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2020.8.15~20 差別なき社会と本当の女性活躍を実現するには (2020年8月21日《図》、22、24、27日追加)

    Wikipedia    2020.7.30日本放送  Wikipedia   2020.7.31産経新聞
    台湾の地図     李登輝元総統    蔡英文総統   中国・米国との関係

(https://search.yahoo.co.jp/video/search?rkf=2&ei=UTF-8&dd=1&p=%E6%9D%8E%E7%99%BB%E8%BC%9D&st=youtube 台湾・李登輝元総統の日本外国特派員協会での記者会見《動画》 2015/7/23 参照)

(1)李登輝元台湾総統のご冥福を祈りつつ
1)李登輝元台湾総統を追悼して
 「台湾民主化の父」と呼ばれた李登輝元総統(1923年《大正12年》1月15日 - 2020年《令和2年》7月30日)が、*1-1のように、7月30日に97歳で亡くなられた。惜しみつつ、ご冥福を祈る

 日本は、太平洋戦争敗戦までの約50年間、台湾を植民地支配し、李元総統は日本の植民地時代に台湾で生まれて京都帝大で学び、日本軍人として終戦を迎えて、「自分は22歳まで日本人だった」と言っておられた。その流暢な日本語で、「日本の政治家は、小手先のことばかり論じている」等と語られていた言葉は、見識の深さを感じさせるものだった。

 台湾大手紙、蘋果日報は、7月31日付の社説で、*1-2のように、李登輝元総統は「政治家」「哲学者」「宗教家」の3つの顔を持つ「類いまれなリーダーだ」と総括し、「台湾に民主主義を残したことは彼の最大の業績だ」と高く評価している。

 李元総統の業績は、民意を反映させる議会改革を断行し、初の総統直接選挙を実現させ、台湾政治の自由化を加速させたことだ。これについては、李元総統が、日本の大正デモクラシー時代に生まれて教育を受けられた影響もあると思う。

 何故なら、女性の私を教育で差別しなかった私の父も大正12年生まれの九州帝大卒で自由平等の思想を持つ人だったし、職場で最初に私を引っ張ってくれたトップも大正12年生まれの陸士出身の人で、戦前生まれにもかかわらず女性を差別することなく、仕事で多くの機会を与えてくれた。皆、時代の激しいうねりの中で戦争に巻き込まれつつも、心には自由・平等・独立の精神を持っていたと思う。

2)台湾と中国の関係
 天安門事件の後、中国共産党が民主化の芽を武力で封じ込めたのとは反対に、李元総統率いる台湾は、民主化路線を歩んで高い経済力を身につけたが、台湾と中国の関係は悪化し、1990年代の半ばには台湾海峡危機が起き、中国は台湾に激しい統一攻勢をかけた。

 このような中、*1-3のように、1972年の「日中国交正常化」時の日中共同声明が、「中華人民共和国政府は,台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は,この中華人民共和国政府の立場を十分理解し,尊重し,ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」としたため、日本は台湾を見捨てて国としての交流を絶つこととなり、中国の圧力によって台湾の国旗や総統府をTV画面で流すことすら難しい状況になった。

 そして、*1-4のように、日本からの李元総統の弔問団には、①安倍政権の閣僚はおらず ②人数も簡素で ③台湾に4時間しか滞在しなかった ため、台湾の学者からは、「日本は台湾との友好より、対中関係を気にしている」と指摘されている。私もそう思うが、我が国の「寄らば大樹の陰」「弱者切り捨て」の態度はあまりに見苦しく、民主主義の理念も感じられないため、少なくとも内政干渉せず、独立国には敬意を持って接するよう、日中共同声明を変更すべきだと考える。

 米国の方は、*1-5のように、李元総統が強化した対米関係を蔡総統が引き継ぎ、中国からの統一圧力に直面する台湾にとって安全保障の最大の後ろ盾となっている。台湾の民主化を進めた李元総統は、「自由と民主主義」を旗印に米国との関係強化に取り組み、李氏が切り開いた米台関係の道筋を現在の蔡英文政権は引き継いでいる。私は、蔡総統が低姿勢だから米国の支持を得ているのだとは思わず、米議会とトランプ政権は、民主主義を護ることに関して日本よりずっと筋が通っているのだと思う。

3)台北での思い出 ← 台湾人は韓国人と異なり、日本を恨んでいなかった! 
 私は、1990年代の前半に台北大学で開催された夫の学会に同伴して、台北に行ったことがある。昼間、1人で大学の近くを歩いていたら、台湾人の品のいい男性から「この台北大学は、日本が作ったことを知っていますか?」と、日本語で声をかけられた。

 外国で外国人から流暢な日本語で声をかけられたことにまず驚いたのだが、中国や韓国の反日ばかりが報道される中で、太平洋戦争後に日本に好意を持つ国があることも予想外だったため、「知りませんでした」と答えるのがやっとだったが、私の2重の驚きは顔に書いてあったようで、その方は笑顔で去って行かれた。

 その夜の懇親会に、白大島の着物に真っ白の帯を組みあわせ、紫とこげ茶の模様が入った帯揚げ・帯締めをして、夫と同伴で出席したところ、私が入っていった時に拍手が起こり、多くの人が立ち上がってこちらを向いて拍手してくれたのにも驚いた。深く考えて選んだわけではなかったが、台湾に近い奄美大島の本場大島紬を着たのがよかったかも知れない。

(2)日本における女性活躍
1)職場での女性差別解消はどこまで進んだか
 台湾では、李元総統に見いだされた女性初の蔡総統が活躍している。日本で初の女性首相はまだ誕生していないが、私は、日本で女性初の首相になる人は伊藤博文・李登輝級であって欲しいと思っている。

 そのような中、*2-1のように、日本では「①高賃金の男女間で説明できない格差が拡大している」「②昇進に伴う昇給格差にもガラスの天井がある」「③外形的なポストの差解消だけでは不十分」という記事があり、ジェンダーも、やっとこういう分析が行われるところまで来たかと思った。

 経験的には、「ガラスの天井」と「床への張りつき」は確かにあり、日本は両方が観察される先進国では特殊な国というのも事実だ。そして、これは女性の管理職への昇進が難しいことが一因だが、昇進に伴う昇給でも男女間格差は大きく、同じ役職でも女性は基幹的でないポスト(名ばかり管理職)に配置されている可能性が高いと分析されており、実際に日本企業ではよくあることだ。

 日本では、女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、女性従業員の勤務状況を数値で把握し、改善のための数値目標を立てて実行に移すことが義務付けられている。そして、2022年4月には101人以上の事業主に拡大適用されるそうだが、女性は中小企業で働いている割合が高いため、101人以上の事業主に拡大適用しても多くの女性の実態がつかめないままだろう。

2)男女間の人的資本量蓄積の差異
 *2-1に書かれているとおり、女性労働者への①教育 ②勤続年数 ③労働市場での経験 などの人的資本量は、生産性の違いから合理的な賃金格差を生む。

 そのため、②③を経るためのパスポートとなる①について男女間格差を比較すると、*2-2のように、東大学部学生の女性比率は、2019年5月現在で19.3%だそうだ。ちなみに、京都大の22.3%、大阪大の34.3%となっており、大学全体では学部生の45.4%が女性であるため、難関大学ほど女子学生の割合が低いと言える。また、大学全体ではなく、学部毎に女子学生の割合を比較すると、東大最多の2千人超が籍を置く工学部で女子は1割に満たないなど、社会で人的資本量にカウントされる学部の男子学生の割合が高いという結果が出ている。

 つまり、教育段階で既に、社会や家庭の圧力によって女性差別が生じているため、職場における男性優位の構図も変わりにくいのだろう。

3)農業における女性活躍
 農業は、家族労働が主であるため女性が働くのは当たり前なのだが、働いても女性の地位は低く、「床への張りつき」の典型だっただろう。

 しかし、*2-3のように、近年は、日本農業新聞が「①内閣府は、第5次男女共同参画基本計画の素案への意見募集を始めた」「②同計画素案では農業の持続性の確保に女性の活躍支援が欠かせないと明示している」「③地方では固定的な性別役割分担の意識が根強く、若い女性が大都市圏に転入する要因になっている」「④農業でも女性の都市流出で基幹的従事者に占める女性の割合が低下している」「⑤農業委員やJA役員の女性登用を一層進める」「⑥女性が働きやすい環境づくりをする」などのアナウンスをしているため、まだ男女共同参画の段階でしかないものの、今後に期待したい。

(3)女性を軽視する会社の業績は悪いことを実績で示す 
1)日産自動車のケース
 経営の立て直しを進める日産自動車は、*3-1のように、今期(2021年3月期)の年間配当を見送る見通しだそうで、販売低迷の理由は必ず①カルロス・ゴーン元会長を巡る一連の問題 ②新型コロナウイルス感染拡大の影響による世界的な新車需要の急減 などとして、現経営陣は誰も悪くないというスタンスをとる。

 しかし、①については、カルロス・ゴーン氏を追い出すために検察を利用して行った捜査に問題があることは多くの人の目に明らかで、その汚い手法によって、これまで培われた日産ブランドが見放されたと考えた方がよいだろう。

 また、②の新車需要減は新型コロナウイルス感染拡大以前から起こっており、その理由は、EV需要は環境意識の高い女性に多いにもかかわらず、ターゲットを女性に当てず、女性が好きそうなスタイルの車を売らなかったことにあると考える。つまり、社内に発言力のある人的資本量の大きな女性がいなかった(又は、少なかった)ことが販売低迷の理由である。

2)三越伊勢丹のケース
 三越伊勢丹も、*3-2のように、最終赤字600億円で2021年3月期の最終損益が600億円の赤字(前期は111億円の赤字)だそうだ。しかし、赤字は前期にも出ているため、新型コロナウイルスの感染拡大による消費低迷だけでなく、構造的な売上減少がある。

 何故か。確かにスーパーよりよいものを置いているが、その良さ以上に値段が高いため、買い物客が三越伊勢丹ブランドを過度に評価しなくなった現在では、客離れが進んでいるのだろう。

 そして、三越は、就職時には女性を多く採用するが、「床への張りつき」を前提としているため、顧客には女性が多いにもかかわらず、人的資本量が多くて発言力のある女性役員や女性管理職が少ない。また、消費者としての女性も馬鹿にした値付けをしているように思うのだ。

(4)政治分野における女性の登用の遅れ
1)政治分野で女性の登用が遅れる理由
 安倍首相は、*4-1のように、確かに女性活躍を推進して下さったが、「指導的地位に占める女性を2020年までに30%とする」という目標が先送りされたことについては、私もそれでは目標にならないと思った。しかし、このように、メディアも含む社会全体に女性蔑視がある時に、「達成できなかったのは政府の責任」として、少なくともやろうとした人に責任を押し付けても何の解決にもならない。

 何故なら、女性閣僚が少ないのは女性議員が少ないことが発端で、女性議員が少ないのは男女間の人的資本量蓄積に差があると同時に、同じ人的資本量を蓄積している男女間での社会的評価にも差があるからである。そして、民主主義の下では、一般社会の評価が現実するため、①候補者になる女性数 ②勝つ候補として政党が公認する女性数 ③候補者のうち当選できる女性の割合 が女性に不利に働いて、女性議員が少ない状態になっているからだ。

 ただし、「指導的立場に着く層に、女性の人材が十分でなかった」というのは、前からよく使われる言い訳で、女性に対して極めて失礼である。何故なら、才能ある女性の割合は男性と変わらず、教育や仕事の経験を通して蓄積された人的資本量で差が出るのであり、人的資本量の蓄積が同じ男女でも男女間で一般社会の評価が異なり、評価は女性蔑視側に傾くのを、私は経験済だからだ。この状況は、「女性の就業率は伸びたが、賃金は男性の74%しか得ていない」という統計データにも出ている。

 なお、マッキンゼー・レポートが「男性は可能性を買われて昇進するが、女性は過去の実績で昇進する」と指摘しており、これは昇進するには女性は実績を示す必要があるという意味だが、女性が実績を言うと今度はそれが悪い評価に繋がるため極めてやりにくい。つまり、「女性は表に立たず、控えめにして男性を立て、男性を支えるのがよいことだ」という古い時代の美徳や先入観が日本社会に存在し続けていることが、現代の積極的な女性の邪魔をしているのである。

2)女性登用の壁を取り払う手段としてクオータ制は必要か
 指導的地位は、*4-2のように、国会・地方議会議員、企業・公務員の管理職などを指し、いずれも目標との隔たりが大きいが、その理由は、これまで書いてきたとおり、①人的資本量蓄積の差 ②人的資本量蓄積が同じ男女に対する女性蔑視に傾いた評価 にある。

 その結果、世界経済フォーラムの男女格差指数で、日本は2019年に調査対象の153カ国中121位になった。日本女性は、そこまで人的資本量の蓄積ある人材がいないのかといえば、そうではなく、人的資本量蓄積が同じ男女に対する女性蔑視に傾いた評価に原因があるだろう。

 そのため、阻んでいる壁を低くするには、特に政治分野で一定割合を女性に割り当てるクオータ制を導入するのに、私は賛成だ。クオータ制は「逆差別」という批判もあるが、男性は①の人的資本量蓄積時点と②の人的資本量蓄積が同じ男女に対する女性蔑視に傾いた評価によって既に優遇されているため、「逆差別」という苦情は当たらない。

 つまり、皆さんもお気づきのとおり、男性は「あんな人が?」というような人も重要な意思決定をする地位についているが、女性は「もったいない!」と思う人でもそういう地位につけないでいるのは、女性側の性格の問題ではなく、女性の努力だけでは解決できないからである。

(5)政治で女性登用が進むと何が変わるのか
   
           2020.5.27時事   2020.6.13毎日新聞  2020.7.18東京新聞

(図の説明:日本は、検疫が不十分でPCR検査もケチったため、新型コロナの陽性者を陰性になるまで徹底して隔離することができず、国民全員に営業自粛・外出自粛を要請して経済を停止させた。そして、これによって破綻する中小企業や解雇される労働者を出さないよう、膨大な補正予算を組まざるを得なくなった。具体的には、右から2番目の図のうち地方自治体の医療体制強化交付金だけは後に残る投資にもなりうるが、持続化給付金・家賃支援・GoToキャンペーン・雇用調整助成金・10万円の特別定額給付金は、その場限りのバラマキと言わざるを得ない。補正予算は、1番左の図の1次補正16兆8,057億円、左から2番目の図の2次補正31兆9,114億円の合計48兆7,171億円を計上しており、当初予算102兆6,580億円との総合計は151兆3,751億円にもなる。その結果、1番右の図のように、日本の債務残高は名目GDPの225%と世界1の借金大国になり、国民をさらに貧しくすることなく借金を返すには、財政支出の優先順位変更・徹底した無駄遣いの排除・税収及び税外収入を合わせた歳入増加の取組が欠かせないのである)

 ざっくり言うと、日本は教育や社会を通じて性的役割分担が大きくなっているため、政治で女性登用が進むと、女性が担当している場合が多い子育て系(保育・教育)、介護系(介護・医療)、家事系(年金・消費税・家族の安全保障・栄養・環境)などの政策が国民本位に変更され、財政支出の優先順位が変わると思う。

 もちろん、女性なら誰でも政策が同じということはないが、私だったら、財政法を改正して発生主義に変更し、決算を迅速にして前年度の決算書を見ながら次年度の予算を作成できるようにして、資本生産性(支出あたりの効果)を上げる。また、年金支給額がその時の為政者の判断で変わることがないよう、また誰も損せず不満が出ないように、年金積立金を発生主義で積立てる積立方式にする。また、下の事例でも発想が異なる。

