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2018.4.22 データは、集め方、解釈、使い方が重要で、そのためには、その分野に関する総合的な知識が必要なのである ← しかし、みんなで考えれば、よい解決策も出るだろう (2018年4月23、25、26、27、28、30日、5月2、3日追加)
   
  名目と購買力平価によるGDP      欧州・中国・日本の電源構成
                       2018.4.17、14東京新聞   

(図の説明:日本は物価水準が高いため、名目GDPでは中国との差が小さいが、購買力平価換算では中国との差が大きい。また、日本は、最も自国に有利で環境にも良いエネルギーである再生可能エネルギーの採用を進めず、電源構成に占める再エネ割合はヨーロッパだけでなく中国よりも小さい上、今後の普及計画も見劣りする)

   
 アジアの再エネ  世界の再エネ  日本のレアアース      原発再稼働への
  導入ペース   普及と電力価格               九州電力の執念 
  2018.4.19   2018.4.15    2018.4.19        2018.4.21
  日経新聞     東京新聞    西日本新聞        西日本新聞

(図の説明:世界は、再エネの普及時代に入り、それに伴って電力価格が下がっている。また、アジアの再エネ普及は他地域を上回っている。日本は、南鳥島付近の海底にレアアースが大量に存在することがわかり、21世紀の電源構成を邪魔する者は、現在は既得権益者しかいない)

(1)経済発展には総合的知識に基づいた計画性が必要であること
1)中国の出資規制緩和について
 中国は、1992年10月の14回党大会以降、市場経済に基づく社会主義(社会主義市場経済)と世界経済への参入に進路を明確化し、*1-1、*1-2のように、外資系企業が中国へ進出する際には、中国企業(もしくは個人)と合弁させ、外国資本の出資割合は50%以下しか認めなかった。これは、中国が市場を開放するにあたって自国の産業を育成するためで、技術を吸い尽くしていらなくなった外資は、追い出すこともできるようにした。私は、この頃、中国に進出する日本企業のケアをするために中国の外資規制を調査して、その巧みさに感心して唸った。
 
 その中国政府は、2018年4月17日、乗用車分野への外国企業の出資規制を、2018年中にEVなどの新エネルギー車、2020年にトラックやバスなどの商用車、2022年に乗用車で撤廃すると発表した。しかし、今や中国の新エネルギー車は国際競争力を持っており、新エネルギー車で出遅れた日本や米国の自動車メーカーにとっては、特に事業拡大の機会にはならないだろう。日本の経産省は、馬鹿の一つ覚えのように自由貿易のみを提唱しているが、1980年代と同様、日本の自動車産業の方が進んでいると考えている点が思考停止で甘い。

 しかし、中国政府は、2018年末までに造船・航空機の外資規制も撤廃するそうで、これらはまだ世界中でガソリン・エンジンを使っているため、日本が新エネルギー製品を投入すればリードできそうだが、日本の経産省は現状維持に汲々としており、環境でリードしようという先進的な意気込みがない。 
 
2)再エネに関する日本の遅れ
 また、中国では、*1-3のように、政府が2007年に再エネ拡大計画を立てて再エネが急速に増え、2017年の発電に占める再エネ割合は約33%となり、2050年には再エネを中心にするそうだ。また、世界1位、2位の企業を含めて200社以上の太陽光発電機器メーカーが激しく競い合い、値下げ競争をしているため、太陽光電力の価格が下がっているとのことである。

 さらに、日本の東電福島第一原発事故を受けて中国政府が原発の建設計画を大幅に見直し、2013年以降、原発の新規建設計画を承認しておらず、2050年には大半の電気を再エネで賄い、EVも再エネで動くことになるそうで、これは、私が、1995年前後に、日本で(もちろん世界でも)最初に提唱し、馬鹿者どもの逆噴射でつぶされたことだった。

 また、再エネは、*1-4のように、アジアでも急伸し、世界全体の伸び率の5割を大きく上回って5年で倍増しており、それを牽引しているのは中国とインドとのことだ。また、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなどでは、100万キロワット以上のギガソーラーが相次いで建設されており、エネルギーの脱炭素化と脱原発は進むであろう。

 しかし、日本では、*1-5のように、25年経ってもまだ「再エネを主力電源にするには技術上の課題がある」などとしているが、競争力はやっている人につき、やらない人にはつかないので、最初から見極めることなどできない。そもそも、20~25年もの間、「再エネは自然条件による変動の大きい」などとして解決策を講じず、それを解決しないのも論外である。

 さらに、日本の場合は、*1-9のように、大手電力会社が自らの経営のために原発再稼働を望み、まだ原子力か火力で発電することしか考えず、*1-6のように、「送電線に空き容量がない」として再エネ電力の送電を拒んで、新規参入してきた再エネ事業者を破たんさせてきた。このシステムは、日本で起業が少なく、*1-8のようにイノベーションが進まない理由の一つである。

3)レアアース
 希少金属のレアアース等は、自動車産業、電子産業を始めとして広い分野で使われ、現在の先端技術に不可欠な資源だが、その殆どは中国で産出されている。そして、経産省は「資源は輸入するもの」という頭を切り替えられず、日本の先端産業は中国の意図次第で左右されるようになっている。

 そのような中、*1-7のように、海洋研究開発機構や東大のチームが、日本の排他的経済水域内の南鳥島沖にレアアース等が1600万トン超埋蔵されているとの推計を発表した。国としてやればすぐできるのに、相変わらず「現時点で利用できる見通しは立っていない」「今後10年で採掘技術を開発する」など、国の真剣さがないわけだ。

4)化粧品の「爆買い」と品切れ
 このようにぼけっとしていながら、*1-10のように、中国人客が「爆買い」して中国で転売されるとして、ブランドイメージ低下を懸念して、日本の化粧品メーカーが顧客に購入個数の制限を求めたそうだ。

 しかし、同じアジア人であるため、化粧品に望まれることが近く、今は売れるのが当たり前の時で、これは有難いことであって、今のうちに中国に販売ルートを作って必要な特許を取り、ブランドイメージを打ち立てなければならないにもかかわらず、「アルバイトを使って買い占めた」「化粧品の爆買い」などと客を馬鹿にしたり、購入禁止にしたりしている。そんな態度では、それに近いものが中国で安く生産され、日本人もそちらを買うようになるだろう。
 
 つまり、日本人は、日本人を持ち上げるために、中国などの中進国や後進国の人を馬鹿にすることが多いが、実際には、日本は、1980年代から30年に渡って進んでいないことに、謙虚に気付くべきである。

(2)教育研究の重要性
1)研究とイノベーション
 全米科学財団(NSF)がこのほどまとめた報告書で、*2-1のように、科学技術の論文数で中国が米国を上回り世界1位となったそうだ。2016年に発表された論文数は、中国が約43万本で約41万本の米国を抜き、3位以下は、インド、ドイツ、英国で、日本は6位だった。

 研究はイノベーションに直結するため、研究者の質と量の確保が重要なのだが、日本だけ研究論文数が13%減っているのである。これは、「勉強だけできても」などと無意味な比較をしたり、理数系教育を疎かにしたり、研究者をポスドクにして冷遇したりしたせいで、*2-2のように、過度に不正を言い立てて研究者の地位を魅力ないものにしたことも一因だろう。

2)個人情報の利用はどこまで認められるか
 日経新聞は、*2-4のように、「データの世紀だ」「データは情報資源だ」「データを集めろ」「データは新たな石油だ」などと言っているが、データは、①誰が ②何の目的で ③どういう集め方をして ④どのように比較したりトレースしたりして結果を出すか についてきちんと計画していなければ、ただのゴミだったり、個人情報の不正利用になったり、監視社会を作ったりする。私は、誰かが失敗するまで、それがわからないのを不思議に思う。

 そして、*2-5のように、8700万人の会員情報を不正流出させた米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者は、米議会上院の公聴会で証言して全面的に謝罪したが、利用者の個人情報を利用して利益を得る組織はフェイスブックだけではない。また、*2-6のように、利用者の個人情報を悪用するのもIT関連企業だけではなく、コンピューターウイルスの作成者でさえ野放しになっている現在、悪用の防止は不可能である。

 そのため、欧州では2018年5月に、企業などに個人情報の厳格な扱いを義務づける「一般データ保護規則」が施行されるそうで、日本も、欧州や米国などの先進国並みに個人情報保護を重視すべきだ。

(3)データ分析と研究
 日立製作所・ヤマトホールディングスなどの大手企業9社が、*3-1のように、データ分析の専門家「データサイエンティスト」の育成に乗り出し、そのデータサイエンティストには統計学に加え、データを取捨選択して問題解決につなげる能力も求めるそうだ。

 しかし、問題解決は、その分野の十分な知識がなければできないため、それぞれの分野(例えば、医学・薬学・マーケティングなど)の人がデータ分析の知識を持つべきなのであり、“データ分析のプロ”が問題解決をできるわけがない。また、“統計学を専門に教える大学”で、統計学しか勉強しなかった人が、どういう問題なら解決できるのか疑問だ。

 さらに、*3-2のように、日本の科学研究の実力が急速に低下しているのは、科学者や研究者を大切に育成しなかったことが原因である。そして、政府支出を評価する「独立財政機関」を設置しても、そこが正しい評価をできなければ、天下り先として政府支出がさらに増えるだけで、「政府研究開発投資はGDP比の1%にすることを目指す」というような支出金額の目標しか立てられないのであれば、単なる無駄遣いになるだろう。

 それでは、何故、そのようなお粗末な結果になってしまっているのかと言えば、*3-3の「全国学力テストの小6と中3で、これまで国語と算数・数学しかテストしていなかったが、3年ぶりに理科を加えて3教科で実施する」というように、近年、勉強することをないがしろにしているからである。

 そう言う理由は、上に書いたように、イノベーションのもとになる研究があっても、経営者・官僚・政治家・メディア・国民などがその価値を認めて前に進める態勢をとらなければ、イノベーションの種を殺してしまうからで、そのためには、文系・理系を問わず、必要な知識を持っておくことが必要不可欠だからである。

(4)データの読み方


  平均寿命の推移    医師数/人口1000人     GDPの推移  家電普及率推移

(図の説明:日本人の平均寿命は、1950年には男58.0歳、女61.5歳だったが、1965年まで急激に上昇し、その後2010年までは少し緩やかなカーブで上昇している。そして、2011年の東日本大震災で短縮したが、その後、さらに緩やかなカーブで上昇し始め、90歳~100歳の間で収束するように見える。1965年までの急激な上昇は、栄養状態・衛生状態の改善により乳児死亡率(0歳で死亡するため平均値を下げる)が減ったためだと言われている。その後、1965~2010年のカーブは少し緩やかになって漸増している。この平均寿命のカーブは、人口1000人当たりの医師数のカーブより、人口一人当たりのGDPのカーブや洗濯機・冷蔵庫などの家電普及率のカーブに似ている。そのため、長寿には、まず十分でバランスの良い栄養による体力づくりや清潔さが必要で、それでも病気になった場合に医師が関与して治癒させることが大切だということがわかる。なお、2011年の東日本大震災を境に寿命の伸びが緩やかになり、これを生活習慣病が原因だとする人もいるが、生活習慣病だけが原因なら1990年頃から寿命の伸びが緩やかになってよかった筈だと思うので、死亡原因別の死亡率推移も比較すべきだ)

1)県毎の平均寿命・健康寿命の比較
 2015年の都道府県別平均寿命は、滋賀県が長野県を抜き、男性が全国1位、女性が4位となって、長野県は30年ぶりに男性トップを奪われたそうだ。*4-1のように、どちらも健康を重視していることには変わりないが、県ごとに原因追及を行って対策を講じるのはよいことだ。

 また、*4-2のように、男女を合わせた平均寿命を1990年と2015年で比べると、都道府県の格差は広がっており、2015年トップの滋賀県(84.7歳)と最下位の青森県(81.6歳)は3.1歳の差があるそうだ。そのため、生活習慣(喫煙、食生活など)の見直しは必要で、都道府県間の格差分析は生活環境や実態の違いを把握するのに有効だろう。

2)介護保険制度について
 厚労省は、*4-3のように、介護が必要な高齢者の身の回りを世話する「生活援助」について、平均以上の利用回数になる介護計画を市町村に届けるよう義務づけ、過剰な利用を洗い出し、本人の自立支援や重度になるのを防ぐ中身かどうか検証するそうだ。

 しかし、何が過剰かの判断は重要で、生活援助を減らすと新たに施設に入らなければならない高齢者も出るため、施設を増やして高齢者を収容した方が安上がりで高齢者のQOLが高くなるのか否か熟考すべきだ。何故なら、月30~40回(1日1~2回)と生活援助の利用回数が多い高齢者というのは、甘えている人というより、重篤だが自宅で過ごそうとしている独立性の高い高齢者だと思われるからである。

 なお、介護サービスの需要は実需であり、介護保険制度は始まって20年未満であるため、介護給付費が2025年にかけて現状の2倍の20兆円規模まで膨らむと予想されるのは全く自然で、生活援助が給付費の1%程度であるにもかかわらず無駄遣いを指摘する声が多いのは、「家事は仕事のうちに入らない楽なものである」と考える人が少なくないからだろう。しかし、多くの老夫婦世帯で生活援助は必要不可欠であるし、男性だけが残った世帯ではさらに重要になっている。

 そのため、生活援助のより安価な担い手を確保したり、保険適用と保険不適用(自由)の混合介護をやりやすくして、安いから頼むのではない実需を探って適正額を決め、必要と認められるものは速やかに保険適用にしていくのがよいと考える。

 なお、*4-4のように、介護保険料を8割の自治体で上げ、健保組合は全国の約1400組合のうち3割が2018年度に保険料率を引き上げたので、給付抑制が必要だとする意見がある。しかし、現在の介護保険料は40歳以上からしか徴収していないため、まず受益者である働く人すべてから介護保険料を徴収するように改正し、価格の高すぎる機材の必要性とその価格の見直しから始めるべきだ。

<経済発展への総合的知識の必要性>
*1-1:http://qbiz.jp/article/132030/1/ (西日本新聞 2018年4月17日) 中国、車の外資規制撤廃へ EV18年、乗用車22年に
 中国政府は17日、乗用車分野への外国企業の出資規制を、2022年に撤廃すると発表した。現在は現地合弁企業に対する50%までの出資しか認めていないが、この規制を取り除く。電気自動車(EV)などの新エネルギー車は18年中に、商用車では20年に、それぞれ出資規制を撤廃する。日本の自動車メーカーにとっては、中国事業拡大のチャンスになりそうだ。自動車分野の規制緩和は、米国や日本が強く求めてきた。米中貿易摩擦などで中国市場の閉鎖性への批判が高まる中、基幹産業である乗用車分野の開放策を打ち出すことで、改革・開放政策の継続を印象付ける狙いだ。中国政府は、ガソリン車などを含む乗用車での撤廃により、自動車業界での出資規制は全てなくなると説明している。中国の習近平国家主席は10日の演説で、改革・開放政策を進めるために自動車などの分野で市場開放に取り組む姿勢を示していた。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180418&ng=DGKKZO29492320X10C18A4MM8000 (日経新聞 2018年4月18日) 中国、車の外資規制撤廃 22年に、市場開放アピール
 中国政府は17日、外資系自動車メーカーの乗用車分野の出資規制を2022年に撤廃すると発表した。同年までに電気自動車(EV)や商用車など自動車産業の外資規制をすべて撤廃する。米国との貿易摩擦をにらみ、市場開放をアピールするのが狙い。世界最大の自動車市場で日本勢を含む外資メーカーの経営戦略の自由度が高まりそうだ。国家発展改革委員会が新しい政策を発表した。習近平(シー・ジンピン)国家主席が10日に博鰲(ボーアオ)アジアフォーラムで表明した自動車産業などの外資規制の緩和方針を受け、自動車の分野別にロードマップを明らかにした。これまでは外資の出資は50%が上限だった。外資規制撤廃の時期は、18年中にEVなどの新エネルギー車、20年にトラックやバスなどの商用車、22年に乗用車とする。中国政府が17年4月に発表した自動車産業の中長期発展計画では「25年までの外資規制の緩和」としており、時期を前倒しするとともに撤廃にまで踏み込んだ。過半出資にこだわって中国進出が難航する米電気自動車メーカー、テスラなどを後押しする狙いとみられる。新エネ車を除き原則2社までだった中国での自動車生産の合弁会社数の制限も22年に撤廃する。中国政府の新しい外資規制撤廃で、日本勢を含む外資メーカーは中国市場での経営の自由度が高まる。一方、外資系自動車大手幹部は「中国側の協力を得られなくなると中国事業にマイナスに働くので、出資比率の引き上げは慎重に考える必要がある」と漏らす。具体的な規制緩和の扱いについても「これから公表される詳細な細則などをみないと分からない」(外資系メーカー幹部)との指摘もある。中国政府は自動車以外でも、18年末までに造船、航空機製造の外資規制を撤廃する。すでに公表した金融以外でも、18年以降にエネルギーや資源、インフラ、交通、流通分野で規制緩和を順次進める方針を打ち出した。中国の新車販売台数は17年で2887万台。世界2位の米国の1.7倍、日本の5.5倍に達する。乗用車を中心に独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)、日産自動車、ホンダ、トヨタ自動車が合弁で生産するブランドが上位を占める。規制緩和によって中国市場で外資と中国メーカーの競争が進み、業界再編が進むとの見方も出ている。

*1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201804/CK2018041402000147.html (東京新聞 2018年4月14日) 【経済】<原発のない国へ 世界潮流を聞く> (1)中国「50年には再生エネ中心」
◆中国国家気候変動戦略研・李俊峰教授
 世界各国で太陽光、風力など再生可能エネルギーが飛躍的な拡大を続けている。日本政府が依然、原発を基幹電源として位置付け、再生エネルギーが伸び悩んでいるのと対照的だ。世界潮流から何を学ぶべきか。国内各地の再生エネ導入の現場をルポした第一部に続き、研究者やビジネスマンなど世界の専門家たちにエネルギー事情の最前線を聞く。
-中国の再生エネの導入状況は。
 「中国政府が二〇〇七年に再生エネの拡大計画を立ててから、再生エネが急速に増えており、一七年の発電に占める再生エネの割合は計約33%に増えている。これまでは水力、風力の割合が大きかったが今後は太陽光が急増する。二〇年の目標は35%だが、前倒しで達成できるかもしれない。経済政策を立案する国家発展改革委員会は三〇年の目標として、温室効果ガスを排出しない非化石電力である再生エネと原子力で電気の50%超を賄うことを掲げている。原子力はこのうち5%にも満たないだろう」
-再生エネ増加の背景は。
 「技術が進歩し、大量生産が可能になった。太陽光発電用のパネルなど設備投資費用は〇七年から十年間で八分の一まで下がり、いまも急速に下がり続けている」
「これに伴い発電費用は下がるので、電力会社が発電会社から買い取る際の固定価格も大規模太陽光は今年は一キロワット時当たり〇・五五元(九・二円)まで下がっている。これも日本(本年度十七円)の半額だ。二五年には石炭より安くなり、買い取り制度そのものが不要になるだろう」
-なぜそれほど設備投資費用が下がっているのか。
 「太陽光発電設備を作るメーカーが激しく競っているためだ。中国では太陽光メーカーは世界一、二位の企業を含め二百社以上がひしめき合っている。いまや中国メーカーが世界の太陽光生産の70%を占める。風力タービンのメーカーも二十社以上ある。受注を巡って値下げ競争が起きている」
-原発政策は。
 「中国政府は日本の東京電力福島第一原発事故を受け、原発の建設計画を大幅に見直した。一三年以降は新規の建設計画を承認していない。すでに建設中の原発はあるが、二〇年時点の原発の設備容量の目標はもともとの百二十ギガワットから半分以下の五十五ギガワットに大幅に下方修正している」。「建設途上にある国産原子炉が成功すれば、流れが変わるかもしれないが、原発の問題は高い建設費用と安全性だ。人口が大きい中国ではどこに建てたとしても集住地域が近くにあり、安全面のリスクが高い。中国の国土は広いが、最終処分場をつくるメドもたっていない」
-中国は自動車もガソリン車から電気自動車(EV)に転換する計画を発表しているが、発電以外の計画は。
 「二〇五〇年には大半の電気を非化石電力で賄うことになり、再生エネが中心になっているだろう。EVの電気も再生エネで賄うことになる」
<り・しゅんほう> 中国国家気候変動戦略研究・国際協力センター教授。同センターはエネルギー政策を研究し政府に助言している。過去には中国の国家戦略を立案する国家発展改革委員会のエネルギー研究所副所長も務め、政府の再生エネの関連法や中長期計画の立案に携わった。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180419&ng=DGKKZO29568160Z10C18A4MM0000 (日経新聞 2018年4月19日) 再生エネ、アジアで急伸 5年で倍増、中国けん引
 再生可能エネルギーの導入がアジアで急拡大している。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の調べによると2017年末の発電容量は5年でほぼ倍増。世界全体の伸び率の5割を大きく上回った。太陽光発電を推進する中国やインドの伸びが大きい。環境意識が強い欧州などに加えアジアでも採用が増え、世界で再生エネの存在感がいっそう高まりそうだ。17年末の再生エネの発電容量は21億7900万キロワットだった。発電方式別では水力が53%、風力が24%、太陽光が18%と続く。太陽光の構成比が過去5年で約2.6倍となり、伸びが大きい。けん引するのが中国で、太陽光が5年で36倍に増えた。13年に再生エネを高い価格で買い取る制度を導入して大気汚染の一因とされる石炭火力発電を抑制。太陽光発電施設の新設が相次ぎ、中国資本の太陽電池メーカーも育った。太陽光発電はパネルの価格下落で発電コストが5年で約半分に下がったうえ「風力ほど設置や運営のノウハウが要らない」(自然エネルギー財団の大林ミカ氏)。中国では17年も16年に比べ68%増えるなど増加率は高水準が続く。水力発電も過去5年で36%増えた。足元で再生エネの導入が急速に進んでいるのがインドだ。17年の増加率は18%と、比較可能な01年以降で最高となった。ソフトバンクグループが合計2千万キロワットの再生エネ発電所を建てる計画を掲げ、17年4月に一部設備が稼働した。日本では過去5年で2.1倍に増えた。増加分の96%が太陽光だ。発電容量の地域別構成比はアジアが42%、欧州が24%だ。欧州も過去5年で30%増えたが伸び率はアジアより低かった。国際エネルギー機関(IEA)によると、再生エネが世界の総発電量に占める比率は16年に24%に高まった。40年には再生エネの発電量が2.6倍に増え、総発電量の40%に高まるとみている。アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなどでは100万キロワット以上の太陽光発電施設「ギガソーラー」が相次いで建設されている。

