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2016.11.28 エネルギー変換を迫るパリ協定及びエネルギー変換による日本企業の利益率上昇と日本の税収増・国富の増加について (2016年11月29、30日、12月1、2、3、6、8、14、15、21、26日に追加あり)
 書くべきことは多いが、今日は、気候変動枠組条約締約国会議(COP22)によって求められるエネルギーの変換と、それがもたらす日本企業の利益率上昇、税収増、日本の国富増加について記載する。

    
 2016.11.20  2016.11.20  2016.11.18   2016.11.19   2016.11.23
                  日経新聞
(図の説明:パリ協定の発効により、環境に良い財やサービスを供給する会社の事業機会が広がり、これは国民の福利を増すことにも貢献する。また、多くの業界に低炭素の動きが広がっており、これは同時にNOxやSOxの排出も抑制するため、空気をきれいにして住環境をよくする。そして、世界の自動車メーカーがEV・FCVなどの無公害車に舵を切ったが、日本では1995年頃から本格的なEV・FCVの開発を始めため、既に多くのノウハウを持っている。このような中、ドイツのVWが急速にEVシフトを始め、トヨタや日産もガソリン車の熱交換器や排気部品を作っていた子会社の扱いに苦慮しているが、これらの会社も熱交換や排気の技術を応用して事業機会の広がった市場にアクセスすれば、生き残りは十分に可能だ)

 
 日本ガイシの蓄電池     地熱発電所     有機薄膜型太陽電池 除染と廃炉
            2016.11.20日経新聞          2016.11.27日経新聞
(図の説明:自然・再生可能エネルギーを使う技術は進歩し、日本ガイシの大容量蓄電池、地熱発電所、有機薄膜型太陽電池《建物の壁や窓にも設置可》などができたため、原発のコストは決して安くない)

(1)気候変動枠組条約について
1)COP21、COP22
 モロッコで開かれたCOP22は、*1-1のように、パリ協定(COP21)を受けて、「地球温暖化対策はすべての国の緊急の責務だ」とする「マラケシュ行動宣言」を発表し、国際社会が一丸となって温暖化対策取り組む決意を示した。

 パリ協定は、化石燃料を排して自然エネルギーに転換することを決定し、*1-2のように、世界の都市・企業・投資家など約700の組織が実施を支援すると表明している。支援を約束した組織は、ニューヨーク・ロンドン・東京・横浜等の都市や米マイクロソフト・独保険大手アリアンツ・富士通・リコー・武田薬品・帝人等の企業で、COP21の議長ファビウス仏外相は「低炭素社会や気候変動に強靱な未来への移行の鍵となる」としているが、都市計画や技術革新などで積極的にパリ協定を支援した方がメリットの大きい都市や企業は多いだろう。

2)厳しい環境規制とエコカーの普及は生産性の向上と成長のツールである
 *1-3のように、トランプ氏は米国の環境規制に慎重だそうだが、厳格な環境規制によるEV・FCVなどのエコカー普及は、新興国も含めた地球温暖化対策のKeyになる。そして、これらのNOxやSOxを出さないエコカーにより、①車が普及しても街がすすけないため ②公害を出さず ③自然エネルギーと組み合わせれば、どの国でもエネルギーを自給でき ④すべての車をエコカーにすれば、道路を建物の中に通すことも可能になる などの利点がある。

 また、自動車製造の競争において土俵が変わるため、これまでの順位に縛られず、米国企業はじめ開発途上国の企業が自動車産業で勝利するチャンスが生まれる。そのため、カリフォルニア州の排ガスを一切出さない車の販売を義務付ける厳しい方向への規制強化は技術進歩を促してよいと私は考える。

 日欧勢よりトラック販売が多く、燃費規制への対応に苦慮してきた米系メーカーがあるそうだが、アメリカはEV・IT・自動運転・人工衛星技術が進んでいるため、トラックもまた、本気で開発すればFCV・EVによる自動運転車の開発はすぐである上、自然エネルギーを使って自ら発電しやすい農家が使用する農業機械とEVの親和性は高く、それを開発すれば自然に普及すると思われる。

3)エネルギーの変換が日本企業の利益率を上昇させ、日本の国富を増やす理由
 燃料は、産業革命後(日本では明治維新後)、石炭から石油へと変わってきたものの、どちらも日本では十分に産出されないものだったため、自然・再生可能エネルギーに変換すれば、自分でも発電できる比較的安いエネルギーが日本にも十分に存在することになる。そのため、高いエネルギーコストを外国に支払わなくてすみ、その分、エネルギー需要者の生活は楽になり、エネルギーを使う企業の利益率も上がって、それは賃金増、税収増、配当増に繋がる。

 また、自然・再生可能エネルギーへの変換を国として見れば、エネルギーが国内に存在するため、エネルギー代金を外国に支払わなくてすみ、それだけ国内消費や投資に回せる資金が多くなる。

(2)EV・FCVが起こす自動車会社再編の事例
1)独フォルクスワーゲン(VW)の場合
 独フォルクスワーゲン(VW)は、*2-1のように、2016年11月22日、2025年には電気自動車(EV)の販売台数を100万台として業界首位をめざし、米国でもEVを生産する戦略を立てた。そして、車がネットに接続した付加サービスも充実して世界8,000万人の会員を獲得し、2025年には関連売上高で10億ユーロ(約1180億円)を狙って、車販売以外の収益源も広げるそうだ。

 一方、VW乗用車のブランドは、2020年までに3万人削減を柱としたリストラ策をまとめ、効率化で次世代技術やサービス投資の原資を確保し、EVの米テスラモーターズ、ライドシェア(相乗り)の米ウーバーテクノロジーズなど新興勢力に対抗するとのことである。そして、「電動車両は4、5年でブレークスルーが起きる。販売台数だけでなく技術、ビジネスモデルでもリーダーに立つ」と宣言して、EV専用に車台や主要部品を共通化したプラットフォーム「MEB」の車両生産を、独2工場に加えて米国でも生産するそうで、経営戦略の変更から実行までの時間が短く、戦略内容にも先見の明がある。

2)日産自動車の場合
 日産自動車は、*2-2のように、2016年11月22日、系列最大の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイを米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却すると発表し、「系列解体」の大なたを振るうカルロス・ゴーン社長が中核部品メーカーまで手放すとのことで、これは、系列とともに新技術へと向かうトヨタ自動車と一線を画している。

 カルソニックカンセイ株は、KKRが、4,983億円で株式公開買い付けする。EVや自動運転が普及すれば、自動車の熱交換器や排気部品は市場縮小に繋がるため、日産自動車はカルソニックを手放す一方で、自動運転をにらんで独ボッシュや独コンチネンタルなど「メガサプライヤー」と呼ばれる欧米部品大手と連携を強め、彼らの先端技術に日産のノウハウを加えて効率的で競争力のあるクルマづくりを目指すとのことで、トヨタがトヨタ自動車系列の部品会社に自動運転などの先進分野への投資を促しているのと対照的である。

 世界では日産のゴーン社長のやり方が普通で、トヨタのやり方は日本式経営だ。トヨタの経営の方が、せっかく作った組織が壊されず、従業員の雇用が守られ、グループの結束も強くなるが、変化に迅速さを欠く。そのため、トヨタの方法は、変化に時間をかけられる場合には強いが、通用しない場合もある。

3)トヨタ自動車の場合
 しかし、本格的な馬力の出るEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)を開発したのは日本の自動車会社が世界で最初だったため、既に、蓄積している技術も多く、トヨタ自動車は、*2-3のように、中国の開発拠点を増強して、EV投入も検討するそうだ。中国ではPHV(プラグイン・ハイブリッド車)とEVを「新エネルギー車」として普及に力を入れるため、その中でのPHVは既に古いだろう。そのため、今後はトヨタもゼロエミッション車としてFCV・EVの双方に注力するというのは、戦略として妥当である。

 それでは、これまで培ってきた自動車の熱交換・排気技術が生かせないというのが、大手自動車メーカーの悩みだが、熱交換や排気の技術は自動車にしか使えないわけではなく、航空機・船舶などの大型の乗り物、ビルや家などの建物にも応用できる。

 そのため、*2-4のように、トヨタホームがミサワホームを子会社化し、技術・商品開発・調達などの協業を拡大して環境性能の高い住宅を作り出せば、国内の住宅販売の伸びが小さくても、自動車と同様、輸出や海外展開が可能だろう。さらに、*2-5のように、トヨタは、大型トラックに水素で電気を作る燃料電池を搭載して米で実証実験を行うそうだが、燃料電池には熱交換や排気の技術が欠かせない。

4)それでは、日産系のカルソニックカンセイはどうすればよいのか
 日産自動車が米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却すると発表した日産系列の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイは、やはり熱交換器や排気部品を製造していた会社であるため、*2-6の大和ハウスなどの住宅・建築や航空機・船舶・農機具メーカーなどとゼロエミッション化のための技術・商品開発、部材調達などの協業を行うのが効果的だろう。

 つまり、現在、持っている技術を最大限に生かしながら、次の技術開発を行い、それを商品化して市場に出すのが最も合理的だと、私は考える。

(3)再生可能エネルギーによる発電と蓄電技術の進歩
1)再生可能エネルギーによる発電技術
 *3-1のように、「温暖化対策は日本にとって商機だ」という考え方がやっと広まってきたのは、遅すぎたがよいことだ。日本は文系が科学音痴であるため、パリ協定の批准では後れを取って環境でリーダーになることができなかったが、技術上は地熱・ごみ焼却による発電は既に行っている。そのため、後は、政治・行政・メディアが変わるだけなのだ。

 また、*3-2のインドネシアで大規模地熱発電の建設を進めているのは、日本の東芝・伊藤忠商事・九州電力等で、日本よりインドネシアの方が開発しやすいため、インドネシアで先に建設しているのだ。

2)蓄電技術の進歩
 日本ガイシは、*3-3のように、三菱電機からコンパクトな世界最大級の電力貯蔵用NAS電池(出力5万キロワット、容量30万キロワット時)を受注し、九電の蓄電池変電所に納入して運転開始したそうだ。

 九電管内では、太陽光発電を中心として再生可能エネルギーの普及が急速に進んでいるため、NAS電池によって電力の安定供給・再生可能エネルギーの円滑な接続に向けた取り組みを進めるそうだ。NAS電池は、日本ガイシで2002年に事業化され、現在は世界で約200カ所、総出力53万キロワット、総容量370万キロワット時の納入実績があり、イタリアやアラブ首長国連邦(UAE)でも電力系統に設置されて電力需給バランスの調整に利用されているとのことである。

3)電力自由化と脱原発・再生エネの選択
 グリーンコープ生協さが(佐賀市、柳川晶子理事長)は、*3-4のように、11月14日から、太陽光発電などの再生可能エネルギーを使った電気「グリーンコープでんき」の共同購入を受け付けるそうだ。これにより、原発によらない太陽光・バイオマス・火力などの電気を100%供給するため、電力の需要者もそれを選べることになる。このように、需要者が電力を選択できることが、(私が提案した)電力自由化の狙いだったのである。

(4)放射性廃棄物と電源構成
 日本の経産省は、*4-1のように、「電力の安定供給のために、2030年の電源構成で原子力や石炭火力などの“ベースロード電源”を全体の6割以上にする」そうだ。これには、次世代送電網や上記の新技術・新ビジネスの創出は考慮されていない。これが、「日本は文系が科学音痴で駄目だ」と私が書いている理由である。

 そして、原子力の構成比を従来通り20%以上と決めた後、*4-2のように、福島廃炉・賠償費は、2013年末に11兆円としてきた約2倍の20兆円を超えると再推計し、費用の上振れ理由は、前回2013年末には想定していなかった賠償対象件数の増加や除染作業の難しさが理由だとしている。これは、経産省の想定、見積もり、予算の信頼性が皆無だということを意味する。また、東電へは無利子融資枠を現在の9兆円より広げる方向で財務省と協議した上、一部はほかの電力会社も含めて電気料金に上乗せするため、国民負担の増大が避けられないのだそうだ。

 さらに、*4-3のように、経産省の有識者会議で原発の廃炉をめぐり、その費用を誰が、どう払うのかが、今さら議論されており、一部の費用負担をすべての国民に求める案を検討しているそうだ。しかし、「原発は安全でコストが安い」などとして異論を言わせず原発を推進してきたのは、経産省と大手電力会社自身であるため、その責任を明らかにすることなく国民が負担するのは、今後のためにもよくない。

<COP22、パリ協定>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJCL3RWTJCLULBJ00B.html
(朝日新聞 2016年11月18日) 温暖化対策は「緊急の責務」 COP22宣言
 モロッコで開かれている、気候変動枠組み条約締約国会議(COP22)の参加国は17日、共同で「地球温暖化対策はすべての国の緊急の責務だ」とする「マラケシュ行動宣言」を発表した。温暖化対策のルール「パリ協定」からの離脱の意向を示すトランプ次期米大統領に対し、国際社会が一丸になって取り組む決意を示した。宣言では、パリ協定を受けて、各国政府や産業界などあらゆる分野で温暖化の取り組みがなされ、その流れは押し戻せないとし、「地球温暖化と闘うために、各国は最大限の政治的な努力をすべきだ」とした。さらに、温暖化対策のために途上国に対し、年間1千億ドルの資金を拠出することを改めて明言した。4日に発効し、日本も締結したパリ協定は、すべての国が参加し、産業革命前の気温と比べて気温上昇を2度より低く抑えることを目指している。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20161120&bu=BFBD9496EABAB5E6B39EBAA88BA48 (日経新聞 2016.11.20) 都市や企業など世界700の組織、パリ協定を支援
 12日に閉幕した第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された地球温暖化対策の2020年以降の新枠組み「パリ協定」について、世界の都市や企業、投資家など約700の組織が16日、協定の実施を支援すると表明した。気候変動に対応するための変革も加速する。支援を約束したのはニューヨークやロンドンなどの都市と米マイクロソフト、独保険大手アリアンツなど。日本からは東京都や横浜市、富士通、リコー、武田薬品工業、帝人などが加わった。COP21の議長を務めたファビウス仏外相は「低炭素社会や気候変動に強靱(きょうじん)な未来への移行の鍵となる」と話す。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161118&ng=DGKKZO09676030X11C16A1TI1000 (日経新聞 2016.11.18) トランプ氏、米環境規制に慎重 エコカー戦略を翻弄 大型車には追い風も
 オバマ大統領の遺産のひとつとされる厳格な環境規制への対応が迫られる米国市場。16日のロサンゼルス自動車ショーでは、電気自動車(EV)などエコカーの発表が相次いだ。だが、温暖化対策に慎重なトランプ次期米大統領の登場で、流れが変わる可能性もある。「我々にとって最初のEVだ」。英高級車ブランド、ジャガー・ランドローバーのラルフ・スペッツ最高経営責任者(CEO)は自動車ショーの会場で胸を張った。2018年発売予定のEV「アイペース」は1回の充電で220マイル(約354キロメートル)走る。この日は独BMW傘下のミニも充電できるハイブリッド車(PHV)を初披露。韓国現代自動車も20年までに14モデルのEV、ハイブリッド車、PHVを米国で投入する方針を表明した。マツダはディーゼル車を北米市場に初投入すると発表。19年までにEV、21年以降にPHVも投入する。ガソリン安を背景に米新車市場の約6割はピックアップトラックなど燃費の悪い大型車が占め、小型で購入費も高いエコカー人気は伸び悩む。それでも各社が開発に注力してきた背景には厳しい米国の燃費規制がある。連邦レベルでは25年までに燃費を今より5割以上改善するよう求める。カリフォルニア州では排ガスを一切出さない車の一定数の販売を義務付ける規制が18年モデルの車から強化される。だが、トランプ次期米大統領は温暖化対策に慎重で、選挙中は米環境保護局(EPA)の予算大幅削減を公言。日欧勢よりもトラック販売が多く燃費規制への対応に苦慮してきた一部米系メーカーはこれを好機ととらえる。選挙直後の9日、米自動車工業会はトランプ氏の政権移行チームに、燃費規制の緩和を求める書簡を早速送った。エコカー開発に既に巨額の投資をしてきたトヨタやホンダのような企業にとっては「先行者の強み」をそがれる恐れがある。ホンダの北米担当幹部は「規制にかかわらずエコカーの開発は進める」と言うが、政権交代の象徴としてトランプ氏が燃費規制をつぶしにかかってもおかしくはない。自動車ショーの会場内では今年もエコカーよりも数多くのピックアップトラックや多目的スポーツ車(SUV)が並ぶ。トランプ次期米大統領が政策を大きく方向転換すれば、自動車メーカーに与える影響は大きい。

<自動車会社の再編>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKASGM22H81_S6A121C1FF1000 (日経新聞 2016.11.23)EV販売、25年100万台に VWが目標、首位めざす
 独フォルクスワーゲン(VW)は22日、中核のVWブランド乗用車部門の2025年までの経営戦略を発表した。25年に電気自動車(EV)の販売台数100万台で業界首位をめざし米国でもEVを生産する。車がネットに接続した付加サービスも充実し世界8000万人の会員を獲得、25年に関連売上高で10億ユーロ(約1180億円)を狙う。車販売以外の収益源を広げる。VW乗用車ブランドは18日に20年までの3万人削減を柱としたリストラ策をまとめたばかり。効率化で次世代技術・サービスの投資の原資を確保し、EVの米テスラモーターズ、ライドシェア(相乗り)の米ウーバーテクノロジーズなど新興勢力に対抗する。VWブランドはグループの販売台数の約6割を占め改革の成否を握る。同部門を率いるヘルベルト・ディース取締役は22日の記者会見でEV首位を狙う戦略に関し「電動車両は4、5年でブレークスルーが起きる。販売台数だけでなく技術、ビジネスモデルでもリーダーに立つ」と宣言した。EV専用に車台や主要部品を共通化したプラットフォーム「MEB」の車両生産は18日に決めた独2工場に加え21年から米国でも生産することを決めた。すぐに利益に結びつく従来の製品群も拡充。販売台数に占める多目的スポーツ車(SUV)の比率を2倍に増やし、VWが強い欧州、中国以外でも上積みを狙う。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKASDZ22HRG_S6A121C1TI1000 (日経新聞 2016.11.23) 日産、トヨタと別の道 カルソニック売却発表 系列解体、次世代車シフト
 日産自動車は22日、系列最大の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイを米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却すると正式発表した。仏ルノーから1999年に日産に乗り込んで以来、「系列解体」の大なたを振るうカルロス・ゴーン社長が中核部品メーカーまで手放す。自動運転や電気自動車(EV)の技術開発に向けた決断は、系列とともに新技術へと向かうトヨタ自動車と一線を画している。
●総額5000億円
 KKR傘下の会社を通じて2017年2月下旬からカルソニックカンセイ株に対しTOB(株式公開買い付け)を始める。日産が持つ41%を含めた全株の取得を目指す。買い付け価格は1株当たり1860円で全株式を取得する場合の買収総額は4983億円。KKRによる日本での投資額としては14年に傘下に収めたパナソニックヘルスケア(約1650億円)を抜き過去最大になる。カルソニックカンセイは日産の系列でも中核の中の中核企業といっていい。大量の部品を納めるだけではない。モータースポーツにも「CALSONIC」を冠した車両が参戦する。グループの黒子であると同時に主役であり、技術力と存在感の双方を兼ね備える。ただEVや自動運転が普及すれば魅力が徐々に薄れるのも事実だ。EVの普及は得意とする熱交換器や排気部品の市場縮小につながる。日産は何社もの同業にカルソニック株の売却を持ち掛けたが断られ、売り先はなかなか決まらなかった。「サプライヤーの潜在能力を生かす巧拙が競争力を左右する」。日産の西川広人共同最高経営責任者(CEO)は話す。カルソニックを手放す一方、自動運転をにらんで独ボッシュや独コンチネンタルなど「メガサプライヤー」と呼ばれる欧米部品大手との連携を強める方針。彼らの先端技術に日産のノウハウを加え、効率的で競争力のあるクルマづくりを目指す。日産向け売上高比率が8割超のカルソニックと対照的なのがトヨタ自動車系部品会社だ。デンソーはトヨタグループ以外への比率が半分を超える。トヨタは他流試合も奨励して系列メーカーの収益力を高め、自動運転など先進分野への投資を促そうとしている。かつてのトヨタはグループ内で利害対立が表面化することもあったが、近年は連携を強めようとする動きが目立つ。愛知県蒲郡市にグループの研修施設を置き、各社の新任役員が互いの歴史を学ぶ機会を設ける。12月に新設するEVの企画開発組織にはデンソーなど主要3社の社員も加わる。
●世界の潮流
 系列を崩し、幅広いサプライヤーの技術を活用する日産の選択は世界の自動車メーカーの潮流だ。サプライヤーが供給するモジュールの組み立てに注力すればコストは下がる。ただ部材が共通になることで似たようなクルマを生みだしてしまわないかという懸念は常にある。欧米流のクルマづくりか、グループ連携の強化か。両社の選択の成否は勝ち残りに向けた競争力に直結しそうだ。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161119&ng=DGKKASDZ18HNP_Y6A111C1TJC000 (日経新聞 2016.11.19) トヨタ、中国の開発拠点を増強 EV投入を検討
 トヨタ自動車は18日、中国江蘇省常熟市の研究開発拠点を拡張すると発表した。既存の実験棟を増強し、新たな実験棟や電池の評価試験に使う施設を建設する。中国では2018年の発売を予定しているプラグインハイブリッド車(PHV)に加え、電気自動車(EV)の投入も検討すると表明。環境車の品ぞろえを増やし、環境規制の強化に対応する。同日に報道陣への公開が始まった広州モーターショーの会場で、中国本部長の大西弘致専務役員が説明した。研究開発拠点は全額出資子会社のトヨタ自動車研究開発センター(中国)が増強し、18年末以降に完成する予定だ。同拠点では6億8900万ドル(約760億円)の投資を予定しており、今回の増強もこの範囲に含むという。中国ではPHVとEVを「新エネルギー車」と定め、多額の補助金を支給するなど普及に力を入れている。トヨタは18年に主力小型車「カローラ」などのPHVを発売するほか、15年には広州汽車集団との合弁会社を通じ、中国独自ブランドのEVを発売する方針を示していた。今後はトヨタブランドでもEVの投入を検討する。トヨタは12月、本社にEVの企画・開発組織「EV事業企画室」を設け、この分野の取り組みを強化する。ゼロエミッション車では燃料電池車(FCV)とEVの双方に注力する方針だ。

*2-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKASDZ22HR0_S6A121C1TJC000 (日経新聞 2016.11.23) トヨタホーム、ミサワホームを子会社化 110億円で、国内市場縮小に備え
 トヨタホームは22日、ミサワホームを子会社化すると発表した。TOB(株式公開買い付け)と第三者割当増資を組み合わせて約110億円を投じ、持ち株比率を51%に引き上げる。ミサワの上場は維持する。子会社化を契機に、部材の調達や商品の共同開発などの協業を拡大し、国内住宅市場の縮小に備える。トヨタホームはミサワ株の27.8%を保有する。ミサワの発行済み株式の14.1%に相当する約546万株を上限にTOBを実施する。51%を保有するために必要な残りの株式は、新株発行と自社株処分を組み合わせてミサワから割り当てを受ける。TOBによる取得株数が上限に達しなかった場合でも、増資の金額を増やすことにより、51%の持ち株比率を実現する考えだ。TOBによる買い付け価格は1株あたり1100円で、21日までの1カ月間の平均株価に34%上乗せした価格とする。TOBの期間は28日~12月26日。第三者割当増資の1株あたりの価格は874円とする計画だ。ミサワを子会社化する背景には、国内の住宅市場の縮小懸念がある。国土交通省によると、2015年の新設住宅着工戸数は約91万戸だった。08年の約109万戸を最後に、年間100万戸を割り込む水準が続く。トヨタホームも19年度までに戸建て住宅の販売を14年度比で約5割増の7千戸に増やす計画だが、この目標値は実質的に取り下げている。ミサワも中期経営計画では16年度の売上高目標を5千億円としていたが、今期見通しは4050億円。ミサワはトヨタ自動車を親会社に持つトヨタホームの信用力と資金力を後ろ盾に事業の拡大に弾みをつける考えだ。トヨタホームとミサワホームは住宅販売の大幅な伸びが見込めないなか、合理化などで協力関係を一段と深め生き残りをめざす。技術や商品開発、部材調達などの共通化部分を増やす。ミサワは増資などで得た資金を不動産開発に投じる計画だ。両社とも戸建て住宅が中心の収益構造のため事業の多角化ノウハウを共有する。ミサワは経営状態が悪化し、04年に産業再生機構の支援が決まった。その後、トヨタなどがスポンサーとなり役員などを派遣。トヨタがトヨタホームに住宅事業を集約するなどして、現在はトヨタホームがミサワの筆頭株主となっている。

*2-5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161119&ng=DGKKZO09731110Y6A111C1TJC000 (日経新聞 2016.11.19)トヨタ、大型トラックに燃料電池を搭載 米で実証実験
 トヨタ自動車は17日、水素で電気を起こす燃料電池の技術を使った大型トラックについて、米カリフォルニア州で実証実験を始めると発表した。同社はすでにセダン型の燃料電池車(FCV)を発売している。大型トラックにも燃料電池を搭載できれば、荷物の輸送時などに出る温暖化ガスを大幅に削減できるとみている。

*2-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKZO09849690S6A121C1DTA000 (日経新聞 2016.11.23) 大和ハウス、6年債と10年債の発行見送り コスト上昇で
 金利上昇が企業の資金調達に影響を与えている。大和ハウス工業は22日、20年債の発行条件を決めた一方、6年債と10年債の起債を見送った。米大統領選後の長期金利上昇の影響で、資金調達コストが当初の想定よりかさむと判断したためだ。市場では、金利の不安定な推移が続けば今後の起債ペースが鈍るとの見方も出ている。20年債の発行額は100億円で、利率は0.690%に決まった。当初は「6年債と10年債で300億円程度を調達する」と投資家に通知していたが「投資家が期待する利回りが上昇した」(大和ハウスの担当者)ため、20年債のみに切り替えた。今後の代替調達方法は未定という。米大統領選後、マイナス圏で推移していた日本の長期金利はプラスに浮上した。社債金利も歩調を合わせて上昇。流通市場で大和ハウスと同格付けのダブルA格社債の利回りは0.3%台前半と、10月末(0.2%台半ば)から上昇している。投資家からは「社債の相対的な魅力が低下した」(国内運用会社)との指摘が多くなっている。企業の10月の起債額は8250億円と、過去最高だった9月の発行額に比べ約6割減った。11月の起債額も22日時点で3200億円と、引き続き低調だ。みずほ証券の香月康伸シニアプライマリーアナリストは「償還までの期間が短い社債の発行に、企業は慎重になっている」と指摘する。

<再生可能エネルギー技術>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161120&ng=DGKKZO09751410Z11C16A1TJC000 (日経新聞 2016.11.20) 温暖化対策、日本に商機、COP22閉幕、パリ協定ルール18年決定 地熱・ごみ発電強み トヨタ、自社工場に大型風力
 モロッコで開かれていた第22回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP22)が19日閉幕した。2020年以降の地球温暖化対策「パリ協定」を受け、世界のグローバル企業は「温暖化ガス削減は商機」とみて動く。協定批准で日本は後れを取り、企業には負担増を警戒する見方もあるが、地熱発電やごみ焼却発電など得意の環境技術を生かしたビジネスが育つきっかけにもなる。モロッコのマラケシュで開かれたCOP22は、パリ協定の詳細ルールを2018年に作ることで一致して閉幕した。4日に発効したパリ協定は地球の気温上昇を抑えるため、今世紀後半には温暖化ガス排出を実質ゼロにすることを目指す。各国は独自の削減目標を掲げるが、グローバル企業は国の枠にとらわれずに対策に取り組む。米アップルや米ゼネラル・モーターズ(GM)、英蘭ユニリーバ。事業活動で使う電力を全量、太陽光発電など再生可能エネルギーで賄うことを目標とする世界企業の集まり「RE100」には欧米中心に80社以上が名を連ねる。日本企業では電通の英子会社だけだ。世界企業が脱炭素を急ぐのは投資家からの要請でもある。世界最大級の政府系ファンドのノルウェー政府年金基金は今春、石炭関連企業から出資を引き揚げた。持続成長につながるとして環境に配慮した企業に優先的に投資する動きが世界の大手年金基金を中心に広がっている。温暖化対策は日本では企業の社会的責任(CSR)と捉えがちだが、「世界企業は収益に直結するとみている」(後藤敏彦サステナビリティ日本フォーラム代表理事)。出遅れが指摘される日本企業でも変化は起きている。トヨタ自動車は高級車「レクサス」などを生産する田原工場(愛知県田原市)内に、20年をめどに出力が最大2万6000キロワットの風力発電設備を設置する予定だ。電力は工場で全量消費する。自社向けの風力発電設備としては国内最大となる。トヨタは50年に工場の二酸化炭素(CO2)排出をゼロにする長期目標を掲げる。風力発電はその一環だ。先進国に限定した京都議定書と異なり、パリ協定は全世界が対象だ。日本で培った環境技術を新興国や途上国に輸出できる商機到来ともいえる。原子力発電所200基分――。地中深くにある蒸気を使って電力をつくる地熱発電は、50年に世界で総出力2億キロワットと、40年間で20倍に膨らむとの予測がある。市場の中心は東南アジアやアフリカだ。中核部品である地熱発電用タービンは東芝など日本の3社で世界シェア7割を握る。インドネシアで16年度末に稼働する世界最大施設のタービンも東芝製だ。地中の蒸気に不純物を含むため「機器の耐久性などは一朝一夕にまねできない」(東芝幹部)と、世界で営業攻勢をかける。ごみ焼却発電設備やエネルギー消費ゼロの住宅やビルなどでも日本企業は独自技術を持つ。「低炭素」から「脱炭素」へ世界が向かう中、大きな商機が生まれる。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20161120&bu=BFBD9496EABAB5E6B39EBAA88BA48 (日経新聞社説 2016.11.20) 地熱発電 エネ革命名乗り、温暖化抑制へ深掘りの技
 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を出さずに安定的に電力を供給できる地熱発電に、熱い視線が注がれている。インドネシアでは日本企業が大規模な設備の建設を進める。国内では開発が足踏みしていたが、原発事故や温暖化問題を受けた規制緩和で風向きが変わりつつある。地下深くに眠る熱を吸い上げる次世代の地熱発電が実現すれば、原子炉50基分の発電が可能になるかもしれない。インドネシア・スマトラ島にある同国第4の都市、メダンから車で8時間走ると、突然、森を切り開いた広大な大地が現れた。褐色の地面から白い蒸気が空高く噴き上がる。世界最大規模の地熱発電所「サルーラ発電所」だ。地下2000メートルまで約30本の井戸を掘り、高熱の蒸気や熱水を取り出す。今年11月から3基の発電施設が順次稼働する予定で、工事は急ピッチで進む。総出力は計33万キロワットと、日本最大の九州電力八丁原発電所(大分県)の3倍。事業費16億ドル(約1800億円)の巨大プロジェクトだ。伊藤忠商事などが出資するサルーラ・オペレーションズの油屋真一最高経営責任者(CEO)は「サルーラの資源量(潜在的な発電量)は非常に豊富で、力強い」と手応えを感じている。世界の火山帯の地下には、高温のマグマがたまっている。雨水が岩盤の割れ目を通って地下1500~3000メートルに達すると、マグマだまりによって熱せられた岩石に触れ150度以上の蒸気や熱水となる。これが地中の亀裂などの「貯留層」にたまる。井戸を掘って蒸気や熱水を取り出し、タービンを回転させて発電するのが地熱発電だ。日本は米国、インドネシアに次ぐ世界第3位、2347万キロワット、原発20基分に相当する資源量を持つ。有力企業も多く、地熱発電タービンでは世界シェアの7割を握る。だが現在の合計出力は52万キロワット。国内の全電源の0.3%にとどまる。資源の8割が国立公園や国定公園にあり、周辺の温泉が枯れるとの懸念もあり大規模開発は進んでいない。日本の地熱発電量は1997年から減少に転じ、現在はピーク時の約7割だ。だが福島原発事故の後、原発に代わる安定電源への関心が高まった。さらに昨年末、196カ国・地域が参加して開いた第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で、今世紀後半に温暖化ガスの人為的な排出量を実質ゼロにするとの目標を掲げた「パリ協定」が採択された。政府は30年までに、CO2を出さない再生可能エネルギーの電源比率を22~24%に高める方針だ。地熱は太陽光や風力と違って季節や天候、昼夜を問わず安定的に電力を供給できる強みがある。昨年、国立・国定公園の開発規制を緩和し、建設禁止区域の地下に、区域外から斜めに井戸を掘ることを認めた。地熱発電の資源量を倍増するとみられる次世代技術の開発も進む。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が研究する「高温岩体発電」は、深度2000~5000メートルの岩盤を砕き人工的に貯留層を作る。ここに注水して熱水を作り、発電に使う。深く掘るほどマグマに近く高温になるため、地表近くにマグマだまりがある火山帯でなくても地熱発電が可能だ。NEDOの米倉秀徳研究員は「深度3000メートル前後のところだけでも、日本には2900万キロワット以上の資源量がある」と話す。従来型と合計すると5300万キロワット以上となり、原発50基分に相当する。1980年代からNEDOや電力中央研究所が井戸を掘削して実験してきたが、石油や原発に比べてコストが高いと判断された。だが電中研の海江田秀志研究参事は「従来型の地熱発電をしている場所で高温岩体発電を実施すれば、規模が拡大しリスクも低減する」と強調する。さらに深い領域から熱を取る「超臨界地熱発電」の構想も浮上している。日本列島の下では海洋プレートが大陸プレートの下へと沈み込んでおり、プレートとともに地下に引き込まれた大量の海水が高温・高圧状態になっている。これを発電に利用する。アイスランドでは、地下2000メートルのマグマ付近の高温・高圧の蒸気を取り出す実験に成功。地熱発電の拡大で電力を再生可能エネルギーでまかなう体制をいち早く作り上げ、化石燃料から脱却した。地熱発電は投資額が大きく、環境影響評価も必要で開発に時間がかかる。政府は30年までに、電源比率を現在の3倍に引き上げる考えだが、それでも1%にすぎない。地熱発電は、日本のエネルギーの将来を占う手掛かりになりそうだ。

*3-3:http://www.ngk.co.jp/news/2016/20160303_01.html (日本ガイシ株式会社 2016年3月3日) 世界最大級のNAS電池が運転開始、コンテナ型でコンパクト、短期間設置を実現
<日本ガイシ株式会社(社長:大島卓、本社:名古屋市)が三菱電機株式会社(本社:東京都千代田区)から受注し、九州電力株式会社(本社:福岡市)豊前蓄電池変電所(福岡県豊前市、豊前発電所構内)に納入した、世界最大級の蓄電池設備となる電力貯蔵用NAS電池が本日、運転を開始しました>
 豊前蓄電池変電所に納入したNAS電池の出力は5万キロワット、容量は30万キロワット時(一般家庭約3万戸分の一日の電力使用量に相当)で、当社が新たに開発したコンテナ型NAS電池(20フィートコンテナ内に出力200キロワットのNAS電池と制御装置類を組み込んだ可搬型の蓄電池)252台で構成されています。2015年6月に受注し生産を開始、8月中旬から据え付けを行い、2016年1月上旬に全てのNAS電池の設置を完了しました。従来のパッケージ型に比べて設置期間を約3分の1に短縮できる特長を生かし、世界最大級の蓄電池設備の設置を約半年間で実現しました。また、NAS電池は他の定置用蓄電池に比べてエネルギー密度が高く、コンパクトでスペース効率に優れています。豊前蓄電池変電所では、約14,000平方メートルの敷地面積に30万キロワット時のNAS電池が設置されており、単位面積当たりの蓄電容量は他の電力系統用大規模蓄電池を大幅に上回っています。九州電力管内では、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの普及が急速に進んでおり、同社は電力の安定供給のために、再生可能エネルギーの円滑な接続に向けた取り組みを進めています。NAS電池はその一つとして取り組む大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業※に使用されます。この実証事業ではNAS電池を電力系統に接続し、揚水発電と同等の電力貯蔵機能を活用した電力需給バランスの改善と、系統電圧制御への適用についての実証が行われます。
※一般社団法人新エネルギー導入促進協議会「再生可能エネルギー接続保留緊急対応補助金(大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業)」
NAS電池は2002年の事業化以来、全世界で約200カ所、総出力53万キロワット、総容量370万キロワット時の納入実績があり、イタリアやアラブ首長国連邦(UAE)でも電力系統に設置され、電力需給バランスの調整に利用されています。当社は今後も世界的に高まる大容量蓄電池のニーズに応え、再生可能エネルギーの導入拡大に寄与していきます。
<運転を開始したNAS電池の概要>
設置場所: 九州電力豊前蓄電池変電所 (福岡県豊前市、豊前発電所構内)
出力: 5万キロワット、容量: 30万キロワット時、設置台数: コンテナ型252台、敷地面積: 約14,000平方メートル、運転開始: 2016年3月3日

