■CALENDAR■
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31       
<<前月 2024年03月 次月>>
■NEW ENTRIES■
■CATEGORIES■
■ARCHIVES■
■OTHER■
左のCATEGORIES欄の該当部分をクリックすると、カテゴリー毎に、広津もと子の見解を見ることができます。また、ARCHIVESの見たい月をクリックすると、その月のカレンダーが一番上に出てきますので、その日付をクリックすると、見たい日の記録が出てきます。ただし、投稿のなかった日付は、クリックすることができないようになっています。

2020.6.9~15 日本の医療・社会保障と消費税 (2020年6月16、18、21、22日追加)
    

(図の説明:左と中央の図のように、米国とフランスでは、新型コロナの流行期に超過死亡率が発生している。これは、検査数が足りず、患者の把握が不十分であれば当然生じるものだが、日本では、右図のように、3月以降の超過死亡率は公表されていない)

(1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政
 健康保険等の保険が適用される医療費・薬代は非課税取引とされているため、患者が医療機関で保険を使って診療を受けた場合に支払う医療費には消費税が加算されない。しかし、病院が購入した財・サービスの仕入れには普通に消費税がかかり、非課税売上に対する仕入税額控除はできないため消費税を転嫁できず、消費税分をすべて医療機関が負担することになっている。(https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/6205.htm 参照)

 これは他産業と比較して著しく不公平・不公正であるため、「保険が適用される診療だから消費税を課さない」ということを貫徹するのなら、非課税取引ではなく0税率の課税取引か免税取引として医療機関が支払った消費税は医療機関に還付すべきだ。この不公平・不公正税制により、コロナ禍以前から病院経営は圧迫され、医療機関の弱体化や危機は起こっていたが、これが続くと、既にある医療システムが崩壊するとともに、医療従事者の質が落ち、国民の命がさらなる危険に晒される。

 この点について、*1-1のように、日本病院会が、「(現場を知らない素人の思い付きで部分的に行われる)診療報酬への上乗せでは不公平・不公正を解消できないため、課税化への転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきだ」と2019年8月7日に、2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出したが、今のところ無視されている。

 なお、一つの医療法人が、「医療福祉」と「その他の産業」の双方を事業として行っている場合は、他の産業と同様、仕入れを売り上げに紐づけしたり、案分したりして計算するのが適切だと考える。そのほか、(何故か)著しく高価な医療器械の購入や個室・陰圧を標準とした病室への設備投資を促進する税制を拡充し、特別償却や加速償却を可能にすることも重要だ。
 
 さらに、基幹病院として公的運営が担保された医療法人は、赤字になっても維持しなければならない診療科や病床があるため、国もしくは地方自治体からの補助金や寄付制度が必要である。

 このように、不公平・不公正な消費税制のため、*1-2のように、全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッド等の購入時に支払った消費税を診療費に転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかったそうだ。このほか、診察に使う機器やガーゼなどの消耗品は病院が購入時に消費税も支払うが、病院の負担になっている。私大の付属病院はじめその他の病院でも同じことが起こっている。そのため、病院側はコスト削減の工夫を重ねているそうだが、医療器具は日本とは思えない粗末なものが多く、衛生器具を節約するのは危険であるため、まずは消費税制の不公平・不公正を解消すべきだ。

 JA厚生連の病院も、*1-3のように、経営状況が厳しいそうだが、消費税10%への増税で医業収益が減っていたことに加えて、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収になっているのだ。基幹病院は、いつでも満床では困るのであって、普段から空床確保分も含めた診療報酬を支払っておくべきだ。そのため、新型コロナで初めて思ついたように、減収支援・医療従事者への危険手当・医療物資や機器の配給体制・病院が赤字続きで地域医療が崩壊しないようにしなければならない等々と言っているのは、近年の厚生行政の失敗にほかならない。

(2)新型コロナの検査抑制による医療崩壊
1)人命よりも行政の組織防衛優先の考え方
 確かに、安倍首相や官邸は「しっかりやります」と繰り返したが、*2-1のように、厚生労働省の動きは一貫して鈍く、PCR検査は1日2万件に届かなかった。その背景にあったのが国立感染症研究所が感染症法15条に基づいて2020年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」で、「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。

 検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わったが、「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」という限定付きで、その姿勢は2020年5月29日の最新版でも変わらないそうで、非科学的この上ない。しかし、厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いたため大都市中心に経路不明の患者を増やし、日本全国で外出を自粛しなければならない羽目になった。

 厚労省は、自らが適当に作ったルールにこだわり、現実との齟齬を無視するような感染症対策の失敗は今回が初めてではなく、2009年の新型インフルエンザ流行時も疫学調査を優先してPCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中して、いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかって関西の病院を中心に人々が殺到し、2010年にまとめた報告書で反省点を記した。

 その内容は、「保健所の体制強化」と「PCR強化」だそうだが、保健所を通したことがPCR検査が目詰まりになった原因だ。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文科省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰で、首相が「使えるものは何でも使えばいいじゃないか」と語っても組織防衛の方が優先する意識では、厚労省は命を託すに足りない組織なのである。さいたま市の保健所長は、「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」と話したが、これは事実だろう。

 19世紀に始まった日本の官僚機構は、日本が後進国で先進国の欧米諸国を目標にして駆け抜ければよかった時期には強力に機能したが、日本が先進国となり自らがモデルを作らなければならなくなってから機能しなくなった。その理由は、官僚機構は、前例や既存のルールにしがみつきがちで、目の前の現実を把握し、それに対応しながら工夫して新しいものを作りだすことが苦手な組織だからである。

 政府が有効な対策を打たなかったため、コロナ第2波に備えて必要なのは「日本モデル」の解体だと、*2-2は主張している。ただし、原因は、安倍首相ではなく、厚労省はじめ行政であり、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができたのは、検査すら十分に行わないため国民が危機感を感じて自粛したという「日本ならではのやり方」だったのだ(!)。

 こうなった理由は、COVID-19が指定感染症に指定されたためで、これにより「①感染者は無症状でも強制入院となり」「②厚労省はこの時COVID-19の無症状感染者の存在を想定しておらず」「③厚労省が指定感染症に指定する4日前の1月24日には、『ランセット』が無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた」のだそうだ。さらに、「④無症状者も入院させなければならないため早くから病院体制の崩壊が心配され」「⑤これがPCR検査の大幅抑制に繋がり」「⑥厚労省担当課の勉強不足と不作為が国家的悲劇を生み、国立感染症研究所・保健所・地方衛生研究所が束になって行ったのが『日本モデル』」なのである。

 また、「⑦新型コロナ襲来に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制は殆ど歯が立たず、多くの『超過死亡』を出したが根拠となる数字の説明がなく」「⑧PCR検査による新規感染者数はCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるため、『ランセット』が単純な超過死亡数をリアルタイムで活用することを求めており」「⑨体制としての保健所の限界は、PCR検査体制についても、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらないという状況だった」のだ。従って、保健所の人員を増やすのではなく、検査に保健所の仲介をなくすことが必要不可欠なのである。

2)検査抑制による医療機関の外来診療拒否と重症化は、医療崩壊そのものである
 PCR検査が抑制されたことによって、*2-3にも、「⑩留学先のカナダから帰国して間もない女性が39度近い熱を出したが、医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話も繋がらず、内臓疾患だったことが判明した」「⑪日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり」「⑫政府は検査能力を増強したが、目標の『1日2万件』を達成したが、実際の検査数は半数にも満たなかった」「⑬同様の事例が各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースも多かった」という状況になった。

 重症化リスクのない人にはPCR検査は不要だと何度も聞かされたが、*2-4のように、新型コロナの感染者が心臓・脳・足などの肺以外で重い合併症を患う症例が世界で相次ぎ報告されており、回復した人も治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクが指摘されている。しかし、ウイルスは診療科に分かれて感染するわけではないため、重症化するにつれて身体全体に症状が出るのは当然なのである。

 また、検査しなかったために新型コロナと判定されずに亡くなった方は、*2-5のように、「超過死亡」に入るが、今年は偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多く、毎週20〜30人の超過死亡が起きていたのに、データを発表した感染研は「原因病原体が何かまでは分からない」としている(??)。

(3)新型コロナの病院への一撃
 日経新聞は、*3-1のように、「①不要不急な診療は控えて、医療費を節約せよ」「②軽い風邪や腹痛、花粉症は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品で凌ぐことができたのだから、風邪なら自力で治そう」「③高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった」などの呆れる医療政策を書くことが多い。

 そのうち、①については、先延ばしが可能だということと不要であるということは違う上、②については、軽い風邪や腹痛なのか重い病の前兆なのかを自分で勝手に判断することほど危ういものはないため、まずあらゆる検査のできる基幹病院で診断を確定してから、そこで治療を受け続けるか、近くの医院に紹介してもらうか、売薬ですませるかを決めなければ、病を重症化させてしまってあらゆる方面で被害甚大になる確率が高くなる。そのため、国民皆保険を自慢している日本で何を言っているのかと、私は常日頃から思っている。

 さらに、③についても、高度医療を提供する大学病院や専門病院も、PCR検査を自由にできなかったばかりに、新型コロナの院内感染を恐れて患者が減ったり、手術を先延ばしせざるを得なくなったりして損失を蒙っているのである。

 なお、病院経営に悪影響を与えているのは、新型コロナの流行以前からの消費税の満額負担と現場の真実をチェックしない観念的な医療改悪政策によるものであるため、コロナ対応病院への資金援助も必要だが、その後は改悪ではない地域医療の再構築を進めるべきである。無医村ではあるまいし、セルフメディケーションしなければならないようでは困る。

 また、馬鹿の一つ覚えのようにオンライン初診・再診とも言っているが、オンラインでは得られる情報量が少ないため、補助的にしか使えないことも何度も書いた。さらに、“軽症”の定義もおかしく、“軽症のコロナ感染者”とはどの程度の人を言うのか。定義を曖昧にしたまま、どこで治療するかや医療資源を最適配分するにはどうするかなどは語れないのである。そして、医療保険の加入者や納税者としては、受診や検査を小さくケチって命を危険に晒された上、何十兆円もの補助金を使われる羽目になったようなことこそ、やめてもらいたいのである。

 自民党医師議員団本部長の冨岡氏は、*3-2のように、「④日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れたので、第2波に備えて体制の拡充が急務だ」「⑤これまで検査せずに医療費を抑えた面はあったが、かえって医療費が増える」「⑥政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい」「⑦最短2~3時間で終わるLAMP法も導入すべきだ」「⑧抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい」と述べておられる。

 このうち、④⑤はやはりそうだったかと思われ、⑥⑦はそのとおりだが、⑧は妊婦・医療従事者・教員・その他の必要な人には行うべきだ。そうして検査数を重ねるうちに、特徴がわかり評価が確定するものだ。

 また、*3-3のように、「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などとした他に類を見ない受診目安を作り、小さくケチってPCR検査が遅れた結果、重症化したり死亡したりした人が出て大きな損害になったことについては、その妥当性について十分な検証が必要である。

 従って、*3-4のように、厚労省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院については、病気の基本である感染症を考慮するのは当然のことであるため、感染症病床の有無を考慮しないような人が医療再編や医療制度について語ること自体が間違いなのである。

 なお、*3-5のように、新型コロナ対策でコストがかさんだり、一般患者が感染を恐れて受診を控えたりして病院経営が揺らいでおり、医療従事者へのボーナスなどの一時金をカットせざるを得ない病院や施設が相次いでいるそうだ。つまり、感染拡大前から病院にぎりぎりの経営を強いて経営を脆弱にし、すでにあった医療制度という重要なインフラを壊しかけていたのが、厚労省・財務省の病院いじりであり、その結果、国民に重大な損失を蒙らせているのである。

(4)新型コロナの経済対策
1)新型コロナを利用した無駄遣い
 加藤厚労大臣は、5月22日、*4-1のように、新型コロナ関連の解雇や雇い止めが5月21日時点で10,835人に上り、雇用情勢が日を追うごとに悪化していることを明らかにした。しかし、業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給される筈の雇用調整助成金も、なかなか振り込まれず困っている事業者が多いそうだ。

 持続化給付金も、民間委託して目的外の経費を多く使った上に守秘義務も危うい方法を取るよりも、税務署か地方自治体に一括委託すれば、税の支払いは普段から自動振替にしている人が多いため、預金口座の問題が生じず、還付金や給付金の支払いにも慣れている。そのため、退職者を臨時雇用して仕事をこなせば、正確で早く、年金も節約できるだろう。

 なお、*4-2の観光割引予算1兆6,794億円とその約2割を占める外部委託の事務費3,000億円も無駄が多すぎる。そのため、PCR検査・抗体検査・治療薬・ワクチンなどを充実して早く正常な状態に戻すことが重要なのだ。

2)政府による布マスクの全戸配布
 安倍首相が全戸配布された布マスクは、6月になってうちにも届いた。しかし、*4-3のように、「質か量か」という選択をさせられ、検品もしていなかったため、質の悪すぎるものが散見されたようだ。

 私は、マスクと言えば、使い捨ての不織布マスクしか知らない世代が、布マスクでは防御できないなどと言っていた中で、10枚重ねのガーゼマスクは、私の子どもの頃には標準的だったし、洗って繰り返し使える製品でもあるため、親近感を感じた。また、その後、よい布マスクが出てくるきっかけにもなったが、支出金額は多いのに品質が悪すぎたのはよくない。