*1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180411&ng=DGKKZO29216810Q8A410C1EE8000 (日経新聞 2018年4月11日) 再生エネ「主力」へ技術課題 2050年戦略、競争力見極め難しく
 経済産業省は10日、省内の有識者会議で2050年に向けた国の長期エネルギー戦略の提言を取りまとめた。太陽光や風力など再生可能エネルギーを「主力電源」にする目標を明記した。ただ再生エネを主力にするには技術的な課題も多い。火力なども含めてどの電源や技術に経済性や競争力があるのか、今後も難しい見極めが迫られる。今夏をめどに閣議決定するエネルギー基本計画に反映する。再生エネを主軸としつつ蓄電池や火力、原子力など多様な技術や電源を組み合わせて変化に対応できるようにする。エネルギー情勢を客観的に分析し、最適な選択に向けた判断材料を示す新組織も設立する。再生エネは海外に比べて高コストから脱却できておらず、発電システムの一層の効率化を事業者に促す。再生エネの大量導入を受け入れられる送配電網の整備も課題。天候や季節で出力が変動する弱点を補うためには、火力発電など他の手段の活用も必要になる。それぞれに技術的な課題が多く50年の明確なエネルギー構成は示せなかった。原子力は依存度を低減する方針を明記する一方、「脱炭素化の選択肢」として「安全性や経済性、機動性に優れた炉の追求」も続ける。10日の会議では原子力について、「地球温暖化への対応を考えると依存度低減は合理的ではない。逃げてはだめだ」(コマツの坂根正弘相談役)といった意見が出た。一方で「推進しないほうがいい」(イーズの枝広淳子代表取締役)との異論もあり、明確な方向付けはできなかった。

*1-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180418&ng=DGKKZO29496450X10C18A4EE8000 (日経新聞 2018年4月18日) 再生エネ拡大へ、送電線空き活用 経産省会議が対応策
 再生可能エネルギーの普及拡大を議論する経済産業省の有識者会議は17日、発電コストの低減策や、送電線の空き容量を柔軟に運用するルールなどを盛り込んだ対応策の骨子をまとめた。今夏にも改定するエネルギー基本計画に反映する。有識者会議は送電線の利用ルールを見直し、使える容量を拡大する「コネクトアンドマネージ」を2018年度から順次導入する方針を示した。空き容量をどこまで活用できるかを今後、経産省と電力会社で詰める。自然条件による変動の大きい太陽光や風力などの再生エネを大量に導入する場合、電力の需給バランスを保つ方法を確保する必要がある。骨子では蓄電池や水素などのコスト低減を目指し、技術開発を加速する方針も明記した。政府は2030年度に再生エネ比率を22~24%にする目標を掲げている。再生エネを主力電源とするためには、詳細な制度づくりや技術開発に課題が残る。

*1-7:http://qbiz.jp/article/132184/1/ (西日本新聞 2018年4月19日) 南鳥島沖の深海に希土類1000万トン超 世界消費の数百年分
 海洋研究開発機構や東京大のチームは、太平洋の南鳥島沖の深海底で見つかったレアアース(希土類)を含む泥の濃度を調査した結果、2500平方キロの範囲で埋蔵量が1600万トンを超すとの推計を発表した。周辺は日本の排他的経済水域(EEZ)内で、世界で消費されるレアアースの数百年分に相当する大量の資源だとしている。ただ実用レベルの採掘技術が存在しないため、現時点で利用できる見通しは立っていない。東京大の加藤泰浩教授は「企業や研究機関と検討を進め、今後10年で実際に使える採掘技術を開発したい」と話している。チームはこれまでに南鳥島沖の水深約5千メートルの海底にジスプロシウムやイットリウムなどを含む泥が2500平方キロにわたって広がっているのを発見している。調査船で25カ所の海底を掘削して泥に含まれるレアアースの濃度を調べると、北西部の約100平方キロで特に濃度が高かった。この海域だけで120万トン、全体では1600万トンを超す埋蔵量があると推定される。泥に含まれる粒状の生物の骨や歯には多くのレアアースが含まれ、それらをすくい上げて回収することで採掘コストを抑えることができるとチームはみている。

*1-8:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180411&ng=DGKKZO29236340Q8A410C1CR8000 (日経新聞 2018年4月11日) イノベーション、日本勢創出難しく 研究者3000人調査 「国際的成果少ない」26%
 文部科学省科学技術・学術政策研究所は10日、日本の産学の研究者約3000人を対象とした意識調査の結果を発表した。国際的に突出した成果が日本から出ているか、との質問では回答者の26%が前回調査に比べて状況が悪化していると回答した。政府は画期的な研究成果をイノベーションにつなげて経済成長を実現する方針だが、研究現場の認識と大きな開きがあることがうかがえる。同研究所は、研究現場の意識変化を継続的に追う目的で2016年に調査を初めて実施。17年末に同じ回答者を対象に2回目の調査を実施して1回目と比較。対象者は大学や公的研究機関に所属する約2100人、企業に所属する約700人で回答率は92.3%だった。国際的に突出した成果が生み出されているかとの質問は26%が前回よりも悪化しているとした。変化なしは68%で、改善したとするのは5%だけだった。状況を10点満点にすると回答者の平均は大学所属の研究者が4.1と前回に比べ0.58ポイント低下、産業界も0.5ポイント減の4だった。研究成果がイノベーションにつながっているかという質問でも20%の回答者が悪化とした。ポイントも大学で0.4ポイント低下の4.1、産業界は0.29ポイント減の3.3だった。日本の研究状況が悪化している理由として、中国やインドの台頭による国際的な地位低下、学術論文の動向などを挙げた。ベテラン研究者の固定観念が若手研究者の自由な発想を妨げているのではとの回答もあった。ノーベル賞の受賞などは近年目立つものの、過去の蓄積によるもので今後は研究力が落ちる一方という意見も多かった。

*1-9:http://qbiz.jp/article/132329/1/ (西日本新聞 2018年4月21日) 九電、社長交代で成長戦略へかじ 原発4基実現へ、経営再建にめど
 九州電力のトップが約6年ぶりに交代する人事が固まった。2011年の東京電力福島第1原発事故後、大きく傷んだ経営を立て直す環境づくりに一定のめどがついたことが背景にある。今後、重要度が増すのは成長戦略。瓜生道明社長から後を継ぐ池辺和弘氏が、成長の歩みをどのように進めるのかが焦点だ。原発の長期停止による火力発電の燃料費負担増加で、九電の財務は急激に悪化。2012年3月期から4年連続で赤字を計上し、有利子負債は約1・5倍に膨らんだ。収支改善と電力の供給力確保が喫緊の課題となる中、瓜生氏は原発再稼働を推進。川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)は福島事故後で全国第1号となった。並行して経費削減を徹底。16年の電力、17年のガスと続いた小売り全面自由化、20年の発送電分離に向けた「カンパニー制」導入など、重要課題への対応も指揮した。3月の会見では「嫌というほど濃密な6年間だった」と振り返った。最後の大きな課題が川内1、2号機と玄海3、4号機(佐賀県玄海町)の原発4基体制の実現。玄海3号機が蒸気漏れで一時発送電が停止になったものの、4号機の再稼働への影響は抑えられ、「経営の大きな節目」(九電幹部)を乗り越える見通しがついた。役員の序列では10人抜きで社長に昇格する池辺氏。昨年6月に22人抜きで取締役常務執行役員に就いた後は、若手社員のアイデアや他社技術を活用した新規事業創出に携わり、トップとして成長戦略を進めるための布石との見方もあった。一方、財務は好転しているとはいえ、自由化で競争は激化し、経営環境はなお厳しい。池辺氏も策定に関わった中期的な財務目標では連結の経常利益を17〜21年度の平均で1100億円以上などと掲げるが、社内でも「かなり高い目標」との見方がある。池辺氏は2月、役員制度の見直しに関する記者会見で「意思決定の迅速化が重要」と語った。九電が目指す「日本一のエネルギーサービスを提供する企業グループ」実現のためには、スピード感ある対応が鍵を握る。

*1-10:https://digital.asahi.com/articles/ASL3Z52XCL3ZULFA00Z.html (朝日新聞 2018年3月31日) 化粧品「爆買い」制限広がる 品切れ・海外への転売懸念
 化粧品メーカーが顧客に商品の購入個数の制限を求める動きが広がっている。訪日客向け販売の急増による品切れや、一部が海外で転売されていることが背景にある。訪日客への販売増で業界は好調だが、品切れによる既存顧客への悪影響や、転売によるイメージ低下の懸念から、購入制限を求めざるを得なくなっている。
●「バイト20人で買い占め」 化粧品「爆買い」の実態
 ファンケルは2月、メイク落とし「マイルドクレンジングオイル」の購入個数を「1週間に1人10個まで」とする日中2カ国語の顧客向け通知を直営店に出した。中国人客が「爆買い」したとみられる商品が現地で転売される例が見つかり、ブランドイメージ低下を懸念した。コーセー子会社のアルビオンは昨年末から、「アルビオン」ブランドの乳液の購入を1日1個に制限。ネットに顧客向けの「お願い」を日中英3カ国語で出した。訪日客への販売増で生産が追いつかなくなったという。資生堂は2月ごろから、銀座の百貨店などで「SHISEIDO」ブランドの美容液の購入を1日1個に制限。店頭に営利目的購入を禁じる日中英3カ国語の掲示も出した。制限は「多くのお客様に届けるため」(広報)という。購入制限は訪日客増とともに2015年ごろから目立ち始めた。最近は対象商品が増え、1回あたりの個数の上限も減らす傾向にある。訪日客向けが好調で、資生堂とポーラは直近の決算で営業利益が過去最高、コーセーも最高益の見込みだが、急増した販売の「副作用」が購入制限という形で表面化している。

<データと研究>
*2-1:https://www.sankei.com/world/news/180125/wor1801250041-n1.html (産経新聞 2018.1.25) 科学・工学分野の論文数、中国が初の首位 米国抜く 日本6位 米財団調査
 各国の科学技術力の分析に当たる全米科学財団(NSF)がこのほどまとめた報告書で、科学技術の論文数で中国が初めて米国を上回り世界首位となったことが分かった。日本は6位となり、新興国ではインドにも追い抜かれており、科学技術立国としての基盤低下が懸念されそうだ。報告書はNSFが2年ごとにまとめている。2016年に発表された論文数は中国が約43万本となり、米国の約41万本を抜いた。3位以下はインド、ドイツ、英国が続き、日本は6位と低迷した。7位以下はフランス、イタリア、韓国。報告書がまとめた統計によると、直近10年間の国別の論文数の推移は、中国が約124%増と大きく飛躍。インドも182%増と伸び、新興国の躍進が著しい。日本は13%減った。米国が7%増、欧州連合(EU)域内は28%増だった。論文数を分野別にみると、中国は工学分野で欧米を上回ったが、医学・生物学分野では米国などが優位を保った。中国は科学研究の底上げのため、民間を含む研究開発費を増加させている。論文数増加は、こうした事情が背景にあるとみられる。

*2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASL454HRCL45PLBJ005.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2018年4月12日) 研究不正、大学教育で防げ 「インチキ論文」見破り方も
 東京大分子細胞生物学研究所や京都大iPS細胞研究所など、著名な機関で研究をめぐる不正が相次いでいる。国は大学や研究機関に対して、ビデオ教材などによる不正防止教育を求めているが、効果はいま一つだ。そうした中、危機感を募らせた大学の間では、学生たちが不正に手を染めないようにと、独自の教育プログラムを取り入れる試みが広がり始めている。「どこが、どう怪しいのか。どう修正すべきか。考えをまとめてください」。滋賀県立大の高倉耕一准教授(生態学)が、学生たちに呼びかけた。受講する十数人の学生が持ち寄ったのは、健康器具や化粧品などのチラシ。他社製品との違いをアピールする言葉が並ぶ。「事例紹介ばかりで、肝心のデータがない」「グラフの目盛りを操作して効果を大きく見せている」。学生たちが、互いに意見をぶつけあう。大学院の「環境研究倫理特論」という授業のひとコマだ。
●不正見抜くソフトの使い方も
 「身近なチラシの観察は、自分が不正に手を染めず、上からの不正の指示に批判的に対処するためのトレーニングです」と高倉さん。この授業は昨秋から今年2月まで15回行われ、学内外の9人が講師を務めた。「インチキ論文」を見破る技術として、画像の切り貼り・使い回しや不正な統計処理などを見抜くソフトの使い方を教えたり、過去の研究不正の裁判記録を読み解いたりした。「特論」を企画した原田英美子准教授(植物科学)は、主任教授などの上司が指示し、若手を巻き込んで組織的に行われる「トップダウン型」の不正を念頭に置いたという。若手は生活のために、人事権者の理不尽な指示に従わざるを得ない。「学生には怪しい論文や研究室を見抜く目を持ち、近づかないようにしてほしい」と話す。互いに意見を出し合って問題の解決策を探るアクティブ・ラーニング(参加型)の授業は学生に好評で、今秋にも同様のプログラムを予定している。
●過去の不正を題材に議論
 東京工業大でも、大学院の修士課程で、選択科目として研究倫理の講義を行っている。2016年度は約290人、17年度は約240人が受講した。座学のほか、ほぼ毎回グループ討議を行う。過去の不正事例を題材に「科学者が重視すべき価値」、「不正が起きた原因や背景」などについて、学生同士で話し合う。講義を担当した東工大の札野順教授(科学技術倫理)は「論文の作成・出版は、本来、研究成果を共有し、研究をより進める手段にすぎない。しかし、それ自体が目的化していることが不正の背景にある」と指摘する。「研究する意味や目的を正しく知れば不正はおのずと減るはず」。19年度からは、対象を学部1年生から博士課程までに拡充する計画だ。
●「不安定な雇用環境が背景」指摘も
 京都大iPS細胞研究所で1月に発覚した研究不正は、任期付きで採用された30歳代の研究者が起こした。成果を出さないと次のポストが得られない若手の不安定な雇用環境が、不正の背景として指摘されている。若手だけでなく、研究代表者らも、国からの補助金が減り続ける中で予算獲得の強い圧力の下にある。科学界全体が過度の成果主義にさらされている。研究不正の防止に特効薬はなく、海外でも大きな課題となっている。東京大医科学研究所の技術専門職員で、日本医療研究開発機構の主査として海外の事例を調査した池上徹さんによると、たとえばカリフォルニア大学のある教員は、「倫理、および『生き抜く』術」と題した討議やロールプレー(役割演技)などのプログラムを導入。研究倫理上問題となる具体的な状況を参加者たちが自ら設定し、論文の責任著者、研究グループの代表者、雑誌の編集者、資金を出した機関の人などの立場で対応を演じ合う。研究者として生き残るため、正解のない問題に対して、自分ならどうするかを考えてもらう試みだ。他大学の教員らの間でも、同様の取り組みが草の根的に広まりつつあるという。
●文科省の不正防止教育「不十分」
 日本では文部科学省が、国の研究費を受ける条件として、不正防止教育を大学などに課している。ただ、ビデオ教材を視聴する「eラーニング」が中心で、不正防止には不十分との指摘は多い。一方、東工大や滋賀大のように教育カリキュラムに組み込む大学独自の参加型のプログラムは、まだ全国でも数えるほど。国立大学の法人化を機に、国からの運営費交付金が減り、新たな教育プログラムに必要な専門の教員を雇う十分なお金が大学側にないという事情もある。池上さんは「研究倫理を、大学の研究教育の一分野として確立する必要がある。そのための予算と教員の措置は、ぜひとも必要だ」と指摘する。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180403&ng=DGKKZO28878060S8A400C1MM8000 (日経新聞 2018年4月3日) データの世紀 情報資源、世界を一変、始まった攻防(1)人体から宇宙まで 企業・国、先頭競う
 世界各地で毎日、企業の活動や個人の行動などから膨大な量のデータが生み出される。つぶさに分析すれば成長の原動力になる「新たな資源」だが、人の行動を支配しうるリスクも抱える。企業や国を巻き込んだ攻防も始まり、世界はデータの世紀に入った。3月27日。英下院の委員会に、赤く染めた短髪にスーツ姿の男性が現れた。米フェイスブックで約5千万人分のデータが不正流出し米大統領選の選挙工作に使われた疑いが浮上。男性は問題を内部告発した英データ分析会社、ケンブリッジ・アナリティカの元社員だ。この会社は流出データの提供を受けていた。証言に費やされた時間は延々、3時間半。米国では大統領選への関与が注目されている。一方、英国で議論を呼んだのは、委員の質問に淡々と答えていたこの男性が、2016年の英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票にも関与していたと示唆したことだ。委員「もしその関与がなかったら?」。男性「国民投票の結果は、違っていたかもしれません」
●「新たな石油」
 データ分析は個人の行動をも動かす領域にまで高度化した。全世界のフェイスブックの利用者は月間20億人以上。「フェイスブック上での反応を分析して広告を打てば、消費者を大きく動かせる」。米コロンビア大学のサンドラ・マッツ准教授らの研究では、「いいね!」ボタンの押し方などから得た嗜好に沿ってその個人に合った化粧品の広告を流すと「購買数は54%増えた」という。全世界で1年間に生み出されるデータの量は既にギガ(10億)の1兆倍を意味する「ゼタ」バイトの規模に達する。米調査会社IDCの予測では、25年に163ゼタバイトと16年比10倍に増える。これは全人類一人一人が、世界最大の米議会図書館の蔵書に相当するデータを生み出すような規模だ。ネットの検索履歴や車の走行情報が新サービスを生み、経済や政治のデータがマネーを動かす。「データは新たな資源」「新たな石油」。米インテルやIBM、中国アリババ集団などIT(情報技術)大手の経営者は口をそろえる。限りある石油と違い猛烈な勢いで膨張するデータを、世界中の企業が吸い上げる。宇宙からは、モノの動きを見逃すまいと人工衛星の「目」が光る。港のタンカーの出入りやスーパーの駐車場の稼働状況から、公式情報より早く経済の動向を予測。データを駆使するヘッジファンドが利益を上げる。「全世界を毎日撮影する」。日本でも超小型人工衛星開発のアクセルスペース(東京・中央)が18年秋、大きさ数十センチメートルの衛星を3基打ち上げ、最終的に50基に増やす。「衛星画像を様々なデータなどと組み合わせて分析すれば、ビジネスになる」(中村友哉社長)
●病気リスク軽減
 データは命をも救いうる。米アルファベットは17年4月、傘下企業を通じ1万人の心拍などの健康情報を少なくとも4年間集めるプロジェクトを始めた。日本でも内閣府と東京大学や京都大学が共同で18年6月から、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」技術を使い生活環境と血圧の関係を即時測定する実証実験を始める。病気リスクの軽減が狙いだ。20世紀を石油の世紀とすれば、21世紀はデータの世紀。その先頭を走るのがグーグルやアップルなど「GAFA」と呼ばれる米IT4社だ。合計時価総額は10年代前半、かつて「セブン・シスターズ」と呼ばれた石油大手4社を逆転した。急拡大ぶりは、勃興時の石油産業の姿にも重なる。石油の大量供給は世界で自動車産業の発展をもたらした。一方、巨大化の弊害も指摘された。ジョン・ロックフェラー氏らが19世紀後半に設立したスタンダード石油は1911年に反トラスト法(独占禁止法)で分割。後に栄えたエクソンやテキサコなど巨大7社も、今は4社に集約された。現在は、肥大化したGAFAに対する逆風が世界で強まる。歴史は繰り返す。データの世紀が問いかけるのは、産業構造の転換や企業間の攻防にとどまらない。石油の世紀には、石油輸出国機構(OPEC)が誕生。中東諸国による石油支配を生み出し、石油危機を通じて先進国経済を大きく揺さぶった。そのアキレスけんを守ろうと米国が同地域に軍事介入する結果となった。データの世紀は米国1強にもみえる。だが世界のルールと一線を画す独自政策で、官民を挙げて世界中からデータの収集にかかる中国のような国もある。ロシアもデータの力で世界を揺さぶる。「宗教や民族や国家といった従来の枠組みに代わり、情報を軸とした新たな世界秩序の構築が始まる」。慶応義塾大学の山本龍彦教授は、そう予言する。その行き先を、まだ誰も知らない。

*2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13446853.html (朝日新聞 2018年4月12日) FB全面謝罪、議会追及かわす 情報流出でザッカーバーグ氏、米公聴会証言
 米フェイスブック(FB)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が10日、米議会上院の公聴会で証言し、最大8700万人の会員情報が不正流出した問題について全面的に謝罪した。だが、利用者の個人情報を利用して収益をあげる巨大IT企業の事業モデルそのものへの不信感は拭えていない。(ワシントン=香取啓介、青山直篤、江渕崇)
■対策講じ、低姿勢貫く
 ダービン議員「昨日どこのホテルに泊まったか教えてくれませんか?」。ザッカーバーグ氏「ここでは明らかにしたくありません」。ダービン氏「これがプライバシー。FBが集めている情報なのです」。公聴会では上院定数の半数近い44人の議員が次々と質問。追及は5時間近くにわたった。普段のTシャツ姿ではなく、紺色のスーツに水色のネクタイを締めて臨んだザッカーバーグ氏。「我々は会社を経営する上でたくさんの間違いを犯してきました」などと対策の遅れや不十分さを謝罪し、低姿勢を貫いた。「世界の人々をつなぐ」との理想を掲げるFBは、誰でも無料で使える。その代わり、利用者がインターネット上に出す個人情報を元にして広告主に広告スペースを提供し、収入を得る。創業14年で、利用者は世界で20億人を超えた。情報の不正流出が発覚したのは3月。アプリを通じて利用者の個人情報が抜き取られ、2016年の米大統領選でトランプ陣営を支援した英選挙コンサル会社に不正利用された疑惑が持ち上がった。偽ニュースの拡散を許し、選挙への介入を招いたとの批判もある。FBは先週来、アプリ開発者の情報へのアクセス制限や広告表示の自主規制など、対策を発表。議員からは政府による規制に関する質問も相次いだが、ザッカーバーグ氏は「正しい規制なら歓迎する」と応じ、論戦にならないようにした。広告なしの有料版を検討しているか問われると「広告モデルが10億人単位の人々にサービスを届ける唯一の道だ」と答えた。追及をかわしたかにみえるザッカーバーグ氏だが、不信感はくすぶっている。「使命よりも広告の価値を上位に置く事業モデルなのに、米国人のプライバシーを守るために自らの意思で本当に変われるとどうして信じられるだろうか」。ハッサン上院議員はこう問いかけた。
■規制強化求める声も
 問題が深刻になった背景には、米巨大IT企業が情報や富を独占し、米政治や社会がその悪影響への懸念を強めていることがある。米調査会社によると、フェイスブックとグーグルだけで昨年の米デジタル広告市場の6割以上を稼ぎ、寡占度合いは年々高まる。欧州に比べ、独占に甘い競争政策をとってきた米国だが、今回の問題を契機に流れが変わる可能性はある。欧州では5月、企業などに個人情報の厳格な扱いを義務づける「一般データ保護規則」が施行される予定で、ザッカーバーグ氏も順守を誓った。米国でも同様の厳しい規制が必要だとする見方が出ている。ニューヨーク大学のロバート・シーマンズ准教授は「データの収集や利用について人々が注意を払うきっかけになった。消費者が完璧なプライバシーを得ることはできなくなっている」と話す。

*2-6:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/204114 (佐賀新聞 2018年4月12日) FB悪用対策「不十分」
 米交流サイト大手フェイスブック(FB)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は10日、個人情報の不正利用やFBを通じたロシアの米大統領選介入など一連の問題について、対策の不備を認めて陳謝した。「悪用防止に十分な対応をしていなかったのは明らかだ。私の過ちで、申し訳ない」と述べた。上院司法委員会と商業科学運輸委員会の合同公聴会に出席した。サイト利用者保護のため、偽アカウントや投稿内容を確認する要員を年内に5千人増やし、約2万人にすると表明。個人情報の収集や利用に関し、規制強化の必要性を指摘する議員らに「正しい規制であれば歓迎する」と一定の理解を示した。一連の問題でのザッカーバーグ氏の議会証言は初めて。反省の姿勢を強調し、イメージ悪化や利用者離れの食い止めを図った。株式市場では再発防止策の説明が評価され、FBの株価は前日と比べ、4・5%上昇した。ザッカーバーグ氏は、モラー特別検察官によるロシア疑惑捜査にFBが協力中だと明らかにした。自身は聴取を受けていないと語った。最大8700万人分の利用者の個人情報を不正取得した英政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカについて、2015年に情報削除を要求したが実際は消されず、確認が足りなかったと責任を認めた。同社は16年米大統領選でトランプ陣営のために個人情報を使ったとされる。大統領選中にFBに虚偽情報を投稿していたロシア企業インターネット・リサーチ・エージェンシーに関し「約470のアカウントやページがあり、約8万件の投稿をしていた。約1億2600万人が影響を受けたと推定される」と説明した。

