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2015.11.15 日本の労働力(質を維持する教育、量を維持する一億総活躍と移民・難民の受け入れ)   (2015年11月16日、17日、19日、20日、12月4日、6日に追加あり)
          
2015.11.13  2015.5.28   2015.6.9      原発団体への国費流入
  朝日新聞    毎日新聞    西日本新聞
      フリースクール制度のイメージ

(1)善意の衣を着た同情では、教育はできない
 *1-1のように、義務教育の場を、フリースクールや家庭学習などの学校以外にも広げる制度を創設する動きがあるそうだが、私も、不登校の子どもに「多様な学びの機会」が与えられるよりも、義務教育を骨抜きにする可能性が高いため、これはよくないと思う。何故なら、教育は自分で生きられる人間を作るために、多面的な知識や考え方を教え、社会的経験もさせるものであるため、同情(自分より不幸な人への憐れみ)を基盤とするフリースクールや保護者に依る家庭内学習だけでは達成できないからである。

 また、不登校の小中学生が2013年度に約12万人に上るとされているが、「だから学校に行かなくても義務教育を終えたと認める」というのは、問題の本質から目をそらさせ、教育の質や労働力の質を落とす。何故なら、いじめなどで不登校になる子どもの保護者は、教育力も生活力も乏しい場合が多く、保護者がよい教育を与えられることは望めないため、格差の世代間承継を促してしまうからだ。そのため、不登校は、その本質的な原因を解決すべきなのである。

 さらに、「学校に行かないことで家族に責められたり、学校の先生との間で軋轢が生じたりすることがなくなったりする」というのは、子どもに教育を行うにあたって目先の安易さに偏りすぎており、子どもの可能性を引き出すことができずにつぶしてしまうため、子ども本人を不幸にする。いわゆる教科学習以外の農業体験などは、教育の一環として、又は学童保育などで行うべきであり、文字が読めなかったり、計算ができなかったりする基本的学力の不足は、日のあたる職業に就くことを不可能にしてしまうのだ。

 そのため、私は、*1-2の「フリースクール、まず学校をしっかりせよ」という記事に賛成で、学校は、どんな子どもでも登校するのが楽しい場所になるようにしなければならないし、それは学校の仕事であり、先生の実力の一部であると考える。

 それでは、デキが良いとされる方は本当にデキがよいのか検証すると、*1-3の論調は、政治・行政・メディアが常に連呼していることだが、怠惰や誤った政策の結果生じたことを、こねくりまわして国民にしわ寄せするのを合理化しているにすぎない。

 具体的には、「①政府は暮らしに関わる社会保障予算に過去最高となる31.5兆円をあてることを決め、子育て支援に5200億円を計上し、高齢者が増えるため費用の膨張が止まらない年金、医療、介護分野で抑制策を実施する」「②子育て予算の増額は、女性が働きやすい環境づくり」「③年金は14年度より1%しか増えず、2.8%の物価上昇分には届かないため実質減額」「④介護は国が決める単価を平均で2.27%下げ、利用者の自己負担も同率で下がるが、高齢化で利用者が増えるため、全体では2.6%増の2.8兆円」「⑤医療も2.6%増の11兆円」「⑥高齢化や高度医療の普及による社会保障の自然増は毎年1兆円程度だが、抑制策の実施で4200億円増に留めた」「⑦610億円使って自営業者や非正規社員が入る国民健康保険の保険料が割り引きになる対象者を500万人増やす」「⑧社会保障制度の持続性を高めるには、歳出削減と高齢者向け給付の現役世代への組み替えが必要」などである。

 このうち、①③④⑤⑥⑧は、高齢者が増えれば増加することが前からわかっていた社会保障費用を削減する政策であるため、物価上昇と合わせ考えれば、現役時代に保険料を支払ってきた高齢者に二重、三重の負担を押し付けるもので、これにより生活設計が変わったり、まともな医療介護を受けられなくなったりする高齢者が続出するものである。そのため、景気対策、原発、不必要な埋め立て工事などに膨大な浪費をしつつ、高齢者向け給付を現役に組み替えることが必要などとしているのは、人生のサイクルや自分が言っていることの意味が理解できていない人だ。

 また、②については、女性が働きやすくなるためには、子育てだけではなく介護負担もなくす必要があるため間違いで、介護保険料は、働く人すべてから徴収するのが筋である。さらに、⑦については、企業が社会保障関係費を負担せず、高齢期に生活保護予備軍となる非正規社員を増やすことに問題があり、現在は、これらが疑問も感ぜずに促進されているという意味で、教育の失敗があると考える。

(2)一億総活躍と女性の活躍
 一億総活躍の中には、女性の活躍が重要な要素として含まれるが、女性が活躍できるためには、女性が遣り甲斐を持って自己実現できる働き方をバックアップし、働く女性の足を引っ張ることがないようにしなければならない。それには、*2-1のように、男女雇用機会均等法が守られ、女性役員の誕生がニュースにならず、当たり前と感じられる社会であることが必要だ。

 なお、私自身は、男女雇用機会均等法施行前に公認会計士として外資系監査法人・税理士法人で働き始め、男女平等にするために不足している要素について、男女雇用機会均等法改正などで改善してきたため、男女雇用機会均等法施行後に入社した人は、むしろ障害が少なかっただろうと思っている。

 そのような中、*2-2を見ると、首相が「一億総活躍社会」を掲げて女性の活躍推進をしておられるため、現在はかなり恵まれた状況になったものの、ここで①少子高齢化だから出生率の回復と高齢者向けに偏っている配分を子ども・子育てに振り向ける議論を始めるべき ②出生率回復が大局的な視野で、高齢者向け施策は人気取りにすぎない などと豪語しているのは、女性や高齢者を含む国民全体の人権や福利を無視した思考停止である。

 そして、そのような考え方で政策が作られる国では、誰でも働いて老後の蓄えを持つことが必要なので、出生率はむしろ下がるだろう。何故なら、現代日本では、子に老後の扶養を期待する人は稀であり、子育ては単なる出費となるからだ。そのような中、*2-5に書かれている団塊世代の「2015年問題」及び「2025年問題」については、定年を70歳に延長するか、定年制度をなくすかすれば、支える側になる人が増え、それと同時に働いている人は医療・介護の必要性が低くなるため、一石二鳥だと考える。

 *2-3には、一億総活躍社会の実現に向け、介護離職ゼロを達成するため、介護休業を分割して取得できるようにし、休業中の給付水準の引き上げも検討すると書かれているが、介護は数年単位のものであるため、介護サービスの充実こそ必要なのであり、それは、社会保障制度内で小さなやりくりをして高齢者向け給付を現役世代に組み替えるような政策を行っていては実現しない。

 さらに、*2-3、*2-4で、1億総活躍担当の加藤大臣が、少子化対策の一環として国の補助金で自治体が実施する婚活イベントについて、「子どもが生まれやすい環境をつくる。結婚や出会いの支援をしっかりやっていかなくてはならない」と述べて必要性を強調されたそうだが、「出会いがないから結婚できない」などと言っているような消極的な男性の子を産んで育てたいと思う女性はあまりいないため、目標の置き方が違っており、無駄遣いになると考える。

 なお、*2-5のように、「安倍首相は一億総活躍の目標として出生率1.8を掲げているが、第1子に、1000万円支給すれば、少子化問題は解決する」という記事を、現代ビジネスが書いている。そして、「シルバー民主主義」が悪く、「高齢者が幅を利かすのは貯蓄率が高く政治・経済的影響力を持つからに他ならない」としているが、これを書くにあたり、経済的にゆとりがあって政治的影響力を持つ高齢者が全高齢者のうち何%いるのかについて定量的に調査した形跡はなく、驚くほど感情的な結論ありきの議論に終始している。さらに、「1000万円支給されたから子どもを産む」という親が、どういう倫理観を持って子育てするのかは恐ろしい程で、日本は上から下までこのようになってしまったのが問題なのであり、こうした日本人労働者よりも、誠実で真面目な外国人労働者の方がよほど労働者としての質が高いのだ。

(3)高齢者の活躍について
 *3のように、「1億総活躍社会」のテーマの一つに「生涯現役社会の構築」を掲げて、政府は65歳以上で働く人を増やすため、新規・継続雇用を行う企業への助成金を拡充する方針を固めたそうだが、これは、(2)で記載したとおり、定年年齢の70歳への延長や定年制の廃止などと組み合わせて行うと効果的だと考える。

(4)外国人労働者について
 *4のように、少子化で日本の労働力人口は減るため、女性、高齢者、若者の就労促進、ロボットの導入、外国人の雇用に頼ることは必要だ。しかし、外国人を雇用するには、「①総合的な政策で受け入れを拡大して留学生には就業機会を増やす」「②外国人の保険・年金加入などを日本人と平等にする」「③研修・技能実習制度による搾取を止め、労働基準法に適合した待遇にする」「④職場における語学対応」「⑤生活環境整備(例えば市役所、学校、病院、郵便局等での対応)」などの課題がある。

 ただ、外国人の生活環境整備は、「外国人=全員英語」ではなく、ポルトガル語、フランス語、イタリア語、中国語、アラビア語などの多言語に対応しなければならないため、同じ言語を使う外国人はまとまって居住してもらうのが、生活環境整備のコストが削減できるとともに、定住する外国人にとっても情報が入手しやすいと言われている。そのため、どの言語の外国人を積極的に雇用し、その人たちのための生活環境整備をどうするのかについては、それぞれの地域が主導して企画するのがよいだろう。

(5)難民の受け入れ
 *5のように、日本で難民認定を申請した外国人は、2015年10月半ばで5500人を超え、年末には7千人に達する見込みだそうだ。内訳は、ネパール、アジア諸国からの申請が多く、難民として認定されたのは11人とのことで、これは人権を護るという視点から考えて少なすぎだろう。難民条約では「人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受ける恐れがある人」を難民と定めている。

 日本政府は、紛争から逃れた人は難民とは認めず、「待避機会」として保護対象に位置づけたそうだ。日本が積極的平和主義と称して連合国と一緒に中東・シリアに軍を派遣すれば、アメリカ、ロシア、フランスと同様、どうしても恨みを買うことになる。そのような中、日本の原発は無防備のまま再稼働し、シリア人などの難民を受け入れては危なすぎるため、紛争が終結するまでの一定期間、待避機会を与えて保護対象にする(その間、日本で勉強や仕事をしながら紛争後に帰国して復興する準備をしていればよいと思う)のが妥当だと、私も考える。

<労働力の質と教育について>
*1-1:http://qbiz.jp/article/64071/1/
(西日本新聞 2015年6月9日) 義務教育を多様化 フリースクール認定法案提出へ
 義務教育の場を、フリースクールや家庭学習など学校以外にも広げる制度の創設に向けた動きが出てきた。超党派の議員連盟が、法案を今国会に提出する方針を決めた。実現すれば、日本の教育制度の大転換となる。不登校の子どもたちにとって「多様な学びの機会が認められる」と歓迎する声が上がる。一方で、教育の質をどう保証するのかなど課題も多い。不登校の小中学生は1997年度に10万人を超えてから増加傾向が続いており、2013年度は約12万人に上る。受け皿になっているフリースクールは全国に推計で400カ所余り。計約2千人が学んでいるとされ、全体の7割程度は不登校の子どもたちが占めているとみられる。子どもたちは居住区域の公立小中学校に籍を置きながら、活動内容を随時、学校側に報告。実際に登校していなくても、校長の裁量によって卒業が認められている。超党派の議連が今国会に提出予定の「多様な教育機会確保法案」(仮称)は、対象を不登校の子どもに限定。法案の概要によると、保護者が学校などの助言を受けて「個別学習計画」を作成し市町村の教育委員会に申請。計画が認定され、計画を修了したと認められれば、フリースクールや家庭内での学習でも、義務教育とみなされるようになる。法案に期待を寄せる関係者は多い。NPO法人「フリースクール全国ネットワーク」の江川和弥代表理事は「学校に行かないことで家族に責められたり、学校の先生との間であつれきが生じたりすることは少なくなるのではないか。小中学校以外での学習が公に認められることで、フリースクールにも通っていない不登校の子どもたちが表に出るきっかけにもなる」と強調する。公立小中学校の授業料が無料なのに対し、フリースクールは安いところで2万〜3万円、高いところでは7万〜8万円の月謝がかかる。法案には「国や自治体は必要な財政上の支援に努める」と記す予定で、経済的に通うことが困難な家庭にとっても助かる。義務教育制度に一石を投じる法案だが、課題を指摘する声も多い。フリースクールといっても現行では千差万別。数十年の歴史を持ち、100人を超える子どもたちが学ぶところもあれば、個人が数人規模で開いているところもある。質や教育の内容にばらつきがあり、埼玉大の高橋哲(さとし)准教授(教育行政学)は「学校にもフリースクールにも籍を置く『二重学籍』が解消されるのは画期的」としつつも、「教員免許の所持を教える条件にしたり、1人当たりの教えられる子どもの数を定めるなど、一定の学習環境を整備する必要はある」と話す。共栄大の藤田英典教授(教育社会学)は「少子化が進む中で、塾産業は学校教育への参入を狙っている。もともと学習指導要領の枠をはずれているフリースクールに、不登校の支援とは別の意味で塾産業が入り込んでくる恐れがあり、非常に危険」と懸念する。議連は今国会での法案成立を目指し、早ければ17年度から制度をスタートさせたい考えだ。高橋准教授は「不登校を生み出している現在の学校の状況をまず改善するべきだ」とする。「画一的な学習指導要領に拘束されるのではなく、多様な教育が認められるようにしないといけない。一人一人に目が届くよう、1クラス当たりの子どもの数を減らしたり、教師を増やすといった、根本的な施策が必要だろう」
●「社会性獲得に配慮を」福岡県内の関係者
 福岡県内のフリースクール関係者からも期待と懸念の声が聞かれた。NPO法人「青少年教育支援センター」(福岡県久留米市)の古賀勝彦理事長(67)は「学びの場として公的に認められ、フリースクールに通う子どもと保護者の安心につながる」と評価。その上で「教科学習のほか農業体験など自由活動のような教育環境も整えているか、義務教育と認める基準を明確にする必要がある」と注文する。卒業生約200人を送り出したNPO法人「フリースクール玄海」(福岡市東区)の嶋田聡代表(62)は「不登校生は、学校でテストを受けないことで内申の評価が下がり進学で不利になる場合がある。今後、フリースクールでの成績が評価の対象になれば進路の選択肢が増えることになる」と期待。一方で「フリースクールを学校に通えるようになるためのステップとして捉える考えもある。学校や本人が『通学しなくても良い』と受け止めてしまうと社会性を身に付ける機会を失いかねない」と懸念した。 

*1-2:http://www.sankei.com/column/news/150603/clm1506030002-n1.html
(産経新聞 2015.6.3) フリースクール まず学校をしっかりせよ
 「学校に行かない」という子が増えないか。そう心配する。超党派の議員連盟が不登校の子供たちが通うフリースクールなど学校以外の教育機会を義務教育として認める法案の提出を検討している。多様な学びの機会を尊重することはいい。だが学力のほか、ルールを守り社会性を身につける学校教育の意義を十分に踏まえ、慎重に議論してもらいたい。まず、学校を良くする施策こそ優先すべきだ。学校教育法で義務教育の場である学校は、小、中学校と中等教育学校、特別支援学校と定められている。超党派議連が提出を検討している「多様な教育機会確保法(仮称)」案は、保護者が作成した学習計画を市町村教育委員会が認めれば、フリースクールや家庭での学習などを義務教育の場とみなし、就学義務を果たしたとするものだ。教育機会多様化の一環として、文部科学省も有識者会議を設け、フリースクールを公的にどう位置づけ、支援するか、検討を進めている。フリースクールは全国に400~500あるといわれ、NPO法人(特定非営利活動法人)が運営するものや、個人の家庭で受け入れるものなどさまざまだ。活動内容も体験活動などを通して学校復帰を促す所がある一方で、学校不信が強く、「学校に行かなくてもいい」との考え方で運営する所もある。フリースクール側には「国に縛られたくない」という声もあるようだが、実態不明の教育に公費助成はできない。不登校の児童生徒は約12万人で中学校ではクラスに1人、小学校では学校に1人いる割合だ。どの学校も抱える課題として対策が進められてきた。学校外の民間施設で学んだ場合、校長の判断で出席扱いにする制度もある。あえて新法案が必要なのか疑問だ。不登校には、早期の適切な指導が欠かせない。この法案が、学校復帰への指導をためらわせる、学校否定の誤った風潮を助長する可能性すらある。不登校には学校や家庭など複数の問題がからむ。子供の痛みが分かり、保護者や関係機関と日頃から信頼し合い連携する教師の力をまず高めてほしい。全国ではフリースクールがない地域の方が多い。学校は、朝起きて登校するのが待ち遠しくなるようなところでありたい。

