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2016.11.15 農業たたきの“農業改革”では、国民も国益も守れないこと (2016年11月16、17、22、26日に追加あり)

    2016.6.30     2015.11.11  大規模化による生産性向上 オ二ヒトデの肥料への活用        
    西日本新聞      毎日新聞     2016.8.30佐賀新聞     2016.6.18農業新聞

I.TPPの推進とそれに反対する者への反グローバル、ポピュリズムという烙印の不適格性
(1)トランプ氏の勝利、環太平洋連携協定(以下、TPP)、日本の反グローバル報道
1)トランプ氏の勝利とTPP
 *1-1のように、次期大統領に就任するトランプ氏がTPP脱退の意向を表明しているため、米政府が来年1月までのオバマ大統領の任期内にTPPの議会承認を獲得することを断念したそうだ。TPPは米国議会が承認しなければ発効せず、日本も政策の見直しを迫られるので、アメリカでのトランプ氏の勝利によって、政府が馬鹿な政策を進めてきた日本も救われそうで、情けない話だ。

2)的外れな“反グローバル”報道
 *1-2のように、日経新聞は「①米英の展開は、アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート主義に庶民が募らせる不満の表れ」「②活発な競争を通じた新自由主義や多国間自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定することが有権者の心をつかむ」「③反グローバルを唱えて票を稼ぐ模範例ができ、大衆迎合主義(ポピュリズム)を武器とする政党が勢いづいた」「④人々を扇動するポピュリズムは、西側の至る所で憂慮すべき事態になった」「⑤保護主義を強引に進めていくだけでは、経済繁栄や生活充実への解にならない」と書いており、TPP反対やEU離脱を反グローバル化、保護主義、ポピュリズムと決めつけており、これはTPP推進派の論拠になっているものの、事実を直視していない指摘だ。

 まず、①の「アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート主義」というのは、日本独特の、事実に基づかないエリート批判だ。何故なら、アングロサクソンだけでなく、ラテン系(フランス、スペイン)もユダヤ人、中国人もずっと昔からグローバル化して世界に広がっていることは誰もが知るところだからだ。そして、ここで言っている現代のグローバル化は、(私は公認会計士・税理士としてそれらの国の日本に進出した企業の監査や税務を担当していたため知っているのだが)1980年代から本格的に進められており、その頃の日本は、それらの国の日本進出に消極的で保護主義だった。

 また、②については、EUやアメリカが多国間自由経済圏を作った結果、物価水準と賃金が低い国の労働者に負けて失業した先進国の労働者が不満を募らせたもので、この路線の失敗は、先進国の労働者を吸収できる現代産業を育成しなかったことや連携が規制・制度・産業政策・移民の受入・戦争開始・財政などの国家主権に関わることにまで行きすぎたことが原因で、自由貿易が否定されたわけではない。

 そのため、有権者の心を掴んだ主張を③のようにポピュリズムと決めつけ、④のようにポピュリズムは人々を扇動する憂慮すべき事態だと吹聴するのは、少数の行政官による“エリート”の判断が、行政官よりもそれぞれの分野で百戦錬磨したいろいろな専門家を含んでいる“民衆”の判断よりも絶対に正しく、遅れた行政におんぶにだっこされた政治の方針に反対するのは愚かな民衆だとするもので、それこそ時代錯誤の誤ったエリート主義なのである。

 なお、⑤について、保護主義を強引に進めていくだけでは経済繁栄や生活充実への解にならないのは事実だが、今後の産業政策を考えていない(つまり国益を考えていない)大雑把な自由化で国内産業をいためつけるのが経済繁栄や国民生活の充実に繋がることはないため、「自由貿易=日本の発展」という日本が開発途上国だった時代の古くて単純なフレーズを繰り返すのではなく、目的・手段・結果をきちんと調査して検証すべきである。

3)TPPを推進しているのは日本だった
 TPPの発効に不可欠な米国の批准が困難になった中、*1-3、*2-4のように、TPP承認案と関連法案が2016年11月10日に衆院本会議で自民党・公明党・日本維新の会の賛成多数で可決された。数の上では賛成多数で必ず決議されるため、反対する党は退席したり、山本農相の発言を問題視して不信任決議案を提出したりすることくらいしかできない。これが、ねじれのない“決められる政治”の実態だ。

 また、与党と日本維新の会が「自由で公正な開かれた経済の枠組みを作ることは、わが国の大きな使命であり、核となるのがTPPだ」としたことで、TPPを積極的に推進しているのは日本だということが明らかになった。そのため、結果が日本の一人負けになるTPPの交渉過程は見せられず、TPP協定の日本語訳も作らせず、TPP承認案とその関連法案に関する丁寧な議論もしない状態にしているのだろう。

(2)日本の市民と日本政府
 日本では、*2-1のように、生産者や市民の声が政治に届いていない。「自由貿易=日本の発展」という単純なフレーズを繰り返すだけの答弁には意味がなく、農業・食の安全・国民皆保険制度の維持・ISD条項などへの不安は拭えない。政府はTPPが発効すれば輸出拡大できると主張し、農業を成長産業として農産物の輸出にてこ入れするそうだが、そのようなことはTPPがなくてもやればよく、TPPは農業や暮らしに大きな影響を与えるため、地方にとっては死活問題なのだ。そのため、佐賀市議会が会期中の臨時国会でTPPを批准しないよう求める意見書を全会一致で採択しているのは妥当である。

 また、*2-2のように、福岡県農業総合対策協議会やJAグループ福岡、福岡県農政連は10月29日に、TPP断固反対を訴える集会を福岡市で開いている。

 なお、*2-3のように、水産物の8割で関税が撤廃されるそうだが、南北に広い海洋を持つ日本は水産業には有利で、養殖や加工・運搬技術を高めれば、TPPがなくても水産加工品の輸出で稼ぐことは十分に可能だと、私は考えている。

II.農協破壊の農協改革は農業に役立たないこと
(1)「金融」地域農協半減等の改革は正しいか
 *3-1、*3-2、*3-3のように、政府の規制改革推進会議農業部会が、地域農協が農産物販売などに専念できるよう「金融」地域農協を半減して農産物の販促に専念し、肥料・農薬の販売事業を縮小することを促しているそうだが、これこそ「いらん世話」であり、政府が大雑把な実態把握で民間の経営に関与することこそ最も経営の失敗に繋がりやすいのである。そのため、*3-4のように、民間の独立組織である全農改革に素人の不当な経営介入を許すなという主張は正しい。

 また、貯金の受け入れや金の貸し付けをする金融事業を手がける地域農協を3年以内に半減させ、地域農協の金融事業をJAグループの農林中央金庫に譲渡して、農林中金の代理店が金融サービスを維持する仕組みは、地域の金が中央に吸い上げられて無駄に使われ、その地域の農業に再投資されなくなる恐れが大きいのが問題であるため、この点には特に注意すべきだ。農林中央金庫は、(私も驚いたのだが)一般金融機関と一緒にアメリカのサブプライムローンに協調融資してリーマンショックで大損し、アメリカでは所有者が変わっても建てられた家が残ったが、日本の預金者は損だけしたものである。

(2)本当に必要な改革は・・
 本当に必要な改革は、農協、全農、会員農家の立場に立ち、消費者や国益も考慮して行われたアドバイスに基づいて経営主体が行う改革であり、そのためには地域によって異なる気候、地形、農産物、耕畜水産連携の可能性などを調査して現存するものをできるだけ活かしながら、さらなる生産性の向上や付加価値の向上を図ることが必要なのである。私は、やればそのアドバイスはできるが、現在はそれぞれの地域の農業を知る立場にないため、これ以上に詳しいアドバイスはできないわけだ。

<トランプ勝利、TPP、日本の報道>
*1-1:http://qbiz.jp/article/98002/1/ (西日本新聞 2016年11月12日) 「オバマ氏TPP断念」米紙報道
 米政府が来年1月までのオバマ大統領の任期内に環太平洋連携協定(TPP)の議会承認獲得を断念したと、複数の米紙が11日、報じた。次期大統領に就任するトランプ氏はTPP脱退の意向を表明しており、方針転換がない限り協定発効は絶望的だ。アディエモ米大統領副補佐官も11日、TPPについて「議会が次期大統領と協議する課題だと考えているのは承知している」として、任期内の議会承認が困難だとの認識を示した。TPPは参加12カ国で最も経済規模が大きい米国の議会が承認しなければ発効しない。米国と共にTPPを主導した安倍政権は通商政策の見直しを迫られそうだ。報道では、米議会の共和、民主両党首脳部が承認手続きを進める意向はないと政権側に伝えたとしている。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161111&ng=DGKKASGM10H6Z_Q6A111C1MM8000 (日経新聞 2016.11.11)反グローバル 解なき拡散 編集委員 菅野幹雄
 米国と英国という、世界を代表する2つの民主主義国が、半年で次々と既存秩序をぶち壊した。
 「再び偉大な米国を」(Make America great again)。トランプ米次期大統領の合言葉は6月の英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が使った「再び偉大な英国を」とうり二つ。どちらも世論調査機関や市場は有権者の変革への意思を全く読み誤っていた。写し絵のような米英の展開は、アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート(支配層)主義に庶民が募らせる不満の表れだ。国家や市場を分ける壁を取り、貿易や人の流れを自由にしても繁栄の果実は届いていない。むしろ激しい競争で職や生活に不安が増し、米国人の8割は所得水準が金融危機前を下回るとされる。活発な競争を通じた新自由主義や多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定することが有権者の心をつかむ。トランプ氏のもと日本を含む環太平洋経済連携協定(TPP)や米・EUの環大西洋貿易投資協定(TTIP)の実現は極めて難しくなった。反グローバルを唱えて票を稼ぐという模範例ができ、大衆迎合主義(ポピュリズム)を武器とする政党が勢いづく。フランスの極右、国民戦線のルペン党首は「米大統領選は自由の勝利。我々も自由を阻むシステムを打ち壊そう」と2017年春の仏大統領選に向けて既存政党との対抗姿勢をむき出しにした。英国に続く離反を避けたい欧州の周辺国は気が気でない。「人々を扇動するポピュリズムは、米国だけでなく西側の至る所で憂慮すべき事態になった」とドイツのショイブレ財務相は指摘する。来年の欧州は仏大統領選とオランダ、ドイツの総選挙が重なる選挙の当たり年だ。トランプ氏が大統領として剛腕を発揮するほど、反EUの機運は高まりかねない。世界経済を支える貿易の停滞に国際通貨基金(IMF)などの危機感も強い。反グローバル化を叫ぶ勢力の伸長は止まりそうにないが、それを唱え、保護主義を強引に進めていくだけでは、経済の繁栄や生活の充実への解になり得ないのは明らかだ。「偏狭なナショナリズム(国家主義)の乱立になりかねない」。中前国際経済研究所の中前忠代表は危惧する。グローバル化や市場主義に背を向けるのでなく生じたひずみをどう直していくのか。「グローバル化に代わる選択肢はない。もっと人間的な形に変えていく努力こそが必要だ」。仏モンテーニュ研究所のドミニク・モイジ首席顧問は過剰な不平等の解消など具体的な政策の明示を呼びかける。有権者の怒りを踏み台にのし上がったトランプ氏も、これから彼らを納得させる答えを示さねばならない。日本、欧州も新興国の首脳にも、反グローバル化のうねりを抑える賢明で繊細な政策選択が問われる。トランプ・ショックを生んだ背景を正視すべき時だ。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p39418.html (日本農業新聞 2016年11月11日) TPP衆院通過 政府・与党 批准に執念
 環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案は10日の衆院本会議で、与党と日本維新の会の賛成多数で可決された。民進党など3野党は抗議して退席した。政府・与党は承認を確実にするため、今月30日までの会期を延長する方針。議案は参院に送付され、今国会で承認される可能性が高まった。TPPの発効に不可欠な米国の批准が困難になる中、日本は国内手続きを急いだ。TPPの国民の懸念や疑問が解消されたとは言い難い状況だ。討論では、自民党と日本維新の会が、TPP承認案と関連法案に賛成の立場から「自由で公正な開かれた経済の枠組みを作ることは、わが国の大きな使命であり、核となるのがTPPだ」と訴えた。これに対し、民進、共産など野党は「トランプ氏が明確に反対しているにも関わらず、採決を行うのは、世界の笑い者になる」として反対を表明し、その後の採決で退席した。民進党の山井和則国対委員長は記者団に「十分な審議が行われたとは思っていない」と採決に抗議した。承認案は衆院通過から30日以内に参院が議決しない場合、12月9日に自動的に成立する。TPP承認を確実にするため、会期延長幅は同10日ごろまでとする案が検討されているほか、年金制度改革法案などの処理も念頭に同28日ごろまでの延長案も取り沙汰されている。今後、与野党間での攻防が予想される。参院は11日に審議入りする見通し。衆院TPP特別委員会での審議時間は約70時間。農業分野の合意内容など国会決議の検証も一定程度行われたが、新たに浮上した輸入米価格偽装問題では、国産米への影響はないとする政府と野党との間で議論はかみ合わなかった。TPP対策など今後の農業政策の議論は深まっていない。一方、TPPの発効に不可欠となる米国では、TPP脱退を主張するトランプ氏が大統領選で勝利。議会幹部も年内のTPP採決を否定しており、同国の承認はますます不透明になっている。TPP承認案の採決に先立ち、民進、共産など野党4党は、山本有二農相の一連の発言を問題視して農相の不信任決議案を提出したが、否決された。

<日本の市民と日本政府>
*2-1:https://www.agrinews.co.jp/p39314.html (日本農業新聞 2016年10月29日) TPP審議不十分 農家、市民の声を聞け
 生産者、市民の声が政治に届いているのか。環太平洋連携協定(TPP)承認を巡って農業、食への不安や危機感は拭えないままだ。十分な審議が尽くされたとは言い難い。政府の説明責任と情報開示なしで強行する国会運営は、到底許されない。地方の声に耳を傾け、納得のいく答弁をすべきである。政府・与党が結論を急ぐ正当な理由はあるのか。今週開いた地方公聴会、参考人質疑からは慎重な審議や対策を求める意見が相次いだ。性急に採決を進める姿勢は、国民を置き去りにした政治にほかならない。衆院TPP特別委員会が26日に北海道、宮崎県で開いた地方公聴会ではTPPの合意内容と国会決議との整合性を問う声が続いた。国会決議に盛り込んだ重要5品目は関税撤廃も含め無傷のものはない。北海道会場では農民組織代表が「TPP断固反対とした自民党公約や重要農産品の除外を求めた国会決議に著しく反する」と述べている。政府はTPPが発効すれば輸出拡大が期待できると主張してきた。農業を成長産業とし、農産物輸出をてこ入れする。宮崎会場では政府の「攻めの農業」に異論が出た。和牛繁殖農家は「中山間地では攻めるよりも守っていかなければならないことの方が多い」と訴え、現場との温度差は大きい。TPPは農業、暮らしに大きな影響を与える。地方にとっては死活問題だ。危機感を持って各地のJAグループはTPP勉強会や集会、要請活動を展開している。大筋合意の内容や影響、国会決議との整合性などについて十分な説明責任と情報開示を要望するものだ。佐賀市議会は会期中の臨時国会でTPPを批准しないよう求める意見書を全会一致で採択している。TPPが発効すれば地域の農業・関連産業に深刻な影響が及び、地方の疲弊がさらに進むとの懸念からだ。JA福岡県青年部協議会はTPP断固反対の特別決議を採択した。農家、市民の不安は払拭(ふっしょく)されていない。安倍晋三首相は今国会の所信表明演説で早期承認に決意を示した。その意をくんでか強行採決発言が飛び出し、国会は一時空転した。「安倍1強」体制のおごりとも言える。国民が求める真摯(しんし)な姿勢に逆行する。今国会での地方公聴会は全国でわずか2カ所にすぎない。形だけ国民の意見を聞いたと、採決を急ぐことがあってはならない。輸入米を巡っても、売買同時入札(SBS)米が国産よりも安価に売られている事実が明らかになり、農家の不安は一層高まっている。参考人質疑では政府の過小な影響試算、再協議による関税撤廃、食の安全が脅かされる問題が指摘された。食品添加物や遺伝子組み換え、輸入牛肉の安全性などで国内の表示や制度が後退する恐れが消費者に根強い。農相が言うように国民全員が納得できる審議を尽くすべきだ。.

*2-2:https://www.agrinews.co.jp/p39324.html
(日本農業新聞 2016年10月30日) TPP採決「待った」 650人結集 福岡集会
 環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案の審議が衆院で続く中、福岡県農業総合対策協議会やJAグループ福岡、県農政連は29日、TPP断固反対を訴える集会を福岡市で開いた。県内の農業者ら650人が参加。合意内容は、米など重要5品目の「聖域」確保を掲げた国会決議を満たしていないとして、衆院通過を急ぐ政府・与党を批判。慎重な審議の継続と協定内容の詳細を開示するよう求めた。
●審議不十分 不満の声
 県農協青年部協議会の佐々木彰委員長は「(TPP承認案の)地方公聴会は北海道と宮崎だけ。十分に国民の声を反映したといえるのか」と指摘。「継続して断固反対の声を上げ続けよう」と呼び掛けた。主催者を代表してJA福岡中央会の倉重博文会長も「なぜこんなに採決を急いでいるのか」と疑問を投げ掛けた。衆院TPP特別委員会の質疑でも、売買同時入札(SBS)米の「調整金」問題で政府・与党は質問に十分に答えていないとして、「TPPは秘密主義だ」と非難。倉重会長は承認案が衆院を通過したとしても、断固反対の姿勢で運動を続けていく考えを強調した。県農政連の林裕二委員長が、SBS米問題で政府のTPP影響試算の妥当性への不信が募っていると訴えた他、集まった農業者もTPPに対する不安や、政府・与党への不満を口にした。JAむなかた管内で稲や野菜を栽培する農業者は「TPPの影響を過少に見積もることで、割を食うのは中小の農家だ。ばたばたと倒れてしまう」と強調した。JAみなみ筑後管内の米農家も「報道を見る限りSBS米の影響がゼロとは到底思えない」と不安を訴えた。集会では、県女性協議会の中村由美会長が、TPP反対運動を団結して続けていくことを盛り込んだ特別決議を読み上げ、採択した。

*2-3:https://www.agrinews.co.jp/p39369.html (日本農業新聞 2016年11月5日) 水産物8割で関税撤廃 かつてない市場開放 TPP
 TPP承認案と関連法案が4日、衆院TPP特別委員会で可決された。農林水産物は8割で関税撤廃するなど、日本農業はかつてない市場開放を迫られることになる。TPP交渉は、米国やオーストラリアなど計8カ国が2010年に始めた。日本は当初からのメンバーではなく、安倍晋三首相が13年3月に交渉参加を表明。以降、2年余りをかけて昨年10月に大筋合意した。交渉の結果、日本は2594品目ある農林水産物のうち、2135品目(82%)で関税撤廃が決まった。国会決議で聖域とした重要5品目も29%で関税撤廃する他、関税が残る品目も税率の大幅引き下げや輸入枠の新設を受け入れた。このため、政府は輸入品の増加で国産価格が下落するなどして、農林水産物の生産額が約1300億~2100億円減少すると見込んでいる。合意内容と対策では、米は関税を維持した一方、米国とオーストラリアに7万8400トンを上限に売買同時入札(SBS)方式の特別輸入枠を新設。輸入米の影響を抑えるため政府備蓄米の運用を見直し、輸入量相当の国産米を買い入れる。牛肉は現行38.5%の関税を9%、豚肉は低価格帯にかける従量税(1キロ482円)を同50円まで大幅に引き下げる。対策として、経営安定特別対策(マルキン)の法制化と補填(ほてん)率の9割への引き上げを行う。乳製品の対策は、輸入と競合しにくい生クリーム(液状乳製品)を加工原料乳生産者補給金の対象に加えて交付することなどを決めた。

*2-4:https://www.agrinews.co.jp/p39418.html (日本農業新聞 2016年11月11日) TPP衆院通過 政府・与党 批准に執念
 環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案は10日の衆院本会議で、与党と日本維新の会の賛成多数で可決された。民進党など3野党は抗議して退席した。政府・与党は承認を確実にするため、今月30日までの会期を延長する方針。議案は参院に送付され、今国会で承認される可能性が高まった。TPPの発効に不可欠な米国の批准が困難になる中、日本は国内手続きを急いだ。TPPの国民の懸念や疑問が解消されたとは言い難い状況だ。討論では、自民党と日本維新の会が、TPP承認案と関連法案に賛成の立場から「自由で公正な開かれた経済の枠組みを作ることは、わが国の大きな使命であり、核となるのがTPPだ」と訴えた。これに対し、民進、共産など野党は「トランプ氏が明確に反対しているにも関わらず、採決を行うのは、世界の笑い者になる」として反対を表明し、その後の採決で退席した。民進党の山井和則国対委員長は記者団に「十分な審議が行われたとは思っていない」と採決に抗議した。承認案は衆院通過から30日以内に参院が議決しない場合、12月9日に自動的に成立する。TPP承認を確実にするため、会期延長幅は同10日ごろまでとする案が検討されているほか、年金制度改革法案などの処理も念頭に同28日ごろまでの延長案も取り沙汰されている。今後、与野党間での攻防が予想される。参院は11日に審議入りする見通し。衆院TPP特別委員会での審議時間は約70時間。農業分野の合意内容など国会決議の検証も一定程度行われたが、新たに浮上した輸入米価格偽装問題では、国産米への影響はないとする政府と野党との間で議論はかみ合わなかった。TPP対策など今後の農業政策の議論は深まっていない。一方、TPPの発効に不可欠となる米国では、TPP脱退を主張するトランプ氏が大統領選で勝利。議会幹部も年内のTPP採決を否定しており、同国の承認はますます不透明になっている。TPP承認案の採決に先立ち、民進、共産など野党4党は、山本有二農相の一連の発言を問題視して農相の不信任決議案を提出したが、否決された。

<農協破壊の農協改革>
*3-1:http://mainichi.jp/articles/20161112/ddm/008/010/048000c (毎日新聞 2016年11月12日) 規制改革推進会議、「金融」地域農協半減を提言 農産物販専念促す
 政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)の農業部会は11日、農業改革に関する提言をとりまとめた。貯金の受け入れやお金の貸し付けをする金融事業を手がける地域農協を、3年以内に半減させることを新たに求めた。農家の所得増に向け、地域農協が農産物販売などに専念できるようにする狙いがある。規制改革推進会議はこれまでに、全国農業協同組合連合会(JA全農)が肥料や農薬を調達して農家に販売する事業を縮小することなどを打ち出している。金融事業の縮小も迫ることで、JAグループの経営資源を農産物販売に集中し、農家の所得引き上げにつなげる体制を促す。具体的には、地域農協の金融事業をJAグループの農林中央金庫に譲渡し、農林中金の代理店が金融サービスを維持する。地域農協は業務負担が軽減される。また、全農には、農家から手数料を得て農産物を販売することを1年以内にとりやめ、全量を買い取ったうえで販売することも新たに求めた。JAが在庫を抱えるリスクを取って販売することで、より高いリターンを得る狙いがある。これらの改革が進まない場合は、国がJA全農に代わる「第二全農」の設立を推進すべきだとも明記し、JAに真剣に取り組むよう迫った。政府、与党はこの提言を受け、月内にも農業改革案をとりまとめる方針だ。だが、自主的に改革を進めているJA側の反発は必至だ。JA全農などJAグループ4団体は11日、「(改革には)現実的ではない事業・組織の見直しを強制されないことが大前提」とのコメントを出した。自民党農林族幹部も「(互いに助け合う)協同組合組織の否定につながりかねない」などと指摘している。

*3-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/375759
(佐賀新聞 2016年11月11日) 全農改革、1年以内に刷新を、資材縮小、農産物の販売強化
 政府の規制改革推進会議の農業ワーキング・グループは11日、全国農業協同組合連合会(JA全農)に今後1年以内に組織や事業を刷新するよう求める提言を取りまとめた。農薬などの生産資材を農家に販売する事業は、人員の配置転換や関連部門の売却で大幅に縮小する一方、農家が生産した農産物の販売体制について流通業者の買収も含めて強化するよう求めた。このほか年限は示していないが、役職員の報酬や給与の水準を公表して農業所得の動向に合わせることも促した。改革が不徹底なら「第二全農」のような新組織の設立を国が推進すべきだとも指摘した。

