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2017.4.24 国の予算の使い方 (2017年4月25、26、27、28、30、5月4、20、27日追加)
 書くべきことは多いが、今日は、国の予算の使い方とそれを左右する基本的意思決定について記載する。なお、私は、前のパソコン(PC)にwindows XPを入れていて、そちらの方が使い勝手がよかったため最近まで使っていたが、XPではアクセスできないHPが増えたので、仕方なくwindows8.1が入っているPCを使うよう変更した。そうすると、ブログ写真の解説文字の位置が変わってしまう上、蓄積されたデータの移管にも苦労が多かった。そのため、ソフト会社は新ソフトを開発して「売らんかな」の販売戦略をとるのではなく、PCを事務作業や研究に使って価値あるデータをPCで蓄積している人の身になって考えて欲しいと思った次第である。

  
      フクイチの現状      諫早干拓地       玄海原発
        2016.6.30毎日新聞 ランドサット撮影  2017.4.13西日本新聞

(1)“国の責任”となる膨大な原発事故費用
1)フクイチの廃炉・賠償費用とその無駄遣い部分
 経産省は、2016年12月9日、*1-1のように、フクイチの廃炉・賠償などの費用総額が21兆5000億円にのぼるという見積もりを公表し、これまでの11兆円から倍増させた。

 その理由は、①廃炉費が2兆円から8兆円 ②賠償費が5兆4000億円から7兆9000億円 ③除染費が2兆5000億円から4兆円 ④中間貯蔵施設整備費が1兆1000億円から1兆6000億円に膨らんだ などだが、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し方法などの詳細が決まっていないため、経産省は合理的な見積もりが困難としてそれを含めていない。これなら、また2倍になるのも時間の問題のように見えるが、④は最初から最終処分をすれば節約できる金額で、核燃料の取り出し費用も石棺にすれば不要だった。また、廃炉に長期間かけ、原子炉建屋のカバーを外して環境を汚し続けているのは、殺人に近い。

 さらに、経産省は、賠償総額7兆9000億円のうち2400億円程度を新電力にも負担させるようにして、巨額の事故処理費用を賄う方針だ。しかし、これでは、原発事故には責任のない会社や個人が原発事故の費用負担をすることとなり、電力市場が不公正な市場となって電力自由化の効果もそがれるため、事故を起こした会社が蓄えた資産を売却して廃炉費用を賄うのが筋である。

 なお、*1-2のように、2013年9月3日、フクイチから高濃度の放射性物質を含む汚染水が漏れているため、政府は約470億円(凍土壁建設費:320億円、浄化装置開発費:150億円)の国費を投じ、政府主導・国の全額負担で、①原子炉建屋への地下水の流入を遮断する凍土壁を設置し ②汚染水浄化装置を増設し ③汚染水漏れが見つかった急造タンクは溶接のしっかりしたタンクに入れ替え ④建屋に流れ込む地下水をくみ上げ ⑤地下坑道(トレンチ)にたまっている高濃度汚染水を除去し ⑥汚染水の海への漏洩を抑えるための地盤改良をする とした。

 しかし、それから約3年6か月後の現在も、原子力規制委員会が国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル3(重大な異常事象)に相当するとした汚染水問題は、課題のまま解決していない。これだけの国費を投入しても片付かない理由は、「総額470億円を投入。うち2013年度予算の予備費を210億円使い、対策を前倒し」というように使う金額を先に決め、汚染水問題の解決よりも景気対策が目的であるかのような予算の使い方をしているからだ。このように、事の重大性が全く理解できずに優先順位が滅茶苦茶な人は多いが、これなら石棺にすれば、汚染水問題は生じず、この470億円やタンクの設置費用は不要だったのである。

2)国は原発事故でどういう責任をとれるのか
 フクイチの場合は、これまで政府・電力会社が「原発は絶対に壊れず、安全でクリーンだ」と強く宣伝してきたため、政府や電力会社の宣伝を信じてきた住民に罪はない。そのため、原発事故の責任は、虚偽の宣伝をしてきた政府・電力会社にあり、住民は政府・電力会社に完全に復旧してもらい、復旧までに生じた損失についての損害賠償や慰謝料を受ける権利がある。ただし、実際には、除染しても完全には復旧できない地域が多く、そこに住んでいた人は損害賠償・慰謝料に加えて移転費用も請求できるわけである。
 
 しかし、*1-3のように、原発を再稼働して起こる今後の原発事故に対しては、「原発は絶対に壊れないので、安全でクリーンだ」と住民が信じれば、それは交付金目当てのご都合主義の信頼になるだろう。

 また、「万一事故が発生した場合、国は責任を持って対処する」と繰り返しているが、(1)1)の状況で、国が責任を持って対処しているとは言えず、故郷が汚染され復旧していないのに避難指示を解除されて困っている被害者も多い。さらに、原発事故は、復旧すること自体が困難で、その費用も高くつくというのが現実で、国民は、何度も原発事故処理費用のような後ろ向きの費用は負担したくないし、できないのである。

(2)玄海原発再稼働について
 佐賀県議会は、*2-1のように、過半数を占める自民党議員が「再稼働容認」、民進党は「条件付き再稼働容認」として、最稼働容認決議案を可決した。佐賀県知事は、「県民代表としての県議会決議を重く受け止め、再稼働に同意する見通し」で住民投票には否定的だが、佐賀新聞社が昨年秋に実施した県民世論調査では、反対が賛成を上回ったそうだ。私は、県議会議員選挙は原発再稼働のみを争点にして行うわけではないため、原発再稼働のみを争点とし、その賛成及び反対理由を明らかにして住民投票するのが、これからの方針を決め、それを遂行する覚悟を決める上で重要だと考える。

 なお、佐賀県内の3首長は原発再稼働に反対の意思を表明し、事故が起きれば県境は関係ないため、長崎県、福岡県からも反対・不安・懸念の表明が相次いでいる。

 このような中、*2-2、*2-3のように、2017年4月22日、世耕経産相が九電の瓜生道明社長の案内で玄海原発を視察し、午後に佐賀県庁で山口知事と会談し、山口知事は記者団に「大臣から国として責任を持つとの強い決意の言葉を頂いたので、(地元同意の判断は)できるだけ早くと思っている」と述べ、週明けにも地元同意を表明するそうだ。山口知事(東京大学法学部卒、総務省出身)は「手続きが大事」とよく言われるが、西日本新聞が書いているとおり、再稼働するための“儀式”は一歩ずつ進んでいるが、原発再稼働による住民リスクは親身に考えられていないように見える。

 そして、*2-4のように、山口知事は24日午後、「熟慮に熟慮を重ねた結果、原子力発電に頼らない社会を作るという強い思いを持ちつつ、現状においては(再稼働は)やむを得ないと判断した」として、九電玄海原発の再稼働に同意する考えを表明し、これで地元同意手続きが完了したそうだ。しかし、「手続きさえ踏めば、真実はどうでもよい」という発想が法学部卒の人に多く、「裁判で手続きさえ踏めば、無実の人を犯人に仕立て上げてもよい」という結果も招いているため、法学部教育は手続主義から真実追及主義に変更すべきである。

 なお、住民リスクの内容を重視する大学の元教員や医師らでつくる「福岡核問題研究会」の有志は、*2-5のように、「玄海原発が新規制基準に適合すると認めた原子力規制委員会の許可は不当だ」として、規制委員会に異議を申し立てる審査請求をすることを決めたそうだ。その理由は、①フクイチ後、フランスは総勢300人の緊急対応部隊を新設したが日本の新規制基準には対応する措置がなく、世界基準に程遠いこと ②規制委が重大事故時の住民避難などの対策の有効性を審査の対象にしていないこと などが、「法律が求める責務からの責任逃れであり違法」などとして、主に8項目を挙げているそうだ。また、*2-6のように、反原発団体も、「県民を犠牲にするな」と経産相に抗議している。

 さらに、2017年4月14日、*2-7のように「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が発足し、会見で小泉元首相は「国民全体で原発を止めていこうという強いうねりが起きているのを実感している」とし、「いずれ国政選挙で脱原発が大きな争点になる時がくる」と力を込められたそうで、やはり感がよいと思う。会長その他の役員は「顧問:細川護熙元首相、会長:城南信用金庫吉原毅相談役、副会長:中川秀直元自民党幹事長、島田晴雄(前千葉商科大学長)、佐藤弥右衛門(全国ご当地エネルギー協会代表理事)、事務局長:河合弘之(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)、事務局次長:木村結(東電株主代表訴訟事務局長)、幹事:鎌田慧(ジャーナリスト)、佐々木寛(新潟国際情報大教授)、香山リカ(立教大教授)、三上元(元静岡県湖西市長)、永戸祐三(ワーカーズコープ理事長)」だそうだ。

(3)諫早干拓について
 *3-1、*3-2のように、諫早湾(長崎県)を鋼板で閉め切ってから20年が経過し、国の干拓事業で国内最大級の干潟は農地になり、諫早湾を含む有明海は漁業不振が深刻化した。そのため、2002~2016年度に、海底に砂を入れて耕したり、干潟に潮の流れをよくする水路を築いたりする工事をして、498億円という多額の公費を投入したが海は再生しなかった。自然の流れを壊した上で、海底に砂を入れて耕したり、干潟に潮の流れをよくする水路を築いたりするのが無意味なことは、やってみなくても明らかである。

 そのほか、国と自治体を合わせると、352億円の公費が投じられ、下水道を整備したり、水質を浄化したりして、調整池の水質改善を続けているそうだ。下水道の整備は干拓しなくても必要だが、水質浄化までしても調整池は富栄養化し、毎夏のようにアオコが大量に発生して、海の再生も池の水質改善も十分な効果が上がっていないのは、水が外に流れ出ないからである。逆に、有明海の方は貧栄養化して、養殖海苔が色落ちしたり、漁業不振になったりしているわけだ。

 そのため、調整池のアオコの調査を続ける熊本保健科学大の高橋徹教授(海洋生態学)は「病気なら検査して、診断し、効果のある治療法を選ぶ。有明海の異変では検査にあたる開門調査をしていない。それ抜きでは効果的な対策も不可能なのに、あてどもなく血税が投じられている」と述べている。

 この干拓事業をめぐっては複数の訴訟があり、干拓が有明海の漁業不振の原因だと疑う漁業者らは開門を求めて国を提訴し、2010年には福岡高裁で開門を命じる判決が確定したが、その後、長崎地裁が干拓地営農者の主張を認めて、国に開門を差し止める仮処分決定を決定したため、国は確定判決を履行できなくなり、2014年6月から「罰金」として漁業者側に間接強制金を支払っている。

 諫早湾干拓工事は1952年に、約1万ヘクタールの湾全体を農地にする大干拓構想として浮上し、米余り時代になって規模を縮小したものだ。そして、畑地開発や高潮・洪水防止に目的を変え、1989年に着工して、1997年4月14日に、ギロチンを思わせる293枚の鋼板で湾の3分の1が閉め切られ、長さ7キロの堤防内側は干潟が陸地になり、672ヘクタールの農地に変わった。総事業費は、2530億円(3.7億円/ヘクタール)だ。

 造成された農地は長崎県の公社が国から51億円で買い取り、2008年から営農が始まって、個人・法人計40事業者が農地を借りて野菜などを作っている。1ヘクタールあたり約3.7億円かけて造成された農地だが、リース料は年20万円/ヘクタールで、総事業費をカバーし終わるまでには1850年かかる。そのため、1事業者の面積は平均16.7ヘクタールと大規模経営でよいが、国の事業としての費用対効果は低かったと言わざるを得ない。

 しかし、私は、公共事業は短期的に見れば費用対効果が悪くても、将来の地域振興を考えると必要なものもあり、「費用対効果が悪いから、その公共事業はやらない」と即座に言うべきではないと考えている。それでも、諫早湾の干拓工事は、戦後の米不足時代に湾全体を農地にする大干拓構想として浮上し、米余り時代になってから規模を縮小し、目的を畑作や高潮・洪水防止に変更して行っているもので、一度決めたら何があっても中止しない国の公共工事のあり方とそれによる膨大な無駄遣いが問題なのである。さらに、食料自給率向上のためには、畑作もよいが漁業も大切であるのに、農水省や国土交通省は、これまで水産業(海の環境保全が必要)は眼中にないかのような政策をとってきており、それが間違いだったのだ。

 政府の公共事業費は、景気対策のためと称して、1990年代に毎年のように当初予算で9兆円台を計上し、1998年度は当初と補正の合計が15兆円近くに達して、「大型公共事業=環境破壊、税の無駄遣い」と批判された。東日本大震災の復興事業においても、本当に必要な公共事業だけをなるべく安い価格で行うのではなく、国民の血税を使って高い価格で行う有害無益な公共事業も含まれているのが残念だ。

 これらの状況は、宮入長崎大名誉教授が言われるように、「農水省は諫早湾干拓事業の費用対効果を算出する際、失われる干潟の浄化能力や漁業被害を勘定に入れなかった。そのつけを今払っており、終わりの見えない国民の血税による後始末」になっており、調和した自然の大きな力を無視した公共事業は、国民に無限の負担を強いるのである。

 なお、*3-2に書かれている諫干開門差し止め請求訴訟判決骨子で、開門反対派は、 ①開門すれば農地に塩害など重大な被害が発生する恐れがある ②開門で漁場環境が改善する可能性は高くない ③開門調査で堤防閉め切りと漁獲量減少の関連性解明の見込みは不明 と主張し、判決も、開門で堤防内の調整池に海水が入り込み、農地に塩害や潮風害、農業用水の一部喪失が発生する恐れがあるため、生活などの基盤に直接関わり重大」と指摘している。

 しかし、①については、半島・島・有明海の他の干拓地では堤防が無くても農作物ができているので根拠がなく、②③は、本明川、田古里川、船津川、境川、深海川、二反田川、有明川、西郷川、神代川、土黒川などから流入していたミネラルが海へ拡散するのを堤防の閉め切りで不自然に止めてしまったことが原因であることは誰が見ても明らかである。そのため、それを確認するために開門調査をしようとしているわけなのだ。

 さらに、開門しても、諫早湾には多くの川が流れ込んでいるため、調整池は完全な塩水にはならないが、仮に塩水になったとしても、*3-3のように、「ウオータープラザ北九州」は海水と下水から飲用水レベルの真水を精製する技術も確立しており、諫早市は下水道を整備しているため、その下水道から農業用水を作ることは容易で、むしろ精製しすぎずに窒素やリンが少し残っている方が、肥料が節約できそうである。

(4)これだけ1000億円単位の無駄遣いが多いのに、福祉・教育だけは消費税を上げなければ財源がないとするのはおかしいこと
 そもそも、保険とは、「将来起こるかもしれないリスクに対して、予測される発生確率に見合った一定の保険料を加入者が負担して万一の事故に備える制度で、さまざまな事故や災害から生命・財産を守る為の合理的な防衛策」とされている(http://www.nihondaikyo.or.jp/insurance/08.aspx 参照)。

1)介護保険の負担増について
 2017年4月15日、*4-1のように、与党が、高所得者のサービス利用時の負担割合を2割から3割に引き上げ、大企業社員や公務員らの保険料負担を増やす内容の介護保険関連法案の採決を強行した。この間、TVは森友学園問題や殺人の容疑者(犯人と確定していない)が捕まったという話ばかりをいっせいに行い、介護保険関連法案に関する報道は極めて少なかった。
 
 しかし、痛みがあるか否か以前に、将来起こるかもしれないリスクに対して、そのリスクが発生する確率に見合って保険料を支払っているのに、保険給付が行われる段階になって給付額に所得制限を設けるのでは、保険とは言えない。その上、介護保険で言っている“現役並み所得”というのは、「単身世帯で年収383万円以上、夫婦世帯では年収520万円以上」と、夫婦で医療費や介護費を負担しなければならない高齢者夫婦にとって、高所得とは言えない金額だ。

 そして、これによって節約されるのは、健康な生産年齢人口の人のために、景気対策と称して政府が行った1000億円単位の無駄遣いのほんの数%なのだから、どこか大きく間違っている。

 つまり、厚労省管轄の保険設計は、保険料の支払い時と給付時の両方において所得で差をつけており、とても保険とは言いがたく、税だとすれば二重課税になっているのである。

2)“こども保険”構想?
 自民党の小泉進次郎衆議院議員を中心とする若手議員でつくる小委員会が、*4-2のように、2017年3月29日に、「少子化に歯止めをかけるため」として、「こども保険」構想を発表したそうだ。

 「こども保険」を子育て支援の財源にするという根拠は、子どもが必要な保育・教育などを受けられないリスクをなくすことだそうだが、子どもが必要な保育・教育を受けられなければ、その子は稼ぎ手になれず、国の発展にも寄与できないため、それは個人のリスクというよりも、政府の予算の使い方における優先順位の問題である。つまり、教育や保育は、本人のためであると同時に国の礎でもあるため、1000億円単位や1兆円単位の無駄遣いをしながら、「財源がない」などと言って疎かにすべきものではないのだ。

 私自身は、幼児教育は3歳から始め、それ以前を保育として、幼児教育以降は義務教育として無償化するのがよいと考える。そして、3歳未満(0、1、2歳)の保育は、夫婦で交互に育児休暇をとれば家庭で行うという選択肢もできるため、高くない保育費を徴収するのがよいだろう。また、義務教育は高校卒業の18歳までとし、中学・高校は一貫校として行く学校を選択でき、入試を受ける形式にするのがよいと考える。

 そのため、「子ども保険」は不要で、保育・教育の費用は、堂々と一般財源から出せばよい。

<膨大な原発事故費用>
*1-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H0H_Z01C16A2000000/ (日経新聞 2016/12/9) 福島廃炉・賠償費21.5兆円に倍増 経産省が公表
 経済産業省は9日午前、東京電力福島第1原子力発電所の廃炉や賠償などの費用総額が21兆5000億円にのぼるとの見積もりを公表した。廃炉費用が8兆円に上振れしたことなどにより、これまでの想定の11兆円から倍増した。賠償費用の一部を新たに新電力にも負担させるようにして、巨額の事故処理費用を賄う。経産省が9日示した見積もりでは、廃炉は従来の2兆円から8兆円に、賠償は5兆4000億円から7兆9000億円に、除染は2兆5000億円から4兆円に、中間貯蔵施設の整備費用は1兆1000億円から1兆6000億円にそれぞれ膨らむ。このうち廃炉費用は原子力損害賠償・廃炉等支援機構が国内外の有識者へのヒアリングに基づく試算として示した。ただ、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し方法など廃炉の詳細はまだ決まっておらず、経産省は合理的な見積もりは現段階で困難としている。東京電力ホールディングスは9日午前に開かれた「東京電力改革・1F問題委員会」で送配電や原子力事業で再編・統合を検討する方針を示した。両事業の再編で企業価値を高め、廃炉費用を捻出する。国は東電向けの無利子融資枠を今の9兆円から13兆5000億円に引き上げるほか、廃炉費用を積み立てて管理する基金をつくり、長期に及ぶ廃炉や賠償が円滑に進むようにする。賠償総額7兆9000億円のうち、新電力による負担は2400億円程度になる。新電力が40年かけて支払う場合、新電力を利用する標準家庭の電気代に月平均で18円が上乗せさせる計算となる。

*1-2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF03004_T00C13A9MM0000/ (日経新聞 2013/9/3)福島原発、汚染水対策に470億円 政府が基本方針、遮水壁、建設前倒し
 東京電力福島第1原子力発電所から高濃度の放射性物質を含む汚染水が漏れている問題で、政府は3日、約470億円の国費を投じ政府主導で解決する方針を固めた。国の全額負担で原子炉建屋への地下水の流入を遮断する凍土壁を設置するほか、汚染水を浄化する装置も増設する。東京電力主体の従来の対策よりも前倒しで事態を解決できるようにする。3日に開いた原子力災害対策本部で汚染水対策の基本方針を示した。安倍晋三首相は「世界中が注視している。政府一丸となって取り組みたい」と述べた。対策費は凍土壁の建設費で320億円、浄化装置の開発費で150億円と見積もった。対策費のうち約210億円は2013年度予算の予備費でまかない、年度内に対策に取りかかる。約2年の工期がかかる凍土壁の建設を前倒しする。対策費は概算で、凍土壁や浄化装置の開発が難航すれば上振れする可能性がある。凍土壁は建屋のまわりの土を冷却剤の循環により凍らせて地下水の浸透を防ぐ設備。原発内にたまった汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)も、東電が設置する3系統に加え、国が高機能な浄化設備を増設する。汚染水漏れが見つかった急造タンクは溶接のしっかりしたタンクに入れ替える。汚染水対策に向けた体制も強化する。従来は経済産業省や原子力規制庁が汚染水問題に対処していたが、国土交通省や農林水産省も加えた関係閣僚会議を発足させる。地下水や土壌改良の専門家を集め、政府一丸で対策にあたる態勢を整える。東電や地元との連携を深めるため、国の現地事務所も新設。福島第1原発の周辺に常駐する担当官を増やし、情報収集や対策協議を密にする。基本方針には、▽建屋に流れ込む地下水くみ上げ▽地下坑道(トレンチ)にたまっている高濃度汚染水の除去▽汚染水の海への漏洩を抑えるための地盤改良――などを盛り込んだ。個々の対策の実施計画も明らかにし、早期解決に向けた姿勢を内外に示す。東電は7月下旬、福島第1原発から汚染水が海洋に流出している可能性を認め、流出量を1日300トンと推計した。対策は後手に回り、8月には汚染水をためるタンクからの漏洩が見つかるなど事態は悪化の一途をたどっていた。原子力規制委員会は汚染水問題が、国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル3(重大な異常事象)に相当するとの評価を決定。国内外に懸念が広がっているため、政府は「対策を東電任せにせず、国が前面に立つ」(安倍首相)との姿勢を打ち出していた。
<政府の主な汚染水対策>
■体制・資金
・経済産業省や国土交通省などが関係閣僚会議を設置。東京電力や地元と連携する現地事務所を新設し、国の担当官が常駐
・総額470億円を投入。うち2013年度予算の予備費を210億円つかい、対策を前倒し
■対  策
・建屋を凍った土で覆う遮水壁の設置(320億円)
・汚染水から放射性物質を取り除く装置を新設(150億円)

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/424128 (佐賀新聞 2017年4月24日) 玄海再稼働へ、事故時対応約束 今村氏発言後引き、「国が責任」に疑念
 九州電力玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の再稼働に同意するかどうか、佐賀県知事の最終判断が目前に迫った。万一事故が発生した場合、国は「責任を持って対処する」と繰り返すが、福島第1原発事故の自主避難者の帰還を巡って「本人の責任、判断だ」と発言して撤回した今村雅弘復興相の言動が後を引き、国への疑念はくすぶる。福島事故への対応は、原発事故に対する国の責任の取り方の先例になるだけに、厳しい視線が注がれている。
▽故郷が汚染 
 「今村さんって佐賀出身でしょ? ふるさとが放射能に汚染されてみないと、私たちの痛みは分からないんでしょうか」。福島市から佐賀市に自主避難している渡辺弘幸さん(55)は、ため息交じりにつぶやいた。事故直後、原発から約60キロ離れた福島市にも放射性物質が飛来した。国の避難指示は出なかったが、持病が心配で、母親を連れて避難することを決意した。だが、母親は「どうせこの先、長くないから」と残り、1人でふるさとを離れた。1年半前、事故で足を骨折して仕事を続けられなくなった。自主避難者に対する住宅の無償提供支援が3月で終了し、家賃が重くのしかかる。「自分の判断で避難したから、自己責任と言われればそうかもしれないが、原発を推進してきた国の責任はどうなる」
▽にじむ距離感 
 事故の翌年、2012年6月にできた「原発事故子ども・被災者支援法」は、被災者の生活支援を、原発を推進してきた国の責務として行うと定め、自主避難者も救済対象にしている。衆参両院の全会一致で可決され、今村氏も賛成した。避難者の支援活動に取り組み、法案作りに関わった福田健治弁護士は「今村氏は行政トップとして法を誠実に執行する立場なのに、支援法の規定を知らなかったんだろうか」と嘆く。
政府は「福島への帰還こそが早期復興につながる」として、避難指示の解除を段階的に進め、避難者への生活支援策を縮小していった。支援法も、具体的な施策を決める段階で対象者が限定され、支援の中身が形骸化していった。今村発言の半月前の3月17日、避難住民らが起こした集団訴訟で前橋地裁(群馬県)は、原発事故の国の過失責任を認める判決を出した。放射性物質への恐怖や不安にさらされずに暮らす「平穏生活権」が侵害されていると指摘した。国は引き続き争う姿勢で、避難者との距離感がにじむ。
▽切り捨て 
 福島原発事故による広域避難の実態を、鳥栖市などで調査してきた立教大学の関礼子教授(社会学)は懸念する。「社会の中で、事故の記憶とともに被災地への関心が薄れていっている。そうした中、政府が示す姿勢は、被害を受けた人たちを切り捨てようとしているようにも映る」。その上で、今村氏の発言は避難者だけに関わる問題ではないと強調する。「原発の再稼働を進めたい国が『責任を取る』と言った場合の、責任の取り方とはどういうものなのか、今の対応が先行事例になる。原発立地地域の人たちは自分の身に引き寄せて、見ておく必要がある」

<原発再稼働>
*2-1:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/421590 (佐賀新聞 2017年4月14日) 県議会の玄海再稼働容認、住民の安全最優先に判断を
 九州電力玄海3、4号機(東松浦郡玄海町)の再稼働に関し、佐賀県議会が同意した。過半数を占める自民党の「再稼働容認」とする決議案が賛成多数で可決された。既に原発のある玄海町は同意している。決議を「極めて重く受け止める」とした知事は同意する見通しだが、不安や反対の声は根強い。判断を下す際の十分な説明が必要だ。臨時県議会では3本の決議案が提出された。自民などは、電力の安定供給といった観点から「再稼働の必要性が求められる」と提案し、避難計画の充実や地域振興などを国に求めた。民進などは、条件付きながら「再稼働せざるを得ない」、共産などは「拙速な判断と同意をしないよう強く求める」と主張した。しかし十分な議論が尽くされたのか、疑問も残る。知事は再稼働に同意するかどうかの判断の前提として、県議会の意思表示を求めていた。臨時県議会の12日の質疑でも、県民の代表としての議会の意見が大切であることを繰り返し表明。住民投票に否定的な答弁をしたのは、その裏返しともいえよう。地方自治を支えているのは首長と議員を住民が直接選挙で選ぶ「二元代表制」で、間接民主主義をとっている。原発再稼働というテーマが、多数決になじむのかという論議もあろう。再稼働に前向きだった自民党の案が通るのは予想された。しかし、県民にはいろいろな意見があり、佐賀新聞社が昨年秋に実施した県民世論調査では、反対が賛成を上回った。不安に感じる県民がいる以上、知事は十分に留意する必要がある。県主催の住民説明会、知事と県内20市町長との懇談会も開催した。伊万里市長ら3首長が再稼働に反対の意思を表明し、ここにきて長崎、福岡県から反対や不安、懸念の表明が相次いでいる。事故が起きれば、県境は関係ない。地元同意の範囲をめぐる議論が起きるのも、当然といえる。地元同意に法律上の明確な規定はない。このため臨時県議会の質疑では、議員から知事に対し、現在より広い範囲の同意を必要とするよう、法的な整備も含めて国に求める意見が出た。知事も「根本の議論が必要」と応じた。今後の判断に際し、隣県も含めた住民や首長の声を真摯(しんし)に酌(く)んでほしい。与野党を問わず、避難計画を実効性のあるものにすべきという主張は根強い。20市町長との懇談会でも、多くの首長が条件付きで再稼働に賛成する立場を表明した上で、福島原発事故の被害の長期化とともに、事故時の避難者の受け入れに不安を訴えた。「道路が混雑し、地震の場合は住民の避難も困難になる」「道路も整備しないとパニックになる」などと、懸念と対策を求める声が相次いだ。県議会の質疑では、避難計画は国が審査して同意を与える法整備が必要との提案があった。「それも一考に値する」として知事は、国にどういう提言ができるか検討すると答弁した。原発は国策である以上、国がしっかり対応すべき課題ではあるが、任せるだけではいけない。県レベルでも周知や渋滞などの対策が求められる。再稼働へ向けた手続きは進んだ。ひとたび原発が動けば、後戻りはできないとの覚悟がいる。知事は住民の安全を最優先に慎重に判断してほしい。

*2-2:http://qbiz.jp/article/108174/1/ (西日本新聞 2017年4月22日) 世耕経産相が玄海原発視察
 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に向けて、世耕弘成経済産業相は22日、九電の瓜生道明社長の案内で同原発を視察し、原子力規制委員会が新規制基準適合を認めた安全対策を確認した。午後には佐賀県庁で山口祥義知事と会談する。山口知事は世耕氏との会談で再稼働や事故時などの「国の責任」を再確認し、週明けにも地元同意を表明する方針。一方、玄海原発30キロ圏の8市町のうち半数の同県伊万里、長崎県松浦、平戸、壱岐の4市長は反対を表明している。世耕氏は玄海原発で、東京電力福島第1原発事故後に配備した移動式大容量ポンプ車や格納容器が破損した場合に放射性物質の飛散を防ぐ放水砲などを見て回った。山口知事との会談後には鹿児島県薩摩川内市で九電川内原発も視察する。

*2-3:http://qbiz.jp/article/108179/1/ (西日本新聞 2017年4月23日) 玄海原発、24日にも再稼働同意 佐賀知事、経産相と会談
 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に向けて、佐賀県の山口祥義知事は22日、世耕弘成経済産業相と県庁で会談した。山口知事は会談後、記者団に「大臣から国として責任を持つとの強い決意の言葉を頂いた。(地元同意の判断は)できるだけ早くと思っている」と述べ、週明けの24日にも同意を表明する考えを示した。山口知事は、同意を判断する際の最終手続きとして世耕氏との会談を国に要請していた。会談で世耕氏は「原子力政策に政府として責任を持つ」と述べ、再稼働への理解を求めた。山口知事は「言葉は重く受け止める」と評価した。知事は、住民説明会では反対の声が大半で、県内の市長3人も反対していると伝え、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の最終処分での取り組み加速▽原子力に依存しない経済社会の確立▽避難計画の充実、原子力災害対策の継続的見直し−など6項目を求めた。国が避難計画策定を義務付ける玄海原発30キロ圏の8市町のうち、同県伊万里、長崎県松浦、平戸、壱岐の4市長は反対している。事実上、県と玄海町に限られている地元同意の範囲拡大について、世耕氏は記者会見で「同意は法律上、再稼働の要件とはなっていない」と否定的見解を示した。会談に先立ち、世耕氏は玄海原発を訪れ、福島第1原発事故後に配備した移動式大容量ポンプ車などの安全対策を確認した。山口知事との会談後には、鹿児島県薩摩川内市で九電川内原発も視察した。
●再稼働へ“儀式”着々
 佐賀県玄海町の九州電力玄海原発再稼働に向け、同県の山口祥義知事が「地元同意」を判断する際の最終手続きとして国に求めた世耕弘成経済産業相との会談が22日、終わった。国が避難計画策定を義務付ける原発30キロ圏の4市長が反対し、県庁前で住民団体の約100人が「再稼働やめろ」「県民の話を聞け」と声を響かせる中、知事は24日にも再稼働同意を表明する見通しで、世耕氏との会談にはセレモニー色がにじんだ。会談で山口知事は「県民から寄せられた意見のほとんどは再稼働に反対」と訴え、福岡、長崎両県にも不安や反対の声が多いと強調したが、世耕氏が「政府として責任を持ってエネルギー政策、原子力政策を進める」と応じると「大臣の発言は重く受け止める」とあっさり評価。「今後も地元の意見に真摯(しんし)に向き合っていただきたい」と述べ、約25分間で会談は終了した。佐賀県では1月以降、県の住民説明会や第三者委員会、県内全ての首長との懇談、担当大臣との会談など、知事が同意を判断するための意見集約が進められてきた。しかし、玄海原発の再稼働は山口知事が初当選した2015年1月の知事選の公約。知事は今月13日の県議会の容認決議を重視する考えも示していた。会談後、山口知事は記者団に判断条件は出そろったかと問われ「そうですね。あとは今日、話を頂いたことを考えて説明したい。できるだけ早く」と述べた。世耕氏は「佐賀県の皆さんに再稼働を進める政府方針を説明する良い機会になった」と満足そうに話した。府方針を説明する良い機会になった」と満足そうに話した。

*2-4:http://www.nikkei.com/article/DGXLASJC24H32_U7A420C1000000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2017/4/24) 玄海原発再稼働に同意、佐賀知事「重い決断」
 佐賀県の山口祥義知事は24日午後、同県庁で記者会見を開き、九州電力玄海原子力発電所3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に同意する考えを表明した。山口知事は「熟慮に熟慮を重ねた結果、原子力発電に頼らない社会をつくるという強い思いを持ちつつ、現状においては(再稼働は)やむを得ないと判断した」と述べた。知事の表明で、再稼働に向けた地元同意の手続きは完了。福島原発事故を受けて新規制基準が導入された以降では、鹿児島県(川内原発)、愛媛県(伊方原発)、福井県(高浜原発)に続き4例目となった。地元同意をめぐっては立地自治体の玄海町が3月初旬までに同意を表明し、佐賀県議会も13日に容認決議を行った。ただ、福島の事故の大きさゆえに、県民の不安の声は根強く、「非常に重い判断だった」と知事。「県民83万人全員が同じ方向を向くことはない。我が国のエネルギー事情を考えたとき、火力発電がフルパワーで稼働して環境問題もある中で、総合的に判断した」と最終判断の理由を説明した。山口知事は会見に先立ち、世耕弘成経済産業相に電話で再稼働同意を伝達。22日の会談で国側が示した原発政策の実行に加え、「自然エネルギーの普及促進を改めてお願いした」と述べた。今後の焦点は玄海原発3、4号機がいつ稼働するかに移る。原子力規制委員会が現場で設備を確認する使用前検査などが必要で、稼働は今秋メドになる見通しだ。

*2-5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/422599 (佐賀新聞 2017年4月18日) 玄海原発、基準適合は不当 福岡の研究会が規制委に異議申し立てへ
 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県東松浦郡玄海町)が、新規制基準に適合すると認めた原子力規制委員会の許可は不当だとして、大学の元教員や医師らでつくる「福岡核問題研究会」の有志は、規制委員会に異議を申し立てる審査請求をすることを決めた。研究会の有志5人が、行政不服審査法に基づき、許可の取り消しや、執行停止(再稼働の停止)を求める。審査請求期限の18日までに手続きする。理由として、福島第1原発事故の後、フランスは総勢300人の緊急対応部隊を新設したが、日本の新規制基準には対応する措置がなく、「世界基準に程遠いこと」や、規制委がそもそも重大事故時の住民避難などの対策の有効性を審査の対象にしていないことが、「法律が求める責務からの責任逃れであり違法」などと主に8項目を挙げている。研究会メンバーが17日、佐賀県庁で会見を開き、豊島耕一佐賀大学名誉教授は「県議会は安全性が認められたとしているが、実際には程遠い状況」と批判した。

*2-6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/423954 (佐賀新聞 2017年4月23日) 反原発団体、経産相に抗議「県民犠牲にするな」
「県民を犠牲にするな」。玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の再稼働を巡り、山口祥義佐賀県知事と世耕弘成経済産業相が22日面会した県庁の前では、反原発の市民団体が抗議行動した。原発再稼働に前のめりの姿勢を示す国や手続きを着々と進める山口知事に対し、集まった約150人が怒りの声を上げた。午後2時18分、世耕経産相を乗せた車が急速度で正門から中に入り、参加者は「合意なき国策を押し付けるな」と声を張り上げた。県平和運動センターの原口郁哉議長は「知事は反対や疑問の声に答えずに再稼働へのステップを積み重ねている」と批判した。知事と面談して経産相が県庁を後にする午後3時10分まで約50分にわたり、「無責任な同意は許さない」などとシュプレヒコールした。参加した徳光清孝県議(社民)は「知事の同意後も再稼働まで時間がある。阻止するため粘り強く取り組む」、武藤明美県議(共産)も「福島の原発事故や自主避難者に対する復興相の失言で明らかなように、国も電力会社も原発に責任は取れない」と非難した。玄海原発の運転差し止め訴訟を続ける市民団体の石丸初美代表は「命や生活が脅かされ、核のごみも未来に押し付ける原発を続けられるわけがない。大臣は知事ではなく県民に説明するべき」と訴えた。経産相が視察した玄海原発の前でも抗議活動が行われた。

*2-7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201704/CK2017041502000133.html (東京新聞 2017年4月15日) 原発ゼロ・自然エネ連盟 発足 小泉元首相「国民運動に」
 各地で活動する脱原発や自然エネルギー推進団体の連携を目指す全国組織「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が十四日発足し、東京都内で記者会見を開いた。顧問に就任した小泉純一郎元首相は「自民党と革新勢力双方の支持者を巻き込んだ国民運動にしていく」と訴えた。福島第一原発の事故後に全国で進められた脱原発の運動は、連携がなく広がりを欠いていたとの判断から設立を決めた。全国組織として事務所を置き、講演会や意見交換会の開催、政府への提言、優れた活動をした団体の表彰などを行う。会見で小泉氏は「国民全体で原発を止めていこうという強いうねりが起きているのを実感している」と強調。その上で「いずれは国政選挙においても脱原発が大きな争点になる時がくる」と力を込めた。会長には、経営者として脱原発を訴えてきた城南信用金庫の吉原毅相談役が就任。吉原氏は「原発が経済的にも採算が合わないのは明らかで、自然エネルギー化は世界の流れだ。日本全国の声を結集していく」とあいさつした。連盟には約百五十の団体が参加する予定。主な役員は次の通り。
 顧問=細川護熙(元首相)▽副会長=中川秀直(元自民党幹事長)島田晴雄(前千葉商科大学長)佐藤弥右衛門(全国ご当地エネルギー協会代表理事)▽事務局長=河合弘之(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)▽事務局次長=木村結(東電株主代表訴訟事務局長)▽幹事=鎌田慧(ジャーナリスト)佐々木寛(新潟国際情報大教授)香山リカ(立教大教授)三上元(元静岡県湖西市長)永戸祐三(ワーカーズコープ理事長)

<諫早干拓>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12878773.html
(朝日新聞 2017年4月6日) 諫早、止まらぬ税金投入 国の干拓事業、湾閉め切り20年
 国の干拓事業で、諫早湾(長崎県)を鋼板で閉め切った「ギロチン」から14日で20年。国内最大級の干潟は農地になったが、湾を含む有明海は漁業不振が深刻化し、海の再生などに多額の公費投入が続く。巨費を投じた大型事業は、今も先が見えない。
■海再生498億円/判決守れず「罰金」
 2008年に完成した干拓事業。今も続く支出のうち、最も規模が大きいのが有明海再生事業だ。湾が閉め切られた3年後の00年、有明海特産のノリが大凶作に見舞われた。干拓事業との因果関係を調べるため、農林水産省の第三者委員会は、短・中・長期の開門調査を提言した。だが、農水省は中長期の開門をしない代わりに再生事業を始めた。02~16年度の事業費(予算ベース)は計498億円。海底に砂を入れて耕したり、干潟に潮の流れをよくする水路を築いたりしている。もう一つの大きな支出は堤防の内側の調整池の水質改善だ。淡水化され、干拓地の農業用水になるが、生活排水などが流れ込むと水質が悪化しやすい。そこで長崎県などが下水道整備や水質浄化を進めてきた。04~15年度に国と自治体合わせて352億円(決算ベース)の公費を投じた。それでも池では毎夏のようにアオコが大量に発生している。海の再生も池の水質改善も十分な効果が上がらないまま、毎年続いている。調整池のアオコの調査を続ける熊本保健科学大の高橋徹教授(海洋生態学)は「病気なら検査して、診断し、効果のある治療法を選ぶ。有明海の異変では検査にあたる開門調査をしていない。それ抜きでは効果的な対策も不可能なのに、あてどもなく血税が投じられている」と話す。公金投入は、こうした事業だけにとどまらない。干拓事業をめぐっては複数の訴訟が争われている。干拓が有明海の漁業不振の原因と疑う漁業者らは開門を求めて国を提訴。10年に開門を命じる福岡高裁判決が確定した。一方、長崎地裁は干拓地の営農者の主張を認め、国に開門を差し止める仮処分決定を出した。国は確定判決を履行できなくなり、14年6月から「罰金」として漁業者側に間接強制金を支払っている。現在は1日あたり90万円、3月10日時点で総額7億6500万円に上る。判決を履行するまで積み上がり、このままだと年内に10億円を超える。仮に開門すると、国は農業者側に罰金を支払う義務も負っていて、どちらに転んでも支払いは続く。漁業者らは強制金を海の再生のための基金に積み立てている。その一人、佐賀県太良町の平方宣清(のぶきよ)さん(64)は言う。「国の役人は自分の懐が痛まないから、こんな異常な状況を放置しておける。納税者としては納得できない」
■低い費用対効果
 諫早湾干拓は戦後間もない1952年、約1万ヘクタールの湾全体を農地にする大干拓構想として浮上した。その後、米が余る時代になり2度、規模を縮小。畑地開発や高潮・洪水防止に目的を変え、89年に着工した。97年4月14日、ギロチンを思わせる293枚の鋼板で湾の3分の1を閉め切った。長さ7キロの堤防の内側は干潟が陸地になり、672ヘクタールの農地に姿を変えた。総事業費は2530億円。造成された農地は長崎県の公社が国から51億円で買い取った。2008年から営農が始まり、個人・法人の計40事業者が農地を借りて野菜などを作る。1ヘクタールあたり約3億7648万円をかけて造成された農地。リース料は1ヘクタールあたり年20万円(標準額。当初は15万円)だ。1事業者の面積は平均16・7ヘクタールの大規模経営で、11年度の県の調査ではタマネギやニンジンなど主力5品目で計約2万3千トンの収穫があった。ただ、リース料の未納などでこれまでに9事業者が干拓地を去った。事業の費用対効果は農水省の試算で0・81。当初は1・03だったが難工事のため事業費が予定の倍近くに膨らみ、望ましいとされる1を割り込んで費用が事業効果を上回っている。
■大型事業、復活の動き 震災復興やアベノミクスで
 政府の公共事業費は、バブル崩壊後の90年代半ばから00年代初めがピークだった。自民党政権は景気対策のため毎年のように当初予算で9兆円台を計上。98年度には当初と補正の合計が15兆円近くに達した。一方で長良川河口堰(かこうぜき)(三重県)の反対運動が呼び水になり、大型公共事業が「環境破壊」「税の無駄遣い」と批判の的になる。01年には「構造改革」を掲げた小泉政権が発足し、公共事業費は削減に転じた。09年、「コンクリートから人へ」を掲げた民主党に政権交代すると、「事業仕分け」などにより削減が進んだ。だが、11年の東日本大震災後、野田政権は一転、復興費を含む公共事業費を増やした。高速道路や新幹線など、凍結していた大型事業の復活も認めた。安倍政権は「アベノミクス」の「第2の矢」で財政出動を掲げる。「国土強靱(きょうじん)化」をうたい、防潮堤や道路など災害に備えたインフラの整備が進む。当初予算は14年度から6兆円弱での微増が続く。関門など全国6海峡をトンネルや橋で結ぶプロジェクトなど凍結された事業の復活を、防災の名の下でめざす動きも活発だ。
■教訓学びとって
 宮入興一・長崎大名誉教授(財政学)の話 農水省は、諫早湾干拓事業の費用対効果を算出する際、失われる干潟の浄化能力や、漁業の被害を勘定に入れていなかった。そのつけを今払っているということだろう。国民の血税による終わりの見えない後始末だと言える。公共事業が無限の国民負担を強いることもあるという、最悪の事例だ。この教訓を、国も納税者も学びとらなければならない。