*3-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/375962 (佐賀新聞 2016年11月12日) グリーンコープ生協さが、県内で再生エネ供給、14日から受け付け
■「脱原発」を推進
 グリーンコープ生協さが(佐賀市、柳川晶子理事長)は14日から、太陽光発電などの再生可能エネルギーを使った電気「グリーンコープでんき」の共同購入を受け付ける。グリーンコープ連合が、年内にも九州全域で組合員の一般家庭や事業所に供給を始める。2018年には原発によらない電気を100%供給し、「脱原発」を推進していくとしている。太陽光やバイオマス、火力など自社発電施設を持つ丸紅グループや卸電力市場などから電気を調達する。電気は九州電力の送電網で届く。厳密に原発以外の電気を区別できないが、グリーンコープ生協さがの藤瀬広樹専務理事は「原発の電気を使いたくないという人が購入先を選べることで、原発不支持の意思表示になる」と話す。7月から福岡県内約900世帯で供給を始めている。18年からはグリーンコープ連合の14生協でつくる新電力「グリーン・市民電力」(福岡市)の太陽光発電所など再生可能エネルギーによる自社電気の供給も始め、九電からの調達をゼロにする。料金は家庭の標準的な電気使用量(330キロワット)で月額約7800円。市民電力の発電施設は組合員の出資金で建設した。出資金は現在、1万2千人から約10億6千万円が集まっている。太陽光のほか、九州の地域団体と共同で進める小水力発電を含め10施設がある。年間発電量は一般家庭1550世帯分の8200キロワット。不足が生じた場合は丸紅グループから調達して安定供給を図りながら、自前の発電設備を増やして対応する。

<放射性廃棄物と電源構成>
*4-1:http://www.nikkei.com/article/DGXKZO85364450X00C15A4EA1000/ (日経新聞 2015/4/7) 電源構成は将来を見据えて議論せよ
 経済産業省は2030年の電源構成に関し、原子力や石炭火力など「ベースロード電源」を全体の6割以上にする考えを示した。電力の安定供給に必要というのが、理由だ。しかし、これでは各電源の使い分けや構成比が東日本大震災前と大差ないものになりかねない。東京電力福島第1原子力発電所事故の教訓を踏まえつつ、動き出した電力市場の自由化にも対応した、もっと柔軟な電源の使い方を考えるべきだ。次世代送電網(スマートグリッド)といった新技術や新ビジネスの創出を促し、日本の成長に長期的に資するエネルギー政策を、政府は示してもらいたい。ベースロード電源について経産省は、発電コストが安く昼夜を問わず安定して電気を生む電源、と定義している。具体的には原子力と石炭火力、水力、地熱の4つをあげる。天然ガス火力や太陽光、風力発電などはベースロードでないとされる。10年前ならこうした考え方に説得力があったかもしれない。だが状況は変わった。原発には、故障や災害で止まると容易に復旧しない不安定さがある。地球温暖化を抑えるため、石炭の利用には世界的に制約が強まっている。国内では、効率の高い天然ガス火力をベースロード電源としてすでに日常的に使っているのが現実だ。ドイツなど欧米では太陽光や風力発電などを積極的に電源に組み入れており、その傾向が将来さらに強まるのは間違いない。世界規模で電力システムの革新が進む。電源構成をめぐる議論は将来の日本の姿を決めるのが目的だ。従来通りでよしとする発想では技術革新を妨げ、世界の潮流から遅れてしまわないだろうか。経産省が「ベースロード電源6割」という考え方を持ち出したのは、原子力の比率を正面から論じたくないからではないか。机上の計算だが、同省の考えに沿うと結果的に原子力の構成比は20%以上に高まる可能性が大きい。原子力はこれからも一定程度必要だ。そのことを真正面から論じ、将来の電源構成に明確に位置づける必要がある。「ベースロード電源」というくくり方で本質的な問題を避けていると、議論が実態から離れ副作用も生む。原子力を含むエネルギー政策全般への国民の不信感も消えないだろう。

*4-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161127&ng=DGKKASFS26H2I_W6A121C1MM8000 (日経新聞 2016.11.27) 福島廃炉・賠償費、20兆円に 想定の2倍、経産省推計 国民負担が増大、東電へ融資拡大
 経済産業省が東京電力福島第1原子力発電所で起きた事故の賠償や廃炉費用の合計が20兆円を超えると推計していることがわかった。11兆円としてきたこれまでの想定の約2倍に膨らむ。東電の財務を支えるため、無利子融資枠を9兆円から広げる方向で財務省などと協議する。原発の事故処理費用(総合・経済面きょうのことば)の一部はほかの電力会社も含めて電気料金に上乗せするため、国民負担の増大が避けられない。複数の関係者によると、経産省は新たな推計を東京電力の経営改革や資金確保策を話し合う同省の有識者会議の委員らに伝えた。福島第1原発事故では、賠償や除染、汚染土を保管する中間貯蔵施設の整備、廃炉に費用がかかる。これまでの見積もりは賠償が5.4兆円、除染は2.5兆円、中間貯蔵施設は1.1兆円。廃炉は不明確だったが、東電が確保のめどをつけたのは2兆円だった。新たな見積もりは賠償が8兆円、除染が4兆~5兆円。作業が最低30~40年続く廃炉はこれまで年800億円だった費用が年数千億円に膨らむとみており、総額も数兆円単位で上振れする。中間貯蔵施設の費用も合わせて20兆円を超える。費用の大幅な上振れは、前回見積もった2013年末には想定しなかった賠償対象件数の増加や、除染作業の難しさが主な理由だ。廃炉は溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しが始まる20年代前半を控え、原発内部の状況が徐々に明らかになるにつれて2兆円では到底収まらないことが確実になった。廃炉費以外は原子力損害賠償・廃炉等支援機構が政府から交付国債を受け、必要なときに現金化して東電に無利子で貸し付けている。当初5兆円だった国債の発行枠を13年度に9兆円に広げており、再び拡大する。廃炉費は東電が利益を積み立てて負担する。原賠機構と東電は費用の膨張も踏まえて年明けに再建計画を改定し、政府が認定する。東電や他社の電気料金への上乗せをなるべく抑えるには東電が収益力を高め資金を捻出する必要がある。すでに火力発電・燃料調達事業は中部電と全面統合を視野に提携しているが、今回の改定で送配電や原子力事業でも再編・統合の方針を盛り込む。他社から広く提案を受け、収益力の向上につながる統合相手を選ぶ。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161120&ng=DGKKZO09754640Q6A121C1PE8000 (日経新聞社説 2016.11.20) 原発の廃炉費は丁寧な議論を
 経済産業省の有識者会議で原子力発電所の廃炉をめぐる二つの議論が進んでいる。一つは、電力自由化の下で必要な廃炉を進める方策について。もう一つは、事故を起こした東京電力(現東京電力ホールディングス)福島第1原発を処理する体制についてだ。いずれも放置が許されない課題だ。やり遂げる仕組みを整えることが急務である。そのための費用を誰が、どう払うのか。国はわかりやすい議論と、国民への丁寧な説明を心がけてほしい。二つの議論に共通するのは、一部の費用の負担をすべての国民に求める案を検討している点だ。新規に参入した電力事業者も使う送電線の利用料に費用を上乗せすることで、新電力から電気を買う消費者にも負担を求める考え方だ。自由化で競争が激しくなれば、原発を持つ電力会社が廃炉に備えて用意する引当金を確保できなくなる可能性がある。そのため、予定より前に廃炉を決めた原発については送電線の利用料の一部を廃炉費用にあてる案が出ている。福島第1原発の処理では、廃炉や損害賠償などの費用が見込みを大きく上回る可能性が高まっている。そこで、上振れ分の一部を送電線の利用料に上乗せして集める案を、国は示している。負担が事業者間の競争を阻害するものであってはならない。一方で重要なのは、役目を終えた原発の廃炉と、福島の事故処理・復興を着実に進めることだ。資金不足で滞るようなことが起きてはならない。事故処理の費用を東電HDの経営努力だけで賄えないなら、補う財源が必要だ。不足分を広く国民に負担を求めざるを得ないのなら、理由を誠実に説明することが大切だ。どうして送電線に上乗せするのか。ほかに手段はないのか。理解を得られるようつとめるべきだ。議論が限られた場所で進む「密室感」は国民の疑念を招く。原発を重要なエネルギーとして使い続けるためにも、信頼を積み上げる努力を怠ってはならない。


PS(2016.11.29追加):*5のように、環境性能の良い自動車の税金を安くするエコカー減税をどこまで認めるかが議論されているが、2017年4月から適用される減税なら、排気ガスを出さないEVとFCVだけを環境車として自動車税免税にすべきだ。何故なら、その方が環境への配慮が進み、EV・FCVの生産投資と買替が起こって、景気もよくなるからだ。しかし、自動車は必需品であるため、自動車購入時に自動車税・自動車重量税・自動車取得税を賦課した上に消費税をかけるのは、諸外国と比較しても理不尽に税を取り過ぎている。間接税として消費税をかけるのなら自動車取得税は廃止すべきであり、一般車の自動車税もドイツ(23.5%)程度にすべきだ。なお、自動車重量税は、自動車専用道路の整備に充てるのなら賦課する理由があるが、一般財源なら自動車に賦課する理由がないため廃止すべきだろう。


自動車関係諸税の大きさ 自動車諸税国際比較  2016年エコカー減税 自動車保有国際比較

(図の説明:自動車関係諸税は租税総収入の10%弱を占めており、とれるところからとっている感がある。しかし、現在、自動車は地方では贅沢品ではなく必需品であるため、自動車関係諸税が高すぎるのはおかしい。せめて、自動車産業同士が激しく競争しているドイツ程度にすべきで、税優遇する次世代自動車は排気ガスを出さないEV・FCVだけとし、EV・FCVの開発を促すのがよい。何故なら、100人当たりの自動車保有台数は、人口の多いインドや中国でも上がってきており、排気ガスを出さないEV・FCVの重要性がますます大きくなるからだ。なお、化石燃料に課税すれば、環境負荷が軽くて燃費の良い自動車が自然と優遇され選択されるため、自動車取得時に低燃費車を優遇しなくても問題ない)

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161129&ng=DGKKZO10050540Z21C16A1EA2000 (日経新聞 2016.11.29)エコカーなお攻防 経産・総務省 投資減税、拡大が焦点
 結論が出ておらず、今後の焦点になる項目もある。一つは環境性能が良い車の税金を安くするエコカー減税。もうひとつは中小企業の設備投資減税だ。いずれも景気刺激を優先する経済産業省と、地方自治体の財源を確保したい総務省との間で主張が真っ向から対立している。エコカー減税は車を買うときに都道府県に払う自動車取得税を、燃費に応じて20~100%割り引く仕組みだ。メーカーの燃費性能は毎年向上しており、現在の基準では新車の86%がエコカー減税の対象になっている。総務省は「燃費が平均以下の車まで『エコカー』として優遇するのはおかしい」(幹部)との立場。対象を絞り込めば、メーカーの研究開発を促す効果も期待できるとしている。経産省や自動車メーカーはこれに反発する。「過大な税負担が国内の自動車市場低迷の一因」として、今の燃費基準の維持を求めている。25日の自民党税調の会合では「減税対象を絞り込むと販売が減り、景気に悪影響が出る」との懸念が出る一方、「販売はそのときの景気で決まる。税金は関係ない」との声も多かった。もうひとつの焦点は今年度から実施している設備投資減税だ。中小企業が導入した機械設備の固定資産税を3年間にわたって半減する内容だが、経産省はこの対象を広げて効率の良い空調設備や介護ロボットを含めるよう求めている。製造業だけでなくサービス業にも活用してもらうためだ。固定資産税は全国の市町村にとって最大の財源だ。総務省は「まだ導入初年度の効果も検証できていないのになし崩し的に拡大するのは納得できない」(幹部)として徹底抗戦の構えを取る。


PS(2016年11月30日追加):*6のように、非正規社員は、正規社員と賃金・福利厚生のみならず、配置・研修・昇進などの扱いが異なり、その結果、長期間働くほど賃金差が広がって、賃金差は50代で最大になる。つまり、日本的経営を行っている日本企業は正規社員には(なるべく)終身雇用を保障しているが、そのために非正規社員を雇用調整に使っているわけである。また、1985年に第一次男女雇用機会均等法が導入される前は、正規社員の割合は15%程度と少なく、そのかわり女性が補助的な仕事を行って短期間で退職する労働者とされていた。そして、1985年の第一次男女雇用機会均等法導入後、企業は非正規社員の割合を次第に増やして、現在では労働者の1/3以上が非正規社員となり、非正規社員の割合は特に女性で高くなっているのだ。
 そして、「自分で選んで非正規社員になった」等々、会社側の言い訳はいろいろあるが、多くの労働者が他に選択肢があって選択したわけではないため、これは雇用形態の違いを理由にした差別に基づく搾取だ。そのため、労働基準法や男女雇用機会均等法で守られず、事業者が社会保険料も納めない非正規社員は非常に例外的なものにすべきで、正規社員でも遠距離の転勤がなかったり、短時間労働(その場合は、それだけ賃金が低いだろうが)にしたりすることは、経営判断で可能な筈である。


 *6より 1984~2012年正規・非正規推移  男女別正規・非正規雇用者数の推移

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161129&ng=DGKKZO10050770Z21C16A1MM8000 (日経新聞 2016.11.29) 正規・非正規の基本給 格差縮小促す、職務や能力厳格評価 働き方改革、指針に反映
 政府は非正規社員の待遇を改善するため、基本給について仕事内容が同じなら正社員との格差を縮めるよう評価の基準を設ける。基本給の差を認める基準は職務能力や職務内容、勤続年数、配置転換の有無などに厳格化する。働き方改革実現会議(議長・安倍晋三首相)で議論し、年内にまとめる「同一労働同一賃金」のガイドラインで示す。早ければ来年の通常国会で関連法の改正を目指す。現在、企業は正社員には企業ごとの給与規定によって賃金を定め、年齢や勤続年数を反映した基本給を払っている。ただ、将来的な働き方が見通せない非正規では仕事の成果が給与に反映されにくい。これを見直し、原則として同じ企業内では雇用形態での不合理な賃金差を認めないこととする。働き方を適切に評価することで全体の生産性向上につなげる。新たに策定するガイドラインでは、どのような賃金差が合理的であるか、または不合理であるかを事例で示す方針。例えば、正社員と非正規の職務に違いがない場合は賃金の差を認めないが、正社員がキャリア形成の一環で実習を積む場合は非正規と同様の仕事内容でも賃金差を容認する。ガイドラインには賃金差の根拠などについての企業側の説明責任を盛り込むことを検討している。企業側には慎重論もあり、調整が続いている。交通費などの諸手当、賞与、福利厚生についても正社員と非正規に不合理な差をつけないよう企業側に促す。一方で、非正規の処遇を改善することで正社員の賃金が下がらないよう企業に労働分配率を引き上げることを求める。政府はガイドラインの拘束力を担保するため、関係する労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の3法の改正案を早ければ2017年の通常国会に提出する。6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、19年度からガイドラインを運用すると工程表に定めている。現在も労働契約法など関連3法では正規と非正規について「不合理な相違があってはならない」などと明記しているが、どのような差があれば、待遇の違いが認められるかは具体的に触れられていなかった。日本の多くの企業は人件費抑制などを狙い、非正規の比率を高めており、国内の労働市場で非正規の割合は約4割にのぼる。欧州では同等の仕事をしていれば非正規でも正社員の8割程度の賃金を得ている。日本では約6割にとどまるため、政府は欧州並みに近づけたい考えだ。非正規は昇給がほとんどなく、賃金の差は勤続年数が長いほど大きくなる。最近では働き方の多様化、人手不足を背景に、小売業でパート・アルバイトが店長を務めるなど、非正規でも正社員並みの仕事をするケースが増えている。同一労働同一賃金の考え方を採り入れた人事制度を導入し、非正規の働きぶりをより評価して企業全体の生産性向上を目指す動きも出ている。りそな銀行は08年、業務の難易度などで分かれていた「職務等級」を正社員と非正規で共通にして、等級が同じなら時間当たりの基本給を同じにしている。


PS(2016年12月1日追加):高齢化やバリア・フリー化など課題先進国である日本の市場は、その需要を満たす製品を作れば、後に続く国への輸出やグローバル展開が可能だ。そのため、*7-1の自動ブレーキは、車両間衝突防止、車線はみ出し修正、歩行者への衝突防止などを徹底させて、国内外の他のメーカーにも販売すると利益が上がるだろう。また、自動車メーカーは典型的な男社会で、壮年期の男性に適した製品が殆どだが、女性や高齢者が設計の本丸部分に加わると、女性や高齢者に受ける自動車ができると思われる。なお、*7-2のように、信号機が老朽化して更新時期を迎えているのなら、更新するにあたっては、色の変化だけでなく、①位置情報 ②一方通行の情報 ③「進め」「右折可」「止まれ」などの電磁信号を自動車に送るようにすれば、より自動運転しやすいと思われる。

*7-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJD133CTJD1ULFA006.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2016年12月1日) 自動ブレーキ性能、マツダ「アクセラ」最高点 2位は…
 国土交通省は1日、市販車の自動ブレーキによる衝突防止性能などの評価結果を公表した。従来の車両追突時などの評価に加えて、今回は歩行者との衝突防止性能を加えた点数を初めて公表。総合点でマツダの「アクセラ」が最高点となった。同省の評価に応募した、トヨタ自動車、ホンダ、マツダ、富士重工業、スズキの5社11車種が対象。車を時速10~60キロの範囲で5キロ刻みで走らせ、そのたびに人形を飛び出させて、自動ブレーキで止まれるかを測定した。人形に衝突すると減点になる。人形は、大人(身長180センチ)と子供(同120センチ)の2種類を用意した。自動ブレーキの車両衝突防止や、車線はみ出し時の警報などの安全性能に、歩行者衝突防止性能の点数(25点)を加えて総合評価した(計71点)。最高点はマツダのアクセラ(70・5点)で、富士重工のフォレスター(69・5点)とインプレッサ(68・9点)が続く。国交省は、12点以上で「ASV(先進安全自動車)+」、46点以上で「ASV++」を販売時に表示することを認めており、今回は全車種が46点以上だった。今回新たに評価した歩行者との衝突防止性能に限った点数をみると、アクセラ(24・5点)、フォレスター(23・5点)、インプレッサ(22・9点)の順だった。自動ブレーキについて、国交省は2014年から車両衝突防止性能の評価は公表しているが、歩行者衝突防止性能については初。交通事故の死者の4割近くは歩行者で、高齢ドライバーの事故も相次ぐなか、国交省は点数の公表でメーカーの開発競争を促す。

*7-2:http://qbiz.jp/article/99167/1/ (西日本新聞 2016年12月1日) 信号機 進む老朽化 制御機2割が更新期経過 警察庁まとめ
 信号機の赤青黄の点灯をコントロールする「信号制御機」や、信号を支える柱の老朽化が進んでいる。警察庁によると、制御機の更新時期は設置から19年。全国の制御機の約2割がこの期間を経過し、老朽化したと判断されており、重大事故を招く危険性が懸念されている。2012年9月、神戸市中央区の国道交差点で、信号の柱が突然折れ、路上に停車中の乗用車に接触。車は破損したが、運転していた男性や通行人にけがはなかった。柱は設置から45年がたっていたが、修理されないままになっていた。警察庁によると、「信号機の心臓部」ともいえる制御機は今年3月末時点で全国に20万5千基。うち「老朽化」と判断されたのは約2割の4万3千基。信号が消えたり、点滅を続けたりするなど、老朽化した制御機のトラブルは14年度に全国で314件起きた。制御機1基の更新費用は約120万円で、都道府県が負担する。信号は高度経済成長期以降に大量に整備されたが、自治体によっては予算を確保できず、事実上放置されている信号が増えているとみられる。15年度末時点で、福島県は、47都道府県で老朽化の比率がワーストの35・6%。一方、最も低い岐阜県は0・6%にとどまる。33・7%と全国2番目に高い兵庫県は、15年度に確保できた予算のままで更新ペースが続けば、25年度には県内の6割以上が老朽化すると予測している。全国的な統計はないが、信号を支える柱も、制御機と同様に老朽化が進んでいるとみられる。兵庫県警は柱の適切な更新時期を設置から40年としており、15年度末時点で県内の約14%がこれを超えている。県警は柱をたたいて強度を調べる打音検査のほか、海辺で潮風に当たりやすいなど設置場所の環境から傷みやすい柱を優先的に更新するなどして対応している。警察庁は20年度までに老朽化した信号機約4万3千基の更新を目標に掲げ、都道府県警にも計画の策定や予算の確保を指示。兵庫県警の担当者は「地下の見えない部分で腐食が進む場合もあり、危険性の判断は難しい。予算を平準化し、計画的に更新できる態勢づくりが必要」と話している。


PS(2016.12.2追加):日本では、世界でトップを切って1995年頃からEVをはじめとする本格的な環境車を開発し始めたのに、*8のように、「①EVは航続距離や充電時間に課題がある」「②EVの背中を押したのは外国の環境規制」「③独連邦参議院が2030年までにエンジン車の販売禁止を求めるとの独誌シュピーゲルの報道に対し、トヨタ首脳は『極端だ』と反応」「④FCV普及の前提となる水素ステーションの整備も課題」などとして、開発済のEVやFCVも本気で普及する体制をとらない点で、私もトヨタの経営陣はどうも先見の明や環境センスに欠けると思っていた。例えば、①④の課題は、1~5年で解決すべきで、10~20年も同じことを念じ続けるようなものではない。また、②は、リーダーの不勉強による見識の低さから、日本政府の環境意識が低いことによる。さらに、③の「極端だ」という反応は「バランスが重要」と言いたがる文系の人によく見られるが、例えば、「よりよいものができても、街灯にはろうそく・ガス灯・白熱電球・蛍光灯・LED電球をバランスよく使うべきだ」と結論づけるのと同じくらい馬鹿げているのだ。

     
 *8より  あかりの変遷     ガス灯       水銀灯    ソーラーLED

*8:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161202&ng=DGKKASDZ28IET_Z21C16A1EA1000 (日経新聞 2016.12.2) EV注力、トヨタの焦燥と勝算、環境規制受け開発加速 グループ一丸で巻き返し
 トヨタ自動車が12月1日付で「EV事業企画室」を設立し、電気自動車(EV)の量産に向けた取り組みを急いでいる。世界で初めてハイブリッド車(HV)の量産に成功し、水素で走る燃料電池車(FCV)を「究極のエコカー」に据えるトヨタ。EVにこれまで以上に注力する背景からは、環境変化に対する「焦燥」とトヨタなりの「勝算」が透けて見える。
●後ろ向きの印象
 9月下旬、仏パリ。トヨタの豊田章男社長はパリ国際自動車ショーの会場に足を運んだ。会場では独ダイムラーや独フォルクスワーゲン(VW)などが相次いでEVのコンセプト車を披露。欧州勢の動きを目にした豊田社長は周囲に「ショーと現実は異なるが、EVシフトが加速するかもしれない。注意が必要だ」と漏らした。トヨタは1997年に世界初の量産型HV「プリウス」を発売し、2014年には走行中に二酸化炭素(CO2)を一切出さないFCV「ミライ」も出した。こうした取り組みにより「トヨタ=環境」のイメージを強め、「エコカーもすべて開発している」(伊地知隆彦副社長)。だが、「EVに後ろ向き」との印象がつきまとっていた。例えば昨年発表した50年までの環境目標。HVやFCVは意欲的な販売目標を掲げる一方、EVについては「航続距離や充電時間に課題があり、近距離の移動に向いている。現在の乗用車と同様の車についてはHVやプラグインハイブリッド車(PHV)が適している」(伊勢清貴専務役員)と述べるにとどめた。課題があるにもかかわらず、なぜEVに注力するのか。背中を押したのは、各地の環境規制だ。米カリフォルニア州では18年式の製品から規制が強まり、一定の販売を義務付けるエコカーの対象からトヨタが得意とするHVが除外される。世界最大の自動車市場である中国でも当局が手厚い補助金でEVの普及を後押しする。HVを筆頭に「エコカーで先行するトヨタを米中両国が規制を使って締め出している」との見方は業界の通説だ。もっともこうした規制は以前から明らかになっていた。トヨタ幹部が「想定外だった」と打ち明けるのは、欧州の動向だ。VWはディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVへのシフトを表明。同社は6月、「25年までにEVを30車種投入し、25年に世界販売台数の20~25%をEVにする」と宣言した。10月に入ると、衝撃的なニュースも飛び込んでくる。独誌シュピーゲルが、独連邦参議院(上院)が30年までにエンジン車の販売禁止を求めると報道したのだ。トヨタ首脳は「極端だが、多くの人が今のままではよくないと考えている証拠だ」と発言。走行中にCO2を出さないゼロエミッション車(ZEV)の開発加速が必要との見方を示した。
●燃料電池車に壁
 もちろんトヨタが量産で先行したFCVでもZEV規制に対応できる。だが、FCVは主要部品の生産能力に限界があり、17年時点でも年間生産は3000台。普及の前提となる水素ステーションの整備も課題だ。「参入メーカーが比較的多いEVの方が充電拠点の整備が早く進む」(トヨタ幹部)との読みがある。EVをFCVと並ぶZEVの柱と位置付けたトヨタの今後の焦点は、競争力のある製品を生み出せるかに移る。トヨタは年間100万台規模を生産・販売するHVの技術をEVにも応用できるとみているが、グループ内には「HVとEVでは異なる点もあり、トヨタは出遅れた」との声もある。巻き返しのカギを握るのがEV事業企画室の顔ぶれだ。発足当初は4人ときわめて少人数だが、現行のプリウスの開発責任者を務めたトヨタの豊島浩二氏をヘッドに、デンソー、アイシン精機、豊田自動織機の出身者が脇を固める。「開発初期からグループ会社が参画するのは当社で初めて」(トヨタ幹部)という。トヨタの経営陣はここ数年、グループの一体感の醸成に注力してきた。内部で意見が対立して時間を浪費することもあったが、一丸となれば効率は高まる。EV事業企画室に参画するグループ3社の研究開発費(16年3月期実績)を足すと6000億円を上回り、自動車部品最大手の独ボッシュに迫る。EVの開発はグループ連携の成否を占う試金石にもなる。


PS(2016.12.3追加):大容量蓄電池や燃料電池が進歩したため、*9-1の“ベースロード電源”という概念は不要であり、これは、*8で述べた恣意的かつ不合理な電源バランスの考慮にすぎない。そして、*9-2のように、経産省が「福島原発事故処理に22.6兆円、廃炉に8.2兆円かかる」としながら、*9-3のように、「石炭や原子力の低コスト電気を新電力に大手が供給する」と主張しているのは、原価計算も理解せずに強弁を繰り返している点で間違っている。
 なお、*9-4の電力小売自由化で300社を超える企業が電力供給に参入したにもかかわらず、契約を切り替えた家庭が3%強に留まるのは、価格だけの問題ではなく、*9-3のように、新電力も化石燃料や原子力由来の電力と混合している上、事故処理や廃炉費用を負担させられ、新電力が従来の電力会社と電力という商品の内容で差別化できないからである。つまり、経産省の方針は、市場経済ではなく、経済学・経営学も理解しておらず、焼け太りしながら日本の国民や産業を邪魔しているにすぎない。

    
 世界の日本の農水産物  台湾の輸入制限への   2016.11.30    2016.12.3 
  に対する輸入制限    日本政府の態度     共同通信      日経新聞

(図の説明:左図の赤で着色された国が2015年5月現在、フクイチ事故の放射能汚染により、日本の農水産物の輸入停止や条件付輸入をしている国で、これによる損害も原発事故の被害だ。これに対し、日本政府は「世界貿易機関(WTO)への提訴も考える」などとしているが、世界を相手にフクイチ事故の放射能汚染を“風評被害”と強弁してWTOに提訴するような滅茶苦茶なことをすれば、日本食品の安全基準が疑われるとともに、その後は、まともなことを言っても相手にされなくなるだろう。これは、フクイチ事故処理費用を億面もなく22.6兆円と増加させ、それを新電力に負担させるやり方にも同様に出ている)

*9-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161203&ng=DGKKASFS02H40_S6A201C1EA2000 (日経新聞 2016.12.3) ベースロード電源 昼夜問わず安定的に発電
▽…コストが安く、昼夜を問わず安定的に発電できる電力源。原子力や石炭火力、水力、地熱発電などが該当する。日本はエネルギー政策を考える上で、安全性や安定供給、経済効率性、環境への適合といった要素を重視しており、ベースロード電源の割合を高めていけば、停電のリスクは減り、電気料金も抑制できる。政府はエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、安全を確保できた原発を再稼働させる必要性を示してきた。
▽…ベースロード電源を多く持つ電力会社は電気料金を低く設定でき、競争上も優位な立場に立てる。大手電力が長く、地域の電力需要を独占してきた日本では、原発や水力発電などの設備の多くを大手電力が保有する。水力と石炭火力、原子力を合計したベースロード電源の割合(2015年度)を比べると、大手電力が4割近くに達するのに対し、新電力は10%強にとどまる。新電力がコストが高い電源に頼らざるをえない構図は今後も続く見通しで、競争環境の是正が急務となっていた。
▽…ベースロード電源以外では、次に発電コストが低い「ミドル電源」、発電コストが高い「ピーク電源」がある。エネルギー資源に乏しい日本は各電源の利点や欠点を踏まえつつ、バランス良く各電源を活用していくことが欠かせない。政府は昨年、ベースロードの比率を56%程度などとする30年時点の望ましい電源構成を決めた。

*9-2:http://this.kiji.is/176377454849410556 
(共同 2016/11/30) 福島原発事故処理に22.6兆円、廃炉8.2兆円、新電力も負担
東京電力福島第1原発の事故処理費用 経済産業省が東京電力福島第1原発の廃炉費用について、従来想定の約2兆円から約4倍に当たる8兆2千億円に拡大すると試算していることが29日、分かった。賠償や除染費用も増大し、事故処理費用は総額22兆6千億円となる。政府は巨額費用の負担による東電の経営危機を避けるため「廃炉の加速化」を名目に、新たに年数百億円程度を電気料金に上乗せし、東電を支援する方向で検討する。他の大手電力や電力小売りに参入した新電力も対象で、家計の負担は一段と重くなりそうだ。廃炉は溶け落ちた核燃料取り出しの工法が決まらないため費用の試算が難しく、これまで数兆円規模で増えるとされていた。

*9-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161203&ng=DGKKASFS02H48_S6A201C1MM8000 (日経新聞 2016.12.3) 新電力に低コスト電気 石炭や原子力、大手が供給、福島賠償を共同負担
 経済産業省は電力自由化で参入した新電力が石炭火力や原子力など発電コストの安い電気を調達できるようにする。電力大手が新電力の需要の3割相当を提供し、代わりに東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償費用のうち3兆円程度を大手と新電力の共同負担に切り替える。賠償による新電力の料金上昇を抑え、大手との競争を促す。電力市場の競争促進や原発事故の処理費用の負担を話し合う経産省の有識者会議で来週にも決める。必要に応じて関連法や省令などを改正する。石炭火力や原子力などコストが低く発電量が天気や時間帯に左右されないベースロード電源を日本卸電力取引所に放出することを2020年度をめどに義務づける。いま大手が取引所に出すのは石油火力などコストの高い電気が中心で、割安な電気は自社の小売部門に流している。1キロワット時あたりの発電コストは原子力が約10円、石炭火力は約12円、石油火力は30円を超える。300社以上の新電力のなかには自前の発電所のない事業者も多い。取引所に調達を頼るが、安い電気が手に入らず対等な競争が難しかった。新電力の需要の3割にあたる量を発電コスト以下で放出してもらう。現在は石炭火力の発電量が多いが、再稼働が進めば原発の電気も出てくる。新電力はオークションで電気を買い付ける。福島第1原発事故の賠償費用はこれまでの想定の5.4兆円を上回る8兆円ほどに膨らむ。東京電力ホールディングスを中心に関西電力や中部電力などほかの大手も一緒に負担してきたが、今後は3兆円程度を新電力との共同負担に変える。賠償費用は大手が11年の事故後から拠出しているが、共同負担の3兆円は事故に備えてそれ以前に積み立てておくべきだった金額との位置づけだ。全ての電気利用者が大手と契約して原発の電気を使っていた時代の費用をこれから回収するため、新電力も含む全ユーザー(原発のない沖縄は除く)に負担を求める。具体的には大手と新電力の双方が負担する送電線の利用料に賠償費用を上乗せする。全国の電気の販売量に占める新電力の比率は8%。利用料はおおむね販売量に応じて払うため、新電力の負担は数千億円になりそうだ。福島第1原発以外の全国の原発の廃炉費用の一部も送電線利用料に上乗せする方針で、新電力に100億円単位の追加負担になる。新電力が費用をすべて小売料金に転嫁すれば、家庭の電気料金を1カ月あたり数円から数十円押し上げる要因になる。経産省は「安価な電気を調達できるようになるメリットのほうが費用負担よりも大きい」(幹部)とみている。本格的な価格競争が起きれば、大手も含めた料金の引き下げにつながる。大手と新電力の損得のバランスを取りながら、賠償と競争を同時に進める。

*9-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161203&ng=DGKKZO10252260T01C16A2PP8000 (日経新聞 2016.12.3) 政治大手既得権にメス 低コスト電気提供 新電力との競争促す
 経済産業省が電力大手に石炭火力など安価な電気の放出を求めるのは、大手の既得権にメスを入れるためだ。東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償費負担の一部を新電力に切り替えるのをきっかけに、競争力のあるベースロードの電気を新電力に回して一気に競争を促す。4月の電力小売り自由化で300社を超える企業が参入したが、契約を切り替えた家庭の割合は3%強にとどまる。低コストの電気を大手が囲い込み、新電力は余った電気を調達せざるを得ない構造が根底にある。経産省は昔から大手に取引所への電気の放出を求めてきたが、競争力の源泉である石炭火力や原子力の電気は出てこなかった。無理に放出を義務づければ財産権の侵害に当たる恐れもあった。ここにきて賠償費用が大幅に上振れし、新電力に一部を肩代わりしてもらうことになった。経産省は見返りとして大手にベースロードの放出を説得していった。幹部は「こんなときじゃないと求められない」と話す。大手はなお反発している。一方、大手の契約者だった時代に払っておくべきだったという理屈で新電力の利用者に賠償費用を負担させる案は理解しにくい。事故処理費用が膨らんで後付けで理屈を考えたとの批判もある。原発が嫌いで新電力に乗り換えた人には、いっそう丁寧な説明が必要だ。


PS(2016年12月6、15日追加):日立の社長が、*10-1のように、「将来の経済発展や環境問題を考えると、原発は重要な選択肢」としているのは、日立の利益という観点からにすぎない。何故なら、経済発展のためには、無尽蔵で請求書のこない自然エネルギーを使う方が合理的であり、環境問題を考えれば原発は最悪の公害を出すからだ。そのため、ベトナム政府の判断は世界の潮流に沿って未来を考えたもので日本政府の判断より優れていると私は思うが、それでも自分の方が正しいと考える理由は、過去にもあった日本人の根拠なき自信から来る傲慢さだろう。
 なお、*10-2のように、麻生副総理・財務相と菅官房長官が、2016年12月15日、ハモンド英財務相と会談して日本政府が民間企業である日立の原発輸出を支援するために、英国の原子力発電所の建設プロジェクトに1兆円の資金支援を行い、事故が起きた場合の賠償の仕組み(日本国民が負担 ??)についても英政府と協議するそうだ。そして、日本政府は原発輸出を成長戦略の柱と位置づけているとのことだが、今でも原発を成長戦略の柱と考えているのなら馬鹿にも程がある。メイ首相が原発建設の許認可を先送りしたのは、中国への依存度が高まるのを懸念したのではなく、原発建設は環境配慮も経済合理性もなく、無料の自然エネルギーへの変換を阻害するだけであることに気づいているからだろう。

*10-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12692425.html (朝日新聞 2016年12月6日) 「原発の重要性不変」 日立・東原社長、輸出に注力
 日立製作所の東原敏昭社長は5日、ベトナム政府が日本やロシアとの原発計画を撤回したことについて、「逆風があっても、将来を考えれば原発の重要性は変わらない」と述べ、引き続き原発の輸出に注力する考えを示した。朝日新聞などのインタビューに答えた。ベトナム政府は先月、安全対策費用の高騰などから原発計画を撤回。日立が受注を目指すリトアニアでも10月の議会選で「反原発」を掲げる野党が第一党となったことなどを踏まえ、東原氏は「足元では(原発輸出に)いろいろと逆風が吹いている」との認識を示した。そのうえで、「将来の経済の発展や環境問題を考えた議論をしたとき、原発は重要な選択肢として残るはずだ」と強調した。米大統領選でトランプ氏が勝利してから円安が進んでいることについては、「業績にプラスに働くのは事実だが、今後も何が起こるか分からない。為替も1ドル=100円から120円ぐらいまで幅を持って見ていく」とした。業績に追い風が吹くなか、政府が経済界に求めている来春闘での賃上げについては、「為替の影響を除いた実力の成果を見極めて判断したい」と述べるにとどめた。

