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2018.3.21~23 農林水産業の可能性を伸ばす ← みんなで考えれば、よい知恵も出ること (2018年3月24、25、26、28、29、30、31日に追加あり)
     
 先進主要国の食料自給率  農林水産物輸出額推移 木材輸出額推移  再生エネ導入
                          2018.2.14   2018.1.21
                          西日本新聞    日経新聞

(図の説明:フランス・アメリカなどの先進主要国の食料自給率は殆どの時代で100%を超えており、ドイツも2012年で92%だが、日本の食料自給率は1965年の70%程度から一貫して下がり続けて2013年には39%になった。その理由は第2次産業偏重だが、アジア・アフリカ諸国が低賃金を武器に第2次産業に参入している現在、変革にのろい日本の比較優位がいつまでも続くわけではない。従って、第1次・第3次産業もバランスよく大切にすべきで、農林水産物の輸出額が次第に増えているのは望ましいことなのだ。また、再エネ導入量も増えるため、農林水産業地域で再エネ発電をすれば農林水産業に基礎収入を上乗せさせることができて補助金を払う必要がなくなり、また外国に燃料費を支払う必要もなくなって、日本人をより豊かにできる)

   
   外国人労働者推移   難民申請数・認定数 日本産オリーブ 日本産レモン
               2017.12.19    2017.12.21  太良町
                日経新聞     西日本新聞

(図の説明:日本で働く外国人労働者や外国人を雇用する事業所は8年で2倍になり、2016年には日本で108万人超の外国人労働者が働いている。しかし、日本の難民認定数は1万人以上の希望者のうち30人程度であり、欧米諸国と比較して冷たい。現在はオリーブやレモンの生産量も増えつつあり、日本には難民が働けそうな場所もあるため、外国人労働者や難民の入国をプラスに働かせることができる局面は多くの産業であるだろう)

(1)農林水産業と食料自給率
 農林水産大臣が、*1-1のように、衆参両院の農林水産委員会で所信を表明し、農業の成長産業化に向けた改革を続けることに強い意欲を示されたのはよいことだが、自由貿易さえすればよいという発想では農業を衰退産業にしてしまうので、80%くらいの食料自給率と輸出の増加は目標にしてもらいたい。
 
 私も、農業者の高齢化や引退が進む中、農地の集積・集約化が進んで大規模化し、生産性が上がったことはよいと思うが、農業総産出額の増加は物価上昇によるところが大きく、食料自給率は38%に下がっており、農業生産量が増えたわけではないと考える。

 なお、*1-1、*1-2に、中山間地域は農地集積が進まないと書かれているが、どこでも同じ穀物を作り、そのために農地を集積することが農業収入を上げる方法ではなく、その地域にあった作物を見つけ、付加価値をつけて売ることが収益を上げる方法である。そのため、国が一律に指導することはできず、地方自治体・地域の農協・農業試験場・地域の大学などが協力して市場調査・品種改良・栽培方法の改善を行うしかない。

 また、*1-4のように、この10年間で農業の経営規模が1.5倍に拡大し、規模拡大に伴って従業員の雇用や設備投資の拡大を積極的に進める傾向が出たのはよいことだが、農業は今後、それこそ働き方改革ができるようにならなければ人材が集まりにくいだろう。

 しかし、このような生産者の苦労を無視して、*1-3のように、政府は、経産省の政策であるTPPの参加11カ国の新協定に署名することを閣議決定した。茂木担当相は閣議後記者会見で、「早期発効に向けて引き続き主導的な役割を果たしていきたい」と語られたそうだが、やはり主導的にTPP協定を進めていたのは日本だった。ただ、*3-1のように、ISD条項が外されたのは朗報だ。

 TPP協定が発効した場合、日本も農林水産物を輸出できなければマイナスが多すぎる。そこで、*1-5を見ると、2011年の日本の水産物輸出は、東電福島第一原発の事故による各国の輸入規制や円高等の影響により数量で前年比25%減少の42万トンとなり、これに対して日本政府は、水産物の放射性物質に係る調査結果や安全確保の措置等を説明するなどの働きかけを行っているそうだが、少しなら有害物質を含んでいても食べたいという人はどの国にもおらず、これは鮮度や味以前の問題である。そのため、有害物質を含まず質の高い日本産水産物を提供しなければ海外市場であっても拡大は難しく、そのための環境整備が必要なのである。

(2)農林業の新技術と新製品
 九大大学院農学研究院昆虫ゲノム科学研究室の日下部教授のグループは、*2-1のように、ワクチンの原料となるタンパク質を大量に作るカイコを探し出し、カイコを使って医薬品の原料を作る「昆虫工場」の事業化に乗り出すそうだ。また、*2-5のように、シラカバ樹液・ハーブ類・ヘべス果汁などで体調不良を予防できるシロップを商品化した女性もいる。

 さらに、大分大理工学部の衣本助教は、*2-2のように、竹を原料とした次世代素材セルロースナノファイバーの製造法を開発した。これは、広い産業で活用が期待される素材で、放置竹林の解消にも繋がり、この技術の利用のためには竹の安定調達が必要とのことである。

 米の食味ランキングで4年連続「特A」を取得した青森県の「青天の霹靂」は、*2-3のように、人工衛星で水田を観測して米の生育や食味を判断する仕組みを取り入れており、埼玉県では梅の害虫被害を宇宙から監視して防除する実証も進んでいるそうで、農業の近代化や効率化が期待される。*2-4のような大規模営農発電を行って、農家の基礎的収入を上げると同時に、耕作放棄地が解消する技術もできた。

 農水省が、*2-6のように、ジビエの利用拡大を進めているが、もうそろそろ野生鳥獣も愚痴ばかりではなく、プラスの存在にすべきだろう。

 *2-7のように、2017年の丸太輸出額は、中国の旺盛な需要を取り込んで前年比61.7%増の137億円と過去最高を記録し、杉を中心とする九州産が7割超を占めて、「今後は、より良質な木材の輸出にも取り組んでいきたい」と、さらなる意欲を見せているそうだ。しかし、*2-8のように、森林伐採や植樹などを担う「林業従事者」の減少は加速しており、新規就業者の育成が必要な状態である。

(3)長所を伸ばす経営へ
 *3-2のように、日本は全頭検査していたにもかかわらず、BSEに関する日本の安全基準は、米国産牛の基準に合わせるため、なし崩し的に緩和された。最初は、吉野屋が米国産牛を輸入したくて要望したからだが、国産牛まで変える必要は無かった。何故なら、国産牛まで米国基準に合わせると、国産牛の安全性の長所が失われるからである。その点、畜産が重要な産業であるオーストラリアには原発がなく、その徹底ぶりは感心だ。

 しかし、*3-3のように、農産物の輸出額は8073億円となり、5年連続で過去最高を更新した。これは、これまで輸出に積極的でなかったせいもあるが、さらに高い目標を持っているのはよい。ただ、日本で福島第1原発事故が起こったため、輸出先の国・地域が輸入規制を設けたが、これを緩和させたり、撤廃させたりするように動くよりも、徹底して安全な検査済のものを輸出するようにしなければ、日本産全体の評価が下がる。

 なお、*3-4のように、沖縄活性化ファンドは、子牛の肥育だけをしていたが、繁殖から肥育までの一貫した経営を進めようとしている「もとぶ牧場」への投資を決定したそうだ。口蹄疫や東日本大震災で国内有数の産地が打撃を受け、畜産農家の後継者不足で子牛相場が上昇しているため、伊藤ハムが自社の繁殖事業のノウハウを「もとぶ牧場」に提供するほか、メインバンクの琉球銀行も発情発見システムなど生産管理を効率化するIT導入の支援を行うそうで面白い。

 また、*3-5のように、離島や中山間地域などの“田舎の田舎”ほど若者が集まっており、増加率の上位を占めている離島や山間部には、若者や女性が活躍する場があり、お互いの顔が見えて、小さな自治体は若者の居場所をつくっているからだそうだ。そして、五島列島最北端の離島宇久島に、20~30代の牛飼いが8人となり、この8人が飼う牛は300頭を超えて島の2割を占め、島の大きな推進力になっているそうだ。

(4)農林漁業の担い手
 集落営農や農業経営の法人化に官民挙げて取り組んだ理由は、農業の大規模化と世代交代にむけての担い手確保にあった。その集落営農で、*4-1のように、まとめ役や機械作業をする人が見つからず困っているケースが全国的に見られるそうだ。しかし、既に器ができているので、農業は若者にとって魅力的な産業になっており、次世代のリーダーやオペレーターを確保するのは容易になった筈だ。

 そのような中、佐賀県白石町の農事組合法人ほくめいが、15の集落営農を合併して2016年に誕生し、経営面積は640ヘクタールに上るそうだが、これならオーストラリアの農業とも競争できそうだ。

 なお、このような大規模農業を行うには、*4-3のように、外国人労働者を受け入れたり、*4-4のように、難民に対する冷たい「鎖国」をやめ、協同組合や農林水産業法人で就業させる方法もある。さらに、労働の担い手には、*4-5のようなロボットもいる。

 また、*4-2のように、大手スーパーが、異業種と連携して生鮮食品の宅配サービスに相次いで参入しているそうだが、これは共働き夫婦だけではなく、高齢世帯や単身世帯にとっても重要なサービスだ。何故なら、重たい生鮮食品を、(「迷惑そうに」とか「恩着せがましく」ではなく)仕事として爽やかに家まで運んでもらいたいため、私も、水・お茶・液体洗剤などは、既にアマゾンなどのネット販売に変えた状況だからだ。

 さらに、生鮮食品なら、産地指定や有機栽培等の選択ができるのもネット販売のメリットだ。そのため、ネット販売は、今や決済の安全性だけが問題なのであり、大手スーパーも産地や有機農産物などの選択肢を増やして一カ所で買い物が終わるようになるとよいと思っている次第だ。

<農林水産業と食料自給率>
*1-1:https://www.agrinews.co.jp/p43506.html (日本農業新聞論説 2018年3月12日) 農相所信表明 現場重視で改革着実に
 斎藤健農相は衆参両院の農林水産委員会で所信を表明し、農業の成長産業化に向けた改革を続けることに強い意欲を示した。しかし、急進的な改革路線には疑問の声も根強い。生産現場の実態を見据えた着実な改革を目指すべきである。斎藤農相は、これまでの農政改革の成果として、農業総産出額が過去17年で最高の9・2兆円に、生産農業所得も過去18年で最高の3・8兆円になったことなどを強調した。しかし、これらは生産基盤の弱体化による農畜産物価格の上昇が主な要因とみられ、改革関連政策の効果を疑問視する指摘もある。踏み込んだ検証を求めたい。農相が力を入れる施策として第一に取り上げたのは、農地の集積・集約化の一層の加速だ。農業者の高齢化・引退が進む中、大規模経営への構造改革を急ぐ考えだが、現実は容易ではない。2016年度に担い手に集積できた面積は6万2000ヘクタールで、前年度より2万ヘクタール弱減った。目標達成に必要な面積(約15万ヘクタール)の4割水準にとどまる。加速どころか、集積テンポが落ちてきている。農地集積が進まない背景には、中山間地域などの条件不利地や樹園地での集積が難しいことが挙げられる。平場も中山間地域も一律に農地集積を進めようとしても限界がある。23年度までに担い手への集積を8割にする目標自体に無理はないか、慎重に考えるべきだ。農協改革には、「農業者の所得向上に全力投球できる農協の実現に向け、協力していく」として、19年5月までの期間内に具体的な成果を上げるように求めた。現在、JAグループは自己改革の実践に懸命に取り組んでいる。その自主性の尊重が農協改革の出発点である。規制改革推進会議の主張に見られる過度の介入は慎むべきだ。農業現場で今深刻な労働力不足問題には触れなかったのは物足りない。人手不足を理由に規模拡大を断念したり経営縮小したりする農業者が出始めている。改善対策を示す時だ。車の両輪と言いながら、農村政策への言及は、6次産業化の展開や都市農村交流、農泊などを挙げるにとどまり、目新しさに欠ける。安倍政権の地方創生に見劣りしない重厚な農村政策を打ち出すべきだ。米政策は、18年産から生産調整配分への行政関与がなくなる。農相は、情報提供を行うだけにとどめ、主食の安定供給に対する政府の責務には触れずじまいだった。主産地をはじめとして生産調整見直しに対する農家の不安は根強く、今後の論戦でただすべきことは多い。最大の課題は、38%に下がった食料自給率を引き上げることだろう。政府が目指す45%を実現するための具体策が見えない。環太平洋連携協定(TPP)などで農産物貿易の高水準な自由化を進めながら、どのようにして自給率を上げるのか。論戦の中核に据えるべきだ。

*1-2:https://www.agrinews.co.jp/p43238.html (日本農業新聞論説 2018年2月10日) 難航する農地集積 中山間地での進展が鍵
 農地の利用を「担い手」に集める国の取り組みが難航している。目標の8割集積には、生産条件が悪い中山間地での集積が鍵を握る。地域農業の「担い手」を確保し、実態を踏まえた集積を急ぐ必要がある。農地は食料の生産基盤で、長い年月をかけて整備してきた貴重な社会資本である。食料自給率向上に欠かせない土台でもある。ところが農業者の高齢化が加速し、耕作を続けることが困難な農地が続出している。農水省は2023年度までに担い手への集積を8割に高める目標を掲げ、農地の維持や構造改革に躍起だ。しかし、16年度の集積率は54%。1年間に集積できた面積は6万2000ヘクタールで、前年度より2万ヘクタール弱減った。目標達成に必要な面積(約15万ヘクタール)の4割水準にとどまる。特に食料生産の4割を占める中山間地域の条件不利地や樹園地での集積が進んでいない。耕作を引き受ける担い手が見当たらず、耕作放棄につながる農地も多い。「中山間地域での集積が政府目標を達成する鍵を握る」との指摘がある。政府は、実態調査を急ぐべきだ。農水省は、農地中間管理機構(農地集積バンク)を仲介した集積を目指している。18年度からは、連たん化や20%のコスト低減などの条件が整えば、バンクに貸し出した農地の整備は農家負担なしで行えるようにする。農業委員会制度の見直しで導入した「農地利用最適化推進委員」を動員して、集積を加速したい考えだ。「8割」を押し付けるような「上からの集積」では地域の理解は得られない。自主的な取り組みこそ大切だ。地域で担い手を明確にする「人・農地プラン」をもう一度見直し、「理解と納得」を前提にした集積が重要だ。担い手に位置付けられる認定農業者の経営改善計画の確実な実現や、地元大学との連携、コーディネート育成も欠かせない。「農地利用最適化推進委員」が動きやすいように活動費助成の充実も考えるべきだろう。農地集積バンクに集まった農地を借りるには法人格が必要となる。各地の集落営農組織の法人化を急ぎ、整地された農地の受け皿になれるようにすべきだ。JAが出資法人を立ち上げて引き受けることも考えたい。地域の実情に合った集積方法が最も有効である。JAが主に担ってきた農地利用集積円滑化事業を通した農地集積も活用すべきだ。国の支援が農地集積バンクに偏り過ぎだとの声や、株式会社の農地所有につながるのではないかとの警戒心も根強い。農地集積バンク以外の取り組みへの支援も行うべきだ。相続未登記で集積が困難な農地は、その恐れも含めると90万ヘクタールを超す。水管理を担う土地改良区の維持が困難になるなど、食料生産の屋台骨が揺らいでいる。農地の縮小は国民的な損失である。安倍政権は、中山間地域も含め総合的な生産基盤の立て直しを急ぐ必要がある。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p43465.html (日本農業新聞 2018年3月7日) TPP11 署名を閣議決定
 政府は6日、米国を除く環太平洋連携協定(TPP)参加国の新協定「TPP11」に署名することを閣議決定した。参加国は署名式を南米チリのサンティアゴで8日午後(日本時間9日未明)に開き、日本からは茂木敏充TPP担当相が出席する見通し。安倍晋三首相は同日、オーストラリアのターンブル、カナダのトルドー両首相と電話会談し、早期発効に向けた連携を確認した。茂木担当相は同日の閣議後会見で、「早期発効に向け、参加国の進捗状況もにらみながら、引き続き主導的な役割を果たしていきたい」と語った。署名式に先駆け閣僚会合も開き、新規加盟国の扱いなどを議論する。個別の2国間会談も行う。協定に署名後、共同会見を開く。署名後、11カ国は発効に向けて国内手続きを急ぐ。日本政府は3月中に協定承認案と関連法案を国会に提出する。

*1-4:https://www.agrinews.co.jp/p43536.html (日本農業新聞 2018年3月15日) 17年度農業白書骨子案 「若手農家」規模1・5倍 直近10年 従業員雇用割合も増
 農水省は14日、2017年度食料・農業・農村白書の骨子案を公表した。49歳以下の担い手や後継者がいる経営体(若手農家)について、直近10年間の動向を分析。稲作や畑作では経営規模が1・5倍に拡大していた。若手農家以外はほぼ横ばいだった。経営規模の拡大に伴い、従業員の雇用や設備投資の拡大を積極的に進める傾向も浮かび、これらの負担軽減策が今後の課題の一つになりそうだ。食料・農業・農村政策審議会企画部会(部会長=大橋弘東京大学大学院教授)で示した。同部会は4月中旬に次回会合を開いて最終案を議論。5月下旬の閣議決定を目指す。今回の骨子案では、今後の日本農業をけん引する若手農家がいる経営体に着目。目玉となる特集面で、農林業センサスなどの調査結果を基に、直近10年間の動向を分析した。若手農家は14万戸(15年)で販売農家全体の1割だった。経営規模を品目別に見ると、稲作単一経営の1戸当たりの経営耕地面積は平均7・1ヘクタール。05年の4・7ヘクタールから1・5倍に増えた。非若手農家はほぼ横ばいだった。稲作以外でも05年に比べ畑作で5割、露地野菜、乳用牛、肉用牛はそれぞれ2割以上経営規模が拡大した。経営規模拡大に伴い、従業員を雇う経営体も増えている。1年のうち7カ月以上働く従業員らを雇う経営体は10年間で約6000戸増えて1万7740戸。全ての若手農家に占める割合は7・3ポイント増え、12・6%になった。省力化や低コスト化に向けて積極的に投資も行っている。機械や設備の投資規模を示す「農業固定資産装備率」は、水田作で2930円で、非若手農家の1・2倍。酪農は6629円で、同1・9倍だった。省力化が進み、水田作10アール当たりの労働時間は4割削減。酪農では搾乳牛1頭当たり4分の3に短縮している。

*1-5:http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h23_h/trend/1/t1_2_1_3.html (水産庁) 「水産物の輸出入の動向」より抜粋
(我が国の水産物輸出の動向)
 平成23(2011)年における我が国の水産物輸出は、東電福島第一原発の事故による各国の輸入規制や円高等の影響により数量で前年比25%減少の42万トン、金額で前年比11%減少の1,741億円となりました。原発事故の後、輸出先国による規制が強化され、水産物を含む日本産食品の輸出が困難になるという事態が一部の国・地域で発生したことに対応し、政府としては、各国に対し、水産物の放射性物質に係る調査結果や安全確保の措置等を説明するなどの働きかけを行っており、今後ともこのような取組を継続していくこととしています。日本産水産物の品質は、漁獲物の取扱いの丁寧さや発達したコールドチェーンに支えられた鮮度保持の確かさから、世界で高い評価を得ています。さらに日本食の人気が海外で高まっていることも相まって、日本産水産物に対しては世界各国・地域において根強い需要があります。加えて水産物に対する需要は世界的に増大していることから、今後、日本産水産物の海外市場はさらに拡大する可能性があります。水産物は、農産物・畜産物とは異なり、動植物検疫に関する輸入規制の対象となる品目が少ないものの近年、各国の消費者の間で食品衛生問題への関心が高まっていることから、各国の当局が衛生証明書の発行や輸出加工施設の登録を要求するケースが増加しています。このため、政府としては、相手国政府との協議等を通じ、各国の規制や条件に適合するための体制を整備しています。また、海外市場調査に対する支援、展示商談会への出展等の取組を行い、日本産水産物の輸出を促進しています。

<農林業の新技術と新製品>
*2-1:http://qbiz.jp/article/125513/1/ (西日本新聞 2018年1月3日) “昆虫工場”カイコで薬 九大・日下部教授ら春に事業化 100年の研究応用、安定供給目指す
 九州大大学院農学研究院昆虫ゲノム科学研究室の日下部宜宏教授のグループは、カイコを使い医薬品の原料を作る「昆虫工場」の事業化に乗り出す。九大は約100年前からカイコの研究、保存を続けており、約480種の中から、ワクチンなどの原料となるタンパク質を大量に作るカイコを探し出した。日下部教授らは4月に会社を設立し、第1弾として動物用医薬品の原料製造を目指す。インフルエンザなど感染症予防に使うワクチンは、毒性を弱めるなどしたウイルスを増殖して作る。鶏の受精卵や動物の細胞に感染させて増やすのが一般的。一方、日下部教授らは、病気を引き起こす病原ウイルスの遺伝子の一部を、「遺伝子の運び屋」(ベクター)と呼ばれる物質を使ってカイコに注入。病原ウイルスに形は似ているが感染力はなく、安全なタンパク質(ウイルス様粒子=VLP)を体内で生成させる。VLPは取り出して精製すると、ワクチンの原料になる。日下部教授らは約7年かけ、VLPを効率的に作るカイコを探し出した。カイコは飼育が比較的容易で大型施設なども不要なため、製造コスト低減などが期待できるという。九大が1921(大正10)年から続けている学術用カイコの“コレクション”は世界最大。生物資源を戦略的に収集して活用する国の「ナショナルバイオリソースプロジェクト」の拠点にもなっている。日下部教授は「カイコの活用は、九大が積み上げてきた研究成果を社会に還元するのが目的。安全性が高い次世代型ワクチンは、海外の製薬会社などが特許を持っていることが多く、将来的には安全な国産ワクチンの安定供給につなげたい」としている。日下部教授らが設立する会社は福岡市西区の産学連携交流センターに置く予定。国内の医薬品メーカーとペット用診断薬の原料を製造することで基本合意しており、国の許可が得られれば、製造を始める。ノロウイルスやロタウイルス、子宮頸(けい)がんワクチンに関する研究も進めており、人の医薬品の原料も手掛ける方針。
■ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP) 日本が生命科学の分野で国際競争力を維持するため、世界最高水準の生物資源を戦略的に収集・保存し、研究機関などに提供する事業。2002年度に始まり、現在、約40の研究機関が連携して30種の動物や植物、微生物などを収集・保存している。九州では九州大がカイコとアサガオ、宮崎大がミヤコグサとダイズの拠点(代表機関)となっている。

*2-2:http://qbiz.jp/article/126245/1/ (西日本新聞 2018年1月17日) 竹で次世代繊維開発 軽量、丈夫、おむつから航空機まで 大分大助教
 大分大理工学部(大分市)の衣本(きぬもと)太郎助教(42)が、竹を原料とした次世代素材セルロースナノファイバー(CNF)の製造法を開発した。広い産業で活用が期待されている素材で、パルプなどを原料とする従来の製法よりコストを約10分の1に抑えられるのが特長。放置竹林の拡大が全国的な問題となる中、その解消にもつなげたい考えだ。CNFは、植物由来の天然素材。植物繊維の主成分であるセルロースをナノサイズ(1ナノメートルは10億分の1メートル)まで細かくし、鉄の5分の1の重さで5倍の強度を持つとされる。大手製紙会社がパルプの需要減を補う用途開発として主に研究しており、一部で実用化。表面積の大きさを生かした吸水性の高いおむつシート、インクに混ぜ粘性を増して書きやすくしたボールペンなどが生まれている。将来的には自動車や航空機、住宅部材の他、医療や食品にも活用が期待されており、国は、2030年の市場規模を1兆円と試算している。衣本助教は、放置竹林で多くが伐採、廃棄されるだけの竹を資源として活用できないかと発想。開発した製法は、薄くつぶした竹を圧力釜で煮て、ミキサーで綿状の繊維にした後、薬品処理をして再びミキサーで解きほぐす。できたCNFは直径16ナノメートルの細さ。圧力釜やミキサーなど装置や薬品は市販品で、1キログラム当たり4千〜1万円とされる現在のコストを、数百円に抑えられるという。製法特許を出願中だ。国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)から助成を受け事業化を進めており、当面は竹林がある地域で廃校や空き家などを拠点にしながら地域の雇用にも生かしていく方針。衣本助教は「特別な道具や技術は必要なく、高齢者など誰にでもできる。新産業として地域振興にもつなげたい」と構想を膨らませている。
   ◇   ◇
■竹の安定調達が鍵
 放置竹林問題に詳しい北九州市立大のデワンカー・バート教授(都市計画)の話 CNFは最先端の分野で市場は確実に広がっている。事業化が確立されれば竹林対策へ大きな前進だ。ただ、課題は原料を低コストで安定的に調達できるかどうか。竹は山間部に広がっており、伐採する人件費も必要。森林環境税の活用など里山を整備する国や自治体との連携も有効な手段になるだろう。