<研究とデータ分析>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180402&ng=DGKKZO28858360R00C18A4MM8000 (日経新聞 2018年4月2日) データ分析のプロ、産学で育成 日立など9社、5大学と
 日立製作所やヤマトホールディングスなど大手企業9社がデータ分析の専門家「データサイエンティスト」の育成に乗り出す。東京大学など5大学と組み、企業が持つビッグデータを使った大学院生の育成プログラムを始める。産業のデジタル化と人工知能(AI)の導入が進むなか、データを扱える専門家の層の厚さは企業の競争力を左右する。産学が手を携え実践的な専門家を育てる。データサイエンティストには数値の規則性を探り出したりする統計学に加え、データを取捨選択して問題解決につなげる能力も求められる。業界ごとの課題を理解し企業のエンジニアと意思疎通することも要求される。フリーマーケットアプリ大手のメルカリ(東京・港)ではデータサイエンティストが利用履歴などをもとに、サイト画面の改善や顧客動向の予測につなげている。パナソニックは17年、製品の故障予測などを目指し、優秀なデータサイエンティストが在籍する米企業を数十億円で買収した。日本では統計学を専門に教える大学が少ないなど、育成体制に課題があった。課題解決に向け「一般社団法人サーキュラーエコノミー推進機構」を立ち上げた。日立やヤマトに加え、アステラス製薬、NTTドコモ、MS&ADインシュアランスグループホールディングスなどが参画。元経済産業事務次官の望月晴文氏が代表理事に就いた。推進機構は東大、京都大など5大学と育成プログラムを立ち上げ、大学院生を対象に7週間、データの分析手法を教える。まずは特定の研究室の学生が原則費用負担なしで受講できるようにする。初年度は20~30人を育成し、早期に年間100人体制に増やす。プログラムは参画する事業会社の持つデータを使い、経営課題を解決する人材の確保にもつなげる。物流会社の配送ルートの策定や新薬候補物質の探索方法といったテーマが浮上しているようだ。大学側はプログラムを授業の一環として組み込んだり、単位認定したりすることを検討する。データサイエンティストは争奪戦が激しく、求人情報大手が扱う求人は1年間で6倍近くに増えた。

*3-2:https://toyokeizai.net/articles/-/176110? (東洋経済 2017年6月16日) 日本の科学研究の実力が急速に低下している、政府支出を評価する「独立財政機関」の設置を
末廣 徹 : みずほ証券 シニアマーケットエコノミスト
 2017年度版の「科学技術白書」(6月2日政府、閣議決定)によると、主要な科学論文誌に発表された論文のうち、引用された件数の多い論文の国別順位で、日本はこの10年間で4位から10位に下がっており、基礎研究力の低下が著しいと指摘されている。すでに日本の基礎研究力の低下は議論されており、政府は4月に行われた総合科学技術・イノベーション会議(議長は安倍晋三首相)で名目GDP(国内総生産)600兆円の達成に向け、技術革新を推進するための研究開発への投資額を来年度から3000億円上積みする方針を固めた。生産性向上のためには科学技術のブレークスルーが必要となるが、日本の財政を考えると大盤振る舞いできる状況にはない。第5期科学技術基本計画で示されている「(政府研究開発投資は)対GDP比の1%にすることを目指す」を中心に議論せざるをえないため、研究開発投資の金額を増やすためにはGDPを増やす必要がある。これはつまり、「高い経済成長をするためには高い経済成長が必要である」と言っていることになり、とても苦しい状況だ。3月23日に英国の科学誌『ネイチャー』(Nature)は「日本の科学成果発表の水準は低下しており、ここ10年間で他の科学先進国に後れを取っている」と発表した。世界の8000以上の大学や研究機関における研究を指数化したNature Index(科学論文の本数を指数化したもの)において、日本の論文の割合が2012年から2016年にかけて6%低下したという。指数の水準は米国、中国、ドイツ、英国に続く5位につけているが、2~4位の国とは距離が拡大しつつある。(以下略)

*3-3:http://qbiz.jp/article/131976/1/ (西日本新聞 2018年4月17日) 全国学力テスト、小6と中3で実施 理科加え3教科、7月に結果公表
 小学6年と中学3年の全員を対象にした文部科学省の「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)が17日、一斉に行われた。国語と算数・数学に加え、3年ぶりに理科を加え3教科で実施し、計約213万4千人が参加。結果は7月に公表する。参加は小学校1万9629校の約107万2千人と、中学校1万80校の約106万2千人。国公立は全校で、私立の参加率は49・8%。東日本大震災で事実上実施できなかった2011年度を除き、今回で11回目となる。同時に子どもたちに学習意欲や生活習慣などを尋ねる質問調査も実施し、さまざまな分析に役立てる。

<データの読み方>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180402&ng=DGKKZO28791810Q8A330C1TCC000 (日経新聞 2018年4月2日) 寿命 データ活用で延ばす、滋賀県、長野抜き男性1位に 課題見つけ改善策具体的に
 2017年12月に厚生労働省が発表した15年の都道府県別平均寿命で、滋賀県が男性で全国1位、女性で4位となり、長寿県として注目を集める。30年ぶりに男性トップを奪われた長野県は、滋賀県との違いをデータ分析した報告をまとめ、5年後の首位奪還を目指す。全都道府県で平均寿命と健康寿命は延びているものの、データ分析を踏まえた食事、喫煙、運動など生活習慣病の長期的な対策などによって明暗が分かれている。「一に健康、二に健康、三に健康。健やかな滋賀をつくろう」。滋賀県の三日月大造知事は18年1月、年頭の記者会見で「健康」を繰り返して強調し、医療・福祉・保健のネットワーク基盤の拡充と同時に、ビッグデータを活用して取り組むことを宣言した。
●もとは平均以下
 同県は15年の都道府県別の平均寿命で、男性が81.78歳で初めて全国トップになった。女性も87.57歳で4位。三日月知事は「滋賀県民は長生きだと注目された」と喜ぶ。もともと長寿県だったわけではない。約50年前の1965年時点では滋賀県の男性の平均寿命は67.26歳で、全国平均(67.74歳)を下回って全国27位。女性も72.48歳で全国平均(72.92歳)より低く、全国31位にとどまっていた。転機は約30年前から本格的に取り組んだ生活習慣病対策だ。その一つが86年から始めた「滋賀の健康・栄養マップ」調査だ。当時、県民の食事や生活習慣に関するデータは十分に把握できていなかった。「県の情報処理システムが改善され、大きなデータを扱えるようになり、県独自に初めて実施した」(県健康寿命推進課)。5年に1度の調査で県内の地域ごとに県民の健康状態を分析。データに基づき、栄養バランスや運動、余暇、虫歯予防の大切さを伝えるガイドブックを作り、県内全世帯に配った。「健康への1%投資運動」として、1日24時間の1%となる15分程度を散歩や体操など運動に充てることを具体的に県民に呼びかけた。県健康寿命推進課は「主体的に健康づくりに取り組む県民が増えるきっかけにつながった」とみる。喫煙率も男性は5割超だったが、県の計画で2001年に「喫煙率を半減させることが望ましい」と努力目標を設定。数値目標を掲げる自治体は珍しかったが、禁煙か完全分煙を行っているとして登録した飲食店を「受動喫煙ゼロのお店」と公表して後押しした。その結果、喫煙率は激減し、16年に男性で20.6%と全国で最も低い県となった。対策の広がりとともに県の平均寿命の順位は上昇した。男性は05年、10年の調査で2位、今回(15年)調査で初めて1位になった。女性も05年に13位で全国平均を上回り、10年は12位、今回は4位に食い込んだ。
●健康寿命も長く
 自立した生活を過ごせる健康寿命も滋賀県は長い。東京大学大学院の国際保健政策学教室と米ワシントン大学の共同調査によると、滋賀県は男女合わせた健康寿命は15年までの25年間で4.1歳延び、福岡、佐賀と並び全国で最も延びた。「滋賀県と比べ、働き盛り世代で運動習慣のある人が少ない」。0.03歳の僅差で男性の平均寿命トップから30年ぶりに陥落して2位だった長野県は「長野県の健康課題~平均寿命男性1位の滋賀県との対比から」という報告をまとめた。働き盛り世代の運動不足のほか、滋賀県と比べて食塩の摂取量や喫煙者も多いことがトップ陥落の主因として、18年1月中旬に開いた健康づくり推進県民会議で報告を公表。データで課題を明確にし、県民に健康づくりを呼びかけていく。生活習慣病対策を放置すると、平均寿命に大きく響く。長寿県で知られていた沖縄県は00年の調査で女性はトップを維持したが男性は前回調査の4位から一気に26位まで転落。40~50代の脳卒中や糖尿病による死亡率の高さが原因だった。平均寿命が延びても、健康寿命が延びなければ、寝たきりの高齢者が増え、医療・介護費の大幅増になるだけだ。寿命を延ばすための生活習慣病対策は同じ県内でも地域で異なる。財政に限りがある中、データ分析で不十分な分野を見直し、有効な対策を地域ぐるみで採り入れる工夫が必要だ。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180402&ng=DGKKZO28791850Q8A330C1TCC000 (日経新聞 2018年4月2日) 地域格差、最大で3.1歳 「喫煙対策 強化が必要」
 男女を合わせた平均寿命を1990年と2015年で比べると、都道府県の格差は広がっている。両年とも全国平均以上だったのは19都府県あり、逆にいずれも平均未満だったのは18道府県と二極化している。平均以上から平均未満に転落した県、平均未満から平均以上に改善した県もそれぞれ5県あった。男女合わせた都道府県ごとの寿命のデータは、東京大学大学院の国際保健政策学教室が米ワシントン大と共同で分析した。調査によると、1990年に男女合わせた平均寿命が最も長い長野県(80.2歳)と最も短い青森県(77.7歳)の差は2.5歳だったが、2015年にはトップの滋賀県(84.7歳)と最下位の青森県(81.6歳)の差は3.1歳。25年間で差は0.6歳広がった。健康寿命も1990年に最も長い長野県(71.5歳)と最も短い高知県(69.2歳)の差は2.3歳だったが、2015年にはトップの滋賀県(75.3歳)と最下位の青森県(72.6歳)の差は2.7歳で、0.4歳拡大した。分析した東大大学院の渋谷健司教授は「喫煙対策は強化する必要がある。男女とも食生活の見直しも不可欠」と指摘。「今後、都道府県格差をさらに詳しく分析し、実態を踏まえた対策が必要」と話している。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180403&ng=DGKKZO28902210S8A400C1MM8000 (日経新聞 2018年4月3日) 生活援助 使いすぎ抑制 厚労省 介護計画、月30~40回で届け出
 厚生労働省は介護が必要な高齢者の身の回りを世話する「生活援助」について、平均以上の利用回数になる介護計画(ケアプラン)を市町村に届けるよう義務づける。過剰な利用を洗い出し、本人の自立支援や重度になるのを防ぐ中身かどうか検証する。介護費用の膨張を抑制する狙い。4月中にも正式に決定し、10月から始める。生活援助は介護が必要な高齢者の家を訪問し、掃除や調理、買い物など身の回りを世話する訪問介護サービスの一つ。自己負担は1回数百円と安価に利用できる。その半面、平均を大きく上回る過剰利用が問題視される。厚労省は、利用回数が平均を大きく上回る場合、ケアプランをつくるケアマネジャーに届け出を義務づける。市町村は「必要以上の利用になっていないか」「他のサービスで代替できないのか」などの観点からプランを検証。必要に応じて変更を求める。対象は介護の必要性の度合いで異なるが、おおむね月30~40回前後の利用とし、対象者は年間で数万人規模に上るとみられる。2016年9月のデータによると、生活援助の利用者(48万5千人)は月間平均で11回程度使っている。そのうち31回以上の利用者が2万5千人を占め、100回を超える例もあった。介護給付費は25年にかけて現状の2倍の20兆円規模まで膨らむと予想される。生活援助は給付費の1%程度だが、無駄遣いを指摘する声も多い。定額制の別のサービスがあるのに生活援助を使ったり、生活援助を使いすぎて本人の自立がかえって難しくなったりしていると指摘され、効率化が急務だ。利用回数の上限設定や軽度者の対象除外の是非も議論になっている。厚労省は、不足する生活援助の担い手の育成も始める。新設の短期研修を受ければ、利用者の自宅を訪問して生活援助できる資格を与える。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180419&ng=DGKKZO29537990Y8A410C1MM8000 (日経新聞 2018年4月19日) 介護保険料 止まらぬ上昇、自治体の8割上げ/健保も3割 給付抑制が急務
 介護保険料の引き上げが広がっている。日本経済新聞の調べでは、65歳以上の介護保険料は8割の市区町村で上がった。現役世代が加入する企業の健康保険組合では、全国の約1400組合のうち3割が2018年度に保険料率を引き上げた。介護給付費は過去10年間で57%増え、医療費の伸びを大きく上回る。介護保険制度(総合2面きょうのことば)の維持には給付抑制が課題だ。65歳以上の介護保険は市区町村や広域連合が運営する。保険料は介護サービスに必要な費用の見通しなどをもとに自治体が3年ごとに見直す。18~20年度の基準月額を15~17年度より引き上げた自治体は全体の8割。月額6000円を超える自治体は前期の1割強から4割に増えた。制度が始まった00年度の全国平均は2911円で2倍の水準にあたる。7000円超の自治体も50を上回り、3倍以上になった。基準月額が最も高かったのは福島県葛尾村。9800円と前期から3割引き上げた。「東日本大震災の避難生活の影響もあってか、村内の要介護認定率が高まっている。人口減少で被保険者の数自体も限られている」(住民生活課)。東京都は8700円の青ケ島村、大阪府では大阪市の7927円が最も高かった。最も低かったのは北海道音威子府村で前期と同じ3000円に据え置いた。「村には介護サービスが乏しく給付が少ない。住民も介護が必要になる前にサービスが充実する都市部に転出していく」(住民課)という。40~64歳の会社員らが負担する介護保険料は18年度の月平均が5723円。10年前に比べ45%増えた。特に収入の多い大企業で負担が増している。18年度に保険料率を引き上げたのは450程度で健保全体の3割を占める。JRグループ、ファーストリテイリング、新日鉄住金などの健保が引き上げた。要因は健保加入者の平均収入に応じて、介護納付金の負担額を決める「総報酬割」の導入だ。17年度から段階的に導入しており、20年度に完全実施する。厚生労働省の試算では導入前に比べ、平均で月700円程度の負担増になる見込みだ。社会保険料の負担が増えれば、賃上げ効果が薄まる可能性もある。介護給付費は15年度で約9兆円。10年間で57%増えた。この間の国民医療費の伸びは3割弱だ。一定の給付抑制策は欠かせない。例えば、軽度な要介護者向け料理などの生活援助サービスは一部の利用者が月100回以上使う例がある。回数制限など抜本的な見直しが必要になる。今後の見通しも厳しい。「団塊の世代」が全員75歳以上となる25年度には、65歳以上の保険料はさらに上昇する。沖縄県と大阪府は9000円を超えると推計。東京や京都、石川など11都府県が8000円以上を見込む。保険料は年間で10万円の大台が迫ってくる。調査は日本経済新聞社が4月上旬、全国1571の市区町村などの保険者をまとめている都道府県を対象に実施。広島県を除く46都道府県が回答した。25年度の推計は31都道府県が答えた。

<原発は地球では過去のエネルギー>
PS(2018年4月23、25、28日追加):*5-1のパナソニックのように、新興国や途上国に、教育や地場産業創出の支援として太陽光発電・蓄電システムや照明を寄贈するのはよいことで、パナソニックや日本のよいイメージを新興国や途上国の人に定着させることもできる。
 一方、*5-2のように、日本の経産省有識者会議は「再生可能エネルギーを主力電源にする」という提言をしたが、「原発は温暖化対策のための選択肢として維持し続ける」という姿勢を変えなかった。しかし、公害は二酸化炭素の排出だけでなく、原発によるものもあるため(そんなことも知らずに、気を付けている人に対して、「風評被害」「ポピュリズム」などと言っているのが呆れる)、日本政府は世界に遅れている。また、現在は原発0でも電力に困らないため、可能な限り低減するなら原発は0になるのに、*5-5のように、経産省は新エネルギー基本計画骨子案を示し、再エネを主力電源化するが原発は脱炭素化の選択肢として「可能な限り依存度を低減する」としている。
 なお、*5-3のように、九電は、管内で再稼働を目指していた原発4基全ての再稼働のめどが立ったことで経営を刷新し、新しい取締役常務執行役員の池辺和弘氏は「エネルギーサービスで日本一の会社にしたい」と意気込んでいるそうだ。しかしながら、こういう判断では、世界進出も日本一も難しいと、私は考える。何故なら、*5-4のように、原発輸出は福島原発事故で状況が一変して、多くの原発関連会社が①採算悪化 ②破綻 ③撤退 しているので、もし九電がアフリカでインフラ整備に進出するとすれば、日本と同じ段階を踏む必要はなく、初めから地熱・太陽光等の再エネを基本とした方が世界の潮流に乗っており、感謝されるからだ。

 
 爆発直後の原発  何年も野積みされている除染土  増える汚染水タンク 原発輸出状況
           福島第一原発事故の現実              *5-4より

(図の説明:福島原発事故は過小報道されたが、実際は広い地域が放射性物質で汚染され、その除染土は今でも野済みされたままである。また、汚染水は完全には除染できないため、タンクに溜まっていくばかりだ。もちろん、核廃棄物の最終処分場もない。このように何の解決もできず、国の補助金で成り立っているにもかかわらず、安いから今後も原発を稼働させるというのは、環境と国の財政負担を無視した姿勢である)

*5-1:http://qbiz.jp/article/132436/1/ (西日本新聞 2018年4月23日) パナ、太陽光発電で開発支援 100周年で途上国に
 パナソニックは23日、創業100周年に合わせてアジアやアフリカなどの新興国や途上国を対象に、太陽光発電システムを活用した教育や地場産業の創出といった開発支援を始めたと発表した。十分な電力供給のない地域に太陽光発電・蓄電システムや照明を寄贈するなどして、地域の発展や貧困解消を目指す。まずインドネシア、ミャンマー、ケニアの3カ国で、現地で活動する非政府組織(NGO)などと共同で支援を開始し、対象国・地域を順次拡大する。寄贈したシステムは家庭や学校、集会場の明かりとして使ってもらったり、発電した電気を活用して農産物や水産物の加工といった産業づくりに役立ててもらったりする。パナソニックは、これまでも電力供給のない地域に太陽電池付きの小型照明を寄贈する「ソーラーランタン10万台プロジェクト」を実施。2013年以降、30カ国で10万台以上を無償提供している。

*5-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018042302000131.html (東京新聞社説 2018年4月23日) 再生可能エネ 主役に起用するのなら
 「再生可能エネルギーを主力化する」-。経済産業省の有識者会議からの提言だ。風力や太陽光を電力の未来を担う主役に据える、というのなら、それなりの舞台と待遇を用意すべきではないか。風力や太陽光といった再生可能エネルギーを「主力電源」にすると持ち上げる一方で、原発は温暖化対策のための「選択肢」として維持し続ける-。二〇五〇年のエネルギー政策はどうあるべきかを考える、経済産業省の有識者会議による提言だ。風力や太陽光は増やしましょう。だが原発に関しても、依存度は小さくするが、なくすわけではないという。相変わらず、どっちつかずと言うしかない。第一に「主力電源」という位置付けが、よく分からない。四年前に閣議決定された国の第四次エネルギー基本計画でも、再生可能エネは「有望かつ重要な低炭素の国産エネルギー」と位置付けられて、最大限、導入を加速するとされてきた。政府は現在、三〇年時点の再生可能エネの比率は、原発とほぼ同じ、22~24%と決めている。“先進国”と言われるドイツは、五〇年までに消費電力の少なくとも80%を再生可能エネルギーで賄う目標を掲げている。そのために、太陽光と風力を最優先で利用してもらい、足らない分を揚水発電やバイオマス発電などで補うよう、電力の供給体制も変えてきた。「主力電源」とうたうからには、少なくとも現行を大幅に上回る導入の数値目標、そして、基幹送電線への優先接続など給電システムの改革案を具体的に明示すべきなのである。送電網の拡充などに時間と費用がかかるという意見もある。しかし、3・11を経験し、原発の新増設は、もう不可能と言っていい。老朽化していく原発に膨大な費用を投じて安全対策を施しながら、あと三十年、恐る恐る使い続けていくよりは、はるかに安上がりかつ合理的ではあるまいか。原発維持は、温室効果ガスの排出をなくしていくためだという。しかし、原発の燃料であるウランの採掘などの過程で、かなりの二酸化炭素(CO2)が排出されるという指摘もある。再生可能エネ普及の加速こそ、脱炭素化の王道でもあり、世界の主流なのである。「脱炭素化のため」と言われても、原発維持の口実にしか聞こえない。

*5-3:http://qbiz.jp/article/132437/1/ (西日本新聞 2018年4月23日) 再稼働めどで九電社長交代 昇格の池辺氏「日本一の会社に」
 九州電力は23日、瓜生道明社長(69)の後任に取締役常務執行役員の池辺和弘氏(60)を昇格する人事を発表した。管内で再稼働を目指していた原発4基全ての再稼働のめどが立ったことで経営を刷新する。6月就任予定で社長交代は6年ぶり。福岡市で記者会見した池辺氏は「エネルギーサービスで日本一の会社にしたい」と意気込んだ。瓜生氏は代表権のある会長に就く。貫正義会長(73)は相談役に退く見通し。瓜生氏は池辺氏を後任の社用に抜てきした理由について「知識もあるが、視野の広さが突出している。今後の難局を乗り越えられる」と述べた。池辺 和弘氏(いけべ・かずひろ)東大卒。81年九州電力。執行役員を経て17年6月から取締役常務執行役員。大分県出身。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180425&ng=DGKKZO29808960V20C18A4EA2000 (日経新聞 2018.4.25) 原発輸出 福島の事故で状況一変
▽…安倍政権は原子力発電所の海外展開を成長戦略の柱に位置づける。民主党政権時代の2009年、アラブ首長国連邦(UAE)の原発新設計画で有力視されていた日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の企業連合が、官民一体で取り組んだ韓国勢に受注競争で敗れたのがきっかけになった。▽…11年の東京電力福島第1原発の事故を機に状況が変わる。10年にベトナムの原発計画で三菱重工業などが受注する方針が固まったが、ベトナム政府が16年、財政難などを理由に計画中止を決定。トルコ・シノプの原発計画も当初は東芝と東京電力の企業連合が受注する予定だった。▽…国内だけでなく、ドイツやスイス、韓国など脱原発を掲げる国が増え、世界的に需要増は見込めない。仏原発大手、アレバ(現フラマトム社)は原発計画の遅れから採算悪化に陥り、仏政府主導で経営再建を選んだ。東芝も米原発子会社ウエスチングハウスの経営破綻を機に海外事業から撤退。新設計画の先細りに加え、供給体制の弱体化が起きるなど状況が大きく変わっている。