*3-3:https://www.agrinews.co.jp/p39392.html (日本農業新聞 2016年11月8日) 全農 購買抜本見直し 少数精鋭の新組織に 規制改革推進会議方針
 政府の規制改革推進会議は7日、JA全農と指定生乳生産者団体(指定団体)制度の改革方針を決めた。全農の生産資材の購買について、手数料を得る事業方式を抜本的に見直し、農家らの安値仕入れを支援する少数精鋭組織になるよう要求。指定団体では生乳の全量委託の原則廃止などを打ち出した。今後、方針の具体化を図り、週内にも提言にまとめる。改革方針は同日の会議で、農業ワーキンググループの金丸恭文座長が示し決定した。安倍晋三首相は会合で、全農改革は農業の構造改革の試金石だとし、「新しい組織に生まれ変わるつもりで事業方式、組織体制を刷新してほしい」と要請。指定団体制度では「酪農家が販路を自由に選び、流通コスト削減と所得の向上が図れる公平な事業環境に変える」と強調した。この二つの改革について「私が責任を持って実行していく」と強い意欲を示した。同会議は、改革方針で全農に「農業者の協同組織の原点」に立ち返るよう求め、懸案となっていた株式会社化には言及しなかった。一方、生産資材の購買では組織の抜本改革を要求。「資材メーカーの販売代理とも見られる購買組織は縮小」すべきだとし、メーカーと安値交渉で徹底的に対峙(たいじ)するよう求めた。その上で、農家やJAの安値での資材調達を支援する「少数精鋭の新組織」への見直しを提起。全農は「仕入れ販売契約の当事者にならない」とし、JAへの資材の供給時に販売手数料を得る方式をやめるべきだとした。新組織は、国内外の資材の情報を収集・分析し、JAや農家により有利な資材の仕入れ先を提案するなどの機能を果たす。手数料ではなく、新組織が機能に応じた対価を得るべきとの考えだ。販売事業は、実需者への直接販売の拡大や買い取り販売への転換、輸出の促進などで強化するよう提起した。金丸座長は同日の会見で、改革方針を全農が拒否することは「全く想定していない」と述べ、方針に沿った改革の具体化を迫った。

*3-4:https://www.agrinews.co.jp/p39429.html
(日本農業新聞 2016年11月12日) 急進的全農改革 不当な経営介入許すな
 政府の規制改革推進会議がJA全農やJA経営に踏み込んだ改革案を示した。焦点の全農改革は1年以内に委託販売を廃止し全量買い取り販売へ転換、JA信用事業は代理店化を進めるなど、全農経済事業やJA信用事業の機能と役割を無視した極めて不当な内容だ。これは協同組合的事業方式の否定で、民間独立組織への経営介入であり、断じて許されない。協同組合の原点は自主・自立であり、改革は組合員である農業者の合意による自己改革が基本だ。だが今回示された全農改革に関する意見は「メーカーなどへの事業譲渡を進め、1年以内に新組織に移行」「委託販売を1年以内に全量買い取り販売に」などと細部にわたる。言うまでもなく全農の目的は、経済的に弱い立場にある個々の農家が「協同組合」に結集することで、価格交渉力を高め、農家組合員の所得向上と国民への食料の安定供給を図ることである。生産資材事業の取り扱いから実質的に手を引くというのは経済活動からの撤退を意味し、長年積み上げてきた共同経済行為を否定するもので、全農の経営を立ち行かなくする恐れが強い。現在自民党の農林水産業骨太方針策定プロジェクトチームは生産資材価格の引き下げで議論を重ねている。その中で全農は着実に事業見直しを実践している。提言はそうした議論を逸脱するもので到底納得できない。委託販売から買い取り販売への転換については、既に自己改革の一環としてマーケットイン(需要に応じた生産・販売)に基づく生産・販売事業方式への転換を進めている。米で言えば、自己改革の具体策として今秋打ち出した「魅力増す農業・農村の実現に向けたJAグループの取り組みと提案」でも事前契約取引の一層の推進を明記した。業務用実需者と産地の結び付きを強め、ニーズに合った品種を導入しているケースもある。事業転換を迫られる正当な理由があるのか。信用事業の譲渡については2年前の農協改革議論で、代理店化によるサービスの低下を危惧する声や、信用事業収益の減少により営農事業の財源が少なくなり地域農業の担い手や産地の活性化に結び付かないとの懸念があった。こうした経緯を踏まえ、農協改革については2014年6月の与党取りまとめがベースとなり、改正農協法に盛り込まれた。残る課題は5年間の改革集中期間で取り組むこととなった。それを踏み越えるものがあってはならない。全農は農業協同組合の民間組織であり、自主・自立の組織である。政府が介入すべきではない。JAグループはまさに農業発展や農家所得増大のため創造的自己改革に取り組み、その役割を率先して発揮している途上にある。方向性を最終的に判断するのは、組合員である農業者の合意が重要であることを肝に銘じるべきだ。


PS(2016年11月16日追加):都市より農業地帯の方が自然が美しいため、*4のようなスマートアグリが普及し、地方における教育その他の利便性が整えば、農業に参入したいと考える若者も増えるだろう。私の経験では、所得の上がっている農家には、担い手となる後継者の不足があまりなかった。


 *4より    レモンの花      みかんの花      ウメの花         蕎麦の花


レンコンの花(つまり蓮の花)   リンゴの花       ジャガイモの花        ナスの花

*4:https://www.agrinews.co.jp/p39448.html (日本農業新聞 2016年11月16日) 営農指導 一筆ごと 作物情報 地図と連動 JAグループ茨城
 JAグループ茨城は15日、地理情報システム(GIS)データを活用し、農地一筆ごとの地図情報に作物や土壌などの情報を連動させ、営農・経営指導に活用できるシステムを導入すると発表した。パソコン上で、集積状況と併せて、適切な播種(はしゅ)時期や施肥量などの情報も把握できるようになる。JAが農家や集落に対し、収益性の高い作物の作付けや低コスト技術の導入など、農地の状態に合わせた的確な営農指導ができるようになる。農家手取りの最大化、担い手育成につなげる考えだ。2018年度までに県内全域に普及させる。同日、水戸市の県JA会館で記者会見した県農協五連の加倉井豊邦会長は「農家手取りの最大化に向け、農地を最適利用できる有効なツールだ。現場を一番よく知っている農家と信頼関係のあるJAが取り組むことに意義がある」と強調した。従来は紙の地図で手作業で農地台帳などを管理してきたが、時間がかかる、地権者や担い手などが変わるごとに更新しなくてはならないなどの課題があった。新システムでは、農地情報をパソコンの地図上に落とし込むことで農地の利用状況がひと目で分かり、地図作成を大幅に省力できる。営農情報も連動させる。地図情報を活用して担い手に農地集積を提案する中で、集約した広域な農地でどの作物をいつ、どのように栽培すれば作業効率が最適になるか、手取りがどれだけ増えるのかなど、所得増大につながるアドバイスも地域実態に合わせてきめ細かにできるようになる。農業機械の有効活用にもつながる。新システムはJA全農いばらきと東京農業大学GIS研究部会が連携して開発した。地番、面積、作物などの属性を選ぶと検索できる。JAグループ茨城は、集落営農組織を含む担い手に指導するJAの人材を育成する考え。県や農業会議と連携しながら系統外の農地情報も収集し、より実態に近いシステムを構築する。先行してJA水戸、JA常陸、JAつくば市谷田部の3JAで来年3月までに稼働させる。


PS(2016年11月17日追加):みかんの花から香水をとれば柑橘系のよい香りがするため、*5-1は、ミカン畑という遺産を使うよい方法だと思う。また、一世代前のミカンは甘いだけでなく酸味もあるため、みかんジュースにした場合には現在の品種より美味しく、みかんジュース作りも放置されたミカン畑から付加価値のあるものを作る方法だろう。さらに、みかんの花だけから集めたハチミツは、ほのかに柑橘系の香りがして美味しく、私はオレンジの花からとったハチミツ(イタリア産)を継続的に食べている。ハチミツも花ごとに分けた方が花の香りがして美味しいため、リンゴやウメなどのいろいろな花からハチミツという副産物を作ることができるだろう。これは、花の咲く時期が少し違うことと蜂の飛行距離が短いことから可能なのだそうだ。さらに、既に根が張っている古いみかんの木に、新しい品種のみかん・レモン・オレンジなどを接ぎ木すれば、新しい作物が速やかにできるのではないかと考える。
 なお、長野県は、*5-2のように、2014年に蜂蜜生産量が日本一になり、ミツバチの飼育戸数や飼育群数は全国1位で、養蜂は安定した経営ができるため若い後継者や定年後に始める人も多いそうだ。確かにアカシアの蜂蜜もさっぱりしていて美味しく、私は、トチ、リンゴ、栗の蜂蜜は食べたことがないが、ドロッとした朝鮮ニンジンに似ている黒色の蕎麦の蜂蜜もあったのは驚きだった。松本市のふるさと納税の返礼品は、各種蜂蜜、ジャム、果物、味噌などの地元の名品が喜ばれると思うので、農協や商工会と相談して決めた方がよいのではないだろうか。

*5-1:http://qbiz.jp/article/98250/1/ (西日本新聞 2016年11月17日) 放置ミカン畑活用し化粧品 花から油を抽出、東京のメーカーが商品化 唐津市や玄海町
 佐賀県唐津市浜玉町で耕作放棄地になったミカン畑を活用し、花から抽出した香り成分を使った化粧品が10月中旬に全国発売され、人気を呼んでいる。開発した東京の化粧品メーカー「ビーバイ・イー」は「地元生産者と持続可能な仕組みを作り、日本発の香りを世界に届けたい」としている。ミカンの花から抽出される精油「ネロリ」は、花の香りとかんきつ類の爽やかさを併せ持ち、バラやジャスミンと並んで高級化粧品に使われる。同社は美容液や化粧水など3製品を「ネロリラボタニカ」のブランド名で各2千個製造。「癒やされる香り」と好評で、全国の百貨店など約50店でほぼ完売した。目標の3倍以上の売れ行きといい、追加生産の準備をしている。唐津・玄海地区の化粧品製造拠点化を進める産学官連携組織「ジャパン・コスメティックセンター」(JCC)が耕作放棄地の活用を模索していたところ、同社がネロリの国産を目指していることを知り、協力を申し出た。唐津市浜玉町や玄海町にある計3カ所の耕作放棄されたミカン畑を紹介。今年は所有者から無償で協力を得たが、今後は地元に利益が出るよう、生産者団体にミカン畑の管理を委託するなど対価を支払える態勢を整える方針。14日に唐津市を訪れ、地元生産者と意見交換した同社の杉谷恵美社長は「日本のアロマはまだ世界に全く出ていない。生産者も幸せになる仕組みをつくり世界の市場に出て行きたい」と話した。

*5-2:https://www.agrinews.co.jp/p38984.html (日本農業新聞 2016年9月23日) 祝 蜂蜜生産日本一 長野県で初共進会
 長野県養蜂協会は23日、蜂蜜の生産量が農水省の統計で2014年に日本一になったことを記念し、「信州はちみつ共進会」を長野県松本市で初めて開いた。本物のミツバチも登場する演出の中、糖度や色合い、風味などを厳正に採点した。同協会によると、同県はミツバチの飼育戸数や飼育群数は全国1位だったが、蜂蜜の生産量は北海道に次ぐ2位だった。今回の統計で生産量が361トンになり、初めて日本一となった。養蜂は景気に左右されず安定した経営ができるため、県内には若い後継者や定年後に始める人も多い。第1回共進会には県内各地の養蜂家46人が、108点を出品。アカシア、トチ、リンゴ、栗、百花の5部門に分けて品評した。同協会の依田清二会長は「日本一の蜂蜜県をPRして、県内の養蜂を盛り上げたい」と力を込める。


PS(2016.11.22追加):トランプ次期米大統領は、*6-2のように、当選後もTPPからの離脱を唱えているが、日経新聞は、*6-1のように、「①米国の外交戦略にとって重要」「②日本は他の通商交渉も加速しなければならない」「③中国・インドなどが参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉でも、日本が積極的な役割を果たせば米国にTPP参加を強く迫ることができる」などとしている。しかし、①②③を同時に行えば、米国だけにとって外交・防衛にプラスになるわけではないため、将来の産業政策や防衛政策も考えずに、根拠にならないことを列挙するのはいい加減にすべきだ。
 また、「④日本はニュージーランドに続き、早期発効の機運を高めてほしい」「⑤日本は参院で審議中のTPP承認案・関連法案を確実に成立させるべきだ」「⑥あらゆる形の保護主義に対抗する(APEC首脳会議宣言)」「⑦日本は先頭に立って世界の自由貿易を牽引しなければならない」ともしており、APEC首脳宣言も日本が主導したのだろうが、主権者である国民に対してあまりにも無責任である。
 さらに、「⑧日本は、高水準の貿易・投資ルールを通じて(?)実現しようとしているTPPの意義をトランプ氏に説明していく必要がある」「⑨欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉に向け、日本が主要閣僚会議を設けたのは前進で、政治主導で年内の大筋合意を導いてほしい」としているのも自信過剰で、実際には日米主導のTPPは、食品安全基準・食料自給率確保・医療保険制度等が粗末であるため、⑨はEUとのFTAを先に行ってEUに学ぶのがよいと考える。
 なお、*6-2のトランプ氏の政策のうち、自動車産業については、EV・FCVを主軸として炭素繊維で自動運転車を作れば、アメリカでも競争の土壌が変わって買替需要が伸び、米国労働者も雇用創出できると思うが、エネルギーの転換を行わずにシェールオイルや石炭産業に固執していれば、次は技術でも現在の開発途上国に追い越されて再起不能になるかもしれない。しかし、移民・難民政策に関しては、日本もアメリカにもの申せるほど移民・難民・外国人労働者の入国を自由に認めているわけではない。

*6-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161122&ng=DGKKZO09807740S6A121C1EA1000 (日経新聞社説 2016.11.22) 自由貿易堅持へTPPをあきらめるな
 トランプ次期米大統領が環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を唱えるなか、TPPの先行きが見通せなくなっている。しかし、アジア太平洋地域全体の自由貿易圏をつくるうえで、TPPはもっとも重要な礎となる。日本を含む参加国はTPPの発効をあきらめることなく、国内手続きを着実に進める必要がある。ペルーで開いたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にあわせて、日米を含むTPP参加12カ国は首脳会合を開いた。安倍晋三首相が「発効に向けた努力をやめるとTPPは死に、保護主義がまん延する」と訴えたのは当然である。一部の国からは、会合に先立ち「米国を外し、新たな環太平洋での協定を構築すべきだ」との意見が出ていた。仮に最大の経済大国である米国がTPPから抜ければ、貿易・投資の自由化により域内経済を成長させる効果は限られる。世界的に自由貿易が退潮し、世界経済の行方にも影を落としかねない。米国を含む12カ国がひとまずTPP存続へ協調する方針を確認したのは評価できる。課題は米国以外の11カ国の結束を保つことだ。トランプ氏が大統領選の期間中、TPPに反対する発言を繰り返してきたのは事実である。だからといってTPPを安易に捨て去ってはならない。日本など各国は、高水準の貿易・投資ルールを通じて実現しようとしているTPPの意義をトランプ氏に粘り強く説明していく必要がある。米国の外交戦略にとって重要である点も訴えてほしい。日本は参院で審議中のTPP承認案・関連法案を確実に成立させるべきだ。すでに議会承認を終えたニュージーランドに続き、早期発効の機運を高めてほしい。同時に、他の通商交渉も加速しなければならない。欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉に向け、日本が主要閣僚会議を設けたのは前進だ。政治主導で年内の大筋合意を導いてほしい。中国やインドなどが参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉でも、日本が積極的な役割を果たせば、米国にTPP参加を強く迫ることができる。APEC首脳会議は「あらゆる形の保護主義に対抗する」との宣言を採択し閉幕した。日本はこうした国際的な取り組みの先頭に立ち、世界の自由貿易をけん引しなければならない。

*6-2:http://mainichi.jp/articles/20161122/k00/00e/030/180000c
(毎日新聞 2016年11月22日) トランプ氏、「TPP離脱」当選後初表明 発効絶望的
 ドナルド・トランプ次期米大統領(70)は21日、日米など12カ国による環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について、来年1月20日の就任初日に「離脱の意思を(参加国に)通知する」との方針を表明した。トランプ氏は勝利後、TPPへの発言を控えていたが、この日、政権の最優先課題にあげたことで、TPPの発効は絶望的になった。21日夕(日本時間22日午前)、自らのフェイスブックに動画メッセージを投稿し、就任初日から取り組む政策課題を列挙。政権移行チームに具体的な準備を進めるよう指示した。トランプ氏は最初に通商政策をあげ、TPPが「米国にとって大惨事になり得る」として離脱する方針を表明し、その代わりとして「国内に雇用と産業を引き戻すような公正な2国間協定に向け交渉する」と明らかにした。TPP発効には参加12カ国全体の国内総生産(GDP)の85%以上を占める6カ国以上が国内手続きを済ませる必要があり、米国の議会承認が不可欠。トランプ氏がTPPに関する発言を封印していたため、参加国関係者の間ではトランプ氏の翻意に期待をかける声があがっていた。19日のTPP首脳会合でも各国が発効に必要な国内手続きを進めつつ、トランプ氏の動向を見守る方針で一致したばかりだった。しかし、トランプ氏がTPP離脱の方針を明確にしたことで、少なくとも政権発足後、一定期間はTPP発効の可能性が絶たれることになる。トランプ氏は演説で、米製造業の再興を通じて雇用創出に励む姿勢も強調。「私の政策は『米国第一』というシンプルな原則に基づいている」としたうえで、「鉄鋼を生産し、自動車を組み立て、(自由貿易によって受けた)大惨事をいやす。米国で次世代の生産や革新を起こしたい。米国の労働者のために富と雇用を創出したい」と述べた。他の優先課題として、シェールオイルや石炭産業への規制緩和でも雇用を拡大するほか、「新たに一つ規制を導入する際には二つの規制を撤廃する」として規制緩和を徹底する方針を示した。移民政策に関しても入国に必要なビザ(査証)の不正使用について調査し、米国の労働者が不利益を受けないようにするほか、ダムや発電施設といったインフラへのサイバー攻撃に防御を固める方針も示した。


PS(2016年11月26日追加):*7-1のように、韓国では、自由貿易協定(FTA)の影響で米価が過去最低水準まで暴落して農業経営が厳しくなり、トラクターなど1000台以上がトラクターデモを行っているそうで壮観だが、朴大統領の不満は農政でもくすぶっていたようだ。そして、食料はじめその国の産業については、「保護を排せばすべてがうまくいく」というような単純なものではない。
 ただ、*7-2のように、ムスリム市場は砂漠の多い場所であるため、そこでは決して獲れない作物が韓国や日本では獲れる。そのため、米にこだわらずに付加価値の高いものを作り、販路を拡大する方法は日本でも韓国でも使える。そこで、韓国の農家は米を減産して朝鮮ニンジン(現在は高価過ぎて継続使用は遠慮される)やニンニク(日本では、現在、運賃をかけてもスペイン産の方が青森産よりも安い)など、他の付加価値の高い作物を増産し、日本を含む各国に積極的に輸出したらどうだろうか?

   
     2016.11.26、27日本農業新聞              韓国の農村風景
 (図の説明:韓国の田畑も区割りが小さく、機械化が進んでいないという課題があるようだ)

*7-1:https://www.agrinews.co.jp/p39538.html (日本農業新聞 2016年11月26日) トラクター1000台集結 農政失敗に抗議 「朴政権退陣」農家訴え 韓国
 韓国ソウル近郊の京畿道安城市で25日、最南端の慶尚南道と全羅南道からそれぞれ出発した農民によるトラクターのデモ隊が合流した。トラクターなど1000台以上が集結、日本の官邸に当たる青瓦台を目指す。朴槿惠政権による農業政策の失敗で米価が過去最低の水準まで暴落、海外との自由貿易協定(FTA)などの影響で農業経営が一層、厳しくなっているためだ。デモ隊は同日、ソウルで開く「農政破断、朴槿惠政権退陣、全国農民大会」に合わせて、全羅南道を15日、慶尚南道を16日に出発した。デモ隊は各地で農政の失策をアピールし、ろうそくデモを展開、朴政権を批判した。主催する全国農民会総連盟は「政権という畑を耕し、新たな種をまく意味でトラクターデモを考えた。朴政権が退陣するまで闘う」と主張した。

*7-2:https://www.agrinews.co.jp/p39510.html
(日本農業新聞 2016年11月23日) ムスリム市場に商機 ハラールエキスポ 販路拡大へPR
 イスラム教の食事戒律「ハラール」に沿った食品などの展示商談会「ハラールエキスポジャパン」が22日、東京都内で始まった。国内外の農業者や食品業者など約90団体が、在日のイスラム教徒(ムスリム)やインバウンド(訪日外国人)が安心して食べられる食品や商品を出展。ムスリム市場で商機を探る業者らでにぎわった。23日まで。群馬、栃木両県にまたがる両毛地域の商工業者やJAでつくる協議会は特産のイチゴをプランターに植えて展示し、来場者の注目を集めた。同地域は東京から比較的近いが目立った観光地が少ないのが課題で、「来日数が増えているムスリムに特化してPRし、他の地域より先行して知名度を上げたい」(事務局)と、特産品を売り込んだ。徳島県は、農商連携で農産加工品や牛肉などを出展。事務局の県農林水産部によると、現在は県内の中小12業者が国内向けハラール認証を受け、新たな販路獲得を目指しているという。この他、「ムスリムにも日本茶が喜ばれた」と鹿児島県で茶を生産販売する農業法人や、大手外食チェーン、レストランなどが自慢の食を試食提供しながら、来場者と活発に商談していた。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 03:13 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.11.6 環太平洋連携協定(TPP)の合意が日本経済(特に農業)に与える影響について  (2015年11月6日、7日、8日、12日に追加あり)
   
     2015.10.21            2015.10.23         2015.10.20  2015.10.21     
     西日本新聞              日経新聞            日経新聞     西日本新聞 

     
 2015.10.18   2015.10.22        2015.11.5西日本新聞       2015.5.16  
  農業新聞       農業新聞                              真実を語るブログ

(1)環太平洋連携協定(TPP)の意味
1)TPP推進派の主張
 *1-1のように、「貿易・投資を完全自由化して、アジア太平洋を舞台に世界最大の経済圏を作る」というのがTPP推進派の根拠で、例外なき自由化にならなかったことに対しては失望し、再交渉すべきだと主張している。また、米国で法案を審議する上院財政委員会のハッチ委員長は、*1-5のように、「TPPは議会が求めていた通商協定の高い水準に届いていない」とさえ指摘している。

 しかし、私は、完全自由化して現在の市場に任せれば、その国の将来の産業構造があるべき姿になるとは思わない。そのため、主権国家の将来を見通した産業構造計画はあるべきだと考えている。

 また、TPP推進派は「農業分野で日本が保護主義的な姿勢をとったため、日本の農業の構造改革に果たすTPPの役割は小さくなり、徹底した自由化がなされた場合に比べて消費者の恩恵は薄くなった」としているが、市場を完全自由化して誰にでも所得補償を行えば、日本の農業を構造改革して生産性の高い産業に導けるわけではない。つまり、日本の農業改革は、TPPに入って予算のバラマキを行えばできるのではなく、農業における一つ一つの課題について合理的な問題解決ができるよう、技術や経営をアドバイスして改善していくことによってしかできないのだ。

 なお、淘汰されてしまった日本の農産物は輸入に頼るしかなくなる。そのため、ITがマイクロソフトに統一されてやりたい放題されているのと同様、*2-1に書かれているように、外国に委ねられて「食」の安全性が損なわれ、顔の見える国内産の選択肢がなくなって、消費者の恩恵はむしろ低くなりそうだ。遺伝子組換食品の表示・食品添加物・残留農薬基準・BSEに関する規制や有機農法などがその例である。

2)TPP推進の本当の理由は何か
 *1-2のように、TPP交渉担当は甘利経済財政・再生相(横浜13区選出の衆院議員)であり、その時の自民党農林部会長は斎藤衆院議員(千葉7区選出、東京出身、経産省出身)であり、現在の自民党農林部会長の小泉衆議院議員(神奈川11区選出)も含めて、いずれも農林漁業地帯ではなく、都会から選出された人が農林漁業に重要な影響を与える地位にいる。