*2-3:https://www.agrinews.co.jp/p43533.html (日本農業新聞 2018年3月14日) 農業変える 宇宙の目
 宇宙から得た情報を農業生産に活用する動きが広がっている。人工衛星で水田を観測して、米の生育や食味を判断する仕組みを取り入れている青森県の新品種「青天の霹靂(へきれき)」は、米の食味ランキングで4年連続「特A」を取得。埼玉県では、梅の害虫被害を宇宙から監視し、防除に生かす実証が進む。高齢化や人手不足が深刻化する中、相次ぐ人工衛星打ち上げを利用した農業の省力・効率化が期待される。(猪塚麻紀子)
●青森産米「青天の霹靂」 収穫期・食味 マップに
 青森県が10年かけて開発した「青天の霹靂」。デビュー早々の2014年産から連続で「特A」を獲得できた秘訣は、宇宙からの観測データを生かした生産にある。県は16年産から、人工衛星から地球を観測するリモートセンシング技術を導入。津軽地方3000平方キロを撮影した衛星画像を分析して「たんぱくマップ」と「収穫適期マップ」(青森県産業技術センター農林総合研究所提供)を作成、産地の水田約8000枚を1枚ごとに色分けして示すことに成功した。タンパク質は米の食味を左右するため、同品種は厳しい出荷基準を設けている。8月中旬~9月の登熟期の葉色から含有量を判別。これを基に県、JAの営農担当者が指導を行い、次年度以降の施肥設計に活用する仕組みだ。17年産からは、水田ごとの収穫適期をスマートフォンで知らせるアプリを農家も活用し、良食味米の生産につなげた。農水省によると、17年産「青天の霹靂」の1等比率は、10月末時点で98・9%と過去最高の出来。技術を開発した県産業技術センター農林総合研究所の境谷栄二生産環境部長は「人工衛星の情報を活用すれば、産地全体で品質の維持が期待できる」と話す。
●埼玉の梅農園 虫害ピタリ、適切防除
 埼玉県では、宇宙からの“目”が梅の害虫被害を監視する。越生町で梅の生産・加工を手掛ける山口農園は、リモートセンシング技術による適期防除の実証に取り組む。農家の高齢化や人手不足が深刻化する中、同園は1ヘクタールの自作地に加え、地域の農家の防除を請け負っている。山口由美代表が「消毒や収穫の時期をピンポイントで見極めて作業の負担を減らしたい」と、城西大学薬学部の松本明世教授、リモート・センシング技術センター(東京都)と実証試験をスタートした。梅の葉は、アブラムシが付くとしおれて変色する。この色の変化を上空から見極め、被害状況や発生場所を割り出す。近赤外線による観測で、人の目では見分けにくい色の違いを識別でき、高所の様子も分かるため、より効果的な防除につなげられるという。研究を導くのは農家の声だ。山口代表が、梅の陥没症対策や収穫時期の予測など、現場が必要とする技術を提案し、研究員が実証化を探る。「知恵や力を借りることで農業の可能性が広がる」と期待する。同センターは同園での試験を基に、他の果実への応用や海外への普及も視野に入れる。
●「農家の勘」数値化
 人工衛星打ち上げに民間が参入するようになり、安価に活用できる環境が整ってきた。農研機構・農業環境変動研究センターによると、リモートセンシングの利点は「広く見える」「時間による変化が分かる」「人の目で見えないものも見える」ことだ。産地単位のデータを分析して、「農家の勘」を数値化することが期待できる。

*2-4:https://www.agrinews.co.jp/p42845.html (日本農業新聞 2017年12月24日) 3.2ヘクタール 最大規模の営農発電 売電収入で雇用創出 耕作放棄地も解消 大豆や小麦生産 千葉県匝瑳市の農家ら合同会社
 千葉県匝瑳市の農家が設立した匝瑳メガソーラーシェアリング合同会社が3.2ヘクタールの農地上の高さ約3メートルに、太陽光パネルを整備した。圃場(ほじょう)で農作物の生産と発電を同時にするソーラーシェアリングの取り組みで国内最大規模。パネルの下で大豆と小麦を栽培する。売電収入は年間4700万円を見込み、その収入と農産物販売で収益を上げる新しいビジネスモデルだ。同社は、高さ2・8~3・5メートルの架台を建て、上に横190センチ、縦37センチのパネルを、南向きに約1万枚並べた。2017年3月に通電し、年間の発電量は一般家庭288世帯分の年間消費量に相当する142万キロワットを見込む。パネルを設置する農地は地権者が8人で、半分が耕作放棄地だった。合同会社の椿茂雄代表は「地域では廃棄物の不法投棄も横行し、悩みの種だった」と振り返る。発電所周辺は葉タバコ生産が盛んだったが、徐々に減り、耕作放棄地に替わっていった。その課題解決のため、地元農家や新規就農者に、パネルの下で耕作してもらう仕組みを作った。農地全てをパネルで覆うのではなく、3分の1の面積で発電し、残りの農地は太陽光が当たるようにして大豆と小麦を育てる。人件費は、再生可能エネルギー固定価格買取制度を利用し1キロワット31円(税別)で東京電力に売電した収入から、1人当たり年200万円を支払う。総工費3億円のうち、2億6000万円を信用金庫の融資と社債で調達した。売電収入から、人件費と地代、地域環境を守るための基金、パネルのメンテナンス費用の計約1000万円を差し引いた残り3700万円を、返済に充てる計画だ。既に6月まきの大豆を11月に初収穫した。10アール収量は120キロほどで「この辺りでは上々」と椿代表。まだ売り先は決まっていないが、直売とみそなど加工販売を計画している。後作は、小麦の栽培を計画する。椿代表は「耕作放棄地を農地に戻すため、この仕組みを地域に広げていきたい」と展望する。農水省が農地の一時転用を許可したソーラーシェアリングの件数は、15年度までに全国775件(152・1ヘクタール)。調査を始めた13年度の約8倍で、増加基調という。発電しても、作物の収量が地域平均の8割以上を維持できることが条件の一つで、事業者は毎年、収量や品質の報告義務がある。売電価格は、規模や開始年度で変わる。

*2-5:https://www.agrinews.co.jp/p43504.html (日本農業新聞 2018年3月12日) 子どもの体調不良予防へ シラカバでシロップ 長野の川上さん
 長野県川上村のレタス農家、川上知美さん(37)は、村有林で自ら採取したシラカバの樹液をベースにしたシロップを商品化した。小児科医がいない村で子育てをする中で、体調不良を予防できるようなものを作りたいという母心から企画。村のアイデアコンテストで最優秀賞を獲得し、商品開発を村が支援した。商品名は「白樺(しらかば)樹液のハーブコーディアル」。樹液にマロウブルー、ホーリーバジルなどのハーブ類、北海道産のテンサイ糖、宮崎県産のかんきつ「ヘべス」の果汁を材料に作った。優しい甘味と、かんきつの爽やかな香りや酸味があるシロップで、そのままなめたり、お湯や紅茶、炭酸水で割ったりして飲める。村の直売所などで1瓶(100ミリリットル)1200円で販売する。開発のきっかけは、村での子育て中に感じた不便さだ。村には小児科医院がなく、近隣の病院までは車で片道1時間半かかる。そこでハーブ類などの自然の力で、体調不良を予防する方法がないかと考えた。川上さんは「森の手当て屋さん」と題し、2016年に村が地方創生の取り組みで開いたアイデアコンテストで発表。最優秀賞を獲得した。その副賞の事業化の支援を使い、商品を開発した。目を付けたのが村有林に生えるシラカバの木。北欧では、不調を癒す「看護婦さんの木」と呼ばれる。その樹液をベースに、小児科で処方される甘いシロップ剤をイメージした商品に仕上げた。樹液は村の許可を得て川上さんが240リットルを自ら採取。他の材料も国産や有機栽培、無農薬のものにこだわった。味の決め手のヘべス果汁は、川上さんの出身地、宮崎県のJA日向から取り寄せた。樹液の保存などの苦労はあったが、活動に共感してくれた「農業女子」の仲間が協力し、昨年の秋に完成した。川上さんは「商品開発をきっかけに多くの人と出会うことができた。この商品を通じて村や農産物を発信していきたい」と思いを込めている。

*2-6:https://www.agrinews.co.jp/p43489.html (日本農業新聞 2018年3月10日) ジビエ利用へ体制整備 モデル17地区選出 農水省
 農水省は9日、鹿やイノシシなど野生鳥獣の肉(ジビエ)の利用拡大を進めるモデル地区に、全国17地域を選出したと発表した。衛生管理された良質なジビエを、安定的に供給できる体制作りを支援する。政府は、年間172億円(2016年度)にも上る農作物被害を減らそうと、ジビエの利用拡大を推進。16年度の利用量(1283トン)を19年度に倍増させる目標を掲げる。同省は18年度予算案などに「ジビエ倍増モデル整備事業」を新たに盛り込んだ。全国にモデル地区を設置し、捕獲や処理加工、衛生管理に関わる人材の育成や、拠点となる処理加工施設の整備、「移動式解体処理車」(ジビエカー)の導入などを支援する。モデル地区は、それぞれが設定した19年度の処理頭数目標に向けたジビエの利用拡大の他、衛生管理の徹底などに取り組む。斎藤健農相は同日の閣議後会見で「有害鳥獣は有効に活用すればプラスの存在になるという意識が変わるようジビエ利用を推進していく」と取り組みに期待を示した。今回選定されたモデル地区は次の通り。
▽北海道空知地区▽長野市▽石川県南加賀地区▽岐阜県西濃ブランチ▽三重県伊賀市・いなべ市▽京都府・大阪府=京都丹波・大阪北摂地区▽京都府中丹地区▽兵庫県内広域▽和歌山県紀北地区▽同県古座川町▽岡山県美作地区▽鳥取県東部地区▽徳島県内広域▽熊本県内全域▽大分県内全域▽宮崎県延岡地区▽鹿児島県阿久根地区

*2-7:http://qbiz.jp/article/127869/1/ (西日本新聞 2018年2月10日) 九州が「丸太急増」けん引 輸出額の7割超 中国向け杉安定供給
 2017年の丸太輸出額は中国の旺盛な需要を取り込み、前年比61・7%増の137億円と過去最高を記録した。このうち、杉を中心とする九州産が7割超を占める。日本木材輸出振興協会によると、丸太の港別輸出額では、九州の港が上位に並ぶ。トップは鹿児島・志布志港の38億円で、87%が中国向けだ。2位は熊本・八代港の13億円。宮崎・細島港が12億円で続く。志布志港の輸出額が多いのは、港を使う鹿児島、宮崎両県の4森林組合が輸出のための協議会を立ち上げ、安定供給できる態勢をつくっているからだ。中国向けの丸太は現在、工業製品の梱包(こんぽう)材用など品質の高くないものが多いが、協議会の堂園司会長は「今後はより良質な木材の輸出にも取り組んでいきたい」と、さらなる輸出増加に意欲を見せている。

*2-8:https://www.agrinews.co.jp/p43582.html (日本農業新聞 2018年3月20日) 林業従事5万人割る 人材獲得競争が激化 15年
 森林の伐採や苗木の植樹などの整備を担う「林業従事者」の減少が加速している。林野庁が公表した2015年時点の従事者数は4万5440人で、前回調査(10年)より11%も減少。初めて5万人を割り込んだ。高齢化に加え、他産業との人材獲得競争が激しくなっていることも影響したとみられる。政府は、意欲のある担い手に森林を集約する新たな森林管理制度を19年度から始める方針。林業従事者が減る中、同制度をてこに、必要な森林整備を行う体制を整えたい考えだ。同庁は、総務省が5年ごとに実施する国勢調査を基に、林業従事者数をまとめており、今回は15年時点の結果を公表した。林業従事者は、国産材の価格の低迷による収益性の低下などで、1980年の14万6321人から減少の一途をたどってきた。前回(10年)は5万1200人で、05年比の減少率は2%。新規就業者の育成を支援する「緑の雇用事業」の効果もあって、減少幅も小さくなっていたが、15年は4万5440人と大きく減少した。原因の一つが、林業従事者の高齢化だ。年代別に見ると、65歳以上の従事者が占める割合(高齢化率)は10年から4ポイント増の25%、35歳未満の割合(若年者率)は同1ポイント減の17%となった。働き手が不足し、他業種との人材獲得競争が激しくなっていることも背景にあるとみられる。農業の有効求人倍率は、全産業平均を上回って推移している。政府は25年までに国産材の供給量を4000万立方メートルに増やす目標を掲げる。これに伴い、同庁は、目標の達成に5万3000人程度の林業従事者が必要と試算しているが、15年は大きく下回っている。

<長所を伸ばす経営へ>
*3-1:https://www.agrinews.co.jp/p43522.html (日本農業新聞 2018年3月13日) 米国のISD否定 はしご外された日本 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
 グローバル企業が引き起こす健康・環境被害を規制しようとしても、逆に損害賠償を命じられるISD(投資家・国家訴訟)条項。米国とそれに盲目的に追従する日本が環太平洋連携協定(TPP)で強く推進したが、オーストラリアを筆頭に他国は反対だ。日欧経済連携協定(EPA)で、欧州連合(EU)はISDを「死んだもの」(マルムストローム欧州委員)とさえ言った。北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で、「震源地」の米国がISDを否定する事態となり、米国に追従してISDを必要不可欠と言い続けた日本だけがはしごを外され、孤立する事態となってきた。「賃金は下がり失業は増える」「国家主権の侵害」「食の安全が脅かされる」との米国民のTPP反対の声は大統領選前の世論調査で78%に達し、トランプ氏に限らず大統領候補全員がTPPを否定せざるを得なくなった。これが米国がTPPを破棄した背景である。この「国家主権の侵害」は、ISD条項を指している。NAFTAにおける訴訟状況を見ると、勝訴または和解(実質的勝訴)しているのは米国企業の12件だけ(2017年3月現在)で、国際法廷の判決が米国企業に有利と言われてきた。だから、グローバル企業と結び付く米国政治家はISDを推進しようとした。しかし、その米国で17年9月、中小企業の社長100人が連名でISD条項削除を求める手紙を出し、最高裁首席判事のジョン・ロバーツ氏も同条項に懸念を表明。ISDを推進したいグローバル企業と結び付く政治家の声を抑えて、トランプ政権はISDを否定する方向にかじを切った。そして、NAFTAで米国は「選択制」を提案した。訴訟に際し、国際法廷に委ねるISDを使うか、国内法廷で裁くかは、各国が選択できることにし、米国は国内法廷で裁く(ISDは使わない)と宣言した。カナダとメキシコはそもそもISD削除を求めていたので、仮に米国提案の選択制を受け入れたとしても、ISDは使わない選択をすることは明白である。つまり、米国提案の選択制はNAFTAにおいて実質的にISDを否定することになる。TPP11では、ISDの投資部分を凍結することで、ISDの懸念をかなり抑制しているが、ISD適用範囲を広く解釈すれば、理不尽な訴訟が起こり得る。米国への「忖度(そんたく)」で、TPP11では中途半端に凍結しているが、そもそも、米国がISDを使わないと宣言した以上、TPP11で残す必要はなくなったと言える。この期に及んで、「死に体」のISDに日本だけがいつまで固執するのだろうか。自身でしっかり考えず、米国に追従してはしごを外される哀れな国から早く卒業すべきである。

*3-2:https://www.agrinews.co.jp/p43151.html (日本農業新聞 2018年1月30日) 戦略的外交は茶番劇 食の安全基準 犠牲に 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
 日本にとっての「戦略的外交」とは、「対日年次改革要望書」や米国在日商工会議所の意見書などに着々と応えていく(その窓口が規制改革推進会議)だけである。全部いっぺんに応えてしまうとやることがなくなってしまうので、必死で交渉しているポーズを取りつつ、一つ一つ順に応えていくのが戦略といえば戦略だ。いずれにせよ、際限なく国益が失われていく「あり地獄」「底なし沼」である。その時、食の安全基準は一層の国益差し出しの格好の材料になる。たくさんの要望がリストアップされているから、それに順次応えていくのにちょうどよい。だから、「日本の安全基準が環太平洋連携協定(TPP)などで影響を受けたことも、今後受けることもない」という政府の国会答弁は「偽証」である。例えば、米国の牛には牛海綿状脳症(BSE)の危険性がある。日本はこれまで、BSEの発症例がほとんどない20カ月齢以下の牛に限定して輸入を認めていた。ところが2010年、米国から「TPPに参加したいなら規制を緩めろ」と言われたため、「入場料」として、「自主的に」(=米国の言う通りに)30カ月齢以下に緩めてしまった。米国はBSEの「清浄国」となっているが、BSE検査率は1%未満でほとんど検査されていないだけだ。と畜段階でのしっかりとした特定危険部位の除去も行われていない。24カ月齢のBSE感染牛も出ている。だから、30カ月齢に緩めることはリスクがある。しかし、食品安全委員会は「科学的根拠に基づいて判断した」と言い張り、本当は、米国へのお土産のための結論ありきだった。さらに、茶番劇が繰り返されようとしている。「清浄国」に対しては30カ月齢以下という月齢制限そのものが問題になる。そこで、15年のTPPの大筋合意後は、日本政府は米国からの「清浄国」に対する月齢制限を撤廃しろとの要求を見越して、「今日言われたら今日にでも撤廃できるように準備万端整えてスタンバイしている」状況が食品安全委員会では1年以上前からできている。そして、ついに、今年の1月13日、米国が月齢制限の撤廃を求めていると日本のメディアが報じ、その要求に対して、「日本は科学的観点から慎重に検討する方針だ」と報じた。本当は、とっくの昔に撤廃の準備はできているのに。またしても見え透いた茶番劇で国民が欺かれるのである。

*3-3:http://qbiz.jp/article/127868/1/ (西日本新聞 2018年2月10日) 農産物輸出8073億円、最高 牛肉41%増、イチゴ56%増 17年速報値
 農林水産省は9日、2017年の農林水産物・食品の輸出額(速報値)が前年比7・6%増の8073億円となり、5年連続で過去最高を更新したと発表した。8千億円突破は初めて。和食ブームを受け、牛肉や緑茶などが伸びた。ただ、「19年に1兆円」の政府目標の達成はなお遠い。輸出先は、香港の1877億円がトップ。1115億円の米国、1008億円の中国が続いた。アジアが全体の73・1%を占めた。品目別では、牛肉、緑茶、イチゴ、コメなどが軒並み過去最高になった。鹿児島や宮崎が有力産地の牛肉は41・4%増の192億円。台湾向け輸出が解禁されたことなども後押しした。緑茶は海外の健康志向の高まりを受け、24・3%増の144億円だった。香港や台湾向けが多いイチゴは「あまおう」などが人気で、56・6%増の18億円だった。コメは海外の和食店増加を追い風に18・1%増の32億円。日本酒を含むアルコール飲料も26・8%増だった。みそ、しょうゆなど調味料も伸びた。一方、リンゴは台湾で贈答用に高値が付く大玉が不作で17・7%減だった。農産物全体では8・1%増の4968億円。鹿児島県での養殖が多いブリが好調だった水産物は4・2%増の2750億円。丸太が伸びた林産物は32・3%増の355億円だった。1兆円の目標達成には、新たな市場の開拓のほか、輸出先の各国・地域が福島第1原発事故後に設けた輸入規制の緩和、撤廃などが課題となる。

*3-4:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-677860.html (琉球新報 2018年3月7日) もとぶ牧場、繁殖拡大へ 沖縄ファンドが1.5億投資
 政府系ファンドの地域経済活性化支援機構(REVIC、東京)と地元金融機関などが立ち上げた沖縄活性化ファンドは6日、農業生産法人もとぶ牧場(本部町、坂口泰司社長)への投資決定を発表した。優先株と社債を引き受ける形で1億5千万円を拠出する。もとぶ牧場は競り市場で購入した子牛を育てて県産黒毛和牛のブランド「もとぶ牛」として販売展開しているが、近年の子牛価格の高騰を受け、自社牧場での子牛繁殖から肥育まで一貫経営化を進めていく。坂口社長、REVIC地域活性化支援部の小川淳史ディレクター、もとぶ牧場と業務提携する伊藤ハム(兵庫県)の山崎征二国内生産事業部長、琉球銀行の宜保諭常務が那覇市の琉銀本店で会見した。もとぶ牧場は生後9カ月程度で競りに出される子牛を購入し、月齢30カ月まで肥育した上で年間千頭程度を出荷している。3年前から自社で100頭ほどの子牛の繁殖を始めており、沖縄活性化ファンドからの資金調達を基に母牛の導入や牛舎の整備を進め、繁殖頭数を年間500頭と5倍の規模に拡大する。坂口社長は「5~6年前に35万円だった子牛の値段が倍の70万円まで上がり、経営にも影響が出ている」と繁殖事業を本格化させる背景を説明した。口蹄(こうてい)疫や東日本大震災で国内有数の産地が打撃を受けたことや畜産農家の後継者不足で子牛不足が全国的に高まり、子牛相場の上昇につながっている。伊藤ハムは自社の繁殖事業のノウハウをもとぶ牧場に提供するほか、メインバンクの琉球銀行は発情発見システムなど畜産業の生産管理を効率化するIT導入支援を行う。

