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2025.12.1~ 将来を見据えた投資の必要性 ← 環境、エネルギー、医療・介護から
・・工事中・・

(1) COP30(ブラジル・ベレン開催)について
 2025年11月10~22日、COP30がブラジルのベレンで開催され、産油国が「経済成長のため化石燃料利用の権利」を主張して化石燃料削減に関する明確な工程表や強い文言は合意できなかったが、最終合意で各国が自主的に削減を加速するよう求めた。

 また、温室効果ガス削減を加速するために、途上国支援資金を2035年までに3倍に増やし、熱帯林保護基金が創設されるなどの前進はあったが、アメリカは、トランプ大統領が気候変動を「詐欺」と呼び、パリ協定離脱を表明してCOPに代表団を派遣することもなかった。さらに、ブラジルは、はるかに野心的な化石燃料合意を望み、アマゾンの保護もアピールしたが、自国の石油掘削計画で批判を浴びたそうだ。

 このような中で、日本は、人里に出てくる熊を放置しながら、メディアが「熊対策として、柿の木や栗の木を切れ」などと大合唱しているのにも呆れたが、光合成をしてあれだけの実をつける木が、かなりのCO₂を吸収し、食料自給率にも貢献していることを理解しているのだろうか。

 さらに、熊の人里への出没は、ドングリなどの主要な餌資源の凶作や森林の管理不足で、森林内での熊の食料減少が大きな要因だそうだが、山際に植えてある柿の木や栗の木は、電気柵と併用すれば、むしろ「緩衝帯」として山から里へ下りてきた熊を山際で食い止めるのではないか?

 日本で、2024年度から導入されている森林環境税(国税)は、個人住民税均等割に上乗せして全国民一人あたり年額1,000円を徴収し、それを国に集めて、i)人口(住民数) ii)林業就業者数(林業の担い手数) iii)私有林人工林面積 に応じて配分されることになっている。

 しかし、この配分方法では、人口が少なくて森林面積の大きな地域には十分な予算が付かず、森林を伐採して人口を増やした方がむしろ森林環境税を多く配分されるという矛盾がある。また、森林やそこに住む生物の生態系を理解していない都市住民に森林環境税を配分しても使い方すらわからないため、国税の森林環境税は、これから整備すべき、又は既に整備された森林面積に比例して配分することによって、森林の整備と林業の担い手確保を中心に据えるべきだ。

1)COP30への評価

 
    2025.1.25WhetherWews               UPW

(図の説明:左図は1979年9月と2024年9月で比較した北極海の海氷面積で、中央の図は1979年から2024年までの減少の様子だ。右図は日本の平均気温の上昇を示したグラフであり、100年で1.28℃上昇しているが、極地の氷がなくなれば上昇速度は急速に早くなる)

 *1-1は、①地球温暖化をもたらす化石燃料に直接言及しない合意に、石油・石炭・ガスの使用中止ペースを速めることを約束させたかった英国等80カ国以上やEUは不満 ②産油国は、自国の化石燃料資源を利用して経済成長を実現する権利を主張 ③国連は工業発達以前からの気温上昇を摂氏1.5度に抑える世界的な取り組みは失敗したと懸念 ④コロンビア政府のゴンサレス気候代表は「コロンビアは世界の温室効果ガス排出量の75%以上が化石燃料に由来するという十分な科学的証拠があると考え、気候変動枠組条約はその現実を語り始めるべき」とBBCニュースに話した ⑤最終合意は「化石燃料の使用を減らす行動」を各国で自主的加速 ⑥島嶼国と低地沿岸国の利益を代表する39カ国は「不完全だが進歩への一歩」と評価 ⑦貧しい国々は、「気候変動の影響に適応するための気候資金を増やす」約束を得た ⑧ブラジルはCOP30冒頭で、熱帯林を保護する国々に資金を支払う新基金「トロピカル・フォレスト・フォーエヴァー・ファシリティ」を立ち上げると提示して会議終了時までに複数の政府から少なくとも65億ドルを集めた 等としている。

・・以下、工事中・・

・・参考資料・・
<COP30>
*1-1:https://www.bbc.com/japanese/articles/c62lr17jdeqo (BBC 2025年11月24日) COP30、化石燃料削減について新合意を確保できず
 ブラジル・ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は23日、厳しい対立を経て、地球温暖化をもたらしている化石燃料に直接言及しない合意という形で終了した。石油、石炭、ガスの使用中止に向けてそのペースを速めると、世界に約束させたいと望んでいたイギリスなど80カ国以上や欧州連合(EU)にとって、これは不満の残る結末だ。しかし、産油国は、自国の化石燃料資源を利用して経済成長を実現する権利が自分たちにはあるという立場を崩さなかった。国連は現在、工業発達以前からの気温上昇を摂氏1.5度に抑える世界的な取り組みが失敗したと懸念している。今回のCOPはそういう状況で開かれた。コロンビアの代表は22日の最終会合だった全体会合で、各国が合意に異議を唱えることを認めないアンドレ・コヘアドラゴCOP議長を激しく批判した。「コロンビアは、世界の温室効果ガス排出量の75%以上が化石燃料に由来するという十分な科学的証拠があると考えている」と、コロンビア政府のダニエラ・ドゥラン・ゴンサレス気候代表はBBCニュースに話した。「だからこそ、気候変動枠組条約はいよいよ、その現実について語り始めるべきだと私たちは考えている」。「ムティロン」と呼ばれる最終合意は、化石燃料の使用を減らす行動を各国が「自主的に」加速するよう求めた。今回初めて、アメリカはCOPに代表団を派遣しなかった。ドナルド・トランプ大統領は、各国に気候変動対策を義務づけた2015年の画期的なパリ協定から離脱すると表明したからだ。トランプ氏は、気候変動を「詐欺」と呼び続けている。ベテラン交渉官のイェニファー・モーガン元ドイツ気候特使はBBCに、アメリカの不在は交渉に「穴」を開けたと話した。それまでアメリカはしばしば交渉で、EUやイギリスなどの国を支持する側に回っていたからだ。「夜通し続く12時間の交渉で、産油国が強硬に抵抗する中、それに対抗する交渉担当がいないのは確かに厳しかった」とモーガン氏は述べた。しかし多くの国にとって、交渉が決裂せず、過去の気候合意が後退しなかったことは、安心材料だった。アンティグア・バーブーダのルレタ・トーマス気候大使は、「すべての国が声を上げられるプロセスが機能し続けていることをうれしく思う」と述べた。サウジアラビアの代表は最終会合で、「各国はそれぞれの状況と経済に基づいて独自の道を築くことを、認められなくてはならない」と述べた。他の多くの主要産油国と同様、サウジアラビアは他の国がこれまでそうしてきたように、自国の化石燃料資源の利用を認められるべきだと主張してきた。今月10日から2週間にわたった協議は、時に混乱した。トイレの水が足りなくなり、豪雨で会場が浸水し、代表団は暑く湿度の高い部屋で対応に苦慮した。COPの登録者約5万人は2度も避難する羽目になった。約150人の抗議者が警備線を突破して会場に侵入し、「私たちの森林は売り物ではない」と書かれたプラカードを掲げたのが最初だった。20日には会場で大規模な火災が発生し、屋根が焼けて穴が開き、参加者は外に急いで避難した。ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領は、世界の注目をアマゾン熱帯雨林に集め、投資資金を呼び込むため、COP開催地にベレンを選んだ。ブラジルははるかに野心的な化石燃料合意を望んでいたが、アマゾン河口での石油掘削計画で批判された。環境保護団体「グローバル・ウィットネス」がBBCに共有した分析によると、ブラジルの沖合石油・ガス生産は2030年代初頭まで増加する見込みだ。協議に参加した国々は、国の状況も気候変動の影響をどれだけ受けるかも抱える事情はさまざまで、それぞれに利害が異なる。一部の国は今回の結果に満足している。インドはこの合意を「有意義」だと称賛した。小島嶼(とうしょ)国と低地沿岸国の利益を代表する39カ国のグループは、今回の合意を「不完全だが進歩への一歩」と呼んだ。貧しい国々は、気候変動の影響に適応するための気候資金を増やすという約束を得た。「針は動いた。(過去に多くの地球温暖化ガスを排出してきたため)歴史的な責任がある国々は、気候資金に関して具体的に義務があるという認識が、以前より明確になった」と、シエラレオネのジウォー・アブドゥライ環境・気候変動大臣は述べた。しかし、化石燃料について強い文言を合意に残そうと夜通し交渉した80カ国以上にとっては、苦い結末だった。イギリスのエネルギー・気候変動担当相エド・ミリバンド氏は、この会議は「一歩前進だ」と強調しつつ、「私としては、もっと野心的な合意を望んでいた」と話した。「より多くを望んでいたし、あらゆることについて、より野心的でいたかった。私たちはそれを隠さない」と、EUのウォプケ・ホークストラ気候担当委員は記者団に話した。青々とした木々、鳥の鳴き声、強烈な湿気……今回の交渉はアマゾンの間近で行われた。すぐそこに熱帯雨林が広がっているというのは、忘れようがなかった。ブラジルはCOP30の冒頭で、熱帯林を保護する国々に資金を支払う新基金「トロピカル・フォレスト・フォーエヴァー・ファシリティ」を立ち上げると提示した。会議終了時までに、複数の政府から少なくとも65億ドルを集めたが、イギリスはまだ拠出していない。90カ国以上が、森林破壊に対する世界的な計画、つまり「ロードマップ(行程表)」を求める呼びかけを支持した。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16351710.html (朝日新聞社説 2025年11月26日) COP30閉幕 逆風に対策遅らせるな
 偽情報で否定しても、世界の足並みが乱れても、地球温暖化の危機は高まっている。逆風でも着実に対策を進めねば、世界から取り残される。ブラジルで開かれた国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)が、閉幕した。化石燃料からの脱却に向けた工程表の策定は、産油国などの抵抗で合意できなかった。一方、温室効果ガス排出削減の加速や、2035年までに途上国の災害を軽減する資金を3倍に増やす方針などは合意。二酸化炭素を吸収して蓄える熱帯林の保護に向けた動きも進んだ。温暖化の被害を減らす「適応」の状況を評価する指標でも一致した。異常気象に耐えられるインフラ整備、気候変動に関連した死亡率や適応策に投じた資金などがそれだ。決裂せず合意にこぎ着けたが、不十分な成果だった。気候変動対策は、温室効果ガスの削減に努め、少しでも上昇を抑える「緩和」と、被害軽減の「適応」がある。会議では適応への注目が高まったが、これだけで危機を乗り越えられない。温暖化を抑えることが生命や財産を守るために必要だ。次世代に負担を押しつけてはならない。気候変動を「史上最大の詐欺」と国連演説で主張したトランプ米大統領のように、人類が力を合わせて進めてきた対策に水を差す偽情報は広がっている。SNSや人工知能(AI)の影響力は大きく、問題は深刻化している。事実から目を背ける言説の拡散を、許してはならない。会議では、偽情報への対策強化をめざす宣言も出され、12カ国が署名した。世界の科学者でつくる国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も、人間の活動による温暖化は「疑う余地がない」と結論づけている。今回、世界2位の温室効果ガス排出国である米国の政府は不在だったが、州知事らが参加した。日本も含め企業も取り組みを発信したり、共同で声明を出したりした。近年、自治体や企業、環境団体など「非国家アクター」の参加が増えて存在感を高めている。企業は対応が遅れると世界での競争で後手に回り、経営に影響しかねない。日本は、脱炭素の工程表策定の声明を支持せず、偽情報対策の宣言にも署名しなかった。水素やアンモニアとの混焼で石炭火力発電の延命をはかる姿勢は、国際社会では通用しない。気候変動対策への逆風に乗じ、脱炭素や自然エネルギーの拡大を緩めては、技術開発や普及でも世界に遅れることを銘記すべきだ。