 これは、「農林漁業の言うことを聞かずにすむ農林漁業をあまり知らない人」を選んだ人事で、いくら難しい交渉をしたという演出をしても、この人事を行った時点で、第一次産業を知らない経産省主導のTPPが締結される着地点が見えていた。

 そして、甘利経済財政・再生相は、*1-2のように、①TPPの大筋合意は経済成長を促す効果がある ②アジア太平洋地域の安全保障に貢献する などとしているが、日本製の衰えは、物価や賃金上昇に連動する価格や経営戦略による生産拠点の海外移転によるところが大きく、関税の影響は限られているため、TPPの合意で日本の経済成長が促されることはあまりないだろう。つまり、土地価格の上昇や燃料高などのコスト・プッシュインフレーションを願うのは、経済を破壊する狂気の沙汰なのである。

 一方、アジア太平洋地域の安全保障は最も重要な目的になっており、TPPでは日本が独り負けしそうなほど米国に有利な条約を結んだため、妥結の翌日、米のイージス艦が中国の人工島付近に現れて、中国が国連海洋法条約(http://www.houko.com/00/05/H08/006.HTM 参照)違反であることを明らかにしてくれたのだと思われる。つまり、農業は沖縄と同じく、安全保障の生贄にされたわけだが、安全な食料を生産し、真面目に働く国民を育ててきた農業は、決して粗末にしてはならない重要な産業だ。

3)TPP投資ルールでメリットのある産業は何か
 *1-3によれば、マレーシアやベトナムなどのアジアの新興国で外資規制が緩和され、日本のコンビニエンスストア、金融機関、電力会社などが本格的にサービスを展開しやすくなるそうだが、このようなサービス産業のメリットと食料を生産する農業を引き換えにすることはできない。何故なら、農業が絶滅してサービス産業が残っても、国民はそれを食べることはできないからだ。そのため、OECDモデル条約のようなFTA(又はEPA)モデル条約を作り、国毎に相手の発展段階や特殊性を考慮して、それを変化させながら使うべきだと考える。

 また、*1-3によれば、知的財産に関するルール整備には、新薬の保護期間延長でTPPの間接的効果を期待するそうだが、中国はTPPに入らないので影響はない。さらに、日本の建設会社がベトナム、マレーシア、ブルネイなどで国や自治体の公共事業が受注可能になり、現地市場開拓の障壁が下がるとのことだが、これもFTAかEPAで行えばよいことだ。

 そのほか、*1-4に、TPPで工業品の87%の関税が即時撤廃され、ビデオカメラ、電池、炭素繊維などの工業製品で日本企業の輸出を後押しすると書かれているが、工業製品の関税はもともと低く、輸出企業は既に人件費の安い消費地に工場を移転しているため、今頃になって20世紀後半にやっておくべきだったことをやっても、益より害の方が大きいだろう。

(2)農業への影響
 一方、政府・与党は、*2-5のように、コメ、麦、牛豚肉、乳製品、砂糖などを重要5品目とし、関税撤廃の例外を目指して「聖域」と位置付け、守ったのだそうだ。しかし、私は、この5品目だけが重要で、それさえ守ればよいという根拠はないため、「重要5品目」を決めた理由を明確に説明すべきだと考える。そして、国民に説明できる合理的根拠もないようないい加減な政策で、多様な農業者が生業として長期間かけて育んだものを根底から覆すようなことがあってよいわけはない。

 その上、その重要5品目も全586品目中、約3割の174品目の関税が撤廃されることになり、日本の全品目の関税撤廃率は貿易額ベースで95・1%だそうだ。これに対し、農業者や農業団体が途方にくれたり、反発したりするのは当然で、甘利経済再生担当相は「(農業保護と貿易自由化の)バランスが取れた協定だ。重要5品目のコア部分はしっかり守れた」と強調しているが、「全体として何となくバランスが取れたように見える」ではなく「どういう意味でバランスが取れているのか」を説明すべきだ。日本では、現在、第一次産業の維持と貿易自由化は相反しているため、如何にして日本の食料自給率を守っていくのかについて、展望を持って定量的に示すべきである。

 なお、安い農産品が輸入されると、消費者は安い食料を入手できるためメリットが多いと言う人もおり、それは短期的には事実なのだが、*2-1のように、外国産に敗退して日本産の農産品が極度に少なくなると、遺伝子組換食品の表示・食品添加物・残留農薬基準・BSEの規制などによる安全性や有機農法による栄養価・美味しさが守られるとは限らず、日本産という選択肢もなくなって消費者も困ることを忘れてはならない。そのため、消費者は合理的な規制が作られ、守られているかについて、しっかり監視しておく必要がある。そして、このような規制は、ISD条項で提訴されることがあってはならない。

 また、自由貿易を標榜するTPPで、*2-2のように、米国とオーストラリアに計7万8400㌧の米輸入枠を新設したのはやはりおかしい。さらに、*2-3のように、TPPでは野菜の関税は全て撤廃され、農水省は関税が撤廃されても直ちに輸入が急増することはないとしているが、関東のスーパーでは、TPPの議論が始まったらすぐ、(どういう土地でどういう育て方をしたのかわからない)日本産と同じ品種の比較的安いカボチャ、ブロッコリー、アスパラガスなどの外国産野菜が増えており、冷蔵保存技術が発達すれば国内生産への影響も限定的ではなくなるだろう。

 現在の農相である森山衆院議院の地元鹿児島はじめ畜産を行っている地域では、*2-4のように、「国内産への打撃があるため、公約を守ったとは言えないのではないか」「どう守るのかを早急に示してほしい」などとしている。そして、*2-6のように、日本農業新聞が、農政モニターを対象に行ったTPP大筋合意の結果に関する意見では、「農産物の重要品目の聖域確保を求めた国会決議違反だ」とした人が、69%に達したそうだ。

 また、*2-7に、「農家いじめだ」と書かれているが、私にも最近の“農協改革”や“TPP”は農業を標的にした問題解決にはならない嫌がらせのように見える。そして、これまで努力してきた関係者に対し、一つ一つの課題に対する解決策は示せず、破壊してショックさえ与えれば改革できてよみがえるかのように言うことほど無責任な態度はない。

(3)農林水産品の輸出について
 *3-1のように、農水省や生産者団体・流通業者などで作る輸出戦略実行委員会が、豚肉や牛乳・乳製品などの輸出額目標と取り組むべき方向性を盛り込んだ輸出戦略を決めたそうだが、輸出に慣れていないらしく、欠点があるので指摘しておく。
 ①日本で統一したロゴマークを使うと、上の図の下の段右の輸入差し止めになっている原発
   事故被災地域の製品と混同させられるため、日本産の安全ブランドが損なわれる。例えば、
   オーストラリア産は原発がない国であるため、国で統一したブランドでも売れるのであって、
   私は輸入牛肉ならアメリカ産ではなくオーストラリア産しか買わない。
 ②日本産として一緒にすると、環境に気をつけて頑張った地域の差別化ができず、良い製品を
   作ろうという動機付けがなくなり、品質が落ちる。
 ③「日本らしい食べ方」を押しつけるのではなく、相手のニーズに合った製品を作った方が売れる。

 例えば、*3-2のように、日本では邪魔者だったクラゲは、(私の提案で)中国に輸出し始めたら中華料理の高級食材として需要が多く、有明海の漁閑期の貴重な収入源になった。価格は1キロ300円ほどで、数年前と比べて1.5~2倍に跳ね上がり、最近は採り過ぎないように禁漁期を設けているそうだ。また、*3-3のように、中国で日本産ナマコが以前の3倍の値を付けるブームになり、佐賀県の業者が玄界灘での養殖に力を入れているとのことである。

 つまり、資源を見つけ、相手の需要に合うように加工して輸出すれば、速やかに輸出量を増やすことができるのだ。

<TPP推進派の意見>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151008&ng=DGKKZO92585970X01C15A0M10600 (日経新聞 2015.10.8) TPPが変える世界、完全自由化へ再交渉を 国際貿易投資研究所理事長 畠山襄氏
 アジア太平洋を舞台に世界最大の経済圏をつくろうとする環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が曲折を経て大筋合意にこぎ着けた。貿易や投資の垣根を低くし、知的財産権の保護など広い分野でルールを統一する試みは何をもたらすのか。交渉で大筋合意できた点は評価したいが、内容には不満が残る。「例外なき自由化」を目指した自由貿易協定(FTA)だったはずが、常識的な選択で終わってしまった。リスを追っていたのが、いつのまにかネズミになってしまったというのが正直な印象だ。日本は将来、関税の完全な撤廃を目指す新たなTPPに向けて再交渉もすべきではないか。TPPの前身はニュージーランドが2006年にシンガポール、チリ、ブルネイと結んだ「P4」というFTAだ。関税を100%なくす路線だったのに、日本や米国が交渉に参加した後、例外が設けられた。問題は農業分野だ。日本はコメなどで従来の枠組みを堅持したうえで、新たな国別の枠を設けるかたちを取った。非常に保護主義的な姿勢があり、自由化が後退した印象すら与えかねない。日本にとって農業の構造改革に果たしたはずのTPPの役割が小さくなり、徹底した自由化がなされた場合に比べ消費者の恩恵は薄くなったといえる。日本の対外交渉に悪影響が出てくるかもしれない。100%の自由化路線を求めていたのが、日本から農産物の5項目について関税を完全に撤廃しないと言った。これはTPPの論理から外れたもので、日本の弱みになる。この点は今後、米国などから何回も突かれることになるだろう。まず国内体制を整えることが必要だ。具体的には農家への所得補償を専業にも兼業にも検討してほしい。近年の農産物の内外価格差の縮小により政府の対策が小さくなる分、農家への補償を厚くし、所得が改革前後で変わらないようにして理解を得るべきだ。TPPに韓国が参加を検討しており、中国も参加するかもしれない。米国などが「日本の自由化率が低い」と再交渉を求めてくる可能性もある。その前に日本はアジア太平洋地域のリーダーとして先手を取るべきだ。本来の目的だった関税の完全撤廃を目指し、TPPの次のステージを提案してほしいと願っている。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151009&ng=DGKKASFS08H6T_Y5A001C1EA2000 (日経新聞 2015.10.9) TPP、地域安保に寄与 甘利経財相に聞く、農業、対策費ありきでない/東南ア、参加希望いくつも
 甘利明経済財政・再生相は8日の日本経済新聞のインタビューで、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意は経済成長を促す効果とともにアジア太平洋地域の安全保障に貢献すると強調した。国内の農業対策については、打撃を受ける農家への損失補填に力点を置いた過去の対策にとらわれず、成長産業への転換につながる政策を重視する考えを示した。
――TPPは日本にどんな利点があるか。
 「12カ国のバリュー・チェーン(価値の連鎖)ができる。それを前提にモノと人と資本が自由に行き交う。新しい商取引への対応もできる。その障害となっているものを外し、問題があれば協議する仕組みができた。TPPが経済成長にプラスにならないわけがない」。「東アジアは非常に不安定な地域だ。中国の覇権があり、北朝鮮があり、そういうなかに米国のプレゼンスが経済を通じて直接絡んでくる。TPPは経済の話だが、これは間接的な安全保障で地域の安定に貢献する。やがて中国も仲間に入らざるをえなくなってくる」
●小国もメリット
――韓国も参加を検討している。
 「東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国でも入りたいという意思表示を非公式で言っている国がいくつもある。早く入れてくれという順番待ちが始まっている。米国以外の国は、日本がTPP交渉に参加してくれて本当によかったと言っている。ライオンとウサギの間にトラが入り、ライオンにしっかりものを言う。そうすることによって経済小国にも大国にもメリットのある内容になっていった」
――新たな参加国にあわせてルールを見直すことはないのか。
 「基本は12カ国がつくったルールだ。新しく入る国の事情に配慮して変えることはない」
 「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)など、協議が遅滞している枠組みを動かす潤滑油にもなる。中国も国有企業を民営化していく際、TPPのルールを無視して独自型という具合にはいかなくなる。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉も加速していくだろう」
●飛躍のツール
――日本ではいつTPP協定案の国会承認をめざすのか。
 「できるだけ直近の国会に出していく。来年1月からの通常国会で正々堂々と審議するのがいいのではないか」
――自民党内には来年夏の参院選で農業票離れを懸念する声も多い。
 「TPPは後ろめたい気持ちでやるわけではない。農業が一気に飛躍していくツールだ。日本の農業は成長産業で、TPPはそのための環境整備だということを理解してもらわないといけない」
――国内農業対策の予算規模は1990年代のウルグアイ・ラウンド対策事業費約6兆円がたたき台になるのか。
 「ウルグアイ・ラウンドは外国産の農産物に攻められるから国内農業に補填するものだった。TPPは魅力ある日本の1次産業の強みを伸ばし成長産業にしていくためにある。基本姿勢が違う」
 「金額の規模は政府の対策本部で決める。農産品はTPPが発効してから長い年数をかけて段階的に関税を下げる。今の時点でこれだけ対策費が必要というのではなく、農業をどのように強化していくのかを綿密に考えて予算を組んでいく。額ありきではない」
――今後のアベノミクスで必要なことは。
 「企業収益は最高なのに、設備投資はまだ一歩踏み出せていない。だからこそ、これからはじまる官民対話を通じて踏み出してほしい。踏み出さないと内部留保で食いつないでいくだけになる」
――岩盤規制改革はどの分野に切り込むのか。
 「官民対話を通じて実体経済の現場から意見が出てくるのが適切だ。政府もやることはやる。たとえば規制緩和でなにかしてくれということは、できることは即決する。現場の声にはすぐに応えたい。だから思い切って踏み出してほしい」

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151023&ng=DGKKZO93151730T21C15A0EA2000 (日経新聞 2015.10.23) 外食・製薬など歓迎
 TPP12カ国の投資ルールが整うことに企業の期待は大きい。マレーシアやベトナムといったアジアの新興国では外資規制が緩和され、日本のコンビニエンスストア各社、金融機関、電力会社などが本格的にサービスを展開しやすくなる。ファミリーマートの中山勇社長は「ベトナムなどアジアで店舗網を増やそうとしており、マレーシアにも興味がある」と話す。アジア圏では外資の小売業進出を規制する国は多かったが、可能性が広がる。2014年にベトナム初出店したイオンは同国の小売業規制をクリアするために4年を費やした。規制が緩めば、市場動向に合わせたタイムリーな進出が可能になる。讃岐うどん店を展開するトリドールの粟田貴也社長は「海外展開がしやすくなる」と歓迎する。知的財産ルール整備にも期待が集まる。新薬の保護期間延長は日本に直接的な影響はないが、日本の製薬会社からは「隣国の中国で後発薬メーカーが急速に育ちつつある。今後アジアで新薬の保護が必要になる可能性は高く、TPPの間接的効果を期待したい」(アステラス製薬の知財担当者)との声も出ている。日本の建設会社はベトナム、マレーシア、ブルネイで国や自治体の公共事業が受注可能になる。以前から参入できた国でも受注額の下限が6千万円に下がり、現地市場開拓の障壁は下がる。ただ建築基準に関する独自の法律が残る可能性があるほか、現地の商慣習の壁もある。TPP発効に合わせて各国がどのように法改正を進めるかは不透明だ。「現状と大きく変わらない恐れもある」(ゼネコン大手幹部)との慎重な見方もあり、企業は各国の動きを見定めようとしている。

*1-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151016&ng=DGKKASDF15H1U_V11C15A0MM8000 (日経新聞 2015.10.16) TPP関税、工業品87% 即時撤廃、ビデオカメラや電池 日本企業の輸出後押し
 環太平洋経済連携協定(TPP)で大筋合意した工業製品の関税撤廃に関する全容が15日明らかになった。ビデオカメラや電池、炭素繊維など日本の輸出品目数の約87%の関税が協定発効後すぐに撤廃される。大型二輪車やタオルなど5年以内に関税が撤廃される製品も多い。北米やアジアに輸出する日本企業の競争力強化やシェア拡大につながりそうだ。日本から輸出する工業製品は全部で約6500品目。金額ベースでみると、家電や産業機械、化学製品など日本企業の競争力が強い品目も含め、輸出総額(11カ国向けで約19兆円)に占める即時撤廃分の比率は76.6%に上る。国別では、ニュージーランド向けで全輸出額の98%、オーストラリア向けで94%が即時撤廃の対象になる。TPP参加12カ国中、最大市場の米国ではビデオカメラにかかる2.1%の関税が協定発効後すぐに撤廃される。輸出額約4900億円のうち、2割超が米国向けで、関税撤廃で日本製ビデオカメラの小売価格の引き下げが見込める。日本製品は品質やブランドの勝負だけでなく、関税がなくなることで価格面でも競争力が高まる。これまで関税が維持されてきた素材分野では、アルミニウムについて米国がかける2.4~6%の関税が、大部分の種類で即時撤廃される。米国向けの年間輸出額が2000億円近いプラスチック製品や、日本企業が得意なナイロンなどの化学繊維、炭素繊維の原料なども多くが即時撤廃の対象になる。即時撤廃にはならないものの、排気量700cc超の大型二輪車(関税率2.4%)は5年目に関税がなくなる。ホンダやヤマハ発動機、川崎重工業などが日本で生産する大型二輪車の約3割は米国向けの輸出。排気量の大きい二輪車は米国の富裕層に人気で、関税撤廃は日本の二輪車メーカーの国内生産の拡大につながる可能性が高い。日本企業が強い競争力を持つ工作機械も利点が大きい。年間9600億円超の北米向け総輸出額の大部分を占める2.2~4.4%の関税の多くが5年目に撤廃される。中小企業にも商機が広がる。5年目に9.1%の関税がなくなるタオルは「今治タオル」など地方の有力産地が輸出を広げる好機になる。米国向けの乗用車は2.5%の関税が15年目から減り始め、25年目に完全になくなる。

*1-5:http://qbiz.jp/article/74272/1/
(西日本新聞 2015年11月6日) 米、TPP承認手続き開始 議会通知、来年2月にも署名 
 オバマ米大統領は5日、環太平洋連携協定(TPP)に署名することを議会に通知し、承認を得るための手続きを始めた。米国では、議会への通知から少なくとも90日過ぎないと政府は通商協定に署名できない。参加12カ国の署名がそろい最終合意するのは来年2月以降となる。署名後に協定案を議会に提出するが、TPP反対の議員も多く、審議入りまで曲折がありそうだ。一方、米財務省は5日、TPPに参加する日米など12カ国が、輸出増を目的にした自国通貨の相場切り下げをしないことで合意したと発表。通貨安競争を避け、通商を有利にするような為替操作はしないとしている。各国が約束を守っているか点検する高官級の定期協議会を少なくとも年に1度開くことも決めた。オバマ氏は12カ国が協定案を公表したことを受けて議会に通知した。TPPの発効には経済規模が最も大きい米国の議会承認が不可欠。米通商代表部(USTR)のフロマン代表は「米国が貿易で主導権を握れるかどうかの最終決定権は国民に選ばれた議員にある」との声明を発表し、TPPの早期承認をあらためて要請した。しかし、法案を審議する上院財政委員会のハッチ委員長(共和党)は「TPPは議会が求めていた通商協定の高い水準に届いていないようだ」と指摘。民主党の大統領候補指名争いで首位を走るクリントン前国務長官もTPPに反対する考えを表明している。議会の承認は2016年11月の大統領選後にずれ込むとの見方も出ている。

<農業への影響>
*2-1:http://qbiz.jp/article/72978/1/
(西日本新聞 2015年10月17日) 【国の形どう変わる TPP識者評論】「食」 安全性損なう懸念残る
◆農林中金総合研究所基礎研究部長 清水徹朗氏
 環太平洋連携協定(TPP)は、5年前に菅直人首相(当時)が「平成の開国」と称して突如、交渉参加の意向を表明して以来、「異常な契約」(オークランド大のジェーン・ケルシー教授)、「TPP亡国論」(評論家の中野剛志氏)など多くの批判を浴び、国論を二分する問題になった。TPPは米国主導の交渉であり、その背後にはモンサントやカーギルなどの多国籍企業が存在する。米国は日本に対する「年次改革要望書」の中で、遺伝子組み換え食品の表示、食品添加物や残留農薬基準等の規制改革を求めてきた。このため、日本の食品の安全性が損なわれるとの懸念が強く、TPP交渉への参加決定を受けた衆参両院の農林水産委員会は、国会決議の中に「残留農薬・食品添加物の基準、遺伝子組み換え食品の表示義務等において食の安全・安心を損なわない」とする項目を盛り込んだ。大筋合意の後、政府は「日本の食品の安全性が脅かされることはなく、遺伝子組み換え食品表示等の制度変更が必要となる規定は設けられていない」と説明しているが、合意内容の詳細は公表されていない。また今回の合意には、TPP参加国間の整合性を円滑にするとの規定もあり、米国が制度改革を求めてくる可能性は残されている。また、海外の投資家が政府を訴えることができる条項が盛り込まれたため、日本の食品に関する制度が外国の企業に訴えられる懸念は消えていない。米国では、欧州連合(EU)との間で紛争になったように牛肉生産においてホルモン剤や抗生物質を多く使っている。牛海綿状脳症(BSE)問題で明らかになったように米国の食肉処理は必ずしも適正ではなく、現在でも米国では食中毒による死亡者が非常に多い。TPPが発効すれば、牛肉や豚肉の関税率が大幅に引き下げられ、競争が激化する。日本の畜産業は規模拡大や新技術の導入によるコストの削減を迫られる。しかし食肉は安ければよいということではない。日本の畜産・酪農は、動物福祉や生態系に配慮し、自然循環型の方向を目指すべきであり、それが食肉や酪農製品の安全性、おいしさにつながるだろう。関税の撤廃・削減により輸入食品の価格は低下するかもしれないが、食や農は、生態系、景観、安全性など多面的な役割を考慮すべきであり、消費者にとって、生産過程を含めた選択が可能になるような情報公開、表示制度を拡充するべきだ。多国籍企業の利益のために、消費者を守る仕組みが犠牲にされてはならない。TPPの批准前に、協定文書に関する情報公開の徹底と、十分な精査、分析が必要だ。
◇しみず・てつろう 56年前橋市生まれ。東京大卒。農林中央金庫に入り、91年から農林中金総合研究所。07年から日本獣医生命科学大非常勤講師。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=34907
(日本農業新聞 2015/10/5) 米輸入枠7.8万トン 日本農業重大な岐路 TPP大筋合意
 環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、交渉参加12カ国は5日午前(日本時間同日夜)、当地での閣僚会合で大筋合意した。最大の焦点だった重要品目の米は、米国とオーストラリアに計7万8400㌧の輸入枠を新設。他の重要品目を含め、日本は農産物市場の大幅な開放を迫られる。日本農業の将来にとって、極めて重大な転換点となる。各国は同日早朝から12カ国による閣僚会合を再開し、最後まで残っていた医薬品のデータ保護期間や乳製品の市場開放をめぐる合意状況を確認した。甘利明TPP担当相は会合後、「全体会合で大筋合意を確認した」と記者団に述べた。米国通商代表部(USTR)のフロマン代表と会談し、「残されている米をはじめとする農産品を含めて全部の最終確認を行うために分ほど話し合った」とし、日米間の農産物協議が決着したことも明らかにした。大筋合意を受け、政府は週内にも「TPP総合対策本部(仮称)」を立ち上げ、打撃を受ける農業分野への対策の検討を急ぐ。安倍晋三首相は6日に記者会見し、政府の対応を説明する。署名や国会での審議は、米国の国内手続きなどの都合上、年明けとなる見通しだ。
●首相「美しい田園を守る」
 安倍晋三首相は5日夜、甘利明TPP担当相から大筋合意の報告を受け、首相官邸で記者団に「政権発足以来の大きな課題に結果を出すことができた」と成果を強調した。ただ、重要品目についても関税の大幅削減や新たな輸入枠を設けたことに対し、聖域確保を求めた国会決議との整合性が問われ、農業者や野党などから批判が上がるのは必至だ。安倍首相は「交渉の結果、農業分野で米、牛肉、豚肉、乳製品といった主要品目を中心に関税撤廃の例外をしっかりと確保することができた」と述べた。その上で「農業は国の基であり、美しい田園風景を守っていくことは政治の責任だ」と強調。生産者が安心して再生産に取り組むことができるよう全力を尽くす意向を示し、国内対策の検討に入る考えを示唆した。