 しかし、この布マスクを作るにあたっては、「①生地は中国・ベトナム・スリランカなどのアジア各国で探して集めた」「②タイとインドネシアで生地を加工した」「③縫製は中国の加工業者に依頼した」「④検品も中国」「⑤興和の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くもので、それでは期日までに調達できない恐れがあるので政府側が断った」「⑥介護施設など向けの布マスク21.5億円分の契約書には不具合が見つかっても興和の責任を追及しない条項が入った」「⑦配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は、緊急を要する発注だったのでこのような契約を結んだ」と書かれている。

 このうち、①②③④については、マスク一つを作るのに、生地も加工も検品も外国で行い、それも運賃をかけて数か国を渡り歩いている点で無駄が多い。この頃、日本国内では休業や自粛で人が余っていた筈なのに、国民の税金が海外で使われたことは情けない。また、⑤のような縫い目のずれはどうでもよいが、マスクは徹底的に清潔に作られたか否かが最も重要なのに、そこが危うい。さらに、⑥⑦のように、緊急を要するから不具合が見つかっても興和の責任を追及しないという契約は、一見優しそうだが、国民を愚弄している。そのため、このような国になっては、日本製は終わりだと思う。

(5)新型コロナだけが原因ではない介護崩壊
 特別養護老人ホーム・老人保健施設・有料老人ホーム・グループホームなど入所系の高齢者施設で、*5のように、4月末までに利用者380人余り、職員170人の合計550人余りが感染し、このうち約10%の60人が死亡したそうだ。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者が占めており、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しているとのことである。

 富山市の老人保健施設の例では、介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者が多く、深刻な人手不足で最低限の食事や水分をとらせるだけで着替えをしたり体を拭いたりすることが殆どなく、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らず、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造だったそうだ。個室ですらない高齢者施設は設備が悪くてプライバシーにも欠けるため、高齢者施設を全室個室にし、身体の清潔を保ち、栄養をとれる食事を出すくらいの福祉は、憲法第25条に基づいて行うべきである。

(6)(じわじわ続く)年金崩壊
     
                      2020.5.21朝日新聞 2019.12.25毎日新聞

(図の説明:現在の年金制度は、左図のようになっている。これについて、高齢化社会と健康寿命の延びを踏まえて、中央及び右図のように、年金改革が行われた)

 年金改革関連法が、*6のように成立したが、その主な内容は「①非正規雇用労働者への厚生年金の適用」で、「②現在は週20時間以上30時間未満働く労働者は従業員数501人以上の企業のみで厚生年金への加入が義務づけられているが、2022年10月からは101人以上、2024年10月からは51人以上に改める」というものだ。

 ①②により、新たに約65万人が厚生年金に加入すると見込まれるが、「小規模企業で働く労働者は老後の生活保障がなくてもよい」ということになる理由は、年金保険料支払者の増加のみを目的にして厚生年金への加入要件を決めているからだ。これは、国民の立場から社会保障の必要性を定めている日本国憲法第25条の「1項 すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項 国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に反する。従って、憲法は変更する前に守るべきだ。

 また、「③年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている」「④今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない」「⑤しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ」「⑥全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない」「⑦国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示された」「⑧基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まない」については、年金資産管理で失敗した省庁の説明を鵜呑みにして書いているだけであり、メディアとしてレベルが低い。

 具体的には、③は途中から賦課課税方式に変更した政策の失敗によるもので、年金保険料を支払ったのに受給する段階になって反故にされる世代が出ていることこそ年金崩壊である。また、④によって実質年金が減らされ、これまで日本を支えてきた高齢者が生活できなくなる事態を生んでおり、これこそ憲法25条違反だ。⑤⑧については、現役世代への(買収すれすれの)膨大な補助金や無駄遣いをやめて自ら稼がせることを考えるべきで、日本で実質GDPが増えないのは、⑥のような「痛みの分かち合い」ばかりを主張する価値観によるところが大きいのだ。なお、⑦はよいことだが、定年延長や定年廃止とセットでなければ議論できない。

(7)日本における経済分析の問題点


(図の説明:左図のように、2000年に導入された介護はニーズの高いサービスだったため、2020年には12兆円市場に伸びたが、政府は供給を抑制し続けている。また、中央の図は、「年代別1人当たり所得は、70歳以上で20代・30代より高く、高齢者は金持ちだ」という主張に資するものだが、年金だけで年間192万円/人の所得のある高齢者は滅多にいないため、このグラフの下になった数字の出所が重要だ。また、保育サービス不足は1970年代から言われているが、今でも充実しておらず、右図のように、教育費の高騰とあいまって少子化の原因となっている)

 豊かな高齢化社会で共働きが主流になった日本では、医療・介護・保育・家事支援サービスやその関連製品が必要不可欠で付加価値も高い。しかし、政府(厚労省・財務省)は一貫してこれを抑え、従来型の加工貿易(特にガソリン車の輸出)に固執した(経産省)。そのため、日本は経済成長率も出生率も上がらなかったが、それでもこういう政策を維持してきた。何故か?

1)経済分析と呼ぶに値しない“経済分析”
 内閣府が、*7-1のように、2020年5月18日に発表した2020年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は、物価変動の影響を除いた実質成長率は前期比0.9%減、このペースが1年続くと仮定した年率換算は3.4%減だったそうで、これには2019年10月からの消費税増税・新型コロナに対応した外出自粛による個人消費の低迷・訪日外国人客の減少等の影響がある。

 しかし、現在の日本は、安い賃金を活かして国内で製造し輸出して、国民は貧しい生活を耐え忍ぶ人件費の安い開発途上国を卒業した。そして、国内の個人消費がGDPの6割近くを占め、世界に先駆けて高齢化して人口に占める65歳以上の高齢者割合が30%を超える国なのである。そのため、実質年金額を減らし、消費税増税を行って高齢化社会で必要とされる財・サービスへの消費を抑えたのは、国民の福利を削ったと同時に、高齢化社会で求められる財・サービスの開発にもマイナスになったのである。

 この現状を直視せずに、100年1日の如く、従来型の自動車輸出や住宅投資に依存しようとし、原油や天然ガスの輸入を景気のバロメーターにしていることが経済分析を意味の薄いものにし、とるべき政策を誤らせている。こうなる理由は、日本の経済学者が統計学(数学の中の微分・積分を使う)・社会学(実地調査をする)・人間行動学(行動を決める要素を調べる)に弱く、欧米で作られた公式を丸暗記しているだけで現在のミクロの実態を反映した新しいマクロ経済学の公式を作ることができず、現在の日本及び世界の現実に合った経済分析ができないため、「従来どおり」を繰り返して誤った政策に導くからである。

 そのため、このまま進めば、新型コロナで外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだのは一時的であるものの、長期的にも日本経済は下降するだろう。

2)政府が進めるインフレ政策
 *7-2には、「①生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、前年同月より0.2%下がり101.6だった」「②新型コロナの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった」「③市場では指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い」「④物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まった」「⑤品薄が続いたマスクは5.4%上昇した」「⑥増税の影響で外食が2.7%上がった」「⑦外出自粛による需要の高まりを背景に生鮮野菜は11.2%上がり、キャベツは48.2%上昇した」「⑧損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9.3%上昇した」「⑨増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94.0%下がった」などが記載されている。

 この記事は、インフレがよいことでデフレが悪いことであるかのような論調で書かれているが、本来の中央銀行の仕事は、貨幣価値を安定させて国民の財産を守ることであり、意図的にインフレを起こして国民の財産を目減りさせることではない。

 さらに、物価は、⑤⑦⑧のように需要が多ければ上がり、①②③のように消費者の財力やニーズの低下があれば下がるという現象であるため、④のように、デフレだから金融緩和して物価を上げようとすると、国民の財力がますます低下して節約を強いられるので、やはり物価は上がらない。そして、こうした国では、企業の投資も起こりにくい。なお、需要が増えないのに原油価格の上昇などのコスト要因で物価が上がるのをスタグフレーションと呼び、悪いインフレである。また、⑥⑨のように、政府の政策によって物価が著しく変動することもあるわけだ。

3)“新自由主義”は悪いとする歪んだ論理
 個人の諸自由を尊重して封建的共同体の束縛から解放しようとする価値観に反対する人は現在の日本にはいないと思うが、その理由は、*7-4のように、自由を至上の価値とする近代西欧社会で育まれた自由主義が、現在では日本国憲法の中で「人が生まれながらに持っている人権」「人間がかけがえのない個人として尊重され、平等に扱われ、自らの意思に従って自由に生きるために必要不可欠な権利」として明記されているからだ。それには、私も120%賛成である。

 日本国憲法第12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と明記し、具体的には「精神的自由権:思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20条1項前段)、集会・結社、表現の自由(21条)、学問の自由(23条)」「経済的自由権:居住・移転、職業選択の自由(22条)、財産権の不可侵(29条)」「身体的自由権:奴隷的拘束や苦役からの自由(18条)、法定手続の保障(31条)、住居の不可侵(35条) 被疑者・被告人の権利保障(33条、36~39条)」等の条文がある。

 これに対し、*7-5は、新自由主義とは20世紀の小さな政府論のことで、「①政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策」「②緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い」「③アダム・スミスは、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要性を説いた」「④20世紀に大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった」「⑤1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率が大きな問題となり、小さな政府への改革が広まった」「⑥日本も80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた」「⑦日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対している」「⑧小泉政権は新自由主義改革を推進し、郵政民営化・社会保障費の抑制などが遺産となっている」としている。

 しかし、1995年前後以降は私が関与しているので知っているのだが、このうち①は、現場を知らない省庁が自らの権力を維持するために細かい規制を作って意地悪く運用すれば、民間も新しいことができなくなり経済発展を阻害するため、重要なことなのだ。また、国が破綻しないためには、膨大な無駄遣いを排除する必要があり、②の緊縮財政・外資導入・国営企業の民営化・適切な補助金カットなどは進めたが、そのために必要なリストラならともかく、公共料金の値上げや本当に必要なセーフティーネットの削減を意図したことはない。まして夜警国家になるなど前近代的で、これらは将来大きな政府に戻したい官僚が企んだことだろう。

 また、③のアダム・スミスが言う「神の見えざる手」とは、「市場における需要と供給が生産調整をすすめ、市場の自由を徹底することが経済発展を進める」と説いているもので、これは共産主義・社会主義経済が失敗し、市場主義に移行してから復活したことで歴史的に検証済だ。ただし、市場の失敗もあるため、補足的に④のケインズ主義政策が行われたのであり、ケインズ主義政策ばかりでは国家財政が破綻するのは時間の問題で、社会保障もできなくなる。

 日本では、1980年代に、⑥の第2次臨時行政調査会による行政改革が行われ、⑦のように、無駄遣いが多く効率の悪い官僚的性格を廃し始め、小泉政権は⑧のように郵政民営化を進めた。しかし、私が自民党内でいくら反対しても社会保障費抑制を進めたのは、財務省と厚労省である。

 つまり、私は、ここでいう“新自由主義改革”を推進してきたので知っているのだが、社会保障はもともとは保険で行われており、管理の杜撰・給付の不合理以外は主張したことがない。また、政府の役割を治安維持や防衛に限定することは、歴史的教訓を踏まえない愚行だと思う。

 しかし、*7-3のように、新自由主義という言葉が、ニュースや論説で批判のためによく登場するのは事実で、その内容については「国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線なのに、一部のメディアや知識人がそれを新自由主義のせいにしたがっている」「物事を正しく理解し、議論するには明確な言葉を使うことが必要不可欠である」「新自由主義などという定義と正反対の使用がまかり通る言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはできない」というのは、全くそのとおりだと思う。

 なお、マクロン政権が環境政策の一環としてガソリンと軽油を増税したように、環境問題を税制で解決することは大きな政府とは関係なく、私は“アリ”だと考えている。何故なら、政府が放っておけば外部不経済として環境を汚した者が得する場合に、政府が介入して無料のものを有料にし、望ましい方向への切り替えを促すことができるからだ。しかし、これが適切に行われるためには、政府の見識の高さが必要なのである。

(8)資源の使い方と財源
1)国有林の民間による伐採
 2019年5月16日に、全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、*8-1のように、衆院農林水産委員会で可決され、6月5日に参議院も通過した。

 しかし、国有林・民有林の両方とも先祖が大切に育てた木材資源であり、特に全国の森林の3割を占める国有林は国民の財産だ。そのため、「低迷する林業の成長を促す」という建前の下、特定の民間に大きく開放することは、対価として徴収する権利設定料や樹木料の安さから、せっかくある国民の財産を叩き売りすることとなり、「森林を守る」「資源を活かす」などの発想がないことも明らかである。

 さらに、伐採後の植え直し(再造林)は別の入札で委託して国民の血税を使って行うとのことであり、金を使うことしか考えない政治と行政では、国の財政破綻による緊急事態で、イタリア・ギリシャのように社会保障が削減されるのは時間の問題となるわけだ。

2)放牧の中止
 山の多い日本では、山を賢く使って放牧すれば、家畜を畜舎に閉じ込め、外国から餌のトウモロコシを輸入して、脂肪の多すぎる肉を作る必要はない上、食料自給率も上がる。

 しかし、*8-2のように、農水省は、豚や牛などの放牧制限をしようとしており、何をしているのかと思う。豚熱でもワクチン接種すれば放牧して問題ない上、それ以外の地域まで畜舎の整備を義務化する科学的根拠もないだろう。