*1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251130&ng=DGKKZO92903880Z21C25A1EA1000 (日経新聞社説 2025.11.30)逆風下でも脱炭素を前に進める体制探れ
 脱炭素への逆風が強まっていることは憂慮すべき事態だ。地球温暖化対策を後退させないために何ができるのか、国際社会は知恵を絞らねばならない。第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)は、十分な成果をあげられずに終わった。気温上昇に伴う自然災害が深刻化しているにもかかわらず、温暖化克服への道筋を描けなかった。最大の焦点は化石燃料からの脱却に向けた行程表づくりだった。80カ国以上が賛同したが、産油国などが強く反対した。温暖化による被害を軽減するための対策資金についても、2035年までに3倍に増やすという努力目標にとどまった。資金提供を訴える途上国と、負担増を警戒する先進国の溝は埋まらなかった。交渉を主導する強力なリーダーの不在も迷走の一因だろう。気候変動を「詐欺」と主張するトランプ米大統領が代表団を派遣せず、脱炭素を先導してきた欧州連合(EU)もかつての勢いがない。再生可能エネルギーの輸出に熱心な中国も、主導的な役割を果たさなかった。日本は行程表策定に賛成せず、存在感を示せていない。国際枠組みの「パリ協定」から10年となり、不都合な部分も見えてきた。脱炭素を前進させるにはどうしたらよいのか。中長期の観点から体制を議論すべきだ。全会一致の合意を求めるCOPの原則にも、問題があるのではないか。国連は産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指す。だが、各国の対策は不十分で、24年は1.55度に達した。目標達成は厳しくなっている。ただ、激しく対立しても決裂せず、過去の合意が取り消されなかったことは評価したい。気温の上昇幅を少しでも抑えて挽回できれば、将来の被害を軽減できる。明るい兆しもある。米カリフォルニア州やニューヨーク市、東京都などは脱炭素に熱心だ。世界の自治体間の連携に意欲を示す。多くのグローバル企業が再生エネや脱炭素技術の導入に注力する。今後は国家にとどまらず、民間企業や自治体などによる投資や技術供与を促すルールづくりを急がねばならない。気候変動はある一定の段階を超えると、一気に加速すると考えられている。少しでも前進させないと、取り返しのつかない状況に陥る恐れがある。国際社会は危機感をいま一度共有すべきだ。脱炭素への逆風が強まっていることは憂慮すべき事態だ。地球温暖化対策を後退させないために何ができるのか、国際社会は知恵を絞らねばならない。第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)は、十分な成果をあげられずに終わった。気温上昇に伴う自然災害が深刻化しているにもかかわらず、温暖化克服への道筋を描けなかった。最大の焦点は化石燃料からの脱却に向けた行程表づくりだった。80カ国以上が賛同したが、産油国などが強く反対した。温暖化による被害を軽減するための対策資金についても、2035年までに3倍に増やすという努力目標にとどまった。資金提供を訴える途上国と、負担増を警戒する先進国の溝は埋まらなかった。交渉を主導する強力なリーダーの不在も迷走の一因だろう。気候変動を「詐欺」と主張するトランプ米大統領が代表団を派遣せず、脱炭素を先導してきた欧州連合(EU)もかつての勢いがない。再生可能エネルギーの輸出に熱心な中国も、主導的な役割を果たさなかった。日本は行程表策定に賛成せず、存在感を示せていない。国際枠組みの「パリ協定」から10年となり、不都合な部分も見えてきた。脱炭素を前進させるにはどうしたらよいのか。中長期の観点から体制を議論すべきだ。全会一致の合意を求めるCOPの原則にも、問題があるのではないか。国連は産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑えることを目指す。だが、各国の対策は不十分で、24年は1.55度に達した。目標達成は厳しくなっている。ただ、激しく対立しても決裂せず、過去の合意が取り消されなかったことは評価したい。気温の上昇幅を少しでも抑えて挽回できれば、将来の被害を軽減できる。明るい兆しもある。米カリフォルニア州やニューヨーク市、東京都などは脱炭素に熱心だ。世界の自治体間の連携に意欲を示す。多くのグローバル企業が再生エネや脱炭素技術の導入に注力する。今後は国家にとどまらず、民間企業や自治体などによる投資や技術供与を促すルールづくりを急がねばならない。気候変動はある一定の段階を超えると、一気に加速すると考えられている。少しでも前進させないと、取り返しのつかない状況に陥る恐れがある。国際社会は危機感をいま一度共有すべきだ。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251104&ng=DGKKZO92297100R31C25A0KE8000 (日経新聞 2025.11.4) 温暖化対策の行方(下) 脱炭素を日本の競争力源に (高村ゆかり・東京大学教授:1964年生まれ。京都大法卒、一橋大院博士課程単位取得退学。専門は国際法、環境法)
<ポイント>
○COP30は35年目標と資金支援が議題に
○米国は協定離脱も州や民間では対策継続
○日本は一貫した政策を進め予見性高めよ
 11月10日から、ブラジル・ベレンで第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)が開催される。国際社会が脱炭素に舵(かじ)を切る「パリ協定」に合意した2015年から10年の節目の会議となる。パリ協定に基づいて、各国は今年、35年の温暖化ガス排出削減目標(NDC)の提出が求められている。10月29日時点で、日本、英国、ブラジルなど66カ国が提出し、約100カ国が策定中だ。世界最大の排出国である中国は、9月の国連総会時に習近平(シー・ジンピン)国家主席が「ピーク時より7~10%削減」という中国としては初の「削減」目標を表明した。提出された35年のNDCを積み上げても、30年のNDCの水準よりも削減は進むものの、世界の平均気温上昇を工業化前と比べて1.5度までに抑えるというパリ協定の目標達成には全く不十分だ。目標の引き上げとともに、掲げた目標を現実の削減に転換し、世界の削減を進展させる方策に合意できるかが課題だ。24年のCOP29で途上国の温暖化対策を支援する気候資金動員目標が決まった。35年までに先進国が主導し年3000億ドル(約45兆円)、民間資金も含め年1.3兆ドル(約200兆円)の動員をめざす。これらの目標達成に向け具体的な道筋を示すことができるか。資金や能力の不足から十分な対策がとれない途上国の削減を促進する支援が可能となれば、世界の削減水準の引き上げにつなげることができる。議長国ブラジルがCOP30を機に立ち上げを計画する熱帯林保護基金にも注目が集まる。熱帯林保全の実績に応じて長期的に支援を受ける仕組みが検討中で、排出削減、生物多様性保全の効果も期待される。民間資金も含め1250億ドル(約20兆円)の資金動員を目指す。COP30は、第2期トランプ政権発足後初のCOPでもある。パリ協定からの脱退を表明し、気候資金の拠出を停止するなどの米国の政策変更が交渉にいかなる影響を及ぼすかは注視する必要がある。もっとも、米国内の温暖化対策の動きは複線的だ。第1期トランプ政権(17~21年)時と同様、温暖化対策に背を向ける連邦政府に対し、州や自治体・企業・金融機関などが対策を推進する。パリ協定の脱退表明を受けて、ニューヨーク州、カリフォルニア州など米国の人口の55%、国内総生産(GDP)のほぼ60%を占める24州の知事で構成する「米国気候同盟」は、25年1月、米国で温暖化対策が継続することを国際社会に伝えたいという国連宛ての書簡を公表した。米国が気候変動枠組み条約に支払うべき資金を代わりに支払うと表明する民間の慈善財団もある。国際情勢の変化の中でも、低炭素・脱炭素技術の普及と市場の拡大は続く。国際エネルギー機関(IEA)によると、24年の再生可能エネルギー(再エネ)の世界の新規導入設備容量は過去最大の約685ギガ(ギガは10億)ワットで前年比22%増加した。25年はさらにそれを上回る増加となり、26年までに再エネは石炭火力の発電量を上回り、世界で最も発電量の大きい電源となる見通しだ。自動車の電動化も進展する。24年の電気自動車(EV)の販売は1700万台超、23年比350万台(25%)増加した。EV市場をけん引してきた中国、欧州、北米に加え、日本の自動車産業にとっても重要な市場であるタイ、インド、ベトナムなどアジア新興国で電動車の新車販売量の伸びが顕著で、中国を除くアジア諸国での24年の販売量は約40万台(23年比40%超増)を記録した。今世紀半ば、50年ごろまでのカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)を目標に掲げる国は140カ国を超える。日本も50年カーボンニュートラルを目指す姿勢に変わりはない。25年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画、35年と40年のNDCも、50年カーボンニュートラル目標を大前提にする。今や日本にとって、温暖化対策は単なる環境政策ではない。脱炭素に移行する社会と市場に対応した産業構造に転換し、次世代の産業を創出し、競争力を強化する産業政策の色合いを強く帯びる。雇用創出、地域活性化のためにも、国内投資拡大が必要との認識だ。10年間で官民合わせて150兆円超の脱炭素投資の実現をめざし、20兆円の「グリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債」を活用した先行投資支援も続く。5月に成立した改正GX推進法の下で、26年度から二酸化炭素(CO2)排出量が年10万トン以上の企業を対象に日本版排出量取引制度「GX-ETS」が始まる。そのための制度の詳細設計が進行する。炭素排出に値付けすることで低炭素・脱炭素の製品・事業の競争力を高め、投資を喚起し、新たな市場を作るというカーボンプライシングの導入方針も揺らいでいない。企業もまた脱炭素に向けた歩みを止めていない。自社の事業活動から排出量だけでなく、そのバリューチェーン由来の排出量(スコープ3排出量)削減や実質ゼロという目標を掲げ、取引先に対して「働きかけ」を行う企業も少なくない(表参照)。こうした企業の立地先、取引先として選ばれるために温暖化対策の重要性が増している。先行きの不透明感が増す今だからこそ、なぜ日本が温暖化対策を進めるのかを改めて問う良い機会だ。将来さらに拡大が予測される気候変動の悪影響、人命や経済の損失を回避・低減できる。しかしそれだけではない。エネルギー供給の約9割を輸入化石燃料に依存する日本にとって、エネルギー消費を抑え、国産エネルギーを拡大する温暖化対策は、エネルギーの安定供給や安全保障の観点からも大きな価値を持つ。世界の市場と政策の大きな変化に先駆けて対応することは、産業の国際的な競争力を高め、資本市場や取引先からの日本企業の評価を高めることにもなる。省エネ技術など対策技術に強みを持つ日本企業も少なくない。脱炭素の世界的な潮流を推し進めることが、日本企業の市場拡大の機会にもなる。温暖化対策が産業構造の転換、産業競争力の強化をはじめ日本にプラスの便益をもたらすならば、日本は他国の政策変更に歩調を合わせる必要はない。「大排出国が対策を取らないから様子を見よう」という従来の発想は温暖化対策により得られる日本の便益と機会を逃してしまう。むしろ便益と機会を現実のものとする対策や制度の設計に知恵を絞るべきだ。産業構造の転換や新たな事業・市場の創出には、技術開発やサプライチェーン(供給網)の構築をはじめ中長期の投資が不可欠だ。見通しがつきにくい状況下だからこそ、企業が中長期的な視点をもって戦略を考え投資を行えるよう、企業の予見性を高める一貫した政策が求められている。