*2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35045
(日本農業新聞 2015/10/18) TPP 野菜関税 全て撤廃 一部の品目除き即時に
 環太平洋連携協定(TPP)で、全ての野菜の関税が撤廃されることが分かった。野菜の関税はもともと低く、鮮度や検疫上の理由から、農水省は関税が撤廃されても直ちに輸入が急増することはないとみる。ただ、TPP参加国からの輸入が多い農産物が即時撤廃されることもあり、注視が必要だ。撤廃時期は、タマネギ(現行関税1キロ73.7円以下、8.5%)が6年目、スイートコーン(同6%)が4年目と一定期間を置くものもあるが、ほとんどは即時撤廃される。同省は「TPPは関税撤廃が原則のため、輸出国の要求が強かった」と説明する。同省は、国内生産への影響は限定的とみる。国内の野菜消費量の8割が国産で、輸入はTPPに入っていない中国産が多いためだ。検疫の問題もある。生のジャガイモ(4.3%)は即時撤廃だが、病害虫侵入防止の観点から輸入できない。冷凍で輸入されフライドポテトになる加工用ジャガイモ(8.5%)は4年目に撤廃になるが、既に現状でも輸入がほとんどを占めている。生のサツマイモも検疫の関係で輸入できない。TPP参加国からの輸入が多いカボチャ、ブロッコリー、アスパラガスなども即時撤廃する。現状では国産が出回らない時期に輸入品が流通しているという。TPPでは、これまでの経済連携協定(EPA)交渉で関税が残っていた農林水産品のほぼ半数で、関税を撤廃した。農林水産品全体の合意内容については、同省は19日の週にも公表する予定だ。

*2-4:http://qbiz.jp/article/72354/1/
(西日本新聞 2015年10月8日) 「農畜産守る対策を」 森山農相の地元鹿児島、TPPに厳しい声
 第3次安倍改造内閣で農林水産相に就任した森山裕氏(70)の選挙区の衆院鹿児島5区は、鹿児島県・大隅半島を中心とした国内有数の畜産地帯だ。大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)の国内農業への打撃をいかに抑えるか−。森山氏は就任早々、最大の課題と向き合うが、地元農家からは7日、早くもTPPの具体的な対策を求める厳しい声が相次いだ。「公約を守ったと言えないのではないか」。大崎町で肉牛400頭を飼育する藤岡数雄さん(67)は指摘した。牛肉など重要5項目の保護を求めた国会決議について、森山氏は昨年12月の衆院選で「決議を踏まえて『聖域』を最優先する」と訴えた。だが合意で牛肉の関税は引き下げられる。藤岡さんは「品質に自信はあるが、外国産との価格競争になれば死活問題だ」と危機感をあらわにし「森山さんは地元畜産の現状を熟知している。どう守るのかを早急に示してほしい」と話す。曽於市で豚5千頭を飼う女性(61)も不安がいっぱいだ。後継者になったばかりの長男(37)はやっていけるのか。ずっと森山氏支持だったが「次はTPP対策の中身を見て考えたい」。JA鹿児島中央会の久保茂吉会長は「農業者の不安や現場実態を十分にくみ取り、将来に展望の持てる農政の確立を」との談話を出した。

*2-5:http://qbiz.jp/article/73132/1/
(西日本新聞 2015年10月20日) TPP、関税撤廃率95% 「聖域」で174品目対象
 環太平洋連携協定(TPP)政府対策本部は20日、大筋合意した関税交渉の全容を公表した。農産品や工業品を合わせた全品目の関税撤廃率は、日本は貿易額ベースで95・1%となる。政府が関税撤廃の例外を目指し「聖域」と位置付けたコメや麦など農業の重要5項目では全586品目中、約3割の174品目の関税を撤廃することになる。政府・与党は、重要5項目は守ったとの立場だが、野党や農業団体は反発しており、今後、合意の評価をめぐる論戦が活発化しそうだ。甘利明経済再生担当相は20日午前の閣議後の記者会見で、関税交渉の結果について「(農業保護と貿易自由化の)バランスが取れた協定だ。重要5項目のコア部分はしっかり守れた」と強調した。11月下旬に対策を取りまとめ、年内に影響試算を公表できるとの見通しを示した。政府は、重要5項目で関税を撤廃する174品目は、TPP参加国からの輸入実績が乏しいものなど、影響が比較的軽微なものだとしている。日本が過去に結んだ経済連携協定(EPA)で関税撤廃率を示す自由化率で最も高かったのは、対オーストラリアと対フィリピンのそれぞれ88・4%で、過去に例のない自由化率となる。日本からの工業品輸出では、TPPに参加する日本以外の11カ国が86・9%の品目の関税を撤廃する。これらの品目は貿易額では76・6%を占める。

*2-6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35152 (日本農業新聞 2015/10/28)[徹底 TPP報道] 「決議違反」69% 内閣支持18% 政府と現場認識にずれ 本紙農政モニター調査
 日本農業新聞は、本紙の農政モニターを対象に行った環太平洋連携協定(TPP)大筋合意に関する意識調査の結果をまとめた。農産物の重要品目の聖域確保を求めた国会決議が守られたかどうか聞いたところ、「決議違反」としたのは69%に達した。安倍晋三首相は、農業分野を含めて「国益にかなう最善の結果を得ることができた」との認識を示しているが、生産現場の受け止めと大きく懸け離れていることが浮き彫りになった。安倍内閣を支持するとしたのは18%とかつてない低水準にまで下がり、不支持は59%に上った。国会決議を「順守している」としたのは7%にとどまった。決議では重要品目について「再生産可能となるよう除外または再協議の対象にする」ことを求めている。一方で安倍首相は「関税撤廃の例外をしっかりと確保することができた」と成果を誇っており、生産現場との間で決議の解釈に大きなずれがありそうだ。一方で順守したかどうか「分からない」とした回答も22%あった。国会決議を順守しているかどうかの判断には、農業経営への影響度合いをどうみるかとも関連がありそうだ。大筋合意によって自らの経営が「悪化する」と答えた農業者の87%は「決議違反」とした。経営が「悪化する」とみる農業者は、農業者全体の48%と多数を占めている。経営が「やや悪化する」とした農業者では「決議違反」が64%。経営への影響が「分からない」とした農業者は、49%が「決議違反」とするとともに、44%が決議を順守しているかどうか「分からない」としている。第3次安倍改造内閣に対しては、「支持する」が18%にとどまり、極めて厳しい評価となった。「支持しない」は59%に達し、不支持が支持の3倍にも広がる異例の事態となっている。「分からない」は22%。経営が「悪化する」とみる農業者の場合は「支持する」が8%しかなく、「支持しない」が75%まで増えるなど、政権に批判的な評価が大勢を占めている。調査は農業者を中心とした本紙の農政モニターら1060人を対象に、10月中旬に行った。27日までに771人から回答を得た。

*2-7:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/241183 (佐賀新聞 2015年10月20日) 「農家いじめだ」悲痛な声 熊本でTPP説明会、水田畑作関係品目「国会承認までに対策」
 農林水産省は19日、環太平洋連携協定(TPP)で大筋合意した水田・畑作関係品目の説明会を熊本市国際交流会館で開いた。九州・沖縄各県の行政、農業団体関係者ら約230人が出席し、「地方の意見を対策に反映して」と注文する一方、「米価は上がらないのにこれ以上輸入してどうなるのか。“農家いじめ”だ」と悲痛な声も上がった。農水省は「条約の国会承認までには対策をまとめたい」と強調した。説明会は15日の畜産関係品目に続いて2回目。九州農政局の片桐薫生産部長が「今回の交渉結果は輸出国の意見が強い中、結果としてはベストに近いものになった。ただ合意内容が複雑、多岐にわたるので生産者の誤解を招く一因となっている。少しでも懸念が解消されるよう丁寧に説明したい」と理解を求めた。農水省の担当者は、米の輸入について「既存のWTO枠(77万トン)と別にアメリカ(7万トン)とオーストラリア(8400トン)に国別枠を新設」「増加分は政府備蓄米とし、国内流通量は増やさない」と説明した。麦は「アメリカ、オーストラリア、カナダに国別枠を新設」「(経営所得安定対策の原資となる)マークアップは45%削減する」などと話した。意見交換では、出席者が「飼料用米の助成が終わるのに、輸入枠を増やして米価が安定するのか」「小麦価格が下がると、米の需要に影響があることを考慮しているのか」と米価への影響を懸念した。「国内対策に産地の声を生かしてほしい」「なるべく早く農家に直接説明する場を」との要望も挙がった。説明会後、鹿島市農林水産課の担当者は「新しい情報はなく期待はずれ。今後の国内対策を注視したい」と語った。JA佐賀中央会の担当者は「国は対策するので大丈夫というが、具体的な対策と財源をセットで示してくれないと、農家の不安は解消できない」と指摘した。

<輸出について>
*3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35233 (日本農業新聞 2015/11/4)豚、乳製品で輸出戦略 統一マーク日本食提案 目標20年に倍増 農水省や生産・流通業界
 農水省や生産者団体・流通業者などでつくる輸出戦略実行委員会は、豚肉や牛乳・乳製品などの輸出額目標と取り組むべき方向性を盛り込んだ輸出戦略を決めた。2020年の目標額として豚肉12億円、牛乳・乳製品140億円と、それぞれ14年から倍増させる。統一したロゴマークや、しゃぶしゃぶ・とんかつなど日本らしい食べ方の提案で日本産を売り込む。具体的な輸出拡大策は来年1月までに決定する予定。政府は、農林水産物の輸出額を20年に1兆円にする目標を立てている。実行委員会は、その目標達成に向けた司令塔の役割を担う。これまで畜産分野では牛肉の戦略だけしかなかった。鶏肉は、輸出額の目標を35億円(1万4000トン相当)に14年産から倍増し、鶏卵は26億円(1万トン相当)と同6・5倍に増やす。豚肉は、軟らかさなど日本産の特徴をアピールする。鶏肉は、足(モミジ)だけでなく、骨や余分な脂肪を取り除いた正肉も販売促進する。鶏卵は、生卵の生鮮品としての強みを生かし、すき焼き用の和牛と組み合わせて市場開拓に乗り出す。鶏肉や鶏卵は、統一ロゴマークを作成。これまで個々の有名ブランドを打ち出しがちだったが、まずは日本ブランドを前面に出して知名度を高める。輸出解禁に向けて、検疫協議を進めることや、相手国が求める危害分析重要管理点(HACCP)対応の食肉加工施設の整備、イスラム圏向けのハラール対応などが共通の課題だ。牛乳・乳製品は、口蹄(こうてい)疫の発生や東京電力福島第1原子力発電所事故前の影響で、ピーク時の160億円(10年)から大きく落ち込み、回復しきれていない。乳製品需要が大きい中国の日本産輸入の停止が響いており、輸入規制の解禁と安全性への信頼回復が鍵だ。アジア市場の近さを生かした新鮮な乳製品の販売や付加価値の高いチーズの売り込みも今後の課題になっている。

*3-2:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/211827
(佐賀新聞 2015年7月25日)ビゼンクラゲ漁最盛期、中国からの需要急増
◆有明海夏の貴重な収入源に
 中華料理の高級食材として知られるビゼンクラゲの漁が佐賀県沖の有明海で最盛期を迎えている。以前は網にかかると処分に手間がかかる“厄介者”だったが、中国からの需要が急増した4年ほど前から漁が活発化。夏の漁閑期の貴重な収入源になっており、各漁港には直径60~70センチに成長した大きなクラゲが水揚げされている。ビゼンクラゲは通称アカクラゲとも言われる大型のクラゲで、有明海にも広く生息。直径70~80センチ、重さ30キロまで成長する個体もある。今年は、1日に漁が解禁された。有明海では主に刺し網で捕獲しており、船上で傘の部分と足の部分を分離。海水できれいに洗浄した後、水揚げしている。価格は1キロ300円ほどで、数年前と比べ1・5~2倍に跳ね上がっている。今年から共同出荷を始めた県有明海漁協鹿島市支所では、クラゲ漁に取り組む漁業者約50人のうち、13人が1日平均約5トンを水揚げしている。同支所の担当者は「例年と比べても大きく育ったクラゲが上がっている」と期待。鹿島市の浜漁港では、漁を終えた船が次々と入港し、コンテナに入れたクラゲをクレーンで陸揚げしていた。同支所のクラゲは、長崎県や熊本県の加工施設に出荷。加工後、ほぼ全量が中国に向けて輸出されるという。漁のピークは、ノリの準備が始まる前のお盆ごろまで。その後、需要などを見極めながら10月まで続く。

*3-3:http://qbiz.jp/article/74179/1/
(西日本新聞 2015年11月5日) ナマコ漁、九州でも熱視線 佐賀から中国に輸出へ
 中国で、日本産ナマコが以前の3倍の値を付けるなどブームになり、九州で量産に向けた研究などが進んでいる。国内ではこれまで北海道や青森県が主な産地だったが、佐賀県の業者が玄界灘での養殖に力を入れており、来年から出荷を本格化させる。ナマコは中国で高麗ニンジンに匹敵する薬効があるとされ、現地では中華料理のスープなどに使われる。人気は「マナマコ」と呼ばれる種類で、日本は一大産地。全国の沿岸に生息し、北部ほど肉質がよく、北海道産を中心に中国の需要が増えている。中国への輸出量が全国トップクラスの青森県によると、2000年に1キロあたり600円程度だった市場単価は14年には2千円まで上昇。漁獲額は年約30億円に上り、スルメイカ、ホタテ、サバに次ぐ4番手の水産資源に成長したという。九州ではもともとのナマコの生息数が少なく、海外輸出への関心も高くなかったが、佐賀県玄海水産振興センター(同県唐津市)が研究に取り組み、卵から稚ナマコに成長するまでの育成ノウハウを確立。現在では採卵後3〜4カ月間の飼育で、体長2センチ程度の稚ナマコを100万匹以上、生産できるようになった。この技術を生かし、元唐津市職員の峯治生さん(63)は昨年、地元に「唐津なまこ産業」を起業。100万匹の稚ナマコを放流し、漁業者と一緒に玄界灘で育てており、来春から中国への輸出に乗り出す。ナマコの内臓を取り除いてゆで、乾燥させた加工商品だ。ただ、ナマコの養殖は容易ではなく、福岡県水産海洋技術センター有明海研究所では、海の塩分濃度などから稚ナマコの試験養殖がうまくいかず、普及を断念したケースもある。峯さんも、放流した稚ナマコの3割の目減りは覚悟しているが、苦戦が続く水産業の打開を図るためにも「地域の漁師みんなが潤うような資源に育てていきたい」と力を込める。 


PS(2015年11月6日追加) :TPP全文は昨夜公表されたため上の記載には考慮していないが、ここまで経済に負の影響を与える可能性のある条約を、秘密裏に作成して読み切れないほどの分量の文書を突然公表するのは安全保障関係条約と同じ手口だ。しかし、ここまで長くて複雑な文章によいものはない。また、酒やウイスキーの産地制限は自由貿易の理念に反する上、「遺伝子組み換え作物の情報交換のための作業部会」を作っても、どういう人がどういう理念で情報交換し、その結果をどうするのかについては、これまでの行動から全く希望が持てないわけである。

      
2015.11.5 2015.11.6 2015.10.10           2015.11.6
 佐賀新聞   朝日新聞   佐賀新聞              農業新聞

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12053445.html
(朝日新聞 2015年11月6日) 「組み換え」消費者に不安 市場開放要求の懸念も TPP全文公表
 環太平洋経済連携協定(TPP)の全文が5日、初めて公表され、消費者の関心の高い規定が新たに判明した。遺伝子組み換え(GM)作物で情報交換のための作業部会を設置するほか、「日本酒」や「バーボン」のブランドを守るために日米が協力することを定めた。食の安全面から関心の高いGM作物について、情報交換のための作業部会を設けることになった。農林水産省によると、このような部会は世界貿易機関(WTO)や、これまで日本が締結した経済連携協定(EPA)でもないという。日本ではGM作物を使った食品の販売が一部認められているが、豆腐や納豆についてはGM作物を使っているという表示義務がある。安全性を不安視する消費者が多いためだ。作業部会は、GM作物の種子を作っている企業などに、より多くの情報を求めることができるメリットもある。一方で、作業部会を通じて、GM作物の輸出大国である米国が市場開放を強めてくる懸念もある。GM作物の表示義務をなくすことを求めたり、日本の安全確認作業が貿易の障害になっていると訴えたりする可能性もある。日本政府は5日の会見で、部会は「法令などの修正を求めるものではないと明記した」と説明した。また、協定発効の7年後、関税率やセーフガードの見直しについて協議するという規定も、米国、カナダ、豪州、チリ、ニュージーランドとの間で交わした。日本は、他国に比べ農産品の関税撤廃率が約8割と低い。再協議では、さらなる関税撤廃を強く求められる可能性もある。
■車輸出の拡大、進まない恐れ
 一方、自動車では、日本は米国とカナダに「特例」を設ける譲歩をしていた。例えば、米国が日本の乗用車にかけている2・5%の関税は協定発効から25年目で撤廃されるが、その後10年間は輸入急増時にセーフガードを発動し、関税率を2・5%まで引き上げることができる。日本の自動車メーカーは現地生産を進めていて、輸出の比率は昔に比べて大きくはない。とはいえ、今後も国内で一定規模の生産や雇用を維持するためには、輸出は重要な課題だ。しかし自動車は、もともと関税撤廃までの期間が長いうえ、こうした制限措置も長く残ることで、TPPによる両国への輸出拡大はあまり進まない可能性もある。
■バーボン、米国産だけ 他国製販売禁止 米で日本酒も
 米国、カナダとは、自国で製造した酒を保護する文書を交わした。米国は、日本酒(ジャパニーズ・サケ)や山梨ワイン、球磨焼酎、薩摩焼酎、琉球泡盛など7銘柄について、日本でつくっていない商品の米国での販売を禁止する方向だ。中国などでつくられている「日本酒」を名乗る清酒を米国から締め出し、商品に地名を冠する「地理的表示」を知的財産として守るねらいがある。逆に日本は、米国でつくられたものでないバーボンウイスキーやテネシーウイスキーの日本国内での販売を禁止することになる。日本のある酒造メーカーは米国内の工場で清酒を生産し、「Sake」として現地販売している。「日本酒ではなく、清酒として売っている」(メーカー側)ため、禁止の対象からは外れる見通しだ。
■<解説>成長の機会、生かせるか
 1500ページを超すTPPの文書は、貿易や投資から遺伝子組み換え作物まで、幅広い分野で今後の経済活動の新しい土台を示すものだ。アジア太平洋を取り囲む8億人もの巨大市場が、明文化された統一ルールで動き出す意義は大きい。日本は途中から交渉に加わったが、投資や電子商取引でルールづくりを主導した。域内に製品や農産品を無税で輸出し、より安全に投資して事業のネットワークを築く足がかりも得た。ただ、国益がぶつかり合う通商交渉では、各国に一定の譲歩が避けられない。コメや牛・豚肉などは関税撤廃を免れたものの、果物や水産物など多くの農産品の関税は撤廃され、米国の自動車市場の開放は25年も待たされることになった。「食の安全」への懸念も払拭(ふっしょく)できたとは言えない。関税の恩恵を除けば、TPPがもたらすのは「機会」に過ぎない。それを企業の成長に、消費者の利益に結びつけられるか。真価はこれから問われることになる。


PS(2015年11月7日追加):防衛大臣は、*4のように、一生懸命に食品生産をしている宝の海をしつこく米軍利用候補地にしたがるなど、どこまでセンスが悪いのだろうか(人はいいんだけど・・)。山口知事は、きっぱりと断るべきである。

*4:http://www.saga-s.co.jp/column/osprey/21601/247344 (佐賀新聞 2015年11月7日) 防衛省、9日に佐賀市と県漁協訪問、「現地調査」説明へ 自治会と意見交換
■秀島市長、慎重姿勢強調
 佐賀空港への自衛隊新型輸送機オスプレイの配備計画をめぐり、防衛省整備計画局長が9日、佐賀市と県有明海漁協を訪れる。取得候補地の現地調査について両者に説明し、理解、協力を求めるとみられる。10月29日に中谷元・防衛相が県に現地調査への理解を求めた際、山口祥義知事は市と漁協の了解を前提に容認していた。両者が了解すれば現地調査が進められることになり、対応が注目される。佐賀市や漁協関係者によると、防衛省から「十分説明できていない部分があった」として、再度訪問したいとの意向が伝えられた。市は、午後1時に秀島敏行市長が対応する。秀島市長は「何のために来るか、具体的には聞いていない」とした上で、現地調査を容認するかどうかは、「説明を聞かないと分からない」と語った。6日の自治会協議会理事会との意見交換会では、循誘校区の黒木照雄自治会長(70)が、中谷防衛相が米軍利用の要請を取り下げた提案に対する市長の考え方をただした。秀島市長は「他県並みの米軍利用は相談するかもしれないということで、完全に心配しなくていいわけではなかった」と慎重姿勢をあらためて強調した。防衛省が計画している現地調査に関しては、「佐賀市に正式な申し入れはあっていない」と述べ、是非には触れなかった。


PS(2015年11月8日追加):やったふりをする偽装は、政治や行政はじめ結果の見えにくいホワイトカラーに多く、悪い手本となっている。しかし、*5の「①工期厳守を求める元請けのプレッシャーを感じ、やむを得なかった」「②記録装置の印刷失敗や紙の水ぬれ、機器の不具合などでデータを記録できないこともある」「③くい打ちは、地質調査で安全と分かっている場合、迷惑を掛けないよう多少の問題には目をつぶった」「④地盤が予想より軟らかいケースがしばしばあり、ドリルで掘削した際、強固な地盤に達したことを示す理想的なデータが取れない場合がある」などは、①②は、働く人としての基本ができておらず、③は、本当にそうなら報告して設計変更する必要があり ④は計測のやり直しをすべきであるため、単なる言い訳にすぎず、このように日本の労働力の質は落ちているのだ。

*5:http://qbiz.jp/article/74432/1/
(西日本新聞 2015年11月8日) データ改ざん「旭化成建材だけでない」 他社くい打ち担当証言
 傾いていることが判明した横浜市のマンションでくい打ちを手掛けた旭化成建材(東京)とは別の建設会社の関係者が、7日までの共同通信の取材に「自分もくい打ちのデータを流用したことがある」と証言した。工期厳守を求める元請けのプレッシャーを感じ、やむを得なかったとし、一連のデータ改ざん問題は「旭化成建材だけの話ではない」と強調した。データ改ざんが業界全体の問題となれば、建物に対する市民の不安はさらに増すことになる。国土交通省はまず旭化成建材による改ざんの原因を究明し、他社にも調査を広げるかは有識者委員会で検討する方針。取材に応じたのは、大手ゼネコンなどが手掛けるマンションの基礎工事に長年携わり、現場責任者の実務経験もある50代の男性。くい打ちは、安全面に支障がないと判断した上で「データを他から流用し、施工報告書に付けて元請けに提出した経験がある」と明かす。男性によると、地盤が予想より軟らかいケースがしばしばあり、ドリルで掘削した際、強固な地盤に達したことを示す理想的なデータが取れない場合があるという。また、記録装置の印刷失敗や紙の水ぬれ、機器の不具合などでデータを記録できないこともある。その場合、本来は元請けに報告しやり直す必要があるが、時間やコストがかさむことになる。「地質調査で安全と分かっている。迷惑を掛けないよう多少の問題には目をつぶった」と男性は苦しげに話す。ただ、くいが強固な地盤に届かないまま放置することはあり得ないとし、横浜市のマンションのケースは「度が過ぎる」と話した。工期を延ばせず、下請けにプレッシャーがかかる背景には、マンションを完成前に販売する「青田売り」のシステムを挙げた。


PS(2015年11月12日追加):安倍首相は、(私の提案で)電力自由化や女性活躍推進を進めて下さっているので、あまり批判したくはないのだが、経産省発のTPPは、食料自給率低下への影響も大きく、それは安全保障上も問題だ。何故なら、人類の戦いの多くは、食料や資源をめぐって行われてきたからで、私も、*6-1のように、TPPの影響について国会で詳細に議論すべきだと考える。なお、*6-2のように、2014年のミカンの輸出先はカナダが91.3%で1位とのことだが、私は、中央アジア、ロシア、ヨーロッパなどの他の寒冷地、砂漠地帯、季節が逆の南半球などには、日本のミカンを輸出できると思う。そして、これは、TPPでなくともFTAやEPAでも同じ効果が得られる。

