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2024.1.7~12 能登半島地震と気候変動対策としての原発の妥当性(2024年1月13、18、20、21、22、25日に追加あり)
(1)能登半島地震の発生とその規模

 
     2024.1.6 Whether News    2024.1.7日経新聞 2024.1.4日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、今回の能登半島地震の震央分布は陸から海に渡って長く、ここに断層のあることがわかる。また、左から2番目の図のように、この地震では、日本全国が揺れた。そして、右から2番目の図で震源が一点であるかのように書かれているのは誤りだが、日本海側の地震は、津波が大陸に反射して共振しながら何度も押し寄せるのというのは本当だ。さらに、1番右の図のように、日本には地震・火事に弱くて「著しく危険な」密集市街地が、関東・関西を中心として《いつまでも》広く分布している)

 今年は元日から、*1-1-2の「阪神大震災」を上回るM7.6の「能登半島地震」が発生し、1月6日20時までに合計1071回(最大震度5弱以上が14回)揺れ、徐々に地震の回数が減少していくとは考えられるが、数週間~数ヶ月後にM5〜6クラスの余震が発生する事例もあるそうだ。

 そもそも、能登半島周辺では2020年から人的被害を伴う震度5強以上の地震が5回起き、地震活動は特に2020年12月から活発化して震度1以上の地震が500回超確認され、2023年5月には地震調査委が「地震活動は当分続くと考えられる」と評価し、国は防災対策の強化を呼びかけていたそうだ。そして、2023年5月5日のM6.5 がこれまでの最大だったが、それでも志賀原発は廃炉にすることなく、使用済核燃料をリラッキングして、もともと1,050体だった使用済核燃料の貯蔵容量を1,749体に増やしており、これはあまりに不合理で驚きなのである。

 今回の能登半島地震では、震度7だったのが石川県志賀町、震度6強だったのが石川県七尾市垣吉町・能登島向田町、輪島市鳳至町・河井町、珠洲市三崎町・正院町・珠洲市大谷町、穴水町大町、震度6弱だったのが新潟県長岡市中之島、石川県志賀町富来領家町・末吉千古、七尾市本府中町・袖ヶ江町、中能登町末坂・能登部下、登町宇出津で、津波の高さは当初は「1.2m以上」と発表されていた。

 しかし、*1-1-4のように、石川県志賀町赤崎漁港は潮位計がないため津波の高さがわからず、建物の外壁に残された津波の痕跡や周辺に流れ着いた漂流物から津波は陸地を4.2mほど駆け上がり、輪島市の鹿磯漁港では約3.9m隆起し、鹿磯漁港から約5km北にある輪島市門前町五十洲の漁港でも約4.1m隆起し、隆起が4mを超えるところも複数あったのだそうだ。

 そのような中、*1-1-1は、①激しい揺れの要因は浅い震源 ②阪神大震災を上回る地震の規模 ③地震調査委は地下深くの水(流体)の関与 ④今回の地震は、北西と南東方向からプレートを押す力が働き、断層が上下にずれる「逆断層」によって引き起こされた ⑤震源が浅いと揺れが地表に伝わり易く、居住地に近いので大きな被害を引き起こしやすい としている。

 しかし、M7.6の能登半島地震は、震度7を観測した石川県志賀町で2826ガルと東日本大震災で震度7だった宮城県栗原市の2934ガルに匹敵し、輪島市では最大4mの地表隆起と約1.2mの西方向への水平移動があり、今回の地震の活動領域は長さ約130kmと広い。

 この地震メカニズムについて、地震調査委は地表面の隆起や震源の移動が確認されているので、水のような地下の流体が関係しているとする。また、東京工業大の中島教授(地震学)も「地下の水が上昇して断層に入り、滑りやすくなって地震が発生した可能性が高い」とするが、地下に流体がある理由は不明である。私は、地下の水でこれだけ広範囲に激しい地震や隆起があるとは思えず、原発の存在を正当化するため原因を過小評価しているのではないかと思う。

 なお、*1-1-3によると、日本海側は地震発生から津波到達までの時間が短く、直後に輪島港で津波第1波とみられる海面変動を観測したが、津波が早く到達する理由は日本海側の断層の位置にあり、北陸から北海道の日本海側にかけて陸と海にまたがる断層や沿岸に近い断層が多いため、こうした断層で地震が起きると陸の近くで津波が発生するからだそうだ。

 また、日本海側の津波は、朝鮮半島やロシア側の大陸で反射して数時間後に再び日本列島に到達するため長時間に及び、波が干渉して次第に大きくなる。東大地震研が文科省の委託を受けて実施した日本海側の地震・津波に関する調査報告書は、避難が難しいため「公共施設の建設・移転の際は、自然災害を考慮したより安全な土地利用を進めていく必要がある」としている。

(2)地震後の対応の遅さと鈍さ
 *1-2-1のように、石川(14ヶ所)・富山(1ヶ所)・新潟(1ヶ所)の3県にある医療機関で、停電や断水などの被害が生じているそうだが、いざという時の最後の砦となるべき医療機関で、またもや停電・断水が起こって機能不全になったというのは、もはや同情できない。

 既にドクターヘリが運用開始されており、自衛隊ヘリもあるため、近隣の県からでも救助の手は差し伸べられる筈だが、それもせずに住民に我慢を強い、何度大災害が起こっても改善せずに同じことを繰り返し、後手にまわっては国民に犠牲を強いるのが、日本の悪い点である。

 また、*1-2-2のように、1月6日午後2時時点で、七尾市の2万1500戸、輪島市の1万戸など14市町の計6万6千戸が断水したまま、全国から給水車が駆けつけても道路状況が悪くて給水に充てる時間が十分に確保できなかったり、電線も切れて石川県内の停電が輪島市約9800戸・珠洲市約7400戸・能登町約3200戸・穴水町約2600戸あるそうで、斎藤経産相は1月5日の会見で停電が続く理由を「道路被害の状況が想定以上に厳しい」とされたそうだ。

 しかし、*1-4-2のように、志賀原発の避難ルートとして「のと里山海道」があり、それが複数カ所で陥没して、一時、全面通行止めになったのである。そして、石川県の激震地である輪島市・穴水町・七尾市は原発30キロ圏内で、近隣住民は速やかに避難できなければならない筈だったが、それもできず、避難計画はやっぱり“絵空事”だったわけである。それでも政府を信頼し続けるとすれば、(それも自由だが)馬鹿と言わざるを得ず、同情も今一つである。

 ちなみに、*1-4-1のように、原子力規制委員会は2023年12月27日に東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)に出していた事実上の運転禁止命令解除を決定し、今後は新潟県等の地元自治体の同意があれば再稼働できるそうだ。そのため、避難が“絵空事”でなければ、新潟県も原発事故時には避難者を受け入れる準備が整っている筈なのだ。従って、災害時に避難者を受け入れることもできる筈なのに、今回の地震で行く場所を失った人は受け入れないのだろうか?

 そして、これは、*1-4-3のように、2023年には原発4基を稼働させている九電とその周辺地域についても、全く同じである。

 今回の能登半島地震では、*1-2-3のように、1週間経っても道路の寸断による孤立状態が各地で続き、ヘリコプターなどで救援物資が複数回搬入されて物資不足の状況は脱したが、電気も水も途絶えて携帯電話も通じないため情報が入らない避難所もあるのだそうだ。しかし、戦争中のウクライナでさえ携帯電話を使えるのに、日本はどうなっているのかと思われた。

(3)日本は主要な活断層を対象外にして、何故、「原発容量3倍」に賛同したのか
 *1-3-1は、①地震調査委員会が1月2日に臨時会を開き、最大震度7の能登半島地震の分析や今後の動向を検討 ②主要な活断層については長期評価を公表しているが、今回地震のあった断層は対象外だった ③委員長は「(長期評価は)慎重にやっており、非常に時間がかかる」「(評価していない断層で大きな地震が起きたことは)非常に残念。もっと早く評価しておくべきだった」と話した としている。

 しかし、(1)で書いたように、2020年から能登半島周辺で人的被害を伴う震度5強以上の地震が5回起き、震度1以上の地震は500回超あり、かつ地震調査委は2023年5月に「地震活動は当分続くと考えられる」と評価していた。

 そして、志賀原発のある石川県志賀町では震度7を観測して2826ガルの揺れがあり、輪島市では最大4mの地表隆起と約1.2mの西方向への水平移動があったのだから、ここに主要な活断層があると認識していなかったのなら、地震学者を止めた方が良いくらいである。つまり、①②③は、科学者として、客観的に、重要性や危険性を警告しなかった(orできなかった)ことの言い訳にすぎないのだ。

 そして、*1-3-2・*1-3-3のように、UAEで開かれた国連気候変動会議(COP28)で、日本は「温室効果ガス排出の実質0を達成する上で、原子力は重要な役割を果たす」とし、「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」との宣言に賛同した(正しくは、米国を通してむしろリードした)のである。

 これに伴って、日本政府はエネルギー政策の中長期の方向性を示す「エネルギー基本計画」(21年閣議決定)の「原発への依存度を可能な限り低減」を変更して「原発回帰」にかじを切り、「脱炭素化のためのGX政策で再エネとともに原発を最大限活用する」として新規建設方針も盛り込み、現在は発電量の10%以下である原発を、2030年度には20~30%に引き上げるとする方針を正当化した。

 そして、これに先立って、2023年5月に成立したGX脱炭素電源法では、根拠もなく原発の60年超運転を可能にし、東電フクイチ事故以降は「想定していない」としてきた次世代原発への建て替えも進める方針を示していたのである。

 政府関係者は、しつこく「原発は脱炭素への安定電源だ」と称する。しかし、今回の地震・津波でも明らかなように、集中電源は電線や変電所が作動しなくなると停電の範囲が広い。そのため、決して「安定電源」ではなく、地震・津波等の災害や戦争の際には最も危険な設備になる。

 さらに、「原発回帰にかじを切ることは、むしろ再エネを遅らせる(NPO法人原子力資料情報室の松久保肇事務局長)」というのは事実であり、このような屁理屈をつけて不合理な現状を維持するため汲々としてきたことが、日本の経済成長を妨げ、(他国とは違って)経済を現状維持に留まらせ、国民負担ばかり増やす羽目になった本当の原因なのである。

 なお、政府は次世代原発開発で他国と連携強化をしたいのだそうだが、次世代原発であっても日本に置く場所はない。そのため、他国のまねをして原発にこれ以上の無駄金を出す余裕は、日本にはないことを深く認識すべきである。

(4)政治資金について
 2023年11月末から、派閥の政治資金パーティー収入のうちノルマ超の部分が、派閥と議員双方の政治資金収支報告書に記載されず、金の流れは、①そのまま議員の手元に残った ②全額を会派に渡した後、ノルマ超過分だけ戻された の2ケースがあると騒がれ始めた。
 
 しかし、その後のマスコミ報道を見ていると、リクルート事件(1985年始めにリクルート社の江副会長がリクルートコスモスの未公開株を、政治家・官僚・経済界・マスコミ界の実力者にばらまいた事件で、リクルートが政治家に多額の献金を行なっていたことや政治家主催のパーティ券を大量に購入していたことをきっかけに、政党助成法が制定され、公職選挙法も改正された)の古い例を持ち出して、それと同じく国会議員を辞職させる意図ある報道が目についた。

 そのため、私は、公認会計士・税理士としての知識・経験と自民党衆議院議員だった経験を基に、ここでは本質をつく議論をしたい。

1)パーティー券収入を裏金にすべき理由は何か?

 
2023.12.4毎日新聞 2023.12.21日経新聞      2023.12.4毎日新聞

(図の説明:左図のように、ノルマを超えた派閥のパーティ券収入を派閥の収支報告書にも議員の収支報告書にも記載しない運用が続いていたが、これは、中央の図のように、使い方によっては、政治資金規正法だけでなく、公職選挙法や税法にも触れる恐れがある。また、右図のように、パーティ券収入は他の派閥にもあり、阿部派と同じ取り扱いをしていた派閥もあるようだ)

 私が自民党衆議院議員時代の2007年に、私も参加して政治資金規正法が改正され、国会議員が関係する政治団体(国会議員関係政治団体)は収支報告書の透明性向上のため、i)収支報告書に明細の記載と開示を義務づけ ii)登録政治資金監査人による政治資金監査も義務化された(https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/kspamph19/index.html 参照)。

 しかし、iii)政治資金に関する会計帳簿は未だに単式簿記のままであるため、収入・支出の網羅性・検証可能性がない iv)そのため登録政治資金監査人の意見表明は会計帳簿・明細書・領収書等・領収書等を徴し難かった支出の明細書・振込明細書・振込明細書に係る支出目的書が保存されていたか否かで留めており、適正意見の表明はしていない v)この義務は国会議員関係の政治団体のみに課しており、地方議員の政治団体は昔のままである 等が、改善されていないため、これらが今後の改善点になる。

 ちなみに、政治資金監査の対象となった事項について、すべて確認できた場合の政治資金監査報告書のひな形は「https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.soumu.go.jp%2Fmain_content%2F000624899.docx&wdOrigin=BROWSELINK」であり、会社法計算書類における独立監査人の監査報告書は「https://www.saisoncard.co.jp/credictionary/accounting/kansa_71.html」で、計算書類の監査の方が文面は簡単だが、監査証明の中身は濃いため比較されたい。
 
 そのような中、*2-1は、①自民党安倍派の会計責任者が、2023年12月18日に東京地検特捜部の事情聴取で政治資金パーティー収入の政治資金収支報告書不記載を認めた ②「裏金」に関する違法性の認識もあったため、特捜部は派閥側収支報告書不記載で会計責任者を政治資金規正法違反容疑で立件する ③安倍派では当選回数等に応じたパーティー券の販売ノルマがあり、超過分を議員に還流させていた ④還流分は、派閥・議員双方の収支報告書に記載されず、裏金になった ⑤裏金は公訴時効内の2018~22年(5年間)で計約5億円 ⑥現在の安倍派の会計責任者は2018年分からで、2017年分まで担当した前任からの申し送りがあった ⑦政治資金規正法は収支報告書の提出義務を会計責任者に課し、会計責任者との共謀が認められる場合は議員本人も刑事責任を追及される ⑧安倍派にはパーティー収入総額と収支報告書記載額を管理する二重帳簿があった ⑨安倍派では数十人が還流分を収支報告書に記載していない ⑩1人当たりの不記載額は多いケースで約5000万円で、多額となった議員を優先して本人からも事情を聴き、不記載の経緯や認識を確認する と記載としている。

 また、*2-2は、⑪東京地検特捜部は安倍派から約4800万円のキックバックを受け、政治資金収支報告書にウソの記載をした疑いで池田衆院議員と会計責任者を逮捕 ⑫池田容疑者は2018~22年(5年間)に派閥から受け取った約4800万円のキックバックも含めて全部で1億円あまりの収入があったが、柿沼容疑者と共謀して池田容疑者側の収支報告書には5300万円ほどの収入とした ⑬特捜部は2023年12月に池田容疑者が住む議員宿舎や議員会館事務所等を捜索し、虚偽記載の額が突出して多く、証拠隠滅の恐れもあると判断し、逮捕に踏み切った ⑭池田容疑者はこれまでの任意聴取に関与を否定 ⑮安倍派では、ノルマを超えた分の収入を派閥に納めず、中抜きしていた議員も十数人いて、この分も含めた事実上の「裏金」は2022年までの5年間で6億円規模にのぼる と記載している。

 このうち、①②については、政治資金収支報告書不記載の事実があったのだろうが、それが起こる背景は、iii)のように、政治資金に関する会計帳簿が単式簿記で収入・支出の網羅性・検証可能性がないため、意図的な操作が容易にでき、すべての取引を記載する習慣が会計責任者についていないことに依る。これは、私が衆議院議員だった時、私は公認会計士・税理士なので明確に区別して記載するが、(特に男性の)秘書はそうでない人が多くて苦労したため事実である。そして、ここから言える教訓は、会計責任者になる秘書は、会計事務所か銀行出身の女性にすれば、正確な経理をするということだ。

 また、③については、当選回数等に応じたパーティー券の販売ノルマがあることやノルマよりも多く集金した議員にノルマ超過分を還流させることは、法律で禁止されていないため合法である。私の場合は、集金ノルマがあってもそれに到達しない方なので、ノルマ超過分が還流されることもないが、ノルマがある以上は超過できた人はむしろ偉く、超過した人に環流させるのは自然ではないかと思う。

 しかし、何故、ノルマを超過するほど多く集金することができるのか、それは政策立案に反映されているのではないかという疑問は残り、もしそうなら、それが問題である。

 また、④の「還流分は、派閥・議員双方の収支報告書に記載されず裏金になった」というのは、双方が正確に記載しておけば法律上の問題はないのに、何故、記載しなかったのかについては、v)キックバックすると不平等と批判されるかと思った(内部事情) vi)不公平なキックバックをしていた(内部事情) vii)どこが多額の寄付をしたかについて知られるとまずかった(外部への見栄え) 等が考えられる。

 このうちv) vi)については、不公平で意図的なキックバックをしたのでければ、内部で説明すれば文句を言う人はいないため、本来は記載しても問題なかった筈だ。しかし、vii)については、それを明確にするために、政治資金規正法を改正して収支報告書の透明性を向上させたのであるため、これを欺く不法行為である。

 さらに、⑤⑥⑧⑨のように、「不記載にして裏金にする」「二重帳簿を作る」などというやり方は稚拙だが、⑦のように、「会計責任者に責任を課し、共謀が認められれば議員本人も刑事責任を追及される」というのも、自分を基準にして考えれば、「とにかく議員に引責辞任させたい」という意図が見え見えなのである。

 何故なら、私の場合、中央では、本会議・委員会・部会への出席や政策立案等で大変忙しく、地元では、式典や催し物に出たり、挨拶廻りと社会調査を兼ねて1軒1軒要望を聞いて廻ったりしていたため、公認会計士・税理士でも衆議院議員時代に自分の収支報告書を作ったり見たりする時間は無く、会計作業は全て会計責任者である秘書に任せて、その秘書には登録監査人から必要なことをアドバイスしてもらっていたからである。

 なお、⑩の「不記載額の多いケースは約5000万円」というのは大きな金額だが、金額の大きさで不法行為性が決まるものでもない。

2)それでは、どう改革すべきか
 *2-3は、①岸田首相は自民党派閥による政治資金規正法違反事件を受けて、党内に総裁直属機関「政治刷新本部(仮称)」を新設し、月内に中間とりまとめを行うと表明 ②新設機関には外部有識者も招いて議論 ③首相は派閥の政治資金パーティーに党の監査を実施し、収支を現金ではなく原則振り込みにする案に言及 ④「政治資金規正法改正という議論もあり得る」と述べた ⑤同本部の最高顧問に自民党の麻生副総裁と菅前首相を充てる意向 としている。

 このうち①②の政治刷新本部を新設し、外部有識者も交えて月内に中間とりまとめを行うのはよいが、③のように、政治資金パーティーに党の監査を実施し、収支を現金でなく原則振り込みにするだけでは、「刷新したふり」になる。何故なら、「現金ではなく、原則振り込み」というのは、監査証跡を残して自分をはじめ利害関係者を守るのに必要不可欠だからで、今までやっていなかったことが著しく遅れているだけだからである。また、今回の事例に関する「党の監査」は独立性がないため信頼性が低く、公認会計士等の外部監査人による監査なら独立性がある。

 また、⑤の政治刷新本部の最高顧問に自民党の麻生副総裁と菅前首相を充てるのは実行力が高くて良いと思うが、内部者だけでは出る知恵が限られ、信頼性も低くなるため、公認会計士協会の公会計関係理事など会計や監査に詳しい外部専門家を入れるべきだ。

 そして、やるべきことは④の政治資金規正法の改正だが、今回の改正に必要なのは、やみくもに議員を連座させるようにすることではなく、政治資金の会計を網羅性・検証可能性のある複式簿記に変更し、外部監査人に通常の監査をさせて、正確な会計が行なわれる環境を作ることだ。そうすれば、議員や会計責任者が意図的に特定の取引を隠せる土壌がなくなり、正確な会計を行う環境が制度的に整備されるため、政治資金収支報告書の透明性が確保されるからである。

 ところで、私は自分で政治資金パーティーを開いたこともあるのだが、熟練した秘書を多く抱え秘書に全てを任せられる古参議員ならそれも簡単だろうが、新人議員は秘書も慣れておらず数も少ないため議員自身も大きく関与しなければならず、ただでさえ忙しいのに大変だった。

 そのため、政治とは別の世界から多様な人材を集められるためには、議員自身が政治資金集めばかりしていなければならない状況をこそ変えるべきなのである。そして、その民主主義のコストは、政治資金を出してくれた相手に慮って政策を歪められたり、無駄な国費の支出をされたりするより数桁安いことを忘れてはならない。

3)国会議員に支払っている現在のコストとそれに対する世論について
 *2-4は、まず「今回の参議院選挙は自民党が圧勝し、多くのタレント議員が誕生した」と書いている。確かに、参議院全国区は日本全国で有名なタレントが票を集めやすいため、タレント出身の議員が誕生しやすい。しかし、一般人やタレントの視点も有用ではあるが、タレント議員ばかり多くては政策立案は進まない。

 また、*2-4は、①憲法49条は国会議員の報酬を「両議院の議員は、・・国庫から相当額の歳費を受ける」、国会法35条は「議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない歳費を受ける」と規定している ②国会議員の歳費は総額2187万8000円/年(基本給1552万8000円、期末手当635万円) ③文書交通費(現在の名称:調査研究広報滞在費):1200万円/年(領収書公開不要、第2の給与とも呼ばれ様々な用途に使用可、1200万円の所得を一般人が稼ぐには約1700万円の収入が必要 ④議員歳費と調査研究広報滞在費の合計:3887万8000円 ⑤JR特殊乗車券・国内定期航空券交付(北海道選出議員の例:羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円) ⑥3人分の公設秘書給与2100万円(政策秘書900万円、第1秘書700万円、第2秘書500万円と仮定) ⑦委員会で必要な旅費・経費・手当・弔慰金等 ⑧政党からの支給 0~1000万円 ⑨会派に対して支払われる「立法事務費」780万円/人(1人会派でも政治団体ならアリ) ⑩政党交付金の一部が各議員に支給 ⑪合計:6000万~7000万円程度 ⑫政党からは役職に応じて黒塗りの車 ⑬議員宿舎の賃料は周辺相場の2割程度 としている。

 しかし、上記は、「国会議員は必要以上に儲けている」という印象を与えようとしている。例えば、①②の報酬については、「公務員」は、国会議員・大臣・裁判官はじめ立法・行政・司法に属するすべての職員を含むが、省庁のトップである大臣が一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない歳費を受けるのは当然であり、そういう役職の人が黒塗りの車に乗るのも普通だが、それは政党からの支給ではなく、各省庁の車だからである。

 また、国会議員については、任期が短期間で当落に関するリスクが高いため、リスクまで考慮すれば、一般職の国家公務員の給与より少なくない歳費を払っても、一般職公務員・一般企業のサラリーマン・研究者・医師・弁護士・公認会計士等から国会議員に転じる人は少ないのが実情だ。そして、国のリーダーになる人のレベルがそれではまずいことは、日本の政策や経済成長率を見れば明らかである。

 さらに、③の文書交通費(現在の名称:調査研究広報滞在費)1200万円/年については、「領収書の公開が不要だから、第2の給与とも呼ばれる」などと書かれているが、それは下衆の勘繰りだろう。何故なら、地元で会合のお知らせビラを全戸に配れば、(選挙区によって戸数は異なるが)最低でも「10円(印刷費)x15~30万件=150~300万円」の費用がかかり、これを1年に4~8回行なえば1200万円はなくなり、活動する議員ほど懐は寂しいからである。しかし、一般人は、そういう儲からない活動はしない。

 そのため、私の場合は、③の文書交通費は全額を自分の政治資金団体に寄付し、事務所費・私設秘書給与・政治活動費に使っていて、全く透明だった。そして、⑥のように、公設秘書は3人しかいないため東京事務所と地元事務所に1~2人配置すれば終わりで、それでは2ヶ所の事務所が廻らないので、どうしても私設秘書が最低2~3 人は必要だったのである。本当は公設秘書の数を10人くらいまで増やし、実体調査をして政策立案までできる必要があるのだが・・。

 また、⑦の委員会で必要な旅費・経費・手当・弔慰金等は、会社で言えば出張旅費のようなものであるため、役にたつ委員会活動の一部である限り、無駄使いではない。

 さらに、⑤の「JR特殊乗車券・国内定期航空券交付(北海道選出議員の例:羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円))というのは嘘だ。私は、九州の佐賀県が地元だったので、毎週(金~月曜日、4回/月)地元に帰るのに、飛行機に乗ることが不可欠だったが、使える旅費交通費には20万円という上限があったため、ファーストクラスどころかビジネスクラスにも乗れず、エコノミークラスを使っても足りずに自前で出す部分があった。従って、JR等の他の旅費は、全て自分持ちになったため、出張旅費は、領収書を持って行けば実費で精算してくれる一般企業の方が、社員に負担をかけず合理的だと思っていた。

 なお、選挙の時に公認料として、⑧のような政党からの支給0~1000万円を貰える人もいる。そのため、政党から公認されるか否かは、票だけでなく金の面でも重要なのだ。

 それに加えて、政党政治を推進するためとして、国は政党に、⑨の「立法事務費」780万円/人や⑩の「政党交付金」を支給しているが、これは無所属の人にとっては著しく不利なのだ。そのため、むしろ議員本人に支給し、政党や派閥へは議員から会費として支払うようにすべきで、*2-5は、第1条2項を「前項の立法事務費は、議員に対して交付するものとする」に改正する必要があると思う。

 また、⑫の政党の黒塗りの車は、一般議員の場合は賃料を払って借りており、⑬の議員宿舎は、確かに新しくて便利な場所にあるが、一般企業に例えれば赴任者のための社宅である。そのため、議員宿舎の賃料は、満額ではなく2割程度を支払えば、現物給与には当たらない(https://www.resus.co.jp/topics/554/ 参照)。

 以上により、議員の収入は、⑪の「6000万~7000万円/年」ではなく、②の「2187万8000円/年(これも寄付して政治活動費に使う人もいる)」か、それ以下なのである。 

(5)地球温暖化とその対策 ← COP28を中心として

 
   2023.1.24日経新聞          2023.8.25日経新聞   

(図の説明:左図のように、各国の再エネ発電導入容量は中国が飛び抜けて1位で、日本はブラジル・インド・ドイツ以下の6位である。また、各国の太陽光発電容量は、日本は3位だが、中国はその7倍以上で1位だ。また、中央の図のように、東京都は家庭部門のCO₂排出削減に遅れが目立つそうで、建物の売買に、右図の項目の説明義務を課すそうだ。確かに、そういう内容の保証書がついていれば、選択するのに便利である)

 
   資源エネルギー庁             Zerofit Navi

(図の説明:再エネだけが国内で自給できるエネルギーだが、左図のように、日本の発電に占める再エネ割合は18.0%にすぎず、輸入化石燃料が75.8%も占めている。また、輸入燃料である原子力は東日本大震災後しばらく0%だったが、最近は再稼働する原発もあり6.2%になった。また、右図は、エネルギー自給率の国際比較だが、日本は輸入燃料を好んで使うため、自給率が11.8%にすぎず、34位で、これではエネルギー安全保障にほど遠いわけである)

1)気候変動に対する世界の認識と日本
 *3-1-1は、①国連のグテレス事務総長は「地球のバイタルサイン(生命兆候)は破綻しつつある」と温暖化対策の遅れに危機感を持ち、「世界はパリ協定の目標から何マイルも離れている「1.5度目標達成には全ての化石燃料停止が必要」「再エネは安価になり、利用拡大すべき」と主張 ②チャールズ英国王も「世界の気候変動対策は軌道から大きく外れている」「地球は私たちのためのものではなく、私たちが地球のもの」と強調 ③COP28は、開幕初日の11月30日に、気候変動で被害を受けた途上国支援基金の内容で合意 等としている。

 国連のグテレス事務総長は、①のように、地球温暖化対策の遅れに危機感を持ってくれるので助かるのだが、これに付け加えると、 1gの水の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量は1calであるのに対し、0℃の氷1gをとかして0℃の水にするのに必要な熱量は80calであるため、極地に氷が残っている現在は氷バッファーになって海水温の上昇が緩やかだが、極地の氷が減れば減るほど海水温の上昇は激しくなる。

 また、チャールズ英国王は、②のように、「地球は私たちのためのものではなく、私たちが地球のもの」と強調され、キリスト教を信仰し、ケンブリッジ大学で考古学・人類学・歴史学を専攻された人らしい見識だと思うが、私は「生物のいない惑星はいくらでもあるため、地球は人間や生物がいなくなっても全く困らないが、地球環境が変化して生態系が著しく変わると困るのは人間の方である」と思う。

 その手始めに起こった「地球沸騰化」と呼ばれる異常な高温は、日本を含む世界中に影響し、農業や漁業資源の変化を通して食料供給を変え、人間の生存可能性に悪影響を与えている。そのため、③のように、COP28の開幕初日に気候変動で被害を受けた途上国支援基金の内容で合意したのはよかったが、実は、地球温暖化の被害者は開発途上国の人だけではないのである。

 具体的には、*3-1-3のように、日本では、青森県で養殖ホタテが高水温で大量死を起こしたり、京都の「聖護院かぶ」が生育不良になって廃棄処分が増えたりしており、これらはまだ作物の転換や品種改良で回復できる範囲ではあるが、「研究速度が気温の上昇に追いつかない状況」なのだそうだ。

 それに加えて、温暖化で線状降水帯が1.5倍発生しやすくなり、カナダで大規模な山火事が発生し、韓国・インド・リビアで水害が相次ぎ、米国では猛暑で140人以上が亡くなり、太平洋の海水温が高くなって空気中に熱を発散する「エルニーニョ現象」でさらに気温が上がり、世界でも干ばつや豪雨が続いて、ついにIPCCが「今後10年間の選択と対策が数千年先まで影響を持つ」と警鐘を鳴らした。

 なお、COP28に先だち、*3-1-2は、④IEAが「化石燃料の世界的需要が2030年までに減少に転じる」とした ⑤消費国が石油の安定確保に主眼を置いてきた時代は変わったため、日本も政策転換を急ぐべき ⑥IEAは再エネ過小評価との批判もあったが、「電力に占める再エネ比率は30%から50%に増え、移動手段もEVの新車販売が10倍に増える」とした ⑦深刻化する気候危機で化石燃料依存からの脱却は一刻を争い、省エネ・国産再エネが広がればエネルギー安全保障策になる ⑧国内の太陽光発電は東日本大震災後に急増したが、未利用地・住宅・工場・施設の屋根上など設置の余地はまだ大きい ⑨洋上風力発電も海域調査や漁業者らとの調整を進める必要がある ⑩送電網や蓄電設備の充実も急務 ⑪再エネ電力を背景にしたEV転換が次世代の鍵 ⑫経済活動への炭素課金(カーボンプライシング)も有効な手段 としていた。

 このうち、④のIEAの「化石燃料の世界的需要が2030年までに減少に転じる」という主張は世界的には正しいのかも知れないが、日本の場合は、1973年のオイルショックで原油価格が著しく上昇した後も、⑤のように石油の安定確保に主眼を置いて膨大な国富を産油国に流し、エネルギー自給率を下げた上で、今頃になって「政策転換を急ぐべき」とか、⑦のように「省エネ・国産再エネが広がればエネルギー安全保障策になる」などと言っているが、それは、あまりに反応が鈍く無思慮なのである。

 また、⑥のように、IEAは「電力に占める再エネ比率が30%から50%に増え、移動手段もEVの新車販売が10倍に増える」としたそうだが、日本の場合は屁理屈を言って止めていなければ既に再エネ大国になっていた筈で、⑧のように、従来型太陽光発電機器の設置余地もまだ大きく、*3-2-3のように、窓ガラスやビルの壁面で発電する建材一体型の太陽光発電パネルや高性能電池も開発されたため、自然エネルギー由来の再エネの可能性は著しく大きいのだ。

 そのため、日本は、再エネを推進すれば、国富を流出させず、エネルギー自給率を向上させ、エネルギー安全保障も高められる。また、⑨のように、漁業者にとってマイナスになる洋上風力発電に固執しなくても、いやと言うほどある地熱を利用したり、能登半島はじめ半島や山間部に陸上風力発電の適地も多いため、⑩の送電網や蓄電設備を充実させたりして再エネを展開することは容易なのである。

 さらに、今頃になって、⑪のように、「再エネ電力を背景にしたEV転換が次世代の鍵」などと言っているが、日本は1997年12月のCOP3で採択され、2005年2月に発効した京都議定書の時から、再エネ・EVを推進して最初は世界最先端だった。従って、今までもたもたしていた理由を究明して改善することが、産業の再生に最も必要なことである。

 なお、⑫のカーボンプライシングについては、排出権取引のように、企業や事業所が既に「排出枠」を既得権として持っていることを前提としてそれを売買する取引ではなく、CO₂の排出量に応じて環境税を課すことで、CO₂の排出を抑えつつ、環境税収入を自然エネルギー由来の再エネ普及に使うのが良いと、私は2005~2009年の衆議院議員時代から主張していた。しかし、これは、経産省関係者や経済団体の反対で実現されなかったのである。

2)日本が2030年までに再エネを3倍にすらできないのは、何故か?
 上の図の下の段に書いたとおり、再エネだけが日本国内で自給できるエネルギーなのに、日本の発電に占める再エネの割合は18.0%にすぎず、輸入化石燃料が75.8%だ。また、輸入燃料で動く原発は東日本大震災後0%が続いたのだが、最近、再稼働させて6.2%になった。その結果、日本のエネルギー自給率は11.8%にすぎず、いくら基地を増やして武器ばかり揃えても、エネルギー安全保障にも食料安全保障にもほど遠く、原発は武力攻撃に著しく弱いのである。

 また、太陽光発電機を最初に作ったのは日本であるにもかかわらず、上の図の上の段に書いたとおり、各国の再エネ発電導入容量は中国が飛び抜けて1位で、日本はブラジル・インド・ドイツ以下の6位になっている。また、各国の太陽光発電容量も、中国がダントツの1位だ。

 そして、*3-2-1のように、COP28では世界の再エネ設備容量を2030年までに3倍にすることに日本も含む100カ国以上が賛同したにもかかわらず、日本の再エネは2022年時点の約87ギガワットを2030年に2倍程度の約160ギガワットにしかしない見込みなのだ。

 また、石炭火力発電の廃止を目指す脱石炭連盟に日本は加入せず、*3-2-2のように、岸田首相はUAEのドバイで開催されたCOP28の首脳級会合で演説し、アジアの脱炭素化を主導する考えを表明されたが、その内容は、「排出削減対策が未対応の石炭火力について新規の建設を終了する」「既存施設には、アンモニアや水素の混焼しながら石炭を燃やす量をできるだけ減らす」止まりであり、これでアジアの脱炭素化を主導されては困るわけである。

 それでは、何故、日本政府はこういうエネルギーミックスにしたがるのかについて考えると、①意志決定する上層部に文系が多く、物理・化学に弱い ②「エネルギーは熱を介して作るものだ」と思い込んでいる ③太陽光発電や風力発電より、原子力発電や火力発電の方が「メカが複雑だから高度だ」と思っている ④既存の大手企業が従来の方法を使いたいと考えている ⑤環境(生物・生態系に関する学問)については考慮しない ⑥既存の大手企業から協力や政治献金がある などが考えられる。

 そのため、教育段階で、文系の人にも理系教育を決して疎かにせず、日本文化としてもチャレンジ精神を養い、「現状維持が良いことだ」などとは間違っても教えないことが重要である。

 ただし、東京都は、建物の売買時、建物の断熱性能・設備の省エネ性能・再エネ設備の設置状況・EV充電設備の整備状況・建物や駐車場の日当たりに関する説明義務を課すそうで、確かに、そういう内容の保証書が付いて売買価格に反映されていれば、選択が容易である上に、自然と建物の性能が上がる。

 また、*3-2-3のようなビル壁面などで使える建材一体型太陽光発電パネルもできたので、東京都等の都市部や住宅地など、導入可能な立地総数を発電能力に換算すると82.8ギガワットで、現在、国内で稼働している太陽光発電の導入実績の95%に相当する規模になるそうだ。

・・参考資料・・
<能登半島地震について>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240103&ng=DGKKZO77402910T00C24A1NN1000 (日経新聞 2024.1.3) 浅い震源、激震誘発 M7.6「阪神」上回る、揺れ200回超、地下水関係指摘  輪島で最大4メートル隆起
 能登半島地震は国内7回目となる震度7を観測した。激しい揺れの要因は浅い震源と、阪神大震災を上回る地震の規模だ。震度1以上の揺れは2日午後6時までに200回を超えた。政府の地震調査委員会は同日、地殻変動の状況などを踏まえ「一連の地震活動は当分続くと考えられる」との見解を公表した。能登半島では2020年末から群発地震が続き、地震調査委は地下深くの水(流体)の関与を見方として示している。専門家は今回も同様の可能性を指摘する。「震源が浅く、地震の規模も大きいことで激しい揺れが起きた」。1日の地震発生後の記者会見で気象庁担当者は説明した。今回の地震は、地球の表面を覆う岩板(プレート)内部の大陸側で起きる「内陸型」。北西と南東方向から押す力が働き、断層が上下にずれる「逆断層」によって引き起こされた。内陸型は震源が浅いことが多い。今回の震源は深さ16キロで、04年の新潟県中越地震(13キロ)、1995年の阪神大震災(16キロ)と同じように浅かった。震源が浅いと揺れが地表に伝わりやすいうえ、居住地に比較的近く、大きな被害を引き起こしやすい。規模も大きかった。能登地方でのマグニチュード(M)7.6は記録が残る1885年以降で最も大きかった。マグニチュードが1大きくなると地震のエネルギーは32倍になる。今回の地震は阪神大震災(M7.3)の約2.8倍のエネルギーがあった計算になる。震源の浅さと地震の規模が相まって、大きな揺れに結びついた。地震の瞬間的な揺れの激しさを示す加速度の単位「ガル」でみると、震度7を観測した石川県志賀町の揺れの最大加速度が2826ガルを記録。東日本大震災で震度7だった宮城県栗原市の2934ガルに匹敵する大きさだった。大きな地震であったことは地殻変動のデータからもうかがえる。国土地理院は2日、輪島市で最大約4メートルの地表の隆起を観測したと発表した。水平方向では同市で基準点が西方向に約1.2メートル動いていた。津波が広範囲に及んだのも今回の地震の特徴だ。気象庁によると、今回の地震の活動領域は長さ約130キロメートル。直近3年間に能登地方で観測された地震の領域(30~40キロ四方)と比べて「はるかに広がった」(気象庁)。東京大の加藤愛太郎教授(地震学)は「断層が大きく滑り、海底面付近のかなり浅いところまで破壊されたことで津波が発生した」と分析する。震源の真上は陸地だったが、断層の動きが沖合まで広がったため、日本海側の多くの地点で津波が観測された。能登地方では20年以降、人的被害を伴う震度5強以上の地震が5回起きた。地震活動は特に20年12月から活発化し、震度1以上の地震が500回超確認された。地震調査委は23年5月に「活動は当分続くと考えられる」との評価をまとめ、国は防災対策の強化を呼びかけていた。能登地方の地震メカニズムについて、調査委は地表面の隆起や震源の移動が確認されていることから、水のような地下の流体の移動が関係している可能性を指摘した。東京工業大の中島淳一教授(地震学)は「地下の水が上昇して断層に入り、滑りやすくなったことで地震が発生した可能性が高い」と指摘する。地震波の分析では、深さ20~30キロのところに水がたまっているといい、10~15キロ付近まで上昇すると地震を起こす原因になるとみられる。地下になぜ流体があるのかなど不明な点も少なくない。中島教授も「M7を超える群発地震は世界でも観測事例がほぼないのではないか」と話す。今後も比較的大きな地震が連続する可能性があるとみて警戒を呼びかける。同庁は今後1週間ほどは最大震度7程度の地震の恐れがあるとして注意を求めている。加藤教授は「地震活動は依然として高いレベルにある。今回、流体が断層をすべりやすくして、より大きな破壊を起こした可能性があり、今後も引き続き大きな地震に注意が必要だ」と話している。

*1-1-2:https://weathernews.jp/s/topics/202401/060205/ (Weather News 2024.1.6) 令和6年能登半島地震 地震活動の状況まとめ(6日20時) 回数減少も急に強い揺れ
 1月1日に石川県能登地方で発生したM7.6 最大震度7の地震(令和6年能登半島地震)から5日がたち、地震回数は徐々に減少傾向となっています。一方で、今日6日(土)は3日ぶりに震度5強の地震が発生。過去にあった近い規模の地震では、1か月後に最大余震が発生した事例もあり、油断ができません。
●6日(土)20時までの地震活動の状況をまとめます。
1日(月)16時以降の震度1以上の地震の回数を集計すると、1日が358回、2日が387回、3日が135回、4日が65回、5日が79回、6日が47回(20時まで)となっています(5日までは気象庁の報道発表、6日は速報値による集計)。累計回数は1071回、うち最大震度5弱以上の地震は14回となっています。3日(水)午後以降は震度5弱以上を観測する地震が発生していませんでしたが、今日6日(土)5時26分におよそ3日ぶりに最大震度5強を観測する地震が発生しました。
記事冒頭の図でわかるとおり、震源域は1日(月)の頃から大きくは変わっておらず、石川県西方沖〜佐渡島の西にかけての約150kmの範囲に集中しています。体に感じない地震を含めて集計し、規模と時系列を表した散布図(MT図)をみると、マグニチュード4程度以下の地震は徐々に減少傾向ではあるものの、依然としてM5前後の地震が散発的に起きていることがわかります。
●本震—余震型の傾向か 1か月後に最大余震発生した事例も
 能登半島周辺で2020年から続いている地震活動では、これまでの最大は2023年5月5日のM6.5 最大震度6強の地震でしたが、今回のM7.6の地震はその30〜60倍程度のエネルギーということになります。日本周辺で発生した地震でみても、深発地震を除けば2011年3月の東北地方太平洋沖地震の一連の活動以来の規模といえます。地震活動の状況からは、過去数年間に能登半島周辺で発生していた群発的な地震活動型とは違い、従来から他の地域でもよくみられる本震—余震型の傾向がみられます。今後も徐々に地震の回数が減少していくと考えられます。ただ、強い余震がいつまで続くかは予測することができません。過去の本震—余震型の地震をみても、数週間から数ヶ月たった後にM5〜6クラスの余震が発生しているものもあります。今回の地震の規模に近い事例をみると、1983年に発生したM7.7の日本海中部地震、1993年に発生したM7.8の北海道南西沖地震では、ともに本震のおよそ1か月後に最大余震が発生しています。これまでに建物がダメージを受けていた場合、余震によって倒壊するなどのおそれがありますので、引き続き安全な場所で過ごすようにしてください。
●震源地:石川県能登地方、規模(マグニチュード):M7.6、震源の深さ:16km
●各地の震度(震度6弱以上)
■震度7:
【石川県】志賀町香能
■震度6強:
【石川県】七尾市垣吉町 七尾市能登島向田町 輪島市鳳至町 輪島市河井町 珠洲市三崎町 珠洲市正院町 珠洲市大谷町 穴水町大町
■震度6弱:
【新潟県】長岡市中之島
【石川県】志賀町富来領家町 志賀町末吉千古 七尾市本府中町 七尾市袖ヶ江町 中能登町末坂 中能登町能登部下 能登町宇出津
この地震により、一時は石川県に大津波警報が、北陸地方などに津波警報が発表されていましたが、いずれも時間の経過に伴う減衰により解除されています。観測された津波の高さは、最大の輪島港で「1.2m以上」と発表されていますが、現時点では能登半島周辺の正確な津波の高さはわかっていません。国内で震度7を観測するのは2018年の胆振地方中東部の地震以来で、そのほかには熊本地震、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震、新潟県中越地震など、いずれも大きな被害をもたらしたものばかりです。石川県内で震度7を観測するのは観測開始以来、初めてでした。
*ウェザーニュースアプリでお天気アラームを設定すると、今いる場所の天気・台風・地震・津波などの情報をいち早くプッシュ通知で受け取れます。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240107&ng=DGKKZO77490270X00C24A1EA2000 (日経新聞 2024.1.7) 津波、1分で沿岸到達 陸と海またぐ断層が影響 日本海特有の備え不可欠
 能登半島地震では2011年の東日本大震災以来となる大津波警報が出た。被害が深刻な石川県珠洲市で地震発生から1分で津波が沿岸に達した可能性がある。日本海側は地震発生から津波到達までの時間が短い特徴があり、太平洋側と異なる備えの必要性が改めて浮き彫りになった。最大震度7の地震は1日午後4時10分ごろ発生。直後に能登地方の輪島港で津波第1波とみられる海面変動を観測した。東北大災害科学国際研究所の今村文彦教授らの研究グループは、国土地理院や米地質調査所(USGS)のデータをもとに津波が押し寄せた状況をシミュレーションした。珠洲市で約1分以内、富山市で約5分以内に津波が達していたとの結果が得られた。早く到達する要因は日本海側の断層の位置にある。北陸から北海道の日本海側にかけ、陸と海にまたがる断層や、沿岸に近い位置にある断層が多く存在する。こうした断層で地震が起きると陸の近くで津波が発生する。東日本大震災のように沖合で発生するケースと比べ、短時間で津波が沿岸に達する。1993年、日本海側で発生した北海道南西沖地震で、奥尻島に地震後まもなく第1波が到達。死者・行方不明者が200人を超えた。能登半島地震をもたらした断層も能登半島から日本海にまたがり、震源は沿岸付近だった。東京大地震研究所の佐竹健治教授は「海岸の真下に近い断層が動き、地震発生と同時に津波が到達したと考えられる」と話す。日本海側の津波は、長時間に及ぶ特徴もある。佐竹教授によると、この地域で規模の大きな津波が起きると、朝鮮半島やロシア側の大陸で反射し、数時間後に再び日本列島に到達する。大陸と日本列島に囲まれている日本海は、太平洋側と比べて津波の「逃げ道」が限られ、長く続きやすい。今回の津波注意報が全て解除されたのは、約18時間後の2日午前10時だった。東日本大震災などがあったことから、巨大な津波は太平洋側という印象を持たれがちだが、日本海側でも十数年に1度の頻度でマグニチュード(M)7程度の地震が発生し、新潟県や秋田県などで津波の被害が生じている。東大地震研が文科省の委託を受けて実施した日本海側の地震・津波に関する調査報告書は、避難が難しい点をとらえ、根本的な解決は難しいとしつつ「公共施設の建設・移転の際には、自然災害を考慮した、より安全な土地利用を進めていく必要がある」とした。津波が早期に襲来しやすいという地域の特性を踏まえ、揺れがあった場合には、津波注意報や警報を待たずに避難し始めるなどの対応が欠かせない。

*1-1-4:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240105/k10014310811000.html (NHK 2024年1月5日) 石川県 志賀町で津波4m超遡上か 輪島市では4m以上地盤が隆起
 今月1日の能登半島地震で研究者のグループが現地を調査した結果、震度7の揺れを観測した石川県志賀町では、津波が4メートルを超える高さまで陸地を駆け上がったとみられるほか、輪島市の海岸沿いでは4メートル以上地盤が隆起していたことがわかりました。東京大学地震研究所の石山達也准教授らのグループは、地震発生翌日の今月2日から能登半島北西部の沿岸を調査してきました。その結果、志賀町の赤崎漁港では、建物の外壁に残された津波の痕跡や周辺に流れ着いた漂流物から、津波が陸地を4メートル20センチほど駆け上がったとみられることが分かりました。海岸付近の津波の高さは、潮位計がないためわかっていませんが、一般的には駆け上がった高さの半分以下とされています。また、今回の調査では沿岸の複数の地点で地盤の隆起が確認され、赤崎漁港では、25センチほど盛り上がっていました。一方、北に10キロほど離れた地点では隆起した地点が3メートルを超えるところが複数あり、輪島市の鹿磯漁港ではおよそ3メートル90センチでした。さらに、鹿磯漁港からおよそ5キロ北にある輪島市門前町五十洲の漁港では、およそ4メートル10センチに達するなど4メートルを超えるところが複数ありました。大きく隆起した漁港でも津波が駆け上がった痕跡がありましたが、建物には到達していなかったということです。石山准教授は「海岸の隆起が小さかった場所では津波が駆け上がって人家があるところまで達したと考えられる。さらに調査を進めたい」と話しています。

*1-2-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240103&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO77402910T00C24A1NN1000&ng=DGKKZO77402960T00C24A1NN1000&ue=DNN1000 (日経新聞 2024.1.3) 医療機関が停電や断水 石川・富山・新潟
 厚生労働省は2日、能登半島地震を受け、石川・富山・新潟の3県の計16カ所の医療機関で停電や断水などの被害が生じていると明らかにした。石川県が最も多く、14カ所に上る。厚労省によると、人工透析ができなくなっている施設もあるようだ。同省は1日の能登半島地震の発生を受け、2日に同省災害対策本部の会合を開いた。武見敬三厚労相は医療機関や社会福祉施設の被害状況の把握を指示した。現地の情報集約などのため同省の職員6人を被災自治体の災害対策本部に派遣する。武見氏は職員に「先手先手の対応をし、被災者の救助に全力をあげて取り組むとともに、一刻も早く国民の生活が回復するよう全力を尽くしてほしい」と話した。

*1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASS165R1PS16PTIL008.html (朝日新聞 2024年1月6日) 「何をするにも厳しい」水も電気も届かず、長引く避難生活に募る不安
 半島北部にある石川県輪島市の市役所では5日、米谷起代志さん(83)が2リットルのペットボトル5本に給水車の水を入れていた。計10キロとなったバッグをかかえ、約1キロ先のアパートに持ち帰るという。「車を持ってないから、水も食べ物も歩いてもらいに行くしかない。何をするにも厳しい」。県内では6日午後2時時点で、七尾市の2万1500戸、輪島市の1万戸など14市町の計6万6千戸ほどが断水したままで、全国から給水車が駆けつけている。ただ、輪島市で給水車1台を活動させた愛知県岡崎市によると、道路の状況が悪く、大渋滞が発生。補給やガソリン確保の移動に時間がかかり、給水に充てる時間が十分に確保できないという。派遣する複数の自治体によると、特に輪島市や珠洲(すず)市で給水がままならないという。輪島市の坂口茂市長は、避難所の環境について「電気と水がない。暖が取れないし、衛生面も悪い」と窮状を訴える。経済産業省によると、6日午後2時時点で県内の停電は約2万3200戸。輪島市が約9800戸と最も多く、珠洲市約7400戸、能登町約3200戸、穴水町約2600戸など。電線が切れるなどしたためだ。北陸電力は他の大手電力会社の応援を得て約960人態勢で復旧作業を続けるものの、倒木などで入れない地域があり、作業は困難を極めているという。斎藤健経産相は5日の会見で停電が続く理由を問われ、「道路被害の状況が想定以上に厳しい」と強調。病院や福祉施設、避難所の復旧を優先していると説明した。真冬に暖を取るために必要な灯油やガソリンなどの不足も深刻だ。被害が大きい半島北部の6市町では6日時点で、69ある給油所のうち半分以下の28店舗のみが営業を再開。残り41店舗は損壊などで営業を停止していたり、連絡がつかなかったりしている。消防車や救急車などの緊急車両に限って供給する給油所もあり、一般向けの給油所には長蛇の列ができている。道路が復旧した地域では大型車で燃料を運び入れている。石油元売り大手「出光興産」は大型車が通れない道路では、ドラム缶に燃料を詰めて小型トラックで運び、さらに渋滞を回避するため、ヘリコプターを使った物資供給も検討している。国土交通省によると、県内の高速道路や主要な道路は復旧が進むものの、国道や県道の99区間(6日夕時点)が通行止めだ。復旧を担う同省の緊急災害対策派遣隊「テックフォース」は2日時点で31人だったが、日ごとに増やして6日は394人に。ただ、そもそも道路の幅員が狭く、大規模な工事を行うクレーンなどの重機を運び込めていない。半島北部はより深刻で、被災状況の調査すら終わっていないのが現状だ。同省幹部は「復旧の見通しを立てられない」。重機の海上輸送も検討している。道路の寸断などで孤立したり支援が必要だったりする半島北部の集落は6日午後2時時点で、少なくとも40弱。県全体の避難者は約3万人に上り、自宅にとどまって支援を待つ人もいる。馳浩知事は5日の対策会議後、こう強調した。「物資については大体拠点までは届いているが、いわゆるラスト1マイル、そこから先へ十分に届いているか確認が必要だ」
●迫る感染症の影 「今の対策では限界」
 津波で大きな被害を受けた石川県珠洲(すず)市の沿岸部。近くの住民ら約200人が避難する特別養護老人ホーム「長寿園」は、6日午前も電気や水が復旧していなかった。割れた窓ガラスをブルーシートで覆い、布団にくるまったりして寒さに耐えている。頼りは10台ほどの灯油ストーブだけ。「夜は底冷えして、体調不良になる人が日ごとに増えてきた」。職員の竹平佳代さん(43)は避難生活の長期化を心配する。カップ麺や菓子パンなどは届いているが、硬いものを食べられない高齢者も多い。備蓄のゼリーやレトルトのおかゆを手でもみ、軟らかくして提供しているが、それさえも底をつきかけている。断水の影響で、トイレは水が流れなくなった。災害用に設置した簡易トイレは和式で、足腰が弱い高齢者には使えない。今はポリ袋に排泄(はいせつ)してもらい、職員が処理をしているが、水で手を洗うこともできない。感染症対策は備蓄していたマスクと消毒液だけ。「今の対策では限界がある」と竹平さんは嘆く。感染症が広がる心配はすでに高まっている。県によると、穴水町では一つの避難所で新型コロナウイルスの感染者3人が確認された。輪島市内でも体調不良の報告が増えていて、コロナやインフルエンザの疑いのある人が出ているという。想定を上回る人が集まり、物資不足が問題になる避難所もある。輪島市の鳳至(ふげし)公民館には当初、約300人が身を寄せた。備蓄していたおかゆやパンなどは150人分で、1食分を2人で食べてもらうしかなかった。水は500ミリリットルのペットボトルを200本ほど備えていたが、薬を飲む高齢者を優先した。「普段は高齢者が多い地区だけれど、時期が時期だから、帰省してきた家族がまるごと避難所に来た」と館長の七浦正一さん(76)。避難していた女性(67)は「いつまでこんな生活が続くのか。家にも戻れないし、先のことを考えるだけでつらくなるだけだよ」と話した。公民館では6日に電気が復旧したが、断水は続いているという。金沢地方気象台によると、能登地域では7日夕から8日にかけて大雪が見込まれ、避難所では不安が高まっている。珠洲市は支援物資の輸送を増やすよう県に要請。国とは避難所の電気の復旧を優先するよう調整しているが、泉谷満寿裕(ますひろ)市長は「路面状況が悪く、除雪車を出せたとしてもまともに動かせないだろう。ようやく物資を届ける体制が整い始めたが、積雪が妨げになる可能性がある」と懸念する。

*1-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASS1662WNS16PTIL00F.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2024年1月6日) 「孤立集落」で孤独感を増す避難者たち 「自分の状況が分からない」
 能登半島地震では、道路の寸断による孤立状態が各地で続く。石川県が「孤立集落」と公表する地区に5日午後、記者2人が入った。避難所近くで6日朝まで車中泊しながら、身を寄せる人たちの声を聞いた。向かったのは輪島市東部の町野地区。迂回(うかい)路となった県道はいたるところに亀裂や陥没があった。道沿いは倒壊したままの民家が並ぶ。約300人が避難する東陽中学校にたどり着いたのは午後4時ごろ。付近の家屋の倒壊は一段とひどく、瓦や柱、生活用品などが散乱していた。惣田登志樹さん(71)の自宅も倒壊し、1階リビングにいた妻が家屋に閉じ込められた。近くの人に数人がかりで助けてもらったという。「まだ救出できていない人がいるかもしれないと思うと、心が痛みます」と、沈痛な面持ちで話した。市によると、この避難所はヘリコプターなどで救援物資が複数回搬入され、物資不足の状況は脱した。だが、電気も水も途絶え、携帯電話は通じない。多くの人が「情報が入らないのが一番心配だ」と話す。家族5人で避難する男性(35)は「自分たちがどういう状況かわからないのが本当に不安」と口にした。地区の被害は正しく把握されているのか、救助は進んでいるのか――。そうした情報を発信も受信もできない。情報入手はラジオだけが頼りだ。体育館入り口に置かれたラジオの前には、常に数人が集まって耳を傾けていた。5日午後5時ごろ、ラジオのアナウンサーが県内各地で孤立状態となっている地区の名前を伝えていた。その一つに「町野地区」が読み上げられると、「まだ何も変わっとらんのか」「こりゃダメだわ」などと、失望の声があがった。日没を過ぎると、暗闇に包まれた。雨も降り、気温は一気に下がった。学校の外では、倒壊した家屋の木材をドラム缶に入れ、たき火で暖をとる人たちがいた。避難所には灯油ヒーターが数台あるが、体育館全体を暖めるには足りない。50代男性は「たき火の周りで知った顔と談笑すると、ストレス発散にもなる」と話した。午後9時ごろ、多くの人が避難所に戻った。だが、熟睡はできない。余震が一日に何度も襲う。6日午前5時半ごろには大きな余震が。続々と避難者が目を覚まし、建物の外に出てくる。「慣れっこになった人もいるかもしれないけど、私はまだ怖い」。60代女性がつぶやいていた。輪島市内には、7日から雪の予報も出ている。女性(66)は「自宅は全壊は免れたが、傾いている。雪が積もったら潰れてしまう」と嘆く。6日朝、避難者が集まって「ストーブをなるべく使わない」と決めた。使えるのは夜の決まった時間にして、灯油の消費を抑えるためだ。話し合いに参加した女性(77)は「計画停電ならぬ、計画ストーブです」。降雪に備えて雪かきの当番なども決めた。輪島市によると、この避難所は孤立状態を脱したが、復旧に不可欠な大型車両や重機は通れず、住民の不安も募る。娘と一緒に避難する女性(48)は言う。「そもそも『孤立集落』という名称が嫌だ。あなたたちは取り残されている、と毎回言われているように感じて、孤独感が増す」

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20240103&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO77402910T00C24A1NN1000&ng=DGKKZO77402950T00C24A1NN1000&ue=DNN1000 (日経新聞 2024.1.3) 断層、長期評価の対象外
 政府の地震調査委員会(委員長・平田直東大名誉教授)は2日、臨時会を開き、最大震度7を記録した能登半島地震の分析や今後の動向について検討した。国は主要な活断層について長期評価を公表しているが、今回地震のあった断層は対象外だったと明らかにした。平田委員長は「(長期評価は)慎重にやっており、非常に時間がかかる」とした上で評価していない断層で大きな地震が起きたことについて「非常に残念だ。もっと早く評価しておくべきだった」とも話した。世界でも有数の地震大国の日本では各地に断層が存在し、リスク評価が追いついていない側面が浮き彫りになった。今後、政府の長期評価のあり方も問われそうだ。

*1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15808171.html (朝日新聞 2023年12月3日) 「原発容量3倍」日本も賛同 世界全体 22カ国、COP28で宣言
 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動会議(COP28)にあわせ、「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」との宣言が2日発表され、日本を含む22カ国が賛同した。温室効果ガスの排出を減らす対策の一環として、米国が呼びかけていた。
賛同したのはほかに、英国やフランス、韓国、COP28議長国のUAEなど。「温室効果ガス排出の実質ゼロを達成する上で、原子力は重要な役割を果たす」とした。世界原子力協会によると、世界の原発は436基。発電電力の約10%をまかなっている。原発は発電時に温室効果ガスを出さず、電源の脱炭素化に期待する声がある。国際エネルギー機関(IEA)は、気温上昇を産業革命前より1・5度におさえるには、50年までに2倍以上の容量が必要としていた。日本は東京電力福島第一原発の事故後、原発への依存度をできる限り低減するとしていたが、岸田文雄政権は「原発回帰」にかじを切った。脱炭素化のためのGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策では、再生可能エネルギーとともに原発を「最大限活用する」とし、新規建設方針も盛り込んだ。エネルギー基本計画では、現在は1割以下の発電量に占める原発の比率を30年度に20~22%に引き上げるとする。しかし、再稼働したのは12基にとどまり、到達は難しい。新増設はさらにハードルが高い。政府関係者は、原発が脱炭素への安定電源になることや、輸出による関連産業の振興につながると説明。「賛同しない理由はない」と話した。一方、日本は原発事故を経験し、今も避難を余儀なくされている人がいる。環境NGO「350.org ジャパン」の伊与田昌慶さんは「必要な脱炭素化を加速させるために、危険な原子力を利用する余地はない」と非難した。

*1-3-3:https://mainichi.jp/articles/20231202/k00/00m/030/195000c (毎日新聞 2023/12/2) 「原発3倍」宣言、なぜ日本も賛同? 気候変動に役立たぬと批判も
 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では全締約国による交渉と並行し、有志国が気候変動対策強化に関する独自の宣言などを公表する場面が目立つ。米国は2日、日本など21カ国と世界全体の原子力発電の設備容量(発電能力)を3倍にすることを目指すと宣言した。国際原子力機関(IAEA)によると2022年末時点で稼働中の原発は31カ国で411基で、発電設備容量は約3・7億キロワット。バングラデシュなど途上国での計画が進み、10月公表の予測では50年までに約2・4倍の8・9億キロワットに増えると見込む。日本政府はエネルギー政策の中長期の方向性を示す「エネルギー基本計画」(21年閣議決定)で、原発への依存度を「可能な限り低減する」と明記。だが、5月成立のGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法で原発の60年超運転を可能にし、東京電力福島第1原発事故以降、「想定していない」としてきた次世代原発のリプレース(建て替え)も進める方針を示した。脱炭素社会の実現に向け、運転中にCO2を排出しない原発を活用していく姿勢に転換した。だが、足元では発電電力量に占める原発の割合は5・6%(22年度速報)にとどまる。原発事故を受けた安全対策工事の長期化や地元同意などがハードルとなり、原発の再稼働が思ったようには進んでいないためだ。国のエネルギー基本計画に盛り込んだ30年度の原発比率20~22%との目標もほど遠い。そうした中での今回の有志国による宣言は、政府のエネルギー政策の方向性と符合する。
日本が宣言に参加したことに「原発の導入には計画から20年はかかり、今直面している気候変動への対策として役に立たない。むしろ脱炭素を遅らせる」(NPO法人原子力資料情報室の松久保肇事務局長)など批判は多い。政府は宣言に何を期待するのか。それは、次世代原発の開発などでの他国との連携強化だ。次世代原発の開発競争は欧米を中心に激化しており、国内では三菱重工業が電力大手と革新軽水炉開発に取り組んだり、日立製作所などが小型軽水炉の開発を進めたりしている。電気自動車(EV)の普及や新興国の経済成長などで世界の電力需要は今後急増し、原発市場も拡大が見込まれる。こうしたことを機会と捉え、「日本企業の技術や製品を世界に売り込むことにつなげたい」(経済産業省幹部)とする。経済界も前向きだ。経団連の十倉雅和会長は11月20日の記者会見で、有志国による原発活用について「非常によく理解できる話だ。再生可能エネルギーの普及・開発を図るのは当然だが、変動電源であり、地形的な理由で全ての国ができるわけでもない。原発も全ての国ができるわけではないが、原発を増やしていくのは人類の英知だ」と話した。

*1-4-1:https://www.yomiuri.co.jp/science/20231227-OYT1T50075/ (読売新聞 2023/12/27) 柏崎刈羽原発の運転禁止命令、原子力規制委が解除…テロ対策で「改善が見込める」
 原子力規制委員会は27日午前、東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)に出していた事実上の運転禁止命令の解除を決定した。不備が指摘されてきたテロ対策について「自律的な改善が見込める」と判断した。2年8か月ぶりに再稼働に向けた準備が再開されることになり、今後は、新潟県など地元自治体の同意が焦点となる。同原発では2021年1月以降、侵入検知設備の不備や、所員によるIDカードの不正利用など核物質防護上の問題点が相次いで発覚。規制委は同年4月、原子炉等規制法に基づき核燃料の移動を禁ずる是正措置命令を出した。東電は、侵入検知設備の誤作動対策や、生体認証装置の拡充などの対策を実施。同原発内に社長直属の部署を新設し、社員の意識や行動を定期的に監視する仕組みも整えた。規制委は今年5月の時点では、監視体制などで改善が不十分として命令解除を見送っていたが、規制委事務局の原子力規制庁は今月6日、「是正が図られている」とする報告書案を公表。これを受け、規制委の山中伸介委員長らは同原発を視察したり、東電の小早川智明社長から意見を聞いたりして命令解除の是非を議論してきた。東電は今後、同原発の再稼働に向けて、新潟県と、立地自治体である柏崎市、刈羽村の同意を得るとしている。両市村長が再稼働におおむね容認の姿勢を示す一方、花角英世知事は態度を明らかにせず、地元同意の先行きは不透明だ。花角知事は、規制委の命令解除後に再稼働の是非を判断し、県民の意思を確認する流れを示している。県民の意思を確認する方法は、「信を問う方法が責任の取り方としてもっとも明確だ」と繰り返し、出直し知事選の可能性も否定していない。

*1-4-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/8a2a49784efa6d034a8f7108de9956ec0136b705 (Yahoo 2024/1/7) 能登半島地震・志賀原発 避難ルート「のと里山海道」は一時全面通行止め 避難計画は“絵空事”だった
 元日に発生した能登半島地震で、北陸電力志賀原子力発電所については当日中に「異常なし」と発表された(後に訂正)。だが、原発事故があった際の避難ルート「のと里山海道」は複数カ所で陥没、一時、全面通行止めになった。石川県の激震地・輪島市や穴水町、七尾市は原発30キロ圏内だ。地震大国・日本で「原発震災」が再び起これば、近隣住民の避難はやはり困難を極める。
  *  *  *
 「志賀原子力発電所をはじめ、原子力発電所については現時点で異常がないことが確認をされております」。1月1日の地震後、最初の会見。林芳正官房長官は現地の被害状況より前に、原発の様子に言及した。地震が起きるたびに、日本、いや世界中の関心が集まってしまうからだろう。
■激震地が30キロ圏内
 能登半島西岸の石川県志賀町に北陸電力志賀原発がある。原発から約9キロ離れた同町内の観測点では震度7、原発では震度5強を記録した。激震地の輪島市や、穴水町、七尾市などは30キロ圏内になる。志賀原発には、東京電力福島第一原発と同じ沸騰水型で、1号機(54万kW、1993年営業運転開始)、2号機(135.8万kW、2006年営業運転開始)の2基がある。2011年の東電の事故後、運転は止まったままだ。2号機は、2014年から再稼働に向けて新規制基準の審査が進んでいたが、まだ合格していなかった。使用済み燃料プールには計1657体の核燃料を保管している。13年近く冷やされ続けているので、すぐに心配になる事態は起きなさそうだ。ただし、北陸電力によると、一部の変圧器で配管が壊れて油漏れが発生し、外部電源の一部が使えなくなっているという。多重の安全策の一部を欠き、安全のレベルは下がっている。2007年に震度7相当の揺れに襲われた東電柏崎刈羽原発で、基礎の杭に損傷が見つかったと同社が公表したのは、地震から14年後のことだった。その後、建屋の建て替えへと追い込まれた。志賀原発も、今後の調査でまだ損傷が見つかるかもしれない。(以下、略)

*1-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1172469 (佐賀新聞 2024/1/6) 玄海原発3号機、運転開始40年へ安全運転 再エネ主力電源化へ技術開発を 九州電力・池辺和弘社長
 九州電力玄海原子力発電所(東松浦郡玄海町)3号機は、3月に運転開始から30年を迎える。九電の池辺和弘社長は佐賀新聞のインタビューで、玄海3号機の今後について「40年に向けて安全安定運転を続けていく」とし、延長の方針は現時点で「決まっていない」と述べるにとどめた。家庭向け電気料金に関しては資材高騰をにらみつつ今年も維持する意向を示した。(北島郁男)
●運転開始40年が近づく川内原発1、2号機(鹿児島県)は20年延長による60年運転が認可され、国では原発の60年超の運転を可能にする法律が成立した。玄海3号機の今後の運転計画をどう考えているか。
 これから40年に向けて安全安定運転を続けていく。40年の前には特別点検をし、その結果によってその先どうするかを決める段取りだと思う。まだ先なので(延長認可の申請や特別点検は)何も決まっていない。運転開始から30年の後、改正後の原子炉等規制法が施行される2025年6月までに、新たな規制制度に対応する長期施設管理計画の認可をもらえるよう準備する。
●3、4号機の耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)に関し昨秋、数値を見直した原子炉設置変更許可申請の補正書を規制委に提出した。新しい規制に沿った許可が必要な4月20日までに審査は間に合うか。
 原子力規制委が審査書案を出し、委員から反論はなかったというから、もうそろそろではないか。4月には間に合うと思っている。
●高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査に関し、長崎県対馬市長は応募しない意向を表明した。使用済み核燃料の処分場が必要な「核燃料サイクル」の道筋がいまだに立っていないことを、どう考えるか。
 23年4月、最終処分に関する国の基本方針が改定され「国が前面に立ってやる」となった。そこがスタートで、これから日本各地で、人口も減っていく中でどうまちづくりをしていくのかという議論が始まり、手が挙がってくると思う。悲観的には考えていない。
●九電としては青森県六ケ所村の再処理工場に使用済み核燃料を搬出するのが前提だ。
 再処理工場の稼働は24年度上期のできるだけ早い時期とされ、それが稼働しないと玄海から持っていけない。現在は(使用済み燃料貯蔵プール内の間隔を詰めて保管量を増やす)リラッキングが3分の2は終わっている。乾式貯蔵施設も設置を計画している。
●23年は九電の原発全4基が稼働した。火力発電の燃料費が抑えられ、24年3月期の連結純利益を過去最高の1300億円と見通す。電気料金の値下げは考えていないか。
 九州は電気料金が全国的に見て安い水準。今後は資材や工事費が上がっていくと思うので、電気料金が上がらないように努力する方が先だ。自己資本比率は15%くらいしかないので内部留保を積み重ねないといけない。一律の料金の値下げは当面ないと思う。
●24年は「再生可能エネルギーの主力電源化」に取り組むとしている。再エネ導入を拡大するのか。
 拡充していく。主力電源化とは技術開発だと思う。太陽光は夜間や雨では発電せず、それで主力電源というわけにはいかない。電池や揚水、風力発電などの技術開発が大事で、これらを通して主力電源化したい。再エネ(23年11月末時点で約267万キロワット)は30年度に500万キロワットの目標に向かって進めていく。
●一方で、原発が稼働し、再エネ事業者に一時的な発電停止を求める出力制御が23年度上半期で60回に上った。再エネを有効活用する手段や構想はあるか。
 オール電化推進や、出力制御防止に向けた料金プランを作ろうと思うのが一つ。(遠隔操作で細かく調整する)オンライン制御や家庭向けのポイント付与などに取り組んでいるが、究極的には企業誘致だと考える。企業が昼間に電気を使ってくれれば捨てなくて済む部分が増える。地方自治体と力を合わせ、佐賀県も誘致活動をいろいろしているので協力したい。安く、二酸化炭素を出さない電気があることをPRしたい。

<裏金にすべき理由は何か?>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231219&ng=DGKKZO77067050Z11C23A2CM0000 (日経新聞 2023.12.19) 安倍派パーティー「裏金」 会計責任者、立件へ 、違法性認める供述 地検、派閥側捜索へ詰め
 自民党安倍派(清和政策研究会)の会計責任者が東京地検特捜部の事情聴取に対し、政治資金パーティー収入を巡る政治資金収支報告書への不記載を認めたことが18日、関係者への取材で分かった。「裏金」について「記載しなければいけないと分かっていた」とも供述し、違法性の認識があったと説明しているという。特捜部は派閥側の収支報告書の不記載について、会計責任者を政治資金規正法違反容疑で立件する方針を固めた。安倍派の裏金の規模や慣例となった実態を解明するため、近く派閥側の関係先を家宅捜索する方針だ。安倍派では当選回数などに応じたパーティー券の販売ノルマがあり、超過分を議員に還流させていた。還流分は派閥・議員側双方の収支報告書に記載されず裏金となっていたとされる。裏金は同法の不記載・虚偽記入罪の公訴時効(5年)にかからない2018~22年の5年間で計約5億円に上るとみられる。安倍派の収支報告書の不記載額は収入と支出を合わせて約10億円に達する可能性がある。特捜部はこれまでに安倍派の会計責任者を複数回、事情聴取した。関係者によると、会計責任者は「パーティー収入の一部を不記載としてきた」と収支報告書の収入から除外していたことを説明。記載が必要だったとの認識も示したという。収支報告書によると、現在の安倍派の会計責任者は18年分から務める。関係者によると周囲に「キックバックの手法は長年続いており、引き継がれてきた」という趣旨の説明をしている。17年分までを担当した前任から申し送りがあったとみられる。政治資金規正法は収支報告書の提出義務を会計責任者に課している。会計責任者との共謀が認められれば議員本人も刑事責任を追及される可能性がある。具体的な報告・了承や指示があった場合に限られ、立件のハードルは高いとされる。特捜部は臨時国会が閉会した13日以降に捜査を本格化した。安倍派にはパーティーの収入総額と、収支報告書に記載する額を管理するための二重帳簿があったとされる。こうした客観証拠や会計責任者の事情聴取を踏まえ、不記載額の特定を進めている。安倍派では数十人が還流分を収支報告書に記載しておらず、議員側の事情聴取も進める。1人当たりの不記載額は多いケースで約5000万円に上る。裏金が多額となった議員を優先して本人からも事情を聴き、不記載の経緯や認識を確認するとみられる。

*2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/aa54af4ad9edde84f77dfaa4cec4bf270fdaa86b (Yahoo 2024/1/7) 速報】池田佳隆衆議院議員と秘書を逮捕 “裏金”4800万円めぐり虚偽記載か 安倍派政治資金事件
 自民党・安倍派の政治資金パーティーをめぐる事件で、東京地検特捜部は、派閥から約4800万円のキックバックを受け、政治資金収支報告書にウソの記載をした疑いで、池田佳隆衆院議員と会計責任者を逮捕した。この事件で逮捕者が出るのは初めて。政治資金規正法違反の疑いで逮捕されたのは、衆院議員で安倍派の池田佳隆容疑者と会計責任者の柿沼和宏容疑者の2人。池田容疑者は柿沼容疑者と共謀し、2022年までの5年間に派閥から受け取った約4800万円のキックバックも含め、全部で1億円あまりの収入があったにもかかわらず、池田容疑者側の収支報告書には、5300万円ほどの収入とウソの記載をした疑いがもたれている。特捜部は2023年12月、池田容疑者が住む議員宿舎や議員会館事務所などを捜索しているが、虚偽記載の額が突出して多いことや、証拠隠滅の恐れがあるなどと判断し、逮捕に踏み切ったものとみられている。関係者によると、池田容疑者はこれまでの任意聴取に関与を否定していたという。安倍派では、ノルマを超えた分の収入を派閥に納めず、中抜きしていた議員も十数人いて、この分も含めた事実上の「裏金」は、2022年までの5年間で6億円規模にのぼるとみられている。

*2-3:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240104-OYT1T50150/ (読売新聞 2024/1/5) 政治改革へ自民の新設機関、最高顧問候補に麻生副総裁と菅前首相…首相が意向示す
 岸田首相(自民党総裁)は4日、首相官邸で年頭記者会見に臨んだ。首相は、自民党派閥による政治資金規正法違反事件を受けた政治改革の実現に向け、党内に新設する総裁直属機関で月内に中間とりまとめを行うと表明した。新設機関は「政治刷新本部(仮称)」で来週にも設置し、外部の有識者も招いて議論すると明らかにした。首相は「党の先頭に立って、政治への信頼を回復すべく取り組みを進める」と強調し、派閥の政治資金パーティーに関して党による監査実施や、収支を現金ではなく原則振り込みにする案に言及。「政治資金規正法改正という議論もあり得る」とも述べた。この後、首相はBSフジの番組に出演し、同本部の最高顧問に自民党の麻生副総裁と菅前首相を充てる意向を示した。事務総長には木原誠二幹事長代理を起用する方向だ。年頭記者会見では、能登半島地震への対応について、「避難の長期化も懸念される中、被災者の生活となりわいを支えていく息の長い取り組みが求められる」と訴えた。

*2-4:https://toyokeizai.net/articles/-/604812 (東洋経済 2022/7/22) 国会議員が得る「お金」がどれほどか知ってますか、文書通信交通滞在費の問題は継続して議論が必要
 今回の参議院選挙は自民党が圧勝しました。多くのタレント議員が誕生しましたが、一部の議員には当選後の会見を拒否する姿勢が見られました。公人である以上、自らの言葉で有権者に説明する責任がありますが本人の姿が見えないのは残念なケースです。落選しない限り参議院議員は6年間の職位が保証されます。今回は、あらためて注目される国会議員の報酬について解説します。
●議員報酬は高いのか
 憲法では国会議員の報酬を次のように規定しています。憲法49条「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける」。国会法35条「議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く。)より少なくない歳費を受ける」。さらに、歳費法によって歳費、旅費および手当等の支給についても細かく規定されています。いったい、いくらになるのでしょうか?国会議員の歳費は月額129万4000円と定められています。年額で1552万8000円になります。ここに、期末手当(賞与)として年額635万円が加算されますので、総額2187万8000円が基本ベースです。昨今問題視されている「文書通信交通滞在費」(現在は「調査研究広報滞在費」に名称変更)が1200万円(月額100万円×12カ月)が支給されます。領収書の公開などが不要であるため、第2の給与とも呼ばれさまざまな用途に使用されているのが実情です。領収書による精算が必要ありませんからブラックボックスです。1200万円(月額100万円×12カ月)もの領収書も必要ないお金を一般人が稼ぐにはいくら必要でしょうか。所得税で40%控除されることを踏まえれば、約1700万円(月額141万円×12カ月)の収入が必要になります。次に、「立法事務費」780万円(月額65万円×12カ月)を加算してみましょう。立法事務費は会派に対して支払われますが、1人会派だとしても政治資金規正法上の政治団体として届け出ていれば認められます。また、まったく活動していなかったとしても立法事務費の使い道を第三者が確認する術はありません。使途公開の必要のない月額65万円を一般人が稼ごうとするとどうなるのでしょうか。所得税で40%控除されることを踏まえれば、1296万円(月額108万円×12カ月)程度の収入が必要です。基本ベース2187万8000円+1700万円=3887万8000円(議員歳費+文書通信交通滞在費)に1296万円(立法事務費)を加算すると、5183万8000円となります。さらに、JR特殊乗車券・国内定期航空券の交付や、3人分の公設秘書給与や委員会で必要な旅費、経費、手当、弔慰金などが支払われます。くわえて、政党交付金の一部が、各議員に支給されます。これらを踏まえて国会議員1人当たり、年間にどれだけのお金がかかっているのか試算してみましょう。
●参議院議員A氏(北海道選出)のシミュレーション
○基本給1552万8000円(月額129万4000円)
○期末手当635万円
○文書通信費1200万円(月額100万円)
○立法事務費780万円(月額65万円)
○JR特殊乗車券、国内定期航空券。北海道選出の議員であれば羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円)
○秘書給与2100万円(政策秘書900万円、第1秘書700万円、第2秘書500万円と仮定)
○政党からの支給 0~1000万円程度
合計:6000万~7000万円程度と推測
政党からは役職に応じて黒塗りの車もあてがわれます。議員会館の賃料は無料、議員宿舎には格安で居住することができます。2014年に賃料引き上げを行いましたが、周辺相場の2割程度で借りることができます。24時間体制の警備が施されセキュリティーは万全です。部屋から緊急通報のボタンを押せば秒速でスタッフが駆けつけます。
●政治献金はどのくらい?
 政治活動には多額の出費が必要であることから、政治家は政治献金を募ることになります。企業が行う企業献金と、個人が行う個人献金に分かれます。企業献金には癒着につながりやすいという指摘があります。また、政治家個人への献金は禁止されていることから、政治団体(一政治家が1つだけ指定できる資金管理団体や後援会など)を通じて献金することになります。日本国籍を持つ個人献金のみ可能で、一政治団体に対して年間150万円まで可能です。政治資金パーティーによる政治献金もあります。資金管理団体には、個人献金や政治資金パーティーの収益が入り、政党支部には政党本部や企業献金が入ります。日本経済新聞電子版(2021年12月3日配信)によれば、国会議員の資金管理団体と関係する政党支部が2020年に集めた政治資金をめぐり、議員1人当たり実収入の平均額は3103万円で、2019年から28.9%減少したことが明らかにされています。「アメリカ」の下院・上院では支給額にかなりの差が生じます。下院は「議員代表職務手当」が支給されます。この手当から、交通費、通信費、秘書給与その他の経費を支出します。その額は1億2000万~1億8000万円と差があります。アメリカ合衆国議会議事堂があるワシントンから選挙区までの距離、事務所賃貸料等の個人差が生じているためです。上院は「秘書・事務所費用会計」として、事務費から秘書給与までの経費すべてを支出します。その額は約2億4000万~4億円程度です。両院とも秘書給与を流用できますが、充当されるのは、下院で8000万円程度、上院では2億~3億円です。秘書の人数も下院なら5名程度、上院で30~40名と開きがあります。
●不適切な経費請求が発覚し、厳格化されたイギリス
 「イギリス」の上院は貴族院として世襲により構成されてきましたが、現在は削減され無報酬を踏襲しています。下院は基本給に手当が加わりますが、各議員が実費精算することから内容が異なります。英国下院は約1126万円、「秘書雇用手当」が3人で平均約1300万円程度です。手当や使いみちは詳細に公開され、誰でも閲覧できるようになっています。2009年に多くの不適切な経費請求が相次いで発覚しました。イギリスの新聞、『デイリー・テレグラフ』は、全国646人の議員のうち、200人以上の不適切な経費請求を明らかにします。議員は国民から強い反発を受けました。その後、ルールが厳格化され、現在では公開が義務づけられています。「ドイツ」の議員報酬は1466万円で欧州では2位、世界全体でも8位の高額議員報酬です。個人で秘書を雇った場合はその人件費として最大23万9000ユーロ(約3100万円)が支払われます。秘書の数は制限がありませんが近親者の雇用を禁じています。平均6~7名です。「フランス」は1085万円で、これは世界14位のランクです。秘書の雇用に関しては、上院で約952万円、下院で929万円が支給されます。人数は上院6名、下院では5名まで可能で半数はパートです。これらの情報を比較すると、アメリカが突出しているように見えますが、すべて使途明細書の提出がなければ1セントも支払いがされない後払い方式です。アメリカは政党に依存しない個人活動が主流だからです。欧州は政党・会派中心ですが日本もそれに近いと言えます。
●毎回先延ばしになる議員特権議論
 2021年10月31日の衆議院選挙後に「満額」が振り込まれたことにより文書通信交通滞在費をめぐる問題は、連日メディアで報道されました。しかし、「使途の明確化や情報公開」など重要な要点には触れられずに先送りされました。与野党ともに「日割り」にするだけで決着をつけようとする姿勢が強く見受けられました。継続した議論が求められます。前の国会で各党は「使途公開」を口にしていました。ところが成立したのは当選した月の支給額を「日割り計算」にする改正だけです。使途公表や国庫返納はなんら盛り込まれていません。さらに、文書通信交通滞在費から調査研究広報滞在費に費目が変更されただけでした。その後、JR無料パスの違法使用、パパ活疑惑などがあり、国民からは「議員特権を廃止すべき」という厳しい声が上がりました。国民の血税で活動している以上、国会議員にかかる諸費については透明性を持たせる必要があります。しかし、政治家は自らが当選に有利になることでないかぎり前向きには議論しません。政治システムを変える法案を提出することもありません。当然のことながら不利になるシステムに変更されることもありません。実現させようなどと思っていないからでしょう。国会議員の本務は、国会で政策を議論し、必要な法律を策定することです。選挙区のお祭りや盆踊りに顔を出したり、運動会に参加したりすることが本筋ではないのです。議員は国の代表ですから、相応の報酬があることはもちろん理解できます。しかし、税金によって支払われる以上、議員の仕事に見合うかどうかを国民1人ひとりが注視しなければなりません。参議院選挙後の臨時国会は8月3日に召集されます。

*2-5:https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=328AC1000000052_20150801_000000000000000 国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律
第一条 国会が国の唯一の立法機関たる性質にかんがみ、国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費の一部として、各議院における各会派(ここにいう会派には、政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第六条第一項の規定による届出のあつた政治団体で議院におけるその所属議員が一人の場合を含む。以下同じ。)に対し、立法事務費を交付する。
2 前項の立法事務費は、議員に対しては交付しないものとする。
第二条 立法事務費は、毎月交付する。
第三条 立法事務費として各会派に対し交付する月額は、各議院における各会派の所属議員数に応じ、議員一人につき六十五万円の割合をもつて算定した金額とする。
第四条 前条の所属議員数は、毎月交付日における各会派の所属議員数による。
2 立法事務費の交付日において、議員の任期満限、辞職、退職、除名若しくは死亡、議員の所属会派からの脱会若しくは除名又は衆議院の解散があつた場合には、当月分の立法事務費の交付については、これらの事由が生じなかつたものとみなす。一の会派が他の会派と合併し、又は会派が解散した場合も、また同様とする。
3 各会派の所属議員数の計算については、同一議員につき重複して行うことができない。
第五条 各会派の認定は、各議院の議院運営委員会の議決によつて決定する。
第六条 各会派は、立法事務費の交付を受けるために、立法事務費経理責任者を定めなければならない。
第七条 各議院の議長は、立法事務費の交付に関し疑義があると認めるときは、議院運営委員会に諮つて決定する。
第八条 この法律に定めるものを除く外、立法事務費の交付に関する規程は、両議院の議長が協議して定める。

<気候変動対策について>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231202&ng=DGKKZO76627250S3A201C2NNE000 (日経新聞 2023年12月2日) 国連総長「地球、破綻しつつある」 COP28 温暖化対策遅れに危機感
 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)は1日、首脳級会合が始まった。国連のグテレス事務総長は演説で、「地球のバイタルサイン(生命兆候)は破綻しつつある」と温暖化対策の遅れに危機感を示した。(1面参照)
グテレス氏は世界の気温上昇を産業革命前より1.5度以内に抑える2015年のパリ協定に触れ「世界はパリ協定の目標から何マイルも離れている」と指摘。「今、行動すれば最悪の混乱を避けられる」と述べた。1.5度目標を達成するには「最終的に全ての化石燃料の燃焼を停止した場合にのみ可能だ」と主張し、化石燃料の廃止を訴えた。再生可能エネルギーはかつてないほど安価になっているとして、利用を拡大すべきだとの立場を強調した。チャールズ英国王も、世界の気候変動対策が「軌道から大きく外れている」と指摘した。温暖化ガスの排出量が世界規模で増えていることに触れ「COP28が真の変革に向けた重要な転機となることを心から祈る」としたうえで「地球は私たちのためのものではなく、私たちが地球のものなのだ」と強調した。開幕初日となった11月30日には、気候変動で干ばつや洪水などの被害を受けた途上国を支援する基金制度の内容で合意した。初日の会合で参加国が一定の成果を出したかたちだ。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、基金をめぐる合意について「我々は最も脆弱な市民を守るための決定的な一歩を踏み出す」と指摘。「ドバイでの会合が歴史を作ることができると信じている」と強調した。COP28ではパリ協定の目標達成に向けた対策の進捗を世界全体で検証する「グローバル・ストックテイク(GST)」が行われる見通し。GSTは今回のCOPを皮切りに、5年ごとに実施される。このほか、温暖化ガス排出削減などの重要課題で実効性のある合意に至れるかが焦点となる。

*3-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15796373.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2023年11月20日) IEA報告書 脱化石燃料へ転換急げ2023年11月20日
 化石燃料の世界的な需要が2030年までに減少に転じる――。国際エネルギー機関(IEA)が、そんな見通しを示した。消費国が石油の安定確保に主眼を置いてきた時代が、はっきりと変わりつつある。日本も政策の転換を急ぐべきだ。IEAは50年前の石油危機を受けて、当時の西側先進国がエネルギー安全保障での協力のためにつくった組織だ。各国に石油備蓄を義務づけ、供給不安時に協調する。化石燃料の大半を海外に頼る日本にとっても重要な機関とされてきた。一方で、「再生可能エネルギーを過小評価している」との批判もあった。その組織が先月の報告書で、各国の現行政策に基づく最も手堅い予測として、化石燃料の需要減を見込んだ。エネルギー供給全体に占める割合でも、22年の80%が、30年には73%に下がるという。一方で、電力に占める再エネの比率は30%から50%近くに増える。移動手段でも、電気自動車の新車販売が、10倍に増える見通しだ。深刻化する気候危機をみれば、化石燃料依存からの脱却は一刻を争う。省エネとともに、代替として国産の再エネが広がれば、新たなエネルギー安全保障策にもなる。国内の太陽光発電は東日本大震災後に急増したが、未利用地のほか、住宅や工場、施設の屋根上など設置の余地はなお大きい。洋上での風力発電も、海域での調査や漁業者らとの調整を進める必要がある。送電網や蓄電設備の充実も急務だ。運輸・交通面での脱炭素化も迫られる。日本はハイブリッド車で先行したが、燃費は良くてもガソリンを使い続ける以上、一時的な解決策にとどまる。再エネ電力を背景にした電気自動車への転換こそが次世代の鍵を握ることは、自動車業界も、すでに自覚しているはずだ。社会・産業を広く脱炭素化するには、インフラの整備に加えて、経済活動への幅広い炭素課金(カーボンプライシング)が有効な手段だ。国際水準の炭素価格を設ければ、競争力のある技術の開発や製品化にもつながる。政府が導入方針を示す今の枠組みは、開始時期や予想される価格水準が不十分だ。見直しを求めたい。脱炭素化できるかどうかだけではなく、そのスピードも重要だ。関連投資は急増しており、脱炭素化は制約ではなく、成長の機会にもなる。日本は来年からエネルギー基本計画の改定作業を始めるが、積年の遅れを取り戻さなければならない。

*3-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15808101.html (朝日新聞 2023年12月3日) (COP28)沸騰化、地球むしばむ ホタテ大量死、世界では山火事・水害・干ばつ
 中東ドバイで開催されている国連の気候変動会議(COP28)では、世界のリーダーが集い、温暖化対策を議論している。世界の平均気温が史上最高を更新する今年、「地球沸騰化」とも呼ばれる異常な高温やその影響が日本を含む世界中で爪痕を残している。11月下旬、青森県の陸奥湾に面する蓬田漁港。午前3時すぎ、ホタテ漁師の中川八千雄さん(67)は漁船の上で、ホタテの稚貝をカゴに移し替える作業をしながら、ため息をついた。「3割ほど死んでる。こんなことは初めてだ」。口が開いたり成長が止まったりして「へい死」した稚貝がいくつも見つかった。37年の漁師人生で最もひどい状況だ。原因はホタテが苦手な高水温。稚貝は26度を超えると衰弱して死ぬこともある。今年は、猛暑や海洋熱波により、水温が上昇し始める時期が早く、陸奥湾では7月下旬に水深15メートルで23度を超え、その状態が2カ月余り続いたという。9月上旬には最高水温が平年より4度以上高い場所もあった。県内の生産量の約半分を占める平内町漁業協同組合販売課長の小塚達典さん(42)によれば、稚貝の9割がへい死した地点もあるという。「人間なら熱湯につかっているのと同じ。漁業者から『来年に売るものがない』という声も聞く」。京都の冬の味覚「千枚漬け」にも夏の酷暑が響く。原料となる良質な聖護院かぶの産地で知られる京都府亀岡市。農家の男性(54)は畑の一角を指さして「あの圃場(ほじょう)の収穫は諦めました」と語った。4アール分のカブを生育不良で廃棄するという。今年は暑すぎて発芽が出そろわない。種まきの時期が初めの分は大きく育たず、変色したり、特有の「滑らかな肌」も失われたりした。「欲しい時にカブがなかった」。千枚漬けの老舗「大安(だいやす)」(京都市)によると、例年は9月からの千枚漬けの販売が、10月末までずれ込んだという。九州大学の広田知良教授(農業気象学)によると、長年、品種改良や農業技術によって単位面積当たりの農作物の収量は増えてきた。しかし最近は減少傾向の作物もあるという。「研究速度が、気温の上昇に追いついていない状況だ」。今夏の日本の平均気温は過去最高を更新。気象庁の担当者も「予報を大きく超えた信じられないような高温」と断じた。東京大などの研究チームの解析によれば、地球温暖化の影響がなければ他にどんな悪条件が重なっても、ほぼ起こりえない猛暑だったという。各地で豪雨被害をもたらした線状降水帯も、温暖化によって1・5倍発生しやすくなっていた。世界でも気候災害が相次ぎ、カナダでは日本の半分の面積を焼く山火事が発生。韓国やインド、リビアでも水害が相次ぎ、米国では猛暑で140人以上が亡くなった。さらに、今年発生したエルニーニョ現象によって高温の傾向が強まる可能性が指摘されている。世界的にも干ばつや豪雨が続き、国際ブドウ・ワイン機構のまとめでは、ブドウの収穫減によって世界のワイン生産量は過去60年で最少になる見通しという。11月も例年に比べて高温の状況が続き、欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、17日には世界の平均気温が初めて、産業革命前から2度以上高くなったという。国連によると、各国の現状の削減目標を達成したとしても、今世紀末には気温上昇は3度近くになる。深刻な熱波が起きる確率は現状5年に1回程度だが、3度上昇すると5年に4回になるという研究もある。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「今後10年間の選択と対策が数千年先まで影響を持つ」と警鐘をならす。

*3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASRD273TFRD2ULBH00G.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2023年12月2日) 世界の再エネ容量、30年までに3倍へ 日本など100カ国以上賛同
 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連の気候変動会議(COP28)では2日、世界の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍にすることに、日本も含む100カ国以上が賛同した。2日まで開かれた首脳級会合では、中東情勢をめぐる波乱もあった。再エネ3倍の目標は、議長国のUAEが参加国に呼びかけていた。誓約書では、気温上昇を産業革命前から1・5度に抑えるためには、再エネの世界全体の設備容量を、現在の約3600ギガワットから、1万1千ギガワットに上げる必要があると指摘。エネルギー効率(省エネ)も2倍にすることをめざす。「化石燃料に依存しないエネルギーシステムへの世界的な移行を、前倒しで推進しなければならない」と主張。各国が再エネや省エネに関する計画をつくり、温室効果ガス削減目標に反映することも求めた。日本も再エネの導入量を引き上げる必要がある。日本の再エネは22年時点で約87ギガワット、30年には2倍程度の約160ギガワットにする見込みだが、世界に対する貢献量は少ない。伊藤信太郎環境相は「各国がそれぞれ3倍ということを言っているわけではない」と話すが、次のエネルギー基本計画の議論に影響を与えそうだ。一方この日は、米国が、石炭火力発電の廃止を目指す脱石炭連盟に加入した。英国とカナダ主導で立ち上げた枠組みだ。米国は中国、インドに次ぐ「石炭火力大国」だが、ケリー米気候変動特使は「世界中で排出対策の取られていない石炭火力の段階的廃止を加速する」とコメントした。日本は加入していない。
●交渉の裏で戦争の影も
 国際協調が必要な温暖化対策だが、前日に再開したパレスチナ・ガザ地区での戦闘は交渉にも影を落とした。COPに参加したイスラエルのヘルツォグ大統領は首脳演説をせずに、インドや欧州連合(EU)などと二国間会談を展開。同氏のX(旧ツイッター)によると、「(イスラム組織)ハマスがあからさまに停戦協定を破った」などと主張したという。イラン国営通信によると、同国のエネルギー相は、イスラエルがCOPに参加することに抗議し、会場から去ったという。2年後のCOP30の議長国となるブラジルのルラ大統領は、温暖化対策費をはるかに上回る巨額の資金が、世界で戦争や軍事に充てられていることを嘆いた。「力を結集すべき時に、世界が戦争に向かっているとは」

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK01B120R01C23A2000000/ (日経新聞社説 2023年12月2日) アジアの脱炭素へ協力深め世界に貢献を
 岸田文雄首相はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)の首脳級会合で演説した。アジアの脱炭素化を主導する考えを表明した。気候変動対策の行方を左右するのは世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約6割を占めるアジアの取り組みだ。日本の脱炭素技術や省エネルギーのノウハウを積極的に移転し、削減に貢献すべきだ。アジアは日本と同様、電源に占める石炭火力発電の割合が高い。太陽光や風力の適地が少なく、再生可能エネルギーの大幅な拡充は難しい。首相が触れたアンモニアや水素の活用は日本が技術開発で先行する。現実的な選択肢だ。日本は特殊な国債を出し、世界銀行とアジア開発銀行の信用リスクを補完する。融資余力を合計90億ドル規模ほど広げるという。だがインドや東南アジアだけでも年間5000億ドルが必要とされ、欧米の支援を含めても足りない。民間投資も大幅に増やす必要がある。政府は日本企業の事業展開を促す支援策づくりを急ぐべきだ。アジアでは、補助金や税優遇といった政策も十分ではない。日本が主導するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じ、政策ノウハウの提供や人材育成を進めることも重要になる。まず何よりも、国内の脱炭素をより進めることが不可欠だ。日本はガソリンや電気、ガスへの補助金など脱炭素に矛盾する取り組みも目立つ。国際社会から二枚舌とみられかねない状況だ。演説では、排出削減対策が未対応の石炭火力について新規の建設を終了することも表明した。既存施設については言及しなかった。世界の潮流は脱化石燃料だ。アンモニアや水素の混焼を使いながらも、石炭を燃やす量をできるだけ減らす姿勢を見せてほしい。日本は2013年度比でCO2を約20%削減した。30年度に46%という目標の半分近くで「さらに高みを目指す」という。しかし、各国の中央銀行や金融当局で構成する気候変動リスク等に係る金融当局ネットワークなどの分析によると、進捗状況は主要7カ国(G7)の中で最も遅れている。最新の空調機器や製造装置への更新、住宅への太陽光パネル設置、建物の断熱性向上など、まだできることは多い。脱炭素技術の普及も進めながら削減実績を積み上げることが重要になる。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK01B120R01C23A2000000/ (日経新聞社説 2023年12月2日) アジアの脱炭素へ協力深め世界に貢献を
 岸田文雄首相はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)の首脳級会合で演説した。アジアの脱炭素化を主導する考えを表明した。気候変動対策の行方を左右するのは世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約6割を占めるアジアの取り組みだ。日本の脱炭素技術や省エネルギーのノウハウを積極的に移転し、削減に貢献すべきだ。アジアは日本と同様、電源に占める石炭火力発電の割合が高い。太陽光や風力の適地が少なく、再生可能エネルギーの大幅な拡充は難しい。首相が触れたアンモニアや水素の活用は日本が技術開発で先行する。現実的な選択肢だ。日本は特殊な国債を出し、世界銀行とアジア開発銀行の信用リスクを補完する。融資余力を合計90億ドル規模ほど広げるという。だがインドや東南アジアだけでも年間5000億ドルが必要とされ、欧米の支援を含めても足りない。民間投資も大幅に増やす必要がある。政府は日本企業の事業展開を促す支援策づくりを急ぐべきだ。アジアでは、補助金や税優遇といった政策も十分ではない。日本が主導するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じ、政策ノウハウの提供や人材育成を進めることも重要になる。まず何よりも、国内の脱炭素をより進めることが不可欠だ。日本はガソリンや電気、ガスへの補助金など脱炭素に矛盾する取り組みも目立つ。国際社会から二枚舌とみられかねない状況だ。演説では、排出削減対策が未対応の石炭火力について新規の建設を終了することも表明した。既存施設については言及しなかった。世界の潮流は脱化石燃料だ。アンモニアや水素の混焼を使いながらも、石炭を燃やす量をできるだけ減らす姿勢を見せてほしい。日本は2013年度比でCO2を約20%削減した。30年度に46%という目標の半分近くで「さらに高みを目指す」という。しかし、各国の中央銀行や金融当局で構成する気候変動リスク等に係る金融当局ネットワークなどの分析によると、進捗状況は主要7カ国(G7)の中で最も遅れている。最新の空調機器や製造装置への更新、住宅への太陽光パネル設置、建物の断熱性向上など、まだできることは多い。脱炭素技術の普及も進めながら削減実績を積み上げることが重要になる。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77565030R10C24A1MM8000 (日経新聞 2024.1.11) ビル壁面で発電、生産3倍 カネカ 高性能電池、ガラスと一体
 カネカはビル壁面などで使える建材と一体にした太陽光発電パネルの年間生産量を2030年までに現在の約3倍に増やす。都心部ではパネル設置場所が限られており、窓ガラスやビル壁面に潜在需要がある。建材一体型の普及により、現在の国内の太陽光発電能力に匹敵するとの試算もある。ビル群が都市発電所として電源の一翼を担う可能性がある。カネカは窓ガラスなどに使える建材一体型発電パネルを大成建設と共同開発した。自社開発した高性能の太陽電池をガラスに挟んで窓ガラスや外壁材として使える。兵庫県豊岡市の既存工場の生産能力を段階的に高める。新工場建設も視野に入れる。30年に現状の3倍となる年産30万平方メートル(東京ドーム6.4個に相当)に増やす。同社の太陽光パネルは住宅向けが中心で現状の売上高は100億円前後だ。カネカは大成建設との共同開発品以外にも複数の商品発売を計画しており、30年に建材一体型のパネルだけで現在のパネル全体と同等の100億円まで増やす考えだ。インドの調査会社IMARCによると世界の建材一体型太陽光の市場規模は28年までに22年比3倍近い548億米ドル(約8兆円)に達する見通しだ。太陽光パネルは中国メーカーが世界供給の7割を占める。国内勢はカネカや長州産業、シャープなどに限られるが建材一体型のような付加価値商品で先行する。太陽光発電協会(東京・港)によると、今後建材一体型太陽光発電が導入可

<能登半島地震で顕在化した地方の働き手不足>
PS(2024年1月13日追加):石川県の馳知事が、*4-1-1のように、「(能登半島地震の復興に)数兆円規模の補正予算の編成を1カ月以内にお願いしたい」と述べられたそうだが、国民は東日本大震災の復興特別税を2013年から2037年までの25年間も所得税に2.1%加算して支払っており、負担に感じている。そして、そもそも復興とは、既得権のように四半世紀も続けるものではなく、10年以内に2度と同じことが起きない形で行なうべきものである。そのため、*4-1-2の仮設住宅建設も、何度も同じことを繰り返して避難しなくてすむよう、津波や激しい地震が発生する地域は避けるのが税金を払っている国民に対するマナーであろう。そして、今後、同じことを繰り返した場合には2度と補助せず、財源は今後起こる震災まで含めて復興税もしくは一般税から出すようにすべきである。
 なお、*4-1-3のように、石川県はじめ日本各地により安全で人口の減っている地域は少なくないため、金沢・加賀・輪島等が大切であったとしても、“復旧”として同じ場所に同じものを作る必要はなく、これを機会に都市計画をしっかりやるべきだ。また、インフラは全国で老朽化が進み、適切な修繕や補修をしないと災害時のリスクも高まるのは事実だが、本来は普段から補修・代替等をしているべきなのである。予算や人手の足りない市区町村では修繕が必要な橋梁の6割が未着手で、地方のインフラ対策は急務だそうで、その理由は、①高齢化で社会保障費が膨らみ公共事業に回す余裕がない ②市町村全体の25%にあたる437市町村でインフラ整備にあたる技術系職員を1人も確保できていない ③土木部門の職員数の減少率は市町村全体の職員数の減少率より大きい ④専門知識のない事務職員が対応して外部委託費等でコストがかさむ 等と説明されているが、これは自治体の規模・職員の採用方針・給与体系に問題がありそうだ。
 確かに能登半島地震を見ても、避難者には高齢者の割合が高く、ガザ地区で避難している人に子どもの割合が高いのと対照的である。しかし、これは50年も前から生じていた現象で、居住地の仕事・子育て環境が日本の若者にとって魅力的でなかったことによって生じたものである。そのため、その張本人であるドメドメした(domestic:国内しか見ていないこと)おじいさんたちの提言を基に、*4-2-2のように、i)人口動態の基調が変わらない限り、1億2400万人の日本の人口は2100年に6300万人に半減する ii)人口が急激に減ると社会や経済は縮小と撤退を強いられる iii)高齢化率が4割で高止まりする超高齢社会が続いて格差と対立が深刻化する iv)インフラやサービスの機能停止で地方社会は消滅の危機になる v)提言はこうした縮小と停滞を避けるため人口減のペースを緩和させ、8000万人の規模で安定させる必要性を訴えた vi)外国人労働者の受け入れは高技能者に絞る vii)2060年までに合計特殊出生率2.07の必要がある viii)2040年頃までに出生率1.6、2050年頃までには1.8に上昇することが望ましい ix)出生率1.26の日本にとって容易ではないが、決して不可能ではない筈で、政府は提言も参考に戦略を作って欲しい x)子どもを持つか否かは個人の選択で、目標が独り歩きして出産を強要するような風潮が生まれないようにするのは当然 等と言っても、内容に筋の通らないことが多いのである。 
 具体的には、i)は誤りだ。何故なら、生物は直線的に増えたり減ったりするものではなく、ゆとりが増えれば増加したり、減少速度が落ちたりするものだからだ。そのため、ix)のように、出生率1.26である現在の日本は、人の住んでいる場所が混み合いすぎてゆとりがない結果が出ているとも言える。そのため、ii)も誤りで、iii)の「超高齢社会が続くと対立する」というのは、高齢者福祉と少子化対策を二項対立させることによって政府やメディアが作ったものにすぎない。そして、これまで書いてきたとおり、高齢化が格差や対立の原因ではないし、iv)の過疎状態とvi)の外国人労働者受け入れ拒否は、日本における働き手不足の解決や地球の人口爆発と矛盾している。さらに、家畜ではあるまいし、v) vii) viii)のように、人為的に出生率をコントロールすることなどできないし、やるべきでもない。そして、x)はそのとおりだが、記事の論調全体が外国人労働者や移民を廃した上で、日本国民の出産を強要しているのである。 
 それに対し、*4-2-1のOECDの提言は、人口減の日本で働き手を確保するために、定年廃止、同一労働・同一賃金の徹底、年金の受給開始年齢引き上げ、就労控えを招く税制の見直し等により、高齢者や女性の雇用を促すよう訴えており、働く能力や意欲や価値観が生物年齢や性別によって画一的であるわけではないことから、全く尤もである。

*4-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77563200Q4A110C2EP0000 (日経新聞 2024.1.11) 石川知事、能登地震で補正数兆円要請 政府に
 石川県の馳浩知事は10日の年頭記者会見で、能登半島地震からの復興のため政府に「数兆円規模の補正予算の編成を1カ月以内にお願いしたい」と述べた。能登はアクセスが脆弱な半島で、高齢化率が5割を超える地域もある。「こうした要件も踏まえた補正予算をお願いしたい」と訴えた。3月16日には北陸新幹線の敦賀延伸が控える。「金沢や加賀の観光地、人の交流を絶やすことは考えていない。こうした経済活動を通じても石川県を、能登を支えてほしい」と話した。

*4-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15837104.html (朝日新聞 2024年1月13日) 津波は怖い、でも適地がない 仮設着工、くらし再建のジレンマ 能登地震
 能登半島地震の石川県内の被災地で、生活再建に向けた第一歩として、仮設住宅の建設が始まった。建設用地は津波の浸水想定区域に含まれるものの、県は適地がないとして着工。避難生活のいち早い解消のため、災害リスクのある場所に住み続けざるを得ないジレンマが生じている。珠洲市にある小学校2校のグラウンドで12日、仮設住宅の建設位置を決めるため、杭を打ち込むなどの作業があった。市内では計65戸が1~2カ月後の完成めざして着工されたが、水道や電気をいつ通せるか分からず、入居時期は未定だ。この日、輪島市内でも2カ所で計50戸の建設がスタート。2月上旬以降に完成する見通しで、75歳以上の高齢者や障害のある人を優先して入居させるという。ただ、珠洲市は2カ所とも、輪島市では1カ所が、市のハザードマップで津波の浸水想定区域に入っている。建設する県は11日、「両市とリスクについて相談している」と説明。「浸水区域を避けるとなると実際に土地がない。警戒・避難の体制を充実させるなどの対策を講じる」として着工を決めた。仮設住宅が建設される珠洲市の正院小学校に避難している男性(77)は、1人で暮らしていた自宅が倒壊した。「仮設に入れてもらわんと困るわ。津波は怖い。でも、入れてもらえるだけありがたい」と話す。一方、県内17市町では、建設型の仮設住宅とは別に、自治体が民間の賃貸住宅を最大2年間借り上げて提供する「みなし仮設住宅」の入居希望者の受け付けも始まっている。住宅の再建支援に必要な罹災(りさい)証明書の申請受け付けは、すでに始まっている。珠洲市では9日に罹災証明書の申請受け付けが始まると、住民が朝から列を作った。同市若山町に住む谷内田進さん(65)は、自宅が地震で大きく傾き住めなくなった。「住み慣れた土地を離れたくはない。再建に時間はかかるが、できるだけ早く罹災証明書を発行してほしい」と話す。市によると、市内にある約6千世帯のほぼすべてから罹災証明書の申請があると見込まれ、住民からの申請を待たずに、全世帯を対象に調査を実施する方針だ。輪島朝市で大規模火災が発生した輪島市では、すでに罹災証明書の申請受け付けを始めており、全世帯を対象にした調査に近く着手する。ただ、罹災証明書をいつ発行できるかめどは立っていない。市税務課の担当者は「できる限り早く発行したいが、調査を始めても1カ月ですべて終わらせるのは難しいのではないか」と明かす。被災者の生活再建は、住まいに大きく左右される。早急な住まいの再建のため、自治体はどうすればいいのか。関西大の山崎栄一教授(災害法制)は「被災者生活再建支援制度に基づく最大300万円の支援金に加え、復興基金などを生かし、自治体独自の施策として支援金を出すべきだ」と語った。(小島弘之、宮島昌英、岩本修弥、寺沢知海)
■福祉避難所、開設進まず
 高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、難病患者、医療的ケアを必要とする人など特に配慮が必要な人のための「福祉避難所」の開設が進まず、過酷な状態に置かれている。施設が損壊、人手も物資も足りないのが原因で厳しい状況が続く。朝日新聞の調べでは、福祉避難所の開設数(12日現在)は、石川県七尾市3(予定数は24)▽輪島市4(25)▽珠洲市0(7)▽志賀町2(8)▽穴水町1(3)▽能登町2(5)で、予定の2割弱だ。輪島市は福祉避難所を設置する協定を市内25の高齢者施設などと結び、施設の一部に受け入れる計画を立てていた。また、職員不足の時は他事業所からの派遣などで対応するとしていた。特別養護老人ホーム「あかかみ」も協定を結んだ施設の一つ。人員不足で福祉避難所の開設は難しいと判断した。もともとの利用者が95人。職員約120人も被災し、勤務できるのは70人ほど。それでも、認知症といった事情がある高齢者22人を受け入れた。ほかにも十数人から希望があるが、断らざるを得ない。施設長の森下進さんは「家族らが受け入れ先を探しているが、どこも厳しい」と話す。北陸学院大の田中純一教授(災害社会学)は「平時から少ない職員数でぎりぎりの対応をしている地域。一刻も早く国が広域連携体制をとるべきでスピードの鈍さは否めない」と話す。
■高齢者400人、移送へ 石川県内外の病院や施設に
 能登半島地震で被災した高齢者施設をめぐり、厚生労働省は12日、石川県の4市町の入所者400人以上を県内外の病院や他の施設に移送する計画だと明らかにした。同県のほか、愛知、富山両県への搬送を予定。断水の長期化などで災害関連死の懸念が高まる中、大規模な避難を進める。移送を計画しているのは、石川県輪島市、珠洲市、七尾市、穴水町の10施設で、特別養護老人ホームや有料老人ホーム、認知症グループホームなど。同県2市町の障害者施設でも、二つのグループホームから17人が避難を予定している。400人以上のうち、すでに200人以上の高齢者は自衛隊や災害派遣医療チーム「DMAT」が搬送を終えた。同省によると、移送予定人数は11日夜時点の集計という。

*4-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77562860Q4A110C2EP0000 (日経新聞 2024.1.11) 老いるインフラ、地方で放置深刻、修繕必要な橋、6割未着手 脆弱な予算・職員響く
 能登半島地震は道路やダムなどの施設に大きな打撃を与えた。インフラは全国的に老朽化が進み、適切な修繕や補修をしないと災害時のリスクも高まる。予算や人手が足りない市区町村では修繕が必要な橋梁のうち6割が未着手で、地方のインフラ対策は急務だ。国土交通省によると、地震の影響により石川県と富山県を結ぶ幹線の能越自動車道で崩落や段差などが生じて3区間が通行止めとなった。国道も9日時点で、富山や新潟など3県の4路線29区間で路面が陥没するなどして通行が再開されていない。車が走行できずに物流網が寸断され、孤立状態になる地区が相次ぐ。河川やダムにも被害が及んだ。新潟や富山など4県が管理する河川では43水系72河川で護岸の損傷や堤防のひび割れなどが確認された。石川県のダム2カ所も損傷した。大規模な地震で地盤ごと崩れれば新しいインフラでも被害は免れないが、老いた施設ほど危険なことに変わりはない。国交省の調べでは、2040年に建設から半世紀以上が経過する施設は橋梁で75%、港湾で66%、トンネルで53%に上る。インフラは建設後50年が寿命とされる。東洋大の根本祐二教授は「適切な時期に修繕や補修などを実施しなければ、災害リスクが高まる恐れがある」と警告する。とりわけ地方のインフラに危機が忍び寄る。全国点検で修繕が必要と判断されたにもかかわらず、着手できずに放置された施設が多く残るためだ。全国の道路や橋などでは5年に1度の点検が義務化されている。国交省が23年末にまとめた調査によると、政令指定都市を除く市区町村が管理する施設のうち橋梁の60.8%、トンネルの47.4%は修繕していなかった。国管理で未着手なのは橋梁だと37.7%、トンネルだと31.5%で、地方の取り組みの遅れが目立つ。海岸や港湾の一部施設も同じ傾向にある。市区町村の堤防・護岸などで修繕に未着手の割合は85.9%で、国管理の78.4%を上回る。道路施設ほどの開きはないものの、深刻な状況だ。地方自治体で必要な予算や職員を確保できず、インフラを維持管理する体制が脆弱になっていることが背景にある。総務省によると、市町村の歳出で道路や橋などの整備に充てる土木費は21年度に6兆5000億円程度で、ピーク時の1993年度から43%減った。高齢化で社会保障費が膨らみ公共事業に回す余裕がなくなっている。インフラ整備にあたる技術系職員も不足したままだ。市町村のうち全体の25%に相当する437市町村は1人も確保できていない。土木部門の職員数の減少率は市町村全体の職員数の減少よりも大きい。広島県の安芸太田町は技術系職員が数十年にわたりいない。担当者は「募集はしているが応募がない」と話す。専門知識がない事務職員が対応せざるを得なく、外部委託費などでコストがかさんでいるという。政府はインフラの損傷が生じてから手を打つのではなく、その前に修繕する「予防保全」への転換を急いでいる。国交省が所管するインフラを予防保全した場合、2048年度の維持管理・更新費は、事後対応より5割ほど縮減できる見込みだ。公共事業で整備するインフラは学校や公営住宅などの公共施設と、道路や橋などの土木施設が半分ずつを占める。東洋大の根本教授は、公共施設は機能集約や統廃合で予算を削減できると主張する。一方で代替できない土木施設は「財源に余裕あるのならしっかり手当てしていく必要がある」と指摘する。

*4-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240112&ng=DGKKZO77599940S4A110C2EA2000 (日経新聞 2024.1.12) OECD、日本に定年制廃止提言 働き手確保へ女性活躍を
 経済協力開発機構(OECD)は11日、2年に1度の対日経済審査の報告書を公表した。人口が減る日本で働き手を確保するための改革案を提言した。定年の廃止や就労控えを招く税制の見直しで、高齢者や女性の雇用を促すよう訴えた。成長維持に向け、現実を直視した対応が求められる。日本の就業者数は今後、急速に細る。OECDは23年に外国人も含めて6600万人程度と推計した。出生率が足元の水準に近い1.3が続けば、2100年に3200万人に半減する。OECDは高齢者や女性、外国人の就労底上げなどの改革案を実現すれば出生率が1.3でも2100年に4100万人の働き手を確保できると見込む。出生率を政府が目標とする1.8まで改善できれば5200万人超を維持できるという。高齢者向けの具体策では、定年の廃止や同一労働・同一賃金の徹底、年金の受給開始年齢の引き上げを提示した。OECD加盟38カ国のうち、日本と韓国だけが60歳での定年を企業に容認している。米国や欧州の一部は定年を年齢差別として認めていない。日本で定年制が定着した背景には、年功序列や終身雇用を前提とするメンバーシップ型雇用がある。企業は働き手を囲い込むのと引き換えに暗黙の長期雇用を約束することで、一定年齢での定年で世代交代を迫った。職務内容で給与が決まる「ジョブ型雇用」は導入企業が増える傾向にある。岸田文雄首相は23年10月の新しい資本主義実現会議で「ジョブ型雇用の導入などにより、定年制度を廃止した企業も出てきている」と述べた。OECDは年功序列からの脱却などを指摘するが、大企業を中心にメンバーシップ型の雇用は根強い。マティアス・コーマン事務総長は11日の都内での記者会見で「働き続ける意欲が定年制で失われている」と強調した。政府の新しい資本主義実現会議では、高齢者がスキルに見合った待遇を受けられることも念頭に、ジョブ型導入の事例集の作成を急いでいる。定年制の抜本的な見直しについては、政府の公の議論の俎上(そじょう)には載っていない。厚生労働省の22年の調査によると、日本企業の94%が定年を設けている。うち7割が60歳定年だ。政府は65歳までの雇用確保を義務づけ、21年度からは70歳までの就業機会の提供を努力義務にした。パーソル総合研究所の21年の調査では70歳以上まで働き続けたいと希望する60代従業員は4割以上おり、就労意欲がある。働き方が変わる中で、定年の仕組みをどうしていくかの議論が重要な局面になりつつある。報告書は、公的年金を支給する年齢水準についても平均寿命の延びに追いついていないと主張した。現在は65歳となっている標準的な受給開始年齢の引き上げを求めた。同一労働・同一賃金の徹底で、正規と非正規の労働者の待遇格差をなくすことにも言及した。女性の就労促進では年収が一定額を超えると手取りが減る「年収の壁」をなくすよう提起した。女性の働き手に占める非正規の割合は5割と、男性の2割に比べて高い。第3号被保険者や社会保険料控除など、女性の就業調整につながる税制などの抜本的な見直し案を示した。外国人労働者の誘致では差別防止や、高い技能をもつ外国人労働者の配偶者が日本で就労しやすくすることを提案した。働き手の減少は日本の経済力の衰えに直結し、社会保障の維持もいっそう難しくなる。政府や企業は問題を真摯に受け止めて早急に対応する必要がある。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240111&ng=DGKKZO77563480Q4A110C2EA1000 (日経新聞社説 2024.1.11) 人口危機に立ち向かう戦略策定を急げ
 岸田文雄政権は問題提起をしっかり受け止め、すみやかに行動に移すべきだろう。民間有志による人口戦略会議が公表した人口危機に関する提言のことである。三村明夫・前日本商工会議所会頭を議長とする同会議には、経済界、労働界、学識者などの有志28人が参加。人口減が進むなかで持続可能な社会をつくるための提言をまとめ、2100年を見据えた長期的な国家戦略の策定と推進を首相に求めた。人口動態の基調が変わらない限り、1億2400万人いる日本の人口は2100年には6300万人に半減すると推計されている。あまりにも急激な人口減少に直面する社会や経済、地域がはたして持続可能なのか、多くの国民が不安を抱いているはずだ。ところが今の日本は危機に正面から向き合っていない。人口危機への対策を総合的に議論する場すら政府や国会に存在しないのだ。人口が急激かつ止めどなく減り続けると、社会や経済はひたすら縮小と撤退を強いられる。高齢化率が4割で高止まりする超高齢社会が続き、格差と対立が深刻化。インフラやサービスの機能停止で地方社会は消滅の危機に陥る。提言はこうした縮小と停滞を避けるため、人口減のペースを緩和させ、8000万人の規模で安定させる必要性を訴えた。外国人労働者の受け入れは高技能者に絞りつつ、経済全体の生産性を高める改革によって、2050~2100年に年率0.9%程度の実質国内総生産(GDP)成長率を維持する想定だ。実現するには60年までに合計特殊出生率が2.07に到達する必要がある。そのためには40年ごろまでに出生率が1.6、50年ごろまでに1.8に上昇することが望ましいと分析している。出生率1.26の日本にとって容易ではないが、決して不可能ではないはずだ。政府は提言も参考に戦略をつくってほしい。子どもを持つかは個人の選択であり、目標が独り歩きして出産を強要するような風潮が生まれないようにするのは当然のことだ。人口危機に立ち向かう戦略は政官民が問題意識を共有して、長期間にわたって粘り強く推進する必要がある。政府は戦略の立案・推進体制を整え、国会議員は政争の具とせずに超党派で法制化するべきだ。民間や地域も含め、国民的な議論を深めるときだ。