1)新型コロナの対応から見た医療
 世界主要国の2020年4~6月期のGDPは、*5-1-1のように、前年同期比で9.1%減少し、これはリーマン危機時の約3.5倍の落ち込みだそうだ。しかし、感染を早期に抑えて経済活動を始めた中国はプラス成長を達成し、ワクチンなどの研究も活発だ。

 感染抑制のために厳しく行動制限すれば生産や消費も抑制することになるため、GDPが落ち込むのは当然だ。そのため、他国が有効な手を打っていない早期に防疫と3週間の外出制限を行って、経済をプラス成長に導いたベトナムも立派で、対応の優劣は経済再生に明確に出ている。

 このような中、PCR検査をケチって感染者を重症化させ、検査方法のイノベーションも行わせず、治療薬も変なことを言って承認させず、ワクチン開発ものんびりしてきた日本で、*5-1-2のように、さらに、「新型コロナウイルスの『弱毒化』は、根拠が乏しい」という否定的な記事が掲載されたのには呆れた。

 しかし、「弱毒化した」らしいのは、各国で新型コロナの致死率が下がっていることからわかる。そして、ウイルス(生物)は変異しながら進化していくもので、変異そのものには意図がないため強毒化と弱毒化の両方の変異がありうるが、弱毒化して宿主を自由に行動させなければ他の宿主にうつって生き残っていくことができないため、弱毒化への自然淘汰圧がかかる。

 この淘汰を人為的に起こしているのは、*5-1-3の鶏卵を使って作る生ワクチン(病原ウイルスを数十代以上にわたって培養を繰り返すことによって弱毒化する)で、培養を繰り返しているうちに強毒化する株も弱毒化する株も現れるが、強毒化して鶏卵を殺してしまう株は捨て、弱毒化して抗体を作るものを残して、弱毒株を作るのである。また、人工的に淘汰して短い期間で目的に合った生命体を作るのは、農作物や家畜などで頻繁に行われている。

 なお、日本で致死率が下がったのは、重症化しにくいとされる若者の陽性者の発見が増えたこともあるだろうが、これは検査数が増えたことを意味するだけで、ウイルスが弱毒化しない証拠にはならない。

 つまり、女性は、(本能の違いからか)強制力を行使すること自体に快感を感じるわけではないため、経済を停滞させず、的確に予防や治療を行うことによって乗り越え、生活を防衛しようとする。これは、命と生活を第一に考えるからだ。

2)浸水想定区域に立地する介護施設
 浸水想定区域内の特養が浸水して多数の犠牲者が出たのは熊本県だけではなかったが、東京23区内の特養は、*5-2-1のように、その約4割が国や都の想定で洪水時に最大3メートル以上の浸水が見込まれる場所に立地しているというのに驚く。つまり、多くの地域で低地に建つ特養は多く、これらは浸水リスクを抱えている。

 誰が考えても避難弱者の高齢者を護る筈の特養が、高齢者をあの世に送るための特養になってはならない。そのため、水防法が、浸水想定区域に立地する高齢者施設などを「要配慮者利用施設」として、避難計画の策定や避難訓練の実施を義務付けているだけというのは、どこに避難して、どれだけの期間、どういう生活を送らせるのかを配慮しておらず、要するに親身になって考えていない。

 跡見学園女子大の鍵屋教授(福祉防災)は、「急速な高齢化を背景に施設の用地確保が優先され、災害リスクのある場所でも建てざるを得なかった」としておられるが、これらは速やかに安全な場所に移設すべきである。何故なら、そうしなければ、そこに居住する高齢者が危険なのはもとより、福祉人材や福祉設備も失うこととなり、結局は大きな無駄遣いになるからだ。

3)浸水エリアへの居住誘導
 国交省は、*5-2-2のように、自治体が住宅の立地を促す「居住誘導区域」を浸水想定区域内に設定している問題で、これを避けられない問題として、堤防整備などの水害対策と土地利用を一体的に進めて被害を防ぐ方針を固めたそうだ。

 しかし、それでは賽の河原の石積みのように、膨大な労力と費用をかけて、壊されては作り直し、また壊されては作り直すという、危険な上に無意味な作業を続けなければならない。それなら、高台を整地して21世紀の需要にマッチした居住区域を整備した方が、長期的にはずっと安上がりで意味ある投資になるだろう。

 そして、いつ浸水するかわからない地域は、田畑・牧場・森林・公園・運動場などとして、自然環境と融合させながら安全な街を造っていった方が、街の価値も上がる。そのため、浸水想定区域などのハザードエリアを公表し、計画的に安全な場所に街を移転するのがよいと考える。

4)エネルギーの選択とモビリティーの電動化
 日本は資源のない国と自らを定義づけて存在するエネルギー資源を利用せず、1973年のオイルショックの後に燃料価格が高騰し、1974年には消費者物価指数が23%も急騰したにもかかわらず、エネルギーを原油から切り替えようとしなかった。なお、原発による発電は始まったが、(既に何度も理由を書いたので長くは書かないものの)これも著しく高コストの電源だ。

i)使用済核燃料の保管場所にもなる原発運用の変更
 原発は、建設当初の方が現在より安全に配慮していた状態だ。その理由は、①2006年にモックス燃料を使ってプルサーマル発電を始めたが、これは原子炉内の圧力のゆとりが減るものであること ②2011年の世界最悪のフクイチ事故の後、原発の耐用年数を40年から65年に延ばしたこと ③*5-3-1のように、使用済核燃料の貯蔵容量を「リラッキング(原発の建屋内近くにある貯蔵プール内の核燃料の間隔を詰めて保管量を増やす操作)」して狭い場所により多くの使用済核燃料を詰め込むようにしたこと などである。

 九電の玄海原発で使用済核燃料の保管を現状の1050体から1672体に増えると、事故が起こった時の爆発力や被害はそれだけ大きい。そのほか、原発の敷地内に乾式貯蔵施設も作れば、原発は使用済核燃料の保管施設にもなるため、近隣住民の安全はさらに脅かされる。

ii)原発の立地
 日本原電が、*5-3-2のように、敦賀原発2号機の地質データを再稼働に有利なように書き換えていたことが発覚し、原子炉の真下に活断層のある可能性が高いそうだ。2011年の東日本大震災以前は活断層や大地震の影響をあまり考えず、ここに原発を建設したのだろうが、原発の安全性の問題に加え、原発を稼働させるためなら何でもやる電力会社の資質も問題だ。

iii)解決策 ← 自然エネルギーによる安価な電力とモビリティーの電動化
 日本がエネルギーを自給できれば、外国に支払う高額なエネルギー代金が原因で高コスト構造になっている部分が解決し、農業地帯で発電すれば農業の副収入となって農業補助金をカットできる。また、国内の製造業も息を吹き返すので、福祉財源が出て、消費税も下げることができ、その経済効果は大きい。また、日本が得意とする自給できるエネルギーは自然再生可能エネルギーであるため、世界の環境志向にも合致する。

 しかし、自然エネルギーでものを動かすには、自然エネルギーを電力に換え、モビリティーを電動化しなければならない。実は、これも1995年前後に、私が経産省に提案して手が付けられたので、それから25年経過した現在は、電動モビリティーが普通に走っていてもおかしくない時期なのである。

 なお、EVの普及で、埋蔵量が少なく精錬が難しいとされるレアメタルの需要が拡大する見通しで、レアメタルは中国からの輸入が多く中国は輸出規制もするため、日本政府は「①資源獲得競争激化を見据えて、安定供給確保と中国依存脱却を進める」「②60日分の備蓄を行う」としている。このうち①は、中国の輸出規制の影響は受けにくくなるが、資源代金が外国に支払われることに変わりはない。また、②の60日分の備蓄は、しないよりはよいという程度の対策だ。

 しかし、実際には、*5-4-1のように、世界で6番目に広い日本のEEZからはレアメタルも採掘でき、2020年代後半の商業化を目指しているそうだ。が、技術は生産現場で磨かれるものであるため、「高い技術力」などと威張る前に、輸出することも視野に早く実用化すべきで、経産省が「海底資源を有効利用できるのは数十年先」などと言っているのは、「やる気がない」と言っているのと同じである。

 また、1995年前後に、私は経産省に電動モビリティーの提案も同時に行っており、その後、トヨタはハイブリッド車、日産はEV、三菱自動車は燃料電池車を開発した。私は、ハイブリッド車は繋ぎでしかなく、EVと燃料電池車が本命だと思っていたが、EVは、日本では周囲から変な悪評を立てられて振るわなかった。

 今度、日産は、*5-4-2のように、2021年に10年ぶりにEVの新型車「アリア」を市場投入するそうだが、EVは米中欧で近未来の標準車として既に市民権を得ている。にもかかわらず、先行していた日産は、EVに研究資源を集中せず、新興企業の米テスラにも及ばなくなってしまった。私は、EVの構造はガソリンエンジンやハイブリッド車よりもずっと単純であるため、日本での新車販売価格は約500万円どころか200~300万円代にしてよいくらいだと思っている。

・・参考資料・・
*1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14570856.html (朝日新聞社説 2020年8月1日) 李登輝氏死去 築き上げた民主の重み
 台湾の李登輝(リートンホイ)元総統が亡くなった。97歳だった。独裁から民主への制度転換を平和裏に進めた業績は、歴史に深く刻まれる。強大化した中国が民主主義に逆行するなか、台湾の自由は、その重みをいっそう増している。1980年代後半、中国大陸出身者が中心だった国民党政権で、初めて台湾出身の総統となった。その後、政治の自由化を加速させた。民意を反映させる議会改革を断行し、初の総統の直接選挙を実現させた。米国を引き寄せ、台湾での権力闘争を勝ち抜く上で改革を推進力にしたとの見方もあろう。だが随所で国際潮流を読み、社会を混乱させることなく、民主化を軟着陸させた手腕は高く評価されるべきだ。中国共産党政権が同じころ、天安門事件で民主化の芽を武力で封じ込めたのとは対照的だった。台湾はいまやアジアの代表的な民主社会であり、高い経済力も身につけた。中国のような弾圧などしなくとも、安定した発展が可能であることを中国の人々に証明してみせた。ただ、中国との関係は悪化した。90年代半ばには台湾海峡危機が起き、緊張も高まった。人口2300万の台湾にとって、14億人の中国はあまりにも巨大だ。国防費は台湾の約15倍、経済規模は二十数倍に上る。圧倒的な力を持った共産党政権は政治改革を口にすることもなくなり、「一国二制度」を約束した香港では、自治の権利を強引に奪おうとしている。いまでは台湾の存在感の最大のよりどころは、民主と自由という理念にほかならない。コロナ禍でも、それは如実に示された。当局の積極的な情報公開によって市民が自発的に感染防止に動いたことが世界の注目を集めた。個の自由に否定的な中国の強権と比べ、個の自主と活力を尊ぶ文化が台湾の強みとして根付きつつある。日本は先の大戦に敗れるまで半世紀、台湾を植民地支配していた。その歴史を背景に、李氏は日本にとって特別な政治家だった。植民地時代の台湾で生まれ、京都帝大に学んだ。日本軍人として終戦を迎えた。流暢(りゅうちょう)な日本語で「22歳まで自分は日本人だった」などと語る言葉が、当時を肯定するかのように受け止められることもあった。だが、本人は動じることなく、ときに日本の政治家について「小手先のことばかり論じている」と厳しかった。日本は台湾との歴史にどう向き合ってきたのか。これからどんな関係をめざすのか。そんな重い問いを、日本人に静かに考えさせる存在でもあった。

*1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/910a1cdadb5c8634773df473e277e8e6b0902ea1 (Yahoo 2020/8/10) 李登輝元総統死去 台湾紙「流血なき民主革命を実現」 中国紙は「台湾化」の礎にいらだち
 「台湾民主化の父」と呼ばれた李登輝元総統が97歳で死去した。外省人(中国大陸出身者)の支配が長く続いた台湾で、本省人(台湾出身者)として初の総統になった李氏は民主化を強力に推進。本省人主導の政治を目指す台湾本土化(台湾化)路線をとり、中国と一線を画した台湾人意識を根付かせた。台湾紙は、今日の礎を築いた李氏を称賛して追悼。中国紙は李氏を「中華民族の罪人」などと痛罵した。
■台湾 流血なき民主革命を実現
 7月31日付の台湾大手紙、蘋果(ひんか)日報は社説で、前日夜に死去した台湾の元総統、李登輝氏について「政治家」「哲学者」「宗教家」の3つの顔を持つ「類いまれなリーダーだ」と総括し、「台湾に民主主義を残したことは彼の最大の業績だ」と高く評価した。同社説は、前任者の蒋経国の死去を受けて急遽(きゅうきょ)、総統に就いた李氏の政権が、当初はきわめて不安定だったことに言及。その上で「権威主義時代に頭角を現した李氏自身にも、強権政治家の側面があった。彼にとって民主主義は自らの理念であると同時に、政敵と闘争する際の武器でもあった」と指摘した。民主化を求める民意を背景に政敵を失脚させ、憲法改正によって立法委員(国会議員に相当)の全面改選や総統の直接選挙を実現した手腕が念頭に置かれている。「李氏には、同世代の政治家にない高い見識と行動力があり、彼の選択が結局、台湾を正しい方向に導いた」。こう述べる同紙は、李氏が台湾で成功させた民主化は「民主主義が欧米など西側社会のみならず、華人社会でも十分実現可能であることを証明した」とし、「中国大陸の人々も李氏に感謝し、敬意を払うべきだ」と主張した。別の台湾大手紙、自由時報の社説は、李氏が推進した台湾本土化(台湾化)路線を詳しく振り返った。李氏が総統だった当時、日本人作家、司馬遼太郎との対談で「台湾人に生まれた悲哀」について語ったことを紹介。さまざまな外来政権によって支配されてきた台湾人は長年、自分で自分の運命を決められなかったが、「李氏は生涯をかけてそれを変えた」と評した。本土化路線の推進により、中国からやってきた支配者たちの特権をなくし、台湾の価値観を重視する政治が実現した。李氏の最も素晴らしいところは、その過程で流血も大きな混乱もなしに「最も低コストで静かな革命を実現した」ことだと同紙は絶賛する。台湾がその後、中国の激しい統一攻勢に耐えてこられたのも李氏の民主化と本土化路線のおかげであり、台湾は「今も民主主義陣営の先頭として、独裁政権(中国)に対抗している」と同紙は誇った。これらの李氏を礼賛する論評に対し、中国寄りの新聞、中国時報は別の見方を示している。同紙は、李氏が台湾の民主化に果たした功績を評価しながらも、政治家としての李氏は「功罪相半ばする」と評した。李氏が晩年、両岸関係を「特殊な国と国の関係」とする「2国論」を提唱したことで、「中国大陸の強烈な反発を招き、両岸の対立関係を深化させた責任がある」と論じた。
■中国 「台湾化」の礎にいらだち
 このほど死去した李登輝氏について、中国官製メディアは死者に鞭(むち)打つような言葉を連ねた。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は7月31日の社説で「疑いなく中華民族の罪人だ」と罵倒した。なぜ、中国側にとって李氏は「罪人」とまでいうべき存在なのか。環球時報は「台湾の民主主義に祖国分裂の根を植え付けた」と一方的に断ずるが、その意味を理解するには中台両岸にまつわる歴史を振り返る必要がある。1949年、中国共産党との内戦に敗れた蒋介石(しょう・かいせき)率いる中国国民党政権が台湾に移った。国民党政権は台湾を「大陸反攻(中国大陸奪還)」の拠点と位置付けて一党独裁体制を続けたが、88年に本省人(台湾出身者)として初の総統となったのが李氏だった。民主化を進めた李氏は、その功績から「台湾民主化の父」と台湾内外で広く称される。民主化と同時に進めたのが、中国全土の統治を前提に国民党政権がとってきた政治体制を改めることだった。実効支配する台湾本島と周辺島嶼(とうしょ)に見合った体制へと改編し、「台湾化」を強力に推進。教育改革で「台湾人」意識も向上させた。これら李氏が進めたことは「台湾は中国の領土の不可分の一部」とする中国側には、中台両岸の「分断」を図るものにほかならなかった。環球時報は「李登輝が推進した台湾式民主主義は、最初から『台湾独立』に乗っ取られていた。そのため台湾の近年の政治の主軸は決して純粋な民主主義ではなく、その衣をまとった『台湾独立』なのだ」という主張を展開する。李氏が「民主主義を歪曲(わいきょく)した」がゆえに、「両岸には徐々に距離ができ、危機と対立が発展と協力に取って代わった」。中台両岸に距離が生じた責任をこう李氏に押し付けた。李氏が総統時代に取り組んだ「台湾化」は、現在の蔡英文政権に至る台湾の礎を築いたといえる。この現実が中国側をいらだたせている。日本との関係も糾弾の材料となった。国営新華社通信は7月31日に配信した論評記事で、李氏が「22歳までは日本人だった」などと語っていたことについて「植民統治を被った屈辱感が完全にない」と批判。台湾も領有権を主張する尖閣諸島(沖縄県石垣市)について李氏が「日本の領土だ」と公言したことも、「台湾当局の元指導者だったが、日本の利益を守るのに尽力した」との不満を呼んだ。官製メディアが痛罵を浴びせる様を通じ、李氏がなしたことに対する共産党政権のいらだちの大きさが改めて明白になったといえよう。