*3-2:http://mainichi.jp/articles/20170417/k00/00e/040/253000c (毎日新聞2017年4月17日) 諫早訴訟:開門差し止め命じる判決 長崎地裁
 国営諫早湾干拓事業(諫干、長崎県)の干拓地の営農者らが国に潮受け堤防の開門差し止めを求めた訴訟で、長崎地裁は17日、開門差し止めを命じる判決を言い渡した。松葉佐(まつばさ)隆之裁判長(武田瑞佳裁判長代読)は、もし開門すれば「農地に塩害などの重大な被害が発生する恐れがある」として、事前対策工事によって被害は防げるとする国の主張を退けた。諫干を巡る訴訟で、開門差し止めを命じる判決は初めて。2010年に国に5年間の開門調査を命じた福岡高裁判決が確定しているが、確定判決と逆の請求を認める判決は極めて異例。堤防閉め切りから今年で20年を経て“司法判断のねじれ”は一層深まった。国側補助参加人の漁業者側は控訴の意向を示したが、国が2週間以内に控訴しなければ判決が確定することから対応が注目される。判決は開門で堤防内の調整池に海水が入り込み「農地に塩害や潮風害、農業用水の一部喪失が発生する恐れがある。生活などの基盤に直接関わり重大」と指摘。これに比べ、国が主張する開門による漁場環境の改善効果は高くなく、開門調査で漁獲量減少との関連性を解明できる見込みは不明だと判断した。潮風害などを防ぐ事前対策工事も「実効性に疑問があるものがある」と結論づけた。判決を受け、山本有二農相は「判決内容を詳細に分析し関係省庁と連携しつつ適切に対応したい」とコメントした。訴訟は11年、福岡高裁確定判決への対抗措置として営農者らが起こした。長崎地裁は13年、営農者らが申し立てた開門差し止めの仮処分を認める決定を出し、国が不服を申し立てた異議審(15年)でも決定を支持した。開門差し止め訴訟を巡っては長崎地裁が16年1月に開門しない前提の和解を勧告したが今年3月に和解協議が決裂した。
●諫干開門差し止め請求訴訟判決骨子
・国に開門差し止めを命じる
・開門すれば農地に塩害など重大な被害が発生する恐れがある
・開門で漁場環境が改善する可能性は高くない
・開門調査で堤防閉め切りと漁獲量減少の関連性解明の見込みは不明
【ことば】国営諫早湾干拓事業
 大規模農地造成や低平地の水害対策を目的に1997年に湾内を全長7キロの潮受け堤防で閉め切った。2008年に完成し、総事業費約2530億円。約670ヘクタールの農地は、長崎県が全額出資する県農業振興公社が国から約51億円で購入し、営農者(個人・法人計40)に貸し付け、野菜や麦が栽培されている。農業産出額は年間計34億円。

*3-3:http://qbiz.jp/article/105683/1/ (西日本新聞 2017年3月16日) 南アで真水化事業へ 北九州市が日立と覚書
 北九州市は15日、南アフリカ東部のダーバン市で新たな水ビジネスを始める日立製作所(東京)と連携協力する覚書を結んだ。同社は、北九州市が民間企業に無償貸与している研究施設「ウオータープラザ北九州」(小倉北区西港町)で海水と下水から飲用水レベルの真水を精製する技術を確立しており、今後、ダーバン市で実証事業を手掛け、北九州市が現地スタッフを同研究施設に招き人材育成に当たる。記者会見した同社などによると、ダーバン市関係者が2013年に同研究施設を視察したことをきっかけに実証事業のオファーが来た。現地は少雨による慢性的な水不足に陥っているという。同社は飲用水の供給を依頼されており、現地施設を19年9月に完成させ、1日6250トン(2万〜3万人分)を精製。将来的に商用化して10万トン(40万〜50万人分)の供給につなげたい考えだ。11年に開業した同研究施設は、海外の89カ国を含め7700人が視察。今後、ダーバン市の海水や下水の水質に近づけた条件での実験も行っていく。北橋健治市長は「水資源が乏しい他国への普及も考えられ、官民の連携をさらに深めたい」と話した。

<財源は消費税とする福祉・教育、他の税収は何に使うのか>
*4-1:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201704165417 (愛媛新聞社説 2017年4月16日) 介護法案強行採決 国民に視線を向けて議論尽くせ
 衆院厚生労働委員会で、与党が介護保険関連法改正案の採決を強行した。民進党議員が質疑で森友学園問題を取り上げたことに、与党が反発した結果だ。法案は、高所得者のサービス利用時の負担割合を2割から3割に引き上げ、大企業社員や公務員らの保険料負担を増やすなど、国民への影響は大きく、十分な審議が欠かせない。痛みを強いる内容でもあり、理解を得るには丁寧な説明が必要だ。にもかかわらず、その責務を放棄して、不都合なことにふたをするような身勝手な国会運営は到底容認できない。与党は「法案以外の質問をするのは、十分に質疑をしたという証拠だ」と正当化するが、実質合意していた採決予定日まで2日を残していた。議論を尽くしていないことは、与党側も認識していたはずだ。この後、衆院本会議が見送られるなど国会は混乱。貴重な審議時間も失われてしまった。「法案以外の質問」を理由に審議を打ち切り、採決することがまかり通れば、民進党議員が非難したように「言論封殺」と言わざるを得ない。ましてや、今回の強行採決の背景に、森友学園問題に関わる「安倍晋三首相擁護」があったことは想像に難くない。首相に都合が悪い質問は許さないとばかりの与党の姿勢は、「言論の府」として看過できない。首相には国民の疑問に対し、正面から向き合い答える義務がある。安倍内閣の支持率は高水準を維持し、自民党内で首相の座を脅かす有力な対抗馬は見当たらないのが現状だ。首相や政権はこの状況に甘んじ、説明責任をなおざりにしていると言われても仕方あるまい。周囲も首相の意思を忖度(そんたく)しすぎではないか。国会議員が視線を向けるべきは時の権力者ではなく、国民であるという基本をいま一度認識すべきだ。介護法案は18日に衆院通過の見通しで、審議の場を参院に移す。「良識の府」である参院は政争が目に余る衆院を反面教師に、「数の力」に頼むのではなく議論を重ねてほしい。自民党の政権復帰、第2次安倍内閣の発足から4年4カ月。政権や与党による国民軽視や、議論封じ込めの「暴走」は今回が初めてではない。今なお懸念が根強い特定秘密保護法、安全保障関連法などでも強行採決。沖縄県の米軍普天間飛行場移設では、反対する沖縄の民意をよそに、政府が名護市辺野古沖で基地建設を強行する。政権の傲慢(ごうまん)な姿勢に、危うさが募る。今国会では「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案、衆院小選挙区の新区割りに関する公選法改正案など、与野党の激しい対立が予想される法案が残っている。介護法案と同様の手法で採決をごり押しするようなことは断じて許されないと、政権や与党は肝に銘じなければならない。

*4-2:https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0405.html(NHK 2017.4.16) ビジネス特集:子育て世帯の負担軽減?“こども保険”構想
 増える待機児童、広がる教育格差。子どものいる家庭にとって心配事は増える一方です。自民党の小委員会は、子育て世帯を支援するため、今の公的年金の仕組みのように、働く人や企業などから保険料を徴収して子育て世帯の負担の軽減に充てる新たな仕組み、「こども保険」構想を発表しました。働き盛り世代に重くのしかかる子育ての出費。その軽減につながるのでしょうか?
●社会全体で支える「こども保険」
 自民党の小泉進次郎衆議院議員を中心とする若手議員でつくる小委員会は、3月29日、少子化に歯止めをかけるため、新しい社会保障制度として「こども保険」構想を発表しました。「年金、医療、介護には社会保険があるが、喫緊の課題である子育てに社会保険がない」として、子どもが必要な保育や教育などを受けられないリスクをなくそうと、社会全体で支えるとしています。具体的には「公的年金」や「介護保険」の仕組みのように、保険料を徴収して社会全体で子育て世代を支援する新たな保険制度をつくろうというものです。今の厚生年金や国民年金の保険料に上乗せする形で、働く人と企業などから幅広く徴収します。徴収した財源は、小学校入学前の子どもがいる世帯に対し、児童手当に上乗せしたり、待機児童の解消に向けて保育所の整備に充てたりするとしています。当面の案として、企業と働く人から賃金の0.1%ずつの保険料を集める案が考えられています。国民年金の加入者の場合、月160円を徴収します。小委員会によると、子どもが2人いる30代の世帯では、年収400万円の場合、月に240円の保険料の負担増となり、子どもが2人(高校生の場合は児童手当はない)いる50代の世帯では、年収800万円の場合、月に500円の保険料負担の増加になると試算しています。「こども保険」によって、およそ3400億円の財源が確保できることから、児童手当に上乗せする場合、子ども1人当たり月5000円を加算することなどが可能だとしています。
●幼児教育や保育の無償化も視野に
 小委員会は、医療や介護の改革が同時に進めば、企業と働く人から徴収する、「こども保険」の保険料率をそれぞれ0.5%まで引き上げ(国民年金の加入者は月830円に引き上げ)、財源の規模をおよそ1兆7000億円まで増やせるとしています。この場合、例えば小学校に入学する前の子どもがいる世帯には、子ども1人当たり2万5000円が支給できるようになるため、児童手当と合わせると、幼児教育や保育を実質的に無償化できるとしています。小委員会のメンバーは「医療・介護保険料は高齢化で今後も徐々に引き上げられることが予想されるが、改革を行うことで給付の伸びを抑えることはできる。まずは、なんとか0.1%の保険料でも導入したい」と話しています。小委員会では今の社会保障制度が高齢者偏重ではないかという問題意識もあり、「こども保険」の創設を「全世代型社会保険」の第一歩としたいという思いもあるといいます。厚生労働省によりますと、「待機児童」は去年10月の時点で、全国で4万7738人。2年連続で増えており、東京は1万2232人と4分の1を占めています。国は女性の就業率の向上なども念頭に十分な保育の受け皿を確保することを目指していますが、財源などの面で険しい道のりであることは言うまでもありません。今回の「こども保険」は、子育て支援の安定財源になり得るのではないかという期待も出ているのです。
●負担だけが増える世帯も
 しかし、小さな子どもがいない世帯にとっては、「こども保険」の保険料の負担だけが増えることになるため、実現に向けて慎重論が出ることは確実。小委員会でも、子どもがいない人たちの理解をどのように得るかが実現のカギになるとみていて、「子どもがいない人も、将来、社会保障の給付を受ける側になる。社会保障制度の持続性を担保するのは、若い世代がどれだけいるかだ。若い人を支援するということは、子どもがいる、いないに関係なく、社会全体の持続可能性につながる」と説明しています。また、政府内では「保険制度は、自分にふりかかるリスクに対し、個々が保険料を納めて制度として成りたっているので、子育て支援の財源は、保険制度にはなじまず、一般財源でやるべきではないか」という意見や、「保険料の徴収の対象が勤労者と事業者となっていて、『全世代型の社会保障』といいながら、高齢者からの徴収がないのは疑問だ」などという指摘も出ています。
●保険方式浮上の背景に財源問題
「こども保険」構想の背景には、「教育格差」の問題が指摘される中、与野党で「教育無償化」を進めようという議論が出ていることもあります。これまでに財源として消費税や国が使いみちを教育に限定した新たな国債「教育国債」を発行する案などが浮上しています。しかし、消費税を10%に引き上げた場合の使いみちはすでに決まっているほか、さらなる引き上げがいつになるかわからず、財源として当てにできるものではありません。「教育国債」の発行も「名を変えた赤字国債だ」という慎重論が根強く、実現に向けてハードルの高さが指摘されているのです。こうした中で出てきたのが、保険の仕組みというわけです。とはいえ「こども保険」は、まだ構想段階。使いみちなど、制度の詳細が決まったわけではなく、今後、自民党内に新たに特命委員会を設けて検討していくことになっています。「少子化対策」が言われて久しいですが、抜本的な対策は待ったなし。今後どういう議論が展開されていくのか注目していきたいと思います。


<予算から見た辺野古埋め立て>
PS(2017年4月25日追加):誰もが望む普天間基地の返還のためなら、既に滑走路のある離島は多く、そこに基地を移転すれば埋め立てなど不要で予算も少なくてすむ。にもかかわらず、*5-1、*5-2のように、辺野古でも大量の予算を使うことが目的であるかのように誰のメリットにもならない埋め立て工事が始まり、その結果は、諫早干拓事業と同様に、大量の血税を使って自然を壊し回復不能にして、沖縄の資産を破壊する結果になると思われる。

   
  辺野古の海   2016.12.28東京新聞 2017.4.25沖縄タイムス 2016.12.27朝日新聞

*5-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK4S7HDWK4STPOB009.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2017年4月25日) 辺野古埋め立て護岸工事始まる 政府、5年で完了めざす
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画で、政府は25日午前、名護市辺野古沿岸部を埋め立てる護岸工事を始め、海に砕石が沈められた。工事が進めば、原状回復は困難になる。日米両政府が普天間返還合意をしてから21年が経ち、大きな節目を迎えた。辺野古の大浦湾に面した米軍キャンプ・シュワブ北側の浜辺では、午前9時20分ごろ、砂浜に設置された大型クレーンが動き出し、網に入れられた数十個の砕石をつり上げて、波打ち際に沈めた。護岸造成の地盤として海底に敷く捨て石とみられ、計5袋が海に入れられた。その後、午前11時時点までに目立った動きはない。この日着工したのは、埋め立て予定地の最も北に位置する場所。沖縄防衛局は今後、予定地の外側を囲む護岸を造成し、海を囲み終えた場所から年度内にも土砂の投入を始め、5年間での埋め立て完了を目指す。政府は当初、今月中旬の護岸工事着工も想定していたが、安倍政権と翁長雄志(おながたけし)知事の両者が支援する候補の一騎打ちとなったうるま市長選(23日投開票)が終わってからの着手となった。一方、県には25日朝、沖縄防衛局から「きょう着工する」と連絡があり、情報収集に追われた。基地問題を担当する県の吉田勝広・政策調整監は現地で工事の様子を確認し、「まるで沖縄の声を聞かない強引なやり方だ」と憤った。翁長雄志知事は、埋め立て工事に必要な「岩礁破砕許可」の期限が3月末に切れていると主張しており、工事により海底の岩礁が破壊されているのが確認されれば、工事差し止め訴訟を検討している。埋め立て承認の撤回や、県民の民意を改めて示す「県民投票」の可能性も模索している。普天間移設計画は、1995年の米兵による少女暴行事件を機に浮上した。日米は96年、普天間の返還に合意。計画は曲折を経て、辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部を埋め立てて、滑走路2本をV字形に配置する現行案になった。県内で反対運動が続く中、13年12月、当時の仲井真弘多(ひろかず)知事が政府からの埋め立て申請を承認。しかし、「辺野古阻止」を掲げて当選した翁長知事が15年10月にこの承認を取り消し、政府が県を提訴。16年12月の最高裁で県の敗訴が確定し、政府は護岸工事着工に向けて準備工事を急いでいた。

*5-2:http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/80555 (沖縄タイムス 2017.4.25) 辺野古の工事再開、知事は「あらゆる手法で」阻止姿勢 違法確認訴訟・敗訴から1カ月 
名護市辺野古の新基地建設を巡る違法確認訴訟の最高裁判決で沖縄県が敗訴してから20日で1カ月となった。敗訴を受け、翁長雄志知事は自身の承認取り消し処分を取り消し、国は昨年12月27日にキャンプ・シュワブ沿岸部の埋め立てに向けた工事を再開した。県は工事開始前の事前協議を求めているが国は応じておらず、本体工事に向けフロートの設置作業を急いでいる。知事は取り消し処分を取り消す一方、新基地建設は「あらゆる手法で阻止する」との姿勢を崩していない。3月で期限を迎える岩礁破砕許可やサンゴを移植する際の特別採捕許可、埋め立て本体工事の設計変更申請の不許可など知事権限を行使する考えだ。現在、県は2013年の埋め立て承認時に付した留意事項に基づく事前協議や岩礁破砕許可の条件が守られているかを確認するため海中に設置するコンクリートブロックの大きさや個数などの報告を求めている。だが、19日までに防衛局から返事はなく、県は国の留意事項違反などを根拠に承認の撤回を検討しているほか、県民投票の実施も視野に入れている。また、31日からは訪米し米議会関係者や有識者らに直接、辺野古計画の見直しを求める。一方、防衛局は抗議する市民らが臨時制限区域に立ち入らないようロープを張る新たなフロートの設置を進めているほか、報道各社に取材船で臨時制限区域に入らないよう呼び掛ける文書を送付するなど、警備態勢を強化している。国は国内最大級の作業船を導入し、早ければ月内にもボーリング調査を開始する予定で、護岸建設などの本体工事着手に向けた態勢を早急に整える考えだ。


PS(2017年4月26日追加):*6-1のように、今村復興大臣が「社会資本の毀損も25兆円という数字があり、まだ東北のほうだったからよかったが、もっと首都圏に近かったりすると莫大な額になる」と述べたのは、首都圏だったら数千兆円の損害になったかもしれないので真実ではあるが、「東北のほうだったからよかった」という言葉は、被害者自身は1人であっても大変なので不要だった。その点、新復興大臣の吉野氏は、東日本大震災復興特別委員長及び環境副大臣等を務め、まさにフクイチの地元である衆院福島5区選出の衆議院議員であるため、より真剣に東北の復興に取り組まれると考える。なお、原発が人口密度の低い地域に建設されたのは、まさに今村氏が述べた理由によるのだが、原発事故が起これば10km圏、30km圏どころか250km圏まで汚染されることが明白になったのである。
 そのため、*6-2のように、再エネによる発電を地域主導・産直で進めると、「原発は避けて再エネの電気を使いたい」という需要を満たすことができる上、エネルギー代金が地域から外に流出せずにすむので、生協だけでなく、全農も発電・配電子会社を作って地域に電力を供給すれば、再エネ開発が進んでよいと考える。

*6-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170425/k10010961341000.html (NHK 2017年4月25日) 今村復興相の後任に吉野正芳氏を起用 安倍首相方針固める
 安倍総理大臣は今村復興大臣が東日本大震災に関連し、被災者を傷つける発言をした責任を取りたいとして辞任する意向を固めたことを受けて、後任に、衆議院の東日本大震災復興特別委員長で、環境副大臣などを務めた自民党の吉野正芳氏を起用する方針を固めました。今村復興大臣は25日、みずからが所属する自民党二階派のパーティーで講演し、東日本大震災に関連して「社会資本などの毀損も、いろんな勘定のしかたがあるが、25兆円という数字もある。これは、まだ、東北のほうだったからよかったが、もっと首都圏に近かったりすると、ばく大な額になる」と述べました。今村大臣はその後、発言を撤回し謝罪しましたが、このあと同じパーティーに出席した安倍総理大臣は「東北の方々を傷つける極めて不適切な発言で、総理大臣として、おわびをさせていただきたい」と述べ、陳謝しました。こうした中、今村大臣は被災者を傷つける発言をした責任を取りたいとして、復興大臣を辞任する意向を固め、26日午前、総理大臣官邸で安倍総理大臣に辞表を提出する見通しです。これを受けて安倍総理大臣は、内閣の重要課題と位置づける東日本大震災からの復興や、国会審議などへの影響を最小限に抑えるため、後任人事の調整に入り、今村大臣の後任に衆議院の東日本大震災復興特別委員長で、環境副大臣などを務めた自民党の吉野正芳氏を起用する方針を固めました。

*6-2:https://www.agrinews.co.jp/p40701.html (日本農業新聞論説 2017年4月25日) 再エネ発電 地域主導で産直もっと
 農山村にある太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス(生物由来資源)の再生可能エネルギーによる発電を地域主導でもっと進めたい。これまでは大手企業の地方進出による大規模発電が目立ち、開発トラブルも絶えない。一方で、安全でクリーンな再エネ電気を望む国民は多い。地元での収入確保と消費者との結び付きの両方がかなう、産直型の再エネ発電に挑む価値は大いにあろう。一般家庭が電気の購入契約先を自由に選べる電力自由化が、4月で2年目に入った。大手電力10社の地域独占が崩れ、電気小売り事業に新規参入する企業「新電力」も増えた。だが、この1年で契約を大手電力から新電力に切り替えた家庭は全体のわずか5.4%。しかも、その切り替えは大都市圏に集中し、新電力が少ない地方は低調だ。東京電力福島第1原子力発電所事故以来、「原発は嫌だ」「再エネ電気を使いたい」という安全・安心志向の家庭は多い。それでも契約切り替えが少ないのは、再エネ電気を供給する新電力がごく一部に限られるからだろう。実際、農山村で発電された再エネ電気をいわば産直契約で主体的に扱う新電力は、ほとんど生協系でしか見当たらない。首都圏で先行しているのは、生活クラブとパルシステムの2生協。組合員に野菜や果実、米、肉・卵、牛乳など共に、再エネ電気の共同購入を勧めている。脱原発、地球温暖化防止に向けた実践的な消費者運動との位置付けだ。だが、両生協とも子会社の新電力は採算ベースには乗っていない。供給規模が小さく、薄利多売で利益を得る電力事業では苦戦が続く。農山村側に産直契約をしてくれるところが少なく、今後も組合員への供給量は段階的にしか増やせない。他方、大手企業による地方での再エネ発電は増えているが、売電先は地域の大手電力会社が大半だ。目的が売電利益だけなら、あえて産直型にはしない。結局、地元で再エネ電気を扱う新電力が育たず、消費者が使いたくても購入先がない地域がかなりある。発電では売電先の選定が重要だ。国の再エネ電気の固定価格買取制度を使えば、どこに売っても同額で差がない。ならば、こだわりの消費者とつながる新電力に売る産直型の方が、お互いの顔が見える関係を築ける。地方での購入可能地域の拡大にも役立つ。わが国の2015年度の再エネ発電は電力全体の14%にすぎないが、ここ数年で増加。政府は地球温暖化防止の国際約束として30年度には22~24%にまで高める。農山村での発電は地域主導が望ましい。そのための農山漁村再エネ法施行から3年になるが、実施への基本計画作成は昨年末で29市町村にとどまる。環境先進国ドイツのように、安全・クリーンの価値を認め合う産直連携を広げながら、再エネ発電を増やしたい。


PS(2017年4月27日追加):鹿児島県の川内原発も、過疎地にあるため原発適地とされたよい例だろうが、原発事故時には「風下になった地域では農地が汚染され、長期にわたって農作物が汚染される」「汚染水で付近の海が汚染されて水産業ができなくなる」「汚染範囲は原発の周囲に留まらない」「大地震・津波・大規模な火山噴火が発生する可能性もある」などは考慮されておらず、*7-1のような専門委員会のご都合主義の安全宣言も信頼に値しないことは証明済である。そのため、*7-2のように、少なくとも30キロ圏内の市町村の意見は聞くべきだ。
 さらに、私は、対馬市などの日本海側の関連地域が、韓国の裁判所に提訴することによって、韓国釜山地区にある古里原発等の危険性を問えば、韓国内でも原発の危険性に関する意識が上がるのではないかと考える。

*7-1:http://qbiz.jp/article/107269/1/ (西日本新聞 2017年4月27日) 川内2号機「問題なし」 鹿児島県専門委
 鹿児島県は26日、九州電力川内原発(同県薩摩川内市)の安全性などを議論する専門委員会の本年度第1回会合を開いた。九電が2号機で実施した特別点検と定期検査の結果、特に問題なかったと報告。委員から指摘が出ていた、ゆっくり繰り返す長い揺れ「長周期地震動」についても「影響は及ばない」と回答した。会合後、座長の宮町宏樹鹿児島大大学院教授は「1、2号機の装置は同じ。5月に予定する次回会合で1号機と同様に問題ないと了承する」との見通しを示した。専門委は次回に意見を取りまとめて三反園訓(みたぞの・さとし)知事に提出し、これを基に知事が2号機の稼働の是非を判断するとみられる。2号機は既に定期検査を終え、3月24日に営業運転に復帰している。

*7-2:http://qbiz.jp/article/108270/1/ (西日本新聞 2017年4月25日) 「再稼働、長崎の声黙殺か」 30キロ圏内、住民 憤りと落胆と 玄海原発 佐賀知事同意
 佐賀県の山口祥義知事が玄海原発(同県玄海町)再稼働への同意を表明した24日、原発30キロ圏内にある長崎県内の住民からは「長崎の声は黙殺か」などと憤りや落胆の声が上がった。原発から8キロに位置する松浦市鷹島町にある新松浦漁協の志水正信組合長(69)は「鷹島では住民説明会が1度あっただけ。漁業者として再稼働同意は残念で許し難い。反対の意思を伝える海上デモの準備を進める」と怒りの声。一方、同市議会の高橋勝幸議長は「佐賀県知事は国策を重く受け止めたのだろう。それぞれの立場がある」と述べるにとどめた。30キロ圏内に含まれる平戸市田平町の森文明さん(64)は「国の政策が上意下達され、地方はないがしろにされる政治状況はいかがなものか」と苦言。同市大久保町の障害者支援施設「平戸祐生園」の佐藤慎一郎園長は「国は再稼働を急がず、万一の場合の補償や支援も含め、30キロ圏内の住民に時間をかけて説明してほしい」。同市議会の辻賢治議長は「市民の安全、安心を考えれば、実効性のある避難計画の確立が国の関与で万全なものにならない限り、議会として反対の立場は変わらない」と話した。壱岐市郷ノ浦町の特別養護老人ホーム「光の苑」の武原光志施設長(66)は「入所者が60人いる。再稼働するのであれば避難先などの環境を整えてほしい」と曇った表情。同市で反対活動をしている「玄海原発再稼働に反対する市民の会」の中山忠治会長(69)は「同意の判断は残念。署名活動は4月で終わるが、脱原発を目指し、今後も反対運動を続ける」と強調した。県内では30キロ圏内の松浦、平戸、壱岐、佐世保の4市が連携し、避難計画などへの国・九電の関与を県を通して求めている。中村法道県知事は「佐賀県知事は総合的に判断されたと認識している。関係自治体と連携し、諸課題の解決に努めたい」とするコメントを発表。松浦市の友広郁洋市長は「大型連休明けにも県と4市で協議の場を設けることになった」と話した。
●壱岐市議会も再稼働反対
 壱岐市議会は24日の本会議で、九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に反対する意見書案を全会一致で可決した。原発から30キロ圏内にある長崎県内の市議会では平戸、松浦両市が既に可決している。意見書では「県は住民説明会で再稼働への理解を求めているが、市民からは安全性や避難への不安をぬぐえないなどの声が相次いでる」「市は30キロ圏内地域の中では最も人口が多い離島で、事故が発生すれば壊滅的な打撃を受ける。離島からの避難は船舶が主で、全島民が避難するには5日半かかる」などと指摘。その上で「国の責任で、原発の安全性検証の手段や実効性ある避難計画などが確立されることがなければ、市民の安全を守ることができないと判断し、市民の理解が得られない限り、玄海原発再稼働に反対する」などとしている。


PS(2017年4月28、30日追加): 「教育無償化のために憲法改正が必要」とする意見があるが、日本国憲法で規定されているのは、*9-1の「第23条:学問の自由」「第26条:教育を受ける権利、義務教育の無償」であるため、3歳~18歳を義務教育と法律に定めれば、憲法を変更しなくても幼児教育から中等教育までの無償化を憲法で規定できる。これにより、16年(現在なら4年制大学まで卒業できる期間)かけて幼児教育から中等教育までを無償で行うため、親の経済力にかかわらず、子は必要な教育を受けることができるようになる。また、3歳くらいの早い時期から始めた方がよい科目も始められ、全体としては充実した内容を、しっかり教育することができる。そして、教育は、国にとっては投資であるため、一般財源からその費用を出すべきだ。
 なお、*9-2のように、教育改革よりも憲法の変更を目的として「高等教育も無償化すべき」と主張する人もいるが、高等教育を受ける必要があるか否かは職業によって異なり、初等・中等教育を充実していれば教養や見識のある市民を育てることができる。そのため、高等教育は、①公立大学の授業料を月額1万円程度まで下げる ②公立大学の入学金も10万円程度まで下げる ③高等教育で学んでもらいたい学生には、性別や国籍を問わず生活費も賄える奨学金を渡す ④安価で質の良い学生寮を整備する などの政策の方が、教育の機会均等や平等には憲法変更より有効だと考える。そして、奨学金は、国や地方自治体だけでなく、高等教育を受けた人材を活用する企業やその大学の卒業生などが作って給付対象者を選別してもよいだろう。

*9-1:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM (日本国憲法 関連個所抜粋) 
第23条 学問の自由は、これを保障する。
第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける
     権利を有する。
   2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせ
     る義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

*9-2:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170318-00081574-playboyz-pol (Yahoo:週プレNEWS 2017/3/18) 「高等教育無償化」は警戒すべき! 安倍首相が目論む“憲法9条改正”への布石
 安倍首相が次期衆院選を2018年秋以降に先送りする検討を始めたという。その思惑はどこにあるのか?『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、これは安倍首相の“憲法9条改正へのシナリオ”だと警戒する。
* * *
 次期衆院選について、「首相が任期満了ギリギリの2018年秋以降に先送りする検討を始めた」と、新聞各紙が伝えている。次期衆院選はこれまで、今年の秋と予測する声が大半だった。それをさらに1年も先送りにする。これが本当なら安倍首相の思惑はどこにあるのだろうか? その答えを知るカギのひとつが3月5日の自民党大会にあった。この冒頭のあいさつで、首相はこう力説したという。「憲法改正に向け、具体的な議論をリードする。それが自民党の歴史的使命だ」。昨年の党大会では、安倍首相は改憲についてひと言も触れていない。その時と比べると、大きな変化だ。現在、自民は衆参で改正発議に必要な3分の2の議席を持っている。おそらく、首相はその議席数をキープできる来年末までに、憲法改正をやり遂げてしまおうと腹を固めたのだ。ただし、首相が狙う9条改正は容易ではない。平和憲法は広く国民の間に根づいており、そのシンボルである9条の改正には極めて強い抵抗が予想される。そこで首相が新たに持ち出そうとしている改憲項目がある。「教育無償化」だ。憲法26条では、「義務教育は無償」と書かれているが、これを受けて実際に行なわれているのは小・中学校までの無償化である。本来は、今すぐにでも義務教育の範囲を拡大して高校の無償化を実施すればよい。しかし、その前に、憲法の条文を改正して、高校まで入ることを明文化しようというのだ。教育無償化を高等教育にまで拡大するため、憲法改正したいと提案されて、表立って反対できる人は少ないだろう。望めばだれでも国の負担で高等教育を受けられる制度が憲法で保障されることは、良いに決まっている。だが、注目すべきは憲法改正による教育無償化を最も熱心に主張しているのが、「日本維新の会」ということだ。安倍・自民が憲法改正の最初のメニューに教育無償化を打ち出すということは、維新の政策を受け入れたことを意味する。そこに首相の計算が透けて見える。まずは来年の秋までに26条の改憲を実現させることで、教育無償化の言いだしっぺの維新に花を持たせる。国民の憲法改正アレルギーが払拭されるとともに、当然、維新の評価・支持率も高まるだろう。その上で自民、維新で憲法改正の連合軍を作り、次期衆院選を戦う。次の選挙で自民は30前後議席を減らすとの選挙分析があるものの、そのマイナス分を維新が他の政党に競り勝って確保してくれれば、全体としては改正の発議に必要な衆参3分の2の勢力を維持できる。来年9月には首相は3期目の党総裁選に勝利して、21年9月までの長期政権運営に乗り出しているはずだ。衆院選で維新とともに3分の2を取れば、いよいよ、本丸の9条改憲への道筋がはっきり見えてくる。このシナリオに死角があるとすれば、小物感の強い松井一郎府知事の下で維新の党勢がじり貧になっていることだろう。しかし、来年秋までに橋下氏が政界復帰するという観測がここに来て急速に高まっている。維新関係者の希望的観測かもしれないが、橋下氏が登場すれば、維新フィーバー再来も夢ではない。教育費をタダにする――国民が歓迎しそうな改憲メニューを“9条改正”の布石にしようと目論む安倍・自民。警戒を怠ってはならない。
●古賀茂明(こが・しげあき)
 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年に退官。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)。インターネットサイト『Synapse』にて「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中


PS(2017.5.4追加): 100%の人が高等教育を受けるわけではないため、高等教育の無償化はむしろ不公平を招く。また、義務でない場合の無償化は対象者の意思決定に誤った影響を与えるため、サービスを利用する人に少しは負担させる形式の方がよく、これは、誰が対象であれ医療費の無料化も同じである。さらに、憲法をいじる必要のない教育無償化をだしにして、自民党憲法改正草案のような非民主国家に逆戻りさせる憲法改悪が行われるきっかけにされるのは大きな問題だ。首相は「2020年を新しい憲法が施行される年にして、日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだ」と言っておられるが、①どういう新しい国に生まれ変わるために ②現行憲法のどこが不備だから ③どのように変えたいのか を具体的に示すべきである。そうすれば、その夢の適切性や意図どおりになるか否かについて、次のディスカッションができるのだが、「憲法をよく読んだことはないが、(敗戦後に押し付けられた憲法だから)現行憲法を変更すること自体が夢」で、説明は国民を説得するための手段にすぎないというのは論外なのだ。

  
     2016.8.12東京新聞     昭和天皇の御名御璽      ポイント  

(図の説明:これまで「敗戦後に日本の国力を弱めるため米国によって押し付けられた」と説明されることが多かった日本国憲法9条は、実は幣原首相が提案したものだと米上院でマッカーサーが証言していた。その憲法には、①国民主権 ②平和主義と戦力不保持 ③基本的人権の尊重 が記載されており、昭和天皇が深く喜んで交付せしめるとしている)

*10:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170504&ng=DGKKZO16046710U7A500C1PE8000 (日経新聞 2017.5.4) 首相メッセージ要旨 高等教育無償化にも意欲
 安倍晋三首相(自民党総裁)のビデオメッセージの要旨は次の通り。憲法は国の未来、理想の姿を語るものだ。私たち国会議員はこの国の未来像について、憲法改正の発議案を国民に提示するための具体的な議論を始めなければならない時期にきている。例えば憲法9条。今日、災害救助を含め、命懸けで24時間365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く任務を果たしている自衛隊の姿に対し、国民の信頼は9割を超える。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在する。「自衛隊は違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任だ。私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきだ。もちろん、9条の平和主義の理念については未来に向けて、しっかりと堅持していかなければならない。「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方は、国民的な議論に値するだろう。教育の問題。70年前、現行憲法の下で制度化された普通教育の無償化は、戦後の発展の大きな原動力となった。70年の時を経て、社会も経済も大きく変化した現在、子どもたちがそれぞれの夢を追いかけるためには、高等教育についても全ての国民に真に開かれたものとしなければならない。私はかねがね夏季オリンピック、パラリンピックが開催される2020年を未来を見据えながら日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだと申し上げてきた。20年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている。自民党総裁として憲法改正に向けた基本的な考え方を述べた。これを契機に国民的な議論が深まっていくことを切に願う。


PS(2017.5.20追加):政府は、子育てや教育にかかる負担を社会全体で分かち合うと称して、*11のように、教育無償化や待機児童対策の財源として年金等の保険料に上乗せして徴収する“こども保険”制度の検討に入るそうだが、教育財源の不足は教育に対する国家予算の優先順位が低すぎるのが問題なので、公的保険等で国民負担を増やして教育費用を賄おうという発想はセンスが悪すぎる。また、今後、子育て費用のかかるリスクがない人(既に自前で子育てを済んだ人やさまざまな理由で子どもを持っていない人)にまで保険料を支払わせるのは不公正である上、保険制度にも合わないため、もし“子ども保険”を作るとすれば、今後、子育てで費用がかかるリスクのある人で保険に入りたい人に限るべきだ。そのため、“子ども保険”を作るとすれば私的保険が適しており、その点は誰もがリスクを有する年金・医療・介護とは根本的に異なる。

*11:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170520&ng=DGKKZO16659010Q7A520C1MM8000 (日経新聞 2017.5.20) こども保険検討へ、教育向け新財源、税・拠出金と比較
 政府は、教育無償化や待機児童解消などをまかなう新たな財源として、年金などの保険料に上乗せして徴収する「こども保険」制度の検討に入る。税金や企業からの拠出金でまかなう案などと比較検討し、早ければ年内にも方向性を出す。少子高齢化が急速に進む中、子育てや教育にかかる負担を社会全体でどう分かち合うのか。財政論を超えて国民的な議論を呼びそうだ。政府は6月にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)でアベノミクスの柱の一つとして教育や子育てといった人材投資の強化を盛り込む。財源として(1)税(2)拠出金(3)社会保険料――の3案を明示する。具体的な検討は今夏にも政府内に「人材投資会議」(仮称)を新設し、教育無償化の範囲などと併せて進める見通しだ。「こども保険」構想はもともとは自民党の小泉進次郎氏ら若手議員が小学校就学前の教育費の負担軽減策として打ち出したものだ。小泉氏らの提言によると、まずは社会保険料を勤労者、事業者とも0.1%ずつ上乗せして徴収。それによって得られる約3400億円で、児童手当を1人当たり月5000円増やすことができるとしている。さらに保険料の上乗せを0.5%まで増やせば、集まる財源は約1.7兆円。小学校入学前の子ども約600万人に児童手当を月2万5000円加算できるため、幼児教育・保育を実質的に無料にできる計算だ。最終的には上乗せ率を1.0%まで引き上げ、財源規模を3兆円規模に増やすことを想定する。「こども保険」の特徴は、現役世代で負担を共有し、将来世代へのツケの先送りを避けられることだ。並行して検討する税金でも消費税ならば国民全体から広く集められるが、すでに10%までの使い道は決まっている。社会保険は税金と異なり他の使途に使われることもなく、給付と負担の関係が明確で、国民の理解が得られやすいとの読みもある。政府が教育や子育て支援に必要な新しい財源の本格的な検討に入るのは、高齢化による社会保障の膨張が避けられない中で、新たな施策へ振り向ける財政的な余裕がなくなっていることがある。これまで日本の社会保障は高齢者優遇に偏っているとの声が強かった。自民党も選挙を意識して社会保障の削減には後ろ向きで、その分、子育てや教育への予算配分がおろそかにされてきた。「こども保険」の検討によって、社会保障の歳出抑制などの議論にも一石を投じる可能性がある。


PS(2017.5.27追加): *12のように、維新の党の提案を入れる形で自民党が進めようとしている高等教育無償化は、憲法9条変更のだしにすぎず、このような動機で憲法を変更すべきではない。また、日本国憲法は26条で義務教育の無償化をうたっているが、高等教育の無償化を禁じてはいないため、高等教育の無償化もやろうと思えばいつでもできる。そして、私は、国民全員を利する教育・社会保障を財源論とセットにして増税のだしに使うべきでもないと考えている。
 なお、どこまでが義務教育で、幼児教育・初等教育・中等教育・高等教育かは時代によって変わってよく、平成20年度で97%を超える生徒が進学している高校は、残る3%の進学できない生徒が人生で不利益を蒙らないためにも、義務教育にすべきだろう。
 そのため、私は、大学以降を高等教育とし、幼稚園から高校までを義務教育として無償化するのがよいと考える。また、大学の奨学金も、(子の方が未来に適合した考え方をする場合が多いのだが)親子で教育に関する考え方が一致するとは限らず、世帯収入が多いからといって100%の親が子の望む進学に金を出すとは限らないため、世帯収入とは関係なく学生全員を対象として渡すべきだと考える。そのよい例は、東大女子学生で、地方出身の女子生徒が東大に進学するのを周囲や社会に阻害されず、生活の心配なく受験できるように、東大女子同窓会が支払う女子学生への奨学金は合格前に内定し、東大が女子寮の便宜を図るようになっている。

*12:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0113953.html (北海道新聞 2017.5.27) 教育の無償化 改憲と切り離すべきだ
 安倍晋三首相が改憲の具体的項目として、9条への自衛隊明記とともに、高等教育までの無償化を挙げた。憲法は義務教育を無償と定めている。これを大学など高等教育まで拡大するよう、憲法に書き込むとの提案だ。貧富の差に関係なく、誰でも大学で学べる社会の実現に異論はない。だが、無償化は改憲しなくても可能だ。事実、民主党政権時代には高校が無償化されている。首相は誰もが賛同する教育無償化とセットにすることで、反対が根強い9条改正に踏み込もうとしているかのようにも映る。無償化が必要と考えるなら、改憲論議と切り離して、すぐにでも取り組むべきである。憲法は26条で義務教育の無償化をうたっている。その対象拡大を禁じているわけではない。だからこそ、民主党政権下で高校無償化法が成立し、公立高校の授業料は免除、私立高校にも就学支援金が支給され、事実上無償化が実現した。これを、選挙目当ての「ばらまき」と批判したのは野党だった自民党だ。事実、政権交代後は所得制限を設け、制度を後退させた。にもかかわらず、突然の「変節」である。教育無償化については、日本維新の会も憲法による規定を求めている。9条改正という目的達成に向け、維新の協力を得るために無償化を「だし」にするような手法であるなら、到底認めがたい。経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の国内総生産に占める教育機関への公的支出割合は、比較可能な33カ国中32位だ。教育費の多くを家庭が負担している。こうした実態が少子化の一因にもなっている。教育の無償化は喫緊の課題なのだ。幼児教育から高等教育まで無償にすると、年間4兆円以上が必要とされる。財源を巡っては教育国債発行や、社会保険料引き上げによるこども保険創設などが出ているが、いずれも決め手に欠ける。さらに、世帯収入に関係なく全員を対象とするのか、無償化の範囲は幼児教育だけか、高等教育まで含むのか―など、実現に向けては難問が山積みだ。解決には、国会が党派の壁を取り払って、活発な議論を展開することが欠かせない。無償化を本当に実現したいのであれば、対立点の少なくない憲法を絡めて提唱したところで、逆効果ではないか。

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2016.7.28 医療・介護に関する政府・行政・メディアが作りあげた誤った論理を鵜呑みにしたのが、植松容疑者が障害者を刺殺した動機だろう (2016年7月30、31日、2016年9月16、23、25日に追加あり)
(1)精神障害者差別の根源は刑法39条であること
 厚労省は、*1-3のように、相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件を受け、再発防止のために措置入院のあり方を見直す有識者会議を設置し、措置入院を解除した患者を継続的に支援(?)する体制を作るとのことだ。そして、その内容は、入院解除の判断や解除後の警察との連携などのフォローアップ体制に関する法改正やガイドラインづくりで、対応がいやに速やかである。

 しかし、忘れてならないのは、精神病院は精神障害者を治療する場所であって拘置所でも監獄でもないため、大量殺人(テロ?)に手を染めそうな人を精神障害者として精神科医が監視するのは無理があるということだ。アメリカでは、精神障害者のふりをして罪を免れて精神病院に行った人の話が、1975年に「カッコーの巣の上で」という映画になっており、深い映画であるため見ることをお勧めする。