<活断層の長期評価と住民の安全>
PS(2024/1/18追加):*5-1は、①M7.6の能登半島地震の震源となった断層は未知のものではなく、政府有識者検討会が2014年に公表した活断層だった ②政府の地震調査委員会もこの断層を把握していたが、「長期評価」をせず広く周知されていなかった ③少なくとも異なる三つの断層がずれ動き、既知の活断層がずれて周辺の地盤が破壊された可能性が高い ④能登半島沖は産業技術総合研究所の調査で珠洲沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた ⑤政府の地震調査委は「調査には時間が必要」とする ⑥能登半島地震が既知の海底活断層で起きたのなら、地震調査委員会は存在を把握しながら危険性を地域住民に伝えていなかった としている。
 このうち①②③は、M7.6の能登半島地震が起きた後で、「政府有識者検討会が2014年に公表した活断層だった」「地震調査委員会もこの断層を把握していたが、『長期評価』をせず広く周知させていなかった」などとしている点が、危機管理の基本(最悪の事態に備えること)を忘れている。また、⑤⑥について、政府の地震調査委は「調査には時間が必要」ともしているが、阪神大震災から29年も経っているのに海底活断層が未調査(安全であることも確認されていない)というのは悠長すぎ、未調査なら最悪の事態に備えて原発立地や使用済核燃料の保管も止めるべきだ。その上、④については、「産業技術総合研究所の調査で珠洲沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた」としているが、*5-4のように、志賀原発は能登半島地震で、i)使用済核燃料プールの水がこぼれた(激しい地震で燃料プールの水がこぼれるのは自然だが、プールに罅は入っていないか?) ii)冷却ポンプも一時止まった iii)外部電源を受ける変圧器が損傷して油が漏れた iv)周辺に自治体や国が設けた放射線量測定設備の一部でデータが送れなくなった v)北陸電力は、地震による津波の影響を「敷地内に海水を引き込んでいる水槽の水位変動は確認できなかった」としていたが、実際には約3メートル上昇していた vi)変圧器から漏れた油の量も最初の発表の5倍以上だった vii)2016年に有識者会合が「敷地内の断層は活断層と解釈するのが合理的」と評価したが、北電の反論で原子力規制委員会が同社の見解を認めていた などの事実があり、北電は活断層や地震・津波のリスクをできるだけ小さく見せようとしていることがわかるのだ。そして、これは、確かに全国の原発に共通する問題である。
 また、*5-2は、⑥政府や石川県は、能登半島地震で震源となった海底活断層を地震動の予測に反映していなかった ⑦海底活断層の影響は他の地域でも殆ど反映されていない ⑧能登半島の北の海底を沿うように走る「F43」「F42」を含む海底活断層は、国土交通省が東日本大震災を受けて平成26年にまとめた報告書等に取り上げられ津波のリスク想定に活用されてきたが、政府の地震調査委員会の「地震動予測地図」には加味されなかった ⑨海底活断層は「陸上に強い揺れをもたらすものではない」というイメージが一部にあり、従来の予測に殆ど反映されなかった ⑩周辺の海底活断層が予測に反映されていないケースは他にもあり、例えば新潟県・佐渡も周辺に海底活断層が集中しているが、地震調査委の長期評価の対象になっておらず、地震動予測にも反映されていない としているが、⑥~⑩のように、海底活断層は地震動の予測に反映せず、国土交通省が東日本大震災後の報告書で津波のリスク想定に活用しても政府の地震調査委は「地震動予測地図」には加味しなかったというのは、非科学的である上、根拠もなく住民を安心させ、何の準備もしていなかった点で、故意か業務上過失致死罪にあたりそうだ。そのため、こういうところも厳しくすべきである。
 さらに、*5-3は、⑪能登半島地震は半島沖の活断層によって引き起こされた ⑫活断層は1995年の阪神大震災で広く知られるようになり、政府の地震調査研究推進本部ができるなど調査・研究体制の整備が進んだ ⑬海域の活断層が起こす地震の切迫度等に関する評価は陸域の後回しとなり、警戒感が高まらないうちに今回の地震が起きた ⑭能登半島沖の活断層は2007年の能登半島地震を機に調査が進み、複数の断層が計100km以上にわたって延びているとの研究成果もあったが、「長期評価」は陸域の活断層から進めて海域はわずかで順番にやっている最中だった ⑮海域の活断層の評価は2022年に公表した日本海南西部(九州、中国地方の北方沖)のみ ⑯地震本部が公表した2020年から30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した「地震動予測地図」では、関東から四国地方にかけての太平洋側が26%以上で能登半島は3%程度 ⑰(作成時に)能登半島沖に活断層があるという情報が入っていないので結果的に評価が低くなった可能性 等としている。
 このうち、⑪⑫は事実だろうが、⑬は根拠もなく「海域の活断層が起こす地震の切迫度は低い」としている点で非科学的すぎる。また、⑭の「順番にやっている最中だった」というのも、能登半島の地震の「2018年頃から地殻内地震が増加傾向、2020年12月から地震活動が活発化、2023年5月頃からさらに活発化、2024年1月1日のM7.6の地震」という経過から見て、優先順位が高かった筈だし、評価順や評価速度に関するアドバイスをするのも地震学者の責任であろう。さらに、⑯の地震本部が公表した「地震動予測地図」では、関東から四国地方にかけての太平洋側が26%以上で能登半島は3%程度であり、⑰のように、作成時に能登半島沖に活断層があるという情報が入っていなかったというのは不完全すぎる。そのため、⑮の2022年公表の日本海南西部海域活断層評価も、意図的に不完全なのではないかと思われるわけである。


   国土地理院   2022.3.25地震本部      2024.1.15産経新聞

(図の説明:ユーラシア大陸の一部だった日本列島が大陸から切り離されて日本海ができ、瀬戸内海もできていった経緯を考えれば、海底にも無数の断層があり、その断層が陸地の断層と同じく火山や地震の源となることは容易に想像できる。そして、現在も、日本列島は、左図のように、時々刻々と動いているため、歪みの溜まった地域で歪みが修正される際に地震が起こるのだ。そのような中、中央の図の日本海側の活断層は異常に少なく表示されている上、四国電力伊方原発付近の断層は説明書きで見えない。さらに、右図のように、海底の活断層が起こす地震のリスクが無視されていたのは、地球表面のでき方に関する活きた研究材料が身近にあるにもかかわらず、非科学的すぎる)

*5-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/302805 (東京新聞 2024年1月15日) M7.6は「想定されていた」 能登半島地震の活断層は「未知」でもなかった? 周知や対策は
 最大震度7、マグニチュード(M)7.6を観測した能登半島地震。震源となった断層(震源断層)は未知のものではなく、政府の有識者検討会が2014年に公表した活断層だったとの見方が専門家の間で有力になってきた。政府の地震調査委員会もこの断層を把握していたが、地震の切迫度などを調べる「長期評価」をしておらず、広く周知されていなかった。
*長期評価 活断層で発生する地震やプレートの境界で起きる海溝型地震を対象に、地震の規模や「30年以内に何%」といった発生確率を予測。政府の地震調査委員会が検討し、現在114の主要活断層や6地域の海溝型地震などについて発表している。南海トラフ地震だけ他の地震と確率を出す計算方法が異なり、地震学者らから「水増し」の問題が指摘されている。
◆政府の地震調査委「調査に時間が必要」
 「99%、調べていた断層が動いたと言える」。今回の地震について、東北大の遠田(とおだ)晋次教授(地震地質学)は語る。筑波大の八木勇治教授(地震学)も地震計のデータ解析から「少なくとも異なる三つの断層がずれ動いた。既知の活断層がずれて、周辺の地盤が破壊された可能性が高い」と話す。地震調査委は震源断層は約150キロとするが、既知の断層だったかは「調査に時間が必要」としている。能登半島沖は、産業技術総合研究所の調査で珠洲(すず)沖や輪島沖などに数十キロにわたる複数の断層が見つかり、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の安全性を巡る評価で考慮されるなど専門家の間では知られていた。
◆地震起きたら「M7.6になる」との想定が現実に
 政府の有識者検討会は13〜14年、日本海側全体の海底活断層を調査。海底地形のデータなどから60カ所について、活断層が動いた場合に起こる地震や津波の程度を予測する「断層モデル」をつくり、公表した。今回の震源域には「F42」「F43」という断層モデルがあり、1日の本震後に起きた余震の震源域とほぼ重なる。検討会は、F43で地震が起きた場合はM7.6になると想定していた。地震調査委が発表する主要な活断層の「長期評価」は当初、陸域の活断層に限っていた。17年からは海底活断層も加えて調査している。評価を終えたのは九州・中国地方北方沖のみ。能登半島沖は評価に向けた検討が始まったばかりで、強い地震に遭う確率を色別で示した「全国地震動予測地図」に反映されていない。地震調査委の平田直(なおし)委員長は2日の会見で「もう少し早くに(海域の活断層の)評価をやるべきだった。残念だ」と語っていた。
◆記者解説 住民にとっては「ノーマーク」再び
 政府の地震調査委員会が所属する地震調査研究推進本部は、1995年の阪神淡路大震災の反省から設けられた。神戸周辺の活断層の存在は専門家の間では知られ、地震が懸念されていたが、地元自治体の対策が不十分で、住民にも危険性が伝わっていなかった。能登半島地震が既知の海底活断層で起きたとすれば、調査委は存在を把握しながらも、危険性を地域住民にしっかり知らせることができておらず、反省が生かされたとはいいがたい。日本の沿岸全体で海底活断層の評価が終わるまでには、まだまだ時間がかかる。その間は調査委の情報として周知されず、住民にとっても「ノーマーク」となるリスクをはらむ。調査委が中間評価という形でも、どこに活断層があるかを広く知らせることは急務だ。

*5-2:https://www.sankei.com/article/20240115-XDJ3IXFKTZIGBPAZ5MKBVXJSBM/ (産経新聞 2024/1/15) 見過ごされた海底活断層「F43」のリスク 同種地震の予測にも課題
 最大震度7の強い揺れが観測された能登半島地震で震源となったとみられる2本の海底活断層について、政府や石川県が地震動(地震による強い揺れ)の予測に反映していなかったことが15日、分かった。県の被害想定や対策にも影響した可能性がある。海底活断層の影響は他の地域でもほとんど反映されておらず、専門家は早急な対応を求めている。《冬の夕刻、能登半島北方沖を震源とした地震が発生する》。石川県の「地域防災計画」に挙げられた大地震のシナリオの一つは、今回の地震とよく似ている。だが、被害の想定は実際よりもかなり小さい。県は「ごく局地的な災害」として、死者7人、負傷者数211人と予測していたが、実際の能登半島地震では15日時点で222人の死亡が確認され、千人以上が負傷した。東北大災害科学国際研究所の遠田晋次教授によると、この想定には、実際に震源になったとみられる海底活断層が考慮されていなかった。能登半島の北の海底を沿うように走る「F43」「F42」と呼ばれる2本の海底活断層。F43を震源とする地震は、事前に予想された規模もマグニチュード7・6と、今回の地震におおむね合致する。これら2本を含む海底活断層は、国土交通省が東日本大震災を受けて平成26年にまとめた報告書などに取り上げられ、津波のリスク想定に活用されてきた。だが、全国の地震による揺れを予測・分析する政府の地震調査委員会の「地震動予測地図」には加味されなかった。海底の活断層については、「陸上に強い揺れをもたらすものではない、というイメージが一部にあった」(遠田氏)といい、従来の予測にはほとんど反映されてこなかったという。周辺の海底活断層が予測に反映されていないケースはほかにもある。例えば新潟県・佐渡も周辺に海底活断層が集中しているが、地震調査委の長期評価の対象になっておらず、地震動予測にも反映されていない。遠田氏は「このままでは、同じことがまた起きてしまう。早急に取り組むべきだ」と指摘する。地震調査委は平成29年4月、海底の活断層について将来の地震発生確率を評価するための分科会を設置。令和4年、日本海南西部(九州・中国地方沖)側の海域活断層についての長期評価が公表された。だが、他の地域は未公表のままだ。産業技術総合研究所名誉リサーチャーの岡村行信氏によると、海底活断層は掘削による調査が難しく、活動周期や最終活動時期といった地震予測に必要な情報の信頼性が陸上の活断層に比べ落ちるといったハードルもある。ただ、岡村氏は「難しいが、不可能な話ではない。海底の活断層も当然、予測に組み込むべきだ」と強調した。

*5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1178396 (佐賀新聞 2024/1/17) 【活断層評価】阪神で注目も海域後回し、能登地震前、警戒高まらず
 能登半島地震は、半島沖に延びる活断層によって引き起こされた。活断層は1995年の阪神大震災で一般に広く知られるようになり、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)ができるなど調査、研究体制の整備が進んだ。だが海域の活断層が起こす地震の切迫度などに関する評価は陸域の後回しとなり、警戒感が高まらないうちに今回の地震が起きた。専門家からは「後手に回った感は否めない。早急に進めなければ」との声も上がる。
▽悔い
 「ノーマークではなかったというところが、非常に悔いが残る」。政府の地震調査委員会のメンバーでもある西村卓也京都大教授(測地学)は、こう漏らした。能登半島沖の活断層は、2007年の能登半島地震を機に調査が進み、複数の断層が計100キロ以上にわたって延びているとの研究成果もあった。しかし、地震の規模や発生確率を予測する地震本部の「長期評価」は、陸域にある活断層の評価から進めており、海域の評価はわずかだ。西村氏は「研究者によっては(海域の活断層に)非常に問題意識を持っていたと思うが、順番にやっている最中だった」と話す。
▽批判
 都市直下で起きた地震で多くの被害を出した阪神大震災を機に、活断層の怖さが広まった。研究者は震災以前から活断層に注目していたものの、その危険性が住民に伝わっていなかった。予知に主眼を置いたそれまでの対策にも批判が集まり、調査研究を防災に生かすことを狙いに地震本部は発足した。地震本部はこれまで、主に陸域にある114カ所の「主要活断層帯」と、東日本大震災を引き起こした日本海溝沿いや南海トラフ、相模トラフなど各地の海溝型地震の長期評価を公表。一方、海域の活断層の評価は22年に公表した日本海南西部(九州、中国地方の北方沖)のみだ。
▽先手
 地震本部が公表している、2020年から30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した「地震動予測地図」。関東から四国地方にかけての太平洋側が26%以上となっているのに対し、能登半島は3%程度だ。「(作成時に)能登半島沖に活断層があるという情報が入っていないので結果的に評価が低くなった可能性がある」(西村氏)。東日本大震災を受け、プレート境界で起こる海溝型地震に目が向きがちだったと指摘する専門家もいる。日本海側の津波防災に向け、海域の活断層を評価した国土交通省の調査検討会は、能登半島沖に今回の震源とほぼ一致する活断層のモデルを想定していた。東北大の遠田晋次教授(地震地質学)は「津波想定としては良かったが、地震による揺れの予測に用いていなかったのは反省すべき点だ」と話す。遠田氏は「何かが起こるたびにそれが注目されるというのを繰り返している。自然は不意を突いてくるので、先手先手でやっていかなければならない」と強調。「新幹線の線路やビルの真下で活断層がずれることによる被害など、過去に起きたことがないことも想定して対策を検討しなければいけない」と警鐘を鳴らした。

*5-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15840955.html (朝日新聞社説 2024年1月18日) 地震と原発 幅広い視点で教訓導け
 能登半島地震は、原子力防災にも多くの課題を突きつけた。電力会社や政府、自治体は幅広い視野で検証し、何が教訓か考える必要がある。北陸電力志賀原発では、使用済み燃料プールの水がこぼれ、冷却ポンプも一時止まった。外部電源を受ける変圧器が損傷し、油が漏れた。周辺に自治体や国が設けている放射線量の測定設備の一部は、データが送れなくなった。いずれも原因や影響を詳細に調べなければならない。地震による津波の影響について、北陸電力は当初、敷地内に海水を引き込んでいる水槽の「水位変動は確認できなかった」としていたが、約3メートル上昇していた。変圧器から漏れた油の量も最初の発表の5倍以上だった。相次ぐ訂正に、経済産業省から正確な情報発信を指示された。慎重になるあまり発表が遅れてはならないが、誤情報は住民に不安を与え、被害の過小評価は重大な結果を招きかねない。他の電力会社も含め、教訓にすべきだろう。志賀原発は、敷地内の断層の評価をめぐり、2号機の再稼働の審査が長引いている。2016年に有識者会合が「活断層と解釈するのが合理的」と評価したが、北陸電力が反論し、原子力規制委員会が昨年、同社の見解を認めたところだった。一方、規制委は10日に、今回の地震の知見を収集するよう原子力規制庁に指示した。地震の審査を担当する委員は「いくつかの断層が連動して動いている可能性がある。専門家の研究をフォローし、審査にいかす必要がある」と発言しており、丁寧な分析と検討が求められる。活断層や地震の連動、揺れの想定や施設への影響など、今回の地震が浮き彫りにした課題は、志賀原発にとどまらず全国の原発に多かれ少なかれ共通する。今回の震源の近くには、かつて珠洲原発の立地も検討されていた。教訓を引き出し、規制や防災に役立てなければならない。今回の地震では、道路の寸断による半島の孤立も改めて問題になった。四国電力伊方原発や東北電力女川原発なども半島にある。原発事故が起きた場合に、避難や救援を妨げかねない。家屋の激しい損壊状況をみれば、放射線を避けるための屋内避難もできない恐れがある。規制委は原子力災害対策指針の見直しを検討するというが、緊急対応や避難対策の課題を掘り下げてほしい。地震大国での原発のリスクが、改めてあらわになった。政府は、原発の活用に前のめりの姿勢を改めるべきだ。

<地盤隆起で漁港が消えても、土地の使い道はありそう>
PS(2024年1月20日追加):*6-1・*6-2のように、能登半島地震による地盤隆起で輪島市の黒島漁港では漁港内の海水がなくなって海岸線が波消ブロックより沖に移動し、大沢漁港では水の引いた港内に漁船が残され、鹿磯漁港では約4mの隆起を確認するなど、石川県内の15港で隆起が確認され、能登半島周辺のこの6000年間で最大規模の隆起の可能性があって、海底の断層はもしかしたら6~7mのずれができているかもしれないのだそうだ。しかし、隆起すれば土地が増えるため、道路を4車線にできたり、海抜0m地帯で養殖(例:エビ・カニ・ウ二etc.)をできたりなど、復旧するよりもできた土地を利用した方が良いと思われる。漁港は海に面した先の方に造り直せばよいし、隆起の状況やそれに関する説明も観光資源になると思われる。

  
2024.1.16LivedoorNews   2024.1.12TV朝日      2024.1.16Yahoo

(図の説明:左図は、漁港が完全に陸地となった黒島漁港だが、できた空き地を利用して道路を4車線に拡幅したり、養殖池を作ったりできそうだ。中央の図は、約4mの隆起を確認した鹿磯漁港だが、漁船はひどく壊れているようには見えない。また、右図が能登半島における地面の隆起だが、能登半島はこのような隆起の繰り返しでできた半島なのだそうだ)

*6-1:https://news.livedoor.com/article/detail/25709868/ (LivedoorNews 2024.1.16) 海が消えた漁港、沖に移動した海岸線 能登上空から見た地盤隆起
 能登半島地震による地盤の隆起で、石川県輪島市や珠洲市の漁港に大きな被害が出ている。上空から輪島市門前町黒島町の海岸を見ると、黒島漁港の中には海水がなくなり、海岸線は消波ブロックよりも沖合にあった。同市大沢町の大沢漁港では、水の引いた港内に漁船が残されていた。県によると、15日現在で県内の8割を超える58の漁港に地震による被害が出ており、そのうち15港で隆起が確認されている。漁船172隻以上が転覆したり、海に流出したりした。

*6-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/223644639f0d636fdbc26fb813a4880e305bcc8d (Yahoo、テレビ朝日 2024/1/16) 能登半島地震で起きた地面隆起 6000年間で最大か
 能登半島地震で起きた地面の隆起が、能登半島周辺では、およそ6000年の間で最も大規模だった可能性があることが現地調査で分かりました。
○産業技術総合研究所 地質調査総合センター 宍倉正展グループ長
「過去6000年間の3回と比べても今回の地震の4メートルという隆起は最も大きいものであった可能性があります」
 産業技術総合研究所の宍倉正展グループ長らは、8日に、輪島市の鹿磯漁港で調査を行い、およそ4メートルの隆起を確認しました。地震が起きると浅い海底が隆起し、階段状の地形を作ります。去年までの調査で、輪島市の海岸ではおよそ6000年の間に出来たとみられる3段の階段状の地形が確認されていましたが、いずれも隆起の規模は2、3メートル程度でした。今回の地震でできた4段目の隆起量が最も大きい可能性があるということです。
○産業技術総合研究所 地質調査総合センター 宍倉正展グループ長
「海岸の隆起という現象を30年余り研究してますけれども、非常に私も驚きました。沖合で海底の断層がもしかしたら(さらに大きい)6メートル7メートルといったずれができているのかもしれない。それが海岸に反映されると4メートルぐらいになってるのかもしれないと想像してますね」
 宍倉氏は、今後も能登半島北岸の状況を確認して、今回の隆起の全体像を明らかにしたいとしています。

<政治資金規制法改革のポイント>
PS(2024年1月21、22日追加):*7-1は、①派閥の政治資金収支報告書は専門職による監査制度の対象外 ②派閥の代表者に政治家が就く必要もない ③透明性を高めるルール見直しが必要 ④派閥は「その他の政治団体」に分類 ⑤「その他の政治団体」で会計ルールが最も厳格なのは国会議員関係政治団体で人件費を除く1万円超の経費の領収書提出が必要で、第三者の会計監査を受ける義務もある ⑥監査制度は2006~07年に発覚した「事務所費問題」を契機に2009年分国会議員の収支報告書から導入 ⑦(登録政治資金)監査人は公認会計士・税理士・弁護士といった専門職 ⑧政治家が代表を務める資金管理団体は次に厳格な収支報告を求められ、人件費を除く5万円以上の全ての経費について2008年分から領収書添付が義務 ⑨派閥の政治団体は収支報告書では5万円未満の経費の領収書提出は不要で、監査を受ける義務もない ⑩政治団体代表は政治家である必要がなく、安倍派と二階派は事務局職員が代表で会計責任者 ⑪政治資金規正法には収支報告書に不記載・虚偽記入といった問題があった場合、政治団体の代表者の責任を問う規定がある ⑫日大の岩井名誉教授は「トップに事務員を置けば政治家はさらに追及されにくくなる」と指摘 等としている。また、*7-2は、⑬自民党派閥の政治資金パーティー事件は、第三者が政治団体の収支を点検する体制の脆弱さを浮き彫りにした ⑭米英は一定の調査権限を持つ独立機関を抱えるが、日本では権限の弱い監査人による支出のチェックに留まる ⑮自民党刷新本部は、派閥の在り方と政治資金の透明化がテーマ ⑯2007年に「国会議員関係政治団体」として届けられた政治団体を第三者が監査する「登録政治資金監査人」制度が生まれたが、対象は国会議員が代表の政党支部や資金管理団体等に限られ、支出の整合性のチェックが主な業務で、収入のチェックは義務付けられていない ⑰米国は政治資金の流れを「連邦選挙委員会」と呼ばれる独立機関が監視し、政治資金収支報告書の提出後、48時間以内にインターネットで公表する ⑱神奈川大の大川教授は「監査対象の団体や項目を増やすとともに、中長期的には強い第三者性を帯びた組織を整えるべきだ」と話した としている。
 論点をまとめると、①③④⑤⑥⑦⑧⑨⑪⑬⑭⑮⑯は、「政治資金収支報告書のうち監査対象となる範囲」で、現在は国会議員関係の政治団体だけが対象だが、公金の流れるところに監査は必要なのである。そのため、国会議員だけでなく、地方議員や派閥の政治資金収支報告書にも登録政治資金監査人の監査は必要だ。また、有効な監査をするには、網羅性・検証可能性のある複式簿記を用いた会計処理を行い、外部監査人が適正と判断すれば連帯責任を持つ方式にすべきで、そうすれば監査人は代表者に「虚偽記載はしていない」という確認書をもらうため、代表者は監査人にも責任を負うと同時に、適正意見を得ている限りは粗探しによるバッシングから守られる。つまり、改善に必要なのは、適切な会計基準と監査基準なのである。
 また、②⑩のように、派閥の代表者に政治家が就いていない場合、代表者でも会計責任者でもなければ責任追及できないためよく考えたと思うが、⑫のように、「政治家の責任が軽すぎる」とか「連座制にすべき」という主張もある。ただ、私も公認会計士なので「83会」の会計責任者をしていたが、同じく公認会計士の政策秘書に任せて83会の会計は殆ど見ていない。一般の民間企業では、社長より経理部長の方が会計に詳しく、社長が経理ばかりしていれば会社は伸びないのと同様、代表が会計責任者より経理に詳しいわけではないため、不意を突くような非難や責任追及は避けるべきである。そのため、会計責任者が責任を持ち、登録政治資金監査人が政治家に虚偽記載の有無について確認書をとって注意喚起しながら監査をすればよいと思われる。
 さらに、⑭⑰⑱は、「米英は一定の調査権限を持つ独立機関を抱え、日本では権限の弱い監査人による支出のチェックに留まる」「中長期的には強い第三者性を帯びた組織を整えるべきだ」としているが、外部監査人の権限は、会計基準と監査基準を変更すれば強くなる。むしろ、日本で政治家の監査だけを行なう独立機関を作れば、他の業種を知らずに政治の世界だけ見てきた監査人が殆どになるため、政治の世界の出来事が当たり前になって、会計検査院と同様、重要な異常性に気づかなくなるだろう。

    
2023.12.18読売新聞 2024.1.15静岡新聞 2012.2.13日経新聞 2017.6.2日経新聞

(図の説明:国会議員関係の政治団体は、1番左の図のように、提出前に公認会計士・税理士・弁護士等の登録監査人の監査を受けて政治資金収支報告書を提出する。しかし、左から2番目の図のように、網羅性・検証可能性のない単式簿記会計を使用し、かつ、収入は監査の対象外という状況であるため、複式簿記による会計を使用して通常の外部監査を行なえば総務省の調査は不要である。ただし、公表時期も、民間企業や他国と比較してあまりに遅い。なお、右から2番目の図のように、日本は人口100万人あたりの国会議員の数が少なく、1番右の図のように、議員1人あたりの公設秘書数も少ないため、議員1人あたりの公設秘書数を増やし、議員が「寄付集め」に翻弄されずに調査や政策立案に専念できる状態を作った方が国益のためになると思う)

    
   2024.1.19静岡新聞          2023.12.13日テレ

(図の説明:左図の政治資金規正法違反事件は、ノルマ超過分を環流したりプールしたりしたことが問題なのではなく、派閥と議員側がノルマ超過分を政治資金収支報告書に記載しなかったことが問題なのである。また、パーティー等で寄付を集めなければならない理由は、右図のように私設秘書の給料や政治活動費を捻出する必要があるからで、まるで金を横領しているかのように言って国会議員を叩いても、《理由を長くは書かないが》本当の民主主義は達成できない)

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231226&ng=DGKKZO77259570V21C23A2CM0000 (日経新聞 2023.12.26) 派閥資金、報告制度に緩さ、会計、外部監査不要 代表は政治家に限らず
 自民党派閥の政治資金規正法違反事件は、派閥の会計処理へ監視が届きにくく責任も曖昧な実態を浮き彫りにした。派閥の収支報告書は専門職による監査制度の対象外で、収支報告に一定の責任を負う代表者に政治家が就く必要もない。裏金づくりの慣例は長年表面化しなかった。透明性を高めるためのルール見直しが求められる。政治資金規正法は政治上の主張を行ったり、公職の候補者を支持したりする団体を政治団体と規定する。「政党・政党支部」、政党の資金援助を目的とする「政治資金団体」、「その他の政治団体」の3つに大別される。派閥は政策研究のためにつくられた集団という位置づけで、議員の後援会などと同様にその他の政治団体に分類される。ある議員秘書は「派閥団体は政治資金の処理を巡る規制があまり厳しくない部類に属する」と話す。その他の政治団体のうち、会計ルールが最も厳格なのは国会議員関係政治団体だ。代表者が議員だったり、特定候補者を支援したりする団体が該当する。人件費を除く1万円超の経費について領収書の提出が必要で、第三者の会計監査を受ける義務もある。監査制度は2006~07年に相次いで発覚した「事務所費問題」を契機に、国会議員との関わりの深い団体の資金の透明化を図る狙いで09年分の収支報告から導入された。監査人は一般的に、公認会計士や税理士といった専門職が務める。政治家が代表を務める資金管理団体は次いで厳格な収支報告を求められている。人件費を除く5万円以上の全ての経費について、08年分から領収書の添付が義務となった。資金管理団体の多くは国会議員関係政治団体にも重複して区分されている。派閥の政治団体は特定の議員とつながりが深いとはみなされず、いずれにも該当しない。収支報告では5万円未満の経費の領収書の提出は不要で、監査を受ける義務もない。収支報告の精密さと使途の公開を巡るルールは比較的緩い。派閥は領袖の名前を冠して安倍派(清和政策研究会)などと呼ばれる一方、政治団体の代表は必ずしも政治家である必要はない。家宅捜索を受けた安倍派と二階派(志帥会)の代表は事務局職員だ。2派閥では会計責任者も同じ人物が務めている。規正法には収支報告書に不記載・虚偽記入といった問題があった場合、政治団体の代表者の責任を問う規定がある。会計責任者の選任・監督で相当の注意を怠ったと認定されれば50万円以下の罰金が科される。代表者と会計責任者の兼務は法令上問題ない一方、代表者に選任・監督責任を問う条項は適用されない。日本大の岩井奉信名誉教授(政治学)は「代表者の責任を定めた規定は形骸化している。トップに事務員を置けば政治家はさらに追及されにくくなる」と指摘する。安倍派ではパーティー収入のノルマ超過分を議員に還流させ、派閥・議員側の収支報告書に記載しない運用が続いていた。裏金は18~22年の5年間に約5億円に上る。同派の裏金は東京地検特捜部の捜査を通じて初めて発覚した。規正法は「政治とカネ」の問題が起きるたびに改正を繰り返してきた。総務省によると、規制内容の修正を伴う改正は1990年代以降で8回あった。岩井名誉教授は「規正法は問題が起きるたび対症療法で改正を繰り返してきたが、『抜け道』はなお多い。改正にあたっては第三者機関を設けその意見を反映させるなど、外部の視点を取り入れた抜本的な見直しが必要だ」と話した。

*7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1177300 (佐賀新聞 2024/1/15) 【政治資金規正法】緩い監視体制、浮き彫りに、米英には独立の調査機関
 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る事件は、第三者が政治団体の収支を点検する体制の脆弱さも浮き彫りにした。米英は一定の調査権限を持つ独立機関を抱えるが、日本では権限の弱い監査人による支出のチェックにとどまる。識者は監視の緩さを指摘し、欧米のような見張り役の必要性を訴える。
▽抜け穴
 「国民から疑念の目が注がれ、極めて深刻だ」。11日に自民党本部で開かれた「政治刷新本部」の初会合で、本部長を務める岸田文雄首相が危機感をあらわにした。刷新本部は派閥の在り方のルール策定を主要議題に据える。政治資金の透明化もテーマで(1)パーティー券購入者の公開基準を現行の「20万円超」から引き下げ(2)銀行振り込みの導入(3)違反者への厳罰化を見据えた政治資金規正法改正―といった案が浮上。ただ既に幅広い意見が混在し、着地点は見いだせない。野党からは「全く期待できない」「新たな抜け穴づくりをするだけ」と厳しい声が飛ぶ。
▽片側
 現行の規正法は、政治資金の流れを外部から把握できる仕組みが十分でない点も問題とされている。閣僚らによる不透明な事務所費問題を受け、2007年、「国会議員関係政治団体」として届けられた政治団体を第三者が監査する制度が生まれた。「登録政治資金監査人」と呼ばれる税理士や公認会計士が点検する仕組みだが、対象は国会議員が代表の政党支部や資金管理団体などに限られ、派閥は対象外。加えて、支出の整合性のチェックが主な業務で、収入のチェックまでは義務付けられていない。ある元衆院議員は「収入の不記載に気づくことができない。片側しかチェックしない、中途半端な制度だ」と批判する。
▽網
 米国では、政治資金の流れを「連邦選挙委員会」と呼ばれる独立機関が監視する。違法と疑われる行為が確認されれば、当事者への聴取や現地調査を通じて情報を収集。行政罰としての過料を科すこともできる。情報開示のスピードにも格段の差がある。日本では各年の政治資金収支報告書が翌年の秋に公開されるのが一般的だが、米国では提出を受けてから48時間以内にインターネットで公表される。国会図書館の資料などによると、英国では政府から独立した「選挙委員会」が政治資金の流れをチェックする。違法行為を察知した際には調査を実施。捜査機関への情報提供も認められている。神奈川大の大川千寿教授(政治学)は「日本の制度は緩い。監査対象の団体や項目を増やして網を広げるとともに、中長期的には強い第三者性を帯びた組織を整えるべきだ」と話した。

PS(2024年1月25日追加):*8-1は、①多くの被災者が避難所暮らしの中、政府は生活再建・インフラ復旧政策を纏めるが、過去の災害で巨額の公費が地域再生に直結しなかった例もある ②人口減時代の地震大国・日本の復興のあり方を探る ③政府の支援パッケージは、i)) 避難所などの環境改善や住まいの確保など生活再建 ii) 中小、農林業、観光業など生業再建 iii) インフラなどの災害復旧が柱 ④被害額は暫定2兆625億円で東日本大震災(16.9兆円)・阪神大震災(9.6兆円)に次ぐ ⑤国が巨額予算で復興を後押しして有効活用されたと言い難い事例は、東日本大震災後に計4600億円以上を投じた「土地区画整理事業」で津波被災の土地をかさ上げして整備したが、大規模工事に時間がかかり多くの人が故郷を離れて21市町村で28%に当たる282haの土地が未利用 ⑥「元通り」にした地域も人口減が止まらない ⑦国立社会保障・人口問題研究所の推計では2070年の日本の人口は8700万人で、災害前の姿を前提に復興を進めるべきか問われる としている。
 ①②は⑦を考慮すれば尤もで、地震・津波・雪・豪雨災害の多い地域に住む人は、何度も被災したり、避難生活をしたりしなくてよいよう、安全な場所に引っ越した方がお互いのためである。また、④のように、災害が大きいため白紙の土地となり、復興にも巨額の予算を投じることができる場合は、国・地方自治体は「復旧(災害前の状態に戻すこと)」にこだわることなく、この機会に今後の土地利用計画を示し、将来に向けて模範的・合理的な工事を進めるべきで、そうすれば戻って来る人も、他の地域から移住してくる人も増える筈である。にもかかわらず、⑤の「土地区画整理事業」による津波被災地のかさ上げは、陸前高田市のかさ上げ地のように、かさ上げ高が襲った津波の高さに達しないため多額の金を投じても危険性は除去されず、大きな無駄使いになってしまったのだ。さらに、⑥のように、「元通り」にすれば危険性は全く除去できないため、戻る人が少なく人口減になるのは当然である。
 また、*8-2は、⑧2020年7月の豪雨で実施された「なりわい再建支援事業」を基に中小企業の施設・設備の復旧に1件最大15億円補助する ⑨被災自治体の企業が対象で工場・店舗・生産機械等を復旧させる場合に費用の3/4を補助する ⑩輪島塗など地域の伝統産業の事業再開を後押しするため、災害支援枠を設けて需要開拓・新商品開発・人材育成に助成する ⑪アーケードや街路灯の復旧など商店街の再生も支援する ⑫観光支援は新潟県を含む北陸地方への宿泊費やツアー代金の一部を公費で負担する ⑬心のケアセンターを新設して近親者を亡くしたり、トラウマや孤独を抱えたりした人をケアし、仮設住宅に入居した人の見守り・相談支援にも取り組む ⑭住宅が被災した世帯を対象に最大300万円(全壊の場合)の被災者生活再建支援金を迅速に支給し、被災家屋の解体は半壊住宅も住民の自己負担ゼロで可能とする ⑮住まいの確保に、プレハブだけではなく居住性の高い木造の応急仮設住宅も建設する ⑯廃棄物処理施設の早期復旧に向けた支援や生活ごみ・し尿を離れた地域まで運んで処理する経費を支援 ⑰のと鉄道は国と事業者がバスによる代替輸送の調整をし、自治体が管理する道路・河川・漁港の復旧工事は要請に応じて国が代行 としている。
 このうち⑧⑨の被災自治体の企業を対象とする「なりわい再建支援事業」は必要ではあるが、その補助要件を工場・店舗・生産機械等を“復旧”とすれば、生産性向上の機会を失う。また、⑩の輪島塗・加賀友禅等の伝統産業の事業再開も重要だが、現在の手仕事のままでは高価すぎる上に、食洗機対応ではなく、手入れも非常に大変だ。そのため、せっかく災害支援枠を設けるのなら生産性を向上させて問題解決もした方がよく、そのための機械や人材を導入すべきだ。
 しかし、⑪のアーケードや街路灯の復旧など商店街の再生支援については、震災前には人出が多く、儲かっていた商店街なのだろうか。というのは、現在は日本全国の商店街が閑散としたシャッター街になっており、それには理由があるからで、その理由とは、共働き女性が増えれば駅近や駐車場付きのスーパーなど短時間で買い物ができる場所が便利であり、高齢者が多ければ即日配達してくれるスーパーが便利など、消費者のニーズが変わったからである。そのため、これも復旧ではなく、土地利用計画・都市計画あっての復興をすべきだ。また、⑫の観光支援についても、近場のホテルや旅館に二次避難所を作り、⑮のような作っては壊す仮設住宅建設は最小限に抑え、宿泊費やツアー代金の公費補助をなくした方が合理的だと思う。そうすれば、⑯⑰のように、基礎的インフラがずたずたで、食料や水にも乏しく、不衛生な場所に長期滞在する必要はなくなるからである。また、⑬の心のケアについては、将来の見通しが立って不安がなくなれば解決する実質的・物理的なものが多く、心の問題ではないと思われる。しかし、⑭の住宅が被災した世帯を対象に最大300万円(全壊の場合)の被災者生活再建支援金を迅速に支給し、被災家屋の解体は半壊住宅も住民の自己負担ゼロで可能とするのは必要かも知れないが、高齢者の割合が高いことを考えれば、再度、同じ場所に家を建てることは不可能で不合理だ。そのため、安全な場所に高齢者向きの集合住宅を建てて、現在所有している土地と交換するのがよいと思う。
 これに加えて、*8-3は、⑮のように、「1月中に2023年度予算の一般予備費から1000億円を上回る規模の追加支出を閣議決定する」としている。能登半島地震は2023年度に起こった災害であるため、まず2023年度予算の一般予備費から支出するのは妥当だが、下の1番右の図のように、これまでの無駄使いで我が国の国債残高は次第に高くなり、対GDP比で主要国の2倍以上になっているものの、これ以上の負担贈・給付源は不可能であるため、災害であっても無駄遣いせず、将来に役立つ計画的な支出をしてもらいたい。

 
     2024.1.25、2024.1.25、2024.1.9日経新聞        財務省

(図の説明:1番左の図のように、地域の災害リスクが明らかになった上に産業や住宅の再建が遅れれば、避難していた住民も帰還せず再建困難になるため、リスクを除去して新しい魅力を追加する街作りを迅速に行うべきである。そのため、金や時間の無駄使いをしている場合ではない。左から2番目の図で無駄使いになり易いのは仮設住宅と旅行者支援で、近隣の宿泊施設を二次避難場所にした方が合理的だ。また、「なりわい」も復旧するのではなく、時代の変化に適応した復興をさせなければその産業や地域の魅力が増さず、災害リスクを越えて帰還したり移住して来たりする人は減る。さらに、インフラも復旧ではなく、災害に適応した改善をすべきだ。しかし、財源は、右から2番目の図のように、2024年度も予備費を使うそうだが、その基には東日本大震災で不使用になった復興財源を充ててもらいたい。現在の日本の国債残高は、1番右の図のように、GDP比で飛び抜けて世界最悪で、これ以上の負担贈・給付減はできない状況だ)

*8-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240125&ng=DGKKZO77936350V20C24A1MM8000 (日経新聞 2024.1.25) 能登地震、人口減下の復興、生活再建など支援策まとまる 教訓生かしニーズ合致を
 能登半島地震の復興が動き出す。多くの被災者がなお避難所暮らしを強いられる中、政府は生活再建やインフラ復旧の政策をまとめる。過去の災害では巨額の公費が地域再生に直結しなかった例もある。人口減時代の地震大国・日本で復興のあり方を探る。政府の能登半島地震支援(総合2面きょうのことば)のパッケージが25日、公表される。(1)生活再建(2)生業再建(3)災害復旧――が柱となる見通しだ。被害の全容は不明だが、野村総合研究所の木内登英氏は23日までの状況をもとに暫定的な被害額を2兆625億円と推計した。単純比較できないが東日本大震災(16.9兆円)や阪神大震災(9.6兆円)の政府試算に次ぐ規模となる。過去の震災で国は巨額予算で復興を後押しした。だが、すべてが有効活用されたとは言い難い。東日本大震災後に計4600億円以上を投じた「土地区画整理事業」。津波被災の土地をかさ上げして整備したが、大規模工事に時間がかかり多くの人が故郷を離れた。国土交通省の調べでは、21市町村で28%に当たる282ヘクタール、東京ドーム60個分の土地が未利用。住民ニーズと施策のズレが浮き彫りになった。「元通り」にした地域も人口減が止まらない。阪神大震災の神戸市長田区の人口集中地区は2010~20年で約7%減少。東日本大震災の宮城県気仙沼市は71%も減った。国立社会保障・人口問題研究所の推計で、70年に日本の人口は8700万人まで減る。過去の教訓を踏まえ、災害前の姿を前提に復興を進めるべきかが問われる。災害時は国や自治体の「公助」に加え、助け合う「共助」、当事者の「自助」も欠かせないが、平穏な暮らしを奪われた被災者にどこまで負担を求めるかは難しい。1998年に成立した被災者生活再建支援法は当初、住宅全壊世帯の「家財道具調達」に最大100万円を補助し、私有財産である個人の住宅再建は対象外だった。2007年の法改正で使途制限を廃止。補助枠も現在は最大300万円だ。納税者が減り、社会保障費がかさむ時代に公費頼みは限界がある。常葉大の重川希志依名誉教授(都市防災)は「手厚い公助は耐震化などの備えを阻害する面もある。まずは地震保険加入など自助を急ぐべきだ」と話す。米国では05年のハリケーン「カトリーナ」被害の際、民間から資金を集めた財団が約1万戸の住宅を再建・提供。寄付文化とも通底する「共助」の仕組みが注目された。「災害列島」と呼ばれる日本。想定される南海トラフ地震の経済被害額を国は最悪220兆円と推計する。兵庫県立大の井上寛康教授は「戦略的な備蓄や代替先の確保などの備えで供給網への打撃を抑え、経済被害を軽減できれば復興の負担も軽くなる」と訴える。

*8-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1181454 (佐賀新聞 2024/1/22) 中小企業復旧に最大15億円、能登地震支援の政府案
 能登半島地震の被災地支援策をまとめた政府の政策パッケージ案が22日、判明した。中小企業の施設と設備の復旧に1件当たり最大15億円補助する方向だ。観光支援では新潟県を含む北陸地方への旅行費用の一部を補助する。被災者の心のケアに向けた取り組みも本格化する。地震発生から3週間。政府は週内にも正式に決定し、復旧・復興を加速させる。石川県によると、地震の死者は22日午後2時時点で233人が確認された。安否不明者は22人。施設復旧への補助金は、2020年の7月豪雨で実施された「なりわい再建支援事業」を基にする。被災自治体の企業が対象で、工場や店舗、生産機械などを復旧させる場合の費用について、4分の3を補助する。輪島塗など地域の伝統産業の事業再開を後押しするため、災害支援枠を設け、需要開拓や新商品開発、人材育成に助成する。アーケードや街路灯の復旧など、商店街の再生も支援する。旅行支援は宿泊費やツアー代金の一部を公費で負担する。3~4月、金額に上限を設けた上で、宿泊費の50%程度を補助する方向で調整している。被害が大きい能登地域は、復興状況を見ながら、旅行客の呼び込み策を今後検討していく。被災者支援では、心のケアのセンターを新設。近親者などを亡くしたり、トラウマや孤独を抱えたりした人をケアする。仮設住宅に入居した人の見守りや、相談支援にも取り組む。住宅が被災した世帯を対象にした最大300万円(全壊の場合)の被災者生活再建支援金も迅速に支給。被災家屋の解体では、全壊だけでなく半壊住宅も住民の自己負担ゼロで可能とする。住まいの確保も「喫緊の課題」と位置付けた。応急仮設住宅は、プレハブだけではなく、居住性の高い木造も建設する。廃棄物処理施設の早期復旧に向けた支援のほか、生活ごみやし尿を離れた地域まで運んで処理する経費を支援する。のと鉄道は、一部区間で運転再開の見込みが立たないため、国と事業者がバスによる代替輸送の調整をする。自治体が管理する道路や河川、漁港の復旧工事は、要請に応じて国が代行する。

*8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA22AOB0S4A120C2000000/ (日経新聞 2024年1月23日) 能登半島地震:北陸割」で観光需要喚起へ 能登半島地震で政府支援策
 政府は能登半島地震の被災地支援パッケージの原案をまとめた。中小企業の施設と設備の復旧に補助金を出す。1件あたり最大15億円で調整する。観光業の支援は新潟県を含む北陸地方への旅行者向けに割引を設ける。岸田文雄首相が本部長を務める非常災害対策本部で25日にも被災者の生活となりわいを再建するための政策パッケージをまとめる。1月中に2023年度予算の一般予備費から1000億円を上回る規模の追加支出を閣議決定する。①避難所などの環境改善や住まいの確保など生活再建②中小、農林業、観光業など生業再建③インフラなどの災害復旧――の3つを柱として盛り込む。被災自治体の中小企業を対象に工場や店舗、設備などを復旧させる費用を補助する。20年7月豪雨の際の「なりわい再建支援事業」をもとに制度設計する。旅行業の支援は16年の熊本地震の「ふっこう割」を参考に宿泊費などを公費を使って割り引く。金額に上限を設けたうえで5割ほどを補助する見通し。被害が大きかった能登地方は復興状況を踏まえ、より手厚い需要喚起策を検討する。住宅が被災した世帯には最大300万円の「被災者生活再建支援金」を迅速に支給する。全壊だけでなく半壊も含めて住民の負担なしで被災家屋の解体が可能になる。輪島、珠洲両市などの被災地でニーズに沿った応急仮設住宅を供与する。大規模災害復興法に基づく「非常災害」に指定したことを踏まえ、自治体が管理する道路や河川、漁港の復旧工事を国が要請に沿って代行する。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 04:19 PM | comments (x) | trackback (x) |
2020年8月31日~9月8日 安倍首相の辞任・モーリシャス沖での日本の貨物船座礁・環境とエネルギー・本当の無駄遣いと財政法など (2020年9月12、13、15日追加)
 
   日本の経済成長率推移   日本の電源別発電コスト  世界の電源別発電コスト

(図の説明:左図のように、日本の経済成長率は第1期《発展途上期:1956~1972年》に平均9.1%あったが、これは現在の発展途上国と同じく「低賃金」で「低価格」の製品を作って先進国に輸出した経済モデルによっており、今後はこのモデルを採用することはできない。また、第2期《バブル期:1974~1990年》は、平均4%の経済成長率があるが、これはオイルショックで原油価格が上がって不況に陥りそうだったため、カンフル剤として著しい金融緩和を行ったからだ。また、第3期《成熟期:1991年~現在》に平均1%の経済成長率しかないのは、日本は大競争が始まった世界の変化についていかず、過去を継続しようとする圧力が強かったためである。その一例として、中央の図のように、日本の電源別発電コストは、2014年のモデルプラントでも原発が最も安価な電源とされ、原発に税金を投入してもそれをコストに加えていない。一方、合理的な選択をした世界の電源別発電コストは、右図のように、原発が最も高く太陽光発電は等比級数的にコストが下がって、2018年には地上風力とともに最も安い電源となっている)

(1)安倍首相の辞任について
1)安倍首相の辞任とその理由
 安倍首相が、2020年8月28日、*1-1のように、首相官邸で辞任する意向を表明する記者会見をされたのは、私にとっては予想外で残念だったが、首相の在任期間が最長記録を更新し、国会を開いても全体から見れば重箱の隅をつつくようなモリ・カケ・サクラの追及ばかりで本来の予算審議ができないのなら、今が新体制に移行するBestのタイミングだったのかもしれない。

 辞任理由は、①持病の潰瘍性大腸炎の再発 ②7月中ごろから体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況だった ③体力が万全でない中、政治判断を誤ってはならないから辞任する ④潰瘍性大腸炎の再発が確認されて投薬を始め、継続的な処方が必要で予断を許さない と説明されており、多くのメディアが「待ってました!」とばかりに、首相の退陣報道をしたのは、国益を無視しており、眉を顰めさせられた。

 新型コロナウイルス感染症は、2020年2月1日に指定感染症に指定され、1類感染症(エボラ出血熱、痘そう、ペストなど)、2類感染症(ポリオ、結核など)より厳しい制限をかけられた。しかし、日本における実際の致死率は、3類感染症(コレラ、赤痢)や4類感染症(E型肝炎、A型肝炎、マラリア、日本脳炎)より低く、5類感染症(インフルエンザ、麻しん)に近かった。

 我が国は、中国(武漢)の状況に驚いて新型コロナウイルス感染症を重すぎるランクに位置づけ、それにより対応の不合理を招いたのであるため、「検査」・「陽性者の隔離」・「治療」・「予防」を行いながら、指定感染症のレベルを3類か4類あたりに下げるのがよいと思われる。

 なお、安倍首相が担当しておられた「北朝鮮による日本人拉致問題」は、選挙前になるとクローズアップされるが、普段は北朝鮮を見下した批判ばかりしているため、拉致問題を第一に考えているようには見えなかった。しかし、「北方領土問題を含むロシアとの平和条約締結」は、エリツィン大統領の時代がチャンスだったにもかかわらず先送りして機を逸してしまったので、誰が首相でもうまくいかなかったと思われ、安倍首相はよくやった方だと思う。

 また、「憲法改正」については、改正の必要性が国民に納得されるものでなければならず、「これまで改正しなかったから」というのは、改正理由にはならない。さらに、「環境権を明記するため」というのも、憲法第13条の「幸福追求権」に既に書かれており、環境基本法もあるため、既に実践の段階になっているのである。

 私も、安倍政権で行われた政策には賛成の部分も反対の部分もあるが、江戸の敵を長崎で打つかのように、安倍首相などの政治家をモリ・カケ・サクラのような(不法行為にもならない)矮小化した論点で追い詰めたのは、国民のためにも、民主主義のためにも、また底の浅さを感じさせたメディアのためにもならなかったと思う。

2)病人を差別する国、日本
 人が何らかの理由で誰かを差別するのは、それによって自分が優位に立つためと考えられるが、それによって、差別する人の底の浅さや見識の低さが感じられることは多い。そして、日本は、女性・高齢者・外国人だけでなく、病人も差別する人権後進国なのである。

i) 潰瘍性大腸炎について
 安倍首相が「潰瘍性大腸炎の再発で、政治判断を誤ってはならないから退陣する」とされた後、「治療に専念したらどうか」という報道も多く、下の③の同じ潰瘍性大腸炎を持病に持つ人はいたたまれなかっただろう。つまり、病気を理由として発表し、メディアが悪のりして拡大解釈すると、同じ病気の人が困ったことになるのだが、メディア自身には人権に関する配慮がない場合が多いのである。

 このような中、*1-2-1は、「①潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症が起こり、大腸粘膜が傷ついて、ただれたり、はがれたりする難病」「②原因不明」「③約22万人の患者がいる」「④ストレスは再発に繋がりやすい」「⑤薬物療法では炎症を抑える薬を使う」「⑥血球成分除去療法という治療法もある」と記載している。しかし、①②については、胃潰瘍に原因があったように潰瘍性大腸炎にも原因があってよいと思われるのに、いつまでも⑤⑥のような対症療法ばかりをやっているようでは、医学の進歩はおぼつかない。また、④も、大いに考えられるが、疫学調査による裏付けが欲しいところだ。

ii) 新型コロナの感染者に対する差別的言動
 新型コロナの感染者に対する差別的言動が後を絶たず、*1-2-2のように、運動部で起きた集団感染を公表した高校・大学が理不尽な非難を浴び、島根県の私立高は関係のない生徒の写真もネットに掲載された。また、奈良県の私大の学生は、教育実習の受け入れ先やアルバイト先から、参加や出勤の見合わせを求められたそうで、検査をさせないため誰が陽性かの判別もつかなかったのが、この問題の本質である。

 しかし、これには、症状のある人がいても、(無症状の)濃厚接触者や帰国者に積極的疫学調査と称してPCR検査を行い、夜の街が感染の温床と触れ回るなど、感染者に対する差別を生む社会的土壌もあった。これなら事実を隠す方向に流れるのは当然で、それだからこそ、一般に病名はプライバシーなのである。

 新型コロナ感染症の場合は、2類相当とされながら1類以上の厳しい制限がなされ、感染情報が公開され、濃厚接触者がすべて明るみに出されて検査されて、差別やプライバシーの侵害に繋がった。しかし、感染する可能性は誰にでもあることを、決して忘れてはならない。

iii)精神障害者差別
 福岡市の商業施設で女性が殺害された事件では、*1-2-3のように、逮捕された自称15歳の少年は女性を刺したあと、6歳の女の子も襲っていたそうだ。この事件が最初に報道された時、「意味不明の奇怪な行動をするのは、また精神障害者の仕業か」と思った人は少なくない。

 しかし、この事件は、未成年者という責任能力のない者の犯行だった。にもかかわらず、一般の人が「意味不明の奇怪な行動をするのは精神障害者か」と思う理由は、刑法39条が「心神喪失者・心神耗弱者(≒精神障害者?)は責任能力がない」として、違法行為を行っても犯罪の責任を免除しており、罪を軽減する手段としてこの条文はよく使われ、メディアも人権に配慮することなく、大々的にそれを報道しているからである。

 そして、「責任を免除すべき心神喪失者・心神耗弱者の定義は何か」「本当に責任能力がないのか」については議論も説明もなく、「意味不明の奇怪な行動をするのは精神障害者だ」という“常識”を一般の人に植え付けているのは、憲法違反の法律に基づく精神障害者差別であり、精神障害者はたまったものではないだろう。また、「女性を刺し殺せるほど力の強い15才でも、責任能力がないと言えるのか」についても、私は疑問に感じる。

3)批判の妥当性
1)モリ・カケ・サクラ
 安倍首相は記者会見で7年8カ月の実績を強調されたが、*1-3-1・*1-3-2のように、「森友・加計学園問題や『桜を見る会』問題(以下“モリ・カケ・サクラ”)で、「政権の私物化」との批判がつきまとった」と記載する記事は多い。しかし、前に何度も書いたとおり、これらは重箱の隅をほじるような言いがかりを、国会期間中の長時間にわたって延々と続けたもので、聞いている私も「どこが法令違反なのか」とうんざりしたものである。

2)その他の政策
 保育や介護の重要性については、新型コロナによって明らかになったのではなく、30~50年も前から言ってきたにもかかわらず整備されていなかったのを、安倍首相が(私の提案で)女性活躍という視点から、さらに進めてくださったというのが事実だ。そのため、これらの政策は、首相がかわっても言い続けなければ進まないのが、男性中心の政治なのである。

 集団的自衛権については、私もやりすぎだと思ったが、その割には尖閣諸島問題は「力による現状変更を認めない(永遠に現状維持するつもりか)」としか言っておらず、領土を守る意識が薄く感じられた。これでは、いくら日米同盟が強化されても、米国が守ってくれるわけはないだろう。その上、拉致問題は、それを話し合っている最中に、仮想敵国として北朝鮮を批判していたのだから、解決するわけがない。

 カジノを含む統合型リゾート施設は、せっかくそういうものがない日本に、わざわざ外国のカジノ会社を誘致する必要は全くないと私は思うが、これは、自民党か維新の会の政策であって、*1-3-3で安倍首相が言っておられるように、安倍首相が政権を私物化した結果ではない。

 また、批判することが目的で批判しているメディアは、出演しても重要な発言がカットされて歪んだ像しか報道されないため、出るメディアを選ぶのは正当な注意であり、事前に質問を提出した社に当てて正確な回答をするのも当然だ。そのため、「知らなかったのなら・・」などと推測するのは失礼だと思う。

(2)モーリシャス沖の貨物船重油流出事故による公害

 
               2020.8.14BBCより
1)船の船籍と運行
 インド洋のモーリシャス沖で、*2-1のように、①岡山県の長鋪汽船が所有し ②商船三井が運航する貨物船が座礁し、燃料が大量に流出して、③モーリシャスのジャグナット首相が環境緊急事態宣言を出す という事態になったが、④この船の船籍はパナマで、⑤船長はインド人、副船長はスリランカ人だった。

 そして、④⑤のように、日本の多くの船舶が所有・置籍に課される税金を低く抑え、乗員の国籍要件を緩やかにするため、パナマ・バハマ・リベリアなどに置籍を置いており、この船舶事故に関しても、日本は国としては関係ない。海難事故が発生した場合は、①②の会社が、加入した損害保険から支払うのが原則だ。

 船内に残った燃料の大半は既に回収され、これ以上の燃料流出はないそうだが、付近のサンゴ礁やマングローブが広く汚染され、モーリシャス政府が環境緊急事態宣言を出すほどの環境汚染があるため、損害保険でカバーできない範囲については、日本が道義的に資金提供したり、技術協力したりすることはあり得る。

 しかし、注意すべきは、商船三井は2013年にもインド洋沖でコンテナ船の船体が真っ二つに折れて沈没する大事故を起こしており、日本は船籍から船員まで外国に頼っているため、既に造船技術の進歩・船員の技術向上・船舶の管理などが容易でない状況に陥っているということだ。

2)燃料による環境汚染を防ぐための燃料転換
 モーリシャスの重油流出事故では、*2-2のように、海岸沿いのマングローブ林が大きな被害を受け、複雑に重なる根の部分についた重油の除去が難しいとされたが、私は、「高圧洗浄機で温水を吹きかけてマングローブの根を洗い、汚れた水をポンプで吸い取ればマングローブは助かるだろうに、本気で回復しようとしているのか?」と思った。

 なお、近隣のレユニオン島を領有するフランス政府は、船内の有害物質が海に漏れ出す恐れがあるとして難色を示したが、8月24日、モーリシャス政府は、*2-4のように、真っ二つになって沖合に曳航した船体の前方部を海に沈めて処分する作業が完了したと発表したそうだ。
 
 しかし、巨大な船舶を運航するには数十トン/日の燃料を消費するため安いC重油が使われ、C重油を燃焼する際に排出される硫黄酸化物(SOx)などは海水汚染の原因になっているため、船舶も自然エネルギー由来の燃料電池で動かす時代を早急に到来させるべきである。

3)船舶の装備
 モーリシャス沖で座礁して重油が流出した貨物船の船長が、*2-3のように、島に近づいた理由を「家族と通話したくて、WiFiに接続するためだった」と話しているそうだ。もちろん、「安全な航行を怠った」疑いもあるだろうが、「インマルサット(衛星)」、「WIDESTARII(衛星)」、「モバイル(LTE)無線LANルータ」などを使って、海上でも安全に通信する手段があるため、日本所有の船舶の装備は遅れているのではないか?

 SOMPOホールディングス(HD)は、*2-5のように、自動運転システム開発のティアフォー(名古屋市)に98億円を出資して自動運転分野に進出し、自動車保険の販売から事故防止という安全対策までビジネスの領域を広げるそうだ。

 保険で得た事故データをフル活用して自動運転を進化させるのはよい考えだと思うが、船舶でもこれを進めるのが、安全とコスト削減の両立にプラスだと思う。

(3)原発による公害と使用済核燃料の保管
                ← これ以上、国民に負担をかけずに環境を護るべき
1)電気事業法の改正について
 安倍首相の大きな実績で言われないのが、(私の提案で)2013年に行われた電力システム改革(①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保)のための電気事業法改正(https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/system_reform.html 参照)だ。

 このうち①は、フクイチ事故後、地域間の電力融通が非常に限られていることが明らかになったことから必要となり、②は、大手電力会社(以下“大手電力”)の地域独占を基盤として行われてきた総括原価方式が電力会社同士の競争やコスト削減努力を阻んでいるため、発電と小売りを自由化して電力市場に競争を持ち込もうとしたものだ。そのため、これらをしっかりやれば、原発はコスト高で自然淘汰される電源の筈だったが、途中で経産省等の干渉が入ったため、どちらも不完全に終わっている。

 また、③は、新しい電力会社(以下“新電力”)が大手電力の送電システムを利用する際に、大手電力に都合の悪い新電力が排除される可能性があったことから、大手電力の送配電部門を分離し、2020年4月からは法的分離することにしたものだ。しかし、法的分離をしても、大手電力の送電子会社と配電子会社はグループ会社であるため、新電力の不利は変わらない。そのため、送電子会社を上場して独立させるか、別系統の独立的な送電会社を作るかすることが必要だ。

2)原発事故の賠償費用に対する積立不足額の処理について
 政府(経産省)は、*3-1のように、原発事故の賠償費用に対する積立不足(見積額:約2.4兆円)を回収する新制度を固めて、過去の積立不足額を2020年度以降に全国の電気料金に上乗せして回収する方針とした。これは、「原発事故は想定外」としてきた長年にわたる失政のつけで、本来なら原子力事業者が全額負担すべき費用を2020年度以降の電力料金として国民に転嫁することとしたものだ。そして、会計の大原則である費用収益対応の原則を無視していると同時に、過去費用が判明した場合には速やかに償却するという保守主義の原則にも反している。何故、大手電力だけ問題にしないのか?

3)高レベル放射性廃棄物の最終処分場について
 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場も未だ定まっておらず、*3-2のように、北海道寿都町のような自治体財政の弱い町が手を上げようとするのは、交付金目当てである。つまり、国は、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場となる地域に、その危険に見合った交付金を出すのであり、これは国民負担になるのである。本来は、ここまで原発のコストに加えるのが当然で、その結果、どの電源が高いか安いかを比較しなければならない。

 また、高レベル放射性廃棄物の最終処分場について、国は地下300mより深くに数万年埋めておく計画を立てているが、地下でなくても人間が近づかない場所ならよいため、高温のガラスと融かし合わせてステンレス製容器で固めたガラス固化体を厳重に外部と遮断される形にして、①使わなくなったのトンネル ②無人の離島 などに置いて厳重に管理するか、③数千メートルの深い海の底に捨てる という方法が考えられる。そして、日本の地形や状況なら、①②③の方が安全で安価かも知れないが、何よりもまず、脱原発を解決の起点にすべきである。

4)まとめ
 以上により、2)3)の費用は、本来は発生主義で認識して原発のコストに入れるべきものだったため、未だに、i)原子力はコストが安く ii)安定的な電源であるため iii)ベースロード電源にする としているのは、嘘も甚だしい。

(4)日本に存在する資源 

   
    国際通貨基金    2020.2.18東京新聞 2020.5.18毎日新聞   財務省

(図の説明:日本は時代の要請に基づく技術進歩や構造改革に力を入れず、長期間にわたりカンフル剤と称して税金を無駄遣いしてきたため、1番左の図のように、1990年には購買力平価で世界第3位だったGDPが、約30年後の2019年には世界第7位になった《この間、他国はまじめにやっていた》。さらに、左から2番目の図のように、「福祉財源=消費税」と主張して消費税増税を行ってきたため、国民の可処分所得の減少により国内需要と国内投資が減少し、実質GDP成長率が落ちた。これは、右から2番目の図のように、消費税増税後、「内需寄与度」が大きくマイナスになったことで証明される。しかし、財務省は、1番右の図のように、日本は歳出が歳入より大きく借金が世界1であるというグラフを示し、メディアを総動員して「消費税増税反対は、ポピュリズムだ」と主張してきた。そのため、「本当にそうか?」について、下に述べる)

1)教育を受けた人材
 日本は、1872年に最初の学校制度を定めた『学制』の公布により義務教育が推進され、戦後は小学校6年・中学校3年の合計9年間を義務教育とし、現在では高校3年間の中等教育を受ける人も多数を占めるため、識字率が100%に近く、基礎的知識のある良質な勤労者を得やすい。そのため、情報やマニュアルを徹底させやすく、これは、先人が残した遺産と言える。

 しかし、時代の要請に気付いて速やかに技術進歩を進められる人材を育てるには、①高等教育 ②仕事を通じた教育・訓練 ③メディアから得る良質な情報 ④新技術を受け入れる社会の土壌 等が必要であるのに、①の進学先は、法学部・経済学部・文学部等の文系が多く、新技術を作ったり使ったりする理系が少ないため、社会全体が理系音痴になっているのが問題なのだ。

 また、②③④については、社会全体として、「周囲の空気を読んで目立たず、現状維持して新しいことにチャレンジしない」ことを推奨する人や組織が多くなったらしく、これでは狭い範囲で勝手に決めた予定調和に基づいた行動しかしないため、新しい要請に気付いてそれを進める人材は育ちにくいだろう。これは、質の低いメディアを含む日本社会全体の問題である。

 つまり、教育に投資してよい人材を育成することは、本人だけでなく日本経済にとっても大きなプラスなのである。そのため、近年、教育が疎かにされているのはよくない。

2)自然エネルギー
 日本は、自然エネルギーが豊富な国なので、2015年に「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意されたパリ協定は、日本にとっては、環境技術をテコに世界をリードできるまたとない機会だった(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html 参照)。しかし、日本政府がとった行動は、原発と化石燃料にしがみつき、自然エネルギーを軽視して、これまでどおりエネルギーを大きく海外依存することであり、このビッグチャンスを逃した。

 このように、日本が時代に合わない意思決定をして技術進歩とエネルギー構造改革の両方に失敗した理由は、自然エネルギーを軽視する理系音痴の発想が優先され、既得権益者への“バランスのよい”配慮が重視されて、国民の利益を犠牲にすることについては顧みられなかったからである。そして、これは、与野党を問わない。

 このようにして、日本は、長期間にわたってカンフル剤と称する税金の大きな無駄遣いを許しながら、自然エネルギーを使うためのインフラ整備などの価値ある投資を行わず、高いエネルギー代金を支払わせて国民をさらに貧しくさせ、日本の製造業をも海外に追い出した。このような不合理な意思決定の連続が、1990年には購買力平価で世界第3位だった日本のGDPを、それから約30年後の2019年に世界第7位まで落とした原因なのである。

3)先進国の消費者
 日本は、先進国の期間が長いため、消費者の選択が洗練されてきている。このため、この消費者によって磨かれた製品の多くが海外でも通用するが、日本は構造改革の遅延による高コスト構造の継続により、農林漁業だけでなく製造業の多くも失った。これは、政府が補助金で助ければ何とかなるというものではなく、消費者が本当によいものを選択し、よくない点についてはクレームを言うことによって、磨かれていく技術なのだ。

 つまり、消費者とは、生産者に感謝さえすればよい存在ではなく、洗練された消費者がその購買力を使って賢い選択を続けることが、技術進歩の源になるのである。しかし、政府(特に財務省)は、「福祉財源=消費税」と主張して消費税増税を行ってきたため、消費者は可処分所得の減少により購買力が減少した。

 また、財務省は、「①福祉財源=消費税」「②消費税増税反対は、ポピュリズム」等々を、メディアや御用学者を総動員して広報してきたが、①を言う国は日本のみであり、福祉はどの税収から支出してもかまわないのである。また、いくらでもある大きな無駄遣いをやめて必要な福祉に支出すれば、財源はあるのである。

 さらに、②は、財務省内だけで考えれば、「歳出と歳入を一致させるためには、増税しかない」という算術になるが、歳出を投資効果の高いものに替えて次の歳入源を増やすようにしたり、エネルギーの転換・自給で外国に支払う莫大なエネルギー代金を節約して歳入を増やしたりなど、方法はいくらでもある。

4)日本の排他的経済水域内にある資源 (海洋基本法 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=419AC1000000033 参照)

 
    排他的経済水域内のレアメタル     排他的経済水域内のメタンハイドレート

 「日本は資源のない国」という決まり文句は何度も聞かされたが、*4-1のように、日本の排他的経済水域(EEZ)内の南鳥島海底に、リチウムイオン電池の原料となるコバルトを多く含むマンガンノジュールの塊があり、その分布面積は四国と九州を合わせた広さで、埋蔵量は日本のコバルト需要の約300年分に相当するそうだ。

 また、*4-3のように、次世代資源として海に埋蔵するメタンハイドレートの商業化に向け、高知県・高知大学・地元経済団体が高知沖の資源量を評価してもらうために国の探査候補地に応募し、2020年に産官学で新会社を設立して、2027年度以降の事業化を目指すそうだ。メタンハイドレートは、「メタンガス」が水分子と結びついてできた氷状の物質であるため、エネルギーとしてだけではなく化学製品の原料としても使える。

 そして、これらEEZに存在する資源は国の所有物であるため、大切に税外収入に結び付けて国民を豊かにし、間違っても二束三文で払い下げることのないようにすべきだ。

 さらに、太陽光も重要なエネルギーで、*4-2のように、東京都小笠原諸島の母島では、島内の電力を太陽光発電だけで賄う実証実験を始めるとのことである。小笠原諸島は、東洋のガラパゴスと呼ばれるほど多様な固有生物が生息しており、この世界自然遺産の島が自然エネルギーに切り替えると、世界に影響を与えられそうだ。

(5)歳出を随時見直して無駄を排除することができない日本


2019.12.21毎日新聞   低インフレ批判   複式簿記・発生主義会計導入国(緑部分)  

(図の説明:左図のように、新型コロナの補正予算計上前の2020年度予算は102兆6,580億円で、そのうち社会保障が35兆8,608億円《34.9%》あるため、高齢者に対する社会保障が無駄遣いだと主張する人は少なくない。しかし、年金、医療・介護は、厚労省の管理の仕方に問題があるため、丁寧な検証が必要なのだ。また、中央の図のように、実質年金や実質賃金を下げる目的でインフレ政策を主張する人も多いが、実質収入が減れば消費を減らさざるを得ないため、インフレにはならず、国民を貧しくするだけである。そのため、右図のように、多くの国と同様、複式簿記・発生主義に基づいた公会計を導入して、予算委員会・決算委員会では歳出の費用対効果を見ながら検討できるようにすべきなのだ)

1)日本の本当の無駄遣いは何か
 財政法は、1947年(昭和22年)3月31日に公布され、同年4月1日に施行されたため、*5-1のように、公債や借入金を制限することによって、戦争放棄を保証する意図があったのだそうだ。それはよいのだが、財政法が建設国債だけを例外として認め、今年度新たに発行される国債が90兆円あっても、「高齢者への社会保障は無駄遣いだ」として、年金支払債務を正確に認識して国債を発行するのを赤字国債として禁止しているのは、人権侵害である同時に、高齢者の購買力を損なって、高齢化社会で必要とされる財・サービスを磨くのを妨げている。

 一方、普天間飛行場の危険除去は、辺野古に新基地を建設しなくても他に合理的な方法がいくらでも考えられるため、大きな無駄遣いの1例が、*5-2の辺野古新基地建設だ。例えば、米軍の1部を台湾やフィリピン(海外)に移動させたり、日本国内の空港のある過疎の離島に自衛隊基地を作って米軍と共用したりすることもできる。

 そのため、沖縄県内の選挙や県民投票で辺野古新基地建設反対の民意が出ているのに、それを無視して「辺野古新基地建設を、粛々と進める」と言うのは融通が利かなすぎ、特殊な人以外は誰も喜ばず、費用対効果も悪い硬直した支出で、大きな無駄遣いなのである。

2)仏政府の随時歳出見直し
 フランス政府は、*5-3のように、新型コロナウイルスの追加経済策として、2年でGDPの4%に当たる1千億ユーロ(約12兆5500億円)を投じると発表し、その3分の1の300億ユーロを温暖化ガス排出の少ない交通手段整備などの環境配慮型経済に切り替えるためにあてるそうで、これは、近未来に向けての投資効果がある賢い選択だ。

 また、フランスの借金は2020年にGDP比121%に悪化する見通しだが、仏政府は増税を否定し、随時歳出を見直して対策による財政悪化を2025年までに吸収するとしており、これは、どこの組織でも当たり前のやり方だ。

 しかし、日本の借金は、2020年には先進国最大のGDP比237.6%になるが、日本政府は、予算の獲得(=歳出)が各省庁の既得権益となっているため、首相であっても、随時歳出を見直すことはできず、ばら撒くことしかできない(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a02.htm 参照)。また、野党やメディアも歳出圧力と増税圧力しかかけない。では、どうすれば、これを治すことができるかについて、3)に記載する。

3)日本の財政法の問題点と改善策
 予算委員会で、全体から見れば重箱の隅をつつくような政治家のスキャンダルばかりが取り上げられるのは、政権闘争にすぎない国民不在の議論だ。しかし、日本の財政法は、歳出のうちの①どれが無益で無駄遣いなのか ②資本生産性が低いのか ③よりよい代替案はないのか などを、予算委員会で議論するための基礎資料を迅速に提供していない。

 そのため、(元衆議院議員・公認会計士・税理士の)私が2日で書ける範囲で、以下に「日本の財政法の問題点と改善策」について記載するので、会計の専門家は、グループで議論して民主主義に資する世界に恥じない現代版の財政法を作って欲しい。

イ)利用できる直近の財務諸表と財務省の処理スピード(https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/index.htm 参照)
 2020年9月7日現在、国の直近の財務諸表は、平成30年度(2018年4月1日~2019年3月31日)分だが、これでは、2020年1月~3月に行われる予算委員会で、前年度(2019年4月1日~2020年3月31日)の決算書を見ながら議論することはできない。

 しかし、地方議会が、2020年4月以降の予算を議論する時には、国の予算を前提にしなければならないため、国の本予算決定のための予算委員会は、遅くとも1月~3月に終了しなければならないわけである。

 そのため、①国の会計年度を1月1日~12月31日として迅速に決算を行い、翌年の1月下旬~3月に行われる予算委員会に提示できるようにする ②国の会計年度は4月1日~2020年3月31日のままにしておき、1月~3月には前年12月31日までの決算から暫定予算を決め、5月末頃に3月31日までの決算書を見ながら本予算を確定する などの方法が考えられる。

 どちらにしても、財務省は今より迅速に決算を行わなければならないが、民間企業は多国籍企業でも2カ月以内に決算を終わらせ、納税もしているため、財務省が「できない」とは言えない筈だ。実際、複式簿記・発生主義会計を使っても、取引はクラウドで現場から逐次入力しておき、暇な時に国有財産等の棚卸をしておけば、正確な決算書を時間内に作ることは可能だ。

ロ)現金主義から発生主義、単年度主義から複数年度主義へ
i)日本の財政法は現金主義であること
 日本の財政法の財政総則(第1条~第10条)は、*5-4のように、第一章会計総則の第2条に、「①収入とは国の需要を充たすための支払財源となるべき現金の収納をいい、支出とは国の需要を充たすための現金の支払をいう」「②現金の収納には債務の負担に因り生ずるものをも含み、現金の支払には債務の減少を生ずるものをも含む」と規定しており、現金主義を明記している。このため、国の正式の財務書類は、キャッシュフロー計算書のみであり、その他は調書の位置づけとなっている。

 また、第2条に「③歳入とは、一会計年度における一切の収入をいい、歳出とは、一会計年度における一切の支出をいう」と単年度主義を明記し、第6条は「④各会計年度の歳入歳出の剰余のうち1/2以上を、翌翌年度までに公債又は借入金の償還財源に充てなければならない」としている。さらに、第41条に、「毎会計年度において、歳入歳出の決算上剰余を生じたときは、これをその翌年度の歳入に繰り入れるものとする」という規定もあるため、同じ事業でも節約して剰余金を残すよりは、無駄遣いしてでも使いきるのが得だという動機づけになっている。

 なお、第4条で「⑤国の歳出は、公共事業費・出資金・貸付金以外は、公債又は借入金以外の歳入を財源としなければならない」としているため、公債を発行して過去勤務債務の年金支払に当てることはできなくなっている。しかし、年金・医療・介護など国民から保険料を徴収して支払っている国の債務のうち、発生主義で費用計上していなかったために引当金不足が生じたものは、本来は支払うべきものであるため、基金を作ってそこに国から出資することはできそうだ。

 第9条の「⑥国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない」「⑦国の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も効率的に、これを運用しなければならない」というのは適切であり、EEZでの採掘権を譲渡又は貸し付けする場合には、適正な対価を得て福祉財源の補充に充ててもらいたい。また、⑦は、国の財産を棚卸して金額で表示することによって、重要性や残存耐用年数が明確になり、適切な維持管理に結び付くものだ。

ii) 日本の財政法は単年度主義であること
 日本の財政法の会計区分のうち第11条・12条は、*5-4のように、「⑧国の会計年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終わるものとする」としているが、これはイ)に記載したとおり、予算委員会で利用できる直近の財務諸表を前年度のものにするために工夫を要する。

 また、「⑨各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない」というのは単年度の現金主義に基づくものであり、かなり前に発生した実際の費用を把握することができないため、発生主義に変更する必要がある。

ハ)日本の財政法による予算
 *5-4の第14条~36条に予算に関する規定があり、「①歳入歳出は、すべて予算に編入する」「②工事・製造・その他の事業で、完成に数年かかるものは国会の議決を経て原則5年の年限を延長することができる」「③国が債務負担するには、予め国会の議決を経なければならない」「④災害復旧その他緊急の必要がある場合は、国は毎会計年度、国会の議決を経た金額の範囲内で債務を負担する行為を行うことができ、次の国会に報告しなければならない」と規定されており、国の歳入歳出はすべて予算として国会決議を通らなければならない。そして、この議論をするのが、衆議院・参議院の予算委員会である。

 そのため、金額の大きな重要課題について、国民が支払った税金が資本生産性よく支出されているのか否かについて検討するのが、国民の代表である国会議員で構成される予算委員会の役割だが、効果的に議論するためには、前年度の反省を踏まえつつ検討できるための正確でわかりやすい財務情報がなければならないのだ。

 また、「⑥各省大臣は、毎会計年度、管轄省庁の歳入・歳出等の見積に関する書類を作製して、財務大臣に送付する」「⑦財務大臣は、歳入・歳出等の概算を作成して閣議決定を経る」「⑧予見し難い予算不足に充てるため、内閣は予備費を計上することができる」等とされており、予算は各省庁で積算して見積もられたものが、大臣を通して内閣から国会に提出される。そして、この過程で、既得権益の死守や予算の分捕り合戦が起こるわけである。

ニ)日本の財政法による決算
 *5-4の第37条~40条には、国の決算に関する記述があり、「①各省庁の長は、毎会計年度、関係する歳入・歳出の決算報告書と国の債務に関する計算書を作製して、財務大臣に送付しなければならない」「②財務大臣は、この歳入歳出の決算報告書に基いて、歳入歳出の決算を作成しなければならない」等が書かれている。そのため、各省庁の決算報告書(事業部の決算報告書に相当)に基づいて、財務大臣が総括決算書(会社全体の決算報告書に相当)を作成する流れになっているが、日常の取引は同時に記録してよいので、処理を迅速化することは可能だ。

 また、「③内閣は、会計検査院の検査を経た歳入歳出決算を、翌年度開会の常会において国会に提出するのを常例とする」とも定められているが、民間企業の場合は多国籍企業の有価証券報告書でも3月末決算のものを5月末に監査済で株主総会に提出しており、それは期中から計画的に監査を行っていればできるため、予算委員会や決算委員会には、会計検査院の検査報告をつけた正確な財務諸表を出すべきである。

・・参考資料・・
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200829&ng=DGKKZO63201200Y0A820C2MM8000 (日経新聞 2020年8月29日) 安倍首相が辞任 持病再発で職務困難、「政治判断誤れない」 来月中旬までに総裁選
 安倍晋三首相(自民党総裁)は28日夕、首相官邸で記者会見し、辞任する意向を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が8月上旬に再発し「体力が万全でない中、政治判断を誤ることがあってはならない」と説明した。新総裁が決まり次第、内閣総辞職する。自民党総裁選(総合2面きょうのことば)は9月中旬までに実施する。首相は自身の体調に関し「7月中ごろから体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となった」と話した。8月上旬に潰瘍性大腸炎の再発が確認され、投薬を始めたと明らかにした上で「継続的な処方が必要で予断は許さない」と語った。首相は8月17、24両日に都内の病院を訪れ、24日の診断を受けて辞任の意向を固めたと述べた。「新型コロナウイルスの感染が減少傾向に転じ、実施すべき対応策をまとめたことから、新体制に移行するならこのタイミングしかないと判断した」との認識を示した。首相は第1次政権で、2007年に持病の悪化を理由に突如退陣した。「政権の投げ出し」などの批判を受けた。今回も任期途中での辞任に関し「他の様々な政策が途上にある中、職を辞すことに国民に心よりおわび申し上げる」と陳謝した。「国民の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断した」とも表明した。北朝鮮による日本人拉致問題やロシアとの平和条約締結、憲法改正などの政治課題を挙げ「志半ばで職を去るのは断腸の思いだ」と訴えた。首相は近くトランプ米大統領と電話協議し、辞任する経緯を説明する見通しだ。自民党は次期総裁選びの手続きに着手した。28日の緊急役員会合で党総裁選の時期、形式について二階俊博幹事長に一任した。9月1日の党総務会で正式に決める。党幹部は28日夜、「遅くとも9月15日までに新総裁を決める」と明言した。新型コロナの対応が欠かせないため、党大会に代わる両院議員総会で後任を選ぶ方式を視野に入れて調整する。衆参両院の国会議員と都道府県連代表による投票となる。選出後に衆参両院で首相指名選挙を実施し、新内閣を発足させる。新総裁の任期は安倍首相の残りを引き継ぐため21年9月末までとなる。石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長の出馬が有力視される。菅義偉官房長官を推す動きがでる可能性がある。河野太郎防衛相も取り沙汰される。石破氏は28日、総裁選出馬について国会内で記者団に「そう遅くない時期に判断したい。逃げることはあってはならない」と意欲を示した。岸田氏も都内で「次を担うべくしっかり努力をしていく気持ちは変わっていない」と強調した。首相は記者会見で、石破、岸田、菅各氏らについて「それぞれ有望な方々だ」とした。総裁選には「影響力を行使しようとは全く考えていない。そうすべきではない」との考えを示した。首相は12年12月に旧民主党から政権を取り戻して第2次政権を発足させた。官邸主導の体制を確立し第1次政権を含めた通算在任日数は桂太郎氏を超えて最長を記録した。連続在任日数でも24日に2799日に達し、歴代トップとなった。日本の首相が健康問題で退陣するのは在任中に死去した大平正芳氏を含めて戦後6例目となる。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14602509.html (朝日新聞 2020年8月29日) 「潰瘍性大腸炎」とは―― 難病指定、患者22万人
 潰瘍(かいよう)性大腸炎は大腸に炎症が起こることで大腸の粘膜が傷つき、ただれたり、はがれたりする病気だ。下痢や血便、腹痛などの症状が出る。原因ははっきりせず、厚生労働省から難病に指定されている。厚労省の研究班によると国内では現在、約22万人の患者がいるとみられている。完治は難しいが、薬物療法が進み、日常生活が送れる「寛解」状態まで回復する人は多い。ただし、個人差はある。久留米大病院炎症性腸疾患センターの桑木光太郎医師は「ストレスは再燃(再発)につながりやすい。寛解時にも投薬治療を続ける必要があり、一生つきあっていくことになる病気だ」と話す。薬物療法では、様々な種類の炎症を抑える薬を使う。ステロイド薬は長期間使うと副作用がある。中等症以上では、点滴や注射などで投与する生物学的製剤と呼ばれる薬もある。官邸関係者によると、安倍晋三首相はこのタイプの一つ「レミケード」を使い始めたという。血球成分除去療法という治療法もある。人工透析のようにいったん血液を体外に出し、炎症の要因となる活性化した白血球を取り除いてから体内に戻す。週1回約1~2時間の治療を10回ほど続ける必要がある。炎症が続くことで大腸がんを発症したり、大腸に穴があいたりすることもある。この場合は大腸の全摘手術をすることが多い。ただし、小腸を肛門(こうもん)につなげることで、人工肛門になる人はほとんどいないという。手術後は、排便の回数は増えるものの、仕事などを続けることは可能という。

*1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14603708.html (朝日新聞社説 2020年8月31日) コロナと中傷 差別許さぬ姿勢を共に
 コロナ感染者に対する差別的な言動が後を絶たない。人権を傷つける見過ごせない行いであるだけでなく、感染拡大を防ぎ社会経済活動を維持していくうえでも大きな障害になる。最近では、運動部などで起きた集団感染を公表した高校と大学が理不尽な非難を浴びた。島根県の私立高では、関係ない生徒の写真もネットに掲載され、奈良県の私大の学生たちは、教育実習の受け入れ先やアルバイト先から参加や出勤の見合わせを求められたという。この2校に限らず、施設や企業などが感染者が出たことを明らかにするのは、接点があった人々に注意を促し、拡大を抑えるためだ。だが公表すると激しい攻撃にさらされるとなれば、事実を隠す方向に流れ、感染経路の追跡もできなくなる。オンライン講義を続ける大学からは「こんなふうに袋だたきにされては、感染リスクを引き受けて対面授業を再開することなど、とてもできない」との声も聞かれる。学校の正常化を妨げ、若者の日々の生活、そして将来にも暗い影を落とす。奈良の大学の地元首長は「世間さまに謝れという圧力が、私たちの心をむしばんでいく」と述べ、萩生田光一文部科学相は感染者や学校を責めないよう求めるメッセージを出した。危険と隣り合わせで患者の治療にあたる医療従事者を、周囲から排除する動きや風評被害も続く。感染者の多い地域からふるさとに帰った人が、帰省した事情などお構いなしに批判される事例も見られた。大切なのは、差別や中傷を許さない姿勢を社会全体で示し、必要な手当てを講じることだ。岩手県では、感染した個人を特定したり非難したりするSNS上の投稿を見つけると、その画像を人権侵害の「証拠」として保存している。長崎県は相談窓口を設け、必要に応じて弁護士を紹介して費用を支援するほか、悪質な書き込みがないかを調べるネットパトロールを始める。差別を禁じる条例を制定する動きも各地に広がる。コロナ対策にあたる政府の分科会もワーキンググループを作り、この問題にどう対処していくか議論することを決めた。自治体の取り組みとの連携も求められよう。感染情報の公開が差別・偏見やプライバシー侵害につながっているとの指摘もあるが、だからといって過剰な縛りをかければ、別の不安や行政への不信を引き起こしかねない。慎重な検討が必要だ。感染する可能性は誰にでもあり、感染者を責めたところで何の安心も安全も得られない。コロナの時代にどう向き合うか、一人ひとりが問われている。

*1-2-3:https://www.fnn.jp/articles/-/79432 (テレビ西日本 2020年8月31日)逮捕の少年 6歳女児も刃物で襲う 福岡 女性殺害事件
 福岡市の商業施設で女性が殺害された事件で、逮捕された自称15歳の少年が、女性を刺したあと、6歳の女の子を襲っていたことが新たにわかった。この事件では、吉松弥里さん(21)が刃物で襲われた現場近くで、銃刀法違反の現行犯で逮捕された自称15歳の少年が、吉松さんを包丁で刺したことを認める供述をしている。捜査関係者によると、少年は、その後、6歳の女の子に馬乗りになって、刃物で襲いかかっていたことが新たにわかった。女の子にけがはなかったが、少年は、人質を取ってでも捕まりたくなかったという趣旨の供述をしているという。一方、吉松さんの通夜には、多くの友人らが訪れ、別れを告げた。吉松さんの友人は「わたしたちが想像できないくらい痛かっただろうし、怖かっただろうし...」、「本当に何も関係ない人から、何で、そんなことをされなきゃいけないのかわからない」などと話した。

*1-3-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/51818 (東京新聞 2020年8月29日) コロナ対策・モリカケ・桜…疑惑や難題積み残し 安倍首相辞任表明に関係者ら困惑
 「国民の負託に自信を持って応えられなくなった」。新型コロナウイルスの収束がいまだ見通せない中、第1次政権に続き健康問題で辞任を表明した安倍晋三首相。記者会見では7年8カ月の実績を強調したが、森友・加計学園問題や「桜を見る会」問題では「政権の私物化」との批判がつきまとった。コロナ禍での突然の退場に「こんな中で国の責任者が退くのは残念」などと困惑や冷ややかな声が上がった。
◆「現場の声聞く姿勢が希薄」―コロナ対策
 東京都内で認可保育所を運営する社会福祉法人の臼坂弘子理事長(73)は「現場では『3密』になりやすい状況の中、保育士たちが工夫しながら必死に頑張っている。こんな中で国の責任者が退くのは残念」と話した。新型コロナによって、子どもの育ちを守る保育の必要性が明らかになったといい、「保育行政を見直してほしかった」。江戸川区の介護施設で働く40代女性職員は「正直、首相が代わっても現場は変わらない」と冷めた見方を示す。施設では、消毒や新型コロナによる面会制限で入居者のケアなど職員の業務が増え、マンパワーが足りていないといい、次の首相には「もっと介護現場に目を向けてほしい」と求めた。夏休み明けの小学校で、児童の学習や新型コロナの感染対策に追われる都内の公立小学校教員宮沢弘道さん(43)は「さまざまな問題が総括されないまま、体調を理由に辞任することになり、残念。モヤモヤした気持ちが残る」。安倍首相が2月にトップダウンで打ち出した「一斉休校」要請などで「教育の独立性が軽んじられていると感じることが多かった」と明かす。「教員は疲弊し、子どもたちはストレスを抱えている。首相は現場の声を吸い上げようとする姿勢が希薄ではなかったか」と指摘した。首相と付き合いがあった元日本医師会常任理事の伯井俊明さん(76)は「医療者の立場からすると、もう少し社会保障政策に目を向けてほしかった」と語る。新型コロナへの対応ではPCR検査の不足など不十分な面があったとしつつ、「総理大臣として、経済・社会活動と感染拡大防止の両立に努めた」と評価した。
◆「真実明らかにする努力を」―モリカケ・桜
 国会で足かけ2年にわたり追及された学校法人「森友学園」の国有地売却問題。疑惑の端緒をつかんだ大阪府豊中市議の木村真さん(55)は「首相への忖度そんたくが働き、国有地のたたき売りや公文書改ざんが起きた。この責任は免れない」と批判した。一連の問題では、決裁文書の改ざんを強制された財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん=当時(54)=が命を絶った。国会で安倍首相の責任を追及した宮本岳志前衆院議員(60)は「赤木さんの妻が真実を知りたいと声を上げている」と強調。「首相は自ら再調査を指示したり、昭恵氏を国会で証人に立たせたりするなど、真実を明らかにする努力をしてほしい」と訴えた。税金の私物化との批判を浴びた「桜を見る会」を巡り今年1月、首相に対する告発状を提出した沢藤統一郎弁護士は「本来は選挙で『ノー』の民意を示し、退陣させる形が望ましかった」と複雑な思いをのぞかせる。桜を見る会の問題などについては「ずさんな公文書管理や説明責任を果たさない姿勢など、負の遺産を積み残されたままだ」と疑惑解明が道半ばだとした。
◆「責任は曖昧なまま」―集団的自衛権
 他国を武力で守るなど戦争参加への道を開いた集団的自衛権についての憲法解釈を変更し安全保障関連法を整備した安倍首相。法案に反対した学生グループSEALDs(シールズ)の元メンバー、元山仁士郎さん(28)は「デモなどで声を上げ続け、自分が対峙たいじしていた安倍さんがついに辞めるのは、にわかには信じ難い感覚。あくまで体調不良ということなので、責任は曖昧なままだ」と話す。一方、日米同盟の強化が進んだ防衛省幹部は北朝鮮の弾道ミサイル開発などを例に挙げ「新たな安全保障環境に対応する基盤ができた」と評価する。ある幹部自衛官は「安倍政権になって自衛隊と官邸の距離は縮まった」と振り返るが、一方で「それが良いのか悪いのかは分からない」とも。自衛隊を憲法に明記する改憲も掲げていたが実現しなかった。幹部自衛官は「今、それが必要だとは思わなかった」とも話した。
◆「成果なく評価しようもない」―拉致問題
安倍首相が最重要課題としていた北朝鮮による日本人拉致問題は在任中、解決の糸口をつかめなかった。拉致被害者の兄で家族会元事務局長の蓮池透さん(65)は「成果は何もなく、評価のしようもない。任期中に解決する雰囲気を演出して『やってる感』を見せただけで、金正恩キムジョンウン朝鮮労働党委員長との会談も実現せず、米国のトランプ政権に丸投げしていたのが実態だった」と指摘した。安倍政権が推進してきたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)。横浜市への誘致に反対してきた広越由美子さん(40)は「首相一人が辞めてもIR問題の解決にならない」と冷静に受け止めた。市内のJR東戸塚駅近くで街頭活動中、ニュースで辞任を知ったといい、「次の首相が推進派だと横浜への影響も大きい。警戒している」と話した。

*1-3-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/a9a174f0e468be56f5bdc322b38815f9ac3721eb (Yahoo、J-CASTニュース 2020/8/28) 「政権私物化の批判どう思うか」→「私物化したというつもりは...」 安倍首相会見で問答
 辞任を表明した安倍晋三首相に対し、森友学園問題など政権の私物化批判をどう考えているかと記者が質問したことをめぐり、ネット上で様々な意見が出ている。安倍首相は、国会などでの説明ぶりに反省すべき点はあるとしながらも、「私物化したことはない」と全否定した。
■「森友学園問題や加計学園問題、桜を見る会の問題など...」
 この質問は、2020年8月28日夕に安倍首相が行った1時間の会見のうち、最後から2番目に出た。質問したのは、西日本新聞の女性記者だ。「歴代最長の政権の中で、多くの成果を残された一方で、森友学園問題や加計学園問題、桜を見る会の問題など国民から厳しい批判に晒されたこともあったと思います。コロナ対策でも、政権に対する批判が厳しいと感じられることも多かったと思うんですが」。こう続けたうえで、記者は、次のような問いを投げかけた。「こうしたことに共通するのは、政権の私物化という批判ではないかと思います。こうした指摘は、国民側の誤解なんでしょうか? それについて、総理がどう考えられるのか、これまでご自身が振り返って、もし反省すべき点があったとしたら、それを教えて下さい」。安倍首相は、会見終盤の疲れもあってか、渋い顔で質問を聞いていたが、批判についてはこう反論した。「政権の私物化はですね、あってはならないことでありますし、私は、政権を私物化したというつもりはまったくありませんし、私物化もしておりません。まさに、国家・国民のために全力を尽くしてきたつもりでございます」。そのうえで、自らの反省点についても述べた。「その中で、様々なご批判もいただきました。ご説明もさせていただきました。その説明ぶりについてはですね、反省するべき点もあるかもしれないし、そういう誤解を受けたのであれば、そのことについても反省しないといけないと思いますが、私物化したことはないということは、申し上げたいと思います」。私物化は誤解だとするだけに、最後はややムッとした表情になっていた。このやり取りは、ツイッター上などで話題になり、特に安倍首相に批判的な人が相次いで紹介した一方、これに反発する声も出ていた。

*1-3-3:https://mainichi.jp/articles/20200828/k00/00m/010/248000c?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article&cx_mdate=20200829 (毎日新聞 2020年8月28日) 政権を私物化したつもりは全くないし私物化もしていない 安倍首相の辞任表明会見(8)
 安倍晋三首相は28日午後5時から首相官邸で記者会見し、健康状態を理由に辞任する意向を表明した。一問一答の詳報は以下の通り。
―ちょっと立ち入ったことになりますが、安倍政権は、これまでの政権に比べて、非常に徹底したメディア対策というものがなされた政権だというふうに思っております。例えば個別のメディアに出演されて、今まで輪番で出てきたものを個別のメディアに一本釣りのような形で出演されるとか、あるいは質問を事前に取りまとめて、それを出した社にしか記者会見で質問を当てないとかですね。かなり徹底したメディア対策というのをされた。それ自体が悪いと言ってるわけではないんですが、それは総理ご自身の指示によるものだったのでしょうか。それともワーキングレベルで行われたものが、総理は知らずにやってたものなのか、あるいは総理が仮に知らなかったとしたら、総理は記者会見でですね、質疑の場面なのに、なぜか質問と答えが目の前のメモに書いてあるという状況をご覧になって、何か違和感を覚えられなかったのか。また、そのような関係がメディアと政治という関係において、民主主義において、総理はどのようにお考えになっているのか。お聞かせください。(以下略)

<モーリシャス沖の貨物船重油流出事故による公害>
*2-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/9325eb8b5c3c4be429aaac0b267ebb31706d33a4 (Yahoo 2020/8/13) モーリシャス沖の貨物船座礁事故 商船三井の船との報道も実は船主は別 複雑な海運業界
 インド洋のモーリシャス沖で、商船三井が運航する貨物船が座礁し、燃料が大量に流出。モーリシャスのジャグナット首相が環境緊急事態宣言を出すという事態となりました。船内に残った燃料の大半はすでに回収されており、これ以上、燃料が流出するという事態は回避されましたが、付近のサンゴ礁は広範囲に汚染されており、回復に20~30年かかるとの指摘も出ているようです。今回の事故について、多くのメディアが商船三井の船が座礁したと報道していますが、事故を起こした船の船主は商船三井ではなく岡山県にある長鋪(ながしき)汽船で、しかも船籍は日本ではなくパナマとなっています。複数の会社名や国名が出てきたことで混乱した人もいるようですが、いったいこれはどういうことなのでしょうか。
●徹底的な役割分担
 海運は、世界でもっともグローバル化が進んでいる業界のひとつと言われており、コストを削減するため徹底的な役割分担が行われています。この船を所有している(船主)のは長鋪汽船ですが、顧客(荷主)から荷物の運送を受託したのは長鋪ではなく商船三井です。商船三井は長鋪から船をチャーター(用船)して、荷物を運んでいるという関係になります。商船三井は自社で船舶を保有していますから、船主でもありますが、今回の業務については自社の船は使わず用船する立場として業務を行っています。船主と船員についても役割分担が行われており、今回、事故を起こした船は、たまたま長鋪が自社で船員を管理していましたが、船員の管理についても別会社に依頼するケースが多いと言われています。また多くの船舶がそうですが、船舶登録が簡便なパナマやバハマ、リベリアなどに船籍を置いていますから、実質的には日本の船であっても、名目上の船籍は外国となります。船を所有しているのは長鋪汽船ですから、事故についての責任はまずは長鋪汽船が負うことになります。ジャグナット首相も同社に対して損害賠償を求める考えを示しました。一方、今回の事故対応については、用船側である商船三井も記者会見に同席するなど、用船側にもある程度の責任が生じるというのが業界の一般的な考え方のようです。
●7年前にも…
 今回は美しいサンゴ礁が汚染される事態になったことから、日本でも大きく報道されましたが、実は商船三井は2013年にもインド洋沖で コンテナ船の船体が突然、真っ二つに折れて沈没するという大事故を起こしています。海外ではこの事故は大きく報道されましたが、日本ではあまり報道されませんでしたので、記憶にない人も多いかもしれません。船はひとたび事故を起こすと周辺の環境に大きな影響を及ぼしますから、海運業界には、事故を最小限にする努力が求められるでしょう。

*2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/c237e5dc6d6c875ea4649c7fba88f5b3e06d50a0 (Yahoo、朝日新聞 2020/8/22) マングローブが重油まみれ、回復に30年? 貨物船座礁
 インド洋のモーリシャスで起きた油の流出事故では、海岸沿いに広がるマングローブ林が大きな被害を受けた。複雑に重なる根の部分にこびりついた油の除去は難しく、回収時期は見通せていない。貨物船のタンクの一部が破損し、約千トンの重油が流出したのは8月6日。油は透き通った海を汚染し、南北10キロにわたる海岸線に漂着。魚や鳥に被害が出た。汚染は、湿地保全を定めたラムサール条約に指定された地域が含まれ、サンゴなど海中の被害調査はこれからだ。環境団体は生態系などの回復に30年前後はかかるとみている。地元の当局者やボランティアらによる清掃が進み、海岸線のうち、砂浜での油の回収はおおむね終了した。作業が難航しているのがマングローブ林だ。日本の国際緊急援助隊によると、長鋪(ながしき)汽船所有の貨物船が座礁した場所から約2キロのマエブール地区周辺にあるマングローブは、水面から高さ20~30センチほどのところにも黒い油が付着しているという。隊員の1人は「根が複雑なのでポンプで吸い取るのも難しい。植物相手なので、高圧洗浄機や薬剤の使用も難しいのではないか。手作業が中心になるだろう」と話した。マングローブ保全を進めてきた地元環境活動家、スニル・ドワルカシン氏(62)は、少なくとも10キロの範囲に育つマングローブが被害を受けたと分析。「マングローブは繊細で、作業前に訓練が必要だ」と話し、有志の住民たちも回収を担った砂浜などとの状況の違いを指摘した。

*2-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/cec7b3f9dda68d9e4d06df2637335037237e3fb9 (Yahoo、テレビ朝日 2020/8/25) モーリシャス座礁 船長“島に近づいた”理由語る
 モーリシャス沖で日本の貨物船が座礁して重油が流出した事故で、貨物船の船長が島に近づいた理由について「家族と通話する目的だった」と話していることが分かりました。地元の関係者によりますと、貨物船「WAKASHIO」のインド人の船長は警察の取り調べに対し、「家族と通話がしたくてインターネットに接続したかった」と話しているということです。地元メディアはこれまでにも複数の乗組員の話として「Wi-Fiに接続するため島に近づいた」と伝えていて、私的な理由で島に近づき座礁し、1000トンを超える重油の流出につながった可能性があります。この事故を巡っては、インド人の船長とスリランカ人の副船長の合わせて2人が「安全な航行を怠った」疑いで逮捕されていて、25日に裁判が行われる予定です。

*2-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/cf3d00195472c4db0166fa7ae33460f85a3150e7 (Yahoo、共同 2020/8/24) 座礁船の海中処分完了 モーリシャス沖、前方部
 モーリシャス沖で発生した日本の貨物船の重油流出事故で、モーリシャス政府は24日、真っ二つになり沖合にえい航した船体の前方部を海に沈めて処分する作業が完了したと発表した。地元当局などは19日、2隻の作業船で沖合13.8マイル(約22キロ)、水深3180メートルの地点までえい航していた。この場所に処分したとみられる。現地で撮影された写真によると、船体は白いしぶきを上げながら沈んだ。海中で処分する計画を巡り、近隣のレユニオン島を領有するフランス政府は当初、船内の有害物質が海に漏れ出す恐れがあるとして難色を示していた。

*2-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63113430X20C20A8EE9000/?n_cid=NMAIL006_20200827_Y (日経新聞 2020/8/27) SOMPO、自動運転分野に進出 ティアフォーに18%出資
 SOMPOホールディングス(HD)が自動運転システム開発のティアフォー(名古屋市)に98億円出資し、18%を保有する持ち分法適用会社にする。グループに組み込むことで、自動運転分野へ進出する。自動車保険の販売から事故防止という安全対策までビジネスの領域を広げる狙い。保険で得た事故データをフル活用すれば、自動運転普及の起爆剤となる可能性がある。自動運転技術は人手不足の解消や事故の減少に期待が高く世界中で開発が進む。米アルファベット傘下のウェイモなどがライバルだ。対抗するには安全設計やトラブル時の対応力の高さがカギを握る。ティアフォーは国内最大の自動運転システム会社で、大手損保と協力して技術開発を加速させる。ティアフォーは名古屋大学などの研究成果をもとに自動運転の頭脳である基本ソフトを開発するため、2015年に創業した。基本ソフト「Autoware(オートウエア)」は10カ国以上で数百社以上が採用する。国内でも自動運転の実証実験が各地で進み、そのおよそ半数で使われている。トヨタ自動車が東京五輪の選手村の送迎に使う予定の自動運転バスでも導入が決まった。SOMPOは自動運転の安全・安心の確保を3段階で行う。第1段階はティアフォーの自動運転を導入する自治体などに対し、損保ジャパンが安全なルートを提案する。自動車保険で培った事故履歴などのデータを生かし、事故が起きづらい道順を提案する。第2段階は走行中の安全の確保だ。「コネクテッドサポートセンター」を損保ジャパンとティアフォーが共同で展開する。トラブル時には遠隔で操作して安全な場所に停車させ乗客を誘導する。第3段階では損保ジャパンが自動運転の専用保険を開発する。適切な保険料を設定し事故のときの補償や事故対応を担う。損害に備えるために自動運転の研究・開発に保険会社が加わることは海外でもある。ただ、システム開発会社をグループに組み込んで、安全なルートの設計に関与したりする例は珍しいという。SOMPOが参入を決めた背景には自動車保険の市場縮小への危機感がある。損保ジャパンは全国に約300の保険金サービス拠点を持ち、国内の損保の売り上げの約6割を自動車関連が占める。自動運転が普及すると主力の自動車保険が変革を迫られる。人の不注意やミスによる事故が減るとみられるためだ。自動運転の普及を見据え、事故に備える保険から事故の防止へビジネス領域を広げる。損害保険ジャパンとティアフォーは2017年から共同研究を進めてきた。損保ジャパンが2019年に一部出資しているが、今回は持ち株会社SOMPOHDの出資に切り替え、資本業務提携という形を取る。自動運転で収集するデータをより広範に利用できるようにする。SOMPOはデータ解析大手の米パランティア・テクノロジーズ(カリフォルニア州)に出資するなどしてデータ事業の収益化を急いでいる。

<原発事故費用・使用済核燃料保管費の国民負担>
*3-1:https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1702/10/news108.html (スマートジャパン 2017年2月10日) 電気料金に上乗せする賠償費用、2020年度から標準家庭で年間252円に
 政府は原子力発電所の事故の賠償費用に対する積み立て不足を回収する新しい制度の骨子を固めた。過去の積み立て不足を総額で約2.4兆円と見積もり、2020年度から全国の電気料金に上乗せして回収する方針だ。電力1kWhあたり0.07円になる見込みで、標準的な家庭で年間に252円の負担になる。福島第一原子力発電所の事故によって浮き彫りになった巨額の損害賠償費用の問題は、その一部を電力の利用者が負担する方法で解決する。政府は2月9日に開催した「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」において、各種の新制度と合わせて損害賠償費用の負担スキームを提示した。本来ならば原子力事業者が全額を負担すべき費用を国民に転嫁する形になり、大きな反発を招くことは必至だ。原子力発電所に事故が発生して損害賠償が必要になった場合には、当然ながら発電所を運営する事業者が賠償費用を負担する。ところが福島の事故が発生する以前には、原子力発電所を運営する事業者も政府も賠償費用の発生を想定していなかった。政府は事故から5カ月後の2011年8月に「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(原賠機構法)」を施行して、遅まきながら「一般負担金」の名目で一定額の拠出を原子力事業者に義務づけた。一般負担金の総額は原子力事業者11社(沖縄電力を除く電力会社9社、日本原子力発電、日本原燃)で2015年度に1630億円である。このうち原子力発電所を保有していない日本原燃の30億円を除いた1600億円を、事故の賠償費用に備えて必要な年間の積立金と位置づけた。この金額をもとに、原賠機構法の施行前に積み立ておくべきだった一般負担金を過去にさかのぼって回収する。原子力事業者10社が2015年度に保有している発電所の設備容量の合計を1.5億kW(キロワット)として、設備容量1kWあたりに必要な一般負担金の単価を1070円と算定した。日本で最初の原子力発電所は1966年に運転を開始した日本原子力発電の「東海発電所」である。そこを起点に原賠機構法を施行する以前の2010年度までに各事業者が保有した設備容量を積み上げると35億kWにのぼる。1kWあたり1070円で、一般負担金の必要額を約3.8兆円と見積もった。政府は発送電分離(送配電部門の中立化)を実施する2020年度から、過去の不足分を電気料金に上乗せして回収する方針だ。一般負担金の徴収を開始した2011年度から2019年度までの約1.3兆円を差し引いた約2.4兆円(四捨五入によるずれを含む)を利用者から徴収する。総額で約2.4兆円を40年間で回収する方法が政府の原案だ。原子力発電所の運転期間を原則40年間と決めているためだが、すでに大半の原子力発電所は運転開始から相当な年数を経過している。この点を含めて政府が示した回収方法には論理的につじつまの合わない部分があるものの、何かしらの理屈をもって利用者の負担額を決める必要があった。その結果、年間で約600億円に相当する一般負担金の不足分を販売電力量(全国の合計で約8500億kWh)に応じて回収するために、電力1kWhあたり0.07円を利用者の負担額として算定した。標準的な家庭の電力使用量(年間3600kWh)では1年間で252円の負担になる。さらに大量の電力を使用する企業になると負担額は膨大である。たとえば年間に20億kWh以上の電力を購入しているJR東日本の負担額は1億円を超える見通しだ。その費用は電車の運賃を上昇させる要因になり、われわれ消費者の負担が拡大する。実際のところ、過去の不足分を含めて原子力事業者に負担させる方法はないのか。電力会社は長年にわたって地域独占と規制料金を通じて多額の利益を蓄積してきた。東京電力と同様に原子力発電所を数多く保有する関西電力の2016年12月末の財務状況を見ると、資産から負債を差し引いた純資産が1兆3495億円もある。関西電力は他の電力会社よりも原子力発電所の設備容量が大きいため、かりに不足額の2割を1社で負担すると想定しても4800億円で済む。その全額を減損処理しても純資産は9000億円以上を確保できる。電力会社の自己負担で過去の不足分を回収すれば、国民の多くも納得できるはずだ。にもかかわらず電気料金に上乗せして回収することは、電力会社を優遇する措置とみなされて当然だろう。政府は2020年度の発送電分離までに、さまざまな新制度を導入する予定だ。賠償費用の不足分を電気料金(実際には小売電気事業者が送配電事業者に支払う託送料金)で回収する制度に加えて、原子力発電所の廃炉費用も同様の方法で電気料金に上乗せする。このほかに電力会社の発電事業を支援する意味合いが大きい新市場を創設することも決めた。「電力システム改革」の名のもとに、自由化に向けて電力会社の経営を助ける施策が数多く見受けられる。発送電分離によって発電事業と小売事業を自由競争の状態へ変革するためには、電力会社に対する過度な保護は不要である。電力会社の自助努力に委ねるべきで、現在の政府の方針は自由競争を妨げる方向に働きかねない。

*3-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1180304.html (琉球新報社説 2020年8月27日) 核のごみ最終処分場 脱原発が解決の起点だ
 北海道の寿都町が原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査への応募を検討している。文献調査は候補地選定の3段階のうちの第1段階だ。過去の地震の履歴などを資料に基づき調べる。調査を受け入れると2年間で最高約20億円の交付金が支給される。町は「人口減少や財政的課題を踏まえ、解決手段として調査応募を検討している」と言う。原発から出る核のごみを最終的にどこで処分するのか。国民に突き付けられた課題であることは間違いない。とはいえ町の判断は地域の行く末を委ねる手段としては余りに安易ではないか。米軍基地を巡る「アメとムチ」の構図と同じだ。交付金をもって自治体財政の弱みに付け入るような国側の手法は見下した対応にしか見えない。まして住民や近隣地域が負う代償は大きく看過できない。明らかなことは現行の原発政策に終止符を打たない限り、核のごみはたまり続ける現実だ。脱原発へ政策のかじを切り、際限のない健康被害の脅威に歯止めをかける。それが最終処分場問題の解決に向けた国民議論の最低条件だ。核のごみは、原発の使い済み核燃料を再処理し、ウランやプルトニウムを取り出した後に残る廃液をいう。極めて強い放射線を出す。この廃液を高温のガラスと融かし合わせ、ステンレス製容器に流し込んで固め、ガラス固化体という形にして処分する。原子力発電が始まって半世紀以上がたつ。これまでにたまった使用済み燃料は既に1万8千トンにおよび、ガラス固化体にすると2万5千本に相当するという。深刻なのは処分方法が明確になっておらず、再処理工場などに保管されたままであることだ。国は地下300メートルよりも深くに数万年埋めておく計画を立てている。廃棄物の行き着く先がどこにもないために原発は「トイレなきマンション」とも表現される。こうした核のごみの持ち込みを規制したり、最終処分場となるのを拒否したりする条例が、北海道をはじめ少なくとも全国24自治体で制定されている。国は17年に処分の適地を示した「科学的特性マップ」を公表したが、それ以降も10市町村が条例を制定している。住民本位の自治を考えれば当然だろう。このマップでは沖縄も大半が適地に挙がっているが、北海道の適地の一つが寿都町だった。3月末の人口は2893人、65歳以上の高齢者の割合は40・4%。町は40年には2千人を下回り、25年からは財政の悪化を試算している。人口減少や財政悪化といった難問は、少なからぬ自治体が頭を抱えている。しかし自治の運営が、「経済」か、「安心安全」かの選択を迫るようであってはいけない。住民の分断を促すような交付金というアメで誘導するような施策を国側も改めるべきだ。

<日本に存在する資源>
*4-1:https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000171430.html (テレビ朝日 2019/12/11) 300年分のレアメタルわがEEZに“四国+九州”に分布
 希少金属の埋蔵量が日本の消費量の300年分あることが分かりました。南鳥島の海底にはリチウムイオン電池の原料となるコバルトを多く含むマンガンノジュールと呼ばれる希少金属の塊があることが分かっていました。千葉工業大学などの研究チームは今回、南鳥島周辺の日本のEEZ(排他的経済水域)内にある希少金属の塊が分布する範囲などを世界で初めて確認しました。分布面積は四国と九州を合わせた広さに匹敵し、埋蔵量は日本のコバルト需要の約300年分に相当するということです。希少金属の塊はEEZの外にもあるとみられ、すでに中国が一部のエリアで採掘権を獲得しています。コバルトのほとんどが中国やコンゴ共和国で産出されていて、価格は安定していません。

*4-2:https://enechange.jp/articles/solor-power-hahajima (エネチェンジ 2019.7.2) 母島の電力を太陽光発電で、東京都と小笠原村、東京電力パワーグリッドが実証実験へ、エネルギー自由化コラム
 東京都は小笠原諸島の母島で島内の電力を太陽光発電だけでまかなう実証実験を始めることを決め、東京都小笠原村、東京電力パワーグリッドと協定を締結しました。自然環境調査や専門家への意見聴取を進め、順調に進めば2022年度末から実証実験に入りたい意向です。小池百合子東京都知事は記者会見で「自然や景観に配慮しながら、事業を進めたい」と意欲を示しました。
●母島に太陽光発電を設置して3年間実験
 東京都環境局によると、想定している実証実験の実施期間は3年。母島に太陽光発電施設と蓄電池などを設置、1年のうち半年程度を視野に入れて太陽光発電だけで電力をまかないます。残りの期間はディーゼル発電などを併用する方針です。太陽光発電だけで半年間、島内で必要な電力を供給できれば、その他の再生可能エネルギーも活用してすべての電力をまかなうことを目指すことにしています。その後は伊豆諸島など東京都下の他の島でも、再生可能エネルギーの利用を促進する考えです。小池知事は2018年7月に母島で開かれた小笠原諸島返還50周年を記念した式典で「4年後には実証実験を開始できる」との見通しを明らかにしていました。
●施設の設置や運用は東京電力パワーグリッドが担当
 今後、3年かけて自然環境調査や専門家への意見聴取を進めたうえで、具体的な事業計画をまとめます。3者の役割分担は東京都と小笠原村が太陽光発電施設を置く土地を提供し、東京電力パワーグリッドが施設の設置、運用を受け持ちます。太陽光発電施設の設置場所や設置する機器の詳細などは未定ですが、国際教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録されている母島の環境に配慮し、世界自然遺産区域を避けて都有地や村有地に置く方針です。東京都環境局は設置候補地として母島の南部にある評議平畜産指導所跡地、旧ヘリポート周辺の畜産指導所跡地(ともに都有地)、中ノ平農業団地の研修圃場(村有地)の3カ所を太陽光発電施設設置候補地に、母島発電所(東京電力パワーグリッド用地)を蓄電池設置候補地に挙げています。
●小笠原諸島は冬でも過ごしやすい亜熱帯気候
 母島がある小笠原諸島は東京23区から南へ約1,000キロの太平洋上に浮かぶ30余りの島で構成されます。総面積は100平方キロメートル余りで、全体が小笠原村の行政区画。海洋性の亜熱帯気候に属し、真冬でも平均気温が18度前後と過ごしやすい場所です。民間人が居住しているのは、父島と母島の2島だけ。このほか、硫黄島と南鳥島に自衛隊など公務員が常駐していますが、それ以外はすべて無人島です。空港はなく、片道24時間かけて東京港の竹芝桟橋と父島の二見港を貨客船が運航しています。父島と母島間も片道約2時間の貨客船で結ばれています。戦前はサトウキビの生産が主産業でしたが、現在は就業者の3割を公務員が占め、観光業が基幹産業です。ほかに亜熱帯気候でなければ栽培しにくいパッションフルーツやコーヒーなどが育てられています。[面積 19.88平方キロメートル、人口 470人、山 乳房山(標高462メートル、島の最高峰)、主な施設 小笠原村母島支所、東京都母島出張所など、特産品 パッションフルーツ、希少生物 ハハジマメグロ、ワダンノキ]
●東洋のガラパゴスと呼ばれるほど固有生物が多様
 生物地理上の区分では日本で唯一、オセアニア地域に属しています。長く大陸と隔絶して独自の進化が進んだため、島の生物は「東洋のガラパゴス」と呼ばれるほど固有種が多いのが特徴です。主なものは植物ではキク科の小高木ワダンノキ、ツツジ科のムニンツツジ、ノボタン科のハハジマノボタンなどが挙げられます。動物だとオガサワラオオコウモリ、ハハジマメグロ、オガサワラトカゲなどが生息しています。1972年に小笠原国立公園に指定されたほか、2011年に世界自然遺産に登録され、貴重な自然の保護が図られていますが、人間が持ち込んだ外来生物や島の開発などからオガサワラオオコウモリなど多くの生物が絶滅の危機に直面しています。
●母島は人口470人、ラム酒やカカオも有名
 小笠原諸島のうち、母島は父島の南約50キロにあり、広さが約20平方キロメートル。姉島、妹島などと母島列島を形成しています。島の南部の沖村が唯一の集落で、人口は約470人。国産のラム酒製造やカカオの栽培が進められていますが、北部はうっそうとした森が広がっています。太平洋戦争中の1944年に住民が強制疎開させられたあと、20年以上にわたって無人島でしたが、米国から施政権が返還されて5年後の1972年から定住が始まりました。現在は自然を求めて東京など大都市圏から移り住み、観光ガイドなどをして暮らす若者もいます。食料品や日用品など生活物資は父島経由で東京から運ばれてきていますが、島内の電力は最大出力960キロワットのディーゼル発電所「母島発電所」でまかなっています。
●ゼロエミッション・アイランドの目玉事業に
 東京都は世界最先端の環境先進都市を目指し、温室効果ガス削減について2030年までに2000年比で30%減という国を上回る高い目標を環境基本計画で掲げました。これを実現するために、電気自動車や燃料電池自動車の普及、ゼロ・エネルギー・ビルの促進などを打ち出しています。小笠原諸島や伊豆諸島などには、「ゼロエミッション・アイランド」を掲げ、再生可能エネルギーの普及を進展させる考え。東京都次世代エネルギー推進課は「母島は人口が少なく、日照条件も良い。太陽光発電だけで島内の電力をまかなえるのではないか。今回の実証実験を通じ、環境にやさしい島の魅力を母島からアピールしていきたい」と力を込めました。一方、小笠原村は第4次小笠原村総合計画で村を豊かな自然と共生し、持続可能な島とする方針を打ち出しています。今回の太陽光発電導入に向けた実証実験は、その前段階に位置づけられます。小笠原村環境課は「再生可能エネルギーの推進は村のエネルギービジョンでも掲げている。自然とともに歩む島として太陽光発電の実証実験に取り組みたい」と意欲的に話しました。
●温暖化防止へ世界自然遺産から一石
 地球温暖化は現在も進行を続けています。ツバルなど太平洋の島国の中には国土消失の危機に直面しているところがあるほか、台風の巨大化、熱帯性伝染病の拡大、砂漠化などさまざまな悪影響が広がろうとしており、国際社会が早急に対応しなければならない課題に浮上しているのです。人口約470人の母島での取り組みは温室効果ガス削減の面からすると微々たる量でしかありませんが、世界自然遺産の島が再生可能エネルギーに切り替えることは世界に一石を投じることになるかもしれません。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53230880R11C19A2LA0000/ (日経新聞 2019/12/12) 新エネ メタンハイドレート、「オール高知」で挑む
 次世代資源として海に埋蔵するメタンハイドレートの商業化に向け、高知県で本格的な取り組みが始まる。高知大学と地元の経済団体が高知沖の資源量を評価してもらうため、国の探査候補地に応募。2020年に自治体を交えた産官学で新会社を設立し、27年度以降に事業化を目指す。調査支援などで国とパイプを築き、壮大な計画にオール高知で挑む。探査を求めるのは足摺岬から50キロ先の海域(1800平方キロメートル)。高知大の徳山英一センター長は「高知沖ではメタンハイドレートの存在が確認されている。今回の海域は(陸地から比較的近く)資源開発しやすいので調査海域として応募した」と説明する。天然ガスの主成分であるメタンガスを得られるメタンハイドレートは海底の表層付近で取れる「表層型」と海底からさらに地下深くの地層に含まれる「砂層型」がある。高知沖は砂層型。JOGMECの探査船は海底に音波を発するなどの手法で海底地層のデータを集めて砂層の構造を3次元解析し、精度の高い埋蔵量の情報を取得できる。この3次元評価は高知の隣の宮崎沖など全国10カ所ですでに行われている。調査により高知沖の可能性を探りながら自助努力として、20年中に調査支援や今後、国の各地での開発動向を情報収集する新会社を設ける。株主への配当がない目的会社で資本金にあたる出えん金は500万円。18年3月、県内企業や四国電力、高知大などで立ち上げた「土佐沖メタンハイドレート実用・商用化プラットフォーム研究会」の参加企業や高知県、高知市に出資を募る。産官学によるオール高知の目的会社が目標。この会社で国に本気度をアピールする。同研究会は商業化に向けた工程表をまとめている。それによると27年度までに国による採取を伴うサンプル調査を通じて実用化を検証する。メタンハイドレートは固体で石油のように井戸を掘れば噴き出すわけではないため、メタンガスを取り出すには新技術が必要で輸送も難題だ。これらを同年度までにクリアし、商業化できるほど埋蔵量が確認されれば商業生産に向け開発会社を設ける。国費による日本のエネルギー事業なので全国から出資を募り27年度以降に事業を始める。工程表通りに進むかは不透明だが、高知ニュービジネス協議会の小川雅弘会長は高知県経済にも恩恵をもたらすとしてこう意欲を示す。「県内で地産地消のエネルギー源として農業用加湿や地域内の暖房に応用できるようにしたい」
▼メタンハイドレート(methane hydrate) 天然ガスの主成分でエネルギー資源である「メタンガス」が水分子と結びついてできた氷状の物質。火を近づけると燃えるため「燃える氷」と呼ばれる。燃やしたときに排出される二酸化炭素(CO2)は石炭や石油を燃やすよりも少ないため、次世代エネルギー資源として期待されている。 日本が採掘や調査を自由にできる排他的経済水域(EEZ)内に、国内で消費する液化天然ガス(LNG)の100年分に相当するメタンハイドレートが眠っているとの試算もある。日本の研究開発は世界の先端を走るといわれる。JOGMECは2013年と17年、愛知・三重県沖で産出試験を実施。いずれの年も採掘や設備トラブルなどがあったもののメタンガスの産出を確認した。

<日本の財政法の問題点>
*5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14599880.html (朝日新聞社説 2020年8月27日) 財政法と戦後 歴史的意味を忘れるな
 増え続ける財政赤字は政府の懐事情だけでなく、日本の民主主義の危うさをも表している。1947年に施行された財政法は4条で「国の歳出は、公債又(また)は借入金以外の歳入を以(もっ)て、その財源としなければならない」と定めた。この条文ができたのは、単に健全財政を義務づけるためだけではない。法施行直後に出版された「財政法逐条解説」にはこう記されている。「公債のないところに戦争はないと断言し得るのである。従って、本条は新憲法の戦争放棄の規定を裏書き保証せんとするものである」。序文では財政法に「幾多の抜け道」があるとしたうえで、運用次第では「意味をなさない」恐れも指摘していた。著者の懸念どおり、財政の縛りは次第に骨抜きにされていく。均衡財政は20年弱しか続かず、財政法が例外として認めた建設国債ばかりか、禁止したはずの赤字国債すら、特例法による発行が常態化した。今年度新たに発行される国債は空前の90兆円にのぼる。中央大学の関野満夫教授によると、真珠湾攻撃があった41年度の借金への依存度は56・4%(一般会計と、廃止された臨時軍事費特別会計の合算)。今年度の56・3%はこれとほぼ並ぶ。今年度末の政府債務残高は国内総生産の2・6倍。44年度末の2倍を上回る。まさに異常としか言いようがない。無論、いまの借金まみれの財政は戦争のせいではない。高齢化で社会保障費がかさむうえ、バブル崩壊やリーマン・ショック後の経済対策、震災復興、新型コロナウイルス対策と続いたことが一因だ。ただ、借金に歯止めがないと権力が暴走しかねないことを、心にとどめておく必要がある。戦時中は軍への文民統制が機能しなかった。満州事変後、議会の承認無しで使える予備費を乱用したことも、その一例だ。財政法が健全財政とともに財政民主主義を柱に据えたのは、当時の教訓からだ。戦後75年の今、この原則も骨抜きの危機にさらされている。政府はコロナ対策を柔軟に行うためとして今年度、総額12兆円を予備費として計上した。一般会計に占める比率は7・5%。42年度の9・1%に迫る。コロナ対策が必要であれば、補正予算として国会に議決を求めるのが筋だ。だが、与党ばかりか多くの主要野党も、この巨額の予備費を認めた。財政法の規定には、戦火や、戦後の預金封鎖などの混乱で、国民生活を困窮させたことへの反省が込められている。国会と政府は、条文の歴史的な意味を忘れてはならない。

