村洋文知事は3日、記者団に「妥当な判断。国は真摯(しんし)に受け止めて見直すべきだ」と述べた。吉村知事は、国が元々通知として出し、6月施行の改正地方税法に盛り込んだ「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限る」とのルールを、法改正前の泉佐野市の行為にあてはめて除外したと指摘。「法律を遡及(そきゅう)適用しないのは大原則。新しい制度から外すのは総務省のおごりだ」と批判した。 菅義偉官房長官は記者会見で「総務省において対応について検討が行われる。各自治体で使途や返礼品について知恵を絞り、健全な競争が行われ、地域の活性化につなげていくことが大事だ」と述べた。 *6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/421806 (佐賀新聞 2019年9月3日) 新病院は東多久町に 建設地を選定多久、小城検討委 多久市立病院(多久市多久町)と小城市民病院(小城市小城町)の統合計画で、多久、小城の両市は2日、新しい統合病院の建設予定地が多久市東多久町に選定されたと発表した。選定の理由は「両市民の利便性や経営の安定性に加え、医療機関が特定の地域に偏らないことなどを総合的に判断した」としている。今後は地権者との協議を進め、新病院の建設費に関する負担割合や診療科目などを両市で議論する。両市長や医師会、両病院の代表者らで構成する建設地の検討委員会が8月30日、佐賀市で3回目の会議を非公開で開き、候補地5カ所の中から適地を選んだ。両市の事務局によると、多久、小城市はそれぞれ、自らの市域への建設を会議で要望した。民間の病院が少ない多久市は「公立病院がなくなれば医療過疎地になる」とし、財政支援などで経営の安定に努力すると訴えた。建設予定地は東多久町別府の約2・6ヘクタールの範囲。現在は水田などが広がり、北東に佐賀LIXIL(リクシル)製作所の佐賀工場がある。両市長が2日、両市議会に選定の概要を説明した。今後は両市で新病院の準備室を立ち上げ、具体的な協議に入る。2020年に診療科目や病床数を定めた基本計画の策定を目指す。検討委の委員長を務める池田秀夫佐賀県医師会長は「両病院ともに老朽化が進んでおり、必要な医療を継続して両市民に提供するためにも、早期の病院建設を望む」とのコメントを出した。 PS(2019年9月5日追加):*7-1のように、「情報社会でデータを使ってなら人権侵害をしてもよい」という感覚は早急に正すべきだが、そういうことをする人の心の底には、他を貶めたり差別したりすることによって自分の優位を保とうとする誤った意識がある。そのため、私は、「表現の自由」「日本文化」の名の下にあらゆる角度から女性差別された嫌な経験から、「他人を差別した人が有利になることはない」ということを徹底しなければならないと考えている。 そして、*7-1には、被差別部落の事例が掲載されているが、*7-2の外国人のケースも、「包丁購入=殺人犯」とするのは飛躍しすぎているため重傷を負った裕子さんが話せるようになってから犯人について聞くことが不可欠なのに、警察もまた孤立無援に近い外国人を差別を利用して犯人に仕立て上げることが多いわけだ。例えば、*7-3のゴビンダさんの冤罪事件は有名だが、その他にも人権侵害にあたる事件は多い。 *7-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/422734 (佐賀新聞 2019年9月5日) 情報社会と権利侵害、感覚が鈍っていないか 個人情報やプライバシーをめぐってインターネットの負の側面を象徴するような出来事が続く。就職情報サイト「リクナビ」の運営会社は学生の閲覧履歴を基に内定辞退率を予測し、個人を特定する形で企業に販売していた。常磐自動車道でのあおり運転事件で無関係の女性が「同乗者」と名指しされ、実名と写真がさらされた。就職活動に関わる情報は学生の人生を左右しうる。それが本人も知らない間に採用側に提供される。事件のたび虚実ない交ぜの情報がネット上で飛び交い、平穏な日常を送っていたら突然、デマ情報で「犯罪者」扱いされる。