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2017.1.13 武器の高度化に合わせて強化されるわけではない人類に本能として組み込まれた抑制機能の限界と安全保障 (2017年1月14、17、20、23日、2月2、3、6日に追加あり)
     
安保法制で広がる 今回の共謀罪法案        共謀罪導入の効果          共謀罪の
 自衛隊の活動  2016.8.25朝日新聞                           これまでの経緯

(図の説明:「自衛のための戦争」という理屈はどうにでもつくだろうが、行き過ぎた集団的自衛権の行使や他国軍の後方支援は、実際には自衛の範囲ではなく憲法9条違反だ。また、“テロリスト”と呼ばれている人たちの中にも、自分の領域を護るための闘いをしている人もいるため、双方の事情を公正に見ることなく外国で戦争をすれば、恨みを買って日本国内も危なくなる。そして、“テロリスト”を未然に逮捕するためとして何度も国会に提出されている“共謀罪”は、刑法や日本国憲法の理念に反しており、人権侵害を引き起こす可能性が高い)

(1)人間(動物の一種)に備わっている攻撃本能と抑制本能について
 動物(特にオス)には、縄張りを護ったり、自分のDNAを遺すためにメスを獲得したりするため、攻撃の本能を持つものが多い(「攻撃」:コンラート・ローレンツ《動物行動学者》著 参照)。そのうち、ライオンのように強い動物のオスは、種を滅亡させないための淘汰圧も働くので、負けた相手が逃げれば追わない抑制本能も兼ね備えている。

 一方、人間は、進化の上では、こぶしや石斧・剣程度の武器にしか攻撃抑制本能が対応していないのに、*3-3のように、強力な武器を使うようになったため、進化で獲得された攻撃本能や抑制本能が武器についていっていない。そのため、空爆のように、攻撃している相手が見えなくなれば攻撃しやすく、近代戦争ほど悲惨さの度合いが大きくなった。

 そして、核兵器はボタンを押すだけで相手の苦しみを見ずに多くの人を殺せるため、その極致なのだが、地球を汚染して自分をも苦境に陥らせる。しかし、攻撃している最中はそれに気づかず、気がついた時には自分も人類も終わっていることになりかねない。また、核兵器が抑止力になるというのも、私には信用できないため、そのような危険すぎる武器は、唯一の被爆国である日本が率先して廃絶に持って行って欲しいと願っている。

(2)世界と日本の核政策
 そして、2016年8月、*1-1のように、国連核軍縮作業部会が、核兵器禁止条約の交渉を来年中に開始するよう国連総会に勧告する報告書を採択し、*1-2のように、米国のオバマ大統領が「核なき世界」訴えたが、被爆国としてリーダーシップを取るべき日本は、*1-3のように、後ろ向きだった。

 しかし、国連総会第1委員会(軍縮)は、2016年10月27日、核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択し、123カ国が賛成したが、日本や核兵器保有国の米英仏露など38カ国が反対し、中国を含む16カ国が棄権したそうだ。その決議案は、オーストリアやメキシコなどの57カ国が共同提案し、総会本会議で採択される見通しだそうで、これらの国々は立派だ。

 日本は北朝鮮の核・ミサイル開発を理由として反対したそうだが、北朝鮮の敵は本来は日本ではない筈で、核兵器廃絶にリーダーシップを取るべき日本が北朝鮮を理由に反対するのはどうかと思う。

(3)他の国は・・
 北朝鮮は、*2-1のように、使用済核燃料を再処理して核兵器の原料となるプルトニウムを新たに生産したことを明らかにし、弾頭の「小型化、軽量化、多種化」を達成して水爆保有に至ったと主張し、「米国が核兵器でわれわれを恒常的に脅かしている条件下では核実験を中断しない」としており、言っていることはわかるが、何度も日本海に落下させられると日本海が汚染されるので困る。また、電力不足を解決するため軽水炉原発の建設も進めるとしているが、北朝鮮が発電に原発を使う必要はないだろう。

 そして、日本海は狭くて湖のような海である上、食料となる魚介類の宝庫でもあるため、環日本海諸国で「日本海汚染防止条約」を結ぶのがよいと考える。

 なお、*2-2のように、パキスタンは、「包括的核実験禁止条約の署名や批准が求められれば、インドとともに検討せざるを得ない」と述べ、パキスタンとインドが包括的核実験禁止条約の署名に応じれば、核兵器なき世界へと大きく前進するそうだ。

(4)シリア等の空爆
 *3-1のように、シリアの空爆で顔中が血とほこりにまみれた5歳の少年が、茫然と前を見つめている姿に動揺と非難が沸き起こったそうだが、助けられずに建物の下敷きになっている人は無数にいる筈だ。そして、空爆している国は、*3-2のように、ロシアだけではなく、米国や有志連合もだ。

(5)日本の武器輸出
 経団連は、*4-1のように、安全保障関連法の成立で自衛隊の役割が拡大し、「防衛産業の役割は一層高まるので武器輸出推進を」と提言したそうだ。しかし、「Made in Japan」の武器が世界に出回れば、日本の平和ブランドがなくなり、その武器で攻撃された国から恨みを買うという大きなつけを支払わされる。そのため、*4-2のような武器輸出は控えるべきで、儲かるからやってよいというものではない。

(6)安保法と共謀罪
 日米両政府は、*5-1のように、2015年4月27日に防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、自衛隊の活動を制限してきた日米協力は転機を迎えて、沖縄県の尖閣諸島も日米安全保障条約5条の適用範囲にあるとしたそうだが、これは大統領が変わっても確かだろうか。

 また、*5-2のように、集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法を2015年3月29日に施行し、日本が専守防衛を転換して世界のどこへでも行けるようにしたのは日本国憲法違反だ。

 さらに、どちらにも理があるのに、どちらかについて外国で戦争をすると、恨みを買うことになる。そうすると、日本でもテロが起きる可能性が増して、*5-3のように、「共謀罪」などを整備せざるを得ないことになる。そのため、安全保障法制の強化は抑止力を増したのではなく、リスクを上げたのである。

 そして、日本政府は、テロ対策を口実に、「共謀罪」又は「テロ等準備罪」をしつこく提出しているが、「共謀罪」関連法案は過去3回にわたって提出され、捜査当局の拡大解釈で「一般の市民団体や労働組合も対象になる」「内心や思想を理由に処罰される」との批判を浴びて廃案になったものだ。

 今回は676の罪(テロ関連は167件)に対象を絞り込んだそうだが、「その他」というジャンルもあり、捜査当局が拡大解釈して共謀罪の範囲だと強弁することは容易であるため、実際に犯行が行われていないのに罪とするのは、刑法の理念にも日本国憲法の内容にも反する。また、*5-4のように、「共謀罪」を東京五輪対策とするのは、幼稚な口実だ。

<世界と日本の核政策>
*1-1:http://mainichi.jp/articles/20160820/k00/00e/040/245000c (毎日新聞 2016年8月20日) 核禁止条約:.広島の被爆者「核廃絶への一歩」 報告書採択
 国連核軍縮作業部会が、核兵器禁止条約の交渉を来年中に開始するよう国連総会に勧告する報告書を採択したことについて、広島の市民団体や被爆者らは「核廃絶への一歩」と歓迎。今後の議論が前進するよう後押しする構えだ。市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」共同代表の森滝春子さん(77)は「核拡散防止条約(NPT)の枠組みでは核兵器廃絶は前進しないと分かってきた中で、報告書の採択は今後に展望が持てる」と歓迎し、「秋の国連総会でどう取り入れるかが重要。志のある国、市民、NGOが連携してここまできた。さらに連携を強めたい」と話した。一方、広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧智之副理事長(74)は「一歩前進だが、安心はできない」と複雑な表情。米ニューヨークで昨年あったNPT再検討会議で最終文書案が採択できなかった経緯があり、核保有国と非保有国との溝は深いと感じているからだ。「本来、被爆国としてリーダーシップを取るべき日本政府が後ろ向きな態度なのが、被爆者としてとてもはがゆい。『核の傘』への依存からチェンジする勇気を持ってほしい」と求めた。 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(71)は「核保有国と非保有国の溝を埋めるため、私たち市民も世論という形でこの動きを後押ししたい」と話した。

*1-2:http://mainichi.jp/articles/20160921/k00/00m/030/141000c (毎日新聞 2016年9月21日) オバマ大統領、「核なき世界」訴え 最後の国連演説
 国連総会の一般討論演説が20日午前(日本時間同日夜)、ニューヨークの国連本部で始まり、オバマ米大統領が任期中最後の演説に臨んだ。オバマ氏は「分断された世界に後退するのか、より協調的な世界に進むのか岐路にある」と述べた。地球温暖化や、難民問題など、地球規模で取り組む課題が増えており、解決するためには国際協調がさらに重要になると訴えた。オバマ氏は2009年1月の就任から7年半に及ぶ外交を総括し、「核兵器のない世界を追求しなければならない」と改めて主張。米国をはじめとする核保有国は「核兵器を削減する必要があり、核実験を二度としないという国際的な約束を確認しなければならない」と主張した。今月9日に5回目の核実験を強行した北朝鮮については「報いを受ける必要がある」と圧力強化の必要性を強調した。ただ、今年5月に被爆地・広島を訪問した以外は「核なき世界」に向けた具体的な実績がなく、道半ばでの最後の演説となった。また、原理主義的な考えや人種差別を拒否し、人権にもとづいた国際協力を進めることが重要と指摘。南シナ海の権益をめぐる問題については、平和的に解決する必要があると訴えた。経済分野では、国際化の進展で貧困率が下がる効果があったことを紹介し、経済のグローバル化を否定する動きをけん制した。環境規制の強化や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の実現、経済的格差の縮小が必要と訴えた。

*1-3:http://mainichi.jp/articles/20161028/k00/00e/030/166000c (毎日新聞 2016年10月28日) 国連:核兵器禁止交渉決議を採択 日本は反対
 国連総会第1委員会(軍縮)は27日(日本時間28日)、核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案を賛成多数で採択した。123カ国が賛成し、日本や核兵器保有国の米英仏露など38カ国が反対した。中国を含む16カ国は棄権した。同案を推進してきた非核保有国は保有国の反発を押し切り、核兵器を禁止する国際的な法的枠組み作りを目指して一歩を踏み出した。決議案はオーストリアやメキシコなど少なくとも57カ国が共同提案した。今年中にも総会本会議で採択される見通し。核兵器の非人道性を強調し法的に禁止する国際条約を作って、核兵器廃絶への動きの推進を図る。交渉は、来年3月27~31日と6月15日~7月7日に、ニューヨークの国連本部で実施。核兵器の開発や実験、製造、保有や使用など、具体的に何を禁じるかも討議する。国際機関や非政府組織(NGO)も参加できる。日本の岸田文雄外相は28日午前の記者会見で、反対理由について、北朝鮮の核・ミサイル開発の深刻化に言及しつつ、「核兵器国と非核兵器国の対立を一層助長する」と説明。ただ、交渉には積極的に参加する意向も示した。今回の決議が採択された背景には、米国やロシアなど核兵器保有国による核軍縮の停滞がある。この10年、核軍縮交渉の後押しを目指す一部の非核保有国は、核兵器の非人道性を強調して使用に法的な歯止めをかける「人道的アプローチ」を推進し、世界的な潮流の形成を図ってきた。こうした中、15年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で最終文書を採択できなかったことから、現状の核軍縮への取り組みに対する不満がさらに強まっていた。核兵器の法的禁止を目指す非核保有国の動きに対し、保有国は激しく反発。米国は、米国の「核の傘」が持つ抑止力に悪影響を及ぼすと主張。同盟国である北大西洋条約機構(NATO)諸国やアジア諸国に、採決での反対投票と交渉不参加を呼びかけた。一方、日本が提出した核兵器廃絶決議案も27日、賛成多数で採択された。