<実際に進んでいる地球温暖化>
*2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG151OT0V10C25A7000000/ (日経新聞 2025年8月7日) 溶ける北極の氷、弱まる「地球の冷却源」 50度超の熱波で山火事も頻発、「ニューノーマル」+2度は日常③
 氷が消え地球に熱がこもる。こんな悪循環が加速している。気温上昇を抑える役割を果たしてきた北極の海氷は2030年には消滅するという予測さえある。氷が溶けて海水面が上昇し、太平洋の島しょ国の住民は故郷を離れ始めた。熱波による山火事と感染症も猛威を振るっている。地球温暖化の最前線」とも呼ばれる北極域は温暖化の影響が最も表れる地域とされる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所によると、24年9月に人工衛星で観測した北極の海氷の年間最小面積は407万平方キロメートルと、衛星観測史上で5番目に小さかった。北極の海氷面積の最小値は長期的に減少傾向にある。米コロラド大などの国際研究チームは24年、温暖化がこのまま進むと27年にも北極の海氷が9月にほとんどなくなる可能性があると国際科学誌で報告した。
●海氷が減ると温暖化が進む
 北極は地球の冷却源として働くが、海氷が減るとその機能が弱まる。海氷は太陽光を反射して温暖化を抑える役割がある。また海面に蓋をして水分の蒸発量も抑えている。海氷がなくなると、北半球での水の循環が強まり、豪雨や干ばつなどが起きやすくなると指摘されている。同様に深刻なのが、世界各地の陸上に点在する氷床や氷河の減少だ。スイスのチューリヒ大学などの研究グループによると、世界の氷河は00〜23年に年間で平均2730億トン減少し、約1.8センチメートルの海面上昇を引き起こしたと推計された。25年5月にはスイス南部のアルプス山脈で、氷河の崩壊によって大規模な土石流が発生し、築600年の家屋が並ぶ歴史ある村が土砂に埋め尽くされた。
●ツバル国民はオーストラリアに気候移住
 海面上昇は沿岸部の居住地を奪って移住を余儀なくする「気候難民」を生み出す。太平洋諸島のツバルは、2100年までに国土の約9割が水没する恐れがある。23年にはオーストラリアとの間で、年間280人のツバル国民がオーストラリアの永住権を取得できる協定を結んだ。25年7月の申請の締め切りまでに全国民の約9割が申し込んだ。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、1999〜2024年までの25年間で9.38センチメートルの海面上昇が確認された。上昇の6割が氷河や氷床の融解を原因とし、3割は海水温が高くなったことによる海水の膨張が影響した。
●50度超える熱波で山火事
 気候変動に伴う記録的な熱波は、世界各地で頻発する山火事にも深く関係する。国内最高気温となる50.5度を記録したトルコでは25年の7月下旬、各地で山火事が相次いで発生した。広範囲が焼失して町や村単位で住民が避難したほか、消火作業にあたった複数人が死亡した。火災によって焼失する森林の面積は近年増えている。米シンクタンクの世界資源研究所(WRI)によると、24年に焼失した森林は1350万ヘクタールで、ギリシャの国土面積に相当する。23年の1190万ヘクタールから13%増加した。2024年に山火事で発生した世界の二酸化炭素排出量は41億トンに上った。23年の44億トンに続いて高い値となった。25年に入っても、米カリフォルニア州や日本、韓国、カナダなどで大規模な火災が立て続けに発生した。専門家は、いずれも人為的な気候変動によって気温や雨量に変化があったことが影響したとする分析結果を発表している。山火事は被害を出すだけでなく、温暖化を加速させる悪循環も生む。温暖化が進むことで、山火事を引き起こしやすい極端に乾燥した環境をつくる。一度火が付けば大規模な山火事に発展し、木が蓄えていた大量の二酸化炭素が大気中に放出されてしまう。
●蚊が媒介する感染症は拡大が続く
 温暖化は蚊が媒介する感染症のまん延を加速する。25年7月から中国南部の広東省仏山市を中心に「チクングニア熱」の感染拡大が続き、7000人以上の感染が確認されている。チクングニア熱は発熱や発疹、関節痛などを引き起こす。世界保健機関(WHO)によると死に至ることはまれだが、ワクチンや治療薬はないという。また15年に1355人だったデング熱の死者数は24年には6991人にまで増えた。高温が日常となったいま、危機への対応は急務となっている。

*2-2:https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20251124-OYT1T50004/ (読売新聞 2025/11/24) COP30閉幕 脱炭素の動き後戻りさせるな
 世界各地で熱波や干ばつ、山火事が相次ぎ、地球温暖化の影響があらわになっている。にもかかわらず、脱炭素の取り組みへの逆風が強まっているのは憂慮すべき事態だ。脱炭素に向けた動きを後戻りさせぬよう、国際社会が協力を維持しなければならない。ブラジルで開かれていた国連の気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)が閉幕した。今回の会議では「化石燃料からの脱却」に向けた工程表を作成することで合意できるかどうかが焦点だった。会期を延長して協議したが、産油国などが反対の立場を譲らず、見送られた。COPは今年で第1回会合から30年、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」採択から10年の節目を迎えたが、かつてない試練に直面している。生成AI(人工知能)の利用が拡大し、電力需要の増加が見込まれるため、脱炭素に逆行する火力発電に回帰する動きがある。加えて、議論を主導してきた米国で2期目のトランプ政権が発足し、パリ協定からの再離脱を決めた。トランプ大統領が温暖化対策を「史上最大の詐欺」と呼び、今回の会議に政府高官を派遣しなかったのは遺憾である。温暖化により発生する被害を軽減するための資金についても、負担増を警戒する先進国と、途上国との対立が続いた。最終的に、「今後10年間で3倍に増やす」という緩やかな努力目標を盛り込み、連帯を辛うじて保った。COPは、世界の平均気温の上昇幅を、産業革命前と比べ1・5度以内に抑えることを目標としている。だが、各国が掲げる二酸化炭素削減は目標にはほど遠く、昨年は一時的に1・5度を上回った。対策の強化が急がれる。議長国のブラジルは今回、アマゾン川の河口近くにある都市ベレンを開催地に選び、森林破壊などの問題に注目を集めた。気温の上昇は、生態系に様々な悪影響を及ぼす。近年の酷暑のほか、コメの不作やクマの出没なども、気候の変化と無縁ではない。脱炭素が遅れれば遅れるほど、将来世代の負担は増えることを、各国は認識しなければならない。昨今、SNSを中心に、温暖化の否定論が拡散する兆しがあるのは気がかりだ。今回の会議では、科学的で正確な情報発信を強化するとの宣言も発表された。温暖化対策の機運に水を差す偽情報に対しては、各国が協力して対抗することも必要だろう。

<海水温上昇の水産業への影響>
*3-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/94ce8196bf6763d1e2239c0a7a9ef31eeb762964 (長崎新聞 2025/10/30) 地球温暖化が水産県・長崎にも影響…スルメイカは激減、魚の旬にもずれ「どうにもできずもどかしい」
 地球温暖化で海水温が上昇するなど海洋環境が目まぐるしく変化している。海の生物の分布や回遊行動、産卵に影響し、水産業に弊害が出ている。魚が北上したり、深海へ移動したりして、食卓に上る旬の魚も変わりつつある。温暖化が進む中、本県の水産業への影響を探った。
●漁船半数以下に
 「日本海からスルメイカはおらんくなった」。中学卒業後からイカ釣り漁船に乗り60年以上。全国いか釣漁業協議会会長も務めた壱岐市勝本町漁協組合長、大久保照享さん(79)が断言した。 海水温が上昇し、日本海を回遊していたスルメイカが姿を消している。農林水産省の全国統計によると、2000年には30万トン超だったスルメイカの漁獲量は24年に2万トンを割った。 同漁協では1970年ごろ、県外へ出漁する船団ができた。19トンのイカ釣り船60隻の船団を組み、好漁場として知られる日本海中央部の大和堆や北海道小樽沖まで出漁し、各地の港に水揚げした。ところが今、スルメイカが激減し、燃料費も高騰。県外に出るイカ釣り漁船はほとんどない。最盛期には千隻を数えた漁船も半分以下に減ったという。「漁業は自然相手。どうにもできないのがもどかしい」
●たどり着けない
 気象庁によると、2024年までの100年間で、日本近海の平均海面水温は1・33度上昇した。世界全体は0・62度の上昇で、上げ幅は倍以上だ。海域別では日本海中部の上昇率が大きい。上昇率は冬季に大きく、夏季に小さくなる傾向がみられる。冬の日本海中部は100年でプラス2・64度と特に上昇幅が大きい。イカの生態に詳しい長崎大大学院総合生産科学研究科の山口忠則特任研究員によると、スルメイカは主に東シナ海から対馬周辺で産卵する。九州西岸沖を通る対馬暖流の流れが強くなり、イカが産卵に適した場所にたどり着けず、資源減少につながっているという。日本海と裏腹に、太平洋側では今年、スルメイカが異例の豊漁だ。山口氏は、黒潮が日本列島の南沖合に大きくそれる「大蛇行」が、4月に終息したことが一因ではないかと指摘する。だが、イカが太平洋側から日本海側へ回遊し、豊漁になることは考えにくいという。山口氏は「全体的な資源量については来年の漁獲量に注目すべきだ」と強調した。
●南方系魚が混獲
県によると、スルメイカ以外の魚種にも影響が出ている。海水温上昇で、海藻を食い荒らすアイゴやブダイなどの活動が長期化している。海藻が集まる藻場の減少は魚の産卵や稚魚の成育を阻害し、漁場形成に悪影響を及ぼす。海藻の分布域も北上しており、アワビの減少につながっている。近年の巻き網漁では、南方系魚のタイワンアイノコイワシやカタボシイワシなどが混獲されるようになった。本来は沖縄や鹿児島・奄美など暖かい海にいたアカハタやオオモンハタといった魚価が高いハタ類の水揚げも増加している。ブリ類は近年、以前ほとんど取れなかった北海道で水揚げが急増。23年の本県は前年より約2千トン多い約1万3千トンだったが、北海道が約4千トン増の約1万3700トンとなり、首位と2位が入れ替わった。水温が高いと植物性プランクトンが増殖しやすく、有害な赤潮の発生につながる。本県では23年度、赤潮により養殖トラフグの稚魚などが大量死。被害額は約11億円となった。24年度も立て続けに大規模な赤潮が発生。ハマチやシマアジなどが大量死し、被害額は過去最多の約16億円に上った。冬が旬のマガキも、昨年は高水温で生存率が低下し、中には9割が死滅した産地も。高水温に強い種類を育てたり、養殖時期をずらしたりする取り組みを進めている。
●旬に数カ月ずれ
 長崎市京泊3丁目の長崎魚市場で営業する水産仲卸業者、丸菱商店の山内一弘社長(67)は「市場に並ぶ魚が減り、水産業に関わる人の数も減った」と近年の変化を口にする。全体的に漁獲の時期が長くなったり、逆に短くなったりしており、魚の旬が数カ月ずれることも珍しくない。旬の魚を求める注文に応えられないこともしばしばあるという。最近は魚価が上昇。魚が豊富にあり、量で勝負していた数十年前とは状況が変わった。天候などをにらみ各地の水揚げを予想。県外の仲卸業者とも連絡を取り合い、いち早い情報の入手を心がけている。「水産業界は様変わりした。先を読み続けることが重要だ」