*5-5:http://qbiz.jp/article/132909/1/ (西日本新聞 2018年4月28日) エネルギー基本計画の骨子案を提示 「再生」導入加速促す
 経済産業省は27日、新しいエネルギー基本計画の骨子案を有識者会議に示した。再生可能エネルギーの導入を加速して主力電源化する一方で、原発を「脱炭素化の選択肢」として今後も活用していくのが柱。5月に原案をまとめ、夏にも政府が閣議決定する。基本計画は、これまで2030年に向けた方針を示してきたが、50年を見据えた長期的な視点を取り入れた。地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」で、50年に温室効果ガスを8割削減する目標を掲げており、その達成を目指す。骨子案では、再生エネの発電コストを下げ、余った電気をためる蓄電池などの技術開発を進める。原発については、可能な限り依存度を低減する方針を維持したものの、原発発電比率など50年段階での数値目標は示さなかった。会議では、原発の新増設が明記されていない骨子案に対し、原発推進派の委員から「原発の位置付けがはっきりしない」などと批判が相次いだ。脱原発派の委員からも「原発低減の文言は残っているが、(具体的な)施策が盛り込まれていない」との声が上がった。

<電力へのエネルギーシフト>
PS(2018年4月25、26、27日、5月3日追加):世界最大級の北京国際自動車ショーの報道向け公開が始まり、*6-1のように、世界14カ国・地域から計1200社余りが参加して1000台以上の自動車が展示される見通しで、中国はEVを機にゲームチェンジを図る狙いが伺えるそうだが、中国の政策ならそれが可能だろう。しかし、世界でEV車に変えることは、中国・インドが本格的に市場参入してきた1995年前後に私が日本の経産省に提案したが、日本メーカーは日産自動車以外はEVを作らず、ハイブリッド車でお茶を濁したのである。そして、日本における最初の“空気”は「EVは音がしないから危険だ」「EVは走行距離が短い」などとEVをくさすものばかりで、それを改善しようという努力はなかった。つまり、何に対しても、日本人は、“その場の空気を読む”だけの役立たずが多く、「空気を変えよう」とか「空気をきれいにしよう」と志す人が「変人」や「発達障害」扱いされてイノベーションを阻害するのである。
 そのような中、*6-2のように、安川電機がワイヤレス充電できる電動船を世界で初めて開発したのはよかった。電動タイプを漁船に利用すれば、離島なども地域で発電した電力で操作性の良い漁船を使うことができ、電動タイプを大型船に利用すれば港の水をきれいすることができる。そのため、これは、欧州や中国だけでなく、日本でも普及を推進すべきである。なお、「乗り物が電動化すれば産油国が困るのでは?」と高いエネルギー代を支払いながら言っているド阿呆な日本人もいるが、*6-3のように、サウジアラビア政府は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の指揮下で脱石油依存の経済改革を進めており、こちらは技術協力した方が感謝される。
 また、日欧の自動車大手は、*6-4のように、中国でEVの現地生産を広げるそうで、特に独BMWのように次世代EVを先行投入するのは競争に勝つための英断だ。日本でもEV化が最も遅れている自動車大手のホンダは、2018年に合弁会社の広汽本田が中国初となるEV生産を開始するそうだが、私の夫は日本でホンダ車に乗っており、そろそろ買い変え時期だが何度も買い変えたくはないのでホンダが日本でEVを発売するまで待っており、私は最近のホンダの動きにとろさを感じている。社内で煮詰まっていると変化できないので、ホンダならBMW・ボルボ等と出資関係を持って取締役を交換してはどうかと考える。
 ジョイントベンチャー(JV)の好事例は、*6-5の富士写真フイルムと英国ゼロックス社の合弁により1962年に創立された「富士ゼロックス(株)」で、ゼロックスの謄写に関するアイデアと富士写真フイルムの確かな写真技術が組み合わさって優秀なコピー機ができている。しかし、富士フイルムホールディングスが米事務大手ゼロックスを全部買収しようとすると、株主から提訴されたりする上、いらぬ部分まで買うことになる。そのため、私は、新ビジネスに有用な部分だけ出し合って新会社を作り、持株会社の下につけた方が双方の株主が納得する上、新会社の階層が浅くて風通しがよく、経営しやすいのではないかと考える。
 なお、*6-6のように、パナソニック、天津力神電池などが数年内に中国で始まるEV電池市場の争奪戦を始めたそうだが、日本は1995年頃からEV電池の開発をしていたのに、日系電池メーカーが何度も戦略転換を強いられるような逆噴射が多く、今頃、あわてて争奪戦に加わっていることが情けない。同じかそれ以上の技術なら、物価水準の低い中国産の方が安くてよいに決まっており、これが変化を嫌がる体質と高コスト構造が日本の製造業を外国に追い出した理由なのである。


*6-4より 北京国際自動車ショー(左から、日産、トヨタ、ホンダ、比亜迪のEV)  

*6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29814760V20C18A4MM0000/?nf=1 (日経新聞 2018/4/25) 中国、EVで覇権狙う 北京自動車ショー開幕
 世界最大級の自動車展示会、北京国際自動車ショーの報道向け公開が25日午前に始まった。電気自動車(EV)に傾斜する中国メーカーに加え現地で一定の生産比率を義務付けられる日米欧勢も電動技術を誇示した。エンジン車では先進国の壁を越えられなかった中国がEVを機にゲームチェンジを図る狙いが展示からうかがえる。世界14カ国・地域から計1200社余りが参加し、展示する自動車は1000台を上回る見通し。このうち新しいEVとプラグインハイブリッド車(PHV)だけで170台が出展される。会場は中国勢のEVが目立つ。北京汽車集団傘下の北京新能源汽車は人工知能(AI)でエネルギー効率や安全性を高めた車種を披露。北京汽車の徐和誼董事長は「EVやPHVを成長戦略の中心とし世界トップクラス入りを狙う」と話した。日本車では日産自動車が中国で生産するEVを2018年後半に現地で発売すると発表した。トヨタ自動車は20年までに新たに10の電動車を中国で追加する計画を明らかにした。開幕に先立ち独フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース社長は「中国は世界の自動車産業のカギとなる市場だ」と強調した。中国政府の統計によると、17年のEVとPHVの世界販売台数は142万台。このうち中国は55%を占め78万台と2位の米国の約3.5倍に相当するという。メーカー別でも13万台の比亜迪(BYD)のほか北京汽車と浙江吉利控股集団の年間販売が10万台規模に達した。先進国メーカーでは米テスラが10万3千台で日産自動車は7万3千台。中国勢の販売は大半が現地だが物量の実績で日米欧メーカーに優位に立っている。中国政府は大気汚染や渋滞の対策としてガソリン車の規制を強め、市場が広がった。これを受け現地大手がこぞってEVやPHVに参入し完成車や専用部品を手掛ける300社ものスタートアップが勃興している。将来の基幹産業の芽が育ち、苗●(つちへんに于)・工業情報化相は「市場としての世界一は3年連続だ」と胸を張る。19年にはEVやPHVで一定比率の生産を義務付ける。巨大市場をバックに外資が技術を持ち込まなければ売らせないという得意の誘導策を持ち出した。EVなどで一定比率を生産できないメーカーはクリアしている競合の余剰分を「クレジット」として買い入れないとガソリン車の生産制限を受ける可能性がある。EVの現地生産で出遅れれば成長が難しくなる。一方、50%までとしている自動車メーカーへの外資出資ルールは22年までに全廃する。目指すのは米テスラをはじめとするEVメーカーの誘致だ。規制の強化と緩和の両面の取り組みで中国にEV工場を引き込もうともくろむ。「ガソリン車では外資にかなわなかったがEVでは接近した勝負になる」。工業情報化省幹部は言う。部品点数が減るEVでは先進国メーカーと横一線で開発をスタートできると読む。多くの中国メーカーは出資規制緩和で外資と競うようになる。自動車ショーでは中国勢がその水準に達しているか否かを世界の競合が見定めようとしている。

*6-2:http://qbiz.jp/article/132575/1/ (西日本新聞 2018年4月25日) 世界初、電動船ワイヤレス充電 安川電機が開発 プラグ接続不要、煩雑さ軽減
 安川電機(北九州市)は24日、電気で動く「電気推進船」向けの非接触型(ワイヤレス)充電システムを世界で初めて開発したと明らかにした。欧州を皮切りに中国などで本格販売を始める。二酸化炭素(CO2)削減を目的とした欧州の環境規制などで電気推進船の導入拡大が見込まれており、充電システムを含む船舶関連事業を新たな収益事業の一つに育てる構えだ。電気推進船はバッテリーにためた電気で動く「電気タイプ」と、重油などを使い船内の発電機でモーターを動かす「ハイブリッドタイプ」があり、同社のシステムは電気タイプ向け。港の岸壁に送電設備を設置し、受電設備のある船が近づくと、電気を供給する仕組み。バッテリーに充電して推進用のモーターを動かすほか、船内の照明や空調などの電気設備に利用する。現在は岸壁の充電スタンドからプラグを接続して給電しており、システム導入で充電の煩雑さの軽減が図れる。国土交通省によると国内の電気推進船は現在33隻。ディーゼルエンジンの船舶に比べ揺れが少ないため、多くが旅客船として活用されているという。環境面に加え、大型のエンジンが不要で船内の空きスペースが増えるなどのメリットもあり、欧州や中国でも小、中型の観光船や貨物船に導入され、大型化に向けた研究開発も進んでいる。安川電機は2020年に欧州で船舶に対する排ガス規制が強化されるため、電気推進船の導入が進むと予想。16年に買収したフィンランドの船舶エンジン機器メーカー「バルチラ社」の船舶用電気推進装置部門のノウハウと、自社のコンバーター技術を融合させ、今回の充電システムを開発したという。18年2月期に10億円弱だった船舶事業売上高を、21年2月期には80億円まで伸ばすことを目指す。扇博幸システムエンジニアリング部長は「技術を強みに競争力を高め、新たな分野を開拓していく」と話した。

*6-3:http://qbiz.jp/article/132599/1/ (西日本新聞 2018年4月25日) サウジ、石油外収入1.2兆円 脱依存へ数値目標
 サウジアラビア政府は24日、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の指揮下で進める脱石油依存の経済改革で、国営企業の民営化などにより2020年までに石油以外の収入として90億ドル〜110億ドル(約9800億〜1兆2千億円)を達成することを柱とする計画文書を発表した。ロイター通信などが報じた。サウジ政府は世界最大の石油企業である国営サウジ・アラムコの新規株式公開を目玉に、石油依存からの脱却を目指す経済構造改革「ビジョン2030」を推進中。今回の文書は20年までの数値目標を示しており、最大1万2千人の雇用創出も盛り込んだ。

*6-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180426&ng=DGKKZO29830190V20C18A4EA2000 (日経新聞 2018年4月26日) トヨタ、自社開発EVを中国生産 20年発売 北京自動車ショー 日産・BMWも現地投入
 日欧の自動車大手が中国で電気自動車(EV)の現地生産を広げる。トヨタ自動車は25日に開幕した北京国際自動車ショーで、自社開発のEVを中国で生産して2020年に発売する戦略を示した。独BMWなどは次世代EVを先行投入する。中国は世界最先端のエコカー市場になり重要度が一段と高まる。「EVを他地域に先駆けてやっていく」。トヨタ自動車の中国本部長、小林一弘専務役員は同日、モーターショー会場でこう述べた。自社開発EVを中国で現地生産することを初めて示した。中国政府は19年にEVなどを一定比率生産することを義務付けた。これに対応できないメーカーは対応済みの競合メーカーの余剰分を「クレジット」として買い入れないとガソリン車の生産制限を受ける可能性がある。トヨタは中国の合弁相手2社からEVを調達し、19年にも販売することを検討していた。中国のEV市場拡大と規制強化をにらみ、現地生産に踏み切る。「カローラ」と「レビン」のプラグインハイブリッド車(PHV)を19年から現地生産で発売する。20年までにPHVやEVなど新たに電動車10車種を追加し、電動車の中核部品の現地生産も進める考えを示した。日産自動車はトヨタに先駆けて、中国で生産するEVを18年後半に現地で発売する。ホンダも18年に合弁会社の広汽本田が中国初となるEVの生産を開始。19年にはもう一つの合弁会社の東風本田でもEVの生産を始める計画だ。EVシフトで先行する欧州メーカーも中国で生産・開発を強化する。独BMWはEVやPHVの「iシリーズ」から多目的スポーツ車(SUV)の「iX3」のコンセプト車を初公開した。20年に中国で世界に先行して発売する計画。中国以外の発売は未定で現地生産も予定する。ハラルト・クリューガー社長は「(iX3は)ゲームチェンジャーになる。中国はあらゆる車で先行する」と話した。独フォルクスワーゲン(VW)は21年までに中国の6工場でEVなど電動車の生産を始める。22年までに中国で電動化や自動運転、コネクテッド技術などへの投資に150億ユーロ(約2兆円)を充てる方針を発表した。全世界で340億ユーロ(約4兆6600億円)の投資を計画するうち、4割以上を中国に投じる計算だ。中国の吉利傘下のスウェーデンの自動車大手、ボルボ・カーも25年までに販売台数の半分をEVにすると発表した。

*6-5:http://qbiz.jp/article/132867/1/ (西日本新聞 2018年4月27日) ゼロックス買収交渉再開か 富士フイルム、ロイター報道
 富士フイルムホールディングス(HD)による米事務大手ゼロックスの買収計画を巡り、ロイター通信は26日、米ゼロックス側がニューヨークの裁判所に富士フイルムHDとの交渉再開を伝えたと報じた。関係者の話としている。米ゼロックスは、計画が富士フイルムHD側に有利な内容だとして反対する米国の物言う株主から提訴されている。富士フイルムHDが1月に発表した買収計画は、米ゼロックスと合弁子会社の富士ゼロックスを経営統合させ、米ゼロックス株の過半を取得する内容。今年7〜9月期の手続き完了を目指すとしていた。ペーパーレス化が進む事務機市場で生き残るための大型再編が狙い。

*6-6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30095740S8A500C1XA0000/ (日経新聞 2018年5月3日、日経産業新聞 2018年5月2日) 「EV電池」争奪戦前夜、最大手パナも正念場
 中国で数年内に始まると確実視されるのが、電気自動車(EV)電池市場の争奪戦だ。中国政府の政策変更で日本勢が苦しんできた中国勢優位のハンディは解消に向かう。野心的な中国メーカーの追い上げを許すまいと、世界首位のパナソニックも将来の市場拡大に備える。日中企業同士のつばぜり合いがにわかに激しさを増してきた。北京市内から南東方面に2時間ほど車を走らせると、中国電池大手、天津力神電池の本社が見えてくる。力神は中国国有企業の傘下で、1997年に創業。米アップル、米デル、韓国サムスン電子グループ、華為技術(ファーウェイ)など向けにパソコンやスマホの電池を供給してきた。2019年に始まる新エネルギー車(NEV)規制では自動車メーカーが一定比率のEVやPHVなどNEVの製造・販売を義務付けられる。大量の電池を確保できるかは死活問題。力神のある社員は「日本車向けにまだ実績はないが、検討中の話はある」と明かす。
■驚異的な成長曲線、中国勢が大増産
 力神は車載電池では12年に電動バス向けの供給を始めたにすぎない新興メーカーだが、驚異的な成長曲線を描く。17年には車載用と民生用を合わせた電池の生産能力で10ギガワット時に到達した。すべてが車載向けではないが「電気自動車(EV)需要の高まりに対応するため、20年には30ギガワット時、25年には60ギガワット時まで伸ばしていく」(同社)と威勢が良い。世界首位のパナソニックが米テスラとネバダ州に建設した巨大電池工場「ギガファクトリー」の能力が35ギガワット時。中国新興メーカーの工場のスケールの大きさがわかる。「将来EVブームに本当に火がつけば、大きな電池のキャパが必要になる。例えば(2000億円前後を投資した)ギガファクトリーが10個分くらい。そのときが本当の勝負。そのときに勝てるよう準備を進めていきたい」。パナソニックの津賀一宏社長は電池事業の将来像をこう語る。
■政策変更で日本勢にも勝機
 ただ近年、日系電池メーカーは何度も戦略転換を強いられてきた。日産自動車はNECと共同出資した車載電池子会社を中国の投資ファンドに売却。GSユアサは独ボッシュなどとの車載電池セル開発の合弁会社を解消した。パナソニックはトヨタと協業検討する形で、テスラ傾倒のリスクを分散する方針に転じた。防戦一方の展開を強いられる要因だったのが、中国の自国優位の政策だった。ただ政府が補助金を与える電池メーカーを選ぶ「ホワイトリスト」制度が事実上形骸化した。ホワイトリストに代わって16年ごろから始まった現在の電動車向け補助金制度は、日系電池メーカーの電池を搭載した車も対象になりそうだ。日系や欧米の自動車メーカーによるNEVの製造・販売は19年から本格化する見込み。トヨタ自動車は4月25日に開幕した北京国際自動車ショーで、自社開発のEVを中国で生産して20年に発売する戦略を明らかにした。ホンダもEVやプラグインハイブリッド車(PHV)など20車種超を25年までに投入する計画を発表。中国でのビジネスチャンス拡大の可能性は大きく広がってきた。中国勢は強気の投資計画をぶち上げる。中国電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は20年に50ギガワット時規模まで増産する計画を発表。NEVへの対応を急ぐ日系自動車などグローバルメーカーへの供給拡大をもくろむ考えが透ける。日本も負けていない。出荷量ベースで自動車向けリチウムイオン電池世界首位のパナソニックは、大連工場(遼寧省)で3月から車載用リチウムイオン電池の量産出荷を始めた。まずは北米向け出荷から始めたが「早ければ年内にも中国合弁向けに出荷を始める」(車載担当の久田元史氏)と、鼻息は荒い。1年後に控えるNEV規制という号砲は、従来の完成車メーカーと電池メーカーの序列を変える可能性すら秘める。パナソニックを筆頭とする「日の丸電池」にとっては難しいかじ取りを迫られる半面、最大のチャンスにもなる。

<バラマキ外交と国民負担増>
PS(2018年4月30日):*7-1のように、世耕経産相が北極圏ヤマル半島で昨年末に生産を始めた液化天然ガス施設や積出港の視察でロシアを訪問し、日本のLNG購入や事業出資で日ロ経済協力計画を進める方針とのことである。しかし、購買力平価によるGDPも技術力(分野によっては日本より上)もさほど変わらないロシアからLNGを高く買うことで、エネルギーのために国富を流出させて経済協力しようという頭は20~30年古い(もちろん、他より高く買えば売る国からは喜ばれるが、それは売る側には能力があるが買う側は馬鹿ということだ)。
 一方で、*7-2のように、日本にも「メタンハイドレート」という天然ガス資源が無尽蔵に存在し、既にガス生産に成功しており、こちらなら国富が国内で循環して海外に出ない。エネルギーとしてなら、水素や再エネによる電力の方が公害を出さないため優れているが、天然ガスを使うのなら国産を使うべきだ。
 また、日本政府は、これだけ無能な放漫経営をして国民に負担をかけながら、福祉となると、*7-3のように、財政逼迫として負担増・給付減を続けている。そのため、政府・メディア関係者は、憲法改正を言う前に、まず現在の日本国憲法(特に第25条)をよく理解すべきだ。

*7-1:http://qbiz.jp/article/132952/1/ (西日本新聞 2018年4月29日) 北極LNG事業に日本参加を期待 ロシア閣僚、世耕経産相を案内
 世耕弘成経済産業相は29日、北極圏のロシア北部ヤマル半島で進む天然ガス開発で、昨年末に生産を始めた液化天然ガス(LNG)施設や積み出し港を視察するため、ヤマロ・ネネツ自治管区サベッタを訪れた。日本のLNG購入や事業出資に期待するロシアのオレシキン経済発展相が案内した。「ヤマル」は「サハリン2」に続くロシアで2番目のLNG事業。ロシア天然ガス大手ノバテクが主導し、フランスのトタル、中国石油天然ガス集団(CNPC)も出資するが、日本側の購入契約はない。ノバテクは2022年以降に予定する新たなLNG事業「北極2」に出資するよう日本に促している。ヤマルの生産能力は年550万トン。19年には1650万トンに増やし、サハリン2を上回る見通し。近隣の北極2も同等の巨大事業で、日本政府は「LNGの一大供給源」になると注目している。ノバテク幹部は29日、世耕氏や同行した日本企業幹部らに対し、北極2について説明。ただ北極2は、冬に氷で覆われる北極海航路を使うため、輸送コストや供給の安定性に問題がある。また、日本勢が出資し日本の輸入の約1割を占めるサハリン2も生産拡大を検討中で、北極2と競合する恐れがある。世耕氏は28日、モスクワでシュワロフ第1副首相らと会談した。5月下旬に予定される安倍晋三首相のロシア訪問に向け、日ロ経済協力計画を進め、成果にする方針だ。

*7-2:http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1705/09/news077.html (スマートジャパン 2017年5月9日) 自然エネルギー:夢の国産天然ガス資源「メタンハイドレート」、4年ぶりにガス産出に成功
 日本近海の海底に分布し、国産の天然ガス資源として期待されている「メタンハイドレート」。資源エネルギー庁が愛知県と三重県の沖合で進めているメタンハイドレートら天然ガスを取り出す海洋試験で、4年ぶりにガス生産に成功した。メタンハイドレートは天然ガスの主成分であるメタンと水が低温かつ高圧の状態で結晶化した物質で、地球上では極地や深海にのみ存在する。過去の政府の調査で東部南海トラフ海域には、メタンに換算して約1.1兆m3の砂層型メタンハイドレートが存在すると推定されている。これは日本の2015年のLNG輸入量に換算して、約11年分に相当する量だ。国内で消費するLNGのほとんどを海外からの輸入に頼る日本にとって、メタンハイドレートを資源として利用できるようにするメリットは大きい。ポイントは、水深1000m以深のさらに海底下数百mに分布するメタンハイドレートから、いかに天然ガスの主成分であるメタンガスを取り出すかだ。深海の地層の中に固体として存在するメタンハイドレートをエネルギーとして利用するには、分解してメタンガスと水に分け、さらにメタンガスだけを回収する必要がある。資源エネルギー庁は2013年3月に今回と同じ愛知県と三重県の沖合にある第二渥美海丘で、メタンハイドレートからメタンガスを生産する第1回の海洋産出試験を実施している。地球深部探査船「ちきゅう」を使用して約6日間にわたってメタンガスを連続生産することができた。そして2017年4月7日から4年ぶりとなる第2回の海洋産出試験を実施し、5月4日の10時頃にメタンガスの生産を確認できた。第2回の試験では、第1回と同様に「減圧法」という手法でメタンハイドレートからメタンガスを取り出している。これは坑井内の圧力を減少させてメタンハイドレートを分解する方法だ。この他には坑井内に温水を循環させてメタンハイドレートを加温て分解する「温水循環法」などがある。減圧法で課題となるのが、出砂対策だ。第二渥美海丘にある砂層型と呼ばれるメタンハイドレートからメタンガスを取り出すと、同時に砂が出てくる。第1回の試験ではこの砂がパイプつまるトラブルが発生したため、当初の予定より早く生産を打ち切らなくてはならなかった。そこで今回は異なる出砂対策を施した2本の生産用坑井を用い、まず一方の坑井で3~4週間程度のガスの連続生産を行うことが1つの目標となっている。次にもう一方の坑井において、1週間程度のガスの連続生産を試みる。試験は2016年6月下旬頃まで行う予定だ。