企業しかり、個人しかり。個人データや情報、名誉権に対する意識の希薄さを浮き彫りにする。身近なところで気になっていることがある。今年3月、被差別部落(同和地区)の地名や戸数、人口などを掲載した『全国部落調査』の復刻版が、ネットのフリーマーケット「メルカリ」に佐賀県内から出品されていた件だ。『全国部落調査』は1936年、政府の外郭団体が融和事業を進めるため作成した報告書で、70年代、企業や調査会社が就職や結婚の際の身元調査のために購入し、社会問題となった『部落地名総鑑』の原本とされる。それが2016年、神奈川県の出版社が復刻版発行をネットで予告し、出版は差し止め処分が出たが、ネット上でダウンロードできた。出品物はデータを個人で印刷したとみられ、約200ページ、売価3500円で、行政関係者が気づいた時は既に3冊が売れていた。出自をめぐる差別は普段は見えないが、就職や結婚など人生の節目に出現する。そして人を排除し、引き裂く。購入者は一体何のために買ったのか。出品者はコトの重大性を認識しているのか。そんな資料が公然と出回っている現実は、長きにわたる部落差別撤廃の取り組みの内実を問う。同様に、差別をあおる行為は特定の国の人々やマイノリティーに対して顕著だ。国際社会での日本の経済力が低下し、格差が拡大する中、雇用や社会保障への不安と不満が募っていることが関係するのか。いら立ちが社会的弱者に向かい、それがネットという匿名性の空間に噴出している。インターネットの普及でさまざまな情報が瞬時に手に入るようになり、個人が自由に情報発信できる時代になった。ただ、利便性ゆえ、社会規範を逸脱した行為や権利侵害を誘発しやすい。一度ネット上で広がれば長期間残り、不特定多数の目に触れるという点で、影響は大きく、深刻だ。デマ情報問題では女性が投稿者の法的責任を追及する方針だが、情報の洪水の中で、こうした権利侵害行為への感覚が鈍っていないか。自戒したい。 *7-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190903-00000061-asahi-soci (朝日新聞 2019/9/3) 逮捕のベトナム人実習生、容疑を否認 包丁購入は認める 茨城県八千代町の住宅で8月24日、大里功さん(76)が殺害され、妻の裕子さん(73)が刺されて重傷を負った事件で、裕子さんに対する殺人未遂容疑で逮捕されたベトナム国籍の農業実習生グエン・ディン・ハイ容疑者(21)が「現場に行っておらず、刺してもいない」と容疑を否認していることが3日、捜査関係者への取材でわかった。茨城県警は同日、ハイ容疑者を水戸地検に送検した。捜査関係者によると、ハイ容疑者は容疑を否認する一方で、事件前日の午後5時ごろ、近くのホームセンターで包丁を購入したことは認めている。購入したのは、現場に落ちていた凶器とみられる包丁と同じ型のものだったという。県警は、同店の防犯カメラの映像などからハイ容疑者を特定したという。県警によると、ハイ容疑者は農業実習生として昨年11月から1年間の期限で在留しており、大里さん宅から約2キロの宿舎に他の実習生らと住んでいた。大里さん宅近くの畑で野菜を栽培するなどしていたという。ただ大里さんは元会社員で、実習生の受け入れなどは確認されていないという。県警は、事前に凶器を準備した計画的犯行とみるとともに、室内が物色された形跡がないことなどから、夫婦との間に何らかのトラブルがあった可能性があるとみて調べている。 *7-3:http://www.jca.apc.org/~grillo/ (ウイズダムアイズ 2019.9.5) 外国人冤罪事件から日本が見える ウイズダムアイズは真実を見通す眼です。私たちが裁判官に期待したい眼です。 ●ゴビンダさん冤罪事件 1997年3月、東京都渋谷区で一人の日本人女性が殺される事件が発生しました。 間もなく、近くに住んでいたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんが逮捕されました。