 オーストラリア・アメリカ・カナダ・ヨーロッパでは当然の如く放牧している。そして、その方が家畜のストレスが少なく、家畜の免疫力が向上して病気にも強いため、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などに繋がるのである(まさか、これが困るのではないでしょうね)。そのため、雨風に備えて一定の畜舎はあった方がよいものの、舎外飼養の中止要請は非科学的だ。つまり、農水省は科学的根拠もなく、農家への影響調査もしていないようなことを、改正案に盛り込むべきではない。

3)地方創成
 新型コロナ以前から、*8-3のように、東京圏在住者は地方暮らしに関心があると答えており、コロナ後は、さらに都市住民の田園回帰志向が強くなっている。

 「やりたい仕事」は、「農業・林業(15.4%)」が最多で、「宿泊・飲食(14.9%)」「サービス業(13.3%)」「医療・福祉(12.5%)」が続き、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かったそうだ。これらは、今後のニーズを考えれば自然であるとともに、東京一極集中を解消するためにも有効である。

 しかし、地方圏暮らしへのネガティブイメージに「公共交通の利便性が悪い(55.5%)」「収入の減少(50.2%)」、「日常生活の利便性が悪い(41.3%)」などが挙がっているのも当たっており、農林漁業等々で稼げなければ夢破れて二度と田園回帰志向は起こらないだろう。さらに、教育・医療・公共交通の充実による生活の利便性は、人口が増えればある程度はよくなるものの、意識的な充実が不可欠だ。

4)公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築
 厚労省は、*8-4のように、新型コロナで入院病床が逼迫したのを受け、感染症対応の視点が欠如していた約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしするそうだ。

 しかし、地域で重複している診療機能を役割分担して効率化したり、社会的入院をなくして高齢者施設を充実しながら、医療提供体制の無駄をなくしたりすることは重要だが、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増するから、2018年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らすというような単純な医療費・病床数削減を目的とした病院統合なら1人当たりの福祉が小さくなるだけであるため賛成しない。

 また、近隣に競合病院があっても、セカンド・オピニオンを得るために重複して受診することもあるため、新型コロナの検査基準のように「非科学的でも、ともかく病院には行かないで欲しい」などという価値観を持って医療体制の再構築をしようとしている厚労省は、命を託せる省庁ではないことが明らかになったのだ。

 さらに、少子高齢化で、急病・大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性が低くなるというのもおかしく、高齢になると多発する脳血管疾患や心疾患は「高度急性期」「急性期」そのものであり、そこで命が助からなければリハビリといった「回復期」病床に行くこともないため、結論ありきの非科学的な議論はやめるべきだ。

 最後に、病院は重要なインフラであり、病院がなくなれば、都会から移住するどころか、現在住んでいる人もその地域に住めなくなる。そのため、厚労省が狭くて短い視野で考えた無茶な病院再編や効率化を実現させないために、公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築に関わる意思決定は地域が行うべきだ。そして、その財源は、資源を安くたたき売ったり投げ捨てたりせずに、有効に使うことによって出る。

(9)研究と特許の意義
 経済学の公式が「与件」として「一定で変わらない」と仮定している要素に、「技術進歩」がある。1953年にワトソン・クリックがDNAのらせん構造を発見して以来、目覚ましい進歩を遂げている生命科学の進歩も無視されており、今回の新型コロナ騒動に際して100年前のスペイン風邪と同じ公式を使っていたというのは、聞いて呆れた。

 そして、日本では、政府もメディアも、生命科学者が瞬く間にウイルスの遺伝情報を読み、その弱点を突いたワクチンや治療薬を作れることを無視していたため、人材はいるのに技術開発で先んじて特許権を得ることを放棄させた。また、国内外の経済封鎖を続けることによって経済に大きなダメージを与え、それをカバーするために血税から多大な支出をしている。どうして、こういうことが起こるのかといえば、そういうことの全体を瞬時に考慮できる専門家をリーダーにしていないからである。

1)新型コロナのワクチン・治療薬に対する他国と日本の対応
 米国は、*9-2のように、米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援し、自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて欧米医薬企業の実用化を後押ししている。中国や欧州も国を挙げて開発を強化している。

 日本の政府及びメディアは、ワクチンや治療薬の開発と実用化に消極的で、「ワクチンができるには数年かかる」「国民は我慢して自粛せよ」「安全性が・・」と繰り返した。そして、「ワクチンができたら国際協調で、分けてね」という態度だが、そんな先進国に優先的に分けてやる国などない。このようにして、世界は「Japan Passing」になりつつある。

2)癌の免疫薬に対する日本の情けない態度
 日本人の死因トップになった癌の治療は、今でも外科的手術・放射線治療・化学療法が標準療法と定められているが、*9-1-2のように、本庶京都大学特別教授が最初に癌免疫治療薬「オプジーボ」を開発・実用化しようとした時は、日本では製薬大手も消極的で、米国のブリストル・マイヤーズが先に実用化に手を貸してくれたと聞いている。

 そして、日本で癌免疫治療薬「オプジーボ」が有名になったのは、本庶教授がノーベル賞を受賞した後だった。さらに、オプジーボはじめ免疫薬は革命的な薬で副作用が小さく、さまざまな癌に効き始めているのに、日本では厚労省が頑なに癌の標準治療を「外科手術」「抗癌剤による化学療法」「放射線療法」として免疫療法を厳しく制限している。これによって、日本国民は免疫薬による治療を著しく受けにくいと同時に、免疫薬の開発者も年間数百億円にのぼるロイヤルティーを逸した。厚労省のこの非科学的態度は、国民の命よりも既に抗癌剤を売っている製薬大手の利益を重視するものではないのか?

 このような環境の中では、免疫療法を開発してきた研究者も厳しい環境に耐えなければならなかったし、開発後もロイヤルティーで被害を受けている。つまり、リスクをとったのは製薬会社だけでなく、一生をかけたリスクをとって先頭に立っている研究者もであるため、本庶教授が「オプジーボ」の特許収入として小野薬品工業に約226億円の支払いを求めて大阪地裁に提訴された気持ちはよくわかる。この場合、組織を重視して個人の貢献を軽視する日本の風土もまた、日本の研究開発人材を生きにくくしているのである。

 なお、*9-3のように、日本農業新聞が2020年6月8日の論説で、「コロナ危機と文明、生命産業へかじを切れ」と題して記事を書いているのは、生命産業に従事する多くの労働者が関心を持って読むのでよいと思うが、ここでも「消費をあおり、資源を乱費する欲望の新自由主義」と記載しているのは、新自由主義の定義を誤っている。もう少し勉強してから記事を書かないと、国民を誤った方向に誘導することになるが、日本農業新聞は自由主義から封建制・官僚制に戻したいのだろうか?

3)自動運転車及びサポカー開発の遅れ
  

(図の説明:左図のように、近年は交通事故による死者数が減少傾向で、よいことだ。右図の年齢階級別の「死亡事故件数/免許人口10万人」では、確かに75歳以上で死亡事故が多いように見えるが、①85歳~100歳をひとくくりにしているため、この階級は他の3倍の年齢層が入っている ②高齢者は地方に多く都市部の生産年齢人口より運転時間が長いため、運転免許を持つ人を分母にするのではなく運転時間を分母にしなければならないのではないか と思う)

 近年、誰か一人が重大な事故を起こしたとして、そのグループに属する人全員に運転免許を返納させることが流行しているが、特定のグループの人に運転免許を持たせないことは、外出の機会や就職の機会を奪うため人権侵害になる。

 東京都池袋で高齢運転者の運転する車が暴走したケースでは、松永真菜さんと長女の莉子ちゃんが死亡した事故を受けて、*9-4-1のように、夫の拓也さんが事故5日後に「運転に不安がある人は運転しないでほしい」と訴え、その結果、*9-4-2のように、家族などから年齢を理由に運転しないことを強制される高齢者が増えた。しかし、これは年齢による差別であり、自分の家族が身体の不自由な高齢者の運転で交通事故に遭ったからといって、全高齢者の運転を禁止する資格にはならない。

 高齢者の運転では他にも事故が起こっているが、その割合が若者より高いかといえばそうでもないし、コロナ自粛で誰もがわかったように、外出できないことは高齢者にとってもストレスであり、不便にしたり身体を悪くさせたりする。そのため、私は、高齢者のみに限定免許創設するよりも、さっさと安全運転サポートを進歩させ、それを標準装備にすればよかったと思う。

 なお、自動運転車や安全運転サポカーについても、技術開発の遅さ・国民への我慢の強制・国の対応の遅さは、新型コロナのワクチン・治療薬や癌の免疫療法と同じで、これは、国民の福利を押し下げながら、今後は世界でニーズが見込まれる日本の技術を収益に結び付けることを不可能にしているので賢くない。

4)EV活用の遅れ
 EVもまた、日産自動車が世界で初めて市場投入したにもかかわらず、*9-5-1のように、2020年6月3日現在、日本は重要市場になっておらず、重要市場になっているのは中国で、日本電産は中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に駆動モーターの開発拠点を新設し、成長の柱と位置づけるEVの開発を2021年には稼働させるそうだ。

 独コンチネンタルも2021年に天津市に開発センターを設置する予定で、独ボッシュもまた現地企業と合弁を組んでEV用駆動モーターの供給を目指すそうなので、環境とエネルギーの両面からEVが主役になった時には中国が自動車先進国になるだろう。

 また、日本電産は、5月27日、*9-5-2のように、同社のEV用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたことを喜んで発表しているが、当然だ。