*1-3:http://www.cl.aoyama.ac.jp/history/sodaishi/t_links/shomondai/taiwan/kokko30.html (東洋史学の諸問題) 日中国交正常化・残された課題
~「正常化」の裏にある「不正常化」・今後の問題点を考える~
 1972年9月29日、日本の田中角栄首相、大平正芳外相、および中国の周恩来総理・姫鵬飛外相らの間において、日中共同声明が署名され、日中の国交は回復されることになった。この国交回復は、通常「正常化」と呼ばれる。では、正常化以前はどうであったか。正常でない、異常な状態であったということか。確かに、ある意味で異常であった。すなわち、まったく大陸を支配していない国民党政府(国府)を全中国の代表と認め、実質的に大陸を統治している共産党政府の支配権を認めていなかったのであるから、これは異常であったと言わざるを得ない。この意味において、まさに国交回復は「正常化」であり、これが1972年までずれ込んだことは、遅すぎたとも言える。フランスなどは、すでに1964年から北京との国交を回復していたのである。しかし、日本と中国の関係のみならず、アジア全体を考えたときに、1972年以降がまったく「正常」であったのか、といえば、決してそうとはいえない。むしろ、1972年以降、かえって異常な状態になってしまった面もある。「台湾問題」だ。日中の関係は、このとき「正常化」し、両国の関係は安定化へ向かった。だが、台湾は見捨てられ、日本と台湾が国としての交流が絶たれただけではなく、中国の圧力によって、台湾の国旗や総統府をTV画面で流すことすら難しいといった、極めて不健全、かつ「不正常」なものとなってしまったのである。「台湾問題」とは何か。私が報道等を総合的に見て感じることは、日本の立場から見れば、事実上(de facto)台湾が中国の一部分とはなっておらず、主権独立国家を構えているにも関わらず、中国がこれを承認せず、急速な軍備拡張を続け、戦争をも辞さない非平和的姿勢を取っていること、これが「台湾問題」の核心である。だが一方、中国の立場としては、日本(米国も同様)がこの中国の姿勢に必ずしも同意せず、台湾併合という現状変更には積極的ではなく、むしろ台湾の民主化を歓迎している点、さらに中国の武力行使に断固反対の立場をとっている点が、「台湾問題」なのである。また、「台湾問題」という言い方自体、若干の政治的偏向でもある。なぜなら、台湾の立場としては、問題の核心は中国の覇権主義であるから「中国問題」であって、台湾側の問題ではない、ということにもなる。一般に「台湾問題」と言わず、「両岸問題」と称する所以である。日中共同声明中において、日中両国は、「中華人民共和国政府は,台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は,この中華人民共和国政府の立場を十分理解し,尊重し,ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」(外交青書17号) 。と宣言している。この表現は、日本では通常、中国政府に譲歩しすぎであると批判されるが、ただそう簡単に言い切れない点もある。現実には他の西側諸国と中国との間の取り決めの表現も大差なく、しかも「承認」という言葉を日本が決して使わなかった点において、かならずしも日本が突出して中国に譲歩したとは言えない。また、台湾の帰属に関してはまだ未決定という議論も存在し、少なくとも日本が積極的に台湾の中華人民共和国への編入を促進する内容とはなっていないのである。しかしながら、この声明と続く台湾断交以降、日本と台湾という二つの国家が相互に承認を取りやめるという、新たな「異常」状態が発生してしまったのは確かであり、最低限、台湾関係法を整備して時間をかけて国交を回復した米国と比べれば、田中・大平は長期的見通しなく拙速であったとも言える。中共・国府両方とは同時に国交を維持しないのは、北京の要請であったのみならず、「一つの中国」を堅持しようとした蒋介石の望みでもあった。しかしながら、断交とは、そもそも戦争を行うか、国家の消滅といった事態を前に行われるものであり、台湾という一国家と主要国が次々断交してしまうということ自体、地域に大きな不安定要素を抱え込むことになることは、明らかだったはずだ。日中国交正常化は、東アジアにおける安全と経済的繁栄を確実にしてゆく契機として、貴重な一歩であり、慶賀すべきであることに、間違いはない。しかし、それが台湾という事実上の一国家との「断交」の上に成り立っていることは、やはり現在の東アジアが内包する歪みであり、安全保障上の不安定要因である。多くの人々の犠牲の上にではあるが、日朝関係が、相互に国家承認していない、という異常状態を脱しつつあり、安全が確保されつつある現在、東アジアにおいて次に求められるのが台湾海峡の安定であることに、異論はないであろう。筆者は歴史研究者であって、政治家でも外交官でもないし、国際政治専門家ですらないから、その最も良い具体的な道筋を描くことはできない。また、台湾が今後、主権独立国家としての道を歩むのか、あるいは中国との一体化を選択するのかは、当事者たる台湾人自身の選択に委ねられるべきことであって、決して部外者である我々が口を挟むべき問題ではない。しかし、1972年の日中国交回復という、アジアにとっての安定化の大きな画期が、実は多くの課題を残したものであり、そのときから30年を経た現在、それらの課題をどう解決してゆくかが問われているのは確かであり、これは我々アジア研究に携わるもの一人ひとりが考えなくてはならない、問題である。

*1-4:https://news.biglobe.ne.jp/international/0812/rec_200812_0445300575.html (Biglobe 2020年8月12日) 森元首相の台湾滞在はわずか4時間、台湾学者「日本は台日友好よりも対中関係」—中国紙
 中国紙・海峡導報は12日、森喜朗元首相が亡くなった李登輝氏の弔問のために台湾を訪れたことについて、台湾の学者から「日本は台湾との友好よりも対中関係を気にしている」との指摘が出たと伝えた。記事によると、台湾中興大学国際政治研究所のアシスタントプロフェッサー・劉泰廷氏は森氏の訪台が日台関係に与える影響について、「マイナスではないがプラスでもない」と評価。日本からの弔問団に安倍政権の閣僚がいなかったことや、人数が極めて簡素だったこと、森氏ら一行が台湾に「4時間しか」滞在しなかったことに言及し、これらは3つのことを明らかにしていると指摘した。それは、「日本政府が訪台において『官』の色合いをできる限り抑えたかったこと」「弔問の目的をはっきりさせ、かつスピーディーに終わらせることで、政治的な意味を薄めたかったこと」「森氏の談話では日台協力などについて一切触れられず、(弔問という)訪台の焦点がずらされたくないことが明らかだったこと」だと説明。「森氏と日本政府の接点は安倍晋三首相から依頼されたという点だけであり、その他は基本的に民間の訪問団と言っていい。政府を代表しない訪問団(の派遣)で『台日友好』と言えるだろうか。疑問が残る」とした。劉氏はこの背景に、日本が中国との関係を気にしたことがあると指摘。「日本は新型コロナウイルスの影響で経済的損失を、中国との経済協力によって回復する必要がある。米国など主要な同盟国は中国に強硬な姿勢を示しているが、日本は両者の間でバランスを取っている」との見方を示した。

*1-5:https://jp24h.com/post/106474.html (JPnews August1.2020) 登輝氏が強化した対米関係 蔡総統引き継ぐ
 中国からの統一圧力に直面する台湾にとり、安全保障を依存する米国は最大の後ろ盾だ。台湾の民主化を進めた李登輝(り・とうき)元総統は、「自由と民主主義」を旗印に米国との関係強化に取り組んだ。李氏が切り開いた米台関係の道筋は、現在の蔡英文(さい・えいぶん)政権にも引き継がれている。後に「ミスター・デモクラシー(民主化の父)」と称される李氏の政界進出も、米国の存在と無縁ではなかった。1979年の米台断交とそれに伴う米華相互防衛条約の失効は、独裁体制の蒋経国(しょう・けいこく)政権に衝撃を与えた。外憂を抱えた蒋経国は足下の体制安定のため、人口で多数を占める李氏ら「本省人」を政権に登用、李氏の総統就任に道を開いた。また、米議会などから批判を受け、38年間続いた戒厳令の解除や野党・民主進歩党の結党容認など、民主化の基礎となる自由化を進めた。蒋経国の死去で総統に昇格した李氏は民主化を進める一方、社会主義の中国と対峙(たいじ)する上で、米国との関係強化に「民主主義」を利用した。95年6月には、対中融和的なクリントン政権を窓口とせず、自由と民主主義という理念への共感を得やすい米議会から支持を取り付け、現職総統として初の訪米を実現した。初の政権交代を実現した民進党の陳水扁(ちん・すいへん)氏は、2期目に「台湾独立」志向を強めて米国に「トラブルメーカー」とみなされ、国民党の馬英九(ば・えいきゅう)氏に政権奪還を許す一因となった。馬氏も政権発足当初は「親米・和中」路線が米国に歓迎されたが、対中傾斜を強めて米国との距離感が目立つようになった。特に南シナ海問題で中国と歩調を合わせたことで、欧米から批判を招いた。現在の民進党の蔡総統は、陳、馬両政権の反省から、中国と距離を保つ一方で、中国を挑発せず低姿勢を取る「優等生」的な対応で、米国の支持を得ている。李氏を彷彿(ほうふつ)させる「理念の近い民主主義国家との連携」を強調する姿勢は、米議会、トランプ政権の双方から支持されている。

<日本女性は?>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200730&ng=DGKKZO62037690Z20C20A7KE8000 (日経新聞 2020.7.30) 女性活躍どこまで進んだ(下)「昇進」は改善も なお賃金格差、原ひろみ・日本女子大学准教授(1970年生まれ。東京大経卒、同大博士(経済学)。専門は労働経済学、実証ミクロ経済学)
<ポイント>
○高賃金の男女で説明できない格差が拡大
○昇進に伴う昇給の格差もガラスの天井に
○外形的な働き方の差解消だけでは不十分
 日本の男女間賃金格差は改善されてきている。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、労働の対価である賃金の男女差は30年間で約23%も縮小した。だがこれは女性の教育水準や勤続年数の上昇が反映された結果でもあるので、手放しで評価できない。女性労働者の教育や勤続年数は上昇しているが、今でも男性労働者の水準には届いていない。教育、勤続年数、労働市場での経験などの人的資本は生産性ひいては賃金を規定するので、人的資本量が異なる労働者の間に発生する賃金格差は合理的な範囲といえる。よって私たちが注目すべきなのは、人的資本量に男女差があることを考慮しても残される男女間賃金格差、すなわち人的資本の男女差では説明できない格差だ。この説明できない格差は「目には見えない障壁」の存在を示唆する。「ガラスの天井」はその一つで、企業や官公庁、アカデミアなどで女性が地位の高い仕事に就くことを阻害する見えない障壁のことだ。人的資本の男女差をコントロールしたならば、男性の中での高収入と女性の中での高収入に違いはないはずだ。例えば人的資本の差をコントロールしても、女性の中で上位10%である女性の賃金が、男性の中で上位10%である男性の賃金よりも低いという状態が起きているとしよう。この状態は人的資本の男女差以外の理由で、女性の中では高賃金だとしても、男性ほどには高賃金の仕事には就けていないと解釈できる。よって賃金分布の上位で説明できない男女間格差が観察される場合、ガラスの天井があるととらえられる。逆に賃金分布の低位で説明できない格差が観察される場合、「床への張りつき」があると考えられる。低賃金の女性は低賃金の男性と比べても、低い賃金しか得ていないことを意味する。こうした説明できない格差は、要因分解という計量経済学的手法を用いることで推定できる。分析手法の発展のおかげで、賃金分布を通じた要因分解が可能となり、平均だけでは把握できなかったことが分かるようになってきた。例えばジェームス・アルブレヒト米ジョージタウン大教授らが、女性が働きやすいとされるスウェーデンですら、ガラスの天井が強く観察されることを発見した。これをきっかけに、世界各国で同様の分析が競って進められている。以下では、筆者による日本の分析結果を紹介したい。図は1980~2015年のうち5カ年分のデータを使い、人的資本の男女差では説明できない男女間賃金格差を分位数(パーセンタイル)ごとにプロットしたものだ。縦軸の値が大きくなるほど説明できない男女間賃金格差が大きいことを意味する。なお短時間労働者は分析から除外した。まず15年のラインの左側に着目すると、賃金が下位20%の男女の間の説明できない格差は15.4%で、中央での格差12.5%より2ポイント以上大きい。このことから、低賃金の男女の賃金格差が相対的に大きいことがわかり、床への張りつきが起きていると解釈できる。次に15年のラインの右側では、分布の中央から高位に向けて加速度的に男女間格差が大きくなっている。上位10%の男女の賃金格差は25.7%で、中央での格差との差は13.2ポイントとなる。高賃金の男女の賃金格差も相対的に大きいことがわかり、ガラスの天井の存在を強くうかがわせる。時系列で比較すると、90年から15年に向かうにつれて、分布の低位と中央での男女間格差の差は小さくなっている。近年では床への張りつき現象は弱まっていると解釈できる。逆に分布の高位と中央での男女間格差の差は拡大し、ガラスの天井現象はより強く観察されるようになっている。諸外国の研究から、発展途上国の多くで床への張りつきが観察される。一方、先進国の多くでガラスの天井が観察される。欧州では床への張りつきが観察される国はイタリアやスペインなどに限られることが明らかにされている。日本はガラスの天井と床への張りつきの両方が観察される先進国では特殊な国といえる。本稿では詳細な説明は省略するが、床への張りつきとガラスの天井は、事業所間よりも事業所内で強く観察される。つまり女性が賃金の低い企業に配置されることから生まれる男女間格差よりも、企業内で女性が賃金の低い仕事に配置されることから生まれる男女間格差の方が大きいわけだ。ではガラスの天井は何に起因するのだろうか。当然、女性の管理職への昇進が難しいことが一因と考えられる。以前と比べれば、管理職の女性は公表統計を見ても増えている。だが学歴や勤続年数などの男女差をコントロールしたうえで管理職への昇進確率を計算しても、部長・課長・係長のいずれの職位に関しても、90年と15年の両年で男性より女性の昇進確率が低いことに変わりはない。一方、女性の昇進確率を両年で比較すると、90年より15年の方が昇進確率は高いことが明らかにされている。にもかかわらず、近年ガラスの天井が強く観察されるのはなぜだろうか。女性の管理職への昇進確率が高まると同時に、昇進に伴う昇給の男女間格差が大きくなっていると考えられる。90年と15年の昇進に伴う昇給を推定すると、男性では部長・課長・係長のいずれの職位に関しても、90年よりも15年の方が高くなっている。一方、女性ではどの職位に関しても、15年の方が低くなっている。企業には同じ役職でも基幹的なポストとそうではないポストがある。例えば将来の幹部候補が配属される花形のポストがある一方、さほど重要ではないポストや名ばかり管理職のようなポストもある。分析結果を踏まえると、女性は後者のポストに配置されている可能性が高いと考えられる。女性は以前より教育や勤続年数を高めて職位も上がっているが、賃金という処遇の最終段階では必ずしも報われていない。この状況は、比喩的に「swimming upstream現象」と呼ばれる。流れに逆らいながら懸命に上流に向かって泳いでも、逆流に押し戻されてしまい最後まで登り切れない状況だ。こうした現象は日本だけでなく米国、英国、カナダでも観察されている。職位などの働き方や仕事の男女差が縮小しても、労働の対価である賃金の男女差が解消されなければ、労働市場での男女間格差が解消されたとはいえない。日本では女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、女性従業員の勤務状況を数値で把握し、改善のための数値目標を立て、実行に移すことが義務付けられた。22年4月には101人以上の事業主に拡大適用される。そこでは、管理職に占める女性労働者の割合や平均勤続年数の男女差などが必ず把握すべき項目とされる。だが男女間賃金格差の解消には、外形的な働き方の男女差の解消を目指すだけでは不十分であることが、この分析結果から示唆される。