*5-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1184499.html (琉球新報 2020年9月3日) 菅氏「辺野古しっかり進める」 総裁選出馬 基地負担軽減で成果強調
 菅義偉官房長官は2日の自民党総裁選への出馬会見で、辺野古新基地建設について「辺野古に移設することで普天間飛行場の危険除去が実現できる。そうした中で進めていることもぜひ理解いただきたい」と述べ、首相に就任した場合でも引き続き建設を進める意向を強調した。名護市辺野古への移設に加え「米軍の3分の1が沖縄から海外に出て行く。そうしたことをしっかり進めていく」と決意を示した。県内の選挙や県民投票で辺野古新基地建設に反対の民意が出ており、新基地建設を中止する考えはないかとの質問には「(辺野古新基地建設計画は)SACO(日米特別行動委員会)合意によって日米で合意し、沖縄の地元の市長、県知事とも合意した中で辺野古建設は決まった」と答え、辺野古新基地に理解を求めながら、合意当時の条件が変わったことには触れなかった。また沖縄の基地負担軽減担当相としては「7年8カ月の間に、北部訓練場、最も大規模な返還をはじめ目に見える形で実現をした」と取り組みを強調。さらに「基地負担軽減担当相になって始めたのが(那覇空港の)第2滑走路建設だ。このことも先般、完成したのではないか」とし、沖縄振興策の取り組みを基地負担軽減の成果としてアピールした。

*5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200904&ng=DGKKZO63426700U0A900C2EAF000 (日経新聞 2020.9.4) 仏、コロナ追加経済対策に12兆円 欧州主要国で最大 、環境配慮型社会へ転換
 フランス政府は3日、新型コロナウイルスの追加経済策として2年で1千億ユーロ(約12兆5500億円)を投じると発表した。国内総生産(GDP)の約4%に当たり「欧州主要国で最大」規模だとしている。約3分の1を、温暖化ガスの排出が少ない交通手段の整備など経済を環境配慮型に切り替えるためにあてる。環境への負荷を減らすため300億ユーロをあてる。交通が最大の110億ユーロを占め、鉄道やエコカーの利用促進に使う。再生エネルギーへの転換などに90億ユーロを投じる。競争力の強化には350億ユーロを配分した。企業の生産活動に関わる減税200億ユーロが柱だ。若者の雇用対策や研究開発などにも同額の350億ユーロをつぎ込む内容だ。財源のうち、400億ユーロは欧州連合(EU)首脳が合意した7500億ユーロの復興基金から受け取る。残りについて仏政府は増税を否定しており、GDP比でみた国の借金はコロナ禍前の約100%から20年の121%に悪化する見通しだ。随時歳出を見直し、対策による財政悪化の影響を25年までに吸収するという。大規模な経済対策は仏政府の危機感の表れだ。カステックス首相は3日の記者会見で「危機をきっかけとしてフランスは競争力を高め、脱炭素社会をつくり、結束を強める」と語った。仏ラジオの取材には「失業率は爆発的に高まる」との見方も示した。国内の失業率は現在の7%から年内に10%を超えるとの予想があり、若者が大きな影響を受ける。仏政府は20年の仏経済が前年比11%縮小するとみており、EU平均の8.7%より悪くなる。環境配慮を前面に打ち出したのは、6月の統一地方選で環境政党の欧州エコロジー・緑の党(EELV)が大躍進したのが一因だ。有権者の関心が環境に向いており、マクロン大統領も意識せざるをえない。

*5-4:https://www.ron.gr.jp/law/law/zaisei.htm (財政法 昭和22年4月1日施行)
             <目次>
       第一章 財政総則(第一条-第十条)
       第二章 会計区分(第十一条-第十三条)
       第三章 予算
         第一節 総則(第十四条-第十五条)
         第二節 予算の作成(第十六条-第三十条)
         第三節 予算の執行(第三十一条-第三十六条)
       第四章 決算(第三十七条-第四十一条)
       第五章 雑則(第四十二条-第四十七条)
第一章 財政総則
 第一条 国の予算その他財政の基本に関しては、この法律の定めるところによる。
 第二条 収入とは、国の各般の需要を充たすための支払の財源となるべき現金の収納をいい、
   支出とは、国の各般の需要を充たすための現金の支払をいう。
 2 前項の現金の収納には、他の財産の処分又は新らたな債務の負担に因り生ずるものをも
   含み、同項の現金の支払には、他の財産の取得又は債務の減少を生ずるものをも含む。
 3 なお第一項の収入及び支出には、会計間の繰入その他国庫内において行う移換による
   ものを含む。
 4 歳入とは、一会計年度における一切の収入をいい、歳出とは、一会計年度における一切
   の支出をいう。
第三条 租税を除く外、国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に
   属する事業における専売価格若しくは事業料金については、すべて法律又は国会の議決に
   基いて定めなければならない。
第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。
   但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内
   で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
 2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を
   国会に提出しなければならない。
 3 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければ
   ならない。
第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入に
   ついては、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合に
   おいて、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
第六条 各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金の
   うち、二分の一を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた
   年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない。
 2 前項の剰余金の計算については、政令でこれを定める。
第七条 国は、国庫金の出納上必要があるときは、財務省証券を発行し又は日本銀行から一時
   借入金をなすことができる。
 2 前項に規定する財務省証券及び一時借入金は、当該年度の歳入を以て、これを償還しな
   ければならない。
 3 財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額については、毎会計年度、国会の
   議決を経なければならない。
第八条 国の債権の全部又は一部を免除し又はその効力を変更するには、法律に基くことを
   要する。
第九条 国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、
   又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。
 2 国の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も
   効率的に、これを運用しなければならない。
第十条 国の特定の事務のために要する費用について、国以外の者にその全部又は一部を
   負担させるには、法律に基かなければならない。
第二章 会計区分
第十一条 国の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わるものとする。
第十二条 各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければ
   ならない。
第十三条 国の会計を分つて一般会計及び特別会計とする。
 2 国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその運用を行う場合その他特定の
   歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に
   限り、法律を以て、特別会計を設置するものとする。
第三章 予算
第一節 総則
 第十四条 歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない。
第十四条の二 国は、工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて、
   特に必要がある場合においては、経費の総額及び年割額を定め、予め国会の議決を経て、
   その議決するところに従い、数年度にわたつて支出することができる。
 2 前項の規定により国が支出することのできる年限は、当該会計年度以降五箇年度以内と
   する。但し、予算を以て、国会の議決を経て更にその年限を延長することができる。
 3 前二項の規定により支出することができる経費は、これを継続費という。
 4 前三項の規定は、国会が、継続費成立後の会計年度の予算の審議において、当該継続費
   につき重ねて審議することを妨げるものではない。
第十四条の三 歳出予算の経費のうち、その性質上又は予算成立後の事由に基き年度内に
   その支出を終らない見込のあるものについては、予め国会の議決を経て、翌年度に
   繰り越して使用することができる。
 2 前項の規定により翌年度に繰り越して使用することができる経費は、これを繰越明許費と
   いう。
第十五条 法律に基くもの又は歳出予算の金額(第四十三条の三に規定する承認があつた
   金額を含む。)若しくは継続費の総額の範囲内におけるものの外、国が債務を負担する
   行為をなすには、予め予算を以て、国会の議決を経なければならない。
 2 前項に規定するものの外、災害復旧その他緊急の必要がある場合においては、国は
   毎会計年度、国会の議決を経た金額の範囲内において、債務を負担する行為をなす
   ことができる。
 3 前二項の規定により国が債務を負担する行為に因り支出すべき年限は、当該会計年度
   以降五箇年度以内とする。但し、国会の議決により更にその年限を延長するもの並びに
   外国人に支給する給料及び恩給、地方公共団体の債務の保証又は債務の元利若しくは
   利子の補給、土地、建物の賃料及び国際条約に基く分担金に関するもの、その他法律で
   定めるものは、この限りでない。
 4 第二項の規定により国が債務を負担した行為については、次の常会において国会に
   報告しなければならない。
 5 第一項又は第二項の規定により国が債務を負担する行為は、これを国庫債務負担行為
   という。
第二節 予算の作成
第十六条 予算は、予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為
   とする。
第十七条 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長は、毎会計年度、
   その所掌に係る歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に
   関する書類を作製し、これを内閣における予算の統合調整に供するため、内閣に送付
   しなければならない。
 2 内閣総理大臣及び各省大臣は、毎会計年度、その所掌に係る歳入、歳出、継続費、
   繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を作製し、これを財務大臣に
   送付しなければならない。
第十八条 財務大臣は、前条の見積を検討して必要な調整を行い、歳入、歳出、継続費、
   繰越明許費及び国庫債務負担行為の概算を作製し、閣議の決定を経なければならない。
 2 内閣は、前項の決定をしようとするときは、国会、裁判所及び会計検査院に係る歳出の
   概算については、予め衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長に
   対しその決定に関し意見を求めなければならない。
第十九条 内閣は、国会、裁判所及び会計検査院の歳出見積を減額した場合においては、
   国会、裁判所又は会計検査院の送付に係る歳出見積について、その詳細を歳入歳出
   予算に附記するとともに、国会が、国会、裁判所又は会計検査院に係る歳出額を修正
   する場合における必要な財源についても明記しなければならない。
第二十条 財務大臣は、毎会計年度、第十八条の閣議決定に基いて、歳入予算明細書を
   作製しなければならない。
 2 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、会計検査院長並びに内閣総理大臣及び
   各省大臣(以下各省各庁の長という。)は、毎会計年度、第十八条の閣議決定のあつた
   概算の範囲内で予定経費要求書、継続費要求書、繰越明許費要求書及び国庫債務
   負担行為要求書(以下予定経費要求書等という。)を作製し、これを財務大臣に送付
   しなければならない。
第二十一条 財務大臣は、歳入予算明細書、衆議院、参議院、裁判所、会計検査院並びに
   内閣(内閣府を除く。)、内閣府及び各省(以下「各省各庁」という。)の予定経費
   要求書等に基づいて予算を作成し、閣議の決定を経なければならない。
第二十二条 予算総則には、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為に
   関する総括的規定を設ける外、左の事項に関する規定を設けるものとする。
  一 第四条第一項但書の規定による公債又は借入金の限度額
  二 第四条第三項の規定による公共事業費の範囲
  三 第五条但書の規定による日本銀行の公債の引受及び借入金の借入の限度額
  四 第七条第三項の規定による財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額
  五 第十五条第二項の規定による国庫債務負担行為の限度額
  六 前各号に掲げるものの外、予算の執行に関し必要な事項
  七 その他政令で定める事項
第二十三条 歳入歳出予算は、その収入又は支出に関係のある部局等の組織の別に
   区分し、その部局等内においては、更に歳入にあつては、その性質に従つて部に
   大別し、且つ、各部中においてはこれを款項に区分し、歳出にあつては、その目的に
   従つてこれを項に区分しなければならない。
第二十四条 予見し難い予算の不足に充てるため、内閣は、予備費として相当と認める
   金額を、歳入歳出予算に計上することができる。
第二十五条 継続費は、その支出に関係のある部局等の組織の別に区分し、その部局
   等内においては、項に区分し、更に各項ごとにその総額及び年割額を示し、且つ、
   その必要の理由を明らかにしなければならない。
第二十六条 国庫債務負担行為は、事項ごとに、その必要の理由を明らかにし、且つ、
   行為をなす年度及び債務負担の限度額を明らかにし、又、必要に応じて行為に
   基いて支出をなすべき年度、年限又は年割額を示さなければならない。
第二十七条 内閣は、毎会計年度の予算を、前年度の一月中に、国会に提出するのを
   常例とする。
第二十八条 国会に提出する予算には、参考のために左の書類を添附しなければならない。
  一 歳入予算明細書
  二 各省各庁の予定経費要求書等
  三 前前年度歳入歳出決算の総計表及び純計表、前年度歳入歳出決算見込の
   総計表及び純計表並びに当該年度の歳入歳出予算の総計表及び純計表
  四 国庫の状況に関する前前年度末における実績並びに前年度末及び当該年度
   末における見込に関する調書
  五 国債及び借入金の状況に関する前前年度末における実績並びに前年度末及び
   当該年度末における現在高の見込及びその償還年次表に関する調書
  六 国有財産の前前年度末における現在高並びに前年度末及び当該年度末に
   おける現在高の見込に関する調書
  七 国が、出資している主要な法人の資産、負債、損益その他についての前前年度、
   前年度及び当該年度の状況に関する調書
  八 国庫債務負担行為で翌年度以降に亘るものについての前年度末までの支出額
   及び支出額の見込、当該年度以降の支出予定額並びに数会計年度に亘る事業に
   伴うものについてはその全体の計画その他事業等の進行状況等に関する調書
  九 継続費についての前前年度末までの支出額、前年度末までの支出額及び
   支出額の見込、当該年度以降の支出予定額並びに事業の全体の計画及び
   その進行状況等に関する調書
  十 その他財政の状況及び予算の内容を明らかにするため必要な書
第二十九条 内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を
   作成し、これを国会に提出することができる。
  一 法律上又は契約上の国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に
   生じた事由に基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の
   移換えにとどまるものを含む。)又は債務の負担を行うため必要な予算の追加を
   行う場合
  二 予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合
第三十条 内閣は、必要に応じて、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を
   作成し、これを国会に提出することができる。
 2 暫定予算は、当該年度の予算が成立したときは、失効するものとし、暫定予算に
   基く支出又はこれに基く債務の負担があるときは、これを当該年度の予算に
   基いてなしたものとみなす。
第三節 予算の執行
第三十一条 予算が成立したときは、内閣は、国会の議決したところに従い、各省各庁
   の長に対し、その執行の責に任ずべき歳入歳出予算、継続費及び国庫債務負担
   行為を配賦する。
 2 前項の規定により歳入歳出予算及び継続費を配賦する場合においては、項を目に
   区分しなければならない。
 3 財務大臣は、第一項による配賦のあつたときは、会計検査院に通知しなければ
   ならない。
第三十二条 各省各庁の長は、歳出予算及び継続費については、各項に定める目的の
   外にこれを使用することができない。
第三十三条 各省各庁の長は、歳出予算または継続費の定める各部局等の経費の
   金額又は部局等内の各項の経費の金額については、各部局等の間又は各項の
   間において彼此移用することができない。但し、予算の執行上の必要に基き、
   あらかじめ予算をもつて国会の議決を経た場合に限り、財務大臣の承認を経て
   移用することができる。
 2 各省各庁の長は、各自の経費の金額については、財務大臣の承認を経なければ、
   目の間において、彼此流用することができない。
 3 財務大臣は、第一項但書又は前項の規定に基く移用又は流用について承認した
   ときは、その旨を当該各省各庁の長及び会計検査院に通知しなければならない。
 4 第一項但書又は第二項の規定により移用又は流用した経費の金額については、
   歳入歳出の決算報告書において、これを明らかにするとともに、その理由を
   記載しなければならない。
第三十四条 各省各庁の長は、第三十一条第一項の規定により配賦された予算に
   基いて、政令の定めるところにより、支出担当事務職員ごとに支出の所要額を
   定め、支払の計画に関する書類を作製して、これを財務大臣に送付し、その承認を
   経なければならない。
 2 財務大臣は、国庫金、歳入及び金融の状況並びに経費の支出状況等を勘案して、
   適時に、支払の計画の承認に関する方針を作製し、閣議の決定を経なければならない。
 3 財務大臣は、第一項の支払の計画について承認をしたときは、各省各庁の長に
   通知するとともに、財務大臣が定める場合を除き、これを日本銀行に通知しなければ
   ならない。
第三十四条の二 各省各庁の長は、第三十一条第一項の規定により配賦された歳出予算、
   継続費及び国庫債務負担行為のうち、公共事業費その他財務大臣の指定する経費に
   係るものについては、政令の定めるところにより、当該歳出予算、継続費又は国庫債務
   負担行為に基いてなす支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為をいう。
   以下同じ。)の実施計画に関する書類を作製して、これを財務大臣に送付し、その
   承認を経なければならない。
 2 財務大臣は、前項の支出負担行為の実施計画を承認したときは、これを各省各庁の
   長及び会計検査院に通知しなければならない。
第三十五条 予備費は、財務大臣が、これを管理する。
 2 各省各庁の長は、予備費の使用を必要と認めるときは、理由、金額及び積算の基礎を
   明らかにした調書を作製し、これを財務大臣に送付しなければならない。
 3 財務大臣は、前項の要求を調査し、これに所要の調整を加えて予備費使用書を作製し、
   閣議の決定を求めなければならない。但し、予め閣議の決定を経て財務大臣の指定
   する経費については、閣議を経ることを必要とせず、財務大臣が予備費使用書を決定
   することができる。
 4 予備費使用書が決定したときは、当該使用書に掲げる経費については、第三十一条
   第一項の規定により、予算の配賦があつたものとみなす。
 5 第一項の規定は、第十五条第二項の規定による国庫債務負担行為に、第二項、第三項
   本文及び前項の規定は、各省各庁の長が第十五条第二項の規定により国庫債務負担
   行為をなす場合に、これを準用する。
第三十六条 予備費を以て支弁した金額については、各省各庁の長は、その調書を作製して、
   次の国会の常会の開会後直ちに、これを財務大臣に送付しなければならない。
 2 財務大臣は、前項の調書に基いて予備費を以て支弁した金額の総調書を作製しなけれ
   ばならない。
 3 内閣は、予備費を以て支弁した総調書及び各省各庁の調書を次の常会において国会に
   提出して、その承諾を求めなければならない。
 4 財務大臣は、前項の総調書及び調書を会計検査院に送付しなければならない。
第四章 決算
第三十七条 各省各庁の長は、毎会計年度、財務大臣の定めるところにより、その所掌に
   係る歳入及び歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書を作製し、これを
   財務大臣に送付しなければならない。
 2 財務大臣は、前項の歳入決算報告書に基いて、歳入予算明細書と同一の区分により、
   歳入決算明細書を作製しなければならない。
 3 各省各庁の長は、その所掌の継続費に係る事業が完成した場合においては、財務大臣
   の定めるところにより、継続費決算報告書を作製し、これを財務大臣に送付しなければ
   ならない。
第三十八条 財務大臣は、歳入決算明細書及び歳出の決算報告書に基いて、歳入歳出の
   決算を作成しなければならない。
 2 歳入歳出の決算は、歳入歳出と同一の区分により、これを作製し、且つ、これに左の
   事項を明らかにしなければならない。
 (一) 歳入
  一 歳入予算額
  二 徴収決定済額(徴収決定のない歳入については収納後に徴収済として整理した額)
  三 収納済歳入額
  四 不納欠損額
  五 収納未済歳入額
 (二) 歳出
  一 歳出予算額
  二 前年度繰越額
  三 予備費使用額
  四 流用等増減額
  五 支出済歳出額
  六 翌年度繰越額
  七 不用額
第三十九条 内閣は、歳入歳出決算に、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書
   及び継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附して、これを翌年度
   の十一月三十日までに会計検査院に送付しなければならない。
第四十条 内閣は、会計検査院の検査を経た歳入歳出決算を、翌年度開会の常会に
   おいて国会に提出するのを常例とする。
 2 前項の歳入歳出決算には、会計検査院の検査報告の外、歳入決算明細書、各省
   各庁の歳出決算報告書及び継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を
   添附する。
第四十一条 毎会計年度において、歳入歳出の決算上剰余を生じたときは、これをその
   翌年度の歳入に繰り入れるものとする。
第五章 雑則
第四十二条 繰越明許費の金額を除く外、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、
   これを翌年度において使用することができない。但し、歳出予算の経費の金額の
   うち、年度内に支出負担行為をなし避け難い事故のため年度内に支出を終わら
   なかつたもの(当該支出負担行為に係る工事その他の事業の遂行上の必要に
   基きこれに関連して支出を要する経費の金額を含む。)は、これを翌年度に繰り
   越して使用することができる。
第四十三条 各省各庁の長は、第十四条の三第一項又は前条但書の規定による
   繰越を必要とするときは、繰越計算書を作製し、事項ごとに、その事由及び金額を
   明らかにして、財務大臣の承認を経なければならない。
 2 前項の承認があつたときは、当該経費に係る歳出予算は、その承認があつた
   金額の範囲内において、これを翌年度に繰り越して使用することができる。
 3 各省各庁の長は、前項の規定による繰越をしたときは、事項ごとに、その金額を
   明らかにして、財務大臣及び会計検査院長に通知しなければならない。
 4 第二項の規定により繰越をしたときは、当該経費については、第三十一条第一項の
   規定による予算の配賦があつたものとみなす。この場合においては、同条第三項の
   規定による通知は、これを必要としない。
第四十三条の二 継続費の毎会計年度の年割額に係る歳出予算の経費の金額のうち、
   その年度内に支出を終わらなかつたものは、第四十二条の規定にかかわらず、継続
   費に係る事業の完成年度まで、逓次繰り越して使用することができる。
 2 前条第三項及び第四項の規定は、前項の規定により繰越をした場合に、これを準用する。
第四十三条の三 各省各庁の長は、繰越明許費の金額について、予算の執行上やむを
   得ない事由がある場合においては、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにし、
   財務大臣の承認を経て、その承認があつた金額の範囲内において、翌年度に
   わたつて支出すべき債務を負担することができる。
第四十四条 国は、法律を以て定める場合に限り、特別の資金を保有することができる。
第四十五条 各特別会計において必要がある場合には、この法律の規定と異なる定めを
   なすことができる。
第四十六条 内閣は、予算が成立したときは、直ちに予算、前前年度の歳入歳出決算
   並びに公債、借入金及び国有財産の現在高その他財政に関する一般の事項に
   ついて、印刷物、講演その他適当な方法で国民に報告しなければならない。
 2 前項に規定するものの外、内閣は、少くとも毎四半期ごとに、予算使用の状況、
   国庫の状況その他財政の状況について、国会及び国民に報告しなければならない。
第四十六条の二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による手続については、
   行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成十四年法律
   第百五十一号)第三条及び第四条の規定は、適用しない。
第四十六条の三 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により作成することと
   されている書類等(書類、調書その他文字、図形等人の知覚によつて認識する
   ことができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。次条において同じ。)に
   ついては、当該書類等に記載すべき事項を記録した電磁的記録(電子的方式、
   磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる
   記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして財務大臣が
   定めるものをいう。次条第一項において同じ。)の作成をもつて、当該書類等の
   作成に代えることができる。この場合において、当該電磁的記録は、当該書類等と
   みなす。
第四十六条の四 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による書類等の提出に
   ついては、当該書類等が電磁的記録で作成されている場合には、電磁的方法
   (電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法で
   あつて財務大臣が定めるものをいう。次項において同じ。)をもつて行うことが
   できる。
 2 前項の規定により書類等の提出が電磁的方法によつて行われたときは、当該書類
   等の提出を受けるべき者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録が
   された時に当該提出を受けるべき者に到達したものとみなす。
第四十七条 この法律の施行に関し必要な事項は、政令で、これを定める。

<離島の価値と使い方>
PS(2020年9月12、13、15日):李登輝元台湾総統も「尖閣諸島が台湾領だったことはない」と言っておられたので、*6-1のように、石垣市が尖閣諸島の名称を「石垣市登野城尖閣」に変更し、尖閣諸島の有効支配が強化されることに、私は賛成だ。何故なら、国境離島の有効支配は、日本の排他的経済水域の面積に影響するため、重要だからである。そのため、付近を通行する漁船等のために、速やかに港・灯台・休憩所などを造り、「領土・主権展示館」分館も整備して、石垣市は固定資産税を徴収すればよいと思う。
 また、*6-2のように、宮古島市の下地島空港には3千m滑走路があり、有翼型宇宙往還機で2025年に年間100人、30年には年間千人の宇宙旅行者を下地島空港から送り出すことを目標としているそうだ。それならば、月や火星と往復する日もそう遠くないと思われ、美しい離島空港のしゃれた使い方だと感心した。
 そのような中、*6-3のように、IHIが火星探査機用の低燃費エンジンを開発し、2023年度をメドに納入するそうで頼もしいが、世界各国が火星移住を視野に火星探査プロジェクトを進めており、日本企業も技術で貢献しているのに、日本政府・JAXA組は火星の衛星しか探査する気がないのは残念だ。
 なお、離島の使い方には、*6-4のように、「伝染病から護りやすい」「害獣が少ない」「環境汚染がない」などの特色を利用した農業もあり、管理を徹底して“○○島育ち”をブランドにすることも可能だ。


   尖閣諸島         宮古島・周辺の島・連絡橋     波照間島、ヤギ放牧

*6-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1184681.html (琉球新報 2020年9月3日) 尖閣諸島の体制強化、提言まとめる考え 自民議連が議論
 自民党の国防議員連盟(会長・衛藤征士郎元防衛庁長官)は2日に勉強会を開き、尖閣諸島の有効支配について議論した。石垣市議の砥板芳行氏らが出席し、6月の市議会で尖閣諸島の字名を「登野城」から「登野城尖閣」に変更した経緯を報告。固定資産税を評価するための尖閣での実施調査や、東京都にある「領土・主権展示館」の分館を石垣市に整備することなどに関して検討を求めた。国防議連は尖閣諸島に関する勉強会を重ねており、海保や警察、自衛隊の体制強化などについて政府の2021年度予算編成に間に合わせる形で提言をまとめる考え。議連事務局長の佐藤正久参院議員によると、出席議員からは領土・主権展示館の分館の整備について、東京都が尖閣諸島購入のため積み立てた基金(約14億円)の活用を提案する声があった。石垣市内の海上保安庁の施設を中国人がドローンで撮影した事例があったとして、ドローン規制法の対象に海保の施設が含まれていないことを指摘する意見も出た。

*6-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1188816.html (琉球新報 2020年9月10日)下地島空港で宇宙機の技術実証 愛知のPDエアロスペース、実験機の開発拠点に
 宇宙機開発などを手掛けるPDエアロスペース(愛知県)と県は10日、宮古島市の下地島空港と周辺用地の利活用事業実施に向けた基本合意書を締結した。同社は今後、宇宙機の技術実証や実験機の開発拠点として下地島空港を利用する。2025年に年間100人、30年には年間千人の宇宙旅行者を下地島空港から送り出すことを目標としている。同社は07年に設立。全日空(ANA)などが出資している。有翼型宇宙往還機による有人宇宙旅行を目標としており、現在は無人の宇宙往還機を開発中で、22年中に高度100キロメートルまで到達することを目指している。計画では、スペースシャトルなどの打ち上げ型とは異なり、飛行機のように水平に離陸し、高度15キロからロケットのように垂直方向で上昇する。同社はジェット燃焼とロケット燃焼を切り替えられる独自のエンジンを開発中で、完成すれば着陸の際にもエンジンを再点火して飛行機のように安全に着陸ができるようになるという。3千メートルの滑走路があり、気候的にも年間を通じて飛行試験ができる下地島空港が適していると判断した。宇宙旅行者向けの訓練事業や、飛行実験などを見せる観光事業も展開する。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200913&ng=DGKKZO63780830S0A910C2MM8000 (日経新聞 2020.9.13) IHI、火星探査機向け低燃費エンジン 23年度めど納入
 IHIは火星探査機用の低燃費エンジンを開発した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが進めるプロジェクト向けに、2023年度をメドに納入する。火星探査は打ち上げから帰還まで往復約5年がかかるが、少ない燃料での飛行を可能とした。長距離の飛行を支える技術開発が進めば、各国が取り組む宇宙探査の領域を広げそうだ。政府とJAXAが24年度に打ち上げる火星の衛星探査計画「MMX」の探査機向けに供給する。世界では米エアロジェット・ロケットダインや欧州アリアン・グループなどが衛星向けのエンジンで先行しており、IHIが火星関連プロジェクトでエンジンを提供するのは初めてとなる。地球からの距離が月に比べて100倍以上と遠い火星は、長期間の飛行に耐えられるエンジン性能が不可欠だ。IHIのエンジンは独自の技術で燃焼効率の改善を進め、欧米の競合よりも燃費性能を高めた。MMXは火星研究の一環として周辺衛星の地表の物質を採取して地球に持ち帰る。火星軌道への投入や離脱、衛星への離着陸には繊細な制御技術が不可欠となる。IHIは国際宇宙ステーション(ISS)の無人輸送機「こうのとり」向けエンジンでドッキングなどのノウハウを積み上げており、制御面でも火星探査が求める仕様に対応しやすいという。世界各国では火星探査プロジェクトが相次ぐ。7月に米国が探査機打ち上げを成功させ、中国やアラブ首長国連邦(UAE)も参入した。インドと欧州連合(EU)も探査事業を進めており、火星移住でも米スタートアップのスペースXが大型宇宙船の開発を急ぐ。日本企業の参入機会も広がっており、三菱重工業は7月にUAEの火星探査機の打ち上げを担った。帝人は米国の火星探査機に使う着陸用パラシュートで鉄の8倍の強度を持つ繊維を提供した。IHIは今回のプロジェクトを足がかりに、他の宇宙事業への参画を狙う。

*6-4:https://www.agrinews.co.jp/p51889.html (日本農業新聞 2020年9月15日) 衛生基準設定後、東京都区内で初 放牧養豚を再開 世田谷区の吉岡さん
●ブランド力 高めたい
 東京都世田谷区の吉岡幸彦さん(74)は、約2万平方メートルの敷地で造園業と養鶏業の傍ら、念願かなって7月下旬から放牧で豚を飼い始めた。豚熱などの予防に向けて農水省が6月に新たな飼養衛生管理基準を設けて以降、都区内では初の放牧養豚だ。管理を徹底してブランド力を高め、11月ごろの出荷を目指す。吉岡さんは、2年ほど前まで都の銘柄豚「TOKYO―X」などをアニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理)にのっとり放牧で飼っていたが、全国で豚熱発生が相次いだためやむなく中断した。しかし、鶏も放し飼いにするなどできるだけ自然な形の農業を目指す吉岡さんは「もう一度豚を放牧で飼いたい」との思いが強まり、日本放牧養豚研究会の山下哲生理事長に相談。以前養豚で使っていた約660平方メートルで再開することを決めた。導入したのは、東京都心から南に120キロ離れた、イノシシがすんでいない伊豆諸島の豚。ちょうど出荷先を探していた大島町の農家を知り、バークシャー種15頭を7月に運び込んだ。豚熱のワクチン接種は済ませたが、万一の事態に備え農場はフェンスで囲い、屋根がある避難スペースを確保。見学に来た人が豚に近づかないよう貼り紙やカラーコーンで注意を呼び掛ける。近くに保育園が20ほどあり、今では子どもたちが1日に1回は豚を見に来るなど、都市化が進んだ東京で貴重な食育の場になっている。11月に最初の出荷をした後は、都立瑞穂農芸高校(瑞穂町)で飼う豚を導入することも考える。吉岡さんは「都内で生まれた豚を都内で放牧することで付加価値を高めたい」とする。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 08:59 PM | comments (x) | trackback (x) |
2020.7.8 スマートシティーが備えるべき条件は何か? ← 環境が良く安全な場所で安心して豊かな生活を送れる国がスマートなのであり、ITやAIはそのツールの一つに過ぎない。まして我慢の強制などは、工夫のない政治がすることだ (2020年7月9、10、12、14、17、18、19日追加)
   
  2020.7.7    2020.7.7     2020.7.5      2020.7.6日経BZ
  中日新聞    日本農業新聞    毎日新聞    浸水想定区域と実際の浸水域

(図の説明:1番左の図は、2020年7月7日までの豪雨被害地域だ。左から2番目は、人吉市の電線に流れてきた植物がからまっている状態で、水深がここまであったことを示す。右から2番目は、球磨村の特別養護老人ホームが水に沈んでいる様子で、1番右の図は、球磨川流域の浸水想定区域と実際の浸水域を示した地図である。これらによると、球磨村の特別養護老人ホームが著しく浸水することは前からわかっており、他の住宅は一段高い場所にあるため浸水していない)

(1)2020年梅雨時期の九州豪雨とその被害
 熊本県南部の豪雨では、*1-1のように、特別養護老人ホームの浸水によって入所者14人が亡くなったが、私は、その高齢者施設が地価が安いという理由からか、氾濫の恐れがある川の傍の低い場所に造られているのに驚かされた。特に、千寿園はその危険性が知られていた地域に立地しているのに、上層階のある頑丈な建物でもなく、エレベーターもないそうで、まるで三途の川の畔に建てられたような建物だったと言わざるを得ない。

 何故なら、高齢者は避難困難者であるため、浸水の恐れのある場所に高齢者施設を建設すること自体が危険であり、避難計画を作成したから命を守れることにはならないからだ。そのため、突きつけられた重い課題は、「日本は、高齢者を粗末にする国だ」ということであり、「(毎年、どこかで起こっている)○○年に一度の想定を超える豪雨」「水位が急激に上がって対応が追いつかなかった」というのは、言い訳にもならない。

 また、熊本県人吉市や球磨村では、*1-2のように、屋根と同じ高さにある電線に氾濫した川の水が運んだ木の枝や草がぶら下がり、屋根の高さまで水が押し寄せ、JAくま管内の支店建物や農地でも大きな被害が出ているそうだ。それでも、農地はまだ回復が早いが、住宅はそうはいかないため、今後の地方自治体の仕事は、避難を促すだけでなく、危険な地域には人が住まないよう土地利用を規制することである。そのためには、既に使われている土地・建物を交換したり、収用したりするなどの方法がある。

 福岡、佐賀、長崎三県でも、*1-3のように、大分県日田市で筑後川が氾濫し、熊本・大分県境の下筌ダムは基準水位を越えたため緊急放流したそうだ。また、大牟田市では避難所が周辺の冠水で孤立し、そこには200人以上が身を寄せていたそうだ。福岡・佐賀・長崎で被害が大きかったのは、有明海沿岸の海抜0mに近い地域で、有明海の満潮時に排水不良が起こったようだが、地球温暖化で海面が上がるにつれ海抜はさらに低くなるため、ここでも土地利用の見直しが必要である。

 また、ダムや河川は、底に泥が溜まって浅くなっても浚渫せず、本来の能力を維持できていない場合が多いそうだ。そのため、人口減の現在は、新しいダムを作るより現存するダムや河川を適格に管理し、できれば強化して(水力発電等の)多目的で使えるようにするのが経済的だ。

 このように事前の災害防止を怠り、国民の命を粗末にしながら、*1-4のように、防衛省は九州の豪雨被害に自衛隊員を2万人派遣して人命救助や土砂の撤去に当たらせるそうで、現在はそれが必要だが、まるで賽の河原の石積みのように思える。

 そのため、*1-5のように、激甚災害に指定するのなら、“復旧”して元の場所に同じ建物を建て、毎年同じことを繰り返して国民の血税を使うのではなく、適格な住居規制を設けて街づくりをやり直し、安全な街を作れるように復興を手伝うことが重要であり、それには、(戦争中でないため時間がある)自衛隊の労働力も使えばよいと思う。

(2)リスクを考慮した街づくりと既存施設の維持管理
1)住宅ゾーンの規制
 朝日新聞は、2020年3月22日、*2-1のように、「①政府が土地利用規制に乗り出し、都市計画法等の改正案を閣議決定して国会に提出する」「②ダムや堤防などハード面の整備だけに頼らず、街づくりから変えるという考えは理にかなう」「③レッドゾーン・イエローゾーンでの住宅開発の許可を厳しくする」「④権利の制限に繋がるので、どこから網をかけるかは難しい」「⑤被害をうけた工場が移転して地価が下がった場所で宅地開発が進むのを目にする」「⑥浸水想定区域に住む人は、2015年時点で20年前に比べて4%増、世帯は25%増だ」としている。

 このうち①②③はそうすべきだが、④を気遣って⑤⑥を野放しにすることが住民の権利保護に繋がるのかと言えば、自治体がその土地の安全性に関する情報を開示し、安全を守れる都市計画を作って住民に安全を保障することが、自治体の仕事でもあり住民の権利を護ることだと、私は思う。つまり、これをやらないことこそ、必要な仕事をしない不作為である。

2)ダムや河川への土砂の堆積
 ダムに土砂が堆積して貯水量が減り、本来の治水機能を発揮していないダムが全国に100カ所以上あることを、会計検査院が、*2-2のように、2014年に指摘している。これでは多発している豪雨に対応できないとして、会計検査院は国土交通相に改善を求めた。中には、堆砂量が計画堆砂量の3倍以上に達しているダムも2カ所あったそうだ。

 放流して人災を起こしたダムには、このような問題があったのではないか検証すべきで、設定貯水量が建設当時のままで、現在の堆砂量をダムの貯水量に反映していないなどというのは、論外だ。さらに、地震計が故障しているのに気づきながら3年以上も放置していた3県が管理する5ダム、地震計とダム管理者への自動通報装置を接続していないため地震発生時に速やかに臨時点検ができない状態のダム、非常用発電設備の燃料が規定を満たす備蓄量に達していないダムも数多く見られたそうで、それこそ国民の命を守るという意識に欠けている。

 そのため、会計検査院は国交省に対し、3つの改善処置と自治体等への周知徹底を求めたそうだが、2014年に指摘されてから6年後の現在、まだ改善されていなかったとすれば人災である。

3)まだ台風ではなく、梅雨なのだ
 政府は、*2-3のように、2019年12月20日、地方自治体が河川やダムにたまった土砂やヘドロを取り除く作業を総務省が支援することとし、当初予算案で900億円を計上したそうだ。

 しかし、他の無駄遣いが多い割には、土砂の浚渫を地方債の起債対象として起債額の70%を地方交付税で措置する政策で、それを行うことができない自治体は多く、起こった災害に対して、このように膨大な予備費を使わなければならなくなるのである。そして、今回の豪雨は、まだ台風ではなく梅雨であるため、早急に対策を実施できるようにすべきだ。

(3)地域エネルギー
 日経BPが、2015年6月29日、*3-1のように、「①日本各地で、地域新電力(地域密着型のエネルギー事業)が立ち上がっている」「②背景は電力小売りの全面自由化」「③再生可能エネルギーなどの地域資源を活用した電力を購入して小売りすることに多くの事業者が名乗りを挙げている」「④地域資源を生かしてエネルギーを生み出し、それを地域内で消費すればエネルギー資金が地域内で還流し、地域活性化に繋がる」「⑤事業が活性化して市外にも流通すれば収益が膨らむ」と記載しており、これは事実だったのだが、原発の再稼働とともに送電線が満杯という理由で話が下火になってしまった。

 しかし、*3-2のように、熊本県南阿蘇村で豊富な湧水を活用した小水力発電施設が整備されることになっており、水力発電なら治水ダムや利水ダムも利用できる筈だ。

 このように全く工夫が足りない中、*3-3のように、取引条件として環境対応を重視する顧客の要望があり、事業に必要な電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的企業連合の「RE100」に加盟する日本企業は、30社に達したそうだ。

 しかし、実績では欧米勢に大きく後れを取っており、その理由は、日本では太陽光17.7円/kwh(2017年)、陸上風力15.8円/kwh(2017年)と未だに再エネ調達コストが高いからで、これは、世界の太陽光9.1円/kwh、陸上風力7.4円/kwhを大きく上回っている。ここでも、世界は既に、日本政府が2030年に実現を目指す目標を達成済であり、日本はどうしてこのように何でも遅いのかを、猛烈に反省すべきだ。

・・参考資料・・
<2020年九州豪雨>
*1-1:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200708/KT200707ETI090007000.php (信濃毎日新聞 2020年7月8日) 高齢施設の被災 突きつけられた重い課題
 熊本県南部の豪雨による特別養護老人ホーム「千寿園」の浸水被害で、入所者14人の死亡が確認された。
自力避難の困難な高齢者が犠牲になるケースは、過去の水害でも繰り返されてきた。命を守るために何が必要か。突きつけられた重い課題に改めて向き合わねばならない。濁流が押し寄せる中、職員は地域住民の協力も得て入所者の救出に奮闘した。だがエレベーターもなく、一人一人を抱えて階段を上るのに時間がかかり、全員を救うことはできなかった。熊本日日新聞の報道によると、施設長は当時、増水より土砂崩れを心配していたという。近くの球磨川と支流の合流点に数年前、水位の急上昇を防ぐ「導流堤」が完成していたこともあった。水位が急激に高まり、対応が追いつかなかった経緯が浮かぶ。早く避難に踏み切っていれば救えたのではないかと悔やまれる。国の調査では、浸水の恐れがある場所に立つ全国の高齢者施設などのうち、避難計画を作成済みなのは昨年3月時点で36%にとどまる。千寿園は作成していた。作成を促すと同時に、既存の計画に見落としている点はないか、見直しを進めるべきだ。早めの避難が大切なことは確かだ。ただ、高齢者の移動は心身に与える負担も大きい。人手や時間もかかる。踏み切るタイミングの判断は簡単ではない。避難を促す上で欠かせないのは地元自治体の役割だ。避難の勧告や指示は適切に出て正確に伝わっていたか。検証が必要だろう。2016年の台風で入居者9人が死亡した岩手県岩泉町の高齢者グループホームの事例では、当時の町長が迷いながら結局、避難指示を出せなかった。河川や気象の情報を集めているのは、国土交通省や気象庁など国の機関だ。それが自治体の判断を支えられる態勢になっているかどうかが重要なポイントだ。昨年秋の台風19号災害では、千曲川の堤防が決壊したとの情報が国交省から長野市に伝わっていなかった。情報共有や行政の連携態勢を整える必要がある。高齢者施設は、広い面積が取れて地価が安いなどの理由から、必ずしも安全な場所に立地してはいない。千寿園の地点は、以前からその危険性が知られていた。氾濫の恐れが高い地域への建設を規制するよう求める専門家もいる。災害に強い高齢者施設の在り方は、まちづくりの観点からも考えていかねばならない。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p51285.html (日本農業新聞 2020年7月7日) 九州豪雨 電線にごみ、屋根に流木「水位ここまで」 熊本県人吉市・球磨村
 JAくま人吉支所球磨村店の屋根と同じ高さにある電線には、氾濫した川の水が運んだ木の枝や草などがぶら下がっていた。球磨川の氾濫で5日まで水に漬かっていた人吉市や球磨村では6日、一夜明けて変わり果てた光景が広がった。屋根の高さまで水が押し寄せ、JAくま管内の支店建物や農地などでも大きな被害が出ている。JA本店の職員らは、5日朝から被害を受けた支所に集まり支援を始めたが、6日も雨は降り続いており、予断を許さない状況が続いている。「普段見慣れている分、余計に衝撃的な光景だ」。JAくま本所から人吉支所に向かう道中、同行したJA職員はつぶやいた。JAくま本所から国道219号を西に進むと球磨川に着く。川を渡ると「九州の小京都」と呼ばれることでも有名な人吉市の変わり果てた光景が広がる。頻繁に行き交う自衛隊の車両や木や電柱には、泥が付着。住宅街には動かなくなった車が点在する。JAでは5日朝、「手の空いている職員は人吉支所に集合」と指示が出て、JA役職員や女性部の部員らが大勢集まった。支所での清掃作業や移動店舗車による臨時の窓口業務を行う。同JAには県内のJAから支援物資を送りたいとの連絡が来ているが、JAの尾方朝則参事は「JAからの協力は非常にうれしい。ただ6日も雨が降り続き、順調に到着できない」と話す。球磨村でも、大きな被害が出ている。JA人吉支所球磨村店には水が屋根の高さまで押し寄せた。店舗から道路の電柱までつながる電線には川から流れ着いた草や、ごみ、布などが付着。押し寄せた水の水位を物語っている。店舗の隣で地元の住民2家族が自宅内の泥のかき出し、水に漬かった家具を外に運び出していた。コンビニには、自衛隊の復旧作業車が10台近く止まっていた。水田には、大量の泥が流れ込んだまま。水田の隣の畑にはトウモロコシが植えてあるが、水の勢いで倒壊寸前まで曲がっている。軒高2メートル以上の2棟のハウスの屋根にも流木や草が付着している。付近の住宅は無残な形で潰れ、原形をとどめていない。JAによると、人吉市や球磨村は5日中に水が引かなかった。さらに6日も雨が降り続いており、被害の実態把握には、時間がかかる見通しだ。

*1-3:https://www.chunichi.co.jp/article/84866?rct=national (中日新聞 2020年7月7日) 九州の豪雨被害拡大 死者52人に、筑後川氾濫
 停滞する梅雨前線の影響で九州は七日も北部を中心に猛烈な雨が降った。気象庁は福岡、佐賀、長崎三県の一部自治体への大雨特別警報を警報に切り替え、引き続き警戒を呼び掛けた。大分県日田(ひた)市では筑後川が氾濫。熊本、大分県境の下筌(しもうけ)ダムは基準水位を越え、緊急放流に踏み切った。福岡県で初めて死者一人を確認。大牟田市では避難所が周辺の冠水で孤立し、県は陸上自衛隊に災害派遣を要請した。熊本県ではこれまでに全県で五十一人が死亡、二人が心肺停止。行方不明者十一人の捜索が続いた。武田良太防災担当相は九州の豪雨について行政上の特例措置を通じて被災者を救済する特定非常災害の指定を検討すると明らかにした。福岡県によると、死亡したのは大牟田市の田中春子さん(87)。六日夜に冠水した自宅で見つかり、病院で死亡が確認された。同市で冠水した避難所は二カ所で、七日午前四時の時点で計二百人以上が身を寄せていたという。筑後川の氾濫を受け、福岡管区気象台と国土交通省は午前八時三十五分、大雨・洪水警戒レベルで最高のレベル5に当たる氾濫発生情報を発表した。

*1-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/40712 (東京新聞 2020年7月7日) 災害派遣2万人態勢に増強 自衛隊、被害拡大のため
 防衛省は7日、九州の豪雨被害に対処する自衛隊の災害派遣の規模を、現行の1万人態勢から2万人態勢に拡大すると発表した。自衛隊は4日から熊本県で人命救助や土砂の撤去に当たっており、九州北部にも被害が広がったため増員が必要と判断した。防衛省によると、7日時点で、熊本県に加え、避難所が水没した福岡県大牟田市や大分県にも部隊を派遣した。これまでは九州を拠点にする部隊が活動してきたが、今後は他の地域の部隊を活用することも検討する。河野太郎防衛相は7日午後、ツイッターで「(熊本県)球磨村の孤立が深刻で、隊員が徒歩で水、食料を届け、安否確認をしている」と投稿した。

*1-5:https://jp.reuters.com/article/suga-kyushu-disaster-idJPKBN2490EL (Reuters 2020年7月8日) 九州での豪雨、激甚災害に指定の見通し=官房長官
 菅義偉官房長官は8日午前の会見で、九州の豪雨被害について、被災した自治体が復旧事業を行う際に国から財政的な支援を受けられる「激甚災害」に指定する見通しだと明言した。同長官は「被災地の早期復旧のために、財政面で不安を持つことなく復旧に取り組むことが大事であり、基準を満たしたものから速やかに行いたい」とした。東京都内で新型コロナウイルスの新規感染者が連日100人超確認されていることについては、3週間ごとの見直しに沿って専門家に議論してもらった上で、都外への外出に気を付けてもらうという中で、予定通り次の段階に制限を緩和する方針だと述べた。

<リスクを考慮した街づくりと既存施設の維持管理>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14412053.html (朝日新聞社説 2020年3月22日) 災害と住まい 危ない土地には規制を
 大きな自然災害が近年相次いでいるのに対応するため、政府が土地の利用規制に乗り出すことになった。都市計画法などの改正案を先月閣議決定し、この国会に提出している。ダムや堤防などハード面の整備だけに頼らず、まちづくりの思想から変えていこうという考えは理にかなう。行政はもちろん、住民が認識を深めるのに役立つ審議を期待したい。検討されているのは、▽出水や土砂災害などの危険性が高い「レッドゾーン」は、居住をすすめる区域から除くことを徹底する▽そこでは事務所や店舗、ホテルなどの開発を原則として禁止する▽市街化調整区域内にあって浸水被害が予想される「イエローゾーン」で、住宅開発の許可を厳しくする―などだ。行政の勧告に従わない事業者の氏名を公表できるようにすることも盛り込まれている。がけの下や地盤の弱い土地、川沿い・海沿いの低地、遊水池跡といった危険な地域に、住宅や人が集まる施設がなければ、災害が起きても被害を抑えることができる。だが権利の制限につながるため、どこまで個人や企業の判断に任せ、どこから網をかけるかの線引きが難しく、結果として野放図ともいえる開発が進んできた。しかし気候は激甚化し、地震も頻発する。手をこまぬいているわけにはいかない。被災地でよく目にするのは、被害をうけた工場などが移転して地価が下がった一帯で、宅地開発が進む現象だ。山梨大の調査によると、国や県の浸水想定区域に住む人は、2015年時点で20年前に比べて4%増、世帯は25%も増えている。法改正はこうした動きへの一定の歯止めにはなろう。だが、同じイエローゾーンでも規制強化措置がとられるのは市街化調整区域に限られるなど、踏み込み不足と思える点もある。政府は、宅建業法も今後見直し、不動産取引の際に水害リスクを告げるよう、業者に義務づけることを検討中だ。議論を重ね、危ない土地への居住を減らす方策を広げてほしい。参考になるのは滋賀県が14年に定めた流域治水推進条例だ。リスク告知を努力義務とし、200年に1度の大雨で3メートル以上浸水する土地では、新改築時に地盤をかさ上げしたり2階建て以上にしたりするよう求める。対象エリアに指定するには地域の合意が必要で、県内に50ある候補地区のうち、実現したのはまだ2カ所にとどまる。それでも地域で話し合うことで、リスクの認識は深まる。20年先、30年先を見越して安全なまちをどう築くか。旧来と異なる発想で考えたい。

*2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO78834440U4A021C1000000/ (日経新聞 2014/10/24) 堆砂で機能低下のダム100カ所以上、検査院が指摘
 ダム内に土砂が堆積して貯水量が減り、本来の治水機能を発揮できない恐れのあるダムが全国で100カ所以上あることが2014年10月21日、会計検査院の調査で分かった。このところ多発している突発的な局地的豪雨などに対応できないとして、検査院は国土交通相に改善を求めた。検査院が検査したのは、国交省が管理する29ダムと21道府県が管理する182ダムの合計211ダム。検査における着眼点は、点検や計測の実施状況、堆砂への対応状況、緊急時への備えなどだ。
■計画堆砂量の3倍以上に達しているダムも
 指摘が最も多かったのは堆砂への対応状況で、主に3つのケースが見られた。1つ目は、実際の堆砂量が計画堆砂量を上回る状況。計画年数に達していないのに、既に堆砂量が計画堆砂量を上回っている事例が、9府県管理の20ダムに見られた。中には、堆砂量が計画堆砂量の3倍以上に達しているダムも2カ所あった。検査院は、実際に利用できる貯水容量が減少するのに加え、貯水池の上流部に土砂が堆積した場合には、貯水池上流の河川などに影響を及ぼす場合もあると指摘している。2つ目は、土砂が洪水調節容量内に入り込んでいるケースだ。たとえ堆砂量が計画堆砂量に達していなくても、洪水時に本来、貯留できる水量を貯留できなくなり、ダムの下流の河川に影響を及ぼす恐れがある。検査院によれば、国交省所管の14ダムと16道県所管の92ダムでこうした状態になっていた。このほか、11道県所管の48ダムはそもそも洪水調節容量内の堆砂量を算出せず、状況を把握していなかった。3つ目は、現在の堆砂量をダムの貯水量に反映していない例だ。国交省が管理する22ダムと20道府県が管理する130ダムでは、設定貯水量が建設当時のままで、堆砂の測量結果と連動していなかった。検査院はこれらのダムでは貯水位が建設当時よりも速く変化するため、貯水池への水の流入量を正確に測れない可能性があると指摘。放流のタイミングなど、ダムの操作を誤る恐れがあるとしている。
■地震計が壊れていても放置
 河川法に基づく操作規則に定められた点検や計測の履行については、漏水量の計測や設備の点検などが規則どおりに行われていなかった。例えば9県が管理する25ダムでは、「計測値に大きな変化がみられない」ことを理由に、一部の項目について3年以上にわたって計測を止めていた。さらに、3県が管理する5ダムでは点検の際、堤体下部に設置された地震計が故障しているのに気づきながら3年以上も放置していた。このほか、地震計とダム管理者への自動通報装置を接続していないため、地震発生時に速やかに臨時点検ができない状態のダムや、非常用発電設備の燃料が規定を満たす備蓄量に達していないダムも数多く見られた。検査院によると、維持管理に不備のあるダムは、合計201カ所あった。以上の調査結果を踏まえ、検査院は国交省に対して以下の3つの改善処置と自治体などへの周知徹底を求めた。
 1)維持管理に必要な計測を適切に行い、必要に応じて設備の修繕などを施す。
 2)計画堆砂量を大きく上回るなど、堆砂に関わる問題を抱えている場合は適宜、対策を
   検討する。また、堆砂量の測定結果は、ダム操作などに関わる情報に反映させる。
 3)地震発生時に速やかに臨時点検が行える体制を整えるとともに、緊急時に所要の連続
   運転可能時間を確保できるように、非常用発電設備の燃料調達などに万全を期す。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14302512.html (朝日新聞 2019年12月21日) 河川やダム氾濫、防止支援900億円 予算案
 10月の台風19号で東日本の広い地域で洪水被害が出たことを受け、地方自治体が河川やダムにたまった土砂やヘドロを取り除いて氾濫(はんらん)しにくくする作業を総務省が支援する。政府が20日に閣議決定した当初予算案で900億円を計上した。来年の通常国会に地方財政法改正案を提出し、土砂の浚渫(しゅんせつ)を地方債の起債対象にする一方、起債額の70%を地方交付税で措置する。事業は2024年度までの5年間の予定で、事業費は計4900億円を見込む。

<地域エネルギー>
*3-1:https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/061800007/062500005/ (日経BP 2015.6.29) ■総論■地域エネルギービジネス、動く
 日本各地で、地域密着型のエネルギー事業が立ち上がっている。大きな流れの一つが地域新電力(特定規模電気事業者、PPS)である。背景にあるのは、電力小売りの全面自由化。再生可能エネルギーなど地域の資源を活用した電力を購入し、小売りすることに新たなビジネスチャンスを見出し、数多くの事業者がPPSに名乗りを挙げている。地域の資源を生かしてエネルギーを生み出すとともに、その電力を地域で消費すれば、エネルギーに関わる資金は地域内で還流する。そして資金の動きが活発になれば、地域の活性化につながる――。地域エネルギービジネスの根底にある、この地域活性化の効果に目をつけているのはPPSだけではない。地方自治体の中にも、地方創生に向けてエネルギービジネスに取り組む例は少なくない。PPSの動きの中にも、自治体が関与しているケースがいくつかある。再生可能エネルギーなど地域の資源を生かした電力は、燃料の製造、配送をはじめ、地域の雇用を生み出す。事業が活性化して市外にも流通すれば、収益が膨らむ。加えて、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)により、電力会社に売電できれば、新たな収入源になる。とはいえ、エネルギー産業は多額の初期投資が必要になる。地域内で安定的に燃料を確保し、配信できる体制づくりも欠かせない。しかも、その仕組み・体制づくりやノウハウは、太陽光・バイオマス・風力・小水力など、発電の方式によって全く異なる。そこで一部の自治体は、地元企業とタッグを組んで課題解決に挑んでいる。

*3-2:https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/nishinippon/region/nishinippon-1000574509 (西日本新聞 2020年1月10日) 南阿蘇で小水力発電着工 湧水生かし21年春から事業開始
 熊本県南阿蘇村に豊富な湧水を活用した小水力発電施設が整備されることになり、8日に現地で起工式があった。棚田を潤す農業用水を発電にも有効利用する県内初の試み。来年4月から事業を始め、一般家庭350戸分を発電する計画。売電収入の一部は地元の農業団体に還元され、農業振興にもつなげていく。施設が整備されるのは、緩やかな棚田が広がる久木野(くぎの)地区。全長約1キロの地下導水路を整備し、36メートルの高低差を利用してタービンを回し、最大出力199キロワットを発電する計画。売電収入は年間4600万円の見込み。このうち400万円は利水料として、地元農家でつくる久木野村土地改良区(567人、580ヘクタール)に配分される。小水力発電を巡っては、地域に眠る自然エネルギー活用に向け、県とNPO法人・くまもと温暖化対策センターが2009年から事業候補地を検討。36カ所から南阿蘇村が選ばれ、14年に事業認可された。ところが、東日本大震災後に太陽光発電施設が急増して送電トラブルが生じていたほか、16年の熊本地震で建設用地が被災し、着工が遅れていた。この日は、村と関係団体、運営会社の協定調印式もあった。総事業費は3億8千万円で運営会社が全額負担する。旧清和村長で同センター副理事長の兼瀬哲治さんは「農山村は、豊かな自然エネルギーの供給基地でもある。発電収益を地域に循環させることで、持続可能な農業や景観保全につなげていってもらいたい」と話した。

*3-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53748060U9A221C1TJ3000/?n_cid=DSREA001 (日経新聞 2019/12/25) 事業電力を100%再エネに 日本企業、欧米勢に後れ
 事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す、国際的な企業連合「RE100」に加盟する日本企業が30社に達した。背景には、取引条件として環境対応を重視する顧客の要望がある。ただ実績では欧米勢に大きく後れを取る。再生エネの調達コストが高い日本で、どうやって実効性を高めるかが課題になっている。楽天は17日、RE100に加盟し、2025年までに事業活動の電力を100%再生エネにすると発表した。データセンターや物流拠点で多くの電力を消費する同社だが、近年は再生エネ関連サービスにも注力する。同社の小林正忠常務執行役員は「イノベーションによる気候変動対策への貢献を目指す」とコメント。今後は本社だけでなく、楽天市場の出店店舗や楽天トラベルの加盟宿泊施設に対しても、再生エネの導入を支援していく方針だ。14年に発足したRE100は世界約220社が加盟、売上高合計は5.4兆ドル(約590兆円)に達する巨大連合だ。日本企業は17年のリコーを皮切りに、今秋以降にも東急やLIXILグループなどが参加。小売りや金融など幅広い業種に広がり、楽天の参画で加盟数は30社になった。数では一定の存在感を持つ日本勢だが、肝心の再エネ利用率では欧米勢に大きく後れを取る。RE100を主導する英国の非政府組織(NGO)によると、18年に再生エネの比率が95%を超えたのは45社で、ほぼ全てが欧米企業。日本企業のほとんどは25%未満(73社)のグループに属する。19年7月に再生エネ100%を実現した城南信用金庫など一部を除き、大半の企業にとって目標達成は遠い。取り組みの遅れは、企業の競争力に影響を与えはじめた。グローバルでの商取引では「再生エネの導入が前提条件になりつつある」(公益財団法人・自然エネルギー財団の石田雅也氏)ためだ。リコーは19年度から、国内外の5工場を対象に、主力製品のA3複合機の組み立てに使用する電力を100%再生エネに切り替えている。欧州を中心とした海外の大口顧客は、再生エネの利活用を購買判断の基準にしているためだ。「商談などでも重視され、未対応はリスクでしかない」と同社は説明する。今年RE100に加盟したパナソニックも、年内にも国内外の4工場で電力を100%再生エネにする計画だ。だがこうした動きは、有力企業の一部にとどまる。先進的とされるリコーでも全社の再エネ比率は18年時点で9%。19年度中に多少高まるが、100%を実現するのは50年になる見通しだ。一方で海外大手ははるかに先を行く。米アップルは世界中のサプライヤーに再生エネの導入を推奨。既に40社以上がアップル向け生産ラインで再生エネ100%を実現した。日本でも日本電産など3社が対応している。原動力はESG(環境・社会・企業統治)投資の動きだ。米ゴールドマン・サックスは12月中旬に、石炭火力発電や石炭採掘事業への融資を削減することを表明。環境対策を強化する企業に多くの投資資金が流れ込む。その象徴が資金の使い道を環境事業に絞った環境債(グリーンボンド)の急増だ。19年は2500億ドル(約27兆円)を超え、過去最高を更新した。アップルは11月、20億ユーロ(約2400億円)の環境債を発行した。環境意識の高い大企業がマネーを呼び込み、再生エネの「経済圏」を拡張し企業価値を高めていく。再生エネの導入に二の足を踏んでいては、この流れに乗り遅れかねない。RE100を推進する業界団体「JCLP」の石田建一・共同代表(積水ハウス常務執行役員)は、「日本企業も再生エネの利活用方針を明確に打ち出し、具体的な実効策に着手する段階に来ている」と強調する。
■太陽光、風力 高コストがネック
 企業が再生可能エネルギーの利活用を進めるには、「理念」だけでは不十分だ。経済合理性を度外視した取り組みは株主の理解を得られず、持続性もないためだ。その点で日本企業は大きなハンディを背負っている。経済産業省の資料などによると、日本における太陽光発電のコストは17年に1キロワット時あたり17.7円で、陸上風力発電は15.8円。一方、世界の平均コストは太陽光が9.1円、陸上風力が7.4円だ。日本政府が30年に実現を目指す水準を、既に達成している。再生エネ比率を高める上では再生エネ価値を取引する「証書」を購入する手法も有効だが、通常の電力調達より割高になる。証書による調達に加え再生エネ電源への直接投資などを進めなければ、日本企業が海外勢に追いつくのは難しい。再生エネ価格の高止まりは、海外企業が日本進出をためらう原因にもなる。米グーグルは千葉県に日本初のデータセンターを開設する計画だが、再生エネの調達で難航する可能性もある。仮に化石燃料由来の電力を使うようなら、再生エネ比率が下がってしまう。「日本への直接投資の広がりにも水を差しかねない」(業界関係者)。アップルやソニーなど、RE100に加盟する大手20社は6月、日本の電力に占める再生エネ比率を30年に50%に引き上げるよう求める提言を発表した。政府は30年にこの比率を22~24%に引き上げる目標を掲げ企業への支援を強化する方針だが、今後はより踏み込んだ環境整備も重要になりそうだ。

<では、どうするべきか?>
PS(2020年7月9日追加):*4-1は、熊本県南部を中心とした豪雨により、球磨川の12カ所が氾濫・決壊し、土砂崩れも続いて犠牲者が増えているため、国交省が打ち出している「流域治水」を球磨川はじめ河川ごとに急いで計画策定するべきだとしている。具体的には「①土砂災害の危険性がある地域の開発規制や住宅移転」「②雨水をためる遊水地、ビルの地下貯水施設整備」「③ため池や田んぼの貯水機能の活用」「④高架道路の避難所活用」「⑤鉄道橋の流失防止のための補強」などを進めるそうで賛成だ。特に、川底やダムの掘削は、掘削された土砂を使って堤防のかさ上げや埋め立てができるため、同時に行った方が効率的である。また、*4-2のように、中部地方でも豪雨被害で、岐阜県・長野県で4,300人が孤立し、下呂市小坂町で飛騨川沿いの国道41号が約300mにわたって崩落したほか、道路の崩壊や冠水が相次いでいるそうだ。
 日経新聞も、*4-3のように、2020年7月9日、「⑤九州や岐阜県を襲った豪雨で8日までに115河川が『氾濫危険水位』を超えた」「⑥梅雨末期の豪雨が広範囲に及んで氾濫危険水位を超えた河川数はこの5年間で5倍に増加した」「⑦気候変動で豪雨が増え、河川の安全度が下がっている恐れがある」「⑧ハード整備だけでなく、流域全体の治水対策が急務だ」「⑨地球温暖化などの影響で河川の氾濫リスクが高まっている」「⑩国交省は20年度から行政・民間企業・地域住民らが連携して『流域治水』を進める」としている。私も、避難ばかりしており、体育館等で長期間を過ごすのは文明国の国民のすることではないため、早急にITや5Gの普及だけではない安心して暮らせるスマートな街づくりを企画すべきだと考える。
 なお、*4-4のように、EUの欧州委員会は、2020年7月8日、水素を脱炭素計画の中心に据えて、運輸や産業でも排出ゼロをめざし、景気浮揚にも繋げ、世界をリードするための水素戦略を公表したそうだ。「パリ協定」は地球規模のCO₂排出量を実質0にすることをめざしており、EUは2050年までに域内の温暖化ガス排出を実質0にする目標を掲げているため、コストは下げられるだろうし、これなら投資価値がある。水素燃料電池は日本で開発されたのだが、おかしな批判や対応が多くて日本では普及せず、これもEUで先に市場投入されることになったわけだ。

  
    2020.7.9朝日新聞            2020.7.9中日新聞

(図の説明:1番左の図のように、岐阜県・長野県でも豪雨被害があり、右の3つの図のように、河川の氾濫やがけ崩れによる被害となっている)

*4-1:https://kumanichi.com/column/syasetsu/1518004/ (熊本日日新聞 2020年7月9日) 流域治水 球磨川でも新たな計画を
 県南部を中心とした3日からの豪雨では、球磨川の12カ所が氾濫・決壊した。土砂崩れも相次ぎ、犠牲者は日を追って増えている。活発化した梅雨前線はさらに福岡や大分県など九州北部、中部地方にも被害を及ぼした。人命のみならず、家屋の浸水、橋の流失、道路や堤防の崩壊など、各地に大きな爪痕を残している。今年に限ったことではない。日本列島は、死者が数十人を超えるような風水害に毎年のように見舞われている。そうした現状を踏まえ、国土交通省が防災・減災の新たな在り方として打ち出したのが「流域治水」である。ダムや堤防だけに頼るのではなく、流域のあらゆる力を集めて豪雨災害を防ぐ、という考え方だ。地球規模の気候変動の影響で、水害を含めた自然災害は大規模化・頻発化している。もはや従来のやり方では対処できず、国交省の方向性は間違っていないだろう。球磨川をはじめ、河川ごとの計画を急いで策定するべきだ。これまで治水は、主に国管理の多目的ダム(治水・利水)や河川の堤防を中心に考えられてきた。だが、ハード整備には時間がかかり、それだけに頼るのは限界がある。このため新たな考え方では、国、自治体、企業、住民など流域のあらゆる関係者に協力を求め、ソフトを含め対策を総動員する。具体的には(1)土砂災害の危険性がある地域の開発規制や住宅移転(2)雨水をためる遊水地、ビルの地下貯水施設整備(3)ため池や田んぼの貯水機能の活用(4)高架道路の避難所活用(5)鉄道橋の流失防止のための補強-などを進める。農業や発電用の利水ダムについても、大雨を予想して事前放流し、雨水のせき止めに役立てる。多くは自治体や電力会社の運営だが、国は全国955カ所のダムと既に協定を結んでおり、事前放流が可能になっている。国交省は全国109の1級水系について、地域の実情に応じた「流域治水プロジェクト」を策定するとしている。一刻も早く実行してもらいたい。1級河川の球磨川水系では、1963年から3年続けて大きな洪水が発生。国は66年、治水目的の「川辺川ダム」建設計画を発表した。しかし流域に賛否もあって事業は進まず、2008年に蒲島郁夫知事が建設反対を決めた。その後、国、県、流域自治体で「ダムによらない治水」の在り方を協議。川底掘削、堤防かさ上げ、遊水地の整備などを組み合わせた10案が候補に挙がった。だが現在までに決定には至らず、その中で今回の豪雨災害が起きた。また、球磨川流域では県営市房ダムなど6ダムで事前放流が可能となっていた。だが、豪雨の予測が難しいこともあって現実には実行されず、今後に課題を残した。国、県、自治体は今後、「流域治水」の考え方も踏まえて球磨川水系の新たな治水プロジェクトを策定すべきだ。その根底には当然、今回の被害の検証がなければならない。

*4-2:https://www.chunichi.co.jp/article/85971 (中日新聞 2020年7月9日) 岐阜・長野で4300人孤立 中部でも豪雨被害、9日以降も大雨警戒
 梅雨前線に暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、中部地方は八日、各地で大雨となった。岐阜県では下呂市や高山市で道路が寸断されるなどし約四千人が孤立。長野県でも観光地の上高地につながる国道で土砂崩れが起き、宿泊客ら三百人以上が孤立している。岐阜、長野両県に一時、大雨特別警報が出され、その後解除されたが、気象庁は九日以降も大雨を予想。これまでの雨で地盤が緩んでいる所もあり、引き続き厳重な警戒を呼び掛けている。岐阜県では下呂市萩原町の飛騨川と、白川町河岐の白川と飛騨川の合流地点で氾濫が発生した。同県は大雨特別警報が出された下呂、高山、中津川など六市に対し、災害救助法の適用を決めた。六市ではピーク時に計二十一万九千人に避難指示が出た。八日午後十一時半現在、下呂市など四市町で百九十六人が避難している。けが人は見つかっていない。下呂市小坂町で、飛騨川沿いの国道41号が約三百メートルにわたって崩落したほか、道路の崩壊や冠水などが相次ぎ、高山、下呂、郡上の三市の計十七集落で約四千人が孤立。九日にはいずれも解消される見通し。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200709&ng=DGKKZO61296530Y0A700C2CC1000 (日経新聞 2020.7.9) 115河川「氾濫危険水位」、増える豪雨、広域で被害 流域全体で対策急務
 九州や岐阜県などを襲った今回の豪雨で、8日までに115河川が「氾濫危険水位」を超えた。梅雨末期の豪雨は近年、広範囲に及び、氾濫危険水位を超えた河川数は5年間で5倍に増加。気候変動で豪雨が増え、河川の安全度が下がっている恐れがある。堤防建設などのハード整備だけでなく、流域全体の治水対策が急務だ。8日は岐阜県で非常に激しい雨が降り、山間部の下呂市で飛騨川が氾濫。大分県でも日田市の筑後川と由布市の大分川が氾濫した。国土交通省によると、8日午後2時時点で氾濫危険水位を超えていたのは長野県の木曽川や犀川など7。今回の豪雨で一時、氾濫危険水位を超え、すでに下回った河川も108に上った。地球温暖化などの影響で河川の氾濫リスクは近年高まっている。国交省によると、氾濫危険水位を超えた河川数は2014年に83だったが、19年は403と5年で5倍に増加した。17年の九州北部豪雨や18年の西日本豪雨など、梅雨末期の豪雨が広範囲で河川氾濫を引き起こすケースも多い。増える災害に対して、堤防建設などのインフラ整備はコストと時間がかかるため、国交省は20年度から行政や民間企業、地域住民らが連携してインフラ整備に頼らない「流域治水」を進める。戦後最大の洪水と同規模の災害を想定し、流域ごとに雨水貯留施設やため池の活用、工場の浸水対策などを検討する。同省担当者は「河川管理区域内だけの対策では限界があり、行政だけでなく関係者全体を巻き込みたい」と話す。福島、宮城両県を流れる阿武隈川、新潟、長野両県にまたがる信濃川など、昨年の台風19号による河川氾濫の被害が大きかった9都県の7水系で計画が進んでいる。埼玉県の入間川流域では県や市町、河川事務所が連携し、1月末に計画を公表した。20年度は決壊箇所の災害復旧や遊水池の整備に取り組む。プロジェクトには避難行動を時系列で示す「マイ・タイムライン」の普及などのソフト対策も盛り込んだ。治水対策に詳しい京都大の今本博健名誉教授(河川工学)は「国内ではダムによる治水が重視され、堤防の補強や川底を掘削して流量を増やすなどの対策が遅れてきた」と指摘。一方で「従来の治水対策の範囲では今回の雨量で洪水を防げなかった可能性がある。避難計画やまちづくりも含めた幅広い視点で、被害を減らす取り組みが必要だ」と話している。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200709&ng=DGKKZO61293600Y0A700C2FF8000 (日経新聞 2020.7.9) EU、脱炭素の柱に「水素」 戦略公表、景気浮揚狙う
 欧州連合(EU)の欧州委員会は8日「水素戦略」を公表した。燃焼しても温暖化ガスを排出しない水素を脱炭素計画の中心に据え、運輸や産業でも排出ゼロをめざす。景気浮揚にもつなげる。世界での脱炭素競争をリードする考えだが、コストが課題となる。「この戦略の狙いは(温暖化ガスの)排出ゼロ達成と、新型コロナウイルスが経済に与えたダメージの克服だ」。欧州委員会のティメルマンス上級副委員長(気候変動担当)は8日の記者会見で力説した。EUは2050年までに域内の温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げている。これまで力を入れてきた再生可能エネルギー普及は排出のない電力を通じ、家庭やオフィスの脱炭素に貢献しているが、排出ゼロには産業や運輸部門の脱炭素化が欠かせない。だが大型の飛行機や船舶、トラックの電化は難しい。鉄鋼やセメントなどの産業でも現状は石炭を使う必要がある。水素を活用すれば、こうした課題を解決できると期待されている。水素を使う燃料電池車は一部で実用化されている。50年には世界のエネルギー需要の24%を水素がまかなうとの分析もある。水素戦略によると、域内で24年までに水を電気分解して水素をつくる装置を6ギガワット分整備。30年までに40ギガワット超に拡大する。実現に向け、「水素版エアバス」とも言える官民の「クリーン水素連合」を設ける。複数の欧州企業が知見を共有し、水素の生産から輸送、利用までを手掛ける企業連合をつくる。20年に500社が参加し、24年に1千社の参加を見込む。欧州委は50年までの累計投資額は1800億ユーロ(約21兆円)から4700億ユーロにのぼるとみている。関連事業を手掛ける企業を資金面などで支援する仕組みを設け、新技術導入を阻みかねない規制の緩和を検討。21年までにルールを改正し、車や船のための水素充填施設の整備を加速させる。EUとは別に、7月からEU議長国となったドイツも総額1兆円を超える投資計画を発表。内閣改造があったフランスも一段と新エネルギー開発を強化する見通しだ。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、地球規模での排出を将来、実質ゼロにすることをめざす。水素は次世代エネルギー源の一つとして注目される。日本や中国のほか、石炭産出国のオーストラリアや産油国のサウジアラビアなども研究。国際エネルギー機関(IEA)は2日公表の報告書で排出ゼロのカギを握る技術に水素、CO2回収、電池などをあげた。当面はコスト引き下げが重要になる。EUによると、水素生産装置の価格は過去10年間で6割下がったが、30年までにさらに5割減らす。

<原発と安全保障>
PS(2020年7月10、12、14日追加):*5-1のように、政府は、中国を意識して敵基地攻撃能力の保有に踏み切るかどうかの検討を始めたそうだが、「①先制攻撃との線引きができなければ、専守防衛からの逸脱になる」「②平和主義や戦争放棄という憲法の理念に背く」というのはもちろんのことだが、敵基地として攻撃されて黙っている国はないため、原発を早々に手じまって使用済核燃料もどこかの地下深くもしくは海底の深い場所に始末しておかなければ、動けない原発を狙った数発のミサイルで、日本中が住めない国になる。
 日本政府は、③科学的検証力の弱さ ④後進性(航空機の時代に巨艦主義採用、国際法から逸脱した野蛮な行為、戦略なき進軍、運と精神論への依存、国家のためとした国民への死の強制など) ⑤縦割行政による無責任体制 があって第二次世界大戦に負け、これに懲りて戦争放棄を日本国憲法に入れたにもかかわらず、③④⑤は今でも変わらないのに、日本国憲法の戦争放棄部分をなし崩し的に変えるのは歴史の歯車を逆に回す危険な行為だ。また、サイバー攻撃やバイオ兵器も使える現代は、原爆も過去の兵器となりつつある。
 しかし、*5-2は、「⑥低効率の石炭火力発電所を休廃止する」「⑦2030年度の電源構成は原子力20~22%、再エネ22~24%、残り56%は石炭・石油などの化石燃料」「⑧これはフクイチ事故後の2014年に定められ、2018年の見直しでも据え置かれた」「⑨20~22%の電力を確保するためには約30基の原発が必要だが、再稼働した原発は9基に留まる」「⑩原発は重要なベースロード電源」等としている。これは、⑦⑧のように、人為的に電源構成を定めた点が誤りなのであり、⑨⑩は原発を護り、⑥は化石燃料を護っている。地球温暖化にはCO₂だけ削減すればよいというのも③の典型例で、原発が温排水により海を温めていることは周知の事実だ。また、「世界の潮流だから逃れられない」としているのも、自分でよいものへの改革ができない③④の事例だ。さらに、省庁横断的に見れば矛盾だらけで、二重三重に計上され無駄遣いの多い政策や予算は、⑤が変わっていないことを意味する。つまり、再エネを猛烈に伸ばせば全エネルギーを代替できるため、エネルギー源を人為的に配分して原発や化石燃料を市場淘汰から護る「エネルギーミックス」により、公害を出すエネルギーを温存する必要はない。そして、日本における再エネ資源の膨大さや分散発電の有効性については、*5-3・*5-4のように、国内でも既に言い古されたと思われるほど指摘されているのである。
 なお、「石炭から水素燃料を取り出す」などというアホなことを書いている新聞記事をよく見かけるが、水を電気分解すれば水素と酸素ができるため、電力が豊富なら水素は安価に作れる。それを小学校で習わなかったのだろうか?

   

(図の説明:1番左は、科学技術予算のGDP比で、日本の地位低下が目立つ。また、左から2番目は農業地帯で利用できる小水力発電の全体像で、右から2番目は山の尾根沿いに設置された風力発電だ。1番右は、漁業地帯の養殖施設に併設された風レンズ風車で、一般の風車より効率的に発電できる)

*5-1:ttps://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=658905&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2020/7/5) 敵基地攻撃能力 専守防衛からの逸脱だ
 政府は、山口、秋田両県で進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の計画断念を受け、敵基地攻撃能力の保有に踏み切るかどうかの検討を始めた。国家安全保障会議(NSC)で議論して、9月にも方向性を出すという。北朝鮮や中国を仮想敵として日本に向けてミサイルが発射される前に、弾道ミサイル発射基地やミサイルを攻撃しようというのだ。相手国の基地の場所を確認し、防空能力を無力化しておく必要があり、十分な打撃を与える力も欠かせないなど、実現には高いハードルがある。先制攻撃との線引きができなければ、自衛とはいえなくなるだろう。戦後、堅持してきた専守防衛からの逸脱になりかねない。平和主義や戦争放棄という憲法の理念に背くことにもなる。看過できない。自民党は既に前のめりだ。防衛相経験者らを中心に検討チームを設け、論議を始めた。提言をまとめ、政府のNSCの議論に反映させる考えだ。「北朝鮮よりも中国を意識している」(党幹部)という。背景には、沖縄県の尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返すなど、海洋活動を活発化させる中国に対する警戒感の高まりがある。党内にも慎重論はある。岩屋毅前防衛相は「地上イージスが難しいからといって、一足飛びに敵基地攻撃能力を考えるのは論理の飛躍だ」と強調する。連立を組む公明党は否定的である。山口那津男代表は「武力行使を未然に防ぐ外交的な取り組みに力を入れるべきだ」と指摘する。当然だろう。政府はこれまで、米国との役割分担として、敵基地攻撃能力は米側に依存するとしてきた。なぜ今、抜本的に方針転換するのか。地上イージス断念を受け安倍晋三首相は「防衛に空白が生じてはならない」と言う。しかし地上イージスの配備は計画では5年後の2025年以降。それまではイージス艦で対応する方針だった。敵基地攻撃能力の保有を巡り、今秋までに急いで方向性を出す必要性があるのか。地上イージス断念の経緯の検証こそ急務のはずだ。敵基地攻撃能力の論議は1956年にさかのぼる。当時の鳩山一郎首相が「座して自滅を待つというのが憲法の趣旨とは考えられない」と指摘。攻撃を防ぐのに他に手段がないと認められる限り、法理的に自衛の範囲との見解を示した。以来、政府は憲法上可能との考えを踏襲しつつ、専守防衛の観点から保有しない立場を取ってきた。2006年、北朝鮮が相次いで弾道ミサイルを発射したのを受け、当時の防衛庁長官が必要性を表明した。しかし小泉純一郎首相は「憲法上の問題がある」と否定した。ところが安倍首相は政権に返り咲いた12年末以降、保有論議を再燃させた。ただ当時のオバマ米大統領から、中国などを刺激するとして懸念を示された。妥当な指摘だろう。核実験やミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮には、国際社会と連携して非核化するよう説得を続ける必要がある。近隣諸国との有効な関係づくりに努めれば、敵基地攻撃能力は不要だ。武力に武力で対抗するだけでは平和で安全な地域づくりには、つながらない。政府は肝に銘じるべきである。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200710&ng=DGKKZO61341880Z00C20A7EA2000 (日経新聞 2020.7.10) エネ政策、不作為に限界 脱炭素、原発に国の関与不可欠
 脱炭素のうねりが迫るエネルギー転換や電力・ガス市場の自由化など、エネルギーをめぐる環境が内外で変わりつつある。速度を上げる変化に日本がのみ込まれようとしているときに、エネルギー政策は不作為とも言える思考停止が続く。現実を直視した計画に作り直すときだ。梶山弘志経済産業相は9日、洋上風力発電を拡大させる方針を表明した。3日には低効率の石炭火力発電所を休廃止する考えを示している。エネルギー政策を担う経産省は長期指針である「エネルギー基本計画」の見直しに向けた地ならしを急ぎ始めた。現行の計画は2030年度の電源構成について、原子力を20~22%、再生可能エネルギーを22~24%、残り56%を石炭や石油などの化石燃料でまかなうとする。東京電力福島第1原子力発電所の事故後の14年に定められ、18年の見直しでも据え置かれた。この比率実現が、温暖化ガス排出を30年度に13年度比で26%減らす国際公約の前提になっている。しかし、目標年度と定める30年度まで残り10年に迫り、掲げる数字の非現実性があらわになりつつある。なかでも原発だ。20~22%の電力を確保するためには約30基の原発が必要だが、再稼働した原発は9基にとどまる。福島原発事故から来年で10年、国民の原発に対する信頼回復は進まない。関西電力で発覚した原発立地をめぐる金品受領問題は不信を増幅した。金品の渡し手となった元助役のような人物がどうして影響力を持つようになったのか。「重要なベースロード電源」と位置付けながら、立地対策を含め、運営を電力会社に丸投げしてきた国策民営の限界がある。原発は有力な脱炭素の手段となりうる。国民が受け入れて使い続けるには、立地対策や使用済み燃料の処理、核燃料サイクルなど、国がもっと前に出て関与しなければならない。それは政治と行政の責任でもある。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の発電量に占める太陽光や風力など再生エネの比率は40年に44%となり、石炭や天然ガスを上回る最大の電源になる。日本もこの潮流から逃れられない。石炭より発電コストが高くても伸ばすなら、国民に受け入れてもらうよう説明を尽くす必要がある。広大な海洋をいかした洋上風力を増やす。導入拡大のネックとなる送電線利用のルールを見直す。発電した場所で電気を使う分散型システムの導入を促す。原発に温暖化ガス削減を期待できないとすれば、あらゆる政策を動員して再生エネを主力電源に育てていかねばならない。ただし、エネルギー政策は温暖化対策だけでない。安全や供給の安定性、経済性などの要素を考慮する必要がある。国際的に割高な電気料金をどう下げるのか。地政学リスクに伴う供給途絶をどう回避するのか。エネルギー戦略の立案とはこうした要素の最適バランスを見つける作業だ。現行のエネルギー基本計画では30年度に電源構成の56%を化石燃料でまかなう。再生エネを最大限伸ばしても、すべてを代替するには力不足だとすれば、脱炭素に配慮しながら化石燃料を使い続ける方法を考えるしかない。石炭に比べて、温暖化ガスの排出が少ない液化天然ガス(LNG)の利用拡大が現実解になるとしても、輸入頼みのLNGには地政学リスクがつきまとう。これをどこまで増やせるのか。現実を見据えたエネルギーの最適組み合わせ、いわゆる「エネルギーミックス」の議論を早急に始めなければならない。

*5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191001&ng=DGKKZO50386330Q9A930C1KE8000 (日経新聞 2019年10月1日) 再生可能エネルギーの未来(中)電源の地産地消 目指せ 泉井良夫・金沢工業大学教授(1959年生まれ。東京大工卒、同大博士(工学)。専門はエネルギーマネジメント)
<ポイント>
○地方は再エネを利用した分散型電源が解
○太陽光と中小水力や地熱の組み合わせを
○電気自動車は動く蓄電池として活用せよ
 本稿では再生可能エネルギー(再エネ)の未来を、地方から、エネルギーマネジメントの視点で考察したい。再エネは主に脱炭素社会実現のための電源として議論されるが、それ以外にも分散型電源、地域による多様性、電源の国産化など様々な視点がある。中でも地方は、人口密度が疎で分散的であることから再エネとの整合性が高く、地産地消に適している。実現のためには、おのおの地域ごとの再エネによる創エネとエネルギー消費を結びつけるエネルギーマネジメントが重要である。今般、千葉県で起きた長期間の送電停止は示唆的であり、こうした地域の小規模分散型電源の重要性を図らずも実証したといえそうだ。まず、地産地消における再エネ=分散型電源という視点を考察する。再エネは、設置場所の自由度が高い。たとえば太陽光発電は日射があればよいので、日本全国どこでも設置可能である。風力発電は風況の制約などがあるものの同様である。地熱に至ると、我が国は世界第3位のポテンシャルを持ち、掘ればどこでもエネルギー利用が可能である。これらの再エネは密度が低いといわれるが、地方は人口密度も低いため、この点での親和性もある。一般に生産(発電)と消費はできるだけ近い方が、コストや電力損失などの点で有利であるが、地方は人口が少なく分散的であるため、電力を配るための配電線が長い。たとえば総発電出力あたりの配電線長(架空線)を比較すると、北海道電力は東京電力の約2倍である。つまり、地方においては再エネを活用した分散型電源によるコミュニティーが合理的であり、さらにオフグリッド(電力自給)化が実現すると、地震や台風などからのレジリエンス(復元力)の観点からも有利となる。次に、再エネの地域による多様性の視点を考察する。科学技術振興機構低炭素社会戦略センター調査報告(2018年1月)によると、出力変動型再エネである太陽光発電は、おおむね日本全体に均一分布している。一方、地域的な分布の違いが見られる再エネも多く、中小水力発電は北陸・甲信越、地熱発電は九州・東北・北陸に多い。これらは出力安定型再エネであり、うまく組み合わせるとベストミックスになる。我が国は、地域間、季節間の寒暖差が大きく、冷暖房など空調設備が必須であり熱需要が存在する。しかし、熱は輸送や貯蔵が難しく、生産と消費が近接している必要がある。ドイツの自治体によるインフラ運営公社・シュタットベルケでは、約900社が電気事業を手掛けており、電力小売市場で20%以上のシェアがあるといわれる。ドイツは比較的寒冷であり、熱の生産と消費が近接しリンクしているのが主な理由である。我が国でも、地産地消での再エネ熱活用により、同様のビジネスモデルが成立する可能性がある。次に、地方におけるEVなどモビリティーによるエネルギー利用について考察する。地方は自動車の保有率が高く、運輸部門における二酸化炭素排出量比率が高い。たとえば東京都は10%前後であるが、金沢市は20%を超えている。さらに、ガソリンスタンドの減少、少子高齢化を背景に、地方における自動運転関連技術の期待が一層高まってくることを考えると、これと親和性の高いモビリティーの電動化は必然となる。移動体の電動化には蓄電池は必須であり、電気視点では「動く蓄電池」と言える。太陽光発電や風力などの出力変動型再エネは電気のバッファリング(緩衝)が必要であるから、これら動く蓄電池の活用が可能となる。動く蓄電池はモビリティーと電気のデュアルユースであることから、定置型蓄電池に比べてコスト面でも有利である。さらに、停電時などのエネルギーレジリエンスにも有効である。将来は再エネ由来の水素活用も考えられる。さて、上記のように再エネは地方の特性と様々な整合性を有するが、これをシステム的にどのように活用してエネルギーサービスとして提供するかは別の議論が必要である。究極は分散型電源として、地域で作った再エネを地域で使う、地産地消による小規模電力システム(マイクログリッド)化が考えられる。さらに今後は、電気ばかりでなく熱エネルギーも含めた熱電一体のエネルギーシェアが、地産地消におけるエネルギーサービスの軸になると考える。我が国においては、既に膨大な資本を投下した電力システムが存在する。転換コストを考えると、これを直ちに小規模電力システム化して地産地消することは現実的ではない。しかし、新たな消費者地域の構築や固定価格買い取り制度終了を見据え、既存の再エネ設備を地産地消化するために再構築するときには十分検討に値する。地産地消の実現に必要な技術は、大きく分けて「需要家資源活用技術」「直流給電技術」「システム・オブ・システムズ(SoS)技術」「決済系技術」の4つがある。エネルギー創出や電力消費の予測、さらにその制御を行うのが需要家資源活用技術である。また、太陽光発電など再エネは効率の観点から直流給電技術で構築すると都合が良い。交流で構築されている商用の電力システムには、周波数を一定に維持する高度な需給制御技術が必須である一方、直流システムは創エネと消費のアンバランスに非常にロバスト(頑健)であり、制御が容易で停電しにくい特徴がある。さらに、動く蓄電池としてのEVなどのモビリティーシステム、再エネ発電量予測のため衛星システムと連携するSoS技術も必要である。地産地消では、電気ばかりでなく熱を含めた多種少量のエネルギーをシェアするが、そのシェアに逐一人手を介在させることは事実上不可能である。このため、セキュリティーやプライバシーの保持はいうまでもないが、ブロックチェーン(分散型台帳)などの低コストでスマートな決済系技術が必須である。このようなエネルギーマネジメントを活用した地産地消システムは、各所で活発に実証実験が行われている。筆者が所属する金沢工業大学においても、18年4月にオープンした白山麓キャンパス地方創生研究所で、熱を含む多様な再エネを活用した「再生可能エネルギーベストミックスの地産地消コミュニティモデル」という、50年の地方におけるエネルギー縮図モデルとして実証評価を行い、その実現を目指している。再エネは今後、脱炭素化を主目的に導入がさらに加速すると考えられる。その際、地域による多様性への配慮は欠かせない。都市には都市の特性、地方には地方の地域特性があり、これらと再エネの多面的な視点の整合化が望まれる。地方においては、「分散」をキーワードに、地域特性を生かし、熱・電気エネルギーの地産地消を実現するエネルギーマネジメント技術の確立が求められよう。

*5-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201808/CK2018082002000139.html (東京新聞 2018年8月20日) 猛暑こそ太陽光発電 最高気温更新でも安定
 記録的な猛暑が続いたこの夏、冷房を使う機会が増える一方で、東京電力管内の電力需給は、深刻な逼迫(ひっぱく)に陥った日がまだないことが分かった。太陽光発電の発電量が増え、節電の浸透で電力消費自体も減っていることなどが要因だ。東電管内で稼働している原発はゼロでも猛暑の日を乗り切っており、「電力の安定供給には原発が不可欠」とする政府や電力業界の主張はその根拠が薄らいでいる。電気の使用可能量(供給)に占める実際の使用量(需要)を示す「使用率」について、東電は安定的(93%未満)、やや厳しい(93~95%未満)、厳しい(95%以上)、非常に厳しい(97%レベル)の四段階に区分する。一般的に暑い日ほど冷房が使われ使用率は上昇。97%を超えると停電の可能性も生じるとされる。だが、この夏の使用率は、埼玉県熊谷市の気温が四一・一度と国内最高記録を更新し、東京(千代田区)で史上三位の三九・〇度に達した七月二十三日でも92%と「安定的」だった。ほかの日をみても、94%となって「やや厳しい」となった七月二日以外は、すべて「安定的」だ。電力不足が避けられているのは、「気温が高い」との予報がある日に、東電が火力発電の発電量や他の電力会社から融通してもらう電力を増やしていることが要因になっている。さらに午前十時~午後三時ごろに増える太陽光の発電量が、電気の使用がピークになる午後二時ごろと重なることも大きい。太陽光発電は、再生可能エネルギーで発電した電気をすべて電力会社が買い取る制度が二〇一二年に導入されてから増加。東電管内でも供給力の一割超を占めるようになっている。節電や省エネで、電力の消費量自体も減っている。七月二十三日には、東電管内の電力使用量が午後二~三時に五千六百万キロワットと震災後最大を更新。それでも〇一年七月二十四日に記録した過去最大量よりも13%少なかった。事前に契約した企業への一時的な節電要請や、他の電力会社に電力を融通してもらう仕組みが整備されたことも、供給安定の要因に。日没以降も高温が予想された八月の一日と二日、東電は夕方にかけて大口顧客に節電を要請した。今年一月も厳しい寒さで暖房の利用が急増したが、電力会社間の融通によって電力不足は回避された。

<災害レッドゾーンとイエローゾーンの定義は?>
PS(2020年7月12日追加):*6-1のように、九州を襲った記録的豪雨で熊本・福岡・大分の3県で身元が発表された犠牲者57人のうち、少なくとも3/4にあたる43人が氾濫した川沿いに住み、そのうち約9割の38人が65歳以上の高齢者だったそうだ。住民の年齢分布も上に偏っているため、約9割が65歳以上でもおかしくはないが、高齢者だけでは避難も後片付けも容易でないと思う。さらに、近年は、100mm/時間超や400mm/24時間超という雨は珍しくないため、避難を前提としていては安心して生活することができない。
 そこで、*6-2・*6-3のように、国交省が都市計画法や都市再生特別措置法などを6月4日に改正し、①「災害レッドゾーン」「災害イエローゾーン」などの「災害ハザードエリア」における新規開発の抑制 ②災害ハザードエリアからの移転促進 ③立地適正化計画と防災の連携強化 で安全な街づくりを促し、土砂災害の危険性が高い「災害レッドゾーン」は、オフィス・店舗・病院・社会福祉施設・旅館・ホテル・工場・倉庫・学校などの施設開発を原則禁止することになった。しかし、浸水想定区域の「災害イエローゾーン」は、住宅の開発許可を厳格化するだけで、病院・社会福祉施設・旅館・ホテルなどの営業施設開発は禁止されておらず、今回の河川の氾濫はこちらに当たるが、危険は土砂災害だけでなく津波・洪水でも大きく、新都市計画法の弱点を突いて起こっている。つまり、浸水想定区域は「災害レッドゾーン」に入れて安全な場所に移転させる必要があり、危険性がわかっていても住民自身が禁止区域に住み続けたい場合は、全国民ではなく、「災害レッドゾーン」「災害イエローゾーン」の危険度に応じて保険料を上げ、災害が起こった際にはなるべく多くを私的保険で賄うようにすべきだ。そして、自治体の都市計画と保険料により、都市を安全な方向に誘導すべきだと思う。

   
                              2020.1.20読売新聞

(図の説明:左図のように、災害の起こり易い地域をレッドゾーン・イエローゾーンとし、安全な地域に住宅を誘導することになった。レッドゾーンに入るのは、中央の図のような土砂災害の起こり易い地域で、住宅・オフィス・店舗・病院・社会福祉施設・旅館・ホテル・工場・倉庫・学校などの施設開発が原則禁止だが、浸水想定区域のイエローゾーンは低層住宅だけが禁止だ。また、右図のように、イエローゾーンには、鉄筋コンクリートの頑丈で高い建物は建設可能だが、このような建物も機器は地下に設置してある場合が多いため、建て方に要注意だ)
 
*6-1:https://mainichi.jp/articles/20200711/k00/00m/040/215000c(毎日新聞 2020年7月12日)犠牲者の4分の3は川沿い居住、約9割が高齢者 逃げ遅れた可能性 九州豪雨
 九州を襲った記録的豪雨の犠牲者で、熊本、福岡、大分3県で身元が発表された57人のうち、少なくとも4分の3にあたる43人が氾濫した川沿いの地区に住んでいたことが、毎日新聞のまとめで判明した。43人のうち約9割の38人が65歳以上の高齢者だった。3日夜から4日朝にかけた豪雨の中で多くの人が逃げ遅れた可能性があり、高齢者避難の課題が改めて浮かんだ。熊本県では、2012年7月12日未明から阿蘇地方などで1時間100ミリ超の記録的な雨が降り、県内で23人が死亡した。この反省から県は、明るいうちに避難を呼びかける「予防的避難」を目標に掲げ、市町村が避難所を開設する経費の一部を負担するモデル事業を実施したこともある。しかし今回、気象庁の予想雨量は県内の多いところで24時間200ミリで、モデル事業で予防的避難をする基準としていた値(24時間雨量250ミリ以上など)にも満たなかった。実際は400ミリ以上の雨となり、人吉市では「避難準備・高齢者等避難開始」の情報を出せないまま、最初の避難勧告が3日午後11時となるなど住民の明るいうちの避難は難しい状況だった。県の防災担当者は「答えの見えない重い宿題だ」と語る。静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授は「夜になれば大雨の中で高齢者は動けない。一方で、雨量予測が難しい中では行政の対応に限界もある。行政に頼りすぎず、住民自ら早めに避難することが世の中の常識にならなければ被害は減らせない」と訴える。

*6-2:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/00783/ (日経クロステック 2020.2.5) 都市計画法改正で「原則禁止」となる建物は? 防災重視に転換する街づくり
 国土交通省は都市計画法や都市再生特別措置法などを改正し、激甚化する自然災害に対応した安全な街づくりを促す。開発許可制度を厳格化し、災害危険区域や土砂災害特別警戒区域といった「災害レッドゾーン」における自社オフィスなどの開発を原則禁止する。今通常国会に提出する改正案の概要を、2020年1月27日の都市計画基本問題小委員会で示した。改正のポイントは「災害レッドゾーンや災害イエローゾーンなどの『災害ハザードエリア』における新規開発の抑制」、「災害ハザードエリアからの移転の促進」、「立地適正化計画と防災の連携強化」の3つだ。企業にとって最も影響が大きそうなのが、都市計画区域全域を対象とした、災害ハザードエリアの開発抑制。「災害レッドゾーン」と呼ぶ災害危険区域、土砂災害特別警戒区域、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域の4区域で、自社のオフィスや店舗、病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場、倉庫、学校法人が建設する学校などの「自己の業務の用に供する施設」の開発を原則禁止とする。現行の都市計画法では、分譲住宅や賃貸住宅、賃貸オフィス、貸店舗などを開発する際に、区域内に災害レッドゾーンを原則として含まないよう規制している。一方で、開発事業者が自ら使用する施設については規制対象としていない。近年の自然災害で、こうした施設が被災して利用者に被害が及ぶケースが発生しているため、法改正による規制強化に乗り出す。国交省が16年4月~18年9月の2年半を対象に、開発許可権者である590自治体に調査したところ、災害レッドゾーンにおける自己業務用施設の開発行為は合計47件。土砂災害特別警戒区域内に小学校・中学校が含まれるケースもあった。災害ハザードエリアのうち、浸水想定区域などのいわゆる「災害イエローゾーン」についても、市街化調整区域における住宅などの開発許可を厳格化する。現行の都市計画法では、市街化調整区域内であっても自治体が条例で区域を指定すれば、市街化区域と同様に開発できる。指定に当たっては原則として「溢水、湛水、津波、高潮等による災害の発生のおそれのある土地の区域」などを除外する必要がある。しかし現実には災害レッドゾーンが含まれているケースがあるほか、浸水想定区域についてはほとんど考慮されていないのが実情だ。19年10月の台風19号でこうした区域を含む市街化調整区域で浸水被害が発生したことを受けて、開発許可の厳格化に踏み切る。

*6-3:https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200604/mca2006040500003-n1.htm (産経BZ 2020.6.4) 開発規制強化 災害に備え 改正都市計画法が成立
 まちづくりで防災を進める改正都市計画法などが3日、参院本会議で可決、成立した。土砂災害などの危険が高い地区の開発規制を強化し、自ら店舗を経営する目的でも建設を禁止する。浸水などの恐れがある地区からの住宅移転を促すため、市町村が移転先などを調整する制度も導入。最大2年程度の周知期間を経て施行する。大きな被害が出た昨年の台風19号をはじめ多発する自然災害に備えるのが狙い。崖崩れや地滑りなどで建物が壊れたり、身体に危害が及んだりする「レッドゾーン」に指定されているエリアでは現在でも賃貸、分譲目的の住宅、貸店舗は建設できない。しかし、自分が経営する目的で店舗やホテル、学校、事務所などが建設されているケースがあり、規制対象を広げる。移転の調整は、住宅や施設を集約する「コンパクトシティー」を目指し、立地適正化計画を作っている市町村が対象。開発規制の有無にかかわらず浸水などの恐れがある場合は、市町村が移転対象の住宅や施設、移転先、時期などを盛り込んだ計画を作成する。昨年の台風19号では居住誘導区域でも浸水被害が起きており、安全を確保する。国土交通省は「住民の代わりに、自治体が安全な移転先を見つけて紹介できる」と利点を説明する。立地適正化計画には防災対策を明記することも市町村に求める。避難施設整備、宅地のかさ上げや耐震化が想定され、具体策は国交省がガイドラインの形で示す。国交省は今後、関連する政令も改正。適正化計画で住宅の集約を目指す「居住誘導区域」から、危険性の高いレッドゾーンは除外するよう明示する。

<新型コロナでも非科学的なTV報道が多いのは何故か?>
PS(2020年7月14、17、18日追加):*7-1のように、東京都で200人以上の感染者が4日間も出て、7月13日(月)に5日ぶりに119人になり新規感染確認者数が200人を下回ったと一喜一憂する報道が多いが、この論調なら検査を抑制して新規感染者の確認を止めればよいことになってしまい、本質的な解決にならない。そして、このような反応の中で、無症状者・軽症者・中等症者をウイルスを排出しなくなるまで隔離して治療しなかったことが、新型コロナを市中に蔓延させた直近3カ月の最大の失敗であるため、まずこれを反省すべきだ。また、「新型コロナ≒夜の街」という新型コロナがまるで性病ででもあるかのような病人差別も見られるが、先進国とは思えない非科学的な行為だ。正確には、精密抗体検査や新型コロナウイルスのDNA解明などを行った東大先端研の児玉名誉教授が、YouTubeで検査・症状・治療・ウイルスの変異・ワクチン等について話しておられる(https://search.yahoo.co.jp/video/search?p=%E5%85%90%E7%8E%89%E9%BE%8D%E5%BD%A6+%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A&tid=d83a8d062f1c155c7e68c92f3f94dca0&ei=UTF-8&rkf=2&dd=1 参照)。
 その中で、*7-2・*7-3の内容も話されており、「死者数/人口100万人」は、欧米では300~800人であるのに対し、日本では約6人と50~100倍以上の差があり、これだけの違いは生活様式や医療格差だけでは説明できない。そのため、「人種によって異なる遺伝子で免疫応答の違いが生じているのではないか」との仮説を立て、ゲノム解析で確かめようとしているそうだ。また、BCG接種と感染者数・死者数の間にも強い相関関係があるが、私自身は、BCG接種との直接因果関係というよりは、類似のウイルスに対して多重に免疫を持っているのではないかと思っており、類似のウイルスが存在する地域の発酵食品も、ペニシリンと同じ原理でこれらのウイルスに抵抗力があると考えている。
 これまでの政府の対策の失敗により(これは認めるべき)、新宿が日本独特の遺伝子配列を持つ新型コロナの東京型エピセンターとなり、*8-1のように、東京都内の感染者が17日の発表で過去最多の293人となったが、メディアはまた同じようにボケたことを言っている。そして、*8-2のように、「GoToトラベル」事業も東京を目的とする旅行と東京居住者の旅行が対象外になったのだが、本来はPCR検査で陰性なら行動制限をする必要がないため、「GoToトラベル」事業を行う必要もなかったのに、容易に検査できない仕組みにして国民全員を自粛させたのが問題だったのだ。そのため、それぞれの地域は、他の地域から入ってくる人にPCR検査の陰性証明書提示を義務付け、陰性なら入れるようにした方がよいと思う。まして、被災地に入るボランティアは受入自治体でPCR検査してもよいくらいで、厚労省は、*8-3のように、唾液を使って迅速に結果の出るPCR検査を無症状の場合でも認めると発表している。しかし、やはり検疫や濃厚接触者に限っているため、無症状でも希望する人は自費で受けられるようにすればよいだろう。その検査は、大学や検査センターを使えば大量にできるそうなのでやってもらえばよく、それでも検査させない理由が他にあるのだろうか?
 この新型コロナへの対応の誤りから発生した巨額の無駄遣いで、*9のように、2021年度予算編成の指針となる「骨太の方針」は、①国債の大量発行 ②財政再建目標削除 ③国内総生産(GDP)600兆円達成目標の取り下げ を行い、④「プライマリーバランス(PB)」を2025年度に黒字化する目標が棚上げされた。この新型コロナの長期化により、財政のさらなる悪化が見込まれているが、対応によっては逆の効果を生むこともできた。つまり、政府が検査・診断・隔離・治療・ワクチン開発を推進し、それを可能にするツールを日本で開発・製品化すれば、高度なバイオ産業となって次の経済成長に繋がった筈なのだ。しかし、日本政府は、馬鹿の一つ覚えのように、「テレワーク」「働き方改革」と連呼して人を自宅から出さないようにしたため、テレワークでは不可能な調査研究・開発・製品化などもできなくなった。また、日本中で長期に自粛させたことにより、国内総生産が落ち、財政再建ができないばかりか、やっていけなくなった個人や企業を救うための後ろ向きの支出が増えて、国債の大量発行を余儀なくされた。これは、与野党・メディアが協力して行ったことであり、「何故、ここまでの愚策しか思いつかないのか?」と、私は呆れながら見ているしかなかったのである。


     2020.7.9朝日新聞        2020.7.9  2020.6.25  2020.7.18
                      毎日新聞   朝日新聞   東京新聞

(図の説明:1番左の図のように、東京都の新規感染者数は増えているが、その理由は、左から2番目の図のように、PCR検査数を増やしているからであり、検査数が減る週末には新規感染者数も減る。また、今のところ、重症患者も漸減している。なお、新型コロナの本質的解決には、検査数を増やして治療と隔離をすることが必要であるため、新規感染者数の増減だけを問題にするのはおかしい。また、右から2番目の図のように、日本はじめアジア諸国は新型コロナによる死亡率が低いため、その原因究明も行われている。しかし、1番右の図のように、新型コロナ対策に関する愚策とそれを尻拭いする膨大な支出のため、日本の財政状態は危うい状態になった)

*7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/42142 (東京新聞 2020年7月13日) 東京都で新たに119人の感染確認 5日ぶりに200人下回る
 東京都の小池百合子知事は13日、都内で新たに確認された新型コロナウイルス感染者は119人だったと明らかにした。1日当たりの新規感染者数が200人を下回るのは今月8日以来、5日ぶり。都内の累計感染者数はこれで8046人となる。小池知事は13日午前、都庁で報道陣の取材に応じ、都内の感染者数が多い日が続いていることを菅義偉官房長官が「東京問題」と発言したのに対して「圧倒的に検査数が多いのが東京。それによって陽性者があぶり出てきて、その中には無症状の方もかなり含まれているということが分かってきた」と述べた。

*7-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN5P5KCKN5PUCFI003.html?iref=pc_rellink_01 (朝日新聞 2020年5月21日) なぜ人種で差 コロナ重症化、遺伝子解析で探る研究開始
 新型コロナウイルス感染症が重症化する仕組みを、患者の遺伝子解析を通じて解き明かそうというプロジェクトが始まった。人口100万人当たりの死者は米英で300~500人なのに対し、日本では約6人で大きな差がある。研究グループはこの差が生活様式や医療格差だけでは説明できないと考え、人種ごとに異なる遺伝子によって免疫応答に違いが生じているとの仮説を立て、ゲノム解析で確かめることにした。重症化因子が判明すれば、今後のワクチン開発に生かせるという。東大や阪大、京大など7大学の研究者と研究機関などが参加。日本医療研究開発機構(AMED)から研究資金を得た。国内の約40の医療機関と連携、無症状から重症者まで、少なくとも600人の血液を調べ、9月までに報告をまとめる。慶応大の金井隆典教授が研究責任者を務める。特に注目しているのが、免疫反応をつかさどる司令塔の役割を果たすHLA(ヒト白血球抗原)。これを重症患者と無症状患者とで比較し、重症患者に特有の遺伝子を見つける。欧米でも進む同種の解析結果と照合すれば、日本人の死者数が少ない原因の解明にもつながるとしている。遺伝子解析が専門で東京医科歯科大特命教授の宮野悟・同大M&Dデータ科学センター長は「ウイルスの遺伝子解析だけでは『半分』しか調べたことにならない。宿主である人間の遺伝子も解析することでワクチン開発を補完できる」と話す。新型コロナウイルス感染症への抵抗性に関わる遺伝子が見つかれば、健康な時から血液検査でリスクを判定したり、ワクチンや治療薬の開発に貢献したりできるという。遺伝子と感染症には密接な関係があり、エイズウイルスに耐性を持つ遺伝子変異や、インフルエンザや肺炎に対して免疫が働かなくなる遺伝子病が見つかっている。かつてのシルクロード周辺に住む民族がかかりやすいベーチェット病など、遺伝子の違いによって、特定の病気になりやすい民族があることも知られている。

*7-3:https://digital.asahi.com/articles/ASN6V5CY7N6TUCLV00V.html (朝日新聞 2020年6月29日) BCG接種? 交差免疫? 日本のコロナ死者なぜ少ない
 新型コロナウイルス感染症が世界に広がる中、日本を含むアジア地域(中東を除く)の人口当たり死者数は欧米に比べ非常に少なく、驚きを持って受け止められている。世界中の研究者が原因を注目しているが、生活習慣や文化、医療体制の差だけでは最大100倍の差は説明しにくく、獲得した免疫の強さなど、根本的な違いがあるという見方が強くなっている。
●「世界の研究者が困惑」
 人口100万人当たりの死者数は、800人を超すベルギーを筆頭に欧米の先進国が上位に並び、中南米も100人を超す。一方、日本の7・7人などアジアは10人以下が多い。5月28日付の米紙ワシントン・ポストはこの現象を「新型コロナのミステリーの一つ」と紹介。特に世界有数の高齢社会で、検査数が少なく、外出自粛という欧米に比べて緩やかな対策で死者数を抑え込んだ日本に「世界の研究者が困惑している」と伝えた。背景に何があるのか。まず指摘されるのは生活習慣や文化の違いだ。花粉症が広がり、感染拡大前からマスクを着用する習慣は根付いていた。「病人の証し」としてマスクを避け、義務づけなければ着用が進まなかった欧米各国とは異なる。感染防止に効果がある手洗いをする習慣も身についている。海外の病院で、ウイルスが靴に貼り付いて移動しているという研究結果もあり、室内で靴を脱ぐ文化が感染拡大を抑えたという見方もある。ハグやキスなど体の接触を伴うあいさつが少ないのも、接触感染、飛沫(ひまつ)感染を抑えた。またロックダウン(都市封鎖)など強権的な対策を採らなくても、補償なしの自粛要請だけで休業し外出を控える「従順な国民性」がプラスに働いたという指摘もある。「きれい好き」「衛生、栄養状態が全般的によい」だけでは答えにはならない。過密都市を抱え衛生状態が良くないバングラデシュやインドと日本は人口比死者数はほぼ同じだ。
●遺伝子から違いを探る
 「生活習慣や文化の違いが有利に働いた面はあるが、2けたの差はもっと根本的な違いがなければ説明できない。ポイントはヒトが持つ遺伝子では」と話すのは慶応大学の金井隆典教授。遺伝子によって免疫反応に違いが生じているとの仮説を立て、7大学が共同研究中だ。重症、中軽症、無症状各200人の感染者の血液を集め、全ゲノムを解析して9月までに報告をまとめる。特に注目しているのが、免疫反応をつかさどるHLA(ヒト白血球抗原)で、重症患者と無症状患者とで比べ、重症患者特有の遺伝子を見つける。欧米でも同種の解析が進んでおり、照合すれば、東アジアで死者が少ない原因の解明につながる可能性がある。にわかに注目を集めたのが結核の予防ワクチンBCGだ。世界で比較すると接種している国はしていない国より死者数が少ない傾向がある。藤田医科大学の宮川剛教授はBCGと結核に注目。結核蔓延(まんえん)国は接種国より一段と死者数が少ない。さらに平均寿命や高齢化率、人口密度、肥満率、病床数、喫煙率など結果に影響を与える恐れがある因子を除いて解析しても、接種国の死亡率が低い傾向は変わらなかった。宮川教授は「BCGと感染者数や死者数の間に強い相関関係があることを示すだけで、因果関係があることを示すデータではない」と語る。イスラエルの研究チームが5月にBCGの効果に否定的な研究結果を発表したが、宮川教授は「接種率についての事実関係の誤りがあるなど問題が多い」と指摘する。一方で、オーストラリア、ニュージーランドは接種していないのに人口比死者は少なく、BCG仮説だけでは説明できない。
●注目の「交差免疫」説
 交差免疫説も注目の的だ。過去に似たウイルスに感染して出来た免疫が、新型コロナも排除する仕組みのこと。東京大学の児玉龍彦名誉教授が都内の感染者の血液を調べたところ、すでに部分的な免疫も持っているとみられる人が多数確認された。「風邪を引き起こす一般的なコロナウイルスと新型コロナは、塩基配列のほぼ半分が同じ。コロナウイルスは絶えず進化し、日本にも流入している。そのため新型コロナへの抵抗力を持っている人が一定数いて、重症化率の抑制につながっているのではないか」という。米ラホイヤ免疫研究所が、感染拡大前に採取した血液を調べた研究で、約半数から新型コロナを認識する免疫細胞が検出された。これも、新型コロナに似たウイルスがすでに存在し、交差免疫を起こしたことを示している。免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招聘(しょうへい)教授はこう分析する。①BCGは「訓練免疫」という仕組みで人体に備わっている自然免疫を活性化させ、重症化抑制に寄与している可能性がある②交差免疫も働いているが、重症化を抑える貢献度の大きさは正確には分かっていない③遺伝子の差異も因子の一つだが、同じアジア人でも住む場所によって重症化する割合は異なり、決定要因とは思えない④アジアの方が肥満や生活習慣病の程度が欧米より低く、これも重症者の数を抑え込む因子の一つだろう。「一つが決定的に重要というより、交差免疫、BCG、遺伝子などの因子が相互補完的に働き、重症化率を大きく押し下げている」
※ 人口100万人当たり死者数の出典は、https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.html 札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門(畑川剛毅)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASN7K4RKKN7KUTIL01L.html?iref=comtop_8_01(朝日新聞 2020年7月17日)東京都の感染者、最多の293人 「これからも増える」
 東京都内で17日、新たに新型コロナウイルスの感染者が293人確認されたことがわかった。小池百合子知事が同日、報道陣に対し、明らかにした。16日の286人を上回り、過去最多を2日連続で更新した。都内の感染者は9日連続で100人超となった。都が感染者数を集計して発表するまでには3日ほどかかる。14日の検査件数は過去最多だった13日の約4700件に続き、4千件ほどと高い水準を維持。都幹部は「検査を積極的にしているので、これからも感染者数は上がり続けるだろう」と見通しを語っていた。感染者数の急増を受け、都は15日、感染状況に関する4段階評価の警戒度を最も深刻な「感染が拡大していると思われる」に引き上げていた。7月は20~30代の若い世代の感染が約7割を占めているが、ここ1週間では10歳未満や重症化しやすい60歳以上にも感染の幅が広がっている。感染経路も施設や同居の家族、職場、劇場、会食など多岐にわたっている。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200717&ng=DGKKZO61617330W0A710C2MM8000 (日経新聞 2020.7.17) GoTo 東京発着除外 新型コロナ急増、全国一律から転換
 赤羽一嘉国土交通相は16日、国内旅行の需要喚起策「Go To トラベル」事業について「東京を目的とする旅行、東京居住者の旅行を対象から外す」と述べた。東京都で新型コロナウイルスへの感染を確認された人が急増したためだ。22日に全国一斉に始める予定だったのを改めた。安倍晋三首相と赤羽氏らが16日に首相官邸で協議して判断した。首相は記者団に「現下の感染状況を踏まえてそういう判断になった」と語った。都内の感染拡大を受け、各地の首長から全国一斉の開始などに反対する声が上がっていた。同事業は新型コロナによって大きく落ち込んだ旅行需要を回復させる目的で、22日以降に始まる国内旅行を対象に代金の半額を補助する。1人あたり1泊2万円を上限とし、補助の7割は旅行代金の割引、3割は旅行先で使える地域共通クーポン(9月以降)とする。東京以外に住む人の東京以外への旅行については、予定通り22日以降の旅行分から補助する考えだ。政府は16日、新型コロナの専門家会議に代わって設置した分科会で説明した。西村康稔経済財政・再生相は分科会後の記者会見で「東京を対象外とすることで了解をいただいた」と述べた。東京だけ除外した理由としては、直近1週間の累積陽性者数が1216人となり、隣接県とは1桁違うことを挙げた。国交省の旅行・観光消費動向調査によると、2019年に東京を訪れた国内居住者は約9千万人に達した。消費額は約1.8兆円で、千葉県や大阪府がそれぞれ1兆円程度だったのを上回った。事業に参加する宿泊事業者に対しては、同省は感染拡大を防ぐ対策として、宿泊客の検温や保健所との連絡体制づくりを求める。浴場や飲食などの共用施設は人数や利用時間を制限してもらう。

*8-3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020071700550&g=soc (時事 2020.7.17) 無症状も唾液診断可 PCR・抗原検査拡充―厚労省
 新型コロナウイルスへの感染の有無を調べるPCR検査と抗原検査について、厚生労働省は17日、唾液を使った診断を無症状の場合でも認めると発表した。空港での検疫や感染者の濃厚接触者らが対象。東京都などで感染者増が続く中、検査体制の拡充を目指す。

*9:https://www.tokyo-np.co.jp/article/43279 (東京新聞 2020年7月18日) コロナ禍の「骨太方針」、財政再建棚上げ 膨らむ借金、将来のツケに
 安倍政権が17日、2021年度予算編成の指針となる「骨太の方針」と、中長期的な経済成長を目指す「成長戦略」を閣議決定した。新型コロナウイルス対策で政府の借金に当たる国債を大量に発行する一方、今回は骨太の方針から例年盛り込んでいる財政再建目標を削除し、成長戦略でも大々的に掲げていた20年ごろの名目国内総生産(GDP)600兆円達成目標に触れなかった。実現が難しくなると、十分な説明もせず「なかったこと」にするような対応が目立つ。
◆消えた「25年度黒字化目標」
 「今は財政のことを考えている場合ではない」。西村康稔経済再生担当相は17日の記者会見でこう述べ、骨太の方針に具体的な財政健全化目標を掲げなかったことを正当化した。従来の骨太では、名目国内総生産(GDP)に対する国と地方の借金残高の比率を安定的に引き下げるとともに、借金に頼らずにまかなう政策経費の収支「プライマリーバランス(PB)」を25年度に黒字化する目標を掲げていた。西村氏は今回も「中長期的に持続可能な財政を実現すると書いてある」と強弁するが、事実上、棚上げにしているのは明らかだ。
◆コロナ長期化でさらに悪化も
 ただでさえ深刻な財政状況は新型コロナの流行で一層悪化している。みずほ証券の末広徹氏によると、GDPに対する債務残高は20年度、政府見通しの189%から225%に急伸し、PB赤字も約15兆円から約64兆円に拡大するとみられる。しかも、この試算は今後予想される税収減を反映しておらず、収束に時間がかかれば再び補正予算を組む必要に迫られ、借金が膨らむ可能性もある。法政大の小黒一正教授(財政学)は政府の対応について「財政再建の目標は明確に書くべきだった。なし崩し的に規律が失われて予算の無駄遣いにつながり、将来世代にツケが回りかねない」と強調した。
◆成長戦略も目標触れず
 新型コロナの陰に隠れ、記述がなくなったのは、これまでの成長戦略の目玉だった20年ごろの名目GDP600兆円目標も同じだ。「戦後最大の名目GDP600兆円の実現を目指す」という一節が登場したのは、第2次安倍政権が16年につくった成長戦略。19年でも554兆円にとどまり、達成は難しい情勢だったが、新型コロナを受けて策定された今回は「名目GDP」という言葉すら出てこない。多くの内閣が掲げてきた名目GDP成長率を平均3%程度に高める目標についても、10~19年の平均は1・25%にとどまる。安倍政権は十分な説明もないまま、目指す対象を600兆円という「金額」に切り替えたが、成長率に関する目標設定の妥当性や実現に向けた課題などを検討した形跡はない。第1生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「成長戦略は政権の理想像を示す側面があるため高い目標になるのは仕方ないが、実現に向けた検証や努力が十分とは言い難く、形骸化して実効性が疑われる傾向がある」と指摘。「特にコロナ後の社会変容を目指すなら、国民に信用してついてきてもらう必要があり、政策を検証し反省を生かすプロセスが必要だ」と語った。

<外国人労働力の必要性と外国人差別の撤廃>
PS(2020年7月19日追加):*10-1のように、新型コロナの影響で、2019年に農業分野で3万人を突破した外国人技能実習生が、*10-2のように、来日できなくなったり、失業した人が他の仕事につけなかったりして、農業は外国人に支えられている現実があぶり出されたそうだ。そのため、形だけ“国際貢献”としている技能実習制度を廃止し、安価な期限付き労働力ではない「農業の後継者」としても希望の持てる迎え入れ方をすべきだ。これは、食料だけでなく多くの財・サービスを国内生産し、マスクや防護服すら他国に頼らなければ手に入らない国ではなくするために、必要不可欠なことである。そのためには、経済発展したアジア諸国の労働者が日本を選ばなくなった理由である ①外国人の労働条件の悪さ ②外国人差別を前提とした不利益の強要 は、必ず変えなければならない。
 さらに、*10-3のように、世界の難民が約7950万人(昨年末時点)に上り、コロナ対策もできない場所で暮らすことを余儀なくされているのに、日本は資金拠出程度でお茶を濁しているが、もともと普通に暮らしていたのに移動を強いられた難民を受け入れ、農林水産業・製造業・サービス業などの必要な分野で募集して家族で日本に来られるようにすれば、人手不足が解消され、国内生産を進めることもできる。もちろん、日本国内では、日本国憲法はじめ日本の法律が適用されることを前提としてである。



(図の説明:何歳まで元気に働けるかは人によって全く異なるが、左図のように、日本が高齢化しているのは間違いなく、中央の図のように、出生数も減っているため、このままでは支える側の労働力が減るのも確かだ。実際、右図のように、農業者の平均年齢は2010年時点で65.8歳であるため、それから10年後の現在は70歳以上だろう。そのため、労働力として外国人を招きいれることは必要であり、《長くは書かないが》工夫すればそれは容易だ)

*10-1:https://www.agrinews.co.jp/p51354.html (日本農業新聞 2020年7月15日) [農と食のこれから 人手不足の産地 1][解説] 外国人労働力頼みの日本 問われる自給の未来
 新型コロナウイルス禍は、農業が外国人に支えられている現実をあぶり出した。国際貢献と国際協力を目的に1993年導入された外国人技能実習制度は、農水省によると、2019年に農業分野で3万人を突破し、雇い入れ農家も10年間で2倍近くに増えた。技能実習生の在留資格は「研修」であり、出稼ぎ目的の就労ではないとの前提がある。このため、都道府県の最低賃金水準にある実習生がほとんどで、多くは中国やベトナム、フィリピン、カンボジアといったアジアの発展途上国からだ。一方、アジア各国の経済成長に伴い、人集めは年々厳しさを増している。ある監理団体の責任者は「日本で実習生として働く魅力が薄れ、どの国も都市部では人が集まらない。人探しは地方から地方へ行き詰まりを見せている」と語った。政府は2年前、技能実習制度に屋上屋を架す形で、「就労」目的を明確にした特定技能制度を新設した。農業や介護など14分野で働く外国人を対象に、試験などを課すことで最大5年の就労を可能にした。だが、全分野を通じた新制度利用者は「5年で34万人」の政府目標の1%。長期滞在の条件となる通年雇用は、農業分野では群馬県嬬恋村や北海道などの雪国では困難で、技能実習制度と同様に単年ごとの人探しと信頼関係の構築が迫られる。人手不足に悩む農家の多くが、同一人物の長期雇用を強く望み、農業の現実を反映した制度作りを求めている。外国人に頼れなくなった時、日本の農と食をどう守るのか。頼り続けるのであれば、安価な期限付き労働力でなく、「農業の後継者」として迎え入れる施策も必要な時代が来る。コロナ禍で問われたのは食料自給の未来図だ。