 また、日本で悪質な殺人事件が起こるたびに、「犯人は精神障害者だった」とされる理由は、*1-4のように、刑法が39条で「心神喪失者の行為は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と定めており、罰の軽減を図って犯罪時に「心神喪失だった」「心神耗弱だった」とワンパターンの弁護を行うからである。もちろん、人を殺す時の精神状態は正常ではないのかもしれないが、それをすべて責任能力がないため罰っせられないとする心神喪失や罪が軽減される心神耗弱に当たるとすれば、罰せられる人はいなくなる。

 そして、このような理由で精神障害者と認定された人を除けば、実際に精神障害者が殺人を犯す割合は、一般の人が殺人を犯す割合より低いと言われている。

 にもかかわらず、これらの対応の結果、*1-5のように、「刑法39条の精神疾患が有る人は、人を殺しても罪に問われないと言う法律、これって可笑しくない?」「つまり獣に罰を与えても無駄でしょ!? って理屈な訳?」「刑罰が人以下で人権だけ主張されてもねぇ・・・」というイメージが一般の人について、刑法39条とメディアの報道の仕方が、本当の精神障害者に対する言われなき差別を作っているのである。

 また、その答えが、「もう大丈夫です。心神喪失者等医療観察法が制定されましたから」「人の形をした人ならざる者に人権は不要です。その事を国も認めました」「これで事実上一生監視下に置かれる事と成ります」というのもふるっている。

(2)それでは、植松容疑者の障害者刺殺の動機は何か
 障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人を刺殺し、26人にけがをさせた事件で、*1-1のように、植松容疑者(26)の犯行は、「精神障害か」「違法薬物のせいか」とされている。

 しかし、植松容疑者は、2016年2月15日、衆議院議長公邸を訪ね、土下座で頼み込んだ上で大島理森議長にあてた今回の事件を示唆する内容の手紙を渡し、その手紙には「私は障害者総勢470名を抹殺することができる」と記していた。さらに、*1-2のように、「意思疎通ができない人たちをナイフで刺した」「障害者なんていなくなればいい」とも供述しており、殺人後の現在は、「遺族の方には、突然のお別れをさせるようになってしまって心から謝罪したい」と話しているが、被害者本人への謝罪は全くない。つまり、普段から障害者を自分と同じ人間と見ておらず、この世に存在してはならないもののように考えていた確信犯であることがわかる。

 「車イスに一生縛られている気の毒な利用者も多く存在する」「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」「重度障害者の大量殺人は、日本国の指示があればいつでも実行できる」などとも述べているが、これらは、植松容疑者の信念であり、大麻による薬物中毒や精神異常が原因ではないように見える。

(3)では、植松容疑者の信念はどうして作られたのか
 行政・メディアは、*2-1のように、「社会保障を軸に『岩盤歳出』に切り込め」として、①インフレ政策をとり ②消費税率を引き上げ ③高齢者に対する社会保障を中心とする歳出の削減・抑制をすべきだと連日訴えている。

 そして、その理由を、高齢化で膨らむ一方の社会保障費を“効率化”するため、ゆとりのある高齢者の自己負担を増やし給付を真に困っている高齢者に重点化して、子ども・子育て支援は充実するとしているが、このような政策を進めた結果、実際には年金生活者は財産権を侵害されて生活に困窮している人が多く、介護殺人も起こった。

 そのため、*2-1の論調の人は、植松容疑者のように刃物で高齢者を手にかけることはなかったが、間接的に殺人や泥棒をしたことになり、「社会保障費を“効率化”することだけが重要だ」というメッセージを流し続けてきた人は、若者に誤りを擦りこみ続けたのである。

 なお、*2-1に、2018年度の診療報酬と介護報酬の同時改定を待たずに、政府は17年度予算から歳出抑制の具体策を打ち出していくべきだとも書かれている。しかし、政府が診療報酬や介護報酬をカットし続けたことは、これらのサービスに従事している人たちに過度の労働を強いるなど多くの問題を引き起こしているとともに、本物のニーズ(需要)を削ってGDPを下げているのだ。

 また、*2-2のように、経産省は企業と連携して会社員の健康情報のデータベース化に向けた取り組みを強化するそうだが、最近の過度のデータ収集ではプライバシーの侵害になりそうである。

 さらに、*2-3のように、厚労省は、2018年度の介護保険制度改正に向けた本格的論議を開始し、日常生活で部分的な介助が必要な「要介護1、2」の認定者に対する掃除や調理、買い物など生活援助サービスの給付を減らす予定とのことだが、要介護度の低い人が自宅療養できるためには支援が必要であるため、生活援助サービスのカットは介護が必要な人やそれを支える家族の負担を重くする。

 最後に、介護保険制度ができた当時、年3兆6千億円だった介護給付費は現在10兆円を超えて、今後10年間は団塊の世代の高齢化が進んで給付費はさらに増大するとのことだが、それは当たり前であり、あらかじめわかっていたことだ。そして、多くの人が介護保険料を支払っていない現在、働く人すべてが介護保険料を支払う介護保険制度にすれば、それは解決できる筈である。

<“無駄”削減が本当の動機ではないのか>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12483228.html
(朝日新聞 2016年7月28日) 手すりに複数職員縛る 議長宛て手紙通り 相模原19人刺殺
 相模原市緑区千木良(ちぎら)の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が死亡し、26人がけがをした事件で、殺人などの容疑で送検された植松聖(さとし)容疑者(26)が、5人前後の職員を結束バンドで縛りつけたうえで入所者を襲っていたことが神奈川県警への取材でわかった。2月に衆院議長に宛てた手紙に記された「作戦」通りの内容で、県警は計画的に事件を起こしたとみて調べている。
■自宅に違法薬物か
 県警は27日、園近くの植松容疑者宅を捜索。植物片とみられるものが付着した容器を押収した。危険ドラッグや大麻などの違法薬物の疑いがあるとみて調べる。捜索では、事件について記したメモもあった。県警や県関係者によると、東棟1階から侵入した植松容疑者は、寝ていた入所者らを次々に刺した後に西棟1階に移動。居合わせた職員2人の指や腕をプラスチック製の結束バンドで縛り、手すりにつないで動けない状態にした。縛られた職員の一人は「殺されると思い、怖かった」と話しているという。ほかにも3人前後が結束バンドで縛られた。植松容疑者はさらに西棟の2階へ移動。居室を回り、約50分間で計45人を襲ったとみられている。植松容疑者は2月、大島理森衆院議長に宛てた手紙の中で、障害者施設で多数を殺害する「作戦内容」として、「見守り職員は結束バンドで身動き、外部との連絡をとれなくします」「職員は傷つけず、速やかに作戦を実行します」などと記していた。また、司法解剖の結果、遺体の致命傷は首や腹、背中など上半身に集中していた。施設内では血のついた2本の包丁が押収され、凶器とみられる刃物はこれで計5本となった。植松容疑者は「突然のお別れをさせるようになってしまって遺族の方には心から謝罪したい」と話しているという。園を運営する社会福祉法人かながわ共同会は27日に記者会見し、米山勝彦理事長は「尊い生命が失われ、強い怒り、憤り、悲しみを禁じ得ません。19人の方々が亡くなり、負傷者が出たことを心よりおわび申し上げます」と述べた。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12481359.html (朝日新聞 2016年7月27日) 重度障害者、標的か 相模原19人刺殺、容疑者「意思疎通できぬ人刺した」
 相模原市緑区千木良(ちぎら)の障害者施設「津久井やまゆり園」で26日未明、刃物を持った男が入所者らを襲い、19人が死亡、26人がけがをした事件で、神奈川県警に殺人未遂などの容疑で逮捕された元職員の植松聖(さとし)容疑者(26)が、「意思の疎通ができない人たちをナイフで刺した」と供述していることが県警への取材でわかった。県警は植松容疑者が身勝手な動機から、重度の障害者を狙って事件を起こしたとみて調べる。県警は27日、容疑を殺人に切り替え、横浜地検に送検する。警察庁によると、平成元(1989)年以降、最も死者の数が多い殺人事件となった。消防や県などによると、亡くなったのはいずれも入所者で、41~67歳の男性9人と、19~70歳の女性10人。けが人のうち、重傷者が13人という。けが人には職員2人も含まれていた。植松容疑者の逮捕容疑は、26日午前2時ごろ、同園で入所者の女性(19)を刺して殺害しようとしたというもの。県警の調べに対して容疑を認め、「障害者なんていなくなればいい」とも話しているという。植松容疑者は東居住棟の1階東側の窓をハンマーで割って施設に侵入し、結束バンドを使って施設職員を拘束。所持していた包丁やナイフを使い、次々に入所者を刺したという。津久井署には午前3時ごろ1人で出頭。持参したかばんには、血が付いた刃物3本が入っていた。また、乗ってきた車の後部座席からは、少量の血液が付いた結束バンドも見つかった。同園は県が設置し、指定管理者である社会福祉法人かながわ共同会が運営。神奈川県北西部にあり、東京都や山梨県との境に近い。県などによると、知的障害者ら149人が長期で入所中。敷地は3万890平方メートル、建物は延べ床面積約1万1900平方メートル。2階建ての居住棟が東西に2棟あり、20人ずつが「ホーム」と呼ばれるエリアに分かれて暮らしていた。
■2月に施設退職
 捜査関係者によると、植松容疑者は今年2月15日、衆院議長公邸を訪ね、土下座で頼み込んだうえで大島理森議長にあてた手紙を渡していた。手紙は「私は障害者総勢470名を抹殺することができる」として、今回の事件を示唆するかのような内容だった。手紙は「標的」にやまゆり園を含む2施設を挙げ、「作戦」として、夜間に事件を起こすことや結束バンドで職員の動きを封じること、事件後は自首することなどを記していた。いずれも事件時の実際の行動と同様の内容だ。手紙では障害者について「車イスに一生縛られている気の毒な利用者も多く存在」するとし、「私の目標は(複数の障害がある)重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」などと自分勝手な考えを示していた。神奈川県や相模原市によると、植松容疑者は2012年12月から同園に勤務していたが、今年2月18日、園の関係者に「重度障害者の大量殺人は、日本国の指示があれば、いつでも実行できる」などと話したため、話し合ったうえで19日に退職願を提出してもらった。市は精神保健福祉法に基づいて植松容疑者を措置入院させた。入院中には植松容疑者の尿と血液の検査から大麻使用が判明。その後、症状が改善されたとして、家族と同居することを条件に、3月2日に医師の判断で退院させていたという。退院を受け、県警のアドバイスで4月、同園の防犯カメラが16台増設されたという。
■「命の重さに思いを」障害者団体
 知的障害のある当事者と家族らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」は26日夜、会のホームページで声明を公表した。「職員体制の薄い時間帯を突き、抵抗できない知的障害のある人を狙った計画的かつ凶悪残忍な犯行であり、到底許すことはできません」と激しい憤りを表明している。さらに「このような事件が二度と起きないよう、事件の背景を徹底的に究明することが必要」と指摘。被害者や遺族・家族、入所者に対する十分なケアを求め、「早期に対応することと中長期に対応することを分けて迅速に行いつつ、深く議論をして今後の教訓にしてください」と再発防止策の検討を要求した。その上で「今回の事件を機に、障害のある人一人ひとりの命の重さに思いを馳(は)せてほしい」と国民に訴えた。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12483220.html?ref=pcviewpage
(朝日新聞 2016年7月28日) 措置入院、あり方検討 厚労省、相模原19人刺殺受け
 相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件を受けて、厚生労働省は、再発防止に向けて措置入院のあり方を見直す有識者会議を8月にも設置する調整に入った。措置入院を解除した患者に対し、継続的に支援する体制づくりが課題となる。措置入院は精神保健福祉法に基づき、自分や他人を傷つける恐れがある場合に都道府県知事らが患者本人の同意なしに入院させられる仕組み。植松聖容疑者は2月に緊急で措置入院し、3月に退院した。厚労省は措置入院解除後の植松容疑者の行動や解除の判断のあり方、警察との連携などの調査に着手。現状では「退院後のフォローアップ体制」がないことから、有識者会議で検討を進め、必要に応じて法改正やガイドラインづくりを行う考えだ。塩崎恭久厚労相は27日に事件現場を視察後、記者団に「措置入院後の十分なフォローアップができていなかったという指摘がある。こういった点もよく考えていかなければならない」と述べた。

*1-4:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html 刑法 (抜粋)
(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条  心神喪失者の行為は、罰しない。
2  心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

*1-5:http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1354030598
刑法39条(精神疾患が有る人は、人を殺しても罪に問われないと言う法律)
Q:これって可笑しくない?
  補足つまり獣に罰を与えても無駄でしょ!?って理屈な訳?
  刑罰が人以下で人権だけ主張されてもねぇ・・・
A:もう大丈夫です。心神喪失者等医療観察法が制定されましたから。http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sinsin/index.html
  人の形をした人ならざる者に人権は不要です。その事を国も認めました。これで事実上一生監視下に置かれる事と成ります。以前は不起訴処分となり、精神保健法により慣例として措置入院されていました。しかもたった1人の精神科医の判断で退院出来てしまうのです。一般の病院ですから、うつ病になって入院したら大量殺人の異常者が隣の部屋と言う事もあり得ます。医療観察法が有る今は、裁判の替わりに検察と弁護士と裁判官と精神科医による審査、検察と弁護士と裁判官と精神科医による審査で退院可。専用の精神科病院に強制入院ですから、大量殺人の異常者が隣の部屋と言う事もありません。

<高齢者の医療・介護について>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160727&ng=DGKKZO05306920X20C16A7EA1000 (日経新聞社説 2016.7.27) 社会保障を軸に「岩盤歳出」に切り込め
 日本の財政は先進国で最悪の状態にある。この立て直しには、具体的な計画が必要だ。安倍晋三政権はその点を忘れてはならない。安倍政権は消費税率を10%に引き上げる時期について、2017年4月から19年10月へと再び延期することを決めた。これを踏まえて内閣府は中長期の経済財政に関する試算をまとめた。名目経済成長率が3%以上で推移する経済再生ケースをみると、20年度時点で国と地方をあわせた基礎的財政収支は5.5兆円の赤字になる。名目成長率が1%台半ば程度の現実的なケースだと、9.2兆円の赤字になるという。いずれの場合も今年1月時点の試算よりも赤字幅は縮小する。消費増税を再延期するのに数字が改善するのは、17年度予算での歳出抑制を織り込んだからだ。前提の置き方しだいで試算値はかわるので、幅を持ってみる必要はある。それでも20年度に基礎的財政収支を黒字にするという目標を達成するハードルが高いことが改めて浮き彫りになった。名目成長率が高くなれば税収増が期待できる。0%台にとどまっている日本の潜在成長率を高めるための構造改革は、財政健全化の面からみても不可欠だ。同時に、政権は歳出の削減・抑制から逃げてはならない。消費増税を再延期するのであればなおのこと、長年手つかずの「岩盤歳出」に切り込んでほしい。大事なのは、高齢化で膨らむ一方の社会保障費を効率化する視点だ。医療や介護では、所得や資産にゆとりのある高齢者の自己負担を増やす方向は避けられない。給付は真に困っている人に重点化し、子ども・子育て支援は充実する。そんなメリハリのある改革が急務だ。18年度の診療報酬と介護報酬の同時改定を待たずに、政府は17年度予算から歳出抑制の具体策を打ち出していくべきだ。地方財政や公共事業費も聖域を設けず、厳しく見直してほしい。政府の経済財政諮問会議の民間議員は、補正予算などに頼らず民需主導で成長できれば、20年度時点の基礎的財政赤字を1兆円未満に縮小できるとの見方を示した。しかし、楽観的な経済想定を前提に中長期の財政健全化計画をたてるのは危うい。いつまでに、何をやり、どの程度、財政収支を改善するか。堅実で具体的な計画を固めなくてはならない。

*2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF28H07_Y6A620C1PP8000/
(日経新聞 2016/6/26) 経産省、会社員の健康情報収集 医療費削減狙う
 経済産業省は企業と連携し、会社員の健康情報のデータベース化に向けた取り組みを強化する。7月から1140人の糖尿病に関する情報をデータベース化し、2017年以降は高脂血症や高血圧にも対象を広げる。取り組みにはトヨタ自動車や三菱地所、NTTデータ、テルモなど大手企業や医療機関が参加する。7月から各社の糖尿病軽症患者計760人、予備軍計380人全員から同意を取り、糖尿病のデータを集める。ウエアラブル端末で日々の体重や歩数を記録し、糖尿病の指標となる「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」も職場で計測する。運動不足や体重増加が目立つ社員を、自動的に抽出して産業医が指導。健康保険組合の負担や国の医療費の削減につなげる。データベースは情報を匿名化したうえで、研究者にも活用してもらえるようにする。17年以降は、高脂血症と高血圧の患者も対象に加え、生活習慣病全般のデータを集められるようにする。経産省は関連費用を来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。官公庁が集まる東京・霞が関でも同様の取り組みを進める。今夏以降に、経産省職員から糖尿病の軽症患者数十人を選び、ウエアラブル端末でデータを計測。その後は、厚生労働省など他省庁にも協力をあおいで対象を拡大する。

*2-3:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0068891.html
(北海道新聞 2016/7/25) 軽度者の介護 暮らしを守れる制度に
 要介護度の低い人は、今の暮らしを守り続けられるのだろうか。そう心配する声すら出ている。厚生労働省の社会保障審議会は、2018年度の介護保険制度改正に向けた本格的論議を開始した。3年に1度の見直しで、年内の取りまとめを目指している。焦点は、日常生活で部分的な介助が必要な「要介護1、2」の認定者に対するサービスの扱いだ。政府は社会保障費抑制を狙いに、掃除や調理、買い物など生活援助サービスの給付を減らし、車いすなど福祉用具の貸与も自己負担化する方向だ。そうなれば、介護が必要な人や支える家族の生活が大きく揺らぎかねない。介護に当たる家族の負担が重くなれば、政府が掲げる「介護離職ゼロ」にも逆行する。制度改正に当たっては、老後の安心を何よりも重視すべきだ。審議会にまず求めたいのは、過去の見直しについての検証だ。前回の見直しでは、要介護より軽度の「要支援」認定者を介護保険の対象から外し、ボランティアなども活用した市町村事業に移行することを決めた。現在はその移行途中だが、当初からサービスも担う受け皿が不足するとの見方があり、実際にまだ移行できていない市町村が少なくない。要支援者の状況を含めた分析が欠かせない。一方、今回の改正で心配なのは、「要介護1、2」認定者向けのサービスを縮小したり保険対象外にした場合の影響だ。負担の重さから利用をためらい、体調が維持できなくなれば、要介護度が重くなって結果的に介護給付費を押し上げかねない。それでは本末転倒だ。超高齢社会の急速な進展によって、介護保険制度の維持が厳しくなっているのは確かだろう。制度ができた当時、年3兆6千億円だった介護給付費は現在、10兆円を超えている。その上、今後10年間は団塊の世代の高齢化が進み、給付費はさらに増大する。できるだけ無駄をなくすことは必要だ。しかし、安心してサービスを使えないようでは制度の信頼性が薄れる。利用者の経済状況に応じた負担割合の細分化など、弱者にしわ寄せがこないような工夫も視野に入れるべきだろう。小手先の手直しでは対応できなくなりつつある現実も、直視しなければならない。制度の設計を根本的に見直す時期に来ているのではないか。


PS(2016.7.30追加):上のほか、2013年12月6日に成立し、2014年12月10日から施行されている特定秘密保護法も、*3の日本精神神経学会(専門家集団)の見解のとおり、精神障害者を見当違いに差別する法律である。そのため、偏見と差別に満ちた「らい予防法」の1996年廃止後、この特定秘密保護法が衆参両院を通って成立・施行されたことに呆れるが、何でも決める政治がよいわけではない。

*3:http://aichi-hkn.jp/system/140516-162235.html (日本精神神経学会2014年3月15日発表 《一部抜粋》) 特定秘密保護法における適性評価制度に反対する見解
(一)精神疾患、精神障害に対する偏見、差別を助長し、患者、精神障害者が安心して
   医療・福祉を受ける基本的人権を侵害する。
   内閣官房による逐条解説によれば、次のように記されている。「精神疾患により
   意識の混濁・喪失等が生じたり、薬物依存・アルコール依存症が症状に見られたり
   するという事実は、自己を律して行動する能力が十分でない状態に陥るかもしれ
   ないことを示唆していることから、こうした事実が見受けられる者には、本人に
   その意図がなくても特別秘密を漏らしてしまうおそれがあると評価しうると考えられ
   る。」ここでは、神経疾患であるてんかんや意識障害に関する事柄が精神疾患の
   問題として述べられるという全く見当違いな記述がなされている。このような杜撰な
   認識で法が成立し、かつ、それによって調査されるなどということは許されること
   ではない。なによりも、精神疾患患者が「自己を律して行動する能力が十分でなく」
   「特別秘密を漏らしてしまうおそれがある」とすること自体が、精神障害者に対する
   差別にほかならない。さらに、精神障害者に対する「何をするかわからない者」と
   いう偏見を利用し、不気味さを強調して秘密保護の必要をあおり立て、秘密保全に
   係わる国民統制のためのスケープゴートにすることは法治国家として許されるもの
   ではない。
(二)医療情報の提供義務は、医学・医療の根本原則(守秘義務)を破壊する。……(略)
(三)精神科医療全体が本法の監視対象になる危険性が高い。
   特定秘密の範囲が広範かつ秘密であるため、適性調査の対象が無制限に広がる
   おそれがある。しかも行政機関の長が行う適性評価は上記のように秘密保全部署
   がその情報の確認をすることとなり、精神疾患を有する者及びその疑いのある者
   及び精神科医療機関及び精神科医、精神科医療に係る職種にある者は医療の
   倫理に反する調査に直面することになる。


PS(2016年7月31日追加):*4の元職員が「津久井やまゆり園」に侵入して入所者を襲い、19人に死亡・26人に重軽傷を負わせた事件で、同園の経営者は誠実そうな人柄であったため問題にされていないが、このような状況で退職した元職員がいる場合には、鍵を変えたり、他の職員に注意を促したり、警察と連携したり、警備会社と厳重な契約をしたりして警備を厳しくするのが、入居者を護るための正当な注意だが、何故、それをやらなかったのだろうか。
 なお、医療系の教育を受けた人は、「救える命は救う」という教育を受けているため、「生きている命を殺す」というのは安楽死の議論があったとしても慎重なのだが、他学部出身の人が福祉や医療を語ると、この基礎教育ができていないため、“効率性”のみを重視して短絡的になりがちだ。そして、日本の高齢者施設や障がい者施設で入居者のケアをしている人は、急に需要が増えて医療・福祉系の教育を受けていない人が多いため、人材というこのサービス(産業)の要の部分が心もとないのである。

*4:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=180289
(沖縄タイムス社説 2016年7月27日) [障がい者施設殺傷]兆候は幾つも出ていた
 相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」に元職員の男(26)が刃物を持って押し入り、入所者を次々襲った事件は、19人が死亡、26人が重軽傷を負った。殺人事件の犠牲者数としては戦後最悪とみられる。未明の就寝の時間帯を狙った卑劣な犯行である。警察に出頭し逮捕された男は容疑を認め、「意思疎通できない人たちをナイフで刺した。障がい者なんていなくなってしまえ」などと供述しているという。就寝中に突然、命を奪われた犠牲者の理不尽さを思うと、残忍な蛮行に憤りを抑えることができない。神奈川県警捜査本部は、容疑を殺人未遂から殺人に切り替え、取り調べる方針だ。動機は何なのか。男は2012年12月に非常勤職員として採用され、13年4月には常勤職員となった。今年2月に施設関係者に「障がい者を殺す」と話したため、警察が事情聴取した。警察にも「重度障がい者の大量殺人は、日本国の指示があればいつでも実行する」と供述したため、市が精神保健福祉法に基づき措置入院させた。男は退職した。病院の尿検査で男から大麻の陽性反応が出ていたが、市は症状がよくなったとして約2週間で退院させていた。男はこれに先立つ2月、同施設を「標的とする」と犯行を予告するような手紙を衆院議長公邸に持参していた。手紙は「職員の少ない夜勤に決行する」などと今回の事件を想起させる内容だ。退院後の男の病状を確認するなど、行政の対応は十分だったのだろうか。厳しく検証しなければならない。
■    ■
 「津久井やまゆり園」には6月末時点で、19~75歳の149人が長期入所していた。全員が介助が必要な重度の知的障がい者だ。施設の管理体制はどうだったのだろうか。事件当時は夜勤の職員8人と警備員1人の計9人態勢で当たっていた。施設には部屋12室を1ユニットとし、計8ユニットがあり、それぞれ職員が1人ずつ付き添っていた。男は1階の窓ガラスをハンマーで割り、そこから施設内に侵入したとみられる。入所者は侵入者に自力では抵抗できない。その上、未明の就寝中に、刃物を持った男に突然襲われたことも被害者が多数に上った要因である。障がい者らの入所施設は、厚生労働省によると、全国に約2600あり、約13万人が入所している。侵入者に対する防犯対策など国の規定はなく、現場に委ねられているのが現状だ。緊急通報体制の在り方や訓練など社会的弱者が入所する施設の危機管理体制を点検する必要がある。
■    ■
 自分勝手な思い込みを絶対化し、他者への寛容をなくする。今回の事件は障がい者を標的にした犯罪「ヘイトクライム」である。障がい者に対し強い差別と偏見を持ち、存在そのものを否定するような男のゆがんだ考えはどのようにして形成されたのだろうか。知的障がい者施設に勤務したことと関係があるのだろうか。捜査当局は全容解明を急いでほしい。


<日本で公的に堂々と行われている精神障害者差別>
PS(2016年9月16日追加):*5-1のように、「津久井やまゆり園」の重度障害者刺殺事件に関し、厚労省は、殺人容疑で逮捕された元職員の植松容疑者が措置入院させられていた病院や相模原市の対応を「不十分」とする検証結果を公表し、内容は「措置入院した植松容疑者は『大麻使用による精神および行動の障害』と診断されたが、病院側に薬物による精神障害の専門性が不足していた」とした。しかし、大麻などの薬物使用は犯罪であって精神病ではないため、精神病院に措置入院させること自体おかしく、また、大麻使用による精神障害で重度障害者だけを選んで刺し殺すという計画的な犯行をすることも考えにくいため、犯行前から準備していたかのように、厚労省が津久井やまゆり園事件を機会に精神病、措置入院、その後の“支援(?)”という路線を強化するのは、ますますおかしいのである。
 しかし、我が国では、近年、精神障害者に対する差別が次第にひどくなり、2013年12月には、*5-2のように特定秘密保護法が成立し、「精神疾患の既往歴のある人は秘密保持能力がないため特定秘密を扱う適性がない」ということになったが、実際には、精神疾患の既往歴と秘密保持能力に関する相関関係はなく、特定秘密保護法制定前にそれを調査した形跡もない。そのため、この法律は差別を助長して不当に就業機会を奪うことになっており、これで精神障害者に何を支援しようというのかも疑問に思われ、まず日本国憲法に定められているとおり、「基本的人権の侵害」等をなくすべきなのである。
 ちなみに、*5-3のように、欧州諸国における精神科入院全体に占める強制入院の割合は、Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)、Ireland(10.9%)、Italy(12.1%)、France(12.5%)、Netherland(13.2%)、UK(13.5%)、German(17.7%)、Austria(18%)、Finland(21.6%)、Sweden(30%)であるのに対し、我が国は40%以上となっており、その理由は、①強制入院要件の厳格性の欠如 ②入院を回避する代替手段の欠如 などで繰り返し批判され、医療または家族から独立した代理人(ソーシャルワーカーや弁護士等)の関与が義務付けられているEU 諸国では、そうでない国に比べて強制入院の割合が有意に低くなっているそうだ。

*5-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJ9H22S3J9HUBQU001.html
(朝日新聞 2016年9月15日) 措置入院中の対応「不十分」/相模原事件で厚労省が検証
 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が死亡した事件で、厚生労働省は14日、殺人容疑で再逮捕された元職員の植松聖(さとし)容疑者(26)が措置入院していた病院や相模原市の対応を「不十分」とする検証結果を公表した。退院後に支援を続けなかったことを問題視し、現行制度の見直しが「必要不可欠」と指摘している。有識者9人による厚労省の検証・再発防止策検討チーム(座長=山本輝之成城大教授)がまとめた。検証結果を踏まえ、再発防止策の検討に入る。植松容疑者は職場の障害者施設で「障害者は安楽死させたほうがよい」などと発言し、2月19日に緊急で相模原市の北里大学東病院に措置入院。退院後の7月26日に事件が起きており、病院や相模原市の対応を検証していた。検証によると、措置入院をした植松容疑者は「大麻使用による精神および行動の障害」と診断されたが、病院側に薬物による精神障害の専門性が不足していることを指摘。大麻使用による精神障害のみで「『障害者を刺し殺さなければならない』という発言が生じることは考えにくい」として、入院中に生活歴の調査や心理検査を行っていれば診断や治療方針が異なった可能性にも触れて、病院側の対応に疑問を示した。一方、12日後に退院したことには「指定医としての標準的な判断だった」として問題なしとした。ただ、措置入院を判断した2人のうち1人は不正に指定医の資格を取った疑いがあり、資格を失った。これには「信頼を損ねたことは重大な問題」と明記した。措置入院を解除する際に病院が相模原市に提出した「症状消退届」には退院後の支援策が記入されず、市も詳細を確認せず解除を決めている。症状消退届への記入や退院後の継続的な支援は精神保健福祉法で義務づけられていないが、再発防止に向けて制度の見直しによる対応を求めた。検証結果について、北里大学東病院は「厚労省から直接、指摘や指導があったわけではないので詳細がわからず、病院としてコメントできない」。相模原市の熊坂誠・健康福祉局長は「指摘を重く受け止めている」と語った。
<措置入院>精神障害が原因で本人や他人を傷つける恐れがある場合、本人の同意がなくても精神科病院に入院させることができる仕組み。精神保健福祉法に基づいて指定医が診察し、この結果を踏まえて知事か政令指定市長が決める。近年は増加傾向にあり、2014年度は6861人で、10年前の1・36倍になった。一方、平均入院日数は10年間で半減している。

*5-2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H25/H25HO108.html 特定秘密の保護に関する法律 (平成二十五年十二月十三日法律第百八号)
 第一章 総則(第一条・第二条)
 第二章 特定秘密の指定等(第三条―第五条)
 第三章 特定秘密の提供(第六条―第十条)
 第四章 特定秘密の取扱者の制限(第十一条)
 第五章 適性評価(第十二条―第十七条)
 第六章 雑則(第十八条―第二十二条)
 第七章 罰則(第二十三条―第二十七条)
 附則
   第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障(国の存立に関わる外部からの侵略等に対して国家及び国民の安全を保障することをいう。以下同じ。)に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。
<中略>
   第四章 特定秘密の取扱者の制限
第十一条  特定秘密の取扱いの業務は、当該業務を行わせる行政機関の長若しくは当該業務を行わせる適合事業者に当該特定秘密を保有させ、若しくは提供する行政機関の長又は当該業務を行わせる警察本部長が直近に実施した次条第一項又は第十五条第一項の適性評価(第十三条第一項(第十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による通知があった日から五年を経過していないものに限る。)において特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者(次条第一項第三号又は第十五条第一項第三号に掲げる者として次条第三項又は第十五条第二項において読み替えて準用する次条第三項の規定による告知があった者を除く。)でなければ、行ってはならない。ただし、次に掲げる者については、次条第一項又は第十五条第一項の適性評価を受けることを要しない。
一  行政機関の長
二  国務大臣(前号に掲げる者を除く。)
三  内閣官房副長官
四  内閣総理大臣補佐官
五  副大臣
六  大臣政務官
七  前各号に掲げるもののほか、職務の特性その他の事情を勘案し、次条第一項又は第十五条第一項の適性評価を受けることなく特定秘密の取扱いの業務を行うことができるものとして政令で定める者
第五章 適性評価
(行政機関の長による適性評価の実施)
第十二条  行政機関の長は、政令で定めるところにより、次に掲げる者について、その者が特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないことについての評価(以下「適性評価」という。)を実施するものとする。
一  当該行政機関の職員(当該行政機関が警察庁である場合にあっては、警察本部長を含む。次号において同じ。)又は当該行政機関との第五条第四項若しくは第八条第一項の契約(次号において単に「契約」という。)に基づき特定秘密を保有し、若しくは特定秘密の提供を受ける適合事業者の従業者として特定秘密の取扱いの業務を新たに行うことが見込まれることとなった者(当該行政機関の長がその者について直近に実施して次条第一項の規定による通知をした日から五年を経過していない適性評価において、特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者であって、引き続き当該おそれがないと認められるものを除く。)
二  当該行政機関の職員又は当該行政機関との契約に基づき特定秘密を保有し、若しくは特定秘密の提供を受ける適合事業者の従業者として、特定秘密の取扱いの業務を現に行い、かつ、当該行政機関の長がその者について直近に実施した適性評価に係る次条第一項の規定による通知があった日から五年を経過した日以後特定秘密の取扱いの業務を引き続き行うことが見込まれる者
三  当該行政機関の長が直近に実施した適性評価において特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者であって、引き続き当該おそれがないと認めることについて疑いを生じさせる事情があるもの
2  適性評価は、適性評価の対象となる者(以下「評価対象者」という。)について、次に掲げる事項についての調査を行い、その結果に基づき実施するものとする。
一  特定有害活動(公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるものをいう。別表第三号において同じ。)及びテロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。同表第四号において同じ。)との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人(家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を含む。)
二  犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
三  情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項
四  薬物の濫用及び影響に関する事項
五  精神疾患に関する事項
六  飲酒についての節度に関する事項
七  信用状態その他の経済的な状況に関する事項
3  適性評価は、あらかじめ、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を評価対象者に対し告知した上で、その同意を得て実施するものとする。
一  前項各号に掲げる事項について調査を行う旨
二  前項の調査を行うため必要な範囲内において、次項の規定により質問させ、若しくは資料の提出を求めさせ、又は照会して報告を求めることがある旨
三  評価対象者が第一項第三号に掲げる者であるときは、その旨
4  行政機関の長は、第二項の調査を行うため必要な範囲内において、当該行政機関の職員に評価対象者若しくは評価対象者の知人その他の関係者に質問させ、若しくは評価対象者に対し資料の提出を求めさせ、又は公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
<以下略>

*5-3:http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/k_25/pdf/s1.pdf#search='%E4%BA%BA%E5%8F%A310%E4%B8%87%E5%AF%BE+%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85%E6%82%A3%E8%80%85+%E5%9B%BD%E5%88%A5%E6%AF%94%E8%BC%83' (2015年8月31日) 障害者政策委員会 ヒアリング資料:欧州諸国との比較からみる我が国の精神科強制入院制度の課題 、(公財)東京都医学総合研究所 西田 淳志
I.医療保護入院、代弁者制度について
■ 欧州諸国における精神科入院全体に占める強制入院割合1
(低):Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)
(中):Ireland(10.9%)、Italy(12.1%)、France(12.5%)、Netherland(13.2%)、UK(13.5%)、
(高):German(17.7%)、Austria(18%)、Finland(21.6%)、Sweden(30%)
*1『厚生労働科学研究 精神障害者への対応への国際比較に関する研究(主任研究者:中根允文)(2011)』
■ 我が国の現状(平成24 年時点)
強制入院(医療保護入院を含む)割合:40%以上
強制入院発生頻度(届出数):160 人以上(対人口10 万)
⇒ 自由権規約、および拷問等禁止条約に関する日本政府報告への総括所見:
強制入院要件の厳格性欠如、入院を回避する代替手段の欠如、強制入院の最終手段性、等々の問題について繰り返し批判されている
■ 強制入院割合と関連する制度要因2
強制入院手続きに医療から独立した代理人(アドボケイトカウンセラー、ソーシャルワーカー、弁護士等)の関与が義務付けられているEU 諸国では、そうでない国々に比べ強制入院の割合が有意に低い。
例)Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)、Ireland(10.9%)、
Netherland(13.2%)、Austria(18%)
*2『精神障害者の強制入院ならびに非自発的医療:EU 加盟国の法制度と実践に関する最終報告書(2002)』
◇ 代弁者が実質的なアドボカシーを担える仕組みの要件◇
1. 強制入院手続きに関与が義務付けられている各国のアドボケイトカウンセラーやソーシャルワーカーは、医療から独立している(大前提)
2. 法律機関等に所属を置き、医療(または家族)からの独立性を担保したアドボケーター制度 (以下略)


PS(2016年9月23日追加):*6のように、刑事責任能力を判断するため「精神障害等の疑いがある容疑者や被告を数カ月にわたって病院などで拘束する『鑑定留置』が急増している」とのことだが、①精神障害が罪の原因となるのか ②過去に精神科への通院歴があったことを精神障害と言えるのか など、論理的におかしく、科学的調査を行うべきことが多い。にもかかわらず、精神病歴のある人は罪人予備軍であるかのような誤解を与えたり、弁護士が精神障害により免責を主張したりなど、刑法39条による精神障害者差別、冤罪、不当な免責などが進みつつあるのは問題だ。そして、鑑定医を増やす努力がされているとのことだが、鑑定経験や人生経験の浅い精神科医が、このような犯罪を犯す場合の精神の正常と異常の堺の判定を正確にできるのかも疑問に思う。
(*ちなみに、私は1975年頃、東大医学部保健学科の学生だった時、精神衛生の実習で、東京都の女性センターで、何度も売春して捕まってくる女性の心理カウンセラーの実習をしたことがあり、相手から「あんたみたいにめぐまれた人に話しても理解できるわけないでしょ」と言われ、本当に理解できなかったので参ったことがある。その人は戦争中に子供時代を過ごして学校に行けず、計算をしたり、文字を書いたりすることができないため、他の仕事を見つけにくい人だった。その時、私は、心理カウンセラーが相談にきた相手の心理を分析しても問題は解決せず、そうなった背景を変えるべきだと心から思った)

*6:http://digital.asahi.com/articles/ASJ9Q4QJ1J9QUTIL00G.html
(朝日新聞 2016年9月23日) 「鑑定留置」裁判員導入後に急増 医師不足、育成が急務
 刑事責任能力を判断するため、精神障害などの疑いがある容疑者や被告を数カ月にわたって病院などで拘束する「鑑定留置」が急増している。市民が裁判員として加わるようになり、判断しやすくする狙いが検察側にある。ただ、鑑定に携わる医師は不足しており、学会などが人材育成を急いでいる。
■責任能力、判断しやすく
 「精神鑑定のおかげで、責任能力について迷わず判断できた」。今年3月に東京地裁であった裁判員裁判。自宅マンション13階から長男(当時5)を投げ落としたとして、女(36)が殺人などの罪に問われた。裁判員を務めた男性は、被告人席の女の身ぶりや表情を注意深く見守った。女は精神科への通院歴があったことなどから、起訴前と起訴後に計2度の鑑定を受けていた。鑑定結果は鑑定医が法廷で説明。その結果をふまえ、弁護側は「障害の影響があり責任の非難は軽減される」と訴えていたが、検察側は「(被告の)障害は、過度に有利にくむべき事情ではない」と主張した。裁判員裁判では、難しい専門用語をわかりやすく言い換える配慮もされている。裁判員の男性は「身近に同じような障害のある人がいないので、自分の感覚だけで判断するのは難しかった。鑑定書類を読み、鑑定医の証言を法廷で聞いて、総合的に考えた」。判決は懲役11年。「障害の程度は軽度で犯行に影響したとは認められず、責任を軽減する事情として重視できない」との判断だった。最高裁によると、鑑定留置が認められた件数は2009年に裁判員制度が始まる前は年間250件前後だったが、その後は急増。14年は564件だった。起訴前に検察側が請求する鑑定と、起訴後に裁判所が職権で行う鑑定があるが、特に増えているのは起訴前の件数だ。今年7月に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件でも、起訴前に容疑者が鑑定留置された。ある検察幹部は「法廷で被告の様子がおかしいと感じると、裁判員は責任能力を疑う。検察が鑑定した上で起訴すれば、犯行当時に責任能力があったとわかってもらえる」。別の検察幹部は「取り調べの録音・録画が進み、弁護人は自白が任意にされたものかを争点にしにくくなり、責任能力を争うようになった。検察として先手を打つ意味合いもある」と打ち明ける。こうした検察側の狙いを、弁護側も注視する。日本弁護士連合会で責任能力をめぐる対策チームの委員を務める田岡直博弁護士はこう分析する。「検察側は起訴するケースを絞り込み、裁判員裁判での立証の負担を減らしているのだろう。鑑定で有利な結果を得て確実に有罪に結びつける一方で、危ない橋は渡らない」。田岡弁護士は「責任能力を争うスキルで、弁護側は検察側に立ち遅れている」と認める。弁護側が独自に依頼する「私的鑑定」を増やす必要性もあるとしつつ、「どんな鑑定結果についても裁判員を説得できるよう、研修などを通して態勢を強化したい」と話す。
■医師育成追いつかず
 急増する鑑定に、医師の育成が追いついていない。日本司法精神医学会理事の五十嵐禎人(よしと)・千葉大教授は「経験の浅い医師にも依頼が増えた。質が落ちている可能性は否定できない」と語る。五十嵐教授によると、鑑定医には特別な資格は要らないが、精神障害を診断したり、犯行に与えた影響を分析したりするスキルが必要だ。学会では14年、鑑定医の認定制度を始め、これまでに約30人が認定された。過去に担当した鑑定書5件の提出を求めるなど経験を重視している。大学院で養成する動きもある。東京医科歯科大の大学院は昨秋、国内で初めてという「犯罪精神医学専門チーム」を設けた。今春から若手の精神科医2人が週1回、ベテラン鑑定医の岡田幸之(たかゆき)教授のもとで犯罪精神医学を研究したり、実例を分析したりしている。岡田教授は「犯罪を扱う精神医学者は非常にマイナーな存在。国内での教育の場はほとんどなかった」と話す。「1人の患者と長時間向き合って判断する仕事のやりがいを知ってもらい、ごく限られた医師に依頼が偏る現状を変えたい」
     ◇
〈鑑定留置〉 精神状態などを調べるため、逮捕後の容疑者や起訴後の被告の身柄を数カ月にわたって病院などで拘束すること。刑事訴訟法に基づく手続きで、検察官が請求して裁判所が認める場合と、裁判所の職権による場合がある。鑑定では、成育歴や生活状況のほか、犯行の動機が了解できるかや計画性、違法性の認識などについて調べられ、その結果は捜査や裁判で刑事責任能力を判断する材料となる。勾留期間中に半日から1日で行われる「簡易鑑定」とは区別される。


PS(2016年9月25日追加):*7のように、全て同じ4階のフロアでトラブルが発生していたとして、神奈川県警は「点滴への異物混入は殺人事件」と一本化して捜査を進めているが、点滴袋が無施錠の状態で保管され誰でも手に取れる状態であったことは病院内の管理に甘さがあるものの、点滴液の中に薬剤を混合する目的で界面活性剤が含まれている可能性も合わせて考えるべきだ。何故なら、この病院では4階に多かったようだが、高齢者や重症者などの弱っている人が、長期間その薬を使い続けると中毒死することがあるかも知れず、その方が影響が大きいからだ。警察が、メーカーの製造物責任を考えず(その結果メーカーを保護し)、被害者を犯人に仕立て上げ、自白により証拠を造って結論に合わない証拠を無視した事件に東住吉冤罪事件(http://www.jca.apc.org/~hs_enzai/jikentoha.html)があり、警察(→メディア)の古くてステレオタイプな筋書きには要注意なのである。