*3-5:https://www.agrinews.co.jp/p43453.html (日本農業新聞 2018年3月6日) 「縁辺革命」 牛の島にぎわい新た
 「縁辺(えんぺん)革命」。今、離島や中山間地域など“田舎の田舎”ほど、若者が集まっている現象を指す。持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長が名付けた。若い女性の推移を見ると、過疎指定市町村の4割を超える327市町村で流入が超過している。転入者が転出者を上回る人口の「社会増」を実現した過疎市町村も1割を超える。増加率の上位を占めているのは離島や山間部の小さな町村だ。藤山所長は「若者や女性の活躍する場があり、互いの顔が見える範囲の地域に、若者が向かう。小さな自治体こそ、若者の居場所をつくっている」と分析する。
●8人で300頭超
 五島列島最北端の離島、長崎県佐世保市の宇久島。佐世保港からの高速船は1日1便。人口は2000人、15年間で半減した。高校を卒業すれば誰もが島外へ出ていく。人口減の流れが当たり前だった島に「縁辺革命」が起きている。「20年前だったら、想定すらできないことが起きている。仲間ができてうれしい」。畜産農家の西尾光隆さん(31)が笑顔で語る。8年前に就農した西尾さんは当時、20年ぶりの農家と言われ、た。しかし今、20、30代の牛飼いは島に8人。畜産農家90戸1400頭のうち、8人が飼う牛は300頭を超え2割を占めるほどだ。「最終的に、無人島になるんじゃないかと不安だった。だから少しでも手伝えば、高齢農家が牛を飼い続けることができると思って、草刈りや種付け、できることは何でもやった」と振り返る西尾さん。家畜人工授精師として島を周り、父親と増頭を進めた。そんなふうに頑張っていると、同世代が毎年1人ずつのペースで畜産農家としてUターンしてきた。その一人、繁殖雌牛30頭を飼育する辻直哉さん(28)。県外に就職したが、島のコミュニティーと大きく異なる環境になじめず、3年前に島に戻った。実家の畜産を手伝う中で、獣医や西尾さんら仲間と知り合い、少しずつ経営に参画。今では「センスがある」と獣医師から褒められる。1年1産を上回る繁殖成績を残す。「廃れていくだけの島にはしたくない。同世代が多く、牛で島を盛り上げることがきっとできる」。都会の会社員時代は実感できなかった、役割と手応えを感じる。
●大きな推進力
 総務省が2月に発表した田園回帰の調査でも、人口が少ない地域ほど移住者が増えていることが分かった。北海道豊浦町、高知県大川村、鹿児島県十島村など人口5000人に満たない地域が並ぶ。佐世保市と合併した宇久島の潮流は、数字上で成果としては表れにくい。わずか8人。ただ島にとっては、大きな推進力だ。和牛部会会長の西尾政喜さん(58)は若手農家の台頭で、島が活気づいていると感じる。「最近『若者の立場で考えよう』と言う農家が増えたよ。農家以外から声を掛けられる機会も多く、明るい話題が島に広がってきた」と喜ぶ。島の基幹産業だった養蚕、福原オレンジが廃れた今、西尾さんは「島に残るは牛。若者が帰り、牛の島の将来像が描ける」と見据える。地域に、希望が見えている。
●2015年 実質社会増減率
 持続可能な地域社会総合研究所が、死亡者数を除いた転出入による社会増減率を算出すると、都市部より条件の厳しい小さな自治体で人口の社会増を実現していた。熱心な移住促進策で人口を増やしている。発足して3年目。イベントの参加者は小さな子どもから社会人まで広がりました。これからも、幅広い世代に食や農への関心を持ってもらい、面白さや奥深さを知ってもらえるよう活動していきます。(代表・篠崎智子=新潟大学)

<農林漁業の担い手>
*4-1:https://www.agrinews.co.jp/p43245.html (日本農業新聞 2018年2月11日) 集落営農世代交代 担い手づくり再起動を
 集落営農が世代交代期を迎えている。まとめ役や機械作業をする人が見つからず困っているケースが全国的に見られる。集落営農の組織化や法人化に官民挙げて取り組んで10年。世代交代期を乗り切るため、担い手づくり運動の再起動が必要だ。集落営農は2002年の米政策大綱で「集落型経営体」に位置付けられ、国の政策支援の対象になった。07年の品目横断的経営安定対策の導入に合わせ、農水省や県、JAグループなどの農業団体が一体で育成に取り組んだ経緯がある。それから10年。集落営農数は全国に約1万5000(17年2月現在)に増えた。法人化した集落営農は約4700で全体の3割を占める。農水省は23年までに5万の目標を掲げ、法人化を促進する。集落営農もその対象の一つだ。集落営農が抱える主要な課題は2点ある。設立や運営の中核を担ってきたメンバーが引退時期を迎えたときに次の世代の新たなリーダ―を確保できるか。作業委託する高齢組合員が土地持ち非農家化し、地域農業との関係が薄くなることである。後継者のいない地域では、花や野菜を作るJAの青年部員に何度も頭を下げてオペレーターを引き受けてもらうなど、組織の継続に難儀している実態が各地で少なくない。中山間地域ほど人の手当てが深刻だ。新規の法人を増やすのも重要だが、設立して10年以上経過した集落営農の継続対策も怠ってはならない。“要員不足解散”を防がなければならない。そういう中、注目される動きの一つは集落営農の広域化である。佐賀県白石町の農事組合法人ほくめいは15の集落営農組織が合併して16年に誕生。経営面積は640ヘクタールに上る。合併前は集落単位の集落営農組織が後継者不足で役員が交代できない、オペレーターも成り手がないという問題を抱えていた。広域法人化までは一気にいかないが、集落営農法人同士でオペレーターや大型農機をやりくりして、農繁期の人手不足や機械の効率利用を図るという動きも各地に出てきている。愛知県農業振興協会が提案する「地域まるっと中間管理方式」も興味深い。地域の農地を全ていったん、農地中間管理機構に預け、その地域内に設立した一般社団法人が借り受ける。担い手・自作希望農家のすみ分けを柔軟に行う。農地集積率が高く、一社の設立手続きが容易、地域集積協力金の非課税化などのメリットを期待できる。こうした新たな展開を進める上で重要なのは、地域内の合意形成だ。何のための改革か、組合員が果たすべき役割は何か。こうした点が関係者全体に落ちないと、地域の農地を守るという目的の達成は難しくなる。その意味からいま一度、担い手づくり運動を行政、農業団体一体で再起動し、次の一手に踏み出してはどうか。農地集積にも良い効果を生み出すはずだ。

*4-2:https://www.agrinews.co.jp/p43243.html (日本農業新聞 2018年2月11日) 生鮮食品宅配が過熱 スーパー 続々と参入 異業種と連携強化 多様な需要に対応
 青果や食肉などの食材や総菜など加工品を自宅に届ける宅配商戦が、過熱している。共働き世帯の増加など、利便性を求めるニーズの高まりを受けたものだ。大手スーパーが、異業種と連携して相次ぎ参入。主に首都圏で展開し、スーパーの常設店舗で伸び悩む売り上げを補う狙いがある。有機農産物を扱う宅配業者も主力3社が経営統合し、配送網の効率化を図り対抗する。食の宅配市場で、熾烈(しれつ)な主導権争いが始まっている。消費者の購買行動が変化している。矢野経済研究所によると、食品宅配市場の事業規模は2016年に2兆782億円となり、17年以降も年3%ずつ成長すると見通す。一方、17年の食品スーパーの売上高は10兆2806億円で、前年より0・4%減。青果物や食肉などの高値で減少幅は小さく映るが、中長期的に見ると減少傾向にある。食の宅配事業は、スーパー業界の将来をかけた、新たな戦略ともいえる。大手スーパーのイトーヨーカ堂を展開するセブン&アイ・ホールディングス(HD、東京都千代田区)は17年11月、通販メ業者のアスクルと連携した生鮮宅配「IY(アイワイ)フレッシュ」をスタートさせた。アスクルの物流機能を活用し、イトーヨーカ堂の宅配拠点から生鮮品を届ける。配送時間は1時間単位で細かく使用でき、利用者は40代の働く世代が中心だという。「まとめ買いではなく、簡便性の高い商品や調理キットなどを少しずつ注文する消費者をターゲットにしている」(同HD)。現在は東京都内の2区だけだが、18年度中に23区全体へ拡大する。
●ネット事業展開
 スーパーの西友(東京都北区)を傘下にする米・ウォルマート・ストアーズは1月、ネット通販大手の楽天と業務提携を結び、9月までにネットスーパー事業を展開すると発表した。イオン(千葉市)も、ソフトバンクやヤフーと、近くインターネット通販事業で提携する方向だ。ソフトバンクとヤフーが持つ顧客基盤と、イオンの食品をはじめとする幅広い商品力や物流網を組み合わせる。17年4月に先行して生鮮宅配に参入したアマゾンジャパンが存在感を高める中で、影響力のある買い物サイトの構築を進めていく。
●有機は経営統合
 これまで食品の宅配事業をけん引してきた有機農産物の宅配メーカーは、経営統合に活路を見いだす。最大手のオイシックスドット大地(東京都品川区)は、オイシックスと「大地を守る会」が17年10月に経営統合して誕生した。今年2月には「らでぃっしゅぼーや」を子会社化し、年間売上額は550億円を超える見通しだ。30、40代の子育て世代に強いオイシックス、シニアをターゲット層にする「大地を守る会」、東北から関西まで19の都市部で自社便の配送網を持つ「らでぃっしゅぼーや」と3社の強みを発揮し、販売拡大を図る。3社は連携後も、農産物にこだわる幅広い年齢層をターゲットに支持層の拡大を進める。有機農産物の登録生産者数を従来の2倍に当たる5100人に増強し調達力を高めたことに加え、物流経路を共有し効率を高める。大手スーパーに、有機農産物という付加価値で対抗する戦略だ。

*4-3:https://www.agrinews.co.jp/p43264.html (日本農業新聞 2018年2月13日) 外国人技能実習制度 受け入れ団体52農協 1月末時点「優良」認定は3
 昨年11月に新制度に移行した外国人技能実習制度で、実習生を受け入れる監理団体の許可を受けた農協数は、1月末時点で52に上ることが政府のまとめで分かった。うち、研修生の受け入れ期間や人数を拡大できる「優良」認定を受けたのは3農協。優良認定を得るには、実習生の技能習得の支援や人権保護など、基本的な取り組みの積み重ねが求められる。新制度は実習生の保護などを目的に、実習生の受け入れ農家や監理団体を監督する「外国人技能実習機構」を新設。同機構から農家、監理団体ともに体制や取り組みが「優良」と認定されれば、実習生の受け入れ期間は最長3年から5年に、受け入れ人数の上限は倍にできる。旧制度では農業の監理団体は592団体(2015年度)で、うち、農協は79で、他は事業協同組合など。新制度の開始から1月末までに認定を受けた52農協のうち、優良認定は北海道のJAオホーツクはまなすと熊本県のJA熊本うき、茨城県の茨城中央園芸農協。農協以外の監理団体がどの程度、優良認定を受けたかは示されていない。他産業も含む全体では認定された監理団体は1888で、うち、優良認定は661だった。優良と認定されるには、同機構から120点満点で採点され、6割以上の得点が必要だ。受け入れ農家数に比べ十分な数の常勤役職員がいるかといった業務体制や、実習生が研修修了時に受ける試験の合格率、実習生の日本語学習への支援状況などが評価される他、実習生の失踪など問題が発生すれば減点される。JA熊本うきによると、優良認定を受けるのは決して簡単ではないとし、実習生との丁寧な関係づくりで、失踪を未然に防ぐなどの対応が重要になるとみる。一方、優良認定を得られていない関東のあるJAは、実習生の試験合格率などで得点が伸びなかったという。実習生にはこれまで試験の受験義務はなく、受験率が低かった状況も影響したとみられる。一方、冬場に作業がなく、実習生が1年未満で帰国する形態が定着している産地もあり、「そもそも優良認定を目指さない監理団体があることも想定される」(農水省)状況だ。
●熟知した職員 確保を
 外国人技能実習制度に詳しい日本農業経営大学校の堀口健治校長の話
優良認定を得た監理団体の中に農協系が少ないように見えるが、監理団体の認定は今後も進む見通しであり、数の多少に対する評価は現時点では難しい。実習生が農業現場に円滑に定着するには、農業の実態を十分に理解している監理団体が望ましい。その意味では、農協系の監理団体の役割への期待は大きい。だが、監理団体としての仕事に特化した専門家がいる事業協同組合と比べると、農協の場合、制度を熟知した職員の確保など、工夫が望まれる。(優良認定外の)特定監理団体としてまずは出発して、今後は、優良認定を目指す農協も出てくるのではないか。今後の動向に注目していきたい。

*4-4:http://www.kochinews.co.jp/article/160257/ (高知新聞 2018.2.14) 難民保護】冷たい「鎖国」続けるのか
 不法滞在で入国管理施設に収容された外国人が、条件付きで解放された後、再び収容される事例が増えている。過去5年で約4倍に膨らんでいるという。入国管理当局が取り締まりを強化しているためだ。就労禁止違反などが理由になっている。問題は、再収容者には難民認定への申請者が多いことだ。認定審査は長期化する傾向にある。複数年に及ぶケースもある。生活のためにやむなく働く人が少なくない。取り締まり強化の理由も、納得しがたい。政府は2020年東京五輪に向けた治安対策を挙げる。不法滞在が犯罪の温床になる客観的なデータがないにもかかわらずだ。これでは本当に保護が必要な難民を救済できないばかりか、非人道的だと非難されても仕方がない。難民の保護義務を課した難民条約の精神にも反しないだろうか。日本はこれまで、難民の受け入れに消極的な「難民鎖国」と内外から批判されてきた。難民申請数は年々増加している。16年には前年比約44%増の1万901人が申請したが、実際の認定数はわずか28人だった。過去5年間でも30人を超えた年はない。欧米諸国は毎年、数千人、数万人単位で受け入れている。環境が違うとはいえ、桁が違いすぎる。再収容者の増加も、こうした政府の消極姿勢と無関係ではあるまい。日本はこの先も、冷たい「鎖国」のままでいいのだろうか。入国管理施設は原則、在留資格がなく強制送還の対象となる外国人を一時的に収容している。難民申請をしていたり、母国が身柄の引き取りを拒否したりする場合には収容が長期になる。入管当局は病気や人道上の理由から、拘束を解く「仮放免」にすることがある。就労の禁止や保証金の納付などが条件だが、ハードルが高い。精査する必要がありはしないか。仮放免になっても生活費を確保できなければ暮らしていけない。政府によれば、最初から就労を目的にした難民申請者も増えているという。仮にそうだとしても一律に就労を禁じれば、本当の難民を保護できない恐れがある。難民条約が不法入国を理由に処罰することを禁じていることも忘れてはならない。そもそも合法的に入国したり、準備万端で申請できたりする難民は少ないはずだ。移民や難民の受け入れには消極的な一方で、政府は数年間日本で働く外国人技能実習生の受け入れに力を入れている。本来、途上国の若者らに日本の技能を教え、母国の経済発展に生かしてもらう制度だ。ところが、現実には日本の労働力不足を補う手段になっている。実習生が低賃金や長時間労働を強いられる例も後を絶たない。国際社会に理解が得られない政策だ。政府のこうした姿勢の背景には、国民の関心の低さもあろう。抜本的な論議が求められる。

*4-5:https://www.agrinews.co.jp/p43240.html (日本農業新聞 2018年2月10日) ロボットで処理数増 食肉加工技術発表会
 日本食肉生産技術開発センターは9日、ロボットなど先端装置を使った食肉加工技術を紹介する研究発表会を東京都内で開いた。食肉加工の機械化を進めることで省力化を図り、業界全体で人手不足に対応する。メーカーは、食肉加工の工程にロボットを導入することで、処理能力が高まったことを報告した。食肉加工メーカーのスターゼンミートプロセッサーは昨年から同社の食肉加工工場に、豚モモ肉の骨を自動で取り除く処理ロボットを導入した。ロボットの導入に伴い脱骨作業に携わっていた人員を5人減らすことに成功。また、1時間当たりの処理頭数が約2割増えたと報告した。機械メーカーのマトヤ技研工業は、豚枝肉の残毛を自動で除去するロボットを紹介した。食肉処理施設でと畜・解体された枝肉は、皮剥ぎ工程で残毛が付着してしまうことがあるという。手作業ではなくロボットで処理することで、正確性と生産性を高めることができる。2018年度中に開発予定だ。同センターの関川和孝理事長は、労働力不足や働き方改革が進む中で、「安全・安心で高品質な食肉生産を消費者に提供する必要がある」と強調した。研究発表会ではモノのインターネット(IoT)の活用についても報告があった。全国の食肉業者ら約150人が参加した。

<水産業>
PS(2018年3月24日追加):*5のようなクロマグロはじめマダイ・フグ・コイ・貝類・ノリ・コンブ等々、現在では多くの水産物が養殖されている。このうち魚の場合は、生産コストの半分以上をえさ代が占めるため、安価な飼料を開発すれば輸出可能で、昆虫・ユーグレナ・植物など魚粉以外の飼料を検討するのがよいと考える。

*5:http://qbiz.jp/article/130191/1/ (西日本新聞 2018年3月21日) 鷹島でマグロ「完全養殖」 双日グループ 9月出荷へ、18年は2000尾
 長崎県松浦市の鷹島でクロマグロの養殖事業を手掛ける大手総合商社の双日が、人工的に卵からふ化させる「完全養殖」に参入し、9月ごろ出荷を始める。クロマグロは近年資源量が減少し、天然の稚魚を使う通常の養殖に対していけすの上限などの規制がかけられていることから、水産大手や商社が相次いで完全養殖に参入。双日も市場の動向やコストを見極めて生産量を拡大する方針だ。鷹島での通常の養殖は、双日子会社の「双日ツナファーム鷹島」が2008年に始め、現在年間約1万尾(約400トン)を出荷。長崎県の対馬や五島列島などの養殖場と比較して、海水温が低いことから身が締まっているのが特徴で、特に赤身の人気が高いという。18年は完全養殖のクロマグロ約2千尾の出荷を予定している。今後、通常の養殖を含めて年間最大1万3千尾まで増やす計画。双日によると、完全養殖は通常の養殖よりも成育期間が長めで、生産コストの半分以上を占めるえさ代の抑制が課題だという。クロマグロの完全養殖はすでに、マルハニチロ、極洋、日本水産の水産大手3社のほか、商社の豊田通商などが実施。双日の担当者は「資源の安定供給のために完全養殖は必要だが、消費者の認知度はまだまだ。まずは他社とともに完全養殖の市場拡大を図りたい」としている。

<種子の特許権>
PS(2018年3月25日追加):*6のように、民間企業の参入促進のため、種子の安定供給を都道府県に義務付けてきた種子法を3月末に廃止するそうだが、デュポンパイオニアやサカタのタネなど、意欲的に種子の生産に参入して成功してきた企業は多い。一方で、各地域の気候に適応し、日本人のニーズに合った種子を開発して、高すぎない価格で販売するには民間企業では不十分で、何でも民営化さえすればよいというものではない。従って、種子は農業発展の重要な要素であるため、都道府県が現行の体制を維持することは必要で、国民の税金を投入して開発した優秀な種子の特許権(国民の財産)は、世界でとっておくことが必要だと考える。

*6:https://www.agrinews.co.jp/p43590.html (日本農業新聞 2018年3月21日) 「種子法」廃止受け 都道府県 18年度は体制維持 新ルール作り検討 本紙調べ
 種子の安定供給を都道府県に義務付けてきた主要農作物種子法(種子法)が3月末に廃止される中、2018年度は、全都道府県が種子関連事業をおおむね維持し、安定供給の体制を継続する方針であることが20日、日本農業新聞の調べで分かった。地域に適した品種の維持は行政の管理が不可欠との姿勢。種子生産に行政が責任を持つ新たなルール作りに動く県も出始めた。ただ、同法廃止の狙いは民間の参入促進にあるため、種子を企業が握る危うさは残る。19年度以降も、行政の動向に注視が必要だ。全都道府県に、聞き取り調査した。その結果、18年度は種子法に代わる要綱を作成するなどして現行の体制を維持する方針。その上で、新たな制度や仕組みを設ける動きも出ている。全国一の種もみ産地の富山県は18年度、新規事業で種もみ生産技術拠点の整備に着手する。民間や他県の育成品種の原種を病気のない状態で供給するため、隔離圃場(ほじょう)や検定温室を整備する。埼玉県は18年度から、種子産地の強化と若返りを図る新規事業を始める。他産地との連携や共同乾燥施設の設置といった解決策を探る。若い生産者の掘り起こしや技術継承の方策なども検討して「産地強化計画」を作成する方針だ。米産地の新潟県は、同法に代わり稲などの種子の安定生産と供給体制を維持する条例を作成する。2月に条例案を県議会に提出し、4月1日の施行を目指す。兵庫県も新たな条例の制定を進めており、4月1日の施行を目指す。北海道は18年度に現行の体制を維持しつつ、19年度以降に条例制定を含めて検討する方針だ。都道府県から共通して「優良品種の維持と供給に行政の関与は不可欠」との声が上がった。この他、「地域の気候に適した独自の品種が求められ、育成者の県が主体的に関わることが不可欠」(東北の県)などと、行政が一定の役割を果たす意向が多数を占めた。「なぜ種子法を廃止したのか分からない」などとして、廃止理由に疑念を示す声もあった。同法は1952年の公布以来、米、麦類、大豆の優良な種子の安定供給を都道府県に義務付けてきた。しかし、規制緩和を図る政府は17年、同法が「民間の品種開発意欲を阻害している」として廃止法案を成立させた。農水省は同法廃止について17年11月、都道府県に対して通知を発出。「これまで実施してきた業務を直ちに取りやめることを求めていない」としつつ、種子生産について「民間の参入が進むまでの間、行政の知見を維持し、民間への知見提供を促進すること」とし、民間の参入を促す取り組みを求めている。

<最先端のハウス>
PS(2018/3/26追加):JA全農は、*7のように、生産・販売のノウハウを持つJAさが及び全国屈指の収量を誇る地元篤農家と連携して大規模なハウスを建設し、温度・湿度・CO2濃度などの複合制御技術を導入してキュウリの生育に最適な環境を作り、清掃工場で発生する余熱やCO2を活用して、佐賀県内平均の約2倍となる10アール当たり50トンの目標収量を掲げているそうだ。これは、環境にはプラスで安価に生産性を上げようとしている点が頼もしい。

*7:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/196558 (佐賀新聞 2018/3/24) キュウリ実証施設整備へ 全農、佐賀市に全国3例目、JAさが、篤農家と連携 大規模多収モデル確立
JA全農は、キュウリ栽培の高機能実証施設「ゆめファーム全農」を佐賀市に整備する準備を進めている。生産と販売のノウハウを持つJAさがと、全国屈指の収量を誇る地元の篤農家と連携し、施設の設置から栽培管理・収穫販売までのノウハウを蓄積。農業の担い手減少が課題となる中、大規模・多収のモデルとしてパッケージ化し、全国に普及を目指す。「稼げる農業」の確立を目指した取り組み。県内は施設キュウリの栽培レベルが高いことから計画地に選ばれた。正式決定すれば、栃木県の施設トマト、高知県の施設ナスに続いて全国3例目となる。施設は約1ヘクタールと大規模で、高収量が期待できる高軒高ハウスを建設する。温度や湿度、二酸化炭素(CO2)濃度の複合制御技術を導入してキュウリの生育に最適な環境を作り出し、情報通信技術(ICT)で栽培管理データを蓄積、解析するという。建設場所は佐賀市高木瀬の清掃工場西側で、市は新年度当初予算に約4億3千万円を計上、約2・5ヘクタールを取得、整備する。清掃工場で発生するCO2や余熱を活用し、10アール当たりの目標収量は県内平均の約2倍となる50トンを掲げる。全農やJAさがの担当者らは昨年、先進地のオランダを視察。今月13日には、武雄市にある新規就農者の研修施設「トレーニングファーム」を見学し、高い技術や収量を誇る県内の生産者とも意見交換した。JA全農の担当者は「生産者数が減る中、今の国産の生産量を維持するためにも、生産量の最大化と面積の拡大にこだわっている」と説明。「全農としてキュウリ栽培の能力があるわけではなく、地元の生産者に指導していただく立場になる。全農とJA、生産者が三位一体となり、全国展開できる普及の形態を考えていきたい」と話す。

<食品のサイズ>
PS(2018年3月28日追加):*8のように、一口サイズのフルーツに注目が集まっているそうだが、私は、前から、長野県のリンゴなど日本の果実は一個のサイズが大きすぎると思っていた。これは、ニュージーランド産のリンゴを見た時に意識したことで、その大きさなら切って食べても一度で完食でき、保存の際に生じる色や味の劣化がなくて便利だと思われた。なお、長野産リンゴの味はよいので、サイズの変更は、品種ではなく栽培の仕方を変え、一枝につく実を多くすれば、利益を増やしながら直ちにできる。また、贈答用でも、日本の果実は大きくすることに力を入れすぎていて、一人暮らしや核家族のニーズを調査していないように見える。