*7-3:https://www.agrinews.co.jp/p43861.html (日本農業新聞論説 2018年4月21日) 改正介護保険法 利用者に不安与えるな
 改正介護保険法が4月、スタートした。介護保険財政の逼迫(ひっぱく)は深刻な現実だが、給付費削減へ向けて利用者や事業者に負担を求めるだけでは課題は解決しない。「介護の社会化で生活の質を高める」という創設の原点に立ち返って、「地域福祉」の在り方を考える必要がある。今回の制度改定は「2025年問題」への対策が柱。自己負担額の見直しや、介護予防を強化し「自立支援」に積極的に取り組む事業者への報酬を手厚くすることなどが特徴だ。「2025年問題」とは、団塊の世代が75歳以上となって超高齢社会が到来し、介護や医療など社会保障の給付と負担が一段と増すことを指す。25年には、75歳以上が約2200万人になるという推計があり、総人口に占める割合は2割。1割だった10年に比べると、急速に高齢化が進んでいく。この問題を視野に入れた主な改正のポイントは、自己負担額での3割負担の導入や、介護予防による「自立支援」を重視したことだ。医療との連携や、リハビリテーションの強化で介護不要な状態までの改善を目指し、成果を上げた事業者へ報酬を手厚くする。だが、事業者が改善の見込みがある人だけを選んだり、保険料を払っても望むサービスを受けられなくなったりする懸念がある。身体的な介護予防に力点を置いた場合、認知症の人への支援はどうするのかなど、さまざまな課題がある。介護保険制度は2000年にスタート。背景にあったのは、①家族介護で特に女性に重い負担がかかる②在宅介護ができないと病院へ(社会的入院)③病院で尊厳が軽視される──といった社会状況だった。制度導入前、介護は家族内の問題であり、“できれば家の奥に隠しておきたいこと”だった。取材を受けてくれる家族を探すのも困難だった。公的介護サービスが当たり前になっている現在と比べると、制度が定着していることを実感する。状況は明らかに改善した。一方で、3年ごとに行われる制度の見直しが財政面にばかりに目が向くきらいがある。制度の安定的な運用は重要だが、「高齢者自らがサービスを選び、決定することで尊厳が守られる」とした制度の理念を置き去りにするようなことは許されない。介護サービスを必要とする高齢者が安心して利用できる制度が「尊厳」の出発点となる。介護の目的は食事や排せつ、入浴などの支援(サービス提供)だけにあるのではない。人と人の良い関係に基づいた支援により、人間らしい生活を送ることにある。地域に密着したJAの強みは、このような関係性を築いてきたことだ。地域の食と農を生かし、女性部パワーを活用したきめ細かな対応で、利用者に喜ばれる高齢者支援活動を続けていきたい。

<自然を知って活用すべき>
PS(2018/5/2追加):*8-1のように、今治市の松山刑務所大井造船作業場から脱走した平尾受刑者は尾道市の向島から泳いで本州に渡ったそうだが、警察もメディアも流れが速く水温が低いので島内での潜伏を有力視して、警察犬も導入し延べ1万5000人(日当1万円とすると、人だけで1.5億円)を投じて向島内を捜索していた。しかし、尾道水道は最も狭い所で200メートルしかなく、満潮・干潮間の潮目が変わる時には流れが止まり(この潮流変化を利用したのが「壇ノ浦の戦い」で、源氏が平家に勝った戦法である)、泳ぐとエネルギーを使って暑くなるのでこのくらいの水温は問題なく、私でも泳いで渡ることができる。そのため、海辺で育った男性なら潜って渡ることも可能だろうと、私は思っていた。しかし、警察やメディアは、「季節や日によっては潮の流れが速い」などと言って、1日に2回ある満潮・干潮間の潮流の停止を未だ知らないようである。この警察やメディアの問題点は、地元の人に聞けばすぐわかる情報を入手せず、自然に関する知識もないため、判断が誤っているということだ。そして、これは、警察やメディアに限らず農水省・国土交通省の官僚や裁判官にもそういう人が多いため、根の深い問題なのである。ただ、この事件が長期間報道されたおかげで、この地域は島が多く流れの早くなる場所も多いため潮流発電に向いており、オリーブやアーモンドなど地中海のような作物を植えて、計画的に都会や海外から新しい住民を呼び寄せたらよいということもわかった。
 このような中、*8-2のように、佐賀、福岡、熊本3県の漁業団体は1日、福岡高裁が示した開門に代わる100億円基金案による和解を「強く期待する」との統一文書を発表したそうだが、確かに本質ではなく策略でゲームのように国を動かそうとする官僚や政治家は多い。しかし、人間は自然の代弁者にすぎないため、このやり方では、人間は動かせても自然の仕返しを受けるだろう。私も、この状況なら、調整池からの排水が有明海に行き渡るようにこまめに排水する必要があると思うが、それは潮受け堤防の排水口に発電機をつけて干満差6メートルの海で満潮・干潮毎に発電しながら行えば、ポンプを使うよりも排水のメリットが出て、安価にこまめな排水ができると考える。

*8-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2018050100122&g=soc (時事通信 2018/5/1) 「泳いだ」海、最短200メートル=逃走経路の解明急ぐ-受刑者脱走 
 愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者の平尾龍磨容疑者(27)が脱走し22日ぶりに逮捕された事件で、県警などは1日、逃走経路などについて本格的な捜査を始めた。平尾容疑者は潜伏していた広島県尾道市の向島から「泳いで本州に渡った」と供述。対岸の同市内までは最短距離で200メートルほどで、泳いで渡ることは可能という。向島は広さ約22平方キロメートル。山林に覆われ、空き家が1000戸以上点在する。広島、愛媛両県警は、平尾容疑者が脱走した4月8日から延べ1万5000人を投じて捜索。同24日には、島北部の防犯カメラに平尾容疑者とみられる男が映っていたことが分かった。両県警は、島内の港や本州につながる道路で検問を実施していることや、海水の温度が15度前後と低いことから、島内での潜伏を有力視していた。平尾容疑者は、向島と本州の間にある尾道水道を泳いで渡ったとみられる。尾道海上保安部によると、尾道水道は最も狭い所で200メートルほど。季節や日によっては潮の流れが速いが、「泳ぎの得意な人なら、泳ぎ切ることはできる。場所を選べば渡れる」という。平尾容疑者は向島で「空き家に潜伏していた」と供述。逮捕された際は、脱走時と異なる衣服を着ていた。現金などを盗みながら空き家を転々としていた可能性があり、両県警は足取りを詳しく調べる。愛媛県警は1日午後、平尾容疑者を送検した。

*8-2:http://qbiz.jp/article/133103/1/ (西日本新聞 2018年5月2日) 佐賀県漁協が諫干「非開門」容認に転換 原告の漁業者側は反発
 国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)の潮受け堤防開門を巡る訴訟の和解協議に関し、佐賀、福岡、熊本3県の漁業団体は1日、福岡高裁が示した開門に代わる100億円基金案による和解を「強く期待する」との統一文書を発表した。佐賀県有明海漁協は100億円基金案に一貫して反対してきたが、容認にかじを切った形だ。訴訟当事者の漁業者側の孤立化は必至だが、和解協議を拒否する姿勢を崩しておらず、和解成立が厳しい状況に変わりはない。3県の漁業団体は訴訟の当事者ではないが、基金を運営する立場。統一文書では「高裁が示した開門しない前提の和解協議を進めて欲しいとの考えで一致」と明記し、国の基金案とともに有明海再生事業の継続やこまめな排水の確実な実施、基金とは別枠での排水ポンプの増設を和解協議で取り上げるよう求めている。佐賀県の漁協では諫早湾に近い西南部5支所が、干拓による漁業被害を訴えており、開門調査を求める意見は根強いが、統一文書の文言調整については4月24日の運営委員長会議で執行部に一任されていた。福岡、熊本の漁業団体トップと1日に福岡県柳川市で会見した佐賀県有明海漁協の徳永重昭組合長は、報道陣に方針転換かどうかを問われ「裁判所が開門しないことを前提に勧告しているので、そう捉えざるを得ない」と説明。「有明海再生に向け、いろんな意味で弾みがついてほしい」と話した。一方、漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長は統一文書について「和解実現を望む思いは受け止めるが、非開門を前提とする和解案は明らかに間違っている」と強調し、従来通り和解協議を拒否する考えを示した。3県漁業団体は8日、統一文書を斎藤健農相に提出する方針。判決期日は7月30日。
   ◇   ◇
●開門見えず苦肉の容認 「和解拒めば基金逃す」 国予算でも揺さぶられ
 「福岡高裁が示した和解の実現を強く期待する」。国営諫早湾干拓事業の開門を巡る訴訟の和解協議に関し、佐賀県有明海漁協が1日、開門によらない和解を容認する姿勢に転じた。湾の潮受け堤防が閉め切られて21年。これまで開門断念につながるような選択は突っぱねてきた。何が契機となったのか。
■福岡、熊本に歩調
 和解案容認派の福岡、熊本両県の漁業団体に、佐賀も歩調を合わせた。
3県のトップが顔をそろえ、統一文書を発表した1日の記者会見。佐賀の徳永重昭組合長は「ここ(統一文書)に書いていることが全て」と険しい表情を浮かべた。一方で、福岡高裁が和解勧告で示した開門に代わる基金案については最後まで言及を避けた。佐賀には、国に開門を求める裁判の原告漁業者や諫早湾の近くで赤潮被害に苦しむ漁業者がいる。これが福岡、熊本の漁業団体との「最大の違い」(漁協幹部)で、非開門の和解案を拒んできた理由だ。
しかし、漁協幹部や県関係者には懸念が広がっていた。昨年4月に「開門しない」と方針決定した国に反発し続ければ「予算を削られかねない」。2018年度政府予算では、開門調査を命じた10年の確定判決後、農林水産省が計上してきた開門準備経費が消えた。毎年約18億円を計上する有明海再生事業も「国の予算は単年度ごとに決まる」(農水省)と見直しに含みを持たせる。
■漁業者から不安
 「開門」を求める佐賀の有明海西南部の漁業者からも「基金案を拒み続けたら開門も基金も逃しかねない」との声が出てきた。7月に予定される福岡高裁判決は和解勧告を踏まえ「非開門の決断が下される」とみられているためだ。国の“揺さぶり”に呼応するように、福岡、熊本両県の漁業団体が佐賀説得に動いた。佐賀県漁協内部は「原告団の一部がいるのに、容認は口が裂けても言えない」「福岡、熊本から『俺たちの気持ちをくんでほしい』と言われる」との意見が交錯。板挟みとなった。
■「包囲網」が完成
 こうした状況に佐賀県も現実路線に転じた。これまで開門を求め「漁業者に寄り添う」としてきた山口祥義知事は今、「漁協に寄り添う」と県漁協の組織決定に重きを置く。県幹部も、諫早湾を閉め切った調整池からの小まめな排水で有明海が再生すれば「開門調査に代わりうる」と3月の県議会で説明。地元県議は「県の対応は以前とまったく変わった。高裁の和解勧告が引き金になった」と憤る。決着を急ぎたい国は判決ではなく、和解による解決を望んでいるが、原告漁業者が協議を拒んでいる。佐賀県漁協の「和解容認」で、原告を協議のテーブルへ引っ張り出す“包囲網”が完成したといえる。「ニンジンをぶら下げて(相手を)動かす。国には策士がいる」。佐賀県漁協の幹部は歯がみした。

| 経済・雇用::2018.1~2018.11 | 03:35 PM | comments (x) | trackback (x) |
2018.4.6 女性活躍を、女性の地位向上ではなく、少子化対策と捉えた点が誤りなのである (2018年4月7、8、11、12、13、14、15、18、19日に追加あり)
   
 出生数と合計特殊出生率   人口の高齢化  未来予測     日本の人口推移
             2018.3.31朝日新聞
(図の説明:1番左のグラフのように、戦後しばらくは合計特殊出生率が2~5で人口過剰が懸念されたが、1970年以降は一貫して2を下回り、次第に下がった。その結果、左から2番目のグラフのように高齢者の割合が増えたが、これは戦後の特殊状況・産業革命・医療の進歩などによる一過性のもので、第1次及び第2次ベビーブーム世代が亡くなると、人口は漸減しながら安定する。しかし、人間も生物であるため、人口密度が低くなって住みやすくなると出生率が上がって均衡人口に達するため、一番右のグラフのような産業革命前まで戻る著しい減少はしない)

(1)文明の進歩とともに向上すべき女性の地位
1)女性を土俵に上げないという伝統
 多々見市長が土俵上で倒れ、すぐに女性2人が土俵に上がって心臓マッサージを始めたのに対し、*1-1のように、行司が、「(「お客様の中に医療関係者はいませんか?」ではなく)女性は土俵を降りて下さい」とアナウンスし、「行司が動揺したため」と弁解されているが、「①土俵は神聖な場所であるため、女性を上げないことが何より重要」「②人命にかかわる緊急時のみ不適切な対応だった」としており、これは相撲文化の本質的な問題である。

 そして、①は江戸期からの伝統だそうだが、「女性は不浄だから神聖な場所には入れない」という伝統こそ昔から行われている仏教や儒教に基づく女性差別の継承であり、女性に対して失礼である。これに疑問のある人は、「女性は不浄だ」という理由を挙げ、それは現在も本当か否かを考えてみればよい。

 また、②は、「緊急時に女性を使うことだけ許す」と言っているのであり、やはり女性蔑視だ。さらに、*1-2のように、兵庫県宝塚市で4月6日に開かれる大相撲「宝塚場所」では、同市の中川智子市長が、巡業実行委員会に「土俵上で挨拶したい」と意向を伝えたところ、「土俵の下で挨拶して欲しい」と断られたそうだが、かつて、森山眞弓官房長官や大田房江大阪府知事も土俵に上がるのを断られた経緯がある。

 そのため、女性首長に対して敬意がなく、「女性は不浄だから男性だけ神聖な場所に入る資格がある」などと考えているスポーツに女性ファンがいることの方が不思議であり、相撲は自らの顧客に女性がいることを忘れてはならない。

2)女人禁制の伝統に疑問を持たない女性活躍相は、ジェンダーの解消に役立たない
 野田女性活躍相は、*1-3のように、「土俵上での医療従事者の救命活動は当たり前」としながらも、「この国の伝統を重んじる一人として、これまで(女性が土俵に上がれないことに)疑問を持ってこなかった」としている。しかし、このようなジェンダーギャップに疑問を感じない女性活躍相では、いくらその地位にいても本当にやるべき改革はできない。

 このように、伝統や歴史の名の下に、女性を多くの土俵から締め出した結果、*1-4のように、世界経済フォーラムが2017年11月2日に発表したグローバル・ジェンダー・ギャップ指数で、日本は144カ国のうち114位となった。そして、*1-5のように、英誌が発表した「ガラスの天井ランキング(2018年版)」でも、主要29カ国中28位とワースト2位となり、OECDによると、日本の大卒女性の就業率は諸外国に比べて低く、日本は高学歴女性を生かしていないとのことである。また、日本は女性管理職比率や所得の男女差など10項目のほとんどで各国平均を下回っており、日本は存在する人材を活かして使っていないという結果になっている。

(2)ジェンダー(社会的性差別)はどうやって作られるのか 
1)女性への専業主婦の勧め
 私は、専業主婦を選択した女性が「働いていない」「活躍していない」と考えたことはなく、“お役所仕事”をしている人(男女とも)よりも、毎日、マルチタスクで結果を出さなければならない仕事をしていると思っている。

 しかし、*2-1のように、「①専業主婦の私は輝ける」「②夫や息子の幸せを支えるのが誇り」などと、自分の選択を正当化して唱えなければならないところが専業主婦の気の毒なところで、これは、家事がシャドウ・ワークであり、金を稼ぐことで評価されないからだが、家事を全部外部委託すれば、20~40万円/月の外部委託費がかかるので、外部委託していない人は、それだけの働きを自分でしていることになる。

 が、栄養が十分な現在、“土鍋で炊いた十六穀米”は過剰だろうし、オートミールクッキー・ヨーグルトババロアの手作りは、品質のよいそれらの既製品が容易に手に入る以上、効率性を欠いており、趣味の領域に入るだろう。

 ただ、「みんなの幸せを支えているのは私」と誇るのはよいが、人を支えるだけが誇りと言うのは女性に強いられる悲しいジェンダーであり、「で、貴女自身は何を志したの?」と、働き続けることを選択した私は言いたくなるのだが、本当は、どの選択をするのも自由な筈である。しかし、働き続けたくても社会的サポート不足でそれがかなわず、女性に二者択一を迫って少子化に導いたのが日本政府なのだ。
 
2)お母さんに強要される専業主婦と非正規雇用(雇用主から見れば、安価で雇用調整しやすい便利な労働力) ← 子供に降り注ぐジェンダー観
 *2-2のように、子ども番組の歌のお兄さんが、①母親になる前はヒールをはき ②ネイルをして立派に働けるって強がっていた ③おかあさんになった今、爪を切り、走ることができる服を着て、パートに行く と、日本全国の子どもたちに向かって歌って聞かせる。

 ネイルをするのは、爪の健康に悪い上、しっかり手を洗えないので衛生的でなく、知的とは言えないが、ヒールのある靴を履いてかっこよくおしゃれをしながら、いつも走って立派に働いているのは、教育を受けた女性なら当然のことだ。しかし、子どもの頃から、それを「強がり」と刷り込むのが、我が国のジェンダー(社会的性差)教育の始まりなのである。

 また、女性に対する自己犠牲の奨めが強く、それでも「おかあさんになれてよかった」と女性を締めさせ、子どもを産まない女性やバリバリ働く女性は間違っていると子どもに刷り込む。そのような社会的刺激のシャワーの中で育った子どもたちは、どういう母や女性を理想とするようになるか。こうして、女性に自発的に自由を捨て去ることを強い、女性差別を維持しようとしているのが、我が国の現在の問題なのである。

3)「主役として地位を得たがる女性は性格が悪い」という刷り込み
 政治家で、いろいろな組織の理事や監事をしている人は多いが、*2-3のように、熊本市議会議員の北口氏は兼業禁止規定に違反したとして、議員資格なしとする資格決定書を熊本市議会が全会一致で議決したそうだ。

 しかし、何を言われるかわからないので兼業しない私には、長く役職についておらずブランクが長いとして立候補にマイナスであるかのように言う人が少なくなく、女性が男性を支えるのではなく議員や管理職などの役職に就くのが気に入らないため、何とかケチをつけているのが見え見えである。

 そして、こういうことを多くの人が疑問を感じずに受け入れる理由は、「自己を犠牲にして夫や子どもを支えるのではなく、主役として地位を得たがる女性は性格が悪い」という、(2)2)のような幼い頃からの刷り込みのシャワーがあるからだ。

 なお、北口氏は市職員にパワハラ行為があったともされているが、若くない女性がいたらない部下に注意をするとパワハラと言われることが多いのも女性の仕事をやりにくくしており、これは私も経験済みで、長く働いている女性を「お局様」と言う陰口が今でも通っているのと同じ古い感覚によるものである。

(3)人口減という論点設定の誤り
 少子化と人口減が問題だと説き、1番上の1番右のグラフのような架空の人口動態を示して騒ぐ論調は多いが、*3-1のように、女性やシニアの労働参加率が上昇すれば、人口減の中でも、しばらくは就業者の数が増え続ける。その増加カーブが頭打ちになる頃には、AI利用による生産性の向上を失業なく行うことができ、外国人労働者も導入して、世界に貢献しながら日本の労働力を満たすことができるだろう。

 さらに、*3-2のように、 ①人口増加は経済成長の大きな要因でない ②終戦直後には人口過剰問題への懸念が強かった ③生産性の継続的な上昇を促す経済政策を行うべき と主張する人もおり、私はこれに賛成だ。つまり、労働者に差別なく経験を積ませて生産性を上げれば、人々の福利を増しつつ明るい未来を作り出すことができるが、そのためには、我が国に逆方向に突っ走っている余裕などはないのである。

<女性は土俵に上げない伝統>
*1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13438719.html (朝日新聞 2018年4月6日) 「女性は土俵降りて」、波紋 大相撲巡業、救助中アナウンス
 京都府舞鶴市で4日にあった大相撲春巡業の舞鶴場所で、「女人禁制」の土俵上で倒れた多々見良三・同市長(67)の救助をした女性に、行司が土俵から降りるようアナウンスをした問題をめぐり、波紋が広がっている。日本相撲協会は5日、女性に直接謝罪したい意向を示した。
■「女人禁制」 行司「動揺し」
 4日午後2時過ぎ。土俵であいさつをしていた多々見市長が倒れた。70代男性は、市長のあいさつする声がいつもより力んでいるように聞こえたといい、「張り切っているんだな」と感じた。だが、間もなく市長は、何の前触れもなく後ろへ倒れたという。土俵の近くで見ていた60代女性によると、すぐに女性2人が土俵に上がり、「胸を開けてください」と叫ぶと心臓マッサージを始めたという。その後、「女性の方は土俵から降りてください」とのアナウンスが繰り返し流れたが、救急隊員らが交代するまで救助活動を続けた。70代男性は「なぜ降りろ、というかわからず、後になって女人禁制のことだとわかった」という。主催した実行委員会の河田友宏委員長(78)は「しきたりはしきたりだが、人の命がかかっているときに言うことではない。救命措置がなかったらどうなっていたかと思うし、とても感謝している」。女性たちには看護師も含まれていた。舞鶴市によると、多々見市長が倒れた原因は、くも膜下出血といい、市内の病院で手術を終え、経過は良好という。声を発したのは進行役の若手行司だった。「動揺した。女性が上がっているというのが頭の中で膨らんだ」と説明したという。八角理事長(元横綱北勝海)は同日夜、「とっさの応急処置をしてくださった女性の方々に深く感謝申し上げます」とした上で、アナウンスについて「人命にかかわる状況には不適切な対応でした。深くお詫(わ)び申し上げます」とコメントを出した。
■江戸期からの「伝統」
 女人禁制は、江戸時代の勧進相撲の頃から続いている。協会に残る資料には「女子は土俵に上がれない。固く禁じられている。理由は土俵は神聖なる場所であるため、このしきたりは勧進相撲当初より守られている」とある。現在も、引退相撲の際の断髪でも女性は国技館の土俵には上がれず、土俵下ではさみを入れている。協会は伝統・文化としての相撲道を守る立場として、ちょんまげや着物姿と同様に女人禁制も維持したい考えだ。米国出身のリー・トンプソン早大教授(スポーツ社会学)は「『女性であること』を何よりも優先する考えは時代遅れ」と指摘する。八角理事長のコメントに触れ、「かたくなに女性が土俵に上がることを拒否してきた協会が、緊急時では土俵に上がって良いと許容した。ある意味で『進歩』」と話す。ノンフィクション作家の長田渚左さんはアナウンスには「臨機応変な対応が出来ない。女性ならずともあきれかえったのではないか」とした上で、「協会が自分たちで作ったルールならそれはそれで結構。ただし、今後に備えて対応は考えて欲しい」とした。横綱白鵬は取材に「世界大会で女性が土俵に上がるのを見たこともあるし、(女性がいるのは)あまり違和感はない。本場所だったらまた別の話だけど」と話した。報告を受けた協会ナンバー2の尾車事業部長(元大関琴風)は「人命第一なのは誰もが分かっていること。女性が土俵に上がれないのは次元が違う話」と述べ、救命活動にあたった女性らに、八角理事長が直接感謝と謝罪を伝えたい意向があることも明らかにした。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13438721.html?ref=pcviewpage (朝日新聞 2018年4月6日) 土俵上あいさつ、女性市長できず 「宝塚場所」、実行委断る 大相撲巡業
 兵庫県宝塚市で6日に開かれる予定の大相撲の地方巡業「宝塚場所」で、同市の中川智子市長が、企業などでつくる巡業の実行委員会に「土俵上であいさつしたい」との意向を伝えたところ、断られていたことがわかった。中川市長によると、5日朝、土俵上でのあいさつについて実行委に打診したが、日本相撲協会と相談した結果として「相撲の伝統に配慮し、土俵の下であいさつしてほしい」と断られたという。中川市長は昨年の「宝塚場所」でも土俵の下であいさつしており、昨年同様の対応を求められたという。中川市長は「平等の観点からおかしいのではないか」と話している。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASL4632BVL46UTFK004.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2018年4月6日) 野田女性活躍相、土俵上の救命活動「至極当たり前」
 京都府舞鶴市での大相撲春巡業で、「女人禁制」の土俵上で倒れた市長を救助した女性に、行司が土俵から降りるようアナウンスしたことについて、野田聖子・女性活躍担当相は6日の閣議後会見で、「日本相撲協会が不適切だったと謝罪したのは、その通りだ」と述べ、行司の対応に問題があったとの認識を示した。野田氏は「土俵の上とはいえ、市長は生命の危機にあり、医療従事者が救命活動をすることは至極当たり前」と強調。土俵の女人禁制について「この国の伝統を重んじる一人として、これまで疑問を持ってこなかった」とも述べた。今後のあり方については「相撲協会が今回の事例を受けてどう歩んでいくか決めてほしい」とした。