*10-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161215&ng=DGKKASFS14H8E_U6A211C1MM8000 (日経新聞 2016.12.15) 英原発に1兆円支援、政府、日立受注案件に
 政府は英国が計画する原子力発電所の建設プロジェクトを資金支援する。英国政府から原発の建設・運営を受託した日立製作所の英子会社に国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行が投融資する。総額1兆円規模になる公算が大きい。政府は原発輸出に力を入れているが、ベトナムでの新設計画が中止になるなど逆風が絶えない。官民連携で突破口を探る。麻生太郎副総理・財務相と菅義偉官房長官が15日、ハモンド英財務相と会談し、日英関係の強化を確認。世耕弘成経済産業相は年内にクラーク・ビジネス・エネルギー産業戦略相と会談し、原発分野での協力を表明する方向で調整している。両政府は来年中にも資金支援の大枠を固める。支援対象となるのは日立傘下のホライズン・ニュークリア・パワーが英中部ウィルファで計画する原発2基。ホライズンは日立が英国で手掛ける原発の設計から運営までを受け持つ全額出資子会社だ。ウィルファの2基にかかる総事業費を現時点で約190億ポンド(約2.6兆円)と想定。日立が総事業費の1割程度、英国政府が25%以上を出す案が出ている。日本政府はJBICと政投銀を通じホライズンに投融資する。さらに日本貿易保険(NEXI)が信用保証枠を設定。日本のメガバンクやHSBCといった日英の大手金融機関を呼び込み総額1兆円規模の資金を融通する計画。日英政府が支援姿勢を明確にすることで機関投資家などによる出資を促す。稼働後の売電収入なども加え全体の事業費をまかなう方向だ。日本政府は原発稼働後の電力の買い取り価格や買い取り期間、事故が起きた場合の賠償の仕組みなどについても英政府と協議し、持続可能な枠組みづくりをめざす。日本政府が異例の資金支援に乗り出すのはメイ政権の発足が大きい。キャメロン前首相は2015年10月、英南東部の原発に先進国として初めて中国製原子炉の導入を決めるなど中国を重視する姿勢を示していた。だが英国のEU離脱決定を経て就任したメイ首相は今年7月、中国国有の中国広核集団とフランス電力公社が英南部で手掛ける原発建設の許認可を突然先送りした。9月末には条件付きで建設を認めたが、メイ政権は中国への依存度が高まるのを懸念しているとみられる。日本にとってはチャンスともいえる。安倍晋三政権はインフラ輸出を成長戦略の柱と位置づけている。


PS(2016年12月8日追加):高齢ドライバーの事故ばかり吹聴していると、高齢者と若年者が事故を起こした場合には、若年者が悪くても高齢者の不注意や認知症のせいにされそうである(メディアに、このように差別を助長する表現を含む記事が多いのは問題だ)。しかし、*11の逆走については、曲がる場所を一度間違えると目的地とは程遠い場所に行かなければならなくなる高速道路の設計にも問題があり、慣れない地域を走る人や外国人も高速道路を使うことを考えれば、後戻りや進路修正をもっと容易にすべきだ。また、道路から自動車に信号を発して逆走できないシステムにする方法も考えられる。

*11:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/384417
(佐賀新聞 2016年12月8日)2016年県内、高齢運転者の逆走3件目
 佐賀県内の高速道路では今年、高齢ドライバーによる逆走が他に2件発生している。いずれも80代の男性で、本線に入った直後に発覚して事故は免れた。県警高速隊によると、3月中旬に佐賀市の長崎自動車道の下り線で、男性(83)が運転する車が金立サービスエリアから福岡方面に逆走し、約2キロ先で制止させられた。男性は「財布を忘れて取りに戻ろうと思った」と話しているという。11月上旬には、武雄市の男性(82)が運転する車が長崎道の武雄北方インターチェンジ(IC)から進入して本線に入った直後、Uターンして逆走しながらICに戻った。男性は一般道と間違って高速道に入ったとみられる。このほかにも、1月に福岡県内の24歳女性が運転する軽乗用車が長崎自動車道を逆走し、神埼市で大型バスに接触する事故が発生。これらとは別に、逆走までは至らない高速道路への誤進入は今年、県内で3件確認されている。


PS(2016年12月14日追加):数人の高齢者が運転中に問題を起こしたからといって全高齢者が運転不能で免許返納すべきであるかのように主張するのは、程度の低い決めつけであり、高齢者いじめだ。何故なら、年齢別交通事故発生頻度は、10~20代は60~70代の1.5倍である上、30代でも1.1倍あり、これは自賠責保険の保険料に既に反映されているからだ。また、*12に書かれているように、公共交通が不便な地域では車は生活必需品であり、コミュニティーバスがあっても財政の都合で便数が少く不便なため、自動ブレーキなどの事故防止機能を充実させた車の普及が急がれ、これは生活の質を保つために年齢も国も問わないニーズなのである。なお、男女を同じに論じているが、下のように、平成27年時点の0歳時の平均余命(=平均寿命)は男性80.79歳・女性87.05歳であり、80歳時点の平均余命は男性8.89年・女性11.79年で、それだけ元気に動いており、その元気さは普段からの活動量に比例する。さらに、現在、農業者の平均年齢は65歳を超えており、自動車だけでなく農機具も電動の安全性の高いものにすべきで、これらの需要は日本と似た人口推移を辿る他国でも次第に多くなる本物なのだ。なお、アクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐためには、オートマチック車からマニュアル車に切り替えて昔に戻るよりも、それらを間違えようのない遠い場所に配置する方がよいと、私は考えている。

   
  年齢別平均余命   農業の修業人口と平均年齢    日本の世代別人口の推移 

*12:https://www.agrinews.co.jp/p39657.html (日本農業新聞 2016年12月11日) 高齢者の運転 生活の質と安全両立を
 高齢者の運転による悲惨な交通事故が後を絶たない。運転免許証の返納を促す動きもあるが、交通不便な農村にとって車は欠かせない。自家用車に頼らず移動できる手段を確保するとともに、自動ブレーキなど事故防止機能を充実させた車の普及が急がれる。高齢者の生活の質を保ちつつ安全対策は待ったなしだ。高齢ドライバーの事故は年々増え続けている。特に注視すべきは80歳以上だ。警察庁によると2005年は8645件だったが、15年は1万4895件と7割も増えた。年を取って目が悪くなったり、反射神経が鈍ったりする他、認知機能の低下などが疑われる。認知症への対策を強化するため、来年3月に改正道路交通法が施行される。75歳以上のドライバーが運転免許の更新時に認知機能検査を受け、「認知症の恐れがある」とされた場合は医師の診断が義務付けられる。認知症と診断されると免許取り消しになる。更新時でなくても、信号無視などの違反があれば、臨時の認知機能検査を受けなければならない。取り締まりは厳しさを増す。ただ、公共交通機関が整わない農村部で車は生活必需品だ。過疎化が進む地方では一人暮らしの高齢者も多い。同居世帯でも日中は一人で、家族に運転を頼れない。最寄りのバス停や駅までは遠く、バスや電車は1日数本の地域も少なくない。日々の病院や買い物に行くのに高価なタクシーばかり使えない。運転に不安を抱きながら、やむを得ず運転を続ける事情もある。自由に運転できることは、気持ちの張りや生活の質を保つ側面もある。自分の力で外出できれば友人と交流し行動範囲を広げ、社会への参画につながり、心身を活性化させる。「危ないから」と免許を取り上げるだけでは行動のきっかけを失って家に閉じこもり、寝たきりや認知症を招きかねない。メーカー各社は自動ブレーキなどの機能を搭載した車種開発を進めている。車両の衝突防止、車線はみ出し時の警報と性能は高まってきている。しかし、歩行者との衝突を避ける機能開発・普及はまだ不十分だ。政府も事故防止のため、技術面の支援を加速させるべきだ。一方で、自治体は高齢者が移動できる手段の整備を急がなければならない。安価に利用できる乗り合いタクシーやコミュニティーバスなど、地域住民同士で支え合う仕組みづくりへ知恵を絞るべきだ。事故を防ぐには当人の自覚が一番だ。過信せず、体の衰えを見極めた上で危険を減らす対策が求められる。暗くなる夕方以降は運転をやめる、高速道路は走行しない、アクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐためオートマチック車からマニュアル車に切り替えるなど、できることは多い。家族や地域は高齢者の活動を奪わないよう、多様な選択肢を用意したい。


PS(2016年12月21日追加):*13-2のように、農林水産物・食品の輸出拡大に向け、販促や輸出支援の新組織を立ち上げるそうだが、そのような目的のために素人が天下りして作った新組織が役立つとは思えない。それより、*13-1のように、原発事故から5年たっても十分な除染すら行われていない中、風評被害や差別などではなく医学的根拠があって輸入制限のかかるような放射性物質汚染食品を「日本産」として一括して販売すれば、美味しいか否かとは関係なく、日本産の安全ブランドを損なって輸出の妨げになる。また、産地表示がなければ、日本国民でもなるべく日本産を避けなければならなくなる。そのため、まとめるとすれば、「made in Kyusyu(Japan)」「made in Shikoku(Japan)」「made in Hokkaido(Japan)」など獲れた地域を明記すべきであり、地域が明記されない場合は、消費者は安全性を考えて最悪の地域を想定しなければならない。そのためにも、原発は廃止すべきなのだ。

*13-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12706402.html
(朝日新聞 2016年12月15日) 除染に税金、数千億円 来年度から予算計上 政府方針
 政府は、東京電力福島第一原発の事故費のうち、帰還困難区域の除染に国費を使う方針を固めた。帰還希望者のため「復興を加速させる」狙いだ。東電が負担すべき事故関連費に税金を直接使うのは初めて。この費用は東電に求めない。来年度予算に計上し始め、総額は数千億円になる見通しだ。当面、所得増税などで集めた復興予算(計32兆円)を使う。これまで除染は国が立て替え、最終的に国が持つ東電株の売却益で充てる前提だった。方針は14日、自民党内でおおむね了承され、20日にも閣議決定される。

*13-2:https://www.agrinews.co.jp/p39725.html (日本農業新聞 2016年12月21日) JAグループ、ジェトロ・・・ 輸出増へ15団体協定 3月にも新組織 農水省
 JAグループや日本貿易振興機構(ジェトロ)、経団連など15団体は20日、東京・霞が関の農水省で、農林水産物・食品の輸出拡大に向けた連携を強化する協定を初めて締結した。業界を挙げて現地での販売促進などに取り組む。農水省は、来年3月にも輸出を支援する新組織を立ち上げる方針。輸出額が伸び悩む中、政府の1兆円目標達成に向け、官民で輸出体制を強化する。
●業界挙げて販売促進
 海外への販売促進は、産地がばらばらに行って訴求力を十分発揮できず、単発の商談会やイベントに終わって継続的なPRにつながっていないなどの課題がある。11月の政府の農林水産業・地域の活力創造プランでは、海外での販売促進の強化や輸出支援のための新組織を立ち上げることを決定している。消費者への販売促進などにたけた食品専門の販促機関であるソフェクサ(フランス食品振興会)をモデルに、「日本版ソフェクサ」として来年3月にも創設する。新組織は国内外に専門家を置き、海外のニーズを把握して国内の生産者につなげたり、消費者向けの販売促進を強化したりする。ジェトロ組織を活用し、将来民営化することを視野に入れ、民間企業など外部人材も活用する計画だ。連携協定は、政府が立ち上げる支援組織の効果をより大きくするため、実際に輸出に関わる団体の連携を強化する。農業団体や、米や青果物などの業界団体、経団連、商工会議所、全国知事会の代表が参加。政府が決定したプランに沿った取り組みを官民で進めることをアピールした格好だ。山本有二農相は「皆さんと新たな体制の下で互いに連携し合い、一緒になって輸出を伸ばしたい」と述べ、新組織の活用を促した。全中の奥野長衛会長も「国内の生産力を高めるためにも輸出は非常に大事だ」と輸出の意義を強調した。


<バスの小型化と自動運転車>
PS(2016年12月26日追加):*14-1のように、路線バスは財源難だけでなく運転手不足からも便数を減らさざるを得ない状態になっており、これを解決する方法には、バスの小型化や自動運転機能の搭載がある。特に佐賀県には、乗車人数が少ないのに大型バスを走らせるのはもったいない区間が多いため、バスを小型化すれば大型免許がいらないので運転手の増加が見込まれる上、女性運転手も少ないので積極的に女性も採用すればよいだろう。なお、*14-2のように、完全自動運転車生産のための企業間連携も進んでいるが、これは、もう少し時間がかかりそうだ。

*14-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/390030 (佐賀新聞 2016年12月26日) 県内路線バス 運転手不足深刻、免許保有者減、取得費高く
■佐賀市交通局「このままなら縮小も」
 路線バスの運転手が不足している。大型二種免許の保有者が減って人材確保が難しくなっているためで、業界では免許取得費用を援助するなどの取り組みも広がっている。佐賀市でも「市民の足」としてバスが担う役割は大きく、市交通局は「このままいけば路線縮小もあり得る」と危機感を募らせる。佐賀市南部をカバーする市交通局には現在94人の運転手がおり、平均年齢は53歳と高齢化が進んでいる。現状でも運転手は6人足りず、時間外勤務で路線をなんとか維持しており、「病気やけがで欠員が出ればさらに厳しくなる」と担当者。人手不足が解消せず、高齢化が進めば「路線縮小も検討せざるを得ない」とこぼす。市交通局は随時、運転手を募集しているが、なかなか人が集まらない。免許を持つ人が全国的に減少しているためで、2011年に104万人いた保有者は、15年には96万人まで減っている。また県内に大型二種免許の公認教習所がなく、取得に60万円前後の高額な費用が必要なことも、人材確保の壁となっている。市交通局のベテラン運転手(52)は「偏りが出ないようシフトを組んでもらったり、体調にも気を遣ってもらったりと配慮してもらっている」と話す一方、「人は足りてない。時間外勤務や公休出勤が増え、25年間働いてきて今が一番きつい」と打ち明ける。対策を打つ事業所もある。西鉄バスは、採用枠を大型二種免許取得者以外にも広げ、自社で運転手を育成している。自社が持つ自動車教習所に通わせ、免許取得にかかった費用を5年間で全額支給したり、普通免許を持つ高校新卒者を採用して3年後に大型二種を取得させたりと、人材確保に力を入れている。県バスタクシー協会は「深刻な問題だと認識しているが、現時点で具体的な対策や話し合いの場などは持てていない」と動きは鈍い。市交通局の大塚智樹副局長は「路線バスは地域住民の足。路線縮小は避けなければならない。人材確保は業界全体の問題であり、各事業所がどうこうできるレベルを超えつつある。国や県単位で大型二種免許取得者を増やす取り組みが必要ではないか」と指摘する。

*14-2:http://qbiz.jp/article/100576/1/ (西日本新聞 2016年12月22日) ホンダとグーグルが連携へ 完全自動運転で共同研究
 ホンダは22日、米IT大手グーグルと、ハンドルやアクセル、ブレーキの操作が一切いらない完全自動運転の実現を目指した共同研究の検討を始めたと発表した。実現すれば、ホンダは日本メーカーとして初めて、自動運転の研究で世界でも先行しているとされるグーグルと手を組む。ホンダとグーグルが業種の垣根を越えて手を組めば、他のメーカーなどでも連携が加速し、自動運転の開発競争が一段と激しくなりそうだ。共同研究は、ホンダ子会社の本田技術研究所(埼玉県和光市)と、グーグルが自動運転の研究開発部門を別会社化して設立した「Waymo(ウェイモ)」(米カリフォルニア州)の技術チームが進めることを検討している。ウェイモの自動運転用センサーやソフトウエアなどを、ホンダが提供する車両に搭載し、米国で共同の実証実験を行う予定だ。ホンダが完全自動運転に関する具体的な取り組みを公表するのは初めて。ホンダとグーグルは、正式契約に向けて今後、実証実験の時期など共同研究の詳細を詰める。ホンダは2020年ごろに高速道路での自動運転の実用化を目指し、開発を進めてきた。より高度な自動運転に向け、段階的な技術開発を目指すホンダに対し、ウェイモは既に難度が最も高い完全自動運転に向けた取り組みを進めている。ホンダは「開発の手法が異なる両社で幅広く取り組む方が、ゴールにより早く近づける」(広報部)と強調した。ただ、完全自動運転の実用化の目標時期は示さなかった。グーグルは、欧州自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とも自動運転の共同開発を進めている。

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2016.11.20 2015年度のふるさと納税と東京都の予算の使い方について (2016年12月12、16日、2017年2月4日に追加あり)
   
ふるさと納税受入額・受入件数 ふるさと納税額推移   2015年ふるさと納税額   2016.12.12  
                                      上位20自治体       日経新聞
(1)地方の努力
 ふるさと納税による地方自治体への寄付額は、*1-1のように、2015年度に約1,653億円で前年度の4.3倍となり、件数は726万件で3.8倍になったそうだ。その理由は、①昨年4月から減税対象となる寄付額の上限が約2倍に引き上げられたこと ②各地の自治体が返礼品を充実させたこと ③「ワンストップ特例」を導入して確定申告不要とし利便性が高くなったこと などである。

 また、2015年度のふるさと納税額トップ20に九州の9自治体が入り、宮崎県都城市が返礼品の地元産肉や焼酎により人気を集めて42億3,100万円で1位だったのは、2005年に九州から衆議院議員になってすぐ「ふるさと納税」を提案して実現にこぎつけた私にとって満足いく結果だった。そのほか、都道府県別の集計では、北海道が150億3,600万円で1位、山形県が139億800万円で2位、長野県が104億5,600万で3位だったのも頷ける。

 さらに、*1-2のように、ふるさと納税の返礼品を扱って売り上げを伸ばす農産物直売所も出ているのは、地元では当然のようにある農産物が他地域では高く評価されることがわかるため、このように全国の消費者と結ばれた生産物の販売を行えば、農業者も消費者が何に価値を見出しているかを肌で感じることができ、次の生産を行うにあたって励みになると考える。

(2)返礼品は寄付の理念に反するか? ← 可能性を狭めるべきではないこと
 *1-1には、「①換金性の高い商品券の提供があり、地域活性化という趣旨に外れる」とか、*2には、「②所得が多い人ほど恩恵が増えるため、ふるさと納税は富裕層の節税策か」「③自治体が寄付を募るため返礼品をめぐる過剰な競争に走る動きが収まらない」「④寄付を通じてふるさとなどを応援するという本来の趣旨を見失ってはならない」などが書かれている。

 確かに、①の商品券のような換金性の高いものを返礼品として、その町の商店街で買い物をするように自治体が誘導するのは、使い方によっては問題が生じ、その町の生産物を売ったり有名にしたりすることもないため経済効果も限られるが、商店街の売り上げには貢献する。

 また、②は、所得の多い人ほど支払税金額が大きいため、そのうちの一部であるふるさと納税の限度額が大きくなるのは当たり前であり、それを「ふるさと納税は富裕層(定義も曖昧)の節税策か」とまで書くと、比較的所得の多い人に対する偏見に満ちた差別となる。

 ③については、自治体が寄付を募るために返礼品を工夫することによって地域の生産物を育て、それに自信を持って全国に発信する効果があるため、私はよいことだと考えている。さらに、④の寄付を通じてふるさとを応援する趣旨は、返礼品をもらうから失われるわけではない。そして、寄付金額から2千円差し引いた分しか所得税・住民税から軽減されないのが、ふるさと納税を受けたい地方自治体が返礼品という案を編み出した理由であるため、「減税で返礼品の取得を助けている」と言うのも正しくない。

 私は、*2の「ふるさと納税が地方創生に繋がる」というのは本当だと考えており、「税収が減る都市部の自治体では保育所整備などへの影響を心配する」などと言うのは、「ふるさと納税制度の開始前には保育所や学童保育の整備を進めきたが、ふるさと納税制度のためにそれができなくなった」という嘘の言いがかりである。例えば、ふるさと納税制度で独り負けしている東京都の例では、豊洲市場や東京オリンピックの建物だけでも数千億~数兆円規模の無駄遣いをしているのに、ふるさと納税に返礼品を付けて10~50億円を一生懸命集めている地方自治体(それが、その町の1年分の予算に匹敵する地域もある)に文句を言う必要はないだろう。

 確かに、東日本大震災や熊本地震では被災地の自治体に見返りを求めない寄付が集まっているが、このように甚大で明らかに目に見える被害を受けている時だけでなく、企業が都会に偏在するため予算を使って教育した人材を都会に送り出して老親の世話をし続けている自治体が、その自治体への感謝や応援の意味で、ふるさと納税を受け易くするのは、むしろ公平・公正だと考える。

(3)東京都の予算の使い方について
1)豊洲市場建設費の場合

    
  豊洲市場概観図            豊洲市場建設費用の推移         天下りした都のOB

 *3-1のように、東京都の豊洲新市場の主要建物3棟の建設工事では、都当局が入札予定の大手ゼネコン側にヒアリングを行った後、予算が400億円増えていたそうだが、2015年の建設費(2,752億円)は、2011年の建設費(990億円)と比較して約2.8倍、差額が1,762億円もある。この間に東日本大震災や東京オリンピックの誘致で建設コストが上がったとしても、新市場の建設コストに関する誤差が1,000億円以上あっても、東京都は今まで問題にしなかったくらいなのである。

 豊洲市場問題について、私自身は、築地市場の機能の大部分を大田市場に集め、豊洲の施設はアマゾン・楽天等のネット販売か、ヤマト運輸等の宅配会社に売却するのが現代のニーズに合っていると考える。何故なら、豊洲の問題は、そこで海産物を処理するから起こるのであり、既に包装された商品を短期間在庫するだけなら、さほど大きな問題にはならないからだ。

2)東京五輪(オリンピック・パラリンピック)会場建設費の場合

   
  *3-2より        主な五輪競技場の整備費など     諸外国・国内の事例 国内建設費

 東京五輪会場については、*3-2のように、当初7300億円程度とされていた総費用が現在では3兆円になり、そのうちオリンピック・パラリンピック終了後には壊される仮設にも2,800億円が投入される。その状況は、費用対効果を責任を持って考える人がおらず、「社長と財務部長がいない会社」と同じだ。

 また、メーンスタジアムの建設費も、他国と比較して1,500~2,000億円高く、国内の他のスタジアムの建設費と比較しても著しく高い。そのため、*3-3のように、世論調査は、「できるだけ今ある施設を利用して費用を抑えるべきだ」との回答が74%を占め、「小池百合子知事を支持する」が70%を占め、「(オリンピックの)費用は抑えるべきだ」が82%に上っている。

 私も仮設のような資産にならない建設費を使うのは止め、復興五輪の趣旨から国が宮城県(又は福島県)に新競技場を整備し、首都圏には既に多くの競技場が存在するためそれを改修し、分散して競技するのが現存の資産を有効に使って最も安価にできる方法だと考える。これに対して、スポーツ団体から反対があるが、民間で完全に五輪の収支に責任を持てるならともかく、そうでなければ贅沢を言うべきではない。また、宮城県等の方が自然が美しく、世界に放映した時に背景が絵になる競技も多い。

 ただ、東京都も、五輪の人気種目・開会式・閉会式で特別席を準備して、そのチケットを返礼品にしたり、使い道を選択させたりすれば、多額のふるさと納税を集められるかもしれない。そして、このようにして東京都で余った予算は、環境や福祉を織り込んだ新しい街づくり、道路や下水道の更新などに効率よく投入していかなければ、近い将来、東京都も破綻してしまうだろう。

 全体としては、現在の東京都が、本当に必要なことを最小限の費用で行うのではなく、数千億~数兆円規模で無駄な予算の使い方をしていることは間違いない。

*1-1:http://qbiz.jp/article/88726/1/
(西日本新聞 2016年6月14日) 2015ふるさと納税、トップ10に九州5自治体 都城市が1位
 総務省は14日、応援したい自治体に寄付すると税が軽減される「ふるさと納税」による2015年度の地方自治体への寄付額が計1652億9102万円となり、前年度の4・3倍に増えたと発表した。件数は3・8倍の726万件となった。昨年4月から減税対象となる寄付額の上限が約2倍に引き上げられ、各地の自治体がお礼の特典を充実させたことで急増。その一方で、お金に換えやすい商品券の提供など競争の過熱も指摘され「地域活性化という趣旨に外れる」との声も上がっている。最も多くの寄付金を受け取ったのは宮崎県都城市の42億3100万円。特典となる地元産の肉や焼酎が人気を集めた。2位は静岡県焼津市の38億2600万円、3位は山形県天童市の32億2800万円と続いた。都道府県別の集計では、トップが北海道の150億3600万円、2位は山形県の139億800万円、3位が長野県の104億5600万円だった。15年度に導入した、寄付する自治体が5団体までなら確定申告なしで済む「ワンストップ特例」を利用した寄付は286億7402万円、147万件だった。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p38596.html
(日本農業新聞 2016年9月3日) ふるさと納税で沸く 返礼品扱い JAグループ直売所
 ふるさと納税の返礼品を扱い、売り上げを伸ばすJAグループの農産物直売所が出てきている。ふるさと納税によるものだけで年間1億円を稼ぎ出す直売所や、受け付け開始後まもなく品切れとなる人気商品を取り扱う店もある。一時的な売り上げ増にとどめず、直売所のリピーター獲得にもつなげていく戦略だ。
●売り上げ年1億円も
 山形県JAさくらんぼひがしねの直売所「よってけポポラ」は2015年、直売所全体の売上高の約10分の1に当たる約1億円をふるさと納税の返礼品が占めた。主力のサクランボ「佐藤錦」を中心に注文が相次ぐ。2~6月には、「佐藤錦」700グラム入り9000円コースを2450件受け付けた。4月に1キロの1万円コースを追加投入したところ、2900件の注文が寄せられた。桃「川中島白桃」5キロ入り1万円コースも3月に800件、4月に200件の申し込みがあった。同直売所は東根市からの依頼を受け、14年からふるさと納税の返礼品の取り扱いを始めた。入荷、梱包(こんぽう)、発送作業などを担っている。後藤隼一店長は「果実の人気の高さを実感する。市場出荷より高い価格で提供でき、農家にも還元できている」と歓迎する。
●リピーター獲得期待
 宮崎県JA都城の子会社で直売所「ATOM」を運営する(株)協同商事も都城市の依頼を受け、地元産畜産物を中心にそろえる。ふるさと納税の返礼品を紹介するサイトに掲載後、わずか数分で「品切れ」になる人気商品もあるという。8月入荷分では、都城産の黒豚切り落とし4キロ(1万円)が200件、宮崎牛ステーキ(サーロイン400グラム、ヒレ200グラム、2万円)が70件、宮崎牛ローススライス4キロ(5万円)が40件など、次々に完売した。ATOMの浜川紘行店長は「売れ行きが好調で、直売所の売り上げにも貢献している」と話す。福岡県JAふくおか八女が展開し、筑後市に構える直売所「よらん野」は6月、1万円のブドウ「シャインマスカット」限定150ケース(1ケース350グラム入り4パック)が、約10日間で品切れになった。1万円の特産の梨「豊水」は限定100ケース(1ケース10~12玉入り)で期間中に全て注文を受け付けた。市の依頼を受けてふるさと納税の返礼品を取り扱うが、売り上げは15年と比べて上昇。同直売所は寄付者に直売所を知ってもらい、通販や宅配を通じた新たなリピーター開拓に期待をかける。

<可能性を狭めるべきでないこと>
*2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12360430.html
(朝日新聞社説 2016年5月17日) ふるさと納税 富裕層の節税策なのか
 自治体が寄付を募ろうとするあまり、返礼品をめぐる過剰な競争に走る動きが収まらない。そのうえ新たな弊害も浮上している。所得が多い人ほど恩恵が増えるため、富裕層の節税に利用されているのだ。「寄付を通じてふるさとなどを応援する」という本来の趣旨を見失ってはなるまい。制度を拡充してきた安倍政権は責任をもって改善すべきだ。制度は第1次安倍政権が打ち出して08年度に始まり、ここ数年返礼品への注目が高まった。寄付額は14年度に前年度の3倍近い389億円になり、15年度はさらに1300億~1400億円に達したようだ。寄付の上限額引き上げなど制度拡充の効果も大きかったとみられる。とりわけ、富裕層にとっては上限額が増えた分、節税策として使い勝手がよくなった。寄付額から2千円を引いた分だけ所得税と住民税が軽くなるのが制度の基本だ。上限は所得が多いほど高い。世帯の家族構成にもよるが、給与年収が400万円だと上限額が2万~4万円程度に対し、2500万円の人は80万円に達する。例えば、その人が80万円を寄付しても、79万8千円が減税されて戻ってくる。寄付先の自治体からもらえる返礼品分が得となる。その金額にもよるが、減税で返礼品の取得を助けている構図だ。返礼品は高価な牛肉や魚介類が話題になることが多いが、商品券や家電・電子機器などに広がり、地元との結びつきがあいまいな例も少なくない。そうした返礼品を控えるように、総務省は自治体に通知を出したが、強制力はなく、根本的な対策になっていない。安倍政権は「地方と都市部の税収格差を縮める」「寄付集めが地方創生につながる」と利点を強調する。確かにその効果もあるが、自治体同士が税金を奪い合い、結局、国と地方に入る税収の総額を減らしている。税収が減る都市部の自治体では、保育所整備などへの影響を心配する声も出始めている。自治体間や、国と地方の財政力の格差を縮めるには、税制や予算の仕組みを見直すのが筋だ。熊本地震では被災地の自治体に見返りを求めない寄付が集まっている。こうした本来のあり方をどう広げていくか。必要な改革から逃げず、制度の弊害を是正する。そうした真摯(しんし)な姿勢を政権に望む。

<東京都の予算の使い方>
*3-1:http://www.huffingtonpost.jp/2016/09/15/toyosu-general-contractor_n_12034616.html (朝日新聞 2016年9月16日) 豊洲市場3棟の予定価格 ゼネコンに聴取後、予算が400億円増えていた
●豊洲市場3棟予定価格、ゼネコンに聴取後400億円増
 東京都の築地市場(中央区)が移転する予定の豊洲市場(江東区)の主要建物3棟の建設工事で、1回目の入札不調後、都当局が入札予定の大手ゼネコン側にヒアリングを行い、積算を事実上聞いていたことが、都幹部や受注ゼネコン幹部の証言で分かった。その後の再入札で3棟工事の予定価格が計407億円増額され、いずれも予定価格の99%超で落札された。また、受注ゼネコン幹部は「再入札前に予定価格を引き上げるから落札してほしいと都側からヒアリングとは別ルートで要請があり受け入れた、と社内で説明を受けた」とも証言した。都幹部はこうした要請を否定している。都とゼネコン側のなれ合いの中で建設費がつり上がっていた可能性が浮かび、小池百合子都知事が発足させた「市場問題プロジェクトチーム」の調査でも解明のポイントとなりそうだ。

*3-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG29H25_Z20C16A9000000/
(日経新聞 2016/9/29) 東京五輪・パラ、総費用3兆円超の恐れ 都調査チーム
 東京五輪・パラリンピックの推進体制や費用をチェックする東京都の「都政改革本部」(本部長・小池百合子知事)の調査チームは29日、大会の総費用が3兆円超となる可能性があると明らかにした。五輪の推進体制の現状について「あたかも社長と財務部長がいない会社と同じ」と指摘。ガバナンスに問題があるとして、都や組織委、日本オリンピック委員会(JOC)などを統括するトップの新設を提言した。都が整備を担当する競技施設で、ボート・カヌー会場の「海の森水上競技場」、バレーボール会場の「有明アリーナ」、水泳会場の「オリンピックアクアティクスセンター」について、過剰な座席数や大会後の活用計画の甘さを言及。コスト削減のため、整備計画の見直しを訴えた。小池知事は今後、整備計画の変更に踏み込むか、判断を迫られる。現在の計画は既に国際オリンピック委員会(IOC)の承認を得ており、大きな見直しは困難が予想される。

*3-3:http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20161107/k00/00m/040/142000c (毎日新聞 2016年11月7日) 世論調査:「既存施設で五輪」74% 「都知事支持」7割
 毎日新聞は5、6両日、全国世論調査を実施した。2020年東京五輪・パラリンピックの施設計画について「できるだけ今ある施設を利用して費用を抑えるべきだ」との回答が74%を占めた。「大会後のスポーツ振興のため計画通りつくるべきだ」は16%で、見直しを求める意見が強い。東京都の小池百合子知事を「支持する」は70%、「支持しない」は7%。小池氏支持層では「費用を抑えるべきだ」が82%に上った。国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会、政府、東京都の4者は月内にも、ボート・カヌー(スプリント)とバレーボールの会場見直しや開催費用削減策に結論を出すことになっている。9月に就任した民進党の蓮舫代表に関しては、「支持する」26%▽「支持しない」36%▽「関心がない」32%--と評価が分かれた。民進支持層では支持が7割弱に達したが、支持政党はないと答えた無党派層は「関心がない」が42%で最も多く、支持20%、不支持31%だった。対照的に、小池氏は民進支持層の8割強が支持するなど与野党を問わず支持率が高く、無党派層も59%が支持している。「小池人気」は、来年夏の都議選や次期衆院選に向けた民進党の選挙戦術に影響しそうだ。天皇陛下の生前退位について「将来の天皇も生前退位できるように制度を変えるべきだ」は66%で、「今の陛下に限り生前退位できるようにすべきだ」の18%を上回った。「制度を見直す必要はない」は5%だった。安倍内閣の支持率は9月の前回調査から2ポイント増の48%、不支持率は4ポイント減の31%。主な政党支持率は自民32%▽民進9%▽公明4%▽共産4%▽維新4%--などで、無党派層は34%だった。

<ふるさと納税の経済効果>
PS(2016.12.12追加):*4-1に、「ふるさと納税した人に自治体が贈る返礼品となって、地元の生産者や加工業者の認知度が上がり、リピーターの獲得に繋がって地元を潤している」という記事があるが、これがふるさと納税の経済効果だ。また、自治体と地元産業が知恵を寄せ合って地元の魅力を探せば、地元産品の長所を再発見することになる。なお、自治体の返礼品に選ばれるか否かは地元生産者の岐路になってしまうかもしれないが、その点は次の工夫をすればよいだろう。また、ふるさと納税で得た資金の使途が教育の充実や介護、21世紀型の街づくりなら、寄付した人も満足だ。このように、ふるさと納税は使途を指定できることも魅力だ。
 一方で、*4-2は、「①久留米市の『ふるさと納税』が好調で、2015年度は全国の自治体で13番目に多い17億5942万円の寄付を集め、本年度も15年度を上回るペースで推移している」「②急増した理由はふるさと納税のやりやすさに加え返礼品の充実」「③市は中古市場に出回る恐れがあるゴルフクラブや高価な久留米絣の反物などを取りやめた」「④市総務課は『応援より返礼品目当ての人もいるのでは』とみている」「⑤返礼品は、もつ鍋セットやブリヂストンのゴルフボールなどが人気」「⑥久留米大経済学部の大矢野栄次教授は『勝ち残る自治体は良いが、それ以外は見捨てられる。地方交付税を減らしたい国が地方を切り捨てる政策』と指摘し、急増する寄付についても寄付が続くとは限らない。不安定な財源が増えても喜べない」と話したとしている。
 このうち、①②は尤もだが、③⑤は、特産品が農林漁業製品ではなく工業製品の地域もあるため、久留米絣(私も持っているが、とてもよい)やゴルフクラブを応援する人がいてもよいし、もつ鍋セットやブリヂストンのゴルフボールが欲しい人がいてもよい。それを、④のように言うようでは、久留米市にふるさと納税してくれた人に対して感謝の気持ちが足りず失礼であるため、すぐ負け組に移動することになるだろう。さらに、⑥については、私がふるさと納税制度を提案した人なので明確に言えるのだが、地方交付税を減らしたい国が地方を切り捨てるために創った制度ではなく地方を応援するために創った制度であり、地方交付税の増減とは関係ない。なお、久留米大学がある久留米市なら、使途に「久留米大学生命科学研究所の充実」「久留米大学がんセンターや救急医療センターの充実」などを加えたり、その返礼品に「家族の久留米大学医学部付属病院への優先入院券」を加えたりすれば、周辺地域からのふるさと納税も増えるだろう。そして、地方も、ふるさと納税にかかわらず、財源の関係で次第に減らされるであろう地方交付税を待っているだけではなく、小さくてもそれぞれのエンジンを持つようにしてもらいたいのだ。

*4-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161210&ng=DGKKASDJ01H1L_Q6A211C1MM0000 (日経新聞 2016.12.10) ふるさと納税 潤い第2幕、返礼品目的→自ら購入 特産品に新たな顧客
 ふるさと納税が地元の生産者や加工業者を潤している。寄付をした人に自治体が贈る返礼品として認知度が上がり、リピーターの獲得につながっている。返礼品は自治体がまとめて買い取るため、経営も安定しやすい。確定申告の関係で寄付の申し込みが増える年末に向けて、産地は準備に追われている。宮崎県都城市で食肉加工卸売を手がける野上食品は、ブランド牛の宮崎牛で作ったローストビーフなどを返礼品として市に提供している。同社のインターネット通販の売上高は、返礼品採用前に比べて5割増えた。「返礼品に選んだ人がリピーターとして買っている」(野上幸平代表取締役)。畜産が盛んな都城市は宮崎牛や地元産鶏肉の加工品を返礼品にそろえる。2015年度は全国で最も多い42億円の寄付を集めた。市によると、市内の畜産農家が年間に出荷する宮崎牛約4000頭のうち、返礼品向けは1割に達する。農家や加工業者にとって大きな収入源となっている。ふるさと納税制度は08年度に始まった。好きな自治体を選んで寄付すると、所得税と住民税の控除を受けられる。寄付金を集めたい自治体が返礼品の豪華さを競い合った結果、15年度に全国の自治体が受け入れた寄付金は1653億円と10年度の16倍に膨らんだ。ふるさと納税はいつでも申し込めるが、確定申告の関係で年末に申し込みが増える傾向にある。売れる時期が春や夏に限られやすい商品は、自治体による返礼品用の買い取りが出荷量の安定につながっている。養殖ウナギの産地、鹿児島県大崎町のおおさき町鰻(うなぎ)加工組合はウナギかば焼きの製造を手がける。横田信久社長は返礼品に採用されたことで「土用の丑(うし)の日前後だけでなく、冬にも売れるようになって助かる」と話す。受け入れ額3位の山形県天童市はモモやラ・フランス、サクランボといった果物が返礼品。15年度は前年度比4倍の32億円の寄付額を集めた。同市の15年度の一般会計は243億円で、ふるさと納税の存在感は大きい。自治体の返礼品競争が激しさを増し、受け入れ額の半分以上を返礼品に使う自治体もある。受け入れ額2位の静岡県焼津市は「特産品の認知度向上を地元の産業振興につなげることが重要」と話す。ふるさと納税のポータルサイトを運営するトラストバンク(東京・渋谷)は「寄付金活用に明確な計画がある自治体は寄付額が多い」と指摘する。