*2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14385475.html?iref=comtop_list_gold_n04 (朝日新聞 2020年3月1日) 東大、「2割の壁」を破れるか 男社会の偏り、学生も大学も「変えたい」
■〈Dear Girls〉東京大学の学部学生の女子比率19.3%(2019年5月)
 東京大学の学部生に占める女性の割合は、一度も2割を超えたことがない。東大の女子学生がつくるフリーペーパー「biscUiT(ビスケット)」は昨秋、「女子2割の壁」を特集した。代表で2年の徳永紗彩(さあや)さん(20)は「女性差別的だ、嫌だよね、という会話が増えた。女子が少ないことの背景や影響について、調べてみようと思った」と話す。最近では、東大男子と他大女子が入る「東大女子お断り」のサークルが、学内外から批判を浴びた。キャンパスでも、そうしたサークルの男子学生が、他大女子の話題で盛り上がる会話が聞こえてくる。「アタマが弱い」「あの子はかわいい」。見下したり、外見を「品評」したり。徳永さんは「女性をモノのように扱っている。差別意識がにじみ出ていて苦痛」と話す。
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 日本の大学全体では学部生の45・4%が女子だが、東大は19・3%。京都大の22・3%や大阪大の34・3%と比べても低い。昨年の入学式の祝辞で、社会学者の上野千鶴子・東大名誉教授は「2割の壁」や、女性教授が1割に満たないことなどを挙げ、男性優位の構図が変わっていないことを批判した。「biscUiT」の特集は、進学校とされる各地の共学高校に取材。東大の受験者数に明らかな男女差があると伝えた。東大生と高校3年生、計約1千人へのアンケートでは、親元から通える大学に行くよう親などから言われたことがある高校生のうち、7割が女子だった。徳永さんは「社会が変わるのは難しい。社会のトップ層になりうる人が多く輩出する大学だからこそ、東大が先に変わるべきだと思う」と話す。女子の受験生を増やそうと活動する学生団体もある。「女子高校生のための東大オリエンテーションキャンプ」は、女子高校生向けのキャンパスツアーなどを企画してきた。前代表で2年の山田碩人(ひろと)さん(20)は「女子には上京や浪人をさせたくない、高学歴は必要ないという考えは根強い。男子とはスタートラインに立つまでに越える壁の数が違う」と話す。男子学生にも「自分たちの問題」ととらえてほしくて、2月に団体名を「polaris(ポラリス)」に変えた。
     *
 東大当局は「2割の壁」をどう考えているのか。「グローバルに活躍する人材を育てるにあたり、こうした環境は問題だ」。東大の松木則夫理事はそう話す。「女子比率の低さは将来にわたり、『男社会』の偏りを助長してしまう。海外の大学改革のアドバイザーからは、まずジェンダーバランスの悪さを何とかしろと言われた」。学内最多の2千人超が籍を置く工学部では、女子は1割に満たない。女子の受験者数が増えないのは、周囲の期待に男女差があり、「最難関」をめざすモチベーションに影響しているからだとみる。学内広報も昨年12月、「2割の壁」を特集。大学の公式サイトのトップページに「未来の形:女子のちから」と掲げ、「志ある女子の力に期待します」との五神(ごのかみ)真総長のメッセージも添えた。上京の負担を軽くしようと、女子学生向けに家賃補助制度をつくり、昨年新設した寮でも、今春入学する女子学生向けに50室の枠を用意した。しかし、女子の受験者は目立って増えてはいない。海外では差別是正や多様性の確保のため、人種や性別に応じて枠を設ける大学がある。ただ、松木さんは、一般入試に女子枠を設けることについては慎重だ。「大学内外の理解を得るのは難しい。社会の側の意識も変わってもらわないと……」。この春、「2割の壁」はどうなるか。2020年度入試の志願者9259人のうち、女子は20・5%だった。
◇「ジェンダーギャップ(男女格差)」の大きさを国別に順位付けした世界経済フォーラムの昨年の報告書で日本は153カ国中121位。過去最低の順位でした。この社会はどのような男女格差を抱えているのでしょうか。現在地を4回の連載で報告します。次回以降のテーマは「賃金」「家事・育児」「メディア」です。

*2-3:https://www.agrinews.co.jp/p51520.html (日本農業新聞 2020年8月2日) 女性参画へ意見募集 基本計画策定で素案 内閣府
 内閣府は、女性の社会参画の拡大に向けて今後5年間の政府方針を示す「第5次男女共同参画基本計画」の素案に関する国民への意見募集を、1日から始めた。同計画素案では、農業の持続性の確保には女性の活躍支援が欠かせないと明示。「田園回帰」で都市部の女性が農山漁村に関心を示す動きを後押しする。親元や結婚による就農に加えて雇用や新規参入など女性の農業への関わり方が多様化し、それぞれの立場に合わせた細やかな支援が必要とした。有識者会議がまとめた新たな基本計画の素案は、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」としていた政府目標の到達が見通せないことから、「20年代の可能な限り早期に30%を目指す」と先送りした。地方では固定的な性別役割分担の意識が根強く、若い女性が大都市圏に転入する要因になっていると指摘。農業でも女性の都市流出で基幹的従事者に占める女性の割合が低下していることに危機感を示した。地方公共団体や経済界、農林水産団体と連携して意識改革を求めていく。具体的には、農業委員やJA役員の女性登用を一層進める。地域ごとの女性グループ形成に加えて、全国規模で女性グループ間のネットワークを作る。女性が働きやすい環境づくりで、「農業女子プロジェクト」の企業や教育機関との連携を強化。労働時間の管理や経験を積む道筋の提示、コミュニケーションの充実を推進する。政府は意見募集を経て秋ごろに有識者会議で計画案を取りまとめる。12月にも具体的な目標数値を盛り込んだ基本計画を閣議決定する予定だ。意見募集は、9月7日まで。内閣府男女共同参画局のホームページからインターネットで送信するか、郵送する。8月25、29の両日にはオンラインで公聴会を開く。希望者は同局のホームページから事前に申し込む。

<女性蔑視する会社の業績>
*3-1:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-28/QE5T47DWRGG201 (Bloomberg 2020年7月28日) 日産は今期無配の方向、業績悪化でコスト削減なども加速-関係者
 経営の立て直しを進める日産自動車は今期(2021年3月期)の年間配当を見送る見通しだ。28日午後の決算発表時に公表する。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。未公表の情報だとして匿名を条件に話した関係者らによると、5月の決算発表時点では「未定」としていた今期の年間配当をゼロとするとの見通しを示す方向だ。日産はカルロス・ゴーン元会長を巡る一連の問題で販売が低迷していたところに、新型コロナウイルス感染拡大の影響による世界的な新車需要の急減が追い打ちをかけて業績が悪化。前期(20年3月期)はリストラに伴う固定資産の減損などで、6712億円の純損失と2000年3月期以来の規模に拡大していた。前期の年間配当は期初に40円を見込んでいたが、結果的には前の期比47円減となる10円まで減少した。アライアンスのパートナーで日産と同様に業績が悪化している三菱自動車も今期の年間配当をゼロとする方針を示した。日産の株価はこの日の取引開始直後に一時前日比4.8%安となる408.9円の日中安値を付けた。その後、下げ幅を縮小していたが午後に今期の無配方針の報道が出たことで再び下落幅が拡大、4.3%安の410.8円で取引を終えた。日産広報担当の百瀬梓氏はコメントを控えた。ブルームバーグが集計した第1四半期(4-6月期)の営業赤字額のアナリスト予想平均値は2529億円となっていたが、関係者によると、日産が進めてきたコスト削減の進展などが奏功して実際の赤字額は1500億円程度にとどまる見通し。関係者によると、きょう午後5時に発表を予定している決算では、5月の時点では新型コロナが事業に与える影響が未確定なため合理的に算定するのが困難として公表していなかった今期の業績予想も発表する見通し。ブルームバーグが集計したアナリスト15人の今期の純損失の予想平均値は3124億円となっている。

*3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62036490Z20C20A7I00000/ (日経新聞 2020/7/29) 三越伊勢丹、最終赤字600億円 21年3月期消費低迷続く
 三越伊勢丹ホールディングスは29日、2021年3月期の最終損益が600億円の赤字(前期は111億円の赤字)になりそうだと発表した。赤字額は店舗閉鎖で損失を出し、過去最大だった10年3月期(635億円)に並ぶ規模となる。新型コロナウイルスの感染拡大による消費低迷が長引き、売り上げが減る。業績悪化を受け、未定としていた年間配当を前期比3円減の9円と10年ぶりに減らす。新型コロナで4~5月にかけて主要店舗での休業が相次いだ。再開後も回復が鈍く、7月以降の売上高も平常時の15%減で推移するとみている。三越銀座店(東京・中央)などのけん引役となっていた訪日客需要はゼロになる見込み。売上高は26%減の8230億円、営業損益は380億円の赤字(同156億円の黒字)に転落する。10年3月期の巨額赤字は伊勢丹吉祥寺店や三越池袋店など3店舗を閉店したのに伴う特別損失が主因で、営業損益は黒字だった。今期は収入が落ち込んでおり、新型コロナ影響による消費の落ち込みの深刻さが際立つ。同日発表した20年4~6月期の連結決算は最終損益が305億円の赤字(前年同期は60億円の黒字)だった。店舗休業で売上高は前年同期比53%減の1316億円に落ち込んだ。営業再開後の6月も売上高は休業前の8割弱にとどまった。

<政治分野における女性の登用>
*4-1:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1162740.html (琉球新報社説 2020年7月26日) 女性登用未達成 看板倒れの責任は政府に
安倍政権が成長戦略の柱とした「指導的地位に占める女性を2020年までに30%とする」目標を先送りした。「女性が輝く社会」をうたってきた安倍晋三首相だが、現在の女性閣僚はわずか3人、衆院議員は9・9%だ。主要政策ですら達成できていない。看板倒れと言われても仕方がない。達成できなかった責任を問われるのは政府であるはずだが、そう受け取ってはいないようだ。自民党の世耕弘成参院幹事長は目標の先送りに関し「指導的立場に着く層に、女性の人材が十分ではなかったのが要因だ」と述べた。未達成の責任を女性に押しつけている。男女雇用均等法から35年、採用差別は少なくなったかもしれないが、待機児童問題に代表されるように女性が働きながら子育てをする環境はいまだ整っていない。女性が出産や育児によって職を離れ、30代を中心に働く女性が減少する「M字カーブ」は日本に特徴的な現象だ。政府は03年に「20年までに30%」の目標を掲げ、13年には成長戦略に位置づけた。女性の就業率は伸びたものの、賃金は男性の74%しか得ていない。非正規労働の比率も女性が圧倒的に多い。雇用の格差は歴然としている。加えて女性登用に社会のためらいはないだろうか。11年のマッキンゼー・レポートは「男性は可能性を買われて昇進するが、女性は過去の実績で昇進する」と指摘した。昇進に当たって女性は実績を示す必要があるという意だ。多くのハードルに管理職予備層は育ちにくい。その結果、企業の役員や課長相当職以上の女性は14・8%にとどまる。米国やスウェーデンの40%超、英国やノルウェー、フランスの30%超と、先進国と比べても開きは大きい。18年に選挙で男女の候補者数を均等にする努力義務を課した「政治分野の男女共同参画推進法」が誕生したが、直後の参院選では女性候補者の大きな増加につながらず、県内でも法成立後初の県議選で候補者64人中、女性は8人、12・5%でしかなかった。女性登用を巡る障壁を除くことが「女性が輝く社会」には必須だ。世界的なコロナ禍で対策に手腕を発揮したのは台湾やドイツ、ニュージーランドなどの女性首脳だった。日本で、準備もなく全国一斉の休校要請が出され大混乱を引き起こした時には政権に生活者の目線が薄いことが露呈した。意志決定の場に女性が圧倒的に少ないことが背景にあると考えざるを得ない。政府は30%目標を「20年代の可能な限り早期に」と改めた素案を公表したが、そこにも到達するための具体的な道筋や手法は示されていない。単に数値目標の旗を振るだけでなく、女性が活躍するために求められる環境など、土台づくりから始め、実効性のある施策に取り組むべきだ。

*4-2:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200727/KT200723ETI090001000.php (信濃毎日新聞 2020年7月27日) 女性の登用 壁取り払う手だてが要る
 2020年までに、各分野で指導的地位に占める女性の割合を3割にする―。政府が03年に掲げた女性登用の目標は実現が遠い。だからといって、いつまでに達成するかをぼやかす形で先送りしていいはずがない。21年度から5年間の男女共同参画基本計画である。内閣府が有識者会議に示した素案は、新たな目標時期を明示せず、「20年代の可能な限り早期に30%程度を目指す」とした。姿勢を後退させるのはあべこべだ。指導的地位は、国会や地方議会の議員のほか、企業や公務員の管理職などを指す。いずれも、目標との隔たりは大きい。国会は参院で2割を上回るものの、衆院は1割に届かない。地方議会も14・3%と少なく、女性が一人もいない議会もある。企業や公務員の管理職も15%ほどで、4割を超す米国や3割台の英国、フランスとは開きがある。世界経済フォーラムが発表している男女格差の指数で、日本は昨年、調査対象の153カ国のうち121位と過去最低に沈んだ。アジアでもタイやベトナム、中国、韓国に後れを取る。議員や管理職が少ないほか、賃金格差が大きいことが反映しているという。「女性活躍」は、安倍政権が成長戦略の柱と位置づける看板政策だ。15年に成立した女性活躍推進法は、企業に女性登用の目標や計画の策定を義務づけ、取り組みを促してきた。ただ、政策の軸足は労働力不足を補う経済対策にあり、賃金格差をはじめ働く場での不平等の是正はなおざりだ。「家庭を守るのは女性」といった意識も根強く、家事や育児、介護の負担は依然、女性に偏っている。掛け声をかけて自主的な取り組みに任せていても、女性が置かれた状況は大きく変わらない。阻んでいる壁をなくし、参画を後押しする具体的な手だてが要る。その一つが、一定の割合を女性に割り当てるクオータ制だ。既に多くの国が議員選挙で取り入れ、企業の役員についてもノルウェーやオランダが制度化している。アイスランドは、中規模以上の企業に取締役の4〜6割を女性とするよう定めているという。日本の政府、与党は後ろ向きだ。経済界からも「逆差別になる」といった声が聞こえてくる。けれども、女性への構造的な差別をなくしていくには、制度の後ろ盾が欠かせない。あらためて目標年度を明確にし、クオータ制を含め、踏み込んだ議論をすべきだ。