*7:http://www.sponichi.co.jp/society/news/2016/09/25/kiji/K20160925013418490.html (スポニチ 2016年9月25日) 点滴異物混入で患者死亡病院トラブルまみれ…全て同じ4階フロア
 横浜市神奈川区の大口病院で入院患者の点滴に異物が混入され殺害された事件で、同院の4階でトラブルが相次いでいたことが24日、分かった。飲料への異物混入などが春から続発し、事件と同時期に入院患者3人が亡くなっていた。この日会見した高橋洋一院長は、殺害事件の犯人について「院内の人物の可能性も否定できない」と話した。最初の異変は今年4月。看護師用のエプロンが切り裂かれているのが見つかった。さらに6月20日には、患者1人のカルテ数枚が抜き取られていたことが発覚した。病院はスタッフへの聞き取りを実施。横浜市は7月上旬に情報提供のメールから、エプロン切り裂きの事実を把握した。8月には、女性看護師がペットボトル飲料を飲もうとして違和感を訴えた。ボトル上部から、注射針ほどの穴が見つかっており、飲料は「漂白剤のような」味がしたという。病院側によると、これらのトラブルは全て4階で発生している。市医療安全課によると、エプロン切り裂きを市に情報提供した同じ差出人からメールがあり、「飲んでしまい、唇がただれた」と記されていた。その後、病院関係者から所轄の神奈川署にトラブルの相談があったという。同院では今月20日に殺害された横浜市港北区の無職八巻信雄さん(88)の他にも、点滴を受けていた別の80代の男性患者2人が18日に死亡。点滴は受けていなかったが、90代の女性患者も八巻さんと同じ20日に亡くなった。4人が入院していたのも4階で、院内のトラブルも合わせて全て同じ階で起きたことになる。八巻さんの遺体や点滴袋からは、ヘアリンスや殺菌剤などに使う界面活性剤の成分が検出されていたことも、捜査関係者への取材から分かった。一般に市販されているものの可能性がある。点滴袋の中に微量の気泡があるのを担当の女性看護師が見つけ、異変を察知した。袋に目立った穴や破れはなかったという。点滴袋は、4階フロアのナースステーションに無施錠の状態で保管。誰でも手に取ることが可能な時間帯もあり、近くに界面剤成分を含む製品があったことも判明。神奈川署特別捜査本部は、何者かが不特定に患者を狙って在庫の点滴袋に界面剤を混入させた疑いもあるとみて鑑定を急ぐ。高橋洋一院長によると、同院は「(病気が進行した)終末医療の患者が多い」という。犯人について「院内の人物の可能性も否定できない」と話した。川崎老人ホーム連続殺人事件など、高齢者施設での虐待事件などが相次いでいることにも触れ「我々の考えられないような感情を持つ若い方もいるのかもしれない。今回がその流れで起きているならば残念」と漏らした。
▽界面活性剤 1つの分子の中に、水になじみやすい「親水性」と、水になじみにくい「親油性」の2つの部分を持つ。性質の異なる2つの物質の境界面(界面)に働きかけ、水と油のように混じり合わないものを混ぜ合わせる働きをする。せっけんや洗剤の主成分。誤って飲んだ場合、嘔吐(おうと)や吐血などの症状が考えられ、肝機能障害や、肺水腫による呼吸困難から死亡するケースもある。
▽川崎老人ホーム連続殺人事件 川崎市幸区のホームで14年11~12月、入居者3人が転落死。初動捜査で変死と処理されたが、16年2月に元職員の男を逮捕。15年、ホームでの窃盗で逮捕されていた
▽大口病院のトラブル
 ▼4月 4階で看護師のエプロンが切り裂かれる
 ▼6月20日 患者1人のカルテ数枚が抜き取られていたことが発覚。後日一部が、院内で見つかる
 ▼7月 市にエプロン切り裂きについて情報提供のメール
 ▼8月 病院スタッフの飲み物に異物が混入。市にメール。病院が神奈川県警に相談
 ▼9月2日 市が定期立ち入り検査でトラブル再発防止を指示
 ▼14日 八巻さんが入院
 ▼18日 4階に入院し、点滴を受けていた80代の男性患者2人が死亡。病死と診断
 ▼19日午後10時ごろ 30代の女性看護師が4階の部屋にいた八巻さんの点滴を交換
 ▼20日午前4時ごろ 八巻さんの心拍が低下しアラームが作動
 ▼同4時55分ごろ 八巻さんが死亡
 ▼同10時45分ごろ 病院が神奈川県警に「点滴に異物が混入された可能性がある」と通報
 ▼同日 4階に入院し、点滴を受けていない90代の女性が死亡。病死と診断
 ▼23日 県警が八巻さんの死亡を殺人と断定し、特別捜査本部を設置


PS(2016年9月26日):確かに現在は、*8のように、高齢によるものも含む障害者の人権や社会の受入におけるバリアフリーを正面から要求すべき時だ。

*8:http://qbiz.jp/article/94657/1/ (西日本新聞 2016年9月26日) 「障害者の権利」をテーマに全国大会 水俣病、ハンセン病から学ぶ
 障害者の共同作業所などでつくる全国団体「きょうされん」の全国大会が10月22、23両日、熊本市の県立劇場などで開かれる。熊本地震のため見送りも検討されたが「災害時こそ障害者の権利を守らなければいけない」と、開催を決めた。水俣病公式確認60年、らい予防法廃止20年の節目も踏まえ、胎児性水俣病患者やハンセン病元患者も登壇。実行委員会は25日、熊本市に集まり、日程や運営面の最終確認をした。大会は全国40支部の持ち回りで開かれ、九州では2010年の福岡市以来3回目。「障害者権利条約をこの国の文化に」をテーマに、水俣病やハンセン病を巡り、命と人権を軽視された歴史を通して差別や障壁のない社会の実現を目指す。22日は午後1時から、第2次世界大戦中のドイツで障害者が虐殺されていた事実を掘り起こしたきょうされんの藤井克徳専務理事が「憲法公布70年の今年、わたしたちが進むべき道とは」と題し基調報告。「熊本から伝えるプログラム」として、胎児性水俣病患者の金子雄二さん(61)や菊池恵楓園入所者自治会の志村康会長(83)たちの半生から、国策によって踏みにじられた人権を考え、今後の展望について理解を深めるシンポジウムもある。午後4時からは、県立劇場と熊本学園大の計16会場で分科会を実施。各事業所が支援活動などの取り組みを紹介するほか、障害者との交流会、水俣病患者やハンセン病元患者との対話を通して「平和」を考える討論会もある。23日も午前9時から各分科会を開く。副実行委員長を務める山下順子きょうされん熊本支部長は「4月の地震では全国から多くの温かい支援をいただいた。感謝を伝える大会にもしたい」と話している。実行委事務局=096(342)4951。

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2016.3.3 高齢者への冷遇と社会保障
     
 *1-1より   介護負担増   介護費用負担割合      介護認定数、給付費、保険料

 書かなければならないテーマは沢山あるが、今日は、認知症高齢者の列車事故と公的介護制度について記載する。なお、(私の提案でできた)公的介護制度は、日本で2000年4月に始まり、40歳以上の国民全員が加入して介護サービスを受けることができるもの(https://www.fp-kazuna.com/insu/social/61.html 参照)であるため、2000年から介護給付費が右肩上がりに増えるのは当然であり、いまだ成熟した制度ではない。

 また、介護制度ができる前の介護は親族の負担で行われていたため、現在の高齢者に介護保険料を支払わせると現在の高齢者にとっては親族への直接介護との二重負担になるとともに、40歳未満の世代が介護制度への加入を免除されるのは、この世代への過度な優遇となる。そして、40歳以上の従業員のみを公的介護制度に加入させることにより、40歳以上の従業員に対する企業の負担が増えたため、40歳定年制を唱え始めた企業さえある。

(1)認知症高齢者の列車死亡事故 ← 見落とされた重要な論点
 認知症高齢者が列車にはねられて死亡した事故について、*1-1のように、一審、二審は家族に監督責任があるという理由で遺族に損害賠償責任を認めたが、最高裁は、家族のかかわり方や介護の状況を総合考慮して「遺族に責任はない」という結論にした。その結論はよいが、最高裁も①本人との関係②同居の有無や日常的な接触③財産管理への関わり方などを総合的に考慮し、責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるかを基準とすべきだとしており、損害賠償責任を負う場合もあるようだ。

 この論理の進め方で驚くのは、家庭で介護している親族が列車にはねられると、ただでさえ親族の他界で悲しんでいる遺族に、監督責任不履行として当然の如く損害賠償請求がなされることである。しかし、今の時代、そのように危険な踏切を放置しておいたことは、鉄道会社に責任があるのではないか?高齢者であっても、人間を閉じ込めたり繋いだりすれば人権侵害であるため、どの時点で何をすれば監督責任を履行したことになるかの判断は困難で、そもそも人は家の中に閉じ込めるべきものではない。

 さらに、高齢者や障害者が社会で暮らしやすくするため、バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO091.html 参照)が2006年に制定されている。この法律の趣旨は、高齢者や障害者を社会で受け入れ、その生活をやりやすくするため、公共交通機関の旅客施設や建築物の構造を改善することだが、今は、駅にエレベーターをつけたり、車椅子で交通機関を利用できるようにすることくらいしか実行されていない。しかし、高齢化社会・共働き社会に向けて鉄道構築物を安全なものにすることは、この制度に含めるべきである。

 そのため、*1-2に書かれているように、今後増える認知症高齢者のためには、「地域包括ケアシステム」で見守るのも大切だが、その前に鉄道や車の多い道路は高架にして事故や自殺を予防し、一階は自転車や歩行者が安心して通れる安全な街を作る必要があると考える。そうすれば、このような事故の予防になると同時に、踏切で長時間待たされたり道路が渋滞したりして生産性が低下することも防げるため、一石二鳥だ。

(2)公的介護制度について
 *2-1のように、2015年4月に事業者に支払われる介護報酬が全体で2.27%引き下げられたことが主な要因で、57.6%の事業所が改定後に報酬が減少し、訪問介護と通所介護(デイサービス)の事業者の40%以上が赤字となり、その中でも小規模事業所ほど苦境だそうだ。しかし、このように毎年切り下げられるようでは、安心して介護事業に参入したり、介護施設に投資したりすることができず、*2-2のように、「介護離職ゼロ」を実現することなど到底できない。

 なお、介護分野は労働集約型産業であるため雇用吸収力が大きいが、待遇の厳しさから人材不足が続いている。私は、チームで介護を行えば、全員が流暢な日本語を話せなくても介護サービスはできるため、*2-3のように、人手不足の介護などの分野でせっかく日本に来てくれた外国人は、技術に応じて公平・公正に処遇し、日本から追い返すようなことはしないのがよいと考える。

<認知症高齢者の死亡事故とバリアフリー>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160302&ng=DGKKASDG01HBF_R00C16A3EA2000 (日経新聞 2016.3.2) 家族の責任、総合判断 認知症事故で最高裁判決、介護の実情に配慮 線引き不明確、不安も残す
 認知症の人による損害の賠償責任を家族がどこまで負うかについて、最高裁が1日、初判断を示した。家族のかかわり方や介護の状況を「総合考慮する」という内容で、今回の事例では「家族に責任なし」と判断した。在宅介護の実情に配慮した形だが、状況によっては責任を負う可能性もある。「同居の配偶者や成年後見人というだけで自動的に監督義務者に当たるとはいえない」。民法は責任能力の無い人が第三者に損害を与えた場合、「監督義務者」が賠償責任を負うとしている。裁判では、認知症の人の家族がこの監督義務者にあたるかどうかが争点だった。同居している配偶者を監督義務者とした二審判決は「介護の担い手がいなくなる」と批判された。最高裁判決は介護の実情を踏まえ、二審判決を明確に否定した。では、どのような場合に義務を負うことになるのか。最高裁は(1)本人との関係(2)同居の有無や日常的な接触(3)財産管理へのかかわり方――などを総合考慮し、「責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか」を基準とすべきだとした。最高裁がこうした判断を示したのは初めてだ。介護分野の専門家は「現場の実態を踏まえている」と評価。介護問題に詳しい弁護士は「個人が被害者となることもあり、事案によっては賠償責任を問えるとする判断は被害救済の道を残す」と肯定的だ。もっとも認知症の家族にとっては、不安が残る内容といえる。義務を負うかどうかの線引きについて、判断材料となる項目を示したにすぎないからだ。項目を見る限り、同居の家族が健康だったり、財産管理を含め日常的に深く関わったりしていた場合、監督責任を問われる可能性も出てくる。ただ「監督義務者がその義務を怠らなかったときは賠償責任を負わない」とする民法の規定があり、ただちに賠償責任を負わされるわけではない。判決でも裁判官5人のうち2人が、長男を「監督義務者として扱うべき」としたうえで、「十分な対策を取っていた」と賠償を認めない意見を付けた。一方、問題行動を放置していた時などは賠償責任が生じる可能性もある。国は認知症の人を医療機関でなく地域で見守る政策を進めており、在宅介護の比重は増している。「症状の軽重や介護する家族の年代にかかわらず、24時間目を離さずにいることは不可能」。「認知症の人と家族の会富山県支部」(富山市)の勝田登志子事務局長は、義理の両親と自分の母親を介護した経験を踏まえてこう訴える。あるベテラン裁判官は「今後、法律の分野では家族の監督責任は制限される方向に働くだろう」と予想しつつも、「どのような場合に家族の責任が認められるかは、判例の積み重ねを待つ必要がある」とみる。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160302&ng=DGKKZO97916920S6A300C1EA1000 (日経新聞 2016.3.2) 認知症介護の実態を重くみた最高裁判決
 認知症の高齢者が徘徊(はいかい)中に列車にはねられ死亡した事故で、遺族に賠償責任があるかが争われた訴訟の判決が、最高裁であった。判決は「家族が高齢者を監督することが可能な状況になかった」として、賠償を命じた二審判決を破棄した。高齢者を介護する多くの家族にとって、納得しやすい結論だろう。ただ、家族に責任はないとされても、亡くなった高齢者は戻ってこない。こうした事故を防ぐため、認知症の人を支える仕組みをつくる必要がある。民法は、責任能力のない人が第三者に損害を与えた場合に、監督する義務のある人が賠償責任を負うと定めている。裁判では、妻と長男に監督義務があるかが焦点となった。最高裁はまず、配偶者であることで直ちに監督義務を負うわけではないと指摘した。監督義務があるかどうかは、その人自身の生活や心身の状況、同居の有無、介護の実態などを「総合的に考慮し判断すべきだ」とした。妻は事故当時85歳で、要介護1の認定を受けていた。また長男の妻は近所に住んで介護にあたっていたが、長男自身は同居しておらず、月3回訪ねる程度だった。これらを踏まえ、判決は、妻も長男も監督が可能ではなかったと結論づけた。高齢化が進み、老々介護や遠距離介護のケースも増えている。一律に責任を負わせず、個々の事情を丁寧に見る判断といえるだろう。ただどのような場合に責任が問われ、どのような場合は問われないかは必ずしも明確ではない。何より大事なのは、こうした悲劇を繰り返さないことだ。政府は認知症になっても住み慣れた地域で暮らせる社会を目指すという。鍵となるのが医療や介護などを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」だ。国や自治体は整備を急がなければならない。高齢者が徘徊した際に、市民にメールで連絡し、保護につなげる地域もある。住民の力も欠かせない。認知症の予防や治療のための研究の推進、見守りに役立つ機器の開発、損害を広く薄く負担し合う保険のような仕組みづくりが課題になるだろう。認知症の高齢者の数は2025年には約700万人に達するとの推計もある。誰もが当事者になる可能性がある。一つ一つ、地道に対策を積み上げていくしかない。

<介護>
*2-1:http://qbiz.jp/article/81909/1/
(西日本新聞 2016年3月3日) 訪問・通所介護、4割超が赤字経営 小規模事業所ほど苦境
 訪問介護と通所介護(デイサービス)の事業者の40%以上が赤字となっていることが2日、日本政策金融公庫総合研究所の調査で分かった。2015年4月に事業者に支払われる介護報酬が全体で2・27%引き下げられたことが主な要因で、57・6%の事業所が改定後に報酬が減少した。調査は昨年10月、訪問介護か通所介護のサービスを提供する企業や社会福祉法人などを対象に実施し、2886事業者から回答があった。サービスごとの事業者の赤字割合は訪問介護が47・6%、通所介護が42・7%。特に通所介護では、事業所の規模が小さいほど経営が苦しい傾向が鮮明で、従業者が「4人以下」の赤字の割合が52・8%だったのに対し、「50人以上」だと32・8%にとどまった。改定の前と後で、報酬が「増えた」と回答した事業者は全体の8・8%。「変わらない」は33・6%、「減った」は57・6%だった。減少した事業者のうち、16・7%が「15%以上減少した」と回答した。日本政策金融公庫総合研究所は「大規模な事業所では、介護報酬の高いサービスを始めることなどで報酬減の影響を少なくできたが、規模の小さい事業所では対応が難しかったと考えられる」としている。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/262734
(佐賀新聞 2015年12月24日) 1億総活躍社会、目立つ政策のちぐはぐさ
 「1億総活躍社会」のスローガンの下、政府はこの国をいったいどこへ導こうとしているのか。政府の補正予算や来年度予算の編成が進むとともに、おぼろげながら全体像が見えてきた。1億総活躍という、戦前・戦中の全体主義を連想させるネーミングはともかく、世界にも例がない超高齢化社会に突入したわが国にとって、新たな社会構造に応じた経済の活性化策が最重要課題なのは確かだ。その具体的な政策が、アベノミクスの第2ステージと位置づけられた「新3本の矢」というわけだ。従来の3本の矢を束ねて、GDP(国内総生産)を2020年ごろまでに600兆円に拡大させるというのが、新たな第1の矢。第2の矢は子育て支援で、出生率を現在の1・42から「希望出生率1・8」まで押し上げる。さらに、社会保障を充実させる第3の矢で、家族の介護や看護を理由に離職・転職する人が年間10万人以上も生じている状況を解消して「介護離職ゼロ」を実現させるという。いずれも、理想的な未来の姿なのかもしれない。だが、果たして実現できるのだろうか。これまで、安倍政権は規制緩和により、雇用の流動性を高める政策を進めてきた。その結果、賃金が低く押さえられ、企業側に有利な雇用環境が生まれ、働く人の4割が非正規雇用という状況になった。ところが、今回の政策では賃上げで消費を刺激するという。最低賃金を年率3%程度をめどに引き上げ、全国加重平均で千円を目指す。これでは、雇用改善の責任を中小企業に押しつけるだけではないか。非正規雇用の問題は、第2の矢の出生率の問題にもつながる。若い世代では、不安定な雇用と低い所得水準を背景に、結婚に踏み切れない、あるいは子どもを生み育てる自信がないという現実が生じている。これまでの大企業重視で雇用流動性を優先してきた政策そのものを転換しなくては、若い世代の生活の安定は望むべくもない。第3の矢の「介護離職ゼロ」にしてもピントがずれていないか。今回の政策では、介護施設の整備のために国有地を活用したり、賃貸物件での運営を認める規制緩和策を打ち出している。だが、本当に解決すべきはハード面の整備ではなく、介護現場で働く人材の確保ではないか。介護分野は典型的な労働集約的産業にもかかわらず、待遇の厳しさから人材不足が続いているからだ。最も気掛かりなのは、低年金受給者へ一律3万円を支給するという政策だ。1130万人、その額は3600億円を超える。「消費の下支え」を名目にしているが、来年夏の参院選をにらんだバラマキと批判されても仕方あるまい。総じて目立つのは政策のちぐはくさだ。目指す先には、経済や社会保障分野で好循環を生み出し、50年後に人口1億人を維持するという最終的な目標がある。そうであれば、ここに挙げられた政策は、どれも小手先に過ぎず、実効性も疑わしい。旧「3本の矢」のように、十分に成果を検証しないまま、選挙が終われば次の矢を持ち出すような、目くらましでは困る。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12131786.html
(朝日新聞 2015年12月24日) (人口減にっぽん)外国人79万人が働く国
 コンビニや居酒屋、そして除染も。日本で働く外国人が増えている。その数、79万人。6年間で30万人増え、過去最高だ。日本の労働人口が減る中、今や貴重な働き手になっている。ただ、職場は日本人が避けがちな仕事が多い。その働く現場を追った。
■除染の町「人が足りぬ」
 日系ボリビア人の男性(41)はこの夏、福島県飯舘村で除染作業員として働いた。幹線道路沿いの草刈りが主な仕事だ。1日8時間で、1万6千円。お金を稼ごうと23歳で来日して18年。これまでもらったことのない額だった。妻の反対を押し切って申し込んだ。作業グループは10人。そのうち、自分を含む4人が外国人だった。「人が足りないからだ」。除染作業員を募るある派遣会社の役員は、そう話す。この会社も今年初めて、外国人を6人送り込んだ。事故やトラブルを恐れる派遣先から「外国人はやめてくれ」と言われていたが、今年は「解禁」された。大手ゼネコンも「東京五輪で人手不足が進むので、除染する外国人は増えるだろう」。だが働く環境は、ボリビア人男性が感じたほど好待遇ではない。この工事で環境省が業者に示している除染の賃金目安は、実は2万5千円だ。給料がきちんと支払われる保証もない。この男性は、8~9月の1カ月間分の給料28万9千円が振り込まれなかった。雇用主の派遣会社に問い合わせたが、「別の建設業者が支払う」と言ったきり。一緒に作業した3人の外国人と連絡を取ると、みな未払いだった。労働組合に駆け込み、ようやく11月、建設業者から「未払い分は払う」と連絡がきた。それでも、男性はこう話す。「また除染で働きたい。これまで車部品工場で働いたけど、あまり人間的な扱いを受けなかった。除染現場はそうではなかった」
■労働人口、30年後は2000万人減
 厚生労働省の統計(2014年)では、働く外国人は79万人。国家公務員(64万人)をしのぐ数だ。雇用主が未報告のケースもあり、「法務省の統計データもあわせて推計すると、厚労省調査の捕捉率は7割程度。すでに100万人働いているのはほぼ確実だ」(自由人権協会の旗手明理事)という。一方、日本の推計労働人口は、今後30年間で2千万人以上減る。外国人へますます頼ることになりそうだ。政府は、どういう外国人を増やすのか。「1億総活躍」を掲げる政府は、「移民受け入れより前にやるべきことがある」(安倍晋三首相)という立場だ。日本人だけで人口1億人を維持し、経済発展に役立つ外国人を中心に歓迎する、というスタンスだ。具体的には、学歴や収入が高い「高度人材」が長く日本で暮らせるようにしているほか、人手不足の「介護」で、来年度にも受け入れを広げる。外国人が「家事代行」のために入国することを新たに認め、日本の女性が家の外で働きやすくして、労働力の落ち込みを防ぐ。安価な単純労働を担う実態がある「技能実習生」は、滞在期間を3年から5年に延ばす。こうした方針が、政府の成長戦略に盛り込まれている。
■家事「両親に頼むより楽」
 外国人の家事代行は今月、神奈川県の計画が国家戦略特区として認められた。同県では来年3月をメドに家事代行で働くことを目的に入国できるようになる。賃金は日本人以上とすることや、働けるのは3年未満と政府指針で決まっている。すでに需要はあり、現在は「日本人と結婚した外国人」など就労に制限のない人が働いている。12月中旬の平日、午後5時。東京都渋谷区の戸田万理さん(42)宅に、フィリピン人のヴィナさん(42)がやって来た。ヴィナさんは夫が日本人で、日常レベルの会話はだいたい理解できる。持ってきたエプロンを身につけると、戸田さんが「スープを作ってもらえるかな」と材料を渡す。1時間ほどでカボチャのスープを仕上げた。その間、戸田さんは長女の理花ちゃん(1)をあやす。フルタイムで働くコンサルタント。共働き家庭で、来年1月には長男を出産する予定だ。「仕事と家事、育児のすべてがのしかかり、イライラすることが増えていた」。11月、家事代行の「タスカジ」に申し込んだ。1回3時間、交通費を除いて4500円。週2回、平日に来てもらう。戸田さんに甘える理花ちゃんに「ちょっと待って」と言う回数が減った。「自分の両親に頼むより気楽。もう離せません」。タスカジの働き手は登録式だ。外国人に限っているわけではないが、多くがヴィナさんのように「配偶者ビザ」を持つフィリピン人女性だ。午前9時~午後10時に3時間区切りで頼め、1時間あたり1500円から。利用者は3千人近くいる。「国家戦略特区」での解禁を見据え、人材確保も始まっている。人材大手パソナは来年4月をメドに、フィリピン人約30人に日本に来てもらう予定だ。マニラの人材会社と提携し、「実務経験1年以上」などの日本政府の条件に合う人材の募集を始めた。選考に通れば、日本語や日本食などの研修を年明けから現地で始める。料金は、週1回の利用で1カ月1万円ほどを想定。企業に、「社員の福利厚生」としての利用を売り込む考えだ。92年に外国人の家事代行を解禁した台湾では、労働時間の管理が課題になっている。家庭に住み込む形式がほとんどのためだ。今年秋、台湾家庭に住み込むフィリピン人女性(32)は「雇用主が外に出してくれない」と目に涙をためて訴えた。働き始めて6カ月。ようやく初めての休日を1日もらえたのだ。外国人の就労を担当する労動部労動力発展署の蔡孟良副署長は「雇用主が週7日働かせても、ちゃんと残業代を払い、労働者が合意していれば政府は何もできない」という。日本の国家戦略特区では、住み込み形式は認めていない。ただ台湾では「外国語交じりで世話をされると、子どもの文化やアイデンティティーに影響が出る」(蔡副署長)とも指摘されていて、最近では受け入れの条件を厳しくしている。
■「まずは家事の分担を」
 外国人労働問題に詳しい指宿昭一弁護士の話 外国人に家事を頼る前に、まずは男性も平等に分担できるようにすべきではないか。長時間労働を見直して、不足している保育所を増やすことが先決だろう。本当に外国人が必要なのか、国民的な議論も不足している。外国人に家事をさせる理由は、低賃金でしてもらえるからだ。家事は範囲が広く、仕事は育児や介護に広がる可能性がある。そうすると、保育士や介護福祉士などの賃金がますます低く抑えられることになる。

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2015.2.24 介護保険制度の変更について (2015.2.26追加あり)
   
  人口ピラミッドの推移    高齢者人口の推移  介護費の推移  医療費の世界比較

(1)介護保険制度の不公正と不公平
 *1に書かれているとおり、現在、介護費用は、利用者の自己負担以外は、40歳以上の国民が支払う介護保険料と国と地方自治体の税金で賄っている。また、介護保険料は、65歳以上の高齢者が払う「第1号保険料」と、40~64歳の現役の会社員らが健康保険を通じて払う「第2号保険料」からなり、第2号保険料には企業負担もある。

 そして、高齢者の第1号保険料は各市町村が決め3年毎に見直すため引き上げ幅が大きくなり、現役世代の第2号保険料は、企業の健康保険や市町村の国民健康保険が毎年度決める仕組みで単年度の給付費の増加見込みを反映させるため、引き上げ幅が小さくなるそうだ。ここでおかしいのは、誰もが直接・間接にサービスを受けている介護負担において、年齢によって国民を不平等に扱い、徴収が不公正になっていることである。

 また、「第2号保険料」は40~64歳の現役会社員らが支払うことになっているため、企業の社会保険料負担を減らす目的で、*7-1、*7-2のように「40歳定年」というような驚くべき提案が出てくる。*7-1、*7-2では、「40歳定年は、労働者が知識やスキルを磨き直すため」と主張されているが、それなら40歳定年よりも会社内で研修、配置、出向を工夫したり、労働者がスキルアップするために休職や自発的転職をしやすくしたりするのがまっとうな方法だ。

 全体として、医療費は世界的に見て高い方ではなく、介護は始まったばかりであるのに、このように不公正かつ不平等な制度をいつまでも改正せず、さらに高齢者に負担増・給付減を強い、企業が社会保険料を支払わない方法を導入しようと言うのは、政策を語る資格のない人のすることである。

(2)介護保険制度の利用が増えるのは当然で、これは本物の需要だ
 *2には、「①介護費は発足時の3倍になり、団塊の世代が75歳以上になる2025年度には、現在の2倍の21兆円に膨らむ」「②介護職員が不足する」「③膨張が続けば税金の投入額も40歳以上の国民が負担する保険料も年々増える」「④国民負担の増加を和らげるため4月の介護報酬改定では平均単価を2.27%引き下げる」「⑤高齢者は今後も増え続ける見通しだ」と書かれている。

 しかし、①については、介護保険制度は2000年度から始まったのであり、最初は利用できるサービスが少なく、質も高いとは言えず、利用者も介護を他人に任せるのを敬遠していた時から、次第に介護サービスが充実してきたのであり、核家族化と高齢者人口の増加とともに介護サービスの利用が増えるのは当然であり、これは第三の矢にあたる本物の重要なのである。そして、上の2番目のグラフのように、中国はじめ他の新興国でも、少し遅れて同じになるものだ。

 そして、②も考慮すれば、*6のように外国人介護士を使い捨てにすることなく労働力として重視し、③④から国民負担の増加を和らげる必要はあるが、それはいらない人に車椅子を与えて歩けなくしたり、一律に平均単価を引き下げたりするのではなく、可能な人には自立を促しながら、必要十分なサービスを適時に行いつつ、解決すべきなのである。

 なお、③④⑤から、介護保険制度は、40歳以上の国民のみが負担し、65歳以上の引き上げ幅は大きいというような不公正・不平等な制度ではなく、所得のある人全員が負担する応能負担にすべきだ。

(3)介護保険制度の4月以降の負担増・給付減について
 *3に、「①高齢者ら利用者の自己負担は、リハビリ目的の老人保健施設など施設・居住系サービスでは安く、訪問介護など在宅・通いのサービスは高くなる」「②要介護度が重い人や認知症の人向けのサービスは手厚くなる」「③現役世代の介護保険料がわずかに安くなる」と書かれており、現役世代の介護保険料を安くするとともに、在宅介護への変換を促していることがわかる。

 しかし、①により、リハビリ目的の老人保健施設が減ると、本当に必要な高齢者も施設でリハビリをすることができなくなる。また、40歳未満の人を介護保険料免除にしたまま現役世代の介護保険料を安くするために所得の少ない高齢者の負担増・給付減を行うというのは、驚くほど不公正である。さらに、年中、介護保険報酬を変にいじくることで、*4のように、介護事業者の経営計画が立たず、質の維持もできず、投資して始められた事業が成長するどころか無駄になるのだ。

 その上、40歳未満の人を介護保険料免除にすることにより、*7-1、*7-2のように、企業は屁理屈をつけて、介護保険料の事業主負担分を節約するために、「40歳定年制」を導入したがっている。つまり、介護保険料の負担者を40歳以上としていることが、労働者が40歳で区分される理由にもなっているため、介護保険料の負担者を医療保険と同様、働く人全員とすべきなのである。

(4)外国人介護職を活かす方法について
 *6に、「①厚生労働省は、介護職に外国人技能実習生を活用する方針を固めた」「②国内の施設で働きながら介護福祉士の資格取得を目指すが、日本語の壁の高さなどで合格率は2割に満たない」と書かれているが、介護現場の労働力として外国人労働者を受け入れるのであれば、名目的な技能実習生ではなく、正式な労働者として受け入れるべきである(そもそも厚労省労働局が、このような労働基準法の脱法行為を認めているのが疑問)。

 何故なら、1)実習生は即戦力にはならず、3年や5年の実習期間では、介護事業者にとっては教えるばかりで役に立つ期間が短い 2)技能実習の現場では、低賃金や時間外労働の強制など違反行為が後を絶たない 3)日本国内の施設で働きながら介護福祉士の資格取得を目指す外国人は、日本語の壁で介護福祉士の資格合格率が2割にも満たない 4)介護福祉士のニーズは必ず増加する からだ。

 しかし、1)2)4)は、外国人介護士を技能実習生としてではなく、労働者として受け入れれば解決する。また、3)の原因となっている「介護には利用者や家族の声を聞き取る高い日本語能力と技能、経験が要求される」というのは、まず、介護は家族の“愛”や日本語能力だけでできるものではなく、プロの知識と経験が必要だというところから出発すべきだ。そうすると、母国で看護師などの資格をとってきている外国人介護士に不足するのは、日本語能力と日本における技能・経験だけであり、これは、知識のない日本人よりも改善しやすく、どちらも、チームで介護を行えば解決できるものなのである。

(5)それでは、介護に誰を予定しているのか
 *5は、佐賀労働局雇用均等室が、「①女性の能力発揮や仕事と育児・介護との両立支援に積極的に取り組む企業を表彰する」「②仕事と育児・介護との両立支援の取り組みを実施しているファミリー・フレンドリー企業を表彰する」としている。

 ここで、仕事と育児・介護を両立すべき人の前提が女性のみであれば、60年、遅れている。また、仕事と育児・介護との両立支援の取り組みを実施しているファミリー・フレンドリー企業というものが、女性にのみ短時間労働、非正規雇用、派遣労働を強いるものであれば、それは、30年、遅れている。

 しかし、率直に言って、全体として介護サービスをカットし、女性に負担を負わせようとしている厚労省を見れば、こんな逆噴射を予定しているのではないかと思わざるを得ない。

<介護制度の度重なる改変>
*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150130&ng=DGKKASFS29H3X_Z20C15A1EA2000 (日経新聞 2015.1.30) 介護保険料 高齢者・現役世代とも伸び傾向
▽…介護保険サービスにかかる費用は、利用者本人の自己負担分を除き、半分を40歳以上の国民が支払う介護保険料、残り半分を国と地方自治体の税金で賄っている。介護保険料は65歳以上の高齢者が市町村を通じて払う「第1号保険料」と、40~64歳の現役の会社員らが健康保険を通じて払う「第2号保険料」からなる。第2号保険料には企業負担分も含む。
▽…高齢者の第1号保険料は、各市町村が決め、原則3年ごとに見直すことになっている。3年間の介護給付費の増加見込みを反映して保険料を一度に見直すため、引き上げ幅は大きくなる。直近では給付費が全国平均で年5%伸びており、3年間で15%増になる。
▽…一方、現役世代の第2号保険料は、企業の健康保険や市町村の国民健康保険が毎年度決める仕組みだ。単年度の給付費の増加見込みを反映させるため、引き上げ幅は小さくなる。制度改正や介護報酬の引き下げで抑制が大きいと、単年度では下がるケースも出てくる。給付費は高齢化で伸び続けるため、保険料が中長期で上がる傾向は第1号・2号とも同じだ。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150216&ng=DGKKZO83209230V10C15A2M10600 (日経新聞 2015.2.16) 制度発足15年 高齢者急増、厳しい財政
 介護保険制度は想定を超えて増える高齢者を背景に、制度発足から15年で早くも変革を迫られている。介護費は発足時の3倍になり、「団塊の世代」が75歳以上になる2025年度には、今の2倍の21兆円に膨らむ見通しだ。介護職員の不足の解消も道半ばだ。介護保険の財源は税金と40歳以上が納める保険料、サービス利用者の自己負担でまかなっている。膨張が続けば税金の投入額も40歳以上の国民が負担する保険料も年々増える。国民負担の増加を和らげるため4月の介護報酬改定では平均単価を2.27%引き下げる。厚生労働省の試算では、40~64歳の現役世代が15年度に納める保険料は1人あたり平均で月額5177円となり、前年度に比べて96円減る。市町村ごとに決まる65歳以上の平均保険料は月額4972円から5550円に上がるが、減額改定をしなければ5800円に上がるはずだった。ただ高齢者は今後も増え続ける見通し。保険料負担を抑える効果は一時的でしかない。給付そのものを抑える工夫が避けられない。厚労省は4月からは特別養護老人ホームの新規入所を要介護度3以上の重度者に限定する方針。入居待ちは52万人に上るが、施設増ですべて対応するのではなく、介護の必要度が低い軽度者は在宅でケアを受ける方向にするためだ。今回の改定で特養ホームの基本料が軒並み減額になるのは利益率が高く、経営に余裕があるとの判断からだが、介護を巡る「施設から在宅へ」という政府方針とも無関係ではない。こうした流れを成功させるには、高齢者や家族が安心できる在宅介護の体制づくりが不可欠だ。厚労省は12年度の報酬改定で24時間対応で看護や介護を受けられる巡回サービスを導入したが、肝心の事業者の参入は限られ、訪問看護事業所がない自治体も多い。年々増える認知症患者をケアする体制もまだ不十分だ。

*3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150216&ng=DGKKZO83209170V10C15A2M10600(日経新聞2015.2.16)介護保険、重度者・認知症のケア手厚く 4月からこう変わる
 介護保険の負担が4月から変わる。介護サービスの公定価格である介護報酬が改定されるためだ。高齢者ら利用者の自己負担は、リハビリ目的の老人保健施設など施設・居住系サービスでは安くなり、訪問介護など在宅・通いのサービスが高くなる。要介護度が重い人や認知症の人向けのサービスは手厚くなる。現役世代が納める介護保険料はわずかだが安くなる。影響を詳しくまとめた。
●特別養護老人ホームなどで重度者の受け入れに力を入れる
 介護保険のサービスは介護を受ける場所や内容に応じて20種類以上に分かれ、事業者に支払われる報酬も細かく定めている。サービスを受ける高齢者らは報酬の1割を毎月負担する。残りは保険料や税金から事業者に払う。報酬は大きく分けて、基本料金にあたる「基本サービス費」と、事業者の人員体制が要件を満たした場合や付加的なサービスを受けた場合などに上乗せする「加算部分」の2つからなる。
■職員賃上げの原資反映
 今回の改定では、基本サービス費は大半のサービスで引き下げる。一方、加算部分を見ると、介護職員の給料を引き上げる原資にする「介護職員処遇改善加算」が、多くのサービスで増額になった。介護は人材難が深刻化しており、一般産業界に比べて見劣りする給与水準を引き上げることで職員確保につなげる狙いだ。賃上げ計画を策定し、賃金体系や職場環境などを整えた事業者は、職員の月給を1人につき1万2千円アップできる原資を報酬に加算できる。多くの事業者が取り組むとみられ、この分は利用者の負担増につながる。加算部分にはこのほかにも新設されたり、増額されたりした項目もある。サービスの利用者負担がどう変わるかは、サービスごとに基本サービス費と加算部分を合算して考える必要がある。例えば特別養護老人ホームをみると、最も重度の「要介護5」の人が個室を利用する場合((1)参照)、1カ月あたりの負担合計は3万720円となり、今より810円安くなる。職員を賃上げするための加算などが増える一方、本人が負担する基本料は1日につき947円から894円に減るためだ。
■特養相部屋は2段階改定
 同じ特養ホームでも相部屋の負担は4月と8月の2段階で変わる。4月に月2万9670円と630円安くなる((2))。ただ光熱費が月1500円の値上げになる上、8月からは低所得者を除く約6万人は室料が保険対象外になる。該当する人の8月以降の負担は今より1万2000円以上増える見込みだ。老人保健施設((5))や、医療が必要な人が入る介護療養病床を含め、施設・居住系サービスは利用料がおおむね安くなる。認知症の高齢者がケアを受けながら共同生活する認知症グループホーム((3))の1日あたりの負担額は要介護度3の人で1001円へと5円安くなる。民間の有料老人ホームなどに住む人が介護を受ける特定施設入居者生活介護((4))も、要介護度5の1日あたり負担額は6円安く863円。いずれも基本料が大きく下がる。一方、自宅で訪問介護を受けたり、施設に通ったりする在宅サービスは高くなるものが多い。デイサービス(通所介護)は要介護3の人が1日8時間のサービスを利用すると、1日あたりの負担は1001円。今より16円安くなる。ただ重度の人や認知症の人を受け入れた場合の加算を設けたので、該当する人の負担は1日に1110円と93円増える((7))。通いや泊まりを組み合わせて利用できる小規模多機能型居宅介護((8))は訪問サービスを拡充した事業者への報酬が加算される。こうした利用者の負担は月に559円増え、2万5503円になる。

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11610837.html
(朝日新聞 2015年2月20日) 介護報酬、減額っていいこと? 事業者・利用者への影響は
 介護保険サービスを提供した事業者に支払われる「介護報酬」が、4月から引き下げられる。収入が減る事業者には「介護崩壊」への強い不安が広がる一方、介護保険料やサービスの利用料が安くなるのも事実だ。介護の現場にどんな影響があるのか。
■事業者 経営に打撃、サービス休止も
 介護報酬引き下げは事業者には打撃で、サービス休止を決めたところもでてきた。富山県内でショートステイ(短期入所生活介護)を運営する事業者は、3月末で事業所を休止する予定だ。ここ数年、競合する事業者が増えて赤字が続き、減額改定が決め手になったという。ショートステイの基本報酬は約5~6%下がる。この事業所は職員10人弱の人件費を支払うめどもたたなくなった。利用者は1日7~8人。食道や肺の機能が落ちて食事介助に2時間近くかかるなど介護度が重い人も多く、休止後の受け入れ先を探し始めた。「消費税を8%に上げたのは社会保障の充実が目的だったはずなのに」。運営法人の幹部は声を落とす。認知症グループホームも基本報酬が約6%下がった。仙台市などで複数のグループホームを運営する「リブレ」は、職員の処遇改善のための加算をのぞくと、一つのホームで年間約300万円の減収を見込む。夜勤体制の加算は新設されたが、人手不足のなか、宿直できる人を確保する見込みはたたず、加算を取るのは簡単ではないという。介護度が重い人への対応に手厚くする方針にも懸念の声がある。訪問介護事業などを手がけるNPO法人「ACT昭島たすけあいワーカーズ大きなかぶ」(東京都)の事務局長・牧野奈緒美さんは「事業者が介護度の重い人ばかりを優先し、軽い人が見捨てられるのでは」と危惧する。訪問介護につく新たな特定事業所加算は、利用者のうち要介護3以上や認知症の症状が進んでいる人が6割以上いれば、報酬が上乗せされる。ただ、大きなかぶの場合、利用者の7割は要介護2以下の人だ。「軽度の人の介護度が重くならないように支える、という視点が欠けている」。改定の目玉の一つが、介護職員の給料アップのための処遇改善加算の拡充だ。1人月額1万2千円相当を上乗せできるようにすると国は説明する。認知症デイサービスやグループホームなど7事業を運営するNPO法人「暮らしネット・えん」(埼玉県)でも、4月からこの加算で職員の賃上げをはかる計画だ。ただ代表理事の小島美里さんは「加算はいわば『おまけ』。3年後の報酬改定で維持されるかもわからない。処遇改善のためのお金は基本報酬に入れるべきだ」と言う。
■利用者 負担は減少、質の維持に懸念
 利用者目線で考えると、また違う見方もでてくる。介護報酬が下がれば、65歳以上の高齢者や、40~64歳の人が負担している介護保険料は、いずれも抑制されるからだ。税や保険料から介護事業者に支払われる費用は、制度が始まった2000年度の3・6兆円から10兆円(14年度)に増加。65歳以上が払う保険料(全国平均の月額)でみると、2911円(00~02年度)から4972円(12~14年度)にまで上昇。10年後には、8200円程度まで上がると厚労省は予想する。65歳以上が支払う介護保険料は15年度から全国平均で5800円程度になると見込まれていた。それが介護報酬引き下げで230円程度値上げが抑えられ、5千円台半ばにとどまる見通しだ。また介護サービスの値段である介護報酬が下がれば、その原則1割を負担する利用料も連動して減る。ただし負担が減ればいいということでもない。介護をしてくれている事業者が経営に行き詰まったり、サービスが悪くなったりすれば、利用者やその家族にしわ寄せは向かう。いま介護が必要ない人でも、将来必要になったときに、利用できるサービスが減ってしまうかもしれない。結果として、家族の介護の負担が重くなり、高齢者の世話のために仕事を辞める「介護離職」などが増える恐れもある。
■国の狙いは? 介護度重い人の在宅支援強化
 厚生労働省は6日に2015年度~17年度の介護報酬の額を公表した。全体では2.27%の引き下げで、個別のサービスの値段も決まった。企業のもうけにあたる「収支差率」が高い特別養護老人ホームなどの施設に限らず、在宅サービスも含めて基本報酬は軒並み減額となった。一方、介護職員の給料増額にあてる加算は拡充。さらに認知症や介護度の重い人を支える「24時間定期巡回・随時対応型サービス」などの在宅サービスでは、様々な「加算」を手厚くし、加算を含めれば増収になるようにした。安倍晋三首相は18日の参院本会議で「質の高いサービスを提供する事業者には手厚い報酬が支払われることとしている」と述べた。