*4-2::http://qbiz.jp/article/99827/1/ (西日本新聞 2016年12月11日) 前年度の52倍! 福岡・久留米市のふるさと納税、15年度は17億円で全国13番目に浮上した理由
 福岡県久留米市の「ふるさと納税」が好調だ。2015年度は全国の自治体で13番目に多い17億5942万円の寄付を集め、本年度も15年度を上回るペースで推移している。ふるさと納税を後押しする国の税制改正に合わせ、市が寄付者の利便性を高めたことが奏功しているようだが、故郷や地方を応援しようという本来の趣旨とは外れた状況もうかがえる。市への寄付は、ふるさと納税が始まった08年度以降、しばらく横ばいだったが、15年度は前年度の約52倍に急増した。市は15年度当初、年1億円の寄付を想定していたが、4月の受け付け開始から半月で達成。返礼品の購入や発送にかかる費用を追加するため、補正予算を3回組んで対応した。15年度の全国の寄付額は、前年度比4・3倍の1653億円で、市は全国平均の伸びを大幅に超えた。なぜ15年度に急増したのか。国の税制改正で税控除が受けられる寄付の上限額が2倍に増えたことや、給与所得者の確定申告が不要になったことが背景にある。さらに市独自に(1)ポイント制(2千円ごとに1ポイント)を導入して年1回だった返礼品の受け取りがポイントの範囲内なら何度でも可能になった(2)ふるさと納税の大手サイトと提携して数日かかっていたクレジットカード決済が即日可能になった(3)14年度に28点だった返礼品を104点(今年11月時点で320点)まで充実させた−といった利便性向上やサービス拡充に取り組み、税制改正と相乗効果を生んだ。ただ、ふるさと納税は自治体間の返礼品競争の様相だ。総務省は、具体例を示して換金性や資産性が高い返礼品の自粛を求めており、市は、中古市場に出回る恐れがあるゴルフクラブや100ポイント(20万円相当)以上が必要な久留米絣(がすり)の反物など十数点を今年8月で取りやめた。市が15年度の寄付者に市との関わりを聞いたところ、ふるさと納税がきっかけで知った人が最多の35・2%に上った。市出身者(2・7%)、親族・知人がいる(6・4%)などの割合は低く、市総務課は「応援より返礼品目当ての人もいるのでは」とみている。本年度の寄付は、11月20日時点で前年同期比1・1倍に当たる10億9747万円。返礼品は、もつ鍋セットやブリヂストンのゴルフボールなどが人気という。年明けの確定申告に向けて、11、12月に寄付が集中する傾向にあり、市は本年度の寄付を15年度並みの18億円と想定している。総務省の集計によると、筑後地区12市町の15年度の寄付は大きな開きがある=表。久留米大経済学部の大矢野栄次教授は「勝ち残る自治体は良いが、それ以外は見捨てられる。地方交付税を減らしたい国が地方を切り捨てる政策」と指摘し、急増する寄付についても「寄付が続くとは限らない。不安定な財源が増えても喜べない」と話した。


PS(2016年12月16日追加):*5-1の上峰町の2015年ふるさと納税受入額は、上の表では全国9位、佐賀県1位の19億円以上であるため、そのために努力した人の実績は評価され、ボーナスに加算されるべきだろう。なお、地方議員の政務活動費が全国的に問題になっているが、これは架空の政務活動費を計上したのが問題なのであり、実際に政務で使った出張費や調査費は請求できるシステムにしておかなければ議員のまともな活動も阻害される。そのため、費用として計上する基準とその真偽が重要なのだ。そこで、地方議員の収支報告書や使途報告書も、国会議員と同様、監査を義務付けるのがよい。
 また、*5-2のように、多久市、嬉野市、白石町の議会が、12月15日、地方議員の厚生年金制度への加入を求める意見書を全会一致で可決し、太良、大町、基山町議会も既に可決していて、佐賀市を除く他の市町や県議会でも12月議会で採決する動きがあるそうだ。私は、「議員はボランティアでやる仕事だ」などとして他の職業より待遇を悪くしていれば、普通の仕事を辞めて議員になる人はいなくなり、議員は金持ちや特殊な家系の人ばかりになるため、少なくとも他と同レベルの待遇にすべきだと考える。私が考える議員の他と同レベルの待遇とは、その不安定性をカバーする高さの報酬と厚生年金への加入だ。

*5-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/386911 (佐賀新聞 2016年12月16日) 上峰町にふるさと納税寄付者から非難相次ぐ、議員が手当復活議案を提出
 佐賀県三養基郡上峰町議会で、町の財政改善を理由に議員への費用弁償支給を再開させる議案を議員が提出したことに対し、ふるさと納税で町に寄付した人たちから「全国の善意を(議員が)自分の懐に入れるのは納得できない」などと苦情が相次いでいる。寄付が増える12月の繁忙期に生じた思わぬ事態に、武広勇平町長は15日、急きょ記者会見を開き、「ふるさと納税が費用弁償に充当されることはない」と“火消し”に躍起になっている。町によると、15日午後1時現在でメールや電話、町公式フェイスブックを通じ批判的な内容が計39件寄せられた。「ふるさと納税が高額集まったことで、議員の手当復活の議題が出ていることに心底驚きと嫌悪感を感じた」「寄付を返還してほしい」「議案が可決されるようであれば、納税したことを後悔する」などだった。寄付取り下げも2件計2万5千円あった。武広町長は会見で「ふるさと納税は使途が決まった寄付。寄付者の意向を尊重すべきで、それを背景にした費用弁償の復活ということであれば、町の長として予算措置は一切しない」と強調した。その上で「改正案も議員の方々の良心に基づいて、賢明な判断がなされると思う」と述べた。提出議員は「ふるさと納税を受けての提案ではない」と説明している。ふるさと納税による寄付は昨年度9万1531件、20億6178万円。本年度も11月末現在、12万3764件、20億2743万円に上る。費用弁償に関する条例改正案は16日に採決されるが、取り下げも視野に議員間で協議が進んでいる。

*5-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/386955
(佐賀新聞 2016年12月16日) 「地方議員を厚生年金に」3市町、意見書可決
 多久市、嬉野市、白石町の各議会は15日、地方議員の厚生年金制度への加入を求める意見書を全会一致で可決した。首相ら関係閣僚や衆参両院議長宛てに送付する。同様の意見書は太良、大町、基山町議会も既に可決、佐賀市を除く他市町や県議会でも12月議会で採決する動きがある。意見書は、市町村議員選への立候補者が減少し、無投票当選が増加するなど、住民の関心の低下や地方議員のなり手不足の問題を指摘。議員の年金制度を時代にふさわしいものにすることが、新たな人材確保につながるとして、厚生年金加入の法整備を早急に実現するよう求めている。地方議員の年金制度は、市町村の「平成の大合併」で地方議会の議員数が激減し、積立金不足が顕著になったため2011年6月に廃止された。国民年金になり、若手ら議員の中には「将来が不安」という声もある。


PS(2017年2月4日追加):*6のように、佐賀県三養基郡上峰町が、ふるさと納税効果で総額109億2,669万円に上る2017年度一般会計当初予算案を発表できたのは、町全体の努力の賜物だ。これに対して、東京などの負け組からふるさと納税の返礼品に対する苦情があるのは、ありあまるほどの人材と資源があるのに努力もせず、無駄遣いばかりしてきた地域のやっかみであるため、気にする必要はない。何故なら、機会は均等に与えられ、本来は、人材や資源の多い地域の方が有利だからである。
 しかし、寄付をいったん基金に積む際と、返礼品の経費や寄付者の意向に沿った事業の経費を基金から繰り入れる際の2度にわたって歳入に計上するとわかりにくくなるため、ふるさと納税が基金に積まれるのであれば、それに関連する支出も基金から行う方がよいと考える。そうすれば、返礼品も含めたふるさと納税の収支が明らかになるとともに、ふるさと納税収入によって新たに支出できるようになった金額(教育・社会保障・その他)が、一見して明らかになるからだ。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/402127
(佐賀新聞 2017年2月4日) 上峰町、ふるさと納税 当初予算、初の100億円超
■2年前の3倍近く
 三養基郡上峰町は3日、ふるさと納税の好調を受け総額109億2669万円に上る2017年度一般会計当初予算案を発表した。3月に町長選を控えた骨格予算ながら前年度と比べ24億円、28・4%伸び、当初予算では初めて100億円を超えた。町は「全国からの善意はありがたい。財政健全化や住民サービスの向上につなげたい」と話す。上峰町のふるさと納税は15年9月に返礼品を拡充後、寄付者が急増した。16年度は昨年末現在で24万7600件、41億8586万円と全国の自治体でも上位に入る。16年度の歳入決算は137億円に達する予定。17年度も約40億円を見込んでおり、町長選後の補正で百数十億円になる見通し。ふるさと納税に「本格参入」する前の15年度当初予算は37億1660万円で、2年前に比べ約3倍の予算規模になる。予算の膨脹は寄付の会計処理に伴う部分もある。寄付をいったん基金に積む際と、返礼品の経費や寄付者の意向に沿った事業の経費を基金から繰り入れる際の2度、歳入に計上されるため。当初予算案には、12月補正予算案で否決された学校給食費を無料化する経費4200万円を新規事業で盛り込んだ。町税は前年度比1%増の13億6683万円、自主財源比率は8・2ポイント増の81・6%と予測する。地方交付税は1・2%減の8億8904万円、国庫支出金は26・6%減の4億5425万円。町債発行は11・7%増の1億7087万円、公債費は前年度並みの4億1319万円。17年度末の町債残高は34億3300万円、16年度末の基金残高は5億5400万円を見込む。定例議会は10日に開会し、ふるさと納税関連経費や米多浮立会場周辺用地購入費などを含む35億2984万円の補正予算案も提案する。県内10町のうち100億円を超える予算規模(16年度当初)は人口2万人以上の白石、みやきの2町。上峰町は人口約9600人。

| まちづくりと地域振興::2015.5~ | 10:20 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.11.15 農業たたきの“農業改革”では、国民も国益も守れないこと (2016年11月16、17、22、26日に追加あり)

    2016.6.30     2015.11.11  大規模化による生産性向上 オ二ヒトデの肥料への活用        
    西日本新聞      毎日新聞     2016.8.30佐賀新聞     2016.6.18農業新聞

I.TPPの推進とそれに反対する者への反グローバル、ポピュリズムという烙印の不適格性
(1)トランプ氏の勝利、環太平洋連携協定(以下、TPP)、日本の反グローバル報道
1)トランプ氏の勝利とTPP
 *1-1のように、次期大統領に就任するトランプ氏がTPP脱退の意向を表明しているため、米政府が来年1月までのオバマ大統領の任期内にTPPの議会承認を獲得することを断念したそうだ。TPPは米国議会が承認しなければ発効せず、日本も政策の見直しを迫られるので、アメリカでのトランプ氏の勝利によって、政府が馬鹿な政策を進めてきた日本も救われそうで、情けない話だ。

2)的外れな“反グローバル”報道
 *1-2のように、日経新聞は「①米英の展開は、アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート主義に庶民が募らせる不満の表れ」「②活発な競争を通じた新自由主義や多国間自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定することが有権者の心をつかむ」「③反グローバルを唱えて票を稼ぐ模範例ができ、大衆迎合主義(ポピュリズム)を武器とする政党が勢いづいた」「④人々を扇動するポピュリズムは、西側の至る所で憂慮すべき事態になった」「⑤保護主義を強引に進めていくだけでは、経済繁栄や生活充実への解にならない」と書いており、TPP反対やEU離脱を反グローバル化、保護主義、ポピュリズムと決めつけており、これはTPP推進派の論拠になっているものの、事実を直視していない指摘だ。

 まず、①の「アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート主義」というのは、日本独特の、事実に基づかないエリート批判だ。何故なら、アングロサクソンだけでなく、ラテン系(フランス、スペイン)もユダヤ人、中国人もずっと昔からグローバル化して世界に広がっていることは誰もが知るところだからだ。そして、ここで言っている現代のグローバル化は、(私は公認会計士・税理士としてそれらの国の日本に進出した企業の監査や税務を担当していたため知っているのだが)1980年代から本格的に進められており、その頃の日本は、それらの国の日本進出に消極的で保護主義だった。

 また、②については、EUやアメリカが多国間自由経済圏を作った結果、物価水準と賃金が低い国の労働者に負けて失業した先進国の労働者が不満を募らせたもので、この路線の失敗は、先進国の労働者を吸収できる現代産業を育成しなかったことや連携が規制・制度・産業政策・移民の受入・戦争開始・財政などの国家主権に関わることにまで行きすぎたことが原因で、自由貿易が否定されたわけではない。

 そのため、有権者の心を掴んだ主張を③のようにポピュリズムと決めつけ、④のようにポピュリズムは人々を扇動する憂慮すべき事態だと吹聴するのは、少数の行政官による“エリート”の判断が、行政官よりもそれぞれの分野で百戦錬磨したいろいろな専門家を含んでいる“民衆”の判断よりも絶対に正しく、遅れた行政におんぶにだっこされた政治の方針に反対するのは愚かな民衆だとするもので、それこそ時代錯誤の誤ったエリート主義なのである。

 なお、⑤について、保護主義を強引に進めていくだけでは経済繁栄や生活充実への解にならないのは事実だが、今後の産業政策を考えていない(つまり国益を考えていない)大雑把な自由化で国内産業をいためつけるのが経済繁栄や国民生活の充実に繋がることはないため、「自由貿易=日本の発展」という日本が開発途上国だった時代の古くて単純なフレーズを繰り返すのではなく、目的・手段・結果をきちんと調査して検証すべきである。

3)TPPを推進しているのは日本だった
 TPPの発効に不可欠な米国の批准が困難になった中、*1-3、*2-4のように、TPP承認案と関連法案が2016年11月10日に衆院本会議で自民党・公明党・日本維新の会の賛成多数で可決された。数の上では賛成多数で必ず決議されるため、反対する党は退席したり、山本農相の発言を問題視して不信任決議案を提出したりすることくらいしかできない。これが、ねじれのない“決められる政治”の実態だ。

 また、与党と日本維新の会が「自由で公正な開かれた経済の枠組みを作ることは、わが国の大きな使命であり、核となるのがTPPだ」としたことで、TPPを積極的に推進しているのは日本だということが明らかになった。そのため、結果が日本の一人負けになるTPPの交渉過程は見せられず、TPP協定の日本語訳も作らせず、TPP承認案とその関連法案に関する丁寧な議論もしない状態にしているのだろう。

(2)日本の市民と日本政府
 日本では、*2-1のように、生産者や市民の声が政治に届いていない。「自由貿易=日本の発展」という単純なフレーズを繰り返すだけの答弁には意味がなく、農業・食の安全・国民皆保険制度の維持・ISD条項などへの不安は拭えない。政府はTPPが発効すれば輸出拡大できると主張し、農業を成長産業として農産物の輸出にてこ入れするそうだが、そのようなことはTPPがなくてもやればよく、TPPは農業や暮らしに大きな影響を与えるため、地方にとっては死活問題なのだ。そのため、佐賀市議会が会期中の臨時国会でTPPを批准しないよう求める意見書を全会一致で採択しているのは妥当である。

 また、*2-2のように、福岡県農業総合対策協議会やJAグループ福岡、福岡県農政連は10月29日に、TPP断固反対を訴える集会を福岡市で開いている。

 なお、*2-3のように、水産物の8割で関税が撤廃されるそうだが、南北に広い海洋を持つ日本は水産業には有利で、養殖や加工・運搬技術を高めれば、TPPがなくても水産加工品の輸出で稼ぐことは十分に可能だと、私は考えている。

II.農協破壊の農協改革は農業に役立たないこと
(1)「金融」地域農協半減等の改革は正しいか
 *3-1、*3-2、*3-3のように、政府の規制改革推進会議農業部会が、地域農協が農産物販売などに専念できるよう「金融」地域農協を半減して農産物の販促に専念し、肥料・農薬の販売事業を縮小することを促しているそうだが、これこそ「いらん世話」であり、政府が大雑把な実態把握で民間の経営に関与することこそ最も経営の失敗に繋がりやすいのである。そのため、*3-4のように、民間の独立組織である全農改革に素人の不当な経営介入を許すなという主張は正しい。

 また、貯金の受け入れや金の貸し付けをする金融事業を手がける地域農協を3年以内に半減させ、地域農協の金融事業をJAグループの農林中央金庫に譲渡して、農林中金の代理店が金融サービスを維持する仕組みは、地域の金が中央に吸い上げられて無駄に使われ、その地域の農業に再投資されなくなる恐れが大きいのが問題であるため、この点には特に注意すべきだ。農林中央金庫は、(私も驚いたのだが)一般金融機関と一緒にアメリカのサブプライムローンに協調融資してリーマンショックで大損し、アメリカでは所有者が変わっても建てられた家が残ったが、日本の預金者は損だけしたものである。

(2)本当に必要な改革は・・
 本当に必要な改革は、農協、全農、会員農家の立場に立ち、消費者や国益も考慮して行われたアドバイスに基づいて経営主体が行う改革であり、そのためには地域によって異なる気候、地形、農産物、耕畜水産連携の可能性などを調査して現存するものをできるだけ活かしながら、さらなる生産性の向上や付加価値の向上を図ることが必要なのである。私は、やればそのアドバイスはできるが、現在はそれぞれの地域の農業を知る立場にないため、これ以上に詳しいアドバイスはできないわけだ。

<トランプ勝利、TPP、日本の報道>
*1-1:http://qbiz.jp/article/98002/1/ (西日本新聞 2016年11月12日) 「オバマ氏TPP断念」米紙報道
 米政府が来年1月までのオバマ大統領の任期内に環太平洋連携協定(TPP)の議会承認獲得を断念したと、複数の米紙が11日、報じた。次期大統領に就任するトランプ氏はTPP脱退の意向を表明しており、方針転換がない限り協定発効は絶望的だ。アディエモ米大統領副補佐官も11日、TPPについて「議会が次期大統領と協議する課題だと考えているのは承知している」として、任期内の議会承認が困難だとの認識を示した。TPPは参加12カ国で最も経済規模が大きい米国の議会が承認しなければ発効しない。米国と共にTPPを主導した安倍政権は通商政策の見直しを迫られそうだ。報道では、米議会の共和、民主両党首脳部が承認手続きを進める意向はないと政権側に伝えたとしている。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161111&ng=DGKKASGM10H6Z_Q6A111C1MM8000 (日経新聞 2016.11.11)反グローバル 解なき拡散 編集委員 菅野幹雄
 米国と英国という、世界を代表する2つの民主主義国が、半年で次々と既存秩序をぶち壊した。
 「再び偉大な米国を」(Make America great again)。トランプ米次期大統領の合言葉は6月の英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が使った「再び偉大な英国を」とうり二つ。どちらも世論調査機関や市場は有権者の変革への意思を全く読み誤っていた。写し絵のような米英の展開は、アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート(支配層)主義に庶民が募らせる不満の表れだ。国家や市場を分ける壁を取り、貿易や人の流れを自由にしても繁栄の果実は届いていない。むしろ激しい競争で職や生活に不安が増し、米国人の8割は所得水準が金融危機前を下回るとされる。活発な競争を通じた新自由主義や多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定することが有権者の心をつかむ。トランプ氏のもと日本を含む環太平洋経済連携協定(TPP)や米・EUの環大西洋貿易投資協定(TTIP)の実現は極めて難しくなった。反グローバルを唱えて票を稼ぐという模範例ができ、大衆迎合主義(ポピュリズム)を武器とする政党が勢いづく。フランスの極右、国民戦線のルペン党首は「米大統領選は自由の勝利。我々も自由を阻むシステムを打ち壊そう」と2017年春の仏大統領選に向けて既存政党との対抗姿勢をむき出しにした。英国に続く離反を避けたい欧州の周辺国は気が気でない。「人々を扇動するポピュリズムは、米国だけでなく西側の至る所で憂慮すべき事態になった」とドイツのショイブレ財務相は指摘する。来年の欧州は仏大統領選とオランダ、ドイツの総選挙が重なる選挙の当たり年だ。トランプ氏が大統領として剛腕を発揮するほど、反EUの機運は高まりかねない。世界経済を支える貿易の停滞に国際通貨基金(IMF)などの危機感も強い。反グローバル化を叫ぶ勢力の伸長は止まりそうにないが、それを唱え、保護主義を強引に進めていくだけでは、経済の繁栄や生活の充実への解になり得ないのは明らかだ。「偏狭なナショナリズム(国家主義)の乱立になりかねない」。中前国際経済研究所の中前忠代表は危惧する。グローバル化や市場主義に背を向けるのでなく生じたひずみをどう直していくのか。「グローバル化に代わる選択肢はない。もっと人間的な形に変えていく努力こそが必要だ」。仏モンテーニュ研究所のドミニク・モイジ首席顧問は過剰な不平等の解消など具体的な政策の明示を呼びかける。有権者の怒りを踏み台にのし上がったトランプ氏も、これから彼らを納得させる答えを示さねばならない。日本、欧州も新興国の首脳にも、反グローバル化のうねりを抑える賢明で繊細な政策選択が問われる。トランプ・ショックを生んだ背景を正視すべき時だ。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p39418.html (日本農業新聞 2016年11月11日) TPP衆院通過 政府・与党 批准に執念
 環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案は10日の衆院本会議で、与党と日本維新の会の賛成多数で可決された。民進党など3野党は抗議して退席した。政府・与党は承認を確実にするため、今月30日までの会期を延長する方針。議案は参院に送付され、今国会で承認される可能性が高まった。TPPの発効に不可欠な米国の批准が困難になる中、日本は国内手続きを急いだ。TPPの国民の懸念や疑問が解消されたとは言い難い状況だ。討論では、自民党と日本維新の会が、TPP承認案と関連法案に賛成の立場から「自由で公正な開かれた経済の枠組みを作ることは、わが国の大きな使命であり、核となるのがTPPだ」と訴えた。これに対し、民進、共産など野党は「トランプ氏が明確に反対しているにも関わらず、採決を行うのは、世界の笑い者になる」として反対を表明し、その後の採決で退席した。民進党の山井和則国対委員長は記者団に「十分な審議が行われたとは思っていない」と採決に抗議した。承認案は衆院通過から30日以内に参院が議決しない場合、12月9日に自動的に成立する。TPP承認を確実にするため、会期延長幅は同10日ごろまでとする案が検討されているほか、年金制度改革法案などの処理も念頭に同28日ごろまでの延長案も取り沙汰されている。今後、与野党間での攻防が予想される。参院は11日に審議入りする見通し。衆院TPP特別委員会での審議時間は約70時間。農業分野の合意内容など国会決議の検証も一定程度行われたが、新たに浮上した輸入米価格偽装問題では、国産米への影響はないとする政府と野党との間で議論はかみ合わなかった。TPP対策など今後の農業政策の議論は深まっていない。一方、TPPの発効に不可欠となる米国では、TPP脱退を主張するトランプ氏が大統領選で勝利。議会幹部も年内のTPP採決を否定しており、同国の承認はますます不透明になっている。TPP承認案の採決に先立ち、民進、共産など野党4党は、山本有二農相の一連の発言を問題視して農相の不信任決議案を提出したが、否決された。

<日本の市民と日本政府>
*2-1:https://www.agrinews.co.jp/p39314.html (日本農業新聞 2016年10月29日) TPP審議不十分 農家、市民の声を聞け
 生産者、市民の声が政治に届いているのか。環太平洋連携協定(TPP)承認を巡って農業、食への不安や危機感は拭えないままだ。十分な審議が尽くされたとは言い難い。政府の説明責任と情報開示なしで強行する国会運営は、到底許されない。地方の声に耳を傾け、納得のいく答弁をすべきである。政府・与党が結論を急ぐ正当な理由はあるのか。今週開いた地方公聴会、参考人質疑からは慎重な審議や対策を求める意見が相次いだ。性急に採決を進める姿勢は、国民を置き去りにした政治にほかならない。衆院TPP特別委員会が26日に北海道、宮崎県で開いた地方公聴会ではTPPの合意内容と国会決議との整合性を問う声が続いた。国会決議に盛り込んだ重要5品目は関税撤廃も含め無傷のものはない。北海道会場では農民組織代表が「TPP断固反対とした自民党公約や重要農産品の除外を求めた国会決議に著しく反する」と述べている。政府はTPPが発効すれば輸出拡大が期待できると主張してきた。農業を成長産業とし、農産物輸出をてこ入れする。宮崎会場では政府の「攻めの農業」に異論が出た。和牛繁殖農家は「中山間地では攻めるよりも守っていかなければならないことの方が多い」と訴え、現場との温度差は大きい。TPPは農業、暮らしに大きな影響を与える。地方にとっては死活問題だ。危機感を持って各地のJAグループはTPP勉強会や集会、要請活動を展開している。大筋合意の内容や影響、国会決議との整合性などについて十分な説明責任と情報開示を要望するものだ。佐賀市議会は会期中の臨時国会でTPPを批准しないよう求める意見書を全会一致で採択している。TPPが発効すれば地域の農業・関連産業に深刻な影響が及び、地方の疲弊がさらに進むとの懸念からだ。JA福岡県青年部協議会はTPP断固反対の特別決議を採択した。農家、市民の不安は払拭(ふっしょく)されていない。安倍晋三首相は今国会の所信表明演説で早期承認に決意を示した。その意をくんでか強行採決発言が飛び出し、国会は一時空転した。「安倍1強」体制のおごりとも言える。国民が求める真摯(しんし)な姿勢に逆行する。今国会での地方公聴会は全国でわずか2カ所にすぎない。形だけ国民の意見を聞いたと、採決を急ぐことがあってはならない。輸入米を巡っても、売買同時入札(SBS)米が国産よりも安価に売られている事実が明らかになり、農家の不安は一層高まっている。参考人質疑では政府の過小な影響試算、再協議による関税撤廃、食の安全が脅かされる問題が指摘された。食品添加物や遺伝子組み換え、輸入牛肉の安全性などで国内の表示や制度が後退する恐れが消費者に根強い。農相が言うように国民全員が納得できる審議を尽くすべきだ。.

*2-2:https://www.agrinews.co.jp/p39324.html
(日本農業新聞 2016年10月30日) TPP採決「待った」 650人結集 福岡集会
 環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案の審議が衆院で続く中、福岡県農業総合対策協議会やJAグループ福岡、県農政連は29日、TPP断固反対を訴える集会を福岡市で開いた。県内の農業者ら650人が参加。合意内容は、米など重要5品目の「聖域」確保を掲げた国会決議を満たしていないとして、衆院通過を急ぐ政府・与党を批判。慎重な審議の継続と協定内容の詳細を開示するよう求めた。
●審議不十分 不満の声
 県農協青年部協議会の佐々木彰委員長は「(TPP承認案の)地方公聴会は北海道と宮崎だけ。十分に国民の声を反映したといえるのか」と指摘。「継続して断固反対の声を上げ続けよう」と呼び掛けた。主催者を代表してJA福岡中央会の倉重博文会長も「なぜこんなに採決を急いでいるのか」と疑問を投げ掛けた。衆院TPP特別委員会の質疑でも、売買同時入札(SBS)米の「調整金」問題で政府・与党は質問に十分に答えていないとして、「TPPは秘密主義だ」と非難。倉重会長は承認案が衆院を通過したとしても、断固反対の姿勢で運動を続けていく考えを強調した。県農政連の林裕二委員長が、SBS米問題で政府のTPP影響試算の妥当性への不信が募っていると訴えた他、集まった農業者もTPPに対する不安や、政府・与党への不満を口にした。JAむなかた管内で稲や野菜を栽培する農業者は「TPPの影響を過少に見積もることで、割を食うのは中小の農家だ。ばたばたと倒れてしまう」と強調した。JAみなみ筑後管内の米農家も「報道を見る限りSBS米の影響がゼロとは到底思えない」と不安を訴えた。集会では、県女性協議会の中村由美会長が、TPP反対運動を団結して続けていくことを盛り込んだ特別決議を読み上げ、採択した。

*2-3:https://www.agrinews.co.jp/p39369.html (日本農業新聞 2016年11月5日) 水産物8割で関税撤廃 かつてない市場開放 TPP
 TPP承認案と関連法案が4日、衆院TPP特別委員会で可決された。農林水産物は8割で関税撤廃するなど、日本農業はかつてない市場開放を迫られることになる。TPP交渉は、米国やオーストラリアなど計8カ国が2010年に始めた。日本は当初からのメンバーではなく、安倍晋三首相が13年3月に交渉参加を表明。以降、2年余りをかけて昨年10月に大筋合意した。交渉の結果、日本は2594品目ある農林水産物のうち、2135品目(82%)で関税撤廃が決まった。国会決議で聖域とした重要5品目も29%で関税撤廃する他、関税が残る品目も税率の大幅引き下げや輸入枠の新設を受け入れた。このため、政府は輸入品の増加で国産価格が下落するなどして、農林水産物の生産額が約1300億~2100億円減少すると見込んでいる。合意内容と対策では、米は関税を維持した一方、米国とオーストラリアに7万8400トンを上限に売買同時入札(SBS)方式の特別輸入枠を新設。輸入米の影響を抑えるため政府備蓄米の運用を見直し、輸入量相当の国産米を買い入れる。牛肉は現行38.5%の関税を9%、豚肉は低価格帯にかける従量税(1キロ482円)を同50円まで大幅に引き下げる。対策として、経営安定特別対策(マルキン)の法制化と補填(ほてん)率の9割への引き上げを行う。乳製品の対策は、輸入と競合しにくい生クリーム(液状乳製品)を加工原料乳生産者補給金の対象に加えて交付することなどを決めた。

*2-4:https://www.agrinews.co.jp/p39418.html (日本農業新聞 2016年11月11日) TPP衆院通過 政府・与党 批准に執念
 環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案は10日の衆院本会議で、与党と日本維新の会の賛成多数で可決された。民進党など3野党は抗議して退席した。政府・与党は承認を確実にするため、今月30日までの会期を延長する方針。議案は参院に送付され、今国会で承認される可能性が高まった。TPPの発効に不可欠な米国の批准が困難になる中、日本は国内手続きを急いだ。TPPの国民の懸念や疑問が解消されたとは言い難い状況だ。討論では、自民党と日本維新の会が、TPP承認案と関連法案に賛成の立場から「自由で公正な開かれた経済の枠組みを作ることは、わが国の大きな使命であり、核となるのがTPPだ」と訴えた。これに対し、民進、共産など野党は「トランプ氏が明確に反対しているにも関わらず、採決を行うのは、世界の笑い者になる」として反対を表明し、その後の採決で退席した。民進党の山井和則国対委員長は記者団に「十分な審議が行われたとは思っていない」と採決に抗議した。承認案は衆院通過から30日以内に参院が議決しない場合、12月9日に自動的に成立する。TPP承認を確実にするため、会期延長幅は同10日ごろまでとする案が検討されているほか、年金制度改革法案などの処理も念頭に同28日ごろまでの延長案も取り沙汰されている。今後、与野党間での攻防が予想される。参院は11日に審議入りする見通し。衆院TPP特別委員会での審議時間は約70時間。農業分野の合意内容など国会決議の検証も一定程度行われたが、新たに浮上した輸入米価格偽装問題では、国産米への影響はないとする政府と野党との間で議論はかみ合わなかった。TPP対策など今後の農業政策の議論は深まっていない。一方、TPPの発効に不可欠となる米国では、TPP脱退を主張するトランプ氏が大統領選で勝利。議会幹部も年内のTPP採決を否定しており、同国の承認はますます不透明になっている。TPP承認案の採決に先立ち、民進、共産など野党4党は、山本有二農相の一連の発言を問題視して農相の不信任決議案を提出したが、否決された。

<農協破壊の農協改革>
*3-1:http://mainichi.jp/articles/20161112/ddm/008/010/048000c (毎日新聞 2016年11月12日) 規制改革推進会議、「金融」地域農協半減を提言 農産物販専念促す
 政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)の農業部会は11日、農業改革に関する提言をとりまとめた。貯金の受け入れやお金の貸し付けをする金融事業を手がける地域農協を、3年以内に半減させることを新たに求めた。農家の所得増に向け、地域農協が農産物販売などに専念できるようにする狙いがある。規制改革推進会議はこれまでに、全国農業協同組合連合会(JA全農)が肥料や農薬を調達して農家に販売する事業を縮小することなどを打ち出している。金融事業の縮小も迫ることで、JAグループの経営資源を農産物販売に集中し、農家の所得引き上げにつなげる体制を促す。具体的には、地域農協の金融事業をJAグループの農林中央金庫に譲渡し、農林中金の代理店が金融サービスを維持する。地域農協は業務負担が軽減される。また、全農には、農家から手数料を得て農産物を販売することを1年以内にとりやめ、全量を買い取ったうえで販売することも新たに求めた。JAが在庫を抱えるリスクを取って販売することで、より高いリターンを得る狙いがある。これらの改革が進まない場合は、国がJA全農に代わる「第二全農」の設立を推進すべきだとも明記し、JAに真剣に取り組むよう迫った。政府、与党はこの提言を受け、月内にも農業改革案をとりまとめる方針だ。だが、自主的に改革を進めているJA側の反発は必至だ。JA全農などJAグループ4団体は11日、「(改革には)現実的ではない事業・組織の見直しを強制されないことが大前提」とのコメントを出した。自民党農林族幹部も「(互いに助け合う)協同組合組織の否定につながりかねない」などと指摘している。

*3-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/375759
(佐賀新聞 2016年11月11日) 全農改革、1年以内に刷新を、資材縮小、農産物の販売強化
 政府の規制改革推進会議の農業ワーキング・グループは11日、全国農業協同組合連合会(JA全農)に今後1年以内に組織や事業を刷新するよう求める提言を取りまとめた。農薬などの生産資材を農家に販売する事業は、人員の配置転換や関連部門の売却で大幅に縮小する一方、農家が生産した農産物の販売体制について流通業者の買収も含めて強化するよう求めた。このほか年限は示していないが、役職員の報酬や給与の水準を公表して農業所得の動向に合わせることも促した。改革が不徹底なら「第二全農」のような新組織の設立を国が推進すべきだとも指摘した。

*3-3:https://www.agrinews.co.jp/p39392.html (日本農業新聞 2016年11月8日) 全農 購買抜本見直し 少数精鋭の新組織に 規制改革推進会議方針
 政府の規制改革推進会議は7日、JA全農と指定生乳生産者団体(指定団体)制度の改革方針を決めた。全農の生産資材の購買について、手数料を得る事業方式を抜本的に見直し、農家らの安値仕入れを支援する少数精鋭組織になるよう要求。指定団体では生乳の全量委託の原則廃止などを打ち出した。今後、方針の具体化を図り、週内にも提言にまとめる。改革方針は同日の会議で、農業ワーキンググループの金丸恭文座長が示し決定した。安倍晋三首相は会合で、全農改革は農業の構造改革の試金石だとし、「新しい組織に生まれ変わるつもりで事業方式、組織体制を刷新してほしい」と要請。指定団体制度では「酪農家が販路を自由に選び、流通コスト削減と所得の向上が図れる公平な事業環境に変える」と強調した。この二つの改革について「私が責任を持って実行していく」と強い意欲を示した。同会議は、改革方針で全農に「農業者の協同組織の原点」に立ち返るよう求め、懸案となっていた株式会社化には言及しなかった。一方、生産資材の購買では組織の抜本改革を要求。「資材メーカーの販売代理とも見られる購買組織は縮小」すべきだとし、メーカーと安値交渉で徹底的に対峙(たいじ)するよう求めた。その上で、農家やJAの安値での資材調達を支援する「少数精鋭の新組織」への見直しを提起。全農は「仕入れ販売契約の当事者にならない」とし、JAへの資材の供給時に販売手数料を得る方式をやめるべきだとした。新組織は、国内外の資材の情報を収集・分析し、JAや農家により有利な資材の仕入れ先を提案するなどの機能を果たす。手数料ではなく、新組織が機能に応じた対価を得るべきとの考えだ。販売事業は、実需者への直接販売の拡大や買い取り販売への転換、輸出の促進などで強化するよう提起した。金丸座長は同日の会見で、改革方針を全農が拒否することは「全く想定していない」と述べ、方針に沿った改革の具体化を迫った。