<他の国は・・>
*2-1:http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2016081802000055.html
(中日新聞 2016.8.18) 北朝鮮、核再処理認める 核兵器増産可能に
 北朝鮮の原子力研究院は十七日、共同通信に対し「黒鉛減速炉(原子炉)から取り出した使用済み核燃料を再処理した」と表明、寧辺(ニョンビョン)の核施設で核兵器の原料となるプルトニウムを新たに生産したことを明らかにした。北朝鮮が六カ国協議合意に基づき停止していた原子炉の再稼働を二〇一三年に表明して以降、再処理実施を公式に認めたのは初めて。核兵器増産が可能になったことを意味する。核実験は中断しないとし、濃縮ウランの核兵器利用も明言した。共同通信の取材に書面で回答した。核開発を担当する原子力研究院が外国メディアの取材に応じたのは初めて。国際社会の制裁下でも、核兵器開発を加速させる姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。北朝鮮は六カ国協議合意に基づき〇七年七月に原子炉や再処理施設の稼働を停止。その後、主要部品を取り外すなどの「無能力化措置」に応じたが、今回の再処理再開で合意は完全に白紙に戻ったことになる。原子力研究院は、核弾頭の「小型化、軽量化、多種化」を達成、水爆保有に至ったとも主張。プルトニウムや濃縮ウランの生産量については明らかにしなかった。「米国が核兵器でわれわれを恒常的に脅かしている条件下で、核実験を中断しない」と強調し、五回目の核実験をいずれは行う立場を表明。ウラン濃縮については「核武力建設と原子力発電に必要な濃縮ウランを計画通りに生産している」と述べ、核兵器に使われる高濃縮ウランを生産していることも認めた。また、電力不足を解決するため軽水炉原発の建設を進めるとし、出力十万キロワットの実験用軽水炉の建設を推進していると明らかにした。クラッパー米国家情報長官は今年二月、衛星写真の分析などに基づき、北朝鮮が数週間から数カ月内にプルトニウム生産が可能な段階にあるとの分析を明らかにしており、これが裏付けられた。米専門家らは一年間で核兵器一~三個分に相当するプルトニウム約六キロ前後を追加生産することが可能とみている。
◆原子力研究院の回答骨子
▼プルトニウム生産のため使用済み核燃料を再処理した
▼米国が核兵器でわれわれを脅かしているため、核実験を中断しない
▼核武力建設と原子力発電に必要な濃縮ウランを生産している
▼核弾頭は既に小型化、軽量化、多種化されており、水爆まで保有
▼電力問題の解決のため出力10万キロワットの実験用軽水炉の建設を推進
<原子力研究院> 北朝鮮で原子力関連の研究や実験などを行う国家機関。核開発と経済建設を並行して推進する「並進」路線が国家方針とされたのを受け、2013年4月の政令で内閣に設けられた原子力工業省に所属する。核燃料棒工場や、プルトニウム生産に使われる黒鉛減速炉などの施設を管轄する。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/355958
(佐賀新聞 2016年9月15日) パキスタン、核実験禁止署名検討、NSG加入で「インドとともに」
 核拡散防止条約(NPT)未加盟国パキスタンのアハタル外務省軍縮局長は14日、核技術などの輸出を管理する「原子力供給国グループ」(NSG)の加入条件として、包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名や批准が求められれば「インドとともに検討せざるを得ない」と述べた。共同通信とのインタビューで語った。オバマ米政権は、あらゆる国に爆発を伴う核実験の自制を求める国連安全保障理事会決議の草案を全理事国に配布。北朝鮮の核実験が脅威となる中、NSG加入を目指すNPT未加盟国パキスタンとインドがCTBTの署名などに応じれば「核兵器なき世界」へ大きく前進する。

<空爆>
*3-1:http://jp.reuters.com/article/syria-boy-video-idJPKCN10U091
(ロイター 2016.8.18) シリア空爆で流血の5歳男児映像、SNSで動揺と非難広がる
 顔中が血とぼこりにまみれた小さな少年が、静かに腰かけ、ただぼう然とまっすぐに前を見つめている。シリアの都市アレッポで、空爆とみられる攻撃が起きた後のことだ。救急車の中にたった1人で座っているこの少年は、医師らが確認したところによると、オムラン・ダクニシュちゃん(5)で、頭から流れる血をぬぐおうとしている。受けたけがには気づいていない。空爆に直撃された建物のがれきから救出された子どもたちの動画がソーシャルメディアで拡散し、5年にわたるシリア内戦の悲惨な現実に動揺と非難が沸き起こっている。アレッポは反体制派と政府が支配する地域に分かれており、激戦地となっている。2週間前に奪われたアレッポ南西の地域を奪還すべく、政府軍は連日のように反体制派が支配する地域を激しく空爆している。動画は17日、市内の反体制派が支配する地域で撮影された。動画には、救急隊員が建物から少年を救出し、救急車の座席に座らせる様子が映し出されている。2人の子どもがさらに救急車に乗ってくるまで、少年は放心した様子で1人座っている。その後、救急車には顔中血だらけの男性も乗ってくる。昨年は、溺死したシリア難民のアイラン・クルディちゃん(当時3歳)の写真がソーシャルメディアを駆け巡り、シリア内戦の犠牲者に対する同情が世界的に高まった。

*3-2:http://www.cnn.co.jp/special/interactive/35074449.html
(CNN 2015年11月) ISISを空爆している国はどこか
 パリ同時多発テロの発生後、米国と有志連合は過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の掃討作戦の強化に向けた動きを見せている。米国と有志連合は2014年8月以来、ISISへの攻撃を続けている。ロシアなど有志連合に参加していない国も空爆を行っている。トルコやヨルダン、サウジアラビアといったアラブ諸国も規模は小さいが空爆を実施している。
●米国と有志連合
 米国防総省のカーター長官は下院の委員会で、イラクでの攻撃を増やすため特殊遠征部隊を派遣する方針を示している。米当局者によれば、この決断は、イラクでISISと戦うために展開している米特殊部隊が増強されることを意味している。オバマ米大統領は10月、シリアでの対ISIS作戦の支援に向けて、「50人未満」の特殊部隊を派遣することを承認していた。米国防総省によれば、11月19日までに、米国と有志連合はISISを標的に、イラクで5432回、シリアで2857回、計8289回の空爆を行っている。両国に対する空爆の多くは米国が単独で行った。その数は6471回に上る。米国以外がイラクとシリアで1818回の空爆を行った。有志連合には、英仏のほかにもオーストラリアやベルギー、カナダ、デンマーク、オランダ、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)も参加している。有志連合による空爆の大部分(約66%)はイラクの目標に向けて行われた。イラクとシリアで現在行われている有志連合による空爆について知っていることの多くは、米軍からの情報提供による。空爆は米中央軍(CENTCOM)によって実施されている。米国以外の各国がISIS掃討のための空爆をどれだけ行っているのか正確に知ることは難しい。各国がそれぞれに報告を行い、そのタイムテーブルもばらばらなためだ。有志連合を率いる米国は、情報公開について各国の裁量に任せている。例えば、カナダは、シリアで実施した全ての空爆について報告を行っている。空爆の情報を集めている非営利組織「エアウォーズ」によれば、オーストラリアは毎月報告を行っているが、イラクの正確な目標については情報提供していない。エアウォーズによれば、2014年の晩夏に空爆が始まった当初、フランスの空爆に関する透明性はかなりの水準を目指していたという。仏国防省は24時間以内に空爆について報告を行い、使われた戦闘機や武器、目標などの詳細を明らかにしていた。フランスは現在、週ごとの報告となり、標的の場所もほとんど明らかにされなくなったという。
●ロシアがISISを標的に
 ロシアは今秋、シリアで空爆を開始した。しかし、トルコがロシア機を撃墜した後は複雑な状況となっている。トルコのエルドアン大統領はロシア機は領空を侵犯したと主張。一方、ロシアのプーチン大統領は、ロシア機撃墜について、ISISとの石油密輸を守るためだったとトルコを非難している。プーチン氏によれば、撃墜されたロシア機はシリアでISISへの攻撃を実行しようとしていた。ロシアは9月下旬から10月上旬にかけて、戦闘機や戦車、戦闘ヘリなどをシリアに移送した。ロシア海軍はまた、10月上旬にシリアの目標に対する攻撃を開始した。ロシアはISISを標的に攻撃を行っているとしているが、米国などは、空爆の多くは、ロシアの友好国であるシリアの政府軍と戦う反体制派を攻撃したものだとみている。10月31日、ロシアの旅客機がエジプトで墜落し乗客乗員224人が死亡した。ISISが旅客機を爆破したと犯行声明を出した。パリ同時多発テロの5日後、ロシアはラッカを爆撃した。