*8:https://www.agrinews.co.jp/p43649.html (日本農業新聞 2018年3月28日) ミニ果実 “歓迎”単身世帯 スイーツに“最適” 「切らずに」「丸かじり」
 手軽にフルーツを食べたいという消費者のニーズが高まる中、一口サイズのミニフルーツに注目が集まっている。各産地は、食べやすさや加工のしやすさをアピールし、消費者や製菓店などに売り込む。丸ごとケーキに使えるなど、見た目のインパクトも特徴。食べ切りサイズで無駄がなく、増加する単身世帯や核家族向けの商材としても期待が掛かる。(斯波希)
●有望品種拡大へ 大阪府でイチジク
 イチジクの生産量全国3位を誇る大阪府は、ミニイチジクの産地化に乗り出している。主力品種「桝井ドーフィン」の3分の1の20~40グラムの大きさで、皮ごと食べられる簡便さや加工のしやすさが売りだ。府産のミニイチジクを「宝石フィコ」の統一ブランドでPRする戦略を描く。府内では約41ヘクタールでイチジクが生産され、全国の収穫量の1割ほどを占める。簡便さを求める消費者や、果実を食べる習慣がない消費者向けの販売戦略として、ほとんど栽培されていないミニイチジクに着目した。品種は海外原産の「イスキア・ブラック」と「ネグローネ」が中心。癖がなく食べやすいのが特徴という。病害虫への抵抗性が強く、栽培しやすいメリットもある。生産者らでつくる大阪府果樹振興会や研究機関が連携し、ブドウに続く特産品の柱に育てたい考えだ。同振興会の講習会で紹介するなど、生産拡大を目指している。本格的な流通は2、3年後を見込む。2017年産では、3個入りパック二つをセットにして1000円で試験販売したところ、24セットが完売したという。丸ごと包んだ「イチジク大福」を府内の和菓子メーカーと共同開発するなど、製菓店向けのアピールにも力を入れる。約40アールでミニイチジクを栽培する、羽曳野市のふじいいちじく園の藤井延康さんは「仲間を増やしてブランド化し、高単価につなげたい」と期待する。ミニイチジクは、富山県でも栽培が広がっている。稲作農家が水稲の育苗ハウスを活用し、新たな園芸品目として導入する動きが盛んだ。ケーキなどの素材として、洋菓子店などから引き合いが強いという。
●キウイ、リンゴ、柿
 香川県では、県と香川大学が育成した一口サイズのキウイフルーツ「さぬきキウイっこ」の生産が広がっている。平均40グラムほどで、爪で割って一口ゼリーのように簡単に食べられるのが特徴だ。平均糖度が高く、キウイ特有のひりひり感もない。県によると、栽培面積は7・5ヘクタール(16年度)。「簡便さと、他にはないかわいらしさが受けている」(県産品振興課)と手応えをつかむ。“丸かじり用”としてミニサイズのリンゴをアピールするのは長野県だ。県果樹試験場が、一般的な品種の半分程度、150~200グラムの「シナノピッコロ」と「シナノプッチ」を育成。切らずにそのまま食べ切れるリンゴとして、直売所などで流通する。「贈答用は大きいサイズが好まれるが、少人数の家族が増え、食べ切りサイズが求められている」(栽培部)。岐阜県や新潟県などで生産されている柿「ベビーパーシモン」も、直径約3センチ、20~30グラムほどの一口サイズで、皮をむかずに食べられる。岐阜県では17年度からスーパーでの取り扱いが始まるなど、出荷量が拡大しているという。
●希少性生かし まず業務向け
 果実の流通に詳しい青果物健康推進協会の近藤卓志事務局長は「まずは、希少性や特異性を生かし業務向けで生産を拡大した上で、簡便さを求める消費者向けにアピールする長期的な視点が必要だ」と話す。

<地方の豊かさ>
PS(2018年3月29日追加):*9-1のように、鹿児島県志布志市のJAそお鹿児島ピーマン専門部会は新規就農者育成の先進地として有名だそうだ。しかし、近年は農業法人もできたため、最初は農業法人で給料をもらって働きながら技術を学び資金を貯めて独立する方法もあり、こちらの方が新規就農者にとっては経済的不安がないかもしれない。どちらにしても、稼げる農業を行えることが前提になる。また、*9-2のように、人口減による収入減で小規模な市町村の水道事業の経営が厳しくなるそうだが、こういう地域は、都会のように不潔で不愉快な過度の節水を行う必要はなく、水道の水を飲んだり、新鮮な農水産物を食べたりすることも可能で、暮らしは豊かなのである。さらに、きれいな水が余っている場所なら、ミネラルウオーター・炭酸水・お茶などを作ったり、電気分解して水素燃料を作ったりすれば、水も収入源にできる。

*9-1:https://www.agrinews.co.jp/p43654.html (日本農業新聞 2018年3月28日) [未来へ2]小さな一歩積み重ね
 技術も農地もない都会の若者が次々と就農する産地がある。新規就農者育成の先進地として全国でも有名な鹿児島県志布志市のJAそお鹿児島ピーマン専門部会。部会92人のうち7割が農外からの就農者で、平均年齢は40代。就農し子どもを育て家を建てるIターンを見て、「農業では生活できない」と思い込んでいた地元の後継者が就農するケースも目立つようになった。新規就農の実績を残してきた。だが、それでも、地元の農家やJA、農業公社の担当者は口をそろえる。「若者育成に成功した地では、決してない」と。研修生を呼び込み、国に先駆けて就農支援の仕組みを構築したが、当初は夜逃げ同然に都会に戻ったり、地域住民と衝突したりする若者もいた。地元農家の有野喜代一さん(51)は「失敗をいっぱい経験した。ただ、実績が上がらなくても、ばかみたいに長年若者の受け入れを続けてきた」と振り返る。若者と地元農家が価値観やルールの擦り合わせを「一歩ずつ積み重ねただけだ」と言う。その模索は今でも続く。年間300もの視察を受け入れる同部会。恵まれた日照条件やJA、行政の連携体制など、「特殊事例」と見られることも多い。だが、目に見える好条件だけに、若者が引き寄せられるわけではない。鹿児島市から移住し研修中の安田有佑さん(27)は「移住や就農の条件で挑戦の地を決めたわけではなく、紹介してもらった縁が大きい」と明かす。縁が生まれたのも、地域が危機感を持ち、努力を重ねてきた裏返しでもある。新規就農を分析するJC総研の和泉真里客員研究員は、先進地に対し他の産地やJAは、「あの地域だからできた」と別格扱いし、学ぶ姿勢を持たない場合が多いと感じている。「素人の若者を農家に育てる道のりは、ひたすらに地道で時間がかかる。営農指導員や先輩農家が温かく声を掛ける、小さくても具体的な取り組みをまずはまねすることが、若者育成のポイントだ」と指摘する。地方創生の“トップランナー”とされる島根県海士町。若い移住者を多く受け入れ、高校を再生するなど、数々の取り組みを実践する。群馬県出身で、同町に移住した農家、宮崎雅也さん(36)は、地方創生について、自らの体験を基に、こう感じている。「夢を抱いて入ってくる若い世代と地域を長年守ってきた高齢者たちが連携し、息長い取り組みを積み重ねるしかない」。若者と築く農業・農村の未来には、正解も特効薬もない。長い年月を要する。模索する道のりに、若者が育つ可能性が見えてくる。
<現場からの提言>
・世代間連携を密に
・特効薬はない、息長く
・先進地の経験に学ぶ

*9-2:http://qbiz.jp/article/130444/1/ (西日本新聞 2018年3月26日) 水道事業の維持策検討 人口減少による料金収入減に備え
 総務省は、小規模な市町村を中心に今後、人口減少で料金収入が減り、水道事業の経営が厳しくなるとして対策の検討に乗り出した。有識者研究会が、料金値上げの在り方や広域化推進などサービス維持策を話し合い、10月ごろ報告書をまとめる。水道事業は原則、市町村が経営する。水の需要は、人口減や節水機器の普及で減っており、厚生労働省は、2065年には00年の6割程度になると推計。料金収入は04年度をピークに減少している。一方で高度経済成長期に整備した水道管などが老朽化、改修費用の増加が見込まれる。総務省は、周辺との事業統合といった広域化や民間委託の検討を促してきた。しかし地理的な問題や料金に開きがあることなどが理由で、自治体間の調整が進まないケースがある。研究会は、人口規模に応じて収支を試算し、適正な料金の値上げ幅を検討。事業全体の統合が難しい場合の対策として、情報通信技術(ICT)を活用した一部連携の有効性を探る。民間委託の推進策や国の支援策も検討する。

PS(2018年3月29日追加):*10-1のように、総合商社は優秀な男子大学卒業生を集めながら、他国より高い価格で原油を購入することしかできず(そんなことなら、誰でもできる)、他産業に迷惑をかけてきた。そのため、エネルギー改革に伴い、原油・石炭・ウランなどのエネルギー資源の輸入に携わっていた外国語のできる社員の多くを農林水産物や水素燃料の輸出に回し、しっかりした市場調査の上、高い付加価値で輸出できるようにしたらどうかと考える。なお、*10-2のように、九州7県の工場立地件数が前年比18.8%増で、食料品が最も多く、輸送用機械器具や金属製品も増加したのはよかった。

  
 大学生の人気就職口      九州の工場立地件数        新国富指標(豊かさ)
  *10-1より        *10-2より        2018.3.26西日本新聞

*10-1:http://qbiz.jp/article/130722/1/  (西日本新聞 2018年3月29日) 男子は総合商社が上位3社独占 大学生の就職人気企業ランキング
 就職情報会社ダイヤモンド・ヒューマンリソース(東京)が28日発表した2019年卒業予定の大学生らの就職人気企業ランキングによると、男子文系の首位は三井物産で、上位3社を総合商社が独占した。人気を誇ってきた銀行は、26年ぶりに10位以内に一つも入らなかった。女子の首位は文系が3年連続で東京海上日動火災保険。理系は明治グループだった。女性が長く働きやすい環境づくりが評価されたとみられる。銀行の低迷について、ヒューマンリソース社は「マイナス金利政策に伴う事業環境の厳しさや、人工知能(AI)活用による業務量削減などが影響した」と分析している。

*10-2:http://qbiz.jp/article/130695/1/ (西日本新聞 2018年3月29日) 九州の工場立地 18.8%増の95件 リーマン後2番目の高水準、設備投資が活発化
 九州経済産業局が28日発表した2017年の九州7県の工場立地件数(電気業を除く、速報)は前年比18・8%増の95件だった。工場立地面積は同2・4倍の139・3ヘクタール。いずれも2年ぶりに前年を上回り、リーマン・ショック後の2009年以降、2番目に高い水準となった。全国に占める工場立地件数の割合は9・4%と前年から1・3ポイント、工場立地面積の割合は11・3%と6・1ポイント上昇した。業種別では、食料品が最も多い25件で、前年を上回った。輸送用機械器具(15件)、金属製品(11件)も増加した。県別では、福岡県(34件)、長崎県(12件)、熊本県(13件)、宮崎県(12件)で増加。佐賀県(7件)と鹿児島県(10件)は横ばいだった。大分県(7件)は前年を下回った。設備投資予定額は1134億円で、6年ぶりに1千億円を超えた。予定従業員数は3395人で前年のほぼ2倍となった。経産局は「投資見込みの伸びに歩調を合わせて、工場立地としての用地取得が伸びたのではないか」とみている。

<ふるさと納税と農林漁業>
PS(2018.3.30追加):*11の「ふるさと納税」は、①子どもの教育費や高齢者の医療・介護費を地方が負担しながら、生産年齢人口になると都会に住んで税を支払う人が多いため、地方が財政難に陥る構造を緩和すること ②主権者である納税者が使い道を指定して寄付する文化を育てること などを目的として、私が提案してできたものである。その私は、返礼品の割合を指定するなど、総務省が地方自治体の箸の上げ下ろしにまで口を出すことには反対で、何をどうするかは寄付を受ける地方自治体が決めるのがよいと考える。もちろん、返礼品を地場産品にした方がその地域の産業振興に寄与するが、それには地域の工芸品も含んでよい筈で、それは寄付を受ける自治体と寄付をする納税者が選択することで、総務省が指示すべきことではないように思う。ところで、今年の自治体別「ふるさと納税額」とその順位はどうだったのだろう?


    梅    桜と菜の花     桃        梨      みかん
       (問題:どの順番に、また何月に咲くか、知っていますか?)

*11:http://www.sankei.com/economy/news/180328/ecn1803280003-n1.html (産経新聞 2018.3.28) ふるさと納税の返礼品に地場産品を! 総務省が通知へ
 総務省が「ふるさと納税」の返礼品について、原則として地場産品とするよう地方自治体に求める通知を近く出すことが27日、分かった。納税額を増やすため、他地域の特産品やカタログギフトなどを返礼品にする自治体も出てきている。通知を通じ、生まれ故郷や被災地に対する貢献や、地場産業の振興といったふるさと納税の本来の趣旨を徹底する狙いがある。総務省は昨年4月の通知で、返礼品の調達額を寄付額の「3割以下」とする目安を示したほか、商品券や家電など換金性や資産性の高いものは送らないよう求めた。今年の通知では、初めて返礼品を地場産品とするよう自治体に適切な対応を求める。ただ、姉妹都市の特産品は可能とするなど例外も認める方向だ。背景には、自治体間の返礼品競争が過熱し、「ふるさと納税の趣旨とかけ離れてきている」(政府関係者)という現状がある。具体的には、佐賀県の自治体が北海道夕張市の「夕張メロン」を、長野県の自治体がフランス産高級シャンパンを返礼品にしたり、岐阜県の自治体が「松阪牛」などが選べるカタログギフトを返礼品にしたりするケースがあった。

<農業の後継者と法人化>
PS(2018年3月31日追加):*12-1のように、大分県産の干しシイタケ生産量が高齢化と後継者不足で半数以下に減ったのは、それを使っている私にとっては人事ではないが、農業生産法人にして人を雇用すれば、品質を維持しながら生産を続けられるのではないだろうか。また、*12-2のように、Iターン・脱サラでアスパラを生産して成功している人もいる。なお、佐賀県のアスパラは、このブランドではないが、関東でも販売され、私も使用している。

*12-1:http://qbiz.jp/article/130913/1/ (西日本新聞 2018年3月31日) 干しシイタケ生産者激減に危機感 30年で半数以下、平均73歳 生産量トップの大分県、移住研修者に給付金
 干しシイタケの生産量が全国トップの大分県。一方で、高齢化や後継者不足により、生産者がここ30年近くで半数以下に減っている。危機感を強める大分県は2018年度から後継者育成の新事業を実施する。3月下旬、大分県別府市の天間地区。スギ林の下に、長さ約1・2メートルのクヌギの原木がずらりと並ぶ。原木に生えたシイタケを、小川健(たてき)さん(70)が次々と収穫していた。この道30年以上のベテラン。昨年の「第65回全国乾椎茸(ほししいたけ)品評会」(日本椎茸農業協同組合連合会など主催)で最高賞の農林水産大臣賞を受賞した腕前だが「まだ満足していない」と、品質向上に余念がない。作業は妻康子さん(66)と2人。子ども2人は独立し「後継者がいないのが悩み」という。県によると、県内の干しシイタケ生産者数は1989年が9406だったが、2016年は半分以下の4015に減少。高齢化も進み、平均年齢は16年時点で73歳だ。原木を伐採する作業が重労働で、後継者不足を招いているという。生産量も16年は1144トンで、2302トンだった1989年の半分以下。それでも全国の4割以上のシェアを誇る。技術力も高く、第65回全国乾椎茸品評会で、大分県は19年連続51回目の団体優勝を果たした。県は「質、量ともに日本一の全国ブランドを守り続けたい」と、18年度から後継者育成の新事業を導入する。県外から移住して干しシイタケづくりの研修に取り組む55歳未満の人に、年間50万〜75万円を給付する。給付金の半額は受け入れ市町村が負担、研修先は優良生産者が担う。小川さんも「習いたい人がいれば喜んで教える」と意気込む。「50代でも十分若手」と県の担当者。収入については「生産規模が小さいうちは専業で生計を立てるのは難しいが、作業が一段落する夏場に別の仕事をすれば大丈夫」としている。県林産振興室=097(506)3836。
    ◇      ◇
●中国産に押され生産量大幅減少
 林野庁によると、全国の生シイタケ生産量はここ約30年、年間6万5千〜8万トン前後で推移。これに対し干しシイタケは1986年の約1万4千トンから、2016年は2734トンと大幅に減少した。干しシイタケは水で戻す手間がかかり、消費が減少していることが背景にある。安い中国産に押されている面もある。シイタケ生産は屋外での原木栽培と屋内での菌床栽培がある。大分県によると、干しシイタケは原木栽培が中心。菌床栽培で育つシイタケは、乾燥させると小ぶりになるためという。大分県に続く干しシイタケの生産地は宮崎県(16年に523トン)で、3位は熊本県(205トン)。大分、宮崎、熊本の3県で全国生産量の7割近くを占める。

*12-2:http://qbiz.jp/article/128119/1/ (西日本新聞 2018年2月18日) Iターン就農の成功モデルに 脱サラ後アスパラ生産 佐賀・太良町の安東さん
 佐賀県太良町多良のアスパラガス農家、安東浩太郎さん(38)がIターン就農の成功モデルとして注目されている。“脱サラ”して大阪市から移り住み5年前に栽培を始め、独自の生育方法と販路を確立した。多良岳の清らかな水で育てた商品は「森のアスパラ」としてブランド化し、東京の八百屋や福岡の飲食店に直接出荷している。今春からは研修生を受け入れる予定で培った技術の普及にも力を入れる。
●独自の栽培、経営確立
 林野庁の「水源の森百選」に認定された多良岳のふもと。南向きで日当たりの良い標高約150メートルの山肌にビニールハウス14棟(計約30アール)が並ぶ。「夏は平地より涼しく風通しがいい。高温障害になりにくいこの土地はアスパラ作りに最適です」。1月下旬、安東さんは2月末〜10月末の収穫期に向けてハウス内に堆肥をまいた。北九州市出身。2002年に福岡県内の大学を卒業し、大阪市内で不動産会社などに勤務した。「退職後は地元の九州に戻って、のんびり自給自足の生活をしよう」と考えていた。転機は09年1月だった。同市であった就農支援のイベント「新・農業人フェア」で吉野ケ里町の農業法人に興味を持つ。「農業は担い手の高齢化が進んでいる。若いうちに参入した方がビジネスチャンスがあるはず」。意を決して10年4月に会社を辞めた。
   ■    ■   
 吉野ケ里町の農業法人で2年間、キャベツやコメの生産と経営を学び、妻の美由紀さん(37)の出身地、太良町で営農しようとしたが農地が見つからなかった。農協の契約社員として同町や鹿島市の農家を手伝い、地元との信頼関係を築くうちに知人から荒れたミカン畑を紹介された。安東さんは同町で盛んなミカン栽培での競争を避け、植え替えが不要など初期投資を抑えられるアスパラに懸けることにした。県と太良町の補助金を活用してハウスの整備を進めて13年に農業に就いた。「ベテラン農家との違いを出すため出荷量より味で勝負する」。液肥、固形、化学、有機など複数の肥料を試し、一番アスパラに合う肥料を選んだ。酸性の土壌を中和するため、カルシウム分を含む竹崎カニやカキの殻を肥料に混ぜた。試行錯誤の末に商品化した森のアスパラは鮮やかなエメラルドグリーン色が特徴で筋が少ない。みずみずしくて軟らかいので生でも食べることができる。料理人からは「うま味が強い」「味が濃い」と好評だ。
   ■    ■   
 安東さんは農業団体を介さずに直接出荷している。「肥料の種類や出荷先、収量は全て自分で決める。補助金をうまく使って栽培法を研究すれば農業の独立経営やブランド化は可能」と力を込める。小規模事業者の経営相談に無料で応じる「県よろず支援拠点」の協力でホームページを作成し、独自のロゴもデザインした。Iターン就農のモデルとして県から評価され、本年度の佐賀農業賞「若い農業経営者の部」で最優秀賞に輝いた。今春からは、希望者に無償で農業技術や経営について教える。「農地探しやビジネスを確立するまでに苦労した経験を研修生に伝えたい」と意気込む。研修を予定する熊本県出身の元会社員の冨士川聡さん(39)は「友人やお客さんに農作物で喜んでもらい、感謝の声を聞きながら働くのが夢」と目を輝かせる。安東さんは「太良にはカキやカニ、金星佐賀豚、牛肉と『うまかもん』がたくさんある。大好きなこの町にどんどん移住者が来るようにしたい」と話し、町の活性化にも一役買う。

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2018.3.9~11 働き方改革・雇用・人口減少など (2018年3月12、15、17、19、20、21日に追加あり)
(1)働き方改革・裁量労働制・高度プロフェッショナル制度について

    
   2018.1.22日経新聞     2017.8.24、2018.2.15東京新聞 2018.2.24佐賀新聞

1)裁量労働制について
 「裁量労働制は、i)平均的な方で比べれば ii)一般労働者より勤務時間が短い というデータもある」等と政府は答弁してきたが、*1-1-1のように、i)の「平均」は、統計的に求めた平均値でも最頻値でもなく(この統計学は小学校で勉強済)、企業が勝手に選んだ者だった。また、ii)の根拠となったデータは、裁量労働制で働く労働者と一般労働者への質問内容が異なり、比較できるシロモノではなかった。

 これに対して、日経新聞は、*1-1-2のように、「①政争している場合か」「②一人ひとりの能力を最大限に生かし、生産性を高める多様な働き方ができる土俵づくりを急がなければならない」「③日本の1人当たり労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の中で21番目と欧米諸国に劣後したままだ」「④反対があるから延期するでは、あまりに稚拙」等と反論した。

 確かに、誰かを辞めさせるための政争の具としてのみ追及する党には眉をひそめる点もあるが、重要なのは、本当に裁量労働制の下で働く労働者が一般労働者よりも仕事の進め方や労働時間を自分で工夫でき、モチベーションが上がって生産性を上げられているかどうかである。これについては、経産省・経団連など企業側の要請で裁量労働制を拡大するために、厚労省が故意に結果ありきの非科学的な調査をしたことが明らかで、裁量労働制を拡大すれば本当に労働生産性が上がるわけではない。そして、小学校でも習うような統計を国会議員も中央省庁の役人も理解しておらず、議論のツールにできていない状態こそが、日本の労働生産性の低さを招いているのである(ちなみに、医学・薬学の分野では、当然のこととして正確な調査と統計処理を行うため、私はじめ医学部卒の人なら、30分も話を聞けばいい加減な調査をしたことがわかる)。

 そして、安倍首相は、*1-1-3のように、裁量労働を巡る残業データに異常な数値117件が見つかった問題を受け、衆院予算委員会で聞き取った1万件超の全データを再精査すると表明されたが、これは、データの誤入力や聞き取りミスのような小さなミスではなく、調査そのものが真実を知る目的で科学的に設計されたものではないという大きな問題であるため、やるとすれば科学的に設計した調査をやり直さなければならないのだ。

 そのため、この状況は、加藤厚労大臣が引責辞任すればすむような問題ではなく、法律を変更すればよりよくなるという実証もないのに変更して改悪する事例で、国民の経済活動を政府が邪魔しているものだ。加藤厚労相は東大法学部卒で大蔵省出身の典型的なエリートだが、それでも、いい加減な調査に基づいた効能より害の方が大きそうな法律変更であることを理解してストップをかけることができなかったのだから、首相や担当大臣を変えればすむような問題ではなく、他の人がやっても同じかそれ以下のことしかできないかもしれないという問題なのである。

 これは、東大はじめ、他国の法律を翻訳することしかやってこなかった法学部教育に問題があるからで、多くの官僚を出している東大は、事実を正確に調査・分析してから法律変更する法学部教育に率先して改めるべきである。そして、これは、事実の科学的調査と法律の変更、法律変更後の影響のフォローアップなどを卒論で経験させれば簡単にできるものだ。

 そのため、私は、*1-1-4の佐賀新聞の「裁量労働制を削除して、議論を一からやり直せ」という佐賀新聞の記事が正しいと考える。また、高度プロフェッショナル制度も、本当に仕事の進め方や労働時間を自分で管理できる人だけが対象になっているわけではないため、なくすのがBetterで、現在の労基法のように自ら仕事を管理できる立場の管理職に残業手当がつかなければ十分だろう。