<女性政治家が増えると何が変わるか>
*5-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200818&ng=DGKKZO62731860X10C20A8MM8000 (日経新聞 2020.8.18) 主要国経済1割縮小 リーマン時の3.5倍、4~6月 GDP前年同期比 感染早期抑制が左右
 世界の主要国の2020年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比9.1%減少した。リーマン危機時の約3.5倍の落ち込みで、コロナ禍の傷の深さが鮮明になった。それでも感染を早期に抑え、経済復調に動いた中国やベトナムはプラス成長を達成した。感染抑制と経済活動の両立の重要性を改めて浮き彫りにした。世界GDPの3分の2を占める日米英中とカナダ、ユーロ圏の計24カ国を「主要国」として集計した。GDP統計では変化を早く捉えられる前期比を使うことが多いが、コロナ禍で経済規模が平常時に比べてどれだけ縮んだかをみるため前年同期と比べた。リーマン危機の影響がピークだった09年1~3月期は2.6%減だった。米グーグルがスマートフォン利用者の位置情報をもとに移動先を分析したデータでみると、感染抑制のために厳しい行動制限を導入して人出が少なかった国・地域ほど、GDPの落ち込みが大きい。4~6月期の人出(中央値)が52%減と主要国で最も減ったスペインと英国はGDP減少率も上位2位を占めた。世界旅行ツーリズム協議会によると、主要経済国でGDPに占める観光の割合が最も高いのがメキシコ(15%超)、2位がスペイン(14%超)。観光依存が高いほどGDPも落ち込んだ。スペインは6~9月に国外から多数の観光客が訪れるが、今年は6月下旬まで受け入れを停止。6月の国外からの来訪者は前年同月比97.7%減った。英国は新型コロナウイルス対策が遅れ、他国よりロックダウン(都市封鎖)が長引いた。日米欧の大半は5~6月初旬に段階的に再開したが、英国は飲食や宿泊の休業解除が7月にずれ込んだ。主要国で4~6月期に唯一、プラス成長となったのが中国(3.2%増)だ。企業活動が先導する形で、2四半期ぶりにプラス成長に戻した。国の政策頼みの面が強く、民間投資はマイナスのまま。力強さを欠く家計や民間に恩恵が波及するかが持続力のカギを握る。主要国以外ではベトナムもプラス成長だった。早期のコロナ防疫で外出制限を4月の約3週間にとどめたことが奏功し、4~6月期の人出はコロナが本格化する前に比べて3%減まで戻った。英エコノミスト誌の調査部門のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットによると、日米欧7カ国(G7)は7~9月期にすべて前期比プラスに戻る見通し。それでもGDPの規模は米国が17年、英独仏とカナダが16年、日本が12年、イタリアは1997年の水準にとどまる。正常化には時間がかかりそうだ。

*5-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200816&ng=DGKKZO62692910V10C20A8EA1000 (日経新聞 2020.8.16) 新型コロナウイルス「弱毒化」根拠乏しく 変異で感染力に影響も
 新型コロナウイルスの変異に関する研究が注目されている。英メディアで「ウイルスは弱毒化している」とみる専門家の意見が紹介されたことなどがきっかけだ。現時点でウイルスの危険性の低下を示す科学的な裏付けはない。ウイルスの変異は一定の確率で起こる。病原性や感染力がどう変化するか、世界規模の継続的な分析が重要だ。英テレグラフ紙で6月中旬、イタリアの医師による「弱毒化」の発言が掲載されて話題となった。各国で発表される新型コロナの致死率が地域や時期ごとに違うことなどから、ウイルスの変異に注目が集まる。しかし病原性の低下を示す科学的な根拠は無く、あくまでも期待を含んだ臆測にとどまる。それでもウイルスの新たな変異が見つかったとの報告はある。米ロスアラモス国立研究所などの研究チームは7月上旬、特定の変異を持つウイルスが世界中に広がったとする論文を米科学誌セルに発表した。感染時に働くウイルス表面のたんぱく質のうち、1カ所だけ構造が変化していた。米国や欧州、アジアで見つかっている。このウイルスは変異前より感染力が増している恐れがある。米スクリプス研究所などの研究チームは実験室内でこの変異を再現し、構造が変化したたんぱく質の方が安定性が増したと報告した。安定性が増すと感染力も高まると考えられる。論文は査読前だが、動物のコロナウイルスを研究する北里大学の高野友美教授は「手法も結論も信頼性は高い」と評価する。一般的にウイルスは一定の確率でランダムに変異を繰り返す。しかしゲノム(全遺伝情報)が変異しても性質は変化しない場合がほとんどだ。まれにウイルスの構造や機能が変わり、危険性が増す「強毒化」や、減る「弱毒化」につながる。このためウイルス学などの研究者らは、流行当初から新型コロナウイルスの変異を追跡している。世界各地の研究機関から集まった新型コロナの遺伝子配列情報を解析し公表する国際プロジェクト「ネクストストレイン」は、ウイルスのゲノムに1年間で24個の変異が生じると見積もる。ただウイルスの性質が変化しているかどうかをゲノムのみから判断するのは難しい。高野教授は「実際にそれぞれの変異をもつウイルスで培養細胞や実験動物に感染させる実験が必要だ」と話す。そもそも、ウイルスの「弱毒化」には医療関係者らも懐疑的だ。日本でも直近の致死率は低下する傾向にあるが、ウイルスの性質の変化よりも重症化しにくい若者の患者が多いこととの関連性が指摘されている。けいゆう病院(横浜市)感染制御センターの菅谷憲夫センター長は「高齢者の患者が占める割合が小さいため弱毒化しているように見えるだけ」と指摘。「家庭内や施設内の感染で高齢者の患者が増えれば致死率は上がる。油断は禁物だ」と注意を呼びかける。

*5-1-3:https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E7%94%9F%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3 (日本薬学会 2006.10.24) 生ワクチン
 病原ウイルスを初代培養細胞または培養細胞などで数十代以上にわたり継代培養を繰り返すことにより、病原性を弱毒化して、ヒトへの感染力と感染防御に必要な抗原(感染防御抗原)を持つ安定な弱毒株を作る。これを生ワクチン製造用株として培養を重ね調整されたものが弱毒性ウイルスワクチンである。一方、細菌の中で唯一の生菌ワクチンであるBCGワクチンは、弱毒ウシ型結核菌を230代培養することによって弱毒化されたものである。また、経口生ポリオワクチンはポリオウイルス1型、2型、3型の弱毒株を混合した多価ワクチンである。他には麻疹、風疹、おたふくかぜ、水痘などの生ワクチンがある。生ワクチン製剤はその有効性を維持するため、ワクチン微生物が死滅しないように、安定剤を加えた凍結乾燥製剤にしてある。生ポリオワクチンは、凍結乾燥でワクチンウイルスが死滅するので、液状製剤である。そのため、凍結保存が要求されている。最終製品はすべて製品ロットごとに、国立感染症研究所において国家検定が実施され、適合するものだけが出荷される。

*5-2-1: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200816&ng=DGKKZO62692170V10C20A8EA1000 (日経新聞 2020/8/16) 特養4割に浸水リスク 洪水時に最大3メートル以上 、東京23区、避難対策の強化急務
 東京23区内にある特別養護老人ホーム(特養)の約4割が、国や都の想定で洪水時に最大3メートル以上の浸水が見込まれる場所に立地していることが分かった。7月の豪雨では熊本県で浸水想定区域内の特養が浸水し、多数の犠牲者が出た。水害が各地で頻発するなか、避難対策の強化が急務だ。
厚生労働省によると、特養は全国に1万502施設(2019年9月末時点)ある。今回の調査は東京23区を対象にしたが、他地域でも低地に建つ特養があり、浸水リスクを抱えるとみられる。7月1日時点で23区内で運営する特養319施設を対象に、国や都が想定する最大規模での洪水時の状況を調べた。調査には住所から災害の被害想定を検索できる国土地理院の「重ねるハザードマップ」を活用した。最大で3メートル以上の浸水が想定されるのは319施設中128施設あり、定員の合計は約1万1千人に上った。内訳は最大3メートルが63施設、同5メートルが56施設、同10メートルは9施設だった。一般的に3メートルの浸水で1階の天井付近まで水没し、10メートルでは3~4階まで水につかる計算になる。大規模浸水が見込まれる東部の区で最大3メートル以上の浸水が見込まれる施設が多い。2017年の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨、九州を中心とする今年7月の豪雨など、近年は大規模な水害が相次いでいる。厚労省によると、今年7月の豪雨では高齢者施設91カ所が浸水被害に遭った。入所者14人が犠牲になった熊本県球磨村の特養「千寿園」は、国が洪水時に10~20メートルの浸水を想定する区域にあった。水防法はこうした浸水想定区域に立地する高齢者施設などの「要配慮者利用施設」に対し、避難計画の策定や避難訓練の実施を義務付けている。具体的な訓練内容は各施設に任され、備えは施設によって差がある。江戸川区のある特養は最大5メートルの浸水が見込まれるものの、年2回実施する避難訓練は、地震や火災の想定にとどまる。担当者は「車いすで生活する利用者が多く、職員が階上まで運ぶのは大変。洪水時については机上で避難の流れを確認するだけになってしまっている」と話す。最大10メートルの浸水が想定される北区の特養では19年10月の台風19号の際に近くの川の水位が上がり、1階にいた利用者約20人を職員4人で2階以上に避難させた。担当者は「当時はエレベーターを使えたが、浸水で停電すると避難が難しくなる」と懸念する。国が「高齢者保健福祉推進10カ年戦略」(ゴールドプラン)を策定した1989年以降、全国各地で高齢者施設の建設が相次いだ。跡見学園女子大の鍵屋一教授(福祉防災)は「急速な高齢化を背景に施設の用地確保が優先され、災害リスクのある場所でも建てざるを得なかった」と解説する。今回調査した東京23区の特養でも、最大10メートルの浸水を見込む9施設はすべて、90年代以降に事業を開始していた。鍵屋教授は「高齢者施設では利用者を別の場所に移動させることで症状が悪化したり、十分なケアができなくなったりするリスクがあり、早めの避難に踏み切りにくい事情もある」と指摘する。中長期的には福祉施設を安全な市街地に移設することが必要だとしたうえで「国や自治体は、避難が必要になった施設の利用者を福祉施設が連携して受け入れる仕組み作りや、安全な避難場所の確保を急ぐべきだ」と話している。

*5-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60690050T20C20A6000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020/6/26) 浸水エリアへの居住誘導やむなし 国交省が指針作成へ
 自治体が住宅の立地を促す「居住誘導区域」を浸水想定区域内に設定している問題で、国土交通省は両区域の重複は避けられないとみて、堤防整備などの水害対策と土地利用などのまちづくりを一体的に進めて被害を防ぐ方針を固めた。水害対策に貢献する再開発ビルの容積率を緩和する制度も創設する。
■「除外すると、まちが成り立たない」
 2019年10月の東日本台風(台風19号)では、浸水したエリアが居住誘導区域に設定されているケースが少なくなかった。全国でも、浸水想定区域を居住誘導区域に含めている自治体は多い。防災やまちづくりの専門家の間では、「浸水が想定されるエリアに居住を誘導するのはおかしい」との声が上がっていた。そこで、国交省は20年1月、都市、水管理・国土保全、住宅の3局合同で有識者会議を設置。そうした区域設定の問題も含め、水害対策とまちづくりの連携を検討してきた。6月12日に開いた第3回会合では、5月に実施した自治体への聞き取り調査の結果を公表。自治体からの意見を紹介した。ある自治体は、交通事業者と連携して、居住や医療、商業などの都市機能を中心部に集約する「コンパクト・プラス・ネットワーク」のまちづくりを推進。都市の成り立ち上、中心部にある鉄道駅や高次医療施設(大学病院)を浸水深3メートル以上の浸水想定区域に含めている。「浸水想定区域を都市機能・居住誘導区域から除外するのは厳しい」とみる。別の自治体は、「(浸水想定区域など)ハザードエリアに既成市街地が多く存在し、誘導区域から除外すると、まちが成立しなくなる。一方、ハザードエリアを誘導区域として公表することにも抵抗がある」と打ち明ける。そのため、国交省の有識者会議は、「多くの都市部が水災害ハザードエリア内にあるなか、居住や都市機能を誘導する区域から完全にハザードエリアを除外することは困難だ」と指摘。河川や下水道などの治水施設の整備と併せ、水害リスクの低い地域への居住・都市機能の誘導、地形に応じた住まい方の工夫、避難体制の構築など、水害対策とまちづくりが一体となった取り組みを推進する必要があるとの認識を示した。国交省は、有識者会議が7月初旬までにまとめる提言を受け、8月にモデル都市を複数選定。その取り組みを踏まえ、21年3月にガイドラインを作成し、自治体などに通知する。
■防災貢献で容積率緩和の新制度
 有識者会議の第3回会合で示したガイドラインのイメージでは、水害対策とまちづくりの連携を促進する考え方を提示。自治体は、防災・治水部局が提供する水害情報を基に、まちづくり部局が地域の水害リスクを評価し、防災目標を設定したうえで、地域の危険度に応じて居住誘導区域などの指定を判断することが重要だと述べている。区域設定のための考え方も提示した。特にリスクが大きい地域(災害レッドゾーン)は原則、立地や開発を規制し、居住誘導区域から除外する。よりリスクが小さい地域(災害イエローゾーン)は、浸水深や建物倒壊の恐れ、避難の容易さなどに応じて、居住誘導区域に含めるか否かを判断する。さらに、浸水深をベースに、浸水継続時間や洪水到達時間、流速、避難時間など他要素も考慮して、区域を設定する。区域設定の具体例も紹介。福島県郡山市は原則として、氾濫水の流れが激しい「家屋倒壊等氾濫想定区域」(L2)と浸水深1メートル以上の区域(L1)を居住誘導区域から除外している。埼玉県志木市は、既成市街地の大部分が浸水想定区域と重なっているが、災害避難場所から1キロの範囲(徒歩10~15分圏内)に含まれるため、居住誘導区域に設定している。一方、まちづくりの防災・減災対策も例示した。土地のかさ上げや緑地・農地の保全など災害発生を未然に防ぐ手法の他、避難路の整備や浸水深以上への居室の配置など災害発生時の人的被害を最小化する手法、宅地や基礎のかさ上げなど災害発生時の建物被害を最小化する手法を列挙。さらに、まちづくりと連携した水害対策として、遊水機能の強化や下水道の整備など内水氾濫を防ぐ手法を挙げている。この他、都市開発プロジェクトで民間事業者が地域の水害対策に貢献する施設整備などに取り組む場合、新築する再開発ビルの容積率を緩和する制度を創設する方針を示した。国交省は、有識者会議の提言を受け、早ければ20年夏にも新制度を導入する。新制度で容積率緩和の対象となるのは、民間事業者が再開発ビルの最上階などに近隣住民が避難できるスペースを設けたり、周辺街区に避難路や避難地などを整備したりする場合だ。都市再生特別措置法に基づく都市再生特別地区で実施する再開発事業では、河川の上流域など離れた場所に仮設住宅用地などを確保すれば、容積率緩和の対象となる。