*3-4:https://www.agrinews.co.jp/p39429.html
(日本農業新聞 2016年11月12日) 急進的全農改革 不当な経営介入許すな
 政府の規制改革推進会議がJA全農やJA経営に踏み込んだ改革案を示した。焦点の全農改革は1年以内に委託販売を廃止し全量買い取り販売へ転換、JA信用事業は代理店化を進めるなど、全農経済事業やJA信用事業の機能と役割を無視した極めて不当な内容だ。これは協同組合的事業方式の否定で、民間独立組織への経営介入であり、断じて許されない。協同組合の原点は自主・自立であり、改革は組合員である農業者の合意による自己改革が基本だ。だが今回示された全農改革に関する意見は「メーカーなどへの事業譲渡を進め、1年以内に新組織に移行」「委託販売を1年以内に全量買い取り販売に」などと細部にわたる。言うまでもなく全農の目的は、経済的に弱い立場にある個々の農家が「協同組合」に結集することで、価格交渉力を高め、農家組合員の所得向上と国民への食料の安定供給を図ることである。生産資材事業の取り扱いから実質的に手を引くというのは経済活動からの撤退を意味し、長年積み上げてきた共同経済行為を否定するもので、全農の経営を立ち行かなくする恐れが強い。現在自民党の農林水産業骨太方針策定プロジェクトチームは生産資材価格の引き下げで議論を重ねている。その中で全農は着実に事業見直しを実践している。提言はそうした議論を逸脱するもので到底納得できない。委託販売から買い取り販売への転換については、既に自己改革の一環としてマーケットイン(需要に応じた生産・販売)に基づく生産・販売事業方式への転換を進めている。米で言えば、自己改革の具体策として今秋打ち出した「魅力増す農業・農村の実現に向けたJAグループの取り組みと提案」でも事前契約取引の一層の推進を明記した。業務用実需者と産地の結び付きを強め、ニーズに合った品種を導入しているケースもある。事業転換を迫られる正当な理由があるのか。信用事業の譲渡については2年前の農協改革議論で、代理店化によるサービスの低下を危惧する声や、信用事業収益の減少により営農事業の財源が少なくなり地域農業の担い手や産地の活性化に結び付かないとの懸念があった。こうした経緯を踏まえ、農協改革については2014年6月の与党取りまとめがベースとなり、改正農協法に盛り込まれた。残る課題は5年間の改革集中期間で取り組むこととなった。それを踏み越えるものがあってはならない。全農は農業協同組合の民間組織であり、自主・自立の組織である。政府が介入すべきではない。JAグループはまさに農業発展や農家所得増大のため創造的自己改革に取り組み、その役割を率先して発揮している途上にある。方向性を最終的に判断するのは、組合員である農業者の合意が重要であることを肝に銘じるべきだ。


PS(2016年11月16日追加):都市より農業地帯の方が自然が美しいため、*4のようなスマートアグリが普及し、地方における教育その他の利便性が整えば、農業に参入したいと考える若者も増えるだろう。私の経験では、所得の上がっている農家には、担い手となる後継者の不足があまりなかった。


 *4より    レモンの花      みかんの花      ウメの花         蕎麦の花


レンコンの花(つまり蓮の花)   リンゴの花       ジャガイモの花        ナスの花

*4:https://www.agrinews.co.jp/p39448.html (日本農業新聞 2016年11月16日) 営農指導 一筆ごと 作物情報 地図と連動 JAグループ茨城
 JAグループ茨城は15日、地理情報システム(GIS)データを活用し、農地一筆ごとの地図情報に作物や土壌などの情報を連動させ、営農・経営指導に活用できるシステムを導入すると発表した。パソコン上で、集積状況と併せて、適切な播種(はしゅ)時期や施肥量などの情報も把握できるようになる。JAが農家や集落に対し、収益性の高い作物の作付けや低コスト技術の導入など、農地の状態に合わせた的確な営農指導ができるようになる。農家手取りの最大化、担い手育成につなげる考えだ。2018年度までに県内全域に普及させる。同日、水戸市の県JA会館で記者会見した県農協五連の加倉井豊邦会長は「農家手取りの最大化に向け、農地を最適利用できる有効なツールだ。現場を一番よく知っている農家と信頼関係のあるJAが取り組むことに意義がある」と強調した。従来は紙の地図で手作業で農地台帳などを管理してきたが、時間がかかる、地権者や担い手などが変わるごとに更新しなくてはならないなどの課題があった。新システムでは、農地情報をパソコンの地図上に落とし込むことで農地の利用状況がひと目で分かり、地図作成を大幅に省力できる。営農情報も連動させる。地図情報を活用して担い手に農地集積を提案する中で、集約した広域な農地でどの作物をいつ、どのように栽培すれば作業効率が最適になるか、手取りがどれだけ増えるのかなど、所得増大につながるアドバイスも地域実態に合わせてきめ細かにできるようになる。農業機械の有効活用にもつながる。新システムはJA全農いばらきと東京農業大学GIS研究部会が連携して開発した。地番、面積、作物などの属性を選ぶと検索できる。JAグループ茨城は、集落営農組織を含む担い手に指導するJAの人材を育成する考え。県や農業会議と連携しながら系統外の農地情報も収集し、より実態に近いシステムを構築する。先行してJA水戸、JA常陸、JAつくば市谷田部の3JAで来年3月までに稼働させる。


PS(2016年11月17日追加):みかんの花から香水をとれば柑橘系のよい香りがするため、*5-1は、ミカン畑という遺産を使うよい方法だと思う。また、一世代前のミカンは甘いだけでなく酸味もあるため、みかんジュースにした場合には現在の品種より美味しく、みかんジュース作りも放置されたミカン畑から付加価値のあるものを作る方法だろう。さらに、みかんの花だけから集めたハチミツは、ほのかに柑橘系の香りがして美味しく、私はオレンジの花からとったハチミツ(イタリア産)を継続的に食べている。ハチミツも花ごとに分けた方が花の香りがして美味しいため、リンゴやウメなどのいろいろな花からハチミツという副産物を作ることができるだろう。これは、花の咲く時期が少し違うことと蜂の飛行距離が短いことから可能なのだそうだ。さらに、既に根が張っている古いみかんの木に、新しい品種のみかん・レモン・オレンジなどを接ぎ木すれば、新しい作物が速やかにできるのではないかと考える。
 なお、長野県は、*5-2のように、2014年に蜂蜜生産量が日本一になり、ミツバチの飼育戸数や飼育群数は全国1位で、養蜂は安定した経営ができるため若い後継者や定年後に始める人も多いそうだ。確かにアカシアの蜂蜜もさっぱりしていて美味しく、私は、トチ、リンゴ、栗の蜂蜜は食べたことがないが、ドロッとした朝鮮ニンジンに似ている黒色の蕎麦の蜂蜜もあったのは驚きだった。松本市のふるさと納税の返礼品は、各種蜂蜜、ジャム、果物、味噌などの地元の名品が喜ばれると思うので、農協や商工会と相談して決めた方がよいのではないだろうか。

*5-1:http://qbiz.jp/article/98250/1/ (西日本新聞 2016年11月17日) 放置ミカン畑活用し化粧品 花から油を抽出、東京のメーカーが商品化 唐津市や玄海町
 佐賀県唐津市浜玉町で耕作放棄地になったミカン畑を活用し、花から抽出した香り成分を使った化粧品が10月中旬に全国発売され、人気を呼んでいる。開発した東京の化粧品メーカー「ビーバイ・イー」は「地元生産者と持続可能な仕組みを作り、日本発の香りを世界に届けたい」としている。ミカンの花から抽出される精油「ネロリ」は、花の香りとかんきつ類の爽やかさを併せ持ち、バラやジャスミンと並んで高級化粧品に使われる。同社は美容液や化粧水など3製品を「ネロリラボタニカ」のブランド名で各2千個製造。「癒やされる香り」と好評で、全国の百貨店など約50店でほぼ完売した。目標の3倍以上の売れ行きといい、追加生産の準備をしている。唐津・玄海地区の化粧品製造拠点化を進める産学官連携組織「ジャパン・コスメティックセンター」(JCC)が耕作放棄地の活用を模索していたところ、同社がネロリの国産を目指していることを知り、協力を申し出た。唐津市浜玉町や玄海町にある計3カ所の耕作放棄されたミカン畑を紹介。今年は所有者から無償で協力を得たが、今後は地元に利益が出るよう、生産者団体にミカン畑の管理を委託するなど対価を支払える態勢を整える方針。14日に唐津市を訪れ、地元生産者と意見交換した同社の杉谷恵美社長は「日本のアロマはまだ世界に全く出ていない。生産者も幸せになる仕組みをつくり世界の市場に出て行きたい」と話した。

*5-2:https://www.agrinews.co.jp/p38984.html (日本農業新聞 2016年9月23日) 祝 蜂蜜生産日本一 長野県で初共進会
 長野県養蜂協会は23日、蜂蜜の生産量が農水省の統計で2014年に日本一になったことを記念し、「信州はちみつ共進会」を長野県松本市で初めて開いた。本物のミツバチも登場する演出の中、糖度や色合い、風味などを厳正に採点した。同協会によると、同県はミツバチの飼育戸数や飼育群数は全国1位だったが、蜂蜜の生産量は北海道に次ぐ2位だった。今回の統計で生産量が361トンになり、初めて日本一となった。養蜂は景気に左右されず安定した経営ができるため、県内には若い後継者や定年後に始める人も多い。第1回共進会には県内各地の養蜂家46人が、108点を出品。アカシア、トチ、リンゴ、栗、百花の5部門に分けて品評した。同協会の依田清二会長は「日本一の蜂蜜県をPRして、県内の養蜂を盛り上げたい」と力を込める。


PS(2016.11.22追加):トランプ次期米大統領は、*6-2のように、当選後もTPPからの離脱を唱えているが、日経新聞は、*6-1のように、「①米国の外交戦略にとって重要」「②日本は他の通商交渉も加速しなければならない」「③中国・インドなどが参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉でも、日本が積極的な役割を果たせば米国にTPP参加を強く迫ることができる」などとしている。しかし、①②③を同時に行えば、米国だけにとって外交・防衛にプラスになるわけではないため、将来の産業政策や防衛政策も考えずに、根拠にならないことを列挙するのはいい加減にすべきだ。
 また、「④日本はニュージーランドに続き、早期発効の機運を高めてほしい」「⑤日本は参院で審議中のTPP承認案・関連法案を確実に成立させるべきだ」「⑥あらゆる形の保護主義に対抗する(APEC首脳会議宣言)」「⑦日本は先頭に立って世界の自由貿易を牽引しなければならない」ともしており、APEC首脳宣言も日本が主導したのだろうが、主権者である国民に対してあまりにも無責任である。
 さらに、「⑧日本は、高水準の貿易・投資ルールを通じて(?)実現しようとしているTPPの意義をトランプ氏に説明していく必要がある」「⑨欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉に向け、日本が主要閣僚会議を設けたのは前進で、政治主導で年内の大筋合意を導いてほしい」としているのも自信過剰で、実際には日米主導のTPPは、食品安全基準・食料自給率確保・医療保険制度等が粗末であるため、⑨はEUとのFTAを先に行ってEUに学ぶのがよいと考える。
 なお、*6-2のトランプ氏の政策のうち、自動車産業については、EV・FCVを主軸として炭素繊維で自動運転車を作れば、アメリカでも競争の土壌が変わって買替需要が伸び、米国労働者も雇用創出できると思うが、エネルギーの転換を行わずにシェールオイルや石炭産業に固執していれば、次は技術でも現在の開発途上国に追い越されて再起不能になるかもしれない。しかし、移民・難民政策に関しては、日本もアメリカにもの申せるほど移民・難民・外国人労働者の入国を自由に認めているわけではない。

*6-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161122&ng=DGKKZO09807740S6A121C1EA1000 (日経新聞社説 2016.11.22) 自由貿易堅持へTPPをあきらめるな
 トランプ次期米大統領が環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を唱えるなか、TPPの先行きが見通せなくなっている。しかし、アジア太平洋地域全体の自由貿易圏をつくるうえで、TPPはもっとも重要な礎となる。日本を含む参加国はTPPの発効をあきらめることなく、国内手続きを着実に進める必要がある。ペルーで開いたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にあわせて、日米を含むTPP参加12カ国は首脳会合を開いた。安倍晋三首相が「発効に向けた努力をやめるとTPPは死に、保護主義がまん延する」と訴えたのは当然である。一部の国からは、会合に先立ち「米国を外し、新たな環太平洋での協定を構築すべきだ」との意見が出ていた。仮に最大の経済大国である米国がTPPから抜ければ、貿易・投資の自由化により域内経済を成長させる効果は限られる。世界的に自由貿易が退潮し、世界経済の行方にも影を落としかねない。米国を含む12カ国がひとまずTPP存続へ協調する方針を確認したのは評価できる。課題は米国以外の11カ国の結束を保つことだ。トランプ氏が大統領選の期間中、TPPに反対する発言を繰り返してきたのは事実である。だからといってTPPを安易に捨て去ってはならない。日本など各国は、高水準の貿易・投資ルールを通じて実現しようとしているTPPの意義をトランプ氏に粘り強く説明していく必要がある。米国の外交戦略にとって重要である点も訴えてほしい。日本は参院で審議中のTPP承認案・関連法案を確実に成立させるべきだ。すでに議会承認を終えたニュージーランドに続き、早期発効の機運を高めてほしい。同時に、他の通商交渉も加速しなければならない。欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉に向け、日本が主要閣僚会議を設けたのは前進だ。政治主導で年内の大筋合意を導いてほしい。中国やインドなどが参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉でも、日本が積極的な役割を果たせば、米国にTPP参加を強く迫ることができる。APEC首脳会議は「あらゆる形の保護主義に対抗する」との宣言を採択し閉幕した。日本はこうした国際的な取り組みの先頭に立ち、世界の自由貿易をけん引しなければならない。

*6-2:http://mainichi.jp/articles/20161122/k00/00e/030/180000c
(毎日新聞 2016年11月22日) トランプ氏、「TPP離脱」当選後初表明 発効絶望的
 ドナルド・トランプ次期米大統領(70)は21日、日米など12カ国による環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について、来年1月20日の就任初日に「離脱の意思を(参加国に)通知する」との方針を表明した。トランプ氏は勝利後、TPPへの発言を控えていたが、この日、政権の最優先課題にあげたことで、TPPの発効は絶望的になった。21日夕(日本時間22日午前)、自らのフェイスブックに動画メッセージを投稿し、就任初日から取り組む政策課題を列挙。政権移行チームに具体的な準備を進めるよう指示した。トランプ氏は最初に通商政策をあげ、TPPが「米国にとって大惨事になり得る」として離脱する方針を表明し、その代わりとして「国内に雇用と産業を引き戻すような公正な2国間協定に向け交渉する」と明らかにした。TPP発効には参加12カ国全体の国内総生産(GDP)の85%以上を占める6カ国以上が国内手続きを済ませる必要があり、米国の議会承認が不可欠。トランプ氏がTPPに関する発言を封印していたため、参加国関係者の間ではトランプ氏の翻意に期待をかける声があがっていた。19日のTPP首脳会合でも各国が発効に必要な国内手続きを進めつつ、トランプ氏の動向を見守る方針で一致したばかりだった。しかし、トランプ氏がTPP離脱の方針を明確にしたことで、少なくとも政権発足後、一定期間はTPP発効の可能性が絶たれることになる。トランプ氏は演説で、米製造業の再興を通じて雇用創出に励む姿勢も強調。「私の政策は『米国第一』というシンプルな原則に基づいている」としたうえで、「鉄鋼を生産し、自動車を組み立て、(自由貿易によって受けた)大惨事をいやす。米国で次世代の生産や革新を起こしたい。米国の労働者のために富と雇用を創出したい」と述べた。他の優先課題として、シェールオイルや石炭産業への規制緩和でも雇用を拡大するほか、「新たに一つ規制を導入する際には二つの規制を撤廃する」として規制緩和を徹底する方針を示した。移民政策に関しても入国に必要なビザ(査証)の不正使用について調査し、米国の労働者が不利益を受けないようにするほか、ダムや発電施設といったインフラへのサイバー攻撃に防御を固める方針も示した。


PS(2016年11月26日追加):*7-1のように、韓国では、自由貿易協定(FTA)の影響で米価が過去最低水準まで暴落して農業経営が厳しくなり、トラクターなど1000台以上がトラクターデモを行っているそうで壮観だが、朴大統領の不満は農政でもくすぶっていたようだ。そして、食料はじめその国の産業については、「保護を排せばすべてがうまくいく」というような単純なものではない。
 ただ、*7-2のように、ムスリム市場は砂漠の多い場所であるため、そこでは決して獲れない作物が韓国や日本では獲れる。そのため、米にこだわらずに付加価値の高いものを作り、販路を拡大する方法は日本でも韓国でも使える。そこで、韓国の農家は米を減産して朝鮮ニンジン(現在は高価過ぎて継続使用は遠慮される)やニンニク(日本では、現在、運賃をかけてもスペイン産の方が青森産よりも安い)など、他の付加価値の高い作物を増産し、日本を含む各国に積極的に輸出したらどうだろうか?

   
     2016.11.26、27日本農業新聞              韓国の農村風景
 (図の説明:韓国の田畑も区割りが小さく、機械化が進んでいないという課題があるようだ)

*7-1:https://www.agrinews.co.jp/p39538.html (日本農業新聞 2016年11月26日) トラクター1000台集結 農政失敗に抗議 「朴政権退陣」農家訴え 韓国
 韓国ソウル近郊の京畿道安城市で25日、最南端の慶尚南道と全羅南道からそれぞれ出発した農民によるトラクターのデモ隊が合流した。トラクターなど1000台以上が集結、日本の官邸に当たる青瓦台を目指す。朴槿惠政権による農業政策の失敗で米価が過去最低の水準まで暴落、海外との自由貿易協定(FTA)などの影響で農業経営が一層、厳しくなっているためだ。デモ隊は同日、ソウルで開く「農政破断、朴槿惠政権退陣、全国農民大会」に合わせて、全羅南道を15日、慶尚南道を16日に出発した。デモ隊は各地で農政の失策をアピールし、ろうそくデモを展開、朴政権を批判した。主催する全国農民会総連盟は「政権という畑を耕し、新たな種をまく意味でトラクターデモを考えた。朴政権が退陣するまで闘う」と主張した。

*7-2:https://www.agrinews.co.jp/p39510.html
(日本農業新聞 2016年11月23日) ムスリム市場に商機 ハラールエキスポ 販路拡大へPR
 イスラム教の食事戒律「ハラール」に沿った食品などの展示商談会「ハラールエキスポジャパン」が22日、東京都内で始まった。国内外の農業者や食品業者など約90団体が、在日のイスラム教徒(ムスリム)やインバウンド(訪日外国人)が安心して食べられる食品や商品を出展。ムスリム市場で商機を探る業者らでにぎわった。23日まで。群馬、栃木両県にまたがる両毛地域の商工業者やJAでつくる協議会は特産のイチゴをプランターに植えて展示し、来場者の注目を集めた。同地域は東京から比較的近いが目立った観光地が少ないのが課題で、「来日数が増えているムスリムに特化してPRし、他の地域より先行して知名度を上げたい」(事務局)と、特産品を売り込んだ。徳島県は、農商連携で農産加工品や牛肉などを出展。事務局の県農林水産部によると、現在は県内の中小12業者が国内向けハラール認証を受け、新たな販路獲得を目指しているという。この他、「ムスリムにも日本茶が喜ばれた」と鹿児島県で茶を生産販売する農業法人や、大手外食チェーン、レストランなどが自慢の食を試食提供しながら、来場者と活発に商談していた。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 03:13 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.11.11 女性蔑視を利用したネガティブ・キャンペーンによって作られるガラスの天井 - ヒラリー・クリントン氏と朴槿恵氏の事例から (2016年11月12、14日に追加あり)
  

(図の説明:世界の女性リーダーは、現在では少なくない。しかし、2016年10月中旬から11月上旬にかけて、アメリカ及び韓国の女性リーダーに逆風が吹き、その内容には理不尽さがある。そして、それは、日本で女性・女系天皇の議論が抹殺された時期と一致する)

    

(図の説明:2016年の世界経済フォーラム男女平等ランキングでは、アメリカは144カ国中45位、日本は111位(2015年は101位)、韓国は116位であり、日本は特に政治・経済で低い。このようなジェンダーギャップが生じる理由は、根拠なき「男らしさ」「女らしさ」の押しつけと先入観が、女性の社会進出や社会での昇進を妨げているからである。その結果、日本女性の所得は男性の半分しかない)

(1)米大統領選について
1)選挙結果は、トランプ氏の勝利だった
 米史上初の女性大統領候補となったヒラリー・クリントン氏(以下・ヒラリー)は、大統領選に敗れた直後、*1-1のように、「勝てずに申し訳ない」「最も高く硬いガラスの天井は、いつか誰かが破る」「今回の結果を受け入れて未来に目を向けよう」「正しいことのために戦うのは価値がある」等々の普通の演説を行い、それを日本の日経新聞は「涙みせず気丈に敗北宣言した」と表現した。この“涙みせず気丈に”と書いたところは、「女はよよと泣くのが当たり前」というジェンダーに満ちた行間になっており、外国や利害関係者とタフに交渉しなければならないアメリカ大統領にはふさわしくない人材であると表現してしまっている。これが、ジェンダーによって引き起こされる昇進差別の一例だ。

 しかし、毎日新聞は、*1-2で、「女性の昇進を阻むガラスの天井を破って前国務長官となったヒラリー・クリントン」とヒラリーの実績を紹介しており、ここにはジェンダーはない。そして、「①米国では女性の大統領は必要ないと考える人がいる。ヒラリーは強い女性で、多くの男性は自分が脅かされていると感じる。彼女は率直にモノを言う。多くの男性は、それは女性の役割じゃないと考える」「②ヒラリーは公人として長く攻撃を受け続け、悪い印象が根付いてしまった」という女性指導者たちの見解を書いている。

 ①は実際に存在する女性蔑視で、既に女性指導者がいる国も多いのにアメリカの不運は、選挙期間中のネガティブ・キャンペーンを公認したため、これが悪用され、候補者が嫌われ者同士のより嫌いでない方への選択になったことである。そのため、②のように、公人として長く攻撃を受け続けて悪い印象が根付いたり、疑惑にすぎないメール問題を選挙期間中にFBIに何度も蒸し返されたりしたことによって、ヒラリーの支持率は明らかに落ちた。

2)ヒラリーの支持率に悪影響を与えたメール問題
 米連邦捜査局(FBI)は、2016年10月28日(大統領選の投開票日:2016年11月8日)に、*2-1のように、「大統領選民主党候補ヒラリー・クリントン氏の私用サーバー問題を見直す」と発表し、その理由は、別件で入手したメールが関係するかもしれないという疑惑レベルの曖昧なものだ。これに対し、ヒラリーは「訴追に相当しないとFBIが7月に下した判断に影響はない」と述べた。

 しかし、この段階で、ヒラリーに投票したいと思っていた人も、「大統領になってから、FBIと闘ってばかりいるようでは大統領として機能しない」と判断したため、FBIはヒラリーへの選挙妨害を行ったことになる。

 ただ、クリントン陣営のジョン・ポデスタ選対委員長が「FBIの発表のタイミングはとんでもない」と批判したり、陣営幹部のロビー・ムック氏が「FBIは政治的な領域に踏み込んだ」との見方を示唆したり、ヒラリー自身も「大統領選直前の動きとして前代未聞」「選挙直前のタイミングでこのように実体のない情報を公開するのはおかしい」とFBI長官を非難できたりしている点で、アメリカは日本や韓国よりはずっと民主主義や女性の社会進出について先進国で公正だと言える。

3)ヒラリーはガラスの天井を破る本物か
 外国の大統領選のことで口出ししない方がよいと思ったため、私は選挙後までコメントしなかったのだが、ヒラリーが「今回の結果を受け入れて未来に目を向けよう」と演説しただけで、何がガラスの天井になったのかを分析してなくすよう努力したり、FBIの選挙違反を曝露したりしなければ、ヒラリーは「ガラスの天井を破る」という主張を切り札にして闘っただけであり、ガラスの天井を破る本物ではない。

 どこかヒラリーに強い意思からくる魅力が感じられなかったのは、(日本のメディアの要約や翻訳が的を得ていなかったためかもしれないが)そのためではないかとも思われ、それでも当選しそうだったのは、相手がトランプ氏というラッキーな状態だったからと言えるのだ。

(2)韓国の女性大統領の困難
1)友人女性が国政に介入した疑惑?
 一方、*3-1に書かれている韓国の朴槿恵大統領の友人女性が国政に介入した疑惑というのは、全く信用できない“疑惑”だ。何故なら、韓国の検察特捜本部は、2016年10月31日に、崔順実容疑者を緊急逮捕したが、その理由が「①崔氏は朴氏に国政の助言を与える一方で大統領との特別な関係を利用して様々な不正を行った疑いがある」「②崔氏が一連の疑惑について容疑を否認している」「③不安定な精神状態で、釈放した場合予期せぬ状況(自殺?)が起きる可能性も考慮した」とのことであり、このような理由で逮捕されるのであれば、疑惑を否認している限り釈放されないことになるからだ。

 さらに報道に客観性のなさを感じたのは、*3-2のように、崔氏がソウル中央地方検察庁に出頭した際に報道陣や市民団体400人以上が集まり、11月1日の韓国朝刊各紙や日本メディアが脱げた靴の写真を「国内で買えば70万ウォン(約7万円)の高級品だ(私はさほどよいものとは思わなかったが、盗んだものでなければ民間人がどんな靴を履こうと自由)」と報じたり、韓国が購入するF35ステルス戦闘機の機種選定で崔氏が介入した疑惑があるとした報道が登場し外交・国防両省がそれぞれ事実関係を否定する事態になったり、宗教家だった崔氏の父が朴氏に接近した過去を報道したり、崔氏の娘がソウルの名門梨花女子大学に不正入学した疑いがあるなどとしているのは、次元の低い興味本位の作り話に見え、100歩譲ってそれが本当だったとしても朴槿恵大統領自身に罪があるわけではないからだ。

 また、朴氏の方から機密文書を積極的に見せていたとされる点については、これから講演する原稿を崔氏に見せて意見を言ってもらったとしても、これから講演する原稿の内容に含まれるものが機密である筈がないため、「機密」の定義に照らして検討し直すべきである。

2)韓国政界の動きと朴槿恵大統領の談話
 さらに、*3-3のように、講演原稿に意見を言ったくらいで「陰の実力者」にはなり得ないのだが、朴槿恵大統領は支援者の崔順実氏に機密文書を渡していたとして、野党3党は11月1日、「朴氏は検察当局の捜査に積極的に応じなければならない」との考えで一致したそうだ。

 しかし、*3-4のように、朴槿恵大統領は、崔氏が国政に介入したという“疑惑”と関連して「必要なら私も検察の捜査へ誠実に臨む覚悟で、特別検察官による捜査も受け入れたい」と語り、国民向けの談話で「あらゆる事態は全て私の誤りで私の不覚によって起こり、大きな責任を痛感している」「今回の崔氏関連の事件で、語り尽くせない大きな失望と心配をおかけしたことを心からお詫びする」「国家経済や国民の暮らしの役に立つだろうという望みから推進されたことでしたが、その過程で特定個人が利権を手にし、さまざまな違法行為まで犯していたということで、非常に残念でみじめな心境」等々と語ったそうだ。

 さらに、*3-5のように、涙ながらに「胸が痛む」「自分を許せない」などと謝罪したそうで、これがアジアの女性に求められる古いタイプの“素直さ”“謙虚さ”なのかもしれないが、そこまで自分に責任があると認める状況なら直ちに辞職すべきだというのが世界標準の価値感だ。

 そのため、*3-6のように、韓国でも、朴氏の支持率は30歳未満では0となり、古いタイプの“素直さ”“謙虚さ”に共鳴する高齢者の支持と合わせても全体で5%の支持率となった。しかし、韓国大統領の朴氏に必要なことは、涙ながらに「反省」や「謝罪」をして見せることではなく、韓国の検察が崔氏を緊急逮捕したことの妥当性を検証し、その裏に働いている力を明るみに出すことだ。

3)朴槿恵大統領と崔順実氏が立ち向かわなければならないジレンマ
 崔順実氏がソウル中央地方検察庁に出頭した際に集まっていた報道陣は、その殆どが男性だった。つまり、韓国のように女性の社会進出が進んでいない国では、昇進したり成功したりした女性の周囲は女性差別意識を持つ男性が殆どであるため、アメリカのように正論を言っても通じないのだ。

 そして、古いタイプの“素直さ”“謙虚さ”が求められ、期待通りに振舞わなければ魔女狩りのように根拠のない批判をされ、それを聞いた視聴者もその異常さに気づかない人が多いという具合だ。そのため、朴槿恵大統領も自らの支持者に多い高齢者向けの態度をすれば世界標準から外れ、留学経験のある人も多い若者の支持を得られないというジレンマに陥っているのだろう。

(3)日本のレベルは?
1)女性・女系天皇
 天皇陛下の生前退位については、*4-1のように、政府による有識者会議の初会合が2016年10月17日に開かれ、政府は今の天皇陛下に限って生前退位を認める特例法を整備する方針だそうだが、これは、天皇がお言葉の中ににじませられた内容とは大きく異なる。

 さらに、世論は皇室典範改正による恒久的な制度作りを求める声が多く、女性・女系天皇も認める方向なのだが、政府は特別法を出し、それが一段落してから皇室典範改正に取り組む構えだ。しかし、これは、女性・女系天皇を認めず、今のままにしていたいという古い頭の政治家の意思にほかならない。

2)男女平等度で日本は111位
 ダボス会議で知られるスイスの「世界経済フォーラム(WEF)」は、2016年10月26日、*4-2のように、「2015年版 男女格差報告」を発表し、これによれば、日本は144カ国中111位で下から数えた方が早く、先進7カ国(G7)中最下位だった。ちなみに、アメリカは45位、韓国は116位だ。

 そして、日本女性は、健康(40位)や教育(76位)では中位だが、政治(103位)と経済(118位)は著しく低く、勉強はしたものの社会進出して認められている度合いが小さく、男性との格差が大きい。

 これらのアメリカ、日本、韓国の状況は、外資系ビッグ4で働いていた時にはアメリカに近い形の洗練された女性差別を受け、国会議員など日本人の中で働くようになってからは日本・韓国に近い古典的・初歩的な女性差別を受けた私の体感と一致している。ただし、私は、その女性差別を決して受け入れることなく、一貫して闘って前進させてきたのを誇りとしている。

<米大統領選>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161111&ng=DGKKASGM10H7L_Q6A111C1FF1000 (日経新聞 2016.11.11) ガラスの天井 誰かが破る クリントン氏敗北宣言 涙みせず気丈に
 米大統領選に敗れたヒラリー・クリントン氏(69)は9日午前(日本時間10日未明)、ニューヨーク市内のホテルで支持者やスタッフを前に演説し「勝てずに申し訳ない」と敗北を認めた。大統領夫人、上院議員、国務長官と華麗な政治キャリアを歩み、米史上初の女性大統領をめざしたがあと一歩及ばなかった。民主党のシンボルカラーである青と共和党の赤の中間にあたる紫色の入った服を身につけ、選挙の結果判明後に初めて公の場に姿を現したクリントン氏。夫のビル・クリントン元大統領が壇上で見守るなか、涙をみせることはなく淡々と支持者に謝意を述べた。トランプ次期大統領の下での融和を訴えつつ、女性の進出を阻む「ガラスの天井」の最後の1枚を破れなかったことには悔しさをにじませた。「最も高く硬いがいつか誰かが破る」。クリントン氏はこう語り、「初の女性大統領」を後進に託すメッセージを込めて敗北宣言を締めくくった。演説の主な内容は以下の通り。
     ◇
 ありがとう。皆さん本当にありがとう。昨晩、ドナルド・トランプ氏に祝意を伝え、国のために協力したいと申し出た。彼がすべての米国民のための大統領として成功することを願っている。選挙の結果は私たちが望むものではなかった。共有する価値観と国のビジョンのための選挙に勝てなかったことを申し訳なく思っている。多様性や創造性、活力に満ちたこの素晴らしい選挙戦を一緒に戦えたことを誇りに感じている。皆さんのための候補者になれたことは、私の人生にとって大変名誉なことだった。皆さんがどれだけ失望しているかは分かっているし、私もそうだ。私たちの選挙戦は希望に満ちて寛容な心を持つ米国をつくるためのものだった。この国は私たちが思っていた以上に深く分断している。それでも私は米国を信じているし、これからも信じ続けたい。今回の結果を受け入れて未来に目を向けよう。広い心で、トランプ氏に国を率いる機会を与えなければならない。憲法に基づく民主主義は権力の平和的な移行を定めている。法の支配、平等と尊厳、信仰や表現の自由を尊重し、守る必要がある。アメリカン・ドリームは人種や宗教、男女、移民、LGBT(性的少数者)、そして障害を持つ人を問わず全ての人のためのものだ。市民としての責任はより良く、強く、公平な米国を築く取り組みに参加し続けること。皆さんは今後もそうしてくれると思う。私はこれまでの人生で信じるもののために戦ってきた。そこには成功も挫折もあった。正しいことのために戦うのは価値があるということをどうか信じ続けてほしい。(女性大統領という)最も高くて硬いガラスの天井はまだ打ち破れていないが、いつか誰かが、私たちが考えているより早く達成してくれるだろう。

*1-2:http://mainichi.jp/articles/20161110/k00/00m/030/093000c (毎日新聞 2016年11月9日) 米大統領選 「ガラスの天井」クリントン氏、破れず
 女性の昇進を阻む「ガラスの天井」を破り、女性初の大統領を目指したヒラリー・クリントン前国務長官(69)。女性の社会進出を先導し続ける人生だった。落選が確定した9日未明は支持者の前に姿を見せず、落胆の大きさがにじんだ。クリントン氏は選挙戦で「一緒なら強くなれる」と訴えた。人種や政治信条、経済状態の差を超え国民の融和と協力を主導する意向を打ち出したのだ。クリントン氏のスピーチライターだったリサ・ムスカティーンさん(62)は、「国の未来を考える」大統領になっただろうと指摘。女性やマイノリティー(人種的少数派)、貧しい人を支援し、国務長官の経験から外交にも積極的な指導者になっただろうとみる。法科大学院の教え子の弁護士ウッドソン・バセットさん(65)は、批判や攻撃にひるまない闘士のクリントン氏は「良い変化を起こせると信じていた」と語った。だが、「大統領の資質がない」と厳しく批判し続けた共和党のドナルド・トランプ候補に敗北した。なぜか。クリントン氏をよく知る人々の中には、米国に潜む女性政治指導者への反感を指摘する声もある。米大統領だった夫ビル・クリントン氏が知事を務めた南部アーカンソー州の知事公舎職員を務め、今もクリントン家と交流があるアン・マッコイさん(80)は「米国では女性の大統領は必要ないと考える人がいる。ヒラリーは強い女性で、多くの男性は自分が脅かされていると感じる。彼女は率直にモノを言う。多くの男性はそれは女性の役割じゃないと考える」と話した。世界の主な女性指導者ムスカティーンさんも「彼女は公人として長く攻撃を受け続け、悪い印象が根付いてしまった」との見方を示した。 女性指導者、世界各地に  8日の米大統領選では民主党のヒラリー・クリントン候補が敗れたが、国際社会で女性指導者は少なくない。 主要7カ国(G7)では、2005年にメルケル独首相(62)、今年7月にメイ英首相(60)が就任した。リトアニアやエストニアも女性大統領だ。東アジアでは韓国の朴槿恵(パククネ)大統領(64)、台湾の蔡英文総統(60)が初の女性トップ。ミャンマーでも民主化運動指導者アウンサンスーチー氏(71)が外相兼国家顧問を務める。西アフリカ・リベリアの女性大統領、サーリーフ氏(78)は11年にノーベル平和賞も受賞。ブラジルでは初の女性大統領ルセフ氏(68)が今年8月、汚職疑惑で失職した。  主要都市では小池百合子・東京都知事(64)やイダルゴ・パリ市長(57)、ラッジ・ローマ市長(38)が知られる。

<メール問題>
*2-1:http://www.bbc.com/japanese/37809154 (BBC 2016年10月29日) 米大統領選2016】FBI、クリントン氏メール問題見直すと クリントン氏は自信
 米連邦捜査局(FBI)は28日、大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン氏の私用サーバー問題を見直すと発表した。別件で入手したメールが関係するかもしれないという。これに対してクリントン氏は、訴追に相当しないとFBIが7月に下した判断に影響はないと自信を示した。11月8日投開票の大統領選まで11日。広告 クリントン氏はジェイムズ・コーミーFBI長官に、新しい捜査の内容を米国民につまびらかに説明するよう求めた。クリントン氏が米国務長官時代に公務メールを私用サーバーで扱っていた問題で、FBIはすでに機密情報を含むメールも私用サーバーを経由していたと確認。コーミー長官は7月、クリントン氏とスタッフの行動は「きわめて不注意」だったものの訴追には相当しないと発表していた。しかしコーミー長官は28日、連邦議会に対して書簡で、捜査員が発見した「別件に関する」メールが「(メール問題の)捜査に関係する様子」のため、メール問題を「見直す」と説明した。「この資料が重要かどうかまだ精査できていないし、この追加作業を終えるまでどれくらいかかるのか予測できない」と長官は書いている。消息筋によると、問題のメールは、クリントン氏の右腕とも言われる最も近い側近、フマ・アベディン氏の別居中の夫、アンソニー・ウィーナー元下院議員に対する捜査の中で発見された。FBIは、ウィーナー元議員が15歳少女に性的なメールを送っていた疑いに関連して、元議員やアベディンさんの電子端末を押収して調べていた。メールが何通あり、誰が発信あるいは受信したものかは明らかにされていない。アイオワ州デモインで記者会見したクリントン氏は、「米国の人たちはただちに、すべての事実を完全に知らされるべきです」と強調。「この問題がなんであれ、(FBIは)なんとしても、滞りなくこの問題を説明しなくてはならない」と求めた。クリントン氏はさらに、コーミー長官が議会に宛てた書簡は、「言及するメールが重要なのかどうかについても触れていない」と指摘。さらに、「(メールが)どういうものであれ、(訴追不相当という)7月の結論に変化はないと自信をもっている」と述べた。会見に先立ち、クリントン陣営のジョン・ポデスタ選対委員長は、FBIの発表のタイミングは「とんでもない」と批判した。11月8日投開票の大統領選まで、残すところあと11日。このメール問題は、告発サイト「ウィキリークス」が相次ぎ公表しているクリントン選対関係者の内部メールとは異なる模様だ。
●クリントン氏の私用メールサーバーはニューヨーク州チャパクアの自宅に設置されていた
 共和党候補ドナルド・トランプ氏は一貫して、メール問題についてクリントン氏とFBIを激しく非難し、クリントン氏は「刑務所にいるべきだ」などと発言してきた。またクリントン陣営に近いウィーナー元議員の存在は、米国の安全保障を脅かすと批判してきた。今回のFBI発表を受けて、トランプ氏はニューハンプシャー州マンチェスターでの支援者集会で、「アメリカ合衆国の安全を脅かした(クリントン氏の)犯罪的で違法な行動について、捜査が再開された」と述べ、「ヒラリー・クリントンは今まで見たことがないほど腐敗している。犯罪計画を大統領執務室にまで持ち込ませるわけにはいかない」と支援者を前に強調した。続いてアイオワ州に移動して集会に赴いたトランプ氏は、「ウォーターゲート以来最大の政治スキャンダルだ」と、ニクソン元大統領の辞任につながった1970年代のスキャンダルに言及。また「よほどひどい犯罪行為でなければ、FBIはこんな時期に捜査を再開したりしない」と述べた。クリントン氏の私用サーバー問題は2015年3月に米紙ニューヨーク・タイムズが最初に報道して明るみに出た。クリントン氏は当初、遺憾の意を示すことなく、「hdr22@clintonemail.com」の私用アドレスを国務長官の公務でも使った理由は主に「便利だったから」と説明していた。しかしその後間もなくABCニュースのインタビューで謝罪し、その後もたびたび有権者に謝っている。