*6-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35311 (日本農業新聞 2015/11/11)[徹底 TPP報道] 「国会決議に沿う」 大筋合意内容で首相 野党「違反認めよ」 閉会中審査
 衆院予算委員会は10日、大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)交渉などをテーマに閉会中審査を行った。合意内容が、米など重要5品目の「聖域」確保を求めた国会決議に即しているかどうかについて、安倍晋三首相は、国会の判断だとしながらも、「国会決議の趣旨に沿う合意を達成できた」との認識を示した。民主党の玉木雄一郎氏(香川)が「国会決議違反を認めるべきではないか」とただしたのに答えた。日本のTPP交渉参加に際し、衆参の農林水産委員会は2013年4月、農林水産物の重要品目が「引き続き再生産可能となるよう除外または再協議の対象とすること。10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」とする決議を採択。だが大筋合意で政府は、関税分類上の細目ベースで、重要5品目の30%、農林水産品全体では81%で関税撤廃を容認している。首相は、農林水産品の関税撤廃率が他の参加国に比べて低いことを取り上げ、「2割を例外なき関税撤廃の外におくことができた」と強調した。食料自給率への影響について首相は「今回の大筋合意に加えて、これに対する対策も踏まえて考える必要がもちろんある」と答弁。また、TPPの経済効果分析は、総合的に検討しているとして「年内には国民に分かりやすく提示したい」と述べた。安倍首相は国内対策について「(攻めの農業実現の)大きなチャンスにする」と輸出支援などに力を入れる考えを強調。「農家の不安に寄り添いながら、政府全体で万全の対策を取りまとめ実行していく」と述べた。自民党の稲田朋美政調会長の質問に答えた。協定発効7年後に関税の取り扱いを再協議するとした規定に対し、不安が広がっていることについて、甘利明TPP担当相は「一つの合意が他の合意と複雑に絡み合っている。一つ見直せば全体が崩れる可能性がある」との考えを強調した。大筋合意後、初の国会論戦となったが、盛り上がりを欠いた。野党は同日の委員会で「臨時国会を開いて、しっかりTPPの問題を議論する場所をつくるべきだ」(維新の党の松野頼久代表)と迫ったが、安倍首相は「外交日程や予算編成の日程を勘案しながら検討したい」とかわした。

*6-2:http://qbiz.jp/article/72956/1/
(西日本新聞 2015年10月19日) 【ある国に91・3%】九州産温州ミカンの輸出先
 日本人にとって冬と言えば「コタツでミカン」が定番だが、実は、海外のある国でも九州生まれの温州ミカンが愛されている。門司税関によると、2014年のミカンの輸出実績は全国で3288トン。このうち、主に、九州産が輸出される同税関管内の実績は2004トンで全国の6割超を占める。特筆すべきは輸出先の国別シェアだ。同管内分はカナダが91・3%と首位で、2位の香港(4・8%)を大きく引き離す。なぜカナダで温州ミカンが人気なのか。同税関によると、日本産の温州ミカンは1891年に初めてバンクーバーに陸揚げされた記録があり、100年以上前から親しまれているという。カナダ大使館(東京)職員に電話で話を聞いてみた。カナダ人の職員は「カナダの冬は寒さが厳しくて果物が育たないので、昔から日本産が流通しているのでは」と推測してくれた。向こうで温州ミカンは「クリスマスオレンジ」や「マンダリンオレンジ」と呼ばれ、冬にスーパーに行けば必ず並んでいるのだとか。最後に、職員は「日本のミカンはおいしいので私も大好きですよ」と話してくれた。2014年、日本とカナダは修好85周年を迎えたが、修好のだいぶ前から両国の関係を結んでいた温州ミカン。なかなか、すごいヤツなのである。

☆このような記事を女性が書くと、「風評被害(根拠のない噂による被害)」「感情論(科学性・論理性のない感情まかせの議論)」「過剰反応(必要以上の不合理な反応)」「生意気」などと言う人が少なくなく、これは偏見による女性の過小評価であるため、この記事を書くにあたっては、経済学、経営学、心理学、監査、法律、国際税務、栄養学、生物学、公衆衛生学などの知識や経験を使ったことを記載しておく。  

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 10:24 AM | comments (x) | trackback (x) |
2014.4.24 TPPと尖閣諸島が日米安全保障条約の範囲内か否かは、交換条件になる話ではない (2014.4.26最終更新)
  
   TPPのISD条項       TPPで妥協を迫られる日本と他国の食品安全基準

(1)TPPと尖閣への安保適用は、もともと関係のない事項である
 *1-1の環太平洋経済連携協定(TPP)は、日本の農業とこれまで努力してきた農業従事者の生活がかかっているだけでなく、ISD条項でわが国の主権を脅かされる可能性もあるため、*1-2の「尖閣への安保適用」を引き出す“カード”として使うなど、とんでもないことである。

 また、「自動車産業を“カード”として農業の妥結を進める」というのも、それぞれの産業において損害を受ける当事者は異なるため、“カード”と言われて損害を受ける人はたまったものではないだろう。つまり、これらの産業の当事者の努力と営みを、“カード”に使って譲歩することしかできない人は、産業を語る資格も通商交渉をする資格もないということだ。

 さらに、経済産業省の古さは、いつまでも開発途上国型の輸出に固執している点だ。しかし、自動車産業などのグローバル企業は、経営上の見地から生産拠点を市場国に移しているため、関税が下がることによってわが国の輸出増加が見込めることはあまりなく、農業の方は輸入増加で打撃が大きくなるため、その差が、安全保障の“カード”として使えるくらいだということなのである。

 しかし、*1-2のように、オバマ大統領は共同声明を出す時に、しぶしぶ「今までと変わらず、アメリカは尖閣諸島の領有権に関しては中立だが、日米安全保障条約は日本の施政権の及ぶ範囲のすべてだ」と語ったにすぎず、それは、メディアが報じるほど日本有利ではないように聞こえたので、オバマ大統領のスピーチの全文を記載してもらいたい。

(2)TPPをめぐる関係者の行動
 *3のように、農業者を代表して、JA全中の萬歳会長は22日、内閣府を訪れ、西村康稔副大臣に、環太平洋連携協定(TPP)交渉で国会決議を順守することを要請したそうだが、国民主権の国でマニフェストを掲げて選挙を行い、その結果、国会決議を行ったのだから、当然のことである。

 また、TPPは、農業だけでなく、食品の安全基準や国民皆保険制度にも影響を与えるため、*4のように、子育て中のママがTPP反対を訴え、草の根で米国ルールの押し付けに抗議を続けている。

 そのような中、*2のように、経産省の応援団である日本経団連や経済同友会が全米商工会議所などと、TPP交渉の日米協議の早期決着を求める共同提言を発表したが、その内容は、「日本は全品目の関税撤廃を目標にすべきだ」として、「センシティブな分野の譲歩を念頭に、政治的に困難な決断を下すよう求めた」というのだから、これは合理的な根拠のない結果ありきの結論であり、確かに「どこの国の利益を代弁しているのか」と思われるほど無責任きわまりないので、私も呆れている。

*1-1:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK24015_U4A420C1000000/
(日経新聞 2014/4/24) 「TPP交渉は日米協議を継続」安倍首相
 安倍晋三首相は24日のオバマ米大統領との首脳会談後の共同記者会見で、焦点となっている環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について、「日米間の懸案を解決すべく精力的な協議を継続することになった」と述べた。「この後も閣僚間で交渉を続け、共同声明の発表はその結果をみてからになる」とも語った。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140424&ng=DGKDASFS2303Q_T20C14A4MM8000 (日経新聞 2014.4.24) 「尖閣に安保適用」 米大統領、表明へ
 オバマ米大統領は23日夜、大統領専用機で羽田空港に到着した。24日に安倍晋三首相との首脳会談に臨み、沖縄県の尖閣諸島について日米安全保障条約に基づく防衛義務の対象だと表明する方向。海洋進出を強める中国をけん制する狙いだ。米大統領が国賓待遇で来日するのは1996年のクリントン氏以来、18年ぶり。オバマ大統領就任後の来日は3度目で、今回は2泊3日。23日夜は都内のすし店で首相と非公式の夕食会に出席した。この後、首相は記者団に「日米同盟関係が揺るぎない強固なものであるとのメッセージを世界に発信する首脳会談にしたい」と語った。オバマ氏は来日前の一部メディアとのインタビューで、尖閣諸島について「日本の施政下にあり、日米安全保障条約5条の適用対象だ」と述べた。米ホワイトハウスが23日、発言内容を発表した。安保条約第5条は「日本の施政下にある領域での武力攻撃、共通の危険に(共同で)対処する」として、米国が日本を守る義務を負うと定めている。尖閣諸島の米国の防衛義務について米大統領が明言したのは初めて。オバマ氏は「尖閣諸島への日本の施政権を損なおうとするいかなる一方的な行為にも反対する」とも強調した。日本政府関係者は「米国の意思は固まっており、首脳会談でも言及する方向だ」と語った。日本側は首脳会談後に発表する共同声明への明記も求めている。

*2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27304
(日本農業新聞 2014/4/23)  日本は全関税撤廃を TPPで経団連 米団体と提言
 日本経団連が全米商工会議所などと共に、TPP交渉の日米協議の早期決着を求める共同提言を発表した。だが、日本は全品目の関税撤廃を目標にすべきだとしており「自ら譲歩の姿勢を示す敗退的行為」と自民党内の反発を招いている。
●自民農林議員が苦言 どこの国の利益代弁?
 共同提言は21日付で発表し、日本に「農産物を含む全ての物品について、最終的な関税および非関税障壁の撤廃を目標として交渉のテーブルに乗せることが必要」としている。また農産物の重要品目など、センシティブ(慎重を要する)な問題についても「この原則に沿った形で対応すべきだ」と求める。これに対しある自民党農林幹部は「米国にみすみす首を差し出すようなもの」とあきれ顔。「農業団体は自動車で譲歩しろとは言わないのに、なぜ経団連が農産物で譲歩するようなことを言うのか」と苦言を呈する。別の同党農林幹部も「日本の経済界の代表という自覚がない」と指摘。全米商工会議所や米日経済協議会などとの共同提案であることを踏まえ、「どこの国の利益を代弁しているか」と、その姿勢を疑問視する。経済同友会も22日付で在日米国商工会議所と共同声明を出し、センシティブ分野の譲歩を念頭に「政治的に困難な決断」を下すよう求めた。日本を代表する両経済団体が同じような動きを見せている。

*3:http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27312
(日本農業新聞 2014/4/23) 国会決議の実現を 内閣府副大臣に要請 TPPで全中会長
 JA全中の萬歳章会長は22日、東京・永田町の内閣府を訪れ、西村康稔副大臣に、環太平洋連携協定(TPP)交渉で農業の重要品目を関税撤廃などの対象から除外することを求めた国会決議を順守することを要請した。西村副大臣は、決議を踏まえて交渉する考えを示した。要請では、日本とオーストラリアの経済連携協定(EPA)交渉で合意された牛肉関税の引き下げなどの影響が検証されないまま、TPPがヤマ場の交渉に入っていることに「生産現場では動揺と将来への不安、危機感が高まっている」と訴え、決議の実現を求めた。全中によれば、西村副大臣は「安倍晋三首相から米国のオバマ大統領に、農業が壊滅的な打撃を受けるような政治決断はできない、と伝えている」と答えた。日米の閣僚会談でも、甘利明TPP担当相が同様の主張をしているという。要請には、JA共済連の横井義則理事長、農林中央金庫の河野良雄理事長、全中の冨士重夫専務らが同行した。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=27335
(日本農業新聞 2014/4/24) TPP反対 子育てママ団結 草の根運動展開 東京都三鷹市
 環太平洋連携協定(TPP)から子どもの未来を守りたい――。東京都三鷹市在住の子育て中のママ6人が、TPP反対を訴えるチームを結成、草の根で抗議活動を続けている。インターネットで輪を広げ、毎週のように勉強会を開いてTPPの問題点を共有、「ママデモ」も展開する。24日の日米首脳会談に向けてオバマ大統領へのメッセージを書いた手作りの横断幕も作成、ママ目線で「反TPP」を訴える。
●子どもの未来 守りたい
 呼び掛けたのは、三鷹市在住のアロマセラピスト、魚住智恵子さん(49)と子育てママたち。TPPの問題は、昨年夏の参院選をきっかけに知り、勉強を始めた。「子どもに安心できる国産の米や肉、野菜を食べさせ続けることができるのか」「政府はなぜ、全て秘密交渉で進めるのか」。知れば知るほど、疑問が湧いてきた。メンバーの多くが子育て中ということもあり、食に関心が高く、「子どもの未来を思えば、無関心でいられない」と行動を起こした。「女性は出産を通して、命の重みを日々感じながら生きている。TPPは食や医療、雇用など命に直結する」と魚住さん。早速、インターネットで問題を発信。市民グループが主催する反TPPの官邸前デモなど抗議行動にも参加し、講師を呼んで勉強を重ねた。3月末には都内で初の「ママデモ」を開催。ネットなどを通じて女性を中心に500人が集まり、「政治は私たちの問題」「子どもを守ろう」などと訴えた。家事と子育て、仕事の合間を縫って行動するため、メンバーの睡眠時間は数時間。それでもめげない。2児の母親、杢大(もくだい)美根子さん(41)は「子どものことを考えたら、TPPを推進する政府に黙ってなんかいられない。寝る間なんて惜しくない。子どもの未来のためにという一点で女性は一つになれる」と思いは熱い。女性こそ、TPPにもっと関心を知ってほしいと呼び掛ける。日米首脳会談を控え、最大のヤマ場となる今週は、仕事を休んで東京・永田町の首相官邸前や議員会館前に集合、抗議行動を展開する。横断幕には、オバマ大統領のイラスト付きで「日本の母親の力でTPPを蹴散らしたい」と英文のメッセージを添えた。2児の母、廣岡彩さん(31)は「怖い顔で反対と訴えるだけでなく、生活のいろいろな問題にTPPが関わっている事実を思いを込めて伝えたい。米国ルールの押し付けは日本の母親が許さない」と声を張り上げる。


PS(2014.4.25追加):当然のことではあったが、*5のようにアメリカのオバマ大統領が、尖閣が条約適用の対象だと明言されたことで、尖閣に関する安堵感が大きくなった。現在、尖閣諸島は、沖縄県石垣市に所属するため、石垣市が、灯台や漁船・観光船の休憩地となる港を作ったらよいのではないかと思う。離島は風力発電に向いているため、船も電動船にすれば、燃油高騰を気にせず安価な燃料で漁に出ることができるし、尖閣諸島の住所は、南小島:沖縄県石垣市登野城2390、北小島:同2391、魚釣島:同2392、久場島:同2393、大正島:同2394(国有地)なのだから・・。

   
      尖閣諸島            電動船          離島の風力発電
*5:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014042502000137.html 【東京新聞社説 2014年4月25日】 <日米首脳会談>尖閣「安保」適用 対中信頼醸成に力点を
 日米首脳会談でオバマ大統領は、沖縄県の尖閣諸島を日米安全保障条約第五条の適用対象だと明言した。中国の海洋進出をけん制する狙いだろうが、対中関係は信頼醸成にこそ、力点を置くべきだ。大統領は首脳会談後の記者会見で「日本の施政下にある領土、尖閣も含めて安保条約第五条の適用対象となる」と述べた。尖閣が条約適用の対象だと明言した米大統領はオバマ氏が初めてだという。同条約第五条は「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に「共通の危険に対処するように行動する」ことを定める。尖閣諸島は日本が有効に支配しており、侵攻時に米軍が出動するのは条約上の義務だ。オバマ氏の発言は、当然の内容である。にもかかわらず、歴代の米大統領は安保条約の適用対象だと明言することを避けてきた。領有権をめぐる二国間対立には関与しないという米国の外交政策に加え、経済などで相互依存関係を強める中国との間で無用な摩擦を起こしたくなかったのだろう。オバマ氏はシリアやウクライナ問題で、外交姿勢が弱腰と批判されている。東シナ海や南シナ海での中国による「力による現状変更の試み」はこれ以上許さないと、尖閣問題では強い姿勢を示す必要があると判断したようだ。環太平洋連携協定(TPP)交渉で日本の譲歩を引き出すため、安全保障政策を重視する安倍晋三首相に配慮したのかもしれない。ただ中国は、尖閣対象発言への反発を強めている。日本と極東地域の平和と安全を守るための安保条約が逆に、地域の緊張を高めることになっては本末転倒だ。大統領は尖閣対象発言の一方、首相との会談で「事態がエスカレートし続けるのは正しくない。日中は信頼醸成措置をとるべきだ」との立場を鮮明にした。当然のことをあえて確認して中国の反発を招くよりも、どうやって信頼関係を築くのかに知恵を絞った方が建設的だ。首相は会談で「集団的自衛権の行使」の容認に向けた検討状況を説明し、大統領は「歓迎し、支持する」と述べたという。集団的自衛権の問題は国論を二分する大問題である。米大統領の支持という「外圧」を、憲法改正手続きを無視した「解釈改憲」の正当化に悪用してはならない。


PS(2014.4.26追加):*6の「聖域守れねば脱退が筋」という主張はもっともで、北海道新聞は堂々と正論を書く点が評価できる。

*6:http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/535710.html
(北海道新聞社説 4月26日) TPP合意せず 聖域守れねば脱退が筋だ
 環太平洋連携協定(TPP)交渉をめぐる日米協議は、安倍晋三首相とオバマ米大統領との首脳会談後も続行する異例の展開となったが、結局、大筋合意には至らなかった。米国は牛肉と豚肉の関税を撤廃か大幅削減することを求めていたもようだ。牛肉・豚肉は、衆参両院の農林水産委員会が段階的な関税撤廃も認めないと決議した聖域の重要5農産物に含まれる。わずかでも関税を残せば守ったことになるといった言い訳は通らない。拒否して当然だ。国会決議は聖域が確保できない場合、脱退も辞さないとしている。交渉の出発点となった約束を忘れてはならない。安全保障を人質に強硬に譲歩を迫る米国との交渉は困難さを増している。政府は妥結ありきではなく、毅然(きぜん)たる態度を貫くべきだ。両国が合意を見送ったことで、交渉全体の遅延を懸念する声も上がっているが、国民にとって、むしろ停滞は望ましい。TPPの交渉内容は秘密にされている。国民に中身を伝えずに、首脳会談などの節目をとらえて妥結を急ぐやり方は、目隠しをして前進を促すようなものだ。この機会にいったん立ち止まり、交渉の経緯を振り返って、TPPが抱える問題点をじっくり検証する必要がある。
◇あまりに強引な米国
 そもそも、日本政府の見通しは甘かった。最初から、米国には聖域に配慮する考えなどなかったと言わざるを得ない。昨年2月の日米首脳会談で「聖域なき関税撤廃が前提ではない」ことが確認できたとして、首相はTPP交渉参加を決断した。ところが、米国の対応はあまりに強硬だった。関連業界が安易な妥協を認めず、11月に中間選挙を控えた米議会もオバマ大統領に通商交渉権限を与えようとしない。議会などを説得するため、米政府は目に見える成果をなりふり構わず追求した。要求の中には、一定台数の米国車をそのまま日本に輸出できるように、日本の安全基準を緩和するものまであったという。これでは、もはや通商交渉とは呼べず、ほとんど米国車の押し売りに等しい。日米共同声明には「2国間の重要な課題について前進する道筋を特定した」と記された。筋違いの要求をのまされ、聖域を危うくするような道筋だとしたら、断じて容認できない。
◇秘密主義は通らない
 通商交渉のたびに、日本の農産物が焦点とされ、自由化に抵抗する過保護でわがままな農家や農協といった批判が繰り返される。だが、このような紋切り型の見方は、TPPの問題を矮小(わいしょう)化してしまう。TPPは経済に限らず、環境、医療、労働などさまざまな分野にかかわり、社会や暮らしのありようを変える可能性をはらむ。例えば、医療関係者は、米製薬会社が医薬品を高く売ることができるように、米国が日本の薬価算定ルールの変更を要求してくることを懸念している。医薬品が高騰すれば、健康保険財政を圧迫し、国民皆保険を弱体化させる要因となりかねない。政府は守秘義務を盾に、根拠も示さず、ただ「国民皆保険を守る」と言うだけだ。聖域さえ守り通す保証がないのに、こんな言い分をうのみにはできない。
◇不公平の疑念拭えぬ
 TPPの目的は、関税を原則として全廃した上で、企業活動や投資をしやすくする統一ルールを設定することにある。国有企業への優遇策は撤廃を目指す。投資先の国の政策変更で損害を被った企業が、相手国を訴えることができるISDS条項も用意されている。これは大企業、とりわけ国境を越えて事業を展開する米国などの多国籍企業に好都合な仕組みと言える。多国間で貿易・通商の共通ルールをつくる試みは重要だとしても、当然ながら、その中身と決め方は公平であるべきだ。米国の基準に合わせ、各国・各地域の文化、伝統に根ざした制度や慣行を「非関税障壁」と決めつけて踏みにじるものであってはならない。こうした弊害を避け、公正さを担保する前提は、情報の公開と民主的な合意形成だ。TPPにはこれが決定的に欠けている。生活全般に影響を及ぼす協定の内容が、批准の時まで国民に隠されるというのは異常だ。日米同盟強化の名の下に、国民の未来に不安をもたらすならば、受け入れるわけにはいかない。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 08:18 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.10.9 TPP推進論者の問題点は、状況を知らない人が「競争さえさせれば物事がうまくいく」という幼稚な発想で政策を作っている点である。
    
     *6より                       *5より

(1)企業の農地所有について(規制を壊して緩和しさえすればよいというものではない)
 *1の記事では、「規制改革の再起動で既得権打ち破れ」として、①医療分野での保険診療と自由診療の併用を認める混合診療の原則解禁 ②保育・介護分野での社会福祉法人と株式会社の競争条件対等化 ③農業分野で農地の所有規制を見直して農業生産法人の要件緩和 などが主張され、これらが岩盤規制の典型とされている。

 特に、*2で再度、企業による農地の直接所有につながる農業生産法人の条件を緩和して企業の所有を可能にすることが必要と書かれているが、企業は社会的責任を果たすよい企業ばかりではない。例えば、初めから商業地や宅地とすることを目的として「農地」を購入し、「農業では経営が成り立たないから」と耕作を放棄し、年取った社長が引責辞任して、「荒れてどうしようもないから」と使用目的を変更するケースが考えられる。このような場合には、食料自給率向上の観点から、返却してもらって他の農業従事者に貸し出すことを可能にするのがリース方式であり、そのために50年という長期間のリースにされており、連続してリースすることも禁止されていない。これで、何か不都合があるのか。

 また、*2には、「農協、農業委員会のあり方の見直し」も書かれているが、現在は20年前と異なり、資材を購入できる場所は農協だけではない上、地域農業の振興には、農業者の互助団体である農業協同組合は必要だ。農業委員会も、農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を執行する行政委員会として市町村に設置されているもので(http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/iinkai.html 参照)、そのように地元の農地、農業、地域づくりに詳しい団体でなければ、適切な判断はできないだろう。もちろん、それぞれ、不十分な点は多いが、その不十分さも地域によって異なるため、改善のためには個別にコンサルティングを行うことが必要なのであって、全部を壊せば新たに生まれるものがよりよいとは思えない。

 逆に壊すことによって、*4、*5のように、それまで築き上げてきた人材や財産を失う。ただし、毎年高い高いと言いながら輸入飼料で飼う畜産は工夫がなさすぎ、食料自給率の向上にも貢献しないため、飼料の国産化とコスト低減を行うべきだ。

(2)混合診療の原則解禁について
 医療に関して、これは、TPPとは関係なく行えばよい。ただし、健康保険料を支払っているのだから、先進医療は健康保険の適用外などとされる理由はなく、速やかに健康保険適用にすべきなのである。