<介護は誰が?>
*5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/159784
(佐賀新聞 2015年2月24日) 「均等・両立推進」の企業募集 2部門、佐賀労働局
 佐賀労働局(田窪丈明局長)は、女性の能力発揮や仕事と育児・介護との両立支援に積極的に取り組む企業を表彰する「均等・両立推進企業表彰」の対象企業を募集している。女性の能力発揮の促進へ積極的な取り組みを進める「均等推進企業」部門と、仕事と育児・介護との両立支援の取り組みを実施している「ファミリー・フレンドリー企業」部門の2部門。部門ごとに厚労大臣優良賞、佐賀労働局長優良賞、佐賀労働局長奨励賞を選び、両部門ともに優れた企業には厚労大臣最優良賞を贈る。応募書類審査の後、各都道府県労働局の雇用均等室がヒアリングを実施。表彰基準を満たす企業の中から候補企業を選び、厚労大臣に推薦。厚労大臣が推薦企業の中から、受賞企業を決定する。過去10年の県内の受賞企業は、均等推進企業部門が4社、ファミリー・フレンドリー企業部門が2社。佐賀労働局は「人材確保の面などで良いPR材料になる。積極的に応募して」と呼び掛ける。3月31日締め切り。問い合わせは同局雇用均等室、電話0952(32)7218。

<外国人介護職の処遇>
*6:http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201502/0007762437.shtml
(神戸新聞 2015/2/23) 外国人と介護職/実習生の活用は筋違いだ
 介護の現場では、慢性的に労働力が不足している。他業種に比べて給与が低く、仕事がきついなどの理由で人材確保が困難なためだ。そうした問題を解消するため、厚生労働省は外国人の技能実習生を活用する方針を固めた。日本の介護技能を学ぶという名目で、2016年度にも受け入れを始める。高齢化が進む中、人材確保が課題であることは間違いない。しかし、このやり方は大いに問題がある。技能実習制度は本来、新興国への技術移転や人材育成の支援が目的だ。日本国内の労働力の穴埋めに使うのは筋が違う。しかも、実習期間は最長で3年。政府は延長を検討しているが、それでも5年で日本を去る。現場を支える力を海外に求めるなら、労働者としてきちんと受け入れるべきだ。日本は経済連携協定(EPA)に基づき、介護分野の労働者をインドネシア、フィリピン、ベトナムから受け入れている。国内の施設で働きながら介護福祉士の資格取得を目指す。これまで約240人が合格した。だが、日本語の壁の高さなどで合格率は2割に満たない。一方、国内の介護労働力は約177万人で、離職率が高く、毎年17%が職場を去る。厚労省は、団塊の世代が75歳以上になる25年度に約250万人を確保する目標を掲げる。だが、全産業の平均給与より月額で10万円ほど低い待遇もあって計画通りに増えないのが実情だ。特別な対策を取らなければ将来約30万人が不足するという推計もある。実習生はこれから技能を身に付ける人たちで、即戦力と期待するのには無理がある。それでなくても、技能実習の現場では、低賃金労働や時間外労働の強制などの違反行為が相次いで発覚している。介護現場でも同じような問題が繰り返されないという保証はない。支援の対象者には、寝たきりの高齢者や認知症の人もいる。必要なのは個々のニーズに応えるプロの介護力だ。実習生頼みでは、混乱やサービスの低下を招く恐れがある。介護には、利用者や家族の声を聞き取る高い日本語能力と技能、経験が要求される。実習生を活用するというのであれば、言語と専門技能を習得した段階で正規の戦力として迎える道を考えた方がよい。

<40歳定年制 !?>
*7-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150129&ng=DGKKASDZ21HOQ_S5A120C1TJ2000 (日経新聞 2015.1.29) 「40歳定年」で次の挑戦 スキル・知識を磨き直し
 年金の支給開始年齢引き上げや医療の発達などで、60歳を超えて働く人が増えている。就職から40~50年働く時代。働き手は会社とどう向き合い、どうスキルを高めるべきか。「40歳定年制」を唱える東大大学院の柳川範之教授に聞いた。
―40歳定年制を唱える理由は何でしょうか。
 「75歳まで長く働けるようにするためだ。20歳すぎから同じ会社で75歳までバリバリ働くのは厳しい。時代の変化に応じ、知識やスキルを磨き直す機会が必要だ。いわば燃料補給だ」。「勉強したいという30~40代の働き手は多い。制度上、この年代で休むのが当たり前の社会にすればいい。自分を磨いたうえで同じ会社で働き続けてもいいし、転職してもいい。働き盛りの社員を休ませるのは難しいという会社は多いが、最初からその前提で人事を回せば不可能ではない」。
●企業の研修限界
―企業内でもスキルの向上はできるのでは。
 「企業内の人事・研修制度は限界にきている。まず産業の浮き沈みが激しくなっており、余剰人員の『適所』が社内にあるとは限らない。企業がM&A(合併・買収)で成長事業を手に入れても、衰退事業から全員をシフトできない限り、『社内失業』が発生する」。「社内教育も難しい。知見のない異分野のことを社内で教えるのは無理だ。外部講師を雇おうにも企業の研修予算はバブル期に比べ減っている」
―40歳での解雇の合法化と受け止め、不安視する働き手もいます。
 「知識やスキルが陳腐化した働き手を待つのは社内失業だ。企業が彼らを65歳とか70歳まで抱えられるならいいが、実際には経営が傾くと真っ先にリストラ対象になる。スキルアップの機会がないまま、55歳、60歳で職を失うほうがはるかにリスクは大きい。企業に余裕がなくなり、200万~300万人ともされる社内失業者が本当の失業者になると大変だ。再就職できるスキルを早めに身につけてもらう必要がある」。
●実践的な教育を
―参考になる海外の事例はありますか。
 「北欧諸国は解雇規制を緩くする一方で、失業者の再教育に資金を投じている。ただ金銭を与えるだけの『セーフティーネット(安全網)』ではなく、再就職のための反転力を身に付けてもらう『トランポリン型セーフティーネット』だ」。
―社会人への再教育を担える教育機関はあるのでしょうか。
 「大学を想定しているが、もっと実践的なカリキュラムが必要だ。企業の人にも参画してもらい、スキルアップのための教育プログラムを作らないといけない。専門学校や高等専門学校を拡充するアイデアもある」。
―副業を持つことも勧めています。
 「スキルアップの機会がないなら、副業を持つことで働き手のリスクを軽減できる。情報漏洩などの恐れがあるものは禁じるべきだが『ウチの仕事に全力を傾けろ』というだけの副業禁止規定はやめるべきだ。企業は働き手のキャリア選択をもっと応援してほしい」。
*やながわ・のりゆき 慶大経済学部の通信教育課程から東大大学院に進み博士号取得。2011年から現職。専門は経済学。長い海外生活が常識にとらわれない発想の原点だ。51歳。

*7-2:http://www.buaiso.net/business/economy/19313/ (BUAISO.net 2013年3月21日) 「40歳定年制」の真意~東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授 柳川範之氏~
●終身雇用という幻想
 「終身雇用についてまず総括しておきましょう。ひとつの企業の中でみんなが長く働き続けることには大きなメリットを感じますし、それが日本企業の特徴でもあると思います。しかし、残念ながら現在、ひとつの企業が50年、100年単位で成長を続けることはかなり難しい。経済環境の変化は昔に比べて格段に早くなっており、個人が20代のころに学校や企業で身につけた能力が40~50年間通用することも難しくなって、多くの場合、厳しい現実が待ち受けています。
この現状を踏まえると、皆でずっと同じ企業で働こうと思っても、外部環境の変化によって職種自体が消滅することが起き得るわけです。現在の仕事を遂行するための高度なスキルを身につけていても、技術革新や海外へのアウトソーシングなどで仕事自体が失われた場合、自身に代替するスキルがなければ、ただ企業に在籍して社会保障的に給与を受け取るだけの存在になるかもしれません。日本経済が全般的に好調で、かつ財務状況に恵まれた企業に所属していれば『優雅なリタイア』も可能かもしれませんが、実際は企業も国際競争にさらされていて、すべての人を雇い続けていく余裕はないでしょう。終身雇用制と呼ばれるような長期雇用と年功賃金の組み合わせを実現できた企業は、ごく一時期のごく一部の企業に過ぎません。実際には多くの人々が正規・非正規ともに解雇や転職を経験しています。こうした現状を踏まえると、解雇されないことに神経を集中させるよりも、産業構造や外部環境の変化に適応してどのような能力を身につけるのか、一定のサイクルで自身をプラニングすることが大切かと思います」。柳川氏は、仕事全体をクリエイティブ職、事務処理職、単純労働職という3つに分類し、自動化やアウトソーシングの進展で事務処理職の仕事が減り、成熟国ではクリエイティブ職と単純労働職の二つに集約されていくだろうと予測する。既に事務処理職全体の仕事のパイが小さくなっているように、職そのものがなくなるというのは静かに進行している。
●人生の長期化、変化の高速化、能力の陳腐化
 産業革命により分業システムが確立した結果、ある程度の専門性を持っていれば職業人として長く活躍できるという前提があった。しかし今、大きな転換期が次々に訪れ、人生の長さと産業構造の移り変わりの尺度が合わない気がするというのが社会に生きる人の実感だろう。長い人生をお金を稼いで生きながらえるためには、何か根本的なところで人間が変化しなければならないのかもしれない。
「それがまさに40歳定年制を提言したひとつの大きなポイントなのです。幸せなことに人間の寿命は延びています。iPS細胞の開発などでさらに延びるかもしれません。しかし一方では、産業構造の変化が急速なため、技術や能力が10年から20年で陳腐化することも多々あります。昔なら若い時に身につけた能力や知識が死ぬまではある程度役に立ちました。環境が変わっても次の世代の若者に新しい技術を身につけてもらえば十分、という時代がずっと続いていました。だから企業は『終身的』雇用ができるし、個人は一度身につけた能力を磨き上げることで働き続けることができていたわけです。
 ところが、寿命が延びる、スキルは陳腐化する、となるとどうでしょう。一回の充電(学び)で終着駅に向かうというのは無理で、2回か3回か、どこかの停留所で環境の変化に合わせた能力開発か何かの学び直しの充電をしないと長く働くことができないですよね。実はこれは世界的に起きている問題です。多くの国で若年失業とある程度年をとった人の働く場所の確保が同時に問題になっているのです。環境変化に合わせた能力開発を提供できないために若年者の雇用にしわ寄せがいくという構造のため、変化に合わせた新しい能力をどのように各世代に身につけさせるかということが課題になっています。そこでどの国も『教育、教育』と言い出しているんですね。世界のあらゆる場所に共通する構造的な潮流があるのだと思います」そして、急速に少子高齢化が進む日本では、この流れがより顕著な形で現れてきているのです。
*柳川範之(やながわのりゆき)
 1963年生まれ。小学校をシンガポールで卒業、高校時代をブラジルで過ごした後、大学入学資格検定試験合格。慶応義塾大学経済学部通信課程卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京大学大学院経済学研究科 経済学部 教授。著書に『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞出版社)、『独学という道もある』(ちくまプリマー新書)、投資家水野弘道氏、プロ陸上選手為末大氏との共著『決断という技術』(日本経済新聞出版社)などがある終身雇用という幻想


PS(2015.2.26追加):*8は、文脈から見ると、韓国にはまだ女性にのみ姦通罪があったようで、日本より男女不平等である。 ぎょ

*8:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/160710
(佐賀新聞 2015年2月26日) 韓国が姦通罪廃止、憲法裁が違憲判決
 韓国の憲法裁判所は26日、同国の刑法にある姦通罪は憲法違反だとする判決を出し、同罪は即時廃止された。憲法裁は過去4回同罪を合憲と判断していたが、異性との性的関係の自己決定権を重視すべきだとの社会の風潮が反映された。2008年の最後の合憲判決後に同罪で起訴された約5400人が再審を申請すれば全員無罪になる。憲法裁が違憲判断を出すには9人の裁判官のうち6人が同意する必要があるが、今回7人が違憲だと判断した。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 12:02 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.7.13 社会保障積立金の運用利回り低迷と日本企業の利益率・配当率低迷の理由など (2014.7.14、16に追加あり)
    
2014.4.2佐賀新聞  2014.6.3佐賀新聞         *6より 

(1)給付削減しか思いつかない政府の“改革”方針はおかしい
 *1-1に書かれているように、厚労省は年金給付水準を物価に関わらず毎年抑制する方針で、その理由は少子高齢化だそうだ。しかし、年金資金が不足した理由は①保険料の集金が杜撰だった ②運用や管理が杜撰だった ③サラリーマンの専業主婦のみ優遇するなど仕組みも悪かった など、厚労省の責任であることは、誰もが覚えている。また、少子化も、働く女性のインフラとなる保育所や学童保育を整備せず、未だに待ち行列が存在する貧弱な状況であり、これもまさに厚労省の責任なのである。

 この厚労省の体質は、社会保険庁が看板を掛け替えて日本年金機構になったからといって変わったわけではなく、誰も責任を取らずに(膨大な年金資産喪失の責任などとれるわけがない)、保険料を支払ってきた年金受給者に責任を押し付けているものであり、このような変更を“改革”とは呼ばない。それにもかかわらず、*1-2のように、「改革先送りこそリスク」として、非科学的な人口推計に基づき、退職給付会計も導入せずに、厚労省に協調する意見を開陳する人が多いのが、我が国の現状なのである。なお、「年金は現役所得の50%を確保すればよい」というのが定説になっているが、ここで想定している現役所得の金額と現役所得の50%でよいという合理的根拠も、私は見たことがない。

 しかし、*1-3のように、高齢者に入る年齢を70歳(もしくは75歳)と変更し、雇用と年金の両方を同時に変えるのなら、平均寿命が伸び、体力ある高齢者も多いので、筋が通る。消費者に高齢者が増えれば、車や家電の設計・説明書の記載にも高齢者の視点が必要なので、単なる労働力不足の緩和を超えた効果があると私は思う。また、働いている方が体力が衰えないため、医療・介護制度にもプラスだ。

(2)政府の医療・介護保険制度“改革”もおかしい
 *2-1では、保険料収入が伸び悩んでいるとして、財源確保の必要性が述べられている。しかし、保険料率引き上げ以前に、①集金もれの回収 ②元手を失わない運用・管理 ③不公正な給付制度の改正 などの改革を行うべきだ。そういう見直しもなく安定財源を確保しても、規模を大きくした無駄遣いが増えるだけである。

 *2-2には、負担増・給付減という介護保険利用者に厳しい医療・介護改革法が成立したと書かれており、患者や要介護者の急増で制度がもたなくなる恐れがあるためだそうだ。しかし、介護保険制度は、1995年頃の私の提案で始まり、1997年に介護保険法が成立して、2000年から施行されたため、まだサービスを充実させるべき時期であり、サービス減や保険料支払者の負担増を議論するような時期ではない。そして、その財源は、現在の「40歳以上の医療保険制度に加入している人」を「医療保険制度に加入している人全員」に広げるべきなのである。

 また、「少子高齢化で需要が減る」という論調もよく見かけるが、人口構成が変われば必要なものが変わるのであり、需要が減るわけではない。そのうちの介護サービスは増える需要であるため、これに対応すべきで、それは今後、世界で増える需要なのだ。にもかかわらず、削減ばかりの政策になるのは、政策を作っている人が介護制度の必要性を感じない人だからだろう。

(3)政府による株価操作
 *3-1のように、約130兆円の国民の年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人が“改革”して、日本株への運用比率を引き上げるそうだ。年金の運用は元手の喪失をなくすため、90%以上は国債などの安全資産で行うのが世界の常識であるにもかかわらず、*3-2のような官製相場のにおいがする日本株への運用割合の増加を提示するのは呆れるほかない。日本の病根はここまで進んでいるわけだ。

 ただ、JRやゆうちょ銀行など、これまでの国有企業が上場するにあたり、年金基金が市場価格で株式を購入するのは、それほどリスクが高くはないかもしれない。

(4)日本企業の実質利益率や株式配当率が低い理由
 *4-1に書かれているとおり、STAP細胞を発見した小保方氏の論文へは、いちゃもんが多く、ついに理研のiPS細胞研究者が、「小保方氏が検証実験に参加するなら、まだ始まっていない患者さんの治療の中止も含めて検討する」とツイッターに投稿し、(長くは書かないが)やはりiPS細胞を伸ばすためのSTAP細胞の否定だということがわかった。何故なら、STAP細胞で再生医療ができるようになれば、こちらの方が副作用がなく優れているため選択され、iPS細胞の研究は不要になるからである。しかし、iPS細胞研究グループの都合でSTAP細胞の発見や開発を妨害する行為は、結局は日本企業の競争力を奪うものであり、このようなことがあってはならない。

 また、*4-2のユーグレナは、家畜や養殖魚の餌として画期的なコスト低減をもたらすと思うが、「次世代航空機燃料」は空に公害をまき散らさない水素にすべきであり、石油類似の液体燃料に固執すべきではない。しかし、燃料は石油に近い液体でなければならないと考える人も多く、これが技術革新をやりにくくしている。

 さらに、事故時に大きな公害をもたらす原発に代替する発電方法は、このブログで何度も提示したが、それにはいちゃもんをつけ、*4-3のように、原発再稼働に固執する論調も多い。このように、過去の固定観念で古い技術にしがみつき、新しい技術の導入を阻むのも、結局は、日本や日本企業の競争力を奪っているのである。

 以上は、本来、技術革新やイノベーションは積極的に行わなければならないのに、それを阻んだり邪魔したりして大切にしない体質が、日本企業の本当の利益率や株価を低迷させている原因であることを示したものである。

<政府の改革方針>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140617&ng=DGKDASFS13054_W4A610C1MM8000 (日経新聞 2014.6.17) 年金、来年度から給付抑制、厚労省、物価下落でも減額 制度持続へ法改正検討
 厚生労働省は公的年金の給付水準を物価動向にかかわらず毎年度抑制する仕組みを2015年度に導入する方針だ。いまの制度では物価の上昇率が低い場合は給付を十分抑制できないが、少子高齢化の進展に合わせて必ず給付を抑える。すでに年金を受給している高齢者にも負担を分かち合ってもらい、年金制度の持続性を高める。少子高齢化にあわせて毎年の年金給付額を抑えるマクロ経済スライド(総合2面きょうのことば)と呼ぶ制度を見直す。15年の通常国会への関連法案提出を目指す。現在のルールではデフレ下では年金を削減できず、物価の伸びが低い場合も、前年度の支給水準を割り込む水準まで減らすことはできない。年金は物価水準に連動して毎年度の給付水準が調整されるが、物価下落以外の理由で名目ベースの年金額が前年度より目減りすることを避けているためだ。今後は物価や賃金の動向に関係なく、名目で減額になる場合でも毎年度0.9%分を削減する方針だ。この削減率は平均余命の伸びや現役世代の加入者の減少率からはじくので、将来さらに拡大する可能性もある。改革後は、例えば物価の伸びが0.5%にとどまった場合、翌年度の年金は物価上昇率から削減率0.9%を差し引き、前年度より0.4%少ない額を支給する。物価がマイナス0.2%のデフレ状況なら、翌年度の年金は1.1%減る。マクロ経済スライドは04年の年金制度改革で導入した。15年度は消費増税の影響で物価が大幅に上昇しているので、現行制度のままでも年金は抑制される。ただ、将来デフレや物価上昇率が低くなった局面では給付を抑えられないので、今のうちに改革を急ぐ方針だ。厚労省が3日に公表した公的年金の財政検証では、年金制度の危うい現状が明らかになった。女性の就労が進まないケースでは、約30年後の会社員世帯の年金水準は現役世代の手取り収入の50%を割り込み、現行制度が「100年安心」としていた前提が崩れる。これから年金を毎年度削減するようになれば、現役世代が老後にもらう年金の水準は改革をしない場合よりは改善される。厚労省の試算では経済が低迷した場合でも、現役収入と比べた給付水準を最大5ポイント引き上げる効果があるという。現役世代は04年の改革に沿って保険料率を毎年着実に引き上げられている。会社員が加入する厚生年金は17年に保険料率が18.3%(これを労使折半で負担)になるまで0.354%ずつ引き上げが続く。改革は現役世代だけでなく、年金の受給者にも着実に負担を求めるのが狙いだが、高齢者の反発で法改正に向けた調整は難航する可能性もある。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140617&ng=DGKDZO72807670W4A610C1KE8000 (日経新聞 2014.6.17)
改革先送りこそリスク  駒村康平 慶応義塾大学教授
 今月3日、社会保障審議会年金部会から公的年金の財政検証が公表された。5年に1度の財政検証では100年後の経済や人口に一定の想定を置きながら、保険料を2017年度に固定しつつ年金財政の将来見通しを示す。年金財政の持続可能性の要件を満たさない場合、年金制度改革を実行することになっている。その要件とは、モデル世帯の厚生年金(基礎と報酬比例の合計)の所得代替率(現役世代の平均的な手取り額に対する年金の割合)が65歳の受給開始時点で50%を確保できること、おおよそ100年後に1年分の給付に相当する積立金を保持すること、という2点である。
 14年は共済年金と厚生年金の被用者年金一元化のもとでの最初の検証であるほか、13年8月の社会保障制度改革国民会議の報告による指摘に応えるという特徴がある。国民会議は所得に応じた保険料負担が望ましいことや、少子化と長寿化に連動して年金給付水準を引き下げるマクロ経済スライドがもたらす基礎年金の過度の給付水準の低下という課題を挙げた。
 今回の財政検証では、足元の経済成長、将来の経済成長、特に全要素生産性(TFP)の伸びや既婚女性や高齢者の労働力率の上昇などの仮定を組み合わせて8通りの見通しが示された。TFPの伸び率が1983~93年の状態まで経済が回復し、同時に高い労働力率を確保できると想定した5つのケースは50%の代替率を確保したが、そうした想定をしない3つのケースは50%を下回り、改革の必要があるという結果になった。全8ケースの単純平均は47%となった。
 50%を確保したうち最低のケースEと50%を下回るなかでは最高のケースFを比較してみよう。Eでは報酬比例年金の低下幅は5%だが、基礎年金の水準は29%低下する。Fではそれぞれ11%の低下、39%の低下となる。基礎と報酬比例の合計で50%の代替率を維持できるA~Eでさえ、基礎年金の給付水準が30%程度低下する。09年推計と違って基本ケースがないなかで、8つのケースをどう評価するかは論者によって異なるだろう。経済さえ回復できれば年金制度の維持は可能であり、当面改革は必要ないという評価もある。しかし財政検証は、高いTFPの伸びや労働力率の見通しという楽観的な見通しで評価すべきではない。
 今回の検証は、年金制度は直ちに破綻するような状況ではないものの、安心して何もしなくてもよいような状態ではないことを示した。年金財政の安定には保険料の引き上げ、保険料納付期間の長期化、国庫負担の増加という収入面の強化と、マクロ経済スライドによる年金水準の引き下げ、満額年金に必要な納付期間の長期化、支給開始年齢の引き上げなどの支出抑制の対策がある。保険料や国庫負担の引き上げは難しく、事実上、支出抑制策に限られる。
 年金財政を安定させるオプション(選択肢)として厚生労働省は(1)デフレ期のマクロ経済スライド(2)非正規労働者などへの厚生年金の適用拡大(3)国民年金の45年加入制度(現行の20~59歳に加え、60~64歳も国民年金に加入する)の導入――の効果を推計し、いずれも財政安定効果があることが確認された。
 (1)のマクロ経済スライドは現在、インフレ期しか発動されず、デフレになると給付水準は相対的に高止まりし、その財政のツケは将来世代が担う。デフレ期にマクロ経済スライドが発動されると、たとえば1%のデフレ経済では、年金額は1%引き下げられ、さらにマクロ経済スライドによって追加で1%程度引き下げられることになる。厳しいが、世代間の公平性を改善するためには必要である。
 (2)は拡大規模が220万人と1200万人のケースがある。後者なら年金加入者に占める国民年金(1号)加入者の割合は23%から11%に低下する。1号の保険料は定額負担で逆進性の問題があり、未納率も高い。適用拡大は非正規労働者も所得に応じて保険料を支払うことになり、制度的に望ましく、国民会議の指摘に応えることにもなる。
 (3)の45年加入の評価は難しい点もある。現在、60~64歳の被用者の多くは厚生年金に加入しており、保険料負担の点であまり影響はない。表面的な変化は1号被保険者も60~64歳の間、加入するという点であるが、国民年金の任意加入制度の新設とみれば、それほどの効果はない。
 これが強制加入となり、基礎年金の計算対象期間になれば財政効果は複雑になる。基礎年金財政には国民年金と厚生年金から、基礎年金拠出金という、加入数に案分比例した財政負担が投入されている。60~64歳がその計算対象に加わることになる。
 ケースE(デフレ期のマクロスライドなし)を用いて現行制度での予測と比較すると、45年加入により、厚生年金の支出に占める基礎年金拠出金の割合は高まる。他方、厚生年金財政の収入は変化せず、報酬比例部分のマクロスライド期間が1年ほど長期化することになる。
 60~64歳の加入者の増加が見込まれる分だけ国民年金の財政は改善し、マクロスライドは短縮されて基礎年金の水準は回復する。他方、基礎年金の2分の1を賄う国庫負担額も、基礎年金期間が増えることで40年以降、13~15%ほど増えることになる。
 このように45年加入は国民会議が指摘したマクロスライドによる基礎年金の低下の防止策としては有効であるが、自営業者らの60~64歳の未納率が上昇するおそれがあるほか、追加的な国庫負担が必要になるという課題もある。
 基礎年金と報酬比例年金からなる現在の2階建て年金制度の原型は85年の改革で構築されたフレームである。マクロ経済スライドはその形を保ちながら財政規模や給付水準を小さくする効果をもたらした。しかし肝心な基礎年金の水準低下が大きすぎて年金としての機能を失いつつある。
 85年フレームを維持しながら、国民会議が指摘した「基礎年金の水準が低下し続ける」という懸念に応えるのならば、45年加入は有力な改革の選択肢になる。しかし、高所得の年金生活者に対する基礎年金国庫負担分の給付抑制など、ほかにも検討すべき選択肢はある。非正規労働者への適用拡大の徹底や、低所得の高齢者向けの年金生活者支援給付金も組み合わせたうえで年金制度を眺めると、85年フレームの形は次第に変化することになるであろう。
 このほかオプションとしては明示されていないが、基準になる支給開始年齢の引き上げも検討すべきであろう。Gのような厳しいケースでは65歳で代替率の50%割れが発生する。しかし、66歳まで支給開始年齢を引き上げれば、50%の確保は可能になる。開始年齢の引き上げは社会全体の支え手の増加を意味し、医療保険、介護保険の財政改善効果も期待できる。高齢者雇用の改革を伴うため、長い準備期間が必要であり、早めに議論を始めなければならない。
 年金制度は社会・経済の変化に応じて調整や手直しが必要になる生き物である。制度の連続性を維持しながら、他方で、社会経済の変化に対応した柔軟な制度見直しも必要である。国民の反発が厳しいからといって財政の健康診断を軽視し、改革を先送りすれば、改革の選択肢はどんどん減少する。必要な時に必要な改革を断行すべきである。政治の近視眼的行動こそが年金制度の最大のリスクである。
〈ポイント〉
○年金財政は直ちに破綻しないが安心できず
○慎重な想定に基づき支出抑制策の検討急げ
○国民年金の45年加入は将来の国庫負担増も
こまむら・こうへい 64年生まれ。慶大院博士課程単位取得退学。専門は社会保障

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140622&ng=DGKDASDF1600C_W4A610C1NN1000 (日経新聞 2014.6.22) 
「高齢者は70歳から」になれば… 年金・雇用改革を後押し
 いつから65歳以上を高齢者と定義するようになったのだろうか。国連経済社会理事会が1956年にまとめた報告書に由来するとされるが、世界保健機関(WHO)は「国連に標準的な数値基準があるわけではない」という。あれ?だったらいっそのこと「高齢者は70歳以上」という日本独自の基準をつくってしまってはどうか。政府の「選択する未来」委員会もいまの15~64歳という生産年齢人口の定義を「70歳まで」に変えるよう提言した。日本は世界最速で高齢化が進んでいる。注目したいのは、65歳時点の平均余命だ。男性の場合、2012年の18.9年から60年にかけて22.3年、女性は23.8年から27.7年まで延びる。国連の報告書とほぼ同じ時期の55年時点の男性の平均余命は約12年。平均して余命10年あまりを高齢者として迎える期間と考えると、平均余命の延伸にあわせて高齢者入りする年齢を引きあげるのは一理ある。高齢者の体力は向上している。意識も変わった。内閣府が団塊世代に「何歳から高齢者か」と尋ねたところ、「70歳以上の年齢」とこたえた人が約8割を占めたという。高齢者の定義を70歳以上に変えれば、生産年齢人口の厚みは増す。たとえば、生産年齢人口を15~69歳とした場合、40年時点で900万人近くも潜在的な働き手が増える。もちろん60代後半がもっと働いても総人口の減少は止まらないが、工夫しだいで企業にとっては人手不足を和らげる貴重な戦力となる。ポイントは70歳まで働き続けられる環境をいかにつくるかだ。身体機能の低下にあわせて短時間勤務がしやすい働き方や、年功的な賃金体系の見直しも必要だろう。社会保障にも好影響が見込める。高齢者の就業率の高い地域ほど医療費は小さく、元気に働く60代が増えれば医療費の伸びも抑えやすくなる。60代後半が年金をもらう側から保険料をおさめる側にまわれば、年金財政の悪化を緩和できる。年金生活に入る時期を遅らせると個人にも利点はある。みずほ総合研究所の堀江奈保子氏が標準世帯を想定して試算したところ、いまの年金制度の下でも年金の支給開始時期を70歳に繰り下げた場合、65歳を選んだ場合よりも82歳時点で年金受取総額が上回る。その差は90歳まで生きると600万円超になる。「70歳まで現役」という目標を社会で共有できれば、年金や医療、雇用の抜本改革への突破口になる。岩田克彦・国立教育政策研究所フェローは「68歳から70歳程度までの年金支給開始年齢引き上げは不可避」と語る。「75歳まで働いて」とスウェーデンのラインフェルト首相が唱えたのが3年以上前。オーストラリアは最近、70歳まで年金支給開始年齢を引き上げる改革を打ち出すなど、海外の動きは急だ。「70歳まで働ける企業の実現」は、06年当時の小泉純一郎政権で官房長官だった安倍晋三首相が主導した再チャレンジ推進会議が提言した。首相がこの課題に再チャレンジする価値はある。

<政府の医療・介護保険改革>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140617&ng=DGKDZO72807950W4A610C1KE8000 (日経新聞 2014.6.17) 点検・社会保障(3) 高まる公的負担の役割
 社会保障には、年金や医療、介護のように被保険者が納める保険料を財源として給付が行われる社会保険の性格をもつものがある。他方、生活保護のように、公的負担(国及び地方公共団体)により給付されるものもある。前者については、保険料収入だけでなく、公的負担にも依存しているが、給付の増加に対応する形で、保険料率の引き上げが行われている。もっとも、保険料のベースとなる給与の低迷などを背景に保険料収入は伸び悩んでいる。こうしたなか、年金や医療、介護の財源として、公的負担が果たす役割は大きくなっている。2011年度の社会保障給付費全体でみると、公的負担は43.5兆円に達しており、財源の4割近くを占めている。09年度には、長期的な給付と負担の均衡を図り、年金制度を持続可能なものとすることを目的に、基礎年金部分の国庫負担割合は2分の1に引き上げられた。しかし、その安定的な財源を確保することができなかったことから、12年度と13年度には年金特例国債(各2.6兆円)を発行することとなった。このように公的負担の増加は政府支出の増加を通じて、財政赤字を拡大させる一因となっている。社会保障給付の財源を確保するために、今後も保険料率を引き上げ続けることも考えられる。しかし、今後、減少すると見込まれる現役世代に負担の多くを依存する形で制度を維持することには限界があろう。増加が続く社会保障給付の安定財源をいかにして確保するかが課題となっている。

*2-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140618-00000054-asahi-pol
(朝日新聞 2014年6月18日) 介護保険利用者に厳しい大改正 医療・介護改革法成立
 高齢化がピークを迎える「2025年問題」を見据え、医療・介護制度を一体で改革する「地域医療・介護推進法」が18日、成立した。患者や要介護者の急増で制度がもたなくなる恐れがあり、サービスや負担を大きく見直す。とりわけ介護保険は、高齢者の自己負担引き上げなど制度ができて以来の大改正で、「負担増・給付縮小」の厳しい中身が並ぶ。人口減と高齢化が同時に進む日本。医療・介護制度は、高齢者の急増、支え手世代の減少、財政難の「三重苦」に直面する。厚生労働省によると、25年には医療給付費がいまの37兆円から54兆円に、介護給付費は10兆円から21兆円に膨らむ。病院にかかれない高齢患者があふれ、介護保険料は負担の限界を超えて高騰。そんな近未来の予測が現実味を帯びている。サービスを提供する人手の不足も深刻だ。こうしたなかで保険財政立て直しを目指す介護保険分野は、利用者の痛みにつながるメニューが目立つ。負担面では、一定の所得(年金収入なら年280万円以上)がある人の自己負担割合を1割から2割に上げる。低所得者の保険料を軽減する一方、高所得者は上乗せする。高齢者にも支払い能力に応じて負担を求める方向が鮮明だ。

<政府の株価操作>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140616&ng=DGKDASGD1204T_S4A610C1PE8000 (日経新聞 2014.6.16) 動く巨象GPIF(1)株価こそ政権の命綱
 「成長のエンジンとするための具体策を打ち出していく」。5日、ベルギーのブリュッセルで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)。首相の安倍晋三(59)は議長役の英首相のキャメロン(47)から経済問題の最初の発言者に指名され、成長戦略を説明した。安倍が具体策の柱としてあげたのは、自身が旗を振る法人実効税率の引き下げと、約130兆円の国民の年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革だ。6月中にまとめる新しい成長戦略への自信をアピールした。
  □   □
 サミットへの出発を控えた3日、安倍は首相官邸で厚生労働相の田村憲久(49)に年内を予定していたGPIFの基本構成の見直しを9~10月に前倒しするよう指示した。同日、GPIF運用委員長に就任して以来、市場の注目を集めていた早大教授の米沢康博(63)がインタビューで、日本株の比率を引き上げる意向を示したと伝えられ、日経平均株価は1万5000円台を回復した。「GPIFの話ってこんなに関心があるんだね」。安倍は周囲にこう漏らしている。世界最大級の機関投資家であるGPIF。巨象が少し動いただけでも、周囲は大きく揺れ動く。4月、資産運用業界に衝撃が走った。GPIFが日本株の運用委託を見直し、大半の国内運用会社との契約を解除。日本株運用にもかかわらず、外資系運用会社が10社と委託先の7割を占めることが決まったためだ。「公的年金がこれほど思い切った選抜に踏み切るとは」。米ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズの日本代表、ジョン・アルカイヤ(58)は採用されたことを喜びつつ、カタカナの社名が並ぶ委託先リストを見て目を丸くした。公的年金の運用改革は実は2度目だ。最初は1995年。当時は年金福祉事業団だったGPIFが、信託銀行と生命保険会社に「お任せ」の運用を見直し、日本株や海外株に特化した投資顧問会社を初めて採用した。当時を知るアルカイヤは、GPIFの「名付け親」でもある。2001年、米モルガン・スタンレー資産運用子会社の日本法人社長だったアルカイヤに政府関係者が英語名を相談。「分かりやすい名称がいい。ガバメント・ペンション・インベストメント・ファンドでどうか」と即答した。「(国内勢中心の)ホームカントリーバイアスを断ち切り、世界で最も強い会社を選ぶようになった」。アルカイヤの目には今回の改革は真剣だと映る。GPIFは初めから外資系優位を想定していたわけではない。13年4月に運用委託を公募すると、国内外の約60社が名乗りをあげ、約1年にわたる選考過程が始まった。運用部長の陣場隆(54)は当初「日本株運用だから国内勢が多くなる」と予想していた。GPIFには譲れない一線がある。「唯一の使命は運用で国民の年金を増やすこと」。選考が進むにつれて、運用成績がぱっとしない国内勢は姿を消す。海外勢は「独自の運用スタイルを守り、日本株投資で優秀な成績をあげている」。シカゴ、テキサス、シンガポール……。世界の運用会社を訪問し、面談を繰り返した陣場は痛感した。
  □   □
 「有識者会議で改善を求められている状況ではあるが、我々がさぼってきたわけではないことを理解いただきたい」。GPIFの運用戦略を練る調査室長の清水時彦(51)は14年4月、金融関連のセミナーで聴衆にこう訴えた。政策研究大学院大教授の伊藤隆敏(63)が座長を務める公的年金改革の有識者会議は13年11月に報告書を公表。国債中心の運用の見直しを筆頭に改革案を提示した。株式運用では東証株価指数(TOPIX)のみだった運用指標(ベンチマーク)を多様化し、新しい指数の採用を求めた。「運用効率を上げるにはTOPIX偏重を脱するしかない」。有識者会議の提言を待つまでもなく、GPIF内部では清水を中心に議論を重ねていた。13年7月に外部に調査を依頼。14年4月、資本効率に着目した「JPX日経インデックス400」を含む新指数に沿った運用を開始した。内なる改革を上回る規模とスピードで、政治からの圧力が押し寄せる。株価を命綱とする安倍政権にとって、株式比率の引き上げを柱とするGPIF改革は成長戦略の目玉だ。しかし年金運用という本来の目的を外れ、目先の株価対策に使われるなら、将来に禍根を残すことになりかねない。
    ◇
 運用改革が大詰めを迎えたGPIF。市場がその一挙手一投足を固唾をのんで見守る世界最大の公的年金の動きを追う。(敬称略)

*3-2:http://www.nikkei.com/money/column/teiryu.aspx?g=DGXNMSFK1303W_13062014000000 (日経新聞 2014.6.16) 
マネー底流潮流フォローする 「官製相場」のにおい、気迷う株式市場
 前週末の日経平均株価は1万5000円台でほぼ高値引け。米国株は週半ばから軟調、円相場も底堅く、外部環境が良好とはいえない中での堅調ぶりだった。成長戦略の発表を前に、市場では「株内閣」と呼ばれる安倍政権がどんな株高カードを切ってくるのか、それとも空砲で終わるのか、見極めるまでは売れないというムードが広がっていた。一方、日経平均を1万4000円から1万5000円に押し上げたのは公的マネーとの見方が強く、足元の堅調さを素直に評価していいものか、疑心暗鬼の市場参加者もいる。政府の成長戦略やイラク情勢・原油価格の動向をにらみながら、今は静かな海外勢が次にどんな動きを見せるかが、今後の相場の方向性を決めそうだ。
■信託銀行、異例の買い上がり
 「今日も信託銀行のバスケット買い。地球防衛軍の出動ですよ」。米国株安などを受けて安寄りした後、午後に急速に切り返した前週末。ある証券会社のベテランは相場の底堅さの理由について、そんな解説をしていた。日経平均は一時1万4000円割れした5月19日からほぼ一本調子で上昇し、6月3日に1万5000円を回復した。外部環境に大きな変化が見られないなかで、この間、一貫して買い手となって上げ相場を主導したのは信託銀行だった。東証発表の投資主体別売買動向によると、信託銀行は5月第1週に買い越しに転じ、第4週(買越額1781億円)から第5週(2499億円)、6月第1週(1112億円)と3週連続で大幅に買い越した。信託銀行の買越額が3週以上続いて1000億円を上回ったのは、2011年8月(第4週から4週連続)以来ほぼ3年ぶり。それだけでも目を引くが、何より異例なのがその買い方だった。通常、公的年金や企業年金などの運用資産を預かる信託銀行は、相場が下がると買って、上がると売るという逆張り型の売買が中心。過去に大きく買い越したのも、リーマン危機時の08~09年など、例外なく相場の下落局面だった。ところが今回、信託銀行は日経平均が1万5000円を回復する過程で買い上がってきた。
■買い手は共済3兄弟か、GPIFか
 信託銀行のその先にいる投資家は誰だったのか――。市場では国家公務員共済組合(KKR)、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済の「共済3兄弟」という見方がもっぱらだ。15年10月に予定される3共済と厚生年金との年金一元化を前に、3共済は資産構成の比率も、厚生年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と横並びの水準に変更する見通し。資産に占める日本株の比率(12年度末時点)はKKR(6.8%)、地方公務員共済(13%)、私学共済(10.5%)と、3共済ともGPIF(14.6%)を下回る。大和証券の熊沢伸悟ストラテジストは「確かなことはわからないが、3共済が株式の比率を上げるためにリバランスを実施した可能性がある」と指摘する。一方、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長が唱えるのは「GPIF説」だ。「本来なら基本ポートフォリオの見直しに伴うリバランスはまだ先の話だが、(資産規模が巨大で)急には比率を変えられないため、徐々に株式を買い増し始めているのではないか」という。そういえば、前週は債券市場でGPIFからとみられる大口の国債売りが出て、ひとしきり話題になっていた。このほか、「PKO(株価維持策)ほど露骨ではないが、安倍内閣の思いに配慮してゆうちょ銀行や企業年金連合会なども動いているのでは」(国内運用会社)との声も。真相はやぶの中だが、「安倍内閣は株価を政権維持の重要指標とみているし、演出も上手」(矢嶋康次ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト)といわれるだけに、市場には様々な臆測が飛び交いやすい。誰が買っているにせよ、市場参加者が気になるのは相場の持続性だ。何やら「官製」のにおいがする相場をどこまで信じていいのか、どこまで相場に乗っていいものやらと、市場には気迷いムードも漂っている。仮に共済3兄弟のリバランスがあったとしても、それは一時のこと。国民の資産を預かる公的年金が、相場を買い上がるような買い方を今後も続けるとは思えない。
■カギは海外勢の成長戦略評価
 需給面でここから上を買う可能性がある投資主体は限られそうだ。まず、昨年末の高値の信用期日が間もなく明けて、身動きが軽くなりそうな信用取引の個人。ただ、信用の個人に単独で相場全体を押し上げる力があるわけではない。日経平均が次の目標である1万6000円を目指すには、やはり海外投資家の力に頼るほかない。その海外勢は6月第1週に大きく買い越したが、熊沢氏によると「動いたのは先物を売買するCTA(商品投資顧問)など超短期の投資家。現物株は先物高に伴う裁定取引で買われた面が強い」。グローバル・マクロなどのヘッジファンドや、ロングオンリーと呼ばれる海外年金などに動きはほとんど見られないという。当面、中長期で投資する海外勢が日本株を見直すきっかけになりそうな国内の材料は、安倍内閣の成長戦略しか見当たらない。「成長戦略に対する海外投資家の評価が、相場の今後を占う最大の注目点」との見方が市場のコンセンサスになっている。一方、海外要因として急速に警戒感が強まってきたのがイラク情勢だ。今では石油輸出国機構(OPEC)で第2の産油国となったイラクの混乱は「世界経済に与える影響はウクライナよりはるかに大きい」(藤戸氏)。どれだけ事態が拡大するか、早期に収束するかはわからないが、ヘッジファンドはこれを収益機会にしようと虎視たんたんのはず。すでに米原油先物市場で売買が活発になるなど、イラク情勢の緊迫を機に、しばらく静かだった世界のマーケットが再び動き出す兆しもある。どうやら、公的マネーの動きやサッカーのワールドカップばかりに気を取られてはいられないようだ。ボラティリティー(変動率)の低さに安穏としていた市場が虚を突かれるとき、ショックは意外に大きくなりかねないことにも留意が必要だ。