*2-2:http://www.cnn.co.jp/usa/35091369.html
(CNN 2016.10.30) クリントン氏、メール問題でFBI長官を非難
 米大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン氏の私用メール問題で、連邦捜査局(FBI)のコミー長官が新たなメールを調査していると議会指導部に通知したことに対し、クリントン氏は29日、大統領選直前の動きとして「前代未聞」だと述べて長官を非難した。クリントン氏は遊説先のフロリダ州デイトナビーチで支持者らを前に、「選挙直前のタイミングでこのように実体のない情報を公開するのはおかしい」と主張。さらに「前代未聞の、深く憂慮すべき事態。有権者には事実の全容を知らせるべきだ」と力説した。同氏はそのうえで「コミー長官はただちに全てを説明し、情報を全て提示する必要がある」と呼び掛けた。クリントン氏は共和党候補のドナルド・トランプ氏にも矛先を向け、この問題をめぐって同氏が「全力で米国民を混乱させようとしている」「すでに話をでっち上げ始めた」と不快感を示した。コミー長官は28日、私用メール問題との関連が疑われる新たなメールが別件の捜査で浮上し、FBIが同問題の捜査を再開したことを明らかにした。フロリダでの演説に先立ち、クリントン陣営を率いるジョン・ポデスタ氏は、コミー長官が選挙前のタイミングを計り、特定の内容だけを選んで公表したと非難。陣営幹部のロビー・ムック氏も、FBIは政治的な領域に踏み込んだとの見方を示唆した。両氏とも、浮上したメールには新たな情報が含まれていない可能性もあると指摘し、選挙戦への悪影響を打ち消している。クリントン氏の陣営は今年7月、私用メール問題で同氏の訴追を求めない方針を示したコミー長官の「プロ意識」を称賛していた。FBI長官の任期は10年で、コミー長官が就任したのは2013年。クリントン氏が大統領に当選した場合も、解任されない限り長官職にとどまることになる。

<韓国の女性大統領>
*3-1:http://www.yomiuri.co.jp/world/20161031-OYT1T50115.html
(読売新聞 2016年11月1日) 朴大統領の友人・崔容疑者を逮捕…国政介入疑惑
 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領(64)の友人女性が国政に介入した疑惑をめぐり、検察の特別捜査本部は10月31日、当事者の会社経営者崔順実(チェスンシル)容疑者(60)を緊急逮捕した。崔氏は朴氏に国政の助言を与える一方で、大統領との特別な関係を利用して様々な不正を行った疑いがある。韓国国内では私人の国政介入を許した大統領への批判が噴出しており、朴政権は機能不全に陥っている。聯合ニュースによると、検察は、緊急逮捕した理由について、崔氏が一連の疑惑について容疑を否認しているほか、不安定な精神状態にあり、釈放した場合、「予期せぬ状況」が起きる可能性も考慮したという。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJC152YYJC1UHBI02L.html (朝日新聞 2016年11月1日) 韓国、チェ氏事件で報道過熱 脱げた靴や外交、北朝鮮…
 韓国で、朴槿恵(パククネ)大統領から機密文書を受け取っていたとされる朴氏の支援者チェ・スンシル氏を巡り、国内の報道が過熱する一方だ。脱げたチェ氏の靴に焦点を当てたと思えば、日韓関係への影響にまで報道が及ぶ。韓国政府が一部の報道は事実でないと否定したり、北朝鮮が朴政権たたきに利用したりしている。10月31日午後3時、チェ氏がソウル中央地方検察庁に出頭した際は、報道陣や市民団体ら400人以上が集まった。もみくちゃにされたチェ氏は、左足の靴が脱げたまま庁舎に入った。翌1日付の朝刊各紙は、脱げた靴の写真を「国内で買えば70万ウォン(約7万円)の高級品だ」と報じた。韓国メディア幹部は「どの社も各部から人を集めた特別チームで、大量の記事を作っている」と語る。10月31日付の一部朝刊紙は、事件の余波で韓国は12月に日本で開かれる見通しの日中韓首脳会議への出席の返事を出せずにいると報じた。11月1日付には、韓国が購入するF35ステルス戦闘機の機種選定で、チェ氏が介入した疑惑があるとした報道も登場。外交、国防両省がそれぞれ事実関係を否定する事態になった。北朝鮮の朝鮮中央通信は1日、「各国メディアが朴槿恵最大危機を報道」と伝えた。韓国政府関係者は「内政干渉だ」として、不快感を隠さない。韓国では、宗教家だったチェ氏の父(故人)が朴氏に接近した過去や、チェ氏の娘がソウルの名門・梨花女子大に不正入学した疑いがあることが大きな関心を呼んでいる。一方で、朴氏の方から機密文書を積極的に見せていた場合、チェ氏は大統領記録物管理法違反には問われないという指摘も出ている。韓国政府の元関係者は「本当に責められるべきは、国民との意思疎通を欠いた朴大統領。チェ氏は鏡に映った朴氏のもう一つの姿に過ぎない」と語った。

*3-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJC14RGFJC1UHBI024.html (朝日新聞 2016年11月1日) 「朴大統領は捜査に応じよ」 チェ氏事件で野党3党
 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が支援者のチェ・スンシル氏に機密文書を渡していた問題をめぐり、野党3党は1日、朴氏は検察当局の捜査に積極的に応じなければならないとの考えで一致した。野党は朴氏への攻勢を強めるが、憲法では大統領は在職中、刑事訴追は受けないと定められており、捜査に応じるかは不透明だ。野党の「共に民主党」、国民の党、正義党の院内代表が協議し、合意した。野党が国会で疑惑の解明を進めることも盛り込まれた。10月25日の緊急記者会見で、チェ氏に文書を提供し、意見を聞いていたことを認めた朴氏だが、その後は沈黙を続けている。詳しい説明をする予定もない。憲法の規定上、大統領が在職中に捜査を受けるかは解釈が分かれている。金賢雄(キムヒョヌン)法相は10月27日の国会審議で「捜査対象にならないというのが多数説」との見解を示した。検察当局も大統領への捜査は否定的とされる。一方、ソウル地方弁護士会は10月27日、真相究明を求める声明で「(憲法の規定で)捜査が難しいという話は成立しない」と主張した。韓国紙「朝鮮日報」は1日付の社説で、今は法の解釈が問題ではないとして、「大統領が国民の前に出て来なければならない」と自ら説明するよう求めた。朴氏に対する世論は、厳しさを増している。韓国紙「文化日報」の1日付夕刊は、10月29~30日に実施した世論調査で、望ましい事態の収拾策として朴氏の「辞任」が36・1%で最も多く、「弾劾(だんがい)」の12・1%と合わせると、退陣を求める意見は48・2%にのぼったと報じた。与野党の合意による「挙国一致内閣」は26・1%だった。検察当局は、10月31日深夜に緊急逮捕したチェ氏に対する逮捕状を2日に請求する予定だ。韓国の刑事訴訟法では、逮捕状は緊急逮捕から48時間以内に裁判所に請求する必要がある。チェ氏は疑惑を否認しているという。また2日午後には安鍾範(アンジョンボム)・前大統領府政策調整首席秘書官を事情聴取する。安氏は、チェ氏が私物化したとされる財団の資金集めに関わったとの疑いがもたれている。

*3-4:http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/11/04/2016110401105.html (朝鮮日報 2016/11/4) 国政介入:「残念、みじめ」 朴大統領が検察捜査を受け入れ
 韓国の朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が4日、「陰の実力者」といわれる崔順実(チェ・スンシル)氏が国政に介入したという疑惑と関連して「必要なら私もまた検察の捜査へ誠実に臨む覚悟で、特別検察官による捜査も受け入れたい」と語った。朴大統領は4日午前10時30分、国民向け談話を通してこのように語った。朴大統領は談話で「あらゆる事態は全て私の誤りで、私の不覚によって起こったこと。大きな責任を深く痛感している」と語った。続いて朴大統領は「今回の崔順実氏関連の事件で、到底語り尽くせない大きな失望と心配をおかけしたことを、あらためて心からお詫びします」「何より、私を信じて国政を任せて下さった国民の皆さんに、取返しのつかない心の傷を負わせてしまい、非常に胸が痛い」と語った。また「私と共に献身的に走ってくださった政府の公職者や、現場の多くの方々、そして善意の支援をしてくださった企業の皆さんにも深い失望を与え、申し訳なく思っています」「国家経済や国民の暮らしの役に立つだろうという望みから推進されたことでしたが、その過程で特定個人が利権を手にし、さまざまな違法行為まで犯していたということで、非常に残念でみじめな心境」と語った。

*3-5:http://toyokeizai.net/articles/-/143568 (ロイター 2016年11月4日) 「自分が許せない」韓国の朴大統領、親友の国政介入疑惑を謝罪
 韓国の朴槿恵大統領は4日、テレビを通じて国民向け談話を発表し、親友である崔順実氏の国政介入疑惑をめぐる政治スキャンダルについて、涙ながらに「胸が痛む」と述べ、謝罪した。検察の捜査に協力することも表明した。朴大統領は、検察当局に対し疑惑の全容解明を要請。自らを含め問題に関わった全員に責任があり、有罪であることが判明した場合は責めを負うべきだと述べた。さらに、声を震わせながら「自分を許せない」と話した。検察の当局者は、朴大統領が事情聴取の対象になるかとのロイターの質問へのコメントを控えた。現職の大統領がこれまで、検察の捜査を受けたことはない。野党の共に民主党の秋美愛(チュ・ミエ)代表は朴大統領の謝罪が不誠実だと批判。「大統領は国政から手を引くべきだ」と指摘したが、辞任要求はしていない。崔容疑者については「われわれが国家経済や国民生活を支援するため努力している一方で、特定の個人が利益を享受し、複数の不法行為に関与していたとの疑惑が持たれていることは非常に不幸で、残念だ」と述べた。スキャンダルをめぐって大統領の支持率は低下しており、ギャラップがこの日公開した世論調査では過去最低の5%となっている。

*3-6:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/375652
(佐賀新聞 2016年11月11日) 朴氏支持率、30歳未満でゼロ、韓国、全体では5%
 韓国の世論調査会社「韓国ギャラップ」は11日、朴槿恵大統領の支持率について、調査対象で最若年層の19~29歳で支持率がゼロになったとの結果を明らかにした。調査は朴氏が親友、崔順実氏の国政介入疑惑で2回目の国民向け謝罪を行った後の8~10日に実施されたが、全体の支持率は前週と同じ5%。不支持率は前週より1ポイント増え、90%に達した。地域別でも、野党が強い南西部の全羅道地域での支持率はゼロだった。調査は約千人を対象に行われた。朴氏は4日の国民向け謝罪で、捜査を受け入れると表明し、涙を見せて「反省」を訴えた。

<日本のレベルは?>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12612681.html
(朝日新聞 2016年10月18日)女性天皇の議論は除外 来月、専門家から聴取 有識者会議
 天皇陛下の生前退位をめぐり、政府による有識者会議の初会合が17日、開かれた。政府は今の天皇陛下に限って生前退位を認める特例法を整備する方針だが、実現には世論と国会のハードルが待ち受ける。「今上陛下が82歳とご高齢であることも踏まえ、公務の負担軽減などを図るため、どのようなことができるのか静かに議論を進めていきたい」。17日夕、安倍晋三首相は有識者会議の初会合冒頭でそう語った。この日は約1時間10分の会議で、当面のスケジュールを確認した。11月には上旬から3回に分けて、皇室制度や歴史の専門家ら計十数人からヒアリングを重ねる。年明けにも論点整理を公表する方向だ。政府は今の天皇陛下に限って退位を可能とする特例法を軸に法整備を検討する。ただ、報道各社の世論調査では特例法による対応ではなく、皇室典範改正による恒久的な制度作りを求める声が多い。国会でも、民進党や共産党などから皇室典範改正の検討を求める声が上がる。このため、有識者会議では生前退位だけでなく、摂政制度など幅広い選択肢を示し、それぞれ課題や問題点を列挙。早急に対応できる特例法のメリットを世論に理解してもらう狙いだ。有識者会議は今回、小泉政権時代に検討された女性・女系天皇の是非は対象から外す。首相官邸幹部は「皇室の安定的な継続のために必要な議論だが、時間がかかる」と指摘。将来、皇室典範改正を目指す際の課題とする考えだ。有識者会議メンバーの山内昌之・東大名誉教授は17日夜、BSフジの報道番組で「特別法を出すことで、まず(生前退位を)解決する。それが一段落してから皇室典範改正に取り組む姿勢を打ち出すことは、荒唐無稽のことではない」と語った。一方、政府は有識者会議の開催に合わせて報道各社に対し、有識者メンバーが官邸に出入りする際の取材を控えるよう要請した。首相周辺は「メンバーが最初に意見を言ったら会議に色がつく」と説明。情報管理に神経をとがらせる政府の姿勢がにじんだ。座長となった今井敬・経団連名誉会長は、初会合後の記者会見で「予断なく議論し、専門家の意見をよく聞いていろいろな判断をする」と語った。ヒアリングの対象となる専門家は十数人で、1人当たりの聴取時間は30分を想定。関係者によると、対象者として退位に賛成する所功・京都産業大名誉教授や、退位に反対する八木秀次・麗沢大教授ら幅広い名前が候補に挙がる。政府は初会合前から人選を進めており、専門家の選定も官邸主導で進む可能性が高い。
    ◇
 「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の初会合の出席者(17日、首相官邸)
【有識者】
◆今井敬・経団連名誉会長=座長
◆御厨貴・東大名誉教授(日本政治史)=座長代理
◆小幡純子・上智大法科大学院教授(行政法)
◆清家篤・慶応義塾長(労働経済学)
◆宮崎緑・千葉商科大教授(国際政治学)
◆山内昌之・東大名誉教授(国際関係史)
【政府】
◆安倍晋三首相
◆菅義偉官房長官
◆杉田和博官房副長官
◆衛藤晟一首相補佐官
◆古谷一之官房副長官補
◆西村泰彦宮内庁次長
◆近藤正春内閣法制次長
◆山崎重孝内閣総務官

*4-2:http://qbiz.jp/article/96751/1/
(西日本新聞 2016年10月26日) 男女平等 日本は111位 WEF発表
 ダボス会議で知られるスイスの「世界経済フォーラム(WEF)」は26日、2016年版「男女格差報告」を発表。日本は調査対象となった144カ国中111位で、前年より順位を10下げ、先進7カ国(G7)中で最下位だった。
●前年より順位10下げる
 報告書では、日本は分野別で健康(40位)や教育(76位)では中位以上だったが、政治(103位)と経済(118位)で女性の進出が遅れ、男性との格差があるとされた。女性の議員数の少なさや、女性首相を出していないこともマイナス要因となった。首位は8年連続でアイスランド。2位フィンランド、3位ノルウェー、4位スウェーデンなど北欧諸国が上位に並んだ。米国は45位、中国は99位、韓国は日本より低い116位だった。アジアで上位10位に入ったのはフィリピン(7位)のみだった。トルコ(130位)、エジプト(132位)、イラン(139位)など中東諸国が下位に並び、最下位はイエメン。WEFは「世界的に経済参加や雇用機会での男女格差が拡大しており、予測では2186年までその差は縮まらないとみられる」としている。男女格差報告は各国の女性の地位を経済、教育、政治、健康の4分野で分析、数値化している。


PS(2016年11月12日追加):*5の「ヒラリーはなぜ敗れたのか」という記事で、政治アナリストの横江氏が、「ヒラリーには、ウォールストリートから多額の企業献金を集め、彼らの方を向いた政治家という古臭いイメージがあり、時代遅れ感があった」と述べているが、オバマ大統領が国民皆保険を目指して制定し、トランプ大統領の誕生によって存続の危機に瀕しているアメリカの国民皆保険制度は、最初はクリントン政権時代にヒラリーが手を付けたものであり、時代遅れどころか現在も渦中にある制度だ。また、ヒラリーは中産階級出身で、弁護士となってファースト・レディーや国務長官を歴任したアメリカン・ドリームの体現者であるため、それを「優等生的な『上から目線』でも嫌われた」というのは、日本人独特のjealousy(嫉妬)を含んだ狭量な見方であり、アメリカ人はアメリカンドリームの体現者や成功者を褒める気質があるため、このような卑屈なことは言わないのである。そのため、そういうことよりも、大切な時期にFBIが「メール問題」という曖昧な疑惑でヒラリーの捜査をしたこと、分刻みで世界を飛び回らなければならないアメリカ大統領が体力的に勤まるかと思われる局面がヒラリーにはあったこと、アメリカの大統領選挙が国民全体の意志を反映するのではなく選挙人の数を競う競争になっていることなどが敗因だと考える。
 また、映画作家想田氏の「米国人の13%が女性大統領の誕生に怒りを感じと答えた」というのは、本当なら私には意外だが、「男性候補なら『力強い』と好意的に受け止められたものが、女性候補だと『隙がない』『性格がきつい』と思われなかったか」というのもジェンダー後進国の日本人の目であり、アメリカ人はそうではないからこそ、ヒラリーは大きなジェスチャーとはっきりした言葉で演説を行っていたのだ。そのため、ヒラリーに不運があったとすれば、候補となったのが8年前ではなく、現在だったことだろう。

*5:http://mainichi.jp/articles/20161111/dde/012/030/004000c (毎日新聞 2016年11月11日) 特集ワイド:ヒラリーはなぜ敗れたのか 米大統領選結果、識者2氏が分析
 本命だったはずの候補が敗れ、「米国史上初の女性大統領」は結局、誕生しなかった。「嫌われ者同士の戦い」とも称された米国大統領選。暴言暴論を繰り返し、女性問題まで露呈したドナルド・トランプ氏(70)を相手に、政治家としてのキャリアも長いはずのヒラリー・クリントン氏(69)は、なぜ負けたのか?
●時代遅れ、尊大な印象拭えず 政治アナリスト・横江公美さん
 クリントン氏の最大の敗因は、政策や言動の「時代遅れ感」です。だから有権者の心をつかめませんでした。米国で今、一番不満をためているのは中間層です。貧困層は、オバマ政権が国民皆保険を目指した医療保険制度改革で救われた。「次は我々を」と中間層は望んだ。だから民主党の候補者争いをしたサンダース氏は政策を「左」に振り切り、中間層が最も喜びそうな「大学授業料免除」を掲げました。この問題が米国で最も深刻だから。子ども2人を借金なしに米国内の大学に進学させるには1世帯年収27万ドル(約2800万円)が必要というデータもあるほどです。一方、トランプ氏は当選したらすべての所得層を対象に所得税減税を行う、と断言しました。ところがクリントン氏はそのどちらの政策にも踏み込めず、中間層にアピールできなかった。そもそも彼女には、ウォールストリートから多額の企業献金を集め、彼らの方を向いた政治家、という古臭いイメージがある。「私用メール問題」がそれを決定づけました。米国は情報公開や金銭の流れの透明性を重要視する社会です。透明性のない、危機管理もできない、時代遅れな候補--という印象を有権者に与えてしまいました。もう一つ、優等生的な「上から目線」でも嫌われました。米国が「世界の警察」の時代ならば、そのような言動はリーダーシップとして好意的に受け取られたでしょう。でも今はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で「いいね!」の数を競う時代です。フレンドリーさが好まれる。トランプ氏はその点、暴言は多いけれど人間味があります。「キング・オブ・ブルーカラー」と呼ばれていましたから。クリントン氏は今回、2008年の予備選と違って、女性の立場を強調し、「マイノリティー(人種的少数派)のための代表」を前面に出すなど、戦術を変えていました。それでも有権者は彼女の「偉そう」な印象を忘れていなかったのです。一方、トランプ氏が前評判より票を集めたのは「隠れトランプ支持者」が大勢いたから。多様化の時代、「メキシコ国境に壁を」と言う候補への支持は恥ずかしくて口には出せない。それでも今の政治に不満を持ち、トランプ氏に変化を期待した有権者がそれだけ大勢いたということ。クリントン氏は、変化を求める時代の空気を読み切れなかったのです。
●米国社会に根強い「女性嫌い」 映画作家・想田和弘さん
 格差が拡大し、中間層が没落する中、米国人が既存の政治に不満を持つのはよく分かります。しかし、トランプ氏はむしろ状況を悪化させるでしょう。人種差別をあおる人物でもあり、米国と世界の行方がとても心配です。クリントン氏が負けた理由はさまざまですが、一つは米国社会に根付き、払拭(ふっしょく)できない「ミソジニー(女性嫌い)」だったと思います。もしも彼女が男性だったら結果は違ったのではないでしょうか。ある政治学者が今年行った調査によると、米国人の13%が「女性大統領の誕生」に「怒りを感じる」と答えたそうです。男女別の回答で見ると、女性はほぼ0%だったのに、男性は実に26%。「怒りを感じる」が4人に1人以上いたのです。「女を大統領にしたくない」という差別意識やミソジニーこそが、彼女の敗因だったと思います。米国人は大統領に「強さ」を求める傾向があります。それだけでも、女性には不利なのでしょう。クリントン氏は十分に強い女性だと思いますが、しかし、男性候補なら「力強い」と好意的に受け止められたものが、女性候補だと「隙(すき)がない」「性格がきつい」と、男性から見たフェミニストのステレオタイプなイメージに重ねられてはいなかったでしょうか。もう一つ。政治経験のないトランプ氏に対して、クリントン氏は政治家としてのキャリアが長く、実績もある。そのことがかえって、災いしたように思えます。扇動家としての能力にたけたトランプ氏は、ワシントンの政治家たちを「既得権益」と位置付けて攻撃し、人々の政治に対する怒りに火を付け、徹底的にあおりました。今回、米大手メディアは軒並みクリントン氏を支持し、トランプ氏を徹底的に批判しました。しかしトランプ氏は勢いを失わなかった。日本で「マスゴミ」という言葉が多用されるのと同様、米国でも既存メディアが「既得権益」とみなされてしまったからでしょう。また、トランプ氏は既存秩序の「破壊者」のように自らを演出することに成功した。だから、暴言を吐き、スキャンダルが暴かれても、そのダメージを最小限に抑え、時には魅力にすり替えられました。結局、夫も大統領を務めたクリントン氏は「既得権益」の代表格として、政治不信と憎しみの対象にされてしまったのです。


PS(2016年11月14日追加):入国者の子どもの教育・医療・失業問題などの国民負担を伴うため、移民を無制限に受け入れなければならないというのは、独立国としてむしろ不自然だと私も思っていた。そのため、難民や外国人労働者に国を閉ざすことなく、秩序だって受け入れるのは国の発展や世界貢献のために必要だが、国境にフェンスくらい作って、不法移民を強制送還するのはよいと考える。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/376424 (佐賀新聞 2016年11月14日) トランプ氏、300万人を強制送還、壁建設は軟化
 トランプ次期米大統領は、200万~300万人の不法移民を公約通りに米国外へ強制送還する方針を強調した。CBSテレビが13日、トランプ氏のインタビューを伝えた。大規模な強制送還は内外に波紋を広げそうだ。トランプ氏は不法移民流入を防ぐためメキシコ国境に壁を建設する方針も確認した。ただ、一部地域では壁ではなくフェンスを採用する可能性を示し、壁にこだわる姿勢を軟化させた。米国内の不法移民はヒスパニックを中心に1100万人を超える。トランプ氏は、強制送還されるのは「犯罪者や犯罪歴がある者、ギャングのメンバー、麻薬密売人だ」と説明した。

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2016.11.4 世界が脱炭素社会に進む中で、日本が迷走する理由は何か (2016年11月5、8、9、10日、2017年6月2、4日に追加あり)
   
 1人当たりCO2排出量  世界のCO2排出量総計  各国の削減目標 エネルギー由来排出量

(図の説明:CO2の総排出量は中国、米国、インド、日本、ロシアの順だが、一人当たりCO2排出量となると米国、韓国、ロシア、日本の順であり、これらの国での節減効果は大きい。しかし、日本の削減目標は2013年比で26%にすぎず、他国と比較しても環境意識が低い。また、エネルギー由来のCO2排出量は、EV・太陽光発電などの再エネ・燃料電池で0にすることが可能だが、これについても日本は出遅れており、このように環境意識が低いのは、憲法に環境に関する規定がないことが理由ではなく、日本のリーダーに先見の明がなく、生態系や国民の命・健康への意識が低いことによると思われる)

(1)世界が脱炭素・再エネ導入を猛スピードで行っているのに、日本政府は・・
 2015年12月に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定に、*1-1のように、大排出国の中国と米国が2016年9月に締結し、インド・欧州連合(EU)加盟国などが続いて、10月には発効条件である総排出量の55%以上、55カ国以上という要件を満たし、2016年11月2日には94の国と地域が協定を締結して、2016年11月4日に発効する。

 日本は、1997年12月に京都市で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議で、地球温暖化防止に関する「京都議定書」の採択に尽力したにもかかわらず、現在の政府・経済界のリーダーは環境意識が低いため、「実現可能性がない」などとして2013年度比で26%減という低い目標しか出さず、*1-2のように、国益にならないTPPの批准ばかりを急いで、パリ協定には対応していなかった。

 しかし、「実現可能性」は政府がどう対応するかによって異なり、*1-2のように、世界は、欧州はじめ北米、中国、インドでも太陽光・風力といった再エネの導入を加速しているが、日本政府は、再エネを電気料金を上げる経済の足かせと捉え、原発再稼働・石炭火力依存を主軸とする時代錯誤状態にある。

 そのため、日本は、*1-3で独シュタインマイヤー外相が述べているように、決して請求書をよこさない再エネという資源の少ない国の産業への福音とも言えるビジネスから取り残され、最初に太陽光発電や本格的な電気自動車を発明した国であるにもかかわらず、*1-4のように蓄電池等の技術革新を外国に譲ることになった。しかし、ドイツ自動車部品最大手ボッシュのフォルクマル・デナー社長は、「電池の航続距離の倍増、価格半減は可能」と述べているのだ。

 また、農山村では、*1-2のように、太陽光、風力、小水力、木質バイオマス、地熱などの活用が十分できるにもかかわらず、農機が電動化しておらず燃油を使っているため、外国に高い燃油代金を支払わなければならない状態が続いている。しかし、早急に再エネ立国に転換し、農業者の発電に補助して農家を電力供給源と位置づければ、再エネ由来の電力が増えるとともに、農家に副収入が得られて、その他の農業補助金を削減することが可能だ。

 なお、*1-5-1で、日経新聞がやっと「日本企業はビジネスモデル転換が不可欠になったが危機感が乏しい」と書き、大成建設が横浜市内に、断熱性や通気性を高めてビルのエネルギー消費量を75%削減し、建屋壁面につけた薄膜太陽光発電設備などで必要なエネルギーを賄って外部調達エネルギーをゼロにする「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」を建てたことを紹介している。ZEBは、1995年頃、(私が)太陽光発電の提案をした時から視野にあったことで、技術開発が遅すぎたが、これで日本は建築資材も輸出可能になるだろう。

 今、日本では、ガソリンを使うハイブリッド車はエコカーと看做されているが、そろそろ排ガスゼロの電気自動車(EV)や化石燃料を原料とせずに作った水素を使う燃料電池車を環境車にすべきことは誰が考えても明らかだ。そのため、パリ協定を前倒しする規制強化が世界で始まっているのはよいことだ。

 また、*1-5-2のように、家庭用燃料電池「エネファーム」が日本で開発され、「オール電化」とあわせて実用に供されるのはよいことだが、化石燃料を原料としない水素を使用するのが本当のエコである。また、設備の定価が172万8千〜216万円というのは、「少し良いと著しく高い価格設定」の例になっている。そのため、家庭に普及させCO2の削減に貢献するには、化石燃料を原料としない水素を燃料とするエネファームを「瞬間湯沸器+α」程度の価格にすべきで、そうなれば国内での普及と輸出が可能だ。

(2)原発に関する日本政府の迷走
 経産省幹部は、*2-1のように、「新潟県民にここまで原発再稼働アレルギーがあるとは」と嘆いたそうだが、2004年10月23日にM6.8の直下型地震である新潟県中越地震を経験し、原発に怖い思いをさせられた新潟県民の意識を軽く見すぎている。新潟県にも医師はじめ専門家がおり、政府高官が「安全」等々と言えばそれを信じると考えるのは、民間人をあまりにも馬鹿にしている。

 そして、「知事には原発を止めたり稼働を指示したりする法的権限はない」とも書かれているが、知事選は地元自治体の意志表示であるため、経産省の先見の明のなさによって発生した国民負担額を、特定の地域を原発事故のリスクに晒すことにより解決してよい筈がない。

 また、*2-2に、「進まぬ再稼働と燃料高で東電ホールディングスの脱国有化への道筋が不透明になった」と書かれているが、これはまさに、*1-2に書かれている日本政府の時代錯誤の結果である。

 さらに、*2-3には、「志賀原発に雨水6トン流入して安全機能を失う恐れもあった」「これほどの雨が流入するのは想定外だった」と書かれているが、万が一の事故も許されない原発で、また次元の低い想定外かと思われる。

(3)国民への廃炉費用・事故処理費用のつけ回しで、せっかくの電力自由化が骨抜き
 *3-1に、「①フクイチの廃炉にいくらかかり、その費用をだれが負担するかの答えを出す作業が経産省の有識者会議で本格化しているが、その会議は非公開である」「②廃炉費用総額の見通しが示されていない」「③経産省は2回目の会合で、年800億円程度から数千億円に膨らむ可能性があると説明しただけだった」とのことである。しかし、少しでも国民の税金で負担するのなら、工法の妥当性や費用の抑制可能性を検討するために、先に試算結果を示すべきだ。

 なお、原則として、東電が過去に原発で発電した時のコスト(事故処理や廃炉費用も含むのが当然)を、その時発電された電力と無関係の国民が税金で負担する理由はないため、私は、東電自身が資産の売却や費用節減で資金を確保するか、それで足りなければ金融機関の債権放棄などを含む法的整理をするのが筋だと考える。

 その上、*3-2のように、 経産省は11月2日の有識者会議で、フクイチの賠償や他の原発の廃炉にかかる費用の一部を電力自由化で参入した新電力にも負担させる案を示したそうだが、原発のコストをすべての電力利用者で負担する理由はなく、原発を使ったことがない新電力に原発のコストを負担させて電力自由化を骨抜きにしようとするのは、これも迷走としか言えない。

 さらに、経産省が2030年度時点で発電全体の20~22%を原発で賄うとしたのも、その間にコスト低減して普及が進む再生エネを疎かにしすぎており、経済の原則にも反し、先見の明がなく、いくら原発の必要性を説明しても納得する人は少ないだろう。そもそも、再生可能エネルギーの導入コストは、全ての電気利用者が負担するのではなく、最初は税金から補助するのが筋である(原発は、40年間も税金で莫大な補助をしてきて、これからも金食い虫なのだ)。

(4)新たな放射能の安全神話
 福島県は、*4-1のように、フクイチ事故の避難区域だった場所に国内最大規模の建築用CLT(直交集成板)生産工場を整備し、東京五輪・パラリンピックの関連施設で製品が活用されるよう国と調整するそうだが、原発事故後、5年も経過して放射性物質を吸い上げた近隣の木材内部は2000ベクレルもあるそうだ。そのため、この建材で作られた建物の中にいる人の健康を心配するのは当たり前で、それを福島県産材の風評被害だとすることこそ、新たな放射能の安全神話である。

 文系、特に法学部系の人は、「疑わしきは罰せず」という意識のためか、健康被害があると証明されていないものは使ってよいと考える人が多いが、食品や薬は「害がないことが証明されていないものは、食べない、使わない」のが原則であり、放射性物質は0に近い方が望ましい。何故なら、被害が出てからでは遅いからである。

 また、*4-2のように、フクイチ事故に伴う除染で出た汚染土も、環境省の検討会が「法定の安全基準まで放射能濃度が減るのに170年かかる」という試算を示しながらも再利用の方針を決め、長期管理の可否判断を先送りしていたそうだ。私は、汚染土も、コンクリートで密閉した中に入れて上に盛り土や植栽などを行えば、避難区域近くの堤防などに使うのは可能だが、市街地の道路のように掘り返すことのある構造物に使うのは不適切だと考える。

 なお、原子炉等規制法は原発解体で生じる金属などの「安全に再利用できる基準(クリアランスレベル)」を放射性セシウム1キロ当たり100ベクレル以下と定めているのに、事故後成立した放射性物質汚染対処特別措置法は、8000ベクレル超を指定廃棄物とし、8000ベクレル以下なら問題なく廃棄処理できると規定したのも、人の健康被害を無視した放射能の安全神話である。

 その上、*4-3のように、フクイチ事故後5年半が経過しても、汚染水対策は予算ばかり使って足踏み状態であり、「海への放出が低コストで処分時間も短い」などとされているそうだが、これを実害がないのに悪評が立つ“風評被害”と決めつけるのは環境意識が低すぎ、この調子では、トリチウム以外はすべて除去されているかどうかも疑わしくなる。

<世界の動向>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12641667.html (朝日新聞 2016年11月4日) パリ協定、きょう発効 排出ゼロへ新ルール 温暖化対策
 パリ協定は、昨年12月、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された。2大排出国の中国と米国が9月に締結、インドや欧州連合(EU)加盟国などが続き、10月に発効の条件となる総排出量の55%以上、55カ国以上の締結を満たした。30日後の11月4日に発効する。国連によると、2日時点で94の国と地域が協定を締結。出遅れた日本は4日にも国会で協定締結を承認する見通しで、その後閣議決定して国連に提出する。世界の温室効果ガス排出量はCO2換算で年間約370億トンに上る。日本はこのうち約14億トン(2013年度)で世界5位。各国は削減計画をたてることになっており、日本も30年度に13年度に比べて26%減らす目標を提出している。7日からは、モロッコのマラケシュで第22回締約国会議(COP22)が開かれ、パリ協定を実行するための詳しいルールを決める交渉を始める。パリ協定採択後、国際的な温暖化対策の仕組み作りが進んでいる。10月に航空機国際線のCO2排出規制や、高い温室効果がある代替フロンの生産規制で合意。国際海運でも18年までに、排出削減戦略を作ることを決めた。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p39346.html (日本農業新聞 2016年11月2日) パリ協定発効 温暖化防止 日本出遅れ
 地球温暖化防止の新たな枠組み「パリ協定」が4日、発効する。気温上昇を抑えるため、世界各国が今世紀後半には二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す。半端な「低炭素」ではなく究極の「脱炭素」への決意は、人類生存の危機感の表れである。日本は協定批准ができておらず完全に出遅れた。失地回復には再生可能エネルギー立国への大転換しかない。熱波、洪水、海面上昇、生態系破壊、感染症まん延、食料不足・・・。温暖化の脅威は日増しに高まっている。世界の平均気温は上がり続けており、わが国も異常気象に見舞われている。温暖化防止は待ったなしだ。昨年末合意のパリ協定は2020年以降の枠組みだが、各国は米中の9月批准を皮切りに早期発効に動いた。発効は協定ルール整備後との見方が覆ったのは、多くの国が温暖化防止の政治的優先度を高めたからだ。それなのに安倍政権は何をやっているのか。大企業優先で真の国益にかなうはずもない環太平洋連携協定(TPP)の批准ばかり急ぎ、肝心のパリ協定は後回しだった。安倍晋三首相主宰の5月の伊勢志摩サミットでは、パリ協定の年内発効努力を宣言した。その日本が未批准とは失態と言うほかない。モロッコで7日に始まる国連気候変動第22回会議(COP22)に合わせ、パリ協定第1回締約国会議が15日から4日間予定される。日本は批准遅れのためオブザーバー参加しかできない。温暖化防止に「熱意なき国」を印象付け、環境外交での地位低下は免れない。世界では今、欧州や北米、中国、インドなども太陽光、風力といった再エネ導入を加速する。原発もCO2を排出しないが、廃炉・廃棄物処理を含めた総経費が高く、安全性懸念もあって敬遠がち。だが、安倍政権は再エネを電気料金を上げる経済の足かせと捉え、福島原発事故を忘れたかのような原発再稼働と、脱炭素化とは逆の石炭火力依存を主軸にしている。日本はその時代錯誤性から、再エネという新ビジネスからも取り残されていく。農山村に目を向ければ太陽光、風力に限らず小水力、木質などのバイオマス(生物由来資源)、地熱の活用は十分できる。早急に再エネ立国へ転換すべきだ。パリ協定は、今世紀末の気温上昇を産業革命以前と比べ2度未満(極力1.5度未満)に抑える目標を設定している。だが、現在の各国の温室ガス排出削減目標は不十分で、2.7度の上昇を許すとされる。日本の目標も、50年までに「80%削減」の閣議決定(12年)がありながら、30年までに「26%削減」(13年比)では緩過ぎる。協定発効によって、2年後に各国は最初の目標見直しを迫られる。わが国は再エネ推進による大幅排出削減を率先して主導しないと、環境先進国への復帰はできそうにない。