*3-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12550433.html (朝日新聞 2016年9月9日) (インタビュー)戦場に立つということ 戦場の心理学の専門家、デーブ・グロスマンさん
 戦場に立たされたとき、人の心はどうなってしまうのか。国家の命令とはいえ、人を殺すことに人は耐えられるものか。軍事心理学の専門家で、長く人間の攻撃心について研究してきた元米陸軍士官学校心理学教授、デーブ・グロスマンさんに聞いた。戦争という圧倒的な暴力が、人間にもたらすものとは。
――戦場で戦うとき、人はどんな感覚に陥るものですか。
 「自分はどこかおかしくなったのか、と思うようなことが起きるのが戦場です。生きるか死ぬかの局面では、異常なまでのストレスから知覚がゆがむことすらある。耳元の大きな銃撃音が聞こえなくなり、動きがスローモーションに見え、視野がトンネルのように狭まる。記憶がすっぽり抜け落ちる人もいます。実戦の経験がないと、わからないでしょうが」
――殺される恐怖が、激しいストレスになるのですね。
 「殺される恐怖より、むしろ殺すことへの抵抗感です。殺せば、その重い体験を引きずって生きていかねばならない。でも殺さなければ、そいつが戦友を殺し、部隊を滅ぼすかもしれない。殺しても殺さなくても大変なことになる。これを私は『兵士のジレンマ』と呼んでいます」「この抵抗感をデータで裏付けたのが米陸軍のマーシャル准将でした。第2次大戦中、日本やドイツで接近戦を体験した米兵に『いつ』『何を』撃ったのかと聞いて回った。驚いたことに、わざと当て損なったり、敵のいない方角に撃ったりした兵士が大勢いて、姿の見える敵に発砲していた小銃手は、わずか15~20%でした。いざという瞬間、事実上の良心的兵役拒否者が続出していたのです」
――なぜでしょう。
 「同種殺しへの抵抗感からです。それが人間の本能なのです。多くは至近距離で人を殺せるようには生まれついていない。それに文明社会では幼いころから、命を奪うことは恐ろしいことだと教わって育ちますから」「発砲率の低さは軍にとって衝撃的で、訓練を見直す転機となりました。まず射撃で狙う標的を、従来の丸型から人型のリアルなものに換えた。それが目の前に飛び出し、弾が当たれば倒れる。成績がいいと休暇が3日もらえたりする。条件付けです。刺激―反応、刺激―反応と何百回も射撃を繰り返すうちに、意識的な思考を伴わずに撃てるようになる。発砲率は朝鮮戦争で50~55%、ベトナム戦争で95%前後に上がりました」
    ■     ■
――訓練のやり方次第で、人は変えられるということですか。
 「その通り。戦場の革命です。心身を追い込む訓練でストレス耐性をつけ、心理的課題もあらかじめ解決しておく。現代の訓練をもってすれば、我々は戦場において驚くほどの優越性を得ることができます。敵を100人倒し、かつ我々の犠牲はゼロというような圧倒的な戦いもできるのです」「ただし、無差別殺人者を養成しているわけではない。上官の命令に従い、一定のルールのもとで殺人の任務を遂行するのですから。この違いは重要です。実際、イラクやアフガニスタン戦争の帰還兵たちが平時に殺人を犯す比率は、戦争に参加しなかった同世代の若者に比べてはるかに低い」
――技術進歩で戦争の形が変わり、殺人への抵抗感が薄れている面もあるのでは?
 「ドローンを飛ばし、遠隔操作で攻撃するテレビゲーム型の戦闘が戦争の性格を変えたのは確かです。人は敵との間に距離があり、機械が介在するとき、殺人への抵抗感が著しく低下しますから」「しかし接近戦は、私の感覚ではむしろ増えています。いま最大の敵であるテロリストたちは、正面から火砲で攻撃なんかしてこない。我々の技術を乗り越え、こっそり近づき、即席爆弾を爆破させます。最前線の対テロ戦争は、とても近い戦いなのです」
――本能に反する行為だから、心が傷つくのではありませんか。
 「敵を殺した直後には、任務を果たして生き残ったという陶酔感を感じるものです。次に罪悪感や嘔吐(おうと)感がやってくる。最後に、人を殺したことを合理化し、受け入れる段階が訪れる。ここで失敗するとPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しやすい」「国家は無垢(むく)で未経験の若者を訓練し、心理的に操作して戦場に送り出してきました。しかし、ベトナム戦争で大失敗をした。徴兵制によって戦場に送り込んだのは、まったく準備のできていない若者たちでした。彼らは帰国後、つばを吐かれ、人殺しとまで呼ばれた。未熟な青年が何の脅威でもない人を殺すよう強いられ、その任務で非難されたら、心に傷を負うのは当たり前です」「PTSDにつながる要素は三つ。(1)幼児期に健康に育ったか(2)戦闘体験の衝撃度の度合い(3)帰国後に十分なサポートを受けたか、です。たとえば幼児期の虐待で、すでにトラウマを抱えていた兵士が戦場で罪のない民を虐殺すれば、リスクは高まる。3要素のかけ算になるのです」
――防衛のために戦う場合と、他国に出て戦う場合とでは、兵士の心理も違うと思うのですが。
 「その通り。第2次大戦中、カナダは国内には徴兵した兵士を展開し、海外には志願兵を送りました。成熟した志願兵なら、たとえ戦場体験が衝撃的なものであったとしても、帰還後に社会から称賛されたりすれば、さほど心の負担にはならない。もし日本が自衛隊を海外に送るなら、望んだもののみを送るべきだし、望まないものは名誉をもって抜ける選択肢が与えられるべきです」「ただ、21世紀はテロリストとの非対称的な戦争の時代です。国と国が戦った20世紀とは違う。もしも彼らが核を入手したら、すぐに使うでしょう。いま国を守るとは、自国に要塞(ようさい)を築き、攻撃を受けて初めて反撃することではない。こちらから敵の拠点をたたき、打ち負かす必要がある。これが世界の現実です」
――でも日本は米国のような軍事大国と違って、戦後ずっと専守防衛でやってきた平和国家です。
 「我々もベトナム戦争で学んだことがあります。世論が支持しない戦争には兵士を送らないという原則です。国防長官の名から、ワインバーガー・ドクトリンと呼ばれている。国家が国民に戦えと命じるとき、その戦争について世論が大きく分裂していないこと。もしも兵を送るなら彼らを全力で支援すること。これが最低限の条件だといえるでしょう」
     ■     ■
――気になっているのですが、腰につけたふくらんだポーチには何が入っているのですか。
 「短銃です。私はいつも武装しています。いつでも立ち上がる用意のある市民がいる間は、政府は国民が望まないことを強制することはできない。武器を持つ、憲法にも認められたこの権利こそが、専制への最大の防御なのです」
――でも銃があふれているから銃撃事件が頻発しているのでは?
 「日本の障害者施設で最近起きた大量殺人ではナイフが使われたそうですね。我々は市民からナイフを取り上げるべきでしょうか」
――現代の戦争とは。
 「戦闘は進化しています。火砲の攻撃力は以前とは比較にならないほど強く、精密度も上がり、兵士はかつてなかったほど躊躇(ちゅうちょ)なく殺人を行える。志願兵が十分に訓練され、絆を深めた部隊単位で戦っている限り、PTSDの発症率も5~8%に抑えられます」「一方で、いまは誰もがカメラを持っていて、いつでも撮影し、ネットに流すことができる時代です。ベトナム戦争さなかの1968年、ソンミ村の村民500人を米軍が虐殺した事件の映像がもしも夜のニュースで流れていたら、米国民は怒り、大騒ぎになっていたでしょう。現代の戦争は、社会に計り知れないダメージを与えるリスクも抱えているのです」
     *
 Dave Grossman 1956年生まれ。米陸軍退役中佐。陸軍士官学校・心理学教授、アーカンソー州立大学・軍事学教授をへて、98年から殺人学研究所所長。著書に「戦争における『人殺し』の心理学」など。
■戦闘がもたらすトラウマ深刻 一橋大学特任講師・中村江里さん
 米国では、戦場の現実をリアルな視点からとらえる軍事心理学や軍事精神医学の研究が盛んで、グロスマンさんもこの観点から兵士の心理を考えています。根底にあるのは、いかに兵士を効率的に戦わせるかという意識です。兵士が心身ともに健康で、きちんと軍務を果たしてくれることが、軍と国家には重要なわけです。しかし、軍事医学が関心を注ぐ主な対象は、戦闘を遂行している兵士の「いま」の健康です。その後の長い人生に及ぼす影響まで、考慮しているとは思えません。私自身、イラク帰還米兵の証言やアートを紹介するプロジェクトに関わって知ったのですが、イラクで戦争の大義に疑問を抱き、帰還後に良心の呵責(かしゃく)に苦しんでいる若者は大勢います。自殺した帰還兵のほうが、戦闘で死んだ米兵より多いというデータもある。戦場では地元民も多く巻き添えになり苦しんでいるのに、そのトラウマもまったく考慮されない。軍事医学には国境があるのです。一方で、日本には戦争の現実を直視しない傾向がありました。戦後、米軍の研究に接した日本の元軍医は、兵士が恐怖心を表に出すのを米軍が重視していたことに驚いていた。旧日本軍は「恥」として否定していましたから。口に出せず、抑え込まれた感情は結局、手足の震えや、声が出ないといった形で表れ、「戦争神経症」の症状を示す兵士は日中戦争以降、問題化していました。その存在が極力隠されたのは、心の病は国民精神の堕落の象徴と位置づけられたためです。こうした病は「皇軍」には存在しない、とまで報じられた。精神主義が影を落としていたわけです。戦争による心の傷は、戦後も長らく「見えない問題」のままでした。トラウマやPTSDという言葉が人々の関心を集め始めたのは1995年の阪神・淡路大震災がきっかけです。激戦だった沖縄戦や被爆地について、心の傷という観点から研究が広がったのもそれ以降。戦争への忌避感がそれほど強かったからでしょう。昨年の安保関連法制定により、自衛隊はますます「戦える」組織へと変貌(へんぼう)しつつあります。「敵」と殺し殺される関係に陥ったとき、人の心や社会にはどんな影響がもたらされるのか。私たちも知っておくべきでしょう。暴力が存在するところでは、トラウマは決してなくならないのですから。
     *
なかむらえり 1982年生まれ。専門は日本近現代史。旧日本軍の戦争神経症を題材にした新著を執筆中。
■取材を終えて
 戦場に立つということは、これほどまでに凄(すさ)まじいことなのだと思った。ただ、米国民がこぞって支持したイラク戦争では結局、大量破壊兵器は見つからず、「イスラム国」誕生につながったことも指摘しておきたい。日本が今後、集団的自衛権を行使し、米国と一心同体となっていけば、まさに泥沼の「テロとの戦い」に引き込まれ、手足として使われる恐れを強く感じる。やはり、どこかに太い一線を引いておくべきではないだろうか。一生残る心の傷を、若者たちに負わせないためにも。

<日本の武器輸出>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11958784.html
(朝日新聞 2015年9月11日) 経団連「武器輸出推進を」
 提言では、審議中の安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割が拡大するとし、「防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には中長期的な展望が必要」と指摘。防衛装備庁に対し、「適正な予算確保」や人員充実のほか、装備品の調達や生産、輸出の促進を求めた。