<本物の利益率上昇と株価上昇を妨げているものは何か>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11222012.html?iref=comtop_pickup_03 (朝日新聞 2014年7月3日) STAP、5カ月で幕 論文撤回 小保方氏、検証に参加
 STAP細胞の論文が2日、英科学誌ネイチャーから撤回され、その発見は発表から約5カ月で根拠を完全に失った。しかし、理化学研究所は、STAP細胞の存在を確認する検証実験を続けており、7月からは、撤回された論文の筆頭著者である小保方晴子ユニットリーダーが参加する事態になっている。論文の撤回で、STAP細胞は仮説のひとつになったが、小保方氏はその存在を主張している。「ないというには本人が参加して、どうしても再現できませんでしたねというまでやることが最善」。理研発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)の相沢慎一・実験総括責任者は2日の会見で、「論文を撤回するのに検証実験をする意味があるのか」との問いにこう答えた。撤回に抵抗していた小保方氏が一転、共著者の求めに応じて撤回への同意書に署名したのは6月3日。小保方氏の代理人を務める弁護士は「応じなければ懲戒解雇され、検証実験に参加したくてもできなくなるかもしれないという重圧があった」と説明していた。ただ、STAP細胞には別の万能細胞のES細胞ではないかとの疑義も出ており、小保方氏の参加には批判もある。大阪大学の篠原彰教授(分子生物学)は「小保方氏が疑義に対して何ら説明をしない段階で参加させるべきではない。不正があっても後から確認できればよいという誤ったメッセージを発することになる」と語る。山本正幸・基礎生物学研究所所長(分子生物学)は「論文が撤回されても、研究過程で何が起きていたのかを明らかにする必要がある」と指摘する。
■第三者立ち会い/24時間監視
 CDBが始めたSTAP細胞の存在の有無を検証する実験に参加するため、小保方晴子ユニットリーダーが2日、出勤した。CDBは同日、実験の手順を公表。第三者が立ち会い、2台のカメラで24時間、実験室を監視する。実験室の出入りは電子カードで管理し、細胞の培養機器には鍵をかける。今週中には、実験室の改修を終える見通しだという。CDBによると、小保方氏の検証実験は、丹羽仁史・プロジェクトリーダーらの検証チームが4月から進めている実験とは分けて、別の建物で実施する。CDBが提供したマウスを使って細胞を酸につけ、STAP細胞とされる細胞を作製する段階まで、小保方氏が1人で実験する。作製した細胞をマウスの胚に注入して、万能細胞かどうかを確かめる実験は、技術をもつ別の研究者が担当する。酸につけた細胞に万能性を示す遺伝子の働きがみられない場合、期限に定めた11月末よりも早く、検証を終了する可能性もあるという。万能性が部分的に確認できた場合には、期限の延長を検討する。
■iPS臨床研究、「中止も」投稿 理研・高橋リーダー、即日否定
 iPS細胞を使った世界初の臨床研究について、CDBの高橋政代プロジェクトリーダーは2日、「まだ始まっていない患者さんの治療については中止も含めて検討いたします」と簡易投稿サイト「ツイッター」に投稿した。投稿による混乱を受け、高橋氏は同日夜、「中止の方向で考えているのではない」と否定するコメントを発表した。「慎重にならざるを得ないというのが真意」だったという。高橋氏らの臨床研究は、加齢黄斑変性の患者にiPS細胞で作った網膜の細胞を移植するもの。昨年7月に厚生労働省が承認し、早ければ今夏にも1例目の移植が始まる予定になっている。
◆キーワード
<ネイチャー> 1869年に創刊され、世界的に権威のある科学雑誌の一つ。毎週木曜日に発行される。学術論文のほかに、解説記事やニュース、科学者によるコラムなどもある。掲載される論文は同誌の編集者と各分野の専門家によって審査され、年に約1万本の投稿論文のうち1割以下しか掲載されない。そのため、掲載は研究者にとって高い業績と評価される。

*4-2:http://qbiz.jp/article/41605/1/
(西日本新聞 2014年7月9日) 航空バイオ燃料、20年実現を 日航、ユーグレナなど工程表
 日本航空や全日本空輸、米ボーイング、東京大学などが参加する組織「次世代航空機燃料イニシアティブ」は9日、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に減らすバイオ燃料の2020年の実用化を目指すと発表した。各社が共同で工程表の策定を始めた。来年4月までの取りまとめを目指す。バイオ燃料の開発や普及は世界各地で進められている。日本では33の企業・団体による「次世代航空機燃料イニシアティブ」が5月に発足。工程表はこの組織が中心となって策定する。国交省もオブザーバーとして参加している。日本はバイオ燃料のトウモロコシなどの国内での調達が難しく、家庭ごみなどを原料にする。この組織には、バイオ燃料に使うミドリムシの培養を進め、佐賀市とも共同研究の契約を交わしているユーグレナ(東京)も参加している。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140625&ng=DGKDASFS2403G_U4A620C1EE8000 (日経新聞 2014.6.25) 
川内原発、再稼働は秋以降、九電、申請書を再提出 電力需給、西日本で厳しく
 九州電力は24日、川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)の再稼働の前提になる審査の申請書を原子力規制委員会に再提出した。申請書の記載ミスで時間を費やしたことが響き、再稼働は秋以降にずれ込むのが確実。1965年以来ほぼ半世紀ぶりに電力需要が最も多い8月に国内で原発が1基も動かないことになり、原発依存度が高い西日本で特に需給は厳しくなる。規制委には現在、9電力会社が12原発19基の審査を申請済み。このうち川内原発は3月に規制委から優先審査の対象に選ばれており、再稼働の第1号になるのが確実だ。ただし審査に最終合格するには、規制委からの指摘事項を踏まえ、まず電力会社が3種類の申請書を提出する必要がある。九電が24日に提出したのは、このうち安全対策の大枠を記した「設計の基本方針」の申請書。九電は4月末に一度提出したが、規制委から42件の記載ミスを指摘され、再提出を求められていた。当初、九電は5月末に再提出できるという見通しを示していたが、規制委から追加確認を求められるなどで修正が申請書全体に広がり、分量が7200ページから8600ページへと膨らんだ。手続きの日程も当初予定から2カ月ほどずれ込んだ形だ。再提出を受けて規制委は今後、合格証明書にあたる「審査書案」づくりの詰めの作業に入る。審査書案ができあがるのは現状では7月上~中旬ごろの見通し。その後、1カ月かけて意見を募るので、審査書がまとまるのは8月下旬ごろにまでずれ込みそう。9月中の再稼働もギリギリの状況で、10月にずれ込む公算が大きくなっている。電力需要は例年8月にピークを迎える。川内原発の審査が長引いたことで今夏は原発が1基も動かない見通しだ。九州電力と、川内再稼働後の九電からの電力融通をあて込んでいた関電の管内で電力需給が厳しくなる。昨夏は動いていた関電大飯原発(福井県)は昨年9月から定期検査で運転を停止。さらに九電管内では大型火力が今夏、事故でフル稼働できなくなった。電力需要に対する供給余力をあらわす「予備率」は関電が1.8%、九電が1.3%。安定供給に最低限必要とされる3%を下回る。自前で十分な電力を確保できない関電と九電は東京電力から計58万キロワットの融通を受けることになった。震災後初となる大規模な融通により、関電と九電の予備率はぎりぎり3%に達する。それでも西日本全体の予備率も3.4%と昨年の5.9%を大きく下回る。電力各社は原発のかわりに火力をフル稼働させている。ただ運転40年超の老朽火力の比率は火力全体の26%に達し、事故による火力の停止件数は震災前から16%増えている。西日本は100万キロワット級の火力が停止すれば供給不足に陥る。安定供給に不安を抱えたまま夏を迎える。


PS(2014.7.14追加):*5のように、年金受給者の立場から記載された記事は少ないが、私が衆議院議員をしている間に地元(佐賀三区)を廻った時、「船賃が払えないので病院に行けない(離島)」「もらっている年金の金額は月に3万円くらいで、家のまわりに畑を作って食べている(一人暮らし)」「孫が来たとき以外はクーラーをつけない」などの声があった。そのため、多くの年金受給者にはこちらが実態だと思うが、「老人は金持ちだから」という理由で、このような政策が押し進められた。私は、このような政策を押し進める政治家や官僚は、見ている相手や住んでいる世界が、狭くて特殊なのだと考える。

*5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11241558.html (朝日新聞 2014年7月14日) (報われぬ国 負担増の先に)老い、振り向かぬ国 番外編・年金の将来を考える
 「報われぬ国」では、わたしたちの老後は安心なのかを取材しています。その老後を支える一つが年金です。厚生労働省は6月、将来の年金がどうなるかという見通しを発表しましたが、年金はさらに減り、くらしは厳しさを増します。今回は「番外編」として、高齢者のくらしの現場から年金の将来を考えました。
■持病の悪化で家賃払えず
 群馬県でひとり暮らしをする男性(71)は4月、アパートの家主から「家賃をこれ以上滞納したら出ていってもらう」と通告された。それまでに家賃2カ月分の約5万4千円を払っていなかったからだ。2月に持病の糖尿病が悪化し、入院費用がかかってしまった。アパートの契約更新の支払いも重なり、合わせて7万円を特別に出費しなければならず、家賃が払えなくなった。年金は月に約8万9千円もらっている。ここから、家賃を約2万7千円、光熱費を1万円余り、かつて滞納した分を含めた国民健康保険料と介護保険料を合わせて1万円払う。残った生活費は4万円ほど。糖尿病の治療のために病院に週4回通う費用も出さなければならず、生活はぎりぎりだ。食事はできるだけパンと牛乳ですませる。ご飯を炊くときはレトルトのカレーやハヤシライスをかける。まともな食事は月に1回、群馬県内に住む姉が来てつくってくれるときだけだ。「病気がなければやっていけるかもしれないが、そろそろ生活保護を考えてもいい」。数年前に男性の借金を整理してから相談に乗っている司法書士の仲道宗弘(むねひろ)さんはこう感じる。生活保護を受ければ、生活保護で定められた支給水準と年金の差額をもらえるので、年金と合わせて月に10万円前後を受け取れる。さらに通院などの医療費、国保や介護保険の保険料支払いも免除される。男性はトラック運転手として30年近く働き、厚生年金の保険料も払ってきた。その後に独立してからも余裕のあるときは国民年金の保険料を払った。その積み重ねでもらえる年金は、年に約107万円しかない。だが、これは特別に低いわけではない。厚労省が2010~11年に調べたところ、働いていない年金生活者の年収は100万円以下が49%を占める。150万円以下になると、63%にものぼる。このため、年金だけでは暮らせず、生活保護を受ける人は多い。厚労省の11年の調べでは、65歳以上の高齢者で生活保護を受けるのは約64万世帯あり、このうち年金をもらっている高齢者は約37万世帯にのぼる。今年3月には生活保護を受ける高齢者は約74万世帯にふくらみ、生活保護を受ける世帯の半分近くを占める。この3年で高齢者世帯は19%増え、高齢者以外は3%しか増えていない。
■リストラされ狂った人生
 60~70代には、働いていたころにリストラされ、人生設計が狂った人も多い。北関東に住む60代男性は00年代半ばにリストラで会社を辞め、マイホームを手放した。いまは妻と娘と借家で暮らす。マイホームは40代後半のころ、約3千万円の一戸建て住宅を25年ローンで買った。当時は会社も順調でリストラされるとは想像もしなかったが、会社を辞めた途端に行き詰まった。追い打ちをかけたのが、市役所からの請求だ。リストラで家の固定資産税と家族3人の国民健康保険料を滞納していたため、合わせて約50万円の滞納分の支払いを求められた。滞納分には年14・6%(今年から9・2%)の延滞金が加わり、このほかに通常の国保料が月に1万数千円かかる。滞納分と国保料を合わせて月に4万円払わなければならない。男性は「延滞金がかかるので、なかなか滞納分が減っていかない。妻と相談し、無理してでも返そうと思っている」と話す。いまは仕事を二つかけ持ちして月15万円ほど稼ぐ。加えて、厚生年金の一部である「報酬比例部分」が出ているので、それを月7万円ほど受け取る。合わせて月22万円ほどの収入から、6万円の家賃と滞納分や国保料などの4万円をなんとか払う。心配なのは将来だ。65歳から「基礎年金」も受け取れるが、会社を辞めた後に国民年金の保険料を払う余裕がなかったため、月6万円に満たない。逆に65歳になれば仕事の一つは定年になり、もう一つもいつまで働けるかわからない。合わせて月13万円ほどの年金に頼るだけの生活になったとき、家賃や国保料などを払いながら暮らせるのか。この先の人生設計は立っていない。
■制度維持のための「マクロ経済スライド」
 将来の年金はもっと厳しい。厚労省は6月、将来の年金がどうなるかの試算を発表した。安倍政権の成長戦略がうまくいく場合からうまくいかない場合まで8シナリオを示している。このシナリオでわかるのは、たとえ経済成長して現役世代の賃金が上がっても、年金額はそれに追いつけず、高齢者は置き去りにされるという事実だ。厚労省のモデルでは、14年度は現役サラリーマンの手取り月収を平均約34万8千円として、サラリーマンが入る厚生年金は月に平均約21万8千円(夫婦2人分)になっている。現役の月収に対する年金額(代替率)は62・7%の水準だ。試算では、成長戦略が最もうまくいく「ケースA」の場合、30年後の44年度に現役の月収が59万円、年金が月に30万1千円になる。なぜ金額が増えているかというと、物価が年2・0%上がり、現役の賃金が物価より年2・3%上回って伸びる計算だからだ。だが、現役の月収に対する代替率は50・9%に下がる。わかりやすくするため、代替率を使って年金額を14年度の賃金水準に置き換えると、約17万7千円だ。いまの約21万8千円から約2割も下がる。成長戦略がうまくいかない場合の「ケースH」では、55年度に代替率が30%台まで下がる。14年度の賃金水準に置き換えると、13万6千円まで落ち込む。なぜ成長していても年金だけが置き去りにされるのか。これは「マクロ経済スライド」という仕組みを使うからだ。年金を受け取り始める時点で、保険料を払った時より賃金水準が高くなっていても、支給額の引き上げを抑制する。この仕組みを使うのは、年金保険料を払う現役世代が減るため、年金支給額を抑えていまの年金制度を維持しようと考えているからだ。厚労省はこれで100年後も1年間分の年金積立金は確保できるという。安倍政権と日本銀行は物価上昇率を「年2%」にする目標をたてている。だが、年金受給者はこれから物価の上昇からも取り残され、生活は厳しさを増す。さらに、今後は貯蓄が少ない低所得の人たちが増え、非正規で年金保険料を払っていない人も多い。このままでは年金で暮らせるのはゆとりがある人たちで、生活保護に頼らざるを得ない高齢者が増える。厚労省の年金財政は維持できても代わりに生活保護費がふくらむばかりで、低所得者向けを中心に年金のあり方を見直す必要がある。
◇「報われぬ国」は原則として月曜日朝刊で連載します。今回は番外編ですが、第2部の「福祉利権」を今後も続けます。ご意見をメール(keizai@asahi.com)にお寄せください。


PS(2014.7.16追加):*6のように、核家族化が進んで老老介護が増えているため、介護を配偶者だけでこなすのは困難だ。また、最後に残った人には介護する人がおらず、これらは女性であることが多い。つまり、現在の介護サービスのさらなる削減は論外なのである。

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140716&ng=DGKDASDG15H0Q_V10C14A7EA2000
(日経新聞 2014.7.16) 「老老介護」5割超す 厚労省13年調査、急速な高齢化浮き彫り
 介護が必要な65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、介護する人も65歳以上である「老老介護」の世帯の割合が51.2%に達し、初めて5割を超えたことが15日、厚生労働省がまとめた2013年の国民生活基礎調査で分かった。急速な高齢化の進展が改めて浮き彫りになった。調査結果によると、介護保険法で要介護認定された人と、介護する同居人が共に65歳以上の高齢者である老老介護世帯は、10年の前回調査から5.3ポイント増の51.2%となり、01年の調査開始以来、最高となった。介護が必要になった原因のトップは脳卒中で、認知症、高齢による衰弱が続いた。団塊世代の約半数が65歳以上になっていることから、老老介護の世帯は今後も増加が見込まれるとともに、同世帯の高齢化も、より進むとみられる。介護を担う人については、同居する家族が61.6%で前回調査から2.5ポイント低下し、事業者が14.8%で同1.5ポイント増えた。介護する人の約7割は女性で、性別の偏りが見られた。続柄では配偶者、子が共に2割を超え、子の配偶者が約1割だった。介護している人の悩みやストレスの原因を聞いたところ、「家族の病気や介護」を上げる人が最多で、「収入・家計・借金など」や「自由にできる時間がない」を回答する人も目立った。厚労省は「少子化対策とともに高齢者世帯への対策も重要になってくる」と指摘。介護を担っている配偶者や子など家族へのサポートも含めた体制整備が課題となりそうだ。一方、全国の世帯総数は13年6月現在で5011万2千世帯だった。このうち65歳以上の高齢者だけか高齢者と18歳未満の子供だけの「高齢者世帯」は過去最多の1161万4千世帯で世帯総
数の約4分の1を占めた。65歳以上の高齢者が1人でもいる世帯は、2242万世帯で、世帯総数の半数近くに達した。調査は13年6月に全国の世帯から約30万世帯を無作為抽出して実施した。介護の状況は、原則自宅で介護されている約6300人の家族から、世帯の人員構成については約23万4300世帯からの回答から推計した。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 03:18 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.5.5 「高齢者に手厚い予算」を「少子化対策」にというのは大きな考え違いであり、公的年金は、契約どおり支払われるべきである。(2014年5月6日、13日、18日に追加あり)
   
日本の人口推移     *1-1より   GDP成長率推移  日本の公債残高推移

(1)高齢者から子育て世代への予算移転のための屁理屈がすぎる
 *1のように、「①このままでは日本の人口が2060年(50年後)に約8600万人まで減る見通しであるため、2020年ごろまで集中的に対策を進めて、人口減少に歯止めをかけ、2060年代にも人口1億人程度を維持する中長期の国家目標を日本政府が設ける」という論調は多く、「②そのために、高齢者に手厚い予算配分を現役の子育て世代に移す経済・社会改革を進められるかが課題になる」と続く。

 また、「③1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は12年で1.41。60年に同2.07以上に引き上げ、人口1億545万人程度にすることを目指す」というフレーズも何度も聞いたが、そのため「④出生率の改善のため、資源配分は高齢者から子どもへ大胆に移す」と結論づけるのである。

 さらに、「⑤費用は現在世代で負担」し、「⑥国債発行を前提に高齢者に厚く配分している社会保障予算を見直す考え」ときたのには呆れた。

 そして、これらは、このブログの年金・社会保障のカテゴリーに何度も書いているとおり、高齢者から子育て世代への予算移転という結果ありきの屁理屈であるため、①~⑥について、どこが屁理屈なのかを記載する。
①について
 通常、短期的な視点でしかものを考えない人が、急に50年後を推計したのが下心の証拠だが、推計結果と結論は、やはり高齢者から子育て世代へ予算を移転することだった。そして、その推計の根拠は稚拙だが、日本の人口が50年後に約8600万人まで減ったとしても、それは上のグラフの1950年頃と同程度で、決して少なすぎるわけではない。また、上のグラフのGDP成長率と人口の関係を見れば、人口が急激に増えている最中でもGDP成長率は段階的に下がっており、GDP成長率鈍化の原因は、人口減少ではなく、このブログの2012年5月18日に記載したように、政策が時代に合わず、愚かだったからである。また、GDP成長率の鈍化に伴って、景気対策と称して本質的な改革や投資ではない雇用確保のためのばら撒きに税金が使われた結果、上のグラフのように、団塊の世代が生産年齢人口にあり、人口が増えている期間に、わが国の債務は膨らんだ。

    
 日本の食料自給率推移   主要先進国食料自給率推移     *1-2より

 また、上のグラフの人口と食料自給率の関係を見れば、人口が9000万人程度で、今より農業従事者が多かった1965年でも食料自給率は73%しかなく、人口が1億2774万人の2010年の39%まで、踊り場はあったものの一貫して下がり続けており、世界の人口が激増している中で、わが国は国民を養える国とはとても言えないのである。ちなみに他の先進国の食料自給率は、2005年時点で、アメリカ・フランスが120%以上、ドイツが80%前後、イギリスが75%程度あるにもかかわらず、日本は40%であり、それでも人口を増やしたり維持したりすべきだとは言えない。

②について
 ②には、この記事の目的である「高齢者に手厚い予算配分を現役の子育て世代に移す経済・社会改革を進められるかが課題」という結論が書かれているが、「社会保障は消費税からしか充当してはならない」とか「社会保障は社会保障同士でやりくりしなければならない」と決まっているわけではないため、スウェーデンや以前のイギリスとは異なり、ただでさえ薄い高齢者への予算から移転させなくても、原発等への無駄遣いをやめたり、エネルギー価格を下げて法人税を自然増させたりし、海底資源からも収入を得る体制にすれば、教育や社会保障の原資はできるし、そうすべきである。

③について
 現在は、寿命が延びて2世代ではなく3~4世代が共存しているため、合計特殊出生率が2.07(1960年くらいの合計特殊出生率)では、人口は安定せずに増加している。また、日本の人口1億545万人程度というのも、食料自給率や一人当たりの豊かさから考えると多すぎる。そして、「人口減少で約1800の地方自治体が消滅する可能性が高く、地方で集落消滅の危機」というが、それは、人口集中のひどい大都市から、住みやすい地方への人口移動を促し、そのためには農林漁業を所得の多い産業にしたり、地方に付加価値の高い産業を作ったり、地方都市が教育や文化で大都市に劣らないようにしたりするのが、抜本的解決策である。都会の男女で、豊かな自然や農林業に関心のある人は多いのだから。

④について
 「出生率の改善のため、資源配分は高齢者から子どもへ大胆に移す」などという政策や新聞のキャンペーンは、「高齢者はお荷物で若者の負担になるから、国費を使わず早く死ね。」という人の道に反する考えを持つ人を大量に作り出す。このような人材に仕事を任せても、心のこもった仕事ができるわけがないため、*1-2のような外国人労働者を使った方がよいと判断する企業が多くなるだろう。それも、日本人の補完ではなく、日本人よりも、真面目でよく働き、奉仕の精神を持つ、よりよい労働力としてである。

⑤について
 「費用は現在世代で負担」としているが、これでは、国民は年金に関して二重負担し、管理・運用が杜撰だった年金保険機構は社会保険庁時代の雰囲気のまま温存される。そのため、このブログの2012年12月18日に記載したとおり、国は、速やかに元の積み立て方式に戻して年金債務を確定し、それと現在の積立金との差額は50年くらいで償却すべきだ。

⑥について
 「国債発行を前提に高齢者に厚く配分している社会保障予算を見直す考え」としているのは、年金や医療のことだろうが、どちらも契約に基づいて保険料として支払ってきたものを受け取っているものであるため、国債発行を前提にしなければ支払えなくなったのは、管理者の無計画、杜撰、無責任な管理・運用の結果だ。そのため、積立金が足りなければ、管理・運用を行ってきた国が責任を取るべきであり、保険契約どおり支払ってきた国民に不払いや減額でしわ寄せすべきではない。つまり、契約に基づいて保険料を支払い、高齢時の生活がかかっている年金の需給や医療・介護は、マージャンと異なり、“痛み分け”で解決すべきものではないのだ。

(2)年金資産の管理・運用の杜撰さについて (もともと若者から高齢者への仕送りではない)
 *2-1のように、年金を減額するための新聞記事が後を絶たないが、今の年金のマクロ経済スライドを、2000~2002年度の賃金や物価の下落時に適用しなかったとしても、消費者物価は、この2年間で金融緩和(→円の購買力低下)と消費税増税の影響で25%くらい上がっているため、下落した物価の分はとっくに取り戻しておつりがきている。それを正確に把握せず、年金の支給額を減らしたいためにご都合主義の議論を展開するようでは、高齢者は、憲法で定められた健康で文化的な生活ができない。

 また、「年金の『所得代替率50%』を下限としているのは、何かと物入りな現役世代の半分くらいの収入で生活してもらうというイメージ」だそうだが、食費、消費税、公共料金等の生活費は年齢による区別がない上、高齢になると医療・介護・知人の葬儀など、若い頃とは異なる費用で物入りであるため、現役世代の50%で老後の生活は支えられると考えているのは、年齢による差別である。

 また、このブログの2013.7.19にも書いているように、年金はもともと積み立て方式で始まって自分の年金を積み立てていたにもかかわらず、年金制度開始当初から続いていた旧社会保険庁の管理・運用の杜撰さをカバーするために、知らないうちに賦課方式に変えられていたものである。そのため、高齢者は若い頃にせっせと積み立てた自分の貯金を使って老後を過ごしていると考えるのが正しく、「社会で扶養されている」などと言うのは事情を知らない人の大きな誤解だ。そのため、年金受給者に対して、「社会全体で扶養する『国民仕送りクラブ』」などと言うのは失礼にもほどがあり、一生懸命に働いて多額の税金を支払い、こういう馬鹿者を育てるための教育費に充てられたのならば、その分は返してもらいたい。

 なお、年金資産の管理・運用の杜撰さは、*2-2のように、公的年金運用委員長に米沢氏を充て、リスク投資を拡大して、リスクの高い株式・不動産にシフトするよう主張しているくらいであり、損しても責任をとれるわけがなく、年金資産に対する責任感が全くない体質は今も変わっていない。これは、*2-3のように、厚生年金基金なら解散になるくらいの杜撰さだが、厚生年金・国民年金は基本的な年金であるため、受給者にしわ寄せしてすむ話ではない。そのため、メディアは、この体質を批判すべきなのである。

(3)生産年齢人口と女性・高齢者・外国人労働者の活用
 *1で、労働力人口の減少に備えて、「年齢、性別に関わらず働ける制度を構築する」として、20歳以上70歳未満を「新生産年齢人口」と定義し、雇用制度などの社会保障政策を設計して女性や高齢者の労働参加も進めるというのは、実際に雇用があってそれが進めば、生産年齢人口の増加と年金支給額の減少という効果を期待することができる。しかし、まだ働ける環境でもないのに、配偶者控除のみを先行して減らせば、それは単なる増税になる。

 また、外国人の活用については、「移民政策としてではなく、外国人材を戦略的に受け入れる」としているが、日本人の生産年齢人口の男性以外を人間として差別すれば、また大きなしっぺ返しがあるだろう。

(4)社会保障の削減ばかりが目につく
 *2-4のように、厚生労働省は、2000~2002年度の物価下落時に、特例で年金額を据え置いたことで、もらいすぎが発生したとして、2014年度の年金支給を0.7%減額する決定をしたそうだが、これは、前にも書いたように、現在の物価上昇を反映していない。それにもかかわらず、このように物価下落時の物価スライドを反映することのみに熱心なのが、官の体質なのである。

 また、毎年、年金保険料が0.354%ずつ引き上げられるというのは、これまで厚労省が、年金資産の杜撰な管理・運用を行い、時代にあった少子化対策や雇用政策をしてこなかったことへの大きなつけであり、年金保険料を支払っていた国民には何の責任もない。また、女性の生産年齢人口への参入もやっと本気で行い始めているが、これが進んでいれば少子高齢化の影響以上に労働力は増えており、雇用の受け皿の方が心配なくらいだった。それらの責任を、マージャンのように、痛み分けとして年金生活者にしわ寄せすることしか思いつかない思考力が、この状況を生んだのである。

*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140504&ng=DGKDASFS03014_T00C14A5MM8000 (日経新聞 2014.5.4) 人口 50年後に1億人維持、政府が初の目標、少子化に対応 予算、子育て世代に
  ★人口1億人維持に向けた主な論点★
    ○高齢者に手厚い予算・税制を改められるか
    ○子育てと就労の両立促進
    ○雇用・医療などの規制緩和は進むか
    ○外国人を積極活用できるか
 政府が「50年後(2060年代)に人口1億人程度を維持する」との中長期の国家目標を設けることが3日明らかになった。日本の人口(総合・経済面きょうのことば)はこのままでは60年に約8600万人まで減る見通しのため、20年ごろまでに集中的に対策を進め、人口減少に歯止めをかける。高齢者に手厚い予算配分を現役の子育て世代に移し、経済・社会改革を進められるかが課題になる。政府が人口維持の明確な目標を打ち出すのは初めて。人口減は成長や財政、社会保障の持続に多大な悪影響を与えると判断。国を挙げて抜本対策をとるため、目標の提示に踏み切る。政府の経済財政諮問会議の下に置いた「選択する未来」委員会(会長・三村明夫日本商工会議所会頭)が5月中旬に中間報告として諮問会議に提言する。6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込む。提言は日本経済の課題に「人口急減と超高齢化」を挙げ、50年後に人口1億人を維持することを目標に掲げる。1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は12年で1.41。60年に同2.07以上に引き上げ、人口1億545万人程度にすることを目指す。出生率の改善のため、国費ベースで3兆円規模の出産・子育て支援の倍増を目指す。「資源配分は高齢者から子どもへ大胆に移す」「費用は現在世代で負担」と明記し、国債発行を前提に高齢者に厚く配分している社会保障予算を見直す考え。労働力人口の減少に備え「年齢、性別に関わらず働ける制度を構築する」として女性や高齢者の労働参加も進める。出産・育児と仕事を両立させ、働く高齢者を後押しする政策を今後検討する。労働力に関する現行の統計とは別に新たな指標もつくる。20歳以上70歳未満を「新生産年齢人口」と定義し、雇用制度などの社会保障政策を設計していく考えを示す。経済改革では「ヒト、モノ、カネ、情報が集積する経済を目指す」と指摘。「起業・廃業の新陳代謝で産業の若返りを進める」として産業構造の変更を迫る大胆な規制改革の必要性を打ち出す。外国人材の活用に関しては「移民政策としてではなく、外国人材を戦略的に受け入れる」とする。人口減少で約1800の地方自治体は「40年に523が消滅する可能性が高い」と指摘。市町村の「集約・活性化」を掲げ、東京圏への一極集中も抑制するとしている。「20年ごろを節目に経済社会システムを大きく変える」と明記。一連の改革は今後5年程度で集中的に具体策を検討し、実施する方針を示す。提言は13年に1億2730万人の人口がこのままでは60年に8674万人になると推計。経済・社会の抜本改革をしなければ、国際的な地位や国民生活の水準が低下し、財政破綻を招くと警鐘を鳴らしている。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140118&ng=DGKDASFS1704S_X10C14A1MM8000 (日経新聞 2014.1.18) 外国人の就労拡大検討 新成長戦略、実習期間を延長 法人税率下げも 課税対象拡大
 政府が6月にまとめる新たな成長戦略の検討方針案が明らかになった。少子高齢化による労働力人口の減少を補うため、外国人の受け入れ環境を整備、最長3年の技能実習制度の期間延長や介護分野への拡大を検討する。焦点の法人実効税率の引き下げに向け、法人税を納める企業を増やす課税ベースの拡大も協議する。専業主婦を優遇する配偶者控除などの見直しも取り上げる。20日の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)で決め、具体策を練る。昨年の成長戦略「日本再興戦略」で踏み込み不足との指摘が出た分野が中心。関係業界の抵抗が強い「岩盤規制」が多く政権の実行力が試される。併せて昨年の成長戦略の実行計画も決定する。製造業や農漁業などで外国人労働者を受け入れる技能実習制度について、優秀な実習生は最長3年の期間を延ばしたり、介護も対象に加えたりする方向を明記した。同制度は発展途上国への技術移転が名目で、68業種で受け入れを認めている。近年の在留者は15万人前後。人手が足りない現場を支える労働力として期待する声が多い。介護は同制度の対象外のため経済連携協定(EPA)の介護福祉士候補生として受け入れている。福祉士の資格を取れば日本で働き続けられるが、国家試験が難しい。実習生なら働く期間は制限されるものの、受け入れ人数は増やしやすい。国税と地方税を合わせた法人実効税率は2014年度から2.37%下がり35.64%(東京都の場合)になるが、他の主要国の25~30%より高く、首相は引き下げに意欲を示す。1%下げると4000億円の税収減。財務省や自民党税制調査会は代替財源が確保できないなどの理由で反対だ。このため役割を終えた政策減税(租税特別措置)の縮小や廃止、法人税以外の引き上げを検討する。女性の就労促進策もまとめる。放課後に小学生を預かる学童保育や、ベビーシッターなど家事・育児支援サービスの利用者への税制優遇措置などを想定する。配偶者の年収が103万円以下なら会社員は課税所得の計算の際に年収から38万円を差し引ける。130万円未満なら保険料を払わずに夫の年金や健康保険に加入できる。こうした制度が女性の働き方を制約しているとして見直しを図る。複数の医療法人や社会福祉法人をまとめて運営できる「非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)」を創設。病院や介護施設を一体運営できれば経営の効率化が見込め、施設間の役割分担が進めやすくなる。持ち株会社の仕組みの解禁によりグループ内の部門を統合しやすくなる。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に関連する農業分野では、農協や農業生産法人の改革をテーマにあげた。

*2-1:http://www.asahi.com/paper/editorial.html
(朝日新聞 2014年4月30日) 年金の未来(中)―「生活習慣病」から脱する
 年金を受け取っている方々は「とんでもない」と思うかもしれない。だが、いまの年金の水準は本来の姿よりも高くなっている。前回(21日付)の社説で紹介した通り、少子高齢化にあわせて年金水準を抑える仕組み(マクロ経済スライド)は、賃金や物価の下落時には適用しない決まりだからだ。その分、将来世代の年金を下げざるをえない圧力がかかっている。人の体にたとえれば、生活習慣病の状態である。手をこまねいていれば、いずれ致命傷になりかねない。
■将来世代に影響
 年金制度は5年に1度、「財政検証」という健康診断を受ける。年金水準はその重要なチェック項目で、「所得代替率」で診る。受け取る年金が現役世代の手取り収入に対し、どのくらいの割合かという数値だ。今の制度は、サラリーマンと専業主婦の世帯が年金を受け取り始める時点で「所得代替率50%」を下限としている。何かと物入りな現役世代の半分くらいの収入で生活してもらうというイメージだ。日本では老後の平均所得の7割弱は公的年金で、年金しか収入のない人も6割いる。老後の生活を支える水準を確保しないと、社会が成り立たない。それを、代替率50%に設定したわけだ。このラインを下回ると、年金を増やす検討に入ることがルール化されている。一方、代替率が高すぎるのもまずい。今の年金受給者には良くても、年金のお金の入りと出を調整する積立金を多く取り崩したりしなければならず、将来世代が受け取る年金が減ってしまうからだ。
■国民に「痛み」迫れず
 04年の年金改革の時点で、代替率は59・3%。これを5年で57・5%に引き下げる予定だった。ところが、09年の健康診断では逆に62・3%へと上がってしまった。一番の原因は、前述したように、現役世代の収入が下がったのに、それに見合って年金を下げられなかったことにある。年金は高齢者を社会全体で扶養する「国民仕送りクラブ」のようなものだ。支える側の現役世代の暮らしぶりと、年金という仕送りでの生活とのバランスが崩れれば長続きしない。国はこの問題の是正に手を付けないできた。いずれデフレが解消され、マクロ経済スライドも機能し始めるという立場だったが、内実は「将来世代のために今の年金を削る」というつらい措置について、国民を説得する気構えも体力もなかったといえる。体力を奪ったのは、04年以降に相次いだ旧社会保険庁の不祥事だ。年金記録ののぞき見や「宙に浮いた年金」など、ずさんな運営が露呈するなか、厳しい見通しを示して痛みを迫れば不信感を増幅する。そう恐れたのかもしれない。「抜本改革」を求める声が強まった背景には、こうした年金不信の高まりがある。その流れを振り返ってみよう。厚生労働省は09年5月、野党だった民主党の求めに応じ、賃金や物価などの経済前提を「過去10年の平均」にした場合、年金の先行きはどうなるかという試算を公表する。結果は衝撃的だった。マクロ経済スライドが機能しないために、所得代替率が72%まで上がり、2031年に積立金が枯渇するというものだった。もっとも、試算の前提となった「過去10年」は、長期の景気拡大時を含んでいたとはいえ、平均すれば実質経済成長率も賃金・物価もマイナスだった時期だ。これがずっと続けば、年金どころか日本の経済や社会自体が立ちゆかない。
■政権交代からの教訓
 民主党は「破綻しかけている年金を抜本改革する」と主張。最低保障年金の創設を掲げ、国民全員に月7万円以上の年金を約束して政権の座についた。大胆な外科手術の提案である。しかし、与党としての3年3カ月、民主党案は実現の兆しすら見えなかった。制度変更に伴う国民の負担が重くなりすぎるからだ。結局は自民、公明の両党と話し合い、漸進的な修正に立ち戻るしかなかった。生活習慣病には、食事制限と運動を地道に積み重ねるしかない。経済全体の体力を回復させつつ、将来世代も考えて妥当な給付水準を設定する。それが年金をめぐって、政権交代から得た貴重な教訓だろう。安倍政権のもと賃金や物価は上昇基調に転じ、マクロ経済スライドの発動開始も視野に入ってきている。ただ、長期にわたり年金額を抑制していく措置には相当な反発があるはずだ。将来世代への責任を果たすため、政治には強い覚悟が求められる。
   ◆
 来月上旬の最終回では、公的年金の足腰を強くする具体策について検討する。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140425&ng=DGKDASFS24036_U4A420C1EE8000 (日経新聞 2014.4.25) 公的年金運用委員長に米沢氏 リスク投資拡大へ改革 株式・不動産へシフト主張
 公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は24日、運用委員会を開き、米沢康博・早大大学院教授を委員長に選んだ。米沢氏は、株式などのリスク投資を拡大すべきだと主張しており、安全性を重視する国内債券中心の運用見直しを求めた政府有識者会議のメンバーだった。リスク投資を増やす方向で運用改革が進みそうだ。米沢氏は「日本経済の再生にGPIFはもっと貢献できる」と述べるなど、株式投資の拡大に理解を示す。インフラや不動産などにも投資対象を広げるように主張する。運用委は8人の外部有識者で構成し、GPIFの運用方針について助言する。今回は6人の委員が交代。委員長代理には堀江貞之・野村総合研究所上席研究員が就いた。ゴールドマン・サックス証券の西川昌宏金融商品開発部部長は、「前委員長の植田和男・東大教授時代とは変わり、株式投資拡大を求める声に配慮するだろう」とみる。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/ASG4S7JZBG4SULFA049.html?ref=nmail
(朝日新聞 2014年4月28日) (報われぬ国)「素人」運用、消える年金
 この3月、京都府南丹市の国際交流会館に集まった建設業者らは不安に包まれていた。「まったく落ち度がないのに負担を強いられないといけないのか」。京都府建設業厚生年金基金が開いた解散説明会だった。この基金は、府内の中小建設業者約180社が社員の厚生年金とそれに上乗せする企業年金を出すためにつくったが、大きな損失を抱えて今年度中にも解散することになった。引き金は、2012年2月に発覚したAIJ投資顧問の巨額詐欺事件だ。AIJは年金の積立金などを集め、いろいろな金融市場に投資して高い利益を目指す「デリバティブ(金融派生商品)」で運用すると説明していた。ところが、実際は運用の失敗をごまかしながらお金を集め、74の厚生年金基金から預かった約1600億円の多くを返せなくなった。京都の基金もAIJに約15億円を預け、ほとんどを失った。昨年11月には、米国の金融商品に投資するプラザアセットマネジメント(東京都)に預けた5億円も失ったことがわかった。そのつけは基金に加入する建設業者に回される。厚生年金を支給するのに必要な積立金が運用の失敗で十数億円足りなくなり、業者らで穴埋めしなければならないからだ。「負担は1千万円ほどになりそうだ。社員のためにと思っていたのに、基金の恩恵はなく、負担ばかりが増えてしまった」。ある業者は頭を抱える。社員の老後資金も細る。解散すれば、公的年金である厚生年金は穴埋めで予定通りもらえるが、上乗せされる予定の企業年金はなくなる。厚生労働省の標準モデルでは、年金のうち月に約7千~1万6千円の企業年金が失われるという。
■退職後もバイト
 福岡県に住む元タクシー運転手のキヨノブさん(62)はすでに企業年金を失っている。08年、勤めていたタクシー会社が福岡県乗用自動車厚生年金基金から脱退したからだ。この基金はリーマン・ショックによる金融危機で運用悪化に拍車がかかり、厚生年金に必要な積立金が半分ほどに落ち込んだ。もっと損失が広がると判断した会社は、社員分の損失を穴埋めして脱退した。脱退した時、キヨノブさんはタクシー会社2社に計12年間勤めた分の企業年金として一時金を受け取った。28万円だった。18歳から働き、いくつかの中小企業に勤めながら厚生年金の保険料を払ってきた。44年払うと特例で年金の満額支給が始まるため、44年たった昨年暮れにタクシー会社をやめた。しかし、安い賃金で働いてきた影響で厚生年金は月に14万円ほどにとどまり、厚生労働省が示す40年加入モデルの約16万円より低い。企業年金が十分にあれば、低い分をカバーできるはずだった。いまは農作業のアルバイトをして年金では足りない生活費を補う。それでもこう思う。「企業年金はないけど、一時金を28万円もらえただけよかった。今後はもらえなくなる人が出てくるんだから」。タクシー会社が入っていた基金は、今年9月に解散することが決まった。年金を受け取っている約1万7千人は企業年金分がカットされ、現役の社員約5千人は企業年金がなくなる。解散するのは、運用成績を立て直せなかったからだ。さらに昨年11月、プラザアセットに預けていた30億円が戻ってこなくなり、積立金が厚生年金の支給に必要な278億円の半分に満たなくなった。「安定資産」という説明を信じて契約した運用だった。プラザは17の厚生年金基金から約86億円を預かって米国の金融商品に投資していた。だが、損失が出て基金のお金をほとんど返せなくなった。この商品は日本では認められていない。多額の生命保険を多くの保険契約者から買い取って保険料を払い、契約者が亡くなると保険金を受け取るという。だが、何らかの理由で保険料を払えなくなり、保険契約が失効したとみられる。福岡県のタクシー会社社長は言う。「基金は理事会にもかけず、説明をうのみにして預けた。穴埋めのお金があれば、少しでも社員の待遇を良くできたのに」。
■つけは受給者へ
 AIJ事件やプラザ問題の背景には、厚生年金や国民年金などを運営していた厚労省・旧社会保険庁(10年から日本年金機構に業務を移管)が厚生年金基金を天下り先にしていた歴史がある。積立金の運用や管理の十分な知識がないまま基金を運営してきた。厚労省によると、09年5月時点で614基金のうち399基金に旧社保庁などの国家公務員の天下り職員が計646人いた。「天下りは基金の設立を認可する際の条件で、社保庁の人事にも組み込まれていた。みんな運用の素人なのに、厚労省は放置した」。大手銀行出身のある基金の常務理事は明かす。京都府建設業厚生年金基金の関係者によると、事務局を取り仕切る常務理事は旧社保庁出身だった。AIJもプラザも、知り合いの旧社保庁OBが紹介したセミナーで知ったという。九州の建設関連業者の基金もAIJ事件で約30億円を失った。当時の旧社保庁出身の常務理事がOBのつながりで運用を任せた結果だ。8月に解散する方向だが、年金を受け取る人は平均で月に約1万2千円の企業年金分がなくなる。いまの常務理事は「天下りが自分の仕事を守るために解散も延ばし、損失が広がった。そのつけが年金受給者と加入企業に回される」と憤る。中小企業のサラリーマンの老後資金が天下りや投資ゲームに利用されたあげく、細っている。
〈厚生年金基金〉 厚生年金基金は、サラリーマンが入る厚生年金の積立金の一部(代行部分)を国から預かり、厚生年金に上乗せする企業年金といっしょに運用している。主に中小企業が業界ごとに集まってつくっている。基金が積み立てる保険料は、代行部分を企業と社員が半々で払い、企業年金部分を企業が払う。1990年代までは約1900基金あり、1200万人を超えるサラリーマンが入っていた。しかし、高齢化が進んで年金を受け取る人が増える一方、保険料を払う現役社員が減ったり、企業業績が悪化したりして基金を存続させるのが厳しくなった。バブル経済崩壊後は株価低迷などで運用も難しくなっている。このため、02年度に厚生年金の代行部分を国に返す「代行返上」が認められると、大企業がつくる基金などが代行返上をして企業年金だけになったり、解散したりした。今年4月1日時点では527基金まで減り、加入者は約400万人になった。このうち466基金が中小企業などが業界ごとにつくった基金だ。AIJ事件をきっかけに、厚労省は今年度から5年間、加入企業が厚生年金の積立金不足の穴埋めを最大30年に分割できるなどの特例を取り入れ、解散しやすくした。74基金がこの特例を使う方針で、さらなる解散ラッシュが始まろうとしている。