*10-2:https://www.agrinews.co.jp/p51349.html (日本農業新聞 2020年7月15日) [農と食のこれから 人手不足の産地] 「働かせて」悲痛な叫び
 新型コロナウイルス禍に伴う政府の入国規制で、外国人技能実習生221人が来日できなくなった群馬県嬬恋村。嬬恋キャベツ振興事業協同組合事務局長の橋詰元良さん(57)は、これを補完するための人探しに追われた一方で、仕事を失った人々の悲痛な叫びを聞いた。「工場から派遣(社員)契約を切られた。会社の寮から出ていかなくてはならず、住む所もない。すぐにでも嬬恋で働きたい」。4月中旬、切羽詰まった若い男性の声で協同組合の事務所にかかってきた電話は大阪の市外局番だった。
●コロナ禍で求職相次ぐ
 人手不足を解消するため、「商系」農家でつくる協同組合や「系統」農家のJA嬬恋村、村観光協会、村商工会が「農家の仕事を紹介します」と記したちらしを作ったのは、東京都など7都府県で緊急事態宣言が出された4月7日だった。県境をまたぐ移動が控えられ、村内のホテルや旅館の休業状態が決定的となり、仕事を休まざるを得ない従業員らに農家で働いてもらおうと考えたのだ。ところが、農家の紹介が「職業あっせん」と解釈されれば職業安定法に抵触しかねないとの指摘があった。調べると、協同組合の定款を変更すれば限定的にできると分かったが、手続きに時間も必要だった。橋詰さんは東京の専門家に問い合わせ、「農家支援なら問題ない」との見解を得て、ちらしの問い合わせ先を協同組合にした。同村では感染者ゼロが続く。村外から不特定多数が来ればウイルスが持ち込まれる恐れがあったため、ちらしの配布先を村内に限った。ところが電話は北海道から九州まで全国からかかってきた。ちらしを見た村民が善意からインターネット交流サイト(SNS)に投稿し、拡散され、コロナ禍で職を失った人々の目に留まったのだ。
●県外の電話鳴りやまず
 岡山に住む派遣社員の30代シングルマザーは「契約を切られてお金がない。育児があるので土日だけでも農家で働かせて」と望んだ。岩手のタクシー運転手は「乗客がおらず、収入がない。実家が農家だったから心得はある」と願った。受話器を置けば電話が鳴り、トイレにも立てなかった。橋詰さんは勤務時間を終えた後、携帯電話に転送して自宅でも問い合わせに応じた。「1万人を超える派遣社員らが契約を解除されたというニュースを見たが、一人一人の状況がこれほど深刻だとは想像できなかった」。橋詰さんは、県外の求職者には「全国の農家が今、人手不足で困っている。お住まいの近くで見つかるかもしれない」と励まし、農業求人サイトなどを伝えた。5月の連休を過ぎた頃、休業状態となった村内のホテル従業員らの申し出などから、人手不足は解消に向かい始めた。その対応に追われながら、橋詰さんは、幾多の人が「働きたい」と望んだ農業の意義を考え、求人と求職がかみ合わなかったコロナ禍の皮肉を呪い、電話をかけてきた派遣社員たちがどこかで働けていることを祈った。

*10-3:https://digital.asahi.com/articles/ASN6N5W9TN6NUHBI01F.html (朝日新聞 2020年6月20日) 世界の難民など、過去最多8千万人 「コロナ対策重要」
 20日の「世界難民の日」に合わせ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は紛争や迫害で家を追われたり、移動を強制されたりした人々が約7950万人(昨年末時点)に上り、過去最多と発表した。グランディ国連難民高等弁務官は19日、世界保健機関(WHO)で会見し、新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、難民や国内避難民も「各国の保健対策の対象にすべきだ」と訴えた。UNHCRによると、他国に逃れた難民は約2600万人。出身国で最も多いのは内戦が続く中東シリアで、約660万人だった。シリア難民を最も多く受け入れていたのは北隣のトルコの約360万人だった。また、国内避難民は約4570万人、難民申請者は約420万人だった。移動を強いられた人々の総計約7950万人は、2010年末に比べると倍増しており、18年末に比べても約1千万人の大幅増だった。グランディ氏は会見で、新型コロナ対策で難民や国内避難民が対象外にされれば、地域全体の感染リスクを減らせないと強調。社会・経済の回復策に難民や国内避難民を含めることが重要だと訴えた。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 09:30 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.7.17 環境・安全保障とエネルギー政策 ← 日本は、脱原発・脱化石燃料にして再エネ発電に移るのが合理的である (2019年7月17、18、19、20、21日に追加あり)

  2018.3.7毎日新聞     2019.7.10東京新聞      2018.8.1東京新聞

(図の説明:左図のように、フクイチ事故の処理費用は天井知らずで、先が見通せない状況だ。また、中央の図のように、原発事故被災地の放射線量は今でも高い。さらに、右図のような活断層や火山噴火は、これまでの原発建設には考慮されていなかったようだ)


2019.7.11  2018.12.22           農業地帯の風力発電
東京新聞    毎日新聞

(図の説明:参議院選挙の候補者は、国の予算のうち年金・社会保障を削ることには積極的だが、金を湯水のように使う原発再稼働には賛成の人がいるため、それぞれの意見を並べて比較すべきだ。また、農業補助金をばら撒くことを厭わない人も多いが、毎年補助金をばら撒くより一度だけ太陽光・風力など再エネ発電機器の設置を行い、その収入を補助金に換えた方が、予算の削減・地方創成・エネルギー自給率向上のすべてに資すると考える)

 

(図の説明:1番左の図のように、特に地域間送電線は鉄道などの既存インフラに沿って超電導ケーブルを敷設すれば電力ロスが少なく、人手不足なら、左から2番目の図のように、外国人労働者を雇用することも可能だ。また、漁業地帯は、右から2番目の図のような養殖施設に付帯した風力発電もあり、1番右の図のようなEV冷蔵トラックもできている)

(1)環境とエネルギー政策
 地球温暖化が原因と見なされる気象災害が、世界の各地で相次ぎ、*1-1・*1-2・*1-3のように、「気候緊急事態宣言」をする自治体がオーストラリア・欧州・北米国内で広がり、2019年5月には英国議会も宣言した。

 また、2015年にはパリ協定が採択され、国際エネルギー機関も2040年に総発電量の40%超を再エネが占めると見込んでいる。しかし、日本政府(特に経産省)は、フクイチ事故の辛酸を舐め「安全神話」が崩壊して原発比率が2017年度では3%になっているにもかかわらず、エネルギー基本計画で2030年の電源構成に占める再エネ比率を22~24%、原発比率を20~22%としている。つまり、国民の年金を減らしながら、無駄な国費を使って、環境に悪い輸入資源由来の原発を推進しようとしているわけだ。

 その原発の総コストは、国費も入れると再エネに到底かなわず、使用済核燃料という膨大な負債を未来に残し続けている。また、輸入石炭による石炭火力を温存しつつ「脱炭素社会」の実現を掲げる政策も自己矛盾しており、世界に遅れている。さらに、再エネによってエネルギー自給率を高め、国内で資金を循環させながら、安価なエネルギーを作って産業や国民生活に資する努力にも欠けるのである。

 一方、野党の多くは原発0をうたって再エネ導入の目標拡大を掲げており、共産党は再稼働させずに即時0、立憲民主党は2030年までに全廃を目指すとしているが、私は、即時0も可能だと考えている。エネルギー価格は産業の国際競争力に大きく影響し、エネルギー自給率は安全保障を左右するため、メディアは各党のエネルギー政策を参院選前に明確に報道し、有権者が参院選でエネルギー政策に関する審判もできるようにすべきだ。

(2)原発
1)フクイチの現在
 フクイチ事故後8年後の現在も、*2-1のように、終わりの見えない廃炉作業が続いており(予算ばかり使って本当にやる気があるのか?)、住民は苦境の中にあるのに、政府は原発再稼働の方針を変えず、旧来型の産業界がそれに期待を寄せている。

 しかし、*2-2のように、フクイチ1~4号機が立地していた福島県大熊町の帰還困難区域の放射線量は、今でも毎時2~3マイクロシーベルトあり、帰還が始まった地域でも事故前と同じように放射線量が低くなったわけではない。

2)参院選候補者の原発に対する見解
 そのため、「今後も原発を存続すべきと思うか?」については、各地で全候補者に問うて欲しいが、東京では、自民の武見さん・幸福実現党の七海さん・安楽死制度を考える会の横山さん・無所属の関口さんが「原発存続賛成」で、立民の山岸さんと塩村さん・共産の吉良さん・社民の朝倉さん・日本無党派党の大塚さん・れいわ新選組の野原さんが「原発存続反対」だそうだ。国民の水野さん・公明の山口さん・無所属の野末さんは「どちらでもない(言えない?)」で、回答しなかった人は「(言えないが)原発存続に賛成」と考えてよいだろう。

3)司法の見解
 四電伊方原発3号機の運転差し止めを求めて山口県の住民が申し立てた仮処分申請で、山口地裁岩国支部が申し立てを却下する決定を出したことについて、愛媛新聞が社説で、*2-3のように、「①山口地裁伊方稼働を容認したが、司法はフクイチ事故を忘れている」「②このような司法判断の連続に失望を禁じ得ない」「③住民の不安に正面から向き合っていない」等と報道しており、全く同感だ。

4)市民の抵抗
 また、*2-4のように、脱原発を目指す市民グループ「eシフト」が、ウランは100%輸入なのに、国のエネルギー基本計画が「日本の原発は準国産のエネルギー源」と記載して国産を強調しており、このような記述が104カ所もあって「原発推進への印象操作だ」と批判しており、そのとおりだと思う。このような論理的な反論が、あちこちから出ることが重要だ。

(3)これからのエネルギーは脱原発・脱化石燃料にして再エネへ転換
1)再エネへの転換
 九電が川内原発を鹿児島県で再稼働させた地元誌の南日本新聞も、*3-1-1のように、「①東日本大震災とフクイチ事故は、世界のエネルギー政策の転機となった」「②政治の責任で脱原発・再エネへの転換を急ぐべき」「③原発が競争力を失っていることは明らか」「④川内と玄海で原発4基が再稼働した九州では再エネの出力制限を招き、原発で再エネがはじき出された」「⑤政府が脱炭素社会をうたったパリ協定を批准しながら石炭火力発電所新設を認めているのはちぐはぐだ」「⑥原発にこだわった日本のエネルギー政策は世界の潮流から取り残された」「⑦政府は現実を見据えた大胆な政策転換に踏み出すべきだ」としている。私も、日本政府が原発を護ってトップランナーだった日本の再エネ技術をビリまで落とした責任は大きいと考える。

 日本弁護士連合会も、*3-1-2のように、パリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書を資源エネルギー庁長官に提出しており、「①太陽光・風力について蓄電池・水素等と組み合わせた電力貯蔵系システム」「②再エネの送電網への優先接続」「③既存送電網の活用及び地域分散型電源に対応した送電網の拡充」「④地域分散型のエネルギー需給システム構築のための政策の積極的推進」「⑤省エネ対策の一層の強化」「⑥脱炭素化を促進する野心的な炭素の価格付けの早急な導入」などを挙げており、同感だ。

2)「RE100」の提言
 事業で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」の国内メンバーと米アップルの計20社が、*3-2-1のように、2019年6月17日、2030年の日本の再エネ比率を、政府目標の「22~24%」から「50%」に引き上げるべきだと提言したそうだ。

 アップルで環境対策を担当するリサ・ジャクソン副社長が、「世界中でクリーンなエネルギーを調達している企業として痛感しているのは、政府の決断次第で、より安価で安定的に調達が可能になるということだ」と述べ、日本政府に企業の取り組みを後押しする政策を求めたのは、全くそのとおりでよかった。

 また、*3-2-2のソニーのように、(ちょっと遅いが)2040年までに、世界の111拠点で全電力を再エネに切り替える目標を立てたり、環境対策の優れた企業に投資や調達を集中させたりするのは効果的だ。

 さらに、*3-2-3のように、取引先等の自社拠点以外でもCO2排出削減や資源循環に取り組んだり、物流拠点の共同利用でCO2を減らしたりするグローバル企業が増えると、世界に好影響を与えることが可能だ。

3)電力会社は・・
 九州では太陽光発電の出力が原発7、8基分に高まり、九電の原発4基も再稼働したため、九電は、*3-3-1のように、太陽光や風力発電事業者に稼働停止を求める「出力制御」に踏み切ることが多くなり、もったいないことだ。余った再エネを事業者に直接販売したり、水素に変えたりするインフラがあれば、意識の高い事業者の助けになるが、このようなことが技術的に難しいようでは先進国とは言えない。

 しかし、*3-3-2のように、 四電管内では、太陽光や水力発電など自然エネルギーによる電力供給量が、2018年5月20日午前10時から正午にかけて需要の100%を超えていたそうだ。内訳は、太陽光161万キロワット、水力56万キロワット、風力7万キロワット、バイオマス1万キロワットの計225万キロワットで、需要の101.8%に達し、余った電力は連係線を通じて市場で他社に卸売りしたほか、水をくみ上げて夜間に発電する「揚水発電」に使ったとのことである。他地域への電力販売は、地方経済の活性化を通じて地方の財源創出に資すると考える。

 また、*3-3-3のように、エアコンを夜通し動かしておかないと命が危うい猛暑の夏でも、3・11の教訓を生かした賢い省エネ・再生可能エネルギーの普及・電力融通の基盤整備によって電気は足りていたそうで、むしろ最大のピンチに立たされたのは、昨年から今年にかけて4基の原発を再稼働させた関西電力だそうだ。

 地域独占からネットワークへ、集中から調整へ、原発から再エネへと電力需給の進化は静かに、しかし着実に加速しているのではないかとのことである。

<環境とエネルギー政策>
*1-1:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=552537&comment_sub_id=0&category_id=142 (中国新聞 2019/7/15) ’19参院選、エネルギー CO2と原発、どう脱する
 「気候緊急事態宣言」をする自治体がオーストラリアや欧州、北米の国内で広がり、5月には英国議会も宣言した。地球温暖化が原因と見なされる気象災害が、世界の各地で相次いでいるからだ。温暖化を食い止めるため2015年に採択されたパリ協定が来年、本格的に始動する。各国のエネルギー政策の動向には今後、注目が強まるだろう。石炭や天然ガスなどの化石燃料に依存した経済や社会から、いかに脱却するか。東京電力福島第1原発事故の辛酸をなめた日本社会にとっては、原発の扱いも重い政策課題である。活発な政策論議が望まれる。安倍政権は昨年改定したエネルギー基本計画で、30年に電源構成で占める再生可能エネルギーの比率を22~24%、原発は20~22%とした。再生エネの「主力電源化」を今回初めて打ち出した割には、海外諸国に比べると見劣りのする数値といえよう。40年に世界で総発電量の40%超を再生エネが占める―と見込む、国際エネルギー機関(IEA)の予想ともかけ離れている。一方で、原発の電源比率は17年度で約3%にとどまる。20%超の比率目標は、30基前後の稼働を前提とした数字である。現実はどうだろう。耐震補強や津波対策による高コスト化で廃炉を余儀なくされる原発も現れている。再稼働にこぎ着けた9基の幾つかは、テロ対策の不備から運転停止命令の出る公算が大きい。比率の実現など、もはや困難な状況である。政府はまた、先にまとめた温暖化対策の長期戦略で「脱炭素社会」実現を掲げた。今世紀後半のなるたけ早期に、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量をゼロにするという。にもかかわらず、石炭火力を温存する姿勢は変えていない。国内では新規の発電所建設が進み、30年度の排出削減目標は達成が危ぶまれている。CO2の排出量が膨大なため、石炭火力の廃止に向かいつつある世界とは逆行している。どうして、これで30年の電源構成比率や「脱炭素社会」の実現を成し遂げられると言い切れるのだろう。化石燃料を使わず、CO2を排出しない。「非化石」電源として原発を位置付け、推進すれば、矛盾はしない―。そう言いたいのかもしれない。だが、原発の「安全神話」はとうに崩壊し、事故の際のリスクを国民は目の当たりにした。代償はあまりに大きく、そして長期に及ぶ。先の見えぬ使用済み核燃料の廃棄や処分コストを考えても、妥当性はもはや見当たりそうにない。現政権のエネルギー政策は明らかに、ちぐはぐと言わざるを得ない。矛盾しないとするなら、与党は選挙戦できちんと説明する責任がある。野党の多くは原発ゼロをうたい、再生エネ導入の目標拡大などを掲げる。石炭火力では唯一、立憲民主党が30年までの全廃を目指す―と打ち出した。対立軸がこれほどはっきりした分野でありながら、議論がまだ低調なのは物足りない。エネルギー政策は、私たちの暮らしはもとより、産業の国際競争力や安全保障も左右する。与野党間で、もっと論争が交わされるべきである。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14097729.html?iref=editorial_news_two (朝日新聞社説 2019年7月15日) 参院選 脱炭素政策 変革への意欲はあるか
 来年から、地球温暖化対策の国際ルール・パリ協定が始まるのを前に、世界の脱炭素化が加速している。
再生可能エネルギー発電の設備容量は一昨年までの10年間で倍増し、すでに総発電量の4分の1を超えた。石炭火力発電は二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、先進国では全廃や縮小をめざす動きが相次ぐ。
日本も自らの目標を達成できるよう、温室効果ガスの削減に本気で取り組まねばならない。そのために必要なのは、社会や経済の思い切った変革だ。参院選では、脱炭素化への与野党の覚悟と意欲が問われる。
これまで安倍政権のもとで打ち出されてきた各種の政策で、日本の脱炭素化を加速させられるのかは心もとない。たとえば昨年のエネルギー基本計画は、2030年度の電源構成で再エネを22~24%しか見込まず、石炭火力を26%も残すとしている。これに縛られたままでは、閣議決定した「50年までに80%排出削減」という目標にたどり着くのは難しい。政府は先月、この目標に向けたシナリオである長期戦略を国連に提出した。目標を達成した後、今世紀後半のできるだけ早期に排出ゼロの脱炭素社会をつくるとしている。だが、将来の不確かな技術革新に過度な望みをかけ、炭素税や排出量取引などのカーボンプライシングのように、いま実行できる対策からは逃げている。説得力に欠ける戦略である。それでも与党は、このシナリオに沿って進めばいいとの考えだ。脱炭素化を急がねば、という危機感は感じられない。それを象徴するのが石炭火力への姿勢である。日本には多くの新増設計画があり、「CO2削減に後ろ向きだ」と海外では評判が悪い。なのに与党は産業界の意向を尊重し、石炭火力からの撤退を視野に入れていない。大胆な政策転換に背を向けていては、世界の流れに取り残されてしまう。選挙戦の前半では、気候変動や温暖化をめぐる論戦は活発ではなかった。しかし野党には脱石炭に前向きな声があり、与党との対立軸として訴えられるはずだ。「30年までに石炭火力全廃」を公約に掲げる立憲民主党は、野党第1党として安倍政権の姿勢をただしてほしい。近ごろ、世界のあちこちで異常気象や自然災害が相次いでいる。このまま温暖化が進めば、くらしに深刻な影響が及ぶことを忘れてはならない。次世代に重いツケを回さぬよう、いま対策を急ぐ必要がある。与野党どちらに脱炭素社会をめざす意気込みがあるのか、しっかり見極めたい。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13491491.html (朝日新聞 2018年5月13日) 原発20~22%を明記 「取り組み強化」 エネ計画改定案
 政府が今夏の閣議決定を目指す「第5次エネルギー基本計画」の原案がわかった。電力量に占める原子力発電の割合を20~22%にするなど、政府が2030年度にめざす電源構成を初めて明記し、「確実な実現へ向けた取り組みのさらなる強化を行う」とした。核燃料サイクル政策は維持し、原発輸出も積極的に進めるなど、原発推進という従来の姿勢を崩していない。原発比率を20~22%にするには30基程度を動かす必要がある。経済産業省はいまある原発の運転を60年間に延長すれば達成できるとの立場だ。だが、新規制基準のもと、現時点では8基しか稼働しておらず、「非現実的」と指摘される。東京電力福島第一原発事故後、再稼働に反対する世論が多数を占めるなか、エネルギー政策への不信を深めることにつながりかねない。30年度の電源構成は原発のほか、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの比率を22~24%にすることなどを掲げる。15年に経産省がまとめたもので、その前年に決定した第4次計画には盛り込まれていない。原案は原発について「依存度を可能な限り低減させる」としながらも、「重要なベースロード電源」とし、従来の計画の位置づけを維持。新規制基準に適合した炉の再稼働を進めるとした一方、新増設の必要性の文言は明記していない。核燃料サイクルについては、自治体などの理解を得つつ、再処理で取り出したプルトニウムを燃やすプルサーマル発電を一層推進する、とした。安倍政権が成長戦略に掲げる原発輸出は各地で難航しているが、「世界の原子力の安全向上や平和利用などに積極的な貢献を行う」として、こちらも進める姿勢だ。再生エネは「主力電源化」を初めて打ち出した。送電線への接続制限などの課題の克服を「着実に進める」とした。一方、石炭火力は「重要なベースロード電源」との位置づけを維持した。温室効果ガス排出量が多く、国内外で批判も強いが、「高効率化技術を国内のみならず海外でも導入を推進していく」とした。化石燃料の自主開発比率について、30年に石油・天然ガスで40%以上に引き上げ、石炭は60%を維持することも目指す。基本計画は政府の中長期的なエネルギー政策の方向性を定め、約3年に1回見直している。原案は16日にある経産省の審議会に示す。

<原発>
*2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201907/CK2019071102000124.html (東京新聞 2019年7月11日) <参院選>候補者アンケート 原発 「存続すべき」4人が主張
 東日本大震災から八年がたった今も、東京電力福島第一原発では終わりの見えない廃炉作業が続き、ふるさとに帰還できても、避難先などにいても、住民は苦境の中にある。一方、政府は原発再稼働の方針を変えず、産業界も期待を寄せている。今後も原発を存続すべきか。候補者に賛否を問うと、「賛成」が四人、「反対」が九人、「どちらでもない」が三人、「回答なし」が四人だった。賛成とした自民の武見敬三さんは「徹底した省エネ、再エネの導入等で原発依存度を可能な限り低減し、段階的な廃止を進め、安全性を最優先に、立地自治体等の理解を得るための取り組みを進めるべきである」と「条件付き」で存続の立場を取る。日本は石油などが乏しいことや、経済力、技術力の維持という観点から存続を容認する意見も。諸派(幸福実現党)の七海ひろこさんは「安全保障上からも原発の再稼働・増設を進め、エネルギー自給体制を構築すべきだ」と主張した。また、無所属の関口安弘さんは「原発なしで電源問題は解決できない。再生可能エネルギーの比率を高めながら最低限は存続」とする。諸派(安楽死制度を考える会)の横山昌弘さんは「原子力発電の技術を維持するためにも存続する必要がある」としつつ「狭い日本では数を半分に減らせる」と述べた。一方、反対する立民の山岸一生さんは「『原発ゼロ基本法』成立後五年以内に全ての原発を停止し、再稼働させることなく廃炉にする」と持論を展開。同じく立民の塩村文夏さんも反対の立場だった。共産の吉良佳子さんは「原発と人類、地震国日本は共存できない。コストの点でもすでに失格」と断じ、再生可能エネルギーへの転換を提言。社民の朝倉玲子さんは「人間の力で制御できないものは作るべきではない」、諸派(日本無党派党)の大塚紀久雄さんは「海岸線に設置され危険極まりない」、諸派(れいわ新選組)の野原善正さんは「巨大地震が取り沙汰されている中、継続はありえない」と安全性を疑問視。国民の水野素子さんは「原発ゼロ社会を目指していくためには、現実的な道筋、ロードマップを責任ある形で示していくことが必要」と指摘する。公明の山口那津男さんは「新設は認めない」が「新規制基準を満たし、立地自治体等関係者の理解を得て、再稼働を判断。再エネ拡大で原発依存度を下げる」として「どちらでもない」を選択。無所属の野末陳平さんは「当面は原発存続しかないが、三十年くらい先は原発依存から脱却しなくてはいけない」とする。
     ◇
 アンケートでは、丸川さん、西野さんから回答を得られなかった。森さんは回答を拒んだ。大橋さんは一部のみ回答。

*2-2:https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1075 (東京新聞 2019年7月10日) 福島・大熊町の放射線量 −本紙が実走して測定−
 本紙は6月26日、東京電力福島第一原発1~4号機が立地する福島県大熊町の帰還困難区域で放射線量調査を実施した。7時間かけ自動車で約160キロを低速で走り、車外の線量分布を調べると、今なお原発事故の爪痕が色濃く残っていた。同町は、今年4月、大川原(おおがわら)、中屋敷(ちゅうやしき)両地区の避難指示が解除され、JR常磐線大野駅近くにあった町役場は大川原地区に移転し、新たな歩みを始めた。町の復興計画では、大野駅周辺など人口が多かった地域を「特定復興再生拠点区域」に指定し、優先的に除染を進めて2022年春ごろまでに避難指示の解除を目指す。27年には居住人口を、震災前の2割強に当たる2600人まで回復させたい考え。除染はまだ始まったばかりで、大野駅周辺は毎時2~3マイクロシーベルトあった。国道6号の東(海)側は、除染で出た汚染土などを長期貯蔵する中間貯蔵施設。用地が確保されしだい、次々と処理・貯蔵施設が建設され、急速に町の姿が変わっていた。

*2-3:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201903160010 (愛媛新聞社説 2019年3月16日) 山口地裁伊方稼働容認 司法は福島の事故を忘れている
 東京電力福島第1原発事故を忘れたかのような司法判断の連続に、失望を禁じ得ない。四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求め、山口県の住民が申し立てた仮処分申請で、山口地裁岩国支部は申し立てを却下する決定を出した。愛媛をはじめ、広島、山口、大分4県の住民らが同様の仮処分申請をしているが、2017年に広島高裁が火山の危険性を指摘し運転を差し止めた以外、全て運転を認める決定が下っている。ほとんどが四電の主張を追認する内容で、原発の安全性や重大事故が起きた場合の避難など、住民の不安に正面から向き合っているとは言い難い。司法は、二度と福島のような事故を起こさない責任を改めて自覚し、住民の命や権利を守る役割を果たすべきだ。山口地裁で争点の一つだった住民の避難計画に対する判断は特に信じがたい。伊方原発から30㌔圏外で避難計画が策定されていない点について、国の緊急時対応が合理的との理由で問題視しなかった。しかし、福島原発事故の被害が30㌔圏にとどまらなかったことは周知の事実。事故への備えを一律に距離で線引きすることはできず、現実から目を背けるような姿勢は看過できない。さらに、地震などとの複合災害が起きた場合には「速やかに避難、屋内退避を行うことは容易ではないようにも思われる」と認めながら、具体的な問題点には触れていない。そればかりか「自治体レベルでの対応が困難になった場合には、全国規模のあらゆる支援が実施される」と言及。避難計画がなくても、いざとなれば国が何とかしてくれるといった論理はあまりにも乱暴で楽観的すぎる。伊方原発で最大の懸案である地震の影響に関しては、審尋の中で、地質学の専門家が活断層である沖合の中央構造線断層帯とは別に、地質の境界線の中央構造線の周辺にも活断層が存在する可能性を指摘した。決定では、四電や大学などが詳細に調査しているとして「活断層が存在するとはいえない」と断言したが、疑問だ。政府の地震調査研究推進本部も調査の必要性に言及しており、国や四電は速やかに検討すべきだ。広島高裁が運転差し止めの根拠とした巨大噴火の危険性は、「社会通念を基準として判断せざるを得ない」と、他の決定を踏襲した。だが、国民が気に留めないことと、実際の危険性は別の話だ。弁護団が「科学的な問題に社会通念を用いるのはおかしい」と指摘するように、噴火の規模の予測が困難な以上、自然災害には最大限謙虚に向き合わなければならない。社会通念を持ち出すべきは、原発の在り方そのものだろう。決定では「原発の必要性が失われている事情も認められない」としたが、太陽光などの再生可能エネルギーの普及が進む今、脱原発への潮流を司法が見誤ってはならない。

*2-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201903/CK2019031502000147.html (東京新聞 2019年3月15日) 「エネ計画に印象操作」市民団体分析 原発「国産強調」 事故「矮小化」
 国のエネルギー基本計画について、脱原発を目指す市民グループ「eシフト」は十四日、その内容を詳細に分析した結果を公表した。ウランは100%輸入なのに計画には「日本の原発は準国産のエネルギー源」と「準」とすることで国産を強調しているとし、グループはこのような問題を含む記述が百四カ所あると指摘。「原発推進への印象操作だ」と批判している。作成の中心を担った東北大の明日香壽川(あすかじゅせん)教授(環境エネルギー政策)は本紙の取材に「都合の良いデータだけを採用したり、事象の一面しか取り上げないなど、印象操作を狙ったように見える」と指摘した。検証サイトは、基本計画の本文を示しながら、問題のある箇所を一目でわかるように色づけし、問題点を解説するコメントを逐一、添えた。例えば、基本計画の前提となる近年のエネルギー動向をどう見るかについて、二〇一八年に閣議決定したこの第五次計画は、第四次計画を決めた一四年から「本質的な変化はない」と記述。これに対し、検証サイトは再生エネのコストが低下する一方で、原発のコストが増加したことを挙げ、「極めて大きな変化があった」と、前提の置き方を問題視した。福島第一原発事故による避難者の数に関して、基本計画が区域外避難者を含めていない点を「被害の矮小(わいしょう)化だ」と批判した。明日香氏は「エネルギー政策は複雑と思われがち。問題点を分かりやすく示すことで、改めて議論のきっかけになれば」と語った。検証サイトは、eシフトの公式サイトで読むことができる。

<これからのエネルギーと脱原発>
*3-1-1:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=103037 (南日本新聞社説 2019/3/10) [原発政策] 再生エネへ転換を急げ
東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第1原発事故は、世界のエネルギー政策の転機となった。原発依存を脱却し再生可能エネルギー中心への大転換である。それなのに日本では安倍政権の下で原発の再稼働が進められ、ルール骨抜きの運転期間延長の動きも顕在化している。いまだに汚染水がたまり続け、溶けた核燃料の取り出し方法さえ定まっていない福島第1原発の状況を見れば、現実離れした政策と言わざるを得ない。安倍晋三首相は、8年たっても5万人以上に避難生活を強いている震災と原発事故の複合災害の教訓を思い起こすべきだ。政治の責任で脱原発の方針を明確にし、再生エネへ転換を急ぐ必要がある。福島の事故後、安全規制の強化によって原発の建設コストが膨れ上がり、世界各地で新増設計画が苦境にある。東芝の米子会社が経営破綻し、フランスの原発大手だったアレバ社も事実上破綻した。昨年末には、三菱重工業がトルコで進めていた原発新設計画と、日立製作所の英国での案件が断念の方向に追い込まれていることが表面化した。これで安倍政権が成長戦略として旗振り役を務めた原発輸出は全て行き詰まった。原発が競争力を失っていることは明らかだ。政府は昨年7月に改定したエネルギー基本計画でも原発を引き続き基幹電源と位置付け、2030年の電源構成比率の目標でも原発を20~22%のまま据え置いた。目標達成には現在稼働している9基を30基程度に増やす必要があるが、国民の反発が予想される新増設の議論は封印したままだ。川内と玄海両原発の4基が稼働する九州では、電力の供給過剰対策で再生エネの出力制限を招いている。原発再稼働によって再生エネがはじき出された格好だ。一方で政府は電力会社に多くの石炭火力発電所の新設を認めている。「脱炭素社会」の実現をうたったパリ協定を批准しながら、まったくちぐはぐな対応である。この間に、多くの国が脱原発や脱石炭のエネルギー政策に動きだしている。再生エネのコストが劇的に低下し、急拡大しているからだ。20年までに風力や太陽光が最も安価な電源になると予測する国際機関もある。原発にこだわるあまり、日本のエネルギー政策は世界の潮流から完全に取り残された。政府は早急に、現実を見据えた大胆な政策転換に踏み出さなければならない。

*3-1-2:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180615.html (日本弁護士連合会 2018年6月15日) パリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書
●本意見書について
 当連合会は、2018年6月15日付けでパリ協定と整合したエネルギー基本計画の策定を求める意見書を取りまとめ、資源エネルギー庁長官に提出しました。
●本意見書の趣旨
 第5次エネルギー基本計画は、2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減するという我が国の長期目標に向けて、以下の点を明確にし、パリ協定の目的と整合したものとすべきである。
1 福島第一原発事故の経験から、原子力発電所の稼働、新増設を前提とするのではなく、原子力からの脱却を前提とする計画とすべきである。
2 脱炭素を実現するため、石炭火力発電からの脱却を明確に位置付けるべきである。
3 速やかに再生可能エネルギーの主力電源化を実現するために、2030年の電力供給に占める再生可エネルギーの割合を30%以上に引き上げるべきである。また、その拡大に当たっては、太陽光・風力について蓄電池や水素等と組み合わせた「再生可能エネルギー・電力貯蔵系システム」をコスト検証の対象とするのではなく、再生可能エネルギーの送電網への優先接続、既存送電網の活用及び地域分散型電源に対応した送電網の拡充など、地域分散型のエネルギー需給システム構築のための政策を積極的に推進するべきである。
4 省エネ対策の一層の強化及び脱炭素化を促進する野心的な炭素の価格付け政策を早急に導入するべきである。
5 エネルギー基本計画は、国民への十分な情報開示と、国民の意見が政策の立案・策定において実質的に反映されるプロセスの下で策定されるべきである。

*3-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201906/CK2019061802000131.html (東京新聞 2019年6月18日) <原発のない国へ>2030年、再エネ50%提言 ソニー、イオン、アップルなど20社
 事業で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」の国内メンバーと米アップルの計二十社が十七日、二〇三〇年の日本の再エネ比率を、政府目標の「22~24%」から「50%」に引き上げるべきだと提言した。RE100は、英非政府組織(NGO)「The Climate Group」などが運営し、米グーグルやスターバックスなど百七十九社が参加。提言には、国内企業で加盟するソニーやイオンなど十九社に、世界の自社施設で使う電力を昨年すべて再エネにした米アップルを合わせた二十社が名を連ねた。提言は、世界中で異常気象が頻発していることを挙げ「早期の脱炭素化への行動が必要だ」と強調。気候変動に対応するため、温室効果ガスを排出しない再エネの比率を高める必要があるとし、「国が明確かつ意欲的な方向性を示すことが、迅速かつ大規模な再エネ普及の前提になる」と訴えた。この日、東京都内で関連のシンポジウムがあり、アップルで環境対策を担当するリサ・ジャクソン副社長が「世界中でクリーンなエネルギーを調達している企業として痛感しているのは、政府の決断次第で、より安価で安定的に調達が可能になるということだ」と述べ、日本政府に企業の取り組みを後押しするような政策を求めた。アップルは取引先にも納める部品を再エネ100%で生産することを求めており、国内ではイビデン、太陽インキ製造、日本電産の三社が対応した。ジャクソン氏は「他の日本の部品供給企業も続いてほしい」と訴えた。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35148180Y8A900C1EA5000/ (日経新聞 2018/9/9) ソニー、全電力を再生エネに 世界111拠点で40年に
 ソニーは事業運営に必要な電力をすべて再生可能エネルギー由来に切り替える。現在7%の再生エネ比率を2040年までに段階的に引き上げる。環境対策の優れた企業に投資や調達を集中させる動きがあり、企業価値に直結すると判断した。日本では10社程度にとどまる全面切り替えが、半導体など生産に大量の電力を使う大手製造業にも広がってきた。世界中の事務所や工場など111拠点で使う電力を再生エネに切り替える。テレビやカメラなどの生産に必要な電力に加え、映画などコンテンツ製作も含む。工場の屋根に太陽光パネルを設置したり、再生エネを使ったとみなされるグリーン電力証書を買ったりして再生エネ比率をまず30年に30%まで引き上げる。再生エネへの全量切り替えを目指す世界的な企業連合「RE100」に加盟する。米アップルなど先行する欧米勢に加え、日本では富士通やリコー、イオンなどが参加し30~50年までの全量切り替えを目指している。ソニーは欧州ですでに再生エネ活用100%を達成しているが、グループ全体の電力消費の8割は日本に集中している。半導体工場があるためだ。ソニーの電力などに由来する温暖化ガス排出量はリコーの4倍あり、同連合に加盟する日本の製造業では最多になるとみられる。太陽光発電設備の買収も進める。日本では32年以降、再生エネでつくった電力を高値で買い取る固定価格買い取り制度の対象から外れる太陽光発電所が出てくるため、発電事業者の間で設備売却機運が高まるとソニーはみている。環境や社会への配慮で優れた企業に投資するESG投資は世界的な潮流になっている。世界持続可能投資連合(GSIA)の集計によると、世界でESG投資に向かった金額は16年に22兆9千億ドル(約2540兆円)と14年比で25%増えた。日本でも約160兆円を運用する最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が17年からESG指数に基づいた運用を始めた。再生エネへの切り替えは一時的にコスト増を招くが、「対応しなければ(資金調達など)事業が立ちゆかなくなる未来が来る」(ソニー幹部)と取り組みを強化する。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25954220Q8A120C1EA5000/ (日経新聞 2018/1/21) 本社調査:環境エネ 素材キヤノン、製造業首位守る 環境経営度ランキング
 日本経済新聞社が実施した第21回環境経営度調査の企業ランキングで、製造業ではキヤノンが2年続けて首位となった。環境対策を取引や投資の条件とする動きが世界で強まるなか、取引先など自社拠点以外でも二酸化炭素(CO2)の排出削減や資源循環対策に取り組む企業が増えている。非製造業では物流拠点の共同利用でCO2を減らす試みが広がっている。調査では、資源循環や温暖化対策など5つの評価指標で企業を評価してランキングにまとめた。キヤノンは評価指標すべてで高評価を獲得。中でも資源循環は最高点だった。使用済みの複合機やトナーを回収し、部品や素材を製品に再利用する取り組みを強化。使用済み製品を生まれ変わらせた量は2016年に累計3万4千トンと、12年の6倍に増えた。茨城県には再資源化専用の工場も設けた。環境統括センターの古田清人所長は「欧州の国際会議などでは温暖化対策以外に資源循環を求める声がある」と話す。再資源化拠点は欧州や米国、中国にも設けている。5位のトヨタ自動車も資源循環に取り組む。使用済み自動車の破砕処理後に出る廃棄物の再資源化率は16年度に98%と12年度比4ポイント高まった。2位のコニカミノルタは主要な調達先500社以上を対象に省エネ支援を始めた。自社工場で培った省エネ対策をまとめたデータベースを17年に作成。調達先が容易に省エネできるようにした。サプライチェーン(供給網)全体で水資源のリスク管理に動くのは7位のサントリーホールディングス。17年度に取引先を対象とした水使用についてのガイドラインを整備した。海外の水使用量や水の枯渇リスクなどを把握。水を通じて持続可能な生産体制を整える。非製造業の運輸部門では佐川急便が3年連続の首位。20年をメドにIHIと都内に物流拠点を新設して共同運用する。物流を効率化することでトラックの配送距離を短くし、CO2排出量を減らす。2位の日立物流は佐川急便と資本提携しており、両社で千葉県の物流拠点の共同活用を進める。建設業は2年連続で積水ハウスが首位となった。17年から住宅の建設廃棄物をQRコードを使って現場で分別するリサイクルシステムの運用を始めている。
▼環境経営度調査 企業が環境対策を経営と両立させる取り組みを評価する調査。日本経済新聞社が日経リサーチの協力を得て1997年に始めた。今回は上場と非上場の有力企業のうち、製造業1724社、小売り・外食、電力・ガス業、建設業などの製造業以外の業種1357社を対象に、2017年8月から11月に実施。676社から有効回答を得た。評価指標は製造業が、環境経営推進体制、汚染対策・生物多様性対応、資源循環、製品対策、温暖化対策の5つ。スコア算出の際は、評価指標によって最高点が異なるため、最高を100、最低を10に変換。最高スコアを500とした。建設業は製造業に準じ5指標で評価し、非製造業、電力・ガス業は「製品対策」を除く4指標で評価している。非製造業の最高スコアは400、電力・ガス業は対象社数が少ないため各指標の平均を50、合計の平均を500としてスコアを算出している。

*3-3-1:http://qbiz.jp/article/139788/1/ (西日本新聞 2018年8月28日) 九電が事業者に太陽光制限周知へ 供給過剰の可能性 9月にも
 九州電力は、9月にも太陽光発電や風力発電事業者に稼働停止を求める「出力制御」に踏み切る可能性が高まったとして、近く事業者(契約件数約2万3千)に事前周知する。出力制御が行われれば、離島を除き全国初。九州では太陽光発電の出力が原発7、8基分に高まる中、今夏までに九電の原発4基が再稼働している。暑さがピークを過ぎて冷房需要が落ちる秋以降、電力の供給力が需要を大幅に上回り「送電網の安定運用が難しくなる恐れがあるため」(九電)としている。電気は需要と供給のバランスが崩れると、周波数が乱れたり、最悪の場合は大規模停電が起きたりする可能性がある。九電によると、再生可能エネルギーの出力制御は、工場やオフィスが休業し、需要が特に落ちる連休中などを想定。実施する場合は、前日夕方までに事業者にメールなどで通知し、当日朝に実施の最終判断をする。九電は初の本格的な出力制御となるため「突然の通知で混乱を招かないよう、あらかじめ対象者にダイレクトメールや直接訪問で周知」(関係者)する方向で調整している。九電管内では、5月の連休中に一時、太陽光発電の出力が需要量の81%を占めた。この時期にも出力制御が検討されたが、同社の火力発電の出力を抑制したり、揚水発電所の水をくみ上げる「揚水運転」に電力を使ったりすることで、実施を回避してきたという。その後、玄海原発4号機の再稼働や、川内原発1号機の定期検査終了で供給力が大幅に上昇。現在、定検中の川内原発2号機も近く発電再開の見通しとなっているほか、太陽光発電も月5万キロワットのペースで増えている。九電は「再生エネルギーを前向きに受け入れてきた結果、出力制御をしなければ需給バランスを保てない限界に近づいている」としている。経済産業省によると、出力制御は、揚水運転、火力発電抑制、再生エネ、原発の順に行われる。原発が最終手段とされている理由については「短時間に供給力を微調整するのが技術的に難しい」(担当者)と説明している。

*3-3-2:http://www.topics.or.jp/articles/-/87629 (徳島新聞 2018年8月17日) 四電、自然エネ100%供給 今年5月、国内10社で初
 四国電力管内で太陽光や水力発電など自然エネルギーによる電力供給量が、5月20日午前10時から正午にかけ、需要の100%を超えていたことが、NPO法人・環境エネルギー政策研究所(東京)の調べで分かった。2012年に太陽光発電などの固定価格買い取り制度が始まって以降、供給が100%に達したのは国内電力10社で初めてという。5月20日午前10~11時の四電管内の電力需要は221万キロワット。これに対する供給は太陽光161万キロワット、水力56万キロワット、風力7万キロワット、バイオマス1万キロワットの計225万キロワットで、需要の101・8%に達した。同11時~正午は需要が223万キロワットで、太陽光167万キロワット、水力52万キロワット、風力6万キロワット、バイオマス1万キロワットの計226万キロワットを供給し、需要に対する割合は101・3%だった。両時間帯ともに、太陽光が72・9%、74・9%を占め、最も多かった。火力発電と合わせると、10~11時は150万キロワット、11時~正午には153万キロワットの供給過多となった。余った電力は連係線を通じて市場で他社に卸売りしたほか、水をくみ上げて夜間に発電する「揚水発電」に使った。春は冷暖房があまり使われないため電力需要が少なく、太陽光発電の出力が大きい好天時は、自然エネルギーの割合が高くなりやすい。四電によると、5月20日は企業の需要の少ない日曜日で、晴天の上、それまでの降雨で水力の供給力も大きかった。自然エネルギーの1日平均の供給割合は52・2%だった。一時的とはいえ100%を超えたのは、固定価格買い取り制度に伴い、太陽光発電の導入が進んだことが背景にある。研究所によると、四電が他電力よりも早く100%を超えたのは太陽光や水力の比率が高いためという。飯田哲也(てつなり)所長は「伊方原発の再稼働は、電力需給を見る限り明らかに不要」と訴えている。四電は「自然エネルギーは天候に出力が左右される。安定的な供給のため原子力発電は不可欠」としている。

*3-3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018090402000169.html (東京新聞社説 2018年9月4日) 猛暑も電力余力 節電、融通、再エネで
 エアコンを夜通し動かしておかないと、命が危うい猛暑の夏-。それでも電気は足りていた。3・11の教訓を生かした賢い省エネ、そして電力融通の基盤整備が、エネルギー社会の未来を切り開く。七月二十三日。埼玉県熊谷市で国内観測史上最高の四一・一度を記録した猛暑の中の猛暑の日。東京都内でも史上初めて四〇度の大台を超えた。冷房の使用もうなぎ上り。午後二時から三時にかけての電力需要も、この夏一番の五千六百五十三万キロワットを記録した。それでも最大需要に対する供給余力(予備率)は7・7%。“危険水域”とされる3%までには十分な余裕があった。その日中部電力管内でも3・11後最大の二千六百七万キロワットに上ったが、12・0%の余力があった。東電も中電も、震災後に原発は止まったままだ。この余裕はどこから来るのだろうか。最大の功労者は省エネだ。計画停電を経験した3・11の教訓を受け止めて、家庭でも工場でも、一般的な節電が当たり前になっている。これが余力の源だ。そして、再生可能エネルギーの普及が予想以上に原発の穴を埋めている。猛暑の夏は太陽光発電にとっては好条件とも言えるのだ。むしろ最大のピンチに立たされたのは、昨年から今年にかけて四基の原発を再稼働させた関西電力ではなかったか。七月十八日。火力発電所のトラブルなどが重なって供給率が低下し、予備率3%を割り込む恐れがあったため、電力自由化を見越して三年前に発足した「電力広域的運営推進機関」を仲立ちとして、東電や中電、北陸電力などから今夏初、計百万キロワットの「電力融通」を受けた。3・11直後、東日本と西日本では電気の周波数が違うため、融通し合うのは難しいとされていた。だが、やればできるのだ。震災当時百万キロワットだった周波数変換能力は現在百二十万キロワット。近い将来、最大三百万キロワットに増強される計画だ。北東北では、送電網の大幅な拡充計画が進行中。地域に豊富な再生可能エネルギーの受け入れを増やすためという。地域独占からネットワークへ、集中から調整へ、原発から再エネへ-。電力需給の進化は静かに、しかし着実に加速しているのではないか。猛暑の夏に、エネルギー社会の近未来を垣間見た。

<おかしな論理はやめ、脱化石燃料へ>
PS(2019.7.17追加):*4-1・*4-2のように、2019年6月、この海域で日本のタンカーが攻撃されたため、米国が派遣した艦船が監視活動を指揮し、参加国が米艦船の警備や自国の民間船舶の護衛に当たるため、米国が同盟国に有志連合の結成を呼び掛け、原油を中東に依存する日本にとってこの航路の安全は極めて重要なので、日本政府は担当者を出席させるそうだ。
 こうなる理由は、*4-3のように、安保法制関連法案の国会審議の中で、集団的自衛権を行使し、自衛隊を米軍とともに世界に派遣する一例として、この航路の安全確保が挙げられていたからだ。しかし、根本的におかしいのは、①民間の船舶であるタンカーの経済的リスクなら保険で手当てすべきで ②保険料込みで原油購入者は対価を支払っている筈であり ③リスクが高ければ原油の販売者も大きな打撃を受けるため、この海域を守るべきは周辺の産油国側で ④この海域が原油で汚染されて困るのもこの海域の国々であること などである。
 このような中、エネルギー自給率を向上させる努力もせず、化石燃料であるこの地域の原油に依存し続けている日本の政治は、とりわけビジョンがないと言わざるを得ない。

*4-1:https://www.kochinews.co.jp/article/293436/ (高知新聞 2019.7.17) 【ホルムズ海峡】有志連合は緊張を高める
 中東・ホルムズ海峡などの安全を確保するため、米国が同盟国に有志連合の結成を呼び掛けている。米軍によると、米国が派遣した艦船が監視活動を指揮し、参加国は米艦船の警備や自国の民間船舶の護衛に当たるという。6月にこの海域で日本のタンカーなどが攻撃されたことに伴う対応としている。日本政府にも参加や負担を求めてくる可能性がある。イラン沖にあるホルムズ海峡やその周辺海域は原油の海上輸送の大動脈といってよい。原油を中東に依存する日本にとっても、航路の安全は極めて重要である。だが、自衛隊は現状で有志連合に参加すべきではない。現行法上、派遣が難しいこともあるが、航路の安全確保は本来、実力部隊の派遣によってではなく、国際社会の対話と協調で実現していくのが筋である。自衛隊派遣について岩屋防衛相はきのう「現段階では考えていない」と述べた。当然の判断だ。他の同盟国にも冷静な判断を求める。トランプ米政権は、タンカー襲撃などはイランの最高指導者ハメネイ師が直轄するイラン革命防衛隊の仕業と指摘し、非難している。ただ、確たる証拠がないのが現状だ。そもそも、米国とイランの最近の関係悪化はトランプ政権が引き起こしたといっても過言ではない。イランと、米欧など6カ国は2015年、イランが核開発を大幅に制限する見返りに制裁を解除することで合意。中東の緊張緩和は大きく前進すると期待された。ところが、米大統領に就任したトランプ氏はこの核合意からの離脱を一方的に表明し、対イラン制裁も再開した。イランが猛反発するのも当然だ。トランプ氏のイランへの強硬姿勢には、来年の米大統領選に向け、支持者に強いリーダー像を見せたいとの思惑があるとみられる。支持層である保守派はイランへの制裁強化を望む人が多い。問題は、トランプ氏がそれに同盟国を巻き込もうとしていることだ。同盟国はこれまで、トランプ政権の対イラン政策に一定の距離を置いてきたはずだ。有志連合に加われば一転、同調したことになる。ホルムズ海峡はイランにとって対外戦略上の要衝である。そこに米軍主導で多国籍の艦船が展開すれば、イランには軍事的な包囲網に映るだろう。航路の安全どころか、かえって緊張が高まりかねない。米国は数週間以内に有志連合を結成したいとしている。同盟国は参加を検討するより前に、米国とイランの関係修復に当たりたい。日本はイランと友好的な関係を維持してきた。安倍首相は6月、仲介のためにイランを訪問し、ハメネイ師とも会談した。その日本が有志連合に入るようなことになれば、これまでの友好関係も仲介の取り組みも水泡に帰すことになろう。今後も粘り強い外交努力が必要だ。

*4-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190717/k10011995731000.html (NHK 2019年7月17日) ホルムズ海峡安全確保 米構想の説明の場に日本も出席で調整
 中東のホルムズ海峡などの安全確保のため、アメリカ政府が今月19日に関係国に新たな構想を説明する場に、日本政府も担当者を出席させる方向で調整しています。アメリカとイランの対立で緊張が高まる中、アメリカ軍はホルムズ海峡の安全を確保するため、同盟国などとの有志連合の結成を検討していて、国務省のフック特別代表は、今月19日に関係国に対し新たな構想について説明する場を設ける考えを明らかにしました。これを受けて日本政府は、アメリカにある日本大使館から担当者を出席させる方向で調整しています。有志連合の結成をめぐっては、岩屋防衛大臣は16日「この段階で、いわゆる有志連合に自衛隊の参画を考えているものではなく、自衛隊を派遣することは考えていない」と述べています。ただ日本政府としては有志連合をめぐるアメリカの構想が明らかにならない中、担当者を出席させることで構想の具体的な内容について情報を収集するねらいもあるものとみられます。

*4-3:https://www.news-postseven.com/archives/20150604_326445.html (週刊ポスト 2015年6月12日号)安保法案でのホルムズ海峡機雷除去 想定自体現実にあり得ず
 安保法制関連法案の国会審議が始まった。集団的自衛権を行使し、自衛隊を米軍とともに世界に派遣する──安倍政権が閣議決定した憲法解釈変更を法制化し、日本の安全保障政策を大転換させる重要法案だ。法案早期成立のために、安倍晋三首相は詭弁と詐弁を駆使している。「他国の領土、領海、領空に派兵することはない」。安倍首相は安保審議の前戦の党首討論でそう言明した。しかし、安保法制の柱であり、国際紛争に際して自衛隊派遣の要件を定める恒久法「国際平和支援法案」には、「外国の領域における対応措置」が明記されており、他国領で活動しないという安倍首相の説明は明らかに嘘である。安倍首相が他国領域での集団的自衛権の行使について、「例外」のひとつとして挙げているのがホルムズ海峡での機雷除去活動だ(その他「米艦防護」に含みを持たせ、内閣法制局長官は「敵基地攻撃」にも言及した)。イランがペルシャ湾口のホルムズ海峡を機雷で封鎖する事態になれば、日本は中東からの石油運搬ルートを断たれる。それは安全保障上の重大事態だから、米国との集団的自衛権を行使して海自による機雷除去の掃海活動が必要になるという論理である。しかし、早稲田大学法学部の水島朝穂教授はこの想定自体が現実にはあり得ないと指摘する。「ホルムズ海峡はイランとオマーンの間で最狭部は幅約30キロ。両国が主張する領海が重なり、公海はない。この海峡を通る世界のタンカーの9割は中間線よりオマーン側の航路を通る。イランが海峡を封鎖するなら、オマーン領海にも機雷を敷設しなければならない。相手国領海への機雷敷設は戦闘行為そのもので、イランはオマーンに宣戦布告することになる。しかしオマーンはイランの友好国だから、機雷を敷設するという想定自体が非現実的だ」。それだけではない。「仮に機雷が敷設された場合でも、戦争状態での機雷除去は軍事行動になる。それを自衛隊が行なうとすれば、日米の集団的自衛権に基づくものではない。これは『集団的自衛権は米国が相手』としてきた政府の説明と矛盾する」(同前)。それでも安倍首相がホルムズ海峡を持ち出したのは、「石油が断たれたら大変なことになる」と危機を煽れば国民も認めるだろうという発想なのだ。

<電動車への移行>
PS(2019年7月18日追加):*5-1のように、市川市が低炭素社会の実現をアピールするためにEV導入を決定し、市長と副市長の公用車にテスラ製の高級セダンの『モデルS』とSUV(スポーツ用多目的車)の『モデルX』の2台を導入することをめぐって、「高額すぎる」と市民から見直しを求める声が上がったそうだが、それを次の産業政策に結び付ければ上出来だと私は考える。例えば、市長の公用車をテスラ、副市長の公用車をリーフ、市の他の所有車もEVや運転支援車にして皆で性能を比較し、今後の自動運転化やEV化を進める基礎にしたり、その方面の企業を誘致したりできれば初期投資は大きすぎず、値引要請も可能だろう。
 なお、最近は、*5-2のように、燃料電池電車も独で営業を始めており、これを運行する州の交通公社は2021年までに全てを燃料電池電車に置き換える予定で、その電車は水素タンクを満タンにすれば千km走行できる上、将来は風力発電による電気で水を分解して得た水素を使うのだそうだ。再エネによる分散発電と燃料電池電車を組み合わせれば、エネルギー代金が下がってエネルギー自給率は高まり、さらに超電導電線を敷設すれば送電料が入るため、日本でも北海道・東北・四国・九州の鉄道会社に特にお勧めだ。

    

(図の説明:1番左が、2018年9月17日から営業運転を開始したドイツのFCV電車だ。左から2番目は、日立製のFCV電車だが、営業運転はしておらず、DENCHAという子供じみた命名をしている点で本気度が見えない。また、右から2番目は、EV電車、1番右はEVバスで、陸上交通は既に実用化済のFCVやEVに変えることが可能になっている)

*5-1:https://response.jp/article/2019/07/18/324536.html (Response 2019年7月18日) 高級EVテスラにこだわる市川市長、リーフの選択は論外?[新聞ウォッチ]
 ローカル過ぎる話題だが、批判の的にされているのは、あのイーロン・マスク氏が最高経営責任者(CEO)をつとめる米電気自動車(EV)メーカー、テスラの高級EV車だけに見過ごすわけにもいかないようだ。千葉県の市川市の市長と副市長の公用車にテスラ製の高級セダンの『モデルS』とSUV(スポーツ用多目的車)の『モデルX』の2台を導入することをめぐり、市民から見直しを求める声が上がっているという。きょうの毎日などが「米テスラ高級EV公用車に批判」などと、社会面で大きく取り上げている。それによると、市川市は低炭素社会の実現をアピールするため、EV導入を決定。7月上旬には、副市長用に車両価格1110万円のモデルXのリースを開始した。費用は月約14万円で期間は8年間。これまでのトヨタの『クラウン』は月約6万円で月額が2倍以上となったという。このため、市民や議会から「高額だ」と批判が噴出。村越祐民市長は「説明不足だった」として、もう1台の車両価格1020万円のモデルSについては入札を延期することを決定。すでに納車された1台については、これまでの国産車との差額分8万5000円分を自身の給料から減額して補てんする考えを示したそうだ。この市川市の公用車導入の問題を少し整理すると、地球温暖化対策に前向きな取り組みの一環としてエコカーを選択することについての批判は少ないようだが、市民感情としてはその車種が1000万円を超える高級外車だから「税金の無駄遣い」との反対意見が噴出したと思われる。もし、最初から日産自動車の『リーフ』などを選択していたら、批判の声も上がらなかったのではないだろうか。もっとも、リーフは大衆車であるのと「差額は自腹でも」という市長の発言からみると、最初から「テスラありき」との思惑も透けて見える。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/ASL9K1RV4L9KUHBI001.html (朝日新聞 2018年9月18日) 世界初、燃料電池で走る列車 時速140キロ、独で営業
 鉄道が電化されていない区間の多いドイツで17日、燃料電池を使った列車の営業運転が始まった。車両を製造したフランスのアルストム社によると世界初の取り組みという。走行時に二酸化炭素(CO2)を出さず、環境にやさしい次世代の列車として世界的に注目されている。北部ニーダーザクセン州の約124キロの区間(ブクステフーデ駅―クックスハーフェン駅)を走る14編成のうち2編成で導入された。1編成で最大300人を乗せることができ、運行する州の交通公社は2021年までに全てを燃料電池列車に置き換える予定だ。車両の屋根にあるタンク内の水素と空気中の酸素を化合して発電。架線からは電気を受けずに、モーターを回して走る。床下にはリチウム電池が設置され、走行中にも自動で蓄電する。最高速度は時速140キロで、水素タンクを満タンにすれば1千キロまで走行できる。将来は風力発電による電気で水を分解して得た水素を使う方針という。通勤のため乗車した50代の女性は「すごく静かでとても驚いた。乗っていて心地良いくらい」と話した。ドイツの鉄道は現在も電化されていない区間が約半分を占め、ディーゼル車が走る。電化には巨額の投資と時間がかかるため、二酸化炭素削減に取り組む中で、燃料電池列車が急速に普及する可能性がある。一方、日本では鉄道総合技術研究所などで開発が進むが、営業運転のめどは立っていない。アルストム社の広報担当者は「燃料電池列車の価格はディーゼル列車より高いが、電化の費用を考えれば十分に見合う」と話す。

<メディアの質が低いこと>
PS(2019年7月19、20日追加):*6-1のように、参院選のテレビ報道が少なく、報道関係者は「選挙自体が盛り上がらず高視聴率を見込めないから」と説明しているそうだ。しかし、テレ朝の「羽鳥慎一モーニングショー」は、参院選公示以降、毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに専門家を招いて選挙報道を行い、各党の主張を紹介して連日9%台の視聴率を記録しているそうで、これは、この時間帯に家にいる高齢者や女性の政策への関心も高いことを示している。各党の公約を掘り下げて報道しなければ選挙による有権者の真の審判はできないが、NHKはじめ他の民放は、災害・天気・放火・殺人・高齢者の交通事故ばかりを報道しており、これらの報道関係者は各党の政策や公約を的確に掘り下げる意欲も能力も使命感もないようだ。
 また、メディアの質が低下しているのは報道番組だけでなく、*6-2のようなNHKの大河ドラマ「いだてん」も同じで、ゴールデンタイムを使って広告がないにもかかわらず6月9日の平均視聴率は6.7%と苦戦し、1989年以降最低だそうだ。そして、その理由を「①合戦のシーンを大河の見どころと考える従来の固定層が近現代という設定になじめなかった」「②有名人のストーリーではないから」「③作品のメッセージ性はよい」「④少子高齢化により高齢視聴者の影響が強い数字になりがちだから」「⑤『歴史好き』ではなく、『ドラマ好き』が支持しており、視聴率は関係ない」としているが、マーケットリサーチは正確に行わなければ今後の改善もない。私は、①②④は、言い訳にしても従来の視聴者や高齢者を馬鹿にしており、③は偶然に触発された人ばかりのメッセージで感動するほどのものではなく、⑤は、ドラマとしても、失敗ばかりして絶叫しているストーリーで面白くないのである。
 大河ドラマに戦国時代・明治維新の話は既にしつこいほど出たため、今後は、1)秦の始皇帝と徐福 2)三国志と倭 3)神功皇后の新羅出兵と応神天皇の東征 4)大化の改新・白村江の戦い・飛鳥時代・持統天皇 5)「この世をば わが世とぞ思ふ・・」と詠んだ藤原道長と彰子、定子、紫式部、清少納言 など、日本の古代史とアジアを、二国間協力し壮大な大河ドラマにして美しい映像で放映すれば、世界レベルで興味を持たれると思う。もし、日本の作家にそういう能力がなければ、中国・インド・アラビア・エジプトはじめ文化に力を入れている外国の映画を放映した方がよほど面白い。
 なお、京都アニメ放火事件について、ある番組のコメンテーターが「テロと言ってもいい」などと言っていたのには呆れたが、テロリズムとは、*6-3のように、「準国家的集団又は秘密の代理人による、非戦闘員を標的とし、政治的な動機を持つ暴力をいう」と定義されており、非国家主体又はその各々の政府のために仕える秘密捜査員によってのみ関与されるものだ。日本は既に民主主義国で政治の変革にテロは不要なので、私は京都アニメ放火事件はただの犯罪だと思うが、あれをテロだと言った人は(いい加減ではなく)テロの要件に合う理由を述べるべきだ。

*6-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM7K6X5XM7KUCVL02H.html?iref=comtop_8_02 (朝日新聞 2019年7月19日) 「視聴率取れない」参院選、TV低調 0分の情報番組も
 参議院選挙のテレビ報道が低調だ。選挙自体が盛り上がらず、高視聴率を見込めないためと関係者はみるが、そんな常識を覆す現象も起きている。テレビ番組を調査・分析するエム・データ社(東京都港区)によると、地上波のNHK(総合、Eテレ)と在京民放5社の、公示日から15日までの12日間で選挙に関する放送時間は計23時間54分で、前回に比べ6時間43分減っている。とりわけ「ニュース/報道」番組の減少が顕著で、前回から約3割減、民放だけなら約4割減っている。公示日のテレビを見ると、NHK「ニュースウオッチ9」がトップで伝えたり、TBS系「NEWS23」と日本テレビ系「news zero」が党首討論を行ったり、午後9時以降の主な報道番組六つすべてが選挙にふれたが、翌日は六つとも報じなかった。その後も、番組によって、放送しない日があった。「情報/ワイドショー」は、前回より放送時間が増えたが、フジテレビ系「とくダネ!」やTBS系「ビビット」、日本テレビ系「スッキリ」など、公示日から15日まで選挙企画が全くないところも。10年以上情報番組に携わった在京キー局の元プロデューサーは、選挙自体、盛り上がりに欠けるためだとみる。「安倍政権1強下で行われる参院選。政権交代が起きる要素もない。テレビが取り上げたくなる個性の強い候補者や選挙区もない。視聴率が取れない」。また選挙期間中は、陣営からのクレームを恐れ、発言時間をストップウォッチで管理するなど細心の注意が必要だったとし、「数字が取れないのに、作り手は、手間とリスクを取って放送するメリットはないと思っているのでは」。実際、14年には自民党がテレビ局に、出演者の選定や街の声の放送など、事例を挙げて「公平」な報道を求める文書を送付している。そんな中、積極的なのはテレビ朝日系の朝の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」。公示日以降、ほぼ毎日30~40分、消費増税、年金などをテーマに、専門家を招いて掘り下げ、各党の主張を紹介している。しかも、視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は連日9%台を記録。同時間帯の民放の情報番組の中で首位を走る。憲法改正に絡む「緊急事態条項」を取り上げた祝日15日の放送は、15年の番組開始以来2位の11・7%となった。小寺敦チーフプロデューサーは「難しいテーマに司会者の羽鳥慎一さんさえ『祝日の朝に本当に見てもらえるのだろうか』と心配していたのに、結果を見て、選挙に関する有権者の知りたいという欲求を確かに感じた」と話す。NHKは前回に比べ3時間弱、放送時間が減少した。同局幹部は4日の公示日前後にあった九州南部の大雨に触れ、「災害報道に時間を割いたことも影響しているのでは」と言う。ただ、NHKの場合、ネット上で選挙サイト「NHK選挙WEB」も展開。世論調査の結果や各党党首の演説を、グラフや図を使って多角的に分析。全国の選挙区ごとに特設ページを設け、候補者へのインタビュー映像や、NHKの記者による争点解説の動画を発信するなどネット報道を強化しているという。別の幹部は「全体では、発信する情報量はむしろ増えている」。政治とメディアの関係に詳しい逢坂巌・駒沢大准教授は、選挙に強い関心のある有権者を満たす受け皿としてネットの充実は必要だと評価する。ただ「選挙に関心の低い人が興味を持つきっかけは、最も影響力の大きい地上波が担うべきではないか」。そもそも、各局の放送内容に批評性が足りないと指摘するのは、フジテレビで報道番組のディレクターなどを務めた筑紫女学園大の吉野嘉高教授だ。「本来であれば、安倍政権の6年を振り返り、何が実現して何が実現しないのか検証する報道が必要だ。公平性に気が回りすぎて、全く切り込めていない」と話す。「有権者が一番知りたい時期に、知る権利に量的にも質的にも応えていないことを意識すべきだ」と指摘する。

*6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM6M2W93M6MUCVL001.html (朝日新聞 2019年7月2日) こんな大河見たことない いだてん、視聴率が計れない熱
 NHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」が苦戦している。6月9日の平均視聴率は6・7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で、NHKが把握している1989年以降で大河史上最低を更新した。作品を評価する声はあるのに、なぜ?「いだてん」は五輪マラソンに日本人初出場を果たした金栗四三(かなくりしそう)と、64年の東京五輪招致に関わった田畑政治の歩みを描く。大河としては珍しい近現代の物語だ。脚本は人気作家の宮藤官九郎さん、金栗を中村勘九郎さんが演じ、ビートたけしさんや役所広司さんらも出演し、話題性は十分だった。ところが、初回視聴率こそ前作「西郷(せご)どん」を上回ったが、2月から6月30日まで20回連続で1桁台。対照的に、山奥の一軒家を訪ねる同時間帯のテレビ朝日系「ポツンと一軒家」は20%前後の高視聴率で、民放関係者は「確実に視聴者が流れている」と指摘する。
●従来の固定層がなじめない
 受信料で支えられる公共放送のNHKは、数字に一喜一憂する必要はないはずだが、大河や朝ドラは「NHKの看板番組」。ある幹部は「トヨタでプリウスが売れなかったら問題になるようなもの。公共放送も、放送内容に納得してもらうからこそ受信料を払ってもらえる」と危機感を募らせる。低迷の理由はどこにあるのか?大河に詳しいコラムニストのペリー荻野さんは「合戦のシーンを大河の見どころと考える従来の固定層が、近現代という設定にそもそもなじめなかった」と分析。明治・大正期と昭和期の二つの時代を唐突に行き来する複雑な演出なども敬遠されたとみる。さらに、織田信長や坂本龍馬のような有名人のストーリーではないため、「1回見逃すと、話についていけなくなると思われた」こともマイナスに影響したと考える。とはいえ、ペリーさん自身は、これまでにない「新しい大河」として、いだてんを評価する。
●現代に通じる強いメッセージ
 6月9日の放送では、陸上競技の大会で、女学生が素足に靴を履いて走った。父親が「おなごが人前で脚を丸出しにするなんて。もう嫁には行けない」ととがめる中、教師の金栗は「おなごが脚ば出して何が悪かね」と猛然と反論する。ペリーさんは、女性が職場でヒールがあるパンプスを強制されることに疑問を投げかける昨今の社会状況と重なったと語る。「単なる女性の自立ではなく、『男女はこうあるべきだ』という社会の押しつけに異議申し立てする現代的な視点を歴史物語に盛り込むなど、作品のメッセージ性は強い」。近現代文学を扱う小樽文学館(北海道小樽市)の玉川薫館長は「金栗の日記などを元にした脚本は人物を生き生きと描いており、明治・大正期の人物が身近なものとして感じられる。4年に一度の五輪がいかに人生を振り回すかが切実に伝わってきます」と評価する。
●「ドラマ好き」からの支持
 そもそも「視聴率が低いから失敗」とは言えないと、メディアコンサルタントの境治さんは指摘する。ビデオリサーチの視聴率とは「世帯視聴率」のことで、少子高齢化により高齢視聴者の影響が強い数字になりがちだというのだ。「ツイッターでの反響や他の調査会社のデータなどを分析すると、高齢視聴者が中心の従来の『歴史好き』ではなく、『ドラマ好き』が支持しているとわかる。新しい視聴者の開拓という意味では成功していると言えます」。視聴率の高い低いは注目され、ニュースにもなる。「しかし、世帯視聴率は今や番組を測る基準の一つでしかないのだと、テレビ局もメディアも視聴者も認識を改めるべきではないか。もっとも、好きなドラマを楽しむのに視聴率は関係ないと思いますが」。大河制作に携わっていたNHKの木田幸紀放送総局長は視聴率低迷を「残念なこと」としつつ、「『いだてん』は今までにない、これからあるかどうかわからない、見たこともない大河ドラマ。この作り方を最後まで貫いてほしい」と語る。ドラマは6月30日から田畑が主役の第2部へ。その前に報道陣の取材に応じた田畑役の阿部サダヲさんは「ポツンと一軒家」を念頭にこう言った。「もう一軒家って、そんなにないでしょう、そろそろ。(視聴者が)帰ってくると思いますよ」

*6-3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%BE%A9 (Wikipediaより抜粋) テロリズムとは
 「準国家的集団又は秘密の代理人による、非戦闘員を標的とし、事前に計画された政治的な動機を持つ暴力をいう」と定義されている。テロリズムの教科書に載っている定義には、以下のようなものが含まれている。
 1)テロリズムは、政治目的、宗教又はイデオロギー的な変化を追求しようとして、
   特に民間人に対して、暴力又はその脅威を行使することである。
 2)テロリズムは非国家主体又はその各々の政府のために仕える秘密捜査員に
   よってのみ関与され得る。
 3)テロリズムは直接対象となる犠牲者以外にも影響が及び、より広範囲の社会
   への標的にも向けられる。
 4)テロリズムは「法律により違法とされた犯罪(法定犯)で、不道徳又は不正な
   行為(自然犯)である。

<参院選における投票判断の材料>
PS(2019年7月20日追加):*7は、朝日新聞社と東京大学谷口研究室の共同調査で、候補者や政党の見解がわかりやすく纏められていてよいのだが、大雨や日程の都合で期日前投票をした人も多いため、今週始めくらいに出してもらえるともっとよかったと思う。

*7:https://www.asahi.com/senkyo/senkyo2019/asahitodai/?iref=comtop_8_08
朝日新聞社と東京大学谷口研究室の共同調査で、候補者に政策課題への賛否を尋ねました。皆さんが注目する候補者の政策への考え方を調べてください。(以下略)

<政策選択と投票>
PS(2019年7月21日追加):*8-1のように、今日、参院選が投開票されるので、有権者は選挙で政策への賛否を示すべきである。一票では力がないと考える人もいるが、一票の集まりが選挙結果や政策変更に繋がっており、棄権は政権への白紙委任だ。しかし、メディアの情報にも、「年金支給を支えながら自身は十分に受け取れない可能性がある若者こそ声を上げるべきだ」というように行政の説明を鵜呑みにした論調が多く、これでは、「これまで年金を支えたり、老親を直接養ったりしてきたのに、自分は生活できる年金すら受け取れない」という現在の高齢者の生活を無視している。そして、この問題を一挙に解決して誰にも文句を言わせないのが、自分のために積み立てる積立方式への移行と税外収入による積立不足分の補填なのである。
 また、*8-2のように、自由貿易至上主義でTPPとEUとのEPAが推進されているが、産業政策も考えておかなければ、我が国は食料自給率が低く、自国の食料確保さえおぼつかなくなる。それは与党が主張する「攻めの農政」だけでは解決しないし、野党が主張する「戸別所得補償制度」では財源が膨大になる上、農業の生産性向上に資さない。また、「農産物の価格補償」は、高価格分が国民負担なのである。そのため、私は、TPPとEUとのEPAを進めるにあたり、「戸別所得補償制度」の代わりに農林漁業に再エネ機器を貸与して副収入を得させるようにし、補助金の削減・地方創成・地方交付税の削減に結び付けるのが最もよいと考える。
 なお、自民党政権は行政とつるみ、大人が働いている産業に補助金をばら撒いて社会的弱者への教育・社会保障を削ってきた。しかし、*8-3の教育投資は重要で、技術革新や生産性向上の源は教育だ。さらに、*8-4のように、沖縄は過去2回の知事選・今年2月の県民投票で基地移設反対の民意が鮮明に示され、オール沖縄で基地の集中に抗議しているのに、与党は公約で辺野古移設推進を掲げ、沖縄選挙区の自民党公認候補は賛否を明らかにしていない。そして、ここにも土木業者と結託して将来計画もなく環境を破壊している無駄遣いの温床があるようだ。


2019.6.26、28東京新聞           2018.3.19東京新聞

(図の説明:参院選のテーマは多いが、左と中央の図のように、ポイントが纏められている。根本は、インフレ政策で実質年金・実質賃金が減少し、生活が苦しくなった人が多い《=エンゲル係数が上がった》ことである)

*8-1:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/327180 (北海道新聞 2019年7月21日) <2019参院選>きょう投票 未来につながる選択を
 参院選はきょう投開票される。衆院選と違って政権選択選挙ではないとされるが、6年半続く安倍晋三首相の政権運営に評価を下す大切な機会である。この間に、われわれの暮らしはどう変わっただろうか。参院選の公示直前に「老後に夫婦で2千万円の蓄えが必要」と試算した金融庁の報告書が明らかになり、老後への不安があらわになった。こうした不安を取り除く手だてを講じるのが政治の使命であり、その政治を動かすのは有権者の切実な声だ。なかんずく、現在の年金支給を支えながら自身は十分に受け取れない可能性がある若者こそ、声を上げるべき局面といえる。未来を見据えた思いを1票に託そう。今回改選される参院議員は、安倍首相が政権復帰して初めて行われた国政選挙で当選した。任期が第2次以降の安倍政権とほぼ重なるだけに、候補者や、候補が所属する政党が政権とどう向き合ってきたかが問われる。「安倍1強」の下、政権に不都合な事実を覆い隠すような公文書の隠蔽(いんぺい)や改ざんが行われ、参院を含む国会の形骸化が進む。行政監視の機能を取り戻す必要がある。安倍首相は「違憲論争に終止符を打つため、憲法に自衛隊を明記していく」と繰り返し、改憲を最大の争点に掲げる。権力を縛るはずの憲法について、為政者自らがそのくびきを外すかのごとく改定を声高に叫ぶのは、やはり違和感が拭えない。改憲は国民の代表である国会が発議するもので、そこに投票で意思を投影するのは有権者であることを忘れてはならない。首相があまり強調しないテーマの方がむしろ問題は切迫している。北海道では、急激な人口減と高齢化に伴う地方衰退に歯止めをかける施策が求められる。ふだんの暮らしで困ったことを、どう解決するか。自分の生活に引きつけて、候補や政党の公約を見比べてみるのも有効だ。道選挙区の投票率はかつて60~70%台で推移していたが、2013年は54・41%、16年は56・78%と低迷が続いている。前回の参院選から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたが、投票所に足を運ぶ若者は少ない。少子高齢化が加速し、若者の声が政治に届きにくくなっている。この状況を変えるためにも、まずは1票を投じてほしい。

*8-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326973?rct=c_editorial (北海道新聞社説 2019年7月21日) <2019参院選>農業政策 自由化後の展望見えぬ
 あす投開票される参院選は、環太平洋連携協定(TPP)、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効後、最初の国政選挙である。日本農業はかつてない自由化の荒波に直面し、多くの農家が将来に不安を抱いている。これからの農業をいかに守り、育てるのか―。食料基地・北海道の有権者にとって関心の高いテーマだが、年金問題などに比べて各党の優先順位は低く、論戦が深まっていないのが残念だ。選挙戦も残り1日である。特に道選挙区の候補者には、農業政策の具体論を語り、有権者に明確な選択肢を示してもらいたい。農業政策について与党は、安倍晋三政権が推進する「攻めの農政」を通じ、対外的な競争力を高めることに重きを置く。自民党は「TPPや日欧EPAの下でも農業者が安心して再生産に取り組めるよう全力で応援する」、公明党は「世界に日本ブランドを広め、輸出力を強化する」とそれぞれの公約集に記した。こうした考え方は、輸入農産物の攻勢にさらされている生産現場の実感とは大きく異なる。例えば、TPP発効後の約半年で、オーストラリアなど加盟国からの牛肉の輸入は前年同期比で4%伸びた。しかも関税は今後14年間下がり続ける取り決めがある。ただでさえ高齢化と人手不足で経営体力を失う生産者が増えているのに、既存の国内対策の「着実な実施」や輸出などの「攻め」を強調するだけでは説得力を欠く。対する野党は、農家の所得を底上げし、40%未満に落ち込んだ食料自給率向上を訴えている。所得向上策に関しては、立憲民主党と国民民主党が「戸別所得補償制度の導入」、共産党は「農産物の価格補償と所得補償の抜本強化」を掲げた。農家への直接支払制度は自国農業を守るのに有効だが、巨額財源をどう確保するかの説明がなく、絵に描いた餅にしか見えない。特に立憲民主党と国民民主党は、民主党政権時代の戸別所得補償制度が十分機能しなかった原因を検証し、改善案を示さなければ、農家の信頼は得られまい。選挙後には日米貿易協定交渉も本格化する。トランプ米大統領は「農産物と牛肉が重要だ」と主張しており、輸入拡大を求めてくることははっきりしている。各候補は「農業を守る」と連呼してきたが、そんなかけ声だけで済ませてよい選挙ではない。

*8-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201907/CK2019072002000134.html (東京新聞 2019年7月20日) <参院選 くらしデモクラシー>中所得層にも無償化訴え 大学生困窮「教育もっと投資を」
 日本の公教育への投資は先進国の中で極端に低く、家計への負担は大きい。低所得世帯の学生らを対象に高等教育の負担を軽減する新法が五月にできたが、中所得層は置き去りのままだ。現状に苦しむ学生から「教育への投資」を求める声が高まっている。「政治はもっと教育に目を向けてほしい」。梅雨空が広がった六月末、学生団体「高等教育無償化プロジェクト」(通称・フリー)代表の岩崎詩都香(しずか)さん(20)=東大三年=の声が東京・新宿駅前に響いた。「高額な学費で学生生活が奪われている」「奨学金という借金を背負い未来を自由に描けない」。メンバーの学生らも代わる代わるマイクを握り、窮状を訴えた。フリーは、岩崎さんらが学生の実態調査のために約三十大学の学生らとともに昨年九月につくった。現在、首都圏を中心に約百三十人が活動している。岩崎さんは地元・長崎市の公立高を卒業し、二〇一七年に東大文学部に進学した。六人きょうだいの末っ子。八歳の時に父を病気で亡くした。起業に失敗した父の借金を背負った母が、清掃業のパートで家計を支えてきた。しかし、父の遺族年金を含めても収入は年二百五十万円に届くのがやっとで、浪人は許されない。東大を選んだのは、年約五十四万円の授業料が全額免除される制度の所得対象になったからだ。仕送りはなく、月額約五万円の奨学金に加え、母子生活支援施設を警備する夜間バイトで生活費を賄う。「教科書の購入が必要な授業は、なるべくとらないようにしています。同級生との交流を極力減らし、コンパも断ってきた。ましてや旅行なんて」。返済が必要な奨学金の総額は、大学四年間で約二百五十万円を見込む。進学を望む大学院でも奨学金を頼るつもりだが、一段と膨らむ負担への不安は大きい。苦しんでいるのは「自分のような低所得層だけではない」と言う。「裕福そうな友人たちも、授業料のためにバイト漬けの生活を送っていた」。フリーが全国の大学や短大、専門学校に実施したアンケートでは、七月中旬までに集計が完了した約六千七百人の六割程度が「大学・学部を選択する際に学費を考慮した」と回答。奨学金の利用は三割を超えた。安倍晋三首相は消費税の使い道として「高等教育無償化」を掲げたが、五月に成立した高等教育の負担を軽減させる新法の対象は低所得世帯に限定された。多くの学生が望むものとはほど遠い。岩崎さんは「地元の友達の中には、親から『おまえは大学にはやれない』と言われて早々に諦めた人もいる。高等教育を受けることができないのは本人の努力不足かのような自己責任論を押しつけられている。こうした社会を変えていきたい」。二十一日投開票の参院選で、学生の未来を託せる候補者を見極めるつもりだ。
◆公的支出2.9% OECD34カ国中最下位
 日本の学生を取り巻く環境は厳しさを増している。日本の教育への公的支出の割合は、経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中でも際立って低い。二〇一八年の発表によると、日本の国内総生産(GDP)に占める公的教育費の割合は2・9%でOECD平均の4・2%を下回り、比較可能な三十四カ国で最下位だった。日本では特に国公立大など高等教育の授業料が主要国の中でも高く、学費の家計依存度の68%もOECD平均の30%の二倍を超える。授業料の値上げも続いている。文部科学省によると、バブル経済に沸いた一九八九年に約三十四万円だった国立大の授業料は現在、約一・六倍の約五十四万円に。入学金は十万円増の約二十八万円となった。一方、九四年に六百六十万円を超えた一世帯あたりの平均所得は、一七年には五百五十一万六千円に低下した。家計に余裕がなくなっているのに、国立大では学費値上げが相次ぐ。東京工業大や東京芸大などは一九年度から学費を年額十万円値上げし、学生らが苦境に立たされている。

*8-4:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326972?rct=c_editorial (北海道新聞 2019年7月21日) <2019参院選>沖縄に基地集中 辺野古は全国の問題だ
 戦後、沖縄が背負ってきた負担はあまりに重い。今なお、国内の米軍専用施設の7割が集中している。その状況下で安倍晋三政権は米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事を強行している。首相は就任以来「沖縄に寄り添う」と繰り返してきたが、実際の態度は違う。県はすでに辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回している。加えて過去2回の知事選に続き今年2月の県民投票では、移設反対の民意がより鮮明に示されている。なのに、国は県の承認撤回を脱法的とも言えるやり方で取り消し、希少な自然が残る辺野古沿岸で埋め立て域を広げ続けている。安全保障を理由に、国の政策を一方的に押し付ける姿勢は、対等であるべき国と地方の関係をゆがめている。沖縄以外の地方にとっても人ごとではない。沖縄の基地問題は負担の公平性も含め、参院選の大きな争点だ。自民党は公約で辺野古移設推進を掲げる。しかし沖縄選挙区では公認候補が賛否を明らかにしていない。昨年の知事選同様、争点をぼかそうとする意図が透ける。公明党は党本部が政府方針を容認する一方、沖縄県本部は県内移設に反対している。一貫性を欠き、有権者には分かりづらい。一方、立憲民主、国民民主、共産、社民の野党4党は中止、反対を公約に掲げ、政権批判を強めている。ならば普天間返還を含め、基地負担の軽減を米側とどう進めるか具体的に示す必要があろう。県は今週、石井啓一国土交通相が県による埋め立て承認撤回を取り消す裁決をしたのは違法だとして、裁決の取り消しを求める訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。国と県の対立はまたも法廷闘争に入り、出口が見えない。そもそも県の撤回理由には、辺野古沿岸部に最深約90メートルに達する軟弱地盤の存在が新たに判明したことがある。現計画では対応できず、費用も大幅に膨らむ。国が県の承認なく工事を強行し続けることができないのは明らかだ。国は普天間問題について「辺野古移設が唯一の解決策」とする。だが移設を最初に閣議決定してから20年たち、安全保障環境も変わる中「なぜ、唯一なのか」を県民に丁寧に説明したことはない。今回の参院選は、政権の地方軽視の姿勢と基地負担のあり方を国全体の問題として考え、投票する機会にしたい。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 03:34 PM | comments (x) | trackback (x) |
2018.6.22 原発に固執する資本生産性の低さと国民負担 (2018年6月23、24、25、26、27日、7月5、11、12、22、24、26日に追加あり)
  
         2017.12.14、2018.6.10西日本新聞

    
   Livedoor       2018.6.14西日本新聞       世界の発電コスト低減

(1)フクイチ事故のその後
1)事故を起こした原発の状況
 *1-1-1のように、東京電力は原発事故から7年後の2018年1月19日、初めてフクイチ2号機で格納容器底部に燃料集合体の一部が落下しているのを確認したそうで、これまで2号機はデブリの多くが圧力容器内に残り、一部が圧力容器の底を抜け格納容器の底部付近に落ちたと推定されていて確認していなかったそうだ。そして、残りの燃料集合体が何処に飛散したかは明らかにしておらず、その楽観論には呆れる。

 また、*1-1-2のように、3号機は覆うだけで2537日(約7年)もかかったそうで、その間は放射性物質をまき散らし続け、廃炉に30~40年かかるそうだが、その上、*1-1-3のように、また原子炉建屋を覆うカバー屋根を解体し、2020年度に貯蔵プールから核燃料を取り出すそうだ。そのため、その間は、3号機に残っている核燃料が、再度、露出状態になる。

 さらに、*1-1-4のように、2号機の核燃料を取り出すためとして、東京電力は2号機の原子炉建屋壁面に開口部を設ける工事を始めたが、2号機の使用済核燃料の取り出し開始は、速くても2023年度だそうだ。

 つまり、チェルノブイリ以上の爆発事故を起こしながら、東京電力と経産省は、放射性物質を迅速に閉じ込めず、のんびり拡散させている点が、ロシア以上に人権侵害なのである。

2)除染後の放射線量と除染土の扱い
 また、事故後の避難の範囲も狭すぎたが、*1-2-1のように、除染もいい加減で、2017年9〜10月に飯舘村・浪江町の避難指示解除区域で毎時0.2〜0.8マイクロシーベルトあり、政府目標の0.23マイクロシーベルトを超えていたそうだ。しかし、一般住民の許容被曝線量は世界基準では年間1ミリシーベルト(0.11マイクロシーベルト/時)以下であるため、日本基準(年間2ミリシーベルト《0.23マイクロシーベルト/時》以下)にはごまかしがある。

 その上、*1-2-2のように、環境省が農地造成に除染土を再利用する方針を出したのには驚いた。園芸作物は土ごと購入する場合もあり、そのうち境界が曖昧になって農作物の生産に使われるかもしれないため、せっかく大金をかけて集めた除染土を農地造成に利用して汚染を全国にばら撒くというのは、その感覚が疑われる。

   
        フクイチ1、3号基の爆発と直後の様子         放射性物質の飛散

(2)原発のツケ
 フクイチ事故から約6年後の2016年12月1日、政府の高速炉開発会議は、*2-1のように、「政府の高速炉開発会議は、約1兆円の国費をかけて20年以上殆ど運転できなかったもんじゅ廃炉が検討されている高速増殖原型炉もんじゅに代わって、より実用化に近い実証炉を国内に建設する」という方針を公表したそうだ。しかし、1兆円もかければ再エネは軌道に乗せることができるため、コストがかかる上、エネルギー自給率にも資さない原発にこれ以上の国費をつぎ込むのは無駄遣いである。

 さらに、*2-2-1は、「日本政府は、日立製作所が英国で進める原発新設事業に対して3兆円規模の債務保証をする」と書いているが、これは国民に3兆円規模(消費税1%分以上)の損失リスクを負わせることであり、とんでもない。そのため、*2-2-2のように、日立製作所の方が撤退も視野に英政府と事業継続に向けた最終協議に入るそうだが、日立は経済合理性から撤退したいのに日本政府が前のめりになっているように見える。残念なことに、*2-2-3のように、英政府も前のめりで日立と事業推進に向けた覚書を結んだそうだが、日立は、ここで撤退するのが最も安上がりだろう。

 また、*2-3の日印原子力協定でも、インドで原発事故が発生した際には電力会社がメーカーに賠償請求できるという(本当は当然の)法律があり、メーカーは巨額の賠償責任を問われる恐れがあるため、原発のコストは再エネより安いという論拠は成立しない。

 このように、民間企業が原発を輸出するにあたって国民にツケを回すことには、*2-4のように、国民の理解が得られる筈がない。そして、日本政府が強力な支援策を検討している資金は、国民の生活を支える社会保障を減らしながら国民負担を増やして得た金なのである。

(3)原発再稼働
 断続的に噴火している新燃岳や250年ぶりに噴火したえびの高原(硫黄山)など、活発な火山活動を続ける宮崎、鹿児島県境の霧島連山の地下に、最大15キロに及ぶ大規模なマグマだまりのあることが、*3-1のように、気象庁などの解析でわかっている。そして、これは、川内原発のすぐ東側だ。

 しかし、*3-2のように、玄海町議会は原発増設を国の計画に明記することを要求する意見書を可決しており、これなら、コストが決して低くないことが明らかになった原発は、再エネのコストが下がっている現在、国策ではなく町策にすぎない。そして、町策は、周囲に迷惑をかけない賢いものを考えるべきである。

 そして、周囲のあらゆる反対を押し切り、*3-3のように、九電は川内原発1、2号機、玄海3、4号機を再稼働したが、加圧水型でも爆発の危険性はかわらず、使用済核燃料が保管プールに水につかっただけで満杯になっていることにもかわりはない。これでは、せっかく福岡市郊外のベッドタウンとして機能できる位置にあっても、周囲に住む人が減るのは当然のことである。

 なお、私は、エネルギーのためなら公害を出しても景観を悪くしても許されるという19世紀・20世紀の発想には組しない。そして、*3-4のように、関係者が、「太陽光発電は晴天の昼間に発電量が増える一方、夜間は発電しないなど不安定な電源」などと10年1日の如く同じことを述べ、「従って、原発4基の稼働が実現したので、今秋の連休にも太陽光発電事業者の出力制御に踏み切る」というのは、世界の潮流に逆行しており、あまりにも愚鈍だ。

 そして、これが、せっかく最先端の事業のタネがあっても事業化すれば成功しない典型例で、日本では事業を起こすことはハイリスク・ローリターンであるため、起業が少ないのである。

<フクイチその後>
*1-1-1:https://www.shikoku-np.co.jp/national/science_environmental/20180119000633 (四国新聞 2018/1/19) 福島2号機で溶融核燃料初確認/第1原発調査、炉心から落下
 東京電力は19日、福島第1原発2号機でカメラ付きのパイプを使い、原子炉格納容器内部を調査した。格納容器底部に燃料集合体の一部が落下しているのを確認し、その周辺で見つかった堆積物は溶け落ちた核燃料(デブリ)と断定した。2号機でデブリを確認したのは初めて。記者会見した東電の木元崇宏原子力・立地本部長代理は「デブリで原子炉圧力容器の底部に穴が開き、中から燃料集合体が落下した。デブリに間違いないだろう」と述べた。これまでの解析では、2号機ではデブリの多くが圧力容器内に残り、一部が圧力容器の底を抜け、格納容器の底部付近に落ちたと推定されていた。

*1-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASL3D62XML3DUGTB00N.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2018年3月18日) 3号機、覆うだけで2537日 廃炉作業、厳しい道のり
 東京電力福島第一原発は2011年3月12日から15日の間に3度、爆発した。放射性物質をまき散らし、大地や水、人々の暮らしは今も深い傷を負っている。4号機の使用済み核燃料取り出しに続き、3号機では爆発から2537日目の2月21日、ようやく核燃料を運び出す準備が整った。「3号機廃炉作業所長」を務める鹿島の岡田信哉さん(54)はこの日、最上階で、半円柱のカバー(長さ約60メートル、高さ約18メートル)の最後の一片がはめ込まれ、燃料プールが覆い隠されるのを見守った。プール内の燃料は566体。カバーはこれらを取り出す際、放射性物質の飛散を防ぐために不可欠な設備だ。高さ36メートルの現場にはいつものように、ZARDの「負けないで」のメロディーが流れるエレベーターで昇ってきた。岡田さんは7年近く、約100人の部下を率い、高線量のがれきと格闘してきた。原発事故から10日後、本社(東京)に呼ばれ、3号機のカバー設置を検討するメンバーに入った。当時は東電柏崎刈羽原発(新潟)の工事事務所長で、その豊富な経験が買われた。初めて見た3号機の建屋は、めちゃくちゃに壊れた鉄骨やコンクリートが屋上で折り重なっていた。放射線量は最大で毎時2シーベルト(3~4時間で致死量に達する)を超える地点も。屋上のがれきを取り除き、プールを覆うカバーを設置しようにも、大型クレーンを建屋に近づけなければ何も始まらない。まずは建屋周辺の舗装に取りかかった。大型クレーンに耐えられるよう採石を1メートルほど積み上げ、その上に鉄板を敷いた。放射線を遮断する特別仕様の重機で作業を進めた。時に胸ポケットに入った「APD」(線量計)から高音の警報が鳴る。3回目が「現場から出る支度を」という合図。1班十数人での交代作業だが、至る所で音が鳴った。「自分か他人かわからない時もあった」。11年秋から屋上のがれき撤去に取りかかった。使用する大型クレーンは2基で、約100メートルのアームで狙うのは、山積するコンクリートや鉄骨のがれき。作業上の特徴は「遠隔操作」と「3Dを使ったシミュレーション(解析)」だ。クレーンは無人で、現場から約500メートル離れた免震重要棟から遠隔で行った。無人重機の運転席にはカメラやマイクが設置され、現場の状況が映像と音で確認できる。だから免震棟の一室からでも、運転席にいる感覚で操作できるという。もう一つがシミュレーションだ。入り組んだがれきの取り出しは戦略的に行われた。まず本社で3D画像や模型を使って現場を再現し、解析する。この鉄骨をここから切り込むとこう動く、ここを切ると反対側に倒れるかもしれない、といった予測だ。そのデータをもとに、現場ではアームの先端に付けた「フォーク(つかむ)」「カッター(切る)」「バケット(すくう)」「ペンチ(つまむ)」の4種類の機器を駆使し、がれきを地上に下ろした。がれきは重さ5キロの鉄板だったり、数トンの鉄骨だったり。「今日は2個、3個取れたとか、そんな報告を受けるような地道な作業が続いた」。がれきの撤去を終え、昨夏からカバーの設置作業を進めてきた。燃料の取り出しは今秋にも始まるが、その主体は東芝に移る。「うまくバトンタッチしたい」。岡田さんらは今、燃料取り出しに向けた道路の整備などにあたっている。この先も難路が続く。燃料取り出しは遠隔操作で2年ほどかかる。格納容器に溶け落ちた燃料(デブリ)の回収はそれからで、その方法はまだ決まってない。福島での単身生活は7年になる。中学生だった息子は大学生になった。岡田さんは「こんなに時間がかかるとは思いもしなかった。できればまた廃炉に関わっていきたい」と話した。7年間で取り除いたがれきは、25メートルプールで10杯ほど、約3200立方メートルに上った。
〈東京電力福島第一原発の廃炉計画〉 国と東京電力がつくる福島第一原発の廃炉工程表は、終了を2011年12月から30~40年後としている。大きく3期に分け、使用済み核燃料の取り出し開始までを1期(2年以内)、デブリの取り出しが開始されるまでを2期(10年以内)、以降を3期としている。1期は13年11月に4号機で作業が始まったのを機に終了。現在の2期に移行している。デブリの取り出しが始まると3期に入るが、時期は未定だ。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXLASGG28H03_Y5A720C1MM0000/ (日経新聞 2015/7/28) 福島第1原発1号機、解体に着手 カバー屋根取り外し
 東京電力は28日、福島第1原子力発電所1号機の原子炉建屋を覆うカバーの本格的な解体作業に着手した。まず屋根を取り外し、2016年度中の解体完了を目指す。20年度に始める貯蔵プールからの核燃料の取り出しに向け、1号機の廃炉工程が前進する。1号機では11年3月の事故の際に水素爆発が発生し、建屋が大破した。放射性物質が飛び散るのを防ぐため、11年10月に建屋全体を覆うカバーを設置した。28日早朝の作業では、屋根に6枚並ぶパネル(1枚あたり幅約7メートル、長さ約42メートル)のうち中央にある1枚をクレーンで取り外した。年内にもすべて撤去する。側面なども含め、1年以上かけて解体を終える計画だ。解体後は建屋内に散乱するがれきなどを撤去し、貯蔵プールに392体残る核燃料搬出に備える。カバーはもともと13~14年度に解体する計画だったが、作業に伴う放射性物質の飛散対策などに時間がかかり、大幅に遅れた。東電は今年5月に屋根の撤去に着手する予定だったが、建屋内の放射性物質の拡散を防ぐために設置したシートがずれているのが見つかり、延期していた。

*1-1-4:https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201804/20180417_63021.html (河北新報 2018年04月17日) <福島第1>2号機「燃料」取り出しへ 壁面に穴開け開始
 東京電力は16日、福島第1原発2号機の原子炉建屋壁面に開口部を設ける工事を始めた。6月までに穴を開け、ロボットなどで内部を調査。2023年度を目指す使用済み核燃料の取り出し開始につなげる。壁内側の空間放射線量は、12年6月時点で毎時880ミリシーベルトと非常に高い。放射性物質の飛散を防ぐため、工事は壁面に密接して新設した「前室」(幅23メートル、奥行き17メートル、高さ10メートル)の内部で実施。初日は技術者が立ち会い、厚さ20センチのコンクリート壁の3カ所を直径11センチの円柱状にくりぬいた。17日も6カ所で行う。開口部は使用済み燃料プール上部に通じる場所に設け、大きさは幅5メートル、高さ7メートル。壁を取り壊す際は重機を遠隔操作する。2号機は水素爆発せず、建屋上部が残っている。東電は建屋上部を解体して天井クレーンを設置し、燃料取り出しを進める計画。

*1-2-1:http://qbiz.jp/article/129054/1/ (西日本新聞 2018年3月2日) 除染後も目標の3倍 飯舘の放射線量、上昇地点も 民間調査
 福島県飯舘村の民家とその周辺では除染後も、東京電力福島第1原発事故後に政府が長期目標としている被ばく線量の約3倍の放射線量が計測され、1年前より上がっている場所もあったなどとする調査結果を1日、環境保護団体グリーンピースが発表した。調査は、2017年9〜10月に飯舘村と浪江町の避難指示が解除された地域などで実施、民家や森など計数万カ所で測定した。飯舘村の民家6軒では毎時0・2〜0・8マイクロシーベルトで、ほとんどが政府の目標を1時間当たりの空間放射線量に換算した同0・23マイクロシーベルトを超えた。周囲に森林が少ない村役場近くの1軒は16年の調査時から放射線量が下がっていたが、除染していない森林が周囲にある5軒は16年とほとんど変化がなかった。中には上がっている場所もあった。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31313110T00C18A6CR8000/ (日経新聞 2018/6/4) 農地造成にも除染土再利用 環境省方針
 環境省は3日までに、東京電力福島第1原発事故に伴う除染で生じた土を、園芸作物などを植える農地の造成にも再利用する方針を決めた。除染土の再利用に関する基本方針に新たな用途先として追加した。食用作物の農地は想定していない。工事中の作業員や周辺住民の被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下になるよう、除染土1キログラムに含まれる放射性セシウム濃度を制限。くぼ地をならす作業に1年間継続して関わる場合は除染土1キログラム当たり5千ベクレル以下、1年のうち半年なら8千ベクレル以下とした。除染土は、最終的に厚さ50センチ以上の別の土で覆い、そこに花などを植える。福島県飯舘村の帰還困難区域で今年行う実証試験にも適用。村内の除染土を区域内に運び込んで分別し、5千ベクレル以下の土で農地を造成し花などの試験栽培を行う想定だ。

<原発のツケ>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12684302.html (朝日新聞 2016年12月1日) もんじゅ後継、国内に実証炉 開発体制、18年めど 政府会議方針
 政府の高速炉開発会議は30日、廃炉が検討されている高速増殖原型炉もんじゅに代わり、より実用化に近い実証炉を国内に建設するなどとする開発方針の骨子を公表した。2018年をめどに約10年間の開発体制を固める。約1兆円の国費をかけ、20年以上ほとんど運転できなかったもんじゅの反省は生かされず、高速炉開発ありきの議論が進む。会議は世耕弘成経済産業相が議長。松野博一文部科学相や日本原子力研究開発機構、電気事業連合会、三菱重工業がメンバー。骨子では、もんじゅを再運転した場合に得られる技術的な成果を「ほかの方法でも代替可能」と評価。蓄積された成果は活用するとしつつ、廃炉にしても実証炉建設への影響はないと結論づけた。もんじゅについて政府は廃炉を含め抜本的な見直しを決めている。高速炉は「実験炉」「原型炉」「実証炉」と進み、「商用炉」で実用化する。安全性の確認や発電技術の確立など、原型炉もんじゅで終えるべき課題を残し、次の実証炉に進む形だ。政府は、もんじゅを廃炉にした場合でも、フランスが30年ごろの運転開始を目指す実証炉「ASTRID(アストリッド)」計画に協力することで高速炉開発を維持するとしてきた。だが同会議は、エネルギー政策の根幹とされてきた核燃料サイクル事業の施設を不確実性のある海外の計画だけに頼るのはリスクがあるとの批判も考慮し、国内での実証炉開発を明示した。実証炉の建設時期や場所は未定。来年初めから実務レベルの作業グループを置き工程表策定を進める。骨子にはアストリッド計画を補完する施設として、原子力機構の高速増殖実験炉「常陽」やナトリウム研究施設「AtheNa(アテナ)」(いずれも茨城県)などの国内研究施設も示された。

*2-2-1:https://www.sankei.com/economy/news/180111/ecn1801110051-n1.html (産経新聞 2018.1.11) 日立の英原発計画、日英政府が支援 事業費3兆円確保へ
 日立製作所が英国で進める原発新設事業に対し、日本の3メガバンクが政府の債務保証を受けたうえで融資を行う方針が固まった。政府系の国際協力銀行(JBIC)も融資を行うほか、日本政策投資銀行が出資で参加する。政府は総額3兆円規模とされる事業費確保に向けた支援を進め、原発輸出を後押しする。日立は2012年に買収した英原発子会社ホライズン・ニュークリア・パワーを通じ、英西部アングルシー島で20年代前半の稼働を目指し、原発2基の新設計画を進めている。事業費は融資と出資で調達する。融資はJBICが軸となり、メガ3行も各千数百億円出す方向だ。民間分は政府が全額出資する日本貿易保険が債務保証する。出資は日立と政投銀が実施。大手電力会社にも打診している。英国の政府や銀行からの支援も受ける。日立は最終判断を19年に下す。米原発事業の損失で経営危機に陥った東芝を反面教師に、ホライズンを連結子会社から外せない場合は計画を断念する考え。政府支援には日立が抱え込むリスクを抑制する効果があるが、巨額損失が出た場合には国民負担が発生する懸念が大きくなる。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29996700Z20C18A4MM8000/ (日経新聞 2018年4月29日) 日立、英政府と原発巡り最終協議へ 撤退も視野
 日立製作所が英国で建設を目指す原子力発電プロジェクトを巡って、英政府と事業継続に向けた最終協議に入ることがわかった。2020年代前半の稼働を見込むが、安全基準の強化で総事業費は約3兆円に膨らむ。リスクを抑えたい日立は中西宏明会長が近く渡英し、英政府の直接出資などを求めてメイ首相と交渉する。決裂すれば事業から撤退する方針だ。協議の行方は日本の原発産業だけでなく、日英両国の原発政策にも大きな影響を及ぼす。中西氏は週内にメイ氏と会談し、英中部アングルシー島で計画する原発新設事業について協議する。12年に現地事業会社の全株を890億円で買い取り、総額2千億円程度を投じて原子炉の設計や工事準備を進めてきた。17年末には英当局から炉の設計認証を受け、19年に予定する着工へ最終段階に入っている。関係者によると、4月下旬には英政府が「日英それぞれの政府・企業連合、日立が事業に各3千億円ずつ出資する」案を示してきたという。これまで英政府は原発新設プロジェクトへの直接出資に後ろ向きだったとされ、日立は直談判で英政府の出資確約と事業継続に必要な一段の支援策を求める見通しだ。日立が危機感を強めたのは、今年2月下旬だ。「公式文書で回答がなければ、ウィズドロー(撤退)します」。日立側が英政府に伝えたという。何度も期限を設け、英政府へ投融資など具体的な支援策を要請してきたが「口約束」にとどまってきたためだ。4月末現在も文書を交わす正式合意に至っていない。日立の英国事業については、16年に日英政府も協力の覚書を交わした。だが支援策を固める作業が難航。水面下の折衝は2年近く続くが、なお2つの溝が埋まらない。第一が英政府がどれだけ事業に関与するかだ。「19年までに事業を連結対象から外せなければ、着工しない」。日立は100%子会社となっている事業会社に英政府や現地企業に出資してもらうことで、出資比率を50%未満まで下げられるよう求めてきた。工事遅延などで巨額の損失が発生すれば、日立が100%かぶることになるからだ。だが英政府も財政悪化で「巨額投資に応える余裕がない」と主張する。原発推進派とされるメイ氏だが、欧州連合(EU)離脱交渉に追われるほか、支持率低下で議会の風当たりも強い。「日本政府と覚書を交わした16年から状況は一変した」(英政府関係者)。4月下旬に英国側が示した日英と日立で総額9千億円を出し合う枠組みは一定の譲歩案だった。しかし、これでも英国の出資比率は33.3%。日立や日本政府内では日本側が事業の主導権を握ることへの警戒感も強い。約2兆円と想定される事業に必要な借入金を巡っても、英政府がどれだけ保証を付けるか折り合えていない状況だ。建設後の電力買い取り価格を巡る議論も続く。日立は運営会社としても発電事業に関与する方針で、高い単価での政府買い取り保証を求めている。建設後の採算悪化を避け、長期間にわたって安定運営するためだ。だが英政府が提示している買い取り価格は、日立が求める水準より約2割低いもよう。英政府はフランスや中国が主導する英南西部の原発事業に高い買い取り価格を保証したが、高すぎて市民が払う電力料金は跳ね上がりかねない。世論の反発を招いており「日立にも高い保証を出すのは難しい」という立場だ。日立はメイ氏との直談判で妥協案を探るとみられる。支援を求めるのは「原発はリスクが大きく、民間企業だけで背負えなくなった」(幹部)とみるからだ。メイ氏自身も日立への支援に前向きとされ、交渉次第で支援策が進む可能性はある。11年3月の東日本大震災以降、世界的に安全基準を引き上げる動きが相次ぐ。関連メーカーや建設会社の安全対策費も急増しており、16年末には東芝の子会社だった米ウエスチングハウス(WH)で総額7千億円に及ぶ巨額損失が発覚した。日立の英原発プロジェクトも総事業費が当初の2倍となる3兆円に跳ね上がったとされる。誰が原発コストの負担をかぶるのか。仮に交渉が不調に終われば、日英ともに打撃は大きい。既存発電所の老朽化が進む英国は、今後10基以上の原発を新設して電力需要を賄う計画。日立の事業が頓挫すれば、エネルギー政策の見直しを迫られかねない。原発輸出を成長戦略に掲げてきた日本も、日立案件には政府の融資保証を付けて推す方針だ。三菱重工業のトルコ案件が大幅に遅れるなど各地で日本勢の苦戦が目立つだけに、日立の事業が難航すれば影響は関連メーカーに幅広く及ぶ。世界的に原発事業の難しさが浮き彫りになっている。

*2-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3136307004062018MM8000/ (日経新聞 2018/6/5) 日立、英原発の推進で覚書 英政府と基本合意
 日立製作所は英国で進める原子力発電所の建設計画を巡り、英政府と事業推進に向けた覚書を結んだ。英政府との間で資金負担の内訳などで基本合意した。日立は2020年代前半の稼働を目指し、必要な許認可取得など原発新設の準備を進める。19年中の最終契約に向け、原発事業のリスク回避策などを詰める。英政府は現地の4日夕方(日本時間5日未明)にも覚書を結んだ旨の声明を公表する見通し。日立は5月28日開催の取締役会で、英中部アングルシー島で進める2基の原発の新設計画を継続する方針を確認し、英政府との間で覚書締結に向けた調整を続けてきた。日立は4月以降、英政府との間で、事業撤退も視野に入れた大詰めの交渉を進めてきた。5月3日には中西宏明会長がメイ英首相とロンドンで会談した。英政府は総事業費3兆円超のうち2兆円を超える融資を全額負担する支援策を表明。事業費のうち、原発の開発会社に対する9千億円の出資について、日立と日英の政府・企業連合の3者が3千億円ずつを投資する案も示した。原発新設が計画通りに進まなかった場合の損失リスクへの備えでも合意した。日立と日英の両政府・企業連合が各1500億円ずつを拠出する。建設計画の遅れなどの不測の事態が起きた際に資本に転換できる債券などを検討している。これらの条件を固めたことで、日立と英政府は覚書締結にこぎ着けた。日立は原発を新設するかどうかを19年に最終決定する。日立社内にはなお慎重論も根強く、原発リスクを軽減することへの要望が強い。最終契約に向け、なお残る条件を英政府と詰める。1つは英政府による電力の買い取り価格の水準だ。原発運営の事業採算に直結するため、日立は高い価格での買い取りを求めている。一方、英国にとっては電力料金を支払う住民負担につながるため、慎重な交渉が続いている。2つ目は原発事故など不慮の事態が起きた場合の損害賠償責任で、日立と英政府は引き続き協議を続けるもよう。企業連合に出資する参加企業もまだ確定しておらず、日立などは参加企業を募っている。

*2-3:https://mainichi.jp/articles/20170608/k00/00m/010/134000c (毎日新聞 2017年6月7日) 日印原子力協定:原発輸出、増すリスク
 政府は日印原子力協定の締結によって、原発輸出の拡大を目指す。しかし、福島第1原発事故後に原発の建設費用が上昇するなど海外事業のリスクは高まっており、米原発子会社の破綻で東芝が経営危機に陥るなど、日本企業による積極展開の機運はしぼんでいる。福島事故後に国内での新設が困難となる中、日本政府は成長戦略の一環として原発をインフラ輸出の柱に位置づけ、各国との協定締結を進めてきた。電力不足によって今後の新規建設ラッシュが見込めるインドは有望な市場だ。だが、インドには原発事故が発生した際、電力会社がメーカーに賠償請求できる法律があり、巨額の賠償責任を問われる恐れがある。日本メーカーは「インドは巨大な市場だが、賠償法の問題があり、今後の状況を注視していく」(三菱重工業)などと、期待の一方で、慎重な姿勢も目立つ。東芝子会社の米ウェスチングハウスは、米国での原発建設費用の高騰が破綻の引き金になるなど、事業リスクは増している。龍谷大学の大島堅一教授(環境経済学)は「再生可能エネルギーは費用も下がり、投資が拡大している。原発の退潮は明らかで、無理のある協定だ」と批判している。

*2-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13323241.html (朝日新聞社説 2018年1月21日) 原発輸出 国民にツケを回すのか 
 苦境の原発産業を支えるために、国が高いリスクを肩代わりする。そんなやり方に、国民の理解が得られるだろうか。日立製作所が英国で計画する原発の建設・運営事業に対し、日本政府が資金面で強力な支援策を検討している。だが、福島第一原発の事故後、安全規制の強化で建設費が膨らむなど、世界的に原発ビジネスのリスクは大きくなっている。東芝が米国で失敗し、経営危機に陥ったことは記憶に新しい。万が一、大事故を起こした時の賠償責任の重さは、東京電力がまざまざと見せつけた。日立の事業がうまくいかなければ、支援をする政府系機関が巨額の損失を被り、最終的に国民にツケが回りかねない。政府は前のめりの姿勢を改め、リスクの大きさや政策上の必要性を慎重に見極めるべきだ。計画では、日立の子会社が原発を建設し、20年代半ばに運転を始める。現時点で3兆円ほどと見込まれる事業費は、日英の金融機関からの融資や新たに募るパートナー企業の出資などでまかなう想定だ。日立は採算性を見極めた上で、建設するかどうかを来年にも最終判断する。この計画に対しては、日本の大手銀行は慎重な一方で、「官」の肩入れが際立つ。政府系の国際協力銀行が数千億円を融資するほか、数千億円と見込む民間銀行による融資の全額を貿易保険制度の対象とし、返済を国が実質的に保証する方向で調整している。日本政策投資銀行も出資に加わるとみられる。ここまで政府が後押しするのは、原発産業を守る思惑があるからだ。福島の事故以降、国内では原発の新設が見込めず、経済産業省やメーカー、電力大手は、技術や人材の維持をにらんで海外市場に期待する。
だが、原発輸出はあくまでビジネスであることを忘れてはならない。リスクは、事業を手がける民間企業が負うのが本来の姿だ。それを国が引き受けるというなら、社会にとって有益であることが前提になる。国民の多くを納得させられるような意義はあるだろうか。政権と経済界は、原発などインフラ輸出の推進で足並みをそろえてきた。日立会長の中西宏明氏が近く経団連の会長に就くだけに、今回の支援策が合理性を欠けば、官民のもたれあいだと見られるだろう。そもそも、福島の事故を起こした日本が原発を海外に売ることには、根本的な疑問もある。政府や関係機関は、幅広い観点から検討を尽くし、国民に丁寧に説明しなければならない。

<原発再稼働>
*3-1:http://qbiz.jp/article/135439/1/ (西日本新聞 2018年6月10日) 霧島連山に大規模マグマだまり 気象庁など解析 最大で長さ15キロ、幅7キロ
 2011年以降、断続的に噴火する新燃岳(しんもえだけ)や、今年4月に250年ぶりに噴火したえびの高原(硫黄山)など活発な火山活動を続ける宮崎、鹿児島県境の霧島連山の地下に、最大15キロに及ぶ大規模なマグマだまりがあることが、気象庁気象研究所(茨城県つくば市)などの研究グループの解析で明らかになった。新燃岳の噴火を受けて国や大学、自治体などの観測網が強化され、豊富なデータが利用可能になったことが地下構造の解明につながった。研究グループには東京大の地震研究所と京都大の火山研究センターが参加。11年4月〜13年12月に霧島連山周辺に広がる37地点の地震計からノイズのような微細な地震波を大量に収集し、地盤の固さによって速度が変わる地震波の性質を利用して解析した。大規模マグマだまりは、海面を基準にして深さ5〜7キロ付近を頂点とし、御鉢から北西方向に長さ10〜15キロ、最大幅が7キロ、厚みが少なくとも5キロ以上あるとされる。同様の解析手法で明らかになった長野、群馬県境にある浅間山のマグマだまりの範囲(長さ7〜8キロ)を上回っている。これまでは衛星利用測位システム(GPS)を使った地殻変動の観測から、新燃岳噴火の前後に膨張収縮するエリアがえびの岳の地下深くにあり、これがマグマだまりとされていた。解析を担当した気象研究所火山研究部の長岡優研究官は「地殻変動が起こっていたエリアは、大規模なマグマだまりから新燃岳へマグマを供給する出口部分と考えられる」と指摘する。11年の新燃岳噴火を受けて気象庁や各大学、周辺自治体などが地震計やGPS、傾斜計、監視カメラなどを増強。観測装置は80を超え、噴火前の2倍以上となった。火山活動がより詳細に把握できるようになり、さらなる構造解明も期待される。長岡研究官は「マグマだまりが霧島山全体に広がっていることから、活動予測のためには御鉢周辺などより広い範囲での観測や研究が必要になる」と話している。

*3-2:http://qbiz.jp/article/129284/1/ (西日本新聞 2018年3月7日) 玄海町議会「原発増設を」 国計画に明記要求 意見書案可決へ
 九州電力玄海原発が立地する佐賀県玄海町議会が、年内にも改定される国のエネルギー基本計画に原発の新増設を明記するよう求める意見書案を3月議会で取りまとめることが分かった。19日の本会議に提出する。全町議10人が原発推進派のため可決される見通し。町議会総務文教委員会(5人)が5日、国へ意見書提出を求める請願を全会一致で採択。脇山伸太郎委員長は「原発立地町の責任に鑑みて、国のエネルギー政策に関する意見書を作りたい。内容は作成中でコメントは控える」と話した。意見書案が可決されれば政府に提出する。原発の新増設や建て替え(リプレース)について、岸本英雄町長は昨年12月議会で「リプレースはいずれ強い選択肢になる」と述べたが、山口祥義知事は否定的な見解を示している。請願は、商工団体などで組織する一般社団法人「原子力国民会議」(東京)が昨年末から、玄海町を含む五つの原発立地自治体などに送付。国に対して基本計画に新増設の明記を求める内容で、関西電力高浜原発が立地する福井県高浜町議会が昨年12月議会で同様の意見書を可決した。エネルギー基本計画は現在、改定に向けて経済産業省の有識者会議で議論されている。2014年4月に策定された現行の基本計画は、原子力を「重要なベースロード電源」とし、原子力規制委員会の新規制基準に適合した場合、再稼働を進める方針を明記。ただし、原発の新増設やリプレースに関する表記はない。30年度の原発の電源構成比率を20〜22%とする中期目標の実現へ向け、新増設も検討課題となっている。
   ◇   ◇
●「現実的でない」町民疑問の声
 九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)の再稼働が今月下旬に控える中、国のエネルギー基本計画に原発の新増設を明記するよう求める町議会の動きが明らかになった6日、町内の原発賛成派と反対派の住民の双方から疑問の声が上がった。同町の漁業渡辺一夫さん(71)は「使える物は使おうという再稼働はしょうがないが、新増設は現実的に厳しいだろう」と指摘。「反対派からは福島であれだけの事故が起きたと言われる。議会に反対する人がいないためかもしれないが、もう少し慎重にするべきだ」と注文した。一方、同町の公務員小野政信さん(61)は「1号機が廃炉になる損失を補う考えだろうが、福島の現実を見たら再稼働ですら、とんでもないこと。新増設なんて考えられない」と町議会の姿勢を批判した。

*3-3:http://qbiz.jp/article/135851/1/ (西日本新聞 2018年6月17日) 九電 原発4基体制に 玄海4号機 6年半ぶり再稼働
 九州電力は16日、玄海原発4号機(佐賀県玄海町)を再稼働させた。定期検査で運転を停止した2011年12月以来、稼働するのは約6年半ぶり。東京電力福島第1原発事故を受けた新規制基準施行後、九電は川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)、玄海3号機を既に再稼働しており、玄海4号機を加えて当面の経営目標としていた原発4基体制が整うことになる。安全対策を強化した新規制基準下で再稼働した原発は全国9基目。いずれも加圧水型で、今後は福島第1原発と同じ沸騰水型の審査と再稼働が焦点となる。玄海原発内の中央制御室ではこの日朝から運転員など約20人が作業。午前11時、原子炉内の核分裂を抑える制御棒を遠隔操作で引き抜き、原子炉を起動させた。16日深夜に核分裂が安定的に続く「臨界」に達した。20日に発電と送電を開始予定。順調に進めば7月中旬に営業運転に入る。玄海4号機は3号機とともに使用済み核燃料の処理が課題。保管プールの空き容量が少ないが、処理を担う日本原燃(青森県)の工場は操業の見通しが立たず、搬出できない状態での再稼働となる。九電はプールの容量増強や金属製容器に入れ陸上で一時保管する「乾式貯蔵」を検討している。玄海原発では、1号機で廃炉作業が始まっている一方、21年に運転期限の40年を迎える2号機について九電はまだ方針を決めていない。今後は、存廃の判断が注目される。地域の理解も課題だ。事故時の避難計画が必要な周辺30キロ圏の3県8市町のうち、4市が避難計画の実効性などを問題視して再稼働に反対を表明している。16日には原発前などで反原発団体の抗議活動があった。玄海4号機は17年1月に新規制基準に適合。5月24日にも再稼働する予定だったが、原子炉の冷却水を循環させるポンプの一部で異常が発生。緊急点検と修理作業を実施し、工程が約3週間遅れた。

*3-4:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/231896 (佐賀新聞 2018.6.17) 太陽光出力制御、今秋にも、九電、原発4基稼働実現で
 東松浦郡玄海町の九州電力玄海原発4号機が16日に再稼働し、太陽光発電の普及が進む九州で原発が4基動く環境が整った。電力供給力が大幅に増えるため、九電が、今秋の連休にも太陽光発電事業者の出力制御に踏み切る事態が現実味を帯びる。出力制御が頻発すれば太陽光事業者の収支に影響が出るのは必至だ。電力需要が少ない時期に供給が大幅に上回れば広域的な停電を引き起こす恐れがあり、電力会社に出力抑制が認められている。ただ、これまで離島では実施例があるが、九州本土といった広域で行えば全国で初となる。太陽光発電は晴天の昼間に発電量が増える一方、夜間は発電しないなど不安定な電源で電力会社にとって扱いにくい。九電はこれまでも火力発電の稼働率の調整や、揚水発電所で昼間に水をくみ上げて夜間に発電するなどしてきたが、さらに上回ると見込まれる場合、事前に太陽光事業者に対し出力制御を指示する。連休中などはオフィスや工場の電力需要が下がるほか、家庭などで冷暖房も使わなければ電力需要は下がる。九電によると、今年4~5月の大型連休中は供給電力に占める太陽光の割合が一時81%を超えた。今秋には川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)や玄海3、4号機がいずれも稼働している見通しだ。九電関係者は「原発が4基動き、電力需要が少なく晴天といった条件がそろえば、制御をすることになるだろう」と分析している。

<再生エネへのエネルギー転換へ>
PS(2018/6/23、27追加):川内原発の地元で世論調査を行った結果、*4-1のように、再エネへの移行を望む県民の強い意識が明らかになったそうだ。特に鹿児島県は、火山や地震で原発が危険な反面、地熱発電は期待できるため、再生エネの主力電源化を国より先行して実施すればよいと考える。また、玄海原発の周辺地域とされている唐津市は、原発事故が起これば1分以内に汚染され、帰還困難区域になる場所も多いため、リスクを負う以上、*4-2のように、原発の地元として「地元同意」の対象になるのが当然である。
 なお、*4-3のように、使用済核燃料の最終処分場所も決まっておらず、現在は原発建屋内の使用済核燃料プールに水につかっただけで大量に保管されており、九電は燃料の間隔を詰めるリラッキングや乾式貯蔵施設を検討しているそうだ。しかし、これは、原発周辺住民の安全性について、原発建設時よりも規制緩和された取り扱いであり、とても見過ごすことはできない。

   
30年以内の大地震発生         地熱発電とその資源分布

*4-1:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=92345 (南日本新聞 2018/5/8) [原発世論調査] 再生エネへの転換を急げ
 調査で浮かび上がったのは、原発再稼働に対する賛否にかかわらず、再生可能エネルギーへの移行を望む県民の強い意識である。国や県は再生エネへの転換を積極的に進めるべきだ。南日本新聞社は九州電力川内原発について電話世論調査を行った。再稼働の賛否では「よくなかった」「どちらかといえばよくなかった」が計50.0%、「よかった」「どちらかといえばよかった」は合わせて43.7%だった。注目したいのが、それぞれの理由(複数回答)である。再稼働に否定的な理由は「できるだけ早く再生可能エネルギーに移行すべき」が最多の45.0%、次が「福島の事故原因が究明されていない」の33.5%だ。肯定派の理由も、「再生可能エネルギーへの移行まで当面必要」が43.7%で最も多く、2番目の「雇用、経済活動、地域の活性化維持に不可欠」の41.6%をわずかに上回った。今後の原発政策についての考えは、「すぐにやめるべき」「できるだけ早くやめるべき」を合わせると6割に迫る。再生エネへの期待と脱原発の支持は、根強いものがあると受け止めたい。県は、2018年度から5年間で取り組む再生エネ施策の指針となる新ビジョンを公表している。意義や目標を県民に丁寧に説明し、導入を促進してもらいたい。一方、国が示す再生エネの将来像は、まだまだ物足りないと言わざるを得ない。政府は先月、対象期間を30年から50年までに拡大した新しいエネルギー計画の骨子案を有識者会議に示した。再生エネの主力電源化を進めると明記したことは前進だ。だが、30年度の発電割合を原発20~22%、再生エネ22~24%とする方針は変更せず、50年の新たな数値目標も示さなかった。原発を「重要なベースロード電源」と位置づける考えは変えていない一方で、新増設については盛り込んでいない。これでは原発の在り方についても、曖昧にしたままといえよう。経済産業省によると、15年の再生エネの発電比率は英国25.9%、ドイツ30.6%に対し、日本は16年で15.3%と見劣りする。日本は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で、50年に温室効果ガスを8割削減する国際公約を掲げている。夏に閣議決定されるエネルギー基本計画で再生エネ推進の道筋を明確にできるか。国際社会も注目しているはずだ。