2)高度プロフェッショナル制度について
 高度プロフェッショナル制度の対象も、①研究開発・金融・コンサルタントなどの高度な専門的知識を要する業務に就く年収1075万円以上の労働者で ②労働者本人が希望し ③職務の範囲を明確にする などの要件をみたせば、労働者が労働時間管理の対象から外れる制度だ。

 しかし「高度な専門的知識を要する業務に就く年収1075万円以上の労働者だから、必ず経営者との交渉力があって希望が通る」とは限らない。また、何故、研究開発・金融・コンサルタントを、高度な専門的知識を要する業務と定義したかも不明だ。

 つまり、“高度な専門的知識を要する業務”としたことで納得したような気になっている人が多いが、これら専門職の人も最初から高度なわけではなく、仕事をしながらOn the job trainingを積んで次第に高度になっていくものだ。その典型例は、*1-2-1の医師で、医師国家試験を通ったからといってすぐ高度と言えるわけではなく、多くの事例に遭遇しながら先輩医師の指導を受け、経験を積み重ねることによって、次第に“高度”になっていくものである。

 そのため、私は、年収要件をつけ職業の特定をしたから残業代は0でよいというのは間違いで、*1-2-2のように、生産性を重視する経済界の要請で2015年4月に国会提出された高度プロフェッショナル制度は、働く人の視点に立てば働き方改革法案から削除すべきだと考える。

3)では、何が不十分なのか
 労働基準法は、第2次産業の労働者を主な対象として昭和22年に制定された法律で、当時はベルトコンベアーで運ばれてくる部品を組み立てるなど労働時間と成果が一致する働き方をしている人が多く、状況に合っていた。しかし、そうでない労働者が増えた現在では、能力評価の視点も加わり、労働時間の長さではなく成果で労働者の待遇を決めるニーズが増えたということに、私も賛成だ(https://bengoshihoken-mikata.jp/archives/1568 参照)。

 しかし、成果によって労働者の待遇を決めるために必要なことは、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度のような残業代を0にする法律ではなく、公正に実績を評価して賃金や昇進に反映させる仕組みだ。しかし、日本人は、自ら経験のない人が多いせいか、上から下まで公正な実績評価を苦手とする場合が多く、(3)3)で書くとおり、うまく機能しないのである。
 
(2)人口減少と労働力


     世界の人口       日本の人口推移   老齢年金の額  働きたい高齢者

 「少子化の影響により、産業界では現役世代の人口減少が既に深刻な労働力不足をもたらしている」「対処法としては、①ITなどによる省力化 ②国内の潜在労働力の活用 ③外国からの移入 の3点が挙げられる」と、*2-1で、西日本新聞が記載している。

 しかし、これまでは、生産年齢人口の男性のポストを増やすために、分けない方がよい職務を細切れに分け、女性や高齢者を何とか辞めさせようとし、外国人に門を閉ざしてきたのだ。そのため、まず、65歳定年制を無くして働きたい人は働けるようにすれば、支える側から支えられる側に移る人が減るとともに、健康寿命が延びて医療費・介護費の増加を抑制できる。

 また、細かすぎる職務の区割りを適切にして、もう少し広い視野で仕事ができるようにすべきであるとともに、これまで女性は働かない方がよいかのように言われ、専業主婦への不可逆的移動圧力が社会的にあったが、働きたい女性が気持ちよく働ける社会環境を作れば、労働力不足の解消に確実に役立つだろう。

 さらに、現在は、外国人労働者なしでは日本社会は回らなくなったと言われるほどだが、地球全体は人口が増えすぎて困っている状況であるため、日本は入国した外国人労働者を正規の労働者と認めて労働基準法を適用すべきだ。そして、高齢者・女性・外国人労働者などの多様な人材が活躍している方が、それらの人々のニーズを知ってビジネスに繋げやすいのである。

 なお、*2-2のように、九州生産性本部は、「2017年度 人事部門の抱える課題とその取り組みの実態調査」の結果、「企業や団体が直面している課題は優秀な人材の確保・定着」「人手不足が深刻」と回答した割合がどちらも70%前後あったことを明らかにした。その影響は、「技術継承ができない(55.8%)」「商品・サービスの質の低下(29.6%)」「失注の増加(22.6%)」などだそうだ。

(3)これまで労働市場から締め出していた潜在労働力の活用
1)高齢者の雇用
 政府は、*3-1のように、高齢者施策の指針となる高齢社会対策大綱を閣議決定した。その内容は、65歳以上を一律に高齢者とみることをやめ、公的年金の受給開始時期を70歳超も選択できるようにし、高齢者の就労を促すことを狙って、年齢にかかわらず柔軟に働ける環境を整備することだそうだ。

 しかし、65歳を過ぎてから新規雇用・再雇用される高齢者の70%がパートなどの非正規で、正規は女性19%、男性35%しかいない。これでは、高齢者が安心して気持ちよく働ける状態からは程遠く、それさえ改善すれば働いた方が年金を受給するよりも高額の所得を得られるため、高齢者も文句はないだろう。それより、「高齢者=不健康」「高齢者=ボランティア活動で満足すべき」などと決めつけるのは、年齢による差別である。そして、社会貢献する必要がある人に年齢制限はなく、慣れた仕事を通した社会貢献が最も強力である。

 また、九州経済調査協会は、*3-2のように、九州のニュータウンの調査を行い、2015年の高齢化率(65歳以上)は20.8%で、九州全体の高齢化率28.0%は下回ったが、30%を超えるニュータウンも少なくなく、再生に向けた支援や取り組みが必要だとした。古い「ニュータウン」は便利な場所にあり、似たような世代の人が購入しているため、保育・教育・介護などのニーズが一斉に変化するのが特徴だ。しかし、訪問診療・訪問看護・訪問介護は、同じニーズの人が集まった場所の方が効率的にできるため、便利な場所にあるニュータウンは、容積率の制限を緩和して高さを増し、従来の住民は無料で新築に住み替えることができる形で建て替えて、新たな住民も募集してはどうかと、私は考える。

2)女性の雇用


 2018.3.7 2018.2.28 2017.12.25  65歳以上の介護保険料  大学別平均年収
    日経新聞      東京新聞

 世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数について、*4-1のように、日本弁護士連合会会長が「①日本は、調査対象144カ国中114位と前年より順位を落とした」「②日本は、健康1位、教育74位という女性の現状よりも、経済114位、政治参画123位など女性の地位で順位が低い」「③特に国会議員の男女比は129位、閣僚の男女比は88位と大幅に低いが、女性の政治参加は、あらゆる分野における女性の地位向上の必須条件である」「④経済は若干改善したものの、給与格差、管理職や専門職での男女比が100位以下と低い」「⑤女性活躍推進法の完全施行で女性活躍は大きなうねりになった」等の談話を公表している。

 このうち①②③④については、他国は本気で努力しているのに、日本は「形だけ」や「やっているふり」をしている地域・職種が多いため、次第に置いて行かれたものである。また、⑤については、(私が資料を付けて手紙で頼んだ)安倍首相はじめ何人かの国会議員の力が大きい。

 さらに、*4-2のように、政府が上場企業に女性取締役の起用を促すため、改定予定のコーポレートガバナンス・コードで取締役会に女性がいない企業は投資家に理由を説明するよう求めたのはよいことだが、こうすると、*4-3のように、候補者が少ない(又は、いない)という言い訳が必ず出てくる。

 しかし、最初の男女雇用機会均等法施行は1985年で、男女の雇用機会均等を努力義務から義務に変更した改正男女雇用機会均等法施行は1999年であるため、現在も女性取締役候補者が少ないと言う企業は、最初の14年間は女性を育てる努力をせず、後の19年間は脱法行為をしており、その間、労働基準監督署もそれを見て見ぬふりしていたということになる。

 なお、女性に取締役となる資質がないわけでないことは、他国との女性取締役比率の比較を見れば明らかで、日本では、能力ある女性もさまざまな社会的圧力や社会環境によって昇進を妨げられたり、離職したりしたのだということを、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数は物語っているのである。

 しかし、女性が取締役となる資質を有するには、仕事を継続して男性と同レベルの知識や経験を有していなければならず、その妨げになっているのは、*4-6のような保育所・学童保育施設の不備、*4-4のような介護負担による離職などだ。つまり、女性に家事負担を押し付け、その家事負担を支えるインフラは心もとないわけである。

 にもかかわらず、*4-5のように、「40歳以上からしか介護保険料を徴収しない」「高齢者の介護保険料を上げる」「介護サービスを減らす」などと言うのは、自分は介護を担当しないと考えている男性の視点であり、まさに国会議員や閣僚に女性が少なく、女性のニーズを政治に織り込めていない例になっている。

3)成果主義(=能力主義)の採用について
 それでは、0歳から保育所に預けられた子どもの発育は、祖父母・父母・叔父・叔母などを含む家族が見ていた場合と比べてよいか否かについては、(私は、3歳児神話を信じているわけではないが)1人の子どもを複数の家族が暖かいまなざしで見守っている場合と複数の0歳児を保育士が仕事で見守っている場合では、その子の注目のされ方・愛情の与えられ方・手のかけられ方は違うと考える。

 その違いが子どもに与える影響は、正確な調査をしなければわからないが、やり方によっては、家族ではできないプロの教育を保育所・幼稚園・児童館などはできる可能性もあるため、子どもにとってどれが一番よいかは、場合によって異なるだろう。

 そのような中、女性は出産や夫の転勤を機に離職や転職を迫られることが多いので、*4-7のように、勤務年数ではなく公正な成果の測定による「成果型(=実績主義or能力主義)」で給料を払ってもらわなければ大損なのである。一方、男性は、1つの会社で勤め上げることが可能な人が多いため、年齢が高くなるほど年功序列型が得なわけだが、それができるなら女性も年功序列の方が楽でよいに違いない。

 しかし、公正に成果を測定して「成果型(=実績主義or能力主義)」で給料を支払う仕組みこそが、労働者を年齢・性別・学歴・国籍などの属性で決めつけずに、高齢者・女性・外国人が気持ちよく活躍できる社会を作るための必要条件なのである。なお、転勤が多い人は、いつも慣れない仕事をしているため、本当は労働生産性が低いと思われる。

(4)外国人労働者の雇用
 厚労省は、2018年1月26日に、*5-1のように、「2017年10月末時点の外国人労働者数が127万8,670人で、日本の雇用者総数の約2%を占める水準だった」と発表した。国籍は、中国が全体の29.1%、ベトナムが18.8%、フィリピンが11.5%で、立場は技能実習生と留学生が多く、専門的・技術的分野もいたそうだ。

 日本の外国人労働者の受入体制は遅れており、政府は単純労働者の受け入れを認めていないが、私は、企業・農協・漁協・森林組合・人材派遣会社等を通して、雇用のある単純労働者を受け入れれば、海外に出てしまった第一次・第二次産業を地方で再生することも可能だと考える。

 そのような中、政府は、*5-2のように、国家戦略特区に指定した新潟市、愛知県、京都府で外国人の農業就労を解禁する方針を固めたそうだが、「①国家戦略特区のみに限定」「②1年以上の農業実務経験が必要」「③農業に関する専門知識や技術を持つことも条件」「④受け入れる人材は、農作業に必要な日本語を話せる外国人」「⑤受入期間3年以内」などの規制をするそうで、本当に受け入れる姿勢とは思えない。また、独立して農業をやるわけではなく、企業・農協・農業生産法人などの従業員として農業やその関連産業に従事するのであれば、この①~⑤は、双方のニーズに合わない規制だ。

 ただ、合計特殊出生率が2016年で1.44人の日本人の中に同出生率が3~6人の異民族が移住してくると、次世代は2~4倍の割合になる(例えば、1世代目が10%なら2世代目は20~40%になる)。これは米国で実際に起こっており、ドイツのメルケル首相も難しい立場に立たされている事象であるため、移住総数や出生率には注意しなければならないだろう。

<働き方“改革”・裁量労働制・高度プロフェッショナル制度>
*1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13368806.html (朝日新聞社説 2018年2月21日) 裁量労働制 政府の説明は通らない
 もともと比べられないデータを比べ、国会で説明したのはまずかった。しかし政策の中身には影響がないから、法案は予定通り、近く国会に出す。安倍首相の国会答弁とその撤回を巡って論戦が続く裁量労働制の適用拡大について、政府の姿勢をまとめれば、こうなる。こんな説明は通らない。野党が求める通り、政策論議の基礎となるしっかりしたデータをそろえてから議論するのが筋だ。問題となっているのは、あらかじめ定めた時間を働いたとみなす裁量労働の人と、一般の労働者の1日の労働時間を比べたデータだ。「裁量労働制の拡大は長時間労働を助長しかねない」と懸念する野党に対し、首相は1月末の国会答弁でこのデータに基づき「平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」と反論した。しかし、裁量労働の人と一般労働者では質問内容が異なり、両者は比較できないものだった。厚生労働省によると、調査の担当者とは別の職員が15年に野党への説明資料として作り、国会審議でも使われてきた。あくまでミスだったという。だが、こんな重要な資料を大臣に報告もせず職員が勝手に作るとは、にわかに信じがたい。誰の指示で、どんな意図で作られたのか。徹底的に解明することが不可欠だ。問題となった比較データそのものは、裁量労働制拡大を検討した厚労省の労働政策審議会には示されていない。従って法改正を進めることに問題はない。政府はそう強調する。しかし政府はこのデータを、長時間労働への懸念に反論する支えとしてきた。誤った説明を繰り返し、賛否が分かれる論点の議論を尽くさずにきたこと自体が、大きな問題である。疑問に答える先頭に立つべきは、行政の責任者である首相だ。裁量労働を広げても心配ないと言わんばかりだった基本認識が問われる。ところが首相は「厚労省から上がってきた答弁(案)にデータがあったから、紹介した」「すべて私が詳細を把握しているわけではない」と、ひとごとのようだ。データ比較は不適切だと厚労省が認識したのは、最初の首相答弁から4日後の今月2日。7日には加藤厚労相に報告されたのに、首相が答弁を撤回したのは14日だった。2週間近くも問題が放置されたことになる。政府の対応はあまりに鈍く、国会軽視もはなはだしい。こんな状況で、法案を国会で審議するわけにはいかない。政府に再考を求める。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180222&ng=DGKKZO27219470R20C18A2EA2000 (日経新聞 2018年2月22日) 政争している場合か
 なぜこうも時間ばかりが費やされるのだろうか。政府は野党の反発を踏まえて働き方改革関連法案を修正し、裁量労働制の拡大など大半の制度の施行を1年遅らせる検討に入った。日本は人口減で働き手が減る。人工知能(AI)の登場で従来通りの働き方は通用しなくなる。一人ひとりの能力を最大限に生かし、生産性を高める多様な働き方ができる土俵づくりを急がなければならない。働き方改革を政争の具にしている場合ではない。日本生産性本部によると、日本の1人当たり労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の中で21番目と欧米諸国に劣後したままだ。そんな状況にもかかわらず、裁量労働制の拡大も脱時間給制度導入も3年前の国会で提案されながら、審議もされずにずるずると今に至っている。野党などの「かえって長時間労働を助長する」といった批判が強かったためだ。そのような声には長時間労働を防ぎ、労働者の健康を守る仕組みづくりで対応するのが筋。「反対があるから延期する」では、あまりに稚拙ではないだろうか。仕事の進め方や労働時間を自分で工夫し、モチベーションを上げ、生産性を上げられる人は少なくないはずだ。そういう人たちには制度面で後押しし、日本の成長につなげる必要がある。マイナス面を是正し、プラス面を生かす議論こそが求められている。働き方改革の法案には長時間労働の是正や同一労働同一賃金なども盛り込まれている。「多くを詰め込んだ一つの法案にまとめるのは乱暴」との批判もあるが、世界的に進む大きな環境変化に、大きな対応の素地をつくっておくのは間違いではない。すべての世代が性別に関係なく、生き生き働ける環境は欠かせない。改革に「待った」をかけ続けるだけでは何も進まない。

*1-1-3:https://mainichi.jp/articles/20180223/k00/00m/010/124000c (毎日新聞 2018年2月22日 ) 裁量労働制:安倍首相「全データ1万件超を再精査」
衆院予算委で表明 加藤厚労相の引責辞任を否定
 安倍晋三首相は22日の衆院予算委員会の集中審議で、裁量労働を巡る残業データに異常な数値117件が見つかった問題を受け、個々の事業場から聞き取った1万件超の全データを再精査すると表明した。加藤勝信厚生労働相の引責辞任は否定し、裁量労働制の拡大を含む働き方改革関連法案を今国会へ提出する方針も変えないとした。一方で加藤氏は、法案の内容を「妥当」と結論づけた厚労省の労働政策審議会(労政審)で、一般労働と裁量労働の労働時間を比べた議論はしていなかったと明らかにした。「長時間労働が問題だという認識は、(労政審の)各委員にあった」と釈明したが、裁量労働制の拡大に反対する野党は「根拠のない法案だ」と撤回を要求。政府が月内を予定した法案の提出は3月以降にずれ込む見通しだ。首相は予算委で、異常なデータについて「改めておわびする」と陳謝。データの基になった調査票が厚労省の倉庫から発見されたことを受け、「調査票と(それを基に)入力したデータを突き合わせ、精査しなければいけない」と述べた。再精査の期限は「1万件以上あり、いつまでにとは言えない」とした。加藤氏は調査票の現物を国会へ提出する考えを示した。問題になった「2013年度労働時間等総合実態調査」は、全国の1万1575事業場から労働基準監督官が聞き取りなどを実施。厚労省は21日に異常な数値が117件(87事業場)見つかったと発表した。野党は働き方改革法案が「間違ったデータに基づいていた」とし、労政審で議論をやり直すよう要求。だが加藤氏は「(異常があったのは)主たるデータではない。全体として結論は変える必要がない」と拒否した。 予算委では与党議員からも、「(首相が答弁を撤回した)性格の異なるデータ比較は極めて不適切だ。猛省を促す」(公明・佐藤茂樹氏)と政府の対応に批判が相次いだ。首相は法案に盛り込む裁量労働制の拡大に関し、(1)労使の合意や労働者本人の同意が前提(2)みなし労働時間と実態がかけ離れた場合は、適切に指導する(3)対象を限定し、営業職全体に広がるという懸念を払拭(ふっしょく)する--などとして理解を求めた。

*1-1-4:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/187727 (佐賀新聞 2018年3月2日) 裁量労働制の削除、議論を一からやり直せ
 政府が今国会の最重要法案と位置付ける働き方改革関連法案を巡り、安倍晋三首相は「不適切データ」の発覚によって批判が噴出した裁量労働制の拡大を削除すると正式に表明した。骨格部分の切り離しは政権への大きな打撃となるが、世論の反発が強まれば、9月の自民党総裁選での連続3選に影響すると判断したとの見方も出ている。裁量制拡大は罰則付きの残業時間規制、非正規労働者の処遇改善に向けた同一労働同一賃金、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)と並ぶ4本柱の一つ。政府は残り三つの柱は維持して今国会に法案を出し、成立を目指す方針を変えていない。だが裁量制の断念で法案に対する不信や不安は拭いがたいものになった。もともと8本の法案を一本化し、労働環境の改善に資する規制の強化とともに緩和も実現させようというやり方に野党や労働組合は強く反対していた。さらに規制強化について、経済界の要望から中小企業の残業規制を1年延期する修正案が用意されるなど改革の後退に不満が募っている。残業規制が施行後5年間猶予される医師や建設業労働者らの懸念も根強い。裁量制を除外してしまえば、あとは予定通りにというわけにはいかない。規制強化と緩和の切り離しも含め、議論を一からやり直すべきだ。実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間に基づいて賃金を支払う裁量労働制の対象業務拡大を巡っては野党が「長時間労働を助長し、過労死を増やしかねない」と批判。安倍首相は1月末に厚生労働省の裁量労働データを持ち出して「裁量労働制で働く人の労働時間は一般労働者より短いというデータもある」と反論した。ところが野党の追及で、一般労働者に「1カ月で最も長く働いた日の残業時間」を聞き、裁量制で働く人には単に1日の労働時間を尋ねるという不適切な調査手法が明らかになり、首相は答弁を撤回。その後も「異常値」が次々に発覚した。政府が盛んに強調した裁量制の労働時間縮減効果を支える根拠が崩れたのだから、今回の削除は当然だ。ただ問題はまだまだある。まず野党が「残業代ゼロ法案」と批判する高プロの導入。高収入の金融ディーラーや研究開発職などは時間外労働をしても割増賃金をもらえなくなるが、どれくらいの人に影響が及ぶのか、はっきりしない。サービス残業の実態についても厚労省は調査していない。さらに働く人のためになるはずの残業規制では、中小企業に限って適用を1年延期する修正案が先に厚労省から自民党に提示されている。やはり中小の同一労働同一賃金や残業代割増率引き上げも遅らせる。「人手不足に残業規制が重なると、労働力が確保できなくなる」との経済界の訴えが反映された。もう一つ忘れてはならないのは、医師や建設業労働者は残業規制の適用が施行後5年間猶予されることだ。厚労省の調査でも医師は長時間労働を余儀なくされ、建設業については2020年東京五輪・パラリンピックに向け労働環境が厳しくなることが予想される。どうすれば、過重労働や過労死をなくせるか、本当に働く人のためになるのかという根本に立ち返り、制度設計について議論を尽くすべきだ。

*1-2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201802/CK2018022402000152.html (東京新聞 2018年2月24日) 医師の長時間労働 特定機能病院7割に勧告
 大規模病院で違法残業や残業代の未払いが相次ぎ発覚している問題で、高度医療を担う全国八十五の特定機能病院のうち、七割超の六十四病院で労働基準法違反があったとして労働基準監督署が是正勧告し、少なくとも二十八病院に複数回の勧告をしていたことが二十三日、明らかになった。共同通信が二〇一三~一七年の関係資料を入手した。藤田保健衛生大病院(愛知県)など五病院に関しては勧告が四回繰り返され、労使協定(三六協定)の未締結や労基署への無届けを指摘された病院も六病院あった。勤務医らの長時間労働の根深さが裏付けられ、医師の働き方改革の議論に影響がありそうだ。勧告を受けた病院や運営法人の中には、三六協定の上限時間を引き上げることで違反状態を解消しようとする病院もあった。がん研究会有明病院(東京都)を運営するがん研究会は、三六協定に基づく医師の残業上限(月八十時間)を超える残業をさせたなどとして一六年十二月に勧告を受け、「過労死ライン」とされる百時間を大幅に上回る百五十五時間を上限とする協定を結び直していた。四回の勧告があったのは藤田保健衛生大、奈良県立医大、山口大、愛媛大、長崎大の各病院。長崎大病院は、時間外労働に関する労使協定の上限時間(月八十時間)を超える月九十五時間の残業をさせたなどとして一三年三月に是正勧告を受け、一七年六月までほぼ毎年、違法残業か割増賃金の未払いで勧告を受けた。未払い分は既に支払ったという。藤田保健衛生大のほか、千葉大、日本医大(東京都)、横浜市立大、京都府立医大の各病院と静岡県立静岡がんセンターは、医師らとの間に三六協定を結んでいなかったり労基署に届け出ていなかったりしたにもかかわらず残業させたとして勧告を受けた。いずれも現在は協定を結び、届け出もしているとしている。医師の長時間労働は、診療の求めを原則拒めないと医師法が規定する「応召義務」も一因とされ、厚生労働省の検討会が在り方について議論。患者への説明など一部の業務を他の職種に任せるタスク・シフティング(業務移管)の推進を柱とした緊急対策をまとめた。
◆是正勧告を受けた関東の21特定機能病院
【東京】
杏林大学医学部付属病院
慶応義塾大学病院
がん研究会有明病院
昭和大学病院
帝京大学医学部付属病院
東京医科歯科大学医学部付属病院
東京医科大学病院
東京慈恵会医科大学付属病院
東京大学医学部付属病院
東邦大学医療センター大森病院
国立国際医療研究センター病院
日本医科大学付属病院
日本大学医学部付属板橋病院
【神奈川】
北里大学病院
横浜市立大学付属病院
聖マリアンナ医科大学病院
東海大学医学部付属病院
【千葉】
千葉大学医学部付属病院
国立がん研究センター東病院
【栃木】
独協医科大学病院
【茨城】
筑波大学付属病院