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16354699.html (朝日新聞 2025年11月30日) 瀬戸内カキ大量死 「災害級」養殖9割死んだ海域も
 養殖カキの生産量の8割を占める瀬戸内海で、カキが大量死している。生産量全国トップの広島県では、水揚げしたカキの9割が死んでいた海域もあり、瀬戸内海周辺の特異な気象状況が影響した可能性がある。「まさに災害級だ」。19日、広島県の湯崎英彦知事(当時)は、県内のカキ養殖場を視察した鈴木憲和・農林水産相との面会後、危機感を示した。森尾水産(東広島市)は10月20日に水揚げを始めたが、9割以上のカキが死んでいた。来年水揚げするカキも厳しい状況という。森尾龍也代表(49)は「漁師を20年以上していてこんなにひどいのは経験がない」。農水省の統計によると、養殖カキ類の昨年の生産量シェアは広島63%、宮城10%、岡山10%、兵庫6%などと、瀬戸内海が8割を占める。その瀬戸内海で、カキの異変が広がっている。水揚げしたカキが死んでいる「へい死」の割合は平年3~5割だが、水産庁が11月中旬に聞き取ったところ、広島県中東部は6~9割にのぼり、県西部も例年並みかやや多い状況だった。岡山は水揚げ前だったが、へい死の割合は「例年より多い」、一部水揚げが始まった兵庫は「地区により異なるがおおむね8割」との回答だった。信用調査会社の東京商工リサーチによると、広島県内でカキの養殖や販売に携わる業者60社の直近の売上高は約280億円。生育不良は県内の業者に大きな影響を与える可能性がある。昨季より出荷価格を5%ほど上げたという養殖業者は「冷凍カキがあるため、一気に高騰することはないと思うが、徐々に価格は上がるだろう」と言う。広島県呉市は今回の事態を受け、市内の漁協に所属する55の養殖業者に一律50万円を支給することを決めた。市はふるさと納税の返礼品として生ガキを用意していたが、受け付けを停止した。市の担当者は「特産品がここまで打撃を受けると、地域経済や観光にも深刻な影響が出る」と話す。
■水温か、塩分か、酸欠か
 養殖カキの大量死は、なぜ起きているのか。広島県水産課の担当者は「高水温と高塩分の海水環境にさらされたカキが、生理障害を引き起こした」とみている。今夏の県沿岸の平均海水温は、1991~2020年の平均値より1・5~2度ほど高かった。海水温が上がると、カキは産卵・放精の回数が増え、疲弊しやすくなる。ただ今夏は、高水温に強く、産卵しないように品種改良した県産カキでも、へい死が目立った。中国地方は今夏、統計史上最速の梅雨明けで雨量が少なかった。担当者は「海水の塩分が高くなり、カキが脱水症状のような状態になった可能性もある」と話す。広島大の山本民次(たみじ)名誉教授(海洋環境生態学)は、海中の酸素濃度の変化に注目している。県中東部の沿岸部では9月以降、北風が集中して吹き続け、表層の海水が一気に南側の沖合へと流れ出た。そのため、酸素の少ない海底の水が表層近くにまで押し上げられ、カキが酸素不足に陥ったと推測する。9月に県中部の海中を調べたところ、酸素の濃度が薄くなる境目の「躍層(やくそう)」が、平年は水深7メートルのところにあるが、水面近くまで上がっていたという。山本名誉教授は「瀬戸内海は水深が浅く、風の影響を受けやすい。高水温や高塩分よりも、酸素不足が大きな影響を及ぼしている可能性がある」と指摘する。一方、東北・三陸沖のカキに目立った異状は確認されていない。過去2年はへい死が多く、例年の半分ほどに収量が落ちたが、宮城県の担当者は「今年は高水温の時期が短かったせいか、大きな変化はない」と言う。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251130&ng=DGKKZO92902970Z21C25A1TYC000 (日経新聞 2025.11.30) 温暖化で「臨界点」越え迫る、サンゴ死滅、陸の生態系も打撃
 地球温暖化は環境や生態系に後戻りできない変化をもたらし始めている。海水温の上昇で熱帯地域のサンゴの90%が死滅の危機に直面し、回復不能な状態に陥る恐れが出ている。漁業や観光への影響は800億ドルに上るという試算もある。鳥類や北極域のトナカイも激減しており、温暖化が進めば世界の生物種の17%が絶滅する恐れがある。「ティッピングポイント」という考えが気候変動の分野で注目されている。英語で「臨界点」を意味し、越えると元の状態に戻ることができない結果をもたらす点を指す。英国のエクセター大学などの報告書によると、気温上昇は複数のティッピングポイントを誘発するとされる。代表例は極域の氷の融解や大西洋の大規模な海洋循環の崩壊、アマゾン熱帯雨林の枯死だ。局所的な現象が他の地域に波及し、ドミノ倒しのように連鎖する可能性も指摘されている。例えば、グリーンランドの氷床の融解は地球規模の海面上昇を引き起こすだけでなく、大西洋子午面循環(AMOC)と呼ばれる海洋循環にも影響を及ぼす。AMOCは欧州を温暖に保つ役割を果たすが、崩壊すれば逆に寒冷化を招くとされる。アマゾン熱帯雨林の降雨量や生態系を変え、枯死が進む恐れもある。中でも熱帯地域のサンゴ礁は、海水温の上昇に伴って既にティッピングポイントを越えた可能性があると指摘されている。熱帯地域ではサンゴ礁の死滅が深刻になっている。サンゴは褐虫藻を体内に取り入れ、共生している。褐虫藻はサンゴにすみかを提供してもらう代わりに、光合成をして栄養分を渡す。海水温の上昇はこの共生関係を揺るがしている。海水温の上昇によって褐虫藻がサンゴから抜け出してしまう。サンゴは白化し、栄養が得られずにやがて死滅する。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、地球の平均気温が産業革命前の水準と比べて1.5度上昇すれば、熱帯地域のサンゴの約70~90%が死滅するという。2度の上昇でほぼ絶滅する。琉球大学熱帯生物圏研究センターでサンゴの白化を研究する高橋俊一教授は、「サンゴの死滅を防ぐには急激な海水温の上昇を抑えるなど対策が必要だ」と指摘する。サンゴの経済的価値は大きい。漁業資源となる魚や貝にすみかを与え、生態系のバランスを保っている。観光資源としても周辺地域に恵みをもたらす。打ち寄せる波から陸を守る防波堤の役割を担うとされる。世界自然保護基金(WWF)の2003年の試算によると、サンゴは世界で毎年300億ドルの経済的な利益をもたらしている。サンゴが大量に死滅した場合、観光業の損失額は50年間で約400億ドルに上ると算出した。気候変動の影響は他の生態系も直撃する。東北大学の研究グループによると、海水温の上昇により、1940~2020年の80年間で海洋プランクトンの個体数が約24%減少した。熱帯域の海洋プランクトンは海水温の上昇を避けるため、生息域を高緯度や水深の深い海域に移している。猛暑は鳥類の生存も脅かす。ドイツのポツダム気候影響研究所などは、気候変動の影響で1950~2020年にかけて熱帯の鳥類の個体数が25~38%減少したと明らかにした。米海洋大気局(NOAA)の分析によると、北極圏を移動するトナカイの群れがピーク時から65%減少した。夏季の気温上昇で有害な虫が増えたほか、冬季の雨量の増加によって食料となる植物が氷に覆われやすくなって餌を食べるのが難しくなった。国際自然保護連合(IUCN)が絶滅の恐れがあるとしている生き物のうち、気候変動が要因だった生き物は2000年時点で約10種だったが、25年10月時点で約8200種に上った。米アリゾナ大学の研究グループが24年に発表した論文によると、温暖化が最も深刻なシナリオでは世界の生物種の17%が絶滅する恐れがあると推計された。温暖化の進行は自然環境や生態系を取り返しのつかない結末へ向かわせている。臨界点を越えないための行動が求められている。