*4-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994297.html
(朝日新聞社説 2015年10月2日) 防衛装備庁 なし崩し許さぬ監視を
 防衛省の外局となる防衛装備庁がきのう発足した。これまで陸海空の自衛隊などがバラバラに扱っていた武器の研究開発から購入、民間企業による武器輸出の窓口役まで一元的に担うことになる。とりわけ気がかりなのが、武器輸出の行方だ。安倍政権は昨春、「武器輸出三原則」を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を決定した。一定の基準を満たせば、武器輸出や国際的な共同開発・生産を解禁するもので、装備庁はその中心となる。安保法制の成立で自衛隊の活動範囲を地球規模に拡大したことと合わせ、戦後日本の平和主義を転換させる安倍政権の安保政策の一環といえる。問題は武器購入や輸出という特殊な分野で、いかに監視を機能させるかだ。技術の専門性が高いうえに機密の壁もあり、外部からの監視が届きにくい。輸出した武器がどう扱われるか、海外での監視は難しい。新原則では「平和貢献や日本の安全保障に資する場合などに限定し、厳格に審査する」としているが、実効性は保てるのか。米国製兵器の購入をめぐる費用対効果も問われる。今年の概算要求でも、新型輸送機オスプレイや滞空型無人機グローバルホークなど高額兵器の購入が目白押しだ。米国への配慮から採算を度外視することはないか。かねて自衛隊と防衛産業は、天下りを通じた「防衛ムラ」と呼ばれる癒着構造が指摘され、コスト高にもつながってきた。そこに手をつけないまま、2兆円の予算を握る巨大官庁が誕生した。高額の武器取引が腐敗の温床とならないように、透明性をどう確保していくか。装備庁には「監察監査・評価官」を長とする20人規模の組織ができたが、いずれも防衛省の職員である。身内のチェックでは足りないのは明らかだ。武器の購入や輸出は装備庁だけでなく、政府全体の判断となる。ビジネスの好機とみた経団連は先月、「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきだ」との提言をまとめ、政府に働きかけている。しかし、戦後の歴代内閣が曲がりなりにもとってきた抑制的な安保政策は、多くの国民の理解にもとづくものだ。経済の論理を優先させ、日本の安保政策の節度をなし崩しに失う結果になってはならない。何よりも国会による監視が、これまで以上に重要になる。

<安保法と共謀罪>
*5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150428&ng=DGKKASFS27H6F_X20C15A4MM8000 (日経新聞 2015.4.28) 日米、世界で安保協力 指針18年ぶり改定、新法制も与党実質合意
 日米両政府は27日午前(日本時間28日未明)、防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定した。中国による海洋進出など安全保障環境の変化を受け、日米がアジア太平洋を越えた地域で連携し、平時から有事まで切れ目なく対処する。与党はこれを裏付ける新たな安保法制で実質合意。自衛隊の活動を制限してきた日米協力は転機を迎えた。日米両政府がニューヨーク市内で開いた外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で合意した。日本側から岸田文雄外相と中谷元・防衛相、米側はケリー国務長官、カーター国防長官が出席。指針改定は18年ぶり。関連の共同文書も発表した。指針改定は「アジア太平洋地域およびこれを越えた地域が安定し平和で繁栄したものになる」ことを目的とし、日米の安保協力を拡大。自衛隊による米軍支援をさらに大幅に広げる。ケリー氏は協議後の共同記者会見で、指針改定を「歴史的な転換点」と指摘。沖縄県・尖閣諸島が日米安全保障条約5条の適用範囲にあると強調した。岸田文雄外相は「内外に日米の強い同盟関係を示すことができた」と述べた。日米同盟は1951年締結の安保条約で始まり、60年の改定で米国の日本防衛義務を明記。日米指針は冷戦下に旧ソ連への対処、97年改定で北朝鮮の脅威などに対応するものに変わってきた。ただ、活動地域や協力内容を厳しく制約した。今回の指針改定は安保法制をめぐる与党協議が先行。与党合意を反映した協力項目を列挙し、制約を大幅に緩和した。たとえば「日本周辺」としていた後方支援の範囲を日本の平和や安全に重要な影響を及ぼすようなケースと再定義。日本周辺以外で他国軍への給油などの後方支援ができる。米軍による日本防衛に重点を置いた協力から地理的制約を設けずに共同対処や国際貢献を可能にする協力体制を築く。日本が直接攻撃を受けていなくても米国などへの攻撃に対処できるようにする集団的自衛権の行使にあたる協力も、安保法制の与党合意に沿って盛り込んだ。直接の武力攻撃を受けた際に最小限度の武力行使を認めていた戦後の安保政策の転換を一段と進めた。集団的自衛権行使の具体例では、中東・ホルムズ海峡や南シナ海など海上交通路での機雷掃海、強制的な船舶検査を明示。武力攻撃事態対処では尖閣諸島などを念頭に、日米共同で島しょ防衛にあたるとした。与党は27日、武力攻撃事態法改正案など法改正案10本と新法案1本を実質合意。政府は5月半ばに関連法案を国会提出し、早期成立を目指す。

*5-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJ3X5VM0J3XUTFK00P.html
(朝日新聞 2016年3月29日) 安保法が施行 集団的自衛権容認、専守防衛を大きく転換
 集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法が29日、施行された。自衛隊の海外での武力行使や、米軍など他国軍への後方支援を世界中で可能とし、戦後日本が維持してきた「専守防衛」の政策を大きく転換した。民進、共産など野党は集団的自衛権の行使容認を憲法違反と批判。安保法廃止で一致し、夏の参院選の争点に据える。安保法は、昨年9月の通常国会で、自民、公明両党が採決を強行し、成立した。集団的自衛権行使を認める改正武力攻撃事態法など10法を束ねた一括法「平和安全法制整備法」と、自衛隊をいつでも海外に派遣できる恒久法「国際平和支援法」の2本からなる。戦後の歴代政権は、集団的自衛権行使を認めてこなかった。しかし安保法により、政府が日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」と認定すれば、日本が直接武力攻撃されなくても、自衛隊の武力行使が可能になった。自衛隊が戦争中の他国軍を後方支援できる範囲も格段に広がった。安倍晋三首相は日本の安全保障環境の悪化を挙げて法成立を急いだ。しかし、国連平和維持活動(PKO)での「駆けつけ警護」や平時から米艦船などを守る「武器等防護」をはじめ、同法に基づく自衛隊への新たな任務の付与は、夏以降に先送りする。念頭にあるのは、今夏の参院選だ。世論の反対がなお強いなかで、安保法を具体的に適用すれば、注目を集めて参院選に影響する。そうした事態を避ける狙いがある。その一方で、安保法を踏まえた日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に基づき「同盟調整メカニズム」が始動。自衛隊と米軍の連絡調整は一層緊密化した。今年1月以降の北朝鮮の核実験やミサイル発射を受け、首相は「日米は従来よりも増して緊密に連携して対応できた」と安保法の効果を強調した。ただ、日米の現場で交わされる情報の多くは軍事機密に当たり、特定秘密保護法で厳重に隠されている。中谷元・防衛相は28日、防衛省幹部に「隊員の安全確保のため、引き続き慎重を期して準備作業、教育訓練を進めてほしい」と訓示した。自衛隊は今後、部隊行動基準や武器使用規範を改定し、それに従った訓練を行う。民進党に合流する前の民主、維新両党は2月、安保法の対案として「領域警備法案」などを国会に提出。共産党など他の野党とは「集団的自衛権の行使容認は違憲」との点で一致し、安保法廃止法案も提出している。首相は野党連携に対し、「安全保障に無責任な勢力」と批判を強める。安保法をどう見るかは、今夏の参院選で大きな争点となる。
■安全保障関連法の主な法律
・集団的自衛権の行使を認める改正武力攻撃事態法
・地球規模で米軍などを後方支援できる重要影響事態法
・平時でも米艦防護を可能とする改正自衛隊法
・武器使用基準を緩め、「駆けつけ警護」や「治安維持任務」を可能とする改正PKO協力法
・他国軍の後方支援のために自衛隊をいつでも派遣可能にする国際平和支援法(新法)

*5-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12740997.html (朝日新聞 2017年1月11日) 「共謀罪」絞り込み、焦点 676の罪対象、テロ関連は167件 通常国会で議論へ
 菅義偉官房長官は10日、衆参両院の議院運営委員会理事会で、通常国会を20日に召集する方針を伝えた。犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案が大きな焦点で、政府の原案で676に上る対象犯罪の数が与党協議や国会審議の論点となりそうだ。自民党の二階俊博幹事長は10日の記者会見で、法案成立への意欲を見せた。「テロに対する対策をしっかり講じておかないといけない。提案する以上は、できれば今国会で(成立)ということになる」。「共謀罪」関連法案は過去3回にわたり提出されたが、捜査当局の拡大解釈によって「一般の市民団体や労働組合も対象になる」「内心や思想を理由に処罰される」との批判を浴び、廃案になっていた。政府は当初、昨年の臨時国会に提出する方針だった。結局は環太平洋経済連携協定(TPP)の国会承認に万全を期すとして見送ったが、長年の懸案である国際組織犯罪防止条約を締結する上で、国内法の整備が必要だとして法案の成立にこだわる。条約を結べば、テロの計画段階で処罰する法律を持つ締結国と同じレベルで、日本でも準備行為での取り締まりを行うことや、国際的な組織犯罪に対する捜査協力が可能になる。法務省幹部は「今のままでは国際的な信頼を欠く」と話す。今回の法案では、過去の法案で適用対象とした「団体」から、テロ組織や暴力団、振り込め詐欺グループなどを想定した「組織的犯罪集団」に限定。さらに、犯罪を実行するための「準備行為」をすることを、法を適用する要件に追加した。具体的には、凶器を買う資金の調達や犯行現場の下見などが当たるという。適用の条件を厳しくしたといえるが、対象犯罪は「懲役・禁錮4年以上の刑が定められた重大な犯罪」としたため、犯罪の数は676になった。政府内部では「テロに関する罪」や「組織的犯罪集団の資金源に関する罪」などに分類されているが、「テロに関する罪」と位置付けられたのは167で、全体の4分の1にすぎない。法案に反対する日本弁護士連合会は昨年に発表した会長声明で「条約の締結のために新たに共謀罪を導入する必要はなく、条約は経済的な組織犯罪を対象とするもので、テロ対策とは無関係だ」と指摘している。
■提出時期も難題
 国会審議は夏の東京都議選の直前の時期に重なる。公明党はテロ対策としての法整備の必要性は認めているが、「対象はまだかなり広い。テロに限定するなら600超も必要はない」(党幹部)との立場。法案提出前の与党協議で対象を絞り込みたい考えだ。だが、外務省幹部は対象犯罪を限定すれば、条約締結自体ができなくなる恐れがあるとみて、「世界基準に日本だけ合わせなくてもいいのか」と絞り込みに難色を示している。一方、民進党の蓮舫代表は8日のNHK番組で「3回も廃案になった法案がほとんど中身を変えずに出てくるのは立法府の軽視だ」と指摘したが、党内の論議はこれからだ。民主党時代は「5年を超える懲役・禁錮」で国際的な犯罪に限定するよう修正提案をした経緯があり、党内に一定の賛成派を抱える。党の意見集約とともに、与党との修正協議に応じるかが課題となる。共産党の小池晃書記局長は10日の記者会見で「治安維持法の現代版とも言える大悪法」と批判、反対を鮮明にしている。国会の会期は国会法に定める150日間で、6月18日まで。直後に都議選を抱えるため大幅延長は難しい。天皇陛下の退位をめぐる法整備を抱える国会でもあるため、政府与党にとっては衣替えした「共謀罪」法案の提出時期や審議の進め方の見極めも難しそうだ。
■テロ等準備罪の対象となる676の「重大な犯罪」
◇組織的犯罪集団の資金源に関する罪(339)
 強盗、詐欺、犯罪収益等隠匿など
◇テロに関する罪(167)
 殺人、放火、化学兵器使用による毒性物質等の発散、テロ資金の提供など
◇薬物に関する罪(49)
 覚醒剤の製造・密輸など
◇人身に関する罪(43)
 人身売買、営利目的等略取・誘拐など
◇司法の妨害に関する罪(27)
 偽証、組織的な犯罪における犯人蔵匿など
◇その他(10)
〈政府資料などによる。このほか、「組織的犯罪集団」による犯罪の計画にはあたらないものの、「懲役・禁錮4年以上の刑」にあたるために対象に数える罪(過失犯など)が41ある〉