*5-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/445208 (佐賀新聞 2019年10月24日) <玄海原発>リラッキング、規制委が了承
 原子力規制委員会は23日、九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)3、4号機の使用済み核燃料の貯蔵容量に関し、貯蔵プール内の核燃料の間隔を詰めて保管量を増やす「リラッキング」で増強する計画を了承した。事実上の審査合格となり、九電は2024年度の工事完了を目指している。計画は乾式貯蔵施設との併用を前提とし、乾式貯蔵の審査は継続している。3号機でリラッキングを実施し、貯蔵設備の一部を3、4号機で共用する。貯蔵能力は、現状の1050体から1672体に増える。工事費見込みは約70億円。九電は10年に計画を申請し、今年1月22日に補正書を提出していた。九電はこれまでの審査で、貯蔵プールで15年以上冷却した使用済み核燃料を、今後整備する乾式貯蔵施設に貯蔵する方針を示しており、規制委はこの方針を了承している。審査書の取りまとめで意見募集するかどうかについて、委員長含む5委員の意見が分かれた。「リラッキング自体は技術的に新しくない」として不要とする意見と、「規制委がリラッキングの審査書を取りまとめるのは初めてなので実施すべき」との意見が出た。多数決の結果、3対2で意見募集しないことを決めた。経済産業相の意見聴取などを経て、約1カ月後に正式許可となる見通し。リラッキングと併用する乾式貯蔵施設は、使用済み核燃料を特殊な金属容器(キャスク)に入れて空気で冷やす施設。リラッキングの補正書提出と同じ日に申請し、審査が続いている。リラッキングを巡っては、田中俊一前委員長が安全性の観点から否定的な見解を示していた経緯がある。更田豊志委員長は会合で「プールの貯蔵量が増えることをよしとしないことは規制委で明確にしている。乾式貯蔵施設が整うことがいたずらに遅れないことが重要」と発言した。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200301&ng=DGKKZO56242840Z20C20A2EA1000 (日経新聞社説 2020.3.1) 原発を運転する資質を疑う
 日本原子力発電が敦賀原発2号機の地質データを再稼働に有利な方向に勝手に書き換えていたことが発覚した。原子力規制委員会が規制基準に適合するかどうかを判断するのに重要なデータで、言語道断の行為だ。原発事業者としての資質を疑う。敦賀2号機は原子炉の真下に活断層がある可能性が高く、このままだと廃炉に追い込まれる。原電は規制委の審査会合で、活断層でないと繰り返し反論してきた。そして2月7日、提出した資料のなかの地質データが過去に示したものと10カ所以上も書き換わっていることが、わかった。事態を重くみた規制委が審査を中断し、解析に使った元データの提出を求めたのは当然の対応だ。なぜこうした書き換えが起きたのか。徹底的に追究し、明らかにしてもらいたい。責任の所在も明確にすべきだ。意図的ではなかったと原電は釈明するが、それで許される次元の話ではない。新たな解析で結果が変わったのなら、併記するなどして修正がわかるようにするのが、データを扱う際の初歩だ。それを知らない会社に原発を動かす資格があるのか。こんなことでは18年夏に適合審査に合格した東海第2原発の再稼働も遠のくだろう。地元の合意形成がさらに難しくなる。1966年に国内初の商業用炉となる東海原発を動かした原電は、国策民営で歩んできた「日本の原発」の象徴的な存在だ。主要株主の電力9社にとっても今回の問題は人ごとではない。昨年秋には関西電力で金品受領問題が表沙汰になった。時代錯誤というべき地元との癒着を、東京電力福島第1原発事故後も断ち切れていなかった。四国電力の伊方3号機でも今年1月、信頼を損なう深刻なトラブルが続いた。東日本大震災からもうすぐ9年。電力会社の安全・安心への姿勢は何も変わっていないのではないか。原発の安全性に加え各社の資質も規制委は問うべきである。

*5-4-1:https://www.sankeibiz.jp/macro/news/171017/mca1710170500004-n1.htm (Sankeibiz 2017.10.17) 日本のEEZは資源の宝庫 海のレアメタル、高い採掘技術で国産化前進
 日本にとって“夢”だった国産資源開発の扉が開かれようとしている。経済産業省と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が9月下旬、金や銅などのレアメタル(希少金属)を含む海底の鉱石を安定的に引き揚げる実験に世界で初めて成功。2020年代後半の商業化を目指している。日本は海に囲まれ、世界有数の広さの排他的経済水域(EEZ)を持つ。商業化が実現すれば、外交上の弱点補強にもつながる。成功したのは、マグマで熱せられた海水が海底から噴き出した際、海水に含まれる金属が冷えて固まってできる「海底熱水鉱床」から鉱石を連続して大量に引き揚げる実験だ。鉱石にはレアメタルや鉄のメッキに欠かせない亜鉛などを多く含むとされる。8月中旬から9月下旬まで、JOGMECなどが沖縄県近海で実施した。水深約1600メートルの鉱床に投入した掘削機で鉱石を直径約3センチに砕き、水中ポンプで引き揚げた。重い鉱石を海水とともに目詰まりなく吸い上げるのが課題で、実験では、期間中に数十分間に渡る連続採掘を16回実施し、計16.4トンを引き揚げた。鉱石には7~8%程度鉱物資源が含まれているとみられる。これまでは海底熱水鉱床から鉱石を引き揚げる手段がなく、潜水艇で採掘するしかなかった。
●高い技術力武器
 今回、世界に先駆けて海底鉱石の連続採掘に成功したのは、日本の企業が高い掘削技術を持つからだ。掘削機やポンプは“機械のデパート”とも呼ばれる三菱重工業が手がけた。加えて、海流がある中で船を停止して掘削する高い操船技術もあった。商業化には、ポンプの大型化や掘削機の低価格化など技術革新に取り組まなければならないが、かつて油田開発が盛んだったこともあり、もともと技術水準が高く日本は他国より優位だ。経産省はEEZの他海域での資源量などを調査し、18年度に商業化できるかどうか判断する。海底熱水鉱床は沖縄県近海のほか、小笠原諸島近海など8カ所で確認されている。沖縄本島から北西に約110キロの海底にある伊是名海穴(いぜなかいけつ)の資源量は740万トンで、このうち国内の年間消費量と同等の亜鉛が埋蔵されているとみられている。また、日本のEEZは世界6位の広さで、海底熱水鉱床だけでなく、より深海には、コバルトやニッケル、白金などレアメタルを多く含んだ岩石の集まり「コバルトリッチクラスト」、レアメタルが含まれる球状の岩石「マンガン団塊」など有力な海底資源が存在するといわれている。これらには、高性能モーター用磁石の原料となるレアアース(希土類)なども含まれているとされる。本州から約1800キロ離れた日本最東端の南鳥島周辺からはレアアースを含む泥(レアアース泥)も発見されている。世耕弘成経済産業相は「日本近海では、国内の年間消費量を上回る鉱物の存在が見込まれている。今回の成功を踏まえて国産資源の開発を進め、わが国の鉱物資源の安定供給体制のさらなる強化を主導したい」と語る。ただ、これらの海底資源の開発を成功させるにはいくつもの壁が立ちはだかる。まずは水深だ。比較的浅い海底熱水鉱床でも水深700~2000メートル。マンガン団塊やレアアース堆積物は4000~6000メートル、コバルトリッチクラストも800~5500メートルと深海の底に眠る。採掘機器は海底熱水鉱床でも重要だが、さらに高い耐圧性や密閉性が求められる。また、不純物と有用鉱物を分離する「選鉱」の手法が海中鉱物と陸上鉱物では異なるため、海中鉱物に適した選鉱方法を確立する必要がある。国内ではほとんどの鉱山が閉鎖され、かつては鉱山とともにあった選鉱施設がなくなったことも障害の一つだ。
●有効利用は数十年先
 「登山に例えるなら、ようやく装備が整って、登山口に立てたところ」。経産省幹部はこう打ち明ける。全ての海底資源を有効利用できたとしても、数十年先の未来になりそうだ。ただ、国産資源を持つことは、「生き馬の目を抜く資源外交」(関係者)において、有力な交渉材料となる。10年9月に尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖で海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突。海保が船長を逮捕すると、中国のレアアース対日輸出が停滞した。当時、日本のメーカーは、レアアースを使わないモーターの開発を目指したが、国産資源を持てば対抗できるようになるかもしれない。今回の実験成功を受け、経産省幹部は「何はともあれ、1つの壁を越えた感はある」と安堵(あんど)の表情を浮かべる。JOGMECの辻本崇史理事は「海底資源開発の転機になる」と太鼓判を押す。日本は資源がない国ではない。光が届かない海の底に、日本の希望の光が眠っている。

*5-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61563740V10C20A7TJ2000/ (日経新聞 2020/7/16) 日産EV、10年ぶり新型 SUV「アリア」21年投入、航続距離強み、米中勢追う
 日産自動車は15日、10年ぶりに電気自動車(EV)の新型車を発表した。かつて米テスラと並ぶEVの先駆者だったが新型車を投入できず、販売シェアは4位に沈む。走行距離の長さなどを武器に巻き返しを図るが、シェアの6割を占める米テスラや中国勢の牙城を崩すのは一筋縄ではいかない。「新しい時代を象徴する『アリア』には我々の決意が表れている」。日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は15日、21年から発売する新型EV「アリア」をお披露目した。SUV(多目的スポーツ車)で、日本の実質価格は約500万円から。航続距離は90キロワット時の電池を搭載した二輪駆動タイプで最大610キロメートルと、10年に発売した初代EV「リーフ」に比べ約3倍に伸びた。新型EVは中国専売車を除くとリーフ以来10年ぶりだ。当時リーフはテスラの初期モデル「ロードスター」と並んで量産型EVの草分けだった。日産は当時、仏ルノーと合わせて16年度までに累計150万台のEVを販売する計画を掲げたが、リーフの販売は足元で計45万台超にとどまる。日産は航続距離の短さや充電設備の不足などでEVの普及は限定的とにらみ、独自のハイブリッド車(HV)技術「eパワー」に注力するなど、EVに研究資源を集中しなかった。英LMCオートモーティブによると、19年のEVの世界販売台数は167万台。新車販売全体に占める割合は2%だが、4年で5倍に増えた。けん引したのがテスラだ。廉価車「モデル3」の量産で世界首位に躍り出た。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表はテスラの強みを「米アップルのiPhoneのように洗練されたイメージでファンを増やしてきた」と分析する。中国も新エネ車を普及させたい政府による補助金を背景に市場が急拡大。北京汽車集団など現地メーカーが躍進した。いまや、世界のEV販売でテスラは37万台と22%を占めるまで成長したのに対し、日産とルノー、三菱自動車を合わせた日仏連合は13万台と8%にとどまる。日産はアリアをてこに巻き返しを図る。社内測定で単純比較はできないが、アリアの最大610キロメートルの航続距離はテスラの「モデル3」の上位モデル(560キロメートル)を上回る。内田CEOは「今後はEV含めて年間100万台の電動車を販売する」と意気込む。日産以外の日本車メーカーもEVに本腰を入れ始めた。トヨタ自動車は高級車ブランド「レクサス」初のEVを今春、中国で先駆けて発売した。欧州は今夏、日本は21年前半に発売する。ホンダとマツダも初の量産型EVを年内に欧州で販売し、その後国内で投入する。21年に欧州連合(EU)が自動車の環境規制を強めるなど、EVはさらなる市場拡大が見込まれるためだ。ただ、テスラは先を行く。21年にドイツに欧州初の完成車工場を稼働させる予定だ。中国、欧州の2大市場で製造・販売する体制を築き、米国工場を含む同社の年産能力は現状の1.4倍の100万台に増える。日産のアリアやトヨタの中国で発売済みのレクサスはともに500万円台からと、テスラの「モデル3」と同価格帯の高価格戦略で挑む。ただ「売れるEVを作れるのはまだテスラだけ」(ナカニシ自動車産業リサーチの中西代表)。テスラに匹敵する魅力を消費者に伝えられなければ、苦戦は避けられない。トヨタ幹部は「環境対応車のどれが本命になるかまだ分からない。当面は全方位の対応を続けざるを得ない」と話す。独フォルクスワーゲンなど欧州勢は「EV重視」の戦略を明確化し始めている。国内勢が資源配分に悩んでいるうちに、手遅れになる恐れがある。

<農業の前進>
PS(2020年8月22日追加):*6-1のように、新型コロナウイルスの感染拡大で大阪・山梨のワイナリーの3~6月の売り上げが前年の半分以下に減少し、今年の仕込み量が減らされるそうだ。それなら、新型コロナウイルスに耐性のあるワイン酵母を使ってワインを作れば、付加価値がついて高く売れるので、速やかに新型コロナ耐性ワイン酵母を作ったらどうか? 欧米輸出用は欧米型新型コロナ株、国内用は日本型新型コロナ株に感染させて生き残ったワイン酵母を使えばできると考える。そのため、「新型コロナの影響でマイナスだった」として何でも補助の対象にするのではなく、それを逆手にとって儲かることを考えて欲しい。美味しいワインで新型コロナウイルスを撃退できれば、一石二鳥だ。
 このような中、*6-2のように、JA全中の新執行部は「①JA自己改革の継続や経営基盤強化が重要課題」「②准組合員に運営参画をさせ、関係を強化し、理解・評価を得て准組合員規制を阻止したい」「③食料安全保障と食料自給率向上には食料・農業・農村基本計画の実践が最重要」「④新型コロナの影響で対話の機会が減っているが、可能な限り機会を設けて取り組む必要がある」等と述べておられる。
 このうち①は、農協をあげてならできる新商品の開発やグリーン発電事業を追加して農家と社会のニーズに応えたらどうかと思う。また、②の規制は、いたずらに農協の営業を妨害する望ましくない規制であるためはねつけた方がよく、準組合員の中に食品・ワイン・ジュースの加工業者やグリーン発電事業者を加えれば、農家と一体になって品質のよいものを作ることが可能だ。さらに、③は、これまでの政府のやり方では食料自給率は向上せず、食料安全保障も達成できなかったのであるため、悪かった点をリストアップして変更する必要がある。また、④については、農協もZOOMのようなツールを使って会議をすれば、どこからでも参加できるので必要な人を参加させやすい上、インターネットになじみができてスマート農業に資すると思う。なお、外国の農協ともZOOMのようなツールを使って会議をすれば、参考になる点が多いと思われる。