*2-4:http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC31005_R30C14A1MM0000/?dg=1
(日経新聞 2014/1/31) 14年度の年金支給、0.7%の減額決定
 厚生労働省は31日、2014年度の公的年金支給額を0.7%引き下げると発表した。国民年金と厚生年金を受給する全ての人が対象で4月分から変更する。国民年金を満額で受け取っている人は13年度と比べ月額で475円減の6万4400円となる。厚生年金を受け取る標準世帯では同1666円減の22万6925円だ。年金生活者の家計は厳しくなりそうだ。4月分の年金は6月に支払われる。公的年金の支給額は毎年、前年の物価や賃金の変動を反映する。00~02年度に、物価が下落しているにもかかわらず特例で年金額を据え置いたことで、もらいすぎの「特例水準」が生じた。政府は段階的に解消することにし、今年4月分から1%減額する予定だった。ただ、物価や賃金が上昇したため、減額幅を0.3%縮める。国民年金も厚生年金も04年度の制度改正で保険料を17年度まで毎年、引き上げることが決まっている。14年度の国民年金の保険料は現在の月額1万5040円が4月分から210円上がり、1万5250円になると発表した。厚労省は4月に、2年間の年金保険料を前払いできる制度を導入するため、15年度の保険料も公表した。15年度は14年度から、さらに月340円引き上げ、1万5590円になる。会社員が加入する厚生年金の保険料は毎年0.354%引き上げられており、今年9月分から17.474%(労使折半)になる。毎年、0.354%ずつ引き上げられている。保険料の引き上げは年金財政が少子高齢化の影響で厳しくなっているためだ。年金を受給する世代が増えて支給額が増大する一方、保険料を支払う制度の支え手は減る傾向にある。保険料の支払いが増え続ければ、現役世代の個人消費に影響がでる。支給額が減る年金生活者、現役世代ともに痛みの分かち合いが続くことになる。


PS(2014.5.6追加):*1に「人口減少で約1800の地方自治体が消滅」と書かれており、それに関して詳しく述べた記事が*3である。*3では、「日本は2008年をピークに人口減少に転じ、推計で2048年に1億人、2100年に5000万人を下回る」とされており、この推計は、「一個体当たりの縄張りが大きくなれば(暮らしやすくなれば)、その生物の繁殖力は上がる」という生物学の基礎を知らない人が描いた直線グラフを元にしており、稚拙だ。人間社会の経済を語るには、数学、統計学、生物学、社会学、経済学の知識が必要である。また、持続可能な経済を作るには、生態系や地球環境も考慮しなければならない。そのため、出生率低下と人口移動のみを言い立て、「消滅の危機」「絶望的」と煽るのは感心しない。

 しかし、「東京と地方のあり方を見直し、人口の社会移動の構造を根本から変える必要がある」というのは賛成で、もうやり始めるべき時である。それには「若者の地方から東京への流出を抑える」「高齢者の東京から地方への移住を促す」等が書かれており、それも一理あるが、生物学や工学を使って農林漁業を高付加価値でスマートな産業にすれば、*4のように、大都市で生まれ育った若者が自然豊かな地方に移住して農林漁業に従事することも十分にありうる。また、「住民が高齢化して運転できなくなる」としているのも、自動車が自動制御装置を標準装備すればかなり解決でき、そういう車は世界でもヒット商品になると思うので、イノベーションを重視すべきだ。

*3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140403&ng=DGKDZO69267240S4A400C1KE8000 (日経新聞経済教室 2014.4.3) 
地方戦略都市に資源集中、増田寛也 元総務相・前岩手県知事
〈ポイント〉
  ○人口減は東京集中と地方消滅が同時に進行
  ○地域の戦略都市は研究機能高め雇用を創出
  ○東京は国際化や高齢者の地方移住も検討を
 日本は2008年をピークに人口減少に転じた。推計では48年に1億人、2100年には5000万人を下回る。人口減少は容易には止まらない。合計特殊出生率は05年以降反転し、12年は1.41まで回復したが、出生数は前年より1万3000人減少した。子どもを産む女性の人数が減ったからだ。鍵を握るのは人口の再生産力をもつ20~39歳の若年女性人口で、9割以上の子どもがこの年齢層から生まれる。第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)は外れつつあり、それ以下の世代の人数は急減する。仮に30年に出生率が人口減少を食い止めるのに必要とされる2.1になっても、出生数の減少が止まるのは90年ごろとなる。日本特有の人口移動がこれを加速する。高度成長期やバブル経済期、地方から大都市圏へ大規模な人口移動があった。東京圏は現在も流入が止まっていない。政治・経済・文化の中心として集積効果が極めて高く、首都直下地震のリスクが叫ばれつつも全国から若者が集まり続ける。実に国全体の3割、3700万人が東京一極に集中している。先進各国では大都市への人口流入は収束しており、日本だけの現象だ。どの国も人口が密集する大都市圏の出生率は低く、東京都も1.09と全国最下位である。一極集中が人口減少を加速している。問題は、さらなる大規模な人口移動が起こる可能性が高いことだ。若年層が流出し続けた地方は人口の再生産力を失い、大都市圏より早く高齢化した。今後は高齢者が減り、人口減少が一気に進む。一方、大都市圏は流入した人口がこれから高齢化していく。特に東京圏は40年までに横浜市の人口に匹敵する388万人の高齢者が増え、高齢化率35%の超高齢社会となる。15~64歳の生産年齢人口の割合は6割に低下し、医療や介護サービスの供給不足は「深刻」を通り越し「絶望的」な状況になる。地方から医療介護の人材が大量に東京に引っ張られる可能性が高い。日本の人口減少は東京への人口集中と地方の人口消滅が同時に進む。都市部への人口集中が成長を高めると言われる。短期的には正しいが、長期的には逆だ。高齢者減少と若者流出という2つの要因で人口減少が進み、一定の規模を維持できなくなった地方は必要な生活関連サービスを維持できず消滅していく。東京は当面は人口シェアを高めていくが、やがて地方から人口供給が途絶えたとき、東京もまた消滅することになる。筆者は経営者や学識者有志とともに、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(13年3月推計)」を用いて国土全体を俯瞰し、地域ごとの将来像を推計してみた。現在の出生率が続いた場合、若年女性人口が30年後(40年)に半減する地域は、出生率が2.1に回復しても流出によるマイナス効果が上回り、人口減少が止まらなくなる。このうち一定規模の人口(1万人を想定)を維持できない市町村は「消滅可能性」が高い。結果は人口移動が収束する場合、消滅の可能性が高い市町村は243(全体の13.5%)に対し、人口移動が収束しない場合は523(29.1%)と大幅に増えることがわかった。北海道、青森、山形、和歌山、鳥取、島根、高知の7道県ではこうした市町村の割合が5割を超える。
 東京と地方のあり方を見直し、人口の社会移動の構造を根本から変える必要がある。若者の東京流出を抑え、東京の高齢者の地方移住を促す。地方では生活関連サービス機能の維持に向け、郊外の高齢者の中心地移住を促進する。国土全体を俯瞰し、地域ブロックごとに戦略的拠点都市を絞り込み、バラマキではなく集中的に投資することが必要になる。「国土の均衡ある発展」でも「多極分散型国土形成」でもなく、地域の特徴を踏まえた戦略的開発とネットワーク化を通して日本全体の総合力を向上していく。若者の社会移動対策で必要なのは産業政策の立て直しである。戦略的拠点都市を中心に雇用の場をつくり、若者を踏みとどまらせる「ダム」とする。東京は労働や土地などの生産コストが高く日本の高コスト体質を生んでいる。上場企業の5割が本社を首都に置くような国は日本だけであり、変える必要がある。地方の産業政策としては円高による空洞化を経験した現在、工場誘致には限界がある。若者の高学歴化も視野に、時間はかかっても産業の芽となる研究開発機能の創出に取り組むことが必要だ。政策の一環に人材供給やイノベーション(技術革新)の基盤である地方大学の機能強化を組み込み、インフラなど環境整備と連携させていく。地元で学び、地元で働く「人材の循環」を地域に生み出す。農業の立て直しも重要だ。先の推計でも農業振興に成功した秋田県大潟村は消滅を免れる結果となった。職業として農業を志向する若者は増えている。東日本大震災を契機に地元に戻り、IT(情報技術)を生かした農業を始めたり、総務省の「地域おこし協力隊制度」で地方に移住して大学院出のキャリアを生かして地域活性化に貢献したりする事例が各地でみられる。こういう意欲ある若者が活躍できる社会に変えることが、これからの政策の中心となる。地方の高齢者対策では生活関連サービスの多機能集約化が必要である。地域ブロックごとに医療介護の戦略拠点をつくり、そこを中心に多様なサービス機能を集約する。直近10年、地方の雇用を支えたのは高齢者の増加に合わせて拡大した医療介護だったが、高齢者が減っていけば広域で医療介護を支えることは難しくなる。若者の雇用を守るためにも医療介護機能を集約し、高齢者を誘導して街全体のコンパクトシティー化を進める必要がある。問題となるのが、自動車での移動を前提に開発された郊外宅地だ。住民が高齢化して運転できなくなり、生活困難者となる可能性がある。中心地への移住を希望しても、不動産に買い手がつかないケースもある。コミュニティーバスなどでの支援も考えられるが、対象区域が拡大していけば、やがて難しくなるだろう。農地中間管理機構の住宅版として郊外住宅地管理機構のようなものをつくって住宅地を借り上げ、若者に安価に提供するような施策を検討する必要がある。一方、東京は世界の金融センターとして国際競争力を高め、グローバルに高度人材が集う国際都市にしていくことが望ましい。大学の国際化や企業の雇用多様化をもっと大胆に進めていく必要がある。国際機関の本部機能の誘致も重要だ。現在、日本には約40の国際機関事務所があるが、多くは欧米に本部を持つ機関のブランチにすぎない。超高齢化への対策も必要だ。医療介護人材の育成に全力を挙げないと東京はいずれ立ち行かなくなる。地方で余る介護施設の活用を視野に高齢者の地方移住の促進も真剣に取り組むべきだろう。地方の医療介護を中心としたコンパクトシティー化に東京も関わり、東京の高齢者の受け皿としていくべきだ。老後もできる限り住み慣れた土地で過ごしたいと考える人は多い。元気なときに地方にセカンドハウスを持つことを支援するような施策も必要となる。人口が減れば、国民1人当たりの土地や社会資本は増える。これをいかに有効活用できるかが、これからの日本の豊かさを左右する。国には都市や農地といった行政区分を超え、国家戦略として国土利用のグランドデザインをつくり直すことを強く求めたい。
*ますだ・ひろや 51年生まれ。東京大法卒、旧建設省へ。野村総合研究所顧問


PS(2014.5.13追加):今から50年後であれば、*4のように人口減少で労働力が足りなくなることを心配する前に、まず、働きたい人が悪すぎる労働条件でなく働き、一人一人の国民が豊かに暮らせるようにすべきである。そうでなければ、成長あって豊かさなし、国民不在の政治だ。

*4:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2678418.article.html
(佐賀新聞 2014年5月13日) 50年後に1億人維持 / 政府が初の人口目標、調査会提言
 政府の経済財政諮問会議の下に設置された専門調査会は13日、日本経済の持続的な成長に向けた課題をまとめた中間整理案を公表した。出生率を高めるため子どもを生み育てる環境を整え、「50年後に人口1億人程度の維持を目指す」との目標を盛り込んだ。政府が人口に関して明確な数値目標を打ち出すのは初めて。日本の人口は出生率が回復しない場合、現在の約1億2700万人から2060年には約8700万人まで減少する見通し。人口減少で労働力が足りなくなると国の経済成長や財政に大きく影響するため、維持に向けた対策は急務となっている。


PS(2014年5月18日追加):*5のように、公的年金が契約通り支払われても、老後になってからの経済的な備えが足りないと感じている人は66・9%に上り、「生活費を得たい」というのが主な理由で65歳を超えても働きたい人が約76%いる。これは、65歳以上の“老後”が長くなった現在では自然なことであり、定年退職年齢を設けない、もしくは定年退職年齢を設けても最低70歳にするなど、雇用の方からの対応が求められる。

*5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/64577
(佐賀新聞 2014年5月18日) 「老後の備え不足」67%
 35~64歳を対象にした内閣府の調査で、老後になってからの経済的な備えが足りないと感じている人が66・9%に上ることが17日、分かった。現役世代が公的年金や、貯蓄・退職金の取り崩しだけでは老後の暮らしに不安を抱いている実情が浮き彫りになった。65歳を超えても働くことを希望する人は約半数に上った。調査結果は6月に閣議決定する高齢社会白書に盛り込まれる。調査は昨年11~12月に約6千人を対象に実施。老後の経済的な備えについては「かなり足りない」が50・4%、「少し足りない」が16・5%で、両方を合計した「足りない」は66・9%。5歳ごとに分析すると、「足りない」は40~44歳が74・4%で最も多く、年代が上がるにつれて下がる。一方、「十分だ」と答えた人はわずか1・6%。「最低限はある」の21・7%と合わせると計23・3%だった。老後に生計を支える収入源を三つまでの複数回答で尋ねたところ、「厚生年金などの公的年金」の82・8%が最多で、「貯蓄や退職金の取り崩し」46・2%と「自分か配偶者の給与収入」45・6%が続いた。「子どもなどからの援助や仕送り」「親族からの相続」はいずれも4・0%だった。必要と思う貯蓄額は2千万円(19・7%)、1千万円(19・5%)、3千万円(19・1%)となり、ほぼ同じ割合で並んだ。何歳まで働きたいかについては、「65歳ぐらい」が31・4%。65歳を超えても働くことを希望する人は50・4%で、このうち「働けるうちはいつまでも」が25・7%だった。60歳以降も働きたい理由(三つまでの複数回答)は「生活費を得たいから」が76・7%で圧倒的に多く、「自由に使えるお金が欲しい」の41・4%が続いた。厚生労働省によると、日本人の平均寿命は、2012年には女性86・41歳、男性79・94歳だった。60年には女性90・93歳、男性84・19歳になると推計されている。

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2014.4.12 消費税増税と年金・医療・介護の削減が「税と社会保障の一体改革」だが、こういう愚策しか思いつかないのは何故だろうか? (2014.4.13追加あり)
  
   日本の人口推移      *1-1より      *1-2より

(1)高齢者及び高齢世帯割合の増加
 このブログの2014.4.12に記載したように、医学の進歩で寿命が延びたにもかかわらず、それに見合って出生率が下がらなかった戦後の数年間に、団塊の世代が形成された。団塊の世代は、完全な戦後世代であり、就学時には学校不足、就職時には雇用不足で苦労し、多額の税金や社会保険料を支払い、日本経済を発展させてきた。

 しかし、上のグラフのように、高齢者の全人口に占める割合が次第に大きくなるので、*1-1のように、高齢世帯・高齢者の一人暮らしや、*1-2のような特別養護老人ホームの待機などが、国に新たな対応を迫っているわけである。

 つまり、これらは新しい需要で、「若者の割合が減るから、需要が減少する」という主張は間違いであり、「若者の人口が減るから若者向けの需要は減るが、高齢者向けの需要は確実に増えており、供給が需要の変化に対応しきれていない」と言うのが正しい。なお、保育所、学童保育、介護制度など、働く女性の世帯を前提とした需要にも、供給は全く対応しきれていない。

(2)「年金・医療・介護制度は若者へのつけ回し」とか「高齢者からまき上げよ」と主張する不道徳
 *2-1では、「効率追求し、若者へのつけ回し断て」として、これまで社会保険料を支払ってきた高齢者への給付を若者との対立の構図として減らすよう主張しているが、本当は、団塊の世代の人口ボーナスで払い込まれた社会保険料の管理・運用が杜撰だったこと、これからもその杜撰さが解消されないことが問題なのであって、ポイントは、高齢者と若者の対立ではなく、払い込まれた税金や社会保険料の管理責任、運用責任の問題なのである。

 なお、日経新聞(=官の考え)は、「医療・介護費の合計がGDP比10%を超えたときは、抑制策をとるよう求めた」と主張しているが、医療・介護は、高齢者が多い社会の新たな需要であり、成長の第三の矢の大きな一つになるものだ。無駄を省くのはよいが、何が無駄かの判断には誤りが多すぎる。

 また、*2-1には、「効率化の飽くなき追求こそが制度の持続性を高め、若い世代の保険料や税負担の増大をくい止める抜本策だ」とも書かれているが、若者も、両親の世話や自分の老後に関わることであるため、保険料や税負担の増大をくい止めさえすればよいのではなく、原発に使う無意味な支出をやめ、自然エネルギーや国産資源を開発するなどの第4、第5の矢を育てて、老後の心配のない国を作ってもらった方が有難いのだ。つまり、頭を使えば、国民に痛みを押し付けない改革も可能である。

 さらに、*2-2では、「高齢者マネーを孫へ、教育資金贈与非課税1年」と書かれており、「個人金融資産のうち、6割は60歳以上の高齢者に集中し、子育て世代への資産移転が加速すれば、個人消費への追い風にもなる」などとしているが、高齢者は使わなければならないから貯蓄しているのであり、定年退職時に個人金融資産が多いのは当たり前である。それを子や孫に渡せば、老後、自分は医療や介護も満足に受けられなくなるだろう。そのため、特別富裕な高齢者のために教育資金贈与を非課税にするよりも、誰でも行ける公立学校での教育を充実しようとするのがまっとうな人の考え方である。

(3)消費税増税、地球温暖化対策税について
    
        日本の消費税の推移      *4-1より *4-3より *5より

 金融緩和と円安で物価が上昇した上に、*3のように、消費税率8%となり、物価はさらに3%上昇した。そのため、*4-1の公的年金支給減と併せて、高齢者の生活はさらに苦しくなった。これは、高齢者の生死にもかかわることであり、これと教育資金贈与非課税1年という税制を考えた人には呆れる。

 しかし、地球温暖化対策税でガソリンが値上がりしたというのは、エコカーに変えればCO2排出量が減った上、お釣りがくるし、多くが電気自動車になれば、国富の流出も避けられる。そのため、地球温暖化対策税は、エコなインフラを作ったり、CO2吸収源である森林を手入れしたりするのに使って欲しい。

(4)社会保障の削減について
 *4-1には、社会保障も負担増になり、「受け手である高齢者の年金が減るなど各世代で一定の痛みを分かち合う」としているが、実際には、しわ寄せは全て高齢者に行っている。「消費増税しなければ持続可能な制度にできない」というのも、これまで、このブログで記載してきたように、ためにする議論であったし、国民の幸福を考えた政策ではないのだ。

 *4-2には、「少子高齢化が原因で、高齢者の収入は、徐々に現役世代の50%に近づく見通し」とも記載されているが、外国人労働者や女性を労働に参加させれば、少子高齢化の影響は消すことが出来るので、これもためにする議論である。また、電気代、ガス代、賃料(又は固定資産税)などの諸経費は高齢者でも同じである上、医療・介護費用は高齢者の方が若者よりもかかるため、高齢者の収入は現役世代の半分程度でよいという根拠は不明だ。

 また、「厚生年金と国民年金の積立金は2038~40年に枯渇し、この試算は経済前提として想定利回りを2.5%、物価上昇率を1%と現実的なものにしている」とのことであるが、これだけ日本企業の利回りや収益率が低いのは、まだ原発にしがみついて再生可能エネルギーに移行しなかったり、独占や寡占による高コスト構造を維持していたり、いつまでも加工貿易国でありうると考えて資源を探さなかったりなど、経産省の方針の古さや方針の誤りによるところが大きい。

 *4-3では、厚生労働省が、「割高な入院費を得ようと、病院が患者に入院・退院を短期間に繰り返させる事例が多発しているので、入院医療のルールを見直す」とし、「厚労省は病院から在宅への医療体制のシフトを進めている」とのことだが、在宅医療サービスを充実させて在宅療養を可能にしたり、特別養護老人ホームの待機をなくしたりしてからにしなければ、難民の高齢者が出ることになる。何故なら、患者が入退院を繰り返しながら長期入院しているのは、現在は病院でしかケアできない人がいることが原因だからである。

 *4-4では、「40~64歳が負担する介護保険料が、2014年度は過去最高を更新し、一人当たり月額5,173円となる見込みであることが厚生労働省の推計で分かった」そうだ。しかし、現在、介護保険料は、40歳以上からしか徴収しておらず、65歳以上の保険料は全額自分で払うのが原則で、年齢による差別が甚だしい。18歳以上は大人ということであれば、18歳以上で所得のある人は支払うべきである。何故なら、介護保険制度により、仕事を辞めて家族を介護しなければならない状態になるリスクが避けられ、自分や家族もまた、いざという時には介護の対象になれるからである。

*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140412&ng=DGKDASFS1103B_R10C14A4MM8000 (日経新聞 2014.4.12) 
高齢世帯4割超に 2035年推計、一人暮らし1845万人、企業・社会保障に対応迫る
 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が11日発表した世帯数の将来推計によると、世帯主が65歳以上の高齢世帯は2035年に40.8%と初めて4割を超える。すべての世帯に占める一人暮らしは、3分の1を上回る1845万世帯になる。高齢世帯の急増は生活様式を変え、住宅や家電製品などの消費に大きな影響を及ぼす。企業と政府は先を見越した対応を迫られる。同研究所が10年の国勢調査に基づいて、35年まで5年ごとの都道府県別の世帯の数を推計した。高齢世帯の割合は10年時点では31.2%だが、35年までに約10ポイント上がる。30年から35年にかけての上昇幅は1.5ポイントと、25年から30年にかけての0.9ポイントを大きく上回る。総人口の推計では、65歳以上の比率は60年に39.9%。世帯主の年齢をもとにした世帯数の将来推計はそれよりも25年早く4割に達する。世帯全体の数は20年の5305万世帯をピークに減少に転じる。世帯主の主な収入が年金などに限られたり世帯数そのものが少なくなったりすれば、消費の低迷など経済活動への影響は避けられない。内訳をみると、高齢世帯が40%以上の都道府県は10年時点では秋田県だけだが、35年には41道府県に急増。秋田県はトップで52.1%と初の5割の大台に乗り、世帯主の2人に1人が65歳以上になる。高齢者増加に加え、若者が流出するためだ。都市部でも高齢化が急速に進む。東京都や神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県などは35年までの25年間で、高齢世帯の実数が3割以上増える。高齢世帯に占める一人暮らしの割合は10年の30.7%が、35年には37.7%になる。核家族化は一段と進み、高齢者の孤独死といった社会現象につながる懸念もある。世帯全体に占める一人暮らしの割合は、25年には全都道府県で一人暮らしが最多。35年には37.2%に達する。若者の間でも結婚しない人が増え、家庭の3分の1以上が一人で暮らすという。企業は先を見据えて動く。住宅大手は予想される新築案件の落ち込みを補うため新事業を開拓。積水ハウスはケアの専門家が常駐する高齢者住宅を販売。介護用ロボットの開発も始め、15年の製品化を目指している。セブン―イレブン・ジャパンが力を入れる弁当の宅配サービスは、利用客の6割が60歳以上だ。社会保障制度を持続していくための見直しは欠かせない。日本総合研究所の西沢和彦上席主任研究員は「負担の増加や、富裕層への給付の絞り込みが必要だ」と指摘する。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014032602000135.html (東京新聞 2014年3月26日) 特養待機52万人 5年で10万人増
 厚生労働省は二十五日、特別養護老人ホームへの入所を希望しているのに入所できていない「待機者」と呼ばれるお年寄りが全国で約五十二万二千人いるとの今年三月の集計結果を公表した。二〇〇九年十二月の前回集計の約四十二万一千人から約十万人増えた。高齢化が進み需要が膨らむ一方、施設整備が追いつかない現状が明確になった。在宅の待機者約二十五万八千人のうち、心身の症状が重く、特に入所を必要とする中重度の「要介護3~5」は計約十五万二千人で軽度の「要介護1、2」は計約十万六千人。サービス付き高齢者住宅やグループホームなど自宅以外で暮らす待機者は要介護1~5で約二十六万四千人だった。この五年間で特養の定員は約17%増えたが、待機者の増加率が約24%と上回った。調査は各都道府県が把握している入所申し込みの状況をまとめた。最多は東京都の四万三千三百八十四人で、宮城県の三万八千八百八十五人、神奈川県の二万八千五百三十六人が続いた。宮城県は一度に複数の申し込みをした人を重複して数えているため、実数と差がある。
◆潜在化 在宅支援も後手
 特別養護老人ホームの入所待機者が五年前より十万人も増加した。政府は二〇一五年四月から新規入所者を原則として中重度の要介護3~5に絞る。待機者を減らす効果は不透明な上、本当に必要な人がサービスを受けられなくなることが懸念される。待機者のうち要介護3~5は三十四万四千人。一方で特養の定員は五年前の集計時から約七万五千人しか増えていない。待機者が多い都市圏では、特養を運営する市町村などの財政難や土地確保が容易でないことから、新しく建てることは難しくなる一方だ。特養の入所者限定方針は政府が今国会に提出した地域医療・介護総合確保推進法案に盛り込まれている。対象外になる要介護1、2は家庭で虐待を受けたり、認知症で徘徊(はいかい)したりする可能性があれば、特例として入所が認められる。入所は実質的に施設が判断する。厚生労働省は「特養はより困っている人に使ってもらう」と説明。軽度の人は「自宅で受けられる介護サービスを充実させ、より長く暮らせるようにしたい」として自宅での生活を支える巡回サービスや在宅医療の充実、サービス付き高齢者住宅の整備などに取り組む。だが、高齢化の進展に追いつけるか疑問だ。淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「高齢化が進んだとはいえ、入所を申し込む人が大幅に増えたのは、厚労省の政策への疑問の表れだ」と指摘。特養の新設や在宅サービスの充実に必要な介護人材の確保策などを急ぐ必要性を強調した。

*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140215&ng=DGKDZO66870150V10C14A2EA1000 (日経新聞社説 2014.2.15) 効率追求し若者へのつけ回し断て
 1949年に生まれた最後の団塊世代がことし65歳になる。総人口に占める高齢者の割合は一段と高まる。日本人が長命になったのは喜ばしいが、それは医療・介護サービスを旺盛に消費する層が劇的に増えるのを意味する。国民医療費と介護保険サービス費を合わせた額は、足元で年50兆円を突破し、国内総生産(GDP)の10%を超えたもようだ。
●GDPの10%を突破
 アベノミクスは成長路線への回帰を追求しているが、医療・介護費の膨張ペースはもっと速い。日本経済新聞社は2010年3月に公表した改革提言で、医療・介護費の合計がGDP比10%を超えたときは、抑制策をとるよう求めた。今がそのときである。しかし制度が内包する無駄を省き、サービス提供を効率化させ、医療・介護費が膨れあがるのを抑える意欲は与党の自公両党、厚生労働省ともに薄い。4月の消費税増税が社会保障費のやり繰りをいっとき楽にすることも、改革への意欲をそいでいる。効率化の飽くなき追求こそが制度の持続性を高め、若い世代の保険料や税負担の増大をくい止める抜本策である。政府・与党はタガを締め改革にまい進してほしい。1人あたり医療費は現状、次のようなものだ。生涯に消費する医療費は男2359万円、女2609万円に達する。11年度は75歳以上の後期高齢者が92万円を使ったのに対して現役世代は20万円だ。負担・給付の世代間格差が浮き彫りなのは、年金と同じ構図だ。安倍政権は4月から70代前半の窓口負担を法定の原則20%にする。しかし70歳になる人から順に適用するので、すべての対象者を20%にするのに5年の歳月を費やす。法の定めどおり全対象者を一度に20%にするのが筋だった。13年末の財務、厚労両相の閣僚折衝を経て政権は診療報酬を14年度に0.1%増額する。これは消費税増税で病院・診療所の仕入れ費がかさむ分の手当てを含む。具体的にどう手当てするか。厚労相の諮問機関、中央社会保険医療協議会は初診料を120円、再診料を30円上げるよう答申した。初再診料という基本料金の引き上げは、すべての患者にその分が転嫁される。企業の健康保険組合や市区町村が運営する国民健康保険の給付もその分、増大する。これは本来、消費税がかからないはずの保険診療費に消費税を課しているのと変わりない。ならば診療報酬を課税対象にして患者や健保運営者に税の負担意識をもたせるほうがすっきりするのではないか。15年10月に予定している再増税時の検討課題にしてほしい。政権は14年度に人口高齢化に即した病棟再編を促すため、国と地方自治体の分を合わせ900億円強の基金をつくる方針だ。財源は消費税収と看護師養成などに使っていた一般財源を充てる。急性期の患者に対応する病床は減らし、慢性期対応の病床を増やしたり在宅医療を拡充したりするという。
●基金ばらまき排せ
 しかし政府や自治体がカネを配れば医療の提供体制がすんなり変わるとは考えにくい。医療法人などが運営する民間病院に高度な急性期医療を担いたいという意欲をもつ経営者が少なからずいるなかで、この基金が実効を上げられるのか。数ある官製ファンドと同様に、基金を単なる病院へのばらまき原資にしてはなるまい。これから著しく増える後期高齢者のなかには慢性疾患をかかえ、いくつかの病気を併発している人が少なくない。治療より介護が必要な人も増えている。その観点から、首相官邸の社会保障制度改革国民会議が昨夏、病院完結型の医療から地域完結型の医療への移行を提言したのは的確だった。問題はその方法だ。日本の患者は大学病院など設備が整った病院への志向がつよい。そうした病院は重篤な急性期患者の治療に専念するのが本来の役割だが、だれもが行きたい病院にかかれる自由アクセス制がその発揮を阻んでいる面がある。そうした弊害を減らすには、どんな病気もひと通り診られる家庭医の養成を急ぐのが有効である。保険財政、提供体制の両面で推し進めるべき医療改革は山積している。その行程を明確にするのが政府・与党の責務である。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140407&ng=DGKDASGC0300L_T00C14A4NN7000 (日経新聞 2014.4.7) 
高齢者マネー、孫へ 、教育資金贈与非課税1年 信託4行で4300億円
 祖父母から孫への教育資金の贈与が1500万円まで非課税になる制度が始まって、4月1日で1年がたった。贈与額は大手信託銀行4行の合計で4300億円、契約数は6万5千件に達する。当初は2015年末までに5万4000件を見込んでいたが1年で上回った。高齢者マネーがゆっくりと動き出した。東京都に住む大沢隆治さん(仮名、81)は、りそな銀行の「きょういく信託」を利用し7人の孫に教育費として300万円ずつ贈与した。「孫のためになるならと決断した。相続対策になるのもありがたい」と語る。仮にこの制度を使わなかった場合、約130万円が贈与税として課税された計算になる。すでに塾代や修学旅行費として数十万円が引き出された。3人の子供に贈与を受けた娘の大沢美智代さん(仮名、50)は「浮いたお金で車をワゴン車に買い替えた」と話す。日本の1600兆円の個人金融資産のうち、6割は60歳以上の高齢者に集中している。りそなホールディングスの東和浩社長は「子育て世代への資産移転が加速すれば、個人消費への追い風にもなる」と強調する。同社は旧大和銀行の部門を引き継ぐ信託兼営。当初、15年末までに7500件を見込んでいた契約数がすでに1万件を超えた。三菱UFJ信託銀行も約2万9000件、三井住友信託銀行は約2万件と想定を上回る契約数となった。好調な実績を受けて、信託協会では15年末で終了する予定の非課税制度の恒久化を国に要望する方針だ。協会長の中野武夫みずほ信託銀行社長は「出産や育児への非課税対象の拡大も要望できないか検討したい」と話す。もっとも贈与信託は信託設定時の手数料をとっておらず「商品の収益性は低い」(信託関係者)。信託銀行は贈与信託を入り口にした関連ビジネスの拡大で収益確保につなげる考えだ。三井住友信託銀行は、贈与信託の契約者に定期預金の金利や遺言信託の手数料を優遇して取引を広げている。2月末までに預金は200億円、遺言信託は約100件が集まった。高齢富裕層をターゲットに投資信託も広げ、これまでに約170億円を販売している。三菱UFJ信託銀行でも、ここ1年間で資産形成の相談を受けるコンサルタントを2倍超の400人に増員。今後さらに数十人増やし、全国の支店に配置する方針だ。全国の地方銀行も、贈与非課税制度を使った預金商品を取り扱う。横浜銀行や千葉銀行などの大手地銀では数十億円の預金を集めた。高齢富裕層との関係強化を目指す地銀にとっては、制度を追い風に関連ビジネスの拡大を図る狙いもある。今後の課題は贈与を受けた7万人近い孫と、その親世代とのビジネスをいかに手掛けるかだ。高齢者が顧客の中心である信託銀行では「若年層との取引拡大が課題」(大手信託銀行幹部)。給与振込口座として利用してもらえる施策を打ち出すなど対応を急ぐ。

*3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20140402/CK2014040202000150.html (東京新聞 2014年4月2日) 消費税8%「生活さらに苦しく」 お年寄りらため息
 消費税率が5%から8%に上がった一日。県内のお年寄りや主婦からは「生活がさらに苦しくなる」とため息が漏れた。増税後の出費を少しでも減らそうと、先月末に大勢の客が詰め掛けた小売店や定期券売り場などは、この日は客足が遠のき閑散としていた。
■暮らし
「さらに暮らしにくい世の中になった」。秩父市で一日、病院の帰りでバスを待っていた女性(85)は「年金は下がるし、自宅で食べるための畑仕事も病気やけがで最近はできなくなった。政治家はお金持ちばかりで、生活に困っている人のことが分からないのでは」と苦言を呈した。熊谷市の無職千田(ちだ)吉夫さん(78)も妻(77)と年金暮らしだ。「生活がさらに苦しくなる。これまで買っていたちくわは九十八円だが、これからは七十八円の方にする。新聞の折り込みチラシなどを見て、安い商品を選ぼうと思う」。買い物帰りの川口市の主婦(31)は「モノの値段が上がったのは確認したけど、まだ実感がない。これからじわじわ来ると思う。幼児三人の育児真っ最中で食費もかかる。不要な物は買わないようにしたい」と話した。
■大手企業
 客離れを防ぐため、看板商品などの価格を据え置いた県内企業も。首都圏で中華料理チェーン「日高屋」を展開するハイデイ日高(さいたま市大宮区)は、「うまい中華そば 税込390円」と店舗の看板にも掲げているラーメンの価格を据え置き、実質値下げした。他の商品で十円単位の値上げを行うなどしている。担当者は「低価格での商品が基本なので単純には上げられない。できる範囲で対応した」と話す。全国で約千八百店の衣料品店を運営するしまむら(さいたま市北区)も、先月三十一日までに店頭に並んでいた商品は、表示価格を改定せずに本体価格を下げる実質値下げに踏み切った。同社は「値札付け替えなどの作業量、コストが膨大なため」と説明。四月以降の入荷商品からは新しい税率を反映させているという。
■小売店
 消費税と地球温暖化対策税のダブル増税により、レギュラーガソリンは一日から一リットル当たり五円程度値上がりした。さいたま市浦和区の国道17号沿いにあるガソリンスタンドでは先月三十一日は通常の倍の約一万二千リットルを販売したが、一日は閑散としていた。店長の男性は「しばらくは通常の半分くらいの販売量になると思う」と話した。JR浦和駅近くのバス定期券売り場。先月三十一日には最長十五メートルの行列ができたが、一日は時折、三、四人が並ぶ程度だった。この日定期券を購入した四十代女性は「忙しくて増税前に間に合わなかった。六カ月定期で千五百円ほど上がったので、もったいなかった」と悔しがった。

*4-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140401&ng=DGKDASFS3102B_R30C14A3EE8000 (日経新聞 2014.4.1) 
社会保障も負担増に 70歳医療費、窓口で2割 公的年金支給は0.7%減
 4月から医療や年金の負担が増える。現役世代や企業の保険料は毎年のように上がってきた。今年は受け手である高齢者の年金が減るなど各世代で一定の痛みを分かち合う。消費増税で財源確保に一歩踏み出すが、持続可能な制度にするには給付見直しが課題になる。70~74歳の医療費の窓口負担は、4月から段階的に1割から2割に上がる。具体的には4月2日以降70歳になった人が2割負担となる。もともと70~74歳の窓口負担は法律上、2008年度から2割となるはずだった。だが高齢者の反発を恐れた歴代政権が、特例として毎年約2千億円もの補正予算を組んで1割負担にとどめてきた。医療分野では1日から診療報酬が改定され、医療機関に支払う料金が上がる。消費増税に伴い、医科の初診料は、2700円から120円増の2820円にする。再診料は現行の690円から720円にする。窓口負担が3割の現役世代では、846円を初診料として支払う。残りは健康保険組合が負担する。年金分野は高齢者の給付が減り、現役世代も保険料負担が増す。公的年金の支給額は、4月分(受け取りは6月)から0.7%下がる。国民年金を満額で受け取っている人は13年度と比べ月額475円減の6万4400円となる。厚生年金を受け取る標準世帯では1666円減の22万6925円になる。第一生命経済研究所の試算によると、年金と介護の14年度の負担は、家計全体では前年度より4300億円、企業は3800億円増えるという。