*4-2:http://qbiz.jp/article/136262/1/ (西日本新聞 2018年6月23日) 唐津市が「地元同意」要求へ 玄海原発巡り、市長意向
 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の「地元同意」の範囲が県と同町に限られていることを巡り、町に隣接する同県唐津市の峰達郎市長は22日、市議会原発対策特別委員会で対象に同市も含めるよう求める考えを明らかにした。地元同意については3月、日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)の再稼働と運転延長に関し、半径30キロ圏内の5市が加えられた。これを受け特別委も運転延長などで同意範囲の拡大を議論していた。峰市長は「5キロ圏も30キロ圏も人口は唐津市が玄海町より多い。(7月の玄海町長選後に)新町長と話の場を設けたい」と述べた。これに対し特別委に招致されていた九電立地コミュニケーション本部の八木繁部長は「(玄海と)東海第2とはリンクしない」と慎重な立場だった。

*4-3:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/235911 (佐賀新聞 2018年6月27日) 玄海3、4号機 使用済み燃料対策「時間がない」 九電、危機感示す、県議会原子力特別委
 佐賀県議会の原子力安全・防災対策等特別委員会(八谷克幸委員長、11人)は26日、九州電力の幹部を参考人招致し、再稼働した玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の使用済み燃料対策や保守体制についてただした。九電幹部は使用済み燃料対策について「時間がない」と危機感を示しながらも、原子力規制委員会への申請や着工の時期については4号機の使用前検査が完了していないことなどを理由に「検討中」とするにとどめた。玄海原発の使用済み燃料は3号機が約7年、1、2号機とプールを共用する4号機が約5年で容量を超える見込み。九電は対策として燃料の間隔を詰めて貯蔵量を増やすリラッキングや、特殊な金属製の容器に入れて空冷する乾式貯蔵施設を検討している。現状を問われた山元春義取締役は「社内で詰めている状況で、(原子力)規制庁に相談する前の段階」と説明。東京電力ホールディングスと日本原子力発電が今年12月までに運用開始を目指している中間貯蔵施設(青森県むつ市)については、林田道生立地コミュニケーション本部副本部長が「活用は検討していない」と述べた。3号機で3月末に発生した2次系配管からの蒸気漏れに対し「明らかにさびが確認でき、現場の意識に問題があるのでは」と九電の保守・点検体制を疑問視する質疑も相次いだ。林田副本部長は「一つの担当課だけでなく、週に1回程度の会議体で情報を共有している」と改善策を説明。異常事態は全て自治体に連絡するよう安全協定を改定すべきではという意見には、否定的な見解を示した。2015年に再稼働した川内原発1、2号機(鹿児島県)と合わせ、九電の原発が4基体制となったことで、管内電源の約3割を原発が占めるという見通しも示された。

<“空気” は読むだけのものか?>
PS(2018/6/24追加):私のことを、「“空気”が読めない(略して“KY”)」と批判したド阿呆な週刊誌があった。しかし、私は、「空気が読めない」のではなく、①“空気”を読んでも、間違っていれば勇気を持ってその“空気”を変え ②間違った“空気”でも、いちいち対応していると大変なので小さな問題なら無視している だけであり、他の人にも自己保身だけを考えるのではなく、淀んだ空気は勇気を持って変える努力をして欲しいと考えているのだ。
 また、 “空気”とは、1)どの範囲の“空気”かも定義しなければならないし 2)大勢の“空気”は善と限れるか についても考慮すべきだ。そのうち、1)については、身の回りや日本国内だけの空気を見ればよいわけではなく、2)については、差別やいじめのように、大勢で誤った行動をしている場合には、自分1人しかいなくても勇気を出して変えなければならない。そして、推薦入学世代の日本人には、その判断力・勇気・正義感が不足しているように思う。
 なお、無視すべき“空気”か、変えなければならない“空気”か、同調すべき“空気”かを判断するには、知識・経験・正義感・勇気などの総合力が必要で、それは教育や仕事を通じた研鑽の賜物であるため、*5の論調は的外れである。しかし、そもそも「空気を読む」という発想自体が、言わなくてもわかる同質性を前提としており、主体性にも欠ける。

*5:https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21HAE_R20C17A9CR8000/ (日経新聞 2017/9/21) 必要な言葉の能力、「空気を読む」が大幅増 国語世論調査
 21日発表の文化庁の国語世論調査では「空気を読む」傾向が強まっていることが明らかになった。「これからの時代に特に必要な言葉の知識や能力」として「相手や場面を認識する能力」と回答した割合は19%で、2002年度の7%から大幅に増え、最も多い「説明したり発表したりする能力」(21%)に迫った。意見の表明や議論についての意識を聞いた質問では、人と意見が違うときに「なるべく事を荒立てないで収めたい方だ」という人の割合が62%で、同様の質問をした08年度より10ポイント高まった。交流サイト(SNS)などで特定の個人の投稿が拡散され、主に批判的なコメントが集まる「炎上」については「目撃した際に書き込みや拡散をするか」との問いに「(大体・たまに)すると思う」と答えた人の割合は3%にとどまった。年齢別で最も高いのは20代で、11%が「すると思う」と答えた。一方、言葉について困っていることや気になることを尋ねる質問(複数回答)には「流行語や新しい言葉の意味が分からない」と答えた人の割合が56%で、10年度より14ポイント高くなった。「年の離れた人たちが使っている言葉の意味が分からない」という人も31%と9ポイント増え、年代が上がると増える傾向があった。日本大の田中ゆかり教授は「(1980年前後生まれ以降を指す)デジタルネーティブ世代と高齢層の間では(言葉の)崖のようなものができつつある」とみている。

<玄海町・唐津市の新産業>
PS(2018/6/25追加):*6のように、各地で養蚕を先端技術でよみがえらせる取り組みが進んでいるそうだが、玄海町にもかつては桑畑があり、養蚕が下火になってからはタバコ栽培を行っている。しかし、タバコも健康に悪く、(遅ればせながら)日本でも禁止の方向にあるため、私は、玄海町は原発を辞めて山鹿市のような先端技術の養蚕を行い、医薬品や化粧品を九大・久光製薬・唐津市にある化粧品会社などと協力して作ってはどうかと考える。その方が高付加価値で、21世紀らしいスマートさがあるだろう。


    桑畑        山鹿市、蚕の無菌栽培      遺伝子組み替え蚕の大量栽培

*6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32129650S8A620C1ML0000/?nf=1 (日経新聞 2018/6/24) ハイテクが紡ぐ「蚕業革命」 通年生産・光る糸・医薬
 かつて日本の近代化を支えた養蚕を先端技術でよみがえらせる取り組みが各地で進んでいる。熊本県ではクリーンルームを備えた世界最大級の工場で繭の量産が始まり、新潟県や群馬県などの企業や農家は遺伝子組み換え技術を応用して光る生糸や化粧品・医薬品をつくり出そうとしている。政府も「蚕業(さんぎょう)革命」として後押しする。熊本県北部の山鹿市の廃校跡地。2017年に完成した洗練された外観の建物で繭の量産が始まった。求人案内のあつまるホールディングス(HD、熊本市)が約23億円を投じて建設した世界最大級の養蚕工場だ。延べ床面積は約4千平方メートル。高品質のシルクの原料を効率的に大量供給し、生産性向上を目指す。カイコは伝統的な飼育法では餌になる新鮮な桑の葉を確保できる春から秋に年3回程度しか繭が取れない。餌やりや掃除は手間がかかり、感染症にかかりやすい難点もある。ところが、あつまるHDの島田裕太常務執行役員は新工場で「年間を通して高品質の繭を出荷する」と強調する。熊本大学物質生命化学科の太田広人特任准教授らと連携し、カイコが1年を通じて食べ、餌やりの手間も減らせる人工飼料を開発している。近くの山頂の耕作放棄地に設けた25万平方メートルの桑畑で無農薬栽培した桑の葉を乾燥保存し、特殊な添加剤を加えて与える。工場は無菌のクリーンルームで感染症の危険もなくした。カイコにとり快適な温度や湿度も保つ。カイコは現在30万頭を飼い、できあがる繭を集める収繭(しゅうけん)も毎月手掛け始めた。3年で3千万頭とし、繭の生産量を年間50トンと国内最大の群馬県を上回る規模に増やす。高品質のシルクの原料を安定供給する体制を築き、「化粧品やバイオ医薬品などに応用範囲を広げる」(島田常務執行役員)。山鹿市の中嶋憲正市長は「新たな産業を生み出す大きな可能性がある」とみて、桑畑の候補地の紹介や廃校跡の提供などさまざまな形で事業を支援してきた。有数の産地だった山鹿市での養蚕復活へ、今後も「シルク産業に関連する研究施設の誘致など全面的に応援していく」方針だ。農林水産省によると、養蚕農家はピークの1930年に約220万戸あったが、現在は約350戸に激減し、高齢化も著しい。しかし、飼育管理方法の向上や遺伝子組み換え技術の応用により、新たな可能性が開けてきた。農水省は「農山漁村にバイオ産業と雇用を生み出せる」とみて蚕業革命と名付けたプロジェクトを各地で支援する。着物の手入れなどを手掛ける、きものブレイン(新潟県十日町市)も繭の通年生産に挑む。カイコに無菌状態で特殊なホルモンなどを加えた餌を与え生育を早める。現在の飼育数は養蚕に参入した3年前の3倍の180万頭に達する。岡元松男社長は「1300年の織物の歴史がある十日町で新たなシルク産業を生み出す」と意気込む。京ちりめんの産地、京都府京丹後市は市内の廃校の一角で京都工芸繊維大と連携してカイコを大量に育てる研究を進めている。現在3万~4万の飼育頭数を今秋には20万に引き上げる計画だ。生産設備のエム・エー・シー(新潟県上越市)は新潟県妙高市でカイコ4万頭の飼育を始めた。これらもクリーンルームなど生産管理手法を生かす。遺伝子組み換え技術などを用いて養蚕から新たな価値を生み出そうという動きも活発になってきた。群馬県の農家では17年、緑に発色する蛍光シルクを生み出す遺伝子組み換えカイコの飼育が始まった。組み換え生物を規制するカルタヘナ法に基づく農林水産相の承認を得て、「初めて研究室の外で飼育する」(農水省)取り組みだ。衣服のほか、光る壁紙などさまざまな生活用品への利用を見込む。群馬県蚕糸技術センター(前橋市)は青やオレンジ色に蛍光したり、色乗りが良くなったりするシルクの試験飼育も進める。シルク化粧品製造のアーダン(鹿児島県奄美市)は、生体になじみやすいなどシルクの特性を生かした独自技術で特許を取得した。繭に含まれるシルクフィブロインというたんぱく質を使い、傷口が直りやすく傷も残りにくい軟こうやフィルムの開発を進めている。遺伝子組み換えカイコを使い、一段と効果的な塗り薬も開発する。18年から奄美大島の1万8千平方メートルの畑で地元特産の島桑(しまぐわ)の栽培も始めた。同社の藤原義博・研究開発室長は「かつて栄えた奄美の養蚕で地域経済を活性化させたい」と話す。
■収益確保、需要開拓カギ
 「カイコの技術で日本は世界のトップランナー」。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)の門野敬子・新産業開拓研究領域長は強調する。養蚕が伝わった1~2世紀以降、飼育や品種改良の工夫が積み重ねられ、基礎的な研究の成果も相当の厚みがあるという。2000年にはカイコの遺伝子組み換えに農研機構が世界で初めて成功。組み換えを生かした研究開発に弾みが付いた。企業では日東紡グループが血液診断薬、免疫生物研究所が化粧品原料の保湿成分を製品化。蛍光色を持つ生糸を使ったウエディングドレスなども登場している。1つの繭から取れる糸の長さは千メートル強。細さは0.01~0.02ミリだが同じ重さの鉄線より切れにくい。主成分がたんぱく質であり、人体から異物として排除されにくいといった利点もある。繊維のほかにも、医薬品関連など多方面の企業から「問い合わせが入ってくる」(門野領域長)という。ただ、先端分野でも中国などの追い上げが急で、「シルク産業の先行きは決してバラ色ではない」と京都工芸繊維大学の森肇教授は指摘する。中国からさえ新興国へ生産が移り、価格の国際競争は極めて厳しい。独自性があっても光る糸など新素材がどれだけ受け入れられるかは不透明だ。先端シルクの含有量を調節して価格を抑えたり、医薬など高付加価値品の比重を高めたりして、収益を確保しつつニーズを切り開く戦略も求められる。

<ゼロ・エミッションへの転換>
PS(2018年6月26日追加):*7-1のように、東京都の小池知事は温暖化ガス削減に向けて、都内の新車販売に占める排ガスゼロ車の割合を、2030年までに5割へ引き上げる方針を出されたが、私は、これを野心的だとは思わない。何故なら、日本のEV(日産自動車)・FCV(三菱自動車)は、世界のZEV(Zero Emission Vehicle)の先駆けだったにもかかわらず、メディアやガソリン関係の会社をはじめとする抵抗勢力の妨害によって遅れ、現在では中国はじめ各国の後塵を拝しているからだ。そのため、東京都は、2020年のオリンピック時には、ZEV以外の都内への乗り入れを禁止するくらいの措置をとってもよく、そうすれば乗用車・トラック・バスなどのZEV化が一気に進んで、ZEVの製造コストが下がる。なお、奈良・京都のような歴史的建造物を有する地域も、排気ガスによる汚れを防ぐため、同様の規制をした方がよいと考える。
 また、ガソリン需要の低減に伴い、*7-2のように、ガソリンスタンドは廃業が相次いでいるそうだが、ガソリンスタンドの役に立つ部分は残して、洗車や自動車用・家庭用の(タンクに充填された)燃料電池交換など、臨機応変に新たなニーズに対応すればよいだろう。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180626&ng=DGKKZO32183000V20C18A6L83000 (日経新聞 2018年6月26日) 都、排ガスゼロ車5割目標 国へ対抗意識鮮明に
 東京都の小池百合子知事は温暖化ガスの削減に向け、環境に配慮した自動車の新たな普及目標を打ち出した。都内の新車販売に占める排ガスゼロ車の割合を、2030年までに5割へ引き上げる。国の目標の3割を大幅に上回る野心的な数値だ。かつて自身が主導した「クールビズ」のようなムーブメントの再来を狙うが、課題は多い。「『ゼブ』を流行語大賞にしたい」。5月下旬、小池知事は日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」のフォーラムで訴えた。ゼブ(ZEV)とは、EVや燃料電池車(FCV)などの排ガスゼロ車を意味するZero Emission Vehicleの略。メーカー関係者にはなじみがあっても、一般には知られていない。都の推定によると、17年度の排ガスゼロ車の新車販売比率は都内で約2%にとどまる。EVの普及を妨げているのはエネルギーに使う電池の問題が大きい。リーフの航続距離は400キロメートルでガソリン車と開きがある。「街乗り」には適しているが、充電を忘れると長距離ドライブは難しい。小池知事は「メーカーにはペダルを踏んで頂きたい」と、さらなる技術開発を促した。普及を進めていくためには、充電施設の整備も不可欠になる。都内にはガソリンスタンドが約1千カ所あるが、EVの急速充電が可能な施設は270カ所ほど。しかも、充電器を1、2台しか備えていない施設も多い。FCVの燃料補給に必要となる水素ステーションに至っては都内で14カ所しかない。それでも小池知事があえて野心的な目標を掲げるのは、国への対抗意識がありそうだ。新車販売に占める排ガスゼロ車の目標は国が30%なのに対し、都は50%。受動喫煙防止対策で国を上回る規制方針を掲げたのと同様だ。都幹部は「施策を担当する環境局には、知事から期待とともにプレッシャーがかかっているようだ」と明かす。都はマンションに充電設備を設置する際の補助を始めたほか、都営バス車両にFCVの導入を進めるなど対応を急ぐが、独自の取り組みだけでは限度がある。今後、都民や企業の賛同や協力を地道に取り付けていくことが求められる。小池知事は8月に4年任期の折り返しを迎える。かつて環境相も経験し、環境政策は最も得意と自負する分野の一つだ。排ガスゼロ車の普及を目指した取り組みは、「環境の小池」を強くアピールし、再選戦略につなげようとする思惑もみえる。

*7-2:http://qbiz.jp/article/136361/1/ (西日本新聞 2018年6月26日) 廃業GSを解体せず活用 コインランドリーや車販売店に 屋根や駐車空間を生かし
 九州各地で廃業が相次ぐガソリンスタンド(GS)の跡地を、新たな店舗として活用する動きがさらに広がっている。建物を解体すると多額のコストがかかるため、屋根や事務所をそのまま利用。幹線道路沿いにあり駐車スペースも広いなど、GS特有の立地を生かしている。一方で残ったGSの拠点網をどう維持するか課題も多い。「大型トラックなども入れるよう道路からの間口が広く、お客さまが出入りしやすい」と説明するのは、コインランドリーを運営するWASHハウス(宮崎市)。同社は現在、九州の7カ所でGS跡地に出店。そのうち大分県と宮崎県の2カ所は、屋根や事務所などの建物をそのまま使っている。屋根が広く、雨天でも洗濯物がぬれずに済むなどのメリットがある。毎月1〜2回、子どもの布団の洗濯で挾間店(大分県由布市)を利用する近所の主婦(40)は、「屋根で日陰があり、暑い日も車の中で待てる」と話す。福岡市博多区の国道3号沿いにある福岡夜間救急動物病院も、2004年にGS跡地を活用して開業。幹線道路沿いで、遠方から駆け込む人にも屋根が目立つことなどが出店の決め手になったという。
   ◇    ◇
 GS運営会社も、跡地を活用した別業態の店舗運営に乗り出している。大分県と宮崎県でGS87店舗を運営する東九州石油(大分市)は、14年に新古車の販売業務を開始。16年には、閉店した大分県由布市挾間町のGSを、自動車販売店に改装した。通常、GSを更地に戻すには、地下にあるタンクや、店を囲む高さ2メートルの防火壁などの撤去費用が数百万から1千万円近くかかる。そのため同社も防火壁や事務所、洗車機はそのまま活用。敷地内に販売車を並べ、事務所は商談ルームに改装した。管理部本部の竹内誠治課長は「GSで給油していただいたお客さまに、車の買い替えから洗車、車検、保険手続きまで一括して請け負うことでサービスを強化したい」と話す。
   ◇    ◇
 GSの転換が続く背景には、ガソリンの需要減によるGS運営会社の経営悪化がある。自動車の燃費が向上したのに加え、11年の消防法改正で、古い地下タンクの改修が義務付けられたことも、廃業を加速させた。資源エネルギー庁によると、九州の給油所数は1994年度末の8223カ所から毎年減少し、16年度末には4369カ所とほぼ半減した。建物や地下タンクの撤去費用を出せないGSの中には、「休業」扱いで何年も閉店したままの店も少なくない。一方で、地域のインフラとしてGSの店舗網の維持も求められている。GSの経営改善を後押しするため、経済産業省は現在、規制緩和を検討。収益力向上のため、コンビニ併設などサービスの多角化や、電気自動車(EV)の充電設備や燃料電池車への水素供給など次世代燃料への対応、IT活用による人手不足解消などを後押しする方針だ。

<原発の高コスト体質>
PS(2018年7月5日追加):*8-1のように、世界では再エネのコストが下がり、再エネの短所と言われていたことも解決しつつあるのに、「エネルギー基本計画」で原発を「ベースロード電源」と位置付け、原発依存度をフクイチ以前に戻そうとしているのは、日本特有の思考停止であり、技術進歩の邪魔をしているものである。また、*8-2のように、原発は発電ゼロでも維持管理に膨大な人手を要し、使用済核燃料の保管にも資金と人手を要するものだ。

*8-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-753138.html (琉球新報社説 2018年7月5日)  エネルギー計画 見せかけだけの原発低減
 中長期のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」を政府が閣議決定した。原子力発電については、2014年の前計画同様、可能な限り依存度を低減させる―とうたいながら、エネルギー供給の安定性に寄与する「ベースロード電源」と位置付けている。11年3月11日の福島第1原発事故によって明白になったのは原子力の制御技術に重大な不備があることだ。事故はいまなお収束に至らず、避難指示の対象は約2万4千人に上る。原発周辺住民の多くは「絶対安全」と力説する政府や東京電力の宣伝を信じた揚げ句、住まいや生活の糧を奪われ、健康を脅かされた。「国策詐欺」の被害者と言っていい。原発の安全性に対する不信感がある中で、政府は30年度の電源構成比率を15年に決定、原発は20~22%とした。エネルギー基本計画は、その実現を目指す方針を盛り込んでいる。原発の発電割合を見ると、東日本大震災前の10年度は25・1%だったが、原発事故を機に急落し16年度は1・7%にすぎない。20~22%の目標値は現状から比べると大幅な増大になる。経済産業省資源エネルギー庁がホームページに公開した資料「新しいエネルギー基本計画の概要」には、震災前と30年度(目標)の電源構成比率が記され、16年度の数値には触れていない。「依存度を低減させる」というのは表向きで、実際は、原発事故以前の水準に近づけようとしている。まるで「羊頭狗肉(ようとうくにく)」だ。政府は、原子力規制委員会の新規制基準に適合した原発について再稼働を進める方針だが、目標の実現には30基程度を稼働させる必要があり、非現実的との指摘がある。本音では、原発の新増設も視野に入れているのだろう。もともと10年のエネルギー基本計画では30年までに14基以上の原発を増設すると明記していた。原発の運転に伴い生成される猛毒のプルトニウムは「地獄の王の元素」と呼ばれる。プルトニウム239の場合、放射能が半分になる半減期は約2万4千年。気が遠くなるほどの年月だ。これほどの長い間、どうやって核のごみを管理できるのか。原発は、短期的には経済上のメリットをもたらすかもしれないが、放射能を完全に制御する技術が確立されていない中では、子々孫々に災いの種を残すだけだ。新たなエネルギー基本計画が、太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱などの再生可能エネルギーを「主力電源化」すると明記したのは当然の流れと言えよう。日本の再生エネへの取り組みは欧州などに比べて立ち遅れている。集中的に研究開発を進めることで、真の意味で「原発依存度の低減」を実現すべきだ。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13392314.html (朝日新聞 2018年3月8日) 発電ゼロ、人手は膨大 未稼働原発、千人単位で連日作業
 発電ゼロの原発に、5年間で計5兆円超ものお金が電気代からつぎ込まれていた。核燃料を扱う特殊な施設。止まっていても再稼働が見通せなくても、維持・管理には毎日数千人単位の人手が必要だ。東日本大震災で原子炉建屋にひびが入った東北電力女川原発(宮城県)。3基とも震災以降、一度も動いていない。しかし原発内では毎日、東北電やプラントメーカー、建設業者の作業員ら計約2千人が働いている。震災前より数百~1千人ほど多いという。3基はいずれも「定期検査中」の位置づけだ。原発は止まっていても、法令に基づき約1年に1度、安全維持のための検査が義務づけられている。防潮堤のかさ上げなど安全対策工事も加わる。女川原発の神田貴生・報道担当課長は「順番に1基ずつ止める通常の定期検査より、同時に止まっている今の方が作業は多い」と説明する。3基は運転開始から16~33年。女川3基と東通原発1号機(青森県)に費やした「原子力発電費」は2016年度、940億円だった。神田課長は「適合性審査が進む2号機に続き、1、3号機も準備が整えば審査の申請を考えたい」と話す。総発電量で世界最大規模の東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)。福島第一原発事故の処理にあたる東電にとって、6、7号機の再稼働は会社の命運を握る。構内では約6千人が作業する。12年の全基停止から6年、作業員数は変わらない。東電によると、発電していなくても機器の保守や点検があり、防潮堤や貯水池、軽油の地下タンクの整備など一連の安全対策工事(6800億円)が続く。平日は毎朝、入構する車両で正門前に渋滞ができる。地元の電気設備業「品田電業社」(従業員35人)は、社員6人が同原発構内で作業している。品田史夫社長(44)は「安全対策工事で、売り上げに占める原発の割合は増えた」と話す一方、同工事の完了を見越し、「再稼働すれば東電は原発の設備投資を増やすはず」と期待を寄せる。
<電力各社でつくる電気事業連合会の話> エネルギー自給率が極めて低い日本の実情を考えれば、原子力を含めた多様なオプションを持っておくべきだ。このため電力各社は原発の安全確保に万全を期すため必要となる経営資源を投入し、対策及び設備の維持管理を行っている。安全が確認されたプラントについては立地地域をはじめ、広く社会の理解を得た上で、有効活用していきたいと考えている。
■<視点>現実みすえた選択必要
 平均すれば年に1兆円。福島原発事故後、中堅国の国家予算に匹敵する金額が毎年、発電ゼロの原発に費やされてきた。いまだ5万人超が避難する原発事故から7年近く。原子力規制委員会の審査は厳格化し、小型で老朽化した原発ほど再稼働のメリットは小さくなった。それでも電力各社は「いったん再稼働すれば効率的」と、維持費をかけ続けている。変化の兆しもある。関電は昨年12月、大飯1、2号機(福井県)の廃炉を決めた。再稼働には安全対策費がかさみ、大型炉でも採算が合わないと判断したとみられる。廃炉を選んでも費用はかかるが、原子力発電費から切り離され、支出の使途や日程は明確になる。原発には自然災害リスクや放射性廃棄物の最終処分という未解決の問題がある。世論調査でも再稼働に反対の意見が多い。発電ゼロで維持費を投じ続け、再稼働を求めるのか、廃炉か。厳しい選別が迫られている。

<健康被害等の大きなコスト>
PS(2018年7月11日追加):*9-1のように、東京電力福島第1原発事故の後、福島県内の全ての子ども38万人を対象に実施している甲状腺検査は2011年度に開始され、2018年に4巡目が始まって、これまでがんと確定したのは162人、疑いが36人いるが、これにも11人の集計漏れがあり、甲状腺癌の発生率は高い。
 放射線の人体への影響は、*9-2のように、2015年8月25日に休刊に追い込まれた月間宝島が2015年4月号に記載しているとおり、1)周産期死亡率の上昇 2)小児甲状腺癌の発症率上昇 3)白血病・その他の癌の年齢調整発症率上昇 4)急性心筋梗塞の年齢調整死亡率上昇 などがある。そして、*9-3のように、チェルノブイリ原発事故のケースに基づいて、原因分析も既に行われている。そのため、放射性物質が人体や動植物に与える影響を知らせることは、福島県の人への差別ではなく、正当な注意を行うための重要な情報であり、放射性物質の影響を過小評価すれば、大人も子どもも、いきとどいた健康診断や病気を発症した場合の正確な補償が行われないというむごい事態になる。
 それにもかかわらず、「不安を煽る」として、生物に対する膨大なコストを測定する正確な疫学調査も行わず、*9-4のように、経産省主導で次世代原子炉を官民共同開発し、「冷却に水ではなくガスを使うため非常時も水蒸気爆発を起こす懸念がない」などとしているのはあまりにも馬鹿げた無駄遣いである。原子炉を冷却した後の高温で放射脳を帯びた大量のガスは空気中に排出するのだろうが、それでは緊急時どころか平時から原発周辺では放射性物質関連の病気が多発することになり、気温も上がるからだ。



   
               2015.3.24、2015.3.9宝島ほか
                
*9-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018070701001949.html (東京新聞 2018年7月7日) 福島の甲状腺がん集計漏れ11人 検査の信頼性揺らぐ
 東京電力福島第1原発事故の後、福島県が県内全ての子ども約38万人を対象に実施している甲状腺検査で、集計から漏れていた甲状腺がん患者が11人いることが7日、関係者への取材で分かった。事故当時4歳以下も1人いた。県内で多く見つかっている子どもの甲状腺がんと事故との因果関係を調べる検査の信頼性が揺らいだ格好だ。福島市で8日に開かれる県の「県民健康調査」検討委員会の部会で報告される。県の検査は2011年度に開始、今年5月から4巡目が始まった。これまでがんと確定したのは162人、疑いは36人に上る。

*9-2:http://blog.takarajima.tkj.jp/archives/2015-03.html (宝島 2015年3月25日) 福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか?~誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 後編】~
 最新2013年の「人口動態統計」データを入手した取材班は、高い放射能汚染に晒されている「17の市町村」で、周産期死亡率が急上昇している事実に辿り着いた。ジャーナリストが自力で行なう「原発事故による健康への影響調査」最終回!
■小児甲状腺ガン、急性心筋梗塞「汚染17市町村」で同時多発
 福島第一原発事故発生当時、18歳以下だった福島県民の人口は36万7707人。そのうち、14年12月末時点で甲状腺ガン、またはその疑いがある子どもの合計は117人である。この数字をもとに、福島県全体の小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、10万人当たり31.8人となる。これでも相当な発症率であり、十分「多発」といえる。14年度の検査で新たに「甲状腺ガン、またはその疑いがある」と判定されたのは8人だが、そのうちの6人が「汚染17市町村」の子どもたちである。「汚染17市町村」における小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、同33.0人と県平均を上回り、より多発していることがわかった。「汚染17市町村」では、急性心筋梗塞も多発している。【図5】は、同地域における過去5年間の「急性心筋梗塞」年齢調整死亡率を求めたものだ。最新13年の年齢調整死亡率は、福島県全体(同27.54人)を上回る同29.14人。おまけにこの数値は、12年(同29.97人)から“高止まり”している。つまり「汚染17市町村」が、福島県全体の同死亡率を押し上げていた。周産期死亡率、小児甲状腺ガン発症率、さらには急性心筋梗塞年齢調整死亡率のいずれもが、「汚染17市町村」で高くなる。これは、福島第一原発事故による「健康被害」そのものではないのか。それとも、偶然の一致なのか。本誌取材班は、東京電力を取材した。同社への質問は、
①原発事故発生後の「福島県における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと
  考えるか。
②原発事故発生後の「汚染17市町村における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響による
  ものと考えるか。
③「汚染17市町村」で周産期死亡率と急性心筋梗塞年齢調整死亡率がともに上昇していること
  は、この中に、被曝による「健康被害」が内包されている可能性を強く示唆している。
  これに対する見解をお聞きしたい。
という3点である。取材依頼書を送ったところ、東京電力広報部から電話がかかってきた。
       *
「(記事を)読む方が、心配になったりするような内容ではないんでしょうかね?」
─「心配になる内容」とは?
「質問書をいただいた限りだと、『震災以降、率が上がっている』といったところで、特に不安を煽るような内容になったりするのかなと、個人的に思ったものですから」
─「不安を煽る」とはどういうことでしょうか?質問した内容はすべて、国が公表したデータなど、事実(ファクト)に基づくものです。
「ファクトですか」
─はい。
「国等(とう)にも当社と同様にお聞きになった上で、記事にされるんでしょうかね?」
─はい。そうです。
      *
 その後、同社広報部からファクスで次のような“回答”が送られてきた。「人口動態統計での各死亡率等についての数値の変化については、さまざまな要因が複合的に関係していると思われ、それら変化と福島原子力事故との関係については、当社として分かりかねます」。しかし、「分かりかねる」で済む話ではない。そもそも、日本国民の「不安を煽る」不始末を仕出かしたのは東京電力なのである。それを棚に上げ、事実を指摘されただけで「不安を煽る」などという感情的かつ非科学的あるいは非論理的な言葉で因縁をつけてくるとは、不見識も甚だしい。自分の会社の不始末が「国民の不安を煽っている」という自覚と反省が不十分なようだ。猛省を促したい。<東京電力は、原因究明を「県民健康調査」に丸投げした>
■環境省「放射線健康管理」の正体を暴く
 続いて、国民の健康問題を所管する厚生労働省に尋ねた。
      *
「それは、環境省のほうに聞いていただく話かと思います」
─原発事故による住民の健康問題は、環境省に一本化されていると?
「そうですね」
      *
 ご指名に基づき、環境省を取材する。面談での取材は「国会対応のため、担当者の時間が取れない」との理由で頑なに拒まれ、質問への回答は、同省総合環境政策局環境保健部放射線健康管理担当参事官室よりメールで寄せられた。回答は以下のとおり。
「昨年12月22 日に公表された、『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』の中間取りまとめによれば、
●放射線被ばくにより遺伝性影響の増加が識別されるとは予想されないと判断する。
●さらに、今般の事故による住民の被ばく線量に鑑みると、不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響(組織反応)が今後増加することも予想されない。とされています」。環境省は、たとえ周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率が増加したとしても、それは原発事故の影響ではない─とした。その根拠は「専門家会議の中間取りまとめ」が、原発事故の影響でそうした疾患が増加することを予想していないからなのだという。ちなみに、「専門家会議」を所管しているのは、この回答の発信元である同省の「放射線健康管理担当参事官室」である。科学の権威たちが揃って予想だにしないことが起きたのが福島第一原発事故だったはずだが、あくまで「予想」に固執する環境省は同じ轍(てつ)を踏みそうだ。もちろん、科学が重視すべきは「予想」より「現実」である。環境省の説が正しいとすれば、原因は別のところにあることになり、それを明らかにするのが科学であり、それは環境省が拠りどころとする「専門家会議」の仕事のはずだ。だが、その原因を特定しないまま、環境省は端から全否定しようとするのである。なぜ、環境省は現実から目を逸らし、真正面から向き合おうとしないのか。身も蓋もない言い方だが、環境省が現実に目を向けることができないのは、昨年12月に出したばかりの「中間取りまとめ」を、環境省自身が否定することになりかねないからなのである。つまり、本誌取材班の検証で明らかになった「汚染17市町村」での周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率の増加の事実は、「専門家会議の中間取りまとめ」の「予想」結果を根底から覆しつつ「権威」を失墜させ、その贋物性を白日の下に曝け出してしまうものだった。「中間取りまとめ」が予想していない疾患の増加はすべて「原発事故の健康被害ではない」として、頭ごなしに否定する環境省の姿勢は、かつて「日本の原発は事故を起こさない」と盛んに喧伝してきた電力御用学者たちの姿を彷彿とさせる。2012年7月に出された国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の報告書は、「歴代の規制当局と東電との関係においては、規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電力事業者の『虜』となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」としていた。環境省もまた、電気事業者の「虜」となっているようだ。そう言われて悔しければ、「現実に向き合う」ほかに名誉挽回の道はない。このように不甲斐なく、頼りにならない環境省のおかげで、このままでは「汚染17市町村」での“健康異変”は十把一絡(じっぱひとから)げにされ、かつて「水俣病」が発覚当初に奇病扱いされたように、原因不明の奇病「福島病」とされてしまいそうである。メチル水銀中毒である「水俣病」に地域の名前が付けられたのは、加害企業の責任をごまかすべく御用学者が暗躍し、「砒素(ひそ)中毒説」などを唱えたことにより、原因究明が遅れたことが原因だった。これにより、病気に地域名が付けられ、被害者救済も大幅に遅れることになったのである。従って、「汚染17市町村」で多発する病気に「福島」の名が冠されるようになった時の原因と責任は、すべて環境省にある。(『宝島』2015年4月号)

*9-3:https://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-7051 (中村ブログ2011/10/12より抜粋)
  最近、セシウムの毒性に関する大変重要な冊子が、茨城大学名誉教授久保田護氏により翻訳、自費出版されました。元ゴメリ医大学長、バンダジェフスキー博士の『人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響―チェルノブイリの教訓セシウム137による内臓の病変と対策―』です。(この本は売り切れて、新しい本『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響: チェルノブイリ・原発事故被曝の病理データ』(合同出版社)が出ています)。食物中のセシウム摂取による内部被曝の研究がほとんどない中、バンダジェフスキー博士は、大学病院で死亡した患者を解剖し、心臓、腎臓、肝臓などに蓄積したセシウム137の量と臓器の細胞組織の変化との環境を調べ、体内のセシウム137による被曝は低線量でも危険との結論に達しました。
以下に要点をまとめます。
【体全体への影響】
*セシウム137の体内における慢性被曝により、細胞の発育と活力プロセスがゆがめられ、体内器官(心臓、肝臓、腎臓)の不調の原因になる。
*大抵いくつかの器官が同時に放射線の毒作用を受け、代謝機能不全を引き起こす。
*セシウムの濃度に応じて、活力機構の破壊、たんぱく質の破壊が導かれ、組織発育が阻害される。
*セシウムの影響による体の病理変化は、合併症状を示し、長寿命体内放射能症候群(SLIR)といわれる。SLIRは、セシウムが体内に入ったときに現れ、その程度は入った量と時間とに相関する。
*SLIRは、血管、内分泌、免疫、生殖、消化、排尿、胆汁の系における組織的機能変化で明らかになっている。
*SLIRを引き起こすセシウムの量は、年齢、性別、系の機能の状態に依存するが、体内放射能レベルが50Bq/kg以上の子供は機関や系にかなりの病理変化を持っていた。心筋における代謝不調は20Bq/kgで記録された。
*汚染地帯、非汚染地帯の双方で、わずかな量の体内セシウムであっても、心臓、肝臓、腎臓をはじめとする生命維持に必要な器官への毒性効果が見られる。
【心臓への影響】
*生命維持に必要な多くの系で乱れが生じるが、その最初は心臓血管系である。心筋のように、細胞増殖が無視できるかまったくない器官や組織は、代謝プロセスや膜細胞組織に大きな影響が生じるため、最大の損傷を受ける。
*ミンスクの子供は20Bq/kg以上のセシウム137濃度を持ち、85%が心電図に病理変化を記録している。
*ミンスクの子供で、まれに体内放射能が認められない場合もあるが、その25%に心電図変化がある。このように濃度が低くても、心筋に重大な代謝変化を起こすのに十分である。
【血管系への影響】
*血管系が侵され、高血圧が幼児期からも見られることがある。
*セシウムは血管壁の抗血栓活性を減退させる。
*血管系の病理学的変化は、脳、心臓、腎臓、その他の機関の細胞の破壊を導く。
*体内のセシウム濃度の高い子供の間で、白血球の数の減少が見られた。最初に減ったのがバチルス核好中球と単球であり、同時にリンパ球の数が増大した。
*動物実験では、絶対的赤血球数と相対的核好中白血球の数の減少が起きた。
*40キュリー/km2以上の地域から汚染の少ない地域に移住した子供の骨髄球の生理状態が回復したことは注目に値する。
【腎臓への影響】
*セシウムは腎臓機能を破壊し、他の器官への毒作用や動脈高血圧をもたらす。ゴメリにおける突然死の89%が腎臓破壊を伴っている。
*腎臓もセシウムの影響を強く受けるが、放射線による腎臓の症状は特徴がある。また病気の進行が早く、悪性の動脈高血圧がしばしば急速に進む。2-3年すると、腎臓の損傷は慢性腎機能不全、脳と心臓との合併症、ハイパーニトロゲンミアを進展させる。
【肝臓への影響】
*肝臓においては、胎児肝臓病や肝硬変のような厳しい病理学的プロセスが導かれる。
*免疫系の損傷により、汚染地ではウィルス性肝炎が増大し、肝臓の機能不全と肝臓ガンの原因となっている。
【甲状腺への影響】
*セシウムは、甲状腺異常にヨウ素との相乗関係を持って寄与し、自己免疫甲状腺炎や甲状腺ガンの原因となる。
【母体と胎児への影響】
*セシウムは女性の生殖系の内分泌系機能の乱れをもたらし、不妊の重要因子となりえる。また、妊婦と胎児両方でホルモンの不調の原因となる。
*月経サイクルの不調、子宮筋腫、性器の炎症も見られる。
*母乳を通じ、母体は汚染が低くなるが、子供にセシウム汚染は移行する。多くの系がこの時期に作られるので、子供の体に悪影響を与える。
*1998年のゴメリ州での死亡率は14%に達したが、出生率は9%(発育不全と先天的障害者含む)だった。妊娠初期における胎児の死亡率がかなり高かった。
*セシウムは胎児の肝臓病を引き起こし、その場合胎児は肝臓に限らず、前進の代謝の乱れが生じる。
【免疫系への影響】
*免疫不全により、結核が増加している。
*免疫系の障害が、体内放射能に起因することは、中性白血球の食作用能力の減退で証明されている。
【神経系への影響】
*神経系は体内放射能に真っ先に反応する。脳の各部位、特に大脳半球に影響を及ぼし、さまざまな発育不良に反映される。
*生命維持に不可欠なアミンや神経に作用するアミノ酸の内部被曝による変動は外部被曝と比べ、顕著である。
*セシウム137の体内量と自律神経系の機能障害は相関する。
*動物実験で発情期のメスに神経反応の組織障害が起こる。
*ウクライナの学者は、大脳の差半球で辺縁系小胞体組織の異常があると述べている。
【消化器系】
*セシウムが体内に長期間入っている子供に、慢性胃腸病を引き起こす。
【視覚器官】
*ベトカとスベチロビッチ(15―40キュリー/km2)に住んでいる子供では、子供の視覚器官の変化はそれぞれ93.4%と94.6%だった。
*白内障発生率とセシウム137の量に明白な正比例関係が見られた。
【相乗作用】
*セシウムの影響は、ニコチン、アルコール、ハイポダイナミアと相乗して憎悪される。
【男女差】
*セシウムは男性により多く取り込まれやすく、女性より男性により強い影響が出ており、より多くのガン、心臓血管不調、寿命の低下が見られる。
【疫学調査】
*1976年と1995年のベラルーシの比較。悪性の腎臓腫瘍が男4倍以上、女2.8倍以上。悪性膀胱腫瘍が男2倍以上、女1.9倍以上。悪性甲状線腫瘍が男3.4倍以上 女5.6倍以上。悪性結腸腫瘍は男女とも2.1倍以上。
*ゴメリ州では腎臓ガンは男5倍、女3.76倍。甲状線ガンは男5倍、女10倍となった。
【セシウム排出製剤】
*セシウムの排出に、カリエイ土を加えたペクチン製剤のペクトパルは最も将来性がある製剤のひとつだが、セシウムが人体に入るのを防ぐほうが、それを排出したり乱れた代謝を正常にするより容易なことを心に留めるべきである。
     *      *      *
「チェルノブイリ原発事故による健康被害は、甲状腺ガンだけ」というのがウソだということが様々なデータや証言、動画などから明らかになっている。
★チェルノブイリによる放射能災害  国際共同研究報告書
ウクライナにおける事故影響の概要 から抜粋 
ドミトロ・M・グロジンスキー:ウクライナ科学アカデミー・細胞生物学遺伝子工学研究所(ウクライナ)
 穀物,野菜,牧草,果物,牛乳,乳製品,肉そして卵までもが放射能で汚染され,その汚染は時には,それらの食物を廃棄しなければならないほど強いものであった。ウクライナ人全体の被曝は主として,チェルノブイリ事故後に強制避難させられた地域以外の放射能汚染によってもたらされた。
<放射線生態学的影響>
 チェルノブイリ事故による放射線生態学的影響の主なものは以下のとおりである。
1、厖大な核分裂生成物が大気中に放出され,生態系に侵入した.放射能は,地上の生態系のあらゆる部分に拡がり,結果的に,微生物,きのこ,植物,昆虫,その他の動物,そして人間まで,すべての生き物が放射能で汚染された。
2、 放射能は地下水に移動し,また表層の水をも汚染した。
3、放射能が食物連鎖に入り込み,人間に達した.大人も子供も,また人間の周囲にあるあらゆるものが放射能で汚染された.たとえば,キエフ中心部の樹木の葉は,1986年に7万~40万Bq/kgの放射能を含んでいた。
4、放射能が生物圏に侵入したため,多数の人間を含めて,すべての生き物に対して,被曝を与えることとなった.チェルノブイリ原発事故の放射性降下物から人間が被曝する経路には次の3つがある.第1に,地表に沈着した放射性物質からの外部被曝,第2に,大気中を漂う放射性物質の吸入,第3に,汚染した食べ物を食べることである.全体の被曝の中で,汚染した食べ物を食べることから生じる被曝が特に大きい.外部被曝に比べて内部被曝の方が,はるかに高い生物学的な影響をおよぼすことにも注意しておこう。
5、天然のバックグラウンド以上に被曝することは,人間にさまざまな病気を引き起こすし,放射能汚染地域の動植物群の状態を変化させる。
<子供たちの健康状態>
 チェルノブイリ事故で被曝した子供では,1987年から1996年まで慢性疾患がたえず増加してきた.表14は,チェルノブイリ被災地域の子供の発病率と罹病率の値である。この約10年間で,罹病率は2.1倍に,発病率は2.5倍に増加した.罹病率の増加が最も激しいのは,腫瘍,先天的欠陥,血液,造血器系の病気であった.最も罹病率が高いのは,第3グループ(厳重な放射線管理下の住民)の子供たちである.同じ期間において,ウクライナ全体の子供の罹病率は,20.8%減少していることを指摘しておく。このように,被災地域の子供たちの罹病率は,全ウクライナ平均での子供の罹病率をはるかに超えている。同じ期間に,先天的欠陥の発生率は5.7倍に,循環器系および造血器系の罹病率は5.4倍に増加している。他の地域の子供に比べ,問題の子供たちのガン発生率も明らかに大きい.被災地域の子供の,腫瘍発生率は1987年からの10年間で3.6倍に増加している.ガンの種類によって,その死亡率の増加傾向は,必ずしも一定していない.しかし,汚染地域の子供のガン死亡率は,他の地域の子供よりも大きくなっている.

*9-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180711&ng=DGKKZO32841680Q8A710C1MM8000 (日経新聞 2018年7月11日) 次世代原子炉、官民で 年度内に協議体 安全・コスト減に力
 官民が共同で次世代の原子炉の開発に乗り出す。経済産業省は2018年度中をめどに、電力大手や原子炉メーカーなどが参加する協議体を作る検討に入った。より安全性を高めた低コストの原子炉の開発や事業化で連携する。東日本大震災後、国内の原発の稼働は落ち込んでいる。各社が協力する場を設けて新設を後押しし、業界再編の布石にすることも狙う。3日に閣議決定した新たなエネルギー基本計画では、原子力を今後も重要な電源として活用していく方針を示したが、活用に向けた具体策は先送りしていた。原発の新増設や建て替えを進めやすくするため、官民で協力する体制を整える。国内では2011年の東京電力・福島第1原発の事故後にすべての原発が停止。再稼働したのは関西電力や九州電力などの計9基のみだ。経産省は2030年の電源構成について原発で20~22%をめざすが、30基程度の稼働が必要となる。現在の大型炉は100万キロワット規模など大量の発電が可能だが、建設や安全対策の投資がかさむ。官民が共同で開発する次世代炉は、大型炉の改良のほか出力が10万~30万キロワット程度の小型炉も検討する。大型炉の建設費は1兆円規模だが、数千億円に抑えられる。「高温ガス炉」は冷却に水ではなくガスを使うため非常時も水蒸気爆発を起こす懸念がない。国内の原発は稼働から数十年が経過しているものが多いが、次世代炉は最新の制御技術などを導入。緊急時に被害が広がりにくいシステムを備える。経産省は電力大手各社に協議体への参画を打診する。東京電力ホールディングス(HD)や関西電力は国の要請があれば前向きに検討する方向だ。三菱重工業や日立製作所など原子炉メーカー、原発の建設を担うゼネコンにも参加を促す。国内の原発は大震災前のように稼働基数が増えず廃炉のコストも増える。次世代炉を実用化しても使用済み燃料の負担は残り、大手電力9社が別々に手がけていくのは厳しいとの見方もある。経産省は水素や高性能な蓄電池、分散型エネルギーなど、他の分野でも官民で連携する枠組みをつくる。原発の再稼働には慎重な世論もある。原発一辺倒でなく幅広い技術の研究開発に取り組み、エネルギーを安定供給できる体制をめざす。

<漁業の低迷理由は?>
PS(2018年7月12日):水産業は、良質の蛋白質を摂取するために重要で、我が国では優位性の高い産業である筈だが、*10のように、漁獲高は一貫して減少し、海面漁業の生産量はピーク時の3割・養殖業がやっと横ばいだそうだ。
 そして、海面漁業が九州、全国ともに減少している要因は、「1)海洋環境の変動などによる資源量の減少のためか」「2)業務ではなく調査していないため分からない」と書かれているが、1)の海洋環境変動には、海水温が上がって海藻はじめ海中の食物連鎖が維持できにくくなっていることがあり、その理由には、①地球温暖化 ②原発温排水の影響 ③海底火山噴火の活発化などが考えられる。そのほか、公海における他国の漁獲高上昇や日本における燃油価格高騰・賃金上昇で漁業が成り立たなくなり、廃業が増えて後継者も少ないことなど、2)のように、業務でないから調査しないわけには決していかず、しっかり調査して問題解決すべきである。何故なら、日本人も、ITやアニメや製造業だけを行い、食品は輸入して食べていけるわけではないからだ。

*10:http://qbiz.jp/article/136703/1/ (西日本新聞 2018年6月30日) 「漁獲」九州も減少傾向 山岡知且・九州農政局生産流通消費統計課長 漁業ピークの3割 養殖横ばい 17年86万トン全国2割
 沿岸に黒潮と対馬海流が流れ、サバ、アジ、イワシなどの豊かな漁場に恵まれている九州。漁業や養殖業が盛んで、生産量は全国の約2割を占めている。ただ海洋環境の変動などによる資源量の減少のためか、海面漁業の漁獲量は全国と同様に減少傾向だ。九州における海面漁業・養殖業の生産量調査を担当する九州農政局生産流通消費統計課の山岡知且(ともあき)課長に生産量の推移や特徴などを聞いた。九州の海面漁業・養殖業の生産量について1956年から調査を続けている。最新データの2017年は速報値で85万7725トン。うち海面漁業の漁獲量は56万6739トン(全体の66・1%)。海面養殖業の収穫量は29万986トン(33・9%)となっている。全国の生産量は424万2300トンで、うち海面漁業と海面養殖業はそれぞれ325て万7700トン(全体の76・8%)と98万4600トン(23・2%)。全国に占める九州の割合は生産量全体で20・2%。海面漁業17・4%、養殖業29・6%だ。九州は人口や面積、経済規模が全国のほぼ1割で「1割経済」と言われるが、漁業分野はこれを大きく上回り、活発に展開されていることを数字が物語っている。九州で漁獲量が多い上位5魚種は(1)サバ類約13万9千トン(2)イワシ類約12万7千トン(3)アジ類約8万8千トン(4)マグロ類約3万9千トン(5)カツオ類約2万7千トン−の順。県別では長崎県が約31万7千トンでダントツ。2番手は宮崎県の約9万7千トンとなっている。ただ海面漁業は九州、全国ともに減少傾向だ。九州の17年はピーク時(1988年、約191万5千トン)の29・6%、全国はピーク時(84年、1150万トン)の28・3%と、いずれも過去最高時の3割程度に落ち込んでいる。減少傾向の要因については私たちの業務では調査していないため、分からない。一方、九州の海面養殖業は2008年の32万811トンが過去最高で、ここ30年は24万〜32万トンの間で推移している。17年の種類別は板ノリが15万6730トン(主産地は佐賀、福岡、熊本)、ブリが6万4132トン(主産地は鹿児島、大分、宮崎)。カンパチは鹿児島だけで1万8299トンある。

<どうして国民にマイナスの政策が多いのだろう?>
PS(2018年7月22日追加):「カジノを解禁してギャンブル依存症対策を行う」というのは、「麻薬を解禁して麻薬依存症対策を行う」とか「山崩れしそうな山の山肌に砂防ダムがあるから安全だと信じる」などと同様、大きな流れを小さな人工物で食い止めようとするもので意味がないだろう。そのため、私は、*11と同様、カジノ解禁が日本全体の経済成長に繋がるとは思えず、カジノ解禁は生産年齢人口減少時代に廃人のようになる日本人を増やして国力を削ぐと考える。また、IRによる観光立国はむしろ観光の質を落とし、日本は歴史・地理・自然を活かした観光をテーマにした方が日本らしくて質が高く、世界の評価が上がると思われる。

*11:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-766295.html (琉球新報社説 2018年7月22日) カジノ法成立 国民不幸にして金儲けか
 カジノ解禁を含む統合型リゾート施設(IR)整備法が国会で可決、成立した。カジノを刑法の賭博罪の対象から除外する同法を根拠に、政府は2020年代半ばにも民間によるカジノ開業を目指す。IR整備法といっても実際は賭博合法化法だ。賭博を認める法律がなぜ必要なのか。強い疑問が残る。ギャンブル依存症の拡大や治安悪化が懸念され、国民の不安は根強い。6月の共同通信の世論調査では69%が「今国会で成立させる必要はない」と回答している。カジノ解禁への理解は進んでいない。それにもかかわらず、あまりにも拙速に成立させた。世論軽視の強行と言わざるを得ない。政府は昨年3月、ギャンブル依存症の実態把握のための成人2200人を対象にした初の面接調査の結果を発表した。回答した993人のうち生涯で依存症の経験が疑われる人は2・7%だった。一方、各国のギャンブル依存症が疑われる人の割合は、調査対象数や調査方法にばらつきがあるものの、米国や韓国など11カ国と香港では0・2~2・4%だった。つまり日本はギャンブル依存症の割合が各国と比べても高い水準にある。国内で依存症経験が疑われる人は320万人に上るとの推計もある。そこにカジノを解禁すれば、依存症の割合がさらに高まるのは目に見えている。法案では依存症対策として、日本人のカジノ入場にマイナンバーカードを使った本人確認を義務付け、週3回、月10回という上限を設定している。安易な利用を減らそうと入場料6千円を徴収するほか、国が事業者を厳しく監督する免許制度も導入するとしている。しかし年間120日まで入場できる仕組みで依存症の歯止めになるのか。極めて疑問だ。政府はカジノを含むIRによる観光立国をアピールする。しかし訪日外国人客は過去6年間で4・6倍と急拡大している。カジノに頼る必要などない。むしろカジノ客の7~8割は日本人が占めるとの民間や自治体の推計もある。安倍晋三首相は「IRが日本全体の経済成長につながる」と主張する。しかし政府は「現時点では経済効果額の試算はできない」と説明する。数字の裏付けのない経済効果をアピールされても、判断のしようがない。政府は賭博を刑法で処罰してきた根拠に立ち返るべきだ。最高裁の判例では賭博について「国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風を害する」などと示している。カジノ合法化の法律を成立させるべきではなかった。政府は国民を不幸にさらしてでも金儲けを優先させようというのか。そうでないというのなら、早期に廃止すべきだ。

<もう環境を犠牲にしてよい時代ではない>
PS(2018.7.24追加):*12に、防衛大臣が来佐したと書かれているが、大臣が何度も訪問すれば公害が起こらなくなるわけではない。また、佐賀県では、海産物は重要な産物であるため、海を汚染する可能性のある施設を誘致して交付金をもらうスキームを作るべきではない。そのため、オスプレイを配備すると仮定しても、合理的な場所は佐賀空港ではないだろう。

*12:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/249548 (佐賀新聞 2018.7.24) 防衛相来佐 県と佐賀市、漁協の三者、異なる反応
 小野寺五典防衛相が佐賀県を訪れ、佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画に関する交渉が再開した23日、県と佐賀市、県有明海漁協は異なる反応を示した。神埼市での陸上自衛隊ヘリコプター墜落事故の対応を含めて一定の評価をした山口祥義知事に対し、市と漁協は従来の慎重な立場を崩さなかった。
○県・議会
 佐賀県民の信頼回復と不安解消の重要性に何度も触れながら、オスプレイの安全性に問題がないことを強調した小野寺防衛相の説明に対し、山口祥義知事は「今後、精査・確認する」と冷静に受け止めつつ「一定の説明があった」と評価した。オスプレイの安全性に関する情報連絡のルールづくりが可能かどうか尋ねるなど、従来より踏み込んだ姿勢をにじませた。防衛省側の説明後、山口知事は神埼市で墜落した陸自ヘリと同型機の取り扱いと、県内でのオスプレイの訓練について確認を求めた。ヘリ事故の原因究明と再発防止が図られるまでは、同型機を佐賀空港に移駐しないと答えた小野寺氏に対し、山口知事は「大臣の言葉を重く受け止める」と述べた。過去に米軍機の事故原因になった空中給油などの訓練を有明海や県内上空では実施しないとの説明には「厳しい訓練、リスクを伴う訓練は実施しないということか」と念を押した。オスプレイを受け入れるかどうかの判断時期については、報道陣に「安全性と(漁業振興や補償の枠組みで国と)漁業者をつなぐという2点について、ある程度整理がついたタイミング」と答え、県議会などで発言していた「しかるべき時期」という考え方を具体的に示した。県議会では、応対した指山清範副議長がヘリ墜落事故について「目達原駐屯地は地域住民や吉野ヶ里町、上峰町と寄り添って信頼関係を築き上げてきた。その中での事故は非常に残念だし、遺憾と言わざるを得ない」とし、「しっかり原因を究明して報告してほしい」と求めた。
●「国の事業に不信感」組合長
○有明海漁協
 オスプレイ配備計画で、駐屯地建設予定地の地権者の多くが所属する佐賀県有明海漁協。徳永重昭組合長は「県営空港なので県の判断が必要」と述べ、今後、要請があれば協議自体には応じる考えを示した。一方で、長崎県の諫早湾干拓事業をはじめとする国の事業への漁業者の不信感は依然根強いとし、「ほとんどの人が今のような計画では駄目だという認識は持っていると思う」と述べた。約15分の会談で、小野寺防衛相はノリ養殖やコノシロ漁への影響、万一の事故の際の対応に配慮する考えを説明した。漁協側は、配備計画への漁業者の不安を伝え、自衛隊との共用を禁止した公害防止協定を「解釈」の問題で片付けないようくぎを刺した。配備計画に関して昨年に開かれた地権者説明会や漁協全支所の意見聴取では、計画への反対意見が大勢を占めた。徳永組合長は会談後、漁業者の心境の変化を尋ねる報道陣の質問に「そのままでしょうね」と答えた。諫早湾干拓事業の開門問題に絡む訴訟で、福岡高裁が30日、開門を命じた確定判決を無効化する判決を出す可能性に触れた上で「漁業者からいろんな反発は出るだろう」と、配備計画への影響を推し量った。また、県内から「いま返事をしないと、よそ(の県)から取られるよ」という声が聞こえてくると切り出し、「それくらいの考えだったら持ってくるなと言いたい」と強調した。
●「公害協定重い」市長 「情報提供密に」議会
○佐賀市・議会
 小野寺五典防衛相は佐賀市役所で23日、秀島敏行市長、武藤恭博議長らと相次いで会談した。自衛隊との共用を禁じる「公害防止協定」の取り扱いを持ち出した秀島市長とのやりとりでは、小野寺氏は終始硬い表情だったが、オスプレイ受け入れの「容認決議」をした市議会では一転してにこやかな表情を見せた。
秀島市長との面会は10分足らずだった。小野寺氏は「まだ県の判断が出ていないので、その判断を仰ぎつつ、同時並行で説明したい」と理解を求めた。秀島市長は「(要請があった)4年前に『困惑』という言葉を使ったが、その気持ちは今も変わっていない」とした上で、公害防止協定が結ばれた経緯を挙げて「約束というのは行政にとって大変重要なものだ。協定の立会人の立場を引き継ぐのが私だ」と述べた。会談後、秀島市長は「4年間動かなかったのは、そう簡単に動くような約束事ではなかったということ。誰が来ようとも約束事が大切だと、地元の者として捉えている」と話した。昨年12月に佐賀空港への配備を容認する決議を賛成多数で可決した佐賀市議会では、小野寺氏が自ら決議に触れて「後押しする決議で、日本の安全保障についてしっかりとご判断をいただいた」と感謝した。武藤議長らは緊密な情報の提供を求めた。
●「オスプレイ危険」市民団体抗議
 自衛隊輸送機オスプレイの佐賀空港への配備計画に反対する市民団体は23日、佐賀県庁前で抗議活動を行った。小野寺五典防衛相の来佐に対し、約80人が「危険なオスプレイを飛ばすな」「神埼市の自衛隊ヘリ墜落事故は原因が分からず、まだ終わっていない」などと反発した。参加者は横断幕やのぼりを手にして「防衛省は断念しろ」などと声を合わせた。小野寺氏が乗った車が県庁に入る際には「帰れ」と怒号を上げた。県平和運動センター副議長の松永憲明佐賀市議は「相次ぐオスプレイの事故の検証は米軍任せ。日本の主権が及んでいない状況が許されていいのか」と批判した。計画に反対している「住民の会」の古賀初次会長(佐賀市川副町)は「ヘリ事故の影響は続いているのに大臣が訪問するなんて、住民の気持ちを踏みにじっている」と憤った。その上で「オスプレイが配備されれば、施設からの排水などで有明海のノリ養殖に被害が出てしまう」と強い懸念を示した。
●「協議再開早い」 陸自ヘリ墜落の神埼
 神埼市千代田町に陸上自衛隊目達原駐屯地(神埼郡吉野ヶ里町)所属の戦闘ヘリが墜落した事故から半年が経過するのを前に、小野寺五典防衛相が佐賀県を訪れ、オスプレイ配備計画の協議再開を申し入れた。事故現場の地元住民は、原因究明途上での協議再開に複雑な思いを抱く。「タイミングははっきり言って早い」。事故現場で区長を務める樋口邦敏さん(68)は憤りを隠せない。8月5日で事故から半年を迎える。防衛省が6月に公表した事故の中間報告では、最終的な原因究明には至っていない。「オスプレイは別件かもしれないけど、国の思うようにされているようで…。ちょっと強引じゃないだろうか」。一方、松本茂幸神埼市長は配備の賛否は明言しなかったが「国防上必要であれば(配備は)やむを得ないのでは」とした上で、ヘリ事故で協議が中断していたことに触れ「だからといって(計画を)止めてしまうと国民の安全が守られない」と指摘。協議再開に理解を示した。

<国内資源開発の重要性>
PS(2018年7月26日追加):*13-1の日本の海洋資源である石油・天然ガスを掘削する会社こそ、最初は国費で援助しても伸ばすべきだった。その理由は、①シェールオイルは安価でも外国に支払う金であり、日本のエネルギー自給率を上げないこと ②*13-2のように、エネルギーがすべて水素や電力に変わったとしても、化学工業に石油・天然ガスは必要であること などだ。そして、経産省が、このような近視眼的で世界の産業振興を見ていない政策を採ることこそが国民経済の足を引っ張っているのであるため、現状維持(実際には現状維持もできない)や過去への回帰(世界が前進している時に日本だけ後退する)志向はやめるべきである。

  
  賃金推移国際比較   1人当たり国民総所得国際比較   実質・名目賃金推移   

(図の説明:日本は、再エネやEVで世界の先頭だったにもかかわらず、馬鹿げたバックラッシュが多いため、他国に後れをとった。しかし、これは一例であり、賢い選択と予算配分を行わないのが、一人当たり国民所得が先進国中最低である原因だ。また、日本だけ、賃金が下降傾向である。もちろん、実質賃金も上がっていない)

*13-1:https://www.asahi.com/articles/DA3S13606419.html#MainInner (朝日新聞 2018年7月26日) 海の石油・ガス掘削、苦境 シェールオイル本格化で一転
 「会社が苦しいのは分かっていたが、まさか破綻(はたん)するとは……」。6月29日、東京・秋葉原で開かれた日本海洋掘削の株主総会。出席した株主の男性がため息をついたのも無理はない。東京地裁に会社更生法の適用を申請したのは、総会の1週間前のことだった。同社は、海洋資源である石油や天然ガスの掘削を日本で唯一手がける専門会社。「リグ」と呼ばれる巨大な掘削装置で世界中の海底に眠る資源を取り出すのが仕事だ。高度成長期の1968年に石油開発公団(現・石油資源開発)や三菱鉱業(現・三菱マテリアル)などが出資して設立され、2009年に東証1部に上場した。主力のリグ「ジャッキアップ型」は35階建てのビルに相当する高さで、100人以上のクルーが寝泊まりする。資源メジャーと呼ばれる石油開発企業などから依頼を受けて油田を掘り、その工賃が収入になる。リグは1基あたり数百億円。受注を続けながら購入やリースにかかる費用を支払う形で、5基ほどを運用してきた。世界で初めて海底地下のメタンハイドレートからガスを掘り出すことに成功した海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」もリグの一種で、子会社が運用を受託している。転機は05年ごろに訪れた。中国やブラジルなど新興国の成長に伴い原油の需要が急増。相場は過熱し、08年の原油価格は1999年の約5倍になった。14年3月期には過去最高の売上高を記録。受注が増えると見込んで拡大路線にかじを切り、14年秋にリグを10基に増やすことを決めたが、直後に原油市場に異変が起きた。米国でシェールオイルの生産が本格化し、15年の原油価格は2年前の5割ほどに急落。資源メジャーによる海洋開発需要も落ち込んだ。かつては原油価格が下がっても1~2年すれば回復し、受注も戻るのが常だった。「過去の経験に頼った投資判断のミス。シェールオイルの出現で原油市場のメカニズムが変わった」(広報)。低迷が3年も続いたのは想定外だった。16年3月期に純損益が赤字に転落。その後も赤字幅は拡大し、18年3月期に155億円の債務超過に陥った。4月下旬に記者会見した市川祐一郎社長(当時)は退任の意向を表明し、スポンサーを探して再建への道筋をつけると述べた。この時点では、債権者の同意によって再建計画をまとめる「私的整理」を目指していた。だが、経営の先行きについて金融機関など大口債権者の見方は厳しく、再建計画をまとめるには至らなかった。7月下旬に迫っていたリグに関する費用の支払いができない見込みになり、法的整理を選択せざるをえなくなった。設立にかかわった大株主2社も支援には消極的で、ともに増資を見送った。筆頭株主の石油資源開発は「原油価格の低迷で弊社も業績は良くない。もともとべったりの関係ではない」(広報)と素っ気ない。2位株主の三菱マテリアルも「石油は国際情勢の影響を大きく受けるし、先行きがどうなるか読みづらい」(首脳)と慎重だった。原油価格は昨年以降、復調気配にある。破綻後に社長に昇格した安井泰朗氏は、受注が増えていることを理由に再建への自信をにじませるが、シェールオイルの生産量が読み切れているわけではなく、原油価格が急落する恐れは残る。石油の調達先が多角化し、掘削への期待も高まってはいない。株主総会の終了後、別の男性株主は漏らした。「なかなかスポンサーが見つからないという事実は、この会社への期待感が薄いことを表している。技術を生かせる新たな仕事を探さないと生き残れない」

*13-2:http://qbiz.jp/article/138100/1/ (西日本新聞 2018年7月26日) 水素タウン再始動 東京五輪後の選手村で活用 北九州で実証実験開始
 北九州市とガス・エネルギー関連事業を展開する岩谷産業(大阪市)は、水素を活用したエネルギー供給の実証実験を7月から、「北九州水素タウン」(北九州市市八幡東区東田地区)で再開した。2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会後の選手村地区で、東京都による水素エネルギー供給事業が本格始動することを受け、都市部で実証実験が可能な国内唯一の立地条件を生かし、実証実験に取り組む。北九州水素タウンは1・2キロのパイプラインを備える。実証実験では、パイプラインを使って水素漏れを検知するセンサーの開発に取り組み、既に住人が居住している東田地区の「水素燃料電池実証住宅」で、最新型の燃料電池の耐久性を検証するなどする。選手村地区でのエネルギー供給事業は、現地に水素ステーションを設置し、燃料電池バスや自動車に供給したり、住宅での発電に活用したりして、水素を生かした街づくりを進める。北九州水素タウンでは、2010〜14年度に新日鉄住金八幡製鉄所で発生した水素をパイプラインに流し、商業施設などに設置した燃料電池で発電する世界初の試みに取り組んだ経緯がある。市関係者は「東京五輪を契機に『環境都市』としての取り組みを世界にアピールし、水素ビジネスに取り組む企業に実証フィールドが北九州にあることを周知していきたい」と意気込む。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 11:39 AM | comments (x) | trackback (x) |
2018.1.15 新エネルギーと新技術 (2018年1月15、16、17、18、19、21、22、23、24、27、28、29日に追加あり)
 太陽 あけまして、おめでとうございます。今年も、よろしくお願いします。 

(1)即時脱原発の必要性
 経産省が原発新設の議論に着手し、東京電力は原子力事業を安定的に続けるため、国に経営環境の整備を求めているそうだ。しかし、原発ほど金のかかるエネルギーはなく、著しい公害を垂れ流した企業自身が責任を持たないビジネスは他にない。そのため、これでも目が覚めずに原発の再稼働や新設を進めるのであれば、ビジョンなき日本は世界の敗者になるという*1-2の見解に、私は、全く同感だ。エネルギー基本計画で、原発を「重要なベースロード電源」としている経産省の先見の明のなさこそが、日本経済の重大なリスクである。

 そのような中、*1-1のように、脱原発・自然エネルギー推進の民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)」が、国内原発の即時廃止を目指す「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の骨子を発表し、顧問の小泉元首相と同じく顧問の細川元首相が、国会内で記者会見された。私も、原自連会長で城南信用金庫顧問の吉原毅氏と同様、「自然エネルギーへの転換は経済界にとってもビジネスチャンスであり、テロで原発が狙われることもなくなる」と考える。さらに、日本国内で自然エネルギー技術を磨いておくことは、今後、東南アジア、アラビア、アフリカ諸国が、自由主義経済の中に新興プレイヤーとして参加してくる時に、売れるものができるという意味で重要である。

 なお、経団連の次期会長に内定した原発メーカー日立製作所の中西会長は、日立製作所が英国で進める原発事業に融資額1兆1千億円に対する債務保証(=問題が起こったら日本国民の税金を投入するということ)を日本政府からしてもらうため、「再稼働は必須」などと日本政府の言いなりになるだろう。しかし、日立は、みやぎ生活協同組合・宮城県富谷市と水素社会構築を推進する実験を行い、太陽光発電由来の電力で水を電気分解して水素を製造するサプライチェーン構築に向けた実証をするそうで、これは環境省の「平成29年度地域連携・低炭素水素技術実証事業」に採択されているのだ。つまり、エネルギーに関しては、過去と決別した選択と集中を行うべき時が来ているのである。

(2)持たざる人々にとっての太陽光発電とゼロエネルギー住宅



(図の説明:一番左のグラフのように、世界の太陽光発電導入量は自然な等比級数を描いて増加しているが、日本の太陽光発電導入量は自然でない低迷を続けており、恣意的に導入が抑えられていることがわかる。また、太陽光発電の発電コストも、他国と比較して2倍前後の高止まりで、日本の太陽光発電システムのコストはヨーロッパの1.8倍に近い。しかし、太陽光発電は、先進国だけでなく、電気が引かれていなかった地域でも容易に取り入れることができ、生活を一変させることができるものであるため、日本も決して疎かにすべきではない)



(図の説明:著しい省エネを実現する方法に地中熱を利用したヒートポンプがあり、これは世界で使用可能だ。そして、これは、住宅のみならず施設園芸《ハウス栽培》にも使うべきである)

 昼は太陽が照りつけ、夜は漆黒の闇が訪れていたタンザニアの農村地帯で、*1-3のように、日本で技術開発された太陽光発電とLEDが活躍し、住民の生活を変えた。次に新興国となる11億人の人口を擁するアフリカやインド北部のピパルガオン村で、大規模発電所を飛ばして太陽光発電等の自然エネルギーが使われるのは、これまで先進国と言われていた国を追い越す可能性さえ秘めている。しかし、日本も、既得権益者の妨害によって、これまで“持たざる国”だった地域よりも遅れるのは避けるべきである。

 なお、その気になれば、太陽光発電装置で充電したランタンを25円で貸し出すことができるのに、日本では太陽光発電による電力は高いと言われ続け、太陽光発電装置の価格が高止まりしているのは恣意的だろう。

 さらに、*1-4のように、アルジェリアは、東京大学の鯉沼客員教授らが提唱したサハラ砂漠の砂から生産した結晶シリコンを太陽電池パネルに利用して、日照の豊富な北アフリカで大規模な太陽光発電を展開する「サハラ・ソーラー・ブリーダー(SSB)」に軸足を移すそうだ。確かに、その国に豊富にある資源を使って開発するのが最も賢い。SSBには、アルジェリアの国営電気ガス公社傘下の関連企業など複数の現地企業が参加の意向を表明し、ドイツの関連企業や日米欧の金融機関が関心を寄せているそうだが、こういうベンチャー企業は将来性があるだろう。

 他に、日本の技術のうちインド・アラビア・アフリカ等で人気が出そうなのは、*1-5のゼロエネルギー住宅だ。これらの地域では、太陽光発電による電気エネルギーから家庭の消費量を引いても、エネルギー収支はゼロどころかプラスになると思われる。しかし、日本製は、ちょっといいと非常に高価なため、輸出では外国製に負けるのが問題だ。

(3)これまで持たなかった人々が選択するEV
 世界の自動車市場で新興国が台頭し、*2-1のように、インドの2017年の新車販売台数は401万台となってドイツを抜き、世界第4位に浮上したそうだ。これは、インドの人口が世界第2位の約13億4,000万人であることを考えれば当然で、インドの自動車保有台数は今後も増え続けるだろう。そして、2020年には日本も抜くとみられており、これらの国が大気汚染を引き起こす化石燃料車を使う選択肢はない。

 また、世界最大の中国市場も、2017年の新車販売台数が2,887万8,900台で電気自動車(EV)などの販売が約5割伸びたそうだが、中国もインドと同様に化石燃料車を使用する選択肢はない。ちなみに、2017年の世界全体の自動車販売台数は9,451万台で、中国・インドの2カ国で世界の1/3を占めるそうで、中国政府は、購入補助金・ナンバープレートの発給・メーカーへのEV販売の義務付けなどでEVを優遇して新エネルギー車を伸ばし、今後は、EVの購入者が充電切れを心配する「走行距離不安症」にならないよう、*2-2のとおり、2020年までにEV充電施設を480万カ所設置するそうだ。私は、駐車場に、デザインよく太陽光発電Roofを取り付けて、EVの充電施設と連結すれば、無料に近い安さでEVに充電できると考える。

 さらに、自動車先進国のアメリカでも、北米国際自動車ショー(通称デトロイトショー)で、*2-3のように、EV化・自動運転化の波がショーの雰囲気を変えつつあるそうだ。

 EVの「走行距離不安症」を煽った張本人の日本でも、*2-4のように、トヨタとマツダが設立したEVの基盤技術を開発する新会社にスズキ、スバル、ダイハツ、日野自動車の4社が参加し、各社の知見を共有して開発を加速しつつ、コストを抑えるそうだ。しかし、自動車のEV化は、1995年前後に夫の学会に同伴してインドに行き、当時のインドを見て私が経産省に提言したものであるため、海外勢の方が先行して今頃あせっていること自体がおかしく、その原因を改めなければ他の先進技術でも同じことが起こるのである。なお、*2-5のように、三菱自動車もEVを大幅に拡充することにしたのは、移動手段を徹底してEVか燃料電池に変更し、その動力を国産の自然再生可能エネルギー由来に変えるにあたって選択肢が増えるため良いことだ。

(4)電力自由化とエネルギー新時代



(図の説明:農業も太陽光発電とハイブリッドで収益を上げることができ、地域によっては風力発電も使えるだろう。風力発電を使う際は、3枚羽の大型発電機より、大型発電機と同等の力を出す小型で安価な製品を作るのがよく、これは理論的に可能だ)



(図の説明:九州大学は、一番左の図のように、輪の中を風が通ると強くなる風レンズ風車を開発した。真ん中の図のように、養殖場などに設置し、漁船も電動化して、漁業は発電とハイブリッドで収益を挙げられるようにすれば、いろいろな問題が同時に解決するだろう。なお、洋上風力発電も、コスト削減を行い、環境を考えながら行うべきであることは他と同じだ)

 日本でも、電力自由化により、誰でも電力を販売することができるようになったため、*3-1のように、久留米商工会議所の若手経営者が新電力会社「くるめエネルギー」を設立して、2018年春のサービス開始を目指しているそうだ。私も、大手電力会社に電気料金を払って資金が地域外に流れるよりも、市内の電力会社に電気料金を払って地域内で資金を循環させ、市の税収増に繋げた方が地域にとってよいに違いないと考える。また、商工会議所青年部なら、付随サービスに関する工夫にも長けていそうであるため、社長が「一番の目的は地方創生。各地の青年部からも注目されており、全国のモデルケースになりたい」と語っておられるのは楽しみだ。

 それでは、どうやって発電するのかと言えば、太陽光発電はもちろんのこと、*3-2のように、北九州市は、響灘地区に洋上風力発電の風車組み立てや専用積み出し岸壁などを整備する方針を固めたそうだ。しかし、私は、3枚羽の大型風車は効率が悪い上に景観を害するため、上の図のように、3枚羽の数倍のパワーが出る小型風車を開発した方が賢明だと考えている。また、魚や海苔の養殖施設に合わせて建設すれば、漁業者が船を電力船にして充電した上、ハイブリッドで収入を得ることが可能になるため、多くの問題が解決するだろう。

 しかし、*3-3、*3-4のように、日本では、経産省が「①同じ地域で複数の事業者が巨額の投資で送電線を作るのは社会全体として非効率なので、送配電事業は大手電力会社の独占が今後も続く」「②東日本と西日本をまたぐ送電は、電力の周波数が異なる」「③再生可能エネルギーの発電量の変動が・・・」などと言っている。しかし、②③のように、技術的にはすぐ解決できることを長期間解決しないのは、まさに①のように、大手電力会社の独占状態で甘えているからであり、独占や寡占など競争のない状態が経済を非効率にして悪影響を与えるというのは経済学の常識だ。日本の経産省はそんなことを知ってか知らずか(私は前者だと思うが)、日本経済の正常な発展を邪魔するので、困るわけである。

(5)伊方原発差止仮処分に関する広島高裁決定について
1)伊方原発差止仮処分
 広島高裁は、*4-1のとおり、四電に対し、周辺住民の人格権侵害に基づいて、2018年9月30日まで伊方原発3号機原子炉の運転差止を命じる仮処分決定を言い渡し、これは初めての高裁での原子炉運転停止を命ずる決定で意義深いそうだ。そして、この決定の根拠は、阿蘇の噴火は過去最大の噴火(約9万年前)規模を想定すべきで、その時は火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が小さいとは言えず、より小さな規模の噴火の際の降下物の層厚や大気中濃度の想定も過小評価であると認め、伊方原発の立地は不適であるとしている。

 また、この決定は、国民の人格権に基づき、国民を放射性物質の危険から守るという観点から司法の果たすべき役割を見据えてなされた画期的なものでもあり、ここで示された火砕流噴火に関する判断は九州、四国、北海道、東北の原子力施設に、降下火砕物に関する判断は、他の全ての原子力施設に当てはまるため、政府はこの決定を受けて速やかに原発を廃止して再生可能エネルギーを普及させ、これまで原発が立地してきた地域は原発に依存することなく自律的発展ができるように必要な支援を行うことを求めるとしており、私も全く同感だ。

 この決定に対しては、*4-2の東京新聞は、仮処分の効力が2018年9月末で切れることを指摘しつつ好意的であり、*4-3の西日本新聞は「九州にも警鐘鳴らす判断」としており、*4-4の南日本新聞(川内原発の地元)も「火山噴火は、九電川内原発の近隣住民も共通して抱く懸念材料だ」としており、*4-5の愛媛新聞は社説で「ある程度の安全で許されるといった、住民の不安に向き合わない乱暴な論理は決して容認できない」としている。

 それでも、*4-6で西日本新聞が記載しているように、九電玄海原発の再稼働を巡って、「神戸製鋼の製品データ改ざんがあっても玄海再稼働に問題はない」と九電社長が佐賀県知事に報告しているが、いくら細かな安全対策を積み重ねても、原発が事故を起こしたら終わりであることを、地元住民は忘れてはならない。

<脱原発と世界の潮流>
*1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201801/CK2018011102000129.html (東京新聞 2018年1月11日) 【政治】原発即時ゼロ法案 小泉元首相ら野党連携へ
 脱原発や自然エネルギーを推進する民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)」は十日、国内原発の即時廃止を目指す「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の骨子を発表した。国会内で記者会見した顧問の小泉純一郎元首相は「安倍政権で原発ゼロを進めるのは難しい」と断言し、他の勢力を結集し脱原発を進める意欲を強調した。同様の法案提出を目指す立憲民主党など野党も連携する意向で、国会内外で脱原発に向けた法案提出の機運が高まった。法案の「基本方針」には、運転中の原発を直ちに停止し、停止中の原発は今後一切稼働させないと明記。原発の新増設も認めず、核燃料サイクル事業からの撤退も盛り込んだ。今後は太陽光や風力などの自然エネルギーに全面転換し、二〇三〇年までに全電力の50%以上、五〇年までに100%を目標に掲げる。国には「責務」として、目標の達成に必要な措置を求めた。今後、各政党に法案への賛同を促し、二十二日に召集予定の通常国会への提出を目指す。脱原発を巡っては、立憲民主党が同様の法案提出を目指す。原自連は法案発表後、立憲民主幹部らと意見交換して連携を確認。今後、希望の党など野党各党との意見交換も予定する。安倍政権は原発再稼働を進めてきたが、東京電力福島第一原発事故から三月で七年を迎えるのを前に、政党と民間との間で脱原発を目指す連携が再び強まる。小泉氏は十日の会見で、「自民党には安倍晋三首相が(原発政策を)進めているから仕方ないなという議員が多いだけ。来るべき首相が原発ゼロを進める方針を出せば、がらっと変わる。野党がどう出るかだ」とも指摘し、自民党総裁選や国政選挙での原発政策の争点化に期待を寄せた。原自連会長で城南信用金庫顧問の吉原毅氏も会見で自然エネルギーへの転換に関して「経済界としても大ビジネスチャンス。テロで原発が狙われることもなくなる」と訴えた。原自連は昨年四月に発足し、二百以上の民間団体や企業などが加盟。十日の会見には小泉氏とともに顧問を務める細川護熙(もりひろ)元首相らも出席した。
◆経団連次期会長「再稼働は必須」
 国内の原発四十基のうち、現在稼働しているのは関西電力高浜原発3、4号機(福井県)と、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の計四基。政府は原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、他の原発も再稼働させる方針。経済界も「再稼働は必須」と安倍政権に歩調を合わせる。稼働中とは別の十基について、原子力規制委員会が新規制基準に適合していると判断し、このうち関電大飯原発3、4号機(福井県)と九電玄海原発3、4号機(佐賀県)が三月以降に再稼働する見通し。一方、適合と判断された四国電力伊方原発3号機(愛媛県)については先月、広島高裁から今年九月末までの運転を禁じる仮処分命令が出された。伊方を含めて全国十四の原発を巡り、運転差し止めを求める訴訟が起こされている。菅義偉(すがよしひで)官房長官は十日の記者会見で「安全性の確認された原発のみ、地域の理解を得ながら再稼働を進める政府の一貫した方針は変わらない」と強調した。経団連の次期会長に内定した原発メーカー日立製作所の中西宏明会長も九日、再稼働は必須との考えを記者団に示した。

*1-2:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171216-00096494-playboyz-pol (Yahoo、週刊プレイボーイ 2017.12.16) 「原発の新設」で日本は世界の敗者になる──安倍政権と原子力ムラの呆れたやり口とは?
 国民に原発への根強い抵抗感があるなか、安倍政権が原発の新設に動き出したという。『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が落胆する、安倍政権や原子力ムラのやり口とは――?
     * * *
 慌ただしい年の瀬に、目立たないが気になるニュースがふたつ流れた。ひとつは国の「エネルギー基本計画」見直しのなかで、「経産省が原発新設の議論に着手した」というニュース。もうひとつは「東京電力が原子力事業を今後も安定的に続けるため、国に経営環境整備を求めた」というニュースだ。まず原発新設のニュースについて。安倍政権は2014年に「エネルギー基本計画」を策定し、原発を国の「重要なベースロード電源」と位置づけた。それを前提に、翌15年には30年度の電源構成で、原発の比率20~22%を目指すことを決めた。この数字の意味することは原発の新・増設である。なぜか? 原発は運転期間40年で廃炉にするというのが基本原則だ。これを忠実に実行すると、30年の原発シェアは15%までに下がる。20~22%のシェアを死守するには、40年廃炉をやめて、古い原発をどんどん運転延長することが必要だが、安全対策などの費用がかさむので、延長できない原発も多く、どうしても原発の新・増設が必要となるのだ。ただ、国民に根強い抵抗感があるなかで原発の新設を言いだせば、内閣支持率が急落する恐れがある。そのため、安倍政権はこの議論を封印し、「原発を新設するのか?」と問われても「現時点では考えていない」などと、うやむやにやり過ごしてきた。そして、ふたつ目の東電のニュース。「経営環境整備を求めた」とは、つまり原発ビジネスで東電に赤字が出ないように様々な支援措置を講じてくれということだ。具体的には、固定価格買取制度や赤字補填(ほてん)制度のように絶対に損をしない仕組みや、事故を起こしたときの損害賠償を1兆円程度に抑えて、あとは国が責任を取る仕組みなどが考えられる。その財源はもちろん税金。とんでもない話だ。そもそも、発電コストが安いという理由から、原発は「重要なベースロード電源」に選ばれたはずだった。しかし、安全対策コストの増加などで、その神話は崩れ去っている。廃炉費用なども含めれば、原発の発電コストは火力などのほかの電源に比べると、逆に割高になっているというのが実情だ。本来なら、エネルギー基本計画見直しのプロセスで、原発を「重要なベースロード電源」から外すのが妥当なのだが、安倍政権も原子力ムラも、どうしても原発を維持したい。そこで「原発はベースロード電源を担う大切な存在だから、たとえコスト高でも国が税金を投入して守るべき」という倒錯した論理をひねり出し、東電に政府支援を要請させたというわけだ。このふたつのニュースは、安倍政権の支持率を下げる要因となる可能性が高い。だが、10月の総選挙で大勝し、安倍政権の基盤は再び強化された。しかも、19年の参院選まで2年間、国政選挙がない。今なら不人気政策を決めても選挙までに国民は忘れるーーおそらくそんな判断が働いたのだろう。原発から再生可能エネルギーへと急速にシフトする世界の潮流のなかで、いまだに原発にこだわる日本。ビジョンなき国家は没落する。このままだと日本は近い将来、世界のエネルギー産業市場で敗者になることは確実だ。安倍政権や原子力ムラのやり口には、本当に呆れ果てるばかりだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

*1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180103&ng=DGKKZO25284640S8A100C1MM8000 (日経新聞 2018.1.3) (2)持たざる11億人、市場に 技術と低価格の「光」
 昼は太陽が照りつけても、夜は漆黒の闇が訪れるタンザニアの農村地帯。ワッシャ(東京・台東)の秋田智司最高経営責任者(CEO)は充電した発光ダイオード(LED)ランタンを手に村々を回る。「ランタンの使い心地はどう?」。「生活が変わったよ。料金がもっと下がるとよいね」
●25円で貸し出し
 個人商店に設置した太陽光発電装置で充電したランタンを1泊2日で貸し出すレンタルの料金は500タンザニアシリング(約25円)。この地域の低所得者層の平均月収である60ドル(約6800円)でも何とか払える額だ。人々は明かりのほか、携帯電話の充電などに使う。低料金を実現したのはインターネットなどの技術を活用したからだ。太陽光発電には制御装置を付け、ネットを通じて発電量や充電回数を遠隔管理。使った電気代は商店からモバイル送金サービス「Mペサ」で受け取る。これまで150万人に電力を提供している。独シーメンスの創業者、ヴェルナー・フォン・ジーメンスが実用的な発電機を発明してから150年あまり。これまでの多くの技術と同様に電気も先進国から世界に広まってきた。だが現実には電気のない生活をする人が世界に11億人もいる。その“持たざる人たち”の状況が変わりつつある。ネットなど新技術を駆使し、新しい発想を取り入れ、商品やサービスの価格を大幅に低下。所得の低い新興国でも使いやすくすることで、これまで世界とつながっていなかった人たちも世界市場に入るようになった。インド北部のピパルガオン村で電力を供給するのはOMCパワーだ。小型太陽光装置が携帯電話の基地局に電力を供給。加えて周辺1~2キロメートルに住む住民にも一部電力を供給する。主力の基地局向けが安定しているため、近隣住民には電力料金を安く提供できる。「物理的な分散化とデジタル的な統合化が同時進行する新しいグローバリゼーションの動きが加速している」とボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の木山聡パートナーはみる。電気だけではない。ネットを使えない人は40億人、金融サービスを利用できない成人は20億人いる。ケニアで生まれたMペサは携帯電話で送金できる利便性が受け、利用者は3千万人を超えた。欧州にも広がる。基礎インフラがないからこそ、困難を乗り越える技術が生まれ、これまでとは逆に先進国にも普及する。
●緑の革命めざす
 シンガポールの大手商社オラム・インターナショナルが目指すのは創業の地アフリカでの「緑の革命」。ガボンの農園でドローンを飛ばし、農作物の発育を監視するほか、ビッグデータを使って肥料散布などをアドバイスするIT支援を実施。食料自給率が低いアフリカを変え、世界の農業も変革するかもしれない。技術と低価格が灯(とも)す「光」。持たざる人が市場に加われば、世界の経済成長をけん引する大きな力になる。

*1-4:http://www.arsvi.com/i/2alg2012.htm#20120725 (日経ビジネス 2012年7月23日号) サハラで発電、日本が存在感
 サハラ砂漠の再生可能エネルギー計画が転機を迎えている。アルジェリアは、日本提唱の太陽光発電構想に軸足を移す。砂漠の砂から太陽電池用のシリコンを作る技術に注目した。
「国力のある我々は、自由にパートナーを選べる立場にある。デザーテックのようなプロジェクトに加わるには細心の注意が必要だ。歴史的な軋轢がなく、技術力を持つ日本と協力したいというのが国内の共通認識だ」。こう明言するのは、シド・アリ・ケトランジ駐日アルジェリア大使だ。デザーテックは、欧州が提唱する巨大な再生可能エネルギープロジェクト。アフリカの砂漠地帯に太陽熱や風力による大規模な発電施設を建設し、欧州など近隣地域の電力需要を賄おうとする壮大な構想だ。2050年までの総投資額は40兆円とも言われる。国土の大半がサハラ砂漠で石油、ガスなどの資源に恵まれるアルジェリアは、立地的にも財源的にもデザーテック構想の“カギ”を握る。そのアルジェリアが現在高い関心を寄せるのが、東京大学の鯉沼秀臣客員教授らが提唱した太陽光発電計画「サハラ・ソーラー・ブリーダー(SSB)」だ。SSBは、サハラ砂漠に無尽蔵に存在する砂から生産した結晶シリコンを太陽電池パネルに利用し、日照の豊富な北アフリカ地域で大規模な太陽光発電所を展開する構想。将来的には、超電導ケーブルを使って欧州など周辺国に送電することも視野に入れている。最大の売りは、太陽電池用のシリコンを潤沢に確保できることなどから、低コストでの発電が可能になることだ。アルジェリアにとっては、材料やプラントなど関連産業への波及効果が大きいという利点もある。日本からは東大などが研究チームに参加し、2010年から科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が資金助成を始めた。アルジェリアは現在、オラン工科大学など3拠点でSSB向けに1000平方メートル級の実験施設を建設中だ。砂に含まれるシリコン成分を高純度化する実験も始めた。SSBには、アルジェリアの国営電気ガス公社傘下の関連企業など複数の現地企業が参加の意向を表明。ドイツの太陽電池関連企業や、日米欧の金融機関も関心を寄せている。
●周辺国でも高まる関心
 アルジェリアは、民間や海外の資金を合わせ、2030年までに再エネ関連に10兆円弱を投じる計画。だが、独シーメンスなど欧州が旗を振るデザーテックに対しては、資金拠出だけを担わされかねないとの警戒感が根強く、不参加の方針だ。一方、SSBで日本と組めば、アルジェリアはシリコンの精製技術や太陽電池パネルの生産技術などを導入できるとの思惑がある。同国の世論も変わりつつある。今年5月、現地の有力紙リベルテは、「SSBがデザーテックに取って代わる」と題した記事を掲載。「デザーテックを拒否した我が国の関心は、日本との共同プロジェクトであるSSBに向かっている」と論じた。「太陽熱」から「太陽光」に軸足を移す流れは、アルジェリアに限らない。アフリカ諸国では先進国の協力で多くの太陽熱発電事業が動いているが、技術やコストの面で予想以上に問題が多く、壁にぶつかっている。SSBの関係者は「(日本と共同で太陽熱発電を展開する)チュニジアでもSSBへの切り替えを探る動きがあるほか、エジプトやモロッコでも関心が高い」と話す。ただ、SSBにも課題はある。アルジェリアは、シリコン生産から太陽電池の製造まで一貫して手がけるため、日本の大手プラント会社やシリコンメーカーに協力を要請中。しかし、今のところ日本企業の参加意欲は高まっていないようだ。民間の資金や技術を呼び込めるかどうかが、砂漠の一大構想の成否を分けそうだ。

*1-5:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO09713420Y6A111C1L31000/ (日経新聞 2016/11/19) ゼロエネルギー住宅(ZEH)とは
▼ゼロエネルギー住宅(ZEH) 家庭のエネルギー消費量から太陽光パネルなどで発電したエネルギーを差し引き、エネルギー収支を実質ゼロにした住宅。断熱性の高い窓や壁などの外皮性能を高めることで省エネ化を実現する。屋根の面積が狭いなど制約のある場合に実質ゼロに近づけた住宅は「ニアリーZEH」と呼ばれる。政府は20年までに新築住宅の半数以上をZEHとする目標を掲げる。

<EV>
*2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25570090R10C18A1MM8000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2018/1/11) インド車市場、独を抜き中米日に次ぐ 17年400万台
 世界の自動車市場で新興国が台頭している。インドの2017年の新車販売台数は401万台となり、ドイツを抜き世界4位に浮上した。20年にも日本を抜くとみられる。世界最大の中国市場では17年、電気自動車(EV)などの販売が約5割伸びた。新興国の自動車市場は台数増加だけでなく技術革新でも世界の主戦場となりつつある。インド自動車工業会(SIAM)が11日発表した17年12月の販売は前年同月比14%増の32万2074台だった。17年通年は前年比10%増の約401万台となり過去最高を更新した。インドの人口は世界2位の約13億4000万人で若年層比率も高い。英IHSマークイットの予想ではインド市場は今後も年率1割近い成長が続き、20年にも日本を抜き世界3位に浮上する。インドの自動車市場は10年で2倍になった。背景には経済成長に伴う所得の拡大がある。世界銀行によるとインドの16年の1人当たり国内総生産(GDP)は約1700ドルで07年(約1020ドル)に比べ7割増えた。中国で車の需要が爆発的に伸びたのは1人当たりGDPが3000ドルを超えてから。インドは3000ドルに満たないものの、農村部を中心に増えている初めて車を買う層が全体の約3割を占めるとされる。全体の8割を占める乗用車では、最大手マルチ・スズキが前年比15%増の160万台超となりシェアは49.6%と前年より2.6ポイント高まった。インドでは14年のモディ政権発足以来、16年度(16年4月~17年3月)まで実質GDPは7%台の高成長が続いた。17年度は新税導入の影響などで5~6%台の成長率にとどまったが、18年度は成長率が高まるとの見方が強い。インフレ率も足元で1~4%台の低水準で推移しており消費者の購買力が高まっている。ただ道路の整備が追いつかず首都ニューデリーなどでは渋滞が慢性化している。今後の成長にはインフラの整備が課題になる。一方、中国汽車工業協会は11日、17年の新車販売台数が前年比3.0%増の2887万8900台だったと発表した。英IHSマークイットの予想では17年の世界全体の販売台数は9451万台。中印2カ国で世界販売の3分の1を占める。中国ではEVを中心とする新エネルギー車が53.3%増の77万7千台と大きく伸びた。北京や上海などの大都市が渋滞緩和のためにナンバープレートの発給制限を強化しており、ナンバープレートを取得しやすい新エネ車の購入に向かう消費者が多い。購入補助金もプラスに働く。新エネ車で中国1位の比亜迪(BYD)のEV「e5」は北京で価格の3割に相当する補助金を得られる。中国政府は19年から一定比率の新エネ車の製造・販売をメーカーに義務付ける制度を導入し、20年に200万台の販売を計画する。日米欧の自動車メーカーが相次いで中国でのEV投入計画を発表しており、需要拡大を見込んで現地の車載電池メーカーによる開発や増産の投資が活発になっている。

*2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24215740U7A201C1000000/ (Financial Times、日経新聞 2017/12/4) 中国、20年までにEV充電施設480万カ所設置
 中国政府は、電気自動車(EV)の購入者がEVの充電切れを心配する「走行距離不安症」にならないようにするため、2020年までに車両数に見合った充電ステーションを設置する。中国は20年までに480万の充電設備や充電ステーションを設置する予定。中国国務院(政府)は先月、巨額の投資を行うことを改めて表明した。平安証券のアナリストは、この計画を達成するには総額1240億元(約2兆1000億円)の投資が必要となり、その全てでなくても大半を国の財源に頼ることになると話す。これはキプロスの国内総生産(GDP)にほぼ匹敵する。中国の充電設備・充電ステーションの数は9月末時点で19万ほどで、これでも世界のどの国よりも多いが、3年後の目標設置数に比べればほんのわずかでしかない。米国には4万4000の充電設備と1万6000の充電ステーションが設置されている。十分な数の充電ステーションを設置することは、EVの購買意欲を高めるカギと考えられている。EVは「中国製造2025」として知られる産業振興策の柱でもある。中国はEVを含む10のハイテク経済部門を指定し、それらの部門で25年までに世界市場を支配するか、市場の中心的存在になることを目指している。米ゴールドマン・サックスによると、中国は16年に世界のEVの45%を生産したが、30年までにその比率を60%に拡大するとみられている。
■ハイブリッド車に充電せず
 中国では今年、政府が車1台あたり最大6万元という多額の補助金を支給していることが寄与してEVの販売が急速に伸びているが、今後は補助金の引き下げが予想される。EV購入を検討する際の懸念事項として消費者から最も多く聞かれるのが、走行途中で充電切れになってしまうことへの不安だ。米コンサルティング会社アリックスパートナーズの関係者は、出身地の上海では多くの人々がバッテリーとエンジンの両方で走るハイブリッド車を買っているが、購入者が充電することはめったにないと話す。上海ではEVを購入すると補助金が得られ、ナンバープレートも無料で入手できるが、エンジン車の場合はこれが制限される。また、この関係者は「ハイブリッド車を持つほとんどの人が実際には従来のエンジンで走っている」とした上で、「上海でもまだ充電ステーションを探すのに苦労する。個人で駐車スペースかガレージを確保し、充電設備を自分で設置しなければならない状況だ」と話した。(2017年12月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

*2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25667900U8A110C1000000/ (日経新聞 2018/1/14) 「大型車の祭典」にも自動運転の波 北米自動車ショー
 15日に本格的な開幕を控える北米国際自動車ショー(通称デトロイトショー)でプレス発表会が米ゼネラル・モーターズ(GM)を先陣に始まった。自動車メーカーは通常、年初の世界最大の家電見本市CESで自動運転などの近未来技術、長期のサービス戦略を発表し、その翌週のデトロイトショーでは北米市場向けの大型車やスポーツ車のコンセプトモデルなど直近の戦略を発表する。だが、EV・自動運転化の波がショーの雰囲気を変えつつある。米ゼネラル・モーターズのメアリー・バーラCEOは13日、「2019年にハンドルのない自動車を出すことは完全自動運転への大きな一歩になる」と述べた。米ミシガン州デトロイト市で国際自動車ショーが開幕するのに先立ち、報道陣に語った。

*2-4:http://qbiz.jp/article/125498/1/ (西日本新聞 2017年12月31日) トヨタEV新会社に4社が参加 スズキ、スバルなど
 トヨタ自動車とマツダなどが設立した電気自動車(EV)の基盤技術を開発する新会社に、スズキとSUBARU(スバル)、トヨタグループのダイハツ工業、日野自動車の計4社が参加を決めたことが31日、分かった。各社の知見を共有して開発を加速し、コストも抑える狙い。EVで先行する海外勢に対抗する。4社は2018年1月以降に各5人程度を派遣し、新会社の技術者は計約60人となる。4社は当面出資せず、開発状況によって資本参加を検討するという。新会社にはトヨタが90%、マツダとトヨタグループの自動車部品大手デンソーが5%ずつ出資している。スズキとダイハツは小型車、スバルは中型車が主力。日野は商用車を手掛けている。新会社は幅広い車種に活用できる技術開発を図る。新会社はEVの車体の基本骨格や制御システムなどを20年ごろに確立することを目指しており、各社がそれぞれ市販車に応用する。

*2-5:http://qbiz.jp/article/125509/1/ (西日本新聞 2018年1月2日) 三菱自動車、EVを大幅拡充へ SUVや小型車、世界展開
 三菱自動車が電気自動車(EV)を大幅拡充する方針を固めたことが2日分かった。2020年以降に発売することを既に決定している軽自動車とスポーツタイプ多目的車(SUV)「RVR」の2車種に加え、別のSUVや小型車のEV発売を検討。中国や東南アジアでも売り出し、電動車両を世界で展開する。三菱自は09年、他社に先駆けてEVの軽自動車「アイ・ミーブ」の量産を始め、電動車両で先行している。欧州や中国をはじめ各国で環境規制が強まっている状況を踏まえ、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の車種を増やす。同社幹部は、各国の環境規制への対応には「EVが2車種では足りない」と指摘した。大型車はEVにすると大量の電池が必要になり価格も高くなるため、小型で短距離の移動に適した車両を中心に拡大する方向だ。三菱自は日本や欧州、米国で既に電動車両を販売している。成長が見込まれる中国にはEVを2車種以上投入し、東南アジアではPHVやEVを売り出す。時期は未定だが、できるだけ早期に発売したい考えだ。企業連合を組む日産自動車やルノーとの協力も広げ、EVの性能向上の鍵を握る電池開発などでも連携する。

<電力自由化と電力新時代>
*3-1:http://qbiz.jp/article/125592/1/ (西日本新聞 2018年1月5日) 電力新時代:電力で久留米を活性化 若手経営者ら結集し新会社 収益の一部で公園や防犯整備
 福岡県久留米市の久留米商工会議所青年部の若手経営者たちが、新電力会社「くるめエネルギー」(安丸真一社長)を設立、2018年春のサービス開始を目指している。地域活性化の観点から、収益の一部をインフラ整備に充てたり、契約者に還元したりする「地域還元型」経営が特徴。商議所青年部を母体とする新電力は全国初という。くるめエネルギーは、青年部の有志14社が共同出資して17年6月に設立。九州電力や卸電力市場から安価な電力を仕入れ、市内の一般家庭や事業所に、九電より2〜5%安く提供する。久留米市内で支出される電力料金は年200億〜250億円で、多くが九電や大手の新電力に支払われているという。くるめエネルギーに契約を切り替えることで「流出していたお金を市内で循環させ、市の税収増にもつなげたい」(安丸社長)との狙いがある。年明けから、市内の事業所を対象に小口の出資を募集。飲食店や宿泊施設といった出資事業所を利用した電力契約者が、割引などを受けられるサービスを展開する。出資事業所の負担にならないよう、サービス分は同社が広告費などの形で穴埋めするという。収益を公園や街灯、防犯カメラなどのインフラ整備に充てるほか、電力使用状況を活用した高齢者見守りサービスの計画もある。1年目の契約目標は、工場やオフィスなど消費電力が多い「高圧」200件、主に家庭、商店向けの「低圧」2千件。安丸社長は「一番の目的は地方創生。各地の青年部からも注目されており、全国のモデルケースになりたい」と語った。

*3-2:http://qbiz.jp/article/125593/1/ (西日本新聞 2018年1月5日)電力新時代:北九州市を洋上風力の製造・搬出拠点に 響灘地区に基地港湾整備 アジア初、海外市場視野
 北九州市が響灘地区(若松区)に、洋上風力発電の風車の組み立てや専用の積み出し岸壁などを整備する方針を固めたことが分かった。2021年度までの完成を目指す。洋上風力発電に特化した「基地港湾」はアジアで初めてで、市は製鉄や自動車に次ぐ北九州の主力産業に育てたい考え。欧州で先行している洋上風力発電はアジアでも普及が見込まれ、韓国や台湾などの海外市場もにらみながら整備を急ぐ。市によると、約40ヘクタールの用地を埋め立て中で、工事は18年度末に完了する。その後、発電事業者や部材メーカーなどの意見を踏まえ、100メートルを超える部材を置く保管場▽数百トンの重みに耐えられる組み立て作業場▽風車を洋上に設置する特殊作業船が横付けできる岸壁−などを整備する。隣接地に関連企業の事業用地も用意する方針。欧州で主力の出力5千キロワットの風車は羽根を含めた全長が約150メートルで、本体と羽根、発電機を合わせた総重量は千トンを超える。風車は陸上で組み立ててから洋上に運ぶため、海に近い場所に広い用地が必要になる。響灘地区には、風車の部材メーカー「日本ロバロ」(東京)やメンテナンス会社「北拓」(北海道)が既に進出。市は特殊作業船を持つ建設会社の誘致に向けて交渉を進めており、風力発電の製造から国内外への搬出までを一貫して担う拠点化を目指す。響灘の洋上では、九州電力子会社の九電みらいエナジーなどが、5千キロワットの風車を最大44基設置する事業に近く着手する予定もある。国内の風力発電の総出力は17年3月時点で、計画段階を含め1410万キロワット。市は、30年に国内のエネルギー需要の5%に当たる2930万キロワットが風力で賄われ、うち4割近い1040万キロワット(5千キロワットの設備で2080基)が洋上機になると見込み、全国に先駆けて「基地港湾」の整備に乗り出す。洋上風力発電の部品は自動車並みの2万〜3万点あり、産業としての裾野が広く、市は「地元企業が持つ技術が生かせ、波及効果も大きい」とメリットを強調している。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171222&ng=DGKKZO24945640S7A221C1EA2000 (日経新聞 2017.12.22)電力自由化 送配電は大手独占続く
▽…大手電力会社が地域独占していた電力制度を見直し、新規参入者などが自由に発電したり電力を売ったりするようにすること。国際水準から比較して割高だった日本の電力料金の低下などをめざし、政府は1990年代半ばから段階的に自由化を進めてきた。発電事業への参入は95年に認めた。▽…小売事業は2000年から工場など大規模な需要家への販売を対象に解禁。16年4月には家庭向けの販売にも広がり、全面自由化した。現在は発電事業には約600社・団体、小売事業には約450社・団体が参入している。一方、電力を需要家に届ける送配電事業は電力大手の独占が今後も続く。同じ地域で複数の事業者が巨額の投資で送電線を作るのは社会全体として非効率だからだ。▽…東日本と西日本をまたぐ送電は、電力の周波数が異なるため変換装置を通す必要がある。東日本大震災の際は装置の容量不足で送電が滞ったが、設備増強が進んでいる。再生可能エネルギーの発電量の変動を補う電力は災害時より少なく、融通に支障はない。

*3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180109&ng=DGKKZO25434160Y8A100C1NN1000 (2018.1.9) 電力融通へ新市場、地域越え入札可能 経産省、20年度開設めざす
 電力会社が送配電の際、需給に応じて必要な予備の電力を融通し合える新市場をつくる。大手電力が地域ごとに入札で購入していたが、全国から入札で安く買えるようにする。東京電力ホールディングスなど大手4社が連携を決めており、経済産業省は基盤となる市場整備を後押しし、他の電力大手を含む連携拡大を促す。2020年度の開設をめざしている。地域を越えた電力融通を巡っては、東電、関西電力、中部電力、北陸電力が大筋で合意済み。新市場づくりには、この4社に加え他の大手6社も参画する方向で調整している。沖縄電力は地理的に融通できないため、経産省は最終的に9社に連携が拡大することをめざす。電力会社が送配電をする際、需給の変動によって送る電力の品質にあたる「周波数」にぶれが生じる。質の良い電気を維持するには周波数を安定させる必要があり、ぶれを調整するために予備の電力を使っている。いまは大手電力が域内で個別に入札を実施し、自前の電源(発電)会社や新規参入の事業者(新電力)などから調達している。政府はエネルギー基本計画で、再生可能エネルギーの導入拡大をめざしている。16年度に発電量全体の15%程度だった比率を30年度に22~24%に高める計画。時間帯や天候で発電量が変動しやすい太陽光や風力発電の普及が進めば、予備電力の必要性が高まる。経産省は電力会社が相互に融通できる市場をつくり、再生エネ事業拡大の基盤整備にもつなげる。新設する「需給調整市場」では、例えば関電が管内で電力の必要性が高まれば、管内か管外かに関係なく価格などの条件が良い会社から予備電力を調達できるようになる。他の大手だけでなく新電力からも調達できる。全国的な入札で安く調達できれば、購入者側のコスト削減につながる。市場で融通できる予備電力の種類や量は段階的に増やしていく。市場の運営は電力会社が主体的に担うしくみを検討。代表会社を選び、システムの整備を始める。システムの仕様やどういった種類の予備電力を扱うかなど市場運営の詳細については、国が関与する電力広域的運営推進機関などに逐次報告しながら、協議を進める。同機関は市場開設後に運用を点検する役割も担う。これまで必要な予備電力の把握や、それに応じた調達を細かく決める機能は、大手電力会社の「中央給電指令所」と呼ばれる司令塔が地域ごとに担ってきた。経産省は市場を通じて、瞬時に全国的に需給を調整できる体制の構築をめざす。送配電事業の連携をテコに、大手各社に他の事業での協力拡大も促す。

<伊方原発差止仮処分広島高裁決定>
*4-1:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/171213.html (2017年12月13日 日本弁護士連合会会長 中本和洋) 伊方原発差止仮処分広島高裁決定に対する会長声明
 本日、広島高等裁判所は、四国電力株式会社に対し、伊方原子力発電所(以下「伊方原発」という。)3号機の原子炉について、周辺住民の人格権侵害に基づき、運転の差止めを命じる仮処分決定を言い渡した。
これまで、福井地方裁判所が、2014年5月に大飯原子力発電所3、4号機の運転差止めを命じる判決を言い渡し、2015年4月には高浜原子力発電所(以下「高浜原発」という。)3、4号機の運転差止めを命じる仮処分決定を言い渡した。また、大津地方裁判所でも2016年3月に高浜原発3、4号機の運転差止めを命じる仮処分決定を言い渡している。これらはいずれも地方裁判所での判決・決定であり、今回、初めて高等裁判所において仮処分の請求を認容し、2018年9月30日まで原子炉の運転の停止を命ずる決定を言い渡したことは、極めて意義のあることである。今回の決定は、原子力規制委員会の定めた火山ガイドの評価手順に従い、伊方原発から130キロに位置する阿蘇カルデラについて原子炉の運用期間中に火山の活動性が十分小さいと判断することはできず、噴火規模を推定することもできないから、過去最大の阿蘇4噴火(約9万年前)の噴火規模(火山噴火指数7)を想定すべきで、阿蘇4噴火時の火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできないから、伊方原発の立地は不適であると判断したものである。同様の事実は、川内原子力発電所に関する福岡高等裁判所宮崎支部決定(2016年4月6日)や、本決定の原決定である広島地方裁判所決定(2017年3月30日)においても認定されていたが、原子力発電所(以下「原発」という。)の運用期間中に破局噴火が発生する可能性が示されない限り、これを停止させることは社会通念に反すると判断して、住民の請求を認めなかった。しかし、本決定は、原子力規制委員会が最新の科学技術的知見に基づいて定めた火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について、社会通念を根拠に限定解釈をして、判断基準の枠組みを変えることは、原子炉等規制法及びその委任を受けて制定された新規制基準の趣旨に反すると判断した。さらに、火砕流噴火よりも小さい規模の噴火の際の降下火砕物の層厚と、大気中濃度の想定も過小評価であると認め、運転の差止めを認めたものである。本決定は、国民の生存を基礎とする人格権に基づき、国民を放射性物質の危険から守るという観点から、司法の果たすべき役割を見据えてなされた、画期的決定であり、ここで示された火砕流噴火に関する判断は九州、四国、北海道、東北の原子力施設に、降下火砕物に関する判断は、他の全ての原子力施設に当てはまる。当連合会は、2013年の人権擁護大会において、いまだに福島第一原発事故の原因が解明されておらず、同事故のような事態の再発を防止する目処が立っていないこと等から、原子力発電所の再稼働を認めず、速やかに廃止すること等を内容とする決議を採択している。本決定は、この当連合会の見解と基本的認識を共通にするものであり、高く評価する。当連合会は、四国電力株式会社に対し、本決定を尊重することを求めるとともに、政府に対して、本決定を受けて従来のエネルギー政策を改め、できる限り速やかに原発を廃止し、再生可能エネルギーを飛躍的に普及させ、これまで原発が立地してきた地域が原発に依存することなく自律的発展ができるよう、必要な支援を行うことを求めるものである。

*4-2:http://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/631 (東京新聞 2017年12月14日) 伊方3号に高裁が停止命令 「阿蘇噴火、火砕流の危険」 広島地裁判断を覆す
 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求め、広島市の住民らが申し立てた仮処分の抗告審で、広島高裁は13日、運転を差し止める決定をした。直ちに効力を持ち、対象期間は来年9月30日まで。3号機は定期検査中で、四国電が来年1月に稼働を再開する計画は事実上不可能となり、政府や電力会社の原発再稼働方針には再び大きな打撃となった。
●解説/巨大リスクに重い判断 火山以外にもリスク山積の伊方原発
 原発が高温の火砕流に巻き込まれればたちまち危機に陥り、想定以上に火山灰が積もれば非常用設備や事故収束作業にも大きな支障が出る。ひとたび原発で重大事故が起きれば、その被害は広範囲かつ長期間にわたる。広島高裁が原発の巨大な潜在リスクに向き合い、来年九月末までの期間限定ながら四国電力伊方原発3号機の再稼働にストップをかけた。新規制基準「適合」と判断し、再稼働を認めた原子力規制委員会にも「不合理」を突きつけた。伊方原発が抱えるリスクは火山ばかりではない。日本一細長いとされる佐田岬半島を分断する立地そのものがリスクだ。切り立った崖に囲まれた半島だけに、原発敷地は狭く、四国電は非常用資材の置き場に苦労し、対策拠点も新基準を満たすぎりぎりのスペース。万一の際、応援を送ろうにも国道から原発へは急傾斜地で、拡幅工事中の県道はいまだ狭い地点が残る。半島各地の集落を訪ねたが、尾根筋の国道からは、もろい岩肌の細い山道しか通じていない集落が多かった。漁師からは「地震と原発事故が同時に起きたら、取り残されるだろう」との声が聞かれた。そんな状況は置き去りのままだ。
●今後の展開は?
 広島高裁は、四国電力伊方原発3号機の運転禁止の仮処分決定の効力を来年9月30日までと区切った。今後どのような展開が予想されるのでしょうか。四国電力は近く、同高裁に異議を申し立てると同時に、仮処分の執行停止も求める方針。今回の判断を決めた野々上友之(ののうえ・ともゆき)裁判長は今月下旬に定年退官となり、別の裁判長が審理する見通しだ。異議が認められない場合、四国電は最高裁まで争う機会がある。運転禁止の仮処分を勝ち取った住民たちは、運転差し止め訴訟も広島地裁に起こしている。仮処分の効力が続いている間に、地裁でどんな判決が出ても、判決が確定しない間は原則として仮処分の効力は続く。この間、四国電は伊方3号機を再稼働できない。しかし四国電力が勝訴した場合、「仮処分の決定時とは事情が変わった」ことを理由に、広島高裁に仮処分の取り消しを求めることができる。いずれにしても、仮処分の効力は来年9月末で切れる。その後、住民側が引き続き運転禁止の司法の命令を得たい場合は、あらためて地裁に仮処分を申し立てることになる。

*4-3:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/380222/ (西日本新聞 2017年12月14日) 伊方原発差し止め 九州にも警鐘鳴らす判断
 数多くの活火山を擁する火山国に立地する原発の安全性を、厳しく問う司法判断といえよう。
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求めて、広島市の住民らが申し立てた仮処分の即時抗告審で、広島高裁が申し立てを却下した広島地裁の決定を覆し、来年9月30日まで運転を差し止める決定をした。定期検査中の伊方3号機は現在停止中で、来年1月の運転再開に影響が出るのは必至の情勢だ。四国電は高裁に異議申し立ての手続きを取る方針という。東京電力の福島第1原発事故後、仮処分で原発を止める司法判断は3件目だが、高裁段階では今回が初めてだ。他の原発訴訟にも影響を与えるだろう。抗告審では、福島原発事故後に原子力規制委員会が策定した新規制基準や地震、火山噴火時の影響などが主な争点になった。決定理由で特筆すべきは、規制委が火山の危険性について新規制基準に適合するとした判断を不合理とした点だ。原発が熊本県・阿蘇山から約130キロの距離にある点を重視し、大規模噴火が起きた際に「火砕流が到達する可能性が小さいとは評価できず、立地には適さない」と判断した。阿蘇や桜島などの活火山を抱え、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)と同川内原発(鹿児島県薩摩川内市)が立地する九州にも、改めて警鐘を鳴らした形だ。原発立地自治体以外の住民による差し止め請求を認めた点にも注目したい。高裁は伊方原発で重大事故が起きれば、広島市など海を挟んだ近隣の市民も放射性物質によって生命身体に重大な被害を受ける恐れがあると結論付けた。ひとたび福島原発のような重大事故が起きれば、その被害は想定を超えて広範囲に及ぶことを私たちは思い知らされた。原発周辺に暮らす人々の懸念や不安に応える住民目線の判断ともいえよう。政府や電力会社は今回の広島高裁決定を真摯(しんし)に受け止め、火山噴火に対する原発の安全対策についてもさらなる充実を図るべきだ。

*4-4:http://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=89073 (南日本新聞 2017年12月14日) [伊方差し止め] 火山を巡る議論に一石
 東京電力福島第1原発事故後、原発の再稼働や運転を禁じる高裁段階の判断は初めてである。四国電力と政府は、上級審の決定を重く受け止めるべきだ。四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求め、広島市の住民らが申し立てた仮処分の即時抗告審で広島高裁は、運転を差し止める決定をした。期間は来年9月30日までで、現在定期検査中の3号機が来年1月に再開する計画は、事実上不可能となった。福島原発事故の原因解明が十分とは言えない中、住民の不安を受け止め、原発再稼働に前のめりな政府の方針にも疑問を突きつけた司法判断といえる。注目は、火山と原発の立地を巡る議論に一石を投じたことだ。野々上友之裁判長は、熊本県・阿蘇カルデラで大規模噴火が起きた際に約130キロの距離にあることを重視し「火砕流が到達する可能性が小さいとは評価できず、立地には適さない」と判断した。その上で、原子力規制委員会が新規制基準に適合するとしたのは不合理で「住民らの生命、身体に対する具体的な危険の恐れが推定される」と結論づけた。火山以外は新基準や規制委の適合性判断に合理性があるとした。火山噴火は、九州電力川内原発の近隣住民も共通して抱く懸念材料である。高裁は、原発の火山対策について規制委に再考を求めたといえよう。伊方3号機の運転差し止めを求める仮処分の申し立ては、立地する愛媛県にとどまらず、広島、大分、山口県にも広がった。背景にあるのは、稼働中の関西電力高浜3、4号機を停止させた大津地裁決定だ。その後、大阪高裁で取り消されたが、広域被害の恐れを指摘したことで、立地県外の住民の主張でも認められることが広く知られた。福島原発事故を顧みれば、広い地域の住民が事故時の影響を心配する声を上げるのは当然だろう。伊方原発周辺では、南海トラフ巨大地震や、長大な活断層「中央構造線断層帯」が近くを通っていることを懸念する声もある。さらに、細長い半島の付け根に原発が立地し、事故時の避難計画の実効性への不安も根強い。松山地裁の却下決定を受けた高松高裁の即時抗告審と大分地裁、山口地裁岩国支部が今後どんな決定を下すか、注目される。四国電は広島高裁に異議申し立ての手続きを取る方針だ。だが、決定を軽視することなく、住民の疑念とあらためて誠実に向き合うところから始めるべきだ。

*4-5:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201712148763 (愛媛新聞社説 2017年12月14日) 伊方3号機差し止め 噴火の危険重視した司法の警告
 危険性の評価に不十分な点がある限り、原発を動かしてはならない―。高裁の全国初の差し止め決定が発した「警告」は、極めて重い。松山市と広島市の住民が四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁は火山の及ぼす危険性を重く見て、運転を差し止める決定をした。3月の広島地裁決定は、原発には「極めて高度な安全性」は求められておらず、最新の科学的知見を基にした災害予測で安全を確保すれば「社会が容認する」とした。ある程度の安全で許されるといった、住民の不安に向き合わない乱暴な論理は決して容認できない。7月の松山地裁決定でもその論を踏襲、司法の独立性が危惧されていた。流れを変え、命を守る司法の責務を果たす決定を評価する。判断の焦点は、火山の危険性だった。野々上友之裁判長は、熊本県・阿蘇カルデラで大規模噴火が起きた際に「火砕流が到達する可能性が小さいとは評価できず、立地には適さない」と判断。四電の想定を過小と指摘し「原子力規制委員会の判断は不合理」で「住民らの生命、身体に対する具体的な危険の恐れが推定される」と断じた。規制委の火山影響評価が不合理だという点については、昨年の九州電力川内1、2号機差し止め仮処分を巡る福岡高裁宮崎支部の決定でも示されていた。火山灰が及ぼす危険についても九電玄海3、4号機など各地の原発で指摘されている。安全性が立証されない以上、運転を差し止めると踏み込んだことで、他の原発にも多大な影響を及ぼそう。決定は、予測不可能な自然災害に対しても可能な限りの安全策を求めたもので、基本姿勢を問うたと言える。国や電力会社は指摘を肝に銘じ、つぶさに検証し直さなければならない。また、原発から約100㌔離れた広島市の住民にも広域被害の恐れを認めた点も意義深い。関西電力高浜3、4号機に関して昨年、大津地裁が半径70㌔圏に当たる滋賀県の住民の申し立てを認めた決定より、さらに範囲が拡大した。立地自治体以外でも事故の当事者であることは東京電力福島第1原発事故で明らかになっており、「地元」の同意があれば再稼働できる仕組みや避難計画も早急に再検討する必要がある。伊方原発に関しては愛媛、香川、大分、山口の4県の地裁や高裁で仮処分申請や訴訟を審理中だ。丁寧に審理し、全国の原発をも見直す契機にしたい。福島の取り返しのつかない事故で「想定外の事態」という言い訳が通用しないことを思い知って、6年9カ月。原点に立ち返るべき時機である。被爆地広島で、放射性物質に苦しむ人々をこれ以上出さないための判断が下された。その重みを、国と電力会社は胸に刻み、原発ありきのエネルギー政策を根本から転換しなければならない。

*4-6:http://qbiz.jp/article/126001/1/ (西日本新聞 2018年1月12日) 神鋼データ改ざんでも玄海再稼働「問題なし」 九電社長が知事に報告
 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働を巡り、山口祥義知事は11日、県庁で瓜生道明社長と会談した。瓜生社長は、神戸製鋼所の製品データ改ざん問題について「問題ない」と述べ、3号機が3月、4号機が5月とする再稼働時期に影響はないとの考えを示した。瓜生社長は、玄海原発で使われている製品の安全性や神鋼側の検査工程を確認したことを報告。「再稼働に向けた工程にとらわれず、安全性を確認しながら対応する」と述べた。山口知事は、継続的な安全対策や情報開示を要請し「県民の厳しい目が注がれているという意識を持っていただきたい」と話した。瓜生社長は、玄海町の岸本英雄町長と唐津市の峰達郎市長とも会談した。


PS(2018.1.15追加):*5-1のように、欧州勢も鮮明にEVシフトしているのに、*5-2のように、ベトナム政府が、せっかく三菱自動車とEVを共同開発して車産業の成長を狙っている時に、今更プラグインハイブリッド車をベトナム側に提供するというのは、三菱自動車はベトナム政府を舐めすぎている。こういう提案しかしないのであれば、私がベトナム政府の高官だったら、組む相手を欧州勢に変更して、電力は豊富な自然エネルギーを開発する。

*5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC12H2T_S7A910C1EA1000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2017/9/12) 欧州勢のEVシフト鮮明 独自動車ショー開幕
 ドイツでフランクフルト国際自動車ショーが12日、開幕した。欧州最大手、独フォルクスワーゲン(VW)は約300ある全車種に電気自動車(EV)かハイブリッド車(HV)のモデルをそろえることを表明した。ガソリン・ディーゼル車禁止の方針を打ち出す国が増えるなか、EVが主役になる時代の到来を印象づけた。何本もの電気ケーブルをつなぐパフォーマンスのあとに、舞台に音もなく現れたのは独ダイムラーの「EQA」。現在のメルセデス・ベンツブランドの入門車「Aクラス」に相当するEVだ。ディーター・ツェッチェ社長は「すべての車種で電動化モデルを選べるようにする」と強調した。傘下の小型車ブランド「スマート」では欧州と北米で全ての車種をEVに切り替えるほか、2018年には主力の中型車「Cクラス」に相当するEQCも発表する。独BMWは電動車専用シリーズで3車種目となる「iビジョンダイナミクス」を発表した。小型車「i3」とスポーツ車「i8」の中間に位置する中型クーペで、1回の充電で走れる距離は600キロメートルに達する。19年に発売する「ミニ」のEV版も公開し、EVの品ぞろえを25年までに12車種に広げる。排ガス不正で世界のEVシフトの引き金を引いたVWは、25年までに独アウディなどグループ全体で50車種以上のEVを投入する。これまで表明していた30車種から一気に増やした。HV化とともに、全ての車種の電動化を進める。30年までの開発などにかかる投資は200億ユーロ(約2兆6千億円)で、これとは別に電池の調達に500億ユーロ規模を費やす。日本勢ではホンダが量産型EV「アーバンEVコンセプト」を世界初公開した。欧州で販売している小型車「ジャズ(日本名フィット)」よりも小さく、都市部での移動に向く。八郷隆弘社長は「このモデルをベースにしたEVを19年に欧州で発売する」と語った。ホンダは今後、欧州で発売する全ての新型車にはEVやHVなど電動車モデルも用意する。30年までに世界販売の3分の2をEVやHVなどの電動車にする方針だ。各社がEV強化をアピールする背景には温暖化や大気汚染の防止へガソリン車やディーゼル車の規制強化を各国が考えていることがある。欧州各国だけでなく中国政府もガソリン車やディーゼル車の製造・販売を禁止する方針で導入時期の検討に入った。英調査会社IHSマークイットのラインハルト・ショールシュ氏は「EVに投資するかどうかではなく、どのように投資するかの段階に入っている」と話す。従来の自動車と同様に、いかに使いやすく魅力的なEVを安い価格で提供できるかの勝負になってきた。ただ日米欧大手への対抗が難しかった中国が自動車産業を育成しようとEVシフトに傾くのとは異なり、長くディーゼルを主力販売車種に据えていた欧州勢にとっては、急速なEVシフトは簡単ではない。これまで内燃機関に多額の投資をし、多くの関連資産を持つ。ダイムラーのツェッチェ社長は「一晩で1つの技術を禁止するのは、環境に対しても悪影響」と規制強化の流れをけん制した。VWのマティアス・ミュラー社長は「ガソリン・ディーゼル車からEVまですべてを手がける」と強調した。

*5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25678240V10C18A1MM0000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2018/1/15) ベトナム政府、三菱自とEV共同開発 車産業成長狙う
 ベトナム政府と三菱自動車は電気自動車(EV)の研究開発で提携する。ベトナム政府は国内自動車産業の育成、三菱自は今後拡大するエコカー市場の取り込みにそれぞれつなげたい考えだ。ベトナムは中間所得層の増加で自動車販売が伸びる一方、排ガスや石炭火力発電所の増加で大気汚染も進んでおり、環境負荷の小さいEVの生産拡大をめざす。15日午後、ベトナム商工省と三菱自が覚書を結ぶ。現地の道路や渋滞状況、充電インフラの実情に合ったEVを共同で研究する。三菱自は現地生産も視野に入れているもようだ。同社は共同研究に先立ち、プラグインハイブリッド車(PHV)の「アウトランダー」をベトナム側に提供する。ベトナムでは足元でEVやハイブリッド車はほとんど普及していない。ただ、電圧が200ボルト以上で家庭での充電が容易という。道が狭いため三菱自の「アイ・ミーブ」のような小型のEVが適しているとみている。ベトナム電力公社はこのほど中部ダナンに初のEVの充電ステーションを設置した。初の国産車製造に取り組む不動産最大手ビングループも、EVの開発を進めている。ベトナムは2020年の工業立国を国家的目標に掲げ、自動車産業を柱の一つとしている。17年の新車販売は過去最高だった前年に比べ10%減の27万2750台となったが、18年1月の輸入関税撤廃を前に買い控えが広がるという特殊要因があったためだ。富裕層や中間層の自動車購入は確実に高まっており、ベトナム商工省は25年には新車販売が現在の2倍超の年60万台に達すると予想している。ベトナムでは自動車のほか、4000万台以上普及しているバイクの排ガスで大気汚染が悪化。近い将来の電力不足が見込まれ、ベトナム政府は石炭火力発電所の建設を急いでおり、大気汚染のさらなる悪化が懸念されている。


PS(2018年1月16、17《図》、18《図》、19、21、22日追加):豪雪地帯で高齢者が雪おろしをして命を落としたり、雪おろしをする若者がいなかったりする事態は、私が衆議院議員をしていた2005~2009年の間にも起こり、国の予算から除雪費を出していたが、それから10年経過した今でも同じことが言われ、改善されていないことに驚きを感じる。雪おろしは生産性の低い危険な仕事で、国が毎年多額の除雪予算をつけるのももったいないため、除雪をしなくてもよいシステムにすべきだ。例えば、雪が一定の重さになると屋根が温まり屋根に接している部分の雪を溶かして積もった雪をすべり落としたり、その雪が通路などの危険な場所に落ちないよう屋根の傾斜を変えたりすれば、一回の支出で積雪の悩みがなくなる。そのため、*6-1のように、HPに積雪重量を示しても対応する人がいなければあまり意味がなく、電熱システムを人が住む家の屋根に取り付けた方が効果的だと思われた。
 なお、*6-2のように、「草刈りは何も生み出さないのに、時間ばかり奪われる」として、草刈りロボが開発されるそうだが、できれば何かを生み出した方が生産性が上がるため、耕作放棄地に、*6-3のような牧草を作って酪農家に放牧させるシステムにし、それ用のロボットを作った方がよいと思われる。そうすれば、飼料を100%自給でき、餌代が少ないため優良経営になり、製品が脂質過多にならない。また、*6-4の、水田の除草に機械を使うか、アイガモを使うかの選択は、どちらが生産性が上がるかの問題だが、私は、アイガモを使った方が副産物もでき、生産性が高いのではないかと考える。

    

(図の説明:「電熱システムにしたら電気代が高い」と言う人が必ずいるので、ここで片屋根大容量太陽光発電を備え付けた家(1番左)と天窓のある家(左から2番目、3番目)を紹介しておく。家は、太陽光の欲しい場所もあり、片屋根の向こう側は天窓に使えそうだ。また、1番右のように、道路に太陽光発電を設置している国もある)


    光ファイバー照明とその原理   「ひまわり」による自然光の採取方法と使用

(図の説明:1番左と左から2番目のように、光ファイバーで自然の太陽光を照明したい場所に導くこともでき、左から3番目の図のように、「ひまわり」で太陽光を室内に導いて、1番右と右から2番目の写真のように、室内でサンゴや植物を育てることも可能だ。そのため、建築学科の学生は、諸外国の例も参考にし、新しい技術を使って《もしくは作って》、雪国や暑い国の街づくりを設計し、卒論や修論の題材にしたらどうだろうか?)