*1-3:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS14H7Z_U5A110C1EA1000/
(日経新聞 2015/1/15) 社会保障費、止まらぬ膨張 15年度予算案
 政府は14日、暮らしに関わる社会保障予算に過去最高となる31.5兆円をあてることを決めた。保育施設の増設など子育て支援に5200億円を計上し、14年度から2100億円上積みしたのが特徴だ。年金、医療、介護分野では抑制策を実施するが、高齢者が増えるため費用の膨張が止まらない。子育て予算の増額は、女性が働きやすい環境づくりに軸足を置いたことに特徴がある。政府は2017年度末までに40万人分の保育施設を整備して、待機児童を解消する目標を掲げている。15年度は定員を8万人増やし、28万人分を確保する。小学生を放課後に預かる学童保育の定員も20万人分増やす。保育士の人手不足にも対策を講じる。保育士の給与は全産業平均より月平均で10万円近く低い。民間の保育所で働く保育士の賃金を平均で3%上げるため、その原資を保育所を経営する会社に配る。子育てを含む福祉分野は、14年度比5%増と高い伸び率になった。年金、医療、介護に充てる費用も3%前後伸びる。年金は物価上昇に連動して支給額を決める仕組みがある。15年度は抑制策を初めて実施するので、年金額は14年度より1%しか増えない。2.8%の物価上昇分には届かず、実質減額となる。団塊世代が既に年金を受け取る65歳に達しており、年金予算は14年度比3%増の11兆円に膨らむ。介護サービスは国が決める単価を平均で2.27%下げることを決めた。利用者の自己負担も同率で下がる。特別養護老人ホームやデイサービス(通所介護)の料金は大幅に下がる見込みだ。介護でも人手不足が深刻なので、780億円を使って介護職員の賃金を月1万2千円上げるための原資を事業者に配る。介護の単価は下がるが高齢化で利用者は増えるため、全体では2.6%増の2.8兆円となる。医療も2.6%増の11兆円だ。610億円を使い、自営業者や非正規社員が入る国民健康保険の保険料が割り引きになる対象者を500万人増やす。国保そのものにも1800億円の財政支援を行う。一方で、大企業の健康保険組合の負担を増やして財源を捻出する。会社員の保険料負担が増える可能性がある。高齢化や高度な医療の普及などによる社会保障の自然増は、毎年1兆円程度増えてきた。15年度は抑制策の実施で、4200億円増にとどめた。社会保障費全体の伸び率を7年ぶりに3%台にしたが、経済成長率をはるかに上回っている。社会保障制度の持続性を高めるには、歳出削減と同時に、高齢者向け給付を現役世代向けに組み替える改革が必要となる。

<女性の活躍>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150328&ng=DGKKZO84890120W5A320C1TY5000 (日経新聞 2015.3.28) ともに学び磨き合う
 女性活躍推進の流れが企業で定着し、今春も女性役員・執行役員の誕生が相次いでいる。男女雇用機会均等法施行前後に入社した生え抜き女性が昇進・昇格時期を迎えているほか、2015年度から有価証券報告書で女性役員比率などの情報開示が各社に義務付けられた影響もある。役員クラスへの女性登用を急ぎ、女性活躍先進企業であることを社内外にPRする狙いだ。女性役員らの交流も始まっている。「Women Corporate Directors」(WCD)日本支部もその1つ。欧米やアジアなど世界約50カ所に支部を持つ女性取締役らの交流組織だ。ともに学び合い、経営者にふさわしい資質を身につけるのが目的だ。日本支部は12年発足。現在上場企業の女性役員・監査役ら約100人が参加する。共同幹事を務める小林いずみANAホールディングス取締役は「役員クラスへの女性登用がここ2年で目覚ましく、発足から瞬く間に会員が急増した」と話す。主な活動は毎月開く勉強会。コーポレートガバナンス(企業統治)のあり方や社外取締役の役割など経営層に必要な知識の習得を目指している。現在の役員クラスは入社以来の配置転換や人材育成手法に男女差があった世代だ。一般的に男性と比べて女性は役員ポジションに就く前の学習機会が少ない。勉強会でそれを補う。小林さんは「せっかく登用されたのに知識不足から『やっぱり女性は…』と言われては残念。与えられたチャンスをつかみ、成功できるように女性役員の育成を進めていきたい」と説明する。

*2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXKZO93435400Q5A031C1EA1000/
(日経新聞 2015/10/30) 言葉だけが踊る「一億総活躍」では困る
 安倍晋三首相が掲げる「一億総活躍社会」の実現に向け、首相を議長とする国民会議の議論が始まった。11月中に緊急対策を、来年5月をめどに総合的な策を打ち出すという。安心して産めない、思うように働けない、介護が不安……。日本社会の現実は厳しい。この流れを変えるには、対策のメニューを並べるだけでは不十分だ。実効性のある対策になるよう、社会保障制度などの抜本改革を恐れない、踏み込んだ議論を求めたい。少子高齢化とそれに伴う労働力の減少という課題に日本は直面している。このままでは経済は勢いを失い、社会保障制度の維持は難しくなる。社会全体で子育てを支えるとともに、年齢・性別にかかわらず意欲ある人が働けるようにすることが、重要だ。働き方を見直し、家庭と両立できるようにすることが欠かせない。具体的な施策を詰めるうえで特に大事な視点は、ふたつある。ひとつは財源、とりわけ子育て支援の財源をどう確保するかだ。日本の国内総生産(GDP)に占める家族関係の政府支出の割合は1%程度だ。女性の高い就業率と出生率の回復を両立させているフランスやスウェーデンでは3%前後と、大きな違いがある。良質な保育や教育は、子どもが健やかに成長し社会で力を発揮するための基礎ともなる。子育て支援は未来への投資だ。高齢者向けに偏っている配分を、思い切って子ども・子育てに振り向ける議論を始めるときだ。もうひとつは「介護離職ゼロ」に向けた人材確保だ。政府は介護施設の整備などを急ぐというが、人手不足は深刻だ。介護ロボットなどの活用や、介護保険外の付加価値の高いサービスの提供などを通じ処遇を改善することが、必要だろう。外国人材をどう位置づけるかについても、改めて議論を深める必要があるのではないか。「一億総活躍」という言葉は間口が広く、絡めようと思えばどんな施策にも絡めやすい。最も避けなければならないことは、大局的な視野なしに、省益ねらいや人気取りの施策が乱立することだ。国民会議のメンバーは、政府の他の会議のメンバーと一部、重なっている。だからこそ、横断的で国民的な議論をしやすい面もあるだろう。首相はリーダーシップを発揮しなければならない。

*2-3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151108/k10010298611000.html
(NHK 2015年11月8日) 一億総活躍相 “介護休業見直し 給付引き上げも検討”
 加藤一億総活躍担当大臣は津市で講演し、一億総活躍社会の実現に向けて安倍総理大臣が掲げる介護離職ゼロを達成するため、介護休業を分割して取得できるように制度を見直し、休業中の給付水準の引き上げも検討する考えを示しました。この中で加藤一億総活躍担当大臣は、安倍総理大臣が掲げる介護離職ゼロの目標達成に向けて、「介護サービスをしっかり充実していかなければならない。在宅介護のサービスを使いやすくするとともに、都心部では、国有地を貸すだけではなく、賃料も下げて、施設整備が進むよう促進したい」と述べました。そのうえで加藤大臣は、「介護休業は93日間休めるが、連続して取らなければいけない。区切って取ったほうが使い勝手がいいという場合もあり、制度を見直す必要がある。介護休業中の給付はふだんの4割で、育児休業と比べても3分の2ほどになっており、引き上げも議論になる」と述べ、介護休業を分割して取得できるように制度を見直し、休業中の給付水準の引き上げも検討する考えを示しました。また、加藤大臣は少子化対策として、「分析をすると、なかなか男女の出会いがない。三重県でも出会いの場を作ってもらっていると思うが、そういった市町村の取り組みをしっかり後押しをしていくことも必要だ」と述べました。

*2-4:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151114-00000117-jij-pol
(時事通信 11月14日) 婚活支援で閣内不一致=加藤1億相「必要」、河野行革相「疑問」
 加藤勝信1億総活躍担当相は14日、テレビ東京の番組で、少子化対策の一環として国の補助金で自治体が実施する「婚活」イベントについて、「子どもが生まれやすい環境をつくる。結婚や出会いの支援をしっかりやっていかなくてはならない」と述べ、必要性を強調した。婚活イベントへの公的助成をめぐっては、河野太郎行政改革担当相が11~13日に実施した行政事業レビューで検証対象の一つに取り上げ、「効果が上がっているのか」と疑問を呈したばかり。これに対し、加藤氏は「婚活のさまざまな経費への公費(投入)には、それなりに(国民の)理解があるのではないか」と反論。歳出カットと少子化の解決をそれぞれ追求する立場から、閣内不一致が浮き彫りとなった。 

*2-5:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151114-00046363-gendaibiz-pol
(現代ビジネス 11月14日) 「第1子に1000万円支給」少子化問題はこれで解決する! ~予算的には問題なし。問われるのは総理の本気度だ。毎年5兆円の予算で「第3次ベビーブーム」は確実
 安倍晋三首相インタビューが『文藝春秋』(12月号)に掲載されている。「アベノミクスの成否を問う『一億総活躍』わが真意」と題した記事中で、安倍首相は「出生率1.8」を目指すとして、以下のように語っている。〈 第二の矢は「夢をつむぐ子育て支援」で、その矢の的は、2020年代半ばまでの「希望出生率1.8の実現」です。しかしながら現在の出生率は約1.4です。産みたいのに何らかの事情で産めない方の事情を取り除いていくことで、実際の出生率が、希望出生率と同じ1.8になるようにしたいというのが基本的考え方です。 〉ここで、出生率を上げる具体的な方法について提言したい。「シルバー民主主義」という言葉がある。主要民主主義国家の中で日本のように凄まじいスピードで少子高齢化が進む国は他にない。そして世代間格差という点で高齢者が幅を利かすのは、貯蓄率が高く政治・経済的影響力を持つからに他ならない。国民総生産(GDP)の2倍に及ぶ1,000兆円超に膨れ上がった国家債務。加えて年金・医療費の世代間格差など深刻な財政・社会保障問題の解が見当たらない中で、このシルバー民主主義が、老齢・引退世代の依然として強い社会的影響力によって若年・将来世代に過剰な負担を押し付けている現実がある。ここで想起すべきは、フランスの「国が子供を育てる」という画期的な少子化対策であろう。「女性活躍」社会を制度化して出生率1.8を達成した。荒っぽい試算ではあるが、日本でも仮に第1子に対する子育て支援として1,000万円を供与すれば、5兆円の予算で新生児が約50万人増えることになる。少子化対策は究極の経済対策であり、乗数効果で言えば公共事業などに数兆円規模の補正予算を毎年度計上するよりはるかに大きな政策効果が期待できる。向こう3年間、5兆円の少子化対策予算を付けて、毎年新生児50万人、3年間で150万人の人口増加を促せば「第3次ベビーブーム」の到来は確実である。そんなことすれば、地方都市の超若年ヤンキー・カップルだけが「カネ欲しさ」で“産めよ、増やせよ”に励むことになる、と皮肉る向きがいるはずだ。だが、団塊の世代(1947~49年生まれの約800万人)が65歳になり年金の支払い側から受け取り側になった「2015年問題」と、同世代が高期高齢者医療の対象75歳になる「2025年問題」を克服しなければならない。しかし、同世代の現役引退による技術者不足と高賃金の製造業従事者の減少、一方で介護・福祉や小売り・飲食など低賃金のサービス産業若年就業者が増える労働構造の変化が景気回復を阻害しつつある。つまり、経済を活性化し成長力を底上げしてカネ回りを良くして景気回復に繋げるアベノミクスのための「トリクルダウン効果」を相殺しているということである。ヤンキー・カップルでもいいのではないか。高賃金の製造業従事者が減り、低賃金の若年中心の就業者が増え続けているのだから。

<高齢者>
*3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/248133
(佐賀新聞 2015年11月10日) 政府、65歳以上の雇用支援強化、緊急対策で企業助成金を拡充へ
 政府は10日、65歳以上の働く人を増やすため、新規に雇用したり、継続雇用したりする企業への助成金を拡充する方針を固めた。「1億総活躍社会」のテーマの一つに「生涯現役社会の構築」を掲げており、11月末にまとめる緊急対策に盛り込む見通しだ。企業は社員が希望すれば65歳まで雇用することが義務付けられている。しかし年金だけでは老後の生活に不安を抱く人も多く、65歳以上の雇用環境を整える狙いがある。ハローワークや民間の人材紹介業者を通じて65歳以上の人を雇用した企業は現在、「高年齢者雇用開発特別奨励金」を利用できる。政府は、助成金の額を引き上げることを検討。

<外国人労働者>
*4:http://www.asahi.com/strategy/0829a.html
(朝日新聞 2015.8.29) 人材の確保、外国から 受け入れ政策、長期的視野で
 少子化の進行で、日本の労働力人口は減っていく。日本総合研究所の試算によると、経済成長率を1%台半ばと想定した場合、15年に見込まれる日本での人手不足は520万人にのぼる。不足分は女性、高齢者、若者の就労促進などで対応するのが最良だが、外国人の労働力にも頼らざるをえない。グローバル化の中で、優秀な人材、留学生に来てもらうことは日本経済にとってプラスにもなる。長期的な視点から、外国人受け入れ戦略を練り直す時がきている。
●日本の課題
・外でグローバル化、内で人口減少に直面する日本にとって、外国人労働力の活用は重要な選択肢だ。
・総合的な政策をつくり、受け入れを拡大する。留学生には日本で就職する機会を増やしていく。
・自治体は外国人の保険・年金加入などを促す。国は財政支援を進める。
 日本は、人口の割には外国人の受け入れが少ない国だ。「単純労働者<注1>は受け入れない」というのが政府の基本方針で、図のように限られた形でしか、入国・定住を認めてこなかった。その一方で、研修・技能実習制度や日系人受け入れによって、部分的ながら単純労働にも門戸を開けてきた。研修・技能実習は「途上国への技術移転」という趣旨でつくられ、日本企業で技術を学ぶ3年間はその企業で働きながら稼ぐことが認められている。出稼ぎを送りたい途上国からの「送出圧力」にも応えた形だ。狭き門だが、日本で働く機会を得ようと次々に外国人がやってくる。人手不足の日本企業にとっても、貴重な働き手になることが少なくない。群馬県太田市の自動車部品メーカー、京和装備ではインドネシア人55人が働く。工場にはインドネシア語で段取りが書かれている。社員が現地まで面接に行き、選んできた。「地方の工場では日本の高卒者の半分が3年と根付かない。技術移転が主な目的とはいえ、外国人はまじめで貴重な人材です」と吉野明俊専務は語る。首都圏の鋳物業界でつくる東京合金鋳造工業協同組合も加盟11社で計68人の中国人を受け入れている。「求人しても、日本人は未経験の定年者しか集まらない」。だが、この制度は弱点を抱える。対象職種が限定されるうえ、受け入れに複雑な手続き、手間がかかり、小さな企業は対応しにくい。悪質なあっせん業者もまかり通り、研修は名ばかりで人手だけがほしい企業は脱法行為に走りやすい。「研修期間」中は残業が禁止されているのに低賃金でこき使われ、未払いなどを理由に途中で失踪(しっそう)する例が多い。最大の受け入れ窓口になっている国際研修協力機構には04年度、約1200件の失踪報告があった。
■単純労働者──産業基盤保つ力に
 日本国内で外国人労働力の需要があるのに、受け入れ制度が未整備なままでいいのか。法務省や自民党、経済界、自治体などで改革論議が動き出している。日本には現在、約200万人の外国人が登録されている。このうち、論議の対象になっているのは特別永住者<注2>らを除く約87万人だ。医療、研究などの専門職、研修・技能実習、日系人の在留資格を持つ人々、一定時間のアルバイトが認められた留学生、不法滞在者を含めた人数だ。改革案の多くが外国人受け入れ拡大を求めている。法務省は河野太郎副大臣が主査を務める中間報告で「総人口の3%(現在は1.2%。特別永住者を除く)を上限に拡大」する案を示した。製造業などの需要に応じるため、日本語力のある労働者を企業が雇用契約を結んで受け入れる新制度の導入も促している。「研修・技能実習は単純労働者を入れる隠れみのになっている。むしろ、量的な枠などを設けて受け入れるべきだ」(河野副大臣)という。自民党の外国人労働者等特別委員会の中間報告は、3年間の研修・技能実習の終了後もさらに2年間、実習の形で滞在できるよう提案している。違法な残業などの不正行為については、受け入れ企業への処分を強めることも求めている。少子化の中、特に人手不足が予想されるのは工場や建設、運輸、農林業など力仕事、時間外労働の多い分野だ。人手不足で産業基盤がほころぶのを防ぐ戦略は、日本の未来にとって不可欠である。日本の発展モデルを描く中で、必要に応じて単純労働職も含めて一定の条件のもとで、受け入れを増やしていくべきである。ただ、受け入れ枠を広げるにしても、誰でも歓迎というわけにはいかない。二国間協定を結んで、送り出し国の政府に身元保証や就労実績の確認などで協力を求めるのも一案だろう。
■留学生──就職・登用の促進を
 21世紀の日本は産業の高度化が大きな課題だ。にもかかわらず、高度な知識や技術を持つ外国からの人材流入は伸び悩んでいる。韓国やシンガポールも少子化時代に入り、国際的な人材獲得競争が起きている。この面でも外国人受け入れ政策を練り直さないと、優秀な人材は集まらない。力を発揮してくれる人材は身近にいる。日本への留学生で、企業は獲得に動き出している。大分県別府市の立命館アジア太平洋大学では、企業の人事担当者による採用説明会が頻繁に開かれている。大学も面接に役立つ講座を設けて後押しする。留学生は学生の4割の約1900人で、日本語と英語が必修だ。今春卒業の留学生のうち、143人が日本企業に就職した。採用したのは国際展開をしている大企業が多い。富士通の場合、03年度から同大を含めて年間20~30人の新卒の留学生を定期採用している。すぐに海外戦略に使うわけでなく、まず「総合職」として日本人社員と競わせる。「高い志と挑戦者魂があり、ぬるま湯育ちの日本人の模範になる」と人事担当者。留学生は年間12万人にのぼるものの、日本での就職を後押しする助言制度などが手薄だった。政府は就職促進に役立つ講座開設などを来年度から支援する方針だが、今後さらに拡充すべきだ。留学で育った「知日派」に日本、あるいは日本企業で活躍してもらい、より開かれた日本にする。企業の意識転換も必要で、採用や研修受け入れの枠を増やし、管理職登用も進める。そうした努力が、グローバルな競争が加速する時代を生きる日本企業の力を強めることになる。
■受け皿──「生活環境整えよ」
 外国人の受け入れ拡大には、生活者として迎え入れる受け皿の整備も必要だ。静岡県浜松市は、外国籍住民が3万人を超える外国人集住都市。市人口のうち3.8%が外国人。ブラジル(約1万8千人)、ペルー(約2200人)など南米の日系人が多い。スズキ、ヤマハなど大企業のすそ野で多くが働く。集住都市が直面しているのは、外国人社員の社会保障制度への加入問題だ。厚生年金や国民年金は外国人も加入でき、25年積み立てれば65歳から受給できる。しかし、3年ほどの出稼ぎのつもりで来た外国人は切実さがない。短期間だけ加入して帰国したら、一部しか払い戻されないこともあり、未加入が多い。他方、90年の出入国管理法の改正で入国しやすくなった日系2世・3世は、滞在が長期化し、「新移民」ともいわれる。将来、年金もないまま高齢化すると、生活支援の社会負担は重くなってくる。教育支援も大きな課題だ。市立遠州浜小学校では、夏休み中もボランティア27人が外国人児童の補習を手伝っている。教員2人を増やし、通訳1人を置いて親への通信簿などを翻訳する。「進学の基礎をつくる必要があるが、教員の不足は明らか」(釈精子校長)だ。 市役所窓口の通訳配置などの費用もかさみ、浜松市の外国人向け施策の財政負担は年に約8億6500万円。一般会計予算の0.4%にあたり、北脇保之市長は「社会的コストをどうしていくか。政府は検討しないまま日系人を受け入れ、自治体の負担ばかり増している」と指摘する。外国人が集まる自治体の悩みは同じだ。静岡、愛知、岐阜、三重、群馬、長野6県の18市町でつくる「外国人集住都市会議」は政府に改革案を示している。年金加入を増やすために受給までの加入年限を15年程度に短くすることや、外国人登録制度の改善と「外国人データベース」作成などを求めている。今の登録制度は、法務省が自治体に事務を委託する形だが、どんな在留資格でどこに住んでいるかについて断片的な情報しか分からない。自治体が生活者としての外国人と接するには、本人の就労や子供の就学、保険・年金の加入状況も含めて総合的に知っておくことが必要だ。外国人が自治体の窓口に寄れば、生活者としての権利と義務の両方について情報を得られるようにする。そのために「外国人データベース」ができれば、自治体は外国人住民の相談に乗りやすくなる。人権や個人情報の保護が前提だが、不法就労や不法滞在、外国人の犯罪組織の潜入を防ぐ基礎にもなる。仕方ないから外国人を受け入れるという発想は時代遅れだ。異国からの人たちが暮らしてみようか、働いてみようかと思うような日本をめざして、総合的な受け入れ政策を備えていかないと、加速する国際的な「人流」の中で日本は孤島になりかねない。
注1 単純労働者 専門的技能を持たない未熟練労働者。製造、運送、建設、サービス業など、初心者でも始めやすい簡単な作業の従事者。「日本人が働きたがらない職種を固定化する」「産業の合理化を遅らせることになる」などの理由で、この分野への外国人受け入れ反対論が強い。
注2 特別永住者 日本の旧植民地出身者やその子孫のための特別な法的地位。朝鮮半島、中国の出身者が多い。約46万6000人(04年)いるが、高齢化などで人数は減少傾向にある。