*1-4:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/171201.html (日弁連会長声明 2017年12月1日 日本弁護士連合会会長 中本和洋) 世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数に対する会長談話
 世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)は、2017年11月2日、同年の世界各国の男女平等の度合を指数化した「グローバル・ジェンダー・ギャップ」を発表した。日本は、調査対象144か国のうち、114位と前年より3つ順位を落とし、過去最低となった。2015年が101位、2016年が111位と年々順位を落としている。ジェンダーギャップ指数は、女性の地位を、経済、政治、教育、健康の4分野で分析し、ランク付けしているが、日本は、経済114位、政治参画123位であるのに対し、教育74位、健康1位と分野間のばらつきが大きい。特に、女性の地位改善の鍵ともいうべき政治分野が最も順位が低く、国会議員の男女比が129位、閣僚の男女比は昨年の50位から88位と大幅に落ち込んでいる。生活の基盤となる経済は昨年の118位から若干改善したが、給与格差、管理職や専門職での男女比は、いずれも100位以下と低い。教育の分野では、初等・中等教育や識字率が1位であるため、教育全体では74位であるが、高等教育は101位といまだに低い水準にとどまっている。日本政府は、「すべての女性が輝く社会づくり」をその重点課題に掲げ、2017年6月6日には「女性活躍加速のための重点方針2017」を明らかにした。その中で、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律が完全に施行されてから1年余りが経過し、「女性活躍は大きなうねりになっている」との現状認識を示し、また女性活躍の実現に不可欠な働き方改革の取組を今後も強力に進めるとしている。しかし、2017年のジェンダーギャップ指数は調査が始まってから過去最低の順位を記録しており、上記施策が十分に成果を上げたとは言いがたい。国民の半数を占める女性の意見が十分に反映されてこそ、男女平等の視点を有する各種施策の立案が可能となることから、女性の政治参加は、あらゆる分野における女性の地位向上のための必須の条件である。当連合会においても、会内における男女共同参画の重点課題として、意思決定過程への女性会員の参画拡大に取り組んでいるところである。また、高等教育における格差解消は、社会に出てからの経済分野や政治分野における男女格差の改善に大きな影響を及ぼすことから、政府の掲げる女性活躍推進における有効な布石となるはずである。したがって、当連合会は、日本政府に対し、2017年のジェンダーギャップ指数の順位が過去最低となった事実を厳粛に受け止め、女性活躍を更に推進するために、働き方改革の取組にとどまらず、女性の政治参加及び高等教育における男女格差解消を重点課題とし、我が国のあらゆる分野にはびこっている性差別を根絶するためのより実効性のある具体的措置、施策を早急に講じるよう求めるものである。

*1-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27824790X00C18A3EA1000/?nf=1 (日経新聞 2018/3/7) 大卒女性、生かせぬ日本 先進国で就業率の低さ顕著
 3月8日は国連が定めた国際女性デー。英誌がこの日にあわせ発表した「ガラスの天井」ランキング(2018年版)で、日本は主要29カ国中28位とワースト2位に甘んじた。経済協力開発機構(OECD)によると、大卒女性の就業率が日本は諸外国に比べ低く、高学歴女性を生かしきれていない。労働力人口が縮むなか、「眠れる宝」の掘り起こしは急務だ。英エコノミスト誌のランキングは、女性管理職比率や所得の男女差など10項目のデータを基に計算。日本はほとんどの項目で各国平均を下回り、17年版と同じ28位。韓国と最下位を争った。安倍晋三首相が施政方針演説で「女性が輝く日本」をつくると明言したのは13年2月。17年の女性就業者が2859万人に上るなど、働く女性は5年間で200万人増えた。子育て期に就業率が下がる「M字カーブ」現象も解消されつつある。ただ、非正規女性の増加が数字を押し上げている面もあり、企業の女性管理職比率は12.1%(16年度)、役員比率は3.7%(17年、上場企業)にとどまる。女性活躍の質が伴わない一因は高学歴女性の就業率の低さにある。OECDの最新データ(16年)によると、日本の大卒女性就業率は74%でOECD加盟35カ国中29位。先進国の間でも低さが際立つ。男女格差も著しい。教育投資が経済活動に十分還元されておらず、社会的な損失は大きい。大卒女性の就業率が低いのは、仕事と生活の両立が難しく、結婚・出産での退職が多かったからだ。再就職先はパートタイムや定型業務などに限られがちで収入も低い。日本女子大学はこんな高学歴主婦らの再就職支援プログラム「リカレント教育課程」を開いている。会計学などを1年学び実践力を磨き直す。受講生の7割は他大出身。慶応大と東京女子大、早稲田大が上位を占める。人手不足を背景に企業も目を向ける。同教育課程が2月に開いた就職合同会社説明会には37社が参加した。「数年前まで参加は10社程度だった。ブランクはあるものの、高い潜在能力に企業も気づいた」(事務局)。女性総合職の離職を防ぎ、幹部候補として養成を急ぐ動きもある。サントリーホールディングスは育児休業でのキャリアロスを防ぐため、早期復帰を支援。保育所に入れなくてもベビーシッターを会社が手配するなど、希望時期に必ず復職できるようにした。女性役員養成に国も動く。内閣府は17年度、役員候補女性を育てる研修を開いた。グローバル経営など経営幹部に必要な知識を教えた。女性活躍の推進で多様な価値観を組織に入れると企業の競争力は高まる。先進国が取り組みを急ぐなか、その遅れは日本企業がグローバル市場で戦う際にマイナスとなる。OECD東京センターの村上由美子所長は「日本は取り組みのスピードが遅く、海外との差はむしろ広がっている。年功序列から成果主義への転換など、労働市場の構造改革が必要だ」と話す。

<日本における専業主婦と非正規雇用のススメ>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13299330.html (朝日新聞 2018年1月4日) (家族って:3)専業主婦の私、輝けるのに 夫や息子の幸せ、支える誇り
 かつて「男は仕事、女は主婦」が理想とされた時代がありました。「女性活躍」の波が押し寄せるなか、専業主婦たちはやり場のない思いを抱えます。家族を送り出した後、リビングで1人。水戸市の斉藤綾さん(43)は、いつものように朝食をとりながら朝刊をめくる。安倍政権が掲げる「女性活躍」の記事を見るたび、ため息が漏れる。「専業主婦は、活躍していないの?」長男(17)の妊娠を機に勤めを辞めた。午前6時に起きて朝食作り。家族の健康のため、平日は土鍋で炊いた十六穀米と、ネギとすりゴマ入りの納豆を欠かさず用意する。午前7時40分からが自分の朝食の時間。起床後、初めて腰を下ろす。その後は朝から3回転させた洗濯物を干す。ベランダの限られたスペースに、乾きやすく干すよう気を配る。そして掃除機をかけ、床や窓を拭く。3LDKすべての部屋をきれいにする。次男(12)が下校すると、おやつの時間だ。オートミールクッキーやヨーグルトババロアは手作り。その後、宿題を見て、習い事へ送る。会社員の夫(46)と長男は帰宅時間が異なるため、それぞれに夕食を温め直して出す。後片付けや翌日のお弁当の準備を終えると、午後11時を回る。疲れと満足感で、すぐ眠りに落ちる。毎日、ほぼ同じ流れを繰り返す。昨年のクリスマスイブ。子どもたちと作ったピザやケーキで食卓を囲むと、夫が「幸せだな」とつぶやいた。「みんなの幸せを支えているのは私」。誇らしかった。ずっと勤めに出ないでいると、「具合でも悪いの?」と心配する人もいた。友人からは「働かざる者食うべからずよ」と言われた。専業主婦世帯は1997年以降、共働き世帯を下回り続けている。女性の社会進出に加え、景気の低迷から共働きでないと生活できない世帯が増えたことも背景にある。斉藤さんも、司書の資格を取って図書館で働きたいと思うこともある。でも、一番力を注ぎたいのは家族のサポート。外でパワー全開で頑張れるよう、日常のすべてを整えることに徹したい。家族の予定や健康の管理など、物事を同時並行でこなす家事は「マルチタスク」だと思う。専業主婦には多くの能力が必要とされる。そんな自負がある。「女性活躍」を押し出して女性に働くことを奨励する政権に、「家事や育児だって働く人と同じように輝けるのに」と感じる。仕事をしたい女性が働きやすい社会にするのは大事なこと。でも、こんな思いはぬぐえない。「国は働け働けと言うけれど、専業主婦は十分働いている。社会は、どんな選択も受け入れてほしい」
■子どもが成長した後は…焦りも
 覚悟したはずだった。それなのに、子どもの寝顔を見ながら自分の存在価値を確かめたくなる夜がある。福島県の真由美さん(34)は、会社員の夫と2歳の長男の3人暮らし。大学卒業後、大手証券会社の専門職などで働いた。遠距離恋愛の末に結婚した夫は、毎年のように転勤がある。「一緒にいたい」という思いが勝り、専業主婦になった。夫は激務。ほとんどの時間を長男と過ごす。スイミングやリトミックと、2人一緒にいるのは楽しい。だけど、いつも不安と隣り合わせだ。「息子が成長した時、自分には何が残っているんだろう」。為替の動きを注視し、情報の最先端に触れていた日々は遠くなった。夫の転勤のたびに転職はできないが、「社会の波に乗っていない」と感じる。ブランクが長くなるほど仕事を見つけづらくなる。焦りを覚える。東京都の佑子さん(32)は金融機関で働き、早朝から夜まで仕事に明け暮れていた。やりがいを感じていたが、子育て中の社員はほとんどいなかった。5年前の結婚を機に転職。その会社も妊娠中に入院が長引き退職した。4歳になった長女は、ひらがなを覚え、ピアノで曲も弾けるようになった。なのに、自分は何も変わっていない。娘の幼稚園ではパートに出るママ友が増えた。娘の教育費のために自分も働きたい。でも、夫は残業が多く、休日も出勤する。夫に相談すると「申し訳ないけど、家のことはお手伝い程度しかできないと思う」と返された。遠方に住む両親には頼れない。「仕事をしたら自分に負担がかかるのは目に見えている」。専業主婦は365日営業。終わりが見えない。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180212&ng=DGKKZO26738260Z00C18A2TY5000 (日経新聞 2018.2.12) 歌詞が「自己犠牲を美化」と炎上 何とも苛烈な「理想の母」 詩人・社会学者 水無田気流
 絵本作家・のぶみ作詞、元NHKの子ども番組の歌のお兄さん・横山だいすけ歌の「あたし おかあさんだから」の歌詞が、ネット上で炎上している。とりわけ当事者である母親たちからは反発され、ツイッター上には「あたし おかあさんだけど」という反論があふれている。歌詞は「母になって我慢するようになったこと」が列挙される構成で、批判の内容は(1)母の過度の自己犠牲の当然視、(2)働く女性や子どもを産んでいない女性への無自覚な非難の2点に集約される。作者は実際に母親たちの話を聴いて作ったと説明するが、反感を買ったのはなぜか。第一に「子どものためにすべてをささげて自己犠牲に励む母」対「自分のことだけ考えるキャリアウーマン」の二項対立図式が、独善的だからであろう。歌詞が描く「おかあさん」はこうだ。母親になる前はヒールをはき、ネイルをして「立派に働けるって強がってた」。しかし今は、爪を切り、走ることができる服を着て、パートに行く。なぜなら、「あたし おかあさんだから」。これでは、子どもを産まない女性やバリバリ働く女性は間違っていると読めてしまう。第二に、母の自己犠牲の程度が極端で、俗世を離れ一切の我欲を捨てるべしという、修行僧か修験者のような子育てを推奨する点だ。歌の中で「おかあさん」は、好きなことも服を買うこともやめて、食事も趣味も子ども中心に変え、「それ全部より おかあさんになれてよかった」と締める。最後まで父親は不在だ。私見では、母子の生活とは、他の家族や地域コミュニティなどからなる日常生活の一環だ。そしていつか、子どもは社会に出ていく。そのときまでには、親が子を一方的に守るだけではない、互いに独立した個人として尊重し合う人間関係を築く必要がある。だが「あなたのために、すべてあきらめて尽くしたのに……」という母では、健全な巣立ちも子どもの自立も困難になるのではあるまいか。女性は「母」になると「個人」として生きることが困難になる。自由は誰もが保障された権利だが、極論すればこの国で「理想の母親」となることは、「人として当たり前の自由や権利の放棄」に結びつくほど苛烈だ。しかもそれは、「美しい」「正しい」母親像の称揚によって、女性たちに「自発的に」自由を捨て去ることを強いてきた。本件が示す問題の根は深い。

*2-3:https://mainichi.jp/articles/20180327/k00/00m/010/100000c (毎日新聞 2018年3月26日) 熊本市議会:北口和皇氏が失職 兼業禁止規定に違反
 熊本市議会は26日、北口和皇(かずこ)市議(59)が地方自治法の兼業禁止規定に違反したとして、議員資格なしとする「資格決定書」を全会一致で議決した。同日付で失職した北口氏は決定の取り消しを求め熊本県知事に審査請求する方針。市議会によると、北口氏が組合長だった市漁協は、北口氏が会長を務める別の団体からの再委託分を含めると、市からの業務委託費が2015年度に事業収入の6割を超えていた。市議会特別委員会は議員が自治体と請負関係になることを禁じた兼業禁止規定に抵触するとしていた。北口氏は「再委託は請負と評価すべきではない」と反論しており「最後まで徹底的に争いたい」とコメントした。北口氏を巡っては市職員へのパワハラ行為があったなどとして、15年11月以降、議員辞職勧告を4回受けていた。

<人口減という論点設定の誤り>
*3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25268100Q7A231C1SHA000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2017/12/31) 人口減でも増える労働力 18年最多へ、女性けん引
 働く人の数が2018年に過去最高となりそうだ。人口が減少する中でも女性やシニアの労働参加率が上昇しているためで、就業者の数は当面、増え続ける見通し。ただいずれ臨界点が訪れ、20年代前半にも就業者の増加カーブが頭打ちになるとの観測も広がる。今後の成長には誰もが働きやすい労働慣行づくりや、人工知能(AI)などによる生産性向上が一段と重要になる。主な働き手となってきた15~64歳の「生産年齢人口」は現在、約7600万人。少子高齢化が進み、この20年で約1割減った。主要国の中でも突出したテンポで減少が続いている。にもかかわらず実際に働く就業者数は伸び続けている。17年は11月までの平均で6528万人と、前年を約1%上回った。過去2番目の水準だった98年の6514万人を超えるのが確実だ。18年も過去5年並みの伸び率が実現すれば、統計が残る53年以降で最高だった97年の6557万人を突破する可能性が高い。高度成長期の「いざなぎ景気」を上回る長さで12年末から続く緩やかな景気回復で労働参加が増え、働く意思のある人のうち就業している人はこの5年で急増した。生産年齢人口に対する比率で見ても13年に初めて8割を超え、足元では85%を上回る。けん引しているのは女性やシニアだ。15~64歳の女性で働いている人の割合は11月に68.2%と5年前に比べて6.7ポイント上昇し、過去最高水準にある。経済協力開発機構(OECD)によると、生産年齢人口に占める女性の就業率は米国を13年に抜き、主要先進国と遜色ない水準まできた。65歳以上の働くシニアの割合も98年以来の高さで、体力が必要で若い人を求めてきた介護現場で働く人も増えている。すでに働く意思を持つほぼ全員が職に就ける完全雇用の状態にある。問題は働く人をどこまで増やせるかにある。SMBC日興証券は人口の動きから判断して、最も楽観的なケースで就業者数は6950万人くらいが限界だとはじく。息の長い景気回復で各年齢層の労働参加率の上昇テンポが2倍に速まると仮定すると、働く人は年およそ50万人ずつ増やせる。女性の労働参加率が男性並みに高まるという前提だ。ただいずれ女性の働き手も枯渇し、25年をピークにいよいよ減少に転じる見込み。今のような景気回復が続けば「20年代前半に頭打ちになる可能性が高い」(同社の宮前耕也氏)。さらに厳しい見方もある。みずほ総合研究所の堀江奈保子氏は「人口減少と高齢化で労働参加率が今後上昇する余地は限られており、20年ごろには減少に転じるとみるのが現実的」とみる。失業率や各年齢層の労働参加率がほぼ変わらないと仮定して推計すると、25年に就業者数は6000万人を割るという。働く人の数が減少し始める中で成長し続けるには、従業員1人当たりの付加価値(労働生産性)向上が必要になる。日本生産性本部によると、16年の1人当たり労働生産性はOECD加盟35カ国の中で21位にとどまっている。人手不足を受けて企業は省力化の設備投資を増やしている。リクルートワークス研究所によるとAIや機械による労働の代替が進んで労働力が余り、今は24年ぶりの低水準にある失業率が25年までに再び大きく上がる可能性がある。多くの企業では余剰人員が生まれるため、より成長性の高い分野に人が転職しやすい市場を整備すれば、人材難を緩和できそうだ。より少ない人数で多くの付加価値を生み出せるようになれば収益力は落とさずにすむ。大きな課題としては、外国人労働者の受け入れもある。日本で働く外国人は16年10月時点で108万人と5年間で5割以上増えた。ただ留学生のアルバイトや、国際貢献を建前として受け入れている技能実習生が全体の4割を占める。日本総合研究所の山田久主席研究員は「意欲や能力が高い外国人を真正面から受け入れる制度にすべきだ」という。共働きの制約となっている配偶者控除など、税制面でも抜本的な見直しが必要との指摘は多い。働く女性を支えるため、男性が育児休業を取得しやすくするような環境も大切だ。年金制度を含む社会保障制度についても、高齢者の就労をさらに促進する方向で改革を進める。労働供給のカベとの闘いは、これからが本番となる。

*3-2: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180109&ng=DGKKZO25360070V00C18A1KE8000 (日経新聞 2018.1.9) 時代の節目に考える(4)人口減・高齢化言い訳にせず、逆手に生産性上昇めざせ 星岳雄(ほしたけお:スタンフォード大学教授 1960年生まれ。東京大教養卒、MIT博士。専門は金融・日本経済)
<ポイント>
  ○人口増加は経済成長の大きな要因でない
  ○終戦直後には人口過剰問題への懸念強く
  ○生産性の継続的な上昇を促す経済政策を
 2018年はいろいろな意味で節目の年である。世界金融危機から10年、日本の銀行危機のピークからも20年になる。そして平成の時代は30年目を迎え、19年には元号が改まることになった。また中国の改革開放が始まったのは40年前であり、全世界で反体制のデモや暴動が広がった「動乱の1968年」からも50年だ。もっと長期的にみると、18年は明治維新から150年にあたる。この150年間、日本は目覚ましい成長を遂げた。明治初期には3500万人に満たなかった人口は、大正に5千万人、昭和に6千万人を超えた。67年に1億人に達した後も増え続け、今世紀には1億2700万人台に達した。1人あたり国内総生産(GDP)は、明治初期には750ドル程度(各国の購買力平価と物価変動率を基に90年時点のドルに換算)だったが、1916年には2倍の1500ドルを超えた。第2次世界大戦など多くのショックはあったが、57年にそのまた2倍の3千ドルに達し、高度成長期を経て90年代半ばには2万ドルを超えた(英経済学者アンガス・マディソン氏の統計による)。しかし2000年代半ばになると人口は減少に転じ、50年代には1億人を切る見通しだ。2115年には大正初期の人口とほぼ同じ5千万人に戻ってしまうと予測される。経済成長もこのところ停滞が続いている。2017年の成長率は久しぶりに2%に近づきそうだが、この好景気が長く続くとみる人は少ない。人口減少と高齢化は今後の経済成長にどのような影響を与えるのか。それを考えるのが本稿の目的だ。人口が減少する中で、経済も停滞を続け、このままでは日本は超長期的には消滅してしまうのか。新春にふさわしくない話題だと読むのをやめる読者がいると困るので結論を先に言うと、人口減少と高齢化は経済の停滞を運命づけるものではない。むしろ場合によっては、人口減少や高齢化が経済を活性化する可能性すらある。人口減少と経済成長を考えるとき、GDPなどにより測られる経済全体の産出量を、「人口」「労働力/人口」「産出量/労働力」の3つに分解すると説明しやすい。すなわち産出量は人口と労働参加率と労働生産性を掛け合わせたものであり、経済成長率は人口増加率、労働参加率の上昇率、そして生産性上昇率の3つの要因を足し合わせたものになる。表は、この数式に1956年から2015年の日本の数値を当てはめて計算した結果を示したものだ。日本の経済成長率がここ60年で著しく低下したことが明らかにみてとれる。高度成長時代の年率約8%の成長率が、1970年代後半からは3~4%に低下し、90年代半ば以降は1%程度に落ちてしまった。また高度成長への人口要因の直接的な貢献(人口増加率と労働参加率の上昇率を足したもの)は1~1.5%にすぎなかったこともわかる。残りの7%程度の成長は生産性上昇によるものだった。76~95年の期間は、人口要因の貢献がほとんど変わらなかったにもかかわらず、経済成長率が鈍化した時代だった。そして96年以降は、最終的には人口要因により、年率0.1%以下ではあるが、成長に対してマイナスの影響を与えるようになった。さらに生産性上昇率が一段と低下することにより、日本経済は停滞に陥った。こうして実際の数値をみると、人口増加は経済成長の大きな要因ではなかったことがわかる。同様に最近の人口減少と高齢化も経済成長にマイナスの影響を与えるものの、決定的な要因とは言えない。高度成長にしても最近の経済停滞にしても、人口要因の直接的な影響よりも、生産性上昇のほうがより大きな役割を果たしたのである。経済成長が人口増加によりもたらされるわけではなく、経済停滞も人口減少の必然的結果ではない。そもそも人口減少が経済成長の大きな制約要因と認識されるようになったのは最近のことだ。70年前の1948年、日本の人口が8千万人を超えた年に、読売新聞(9月14日付)は「人口問題に関心を持て」という社説を掲載した。ここでの人口問題とは人口過剰問題だ。日本の国土に相応な5千万人程度の人口を超える無責任な人口増加が「戦争誘致の最大なる原因」だったと指摘した。人口8千万人という「われわれの歴史あつて以来初めて」の状況でまた過ちを繰り返さないように、「国民が如何(いか)なる原因でこうした非合理な無自覚な出産をつゞけているかという根本問題」を考えなければならないと論じた。人口問題とは人口過剰問題であるという認識は、当時は常識的なものだった。実際にはその後、日本は高度成長を達成することで、8千万人が何とか生活を維持できるかどうかという状態から、1億人以上の人々が豊かな生活を実現できるまでに発展した。人口増加が経済成長を引き起こしたのではなく、むしろ経済成長が人口増加を可能にしたのである。こう考えると人口が減少すると、極端に高い生産性の上昇がなくても、豊かな社会の維持が可能になることがわかる。人口減少と高齢化が進むので、経済の停滞は避けられないという議論は、単なる言い訳にすぎない。重要なのは、人口が減っても高い経済成長を実現する生産性の上昇であり、それを可能にする経済改革である。具体的にはどのような改革なのか。詳しく立ち入ることはできないが、アニル・カシャップ米シカゴ大教授との共著「何が日本の経済成長を止めたのか」(2013年)での結論を繰り返そう。最も重要なのは、規制改革、国際的経済活動の自由化、健全な競争を妨げるような弱者保護の政策の是正などの思い切った施策を通じて日本経済の新陳代謝を高め、最新の知識や技術がより早く経済活動に反映される環境を整えていくことだ。人口減少と高齢化は、経済成長に与える負の影響がそれほど大きくないだけでなく、むしろ逆手に取ることで生産性の上昇の誘因ともなる。例えば日銀の2017年7月の「経済・物価情勢の展望」では興味深い分析を報告している。産業レベルでみると、人手不足の度合いが高い産業で、IT(Information Technology=情報技術)を活用した効率化投資がより活発になっているというのだ。人口減少と高齢化が、従来の生産方法の継続に大きな課題を与えるときに、労働生産性を上げていくような投資が起こりやすくなるのは、理にかなったことだ。こうしたことが実際に起きているのか、今後緻密な実証研究が期待される。人口減少は、AI(Artificial Intelligence=人工知能)の発達により今後人間の職がなくなっていくという、現在注目を浴びている問題にも関わってくる。労働力人口が減っていく社会では、そうしたAIによる人間労働の代替は、むしろ歓迎される可能性が高い。日本の持続的な経済成長にとって、人口減少と高齢化は致命的な問題ではない。生産性の継続的な上昇を可能にするような経済改革を実現することにより、日本経済は成長を続けることができる。こう考えると、日本経済の近未来は明るくなる。人口減少を恐れるべきではない。