*5-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/392819 (佐賀新聞 2017年1月6日) 「共謀罪」通常国会提出 首相、東京五輪対策へ、捜査機関の乱用で人権侵害も不安視
 安倍晋三首相は5日、テロ対策強化に向けて「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を、今月20日召集の通常国会に提出する方針を固めた。2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、国際的なテロに備えるためにも法整備が必要だと判断した。官邸は自民党幹部に提出方針を伝達。共謀罪を巡っては、捜査機関の職権乱用による人権侵害を不安視する声があり、日弁連などが反対している。共謀罪は国会で過去に3度、廃案になった経緯がある。当初は重大犯罪の謀議に加わると罪に問われる内容だった。政府は昨年秋の臨時国会提出を見送り、罪の名称や構成要件の見直しを進めていた。罪名は「テロ等組織犯罪準備罪」に変更した上で、対象を「組織的犯罪集団」に限定し、単なる共謀だけでなく「準備行為」も要件に加える案で調整している。菅義偉官房長官は5日の記者会見で、東京五輪が3年後となることに触れ、国際組織犯罪防止条約に基づいて各国と連携するため、法整備が不可欠と訴えた。「テロを含む組織犯罪を未然に防ぐため、万全の体制を整えることが必要だ」と述べた。民進党や共産党は反対するとみられ、国会審議で議論となりそうだ。首相は政府与党連絡会議で、通常国会での重要法案成立に向けて万全を期すよう与党側に要請した。自民党の二階俊博幹事長は会見で改正案について「政府は名称も変更し、極端な誤解を生まないよう配慮している」と指摘し、成立へ努力する考えを示した。
=ズーム 国際組織犯罪防止条約=
 国際組織犯罪防止条約 複数の国にまたがる組織犯罪を防ぐため、各国が協調して法の網を国際的に広げるための条約。重大犯罪の共謀や、犯罪で得た資金の洗浄(マネーロンダリング)の取り締まりを義務付けている。国連総会で2000年11月に採択。12月にイタリア・パレルモで条約署名会議が開かれ、日本も署名した。政府は「共謀罪」の法整備が条約締結の要件だとして組織犯罪処罰法改正を目指すが、成立に至っていない。世界180以上の締結国全てが法整備したわけではないとの指摘もある。


PS(2017年1月14日追加):*6の琉球新報社説記事に、論点が網羅されていた。私も、国民のプライバシーに土足で政府が侵入し、戦前の治安維持法のような監視社会になることを危惧している。

*6:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-423394.html
(琉球新報社説 2017年1月7日) 共謀罪提出へ 監視招く悪法は必要ない
 罪名を言い換える印象操作をしても悪法は悪法だ。思想・信条の自由を侵す危うさは消えない。安倍晋三首相はテロ対策強化を名目に「共謀罪」の新設を柱とする組織犯罪処罰法改正案を今月20日召集の通常国会に提出する方針を固めた。2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、国際的なテロに備えるために法整備が必要だと説明する。しかし、現行刑法でも予備罪や陰謀罪など処罰する仕組みはあり「共謀罪」の新設は必要ない。治安維持法の下で言論や思想が弾圧された戦前、戦中の反省を踏まえ、日本の刑法は犯罪が実行された「既遂」を罰する原則がある。しかし共謀罪とは、実行行為がなくても犯罪を行う合意が成立するだけで処罰する。日本の刑法体系に反するものである。通常は共謀が密室で誰も知らないところで行われることを考えると、合意の成立を認定することは難しい。いかなる場合に合意が成立したのかが曖昧になり、捜査機関の恣意(しい)的な運用を招く恐れがある。捜査機関の拡大解釈で市民運動や労働組合が摘発対象になる可能性もある。共謀罪を摘発するための捜査手法として尾行のほか、おとり捜査や潜入捜査が考えられる。それだけでなく2016年5月に通信傍受法を改正して、組織犯罪だけでなく一般犯罪まで傍受対象範囲を広げている。15年6月には裁判官の令状があれば、捜査機関が本人が知らないうちにGPS機能を利用した位置情報を取得できるようになった。法制審議会では室内に盗聴器を仕掛ける室内盗聴の導入についても議論している。法務省は「共謀段階での摘発が可能となり、重大犯罪から国民を守ることができる」と必要性を訴えるが、むしろ国民のプライバシーが根こそぎ政府に把握される恐れがある。政府は今回、罪名を「共謀罪」から「テロ等組織犯罪準備罪」に言い換え、対象を「組織的犯罪集団」に限定したと説明する。しかし、合意の成立だけで犯罪が成立するという点は変わらない。組織犯罪処罰法案が成立すれば、既に成立している特定秘密保護法などと組み合わせて、戦前の治安維持法のように運用される恐れがある。戦前のような監視社会に逆戻りさせてはならない。


PS(2017年1月17日追加):*7-1のように、「共謀罪の構成要件を変えた“テロ等準備罪”を新設する法案について、政府が対象犯罪の数を300程度に絞り込む方向で検討している」とのことだが、*7-2のように、日弁連共謀罪法案対策本部は「どのような修正を加えても、共謀罪を新設すれば刑事法体系を変えてしまう」としており、私もそのとおりだと考える。また、*7-1で、菅官房長官は「共謀罪で一般の方々が対象になることはない」としているが、*7-2のように、実行されていない共謀罪を取り締まるためには、司法取引による刑事免責、おとり捜査(潜入捜査)、通信傍受等を行うため、一般の人が捜査に巻き込まれることが普通になる。また、「政府に反対表明している人は、“一般の人”には入らない」という運用もありうる。そのため、*7-2に書かれているとおり、国連越境組織犯罪防止条約締結のために刑法の理念や日本国憲法を無視する「共謀罪」を設置してはならないと考える。

*7-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK1J7X5JK1JUTIL047.html?iref=comtop_list_pol_n02 (朝日新聞 2017年1月17日) 「共謀罪」対象、約300に 政府検討、原案の半数以下
 犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案について、政府が対象犯罪の数を原案の676から半数以下の300程度に絞り込む方向で検討していることが16日、分かった。与党内の協議で今後さらに調整した上で、政府は20日召集の通常国会に法案を提出する方針。
●共謀罪「一般の方々が対象、あり得ない」 菅官房長官
 政府は、日本が「国際組織犯罪防止条約」を締結するために必要な国内法整備として、法案の成立を目指している。条約は「懲役・禁錮4年以上の刑が定められた重大な犯罪」を対象とするよう求めており、対象犯罪数は676に上った。これに対し、与党・公明党からも対象犯罪数の絞り込みを求める声が上がり、政府は「組織的犯罪集団」によって行われることが想定される犯罪を中心に、対象犯罪を絞り込む方向で調整を始めた。