   
   ブドウ       ロボットで収穫  ドローンで自動化       水田

*6-1:https://www.agrinews.co.jp/p51678.html (日本農業新聞 2020年8月20日) [新型コロナ] 日本ワイン コロナ打撃 醸造用ブドウ豊作も…仕込み減 苦渋の決断 大阪
 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本ワインの苦戦が続いている。大阪や山梨のワイナリーでは、3~6月の売り上げは前年の半分以下に減少。宴会やイベント、インバウンド(訪日外国人)需要の減少などにより、需要が戻らない。2020年産醸造用ブドウは豊作傾向の一方で、今年産の仕込み量を減らすワイナリーも出ている。昭和初期に全国屈指のブドウ産地だった大阪府。100年以上ワイン醸造を続ける大阪府柏原市のカタシモワインフードでは、宴会やイベント向けの需要が落ち込み、3~6月上旬の売り上げは前年と比べ約5割減った。いまだに需要回復の傾向はみられないという。同社は約14万リットル分のタンクを抱える。本来なら今年産の仕込みのためにタンクを空にして準備しているところだが、需要が落ち込んだため、ワインの半分ほどがタンクに残ったままだ。ワインを瓶に移してしまうと半年~1年以下で劣化してしまう。新型コロナ禍で個人消費の減退も予測される中で、早めに売り切れる見込みもない。廃棄するにも費用がかかる。こうした状況から同社では、今年産の仕込み量を減らす予定だという。近年の大阪ワインの人気の高まりから、同社では醸造用ブドウの不足が続いていたという。2019年には20カ国・地域(G20)大阪サミットで大阪ワインが提供されたのをきっかけに知名度が一気に向上し、売り上げは急増。同社では現在の3・5ヘクタールまで「デラウェア」の栽培面積を拡大し続けていた。他にも、同社など府内のワイナリーでつくる大阪ワイナリー協会では、JA大阪中河内や府などとともに「デラウェア」の契約栽培に今年3月から乗り出していたところで「増産に向けて動いていたところに急ブレーキをかけられたような状況だ」(同社)という。同社は「契約栽培分は何としても買い取りたい」とするが、他産地からの購入は減らさざるを得ないという。同協会では、オンラインによるワイナリー見学や、クラウドファンディングなどにも取り組み始めた。消費拡大に向けて試行錯誤を重ねているが「需要の回復にはまだまだ遠い」(同社)。同協会会長で同社の高井利洋代表取締役は「待ったなしで秋が来るが、手の打ちようがない」と葛藤する。
●「全国一」の山梨 需要最大8割減 3~6月
 18年度の国税庁調査で全国一の日本ワイン生産量を誇る山梨県でも、需要が大きく落ち込んでいる。山梨県ワイン酒造組合は、3月中旬から6月にかけて県内のワイナリーで最大で前年比8割減少したとみる。山梨県のJAふえふき直営のワイナリー「ニュー山梨ワイン醸造」では、首都圏からの観光需要の落ち込みで宴会向けや土産向けで大きく減らし、3~5月の売り上げは約5割下がった。県外への移動自粛要請の解除後も、大きな回復はまだみられないという。イベントなどの中止で今後の消費PRも見込めないため、今年産の仕込み量は前年比6割ほどに落とす予定だ。日本ワイナリー協会は「飲食店向けやインバウンドなどの需要が戻らない以上、今後も同様の状況が続く。このまま今年産の仕込みが進んでいけば、在庫処分せざるを得ないワイナリーも出てくるのではないか」と指摘する。
●輸入も1割減
 輸入ワインもコロナの影響を受けている。財務省貿易統計によると、1~6月のぶどう酒の輸入金額は、前年同期比で9%減少した。日本洋酒輸入協会によると「昨年は日欧経済連携協定(EPA)の影響で輸入が伸びていた分、コロナの影響はかなり大きく、前年割れが続いている」。特に、宴会の自粛などでスパークリングワインなどの需要が大きく落ち込んでいるという。

*6-2:https://www.agrinews.co.jp/p51687.html (日本農業新聞 2020年8月21日) 全中・中家会長2期目始動 改革継続へ決意
 JA全中は20日、東京都内で通常総会を開き、中家徹会長(JA和歌山中央会会長)を再任した。2期目をスタートさせた中家会長は総会後の記者会見で、JA自己改革の継続や経営基盤強化などが重要課題になると指摘。「いつまでもJAは必要な組織だと評価してもらうため、自己改革に終わりはない」と決意を示した。准組合員の事業利用規制に関する調査期限が2021年3月に迫る問題では、引き続き准組合員の運営参画が重要だと強調。「関係を強化し、理解・評価を得て規制を阻止したい」と訴えた。経営基盤の確立・強化は「組合員の負託に応え続けるために不可欠」とした。現場実態に応じた改革に向け「組合員と徹底的に対話することが重要だ」と表明。新型コロナウイルスの影響で対話の機会が減っているが、「可能な限り機会を設けて取り組む必要がある」との考えを示した。食料安全保障の重要性にも言及。19年度の食料自給率は38%で目標の45%の達成は「非常に厳しいという見方もある」と指摘した。自給率向上には食料・農業・農村基本計画の実践が最重要とし、行政と協力し対応を進めるとした。この他、新型コロナの影響への万全な対策なども重要課題に挙げた。副会長にはJA佐賀中央会会長の金原壽秀氏を再任、JA福島中央会会長の菅野孝志氏を新任した。会見で菅野副会長は「食料自給率は、地域が自らの課題としてどう高めるかが重要。全国のJAや県連と連携し精力的に取り組みたい」と語った。金原副会長は「農家・組合員の生活を守り地域活性化のために尽力したい」と述べた。通常総会後の理事会で新専務に馬場利彦氏、新常務には山下富徳氏を選んだ。

<中山間地・離島の高校過疎化>
PS(2020年8月24日追加):*7-1に、「①公立高のない市区町村が3割あり、特に中山間地・離島などで『高校の過疎化』が進んでいる」「②農山村の教育力は大きく、(そこでの体験は)高校生にとって大きな財産になる」「③高校・地域社会の協働で地域密着教育を行い、人材育成・地域の課題解決に繋げて高校を核に地方創生に取り組みたい」「④高校との連携には、産業界・自治体・自治会、住民グループ、地域運営組織、NPOなどが参画して、地域づくりの大きな可能性が芽生えた」「⑤大分県の県立久住高原農業高校は全国から生徒を募集する仕組みを作り、新規就農者や地元の農家も集う場と位置付けて地域や農業に活気を呼び込む」「⑥人口減少が進む中、財政事情や効率化だけを考えれば過疎地域の高校は統廃合を迫られるが、過疎地域の高校だからこそできる教育がある」「⑦オンライン教育を過疎地域と都会の高校の連携に活用したい」等が書かれている。
 このうち、②③④は貴重で、農山漁村は、コンクリート造りの都会で勉強していても決して得られない豊富な体験をすることができるという長所があり、農業高校だけでなく普通高校の生徒も、豊かな自然の中で住民と近い関係から得られる体験は大きい。そのため、⑤の全国から生徒を募集する仕組みは、農業高校に限らずよいと思う。また、①⑥のように、過疎化が進んだから現在ある学校を統廃合するというのはもったいなく、例えばスイスのル・ロゼ校(小3~高3、名門寄宿学校)は、世界から生徒を集めている。つまり、校舎や寄宿舎の改修・整備の仕方によっては、学校の足りない国や女子が学ぶと危険な国から生徒を集めたり、都会から生徒を集めたり、企業の研修施設にしたりすることが可能なのだ。さらに、⑦のオンライン教育を取り入れると、中山間地や離島の短所を補うこともできる。
 このような中、*7-2のように、台風8号で沖縄県本部町130世帯、久米島町60世帯、大宜味村10世帯で停電が発生したそうだが、太陽光発電機や風力発電機をつけていれば、停電は問題にならなかったと思う。



(図の説明:1番左の図は、令和3年度に離島留学を募集している離島で、左から2番目の図は、長崎県の離島。離島は狭い範囲に山・田畑・海が1セット揃っているため、容易に多様な自然と触れ合うことができ、放課後に山までマラソンしたり、海で泳いだり、ヨットやボート・釣りなどをすることもできる。右の2つは、洋上風力発電機と尾根などに設置された風力発電機だ)


    

(図の説明:1番左は、養殖場に設置された風リング風車の風力発電機で、左から2番目は、手入れの行き届いた森林だ。右から2番目は、巣箱でかえったフクロウの雛で、1番右は沖縄県慶良間の海中の様子だ。例えば、雪国の野球部の生徒が、冬は雪のない地域の学校で勉強や練習をするのもありだろう)

*7-1:https://www.agrinews.co.jp/p51611.html (日本農業新聞 2020年8月12日) 地域の高校魅力化 農村再生の拠点になる
 公立高校がない市区町村が3割に上る。特に、中山間地や離島では「高校の過疎化」に歯止めがかからない。財政事情や効率化といった基準だけで統廃合を進めるべきではない。高校を核に地方創生に取り組む「高校魅力化」を広げたい。農山村の教育力は計り知れない。高校生にとっても大きな財産になる。公立高校の立地状況は2019年度で、文部科学省が今年7月に初めて公表した。ゼロもしくは1校の割合も6割を超えた。割合は10年度より高まっている。全国で高校が消えていく一方、政府は「高校魅力化」を地方創生政策の柱に据える。高校と地域社会との協働で地域密着での教育を行い、人材の育成や地域の課題解決などにつなげる。高校との連携には、農業をはじめとした産業界や自治体・自治会、住民グループ、地域運営組織、NPOなどが参画。各地で実践が進み、地域づくりに大きな可能性が芽生えている。例えば大分県竹田市久住地区の県立久住高原農業高校。70年以上も分校だったが、19年度に単独校として再スタートした全国でも珍しい農高だ。地域住民と手を取り合って、地域づくりを進める。農高は全国から生徒を募集する仕組みを作り、新規就農者や地元の農家も集う場と位置付け、地域や農業に活気を呼び込む考えだ。「地域にかっこいい大人がたくさんいる」「先進的で地域密着の農業を学べる環境は他にない」など、農高の生徒は地域密着で学べる意義を実感する。人口減少が進む中で、財政事情や効率化だけを考えれば過疎地域の高校は統廃合を迫られる。しかし、地方創生の柱と位置付ける一方で、生徒が減ったから閉校するというのは矛盾だ。高校は、地域を担う人材育成の拠点として捉えるべきだ。地域の教育力も評価すべきである。高校を進学や就職のための通過点とはせずに、生徒が地域の魅力を学ぶ価値を見直したい。農家らから直接教わったり、地域課題の解決策を共に考えたりするなど過疎地域の高校だからこそできる教育がある。新型コロナウイルスの影響により、オンライン教育も一般的になりつつある。これを過疎地域と都会の高校の連携に活用したい。19年度の高校数は全国4887校で09年度から296校も減った。農業系学科がある高校は19年度792校で10年間で53校も減ってしまった。高校の価値を再考し、オンライン教育の活用も進めれば、高校をなくすだけではない選択肢も出てくるはずだ。文科省は22年の春から、都道府県など学校設置者の判断で新しい学科の新設や再編ができるようにする方針だ。農業や地域を包括的に教えることも可能になる。地域に密着した魅力ある高校づくりに、JAや農家などは積極的に関わってほしい。高校は、農山村再生の拠点になる可能性を秘めている。

*7-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1178919.html (琉球新報 2020年8月24日) 台風8号で停電発生、本部町130世帯、久米島町60世帯、大宜味村10世帯
 沖縄電力によると、24日午後12時21分現在、本部町の130世帯、久米島町の60世帯、大宜味村の10世帯で停電が発生している。

<日本の産業と外国人の雇用>
PS(2020年8月27日追加):*8-1-1のように、ミャンマー国軍がロヒンギャを迫害し、74万人のロヒンギャが命からがら隣国のバングラデシュに逃げ込んだ。日本の政府・メディアは、「ロヒンギャの祖国への帰還」をミャンマー政府に働き掛けただけだが、政権トップがアウン・サン・スー・チー氏であっても軍と対立してまで戻すことができない状況は想像に難くない。また、ロヒンギャの方も、再度迫害を受ける可能性のある危険な“祖国”に帰れないのは当然であるため、私は、数多く日本にある(国境離島ではない)離島に公営住宅を建て、企業を誘致して、ロヒンギャの子どもを教育し、若者を就業させるのがよいと考える。何故なら、ある程度、独立したコロニーを作って生活できるからだ。
 しかし、日本には、*8-1-2のように、まだ「①外国人受け入れ、是か非か」という議論があり、「②社会構造の持続へ不可避」という意見がある一方、「③日本人の賃金が安くなるから反対」という意見もある。私は、難民の受入を増やすことは、②に加えて人権侵害されている人に手を差し伸べるという国際貢献にもなる。また、③については、日本人労働者の賃金が生産性と比較して高止まりしすぎていることが、日本企業が海外に逃げ出す原因の1つとなっており、さらに非正規労働者やフリーターも人手不足の業種には行きたがらず、地方は地域を支える力が不足している現状もある。そのため、「人口維持の目的」というより、国際競争力のある生産性に見合った賃金で働く人材としても難民の受入は必要不可欠なのだ。このような中、*8-2-1のように、愛媛県のJAにしうわは、ミカン収穫の作業手順を分かりやすくまとめた動画の作成を進め、熟練アルバイターの獲得が不透明な中で県内のアルバイターの募集を始めるそうだ。しかし、これなら難民や外国人労働者にもわかりやすいだろう。
 なお、*8-2-2のように、日本はLowTech産業による個人用防護具の輸入に占める中国比率が8割、マスクの同比率は96%で、需要急拡大に輸出拡大で応えた中国は偉いが、日本は情けないと言わざるを得ない。また、価格競争になると負けるのが中国依存度を上げた理由だが、これを続けると日本から輸出するものはなくなり、輸入するものばかりになる。何故なら、HighTech産業による新型コロナの予防薬・治療薬も、*8-3-1のように外国頼みであり、日本はビッグチャンスに大学の研究室が自粛させられ、米バンダービルト大学・英オックスフォード大学・アストラゼネカなどのように迅速に結果を出せないからだ。
 このように何でも遅い理由は、*8-3-2のように、「ワクチンは安全性最優先を忘れるな(そんなこと、専門家は百も承知)」などとメディアが足を引っ張るからで、実際には、④不確定な要素があるから研究するのであって(確定していれば研究する必要はない) ⑤遅いから着実とは限らず(単なる怠惰の場合も多い) ⑥初めから透明だったら治験する必要はない わけである。なお、近年起こった子宮頸癌ワクチン接種の副作用とは異なり、新型コロナワクチンは多くの人の目前に迫る感染症リスクを軽減するために行うものであるため、接種したい人も多く、接種に不適当な人や接種したくない人に摂取する必要はないのだ。

   
 2018.12.6産経新聞 2019.5.11東京新聞    法務省     2017.6.16東洋経済       

(図の説明:政府は2019年4月に入管法を改正して在留資格に「特定技能」を創設したが、これは、人手不足に対応するため一定の専門性・技能を有して即戦力となる外国人材を受け入れる制度であるため、1番左と左から2番目の図のように、難民は対象外である。そして、右から2番目の図のように、日本は難民申請者と比較して難民認定者が非常に少ない。さらに、次の先進技術を獲得する手段となる論文数も、1番右の図のように、日本より人口の少ないドイツ・英国以下であり、全く振るわない。何故だろうか?)