<ジェンダー押し付けの結果>
PS(2018年4月7日追加):遺伝子によって生物学的に決まる性以外に、人間には社会的に押し付けられる性(ジェンダー)が存在する。この社会的性差は、時代によって変化する上、同時代の人の中にも当然バラエティーがある。しかし、近年は、誰でも“普通”でなければならないかのような圧力が強く、よほどしっかりした人でなければ自分が性同一性障害と勘違いしてしまうこともありそうであるため、不可逆的な性別適合手術を行うにあたっては、必ず遺伝子検査をして生物学的性が第二次性徴と異なるか否かを確かめる等、慎重な対応が求められる。

*4:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-696427.html (琉球新報 2018年4月7日) 性別適合手術で保険初適用 岡山大病院、負担3割に
 心と体の性が一致しない性同一性障害(GID)の人の性別適合手術で、公的医療保険の対象となる全国初の手術が岡山市の岡山大病院で実施されたことが7日、分かった。今月から始まった制度で、保険適用により自己負担は3割となる。GID学会理事長の中塚幹也・岡山大大学院教授(生殖医学)によると、手術を受けたのは近畿地方に住む20代。女性から男性の体にするため、6日に乳房を切除した。性別適合手術は保険外のホルモン療法を受けている場合、全額自己負担となる。患者の多くはホルモン療法を受けるが、今回の当事者はまだ始めていなかった。

<農業の人材不足と外国人労働者・女性活躍>
PS(2018年4月8日追加):*5-1のように、農業の労働力不足は深刻で、沖縄では6割の自治体が労働力不足としており、花卉・野菜・キビなどの「耕種分野」は145の経営体で外国人材の雇用を要望しているそうだ。そのため、JA沖縄中央会は外国人材の採用に関する特区導入を希望しているが、言語や生活習慣の違い、農業技術の流出などの課題もあるとのことである。
 文化の違いについては、①沖縄からアメリカやブラジル等に移住した人の子孫を募集すれば、文化の違いが克服しやすい ②日本の都会で人材募集すれば、沖縄独特の自然の豊かさから日本人の男女でも手を挙げる人は少なくない ③外国人であれば、国別に住居をまとめて住んでもらい、その地域の公共施設はその国の言語にも対応できるようにする などの方法がある。
 また、*5-2のように、近年、女性農業者の活躍が目覚ましく、彼女たちが思う存分能力を発揮できる環境を整えれば貴重な人材となる上、*5-3のように、各地の大学や学科で本格的に食や農を学ぶ農学系女子(ノケジョ)も増えているそうだ。女性は、農業関連の知識だけでなく、食の安全・安心や産地と栄養・料理(=ニーズ)の関連、農山村の可能性など、具体的で広い関心を持っている点が特徴である。

*5-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-669143.html (琉球新報 2018年2月21日) 労働力不足、農業も深刻 沖縄、6割の自治体「不足」 花卉、野菜、キビ…外国人受け入れに期待も
 沖縄県内の農業・畜産業の労働力に関して都市部以外の市町村を中心に、約6割の自治体が「労働力が不足している」と認識していることが、県の調査で20日までに分かった。品目別では花卉(かき)、野菜、サトウキビなどで不足し、12月~3月の冬春期に不足人数が多かった。他の期間にも常に100人以上が不足するなど、農業の労働力不足の深刻さが浮き彫りとなっている。県が導入を検討する国家戦略特区の農業の外国人材の受け入れに関し、県農林水産部が調査した。調査は昨年12月から今年1月、県内41市町村と農業関係11団体を対象に実施。市町村の労働力不足については、29市町村が回答し、18市町村(62%)が「不足している」と答えた。農業団体の調査で農業生産に関わる労働力不足人数を月別に見ると、12月から3月までの冬春期に最大282人が不足していた。沖縄は県外が寒くなる冬春期に農業生産が活発で、とりわけ季節性があり通年雇用が困難なことから労働力の確保が難しいとみられる。年間を通じて100人以上が不足していた。花卉や野菜・キビなどの「耕種分野」は145の経営体で外国人材の雇用を要望しているが、一方で「畜産分野」の要望は8経営体にとどまった。畜産では海外の伝染病などの侵入を懸念し、受け入れに慎重な声もある。アンケートでは他に、外国人材の採用に関し、言語や生活習慣の違い、農業技術の流出などの課題が挙がった。労働力の確保には前向きな意見もある半面、国内の若手就労者、後継者などへの支援充実に注力すべきとの指摘もあった。現在、県内で受け入れが進む外国人技能実習生と比較して、農業特区の外国人材は活動範囲の広さなど関係者の期待も大きい。JA沖縄中央会の担当者は本紙の取材に「(特区の導入は)当然、必要だ。かなりの人数で労働力が必要となり、特区に期待している」と述べた。別の農業関係者は「外国人材に慎重な人もいるだろうが、潜在的な需要はまだまだある」と話した。

*5-2:https://www.agrinews.co.jp/p41934.html (日本農業新聞 2017年9月18日) 女性農業者の活躍 能力発揮へ地域の理解
 農水省の農業女子プロジェクトのメンバーが9月下旬から、香港でイベントを開く。日本の農産物や加工品をアピールし、輸出の足掛かりになると期待される。こうした女性農業者の活躍が最近、目覚ましい。農業に夢を描き、その実現へ奮闘する彼女たちをもっと支援しよう。家族に加え、地域の理解が欠かせない。思う存分能力を発揮できる環境を整えたい。香港のイベントは27日から10月31日まで。今年1月に続く2回目だ。百貨店やスーパーでの試食PR・店頭販売の他、農業女子が講師となり、自ら生産した農産物を使った料理レッスンを開き、現地レストランで特別メニューを提供する。初回のフェアをきっかけに香港への輸出を始めたメンバーもおり、販路開拓の意気込みは盛んだ。女性農業者の活躍が求められる背景の一つに、農業の6次産業化がある。農業者自身が生産・加工・販売に取り組む形は、これまでの「作れば売れる」から「売れるものを作る」発想への転換が必要となる。女性農業者は、生産者であると同時に家庭を切り盛りする生活者・消費者の視点を持つ。買い物好き、ネットワークづくりに優れた人も多い。そんな彼女たちの感性が、6次産業化を進める上で不可欠だ。生産物の品質はもちろん、消費者ニーズを捉えた加工品開発、見栄えのいい包装、直売やカフェに売り場を広げるなどして顧客の心をつかみ、起業家や経営者としての手腕を発揮する。一方、男性を中心とした農村社会の構図は依然として残る。「夫が経営の収支を教えてくれない」「妻は労働力としか思われていない」といった意見をいまだに聞く。農業女子からさえも「自治体からの通知がないと会合に外出しづらい」との声が出る。活躍する姿の裏に、こうした課題が潜んでいることを見逃してはならない。女性農業者はかつて無報酬労働が当然とされ、子どもの服を買う小遣いすらままならなかった。彼女らは思い切って義父母に要望したり、こっそりと内職をしたりして、わずかでも自由になる小遣いを稼いできた。そんな中で生活改善を進め、家族経営協定を結び、少しずつ地位向上を果たしてきた歩みがある。支えたのは義父母や夫、子どもたちなど家族の理解だ。現在、農業者の高齢・減少化が深刻さを増し、女性農業者の活躍が農村社会の活性化に欠かせなくなっている。これを後押しするには、家族の理解だけでなく、農村社会の中軸であり地域農業に従事する男性の協力が必要だ。JA役員や農業委員で女性登用を増やすため、こうした組織リーダーである男性の意識改革をさらに進めなければならない。政府が女性活躍推進へ積極的に取り組む今こそ、真の意味で女性が輝ける仕組みをつくり上げるべきだ。農業発展の鍵を握る女性たちが、活躍する“芽”を育てていこう。

*5-3:https://www.agrinews.co.jp/p43752.html (日本農業新聞 2018年4月7日) 農学系女子 ノケジョ 食・農の未来「任せて」 年々増加 今や半数近くに 大学側も期待
 入学シーズンを迎える中、各地の大学や学科で食や農を学ぶ農学系女子(ノケジョ)が増えている。既存の農業系の学校だけでなく、今春開設した食・農学系の大学や学部でも、ノケジョ率は高い。農業関連の知識だけでなく、食の安全・安心や産地との連携、農山村の可能性などを幅広く学べるところが人気の要因だ。
●男性しのぎ 続々入学
 6日に入学式をした日本農業経営大学校(東京都港区)では、新入生16人のうち女性は過去最多の5人。昨年は女子の入学はゼロで、例年は1、2人だった。青森県南部町の果樹農家出身の沼畑恵夢さん(20)は「地元には後継者がいないために土地を手放した農家が多数いる。女性の力で現状を打破したい」と意気込む。東京農業大学は今春、神奈川県厚木市の農学部に新たに生物資源開発学科、デザイン農学科の2学科を開設した。特に、デザイン農学科は新入生126人のうち71人が女性。同大は「農業生産の研究だけでなく、食の安全・安心や農村の持続性など幅広い分野を学べる農学部に、女性の支持が集まっている」(厚木キャンパス事務部)と分析する。
●酒造り人気に
 今春、吉備国際大学は兵庫県南あわじ市の農学部に新たに醸造学科を開設した。酒造りの世界は男性のイメージがある中、新入生20人のうち女性は5人。大学への問い合わせも女性が多かったという。同学科の井上守正教授は「酒造りだけでなく、チーズやバター、漬物などモノづくりに関する女性のポテンシャルは高まっている。来年度以降、女性の割合はさらに高まる」と見込む。新設した新潟食料農業大学(新潟市)は7日、入学式を迎える。少子高齢化で学生の絶対数が少なくなる中での開校は大きな挑戦だったというが、県内外の調査で女性の進学希望が多かったことも設立を後押しした。新入生99人のうち、女性は25人。同大は「女性の潜在的な入学希望はもっとあるはず。来年度からはさらに女性比率を高めるよう、情報発信したい」(入試広報課)と意欲を示す。
●獣医師志望も
 3日に入学式を終えた学校法人「加計学園」が運営する岡山理科大学獣医学部(愛媛県今治市)は、新入生186人のうち、女性は男性を上回る95人を占めた。同大学は「昔は獣医師は男性のイメージがあったが、女性を集めることが安定的な学校運営につながる。命を扱う獣医師に女性は向いており、畜産農家に貢献できる人材育成を進めたい」(入試広報部)と狙う。
●細やかさ生かし新時代けん引を
 新設される学部だけでなく、既存の大学農学部でもノケジョが目立つ。文部科学省によると、最新の2017年の調査では、農学を学ぶ大学生は10年前より3703人も増え7万6676人。うち女性の割合は45%。10年前は39・5%だった。農学部の女性は10年間で5472人も増えている。早稲田大学名誉教授で、日本農業経営大学校の堀口健治校長は「6次産業化などで農の付加価値を高めるべき時代に、女性の細やかな視点が生かせる場面は多い。農業をけん引してほしい」と期待する。 

<民営化後の郵便局の利用>
PS(2018年4月11日追加):*6のように、郵便局が自治体事務の一部を受託してくれれば、近くに郵便局しかない離島・山間部の人は便利になる上、コンピューターネットワークを駆使すればそれは可能で、外国語対応も安価にできそうだ。また、全国で郵便局や社宅の跡地を開発する司令塔になるのもよいだろう。しかし、ゆうちょ銀行が民営化した以上、通常貯金の預入限度額は撤廃すべきだと考える。何故なら、「地方銀行からゆうちょ銀行に預金が流出して民業圧迫する」というのは、これまで長く銀行業務をやってきて、地域の事情や銀行業務のノウハウに精通している筈の地方銀行の甘えにすぎないからである。

*6:http://qbiz.jp/article/131625/1/ (西日本新聞 2018年4月11日) 郵政社長、郵便局機能絞り込みも 将来的な可能性を示唆
 日本郵政の長門正貢社長(69)は11日、共同通信のインタビューに応じ、全国約2万4千の郵便局網に関して「全て同じ機能を持つ必要があるかという議論はある」と述べ、将来的な機能絞り込みの可能性を示唆した。首都圏など都市部で担当エリアが重複する店舗の統廃合を進める一方で、過疎地などでは利用状況に応じた平日休業といった運営形態の見直しが今後、議論されそうだ。郵便局で自治体事務を受託することについては「収益は踏まえるが、かなり引き受けられる」と積極姿勢を示し、「全国一律のサービスは今後も守る」と強調した。4月2日に設立した不動産開発の100%子会社の日本郵政不動産は、東京や大阪での案件を皮切りに、全国で郵便局や社宅の跡地を開発する「司令塔になる」との考えを示した。一方、政府の郵政民営化委員会が近く是非を判断する、ゆうちょ銀行の通常貯金の預入限度額撤廃案に関しては「撤廃を希望する考えを取り下げるつもりはない」と明言した。地方銀行などからゆうちょ銀に預金が流出し、民業を圧迫するとの懸念に対しては「預金集めではなく、投資信託の販売など資産形成支援に注力していく」と否定的な見方を示した。策定中の新中期経営計画で対象となる2018〜20年度は、低金利の長期化が見込まれるとして「収益を上げるには最も厳しい3年間になる」と語った。

<外国人労働者の必要性と待遇>
PS(2018年4月12日追加):*7-1のように、政府は2019年4月にも外国人労働者向けに新たな在留資格を作り、最長5年間の技能実習を修了した外国人に、さらに最長5年間の就労資格を与えるそうだ。対象は農業・介護・建設などとしているが、*7-2のように、林業や水産業も人手不足で、さらに中小企業も事業承継する人がいないという問題を抱えているところが多いため、業種は限らない方がよいと考える。なお、技能実習終了後は母国に帰って再来日した後に新資格を与え、「引き続き10年以上の在留」という外国人の永住権取得の要件に当てはまらないようにするそうだが、世界の人材獲得競争の中で条件を悪くすれば、研究者の動向と同様、選択肢の多い優秀な人ほど日本に来なくなるので注意すべきだ。

    
                       2018.4.12日経新聞
(図の説明:先進国に先駆けて日本の高齢化率は高く、生産年齢人口の割合は低くなるが、これに対応するには、高齢者の定義変更や女性労働力の活用だけでなく、外国人労働者も重要だ。しかし、外国人に対する処遇を差別的なものにしすぎると、優れた人ほど他国に行ってしまい、その結果は、現在、研究者の母集団の数と多様性によって科学技術分野の論文数に現れている)

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180412&ng=DGKKZO29256530R10C18A4MM8000 (日経新聞 2018年4月12日) 外国人、実習後に就労資格、最長5年、本格受け入れ 農業や介護、人材を確保
 政府は2019年4月にも外国人労働者向けに新たな在留資格をつくる。最長5年間の技能実習を修了した外国人に、さらに最長で5年間、就労できる資格を与える。対象は農業や介護などで、試験に合格すれば、家族を招いたり、より長く国内で働いたりできる資格に移行できる。5年間が過ぎれば帰国してしまう人材を就労資格で残し、人手不足に対処する。外国人労働の本格拡大にカジを切る。政府は単純労働者の受け入れを原則、認めていない。一方で働きながら技能を身につける技能実習の範囲拡大や期間延長で事実上、単純労働者の受け皿をつくってきた。幅広く就労の在留資格を与える制度の導入は大きな政策の転換点になる。政府は今秋の臨時国会にも入国管理法改正案を提出し、来年4月にも新制度を始める方針だ。新設する資格は「特定技能(仮称)」。17年10月末で25万人いる技能実習生に、さらに最長5年間、就労の道を開く。技能実習は農業や介護などが対象。新設する資格とあわせれば、通算で最長10年間、国内で働き続けることができる。新資格で就労すれば技能実習より待遇がよくなるため、技能実習から移行を希望する外国人は多いとみられる。政府は少なくとも年間数万人は外国人労働者が増えるとみている。農業、介護、建設など人手不足の業界を対象にする。そもそも技能実習は学んだ技術を母国に伝えることが前提。経験を積んだ人材も実習後に国外に退去しなければならない。長く働きたい外国人や、実習で経験を積んだ外国人を育てた国内の雇用主からは、改善を求める声があった。技能実習制度とその本来の目的は維持するため、新資格は一定期間、母国に帰って再来日した後に与える。外国人の永住権取得の要件の一つに「引き続き10年以上の在留」がある。いったん帰国してもらうため、技能実習と新資格で通算10年を過ごしても、直ちに永住権取得の要件にはあたらないようになる。外国人労働者をさらに増やすため、実習修了者と同程度の技能を持つ人にも新資格を付与する方針だ。既に実習を終えて帰国した人も対象になる見通しで、経験豊かな労働者を確保できる。新資格の保有者は、より専門性が高い在留資格に変更できるようにする。専門技能を問う試験に合格すれば、海外の家族の受け入れや、在留期間の更新ができる既存の資格に切り替えられる。国内では25年度に介護職員が約38万人不足する見込み。農業人口はこの10年で約4割減り、人手不足が深刻だ。技能実習生の多くが新資格に移行すれば、長期間、国内労働力に定着させることができる。アジア各国の賃金上昇で外国人労働力の獲得は難しくなっているが、人材獲得競争にもプラスに働くと見ている。日本の労働力人口は約6600万人。17年10月末時点の外国人労働者数は技能実習生の増加などがけん引し127万人と過去最高を更新した。労働力の50人に1人は外国人が担う状況だが、政府はさらに増やす方針だ。ただ多くの外国人の受け入れを前提とした社会基盤については整備が遅れており、受け皿づくりに向けた国民的議論を進めることが急務となる。

*7-2:https://www.agrinews.co.jp/p43787.html (日本農業新聞 2018年4月12日) 新たな森林管理制度 人員確保策が焦点 衆院農林水産委員会
 手入れが行き届いていない森林を、担い手に集約化する新たな森林管理制度の創設を目的とした森林経営管理法案が、11日の衆院農林水産委員会で本格審議に入った。農水省が今国会に提出した9法案の目玉の一つ。安倍政権が掲げる林業改革の具体化を目指す。林業の人手不足が深刻化する中、管理を担う人員をどう確保するか現場の懸念は根強く、今後の審議の大きな論点となる。同法案は、所有者が管理できない森林を、市町村を介して、意欲と能力ある民間事業者に集約化する制度を創設する。条件不利で収益が見込めない森林は、市町村が管理する。今国会の重要議案に位置付けられ、委員会審議に先立ち、先月29日の衆院本会議で、斎藤健農相による趣旨説明と、与野党による代表質問が行われた。12日には同委員会で参考人質疑も予定する。11日の同委員会では、新制度で市町村が担う森林の所有者や境界の特定といった業務に対して、「明らかに(人員が)不足している」(立憲民主党の神谷裕氏)などと懸念する声が続出。市町村の林務の専門職員は全国で約3000人で、3分の2の市町村は、こうした職員がゼロか1人という現状が背景にある。同省は、林業従事者らを対象に市町村の林務を全般的に支援する「地域林政アドバイザー」の資格取得を進め、市町村がアドバイザーを雇う経費などを地方交付税で措置し、体制整備を後押しすると説明。近隣市町村と共同での新制度の運用や、都道府県による事務の代替も可能だとした。国は市町村が新制度を運用する財源として、新税「森林環境税」を元手にした「森林環境譲与税」を配分する。野党からは、その使途も幅広くするよう求める声が上がった。斎藤農相は、新制度の当初の目的は私有林の整備促進だとしつつ「私有林よりも公有林の整備が優先される事態に対しては、市町村の判断で公有林の整備に当てることは可能だ」と説明。一方で同省は、財源の適正な利用へ、地方公共団体にインターネット上などでの使途の公表を義務付けるとした。