*1-2-2:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180302/KT180301ETI090007000.php (信濃毎日新聞 2018年3月2日) 働き方改革 高プロ創設も切り離せ
 安倍晋三首相が今国会に提出予定の働き方改革関連法案から、裁量労働制の対象拡大の部分を切り離すことを決めた。実際の労働時間に関係なく、あらかじめ決めた時間を働いたとみなし、賃金を支払う制度である。労働時間に応じた残業代を支払う必要がないため、長時間労働を招く懸念が付きまとう。政府は裁量制で働く人たちの労働時間や業務量の変化などを調査せずに、対象拡大を法案に盛り込もうとした。影響が不明のまま審議することはできない。法案作成に使った厚生労働省の調査も、調査目的が違う上、大量の異常値が見つかった。法案から切り離すのは当然だ。安倍首相は裁量制の実態調査を実施する方針を示している。慎重かつ厳密に行わなければならない。厚労省調査のデータ異常の原因を突き詰め、手法を改善しなければ信頼性は保てない。調査結果だけでなく、すべてのデータも最初から公表するべきである。関連法案には容認できない点がまだ残る。最大の問題は「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」創設である。労働基準法上、労働時間の上限は週40時間、1日8時間とされ、超えた場合は時間外労働として残業代を支払う必要がある。残業代には働かせすぎた会社に対するペナルティーの意味がある。高プロは、収入1075万円以上で「高度な専門的知識を必要とし、労働時間と成果の関連が高くない」仕事の人を、この規制から外す。安倍首相は「柔軟な働き方を可能にする」と述べている。果たしてそうだろうか。どんな長時間労働も労働者の判断として扱われ、残業代はない。企業の刑事責任が問われる範囲は狭くなる。会社から過大な成果や仕事を求められる心配もある。法案に設けられている健康確保措置も十分ではなく、過重労働に歯止めがかからないだろう。経営者には年収要件の引き下げを求める声もある。導入後、対象が拡大していく懸念は拭えない。高プロ創設は、生産性を重視する経済界の要請で2015年4月に国会提出された。過労死を増やすとして野党が反対し、審議入りが見送られてきた経緯がある。単独では難しいからといって、労働団体が要望してきた残業規制などとセットにして成立を図るのは認められない。安倍首相がいう「働く人の視点に立つ働き方改革」が真実なら、法案から削除するべきである。

<人口減少と労働力>
*2-1:https://mainichi.jp/articles/20180109/ddm/005/070/038000c (毎日新聞社説 2018年1月9日) 論始め2018 人口減少と労働力 従来の枠組みを超えよう
 2017年に生まれた子どもは推計94万人で、過去最少となった。死亡数から出生数を引いた「自然減」は40万人を超える。これはまだ序の口で、25年には64万人、40年は89万人、60年には94万人が1年間に減っていく。人口の少ない県や政令市が毎年一つずつ消えていくようなものだ。産業界では現役世代の人口減少がすでに深刻な労働力不足をもたらしている。20年には416万人が不足するとの試算もある。従来の枠組みを超えた取り組みが必要だ。労働力不足への対処法としては、(1)ITなどによる省力化(2)国内の潜在労働力の活用(3)外国からの移入--の3点が挙げられる。ITを使った事務の省力化は医療や介護の現場でも少しずつ進んでいる。膨大な情報を瞬時に処理できる人工知能(AI)や、力仕事を人に代わって行うロボットも期待される。しかし、AIやロボットでは置き換えることが難しい仕事も多い。
●「65歳定年」の見直しを
 現在は働いていない高齢者や専業主婦は貴重な潜在労働力だ。各種統計で使われている「生産年齢人口」(15~64歳)は、50年には約2500万人も減るとされている。しかし、「生産年齢」と言っても、現在は10~20代前半で働いている人は少ない。むしろ65歳を過ぎても働いている人の方が多い。今後も65歳以上の人口は増えていく。日本人の健康寿命は延びており、65歳で定年とする制度や慣行の見直しが必要ではないか。元気で働く意欲のある高齢者、高学歴で専門職のキャリアがありながら育児や介護のため離職している女性などが働けるようになれば、労働力不足の解消に大きく貢献するだろう。自宅や近くのオフィスで働くテレワークを導入する企業も増えている。さまざまな事情で通勤が難しい人の活用も進めていくべきだ。問題は外国人労働者である。一昨年、日本で働く外国人は初めて100万人を超えて108万人となった。特に多いのがアジア諸国からの技能実習生や就労目的の留学生だ。技能実習生は約21万1000人、留学生は約20万9000人で、それぞれ前年より25%も増えた。都市部のコンビニ店ではアジア系留学生の働く姿がよく見られる。彼らの存在なしでは日本の社会は回らなくなったと思えるほどだ。技能実習制度は「開発途上国への技能移転」を名目に1993年に始まった。小さな繊維関係の会社や農業・漁業などで働く人が多い。一部を除けば、日本人がやりたがらない過重労働や危険な仕事を担っており、労働者としての権利保障の枠外に置かれているのが実態だ。実習生はブローカーに多額の仲介料や保証金を取られる上、日本に滞在できるのは原則3年。決められた会社でしか働けないため、低賃金で劣悪な職場環境に不満があっても転職ができない。
●矛盾多い外国人労働者
 こうした技能実習制度は国内外から強い批判を浴びてきた。政府は受け入れ期間の3年から5年への延長、実習生からの保証金や違約金の徴収禁止などに取り組んでいる。17年には「外国人技能実習機構」を新設し、実習計画のチェックを厳しくすることにした。それでも政府の基本姿勢は、日本への定住は認めず、安価な労働力として活用する、という枠内にとどまっている。生活習慣や宗教・文化の異なる集団が大量に国内に流入し、定住することで生じる摩擦を警戒する意見は根強い。労働力不足を補うために拙速な政策変更を行えば混乱が生じることにもなるだろう。ただ、現行の技能実習や留学の制度は、本来の目的とかけ離れている。働き手不足を補ってくれる貴重な戦力なのに、制度の隙間(すきま)で使い捨てにしているのも同然ではないか。少なくとも、労働者として認められる最低賃金や労働時間のルールを実習生らにも適用すべきである。最近では中国沿岸部の上海など、日本より賃金が高い都市も出てきた。韓国やタイで働くベトナムやミャンマーの労働者も増えている。このままでは日本を訪れる外国人労働者はいなくなるのではないか。日本の社会が人口減で縮小し、活気を失わないためには、これまでの発想を変えるべきだ。高齢者や女性、外国人労働者など多様な人材が活躍できる社会を目指したい。

*2-2:http://qbiz.jp/article/129128/1/ (西日本新聞 2018年3月3日) 7割が人手不足「深刻」 九州生産性本部調査 技術継承に懸念
 九州生産性本部(会長=田中優次西部ガス会長)は2日、2017年度「人事部門の抱える課題とその取り組みの実態調査」の結果を発表した。企業や団体が直面している課題として最も多かったのは「優秀な人材の確保・定着」の69・1%で、人手不足について「深刻化している」「やや深刻化している」と回答した割合も70・7%に上った。調査は昨年11〜12月、九州7県の企業・団体を対象に実施し、328件の回答を得た。人手不足が「深刻化」「やや深刻化」と答えた企業・団体に、その影響を尋ねると「技術継承ができない」(55・8%)が最も多く、「商品・サービスの質の低下」(29・6%)▽受注に失敗するなど「失注の増加」(22・6%)▽「利益の減少」(19・9%)−が続いた。18年春新卒の採用活動で「予定通り採用できなかった」と答えたのは36・7%で、前年調査に比べ4・5ポイント上昇。19年春の新卒採用を増やすのは22・0%に倍増した。働き方改革には8割以上取り組んでおり、具体的には「長時間労働の管理・是正」(90・0%)や「育児休業や短時間勤務など子育て世代の支援」(63・6%)が多かった。「テレワークなどの在宅勤務」「副業・兼業の容認」は数%にとどまり、同本部は「想定よりも取り組む企業が少なかった」としている。

<高齢者の雇用>
*3-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-669102.html (琉球新報社説 2018年2月21日) 高齢社会対策大綱 「老後の安心保障」基本に
 政府は高齢者施策の指針となる高齢社会対策大綱を閣議決定した。65歳以上を一律に高齢者とみることを見直し、公的年金の受給開始時期を70歳超も選択できるようにする。高齢者の就労を促すことを狙い、年齢にかかわらず柔軟に働ける環境の整備を打ち出した。高齢者を一律で65歳以上とみる考え方は、確かに現実的ではない。高齢でも自立生活が送れる「健康寿命」は男性71・19歳、女性74・21歳である。厚生労働省が2016年に実施した調査では「高齢者だと思う年齢」の質問に「70歳以上」との回答が41・1%で最も多かった。日本老年学会なども17年に「高齢者」の定義を現在の65歳から10歳引き上げて75歳以上に見直し、前期高齢者の65~74歳を「准高齢者」として社会の支え手と捉え直すよう求める提言を発表している。一方、16年版厚生労働白書によると、60歳以上を対象にした調査で65歳を超えても働きたいと7割が希望しているものの、実際に働いている人は2割にとどまっている。厚労省の調査では、昨年1月から7月までに65歳を過ぎてから新たに雇用、または再雇用された高齢者約65万人のうち、70%がパートなどの非正規だった。正社員は女性19%、男性35%でしかない。現状は「年齢にかかわらず柔軟に働ける環境」には程遠い。その改善は急務である。高齢者の年齢を見直す大きな理由の一つに年金支給額の抑制があるのは確実だ。25年には全人口の3人に1人が65歳以上で占める。働き盛りの世代が高齢者を支えることを前提につくられた年金制度は、現行のままでは維持できなくなってきている。受給開始を70歳以上も選択できるようにしたのは「選択肢の幅を広げる」(加藤勝信厚労相)ためではない。幅を広げることで、早めに受給する人への支給額を減らし、全体として支給額を抑制するのが目的である。国は年金支給水準を抑制する政策を既に実施している。支給額をこれ以上、減額することは断じて認められない。安倍晋三首相は高齢社会対策会議で「高齢化はますます進行し、地方人口の減少も見込まれている。全ての世代が幅広く活躍できるような社会を実現することが重要だ」と述べた。安倍首相が言う「活躍」とは、働くことで日本経済に貢献することなのだろう。強い違和感を禁じ得ない。加齢や障がいが原因で働けない高齢者もいることを忘れてはいないか。それぞれの立場で、社会に貢献できることはあるはずである。高齢者の雇用確保も重要である。だが、高齢者施策の基本は「老後の安心」を保障することである。就労促進と併せ、支えが必要になったときに安心して暮らせる仕組みを充実させなければ、超高齢社会は乗り越えられない。

*3-2:http://qbiz.jp/article/129402/1/ (西日本新聞 2018年3月8日) ニュータウンの高齢化率2割超 40%近い地域も 九経調調査
 九州経済調査協会(福岡市)が行った九州のニュータウンに関する調査によると、2015年の高齢化率(65歳以上)は20・8%(推計値)だった。九州全体の高齢化率28・0%を下回ったが、30%を超えるニュータウンも少なくなく、再生に向けた支援や取り組みが必要としている。国土交通省が13年度に作成したニュータウンリスト(対象は計画戸数が千戸以上もしくは計画人口3千人以上など)と国勢調査を組み合わせて推計し、3月の九州経済調査月報でリポートとしてまとめた。県別でみると鹿児島、長崎、宮崎、大分で高齢化率が20%を超えた。九経調によると、この4県は1960〜70年代に開発されたニュータウンが多く、鹿児島県では40%に迫る地域も複数あった。福岡県は1980年代以降も開発が進んだこともあり、高齢化率は九州平均を下回った。ただ福岡市東部から宗像市にかけたエリアのほか、大野城市や北九州市小倉北区、小倉南区などで高齢化率が30%を超えるニュータウンが目立った。九経調の竹下和希研究員は「全てのニュータウンで若者の流入を前提とした再生を期待するのは困難」と指摘。リポートでは団地住民が農業を通じてにぎわいを生み出している福岡県宗像市の「日の里ファーム」を紹介し、「高齢者を地域の担い手として位置付け、生きがい創出に重点を置くなど、多様な再生が必要になる」としている。

<女性の雇用>
*4-1:https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/171201.html (日弁連会長声明 2017年12月1日 日本弁護士連合会会長 中本和洋) 世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数に対する会長談話
 世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)は、2017年11月2日、同年の世界各国の男女平等の度合を指数化した「グローバル・ジェンダー・ギャップ」を発表した。日本は、調査対象144か国のうち、114位と前年より3つ順位を落とし、過去最低となった。2015年が101位、2016年が111位と年々順位を落としている。ジェンダーギャップ指数は、女性の地位を、経済、政治、教育、健康の4分野で分析し、ランク付けしているが、日本は、経済114位、政治参画123位であるのに対し、教育74位、健康1位と分野間のばらつきが大きい。特に、女性の地位改善の鍵ともいうべき政治分野が最も順位が低く、国会議員の男女比が129位、閣僚の男女比は昨年の50位から88位と大幅に落ち込んでいる。生活の基盤となる経済は昨年の118位から若干改善したが、給与格差、管理職や専門職での男女比は、いずれも100位以下と低い。教育の分野では、初等・中等教育や識字率が1位であるため、教育全体では74位であるが、高等教育は101位といまだに低い水準にとどまっている。日本政府は、「すべての女性が輝く社会づくり」をその重点課題に掲げ、2017年6月6日には「女性活躍加速のための重点方針2017」を明らかにした。その中で、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律が完全に施行されてから1年余りが経過し、「女性活躍は大きなうねりになっている」との現状認識を示し、また女性活躍の実現に不可欠な働き方改革の取組を今後も強力に進めるとしている。しかし、2017年のジェンダーギャップ指数は調査が始まってから過去最低の順位を記録しており、上記施策が十分に成果を上げたとは言いがたい。国民の半数を占める女性の意見が十分に反映されてこそ、男女平等の視点を有する各種施策の立案が可能となることから、女性の政治参加は、あらゆる分野における女性の地位向上のための必須の条件である。当連合会においても、会内における男女共同参画の重点課題として、意思決定過程への女性会員の参画拡大に取り組んでいるところである。また、高等教育における格差解消は、社会に出てからの経済分野や政治分野における男女格差の改善に大きな影響を及ぼすことから、政府の掲げる女性活躍推進における有効な布石となるはずである。したがって、当連合会は、日本政府に対し、2017年のジェンダーギャップ指数の順位が過去最低となった事実を厳粛に受け止め、女性活躍を更に推進するために、働き方改革の取組にとどまらず、女性の政治参加及び高等教育における男女格差解消を重点課題とし、我が国のあらゆる分野にはびこっている性差別を根絶するためのより実効性のある具体的措置、施策を早急に講じるよう求めるものである。

*4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27450860X20C18A2SHA000/ (日経新聞 2018年2月28日) 女性取締役増を統治指針に 政府方針、企業に説明責任
 政府は上場企業に女性取締役の起用を促す。今春に改定するコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針に方針を示し、取締役会に女性がいない企業は投資家に理由を説明するよう求める。上場企業の役員に占める女性の割合は、欧米は2~3割だが日本は4%弱にすぎない。国際標準に近づける仕組みづくりが急務だった。同指針は東京証券取引所が上場企業向けに定める企業統治の規範で、取締役会のあり方や役員報酬の決め方などを規定する。強制力はない。金融庁は3月にも、有識者を交えた同庁の会合で指針の改定案を示す。「ジェンダーや国際性の面を含む多様性」を求める規定を盛り込む。パブリックコメント(意見公募)を経て5月中に改定案を固め、それを踏まえ東証が導入する予定だ。指針の実効性を高めるため、新たに「投資家と企業の対話ガイドライン」をつくる。社内・社外の取締役に関して「ジェンダーや国際性の面を含む多様性を十分に確保した形で構成されているか」「取締役として女性が選任されているか」を企業に問う内容だ。ガイドラインにも強制力はないが、女性取締役を起用しない上場企業は、決算説明会や投資家向け説明会などで機関投資家や株主、マスメディアなどに理由を明らかにする必要が生じる。内閣府の資料によると、監査役なども含む「役員」に占める女性の割合は、日本の上場企業は2017年に3.7%。15年のフランスの34.4%や英国の23.2%、米国の17.9%などに比べ、圧倒的に少ない。欧州では役職の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」の導入で女性登用が制度化されている。03年にノルウェーが採用後、フランスやドイツ、イタリアなどに広がった。多くの国では役員への女性登用の水準を3~4割としており、満たさない企業に罰金などの処分を科す国もある。自主的な取り組みもある。英国では女性役員比率を3割以上に引き上げることを目指す上場企業でつくる「30%クラブ」がある。米国やカナダなどに支部があり機関投資家なども加盟できる。日本は政府の男女共同参画基本計画で20年までに上場企業の女性役員の割合を10%以上にする目標を掲げている。安倍晋三首相は13年に上場企業の役員のうち1人は女性を起用するよう経済界に要請。15年には有価証券報告書で女性役員比率を示すよう義務付けていた。同指針を改定するのは、15年に導入して以来、初めてとなる。女性活躍や多様性の確保に加えて、今回の改定では社外取締役の増員も検討する。現行の指針の「2人以上」を「3分の1以上」に変更する方針だ。安倍政権は、日本企業の国際競争力を高める重要施策としてコーポレートガバナンスの強化を進めてきた。こうした施策を盛り込んだ指針を導入した後、外国人投資家の日本株の保有比率は上昇している。16年度の保有比率も30.1%と、15年度比で0.3ポイント上がった。海外勢の保有額は約174兆7000億円と同時期に13%増えた。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27457780X20C18A2EE8000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2018年2月28日) 候補少ない女性取締役、人材争奪戦も
 政府が女性取締役の起用を求めることで取締役会の顔ぶれが多様になれば、企業統治が前進し機関投資家の投資マネーを呼び込みやすくなる。一方で女性の役員は候補者が少なく、現在でも複数の企業で役員を兼任する事例は珍しくない。女性取締役の起用が広がれば人材の獲得競争が一段と激しくなりそうだ。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)に強制力はないが、企業は実質的に説明責任を負う。指針改定で取締役に女性を起用する企業が増える可能性は高い。日本企業の取締役会は多くの場合、生え抜きの中高年男性で構成され多様性に欠けるとの批判があった。経営コンサルティングのエゴンゼンダー(東京・千代田)の佃秀昭社長は「取締役会に女性を迎えれば長年の慣習にとらわれない議論ができる」と指摘する。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や米運用会社のJPモルガン・アセット・マネジメントなども女性比率の引き上げを求めている。女性取締役の起用が進めば機関投資家が投資しやすくなり、株式市場の活性化につながる。ただ、企業にとっては候補者探しが課題だ。厚生労働省の雇用均等基本調査によると16年度の女性管理職の比率は12.1%だった。部長相当の役職では6.5%にとどまる。生え抜きの女性役員を登用するには女性の管理職を一段と増やす取り組みが欠かせない。社外で探すのも簡単ではない。ガバナンス助言会社プロネッド(東京・港)の昨年7月の調査によると、東証1部上場企業の社外役員(監査役含む)を4社以上兼任する女性は12人いた。弁護士や大学教授といった経歴が多く「これらの職種では獲得競争が激しくなる」(酒井功社長)。労務行政研究所の調査では2016年度の社外取締役の年間報酬は平均で669万円だった。候補者の争奪戦が激しくなれば報酬が一段と高くなる恐れもある。この調査では女性の社外役員を選任する企業の割合は株式時価総額1兆円以上の企業で71%なのに対し100億円未満では16%で、企業規模により対応に差が生じる可能性もある。

*4-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201712/CK2017122502000209.html (東京新聞 2017年12月25日) 「介護離職考えた」半数 管理職 業務との両立悩む
 介護を経験した管理職の半数近くが、退職を検討したことが人材会社アデコの調査で分かった。60%以上が公的な介護休暇・休業や社内制度を利用しづらいと感じていることも判明。「業務に支障が出る」などとして仕事との両立に悩む姿が浮かんだ。政府は介護離職ゼロを目指しているが、実現の見通しは立っておらず、働き続けるための環境整備が緊急に求められそうだ。企業の管理職は介護と仕事の両立を迫られる可能性が高い年代。調査は十月、親族を介護した経験がある部長職、課長職六百人を対象にインターネットで実施した。介護離職について20%が「何度も考えた」、28%が「一、二回考えた」と回答。「考えたことは一度もない」は53%だった。離職を考えた人の理由で最も多かったのは「体力・精神的な負担や不安」で、考えたことがない人は「収入面での不安」が多かった。介護で会社を休んだことがある四百二人が利用した制度を複数回答で尋ねたところ、最多は有給休暇で88%。育児・介護休業法で定められている介護休暇は16%、介護休業はわずか3%だった。同社は「介護休暇中は無給の企業が多く、雇用保険から給付金が支給される介護休業も事前の手続きがハードルになっている」と分析している。社内制度では半日・時間単位休暇の利用が多かったが、「制度自体がない」との回答も目立った。「介護関連制度が利用しづらい」と答えた人は63%。理由は「自身の業務に支障が出る」「部下の業務に支障が出る」「介護を理由に休みを取る管理職がいない」などだった。介護に携わる部下がいる二百八十四人のうち92%が「部下を支援したい」と回答したが、「実際に支援できた」と答えたのは74%だった。
 ◇ 
 四捨五入のため、合計は100%になりません。

*4-5:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/189884 (佐賀新聞 2018年3月7日) 介護保険料6千円超が65%、4月から85%の44市区で増額
 4月に3年ぶりに改定される65歳以上の高齢者の介護保険料(基準額)について、都道府県庁所在地(東京は都庁のある新宿区)と政令指定都市の計52市区のうち65%の34市区で月額6千円を超す見込みであることが7日、共同通信の調査で分かった。85%に当たる44市区で引き上げられ、据え置きは8市にとどまる。多くの自治体で値上げするのは、高齢化の進行で介護サービスの利用が増え給付費が増加することや、事業者に支払う報酬が4月から0・54%引き上げられるため。介護施設の整備を進めていることも影響した。

*4-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180105&ng=DGKKZO25320040U8A100C1EE8000 (日経新聞 2018.1.5) 保育ニーズ、正確に把握 厚労省、申込者以外も推計
 厚生労働省は待機児童の解消をめざし、保育のニーズの実態把握を正確にする。2018年度から、これまで集計してきた保育所の申込者数とは別に「保育所への入所が必要だが申し込まなかった」といったケースを含め把握する。市町村ごとに見込み数を集め、厚労省が公表する。原則、すべての市区町村を対象にする。待機児童がいる自治体だけでなく、今はいなくても保育ニーズの増加が今後想定される場合も対象にする。厚労省は「子育て安心プラン」で、20年度末までに新しい保育定員枠32万人分を整備する方針を示している。民間調査では、保育所を利用できなかった親の4割が申し込みをしていない。申込者だけでは保育需要を把握できないことが浮き彫りになっている。18年度からは毎年度、推計の中で実際には申し込みに至らないケースを把握し、実態との差があれば原因を分析する。需要の推計や実績は厚労省が市区町村ごとに一括して公表する。厚労省は実態の「見える化」を促し、自治体が需要の過小評価などによって、待機児童数を少なく見せることがないようにする。政府が保育の定員枠を増やすための予算確保をしても、需要が多い地域に局所的に保育所が足りないミスマッチや、保育需要の適正な把握がされなければ待機児童の解消にはつながらない。