*7-2:http://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/complicity.html (日弁連共謀罪法案対策本部) 日弁連は共謀罪に反対します
 「共謀罪」が、国連越境組織犯罪防止条約を理由に制定されようとしており、法案は、2003年の第156回通常国会で最初に審議されました。その後二度の廃案を経て、2005年の第163回特別国会に再度上程され、継続審議の扱いとなり、第165回臨時国会においても、幾度とない審議入り即日強行採決の危機を乗り越えて継続審議となり、第170回臨時国会においても継続審議となりました。そして、2009年7月21日の衆議院解散で第171回通常国会閉幕により審議未了廃案となりました。今後も予断を許さない状況が続くことが予想されます。日弁連は、共謀罪の立法に強く反対し、引き続き運動を展開していきます。詳細はこちらのページをご覧ください。
・パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」
●共謀罪なしで国連越境組織犯罪防止条約は批准できます
 日弁連は、2006年9月14日の理事会にて、「共謀罪新設に関する意見書」を採択し、2012年4月13日の理事会にて、新たに「共謀罪の創設に反対する意見書」を採択いたしました。
・共謀罪の創設に反対する意見書(2012年)
・共謀罪新設に関する意見書(2006年)
●共謀罪の基本問題
 政府は、共謀罪新設の提案は、専ら、国連越境組織犯罪防止条約を批准するためと説明し、この立法をしないと条約の批准は不可能で、国際的にも批判を浴びるとしてきました。法務省は、条約審議の場で、共謀罪の制定が我が国の国内法の原則と両立しないことを明言していました。刑法では、法益侵害に対する危険性がある行為を処罰するのが原則で、未遂や予備の処罰でさえ例外とされています。ところが、予備よりもはるかに以前の段階の行為を共謀罪として処罰しようとしています。どのような修正を加えても、刑法犯を含めて600を超える犯罪について共謀罪を新設することは、刑事法体系を変えてしまいます。現在の共謀共同正犯においては、「黙示の共謀」が認められています。共謀罪ができれば、「黙示の共謀」で共謀罪成立とされてしまい、処罰範囲が著しく拡大するおそれがあります。共謀罪を実効的に取り締まるためには、刑事免責、おとり捜査(潜入捜査)、通信傍受法の改正による対象犯罪等の拡大や手続の緩和が必然となります。この間の国会における審議とマスコミの報道などを通じて、共謀罪新設の是非が多くの国民の関心と議論の対象となり、共謀罪の新設を提案する法案を取り巻く環境は、根本的に変わっています。
●国連越境組織犯罪防止条約は締約国に何を求めているのでしょうか
 国連越境組織犯罪防止条約第34条第1項は、国内法の基本原則に基づく国内法化を行えばよいことを定めています。国連の立法ガイドによれば、国連越境組織犯罪防止条約の文言通りの共謀罪立法をすることは求められておらず、国連越境組織犯罪防止条約第5条は締約国に組織犯罪対策のために未遂以前の段階での対応を可能とする立法措置を求められているものと理解されます。
●条約の批准について
 国連が条約の批准の適否を審査するわけではありません。条約の批准とは、条約締結国となる旨の主権国家の一方的な意思の表明であって、条約の批准にあたって国連による審査という手続は存在しません。国連越境組織犯罪防止条約の実施のために、同条約第32条に基づいて設置された締約国会議の目的は、国際協力、情報交換、地域機関・非政府組織との協力、実施状況 の定期的検討、条約実施の改善のための勧告に限定されていて(同条第3項)、批准の適否の審査などの権能は当然もっていません。
●国連越境組織犯罪防止条約を批准した各国は、どのように対応しているのでしょうか
 第164回通常国会では、世界各国の国内法の整備状況について、国会で質問がなされましたが、政府は、「わからない」としてほとんど説明がなされませんでした。この点について、日弁連の国際室の調査によって次のような事実が明らかになりました。新たな共謀罪立法を行ったことが確認された国は、ノルウェーなどごくわずかです。アメリカ合衆国は、州法では極めて限定された共謀罪しか定めていない場合があるとして国連越境組織犯罪防止条約について州での立法の必要がないようにするため、留保を行っています。セントクリストファー・ネーヴィスは、越境性を要件とした共謀罪を制定して、留保なしで国連越境組織犯罪防止条約を批准しています。
●新たな共謀罪立法なしで国連越境組織犯罪防止条約を批准することはできます
 我が国においては、組織犯罪集団の関与する犯罪行為については、未遂前の段階で取り締まることができる各種予備・共謀罪が合計で58あり、凶器準備集合罪など独立罪として重大犯罪の予備的段階を処罰しているものを含めれば重大犯罪についての、未遂以前の処罰がかなり行われています。刑法の共犯規定が存在し、また、その当否はともかくとして、共謀共同正犯を認める判例もあるので、犯罪行為に参加する行為については、実際には相当な範囲の共犯処罰が可能となっています。テロ防止のための国連条約のほとんどが批准され、国内法化されています。銃砲刀剣の厳重な所持制限など、アメリカよりも規制が強化されている領域もあります。以上のことから、新たな立法を要することなく、国連の立法ガイドが求めている組織犯罪を有効に抑止できる法制度はすでに確立されているといえます。政府が提案している法案や与党の修正試案で提案されている共謀罪の新設をすることなく、国連越境組織犯罪防止条約の批准をすることが可能であり、共謀罪の新設はすべきではありません。
●法務省ホームページに掲載されている文書について
 法務省ホームページ上に「『組織的な犯罪の共謀罪』に対する御懸念について」と題するコーナーがあります。同コーナーの文書で挙げられている点に絞って、疑問点を指摘します。
「共謀罪」に関する法務省ホームページの記載について(2006年5月8日)(PDFファイル;129KB)
日弁連が意見書などで指摘している点について、法務省が2006年10月16日付けで以下文書をホームページに掲載しています。
・「組織的な犯罪の共謀罪」の創設が条約上の義務であることについて
・現行法のままでも条約を締結できるのではないかとの指摘について
・条約の交渉過程での共謀罪に関する政府の発言について
・条約の交渉過程における参加罪に関する日本の提案について
・参加罪を選択しなかった理由
これらの文書で挙げられている点に絞って、疑問点を指摘します。
●外務省ホームページに掲載されている文書について
 日弁連などの調査により、アメリカ合衆国は、州法では極めて限定された共謀罪しか定めていない場合があるとして国連越境組織犯罪防止条約について州での立法の必要がないようにするため、留保を行っているということがわかりました。この点について、外務省が2006年10月11日付けで「米国の留保についての政府の考え方」と題する文書を掲載しています。この文書で挙げられている点に絞って、疑問点を指摘します。10月11日に外務省ホームページに掲載された米国が国連越境組織犯罪防止条約に関して行った留保に関する文書(「米国の留保についての政府の考え方」)について(PDFファイル;26KB)
●意見書、会長声明等
・いわゆる共謀罪法案の国会への提出に反対する会長声明(2016年8月31日)
・共謀罪の創設に反対する意見書(2012年4月13日)
・「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」に関する意見書(2009年1月16日)
・共謀罪新設に関する意見書(2006年9月14日)
・「共謀罪」に関する与党再修正案に対するコメント(2006年5月15日)
・共謀罪与党修正案についての会長声明(2006年4月21日)
・共謀罪が継続審議とされたことについての会長談話(2005年11月1日)
・国連「越境組織犯罪防止条約」締結にともなう国内法整備に関する意見書(2003年1月20日)
 (以下略)


PS(2017年1月20日追加):政府は「国際組織犯罪防止条約の締結のため、国内法の整備が必要だ」としてきたが、*8のように、外務省は「既に条約を結んでいる国・地域のうち、条約締結のため新たに『共謀罪』を設けたことを把握しているのはノルウェーとブルガリアだけで、自信を持って説明できる国は限られる」としている。消費税増税や年金・医療などの社会保障削減も含め、政府は根拠なきことを理由にやりたい政策を推進しようとし、メディアもその片棒を担いでいるが、その基にあるのは、「何を言ってもわからないだろう」という国民を馬鹿にした態度だ。しかし、実際には、現在の日本国民は、政治家や行政官の経験しかないジェネラリストよりも専門性や経験を持ち、それぞれの分野で深く分析できる人が多くなっているため、それらの意見を“ポピュリズム(衆愚)”として無視することこそが問題なのだ。

*8:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12755902.html (朝日新聞 2017年1月20日) 「共謀罪」新設、2国だけ 外務省説明、条約締結に必要なはずが
 犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、外務省は19日、他国の法整備の状況を明らかにした。政府は「国際組織犯罪防止条約の締結のため、国内法の整備が必要だ」としているが、すでに条約を結ぶ187の国・地域のうち、締結に際して新たに「共謀罪」を設けたことを外務省が把握しているのは、ノルウェーとブルガリアだけだという。民進党内の会議で外務省が説明した。英国と米国はもともと国内にあった法律の「共謀罪」で対応。フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、中国、韓国は「参加罪」で対応した。カナダはすでに「共謀罪」があったが、条約の締結に向けて新たに「参加罪」も設けたという。民進党は187カ国・地域の一覧表を出すよう求めていたが、外務省の担当者は会議で「政府としては納得のいく精査をしたものしか出せない。自信を持って説明できる国は限られている」と述べた。政府はこれまで、条約締結のためには「共謀罪」か、組織的な犯罪集団の活動への「参加罪」が必要だと説明してきた。20日召集の通常国会に法案を提出する方針だ。


PS(2017年1月23日追加):パレスチナは、紀元前12世紀前後から闘いの続いてきた古い地域で(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E4%BB%A3%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB 参照)、どちらも強く権利を主張するため、*9-1の“和平”は大変だろう。しかし、現代だからこそできる解決法もあり、それは砂漠を豊かな土地に変え、実質的に領土と認められる地域を増やすことだ。それには、*9-2のサウジアラビアのやり方が参考になるが、イスラエルは面積の小さいことがネックであるため、日本やアメリカがエジプトかサウジアラビアの砂漠地帯の農業開発を援助することにより、面積の広いエジプトかサウジアラビアからイスラエルへの土地の一部割譲を取りつけたらどうかと考える。それにより、世界の食糧安全保障と中東紛争の解決ができればよいのではないだろうか。


   中東の地図           *9-2サウジアラビア大使館より      サウジアラビアの畜産

*9-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK1R25N5K1RUHBI004.html?iref=comtop_8_03 (朝日新聞 2017年1月23日) トランプ氏、イスラエルの安全保障に「空前の取り組み」
 イスラエル首相府によると、両首脳はトランプ氏が「破棄する」と主張したイランとの核合意や、パレスチナとの和平などについて協議した。ホワイトハウスによると、トランプ氏はイスラエルの安全保障に対して「空前の取り組み」を明言した。パレスチナとの和平についてはイスラエルとパレスチナが直接交渉することでのみなされると強調。米国はイスラエルと緊密に協働していくとした。トランプ氏が選挙戦で表明した米大使館のエルサレム移転について協議されたかは明らかになっていない。AP通信によると、ホワイトハウスは会談前、国内での議論がまだ初期段階だとの認識を示した。これに先立ち、エルサレム市当局は22日、イスラエルが占領する東エルサレムの入植地で約560軒の住宅を建設することを承認した。入植活動を批判するオバマ前政権の圧力で延期していたが、イスラエル寄りの姿勢を示すトランプ氏の就任を待って判断した。一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長は22日、ヨルダンの首都アンマンでアブドラ国王と会談した。AP通信によると、米大使館がエルサレムに移転した場合の対抗策などを話し合ったという。