・・参考資料・・
<医療崩壊を加速させた消費税制>
*1-1:https://gemmed.ghc-j.com/?p=27985 (Gem Med 2019.8.15) 病院の消費税問題、課税化転換などの抜本的解決を2020年度に行うべき―日病
 病院の消費税問題について、診療報酬の上乗せでは不公平等を解消することはできない。課税化転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきである。日本病院会は8月7日に、こうした内容を盛り込んだ2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出しました。
●診療報酬プラス改定では、個別病院の消費税負担の不公平等を解消できない
 日病の税制改正要望は次の8項目(国税5項目、地方税2項目、災害医療拠点としての役割と税制1項目)で、このうち▼消費税関連(国税の(1))▼診療報酬の事業税非課税(地方税の(1))▼固定資産関連(地方税の(2))の3点を「優先」的に措置すべき項目として強調しています。
【国税】
 (1)控除対象外消費税について、個別病院ごとの解消状況に不公平や不足などが
   生じないよう、税制上の措置を含めた抜本的措置を講じる
 (2)医療法人の出資評価で「類似業種比準方式」を採用する場合の参照株価は、
   「医療福祉」と「その他の産業」のいずれか低いほうとする
 (3)医療機関の設備投資を促進するための税制を拡充する
 (4)資産に係る控除対象外消費税を「発生時の損金」とすることを認める
 (5)公的運営が担保された医療法人に対する寄附税制を整備する
【地方税】
 (1)医療機関における社会保障診療報酬に係る事業税非課税措置を存続する
 (2)病院運営に直接・間接に必要な固定資産について、▼固定資産税▼都市計画税
   ▼不動産取得税▼登録免許税―を非課税あるいは減税とする
【ほか】
 激甚災害に相当するような地震・台風・噴火などの大規模災害が発生した場合に、地域医療の重要な拠点としての役割を果たす医療機関・介護施設に関しては、その機能復旧を支援するための税制上の特段の配慮を行う。
 要望内容を少し詳しく見てみましょう。まず国税(1)の「消費税」については、現在、保険診療(言わば診療報酬)については「非課税」となっています。したがって、医療機関等が物品購入等の際に支払った消費税は、患者・保険者負担に転嫁することはできず、医療機関等が最終負担しています(いわゆる控除対象外消費税)。この医療機関等負担を補填するために、特別の診療報酬プラス改定(消費税対応改定)が行われていますが、当然、「医療機関等ごとに診療報酬の算定内容は異なる」ことから、どうしても補填の過不足が生じます。2019年10月に予定される消費税対応改定では、病院の種類別に補填を行うなどの「精緻な対応」が図られますが、「病院の種類による不公平」是正にとどまり、個別病院の補填過不足を完全に解消することはできません。このため、昨年(2018年)夏には四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)とが合同で、▼消費税非課税・消費税対応改定による補填は維持する▼個別の医療機関ごとに、補填の過不足に対応する(不足の場合には還付)―という仕組みの創設を要望しました(関連記事はこちらとこちら)。「消費税非課税制度の中で個別医療機関等への還付を認めよ」との要望ですが、与党の税制調査会は「税理論上、非課税制度を維持したまま税の還付を行うことはできない」とし、事実上のゼロ回答を突きつけました(関連記事はこちら)。日本医師会は、このゼロ回答に対し、なぜか「消費税対応改定の精緻化により、消費税問題は解消した」としています。しかし病院では▼物品購入量が多く(特に急性期病院)、補填不足が生じやすい▼クリニックと異なり、いわゆる四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置で、概算経費率を診療報酬収入が2500万円以下の医療機関では72%、2500万円超3000万円以下では70%、3000万円超4000万円以下では62%、4000万円超5000万円以下では57%の4段階とする)などの優遇措置もない―という事情があることから、四病院団体協議会では「補填の解消に向けた更なる対応が必要」と判断(関連記事はこちら)。今般、日病では、この四病協判断に則り、さらに「診療報酬での対応は、最終的に消費税負担を患者・保険者に求めることとイコールである」点も考慮し、「病院」について、消費税問題の抜本的措置(課税化転換や、保険診療設備・材料の仕入れを非課税とするなど)を講じるべきと強く要望しているのです。また国税(3)では、地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの構築に向けた設備投資を国全体で促す必要があるとし、具体的に▼病院用建物・医療機器・医療情報システム等に関する法定耐用年数の短縮▼地域医療構想や医療計画に沿った病院の機能分化を行うための設備投資に対する税制負担軽減制度の充実―などを行うよう求めています。一方、国税(5)では、社会医療法人や特定医療法人などの「公的運営が担保された医療法人」について、「寄附」を▼所得税法上の寄付金控除の対象▼法人税法上の損金―とすべきと要望。あわせて、公的医療法人へ不動産を贈与する場合、「贈与税」という障害をなくすため、租税特別措置法第40条の「譲渡所得税非課税申請」を当然に受けられるようにすべきとも求めています。また優先項目にも盛り込まれた地方税(2)では、一般の医療法人においても、国公立・公的病院や社会医療法人と同様に、病院運営に直接関係する不動産について「固定資産税・都市計画税を非課税」とすることを提案。あわせて看護職員等の職員寮などの病院経営に間接的に必要な不動産について、固定資産税などの非課税・減税措置を設け、病院経営の安定等を図るべきと切望しています。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM8L4G3QM8LULBJ003.html (朝日新聞 2019年8月19日) 消費税分969億円、国立大病院が負担 経営を圧迫
 全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッドなどの購入時に支払った消費税を診療費に十分転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかった。診療報酬制度の仕組みによるもので、病院の経営を圧迫しているという。診察に使う機器やベッド、ガーゼなどの消耗品は、病院が購入時に消費税も支払う。一方、公的保険の医療は非課税のため、患者が支払う初診料や再診料などの診療報酬点数に消費税の相当分も含めることで、病院側に補塡(ほてん)する仕組みになっている。だが、初診料や再診料はすべての医療機関でほぼ同額で、高額化が進む手術ロボットなどの先進機器を購入することが多い大学病院などでは消費税分の「持ち出し」が大きいという。全国の国立大病院でつくる「国立大学病院長会議」の試算によると、1病院あたりの補塡不足は平均で年約1・3億円(17年度)。税率が8%になった14~18年の5年間で計969億円に上った。私大の付属病院などでも同様の傾向と見られるという。医療の進歩にともない、高精度な放射線装置、全身のがんなどを一度に調べることができるCT、内視鏡手術支援ロボットなど、1台数億円する医療機器が登場した側面もある。ある大学病院の医師は「医療機器の更新ができなくなると、患者さんにしわ寄せがいく」と嘆く。厚生労働省は「おおむね補塡されている」としてきたが、16年度のデータを調べたところ、補塡率は病院全体で85%にとどまり、国立大病院を含む68カ所の特定機能病院では平均62%だった。同省は、税率が10%になる際は、病院の規模を考慮して、入院基本料などの点数を上げることで対応することにしている。同会議の山本修一・常置委員長は「厚労省に検証を要請するとともに、補塡が十分にされるか注視していきたい」と話している。
●増税分は節約で対応
 病院側はコスト削減の工夫を重ねている。米国製の手術支援ロボット「ダヴィンチ」は、難しい手術にも対応できるが、価格は約3億円。がん治療用の高精度な放射線装置は1台3億~5億円など、このような機器を導入すると、消費税分だけで数千万円かかる。国立大学病院長会議の小西竹生・事務局長は「こうした高度な医療を提供する大学病院ほど赤字幅が大きくなる」と話す。コスト削減の一環として東大病院(東京都文京区)など39カ所が取り組んでいるのが、入院用ベッドのリサイクルだ。病院の地下の一室には、予備のベッドや乳幼児用のベッドなど、数多くのベッドが保管されている。その片隅にはリモコンや手すりなど、一部が故障したものもある。ベッドは1台数十万円するため、更新が滞っている。同会議が大学病院にある2万8千床を調べたところ、耐用年数の8年を超えて使われていたベッドは約7割にのぼった。15年以上使われていたものも3割弱あった。大学病院は平均700床以上あり、消費税の補塡(ほてん)不足などで経営は苦しく、手術や検査に使う医療機器と比べて更新は後回しにされがちだ。ただ、病院関係者は「整備が不十分だと転倒事故などにつながるおそれもある」と話す。従来は一部が壊れると廃棄していたが、部品を修理したり、まだ使える部品を専門業者がメンテナンスしたりした後、別の病院に融通する仕組みだ。新品は1台数十万円だが、部品なら数万円で済む。病院で使うガーゼや手袋などを複数の病院で共同調達する試みも始めた。カテーテルやアルコール綿など多くの製品について、現場の看護師がサンプルを比べて品質を確認。品目を絞ったり大量購入したりすることで、価格を下げてもらっている。2016年度に始め、導入前と比べて数億円の削減につながったという。東大病院の塩崎英司・事務部長は「消費税の補塡(ほてん)不足で経営が苦しい中、今後も知恵を絞って取り組みたい」と話す。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p50985.html (日本農業新聞 2020年6月5日) [新型コロナ] 厚生連病院支援を 自民議連で要望相次ぐ
 自民党の議員連盟「農民の健康を創る会」(宮腰光寛会長)は4日、東京・永田町で幹事会を開き、新型コロナウイルス対策について議論した。新型コロナによる影響でJA厚生連の経営状況が厳しいことを受け、出席した議員からは、地域医療を守る厚生連の一層の経営支援を訴える声が相次いだ。JA全中やJA全厚連の役員らが出席。厚生連病院は、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収となっていることを全厚連が報告。医業収益が前年同期比で、半分になった病院もある。病院への財政的な支援を早急に確立することや、空床確保分の減収に対する支援拡充、医療従事者などへの危険手当の支給、医療物資や機器を国が責任を持って供給体制を整備することなどを求めた。宮腰会長は「地域医療崩壊は何としても避けなくてはならない。第2波、第3波に耐えられる医療提供体制を整えていく必要がある」とあいさつ。三ツ林裕巳衆院議員は一層の経営支援を求め「新型コロナ対策を一生懸命整えた厚生連の経営が滞ることは避けなければならない」と、訴えた。永岡桂子衆院議員は厚生連が感染者数を抑える役割を果たしてきたとし「赤字続きで倒れることはあってはならない」と支援を求めた。野村哲郎参院議員は新型コロナ患者を受け入れていない病院も経営は厳しいと見解を示し「地域医療を守るため、全ての厚生連の経営状況のチェックをするべきだ」と呼び掛けた。

<検査抑制による医療崩壊>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200609&ng=DGKKZO60128210Y0A600C2MM8000 () 検証コロナ 危うい統治(1)11年前の教訓放置 、組織防衛優先、危機対応阻む
 新型コロナウイルスの猛威に世界は持てる力を総動員して立ち向かう。だが、日本の対応はもたつき、ぎこちない。バブル崩壊、リーマン危機、東日本大震災。いくつもの危機を経ても変わらなかった縦割りの論理、既得権益にしがみつく姿が今回もあらわになった。このひずみをたださなければ、日本は新たな危機に立ち向かえない。日本でコロナ対応が始まったのは1月。官邸では「しっかりやります」と繰り返した厚生労働省の動きは一貫して鈍かった。「どうしてできないんだ」。とりわけ安倍晋三首相をいらだたせたのが自ら打ち出した1日2万件の目標に一向に届かないPCR検査だった。その背景にあったのが感染症法15条に基づく「積極的疫学調査」だ。病気の特徴や感染の広がりを調べるのが疫学調査。「積極的」とは患者が病院に来るのを待たず、保健所を使い感染経路やクラスター(感染者集団)を追うとの意味がある。厚労省傘下の国立感染症研究所が今年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」では「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わった。とはいえ「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」の限定付き。その姿勢は5月29日の最新版の要領でも変わらない。厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いた。それが大都市中心に経路不明の患者が増える一因となった。疫学調査以外にも検査を受けにくいケースがあり、目詰まりがようやく緩和され出したのは4月から。保健所ルートだけで対応しきれないと危機感を募らせた自治体が地元の医療機関などと「PCRセンター」を設置し始めてからだ。
●疫学調査を優先
 自らのルールにこだわり現実を見ない。そんな感染症対策での失敗は今回が初めてではない。2009年の新型インフルエンザ流行時も厚労省は疫学調査を優先し、PCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中した。いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかると、関西の病院を中心に人々が殺到した。厚労省は10年にまとめた報告書で反省点を記した。「保健所の体制強化」「PCR強化」。今に至る問題の核心に迫り「死亡率が低い水準にとどまったことに満足することなく、今後の対策に役立てていくことが重要だ」とした。実際は満足するだけに終わった。変わらない行動の背景には内向きな組織の姿が浮かぶ。厚労省で対策を仕切るのは結核感染症課だ。結核やはしか、エイズなどを所管する。新たな病原体には感染研や保健所などと対応し、患者の隔離や差別・偏見といった難問に向き合う。課を支えるのは理系出身で医師資格を持つ医系技官。その仕事ぶりは政策を調整する官僚より研究者に近い。専門家集団だけに組織を守る意識が先行する。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文部科学省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰だった。首相は周囲に「危機なんだから使えるものはなんでも使えばいいじゃないか」と語った。誰でもそう思う理屈を組織防衛優先の意識がはね返す。
●「善戦」誇る技官
 「日本の感染者や死亡者は欧米より桁違いに少ない」。技官はコロナ危機での善戦ぶりを強調するが、医療現場を混乱させたのは間違いない。「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」。4月10日、さいたま市保健所長がこう話し市長に注意された。この所長も厚労省技官OB。独特の論理が行動を縛る。02年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、12年の中東呼吸器症候群(MERS)を経て、韓国や台湾は備えを厚くした。対照的に日本は足踏みを続けた。厚労省に限らない。世界から一目置かれた日本の官僚機構は右肩上がりの成長が終わり、新たな危機に見舞われるたびにその機能不全をさらけ出してきた。バブル崩壊後の金融危機では不良債権の全容を過小評価し続け、金融システムの傷口を広げた。東日本大震災後は再開が困難になった原発をエネルギー政策の中心に据え続けた。結果として火力発電に頼り、温暖化ガス削減も進まない。共通するのは失敗を認めれば自らに責任が及びかねないという組織としての強烈な防衛本能だ。前例や既存のルールにしがみつき、目の前の現実に対処しない。グローバル化とデジタル化の進展で変化のスピードが格段にあがった21世紀。20世紀型の官僚機構を引きずったままでは日本は世界から置き去りにされる。