<原発への膨大な無駄遣いと再エネの冷遇>
*4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251129&ng=DGKKZO92897280Z21C25A1MM8000 (日経新聞 2025.11.29) 原発活用、東日本も前進 北海道知事が泊再稼働を容認、安定電源、経済に欠かせず
 北海道の鈴木直道知事は28日、北海道電力の泊原子力発電所3号機(泊村)の再稼働を容認すると表明した。再稼働に必要な知事同意は道議会の議論を踏まえて最終判断する見通しだ。東日本で遅れてきた原発活用がようやく前進する。鈴木知事は28日の定例道議会で「原発の活用は当面取り得る現実的な選択と考えている」と答弁した。再稼働を容認する理由の一つとして、泊原発3号機が国の新規制基準に適合していることを挙げた。そのうえで「再稼働により電気料金の値下げが見込まれるとともに、電力需要の増加が想定されるなかで安定供給が確実になる」と語った。「脱炭素電源の確保で道内経済の成長や、温暖化ガスの削減につながる」とも説明した。国内では生成AI(人工知能)向けのデータセンターや半導体工場などデジタル産業向けの電力需要の伸びが大きい。電力広域的運営推進機関の試算では電力10エリアのうち、四国を除く9エリアで増加する見通しだ。データセンターは安定した電源が不可欠だ。特に北海道の伸び率は今後10年で13%とエリア別で最大になる。政府が国策として全面支援し、2027年度にも最先端半導体の量産を目指すラピダスやデータセンター向けの需要が急増するためだ。エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は「特に北海道は30年代に発電量が不安定な再生可能エネルギーが増える見通しで、泊3号機の再稼働は安定供給に寄与する」と指摘する。鈴木知事は泊原発の再稼働で安定した電源を確保し、企業誘致などを通じて道内経済の発展につなげたい考えだ。東京電力福島第1原発事故の後、電力各社は原子力規制委員会の新基準に沿って原発の安全確保に取り組み、これまでに14基が再稼働を果たした。うち13基は関西電力や九州電力など西日本に集中する。東日本は東北電力女川原子力発電所2号機の1基しか動いていない。東京電力ホールディングス柏崎刈羽原発について新潟県の花角英世知事は21日、再稼働を容認すると表明した。泊原発も続けば、東日本での原発活用が大きく進む。国内の電力需要は今後10年で6%増え、供給力が不足する懸念がある。電気料金の高止まりも続くなか、国内産業を下支えするために原発の重要度が増す。稼働する原発の有無は電気代の差に直結してきた。経済産業省の試算によると、原発の燃料費は1キロワット時当たり1.9円と火力発電に比べて大幅に安い。石炭火力は同6.3円、液化天然ガス(LNG)火力は9円となる。電力10社が27日公表した12月使用分の家庭向け電気代は、北海道電の標準家庭で9376円だった。最も安い九州電力と比べて2000円ほど高かった。電源構成に占める原発の比率が3割前後と高い九州や関西では安く、東日本で電気代が割高になっている。

*4-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251201&ng=DGKKZO92916190R01C25A2NN1000 (日経新聞 2025.12.1) 「核のごみ」対応急務 柏崎刈羽・泊で原発再稼働容認、再利用・最終処分、実現めど立たず
 新潟県の柏崎刈羽6~7号機、北海道の泊3号機と東日本の主要な原子力発電所で地元の知事による再稼働容認の表明が相次いだ。火力より安価で、再生可能エネルギーより安定した電源との期待がある。原発の利用拡大は核燃料の「後工程」の問題を避けて通れない。停滞する再利用や最終処分といった政策課題を前に進める必要がある。政府はエネルギー基本計画で、2040年度時点の電源構成に占める原子力の割合を2割程度に高める目標を掲げている。国内にある建設中を含む既存の原発36基のほとんどを動かさなければ達成できない。稼働数を現状の14基から大幅に増やすことになる。原発を動かす場合、使用済み核燃料(きょうのことば)の扱いが問題になる。電力各社は敷地内のプールに一時的に保管している。そのスペースには限りがある。東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発6~7号機は既に貯蔵率が8割を超えている。再稼働後、対策を打たなければ数年で満杯になる。当面、運転の計画がない1~5号機のプールに分散し、時間を稼ぐ。24年からは子会社が青森県むつ市で運営する中間貯蔵施設への搬入も始めた。あくまで一時保管との位置づけで、貯蔵は最長50年だ。政府は使用済み燃料からウランやプルトニウムを取り出し、再利用する核燃料サイクルを基本政策とする。現状は看板倒れだ。サイクルは回り始める前の段階で足踏みしている。ウランなどを回収する再処理も、その際に生じる高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下深くに埋める最終処分も実現していない。要となる日本原燃の再処理工場は青森県六ケ所村で1993年に着工した。当初は97年にできあがる予定だった。相次ぐ事故やトラブルなどでこれまで27回の延期を重ね、ずるずる遅れている。最終処分場の候補地選びは文献調査の段階にとどまる。この最初期の調査でさえ、受け入れたのは北海道の寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町の3町村のみだ。経済産業省は文献調査が終わった寿都町と神恵内村について次のステップへの移行を目指している。実際に地層や地下水などの状況をチェックする概要調査だ。現時点では北海道の鈴木直道知事が反対の姿勢で、進展は見通せない。資源に乏しい日本はエネルギー安全保障上、原子力への期待が大きい。2011年の東日本大震災で起きた東電福島第1原発の事故を経て、いったん国内の全ての原発が停止する事態になった。その後、地震や津波への対策強化などを定めた新規制基準の下、少しずつ再稼働が広がってきた。
ウクライナ危機以降の資源高や、人工知能(AI)の普及による電力需要の増大などで世界的にも原子力を再評価する流れにある。核のごみの難題とも改めて正面から向き合う局面にきている。

*4-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16354595.html (朝日新聞社説 2025年11月30日) 安保3文書改定 平和国家の変質を危惧する
 自民党の国防部会と安全保障調査会の合同会議で、安保3文書の改定に向けた議論が始まった。戦後一貫して否定してきた集団的自衛権の行使に一部道を開いた安全保障関連法の成立から10年。「防衛力の抜本的強化」を掲げ、専守防衛を空洞化させる敵基地攻撃能力の保有に踏み出した安保関連3文書の決定から3年。その延長線上に高市首相がめざす安保政策は、防衛費のさらなる増額や、武器輸出の制限の大幅緩和に加え、「国是」である非核三原則の見直し検討にまで及ぶ。身の丈を超えるような力への傾斜が、本当に地域の安定につながるのか。高市政権が平和国家としての日本のありようを、これ以上変質させることを強く危惧する。
■額ありき繰り返すな
 自民党が安保関連3文書の前倒し改定に向けた議論を始めた。首相は来年中の改定をめざすとしており、来年4月にも政府への提言をまとめる見通しだ。日本の防衛費は戦後、国内総生産(GDP)比、おおむね1%で推移してきたが、現行の3文書で、関連経費を含め5年で2%に引き上げることが決まった。首相は補正予算案で防衛費を積み増し、今年度中に2年前倒しで達成するとしており、新たな数値目標の設定が焦点になる。ただ、2%自体、現場からの積み上げを経ない「総額ありき」で決めたものだった。財源の一部に充てる所得増税の開始時期はいまだ決まっていない。防衛費の使い残しもたびたび取りざたされる。米国は同盟国に3・5%を求めており、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や韓国がすでに応じている。しかし、安保環境も財政事情もそれぞれ異なる。必要性や費用対効果を厳しく吟味し、主体的に判断せねばならない。また、中国はGDPも国防費も日本の4倍以上。その差は今後開くと予想される。対抗して防衛費を増やすことにはおのずと限界がある。
■武器輸出歯止め必要
 3文書改定を待たずに、結論が出るかもしれないのが、武器輸出のさらなる緩和だ。現行の防衛装備移転三原則の運用指針では、輸出対象は「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限られるが、自民と日本維新の会の連立合意には、来年の通常国会中の「撤廃」が明記された。すでに、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の日本から第三国への輸出や、共同開発・生産という形をとった豪州への護衛艦の輸出など、個々の判断として、殺傷能力の高い兵器の提供が次々と決まっている。そのうえ、5類型そのものが撤廃されるなら、歯止めが失われ、「武器輸出大国」への道を歩みだしかねない。現在の3文書でも、「堅持」の方針は今後も変えないとする非核三原則の扱いも焦点だ。核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずのうち、「持ち込ませず」は、米国の「核の傘」に頼る以上、現実的ではないというのが首相の持論だからだ。被爆の惨禍を二度と繰り返させない国民の強い決意のもと、長年支持されてきた原則を、時の政権の判断で軽々に変えることは許されない。戦争被爆国である日本が原則を変えることがもたらす負の影響を直視すべきだ。
■国民的議論が不可欠
 政府側の検討の進め方はまだ明らかになっていない。現行の3文書は岸田政権下で決められたが、戦後の抑制的な安保政策の大転換だというのに、国民的議論がなかったことを忘れてはならない。安保3文書にしろ、防衛装備移転三原則にしろ、政府による閣議決定で決められることは事実だ。ただ、国の根幹にかかわる問題である。国民の代表である国会での徹底した議論は不可欠だ。特に非核三原則については、全会一致の国会決議を経て国是として定着した経緯がある。政府だけで決めていいものではない。これまでは、公明党が与党の中で、十分とは言えないまでも、一定のブレーキ役を果たしてきた。例えば、武器輸出の5類型は、自民が撤廃を求めたものの、公明の反対で実現しなかった。連立相手は今や、憲法9条改正や集団的自衛権行使の全面容認を掲げる維新に変わった。連立合意には、原子力潜水艦を念頭に置いた「次世代の動力」を活用した潜水艦保有の推進も盛り込まれている。多角的で慎重な検討抜きに、前のめりで物事が進むことが懸念される。首相は安保環境の悪化を踏まえ、相手の攻撃など、望ましくない行動を思いとどまらせる抑止力の強化が必要だと訴える。防衛力がその柱のひとつであることは間違いないが、外交や経済、情報力を組み合わせてこそ、その効果は発揮される。この考え方は欧米では常識で、現行の安保3文書にも記されてはいる。だが、対中関係の悪化など、高市政権の外交が十分機能しているとは言えない。不必要な挑発は抑止力強化にとって無益である。防衛力強化にのみ突き進むのではなく、統合的な抑止力の設計こそが求められる。