(3)保育・介護分野の事業を株式会社でやる必要があるのか
 社会福祉法人で行う事業には、それぞれ理由、規制、補助がある。これを企業が行いたい場合は、社会福祉法人の子会社を作ればすむ。それにもかかわらず、株主への配当を目的とする株式会社でやる理由はないだろう。もし規制に問題があるのであれば、その規制自体を変えるべきである。

(4)市販薬のインターネット販売は解禁すべきなのか
 *1には、「市販薬のインターネット販売を制限していた厚労省の裁量行政は違法だと最高裁判決が1月に断じた後、首相はネット販売の全面解禁を宣言したが、厚労省は解熱鎮痛剤「ロキソニンS」など28品目を数年間、ネット販売から外す規制を画策している」と書かれている。

 しかし、私は、市販薬であっても、ビタミンCやカルシウムのように食品に含まれているものではなく、解熱鎮痛剤をインターネットで販売するのはよくないと考える。何故なら、購入者の病気は、検査を受けた後に「解熱鎮痛剤の投与が適切だ」と医師から診断されたものではなく、背後に深刻な病気が潜んでいる可能性もあるからだ。その場合、薬局で買えば、薬剤師が顔を見て必要な話をしながら販売しているが、インターネットは、顔も見ない相手に無制限に販売するのである。つまり、安全規制をみだりに緩和してはならず、規制自体がそれでよいか否かは、毎年、見直すべきなのである。

(5)法曹人口を拡大すれば、質の高い法務サービスが提供されるのか
 *1に「法曹人口の拡大に対して日弁連は強く反対しているが、質の高い法務サービスを企業や個人に提供する弁護士はもっと増やす必要がある。弁護士同士が切磋琢磨し、利用者のニーズに応えられない弁護士が淘汰されるのは、やむを得まい」と書かれているが、数が増えれば切磋琢磨して質が上がるというものではない。むしろ、急激な新人の増加で、十分な研修を受けていない弁護士が増えれば全体の質は下がり、利用者は事前に他と比較することはできず利用した後にしか質はわからないため、正しい選択もできない。また、勉強して困難な試験を突破した人にそれなりの待遇が約束されなければ、困難な勉強をする人が減る上、少子化で、ただでさえ少ない優秀な人材の無駄遣いになる。医師や公認会計士にも同じことが言われて数を増やした結果、同様の弊害が出た。

 ここで、最も大きな問題は、関係のない人が、事情も分からないのに当事者の意見も聞かず、競争さえすればうまくいくという幼稚な発想の下、このような政策を進めることである。

(6)環太平洋連携協定(TPP)に参加すべきか
 *3では「環太平洋連携協定(TPP)への参加に反対する大学教員や弁護士、消費者団体が2013年9月14日、TPPの問題点を考えるシンポジウムを東京都内で開き、TPP交渉を止めるための国内外での連帯や危険性を国民に広く伝えていくことの重要性を指摘する意見が相次いだ」とのことで、頑張って欲しい。TPPは、それぞれの分野で多岐に渡っているため、反対する側も、分野毎にチームを作って検討するほかない。

 一方、*6では、「交渉参加は遅れたが、参加国から『交渉のスピードは落ちていない』と評価する声もある」として、現地で会見した甘利明TPP担当相が、他国から「大きな期待を感じた」と満足げだったそうだが、他国は、日本に農産物等を売り込むチャンスだから期待して評価するのであり、それと日本の立場は逆であることを忘れてはならない。

 つまり、環太平洋連携協定(TPP)参加の後、オーストラリアでは雇用が増えるかも知れないが、日本の地方では農業及びその関連産業が崩壊し、失業者、生活保護者があふれて福祉をさらに圧迫する上、食品の安全も相手国次第になってしまうのである。このような中、事業の存続は、できるか、できないかの二者択一であり、妥協はないのだから、日本がリードして国民を犠牲にし、他国によい顔をして妥結などされてはたまったものではないのだ。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130930&ng=DGKDZO60378440Q3A930C1PE8000 (日経新聞社説 2013.9.30) 規制改革の再起動で既得権打ち破れ
 安倍政権が規制改革会議の活動を再開させた。6月に改革会議が出した初の答申は雇用改革などに前進があったが、医療と農業の岩盤規制には踏みこまなかった。アベノミクスの3本の矢のなかで、日本経済を安定成長に導くのに最も効果があるのが第3の矢の成長戦略、とりわけ規制改革だ。
●医療・農業に踏みこめ
 改革は既得権益を守りたい勢力とそれを後押しする官庁や族議員との闘いだ。硬い岩盤を砕く力を蓄えられるよう改革会議を支えるのは、首相官邸の責任である。改革会議は2014年6月の第2次答申に向けて優先して取り組む案件を決めた。(1)医療分野で保険診療と自由診療の併用を認める混合診療を原則解禁する(2)保育・介護分野で社会福祉法人と株式会社などとの競争条件を対等にする(3)農業分野で農地の所有規制を見直す――の3つだ。
 混合診療は、厚生労働省が今も一部の自由診療にかぎって併用を認めている。先端医療技術は日進月歩の革新を遂げており、健康保険が利かなくとも安全で有効ならその恩恵に浴したいという患者は少なくない。混合診療を原則解禁に導くのが改革会議の責務だ。
 保育・介護分野は、たとえば用地難に悩む都市部で株式会社が運営する保育所や介護施設に国公有地の利用を認めるなどの改革を求めたい。規制面だけでなく、税制を対等にすることも必要だ。
 農業分野は、農地を集約して生産規模を広げる法案を次期国会に出すべく農水省が準備している。県単位で設ける中間管理機構が耕作放棄地などをまとめて整備し、希望者にリースするやり方だ。それは一歩前進だが、本丸は企業の農地所有に道を開く農業生産法人の要件緩和だ。農協の組織改革にもぜひ踏みこんでほしい。
 これら3分野はともに岩盤規制の典型だ。ほかの政権より改革に熱心だった小泉政権のときから取り組んできた案件だが、今なお顕著な実績をあげていな い。改革会議は3分野について、分野別の作業グループに解決を委ねるのではなく、改革会議の委員全員で早く結論を出す方針だ。議長がいかんなく指導力を発揮し、各委員が知恵と工夫を結集させ、既得権益団体や規制官庁の岩盤を打ち破れるよう稲田朋美担当相らがもっと前へ出るべきだろう。気になるのは、この3分野以外に新たに規制をつくったり、いったん緩めた規制を再強化したりする動きがしだいに強まってきたことだ。参院選後に巨大与党が誕生し、既得権益団体などの支援を受けた族議員が復活しつつあるのが背景ではないか。そうした動きに官邸が歯止めをかけようとしないのは問題だ。
 市販薬のインターネット販売を制限していた厚労省の裁量行政は違法だと最高裁判決が1月に断じた後、首相はネット販売の全面解禁を宣言した。だが同省は今になって解熱鎮痛剤「ロキソニンS」など28品目を数年間、ネット販売から外す規制を画策している。改革会議はネット販売と店頭販売に不合理な差を設けないことが消費者利便を高めるという内容の意見書を出した。正論だ。それでも厚労省が規制復活にこだわる場合は、首相が厚労相に指示してやめさせなければならない。
●復活・再強化の阻止を
 自公両与党は民主党と組みタクシー規制を再強化する法案を次の国会に出す。タクシーの台数が多いと認めた地域は新規参入と台数増を一定の期間、禁ずる内容だ。タクシー規制は緩和のたびに業界団体が再規制をもくろみ、国土交通省や運輸族議員に働きかける繰り返しだ。そこでは往々にして参入規制や台数制限を強めて競争を排除しようという供給側の論理が優先する。運転手として新たに職を得ようとする人や利用者の利便を高める視点を置き去りにしてよいはずがない。
 法曹人口の拡大に対して日弁連は強く反対している。しかし質の高い法務サービスを企業や個人に提供する弁護士はもっと増やす必要がある。弁護士同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、利用者のニーズに応えられない弁護士が淘汰されるのは、やむを得まい。
ほかにも日本郵政が事実上、独占する手紙・はがき事業を宅配便業者などに開放するのが積年の課題だ。信書の秘密を守りつつ、より安く確実に届ける力を備えた企業には参入を認めてよい。改革会議の役割は事ほどさように多い。かつて首相は規制改革こそがアベノミクスの一丁目一番地だと語った。いま一度それを明確にすべきときだ。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131008&ng=DGKDZO60781470Y3A001C1EA1000 (日経新聞社説 2013.10.7) 規制改革で効率的な農地集約をめざせ
 政府は耕作放棄地などを地域ごとにまとめて整備し、意欲のある農家や企業に利用してもらうための法案を次の臨時国会に提出する方針だ。新たな制度が効率よく日本の農業強化に役立つように、政府は規制改革会議の議論を踏まえていっそうの農業規制の見直しを進めてほしい。2014年度の導入をめざす新制度は都道府県ごとに新設する農地の管理機構が中心的な役割を担う。農業委員会の許可を必要とせずに機構はまとまった規模の農地を動かせる。農地の情報を公開し借り入れ希望者の公募もできる。将来は耕作放棄地になりそうな農地の所有者にも貸し出しを促せるようになる。これらは前進だ。課題はある。まず、農林水産省が1千億円を求めた予算の規模だ。農地の所有者に貸し出しを促すための対策や、借り手が決まるまで機構が集めた農地を保有し、地域ごとにまとめて整備するための費用はたしかに必要だ。だが、無駄は徹底的に削らなければならない。そのためには整備しようとする耕作放棄地などが農地として本当に価値があるのかを見極める力が機構に求められる。借り手が見つからない場合、農地を所有者に戻す期限もきちんと決めて守る必要がある。規制改革会議は予算が効率よく使われ、農地が適正に貸し出されたかなどのチェック体制と公表を求めている。当然だろう。権限が集中する機構が、自治体の天下り組織になるようなことがあってはならない。民間企業の人材を積極的に登用してほしい。今回の新制度は農業分野の規制改革としては最初の一歩だ。政府も農地の貸出先については、一度決まったらそれで終わりということでなく、変更を繰り返して生産性の向上につなげる考えだ。農地集約を効率よく進めるために規制改革は欠かせない。企業による農地の直接所有につながる農業生産法人の条件の緩和や、農協、農業委員会のあり方の見直しなどに取り組んでもらいたい。食品や外食業界では農産物の生産をめざす企業が増えている。政府はこうした機運に弾みをつけるためにも、規制改革会議での論議をもとに思い切った改革を打ち出すべきだ。環太平洋経済連携協定(TPP)で貿易自由化がどのような形になるかにかかわらず、農業の競争力を高める取り組みは待ったなしだ。

*3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=23389
(日本農業新聞 2013/9/15) TPP阻止 国内外で連携を 大学教員、弁護士らシンポ
 環太平洋連携協定(TPP)への参加に反対する大学教員や弁護士、消費者団体は14日、TPPの問題点を考えるシンポジウムを東京都内で開いた。生産者や消費者、学者ら約400人が参加。会場からの発言を含めて、TPP交渉を止めるための国内外での連帯や危険性を国民に広く伝えていくことの重要性を指摘する意見が相次いだ。
 シンポジウムは、TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会と、TPPに反対する弁護士ネットワーク、主婦連合会が主催。「このまま進めて大丈夫なの? TPP交渉」と題し、主催団体や農業団体などの代表らが意見を交わした。TPPを含む規制改革による医療への影響について日本医師会の中川俊男副会長は、保険が適用される治療法や薬などの範囲が縮小し、高額な保険外診療が拡大する懸念を説明。「日本の質の高い国民皆保険制度が崩壊する」として、「医療が危ないということを言い続けなければならない」と決意を表明した。会場からも医師が「医療に携わる者の大同団結」を主張した。
 JA全中の小林寛史農政部長は「食料自給は健康と生命維持に不可欠」と指摘。高い水準の貿易ルールを目指すTPPでは「アジア・太平洋地域の農業の多様性は維持できない」とし、農業と工業は考え方を分けて交渉すべきだとの考えを強調した。北海道から「TPP問題を考える十勝管内関係団体連絡会議」代表の髙橋正夫本別町長が参加。30団体が参加する「オール十勝(で反対する)体制ができた」と報告。3月に4300人で集会を開いたことなどを紹介し、「地域を守り、暮らしを守るために立ち上がった」と述べ、全国的な連帯を求めた。
 開会に当たって主婦連の佐野真理子事務局長は「米国でもアジアでもTPP反対運動が高まっている。国際的な連携と団結が必要」と訴えた。主婦連の山根香織会長や弁護士ネットの杉島幸生弁護士、大学教員の会の鈴木宣弘・東京大学大学院教授らも発言した。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=23665 (日本農業新聞 2013/10/1) [崩れるモデル経営 緊迫TPP 4] 養豚 高度化努力 無駄に 愛知県幸田町
 規模拡大や生産の効率化で経営改善を進めてきた養豚業界。TPPで関税が無くなれば、国産豚肉のシェアは奪われ、飼養頭数の激減は避けられない。飼料価格の高止まりが続く中、飼養頭数の減少は生産性を再び下げる恐れがある。銘柄豚生産者にも「安い輸入豚肉との価格競争に加え、飼料の経費増に勝てるのか」との不安が付きまとう。愛知県幸田町で年間9000頭を出荷する(有)マルミファームはこの十数年、規模の倍増と液状飼料の自動給餌化に向けた投資を積極的に行い、無駄のない経営を進めてきた。獣医師資格を持つ社長の稲吉克仁さん(43)は、2001年に後継者として入社。欧米の最新設備を学び、経営拡大の最前線に立った。飼料コストの低減と良食味の両立のため、克仁さんの父で同社会長の弘之さん(73)が1998年から始めたビタミンE強化飼料の共同購入組織「やまびこ会」の取り組みに加え、液状飼料にエコフィードを使った省コスト化を実践。飼料全体の4割をエコフィード化し、全量配合に比べ価格を2、3割安く抑えている。「やまびこ会」は、愛知を中心とした6県の25戸で構成し、銘柄豚「夢やまびこ豚」を生産する。国のTPP試算では“生き残る”とされる銘柄豚だが、その定義は曖昧だ。何らかの基準を設けて販売される豚肉は、300種類以上にもなるといわれている。克仁さんは「低コストで生産し高付加価値で売らないと、飼料高さえ切り抜けられない。TPPとなれば、味でも差をつけてやっと銘柄として残れるのでは」と考える。だが、これまで積極的に進めてきた規模拡大には「慎重にならざるを得ない」と言う。TPPによる輸入豚肉の増大で国産枝肉価格が下がれば、日本全体の飼養頭数が減る。大量飼育による飼料コストの圧縮は難しくなり、高度化を進めてきた経営モデルを一から見直さざるを得ないからだ。養豚農家は2月時点で、10年前の6割に当たる5570戸まで減少した。高齢化や飼料高騰が要因だ。一方、規模拡大で経営の効率化が進み、飼養頭数は968万5000頭と、10年前の水準を保つ。豚肉の自給率は重量ベースで53%(12年度概算)で、何とか半数以上を堅持する状況だ。弘之さんは日本養豚協会の代表副会長として、マレーシア、ブルネイでのTPP交渉時に、現地で「国益がなければ即時脱退を」と訴えてきた。40年前に母豚36頭から始めた養豚は、社員6人の雇用をはじめ、地域経済を支える産業の一つになっている。「地域の活力をどうか奪わないでほしい」。弘之さんは声を絞り出すように語った。
●関連産業も空洞化
 政府統一試算は、関税が撤廃された場合、豚肉の生産量は70%、生産額は約4600億円減少すると見込む。残る豚肉の価格も下落を見込む。現行の豚肉の関税制度は、低価格品ほど高い関税率となる「差額関税制度」で安い海外産豚肉の過剰輸入を抑えている。関税を除く輸入価格(CIF=運賃保険料込み)が1キロ64.53円以下の場合、482円を関税として課し、64.53円より高く524円以下の場合は基準輸入価格(546.53円)との差額を関税として課す。524円を上回る高級部位の場合は4.3%と低い関税率が課される。関税がなくなれば、加工・業務向けの低級部位の輸入が急増する公算が大きい。東京の輸入業者は「ハムやソーセージの原料は1キロ300円程度で輸入可能になる」と強調。「国内養豚業は太刀打ちできない」とみる。人口や需要が増すアジアに食肉業者の進出が進み、「国内養豚業はほぼ壊滅する」と警鐘を鳴らす。

*5:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=23785
(日本農業新聞 2013/10/6)  [崩れるモデル経営 緊迫TPP 6] 肉用牛 繁殖・肥育 共倒れ 滋賀県東近江市
 全国屈指の和牛の一つである近江牛の産地、滋賀県。肉用牛の1戸当たりの飼養頭数は全国平均の4倍の168頭で、北海道に次ぐ全国2位の規模を誇る。このうち7割が近江牛となる黒毛和種だ。同県では、ブランド力強化に向けて一層の規模拡大や飼養頭数の増大、官民挙げての輸出促進に取り組んでいるが、TPPによる牛肉関税の撤廃という不安が関係者に重くのしかかる。「関税撤廃で和牛の販売価格が下がった場合、真っ先に打撃を受けるのは繁殖農家だ。政府はTPPの影響試算で、高品質な和牛は安い輸入牛肉と競合しないため生き残れるとしたが、和牛産地も生産縮小の負のらせんに陥りかねない」。同県東近江市で和牛を250頭飼養する田井中牧場の田井中龍史さん(37)は、そう指摘する。和牛販売価格が下がれば肥育農家は高い子牛を買えなくなり、繁殖農家の経営が立ち行かなくなる。繁殖農家が減れば、和牛産地は縮小に追い込まれるとの見立てだ。同牧場は交雑種(F1)を中心に肥育をしていたが、10年前から和牛への切り替えと繁殖の導入に乗り出した。繁殖肥育の一貫経営に取り組むのは子牛の価格変動の影響を最小限に抑えるためで、子牛価格が値上がりしている今はその効果が出ている。近江牛の繁殖肥育一貫経営は、後継者確保やブランド力向上の観点から県も支援している。一貫経営で、グリーン近江枝肉共励会1席など数多くの表彰を受けてきた同牧場は、県が目指す近江牛のモデル的な経営でもある。しかし、牛肉の関税撤廃で和牛枝肉と子牛の価格下落がらせん的に生じた場合、乗り越えることができるのか。龍史さんは「できる手立ては講じてきた。経営努力には限界がある」と強調する。61歳の父親が繁殖、龍史さんが肥育部門を担当し、年間販売高が1億円を超えるところまでこぎ着けた。TPPによる牛肉の関税撤廃を阻止し、和牛生産に励む姿を長男(10)や長女(9)に「ずっと見せたい」と願っている。県肉牛経営者協議会の古溝彰会長も「TPP交渉が若者の意欲を奪いかねない」ことを心配する。龍史さんが牧場を経営する東近江市を含めたJAグリーン近江管内は県内有数の肉用牛産地で、数年前から畜産農家の後継者が相次いで誕生しているためだ。20、30代の12人が昨年、研究会を立ち上げた。「近江牛には先人が築いた素地がある。全国屈指のブランド牛の地位を守り抜く」。古溝会長は、牛肉の関税撤廃は決して許さない決意を示した。
●畜産対策 縮小の恐れ
 政府統一試算では、関税が撤廃された場合、肉牛の生産量は68%、生産額は約3600億円減少すると見込む。3等級以下の国産牛肉の9割が外国産に置き換わり、残る国産の価格も下落する見通しだ。さらに年間約700億円に上る関税収入を失うとの見方がある。このため関税収入を財源とする肉用子牛生産者補給金など畜産対策の縮小につながる恐れもある。実際に課している関税率38.5%が撤廃され、無税で輸入可能になった場合、輸入品の平均価格は現在の1キロ700円程度から500円程度に下がる。国産との価格差が一層広がり、ホルスタインの雄と肉専用種の約半分の需要が奪われる可能性が大きいとしている。

*6:http://qbiz.jp/article/24970/1/
(西日本新聞 2013年10月09日) TPP首脳会合、年内妥結へ決意
 日本を含む12カ国で交渉を進める環太平洋連携協定(TPP)交渉は8日、インドネシア・バリ島で首脳会合を開き、「年内に妥結することを目的に、困難な課題の解決に取り組むべきであることに合意した」とする声明を発表、閉幕した。安倍晋三首相は終了後、関税を含む「市場アクセス」など難航分野の交渉を急ぐことで一致したとして、「年内妥結に向けて大きな流れができた」と評価した。安倍首相は、政府、与党が「聖域」とするコメや麦、牛肉・豚肉など農産品5項目の関税撤廃について「各国それぞれ重要項目があり、それに配慮しながら包括的で水準の高い結論を得るべく努力すべきだ」と述べた。声明は、冒頭で「交渉が完了に向かっている」と明記。「各国の新旧の貿易と投資の課題に対応し、雇用の維持・創出を支える」とし、新興国に対して投資に関するルール適用など一部の協定発効を先進国より遅らせるよう配慮した。さらに、TPP参加に関心を示す中国や韓国を念頭に「将来参加する可能性について関心を表明するほかのアジア太平洋諸国と接触している」と言及した。12カ国は年内合意に向け、難航分野の一つである「知的財産」の事務レベルの会合を日本で開催することに合意。他分野の詰めも急ぎ、年末に閣僚会合を開催して年内妥結を目指す。ただ、TPP交渉を主導してきたオバマ米大統領が政府機関の一部閉鎖などで動きが取りにくくなっており、交渉の流れが鈍化する恐れもある。首脳声明には、当初目指した「大筋合意」は盛り込まれなかったが、8日夕会見した甘利明TPP担当相は「全体として、そういう(大筋合意)評価だ」と述べ、交渉が前進したとの認識を示した。日本が掲げる重要5項目の関税撤廃問題については「党の点検作業を見守りたい」と述べるにとどめた。
◆「大筋合意」盛り込めず
 交渉結果は下方修正だった。8日終了した環太平洋連携協定(TPP)交渉会合は、首脳声明で当初目指した「大筋合意」を盛り込めず、「交渉が完了に向かっている」との表現にとどまった。安倍晋三首相は年内妥結に自信をみせたが、交渉を主導するオバマ米大統領が議会対応で参加できず、日本も関税問題で重要農産品5項目の「聖域」を守る決意のほころびが表面化。先行きは予断を許さない。「難しい問題は残ったが、閣僚や交渉官に解決に向けた指示を出すことで合意でき、大変有意義だった」。一連の交渉会合を締めくくる首脳会合はわずか1時間だったが、安倍首相は2回の発言を通して交渉を推進した自負をみせた。難航分野の一つ「知的財産」の事務レベル会合の日本開催が決まり、日本は今後の交渉を主導する決意を示した。交渉参加は遅れたが、参加国からは「交渉のスピードは落ちていない」と評価する声もある。現地で会見した甘利明TPP担当相は、会合をリードする日本に対し、他国から「大きな期待を感じた」と満足げだった。
□誤 算 
 誤算もあった。オバマ氏は、政府機関の一部閉鎖問題で首脳会合を急きょ欠席。オバマ氏は来年秋の議会中間選挙を控え、2010年春から続くTPP交渉の決着を急いでいた。首脳会合で「交渉作業を実質的に終えた」と強いメッセージを打ち出す考えだった。ただ、新興国には協議を強引に進める米への不信もある。マレーシアのナジブ首相は首脳会合前の6日、「年内妥結は困難」と表明。首脳声明は米以外の国の意見を反映した現実的な内容に落ち着いた。主導役不在で参加国の結束に微妙な陰りがうかがえた。
□影 響 
 日本の国内事情も今後の交渉に影響を与えそうだ。会合中にバリ島に入った自民党の西川公也TPP対策委員長は、農業分野5項目のうち、一部品目の関税撤廃検討に踏み込んだ。難航分野の交渉推進に向け、「日本も精いっぱい身を削っている」と演出する狙いだが、参院選などで「聖域」死守を掲げた党内に戸惑いや反発が広がっている。甘利氏は「党と意思疎通を図っていきたい」と、当面党の検討作業を見守る構え。安倍首相が目指す「高い水準の結論」に向け、国内世論もにらんだ交渉が、これから正念場を迎える。


| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 01:05 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.19 TPP参加推奨派の考え方は、単純で無責任である。本当の原因を分析して問題解決するのが、本来のあり方だ。


 *1は、TPP推進派が農業及び農協に関して持っているイメージと、TPPを、それを打開する手段と位置付けている典型であるため、*1の主張を評価することにより、TPP推進派が、農業を、どの程度、理解して主張しているのかについて述べる。