一審無罪、それにも関わらず勾留が続き、新しい証拠調べもないままに2000年12月高裁での逆転有罪・・・と異様な経過をたどる事となりました。 ●ロザールさん冤罪事件 1997年11月、フィリピン人女性マナリリ・ビリヤヌエバ・ロザールさんは、恋人と同居していたアパートのベッドで恋人が刺されているのを発見しました。ロザールさんはすぐにY病院に駆け込み、助けを呼びました。救急隊員は、硬直の状況等を多少確認しただけで警察に通報しました。その直後、ロザールさんは松戸署に連行され、その後逮捕状もないまま拘束され、二度と釈放されませんでした。 ●トクナガさん冤罪事件 2000年6月27日長野県警豊科署は、3歳の長女に暴行を加え死亡させたとして傷害致死の疑いで、同県穂高町穂高に住む日系ブラジル人の工員トクナガ・ロベルト・ヒデオ・デ・フレイタス容疑者(23)を逮捕しました。トクナガさんの逮捕容疑は同年6月25日ごろ、長女のマユミちゃんが自分になつかないことに腹を立て、全身を殴るけるなどの暴行を加え死に至らしめたというもの。 公判では一貫して「暴行したのは当時の妻」と無罪を主張。一審長野地裁では無罪判決を受けました。しかしその後も「無罪勾留」が続き、東京高裁は2002年6月8日、1審無罪判決を破棄し、懲役5年を言い渡した。弁護人は閉廷後、「控訴審は、当時を知る元妻らを証人として出廷させず、事件について真摯(しんし)な検討を加えたとは言い難い」としています。 ●姫路冤罪事件(ジャスティスさん冤罪事件) 兵庫県姫路市2001年6月19日、市内の花田郵便局に、目出し帽をかぶった2人組の強盗が入り、約2200万円が奪取されました。その犯人とされたのが、ナイジェリア人のジャスティスさん。この事件については担当の池田弁護士のサイトがくわしいです。 ●ニック・ベイカーさん冤罪事件 2002年にサッカーワールドカップを見に日本にやってきたイギリス人のベイカーさんが成田空港で麻薬の不法所持で逮捕された事件。ベイカーさんはプルーニエという男にだまされて鞄を持たされたと主張しましたが、日本の警察はこのプルーニエを調べもしないで出国させました。ところがその後、このプルーニエがベルギーで、他人をだまして麻薬を運ばせようとした容疑で逮捕されました。このことを証拠として申請した弁護側の要求を蹴って、東京地裁は2003年6月にベイカー氏に懲役14年の判決をくだしました。2005年10月、控訴審でも有罪となり、上告はせずに服役した。 ●モラガさん無罪勾留事件 チリ国籍のモラガさんは2001年8月、知人と共謀し東京都内と諏訪市で窃盗を働いた容疑で逮捕された。2003年5月29日、諏訪簡裁で無罪判決。検察控訴の後、8月29日、東京高裁の決定により再勾留されました。2004年年8月17日逆転有罪。最高裁第二小法廷(滝井繁男裁判長)は2004年12月14日付けで上告を棄却する決定をし、懲役二年が確定した。11月上旬に上告趣意書を提出し、わずか一カ月余りで最高裁は十分な審理をしたとは思えない。一審の無罪判決が軽んじられている決定である。 <高齢者差別による活動制限は人権侵害である> PS(2019/9/7追加):すべてのメディアで長時間に渡って繰り返し繰り返し高齢ドライバーによる交通事故が報道された後、*8-1のように、九州の240自治体にアンケートで尋ねた結果、18自治体が「①免許更新を厳格化すべき」とし、「②65歳以上のサポカー購入に1人1台に3万円補助している」「③後付け装置の購入を支援している」とする自治体もあり、「④交付税措置を検討してほしい」とする自治体もあったそうだ。政府は「⑤75歳以上を対象にサポカーだけを運転できる限定免許を導入する方針」としているが、①は、“高齢者”だけを一律に厳格化すれば、老化に程度の差がある高齢者に対して差別になり、②も65歳以上の全員を運動機能の衰えた高齢者とすることには無理がある。そのため、私は高齢か否か、故意か過失かを問わず、自動車運転が事故に繋がらないように運転支援車の普及を義務化しつつ、既に所有されている自動車にも国の補助をつけて車検時に運転支援プログラムを導入するのがよいと考える。 