*1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201610/CK2016102902000142.html (東京新聞 2016年10月29日) 【国際】太陽や風は決して請求書をよこさない 独シュタインマイヤー外相 本紙寄稿
 脱原発政策を進めるドイツのシュタインマイヤー外相(60)が本紙に寄稿した。原子力発電の「高い潜在リスク」を指摘、再生可能エネルギーへの転換を訴え、温室効果ガス削減に向けた「新たな道」を共に切り開いていくよう、日本に呼び掛けている。タイトルは「世界規模のエネルギーシフト(転換)-太陽や風は決して請求書をよこさない-」。エネルギーシフトは、原子力に頼らず、再生可能エネルギーで供給を賄う政策だと説明。ドイツでの萌芽(ほうが)は、一九八六年の旧ソ連、チェルノブイリ原発事故(現ウクライナ)にさかのぼるとした。放射性物質の降下を恐れ、雨の日に屋外で遊べず、牛乳が飲めなくなるなど不安が広がり、環境に配慮したエネルギーへの転換を求める意識が高まった。東日本大震災の直後に起きた二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故で「決定的な影響」を受け、脱原発の表明に至ったと、経緯を振り返った。二二年末までに全ての原発の稼働を停止し、五〇年までにエネルギー消費を半減させ、再生可能エネルギーとスマートグリッド(次世代送電網)への移行を目指すとの目標を確認した。再生可能エネルギーの研究開発により、ドイツでは三十七万人超の雇用を創出し、エネルギーの効率化で産業界のコスト削減につながったと、経済効果も強調した。国際的にも、地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」への合意が広がり、エネルギーシフトの潮流は勢いを増していると主張。日本でも、多くの自治体でエネルギーシフトへの関心が高く、対話が望まれていると指摘し、「全力を尽くして支援していきたい」と述べた。外相の寄稿に関連したドイツのエネルギーシフトや日本との協力を考える「日独シンポジウム 温暖化対策と地方創生」(在日ドイツ大使館など主催)が来月二日午前九時半から、東京都港区赤坂のドイツ文化会館で開かれる。参加無料。申し込みはドイツ日本研究所のホームページ=https://www.dijtokyo.org/ja/=から。
<フランクワルター・シュタインマイヤー外相> 1956年1月、ドイツ西部デトモルト生まれ。大学で法学と政治学を学び、司法試験に合格。75年、中道左派の社会民主党に入党。シュレーダー前首相の側近となり、首相府長官を務め、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟との大連立政権で2005年11月から09年10月まで外相。連邦議会社民党院内総務を経て、13年12月から外相再任。
<パリ協定> 京都議定書に代わる地球温暖化対策の新たな枠組み。昨年12月に採択された。今世紀後半に二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にし、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるのが目標。各国が自主目標を掲げ互いに検証する。批准国が55カ国以上、排出量の合計が世界の55%以上との要件を満たし、11月4日の発効が決まった。協定の第1回締約国会議が同15日に開かれる。日本は批准手続きが遅れ、正式メンバーとして参加できない。

*1-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161101&ng=DGKKZO09009150R31C16A0FFB000 (日経新聞 2016.11.1) 電池の「破壊的」技術革新 石油需要減、到来早く
 「石油生産者は予期せぬ技術進歩にさらされている」。英格付け会社フィッチ・レーティングスは10月半ばのリポートでこう指摘した。近年の業界で技術進歩の代名詞といえば「シェール革命」。これで原油生産がいずれ限界を迎えるとする「ピークオイル論」は遠のいた。だがフィッチが指摘するのは電池の「破壊的」技術革新だ。石油会社の収益に影響を及ぼし、電力、自動車にも余波が押し寄せるという。フィッチは電気自動車(EV)が競争力を増し、石油需要が想定より早く落ち込むと警鐘を鳴らす。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の石油需要の55%は車で使うガソリンなどの輸送部門。フィッチは極端なシナリオとして欧州の新車販売の5割がEVの状況が10年続けば、域内ガソリン需要は25%減ると試算する。電池の価格下落は進む。米エネルギー省(DOE)によると2015年の1キロワット時あたりの価格は268ドル(約2万8千円)と過去7年で73%下落。22年までに125ドルまで下げ、ガソリン車並みの競争力を持たせるのがDOEの目標だ。量産効果と、素材改良など技術革新が背景にある。電池メーカーでは近年、欧州で工場の建設ラッシュが続く。韓国のLG化学はポーランドに17年、サムスンSDIはハンガリーに18年に欧州初の工場を稼働する。EVシフトを進める欧州メーカーがターゲットだ。象徴が内燃機関に誇りを持ってきたドイツ。10月24日、独ダイムラーが電池第2工場の着工式を開いた。19年から発売する航続距離500キロEVを支える基幹拠点だ。トーマス・ヴェーバー取締役は「電池技術は当社だけでなく、ドイツにとっても重要」と指摘。自動車部品最大手の独ボッシュも合弁や買収で電池開発に乗り出し、「電池の航続距離の倍増、価格半減は可能」とフォルクマル・デナー社長は説く。電気をためる電池は出力変動が大きい再生可能エネルギーとの相性がよい。IEAによると、15年の世界の電池の投資は100億ドルに達した。だが「電力系統につながっているのはわずか0.4%で、これから接続が本格化する」(ファティ・ビロル事務局長)。一方、15年の再生エネ発電容量の増加分は1億5300万キロワットと、原油安でも過去最高になり、容量で石炭火力を抜いた。IEA再生エネ部門を率いるパオロ・フランクル氏は「再生エネの発電量のシェアは14%にとどまるが、5年で20%を超える」とみる。車は買い替え期間が長く、一朝一夕で石油需要が減るわけではない。だが欧米石油大手には気候変動対策による業績への影響「カーボンリスク」の開示を求める株主からの声が高まる。株主の関心はピークオイルではなく「ピークデマンド」に移りつつある。9月28日、石油輸出国機構(OPEC)はアルジェでの緊急会合で減産に合意したが、その後も油価の戻りは限定的。翌29日に開幕したパリ国際自動車ショーでは欧州勢がEVシフトを鮮明にした。11月4日には地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」が発効する。電池を軸とする地殻変動は始まっている。

*1-5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161104&ng=DGKKASGG31H3V_R31C16A0M10900 (日経新聞 2016.11.4) パリ協定特集ビジネスモデル転換が不可欠に 日本企業、危機感乏しく
 日本企業は省エネ技術に優れているといわれてきた。だがパリ協定は低炭素ではなく脱炭素社会の実現を企業に要請する。これまでの技術やサービスの延長線上では世界で取り残される。日本企業はビジネスモデルの転換が求められる。「2年間実証して、エネルギー収支がゼロのビルは実現可能だとわかった」。大成建設の今酒誠環境本部長は、横浜市内に建てた実験ビルに手応えを感じている。地上3階建てのビルは「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」と呼ばれる。断熱性や通気性など高めた建屋の設計でエネルギー消費量を従来より75%削減。必要なエネルギーは建屋壁面につけた薄膜太陽光発電設備などで賄うことで、外部調達するエネルギーは年間通じてゼロを実証できた。太陽光発電だけで必要な電力は確保できるため、温暖化ガス排出量もゼロだ。20年にはZEB市場が本格的に立ち上がるとみて実用開発を急ぐ。パリ協定は温暖化ガス排出量の実質ゼロを目標としている。「炭素を出さない新たな経済社会システムの実現を定めた条約だ」。世界の温暖化問題に詳しいNPO気候ネットワークの平田仁子理事は語る。企業は事業活動や製品で排出ゼロに向けた知恵が求められる。パリ協定が早期発効したことで「自動車の燃費基準はより強化されるだろう」。日産自動車の川口均専務執行役員は身構える。電気自動車(EV)販売で先行する同社だが「危機感を持って(排ガスゼロの)ゼロエミッション車の開発を加速させたい」(川口専務)。米カリフォルニア州は自動車メーカーに販売車の一定比率以上をエコカーと定める環境規制で17年秋以降、ハイブリッド車がエコカーとみなされなくなる。パリ協定を前倒しするような規制強化が世界で始まっている。世界の潮流をにらみ、トヨタ自動車は50年までにエンジンだけで走る車をほぼゼロとする目標を定めた。グローバル企業はこれまでの技術やノウハウに固執しない挑戦に動き出している。だが危機感を持って挑戦する企業は日本はまだ少ない。運用総額100兆ドルを超える世界の有力機関投資家の支援で企業の温暖化対策を調査する国際NPO、英CDP。16年の調査で日本企業の回答率は53%と、65%前後の欧米より低かった。特に、国内温暖化ガス排出量の4割を占める電力業界は、対象10社で回答したのが東京電力ホールディングスだけだった。パリ協定の発効で、世界の投資家の注目を集めている調査だが「日本企業は対応がまだ二極化している」(英CDPの森沢充世ジャパンディレクター)。世界では温暖化対策は経営問題として取り組み始めている。日本企業は意識改革が求められる。

*1-5-2:http://qbiz.jp/article/97308/1/ (西日本新聞 2016年11月3日) エネファーム 販売攻勢 西部ガスの家庭用燃料電池
 西部ガス(福岡市)が、都市ガスを使った家庭用燃料電池「エネファーム」の普及を加速させている。エネルギー自由化で競争が激化する中、九州電力の「オール電化」に対抗し、環境への優しさもPRする。今後、既存住宅や新築マンションへの営業を強化する。西部ガスは2009年度、福岡市や北九州市など都市ガス供給エリアでエネファームの販売を開始。13年度は1283台(設置ベース)と初めて年千台を突破した。15年度は2600台に倍増し、累計で約7400台に上る。営業面では、日頃からガスの顧客に接するグループ会社の販売店23店舗に、西部ガスの営業社員が出向。大阪ガスから講師を招くなど、販売店の営業社員約340人が提案型の営業を磨いている。本社の社員も、新築を手掛ける大手住宅メーカーに売り込みを図っている。来年4月のガス自由化を控え、同社は新築マンションへの販売も進める。第1弾として福岡市中央区で今年1月に完成した分譲マンションに設置。近隣地区の5物件への導入も決まった。床暖房などで付加価値を高めたい高級マンションに人気だという。エネファームの特徴は、環境性能の高さと光熱費の安さ。最新機種の場合、一戸建ての4人家族の購入電力量を66%削減。ガスの従量料金単価も約6割下がり、年間約7万3千円の節約になるという。九電がオール電化で攻勢に出ている中、西部ガスの平島孝三郎副社長は「家で電気を起こし、お湯も沸かす先進性が強み。料金も対抗できる」と強調する。ただ、設備の標準モデルの定価が172万8千〜216万円と初期費用がかかるなど課題も多い。国は20年に全国で140万台の普及を目指しており、同社営業計画部の松本大さんは「全国のガス会社で販売量を増やし、メーカー3社が量産することで、価格を下げていきたい」と意気込んでいる。
■エネファーム 都市ガスから取り出す水素を、空気中の酸素と化学反応させて発電する家庭用燃料電池システム。その際に発生した熱を給湯にも利用する。住宅の近くで発電と給湯を同時に行うため、エネルギー利用効率が高く、95%に上るという。環境面では、西部ガスの試算で年間の二酸化炭素(CO2)排出量を4人家族で1・3トン削減できる。

<原発での日本の迷走>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJBJ5JN4JBJULFA003.html
(朝日新聞 2016年10月16日) 新潟知事選、国と東電の誤算 再稼働のシナリオ揺らぐ
 経済産業省の幹部は16日夜、「新潟県民にここまで原発再稼働アレルギーがあるとは」と嘆いた。経産省は、福島第一原発事故の賠償や廃炉に責任がある東電について、柏崎刈羽原発の再稼働を前提に新たな支援策を練ってきた。この秋には省内の有識者会議が、年内にまとめる報告書の議論を始めた。だが、今回の知事選で、県民が柏崎刈羽の再稼働に強い抵抗感を持っていることが明確になった。7月の鹿児島県知事選でも、稼働中の九州電力川内原発(薩摩川内市)の一時停止を公約に掲げた三反園訓氏が当選。全国の原発再稼働を進めたい経産省のシナリオは狂い始めている。経産省にとっては、柏崎刈羽の再稼働こそ東電再建の「前提」と考えていただけに衝撃は大きい。東電は2016年3月期に営業利益3722億円の黒字を出した。ただ、原油安で火力発電などの燃料費が前年より1兆円減ったのが主因。被害者賠償や廃炉に無限責任を負っており、費用は自らの利益で賄う。原油価格が上がれば、それがおぼつかなくなる。東電が14年1月に公表した再建計画では、福島第一の処理費は総額11兆円だった。廃炉・汚染水対策に2兆円、被害者賠償や放射性物質の除染、中間貯蔵施設の整備などに9兆円かかると試算。これらを、ほかの大手電力会社の協力や国の無利子融資で立て替える仕組みも整えた。ところが、費用は膨らみそうだ。経産省の内部資料によると、少なくとも廃炉で4兆円、賠償で3兆円は増える。東電の広瀬直己社長は「合理的に見積もると債務超過になる可能性がある。倒れると(廃炉や賠償が)いかんともしがたい」と国に支援を求めた。いま、原子力規制委員会は柏崎刈羽の6、7号機を審査中だ。東電はこの再稼働で営業利益が年2千億円増えるとはじく。経産省幹部は「その分を廃炉や賠償に充てられる」という。知事には原発を止めたり稼働を指示したりする法的権限はないが、再稼働には地元自治体の同意を得るのが慣例だ。米山氏が新知事に選ばれたため、再稼働のハードルは高まった。ただ、再稼働が遠のくと、別建てで検討が進む東電救済シナリオの現実味が増しかねない。有識者会議の議題にもなっている新たな国民負担だ。今春の電力小売り全面自由化で参入した「新電力」の利用者も含めて広く電気料金に上乗せし、福島の賠償費なども織り込もうとしている。米山氏の当選を受け、経産省幹部は「新知事にも粘り強く理解を求めていくが、これから4年間、再稼働は難しいだろう」と言う。経産省は年内に、柏崎刈羽が早期に再稼働した場合と、しなかった場合の国民負担額を有識者会議に示す見込みだ。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161101&ng=DGKKASDZ31I5E_R31C16A0TI1000 (日経新聞 2016.11.1) 東電、再建に三重苦、福島廃炉 進まぬ再稼働 燃料高、4~9月 7割最終減益
 東京電力ホールディングス(HD)の脱国有化の道筋が不透明になってきた。収益改善効果が大きい柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働はメドが立たず、今後は原油高による燃料費上昇も懸念材料だ。さらに福島第1原子力発電所の廃炉費用がのしかかる、いわば三重苦。広瀬直己社長は31日の記者会見で、廃炉費用を自前で賄う方針を改めて強調したが、当事者能力は一段と低下している。この日発表した2016年4~9月期連結決算は事業環境の厳しさを浮き彫りにした。純利益は941億円と前年同期比7割弱減った。今年4月に始まった電力小売りの全面自由化で、東電は半年で100万件以上の顧客を新電力などに奪われた。そんな中、経営陣が期待をかけるのが業績改善効果の大きい原発再稼働。しかし、柏崎刈羽原発がある新潟県では慎重姿勢をとる米山隆一氏が知事に就任し再稼働は当面、困難になったとの見方が多い。下期にかけては原油高の逆風も強まる。燃料コストが上がるなか、原発なしで火力発電所をフル稼働させなくてはならない。加えて福島第1原発の事故処理にかかる金額は従来想定を大きく上回りそうだ。広瀬社長は「非連続の改革を断行し、国民に負担をかけず廃炉費用を捻出する覚悟だ」と強調、福島事故に対する責任を果たす姿勢を示したが、「まだ総額はわからない」(広瀬社長)状況だ。経済産業省の専門家委員会は10月、廃炉費用は現在の年800億円から数千億円に拡大する可能性があるとした。廃炉作業は今後、何十年にもわたって続く見込みで、東電が本当に自力でコストをカバーし、国民負担を回避できる確証はない。東電は根本的な経営改革を進めるため、様々な事業分野で他社と連携する考えを示している。だが、その具体策は経産省が委員会を設けて検討を始めたばかり。広瀬社長も会見では「委員会で議論してもらえる」と何度も繰り返した。経産省が掲げた原子力事業の分社についても「今は差し控える」と明言を避けた。東電は16年度中に社債の発行を再開する計画だが、実現できるかは不透明だ。17年初めに新たな再建計画を策定し、国の経営評価を経て脱国有化するというシナリオの行方はみえない。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJBM4K37JBMULBJ00D.html (朝日新聞 2016年10月20日) 志賀原発に雨水6トン流入 「安全機能、失う恐れも」
 停止中の北陸電力志賀原発2号機(石川県)の原子炉建屋に6・6トンの雨水が流れ込み、非常用照明の電源が漏電する事故が9月に発生し、原子力規制委員会は19日、北陸電に原因究明と再発防止を求めた。田中俊一委員長は「これほどの雨が流入するのは想定外だった。安全上重要な機能を失う恐れもあった」として、新規制基準に基づく再稼働の審査を見直す可能性を示唆した。北陸電の報告によると、雨水の流入は9月28日に発生した。原子炉建屋の横にある排水路が道路工事で一部ふさがれていたため、雨水が道路にあふれ出た。仮設ケーブルを通すためふたが一部開いていたケーブル配管に流れ込んだ。雨水は配管を通って原子炉建屋の1階に流入。非常用照明の電源設備などが漏電した。さらに床のひび割れなどを通って地下2階まで達した。地下1階には、地震などで外部電源が失われた際に使われる最重要の蓄電池があるが、その真上の場所にも水が来ていたという。気象庁によると、当日の雨量は1時間あたり最大26ミリだった。東京電力福島第一原発は、津波で非常用電源が失われて事故につながった。このため、新基準は防潮堤で津波を防ぎ、建屋に水密扉をつけて浸水を防ぐなどの対策の強化を求めている。しかし、配管から雨水が流れ込むことは重視されてこなかった。志賀原発は近くに川などがないため洪水対策は不要とされ、配管は密封されていなかった。規制委は今後、志賀2号機の再稼働に向けた審査で対策を求めていく方針。また、今回の問題が志賀原発固有の問題か、他原発の審査にも広げる必要があるかどうか、北陸電の報告を待って検討するという。北陸電の金井豊社長は19日、規制委の臨時会で「現場周辺は標高が高く、止水対策が後手に回っていた。当直の危機意識も薄く、警報への対応も遅れた」と陳謝した。

<国民への廃炉費用・事故処理費用のつけ回し>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12628010.html
(朝日新聞社説 2016年10月27日) 福島廃炉費用 これで議論できるのか
 未曽有の事故を起こした東京電力福島第一原発の廃炉にいくらかかり、その費用をだれがどう負担するのか。この問いに答えを出す作業が経済産業省の有識者会議で本格化している。国民負担にもかかわる難題だが、今の議論の進め方には納得しがたい点が多い。まず疑問なのは、会議が非公開であることだ。議事要旨が後に公表されるが、概要にとどまり、誰の発言かもわからない。廃炉作業を担う東電の経営は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の有無に左右されるが、会議のメンバーには原発推進を支持してきた財界の首脳が名を連ねる。先の知事選の結果が示す通り、地元では再稼働への反対が強い。そのなかで再稼働をあてにした形で検討が進むのでは、という懸念がぬぐえない。廃炉費用の総額の見通しがまだ示されていない点も、理解に苦しむ。初会合で早く示すよう出席者が求めたが、先日の2回目の会合で経産省は「足元の年800億円程度から数千億円に膨らむ可能性がある」と説明しただけだった。具体的な試算結果は、今年末にも東電の経営改革の姿や国の対応とセットで示すという。だが、この手順はおかしい。廃炉にいくらかかりそうかを見極めることが、議論の出発点のはずだ。溶け落ちた核燃料の実態がはっきりしない現状では、正確な見積もりは確かに難しい。しかし、工法が妥当なのか、費用を抑える工夫ができないかをしっかり検討するためにも、先に試算結果を示すべきだ。費用のまかない方について、有識者会議は、金融機関の債権放棄などを伴う法的整理のほか、国が税金で肩代わりする案や、今の公的管理を長く続ける案を退け、東電自身が経営改革で資金を確保する道を選んだ。柏崎刈羽原発を分社化し、他社の原発事業と再編する方向性を示したのも、「自助努力」を強調するのが狙いなのだろう。東電が改革を徹底し、税金投入や電気料金値上げといった国民負担を避ける努力を尽くすのは当然だ。ただ、問われるのは、それだけで最低でも数兆円とみられる巨額の費用を東電がまかなえるかどうかの見極めである。途中で自力路線が行き詰まり、廃炉作業に影響が出れば、福島の復興が遅れることにもなりかねない。公開の場で、拙速を避けて、費用や負担について検討を尽くす。福島第一の廃炉は国民的な課題だけに、幅広い納得を得る姿勢が欠かせない。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161103&ng=DGKKASFS02H5S_S6A101C1EA2000 (日経新聞 2016.11.3) 新電力にも原発コスト、賠償・廃炉費 大手で賄えず 消費者に負担転嫁も 経産省案
 経済産業省は2日に開いた有識者会議で東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償や、福島第1を除く原発の廃炉にかかる費用の一部を電力自由化で参入した新電力にも負担させる案を示した。膨らみ続ける賠償などの費用を東電や電力大手だけで賄うのは難しいためだ。原発のコストをすべての電力利用者で負担する仕組みづくりをめざすが、反発も広がる。有識者会議が年内に結論を出し、経産省は来年の通常国会に関係法の改正案を提出する方針だ。福島第1原発事故の賠償費用は現在、東京電力ホールディングスと他の電力大手など11社が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)に負担金を支払っている。2015年度は総額で1630億円(東電の特別負担金は除く)。電力大手はほかに、福島第1以外の原発の廃炉に伴う減価償却費や解体費の積み立ても負担している。経産省が提示した案は、こうした原発に関連するコストの一部を新電力にも担ってもらうというものだ。新電力が電力大手に支払う送電線利用料への上乗せを想定している。新電力がその分を小売料金に転嫁すれば、利用者に負担が回る。新電力にどのくらい負担を求めるかは、これから検討する。新電力の利用者も自由化前は大手の客で、原発の電気を使っていた。経産省幹部は「大手に残った人だけ負担するのは不公平だ」と話す。福島第1原発事故の賠償費用はすでに被災者への支払いが6兆円に上り、さらに兆円単位で膨らむ見込みだ。一方、事故後の新規制基準の導入などで再稼働は全国で遅れている。稼働しているのは九州電力川内原発(鹿児島県)と四国電力伊方原発(愛媛県)だけだ。司法判断で停止した関西電力高浜原発(福井県)のような例もあり、原発は収益性を見通しにくくなった。大手の負担余力が限られるなか、新電力にも一部を補ってもらった方が原発を安定的に維持できる、との見方がある。いまも原発関連のコストのなかで使用済み核燃料の再処理費用は、原発を持たない新電力が一部を負担している。賠償費用や廃炉費用もこれに続くかたちになる。2日の有識者会議では日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の大石美奈子委員が「新規参入者が競争意欲を失うのでは」と指摘した。東大教授の松村敏弘委員は「上乗せするとしても何らかの歯止めが必要だ」と述べた。政府は2030年度時点で発電全体の20~22%を原発で賄う計画だ。二酸化炭素(CO2)の削減やエネルギー安全保障の観点から原発は有効とみており、その必要性を説明していく考えだ。太陽光など再生可能エネルギーの導入コストは、再生エネを好むかどうかにかかわらず全ての電気利用者が負担している。標準家庭で電気料金に月675円を上乗せしてでも、その普及が国益になるとの判断がある。有識者会議でSMBC日興証券の円尾雅則委員は「再生エネと同じように原子力が必要だからみんなでコストを回収すると整理すればすっきりする」と指摘した。この日は福島第1原発の廃炉費用について東電1社に負担させる案も示した。利益を優先的に廃炉に回しながら、原賠機構に基金をつくって支払いを支える仕組みだ。

<放射能安全神話>
*4-1:http://blog.goo.ne.jp/flyhigh_2012/e/b76853de83e1a746f9ba8d3ff7eeaa90 (福島民報 2015/6/20) CLT生産拠点 県来年度にも着工 大熊が有力
 県は東京電力福島第一原発事故に伴う避難区域に、国内最大規模となる建築用のCLT(直交集成板)生産工場を整備する。被災地の産業振興と県内全域の林業再生を目指した取り組みで、東京五輪・パラリンピックの関連施設で製品が活用されるよう国と調整する。大熊町が復興拠点に位置付ける同町大川原地区が工場の設置場所として有力視されており、平成28年度にも着工する。
■東京五輪活用目指す
 19日に開かれた6月定例県議会本会議の代表質問で、柳沼純子議員(自民党、郡山市)の質問に小野和彦県農林水産部長が答えた。東日本で初のCLT生産工場となり、国内最大級の年間5万立方メートルの出荷を目指す。県は7月中に産学官による検討会を設け構想を具体化する。県内の建設業者などでつくる県CLT推進協議会、原発事故に伴い避難区域が設定された12市町村、復興庁、木材を扱う民間企業などが参加する予定で、27年度は工場の設置・運営主体を決め、設置場所を選ぶ。国内外で需要調査に取り組む。設置場所として浮上している大熊町大川原地区は居住制限区域だが、30年度に開設予定の常磐自動車道大熊インターチェンジ(仮称)に近く、高速道路を使い県内全域からCLTの原料となる木材を集めやすいというメリットがある。早ければ29年度内の完成を目指す。東京五輪・パラリンピック選手村の宿舎などに活用するよう政府に求める。災害公営住宅での導入も検討する。県は原発事故に伴う県産材への風評対策として、生産工場に木材のモニタリング設備を設ける方針だ。国内林業の成長産業化を目指す国土交通省と林野庁は昨年11月、CLT普及のロードマップを発表。36年度までに、CLTの国内年間生産量を現在の1万立方メートルから50万立方メートルまで増やす方針を掲げている。県CLT推進協議会は今年2月、湯川村に東日本初となるCLT共同住宅を建設した。竹下亘復興相や今井敏林野庁長官らが相次いで視察し、本県での取り組みを支援する考えを示した。県林業振興課は「CLT産業の先進地を目指し、林業再生につなげたい」としている。国内では岡山など西日本の3県でCLT生産工場が稼働している。

*4-2:http://mainichi.jp/articles/20160627/k00/00m/040/085000c (毎日新聞 2016年6月27日) 汚染土、「管理に170年」…安全判断先送り、再利用方針
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た汚染土を巡り、環境省の検討会が再利用の方針を決めた際、法定の安全基準まで放射能濃度が減るのに170年かかるとの試算を非公開会合で示されながら、長期管理の可否判断を先送りしていたことが分かった。環境省は汚染土を道路の盛り土などに再利用し、コンクリートで覆うことなどで放射線を遮蔽(しゃへい)するとしているが、非公開会合では盛り土の耐用年数を70年と提示。道路の供用終了後も100年間の管理が必要で、専門家は「隔離もせずに計170年もの管理をできるはずがない」と厳しく批判している。この非公開会合は「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ(WG)」。汚染土の減容や再利用を図るため環境省が設置した「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の下部組織で、メンバーは一部重なる。毎日新聞が入手したWGの内部資料によると、1〜5月に6回開かれ、放射線の専門家ら委員8人と環境省や日本原子力研究開発機構(JAEA)の担当者ら計20人余が出席した。原子炉等規制法は原発解体で生じる金属などの「安全に再利用できる基準」(クリアランスレベル)を放射性セシウム1キロ当たり100ベクレル以下と定める一方、事故後成立した放射性物質汚染対処特別措置法は8000ベクレル超を指定廃棄物とし、同ベクレル以下を「問題なく廃棄処理できる基準」と規定。WGはこの8000ベクレルを汚染土再利用の上限値とするための「理論武装」(WG委員長の佐藤努北海道大教授)の場となった。環境省は汚染土をコンクリートで覆うことなどで「放射線量はクリアランスレベルと同程度に抑えられる」として道路の盛り土や防潮堤など公共工事に再利用する計画を発案。1月27日の第2回WG会合で、委員から「問題は(道路などの)供用後。自由に掘り返していいとなると(再利用の上限は)厳しい値になる」との指摘が出た。JAEAの担当者は「例えば5000ベクレル(の汚染土)を再利用すれば100ベクレルまで減衰するのに170年。盛り土の耐用年数は70年という指標があり、供用中と供用後で170年管理することになる」との試算を提示した。その後、管理期間を巡る議論は深まらないまま、上部組織の戦略検討会は8000ベクレルを上限として、コンクリートで覆う場合は6000ベクレル以下、植栽した盛り土の場合は5000ベクレル以下など用途ごとに目安を示して再利用を今月7日に了承した。環境省は年内にも福島県内の仮置き場で濃度の異なる汚染土を使って盛り土を作り、線量を測る実証実験を始めるとしている。戦略検討会の委員を兼ねるWGの佐藤委員長は管理期間170年の試算を認めた上で、「議論はしたが何も決まっていない。今回は再利用の入り口の考え方を示したもので、(170年の管理が)現実的かどうかは今後検討する」とした。環境省除染・中間貯蔵企画調整チーム長だった小野洋氏(6月17日異動)は、「最後どうするかまでは詰め切れていないが、そこは環境省が責任を持つ」と述べた。同じ検討会の下に設置され土木学会を中心とした別のWGでは汚染土再利用について「トレーサビリティー(最終段階まで追跡可能な状態)の確保は決して容易ではない」との見解が示されている。
●捨てているだけ…熊本一規・明治学院大教授(環境政策)の話
 汚染管理は、一般人を立ち入らせないことや汚染物が埋まっていることを知らせるなどの要件を満たすことが必要だ。道路など公共物に使いながら170年間も管理するのはあまりに非現実的。70年の耐用年数とも矛盾する。このような措置は管理に当たらないし、責任を取らないと言っているに等しい。実態としては捨てているだけだ。
●除染による汚染土
 住宅地などの地表面をはぎ取った汚染土はフレコンバッグなどに入れ現場の地下に埋設保管されているほか、自治体などが設置した仮置き場で集積保管されている。推計で最大2200万立方メートル(東京ドーム18個分)とされる福島県内分は双葉、大熊両町に整備中の中間貯蔵施設で最長30年間保管後、県外で最終処分する方針だが、処分先などは未定。福島県外では栃木、千葉など7県で計約31.5万立方メートルが昨年9月末時点で保管されているが、今後の取り扱いは決まっていない。

*4-3:http://mainichi.jp/articles/20160907/ddm/003/040/044000c
(毎日新聞 2016年9月7日) クローズアップ2016、福島原発事故5年半 汚染水対策、足踏み
 東京電力福島第1原発事故の発生からまもなく5年半経過するが、政府や東電の汚染水対策が足踏みしている。地中に「氷の壁」を造り、地下水流入を防ぐ「凍土遮水壁」(全長約1・5キロ)は効果が表れず、放射性のトリチウムが残る処理水の行き先も宙に浮いている。政府は東京五輪イヤーの2020年中に、原子炉建屋内の汚染水処理を完了させる方針だが、黄信号が点灯している。
●溶ける凍土遮水壁
 「大雨の影響で、地下の2カ所で温度が0度以上に上がってしまった」。東電の広報担当者は台風10号が通過した直後の1日の記者会見で、大雨によって地下水が大量流入し、凍土遮水壁の2カ所が溶けたことを明らかにした。凍土遮水壁は今年3月に凍結を開始したが、一部では地質の関係で地下水の流れが速く、凍結できない状況が続いていた。さらに今回の大雨で凍結部分が溶けるという弱点も明らかになり、専門家からは計画の破綻を指摘する声が上がる。第1原発の原子炉建屋周辺には、山側から大量の地下水が流入し、これが溶けた核燃料に触れるなどして高濃度の放射性汚染水が1日約400トン発生している。東電はこの流れを断つため、13年に凍土遮水壁の建設を決定。建屋周囲の地下30メートルまで1568本の凍結管を打ち込み、氷点下30度の冷却液を循環させて氷の「地下ダム」を造った。東電は汚染水対策の切り札と位置付け、今年3月から海側での凍結を開始し、6月からは山側の大半で凍結させた。先月時点で海側は99%、山側は91%凍結したとしている。しかし、凍結を開始して5カ月が経過しても汚染水の発生量はほとんど変わらないまま。先月18日にあった原子力規制委員会の検討会でも、専門家から「いつ効果が出るのか」「遮水効果が高いとの東電の説明は破綻している」などの意見が相次ぎ、東電が答えに詰まる場面もあった。凍土遮水壁は、20年開催の東京五輪への思惑も絡む。政府は13年9月に、凍土遮水壁などの汚染水対策へ国費を投入することを決定。その4日後に開かれた五輪招致のプレゼンテーションで、安倍晋三首相が「汚染水による影響は第1原発の港湾内の0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と国際公約し、東京招致を勝ち取った。政府は凍土遮水壁の建設費として国費345億円を投入しており、計画が「破綻」すれば国民からの批判を招きかねない。世耕弘成経済産業相は先月の記者会見で「凍結しづらいのは事実だが、凍結は進みつつある」と強調したが、効果は見えないまま。政府と東電は20年までに、建屋内の汚染水処理を終えるとの廃炉工程表も掲げており、凍土遮水壁は「国際公約」の成否も握る。凍土遮水壁の効果を上げるため、東電は6月から、温度の下がりにくい部分に特殊なセメントを注入し、凍らせやすくする追加工事を実施している。東電は今後「全面凍結」させる方針だが、効果が表れるかどうかは見通せない。地盤力学が専門の浅岡顕・名古屋大名誉教授は「凍土壁は『壁』ではなく、すき間のある『すだれ』のようなものでしかない」と指摘。「凍土壁の遮水性が低いことは明らか。早急に別の種類の壁を検討すべきだ」と話している。
●2020年完了に黄信号
 汚染水対策は「入り口」で地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁だけでなく、「出口」も課題を抱え、20年の完了目標の壁になっている。放射性物質の大半を除去した後に出る処理水の処分方法が決まっておらず、貯蔵タンクの容量が逼迫(ひっぱく)しているためだ。経済産業省は今秋に専門部会を設置し、処分方法を検討する方針。現時点で海への放出が低コストで処分時間も短いとされるが、風評被害を懸念する地元が反対している。東電は原子炉建屋などにたまった汚染水をくみ上げ、62種類の放射性物質を除去する多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で浄化しているが、トリチウム(半減期約12年)は除去できずタンクにためている。トリチウムは、原子核内の陽子数が水素と同じで中性子の数が異なる水素の同位体。トリチウムを含む水は沸点などの物理的性質が普通の水とほとんど変わらず、分離が難しい。国際原子力機関(IAEA)は13年公表の報告書で「トリチウムは海洋生物の体内に蓄積されず、人体への影響は非常に限定的」と指摘。海に流すことも含めて検討するよう提言した。通常の原発の運転でも、トリチウムを含む排水が国の基準に従って海に放出されており、原子力規制委員会の田中俊一委員長も「海洋放出すべきだ」との考えを示す。経産省は、トリチウムを含む処理水の処分方法について、海洋放出▽水蒸気化▽電気分解で水素化して大気放出▽セメントなどで固めて地下埋設▽パイプラインで地下に注入−−の5方法を比較。トリチウム水の総量を80万トン、流す量を1日400トンなどと仮定すると、海洋放出の処理期間は7年1カ月〜7年4カ月と最も短く、コストも18億〜34億円で最低になるとの試算を4月に発表した。ただし、これは濃度を国の基準の上限値(1リットル当たり6万ベクレル)に希釈して流す場合の試算。より低い濃度で放出する場合、放出量を増やさなければ長期化する。国と東電は山側でくみ上げた地下水を海に流す際、トリチウム濃度を同1500ベクレル未満に設定しており、仮にこの濃度で放出すれば、1日400トンの放出量では最大293年かかる計算だ。一方、福島県漁業協同組合連合会は風評被害を懸念し、トリチウム水の海洋放出に反対している。経産省が試算を発表した4月に開かれた政府と地元との協議会で、野崎哲会長は「慎重に進めてもらいたい」と異議を唱え、タンクで保管を続けるよう促した。事故後、県漁連は沿岸での操業を自粛。国の出荷制限指示もあり、県内漁港の水揚げ額は15年現在、事故前(10年)の約6%まで激減した。鈴木正晃副知事も協議会で「社会的影響も含め、総合的に議論してほしい」と述べ、海洋放出などについて拙速に判断することがないようクギを刺した。

PS(2016年11月5日追加):*5の海上保安庁の耐用年数を超えた巡視船・巡視艇を次第に新造していくのはよいと思うが、現代の新造船は化石燃料ではなく、水素による燃料電池か電動にして、海流の速い海域に停泊していると充電できるような新システムにすると、これも輸出可能だろう。