(1)農協(農業協同組合、JA)とは何か
 農協は、日本で、農業者(農家及び小規模農業法人)によって組織された協同組合で、農業協同組合法に基づく法人であり、事業内容等がこの法律によって規定されている(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E5%8D%94%E5%90%8C%E7%B5%84%E5%90%88 参照)。これによれば、農協の目的は、農業生産力の増進及び農業者の経済的・社会的地位の向上を図ることだ。組合員資格は、正組合員と准組合員があり、正組合員は、①農業を自ら営む農業者に限定 ②組合員が一人一票の議決権を保有 ③組合員は役員や総代になる権利がある ④正組合員の5分の1以上の同意を得れば、臨時総代会を開くよう請求可能 ⑤組合員全員に組合の事業を利用する権利がある ということである。准組合員には、農協に加入手続きをして承諾され出資金の払込みをすれば、農家でない人でもなれ、農協のいろいろな事業を利用することができるが、役員の選挙権はない。

 *1の記事には、「農業を成長産業として再生していくためには、農地法などの規制緩和とともに、農家と密接な関係を持つ農業協同組合を変えていく必要がある」と書いてある。しかし、農家の人が自主的に入っている互助団体である農協が、現在、どういう形で農業の成長を阻害しているのかは書かれておらず、いつも通りの決まったフレーズを並べただけの記事だ。そして、「TPPに入ると農業を成長産業として再生できる」というのも、原因分析をしていないため、解決の処方箋も裏付けや論理的説明のない念仏のようなものとなっており、これは20年前ならまだ当てはまったかもしれないが、今では、かなり改善されているものだ。「大規模な農業法人や強い野菜農家はすでに農協を離れ、独自に販路開拓などに乗り出している」「肥料販売での大口割引の導入」「流通コストの引き下げ」などが、その改善の結果である。

 また、「小規模農家にはなお農協の助けが要る」というのが農協の必要性であり、その結果、地域での農産物のブランド化や転作が進んでおり、リーダーの意識の低いところがやっていないだけである。そして、「様々な方針が強力な中央組織から地域の農協へ伝達されていく仕組みは、農家が生活と事業の改善に向けて立ち上げる協同組合の原点からもかけ離れている」とも書かれているが、何でも分権すればよいと考えるのは馬鹿の一つ覚えだ。一般企業(日経新聞も!)も、中央集権で経営目的にあった場所に集中投資していることを忘れてはならない。問題は、その判断が正しいか否かである。

 さらに、「本来の目的である農業の強化に向け、地域の農協も大胆な自己改革を急いでほしい」というのは、何が農業の産業としての競争力を妨げているのかについて、原因分析もなく話が飛んでいる。問題解決するには、枠組みを壊すことが目的なのではなく、何をどう解決したいから、どこを変えるかの正確な判断が必要なのだ。

 最後に、「お金の流れを透明に」とは、自分に反対する者には不正を働いているようなイメージをつけており、いつものとおり卑怯な書き方である。

(2)それでは、農業を成長産業とするために必要なことは何か
 農業を成長産業とするために必要なことは、私が衆議院議員時代に、地元で聞いた要望や集めた情報からすぐ思いつくことは、下のとおりである。
  ① *2の福岡県開発の種なし柿のような優良品種への品種改良 
  ② 改良した品種を守る知的所有権の保護 
  ③ 地域でブランド化して付加価値をつけるなど、その地域独自のやり方の推進
  ④ 農業への安い国産エネルギーの供給
  ⑤ 安い国産家畜飼料の供給
  ⑥ 安い国産肥料の供給(特に有機肥料)
  ⑦ 安い国産資材の供給
  ⑧ ハウスや農機具など農業機器の進歩と安い価格での供給
  ⑨ 大型機械を使えるための区割りの規模拡大
  ⑩ 農業に魅力を感じる所得を得られるための経営規模の拡大

 現在は、農業に補助金をつけても、農機具やエネルギー代が高すぎるため、次世代の農業を作るのに支障をきたしているが、上の②④⑦⑧は農業関係者の責任よりも、経済産業省の責任の方が大きい。また、①はかなりできているが、さらにやった方がよいものだ。そして、③⑤⑥⑨⑩は、私が衆議員議員になってすぐに気がついたのでやり始めたものが多いが(そのため、佐賀県では進んでいる)、それまでの政治家や農林水産省も、当然、考えてやっておくべきことだった。

(3)解決策は?
 *1には、「農協が融資などで農家を縛ることは許されない」と書かれているが、農家が融資で縛られないためには、一般銀行や信用金庫が農業者に融資できるようにすべきであり、このためには、農業会計基準の導入で農業経営の正確な把握が必要である。そして、これは金融庁の仕事だった筈だ。農業者に選択の権利がなければ、有利な融資は受けられないのである。

 *3のように、JA全中の萬歳章会長は、「日本は自給率が低い。われわれも安定した食料供給をしていきたいが、TPPはそれとは相いれないものだ」と指摘し、これに対し、ニュージーランドのシンクレア大使は、「(日本が)重要品目をすぐに撤廃するのが難しい一面があることは承知している」と述べ、「関税撤廃に例外は設けず品目によって長期の猶予期間を設けた後に、関税撤廃をすれば対処できるのではないか」との考えを示したそうである。その期間が10年になるのか20年になるのか、その間にどういう対策をとるのか、それでも永久に無理な品目もあるのか、食の安全は守れるのか、しっかりと検証した上でなければ、日本の農業継続、食料自給率の向上、国土・環境の保全はおぼつかず、安易にTPPを進めることは、国民に対して無責任である。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130407&ng=DGKDZO53691440X00C13A4PE8000
(日経新聞社説 2013年4月7日) 競争力強化へ農協も大胆な改革を
 農業を成長産業として再生していくためには、農地法などの規制緩和とともに、農家と密接な関係を持つ農業協同組合を変えていく必要がある。大規模な農業法人や強い野菜農家はすでに農協を離れ、独自に販路開拓などに乗り出している。小規模農家にはなお農協の助けが要るとしても、本来の目的である農業の強化に向け、地域の農協も大胆な自己改革を急いでほしい。
●農家支援の原点に帰れ
 日本の農協組織は、統制機関としての色彩が濃かった戦前の産業組合や戦時中の農業会を引き継いでいる。そのため全国農協中央会(JA全中)や全国農協連合会(JA全農)を頂点に都道府県ごとの組織があり、その下に全国約700の地域農協がぶら下がる中央集権型の構造を持つ。金融や生損保まで、幅広く手掛けるのも日本の農協の特徴だ。中央組織で目立つのは政治的な主張だ。安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明した3月15日も、全中は「全国の農業者とともに強い憤りをもって抗議する」との声明を発表した。全国一律のコメの生産調整見直しにも反対している。
 だが、これまでの枠組みを維持しようとすることが、農協の原点である農業生産力の増進や農家の経済的な地位の向上につながるのだろうか。企業との連携が求められる中で、中央組織が経済界と対立する構図も農業の強化のためには好ましくない。様々な方針が強力な中央組織から地域の農協へ伝達されていく仕組みは、農家が生活と事業の改善に向けて立ち上げる協同組合の原点からもかけ離れている。農協の体制のあり方を抜本的に見直すときだろう。個々の農協に求められるのは大胆な意識改革だ。政府は2001年から05年までに、全農に対して計7回の業務改善命令を出した。その過程で政府がまとめた報告書が課題を列挙している。(1)硬直的な販売手法を見直し、経営感覚を持つ(2)農協外部の人材を登用し、倫理を守る体質へ改善する(3)合理化に努め、その利益を組合員である農家に還元する――ことなどだ。農協に示された課題は、いずれも当たり前のものだ。あとは農協自身がどれだけ改革への意識を高め、実行するかにかかっている。肥料販売での大口割引の導入や、流通コストの引き下げといった改善策は評価できる。市場開拓に取り組み、商品開発に力を入れる農協も増えてきた。一方で、改革ぺースの遅い農協もある。まず、農協が競い合う体制が必要だ。政府は02年に農協法を改正し、農協が管轄地域を広げたり、新しい農協を設立したりすることで農家が複数の農協から「いい農協」を選べる仕組みをつくった。こうした制度改革を活用し、それぞれの農協が農家の利便性や負担軽減を競うようになれば、改革への意識は高まるはずだ。農協は、農産物の共同販売や資材の共同購入で独占禁止法の適用を除外されている。ただし、それは農家が農協に自由に参加し、脱退できる環境が前提だ。融資などで農家を縛ることは許されない。
●お金の流れを透明に
 公正取引委員会は07年に、農協にどのような行為が独禁法違反になるかの指針を示した。農協は改めてすべての職員に注意を喚起し、逸脱行為があれば公取委は速やかに是正を促してもらいたい。農協が手掛ける金融業務は、預金量で90兆円にのぼり、メガバンクと肩を並べる。だが、金融庁の加わる農協への検査は知事の要請が条件となり、実施は一部にとどまる。政府もお金が巨大な組織の中でどう管理され、流れているかを厳格にチェックし、透明性を高める体制を考えてほしい。農協の正組合員は農業人口の減少で減り続け、09年以降は農業者以外の人もなれる準組合員の数が上回っている。組織維持のために農家以外から預金を集め、それを運用する金融事業の姿も、農協の原点や農協に対する様々な優遇策からみれば疑問がある。全中は「農家が何を求めているかに応じ、農協は変わっていく」としている。6月には農業強化に向けた提言もまとめるという。農家の経営に役立ち、農業の強化に貢献する本来の目的に沿った組織に変わるべきである。

*2:http://qbiz.jp/article/15912/1/
(西日本新聞 2013年4月19日) 福岡県開発の種なし柿、畑で盗難 久留米で苗木19本
 福岡県は18日、県が開発し、県内の農家に限って栽培を許可している世界初の種なし甘柿「秋王」の苗木19本が同県久留米市田主丸町の畑から盗まれた、と発表した。県によると、盗まれた苗木は高さ60〜70センチ。同市の農家が2月に苗木125本を植え、今月10日から3日ほど留守にした間に畑から抜かれていた。農家は13日に気付き、県警に盗難届を出した。
 福岡県は出荷量全国3位の柿産地。秋王は従来の柿よりも大玉で甘いのが特徴で、県が2012年に品種登録。16年度から本格的な販売を目指す。県は11年度からJAを通じ、県内農家に限って苗木を有償で譲渡しており、現在140戸が約7千本を育成している。県は「盗んだ苗木の実を別名で流通させてもDNA鑑定で判別できる。違法な流通と分かれば損害賠償請求などの対応をとる」としている。

*3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=20351
(日本農業新聞 2013年4月12日) 全中会長 断固反対伝える NZ大使「例外なし」示唆
 JA全中の萬歳章会長は11日、東京都内のニュージーランド(NZ)大使館を訪れ、同国のマーク・シンクレア駐日大使と会談しTPPをめぐって意見を交わした。萬歳会長は「全ての品目の関税撤廃を目指 すTPP交渉には断固として反対している」と強調。全中によると同大使は、米など日本の農産物の重要品目について関税撤廃までの猶予を設けることで対処できるのではないかとの考えを示した。これは、「関税撤廃の例外は認められない」との認識を示唆したものといえる。JAグループによるTPP交渉参加国への働き掛けの一環。交渉参加国の駐日大使との会談は9日のオーストラリアに次ぎ2カ国目となる。萬歳会長は「日本は自給率が低い。われわれも安定した食料供給をしていきたいが、TPPはそれとは相いれないものだ」と指摘した。これに対してシンクレア大使は「(日本が)重要品目をすぐに撤廃するのが難しい一面があることは承知している」と述べた。その上で、品目によっては長期の猶予期間を設けた後に、関税撤廃をすれば対処できるのではないかとの考えを示した。また、JAグループの考えは政府に伝えると述べた。会談には、全中の冨士重夫専務が同席した。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 01:58 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.4.14 環太平洋連携協定(TPP)参加の問題について – 特に、医療・農業の視点から
       
        りんごの花              梨畑              洋ナシの花
(1)日本は、“強い”製造業だけを伸ばせばよい国か
 *1のように、日経新聞及び経済産業省は、「競争力が弱い産業を保護することが、最優先の国益ではなく、海外市場を舞台に、強い産業をさらに伸ばし、新しい成長産業を生み出す仕組みを築くことこそが最も重要な国益である」として、「高い水準の自由化を目指すTPPの「純度」を、これ以上落としてはならない」と主張してきた。しかし、これは、農業に関する知識がなく無責任な主張であり、さらに、自由貿易のみしか奨めていない点で、時代遅れの暴論である。
 日本は、シンガポール等とは異なり、1億2000万人が暮らす大国であるため、食料・エネルギーを他国に依存しきっていては、食料・エネルギーの輸出国から足元を見られ、製造業もやっていけなくなる。これは、すでに原油やレアメタルで経験済みだ。しかも、これから地球人口は増加し、食料・エネルギーの価値は高くなるため、農林漁業や鉱業などの第一次産業は、育成すべき重要な産業なのである。そして、現在、これらを支える技術の発展も著しい。
 *1には、「エゴが出やすい2国間協議にとらわれすぎず、TPP交渉でのルールづくりに集中すべきである」とも書いてある。しかし、世界は、日本のエゴを通してくれるような甘い所ではない。その中で、二国間で不可能な交渉は、(親戚同士の)多国間が相手になれば、もっと交渉しにくいことを知って、ものを言うべきである。

(2)TPPの医療における問題点
 *2に、「がんに有効な新しい治療法が世界各国で開発されているが、国内で未承認の抗がん剤による治療は公的な健康保険が適用されない。未承認の抗がん剤を給付対象とする民間の医療保険もなかった。抗がん剤保険は、抗がん剤や、その副作用に対する治療技術が進歩し、入院をせずに通院でがん治療を受ける患者が近年増加していることに対応したものだ」と書かれているが、これは事実だ。
 しかし、問題は、TPPにより、このような状況が放置され、また、先端医療は健康保険の適用外とされ続けて、先端医療を受けたければ、私的保険に入っていなければならないという状況になることである。これにより、保険会社は喜ぶかも知れないが、医療も金次第という状態になり、国民皆保険があっさり崩れてしまう。本来、外国で承認されている薬は、日本でも素早く承認し、国民健康保険の適用対象として国民の命や健康を守るべきなのだ。そうしなければ、国民健康保険料を支払っても、国民皆保険で守られていることにはならない。

(3)TPPの農業における問題点
 *3のように、19道県が農林水産業に対するTPPの影響を試算したところ、全道県で生産額が減少し、千葉、茨城などでは牛乳・乳製品で、生計を立てられる農家がゼロになることを意味する「全滅」と判定されるなど、大きな影響が出ることが浮き彫りになった。農林水産物の減少額を最も多く想定したのは北海道の4,762億円で、道の農業産出額の約47%に達する。鹿児島、宮崎、茨城、栃木、千葉、岩手を含めて計七道県が約3~4割にあたる1,000億円以上減少するとした。
 つまり、日本の食料生産基地である北海道、九州はじめ各地で、TPPにより農業が壊滅的打撃を受けると言っているのである。これにより、農業に関連して発展してきた製造業やサービス業も打撃を受け、地方経済は疲弊するが、これを少数の強い工業製品の輸出が増えれば代替できると考えているのなら、計算が弱すぎる。

(4)では、どうすればいいのか
 これまでのメディアの報道を見ていると、1)官が作った政策を、2)政治家が追認して実行し、3)記者クラブメディアを総動員して、それがよいことであるかのように広報し、国民を納得させるという、いつものメンバー内のやり方は、既に行き詰っている。
 そのため、*4のように、「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」が設立され、文系・理系を問わず多様な分野の大学教員867人が参加し、全国の大学教員が連帯して広範なTPPの危険性を国民に情報発信していく決意を表明した」のは嬉しいことだ。
 そして、「TPP推進派との公開討論や政府の影響試算の分析・検証、各国の事情に配慮したアジアの柔軟な経済連携のルール作りなどを研究し、交渉脱退を求める運動につなげる」そうだが、是非、そうして欲しい。政府の影響試算などは、原発のコストと同様、結果を導くために作られたものにすぎないため、専門家の目、科学の目で分析すれば、すぐに崩れ去るものである。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130413&ng=DGKDZO53927250T10C13A4EA1000
(日経新聞社説 2013.4.13) TPP交渉 これからが国益高める本番だ
 環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる日米間の事前協議が決着し、日本の交渉参加が事実上、決まった。新しい貿易・投資のルールを築く作業に、ようやく加わることができる。安倍晋三首相は「国家百年の計だ」と意気込みを語った。これからが本番である。現在11カ国が加わる交渉は、既にかなり進んでいる。大枠合意の目標期限は10月だ。多くの時間は残されていない。駆け足で追いつかなければならない。交渉の入り口に立つまで、これまで日本の政治は遠い回り道をしてきた。これ以上、時間を無駄にしないために、日本が通商政策で追求すべき国益とは何かを、しっかり認識しておく必要がある。
 国内市場に聖域を設け、競争力が弱い産業を保護することが、最優先の国益ではないはずだ。海外市場を舞台に、強い産業をさらに伸ばし、新しい成長産業を生み出す仕組みを築くことこそが最も重要な国益である。
 最短で3カ月後の正式参加までに、ルールづくりはさらに進むだろう。日本企業と日本人が力を発揮するために、どのような通商ルールが必要なのか。短期間で交渉に反映させるために、官民をあげて知恵を絞らなくてはならない。日米事前協議の合意は、日本の交渉参加に反対する米自動車業界の要求を色濃く反映した内容となった。米国側の関税削減を先送りし、技術の基準や流通制度などについて、TPPとは別に日米間で交渉を続けることが決まった。投資や検疫など様々な非関税障壁についても、日米2国間の枠組みで交渉する。米国は1990年代に経験した日米構造協議、包括経済協議を念頭に、2国間の枠組みを使って日本に市場開放の圧力をかけるつもりだろう。日本の参加表明が遅れたため、米国からの注文が増えた印象はぬぐえない。日本が聖域の論議を持ち出した影響で、米国や他の交渉国で保護主義的な主張が息を吹き返すのも心配だ。高い水準の自由化を目指すTPPの「純度」を、これ以上落としてはならない。新設する日米の枠組みが過去の日米協議と本質的に異なるのは、一方的制裁を定めた米通商法の効力が失われている点だ。対立的にせず、対等な立場で、是々非々で議論できるはずだ。米国の個別業界のエゴが出やすい2国間協議にとらわれすぎず、TPP交渉でのルールづくりに集中すべきである。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130410&ng=DGKDZO53777170Z00C13A4PPD000
(日経新聞 2013.4.9)抗がん剤治療の保険続々 国内未承認の薬も対象に
 がん患者が受ける抗がん剤治療を対象にした保険や特約が充実してきた。抗がん剤によるがん治療を受ける患者が増えるなか、保険会社は顧客の要望に応えて商品のラインアップを増やしている。最近では、未承認の抗がん剤まで対象とする保険も登場している。国立がん研究センターによると、がんの3大治療法である手術、放射線、抗がん剤のうち、抗がん剤治療を受ける患者は約4割にのぼる。抗がん剤の開発が進んでいることが背景にある。
 東京海上日動あんしん生命保険の「抗がん剤治療特約」は、通院や入院を問わず抗がん剤治療を受けたときの費用を給付対象とする。受け取れる金額は月5万円と10万円の2パターンから選べる。アフラックも「生きるためのがん保険デイズ」で、入院しなくても抗がん剤治療費用を保障するプランを販売している。オリックス生命は2012年6月に「がん通院特約」を発売した。抗がん剤、放射線治療などで通院した場合は日数の限度なく給付金が支払われる仕組みだ。ソニー生命の「抗がん剤治療特約」は給付金額を月5万~15万円から1万円ごとに選べる。住友生命は3月、がん保障特約「がんPLUS」を発売した。医師ががん治療の目的に使用する抗がん剤を、公的医療保険の適用外となる未承認の場合でも給付対象としている。将来誕生する新薬も対象に含まれる。通院による治療にも適用される。
 がんに有効な新しい治療法が世界各国で開発されているが、国内で未承認の抗がん剤による治療は公的な健康保険が適用されない。未承認の抗がん剤を給付対象とする民間の医療保険もなかった。抗がん剤保険は、抗がん剤や、その副作用に対する治療技術が進歩し、入院をせずに通院でがん治療を受ける患者が近年増加していることに対応したものだ。厚生労働省によると、外来での抗がん剤治療の実施は11年に14.1万件に達し、05年の2.3件人から約6倍に増えている。

*3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013041290065607.html
(東京新聞 2013年4月12日) TPP 19道県が農林水産業試算 乳製品「全滅」
 政府が環太平洋連携協定(TPP)に参加した場合を想定し、十九の道県が地元の農林水産業への影響を独自に試算していることが本紙の調べで分かった。全道県で生産額は減少。千葉、茨城などでは牛乳・乳製品で、生計を立てられる農家がゼロになることを意味する「全滅」と判定されるなど、大きな影響が出ることが浮き彫りになった。十九道県で計一兆六千億円減る計算で、他の二十八都府県も含めれば、総額で三兆円減少するとした政府試算を上回る可能性が高い。政府は三月十五日、安倍晋三首相がTPP交渉参加を表明した際、農林水産業への影響試算を公表。
 十九道県は、これを受けて独自に試算を行った。政府試算と同様に、交渉参加十一カ国との関税が即時撤廃されて、米国などから安い農産品が輸入されるという前提で計算。ただ、地域の生産量や競争力をほとんど考慮していない政府試算と違い、各道県が県内の状況に合わせて独自に評価した。農林水産物の減少額を最も多く想定したのは北海道の四千七百六十二億円で、道の農業産出額の約47%に達する。鹿児島、宮崎、茨城、栃木、千葉、岩手を含めて計七道県が約三~四割にあたる一千億円以上減少するとした。政府試算は各品目がTPP参加により生産が減少する率を一つの数字に統一して計算した。例えば牛乳・乳製品は減少率45%と計算したため、消費者の人気や品質の差が与える影響が、数字からは見えなかった。減少率を個々に割り出した十九道県の調査では、茨城、栃木、千葉など十一県は牛乳・乳製品を「全滅」と判定。外国から安い価格の加工乳が入り、そこから乳製品をつくるようになるため、壊滅的なダメージが出ると予測されている。一方、政府が70%減とする豚肉は、生産額日本一の鹿児島が減少率を45%としたのに対し、滋賀や高知は「全滅」と試算した。

*4:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=20308
(日本農業新聞 2013年4月11日) 大学教員867人 反TPPで結束 国民に危険性発信
 「環太平洋連携協定(TPP)参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の代表者6人は10日、東京・永田町の参院議員会館で記者会見を開き、全国の大学教員が連帯して広範なTPPの危険性を国民に情報発信していく決意を表明した。文系・理系問わず多様な分野の大学教員867人が9日までに同会の趣旨に賛同。TPP推進派との公開討論や政府の影響試算の分析・検証、各国の事情に配慮したアジアの柔軟な経済連携のルール作りなどを研究し、交渉脱退を求める運動につなげる考えだ。
 TPPの危険性が国民に理解されていないとして東京大学の醍醐聰名誉教授ら17人が呼び掛け人となり、交渉参加阻止を目指す大学教員の組織化を提案。安倍晋三首相による3月15日の交渉参加表明の撤回と、事前協議の即時中止を求める要望書を掲げて同月28日から賛同人を募り、2週間足らずで経済、国際、地域論、社会学、教育、医療、物理、化学など800人を超える広範な分野の大学研究者が趣旨に同意した。要望書は9日、政府に提出した。記者会見では、交渉参加表明と併せて政府が公表したTPP参加の影響試算の分析に加え、農業経営者や流通・加工など関連産業の事業者の所得や、地方財政への影響などを独自に試算する考えを示した。また交渉参加国との事前協議について政府に情報公開を求め、内容を分析し発信する。醍醐氏は「ほぼ全領域を網羅した研究者がTPPの危険性を指摘している。研究を基に理解を呼び掛け、情報を発信する社会的使命を大学の研究者は持っている」と同会の意義を強調した。
 また、横浜国立大学の萩原伸次郎名誉教授は「さまざまな場面で賛同者を広げ、交渉脱退への道筋をつくる」と述べた。慶応義塾大学の金子勝教授は「交渉参加は日本の法体系の根本を揺るがしかねない問題だ。不正確な情報を正し、公正に検証し、冷静な議論を深める」と指摘。東京大学大学院の鈴木宣弘教授は「TPPではなく、柔軟で、均衡ある発展、住民の幸せにつながるアジアの経済ルール の方向性を示したい」と話した。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 07:08 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.2.28 「聖域なき関税撤廃」でなければ農業や日本の主権が守れるというわけではなく、TPP参加は日本の主権を失う可能性のある問題であるため、自民党の公約さえ守ればよいということはない
      