*4-7:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150105&ng=DGKKZO81541250U5A100C1M10700 (日経新聞 2015.1.5) 働く意識、多様化進む 男性は「年功序列」 / 女性は「成果型」
 働き手の仕事に対する意識は世代や性別で多様化している。年齢に応じて給料を払う「年功序列型」と、働きに応じて支払う「成果型」のどちらの賃金制度がいいか尋ねたところ、全体ではほぼ半々だったが、男性は年齢が高くなるほど年功型を好み、女性は成果型を支持する傾向があった。年功を支持する男性は20代が52.9%、50代は63.5%。大企業の中高年男性は1つの会社で勤め上げる人が多い。残業や転勤に耐えた長年の貢献に報いてほしいという意識が強い。一方、女性は転職経験がある人が58.8%と男性(40.7%)より高く、短期間の実績が給与につながる成果型に支持が集まった。女性は夫の転勤や出産を機に離職や転職を迫られやすい。男性に比べ会社への帰属意識が低く、生活環境の変化などに合わせて転職する人が少なくない。海外勤務志望については、働く人の78.2%が「海外で仕事をしたいと思わない」と答え、内向き志向が強かった。主な理由(3つまで選択)は「語学力に自信がない」が65.7%と最も多く、「治安が悪い」(45.8%)、「国内でもやりがいのある仕事はできる」(40.8%)と続いた。大手企業を中心に海外で働くグローバル人材の需要が高まっている一方、働く側の多くは国内を出たがらないようだ。年代別では、20~30代で「海外で仕事をしたい」と答えた人が24.6%と40代(21.6%)を上回り、若い層の海外志向はやや高い。大学教育の国際化対応で、英語での授業や海外留学が一般的になっていることもありそうだ。

<外国人の雇用>
*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180127&ng=DGKKZO26189750W8A120C1EA4000 (日経新聞 2018.1.27) 外国人労働者 最多に 10月末127万人、5年で60万人増 人手不足の職場補う
厚生労働省は26日、2017年10月末時点の外国人労働者数が127万8670人だったと発表した。前年同期から18%増え、増加は5年連続。企業の届け出を義務化した07年以降で過去最高を更新した。製造業で働く技能実習生やサービス業で働く留学生らの増加が目立ち、人手不足が深刻な職場を外国人で補う構図が強まっている。外国人労働者の数は12年から急激に増加し、5年間で約60万人増えた。日本の雇用者総数の約2%を占める水準だ。外国人を雇う事業所の数も、前年同期比12.6%増の19万4595カ所と過去最高になった。国籍別にみると、中国が37万2263人で全体の29.1%を占める。ベトナムの18.8%、フィリピンの11.5%が続いた。伸び率はベトナムが最も高く、前年同期と比べて約4割増えた。資格別にみると、労働現場で外国人労働者を実習生として受け入れる技能実習制度の在留資格が25万7788人、留学が25万9604人だ。ともに2割以上増えた。高度人材などの「専門的・技術的分野」も23万8412人と18.6%増。技能実習の8割近くが製造業か建設業で、留学の半数以上が卸小売業かサービス業で勤務している。日本での受け入れ体制整備は遅れている。政府は高度人材の受け入れに前向きだが、単純労働者の受け入れは認めていない。技能実習制度や留学生として事実上の単純労働者が急増しているのが実態だ。外国人を活用したいという企業も増えているものの、実習生の数や年数には限度がある。

*5-2:http://qbiz.jp/article/129389/1/ (西日本新聞 2018年3月7日) 新潟など3特区で外国人就農解禁 高齢化で人手不足が深刻化
 政府が国家戦略特区に指定している新潟市、愛知県、京都府の3自治体で外国人の農業就労を解禁する方針を固めたことが7日、分かった。1年以上の農業実務の経験を持つことが条件で、受け入れ期間は通算3年を上限とする。国内農業は高齢化が進んで人手不足が深刻化しており、経験や技能のある即戦力を海外から呼び込んで現場を活性化する狙いがある。外国人の就農は昨年9月施行の改正国家戦略特区法で認められた。この3自治体が第1弾となる見通しで、9日にも特区諮問会議を開いて決定する。特区で効果が確認された場合は、全国に広げることも検討する。受け入れる人材は、実務経験に加え、農作業に必要な日本語を話せる外国人の中から選ぶ。農業に関する専門知識や技術を持つことも条件とし、外国人に働きながら技術を学んでもらう技能実習制度とは区別する。対象者は人材派遣会社と雇用契約を結び、各地の農業生産法人や農家へ派遣される。農作業だけでなく、農作物の加工・販売を手掛ける「6次産業」にも従事できる。技能実習制度を巡っては、過重労働や賃金不払いが問題となっている。特区の就農受け入れではこうしたトラブルを防ぐため、日本人と同水準の賃金を保証。人材派遣会社に対し、受け入れ先での雇用状況を確認した上で、政府や自治体でつくる協議会に報告することを義務付ける。


<役所の労働生産性と資本生産性>
PS(2018年3月12、17、20日追加):労働生産性を高めることは常識となったが、資本生産性(資本1円投入あたりの生産量)については、未だ無視されている。しかし、*6-1-1のように、岩手県陸前高田市で10mかさ上げされた宅地(総費用:1,400億円、造成面積:約300ヘクタール)の引き渡しが始まったが、かさ上げした宅地は空き地が目立つそうだ。それは当然のことで、*6-1-2のように、陸前高田の津波は、海岸から約500メートルにあるガソリンスタンドで15.1mを記録しているため、10mしかかさ上げされていない地盤の弱い埋立地は安全ではないからである。そのため、国民が本来の所得税に2.1%上乗せして「東北の復興のため」にと黙って支払った復興特別所得税によるこの事業の資本生産性は0に近い。また、*6-1-1には、高台移転が間違っていたかのように書かれているが、津波高に対して十分な高さのある地盤の強い山側に移転する高台移転と、15m以上の津波が来る地域で10mしかかさ上げされていない地盤の弱い埋立地を作ることとは全く異なる。これを、事前に考えなかったのは、心のこもった復興ではなく、ヘリコプター・マネー(税金の無駄遣い)だったからである。
 さらに、*6-1-1は、女川町が公共施設や市街地を、元のJR女川駅周辺に集約したのがよいことであったかのように書いているが、女川町では、*6-1-3のように、17m超の津波に襲われ谷状の町が壊滅して、高台にある病院の1階部分も津波で激しく損傷したのだ。次の津波が来たら、また同じことを繰り返して、国民から復興税をとるつもりだろうか。しかし、次の災害時は、わかっていてやったことなので、自己責任にしてもらいたい。 怒
 その上、気仙沼市の大谷海岸地区では、*6-2-1のように、宮城県が55億円の予算で海抜9.8メートルの防潮堤を整備するそうだが、気仙沼市の津波の高さは20メートルを超えていたため、背後地約4.0haを防潮堤と同じ高さにかさ上げしても、陸前高田市と同様、誰も使わないだろう。それでも10m弱の防潮堤を作り、10mかさ上げすればよいと考えるのは愚かとしか言いようがなく、この事業の資本生産性はマイナスである。何故なら、役に立たないだけではなく、*6-2-2のように、生態系と景観を破壊するからだ。
 なお、津波の危険性だけでなく、福島第1原発事故による放射能汚染も環境を破壊し住民が近寄ることすら困難にして先が見えないが、*6-3-1の凍土遮水壁もまた金を使うことが目的の資本生産性の低い支出だった。原子力規制委員会は、国の基準以下に薄めて汚染水を海に放出する必要があるなどとしているが、2倍に薄めて2倍の分量を放出すれば放射性物質の放出量は変わらないため薄めることに意味はなく、こういう発想をする人たちが放射性物質汚染に対する注意を風評被害と呼ぶのは、あまりにもおこがましい。
 その上、原発立地自治体は、平時でも、*6-3-2のように、原発の再稼働や定期検査で作業員が来たり(この時、宿泊)、重機で工事をしたりして原発需要がある上、迷惑料である電源開発促進税などが入るが、それらは消費者が電力料金に含めて支払っているのだ。そして、今後も新たなテロ対策施設の建設が控えるとしているが、世界は卒原発の時代で、*6-3-3のように、東日本大震災前後から新燃岳の噴火や大地震が増えているにもかかわらず火山噴火のリスクを低く想定しているため、それこそ集中と選択で電源を自然エネルギーに移行し、玄海町は農産物・海産物・関連工業品やサービスにシフトするのがよいと考える。
 九電は、既にインドネシアで世界最大規模のサルーラ地熱発電に参画しており(http://www.kyuden.co.jp/press_h170322-1.html 参照)、また、*6-3-4のように、九電工がインドネシアのスンバ島で太陽光発電と蓄電池を組み合わせて電力を安定供給する「エネルギーマネジメントシステム(EMS)」の実証事業を始めたくらいで、再生可能エネルギーを活用した“地産地消”の電力供給も既にできる状況になり、これらは、「(日本を含む)世界中どこでも通用する技術」なのである。
 しかし、*6-3-5のように、佐賀地裁は、九電玄海原発3、4号機運転差し止めを求める仮処分の申し立てを退け、「原発なくそう! 九州玄海訴訟」本訴訟の原告団長元佐賀大学長の長谷川照さん等が「国内や世界の情勢を考えると司法は遅れている」と嘆かれた。司法は、内容だけでなく、お白洲で裁くような作りであり、明治時代から形式を変えていないのも遅れている。

*6-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13398484.html (朝日新聞 2018年3月12日) (東日本大震災7年)高台移転に時間、戻らぬ被災者 大事業難航、戸数35%減
 東日本大震災の被災地でまちづくりが縮んでいる。宅地造成による住宅の計画戸数は約1万8300戸と、5年前の計画から35%減少した。復興までの期間が長引き、別の場所に居を構える選択をした住民が少なくないためだ。今後の震災を想定し、こうした教訓をいかす取り組みも始まっている。岩手、宮城、福島3県の自治体が実施する高台移転(防災集団移転や土地区画整理事業によるかさ上げなど)について、復興庁の資料を元に集計した。2012年12月時点で約2万8100戸だった高台移転による住宅の計画戸数は、17年9月時点で約1万8300戸(12年比35%減)。岩手が約7500戸(同26%減)、宮城が約9千戸(同42%減)、福島が約1900戸(同26%減)だった。
■陸前高田、用地交渉も壁
 津波で市街地が壊滅した岩手県陸前高田市。今年1月、かさ上げされた市の中心部で宅地の引き渡しが始まった。総費用1400億円、造成面積は東京ドーム64個分の約300ヘクタール。被災地最大となる住まいの再建事業はようやく出口に差し掛かった。だが、かさ上げした新たな宅地はいま、空き地が目立つ。市が行った最新の意向調査では、いまだ利用予定がない宅地は6割。長い歳月を要したことで、完成を待ちきれない人たちは別の地に住まいを求めた。上部徳七さん(88)は震災から5年後、内陸部に土地を購入して自宅を再建した。妻(86)とみなし仮設のアパートで暮らしていたが、かさ上げ部の宅地の引き渡しは2018年度の後半と伝えられた。「死ぬ前に一刻も早く家を建てたかった」と振り返る。復興事業に時間がかかったのはなぜか。市は山を削って高台移転を進めたほか、津波にのまれた旧市街地を10メートル前後かさ上げすることを決め、住民の私有地に宅地や道路を再整備する区画整理事業を活用した。大がかりな事業に最初から壁が立ちはだかる。まずは用地だ。地権者約2200人と交渉するため、北海道から長崎の離島まで足を運んだ。工事が始まってからも復興工事の集中や東京五輪関連の建設需要で資材や人手が不足した。時間が経つにつれ、かさ上げ同様、高台での住宅再建を望む被災者も減少。計画を見直し、区画数を縮小していった。結局、全体の事業認可は震災から3年後。すべての宅地ができるのは、計画から2年遅れの20年度の見通しだ。戸羽太市長は「5年ぐらいのスパンなら待ってくれる住民もいた。スピード感を持ってやらないと人の気持ちが変わって外に出て行ってしまう」と話す。
■「以前と同規模、非現実的」 女川、駅前に市街地集約
 被災地で人口流出が続く中、その現実を踏まえて計画を進める自治体もある。宮城県女川町。建物全体の8割以上が被害に遭い、人口は約6割に減少した。「震災の被害は人口減を加速させる」。そう考えた町は、地元企業と連携し、公共施設や市街地をJR女川駅周辺に集約。住宅約1420戸(12年12月)の計画を、昨年9月までに760戸に修正した。新たに造った交流センターの面積は被災した公民館の約7割にとどめた。「被災前と同規模の街を造るのは現実的ではない」と町の担当者は説明する。
■将来の被災想定、復興にも備え 次の街の姿、住民と共有
 南海トラフ地震の被害が想定される地域では、東日本大震災の教訓を踏まえた対策が始まっている。行政が住民とともに被災後の復興を考える「復興事前準備(事前復興)」だ。和歌山県は2月、「復興計画事前策定の手引き」をまとめた。東日本大震災では復興計画策定まで9カ月、そこから住民の合意を得て事業認可まで2年半という事例があった。時間がかかれば人口の流出を招くため、手引きは、街を高台で再建するのか、防潮堤を強化し、かさ上げして再建するのか、といった災害後の街の姿を、普段から行政と住民が共有することが重要と指摘。市町村には復興事業で使う用地に関し、地権者や境界の把握、埋蔵文化財の発掘調査などを済ませておくよう求めている。県の担当者は「被災から1年以内の事業着手も不可能ではない。住民参加型で市町村ごとに復興計画を作りたい」と話す。
■<視点>人口減前提の区画整理を
 土地区画整理事業で造ったまちに空き地が生まれることは懸念されていた。もともと高度経済成長期に都市部で頻繁に使われた手法だ。社会全体の人口が増えるため、宅地や公共用地の再整備に時間がかかっても、土地の利用が進むことを前提にしている。東北の多くは震災前から人口減と高齢化に悩む過疎のまちだった。震災で人口流出は加速し、時間がかかるかさ上げ工事での再建を待てない高齢者は多かった。人口増を前提とした区画整理は手法としてそぐわなかったが、当時はこれほど大規模なかさ上げと土地の造成ができる制度は、区画整理以外に用意されていなかった。人口減の時代、このままでは次の災害でも、同じような空き地を生み出すことになりかねない。東日本大震災の事例を検証し、より短期間で宅地や公共用地を造成できる制度のあり方を考えるべきだ。

*6-1-2:https://www.iwate-np.co.jp/article/2018/1/16/1642 (岩手日報 2018/1/16) 津波高さ示す看板撤去へ 陸前高田のガソリンスタンド
 東日本大震災で陸前高田市を襲った巨大津波の高さを示す同市高田町のガソリンスタンドの看板が、夏までに撤去される見通しになった。周辺の道路や土地がかさ上げされてスタンドが移転するためで、運営会社は津波の恐ろしさを伝える貴重な資料として市に保存を働き掛ける考えだ。スタンドは海岸から約500メートルにある「オカモトセルフ陸前高田」。津波で事務所は流失したが、2012年に同じ場所で営
*9-2業を再開した。看板は一部がへこんだり、はがれたりしたため補強工事を施し、津波到達地点を示す矢印と「津波水位15・1M」の文字を記した。スタンドは今年7月ごろ市内の別の場所に移転する予定。看板の移設も検討しているが、市などによると、屋外広告の面積を規制する県条例に抵触するため困難という。運営会社の担当者は「被害の大きさを感じられる看板。何とかして保存したい」と話している。

*6-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK05015_V00C11A4000000/ (日経新聞 2011/4/5) 高台の病院を襲った17m超の津波、宮城県女川町
 岩手県大船渡市から宮城県石巻市にかけて三陸沿岸の建物の被害を見て回った。なかでも、津波の破壊力という点で強く印象に残ったのが、宮城県女川(おながわ)町だ。女川町は石巻市の東側にある港町。県外の人にとっては、「女川原子力発電所のある町」といったほうが分かりやすいかもしれない(発電所の敷地は女川町と石巻市にまたがっている)。同原発は2011年3月11日の震災発生時に停止し、今のところ放射線漏れなどの被害は報告されていない。それもあって、一般メディアで女川町の津波被害に関する情報は少ない。しかし、建築・土木関係者は、この町で起きたことを知っておくべきだろう。下の写真を見てもらいたい。女川港を東に望む女川町立病院の駐車場付近から見た、女川町の街並みと病院の建物だ。谷状の町が津波でほぼ壊滅してしまっていることに驚かされる。それにも増して驚かされるのが、高台の上に建つ病院の1階部分が津波で激しく損傷していることだ。

*6-2-1:http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201801/20180121_13016.html (河北新報 2018年1月21日) 気仙沼・大谷海岸、復活へ一歩 防潮堤工事始まる 21年度には海水浴場再開へ
 東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市本吉町の大谷海岸地区で、宮城県が海抜9.8メートルの防潮堤を整備し、気仙沼市が背後地に「道の駅」をつくる復旧工事が20日、始まった。砂浜が失われるとして、県が当初計画した防潮堤は住民が反対し、見直しを実現させた。位置を内陸に移し、国道との「兼用堤」とする工事は2020年度に完了し、21年度には海水浴場が再開する。防潮堤(長さ約680メートル)は見た目の高さが6~7メートル。国道の約980メートル区間を9.8メートルまでかさ上げして防潮堤の役目も持たせる。海側は緩やかな傾斜で階段を付け、海水浴客が休憩できるようにする。事業費は約55億円を見込む。市は背後地約4.0ヘクタールを防潮堤と同じ高さにかさ上げし、道の駅「大谷海岸」を復旧させる。事業費は25億円で20年度内の完成を目指す。県は当初、砂浜に防潮堤を築く計画を立てたが、住民が強く反発。地元の街づくり団体が建設位置を内陸に移し、国道との兼用堤とする対案を市に提出し、県が見直した。今回の工事で震災前と同じ約2.8ヘクタールの砂浜が確保される。現地であった着工式には県、市の関係者ら約90人が出席。くわ入れなどで工事の安全を祈った。山田義輝副知事は「砂浜を確保するために地域が一体となり、希望がある計画ができた」とあいさつ。菅原茂市長は「海水浴場と道の駅の復活、国道からの景観の確保を維持することができた」と強調した。大谷海岸の大谷海水浴場は環境省の「快水浴場百選」にも選ばれ、震災前の10年は約6万5000人が訪れた。ピーク時の1975年には約43万5000人でにぎわった。大谷地区振興会連絡協議会の鈴木治雄会長は「多くの行楽客でにぎわう、最高の海水浴場になるだろう」と歓迎。大谷里海(まち)づくり検討委員会の芳賀孝司副会長は「かつての大谷のにぎわいを取り戻す」と話した。

*6-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXNZO74004420Z00C14A7X93000/ (日経新聞 2014/7/12、日経産業新聞 2014年7月10日付) 巨大防潮堤、被災地で反対運動 議論に住民不在
 宮城県気仙沼市にある小泉海岸は白砂青松の砂浜で、環境省の「快水浴場百選」にも選ばれた浜辺である。ここに高さ14.7メートルと日本一の巨大防潮堤が計画され、物議をかもしている。底辺は90メートルにも及び、砂浜を覆いつくさんばかりだ。
■景観・生態系の破壊を疑問視
 小泉海岸は東日本大震災の津波で海岸線が200メートルも後退し、砂浜や松林が消失した。そこに事業費230億円の巨大防潮堤が計画された。「震災直後、高台移転とセットだと誤解して、防潮堤を受け入れざるを得ないと思った住民が多かった。今は防潮堤によって美しい海と暮らしが分断されるのが辛い」。地元の阿部正人氏らは巨大防潮堤に反対を訴えている。小泉海岸のように、被災地では巨大防潮堤に反対する住民運動が起きている。国は約1兆円を投じ、600カ所に総延長400キロメートルの防潮堤を整備する計画だ。しかし、高台移転で人が住まなくなる地域に巨額を投じて防潮堤を造ることや、景観や生態系が破壊されることを疑問視する声が高まり、建設を中止したり高さを下げたりする動きが広がっている。こうした中で国は6月4日に海岸法を15年ぶりに改正。海岸の防災・減災対策を検討する際に、住民や学識経験者が参加する「協議会」を都道府県が設置できるという新制度を打ち出した。これまで国や都道府県が決めていた防災・減災の方法を、今後は市民や研究者などが参加して決定できる。国の海岸行政の大転換でもある。「既に決定した計画への住民参加を狙ったものではない」(国土交通省)が、防潮堤建設に影響を与えるのは間違いない。そもそも巨大防潮堤に各地で反対運動が起きているのは「計画作りに住民が参加できなかったことが一因」と九州大学の清野聡子准教授は指摘する。震災後、国は地震の規模と津波をシミュレーションし、湾ごとに津波の高さを弾き出した。この数字を受けて県が防潮堤の高さを決めた。しかし「波が来る方向や浜辺近くの地形、河川の有無で津波の高さは変わるのに、細かな条件を入れずに国はシミュレーションした。本来なら地元住民にも加わってもらい、津波の遡上の仕方など過去の知見を生かすべきだった」と清野准教授は指摘する。このように国の計算結果には幅があった。その過程を住民にほとんど公開しないまま、数字だけが一人歩きしてしまったのである。
■住民による津波の測量も可能に
 震災から3年たって、小泉海岸には砂浜や干潟が復活し、豊かな生態系が戻りつつある。未来に残す故郷の風景をもう一度住民同士で話し合ってもらいたいと、首都大学東京の横山勝英准教授は被災地図に防潮堤をCGで合成した画像を作成した。防潮堤ができた後の町の様子を実感してもらうためだ。そこには防潮堤が要塞のように町を囲む姿が浮かび上がる。横山准教授は防潮堤を低くして陸側にセットバックし、海側の砂浜や汽水域を保全する方が、防災上も環境上も効果があると代替案を提案する。清野准教授は海岸法の改正により住民参加の法定協議会ができることを評価し「予算も付き、住民による津波の測量も可能になるだろう」という。建設が始まった巨大防潮堤の見直しにも弾みが付きそうだ。

*6-3-1:https://mainichi.jp/articles/20180303/ddm/005/070/041000c (毎日新聞社説 2018.3.3) 福島第1原発の凍土遮水壁 費用に見合う対策なのか
 東京電力が、福島第1原発で土壌を凍らせ地下水の流入を防ぐ「凍土遮水壁」の効果を初めて試算した。汚染水の発生削減効果は1日約95トンで、効果は限定的だとみられる。政府と東電は、凍土壁を汚染水対策の切り札と位置付け、国費約345億円が投入された。凍結の維持にも毎年十数億円かかる。費用に見合った効果が出ているのか。政府には、しっかりと検証し、今後の汚染水対策に生かす責務がある。凍土壁は1~4号機の建屋の周囲(全長約1・5キロ)に約1500本の凍結管を地下30メートルまで打ち込み、冷却液を循環させて造る。2017年11月に凍結作業をほぼ終えた。東電の発表によれば、雨水や地下水に起因する汚染水の発生量は、凍結後の3カ月間平均で1日約110トンだった。凍結前の15年冬に比べると約380トン減少していた。東電は、地下水をくみ上げる井戸を設置したり、雨水の浸透を防ぐために敷地を舗装したりする対策も同時に実施している。380トン削減はこうした対策を合わせた結果で、凍土壁による削減効果は、あくまでもその一部に過ぎない。それでも東電は、凍土壁などの成果で「建屋に地下水を近づけない水位管理システムが構築された」という。認識が甘くはないか。今回、汚染水の発生量を比較したのは降水量が少ない冬場だ。台風の接近が相次いだ昨秋には、降雨で汚染水の発生量が急増した。より長期間の評価が欠かせない。建屋の東側にはケーブルや配管を通すトンネルがある。そこには凍結管が入っておらず、凍土壁で地下水を完全に遮断することはできない。現状では、汚染水の発生がいつ止まるのか、分からないままだ。汚染水は「多核種除去装置」で浄化するが、放射性物質の一種のトリチウムだけは除去できない。浄化後の処理水は原発敷地内のタンクに貯蔵されており、20年度までしかタンクの増設計画は示されていない。原子力規制委員会は、国の基準以下に薄めて海に放出する必要があるとの立場だが、漁業関係者などの間では風評被害への懸念が根強い。処理水をどう処分するのかのめどが立たない限り、汚染水対策はいつ行き詰まってもおかしくない。