*6-1:https://www.agrinews.co.jp/p42964.html (日本農業新聞 2018年1月10日) 除雪 今でしょ 「雪おろシグナル」 運用開始 新潟県 HPに
 新潟県は9日、積雪時に屋根の雪下ろし作業をするかどうかの判断に役立つ積雪重量計測システム「雪おろシグナル」の運用を始めた。ホームページ(HP)上の地図に県内の積雪状況を「重さ」で表示する仕組みで、防災科学技術研究所と新潟大学、京都大学が共同開発した。建物が倒壊する危険性を赤、黄、緑などの色別に示し、除雪の適時を判断できる。システムは県のHPから閲覧できる。現在の積雪重量の度合いに応じて色分けして示し、最小値と最大値も表示する。建物倒壊の可能性がどの程度か、雪下ろしの基準となる積雪深1メートル以上になるのか、建築基準法に沿った積雪深を下回る量かなどを判断できる。直近30日間の重量データも確認できる。同研究所は今後、全国の降雪地域での活用も目指す。総務省消防庁の調べでは、2016年11月~17年3月末に全国で140棟の空き家が雪による全壊、半壊、一部破損などの被害を受けており、県は降雪による空き家の損壊事故を憂慮。「空き家の所有者がこのシステムで雪下ろしの必要な時期を把握し、対応してもらいたい」と期待する。

*6-2:http://qbiz.jp/article/126424/1/ (西日本新聞 2018年1月19日) 農地守れ!草刈り ロボ 福岡の企業と産総研開発へ 自動走行、放棄地増加防ぐ
 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は農機メーカー「筑水キャニコム」(福岡県うきは市)などと共同で、自動走行して草刈りをする電動ロボットの研究開発に乗り出した。人手が足りない中山間地で耕作放棄地が増えており、草刈りの効率化で農地を守る狙い。2019年度に試作機を完成させ、実用化を目指す。中山間地では耕作放棄地に草が茂り、そこにすみついたイノシシなどが周辺の田畑を荒らしている。農業者の耕作意欲が奪われ、さらなる放棄地を生む悪循環に陥っているという。こうした状況を受け、産総研が、草刈り機の製造技術や販売ルートを持つ筑水キャニコムに研究開発の協力を呼び掛けた。ロボットは、周囲360度を撮影できる搭載カメラの映像を解析し、独自の周辺地図を作製する技術を活用。この地図に草刈りの範囲を指定すると、自動的に経路を決め、車輪で移動しながら草を刈る仕組み。中山間地特有の小規模な農地でも使えるように、縦、横、高さとも50センチ以下と小型化を図る。1回の充電で2時間程度の作業時間を目指し、価格も50万円以下に抑える。現段階では、不整地でも横転せずに移動し、安定的に草刈り作業ができるようになったが、リモコンでの操作が必要。今後、産総研を中心に自律制御装置の開発を進め、この装置を搭載したロボットを岡山県の棚田で実証する。筑水キャニコムの開発担当者は「草刈りは何も生み出さないのに、時間ばかりが奪われると農業者のぼやきを聞いている。作業の負担を軽くしたい」としている。

*6-3:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-650298.html (琉球新報 2018年1月21日) 小谷あゆみの「はいたいコラム」:太陽は仕事仲間
 島んちゅの皆さん、はいたい~! 北海道中標津町の酪農のカリスマ!三友盛行さん(72)のお話を聞いてきました。三友さんは牧草地の面積に見合う頭数だけ牛を放牧する「マイペース酪農」を提唱する酪農家で、同名の著作をお持ちです。現在、三友牧場の搾乳牛は30頭。何千頭規模のメガファームもある北海道で、なぜこの小さな牧場主がカリスマと呼ばれるのでしょう。答えはズバリ優良経営! 放牧なので購入飼料は使わず、設備投資も極力控える方法で、他の牧場を圧倒する利益率を上げているのです。酪農教室が開かれた茨城の新利根牧場で三友さんは、牛たちの体型から健康状態を読み取り、草地に点在する牛糞(ふん)の分解度合いから微生物の働きを推察し、生き物の声を人間の言葉に変えて解説してくれました。中でも私が感動したのは、三友さんが太陽のことを何度も「太陽さん」と呼んだことです。牧場内の「土、草、牛」の生命循環に太陽光は欠かせません。太陽は牧場経営にとって、日照・乾燥部門を請け負う「仕事仲間」なのです。私たちが取引先の社名をさん付けで呼ぶように、放牧酪農家は太陽を呼び捨てにせず、敬意を払って呼ぶのでした。取引先が太陽さんだなんて、すてきじゃありませんか。おおらかで太っ腹で明るい太陽さんは、納品が遅れることも、他社に乗り換えることもないどころか、請求書もありません。ときどき連絡なく引きこもることはありますが、そのときは雨さんが別の恵みを牧場にもたらします。三友さんいわく、太陽さんによく働いてもらえるようにするのが人間の仕事。雨を恨まず恵みの雨にするために人の仕事はあるとのことでした。予定を前倒しして次の草の種まきを終えてさえいれば、降る雨は恵みになります。管理できない自然界の力を最大限生かせるよう段取りすることが、人間に残された仕事。そうすれば土も草も牛も、みんな生き生き、健やかに成長します。マイペース酪農とは、みんなが力を発揮し合うサステイナブルな連携! 持続可能な生産と消費が求められる時代、これはあらゆる仕事や人間関係に共通した考えです。仲間が力を発揮しやすいように私はどれだけ努力できているか。少なくとも締め切りを守らなくちゃ。琉球新報さ~ん、いつもありがとう~!
*小谷あゆみ:農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

*6-4:http://qbiz.jp/article/126526/1/ (西日本新聞 2018年1月22日) アイガモに強力ライバル? 稲だけ残す水田除草機 福岡の企業開発
 アイガモに強力なライバル登場? 水田の稲は傷めず、雑草だけを一掃する水田除草機を農業機械メーカー「オーレック」(福岡県広川町)が開発した。広い面積を短時間で処理でき、除草剤を使わなくて済む。有機栽培で除草を担ってきたアイガモに代わる新たな戦力となりそうだ。日光を遮り土中の養分も奪う雑草は、米の収穫量や品質を左右する。夏の除草は重労働で農家の高齢化とともに大きな課題となっている。従来の機械は稲が並ぶ列の間はある程度除草できたが、稲と稲の間まで取り去るのは難しく、ほとんどの農家は除草剤を利用。無農薬や有機栽培では、手作業やアイガモの働きに頼るしかなく、規模拡大の障壁にもなっていた。同社は「農家の負担軽減と食の安全安心」のため、15年前に水田除草機の開発を始めた。昨年完成した「ウィードマン」は、雑草が稲より地表近くに根を張ることに着目。回転式の棒で深さ約1センチの土中をすくって雑草だけをからめ取り、土に混ぜ込む業界初のシステムで特許出願している。1反(約990平方メートル)の作業時間は約25分で、収穫までに2、3回の除草で済むという。雑草が成長しすぎた状態でも除草でき、作業時期に幅を持たせられるため、複数の農家で機械を共有してコストを抑えることも可能。既に試験販売を始めている。開発チームリーダー鈴木祥一さん(37)は「有機栽培の手間を減らして規模拡大を後押しできる。大規模農家の省力化や、除草剤をやめることで米の付加価値アップにもつながる」と期待している。


PS(2018年1月19、21日追加):*7-1のように、九州の離島(長崎県の壱岐・対馬、鹿児島県の種子島・徳之島・沖永良部島・与論島など)では、2014年の半ばに送配電網に接続できる連系可能量を上回る規模の発電設備が稼働したため、九電は再エネ発電設備の送配電網への接続申し込みを約1年間保留し、蓄電設備の増強はしなかった。そして、現在も、接続可能量を超えるとして、再エネ発電設備の送配電網への接続申し込みの2/3程度しか接続していない(http://www.kyuden.co.jp/effort_renewable-energy_ritou.html 参照)。しかし、九州の離島は太陽光・風力発電の適地が多いので、クリーンな再エネだけで100%以上の電力を賄って経済を潤すことができると同時に、再エネ電力の供給を増やすこともできるため、経産省や大手電力会社は再生エネ発電を進めるべく工夫すべきなのだが、現在はその反対で公共の利益に反している。そのため、*7-2のような電力会社が、電力小売りに参入して再エネを使った新電力への切り替えを進めるのはよいことだ。
 また、*7-3のように、長崎県佐世保市が、福岡県みやま市の電力会社「みやまスマートエネルギー」に続いて、周辺市町と連携した広域の新電力会社設立を進めているそうだ。今後、農漁業において自然再生可能エネルギーによる発電が増えることが予想され、地方自治体自身もゴミ焼却などの電源を持つため、自治体が率先して(水道料金並みの)安い電力を供給することは、その地域の住みやすさや産業集積に繋がる。

 
     *7-1図1        *7-1図2       2015年の状況
(図の説明:九電は、長崎県・鹿児島県の離島6島で、自社の火力発電所の最低出力を確保するため、太陽光・風力による発電設備の接続申し込みを保留し、離島の再生可能エネルギー普及にブレーキをかけている)

 
    ゴミ焼却発電       地中熱の利用      各種の太陽光発電
(図の説明:地方自治体は、1番左の図のようなゴミの燃焼発電、真ん中の図のような地中熱発電、1番右のようなさまざまな太陽光発電、その他の自然エネルギーによる発電のツールを持っており、これらを有効利用して税外収入を得れば、地方税の税率を下げたり、教育・福祉を充実したりすることができ、その地域の住みやすさや産業集積に影響する)

*7-1:http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1407/30/news018.html (スマートジャパン 2014年7月30日) 電力供給サービス:太陽光や風力の接続申し込みを1年間保留、九州の離島に大きな制約
 九州電力は長崎県と鹿児島県の離島6島を対象に、太陽光や風力による発電設備の接続申し込みを約1年間にわたって保留することを決めた。島内の主力電源である内燃力発電所の最低出力を確保するためで、離島における再生可能エネルギーの普及に大きなブレーキがかかることは確実だ。対象になる6島は長崎県の壱岐と対馬のほか、鹿児島県の種子島、徳之島、沖永良部島、与論島である。再生可能エネルギーによる発電設備を送配電網に接続するための事前相談・事前検討・接続契約申し込みの回答が、7月26日から約1年間にわたって保留される。住宅用の太陽光発電設備も含む厳しい措置になる。6島のうち、すでに種子島では送配電網に接続できる連系可能量を上回る規模の発電設備が稼働している。さらに今後の予定量を加えると連系可能量を3700kWも超過してしまう(図1)。九州電力は種子島をはじめ連系可能量が限界に近づいている6つの島で、既存の発電設備の出力状況と島内の需要変動を検証しながら、今後1年程度をかけて連系可能量の引き上げを検討することにした。種子島を例にとると、主力の電源として島内の2カ所に内燃力発電所が稼働中で、合計出力は最大で4万500kWになる。このうち最低でも9000kWの出力を維持する必要がある。一方で太陽光の発電量が最大になる昼間の電力需要は、最も少ない場合には1万6000kW程度しかない(図2)。需要と供給のバランスをとるためには、太陽光や風力の出力を7000kW程度に抑える必要があるが、2014年5月末の時点で9000kWを超える発電設備が送配電網に接続されている。実際にはすべての設備が同時に最大の出力を発揮することはなく、九州電力の想定では8500kW程度までならば接続して問題なく運用できる。種子島の送配電網には国の実証事業で出力3000kWの蓄電池が設置されていて、天候による太陽光や風力の出力変動を吸収することは可能だ。ただし定常的に余剰電力を調整するには容量が足りない。今のところ九州電力には蓄電池を増強する計画はなく、発電事業者に依存しているのが現状である。離島では電力需要が小さいために、石油を燃料にしてディーゼルエンジンで発電する内燃力を採用するのが一般的だ。発電コストが高く、CO2のほかに有害物質の排出量も多いことから、自然環境を保護するうえでも再生可能エネルギーの導入拡大が求められている。九州電力が1年間も接続申し込みを保留することは、企業や家庭が再生可能エネルギーを導入する機運を大きく損ねかねない。こうした状態になるまで対策を実施しなかった国の責任も問われる。国民が賛同しない原子力発電所の安全対策に多大な時間とコストをかけるよりも、再生可能エネルギーの導入が必要な地域の送配電網の増強を優先すべきではないか。

*7-2:http://qbiz.jp/article/126415/1/ (西日本新聞 2018年1月19日) 自治体支援のホープが電力小売りに参入へ
 自治体向けサービスなどを展開する「ホープ」(福岡市)は、電力販売事業に参入すると発表した。経費削減を目指す自治体や取引企業向けに電力を供給し、収益力の向上を図る。ホープは、自治体の広報紙やホームページなどの広告枠販売や、情報冊子の作成などを手掛ける。2017年6月期には800程度の自治体と契約実績があり、新電力への切り替えを検討する自治体に売り込む。取引企業には広告とセットで販売する。日本卸電力取引所から調達した電力を供給する。昨年11月、経済産業省に小売電気事業の登録を申請した。手続き完了後に本格的に事業を始める。ホープの17年6月期の売上高は17億7400万円。約5年後には売上高100億円規模を目指しており、今後も自治体に特化した新規サービスを打ち出す方針。

*7-3:http://qbiz.jp/article/126270/1/ (西日本新聞 2018年1月21日) 長崎・佐世保市、新電力会社を検討 県境越え連携、参入へ 行政サービス相乗効果期待
 電力小売り自由化で自治体の電気事業参入が進む中、長崎県佐世保市は県境を越えた周辺市町と連携し、2019年4月の発足を目指す「連携中枢都市圏」をにらみ、広域での新電力会社(PPS)設立を検討している。市は既に会社設立に向けた動きを進めており、今後、中枢都市圏からどの程度の賛同が得られるかが課題となる。広域化で行政サービスの向上を目指す中枢都市圏の協議には中核市の佐世保市をはじめ県北と佐賀県西部の14市町が参加している。佐世保市はPPS設立で自然エネルギーなどで生み出した電力の小売りを圏域内で行い、エネルギーの地産地消や他の行政サービスとの相乗効果などを期待。市によると、これまで2県の11市町がPPS設立に向けた協議に参加しており、中枢都市圏での設立参入は前例がないという。中枢都市圏での協議を促進しようと、市は9日、先進的に取り組む福岡県みやま市の電力会社「みやまスマートエネルギー」の磯部達社長らを招いて講演会を開いた。同社は同市が55%出資し設立。市内の大規模太陽光発電所(メガソーラー)などで発電した電力を買い取り、公共施設や家庭向けに販売している。磯部社長は、売電契約を結んだ家庭に配布したタブレット端末を活用し、電気の利用状況から高齢者の見守りを行ったり、地域の行事や防災情報を配信したりしている事例を紹介。収益をコミュニティー施設の運営に充てるなど「電力料金の低減やエネルギーの地産地消だけでなく、収益を地域の課題解決に活用できる」と利点を訴えた。佐世保市はPPS設立に向け、同社などにコンサルティング業務を委託。今後、各市町の電力利用状況の分析や収益の活用方法の検討などを進める。


<地熱の利用>
PS(2018年1月23日追加):*8-1のように、日本には火山が多く、今日、草津の白根山が噴火した。また、*8-2のように、熊本県水俣市では、茶園跡約3.3ヘクタールに出力約1.8メガワットのメガソーラーを設置し、ご当地エネルギーの売電収益で熊本地震の復興や水俣地域の振興を後押しするそうだが、私は、農地として使いながらソーラー発電した方がよいと考える。また、日本は、地震・津波・断層・火山の多い国で原発には全く向かないが、草津のように地熱は豊富であるため、熊本県も阿蘇山を利用して地熱発電すればいいのではないだろうか?

   
      西日本新聞2018年1月23日(*8-1)より         阿蘇噴火

*8-1:http://qbiz.jp/article/126647/1/ (西日本新聞 2018年1月23日) 草津白根山が噴火、十数人負傷 スキー場で雪崩発生か
●訓練中の自衛隊員も6人けが
 23日午前9時59分ごろ、群馬県と長野県の境にある草津白根山の本白根山(2171メートル)が噴火した。草津白根山で噴火が確認されたのは1983年以来。消防によると、噴石などにより10人が負傷した。けがの程度は不明。雪崩も発生したとの情報もあり、陸上自衛隊は、現場付近で訓練していた6人が巻き込まれて、けがをしたとしている。一方、捜査関係者によると、群馬県草津町にある草津国際スキー場付近でのけが人は12人に上り、うち2人が重体としており、県や警察などが詳しい状況を調べている。同町役場によると死者や行方不明者は確認されていないとしている。消防によると、草津白根山の麓にある草津国際スキー場で、噴石がゴンドラに当たり、割れたガラスで乗客4人がけがをしたと通報があった。レストハウスの一部の屋根も噴石で突き破られているという。スキー場の事務所には、職員から「雪崩が発生したようだ」とする連絡もあり、スキー客約80人がレストハウスに避難したとしている。山頂で孤立している人がいるとの情報もあり、救出に向かっている。陸自は、群馬県の相馬原駐屯地に司令部を置く第12旅団所属の複数の隊員が、スキー訓練中に雪崩に巻き込まれた。このうち4人が骨折し、2人が重傷を負った。雪崩に埋まった民間人1人を救出したという。草津観光公社によると、スキー場のロープウエーの山頂駅と山麓駅に複数のけが人を含むスキー客や従業員が避難している。東京電力によるとスキー場周辺の11戸が停電した。気象庁は23日、火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを3(入山規制)に引き上げ、本白根山の鏡池付近から2キロの範囲では飛散する大きな噴石などに警戒するよう呼び掛けた。草津白根山では、2014年に火山性地震が増加し山体の膨張が観測されるなど火山活動が活発化したが、活動は低下したとみられていた。首相官邸は、危機管理センターに官邸連絡室を設けて、情報収集に当たった。
●スキー施設の屋根にも穴
 噴石が屋根を突き破り、避難を迫られたスキー客らは不安を募らせた。噴火した草津白根山に近く雪崩も発生した群馬県草津町の草津国際スキー場では23日、スタッフらが、けが人の有無といった情報収集や避難誘導などの対応に追われた。警察の誘導を受け、スキー客ら約100人が麓にあるレストハウスに避難した。レストハウスの責任者によると、客が「山頂の方で噴火があったようだ」と話していたという。別の建物には飛んできた噴石が屋根を突き破った。スキー客を乗せたロープウエーのゴンドラも噴石で窓ガラスが割れ、けが人も出たという。草津観光公社によると、ロープウエーの山頂駅と山麓駅にはスキー客や従業員が逃げ込んだ。取材に応じたスキー場の男性スタッフは雪崩が発生した直後からリフトを全て止め、客には避難を促したと説明。停電も発生し、ロープウエーも止まったが、予備電源を利用して動かし、乗客を運んだという。この日は関東地方を襲った大雪の影響で例年よりもスキー客は少なかったという。「けが人がいるというが、まだ状況が分かっていない。午前9時から通常営業をしていたので、お客がいたと思う」と慌てた様子だった。群馬県の草津町や嬬恋村には対策本部が設置され、職員らが情報収集に当たった。草津白根山の麓にある草津温泉の協同組合によると、今のところ噴火の影響はなく、宿泊客は落ち着いているという。西吾妻福祉病院(群馬県長野原町)には、県内の他の病院から派遣された災害派遣医療チーム(DMAT)も待機。病院の担当者は正午すぎに「搬送されたのは今のところ1人だけだが、医師約20人態勢で受け入れ準備を整えている」と話した。
■草津白根山 群馬県と長野県の境にあり、全国に50ある常時観測火山の一つ。西端部に白根山(2160メートル)、本白根山(2171メートル)などが南北に並ぶ。気象庁によると、近年の噴火活動はすべて水蒸気爆発で、泥流を生じやすい。2014年以降、湯釜火口の湖水で火山ガス由来の成分の濃度が上昇していたが、17年に入り低下傾向が続いていた。

*8-2:http://qbiz.jp/article/126607/1/ (西日本新聞 2018年1月23日) 太陽光売電 水俣に基金 今秋創設 ご当地エネ協など参加 復興や地域振興 後押し
 大規模太陽光発電所(メガソーラー)などの売電収益で、熊本地震からの復興や水俣地域の振興を後押しする「熊本水俣再生基金(仮称)」の設立に向けた発起人集会が22日、熊本県水俣市であった。地域主体の再生可能エネルギー導入を支援する「全国ご当地エネルギー協会」(東京)やグリーンコープ生協くまもとなどが参加。今年秋ごろの基金創設を申し合わせた。同協会は同市薄原の茶園跡約3・3ヘクタールに出力約1・8メガワットのメガソーラーを設置し、21日に稼働を始めた。協会によると、年間約1千万円の売却益が見込まれ、このうち200万〜300万円を基金の原資にする。これとは別に、グリーンコープが配送センターの屋根などに設置した太陽光発電の売却益も年間約90万円を基金に繰り入れる予定。集会では「地域の再生に役立てていく」とする設立趣意書を採択。地域活性化や、再生可能エネルギーの普及に取り組む住民や団体に交付する目的で基金を運用することを確認した。今後、準備委員会で本格的に検討する。出席した認定NPO法人「環境エネルギー政策研究所」の飯田哲也所長は、水俣病と東京電力福島第1原発事故の経験を踏まえ、「日本の影の歴史に光を当てていく事業にしたい」と話した。

<電源構成の見直し>
PS(2018年1月24日追加):*9-1、*9-2に書かれているとおり、再生可能エネルギーは、機器の大量生産と進歩で発電コストが急速に低下して普及している実績があるため、エネルギー基本計画に定められた恣意的で先見の明のない“電源構成バランス”は速やかに見直すべきだ。また、2016年度の原発比率は2%であるため、ただちに原発比率を0にすることも容易である。にもかかわらず、国がなかなか動かない場合は、地方自治体や農協・漁協が、「ご当地エネルギー」で地域創成を行いながら、動き始めて実績を重ねるのがよいだろう。

*9-1:https://kumanichi.com/column/syasetsu/310164/ (熊本日日新聞 2018年1月18日) エネルギー基本計画 電源構成の見直し必要だ
 経済産業省の有識者会議は2014年に閣議決定された現行のエネルギー基本計画の見直し作業を進めている。今春にも改定案がまとまる予定だ。いまだに収束の見通しさえない東京電力福島第1原発事故から間もなく7年。世界のエネルギーを巡る情勢が激しく変化する中、時代と世論の要請に応えるものとしなければならない。問題点の一つは、現行計画に基づいて15年に決められた電源構成の扱いだ。電源構成では、30年度の原子力による発電比率を20~22%とすることを目指すとしている。16年度の原発比率は2%なので大幅な引き上げになる。だが、原発事故以降、安全対策や維持管理のコストが高騰する中で廃炉が進んでいるため、運転期間の延長や新増設を行わないと達成できないとする専門家が多い。安倍晋三首相はことあるごとに原発依存度の低減を口にし、基本計画も依存度の可能な限りの低減が「エネルギー政策を再構築するための出発点」だとしている。そうであれば、原発の新増設まで行わないと達成できないとの見方もある現在の目標は過大すぎる。一方、再生可能エネルギーは、総発電量に占める割合が16年度に13%程度にまで増えたことを考えれば、30年度に22~24%にするとの目標は小さすぎる。地球温暖化防止のためのパリ協定が採択され、世界で石炭火力削減が急速に進み、日本も大幅な排出削減を迫られている。26%という石炭火力の比率も見直しが必要だろう。そもそも電源構成では今後、電力消費量が大きく増えると見込んでいるが、日本の電力消費量は原発事故以降、減少傾向にあり、現実と目標の隔たりも大きい。改定に際しては、電源構成が時代の流れに沿っているかの検討が欠かせないはずだが、残念ながら経産省は早々に電源構成は見直さないと表明している。しかも議論は経産省が選んだ委員による審議会の場に限られている。メンバーは経産省に近い研究者や大企業、経済団体の代表が中心で、環境保護団体などを含めて多くの利害関係者の意見が反映される形には程遠い。確かに再生可能エネルギーの割合を増やすのは簡単ではない。現在は大半が水力発電で、太陽光や風力は原発の代替電源として期待を集めるものの、天候に発電量が左右される。国際水準と比べて割高な発電コストの引き下げも課題だ。小泉純一郎元首相らが発表した「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」も、「再生可能エネルギーの発電を50年までに100%に」を掲げているが、具体的な工程表づくりは今からだ。地球温暖化対策と表裏一体であり、今後の社会や経済の在り方に大きな影響を与えるエネルギー基本計画の見直しを、限られた人々だけでの議論による小手先の修正に終わらせてはならない。国会だけに任せるのではなく、多くの市民が参加できるような議論と意思決定の場も必要ではないか。

*9-2:http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_30321.html (宮崎日日新聞社説 2018年1月24日) エネルギー計画改定
◆原発比率引き上げは疑問だ◆
 2014年に閣議決定された現行のエネルギー基本計画の見直し作業が進んでいる。いまだに収束の見通しさえない東京電力福島第1原発事故から間もなく7年。世界のエネルギーを巡る情勢が激しく変化する中、時代と世論の要請に応えるものとしなければならないが、現在の議論はその進め方も内容もそれには程遠い。国の将来を左右する重要なエネルギー政策の議論を通り一遍のものに終わらせることなく、透明性の高い形で計画をまとめることが必要だ。
●現実と大きな隔たり
 問題点の一つは、現行計画に基づいて15年に決められた電源構成の扱いだ。電源構成では、30年度の原子力による発電比率を20~22%とすることを目指すとしている。15年の原発比率は1%強なので、大幅な引き上げとなる。だが、原発事故以降、廃炉が進んでいるため、運転期間の延長や新増設まで行わないと達成できない、とする専門家が多い。安倍晋三首相はことあるごとに原発依存度の低減を口にし、基本計画も冒頭で依存度の可能な限りの低減が「エネルギー政策を再構築するための出発点」だとしているのだから、この過大な目標は見直すべきだろう。逆に発電コストの急速な低下を背景に再生可能エネルギーの比率が15%程度まで増えたことを考えれば、30年度に22~24%にする目標は小さすぎる。地球温暖化防止のためのパリ協定が採択され、世界各国で石炭火力削減が急速に進み始め、日本も大幅な排出削減を迫られている。26%という石炭火力比率も見直しが必要だろう。そもそも電源構成では今後、電力消費量が大きく増えると見込んでいるが、日本の電力消費量は原発事故以降、減少傾向にあり、現実と目標との隔たりも大きい。
●市民参加の議論必要
 時代の流れにそぐわなくなった電源構成を見直すことが必要だが、経済産業省は早々に電源構成は見直さないことを表明。現在の議論はこの目標を達成するために何が必要かという矮小(わいしょう)化されたものに終始している。しかも議論は、経産省が選んだ委員による審議会の場に限られている。安倍首相のエネルギー問題や地球温暖化に関する発言もほとんどなく、政治的なリーダーシップが示されているとも思えない。一方で、立憲民主党は通常国会に30年までの全ての発電用原子炉廃止を政府目標とする法案の提出を目指しており、小泉純一郎元首相が顧問を務める民間団体が「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の骨子を発表するなどの動きもある。今後の社会や経済の在り方に大きな影響を与えるエネルギー基本計画の見直しを、限られた人々だけでの議論による小手先の修正に終わらせることは許されない。国会での真剣な論争が欠かせない。多くの市民が参加できるような議論と意思決定の場も早急につくる必要がある。


PS(2018年1月27日追加):*10-1のように、中国は、英仏と同様、ガソリン車やディーゼル車の製造・販売を禁止してEVにシフトし、*10-2のように、韓国の現代自動車が航続距離を39%増やした新型燃料電池車(FCV)を欧米でも2018年に投入しようとしている時に、*10-3のように、JR九州が省エネ近郊型交流電車と蓄電池搭載のハイブリッド車両走行試験を2018年度から始めるのは遅れすぎている。何故なら、①鉄道をFCVかEVにすれば、架線のない場所でも排気ガスフリーで走れる上 ②これまで架線があった場所でも架線やパンタグラフのメンテナンスコストが節約でき ③連続した広い敷地を持つ鉄道会社が自家発電するのは容易であるため燃料代を0にできる からだ。なお、JR九州は列車の色に赤や橙をよく使っているが、これは、ただでさえ暑い九州の夏に極めて暑苦しく見えるため、世界に通用する爽やかなデザインにした方がよい。


        *10-3より           日本初のEV(左)とFCV(右)

*10-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170912&ng=DGKKZO21011180S7A910C1MM8000 (日経新聞 2017.9.12) 中国、ガソリン車禁止へ、英仏に追随、時期検討 最大市場、EVシフト
 中国政府はガソリン車やディーゼル車の製造・販売を禁止する方針だ。英仏が7月に2040年までの禁止を表明したことに追随し、導入時期の検討に入った。電気自動車(EV)を中心とする新エネルギー車(NEV)に自動車産業の軸足を移す。世界最大の自動車市場である中国の動きは、大手自動車メーカーの成長戦略や世界のEV市場に影響を与えるのが確実だ。中国天津市で開かれた自動車産業のフォーラムで、工業情報化省の辛国斌次官が9日に「複数の国がガソリン車やディーゼル車の製造販売のロードマップを明らかにしたが、工業情報化省も研究に着手した。将来は関係部門と一緒に我が国のロードマップを作っていくだろう」と述べた。中国政府はEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を中心とするNEVに注力する方針を示しており、その一環とみられる。4月に発表した中長期計画では16年に50万台にとどまったNEVの販売を25年に従来計画の2倍弱にあたる700万台に上方修正した。中国政府がガソリン車などの製造・販売の禁止検討に着手する背景には、北京など多くの都市で大気汚染が深刻になっている事情がある。さらに、ガソリン車などでは日米欧の大手メーカーに対抗することが難しいため、NEVで世界を代表する中国企業をつくり出す思惑も透ける。中国の自動車メーカーの業界団体幹部はNEVの振興策について「国内企業の保護が目的ではない」と指摘する。中国政府が最大で1台当たり100万円程度の補助金を出しても、16年の販売台数は全体の2%にも満たなかった。NEVのテコ入れを狙い、中国政府は外資大手にNEVに限り従来認めていなかった3社目の合弁を解禁しブランド力を持つNEVを開発させる方針。18年からは自動車メーカーに、一定比率のNEVの製造販売を義務付ける規則を導入する方向で調整を進めている。中国の16年の新車販売台数は2800万台。米国の1.6倍、日本の5.6倍に達するため、世界の大手メーカーもNEV分野に力を入れる方針だ。中国市場でシェアを争う独フォルクスワーゲン(VW)と米フォード・モーターはNEVの3社目の合弁を決めた。米EV大手のテスラも中国での現地製造を検討している。日本勢も日産自動車やトヨタ自動車が現地生産や新型車の投入など対応を加速する構えだ。中国政府は4月に外資系自動車メーカーが同国で製造合弁する際の出資規制を緩和する方針を表明した。25年を目標に50%と定めた出資上限を引き上げる方針。ガソリン車の製造販売規制が新たな中国企業の優遇策とならないように、自動車分野の外資規制緩和の確実な実行が求められることになりそうだ。

*10-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170818&ng=DGKKASDX17H0I_X10C17A8FFE000 (日経新聞 2017.8.18) 現代自が新型燃料電池車 航続距離39%増 欧米でも来年投入
 韓国の現代自動車は17日、新型の燃料電池車(FCV)を公開した。2018年の第1四半期(1~3月)に韓国で発売するのを皮切りに、欧米市場などにも投入する。現行モデルと同じ多目的スポーツ車(SUV)型で、航続距離は現行比39%延びるという。18年に航続距離を2倍にした電気自動車(EV)を発売することも公表した。現代自にとって2代目になるFCVは、水素と酸素を化学反応させて電気をつくる燃料電池スタックや水素供給装置などの中核部品を全面的に見直した。化学反応から推力を得るシステムの効率を60%と現行比約5ポイント上げ、1回の水素充填で走る距離を580キロメートルに延ばす。モーターの出力は163馬力でトヨタ自動車のFCV「ミライ」(154馬力)を若干上回る。欧米とオーストラリアで「18年後半の発売を見込み、中国販売も検討する」(現代自幹部)とする。FCV市場で先行するトヨタなどを追撃する。ハイブリッド車(HV)などを含む環境対応車を20年までに現在の14車種から31車種に増やす方針も明らかにした。EVは1回のフル充電で390キロメートル走るSUV型を来年前半に出す。また、現代自は航続距離が500キロメートルのEV開発に着手したことも明かした。

*10-3:http://qbiz.jp/article/126930/1/ (西日本新聞 2018年1月27日) JR九州が省エネ新車両の走行試験へ 福岡、長崎で2車種
 JR九州は26日、省エネ型の近郊型交流電車と、蓄電池を搭載したハイブリッド車両の2車種の走行試験を2018年度から始めると発表した。6カ月以上の走行試験を行い、2019年の営業運転を目指す。近郊型電車の821系は高性能の半導体SiC(シリコンカーバイド)を搭載。旧国鉄時代から使用している415系と比べ、消費電力量を約7割低減できるという。福岡県を中心に3両2編成を導入する。ハイブリッド車両のYC1系はディーゼルエンジンで発電機を動かし、蓄電池も併用してモーターで走行する。ブレーキ時に発生する電力を蓄えることで、エネルギーを有効に活用できるという。従来の気動車と比べて燃料消費量を約2割低減する。長崎県を中心に2両1編成を入れる。青柳俊彦社長は「ハイブリッド車両はメンテナンスのコストも削減できると思う」と期待を込めた。


PS(2018年1月28、29日追加):*11-1のように、工学分野での九大の研究はめざましいため、糸島市と九大が「サイエンスパーク構想」を発表したのは大変良い。また、*11-2の癌の免疫療法のように、副作用が殆どなく確実に癌を消去できる方法を開発し、早々に合理的な価格で実用に供することが望まれる。そのため、研究所を集積するにあたっては、シンガポール等の事例を参考に、日本人研究者や日本企業の研究所に限らず、世界からよいものを集めるのがよいだろう。

      
          免疫療法が癌に効く原理        *11-2 *11-3

(図の説明:一番左の図のように、癌細胞は細胞分裂の失敗などで常にできているが、免疫が強いうちは免疫細胞に攻撃され除外されるため問題にならず、これが若い人に癌が少ない理由である。また、癌細胞は自らの細胞が変異したものであるため、正常細胞と区別がつきにくかったり、免疫細胞の攻撃をかわす仕組みを備えていたりする。そのため、癌細胞の特徴を覚えさせ癌細胞のみを攻撃するようにした樹状細胞療法ができたわけだが(左から2番目、3番目の図)、このように少し変異した自分自身の細胞を見逃すことなく攻撃し、正常細胞は攻撃しないという性質が必要であるため、私は、*11-3のように、他人の免疫細胞や化学療法で副作用なく癌細胞を殺すのは難しいと考えている)

*11-1:http://qbiz.jp/article/126562/1/ (西日本新聞 2018年1月28日) 【点検 糸島の課題】1.28 市長・市議選(2) 九大連携 研究所集積へ本格始動
 若いパワーと頭脳の集積を地域の未来につなげる時が来た。九州大学の伊都キャンパス(糸島市東部と福岡市西区)への移転は今秋に完了予定。約1万9千人の学生と教職員が集う「知の拠点」が整い、本格的に動きだす。糸島市は2010年に九大と連携協力協定を結び、九大の研究に1件最大100万円を助成する事業を始めた。テーマは市民や九大、市職員から募集。糸島観光ガイドブックの英語版作成では、九大の留学生の視点を取り入れた。市内にある「白糸の滝」での小水力発電導入では、施設の構造などの助言を受けた。市地域振興課の浦志素彦課長は「九大の知的、人的資源は『宝』だ」と話す。連携事業は今では年間100件以上。15年度には小学校の土曜授業で、学生が研究テーマを分かりやすく伝える「九大寺子屋」が始まった。児童の学習意欲向上を期待し、本年度は5校で実施している。一方で課題もある。市職員からは「九大の研究を事業化して雇用を生みだすなど、地元経済の活力につなげる点では足りていない」との声が漏れる。市と九大が1月に発表した「サイエンスパーク構想」は、そんな課題の克服につながる可能性を秘める。キャンパス近隣に、九大の基礎研究を応用する民間研究所群を誘致し、企業や工場の集積を図る構想だ。うまくいけば卒業生や市民の雇用も期待できる。九大の若山正人副学長は会見で「最初に糸島市が構想に興味を示してくれた」と語った。一方で「企業が来ないと成立しない」とも。九大や糸島市の魅力を国内外に発信できるかが成功への鍵になる。サイエンスパークは国内に20超ある。山形県鶴岡市は01年に慶応大先端生命科学研究所を誘致し、人工繊維などの6社が起業した。市の貸し研究室は満室だ。企業関係者は「行政が長期的視点で基礎研究に投資を続けたことや、失敗を恐れず挑戦する雰囲気が成功につながった」という。市と九大は18年度末までに、構想実現の可否や企業の進出可能性などを見極める。新たな活力を呼び込めるか、手腕が試される。

*11-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180128&ng=DGKKZO26182150W8A120C1MY1000 (日経新聞 2018年1月28日) がんVS免疫療法 攻防100年、高コストや副作用が課題
 ウイルスや細菌などの病原体から身を守る免疫の仕組みを利用する「がん免疫療法」が注目されている。免疫をがん治療に生かす研究は100年を超す歴史があるが、科学的に治療効果を認められたものはほとんどなく、これまでは異端視されていた。状況を変えたのは2つの新しい技術の登場で、手術、放射線、抗がん剤などの薬物治療に次ぐ「第4の治療法」として定着しつつある。19世紀末、米ニューヨークの病院で、がん患者が溶血性連鎖球菌(溶連菌)に感染し高熱を出した。熱が下がって一命をとりとめると、不思議なことが起きていた。がんが縮小していたのだ。外科医ウィリアム・コーリーは急性症状を伴う感染症にかかったがん患者で似た症例があると気づき、殺した細菌を感染させてみたところ、がんが消える患者もいた。毒性の強い細菌に感染することで免疫が刺激され、がん細胞も攻撃したとみられる。コーリーの手法はがん免疫療法の先がけといわれる。だが副作用で命を落とす患者も多く、定着しなかった。免疫が再び注目されるのは1950年代後半だ。ノーベル生理学・医学賞を受賞したフランク・バーネット氏が「免疫が日々発生するがん細胞を殺し、がんを未然に防いでいる」という説を提唱。60年代以降、結核予防ワクチンのBCGを使う治療法や丸山ワクチンが登場した。その後、免疫細胞にがんを攻撃するよう伝えて活性化するサイトカインという物質や免疫の司令塔となる樹状細胞を利用する方法、ペプチドと呼ぶたんぱく質断片を使うワクチンなども試みられた。効果があると科学的に認められるには、いずれも数多くの患者を対象にした臨床試験(治験)が必要だ。しかも、抗がん剤など従来の治療を受けた患者らと比べて、治療成績がよくなることを示さなければならない。免疫療法でそうした効果を証明できたものはほとんどなかった。「がん細胞は免疫を巧妙にかいくぐっているからだ」と長崎大学の池田裕明教授は説明する。「免疫を活性化する手法ばかり研究していた」ことが失敗の原因とみる。20世紀末、がんが免疫の攻撃を逃れる仕組みの研究が進んだ。その中で見つかったのが「免疫チェックポイント分子」と呼ぶたんぱく質だ。免疫は暴走すると自身の正常な細胞も攻撃してしまうため、普段はアクセルとブレーキで制御されている。がん細胞はこの仕組みを悪用し、免疫にブレーキをかけて攻撃を中止させる。チェックポイント分子の「CTLA―4」や「PD―1」の働きが解明され、2010年代前半にその働きを阻害する薬が開発された。免疫細胞は攻撃力を取り戻してがん細胞を殺す。皮膚のがんの一種の悪性黒色腫で高い治療成績を上げ、肺がんや腎臓がんなどでも国内承認された。CTLA―4を発見した米テキサス州立大学のジェームズ・アリソン教授、PD―1を突き止めた京都大学の本庶佑特別教授はノーベル賞の有力候補といわれる。注目を集める新しい治療法はもうひとつある。「遺伝子改変T細胞療法」だ。患者から免疫細胞のT細胞を取り出し、がん細胞を見つけると活性化して増殖する機能を遺伝子操作で組み込む。増やしたうえで患者の体内に戻すと、免疫細胞はがんが消えるまで増殖する。大阪大学の保仙直毅准教授は「免疫のアクセルを踏みっぱなしにする治療法だ」と説明する。がんを見つけるセンサーに「キメラ抗原受容体(CAR)」を使うタイプはT細胞と組み合わせて「CAR―T細胞療法」とも呼ばれる。新潟大学の今井千速准教授らが米国留学中の04年に論文発表し、スイスの製薬大手ノバルティスが実用化。17年8月、一部の白血病を対象に米国で承認された。治療効果は抜群で、1回の点滴で7~9割の患者でがん細胞が消え、専門家らを驚かせた。日本でも近く実用化される見通しだ。2つのがん免疫療法にも課題はある。免疫チェックポイント阻害剤が効くのは承認されたがんのうちの2~3割の患者で、数百万円という高い投薬費も問題になった。CAR―T療法は塊を作る「固形がん」には効果が薄いとされる。過剰な免疫反応による発熱や呼吸不全などの副作用もある。遺伝子操作や細胞の培養にコストがかかり、治療費は5000万円を超す。課題の克服を目指す研究も国内外で進んでいる。がん免疫療法はこれからが本番だ。

*11-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180128&ng=DGKKZO26238720X20C18A1EA4000 (日経新聞 2018年1月28日) がんゲノム医療、企業が地ならし 遺伝子調べ最適治療選ぶ、中外やコニカミノルタ、支援サービス相次ぎ参入
 日本の製薬会社や医療機器メーカーがゲノム(全遺伝情報)を調べて最適な治療法を選ぶ「がんゲノム医療」の関連事業に相次ぎ乗り出す。政府ががん対策の指針でがんゲノム医療を柱に据えたことで、医療機関向けにサービスを始める動きが広がり始めた。保険適用が進めば一般的な医療として普及する環境が整う見込みだ。がんのゲノム医療は患者のがん組織などを採取してがん関連遺伝子を大量に調べる。その異常に合わせ、どんな薬を投与すれば効果的な治療となるかを選択する。国内では2015年から大学病院で順次始まった。技術を持つ企業も限られてきたが、大手の参入意欲が高まることで医療機関も利用しやすくなる。中外製薬は2018年中にがん診断事業に参入する方針。親会社のスイス・ロシュの診断子会社ファンデーション・メディシンの固形がん診断サービスの提供を目指す。17年11月、米食品医薬品局(FDA)からゲノム解析サービスとして初の承認を得ている。日本で医師が患者から採取したがん組織を米国に送り、ファンデーション・メディシンで遺伝子を調べる。がんは遺伝子が傷ついて変異すると発症する場合がある。変異した遺伝子の種類により同じがん種でも効果がある薬が変わる。約320種の遺伝子変異を一度に調べ、医師に効果的な薬の情報を届ける。日本政府内ではがんのゲノム遺伝子解析サービスを18年にも薬事承認の対象にするための議論が進んでいる。投薬で効果が得られる確度が上がれば余分な治療薬の使用も減るため、保険適用となる公算が大きい。中外が提供するサービスも米国では1回50万円以上かかるとみられる。日本では自由診療により患者負担が大きいままでは浸透させるのは難しく、中外は適用取得を最優先する。コニカミノルタも18年度に国内でがんの遺伝子診断事業を始める。乳がんや大腸がんの最適な治療や予防方法を血液や唾液から分析する。17年10月に産業革新機構と共同で約900億円を投じて買収した米アンブリー・ジェネティクスの技術を活用する。化学品メーカーのJSRはがんゲノム医療市場の拡大をにらみ、400億円で創薬支援の米社を買収する。18年6月をメドに完全子会社にするクラウン・バイオサイエンス・インターナショナルは、がん患者の遺伝子情報を約3000件集めたデータベースを持つ。この中から製薬会社の求めに応じて遺伝子情報を提供する。がんの種類や患者の遺伝子に応じた最適な新薬を作る際に活用してもらう。政府は昨秋、17~22年度までのがん対策の指針である「第3期がん対策推進基本計画」を閣議決定した。遺伝情報に基づく診断・治療をがん対策の中心にすると位置づけた。これまでのように臓器ごとのがん種に対応するのではなく、患者の遺伝子の異常に応じて治療法を決めることを目指している。これによって大手企業の参入が相次げばサービス価格が低下し、精度も高まることが期待される。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 11:48 AM | comments (x) | trackback (x) |
2017.1.31 東芝の7,000億円規模の原発関連損失と原子力及び再生可能エネルギーの今後について (2017年2月1日、2、13、15、17日に追加あり)

米国原子力発電のコスト 世界のエネルギー フランスのソーラーロード エチオピアの 
 2017.1.20東京新聞   コスト推移   Newsweek2017.1.17 ソーラーキオスク     

  
 南アフリカのソーラー空港 アフリカのソーラー航空機  スイス船籍のソーラー船

(図の説明:原子力発電のコストは上がり、太陽光発電のコストは規模の拡大により下がって、2016年には風力発電よりも低くなった。今後は、太陽光発電の原材料変化によるコストダウンも見込まれる中、フランスでは太陽光発電を埋め込んだ道路ができ、道路で発電できるようになった。また、アフリカでは、電線の引かれている地域が限られているため、太陽光発電等に依る分散発電には大きな意味がある。さらに、ソーラー空港・ソーラー航空機・ソーラー船は、太陽光発電の将来性の大きさを感じさせる)

(1)東芝の経営意思決定における失敗と損失 ← 原発への固執は、会社を破綻させること
 東芝は、*1-1、*1-3のように、4,800億円と見込まれていた損失額が7,000億円になりそうなため、債務超過を回避する目的で、世界シェアの高い半導体事業を分社化してつくる新会社の株式を一部売却するのだそうだ。そして、綱川社長は、*1-4のように、2017年1月27日に原発事業の海外建設工事から撤退する等の方針を表明し、「原発事業はエネルギー事業のなかで最注力としていたが変える」と強調したそうだ。

 東芝の家電や太陽光発電機器は優れているため、私は東芝の失敗とその後の「選択と集中」に関する経営意思決定を残念だと思っていたが、東芝の原発事業からの撤退が、フクイチの後にすぐ決定されていれば、損失はずっと少なかったと思う。また、東芝の主導権は50%超の株式を保有していれば確実に維持できるため、株式は金もうけ目的で会社を買って転売する投資ファンドではなく、協業することによってシナジー効果を得られる他業種の製造会社に売却すれば、前向きの効果が得られると考える。

 なお、東芝が、S&W社を275億円で買収して数千億円もの損失を出した理由について、*1-2は、東芝の子会社である米ウェスチングハウスが1年前に原発建設会社S&W社を買収し、米規制当局の安全規制強化等で建設コストが膨らんだので生じたとしている。しかし、私には、フクイチの後、世界が原発から手を引こうとしている時に、純資産額を約105億円も超える価格で原発関連会社を買収し、買収後に純資産額がマイナス数千億円に達したのは、リーダーが世界の潮流を見誤って甘い意思決定をしたからとしか思われない。さらに、ウェスチングハウスとS&W社は、今回の損失を予見した上で、原発から撤退するに当たって、日本企業の東芝に損失を負わせた可能性すらある。

 また、*1-3に、「7,000億円」という数字は、世界の4大監査法人の一つで老舗監査法人のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の米国事務所がウェスチングハウスに対して示した数字だと書かれているが、これが監査であり、顧問先企業の損失を冷静に把握して監査に反映させなければ、後で株主・投資家・債権者などに対して、監査法人は会社と連帯責任を負うことになるのである。

 それらの総合的な結果として、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズは、東芝の格付けを「シングルBマイナス」から「トリプルCプラス」に引き下げたそうだ。

(2)フクイチとその後の状況
 フクイチでは、*2-1のように、昨年の透視調査で核燃料の大部分が原子炉圧力容器内に残っていると推定されていた2号機に、事故から約6年経ってカメラを入れて見たところ、溶けた核燃料のような塊が飛び散っている様子が見え、核燃料取り出しや廃炉の困難さがわかったのだそうだ。そして、1号機と3号機は、核燃料の大部分が原子炉圧力容器内に残ってもいないようだ。

 溶けた核燃料が原子炉の外に出た事故は、これまで旧ソ連のチェルノブイリ原発事故だけで、事故から30年経過した今でも取り出しに着手していない。東電などは、2018年度に溶けた核燃料の取り出し方法を決め、2021年にも着手するとしているが、事故から約6年経って核燃料かもしれない姿の一部を見ただけで、広がりも、量も、状態も公表していないのである。

 1~3号機を合わせて、放射性物質が大気中に放出された量については、*2-2のように、ノルウェーの研究チームが、日本政府が2011年6月に発表した推定放出量よりもずっと多いと報告している。これは、世界各地で観測された放射能データを組み合わせて、大気中の放射性物質の量と流れを推定した結果だそうだ。

 さらに、日本政府の主張とは異なり、4号機の使用済み核燃料プールからも大量のセシウム137が放出されていたと報告しており、もっと迅速に対応していれば、これほど大量の放射性物質が放出されずにすんだかもしれないと述べており、私もそのとおりだと思う。そして、原子炉から何が放出されたのかがより重要で、それには原子炉内で何が起きたのかを厳密に知らなければならないが、それがまだ明らかにされていないのである。

 なお、*2-2に、「3月14日の午後、風向きが変わって陸に向かって吹き始め、セシウム137が東北南部から中部地方にまで広がり、15日夜から16日未明にかけて雨が降った栃木県と群馬県の山間部では土壌から比較的高濃度の放射性物質が検出された」と書かれているが、埼玉県では15日夕方からぽつぽつと雨が降り、その時外出していた私の傘は、後に放射線量が非常に高いことがわかった。これは、あらかじめ予報されていれば、外出を控えたり、傘を洗ったりなどの対応ができた筈のものである。

 原発事故による放射能汚染廃棄物は、焼却しても放射性物質が空中に飛び散るためさらに問題なのだが、*2-3には、汚染牧草をすき込んで牧草の堆肥化をすると書かれている。なお、国の指定基準(1キロ当たり8000ベクレル)以下の廃棄物なら何をしてもよいのかと言えば、放射性物質は総量が重要であるため、「400ベクレル以下の牧草はすき込み、400ベクレルを超えるものも堆肥に混ぜ込むことで、ほとんど焼却しないで済む」などというのは、「放射性物質は閉じ込める」という原則的対応からかけ離れた判断なのだ。

 政府は、*2-4のように、福島の復興指針を改定し、除染費用は東電が負担するとの原則を転換して「帰還困難区域」の除染に国費を投入することを閣議決定し、同区域に5年後をめどに避難指示の解除を目指す「特定復興拠点」を設け、除染費用として2017年度予算に約300億円計上するそうだ。これは、フクイチの放射性物質への対応すら決まっていないのに、放射性物質をあまりにも甘く見た決定だ。

 さらに、*2-5のとおり、原発の廃炉費用の一部は、原発を所有しない新電力にも負担させるなどの費用負担をさせ、送電網の使用料として徴収することにしたそうだが、既存の電力会社が積立不足にした過去費用を関係のない新電力に負担させると、電力市場を歪めて市場の自由化に逆行する。それではどういう解決策があるかについては、総括原価方式で消費者の負担によって作ってきた大手電力会社の送電網を別会社化し、シナジー効果の出る会社に出資してもらい、それで得た資金を廃炉費用に充てるのがまっとうな方法だろう。

 その上、*2-6のとおり、1兆円超の資金を投じても稼働のメドが立たなかった高速炉開発を進める方針にしたそうだが、原発事故のリスクは0ではなく、一度起これば取り返しのつかない事態になることが明らかで、再生可能エネルギーの進歩も著しいため、核燃料サイクルは凍結や断念も視野に根本的に再考すべきであり、被爆国としての責任は原爆廃止へのリーダーシップを発揮することだと考える。

 なお、*2-7のように、原発の発電費用を研究してきた立命館大学の大島教授が、原発で一キロワット時の電力をつくるために必要な費用を、実際原価で13.1円と試算し、水力発電11.0円、石炭火力12.3円、LNG火力13.7円など他の発電方法よりも高いとしている。しかし、大島教授も原発と水力・火力の比較しかできていない。これは、「再生可能エネルギーは高い」という神話を信奉し続け、再生可能エネルギーの研究に水を差し続けた日本の政府・メディアの一つ一つの行動の総合的結末である。

(3)世界の再生可能エネルギーの進歩と日本の遅れ
 「太陽光発電の発電コストが石炭火力発電以下になり、長年"コスト高"というデメリットを抱えてきた太陽光発電が、近年、技術の進化と規模の経済性で、コスト競争力のある発電方式となりつつあることが明らかになった」と、*3-1に書かれている。

 太陽光発電は化石燃料を必要とせず、発電時に温室効果ガスや騒音・振動を発生させない、環境負荷の低い発電方式だが、日本では、発電設備のコストが高いと批判ばかりされ、あまり推進されなかった。

 しかし、世界経済フォーラムの報告書によると、オーストラリア、ブラジル、チリ、メキシコなどの世界30カ国以上で、太陽光発電のコストは既に石炭火力以下になったそうだ。日本では太陽光発電のデメリットばかりが強調されて普及が進まなかった結果、発電効率の改善や発電設備の廉価化が進まず、日本のシャープが世界で最初に商品化したにもかかわらず、シャープは破綻しそうになり、台湾企業に買収されて日本企業ではなくなった。これが、日本の政治やメディアの悪い点なのである。

 よい例は、2016年12月、世界で初めてフランスで完成したソーラーパネルを敷設した道路だ。道路は広い面積を持っているため発電量が多く、電気自動車の充電にも適している。また、2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に続き、2016年4月には、インド、オーストラリア、フランス、エチオピア、ブラジルを含む25カ国が、太陽光発電に関する研究開発や普及のために1兆ドル(約114兆円)投資することで合意したとのことだ。

 世界の自然エネルギー導入量は、*3-2のように、過去数年で急速に拡大し、風力発電は5億kW、太陽光発電は3億kW近くに達したそうだ。また、導入量以上に画期的なのは、コストが劇的な低下を続け、風力発電は1kWhあたり3.0セント、太陽光発電も1kWhあたり2.42セントという水準に至り、条件に恵まれた地域の太陽光発電は、火力発電だけでなく、風力発電よりも安くなっていることである。

 「パリ協定」は、今世紀後半には世界の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすることを決め、そのためには、化石燃料から自然エネルギーへの全面的な転換が必要で、現在では、世界のトップ企業が、自らの企業の使う電力を率先して100%自然エネルギーに転換する「RE100」に取組んでいるそうだ。

 「RE100」には、欧米だけでなくインド・中国の企業も参加しているが、日本企業は参加しておらず、日本での自然エネルギー導入が遅れている中で、「RE100」の目標を掲げることに二の足を踏んでいる状況なのだそうだ。パリ協定が発効し脱炭素への転換が求められる中、世界規模でビジネスを展開する企業には、温室効果ガスの排出を大幅に削減すること、その取組として自然エネルギー100%をめざすことが、マーケットでのその企業の評価を左右するようなり、世界の多くのトップ企業が「RE100」に参加しているのは、この動向を熟知しているからだそうである。

 日本のエネルギー政策は、自然エネルギーの導入に消極的であるのみならず、石炭火力の大量の新増設を可能にするなど、「パリ協定」後の世界の流れに逆行している上、送電網を管理する電力会社が自然エネルギーの接続や有効利用に制限を加えるなど、自然エネルギーのコスト低下を阻む多くの障害を作っている。

 また、「ベースロード電源市場の創設」という名目で、原子力や石炭火力の利用を進める政策を経産省が導入するなど、「工業国に公害はつきものだ」「100%完全なことはあり得ない」などの誤った信念を持つリーダーの環境意識の低さと、「空気は汚してもよいが、現在の空気(それも身の廻りのみ)を読むのが最も重要」と考える人々の意識の低さが、日本の環境技術開発の妨げになってきたことは明らかだ。

<東芝の失敗と損失>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12767261.html (朝日新聞 2017年1月27日) 東芝、入札2月上旬にも 損失7000億円見込み 半導体分社
 米国の原発事業で巨額損失を計上する見通しとなった東芝は、半導体事業を分社化してつくる新会社の株式の一部売却に向け、売却先を決める入札を来月上旬にも実施する方針だ。今月27日に開く取締役会で分社化を正式に決め、3月末の臨時株主総会で必要な決議を得る予定だ。現時点で損失額は7千億円前後に拡大する見通しになっている。関係者によると、東芝は当初、損失額を4800億円と見込んでいたが、米国で損失額の確定作業を進める担当部署から、2千億円程度増えるとの見通しが伝えられているという。半導体の分社化では、新会社の株式の2割弱を手放す方向で調整しており、少なくとも2千億円程度の売却益を見込む。2割弱にとどめるのは、新会社が他社の持ち分法適用会社になるのを避け、東芝の主導権を維持するためとみられる。また、東芝のNAND(ナンド)型フラッシュメモリー事業は世界シェアが2割を超える。米ウエスタンデジタル(WD)のような同業大手の場合、出資比率が高くなると独占禁止法上の審査が必要になり、売却に時間がかかる恐れがある。確定作業を進めている米原発事業の損失額次第では、売却する株式の割合を増やす可能性も残る。損失額は、来月14日の昨年4~12月期決算発表と同時に公表する方針。東芝の自己資本は昨年9月末時点で約3600億円しかなく、販売が好調なフラッシュメモリーを軸とした半導体事業の分社化・株式売却が、債務超過の回避策の柱となる見込み。2017年3月期の債務超過を避けるには3月末までに売却益を得る必要があり、入札手続きを急ぐ。入札には、米WDに加え、キヤノンなどの取引先、英ペルミラ、米ベインキャピタルといった投資ファンドなど10社程度が関心を示している。27日の取締役会では、事業や資産の売却、投資の抑制などの対策も議論する見通し。上場グループ会社の株式売却を検討するほか、16年度下半期に約600億円を使う予定だったリストラを先送りするなどして支出を抑える方針。本業での利益の上ぶれなども含め、3千億円規模の損失対策を計画している。

*1-2:http://mainichi.jp/premier/business/articles/20170106/biz/00m/010/001000c
(毎日新聞 2017年1月10日) 「275億円の買収で東芝損失数千億円?」の大疑問
●「数千億円損失?」への疑問(1)
 自社の事業でいきなり「数千億円の損失の可能性」が出てきたら、どんな経営者も平静ではいられないだろう。東芝が昨年12月末に発表した子会社の米原子力大手ウェスチングハウスをめぐる問題は、綱川智・東芝社長ら経営陣にとって降って湧いたような衝撃の出来事だったに違いない。なぜ、こんな事態になったのか。問題は、1年前にウェスチングハウスが原発建設会社、S&W社を買収したことで生じた。ウェスチングハウスは、S&W社とともに、米国で電力会社2社から発注を受けて原発4基の建設を進めてきた。総額2兆円にのぼるプロジェクトで、ウェスチングハウスが原発の設計や主要機器を供給し、S&W社が実際の建設作業にあたる分担だった。4基は当初、2016年に2基、17年に1基、19年に1基というスケジュールで運転開始する予定だった。ところが米規制当局の安全規制強化などの対応で完成が遅れ、運転開始予定は19年に2基、20年に2基になった。規制強化と完成遅れで建設コストは膨らみ、ウェスチングハウスと電力会社が負担をめぐり互いに訴え合う事態になっていた。また、ウェスチングハウスとS&W社も同様にコスト負担をめぐって争っていた。
●買収先は売上高2000億円の企業
 そうしたなか、ウェスチングハウスは15年12月、S&W社を買収した。買収額は2億2900万ドル(当時の為替レートで約275億円)。S&W社の年間売上高は約2000億円。ウェスチングハウスはこの規模の企業を、少額で買収したことになる。ウェスチングハウスは、買収でS&W社との争いについて双方が取り下げ、同時に電力会社との訴訟や争いについても取り下げることで和解に達したと説明した。買収時のS&W社の純資産の査定額は公表されていないが、1億4200万ドル(約170億円)だったと推定される。東芝とウェスチングハウスは、買収額から純資産額を引いた8700万ドル(約105億円)を「のれん」として資産に計上することになった。のれんの資産計上は、S&W社が将来、利益を上げることを前提にしている。ところがそこに大きな落とし穴があった。純資産額が170億円どころか、マイナス数千億円にのぼる可能性が出てきたというのだ。これは次の事情による。
●新たな下請け会社の見積もり
 ウェスチングハウスは買収後、新たに別の米大手エンジニアリング会社を原発建設の下請け会社として現地で工事にあたらせることにした。S&W社の建設作業者は、この下請け会社に移管されることになった。下請け会社は改めて完成までの建設コストの見積もりを行った。そして10月にウェスチングハウスに見積もりの結果を提出した。ウェスチングハウスが精査したところ、それまで想定していた建設コストを大幅に上回ったというのだ。膨らんだ建設コストを前提にすると、S&W社の収支はこの先、大幅に悪化する。この結果、純資産額が、数千億円のマイナスになる可能性が出てきたというのだ。米国での原発事業で数千億円規模の損失が出る可能性があるとして、膨らんだ建設コストのリスクをなぜ、ウェスチングハウスがすべて背負うことになったのか。買収時にS&W社や電力会社との争いを取り下げたことに問題はなかったのか。買収契約に危険を回避する項目を盛り込むことは考えなかったのか。さまざまな疑問が湧いてくる。その疑問の先に生じてくるのは、ウェスチングハウスは本当に今回のリスクを予見できなかったのかという問いだ。そして「数千億円の損失リスク」は、S&W社固有の問題ではなく、原発新設プロジェクトでウェスチングハウス自身が抱えてきたリスクではないのか、という根本の疑問である。

*1-3:http://mainichi.jp/premier/business/articles/20170125/biz/00m/010/017000c (毎日新聞 2017年1月27日) 「東芝7000億円損失」で銀行・取引先に広がる疑心
●半導体事業の入札(1)
 東芝問題が激しく動いている。大手各紙は1月中旬、東芝の子会社である米ウェスチングハウスの原発事業で生じる損失の規模について「最大7000億円」という記事を一斉に報道した。さらに、毎日新聞は1月26日、損失額が「6800億円程度」と詳細な数字を報じた。一方、東芝の主力事業である半導体部門を分社化し、株式の2割弱を売却する方向で入札の手続きが始まったことも各紙で報じられた。いったい東芝に何が起きているのか。損失の規模について「最大7000億円」とされた点について、まず解説しよう。東芝は昨年12月末に、ウェスチングハウスが進めている米国の原子力発電所建設で追加コストが発生し、数千億円の損失が生じる可能性があると発表した。1月に入って、「損失額は4000億~5000億円」という情報が流れた。さらに1月19日に「最大7000億円」という記事が出たのだ。
●「7000億円」は米会計事務所が示した数字!?
 4000億円から7000億円まで大きな開きがあるが、これはどういう数字なのか。「7000億円」は、米国の会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)がウェスチングハウスに対して示している数字だと関係者は説明する。これに対し、ウェスチングハウス側は4000億円から5000億円程度を主張しており、両者の間で協議が続いている、というのだ。PwCは世界4大会計事務所の一つ。4大事務所のなかでも筆頭格だ。日本ではPwCあらた監査法人と提携している。不正会計の発覚で、それまで東芝の監査を担当していた新日本監査法人は16年3月期限りで監査を降りた。その後釜は、PwCあらた監査法人になった。それと同時に、ウェスチングハウスの会計監査は、新日本監査法人と提携していたアーンスト・アンド・ヤング(EY)から、PwCに交代した。ウェスチングハウスは米原子力事業の損失について、そのPwCの監査を受けているのだ。
●東芝は2月14日に確定値を公表
 東芝の不正会計問題をめぐっては、「監査法人はなぜ見過ごしたのか」と批判の声が上がった。注目度の高い案件であり、PwCは厳しい監査に臨んでいると言われる。その結果が「7000億円」という主張になっている可能性がある。ただ、この数値も流動的だと言われている。東芝の正式な発表が遅れているなかで、額が少しずつ膨らんできた。銀行や取引先に疑心暗鬼が広がらないわけがない。東芝は1月24日、プレスリリースを出し、損失額の確定や、第3四半期決算数値について2月14日に公表することを明らかにした。その際、合わせて損失発生の原因と再発防止策についても報告するという。公表日を示すことで沈静化を図ったとみられる。
●格付け会社が再び格下げ
 そのプレスリリースが出た同じ1月24日、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズが、東芝の長期会社格付けを「シングルBマイナス」から「トリプルCプラス」に1段階引き下げた。シングルBもトリプルCも「投機的」な位置づけだ。今後も格下げ方向であることは変わらないという。2017年1月25日付の毎日新聞東京朝刊  スタンダード・アンド・プアーズは格下げの理由として、「株主資本の大幅な毀損(きそん)が不可避と推定されることから、債務履行を長期的に継続することに対する不透明感が従来より強まった」と説明している。そして、こうした動きの一方で、東芝の主力事業である半導体部門を分社化し、一部株式を入札で外部に売却する手続きが始まった。売却先候補として、投資ファンドや事業会社の名前がキヤノンなど10社以上上がっているのである。

*1-4:http://digital.asahi.com/articles/ASK1W5FT8K1WULFA025.html?iref=comtop_list_biz_n04(朝日新聞 2017年1月27日)東芝、海外の原発建設から撤退へ 社長「あり方見直す」
 東芝は27日、米国で巨額損失を計上する見通しとなった原発事業について、海外の建設工事から撤退するなど、大幅に見直す方針を表明した。同事業で損失が急拡大する事態の再発を避ける狙い。半導体事業の分社化も27日の取締役会で正式決定。2017年3月期の債務超過回避を目指し、入札手続きを急ぐ。この日記者会見した綱川智社長は、原発事業について「エネルギー(事業)のなかで最注力としたが、変えていく」「海外事業は今後のあり方を見直していく」と強調した。巨額の損失をなかなか把握できなかった反省から、社長直属の事業に変更して管理を強化。今後の受注では、設計や原子炉の製造・納入などに専念し、コストが見通しにくい建設工事から手を引いて「リスク遮断する」(綱川社長)。30年度までに海外で原発45基以上の受注を見込む従来計画も、基数を含めて見直す方針を示した。半導体事業では、スマートフォンなどに使われる主力のNAND(ナンド)型フラッシュメモリー事業(従業員約9千人)を分社化。3月下旬の臨時株主総会で株主の承認を得て同月末に実施する予定。新会社の株式の一部売却は「20%未満が基本」(綱川社長)としている。米原発事業での損失額は、現時点での精査では7千億円前後に拡大する見通し。東芝は昨年4~12月期決算を発表する来月14日に、確定した損失額を公表する。半導体事業の分社化で2千億円超の利益を見込むが、債務超過が回避できるかどうかについて、綱川社長は「それ(回避)に向けて資本増強をあらゆる手段でとりたい」などと述べるにとどめ、資本増強策や原発事業見直しの詳細は、来月14日に説明する考えを繰り返し強調した。

(フクイチとその後の状況)
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK1Z5Q0KK1ZULBJ00F.html?iref=comtop_8_07 (朝日新聞 2017年1月31日) 核燃料?飛散、取り出し困難 チェルノブイリ以来の事態
 東電は宇宙線を利用した昨年の透視調査で、2号機の核燃料は大部分が原子炉圧力容器の中に残っていると推定していた。圧力容器直下にカメラを入れても、溶け落ちた核燃料が見える可能性は低いとみていた。だが、カメラの視野には、溶けた核燃料のような塊がそこかしこに飛び散っている様子が浮かび上がった。そこから分かることは、これからの核燃料取り出しや廃炉の困難さだ。溶けた核燃料が原子炉の外に出た事故は、これまで旧ソ連のチェルノブイリ原発事故以外にない。チェルノブイリ原発では、事故後30年が経過した今も、取り出しに着手していない。東電などは、2018年度に溶けた核燃料の取り出し方法を決め、21年にも着手するとしている。だが、事故から約6年で、核燃料かもしれない姿の一部が見えただけだ。広がりも、量も、状態もわからない。核燃料や、核燃料がこびりついた金属をどう切り出すのか。作業員の被曝(ひばく)をどう抑えるのか。取り出した燃料をどこに保管し、いつ処分するのか。3基がメルトダウンした世界でも例のない廃炉作業は、まだ、何一つ決まっていない。

*2-2:http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/specials/contents/earthquake/id/nature-news-102711#fig1 (Nature 2011年10月27日号 Geoff Brumfiel) 放射性物質はどのくらい放出された?
 ノルウェーの研究チームにより、新たに福島第一原発事故で大気中に放出された放射性物質の総量が計算され、政府が6月に発表した推定放出量よりもずっと多いという報告があった。世界各地で観測された放射能データを組み合わせて大気中の放射性物質の量とその流れを推定した結果、福島第一原子力発電所の事故では、政府の推定よりもはるかに大量の放射性物質が放出されていたという研究が、Atmospheric Chemistry and Physics に発表された1。さらに、日本政府の主張とは裏腹に、4号機の使用済み核燃料プールから大量のセシウム137(半減期が長く、長期にわたって環境を汚染する物質)が放出されていたとも報告しており、もっと迅速に対応していれば、これほど大量の放射性物質が放出されずにすんだかもしれないと述べている。論文はオンライン掲載され、現在、公開査読を受けている。研究チームを率いたのは、ノルウェー大気研究所(シェラー)の大気科学者 Andreas Stohl だ。Stohl は、自分たちの分析は、これまで行われてきた福島第一原発から放出された放射性物質の量についての調査研究の中で、最も包括的なものであると自負している。スウェーデン防衛研究所(ストックホルム)の大気モデル作成の専門家 Lars-Erik De Geer は、今回の研究には関与していないが、「非常に価値のある成果です」と評価している。オンライン特集 原発事故による放射性物質の放出過程の再現は、日本国内をはじめ世界各地にある数十か所の放射性核種モニタリングステーションで観測されたデータに基づいて行われた。その多くは、包括的核実験禁止条約機構(オーストリア:ウィーン)が核実験の監視のために運用している世界規模での観測ネットワークに属する。このデータに、カナダ、日本、ヨーロッパの独立観測ステーションのデータも付け加え、これらをヨーロッパと米国が保管している広域気象データと組み合わせた。ただし、Stohl は、自分たちが作成したモデルは完全にはほど遠いものだとして注意を促している。原発事故発生直後の測定データが非常に少ないうえ、一部のモニタリングポストは放射能汚染がひどく、信頼できるデータが得られなかったからである。より重要なのは、原子炉から何が放出されたのかを知るためには、原子炉内で何が起きたのかを厳密に知らなければならないのだが、いまだ明らかになっておらず、永久に謎のままかもしれないという事実である。「チェルノブイリ事故から25年後もたった今でも、その推定値は不確かな部分が非常に多いのです」と Stohl は言う。それでも、今回の研究は、福島第一原発事故を全般的に調査したものであり、De Geer は、「Stohl らは真に地球規模の視点から、現在入手できるかぎりのデータを利用して推定しています」と話す。
●政府の発表
 3月11日の地震後に原発で起こった出来事については、すでに日本の研究者たちが詳細な経緯を推定している。福島第一原発電の6機の原子炉が激しい揺れに見舞われた50分後、巨大津波が襲来し、緊急時に原子炉を冷却するための非常用ディーゼル発電機が破壊された。それから数日の間に、地震発生時に稼働していた3機の原子炉が過熱して水素ガスを発生し、次々に水素爆発を起こした。定期点検のために停止していた4号機では、核燃料は使用済み核燃料プールに貯蔵されていたが、3月14日にこのプールが過熱し、おそらく数日にわたり建屋内で火災が発生した。一方で、原発から放出された放射性物質の量の解明は、事故の経過の再現に比べてはるかに難しい。政府が6月に発表した『原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書 ―東京電力福島原子力発電所の事故について―』では、今回の事故により放出されたセシウム137は1.5×1016ベクレル(Bq)、キセノン133は1.1×1019Bqと推定している2。セシウム137は半減期30年の放射性核種で、原発事故による長期的汚染のほとんどの原因となっている。一方、キセノン133はウラン235の崩壊によって放出される半減期約5日の放射性核種であり、原発事故や核実験の際、初期に観測される。ところが、Stohl らが原発事故の再現結果に基づいて推定した放出キセノン133の量は1.7×1019Bq、セシウム137の量は3.5×1016 Bqで、政府の見積もりよりキセノンが約1.5倍、セシウムが約2倍となった。キセノン133の放出量は、チェルノブイリの総放出量1.4×1019Bqよりも多いことになる。だが、De Geer によれば、チェルノブイリでは爆発した原子炉が1機であったのに対して、福島の事故では3機も水素爆発したことで説明できるという。また、キセノン133は生体や環境に吸収されないため、健康に深刻な影響を及ぼすおそれはない。 問題なのは、数十年にわたり環境に残存するセシウム137だ。Stohl らのモデルの値は、チェルノブイリ事故での放出量の約1/2に相当する。De Geer は、このような高い値が出たことを懸念している。今後、セシウム137が人々の健康に及ぼす影響を明らかにするためには、現在行われている地表での測定を進めていくしかない。Stohl は、自分たちの推定値が政府の発表と食い違いっているのは、今回の調査ではより多くのデータを使用したことが原因の1つであるという。政府の推定の基礎となったデータは、主として日本国内のモニタリングポストによるものであり3、風に乗って太平洋を越え、北米やヨーロッパに到達した膨大な量の放射性物質は考慮されていないのだ。神戸大学の放射線物理学者で、福島周辺の土壌汚染を測定している山内知也(やまうちともや)は、「事故の本当の規模と特徴を明らかにするためには、太平洋上に出ていった放射性物質も検討する必要があります」と言う。Stohl は、政府の依頼を受けて公式な推定値を出した研究チームを非難しているのではない。むしろ、「できるだけ早く結果を出す必要があったのでしょう」と慮っている。群馬大学の火山学者で、自らも原発事故のモデルを作成した早川由紀夫(はやかわゆきお)は、「確かにこの数値だけを見れば、両者は大きく違うでしょう。けれども、どちらのモデルにもまだまだ不確実な要素があり、実際には2つの推定は非常に近いのかもしれませんね」と言う。さらに、Stohl らは、4号機の使用済み核燃料プールに貯蔵されていた核燃料が、莫大な量のセシウム137を放出していた可能性を指摘している。政府はこれまで、プールからは放射性物質はほとんど漏れ出していないと主張してきた。しかし、研究チームのモデルでは、プールへの放水をきっかけに原発からのセシウム137の放出が激減したことが、はっきり示されている(図「原発事故の経過」参照)。つまり、もっと早い段階から4号機プールへの放水を行っていれば、放射性物質の放出をもっと抑制できたかもしれないのだ。しかし、政府は、使用済み核燃料プール自体に大きな損傷はなく、使用済み核燃料が重大な汚染源になったとは考えられないと主張している。政府による公式推定値の算出にかかわった日本原子力研究開発機構(茨城県東海村)の茅野政道(ちのまさみち)は、「4号機から放出された放射性物質は多くはなかったと思います」と言う。だが De Geer は、核燃料プールの関与を含めた今回の新しい分析は、「説得力があるように見えます」と語る。さらに今回の分析は、もう1つ新たなデータを提示している。地震の直後、津波が福島第一原発に襲いかかる前から、キセノン133が漏れ始めていたというのだ。つまり、原発は、津波が襲来する前から、地震によって損傷していたことになる。政府の報告書でも、福島第一原発電を襲った揺れの大きさが、原発設計時に想定されていた揺れを上回っていたことを認めている。反原発の活動家は、以前から、政府が原発を認可する際に地質学的な危険を十分に考慮していないと主張しており(Nature 448, 392-393; 2007)、今回のキセノンの大量放出は、原発の安全性についての評価方法の再考を促すことになるかもしれないと、山内は言う。この事故で、首都圏はどうだったのか。実は、原発事故により甚大な被害を受けるおそれがあった。事故直後の数日間は、風は海に向かって吹いていたが、3月14日の午後、風向きが変わって陸に向かって吹き始め、セシウム137が東北南部から中部地方にまで広がっていった(図「放射性物質の拡散」参照)。実際、15日夜から16日未明にかけて雨が降った栃木県と群馬県の山間部では、のちに土壌から比較的高濃度の放射性物質が検出された。一方、首都圏では、そうした高濃度の放射性物質が上空を通過したときに、たまたま雨が降らなかったことが幸いした。「この時期に雨が降っていたら、東京も今よりずっと深刻な事態になっていたかもしれません」と Stohl は言う。(編集部註:ただし、(独)国立環境研究所の空間線量測定とシミュレーションによれば、21日から22日にかけても放射性物質が南関東に流れ込んだことが示されている。このときは、雨が降っていたため、南関東でも一部の地域で比較的高い線量が観測されていると思われる。)

*2-3:http://mainichi.jp/articles/20161229/ddl/k04/040/044000c (毎日新聞 2016年12月29日) 東日本大震災 .福島第1原発事故 放射能汚染廃棄物 焼却以外の「出口」模索 反対2市、すき込みや堆肥化/宮城
 東京電力福島第1原発事故による放射能汚染廃棄物の試験焼却を協議した27日の市町村長会議は「半年以内に再協議する」と結論を先送りした。この席で県が求める「年明けからの実施」に異を唱えた登米市の布施孝尚市長は28日の取材に、近く汚染牧草のすき込み実証実験を始める意向を明らかにした。会議で焼却反対を明言した栗原市も牧草の堆肥(たいひ)化を続ける方針で、汚染廃棄物の処理問題に独自の「出口」を描いたことが県方針に反する自治体の主張に結びついたといえる。布施市長は会議で、すき込みの検証作業を進める考えを示し「いましばらく時間をいただきたい」と発言した。登米市にある国の指定基準(1キロ当たり8000ベクレル)以下の廃棄物約4700トンのうち約3500トンは、堆肥化やすき込みが許容される同400ベクレル以下。布施市長によると、市役所内部で検討したところ、「400ベクレル以下の牧草はすき込み、400ベクレルを超えるものも堆肥に混ぜ込むことで、ほとんどを焼却しないで済む」との見通しがたったという。市関係の草地でさまざまな条件を設定しながら、牧草をすき込む準備もほぼ終了した。検証がまとまる時期に関連して「『半年以内』は知事のお考えであり、牧草の最初の収穫が間に合うかわからない。(次回市町村長会議までに)十分検証ができなければ、期間の延長を求めることもある」と述べた。一方、栗原市は12月議会で汚染牧草の堆肥化を本格的に進めるための予算案を認められなかったが、年度内に一部を修正し改めて提案する構えだ。販売を含め、堆肥の利用方法も検討に入るという。県議の一人は「一斉焼却に固執するのではなく、地域ごとに実情にあった出口を模索することが必要。県もそのために必要な支援策を国に働きかけるべきだ」と話す。

*2-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/388663 (佐賀新聞 2016年12月21日) 福島除染に国費300億円 復興指針閣議決定、2017年度帰還困難区域で
 政府は20日、東京電力福島第1原発事故で多大な被害を受けた福島の復興指針を改定し、閣議決定した。除染費用は東電が負担するとの原則を転換し「帰還困難区域」の除染に国費を投入。同区域に5年後をめどに避難指示の解除を目指す「特定復興拠点」を設け、除染費用として2017年度予算に約300億円を計上する。同区域で本格的な除染はされておらず、方針決定は初めて。関連法改正案を来年の通常国会に提出する。安倍晋三首相は官邸で開かれた原子力災害対策本部会議で「一日も早い福島の復興、再生に向け、道筋を具体化していただきたい」と述べた。改定指針は政府内での有識者を交えた検討会や国会での議論を経ていない。国民負担による東電救済との見方が多く、批判も予想される。同拠点の除染費用は5年間で3千億円規模の見通しだが整備が遅れればさらに増額する可能性がある。国費投入の背景には、費用が当初の政府試算の2兆5千億円から4兆円に拡大したことがある。試算には、放射線量が高い帰還困難区域の除染費用は含まれていない。除染関連の特別措置法は「費用は東電負担」と定めており、国費投入はできない仕組み。このため政府は、復興拠点に居住できるようにするインフラ整備に、周辺の表土のはぎ取りや樹木の伐採などの作業を組み込み、事実上の除染を「公共事業」と位置付ける。この枠組みが東電救済との批判をかわすため、福島復興再生特別措置法を改正して必要な措置ができるようにする。改定指針では、復興拠点以外の帰還困難区域も将来的な住民帰還を目指すとしている。国費での除染が増えれば、国民負担は数兆円規模に上る恐れもある。国費負担の理由については、帰還困難区域には長期間戻れないとの前提で東電が住民に賠償してきたとして、改定指針に「東電に求償せず国が負担する」と明記した。

*2-5:http://megalodon.jp/2016-1211-2210-32/ibarakinews.jp/hp/hpdetail.php?elem=ronsetu (茨城新聞論説 2016年12月11日) 原発廃炉の費用負担 電力市場をゆがめるな
 経済産業省の委員会は、原発事故の賠償金や電力会社が原発早期廃炉を決めた場合に生じる費用の一部を、原発を所有しない新電力にも負担させるなどの提言案をまとめた。経産省はこれを基に2017年度から順次、政策化することを目指す。費用は、既存の電力会社が所有する送電網の使用料(託送料)の形で徴収する方針で、最終的には電気料金に上乗せされて消費者負担となる。これは原発を所有する電力会社や事故を起こした東京電力への露骨な支援策だ。始まったばかりの電力市場の全面自由化の流れに逆行し、市場をゆがめる政策は受け入れがたい。経産省が公表した試算では、東京電力福島第1原発事故の損害賠償の費用は当初の見込みの5兆4千億円から7兆9千億円に拡大する。これまで、費用は東京電力や原発を所有する既存電力会社が負担してきたのだが、経産省は増加分2兆5千億円のうち2400億円を新電力に負担させる方針だ。経産省はまた、事故を起こしていない原発を、電力会社が当初の予定より早く廃炉にした場合に生じる費用の一部負担も新電力に求める。「過去にすべての需要家が安い原発の電力を利用してきたから」というのが広範囲の負担を求める理由だが、これらの費用は、原発運転で利益を得てきた電力会社が負担すべきものである。その原則をないがしろにし、消費者負担を求めることは、競争の中で不利になりつつある原発を所有する既存電力会社への保護策にほかならない。原発の利益はすべて享受し、経営上の判断の誤りによって生じたコストは消費者に転嫁するということが、市民の支持を得られるとは思えない。ただでも不透明な託送料への安易な上乗せを認めれば、今後に予想される賠償費用のさらなる増大などによって、電気料金が際限なく上昇するリスクも生まれる。経産省は、原発や石炭火力などからの電気を供出させ、新電力に優先的に供給する「ベースロード電源市場」を創設する方針だ。原発関連の費用負担に反対する新電力への懐柔策だろうが、これも、生まれたばかりの自由な電力市場をゆがめる政策だ。「原発と無縁な電気を使いたい」との消費者の希望に応え、原発の電力に手を出さない新電力は何のメリットも享受できずに、託送料を通じた負担だけを背負わされることになる。電力システム改革は、既存電力会社が送電網も所有する現在の仕組みを改めて、送電網を独立した企業の所有とし、すべての発電事業者が公平なルールの下でそこに電力を供給するという透明性の高い競争環境を確保することが筋だ。政府や電力会社は「原発の発電コストは安い」と主張するのだから、他の発電手法と公平な形で競争をしても何の問題もないはずだ。そもそも今回の議論の在り方自体に大きな問題がある。経産省が原発に好意的な識者や関連業界の代表を勝手に選んだ委員会で議論が進められ、一部は非公開で行われた。消費者を含めた広い議論への参加はおろか、国会の関与すらまったくないまま、国の将来を左右するエネルギー政策上の重要な改変を決めることは許されない。

*2-6:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12771846.html
(朝日新聞社説 2017年1月30日) 核燃料サイクル 再処理工場を動かすな
 高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が昨年末に決まった。計画から半世紀、1兆円超の資金を投じてもフル稼働のメドが立たなかっただけに、当然の帰結である。しかし政府は成算もないまま、再び高速炉開発を進める方針を決めた。原子力工学者らからなる国の原子力委員会は今月、新たな高速炉開発ではコスト面の課題を重視するべきで、急ぐ必要はないという趣旨の見解をまとめた。もんじゅの二の舞いを恐れての警告である。この高速炉ももんじゅ同様、核燃料サイクルの中核に位置づけられる。通常の原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、それを高速炉などで燃やすという構想だ。プルトニウムは原爆の原料になる。高速炉の実用化が見通せない以上、危険なプルトニウムを増やすべきではない。青森県六ケ所村では使用済み燃料の再処理工場が建設中で、2018年度上期に稼働する予定だが、操業を中止すべきだ。その上で、核燃料サイクル全体について、凍結や断念も視野に、根本的に再考することを政府に求める。将来世代を含む国民への責任が問われている。
■経済性に疑問符
 天然のウランを加工して作った燃料を原発で燃やし、使用済み燃料はすべて再処理する。取り出したプルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料にする。政府は長年、そうした全量再処理路線を掲げてきた。最大の誤算は、ウランが枯渇する心配は当分ないとわかり、価格も安定していることだ。六ケ所再処理工場の建設費は93年の着工以来、2兆2千億円に達する。完工時期は20回以上、延期されてきた。トラブル続きで稼働の先延ばしを重ねたもんじゅと同じ構図だ。大手電力など原子力事業者の共同子会社である日本原燃が建設主体で、費用は電気料金でまかなわれてきた。建設費を含む総事業費は約12兆6千億円と見積もられている。再処理の手間がいるMOX燃料が高くつくのは明白だ。経済性を重くみた米英独などは高速炉から撤退し、プルトニウムはもっぱら廃棄物扱いしている。プルトニウムには核兵器拡散問題がつきまとう。高速炉開発を続けているのが、ロシアや中国、フランス、インドと核保有国ばかりなのは偶然ではない。日本は国内の研究施設や英仏への委託で見切り発車的に再処理を進めてきた。計算上、原爆6千発分に当たる約48トンものプルトニウムを持っている。
■被爆国としての責任
 余剰なプルトニウムは持たないという核不拡散の国際規範に照らし、とりわけ唯一の戦争被爆国として、早急に保有量を減らすことが求められている。MOX燃料を原発で燃やすプルサーマル発電もあるが、四国電力の伊方原発3号機で実施されているだけで、プルトニウムは年に0・1トンほどしか減らない。原発の再稼働がどんどん進み、プルサーマルが広がるという見込みも立っていない。日本のプルトニウム現有量は六ケ所村の工場が約8年フル稼働した時の生産量にあたる。消費が進まないまま工場を動かせば、日本の核不拡散や核廃絶への姿勢まで疑われかねない。安全面の懸念も残る。六ケ所工場には使用済み燃料が3千トン近くある。大規模な火災や核分裂の連鎖反応が起きれば、放射性物質の放出リスクは原発以上とも言われる。昨年12月以降、原燃社内での安全上の虚偽報告や非常用発電機の故障、雨水の流入、核燃料物質の不適切保管が次々に発覚した。
■しがらみ超え再考を
 もんじゅ廃炉を待つまでもなく、サイクル構想には大きな無理があった。福島第一原発の事故後、長く原子力政策の司令塔役を務めてきた原子力委員会はサイクルの費用を試算し、再処理工場を稼働しないことも含めて政策の選択肢を検討する議論に踏み込もうとした。だが、原子力委の権限縮小や政権交代があり、実を結ばなかった。民主党政権下で「責任を持って議論する」(革新的エネルギー・環境戦略)とされたサイクル政策は、安倍政権下では「再処理やプルサーマル等を推進する」(エネルギー基本計画)と先祖返りしている。原子力委は今月の見解の中で、サイクル政策に「戦略的柔軟性の確保」を求め、使用済み核燃料を再処理せず長期保管する中間貯蔵の強化を推した。再処理・サイクル路線への慎重姿勢が強くにじむ。核燃料サイクルの抜本見直しは簡単ではない。国のエネルギー政策に直結し、関連施設がある各地の地域づくりにも影響する。青森県は再処理を条件に使用済み燃料を受け入れてきた。それでも今、立ち止まらなければ、国民全体が大きなつけを背負うことになりかねない。もんじゅ廃炉という、部分的な手直しですませてはならない。

*2-7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201612/CK2016121102000125.html?ref=hourly (東京新聞 2016年12月11日) 経済:事故処理費増え「原発は高い」 立命館大教授・大島堅一氏に聞く
 原発の発電費用を研究してきた立命館大学国際関係学部の大島堅一教授が、原発で一キロワット時(エアコン一時間分)の電力量をつくるために必要な費用を、実際にかかってきた費用を基に「一三・一円」と試算した。政府が九日にまとめた福島第一原発の処理費用二一・五兆円を反映した。本紙のインタビューで、政府の「最大でも一〇・四円で、さまざまな発電方法の中で最も安い」とする試算を「架空の前提に基づくため実態を反映していない」と否定した。大島氏は「原発は高い」と説明する。現実に東京電力は必要な費用を払えない状態のため、「資本主義のルールに従って破綻処理したうえ、株主にも責任をとらせて財産を処分、それでもお金が足りない場合は国が責任を持って税金などを充てるべきだ」と提言。ほかの大手電力会社の原発への支援策もやめるべきだと指摘した。立命館大国際関係学部の大島堅一教授が試算した方法は明快だ。原発の建設費や投じられてきた税金、福島第一原発の賠償に充てられたお金など、実際にかかった費用を積み上げ、原発が過去につくった発電量で割った。すると、一キロワット時当たりの発電費用は一二・三円だった。さらに、経済産業省が九日、原発の事故処理費が二一・五兆円へと倍増する試算を示したため、これを反映させると一三・一円になったという。一方、経産省はこの二一・五兆円を考慮しても、原発の発電費用は一〇・二~一〇・四円にとどまると計算した。二〇一五年に試算した一〇・一円とほぼ変わらず、水力発電(一一・〇円)などほかの発電方法を下回って最も安いとの説明を続ける。経産省と財界人らでつくる「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」の伊藤邦雄委員長(一橋大大学院特任教授)も「原発は最も効率的な発電方法だ」と語る。委員会の議論では「事故があっても安いということをもっと広報するべきだ」という意見があったという。この食い違いについて、大島氏は「政府の試算は『モデルプラント方式』といって、建設費の安い原発が事故もなく順調に稼働し続けるという理想的なシナリオを描いた計算。だから実際にかかった費用をそのまま反映するのではなく、仮定を置いて数字を変えるので安く見せるよう操作できる」と指摘する。例えば、日本の原発は稼働年数が平均三十年の時点で三基の炉心が溶融する「過酷事故」が起きた。十年に一基で事故が起きる確率だ。しかし政府試算は事故はほとんど起きない前提。このため福島第一原発にかかる費用がいくら膨らんでも、政府の試算にはほぼ影響しない。国民負担が増えているのに、政府が「原発は安い」と主張し続けるからくりはここにある。また、震災後は原発に厳しい安全対策が求められるようになり、建設費は世界的に高騰している。しかし、政府試算の前提は従来の建設費と同じ。大島氏は「政府試算の建設費の前提を、英国で新設されるヒンクリーポイント原発の建設費に置き換えただけでも、発電費用は一七・四円に跳ね上がる」と分析する。石炭火力(一二・三円)はもちろん、液化天然ガス(LNG)火力(一三・七円)より高くなる。ほかにも、政府が着手しようとしている次世代の原子炉「高速炉」の開発に投じられる税金は規模すらつかめない状態で、政府試算に反映されている金額を大幅に超えることは確実だ。大島氏は「原発は高い」と断言。「原発を続けるという選択肢があってもいいが、そのためには『原発は安い』という架空のシナリオではなく、客観的なデータを国民に示して判断を仰ぐべきだ」と語った。
<おおしま・けんいち> 一橋大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学、高崎経済大経済学部助教授などを経て現職。専門は環境経済学。著書に「原発のコスト」(岩波書店)など。

<世界の再生可能エネルギーと日本>
*3-1:http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/01/post-6741.php (Newsweek 2017.1.17)太陽光発電の発電コストが石炭火力発電以下に。ソーラーが「お得」な時代へ
<長年"コスト高"という大きなデメリットを抱えてきた太陽光発電が、近年、技術の進化と規模の経済性で、コスト競争力のある発電方式となりつつあることが明らかになった>
 太陽光発電は、化石燃料を必要とせず、発電時に温室効果ガスや騒音、振動などが発生しない、環境負荷の低い再生可能エネルギーの発電方式だが、発電設備のコストが比較的高いため、発電量あたりのコストが従来の火力発電に比べて高くなりがちであった。このように長年"コスト高"という大きなデメリットを抱えてきた太陽光発電だが、近年、技術の進化などに伴って、コスト競争力のある発電方式となりつつあることが明らかになっている。
●世界30カ国以上で、太陽光発電コストは石炭火力発電以下に
 世界経済フォーラムの報告書では、オーストラリア、ブラジル、チリ、メキシコなど、世界30カ国以上で、太陽光発電の発電コストが、石炭火力発電以下に低下しており、2020年頃までに、同様の現象が世界の約3分の2の国々に広がると予測している。発電所の設計、建設から運用、廃止までのコストを総発電量で割った「均等化発電原価(LCOE)」で比較すると、石炭火力発電では、メガワット時のコストが100ドル前後で推移してきた一方、太陽光発電は、10年前の600ドルから100ドル以下へと6分の1にまで縮小した。太陽光発電の発電コストが低下した要因として、発電効率の改善と発電設備の廉価化が挙げられる。米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)によると、ソーラーパネルの変換効率は、20年前の15%から、現在、46%にまで上昇。また、生産プロセスの改善や規模の経済性により、発電設備の製造コストが大幅に削減され、太陽光発電の発電コストを押し下げている。太陽光発電の発電コスト低下は、新興国でも顕著に認められる。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)によると、中国、インド、ブラジルなど、非OECD加盟国58カ国では、2016年時点で、太陽光発電導入コストが165万ドル/MWとなり、風力エネルギーをわずかに下回った。また南米チリでは、太陽光発電業者が29.1ドル/MWhの条件で政府と売電契約を設定した事例が話題となっている。
●フランスで世界で初めて、ソーラーパネルを敷設した道路が完成
 規模を問わず、発電効率が一定な太陽光発電は、大規模な発電所からスマートフォン向けの充電器まで、様々に導入できるのも特徴だ。たとえば、フランスでは、2016年12月、世界で初めて、ソーラーパネルを敷設した道路が完成。英国では、2017年1月から、電車の側面にソーラーパネルを装着し、太陽光エネルギーを電力として利用する調査プロジェクトが始動している。いわずもがな、地球温暖化防止の観点からも、太陽光発電は有力な発電方式だ。2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に続き、2016年4月には、インド、オーストラリア、フランス、エチオピア、ブラジルを含む25カ国が、太陽光発電に関する研究開発や普及のために1兆ドル(約114兆円)を投資することで合意した。太陽光発電のコスト競争力が高まるにつれて、先進国、新興国を問わず、日射量の多い国・地域を中心に、太陽光発電への投資が多様に増え、太陽光エネルギーの活用は、ますます広がっていきそうだ。

*3-2:http://www.renewable-ei.org/column/column_20170105.php (自然エネルギー財団常務理事 大野輝之 2017年1月5日) 自然エネルギーが脱炭素社会への扉を開く―2017年、自然エネルギー100%への転換を日本からも
●自然エネルギー発展の画期となった2016年
 世界の自然エネルギー導入量は過去数年、急速に拡大してきました。2016年末の導入量はまだ明らかになっていませんが、風力発電は5億kW、太陽光発電は3億kW近くに達したのではないかと見込まれます。5年前の2011年末と比較すると、風力は2倍以上、太陽光は4倍以上という高い水準です。昨年の自然エネルギーの発展に関して、導入量の大きさ以上に画期的だったのは、そのコストが劇的な低下を続けたことです。風力発電は、既に昨年1月にモロッコで行われた入札で1kWhあたり3.0セントというレベルまで低下していましたが、太陽光発電も昨年中に世界各地で行われた入札で、次々に最安値を更新し、9月にアブダビで行われた入札では、2.42セントという水準に至りました。今や日照時間など条件に恵まれた地域では、太陽光発電は従来からの火力発電だけでなく、風力発電よりも安い電源になっているのです。自然エネルギーの発電コストの低下は今後も続くと予測されています。国際再生エネルギー機関(IRENA)が昨年6月に公表した報告書(“THE POWER TO CHANGE”)では、2015年から2025年までに、大規模太陽光発電の導入コストは、世界平均で57%下落するとしています。
●世界のトップ企業は自然エネルギー100%をめざす
 昨年11月に発効した「パリ協定」は、今世紀後半には世界の温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを決めています。排出ゼロを達成するためには、エネルギー利用の効率化とともに、使用するエネルギーを化石燃料から自然エネルギーに全面的に転換する必要があります。今、世界のトップ企業の中で広がっているのは、自らの企業の使う電力を、率先して100%自然エネルギーに転換する「RE100」という取組みです。「RE100」には、アップル、グーグル、フェイスブックなどのIT企業やゴールドマンサックスやバンクオブアメリカなどの金融機関、更にはGM、コカコーラ、ヒューレットパッカードなどの名だたる世界のトップ企業が80社以上も参加しています。グーグルが今年中には100%の達成を見込むなど、これらの企業は積極的な自然エネルギー開発や調達を進めています。
●2017年:日本の未来を開くエネルギー政策への転換を
 「RE100」には、欧米だけでなくインドや中国の企業も参加していますが、残念ながら現在までのところ、日本企業は参加していません。日本企業の中にも、自然エネルギー100%を目指そうとしている会社はあるのですが、日本での自然エネルギー導入が立ち遅れている中で、「RE100」の目標を掲げることに二の足を踏んでいる状況です。パリ協定が発効し脱炭素への転換が求められる中で、世界規模でビジネスを展開する企業には、温室効果ガスの排出を大幅に削減すること、その代表的な取組として自然エネルギー100%をめざすことが、マーケットでのその企業の評価を左右するようなってきています。世界の多くのトップ企業が「RE100」に参加しているのは、こうした動向を熟知しているからに他なりません。また冒頭に見たように、欧米などでは自然エネルギーコストが安くなってきているため、自然エネルギー100%への転換が経済的にも大きな負担を伴うものではなくなってきているのです。日本のエネルギー政策は自然エネルギーの導入に消極的であるだけでなく、石炭火力発電の大量の新増設を可能にするなど、「パリ協定」後の世界の流れに逆行しています。送電網を管理する電力会社が、自然エネルギーの接続や有効利用に制限を加えるなど、日本には自然エネルギーのコスト低下を阻む様々な障害が残っています。一方、「ベースロード電源市場の創設」という名目で、石炭火力の利用を進める政策も導入されようとしています。エネルギー政策を転換し、日本の企業が石炭火力からの電力を利用しないで済むようにすること、自然エネルギー100%への転換を容易にできるようにすることは、脱炭素経済への転換が進む世界で日本企業が活躍するためにも必要になってきています。毎年恒例の自然エネルギー財団の国際シンポジウム"REvision"は、今年は3月8日に「自然エネルギーが切り拓く未来」をテーマに開催いたします。世界各地でビジネスが自然エネルギーの導入を先導している状況をお伝えしようと思っています。"REvision 2017"などのシンポジウムの開催、様々な調査研究の実施、アジアスーパーグリッドの実現をめざす共同の取組など、自然エネルギー財団は、本年も、日本と世界のエネルギー転換を進める活動に取り組んでいきます。


<強引な原発再稼働への動き>
PS(2017年2月1日追加):日本農業新聞が、*4-1に、「世界はパリ協定の下、既に地球温暖化防止へ動きだしている」「日本も再生可能エネルギーに軸足を移さなければ世界の潮流から取り残される」「日本が昨年決めた2030年度の電源構成は、天然ガス27%(13年度43%)、石炭26%(同30%)、再エネ22~24%(同11%)、原子力20~22%(同1%)、石油3%(同15%)であり、石炭火力と原発依存が鮮明で、時代を見誤っている」と記載しているのは、全くそのとおりだ。
 また、*4-2のように、「運転中や運転可能な全国の商用原発42基のうち40基で、重要設備である中央制御室の空調換気配管の詳細な点検が行われていなかったことが、電力9社と日本原子力発電への取材で分かった」とのことで、これは原発事故や放射性物資の危険性を無視したあまりにも杜撰な行動だ。しかし、*4-3のように、玄海原発3、4号機は新基準で「適合」とされ、これは全国で6例目だそうだ。国会議員選挙では、「経済」「補助金」「ばらまき予算」を前面に出して闘うため、脱原発を主にして選択する人は多くないが、原発再稼働の賛否のみを問えば反対する人の方が多い。
 そのため、*4-4のように、「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」は、司法を使って再稼働を止めようとしている。今後、玄海原発の再稼働は「地元同意」の手続に入るが、*4-5のように、唐津市長選で初当選した元県議の峰達郎氏が「地元同意」の範囲について、「佐賀県伊万里市や福岡県糸島市など周辺自治体と連携して、国に避難や屋内退避が必要となる半径30キロ圏への拡大を要請する」という意向を明らかにされたのは尤もで、事故時に被害を受ける範囲を考えればまだ狭いくらいである。

*4-1:https://www.agrinews.co.jp/p39774.html
(日本農業新聞論説 2016年12月27日) 地球温暖化防止 再エネ立国へ転換急げ
 世界は先月発効したパリ協定の下で、地球温暖化防止へ動きだしている。目標は「脱炭素」社会で、今世紀後半に二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出を実質ゼロにする。ドイツ、北米各国は既に脱炭素への長期計画を国連に提出した。だが、日本はその検討を始めたばかりだ。安全で脱炭素の切り札の再生可能エネルギーに早く軸足を移さないと、世界の潮流から置き去りにされてしまう。世界と日本の平均気温は今年も観測史上最高となった。温暖化によって、熱波、干ばつ、洪水など異常気象による災禍は地球上で枚挙にいとまがない。パリ協定は、今世紀末の気温上昇を産業革命以前と比べ2度未満に抑える目標を設定した。正確には「2度を十分下回る」という表現で、追求目標1.5度未満が真意といえる。実現手段が脱炭素化だ。CO2排出を森林などの吸収と同等にまで減らし、差し引きゼロにする。同協定は2020年以降の枠組みだが、事前に温室ガス削減の30年目標の上積みと長期計画を各国に求めている。米国は50年までの長期計画を先月提出。電源構成の再エネ比率を55%に高め、温室ガス80%削減を目指す。トランプ次期大統領は自国経済優先で協定離脱を示唆したが、選挙後は軟化している。ドイツは80~95%削減を明示。原発全廃と再エネ推進を先導する環境先進国の気概がある。カナダも80%削減を表明した。それに比べ、日本の消極性が際立つ。50年目標80%削減という民主党政権下での閣議決定があるが、自民党政権下ではたなざらし状態だ。パリ協定での日本の30年目標は26%削減にとどまる。政府に上積み修正する気配はなく、まして80%削減達成への道筋は見えない。日本が硬直的なのは、昨年決めた30年度の電源構成に固執するからだ。構成は天然ガス27%(13年度43%)、石炭26%(同30%)、再エネ22~24%(同11%)、原子力20~22%(同1%)、石油3%(同15%)と石炭火力と原発依存が鮮明だ。これをベースにする限り、温室ガス削減目標も変えようがない。CO2を多く出す石炭火力依存の日本は先月、国際環境団体から批判の化石賞を受け面目をつぶした。原発依存も潮流に逆行している。世界では安全・経済性両面での懸念から原発離れが目立つ。わが国で進む石炭火力発電の新増設も、原発関連の高速増殖原型炉「もんじゅ」廃炉後の次世代実証炉開発も時代性を見誤っている。クリーンで安全、新ビジネスとしても有望な再エネにこそ投資すべきだ。脱炭素への長期計画の検討を経済産業省と環境省が今夏から進めている。政府の全体検討は来年度以降と遅いが、再エネ加速による温室ガス大幅削減を打ち出す決断を求めたい。再エネ立国を目指せば、地方創生を含めた持続可能な経済・社会づくりと、地球温暖化を防ぐ国際貢献の両方ができる。

*4-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170115-00000014-jij-soci (時事通信 2017/1/15) 原発40基、詳細点検せず=配管腐食、再稼働の川内・伊方も―電力各社
 運転中や運転可能な全国の商用原発42基のうち40基で、重要設備である中央制御室の空調換気配管の詳細な点検が行われていなかったことが14日、原発を保有する電力9社と日本原子力発電への取材で分かった。中国電力島根原発2号機(松江市)の換気配管では腐食による穴が多数見つかっており、事故が起きた場合に機能を維持できない恐れがある。中国電は昨年12月、運転開始後初めて島根2号機で配管に巻かれた保温材を外し、腐食や穴を発見。必要な機能を満たしていないと判断し、原子力規制委員会に報告した。再稼働した九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)や関西電力高浜原発3、4号機(福井県)、四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の点検でも保温材を外していない。点検方法は各社の判断に委ねられており、規制委は全国の原発の実態を確認する。中央制御室は原発を運転・監視する中枢施設で、運転員が24時間常駐する。通常は配管を通じて外気を取り入れ換気するが、事故発生時には外気を遮断し、機密性を保つ機能が求められる。原発を保有する各社によると、島根2号機と北陸電力志賀原発1号機(石川県)を除く40基で、保温材を外さないまま配管の外観点検が行われていた。40基には東京電力福島第2原発の4基も含まれる。外気取り入れ口付近の目視点検や異音検査などが実施された例はあったが、配管の保温材を全て外した上での目視確認は行っていなかった。一方、北陸電は2003年に志賀1号機の配管でさびを発見。保温材を外して点検し、08年に取り換えた。規制委は島根2号機で見つかった腐食について「規制基準に抵触する可能性がある」とみている。中国電は「海に近いため塩分を含んだ空気が配管に流れ込み、腐食が進んだ可能性がある」と説明している。日本の原発は発電用タービンを回した蒸気を海水で冷却し循環させるため、海辺に立地している。40基の内訳は北海道電力泊原発1~3号機、東北電力東通原発1号機、同女川原発1~3号機、東京電力福島第2原発1~4号機、同柏崎刈羽原発1~7号機、中部電力浜岡原発3~5号機、北陸電力志賀原発2号機、関西電力美浜原発3号機、同大飯原発1~4号機、同高浜原発1~4号機、四国電力伊方原発2、3号機、九州電力玄海原発2~4号機、同川内原発1、2号機、日本原子力発電東海第2原発、同敦賀原発2号機。

*4-3:http://qbiz.jp/article/101937/1/ (西日本新聞 2017年1月18日) 玄海3、4号機が新基準で「適合」決定 全国6例目
●再稼働は早くても夏以降
 原子力規制委員会は18日午前の定例会合で、九州電力が再稼働を目指す玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の安全対策について、原発の新規制基準を満たすとする「審査書」を全会一致で正式決定した。残る審査手続きや地元同意手続きが必要なため、再稼働は早くても今夏以降となる見通しだ。審査書の正式決定は、既に再稼働した九電の川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)などに続いて全国6例目、九電の原発では2例目となった。審査書は、規制委が昨年11月に審査書案を作成した後、一般公募した意見を踏まえて取りまとめた。内容は審査書案と大筋で変わらず、想定される最大の地震の揺れ「基準地震動」は620ガル、津波の高さは約4メートルとした上で、重大事故対策や基本的な設計方針が東京電力福島第1原発事故後の新基準に「適合している」と結論付けた。規制委は今後、施設の詳細設計をまとめた「工事計画」、運転管理体制を定めた「保安規定」の認可の可否を審査する。再稼働に対する地元同意の範囲を巡っては、国が基準を示しておらず、九電は立地自治体の佐賀県と玄海町の同意で再稼働したい考え。山口祥義知事は住民理解などを条件に容認する意向を示唆し、岸本英雄町長は一貫して賛成している。ただ同県内では複数の自治体の首長が再稼働に反対しており、同意を得るべき自治体の拡大を求める声も上がっている。玄海3号機は1994年3月、4号機は97年7月に運転開始。ともに出力は118万キロワット。3号機はプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電を行う。2基の審査は、九電が新基準の施行直後の2013年7月に申請していた。

*4-4:http://qbiz.jp/article/101796/1/ (西日本新聞 2017年1月17日) 玄海原発差し止め 仮処分審尋が結審  年度内に決定か
 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)3、4号機が耐震性などの基準を満たしていないとして、住民団体が運転再開差し止めを求めた仮処分の第24回審尋が16日、佐賀地裁であり、結審した。地裁は双方の当事者に対し、決定の2週間前に期日を通知する。原告は、佐賀市の「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」(石丸初美代表)の236人。2011年7月に3号機の差し止め仮処分を申し立て、昨年10月には4号機についても追加申請して非公開の審尋を続けてきた。立川毅裁判長は「主張と立証の関係は本日で終了する」として審尋を終結。裁判の会は、年度内に決定が出るとみている。3、4号機を巡っては、安全対策が新規制基準を満たしているとして、18日に原子力規制委員会が審査書を正式決定する予定。地元同意などを経て運転再開の手続きに入る。

*4-5:http://qbiz.jp/article/102680/1/ (西日本新聞 2017年1月31日) 「地元同意」拡大要求へ 玄海原発再稼働 糸島、伊万里と連携 唐津市長選当選の峰氏
 佐賀県唐津市長選で初当選した元県議の峰達郎氏(56)は30日、隣接する玄海町の九州電力玄海原発の再稼働に向けた「地元同意」の範囲について、同県伊万里市や福岡県糸島市など周辺自治体と連携し、国に拡大を要請する意向を明らかにした。地元同意の範囲は法令の定めがなく、再稼働を先行した鹿児島などの3県はいずれも立地自治体と県に限定。玄海原発も玄海町と佐賀県だけとなる可能性が高い。玄海3、4号機については原子力規制委員会が18日、新規制基準に適合するとした審査書を決定し、国は玄海町と県に再稼働の方針を伝達。地元同意に焦点が移っている。峰氏は、唐津市の一部が玄海原発の5キロ圏にあることを念頭に「立地町、県と同じ立場にないことがどうしても納得できない」と強調した。また、国が福島原発事故後、緊急時に避難や屋内退避が必要となる範囲を半径30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に拡大したことを踏まえ、「UPZで考えれば唐津も伊万里も糸島(福岡県)も一緒。国がつくったなら、それなりに対応してほしい」と述べ、30キロ圏にある3県8市町で連携して国に要請する考えを示した。一方、九電との安全協定については「事前了解権は欲しいが、今後の検討課題としたい」と述べるにとどめた。
●市長給与減提案へ
 唐津市長選から一夜明けた30日、初当選した元県議の峰達郎氏(56)は、公約に掲げた市長給与の2割削減を新年度当初予算案に盛り込む意向を明らかにした。同市町田の事務所で記者団の取材に答えた。峰氏は給与削減のほか、就任初年度に取り組む施策として機構改革を挙げ「全国から特別顧問のような方を3〜5人招いて市長室をつくり、市政に外からの空気を入れていきたい」との構想を語った。官製談合事件、現職市長の政治献金問題で傷ついた市政の信頼回復を図るため「これまでの既得権益と決別する」と訴えてきた峰氏は「年間100億円前後の公共工事費が使われているが、有効に使われているか見えていない。就任後はしっかり見極めたい」とし、市庁舎建て替えについても再検証する考えを示した。公約としていた支所機能の強化に関しては「機能の検証、職員配置の再構築が必要。市民センターの統廃合という形になるかもしれない。センター長には決裁権を持たせる」と述べた。当選から一夜明けた感想を問われると「いよいよ変わると信じていると激励を受けた。公約の具現化を期待されている。3万を超える方から支持をいただき、涙が出ないほど身の引き締まる思いだ」と語り、激戦を振り返って「唐津市は一つにならないと発展できない。選挙後はノーサイドでやっていかなければならない」と融和を呼び掛けた。

<技術進歩を正確に伝えない世論操作>
PS(2017年2月2日追加):日本では、*5のように、電力の需要と供給が一致しなければならないとして太陽光発電の出力を制御しているが、余った電力は、蓄電したり、水素社会に向けて水から水素を作るのに使ったりする方が賢い。何故なら、①太陽光発電システムを十分に稼働させて発電コストを下げ ②水素社会に向けて水から水素と同時に酸素を作って販売することで、空気中の酸素が薄くなるという「公害」を防ぐことができるからだ。そのためには、電力会社は定款を変更して電力以外のものも売れるようにするか、水素や酸素などのガス製造部門を切り出して子会社化しなければならないが・・。

*5:http://qbiz.jp/article/102856/1/ (西日本新聞 2017年2月2日) 太陽光出力を正確に予測 九電、システム実用化目指す 無駄な制御回避へ
 九州電力が、太陽光発電の出力を2、3時間前に予測するシステムの実証実験を進めている。毎日の電力の需要と供給などの運用計画を策定するため、現在は前日に出力を予測している。システムが実用化すれば、当日の天候によって出力が大きく変動する太陽光の発電量予測の精度が高まる。太陽光発電が増加する中、無駄な出力制御を回避し、より多くの電力を受け入れられるようになる。システムは、九電と気象会社、大手電機メーカーが共同で開発。昨年9月に試験的な運用を始めた。今後1、2年の試験運用を経て、実用化を目指す。九電は現在、前日午前10時の気象予測の画像と日照量に基づき、翌日の太陽光発電の出力を予測し、電力の需給計画を決定。その後、当日午前4時の気象予測で修正し、管内の需給が一致するようにしている。しかし、現在のシステムでは、太陽光発電量の予測と実績に差が生まれる。例えば2015年秋には、予想外の晴天となり、電力消費のピーク時に実績が予測を2倍以上も上回る日があった。火力発電所の出力を落とすなどして需給を調整したという。一方、秋雨前線の予測が外れて太陽光発電が大幅に不足し、火力発電所の出力を増やして対応することもあった。新たなシステムでは、当日の2、3時間先の気象予測データを解析し、日中に出力予測を細かく修正し続けることが可能。実績と予測の誤差を縮めることで、時間に余裕を持って火力発電の出力を調整できる。九電管内の太陽光発電の接続量は、単純計算で大型原発約6基分に相当する668万キロワット(16年11月末時点)。太陽光パネルの設置が増え続ければ出力の実績と予測の差はさらに広がるが、新システムで出力予測の精度が上がれば、無駄な出力制御を要請する事態も回避することが可能になるという。九電電力輸送本部の深川文博給電計画グループ長は「雲が急に発生した場合など予測が当たらないこともまだある。さらに工夫し、精度を上げたい」と意気込んでいる。

<脱原発へ>
PS(2017年2月13日追加):*6-1のように、世界が原発の危険を認識した中、フクイチ事故を起こした日本の経産省が米と原発の売り込みを提案することを検討しているとのことだが、日本政府のこのような誤った方針が東芝などの損失を膨らませた一因だ。これは、第二次世界大戦が航空戦の時代になっていたにもかかわらず、巨艦を建造して「不沈艦(実際にはあり得ない)」などと言っていたのと変わりない。また、経産省は「2030年までに新興国を中心に世界で30~330基の原発が新設される」などとしているが、それでは世界の原発事故発生リスクは非常に高いものになる。そのため、*6-2の台湾政府は脱原発法を成立させ、*6-3のベトナム・リトアニア政府も原発計画を撤回し、インド・トルコでも反対運動が起こっているのだ。なお、*6-4のように、民進党が「原発ゼロ基本法案(仮称)」に「2030年ゼロ」を明記するそうだが、省エネ・再エネ技術が進んだ現在、「2025年までのなるべく早い時期に脱原発」とするのが八方によいと考える。大手電力会社の社員にとっても、この方が次の東電や東芝にならずにすみ、経営資源を新エネルギーに集中させることができるため、メリットがあるだろう。