*9-2:http://www.saudiembassy.or.jp/Jp/SA/7.htm (サウジアラビア大使館)
 サウジアラビア王国は、食糧の安全保障確保と国内で生産される農産物及び牛乳、鶏卵、食肉など畜産物の食料の自給自足実現を目的とした農業政策を採用してきました。王国政府は、初期の段階から、政策の優先事項の筆頭にこの目的を置き、その実現に最大限の努力を傾けてきました。アブドルアジーズ国王が王国建国時に実施した最初のステップは、国民の農地開発投資の活性化支援と、その活動に完全な自由を与え、必要な機械器具を購入する場合、それを無税扱いにすることでした。また、王国政府は、政府の経費で農業機械器具を輸入し、それを購入した農民には無利子月賦で政府に返済する制度を確立しました。アブドルアジーズ国王は、1948年、農政局の設置を命じ、これを財務省とリンクさせることによって、同局が灌漑設備の改善、水ポンプの設置、ダムや運河の建設、泉や井戸などの水資源の開発、農民宛資金貸付けなどの事業が実施できるようにしました。農政局は活動の幅を広げたことによって、必然的に重い職責を担うようになり、その結果、1953年、同局は「農業・水資源省」に格上げされ、スルターン・ビン・アブドルアジーズ殿下が初代の大臣に就任しました。同省は創設以来、水資源の開発とともに、農産・畜産部門の振興に貢献する研究と計画立案をおこなってきました。王国の地勢については、国土の大半が砂漠気候であり、厳しい環境であることはよく知られています。さらに、水資源に乏しく、降雨量もきわめて限られています。しかし、王国はアッラーのご加護と王国の固い決意の下に近代農業の技法と技術を駆使することによって、こうした環境的な問題を克服してきました。サウジアラビア王国は、短期間において食糧輸入国から農業生産国へ、さらに、輸出国になったのです。農産物の生産高も増大し、農業部門は、生産経済部門の一部門として重要な役割を果たすようになりました。
●奨励政策
 政府は、農業振興のため農業部門の奨励政策を実施してきました。その中でも特に重要な政策は、農民と農業会社に未開墾地を無償で分配してきたことであり、この政策は現在も継続しておこなわれています。また、政府は1962年に設立した、農業銀行を通じ、長期ローンの貸付けと補助金を農民に提供しています。政府は、農業機械と灌漑用ポンプの購入費用の50%を負担し、農業器具と用品、国内産と輸入肥料購入費用の45%を負担しています。種や苗などは、きわめて低い価格で配布されています。さらに、王国各地に設置されている農業局、農業試験場、農業事務所を通じて農業指導、獣医の派遣、農業災害対策などのサービスが提供されています。国は農業生産物を買い上げており、とりわけ、小麦、大麦は、1972年に設立されたサイロ・製粉公団を通して奨励価格で買い上げています。
●農業道路
 国家は、農業道路に多大な関心を払ってきました。これは、農民の足を確保することによって市場中央センターへの農業生産物の運送を容易にすることを目的としています。交通省は、主要な道路建設プログラムとの調整をおこないながらバランスの取れた農業道路建設プログラムを実行してきました。農業道路の全長は、1970年の時点では3,600キロメートルだったものが、1998年末には10万キロメートルに達しました。
●農地の拡大
 政府は、農業部門に対する継続的な支援をおこなってきました。その結果、王国では、国民による農業部門の投資が促進され、大手農業企業が数社設立されました。1980年の時点では60万ヘクタールだった農地面積は、1992年には160万ヘクタールにまで拡大しました。また、政府は、約250万ヘクタールの未開墾地を国民に分配しました。農業銀行が農民と農畜産部門の投資会社に提供した資金貸付額は、1998年末で304億リヤール強に達しました。これらの貸付けは、3,000以上もの野菜、果物、酪農、畜産の農業プロジェクトに使われました。農業銀行はまた、生産に必要な農業機械、器具、道具購入の資金を貸し付けています。1973年から始まったこうした貸付け金は、1998年(イスラム暦1418年から1419年)末で111億リヤールに達しています。サイロ・製粉公団は、王国内に穀物貯蔵と製粉、飼料生産のため10の工業団地を建設しました。同公団の貯蔵能力は、238万トンに達し、製粉の生産能力は、年間161万トンに達しています。
●小麦生産
 サウジアラビア王国は、小麦の生産分野において輝かしい成果を収めました。1985年、小麦の生産量は、国内需要を満たし、自給自足が実現しました。そして1986年以降は、余剰分を国際市場に輸出できるようになりました。1992年(イスラム暦1412年)、王国の小麦生産高は、420万トンにまで増加し、最高レベルに達しました。しかしながら、水資源利用の指導と地下水の保全という観点から、生産削減が段階的に実施されました。この措置は、1993年(イスラム暦1413年)の農作期から始まり、1997年(イスラム暦1417年)まで継続され、小麦の生産量は180万トンに減少しました。これは、国内の自給自足に必要な量であり、輸出はおこなわれなくなりました。小麦が最後に輸出されたのは、1995年5月(イスラム暦1415年ズール・ヒッジャ月20日)でした。大麦の生産においても同じような生産削減措置がとられ、1994年(イスラム暦1414年)に182万2,950トンだった大麦の生産高は、1996年(イスラム暦1416年)には46万4,000トンまで減少しました。
●野菜と果物
 王国の野菜の生産高は、1998年には約270万トンに達し、種類によっては近隣諸国に輸出できるほどの生産量を記録しました。果物の生産は約120万トンに達しました。そのうち、ブドウの収穫量は14万トン、かんきつ類は8万7,000トンに達しました。王国は年間約64万9,000トンのナツメヤシの実(王国内のナツメヤシの木は1,300万本)を生産しています。王国内におけるナツメヤシの実の瓶詰め・包装工場は24を数え、王国の内外に製品を送り出してします。世界の食糧生産プログラムにておいて王国がナツメヤシの実の生産で大きな貢献をしていることは広く知られています。
●畜産
 王国の家畜数は、1997年には、牛28万頭、羊100万頭、山羊62万6,400頭、ラクダ75万頭、家禽3億9,520万羽にまで増加しました。王国の畜産生産物は、年を追うごとに増加しており、その増加率は急カーブを描いて上昇しています。同年の生産高では、牛乳88万3,000トン、食用鶏卵25億個、食用鶏肉45万1,000トン、赤肉15万7,000トンに達し、魚肉の生産高も5万5,000トンに達しました。この結果、王国は、農業生産部門の穀物生産と畜産において自給自足を達成し、余剰生産物を国外に輸出できるようになりました。こうした実績に基づき、国際食料農業機関(FAO)は、ファハド国王の農業部門の指導的役割を称えるとともに、発展途上国の貧困と餓えの一掃に貢献したことを評価し、1997年、国王にFAO賞を授与しました。
●高い成長率
 王国がたどった農業政策は実を結び、農業部門は高い成長率を実現しました。1969年から1996年の期間における同部門の年間平均成長率は8.4%を記録しました。農業部門は国内総生産に大きく貢献しており、総額は340億リヤールに達しています。
●水資源開発
 農業・水資源省は、水資源開発のため王国全土の水資源調査を実施しました。また、王国内の市町村への十分な飲料水の供給に努力を傾注しました。同省は、飲料用・監視用・探査用の水井戸を5,500本以上採掘しました。民間によって管理されている井戸の数は10万3,118に達していますが、その多くは農業に使用されています。同省が実施した市町村への飲料水供給プロジェクト数は1,290を数えており、国営企業・公的機関がその運営と保守を担当しています。同省は、雨水と河川の水を有効利用するため1998年末までに189のダムを王国の各地に建設しました。その貯水能力は、総計約7億8,000万立方メートルに達しています。王国は、戦略的な見地から飲料用の水資源を恒常的に確保するため海水淡水化計画を採用し、その実現のため海水淡水化公団を設立しました。淡水化プロジェクトは短期間のうちに多大の実績を達成し、王国は西部・東部海岸沿いには27の海水淡水化プラントが建設されており、これらのプラントで生産された飲料水は、40を越える市町村に供給されています。これらのプラントの一日あたりの生産量は、淡水は、250万立方メートル(6億6,700万ガロン)、電力は、3,600メガワットに達しています。現在建設中のプラントが完成すると、同公団の一日当たりの生産能力は、淡水は、300万立方メートル(8億ガロン)、電力は5,000メガワットに達する予定です。現在、海水淡水化プラントで生産されている飲料水は、王国の主要都市の総需要量の70%を満たし、電力は、消費電力の30%を満たしてします。


PS(2017年2月2日追加):*10-1のように、「テロ等準備罪」の「等」は、範囲を無限に広げることができ、むしろ「等」の方が中心ではないかと思われる法律もあるくらいなので反対だ。また、*10-2のように、「テロ」の範囲も限定列挙しなければ、市民団体・労組・政治団体などの正当な活動も政府に不都合な場合には適用される可能性があり、安心できない。その上、「共謀罪」や最近言っている「合意罪」が成立するか否かは、*10-3のように、一般市民を監視・盗聴して立証する必要があるため、容疑者だけでなく一般市民も、通信の秘密が犯されたり、人権侵害されたりする。そして、*10-4の通信傍受法も、小さく産んで大きく育てる方法が使われているのだ。

*10-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12776820.html
(朝日新聞 2017年2月2日) 「共謀罪」対案、維新が策定へ
 日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は1日、政府が検討する「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案への対案として、「テロ防止法案」を策定すると表明した。記者団に「テロ『等』は駄目だ。広すぎる。テロ等準備罪ということであれば、我々としては『はいそうですか』と言うわけにいかない」と語った。

*10-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201701/CK2017012602000125.html (東京新聞 2017年1月26日) 「共謀罪」法案 テロ「等」範囲拡大の恐れ 市民団体、労組、会社にも
 安倍晋三首相の施政方針演説などに対する参院の各党代表質問が二十五日行われた。首相は「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案について、共謀罪を言い換えた「テロ等準備罪」の「等」が示す犯罪の範囲を問われ「テロ組織をはじめとする組織犯罪集団に限定し、一般の方々が対象となることはあり得ないことがより明確になるよう検討している」と述べた。これに対し、渕野貴生・立命館大教授は「一般市民も対象になり得る」と懸念した。自由党の山本太郎共同代表は「『等』とはどういう意味か。テロ以外にも適用される余地を残す理由を教えてほしい」と尋ねた。首相は、テロと関連が薄い犯罪も対象に含める意図があるかどうかは、明確にしなかった。首相は国連の国際組織犯罪防止条約の締結のために必要だと強調し、テロ対策を前面に押し出す。今後、対象犯罪を絞り込む方針だが、条約が共謀罪の対象に求める死刑や四年以上の禁錮・懲役に当たる犯罪は六百七十六。このうち政府が「テロに関する罪」と分類するのは百六十七(24・7%)にとどまり、大多数が「テロ以外」という矛盾をはらむ。組織的犯罪集団に限定しても、警察の恣意(しい)的な捜査で市民団体や労組、会社も対象になりかねない。政府は二〇一三年に成立した特定秘密保護法で「特定秘密の範囲を限定した」と説明したが、条文に三十六の「その他」を盛り込み、大幅な拡大解釈の余地を残した前例もある。刑事法が専門の渕野教授は「テロと無関係の犯罪も多く、名称と実体が一致していない。一般市民の犯罪も対象になり得るのに、あたかもテロだけを対象とするかのように説明するのは、国民を誤解させる表現だ」と指摘。「組織的な犯罪集団に限定しても、捜査機関による恣意的な解釈や適用を適切に規制できない」と危ぶむ。