<難民>
*5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12040225.html
(朝日新聞 2015年10月29日) 難民申請すでに5500人 10月半ば現在 今年、過去最多に
 日本で今年、難民認定を申請した外国人が10月半ばまでに5500人を超え、5年連続で過去最多を更新したことが法務省への取材でわかった。このペースで増加すれば、年末には7千人に達する。アジア諸国からの申請が増加しているという。国際的に大量の難民が発生する中で、日本も対応を迫られている。法務省によると、昨年に申請した人は前年より1740人多い5千人だった。今年は6月末に3千人を突破。7月以降、増加のペースが上がったという。国別では昨年はネパール、トルコ、スリランカ、ミャンマーの順に多く、この4カ国で6割を占めた。今年もネパールが最も多く、アジア諸国が中心。欧州に難民が大量に流入しているシリアからの申請は、数人にとどまっている。増加の背景として法務省は、申請中は強制送還されないほか、在留資格があれば申請の半年後から働けるよう2010年に運用を変えたことがあると分析する。申請が急増しているにもかかわらず、難民と認める例は増えていない。昨年はわずか11人。「人道的配慮」で在留を認めた人を含めても121人だった。難民の支援団体などは「法務省は就労目的の申請を強調し、保護すべき人が見落とされかねない」として、受け入れの拡大を強く求めている。入管行政に詳しい安冨潔・慶応大名誉教授は「保護する人数を増やすだけでなく、受け入れた後の支援策が大切。政府を挙げて取り組むべき課題だ」と指摘する。
◆キーワード
<日本の難民認定> 難民条約は「人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受ける恐れがある人」を難民と定め、これに従っていると法務省は説明する。難民認定されると、国民年金や児童扶養手当など日本国民と同じ待遇を受けられる。法務省は9月に運用の見直しを公表。明らかに難民に当たらない人は本格審査の前に振り分けて就労を認めない一方、アフリカで虐待を受ける女性など「新しい形態の迫害」を難民と認める方針。紛争から逃れた人は難民とは認めないが、「待避機会」として保護対象に位置づけた。

<同時多発テロについて>
PS(2015年11月16日追加): *6-1のように、パリ市とその近郊で、11月13日金曜日の夜、同時多発テロが発生し、*6-2のように、15日午後(休日である土曜日を挟んで日曜日の午後)からトルコで開催されるG20で主要国首脳が一堂に会してテロ対策を協議し、テロに関するG20声明を発表するというのは、偶然とは思えない完璧なタイミングだ。そのため、「本当にイスラム国の犯行だろうか」と思えてしまうのだが、このG20声明の内容は13日以前からドラフトができていたのではないでしょうね。
 なお、空爆も、される側から見れば空襲で、街を破壊して無差別殺人を行うものであるため、「イスラム国」側に言わせれば「目には目を」の闘いではないかと思われる。そのため、この闘いを終わらせるには、「文明世界への攻撃」と非難するだけでなく、テロが頻発し始めた本質的な原因を検証すべきだ。

    
                 2015.11.15日経新聞より

*6-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151115&ng=DGKKASGM14H7G_U5A111C1MM8000 (日経新聞 2015.11.15)パリ同時テロ 「イスラム国」が犯行声明、仏大統領「戦争行為だ」 死者128人に
 パリ市とその近郊で13日夜に発生した同時テロについて、オランド仏大統領は14日の演説でイスラム過激派(総合2面きょうのことば)「イスラム国」(IS=Islamic State)による犯行だと断定し、ISは犯行声明を発表した。テロによる死者は少なくとも128人に達し、仏治安当局はパリを中心に多くの施設を閉鎖した。主要国はテロへの危機感を強めており、15日にトルコのアンタルヤで開幕する20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でもテロ対策が主要議題になる。オランド氏は14日、国防に関する関係閣僚会議に出席した後、テレビ演説した。今回のテロを「テロリストによって起こされた戦争行為だ」と語り、仏国外で組織・計画されたと強調した。AFP通信によると、けが人は250人以上でうち約100人が危険な状態にある。死者数はさらに増える可能性がある。フランスにとっては1945年以降、最大のテロ事件となった。フランスは2014年にイラク領内のISに対する空爆を始め、今年9月にはシリアに対象を広げた。ISは14日、インターネット上に出した声明で「オランドがシリアへの攻撃をやめない限り、フランス国民に安全はない」とした。G20首脳会議は16日まで2日間の日程で開く。首脳らは「テロとの戦い」で一致するとともに、具体的な協力策を議論する。オランド氏は欠席することを決めており、代理として出席するファビウス外相は14日、滞在先のウィーンで「テロに対して国際的な協調が必要だ」と述べた。テロが起きたのは、パリ市内東部に位置する10区と11区のレストランや劇場、パリ近郊の国立競技場など計6カ所とみられる。レストランでは自動小銃が乱射されたほか、競技場では爆発が起きた。自爆テロもあったとみられる。劇場では人質をとって立てこもった3人を治安当局が射殺し、市民にも約80人の犠牲者が出たもようだ。AFP通信などによると、一連のテロで8人の実行犯が死亡し、うち1人はフランス人だった。共犯者が逃亡している可能性もあるという。ロイター通信などによると、競技場の犯人とみられる遺体の近くでシリアとエジプトのパスポートがみつかった。オランド大統領は13日深夜、非常事態を宣言した。フランスでは1500人の兵士が治安維持に投入されたほか、国境審査が強化された。パリ市は14日、美術館などの施設を閉鎖し、集会やデモの許可を取り消した。住民には不急の外出は避けるよう呼びかけている。メルケル独首相は14日、「パリだけへの攻撃ではなく、我々全員への攻撃だ」とフランスとの連帯を表明、ベルリンの仏関連施設の警備を強化した。

*6-2:http://qbiz.jp/article/74950/1/
(西日本新聞 2015年11月16日) トルコG20、対テロ声明へ 首脳会合開幕国境管理を厳格化
 日米欧に中国など新興国を加えた20カ国・地域(G20)首脳会合が15日午後(日本時間同日夜)、トルコ南部アンタルヤで開幕した。パリ同時多発テロ後、主要国首脳が初めて一堂に会しテロ対策を協議。議長国トルコのエルドアン大統領は、通常の首脳宣言と別にテロに関するG20声明を発表する方針を表明した。ロイター通信によると、過激派組織「イスラム国」などに流入する外国人戦闘員増大に懸念を示し、国境管理の厳格化を盛り込む方向だ。オバマ米大統領は15日、パリ同時多発テロを「文明世界への攻撃」と非難し、実行したとみられる「イスラム国」の打倒に向けた行動を訴えた。各国首脳もテロを一斉に糾弾。安倍晋三首相は首脳会合で、同時多発テロに「強い衝撃と怒りを覚える。日本政府、国民を代表して犠牲者に哀悼の意を表し、フランス政府、国民との連帯の意を表明する」と述べた。首脳らは会合の冒頭、パリのテロ犠牲者に対し、黙とうをささげた。ロシアメディアによると、ロシアのプーチン大統領は国際社会の団結がなければテロの脅威に対処するのは不可能だと指摘。中国の習近平国家主席もテロを「断固非難する」と述べ、対策強化を表明した。パリ同時多発テロでは、シリア、イラクを拠点とする「イスラム国」が遠隔地で大規模な攻撃を仕掛けた可能性が指摘される。国際社会がテロ包囲網の再構築を迫られる中、G20各国は過激派組織に流入する外国人戦闘員やテロ資金の途絶に向けた措置を強化する方針。過激派組織の関与が指摘されるロシア機墜落を念頭に、航空の安全確保でも合意する見通しだ。日米欧と新興国、中東諸国は、今回の同時多発テロで迅速な行動が必要との認識で一致。各国に国内法の早急な整備などを促すとみられる。フランスのオランド大統領はG20首脳会合を欠席した。各国はフランスへの支援も表明する。会合は2日間の日程で開かれ、16日午後に議論を総括した首脳宣言を採択して閉幕する。


<辺野古の埋め立てについて>
PS(2015年11月17日追加):既に空港のある人口の少ない離島など、埋め立て不要でもっと安価な他の選択肢は多いにもかかわらず、「普天間の危険除去=辺野古の埋め立てが唯一の選択肢」などと屁理屈をつけ、埋め立て費用や経済効果の小さな地元対策費を使うのも税金の無駄遣いだ。そして、こういうことをする大人を作ったのも、(理由を長くは書かないが)教育の失敗である。

   
    辺野古の海      ジュゴンのはみ跡      工事の開始   2015.10.28佐賀新聞

       
  沖縄の殆どの人が反対しているのに、「反対派はテロリストの仲間」「無責任な市民運動」
      などと言っている人がいるが、無責任に思考停止しているのは誰だろうか?

*7-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/250588
(佐賀新聞 2015年11月17日) 辺野古、国交相が沖縄知事を提訴、取り消し撤回要求、法廷闘争へ
 政府は17日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画をめぐり、翁長雄志知事による名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消し処分を撤回する代執行に向けた訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。政府の勝訴が確定すれば、知事に代わって処分を撤回し、埋め立てを進める構えだ。沖縄県民が強く反対する辺野古移設をめぐる政府と県の対立は、異例の法廷闘争に発展した。埋め立て承認は公有水面埋立法に基づき、国が事務を都道府県知事に委託している地方自治法上の「法定受託事務」。この規定に基づいて知事を提訴するのは初めて。

*7-2:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=141851 (沖縄タイムス 2015年11月17日) 絶妙? 「辺野古」代執行前の人事に憶測飛ぶ 高裁那覇支部の裁判長
 名護市辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐり、代執行訴訟に向けて国が動き始める中、提訴先とみられている福岡高裁那覇支部の支部長が10月30日付で代わる人事があった。全国的に注目される訴訟を前に、沖縄県側は「国が介入した対抗策の一環か」と警戒している。就任した多見谷寿郎氏は名古屋地裁や千葉地裁勤務を経て、2013年に成田空港用地内の耕作者に、土地の明け渡しと建物撤去などを命じた成田空港訴訟で裁判長を務めた。最高裁は、他県の裁判所で依願退官者が出たことに対応する人事で、「退職者が出た場合は必要に応じて適時発令する」と説明。この時期の人事発令が異例でないことを示唆した。県の幹部は「玉突き人事とはいえ、タイミングが“絶妙”すぎて意図的なものを感じる」と顔をしかめる。「国寄りの強権派から選抜したのではないか」との臆測も飛び交う。

*7-3:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=141839
(沖縄タイムス 2015年11月17日) 米のアジア系労組、辺野古反対の沖縄支援を決議 
 米国で影響力を持つアジア太平洋系アメリカ人労働組合(APALA)は15日、米カリフォルニア州オークランド市で開いた幹部会議で名護市辺野古の新基地建設計画に反対する沖縄を支援する決議を採択した。幹部会議には島ぐるみ会議のメンバーらも参加。ワシントンDCに本部を持ち、全米に18支部と会員数約66万人の大組織の協力を取り付け、訪米団は初日に大きな成果を手にした。決議は、沖縄県民の大半が辺野古の米軍基地拡張に反対していると指摘。新建設計画阻止へ向けた行動計画として、(1)米軍基地拡張に反対する沖縄の人々と連携する(2)オバマ大統領や米連邦議会の有力議員らに書簡で沖縄の米軍基地拡張をめぐるわれわれの反対を伝える(3)全米の労働組合の幹部らに沖縄の軍事拡張計画反対を支援するよう伝える-など、今後の具体的な協力内容を明記した。幹部会では、島ぐるみから渡久地修県議や宮城恵美子・那覇市議、連合沖縄の大城紀夫会長らが出席。約1時間にわたり、新基地計画をめぐる現状などを訴えた。

PS(2015年11月19日追加):法治国家(国民の意思によって定められた法に基づいて国政が行われる国)では、法の解釈や運用の仕方を相手によって変えることなく、憲法14条の「法の下の平等」は必ず守られなければならない。そのため、*8のとおり、政府(司法も同じ)が都合のよい結論ありきの結果を出すために法律を適当に運用してはならないが、日本の法学部教育はそうであるため、世界(国際訴訟)では通用しないと言われている。

*8:http://www.shinmai.co.jp/news/20151118/KT151117ETI090006000.php
(信濃毎日新聞 2015年11月18日) 辺野古訴訟 これが法治国家なのか
 沖縄の民意や地方自治を、国家権力がねじ伏せている。そうとしかみえない。米軍普天間飛行場の移設をめぐり、翁長雄志知事が先月、辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。政府はきのう、これを撤回する代執行に向けた訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。政府は訴状で「航空機事故や騒音被害といった普天間飛行場周辺住民の生命・身体に対する重大な危険は現実化している」と移設の必要性を訴えた。移設できない場合、「米国との信頼関係に亀裂を生じさせ、わが国の外交、防衛上の不利益は極めて重大」とした。安倍政権が対話での解決を放棄したことを意味する。翁長氏も争う構えで、政府と沖縄の対立は決定的となった。沖縄の各種選挙で示された民意は普天間の県外移設だ。辺野古への移設を「唯一の解決策」とする政府は他の選択肢を真剣に考えず、米国と話し合おうともしなかった。地元の理解がないまま、安倍政権はなりふり構わぬ姿勢で新基地を造ろうとしている。移設をめぐっては、2013年に仲井真弘多前知事が埋め立ての承認を決定した。政府は沖縄振興策をちらつかせたり、沖縄選出の国会議員らに辺野古容認を迫ったり「アメとムチ」をフルに利用した経緯がある。知事選で辺野古移設反対を掲げて仲井真氏を破った翁長知事は、承認には「瑕疵(かし)がある」として取り消し処分を決めた。沖縄防衛局は行政不服審査法に基づき、国土交通相に処分の効力停止を求め、認められた。これを受け、いったん止まった移設作業が再開されている。本来、この法律は国や自治体の行政処分で不利益を被った国民を救済するためにある。防衛局は行政機関なのに、工事の事業者であることを理由に、国民と同じ「私人」と主張したのだ。3月に海底調査でサンゴ礁を傷つけた可能性があるとして県が作業停止を指示した際にも同じ手法を使っている。「我田引水」との批判は免れない。そして、今回は国による代執行を求める提訴だ。私人と国の立場を都合よく使い分けている。菅義偉官房長官は「わが国は法治国家であり、普天間の危険除去を考えたときにやむを得ない措置だ」と述べた。政権が移設を進めるために法の趣旨に反しても構わないと考えているとしたら、法治国家とはとても呼べない。