   
 2016.11.5佐賀新聞   巡視艇やまゆり      巡視船こがね

*5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/373606
(佐賀新聞 2016年11月5日) 海保船艇の35%が耐用年超過、2百カイリ設定時の建造影響
 海上保安庁の巡視船と巡視艇計366隻のうち、昨年度末までに耐用年数を超えた船が35%の129隻に上ることが5日、分かった。1977年の領海拡大と漁業水域設定を受けて大量建造した船の更新が進んでいないのが理由。沖縄・尖閣諸島周辺での中国船への対応などで海保の役割の重要性は増しているが、予算の制約の中で必要な船舶をどう確保するかや、効率的な運用方法が課題となっている。海保は船体の摩耗や金属疲労の度合いを考慮し、外洋で活動する比較的大型の巡視船の耐用年数を25年、主に沿岸を警備する小型の巡視艇を20年としている。


PS(2016.11.8追加):*6のように、送電網の利用料に上乗せする形で廃炉費用を新規参入した新電力に負担させるのは、大手電力会社の原発関連の負債を、原発を使ったことがない新会社に押し付けるもので、全く筋が通らない。このようなことをすれば、公正な市場で伸ばすべき新分野の芽を摘むので、送電網の利用料は中立でなければならないが、それができないようなら、ガス会社や地方自治体が送電網を埋設するなど、送電網を複数作って選べるようにした方がよいと考える。なお、長距離送電には、例えば、鉄道の敷地を利用して超電導電線を設置し、鉄道会社が送電料もとる方法がある。

*6:http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20161108-00000000-ann-bus_all (テレビ朝日 2016.11.8) 孫社長「根底からおかしい」 原発廃炉費用負担で
 福島第一原発の廃炉費用などを電力自由化で参入した新電力にも負担させる案が政府内で検討されていることについて、ソフトバンクグループの孫正義社長が批判しました。ソフトバンクグループ・孫正義社長:「考え方は根底からおかしいのではないかと思う。古い業界を守るために過去の遺産を新しいところに押し付けることを意味していて、新しく伸びるべき分野の芽を摘んでしまうのではないかと危惧する」。政府は現在、兆円単位で増えることが予想される福島第一原発の廃炉費用に加え、他の原発の廃炉費用についても送電網の利用料などに上乗せする案を検討しています。原発を保有していない新電力も廃炉費用を負担することになるため、孫社長は真っ向から反論しました。


<原発のコストと環境への悪影響>
PS(2016年11月9日追加):*7-1のように、原発の建設費や地元補助金を除く原発費用として、フクイチの事故処理、廃炉、最終処分場建設、核燃サイクルに最低でも総額30兆円かかるそうだが、経産省はこれまで「原発のコストは安い」と強弁し、その反省もなく財界人らと作った「東電改革1F問題委員会」で東電で賄えない分は電気代等を通じて国民負担を求めるそうだ。しかし、そのために、年金・医療・介護・教育・保育など社会保障の同じ財布から出される部分が削減されたりしている。
 また、*7-2のように、経団連の榊原会長がパリ協定の承認を受け、「①原発の早期再稼働が必要」「②日本にとっては非常に高い目標を国際公約した」「③安全審査を通った原発は地元の理解をいただき、早期に再稼働することが絶対に必要だ」などと述べたそうだが、①は今では根拠のない時代遅れの見解であり、②は日本企業の経営者は環境意識が低すぎるということであって、③も(事故を起こさない)100%安全な原発はないと規制委員会が明確に述べているため、環境と財政に悪影響を与えるのはCO2よりも原発の「放射性物資+原発温排水」の方が大きく、日本の産業界の“リーダー”は経済にも自然にも弱すぎるということだ。

*7-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201610/CK2016102002000131.html?platform=hootsuite (東京新聞 2016年10月20日) 原発処理に総額30兆円 既に国民負担14兆円 本紙調べ
 原発政策を進めるには原発建設費、地元補助金を除き、関連処理費用として東京電力福島第一原発の事故処理、廃炉、最終処分場建設、核燃サイクルに最低でも約三十兆円かかることが本紙の調べで分かった。十九日には、経済産業省が有識者会合の作業部会を開き、規制変更によって廃炉が決まった原発の廃炉費用を電気料金に上乗せする方針を固めた。高速増殖炉もんじゅの行き詰まりなど原発政策の矛盾が拡大する中、政府が国民負担を増やそうとする論議が本格化する。すでに国民は電気料金や税金で十四兆円を負担しており、今後、さらに十六兆円以上の負担を迫られる可能性がある。新潟県や鹿児島県知事選で原発慎重派の候補が当選するなど原発への厳しい民意が強まる中で、政府が国民負担を増やしながら原発を推進するかが問われそうだ。福島第一原発の処理に必要なお金は、二〇一三年時点の見積もりを超過。二・五兆円を見込んでいた除染費が来年度予算の概算要求では三・三兆円に、被災者への賠償金がすでに六・三兆円にのぼっている。廃炉費用の見込み額も二兆円となっており、総額で十二兆円以上かかりそう。東電は自力で払うのは困難とみて政府に支援を求めた。経産省が財界人らとつくった「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」で検討しているが、東電の経営努力で賄えない分は、電気代などを通じ国民に負担を求める方針だ。東電を除く原発の廃炉費用問題では、福島第一原発の事故後、原発の規制基準が変わったため関西電力美浜原発1号機など六基が廃炉を決定。予定より早い廃炉決定などで計三百二十八億円の積み立て不足(一三年三月末時点)が生じている。経産省は原発による電力を販売していない新電力の契約者も含めすべての利用者の電気料金に上乗せし、回収する意向だ。他の原発も合わせると合計二・九兆円(福島第一などを除く)の廃炉費用が必要だ。また、使用済み核燃料をリサイクルする計画の柱だった高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉方針に伴い、経産省は代わりの高速炉を開発する。政府はすでに核燃サイクルに十一兆円(最終処分場を除く)を費やし、電気代や税金で国民が負担している。もんじゅの後継が決まれば、さらに国民負担は膨らみそうだ。核のごみの最終処分場は場所が決まっていないが、政府試算では最低三・七兆円かかる。このうち積み立て済みは国民が支払った電気代をもとにした一兆円だけ。政府は年末にかけ候補地選定作業を急ぐ予定で具体化すればさらに国民負担が増える可能性がある。政府は福島第一原発の処理問題やもんじゅの後継問題でも、年末までに方針を決める意向だ。

*7-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12649167.html (朝日新聞 2016年11月9日) 「原発の早期再稼働、必要」 経団連・榊原会長が見解 パリ協定承認受け
 経団連の榊原定征会長は8日、「パリ協定」の承認案が衆院本会議で承認されたのを受け、「日本にとっては非常に高い目標を国際公約したことになる。安全審査を通った原発は地元の理解をいただき、早期に再稼働することが絶対に必要だ」と金沢市での会見で述べた。榊原会長は「原発の安全性に対する懸念は国民感情として当然ある」としたうえで、「安全審査をパスした原発は再稼働を認めることを期待したい」と述べた。


PS(2016.11.10追加):*8-1の原発事故の賠償に関する「原子力損害補完的補償条約(CSC)」は、原発事故が起こった際には、電力会社などの原子力事業者が過失の有無にかかわらず賠償責任を負い、事故を起こした原発メーカーの製造物責任が免除されるというものだ。しかし、インドの国内法では原発メーカーにも事故の賠償責任を求めることができ、これが日本や米国など海外の原発メーカーの進出の妨げとなっていたが、CSCが発効すれば「国内法は事実上骨抜きとなり、外国企業が進出しやすくなる(インドの専門家)」そうで、インドは2016年2月4日、CSCに批准している。しかし、メーカーの製造物責任は通常の商慣行であるため、原子力損害補完的補償条約(CSC)が発効していても、原発メーカーに瑕疵があると認められればメーカーに製造物責任が認められるだろう。その時、実質的に日本国民が損害賠償責任を負うなどという内容が日印原子力協力に特別に含まれていないかどうかは、日本国民にとって重要な問題である。
 なお、*8-2は、「①インドのエネルギー問題が原子力発電の増加で解決できるか疑問」「②インドの送配電ロス率は23%程度で、エネルギー効率に問題がある」「③インドの製造業の17.9%のエネルギー効率改善は、既存の省エネルギー技術導入で可能」「④広大な国土に点在する村落部への電力供給を大規模集中型の火力発電所や原子力発電所によって行うには長距離送電網が必要で、効率が悪くコスト高」「⑤このような地域への電力供給は、地域の持続可能な小規模分散型エネルギーによるべき」「⑥インドの原子力委員会委員長と原子力省長官は同一人物で、原子力委員会による原子力省の監督はできない」「⑦原発建設予定地および建設された地域に極めて根強い原発反対運動がある」と述べており、日本の経験から尤もだと考える。つまり、原発は、世界で卒業すべきエネルギーであり、日本は卒原発をリードすべき国なのだ。


 インド、ヒマラヤ インド、タージマハル インド、ニューデリー インド、カシミール
    (どの国にも、かけがえのない街と自然と住民の生活があるのだから)

*8-1:http://mainichi.jp/articles/20160206/k00/00m/030/098000c
(毎日新聞 2016年2月5日) 賠償責任は電力会社に…原発条約を批准
 インドは4日、原発事故の賠償に関する国際的なルールとなる「原子力損害補完的補償条約」(CSC)を批准した。インドは昨年12月の日印首脳会談で、日本の原発輸出を可能とする原子力協定の締結で原則合意するなど、原発増設に取り組んでいる。事故時の賠償に関する国際的な枠組みに参加することで、日本や米国など海外の原発関連企業の進出加速につなげる狙いがあるとみられる。CSC加盟国は、過失の有無にかかわらず電力会社などの原子力事業者が賠償責任を負うとされる。インドの国内法では原発メーカーにも事故の賠償責任を求めることができるとされ、米企業などの進出の妨げとなっていたが、CSCが発効すれば「国内法は事実上骨抜きとなり、外国企業が進出しやすくなる」(インドの専門家)と指摘されている。ただ、国民から反発を招く可能性もあり、今後、議論になりそうだ。CSCは日米などが批准しており、昨年4月に発効した。事故の際は発生国が一定額まで賠償責任を負い、その額を超えた部分については締約国の拠出金で補う仕組み。また、賠償訴訟はすべて発生国が管轄する。インドは2010年にCSCに署名したが、批准しておらず、米国などが早期の加盟を求めていた。インド外務省は批准について「決定的な一歩だ」としている。インドで発効するのは、批准から90日後の5月4日となる。

*8-2:http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2015/11/201511_CNIC_Japan_India_nuclear_agreement.pdf#search='%E6%97%A5%E5%8D%B0%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%8D%94%E5%AE%9A+%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E5%8E%9F%E7%99%BA%E4%BA%8B%E6%95%85%E6%90%8D%E5%AE%B3%E8%B3%A0%E5%84%9F' (日印原子力協力協定の締結による世界の核拡散への影響 2015年11月 原子力資料情報室 松久保肇より抜粋)
 インドはエネルギー対策、そして温室効果ガス排出量削減手段として、原子力発電の増加を志向している。しかし、インドのエネルギー問題が原子力発電を増加させて解決できる問題であるかについては大きな疑問がある。第一に、インドのエネルギー効率の問題がある。例えば、インドの送配電ロス率はおおよそ23%程度で推移しているが、2011年のOECD諸国の送配電ロス率の平均は6.15%13であり、インドの配送電システムの改善余地は極めて大きい。また、シーメンス・フィナンシャル・サービスは、インドの製造業において、17.9%のエネルギー効率改善が既存の省エネルギー技術を導入することにより可能だと報告している。このように、インドのエネルギー効率の改善余地は極めて大きい。第二に、インドでは、都市部や工業地帯の電力需要増加と、木質バイオマスなどに依拠している村落部のエネルギー供給を両立させる必要がある。とくに広大な国土に数多く存在している村落部への電力供給を、大規模集中型の火力発電所や原子力発電所によっておこなうことは、長距離の送電網の開発などが必要となるため、効率性が低く、コストも高くなる。よって、こうした地域へのエネルギー供給は、地域にとって持続可能な形での小規模分散型エネルギーによっておこなうべきだと指摘されている。第三に、インドの原子力規制の独立性への懸念がある。原子力委員会委員長と原子力省長官は同一人物であり、原子力委員会による原子力省の監督には疑念がある。さらに、インド会計監査局は2012年の報告で、原子力規制委員会は規制の決定権を持たないことや、原子力省に予算や組織の維持等を依存していることなどから、独立性に懸念を示していることからも分かる通り、インドでは原子力分野における規制と推進が分離されていないのだ。そして、最大の問題として原発建設予定地および建設された地域における極めて根強い原発反対運動がある。インドの原発反対運動は、広大な国土、多様な民族や言語、宗教、社会階層によって分断され、なかなか全国規模の問題としては認識されていないが、新規の原発建設予定地とされるすべての地域で、広範な住民の支援のもと展開されている。こうした運動には徹底的な非暴力運動、民主的な集団的指導体制、政治的にオープンな立場であり積極的に政府機関や政党と討議をおこなう、という3つの大きな特徴がある。一方、インド政府はこうした運動に対して、安全対策の強化を図るとしながらも、時には暴力的な弾圧もおこない、原発建設方針については変更の余地を見せない。


PS(2016.11.10追加):*9のように、フクイチ事故で自主避難した生徒を、「①菌」「②賠償金もらってるだろう」などといじめる生徒がいたのは、それが小中学生だったとしても思いやりがなさすぎる。そして、①については、放射能汚染は「菌」ではないため他の人に伝染することはなく、放射能に曝露されると遺伝子が変異して癌や白血病になる危険性があるから避難するのだということを、小中学校には生物が専門の先生もいるのに、この機会をとらえて生徒に説明できなかったのは実力不足だ。また②についても、そのような理由で不本意ながら故郷を捨てなければならなかった人に損害賠償金をもらっているなどと羨むのは見当はずれで、このような場合に慰謝料や損害賠償金をもらうのは当然であることを、社会科が専門の先生も説明できなかったとすれば、先生のレベルが問題なのだ。さらに、遊ぶ金として万単位の金を10回も支払うことができるほど親が小5の生徒に金を渡すのも教育に悪く、学校・市役所・議員などにいじめの問題を指摘すべきだった。そのため、カウンセリングを受けるべきは生徒ではなく、このような行動を続けていた大人たちの方で、教育の崩壊が甚だしい。まして、「だから自主避難しない方がよい」とか「放射能汚染を言うのは福島への差別に繋がる」などと言う大人がいるのは狂っている。

*9:http://www.sankei.com/life/news/161109/lif1611090036-n1.html (産経新聞 2016.11.9) 原発避難の生徒がいじめで不登校 「菌」「賠償金もらってるだろう」 横浜市
 横浜市教育委員会は9日、東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した市立中1年の男子生徒が不登校になっており、いじめ防止対策推進法に基づく調査の結果、市教委の第三者委員会がいじめを認定していたことを明らかにした。報告書では、「積極的に教育的支援をしなかったのは、教育の放棄に等しい」などと学校や市教委の対応を厳しく批判している。報告書によると、生徒は小学2年だった平成23年8月、横浜市立小学校に転校。直後から「菌」を名前につけられるなどのいじめを受けた。小5のときには、同級生に「(東電から原発事故の)賠償金をもらっているだろう」と言われ、遊ぶ金として5万~10万円を計10回ほど払わされたと証言したとしている。生徒はカウンセリングを受けているという。第三者委は、学校の対応について、一昨年に生徒側から相談を受けていたにも関わらず、適切に対応しなかったことを「教育の放棄に等しい」と批判した。市教委に対しても、重大事態と捉えず、調査の開始が遅れ、生徒側への適切な支援が遅れたとした。生徒側が昨年12月、調査を求める申し入れ書を市に提出。推進法に基づき、市教委の諮問で第三者委が調査していた。林文子横浜市長は同日の定例記者会見で、「非常に深く受け止める。申し訳ない」などと述べた。また、岡田優子横浜市教育長は「報告書で指摘されている学校、教育委員会の課題や再発防止策にしっかり対応したい」とした。


<アメリカも迷走>
PS(2017年6月2日追加): *10-1のように、「①トランプ米大統領は米国第一を優先してパリ協定からの離脱判断を表明した」「②世界最大の温暖化ガス排出国中国の李克強首相は、中国はパリ協定を履行する決意を表明した」「③李氏はパリ協定支持の共同声明を発表する方向」とのことである。そして、中国だけでなくインドも、*10-4のように、将来的に国が運営する主要12港湾で使用するすべての電力を再生可能エネルギーによる発電に切り替えるそうで、19年までに太陽光15万キロワット(kW)、風力5万kWの発電設備を設置し、数年で50万kWまで増強するそうだが、旧産業の抵抗が少ない新興国の方が新産業への転換が速やかなようだ。
 なお、私は、CO2だけが地球温暖化の原因ではないにしても、化石燃料車が環境を汚して自動車の不快感を増していることは間違いなく、中国やインドなどの人口の多い新興国が自動車社会になってきた現在では、これは見過ごすことのできない大きな問題だと考え、1990年代中頃からアクションしてきた。しかし、日本は、ドイツよりもずっと早い1990年代後半から市場投入するEVや蓄電池を開発してきたにもかかわらず、何故か「航続距離が短い(改善しようと思えばすぐできる問題)」等の足を引っ張る論調ばかりが多くて普及が妨げられ、*10-5のように、中国市場で市場の陣取合戦が始まってようやくEV充電器の規格を巡って本格的な競争を始めたような馬鹿げた国なのである。そして、トップランナーだった日産は、*10-6のように、電池子会社を中国ファンドに1100億円で売却することになった。そのため日本は、このような愚鈍な意思決定になる背景を、徹底して変えなければならない。
 また、トランプ米大統領のパリ協定離脱についての米国民の反応は、*10-1に書かれているように、69%がパリ協定への残留を支持して離脱派は13%に留まるそうで、米産業界ではアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)がホワイトハウスに電話して残留を要請し、化学大手ダウ・ケミカルのアンドリュー・リバリスCEOは協定を支持する主要30社首脳の書簡をまとめ、石炭業界にも離脱に否定的な声があり、イーロン・マスク氏は離脱を決断すれば委員会をやめると言い、トランプ大統領の長女イバンカさんは、ゴア元副大統領をトランプ氏に引き合わせて翻意を迫ったそうだ。また、*10-2のように、石油メジャー首脳も冷ややかで、ドイツ・フランス・イタリアの3国政府は、*10-3のように、「パリ協定は不可逆的で再交渉できない」とする共同声明を発表している。
 私は、ここで環境規制を緩めて古いエネルギー産業を護ることによりアメ車の進歩を妨げれば、アメ車はどこの国にも受け入れられない旧式なものとなり、輸出を伸ばすどころか米国の産業を遅れさせて、環境だけでなく経済でも米国第一どころではなくなると考える。そのため、米国は、州ででも環境規制した方がよいだろう。

 
 2017.6.2日経新聞  2015.12.15西日本新聞    2016.10.6    2016.10.6  
                                    毎日新聞

*10-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170602&ng=DGKKASDC01H1D_R00C17A6EA2000 (日経新聞 2017.6.2) トランプ氏「米国第一」優先 パリ協定離脱判断、表明へ 中国・EU 協定推進で連携
 トランプ米大統領は1日午後3時(日本時間2日午前4時)、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱判断を表明する。米メディアは同氏が離脱を決断したと一斉に報じた。内外の反対を押し切り「米国第一」の看板公約を実行する公算が大きい。米政権とロシアとの不透明な関係を巡るロシアゲート疑惑が強まるなかで支持者のつなぎ留めを優先し、政権浮揚を狙う。世界最大の温暖化ガス排出国、中国の李克強首相は1日、ドイツでメルケル首相と会談した。会談後の共同記者会見で「中国は国際的な責任を全うする」と述べ、パリ協定を履行する決意を表明。メルケル氏も李氏の発言を歓迎した。李氏は2日、欧州連合(EU)のトゥスク大統領らとも会談。「EUと中国はパリ協定を歴史的な成果と認識している」といった協定支持の共同声明を発表する方向だ。「パリ協定に関する私の判断を木曜日(1日)に発表する。米国を再び偉大に!」。トランプ氏は5月31日、ツイッターにこう投稿した。5月に中東や欧州を巡る初外遊をしたトランプ氏に、各国首脳らはパリ協定にとどまるよう求めた。安倍晋三首相は主要国首脳会議(タオルミナ・サミット)で「米国が引き続き気候変動の問題にリーダーシップを発揮していくことが重要だ」と呼びかけた。主要国のほとんどの首脳も慰留。ローマ法王フランシスコは環境保護の重要性を説いた自著を贈り、残留を促した。トランプ氏は態度を保留し続けた。ロシア疑惑で政権に逆風が吹くなかで、トランプ氏が重視するのは国内の支持基盤だ。その一つが炭鉱労働者。大統領選では、接戦だったペンシルベニアやオハイオなど石炭産出州で勝ったことが大きかった。パリ協定離脱の看板公約を有言実行することで、脱石炭に歯止めをかけ、炭鉱労働者の雇用を維持すると支持者に訴える意向だ。ロシア疑惑は、与党・共和党からも解明を求める声が強まっている。捜査の進展によっては、共和党の姿勢が政権の命運を握る。パリ協定離脱は、マコネル上院院内総務ら党指導者も求めていただけに、トランプ氏は公約実現で挙党一致を演出したいところだ。ただ、米国民の多くはパリ協定残留を求めている。米エール大が5月8日に発表した世論調査では、69%が残留を支持、離脱派は13%にとどまった。共和党支持者に限っても51%が残留派だ。米産業界でも反発が相次ぐ。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、ホワイトハウスに電話して残留を要請。化学大手ダウ・ケミカルのアンドリュー・リバリスCEOは、協定を支持する主要30社首脳の書簡をまとめた。石炭業界にも離脱に否定的な声がある。国際的な温暖化対策の議論が米国を除いた欧州の主導で進めば厳しい規制を招きかねないとの警戒論もある。産業界の大統領助言委員会に参加する著名起業家のイーロン・マスク氏は5月31日、離脱を決断すれば「委員会をやめる」と語った。政権内は分裂する。バノン首席戦略官・上級顧問やプルイット米環境保護局(EPA)長官が離脱を主張。プルイット氏はエネルギー業界とつながりが深く、環境規制の撤廃を求め、EPAを10回以上も訴えた筋金入りの反対派だ。一方、残留派の筆頭は長女イバンカさん。環境保護に熱心なゴア元副大統領をトランプ氏に引き合わせ、翻意を迫った。

*10-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ01H7H_R00C17A6000000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2017/6/1) 米国のパリ協定離脱 石油メジャー首脳は冷ややか
 トランプ米大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を近く表明する見通しとなった。中国と並ぶ温暖化ガス排出国の米国が離脱すれば、企業活動にも影響が出そうだ。やや意外だが、温暖化ガス排出のおおもとである石油・天然ガスを開発するメジャー(国際石油資本)の間では「パリ協定支持」が支配的だ。トランプ氏の姿勢には冷ややかな視線が目立つ。
■石油出身の国務長官は協定支持
 「パリ協定に関する決断を発表する。木曜日の午後3時(日本時間2日午前4時)だ」。トランプ氏は31日、ツイッターでこうつぶやき、最後にお決まりの「米国を再び偉大にする!」で締めくくった。離脱となれば政権内で難しい立場に立つのがレックス・ティラーソン米国務長官だ。同氏は直前まで米石油最大手エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)を務めた。エクソンは業界屈指の高収益体質で知られるが、コストが先立つ温暖化対策には後ろ向きだとして長く環境団体の攻撃対象だった。だがティラーソン氏はエクソンCEOのとき、時代の流れにあらがえないとパリ協定支持を表明。「あのエクソンが」と業界でも驚きがあったほどだ。同氏は政権入りしてからもパリ協定にとどまるよう主張してきた。ティラーソン氏の判断に影響を与えたとみられるのが欧州の競合の動きだ。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、英BP、仏トタルなどは2020年以降の温暖化対策の枠組みづくりをにらみ早い段階から連携した。CEOが連名で枠組みをつくるよう主張。具体論として温暖化ガス排出量に応じたコストを課す「炭素価格」の枠組みを国境を越えて導入するよう国連などに求めてきた。
■欧州勢、したたかに仕組み作りに動く
 もちろん各社の狙いは慈善活動ではない。鉱区で出る副次ガスを減らせば事業の採算は上がる。さらに近年のメジャーは、燃やした際の温暖化ガス排出量が石炭の6割程度で済む天然ガスに力を入れてきた。石炭依存度が高いアジアでガス転換を促す事業拡大の好機だ。温暖化対策から距離を置くより制度作りに関与することで、長期にわたり自らにも優位な仕組みをつくろうとの思惑がある。「米国第一」で孤立主義に走るトランプ氏の手法とは真逆だ。シェルのベン・ファン・ブールデンCEOは5月、英紙フィナンシャル・タイムズで米国の協定離脱の結果起こる事態として、「米国が基本的に自分で多くの(交渉)テーブルに招かれないようにして自らの立場を弱めてしまう」と指摘している。北欧の石油の巨人、スタトイル(ノルウェー)のエルダー・サトゥレCEOもトランプ氏の姿勢に冷淡だ。2月に日本経済新聞の取材に対し、「我々は(大統領の任期である)4年単位でビジネスはしていない。10年以上先を見据えている」と強調した。スタトイルは洋上風力発電にも積極的で、トランプ政権になっても米東海岸での洋上風力事業をやめる予定はない。サトゥレ氏は洋上風力のコストは大幅に下がると見通す。長い目でみれば、トランプ氏が守りたがる石炭の火力発電より、洋上風力の方が競争力を持つという自信があってのことだ。
■株式市場も圧力強める
 欧州連合(EU)が先行した排出量取引制度は中国でも似た制度が導入される。中国は大気汚染対策の必要もあり、脱石炭など低炭素型ビジネスへのシフトが続く見通しだ。株式市場も同様だ。長期投資をする年金基金などは近年、温暖化対策の遅れが企業の業績に及ぼす影響「カーボンリスク」の開示圧力を強める。31日に開かれたエクソンの株主総会では、カーボンリスクの開示を求める株主提案に62%の支持が集まった。石油の世紀である20世紀を代表したエクソンはより「グリーン」に動く。21世紀の代表格になりそうな米テスラのイーロン・マスクCEOは31日、米国が協定から離脱すれば、トランプ氏への助言組織の委員を辞任する考えを示した。企業は一つのベクトルに向かって動き出した。米国の最高指導者は最終的にどう判断するだろうか。

*10-3:http://digital.asahi.com/articles/ASK622VS3K62UHBI014.html?iref=comtop_8_02(朝日新聞 2017年6月2日)パリ協定「不可逆的で再交渉できない」 独仏伊が声明
 トランプ米大統領がパリ協定からの離脱を発表したのを受けて、ドイツとフランス、イタリアの3国政府は1日、「再交渉はできない」とする共同声明を発表した。声明は米国の決定を「残念に思う」としたうえで、パリ協定について「不可逆的であり、再交渉されるべきものではないと信じている」と表明。さらに「すみやかに実行することを再確認し、気候変動と闘う行動を加速させることをすべてのパートナー国に促す」としている。また、ドイツ首相府によると、メルケル首相はトランプ氏に個別に電話し、遺憾の意を伝えたという。メルケル氏はツイッター上で「地球を守るための政策に引き続き全力を尽くす」としている。欧州議会のタヤーニ欧州議長は同日、「合意は守られなければならない。これは信頼とリーダーシップの問題だ。(トランプ大統領の)決定は米国と地球を傷つけることになるだろう」とツイッターで批判した。

*10-4:http://qbiz.jp/article/110920/1/ (西日本新聞 2017年6月1日) インド 主要12港湾、使用電力すべて再生可能エネに
 インド政府は、国が運営する主要12港湾への電力供給について、将来的にすべて再生可能エネルギーによる発電に切り替える計画だ。エコノミック・タイムズ(電子版)が5月31日伝えた。19年までに太陽光15万キロワット(kW)、風力5万kWの発電設備を設置する。その後、数年で50万kWまで増強し、主要12港湾で使用するすべての電力を再生可能エネルギーによる発電で賄う。当面の投資額として、50億ルピー(約86億円)が予定されている。政府が運営する港湾の電力をすべて再生可能エネルギーに切り替える試みは世界初という。主要12港湾には、西部グジャラート州のカンドラ港や東部オディシャ(オリッサ)州のパラディープ港、西部マハラシュトラ州のムンバイ港、同州ジャワハルラル・ネルー港、南部アンドラプラデシュ州のビシャカパトナム港などが含まれる。主要12港湾の貨物取扱量は国内全体の6割を占める。

*10-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12965954.html (朝日新聞 2017年6月1日) EV充電器、陣取り激化 日本と欧米、規格の普及巡り
 電気自動車(EV)の普及に欠かせない急速充電器の規格をめぐり、日本と欧米勢の主導権争いが続いている。規格は新興国に広がるEV競争にも影響する。製品規格の国際標準化で後れをとりがちだった日本勢は、技術供与で味方を広げ、優位を保とうとしている。
■中国市場、最大焦点
 EVはフル充電で走れる「航続距離」が短いのが弱点で、普及には充電インフラの整備がカギを握る。日本勢は2010年、EVを量産している日産自動車と三菱自動車、東京電力などを中心に「CHAdeMO(チャデモ)協議会」を設立し、独自の急速充電規格「チャデモ方式」を世界に先駆けて広めることを目指してきた。これに対し、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)など欧米勢は独自規格「コンボ」で対抗。ただ、現状では、日産のEV「リーフ」で先行したチャデモの充電器が、世界で約1万5千カ所と最も多い。欧米でも、チャデモとコンボの両方を使えるようにした充電器が主流になっている。しかし、新興国などでは今後、ゼロからの整備が始まる。日独などのメーカーは自国の規格が採用されればEVの輸出もしやすくなる。規格の「縄張り争い」はまだこれからの様相だ。VWは昨年、エコカー開発の軸足をEVへと大胆に移す戦略を打ち出した。昨年11月には、VWグループ、BMW、ダイムラーのドイツ勢と米フォード・モーターが協力し、高出力の急速充電器を20年までに欧州の数千カ所に普及させると発表。「コンボ」規格の巻き返しをアピールした。最大の焦点は、世界最大級のEV市場、中国だ。独自の充電規格を持つが、日本が長く技術協力を進め、チャデモと主要部分が共通する。31日、チャデモ協議会の年次大会で、吉田誠事務局長は「チャデモが生き残るため、中国との親和性を高め、インドにも惜しみなく技術を開示して普及を図った」と述べた。歩み寄りの気配もある。日独政府は3月、「ハノーバー宣言」を出し、モノとインターネットを融合させる技術分野の協力で合意。充電インフラの分野でも連携を促進するとした。チャデモとコンボの互換性を高めることも検討していく。

*10-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170527&ng=DGKKZO16933470W7A520C1TJ2000 (日経新聞 2017.5.27) 日産、電池子会社を中国ファンドに売却 1100億円、最終調整
 日産自動車が売却を検討していた車載用電池子会社について中国の投資ファンド、GSRグループと最終調整に入ったことが26日、明らかになった。売却総額は1100億円前後とみられる。日産は外部調達に切り替えて電池のコストを引き下げ、次世代エコカーの本命と位置付ける電気自動車(EV)の価格競争力を高める狙いだ。売却対象となっているのは2007年に設立したオートモーティブエナジーサプライ(AESC、神奈川県座間市)。日産が51%、NECグループが49%を出資し、主力EV「リーフ」向けの車載用リチウムイオン電池などを生産する。15年の車載用電池の世界シェアはパナソニックに次ぐ2位。日産は米英に持つ車載用電池の生産設備についてもGSRと売却交渉を進めているもよう。現行のリチウムイオン電池技術を使った電池の生産からは撤退する方向だ。一方で新素材を使う次世代電池は自前での研究開発を続ける。GSRはIT(情報技術)や環境分野に強みを持つファンドで、米国や中国の車載用電池メーカーにも投資実績がある。AESCが持つ設計・生産ノウハウを取り込み、環境規制を背景にEV市場が拡大する中国で車載用電池の供給体制を構築する狙いがあるようだ。


PS(2017年6月4日追加):トランプ大統領の「パリ協定」からの離脱表明に対し、*11のように、ニューヨーク・カリフォルニアなどの州政府ほか百八十市がパリ協定履行への支持を表明し、ニューヨーク・シカゴ・サンフランシスコなど大都市の市長も相次いでパリ協定の目標達成に向け再生可能エネルギーへの投資拡大などを表明したそうで、アクションが迅速だ。

*11:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201706/CK2017060402000107.html (東京新聞 2017年6月4日) 【国際】10州180市 パリ協定支持 離脱表明の米で反発広がる
 トランプ米大統領が地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明したのに対し、反対する州知事や市長が相次ぎ、全米に広がっている。米メディアによると、州や自治体がパリ協定の目標達成に向けた独自の政策を採用しているなか、トランプ氏の離脱表明後、少なくともニューヨークやカリフォルニアなど十の州政府のほか百八十市が協定履行への支持を表明した。報道によると、米国ではすでに二十州と首都ワシントンが温暖化の原因のひとつとされる二酸化炭素(CO2)排出を削減する独自策を実施。協定に基づく連邦政府が定めた目標を上回る水準を設定した所もある。トランプ氏の離脱表明を受け、連邦政府の方針とは関係なく自治体レベルで取り組む動きが広がった形だ。ニューヨーク州のクオモ知事は「パリ協定からの離脱は重大な間違いだ。壊滅的な影響をもたらす」とトランプ氏の決定を批判。二日には太陽光発電などに最大十五億ドル(約千六百五十億円)を拠出すると発表した。同州と「米気候連盟」を結成したカリフォルニア州のブラウン知事はパリ協定の目標達成に取り組む国や自治体が集まる会合に参加するため中国に出発する。ニューヨークやシカゴ、サンフランシスコなど大都市の市長も相次いでパリ協定の目標達成に向け、再生可能エネルギーへの投資拡大などを表明した。こうした動きはトランプ政権の支持者が多い南部の州にも波及。テキサス州ヒューストンやルイジアナ州ニューオーリンズなどにも広がっている。


PS(2017年6月5日追加):*12のように、全農地でソーラーシェアリングすれば、原発1840基分になるそうだ。もちろん、「①ソーラーシェアリングした方がよいかどうかは作物による」「②景観を壊さない機器にすべき」などの問題はあるが、私は、農業に再生可能エネルギー機器の導入を補助することによって、永久に農家に補助金を支払うのを回避することが可能であり、エネルギー代金が地域で循環するため、一石三鳥だと考える。


 2017.6.4     2016.12.4   従来のソーラーパネル 有機薄膜型ソーラーパネル
 東京新聞      農業新聞

(図の説明:現在行われているソーラーシェアリングは一番左の写真のようなものが多いが、これは景観を悪くするとともに、左から2番目のような大型機械を導入する際には使いにくい。それに対し、①従来のソーラーパネルでも右から2番目のもので温室型にする ②一番右の有機薄膜型ソーラーパネル《緑近傍の光だけで発電するため、作物が光合成で使う光は使わない》を温室で使う などの日本ならではの進化形もある)

*12:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201706/CK2017060402000129.html (東京新聞 2017年6月4日) 【経済】ソーラーシェアリング脚光 「全農地導入なら原発1840基分に」
 太陽光発電などの可能性を話し合う「再生可能エネルギー・フォーラム」が三日、東京都内で開かれた。社会科学の研究者らが参加する「関東政治社会学会」が主催し、田畑に太陽光パネルを設置して農業と発電を両立するソーラーシェアリングの実践例などが報告され、約三十人が熱心に耳を傾けた。会合で城南信用金庫の吉原毅(つよし)相談役(62)が基調講演し、「日本の農地四百六十万ヘクタールすべてでソーラーシェアリングを導入すれば、原発千八百四十基分の電力をまかなえる計算だ」と訴えた。太陽光発電の買い取り価格は年々下がっているが、吉原氏は「太陽光パネルや工事の費用が下がっており、十分に採算が取れる」と語った。ソーラーシェアリングは農林水産省の規制緩和で二〇一三年度から可能になった。作物の収穫量や品質の維持などが許可の条件。許可件数は増加傾向にあり、一五年度には累計七百七十五件になった。
◆田畑に太陽光パネル設置
 農業と発電の両方に太陽光を活用する取り組み「ソーラーシェアリング」が少しずつ広がっている。電気を売った収入が得られることに加え、太陽光パネルの設置で農地に適度に日陰ができて農作物の収穫量が増えるケースもある。農家の収益向上に貢献している。千葉県市原市の民家が点在する田園風景の一角。計七百五十平方メートルの畑に高さ三メートルの支柱で組んだ台に太陽光パネル(縦五十四センチ、幅百二十センチ)が三百四十八枚設置されている。二五度の傾きで固定されたパネルの間から日光が降り注ぎ、その下でサツマイモやサトイモなどの葉が伸びる。「サトイモは収穫量が10%アップした」。両親の農地をこの先、継ごうと考えている会社員の高沢真(まこと)さん(54)は笑顔で語った。パネルを設置したのは二〇一三年。固定価格買い取り制度に沿って東京電力と二十年間、一キロワット時当たり四十二円で売却する契約を結んだ。年間の発電量は四万キロワット時で、東電に電気を売った収入は年百六十万~百七十万円になる。設置にかけた千三百万円は十年足らずで回収できる見込みだ。高沢さんの試みは、収入面などから実家の農地を引き継ぐかどうか悩んでいる人たちの関心が高いという。高沢さんは「ソーラーシェアリングは農業に挑戦することを躊躇(ちゅうちょ)している人を後押しする仕組みだ」と話している。

| 資源・エネルギー::2015.5~2016.12 | 03:37 PM | comments (x) | trackback (x) |

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