*10-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2017012602000184.html (東京新聞 2017年1月26日) 監視社会の脅威 映画「スノーデン」あす公開
 ベトナム戦争や歴代の米大統領を題材にした骨太の作品で知られるオリバー・ストーン監督(70)の最新作「スノーデン」が二十七日公開される。あらゆる個人さえも対象とする米政府の監視プログラムを暴露した情報機関職員エドワード・スノーデン氏の内部告発は、誰もがプライバシーの危機にさらされている事実を明るみに出した。トランプ大統領誕生の過程でも、さまざまな真偽不明の情報に世界は踊らされている。いまスノーデン事件から何が見えるのか。「スノーデンとは亡命先のモスクワで、この二年間に九回会って話を聞いた。彼の視点から語られる物語を映画にしようと思った」。二〇一三年六月、英ガーディアン紙などが報じたスノーデン氏の告発に監督は拍手喝采を贈ったという。「その半年ほど前、私はドキュメンタリー作品でオバマ政権で強化されてきた監視社会を取り上げた。まさに、その通りのことが起きていたわけです」。本作では、米国防総省の情報機関である国家安全保障局(NSA)に勤務するスノーデン(ジョセフ・ゴードン=レビット)が、赴任先のジュネーブや東京で世界中のメールやSNS、通話を監視し、膨大な情報を収集している実態を目の当たりにする。同盟国である日本も例外ではなく、インフラ産業のコンピューターにはマルウェア(悪意のあるソフト)が既に埋め込まれており、もし日本が米国に敵対したら、インフラがダウンするようになっていることが明かされる。「私個人の考えは作品に一切入れていない。すべてスノーデンが私に語った内容です。NSAからも話を聞こうとしたが、答えてもらえなかった。私の経験からいって彼の言っていることは真実だと思う」。スノーデン事件に関しては、香港のホテルでスノーデン氏が告発する場面に密着し、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」がある。ストーン監督は本作で、スノーデン氏の内面を描こうと思ったと打ち明ける。「若い愛国者である彼がなぜNSAの任務に疑念を抱くようになったのか。それは対テロの戦いではなかったわけです。世界中の情報を監視することで政治、経済を含むあらゆる力関係で米国が優位に立てる。スノーデンはその危険に気づいた。そして彼が人間性を保てたのは恋人の存在が大きかったと思います」。米政府に不都合な本作は米国企業の支援が受けられず、フランスやドイツ企業の出資で製作されたと監督は付言する。「米国では自己規制や当局に対する恐怖があるのかもしれない。米政府や主要メディアが伝えることが真実だと思わないでほしい」と話す。
◆主要メディアに一石 トランプ氏を評価
 過激な発言で物議を醸すトランプ米大統領だが、ストーン監督は米情報機関と主要メディアへの不信感から、トランプ氏に「奇妙な形で新鮮な空気を持ち込んだ」と期待をにじませる。「トランプに対するヒステリックな報道は、冷戦時代の赤狩り(共産主義者への弾圧)のようだ。ロシアとつながりがあるかのような報道も、彼を大統領にしたくない力が働いたのだと思う。米メディアも新保守主義の権力側にある。トランプは主要メディアに対し新しい見方をしているのは確かだ」と断言する。その上で「米国は今、帝国化している。日本は米国をそこまで信頼していいのか。米国はそれほど日本を大切に思っていないかもしれない。日本をどうするかはみなさんが考えることだ」とアドバイスする。
◆オリバー・ストーン監督
 米ニューヨーク生まれ。ベトナム戦争に従軍後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。1978年「ミッドナイト・エクスプレス」でアカデミー賞脚本賞。86年「プラトーン」で同作品賞や監督賞など4部門を制し、89年「7月4日に生まれて」で2度目の同監督賞に輝いた。ほかに「JFK」「ニクソン」など。

*10-4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201702/CK2017020202000247.html (東京新聞 2017年2月2日) 【政治】「共謀罪」捜査に通信傍受も 法相「今後検討すべき」
 衆院予算委員会は二日午前、安倍晋三首相と全閣僚が出席して、二〇一七年度予算案に関する基本的質疑を続けた。金田勝年法相は、犯罪に合意することを処罰対象にする「共謀罪」と趣旨が同じ「テロ等準備罪」の捜査を進めるため、電話の盗聴などができる通信傍受法を用いる可能性を認めた。通信傍受法は、憲法が保障する通信の秘密を侵す危険が指摘され、捜査機関が利用できる対象犯罪が限定されている。金田氏は、テロ等準備罪を対象犯罪に加えるかどうかについて現時点では「予定していない」としつつ、「今後、捜査の実情を踏まえて検討すべき課題」と将来的には否定しなかった。これに対し、質問した民進党の階猛氏は「一億総監視社会がもたらされる危険もある」と懸念を示した。政府はテロ等準備罪について、犯罪の合意だけでなく、準備行為がなければ逮捕・勾留しないと説明しているが、準備行為については捜査機関が判断するため、拡大解釈の恐れが指摘されている。通信傍受法は、犯罪捜査のために裁判所が出す令状に基づき、電話や電子メールの傍受を認める法律。一九九九年の成立時には、通信の秘密を侵害する懸念を受け、薬物・銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の四類型に限定されていた。しかし昨年十二月、殺人や放火、詐欺、窃盗、傷害、児童買春など対象犯罪が大幅に増えた改正法が施行された。さらに幅広い犯罪の合意を処罰するテロ等準備罪が対象犯罪に加われば、通信傍受の件数が大幅に増えることが予想される。テロ等準備罪の捜査では捜査当局が犯罪の話し合いや合意、準備行為を把握し、ある特定の団体の構成員を日常的に監視する必要がある。テロ等準備罪の捜査で通信傍受を活用することになれば、捜査当局が監視できる市民生活の範囲が大幅に広がる恐れがある。
<通信傍受法> 通話開始から一定時間聴き、犯罪関連の通話と判断した場合に限って継続して傍受できる。令状の容疑でなくても対象犯罪などに関する通信は傍受できる。2000年の法施行から15年までに傍受した10万2342件のうち82%が犯罪に関係のない通話。傍受したことや、記録の閲覧や不服申し立てができることを本人に通知するが、犯罪に関係のない通話相手には通知されない。


PS(2017年2月3日追加):*11のGPS捜査や移動追跡装置は、本当に犯罪の疑いや危険性が高い場合だけに使われているのではなく、他の意図や興味本位でも使われていると、私は考えている。そして、GPSは携帯電話にもついているため、一般の人もプライバシーの侵害には要注意だ。

*11:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/401561
(佐賀新聞 2017年2月2日) GPS捜査の秘匿指示 警察庁06年、都道府県警に
 捜査対象者の車などに衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付けて尾行する捜査を巡り、警察庁が2006年6月に都道府県警に出した通達で、端末使用について取り調べの中で容疑者らに明らかにしないなど秘密の保持を指示していたことが1日、警察当局への取材で分かった。捜査書類の作成に当たっても、記載しないよう徹底を求めていた。警察庁はGPS捜査を「任意捜査」と位置付けているが、各地の裁判所で「プライバシーを侵害する」として、令状のない捜査の違法性が争われている。判断は割れており、最高裁大法廷が春にも統一判断を示すとみられる。日弁連は1日、GPS捜査の要件や手続きを定めた新たな法律をつくり、裁判所の出す令状に基づき行うべきだとする意見書を警察庁に提出した。警察当局によると、通達はGPS捜査のマニュアルである「移動追跡装置運用要領」の運用について説明。「保秘の徹底」として、取り調べで明らかにしないほか、捜査書類の作成においても「移動追跡装置の存在を推知させるような記載をしない」と求めた。都道府県警が報道機関に容疑者逮捕を発表する際も「移動追跡装置を使用した捜査を実施したことを公にしない」と明記していた。警察庁は、こうした通達を出した理由を「具体的な捜査手段を推測されると、対抗手段を講じられかねないため」と説明している。警察庁の運用要領は、裁判所の令状が必要ないGPS端末の設置について、犯罪の疑いや危険性が高いため速やかな摘発が求められ、ほかの手段で追跡が困難な場合の任意捜査において可能と規定している。日弁連は、GPS捜査は「強制捜査」に当たり「令状なしの捜査は憲法に反する」として、即時中止を求めている。


PS(2017年2月6日追加):*12-1のように、一橋大の葛野教授や京都大の高山教授が呼び掛け人となり、刑事法学者ら約140人が、「①日本の法制度は『予備罪』『準備罪』を広く処罰してきており、国際組織犯罪防止条約の締結に新たな立法は必要ない」「②日本は世界で最も治安のいい国の一つで、具体的な必要性もないのに条約締結を口実として犯罪類型を一気に増やすべきではない」として「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案に反対する声明を出したそうだ。私は、「テロ等準備罪」の本当の目的は条約締結ではなく、*12-2のような盗聴・通信傍受やGPSを使った捜査の正当化だと思うので、法学者等の専門家の参戦に賛成だ。

*12-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/402452
(佐賀新聞 2017年2月5日) 法学者ら140人、「共謀罪」反対声明、現制度でテロ対策可
 刑事法学者ら約140人が4日までに、組織犯罪を計画段階で処罰できる「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する法案に反対する声明を出した。呼び掛け人は葛野尋之一橋大教授、高山佳奈子京都大教授ら。声明では、日本は「テロ資金供与防止条約」などテロ対策に関する13の条約を締結し、国内の立法も終えていると指摘。日本の法制度は「予備罪」や「準備罪」を広く処罰してきた点に特徴があるとし、国際組織犯罪防止条約の締結に新たな立法は必要ないと強調している。さらに「日本は世界で最も治安のいい国の一つで、具体的な必要性もないのに条約締結を口実として犯罪類型を一気に増やすべきではない」としている。呼び掛け人と賛同者は3日現在で計146人。

*12-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201702/CK2017020302000125.html (東京新聞 2017年2月3日)「共謀罪」捜査に通信傍受も 無関係な「盗聴」拡大の恐れ
 犯罪に合意することを処罰対象とする「共謀罪」と趣旨が同じ「テロ等準備罪」を設ける組織犯罪処罰法改正案について、金田勝年法相は二日の衆院予算委員会で、捜査で電話やメールなどを盗聴できる通信傍受法を使う可能性を認めた。実行行為より前の「罪を犯しそうだ」という段階から傍受が行われ、犯罪と無関係の通信の盗聴が拡大する恐れがある。テロ等準備罪を通信傍受の対象犯罪に加えるかどうかについて、金田氏は現時点では「予定していない」としながらも、「今後、捜査の実情を踏まえて検討すべき課題」と将来的には否定しなかった。質問した民進党の階(しな)猛氏は「一億総監視社会がもたらされる危険もある」と懸念を示した。通信傍受法は、憲法が保障する通信の秘密を侵す危険が指摘され、捜査機関が利用できる対象犯罪が限定されている。テロ等準備罪の捜査は、犯罪組織による話し合いや合意、準備行為を実際の犯罪が行われる前に把握する必要があり、通信傍受が有効とされる。関西学院大法科大学院の川崎英明教授(刑事訴訟法)は「盗聴は共謀罪捜査に最も効率的な手法。将来的には対象拡大を想定しているはずだ」とみる。川崎教授は「テロ等準備罪に通信傍受が認められれば、例えば窃盗グループが窃盗をやりそうだという段階から傍受できる。犯罪と無関係の通信の盗聴がもっと広く行われるようになる」と指摘。傍受したことは本人に通知されるが、犯罪に関係ない通話相手には通知されないため、「捜査機関による盗聴が増え、知らないうちにプライバシー侵害が広がる」と危ぶむ。沖縄の新基地建設反対運動に対する警察の捜査に詳しい金高望弁護士は「警察は運動のリーダーを逮捕した事件などで関係者のスマホを押収し、事件と関係ない無料通信アプリLINE(ライン)や、メールのやりとりも証拠として取っている。将来的には、通信傍受で得られる膨大な情報を基に共謀罪の適用を図ることも考えられる。テロ対策の名目で、あらゆる情報や自由が奪われる恐れがある」と話す。
<通信傍受法>犯罪捜査のために裁判所が出す令状に基づき、電話や電子メールの傍受を認める法律。2000年の施行時には薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型に限定されていたが、昨年12月、殺人や放火、詐欺、窃盗、児童買春など対象犯罪を9類型に増やす改正法が施行された。00年から15年までに傍受した10万2342件のうち、82%が犯罪に関係のない通話だった。

| 外交・防衛::2014.9~2019.8 | 10:24 AM | comments (x) | trackback (x) |

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