PS(2015年11月20日追加):*9-1、*9-2に書かれているように、沖縄の民意は、一貫して全体的に「辺野古埋め立て反対」で明確になっており、その民意を金で分断して賛成にまわった一部の人の存在を重視して報道する本土メディアの報道内容は、バランスを欠いており公平中立でない。また、政府が「①普天間飛行場の周辺住民への危険が除去できなくなる」「②日米両国の信頼関係に亀裂が入り、外交、防衛などの不利益が生じる」「③移設作業で支払った約473億円が無駄金になる」と訴えていることについては、訴訟になったからこそ、この程度の政府自身に起因する根拠しかないことが書面に書かれて公になったとも言えるため、既に損害を出している沖縄県は①②③を一つ一つ根拠を持って否定して反訴するのがよいと考える。その結果、どういう司法判断が出るかは、市民とメディアが司法を見守ってチェックしておくしかない。

*9-1:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/251597
(佐賀新聞 2015年11月20日) 「辺野古」提訴、対話の扉は開き続けよ
 国と沖縄県の対立はついに法廷闘争に発展した。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沿岸部への移設計画をめぐって、翁長雄志(おながたけし)知事が埋め立て承認を取り消したことに対して、国が福岡高裁那覇支部に提訴した。国が知事に代わって取り消し処分を撤回できる「代執行」を求めている。県側も、国交相が知事の処分の効力を停止した決定の取り消しを求めて提訴する方針で、泥仕合の様相を呈してきた。政府は、こうした事態に陥る前に話し合いによる解決を探る余地はなかったのか。沖縄の民意は明らかだ。昨年1月の名護市長選から同市議選、知事選、12月の衆院選まで移設に反対する候補が当選してきた。国内の米軍関連施設の74%が集中する沖縄の意向をくみ取らずに移設に突き進むことが安全保障政策上、プラスになるのか。基地の足元で反基地感情がさらに高まることは安保体制の不安定要素になるのではないか。知事の権限を取り上げることにもなる「代執行」の提訴は、国と地方を「対等・協力」関係と位置づけた2000年の改正地方自治法の施行後、初めてとなる。地方分権の流れに逆行していると見ることもできるのではないか。訴状で政府は「普天間飛行場の周辺住民への危険が除去できなくなる」「日米両国の信頼関係に亀裂が入り、外交、防衛などの不利益が生じる」「移設作業で支払った約473億円が無駄金になる」などと訴えた。ただジョエル・エレンライク駐沖縄米総領事は、共同通信のインタビューに対し「(移設計画が滞った場合でも日米関係に)影響は全くない」と答えている。日本政府が訴える日米の信頼関係への亀裂を、米国側が否定した格好だ。さらに無駄金の主張は、走りだしたら止まらない公共事業の理屈そのものだ。その主張の正当性については司法が判断するだろう。訴訟では、前知事による法律的な瑕疵(かし)があったかどうかが最大の争点となる。沖縄県は、辺野古移設の根拠の乏しさなどを指摘した県有識者委員会の報告書を基に前知事の承認に「法的瑕疵がある」と主張、国は「前知事から行政判断は示されており、承認に瑕疵はない」との立場だ。米軍基地をめぐる国と沖縄県の法廷闘争は、1995年に米軍用地の強制使用の手続きを拒否した当時の大田昌秀知事に対して国が提訴して以来となる。翌年に国の勝訴が確定するスピード審理だった。国は今回も同様の決着を期待し、司法判断を盾に移設を進めたい考えだ。「提訴は沖縄県民にとって『銃剣とブルドーザー』による強制接収を思い起こさせる。県民の自己決定権のなさは70年前も今回も変わりはない」。翁長知事は、沖縄に負担を強い続ける歴史をこう表現した。政府が強硬姿勢を続ける限り沖縄の怒りは蓄積され続け、地方自治法が位置づける「対等・協力」関係を築くことなど到底できない。司法判断に委ねることは、政府の当事者能力のなさを示すことにほかならない。対話の扉を開き続け、あくまでも法廷外での政治決着を目指してほしい。

*9-2:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-174859.html
(琉球新報社説 2015年11月20日) 座り込み500日 驚異的な非暴力の闘い
 人々の「思い」の総量は、いったいどれほどに達するだろう。辺野古新基地建設に反対する市民のキャンプ・シュワブゲート前の座り込みが500日を超えた。18日は千人もの人が参加した。行ったことのない政府の人には分からないだろうが、例えば県庁前からあそこまで行くには相当な時間を要する。平日に行くからには無理を重ねてのことだ。よほどの思いがなければできない。そしてその背後には体力その他の事情でどうしても行けなかった人が膨大にいるはずだ。それが500日にも及ぶのである。市民が選挙で示した意思を、その通り実行してほしい。ただそれだけの、ほんのささやかな望みを実現するために、これほどの努力と犠牲を払わなければならない地域がどこにあろう。しかもその努力はゲート前だけではない。辺野古漁港近くのテントでの座り込みは11年7カ月、4232日にも及ぶ。それでもなお政府は強権的に民意を踏みにじるのである。どこにそんな「民主国家」があるだろうか。驚異的なのは、その膨大な時間の中で市民の側は徹底的に非暴力を貫いていることだ。やむにやまれぬ思いを抱えて、途方もない時間をかけて抗議してもなお踏みにじられれば、過激な行為に走るものが現れる例は、世界各地ではままある。それと対照的な沖縄の徹底した非暴力・不服従の闘いは称賛に値しよう。むしろ暴力的なのは日本政府の方である。市民が道路に倒されてけがをしたり、頭を水中に沈められたりといった行為が頻発している。救急車の出動は何度もある。いずれも運ばれるのは市民の方だ。18日も海上保安官に押さえられた際に意識もうろうとなった市民がいた。何と野蛮な政府であろうか。だがそれは、むしろ政府の側が追い詰められた結果とも見える。政府が県を提訴し、政府の勝訴必至と言い立てる言説が多いが、承認取り消しをめぐる政府の対応には矛盾があり、訴訟の行方は分からない。県の提訴も予定される。文化財保護法に則して工事中止に至る可能性も高い。知事と名護市長が「あらゆる手段」で阻止を図れば、工事を完遂することはまず不可能だ。何より国内世論が沖縄に味方しつつある。国際社会も見ている。政府の野蛮はその焦りなのではないか。理は沖縄にある。

PS(2015.12.4追加):辺野古の埋め立てが公共工事として進捗していることは推測していたが、*10-1、*10-2は、「やはりそうだったか」と思った。しかし、この工事は、①沖縄の自然という大きな財産を壊し ②他の地域から土砂を持ってくることで生態系を壊す危険があり ③より安価な方法を選択しなかったことで税金の無駄遣いであるため、公益にならない。そのため、このような工事は早々に止め、工事の喪失分は、本当に工事を必要とし、人手不足の東日本大震災被災地に沖縄からも行けばよい。

*10-1:http://digital.asahi.com/articles/ASHD302FJHD2UTIL05W.html
(朝日新聞 2015年12月4日) 辺野古工事「目もくらむ数字」 寄付、衆院選も地方選も
 米軍普天間飛行場の移設関連工事を受注した沖縄県の建設会社は、衆院選や地元首長選で候補者側へ寄付を重ねていた。沖縄の建設会社にとっては公共工事が「命綱」とされる。総額3500億円の移設工事も、逃せない事業だったという。「辺野古移設は公共工事の一つ。会社の売り上げを上げたいという思いはあった」。2014年衆院選の時に寄付した建設会社の関係者は打ち明ける。衆院選投開票を前にした14年12月、沖縄県浦添市の建設会社が県内地盤の国場幸之助、宮崎政久、西銘恒三郎(以上自民)、下地幹郎(おおさか維新)の4衆院議員側に計80万円を寄付。同市の別の建設会社も12月、西銘議員側に50万円を寄付した。この2社は15年に入ってから、護岸工事などを国から受注した。寄付した後の契約のため、公職選挙法の特定寄付には該当しないが、寄付はいずれも解散から投開票日までの期間内だった。14年にこのほかの寄付はなかった。14年衆院選では、沖縄市の建設会社が国からの工事受注後、11~12月に議員6人に計90万円を寄付。公選法が禁止する特定寄付の可能性があるなど、選挙時の寄付が広がっている。別の建設会社社長によると、衆院選の投開票日の1カ月ほど前になると毎回、自民を中心に候補者側から集会への動員を求める文書がファクスや郵送で送られてくる。14年衆院選の時に参加したところ、事務所で陣営担当者から寄付の要請があったという。この時期の寄付計220万円について、5議員は「誤解を受けないため」として、朝日新聞の取材後に計160万円を返金した。もう1人も返金について検討している。地方選挙も似た構図だ。2013年12月に仲井真弘多・前知事が辺野古移設容認を表明し、移設の是非が争点になった14年1月19日投開票の沖縄県名護市長選。移設関連工事を受注した県内5社は12月16日から1月16日にかけ、移設容認派の元自民県議の候補者側に計110万円を寄付していた。「資金が厳しいので支援して欲しい」。名護市長選挙を控えた13年12月、建設会社社長の男性は、顔見知りの建設会社役員らを通じて頼まれ、移設を容認する候補者側に寄付した。男性は「3千億円超という辺野古工事は目もくらむ数字。でも、地元で受注できるのは一部。(移設容認候補の落選で)政府と話ができなくなることの方が心配だった」と振り返る。同様に寄付した別の建設会社の経営者の男性も「期待するのは国とのパイプ。国に見放されたら誰が仕事を持ってきてくれるのか」と語気を強めた。07年、移設先のV字形滑走路案を進める国に地元が反対して移設交渉が中断した際、国の北部振興予算が一時凍結され、同業者が何社か倒産した。「政府は恐ろしい。移設反対と言うと、いろんな予算が減らされる」。候補者の元県議は「私の政治活動への寄付だ。私からお願いもしていない」と話した。14年11月16日の沖縄県知事選では、告示1カ月ほど前から、工事を受注した県内の4社が計270万円を自民党県連と自民名護市支部に寄付した。県連と市支部は同年10~11月に、立候補した仲井真氏を支援する二つの政治団体に計1億5300万円を寄付していた。仲井真前知事は「ノーコメント」としている。
     ◇
《特定寄付の禁止》 公職選挙法は、国と請負契約を結ぶ個人や企業が国政選挙に関して寄付してはならず、政治家側も要求してはならないと定める。政策が寄付者の影響を受ける事態などを防ぐためと解釈されている。地方自治体の首長や議員の選挙でも同様の規定がある。違反した場合は3年以下の禁錮または50万円以下の罰金に問われる。

*10-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12100286.html
(朝日新聞 2015年12月4日) 辺野古受注業者が寄付 沖縄6議員に90万円 14年衆院選
 6人は国場幸之助、宮崎政久、比嘉奈津美、西銘恒三郎(以上自民)、下地幹郎(おおさか維新)、玉城デニー(生活)の各議員。玉城氏は沖縄3区で当選、他の5人は沖縄県の小選挙区で落選し、比例九州ブロックで復活当選した。寄付したのは同県沖縄市の中堅建設会社。14年10月29日の入札で辺野古移設に関連する護岸新設工事を落札し、約2億9千万円で沖縄防衛局と契約した。衆院は11月21日に解散し、12月14日が投開票だった。同社は11月27日~12月2日、6人の政党支部にそれぞれ10万~20万円を寄付した。14年にこの時期以外の寄付はなかった。同社は12年衆院選時も解散から投開票日までに、自民3人と下地氏に計150万円を寄付。衆院選のなかった10、11、13年は6人への寄付はなく、比嘉氏のパーティー券20万円を購入しただけだった。6人は「日頃から支援を受けており(寄付は)特別ではない」と答える一方、5人が「誤解を受けてはいけない」と返金した。同社は「通常のお付き合いの範囲で、選挙に関する寄付ではない」としている。沖縄防衛局によると、飛行場移設予算は3500億円以上を見込み、14年から護岸工事など約500億円分が順次発注されている。
■影響力に懸念
 日本大学法学部の岩井奉信教授(政治学)の話:衆院解散後が「選挙期間」なのは明らかで、寄付が選挙目的と指摘されても仕方ない。業者が気をつけるべきだが、政治家側も選挙期間の寄付は特にチェックしないといけない。今回の事例は、公共事業を受注する業者が寄付することで、政治家が選挙後に公共事業への影響力を発揮するのではという懸念を生じさせ、返金は当然だ。

PS(2015年12月4日追加):「辺野古移設は、沖縄県の基地負担軽減だ」と主張する人が少なからずいるが、それなら、“軽減”後の基地負担が全国平均と比較してどうかについても言及すべきだ。もちろん、“軽減”後も、沖縄県の基地負担割合は突出して高く、この裁判は、次の100年の計のためにも、沖縄県を勝たせなければならない。なお、この辺野古埋め立て訴訟は、民主主義、三権分立、国と地方の関係、地方自治、安全保障、領土・領海・領空の保全、環境、日本史と世界史など、多くの問題を含むため、高校生の授業でテーマとして取り上げ、役割分担して調査し、議論すると有意義だと考える。

*11-1:http://mainichi.jp/select/news/20151203k0000m040072000c.html
(毎日新聞 2015年12月2日) 辺野古:知事「国民に問う」…代執行、法廷闘争始まる
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設計画を巡り、国が翁長雄志(おなが・たけし)知事に対し、名護市辺野古沿岸部埋め立ての承認取り消し撤回を求めた代執行訴訟の第1回口頭弁論が2日、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)であった。翁長知事は意見陳述で「沖縄県にのみ負担を強いる今の日米安全保障体制は正常といえるのか。国民の皆様すべてに問いかけたい」として過重な基地負担と移設計画の不当性を訴え、請求棄却を求めて争う姿勢を示した。次回の口頭弁論は来年1月8日に開かれる。米軍基地問題を巡る国と沖縄県の法廷闘争は、1995年に軍用地の強制使用を巡って首相が当時の知事を訴えた「代理署名訴訟」以来、20年ぶり。弁論で翁長知事は冒頭、米国統治下で米軍から土地を強制接収されて過重な基地負担を背負わされた沖縄県の戦後史を踏まえて意見陳述。「今度は日本政府によって(米軍の)銃剣とブルドーザーをほうふつさせる行為で美しい(辺野古の)海を埋め立て、基地が造られようとしている」と述べ、「米軍施政権下と何ら変わりない」と訴えた。国側と県側の争点の主張確認も行われ、弁論は翁長知事の承認取り消しの適法性に集中した。国側は「国防に関わる基地の設置場所について知事に審査権限は与えられていない」と主張。県側は「県内移設しかないという地理的・軍事的根拠は無い」として、承認を取り消した判断の正当性を訴えた。国側は訴状で最高裁判例から、今回のケースで取り消しが認められる要件は「取り消す不利益と維持する不利益を比較し、維持することが著しく不当な場合」と指摘。取り消しで「普天間飛行場の危険性が除去できず、日米の信頼関係にも亀裂が入る」などと主張し「承認維持の場合と比べて不利益が極めて大きい」と強調している。県側は「国側が主張するのは個人に対する処分の判例で、国の機関が処分の相手である今回のケースには当てはまらない」などとした。県側は翁長知事の当事者尋問と、移設に反対する名護市の稲嶺進市長や環境、安全保障の専門家など計8人の証人尋問を申請している。国側は「必要性がない」と意見を述べた。多見谷裁判長は次回期日とともに次々回期日を来年1月29日に指定。次回は引き続き争点を確認し、次々回で証人申請の採否を決定する。
◇代執行◇
 都道府県が国の仕事を代行する「法定受託事務」について、知事による管理や執行に法令違反などがあり、他にそれを改めさせる方法がなく、放置すれば公益を著しく害する場合に担当相が知事に代わってその事務の手続きを行うこと。地方自治法の規定による。知事が担当相の是正勧告や指示に従わず、高等裁判所が国の請求を認めることが前提になる。