          稲作                りんご畑               梅畑
(1)何が聖域に当たるのか
 ここで言われる「聖域」とは米のことだろうが、農業は、米だけを生産しているわけではない。むしろ、米の自給率は100%以上で高く、他の農産物の自給率が非常に低いのである。そして、他の農産物では、*1のように経営規模が日本全体の平均より大きな北海道でさえ「無理だ」と言い、*3のように、もう一つの食料基地である九州でも「無理だから慎重に」と言っているのだから、本当に国益がないと考えるべきである。昨年12月の衆院選で自民党が「聖域なき関税撤廃が前提なら交渉に参加しない」と公約して総選挙に勝ったからと言って、それで農業や国益が守られるわけではなく、また、有権者は、その公約で充分だと積極的に評価して自民党に票を入れたわけでもないので、言葉遊びはやめるべきだ。

(2)「聖域なき関税撤廃」が行われなければ農業は守れるのか
 仮に、自動車の排ガス規制や自動車税と引き換えに米(コメ)の関税が維持されたとしても、その他の農産物が守れるわけではない。さらに、自動車の排ガス規制や自動車税も、環境によいエコカーを推進し、必需品としての軽自動車には負担をかけないという理由があって行っているものだから、これを非関税障壁などと言われても困る。さらに、遺伝子組換作物の禁止、BSEの全頭検査、農薬の規制など、食品の安全を守るために行っている規制を、非科学的な非関税障壁として他国に追及され、わが国の主権が奪われるようなことがあっても困るのである。

(3)交渉すれば、何が守れるのか
 私は、FTA交渉において1対1でも守れないものは、TPP交渉で多国を相手にすれば、さらに守れないと考える。特に、中国との関係で日米安保を維持してもらいたいアメリカに対し、わが国が強い条件を出せるわけがない。従って、TPPに参加するのは国益にならないため、さわらぬ神に祟りなしなのだ。

(4)規制をすべて他国に任せていいのか
 排ガス規制を強めることによって、わが国の自動車は世界に先んじてクリーン車になった。
 また、わが国では遺伝子組換作物を禁止しているが、その理由は、遺伝子工学はどうにでも応用できるし、遺伝子組換作物を栽培する時に自然界に花粉が飛べば、それが自然の植物と混ざって生態系を変えるからである。アメリカでは、遺伝子組換で害虫に強い大豆ができており、日本の規制は非科学的だと言われているが、この遺伝子組換大豆は害虫だけを殺して人間には全く悪影響がないか否かは保証の限りではない。さらに、害虫の方も次第にその大豆に適応してくるので、さらに強い殺虫性が必要になる。そうすると、他国に輸出する大豆であれば、人への安全性より栽培が簡単で収量が多い方がよいという動機付けが働いても少しもおかしくない。つまり、それぞれの規制を他国に任せることは、わが国の国益にはならないのだ。

(5)TPP参加は、日本の国益になるのか
 *1、*2、*3、*4に書かれているように、政府は、農業はじめ医療分野などに考えられるメリットとデメリットを金額で表示して議論を促すべきである。その結果は、全体としてマイナスが限りなく大きく、幕末の日米不平等条約と同じくらいどうしようもない悪条約になると、私は予想している。

      

*1:http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/444814.html
(北海道新聞社説 2013年2月27日) TPPと農業 「参加ありき」は論外だ 
 これでは最初から「参加ありき」ではないか。農業関係者の多くはだまされたような思いだろう。安倍晋三首相は、先の日米首脳会談で「聖域なき関税撤廃が前提ではない」ことが確認できたとして、環太平洋連携協定(TPP)交渉に近く参加表明する意向を示した。両首脳の共同声明は「全ての物品が交渉の対象」とし、双方に重要品目があると認めた上で「最終的な結果は交渉で決まる」としている。要するに、やってみなければ分からないということだ。こんな当たり前のことを言質とは言わない。
 そもそも日米を除く10カ国が参加しているのに、2国間の合意が交渉全体の行方を縛ると考える方がおかしい。これで関税撤廃の例外品目が聖域として確保されたと解釈するなら、ごまかしである。日本がこれまで締結した経済連携協定(EPA)などでは、全品目の1割に当たる約840の農水産物を関税撤廃の例外としてきた。高い水準の自由化を目指すTPPでは、仮に例外が認められても、品目数は大幅に絞られる恐れがある。象徴的に扱われるコメさえ守れば済む話ではない。
 特に道内農業への影響は深刻だ。コメにとどまらず、小麦、ビートといった輪作体系に欠かせぬ作物や酪農などへの打撃は避けられまい。しかも道内の農業者は、政府が目指す大規模な耕作を行い、農業所得を主とする主業農家の割合も都府県に比べはるかに高い。道の試算では関連産業を含め影響額は2兆1千億円に上り、食料基地の根幹を揺るがす。対策抜きでは、農家は将来の展望を持てなくなる。その肝心な農業支援策や強化策の中身が不透明だ。政府・自民党は民主党政権時代の戸別所得補償に代わる制度の設計に着手したが、支援を担い手に集中するかどうか、方向が定まらない。政府の産業競争力会議は、農産物の輸出拡大、6次産業化の推進などを打ち出した。「攻めの農業政策」というかけ声は勇ましいが、具体策の検討は始まったばかりだ。どんな対策を講じても、関税撤廃に対応するには膨大な財源が必要になる。国民的議論もなく、巨額の支出に理解が得られるだろうか。
 首相は、参加の判断について自民党執行部から一任を取り付けた。自民党の「TPP参加の即時撤回を求める会」には、同党国会議員の過半数が名を連ねている。とりわけ、先の衆院選で参加の「断固阻止」を掲げた道内選出議員の責任は重い。このまま参加を容認するのは明らかに公約違反である。

*2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130227-00000002-okinawat-oki
(沖縄タイムス社説 2月27日)  [TPP交渉参加]功罪明示し議論尽くせ
 安倍晋三首相とオバマ米大統領は23日、環太平洋連携協定(TPP)交渉について関税撤廃の例外を認める内容の共同声明を発表した。首相は近く交渉参加を正式表明する見通しで、TPP問題は大きな転換点を迎えた。共同声明は「一方的にすべての関税を撤廃する約束を求められるものではない」と明記し、日本の農産品や米国の工業製品など「敏感な問題」の存在を挙げている。首相はこれをとらえ、「聖域なき関税撤廃が前提ではなくなった」として、自民党から交渉入りの判断について一任を取り付けるなど、表明に向けて一気に環境整備を進めている。
 共同通信社が実施した全国世論調査によると、TPP交渉参加への賛成は1月の53%から63%へと10ポイント上昇した。反対は25%にとどまり、容認の方向に傾いている。農業団体などの支持を受ける自民党内の慎重派も、内閣支持率の高さや、夏の参院選を前に党内対立を避けたい思惑から、強硬に反対を貫けない事情がある。ただし共同声明は、「すべての物品が対象になる」ことや、「包括的で高い水準の協定を達成していく」ことも盛り込んでいる。つまり例外が認められるかどうかも含め、全て今後の交渉で決まっていくと確認したにすぎない。デフレ脱却への掛け声と呼応するようにTPP参加のメリットが前面に出がちだが、政府は農業をはじめ医療分野などに予想されるデメリットも明示した上で、徹底した国内論議を促すべきだ。
    ■    ■
 沖縄経済にとっては、サトウキビと畜産への影響が最も懸念される。JA沖縄中央会の小那覇安優会長は「関税撤廃に例外があるというのは言葉のあや、ごまかしだ」と厳しく批判し、あらためてTPP交渉参加に反対を表明した。例えば、サトウキビを原料とする粗糖には、コメや小麦などとともに高い関税を課すことで国内の産地を守ってきた。生産量とともに生産額のシェアも年々減少してきたサトウキビだが、製糖工場など製造業への波及効果や、地域・離島経済における重要度は依然として高い。医療や福祉分野からも反対の声が上がっている。一方、メリットがあるとされる第2次産業は、全産業の総売上高に占める比率が全国平均の3分の1以下で輸出額も少ない。そのため、沖縄県工業連合会はメリットを見極められないでいる。
    ■    ■
 首相は26日の日本経済再生本部会合で、交渉参加をにらんだ農林水産業の具体的な強化策を図るよう指示した。農地集約や若い世代を呼び込み、担い手を重点的に支援する方向だ。また「美しいふるさとを守る」とも述べ、中山間部の農業を維持することも求めた。しかし、これらは約20年前から掲げてきた農政の課題と何ら変わりはない。米国に限らず、各国はそれぞれの思惑を持っている。日本は拙速に交渉参加へ踏み込んではならない。今こそ慎重かつ徹底的な論議を必要としている。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2407746.article.html
(佐賀新聞 2013年2月27日) 「両院総会で承認を」TPP参加首相一任で
 環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加をめぐり、安倍晋三首相が自民党役員会で一任を取りつけ、交渉参加に前向きな姿勢を見せていることについて、佐賀県選出の同党国会議員は、農業団体など党内外への丁寧な説明や詳細な情報を開示した上で、慎重に判断するよう求めていく考えを強調した。自民党は昨年12月の衆院選で「聖域なき関税撤廃が前提なら交渉参加しない」という公約を掲げ、県内3小選挙区を独占した。
 佐賀1区で初当選した岩田和親衆院議員は「聖域なきTPPは反対ということで選挙を戦った。日米共同声明では、どの程度聖域が守られ、日本にどれほどのメリットがあるか分からず、細かな情報開示がなければ判断できない」と困惑。「首相の口から直接、説明する場を設けてほしい」と要望する。
 今村雅弘衆院議員は「関税撤廃の例外があるとの確認を取ることはできたが、TPP全体ではまだ問題点が多い。政府には農業団体など関係者の意見も聞き、慎重に対応するよう求めていく」とした。
 保利耕輔衆院議員は26日に党内の慎重派議員でつくる議連会合で「(今夏の)参院選前に大きな決定をするなら、両院議員総会を開いて承認を得るべき」と発言。役員会での一任という形ではなく、党内をまとめる丁寧な手続きが必要との考えを示した。
 同党県連会長の福岡資麿参院議員は「共同声明で例外があり得ると示されたのは一つの成果」としながらも、「農業関係者など不安を持つ団体には丁寧に状況を説明していくことが重要」との認識を示した。

*4:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2405872.article.html
(佐賀新聞 2013年2月23日) JA全中会長、TPPで「反対」 / 交渉参加は「信頼を裏切る」
 全国農業協同組合中央会(JA全中)の万歳章会長は23日、日米首脳会談を受け、環太平洋連携協定(TPP)に関して「今のような状況で交渉に参加するのは反対であり、政府・与党はわれわれの信頼を裏切るような判断を絶対にすべきではない」とのコメントを発表した。万歳会長は、日米の共同声明に対し「TPPの特徴である聖域なき関税撤廃を前提にしたものとしか理解できない」と指摘。TPPの影響の政府統一試算がなく、政権公約で示した6項目の判断基準も満たされたと確認できないとして「交渉参加を判断すれば、国益を毀損」と主張した。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 01:35 AM | comments (x) | trackback (x) |
2012.11.22 TPP参加におけるわが国の第一次産業、特に農業の問題点
 現在、強力にTPPを推進しているのは、*1のとおり、経済産業省とその傘下にある工業の製造業だ。日本は、第二次産業の振興には成功したため、日本国内での円高・人件費高・人材難を除けば国際競争力があるが、そのような企業は、円高・人件費高・人材難を避けて、すでに外国に子会社や合弁会社を作り、現地で生産・販売しているため、TPPに参加するか否かは、さほど重要ではないと思われる。

 一方、第一次産業(農業、林業、水産業、鉱業)は、戦後の近代化、工業化の中で打ち捨てられ、経営を合理的に行う尺度たる会計基準も存在しない産業である。実際、私は、わが国には農業、鉱業の会計基準すらなく、国際会計基準にはきちんとした基準があり、その内容が合理的であるのに驚いたことがある。この事態は、その産業が、その国でどれだけ重視されてきたかの尺度でもあり、経営に差がつくのも当然であるため、TPPとは関係なく、わが国でも急いで改善しなければならないことだと思っている。

 そして、これから人口過剰になる地球を考えた時、希少価値を持つ製品は、新興国でも次々と大量生産できるようになった工業製品ではなく、食料・エネルギーだ。そのうち、食料の生産をする農業がTPPでは打撃を受け、日本政府は、“競争力のある”農業製品以外は、捨ててもよいという時代錯誤の判断をしようとしている。が、農業で、世界で勝負した時、“競争力のある”製品となるのはどういうものだろうか? 例を挙げれば、ハウスで液肥を使って大量生産された形だけはよいが栄養価の低いトマトや、手をかけて育てたが日本人でも買えないような高価格に差別化されたブランド農産品ではないだろうか?

 しかし、農業に求められるものは、①有機肥料等による生産で、国民に、安全で美味しく栄養価の高い食料を提供すること ②自然と向かい合って生産することにより、食料生産しながら環境を守ること などの多角的機能である。そのため、これで競争力を持つように努力はしなければならないが、それが、化学肥料等で大量生産された農産物より価格競争力があるとは思えず、次第に真心をこめた品質の高い日本の農産物の方が淘汰される運命になりそうだ。そのため、TPPに参加すれば、日本国民にとっては不利である。一方、アメリカにとっては有利であるため、アメリカは進めたいのである。

 また、科学技術の背景も変った。今では、化学・工学だけでなく、生物学やDNAの研究が進み、生物の形質自体を人間が操作するツールが増えたため、①品種改良の時間が短縮された ②過去には思いもよらなかった品種改良ができるようになった などの変化がある。例えば林業における木材では、花粉の出ない杉もできており、木目の美しさ、硬さ、成長の早さなどを品種改良すれば、家具や家を作るのに適した木材や、紙を作るのに適した木材など、材料自体を進歩させることもできるだろう。

 農林漁業は、国内的に、これらの改善が終わって、本当の意味で国際競争に勝てるようにならなければ、TPPで国際競争すれば、深刻な事態になると思う(*2、*3参照)。そのため、大メディアでも、正確に問題点を取り上げて、指摘すべきである。

*1:http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=1103&f=politics_1103_007.shtml (Searchina 2011/11/3) TPP交渉 早期参加が国益に 枝野経産大臣
 枝野幸男経済産業大臣は、2日午後4時過ぎから経済産業省内で開かれた内閣官房主催のTPP協定交渉に関する討論会に出席し「(TPP交渉に参加するかどうか)時間をとれるなら最大限時間をとって議論すべきだと思うが、あまり遅れると、日本はこのルールに入るのか、入らないのかの選択を迫られることになる」と語り、選択を迫られる段階で無く、ルールづくりの段階で交渉参加していくべきとの考えを示した。
 また、「TPP参加が農業や漁業に深刻な影響を与えるのは明らか」として参加に反対している加藤好一生活クラブ連合会長が「東京新聞はAPECでも手遅れという記事を載せていたが」と枝野大臣に向けたのに対し、枝野大臣は「(手遅れというのは何を根拠にしているのか分からないが)ルールづくりにコミット(参加)するには遅いことは間違いない。早ければ早いほど(ルールづくりに)コミットできる」と早期参加が国益につながるとの考えを述べた。特に、枝野大臣は「市場原理の行き過ぎの中で、最低限のルールをつくっていこうとしている。だからこそ、日本の考えを織り込んでいく必要がある」とも語った。
 枝野大臣は農業の国際競争力について「競争力という言葉は変えた方が良い。安いものを沢山つくることが競争だという(昔の)イメージがあるから」とし、「高いけれどもいいものを売る」という付加価値の高い商品づくりと第2次産業の技術と農業をやる人とをつなぐことの重要性などについても語った。
 TPP討論会は下村健一内閣官房審議官が司会をつとめ、枝野大臣、加藤氏、新浪剛史ローソン代表取締役社長が日本の経済活力をいかに高めるか、農業の競争力強化、アジア・太平洋地域のルールづくりをテーマに1時間を超えて議論し、ネットでライブ中継された。加藤氏はTPP参加は日本の農業の競争力を高める良い機会になるとした。又、農業に産業界が資金やノウハウを支援、サポートしていくことの重要性も語った。

*2:http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/
(新潟日報社説 2012/11/17) TPP 国益にかなう議論必要だ
 衆院が解散された。12月4日公示、16日投開票の衆院選で、争点となる重要課題は多い。
 各党、候補者が今回初めて姿勢を問われるのが、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題である。野田佳彦首相が自ら、解散直前に争点化に意欲を示した。昨年11月に交渉参加に向けて関係国との協議に入る方針を野田首相が示してから、1年が過ぎた。だが、この間、議論はほとんど進んでいない。推進派、反対派の主張は対立し、真っ二つに割れたままだ。是非を論じようにも、メリットとデメリット、具体的な影響など判断材料が国民に十分に提示されているとは言い難い。論戦を通じ、国民的論議を深める機会にしなければならない。
 最大の焦点が農業分野であり、農業県の本県でも関心が高い。貿易自由化の影響が懸念され、基盤強化へ抜本対策を示すことが不可欠だ。政府は昨年、規模拡大を柱とした農業再生策をまとめた。だが、これで果たしてTPPに対応しきれるのだろうか。目玉の農地の集約化一つとっても、はかどっていない。政府は水田農業の規模を1戸当たり20~30ヘクタールに拡大する目標を掲げたが、実現性には疑問符が付く。農地を拡大すれば将来展望が開ける環境にもない。長期にわたるコメの生産調整(減反)、需要減、価格低迷、高齢化…。農政の構造的な歪みが露呈している。これまで繰り返してきたような場当たり的、小手先の策では、自由化の荒波に到底太刀打ちできまい。TPPを争点とすること自体に、何ら異議はない。ただ、野田首相の立ち位置はどこにあるのか。自民党を揺さぶる対立軸にしようというだけのことなのか。民主党のマニフェスト(政権公約)原案に「交渉参加を表明」と盛り込んだが、党内で反対論は根強く離党者も出た。交渉参加は経済界からは支持されるだろうが、農業団体などは強く反発している。
 TPPを主導してきた米国のオバマ大統領が再選された。交渉参加で日米関係をより強固なものにしたいとの思惑もあろう。日本が議論を先送りしているうちに、メキシコとカナダは正式にメンバー入りを果たした。交渉入りには、参加国との事前協議で承認を得なければならない。日本は、米国との事前協議に関する調整が難航している。米国は日本の参加を認める条件として自動車、保険、牛肉の市場開放を求めている。政局に絡めた「駆け込み」で決めることはできない。賛成、反対だけで論じられるものではない。国益に沿った通商戦略を描くことだ。最善の道に導くのは、政治の役割にほかならない。

*3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012111501001758.html
(東京新聞 2012年11月15日) JA全中が都内で反TPP集会 1500人が参加
 JA全中が開いたTPP交渉への参加表明に反対する集会=15日午後、東京都千代田区
全国農業協同組合中央会(JA全中)は15日、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加表明に反対する集会を都内で開き、組合員ら約1500人が参加した。JA全中は関税の撤廃は日本農業に壊滅的な打撃を与えるとして、交渉への参加反対を衆院選で候補者や政党を支援する条件としている。自民党の大島理森前副総裁はあいさつで「例外なき関税の撤廃に党として明確に反対する」とTPPへの慎重姿勢をあらためて示した。民主党から出席した一川保夫幹事長代理は、TPPの議論を契機に農業の重要な役割を国民が理解しつつあるとし、「チャンスと捉え農業強化の施策を構築していく」と語った。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 11:28 AM | comments (x) | trackback (x) |
2012.11.12 私も、TPP参加に反対です。
        

 *1のように、野田総理大臣が、今月後半にカンボジアで開かれるASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳会議でTPP交渉参加を表明するのではないかと言われているが、国内で話し合う前に外国で意思表明して既成事実化するのはやめてもらいたい。野田首相は「守るべきものは守る」と言っているそうだが、それなら、参加を表明する前に、何をどう守らなければならないのか、そしてそれは可能なのか否かついて、リストと守るべき理念を作って話し合いができていなければならない筈だが、それはない。

 そして、*3は、BSE対策の牛肉輸入規制が、現行の「20カ月以下」から「30カ月以下」に緩和されるというように、日本の食品基準がアメリカから非関税障壁だと言われて緩和される例だが、BSEについては、日本国内では全頭検査しているものだ。このように、農産品を安価で大量に生産して輸出したい国と、その食品を輸入して食べなければならない国とでは基準の厳しさや判断の視点が異なり、一律に同じ基準にすればよいというものではない。また、エネルギー自給率や食料自給率は、高く保っておかなければ、安全保障上の問題があるが、TPPに参加すれば、そのための対策もできないだろう。

 それぞれの国の考えがあって質が保たれ、産業振興をしているどの産業も、非関税障壁はもちろんいけないが、主権の放棄は、さらにまずいと思われる。

*1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121112/k10013414591000.html
(NHK 11月12日) TPP 超党派議員が反対申し入れへ
 野田総理大臣が、次の衆議院選挙に向けた民主党の政権公約にTPP=環太平洋パートナーシップ協定を推進していく方針を盛り込む考えを示しているなか、TPPの交渉参加に慎重な超党派の議員は、今週、拙速な交渉参加に反対する決議をとりまとめ、野田総理大臣に申し入れることにしています。
野田総理大臣は、次の衆議院選挙に向けた民主党の政権公約に、太平洋を囲む国々で関税の撤廃などを進めるTPP=環太平洋パートナーシップ協定を推進していく方針を盛り込む考えを示しています。こうしたなか、TPPの交渉参加に慎重な超党派の議員は、民主党の山田元農林水産大臣や自民党の加藤元幹事長ら与野党13党などの議員が呼びかけ人となって、今週15日に集会を開くことになりました。交渉参加に慎重な議員は、野田総理大臣が、今月後半にカンボジアで開かれるASEAN=東南アジア諸国連合の首脳会議の場で交渉参加を表明するのではないか、などと警戒感を強めていて、できるだけ多くの議員に集会への参加を呼びかけ、拙速な交渉参加に反対する決議を取りまとめ、野田総理大臣に申し入れることにしています。

*2:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20121111-OYT1T00282.htm
(読売新聞 2012年11月11日) TPP「曖昧」の自民・公明両党、争点化に苦慮
 環太平洋経済連携協定(TPP)を争点にして衆院選に臨む野田首相の戦略に、自民、公明両党が頭を悩ませている。両党とも、党内にTPP参加に賛否両論があり、方針をはっきりさせず曖昧なままにしたいためだ。自民党内では、明確な方針を示すべきだという意見もくすぶっている。自民党の石破幹事長は10日、名古屋市で記者団に、TPPについて「我が党は、聖域なき関税撤廃には反対だ。首相は『守るべきものは守る』と言っているが、一体何を守るのか。説明責任を果たしていない」と述べた。自民党は、谷垣禎一前総裁の執行部当時、TPPについて、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対」という基本方針を定めた。TPPについて直接的な評価を避けた表現となっており、今の執行部もこれを踏襲している。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2323395.article.html
(佐賀新聞 2012年11月6日 )牛肉の輸入緩和方針を正式決定 / 米国など4カ国と協議へ
 厚生労働省は6日、牛海綿状脳症(BSE)対策として実施している牛肉の輸入規制で、米国などからの輸入を認める牛の対象月齢を現行の「20カ月以下」から「30カ月以下」に緩和する方針を正式に決めた。内閣府の食品安全委員会が10月に「30カ月以下に緩和しても人への健康影響は無視できる」と答申したのを受けたもので、同省がこの日、薬事・食品衛生審議会部会に報告、了承された。厚労省は今後、米国、カナダ、フランス、オランダの4カ国と月齢管理のための体制整備などをそれぞれ協議し、最終的に同審議会に報告した上で、来年初めにも輸入規制を緩和する。

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 04:21 PM | comments (x) | trackback (x) |

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