*4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1778B0X11C25A1000000/ (日経新聞 2025年11月25日) コニカミノルタ、ペロブスカイト太陽電池の耐用30年 保護膜で実現へ
 コニカミノルタは25日、ペロブスカイト太陽電池の耐用年数で従来の3倍の30年程度を実現した検証結果を発表した。太陽電池新興のエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)に保護膜を供給し検証した。エネコートはトヨタ自動車と車の屋根につける電池を開発している。課題だった耐用年数が延びることで車載ペロブスカイトの実現に前進する。ペロブスカイト型は軽くて薄く、ビルや車の屋根など曲面にも設置できる。コニカミノルタは太陽光が当たる電池表面を保護し、わずかな水分も通さない樹脂製の保護フィルムを開発する。京都大学発で2018年に創業したエネコートは27年からまず小型電池で量産を始め、コニカミノルタのフィルム採用を順次検討していく。コニカミノルタとエネコートは、コニカミノルタの保護フィルムを使って水分の透過試験を実施。その結果、屋外での耐用年数を理論上30年ほどまで長くできる可能性を確認したという。ペロブスカイト型はわずかな水分に触れても結晶が分解して性能が落ちる課題がある。これまで耐用年数は5〜10年程度と、一般的な太陽光パネルの半分程度にとどまってきた。エネコートは今後、トヨタの電気自動車(EV)の屋根などにペロブスカイト型を搭載することを目指している。EVに搭載すれば常時発電することで航続距離を伸ばせる。同日、オンライン記者会見に登壇したエネコートの加藤尚哉社長は「コスト面などの条件を満たせば、トヨタのEV向けの電池にコニカミノルタのフィルムを使う可能性もある」と話した。事務機が主力のコニカミノルタが保護フィルムを開発できたのは、薄くて曲がる「有機EL照明」事業に参入していたためだ。約10年前に参入し、自動車や電車の天井に張り付ける照明として普及を狙った。最終製品までてがけていたが、事業として広がらなかった。大幸利充社長も「事業としては失敗だった」と認める。それでも社内には、有機EL照明に水を通さないための保護膜のノウハウが蓄積された。電気を光に変換する有機EL照明は、構造が光を電気に変える太陽電池と本質的に似ている。岸恵一執行役員は「35年度に保護フィルム市場は500億〜800億円の見通しで、シェアナンバーワンになりたい」と意気込む。ペロブスカイト型は桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が開発した日本発の技術だ。国内では積水化学工業やパナソニックホールディングス、リコー、シャープなどのメーカーが、フィルム型や建材一体型などのメーカーとして参入している。コニカミノルタはエネコート以外のメーカー向けにも素材を供給する計画だ。調査会社の富士経済によれば、ペロブスカイト型の世界市場は40年に3兆9480億円と、24年(590億円)から急拡大する。現在の太陽光パネルは国土の狭い日本での普及の余地が限られ、中国からの調達依存度が高い。10月には高市早苗首相が所信表明演説でも言及し、政府も国内生産を補助金などで後押しする。性能や耐久性を高める周辺部材の開発も活発になっている。東洋製缶グループホールディングスは欧州の研究機関と連携し、コニカミノルタと同じ保護フィルム分野で次世代電池向けの素材開発を進めている。キヤノンは耐用年数を20〜30年に延ばせる発電層に接する素材を開発した。電池の内と外から耐久性を高める素材開発が進めば、組み合わせによってさらに耐久性を延ばせる期待がある。経済産業省は24年、40年に2000万キロワットのペロブスカイト型を国内に導入する目標を策定した。完成品メーカーに加え、素材メーカーも含めてサプライチェーン(供給網)を構築できるかが達成の鍵を握る。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC112T70R10C25A6000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2025.6.11) サントリーHD、グリーン水素の製造販売へ参入 27年に
 サントリーホールディングス(HD)は11日、2027年に環境負荷が小さい「グリーン水素」の製造販売に参入すると発表した。山梨県や工業ガスの巴商会(東京・大田)などと協業する。国内で初めて製造から販売まで一貫して手がけ、新たなビジネス機会を探る。数年以内に事業損益の黒字化を目指す。山梨県北杜市に建設中のグリーン水素の製造施設を活用する。同施設は年間2200トンの水素を製造する能力を持つ。まずは年内に稼働し、「サントリー天然水」の殺菌やウイスキーの「直火蒸留」などへの活用を検証する。27年以降は同県内で水素を消費する「地産地消モデル」を検証し、東京都内の企業などにも供給を目指す。水素製造装置は「やまなしモデルP2G(パワー・ツー・ガス)システム」を利用する。グリーン水素は太陽光や風力といった再生可能エネルギーの電気で水を分解して作られる。製造過程で二酸化炭素(CO2)を排出しないため、年間1万6000トンのCO2排出削減を見込む。27年以降の水素の生産規模は実証結果を踏まえて決める。同日開いた記者会見で、サントリーHDの藤原正明常務執行役員は「事業活動とサステナビリティーを融合して新たな価値をつくりたい」と話した。

<2025年度補正予算について>
*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251128&ng=DGKKZO92868910Y5A121C2MM0000 (日経新聞 2025.11.28) 補正予算案18兆3034億円、午後決定、物価対策や成長投資 新規国債は11兆円
 政府は28日午後、2025年度補正予算案を閣議決定する。一般会計の総額は18兆3034億円に上る。物価高対策や成長投資など経済対策の財源となる。歳入は国債の追加発行が11兆6960億円とおよそ6割を占める。政府は今国会に提出し、12月中の成立をめざす。高市早苗首相は「責任ある積極財政」を掲げている。補正予算の規模としては24年度の13.9兆円を上回り、新型コロナウイルス禍以降で最大となる。歳出は21日にまとめた経済対策の経費が17兆7028億円に上る。分野ごとに内訳をみると(1)生活の安全保障・物価高への対応8兆9041億円(2)危機管理投資・成長投資による強い経済の実現6兆4330億円(3)防衛力と外交力の強化1兆6560億円(4)予備費の確保7098億円――になる。物価高対策としては自治体向けの支援金を拡充し「おこめ券」や電子クーポンなどに使えるようにする。26年1~3月の電気・ガス代を支援するほか、子育て世帯に18歳以下の子ども1人あたり2万円を給付する。高市政権の経済政策の肝である危機管理投資・成長投資は人工知能(AI)や半導体、造船などの戦略分野が対象になる。サプライチェーン(供給網)の強化やサイバーセキュリティー対策の徹底を促す政策に予算を充てる。防衛費も積み増す。国内総生産(GDP)比2%に引き上げる目標の達成時期を当初の27年度から2年前倒しする考えだ。政府が使途を柔軟に決められる予備費を確保し、自然災害やクマ被害の拡大などに備える。歳入は税収見積もりの上振れ額の2兆8790億円を充てる。25年度の税収見込みは当初の想定より多い80兆円台になる見通しだ。6年連続で過去最高を更新する。税外収入の1兆155億円や24年度の剰余金2兆7129億円も活用する。不足分は国債の追加発行に頼り、歳入の6割超に上る。このうち赤字国債が8兆1570億円、インフラ整備に使う建設国債が3兆5390億円になる。国債発行額は24年度の補正予算時の6兆6900億円と比べて5兆円ほど多い。25年度の当初と合わせた発行額は40兆円ほどで24年度の42兆1390億円を下回る。首相は27日の経済財政諮問会議で「経済成長を通じて税収を増やし、財政の持続可能性を実現することを目指す」と話した。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251129&ng=DGKKZO92895570Y5A121C2EA1000 (日経新聞 2025.11.29) 大型補正、市場の信認問う 遠のく基礎収支黒字化、総額18.3兆円を閣議決定
 政府は28日、経済対策の裏付けとなる2025年度補正予算(総合2面きょうのことば)案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は18兆3034億円と、新型コロナウイルス禍後で最大となった。家計支援や成長投資の財源とする。歳入面は税収増で補えず、国債の追加発行が11兆6960億円とおよそ6割を占めた。民間の試算では国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は26年度の黒字予想から一転し赤字となる公算が大きくなった。国内総生産(GDP)比でみた債務残高の引き下げを掲げる「責任ある積極財政」が市場の信認を得られるか問われる。年度後半に組む補正予算は予算執行の多くが翌年度に持ち越され収支悪化要因になる。地方自治体向けの交付金など年度内の予算執行が難しい施策が多くなるほど、赤字が積み上がりやすい。内閣府は8月時点で25年度は3.2兆円の赤字、26年度は3.6兆円の黒字を見込んでいた。政府は6月にまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に「25年度から26年度を通じて可能な限り早期」のPB黒字化を目指すと記した。今回の経済対策で一般歳出額は17.7兆円と前年度(13.9兆円)を上回った。ガソリン税の旧暫定税率廃止や所得税の非課税枠「年収の壁」引き上げによる2.7兆円の大型減税もある。大和総研の末吉孝行経済調査部長の試算によると、一般会計歳出の拡大と大型減税の影響で26年度のPBは10兆円ほど悪化する。足元の税収上振れ効果を反映しても、3兆円台なかばの赤字が残る。これから編成が本格化する26年度当初予算の影響もある。自民党と日本維新の会、公明党の3党で合意済みの高校無償化や給食費無償化のほか、公務員給与の増加を加えるとPB赤字幅は5兆円を超す。首相はPBの単年度の黒字化目標を撤廃し、複数年でバランスをとる考えを示す。重視するのは債務残高対GDP比の引き下げだ。補正予算案の成立後の国債発行額は40.3兆円で、24年度の42.1兆円より抑えた。実際に債務残高GDP比が下がるかは、内閣府が26年1月に公表する「中長期の経済財政に関する試算」で明らかになる。今回の対策で6.4兆円を充てた成長投資や危機管理投資などの成長の押し上げ効果をどの程度見込むかが問われる。債務残高GDP比は低下傾向にあるものの、国際通貨基金(IMF)調べで24年は236.1%と100%台の米欧より高い。巨額の投資を優先する現政権に対し、国内債券市場は財政拡張への警戒感を解いていない。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは28日、1.825%と前日比0.03%上昇(債券価格は下落)する場面があった。20日には一時1.835%と08年6月以来の高水準をつけた。東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジストは「財政運営を巡る不安をかき消す材料がない」と話す。26年度予算案だけでなくその後も大規模な経済対策が打ち出され、国債増発につながる懸念がある。補正後の国債発行額が前年を下回ったのは、石破茂前政権で編成した25年度当初予算で発行額を抑えたのが大きい。補正予算のみでは前年度の6.6兆円に対し、今年度は11.6兆円と5兆円ほど多かった。財務省幹部は「今回の補正予算案と26年度当初予算案の総額がどの程度になるかが市場の評価に直結する」とみる。