*11-2:http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201512/0008618262.shtml
(神戸新聞 2015/12/4) 翁長知事陳述/国民全てへの問い掛けだ
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画をめぐる、国と県による異例の法廷闘争が始まった。移設先の名護市辺野古の埋め立て承認を取り消した翁長(おなが)雄志知事による処分について、国が撤回を求めた代執行訴訟の第1回口頭弁論が、福岡高裁那覇支部で開かれた。訴訟で争われるのは知事による取り消し処分の是非である。安全保障や外交分野で、知事に判断権があるのかどうかも争点だ。だが、法廷で意見陳述した知事が重きを置いたのは、国が掲げる法律論ではなく、「魂の飢餓感」と表現する沖縄の心情だった。国土のわずか0・6%に73・8%の米軍専用施設が集中している。過重な基地負担を強いられてきた歴史をたどりながら、地元民意に反して進められようとする辺野古移設の不条理を訴えた。裁判の原告である国だけに向けられたものではない。国民全てに対する問い掛けと受け止めるべきだ。私たち一人一人が、沖縄の声にしっかりと耳を傾け、解決への道筋を考えることが重要だ。訴訟で県側は移設を憲法違反と位置付ける新たな論点も持ち出した。移設先周辺の住民の自治権が大幅に制約されるにもかかわらず、地元の承認も国会審議もなしに計画を進めるのは、憲法が定める地方自治の原則に反するとの主張だ。複数の選挙で反対の民意が示されたにもかかわらず、国が強硬に進める辺野古移設を、翁長知事は地方自治の危機と訴えてきた。沖縄だけの問題ではないと他の自治体の理解を求めてきた。しかし、わがこととして考えた自治体はどれほどあったか。国が進める事業を止められるわけがない、という姿勢では、自治権が揺らぐのを傍観することになる。1999年の地方自治法改正で、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと変わった。「日本に地方自治や民主主義は存在するのか」という知事の問い掛けを、正面から受け止める必要がある。菅義偉官房長官は「対話の余地がなかった」とし、やむを得ず訴訟に踏み切ったと強調する。しかし、県との接点を見いだせず、解決を図れなかった責任は重い。国は対話による解決を望む世論に応え、事態を打開する努力を続けるべきだ。

*11-3:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/210993
(西日本新聞 2015年12月4日) 辺野古訴訟 国民への問い掛けの重さ
 米軍基地の移設計画をめぐって、国と地方自治体が争う異例の裁判が始まった。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先の埋め立て承認を翁長雄志(おながたけし)知事が取り消したのは違法だとして、国が撤回を求めた代執行訴訟の第1回口頭弁論が、福岡高裁那覇支部で開かれた。弁論で国は「行政処分の安定性は確保されなければならず、例外的な場合しか取り消せない」と翁長知事の承認取り消しを批判し、迅速な審理終結を求めた。一方、翁長知事は意見陳述で、沖縄の過重な基地負担の実態を訴えた。「政府は辺野古移設反対の民意にかかわらず移設を強行している」として、移設強行は自治権の侵害で違憲だと主張した。国が行政処分の法律論に絞って訴訟を進めようとするのに対し、知事は日米安保における沖縄の位置付けや、国と地方の関係にまで論点を広げ、辺野古移設の是非そのものの審理を目指している。注目したいのは、意見陳述で翁長知事が、重い意味を持つ根本的な問いを投げ掛けたことだ。「沖縄県にのみ負担を強いる今の日米安保体制は正常と言えるのでしょうか」。「日本に、本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか」。「沖縄が日本に甘えているのでしょうか。日本が沖縄に甘えているのでしょうか」。今後の展開は予断を許さないが、高裁那覇支部が「基地の在り方を議論する場ではない」とする国側の主張を認め、直接の争点である承認取り消しの是非に限定した訴訟指揮を取る可能性は高い。しかし、どのような裁判の展開となるにせよ、翁長知事が提起した問いへの答えがない限り、沖縄の住民の納得は得られず、基地問題も解決しないだろう。翁長知事は意見陳述の最後にこう述べた。「国民の皆さますべてに問い掛けたいと思います」。この裁判を単に「国と沖縄の争い」と捉えるのではなく、沖縄の基地負担を国民すべての問題として考える契機にしたい。

*11-4:http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=348404&nwIW=1&nwVt=knd
(高知新聞 2015年12月4日) 【辺野古訴訟】形式的審理に終わらすな
 沖縄県の基地問題の将来を問う法廷闘争が始まった。米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、埋め立て承認を翁長知事が取り消したのは違法だとして、国が撤回を求めた代執行訴訟の第1回口頭弁論が福岡高裁那覇支部で開かれた。国が県を訴えた異例の裁判であり、背景も疑問を拭えない。市街地にある普天間飛行場の危険性の除去という課題に対し、政府は辺野古移設が「唯一の解決策」と強硬姿勢を貫き、沖縄県は基地の県内たらい回しに強く反発する民意を背景に移設を拒否している。「日本に地方自治や民主主義はあるのか。沖縄にのみ負担を強いる安保体制は正常か。国民に問いたい」。意見陳述での翁長知事の訴えは重い。裁判をきっかけに、政府も国民もいま一度、基地問題の本質に向き合う必要がある。司法も形式的な審理に終わらせてはならない。裁判は、承認取り消しは可能か、前知事の承認に瑕疵(かし)はあるかなどが大きな争点だ。翁長氏は意見陳述で、住民を巻き込んだ沖縄戦や米軍による土地の強制接収、過重な基地負担といった沖縄の犠牲の歴史を強調した。承認取り消しの是非だけでなく、基地問題の本質への理解を求めたといえる。これに対し国側は、基地のありようを「(法廷は)論議する場ではない」と切り捨て、「行政処分の安定性は保護する必要があり、例外的な場合にしか取り消せない」などと手続き論で勝負する構えを見せている。基地問題は沖縄の歴史や現状を抜きにしては論議できない。国と沖縄県は1995年にも、米軍用地の強制使用に必要な代理署名をめぐって法廷で争ったことがあり、沖縄の深刻さを物語っている。安倍政権の姿勢は明らかだ。オスプレイ訓練の拠点を佐賀県に移転する計画は地元の反対などから取り下げたが、辺野古移設は裁判に持ち込んだ。日米安保の重要性を強調し、沖縄県側とは「対話の余地はなかった」(菅官房長官)と提訴を正当化するが、「沖縄の人々に寄り添う」と発言してきたのではなかったか。裁判を単なる国と地方の争い、手続き論で片付けることは政府の姿勢にお墨付きを与えることになりかねない。本質を踏まえた審理が求められる。

*11-5:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/151013.html (日本弁護士連合会 会長 村越進 2015年10月13日) 普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立ての承認の取消しに関する会長声明
 本日、沖縄県知事は、前知事が2013年12月27日に行った普天間飛行場代替施設建設事業(以下「本事業」という。)に係る公有水面埋立ての承認(以下「本件承認」という。)を、公有水面埋立法第4条第1項の承認要件を充足していない瑕疵があるとともに、取消しの公益的必要性が高いことを理由として、取り消した。本事業で埋立ての対象となっていた辺野古崎・大浦湾は、環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類かつ天然記念物であるジュゴンや絶滅危惧種を含む多数の貴重な水生生物や渡り鳥の生息地として、豊かな自然環境・生態系を保持してきた。当連合会は、2000年7月14日、「ジュゴン保護に関する要望書」を発表し、国などに対し、ジュゴンの絶滅の危機を回避するに足る有効適切な保護措置を早急に策定、実施するよう求めた。また、当連合会は、2013年11月21日に、「普天間飛行場代替施設建設事業に基づく公有水面埋立てに関する意見書」を発表し、国に対し「普天間飛行場代替施設建設事業」に係る公有水面埋立ての承認申請の撤回を、沖縄県知事に対し同申請に対して承認すべきでないことをそれぞれ求めるなどした。その理由は、この海域は沖縄県により策定された「自然環境の保全に関する指針」において自然環境を厳正に保全すべき場所に当たり、この海域を埋め立てることは国土利用上適正合理的とはいえず(公有水面埋立法第4条第1項第1号)、環境影響評価書で示された環境保全措置等では自然環境の保全を図ることは不可能であるなど(同第2号)、同法に定める要件を欠いているというものである。そして、沖縄県知事が2015年1月26日に設けた「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認手続に関する第三者委員会」(以下「第三者委員会」という。)においても、本件承認について、公有水面埋立法第4条第1項第1号及び同条第2号の要件などを欠き、法律的な瑕疵があるとの報告が出されるに至った(2015年7月16日付け検証結果報告書)。以上のとおり、本件承認には、法律的な瑕疵が存在し、瑕疵の程度も重大であることから、瑕疵のない法的状態を回復する必要性が高く、他方、本件承認から本件承認の取消しまでの期間が2年足らずであり、国がいまだ本体工事に着手していない状況であることからすれば、本日の沖縄県知事による本件承認の取消しは、法的に許容されるものである。当連合会は、国に対し、沖縄県知事の承認取消しという判断を尊重するよう求める。

PS(2015年12月6日追加):私は、*12-1の記事を見た時は、まるで子ども騙しのような返還だと思ったが、*12-2の記事で背景がよくわかると、やはりひどいと思う。また、「外交・防衛は国の専権事項」ということもよく言われるが、それはどういう法的根拠に基づいているのだろうか?日本国憲法には「外交・防衛は国の専権事項」という規定はなく、「民主主義」が定められており、地方自治体の納得と協力なくしては外交・防衛もできないのだから。

*12-1:http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/
(新潟日報社説 2015年12月6日) 辺野古法廷闘争 民主主義が問われている
 問われているのは、基地移設の是非だけではなく、日本の民主主義である。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先、名護市辺野古の埋め立て承認を翁長(おなが)雄志(たけし)知事が取り消したのは違法として国が撤回を求めた「代執行訴訟」が始まった。国と県の異例の法廷闘争だ。翁長氏は「日本には本当に地方自治や民主主義は存在するのか。沖縄にのみ負担を強いる、今の日米安保体制は正常といえるのか。国民全てに問い掛けたい」と意見陳述した。沖縄県では昨年の各種選挙で辺野古移設反対の候補が当選した。戦後70年を経ても国土の0・6%の県土に在日米軍専用施設の74%が集中している。日米両政府は普天間飛行場の1%にも満たない約4ヘクタールを2017年度中に返還すると発表したが、根本的な解決には程遠い。翁長氏の言葉は、原告の国だけでなく、全国民に向けて発せられたものとして、私たちも重く受け止めなければならない。国側は「基地のありようにはさまざまな意見があるが、法廷は議論の場ではない」と主張した。「沖縄県の質問に丁寧に答え、前知事から承認をもらった」と手続き論を繰り返す戦術だろう。翁長氏の訴えに正面から向き合おうとする姿勢は見られなかった。そのかたくなな態度こそ、ここまで問題を深刻化させた原因なのだと自覚するべきだ。沖縄県は今回の訴訟で「移設強行は憲法に違反する」との新たな主張を加えた。助言した学者は「辺野古移設で住民は敷地内の通行ができなくなるなど、自治権が奪われる。憲法は自治権を制約する場合、そのルールを法制化するよう定めているが、政府はしていない」という。政府が必要な手順を踏まずに移設しようとしているとすれば、重大な問題である。国側は「国家存亡に関わることを知事が判断できるはずがない」とも述べた。確かに防衛は国の専権事項だ。だが、移設に伴って県民は事故や自然破壊など、さまざまな不利益を被る恐れがある。知事に判断する権限が全くないとはいえないはずである。国は基地の必要性などについて根拠を示し、県の疑問に十分に答えなければならない。裁判所はそれぞれの主張を尽くさせた上で、厳正に判断してもらいたい。県側が申請した稲嶺進名護市長ら8人の証人尋問を実施し、地元の声を直接聞くことは必要だ。県側は辺野古移設阻止に向け、今月中に国を相手に訴訟を起こす。二つの裁判が同時進行する、複雑な事態となる。訴訟で県側は、翁長氏による承認取り消しの効力を停止した国土交通相の決定を違法と訴え、取り消しを求める。同時に、判決を待たずに埋め立て工事を止めるため、国交相決定の効力を停止するよう裁判所に申し立てる方針だ。国は裁判中も工事を続ける考えだが、停止するのが筋である。

*12-2:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-183738.html
(琉球新報社説 2015年12月6日) 普天間0.8%返還 5年以内停止、全面返還を
 在沖米軍専用施設面積2万2370ヘクタールの0・031%(7ヘクタール)の返還。これが果たして「目に見える成果」(菅義偉官房長官)と言えるだろうか。菅官房長官とケネディ駐日米大使は首相官邸で会談し、キャンプ瑞慶覧インダストリアル・コリドー地区の一部共同使用と、米軍普天間飛行場の東側約4ヘクタール、牧港補給地区の国道58号と隣接する部分の約3ヘクタールについて、2017年度中の返還を目指すことに合意し、共同記者会見で発表した。官房長官と駐日米大使がそろって記者会見したのは、沖縄の基地負担軽減策に取り組む姿をアピールする狙いがあるとみられる。しかし普天間飛行場について言えば全体の0・8%の返還にすぎない。直接危険性除去につながるものではなく「針小棒大」のそしりは免れまい。5年以内の運用停止、全面返還こそ危険性除去だ。米軍普天間飛行場の東側沿いの土地4ヘクタールの返還は1990年6月の日米合同委員会で確認されていた。同じく早期返還を発表した牧港補給地区の国道58号沿いの土地約3ヘクタールも96年のSACO(日米特別行動委員会)合意で国道拡幅を目的に返還が合意されていた。いずれの米軍施設も主要幹線道路の渋滞緩和やアクセス道路確保のために地元自治体から早期の返還などが求められていた。返還は当然であり、本来なら20~25年前に解決すべき懸案事項だ。内容に目新しさはないのに、なぜこのタイミングの発表なのか。菅氏は会見で日本政府が米国と交渉した経緯を示し「宜野湾市が要望してきた」などと何度も述べ、宜野湾市の要望に応えたことを強調した。来年1月の宜野湾市長選挙をにらみ、現職を後押しする狙いがあるのだとすれば、政治の劣化でしかない。もう一つ。日米両政府の合意文の狙いは辺野古新基地建設を「唯一の解決策」と再確認した点だ。政治折衝とは本来、争点解決に向け努力することである。「唯一」という言葉を使うことは、「交渉する気がない」「思考停止」と言っているに等しい。沖縄に70年間も米軍基地を押し付けた上、代執行訴訟で知事を提訴してまで新基地建設を強行する。そして恩着せがましく細切れ返還の成果を強調する。これはもう翁長雄志知事が指摘する「政治の堕落」そのものだ。

| 経済・雇用::2015.11~2016.8 | 03:39 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.11.6 環太平洋連携協定(TPP)の合意が日本経済(特に農業)に与える影響について  (2015年11月6日、7日、8日、12日に追加あり)
   
     2015.10.21            2015.10.23         2015.10.20  2015.10.21     
     西日本新聞              日経新聞            日経新聞     西日本新聞 

     
 2015.10.18   2015.10.22        2015.11.5西日本新聞       2015.5.16  
  農業新聞       農業新聞                              真実を語るブログ

(1)環太平洋連携協定(TPP)の意味
1)TPP推進派の主張
 *1-1のように、「貿易・投資を完全自由化して、アジア太平洋を舞台に世界最大の経済圏を作る」というのがTPP推進派の根拠で、例外なき自由化にならなかったことに対しては失望し、再交渉すべきだと主張している。また、米国で法案を審議する上院財政委員会のハッチ委員長は、*1-5のように、「TPPは議会が求めていた通商協定の高い水準に届いていない」とさえ指摘している。

 しかし、私は、完全自由化して現在の市場に任せれば、その国の将来の産業構造があるべき姿になるとは思わない。そのため、主権国家の将来を見通した産業構造計画はあるべきだと考えている。

 また、TPP推進派は「農業分野で日本が保護主義的な姿勢をとったため、日本の農業の構造改革に果たすTPPの役割は小さくなり、徹底した自由化がなされた場合に比べて消費者の恩恵は薄くなった」としているが、市場を完全自由化して誰にでも所得補償を行えば、日本の農業を構造改革して生産性の高い産業に導けるわけではない。つまり、日本の農業改革は、TPPに入って予算のバラマキを行えばできるのではなく、農業における一つ一つの課題について合理的な問題解決ができるよう、技術や経営をアドバイスして改善していくことによってしかできないのだ。

 なお、淘汰されてしまった日本の農産物は輸入に頼るしかなくなる。そのため、ITがマイクロソフトに統一されてやりたい放題されているのと同様、*2-1に書かれているように、外国に委ねられて「食」の安全性が損なわれ、顔の見える国内産の選択肢がなくなって、消費者の恩恵はむしろ低くなりそうだ。遺伝子組換食品の表示・食品添加物・残留農薬基準・BSEに関する規制や有機農法などがその例である。

2)TPP推進の本当の理由は何か
 *1-2のように、TPP交渉担当は甘利経済財政・再生相(横浜13区選出の衆院議員)であり、その時の自民党農林部会長は斎藤衆院議員(千葉7区選出、東京出身、経産省出身)であり、現在の自民党農林部会長の小泉衆議院議員(神奈川11区選出)も含めて、いずれも農林漁業地帯ではなく、都会から選出された人が農林漁業に重要な影響を与える地位にいる。

 これは、「農林漁業の言うことを聞かずにすむ農林漁業をあまり知らない人」を選んだ人事で、いくら難しい交渉をしたという演出をしても、この人事を行った時点で、第一次産業を知らない経産省主導のTPPが締結される着地点が見えていた。

 そして、甘利経済財政・再生相は、*1-2のように、①TPPの大筋合意は経済成長を促す効果がある ②アジア太平洋地域の安全保障に貢献する などとしているが、日本製の衰えは、物価や賃金上昇に連動する価格や経営戦略による生産拠点の海外移転によるところが大きく、関税の影響は限られているため、TPPの合意で日本の経済成長が促されることはあまりないだろう。つまり、土地価格の上昇や燃料高などのコスト・プッシュインフレーションを願うのは、経済を破壊する狂気の沙汰なのである。