*2-2:https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020060700001.html?page=1 (論座 2020年6月7日) 何一つ有効な対策を打たなかった安倍首相が言う「日本モデルの力」とは?、コロナ第2波に備え必要なのは「日本モデル」の解体だ!、佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長
 未曽有のパンデミック状況を呈するコロナウイルスがこの秋から冬にも大きい第2波となって襲い来る予測が広まる中、対策を立てるべきはずの安倍内閣からは危機感がまったく伝わってこない。この原稿を書いている6月6日の首相動静は以下の通りだった。<午前8時現在、東京・富ケ谷の私邸。朝の来客なし。午前中は来客なく、私邸で過ごす。午後4時9分、私邸発。午後4時20分、官邸着。同30分から同50分まで、加藤勝信厚生労働相、菅義偉官房長官、西村康稔経済再生担当相、西村明宏、岡田直樹、杉田和博各官房副長官、北村滋国家安全保障局長、和泉洋人、長谷川栄一、今井尚哉各首相補佐官、樽見英樹新型コロナウイルス感染症対策推進室長、森健良外務審議官、鈴木康裕厚労省医務技監。午後5時10分、官邸発。午後5時27分、私邸着。《時事通信より》>土曜日だから夕方に職場に着くこともあるが、午後4時30分から始まった会議の顔ぶれから推して、政府のコロナ対策会議であることは間違いないだろう。だが、職責上これだけのメンバーを集めておいてわずか20分しか情報を交換しなかったということは、どう考えればいいのだろうか。まず、現在の仕事環境の常識を考えれば、わずか20分の会議はオンラインで済ませるべきものだ。しかし、20分という時間をよく考えてみれば、本当はメール連絡だけで済む話かもしれない。司会役が発言し、数人の事務連絡、報告があって終わりだ。対策などについて議論し合うことなどはこの短い時間では不可能だ。
●緊急事態宣言は「緊急手段」であって「対策」ではない
 「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います」。安倍首相は5月25日、緊急事態宣言解除の記者会見の冒頭、こう発言した。「今回の流行をほぼ収束させること」など本当にできたのか。安倍首相のこの発言に関しては様々な疑念が湧いてくるが、最も驚くべき発言は「日本モデルの力を示した」という言葉だろう。時事通信の6月6日の世論調査では、コロナウイルスに対する安倍政権の対応について60%の人が「評価しない」と答えている。この世論調査通り、安倍政権はコロナウイルス対策については何一つ有効な対策を打ち出せなかったと言っていいだろう。もちろん、緊急事態宣言を対策と呼ぶ人はいないだろう。あらゆるレベルの経済を痛めつける緊急事態宣言は対策と呼べるようなものではなく、感染の波及を食い止める最後に残された緊急手段に過ぎない。何一つ有効な対策が打てなかった安倍首相が発言した「日本モデルの力」とは一体、どういうものなのだろうか。コロナウイルスに対して安倍政権が最初に打った「日本モデル」の対策を振り返ってみよう。
●COVID-19を指定感染症に指定した愚策
 1月28日に厚労省はCOVID-19を感染症法に基づく指定感染症に政令指定。この指定のために、感染者はたとえ無症状であっても強制入院させられることになった。厚労省はこの時、COVID-19の無症状感染者の存在を想定していなかった。無症状者や軽症者は病院以外の企業療養所などで静養隔離するという韓国が取った賢明な政策への道は、これによって閉ざされてしまった。無症状者でも入院しなければならないために早くから病院体制の崩壊が心配され、PCR検査の大幅抑制につながった。ところが、厚労省がCOVID-19を指定感染症に指定する4日前の1月24日、世界の医学界で注目されているイギリスの「ランセット」誌は、無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた。指定感染症担当の結核感染症課の担当者たちがこの論考をいち早く読んで対応を考えていれば、COVID-19の無症状者の存在を重視し、指定感染症には指定しなかっただろう。厚労省担当課の勉強不足と不作為が生んだひとつの国家的悲劇だ。そして、この感染症法に基づく指定感染症に政令指定したために、基本的な「日本モデルの力」が働くことになった。国立感染症研究所と保健所、地方衛生研究所が束になった「日本モデルの力」である。
●「日本モデル」への大きな思い違い
 コロナウイルス第2波の襲来を前に私が訴えたいのは、この「日本モデルの力」の解体である。恐ろしいことだが、安倍首相は本当に心から「日本モデルの力を示した」と思っているのかもしれない。しかし、これは大変な思い違いである。コロナウイルスの襲来の前に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制はほとんど歯が立たなかったのである。このままの体制で第2波の襲来を迎えれば惨憺たる結果を招くだろう。それを示すにあたって、まず5月27日の佐藤章ノート『「超過死亡グラフ改竄」疑惑に、国立感染研は誠実に答えよ!』で指摘した国立感染研公表の「超過死亡」グラフ問題の再取材結果を報告しよう。この問題は、有効なコロナウイルス対策を進める上で国際的に注目されている「超過死亡」統計のグラフが大きく変化していた疑惑で、公表している国立感染研と並んで統計を担当している厚生労働省の健康局結核感染症課が取材に応じた。まさに指定感染症を担当する課だ。この問題を簡単に復習しておくと、国立感染研のHPに5月7日に公表されていた「超過死亡」のグラフが、緊急事態宣言が解除された日の前日の5月24日、まったく違う形のグラフに変わっていたという問題だ。この変化によって、5月7日公表グラフでは2月中旬から3月終わりにかけて大きい「超過死亡」が見られたのに、5月24日公表グラフではその「超過死亡」分がそっくり消えていた。あまりに大きく変動していたために、「超過死亡」記事を紹介した私のツイートに対して、私のフォロワーの方々から「改竄されたのではないか」との声が多く寄せられたが、統計数値を直接取りまとめている国立感染研は、私の問い合わせに素っ気ない回答しか与えなかった。この国立感染研に代わって直接取材に答えたのは、感染研とともに「超過死亡」統計を担当する厚労省結核感染症課に所属する梅田浩史・感染症情報管理室長と、同室の井上大地・情報管理係長。6月2日、取材に応じた。
●厚労省結核感染症課の主張
 取材の結論をまず示しておくと、梅田、井上両氏は「超過死亡」統計グラフの作り方を懇切丁寧に説明したが、最終的に誤解を解くデータについては最後まで明らかにしなかった。梅田、井上両氏の説明を噛み砕いてシンプルに示しておこう。二つのグラフの間で大きく変化していたのは2月17日から3月29日にかけての死亡数。厚労省は東京都23特別区の保健所に対して、死亡小票を作った時点から2週間以内に死亡者や死因などを報告するように通知しているが、今年の場合、コロナウイルスへの対応に忙しく、「週によっては三つか二つの保健所からしか報告が来ない時もあった」(梅田感染症情報管理室長)という。23特別区からの報告がそろわない時には、仕方なく「報告保健所数の割合の逆数を乗じて」(国立感染研HP)いる。つまり、例えば23区のうちひとつの保健所からしか報告がなく、その報告が死亡者数5人であれば、「報告保健所数の割合」23分の1の「逆数」である1分の23に5人を乗じて、死亡数を115人と推定する、という計算法だ。これが厚労省の通知通り2週間以内に報告が出そろえば大した問題は生じないが、今回のように、1か月以上過ぎても報告がほとんど来ない事態ともなれば大変な問題となる。グラフのあまりの大きな違いに「改竄ではないか」という疑念まで生んでしまう。グラフが大きく変化していた論理はわかった。では、この厚労省結核感染症課の説明は正しいのだろうか。
●根拠の数字は頑なに示さず
 理由を述べたこの論理については、私はもちろん説明を受ける以前から知っていたが、その根拠となる数字については最後まで「公表していない」という返事しか聞けなかった。何月何日にどの保健所が何人の死亡者数を報告という数字をすべて明らかにすれば、先ほど紹介した計算をしてすぐに結果が出るのだが、なぜか明らかにされなかった。「新型コロナに対する超過死亡の数字が重要だということは我々も理解しています」。こう語った梅田感染症情報管理室長は、COVID-19対策が注目されている現在、第2波の襲来が予想されている今年秋までにCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計を作ることを私に明言した。しかし、1か月以上経っても、東京都23特別区内にある保健所から死亡者数の報告さえ上がってこない現状で、そのようなCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計など作って運用できるのだろうか。井上情報管理係長によれば、保健所は、報告書の死因欄に「肝臓癌」や「肺炎」などと手書きで書き、OCR(光学的文字認識)機械にかけるという。だが、OCRにかけようとパソコンに直接入力しようと、まず「2週間以内」という時間は遅すぎる。「ランセット」はCOVID-19対策のためにリアルタイムでの「超過死亡」数値の活用を訴えている。「ランセット」は、PCR検査による新規感染者数がCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるために、単純な「超過死亡」数をリアルタイムで活用することを求めているのだ。PCR検査数が極端に少ない日本にこそ求められるリアルタイム統計だが、「2週間以内」ではあまりに遅すぎるし、コロナ対応に忙殺されていたとはいえ、1か月経っても死亡者数さえ報告されない現行の保健所体制ではまったく意味をなさない。未知のウイルス襲来に忙殺奮闘された保健所職員の方々の努力を軽視しているわけではない。COVID-19のようなパンデミック・ウイルスを迎え撃つ体制としては、保健所には限界があると言っているのだ。
●保健所の仲介をなくせ!
 体制としての保健所の限界は、「超過死亡」統計の問題だけではない。基本的なPCR検査体制については、さらに明確に指摘できる。私自身、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらなかった(佐藤章ノート『私はこうしてコロナの抗体を獲得した《前編》保健所は私に言った。「いくら言っても無駄ですよ」』参照)。私のような事例は特別なものではなく、社会的には「検査難民」という言葉まで生まれた。これは文字通り保健所のキャパを超えていることを表している。しかし、例えば、ここで発想を変えて、保健所の仲介をまったくなくしてみたらどうだろう。何か困るようなことはあるだろうか。毎年のインフルエンザの検査は保健所などは通さない。かかりつけの開業医から民間検査会社にまっすぐ検査依頼が行くだけだ。だが、そうなるとPCR検査依頼が殺到して医療崩壊を招きかねないという心配の声が出てくる。その問題の対策には二つの方法が考えられる。まず、COVID-19を感染症法に基づく指定感染症から外して、無症状者や軽症者は医療機関以外の施設に大量に入所できるようにする。次に、韓国が全国69の既存病院をコロナ専用病院に転換させたように、COVIDー19を迎え撃つ医療体制の再構築を進めることだ。
●医系技官の天下り問題
 このような政策転換は努力すれば可能だが、実は問題は簡単ではない。保健所体制の問題には、厚労省や国立感染研などを含む医系技官の人事問題、つまり天下りの問題が絡んでいるからだ。この問題に関しては、医系技官問題を細大漏らさず知り尽くす上昌広・医療ガバナンス研究所理事長が懇切丁寧に解説してくれた。その説明に耳を傾けよう。戦前にできた保健所は元来、徴兵制度のサポートシステムだった。強兵養成のために栄養失調などを事前にチェックする役目を負い、戦後はGHQの下で、性病検査やチフス、コレラ、結核対策に活用された。GHQは保健所長に医師を充てる政策を採り、食中毒取り締まりなどの「衛生警察」の役割も担わせた。このため、保健所は戦後に特殊な権限を持つ役所に生まれ変わり、同時に厚労省の前身である厚生省もGHQの指揮下で、高等文官試験(現在の国家公務員試験)を通らなくても同省の官僚となれる医系技官制度を採用する。この医系技官官僚が独特の人脈を形成し、厚労省と国立感染研、そして保健所や地方衛生研究所との間で独自の人事交流、つまり天下りのネットワークを形作っていく。ところが、保健所そのものは中曽根康弘政権時代以来、行財政改革の主要な標的とされ、その存廃問題が常に医系技官たちのトラウマとなってきた。1990年代のエイズウイルスやO157、あるいは2000年代に入ってからのSARSや新型インフルエンザなどはそのような心配から医系技官たちを解放してくれた。しかし、COVIDー19の場合はPCR検査のキャパがあまりに大きく、放っておくと保健所体制をはるかに超えるPCR検査の流れができてしまう。そうなると、保健所不要論の声がまた大きくなり、再び悪夢の行財政改革の標的とされてしまう。保健所がPCR検査仲介の権限をしぶとく手放さない深い理由はそこにある。
●第2波に備えてPCR検査拡充を!
 中国は5月14日から6月1日の19日間で、武漢市民の「全員検査」を実施し、約990万人にPCR検査を受けさせた。1日あたり約52万人の計算だ。これにはかなり劣るがニューヨーク市は1日あたり4万件のPCR検査が可能になった。翻って日本の場合は、全国で1日あたり2万2000件のPCR検査が可能になったと厚労省が5月15日に発表している。この差は、アイロニカルに表現すれば、まさに安倍首相の言う「日本モデル」から来ている。つまり、日本独特の保健所体制に絡む医系技官の人事問題に由来しているのだ。PCR検査自体は難しい検査ではない。民間検査会社や大学の研究室ではまだまだキャパが余っている。人の手を介さない全自動機械も日本のメーカーが開発製造している。しかし、保健所が検査仲介の権能を手放して検査会社に検査の自由を認めない限り、検査会社も全自動機械などは導入しない。安倍首相は現在のところ、PCR検査拡充を阻むこのような問題に取り組む姿勢を微塵も見せていない。医療体制の再構築なども念頭にはないようだ。このままでは第1波と何ら変わらない体制のまま大きい第2波を迎えることになるだろう。安倍首相は本来、中曽根元首相や小泉純一郎元首相の流れを汲み、積極的な行財政改革に取り組むのではないかと見られていた。トラウマを抱える医系技官人脈にとっては警戒すべき政権だった。ところが、当の安倍首相にはそのような問題意識はまるでないことがまもなく明らかになり、天下りを夢見る医系技官にとっては夢を紡ぐ安全安心の政権と転じることになった。COVIDー19第2波の危機的な状況を前にしても、そのような問題に気が付いている節は安倍首相にはまるで見えない。「第2波の危機を前に、基本的なPCR検査の拡充などはまったく絶望的ですね」。私の問いかけに上昌広・医療ガバナンス研究所理事長は深く頷いた。この記事の筆者であるジャーナリストの佐藤章さん、記事に登場する医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さん、東京都世田谷区長の保坂展人さんをオンラインでつないだ論座主催の公開イベント『「私はコロナから生還した」~感染したジャーナリストが語る検査の実態。医師は、行政はどうする?』を無料で公開しています。新型コロナウイルスに感染した佐藤さんの体験をもとに、医師である上さん、首長である保坂さんがコロナ対策の課題について語り合う内容です。ぜひご覧下さい。

*2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/610611/ (西日本新聞 2020/5/23) 帰国後に39度の熱…PCRなぜ受けられない? 検査なおハードル高く
 新型コロナウイルス感染が急速に広がった際、自らの症状に不安を感じて行動しながらも、感染の有無を調べるPCR検査を「受けられなかった」という不満がくすぶった。日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり、政府は検査能力を増強。目標の「1日2万件」を達成したとするが、依然として実際の検査数は半数にも満たない。「次女が急に高熱を出した。もしかしてコロナかもと不安になりました」。福岡県北部に住む男性(61)は5月上旬、留学先のカナダから帰国して間もない次女(23)が39度近い熱を出したと明かす。医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話もつながらない。やむなく自宅療養を続けたという。発熱5日目、クリニックの医師が保健所に連絡し、次女はようやくPCR検査を受けた。結果は陰性だったが、男性は「家族は不安で仕方なかった」と話す。次女は内臓疾患と判明した。同様の事例は各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースもある。厚生労働省によると、国内のPCR検査能力は3月上旬の1日約4200件から2万3139件(5月17日現在)に伸びた。ただ、実際の検査数は平日で1日5千~8千件ほどで推移する。感染者の減少傾向を踏まえても、検査能力と検査数に大きな隔たりがあるのはなぜか。改めて検証した。 