なお、*8-2のように、「車の運転をやめて移動手段を失った高齢者は、要介護状態になるリスクが2.2倍になる」という研究結果が日本疫学会誌に発表されたが、これは当たり前のことで、要介護状態になれば支える側から支えられる側になるのである。当たり前である理由は、筋力と同様に頭脳も使わなければ衰えるため、頭脳がつかさどる言語能力・思考力・健康維持力なども落ちるからで、事故のリスクだけが人体への悪影響ではないことを考慮すべきだ。 *8-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/539398/ (西日本新聞 2019/8/31) 高齢事故防止 広がる助成 九州5市町導入、26自治体検討 高齢ドライバーによる交通事故が相次ぐ中、事故防止につながる「安全運転サポート車」(サポカー)や後付け安全装置への関心が高まっている。西日本新聞は九州7県の全自治体にアンケートを行い、5市町がサポカーや後付け装置購入に助成していることが分かった。26自治体は検討中とした。公共交通が乏しい地域を抱える自治体は、助成の必要性は感じているものの「財源がない」と国の財政支援を求めた。18自治体が「免許更新を厳格化するべきだ」と回答した。アンケートは九州の7県と市町村の計240自治体に送付、今月までに218自治体(回収率90・8%)が回答した。助成制度の有無や検討状況、国への要望などを聞いた。助成制度がある5市町のうち、福岡県苅田町は65歳以上がペダルの踏み間違い加速抑制装置などを備えたサポカー購入時、1人1台に限り3万円を補助する。同県うきは市、熊本県玉名市、大分県日出町は、後付け装置の購入を支援。玉名市は地元企業が開発した踏み間違い防止ペダルの取り付けに5万円まで出す。宮崎県新富町はサポカーと後付け装置の購入両方に3万~5万円を補助する。サポカーと後付け装置の両方の助成を検討するのは13自治体。ほかに13自治体が後付け装置の補助を検討している。制度のない自治体のうち、少なくとも50自治体が「交付税措置を検討してほしい」(熊本県八代市)などと回答した。政府は75歳以上を対象にサポカーだけ運転できる「限定免許」を導入する方針で、福岡県須恵町など8自治体が支持した。10自治体は高齢者を中心に免許更新の厳格化に言及した。同県柳川市は「急発進防止機能装置の義務化や更新時の技能指導が必要」、熊本県甲佐町は「実技試験の導入」を提案した。独自の取り組みをしている自治体もある。宮崎県都城市は4月から65歳以上を対象に自動車学校での実技訓練やサポカーの試乗を始めた。同県美郷町は10月、ドライバーが自ら運転する時間や場所の条件を申告する「補償運転」を始める。免許返納者らの「足」確保を手助けする自治体も多かった。長崎県西海市は4月から事前予約制の乗合ワゴンを運行。高齢者へタクシー券を配布する自治体も多い。 *8-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190905-00000137-kyodonews-soci (KYODO 2019/9/5) 高齢者運転中止、要介護リスク倍 外出減、健康に悪影響か 車の運転をやめて自由に移動する手段を失った高齢者は、運転を続けている人と比べ、要介護状態になるリスクが2.2倍になるとの研究結果を、筑波大の市川政雄教授(社会医学)らのチームが5日までに日本疫学会誌に発表した。運転をやめたが公共交通機関や自転車を使って外出している人は、リスクが1.7倍だった。高齢者の事故が問題になり、免許返納を勧めるなど運転をやめるよう促す機運が高まっている。だが市川教授は「運転をやめると閉じこもりがちになり、健康に悪いのではないか。事故の危険だけを考えるのではなくバス路線を維持・充実させるなど活動的な生活を送る支援も必要だ」と話す。
| 年金・社会保障::2019.7~ | 11:03 PM | comments (x) | trackback (x) |
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