*5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1602955 (佐賀新聞 2025/11/29) 補正予算案 国の信認揺るがす膨張だ
 深刻な不況や金融危機でもない平時に、これほどの補正予算案の膨張は常軌を逸していると言うほかない。日本の財政運営への信認を揺るがし、通貨価値の下落などを通じて国民生活を悪化させかねないと知るべきだ。政府は、経済対策の財源を裏付ける2025年度の一般会計補正予算案を閣議決定した。高市早苗首相の「責任ある積極財政」に沿った規模上積みが特徴で、経済対策の施策を中心に一般会計の歳出は18兆3034億円を計上した。政府はコロナ禍への対応が必要となり、20年度からしばらくは巨額の補正編成を余儀なくされた。しかし、それが収束へ向かったことで、23年の骨太方針は「歳出構造を平時に戻していく」と確認したはずだ。今回の補正は前年度(約13兆9千億円)を大きく上回るだけでなく、当初予算との合計が133兆5千億円と莫大(ばくだい)な歳出規模に達する。米国の関税措置はありながらも企業収益は総じて底堅く、空前の株高が続く景気の現状で、正当化できる財政出動とは思えない。対策には家計支援としてガソリン減税や電気・ガス代補助、地方交付金による商品券配布などの「ばらまき」が盛り込まれた。巨額歳出を伴うこれらの需要刺激策は、エネルギーの輸入拡大という円安要因などと相まって、かえって物価高を深刻にする恐れがあろう。歳出膨張は当然、歳入の財源にしわ寄せとならざるを得ない。税収の上振れや前年度からの剰余金などで足りない11兆6960億円を追加の国債発行で賄う計画という。高市首相は当初・補正計の国債発行が前年度を下回る点や、25年度の税収が6年連続で過去最高を更新する見通しなどから、財政運営に問題はなく規律が保たれていると強調したいのだろう。だが市場はそう受け止めていない。経済対策の規模が明らかになるにつれ、財政悪化への懸念から長期金利は急上昇。円売りが加速した。いずれも企業活動や物価抑制にはマイナスとなる。市場の信認維持は瀬戸際にある状態で、年末の26年度予算案編成で放漫財政が繰り返されれば、日本国債の格下げリスクが一層高まろう。
首相は財政健全化の目標も、今の「基礎的財政収支の単年度黒字」から「債務残高の国内総生産(GDP)比」へ見直そうとしている。財政の深刻さを見えにくくする小細工は、市場の信認に逆効果となるだけだ。補正予算は本来、自然災害時などの緊急支出のためにあるが、今回はその趣旨にそぐわない中身が多く入った。典型例が防衛省分だけで8472億円に上る防衛費だ。高市首相が、防衛費を27年度にGDP比2%へ増やす計画の前倒しを表明したためだが、近年は予算を使い切れていない。加えて採用難から自衛官の定員割れが続き、防衛費増の財源にするはずの所得税増税は実施時期を決められないままだ。この状況での強引な防衛費積み増しは、計画当初から指摘される「まず規模ありき」の疑念を改めて呼び起こすだろう。政府は補正予算案を臨時国会へ提出、成立させる方針だが、野党からは早くも歳出の水膨れや防衛費の増額を問題視する声が上がる。国会審議を通じてこれら歳出入両面の問題を厳しくただし、妥当な姿へ修正してもらいたい。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251128&ng=DGKKZO92868990Y5A121C2MM0000 (日経新聞 2025.11.28) ガソリン減税法が成立 1リットル25.1円分、来月31日から適用
 ガソリン税の旧暫定税率を廃止するガソリン減税法が28日の参院本会議で可決、成立した。ガソリン1リットル当たり25.1円分の旧暫定税率を12月31日に廃止する。軽油にかかる同17.1円分は2026年4月1日になくなる。物価高対策として家計の負担を軽減する。ガソリン減税法案は8月に当時の野党7党が国会に提出していた。11月に自民、日本維新の会、立憲民主、国民民主、公明、共産の6党が正式合意し、廃止時期を年末とする修正を加えた。移行措置として、政府はガソリン補助金を2週間ごとに5円ずつ引き上げて価格の激変を緩和している。13日に補助額を10円から15円に上げ、27日は20円にした。12月11日に旧暫定税率と同額の25.1円にする。軽油も段階的に補助を積み増した。ガソリンと軽油にかかる旧暫定税率廃止による減収額は、国と地方を合わせて年1.5兆円程度と見込まれている。法律に今後の財源確保の方針を記載した。「徹底した歳出の見直し等の努力」を前提としつつ、法人税を減税する租税特別措置の見直しや、極めて所得が高い層の負担を挙げ、今年末までに「結論を得る」とした。そのうえで、道路などのインフラ整備の安定財源について今後1年程度かけて議論する。自治体の減収分は「具体的な方策を引き続き検討し、速やかに結論を得る」と記した。それまでの間、支障が生じないよう「適切に対応」することも盛り込んだ。

<間違いなく成長産業である医療・介護に対して吹かせている逆風>
*6-1-1:https://gemmed.ghc-j.com/?p=54313 (GemMed 2023.5.29) 少子化対策は「医療・介護費削減」でなく、別途財源を確保せよ!病院への介護職配置は長期視点で検討を!—日病協
 「異次元の少子化対策」の財源について、一部を医療・介護などの社会保障費改革で捻出し、一部を社会保険料へ上乗せして確保する議論が行われているようだ。しかし、高齢化が進む中で医療・介護費の縮減を行えば「質の低下」に繋がる。「社会保障制度内での財源の付け回し」ではなく、別途財源を確保して少子化対策を進めるべきである。5月26日に開かれた日本病院団体協議会の代表者会議で、こうした議論が行われたことが、会議終了後の記者会見で山本修一副議長(地域医療機能推進機構理事長)と仲井培雄会長(地域包括ケア病棟協会会長)から明らかにされました。近々に日病協としてのアクションを起こす構えです。
●医療・介護分野が連携し、10年先、20年先を見て介護職員の育成・確保を
 岸田文雄内閣では「異次元の少子化対策」を行う考えを打ち出しており、その財源について「一部を医療・介護などの社会保障費改革で捻出し、一部を社会保険料へ上乗せして確保する」案が浮上しきています。前者の「医療・介護などの社会保障費改革」とは、つまり「診療報酬・介護報酬のマイナス改定」などに代表される「医療費・介護費の削減」を意味します。この削減した財源を各種の少子化対策費に充当するものです。この点について日病協代表者会議では「社会保障制度の中で財源の付け替えをしているだけである。少子化対策が必要かつ重要で、進めることには大賛成であるが、財源については別途の調達が必要ではないか。医療費・介護費の削減は医療・介護サービスの質低下につながり、かえって医療費・介護費の増加につながってしまう。2024年度の次期診療報酬・介護報酬改定では『人件費の高騰』や『物価、光熱水費の高騰』などにも対応しなければならないことは明白であり、医療費・介護費削減論が出ていることに強い危機を覚える。日病協としてアクションを起こすべきである」旨で認識が一致。近々に山本議長・仲井副議長を中心に「アクション」の内容を具体化することになります。この点、5月25日には三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)・日本看護協会・四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)・全国医学部長病院長会議・全国老人保健施設協会・全国老人福祉施設協議会・日本認知症グループホーム協会が連名で「こども・子育て、少子化対策は極めて重要であるが、その財源捻出のために、病や障害に苦しむ方々のための財源を切り崩してはならない」との声明を示しています。6月上旬の、いわゆる「骨太方針2023」において少子化対策財源確保に関する考え方が固められることになり、今後の動きに要注目です。また、5月26日の日病協代表者会議では、次のような点についても意見共有が図られました。
▽「高齢者の救急医療」について、安易に「地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟等で対応すればよい」との方向で議論を進めてはならない。救急搬送患者には、一定の急性期機能をもとに必要な検査・処置などが行われる必要があり、その後に「急性期入院が必要な程度ではない」と判断されれば、いわゆる「下り搬送」を考えるべきである。
▽病院(病棟)への介護職配置について、「介護職の奪い合い」を懸念する声もある。頷ける部分もあるが、病院(病棟)への介護職配置を制度化することで、「看護職員が本体の看護業務専念できる」「『寝かせきり→寝たきり』の防止つながる」ほか、介護職員自身の意識や社会的な認知度も変わり、全体としての処遇改善なども期待できる。10年先、20年先を見て「医療・介護のそれぞれでどの程度の介護職員配置が必要であるのか」(現在、山本議長が理事長を務める域医療機能推進機構(JCHO)でDPCデータをもとにした「高齢者医療における介護業務の実態」把握を行っている)を明確にし、医療・介護が連携して介護職員の育成・確保に努めるべきである。
▽病院薬剤師の確保に向け、「どういった機能を持つ病院で、どの程度の薬剤師が必要となるのか」を把握し、そのデータに基づく「提言」を6月に固める。
 上述の財源問題とも深く関連する事項であり(医療費縮減となれば、病院(病棟)への介護職員配置などは難しくなる)、今後、日病協でも「改定財源」と「改定内容」との双方をにらんだ議論・検討が続けられます。

*6-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251129&ng=DGKKZO92897420Z21C25A1MM8000 (日経新聞 2025.11.29) 介護保険料40~120億円圧縮 厚労省、2割負担拡大へ4案 現役負担軽く
 介護サービス利用料の2割負担の対象者拡大に向けた厚生労働省案が28日分かった。いま280万円とする所得基準を260万、250万、240万、230万円にそれぞれ引き下げる4案があり、介護保険料の圧縮効果は40億~120億円を見込む。収入や預貯金がある高齢者の負担を増やし、現役世代の保険料を軽くする。12月1日に開く社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の介護保険部会で示す。現状の介護保険は利用者の自己負担は原則1割で、単身世帯で年金収入とその他の所得が計280万円以上といった場合は2割、現役世代並みの所得がある人は3割を負担する。4案のうち下げ幅が最大の230万円なら2割負担の対象は33万人ほど拡大する。介護給付費をおよそ240億円、保険料を120億円、国費を60億円圧縮できる。下げ幅が最も少ない260万円のケースだと対象拡大は13万人にとどまる。給付費と保険料、国費の圧縮効果もそれぞれ80億円、40億円、20億円まで縮む。激変緩和措置として、当分は月7000円の負担増加の上限額を設ける案も示す。預貯金額が一定額以下の人は1割負担を維持する方向だ。単身世帯の場合、預貯金が300万、500万、700万円の3つのケースを例示する。たとえば所得基準を280万円から240万円に引き下げた場合、新たに26万人ほどが2割負担の対象となる。預貯金額が500万円以下の人に適用するケースだと、12万人は1割負担で据え置きになる。厚労省はかねて2割負担の対象拡大を検討してきたものの、自民党や関係団体などの反発で過去3度結論を先送りにした。政府は6月に決めた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に「25年末までに結論が得られるよう検討する」と明記した。