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60063940V00C20A6EA1000 (日経新聞 2020.6.6) コロナに後遺症リスク 重篤な合併症 治療長期化も 「肺以外に影響」報告相次ぐ
 新型コロナウイルスの感染者が重い合併症を患う症例が、世界で相次ぎ報告されている。心臓や脳、足など肺以外で重篤化するケースが目立つ。世界では300万人近くが新型コロナから回復したが、一部で治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクも指摘され始めた。各国の研究機関は血栓や免疫システムの異変など、合併症のメカニズム解明を急ぐ。
●俳優が右足切断
「きょう右足が切断されます」。米演劇界最高の栄誉とされるトニー賞にノミネートされたブロードウェー俳優、ニック・コーデロさん。新型コロナに感染して4月上旬、集中治療室(ICU)で治療を受けていた。重い肺炎症状に加えて表れたのが、右足の異変だ。血液の塊である血栓が生じ、つま先まで血液が行き渡らなくなった。血栓を防ぐため抗凝血剤が投与されたが、血圧に影響を及ぼし腸の内出血を併発、切断を迫られた。妻はインスタグラムで「ニックは41歳で持病もなかった。どうかみなさん、新型コロナを甘くみないで」と訴えた。新型コロナが肺以外に影響を及ぼす合併症の症例は、欧米をはじめ世界各国で報告されている。原因の一つとみられるのが、ウイルスが血管に侵入して形成する血栓だ。英医学誌ランセットに掲載された研究で、ウイルスが血管の内膜を覆っている内皮細胞を攻撃する証拠を発見。著者の一人、米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のマンディープ・メウラ医師は日本経済新聞の取材に「(攻撃が)心臓や脳、腎臓など複数の臓器で起きている」と指摘する。オランダの医師らの研究によると、新型コロナに感染してICUに入った患者184人のうち、31%で血栓を伴う合併症がみられた。多くが血栓が肺動脈を塞ぐ「肺塞栓症」で、一部の患者は「脳梗塞」も併発した。本来はウイルスの侵入から体を守る免疫システムが、正常な細胞まで攻撃してしまう現象も合併症を引き起こす一因とみられている。この過剰な免疫反応は「免疫暴走」とも呼ばれ、何らかの理由で過剰に反応し臓器や血管を傷つける。乳幼児が発熱や発疹など「川崎病」に似た症状を引き起こすケースも、米国だけで5月中旬までに約200の症例が報告された。
●正常機能戻らず
 重い合併症の広がりは治療の長期化や後遺症リスクを高める。中国・武漢の医者団が新型コロナを克服した25人の血液サンプルを調べたところ、ほとんどが重症度合いにかかわらず正常な機能を完全に取り戻していなかった。国際血栓止血学会は、回復した患者に退院後も抗凝血剤の服用を勧めるガイドラインを発表した。イタリアの呼吸器学会は新型コロナから回復した人のうち、3割に呼吸器疾患などの後遺症が生じる可能性があると指摘。地元メディアによると、少なくとも6カ月は肺にリスクがある状態が続く懸念があるという。「最初の症状から69日が経過したが、倦怠(けんたい)感が残る。目が痛くて断続的な頭痛がある」(カナダの男性)。重症化は免れても後遺症や長期化に悩む人は多い。米ボディー・ポリティックが感染者640人を対象に4月下旬から5月上旬に行った調査によると、9割が完全に回復しておらず、症状は平均して40日間続いていると回答した。もっとも、ウイルスが血栓の形成や過剰な免疫反応を引き起こすメカニズムは解明されていない。メウラ医師は「内皮細胞にどのように侵入するのか、抗凝血剤の投与が役立つのかまだはっきりしていない」と話す。コーデロさんのように抗凝血剤が機能しない場合もあり、医療現場では手探りの治療が続く。米ジョンズ・ホプキンス大によると、650万人を超えた新型コロナの感染者のうち約280万人がすでに回復した。だが治療の長期化や重症化に悩む患者は多く、医療保険など各国のセーフティーネットや医療インフラへの負担も深刻だ。治療薬やワクチンの開発と並び、重症化に至る仕組みの解明や対策が不可欠になる。

*2-5:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72582 (現代 2020.5.17) 東京の3月のコロナ死者、発表の10倍以上?「超過死亡」を検証する、国立感染研のデータから 長谷川学
●「少なすぎる」疑いの目
 5月11日、小池百合子東京都知事は、都の新型コロナ陽性者数公表に関して、過去に111人の報告漏れと35人の重複があったことを明らかにした。保健所の業務量の増大に伴う報告ミスが原因だという。同じ日の参院予算委員会。政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の尾身茂副座長は、「確認された感染者数より実際の感染者数がどれくらい多いか」と聞かれ、「10倍か、15倍か、20倍かというのは今の段階では誰も分からない」と “正直” に答弁した。先進各国に比べ、PCR検査件数が格段に少ないのだから、感染者数を掴めないのは当たり前のことだ。小池、尾身両氏の発言は、いずれも新型コロナの「感染者数」に関するものだ。だが実は、東京都が発表した今年3月の新型コロナによる「死亡者数」についても、以前から「あまりに少なすぎる。本当はもっと多いのではないか」と、疑惑の目が向けられてきた。東京都が初の新型コロナによる死亡を発表したのは2月26日。その後、3月中に8人の死亡が発表されている。この頃、東京都ではまだPCR検査を積極的に行っておらず、2月24日までの検査数はわずか500人余りにとどまっていた。このため「実際は新型コロナによる肺炎で死亡した人が、コロナとは無関係な死亡として処理されていたのではないか」という疑いが、以前から指摘されていたのだ。
●「超過死亡」とは何か
 これに関連して、国立感染症研究所(以下「感染研」)が興味深いデータを公表している。「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」(以下「迅速把握システム」)のデータである。この迅速把握システムは、約20年前に導入された。少し前置きが長くなるが、概要について述べよう。東京(23区のみで都下は対象外)など全国の21大都市における「インフルエンザ」による死者と「肺炎」による死者の数を合計し、毎週、各地の保健所から集計する。この2つの死者数の変化を追うことを通じて、全国のインフルエンザの流行状況を素早く把握しようという狙いだ。なぜ「インフルエンザ」だけでなく「肺炎」による死者もあわせて集計しているのか。例えば、お年寄りがインフルエンザ感染をきっかけに入院しても、そのまま亡くなってしまうケースは少なく、実際にはさまざまな治療の結果、最終的に「肺炎」で亡くなることも多い。そうした死者も漏らさず追跡し、インフルエンザ流行の影響を総合的に捉えようという考え方だからだ。専門的には、このような考え方を「インフルエンザ流行による超過死亡の増加」という。今回注目すべきは、迅速把握システムの東京都のデータ(次ページの図「東京19/20シーズン」)である(注・19/20とは19年から20年のシーズンという意味)。
●インフルは例年より下火だったのに
 図の「-◆-」で示された折れ線は、保健所から報告されたインフルエンザと肺炎による死者数を示している。ご覧のように、今年の第9週(2月24日〜)から第13週(〜3月29日)にかけて、それまでに比べて急増していることが分かる。この急増の原因は、いったい何なのか。この時期、東京ではインフルエンザは流行していなかった。1月、2月のインフルエンザ推定患者数は、前年同時期の4分の1程度。今年は暖冬で、雨も多かったこと、そして国民が新型コロナを恐れて手洗いを良くしていたことも影響したと考えられている。インフルエンザが流行っていなかったのに、なぜ、この時期に肺炎による死者が急に増えたのか。医師でジャーナリストの富家孝氏はこう推測する。「まず考えられるのは、新型コロナによる肺炎死でしょう。警察が変死などとして扱った遺体のうち、10人以上が新型コロナに感染していたという報道もありました。2月、3月は、まだ東京都はPCR検査をあまり行っていませんでした。検査が行われなかったら、当然、新型コロナの死者数にはカウントされません。実際にはコロナによる重症肺炎で亡くなっていた人が、コロナとは無関係な死亡と扱われていた疑いがあります」
●偶然とは思えない多さ
 金沢大学医学部の小川和宏准教授もこう話す。「今年はインフルエンザの感染者数が少なかった上に、2月末から3月末はインフルエンザのピーク(毎年1月末から2月初めの時期)も過ぎている。この超過死亡は、新型コロナによる死亡を反映している可能性が高いと思います」。では、「隠れた死者」は何人いたのだろう。再び図をご覧いただきたい。「超過死亡」とされるのは、図の赤線(閾値)を超えた部分だ。江戸川大学の隈本邦彦教授が解説する。「東京23区内で過去のデータから予測される死者数がベースライン(緑線)です。どうしても年によってバラツキがありますから、そのベースラインに統計誤差を加えた閾値(赤線)を設定し、それを超えた分を “超過死亡” と判定しています。つまり今年は、偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多かったということです。それが5週連続、しかも毎週20人以上というのは異常だといえます」。図のように、超過死亡は今年第9週(2月24日〜)に約20人にのぼった。その後も、第13週(〜3月29日)まで毎週20〜30人の超過死亡が起きていた。合計すると、およそ1ヵ月の間に100人以上。東京都が発表した3月中の新型コロナによる死亡数8人の10倍を超える。
●「原因病原体はわからない」
 データを発表した感染研は、この超過死亡をどう捉えているのだろうか。感染研に質問したところ、「このシステムは超過死亡の発生の有無をみるものですが、病原体の情報は持っておりませんので、その原因病原体が何かまでは分かりません」と、木で鼻をくくったような回答だった。なお感染研発表の過去の東京都のデータを調べると、前シーズン(18-19年)と前々シーズン(17-18年)にも超過死亡はあったが、これについて感染研は「インフルエンザの流行が非常に大きかった」と回答した。なぜ去年の出来事はインフルエンザとわかるのに、今年は不明という回答になるのだろう。とはいえ、この超過死亡が新型コロナによるものかどうかは、遺体がPCR検査もされずに荼毘に付されてしまったいまとなっては、実証する手立てがない。一方、感染研発表の東京都のデータからは、死者数とは別の大きな問題も浮かび上がる。図のように2月24日以降、東京23区で超過死亡が急増していた。新型コロナウイルス発生を中国政府が正式に発表したのは、今年1月9日。同23日には武漢市が都市封鎖された。日本でも1月下旬以降、徐々に感染者が確認され、2月13日には国内初の死者が出て、人口が密集する東京での感染爆発は不可避とみられていた。そうした状況下で、2月24日以降5週間にわたって、人知れず週20〜30人もの超過死亡が確認されていたのである。なぜ、この重大なサインに当局は目を留めず、活かそうとしなかったのか。「原因病原体が何かまでは分かりません」で片づけられる話ではない。
●今にして思えば…
 前出の隈本氏が首を傾げる。「インフルエンザが流行していないのに、2月下旬に東京23区で週に約20人の超過死亡が発生していた事実は、通常なら2週間後の3月上旬には感染研の迅速把握システムに届いていたはずです。その時点で、感染研の担当者や厚労省の専門家会議のメンバーの誰かが気付いて、“東京が大変なことになっているかもしれない” と警鐘を鳴らしていたら、PCR検査態勢の拡充を含め、より早期の対応が可能だったはずです」。だが実際には、小池東京都知事が新型コロナ対策で本格的に動き始めたのは、3月24日に東京オリンピックの延期が正式に決まってからだった。そして東京都の新型コロナ感染者数は、先に感染が広がった北海道に比べてずっと少なかったのに、東京オリンピック延期が決まった後から、急激に右肩上がりで増えていった。「もし2月下旬に発生し始めた週20人以上の超過死亡が新型コロナのためだとなると、その時点でオリンピックどころではなくなったでしょう。しかし、もしそうした “忖度” のために、税金を使って集めている迅速把握システムが捉えたデータが生かされなかったとしたら、何のためのシステムなのか。東京都や国の責任は重いと思います」(隈本氏)。なぜこの貴重なデータが早期に検証され、コロナ対策に生かされなかったのか。今後、経緯を厳しく検証していく必要があるだろう。