*4-2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDC0600M_W4A300C1EA2000/?n_cid=TPRN0003 (日経新聞 2014/3/7) きしむ公的年金、改善探る 「100年安心」へ検証開始
 「100年安心」をうたう公的年金の財政検証が始まった。厚生労働省は6日開いた社会保障審議会の専門委員会で、積立金の運用利回り目標などを5年に1度検証するための経済前提を示した。利回り想定は3~6%と幅を持たせつつ、標準シナリオは4.2%とし、国債偏重の運用から脱却するよう報告書に盛り込み、高い利回りの実現を狙う。厚労省は6月をメドに検証結果をまとめる。運用見直しや年金改革の行方と課題を探った。現行制度は公的年金の給付水準を「現役世代の収入の5割」とし、法律で保証している。2009年の前回検証では、100年にわたって50%を割ることはないとの検証結果が出て、年金制度改革は行われなかった。09年度の給付水準は62%だが、少子高齢化で徐々に50%に近づく見通しだ。12年度の年金支払額は約50兆円なのに対し、保険料収入は30兆円にすぎない。残りは税金と約129兆円ある積立金の取り崩しで補っている。09年の検証では保険料の落ち込みと年金額の増加を補うために、利回り目標を04年の3.2%から4.1%に修正。運用益の想定をかさ上げして、100年は積立金が枯渇しないというシナリオで帳尻を合わせた。金融危機直後だったにもかかわらず、高い利回り目標は「実態とかけ離れている」との強い批判を浴びた。そこで今回、厚労省は安倍政権の経済政策「アベノミクス」が成功して日本経済が成長するケースのほか、低成長で推移するなどの8つのシナリオを用意した。しかし専門委では植田和男東大教授らが「(高成長シナリオの)実現可能性は非常に低い」と指摘。目標の実現を疑問視する意見が相次いだ。学習院大学の鈴木亘教授が昨年8月に出した財政試算では、12年11月以降の株高を勘案しても、厚生年金と国民年金の積立金は2038~40年に枯渇してしまうという。この試算は経済前提として想定利回りを2.5%、物価上昇率を1%と現実的なものにしている。高い利回りを実現するため、専門委は公的年金の資金をあずかる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用は「国内債券中心とする必要はない」と指摘した。13年末時点でGPIFは全資産の55%を国内債券に振り向けている。10年物国債の流通利回りは現在0.6%程度にすぎず、高い利回りはとうてい期待できない。さらに、財政検証では物価上昇率を0.6~2%とした。インフレが長期金利の上昇(債券価格の下落)につながると、見た目の債券利回りは改善する。だがGPIFが保有している債券は値下がりし、含み損を抱えてしまう恐れもある。社保審の報告書は、国内外の株式をはじめ、物価連動国債や不動産投資信託(REIT)なども投資対象として幅広く検討するよう求めた。そこで厚労省とGPIFは財政検証と並行して運用方針の見直しを進める。新たな投資先としては株式への運用を増やすことが有力だ。6日の東京市場では国債中心の運用からの脱却方針が伝わると、日経平均株価は大幅に上昇し、節目の1万5000円を回復した。株式の比率を高めれば相場変動による損失のリスクは大きくなるが、「運用比率を1%上げるだけで日本株には1兆円超の買い需要が出る」(大和証券の塩村賢史シニアストラテジスト)との推計もある。「GPIFが円建ての債券を売り、ドル建ての外国債券や株式を買えば円安要因。日本株には二重に追い風」(ドルトン・キャピタル・ジャパンの松本史雄ファンドマネージャー)と期待する声も出ている。確かに、アベノミクスによる株高の追い風で、GPIFは12年度で9.5%の運用利回りを実現した。一方でリーマン・ショックが起きた08年度にはマイナス6.8%に落ち込んだこともあり、3~6%の利回りを安定的に確保するのは難しい。年金積立金の自主運用を始めた01年度から12年度までの平均利回りは2.2%どまり。GPIF設立後の06~12年度の平均は1.5%で、今回の目標の下限である3%にも届かない。運用改革だけで目標を達成するのは至難の業だ。運用改革で足りないとすれば、年金給付を抑え、保険料負担を増やすといった年金制度そのものの大胆な改革に踏み込めるかどうかに注目が集まる。厚労省は今回の検証で初めて保険料の納付期間を延長した場合や、マクロ経済スライドと呼ぶ給付抑制策をデフレ下でも発動した場合について特別に試算する方針だ。現行制度では、保険料は20歳から60歳まで払うことになっている。しかし、60歳定年が崩れ、65歳までの高齢者雇用が定着すれば、支払期間を65歳まで延長するのが自然との考えからだ。このほか、年金を受け取り始める年齢を現行の65歳から後ずれさせる支給開始年齢の引き上げも検討課題となりそうだ。厚労省は3月中に特別試算の枠組みを決める。厚労省はさまざまなパターンの試算を出すことで、年金制度改革の議論を活発化したい考えだ。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140326&ng=DGKDASFS2503B_V20C14A3MM8000 (日経新聞 2014.3.26) 
再入院、病院の乱用防止 定額払い、基準厳しく 厚労省、医療費膨張に歯止め
 厚生労働省は4月から入院医療のルールを見直す。割高な入院費を得ようと、病院が患者に入院・退院を短期間に繰り返させる事例が多発しているためだ。再入院までの期間を長くしたり、受け入れ可能な症状を絞り込んだりして再入院を認める基準を厳しくする。患者負担を抑えながら、膨らみ続ける医療費に歯止めをかけ、病院から在宅医療への移行を進める。医療費は年40兆円近くあり、高齢化の進展に伴って1兆円規模で毎年膨らんでいる。入院費は全体の4割の15兆円。定額払いだけで4兆円程度に上っており、今回の見直しで数百億円の費用が抑制できるとみている。新ルールは診療報酬改定にあわせて実施。入院費の定額払い制度を利用する医療機関が対象だ。定額払いは2003年の導入後、全国に7500ある一般病院のうち1600近くに広がった。定額払いは手術料など出来高払いの部分を除き、入院直後の料金が高く、期間が長くなると安くなる。例えば肺炎で入院した場合、7日までは1日あたり2万7800円、14日までは2万円強、30日までは1万7千円台と下がっていく。ところが今のルールでは、退院から3日を超えると、入院直後の料金からやり直すことになる。厚労省調査によると、一時退院後1~3日以内に再入院したケースは年3万件。4日後の再入院は2万件、5日後は3万5千件と大幅に増える。入院初期の高い料金を目当てに患者を一時的に帰宅させ、再入院させる傾向が否めない。ルール見直しは、知らず知らずのうちに高い入院費を払っていた患者にとって費用負担が減る利点がある。新ルールでは再入院を認める基準を厳格化し、まず再入院までの期間を最低7日間空ける。7日に満たない場合、それ以前の入院が続いているとみなし、料金請求の仕切り直しを認めない。症状も絞り込む。現行ルールを使い、最初に患者を受け入れた症状と異なる症状にして再入院を繰り返す医療機関があるためだ。これまでは500超の症状で再入院を認めてきたが、18分野に絞り、病院による意図的な病名の書き換えを防ぐ。再入院が難しくなることで長期入院が本当に必要な患者までが排除される懸念も残る。厚労省は病院から在宅への医療体制のシフトを進めているが、在宅医療サービスを充実させる政策のバランスが問われている。

*4-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014021902000125.html (東京新聞 2014年2月19日)介護保険料現役5000円超 厚労省推計 制度開始時の2.5倍
 四十~六十四歳が負担する介護保険料が二〇一四年度は過去最高を更新し、一人当たり月額五千二百七十三円となる見込みであることが十八日、厚生労働省の推計で分かった。現役世代の保険料見込みが五千円を突破するのは初めて。介護保険制度を開始した〇〇年度の二千七十五円から約二・五倍に膨らんだ。高齢者の増加と現役世代の減少が保険料の上昇につながっており、厚労省は今後もこの傾向が続くとみている。サラリーマンの場合、二五年度に保険料が一二年度の約二倍になるとの政府試算もある。今後も厚生年金の保険料率引き上げが予定通り実施されるなど、現役世代の負担は重くなる一方で、増大する社会保障給付との均衡をどう図っていくかが課題だ。利用者負担分を除いた一四年度の介護給付費は、介護予防事業も含め総額九兆三千三十一億円になる見通し。消費税増税に伴う物価上昇や高齢化の進行で膨張が見込まれるためだ。給付費の50%を保険料で賄い、うち四十~六十四歳が29%分、六十五歳以上が21%分を負担する。四十~六十四歳の保険料は、厚労省の推計を基に健康保険組合など公的医療保険の運営主体が毎年度改定する。一三年度は四千九百六十六円(推計)だが、今年四月分から三百七円増える計算だ。本人が払うのは原則半額で、医療の保険料と合算して徴収される。支払額は加入者の所得などで異なる。六十五歳以上の保険料は三年ごとに見直される仕組みで、一二~一四年度は一人当たり月額四千九百七十二円(全国平均)。一五~一七年度の保険料は各市町村が一五年三月までに決めるが、こちらも五千円を超える可能性が高い。今回の推計は、介護給付費の見込み額から現役世代の負担分を仮定し、想定される加入者数で割るなどして算出した。
<介護保険料>介護保険運営のため40歳以上が払う保険料。介護サービスにかかる総費用は、利用者が1割を負担し、残りを公費と保険料で半分ずつ賄う仕組み。40~64歳(2号被保険者)の保険料は加入する公的医療保険を通じて納め、自己負担は原則半額。サラリーマンなら事業主が、自営業者なら公費で残りを負担する。65歳以上(1号被保険者)の保険料は全額自分で払うのが原則で自治体が所得に応じて段階的に設定する。低所得者には負担軽減措置がある。


PS(2014.4.13追加):*5のような電話世論調査は、質問の仕方によって回答が変わるが、年金生活者やぎりぎりで生活している人には、消費税率が8%に引き上げられて以降、「消費金額はこれ以上減らせないが、消費数量は減っている」という選択肢を作るべきだったと思う。何故なら、それが実情だからだ。なお、「景気、景気」と言って内容のないものに惑わされるのは、生活者として家計管理をしていない人(主に男性)ではないだろうか。

*5:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014041302000137.html
(東京新聞 2014年4月13日) エネ計画53%評価せず 消費増税後に不安67%
 共同通信社が十一、十二両日に実施した全国電話世論調査によると、消費税率が8%に引き上げられた四月一日以降、消費を「控えていない」とした人は63・7%で、「控えている」の34・8%を上回った。ただ増税後の日本経済の先行きに不安を感じているとの回答は「ある程度」を含め計67・5%に上った。不安を感じていない人の割合は計30・5%にとどまり、今後の景気への不安感が根強い現状がうかがえる。 集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更に反対は52・1%、賛成は38・0%だった。安倍内閣の支持率は59・8%で前回三月二十二、二十三両日の調査より2・9ポイント上昇した。不支持率は26・7%。 二〇一五年十月に予定される消費税率10%への引き上げに賛成は36・2%、反対は57・8%。食料など生活必需品の税率を抑える軽減税率を導入する方がよいとの回答は81・0%に達した。原発再稼働を進める方針を明記した政府の「エネルギー基本計画」を評価すると答えたのは39・0%で、評価しないは53・8%。武器輸出三原則に代わる新たな輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」には賛成36・2%、反対50・4%だった。政党支持率は自民党が42・4%で前回から1・7ポイント増。民主党5・3%、公明党4・0%、日本維新の会3・8%、共産党3・2%、みんなの党0・9%、社民党0・6%、結いの党0・4%、生活の党と新党改革が0・1%で、支持政党なし38・3%だった。みんなの党は全国電話世論調査の対象となった〇九年八月三十一日、九月一日の調査以来最低となった。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 05:35 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.1.21 高齢者の増加による社会保障費全体の増加は当然。そのため、社会保障サービスを向上させながら一人当たりの社会保障費を如何に下げるかを考えるべきであり、 「増税+給付減」は誰でも考えつく最悪の愚策である。
   

(1)高齢者が増加すれば、高齢者全体に対する社会保障費が増加するのは当然である
 *1、*2-1、*2-3は典型的で、「社会保障費の膨張に歯止めがかからず、高齢化に伴って医療や介護、年金の費用が増えるが、これでは、若い世代の負担を減らせない」という論調が、当たり前のように言われている。

 しかし、高齢者が受給している年金は自らが支払った年金保険料に対応するもので、もし年金原資が足りなくなったとすれば、その責任は100%、年金制度を作って徴収・運用・支払いを行ってきた国(厚生労働省)にあり、その制度に加入していた国民にはない。また、健康保険料や介護保険料も、働いていた時に納付していたものであるため、給付する時になって急に負担増されるのはおかしい。

 また、予想以上に少子化が進んだ理由は、40年以上も前から言われている保育・学童保育の不備を放置し、労働基準法や男女雇用機会均等法を骨抜きにして、社会保険料を支払わない非正規雇用を容認し続け、若い世代が安心して結婚・子育てすることができないようにしている政府(主に経済産業省、厚生労働省)に原因がある。そのため、少子高齢化の影響は、国民に負担をかけずに解決するのが筋であり、その費用は、原発や集票目的の歳出を抑え、今まで資源として使っていなかったものを資源化することによってはたきだすべきであり、それは、このブログに何度も書いたとおり可能である。

 また、*1には、「国が一定額を負担する医療サービスの診療報酬改定が試金石」「政府は当初、マイナス改定を探ったが、医師会や政治の抵抗で結局、微増で決着」と書かれており、*4で「診療報酬0.1%増で決着 実質はマイナス」とも書かれているが、診療報酬は企業で言う「売上」で、そこから「仕入(薬剤費etc.)」や「経費(医師・看護師・その他職員の給料、水光熱費、医療機器の減価償却費、地代・家賃etc.)」を支払うものであるため、物価が上昇し、医療スタッフの賃金引上げや一人当たり労働時間の短縮が必要で、消費税増税が行われる中、診療報酬の引下げばかりを強調するのは、医療の質を下げ、医療関係者の負担を不当に増加させるものである。

 私は、衆議院議員だった2005~2009年の間、地元だった佐賀三区の病院や診療所をくまなく訪問して話を聞いたが、30年前と異なり、つぶれて閉鎖した診療所や、いつそうなるかわからない診療所が多かった上、公的病院も赤字を出していた。医療サービスの質を維持しながら病院経営の効率化を図ることはもちろん重要だが、それは、単純に診療報酬を引き下げればできるというものではなく、診療報酬の引き下げは、病院や診療所をつぶして今までの蓄積を失わせるものであるため賛成できない。

(2)国民を、高齢者と若者という対立軸にして分断するのは、官のやり方である
 国(官)は、自らは決して責任をとらず、話を曖昧にする目的で、「分断」という手法をとることが多い。これは、働く女性と専業主婦の間でも行われ、双方にメリットのある政策がとられなかった歴史がある。

 具体的には、*2-1、*2-3で、「世代間の不公平」を盾に、「高齢者への年金給付切り下げ」や「社会保障給付の切り下げ」を説いているが、年金については、私がこのブログの2013年8月14日に記載しているように、国が退職給付会計を適用せず、将来の支払額を正確に見積もって、きっちり管理・運用してこなかったことが問題なのであり、それは今も変わっていない。そのため、企業と同様、日本年金機構も退職給付会計を適用し、積立不足分を長期間に渡って積み立てていくのが解決策だ。そして、高齢者に必要十分な年金を支払うことは、若者が親に仕送りをせず、自らも将来に不安を持たずに生活できることであるため、本来は、高齢者と若者は対立軸にならないのである。

 なお、*2-1は、社会保障の質は論じず金銭のことのみ論じており、この論調は典型的なものであるため、筆者の経歴を調べてみた。すると、やはり*2-2のように、筆者は経済のみの専門家で、多くの政府委員会委員を勤める御用学者であり、政府の政策を語るマイクロホンだった。そして、メディアが政府の政策に基づいて、こういう考えをばら撒き続ければ、「おれおれ詐欺」のように老人からむしりとる犯罪が増え、そういう雰囲気の中で育った若者が増えれば、長くは書かないが、あらゆる点で社会の質が低下する。そのため、ここで真面目に考え直すべきである。

(3)介護保険について
 *3に、「高所得者は介護サービス2割負担 / 公平化で15年度から」と書かれており、ここでも、意見書が「現役世代に過度な負担を求めずに、高齢者世代内で負担の公平化を図る」と強調して、65歳以上の介護サービス利用料の自己負担を、1割から2割に引き上げるよう求めたそうだが、ここで言う「一定程度以上の所得」の定義は、「夫婦合算の年収が359万円以上」という低いものだった。これで要介護者を抱えて生活できるのか疑問だ。

 また、介護費用が介護保険で賄われれば、現役世代が介護したり、親に仕送りしたりせずにすみ、自分も将来はそれを受けるため、ここで「現役世代に過度な負担を求めずに」とするのは、間違っている。

 さらに、現役世代は40歳以上しか介護保険料を支払っていないため、世代間公平化のためには、このブログの2013年8月18日に記載しているとおり、介護保険は働く全世代で負担し、給付も世代間公平を保ってもっと充実すべきであり、非正規雇用など社会保険を支払わない現役世代は減らすべきである。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131224&ng=DGKDASGC2400D_U3A221C1MM0000  (日経新聞 2013.12.24)頼みは税収、改革足踏み 来年度予算案 - 一般会計最大、95兆8823億円 社会保障なお膨張
 政府は24日の閣議で、2014年度予算案を決めた。政策や国債の利払いに使う国の一般会計の規模は、今年度当初予算に比べて3.5%増の95兆8823億円となり、過去最大になる。医療や介護にかかる社会保障費がふくらむ。公共事業や防衛などの予算も軒並み増えた。来春の消費税率の引き上げなどで税収が増えるため、国債の新たな発行は減らすことができるが、若い世代の負担を減らす歳出面の改革は足踏みしている。政府は予算案を来年1月召集の通常国会に出し、年度内の成立をめざす。麻生太郎財務相は閣議後の記者会見で「デフレ脱却、経済再生と財政健全化を併せて目指す予算だ」と強調したが、どちらかと言えば、安倍晋三政権が掲げるデフレ脱却と景気のてこ入れに重点を置く内容になった。国の一般会計は、大別すると、社会保障や公共事業など政策にかける経費と、国の借金である国債の元利払いにあてる国債費で構成する。14年度予算では、政策経費が今年度より3%増え、72兆6121億円と過去最大にふくらむ。最大の原因は社会保障費の膨張に歯止めがかからないことだ。高齢化に伴い医療や介護、年金の費用が6千億円以上増える。一方、安い後発薬への置き換えなど、コストを圧縮する抜本的な手立てはほとんど進んでいない。国が一定額を負担する医療サービスの診療報酬の改定が試金石だった。政府は当初、マイナス改定を探ったが、医師会や政治の抵抗で結局、微増で決着した。社会保障費はこの10年間で5割以上増え、初めて30兆円台に乗せる。消費税率を上げた直後の景気の落ち込みを和らげるために、雇用を創出する効果の高い公共事業予算も特別会計統合の影響を除いた実質ベースで2%増やした。全国の老朽インフラの耐震化や東京五輪対策のほか、新幹線の路線整備のための予算を9年ぶりに増やす。日本の成長力底上げ策も盛り込んだ。医療の最先端研究開発の司令塔となる「日本版NIH」の設立費用や、世界で勝ち残る大学への支援、新型ロケット事業などに約1兆9千億円を計上した。このほか、中国の海洋進出を警戒して、防衛予算も2年連続で増やす。地方税収増の寄与で約2500億円を圧縮する地方交付税交付金が、ほぼ唯一の減らす分野になった。頼みは税収だ。来春の消費増税で4兆5350億円が加わるほか、法人税収が10兆円に伸び、7年ぶりの50兆円台となる50兆10億円を見込む。新たな国の借金につながる新規国債の発行額を1兆6千億円減らし、41兆2500億円に削る。税収増により、政策経費を税収でどの程度まかなえているかを示す国の基礎的財政収支の赤字は18兆円と赤字幅が5兆2千億円少なくなる。13年度と比べた赤字幅を4兆円程度縮める目標を示した中期財政計画を1兆円程度上回るペースだ。ただ、15年度までに10年度と比べた赤字幅を半減するという国際公約の達成にはなお一段の改革が必要だ。日本の債務残高は国内総生産(GDP)の2倍を超え、国民1人が700万円以上の借金を抱えている計算になる。先進国最悪の財政状況に変わりはない。14年度予算は、税収増を追い風に予算を増やしてほしいという圧力が膨らんだ側面もある。予算にムダはないのか、どの分野で支出を削り、国民に我慢を求めるのか、本格的な歳出改革への課題は先送りされた。

*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131231&ng=DGKDZO64770740R31C13A2MM8000 (日経新聞 2013.12.31)消費税「10%」は不可避 大阪大教授 大竹文雄氏
●給付を自動減額
―来年4月の消費税率引き上げの影響をどうみますか。
 「増税による2014年度の増収額は5兆円程度。大半は社会保障の充実に回すのではなく、これまで取るべき税を集めていなかった分、つまり赤字国債を出して穴埋めしていた分にあてる。年金や医療はある程度安定するが、充実させる余裕はほとんどない。増税しても給付の抑制は避けて通れない」。「4月以降の景気は、駆け込み消費の反動減が出るが、ならせば影響は小さいだろう。増税の見送りは財政破綻の危険性を高める。それが現実になったとき、私たちの生活水準はどうなるか。おそらく1990年代後半の金融危機時よりも悲惨だろう。最悪の事態を想定しながら、増税の影響を考えるべきだ」。
―社会保障・税一体改革法は15年10月に税率を10%に再び引き上げると定めています。
 「10%に上げても25年以降は国内総生産に対する政府債務比率の上昇を止めるのは難しい。その事実を内閣府ははっきり示そうとしていない。10%への引き上げを先送りしたいという考えは現実離れしている。成長を追求するのは大切だが楽観的な筋書きは禁物だ」。
―年金や医療の持続性を高める制度改革について安倍政権は確たる手を打っていません。
 「国政選挙の投票者の中位年齢は50歳を超えている。高齢層を重視する政策をとり続けないと政権が維持できないほどだ。発足1年の政権がその危険を自覚するのは理解できる。社会保障の給付膨張を抑える改革を一つひとつ実行するのは至難の業だ。ある程度給付を自動調整する仕組みを導入するのが有効だ」。「年金は04年改革法で保険料を継続して上げる仕組みを入れた。厚生労働省は厚生年金の保険料率を毎年、小刻みに上げてきた。料率が上限の18.3%に達した後はどうするか。保険料収入が想定に届かなければ、国会が議決しなくとも、給付を下げる仕組みを確立させておけばよい」。
●若者の収支赤字
―厚労省は世代間不公平を問題にするのは望ましくないと言います。
 「官邸の社会保障制度改革国民会議も報告書に同じ内容を盛りこんだ。高齢者の身になれば、あなたは得な世代だと一方的に言われていい気はしない。だが無理な理屈を通そうとすれば制度への信頼を損ねる。たとえば年金を長生きのリスクに備える保険と考えればわかりやすい。誰もが保険事故に遭う可能性が未知数だからこそ、加入前から公平な制度として成り立つ。しかし現行の年金は入る前から若者や将来世代が損をし、給付を受ける前から得する世代がいるのも明らかだ。助け合いは成立しにくい」。「年金の不公平を認めたうえで、今の若者は経済発展の恩恵を受けており、年金で損をするのはやむを得ないとの合意が各世代にあるなら問題は小さい。だが年金を通じた生涯収支が数千万円の赤字になる世代は、たとえば今後のエネルギー制約を考えると生活水準が下がる可能性もある」。
―日本人は超高齢経済を乗りきれますか。
 「乗りきるしかない。長く生きられるようになったのは幸せなことだ。しかし一人ひとりの生涯所得が変わらない前提だと長寿化は毎年の生活水準の低下を意味する。経済成長は追求すべきだが、達成できない場合の覚悟も問われている」。
*大竹文雄氏:1983年京都大経卒、85年大阪大院修了。大阪府立大講師などを経て大阪大教授。専門は労働経済学、行動経済学。「日本の不平等」で日経・経済図書文化賞。最近はNHKテレビで経済学の基本を解説している。52歳

*2-2:http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ohtake/profile/cv.htm
大竹文雄氏 略歴
●生年月日  : 1961年
●現  職   : 大阪大学社会経済研究所教授
●学  位   : 大阪大学博士(経済学)1996年3月8日
●学  歴
 京都府立東宇治高等学校 1976年4月~1979年3月
 京都大学経済学部 1979年4月~1983年3月
 大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程 1983年4月~1985年3月
 大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程 1985年4月~1985年6月
●職  歴
 大阪大学経済学部助手 1985年7月~1988年3月
 大阪府立大学経済学部講師 1988年4月~1990年3月
 大阪大学社会経済研究所助教授 1990年4月~2001年4月
 大阪大学社会経済研究所教授 2001年5月~現在
 大阪大学社会経済研究所長 2007年4月~2009年3月
 大阪大学理事・副学長 2013年8月~
 経済企画庁経済研究所客員研究員 1986年4月~1990年7月
 Visiting Fellow (Fulbright Fellow)
  Economic Growth Center, Yale University 1990年7月~1991年8月
●政府委員会委員
 厚生労働省社会保障審議会臨時委員 2001年7月~2007年7月
 経済産業省産業構造審議会臨時委員 2002年2月~2003年2月
 国土交通省賃貸住宅市場整備研究会委員 2002年3月~2002年12月
 内閣府国民生活審議会臨時委員 2002年3月~2003年6月
 国土交通省社会資本整備審議会臨時委員 2004年10月~2006年10月
 厚生労働省 最低賃金制度のあり方に関する研究会参集者 2004年9月~2005年9月
 内閣府税制調査会専門委員 2007年4月~2009年11月
 総務省 政策評価・独立行政法人評価委員会専門委員 2007年9月~2015年8月
 内閣府経済財政諮問会議専門委員 2008年2月~2008年10月
 経済産業研究所 労働市場制度改革研究会委員 2008年5月~2009年3月
 文部科学省 「今後の幼児教育の振興方策に関する研究会」委員 2008年3月~2010年3月
 内閣府 「幸福度に関する研究会」構成員 2010年12月~2012年9月
 文部科学省 科学技術・学術審議会専門委員 2011年2月~2015年2月
 経済産業省 産業構造審議会 臨時委員 2011年3月~2012年3
 厚生労働省 社会保障審議会臨時委員 2013年8月~2015年8月 等

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140118&ng=DGKDZO65494940Y4A110C1EA1000 (日経新聞社説 2014.1.18) 「百年安心年金」の辻つま合わせは限界だ
 日本経済が人口の少子化・高齢化に直面するなかで年金制度を超長期にわたって持続させるのは容易ではない。保険料、税など年金財源を負担する現役人口は先細りする。人口構造の激変に備え、制度改革を急がなければならない。しかし、安倍政権は確たる手を打っていない。首相官邸の社会保障制度改革国民会議は2013年8月の報告書で「年金の持続可能性は確保されている」と断じた。高齢層に痛みを求める改革から距離をおこうとする政権の意向が背後にあるのではないか。改革を怠れば若い世代の不信感を一段と強め、保険料の不払いなどをさらに増やすおそれが強い。厚生労働省は近く年金財政の検証結果を公表する。日本経済の実力を率直に見通し、背伸びした前提を排した将来像を示すべきだ。それが改革を促すテコになる。財政検証は04年の年金改革法に基づき5年ごとにする。前回09年の検証で同省は年金積立金の超長期の運用利回りを年4.1%(中位ケース)と想定した。実力より背伸びさせた前提をおき、今後百年間の収支の辻つまを合わせた。物価や賃金の前提も甘めだった。これが、04年改革のときに与党が有権者に訴えた「百年安心プラン」の実態である。超党派の議員による国会版国民会議は昨年「実績が前提を下回れば将来世代が財政負担を負う。前提は保守的におくべきだ」と提言している。与野党の良識ある声に厚労省は謙虚に耳を傾けるべきである。政権内や一部の学識者には、アベノミクスの効果が出れば成長が高まるので、強気の前提をおくのは差し支えないという意見がある。成長戦略の大切さは論をまたないが、超長期の経済前提とは区別するのが常道である。かりに実績が前提を上回れば、将来世代の負担を計画よりおさえるなど「うれしい誤算」を享受すればよい。大改革を待たずとも、すべきことは多々ある。受給者への実質支給額を毎年、小刻みに下げる制度は今すぐ実施すべきだ。年金課税を強化して財源を増やすのも、制度の持続性向上に有効だろう。厚生年金などの支給開始を現行計画の65歳より上げる課題を、政権はたなざらしにしている。日本人より平均寿命が短いにもかかわらず、欧米の主な国は67~68歳への引き上げを決めた。若い世代が不利な現状をやわらげる要諦は、一刻も早い改革への着手である。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2599005.article.html
(佐賀新聞 2013年12月20日) 高所得者は介護サービス2割負担 / 公平化で15年度から
 社会保障審議会の介護保険部会は20日、2015年度からの介護保険制度改革に関する意見書を取りまとめた。意見書は「現役世代に過度な負担を求めずに、高齢者世代内で負担の公平化を図る」と強調し、65歳以上の介護サービス利用料の自己負担を、一定程度以上の所得のある人は1割から2割に引き上げるよう求めた。厚生労働省は介護保険法改正案を来年の通常国会に提出する。自己負担の引き上げは、介護保険がスタートした2000年4月以来、初めて。

*4:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131221-00000081-san-pol
(産経新聞 12月21日)  診療報酬0.1%増で決着 実質はマイナス、6年ぶり
 政府は20日、平成26年度予算編成の焦点となっていた診療報酬改定について、全体で0・1%引き上げることを決めた。ただ、消費税増税に伴う医療機関の仕入れコスト増の補填(ほてん)分を除く「実質」の改定率は1・26%マイナスとなる。診療報酬は医師の技術料に相当する「本体部分」と、薬や材料の価格である「薬価部分」で構成し、2年に1度見直される。実質的なマイナス改定は20年度の改定以来6年ぶり。26年度改定では、市場実勢価格を反映させ、薬価部分を1・36%引き下げる一方、本体部分は0・1%引き上げる。また通常の改定率とは別に、来年4月の消費税増税に伴う補填措置として1・36%を上乗せしたため、全体では0・1%のプラスとなった。0・1%の引き上げには新たに約200億円の保険料と約160億円の税金、約50億円の患者窓口負担が必要になる。改定をめぐっては、医療費を抑制したい財務省と、報酬増額を求める厚生労働省の意見が対立。自民党の厚労族議員もプラス改定を求めて安倍晋三首相に決議文を提出するなど、増額に向けた働きかけを強めていた。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 04:28 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.8.18 介護保険制度はもっと充実すべきで、その財源は39歳以下の年齢層にすべきだ。
         

(1)介護保険制度とは
 このブログの年金・社会保障のカテゴリーに何度も記載したとおり、介護保険制度は、私の発案で検討されて、1997年に国会で制定され、2000年4月1日から施行された日本の社会保険制度だ。そして、その財源は、税金による補填もあるが、被保険者が納付する保険料が主である。しかし、現在のところ、*3のように、まだ支払者は40歳以上の人のみであり、介護サービスの受給は、65歳以上の人は全面的だが、40歳~64歳の人は制限が多いというように、不公平で未熟な制度である。

 1)第一号被保険者:65歳以上の人。保険料は、原則として年金から徴収。
              認知症、寝たきりなど介護が必要な時や手伝いが必要な時には、
              介護保険でサービスを受けられる。
 2)第二号被保険者:40歳~64歳の人。加入している医療保険の保険料と併せて徴収。
              厚生労働省の定める特定疾病にかかって介護や支援が必要に
              なったら、介護保険によるサービスを受けられる。

(2)何故、不公平で不公正な制度なのか
 支払者を40歳以上としたことに理論的な根拠はなく、本来は39歳以下の人も医療保険の保険料と併せて介護保険料を支払うべきだったのである。それにもかかわらず、支配対象者を40歳以上として年齢による差別を行った結果、人件費削減のために40歳定年制を行おうとする企業も出てきており、被用者にはマイナスとなった。また、40歳~64歳の人は、介護保険料を支払っているにもかかわらず、給付に制限を受けて不公正であるため、加入者は必要に応じて全介護サービスを受けられるようにすべきだ。

 そのためには負担が必要だが、負担は39歳以下の人も行うこととし、高齢者の負担ばかりを増やすことなく、全世代平等に負担と給付を行うべきである。2000年4月1日からは、家族だけで介護を負担することなく、介護が社会化されたことを考えれば、39歳以下の人も医療保険の保険料と併せて介護保険料を支払うことに合理性はあるし、また、必要に応じて介護サービスを受ける権利もなければならない。

(3)現在の介護サービスは十分か、また、どんなサービスが必要なのか
 高齢者が受けている全介護サービスでも、自宅で療養しながら一人暮らしをする高齢者には十分ではない。そして、核家族化が進んだ現在、子どもがいても一人暮らしをする高齢者は多いのであり、子どもや孫は、介護するために仕事を辞めたり、介護費用を仕送りしたりはできない状況にある。そのために介護を社会化したのであるから、安価で同じ以上の効果を上げることができるように工夫するのはよいが、介護サービスをカットするという話にしてはならない。

 なお、*2については、地域間を移動した人の介護・医療費用を転居前の自治体が負担するのは合理性があるが、高齢者が必要としているのはケア付き賃貸住宅ではなく、住み慣れた自宅でケアを受けることであり、そのためには、訪問看護ステーションや介護ステーションを的確な場所に多く作ってサービスを充実させることが必要だ。そのため、せっかくの介護保険がまたハードに流用されることについては、厳重に注意しなければならない。

     
       *1より        *2より
*1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=22817
(日本農業新聞 2013/8/17) 高齢者負担ずしり 社会保障制度改革国民会議の報告書
 国の財政逼迫(ひっぱく)を背景に、高齢者に負担がのしかかってきそうだ。政府の社会保障制度改革国民会議が今月、安倍晋三首相に提出した報告書によると、医療費の窓口負担の引き上げ、介護保険から「要支援」を外すなど“在宅弱者”にしわ寄せが及ぶ。現場では不安と戸惑いが広がっている。
●70歳以上 医療費2割 介護 行政間で格差も
 報告書は医療費について、70~74歳の患者の窓口負担を1割に抑えてきた特例の廃止を提言。2割負担とし、来年4月以降、70歳になる人から対象にする。静岡県御前崎市でミニトマトを作る岡村文雄さん(66)は、右膝を痛め、高血圧も抱える。定期的に病院に通う中で「負担割合を上げられると生活に響く。これからもっと医者に行く回数も増えるだろうし、安心して年を取れない」と心配する。医療費の窓口負担は本来、2008年度から1割を2割に引き上げることが法律で決まっていたが、07年参院選で自民党が大敗したことなどから凍結、歴代政権が続けてきた。同会議は「世代間の公平を図る観点からやめるべき」とし、法律通りの引き上げを要請した。日本農村医学会の藤原秀臣理事長は「財源確保のために仕方ない」との見方を示しつつも「高齢者の多い農村部への大きなしわ寄せだ。負担増を強いる前に、地域医療の崩壊を食い止める具体策を、政府はもっと真剣に打つべきだ」と指摘する。
 介護では、歩行や食事など、身の回りの世話が必要な「要支援」を介護保険の対象から切り離し、段階的に市町村の独自事業へ移行する。15年度から着手する方針だ。熊本県あさぎり町の溝口鷹則さん(57)は、父の偲さん(88)を週3回、JAのデイサービスセンターへ送り出す。偲さんは足が不自由で介護度は要支援2だ。デイに行けば友達もいるし、段差がない施設で転ぶ心配もない。毎回楽しみにしている。「家族が農作業などで出掛けている日中、家に一人きりでいると座りっぱなしで足腰が弱るだけだ。デイで話したり体操したりするから体調が悪くならずに、元気でいられる」と鷹則さん。利用できなくなったら「毎日誰かが家にいなければならない。労力的にも経済的にも、負担が増して悪循環」と危機感を募らせる。事業の移行先となるあさぎり町は「介護保険対象外となる人に、これまで通り満足のいく支援が提供できるのか。予算の問題も大きい」と頭を悩ませる。
 JA全中が事務局を務める高齢者福祉ネットワークの山本敏幸事務局長は「市町村ごとに、介護支援の格差が出る」と問題視する。財政や福祉への取り組みが違うため、国の事業のような均一サービスは担保されず、住民が不利益を被る恐れがある。「国の財政破綻を市町村が押し付けられ、住民につけが回った格好だ」(山本事務局長)。JA介護保険事業も「要支援」の利用を失い経営に打撃を受けるため、行政と連携した受け皿づくりを急ぐ必要がある。一方、助けあい組織のミニデイや家事援助などは、介護保険で要支援者が利用してきたサービスに代わる可能性もある。プロ化を目指した助けあい組織が市町村から事業を受託し、JA経営を補う役割を果たすことも求められる。
〈ことば〉  社会保障制度改革国民会議
 大学教授ら有識者15人で構成し、医療、介護、年金、少子化対策の4分野で改革の具体化に向けて話し合う。政府は同会議の報告書を基に、改革の手順や実施時期をまとめた「プログラム法案」の要綱を21日までに閣議決定し、今秋の臨時国会に提出、成立させる見込みだ。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130818&ng=DGKDASFS1701J_X10C13A8MM8000  (日経新聞 2013.8.18) ケア付き住宅 移行支援 転居前市町村、介護費を負担 高コスト施設の増加抑制
 政府は高齢者向けの介護サービスを、自宅にいたまま世話をする「在宅型」中心の仕組みに改める。大都市郊外でケアサービス付き賃貸住宅の整備を加速。同住宅に引っ越した高齢者の介護・医療費を、転居前の市町村が負担する仕組みを2015年度にも導入する。特別養護老人ホーム(特養)など高コストの介護施設の増加に歯止めをかけ、財政負担の膨張を抑える。政府の社会保障制度改革国民会議は6日に公表した報告書で「病院・施設から地域・在宅へ」との方針を打ち出した。これを受け厚生労働省は介護保険法を含む関連法の見直し作業を本格化。14年の通常国会に改正法案を提出する。
 介護保険の対象は、約50万人が入居する特養ホームなどの施設介護が主流だった。だが、特養1人あたりの給付費は月27万円前後で在宅サービスの約3倍になる。介護給付膨張を回避するため、在宅型の一種であるケア付き賃貸住宅を向こう10年で現在の5倍超の60万戸整備する方針だ。建設促進の一環として、同住宅に引っ越す人の介護・医療費用を転居前の自治体が負担する特例を導入する。高齢者の転入に伴う介護・医療費負担で財政悪化が進みかねず、住宅の建設許可に消極的な市町村もあるためだ。市町村間の負担が偏らないようにする「住所地特例」は特養ホームなどに適用してきた。この特例をケア付き賃貸住宅にも適用する。都市部の空き家を転用したケア付き住宅も整備し、あわせて100万~180万戸の住宅の受け皿を整える。在宅中心の介護サービスの仕組みを作る一方、症状が軽い人の特養への新規入所を認めないよう15年度から基準を厳しくする。これらの政策を進めることで、施設介護を中心とする介護保険運営の見直しを急ぐ。
 65歳以上の高齢者は現在約3000万人だが、25年には3600万人超に増える。現状のままの介護保険運営を続ければ給付費は11年度の約7兆6千億円から25年度には2.6倍の約20兆円に膨らむ。厚労省は財政悪化の主因である社会保障給付の抑制を探っている。ただ、今回の介護保険見直しだけでは給付効率化に不十分との見方も根強い。医療や年金を含め高齢者向け給付を見直し、現役世代の負担増を抑制する政策の強化は今後も必要だ。

*3:http://www.tetuzuki.net/insurance/nursing.html 介護保険とは。
 介護保険は、まもなく来る高齢社会によって介護のニーズが増え、今までの福祉や家族での介護が難しくなることを予測してできた社会保険制度です。少子高齢化によって、老人施設は常に定員オーバー。家族は食べていくのに精一杯でとても介護まで手が回らない。核家族化によって増えた高齢者世帯や独居世帯はどうやって介護すれば?という状態が見えてきたので、高齢者が介護が必要な状態になっても自立した生活ができるように、国民みんなで助け合おうじゃないかという制度が介護保険なのです。
 介護保険では、65歳以上の人を第一号被保険者といい、40歳~64歳の人を第二号被保険者といいます。第一号被保険者の人は、認知症や寝たきりなど介護が必要になったときや介護まではいらないけどちょっとしたお手伝いが必要なときに、介護保険でサービスを受けることができます。第二号被保険者の人は、厚生労働省の定める特定疾病にかかって介護や支援が必要になったら、介護保険によるサービスを受けられます。そのサービスは、介護や支援の度合いによる6段階の認定にしたがって提供されます。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 06:11 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.8.14 適正な年金積立金を計算するためには、公的年金にも退職給付会計のような計算が必要であること
(1)適正な年金資産の金額はいくらか
 私が書いた、このブログの2013年8月12日の記事に反論してか、*1の日経新聞記事に、「世界的には、日本はたくさんの年金資金を持つ国である」「日本の資産額は世界に比べて些少というわけではない」という内容を記載した記事があった。しかし、日本の年金資産額を、年金制度の異なる他国の年金資産額と比較しても無意味だ。

 何故なら、あるべき年金資産の金額は、年金制度の内容、人口構成、退職後の平均余命で変わるからである。そのため、このブログの2012.12.18に記載しているとおり、年金制度が開始して年金保険料を徴収し始めた時点から、支払時のことを考えて積み立てておくのが当たり前であり、そうしなければ、人口構成が変化した時に支払金額を削減しなければならない、まさに現在のような状況が起こるのである。

 それでは、必要十分な積立金額はいくらかと言えば、米国では1985年にFASB83で導入され、日本では私が1996年に言い出して1997年から議論され始め、民間企業で2000年4月に導入された退職給付会計で算定されるような計算が必要なのである。しかし、日本では、民間企業も2000年4月までは、「退職給与引当金」としてざっくりした金額しか積み立てていなかったし、公的年金は、今でも勘に頼った少ない金額しか積み立てていない。

 さらに、それだけではなく、公的年金は、もともと積立方式だったのだが、団塊の世代が働き盛りとなったまさに1985年に、専業主婦を3号被保険者として賦課方式に変更し、積立金の必要性すら論じなくなったのである。そのため、今、必要なことは、契約どおり支払うために必要な積立金の金額を計算し、現在ある積立金との差額を、特定の世代に負担をかけないよう、50年くらいかけて補填することである。

(2)周到に準備したというのは嘘だ
 (1)より、*1の「日本がいまのような年金資産を持てているのは、団塊世代への給付急増が保険料の急騰に陥らないようにするため、周到に準備した結果です」というのは真っ赤な嘘であり、必要な積立金額の計算すらしていなかったことがわかるだろう。そのため、「団塊世代が現役のうちに多めに保険料を徴収し、彼らの将来の給付のために積立・運用してきたことで、実は現役世代の負担軽減になっている」とまで書かれると、よくここまで嘘を書けるものだと呆れてしまう。そして、まさにこの体質が問題なのだ。

(3)反省なき自画自賛では何も解決しない
 必要な年金資産の金額を計算することすらできず、運用も徴収も杜撰なのであるから、「年金運用のマネジメントについてはもちろん議論が必要」というのは、私が、このブログの2012.4.4及び2012.5.5に記載したとおり正しいが、「世界に少し目を向けてみると、日本も悪くないと思える部分もある」というのは、1960年に年金制度が導入されて50年以上も経つ日本としては、もう完成しているべき時期であるため賛成しない。そのため、約170兆円の年金資産に満足する前に、契約どおり年金を支払う場合にあるべき積立金額との差額を、速やかに計算すべきだ。そして、その差額がわかって初めて、次の解決策が考えられるのである。

*1:http://www.nikkei.com/money/features/18.aspx?g=DGXNMSFK1201N_12082013000000&df=3
(日経新聞 2013/8/13) 世界と徹底比較 意外と悪くない日本の年金
■世界的には、日本はたくさんの年金資金を持つ国である
 日本の年金制度について過度に悲観的な意見を述べる人は、決まって年金積立金の話題を持ち出します。年金積立金が十分でなく、枯渇の恐れがあるという論調です。確かに公的年金を安定的に支払ううえで、年金の積立金は重要な役割を持っています。日本には約170兆円の年金資産がありますが、おそらくほとんどの人は、日本の積立状況は世界的にはたいしたことがないと思っているでしょう。もっと準備しなければならないのにうまくいっていない、というイメージなのだろうと思います。
 しかし、実は日本の年金積立額は世界トップクラスの水準です。年金シニアプラン総合研究機構のレポートによれば、公的年金の積立金は米国(2010年度末で約186兆円)、ノルウェー(2012年度末で約50兆円)、カナダ(2011年6月時点で約13兆円)、韓国(2010年末で約22.6兆円)といった例がありますが、100兆円規模の資産を持つ国はほとんどありません。日本の資産額は世界に比べて些少(さしょう)というわけではないのです。ちなみに、厚生年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は機関投資家として世界最大規模です(先ほど触れた米国の186兆円はすべて債券運用。公務員の年金運用などの団体も各20兆円ほどです)。人口を考えると、日本並みに積立金を有してもおかしくない先進国や発展途上国の国々があるのに、なぜそうなっていないのでしょうか。理由は2つです。一つはまだ積立金をほとんど持てていないからです。急激な経済成長に見合った社会福祉の充実が追いつかず、いつかは日本のように数年分くらいの積立金を作りたい、と思いつつ実現が難しい国がたくさんあります。もう一つは、賦課方式(保険料がそのまま給付に充てられる)を変更せずにきたため、積立金を持つ必要を強く認めていない国があるからです。例えばドイツは1カ月ほど、英国は2カ月ほどの給付に必要な年金資産しか保有していません。何となく100兆円くらい持っていそうなイメージがありますが、実はそうではない国もたくさんあるのです。
 日本がいまのような年金資産を持てているのは、団塊世代への給付急増が保険料の急騰に陥らないようにするため、周到に準備した結果です。団塊世代が現役のうちに多めに保険料を徴収し、彼らの将来の給付のために積立・運用してきたことで、実は現役世代の負担軽減になっているのです(もちろん運用益が得られればそれも負担軽減になります)。年金運用のマネジメントについてはもちろん議論が必要です。しかし世界に少し目を向けてみると、日本も悪くないと思える部分もあるわけです。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 06:53 PM | comments (x) | trackback (x) |

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