*6-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16354734.html (朝日新聞社説 2025年12月1日) 社会保障の協議 高齢期の安心 誰のため
 ほとんどの人は一生、「現役」でいられるわけではない。今は若くても、いつかは老いる。世代間の対立ではなく、対話が欠かせない。この機運をつくりだすことこそ、政治の大切な役割だ。自民党と日本維新の会が、連立政権の合意書に盛り込んだ社会保障制度の見直しに向けて、実務者協議を進めている。大きな方向性は、維新が掲げる「現役世代の社会保険料負担の軽減」だ。「高齢世代」の保険料や、医療や介護で払う窓口負担を増やすことが主眼となる。当面は「株式などの金融所得を保険料や窓口負担に反映する仕組みづくり」と、市販薬と同様の成分や使い方だが医師の診察が必要な薬である「OTC類似薬の保険給付の見直し」について、話し合う。「年齢で差がつく窓口負担の見直し」も合意書に盛られている。いま70歳未満は原則3割だが、70歳以上は2割、75歳以上は1割で、いずれ議題となるだろう。保険料を決めるベースに金融所得も含めることは、「能力に応じて負担する」という原則に沿い、理にかなう。所得を正確につかんで活用するインフラが構築できれば、すべての世代について保険料や税の負担と給付を公平にするのに資するはずだ。一方、窓口負担を引き上げれば、病気やケガで治療や薬が必要になり、いま苦しい思いをしている患者の財布を直撃する。高齢者は、若年層に比べて医療機関の利用頻度が高い。1回あたりの自己負担は安くても、合計すれば高くなる。働いて収入を増やすことが難しいなか、避けがたい支出が増える不安は大きいだろう。誰が、どのくらいの負担増になるのか、慎重に見極める必要がある。維新側の責任者である梅村聡衆院議員が、党の公式SNSにこんな趣旨のコメントを残している。「人の命がかかっている医療制度には、100ゼロといった乱暴な議論ではなく、国民に安心いただけるベースをつくる」。その認識はまっとうだ。日本の社会保障はよく「給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心」と評されるが、一時点の断面に過ぎない。一生をみれば、多くの人は現役期にあまり医療を必要としなくても、高齢期になれば医療や介護の支出は増えていく。その負担をならすのは、社会保障の大切な役割だ。当然、現役期に負担が重い子育て関連の支出は、最優先で対応する必要がある。現役期と高齢期の負担と給付をバランスさせ、持続可能な社会保障へ改革を重ねたい。

*6-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2025102100690&g=pol (時事 2025年10月22日) 負担増伴う改革、難航必至 サービス維持との両立課題―新内閣の課題
 少子高齢化が進む中、需要が増える医療・介護サービスの維持と費用負担の軽減をどのように両立させるかが最大の課題となる。新たに連立を組む日本維新の会は現役世代の社会保険料引き下げに強いこだわりを見せている。実現には高齢者を含む国民全体の負担増を伴う改革が不可欠で、高市早苗首相は厳しい判断を迫られそうだ。医療・介護サービスは公定価格で賄われているため、急激な物価高に対応できず多くの施設が赤字経営を強いられている。首相は自民党総裁就任直後の記者会見で、医療・介護事業者に対し、「補正予算で支援することを検討している」と述べ、公定価格を前倒しで引き上げる考えを示した。ただ、医療・介護事業者への支援は、保険料や利用者負担の増大にもつながる。維新は年間50兆円に迫る国民医療費の総額を4兆円以上削減し、現役世代の1人当たり保険料負担を年6万円下げると主張してきた。両党が20日に交わした連立政権の合意書では「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」との記述にとどめ、数値目標は明記されなかった。維新の主張がどこまで実現するかが焦点の一つとなる。維新は保険料引き下げのため、市販薬と似た「OTC類似薬」の保険適用除外を訴える。しかし、日本医師会などが反発しており、年末の予算編成は難航必至だ。一方、首相は自民党総裁選で、保護者が不在の時間帯に小学生を預かる学童保育について、企業主導型の創設を唱えた。共働き世帯の増加を踏まえたもので、少子化対策で独自色を出す狙いがある。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20251130&ng=DGKKZO92903650Z21C25A1EA1000 (日経新聞 2025.11.30) 〈直言〉社保改革で民主社会守れ 清家篤・元慶応義塾長、負担増だけでは持続限界 労働力人口まだ増やせる
 医療や介護などの公的サービスを提供する社会保障制度が岐路に立っている。高齢者医療費を支える「仕送り」の膨張で現役世代の不満は募り、高市早苗首相は社会保障と税の一体改革に着手すると宣言した。学者の立場から長く改革論議に携わってきた清家篤・元慶応義塾長に持続可能な制度のあり方を聞いた。
●2012年に民主、自民、公明の3党が合意した社会保障と税の一体改革に有識者会議の会長として関わった。現役世代にも配慮して、子育て支援拡充を提唱してきた。
―社会保障と税の一体改革によって消費税は8%から10%まで引き上げられた。増加分は社会保障費に回ったが、高齢者が使う費用は膨張している。財源は十分ではない。不足分を社会保険料と税のどちらでまかなうのがふさわしいか。 「やはり社会保険料が中核になるべきだ。収入に応じて保険料を出し合い、必要に応じて給付を受けられる仕組みだからだ。再分配機能と給付の権利性確保という両面で優れている。国民の安心の源泉といえる」。「より多くの人が制度を支えられるように改革を急がねばならない。本来は(会社員や公務員らが入る)被用者保険に加入すべき人が、国民健康保険や国民年金に加入しているケースがある。労働時間や勤務先の企業規模にかかわりなく被用者保険に入れる勤労者皆保険を徹底しなくてはならない。企業の規模要件を残したままでは、小規模企業に勤める人は老後の保障も少なくなってしまう」。「60歳未満までとなっている国民年金の加入年齢は、少なくとも65歳未満まで速やかに引き上げてほしい。年金財源の確保だけではなく、給付の底上げにもつながる」
―現役世代からの支持率が高い高市政権だからこそ、改革に取り組む好機といえる。
 「全ての世代にとって安心できる社会保障の実現には、年齢にかかわらず収入に応じて能力のある人が負担する『応能負担』の原理を回復することが不可欠だろう。社会保障は人生の中で起きる様々なリスクに備えるものだ。若者と高齢者の利害が対立する制度として捉えるのは間違っている。親の医療費や介護費が公的保険でまかなわれていることで、若い世代は自分の人生を生き生きと送れている面もある」
―そうはいっても現役世代は将来の社会保障の給付に不安を感じている。自らに利益をもたらさないコストと捉えている人が目立つ。
 「社会保障給付が経済を活性化させて持続可能性を高めるという意味で前向きな効果をもたらす点も忘れてはならない。例えば年金は消費の源泉で、医療と介護はそれ自体が消費といえる。社会保障給付は既に予算ベースで140兆円を超えた。18年の政府推計では40年度には名目GDP(国内総生産)の4分の1弱の規模になると予想され、マクロ経済の中で大きな役割を果たす」
―現実には、全ての世代が支え合い必要なサービスを受けられる「全世代型社会保障」の導入は足踏み状態だ。与野党とも各論提起にとどまり、目指すべき社会保障像の議論が欠けている。「期待したよりもゆっくりしている。2008年度に75歳以上が入る後期高齢者医療制度ができ、財源の多くを公費と被用者保険からまかなうことになった。17年度からはさらに現役会社員らの世代の負担が増える制度変更もした。被用者保険にこれ以上の負担を求めるのは難しい」「高齢者の能力に応じた負担はもう少し進めるべきだという点は国民的な理解も得られるようになってきた。年齢にかかわらず、能力に応じた負担を強化していくことは全世代型の社会保障の実現に不可欠だろう。スピードアップに期待したい」。
●日本人の出生数は2024年に初めて70万人を割った。合計特殊出生率は過去最低の1.15。国の想定を上回る人口減少で社会保障制度の維持は容易ではない。
―社会保障制度を支える働き手をどう確保すればよいのだろう。
 「15~64歳の人口で定義される生産年齢人口を支え手と考えることはやめてほしい。労働力人口のおよそ7人に1人は既に65歳以上で、900万人を超える。労働力人口は実際に働いている就業者と仕事をする意欲・能力を持って仕事を探している失業者の合計だ。支え手として期待すべきは一定の年齢層の人口ではなく労働力人口であると労働経済学者としては考える」。「生産年齢人口という考え方は、年齢で人を輪切りにする発想にとらわれている。メディアや政府はときに生産年齢人口と高齢者人口の比率で社会が『おみこし型』から『肩車型』になるので大変だなどと説明する。わかりやすいだけに、とてもミスリーディングな例えだ。社会保障制度の持続可能性を高めるための建設的な議論を妨げており、有害無益といえるだろう」「労働力人口を維持できれば社会保障制度は持続できる。既に人口は減っているが就業者数も労働力人口も減るどころか、むしろ微増してきた。支え手が必ずしも減るものではないということは、少なくともこれまでの実績で証明されている」
―第2次安倍政権以降、女性と高齢者の就労は十分に進んだ。拡大は容易ではない。
 「高齢者や女性の人口に占める労働力人口の比率を高める余地はまだ十分にある。独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)によると、高齢者と女性の労働力率を今よりも10ポイント程度引き上げられれば、40年の労働力人口は6791万人と100万人ほどの減少に抑えられる。人工知能(AI)などで労働生産性を着実に引き上げることで、マクロ経済の生産面や消費面のマイナス効果は相殺できる」「男性は平均寿命が81歳、健康寿命が73歳で女性は87歳、76歳ほどだ。予防医療の充実で健康寿命を伸ばしていくべきではないか。定年年齢の引き上げや撤廃などの検討も必要になる。企業に雇用確保の義務が求められているのは65歳までだ。法令上は60歳定年をなお認めている」「年金制度には(働く高齢者の年金を減額する)在職老齢年金制度がまだ残る。税制面では公的年金等控除も就労とは中立的ではない。在職老齢年金制度と公的年金等控除を同時に見直し、働くことについて中立的な年金制度・税制にするべきだ。育児サービス制度の充実や労働時間の柔軟化といった子育て世代への支援など政策を総動員すれば、労働力率は上昇する余地がある」「民主的な社会の安定は、一人一人の個人が安心して生活できなければ成り立たない。福沢諭吉の言葉を借りれば、『独立自尊』の個人が近代社会を構成しているとすれば、そうした個人であるためにも社会保障制度は大切だ。民主的な政治体制をとる国家に社会保障制度があるのは決して偶然ではない。民主的な社会と社会保障制度は表裏一体といえる」「日本の社会保障制度で、医療保険は所得にかかわらず全員が給付を受ける権利と、受診する医療施設を自由に選べる『フリーアクセス』の両方を実現している。高度な医療も保険でカバーされ、何日も待たされることもない。経済や社会の構造変化に合わせた改革は必要だが、国際的に高く評価される制度を持続可能な形で将来世代に伝える観点が大切だ」
*せいけ・あつし 専門は労働経済学。2009~17年に慶応義塾長、22年から日本赤十字社社長を務める。12~13年に社会保障制度改革国民会議会長、21年から現在まで全世代型社会保障構築会議座長を歴任するなど、社会保障改革に深く関わる。

| 環境::2015.5~ | 10:54 PM | comments (x) | trackback (x) |

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