<病院への新型コロナの一撃>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200522&ng=DGKKZO59429720S0A520C2EA1000 (日経新聞 2020.5.22) コロナ禍で通院激減 「不要不急」が問う医療、医療資源、最適配分に一石
 新型コロナウイルスが猛威をふるい始めてこの方、私たちは「不要不急」という言葉を幾度となく聞かされてきた。この四字熟語は医療にもあてはまるのだろうか。企業の健康保険組合と協会けんぽ、公務員などの共済組合や船員保険を合わせた被用者保険の3月の医療費動向が判明した。総額は1兆1257億円、患者が医療機関にかかった件数は9415万件。前年同月と比べると、医療費の1.3%減に対し、件数は11.5%減と大きく落ち込んだ。何が読み取れるか。
●風邪なら自力で
 3月は初旬こそ外出を自粛する空気は強くなかったが、半ば以降はイベントや会合の中止が相次いだ。通院の見合わせや先送りをする患者が目立ちはじめたのは、この頃だ。こんな仮説は成り立たないだろうか。軽い風邪や腹痛、花粉症などにかかった人は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品(OTC医薬品)でしのいだ。従来は地域の診療所や病院の外来診療に頼っていた軽い病の治療が、自分で手当てをするセルフメディケーションに取って代わった。感染症の専門家は軽い風邪症状の人には自宅療養を呼びかけていた。手洗いや消毒の徹底による予防効果もあろう。一方、高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった。この結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった―。医療関係者の多くは、医療に不要不急はあり得ないという。慢性疾患を抱えた高齢者には、待合室で長時間すごすのを避けようと、通院を見合わせた人もいる。それが原因で病状が重くなることがあってはなるまい。半面、自らの体調を知り、調子が悪ければ自己判断・自己負担で薬をのんで治すのも医療のひとつのかたちだ。「不要」ではなくとも受診が「不急」であるケースはあろう。健康保険証があれば医療機関へのアクセスが原則自由な日本は、主要国で最も医師にかかりやすい国のひとつだ。早期治療を促す利点があるが、そのぶんコロナ禍による受診抑制を招きやすいのではないか。英国営医療制度(NHS)が採用した人工知能(AI)診断アプリのようなしくみを日本でも保険適用すれば、受診抑制による治療の遅れをくい止める効果が期待できよう。むろん同国とは医療費の負担構造が違うので、一概には比べられないが。
●病院経営に影響
 注目すべきは緊急事態宣言下の4月の動向だ。厚生労働省は重篤・重症のコロナ感染者を受け入れ専門治療にあたっている大学病院などに対し、特例としてICU(集中治療室)の入院料を2倍に上げた。だが採算は改善せず、コロナ対応病院の経営はおしなべて苦しい。隔離用の陰圧病室を新設したり空き病床を確保したりするコストがかさむからだ。政府・与党が編成に着手した2020年度第2次補正予算案は、コロナ対応病院への資金援助が欠かせまい。地域の診療所などはどうするか。日本医師会は2次補正に資金援助を計上すべく厚労省への働きかけを強めている。省内には初診・再診料の加算を模索する動きがある。セルフメディケーションへの移行や予防の徹底が効いているとすれば、医療機関の減収分をほかの患者や健康保険が負担する診療報酬で補填するのは筋が通るまい。診療報酬を上げるなら、オンラインの初診・再診料を増やし、コロナ後も見すえた新しい医療態勢に誘導するのが望ましい。4月に入り、規模の大きな総合病院にも、外来患者が急減したり不急の手術を先送りしたりし、収入の落ち込みが目立つようになったところがある。コロナ禍という特異な状況のもとで、専門性や診療科の違いによる繁閑の差が広がっている。軽症のコロナ感染者は感染予防を徹底させた地域の診療所で治療する選択肢もあろう。そのための設備や資材を国費で援助するのは、納税者の納得を得やすい。人材配置を含め、医療資源を最適配分するにはどんな資金援助が効くか。データをつぶさに読み取り、根拠に基づく政策立案を徹底するときである。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60069950V00C20A6EA3000 (日経新聞 2020.6.6) 新型コロナ 政策を聞く〈検査体制〉民間機関、参入しやすく 自民・医師議員団本部長 冨岡勉氏(長崎大院修了。医学博士。衆院厚労委員長など歴任。党政調副会長。石原派。衆院比例九州、71歳)
 日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れた。第2波が起こりかけた時に正確に把握できるよう体制の拡充が急務だ。再流行の予兆を感知したらすぐにクラスター(感染者集団)対策を強化し、小さな流行に抑えるためだ。これまで過剰に検査せず医療費を抑えた面はあったが、再流行の兆しをつかめずに大規模な感染拡大につながればかえって医療費は増える。PCR検査の体制を強化するには米国や韓国で普及するドライブスルー方式の検査センターを増やす必要がある。短時間で検体を採取できるため効率がよい。病院で医師や患者が集団で感染するリスクを減らせる。ドライブスルー方式は日本の医師会や自治体で導入が増え始めている。政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい。PCR検査に類似し最短2~3時間で終わる簡易な「LAMP法」もドライブスルー方式で導入すべきだ。無症状者らを対象にコロナの感染の有無を一定の精度で早く判定できると期待する。抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい。無症状者らが診断後にPCR検査も受けたら二度手間になる。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20200606&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2020.6.6) PCR遅れ 国会検証を 立民・幹事長 福山哲郎氏(京大院修了。民主党政権で外務副大臣や官房副長官など歴任。参院京都選挙区、58歳)
 感染の実態を十分把握しているとは言いがたい。検査のために保健所などに設置した帰国者・接触者相談センターは電話がつながらないケースが相次いだ。「37.5度以上の発熱が4日以上続く」とした受診目安も壁となった。軽症、無症状者を含めた感染者数の全体像を把握しなければ必要な対策は打てない。PCR検査を増やすべきだ。ドライブスルー方式は院内感染を防ぎ、検査数を増やせるメリットがある。韓国やドイツなどではドライブスルー方式を2~3月に導入した。感染者を早期に発見し隔離することで感染防止につなげようとしたのだろう。日本も自治体が積極的に導入したのは評価できる。国が経費を負担するのが不可欠だ。第2波に備え、抗体検査も組み合わせ検査数を増やしていくのが欠かせない。妊婦や医療従事者、教員などに優先的に受けさせるべきだ。屋外拠点や電話ボックス型の検査ブースの活用も有効だろう。医療機関とは空間を別にして数多く検査ができるシステムを開発せねばならない。PCR検査がなぜ進まなかったのか十分な検証が必要だ。国会にコロナ問題検証委員会を設け、要因を分析すれば今後の検査拡充につながる可能性がある。(随時掲載)

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14502069.html (朝日新聞 2020年6月5日) 病院再編、感染症考慮
 厚生労働省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院について、安倍晋三首相は4日の参院厚生労働委員会で「感染症病床を担い、感染症対策において重要な役割を果たしていることは認識している」と述べ、今後は感染症対策も考慮して議論を進める方針を示した。厚労省は昨年9月、再編統合の必要があるとして424の公立・公的医療機関を名指ししたが、感染症病床の有無などは考慮していなかった。しかし、新型コロナウイルスの患者を多く受け入れている感染症指定医療機関の多くは公立・公的病院で、病院団体などから見直しを求める意見が示されていた。

*3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496109.html (朝日新聞 2020年5月31日) 医療担い手、待遇悪化 ボーナス3分の1に/給料10%減… コロナ恐れ受診減
 新型コロナウイルスで、医療や介護の働き手の待遇が悪化している。感染対策のコストがかさみ、患者や利用者が減って、経営が揺らいでいるためだ。一時金をカットせざるを得ない病院や施設も相次ぐ。国は医療・介護従事者へ最大20万円を配る予定だが、減収分を補うのは難しい。一部では雇い止めや、休みを指示する一時帰休などもみられ、雇用をどう守るかも課題だ。医療機関のコンサルティングを手がけるメディヴァによると、一般の患者が感染を恐れて受診を控える動きがめだつ。同社が全国約100の医療機関に感染拡大の前後で患者数の変化を聞いたところ、外来患者は2割強、入院患者は1~2割減った。首都圏では外来は4割、入院は2割減。とくにオフィス街の診療所では、在宅勤務の定着で会社員らの患者が落ち込む。メディヴァの小松大介取締役は「非常勤医師の雇い止めも出ている。夏のボーナス支給見送りを検討している施設も散見される」と話す。実際、看護師らの給料や一時金が下がるケースが続出している。日本医療労働組合連合会(医労連)が28日にまとめた調査では、愛知県の病院が医師を除く職員の夏の一時金を、前年実績の2カ月分から半減させることを検討。神奈川県の病院では夏の一時金カットに加え、定期昇給の見送りや来年3月までの役職手当の2割カットなどを検討しているという。医労連の森田進書記長は「職員の一時金1カ月分はだいたい30万円。コロナ患者を受け入れている医療機関の勤務者には最大20万円が支給されることになったが、賃下げ幅が上回る可能性がある」と話す。職員の夏の一時金を、当初想定していた額の3分の1に引き下げる病院もある。埼玉県済生会栗橋病院(同県久喜市、329床)は、新型コロナの入院患者も受け入れている。4月の病院収入は前年同月より15%減で1億2千万円減った。院長は経営環境について「つぶれるんですか、というレベルだ」と打ち明ける。看護師や臨床検査技師ら職員の夏のボーナスについて、感染拡大前に想定した額の3分の1にまで減らさざるを得ないという。全国医師ユニオンが都内で16日に開いたシンポジウムでも、懸念の声があがった。千葉県内の民間病院に勤める研修医は「すでに給料が10%カットされた病院もある。現場でのストレスが強くなるなかで給料まで下がったら、もうやっていられないという人も出てくる」と訴えた。大病院のなかには、業務が減っている一部の職員について、一時帰休を検討するところも出てきた。今後予想される「第2波」に向け、医療従事者の雇用の安定が求められる。
■経営、もともと脆弱
 背景には、感染拡大前から病院がぎりぎりの経営を強いられ、脆弱(ぜいじゃく)だったことがある。病院の収入は診療報酬制度に基づく。手術や入院などの診療行為ごとに値段(点数)が決められている。国は医療費が膨らみすぎないように点数を抑制してきた。厚労省の医療経済実態調査によると、精神科を除く病院の2018年度の損益率(収入に対する利益の割合)は、マイナス2・7%の赤字。利益を出しにくい構造で、患者が少しでも減れば経営が揺らぐ。介護の分野でも構造は同じ。国が定める介護報酬も抑制されていて、事業者には余裕が少ない。感染対策の費用がかさむ一方で、サービスの利用者が減り経営を圧迫している。国は診療報酬の上乗せやデイサービスの条件緩和など対策をとろうとしているが、実態の把握は十分ではない。厚労省の医療経営支援課は「病院団体が調べたデータなどを踏まえて経営支援に何ができるか考えていく」という。
■病院や介護施設における待遇悪化の主な事例
【病院】
 <愛知> 医師以外の固定給職員の夏の一時金が前年から半減の1.0カ月分
 <沖縄> 正規、臨時職員の夏の一時金が前年の約3割減の0.8カ月分
 <神奈川> 定期昇給見送り。正規職員の夏の一時金が前年の約3割減の
       1.0カ月分+3万円。6月から来年3月まで役職手当2割カット、
       管理職手当1割カット
 <東京> 一部の職員に一時帰休を実施
【介護施設】
 <和歌山> 夏の一時金が前年の約2割減の1.5カ月分
 <神奈川> 基本給を平均約2割減らし、定昇は見送り。年間一時金が前年から
       半減の2.0カ月分
 (日本医療労働組合連合会調べ。労使交渉は継続中で支給内容は変わる可能性がある)

<新型コロナの経済対策>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/526293 (佐賀新聞 2020.5.23) コロナ解雇1万人超
加藤勝信厚生労働相は22日の記者会見で、新型コロナウイルス関連の解雇や雇い止めが21日時点で1万835人に上ったと明らかにした。政府が緊急事態宣言を発令した4月から急増し、5月だけで全体の7割近い7064人を占める。雇用情勢が急速に悪化している実態が浮き彫りになった。厚労省は2月から、解雇や雇い止めについて見込み分も含めて都道府県労働局の報告を集計している。月ごとに見ると、2月が282人、3月が835人、4月が2654人。5月は20日時点で5798人だったが、21日には7064人となり、千人以上増えた。加藤氏は「日を追うごとに増加している」と懸念を示した。業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給する雇用調整助成金などを利用して、雇用維持に努めてほしいと強調。大規模な解雇や雇い止めの情報を把握した場合は「ハローワークの職員が企業に出向き、雇用調整助成金の活用を働き掛ける」と述べた。厚労省は解雇や雇い止めの集計に関し、現在は正社員と非正規労働者を区別しておらず、加藤氏は「(今後は)正社員と非正規労働者の動向が分かるよう事務方に指示している」と語った。パートら非正規労働者は正社員に比べて解雇されやすく、労働組合関係者の間では派遣社員の大量雇い止めなどへの懸念が広がっている。

*4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/528535 (佐賀新聞 2020.5.29) 観光割引、事務費が3000億円、「高すぎる」と野党が問題視
 新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた観光・飲食業を支援する政府のキャンペーンを巡り、外部への事務委託費が最大約3千億円と見込まれることが分かった。予算総額1兆6794億円の約2割を占める可能性があり、立憲民主、国民民主などの野党会派が29日開いた合同部会では「事業者に恩恵が行き届かない恐れがある」と問題視する声が出た。政府は新型コロナの収束を見据え、本年度第1次補正予算にキャンペーン費用を計上。旅行商品を購入した人に半額相当を補助したり、飲食店のインターネット予約などにポイントを付与したりする。事務作業は外部に委託するが、費用の上限は3095億円に設定。人件費、広報費に充てることを想定している。事務局の公募を既に開始、6月中に選定する。赤羽一嘉国土交通相は29日の衆院国交委員会で、関係業界が多岐にわたるため、事務局の作業は「時間とコスト、手間が相当かかる」と指摘。上限額の設定は適正との認識を示した。その上で、最終的な委託費用は「絞られる」とも述べた。野党の会合では「事務局への費用がかかりすぎると、本当に必要な事業者の支援が不十分になる」「地域の消費を喚起できるような仕組みにしてほしい」といった意見が出た。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496375.html (朝日新聞 2020年6月1日) 布マスク「質より量」、迷走 政府、早さ重視 国内検品断る
 4月1日の安倍晋三首相の全戸配布の表明から2カ月。いまだ大半の世帯に届いていない「布マスク」は、安倍政権の迷走の象徴となっている。マスク不足の中、調達の現場ではなにが起きていたのか。「3月中に1500万枚、4月中に5千万枚ほしい」。2月後半、最大の受注企業となる「興和」(名古屋市)の三輪芳弘社長は政府からの依頼に驚いた、と振り返る。枚数の桁が違った。「量ですか、質ですか」。納期を考えて優先事項を尋ねる三輪氏に政府の担当者は言った。「量だ。とにかく早くほしい」。医薬品や衛生品などをつくる同社が生産するマスクは不織布の使い捨てが主流だったが、布マスクも少数ながら取り扱っている。政府は生地の調達を含めて一貫した生産ができるとみて依頼した。だが、この時点で、政府の担当者も同社も、のちに「アベノマスク」とも言われる全戸配布の布マスクになるとは想像していなかった。課題は山積みだった。ガーゼの生地は中国やベトナム、スリランカなどアジア各国で探し、かき集めた。ただ、その時点では政府の発注書もない、いわば「口約束」だった。つくった布マスクを政府が買い取るという確約もない中で作業は始まった。生地はタイとインドネシアで加工。縫製は中国の加工業者に依頼し、約20カ所を確保した。2週間で急きょ集めた作業員は計1万人以上。日本人社員は感染を避けるため赴任先から帰国させており、日本語が分かる現地スタッフを通じて加工業者らとやりとりした。これとは別に検品場所も中国で約20カ所探し、ピーク時には数千人が作業にあたった。同社は当初、品質を担保するため国内での検品を強く希望。しかし、同社の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くというもので、「それでは期日までに目標の半分も調達できないおそれがあるということで、政府側が断った」(政府関係者)という。同社は日本から検品の担当者を現地に行かせ、監督させようとしたが、出入国制限などのため断念した。こうした経緯は異例の契約にもつながった。3月17日に結ばれた介護施設など向けの布マスク、21・5億円分の契約書には、隠れた不具合が見つかっても興和の責任を追及しないとの条項が入った。配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は「緊急を要する発注だったためにこのような契約を結んだ」と話す。縫製作業が始まったのは3月21日ごろ。同月26日、三輪氏は首相官邸で開かれた会議に出席。最初につくったサンプルを持参した。首相が全世帯に2枚ずつ布マスクを配ると表明したのは、その6日後だった。布マスク計画に関わった政府関係者は言う。「マスクが国民に行き渡るようにしろ、というのが官邸の意向だったが、これほどの量を短期間で確保するなんて元々厳しい目標だった」。前例のない計画に、やがてほころびが出た。