<高齢者いじめをしている馬鹿は誰なのか>
PS(2018年4月13日追加):人口構造の変化で高齢者に対する年金・医療・介護などの社会保障負担に堪えられないため、「高齢者(⁉)への負担増・給付減を行うべきだ」とする官製の論調に対しては、メディアだけでなく国会議員の中にも疑問を持たずに同じことを言う人が多い。しかし、この官製の論調は、「他のあらゆる努力をした上で、仕方なく高齢者の権利を奪う選択もする」というのではなく、他では無駄遣いを垂れ流し愚策を重ねながら、高齢者から巻き上げることで解決しようとするものであるため、説得されてしまう人は頭が弱いと言わざるを得ない。ただ、*8-1のように、八方を幸福にしながら社会保障費を削ることには、私も賛成だ。
 また、*8-2のように、政府は経済財政諮問会議で、2019年度からの3年程度、社会保障費の抑制に向けて歳出の目安を設ける方向で検討に入り、医療・介護などの社会保障費の自然増を抑えるとのことだが、必要だから受けている医療・介護を削って国民一人当たりの福利を減少させるのは問題だ。特に、生活支援に対する扱いが悪いが、高齢化社会で医療・介護・生活支援は必要不可欠なサービスで、これは、現在から将来にわたって世界で必要とされる(無駄遣いではない)本物のニーズであるため、これを磨いておくことは、我が国の高度なサービス産業の育成にもなるのである。そのため、そんなこともわからずに、EV・再生可能エネルギー・再生医療の二の舞にしようとしているのは、我が国の官製政策の重大な欠陥である。
 なお、*8-3のように、日本年金機構の外部委託業者の情報処理にミスがあり、その委託業者は、機械の読み込みではミスが出やすい氏名などの入力作業を中国の関連企業にやらせていたそうだが、国民は、日本年金機構や厚生労働省に個人情報を知られることを了承したものの、外部委託業者や再委託業者に個人情報を知られることを了承した覚えはない。つまり、個人情報保護や人権に無頓着というのが我が国の官僚機構で、その無神経さに呆れるのである。


                  2018.1.27日経新聞     2016.2.18毎日新聞

(図の説明:金融緩和して貨幣価値を下げる政策をとったため実質賃金は下がり、年金が減らされ介護保険料負担が増えたため年金生活者はこれら3つの影響でさらに実質手取額が減った。そのため、いくつかのメリットはあったかもしれないが、実需の国内需要が増えるわけはないのである。また、本当に必要とされ利用が進んでいる医療・介護サービスをめくらめっぽう減らし、介護保険料負担は40歳以上のみのまま高齢者負担を増やしたため、人口の30%以上を占める高齢者の生活が危うくなった。そのため、どういう人が考えるとこういう政策になるのかを、主権者である国民はよく考えるべきである)

*8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180413&ng=DGKKZO29334950S8A410C1EN2000 (日経新聞 2018年4月13日) 高齢者の就業促進
 日本では、生産年齢人口(15~64歳)が絶対数でも人口比でも減少するという「人口オーナス」が進行中である。人口オーナスは人手不足をもたらし、社会保障制度の持続可能性を脅かし、地域を衰退させる。この人口オーナスに対抗する有力な道が、高齢者の就業促進である。高齢者の就業が増えれば、一石四鳥の効果をもたらす。第1に、働き手が増えるから人手不足が緩和される。第2に、年金の支給開始年齢を引き上げるなどの社会保障改革を進めることができる。第3に、就業に伴い所得が増えるから、高齢者家計の将来不安も軽減される。そして第4に、医療費の削減にも寄与するだろう。高齢者の労働参加率が高い地域は高齢者ひとり当たり医療費が少ないという関係があるからだ。こうした期待に応えて、高齢者の就業はかなり増えている。総務省「労働力調査」によれば、2012年から17年までの間に、55歳以上の就業者数は140万人も増えている。これはこの間の全就業者ベースの増加数の56%に相当する。人口オーナスによる人手不足の顕在化を、相当程度高齢者の就業増加が防いだことになる。一方で、大きな課題も残されている。それは、同一企業内での就業促進になっていることだ。高齢者の継続雇用を法律で義務付けられた企業が、多くの場合、定年後の雇用に対して別途の制度を設けて雇用の場を提供しているからだ。企業内の高齢者就業促進は誰にとっても不満を残すことになる。法律上の義務を果たすために、企業が無理に高齢者のための就業の場をつくり出しているとすれば、企業全体の効率性は損なわれるだろう。賃金水準が低く、高齢者の側にも「自らの能力と経験にふさわしい場が得られない」という不満が残る。定年を迎えた高齢者に最もふさわしい仕事が、同じ企業内に存在するとも限らない。現状のような不幸な就業形態を防ぐには、高齢者に限らず雇用の流動性を高めるなかで、企業の枠を超えて高齢者の就業の場を確保していくことが必要である。流動性が高まって、高齢者が能力と経験にふさわしい就業の場を持てるようになれば、前述の一石四鳥の効果はさらに高まる。働き方改革の重要なテーマである。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13448427.html (朝日新聞 2018年4月13日) 社会保障費抑制へ、歳出の目安を検討 来年度から3年間 政府
 政府は12日の経済財政諮問会議で、2019年度からの3年程度、社会保障費の抑制に向けて歳出の目安を設ける方向で検討に入った。団塊の世代が75歳になり始める22年度以降、社会保障費が大幅に膨らむためで、6月にまとめる新たな財政再建計画に盛り込む。安倍晋三首相は「今後3年程度で取り組む改革の方向性について、歳出の水準も含め、しっかりと検討する必要がある」と述べ、社会保障費の目安を検討するよう指示した。内閣府の試算では、医療費や介護費などの社会保障費の自然増は、これまでの年6500億円から、22年度以降は年9千億円に膨らむ見通し。政府は18年度までの3年間、予算編成で社会保障費の伸びを年5千億円程度に抑える目安を設けてきたが、19年度以降も歳出抑制のための目安が必要と判断した。厚生労働省は次回以降の諮問会議で、40年までの社会保障費の伸びの推計を公表予定で、これが議論のベースになる。一方、経団連は12日、社会保障や公共事業などの政策経費を税収などでどのくらいまかなえるかを示すプライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)の黒字化の達成時期について「20年代半ばを目標とすべきだ」との提言をまとめた。政府はもともと20年度までに黒字化する目標を掲げていたが、補正予算の編成や税収下ぶれ、消費増税延期などを受けて目標達成を断念した。財政再建計画には、黒字化の新たな目標時期も盛り込む方針だ。

*8-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018041302000178.html (東京新聞 2018年4月13日) 【社説】年金支給ミス 制度の信頼を壊すな
 日本年金機構の情報管理のずさんさがまた露呈した。外部の委託業者の情報処理にミスがあった。調査委員会が検証を始めたが、適切な情報管理と運用が年金制度の信頼の基本と自覚すべきだ。約十万人の年金の二月支給分が少なかった。総額約二十億円になる。一方で多く支払われていた人も約四万五千人いた。発覚の端緒は、二月に入り年金額が減ることに気付いた受給者から問い合わせが増えたことだった。年金を頼りに生活している人にすれば、少しの減額でも敏感になることは当然だろう。加えて四月から、介護保険料が多くの自治体で値上げされる。七十五歳以上の医療保険料も上がる地域がある。機構は、負担増や給付減が生活に影響する受給者の実情を認識する必要がある。支給ミスは機構がデータ入力を委託した外部業者の処理がずさんだったためだ。年金に所得税がかかる人の控除手続きに必要な書類のデータ入力作業で発生した。機構によると、契約では入力後に担当者二人が確認する手順だったが、書類を機械で読み取らせていた。そのため誤入力が発生した。入力漏れもあった。委託業者は、機械の読み込みではミスが出やすい氏名などの入力作業を中国の関連企業にやらせていた。これも契約違反だという。委託業者は五百万人を超える大規模作業は初めてで、人材不足からこうした対応になったようだ。厳重な管理が求められる公的年金情報を扱う責任感が欠けていた。機構は委託業者の対応能力についてチェックが不十分だった。しかもミスに気付いた後も代わりの業者が見つからないという理由で委託を続けた。機構は業者へ損害賠償請求を行う方針だが、自身の責任も重い。機構を監督する厚生労働省も責任を自覚すべきだ。その後、別の業者も入力作業を外部に委託していたことが分かった。業務量が増え外部委託が避けられないのなら、業者の管理体制を再考する必要がある。機構は有識者による調査委員会を設け十日に初会合を開いた。業務委託のあり方などを検証し六月に報告書をまとめる。調査に協力し管理体制を見直してほしい。機構は、旧社会保険庁時代の「宙に浮いた年金記録」問題や二〇一五年のサイバー攻撃による年金情報百二十五万件の流出など情報管理の不祥事が絶えない。高齢期の生活を支える制度を担っていると肝に銘じるべきだ。

<メディアの報道内容のレベルの低さ>
PS(2018年4月14日追加):メディアはモリカケ問題を通じて権力闘争を煽るような報道しかせず、その内容もレベルが低い。しかし、*9のように、政治分野で男女比率が均等になるように推進する法案が衆議院で成立しており、各党が目標設定すれば、「秘書や後援会員には女性もいるが、議員は男性」という形が減って女性議員が増え、「女性は支える立場で、主役やリーダーの器ではない」というような誤った“常識”は消えていくことが期待できる。

*9:https://mainichi.jp/articles/20180412/k00/00m/010/063000c (毎日新聞 2018年4月11日) 政治の男女均等推進法案成立へ 各党に取り組み促す
 国政選挙などで候補者の男女比率を均等にするよう政党に努力義務を課す「政治分野における男女共同参画推進法案」は11日、衆院内閣委員会で採決され、全会一致で可決された。12日に衆院を通過し、今国会で成立する見通しとなった。同法案は衆参両院や地方議会の選挙について、各党に候補者の男女比率が「できる限り均等」となるよう求めている。各党に目標設定など自主的な取り組みを促すもので、罰則規定はないが、国際的にも遅れた日本での女性の政治参画を後押しすることが期待される。

<リケジョの作物選び>
PS(2018年4月15、18日追加):*10-1のような種苗の品種改良と特許権の取得は重要だが、沖縄で菊の栽培に取り組むのは、他の地域と異なる季節に花を咲かせやすいなどのメリットがあるからだろうか?そう言う理由は、私にとって菊は、①切り花が長持ちするという長所はあるものの ②バラのように華やかではなく、ユリや胡蝶蘭のように優雅でもなく ③どこか寂しくて仏壇以外で使いたいとは思わない(仏壇でも、白い他の花の方が気品があって美しかったりする) ④どこにでもある 花だからである。もし、特にメリットがなければ、ブーゲンビリア(鮮やかな花)やキャッサバ(タピオカの原料)のように、沖縄に自生しているため地元の人は雑草のようにしか思っていないが他地域の人には価値ある植物を、他地域でも楽しめるように生産した方が、オンリーワンの製品を安価に作れるだろうと思った次第だ。
 なお、*10-2のように、熊本県宇城市の大規模洋蘭農家は、形が出荷に向かず廃棄していた花でグラスブーケを作り、生花を持ち込めない病院のお見舞いなどに役立てているそうだ。花は、香水の原料にもなり、これからが楽しみである。

*10-1:https://www.agrinews.co.jp/p43603.html (日本農業新聞 2018年3月22日) [改革最前線 生産コスト低減 6] 種苗 JAおきなわ 許諾料2000万円超削減 独自育種 「半額以下」に
 JAおきなわは、菊の品種開発、育成を独自で行うことで、生産者のコスト低減につなげた。菊は購入した種苗で農家が自家増殖する場合は、その購入先にロイヤルティー(許諾料)の支払いが発生する。JAがその許諾料を種苗会社の半額以下に抑えた品種を提供。JAの試算によると管内の生産者が支払う許諾料を、1年間で2325万円削減する効果があるという。100万円以上手取りが増えた農家も数多い。JAが専用施設を作り、単独で育種をするのは全国でも珍しい取り組みだ。
●小菊33%占有
 オレンジ、紫、白・・・。沖縄本島の最南端・糸満市にあるJAの花き実験農場。所狭しと色とりどりの花が並ぶ。草丈も茎の太さもばらばらなのは、多様な特徴を持つ「新品種候補」を育て、その中から有望なものを見つけ出すためだ。これまでに16品種がこの畑から誕生。現在は県内で作る大菊の65%、小菊の33%をJAの品種が占めるまでになった。生産者の支持を集める理由が許諾料の安さだ。種苗会社だと自家増殖した場合、1本当たり2、3円のコストがかかるが、JAの品種は1円以下で済む。同県では年間100万本以上を出荷する生産者も多い。JAの品種を使えば、数十万円単位で削減できる。取り組みを始めた当初は、いくつも課題があった。種苗会社や都道府県の試験場と違い、品種改良の専門知識を持つ人材がいなかった。「プロと戦って太刀打ちできるはずがない」。JA内外からそんな不安の声が聞こえてきた。新品種の育成は困難を極めた。さまざまな品種を掛け合わせ年間80万粒の種を作るが、実用化できる花は滅多に生まれない。ようやくできても、生産者や花卸の目にかなわず、栽培が広がらなかったこともあった。それでもJAは農家負担軽減を目指し、毎年数百万円をかけて挑戦を続けた。花の交配はJA営農販売部の徳元清春さんが一手に担う。開発に行き詰まったときは、他県の試験農場に足を運んで研究した。徳元さんが作った赤い小菊「琉のあやか」は2014年に品種登録を受けた。樹姿が良く病害虫に強い同種は、小菊出荷量全国一の同県で欠かせない品種になった。徳元さんが作ったものは品種名に「琉球」の「琉」の字を使っている。同県には種苗会社の研究農場がなく、同県での生産に特化した品種はほとんどない。「ただ安いだけではなく、沖縄に合った品種を作りたい」。思いが込められている。
●実用化加速へ
 今では、3年に1品種のペースで実用化するまでになった。依然はリスクを恐れて慎重だったJAの姿勢も、変わってきた。JAの上江洌進常務は「良いと思ったら、迷わず普及しろ」と担当者にげきを飛ばす。今後は、実用化ペースを1年1品種に高める方針だ。

*10-2:https://www.agrinews.co.jp/p43832.html (日本農業新聞 2018年4月18日) [活写] 咲かせてみせましょもう “一花”
 熊本県宇城市の宮川洋蘭が作る、規格外のランの花を使ったボトルフラワーが人気だ。デンファレやカトレアを乾かしてガラス容器に密封し5年以上、色が保たれるという。同社は約300種類のランを栽培し、年間およそ20万鉢を出荷する。形が出荷に向かず廃棄していた花を生かそうと、水分が多いランの花を1週間ほどかけて乾かす方法を考案。「森のグラスブーケ」と名付け2013年に売り出した。製作担当の小田美佐登さん(37)は「乾かした花は破けやすく、丁寧に作業している」と話す。贈り物向けに人気を集め、インターネットなどを通して年間約3万個を販売。1個1500円(税別)から。専務の宮川将人さん(39)は「生花を持ち込めない病院の場合でもお見舞いに役立っている。多くの人に華やぐ気持ちを味わってほしい」と話す。

<セクハラの範囲>
PS(2018年4月19日追加):「セクハラは人権侵害で、女性の仕事をやりにくくする」というのには私も賛成だが、*11-1の女性記者に対する財務省の福田次官のセクハラは、普段から男社会でセクハラへの認識が甘い財務官僚が、権力闘争のために仕組まれたセクハラ問題に乗ってしまった感があった。何故なら、人事は財務省内で大筋が決まっており、そのような部下の不始末の責任までとらされたらたまったものではない麻生財務相や安倍首相の任命責任にまで言及しているからで、週刊新潮に録音されたマイクを渡した記者が傷ついたり、メディアと政治家・官僚の間にメディアの方が弱いという力の差があるとも思えないからである。ちなみに、私は電車の中で少し美人の女性が横にきて座り、「足を擦りつけてきた」と言って因縁をつけられた経験がある。それは、私がレズビアンだとでも言いたげで、周囲に人もいたため、「何で私が貴女に足を擦りつけなければならないのですか?気持ち悪い!」と大きな声で言って追っ払ったが、「被害者だ」と主張する女性には、そういう人もいるわけだ。
 ところで、セクハラは身体を触ることだけでなく、*11-2のように、救命活動をする女性に「(女人禁制だから)土俵から降りて」とアナウンスしたり、出産や月経の血で穢すとして女性市長に土俵上で挨拶させなかったり、特定の儀礼に女性を参加させないようにしたりするような男尊女卑も立派なセクハラである。しかし、こういうセクハラには感受性が鈍いせいか、メディアも疎いのが我が国の問題だと、私は日頃から感じている。

*11-1:http://www.shinbunroren.or.jp/seimei/180418.html (日本新聞労働組合連合 中央執行委員長 小林基秀 2018年4月18日) 「セクハラは人権侵害」財務省は認識せよ
 女性記者に対する財務省・福田淳一事務次官のセクシャルハラスメント疑惑に関し、麻生太郎財務相や同省の一連の対応は、セクハラが人権侵害だとの認識が欠如していると言わざるを得ない。セクハラは、圧倒的な力関係の差がある状況で起きることを理解しているとも思えない。新聞労連は同省の対応に強く抗議するとともに、被害者保護のため早急に対応を改めるよう求める。週刊新潮が福田次官のセクハラ疑惑を報じた際、麻生財務相が当初、事実関係の調査や処分はしない方針を示したことは、セクハラが人権侵害であるという基本を理解していない表れだ。その後、音声データが出てから調査に踏み切ったのは遅きに失しており、国際的にみても恥ずかしい対応であり、看過できない。セクハラの二次被害を生み出さないためにも、被害者を矢面に立たせないための配慮は調査の最優先事項だ。財務省が、同省と顧問契約を結ぶ弁護士事務所に被害者本人が名乗りでるよう求めていることは容認できない。被害者への恫喝であると同時に、報道機関に対する圧力、攻撃にほかならない。「女性活躍」を掲げる安倍晋三政権は、疑惑を持たれた人物が官僚のトップである財務省に調査を任せて良いのか。省庁を統轄する首相官邸がリーダーシップを発揮して、福田次官に厳格な事情聴取を行うことがなぜできないのか。それなしに、被害女性に名乗り出ろという見識を疑う。政府はこれを機に、全省庁に対し、他にセクハラ事案がないか徹底調査を指示するべきだ。福田次官にも問いたい。あなたは本当に女性記者の尊厳を傷つける発言をしたことはないと断言できるのか。であれば堂々と、記者会見を開いてあらゆる質問に答えてほしい。新聞社が新規採用する記者の半数近くが女性だ。多くの女性記者は、取材先と自社との関係悪化を恐れ、セクハラ発言を受け流したり、腰や肩に回された手を黙って本人の膝に戻したりすることを余儀なくされてきた。屈辱的で悔しい思いをしながら、声を上げられず我慢を強いられてきた。こうした状況は、もう終わりにしなければならない。今回の件を含め、記者が取材先からセクハラ被害を受けたと訴え出た場合、会社は記者の人権や働く環境を守るため、速やかに毅然とした対応を取るべきだ。「事を荒立てるな」「適当にうまくやれ」など記者に忍耐を強いる指示や黙認は、セクハラを容認しているのと同じであり、到底許されない。いまなお、女性記者が取材先からセクハラ被害を受ける事例は後を絶たない。新聞労連は性差を超えた社会問題としてセクハラを巡る問題に正面から向き合い、今後も会社や社会に対しメッセージを発信していく。                       以上

*11-2:https://digital.asahi.com/articles/ASL4F56VXL4FUCVL01Y.html?iref=comtop_8_02 (朝日新聞 2018年4月18日) 学者も「よく分からない」 大相撲の女人禁制、起源とは
 土俵上で懸命に救命活動をする女性に「降りて」とアナウンスした日本相撲協会の対応が物議を醸している。大相撲における「女人禁制」はどのように「伝統」となったのか。奈良時代の古事記や日本書紀に記述があり、1500年以上の歴史があるとされる相撲。なぜ、大相撲の土俵は女人禁制になったのか、いつからなのか。高埜(たかの)利彦・前学習院大教授(日本近世史)は「よく分からない」と話す。一方、中世から寺社の造営や修復の費用を集めるために開かれてきた「勧進(かんじん)相撲」が、江戸時代に権威と人気を得て大相撲につながる過程で、タブーが強化された可能性を指摘する。まず、江戸時代の勧進相撲では「女性の観戦は禁じられていた。土俵の周辺に女性の姿はなく、女人禁制と言うまでもなかった」。背景として考えられるのが5代将軍徳川綱吉の「服忌(ぶっき)令」だ。生類憐(あわ)れみの令と同じ頃、近親の死で喪に服す期間を定めた。死を忌み嫌い、血の穢(けが)れを排する公家や神道の価値観を武家社会が取り入れ、武士以外にも浸透した。高埜さんは「このころから、女性の月経や出産を遠ざける傾向が強まったのではないか」とみる。「勧進相撲」は江戸時代に、庶民の辻相撲などとの違いを強調し、権威を得ていく。18世紀半ば、8代吉宗の時代には年4回の「四季勧進相撲」が幕府公認に。11代家斉の時代には将軍上覧相撲が開かれ、横綱が白い麻で編んだしめ縄を締め、地鎮祭の地固めにちなむ四股を踏むなどの神事的な要素も導入された。大相撲と呼ばれるようになる過程で「神事」「伝統」が結びつき、土俵から女性を遠ざけた可能性がある。明治維新になると、文明化を目指す新政府によって「男女相撲」が禁じられる。「女相撲や座頭(盲人)相撲など多様な相撲のあり方は『野蛮』だとして排除された」と今西一・小樽商科大名誉教授(日本近現代史)は指摘する。一方、幕府や大名家の支援を失い、一時は危機に見舞われた大相撲は、国家神道の確立やナショナリズムの盛り上がりを追い風に、「聖なるもの」としての側面を強調していく。明治天皇による「天覧相撲」は回を重ね、相撲常設館は「国技館」と命名された。昭和には「相撲道」が強調され、国威発揚の一翼を担う。今西さんは「天皇を頂点とした身分制や家族制度のもとで男尊女卑が強まり、土俵の女人禁制は当然のこととされていく」と話す。
●出産・月経「穢れ」の宗教的観念
 女人禁制はそもそも、聖域への立ち入り禁止、特定の儀礼に参加させない、など宗教に関わる領域で目立つ慣習だ。だが「古代においては男女を問わなかったが、時代をおうごとに女性への禁忌が強まった」と鈴木正崇・慶応大名誉教授(文化人類学)は話す。古来の山岳信仰では、修行者や僧侶が山自体を修行場として霊力を得ようとして、俗人の立ち入りを禁じた。僧侶の修行の妨げになるという仏教上の戒律による女人禁制は、尼寺では男子禁制となった。それが平安時代になり、女性は男性に一度変身してからでないと成仏できないという変成男子(へんじょうなんし)思想や、女性は梵天(ぼんてん)・帝釈天などになれない五障といった差別的な教えが広まる。さらに「女性を劣位に置く慣習を決定づけた」と鈴木さんが指摘するのは、「血の穢(けが)れ」の観念だ。もともと平安時代の法令集「延喜式(えんぎしき)」では、死や出産を穢れと定めていたが、期間限定のものだった。ところが、室町時代に中国伝来の偽経「血盆経(けつぼんきょう)」が広まり、出産や月経の血で大地を汚すという女性の不浄観を浸透させたという。島薗進・上智大教授(宗教学)も「卑弥呼の時代から女性は神に近い存在。神事だから女性は立ち入れないというのは、歴史的にも宗教学的にも当たり前の話ではない」と指摘する。現代でも大峯山(奈良県)など一部に女人禁制は残るが、「修験道は修行全体が厳しい掟(おきて)に支えられていて、急にそれを変えられない面がある」と島薗さんは理解を示す。一方で大相撲については「土俵の女人禁制がどれだけ意義深いものなのか」と疑問視。「国民的行事であり、特定の信仰を持つ人たちのものではない。相撲協会は時代の変化に対応すべきだ」

| 男女平等::2015.5~2019.2 | 03:41 PM | comments (x) | trackback (x) |

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