 一方、アジア太平洋地域の安全保障は最も重要な目的になっており、TPPでは日本が独り負けしそうなほど米国に有利な条約を結んだため、妥結の翌日、米のイージス艦が中国の人工島付近に現れて、中国が国連海洋法条約(http://www.houko.com/00/05/H08/006.HTM 参照)違反であることを明らかにしてくれたのだと思われる。つまり、農業は沖縄と同じく、安全保障の生贄にされたわけだが、安全な食料を生産し、真面目に働く国民を育ててきた農業は、決して粗末にしてはならない重要な産業だ。

3)TPP投資ルールでメリットのある産業は何か
 *1-3によれば、マレーシアやベトナムなどのアジアの新興国で外資規制が緩和され、日本のコンビニエンスストア、金融機関、電力会社などが本格的にサービスを展開しやすくなるそうだが、このようなサービス産業のメリットと食料を生産する農業を引き換えにすることはできない。何故なら、農業が絶滅してサービス産業が残っても、国民はそれを食べることはできないからだ。そのため、OECDモデル条約のようなFTA(又はEPA)モデル条約を作り、国毎に相手の発展段階や特殊性を考慮して、それを変化させながら使うべきだと考える。

 また、*1-3によれば、知的財産に関するルール整備には、新薬の保護期間延長でTPPの間接的効果を期待するそうだが、中国はTPPに入らないので影響はない。さらに、日本の建設会社がベトナム、マレーシア、ブルネイなどで国や自治体の公共事業が受注可能になり、現地市場開拓の障壁が下がるとのことだが、これもFTAかEPAで行えばよいことだ。

 そのほか、*1-4に、TPPで工業品の87%の関税が即時撤廃され、ビデオカメラ、電池、炭素繊維などの工業製品で日本企業の輸出を後押しすると書かれているが、工業製品の関税はもともと低く、輸出企業は既に人件費の安い消費地に工場を移転しているため、今頃になって20世紀後半にやっておくべきだったことをやっても、益より害の方が大きいだろう。

(2)農業への影響
 一方、政府・与党は、*2-5のように、コメ、麦、牛豚肉、乳製品、砂糖などを重要5品目とし、関税撤廃の例外を目指して「聖域」と位置付け、守ったのだそうだ。しかし、私は、この5品目だけが重要で、それさえ守ればよいという根拠はないため、「重要5品目」を決めた理由を明確に説明すべきだと考える。そして、国民に説明できる合理的根拠もないようないい加減な政策で、多様な農業者が生業として長期間かけて育んだものを根底から覆すようなことがあってよいわけはない。

 その上、その重要5品目も全586品目中、約3割の174品目の関税が撤廃されることになり、日本の全品目の関税撤廃率は貿易額ベースで95・1%だそうだ。これに対し、農業者や農業団体が途方にくれたり、反発したりするのは当然で、甘利経済再生担当相は「(農業保護と貿易自由化の)バランスが取れた協定だ。重要5品目のコア部分はしっかり守れた」と強調しているが、「全体として何となくバランスが取れたように見える」ではなく「どういう意味でバランスが取れているのか」を説明すべきだ。日本では、現在、第一次産業の維持と貿易自由化は相反しているため、如何にして日本の食料自給率を守っていくのかについて、展望を持って定量的に示すべきである。

 なお、安い農産品が輸入されると、消費者は安い食料を入手できるためメリットが多いと言う人もおり、それは短期的には事実なのだが、*2-1のように、外国産に敗退して日本産の農産品が極度に少なくなると、遺伝子組換食品の表示・食品添加物・残留農薬基準・BSEの規制などによる安全性や有機農法による栄養価・美味しさが守られるとは限らず、日本産という選択肢もなくなって消費者も困ることを忘れてはならない。そのため、消費者は合理的な規制が作られ、守られているかについて、しっかり監視しておく必要がある。そして、このような規制は、ISD条項で提訴されることがあってはならない。

 また、自由貿易を標榜するTPPで、*2-2のように、米国とオーストラリアに計7万8400㌧の米輸入枠を新設したのはやはりおかしい。さらに、*2-3のように、TPPでは野菜の関税は全て撤廃され、農水省は関税が撤廃されても直ちに輸入が急増することはないとしているが、関東のスーパーでは、TPPの議論が始まったらすぐ、(どういう土地でどういう育て方をしたのかわからない)日本産と同じ品種の比較的安いカボチャ、ブロッコリー、アスパラガスなどの外国産野菜が増えており、冷蔵保存技術が発達すれば国内生産への影響も限定的ではなくなるだろう。

 現在の農相である森山衆院議院の地元鹿児島はじめ畜産を行っている地域では、*2-4のように、「国内産への打撃があるため、公約を守ったとは言えないのではないか」「どう守るのかを早急に示してほしい」などとしている。そして、*2-6のように、日本農業新聞が、農政モニターを対象に行ったTPP大筋合意の結果に関する意見では、「農産物の重要品目の聖域確保を求めた国会決議違反だ」とした人が、69%に達したそうだ。

 また、*2-7に、「農家いじめだ」と書かれているが、私にも最近の“農協改革”や“TPP”は農業を標的にした問題解決にはならない嫌がらせのように見える。そして、これまで努力してきた関係者に対し、一つ一つの課題に対する解決策は示せず、破壊してショックさえ与えれば改革できてよみがえるかのように言うことほど無責任な態度はない。

(3)農林水産品の輸出について
 *3-1のように、農水省や生産者団体・流通業者などで作る輸出戦略実行委員会が、豚肉や牛乳・乳製品などの輸出額目標と取り組むべき方向性を盛り込んだ輸出戦略を決めたそうだが、輸出に慣れていないらしく、欠点があるので指摘しておく。
 ①日本で統一したロゴマークを使うと、上の図の下の段右の輸入差し止めになっている原発
   事故被災地域の製品と混同させられるため、日本産の安全ブランドが損なわれる。例えば、
   オーストラリア産は原発がない国であるため、国で統一したブランドでも売れるのであって、
   私は輸入牛肉ならアメリカ産ではなくオーストラリア産しか買わない。
 ②日本産として一緒にすると、環境に気をつけて頑張った地域の差別化ができず、良い製品を
   作ろうという動機付けがなくなり、品質が落ちる。
 ③「日本らしい食べ方」を押しつけるのではなく、相手のニーズに合った製品を作った方が売れる。

 例えば、*3-2のように、日本では邪魔者だったクラゲは、(私の提案で)中国に輸出し始めたら中華料理の高級食材として需要が多く、有明海の漁閑期の貴重な収入源になった。価格は1キロ300円ほどで、数年前と比べて1.5~2倍に跳ね上がり、最近は採り過ぎないように禁漁期を設けているそうだ。また、*3-3のように、中国で日本産ナマコが以前の3倍の値を付けるブームになり、佐賀県の業者が玄界灘での養殖に力を入れているとのことである。

 つまり、資源を見つけ、相手の需要に合うように加工して輸出すれば、速やかに輸出量を増やすことができるのだ。

<TPP推進派の意見>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151008&ng=DGKKZO92585970X01C15A0M10600 (日経新聞 2015.10.8) TPPが変える世界、完全自由化へ再交渉を 国際貿易投資研究所理事長 畠山襄氏
 アジア太平洋を舞台に世界最大の経済圏をつくろうとする環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が曲折を経て大筋合意にこぎ着けた。貿易や投資の垣根を低くし、知的財産権の保護など広い分野でルールを統一する試みは何をもたらすのか。交渉で大筋合意できた点は評価したいが、内容には不満が残る。「例外なき自由化」を目指した自由貿易協定(FTA)だったはずが、常識的な選択で終わってしまった。リスを追っていたのが、いつのまにかネズミになってしまったというのが正直な印象だ。日本は将来、関税の完全な撤廃を目指す新たなTPPに向けて再交渉もすべきではないか。TPPの前身はニュージーランドが2006年にシンガポール、チリ、ブルネイと結んだ「P4」というFTAだ。関税を100%なくす路線だったのに、日本や米国が交渉に参加した後、例外が設けられた。問題は農業分野だ。日本はコメなどで従来の枠組みを堅持したうえで、新たな国別の枠を設けるかたちを取った。非常に保護主義的な姿勢があり、自由化が後退した印象すら与えかねない。日本にとって農業の構造改革に果たしたはずのTPPの役割が小さくなり、徹底した自由化がなされた場合に比べ消費者の恩恵は薄くなったといえる。日本の対外交渉に悪影響が出てくるかもしれない。100%の自由化路線を求めていたのが、日本から農産物の5項目について関税を完全に撤廃しないと言った。これはTPPの論理から外れたもので、日本の弱みになる。この点は今後、米国などから何回も突かれることになるだろう。まず国内体制を整えることが必要だ。具体的には農家への所得補償を専業にも兼業にも検討してほしい。近年の農産物の内外価格差の縮小により政府の対策が小さくなる分、農家への補償を厚くし、所得が改革前後で変わらないようにして理解を得るべきだ。TPPに韓国が参加を検討しており、中国も参加するかもしれない。米国などが「日本の自由化率が低い」と再交渉を求めてくる可能性もある。その前に日本はアジア太平洋地域のリーダーとして先手を取るべきだ。本来の目的だった関税の完全撤廃を目指し、TPPの次のステージを提案してほしいと願っている。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151009&ng=DGKKASFS08H6T_Y5A001C1EA2000 (日経新聞 2015.10.9) TPP、地域安保に寄与 甘利経財相に聞く、農業、対策費ありきでない/東南ア、参加希望いくつも
 甘利明経済財政・再生相は8日の日本経済新聞のインタビューで、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意は経済成長を促す効果とともにアジア太平洋地域の安全保障に貢献すると強調した。国内の農業対策については、打撃を受ける農家への損失補填に力点を置いた過去の対策にとらわれず、成長産業への転換につながる政策を重視する考えを示した。
――TPPは日本にどんな利点があるか。
 「12カ国のバリュー・チェーン(価値の連鎖)ができる。それを前提にモノと人と資本が自由に行き交う。新しい商取引への対応もできる。その障害となっているものを外し、問題があれば協議する仕組みができた。TPPが経済成長にプラスにならないわけがない」。「東アジアは非常に不安定な地域だ。中国の覇権があり、北朝鮮があり、そういうなかに米国のプレゼンスが経済を通じて直接絡んでくる。TPPは経済の話だが、これは間接的な安全保障で地域の安定に貢献する。やがて中国も仲間に入らざるをえなくなってくる」
●小国もメリット
――韓国も参加を検討している。
 「東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国でも入りたいという意思表示を非公式で言っている国がいくつもある。早く入れてくれという順番待ちが始まっている。米国以外の国は、日本がTPP交渉に参加してくれて本当によかったと言っている。ライオンとウサギの間にトラが入り、ライオンにしっかりものを言う。そうすることによって経済小国にも大国にもメリットのある内容になっていった」
――新たな参加国にあわせてルールを見直すことはないのか。
 「基本は12カ国がつくったルールだ。新しく入る国の事情に配慮して変えることはない」
 「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)など、協議が遅滞している枠組みを動かす潤滑油にもなる。中国も国有企業を民営化していく際、TPPのルールを無視して独自型という具合にはいかなくなる。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉も加速していくだろう」
●飛躍のツール
――日本ではいつTPP協定案の国会承認をめざすのか。
 「できるだけ直近の国会に出していく。来年1月からの通常国会で正々堂々と審議するのがいいのではないか」
――自民党内には来年夏の参院選で農業票離れを懸念する声も多い。
 「TPPは後ろめたい気持ちでやるわけではない。農業が一気に飛躍していくツールだ。日本の農業は成長産業で、TPPはそのための環境整備だということを理解してもらわないといけない」
――国内農業対策の予算規模は1990年代のウルグアイ・ラウンド対策事業費約6兆円がたたき台になるのか。
 「ウルグアイ・ラウンドは外国産の農産物に攻められるから国内農業に補填するものだった。TPPは魅力ある日本の1次産業の強みを伸ばし成長産業にしていくためにある。基本姿勢が違う」
 「金額の規模は政府の対策本部で決める。農産品はTPPが発効してから長い年数をかけて段階的に関税を下げる。今の時点でこれだけ対策費が必要というのではなく、農業をどのように強化していくのかを綿密に考えて予算を組んでいく。額ありきではない」
――今後のアベノミクスで必要なことは。
 「企業収益は最高なのに、設備投資はまだ一歩踏み出せていない。だからこそ、これからはじまる官民対話を通じて踏み出してほしい。踏み出さないと内部留保で食いつないでいくだけになる」
――岩盤規制改革はどの分野に切り込むのか。
 「官民対話を通じて実体経済の現場から意見が出てくるのが適切だ。政府もやることはやる。たとえば規制緩和でなにかしてくれということは、できることは即決する。現場の声にはすぐに応えたい。だから思い切って踏み出してほしい」

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151023&ng=DGKKZO93151730T21C15A0EA2000 (日経新聞 2015.10.23) 外食・製薬など歓迎
 TPP12カ国の投資ルールが整うことに企業の期待は大きい。マレーシアやベトナムといったアジアの新興国では外資規制が緩和され、日本のコンビニエンスストア各社、金融機関、電力会社などが本格的にサービスを展開しやすくなる。ファミリーマートの中山勇社長は「ベトナムなどアジアで店舗網を増やそうとしており、マレーシアにも興味がある」と話す。アジア圏では外資の小売業進出を規制する国は多かったが、可能性が広がる。2014年にベトナム初出店したイオンは同国の小売業規制をクリアするために4年を費やした。規制が緩めば、市場動向に合わせたタイムリーな進出が可能になる。讃岐うどん店を展開するトリドールの粟田貴也社長は「海外展開がしやすくなる」と歓迎する。知的財産ルール整備にも期待が集まる。新薬の保護期間延長は日本に直接的な影響はないが、日本の製薬会社からは「隣国の中国で後発薬メーカーが急速に育ちつつある。今後アジアで新薬の保護が必要になる可能性は高く、TPPの間接的効果を期待したい」(アステラス製薬の知財担当者)との声も出ている。日本の建設会社はベトナム、マレーシア、ブルネイで国や自治体の公共事業が受注可能になる。以前から参入できた国でも受注額の下限が6千万円に下がり、現地市場開拓の障壁は下がる。ただ建築基準に関する独自の法律が残る可能性があるほか、現地の商慣習の壁もある。TPP発効に合わせて各国がどのように法改正を進めるかは不透明だ。「現状と大きく変わらない恐れもある」(ゼネコン大手幹部)との慎重な見方もあり、企業は各国の動きを見定めようとしている。

*1-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20151016&ng=DGKKASDF15H1U_V11C15A0MM8000 (日経新聞 2015.10.16) TPP関税、工業品87% 即時撤廃、ビデオカメラや電池 日本企業の輸出後押し
 環太平洋経済連携協定(TPP)で大筋合意した工業製品の関税撤廃に関する全容が15日明らかになった。ビデオカメラや電池、炭素繊維など日本の輸出品目数の約87%の関税が協定発効後すぐに撤廃される。大型二輪車やタオルなど5年以内に関税が撤廃される製品も多い。北米やアジアに輸出する日本企業の競争力強化やシェア拡大につながりそうだ。日本から輸出する工業製品は全部で約6500品目。金額ベースでみると、家電や産業機械、化学製品など日本企業の競争力が強い品目も含め、輸出総額(11カ国向けで約19兆円)に占める即時撤廃分の比率は76.6%に上る。国別では、ニュージーランド向けで全輸出額の98%、オーストラリア向けで94%が即時撤廃の対象になる。TPP参加12カ国中、最大市場の米国ではビデオカメラにかかる2.1%の関税が協定発効後すぐに撤廃される。輸出額約4900億円のうち、2割超が米国向けで、関税撤廃で日本製ビデオカメラの小売価格の引き下げが見込める。日本製品は品質やブランドの勝負だけでなく、関税がなくなることで価格面でも競争力が高まる。これまで関税が維持されてきた素材分野では、アルミニウムについて米国がかける2.4~6%の関税が、大部分の種類で即時撤廃される。米国向けの年間輸出額が2000億円近いプラスチック製品や、日本企業が得意なナイロンなどの化学繊維、炭素繊維の原料なども多くが即時撤廃の対象になる。即時撤廃にはならないものの、排気量700cc超の大型二輪車(関税率2.4%)は5年目に関税がなくなる。ホンダやヤマハ発動機、川崎重工業などが日本で生産する大型二輪車の約3割は米国向けの輸出。排気量の大きい二輪車は米国の富裕層に人気で、関税撤廃は日本の二輪車メーカーの国内生産の拡大につながる可能性が高い。日本企業が強い競争力を持つ工作機械も利点が大きい。年間9600億円超の北米向け総輸出額の大部分を占める2.2~4.4%の関税の多くが5年目に撤廃される。中小企業にも商機が広がる。5年目に9.1%の関税がなくなるタオルは「今治タオル」など地方の有力産地が輸出を広げる好機になる。米国向けの乗用車は2.5%の関税が15年目から減り始め、25年目に完全になくなる。