*6-3-2:http://qbiz.jp/article/129830/1/ (西日本新聞 2018年3月15日) 玄海再稼働で再び町に特需 「原発あるから」依存なお 廃炉時代の自立模索も
 6年余り全基停止していた九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の3号機が23日にも再稼働する。貧しい農漁村だった玄海町に原発建設計画が浮上したのは半世紀ほど前。以来、町は原発の受け入れと引き換えに経済的恩恵を受けてきた。東京電力福島第1原発事故を経てもなお、原発への依存は続く。「廃炉の時代」をにらみ、自立の道を探る動きも出ている。玄海原発の敷地に、作業員を乗せた大型バスが次々と乗り入れる。正門から数百メートル離れた場所にはショベルカーなどの重機が並び、新たな安全対策で手狭になった敷地を拡大する造成工事が急ピッチで進む。福島の事故から約9カ月後の2011年12月、玄海原発は全4基が停止した。大きな打撃を受けた町の経済は今、「再稼働特需」で息を吹き返しつつある。原発から南東へ約1キロ。溝上孝利さん(59)が営む民宿「要太郎」も原発停止後、宿泊客がぱたりと途絶えた。再び客が戻り始めたのは、再稼働に向けた安全対策が始まった13年ごろから。客室稼働率は停止以前より3割ほど増えた。この間、溝上さんは原発関連以外の収入を増やそうと、町のふるさと納税の返礼品となる海産物を販売したり、高校生のスポーツ合宿誘致に力を入れたりしてきた。「豊かな自然や食を生かして暮らしていけるよう、変えんといかん」。一方、原発では今後も新たなテロ対策施設の建設が控える。いずれ定期検査も行われ、作業員らでにぎわう。「やっぱり原発があるから町は大丈夫だ」。町民から、そんな声も漏れる。
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 原発の稼働と町の財政は直結する。18年度一般会計予算案の歳入は、国の交付金など原発関連が6割。原発停止に伴う税収減で17年度、23年ぶりに地方交付税(普通交付税)を受け取る「交付団体」になったが、「再稼働すれば税収が回復し、19年度は不交付団体に戻る」(岸本英雄町長)。町議会は昨年9月の選挙で、原発推進派が全議席を占めた。年内にも改定される国のエネルギー基本計画に、原発の新増設を明記するよう求める意見書案を19日の本会議で可決する。「意見書は原発立地町の責任だ」と町議会の脇山伸太郎総務文教委員長。原発に世論の厳しい視線が注がれる中、増設にこだわる背景には「税収減につながる1号機の廃炉決定がある」とみる町民もいる。「原発がある町から、原発“も”ある町へ」。岸本町長が唱えてきたキャッチフレーズだ。実際には町も町議会も、原発に依存する姿勢を変えていない。
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 町民の受け止め方は一様ではない。福島の事故で、原子力災害への不安は以前より高まっている。町の人口は1955年に9720人だったが、今年2月現在、5717人に減った。原発の恩恵を受けつつ、過疎化に歯止めはかからない。町とは対照的に、自立を模索する動きもある。農家や商業関係者が16年、町おこしチーム「Genkai Hot Runner(GHR)」を結成した。「若い人が減り、このままでは町が寂れる」。代表の世戸耕平さん(38)は危機感をあらわにする。目を付けたのはイチゴやハウスミカンなどの農産品だ。原発補助金を活用し、佐賀県内有数の産地になった。隣接する唐津市の飲料メーカーと共同でイチゴやミカンを使ったサイダーを商品化し、年間2千本を出荷。福岡市内にアンテナショップの開業も目指す。「原発があったから産地になれた」。GHRメンバーでイチゴ農家の渡辺高広さん(54)は言う。「でも、原発の増設は現実的には無理。地域が自立して生きていけるようにしなければ」

*6-3-3:http://qbiz.jp/article/130026/1/ (西日本新聞 2018年3月17日) 【玄海再稼働】原発まで130キロ阿蘇火山リスクは? 九電→破局的噴火の予兆わかる 専門家→データに限界、予測困難 安全性の見方定まらず
 原発に対する火山の危険性が注目されている。広島高裁は昨年12月、熊本県の阿蘇カルデラの噴火リスクを理由に四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを決定。群馬県の草津白根山や宮崎、鹿児島県境の霧島連山・新燃岳(しんもえだけ)など各地の火山で噴火も相次ぐ。再稼働が間近に迫る九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)と阿蘇カルデラの距離は、伊方原発とほぼ同じ約130キロ。安全性に問題はないのか。噴火の想定が難しいこともあり、見方は分かれる。原子力規制委員会は火山対策指針として「火山影響評価ガイド」を策定。原発から160キロ以内の火山を対象に、安全性確認や対応策を電力会社に求めている。九電は玄海原発に関し、阿蘇カルデラや雲仙岳、九重山など17火山を「将来活動の可能性がある」と判断。その上で、過去の噴火履歴や地質調査を根拠に、いずれも原発が稼働している今後数十年の間に火砕流が発生しても原発敷地内には達しないと結論づけた。火山灰が到達する可能性はあるが、降灰時も非常用発電機が機能を維持できるように昨年11月、吸気口にフィルターを設けた。広島高裁が指摘した「破局的噴火」のリスクについては、九州で過去に破局的噴火を起こした五つのカルデラを調査。約9万年前に阿蘇カルデラで発生した破局的噴火では山口県付近まで火砕流が到達したとされるが、活動周期や地下のマグマに関する文献から「破局的噴火の直前の状態ではない」とする。大規模噴火を起こすマグマの動きは地殻変動や地震を引き起こすことから「破局的噴火の予兆は捉えられる」と九電の瓜生道明社長は説明する。
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 一方、火山の専門家は噴火予測の難しさを指摘。東京大地震研究所の中田節也教授は噴火履歴に関するデータは限られており「巨大噴火の想定には限界がある」と語る。火山影響評価ガイドについては「立地選定の情報にするなら分かるが、既存の原発の安全性審査に用いるのは違和感がある」と疑問を呈す。熊本県阿蘇市にある京都大火山研究センターの大倉敬宏教授は、阿蘇カルデラで巨大噴火が起こる可能性は当面は低いとの認識を示しつつ「観測データから噴火の前兆はある程度捉えられるが、規模や時期まで予測するのは難しい」と話す。九電は「できるだけ多角的に捉えることが重要」とモニタリングを強化する方針だ。ただ、破局的噴火は九州全域に大被害をもたらすような規模。両教授とも「原発だけの問題ではなくなる。噴火規模をどこまで想定するか国民的な議論も必要」とする。

*6-3-4:http://qbiz.jp/article/129814/1/ (西日本新聞 2018年3月15日) インドネシアで「地産地消エネ」 九電工が実証開始 送電手段ない離島で活用
 九電工(福岡市)がインドネシアのスンバ島で取り組む、太陽光発電と蓄電池を組み合わせて電力を安定供給する「エネルギーマネジメントシステム(EMS)」の実証事業が始まった。基幹送電網の整備が進んでいない離島で、再生可能エネルギーを活用した“地産地消”の電力供給を図るもので、他地域にも広がるか注目を集める。スンバ島は首都ジャカルタから東に約1400キロに位置。面積は九州の約3分の1、人口は約50万人。九電工によると、近年は観光地として注目されており、電力需要は増加傾向にあるという。島内の電力は主にディーゼル発電機を利用しており、二酸化炭素(CO2)の排出や燃料費が課題。インドネシア政府は島を再エネ導入のモデル地域と位置付けて出力500キロワットの太陽光発電所を整備したものの、出力が不安定で十分な電力供給ができていなかった。九電工のEMSは、双方向通信が可能な電力計で需給の状況を把握し、発電や蓄電を制御。雨天時や夜間など発電が止まる時間帯でも安定的に電力を供給できる。「蓄電池まで含めて全てのデータを集約して一体的に制御できるシステムは珍しい」と九電工国際事業部の松村敏明担当部長。昨年、特許を取得している。スンバ島の実証事業は、環境省が海外で展開する補助事業として実施。200キロワット時の電力を昼間の6時間供給する計画で、1月から本格運用が始まった。今のところ、安定した電力供給が続いているという。蓄電には鉛蓄電池を使用。日本で一般的なリチウム電池と比べコストが3分の1程度に抑えられる上、扱いやすい。寿命の短さが課題だったが、2系統の供給系統を交互に使って充放電の効率を上げることで、最大20年ほど使える計算になるという。通信技術を生かし、遠隔地で運用できる点も現地で高く評価されている。稼働状況は九電工の本社で監視。現地での作業は定期的な設備の清掃や点検程度で、維持費用も抑えられる。10年ほど運用すれば初期投資を回収できると見込む。有人の離島が数千に上るインドネシアは電力供給網の整備が遅れている。スンバ島の実証事業は低コストで電力の安定供給に道を開くと期待される。九電工は無電化地域を想定してEMSを開発した。松村部長は「世界中どこでも通用する技術」と語り、海外での受注拡大も見据える。

*6-3-5:http://mainichi.jp/articles/20180320/k00/00e/040/287000c (毎日新聞 2018年3月20日) 玄海原発:「司法は遅れている」申立人の元佐賀大学長
●運転差し止め認めず
 佐賀地裁が20日、九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の運転差し止めを求める仮処分の申し立てを退けた。九電は予定通り23日に3号機を再稼働できることになり、司法に望みを託した申立人らは「裁判所に声が届かなかった」と肩を落とした。「原発がどれだけ時代遅れか司法は気づいてくれない」。市民団体「原発なくそう! 九州玄海訴訟」の関係者が「不当決定」と書かれた垂れ幕を掲げると、佐賀地裁(佐賀市)前に詰め掛けた申立人らからはため息が漏れた。弁護団の板井優弁護士は「不当決定というよりも、これは違法だ」と憤りを見せた。申立人の一人で福岡市東区の立川由美さん(47)は「いくらこういう決定が出ようと、私たちは絶対にあきらめない」と涙を流した。今回の決定をした裁判長は、別の市民団体による同様の仮処分の申し立てについても、昨年6月に却下している。申立人の一人で元佐賀大学長の長谷川照(あきら)さん(79)=佐賀市=は立ちはだかった司法の壁に「国内や世界の情勢を考えると司法は遅れている」と嘆いた。早稲田大理工学部と京都大の大学院で原子核理論を学んだ。戦後復興の中で核の平和利用が議論されていた時代。大学の友人たちは原子力関連の企業に就職していった。長谷川さんにも企業から声がかかったが「平和利用と言っても、人命より金を優先するようになる」と考え、大学で学び続ける道を選んだ。6年間務めた学長を2009年9月に退任した後の11年3月、東日本大震災で津波被害を伝える映像に衝撃を受けた。子供の時に千葉で体験した空襲の記憶を思い起こした。「空襲では自宅も燃えた。がれきが残った様子やぽつんと電車がある様子が重なった」。津波は東京電力福島第1原発事故を引き起こした。「やっぱり原発はやめておいた方がいい」と感じた。原発訴訟に関わる弁護士に声をかけられ、12年1月、「原発なくそう! 九州玄海訴訟」の結成に参加。玄海原発の操業差し止めを求める本訴訟の原告団長に就いた。司法で原発を止めるのは「相当運がよくないと難しい」と考えているが、まだ本訴は続いている。「福島の事故は収束していない。再生可能エネルギーに転換しないといけない」。そう語気を強めた。


PS(2018年3月15日追加):*7のように、麻生財務相が、①佐川氏を呼び捨てにしたことを批判しつつ ②組織のトップが責任を足らなければ示しがつかない とするいくつかの記事を見たが、メディアは、こんな自己矛盾にも気がつかないのだろうか。②のように、「財務相トップの麻生氏が責任をとるべき」と言うのなら、同じ組織の人について外部の人に話す時は、①のように、謙譲の意味で呼び捨てにするのが正しい日本語で、これは、毎日新聞の社長が従業員のことを第三者に話す時に、様やさんを付けないのと同じである。
 また、②のように、「トップが必ず責任を足らなければならないか」については、日本では戦国時代に高松城開城と当主の切腹をもって毛利家と羽柴秀吉が和睦して以降、トップが責任をとって部下を助けることを美談としてきた。しかし、現在の経営学では「権限なきところに責任なし」というのが常識で、権限を持って指示した人に責任があり、権限がなく指示する立場でもない人に責任はない。そのため、事実を明らかにしなければ責任の所在は明らかにならない筈だが、何でもいいからトップが頭を下げ、引責辞任すればよいという日本の習慣は、むしろ問題をうやむやにして改善に向かわせないのである。
 なお、私は麻生財務相と仲がいいわけではないが、この際、複式簿記による公会計制度を導入して国の資産や税収の使い方をガラス張りにするのは、民間企業の社長出身で腕力のありそうな麻生氏が適任ではないかと思っている次第だ。 

*7:https://mainichi.jp/articles/20180314/k00/00e/010/275000c?fm=mnm (毎日新聞 2018年3月14日) 森友文書改ざん:「佐川が…」責任転嫁に躍起 国会審議
 「森友学園」(大阪市)との国有地取引に関する決裁文書の改ざん問題で、財務省が「書き換え」を認めてから初めての国会審議が14日始まった。野党が欠席する中、政府・与党からは、理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官に責任を押し付けるような発言が相次ぎ、識者からは「国民の理解は得られない」と批判の声が上がった。「(佐川氏の)答弁が誤解を受けることのないようにした。『そんたく』した話ではない」。14日午前の参院予算委員会。自民党の西田昌司氏から、財務省が文書を削除するなどした理由を問われた麻生太郎財務相は言い切った。佐川氏を呼び捨てにし、「書き換えは本省の利害で行われたもの。(政治家の)不当な圧力はなかった」と繰り返し、自身や安倍晋三首相らの関与がなかったと強調した。「書き換えは佐川氏が自分に不都合なことを直したこと。自分のためにやった」「(削除された内容は)公表しても問題ない文書。書き換えにより、かえって(首相の)ご夫人や総理が迷惑を受けた」。西田氏の質問にも、改ざんの責任を同省に求めようとする思惑がにじむ。西田氏の矛先は、学園の籠池泰典前理事長にも向けられた。補助金の不正受給による詐欺罪などに問われていることを強調。昨年3月の証人喚問で、事実と異なる証言をしたなどとして「まさに詐欺の語り口。(国有地売却問題は)詐欺で容疑を受けた人が首謀した事件だ」と断じた。安倍首相も、決裁文書から削られた妻昭恵氏に関する記述について「(記載された発言は)籠池さんが(近畿財務局に)語ったこと」などと述べ、「書き換え前の文書を見ても、私や妻が関わっていないということは明らか」と断言した。質疑を通じ、改ざんなどの責任を財務省や籠池氏にとどめようとする政府と与党の「連係プレー」を印象づけた。政治アナリストの伊藤惇夫さんは「政府が佐川氏や財務省理財局に責任を押し付けようとしているのは見え見えで、このままでは国民の理解を得られない」と批判。「与党側に『重要法案の審議が進まない』という声があるが、そもそも森友問題を1年間もうやむやにしてきたのは政府・与党だ。こういう事態に陥った以上、与党側が佐川氏や昭恵氏の国会招致に応じなければ議論は進まないだろう」と語った。


PS(2018年3月19日追加):*8のように、全自動編み機の島精機製作所の株価が、アジアの賃金上昇や省人化の流れで急騰したそうだが、これは、課題先進国の日本が課題を解決する製品・サービスを作って、20~30年後に他のアジア諸国で売れ始めた良い例だ。私は、全自動織機やプリント型自動染色機も日本国内に生産拠点を戻すことができ、しばらくすれば他国でも売れ始めると考えている。

*8:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180319&ng=DGKKZO28300750Z10C18A3ENI000 (日経新聞 2018年3月19日) 島精機 全自動編み機、中国で好調、ゴールドマン報告書追い風
 全自動編み機を手掛ける島精機製作所の株価が16日、急騰した。一時は前日比860円(13%)高の7620円をつけた。終値は10%高の7440円。日経平均株価が反落するなか、東証1部の値上がり率で4位に入った。ゴールドマン・サックス証券が15日、新規にリポートを出したのがきっかけだ。ゴールドマンは15日付で、島精機の投資判断を3段階で最上位の「買い」、目標株価を1万円として調査を始めた。担当アナリストの劉京元氏は「アジアの賃金上昇や省人化の流れを見ると、成長余地は大きい」と指摘する。すでに島精機をカバーする証券会社は6社。そのうち大和証券と岩井コスモ証券の2社が目標株価を算出し、いずれも7500円に設定する。ゴールドマンが高い目標株価を掲げたのを受けて、機関投資家や個人に買いが広がった。島精機はニットなどを全自動で編む機械を世界で唯一、開発する。値段は一般の編み機に比べて約4倍と高価だが、人件費の高騰する中国などで販売が伸びている。2018年3月期は連結売上高が前期比17%増の730億円、純利益は39%増の100億円を見込む。岩井コスモの大西等氏は「為替の円高はリスクだが、中国市場で利益率の高い製品が普及期に入ったのはプラスだ」と評価する。今期の予想PER(株価収益率)は27倍とミシン大手のJUKI(13倍)より高い。ただ、17年4~12月期の純利益は通期計画の9割に達し、業績の上振れ期待が強い。今後の成長戦略が明確になれば、株価は一段高となる可能性もある。


PS(2018年3月20日追加):*9-1のように、JR鹿児島中央駅西口地区再開発を巡り、鹿児島県が市道の拡幅に必要な測量調査を1年以上拒否し続けているとのことだが、新幹線の駅ができると通院圏や購買圏が沿線に広がるため、再開発するチャンスである。長崎市新大工町一帯の再開発は、*9-2のように、長崎玉屋の田中丸氏が中心になって市と協力し、「国内外の観光客が楽しめる」「地域の可能性を発揮する」などのコンセプトで21世紀型の街づくりが進んでいる。鹿児島市の場合は、郵便局も協力すれば広いエリアの再開発ができるため、京都駅などを参考に鹿児島の長所を出せばよいと思われる。さらに、新しいマンションには、*9-3のようなAIスピーカーを装備すれば、自宅療養や一人暮らしの高齢者の役にも立つだろう。

    
   *9-1より      *9-2より    西日本新聞2018.1.21
  鹿児島市のケース     長崎市のケース    福岡市のケース

*9-1:http://qbiz.jp/article/130192/1/ (西日本新聞 2018年3月21日) 進まぬ再開発事業 JR鹿児島中央駅西口 県が道路測量拒否 JR九州の計画に影響も
 鹿児島市のJR鹿児島中央駅西口地区再開発を巡り、土地を所有する鹿児島県が市道の拡幅に必要な測量調査を1年以上拒否し続けている。市は再開発に伴う道路整備は欠かせないとしているが、実現の見通しは立たない。既にビル建設計画を進めているJR九州は、事業進捗(しんちょく)に影響が出る恐れもあるとして、県の対応に気をもんでいる。西口地区には県が約1万平方メートル▽JR九州が8500平方メートル▽日本郵便(JP)が5700平方メートル▽市が700平方メートル−をそれぞれ所有。4者は2006年、11年の九州新幹線全線開通を見据え、計2万5千平方メートルの一体的な開発を目指して連絡会を発足した。09年にはコンベンション施設やホテルなど望まれる機能の基本規模を提示。概算工事費などの調査報告書をまとめたが、周辺で同種施設の民間開発が相次いだため協議は停滞し、14年8月に個別活用を含め幅広く検討する方針に転換した。JR九州は16年8月、所有地に商業ビルやマンションを建設する計画を発表。市も17年1月の連絡会で、再開発区域内で市道拡幅などの道路整備を提案した。拡幅時には所有地の一部提供が想定され、JRとJPは受け入れたものの、県だけは「現有地を確保したい」として応じず、連絡会も以降開かれていない。県の姿勢にJR九州幹部は「困った」と戸惑う。既に敷地内の建物の解体を始めており「県があと半年テーブルにつかなければ、着工や開業が計画より遅れるかもしれない」と危ぶむ。
     ▽△
 県は3月県議会で、所有地について「県民にとって最も望ましい利活用方法を検討中」と繰り返し、方針を示す時期も明らかにしなかった。県議の一人は「県民の貴重な財産。何年も『検討しています』だけでは納得できない」と批判する。表向きは活用方針を検討中とする県だが、腹案があるとの見方は強い。老朽化した県立総合体育館の建て替え地だ。県は有識者の検討委員会を設置し、市中心部を想定したアリーナ的施設整備が望ましいとする提言を2月に受けた。西口の土地は提言に符合する。新体育館構想は県から非公式に連絡会側に伝えられているという。県の構想を進めるには県所有地だけでは手狭。残り3者の協力が不可欠だが、JR九州幹部は「50年に一度の開発で計画を変えるつもりはない」と話し、JPも取材に「(現在の施設を)今後も活用する方針だ」と答えた。再開発の行方は見通せない。
:http://qbiz.jp/article/130201/1/ (西日本新聞 2018年3月21日) 九州の都市再開発、新大工町再開発図を公表 市長「観光客楽しめるよう」 組合「可能性を発揮したい」
 長崎市新大工町一帯の再開発を進める「新大工町地区市街地再開発組合」(田中丸弘子理事長)が20日、田上富久市長に事業の進捗(しんちょく)状況を報告、2021年度に完成予定の再開発ビルのイメージ図を示した。田上市長は「国内外の観光客が楽しめるようにしてほしい」と要望、田中丸氏は「地域の可能性を発揮したい」と述べた。組合によると、地元商店街の雰囲気も大切に、長崎の食文化体験ゾーンも手掛ける考えという。一帯は長崎玉屋の閉店に伴って再開発に向けた動きが始まり、14年1月に準備組合が発足。4年がかりで協議を進め、今年2月の本組合設置にこぎ着けた。組合の事業計画によると、旧長崎玉屋ビルがある北街区3800平方メートルに26階建て複合ビルを建設。地下1階に駐車場、1〜3階に商業施設を配し、4〜26階は分譲マンション大手の大京グループ(東京)が購入して販売する。国道34号を挟む南街区1300平方メートルは12階建て駐車場ビルを建設し、11〜12階はオフィスとする。総事業費は163億円。再開発を契機に市は二つの再開発ビルをつなぐ歩道橋を掛け替える。国と県は長崎電気軌道・新大工町停留所の西側に横断歩道を設けてスロープでつなぎ、車いすでも乗降可能なバリアフリー構造とする方針。

*9-3:http://qbiz.jp/article/130111/1/ (西日本新聞 2018年3月20日) 九電がAIスピーカー参入 家電操作や節電アドバイス
 九州電力は、人工知能(AI)搭載の対話型スピーカーを使った新サービスを今夏から始める。さまざまなものをインターネットでつなぐIoT技術を生かし、家電の操作や節電アドバイス、防犯などができるようにする。AIスピーカー製造の技術を持つ企業と協力して独自の端末を開発。利用者の話し掛けに応じてサービスを提供する。蓄積したデータを端末が分析し、各家庭に合わせた電化製品の自動制御もできるという。19日には、スピーカーがアニメキャラクターの音声で応答するサービスを導入すると発表。第1弾として「妖怪ウォッチ」のウィスパーを起用する。利用者の指示に「了解でうぃっす!」などと答える。24、25日に東京であるアニメイベントで披露し、今後、キャラの追加を検討するという。電力の小売り全面自由化で競争が激化する中、利便性の高いサービス提供で顧客獲得につなげる。毎月利用料を徴収する料金体系を予定しており、新たな収益源をつくる狙いもある。料金や開始時期は今後詰める。無料モニターも募集する予定。

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