*6-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201702/CK2017020802000131.html (東京新聞 2017年2月8日) 【経済】米と原発売り込みを提案へ 世界が危険認識、損失膨らむ中
 世耕弘成経済産業相は七日の記者会見で、日米首脳会談に合わせて訪米する考えを示した。政府は世耕経産相も会談に同席する方向で調整しており、米国に対して、新興国への原発の共同売り込みなどを提案することを検討している。しかし福島第一原発の事故を受けて原発の市場は世界的に縮小し、原発産業では損失が相次いでいる。専門家は「原発を売り込んで資金を稼ぐシナリオは現実的ではない」と疑問視している。原発の共同売り込みは、日本が首脳会談で提示を目指す経済協力のための政策集「日米成長雇用イニシアチブ」の原案に載っており、「十年間で五百億ドル(五兆円超)の市場を開拓」するとされている。国内の原発メーカーのうち東芝と日立製作所は米国の企業と組んでおり、日米双方に利益があることをアピールする。しかし福島第一原発の事故により米国や欧州で安全のための規制が強まり、建設費は世界的に高騰。建設が止まったり、白紙撤回になる例が相次いでいる。さらに米国のシェール革命により、原油など火力発電の燃料価格が長期にわたって安定するめどが立ち、原発の市場は縮小しつつある。このため東芝は米国の原発関連事業で七千億円規模の損失を見込み、原発の建設から撤退することも検討中。日立も米国での研究開発をやめ、七百億円の損失を計上する。それでも世耕経産相は三日の記者会見で「世界各国で、原発を新設しようという動きはたくさんある」と述べ、原発輸出を進める考え。経産省は国際原子力機関(IAEA)の見通しなどから「二〇三〇年までに新興国を中心に世界で三十~三百三十基の原発が新設される」などとみている。しかし、ベトナム政府が住民の反対や財政難から原発計画を撤回するなど、新興国でも新設は難しくなっている。九州国際大の中野洋一教授(国際経済学)は「福島第一原発の事故で世界に危険性が知られ、価格面でも再生可能エネルギーや火力に見劣りするようになった。米国の威を借りて原発を売り込んでも、受注は難しいだろう」と指摘した。

*6-2:http://mainichi.jp/articles/20170112/k00/00m/030/068000c
(毎日新聞 2017年1月11日) 台湾、「脱原発法」成立 「25年までに全て停止」
 台湾の蔡英文政権が2025年までに脱原発を実現するため提案した電気事業法改正案が11日夜、立法院(国会)の本会議で、可決・成立した。改正法には「25年までに原発の運転を全て停止する」との条文が盛り込まれた。改正法は、原発分の電力を代替する再生可能エネルギーの普及など電力改革を行う内容。脱原発が実現すればアジアでは初となる。東京電力福島第1原発事故後、台湾では反原発の機運が高まっていた。蔡総統は総統選前から「25年までに非核家園(原発のない郷土)」の実現を掲げてきた。台湾では、完成した原発3カ所の原子炉6基(2基は停止、1基は点検中)が18年から25年までに順次40年の運転期間が終わる。日本企業が原子炉などを輸出し「日の丸原発」とも呼ばれた第4原発は14年に建設が凍結されている。蔡政権は運転延長や新規稼働を認めず、脱原発を達成する狙いだ。代替として再エネの普及拡大を目指し、電源構成で再エネ比率を現在4%から25年に20%まで大幅に引き上げ、再エネ事業への民間参加を促す。蘭嶼島にある低レベル放射性廃棄物貯蔵施設の移転計画も進める。しかし産業界を中心に電力供給の不安定化や電力価格の高騰を招きかねないと懸念の声も相次ぐ。

*6-3:http://blogos.com/article/205962/ (THE BIG ISSUE JAPAN 302号 2017年1月1日発売) ベトナム、原発計画中止 リトアニア、計画凍結 日本の脱原発への政策転換必至
●90年代からオールジャパン体制でこぎ着けた受注がご破算
ベトナム国会が原発立地計画を中止する政府提案を11月22日に可決した。ベトナム政府は電力需要に応える切り札として、2009年に4基の原発を建設する計画を承認し14年に着工する予定だった。しかし、当初案は資金難や人材不足で延期が繰り返されてきていた。また、11年の福島原発事故の教訓を生かし、津波対策として予定地をやや内陸へ移動する計画変更も行っていた。予定地は、風光明媚で漁業や果樹生産の盛んな南部ニントゥアン省ニンハイ県タイアン村だった。直前の計画では、第一原発2基は28年に、第2原発2基は29年に稼働、第一原発はロシア、第2原発は日本が受注、各100万キロワットで、計400万キロワットの設備となる予定だった。中止の理由は、福島原発事故を受けて建設コストが2倍に高騰したことに加えて、同国の財政悪化が重なったからだ。また、住民の反対の強まりや、コストをさらに大きく引き上げる要因にもなる原発の使用済燃料の処理・処分の未解決問題も指摘された。原発に代えて、今後は再生可能エネルギーやガス火力などを導入するという。マスコミのインタビューに応じたレ・ホン・ティン科学技術環境委員会副主任は「勇気ある撤退」と評価している。日本はこれまでベトナムの原発建設計画を受注すべく、90年代から原子力産業協会を中心に働きかけを繰り返してきた。2010年には「国際原子力開発(株)」を設立し、オールジャパン体制を作って臨んだ。同社は電力9社と原子力メーカー3社に、09年に政府出資で設立された「(株)産業革新機構」が株主となり設立された会社である。ロシア、韓国、中国、フランスなどの企業と受注を競う中で、ようやく合意にこぎ着け、11年9月に第2原発建設の協力覚え書きを取り交わした。同社の活動はベトナムに限定されており、同国向けに設立された会社だと言える。そんな万全の態勢で臨んだが、計画は中止となった。
●リトアニア、6割の国民が反対、日本の原子力産業界は大打撃
 また、リトアニアでも原発計画が凍結された。同国はEUに加盟する時点で、旧ソ連製の古いイグナリナ原発を廃止。09年、その敷地に隣接して新たなヴィサギナス原発建設が計画された。この建設を受注したのが日立製作所だ。12年6月21日に議会が承認、正式契約は周辺国の合意を得てからではあるが、政府による契約がほぼ固まった。事業規模は約4千億円、合計出力は最大340万キロワット、建設は2基になりそうだった。ところが、福島原発事故を受けて原発建設への反対が強まる中、野党が原発計画の是非を問う国民投票議案を提出、国民投票が12年10月に実施された。結果は建設反対が6割を超えたが、この国民投票は法的拘束力を持たず、政府は計画を中止しなかった。しかし、同時に行われた議会選挙で社会民主党が勝利し、次期首相候補は建設計画の見直しを明言。ここにきて正式に計画が凍結されることとなった。原発が市場で競争力を持つようになるか、電力供給の上で必要になるまでの間は凍結される。市場競争力は望めず、事実上の計画撤回と見てよい。国内での原発建設計画が停滞する中、輸出に活路を見いだそうと日本の原子力産業界は海外での活動を活発化させてきた。両国の撤退が原子力産業界にとって大打撃となるのは必至だ。9月に原子力関係閣僚会議が「もんじゅ」廃止の方向を決めた。再稼働は住民の反対や裁判所の決定で電力会社の期待に反してさほど進んでいない。さらに電力自由化の中で競争力を失う原発に対して、政府はさまざまな保護政策を講じ、福島原発事故の賠償や廃炉の費用を国民に転嫁しようとしている。それでも原発が以前のように復活することはないだろう。 17年にはエネルギー基本計画の改訂議論がスタートするが、今回の撤退を受けて、原子力政策の抜本的な見直しを検討するべきだ。

*6-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12778780.html?ref=pcviewpage (朝日新聞 2017年2月3日) 30年に「原発ゼロ」、民進法案に明記へ 「30年代」から前倒し
 民進党のエネルギー・環境調査会(会長・玄葉光一郎元外相)は2日、検討中の「原発ゼロ基本法案」(仮称)に「2030年ゼロ」を明記する考えを示した。従来の「30年代ゼロ」を実質9年前倒しする。蓮舫代表が3月の党大会で打ち出せるよう調整に入る。この日、同調査会役員会で玄葉氏が原案として示した。役員十数人で議論し、「賛成の方が多かった」(玄葉氏)。今後、党所属国会議員が参加する総会を開き、今月内に正式決定する。従来方針の「30年代ゼロ」は民主党政権時の12年に決定。党内の原発容認派に配慮し幅を持たせた。今回「30年ゼロ」へ早める背景には、13年9月から約2年続いた全原発停止の状況でも電力不足は起こらなかった事実がある。玄葉氏は記者団に、「電力をめぐる状況は変わった。省エネ技術や再生エネルギーも進んでいる」と話し、これらの推進も明記する方向。原発を利用し続ける方針の安倍政権との対立軸にする。また、原子力規制委員会の安全確認を得た原発の再稼働を条件付きで容認するとした従来方針も、要件をさらに厳しくする案が浮上している。


<メディアの質>
PS(2017年2月15日追加):*7-1に、「①新聞の発行部数は減少に歯止めがかかっていない」「②ネットを使うことにより、マスメディアを通さず個人も情報発信できるようになった」「③ソーシャルメディアにより、メディアは多数の中の一つでしかなくなった」「④ローカルは市場が小さく、広告モデルでの収益に限界がある。発行エリア以外からの収益を模索しているが、どう考えるか」と書かれている。
 私は、①の理由は、新聞が真実を追求せず、行政の広報機関と化して記事の内容に責任を持たないことにあり、②のように、本人やわかっている個人がリスクを侵して真実の情報を発信した場合には、それに内容で負けるのだと考える。ネットがなかった時代は、人々はマスメディアからしか情報を得ることができなかったが、現在は、②③のように、個人も情報を発信でき、人々は多方面から情報を入手できるようになったからだ。そして、人々が真実を求めて検索する時代になり、日本では、特に原発事故以来、行政の広報機関をして人々の側に立たなかったメディアへの信頼がなくなった。そのような中、私は、全国紙だけでなく、原発は東京新聞・河北新報・福島民友・西日本新聞・佐賀新聞、辺野古は琉球新報・沖縄タイムス、農業は日本農業新聞の記事を多く参考にした。そのため、④については、地方紙もデジタルで全国に読者を作ればよく、その方がいろいろな立場の人の考え方を知り易くなり、デジタル版に動画をつければテレビ報道も容易であるため、報道は大競争の時代に入ったのだと考える。
 なお、日本のメディアが経産省の広報機関をして国民を馬鹿にした情報を出している間に、*7-2のように、世界では自然エネルギーによる電力の普及が進んだ。そして、オランダ鉄道は、*7-3のように年明けから風力発電で全列車を運行しており、コストダウンが進んだことは間違いない。

*7-1:http://qbiz.jp/article/103658/1/
(西日新聞 2017年2月15日) 地方紙は生き残れるか ジャービス米教授、発想の転換促す
●IT先進国、米にも事例なし、ジャーナリズムを「サービス」に
 従来のビジネスモデルや伝え方に固執するメディアは淘汰される―。ジャーナリズムの将来に関する論考が世界的に注目を集める米ニューヨーク市立大のジェフ・ジャービス教授は、こう断言した。そして、特に地方紙について、その生き残りに向けた処方箋は「コミュニティーに耳を傾け、役立つサービスを提供すること」だという。部数減が続き、苦闘する地方紙の一記者として、その言葉の意味を考えた。ジャービス氏は米ローカルメディアの経験が豊富で、日本でも昨年発刊された「デジタル・ジャーナリズムは稼げるか」(東洋経済新報社刊)の著者として注目された人物。1月27日、東京都で開かれた「Media×Tech 2017」(Yahoo!ニュース・日経電子版主催)にネット中継で基調講演し、「ローカルメディアはどう生き残るか」と題したセッションにも参加した。イベントはメディアの今を受け止め、その将来を模索することを目的に初開催。地方紙や雑誌、ネットメディアなど幅広い分野の責任者が議論を深めた。
■「マス」のビジネスモデル殺した
 「ネットが殺したのは、マスメディアのビジネスモデルだ。マス、という考え方そのものもなくした」。ジャービス氏は基調講演の冒頭で、こう指摘した。今はツイッターを使うことで一個人でも影響力を行使できる。そうした手法で、マスメディアを通さずに情報発信でき、そこで関心がある人同士を見つけて、ともに行動することもできるようになった。マスメディアが出す情報はかつては手間がかかり、高価だったが、その希少性が失われている、という指摘だ。ジャービス氏は「マスメディアは、もっと人と人との関係性によって立つ存在にならなければならない」として、ジャーナリズムを「サービス」と考える発想への転換を促す。読者を「マス(集合体)」としてではなく、「個人」として捉え直すことから始めるべきだという。若い母親や商店主、それぞれのコミュニティーに耳を傾け、役立つサービスを提供することが重要だと説明した。
■単なるコンテンツ販売には限界
 「一つの製品を垂れ流しにするのではなく、たくさんの製品をつくっておく。まず自分たちのアイデアを見せるのではなく、ニーズを把握するところから始める。その上で何ができるのかを考える。それは新しいやり方で難しいが、大きな企業が小さく考えることのきっかけになると思う。それが新しいニュース組織の始まりだ」。ジャービス氏は収益について「単に(購読料として)コンテンツを販売するだけなら限界がある。メンバーから収益を取ることが重要で、そのほかに広告もあるし、イベントも活用できる」と指摘する。そして最後に、トランプ新政権についてこう言及した。「フェイクニュースには失望している。残念ながらトランプ氏が大統領になってしまった。しかし一方でフェイクニュースがあれだけ広まったということは、彼らがわれわれより、よりよい形で人々にリーチできたということでもある。シェアするのはその内容に共感するからであって、マスメディアはそこから学ばないといけない」。「コミュニティーのニーズをもっと聞くことはできる。ソーシャルメディアの存在によって、私たち(メディア)は希少な存在ではなく、多くあるうちの一つでしかなくなった。ジャーナリストになるのは、昔より大変になっていると言えるだろう」。来場者からは「ニュース記事はコンテンツではなくサービスだ、という指摘は理解できた。そこにはどのような技術が必要なのか」という質問があった。ジャービス氏は「やり方はいろいろある。フェイスブックなどの既存ツールを使うこともできる。(従来の)外向きジャーナリズムは世界で起きていることを伝えて世界を変えようとしている。そうではなく、コミュニティーの細かなニーズを満たすのが、内向きのジャーナリズム。それはネットの力でなせると思う」と答えた。
■加速する部数減への対応策は
 新聞の発行部数は減少に歯止めがかかっていない。日本新聞協会の調べでは、2000年10月に約5370万部あった新聞発行部数(朝夕刊セットを1部として計算)は2016年10月時点で約4327万部。16年間で1000万部以上減少したことになる。さらに減少率も2000年代前半は1%未満だったが、2010年以降は1~3%程度と高まっており、部数減が加速していることもうかがえる。こうした状況の中で、地方メディアはどのような取り組みが求められるのか。イベントでは、西日本新聞メディアラボの吉村康祐社長(福岡市)、十勝毎日新聞社(北海道)の林浩史社長が登壇し、その取り組みを紹介した。西日本新聞メディアラボは、西日本新聞社のデジタル部門的な存在。昨年は紙面企画と連動して「子ども貧困」対策に力を注ぎ、ヤフー・ニュースなどを経由して全国に伝えた。その結果、「子ども食堂」の支援に約1,100万円が集まった。そのほか、地元地銀の福岡銀行と業務提携してフィンテック事業(ITを活用した新たな金融サービス)や、情報コンテンツのウェブサイト「mymo」を展開。さらに九州のブロガーなど45の情報発信者を集めて、「九州を理解できる」キュレーションサイト「piQ」を運営している。一方、十勝毎日新聞社ではフェイスブックなどのSNSを活用して情報を集め、災害の紙面づくりに役立てようとしている。将来像について林氏は、こう説明した。「さらにハイパーローカルな存在を目指す。十勝は狭いので、『友達の友達は友達』という状況。権利の問題はあるが、人々の生活や一生を記録していく新聞をつくりたい。今は出生時も結婚時もお悔やみでも記事にしている。デジタルではさらに踏み込んで、人の一生を記録できるメディアにしたいと考えている」。両社の取り組みは、ジャービス氏の言う「コミュニティー」に着目しており、方向性としては間違っていないようだ。ローカルメディアの取り組みについて、吉村氏はジャービス氏に「ローカルは市場が小さく、広告モデルでの収益には限界がある。発行エリア以外からの収益を模索しているが、どう考えるか」と質問。ジャービス氏はこのように答えた。「市場以上に届けたいのなら、特別な商品が必要だ。特定のスポーツチームとか、エリアとか。オーディエンス(読者)と広告が結びついていないといけない。地方(地元)向けにやることと全国でやることを分けてほしい」
■苦しくても自らやるしかない
 印象的だったのは、米国の地方紙の事例を尋ねられたジャービス氏の反応。「2人に比べれば遅れているので、話すことはない」というものだった。地方紙は、よって立つ地域の人々と生きていくほかに方法はない。これまでも日本の各地方紙は「紙」を使ってさまざまな手法を駆使してきた。本紙以外にもフリーペーパーを発行したり、イベントを実施したりしながら、読者の囲い込みに力を注いできた。その意味では「コミュニティー」に目を向けてきたことは間違いない。ただ、それはあくまで「紙」の販売を主眼とするものだった。日本の新聞社がホームページの運営を始めてすでに20年以上が過ぎた。デジタルというツールを使い、コミュニティーとどのように接していけば、ビジネスモデルとして成り立つのか。ジャービス氏が言うように、米国より日本の地方紙の方が先進的であるとするなら、苦しくても自分たちで具体策を練るしかない、ということなのだ。

*7-2:http://www.renewable-ei.org/column/column_20160614.php (自然エネルギー財団理事長 トーマス・コーベリエル、自然エネルギー財団研究員 ロマン・ジスラー 2016年6月14日) 連載コラム 自然エネルギー・アップデート、世界の素晴らしい進歩から目をそらすな
 日本のエネルギー業界は、発電のためにウランと石炭のどちらを輸入するべきか議論しているようだが、世界の国々は、別の素晴らしい解決策をとっている。ここ数カ月間に発表されたデータを見れば、このことは明らかだ。2015年の米国の発電データが発表され、2010年比で目覚ましい進展があったことが明らかになった。化石燃料による電力は150TWh(1,500億kWh)以上減少し、原子力も10TWh(100億kWh)減少した。成長したのは自然エネルギーによる電力で、2015年には2010年比で約135TWh(1,350億kWh)増加した。今年第1四半期における化石燃料の新規導入量は18MW(1.8万kW)であった。一方、自然エネルギーの新規導入量は1,291MW(129.1万kW)で、化石燃料の70倍以上増加した。英国では、今年第1四半期に、風力による電力供給量が石炭火力を上回った。風力の電力供給量が2.3TWh(23億kWh)だったのに対し、石炭火力は1.8TWh(18億kWh)にすぎなかった。5月9日には、1882年以来初めて、石炭火力による電力が英国の電力系統に全く供給されない瞬間が訪れたと報じられた。さらに、太陽光の電力供給量が石炭火力を上回る日が1週間続いた*。ポルトガルは早くから風力発電を利用しており、風力の新規導入はポルトガルで最もコストの低い発電オプションとなっている。2015年には自然エネルギーが同国の電力消費量のほぼ半分を賄った。そして今年5月初め、ポルトガルは4日間連続で自然エネルギー100%を達成したことを報告している。このように、世界のさまざまな国で自然エネルギーが主流になってきた事例がたくさんある。ここまで発展できたのは、自然エネルギー開発に多額の支出が必要だったときに、多くの資金を産業界に投じる先駆的な国々があったおかげである。米国では開発の多くが軍の研究プログラムとして実施された。中国では、自然エネルギー支出が経済をさらに成長させるための一手段と考えられてきた。そしてドイツでは、多くの費用が必要となる原子炉事故のリスクを軽減するための手段の一つであった。このような大胆な取り組みの結果、自然エネルギーは今や世界中のほとんどの国で、競争力のある価格で利用できるようになった。2年前から、風力は世界の多くの地域で最もコストの低い新電源となっている。また昨年はいくつかの国で、太陽光が新たな電力供給のための競争に勝利を収めた。最近の最も素晴らしい成果は、ドバイで800MW(80万kW)の太陽光発電の応札価格が1kWhあたり3円となったことである。太陽光発電の価格がわずか18カ月で半分になったことになる。日本の太陽エネルギー量はドバイの半分にすぎないため、日本でのコストがドバイと同程度まで低下することはないだろうが、2倍以上である必要もない。世界の自然エネルギーは発展し続けており、日本が石炭やウランの輸入に代わって国産エネルギー源である自然エネルギーを導入する機会は、ますます拡大している。
* 更新情報:2016年5月、英国における太陽光発電推定量は1,336GWh(13.36億kWh)にのぼり、石炭火力の893 GWh(8.93億kWh)を50%も上回った。http://www.carbonbrief.org/analysis-solar-beats-coal-over-a-whole-month-in-uk-for-first-time

*7-3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/395693
(佐賀新聞 2017年1月16日) 風力発電で全列車を運行、オランダ鉄道、年明けから世界初
 オランダ最大の旅客列車運行会社、オランダ鉄道(NS)は年明けから、風力発電の電気のみで全列車を運行し始めた。同国全土で毎日約60万人が「風力電車」で移動しているといい、NSなどは世界初の快挙だと強調。「風車の国」の面目躍如と言えそうだ。NSは2015年、同国電力会社エネコと共同で、風力発電だけで列車を走らせるプロジェクトを開始。16年には既に全列車の75%が風力の電気で動いていた。NSは年間、人口約80万人の首都アムステルダムの全世帯合計とほぼ同じ電力量を消費。欧州メディアによると、NSは毎日約5500本の列車を走らせている。

<自然エネルギーの実力>
PS(2017年2月17日追加):*8のように、日本が「100%自然エネルギー」を実現すれば、投入する設備費用を差し引いても、燃料代節約などで84兆円の「得」になるそうだが、それは技術の普及・進歩によって前倒しが可能だ。そして、その効果は、①地球環境への好影響 ②環境技術の進歩 ③外国に支払っていた燃料コスト削減による企業利益率や税収の増加 ④設備導入時の前向きな投資増による資本生産性向上と景気上昇 ⑤国民生活の豊かさ実現 等で、100%の解である。そのため、「100%の解はあり得ない」「実現は遠い未来のことだ」などと決めつけるのは、自分で自分の首を絞める行為だ。

*8:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12799670.html (朝日新聞 2017年2月16日) 自然エネ100%、日本で実現すると「84兆円お得」 WWFジャパン試算
 世界自然保護基金(WWF)ジャパンは16日、日本が2050年までに石炭や石油などの化石燃料に頼らない「100%自然エネルギー」を実現すれば、必要な設備費用を投入しても、燃料代節約などで84兆円の「得」になるとの試算を発表する。地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」がめざす脱炭素社会は実現可能だとしている。試算によれば、10~50年の約40年間で、設備費用は産業部門や家庭での省エネに191兆円、太陽光などの自然エネルギーの導入に174兆円の計365兆円が必要な一方、化石燃料の消費が減って449兆円の節約になるという。温室効果ガスの排出量は10年に比べて95%削減できるとした。現在ある技術が広く普及すれば、エネルギー需要は10年比で47%減らせると試算。すべて自然エネルギーで賄えるとし、国内の気象データから太陽光と風力の発電量は2対1の割合が望ましいとした。30年ごろから自然エネルギー発電で余った電力から水素をつくって活用すると想定している。昨年発効したパリ協定では、各国が温暖化対策の長期戦略を国連に提出するよう求められている。日本は環境省と経済産業省がそれぞれに素案をまとめている。WWFジャパンは、政府に長期戦略の早期策定を求めている。

| 資源・エネルギー::2017.1~ | 02:24 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.11.28 エネルギー変換を迫るパリ協定及びエネルギー変換による日本企業の利益率上昇と日本の税収増・国富の増加について (2016年11月29、30日、12月1、2、3、6、8、14、15、21、26日に追加あり)
 書くべきことは多いが、今日は、気候変動枠組条約締約国会議(COP22)によって求められるエネルギーの変換と、それがもたらす日本企業の利益率上昇、税収増、日本の国富増加について記載する。

    
 2016.11.20  2016.11.20  2016.11.18   2016.11.19   2016.11.23
                  日経新聞
(図の説明:パリ協定の発効により、環境に良い財やサービスを供給する会社の事業機会が広がり、これは国民の福利を増すことにも貢献する。また、多くの業界に低炭素の動きが広がっており、これは同時にNOxやSOxの排出も抑制するため、空気をきれいにして住環境をよくする。そして、世界の自動車メーカーがEV・FCVなどの無公害車に舵を切ったが、日本では1995年頃から本格的なEV・FCVの開発を始めため、既に多くのノウハウを持っている。このような中、ドイツのVWが急速にEVシフトを始め、トヨタや日産もガソリン車の熱交換器や排気部品を作っていた子会社の扱いに苦慮しているが、これらの会社も熱交換や排気の技術を応用して事業機会の広がった市場にアクセスすれば、生き残りは十分に可能だ)

 
 日本ガイシの蓄電池     地熱発電所     有機薄膜型太陽電池 除染と廃炉
            2016.11.20日経新聞          2016.11.27日経新聞
(図の説明:自然・再生可能エネルギーを使う技術は進歩し、日本ガイシの大容量蓄電池、地熱発電所、有機薄膜型太陽電池《建物の壁や窓にも設置可》などができたため、原発のコストは決して安くない)

(1)気候変動枠組条約について
1)COP21、COP22
 モロッコで開かれたCOP22は、*1-1のように、パリ協定(COP21)を受けて、「地球温暖化対策はすべての国の緊急の責務だ」とする「マラケシュ行動宣言」を発表し、国際社会が一丸となって温暖化対策取り組む決意を示した。

 パリ協定は、化石燃料を排して自然エネルギーに転換することを決定し、*1-2のように、世界の都市・企業・投資家など約700の組織が実施を支援すると表明している。支援を約束した組織は、ニューヨーク・ロンドン・東京・横浜等の都市や米マイクロソフト・独保険大手アリアンツ・富士通・リコー・武田薬品・帝人等の企業で、COP21の議長ファビウス仏外相は「低炭素社会や気候変動に強靱な未来への移行の鍵となる」としているが、都市計画や技術革新などで積極的にパリ協定を支援した方がメリットの大きい都市や企業は多いだろう。

2)厳しい環境規制とエコカーの普及は生産性の向上と成長のツールである
 *1-3のように、トランプ氏は米国の環境規制に慎重だそうだが、厳格な環境規制によるEV・FCVなどのエコカー普及は、新興国も含めた地球温暖化対策のKeyになる。そして、これらのNOxやSOxを出さないエコカーにより、①車が普及しても街がすすけないため ②公害を出さず ③自然エネルギーと組み合わせれば、どの国でもエネルギーを自給でき ④すべての車をエコカーにすれば、道路を建物の中に通すことも可能になる などの利点がある。

 また、自動車製造の競争において土俵が変わるため、これまでの順位に縛られず、米国企業はじめ開発途上国の企業が自動車産業で勝利するチャンスが生まれる。そのため、カリフォルニア州の排ガスを一切出さない車の販売を義務付ける厳しい方向への規制強化は技術進歩を促してよいと私は考える。

 日欧勢よりトラック販売が多く、燃費規制への対応に苦慮してきた米系メーカーがあるそうだが、アメリカはEV・IT・自動運転・人工衛星技術が進んでいるため、トラックもまた、本気で開発すればFCV・EVによる自動運転車の開発はすぐである上、自然エネルギーを使って自ら発電しやすい農家が使用する農業機械とEVの親和性は高く、それを開発すれば自然に普及すると思われる。

3)エネルギーの変換が日本企業の利益率を上昇させ、日本の国富を増やす理由
 燃料は、産業革命後(日本では明治維新後)、石炭から石油へと変わってきたものの、どちらも日本では十分に産出されないものだったため、自然・再生可能エネルギーに変換すれば、自分でも発電できる比較的安いエネルギーが日本にも十分に存在することになる。そのため、高いエネルギーコストを外国に支払わなくてすみ、その分、エネルギー需要者の生活は楽になり、エネルギーを使う企業の利益率も上がって、それは賃金増、税収増、配当増に繋がる。

 また、自然・再生可能エネルギーへの変換を国として見れば、エネルギーが国内に存在するため、エネルギー代金を外国に支払わなくてすみ、それだけ国内消費や投資に回せる資金が多くなる。

(2)EV・FCVが起こす自動車会社再編の事例
1)独フォルクスワーゲン(VW)の場合
 独フォルクスワーゲン(VW)は、*2-1のように、2016年11月22日、2025年には電気自動車(EV)の販売台数を100万台として業界首位をめざし、米国でもEVを生産する戦略を立てた。そして、車がネットに接続した付加サービスも充実して世界8,000万人の会員を獲得し、2025年には関連売上高で10億ユーロ(約1180億円)を狙って、車販売以外の収益源も広げるそうだ。

 一方、VW乗用車のブランドは、2020年までに3万人削減を柱としたリストラ策をまとめ、効率化で次世代技術やサービス投資の原資を確保し、EVの米テスラモーターズ、ライドシェア(相乗り)の米ウーバーテクノロジーズなど新興勢力に対抗するとのことである。そして、「電動車両は4、5年でブレークスルーが起きる。販売台数だけでなく技術、ビジネスモデルでもリーダーに立つ」と宣言して、EV専用に車台や主要部品を共通化したプラットフォーム「MEB」の車両生産を、独2工場に加えて米国でも生産するそうで、経営戦略の変更から実行までの時間が短く、戦略内容にも先見の明がある。

2)日産自動車の場合
 日産自動車は、*2-2のように、2016年11月22日、系列最大の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイを米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却すると発表し、「系列解体」の大なたを振るうカルロス・ゴーン社長が中核部品メーカーまで手放すとのことで、これは、系列とともに新技術へと向かうトヨタ自動車と一線を画している。

 カルソニックカンセイ株は、KKRが、4,983億円で株式公開買い付けする。EVや自動運転が普及すれば、自動車の熱交換器や排気部品は市場縮小に繋がるため、日産自動車はカルソニックを手放す一方で、自動運転をにらんで独ボッシュや独コンチネンタルなど「メガサプライヤー」と呼ばれる欧米部品大手と連携を強め、彼らの先端技術に日産のノウハウを加えて効率的で競争力のあるクルマづくりを目指すとのことで、トヨタがトヨタ自動車系列の部品会社に自動運転などの先進分野への投資を促しているのと対照的である。

 世界では日産のゴーン社長のやり方が普通で、トヨタのやり方は日本式経営だ。トヨタの経営の方が、せっかく作った組織が壊されず、従業員の雇用が守られ、グループの結束も強くなるが、変化に迅速さを欠く。そのため、トヨタの方法は、変化に時間をかけられる場合には強いが、通用しない場合もある。

3)トヨタ自動車の場合
 しかし、本格的な馬力の出るEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)を開発したのは日本の自動車会社が世界で最初だったため、既に、蓄積している技術も多く、トヨタ自動車は、*2-3のように、中国の開発拠点を増強して、EV投入も検討するそうだ。中国ではPHV(プラグイン・ハイブリッド車)とEVを「新エネルギー車」として普及に力を入れるため、その中でのPHVは既に古いだろう。そのため、今後はトヨタもゼロエミッション車としてFCV・EVの双方に注力するというのは、戦略として妥当である。

 それでは、これまで培ってきた自動車の熱交換・排気技術が生かせないというのが、大手自動車メーカーの悩みだが、熱交換や排気の技術は自動車にしか使えないわけではなく、航空機・船舶などの大型の乗り物、ビルや家などの建物にも応用できる。

 そのため、*2-4のように、トヨタホームがミサワホームを子会社化し、技術・商品開発・調達などの協業を拡大して環境性能の高い住宅を作り出せば、国内の住宅販売の伸びが小さくても、自動車と同様、輸出や海外展開が可能だろう。さらに、*2-5のように、トヨタは、大型トラックに水素で電気を作る燃料電池を搭載して米で実証実験を行うそうだが、燃料電池には熱交換や排気の技術が欠かせない。

4)それでは、日産系のカルソニックカンセイはどうすればよいのか
 日産自動車が米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却すると発表した日産系列の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイは、やはり熱交換器や排気部品を製造していた会社であるため、*2-6の大和ハウスなどの住宅・建築や航空機・船舶・農機具メーカーなどとゼロエミッション化のための技術・商品開発、部材調達などの協業を行うのが効果的だろう。

 つまり、現在、持っている技術を最大限に生かしながら、次の技術開発を行い、それを商品化して市場に出すのが最も合理的だと、私は考える。

(3)再生可能エネルギーによる発電と蓄電技術の進歩
1)再生可能エネルギーによる発電技術
 *3-1のように、「温暖化対策は日本にとって商機だ」という考え方がやっと広まってきたのは、遅すぎたがよいことだ。日本は文系が科学音痴であるため、パリ協定の批准では後れを取って環境でリーダーになることができなかったが、技術上は地熱・ごみ焼却による発電は既に行っている。そのため、後は、政治・行政・メディアが変わるだけなのだ。

 また、*3-2のインドネシアで大規模地熱発電の建設を進めているのは、日本の東芝・伊藤忠商事・九州電力等で、日本よりインドネシアの方が開発しやすいため、インドネシアで先に建設しているのだ。

2)蓄電技術の進歩
 日本ガイシは、*3-3のように、三菱電機からコンパクトな世界最大級の電力貯蔵用NAS電池(出力5万キロワット、容量30万キロワット時)を受注し、九電の蓄電池変電所に納入して運転開始したそうだ。

 九電管内では、太陽光発電を中心として再生可能エネルギーの普及が急速に進んでいるため、NAS電池によって電力の安定供給・再生可能エネルギーの円滑な接続に向けた取り組みを進めるそうだ。NAS電池は、日本ガイシで2002年に事業化され、現在は世界で約200カ所、総出力53万キロワット、総容量370万キロワット時の納入実績があり、イタリアやアラブ首長国連邦(UAE)でも電力系統に設置されて電力需給バランスの調整に利用されているとのことである。

3)電力自由化と脱原発・再生エネの選択
 グリーンコープ生協さが(佐賀市、柳川晶子理事長)は、*3-4のように、11月14日から、太陽光発電などの再生可能エネルギーを使った電気「グリーンコープでんき」の共同購入を受け付けるそうだ。これにより、原発によらない太陽光・バイオマス・火力などの電気を100%供給するため、電力の需要者もそれを選べることになる。このように、需要者が電力を選択できることが、(私が提案した)電力自由化の狙いだったのである。

(4)放射性廃棄物と電源構成
 日本の経産省は、*4-1のように、「電力の安定供給のために、2030年の電源構成で原子力や石炭火力などの“ベースロード電源”を全体の6割以上にする」そうだ。これには、次世代送電網や上記の新技術・新ビジネスの創出は考慮されていない。これが、「日本は文系が科学音痴で駄目だ」と私が書いている理由である。

 そして、原子力の構成比を従来通り20%以上と決めた後、*4-2のように、福島廃炉・賠償費は、2013年末に11兆円としてきた約2倍の20兆円を超えると再推計し、費用の上振れ理由は、前回2013年末には想定していなかった賠償対象件数の増加や除染作業の難しさが理由だとしている。これは、経産省の想定、見積もり、予算の信頼性が皆無だということを意味する。また、東電へは無利子融資枠を現在の9兆円より広げる方向で財務省と協議した上、一部はほかの電力会社も含めて電気料金に上乗せするため、国民負担の増大が避けられないのだそうだ。

 さらに、*4-3のように、経産省の有識者会議で原発の廃炉をめぐり、その費用を誰が、どう払うのかが、今さら議論されており、一部の費用負担をすべての国民に求める案を検討しているそうだ。しかし、「原発は安全でコストが安い」などとして異論を言わせず原発を推進してきたのは、経産省と大手電力会社自身であるため、その責任を明らかにすることなく国民が負担するのは、今後のためにもよくない。

<COP22、パリ協定>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJCL3RWTJCLULBJ00B.html
(朝日新聞 2016年11月18日) 温暖化対策は「緊急の責務」 COP22宣言
 モロッコで開かれている、気候変動枠組み条約締約国会議(COP22)の参加国は17日、共同で「地球温暖化対策はすべての国の緊急の責務だ」とする「マラケシュ行動宣言」を発表した。温暖化対策のルール「パリ協定」からの離脱の意向を示すトランプ次期米大統領に対し、国際社会が一丸になって取り組む決意を示した。宣言では、パリ協定を受けて、各国政府や産業界などあらゆる分野で温暖化の取り組みがなされ、その流れは押し戻せないとし、「地球温暖化と闘うために、各国は最大限の政治的な努力をすべきだ」とした。さらに、温暖化対策のために途上国に対し、年間1千億ドルの資金を拠出することを改めて明言した。4日に発効し、日本も締結したパリ協定は、すべての国が参加し、産業革命前の気温と比べて気温上昇を2度より低く抑えることを目指している。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20161120&bu=BFBD9496EABAB5E6B39EBAA88BA48 (日経新聞 2016.11.20) 都市や企業など世界700の組織、パリ協定を支援
 12日に閉幕した第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された地球温暖化対策の2020年以降の新枠組み「パリ協定」について、世界の都市や企業、投資家など約700の組織が16日、協定の実施を支援すると表明した。気候変動に対応するための変革も加速する。支援を約束したのはニューヨークやロンドンなどの都市と米マイクロソフト、独保険大手アリアンツなど。日本からは東京都や横浜市、富士通、リコー、武田薬品工業、帝人などが加わった。COP21の議長を務めたファビウス仏外相は「低炭素社会や気候変動に強靱(きょうじん)な未来への移行の鍵となる」と話す。

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161118&ng=DGKKZO09676030X11C16A1TI1000 (日経新聞 2016.11.18) トランプ氏、米環境規制に慎重 エコカー戦略を翻弄 大型車には追い風も
 オバマ大統領の遺産のひとつとされる厳格な環境規制への対応が迫られる米国市場。16日のロサンゼルス自動車ショーでは、電気自動車(EV)などエコカーの発表が相次いだ。だが、温暖化対策に慎重なトランプ次期米大統領の登場で、流れが変わる可能性もある。「我々にとって最初のEVだ」。英高級車ブランド、ジャガー・ランドローバーのラルフ・スペッツ最高経営責任者(CEO)は自動車ショーの会場で胸を張った。2018年発売予定のEV「アイペース」は1回の充電で220マイル(約354キロメートル)走る。この日は独BMW傘下のミニも充電できるハイブリッド車(PHV)を初披露。韓国現代自動車も20年までに14モデルのEV、ハイブリッド車、PHVを米国で投入する方針を表明した。マツダはディーゼル車を北米市場に初投入すると発表。19年までにEV、21年以降にPHVも投入する。ガソリン安を背景に米新車市場の約6割はピックアップトラックなど燃費の悪い大型車が占め、小型で購入費も高いエコカー人気は伸び悩む。それでも各社が開発に注力してきた背景には厳しい米国の燃費規制がある。連邦レベルでは25年までに燃費を今より5割以上改善するよう求める。カリフォルニア州では排ガスを一切出さない車の一定数の販売を義務付ける規制が18年モデルの車から強化される。だが、トランプ次期米大統領は温暖化対策に慎重で、選挙中は米環境保護局(EPA)の予算大幅削減を公言。日欧勢よりもトラック販売が多く燃費規制への対応に苦慮してきた一部米系メーカーはこれを好機ととらえる。選挙直後の9日、米自動車工業会はトランプ氏の政権移行チームに、燃費規制の緩和を求める書簡を早速送った。エコカー開発に既に巨額の投資をしてきたトヨタやホンダのような企業にとっては「先行者の強み」をそがれる恐れがある。ホンダの北米担当幹部は「規制にかかわらずエコカーの開発は進める」と言うが、政権交代の象徴としてトランプ氏が燃費規制をつぶしにかかってもおかしくはない。自動車ショーの会場内では今年もエコカーよりも数多くのピックアップトラックや多目的スポーツ車(SUV)が並ぶ。トランプ次期米大統領が政策を大きく方向転換すれば、自動車メーカーに与える影響は大きい。

<自動車会社の再編>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKASGM22H81_S6A121C1FF1000 (日経新聞 2016.11.23)EV販売、25年100万台に VWが目標、首位めざす
 独フォルクスワーゲン(VW)は22日、中核のVWブランド乗用車部門の2025年までの経営戦略を発表した。25年に電気自動車(EV)の販売台数100万台で業界首位をめざし米国でもEVを生産する。車がネットに接続した付加サービスも充実し世界8000万人の会員を獲得、25年に関連売上高で10億ユーロ(約1180億円)を狙う。車販売以外の収益源を広げる。VW乗用車ブランドは18日に20年までの3万人削減を柱としたリストラ策をまとめたばかり。効率化で次世代技術・サービスの投資の原資を確保し、EVの米テスラモーターズ、ライドシェア(相乗り)の米ウーバーテクノロジーズなど新興勢力に対抗する。VWブランドはグループの販売台数の約6割を占め改革の成否を握る。同部門を率いるヘルベルト・ディース取締役は22日の記者会見でEV首位を狙う戦略に関し「電動車両は4、5年でブレークスルーが起きる。販売台数だけでなく技術、ビジネスモデルでもリーダーに立つ」と宣言した。EV専用に車台や主要部品を共通化したプラットフォーム「MEB」の車両生産は18日に決めた独2工場に加え21年から米国でも生産することを決めた。すぐに利益に結びつく従来の製品群も拡充。販売台数に占める多目的スポーツ車(SUV)の比率を2倍に増やし、VWが強い欧州、中国以外でも上積みを狙う。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKASDZ22HRG_S6A121C1TI1000 (日経新聞 2016.11.23) 日産、トヨタと別の道 カルソニック売却発表 系列解体、次世代車シフト
 日産自動車は22日、系列最大の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイを米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却すると正式発表した。仏ルノーから1999年に日産に乗り込んで以来、「系列解体」の大なたを振るうカルロス・ゴーン社長が中核部品メーカーまで手放す。自動運転や電気自動車(EV)の技術開発に向けた決断は、系列とともに新技術へと向かうトヨタ自動車と一線を画している。
●総額5000億円
 KKR傘下の会社を通じて2017年2月下旬からカルソニックカンセイ株に対しTOB(株式公開買い付け)を始める。日産が持つ41%を含めた全株の取得を目指す。買い付け価格は1株当たり1860円で全株式を取得する場合の買収総額は4983億円。KKRによる日本での投資額としては14年に傘下に収めたパナソニックヘルスケア(約1650億円)を抜き過去最大になる。カルソニックカンセイは日産の系列でも中核の中の中核企業といっていい。大量の部品を納めるだけではない。モータースポーツにも「CALSONIC」を冠した車両が参戦する。グループの黒子であると同時に主役であり、技術力と存在感の双方を兼ね備える。ただEVや自動運転が普及すれば魅力が徐々に薄れるのも事実だ。EVの普及は得意とする熱交換器や排気部品の市場縮小につながる。日産は何社もの同業にカルソニック株の売却を持ち掛けたが断られ、売り先はなかなか決まらなかった。「サプライヤーの潜在能力を生かす巧拙が競争力を左右する」。日産の西川広人共同最高経営責任者(CEO)は話す。カルソニックを手放す一方、自動運転をにらんで独ボッシュや独コンチネンタルなど「メガサプライヤー」と呼ばれる欧米部品大手との連携を強める方針。彼らの先端技術に日産のノウハウを加え、効率的で競争力のあるクルマづくりを目指す。日産向け売上高比率が8割超のカルソニックと対照的なのがトヨタ自動車系部品会社だ。デンソーはトヨタグループ以外への比率が半分を超える。トヨタは他流試合も奨励して系列メーカーの収益力を高め、自動運転など先進分野への投資を促そうとしている。かつてのトヨタはグループ内で利害対立が表面化することもあったが、近年は連携を強めようとする動きが目立つ。愛知県蒲郡市にグループの研修施設を置き、各社の新任役員が互いの歴史を学ぶ機会を設ける。12月に新設するEVの企画開発組織にはデンソーなど主要3社の社員も加わる。
●世界の潮流
 系列を崩し、幅広いサプライヤーの技術を活用する日産の選択は世界の自動車メーカーの潮流だ。サプライヤーが供給するモジュールの組み立てに注力すればコストは下がる。ただ部材が共通になることで似たようなクルマを生みだしてしまわないかという懸念は常にある。欧米流のクルマづくりか、グループ連携の強化か。両社の選択の成否は勝ち残りに向けた競争力に直結しそうだ。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161119&ng=DGKKASDZ18HNP_Y6A111C1TJC000 (日経新聞 2016.11.19) トヨタ、中国の開発拠点を増強 EV投入を検討
 トヨタ自動車は18日、中国江蘇省常熟市の研究開発拠点を拡張すると発表した。既存の実験棟を増強し、新たな実験棟や電池の評価試験に使う施設を建設する。中国では2018年の発売を予定しているプラグインハイブリッド車(PHV)に加え、電気自動車(EV)の投入も検討すると表明。環境車の品ぞろえを増やし、環境規制の強化に対応する。同日に報道陣への公開が始まった広州モーターショーの会場で、中国本部長の大西弘致専務役員が説明した。研究開発拠点は全額出資子会社のトヨタ自動車研究開発センター(中国)が増強し、18年末以降に完成する予定だ。同拠点では6億8900万ドル(約760億円)の投資を予定しており、今回の増強もこの範囲に含むという。中国ではPHVとEVを「新エネルギー車」と定め、多額の補助金を支給するなど普及に力を入れている。トヨタは18年に主力小型車「カローラ」などのPHVを発売するほか、15年には広州汽車集団との合弁会社を通じ、中国独自ブランドのEVを発売する方針を示していた。今後はトヨタブランドでもEVの投入を検討する。トヨタは12月、本社にEVの企画・開発組織「EV事業企画室」を設け、この分野の取り組みを強化する。ゼロエミッション車では燃料電池車(FCV)とEVの双方に注力する方針だ。

*2-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKASDZ22HR0_S6A121C1TJC000 (日経新聞 2016.11.23) トヨタホーム、ミサワホームを子会社化 110億円で、国内市場縮小に備え
 トヨタホームは22日、ミサワホームを子会社化すると発表した。TOB(株式公開買い付け)と第三者割当増資を組み合わせて約110億円を投じ、持ち株比率を51%に引き上げる。ミサワの上場は維持する。子会社化を契機に、部材の調達や商品の共同開発などの協業を拡大し、国内住宅市場の縮小に備える。トヨタホームはミサワ株の27.8%を保有する。ミサワの発行済み株式の14.1%に相当する約546万株を上限にTOBを実施する。51%を保有するために必要な残りの株式は、新株発行と自社株処分を組み合わせてミサワから割り当てを受ける。TOBによる取得株数が上限に達しなかった場合でも、増資の金額を増やすことにより、51%の持ち株比率を実現する考えだ。TOBによる買い付け価格は1株あたり1100円で、21日までの1カ月間の平均株価に34%上乗せした価格とする。TOBの期間は28日~12月26日。第三者割当増資の1株あたりの価格は874円とする計画だ。ミサワを子会社化する背景には、国内の住宅市場の縮小懸念がある。国土交通省によると、2015年の新設住宅着工戸数は約91万戸だった。08年の約109万戸を最後に、年間100万戸を割り込む水準が続く。トヨタホームも19年度までに戸建て住宅の販売を14年度比で約5割増の7千戸に増やす計画だが、この目標値は実質的に取り下げている。ミサワも中期経営計画では16年度の売上高目標を5千億円としていたが、今期見通しは4050億円。ミサワはトヨタ自動車を親会社に持つトヨタホームの信用力と資金力を後ろ盾に事業の拡大に弾みをつける考えだ。トヨタホームとミサワホームは住宅販売の大幅な伸びが見込めないなか、合理化などで協力関係を一段と深め生き残りをめざす。技術や商品開発、部材調達などの共通化部分を増やす。ミサワは増資などで得た資金を不動産開発に投じる計画だ。両社とも戸建て住宅が中心の収益構造のため事業の多角化ノウハウを共有する。ミサワは経営状態が悪化し、04年に産業再生機構の支援が決まった。その後、トヨタなどがスポンサーとなり役員などを派遣。トヨタがトヨタホームに住宅事業を集約するなどして、現在はトヨタホームがミサワの筆頭株主となっている。

*2-5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161119&ng=DGKKZO09731110Y6A111C1TJC000 (日経新聞 2016.11.19)トヨタ、大型トラックに燃料電池を搭載 米で実証実験
 トヨタ自動車は17日、水素で電気を起こす燃料電池の技術を使った大型トラックについて、米カリフォルニア州で実証実験を始めると発表した。同社はすでにセダン型の燃料電池車(FCV)を発売している。大型トラックにも燃料電池を搭載できれば、荷物の輸送時などに出る温暖化ガスを大幅に削減できるとみている。

*2-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161123&ng=DGKKZO09849690S6A121C1DTA000 (日経新聞 2016.11.23) 大和ハウス、6年債と10年債の発行見送り コスト上昇で
 金利上昇が企業の資金調達に影響を与えている。大和ハウス工業は22日、20年債の発行条件を決めた一方、6年債と10年債の起債を見送った。米大統領選後の長期金利上昇の影響で、資金調達コストが当初の想定よりかさむと判断したためだ。市場では、金利の不安定な推移が続けば今後の起債ペースが鈍るとの見方も出ている。20年債の発行額は100億円で、利率は0.690%に決まった。当初は「6年債と10年債で300億円程度を調達する」と投資家に通知していたが「投資家が期待する利回りが上昇した」(大和ハウスの担当者)ため、20年債のみに切り替えた。今後の代替調達方法は未定という。米大統領選後、マイナス圏で推移していた日本の長期金利はプラスに浮上した。社債金利も歩調を合わせて上昇。流通市場で大和ハウスと同格付けのダブルA格社債の利回りは0.3%台前半と、10月末(0.2%台半ば)から上昇している。投資家からは「社債の相対的な魅力が低下した」(国内運用会社)との指摘が多くなっている。企業の10月の起債額は8250億円と、過去最高だった9月の発行額に比べ約6割減った。11月の起債額も22日時点で3200億円と、引き続き低調だ。みずほ証券の香月康伸シニアプライマリーアナリストは「償還までの期間が短い社債の発行に、企業は慎重になっている」と指摘する。

<再生可能エネルギー技術>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161120&ng=DGKKZO09751410Z11C16A1TJC000 (日経新聞 2016.11.20) 温暖化対策、日本に商機、COP22閉幕、パリ協定ルール18年決定 地熱・ごみ発電強み トヨタ、自社工場に大型風力
 モロッコで開かれていた第22回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP22)が19日閉幕した。2020年以降の地球温暖化対策「パリ協定」を受け、世界のグローバル企業は「温暖化ガス削減は商機」とみて動く。協定批准で日本は後れを取り、企業には負担増を警戒する見方もあるが、地熱発電やごみ焼却発電など得意の環境技術を生かしたビジネスが育つきっかけにもなる。モロッコのマラケシュで開かれたCOP22は、パリ協定の詳細ルールを2018年に作ることで一致して閉幕した。4日に発効したパリ協定は地球の気温上昇を抑えるため、今世紀後半には温暖化ガス排出を実質ゼロにすることを目指す。各国は独自の削減目標を掲げるが、グローバル企業は国の枠にとらわれずに対策に取り組む。米アップルや米ゼネラル・モーターズ(GM)、英蘭ユニリーバ。事業活動で使う電力を全量、太陽光発電など再生可能エネルギーで賄うことを目標とする世界企業の集まり「RE100」には欧米中心に80社以上が名を連ねる。日本企業では電通の英子会社だけだ。世界企業が脱炭素を急ぐのは投資家からの要請でもある。世界最大級の政府系ファンドのノルウェー政府年金基金は今春、石炭関連企業から出資を引き揚げた。持続成長につながるとして環境に配慮した企業に優先的に投資する動きが世界の大手年金基金を中心に広がっている。温暖化対策は日本では企業の社会的責任(CSR)と捉えがちだが、「世界企業は収益に直結するとみている」(後藤敏彦サステナビリティ日本フォーラム代表理事)。出遅れが指摘される日本企業でも変化は起きている。トヨタ自動車は高級車「レクサス」などを生産する田原工場(愛知県田原市)内に、20年をめどに出力が最大2万6000キロワットの風力発電設備を設置する予定だ。電力は工場で全量消費する。自社向けの風力発電設備としては国内最大となる。トヨタは50年に工場の二酸化炭素(CO2)排出をゼロにする長期目標を掲げる。風力発電はその一環だ。先進国に限定した京都議定書と異なり、パリ協定は全世界が対象だ。日本で培った環境技術を新興国や途上国に輸出できる商機到来ともいえる。原子力発電所200基分――。地中深くにある蒸気を使って電力をつくる地熱発電は、50年に世界で総出力2億キロワットと、40年間で20倍に膨らむとの予測がある。市場の中心は東南アジアやアフリカだ。中核部品である地熱発電用タービンは東芝など日本の3社で世界シェア7割を握る。インドネシアで16年度末に稼働する世界最大施設のタービンも東芝製だ。地中の蒸気に不純物を含むため「機器の耐久性などは一朝一夕にまねできない」(東芝幹部)と、世界で営業攻勢をかける。ごみ焼却発電設備やエネルギー消費ゼロの住宅やビルなどでも日本企業は独自技術を持つ。「低炭素」から「脱炭素」へ世界が向かう中、大きな商機が生まれる。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20161120&bu=BFBD9496EABAB5E6B39EBAA88BA48 (日経新聞社説 2016.11.20) 地熱発電 エネ革命名乗り、温暖化抑制へ深掘りの技
 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を出さずに安定的に電力を供給できる地熱発電に、熱い視線が注がれている。インドネシアでは日本企業が大規模な設備の建設を進める。国内では開発が足踏みしていたが、原発事故や温暖化問題を受けた規制緩和で風向きが変わりつつある。地下深くに眠る熱を吸い上げる次世代の地熱発電が実現すれば、原子炉50基分の発電が可能になるかもしれない。インドネシア・スマトラ島にある同国第4の都市、メダンから車で8時間走ると、突然、森を切り開いた広大な大地が現れた。褐色の地面から白い蒸気が空高く噴き上がる。世界最大規模の地熱発電所「サルーラ発電所」だ。地下2000メートルまで約30本の井戸を掘り、高熱の蒸気や熱水を取り出す。今年11月から3基の発電施設が順次稼働する予定で、工事は急ピッチで進む。総出力は計33万キロワットと、日本最大の九州電力八丁原発電所(大分県)の3倍。事業費16億ドル(約1800億円)の巨大プロジェクトだ。伊藤忠商事などが出資するサルーラ・オペレーションズの油屋真一最高経営責任者(CEO)は「サルーラの資源量(潜在的な発電量)は非常に豊富で、力強い」と手応えを感じている。世界の火山帯の地下には、高温のマグマがたまっている。雨水が岩盤の割れ目を通って地下1500~3000メートルに達すると、マグマだまりによって熱せられた岩石に触れ150度以上の蒸気や熱水となる。これが地中の亀裂などの「貯留層」にたまる。井戸を掘って蒸気や熱水を取り出し、タービンを回転させて発電するのが地熱発電だ。日本は米国、インドネシアに次ぐ世界第3位、2347万キロワット、原発20基分に相当する資源量を持つ。有力企業も多く、地熱発電タービンでは世界シェアの7割を握る。だが現在の合計出力は52万キロワット。国内の全電源の0.3%にとどまる。資源の8割が国立公園や国定公園にあり、周辺の温泉が枯れるとの懸念もあり大規模開発は進んでいない。日本の地熱発電量は1997年から減少に転じ、現在はピーク時の約7割だ。だが福島原発事故の後、原発に代わる安定電源への関心が高まった。さらに昨年末、196カ国・地域が参加して開いた第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で、今世紀後半に温暖化ガスの人為的な排出量を実質ゼロにするとの目標を掲げた「パリ協定」が採択された。政府は30年までに、CO2を出さない再生可能エネルギーの電源比率を22~24%に高める方針だ。地熱は太陽光や風力と違って季節や天候、昼夜を問わず安定的に電力を供給できる強みがある。昨年、国立・国定公園の開発規制を緩和し、建設禁止区域の地下に、区域外から斜めに井戸を掘ることを認めた。地熱発電の資源量を倍増するとみられる次世代技術の開発も進む。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が研究する「高温岩体発電」は、深度2000~5000メートルの岩盤を砕き人工的に貯留層を作る。ここに注水して熱水を作り、発電に使う。深く掘るほどマグマに近く高温になるため、地表近くにマグマだまりがある火山帯でなくても地熱発電が可能だ。NEDOの米倉秀徳研究員は「深度3000メートル前後のところだけでも、日本には2900万キロワット以上の資源量がある」と話す。従来型と合計すると5300万キロワット以上となり、原発50基分に相当する。1980年代からNEDOや電力中央研究所が井戸を掘削して実験してきたが、石油や原発に比べてコストが高いと判断された。だが電中研の海江田秀志研究参事は「従来型の地熱発電をしている場所で高温岩体発電を実施すれば、規模が拡大しリスクも低減する」と強調する。さらに深い領域から熱を取る「超臨界地熱発電」の構想も浮上している。日本列島の下では海洋プレートが大陸プレートの下へと沈み込んでおり、プレートとともに地下に引き込まれた大量の海水が高温・高圧状態になっている。これを発電に利用する。アイスランドでは、地下2000メートルのマグマ付近の高温・高圧の蒸気を取り出す実験に成功。地熱発電の拡大で電力を再生可能エネルギーでまかなう体制をいち早く作り上げ、化石燃料から脱却した。地熱発電は投資額が大きく、環境影響評価も必要で開発に時間がかかる。政府は30年までに、電源比率を現在の3倍に引き上げる考えだが、それでも1%にすぎない。地熱発電は、日本のエネルギーの将来を占う手掛かりになりそうだ。

*3-3:http://www.ngk.co.jp/news/2016/20160303_01.html (日本ガイシ株式会社 2016年3月3日) 世界最大級のNAS電池が運転開始、コンテナ型でコンパクト、短期間設置を実現
<日本ガイシ株式会社(社長:大島卓、本社:名古屋市)が三菱電機株式会社(本社:東京都千代田区)から受注し、九州電力株式会社(本社:福岡市)豊前蓄電池変電所(福岡県豊前市、豊前発電所構内)に納入した、世界最大級の蓄電池設備となる電力貯蔵用NAS電池が本日、運転を開始しました>
 豊前蓄電池変電所に納入したNAS電池の出力は5万キロワット、容量は30万キロワット時(一般家庭約3万戸分の一日の電力使用量に相当)で、当社が新たに開発したコンテナ型NAS電池(20フィートコンテナ内に出力200キロワットのNAS電池と制御装置類を組み込んだ可搬型の蓄電池)252台で構成されています。2015年6月に受注し生産を開始、8月中旬から据え付けを行い、2016年1月上旬に全てのNAS電池の設置を完了しました。従来のパッケージ型に比べて設置期間を約3分の1に短縮できる特長を生かし、世界最大級の蓄電池設備の設置を約半年間で実現しました。また、NAS電池は他の定置用蓄電池に比べてエネルギー密度が高く、コンパクトでスペース効率に優れています。豊前蓄電池変電所では、約14,000平方メートルの敷地面積に30万キロワット時のNAS電池が設置されており、単位面積当たりの蓄電容量は他の電力系統用大規模蓄電池を大幅に上回っています。九州電力管内では、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの普及が急速に進んでおり、同社は電力の安定供給のために、再生可能エネルギーの円滑な接続に向けた取り組みを進めています。NAS電池はその一つとして取り組む大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業※に使用されます。この実証事業ではNAS電池を電力系統に接続し、揚水発電と同等の電力貯蔵機能を活用した電力需給バランスの改善と、系統電圧制御への適用についての実証が行われます。
※一般社団法人新エネルギー導入促進協議会「再生可能エネルギー接続保留緊急対応補助金(大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業)」
NAS電池は2002年の事業化以来、全世界で約200カ所、総出力53万キロワット、総容量370万キロワット時の納入実績があり、イタリアやアラブ首長国連邦(UAE)でも電力系統に設置され、電力需給バランスの調整に利用されています。当社は今後も世界的に高まる大容量蓄電池のニーズに応え、再生可能エネルギーの導入拡大に寄与していきます。
<運転を開始したNAS電池の概要>
設置場所: 九州電力豊前蓄電池変電所 (福岡県豊前市、豊前発電所構内)
出力: 5万キロワット、容量: 30万キロワット時、設置台数: コンテナ型252台、敷地面積: 約14,000平方メートル、運転開始: 2016年3月3日

*3-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/375962 (佐賀新聞 2016年11月12日) グリーンコープ生協さが、県内で再生エネ供給、14日から受け付け
■「脱原発」を推進
 グリーンコープ生協さが(佐賀市、柳川晶子理事長)は14日から、太陽光発電などの再生可能エネルギーを使った電気「グリーンコープでんき」の共同購入を受け付ける。グリーンコープ連合が、年内にも九州全域で組合員の一般家庭や事業所に供給を始める。2018年には原発によらない電気を100%供給し、「脱原発」を推進していくとしている。太陽光やバイオマス、火力など自社発電施設を持つ丸紅グループや卸電力市場などから電気を調達する。電気は九州電力の送電網で届く。厳密に原発以外の電気を区別できないが、グリーンコープ生協さがの藤瀬広樹専務理事は「原発の電気を使いたくないという人が購入先を選べることで、原発不支持の意思表示になる」と話す。7月から福岡県内約900世帯で供給を始めている。18年からはグリーンコープ連合の14生協でつくる新電力「グリーン・市民電力」(福岡市)の太陽光発電所など再生可能エネルギーによる自社電気の供給も始め、九電からの調達をゼロにする。料金は家庭の標準的な電気使用量(330キロワット)で月額約7800円。市民電力の発電施設は組合員の出資金で建設した。出資金は現在、1万2千人から約10億6千万円が集まっている。太陽光のほか、九州の地域団体と共同で進める小水力発電を含め10施設がある。年間発電量は一般家庭1550世帯分の8200キロワット。不足が生じた場合は丸紅グループから調達して安定供給を図りながら、自前の発電設備を増やして対応する。

<放射性廃棄物と電源構成>
*4-1:http://www.nikkei.com/article/DGXKZO85364450X00C15A4EA1000/ (日経新聞 2015/4/7) 電源構成は将来を見据えて議論せよ
 経済産業省は2030年の電源構成に関し、原子力や石炭火力など「ベースロード電源」を全体の6割以上にする考えを示した。電力の安定供給に必要というのが、理由だ。しかし、これでは各電源の使い分けや構成比が東日本大震災前と大差ないものになりかねない。東京電力福島第1原子力発電所事故の教訓を踏まえつつ、動き出した電力市場の自由化にも対応した、もっと柔軟な電源の使い方を考えるべきだ。次世代送電網(スマートグリッド)といった新技術や新ビジネスの創出を促し、日本の成長に長期的に資するエネルギー政策を、政府は示してもらいたい。ベースロード電源について経産省は、発電コストが安く昼夜を問わず安定して電気を生む電源、と定義している。具体的には原子力と石炭火力、水力、地熱の4つをあげる。天然ガス火力や太陽光、風力発電などはベースロードでないとされる。10年前ならこうした考え方に説得力があったかもしれない。だが状況は変わった。原発には、故障や災害で止まると容易に復旧しない不安定さがある。地球温暖化を抑えるため、石炭の利用には世界的に制約が強まっている。国内では、効率の高い天然ガス火力をベースロード電源としてすでに日常的に使っているのが現実だ。ドイツなど欧米では太陽光や風力発電などを積極的に電源に組み入れており、その傾向が将来さらに強まるのは間違いない。世界規模で電力システムの革新が進む。電源構成をめぐる議論は将来の日本の姿を決めるのが目的だ。従来通りでよしとする発想では技術革新を妨げ、世界の潮流から遅れてしまわないだろうか。経産省が「ベースロード電源6割」という考え方を持ち出したのは、原子力の比率を正面から論じたくないからではないか。机上の計算だが、同省の考えに沿うと結果的に原子力の構成比は20%以上に高まる可能性が大きい。原子力はこれからも一定程度必要だ。そのことを真正面から論じ、将来の電源構成に明確に位置づける必要がある。「ベースロード電源」というくくり方で本質的な問題を避けていると、議論が実態から離れ副作用も生む。原子力を含むエネルギー政策全般への国民の不信感も消えないだろう。

*4-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161127&ng=DGKKASFS26H2I_W6A121C1MM8000 (日経新聞 2016.11.27) 福島廃炉・賠償費、20兆円に 想定の2倍、経産省推計 国民負担が増大、東電へ融資拡大
 経済産業省が東京電力福島第1原子力発電所で起きた事故の賠償や廃炉費用の合計が20兆円を超えると推計していることがわかった。11兆円としてきたこれまでの想定の約2倍に膨らむ。東電の財務を支えるため、無利子融資枠を9兆円から広げる方向で財務省などと協議する。原発の事故処理費用(総合・経済面きょうのことば)の一部はほかの電力会社も含めて電気料金に上乗せするため、国民負担の増大が避けられない。複数の関係者によると、経産省は新たな推計を東京電力の経営改革や資金確保策を話し合う同省の有識者会議の委員らに伝えた。福島第1原発事故では、賠償や除染、汚染土を保管する中間貯蔵施設の整備、廃炉に費用がかかる。これまでの見積もりは賠償が5.4兆円、除染は2.5兆円、中間貯蔵施設は1.1兆円。廃炉は不明確だったが、東電が確保のめどをつけたのは2兆円だった。新たな見積もりは賠償が8兆円、除染が4兆~5兆円。作業が最低30~40年続く廃炉はこれまで年800億円だった費用が年数千億円に膨らむとみており、総額も数兆円単位で上振れする。中間貯蔵施設の費用も合わせて20兆円を超える。費用の大幅な上振れは、前回見積もった2013年末には想定しなかった賠償対象件数の増加や、除染作業の難しさが主な理由だ。廃炉は溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しが始まる20年代前半を控え、原発内部の状況が徐々に明らかになるにつれて2兆円では到底収まらないことが確実になった。廃炉費以外は原子力損害賠償・廃炉等支援機構が政府から交付国債を受け、必要なときに現金化して東電に無利子で貸し付けている。当初5兆円だった国債の発行枠を13年度に9兆円に広げており、再び拡大する。廃炉費は東電が利益を積み立てて負担する。原賠機構と東電は費用の膨張も踏まえて年明けに再建計画を改定し、政府が認定する。東電や他社の電気料金への上乗せをなるべく抑えるには東電が収益力を高め資金を捻出する必要がある。すでに火力発電・燃料調達事業は中部電と全面統合を視野に提携しているが、今回の改定で送配電や原子力事業でも再編・統合の方針を盛り込む。他社から広く提案を受け、収益力の向上につながる統合相手を選ぶ。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161120&ng=DGKKZO09754640Q6A121C1PE8000 (日経新聞社説 2016.11.20) 原発の廃炉費は丁寧な議論を
 経済産業省の有識者会議で原子力発電所の廃炉をめぐる二つの議論が進んでいる。一つは、電力自由化の下で必要な廃炉を進める方策について。もう一つは、事故を起こした東京電力(現東京電力ホールディングス)福島第1原発を処理する体制についてだ。いずれも放置が許されない課題だ。やり遂げる仕組みを整えることが急務である。そのための費用を誰が、どう払うのか。国はわかりやすい議論と、国民への丁寧な説明を心がけてほしい。二つの議論に共通するのは、一部の費用の負担をすべての国民に求める案を検討している点だ。新規に参入した電力事業者も使う送電線の利用料に費用を上乗せすることで、新電力から電気を買う消費者にも負担を求める考え方だ。自由化で競争が激しくなれば、原発を持つ電力会社が廃炉に備えて用意する引当金を確保できなくなる可能性がある。そのため、予定より前に廃炉を決めた原発については送電線の利用料の一部を廃炉費用にあてる案が出ている。福島第1原発の処理では、廃炉や損害賠償などの費用が見込みを大きく上回る可能性が高まっている。そこで、上振れ分の一部を送電線の利用料に上乗せして集める案を、国は示している。負担が事業者間の競争を阻害するものであってはならない。一方で重要なのは、役目を終えた原発の廃炉と、福島の事故処理・復興を着実に進めることだ。資金不足で滞るようなことが起きてはならない。事故処理の費用を東電HDの経営努力だけで賄えないなら、補う財源が必要だ。不足分を広く国民に負担を求めざるを得ないのなら、理由を誠実に説明することが大切だ。どうして送電線に上乗せするのか。ほかに手段はないのか。理解を得られるようつとめるべきだ。議論が限られた場所で進む「密室感」は国民の疑念を招く。原発を重要なエネルギーとして使い続けるためにも、信頼を積み上げる努力を怠ってはならない。


PS(2016.11.29追加):*5のように、環境性能の良い自動車の税金を安くするエコカー減税をどこまで認めるかが議論されているが、2017年4月から適用される減税なら、排気ガスを出さないEVとFCVだけを環境車として自動車税免税にすべきだ。何故なら、その方が環境への配慮が進み、EV・FCVの生産投資と買替が起こって、景気もよくなるからだ。しかし、自動車は必需品であるため、自動車購入時に自動車税・自動車重量税・自動車取得税を賦課した上に消費税をかけるのは、諸外国と比較しても理不尽に税を取り過ぎている。間接税として消費税をかけるのなら自動車取得税は廃止すべきであり、一般車の自動車税もドイツ(23.5%)程度にすべきだ。なお、自動車重量税は、自動車専用道路の整備に充てるのなら賦課する理由があるが、一般財源なら自動車に賦課する理由がないため廃止すべきだろう。


自動車関係諸税の大きさ 自動車諸税国際比較  2016年エコカー減税 自動車保有国際比較

(図の説明:自動車関係諸税は租税総収入の10%弱を占めており、とれるところからとっている感がある。しかし、現在、自動車は地方では贅沢品ではなく必需品であるため、自動車関係諸税が高すぎるのはおかしい。せめて、自動車産業同士が激しく競争しているドイツ程度にすべきで、税優遇する次世代自動車は排気ガスを出さないEV・FCVだけとし、EV・FCVの開発を促すのがよい。何故なら、100人当たりの自動車保有台数は、人口の多いインドや中国でも上がってきており、排気ガスを出さないEV・FCVの重要性がますます大きくなるからだ。なお、化石燃料に課税すれば、環境負荷が軽くて燃費の良い自動車が自然と優遇され選択されるため、自動車取得時に低燃費車を優遇しなくても問題ない)

*5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161129&ng=DGKKZO10050540Z21C16A1EA2000 (日経新聞 2016.11.29)エコカーなお攻防 経産・総務省 投資減税、拡大が焦点
 結論が出ておらず、今後の焦点になる項目もある。一つは環境性能が良い車の税金を安くするエコカー減税。もうひとつは中小企業の設備投資減税だ。いずれも景気刺激を優先する経済産業省と、地方自治体の財源を確保したい総務省との間で主張が真っ向から対立している。エコカー減税は車を買うときに都道府県に払う自動車取得税を、燃費に応じて20~100%割り引く仕組みだ。メーカーの燃費性能は毎年向上しており、現在の基準では新車の86%がエコカー減税の対象になっている。総務省は「燃費が平均以下の車まで『エコカー』として優遇するのはおかしい」(幹部)との立場。対象を絞り込めば、メーカーの研究開発を促す効果も期待できるとしている。経産省や自動車メーカーはこれに反発する。「過大な税負担が国内の自動車市場低迷の一因」として、今の燃費基準の維持を求めている。25日の自民党税調の会合では「減税対象を絞り込むと販売が減り、景気に悪影響が出る」との懸念が出る一方、「販売はそのときの景気で決まる。税金は関係ない」との声も多かった。もうひとつの焦点は今年度から実施している設備投資減税だ。中小企業が導入した機械設備の固定資産税を3年間にわたって半減する内容だが、経産省はこの対象を広げて効率の良い空調設備や介護ロボットを含めるよう求めている。製造業だけでなくサービス業にも活用してもらうためだ。固定資産税は全国の市町村にとって最大の財源だ。総務省は「まだ導入初年度の効果も検証できていないのになし崩し的に拡大するのは納得できない」(幹部)として徹底抗戦の構えを取る。


PS(2016年11月30日追加):*6のように、非正規社員は、正規社員と賃金・福利厚生のみならず、配置・研修・昇進などの扱いが異なり、その結果、長期間働くほど賃金差が広がって、賃金差は50代で最大になる。つまり、日本的経営を行っている日本企業は正規社員には(なるべく)終身雇用を保障しているが、そのために非正規社員を雇用調整に使っているわけである。また、1985年に第一次男女雇用機会均等法が導入される前は、正規社員の割合は15%程度と少なく、そのかわり女性が補助的な仕事を行って短期間で退職する労働者とされていた。そして、1985年の第一次男女雇用機会均等法導入後、企業は非正規社員の割合を次第に増やして、現在では労働者の1/3以上が非正規社員となり、非正規社員の割合は特に女性で高くなっているのだ。
 そして、「自分で選んで非正規社員になった」等々、会社側の言い訳はいろいろあるが、多くの労働者が他に選択肢があって選択したわけではないため、これは雇用形態の違いを理由にした差別に基づく搾取だ。そのため、労働基準法や男女雇用機会均等法で守られず、事業者が社会保険料も納めない非正規社員は非常に例外的なものにすべきで、正規社員でも遠距離の転勤がなかったり、短時間労働(その場合は、それだけ賃金が低いだろうが)にしたりすることは、経営判断で可能な筈である。


 *6より 1984~2012年正規・非正規推移  男女別正規・非正規雇用者数の推移

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161129&ng=DGKKZO10050770Z21C16A1MM8000 (日経新聞 2016.11.29) 正規・非正規の基本給 格差縮小促す、職務や能力厳格評価 働き方改革、指針に反映
 政府は非正規社員の待遇を改善するため、基本給について仕事内容が同じなら正社員との格差を縮めるよう評価の基準を設ける。基本給の差を認める基準は職務能力や職務内容、勤続年数、配置転換の有無などに厳格化する。働き方改革実現会議(議長・安倍晋三首相)で議論し、年内にまとめる「同一労働同一賃金」のガイドラインで示す。早ければ来年の通常国会で関連法の改正を目指す。現在、企業は正社員には企業ごとの給与規定によって賃金を定め、年齢や勤続年数を反映した基本給を払っている。ただ、将来的な働き方が見通せない非正規では仕事の成果が給与に反映されにくい。これを見直し、原則として同じ企業内では雇用形態での不合理な賃金差を認めないこととする。働き方を適切に評価することで全体の生産性向上につなげる。新たに策定するガイドラインでは、どのような賃金差が合理的であるか、または不合理であるかを事例で示す方針。例えば、正社員と非正規の職務に違いがない場合は賃金の差を認めないが、正社員がキャリア形成の一環で実習を積む場合は非正規と同様の仕事内容でも賃金差を容認する。ガイドラインには賃金差の根拠などについての企業側の説明責任を盛り込むことを検討している。企業側には慎重論もあり、調整が続いている。交通費などの諸手当、賞与、福利厚生についても正社員と非正規に不合理な差をつけないよう企業側に促す。一方で、非正規の処遇を改善することで正社員の賃金が下がらないよう企業に労働分配率を引き上げることを求める。政府はガイドラインの拘束力を担保するため、関係する労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の3法の改正案を早ければ2017年の通常国会に提出する。6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、19年度からガイドラインを運用すると工程表に定めている。現在も労働契約法など関連3法では正規と非正規について「不合理な相違があってはならない」などと明記しているが、どのような差があれば、待遇の違いが認められるかは具体的に触れられていなかった。日本の多くの企業は人件費抑制などを狙い、非正規の比率を高めており、国内の労働市場で非正規の割合は約4割にのぼる。欧州では同等の仕事をしていれば非正規でも正社員の8割程度の賃金を得ている。日本では約6割にとどまるため、政府は欧州並みに近づけたい考えだ。非正規は昇給がほとんどなく、賃金の差は勤続年数が長いほど大きくなる。最近では働き方の多様化、人手不足を背景に、小売業でパート・アルバイトが店長を務めるなど、非正規でも正社員並みの仕事をするケースが増えている。同一労働同一賃金の考え方を採り入れた人事制度を導入し、非正規の働きぶりをより評価して企業全体の生産性向上を目指す動きも出ている。りそな銀行は08年、業務の難易度などで分かれていた「職務等級」を正社員と非正規で共通にして、等級が同じなら時間当たりの基本給を同じにしている。


PS(2016年12月1日追加):高齢化やバリア・フリー化など課題先進国である日本の市場は、その需要を満たす製品を作れば、後に続く国への輸出やグローバル展開が可能だ。そのため、*7-1の自動ブレーキは、車両間衝突防止、車線はみ出し修正、歩行者への衝突防止などを徹底させて、国内外の他のメーカーにも販売すると利益が上がるだろう。また、自動車メーカーは典型的な男社会で、壮年期の男性に適した製品が殆どだが、女性や高齢者が設計の本丸部分に加わると、女性や高齢者に受ける自動車ができると思われる。なお、*7-2のように、信号機が老朽化して更新時期を迎えているのなら、更新するにあたっては、色の変化だけでなく、①位置情報 ②一方通行の情報 ③「進め」「右折可」「止まれ」などの電磁信号を自動車に送るようにすれば、より自動運転しやすいと思われる。

*7-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJD133CTJD1ULFA006.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2016年12月1日) 自動ブレーキ性能、マツダ「アクセラ」最高点 2位は…
 国土交通省は1日、市販車の自動ブレーキによる衝突防止性能などの評価結果を公表した。従来の車両追突時などの評価に加えて、今回は歩行者との衝突防止性能を加えた点数を初めて公表。総合点でマツダの「アクセラ」が最高点となった。同省の評価に応募した、トヨタ自動車、ホンダ、マツダ、富士重工業、スズキの5社11車種が対象。車を時速10~60キロの範囲で5キロ刻みで走らせ、そのたびに人形を飛び出させて、自動ブレーキで止まれるかを測定した。人形に衝突すると減点になる。人形は、大人(身長180センチ)と子供(同120センチ)の2種類を用意した。自動ブレーキの車両衝突防止や、車線はみ出し時の警報などの安全性能に、歩行者衝突防止性能の点数(25点)を加えて総合評価した(計71点)。最高点はマツダのアクセラ(70・5点)で、富士重工のフォレスター(69・5点)とインプレッサ(68・9点)が続く。国交省は、12点以上で「ASV(先進安全自動車)+」、46点以上で「ASV++」を販売時に表示することを認めており、今回は全車種が46点以上だった。今回新たに評価した歩行者との衝突防止性能に限った点数をみると、アクセラ(24・5点)、フォレスター(23・5点)、インプレッサ(22・9点)の順だった。自動ブレーキについて、国交省は2014年から車両衝突防止性能の評価は公表しているが、歩行者衝突防止性能については初。交通事故の死者の4割近くは歩行者で、高齢ドライバーの事故も相次ぐなか、国交省は点数の公表でメーカーの開発競争を促す。

*7-2:http://qbiz.jp/article/99167/1/ (西日本新聞 2016年12月1日) 信号機 進む老朽化 制御機2割が更新期経過 警察庁まとめ
 信号機の赤青黄の点灯をコントロールする「信号制御機」や、信号を支える柱の老朽化が進んでいる。警察庁によると、制御機の更新時期は設置から19年。全国の制御機の約2割がこの期間を経過し、老朽化したと判断されており、重大事故を招く危険性が懸念されている。2012年9月、神戸市中央区の国道交差点で、信号の柱が突然折れ、路上に停車中の乗用車に接触。車は破損したが、運転していた男性や通行人にけがはなかった。柱は設置から45年がたっていたが、修理されないままになっていた。警察庁によると、「信号機の心臓部」ともいえる制御機は今年3月末時点で全国に20万5千基。うち「老朽化」と判断されたのは約2割の4万3千基。信号が消えたり、点滅を続けたりするなど、老朽化した制御機のトラブルは14年度に全国で314件起きた。制御機1基の更新費用は約120万円で、都道府県が負担する。信号は高度経済成長期以降に大量に整備されたが、自治体によっては予算を確保できず、事実上放置されている信号が増えているとみられる。15年度末時点で、福島県は、47都道府県で老朽化の比率がワーストの35・6%。一方、最も低い岐阜県は0・6%にとどまる。33・7%と全国2番目に高い兵庫県は、15年度に確保できた予算のままで更新ペースが続けば、25年度には県内の6割以上が老朽化すると予測している。全国的な統計はないが、信号を支える柱も、制御機と同様に老朽化が進んでいるとみられる。兵庫県警は柱の適切な更新時期を設置から40年としており、15年度末時点で県内の約14%がこれを超えている。県警は柱をたたいて強度を調べる打音検査のほか、海辺で潮風に当たりやすいなど設置場所の環境から傷みやすい柱を優先的に更新するなどして対応している。警察庁は20年度までに老朽化した信号機約4万3千基の更新を目標に掲げ、都道府県警にも計画の策定や予算の確保を指示。兵庫県警の担当者は「地下の見えない部分で腐食が進む場合もあり、危険性の判断は難しい。予算を平準化し、計画的に更新できる態勢づくりが必要」と話している。


PS(2016.12.2追加):日本では、世界でトップを切って1995年頃からEVをはじめとする本格的な環境車を開発し始めたのに、*8のように、「①EVは航続距離や充電時間に課題がある」「②EVの背中を押したのは外国の環境規制」「③独連邦参議院が2030年までにエンジン車の販売禁止を求めるとの独誌シュピーゲルの報道に対し、トヨタ首脳は『極端だ』と反応」「④FCV普及の前提となる水素ステーションの整備も課題」などとして、開発済のEVやFCVも本気で普及する体制をとらない点で、私もトヨタの経営陣はどうも先見の明や環境センスに欠けると思っていた。例えば、①④の課題は、1~5年で解決すべきで、10~20年も同じことを念じ続けるようなものではない。また、②は、リーダーの不勉強による見識の低さから、日本政府の環境意識が低いことによる。さらに、③の「極端だ」という反応は「バランスが重要」と言いたがる文系の人によく見られるが、例えば、「よりよいものができても、街灯にはろうそく・ガス灯・白熱電球・蛍光灯・LED電球をバランスよく使うべきだ」と結論づけるのと同じくらい馬鹿げているのだ。

     
 *8より  あかりの変遷     ガス灯       水銀灯    ソーラーLED

*8:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161202&ng=DGKKASDZ28IET_Z21C16A1EA1000 (日経新聞 2016.12.2) EV注力、トヨタの焦燥と勝算、環境規制受け開発加速 グループ一丸で巻き返し
 トヨタ自動車が12月1日付で「EV事業企画室」を設立し、電気自動車(EV)の量産に向けた取り組みを急いでいる。世界で初めてハイブリッド車(HV)の量産に成功し、水素で走る燃料電池車(FCV)を「究極のエコカー」に据えるトヨタ。EVにこれまで以上に注力する背景からは、環境変化に対する「焦燥」とトヨタなりの「勝算」が透けて見える。
●後ろ向きの印象
 9月下旬、仏パリ。トヨタの豊田章男社長はパリ国際自動車ショーの会場に足を運んだ。会場では独ダイムラーや独フォルクスワーゲン(VW)などが相次いでEVのコンセプト車を披露。欧州勢の動きを目にした豊田社長は周囲に「ショーと現実は異なるが、EVシフトが加速するかもしれない。注意が必要だ」と漏らした。トヨタは1997年に世界初の量産型HV「プリウス」を発売し、2014年には走行中に二酸化炭素(CO2)を一切出さないFCV「ミライ」も出した。こうした取り組みにより「トヨタ=環境」のイメージを強め、「エコカーもすべて開発している」(伊地知隆彦副社長)。だが、「EVに後ろ向き」との印象がつきまとっていた。例えば昨年発表した50年までの環境目標。HVやFCVは意欲的な販売目標を掲げる一方、EVについては「航続距離や充電時間に課題があり、近距離の移動に向いている。現在の乗用車と同様の車についてはHVやプラグインハイブリッド車(PHV)が適している」(伊勢清貴専務役員)と述べるにとどめた。課題があるにもかかわらず、なぜEVに注力するのか。背中を押したのは、各地の環境規制だ。米カリフォルニア州では18年式の製品から規制が強まり、一定の販売を義務付けるエコカーの対象からトヨタが得意とするHVが除外される。世界最大の自動車市場である中国でも当局が手厚い補助金でEVの普及を後押しする。HVを筆頭に「エコカーで先行するトヨタを米中両国が規制を使って締め出している」との見方は業界の通説だ。もっともこうした規制は以前から明らかになっていた。トヨタ幹部が「想定外だった」と打ち明けるのは、欧州の動向だ。VWはディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVへのシフトを表明。同社は6月、「25年までにEVを30車種投入し、25年に世界販売台数の20~25%をEVにする」と宣言した。10月に入ると、衝撃的なニュースも飛び込んでくる。独誌シュピーゲルが、独連邦参議院(上院)が30年までにエンジン車の販売禁止を求めると報道したのだ。トヨタ首脳は「極端だが、多くの人が今のままではよくないと考えている証拠だ」と発言。走行中にCO2を出さないゼロエミッション車(ZEV)の開発加速が必要との見方を示した。
●燃料電池車に壁
 もちろんトヨタが量産で先行したFCVでもZEV規制に対応できる。だが、FCVは主要部品の生産能力に限界があり、17年時点でも年間生産は3000台。普及の前提となる水素ステーションの整備も課題だ。「参入メーカーが比較的多いEVの方が充電拠点の整備が早く進む」(トヨタ幹部)との読みがある。EVをFCVと並ぶZEVの柱と位置付けたトヨタの今後の焦点は、競争力のある製品を生み出せるかに移る。トヨタは年間100万台規模を生産・販売するHVの技術をEVにも応用できるとみているが、グループ内には「HVとEVでは異なる点もあり、トヨタは出遅れた」との声もある。巻き返しのカギを握るのがEV事業企画室の顔ぶれだ。発足当初は4人ときわめて少人数だが、現行のプリウスの開発責任者を務めたトヨタの豊島浩二氏をヘッドに、デンソー、アイシン精機、豊田自動織機の出身者が脇を固める。「開発初期からグループ会社が参画するのは当社で初めて」(トヨタ幹部)という。トヨタの経営陣はここ数年、グループの一体感の醸成に注力してきた。内部で意見が対立して時間を浪費することもあったが、一丸となれば効率は高まる。EV事業企画室に参画するグループ3社の研究開発費(16年3月期実績)を足すと6000億円を上回り、自動車部品最大手の独ボッシュに迫る。EVの開発はグループ連携の成否を占う試金石にもなる。


PS(2016.12.3追加):大容量蓄電池や燃料電池が進歩したため、*9-1の“ベースロード電源”という概念は不要であり、これは、*8で述べた恣意的かつ不合理な電源バランスの考慮にすぎない。そして、*9-2のように、経産省が「福島原発事故処理に22.6兆円、廃炉に8.2兆円かかる」としながら、*9-3のように、「石炭や原子力の低コスト電気を新電力に大手が供給する」と主張しているのは、原価計算も理解せずに強弁を繰り返している点で間違っている。
 なお、*9-4の電力小売自由化で300社を超える企業が電力供給に参入したにもかかわらず、契約を切り替えた家庭が3%強に留まるのは、価格だけの問題ではなく、*9-3のように、新電力も化石燃料や原子力由来の電力と混合している上、事故処理や廃炉費用を負担させられ、新電力が従来の電力会社と電力という商品の内容で差別化できないからである。つまり、経産省の方針は、市場経済ではなく、経済学・経営学も理解しておらず、焼け太りしながら日本の国民や産業を邪魔しているにすぎない。

    
 世界の日本の農水産物  台湾の輸入制限への   2016.11.30    2016.12.3 
  に対する輸入制限    日本政府の態度     共同通信      日経新聞

(図の説明:左図の赤で着色された国が2015年5月現在、フクイチ事故の放射能汚染により、日本の農水産物の輸入停止や条件付輸入をしている国で、これによる損害も原発事故の被害だ。これに対し、日本政府は「世界貿易機関(WTO)への提訴も考える」などとしているが、世界を相手にフクイチ事故の放射能汚染を“風評被害”と強弁してWTOに提訴するような滅茶苦茶なことをすれば、日本食品の安全基準が疑われるとともに、その後は、まともなことを言っても相手にされなくなるだろう。これは、フクイチ事故処理費用を億面もなく22.6兆円と増加させ、それを新電力に負担させるやり方にも同様に出ている)

*9-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161203&ng=DGKKASFS02H40_S6A201C1EA2000 (日経新聞 2016.12.3) ベースロード電源 昼夜問わず安定的に発電
▽…コストが安く、昼夜を問わず安定的に発電できる電力源。原子力や石炭火力、水力、地熱発電などが該当する。日本はエネルギー政策を考える上で、安全性や安定供給、経済効率性、環境への適合といった要素を重視しており、ベースロード電源の割合を高めていけば、停電のリスクは減り、電気料金も抑制できる。政府はエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、安全を確保できた原発を再稼働させる必要性を示してきた。
▽…ベースロード電源を多く持つ電力会社は電気料金を低く設定でき、競争上も優位な立場に立てる。大手電力が長く、地域の電力需要を独占してきた日本では、原発や水力発電などの設備の多くを大手電力が保有する。水力と石炭火力、原子力を合計したベースロード電源の割合(2015年度)を比べると、大手電力が4割近くに達するのに対し、新電力は10%強にとどまる。新電力がコストが高い電源に頼らざるをえない構図は今後も続く見通しで、競争環境の是正が急務となっていた。
▽…ベースロード電源以外では、次に発電コストが低い「ミドル電源」、発電コストが高い「ピーク電源」がある。エネルギー資源に乏しい日本は各電源の利点や欠点を踏まえつつ、バランス良く各電源を活用していくことが欠かせない。政府は昨年、ベースロードの比率を56%程度などとする30年時点の望ましい電源構成を決めた。

*9-2:http://this.kiji.is/176377454849410556 
(共同 2016/11/30) 福島原発事故処理に22.6兆円、廃炉8.2兆円、新電力も負担
東京電力福島第1原発の事故処理費用 経済産業省が東京電力福島第1原発の廃炉費用について、従来想定の約2兆円から約4倍に当たる8兆2千億円に拡大すると試算していることが29日、分かった。賠償や除染費用も増大し、事故処理費用は総額22兆6千億円となる。政府は巨額費用の負担による東電の経営危機を避けるため「廃炉の加速化」を名目に、新たに年数百億円程度を電気料金に上乗せし、東電を支援する方向で検討する。他の大手電力や電力小売りに参入した新電力も対象で、家計の負担は一段と重くなりそうだ。廃炉は溶け落ちた核燃料取り出しの工法が決まらないため費用の試算が難しく、これまで数兆円規模で増えるとされていた。

*9-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161203&ng=DGKKASFS02H48_S6A201C1MM8000 (日経新聞 2016.12.3) 新電力に低コスト電気 石炭や原子力、大手が供給、福島賠償を共同負担
 経済産業省は電力自由化で参入した新電力が石炭火力や原子力など発電コストの安い電気を調達できるようにする。電力大手が新電力の需要の3割相当を提供し、代わりに東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償費用のうち3兆円程度を大手と新電力の共同負担に切り替える。賠償による新電力の料金上昇を抑え、大手との競争を促す。電力市場の競争促進や原発事故の処理費用の負担を話し合う経産省の有識者会議で来週にも決める。必要に応じて関連法や省令などを改正する。石炭火力や原子力などコストが低く発電量が天気や時間帯に左右されないベースロード電源を日本卸電力取引所に放出することを2020年度をめどに義務づける。いま大手が取引所に出すのは石油火力などコストの高い電気が中心で、割安な電気は自社の小売部門に流している。1キロワット時あたりの発電コストは原子力が約10円、石炭火力は約12円、石油火力は30円を超える。300社以上の新電力のなかには自前の発電所のない事業者も多い。取引所に調達を頼るが、安い電気が手に入らず対等な競争が難しかった。新電力の需要の3割にあたる量を発電コスト以下で放出してもらう。現在は石炭火力の発電量が多いが、再稼働が進めば原発の電気も出てくる。新電力はオークションで電気を買い付ける。福島第1原発事故の賠償費用はこれまでの想定の5.4兆円を上回る8兆円ほどに膨らむ。東京電力ホールディングスを中心に関西電力や中部電力などほかの大手も一緒に負担してきたが、今後は3兆円程度を新電力との共同負担に変える。賠償費用は大手が11年の事故後から拠出しているが、共同負担の3兆円は事故に備えてそれ以前に積み立てておくべきだった金額との位置づけだ。全ての電気利用者が大手と契約して原発の電気を使っていた時代の費用をこれから回収するため、新電力も含む全ユーザー(原発のない沖縄は除く)に負担を求める。具体的には大手と新電力の双方が負担する送電線の利用料に賠償費用を上乗せする。全国の電気の販売量に占める新電力の比率は8%。利用料はおおむね販売量に応じて払うため、新電力の負担は数千億円になりそうだ。福島第1原発以外の全国の原発の廃炉費用の一部も送電線利用料に上乗せする方針で、新電力に100億円単位の追加負担になる。新電力が費用をすべて小売料金に転嫁すれば、家庭の電気料金を1カ月あたり数円から数十円押し上げる要因になる。経産省は「安価な電気を調達できるようになるメリットのほうが費用負担よりも大きい」(幹部)とみている。本格的な価格競争が起きれば、大手も含めた料金の引き下げにつながる。大手と新電力の損得のバランスを取りながら、賠償と競争を同時に進める。

*9-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161203&ng=DGKKZO10252260T01C16A2PP8000 (日経新聞 2016.12.3) 政治大手既得権にメス 低コスト電気提供 新電力との競争促す
 経済産業省が電力大手に石炭火力など安価な電気の放出を求めるのは、大手の既得権にメスを入れるためだ。東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償費負担の一部を新電力に切り替えるのをきっかけに、競争力のあるベースロードの電気を新電力に回して一気に競争を促す。4月の電力小売り自由化で300社を超える企業が参入したが、契約を切り替えた家庭の割合は3%強にとどまる。低コストの電気を大手が囲い込み、新電力は余った電気を調達せざるを得ない構造が根底にある。経産省は昔から大手に取引所への電気の放出を求めてきたが、競争力の源泉である石炭火力や原子力の電気は出てこなかった。無理に放出を義務づければ財産権の侵害に当たる恐れもあった。ここにきて賠償費用が大幅に上振れし、新電力に一部を肩代わりしてもらうことになった。経産省は見返りとして大手にベースロードの放出を説得していった。幹部は「こんなときじゃないと求められない」と話す。大手はなお反発している。一方、大手の契約者だった時代に払っておくべきだったという理屈で新電力の利用者に賠償費用を負担させる案は理解しにくい。事故処理費用が膨らんで後付けで理屈を考えたとの批判もある。原発が嫌いで新電力に乗り換えた人には、いっそう丁寧な説明が必要だ。


PS(2016年12月6、15日追加):日立の社長が、*10-1のように、「将来の経済発展や環境問題を考えると、原発は重要な選択肢」としているのは、日立の利益という観点からにすぎない。何故なら、経済発展のためには、無尽蔵で請求書のこない自然エネルギーを使う方が合理的であり、環境問題を考えれば原発は最悪の公害を出すからだ。そのため、ベトナム政府の判断は世界の潮流に沿って未来を考えたもので日本政府の判断より優れていると私は思うが、それでも自分の方が正しいと考える理由は、過去にもあった日本人の根拠なき自信から来る傲慢さだろう。
 なお、*10-2のように、麻生副総理・財務相と菅官房長官が、2016年12月15日、ハモンド英財務相と会談して日本政府が民間企業である日立の原発輸出を支援するために、英国の原子力発電所の建設プロジェクトに1兆円の資金支援を行い、事故が起きた場合の賠償の仕組み(日本国民が負担 ??)についても英政府と協議するそうだ。そして、日本政府は原発輸出を成長戦略の柱と位置づけているとのことだが、今でも原発を成長戦略の柱と考えているのなら馬鹿にも程がある。メイ首相が原発建設の許認可を先送りしたのは、中国への依存度が高まるのを懸念したのではなく、原発建設は環境配慮も経済合理性もなく、無料の自然エネルギーへの変換を阻害するだけであることに気づいているからだろう。

*10-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12692425.html (朝日新聞 2016年12月6日) 「原発の重要性不変」 日立・東原社長、輸出に注力
 日立製作所の東原敏昭社長は5日、ベトナム政府が日本やロシアとの原発計画を撤回したことについて、「逆風があっても、将来を考えれば原発の重要性は変わらない」と述べ、引き続き原発の輸出に注力する考えを示した。朝日新聞などのインタビューに答えた。ベトナム政府は先月、安全対策費用の高騰などから原発計画を撤回。日立が受注を目指すリトアニアでも10月の議会選で「反原発」を掲げる野党が第一党となったことなどを踏まえ、東原氏は「足元では(原発輸出に)いろいろと逆風が吹いている」との認識を示した。そのうえで、「将来の経済の発展や環境問題を考えた議論をしたとき、原発は重要な選択肢として残るはずだ」と強調した。米大統領選でトランプ氏が勝利してから円安が進んでいることについては、「業績にプラスに働くのは事実だが、今後も何が起こるか分からない。為替も1ドル=100円から120円ぐらいまで幅を持って見ていく」とした。業績に追い風が吹くなか、政府が経済界に求めている来春闘での賃上げについては、「為替の影響を除いた実力の成果を見極めて判断したい」と述べるにとどめた。

*10-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161215&ng=DGKKASFS14H8E_U6A211C1MM8000 (日経新聞 2016.12.15) 英原発に1兆円支援、政府、日立受注案件に
 政府は英国が計画する原子力発電所の建設プロジェクトを資金支援する。英国政府から原発の建設・運営を受託した日立製作所の英子会社に国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行が投融資する。総額1兆円規模になる公算が大きい。政府は原発輸出に力を入れているが、ベトナムでの新設計画が中止になるなど逆風が絶えない。官民連携で突破口を探る。麻生太郎副総理・財務相と菅義偉官房長官が15日、ハモンド英財務相と会談し、日英関係の強化を確認。世耕弘成経済産業相は年内にクラーク・ビジネス・エネルギー産業戦略相と会談し、原発分野での協力を表明する方向で調整している。両政府は来年中にも資金支援の大枠を固める。支援対象となるのは日立傘下のホライズン・ニュークリア・パワーが英中部ウィルファで計画する原発2基。ホライズンは日立が英国で手掛ける原発の設計から運営までを受け持つ全額出資子会社だ。ウィルファの2基にかかる総事業費を現時点で約190億ポンド(約2.6兆円)と想定。日立が総事業費の1割程度、英国政府が25%以上を出す案が出ている。日本政府はJBICと政投銀を通じホライズンに投融資する。さらに日本貿易保険(NEXI)が信用保証枠を設定。日本のメガバンクやHSBCといった日英の大手金融機関を呼び込み総額1兆円規模の資金を融通する計画。日英政府が支援姿勢を明確にすることで機関投資家などによる出資を促す。稼働後の売電収入なども加え全体の事業費をまかなう方向だ。日本政府は原発稼働後の電力の買い取り価格や買い取り期間、事故が起きた場合の賠償の仕組みなどについても英政府と協議し、持続可能な枠組みづくりをめざす。日本政府が異例の資金支援に乗り出すのはメイ政権の発足が大きい。キャメロン前首相は2015年10月、英南東部の原発に先進国として初めて中国製原子炉の導入を決めるなど中国を重視する姿勢を示していた。だが英国のEU離脱決定を経て就任したメイ首相は今年7月、中国国有の中国広核集団とフランス電力公社が英南部で手掛ける原発建設の許認可を突然先送りした。9月末には条件付きで建設を認めたが、メイ政権は中国への依存度が高まるのを懸念しているとみられる。日本にとってはチャンスともいえる。安倍晋三政権はインフラ輸出を成長戦略の柱と位置づけている。


PS(2016年12月8日追加):高齢ドライバーの事故ばかり吹聴していると、高齢者と若年者が事故を起こした場合には、若年者が悪くても高齢者の不注意や認知症のせいにされそうである(メディアに、このように差別を助長する表現を含む記事が多いのは問題だ)。しかし、*11の逆走については、曲がる場所を一度間違えると目的地とは程遠い場所に行かなければならなくなる高速道路の設計にも問題があり、慣れない地域を走る人や外国人も高速道路を使うことを考えれば、後戻りや進路修正をもっと容易にすべきだ。また、道路から自動車に信号を発して逆走できないシステムにする方法も考えられる。

*11:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/384417
(佐賀新聞 2016年12月8日)2016年県内、高齢運転者の逆走3件目
 佐賀県内の高速道路では今年、高齢ドライバーによる逆走が他に2件発生している。いずれも80代の男性で、本線に入った直後に発覚して事故は免れた。県警高速隊によると、3月中旬に佐賀市の長崎自動車道の下り線で、男性(83)が運転する車が金立サービスエリアから福岡方面に逆走し、約2キロ先で制止させられた。男性は「財布を忘れて取りに戻ろうと思った」と話しているという。11月上旬には、武雄市の男性(82)が運転する車が長崎道の武雄北方インターチェンジ(IC)から進入して本線に入った直後、Uターンして逆走しながらICに戻った。男性は一般道と間違って高速道に入ったとみられる。このほかにも、1月に福岡県内の24歳女性が運転する軽乗用車が長崎自動車道を逆走し、神埼市で大型バスに接触する事故が発生。これらとは別に、逆走までは至らない高速道路への誤進入は今年、県内で3件確認されている。


PS(2016年12月14日追加):数人の高齢者が運転中に問題を起こしたからといって全高齢者が運転不能で免許返納すべきであるかのように主張するのは、程度の低い決めつけであり、高齢者いじめだ。何故なら、年齢別交通事故発生頻度は、10~20代は60~70代の1.5倍である上、30代でも1.1倍あり、これは自賠責保険の保険料に既に反映されているからだ。また、*12に書かれているように、公共交通が不便な地域では車は生活必需品であり、コミュニティーバスがあっても財政の都合で便数が少く不便なため、自動ブレーキなどの事故防止機能を充実させた車の普及が急がれ、これは生活の質を保つために年齢も国も問わないニーズなのである。なお、男女を同じに論じているが、下のように、平成27年時点の0歳時の平均余命(=平均寿命)は男性80.79歳・女性87.05歳であり、80歳時点の平均余命は男性8.89年・女性11.79年で、それだけ元気に動いており、その元気さは普段からの活動量に比例する。さらに、現在、農業者の平均年齢は65歳を超えており、自動車だけでなく農機具も電動の安全性の高いものにすべきで、これらの需要は日本と似た人口推移を辿る他国でも次第に多くなる本物なのだ。なお、アクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐためには、オートマチック車からマニュアル車に切り替えて昔に戻るよりも、それらを間違えようのない遠い場所に配置する方がよいと、私は考えている。

   
  年齢別平均余命   農業の修業人口と平均年齢    日本の世代別人口の推移 

*12:https://www.agrinews.co.jp/p39657.html (日本農業新聞 2016年12月11日) 高齢者の運転 生活の質と安全両立を
 高齢者の運転による悲惨な交通事故が後を絶たない。運転免許証の返納を促す動きもあるが、交通不便な農村にとって車は欠かせない。自家用車に頼らず移動できる手段を確保するとともに、自動ブレーキなど事故防止機能を充実させた車の普及が急がれる。高齢者の生活の質を保ちつつ安全対策は待ったなしだ。高齢ドライバーの事故は年々増え続けている。特に注視すべきは80歳以上だ。警察庁によると2005年は8645件だったが、15年は1万4895件と7割も増えた。年を取って目が悪くなったり、反射神経が鈍ったりする他、認知機能の低下などが疑われる。認知症への対策を強化するため、来年3月に改正道路交通法が施行される。75歳以上のドライバーが運転免許の更新時に認知機能検査を受け、「認知症の恐れがある」とされた場合は医師の診断が義務付けられる。認知症と診断されると免許取り消しになる。更新時でなくても、信号無視などの違反があれば、臨時の認知機能検査を受けなければならない。取り締まりは厳しさを増す。ただ、公共交通機関が整わない農村部で車は生活必需品だ。過疎化が進む地方では一人暮らしの高齢者も多い。同居世帯でも日中は一人で、家族に運転を頼れない。最寄りのバス停や駅までは遠く、バスや電車は1日数本の地域も少なくない。日々の病院や買い物に行くのに高価なタクシーばかり使えない。運転に不安を抱きながら、やむを得ず運転を続ける事情もある。自由に運転できることは、気持ちの張りや生活の質を保つ側面もある。自分の力で外出できれば友人と交流し行動範囲を広げ、社会への参画につながり、心身を活性化させる。「危ないから」と免許を取り上げるだけでは行動のきっかけを失って家に閉じこもり、寝たきりや認知症を招きかねない。メーカー各社は自動ブレーキなどの機能を搭載した車種開発を進めている。車両の衝突防止、車線はみ出し時の警報と性能は高まってきている。しかし、歩行者との衝突を避ける機能開発・普及はまだ不十分だ。政府も事故防止のため、技術面の支援を加速させるべきだ。一方で、自治体は高齢者が移動できる手段の整備を急がなければならない。安価に利用できる乗り合いタクシーやコミュニティーバスなど、地域住民同士で支え合う仕組みづくりへ知恵を絞るべきだ。事故を防ぐには当人の自覚が一番だ。過信せず、体の衰えを見極めた上で危険を減らす対策が求められる。暗くなる夕方以降は運転をやめる、高速道路は走行しない、アクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐためオートマチック車からマニュアル車に切り替えるなど、できることは多い。家族や地域は高齢者の活動を奪わないよう、多様な選択肢を用意したい。


PS(2016年12月21日追加):*13-2のように、農林水産物・食品の輸出拡大に向け、販促や輸出支援の新組織を立ち上げるそうだが、そのような目的のために素人が天下りして作った新組織が役立つとは思えない。それより、*13-1のように、原発事故から5年たっても十分な除染すら行われていない中、風評被害や差別などではなく医学的根拠があって輸入制限のかかるような放射性物質汚染食品を「日本産」として一括して販売すれば、美味しいか否かとは関係なく、日本産の安全ブランドを損なって輸出の妨げになる。また、産地表示がなければ、日本国民でもなるべく日本産を避けなければならなくなる。そのため、まとめるとすれば、「made in Kyusyu(Japan)」「made in Shikoku(Japan)」「made in Hokkaido(Japan)」など獲れた地域を明記すべきであり、地域が明記されない場合は、消費者は安全性を考えて最悪の地域を想定しなければならない。そのためにも、原発は廃止すべきなのだ。

*13-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12706402.html
(朝日新聞 2016年12月15日) 除染に税金、数千億円 来年度から予算計上 政府方針
 政府は、東京電力福島第一原発の事故費のうち、帰還困難区域の除染に国費を使う方針を固めた。帰還希望者のため「復興を加速させる」狙いだ。東電が負担すべき事故関連費に税金を直接使うのは初めて。この費用は東電に求めない。来年度予算に計上し始め、総額は数千億円になる見通しだ。当面、所得増税などで集めた復興予算(計32兆円)を使う。これまで除染は国が立て替え、最終的に国が持つ東電株の売却益で充てる前提だった。方針は14日、自民党内でおおむね了承され、20日にも閣議決定される。

*13-2:https://www.agrinews.co.jp/p39725.html (日本農業新聞 2016年12月21日) JAグループ、ジェトロ・・・ 輸出増へ15団体協定 3月にも新組織 農水省
 JAグループや日本貿易振興機構(ジェトロ)、経団連など15団体は20日、東京・霞が関の農水省で、農林水産物・食品の輸出拡大に向けた連携を強化する協定を初めて締結した。業界を挙げて現地での販売促進などに取り組む。農水省は、来年3月にも輸出を支援する新組織を立ち上げる方針。輸出額が伸び悩む中、政府の1兆円目標達成に向け、官民で輸出体制を強化する。
●業界挙げて販売促進
 海外への販売促進は、産地がばらばらに行って訴求力を十分発揮できず、単発の商談会やイベントに終わって継続的なPRにつながっていないなどの課題がある。11月の政府の農林水産業・地域の活力創造プランでは、海外での販売促進の強化や輸出支援のための新組織を立ち上げることを決定している。消費者への販売促進などにたけた食品専門の販促機関であるソフェクサ(フランス食品振興会)をモデルに、「日本版ソフェクサ」として来年3月にも創設する。新組織は国内外に専門家を置き、海外のニーズを把握して国内の生産者につなげたり、消費者向けの販売促進を強化したりする。ジェトロ組織を活用し、将来民営化することを視野に入れ、民間企業など外部人材も活用する計画だ。連携協定は、政府が立ち上げる支援組織の効果をより大きくするため、実際に輸出に関わる団体の連携を強化する。農業団体や、米や青果物などの業界団体、経団連、商工会議所、全国知事会の代表が参加。政府が決定したプランに沿った取り組みを官民で進めることをアピールした格好だ。山本有二農相は「皆さんと新たな体制の下で互いに連携し合い、一緒になって輸出を伸ばしたい」と述べ、新組織の活用を促した。全中の奥野長衛会長も「国内の生産力を高めるためにも輸出は非常に大事だ」と輸出の意義を強調した。


<バスの小型化と自動運転車>
PS(2016年12月26日追加):*14-1のように、路線バスは財源難だけでなく運転手不足からも便数を減らさざるを得ない状態になっており、これを解決する方法には、バスの小型化や自動運転機能の搭載がある。特に佐賀県には、乗車人数が少ないのに大型バスを走らせるのはもったいない区間が多いため、バスを小型化すれば大型免許がいらないので運転手の増加が見込まれる上、女性運転手も少ないので積極的に女性も採用すればよいだろう。なお、*14-2のように、完全自動運転車生産のための企業間連携も進んでいるが、これは、もう少し時間がかかりそうだ。

*14-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/390030 (佐賀新聞 2016年12月26日) 県内路線バス 運転手不足深刻、免許保有者減、取得費高く
■佐賀市交通局「このままなら縮小も」
 路線バスの運転手が不足している。大型二種免許の保有者が減って人材確保が難しくなっているためで、業界では免許取得費用を援助するなどの取り組みも広がっている。佐賀市でも「市民の足」としてバスが担う役割は大きく、市交通局は「このままいけば路線縮小もあり得る」と危機感を募らせる。佐賀市南部をカバーする市交通局には現在94人の運転手がおり、平均年齢は53歳と高齢化が進んでいる。現状でも運転手は6人足りず、時間外勤務で路線をなんとか維持しており、「病気やけがで欠員が出ればさらに厳しくなる」と担当者。人手不足が解消せず、高齢化が進めば「路線縮小も検討せざるを得ない」とこぼす。市交通局は随時、運転手を募集しているが、なかなか人が集まらない。免許を持つ人が全国的に減少しているためで、2011年に104万人いた保有者は、15年には96万人まで減っている。また県内に大型二種免許の公認教習所がなく、取得に60万円前後の高額な費用が必要なことも、人材確保の壁となっている。市交通局のベテラン運転手(52)は「偏りが出ないようシフトを組んでもらったり、体調にも気を遣ってもらったりと配慮してもらっている」と話す一方、「人は足りてない。時間外勤務や公休出勤が増え、25年間働いてきて今が一番きつい」と打ち明ける。対策を打つ事業所もある。西鉄バスは、採用枠を大型二種免許取得者以外にも広げ、自社で運転手を育成している。自社が持つ自動車教習所に通わせ、免許取得にかかった費用を5年間で全額支給したり、普通免許を持つ高校新卒者を採用して3年後に大型二種を取得させたりと、人材確保に力を入れている。県バスタクシー協会は「深刻な問題だと認識しているが、現時点で具体的な対策や話し合いの場などは持てていない」と動きは鈍い。市交通局の大塚智樹副局長は「路線バスは地域住民の足。路線縮小は避けなければならない。人材確保は業界全体の問題であり、各事業所がどうこうできるレベルを超えつつある。国や県単位で大型二種免許取得者を増やす取り組みが必要ではないか」と指摘する。

*14-2:http://qbiz.jp/article/100576/1/ (西日本新聞 2016年12月22日) ホンダとグーグルが連携へ 完全自動運転で共同研究
 ホンダは22日、米IT大手グーグルと、ハンドルやアクセル、ブレーキの操作が一切いらない完全自動運転の実現を目指した共同研究の検討を始めたと発表した。実現すれば、ホンダは日本メーカーとして初めて、自動運転の研究で世界でも先行しているとされるグーグルと手を組む。ホンダとグーグルが業種の垣根を越えて手を組めば、他のメーカーなどでも連携が加速し、自動運転の開発競争が一段と激しくなりそうだ。共同研究は、ホンダ子会社の本田技術研究所(埼玉県和光市)と、グーグルが自動運転の研究開発部門を別会社化して設立した「Waymo(ウェイモ)」(米カリフォルニア州)の技術チームが進めることを検討している。ウェイモの自動運転用センサーやソフトウエアなどを、ホンダが提供する車両に搭載し、米国で共同の実証実験を行う予定だ。ホンダが完全自動運転に関する具体的な取り組みを公表するのは初めて。ホンダとグーグルは、正式契約に向けて今後、実証実験の時期など共同研究の詳細を詰める。ホンダは2020年ごろに高速道路での自動運転の実用化を目指し、開発を進めてきた。より高度な自動運転に向け、段階的な技術開発を目指すホンダに対し、ウェイモは既に難度が最も高い完全自動運転に向けた取り組みを進めている。ホンダは「開発の手法が異なる両社で幅広く取り組む方が、ゴールにより早く近づける」(広報部)と強調した。ただ、完全自動運転の実用化の目標時期は示さなかった。グーグルは、欧州自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とも自動運転の共同開発を進めている。

| 資源・エネルギー::2015.5~2016.12 | 05:37 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.11.4 世界が脱炭素社会に進む中で、日本が迷走する理由は何か (2016年11月5、8、9、10日、2017年6月2、4日に追加あり)
   
 1人当たりCO2排出量  世界のCO2排出量総計  各国の削減目標 エネルギー由来排出量

(図の説明:CO2の総排出量は中国、米国、インド、日本、ロシアの順だが、一人当たりCO2排出量となると米国、韓国、ロシア、日本の順であり、これらの国での節減効果は大きい。しかし、日本の削減目標は2013年比で26%にすぎず、他国と比較しても環境意識が低い。また、エネルギー由来のCO2排出量は、EV・太陽光発電などの再エネ・燃料電池で0にすることが可能だが、これについても日本は出遅れており、このように環境意識が低いのは、憲法に環境に関する規定がないことが理由ではなく、日本のリーダーに先見の明がなく、生態系や国民の命・健康への意識が低いことによると思われる)

(1)世界が脱炭素・再エネ導入を猛スピードで行っているのに、日本政府は・・
 2015年12月に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定に、*1-1のように、大排出国の中国と米国が2016年9月に締結し、インド・欧州連合(EU)加盟国などが続いて、10月には発効条件である総排出量の55%以上、55カ国以上という要件を満たし、2016年11月2日には94の国と地域が協定を締結して、2016年11月4日に発効する。

 日本は、1997年12月に京都市で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議で、地球温暖化防止に関する「京都議定書」の採択に尽力したにもかかわらず、現在の政府・経済界のリーダーは環境意識が低いため、「実現可能性がない」などとして2013年度比で26%減という低い目標しか出さず、*1-2のように、国益にならないTPPの批准ばかりを急いで、パリ協定には対応していなかった。

 しかし、「実現可能性」は政府がどう対応するかによって異なり、*1-2のように、世界は、欧州はじめ北米、中国、インドでも太陽光・風力といった再エネの導入を加速しているが、日本政府は、再エネを電気料金を上げる経済の足かせと捉え、原発再稼働・石炭火力依存を主軸とする時代錯誤状態にある。

 そのため、日本は、*1-3で独シュタインマイヤー外相が述べているように、決して請求書をよこさない再エネという資源の少ない国の産業への福音とも言えるビジネスから取り残され、最初に太陽光発電や本格的な電気自動車を発明した国であるにもかかわらず、*1-4のように蓄電池等の技術革新を外国に譲ることになった。しかし、ドイツ自動車部品最大手ボッシュのフォルクマル・デナー社長は、「電池の航続距離の倍増、価格半減は可能」と述べているのだ。

 また、農山村では、*1-2のように、太陽光、風力、小水力、木質バイオマス、地熱などの活用が十分できるにもかかわらず、農機が電動化しておらず燃油を使っているため、外国に高い燃油代金を支払わなければならない状態が続いている。しかし、早急に再エネ立国に転換し、農業者の発電に補助して農家を電力供給源と位置づければ、再エネ由来の電力が増えるとともに、農家に副収入が得られて、その他の農業補助金を削減することが可能だ。

 なお、*1-5-1で、日経新聞がやっと「日本企業はビジネスモデル転換が不可欠になったが危機感が乏しい」と書き、大成建設が横浜市内に、断熱性や通気性を高めてビルのエネルギー消費量を75%削減し、建屋壁面につけた薄膜太陽光発電設備などで必要なエネルギーを賄って外部調達エネルギーをゼロにする「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」を建てたことを紹介している。ZEBは、1995年頃、(私が)太陽光発電の提案をした時から視野にあったことで、技術開発が遅すぎたが、これで日本は建築資材も輸出可能になるだろう。

 今、日本では、ガソリンを使うハイブリッド車はエコカーと看做されているが、そろそろ排ガスゼロの電気自動車(EV)や化石燃料を原料とせずに作った水素を使う燃料電池車を環境車にすべきことは誰が考えても明らかだ。そのため、パリ協定を前倒しする規制強化が世界で始まっているのはよいことだ。

 また、*1-5-2のように、家庭用燃料電池「エネファーム」が日本で開発され、「オール電化」とあわせて実用に供されるのはよいことだが、化石燃料を原料としない水素を使用するのが本当のエコである。また、設備の定価が172万8千〜216万円というのは、「少し良いと著しく高い価格設定」の例になっている。そのため、家庭に普及させCO2の削減に貢献するには、化石燃料を原料としない水素を燃料とするエネファームを「瞬間湯沸器+α」程度の価格にすべきで、そうなれば国内での普及と輸出が可能だ。

(2)原発に関する日本政府の迷走
 経産省幹部は、*2-1のように、「新潟県民にここまで原発再稼働アレルギーがあるとは」と嘆いたそうだが、2004年10月23日にM6.8の直下型地震である新潟県中越地震を経験し、原発に怖い思いをさせられた新潟県民の意識を軽く見すぎている。新潟県にも医師はじめ専門家がおり、政府高官が「安全」等々と言えばそれを信じると考えるのは、民間人をあまりにも馬鹿にしている。

 そして、「知事には原発を止めたり稼働を指示したりする法的権限はない」とも書かれているが、知事選は地元自治体の意志表示であるため、経産省の先見の明のなさによって発生した国民負担額を、特定の地域を原発事故のリスクに晒すことにより解決してよい筈がない。

 また、*2-2に、「進まぬ再稼働と燃料高で東電ホールディングスの脱国有化への道筋が不透明になった」と書かれているが、これはまさに、*1-2に書かれている日本政府の時代錯誤の結果である。

 さらに、*2-3には、「志賀原発に雨水6トン流入して安全機能を失う恐れもあった」「これほどの雨が流入するのは想定外だった」と書かれているが、万が一の事故も許されない原発で、また次元の低い想定外かと思われる。

(3)国民への廃炉費用・事故処理費用のつけ回しで、せっかくの電力自由化が骨抜き
 *3-1に、「①フクイチの廃炉にいくらかかり、その費用をだれが負担するかの答えを出す作業が経産省の有識者会議で本格化しているが、その会議は非公開である」「②廃炉費用総額の見通しが示されていない」「③経産省は2回目の会合で、年800億円程度から数千億円に膨らむ可能性があると説明しただけだった」とのことである。しかし、少しでも国民の税金で負担するのなら、工法の妥当性や費用の抑制可能性を検討するために、先に試算結果を示すべきだ。

 なお、原則として、東電が過去に原発で発電した時のコスト(事故処理や廃炉費用も含むのが当然)を、その時発電された電力と無関係の国民が税金で負担する理由はないため、私は、東電自身が資産の売却や費用節減で資金を確保するか、それで足りなければ金融機関の債権放棄などを含む法的整理をするのが筋だと考える。

 その上、*3-2のように、 経産省は11月2日の有識者会議で、フクイチの賠償や他の原発の廃炉にかかる費用の一部を電力自由化で参入した新電力にも負担させる案を示したそうだが、原発のコストをすべての電力利用者で負担する理由はなく、原発を使ったことがない新電力に原発のコストを負担させて電力自由化を骨抜きにしようとするのは、これも迷走としか言えない。

 さらに、経産省が2030年度時点で発電全体の20~22%を原発で賄うとしたのも、その間にコスト低減して普及が進む再生エネを疎かにしすぎており、経済の原則にも反し、先見の明がなく、いくら原発の必要性を説明しても納得する人は少ないだろう。そもそも、再生可能エネルギーの導入コストは、全ての電気利用者が負担するのではなく、最初は税金から補助するのが筋である(原発は、40年間も税金で莫大な補助をしてきて、これからも金食い虫なのだ)。

(4)新たな放射能の安全神話
 福島県は、*4-1のように、フクイチ事故の避難区域だった場所に国内最大規模の建築用CLT(直交集成板)生産工場を整備し、東京五輪・パラリンピックの関連施設で製品が活用されるよう国と調整するそうだが、原発事故後、5年も経過して放射性物質を吸い上げた近隣の木材内部は2000ベクレルもあるそうだ。そのため、この建材で作られた建物の中にいる人の健康を心配するのは当たり前で、それを福島県産材の風評被害だとすることこそ、新たな放射能の安全神話である。

 文系、特に法学部系の人は、「疑わしきは罰せず」という意識のためか、健康被害があると証明されていないものは使ってよいと考える人が多いが、食品や薬は「害がないことが証明されていないものは、食べない、使わない」のが原則であり、放射性物質は0に近い方が望ましい。何故なら、被害が出てからでは遅いからである。

 また、*4-2のように、フクイチ事故に伴う除染で出た汚染土も、環境省の検討会が「法定の安全基準まで放射能濃度が減るのに170年かかる」という試算を示しながらも再利用の方針を決め、長期管理の可否判断を先送りしていたそうだ。私は、汚染土も、コンクリートで密閉した中に入れて上に盛り土や植栽などを行えば、避難区域近くの堤防などに使うのは可能だが、市街地の道路のように掘り返すことのある構造物に使うのは不適切だと考える。

 なお、原子炉等規制法は原発解体で生じる金属などの「安全に再利用できる基準(クリアランスレベル)」を放射性セシウム1キロ当たり100ベクレル以下と定めているのに、事故後成立した放射性物質汚染対処特別措置法は、8000ベクレル超を指定廃棄物とし、8000ベクレル以下なら問題なく廃棄処理できると規定したのも、人の健康被害を無視した放射能の安全神話である。

 その上、*4-3のように、フクイチ事故後5年半が経過しても、汚染水対策は予算ばかり使って足踏み状態であり、「海への放出が低コストで処分時間も短い」などとされているそうだが、これを実害がないのに悪評が立つ“風評被害”と決めつけるのは環境意識が低すぎ、この調子では、トリチウム以外はすべて除去されているかどうかも疑わしくなる。