*8-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/51157 (東京新聞 2020年8月26日) ロヒンギャ迫害 政権は差別解消率先を
 ミャンマー国軍が、イスラム教徒少数民族ロヒンギャを大量に隣国へ流出させた迫害から三年。祖国への帰還はいまだ実現せず、コロナ禍が追い打ちをかける中、難民長期化の弊害が拡大している。二〇一七年八月二十五日、過激派アラカン・ロヒンギャ救世軍との軍事衝突がきっかけとなったミャンマー国軍の暴力は、酸鼻を極めた。同国西部で住民への無差別殺害やレイプ、放火を起こし、国連によると少なくとも住民一万人が死亡。七十四万人が隣国バングラデシュに逃げ込んだ。国軍兵士らによる迫害は、一一年まで半世紀間の軍事政権時代から始まった。一九七八年、九一〜九二年などに数度、計約五十万人がバングラに逃れている。これらを合わせ、現在の難民は百万人を超えているとみられる。ロヒンギャにはミャンマー国籍がない。軍政下の改正国籍法で、正規国民になれる百三十五民族から除外されたためである。一一年の民政移管後も無国籍のままだ。実は、一七年の軍事衝突の数時間前、アナン元国連事務総長らによるミャンマー政府の諮問委員会が「国籍付与を検討せよ」と政府に勧告する報告書を出していた。諮問委をつくったのは、民政移管後の一六年に国家顧問に就任したかつての民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏だった。しかし、報告書提出直後からの軍事衝突の大混乱で勧告は放置された。政権の事実上のトップは文民のスー・チー氏である。半面、憲法では国軍や警察、国境治安の管理などロヒンギャに直結する分野の権限は軍部が握り「スー・チー氏はロヒンギャに無策」との国際社会からの批判につながっている。同国では十一月に総選挙を控える。スー・チー氏の与党国民民主連盟(NLD)が過半数を維持できるかが焦点だが、政権はこの問題を先送りする可能性があり、看過できない。背景にはロヒンギャを「無国籍の不法移民だ」「仏教徒でない」「人種が違う」「ミャンマー語を話せない」と突き放す冷淡な世論がある。再びの迫害を恐れ、帰還は進まない。難民キャンプでは子どもへの教育や若者への職業訓練の不足で「失われた世代」化への懸念が広がる。コロナ禍で死者も出た。政権は、国際司法裁判所(ICJ)に「迫害停止」を命じられてもおり、諮問委勧告の実施と差別意識の解消に動くべきだ。日本など国際社会も、ミャンマーに救済を強く働き掛け続けてほしい。

*8-1-2:https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=598319&comment_sub_id=0&category_id=1153 (中国新聞 2019/12/20) 外国人受け入れ拡大、是か非か
 外国人労働者の大幅な受け入れ拡大を図る改正入管難民法が昨年12月に成立してから1年。政府が「移民政策はとらない」との立場を取る中、なし崩し的に地域や職場で国際化が進む。外国人労働者や移民の受け入れについて賛否の立場の識者に意見を聞いた。
◇社会構造の持続へ不可避 日本国際交流センター執行理事・毛受敏浩氏
―外国人労働者の受け入れの拡大は必要ですか。
 多様な価値観の人が集まり、独自の人脈を生かすことで新しいビジネスが起こる。移民300万人を受け入れた場合の経済効果は20兆円に上るとの試算もある。地方が国際的に発展する起爆剤になる。今後10年ぐらいは本格的な移民受け入れの準備期間と考えるべきだ。どんな人を受け入れるか入り口が大事。学歴や日本語ができるかなどで国に必要な人材を選択すれば、教育などの受け入れコストは下がる。日本は制度と意識の転換期を迎えた。
―新しい在留資格「特定技能」をどうみますか。
 外国人労働者の受け入れが前進した。しかし、手続きが煩雑で人数はまだ少ない。一方で技能実習は急増している。受け入れ企業の本音ではコストが安い技能実習生を使いたい。日本人並みの給料で転職が可能な特定技能が健全に発展するのか注視している。技能実習制度は根本から見直すべきだ。1993年から続け、中小零細企業に「外国人は安い」という考えが染みついてしまった。制度の目的である技術移転による国際貢献に限定すれば1割も残らないのではないか。就労目的の外国人は特定技能で受け入れるべきだ。
―日本人の仕事が奪われると批判もあります。
 今の日本は景気が良くなって人手不足になっているのではない。少子化が急速に進み、人口の減少が止まらない。地場産業が衰退し農業や介護の現場が回らなくなる可能性がある。社会構造を持続させるために移民の受け入れは避けて通れない。
■地域支える力に
―外国人に期待する役割は。
 これまで「いつか帰る労働者」と過小評価されてきた。しかし、地域には国籍を問わず若い人が必要だ。災害時、高齢者ばかりでは命を助けるのは難しい。半面で一時的に受け入れる今の政策では災害が起きれば出稼ぎ労働者が一斉に帰国するリスクもある。定住外国人は消防団員や伝統文化の担い手として地域を支える力になる。人口減少から外国人の定住政策を積極的に掲げる安芸高田市のような自治体も出てきた。同じような相談が多く寄せられている。自治体間で外国人材の獲得競争が激しくなるだろう。
■国民の意識変化
―政府は「移民政策はとらない」との方針です。
安倍政権を支持する保守層が拒絶している。移民が増えると治安が悪くなるという国民の先入観にも配慮しているのだろう。しかし、ここ数年で国民の意識は大きく変わっている。外国人と交流している人は受け入れに前向きな傾向がある。国のトップにこそ地域で活躍する外国人を表彰するなど多文化共生の先頭に立ってほしい。
◇日本人の待遇改善遠のく 久留米大教授(日本経済論)・塚崎公義氏
 ―人手不足から外国人労働者の受け入れ拡大が進んでいます。
反対だ。日本人労働者、特に非正規雇用やフリーターなどが影響を受ける。人手不足とは経営者側の視点の言葉。裏を返せば労働者側には「仕事がある」ということ。賃上げが期待できる素晴らしい状態だ。人手不足になると、ブラック企業のホワイト化も期待できる。これまで「辞めたら失業者だ」と思って退職をとどまっていた社員も転職先が見つけやすいので踏み切りやすい。そうなると、ブラック企業はホワイト化しないと存続できない。外国人労働者を受け入れることでこうした日本人労働者の待遇改善の機会が遠のいてしまう。不況時の失業リスクも高まる。
■企業にだけ恩恵
 ―一般的には人手不足は悪いことのように捉えられていますが。
 労働者だけでなく、日本経済にもメリットがある。景気対策の公共投資は不要になるし、失業手当の申請も減るだろう。労働力が不足すると、企業も省力化の投資を始める。例えばアルバイトに皿洗いをさせていた店で食洗機を購入すると労働生産性が高まる。外国人労働者の受け入れは企業側にメリットはあるが、日本人労働者や日本経済にはデメリットでしかない。
―そうは言っても介護業界などは人材難が深刻です。
 介護士不足の解消には介護保険料を値上げするしかない。今の介護業界は待遇が悪すぎるから人材が集まらないだけだ。安価な外国人労働者を受け入れるのではなく、日本人の介護士の賃金を上げるべきだ。
―行政は外国人労働者との「共生」に向けた受け入れの準備を進めています。
 日本人労働者が支払った税金で行政コストが賄われているのに対し、外国人労働者の受け入れでメリットを得る企業はコストを支払っていない。これは著しい不公平だ。受益者である企業が負担するべきだ。日本で働く外国人が家族を連れて来られない点を問題視する意見もある。ただ、そうなると行政コストはさらに膨れ上がる。家族帯同を認めると、外国人労働者の子どもに日本語を教えるための費用なども必要になる。そうしたコストに税金を使うのはおかしい。
■人口減やむなし
―人口減少が進む中、将来的に移民を認めるべきだとの声もあります。
 何を大事に考えるかだ。国家の維持か、国民の幸せか。日本の国内総生産(GDP)を守るために人口を維持するなら、大量の外国人を受け入れる必要がある。ただ、GDPが減ること自体は深刻な問題ではない。人口が半分になり、GDPが半分になっても、1人当たりのGDPが変わらなければ、日本人の生活水準は変わらない。私は移民を受け入れてまで人口を維持する必要はないと思う。

*8-2-1:https://www.agrinews.co.jp/p51713.html (日本農業新聞 2020年8月25日) ミカン収穫手順を動画に コロナ受け新規アルバイター獲得へ 愛媛・JAにしうわ
 JAにしうわは、ミカン収穫の作業手順などを分かりやすくまとめた動画の作成を進めている。新型コロナウイルスの影響で県外在住の熟練アルバイターの来県が不透明なことを受けた取り組み。県内アルバイターの募集を始める9月上旬から、ホームページなどで公開することにしている。ミカンの収穫や出荷が集中するのは11、12月。JA管内の八幡浜市、伊方町では昨年度、全国から約350人のアルバイターらが収穫や運搬の作業を手伝い、高齢化が進む産地の貴重な戦力として活躍した。JAは今年度、新型コロナの影響で県外のアルバイター募集を中止。県内での募集に注力し、100人の受け入れを目標に掲げる。過去に何回も収穫作業を経験している熟練アルバイターは、県外在住者が多い。今年は作業に不慣れなアルバイターも増えることが予想されるため、動画を使って収穫方法の周知や産地をPRすることにした。派遣会社などで説明用としての活用も期待されている。JA農業振興部は「新型コロナの感染状況を見極めながら、安心して今シーズンを乗り切れるようにJAとしてあの手この手で支援したい」と強調する。

*8-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200824&ng=DGKKZO62961000T20C20A8MM8000 (日経新聞 2020.8.24) 医療防護具 中国頼み 輸入急増、8割に、マスクなど4品 日米欧、対応に限界
 世界で医療防護具の輸入における中国依存が高まっている。個人用防護具(PPE、総合・経済面きょうのことば)の輸入に占める中国比率は1月の6割弱から8割強まで上昇した。急増した世界の需要に、中国が輸出拡大で対応した。日本の医療用マスクの同比率は96%だ。日米欧は命綱を中国に握られるリスクを警戒し国内生産や調達先の多様化を目指すが、ハードルは高い。国連貿易統計によると、医療従事者が感染を防ぐために身につける主な4品目(マスク、ガウン、防護服、メガネ)の世界貿易額は直近のデータを取得できる5月にかけて急増した。新型コロナウイルス感染者の拡大でPPEの需要が高まった。航空便への切り替えに伴う輸送費も上がった。並行して輸入における中国依存度も1月の平均59%から5月は同83%に上昇した。例えば医師や看護師が使う医療用マスクの世界貿易額は1月に約9億ドル(約950億円)だったが、5月には約10倍の92億ドルまで膨らんだ。日本の5月の輸入に占める中国の割合は96%と1月に比べて16ポイント上昇した。米国は92%で20ポイント増、欧州連合(EU)は93%で45ポイントも高まった。医療用ガウンは5月の日米欧の輸入での対中依存度は8~9割で、1月の4~6割から大幅に増えた。防護メガネの輸入に占める対中比率は日本が73%で1月に比べて2ポイント下がったものの依然として高水準だ。防護服関連も5月時点で7~9割と中国に頼る構造が鮮明になっている。対中依存度が高まったのは、世界の需要急拡大に、感染拡大が一服した中国が輸出拡大で応えた結果だ。主要国はPPEを確保するため中国に頼った。中国からの輸入を増やす一方、輸出を抑えた。米政府は医療用マスクなどPPEの輸出規制を4月から続けると同時に、中国製PPEに課していた制裁関税を特例で解除して輸入を後押ししている。ただ中国は尖閣諸島で対立した日本へのレアアース(希土類)の輸出を絞るなど、貿易を外交の武器に使うことがある。このため各国は国産化と調達先の分散を目指している。バイデン前米副大統領は「必要な医療品や防護具を米国内で生産する」と公約に掲げる。米国は朝鮮戦争下に制定された国防生産法を活用し、米スリーエム(3M)に「N95マスク」の増産を命じるなど国内生産の拡充を急ぐ。それでも高い対中依存度をすぐゼロに近づけるのは難しい。州政府は独自に安価な中国製品の調達に動き足並みもそろわない。世界保健機関(WHO)でPPEなどの物流を指揮するポール・モリナロ氏は「(各国の)増産体制が整ったため現在のPPE供給は大流行開始当初と比べ安定している」と話す。ただ感染再拡大が止まらず「非常に警戒している」と気を緩めない。供給国の1国集中の回避と「第2波」への対応力向上には各国の地道な生産と備蓄の積み増しが欠かせない。WHOはメーカーとの協力で「供給網が止まっても1カ月程度を在庫から各国に供給できるようにしたい」(モリナロ氏)という。日本政府は国産化を後押ししている。18日には興研とサンエムパッケージの2社が国内に設ける「N95マスク」の製造ラインへの助成を決めた。興研は来年1月までに生産能力を月60万枚超上積みする。医療用ガウンは、帝人や東レなどが国内生産を増やす。ワールドは5月に国内の6工場で生産を始めた。ただ中長期的には供給過剰で価格競争に巻き込まれるリスクがあり、新規の設備投資に慎重な企業も少なくない。

*8-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200826&ng=DGKKZO63050910W0A820C2EAF000 (日経新聞 2020.8.26) コロナ抗体薬の治験開始、英アストラゼネカ、予防や症状抑制
 英製薬大手アストラゼネカは25日、新型コロナウイルスの予防・治療薬である抗体医薬の初期臨床試験(治験)を始めたと発表した。特定の細胞に作用する抗体によってウイルスを抑える効果が期待され、安全性や有用性を調べる。英国の18~55歳の健康な被験者を対象に、開発中の候補薬「AZD7442」の投与を開始した。最大48人を対象に検証する。初期治験であるフェーズ1(第1相)で有用性が認められれば、より大規模なフェーズ2以降に移る。この薬は特定の抗原に反応する「モノクローナル抗体」を2種類組み合わせたものだ。がん治療薬にも応用されている抗体の仕組みで新型コロナウイルスを攻撃する。感染の予防に加え、既に感染した患者を治療したり症状の進行を抑えたりする可能性があるという。AZD7442は米バンダービルト大学が発見し、6月にアストラゼネカがライセンス供与を受けた。治験には米政府傘下の国防高等研究計画局(DARPA)と、生物医学先端研究開発局(BARDA)が資金を拠出している。アストラゼネカはこれとは別に、英オックスフォード大と共同で新型コロナワクチンの開発も進めている。抗体医薬は人間の免疫細胞が外敵を攻撃する抗体を人工的につくる。効果が高く副作用が少ないとして期待されている。

*8-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200826&ng=DGKKZO63031550V20C20A8EA1000 (日経新聞 2020.8.26) ワクチンは安全性最優先を忘れるな
 新型コロナウイルスのワクチン接種について、政府の分科会が提言をまとめた。医療従事者、高齢者、基礎疾患がある人を優先対象とする一方で、安全性や効果の両面で理想的なワクチンができる保証はないとの考えも盛り込んだ。今回の提言をもとに政府は秋ごろをメドに接種に関する方針をまとめる。ワクチンへの期待が先行するが、不確定な要素が多い。安全性を最優先することを忘れずに着実に進めてほしい。接種のあり方を議論した21日の分科会では「安全性や有効性についてわからないことが多すぎる」との慎重な意見が相次いだ。米中を軸にしたワクチン開発レースがかつてないスピードで進み、5~10年かかる実用化までの期間を大幅に短くしようとしている。自国ワクチンを世界に広め影響力を強める「ワクチン外交」の動きも活発で、ロシアは今月、最終の臨床試験(治験)を経ずに承認した。安全性を軽視しているともいえ、不安や懸念が広がる。世界保健機関(WHO)によると、6つが最終治験に入っている。英米が手掛ける3つは遺伝子技術を使っており、こうした新タイプのワクチンは医療現場での実績がない。効果があったとしてもどれほど持続するかも不透明だ。ワクチンは治療薬と違って予防を目的に健康な人に接種する。何より安全性が大事になる。深刻な副作用がでると、大きな社会問題にもなりかねない。政府は米ファイザーと英アストラゼネカから供給を受けることで基本合意している。接種によって健康被害が出た場合に、製薬会社の責任を問わない方針だ。通常とは異なる措置で、交渉の経緯や免責判断に至った経緯をきちんと説明すべきである。コロナのワクチンは実現できたとしても当初は感染を防ぐのではなく、発症や重症化を予防するものになりそうだ。流行状況に合わせて、効果と感染リスクや重症化リスクとのバランスを吟味して使い方を判断する必要がある。当面、供給量が限られる中、接種の順位を決めるのは当然の対応である。高齢者の年齢をどこで線引きするか、救急隊員、高齢者施設や保健所の職員も「医療従事者」に含めるかは今後の検討課題になった。詳細を詰める議論の内容もすみやかな公開が求められる。パブリックコメントを募ったうえで政府は方針を決定すべきだ。

| 男女平等::2019.3~ | 09:23 PM | comments (x) | trackback (x) |

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