*1-5:http://qbiz.jp/article/74272/1/
(西日本新聞 2015年11月6日) 米、TPP承認手続き開始 議会通知、来年2月にも署名 
 オバマ米大統領は5日、環太平洋連携協定(TPP)に署名することを議会に通知し、承認を得るための手続きを始めた。米国では、議会への通知から少なくとも90日過ぎないと政府は通商協定に署名できない。参加12カ国の署名がそろい最終合意するのは来年2月以降となる。署名後に協定案を議会に提出するが、TPP反対の議員も多く、審議入りまで曲折がありそうだ。一方、米財務省は5日、TPPに参加する日米など12カ国が、輸出増を目的にした自国通貨の相場切り下げをしないことで合意したと発表。通貨安競争を避け、通商を有利にするような為替操作はしないとしている。各国が約束を守っているか点検する高官級の定期協議会を少なくとも年に1度開くことも決めた。オバマ氏は12カ国が協定案を公表したことを受けて議会に通知した。TPPの発効には経済規模が最も大きい米国の議会承認が不可欠。米通商代表部(USTR)のフロマン代表は「米国が貿易で主導権を握れるかどうかの最終決定権は国民に選ばれた議員にある」との声明を発表し、TPPの早期承認をあらためて要請した。しかし、法案を審議する上院財政委員会のハッチ委員長(共和党)は「TPPは議会が求めていた通商協定の高い水準に届いていないようだ」と指摘。民主党の大統領候補指名争いで首位を走るクリントン前国務長官もTPPに反対する考えを表明している。議会の承認は2016年11月の大統領選後にずれ込むとの見方も出ている。

<農業への影響>
*2-1:http://qbiz.jp/article/72978/1/
(西日本新聞 2015年10月17日) 【国の形どう変わる TPP識者評論】「食」 安全性損なう懸念残る
◆農林中金総合研究所基礎研究部長 清水徹朗氏
 環太平洋連携協定(TPP)は、5年前に菅直人首相(当時)が「平成の開国」と称して突如、交渉参加の意向を表明して以来、「異常な契約」(オークランド大のジェーン・ケルシー教授)、「TPP亡国論」(評論家の中野剛志氏)など多くの批判を浴び、国論を二分する問題になった。TPPは米国主導の交渉であり、その背後にはモンサントやカーギルなどの多国籍企業が存在する。米国は日本に対する「年次改革要望書」の中で、遺伝子組み換え食品の表示、食品添加物や残留農薬基準等の規制改革を求めてきた。このため、日本の食品の安全性が損なわれるとの懸念が強く、TPP交渉への参加決定を受けた衆参両院の農林水産委員会は、国会決議の中に「残留農薬・食品添加物の基準、遺伝子組み換え食品の表示義務等において食の安全・安心を損なわない」とする項目を盛り込んだ。大筋合意の後、政府は「日本の食品の安全性が脅かされることはなく、遺伝子組み換え食品表示等の制度変更が必要となる規定は設けられていない」と説明しているが、合意内容の詳細は公表されていない。また今回の合意には、TPP参加国間の整合性を円滑にするとの規定もあり、米国が制度改革を求めてくる可能性は残されている。また、海外の投資家が政府を訴えることができる条項が盛り込まれたため、日本の食品に関する制度が外国の企業に訴えられる懸念は消えていない。米国では、欧州連合(EU)との間で紛争になったように牛肉生産においてホルモン剤や抗生物質を多く使っている。牛海綿状脳症(BSE)問題で明らかになったように米国の食肉処理は必ずしも適正ではなく、現在でも米国では食中毒による死亡者が非常に多い。TPPが発効すれば、牛肉や豚肉の関税率が大幅に引き下げられ、競争が激化する。日本の畜産業は規模拡大や新技術の導入によるコストの削減を迫られる。しかし食肉は安ければよいということではない。日本の畜産・酪農は、動物福祉や生態系に配慮し、自然循環型の方向を目指すべきであり、それが食肉や酪農製品の安全性、おいしさにつながるだろう。関税の撤廃・削減により輸入食品の価格は低下するかもしれないが、食や農は、生態系、景観、安全性など多面的な役割を考慮すべきであり、消費者にとって、生産過程を含めた選択が可能になるような情報公開、表示制度を拡充するべきだ。多国籍企業の利益のために、消費者を守る仕組みが犠牲にされてはならない。TPPの批准前に、協定文書に関する情報公開の徹底と、十分な精査、分析が必要だ。
◇しみず・てつろう 56年前橋市生まれ。東京大卒。農林中央金庫に入り、91年から農林中金総合研究所。07年から日本獣医生命科学大非常勤講師。

*2-2:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=34907
(日本農業新聞 2015/10/5) 米輸入枠7.8万トン 日本農業重大な岐路 TPP大筋合意
 環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、交渉参加12カ国は5日午前(日本時間同日夜)、当地での閣僚会合で大筋合意した。最大の焦点だった重要品目の米は、米国とオーストラリアに計7万8400㌧の輸入枠を新設。他の重要品目を含め、日本は農産物市場の大幅な開放を迫られる。日本農業の将来にとって、極めて重大な転換点となる。各国は同日早朝から12カ国による閣僚会合を再開し、最後まで残っていた医薬品のデータ保護期間や乳製品の市場開放をめぐる合意状況を確認した。甘利明TPP担当相は会合後、「全体会合で大筋合意を確認した」と記者団に述べた。米国通商代表部(USTR)のフロマン代表と会談し、「残されている米をはじめとする農産品を含めて全部の最終確認を行うために分ほど話し合った」とし、日米間の農産物協議が決着したことも明らかにした。大筋合意を受け、政府は週内にも「TPP総合対策本部(仮称)」を立ち上げ、打撃を受ける農業分野への対策の検討を急ぐ。安倍晋三首相は6日に記者会見し、政府の対応を説明する。署名や国会での審議は、米国の国内手続きなどの都合上、年明けとなる見通しだ。
●首相「美しい田園を守る」
 安倍晋三首相は5日夜、甘利明TPP担当相から大筋合意の報告を受け、首相官邸で記者団に「政権発足以来の大きな課題に結果を出すことができた」と成果を強調した。ただ、重要品目についても関税の大幅削減や新たな輸入枠を設けたことに対し、聖域確保を求めた国会決議との整合性が問われ、農業者や野党などから批判が上がるのは必至だ。安倍首相は「交渉の結果、農業分野で米、牛肉、豚肉、乳製品といった主要品目を中心に関税撤廃の例外をしっかりと確保することができた」と述べた。その上で「農業は国の基であり、美しい田園風景を守っていくことは政治の責任だ」と強調。生産者が安心して再生産に取り組むことができるよう全力を尽くす意向を示し、国内対策の検討に入る考えを示唆した。

*2-3:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35045
(日本農業新聞 2015/10/18) TPP 野菜関税 全て撤廃 一部の品目除き即時に
 環太平洋連携協定(TPP)で、全ての野菜の関税が撤廃されることが分かった。野菜の関税はもともと低く、鮮度や検疫上の理由から、農水省は関税が撤廃されても直ちに輸入が急増することはないとみる。ただ、TPP参加国からの輸入が多い農産物が即時撤廃されることもあり、注視が必要だ。撤廃時期は、タマネギ(現行関税1キロ73.7円以下、8.5%)が6年目、スイートコーン(同6%)が4年目と一定期間を置くものもあるが、ほとんどは即時撤廃される。同省は「TPPは関税撤廃が原則のため、輸出国の要求が強かった」と説明する。同省は、国内生産への影響は限定的とみる。国内の野菜消費量の8割が国産で、輸入はTPPに入っていない中国産が多いためだ。検疫の問題もある。生のジャガイモ(4.3%)は即時撤廃だが、病害虫侵入防止の観点から輸入できない。冷凍で輸入されフライドポテトになる加工用ジャガイモ(8.5%)は4年目に撤廃になるが、既に現状でも輸入がほとんどを占めている。生のサツマイモも検疫の関係で輸入できない。TPP参加国からの輸入が多いカボチャ、ブロッコリー、アスパラガスなども即時撤廃する。現状では国産が出回らない時期に輸入品が流通しているという。TPPでは、これまでの経済連携協定(EPA)交渉で関税が残っていた農林水産品のほぼ半数で、関税を撤廃した。農林水産品全体の合意内容については、同省は19日の週にも公表する予定だ。

*2-4:http://qbiz.jp/article/72354/1/
(西日本新聞 2015年10月8日) 「農畜産守る対策を」 森山農相の地元鹿児島、TPPに厳しい声
 第3次安倍改造内閣で農林水産相に就任した森山裕氏(70)の選挙区の衆院鹿児島5区は、鹿児島県・大隅半島を中心とした国内有数の畜産地帯だ。大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)の国内農業への打撃をいかに抑えるか−。森山氏は就任早々、最大の課題と向き合うが、地元農家からは7日、早くもTPPの具体的な対策を求める厳しい声が相次いだ。「公約を守ったと言えないのではないか」。大崎町で肉牛400頭を飼育する藤岡数雄さん(67)は指摘した。牛肉など重要5項目の保護を求めた国会決議について、森山氏は昨年12月の衆院選で「決議を踏まえて『聖域』を最優先する」と訴えた。だが合意で牛肉の関税は引き下げられる。藤岡さんは「品質に自信はあるが、外国産との価格競争になれば死活問題だ」と危機感をあらわにし「森山さんは地元畜産の現状を熟知している。どう守るのかを早急に示してほしい」と話す。曽於市で豚5千頭を飼う女性(61)も不安がいっぱいだ。後継者になったばかりの長男(37)はやっていけるのか。ずっと森山氏支持だったが「次はTPP対策の中身を見て考えたい」。JA鹿児島中央会の久保茂吉会長は「農業者の不安や現場実態を十分にくみ取り、将来に展望の持てる農政の確立を」との談話を出した。

*2-5:http://qbiz.jp/article/73132/1/
(西日本新聞 2015年10月20日) TPP、関税撤廃率95% 「聖域」で174品目対象
 環太平洋連携協定(TPP)政府対策本部は20日、大筋合意した関税交渉の全容を公表した。農産品や工業品を合わせた全品目の関税撤廃率は、日本は貿易額ベースで95・1%となる。政府が関税撤廃の例外を目指し「聖域」と位置付けたコメや麦など農業の重要5項目では全586品目中、約3割の174品目の関税を撤廃することになる。政府・与党は、重要5項目は守ったとの立場だが、野党や農業団体は反発しており、今後、合意の評価をめぐる論戦が活発化しそうだ。甘利明経済再生担当相は20日午前の閣議後の記者会見で、関税交渉の結果について「(農業保護と貿易自由化の)バランスが取れた協定だ。重要5項目のコア部分はしっかり守れた」と強調した。11月下旬に対策を取りまとめ、年内に影響試算を公表できるとの見通しを示した。政府は、重要5項目で関税を撤廃する174品目は、TPP参加国からの輸入実績が乏しいものなど、影響が比較的軽微なものだとしている。日本が過去に結んだ経済連携協定(EPA)で関税撤廃率を示す自由化率で最も高かったのは、対オーストラリアと対フィリピンのそれぞれ88・4%で、過去に例のない自由化率となる。日本からの工業品輸出では、TPPに参加する日本以外の11カ国が86・9%の品目の関税を撤廃する。これらの品目は貿易額では76・6%を占める。

*2-6:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35152 (日本農業新聞 2015/10/28)[徹底 TPP報道] 「決議違反」69% 内閣支持18% 政府と現場認識にずれ 本紙農政モニター調査
 日本農業新聞は、本紙の農政モニターを対象に行った環太平洋連携協定(TPP)大筋合意に関する意識調査の結果をまとめた。農産物の重要品目の聖域確保を求めた国会決議が守られたかどうか聞いたところ、「決議違反」としたのは69%に達した。安倍晋三首相は、農業分野を含めて「国益にかなう最善の結果を得ることができた」との認識を示しているが、生産現場の受け止めと大きく懸け離れていることが浮き彫りになった。安倍内閣を支持するとしたのは18%とかつてない低水準にまで下がり、不支持は59%に上った。国会決議を「順守している」としたのは7%にとどまった。決議では重要品目について「再生産可能となるよう除外または再協議の対象にする」ことを求めている。一方で安倍首相は「関税撤廃の例外をしっかりと確保することができた」と成果を誇っており、生産現場との間で決議の解釈に大きなずれがありそうだ。一方で順守したかどうか「分からない」とした回答も22%あった。国会決議を順守しているかどうかの判断には、農業経営への影響度合いをどうみるかとも関連がありそうだ。大筋合意によって自らの経営が「悪化する」と答えた農業者の87%は「決議違反」とした。経営が「悪化する」とみる農業者は、農業者全体の48%と多数を占めている。経営が「やや悪化する」とした農業者では「決議違反」が64%。経営への影響が「分からない」とした農業者は、49%が「決議違反」とするとともに、44%が決議を順守しているかどうか「分からない」としている。第3次安倍改造内閣に対しては、「支持する」が18%にとどまり、極めて厳しい評価となった。「支持しない」は59%に達し、不支持が支持の3倍にも広がる異例の事態となっている。「分からない」は22%。経営が「悪化する」とみる農業者の場合は「支持する」が8%しかなく、「支持しない」が75%まで増えるなど、政権に批判的な評価が大勢を占めている。調査は農業者を中心とした本紙の農政モニターら1060人を対象に、10月中旬に行った。27日までに771人から回答を得た。

*2-7:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/241183 (佐賀新聞 2015年10月20日) 「農家いじめだ」悲痛な声 熊本でTPP説明会、水田畑作関係品目「国会承認までに対策」
 農林水産省は19日、環太平洋連携協定(TPP)で大筋合意した水田・畑作関係品目の説明会を熊本市国際交流会館で開いた。九州・沖縄各県の行政、農業団体関係者ら約230人が出席し、「地方の意見を対策に反映して」と注文する一方、「米価は上がらないのにこれ以上輸入してどうなるのか。“農家いじめ”だ」と悲痛な声も上がった。農水省は「条約の国会承認までには対策をまとめたい」と強調した。説明会は15日の畜産関係品目に続いて2回目。九州農政局の片桐薫生産部長が「今回の交渉結果は輸出国の意見が強い中、結果としてはベストに近いものになった。ただ合意内容が複雑、多岐にわたるので生産者の誤解を招く一因となっている。少しでも懸念が解消されるよう丁寧に説明したい」と理解を求めた。農水省の担当者は、米の輸入について「既存のWTO枠(77万トン)と別にアメリカ(7万トン)とオーストラリア(8400トン)に国別枠を新設」「増加分は政府備蓄米とし、国内流通量は増やさない」と説明した。麦は「アメリカ、オーストラリア、カナダに国別枠を新設」「(経営所得安定対策の原資となる)マークアップは45%削減する」などと話した。意見交換では、出席者が「飼料用米の助成が終わるのに、輸入枠を増やして米価が安定するのか」「小麦価格が下がると、米の需要に影響があることを考慮しているのか」と米価への影響を懸念した。「国内対策に産地の声を生かしてほしい」「なるべく早く農家に直接説明する場を」との要望も挙がった。説明会後、鹿島市農林水産課の担当者は「新しい情報はなく期待はずれ。今後の国内対策を注視したい」と語った。JA佐賀中央会の担当者は「国は対策するので大丈夫というが、具体的な対策と財源をセットで示してくれないと、農家の不安は解消できない」と指摘した。

<輸出について>
*3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35233 (日本農業新聞 2015/11/4)豚、乳製品で輸出戦略 統一マーク日本食提案 目標20年に倍増 農水省や生産・流通業界
 農水省や生産者団体・流通業者などでつくる輸出戦略実行委員会は、豚肉や牛乳・乳製品などの輸出額目標と取り組むべき方向性を盛り込んだ輸出戦略を決めた。2020年の目標額として豚肉12億円、牛乳・乳製品140億円と、それぞれ14年から倍増させる。統一したロゴマークや、しゃぶしゃぶ・とんかつなど日本らしい食べ方の提案で日本産を売り込む。具体的な輸出拡大策は来年1月までに決定する予定。政府は、農林水産物の輸出額を20年に1兆円にする目標を立てている。実行委員会は、その目標達成に向けた司令塔の役割を担う。これまで畜産分野では牛肉の戦略だけしかなかった。鶏肉は、輸出額の目標を35億円(1万4000トン相当)に14年産から倍増し、鶏卵は26億円(1万トン相当)と同6・5倍に増やす。豚肉は、軟らかさなど日本産の特徴をアピールする。鶏肉は、足(モミジ)だけでなく、骨や余分な脂肪を取り除いた正肉も販売促進する。鶏卵は、生卵の生鮮品としての強みを生かし、すき焼き用の和牛と組み合わせて市場開拓に乗り出す。鶏肉や鶏卵は、統一ロゴマークを作成。これまで個々の有名ブランドを打ち出しがちだったが、まずは日本ブランドを前面に出して知名度を高める。輸出解禁に向けて、検疫協議を進めることや、相手国が求める危害分析重要管理点(HACCP)対応の食肉加工施設の整備、イスラム圏向けのハラール対応などが共通の課題だ。牛乳・乳製品は、口蹄(こうてい)疫の発生や東京電力福島第1原子力発電所事故前の影響で、ピーク時の160億円(10年)から大きく落ち込み、回復しきれていない。乳製品需要が大きい中国の日本産輸入の停止が響いており、輸入規制の解禁と安全性への信頼回復が鍵だ。アジア市場の近さを生かした新鮮な乳製品の販売や付加価値の高いチーズの売り込みも今後の課題になっている。