<世界の動向>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12641667.html (朝日新聞 2016年11月4日) パリ協定、きょう発効 排出ゼロへ新ルール 温暖化対策
 パリ協定は、昨年12月、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された。2大排出国の中国と米国が9月に締結、インドや欧州連合(EU)加盟国などが続き、10月に発効の条件となる総排出量の55%以上、55カ国以上の締結を満たした。30日後の11月4日に発効する。国連によると、2日時点で94の国と地域が協定を締結。出遅れた日本は4日にも国会で協定締結を承認する見通しで、その後閣議決定して国連に提出する。世界の温室効果ガス排出量はCO2換算で年間約370億トンに上る。日本はこのうち約14億トン(2013年度)で世界5位。各国は削減計画をたてることになっており、日本も30年度に13年度に比べて26%減らす目標を提出している。7日からは、モロッコのマラケシュで第22回締約国会議(COP22)が開かれ、パリ協定を実行するための詳しいルールを決める交渉を始める。パリ協定採択後、国際的な温暖化対策の仕組み作りが進んでいる。10月に航空機国際線のCO2排出規制や、高い温室効果がある代替フロンの生産規制で合意。国際海運でも18年までに、排出削減戦略を作ることを決めた。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p39346.html (日本農業新聞 2016年11月2日) パリ協定発効 温暖化防止 日本出遅れ
 地球温暖化防止の新たな枠組み「パリ協定」が4日、発効する。気温上昇を抑えるため、世界各国が今世紀後半には二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す。半端な「低炭素」ではなく究極の「脱炭素」への決意は、人類生存の危機感の表れである。日本は協定批准ができておらず完全に出遅れた。失地回復には再生可能エネルギー立国への大転換しかない。熱波、洪水、海面上昇、生態系破壊、感染症まん延、食料不足・・・。温暖化の脅威は日増しに高まっている。世界の平均気温は上がり続けており、わが国も異常気象に見舞われている。温暖化防止は待ったなしだ。昨年末合意のパリ協定は2020年以降の枠組みだが、各国は米中の9月批准を皮切りに早期発効に動いた。発効は協定ルール整備後との見方が覆ったのは、多くの国が温暖化防止の政治的優先度を高めたからだ。それなのに安倍政権は何をやっているのか。大企業優先で真の国益にかなうはずもない環太平洋連携協定(TPP)の批准ばかり急ぎ、肝心のパリ協定は後回しだった。安倍晋三首相主宰の5月の伊勢志摩サミットでは、パリ協定の年内発効努力を宣言した。その日本が未批准とは失態と言うほかない。モロッコで7日に始まる国連気候変動第22回会議(COP22)に合わせ、パリ協定第1回締約国会議が15日から4日間予定される。日本は批准遅れのためオブザーバー参加しかできない。温暖化防止に「熱意なき国」を印象付け、環境外交での地位低下は免れない。世界では今、欧州や北米、中国、インドなども太陽光、風力といった再エネ導入を加速する。原発もCO2を排出しないが、廃炉・廃棄物処理を含めた総経費が高く、安全性懸念もあって敬遠がち。だが、安倍政権は再エネを電気料金を上げる経済の足かせと捉え、福島原発事故を忘れたかのような原発再稼働と、脱炭素化とは逆の石炭火力依存を主軸にしている。日本はその時代錯誤性から、再エネという新ビジネスからも取り残されていく。農山村に目を向ければ太陽光、風力に限らず小水力、木質などのバイオマス(生物由来資源)、地熱の活用は十分できる。早急に再エネ立国へ転換すべきだ。パリ協定は、今世紀末の気温上昇を産業革命以前と比べ2度未満(極力1.5度未満)に抑える目標を設定している。だが、現在の各国の温室ガス排出削減目標は不十分で、2.7度の上昇を許すとされる。日本の目標も、50年までに「80%削減」の閣議決定(12年)がありながら、30年までに「26%削減」(13年比)では緩過ぎる。協定発効によって、2年後に各国は最初の目標見直しを迫られる。わが国は再エネ推進による大幅排出削減を率先して主導しないと、環境先進国への復帰はできそうにない。

*1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201610/CK2016102902000142.html (東京新聞 2016年10月29日) 【国際】太陽や風は決して請求書をよこさない 独シュタインマイヤー外相 本紙寄稿
 脱原発政策を進めるドイツのシュタインマイヤー外相(60)が本紙に寄稿した。原子力発電の「高い潜在リスク」を指摘、再生可能エネルギーへの転換を訴え、温室効果ガス削減に向けた「新たな道」を共に切り開いていくよう、日本に呼び掛けている。タイトルは「世界規模のエネルギーシフト(転換)-太陽や風は決して請求書をよこさない-」。エネルギーシフトは、原子力に頼らず、再生可能エネルギーで供給を賄う政策だと説明。ドイツでの萌芽(ほうが)は、一九八六年の旧ソ連、チェルノブイリ原発事故(現ウクライナ)にさかのぼるとした。放射性物質の降下を恐れ、雨の日に屋外で遊べず、牛乳が飲めなくなるなど不安が広がり、環境に配慮したエネルギーへの転換を求める意識が高まった。東日本大震災の直後に起きた二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故で「決定的な影響」を受け、脱原発の表明に至ったと、経緯を振り返った。二二年末までに全ての原発の稼働を停止し、五〇年までにエネルギー消費を半減させ、再生可能エネルギーとスマートグリッド(次世代送電網)への移行を目指すとの目標を確認した。再生可能エネルギーの研究開発により、ドイツでは三十七万人超の雇用を創出し、エネルギーの効率化で産業界のコスト削減につながったと、経済効果も強調した。国際的にも、地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」への合意が広がり、エネルギーシフトの潮流は勢いを増していると主張。日本でも、多くの自治体でエネルギーシフトへの関心が高く、対話が望まれていると指摘し、「全力を尽くして支援していきたい」と述べた。外相の寄稿に関連したドイツのエネルギーシフトや日本との協力を考える「日独シンポジウム 温暖化対策と地方創生」(在日ドイツ大使館など主催)が来月二日午前九時半から、東京都港区赤坂のドイツ文化会館で開かれる。参加無料。申し込みはドイツ日本研究所のホームページ=https://www.dijtokyo.org/ja/=から。
<フランクワルター・シュタインマイヤー外相> 1956年1月、ドイツ西部デトモルト生まれ。大学で法学と政治学を学び、司法試験に合格。75年、中道左派の社会民主党に入党。シュレーダー前首相の側近となり、首相府長官を務め、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟との大連立政権で2005年11月から09年10月まで外相。連邦議会社民党院内総務を経て、13年12月から外相再任。
<パリ協定> 京都議定書に代わる地球温暖化対策の新たな枠組み。昨年12月に採択された。今世紀後半に二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にし、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるのが目標。各国が自主目標を掲げ互いに検証する。批准国が55カ国以上、排出量の合計が世界の55%以上との要件を満たし、11月4日の発効が決まった。協定の第1回締約国会議が同15日に開かれる。日本は批准手続きが遅れ、正式メンバーとして参加できない。

*1-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161101&ng=DGKKZO09009150R31C16A0FFB000 (日経新聞 2016.11.1) 電池の「破壊的」技術革新 石油需要減、到来早く
 「石油生産者は予期せぬ技術進歩にさらされている」。英格付け会社フィッチ・レーティングスは10月半ばのリポートでこう指摘した。近年の業界で技術進歩の代名詞といえば「シェール革命」。これで原油生産がいずれ限界を迎えるとする「ピークオイル論」は遠のいた。だがフィッチが指摘するのは電池の「破壊的」技術革新だ。石油会社の収益に影響を及ぼし、電力、自動車にも余波が押し寄せるという。フィッチは電気自動車(EV)が競争力を増し、石油需要が想定より早く落ち込むと警鐘を鳴らす。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の石油需要の55%は車で使うガソリンなどの輸送部門。フィッチは極端なシナリオとして欧州の新車販売の5割がEVの状況が10年続けば、域内ガソリン需要は25%減ると試算する。電池の価格下落は進む。米エネルギー省(DOE)によると2015年の1キロワット時あたりの価格は268ドル(約2万8千円)と過去7年で73%下落。22年までに125ドルまで下げ、ガソリン車並みの競争力を持たせるのがDOEの目標だ。量産効果と、素材改良など技術革新が背景にある。電池メーカーでは近年、欧州で工場の建設ラッシュが続く。韓国のLG化学はポーランドに17年、サムスンSDIはハンガリーに18年に欧州初の工場を稼働する。EVシフトを進める欧州メーカーがターゲットだ。象徴が内燃機関に誇りを持ってきたドイツ。10月24日、独ダイムラーが電池第2工場の着工式を開いた。19年から発売する航続距離500キロEVを支える基幹拠点だ。トーマス・ヴェーバー取締役は「電池技術は当社だけでなく、ドイツにとっても重要」と指摘。自動車部品最大手の独ボッシュも合弁や買収で電池開発に乗り出し、「電池の航続距離の倍増、価格半減は可能」とフォルクマル・デナー社長は説く。電気をためる電池は出力変動が大きい再生可能エネルギーとの相性がよい。IEAによると、15年の世界の電池の投資は100億ドルに達した。だが「電力系統につながっているのはわずか0.4%で、これから接続が本格化する」(ファティ・ビロル事務局長)。一方、15年の再生エネ発電容量の増加分は1億5300万キロワットと、原油安でも過去最高になり、容量で石炭火力を抜いた。IEA再生エネ部門を率いるパオロ・フランクル氏は「再生エネの発電量のシェアは14%にとどまるが、5年で20%を超える」とみる。車は買い替え期間が長く、一朝一夕で石油需要が減るわけではない。だが欧米石油大手には気候変動対策による業績への影響「カーボンリスク」の開示を求める株主からの声が高まる。株主の関心はピークオイルではなく「ピークデマンド」に移りつつある。9月28日、石油輸出国機構(OPEC)はアルジェでの緊急会合で減産に合意したが、その後も油価の戻りは限定的。翌29日に開幕したパリ国際自動車ショーでは欧州勢がEVシフトを鮮明にした。11月4日には地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」が発効する。電池を軸とする地殻変動は始まっている。

*1-5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161104&ng=DGKKASGG31H3V_R31C16A0M10900 (日経新聞 2016.11.4) パリ協定特集ビジネスモデル転換が不可欠に 日本企業、危機感乏しく
 日本企業は省エネ技術に優れているといわれてきた。だがパリ協定は低炭素ではなく脱炭素社会の実現を企業に要請する。これまでの技術やサービスの延長線上では世界で取り残される。日本企業はビジネスモデルの転換が求められる。「2年間実証して、エネルギー収支がゼロのビルは実現可能だとわかった」。大成建設の今酒誠環境本部長は、横浜市内に建てた実験ビルに手応えを感じている。地上3階建てのビルは「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」と呼ばれる。断熱性や通気性など高めた建屋の設計でエネルギー消費量を従来より75%削減。必要なエネルギーは建屋壁面につけた薄膜太陽光発電設備などで賄うことで、外部調達するエネルギーは年間通じてゼロを実証できた。太陽光発電だけで必要な電力は確保できるため、温暖化ガス排出量もゼロだ。20年にはZEB市場が本格的に立ち上がるとみて実用開発を急ぐ。パリ協定は温暖化ガス排出量の実質ゼロを目標としている。「炭素を出さない新たな経済社会システムの実現を定めた条約だ」。世界の温暖化問題に詳しいNPO気候ネットワークの平田仁子理事は語る。企業は事業活動や製品で排出ゼロに向けた知恵が求められる。パリ協定が早期発効したことで「自動車の燃費基準はより強化されるだろう」。日産自動車の川口均専務執行役員は身構える。電気自動車(EV)販売で先行する同社だが「危機感を持って(排ガスゼロの)ゼロエミッション車の開発を加速させたい」(川口専務)。米カリフォルニア州は自動車メーカーに販売車の一定比率以上をエコカーと定める環境規制で17年秋以降、ハイブリッド車がエコカーとみなされなくなる。パリ協定を前倒しするような規制強化が世界で始まっている。世界の潮流をにらみ、トヨタ自動車は50年までにエンジンだけで走る車をほぼゼロとする目標を定めた。グローバル企業はこれまでの技術やノウハウに固執しない挑戦に動き出している。だが危機感を持って挑戦する企業は日本はまだ少ない。運用総額100兆ドルを超える世界の有力機関投資家の支援で企業の温暖化対策を調査する国際NPO、英CDP。16年の調査で日本企業の回答率は53%と、65%前後の欧米より低かった。特に、国内温暖化ガス排出量の4割を占める電力業界は、対象10社で回答したのが東京電力ホールディングスだけだった。パリ協定の発効で、世界の投資家の注目を集めている調査だが「日本企業は対応がまだ二極化している」(英CDPの森沢充世ジャパンディレクター)。世界では温暖化対策は経営問題として取り組み始めている。日本企業は意識改革が求められる。

*1-5-2:http://qbiz.jp/article/97308/1/ (西日本新聞 2016年11月3日) エネファーム 販売攻勢 西部ガスの家庭用燃料電池
 西部ガス(福岡市)が、都市ガスを使った家庭用燃料電池「エネファーム」の普及を加速させている。エネルギー自由化で競争が激化する中、九州電力の「オール電化」に対抗し、環境への優しさもPRする。今後、既存住宅や新築マンションへの営業を強化する。西部ガスは2009年度、福岡市や北九州市など都市ガス供給エリアでエネファームの販売を開始。13年度は1283台(設置ベース)と初めて年千台を突破した。15年度は2600台に倍増し、累計で約7400台に上る。営業面では、日頃からガスの顧客に接するグループ会社の販売店23店舗に、西部ガスの営業社員が出向。大阪ガスから講師を招くなど、販売店の営業社員約340人が提案型の営業を磨いている。本社の社員も、新築を手掛ける大手住宅メーカーに売り込みを図っている。来年4月のガス自由化を控え、同社は新築マンションへの販売も進める。第1弾として福岡市中央区で今年1月に完成した分譲マンションに設置。近隣地区の5物件への導入も決まった。床暖房などで付加価値を高めたい高級マンションに人気だという。エネファームの特徴は、環境性能の高さと光熱費の安さ。最新機種の場合、一戸建ての4人家族の購入電力量を66%削減。ガスの従量料金単価も約6割下がり、年間約7万3千円の節約になるという。九電がオール電化で攻勢に出ている中、西部ガスの平島孝三郎副社長は「家で電気を起こし、お湯も沸かす先進性が強み。料金も対抗できる」と強調する。ただ、設備の標準モデルの定価が172万8千〜216万円と初期費用がかかるなど課題も多い。国は20年に全国で140万台の普及を目指しており、同社営業計画部の松本大さんは「全国のガス会社で販売量を増やし、メーカー3社が量産することで、価格を下げていきたい」と意気込んでいる。
■エネファーム 都市ガスから取り出す水素を、空気中の酸素と化学反応させて発電する家庭用燃料電池システム。その際に発生した熱を給湯にも利用する。住宅の近くで発電と給湯を同時に行うため、エネルギー利用効率が高く、95%に上るという。環境面では、西部ガスの試算で年間の二酸化炭素(CO2)排出量を4人家族で1・3トン削減できる。

<原発での日本の迷走>
*2-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJBJ5JN4JBJULFA003.html
(朝日新聞 2016年10月16日) 新潟知事選、国と東電の誤算 再稼働のシナリオ揺らぐ
 経済産業省の幹部は16日夜、「新潟県民にここまで原発再稼働アレルギーがあるとは」と嘆いた。経産省は、福島第一原発事故の賠償や廃炉に責任がある東電について、柏崎刈羽原発の再稼働を前提に新たな支援策を練ってきた。この秋には省内の有識者会議が、年内にまとめる報告書の議論を始めた。だが、今回の知事選で、県民が柏崎刈羽の再稼働に強い抵抗感を持っていることが明確になった。7月の鹿児島県知事選でも、稼働中の九州電力川内原発(薩摩川内市)の一時停止を公約に掲げた三反園訓氏が当選。全国の原発再稼働を進めたい経産省のシナリオは狂い始めている。経産省にとっては、柏崎刈羽の再稼働こそ東電再建の「前提」と考えていただけに衝撃は大きい。東電は2016年3月期に営業利益3722億円の黒字を出した。ただ、原油安で火力発電などの燃料費が前年より1兆円減ったのが主因。被害者賠償や廃炉に無限責任を負っており、費用は自らの利益で賄う。原油価格が上がれば、それがおぼつかなくなる。東電が14年1月に公表した再建計画では、福島第一の処理費は総額11兆円だった。廃炉・汚染水対策に2兆円、被害者賠償や放射性物質の除染、中間貯蔵施設の整備などに9兆円かかると試算。これらを、ほかの大手電力会社の協力や国の無利子融資で立て替える仕組みも整えた。ところが、費用は膨らみそうだ。経産省の内部資料によると、少なくとも廃炉で4兆円、賠償で3兆円は増える。東電の広瀬直己社長は「合理的に見積もると債務超過になる可能性がある。倒れると(廃炉や賠償が)いかんともしがたい」と国に支援を求めた。いま、原子力規制委員会は柏崎刈羽の6、7号機を審査中だ。東電はこの再稼働で営業利益が年2千億円増えるとはじく。経産省幹部は「その分を廃炉や賠償に充てられる」という。知事には原発を止めたり稼働を指示したりする法的権限はないが、再稼働には地元自治体の同意を得るのが慣例だ。米山氏が新知事に選ばれたため、再稼働のハードルは高まった。ただ、再稼働が遠のくと、別建てで検討が進む東電救済シナリオの現実味が増しかねない。有識者会議の議題にもなっている新たな国民負担だ。今春の電力小売り全面自由化で参入した「新電力」の利用者も含めて広く電気料金に上乗せし、福島の賠償費なども織り込もうとしている。米山氏の当選を受け、経産省幹部は「新知事にも粘り強く理解を求めていくが、これから4年間、再稼働は難しいだろう」と言う。経産省は年内に、柏崎刈羽が早期に再稼働した場合と、しなかった場合の国民負担額を有識者会議に示す見込みだ。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161101&ng=DGKKASDZ31I5E_R31C16A0TI1000 (日経新聞 2016.11.1) 東電、再建に三重苦、福島廃炉 進まぬ再稼働 燃料高、4~9月 7割最終減益
 東京電力ホールディングス(HD)の脱国有化の道筋が不透明になってきた。収益改善効果が大きい柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働はメドが立たず、今後は原油高による燃料費上昇も懸念材料だ。さらに福島第1原子力発電所の廃炉費用がのしかかる、いわば三重苦。広瀬直己社長は31日の記者会見で、廃炉費用を自前で賄う方針を改めて強調したが、当事者能力は一段と低下している。この日発表した2016年4~9月期連結決算は事業環境の厳しさを浮き彫りにした。純利益は941億円と前年同期比7割弱減った。今年4月に始まった電力小売りの全面自由化で、東電は半年で100万件以上の顧客を新電力などに奪われた。そんな中、経営陣が期待をかけるのが業績改善効果の大きい原発再稼働。しかし、柏崎刈羽原発がある新潟県では慎重姿勢をとる米山隆一氏が知事に就任し再稼働は当面、困難になったとの見方が多い。下期にかけては原油高の逆風も強まる。燃料コストが上がるなか、原発なしで火力発電所をフル稼働させなくてはならない。加えて福島第1原発の事故処理にかかる金額は従来想定を大きく上回りそうだ。広瀬社長は「非連続の改革を断行し、国民に負担をかけず廃炉費用を捻出する覚悟だ」と強調、福島事故に対する責任を果たす姿勢を示したが、「まだ総額はわからない」(広瀬社長)状況だ。経済産業省の専門家委員会は10月、廃炉費用は現在の年800億円から数千億円に拡大する可能性があるとした。廃炉作業は今後、何十年にもわたって続く見込みで、東電が本当に自力でコストをカバーし、国民負担を回避できる確証はない。東電は根本的な経営改革を進めるため、様々な事業分野で他社と連携する考えを示している。だが、その具体策は経産省が委員会を設けて検討を始めたばかり。広瀬社長も会見では「委員会で議論してもらえる」と何度も繰り返した。経産省が掲げた原子力事業の分社についても「今は差し控える」と明言を避けた。東電は16年度中に社債の発行を再開する計画だが、実現できるかは不透明だ。17年初めに新たな再建計画を策定し、国の経営評価を経て脱国有化するというシナリオの行方はみえない。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJBM4K37JBMULBJ00D.html (朝日新聞 2016年10月20日) 志賀原発に雨水6トン流入 「安全機能、失う恐れも」
 停止中の北陸電力志賀原発2号機(石川県)の原子炉建屋に6・6トンの雨水が流れ込み、非常用照明の電源が漏電する事故が9月に発生し、原子力規制委員会は19日、北陸電に原因究明と再発防止を求めた。田中俊一委員長は「これほどの雨が流入するのは想定外だった。安全上重要な機能を失う恐れもあった」として、新規制基準に基づく再稼働の審査を見直す可能性を示唆した。北陸電の報告によると、雨水の流入は9月28日に発生した。原子炉建屋の横にある排水路が道路工事で一部ふさがれていたため、雨水が道路にあふれ出た。仮設ケーブルを通すためふたが一部開いていたケーブル配管に流れ込んだ。雨水は配管を通って原子炉建屋の1階に流入。非常用照明の電源設備などが漏電した。さらに床のひび割れなどを通って地下2階まで達した。地下1階には、地震などで外部電源が失われた際に使われる最重要の蓄電池があるが、その真上の場所にも水が来ていたという。気象庁によると、当日の雨量は1時間あたり最大26ミリだった。東京電力福島第一原発は、津波で非常用電源が失われて事故につながった。このため、新基準は防潮堤で津波を防ぎ、建屋に水密扉をつけて浸水を防ぐなどの対策の強化を求めている。しかし、配管から雨水が流れ込むことは重視されてこなかった。志賀原発は近くに川などがないため洪水対策は不要とされ、配管は密封されていなかった。規制委は今後、志賀2号機の再稼働に向けた審査で対策を求めていく方針。また、今回の問題が志賀原発固有の問題か、他原発の審査にも広げる必要があるかどうか、北陸電の報告を待って検討するという。北陸電の金井豊社長は19日、規制委の臨時会で「現場周辺は標高が高く、止水対策が後手に回っていた。当直の危機意識も薄く、警報への対応も遅れた」と陳謝した。

<国民への廃炉費用・事故処理費用のつけ回し>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12628010.html
(朝日新聞社説 2016年10月27日) 福島廃炉費用 これで議論できるのか
 未曽有の事故を起こした東京電力福島第一原発の廃炉にいくらかかり、その費用をだれがどう負担するのか。この問いに答えを出す作業が経済産業省の有識者会議で本格化している。国民負担にもかかわる難題だが、今の議論の進め方には納得しがたい点が多い。まず疑問なのは、会議が非公開であることだ。議事要旨が後に公表されるが、概要にとどまり、誰の発言かもわからない。廃炉作業を担う東電の経営は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の有無に左右されるが、会議のメンバーには原発推進を支持してきた財界の首脳が名を連ねる。先の知事選の結果が示す通り、地元では再稼働への反対が強い。そのなかで再稼働をあてにした形で検討が進むのでは、という懸念がぬぐえない。廃炉費用の総額の見通しがまだ示されていない点も、理解に苦しむ。初会合で早く示すよう出席者が求めたが、先日の2回目の会合で経産省は「足元の年800億円程度から数千億円に膨らむ可能性がある」と説明しただけだった。具体的な試算結果は、今年末にも東電の経営改革の姿や国の対応とセットで示すという。だが、この手順はおかしい。廃炉にいくらかかりそうかを見極めることが、議論の出発点のはずだ。溶け落ちた核燃料の実態がはっきりしない現状では、正確な見積もりは確かに難しい。しかし、工法が妥当なのか、費用を抑える工夫ができないかをしっかり検討するためにも、先に試算結果を示すべきだ。費用のまかない方について、有識者会議は、金融機関の債権放棄などを伴う法的整理のほか、国が税金で肩代わりする案や、今の公的管理を長く続ける案を退け、東電自身が経営改革で資金を確保する道を選んだ。柏崎刈羽原発を分社化し、他社の原発事業と再編する方向性を示したのも、「自助努力」を強調するのが狙いなのだろう。東電が改革を徹底し、税金投入や電気料金値上げといった国民負担を避ける努力を尽くすのは当然だ。ただ、問われるのは、それだけで最低でも数兆円とみられる巨額の費用を東電がまかなえるかどうかの見極めである。途中で自力路線が行き詰まり、廃炉作業に影響が出れば、福島の復興が遅れることにもなりかねない。公開の場で、拙速を避けて、費用や負担について検討を尽くす。福島第一の廃炉は国民的な課題だけに、幅広い納得を得る姿勢が欠かせない。

*3-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161103&ng=DGKKASFS02H5S_S6A101C1EA2000 (日経新聞 2016.11.3) 新電力にも原発コスト、賠償・廃炉費 大手で賄えず 消費者に負担転嫁も 経産省案
 経済産業省は2日に開いた有識者会議で東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償や、福島第1を除く原発の廃炉にかかる費用の一部を電力自由化で参入した新電力にも負担させる案を示した。膨らみ続ける賠償などの費用を東電や電力大手だけで賄うのは難しいためだ。原発のコストをすべての電力利用者で負担する仕組みづくりをめざすが、反発も広がる。有識者会議が年内に結論を出し、経産省は来年の通常国会に関係法の改正案を提出する方針だ。福島第1原発事故の賠償費用は現在、東京電力ホールディングスと他の電力大手など11社が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)に負担金を支払っている。2015年度は総額で1630億円(東電の特別負担金は除く)。電力大手はほかに、福島第1以外の原発の廃炉に伴う減価償却費や解体費の積み立ても負担している。経産省が提示した案は、こうした原発に関連するコストの一部を新電力にも担ってもらうというものだ。新電力が電力大手に支払う送電線利用料への上乗せを想定している。新電力がその分を小売料金に転嫁すれば、利用者に負担が回る。新電力にどのくらい負担を求めるかは、これから検討する。新電力の利用者も自由化前は大手の客で、原発の電気を使っていた。経産省幹部は「大手に残った人だけ負担するのは不公平だ」と話す。福島第1原発事故の賠償費用はすでに被災者への支払いが6兆円に上り、さらに兆円単位で膨らむ見込みだ。一方、事故後の新規制基準の導入などで再稼働は全国で遅れている。稼働しているのは九州電力川内原発(鹿児島県)と四国電力伊方原発(愛媛県)だけだ。司法判断で停止した関西電力高浜原発(福井県)のような例もあり、原発は収益性を見通しにくくなった。大手の負担余力が限られるなか、新電力にも一部を補ってもらった方が原発を安定的に維持できる、との見方がある。いまも原発関連のコストのなかで使用済み核燃料の再処理費用は、原発を持たない新電力が一部を負担している。賠償費用や廃炉費用もこれに続くかたちになる。2日の有識者会議では日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の大石美奈子委員が「新規参入者が競争意欲を失うのでは」と指摘した。東大教授の松村敏弘委員は「上乗せするとしても何らかの歯止めが必要だ」と述べた。政府は2030年度時点で発電全体の20~22%を原発で賄う計画だ。二酸化炭素(CO2)の削減やエネルギー安全保障の観点から原発は有効とみており、その必要性を説明していく考えだ。太陽光など再生可能エネルギーの導入コストは、再生エネを好むかどうかにかかわらず全ての電気利用者が負担している。標準家庭で電気料金に月675円を上乗せしてでも、その普及が国益になるとの判断がある。有識者会議でSMBC日興証券の円尾雅則委員は「再生エネと同じように原子力が必要だからみんなでコストを回収すると整理すればすっきりする」と指摘した。この日は福島第1原発の廃炉費用について東電1社に負担させる案も示した。利益を優先的に廃炉に回しながら、原賠機構に基金をつくって支払いを支える仕組みだ。

<放射能安全神話>
*4-1:http://blog.goo.ne.jp/flyhigh_2012/e/b76853de83e1a746f9ba8d3ff7eeaa90 (福島民報 2015/6/20) CLT生産拠点 県来年度にも着工 大熊が有力
 県は東京電力福島第一原発事故に伴う避難区域に、国内最大規模となる建築用のCLT(直交集成板)生産工場を整備する。被災地の産業振興と県内全域の林業再生を目指した取り組みで、東京五輪・パラリンピックの関連施設で製品が活用されるよう国と調整する。大熊町が復興拠点に位置付ける同町大川原地区が工場の設置場所として有力視されており、平成28年度にも着工する。
■東京五輪活用目指す
 19日に開かれた6月定例県議会本会議の代表質問で、柳沼純子議員(自民党、郡山市)の質問に小野和彦県農林水産部長が答えた。東日本で初のCLT生産工場となり、国内最大級の年間5万立方メートルの出荷を目指す。県は7月中に産学官による検討会を設け構想を具体化する。県内の建設業者などでつくる県CLT推進協議会、原発事故に伴い避難区域が設定された12市町村、復興庁、木材を扱う民間企業などが参加する予定で、27年度は工場の設置・運営主体を決め、設置場所を選ぶ。国内外で需要調査に取り組む。設置場所として浮上している大熊町大川原地区は居住制限区域だが、30年度に開設予定の常磐自動車道大熊インターチェンジ(仮称)に近く、高速道路を使い県内全域からCLTの原料となる木材を集めやすいというメリットがある。早ければ29年度内の完成を目指す。東京五輪・パラリンピック選手村の宿舎などに活用するよう政府に求める。災害公営住宅での導入も検討する。県は原発事故に伴う県産材への風評対策として、生産工場に木材のモニタリング設備を設ける方針だ。国内林業の成長産業化を目指す国土交通省と林野庁は昨年11月、CLT普及のロードマップを発表。36年度までに、CLTの国内年間生産量を現在の1万立方メートルから50万立方メートルまで増やす方針を掲げている。県CLT推進協議会は今年2月、湯川村に東日本初となるCLT共同住宅を建設した。竹下亘復興相や今井敏林野庁長官らが相次いで視察し、本県での取り組みを支援する考えを示した。県林業振興課は「CLT産業の先進地を目指し、林業再生につなげたい」としている。国内では岡山など西日本の3県でCLT生産工場が稼働している。

*4-2:http://mainichi.jp/articles/20160627/k00/00m/040/085000c (毎日新聞 2016年6月27日) 汚染土、「管理に170年」…安全判断先送り、再利用方針
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た汚染土を巡り、環境省の検討会が再利用の方針を決めた際、法定の安全基準まで放射能濃度が減るのに170年かかるとの試算を非公開会合で示されながら、長期管理の可否判断を先送りしていたことが分かった。環境省は汚染土を道路の盛り土などに再利用し、コンクリートで覆うことなどで放射線を遮蔽(しゃへい)するとしているが、非公開会合では盛り土の耐用年数を70年と提示。道路の供用終了後も100年間の管理が必要で、専門家は「隔離もせずに計170年もの管理をできるはずがない」と厳しく批判している。この非公開会合は「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ(WG)」。汚染土の減容や再利用を図るため環境省が設置した「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の下部組織で、メンバーは一部重なる。毎日新聞が入手したWGの内部資料によると、1〜5月に6回開かれ、放射線の専門家ら委員8人と環境省や日本原子力研究開発機構(JAEA)の担当者ら計20人余が出席した。原子炉等規制法は原発解体で生じる金属などの「安全に再利用できる基準」(クリアランスレベル)を放射性セシウム1キロ当たり100ベクレル以下と定める一方、事故後成立した放射性物質汚染対処特別措置法は8000ベクレル超を指定廃棄物とし、同ベクレル以下を「問題なく廃棄処理できる基準」と規定。WGはこの8000ベクレルを汚染土再利用の上限値とするための「理論武装」(WG委員長の佐藤努北海道大教授)の場となった。環境省は汚染土をコンクリートで覆うことなどで「放射線量はクリアランスレベルと同程度に抑えられる」として道路の盛り土や防潮堤など公共工事に再利用する計画を発案。1月27日の第2回WG会合で、委員から「問題は(道路などの)供用後。自由に掘り返していいとなると(再利用の上限は)厳しい値になる」との指摘が出た。JAEAの担当者は「例えば5000ベクレル(の汚染土)を再利用すれば100ベクレルまで減衰するのに170年。盛り土の耐用年数は70年という指標があり、供用中と供用後で170年管理することになる」との試算を提示した。その後、管理期間を巡る議論は深まらないまま、上部組織の戦略検討会は8000ベクレルを上限として、コンクリートで覆う場合は6000ベクレル以下、植栽した盛り土の場合は5000ベクレル以下など用途ごとに目安を示して再利用を今月7日に了承した。環境省は年内にも福島県内の仮置き場で濃度の異なる汚染土を使って盛り土を作り、線量を測る実証実験を始めるとしている。戦略検討会の委員を兼ねるWGの佐藤委員長は管理期間170年の試算を認めた上で、「議論はしたが何も決まっていない。今回は再利用の入り口の考え方を示したもので、(170年の管理が)現実的かどうかは今後検討する」とした。環境省除染・中間貯蔵企画調整チーム長だった小野洋氏(6月17日異動)は、「最後どうするかまでは詰め切れていないが、そこは環境省が責任を持つ」と述べた。同じ検討会の下に設置され土木学会を中心とした別のWGでは汚染土再利用について「トレーサビリティー(最終段階まで追跡可能な状態)の確保は決して容易ではない」との見解が示されている。
●捨てているだけ…熊本一規・明治学院大教授(環境政策)の話
 汚染管理は、一般人を立ち入らせないことや汚染物が埋まっていることを知らせるなどの要件を満たすことが必要だ。道路など公共物に使いながら170年間も管理するのはあまりに非現実的。70年の耐用年数とも矛盾する。このような措置は管理に当たらないし、責任を取らないと言っているに等しい。実態としては捨てているだけだ。
●除染による汚染土
 住宅地などの地表面をはぎ取った汚染土はフレコンバッグなどに入れ現場の地下に埋設保管されているほか、自治体などが設置した仮置き場で集積保管されている。推計で最大2200万立方メートル(東京ドーム18個分)とされる福島県内分は双葉、大熊両町に整備中の中間貯蔵施設で最長30年間保管後、県外で最終処分する方針だが、処分先などは未定。福島県外では栃木、千葉など7県で計約31.5万立方メートルが昨年9月末時点で保管されているが、今後の取り扱いは決まっていない。

*4-3:http://mainichi.jp/articles/20160907/ddm/003/040/044000c
(毎日新聞 2016年9月7日) クローズアップ2016、福島原発事故5年半 汚染水対策、足踏み
 東京電力福島第1原発事故の発生からまもなく5年半経過するが、政府や東電の汚染水対策が足踏みしている。地中に「氷の壁」を造り、地下水流入を防ぐ「凍土遮水壁」(全長約1・5キロ)は効果が表れず、放射性のトリチウムが残る処理水の行き先も宙に浮いている。政府は東京五輪イヤーの2020年中に、原子炉建屋内の汚染水処理を完了させる方針だが、黄信号が点灯している。
●溶ける凍土遮水壁
 「大雨の影響で、地下の2カ所で温度が0度以上に上がってしまった」。東電の広報担当者は台風10号が通過した直後の1日の記者会見で、大雨によって地下水が大量流入し、凍土遮水壁の2カ所が溶けたことを明らかにした。凍土遮水壁は今年3月に凍結を開始したが、一部では地質の関係で地下水の流れが速く、凍結できない状況が続いていた。さらに今回の大雨で凍結部分が溶けるという弱点も明らかになり、専門家からは計画の破綻を指摘する声が上がる。第1原発の原子炉建屋周辺には、山側から大量の地下水が流入し、これが溶けた核燃料に触れるなどして高濃度の放射性汚染水が1日約400トン発生している。東電はこの流れを断つため、13年に凍土遮水壁の建設を決定。建屋周囲の地下30メートルまで1568本の凍結管を打ち込み、氷点下30度の冷却液を循環させて氷の「地下ダム」を造った。東電は汚染水対策の切り札と位置付け、今年3月から海側での凍結を開始し、6月からは山側の大半で凍結させた。先月時点で海側は99%、山側は91%凍結したとしている。しかし、凍結を開始して5カ月が経過しても汚染水の発生量はほとんど変わらないまま。先月18日にあった原子力規制委員会の検討会でも、専門家から「いつ効果が出るのか」「遮水効果が高いとの東電の説明は破綻している」などの意見が相次ぎ、東電が答えに詰まる場面もあった。凍土遮水壁は、20年開催の東京五輪への思惑も絡む。政府は13年9月に、凍土遮水壁などの汚染水対策へ国費を投入することを決定。その4日後に開かれた五輪招致のプレゼンテーションで、安倍晋三首相が「汚染水による影響は第1原発の港湾内の0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と国際公約し、東京招致を勝ち取った。政府は凍土遮水壁の建設費として国費345億円を投入しており、計画が「破綻」すれば国民からの批判を招きかねない。世耕弘成経済産業相は先月の記者会見で「凍結しづらいのは事実だが、凍結は進みつつある」と強調したが、効果は見えないまま。政府と東電は20年までに、建屋内の汚染水処理を終えるとの廃炉工程表も掲げており、凍土遮水壁は「国際公約」の成否も握る。凍土遮水壁の効果を上げるため、東電は6月から、温度の下がりにくい部分に特殊なセメントを注入し、凍らせやすくする追加工事を実施している。東電は今後「全面凍結」させる方針だが、効果が表れるかどうかは見通せない。地盤力学が専門の浅岡顕・名古屋大名誉教授は「凍土壁は『壁』ではなく、すき間のある『すだれ』のようなものでしかない」と指摘。「凍土壁の遮水性が低いことは明らか。早急に別の種類の壁を検討すべきだ」と話している。
●2020年完了に黄信号
 汚染水対策は「入り口」で地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁だけでなく、「出口」も課題を抱え、20年の完了目標の壁になっている。放射性物質の大半を除去した後に出る処理水の処分方法が決まっておらず、貯蔵タンクの容量が逼迫(ひっぱく)しているためだ。経済産業省は今秋に専門部会を設置し、処分方法を検討する方針。現時点で海への放出が低コストで処分時間も短いとされるが、風評被害を懸念する地元が反対している。東電は原子炉建屋などにたまった汚染水をくみ上げ、62種類の放射性物質を除去する多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で浄化しているが、トリチウム(半減期約12年)は除去できずタンクにためている。トリチウムは、原子核内の陽子数が水素と同じで中性子の数が異なる水素の同位体。トリチウムを含む水は沸点などの物理的性質が普通の水とほとんど変わらず、分離が難しい。国際原子力機関(IAEA)は13年公表の報告書で「トリチウムは海洋生物の体内に蓄積されず、人体への影響は非常に限定的」と指摘。海に流すことも含めて検討するよう提言した。通常の原発の運転でも、トリチウムを含む排水が国の基準に従って海に放出されており、原子力規制委員会の田中俊一委員長も「海洋放出すべきだ」との考えを示す。経産省は、トリチウムを含む処理水の処分方法について、海洋放出▽水蒸気化▽電気分解で水素化して大気放出▽セメントなどで固めて地下埋設▽パイプラインで地下に注入−−の5方法を比較。トリチウム水の総量を80万トン、流す量を1日400トンなどと仮定すると、海洋放出の処理期間は7年1カ月〜7年4カ月と最も短く、コストも18億〜34億円で最低になるとの試算を4月に発表した。ただし、これは濃度を国の基準の上限値(1リットル当たり6万ベクレル)に希釈して流す場合の試算。より低い濃度で放出する場合、放出量を増やさなければ長期化する。国と東電は山側でくみ上げた地下水を海に流す際、トリチウム濃度を同1500ベクレル未満に設定しており、仮にこの濃度で放出すれば、1日400トンの放出量では最大293年かかる計算だ。一方、福島県漁業協同組合連合会は風評被害を懸念し、トリチウム水の海洋放出に反対している。経産省が試算を発表した4月に開かれた政府と地元との協議会で、野崎哲会長は「慎重に進めてもらいたい」と異議を唱え、タンクで保管を続けるよう促した。事故後、県漁連は沿岸での操業を自粛。国の出荷制限指示もあり、県内漁港の水揚げ額は15年現在、事故前(10年)の約6%まで激減した。鈴木正晃副知事も協議会で「社会的影響も含め、総合的に議論してほしい」と述べ、海洋放出などについて拙速に判断することがないようクギを刺した。

PS(2016年11月5日追加):*5の海上保安庁の耐用年数を超えた巡視船・巡視艇を次第に新造していくのはよいと思うが、現代の新造船は化石燃料ではなく、水素による燃料電池か電動にして、海流の速い海域に停泊していると充電できるような新システムにすると、これも輸出可能だろう。

   
 2016.11.5佐賀新聞   巡視艇やまゆり      巡視船こがね

*5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/373606
(佐賀新聞 2016年11月5日) 海保船艇の35%が耐用年超過、2百カイリ設定時の建造影響
 海上保安庁の巡視船と巡視艇計366隻のうち、昨年度末までに耐用年数を超えた船が35%の129隻に上ることが5日、分かった。1977年の領海拡大と漁業水域設定を受けて大量建造した船の更新が進んでいないのが理由。沖縄・尖閣諸島周辺での中国船への対応などで海保の役割の重要性は増しているが、予算の制約の中で必要な船舶をどう確保するかや、効率的な運用方法が課題となっている。海保は船体の摩耗や金属疲労の度合いを考慮し、外洋で活動する比較的大型の巡視船の耐用年数を25年、主に沿岸を警備する小型の巡視艇を20年としている。


PS(2016.11.8追加):*6のように、送電網の利用料に上乗せする形で廃炉費用を新規参入した新電力に負担させるのは、大手電力会社の原発関連の負債を、原発を使ったことがない新会社に押し付けるもので、全く筋が通らない。このようなことをすれば、公正な市場で伸ばすべき新分野の芽を摘むので、送電網の利用料は中立でなければならないが、それができないようなら、ガス会社や地方自治体が送電網を埋設するなど、送電網を複数作って選べるようにした方がよいと考える。なお、長距離送電には、例えば、鉄道の敷地を利用して超電導電線を設置し、鉄道会社が送電料もとる方法がある。

*6:http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20161108-00000000-ann-bus_all (テレビ朝日 2016.11.8) 孫社長「根底からおかしい」 原発廃炉費用負担で
 福島第一原発の廃炉費用などを電力自由化で参入した新電力にも負担させる案が政府内で検討されていることについて、ソフトバンクグループの孫正義社長が批判しました。ソフトバンクグループ・孫正義社長:「考え方は根底からおかしいのではないかと思う。古い業界を守るために過去の遺産を新しいところに押し付けることを意味していて、新しく伸びるべき分野の芽を摘んでしまうのではないかと危惧する」。政府は現在、兆円単位で増えることが予想される福島第一原発の廃炉費用に加え、他の原発の廃炉費用についても送電網の利用料などに上乗せする案を検討しています。原発を保有していない新電力も廃炉費用を負担することになるため、孫社長は真っ向から反論しました。


<原発のコストと環境への悪影響>
PS(2016年11月9日追加):*7-1のように、原発の建設費や地元補助金を除く原発費用として、フクイチの事故処理、廃炉、最終処分場建設、核燃サイクルに最低でも総額30兆円かかるそうだが、経産省はこれまで「原発のコストは安い」と強弁し、その反省もなく財界人らと作った「東電改革1F問題委員会」で東電で賄えない分は電気代等を通じて国民負担を求めるそうだ。しかし、そのために、年金・医療・介護・教育・保育など社会保障の同じ財布から出される部分が削減されたりしている。
 また、*7-2のように、経団連の榊原会長がパリ協定の承認を受け、「①原発の早期再稼働が必要」「②日本にとっては非常に高い目標を国際公約した」「③安全審査を通った原発は地元の理解をいただき、早期に再稼働することが絶対に必要だ」などと述べたそうだが、①は今では根拠のない時代遅れの見解であり、②は日本企業の経営者は環境意識が低すぎるということであって、③も(事故を起こさない)100%安全な原発はないと規制委員会が明確に述べているため、環境と財政に悪影響を与えるのはCO2よりも原発の「放射性物資+原発温排水」の方が大きく、日本の産業界の“リーダー”は経済にも自然にも弱すぎるということだ。

*7-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201610/CK2016102002000131.html?platform=hootsuite (東京新聞 2016年10月20日) 原発処理に総額30兆円 既に国民負担14兆円 本紙調べ
 原発政策を進めるには原発建設費、地元補助金を除き、関連処理費用として東京電力福島第一原発の事故処理、廃炉、最終処分場建設、核燃サイクルに最低でも約三十兆円かかることが本紙の調べで分かった。十九日には、経済産業省が有識者会合の作業部会を開き、規制変更によって廃炉が決まった原発の廃炉費用を電気料金に上乗せする方針を固めた。高速増殖炉もんじゅの行き詰まりなど原発政策の矛盾が拡大する中、政府が国民負担を増やそうとする論議が本格化する。すでに国民は電気料金や税金で十四兆円を負担しており、今後、さらに十六兆円以上の負担を迫られる可能性がある。新潟県や鹿児島県知事選で原発慎重派の候補が当選するなど原発への厳しい民意が強まる中で、政府が国民負担を増やしながら原発を推進するかが問われそうだ。福島第一原発の処理に必要なお金は、二〇一三年時点の見積もりを超過。二・五兆円を見込んでいた除染費が来年度予算の概算要求では三・三兆円に、被災者への賠償金がすでに六・三兆円にのぼっている。廃炉費用の見込み額も二兆円となっており、総額で十二兆円以上かかりそう。東電は自力で払うのは困難とみて政府に支援を求めた。経産省が財界人らとつくった「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」で検討しているが、東電の経営努力で賄えない分は、電気代などを通じ国民に負担を求める方針だ。東電を除く原発の廃炉費用問題では、福島第一原発の事故後、原発の規制基準が変わったため関西電力美浜原発1号機など六基が廃炉を決定。予定より早い廃炉決定などで計三百二十八億円の積み立て不足(一三年三月末時点)が生じている。経産省は原発による電力を販売していない新電力の契約者も含めすべての利用者の電気料金に上乗せし、回収する意向だ。他の原発も合わせると合計二・九兆円(福島第一などを除く)の廃炉費用が必要だ。また、使用済み核燃料をリサイクルする計画の柱だった高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉方針に伴い、経産省は代わりの高速炉を開発する。政府はすでに核燃サイクルに十一兆円(最終処分場を除く)を費やし、電気代や税金で国民が負担している。もんじゅの後継が決まれば、さらに国民負担は膨らみそうだ。核のごみの最終処分場は場所が決まっていないが、政府試算では最低三・七兆円かかる。このうち積み立て済みは国民が支払った電気代をもとにした一兆円だけ。政府は年末にかけ候補地選定作業を急ぐ予定で具体化すればさらに国民負担が増える可能性がある。政府は福島第一原発の処理問題やもんじゅの後継問題でも、年末までに方針を決める意向だ。

*7-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12649167.html (朝日新聞 2016年11月9日) 「原発の早期再稼働、必要」 経団連・榊原会長が見解 パリ協定承認受け
 経団連の榊原定征会長は8日、「パリ協定」の承認案が衆院本会議で承認されたのを受け、「日本にとっては非常に高い目標を国際公約したことになる。安全審査を通った原発は地元の理解をいただき、早期に再稼働することが絶対に必要だ」と金沢市での会見で述べた。榊原会長は「原発の安全性に対する懸念は国民感情として当然ある」としたうえで、「安全審査をパスした原発は再稼働を認めることを期待したい」と述べた。


PS(2016.11.10追加):*8-1の原発事故の賠償に関する「原子力損害補完的補償条約(CSC)」は、原発事故が起こった際には、電力会社などの原子力事業者が過失の有無にかかわらず賠償責任を負い、事故を起こした原発メーカーの製造物責任が免除されるというものだ。しかし、インドの国内法では原発メーカーにも事故の賠償責任を求めることができ、これが日本や米国など海外の原発メーカーの進出の妨げとなっていたが、CSCが発効すれば「国内法は事実上骨抜きとなり、外国企業が進出しやすくなる(インドの専門家)」そうで、インドは2016年2月4日、CSCに批准している。しかし、メーカーの製造物責任は通常の商慣行であるため、原子力損害補完的補償条約(CSC)が発効していても、原発メーカーに瑕疵があると認められればメーカーに製造物責任が認められるだろう。その時、実質的に日本国民が損害賠償責任を負うなどという内容が日印原子力協力に特別に含まれていないかどうかは、日本国民にとって重要な問題である。
 なお、*8-2は、「①インドのエネルギー問題が原子力発電の増加で解決できるか疑問」「②インドの送配電ロス率は23%程度で、エネルギー効率に問題がある」「③インドの製造業の17.9%のエネルギー効率改善は、既存の省エネルギー技術導入で可能」「④広大な国土に点在する村落部への電力供給を大規模集中型の火力発電所や原子力発電所によって行うには長距離送電網が必要で、効率が悪くコスト高」「⑤このような地域への電力供給は、地域の持続可能な小規模分散型エネルギーによるべき」「⑥インドの原子力委員会委員長と原子力省長官は同一人物で、原子力委員会による原子力省の監督はできない」「⑦原発建設予定地および建設された地域に極めて根強い原発反対運動がある」と述べており、日本の経験から尤もだと考える。つまり、原発は、世界で卒業すべきエネルギーであり、日本は卒原発をリードすべき国なのだ。


 インド、ヒマラヤ インド、タージマハル インド、ニューデリー インド、カシミール
    (どの国にも、かけがえのない街と自然と住民の生活があるのだから)

*8-1:http://mainichi.jp/articles/20160206/k00/00m/030/098000c
(毎日新聞 2016年2月5日) 賠償責任は電力会社に…原発条約を批准
 インドは4日、原発事故の賠償に関する国際的なルールとなる「原子力損害補完的補償条約」(CSC)を批准した。インドは昨年12月の日印首脳会談で、日本の原発輸出を可能とする原子力協定の締結で原則合意するなど、原発増設に取り組んでいる。事故時の賠償に関する国際的な枠組みに参加することで、日本や米国など海外の原発関連企業の進出加速につなげる狙いがあるとみられる。CSC加盟国は、過失の有無にかかわらず電力会社などの原子力事業者が賠償責任を負うとされる。インドの国内法では原発メーカーにも事故の賠償責任を求めることができるとされ、米企業などの進出の妨げとなっていたが、CSCが発効すれば「国内法は事実上骨抜きとなり、外国企業が進出しやすくなる」(インドの専門家)と指摘されている。ただ、国民から反発を招く可能性もあり、今後、議論になりそうだ。CSCは日米などが批准しており、昨年4月に発効した。事故の際は発生国が一定額まで賠償責任を負い、その額を超えた部分については締約国の拠出金で補う仕組み。また、賠償訴訟はすべて発生国が管轄する。インドは2010年にCSCに署名したが、批准しておらず、米国などが早期の加盟を求めていた。インド外務省は批准について「決定的な一歩だ」としている。インドで発効するのは、批准から90日後の5月4日となる。

*8-2:http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2015/11/201511_CNIC_Japan_India_nuclear_agreement.pdf#search='%E6%97%A5%E5%8D%B0%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%8D%94%E5%AE%9A+%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E5%8E%9F%E7%99%BA%E4%BA%8B%E6%95%85%E6%90%8D%E5%AE%B3%E8%B3%A0%E5%84%9F' (日印原子力協力協定の締結による世界の核拡散への影響 2015年11月 原子力資料情報室 松久保肇より抜粋)
 インドはエネルギー対策、そして温室効果ガス排出量削減手段として、原子力発電の増加を志向している。しかし、インドのエネルギー問題が原子力発電を増加させて解決できる問題であるかについては大きな疑問がある。第一に、インドのエネルギー効率の問題がある。例えば、インドの送配電ロス率はおおよそ23%程度で推移しているが、2011年のOECD諸国の送配電ロス率の平均は6.15%13であり、インドの配送電システムの改善余地は極めて大きい。また、シーメンス・フィナンシャル・サービスは、インドの製造業において、17.9%のエネルギー効率改善が既存の省エネルギー技術を導入することにより可能だと報告している。このように、インドのエネルギー効率の改善余地は極めて大きい。第二に、インドでは、都市部や工業地帯の電力需要増加と、木質バイオマスなどに依拠している村落部のエネルギー供給を両立させる必要がある。とくに広大な国土に数多く存在している村落部への電力供給を、大規模集中型の火力発電所や原子力発電所によっておこなうことは、長距離の送電網の開発などが必要となるため、効率性が低く、コストも高くなる。よって、こうした地域へのエネルギー供給は、地域にとって持続可能な形での小規模分散型エネルギーによっておこなうべきだと指摘されている。第三に、インドの原子力規制の独立性への懸念がある。原子力委員会委員長と原子力省長官は同一人物であり、原子力委員会による原子力省の監督には疑念がある。さらに、インド会計監査局は2012年の報告で、原子力規制委員会は規制の決定権を持たないことや、原子力省に予算や組織の維持等を依存していることなどから、独立性に懸念を示していることからも分かる通り、インドでは原子力分野における規制と推進が分離されていないのだ。そして、最大の問題として原発建設予定地および建設された地域における極めて根強い原発反対運動がある。インドの原発反対運動は、広大な国土、多様な民族や言語、宗教、社会階層によって分断され、なかなか全国規模の問題としては認識されていないが、新規の原発建設予定地とされるすべての地域で、広範な住民の支援のもと展開されている。こうした運動には徹底的な非暴力運動、民主的な集団的指導体制、政治的にオープンな立場であり積極的に政府機関や政党と討議をおこなう、という3つの大きな特徴がある。一方、インド政府はこうした運動に対して、安全対策の強化を図るとしながらも、時には暴力的な弾圧もおこない、原発建設方針については変更の余地を見せない。


PS(2016.11.10追加):*9のように、フクイチ事故で自主避難した生徒を、「①菌」「②賠償金もらってるだろう」などといじめる生徒がいたのは、それが小中学生だったとしても思いやりがなさすぎる。そして、①については、放射能汚染は「菌」ではないため他の人に伝染することはなく、放射能に曝露されると遺伝子が変異して癌や白血病になる危険性があるから避難するのだということを、小中学校には生物が専門の先生もいるのに、この機会をとらえて生徒に説明できなかったのは実力不足だ。また②についても、そのような理由で不本意ながら故郷を捨てなければならなかった人に損害賠償金をもらっているなどと羨むのは見当はずれで、このような場合に慰謝料や損害賠償金をもらうのは当然であることを、社会科が専門の先生も説明できなかったとすれば、先生のレベルが問題なのだ。さらに、遊ぶ金として万単位の金を10回も支払うことができるほど親が小5の生徒に金を渡すのも教育に悪く、学校・市役所・議員などにいじめの問題を指摘すべきだった。そのため、カウンセリングを受けるべきは生徒ではなく、このような行動を続けていた大人たちの方で、教育の崩壊が甚だしい。まして、「だから自主避難しない方がよい」とか「放射能汚染を言うのは福島への差別に繋がる」などと言う大人がいるのは狂っている。

*9:http://www.sankei.com/life/news/161109/lif1611090036-n1.html (産経新聞 2016.11.9) 原発避難の生徒がいじめで不登校 「菌」「賠償金もらってるだろう」 横浜市
 横浜市教育委員会は9日、東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した市立中1年の男子生徒が不登校になっており、いじめ防止対策推進法に基づく調査の結果、市教委の第三者委員会がいじめを認定していたことを明らかにした。報告書では、「積極的に教育的支援をしなかったのは、教育の放棄に等しい」などと学校や市教委の対応を厳しく批判している。報告書によると、生徒は小学2年だった平成23年8月、横浜市立小学校に転校。直後から「菌」を名前につけられるなどのいじめを受けた。小5のときには、同級生に「(東電から原発事故の)賠償金をもらっているだろう」と言われ、遊ぶ金として5万~10万円を計10回ほど払わされたと証言したとしている。生徒はカウンセリングを受けているという。第三者委は、学校の対応について、一昨年に生徒側から相談を受けていたにも関わらず、適切に対応しなかったことを「教育の放棄に等しい」と批判した。市教委に対しても、重大事態と捉えず、調査の開始が遅れ、生徒側への適切な支援が遅れたとした。生徒側が昨年12月、調査を求める申し入れ書を市に提出。推進法に基づき、市教委の諮問で第三者委が調査していた。林文子横浜市長は同日の定例記者会見で、「非常に深く受け止める。申し訳ない」などと述べた。また、岡田優子横浜市教育長は「報告書で指摘されている学校、教育委員会の課題や再発防止策にしっかり対応したい」とした。


<アメリカも迷走>
PS(2017年6月2日追加): *10-1のように、「①トランプ米大統領は米国第一を優先してパリ協定からの離脱判断を表明した」「②世界最大の温暖化ガス排出国中国の李克強首相は、中国はパリ協定を履行する決意を表明した」「③李氏はパリ協定支持の共同声明を発表する方向」とのことである。そして、中国だけでなくインドも、*10-4のように、将来的に国が運営する主要12港湾で使用するすべての電力を再生可能エネルギーによる発電に切り替えるそうで、19年までに太陽光15万キロワット(kW)、風力5万kWの発電設備を設置し、数年で50万kWまで増強するそうだが、旧産業の抵抗が少ない新興国の方が新産業への転換が速やかなようだ。
 なお、私は、CO2だけが地球温暖化の原因ではないにしても、化石燃料車が環境を汚して自動車の不快感を増していることは間違いなく、中国やインドなどの人口の多い新興国が自動車社会になってきた現在では、これは見過ごすことのできない大きな問題だと考え、1990年代中頃からアクションしてきた。しかし、日本は、ドイツよりもずっと早い1990年代後半から市場投入するEVや蓄電池を開発してきたにもかかわらず、何故か「航続距離が短い(改善しようと思えばすぐできる問題)」等の足を引っ張る論調ばかりが多くて普及が妨げられ、*10-5のように、中国市場で市場の陣取合戦が始まってようやくEV充電器の規格を巡って本格的な競争を始めたような馬鹿げた国なのである。そして、トップランナーだった日産は、*10-6のように、電池子会社を中国ファンドに1100億円で売却することになった。そのため日本は、このような愚鈍な意思決定になる背景を、徹底して変えなければならない。
 また、トランプ米大統領のパリ協定離脱についての米国民の反応は、*10-1に書かれているように、69%がパリ協定への残留を支持して離脱派は13%に留まるそうで、米産業界ではアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)がホワイトハウスに電話して残留を要請し、化学大手ダウ・ケミカルのアンドリュー・リバリスCEOは協定を支持する主要30社首脳の書簡をまとめ、石炭業界にも離脱に否定的な声があり、イーロン・マスク氏は離脱を決断すれば委員会をやめると言い、トランプ大統領の長女イバンカさんは、ゴア元副大統領をトランプ氏に引き合わせて翻意を迫ったそうだ。また、*10-2のように、石油メジャー首脳も冷ややかで、ドイツ・フランス・イタリアの3国政府は、*10-3のように、「パリ協定は不可逆的で再交渉できない」とする共同声明を発表している。
 私は、ここで環境規制を緩めて古いエネルギー産業を護ることによりアメ車の進歩を妨げれば、アメ車はどこの国にも受け入れられない旧式なものとなり、輸出を伸ばすどころか米国の産業を遅れさせて、環境だけでなく経済でも米国第一どころではなくなると考える。そのため、米国は、州ででも環境規制した方がよいだろう。

 
 2017.6.2日経新聞  2015.12.15西日本新聞    2016.10.6    2016.10.6  
                                    毎日新聞

*10-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170602&ng=DGKKASDC01H1D_R00C17A6EA2000 (日経新聞 2017.6.2) トランプ氏「米国第一」優先 パリ協定離脱判断、表明へ 中国・EU 協定推進で連携
 トランプ米大統領は1日午後3時(日本時間2日午前4時)、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱判断を表明する。米メディアは同氏が離脱を決断したと一斉に報じた。内外の反対を押し切り「米国第一」の看板公約を実行する公算が大きい。米政権とロシアとの不透明な関係を巡るロシアゲート疑惑が強まるなかで支持者のつなぎ留めを優先し、政権浮揚を狙う。世界最大の温暖化ガス排出国、中国の李克強首相は1日、ドイツでメルケル首相と会談した。会談後の共同記者会見で「中国は国際的な責任を全うする」と述べ、パリ協定を履行する決意を表明。メルケル氏も李氏の発言を歓迎した。李氏は2日、欧州連合(EU)のトゥスク大統領らとも会談。「EUと中国はパリ協定を歴史的な成果と認識している」といった協定支持の共同声明を発表する方向だ。「パリ協定に関する私の判断を木曜日(1日)に発表する。米国を再び偉大に!」。トランプ氏は5月31日、ツイッターにこう投稿した。5月に中東や欧州を巡る初外遊をしたトランプ氏に、各国首脳らはパリ協定にとどまるよう求めた。安倍晋三首相は主要国首脳会議(タオルミナ・サミット)で「米国が引き続き気候変動の問題にリーダーシップを発揮していくことが重要だ」と呼びかけた。主要国のほとんどの首脳も慰留。ローマ法王フランシスコは環境保護の重要性を説いた自著を贈り、残留を促した。トランプ氏は態度を保留し続けた。ロシア疑惑で政権に逆風が吹くなかで、トランプ氏が重視するのは国内の支持基盤だ。その一つが炭鉱労働者。大統領選では、接戦だったペンシルベニアやオハイオなど石炭産出州で勝ったことが大きかった。パリ協定離脱の看板公約を有言実行することで、脱石炭に歯止めをかけ、炭鉱労働者の雇用を維持すると支持者に訴える意向だ。ロシア疑惑は、与党・共和党からも解明を求める声が強まっている。捜査の進展によっては、共和党の姿勢が政権の命運を握る。パリ協定離脱は、マコネル上院院内総務ら党指導者も求めていただけに、トランプ氏は公約実現で挙党一致を演出したいところだ。ただ、米国民の多くはパリ協定残留を求めている。米エール大が5月8日に発表した世論調査では、69%が残留を支持、離脱派は13%にとどまった。共和党支持者に限っても51%が残留派だ。米産業界でも反発が相次ぐ。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、ホワイトハウスに電話して残留を要請。化学大手ダウ・ケミカルのアンドリュー・リバリスCEOは、協定を支持する主要30社首脳の書簡をまとめた。石炭業界にも離脱に否定的な声がある。国際的な温暖化対策の議論が米国を除いた欧州の主導で進めば厳しい規制を招きかねないとの警戒論もある。産業界の大統領助言委員会に参加する著名起業家のイーロン・マスク氏は5月31日、離脱を決断すれば「委員会をやめる」と語った。政権内は分裂する。バノン首席戦略官・上級顧問やプルイット米環境保護局(EPA)長官が離脱を主張。プルイット氏はエネルギー業界とつながりが深く、環境規制の撤廃を求め、EPAを10回以上も訴えた筋金入りの反対派だ。一方、残留派の筆頭は長女イバンカさん。環境保護に熱心なゴア元副大統領をトランプ氏に引き合わせ、翻意を迫った。

*10-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ01H7H_R00C17A6000000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2017/6/1) 米国のパリ協定離脱 石油メジャー首脳は冷ややか
 トランプ米大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を近く表明する見通しとなった。中国と並ぶ温暖化ガス排出国の米国が離脱すれば、企業活動にも影響が出そうだ。やや意外だが、温暖化ガス排出のおおもとである石油・天然ガスを開発するメジャー(国際石油資本)の間では「パリ協定支持」が支配的だ。トランプ氏の姿勢には冷ややかな視線が目立つ。
■石油出身の国務長官は協定支持
 「パリ協定に関する決断を発表する。木曜日の午後3時(日本時間2日午前4時)だ」。トランプ氏は31日、ツイッターでこうつぶやき、最後にお決まりの「米国を再び偉大にする!」で締めくくった。離脱となれば政権内で難しい立場に立つのがレックス・ティラーソン米国務長官だ。同氏は直前まで米石油最大手エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)を務めた。エクソンは業界屈指の高収益体質で知られるが、コストが先立つ温暖化対策には後ろ向きだとして長く環境団体の攻撃対象だった。だがティラーソン氏はエクソンCEOのとき、時代の流れにあらがえないとパリ協定支持を表明。「あのエクソンが」と業界でも驚きがあったほどだ。同氏は政権入りしてからもパリ協定にとどまるよう主張してきた。ティラーソン氏の判断に影響を与えたとみられるのが欧州の競合の動きだ。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、英BP、仏トタルなどは2020年以降の温暖化対策の枠組みづくりをにらみ早い段階から連携した。CEOが連名で枠組みをつくるよう主張。具体論として温暖化ガス排出量に応じたコストを課す「炭素価格」の枠組みを国境を越えて導入するよう国連などに求めてきた。
■欧州勢、したたかに仕組み作りに動く
 もちろん各社の狙いは慈善活動ではない。鉱区で出る副次ガスを減らせば事業の採算は上がる。さらに近年のメジャーは、燃やした際の温暖化ガス排出量が石炭の6割程度で済む天然ガスに力を入れてきた。石炭依存度が高いアジアでガス転換を促す事業拡大の好機だ。温暖化対策から距離を置くより制度作りに関与することで、長期にわたり自らにも優位な仕組みをつくろうとの思惑がある。「米国第一」で孤立主義に走るトランプ氏の手法とは真逆だ。シェルのベン・ファン・ブールデンCEOは5月、英紙フィナンシャル・タイムズで米国の協定離脱の結果起こる事態として、「米国が基本的に自分で多くの(交渉)テーブルに招かれないようにして自らの立場を弱めてしまう」と指摘している。北欧の石油の巨人、スタトイル(ノルウェー)のエルダー・サトゥレCEOもトランプ氏の姿勢に冷淡だ。2月に日本経済新聞の取材に対し、「我々は(大統領の任期である)4年単位でビジネスはしていない。10年以上先を見据えている」と強調した。スタトイルは洋上風力発電にも積極的で、トランプ政権になっても米東海岸での洋上風力事業をやめる予定はない。サトゥレ氏は洋上風力のコストは大幅に下がると見通す。長い目でみれば、トランプ氏が守りたがる石炭の火力発電より、洋上風力の方が競争力を持つという自信があってのことだ。
■株式市場も圧力強める
 欧州連合(EU)が先行した排出量取引制度は中国でも似た制度が導入される。中国は大気汚染対策の必要もあり、脱石炭など低炭素型ビジネスへのシフトが続く見通しだ。株式市場も同様だ。長期投資をする年金基金などは近年、温暖化対策の遅れが企業の業績に及ぼす影響「カーボンリスク」の開示圧力を強める。31日に開かれたエクソンの株主総会では、カーボンリスクの開示を求める株主提案に62%の支持が集まった。石油の世紀である20世紀を代表したエクソンはより「グリーン」に動く。21世紀の代表格になりそうな米テスラのイーロン・マスクCEOは31日、米国が協定から離脱すれば、トランプ氏への助言組織の委員を辞任する考えを示した。企業は一つのベクトルに向かって動き出した。米国の最高指導者は最終的にどう判断するだろうか。

*10-3:http://digital.asahi.com/articles/ASK622VS3K62UHBI014.html?iref=comtop_8_02(朝日新聞 2017年6月2日)パリ協定「不可逆的で再交渉できない」 独仏伊が声明
 トランプ米大統領がパリ協定からの離脱を発表したのを受けて、ドイツとフランス、イタリアの3国政府は1日、「再交渉はできない」とする共同声明を発表した。声明は米国の決定を「残念に思う」としたうえで、パリ協定について「不可逆的であり、再交渉されるべきものではないと信じている」と表明。さらに「すみやかに実行することを再確認し、気候変動と闘う行動を加速させることをすべてのパートナー国に促す」としている。また、ドイツ首相府によると、メルケル首相はトランプ氏に個別に電話し、遺憾の意を伝えたという。メルケル氏はツイッター上で「地球を守るための政策に引き続き全力を尽くす」としている。欧州議会のタヤーニ欧州議長は同日、「合意は守られなければならない。これは信頼とリーダーシップの問題だ。(トランプ大統領の)決定は米国と地球を傷つけることになるだろう」とツイッターで批判した。

*10-4:http://qbiz.jp/article/110920/1/ (西日本新聞 2017年6月1日) インド 主要12港湾、使用電力すべて再生可能エネに
 インド政府は、国が運営する主要12港湾への電力供給について、将来的にすべて再生可能エネルギーによる発電に切り替える計画だ。エコノミック・タイムズ(電子版)が5月31日伝えた。19年までに太陽光15万キロワット(kW)、風力5万kWの発電設備を設置する。その後、数年で50万kWまで増強し、主要12港湾で使用するすべての電力を再生可能エネルギーによる発電で賄う。当面の投資額として、50億ルピー(約86億円)が予定されている。政府が運営する港湾の電力をすべて再生可能エネルギーに切り替える試みは世界初という。主要12港湾には、西部グジャラート州のカンドラ港や東部オディシャ(オリッサ)州のパラディープ港、西部マハラシュトラ州のムンバイ港、同州ジャワハルラル・ネルー港、南部アンドラプラデシュ州のビシャカパトナム港などが含まれる。主要12港湾の貨物取扱量は国内全体の6割を占める。

*10-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12965954.html (朝日新聞 2017年6月1日) EV充電器、陣取り激化 日本と欧米、規格の普及巡り
 電気自動車(EV)の普及に欠かせない急速充電器の規格をめぐり、日本と欧米勢の主導権争いが続いている。規格は新興国に広がるEV競争にも影響する。製品規格の国際標準化で後れをとりがちだった日本勢は、技術供与で味方を広げ、優位を保とうとしている。
■中国市場、最大焦点
 EVはフル充電で走れる「航続距離」が短いのが弱点で、普及には充電インフラの整備がカギを握る。日本勢は2010年、EVを量産している日産自動車と三菱自動車、東京電力などを中心に「CHAdeMO(チャデモ)協議会」を設立し、独自の急速充電規格「チャデモ方式」を世界に先駆けて広めることを目指してきた。これに対し、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)など欧米勢は独自規格「コンボ」で対抗。ただ、現状では、日産のEV「リーフ」で先行したチャデモの充電器が、世界で約1万5千カ所と最も多い。欧米でも、チャデモとコンボの両方を使えるようにした充電器が主流になっている。しかし、新興国などでは今後、ゼロからの整備が始まる。日独などのメーカーは自国の規格が採用されればEVの輸出もしやすくなる。規格の「縄張り争い」はまだこれからの様相だ。VWは昨年、エコカー開発の軸足をEVへと大胆に移す戦略を打ち出した。昨年11月には、VWグループ、BMW、ダイムラーのドイツ勢と米フォード・モーターが協力し、高出力の急速充電器を20年までに欧州の数千カ所に普及させると発表。「コンボ」規格の巻き返しをアピールした。最大の焦点は、世界最大級のEV市場、中国だ。独自の充電規格を持つが、日本が長く技術協力を進め、チャデモと主要部分が共通する。31日、チャデモ協議会の年次大会で、吉田誠事務局長は「チャデモが生き残るため、中国との親和性を高め、インドにも惜しみなく技術を開示して普及を図った」と述べた。歩み寄りの気配もある。日独政府は3月、「ハノーバー宣言」を出し、モノとインターネットを融合させる技術分野の協力で合意。充電インフラの分野でも連携を促進するとした。チャデモとコンボの互換性を高めることも検討していく。

*10-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170527&ng=DGKKZO16933470W7A520C1TJ2000 (日経新聞 2017.5.27) 日産、電池子会社を中国ファンドに売却 1100億円、最終調整
 日産自動車が売却を検討していた車載用電池子会社について中国の投資ファンド、GSRグループと最終調整に入ったことが26日、明らかになった。売却総額は1100億円前後とみられる。日産は外部調達に切り替えて電池のコストを引き下げ、次世代エコカーの本命と位置付ける電気自動車(EV)の価格競争力を高める狙いだ。売却対象となっているのは2007年に設立したオートモーティブエナジーサプライ(AESC、神奈川県座間市)。日産が51%、NECグループが49%を出資し、主力EV「リーフ」向けの車載用リチウムイオン電池などを生産する。15年の車載用電池の世界シェアはパナソニックに次ぐ2位。日産は米英に持つ車載用電池の生産設備についてもGSRと売却交渉を進めているもよう。現行のリチウムイオン電池技術を使った電池の生産からは撤退する方向だ。一方で新素材を使う次世代電池は自前での研究開発を続ける。GSRはIT(情報技術)や環境分野に強みを持つファンドで、米国や中国の車載用電池メーカーにも投資実績がある。AESCが持つ設計・生産ノウハウを取り込み、環境規制を背景にEV市場が拡大する中国で車載用電池の供給体制を構築する狙いがあるようだ。


PS(2017年6月4日追加):トランプ大統領の「パリ協定」からの離脱表明に対し、*11のように、ニューヨーク・カリフォルニアなどの州政府ほか百八十市がパリ協定履行への支持を表明し、ニューヨーク・シカゴ・サンフランシスコなど大都市の市長も相次いでパリ協定の目標達成に向け再生可能エネルギーへの投資拡大などを表明したそうで、アクションが迅速だ。

*11:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201706/CK2017060402000107.html (東京新聞 2017年6月4日) 【国際】10州180市 パリ協定支持 離脱表明の米で反発広がる
 トランプ米大統領が地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明したのに対し、反対する州知事や市長が相次ぎ、全米に広がっている。米メディアによると、州や自治体がパリ協定の目標達成に向けた独自の政策を採用しているなか、トランプ氏の離脱表明後、少なくともニューヨークやカリフォルニアなど十の州政府のほか百八十市が協定履行への支持を表明した。報道によると、米国ではすでに二十州と首都ワシントンが温暖化の原因のひとつとされる二酸化炭素(CO2)排出を削減する独自策を実施。協定に基づく連邦政府が定めた目標を上回る水準を設定した所もある。トランプ氏の離脱表明を受け、連邦政府の方針とは関係なく自治体レベルで取り組む動きが広がった形だ。ニューヨーク州のクオモ知事は「パリ協定からの離脱は重大な間違いだ。壊滅的な影響をもたらす」とトランプ氏の決定を批判。二日には太陽光発電などに最大十五億ドル(約千六百五十億円)を拠出すると発表した。同州と「米気候連盟」を結成したカリフォルニア州のブラウン知事はパリ協定の目標達成に取り組む国や自治体が集まる会合に参加するため中国に出発する。ニューヨークやシカゴ、サンフランシスコなど大都市の市長も相次いでパリ協定の目標達成に向け、再生可能エネルギーへの投資拡大などを表明した。こうした動きはトランプ政権の支持者が多い南部の州にも波及。テキサス州ヒューストンやルイジアナ州ニューオーリンズなどにも広がっている。


PS(2017年6月5日追加):*12のように、全農地でソーラーシェアリングすれば、原発1840基分になるそうだ。もちろん、「①ソーラーシェアリングした方がよいかどうかは作物による」「②景観を壊さない機器にすべき」などの問題はあるが、私は、農業に再生可能エネルギー機器の導入を補助することによって、永久に農家に補助金を支払うのを回避することが可能であり、エネルギー代金が地域で循環するため、一石三鳥だと考える。


 2017.6.4     2016.12.4   従来のソーラーパネル 有機薄膜型ソーラーパネル
 東京新聞      農業新聞

(図の説明:現在行われているソーラーシェアリングは一番左の写真のようなものが多いが、これは景観を悪くするとともに、左から2番目のような大型機械を導入する際には使いにくい。それに対し、①従来のソーラーパネルでも右から2番目のもので温室型にする ②一番右の有機薄膜型ソーラーパネル《緑近傍の光だけで発電するため、作物が光合成で使う光は使わない》を温室で使う などの日本ならではの進化形もある)

*12:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201706/CK2017060402000129.html (東京新聞 2017年6月4日) 【経済】ソーラーシェアリング脚光 「全農地導入なら原発1840基分に」
 太陽光発電などの可能性を話し合う「再生可能エネルギー・フォーラム」が三日、東京都内で開かれた。社会科学の研究者らが参加する「関東政治社会学会」が主催し、田畑に太陽光パネルを設置して農業と発電を両立するソーラーシェアリングの実践例などが報告され、約三十人が熱心に耳を傾けた。会合で城南信用金庫の吉原毅(つよし)相談役(62)が基調講演し、「日本の農地四百六十万ヘクタールすべてでソーラーシェアリングを導入すれば、原発千八百四十基分の電力をまかなえる計算だ」と訴えた。太陽光発電の買い取り価格は年々下がっているが、吉原氏は「太陽光パネルや工事の費用が下がっており、十分に採算が取れる」と語った。ソーラーシェアリングは農林水産省の規制緩和で二〇一三年度から可能になった。作物の収穫量や品質の維持などが許可の条件。許可件数は増加傾向にあり、一五年度には累計七百七十五件になった。
◆田畑に太陽光パネル設置
 農業と発電の両方に太陽光を活用する取り組み「ソーラーシェアリング」が少しずつ広がっている。電気を売った収入が得られることに加え、太陽光パネルの設置で農地に適度に日陰ができて農作物の収穫量が増えるケースもある。農家の収益向上に貢献している。千葉県市原市の民家が点在する田園風景の一角。計七百五十平方メートルの畑に高さ三メートルの支柱で組んだ台に太陽光パネル(縦五十四センチ、幅百二十センチ)が三百四十八枚設置されている。二五度の傾きで固定されたパネルの間から日光が降り注ぎ、その下でサツマイモやサトイモなどの葉が伸びる。「サトイモは収穫量が10%アップした」。両親の農地をこの先、継ごうと考えている会社員の高沢真(まこと)さん(54)は笑顔で語った。パネルを設置したのは二〇一三年。固定価格買い取り制度に沿って東京電力と二十年間、一キロワット時当たり四十二円で売却する契約を結んだ。年間の発電量は四万キロワット時で、東電に電気を売った収入は年百六十万~百七十万円になる。設置にかけた千三百万円は十年足らずで回収できる見込みだ。高沢さんの試みは、収入面などから実家の農地を引き継ぐかどうか悩んでいる人たちの関心が高いという。高沢さんは「ソーラーシェアリングは農業に挑戦することを躊躇(ちゅうちょ)している人を後押しする仕組みだ」と話している。

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2016.7.19 脱原発とクリーンエネルギーへの転換 (2016年7月20、21、22、24日追加あり)

 2016.7.7   フクイチ汚染水 2016.5.26朝日新聞     水産物の輸入禁止  大手メディア
 西日本新聞                凍土壁             (韓国の例)      の報道


      九州の火山     九州の断層帯 原発立地 原発輸出国     日本の食品対応

(1)九州の選択
 参議院議員選挙での争点にはならなかったが、*1-1のように、鹿児島県は「原発のない社会をつくろう」と訴えた無所属で新人の三反園氏を新知事に選んだ。三反園氏は、「熊本地震を受け、原発を停止して再検査し、活断層の調査をすべきだ」「安全性が確保されない原発は動かすわけにはいかない」とも述べておられ、農林漁業、工業、観光などの他産業も多く、原発事故が起これば被害甚大で、その可能性が低いとは言えない状況の鹿児島で、それは当たり前のことである。

 また、*1-2のように、三反園氏が当選した翌日、玄海原発の早期再稼働を望む佐賀県の関係者は今後の動きを注視し、再稼働反対派は「脱原発」の機運の高まりを期待している。九電は「原発の重要性は変わらないので、安全確保の状況を説明していきたい」としているが、原発はむしろ新エネルギーの発展を阻害し、原発に100%の安全性はなく、原発がなくても電力は足り、熊本地震で断層帯・火山・大地震の存在が明瞭になって原発の安全性はさらに低くなったのだから、私は、原発再稼働なしの脱原発が最も合理的な選択だと考える。

 そのような中、*1-3のように、九電玄海原発の30キロ圏にある佐賀県伊万里市の塚部市長が7月4日の定例会見で「玄海原発の再稼働は認められない」と述べられた。30キロ圏の伊万里市は佐賀県と「市の意向を十分配慮する」という覚書を結んでおり、伊万里市長は、「九電の経営に加担する必要はなく、玄海町の一部経済のために伊万里市民が再稼働への不安を押し殺す必要もない」と踏み込んでいる。これは、他の30キロ圏内にある市町村も全く同じだ。

(2)水素の時代へ
 *2-1のように、北九州市で5月1、2日に先進7カ国(G7)エネルギー相会合が開かれ、北九州市は「環境都市」を発信し、水素で作った電気で家庭電力を賄う「水素タウン」などに、各国要人らも高い関心を示したそうだ。また、欧州連合(EU)の高官は2日の共同会見で、「クリーンエネルギーへの転換がどのように経済を成長させ、エネルギーの安全保障を高めるかを示している街だ」と評価し、エネ相会合で採択された「北九州宣言」に、クリーンエネルギーの発展に向けた研究開発や普及の強化が盛り込まれたとのことである。

 また、トヨタ自動車九州は、2-2のように、2016年6月28日、宮田工場で水素エネルギーを製造・活用するモデル事業を来年3月から実施し、ゆっくりしすぎだが2050年までに工場からのCO2排出をゼロにする目標を掲げており、東芝も、*2-3のように、2016年7月14日、水を電気分解して水素を発生させる新型の水素製造装置を開発して1時間で燃料電池車(FCV)2台分の燃料に相当する水素を作り出せるようになったそうだ。しかし、量産段階でも価格が1台2億円前後というのは、価格が高すぎて本当に普及を意図しているようには見えない。

 そのため、私は、知事選中の東京都は、地震・津波に備えて災害に強い都市にするための区画整理や福祉を組み込んだ新しい街づくりを行い、2020年のオリンピックを目標にEVか燃料電池車しか走らせない安全で水と緑の美しい環境都市とし、太陽光発電、燃料電池、蓄電池などの次世代エネルギーを一般住宅・マンション・ビルに標準装備させ、クリーンエネルギーのみを使う環境都市・福祉都市としてオリンピックで世界にアピールすればよいと考える。また、他の都市も、新しい街づくりは、この方式がよいと思う。

(3)脱原発と電力会社
 このような中、*3-1のように、経産省は、原発は経済性に優れるとして原発を重要なベースロード電源と位置づけたが、これは15年も時代遅れだ。大手電力会社も原発に頼る姿勢を変えず、*3-2のように、関電前会長の森関西経済連合会会長などは、2016年7月13日、「司法リスクを限りなく小さくする必要があるので仮処分の申し立てができないよう法改正などを政府に求めていく」としている。法改正までして提訴できないようにするというのは、井戸弁護士が言われるとおり傲慢だ。

(4)政府の放射線公害に対する鈍感さ
 環境省は、*4-1のように、2016年6月30日、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下の汚染土であれば公共事業などに限定して再利用する基本方針を正式決定したそうだ。ここで考えなければならないのは、「最大8000ベクレル/キロ X 最大2200万立方メートル X 約5000(注)=約880億ベクレル(注:土の比重を約5としてキログラムを立法メートルに換算)」という膨大な総量を福島県外の非汚染地域で再利用や最終処分すれば、いたずらに放射性物質を拡散させ、管理どころではなくなることである。そのため、私は、この決定に呆れている。

 さらに、*4-2のように、「凍土壁」は最初からわかっていたとおり遮水効果を果たしていないが、この凍土壁には多額の国家予算が研究開発名目で投じられ、維持にも多額の費用がかかる。そのため、このような膨大な無駄遣いを決定した東電、経産省、規制委の判断には問題がある。

 そして、このブログの2016.3.14に記載したとおり、 フクシマ原発事故による汚染水の海への垂れ流しにより、日本の海産物は多くの国で輸入規制の対象になっているのだ。

(5)原発の温排水も豊かな海がなくなった原因であること
 朝日新聞は、*4-3のように、2016年7月18日の社説で、「①経済成長を追い求めるとともに海が痛めつけられた」「②工場や家庭排水の影響で窒素・リンの濃度が高まる富栄養化が起き、赤潮が頻発して漁業被害が深刻化した」「③沿岸は次々に埋め立てられ、全国の3分の1以上が人工海岸になった」「④都市に近い内海や湾で多くの干潟や藻場が失われた」「⑤政府は70年代以降、汚濁物質の流入を抑える対策に力を注いで水質は着実に良くなり、瀬戸内海では赤潮の発生がピーク時の3分の1ほどにまで減ったが、海の豊かさは戻ってきていない」「⑥瀬戸内海の漁業生産量は、最盛期の約4割しかなく、全国でも沿岸漁業の生産量は減り続け、漁業離れに拍車をかける」「⑦海藻が消失する磯焼けも各地で相次いでいる」「⑧沿岸の干潟や藻場は陸から流れ込む窒素やリンを取り込み、海の富栄養化を抑える役割を果たしていたが、それが失われると復元は容易ではない」「⑨人の手で適切に補っていく必要がある」と書いている。

 そのうち、①②⑤は、(田舎では最近になって)下水道を整備し、工場排水も自己責任で浄化しなければ排出できないようにしたことによって解決しつつある。しかし、③④⑧は、コンクリートで固めるのが近代化だと勘違いしてコンクリート化し続けた公共工事が原因なので、このような公共工事に膨大な予算を使った後に、⑨のように人手でそれを補おうとするのは、焼け石に水である上、予算の二重取りだ。

 さらに、⑥⑦の流れ込む窒素・リンを制御した後でも磯焼けが進み漁獲高が増えないのは、原発を冷却するために海水を取り込み温水を排出しているためで、この行為が原発に取り込まれた海水中の動植物の幼生を殺しつつ海水の温度を上げているからである。これは、原発停止によって従来の海藻が回復し、従来いた魚が増えたことによって明確になったのだが、新聞各社はこれを記載するのを避けている。

 なお、下水道が普及して地方の海はかなり透明になったが、東京湾のように船の往来が多い港の水は茶色く濁って汚い。この状況は、晴れた日に国内線の飛行機から下を見ているとよくわかる。そして、船の往来が多い港の水が汚い理由は、船からの原油・重油系の排出が多いことが原因だと言われており、地上も船も水素を燃料とする時代になれば、これは解決できる。このように、まず、汚染源を特定してそれを止めなければ、自然と比較して微力な人間がかかわっても元の海は取り戻しにくい。

(6)原発の推進・輸出は時代錯誤であること
 米カリフォルニア州の電力大手PG&Eは、*5-1のように、原発の2基の原子炉(出力計224万キロワット)の稼働を2025年までに停止して閉鎖し、今後8~9年で、電源を太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに転換して、2031年までに総発電量の55%を賄う計画を掲げているそうだ。

 また、*5-2のように、東芝は、経済発展と共に電力需要が高まっており、政府が再生可能エネルギーの普及を後押ししているフィリピンで、発電設備の受注に力を入れるそうだ。フィリピンは、日本と同様に水が豊富で火山国であるという条件から、水力や地熱の引き合いが強いとのことである。

 そのような中、*5-3のように、安倍首相とインドのモディ首相が「原則合意」した日印原子力協定は、正式に協定を結べば、インドに原発を輸出し、事故時は日本国民が税金で責任を負うことになっている。しかし、そうまでして原発の製造や輸出にこだわる必要はないだろう。

<エネルギー政策の展望>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJ7B63QTJ7BTLTB00K.html
(朝日新聞 2016年7月10日) 鹿児島知事に三反園氏 「原発いったん停止し再検査を」
 鹿児島県知事選は10日投開票され、無所属新顔で元テレビ朝日コメンテーターの三反園訓氏(58)が無所属現職の伊藤祐一郎氏(68)を破り、初当選を確実にした。三反園氏は伊藤氏の4選阻止を訴え、民進、社民両党県組織や保守系地方議員の一部の支援を得て草の根の選挙戦を展開した。選挙事務所の内外に集まった支持者約200人の前に、三反園氏は午後8時24分に姿を見せた。「私は原発のない社会をつくろうと一貫して訴えている。熊本地震を受け、原発をいったん停止して再検査し、活断層の調査をすべきだ」と発言。安全性に問題が見つかった場合の対応を報道陣に尋ねられ、「安全性が確保されない原発は動かすわけにはいかない」と述べた。鹿児島県で過去に4選した知事はおらず、伊藤氏の4選の是非が焦点の一つとなった。三反園氏は多選を批判するとともに、熊本地震の発生で九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の安全性に不安が広がると、反原発グループとも連携。「川内原発を停止し、点検するよう九電に申し入れる」との公約を掲げ、支持を広げた。一方で、選挙戦では反原発の主張を強調せず、保守層にも気を配った。伊藤氏は自民、公明両党の支援を得て組織戦を展開したが、及ばなかった。

*1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/332812
(佐賀新聞 2016年7月12日) 鹿児島県に「脱原発」知事 玄海への影響注視
 10日投開票の鹿児島県知事選で初当選を果たした新人の三反園訓(みたぞのさとし)氏(58)が九州電力に対し全国で唯一再稼働している川内原発(同県)を一時停止し、点検するよう求める考えを表明した。一夜明けた11日、玄海原発(東松浦郡玄海町)の早期再稼働を望む佐賀県内の関係者は今後の動きを注視し、再稼働反対派は「脱原発」の機運の高まりを期待した。九電本店は「(停止の)具体的な要請が来ているわけではない。原発の重要性は変わらないので、安全確保の状況を説明していきたい」とし、玄海3、4号機の年度内再稼働を目指す。玄海町の岸本英雄町長は「あくまで新知事が国や電力会社と相談すること」と静観、「どういうことになるか想像がつきにくいが、玄海への影響はないのではないか」。佐賀商工会議所の井田出海会頭も「知事が替わっただけで判断が変わってしまうのはどうなのか」と警戒感を示しつつ、影響は否定した。一方、再稼働に反対する伊万里市の塚部芳和市長は「脱原発の動きも多少出てくるのではないか」と期待。「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」の石丸初美代表は「原発を不安に思う市民の心に寄り添っている」と評価し、佐賀県知事に「(原発を止める)権限がないからではなく、県民を守るために同じように立ちはだかってほしい」と注文した。副島良彦副知事は記者団に「特に佐賀県としてのスタンスは変わることはない」と安全性が厳格に確認された上で、玄海の再稼働を容認する考えを改めて示した。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJ745CJJJ74TIPE029.html
(朝日新聞 2016年7月5日)玄海原発「再稼働認めない」 伊万里市長、覚書をてこに
 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の30キロ圏にある佐賀県伊万里市の塚部芳和市長は4日の定例会見で「玄海原発の再稼働は認められない」と述べた。九電は再稼働の同意権限を県と玄海町に限るが、市は県と「市の意向を十分配慮する」という覚書を結ぶ。県は覚書と再稼働は無関係との立場で、影響は未知数だ。「原発が止まった時は、地域経済や市民生活への影響を心配したが、5年たってみて大きな支障はなかった。再稼働しなくていいんじゃないかというのが市民の感覚だ」。4日の会見で玄海原発の再稼働に対する考えを報道陣に尋ねられ、塚部市長はそう述べた。また「もし事故が起きたら取り返しがつかない。再稼働の連鎖は打ち切らなければ」とし、「九電の経営に加担する必要もなく、玄海町の一部経済のために伊万里市民が再稼働への不安を押し殺す必要もない」と踏み込んだ。塚部市長はこれまで、「避難道路も防災無線も整備されていない中で再稼働には賛成しかねる」と慎重な立場を示してきたが、明確に再稼働反対を唱えたことはなかった。九電は、佐賀県と、原発が立地する玄海町を再稼働の際に同意を得る「地元」とし、玄海原発の計画変更の際に事前了解を得るとする安全協定を結んでいる。同等の協定を結ぶため、伊万里市は2013年8月から九電と30回以上交渉を重ね、実現しないまま今年2月、「九電が市に事前説明をし、市は九電に意見できる」という内容の協定を結んだ。ただ市はその際、県と「県は(九電との協定の運用にあたって)伊万里市の意向に十分配慮する」という内容の覚書を交わした。これをてこに、塚部市長は県を通じて再稼働反対を九電に主張する考えだ。九電が再稼働する際には県に同意を求める、と伊万里市は考えており、その場合「当然、伊万里市の意向が配慮される」と主張する。
■県と市に温度差
 これに対し、県の反応は冷ややかだ。石橋正彦・県産業労働部長は「一つの意見として受け止める」と述べるにとどめた。覚書をもとに配慮を求める市の主張について、県と九電の安全協定には再稼働のことが明記されていないため「関係ない」と反論。地元の幅広い理解の必要性は認めながらも「再稼働は国と事業者が決めるべきこと」と述べた。九電も「再稼働の同意が必要なのは県と玄海町」との考えを変えておらず、伊万里市が反対しても再稼働に向けた動きを進める考えだ。広報は「再稼働に当たっては地域の方々に安全対策について理解頂き、安心して頂くのが重要と考えており、コミュニケーション活動を続けたい」とする。玄海原発は再稼働に向け、原子力規制委員会の審査が進む。5月までは3回の開催だったが、6月中旬からは週1回以上のペースに。原発の基本設計や方針をチェックする審査が終盤に差し掛かっている。瓜生道明社長は6月28日の記者会見で「年度内には動かしたい」と意欲を示した。

<水素の時代へ>
*2-1:http://qbiz.jp/article/86149/1/
(西日本新聞 2016年5月4日) 北九州市のエネ相会合、「環境都市」発信に成果
 九州で唯一、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の関係閣僚会議として北九州市で1、2両日、先進7カ国(G7)エネルギー相会合が開かれた。市は公害を克服し、「環境都市」へ発展した取り組みを積極的にPR。水素で作った電気で家庭電力を賄う「水素タウン」などに、各国要人らも高い関心を示した。凶悪事件が相次いだ負のイメージの一新に大きな成果を上げる一方、環境都市として今後どう進化するのか、真価が問われる。「北九州市は二酸化炭素の排出量が少なく、安価な地域エネルギー創出に向けて努力している」。北橋健治市長は2日、東田地区(八幡東区)を視察した各国の次官や局長を前に英語でスピーチした。未来のエネルギー社会を示す二つの実験が2014年度まで行われた同地区。市長は水素タウンやITを使い電気を効率的に利用する「北九州スマートコミュニティ創造事業」の概要を説明。水素で動く燃料電池車から住宅へ電力を供給する実験も披露した。昨年7月に会合開催決定後、市は情報発信に努めてきた。3月には東京から海外メディア特派員を招待。会合会場では、エネルギー施策や水ビジネスなどの国際協力を紹介するパネルも展示した。欧州連合(EU)の高官は2日の共同会見で「クリーンエネルギーへの転換がどのように経済を成長させ、エネルギーの安全保障を高めるかを示している街だ」と評価。シリア人の男性記者(42)も「日本の産業発展を支え、新エネルギー先進地に転換した歴史を紹介したい」と話した。エネ相会合で採択された「北九州宣言」には、クリーンエネルギーの発展に向けた研究開発や普及の強化も盛り込まれた。「水素タウンやスマートコミュニティをさらに進めるとの(国際的な)合意ができたのではないか。さらに前進させていきたい」。北橋市長は意気込む。ただ、国際舞台で「環境都市・北九州市」を発信したことで、その成長は“国際公約”にもなった。水素タウンなどの実験の成果を今後、どのように市民生活に浸透させていくか。大きな課題を背負ったと言える。

*2-2:http://qbiz.jp/article/89762/1/
(西日本新聞 2016年6月29日) トヨタ九州 水素製造 宮田工場内で活用
 トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)は28日、宮田工場(同)で水素エネルギーを製造、活用するモデル事業を来年3月から実施すると発表した。福岡県や九電テクノシステムズ(福岡市)、豊田通商(名古屋市)との共同事業。工場で太陽光発電から一貫して水素を製造、活用するのは全国初の試みという。トヨタ自動車は2050年までに工場からの二酸化炭素(CO2)排出をゼロにする目標に掲げており、事業はその一環。宮田工場の屋根に太陽光パネルを取り付け、得られた電力で水素を製造。従来の電動フォークリフトに比べてCO2排出量が半分で済む燃料電池フォークリフトの燃料などに使う。九電テクノなどが水素の需要や貯蔵データを収集し、効率化を図る。来年度までの総費用は7億3千万円で、うち4億8千万円は経済産業省の補助金で賄う。金子達也社長は「段階的にリフトや燃料電池を増やして規模を拡大する。苅田、小倉工場にも取り組みを広げたい」と話した。

*2-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160715&ng=DGKKASDZ14HR6_U6A710C1TJC000 (日経新聞 2016.7.15) 東芝、水素の製造装置を開発 生産量国内最大
 東芝は14日、新型の水素製造装置を開発したと発表した。1時間で燃料電池車(FCV)2台分の燃料に相当する水素を作り出せる。水を電気分解して水素を発生させる電解液にアルカリ水溶液を使うタイプでは国内最大の製造量という。今年度中の販売開始を予定しており、価格は量産段階で1台2億円前後を見込む。

<脱原発と電力会社>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12429239.html
(朝日新聞社説 2016年6月27日)電力株主総会 原発頼みで展望あるか
 国が原発を重要なベースロード電源と位置づけ、30年度の比率を20~22%にすると言っている。原発は経済性にも優れる。だから安全確保を大前提に原発を再稼働していきたい――。経営陣の主張はおおむね同じだ。だが、東京電力福島第一原発事故を経験したわが国で、原発を動かすことは格段に難しくなった。経営環境の激変を率直に受け止め、乗り切るための長期展望を示すのが経営陣の務めだ。しかも電力小売りが全面自由化された時代に、「とにかく再稼働を」と繰り返すだけで、株主の信頼は得られるか。現状を改めて直視すべきだ。事故後から5年余り、全国の原発はほとんど動かせなかった。昨年、九州電力川内原発1、2号機が新規制基準のもとで初めて動き出した。だが今年1~2月に再稼働した関西電力高浜原発3、4号機は3月、大津地裁の仮処分決定で運転の差し止めを命じられた。原発の運転を禁じる司法判断は事故後もう3件目だ。住民が裁判所に判断を求める動きは各地で相次ぎ、「司法リスク」は高まっている。原発はますます思惑通りに動かせない電源となってきている。電力会社はそれでも原発に頼る姿勢を変えようとしない。関電は運転開始から40年を超す3基もさらに20年延長して動かす方針を打ち出した。だが、原発を動かし続けるなら必須となる使用済み核燃料の中間貯蔵施設はいっこうに建設のめどが立たない。経営陣は原発の建て替えや新増設への意欲は強調するが、具体的な計画は「国の方針が出た後に」とお茶を濁す。責任感や主体性を感じ取るのは難しいと言うしかない。関電の大株主である大阪市は今年も議案を出した。将来の原発廃止まで、必要最低限の再稼働は認めるものの、万全の安全対策や使用済み核燃料の処分方法の確立を会社に義務づけることを提案している。「事故時の住民避難計画を検証する委員会を設ける」「希望する周辺自治体すべてと安全協定を結ぶ」。ほかの株主提案にも、原発依存からの脱却をはかるうえで、傾聴に値するアイデアがいくつもある。株主の声に耳を傾け、原発に頼らない未来を切り開く道筋をともに探る。そういう姿勢を電力会社の経営陣に望みたい。

*3-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJ7F55ZRJ7FPLFA005.html
(朝日新聞 2016年7月13日) 原発差し止め仮処分申請「できないように」 関電前会長
 原発の運転差し止めを求める仮処分の申し立てが全国の裁判所で相次いでいることについて、関西電力前会長の森詳介・関西経済連合会会長は13日、「司法リスクを限りなく小さくする必要がある」と述べ、申し立てができないように法改正などを政府に求めていく考えを示した。仮処分を申し立てた住民側からは「傲慢(ごうまん)だ」との声が出ている。関電は12日、高浜原発3、4号機(福井県)運転を差し止める大津地裁の仮処分決定に対する異議が退けられ、同原発が動かせない状態が続く。関経連の会見で森氏は「仮処分は民事で扱わない、特定の裁判所でやるとか、いろいろな方法がある」と指摘。国のエネルギー政策とかかわる原発の運転をめぐる問題は仮処分申請を認めず、知的財産権を専門に扱う知財高裁のような特定の裁判所で扱うべきだなどとした。森氏はそのうえで「資源エネルギー庁も大変大きな問題意識を持っている。最終的には法務省に要望していきたい」などと述べた。会見では、角和夫副会長(阪急電鉄会長)も森氏に同調して「原発を動かす、動かさないは行政訴訟に限定するなど、やり方はある」などと説明した。これに対し、大津地裁に仮処分を申し立てた住民側の井戸謙一弁護士は「人権侵害を緊急に救済する道を閉ざせば、憲法の『裁判を受ける権利』の否定になる。法改正まで訴えるのは、傲慢な姿勢だ」と批判した。

<政府の放射線公害に対する鈍感>
*4-1:http://mainichi.jp/articles/20160701/k00/00m/040/063000c
(毎日新聞 2016年6月30日) 原発汚染土、「8000ベクレル以下」なら再利用を決定
東京電力福島第1原発事故に伴う福島県内の汚染土などの除染廃棄物について、環境省は30日、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下であれば、公共事業の盛り土などに限定して再利用する基本方針を正式決定した。同省が非公式会合で盛り土の耐用年数をはるかに超える170年もの管理が必要になると試算していたことが発覚したが、基本方針では「今後、実証事業で安全性や具体的な管理方法を検証する」と表記するにとどまり、管理期間には言及しなかった。福島県大熊、双葉両町にまたがる中間貯蔵施設に保管される除染廃棄物は最大2200万立方メートルになると見込まれる。国は2045年3月までに県外で最終処分する方針で、できるだけ再利用して処分量を減らしたい考え。基本方針では、再利用は管理主体などが明確な公共事業に限定し、1メートル離れた場所での追加被ばく線量を年間0.01ミリシーベルト以下に抑えると明記。同8000ベクレルの汚染土を使う場合、50センチ以上の覆土をし、さらに土砂やアスファルトで覆う対策を取るという。ただし、原子炉等規制法では、制限なく再利用できるのは同100ベクレル以下。環境省の非公式会合で、同5000ベクレルの廃棄物が同100ベクレル以下まで低下するには170年かかる一方、盛り土の耐用年数は70年とする試算が出ていた。基本方針では、再利用後の管理期間の設定や、管理体制の構築について触れられておらず、原子炉等規制法との整合性を疑問視する声も上がっている。環境省側は「管理期間や方法については、モデル事業を通じ、今後検討を進める」(井上信治副環境相)との姿勢だ。

*4-2:http://toyokeizai.net/articles/-/121239 (東洋経済 2016年6月4日) 政治・経済震災と復興.福島第一「凍土壁」は、遮水効果に疑問がある、東電、鳴り物入りの汚染水対策が難航
 東京電力ホールディングス・福島第一原子力発電所の汚染水抑制対策が思うような効果を発揮していない問題で、同社は6月2日、新たな工法を導入することを決めた。この日、原子力規制委員会の検討会合で、東電は「凍土工法」を用いても凍らなかった土壌の凍結対策として、セメント系の材料を新たに注入すると説明。規制委から「やむを得ない」として了承を得た。6月6日から工事を開始し、今月中に完了させる。これにより、目の粗い石が多いために地下水の通り道になっていると見られる地中箇所の凍結を確実にしたい考えだ。新たな工事は凍土壁工事の一環として行われ、総額345億円が用意された国の研究開発予算の一部を用いる。
●凍結後も地下水流入量に変化なし
東電が福島第一原発の原子炉建屋の周囲約1.5キロメートルにわたって構築した「陸側遮水壁」は通称、「凍土壁」と呼ばれる。地下約30メートルの深さまで埋設した約1500本の配管に零下30度の冷却材を流し込むことで、周辺の土を凍らせる。これによって、建屋内への地下水の流入を抑制し、溶け落ちた燃料に接触することによって発生する放射能汚染水の抜本的な削減を見込んでいる。だが、凍土壁は3月31日に原子炉建屋の海側全面および山側の一部が稼働して2カ月が経過したにもかかわらず、「現在のところ、地下水流入量を減らす効果が出ているとはいえない」(川村信一・福島第一原発広報担当)状態だ。このところ降雨量が多いこともあり、地下水の流入は1日当たり200立法メートル程度の高水準が続いており、「凍結開始後も大きな変化はない」(東電)という。建屋内への流入量を減らすことを目的として設置した「地下水ドレン」と呼ばれる井戸からくみ上げた水を、放射性物質の濃度が高いために海に放出することができず、東電ではやむなく建屋内に戻している。凍土壁の稼働で、こうした本来の目的と異なるオペレーションの是正が期待されたが、現在のところ目立った成果は現われていない。東電の説明に苦言を呈した更田豊志・原子力規制委員会委員長代理(6月2日の検討会合)こうした中で、東電は規制委の了承を得て、遮水壁の凍結範囲を拡大する。これまで先行凍結させてきた海側に続き、山側部分についても大部分を凍結させることを決めた。凍結作業は数日内に開始する見込みで、新たに490本の凍結管に冷却材を流し込む。もっともその効果は未知数で、原子炉建屋を凍土壁で完全に囲い込むメドは立っていない。
●規制委は凍土壁の効果を疑問視
そもそも凍土壁は、汚染水問題の重層的な対策の一環として導入された。だが、工事金額の大きさやマンパワーのかけ方で注目度が大きかった反面、規制委は「根本的な解決策にはならない」(田中俊一委員長)とみなしてきた。のみならず規制委は、凍土壁で原子炉建屋を囲い込んだ結果、建屋内の汚染水の水位が遮水壁の外側の地下水位よりも高くなってしまうことで汚染水が流出するリスクを懸念してきた。今回、そうしたリスクが当面高くないとして規制委は山側の大部分の凍結を了承したが、そうかといって所期の効果がどこまで現われるかも定かでない。2日の規制委の検討会合でも、「最も期待した(地下水ドレンなどの)くみ上げ量減少が実現していない。本当に(凍土の)壁が形成されているのか。このままではいつまでたっても(効果を)判断できない恐れがある」と規制委の更田豊志委員長代理は東電に苦言を呈した。地下水位に有意な変動があることなどを理由に、東電は凍土壁の形成によって遮水効果は見え始めていると説明したが、規制委のメンバーは納得しなかった。凍土壁には前述のように、多額の国の予算が研究開発名目で投じられている。一方、稼働後のランニングコストは東電が負担する。電気代を含む総額は年間に十数億円になり、2016年度の電気の使用量は4400万キロワット時にも上る見通しだ。1万2000世帯以上が1年間に消費する電力量に相当する。今後も期待したほどの効果が発揮できない場合、凍土壁の周囲にセメントを大量注入するなどの抜本策も必要との声も検討会合に参加した専門家から上がっている。汚染水対策の出口は見えず、試行錯誤が続いている。

*4-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12466361.html
(朝日新聞社説 2016年7月18日)海の再生 豊かな「里海」へ、行動を
 きょう18日は「海の日」だ。この祝日を機に、人間と海との関係を考えてみる。島国だけに、海はつねに魚や貝類をはじめ、豊かな実りをもたらしてくれていた。だが戦後、社会がひたすら経済成長を追い求め、人々の暮らしが豊かになるにつれ、その代償を払うように、海はひどく痛めつけられた。その反省を踏まえた環境改善が進むなか、さらに一歩先の「海の再生」をめざす動きが各地で始まっている。
■戻らぬ豊かさ
 高度成長期だった60~70年代、日本の海は激変した。瀬戸内海や東京湾、伊勢湾では赤潮が頻発した。工場や家庭排水の影響で、窒素やリンの濃度が高まる富栄養化が起き、プランクトンが異常発生する現象だ。漁業被害も深刻化した。沿岸は次々に埋め立てられ、全国の3分の1以上が人工海岸になった。都市に近い内海や湾では、多くの干潟(ひがた)や藻場(もば)が失われていった。このため政府は70年代以降、汚濁物質の流入を抑える対策に力を注いだ。水質は着実に良くなり、瀬戸内海では赤潮の発生がピーク時の3分の1ほどにまで減った。ところが、海の豊かさは戻ってきていない。瀬戸内海の漁業生産量は、最盛期の約4割しかない。全国でも沿岸漁業の生産量は減り続け、漁業離れに拍車をかける。海藻が消失する磯焼けも各地で相次いでいる。原因は未解明だが、森林が荒れ、腐植土に含まれる鉄分が川を通じて海に供給されなくなったためという見方もある。5月に富山市で開かれた主要7カ国(G7)環境相会合は、大きさ5ミリ以下の微小プラスチックが海の生き物に及ぼす悪影響への懸念を表明した。ペットボトルや化粧品など、身の回りのさまざまなものが発生源だ。人間の活動が海にかけている負荷は重い。
■人の手を加える
 海と人間の望ましい関係を考えるうえで、近年、「里海(さとうみ)」という言葉が注目されている。
 「人手が加わることで、生物の生産性と多様性が高くなった沿岸海域」という定義だ。98年から提唱してきた柳哲雄・九州大名誉教授は「きれいで、豊かで、にぎわいがある海」と表現する。ポイントは、山から河川を経て、海へ至る物質の流れを滑らかにすることだ。たとえば、沿岸の干潟や藻場は陸から流れ込む窒素やリンを取り込み、海の富栄養化を抑える役割を果たしていた。それが失われると、復元は容易ではない。人の手で適切に補っていく必要がある。里海の先駆例として知られるのが日生(ひなせ)(岡山県備前市)の漁師らによる「アマモ場」の再生だ。アマモはイネに似た長い葉をつける海草で、多くの生き物を育むゆりかごである。瀬戸内海が汚れるにつれ、日生の浅瀬からアマモの群生が消えた。「魚が減ったのもそのせいでは」と考えた漁師らが85年からアマモの種をまき始めた。台風の直撃で全滅するなどの苦難を乗り越え、昨年には50年代の4割ほどまでアマモ場は回復した。魚やエビが戻り、特産の養殖カキの収穫も安定する効果が出ている。アマモ場づくりは各地に広がっている。6月に日生で開かれた「全国アマモサミット」には2千人が集まった。環境省の14年度の調べでは、「里海づくり」に取り組む行政や市民らの活動は全国で216件にのぼる。「森は海の恋人」を合言葉に、宮城県のカキ養殖漁師らが89年から続ける植林や、干潟の保全など内容はさまざまだ。
■一人ひとりが意識を
 豊かな海の復活には、活動の輪を広げ、より多くの人が息長く携わることが欠かせない。東京湾再生に取り組む官民連携組織は13年から「東京湾大感謝祭」を始めた。江戸前の海の幸を食べたり、海辺のレジャーを体験したり。昨年は3日間で8万8千人が盛り上がった。企画を担う海洋環境専門家の木村尚(たかし)さんは、横浜市でアマモ場再生に尽力してきた。東京湾周辺には3千万人が暮らしている。「その3千万人が3千万通りに東京湾にかかわっていくようになれば、海はよみがえる」と木村さんは言う。たとえば、近海でとれた魚介類を積極的に買って食べれば、里海づくりを担う漁師らの支えになる。潮干狩りや磯遊びで子どもたちに海の魅力を体験させるのもいい。暮らしの中から出てくる排水やごみを減らすことも大切だ。私たち一人ひとりが海を意識し、具体的に行動する。その先に、豊かな里海が見えてくるに違いない。

<原発推進・輸出の時代錯誤>
*5-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016062201000780.html
(東京新聞 2016年6月22日) 米加州最後の原発閉鎖へ 再生エネに転換
 米カリフォルニア州の電力大手PG&Eは21日、運営するディアブロキャニオン原発の2基の原子炉(出力計224万キロワット)の稼働を2025年までに停止し、閉鎖すると発表した。同州から原発がなくなることになる。同州では13年に、電力会社サザン・カリフォルニア・エジソンがサンオノフレ原発の廃炉を決め、ディアブロキャニオンが唯一の原発になっていた。PG&Eは今後8~9年で、電源を太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへ転換、31年までに総発電量の55%をまかなう計画を掲げている。

*5-2:http://qbiz.jp/article/88921/1/
(西日本新聞 2016年6月16日) フィリピン 東芝、水力や地熱で発電機の大型受注狙う
 東芝は、フィリピンで発電設備の受注に力を入れる。経済発展と共に電力需要が高まっており、政府が再生可能エネルギーの普及を後押ししていることを商機と見ている。特に、水が豊富で火山国であるという地理的条件から引き合いが強い水力や地熱を中心に大型受注を狙う。アジア統括会社、東芝アジア・パシフィックの土光辰夫・アジア総代表が15日、フィリピンで明らかにした。東芝はこれまで、パンガシナン州のサンロケ水力発電所(出力41万1,000キロワット=kW)をはじめ、フィリピンで5カ所の水力発電所、3カ所の地熱発電所、2カ所の火力発電所に発電機を納入した実績がある。総出力は210万7,000kWに上る。発電機は日本と中国で製造した。東芝は、水力発電の可変速揚水システムと地熱発電の地熱タービンで世界一のシェア(それぞれ累計納入プラント数ベース、運転プラント容量ベース)を占め、メンテナンスでも高い技術を持つ。発電機は消費財の販売とは異なり、中長期的なサービスが必要であり、保守事業が次の受注につながることもあるという。土光総代表はフィリピンについて、「ハードディスク駆動装置(HDD)の唯一の自社生産拠点として、当社にとって大きな位置を占める」とした上で、今後は発電などのインフラ事業を積極的に展開し、同国での収益基盤の拡大を図りたいと話した。時期を見て、鉄道インフラへの参入も検討するという。
■現地工場、昨年は5億台出荷
 現地法人の東芝情報機器フィリピン(TIP)は昨年、HDDと記憶媒体としてフラッシュメモリーを使う次世代記憶装置「SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)」を計5億台出荷した。TIPの岡村博司社長は、需要の変動はあるが、工場の生産能力にまだ余裕があり、現時点で設備増強の計画はないとコメント。「今後は、モノのインターネット(IoT)の発展と共に、データストレージの需要は増えていく。データセンター向けストレージ製品の需要が伸びるだろう」との見通しを示した。TIPの工場の延べ床面積はラグナ州の「ラグナ・テクノパーク」工場が計8万5,783平方メートル、同州の「カーメルレイ・インダストリアル・パーク」工場が6万7,124平方メートルで、従業員は約6,500人に上る。15年の売上高は20億米ドル(約2,000億円)超だった。HDDとSSDの輸出額は、フィリピンの昨年の電子製品の約8%を占めた。

*5-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJ244JDTJ24UTFK00F.html
(朝日新聞 2016年2月4日) 「日印原子力協定の再考を」 超党派議連76人が談話
 9党76人の衆参議員(代表=近藤昭一・民主党衆院議員)が参加する「原発ゼロの会」は4日、安倍晋三首相が昨年12月、インドのモディ首相と「原則合意」した日印原子力協定について、再考を求める談話を発表した。正式に協定を結べば、インドへの原発輸出が可能となる。インドは核不拡散条約(NPT)に加盟しておらず、非加盟国と協定を締結するのは初めて。同会は談話で、「NPTを形骸化させるもので、核不拡散体制にとって致命的な一歩となる」と批判。使用済み核燃料について「再処理の扱いが明らかにされていない」と指摘した。河野太郎行政改革担当相は入閣に伴い、同会の共同代表を辞任した。


<原発地元の動向>
PS(2016年7月20日追加):*6-1のように、全国の原発で唯一稼働中の九電川内原発の運転継続は、鹿児島県の有権者の49.9%が反対しており、*6-2のように、脱原発を訴える佐賀県内の市民団体は九電玄海原発再稼働反対の9万人分の署名を佐賀県知事に提出した。また、*6-3の北海道新聞全道世論調査では「規制委基準を満たしても泊原発を再稼働すべきでない」と考える人が39%、「再稼働の同意を求める地元自治体の範囲も札幌市や小樽市など(泊原発から)30キロ以上にも広げるべきだ」が54%を占めた。さらに、*6-4のように、四電伊方原発の再稼働については、熊本・大分地震は世界最大の活断層・中央構造線が動いたことを受けて、広瀬隆氏が大分県で「日本に原発の適地はない」と講演している。そして、これらをポピュリズムと呼ぶ人がいるが、それこそ傲慢で思考停止だ。 

*6-1:http://qbiz.jp/article/90190/1/ (西日本新聞 2016年7月6日) 川内原発「反対」49.9%、「賛成」45.9% 鹿児島県有権者
 全国の原発で唯一稼働中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の運転継続について、同県の有権者の49・9%が反対していることが西日本新聞の電話世論調査で分かった。反対の回答は再稼働前の2014年末調査を5・8ポイント下回ったが、なお賛成の回答数を上回っており、再稼働後も県民の賛否が二分する現状を浮き彫りにした。参院選の世論調査に合わせて3〜5日に実施、1112人から回答を得た。運転継続の是非を聞いたところ「反対」は21・9%、「どちらかといえば反対」は28・0%。一方「賛成」は17・4%、「どちらかといえば賛成」は28・5%で、反対派が賛成派を上回った。地元の薩摩川内市を含む衆院鹿児島3区では賛成派55・1%、反対派38・8%だった。再稼働の是非を尋ねた14年12月の衆院選時の調査(回答者1403人)では反対派55・7%、賛成派38・0%だった。

*6-2:http://qbiz.jp/article/88553/1/
(西日本新聞 2016年6月10日) 玄海再稼働反対9万人署名 市民団体、佐賀知事に提出
 脱原発を訴える佐賀県内の市民団体は10日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働に同意しないよう求める約9万人分の署名を山口祥義知事に提出した。直接受け取った山口知事は、署名が県外からも多く寄せられたことを受け「佐賀だけの問題ではなく、福岡や長崎とも関係する。そういう意識を持って(再稼働の是非を)考えていきたい」と述べた。署名は今年1月から、県内8団体で作る「脱原発佐賀ネットワーク」が全国で集めた。市民団体は「原発を不十分な規制基準で運転すれば、また東京電力福島第1原発事故のような惨事が繰り返される」と訴え、県と住民との公開討論の場を設けるよう要望した。玄海原発は1号機の廃炉が決まり、3、4号機は再稼働に向けた審査が進んでいる。山口知事は再稼働について、幅広い意見を聴いた上で判断するとしている。

*6-3:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0294092.html
(北海道新聞 2016/7/17) 泊原発 規制委基準満たしても「再稼働すべきでない」39%
 北海道新聞社の全道世論調査で、停止中の北海道電力泊原発(後志管内泊村)の再稼働について、原子力規制委員会が審査で基準を満たすと認めたとしても「再稼働すべきでない」との回答が39%に上った。審査で認められれば「再稼働してもよい」の31%を上回っており、再稼働に慎重な道民の意識がうかがえる。調査は11、12の両日に行った。原子力規制委員会の審査後を想定して再稼働の是非を聞くのは初めて。「どちらともいえない」は30%だった。男女別では、審査後なら「再稼働してもよい」が、男性は40%だったのに対し、女性は23%にとどまった。「再稼働すべきでない」は男性36%、女性42%だった。年代別では「再稼働してもよい」は40代の44%が最も多く、70代以上は50%が「再稼働すべきでない」を選んだ。原子力規制委員会の審査結果にかかわらず、再稼働の是非だけを聞いた今年4月の世論調査では「認めてもよい」が39%、「認めるべきではない」が57%だった。再稼働の同意を求める地元自治体の範囲について聞いたところ、「札幌市や小樽市など(泊原発から)30キロ以上にも広げるべきだ」が54%(4月の世論調査比1ポイント減)で最も多かった。

*6-4:http://www.oita-press.co.jp/1010000000/2016/07/17/005425524
(大分合同新聞 2016/7/17) 「日本に原発適地ない」 中央構造線の危険強調 伊方原発
 原発の危険性を訴え続けている作家の広瀬隆さん(東京)が16日、大分市内で「中央構造線が動き出した!その時、伊方原発は耐えられるか?」と題して講演した。熊本・大分地震は「世界最大の活断層・中央構造線が動いた」と指摘、今月下旬の再稼働が見込まれている四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)そばの中央構造線で直下型地震が起きれば大事故が起きると訴えた。広瀬さんは日本列島の成り立ちや、活断層の存在が知られていない場所でも大地震が起きてきたことを紹介し、「日本は全ての土地が活断層の上に存在する。日本に原発を建てる適地はない」と説明。中でも中央構造線は日本を縦断する巨大断層で、南海トラフと連動して大地震を起こす危険性があるとした。伊方原発そばの海域を走る中央構造線は「太平洋側からの力を受けて傾斜している。原発の真下に向かって活断層が延びており、直下型地震が起こる」とし、「震源からの距離が近いので、(原子炉を)止める時間がないのが一番怖い」と語った。熊本・大分地震で震度7を観測した熊本県益城町では、上下動の最大加速度(揺れの強さ)が地表面で1399ガルだったとも説明。伊方原発の耐震設計の目安となる基準地震動は最大650ガルだが、これは水平動で、上下動は377ガルの想定にとどまる。「岩盤上に立つ原発でも耐えられるはずがない」と強調した。講演会は今月発足した住民組織「伊方原発をとめる大分裁判の会」が開いた。同会は既に有志4人が伊方3号機の運転差し止めを求める仮処分を大分地裁に申請した。今夏に大分県在住者100人以上で訴訟も起こす方針で、原告や応援団のメンバーを募っている。参加した約250人を前に、広瀬さんは「日本は次の原発の大事故を待っている状態だ。今が生き残る最後のチャンス。(裁判を)県民を挙げた運動にしてほしい」と期待を寄せた。
*ひろせ・たかし 1943年、東京生まれ。長年にわたって原発問題を訴え続け、著書に「危険な話」「東京に原発を!」「原子炉時限爆弾」などがある。


PS(2016年7月21日追加):*7のように、四電伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働差し止め訴訟を、対岸の大分県の住民らが8月にも大分地裁に提訴する見通しとなったそうだ。大分県民の安全や豊予海峡でとれる高級魚の関アジ、関サバはじめ大分県の産業を護るために当たり前のことであるため、速やかな再稼働差し止めの仮処分が望まれる。

*7:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016072101001518.html
(東京新聞 2016年7月21日) 8月にも伊方再稼働差し止め訴訟 大分、原告団は100人超
 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働差し止めを求め、対岸に位置する大分県の住民らが早ければ8月にも運転差し止め訴訟を大分地裁に起こす見通しとなった。住民側の代理人弁護士が21日、明らかにした。原告団は100人を超える見込みだ。21日は本訴に先立ち、住民の一部が運転差し止めを申し立てた仮処分の第1回審尋が大分地裁(竹内浩史裁判長)で開かれた。記者会見した代理人弁護士によると、この日は争点と証拠の整理を中心に進められ「地震と津波、土砂災害(が起きた際の危険性)が主な争点になるだろう」と説明した。


PS(2016年7月22日追加):*8の博多港も赤潮が発生したり、水が濁っていたりしていて見られない港の一つだ。しかし、クルーズ船も停泊するのなら、クルーズ船から見える海の中や陸地の風景も重要であるため、①海の透明度を増して船から下を見ると海底や魚が見える海にする ②陸地はコンクリートだけでなく30%以上は緑があるようにする(飛行機から見ると福岡の緑は東京よりも少ない) など、環境がよくて便利な港にするのがよいと考える。クルーズ船で来る人は、船内で本物の音楽、映画、ダンスパーティーなどのアトラクションに親しんでいるため、特色のない安っぽいイベントならいらないと思う。

*8:http://qbiz.jp/article/91110/1/
(西日本新聞 2016年7月22日) 福岡市の三セク「博多港開発」、どうする
 福岡市の有識者会議は21日、市の第三セクター「博多港開発」(博多区)の今後の在り方について、報告書を大筋でまとめた。主力の埋め立て事業をほぼ終えたことから、博多港のバス待機所整備などクルーズ客船の受け入れ強化につながる事業の促進を検討するよう求めている。市は報告書を基に活用策をまとめる。市港湾空港局によると、同社は博多港の整備を主目的に1961年に設立。戦後に埋め立てた市内の約1500ヘクタールのうち、須崎ふ頭(中央区)や小戸・姪浜地区(西区)など774ヘクタールを整備した。アイランドシティ(東区)は全体の24%(97・2ヘクタール)の造成を手掛け、売却用地の9割以上が分譲済み。報告書では、ウオーターフロント地区の再開発をにらみ、NPOなどと連携したイベント実施も検討すべき役割として盛り込んだ。


<地元の範囲はどこまでか>
PS(2016年7月24日追加):最近、埼玉県ふじみ野市の自宅上空を旅客機や自衛隊機が低空飛行していることが多く、ヘリコプターは自宅マンションの上空でホバリングしているのではないかと思うことさえある。これは、人口密集地帯でのプライバシー侵害や墜落リスクがあるため、*9のように、「羽田空港の国際線発着回数を増やすため、東京都心上空を飛行するルートを新たに設定することで、国と地元自治体が近く合意する」というのは、合意する自治体の範囲の拡大と経路の再考が必要だ。

*9:http://qbiz.jp/article/91202/1/
(西日本新聞 2016年7月24日) 都心の上空飛行、地元合意へ 羽田空港、国際線の発着増
 羽田空港の国際線発着回数を増やすため、東京都心上空を飛行するルートを新たに設定することで、国と地元自治体が近く合意することが23日、関係者への取材で分かった。都心上空の飛行は、騒音に配慮し避けてきた経緯がある。新ルートの運用時間は限定し、空港周辺で騒音対策を実施することで地元の理解を得て、大幅増便は実現に向けて動きだした。2020年の東京五輪・パラリンピックまでに、羽田空港の発着回数は現在の年間44万7000回から最大3万9000回増やし、国際線に振り分ける。現行9万回の国際線は、1.4倍の12万9000回となる。政府は、利便性向上で羽田空港の国際競争力の強化を図る考えだ。羽田空港の発着は従来、都心を避け、主に東京湾上空の東側か南側を通ってきた。南風の場合は東京湾上空で旋回し、北側から滑走路へ。北風で北向きに離陸する際も、都心部を大きく迂回(うかい)し上昇する。直線ルートが少なく、東京湾上空の狭い範囲で旋回するため、ルート同士の距離が近いことが増便の障害だった。新ルートは、北側から南に向けての着陸の際、さいたま市付近から、空港のある東京都大田区にかけ直進しながら降下する。北向きの離陸時は、湾岸エリアの江東区や、東京スカイツリーがある墨田区付近の上空を通過するほか、南向きの離陸の際、従来は飛行しなかった川崎市上空も直進し上昇する。

| 資源・エネルギー::2015.5~2016.12 | 02:29 PM | comments (x) | trackback (x) |

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