*3-2:http://www.saga-s.co.jp/column/economy/22901/211827
(佐賀新聞 2015年7月25日)ビゼンクラゲ漁最盛期、中国からの需要急増
◆有明海夏の貴重な収入源に
 中華料理の高級食材として知られるビゼンクラゲの漁が佐賀県沖の有明海で最盛期を迎えている。以前は網にかかると処分に手間がかかる“厄介者”だったが、中国からの需要が急増した4年ほど前から漁が活発化。夏の漁閑期の貴重な収入源になっており、各漁港には直径60~70センチに成長した大きなクラゲが水揚げされている。ビゼンクラゲは通称アカクラゲとも言われる大型のクラゲで、有明海にも広く生息。直径70~80センチ、重さ30キロまで成長する個体もある。今年は、1日に漁が解禁された。有明海では主に刺し網で捕獲しており、船上で傘の部分と足の部分を分離。海水できれいに洗浄した後、水揚げしている。価格は1キロ300円ほどで、数年前と比べ1・5~2倍に跳ね上がっている。今年から共同出荷を始めた県有明海漁協鹿島市支所では、クラゲ漁に取り組む漁業者約50人のうち、13人が1日平均約5トンを水揚げしている。同支所の担当者は「例年と比べても大きく育ったクラゲが上がっている」と期待。鹿島市の浜漁港では、漁を終えた船が次々と入港し、コンテナに入れたクラゲをクレーンで陸揚げしていた。同支所のクラゲは、長崎県や熊本県の加工施設に出荷。加工後、ほぼ全量が中国に向けて輸出されるという。漁のピークは、ノリの準備が始まる前のお盆ごろまで。その後、需要などを見極めながら10月まで続く。

*3-3:http://qbiz.jp/article/74179/1/
(西日本新聞 2015年11月5日) ナマコ漁、九州でも熱視線 佐賀から中国に輸出へ
 中国で、日本産ナマコが以前の3倍の値を付けるなどブームになり、九州で量産に向けた研究などが進んでいる。国内ではこれまで北海道や青森県が主な産地だったが、佐賀県の業者が玄界灘での養殖に力を入れており、来年から出荷を本格化させる。ナマコは中国で高麗ニンジンに匹敵する薬効があるとされ、現地では中華料理のスープなどに使われる。人気は「マナマコ」と呼ばれる種類で、日本は一大産地。全国の沿岸に生息し、北部ほど肉質がよく、北海道産を中心に中国の需要が増えている。中国への輸出量が全国トップクラスの青森県によると、2000年に1キロあたり600円程度だった市場単価は14年には2千円まで上昇。漁獲額は年約30億円に上り、スルメイカ、ホタテ、サバに次ぐ4番手の水産資源に成長したという。九州ではもともとのナマコの生息数が少なく、海外輸出への関心も高くなかったが、佐賀県玄海水産振興センター(同県唐津市)が研究に取り組み、卵から稚ナマコに成長するまでの育成ノウハウを確立。現在では採卵後3〜4カ月間の飼育で、体長2センチ程度の稚ナマコを100万匹以上、生産できるようになった。この技術を生かし、元唐津市職員の峯治生さん(63)は昨年、地元に「唐津なまこ産業」を起業。100万匹の稚ナマコを放流し、漁業者と一緒に玄界灘で育てており、来春から中国への輸出に乗り出す。ナマコの内臓を取り除いてゆで、乾燥させた加工商品だ。ただ、ナマコの養殖は容易ではなく、福岡県水産海洋技術センター有明海研究所では、海の塩分濃度などから稚ナマコの試験養殖がうまくいかず、普及を断念したケースもある。峯さんも、放流した稚ナマコの3割の目減りは覚悟しているが、苦戦が続く水産業の打開を図るためにも「地域の漁師みんなが潤うような資源に育てていきたい」と力を込める。 


PS(2015年11月6日追加) :TPP全文は昨夜公表されたため上の記載には考慮していないが、ここまで経済に負の影響を与える可能性のある条約を、秘密裏に作成して読み切れないほどの分量の文書を突然公表するのは安全保障関係条約と同じ手口だ。しかし、ここまで長くて複雑な文章によいものはない。また、酒やウイスキーの産地制限は自由貿易の理念に反する上、「遺伝子組み換え作物の情報交換のための作業部会」を作っても、どういう人がどういう理念で情報交換し、その結果をどうするのかについては、これまでの行動から全く希望が持てないわけである。

      
2015.11.5 2015.11.6 2015.10.10           2015.11.6
 佐賀新聞   朝日新聞   佐賀新聞              農業新聞

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12053445.html
(朝日新聞 2015年11月6日) 「組み換え」消費者に不安 市場開放要求の懸念も TPP全文公表
 環太平洋経済連携協定(TPP)の全文が5日、初めて公表され、消費者の関心の高い規定が新たに判明した。遺伝子組み換え(GM)作物で情報交換のための作業部会を設置するほか、「日本酒」や「バーボン」のブランドを守るために日米が協力することを定めた。食の安全面から関心の高いGM作物について、情報交換のための作業部会を設けることになった。農林水産省によると、このような部会は世界貿易機関(WTO)や、これまで日本が締結した経済連携協定(EPA)でもないという。日本ではGM作物を使った食品の販売が一部認められているが、豆腐や納豆についてはGM作物を使っているという表示義務がある。安全性を不安視する消費者が多いためだ。作業部会は、GM作物の種子を作っている企業などに、より多くの情報を求めることができるメリットもある。一方で、作業部会を通じて、GM作物の輸出大国である米国が市場開放を強めてくる懸念もある。GM作物の表示義務をなくすことを求めたり、日本の安全確認作業が貿易の障害になっていると訴えたりする可能性もある。日本政府は5日の会見で、部会は「法令などの修正を求めるものではないと明記した」と説明した。また、協定発効の7年後、関税率やセーフガードの見直しについて協議するという規定も、米国、カナダ、豪州、チリ、ニュージーランドとの間で交わした。日本は、他国に比べ農産品の関税撤廃率が約8割と低い。再協議では、さらなる関税撤廃を強く求められる可能性もある。
■車輸出の拡大、進まない恐れ
 一方、自動車では、日本は米国とカナダに「特例」を設ける譲歩をしていた。例えば、米国が日本の乗用車にかけている2・5%の関税は協定発効から25年目で撤廃されるが、その後10年間は輸入急増時にセーフガードを発動し、関税率を2・5%まで引き上げることができる。日本の自動車メーカーは現地生産を進めていて、輸出の比率は昔に比べて大きくはない。とはいえ、今後も国内で一定規模の生産や雇用を維持するためには、輸出は重要な課題だ。しかし自動車は、もともと関税撤廃までの期間が長いうえ、こうした制限措置も長く残ることで、TPPによる両国への輸出拡大はあまり進まない可能性もある。
■バーボン、米国産だけ 他国製販売禁止 米で日本酒も
 米国、カナダとは、自国で製造した酒を保護する文書を交わした。米国は、日本酒(ジャパニーズ・サケ)や山梨ワイン、球磨焼酎、薩摩焼酎、琉球泡盛など7銘柄について、日本でつくっていない商品の米国での販売を禁止する方向だ。中国などでつくられている「日本酒」を名乗る清酒を米国から締め出し、商品に地名を冠する「地理的表示」を知的財産として守るねらいがある。逆に日本は、米国でつくられたものでないバーボンウイスキーやテネシーウイスキーの日本国内での販売を禁止することになる。日本のある酒造メーカーは米国内の工場で清酒を生産し、「Sake」として現地販売している。「日本酒ではなく、清酒として売っている」(メーカー側)ため、禁止の対象からは外れる見通しだ。
■<解説>成長の機会、生かせるか
 1500ページを超すTPPの文書は、貿易や投資から遺伝子組み換え作物まで、幅広い分野で今後の経済活動の新しい土台を示すものだ。アジア太平洋を取り囲む8億人もの巨大市場が、明文化された統一ルールで動き出す意義は大きい。日本は途中から交渉に加わったが、投資や電子商取引でルールづくりを主導した。域内に製品や農産品を無税で輸出し、より安全に投資して事業のネットワークを築く足がかりも得た。ただ、国益がぶつかり合う通商交渉では、各国に一定の譲歩が避けられない。コメや牛・豚肉などは関税撤廃を免れたものの、果物や水産物など多くの農産品の関税は撤廃され、米国の自動車市場の開放は25年も待たされることになった。「食の安全」への懸念も払拭(ふっしょく)できたとは言えない。関税の恩恵を除けば、TPPがもたらすのは「機会」に過ぎない。それを企業の成長に、消費者の利益に結びつけられるか。真価はこれから問われることになる。


PS(2015年11月7日追加):防衛大臣は、*4のように、一生懸命に食品生産をしている宝の海をしつこく米軍利用候補地にしたがるなど、どこまでセンスが悪いのだろうか(人はいいんだけど・・)。山口知事は、きっぱりと断るべきである。

*4:http://www.saga-s.co.jp/column/osprey/21601/247344 (佐賀新聞 2015年11月7日) 防衛省、9日に佐賀市と県漁協訪問、「現地調査」説明へ 自治会と意見交換
■秀島市長、慎重姿勢強調
 佐賀空港への自衛隊新型輸送機オスプレイの配備計画をめぐり、防衛省整備計画局長が9日、佐賀市と県有明海漁協を訪れる。取得候補地の現地調査について両者に説明し、理解、協力を求めるとみられる。10月29日に中谷元・防衛相が県に現地調査への理解を求めた際、山口祥義知事は市と漁協の了解を前提に容認していた。両者が了解すれば現地調査が進められることになり、対応が注目される。佐賀市や漁協関係者によると、防衛省から「十分説明できていない部分があった」として、再度訪問したいとの意向が伝えられた。市は、午後1時に秀島敏行市長が対応する。秀島市長は「何のために来るか、具体的には聞いていない」とした上で、現地調査を容認するかどうかは、「説明を聞かないと分からない」と語った。6日の自治会協議会理事会との意見交換会では、循誘校区の黒木照雄自治会長(70)が、中谷防衛相が米軍利用の要請を取り下げた提案に対する市長の考え方をただした。秀島市長は「他県並みの米軍利用は相談するかもしれないということで、完全に心配しなくていいわけではなかった」と慎重姿勢をあらためて強調した。防衛省が計画している現地調査に関しては、「佐賀市に正式な申し入れはあっていない」と述べ、是非には触れなかった。


PS(2015年11月8日追加):やったふりをする偽装は、政治や行政はじめ結果の見えにくいホワイトカラーに多く、悪い手本となっている。しかし、*5の「①工期厳守を求める元請けのプレッシャーを感じ、やむを得なかった」「②記録装置の印刷失敗や紙の水ぬれ、機器の不具合などでデータを記録できないこともある」「③くい打ちは、地質調査で安全と分かっている場合、迷惑を掛けないよう多少の問題には目をつぶった」「④地盤が予想より軟らかいケースがしばしばあり、ドリルで掘削した際、強固な地盤に達したことを示す理想的なデータが取れない場合がある」などは、①②は、働く人としての基本ができておらず、③は、本当にそうなら報告して設計変更する必要があり ④は計測のやり直しをすべきであるため、単なる言い訳にすぎず、このように日本の労働力の質は落ちているのだ。

*5:http://qbiz.jp/article/74432/1/
(西日本新聞 2015年11月8日) データ改ざん「旭化成建材だけでない」 他社くい打ち担当証言
 傾いていることが判明した横浜市のマンションでくい打ちを手掛けた旭化成建材(東京)とは別の建設会社の関係者が、7日までの共同通信の取材に「自分もくい打ちのデータを流用したことがある」と証言した。工期厳守を求める元請けのプレッシャーを感じ、やむを得なかったとし、一連のデータ改ざん問題は「旭化成建材だけの話ではない」と強調した。データ改ざんが業界全体の問題となれば、建物に対する市民の不安はさらに増すことになる。国土交通省はまず旭化成建材による改ざんの原因を究明し、他社にも調査を広げるかは有識者委員会で検討する方針。取材に応じたのは、大手ゼネコンなどが手掛けるマンションの基礎工事に長年携わり、現場責任者の実務経験もある50代の男性。くい打ちは、安全面に支障がないと判断した上で「データを他から流用し、施工報告書に付けて元請けに提出した経験がある」と明かす。男性によると、地盤が予想より軟らかいケースがしばしばあり、ドリルで掘削した際、強固な地盤に達したことを示す理想的なデータが取れない場合があるという。また、記録装置の印刷失敗や紙の水ぬれ、機器の不具合などでデータを記録できないこともある。その場合、本来は元請けに報告しやり直す必要があるが、時間やコストがかさむことになる。「地質調査で安全と分かっている。迷惑を掛けないよう多少の問題には目をつぶった」と男性は苦しげに話す。ただ、くいが強固な地盤に届かないまま放置することはあり得ないとし、横浜市のマンションのケースは「度が過ぎる」と話した。工期を延ばせず、下請けにプレッシャーがかかる背景には、マンションを完成前に販売する「青田売り」のシステムを挙げた。


PS(2015年11月12日追加):安倍首相は、(私の提案で)電力自由化や女性活躍推進を進めて下さっているので、あまり批判したくはないのだが、経産省発のTPPは、食料自給率低下への影響も大きく、それは安全保障上も問題だ。何故なら、人類の戦いの多くは、食料や資源をめぐって行われてきたからで、私も、*6-1のように、TPPの影響について国会で詳細に議論すべきだと考える。なお、*6-2のように、2014年のミカンの輸出先はカナダが91.3%で1位とのことだが、私は、中央アジア、ロシア、ヨーロッパなどの他の寒冷地、砂漠地帯、季節が逆の南半球などには、日本のミカンを輸出できると思う。そして、これは、TPPでなくともFTAやEPAでも同じ効果が得られる。

*6-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=35311 (日本農業新聞 2015/11/11)[徹底 TPP報道] 「国会決議に沿う」 大筋合意内容で首相 野党「違反認めよ」 閉会中審査
 衆院予算委員会は10日、大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)交渉などをテーマに閉会中審査を行った。合意内容が、米など重要5品目の「聖域」確保を求めた国会決議に即しているかどうかについて、安倍晋三首相は、国会の判断だとしながらも、「国会決議の趣旨に沿う合意を達成できた」との認識を示した。民主党の玉木雄一郎氏(香川)が「国会決議違反を認めるべきではないか」とただしたのに答えた。日本のTPP交渉参加に際し、衆参の農林水産委員会は2013年4月、農林水産物の重要品目が「引き続き再生産可能となるよう除外または再協議の対象とすること。10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」とする決議を採択。だが大筋合意で政府は、関税分類上の細目ベースで、重要5品目の30%、農林水産品全体では81%で関税撤廃を容認している。首相は、農林水産品の関税撤廃率が他の参加国に比べて低いことを取り上げ、「2割を例外なき関税撤廃の外におくことができた」と強調した。食料自給率への影響について首相は「今回の大筋合意に加えて、これに対する対策も踏まえて考える必要がもちろんある」と答弁。また、TPPの経済効果分析は、総合的に検討しているとして「年内には国民に分かりやすく提示したい」と述べた。安倍首相は国内対策について「(攻めの農業実現の)大きなチャンスにする」と輸出支援などに力を入れる考えを強調。「農家の不安に寄り添いながら、政府全体で万全の対策を取りまとめ実行していく」と述べた。自民党の稲田朋美政調会長の質問に答えた。協定発効7年後に関税の取り扱いを再協議するとした規定に対し、不安が広がっていることについて、甘利明TPP担当相は「一つの合意が他の合意と複雑に絡み合っている。一つ見直せば全体が崩れる可能性がある」との考えを強調した。大筋合意後、初の国会論戦となったが、盛り上がりを欠いた。野党は同日の委員会で「臨時国会を開いて、しっかりTPPの問題を議論する場所をつくるべきだ」(維新の党の松野頼久代表)と迫ったが、安倍首相は「外交日程や予算編成の日程を勘案しながら検討したい」とかわした。

*6-2:http://qbiz.jp/article/72956/1/
(西日本新聞 2015年10月19日) 【ある国に91・3%】九州産温州ミカンの輸出先
 日本人にとって冬と言えば「コタツでミカン」が定番だが、実は、海外のある国でも九州生まれの温州ミカンが愛されている。門司税関によると、2014年のミカンの輸出実績は全国で3288トン。このうち、主に、九州産が輸出される同税関管内の実績は2004トンで全国の6割超を占める。特筆すべきは輸出先の国別シェアだ。同管内分はカナダが91・3%と首位で、2位の香港(4・8%)を大きく引き離す。なぜカナダで温州ミカンが人気なのか。同税関によると、日本産の温州ミカンは1891年に初めてバンクーバーに陸揚げされた記録があり、100年以上前から親しまれているという。カナダ大使館(東京)職員に電話で話を聞いてみた。カナダ人の職員は「カナダの冬は寒さが厳しくて果物が育たないので、昔から日本産が流通しているのでは」と推測してくれた。向こうで温州ミカンは「クリスマスオレンジ」や「マンダリンオレンジ」と呼ばれ、冬にスーパーに行けば必ず並んでいるのだとか。最後に、職員は「日本のミカンはおいしいので私も大好きですよ」と話してくれた。2014年、日本とカナダは修好85周年を迎えたが、修好のだいぶ前から両国の関係を結んでいた温州ミカン。なかなか、すごいヤツなのである。

☆このような記事を女性が書くと、「風評被害(根拠のない噂による被害)」「感情論(科学性・論理性のない感情まかせの議論)」「過剰反応(必要以上の不合理な反応)」「生意気」などと言う人が少なくなく、これは偏見による女性の過小評価であるため、この記事を書くにあたっては、経済学、経営学、心理学、監査、法律、国際税務、栄養学、生物学、公衆衛生学などの知識や経験を使ったことを記載しておく。  

| 環太平洋連携協定(TPP)::2012.11~ | 10:24 AM | comments (x) | trackback (x) |

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