<介護崩壊>
*5:ttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200508/k10012422701000.html (NHK 2020年5月8日) 新型コロナで“介護崩壊”の危機? 高齢者施設で いま何が
 老人ホームなどの入所系の高齢者施設で、4月末までに少なくとも550人余りが新型コロナウイルスに感染し、このうち10%にあたる60人が死亡したことが全国の自治体への取材でわかりました。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者などが占めていて、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがあ

(図の説明:左の図は米国、中央の図はフランスの超過死亡数のグラフで、このような事態の中で、山形の超過死亡数が出るのは極めて自然なのだが、右図のように、日本はこれまでカウントしていた超過死亡数の公表を3月以降、中止している)

(1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政
る」と指摘しています。
●高齢者施設関連 国内死者の15%
 新型コロナウイルスの感染が先に深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となっていて、NHKは全国の自治体に4月末時点での高齢者施設での感染状況を取材しました。その結果、特別養護老人ホームや老人保健施設、それに有料老人ホームやグループホームなど入所系の高齢者施設では、少なくとも利用者380人余り、職員およそ170人の合わせて550人余りが感染し、このうち10%にあたる利用者60人が死亡していたことがわかりました。このほか、デイサービスなどの通所系施設やショートステイなどの短期入所系施設でも利用者と職員合わせておよそ190人が感染し、このうち利用者6人が死亡していたほか、訪問介護事業所でも利用者と職員だけで合わせて30人余りが感染していました。さらに愛知県では、デイサービスに関連して2つのクラスターが発生し、利用者と職員、それに利用者の家族や接触者などを含めて合わせて90人余りの感染が確認され、このうち20人が死亡しています。これらをすべて合わせた高齢者施設関連の死者は少なくとも86人で、国内で感染が確認され死亡した人のおよそ15%を占めています。
●感染拡大が続く高齢者施設
 各地の高齢者施設では5月に入ってからも利用者や職員の間で感染が広がり続けています。
▽札幌市の介護老人保健施設
  集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて30人の感染が明らかに。
▽京都市内2つの有料老人ホーム
  利用者と職員、合わせて12人の感染が確認。
▽千葉県市川市の介護老人保健施設
  集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて3人の感染が明らかに。(いずれも7日
  までの1週間)。感染者が出たことを受けて休業を余儀なくされている施設も出ています。
  福島県古殿町の介護施設では、5月3日にデイサービスを利用している90代の女性の
  感染が確認されたため、14日まで休業する措置をとり、消毒作業を行いました。
●なぜ消毒難しい? 特有の事情とは
 新型コロナウイルスの感染者が出た高齢者施設の消毒作業を手がけている団体が、認知症の高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画を公開し、入居者の一部が部屋にとどまったまま作業をせざるをえない高齢者施設特有の難しさを証言しました。消毒作業を手がける全国の24の企業で作る団体「コロナウィルス消毒センター」は、依頼者の許可を得て、4月13日に北海道千歳市にある認知症のある高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画をインターネットの動画投稿サイトで公開しました。3階建ての建物の中にあるこのグループホームは、1階の入居者と職員の合わせて10人が感染し、このうち入居者1人が死亡しました。センターによりますと、感染していない入居者は避難できる場所がないため部屋にとどまっていました。このため、まず感染者が出た1階の消毒作業を行い、次に2階の入居者を消毒が済んだ1階に移して2階の消毒を行うといった形で、各階ごと順番に作業を進めなければならなかったということです。消毒作業は、次亜塩素系薬剤、アルコール製剤、それに抗菌剤をそれぞれ噴霧するなどして拭く三段階の方式で行い、共有スペースや入居者の個室のほか、布団などを含め部屋に置かれているすべての物を念入りに消毒したということです。コロナウィルス消毒センター事務局の春日富士さんは「グループホームの運営会社の代表は、消毒を依頼する電話をかけてきた際、開口一番『助けてください』と話し、非常に切迫した様子だった。高齢者施設の場合、感染していない入居者はその場所に残るという選択肢しかなく、入居者も職員も不安を感じている。特に職員は非常に疲弊している印象を受けた」と話していました。
●対策も防ぎきれぬ
 集団感染が発生した高齢者施設の中には、感染者が全員入院し再発防止策が取られて事態が収束に向かったと見られていたのに、再び感染者が出たケースもあります。東京 大田区の特別養護老人ホーム「たまがわ」では、4月1日に職員の感染が明らかになり、入所者79人と職員52人がPCR検査を受けました。その結果、職員は全員陰性でしたが、入所者12人の感染が確認されました。しかし、入院先はすぐに確保できず、数十キロ離れた武蔵野市や立川市などまで範囲を広げて病院を探し、ようやく1週間後に感染した入所者全員が入院できました。それまでの間は、感染した入所者を一部の部屋に集め、医療機関で使うような防護服がない中で、簡易的な予防衣を着てゴーグルと手袋をつけて食事や排泄の介助などを続けました。感染者が出たため、作業を委託していた清掃や給食、それに警備の会社が従業員を派遣できなくなり、施設内の清掃なども職員がやらざるを得ない状況になったということです。施設を運営する社会福祉法人「池上長寿園」の杉坂克彦常務理事は、「感染した入所者が入院するまで1週間もかかるとは思わなかった。感染に気をつけながら1日中入所者の介助をして、職員は精神的にも肉体的にも、かなり疲弊していた」と話しました。保健所からは、調査の結果、現段階で感染経路はわかっていないと連絡があったということです。その後、施設内の消毒を行うとともに、食堂でとっていた食事を居室でとるように変更するなど、感染防止策を徹底しましたが、感染した入所者が全員入院してから1週間余りたち事態が収束すると思われた4月18日、新たに職員1人の感染が確認されました。さらに12日後の先月30日、今度は入所者1人の感染が確認されました。この入所者の濃厚接触者と判断された入所者3人は、症状が出ていないとしていまだにPCR検査を受けられず、施設内で隔離する対応を続けているということです。杉坂常務理事は、「通常の体制に戻そうかと考えていた矢先に、職員と入所者の感染が新たに判明し、まだ続くのかと感じました。感染防止策をさらに徹底していくが、これ以上施設内で感染を広げないためにも、防護服の確保やPCR検査の拡充を進めてもらいたい」と話していました。
●欧州 死者の半数近くが介護施設で暮らす人
 日本よりも先に新型コロナウイルスの感染が深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となりました。感染者や死者が最も多いアメリカでは、ジョンズ・ホプキンス大学のまとめで、これまでに7万3000人余りが死亡しています。高齢者施設での死者をまとめている民間の財団によりますと、情報が公開されている23の州の高齢者施設だけで、合わせて1万人以上が死亡したということです。このうちおよそ半数が、死者数が最多のニューヨーク州に集中していて、今月4日までに5000人近くが高齢者施設で死亡したとみられています。こうした状況はヨーロッパも同じで、死者3万人余りとアメリカに次いで死亡した人が多いイギリスでは、当初集計が困難だとして統計に含めていなかった高齢者施設など病院以外の場所で死亡した人を含めるよう変更した結果、死者数が4400人余り増えました。フランスではおよそ7000ある高齢者施設の半分近くで感染者が確認されていて、2万5000人を超える死者のおよそ4割、9600人余りが高齢者施設で死亡しています。ドイツでも7000人を超える死者のうち少なくとも2500人が高齢者向けなどの福祉施設で死亡していました。WHO=世界保健機関のヨーロッパ担当の専門家は4月23日の会見で「各国の推計によると、ヨーロッパで亡くなった人の半数近くが長期滞在型の介護施設で暮らしていた人たちだと見られる」と指摘しています。
●専門家「日本でも感染者や死者 さらに増えるおそれ」
 国内の高齢者施設での感染状況について、高齢者の介護や施設に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「現段階でも大変高い死亡率になっていると受け止めているが、欧米では死者に占める高齢者施設の入所者の割合が高いことを考えると、日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しました。そのうえで今後の対策について「今は医療崩壊を招かないよう病院については大変多くの対策がとられているが、介護施設はどうしても二の次になっていて、感染が広がっている中でも具体的な支援策が十分講じられていないのが現状だ。国や自治体は最低限、マスクや消毒液、防護服の確保など、感染を拡大させないための手当てをしたうえで、職員や入所者が早い段階でPCR検査を受けられるようにするとともに、施設内で集団感染が発生しても介護の質が落ちないよう職員のバックアップ体制を作る方策を早急に考えていく必要がある」と述べました。そして「介護崩壊を起こさないよう、長期的に新型コロナウイルスがある生活の中で介護サービスを維持していく仕組みを検討していくべきだ」と話しました。
●老人保健施設でクラスター いったい何が 富山
 人口10万人当たりの新型コロナウイルスの感染者が全国で3番目に多い富山県。富山市の老人保健施設で発生したクラスターが、220人近くいる感染者の4分の1以上を占めています。この施設では入所者だけでなく施設の職員の感染も相次ぎ、“介護崩壊”直前の状況になっていました。富山市の老人保健施設「富山リハビリテーションホーム」では、4月17日に入所者の感染が初めて確認されて以降感染が広がり、これまでに入所者と職員合わせて58人が感染、このうち入所者8人が死亡しています。施設には県から、診療や感染拡大の防止にあたる医療チームが派遣されていて、このうちの1人、富山大学附属病院の山城清二教授がNHKの電話インタビューに応じました。山城教授は4月23日と24日に施設内を視察したあと、25日から診療にあたり、入所者の健康状態を確認したうえで重症者を搬送するなどの対応をとったということです。施設で勤務している介護士や看護師にも感染が広がったため、5人程度の職員で40人余りの入所者のケアに当たっていたということで、山城教授は「非常に少ない人数で対応していてケアが行き届いていなかった。“介護崩壊”直前のぎりぎりのところでやっていて、あと1人職員が感染すれば完全に崩壊していた」と指摘しました。施設には介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者も多くいますが、深刻な人手不足のため、最低限の食事や水分をとらせるだけで、着替えをしたり体を拭いたりすることはほとんどできていなかったということです。“介護崩壊”を防ぐため、富山市などが富山県内の老人介護施設でつくる協議会に対して介護士の派遣を要請した結果、今月2日以降介護士と看護師合わせて6人が応援に入り、体を拭くなどのケアをカバーできるようになって、状況は徐々に改善されているということです。
●症状相次いでも 適切な対応とらず…
 一方、この施設では、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らなかったことや、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造がクラスターを引き起こしたとみられることが市の関係者への取材で分かりました。市の関係者によりますと、この施設では入所者の間で発熱などの症状が相次いだあとも感染を疑わず、保健所に相談してPCR検査を受けさせるなどの適切な対応を取っていませんでした。施設で最初に感染が確認された80代の女性のケースでは、4月7日に熱が出て、10日にはしゃがれ声、13日にはせきやたんといった症状も出ていましたが、症状が悪化して救急搬送された指定医療機関でPCR検査を行ったのは、発熱の9日後の16日でした。女性と同室だった90代以上の入所者は、4月9日に熱が出て、14日にはせきやたん、しゃがれ声の症状も出ていましたが、指定医療機関に搬送されて検査を受けたのは16日でした。この女性は翌日に死亡し、その後、感染が確認されました。さらにこの施設では、入所者の多くが相部屋で、部屋や風呂を共同で利用するなど、感染が広がりやすい構造になっていることがクラスターを引き起こしたとみられることも分かりました。
●高齢者施設は どうすればいいのか?
 感染症が専門の厚生連高岡病院の狩野惠彦医師は、高齢者が入所する施設の中で感染が広がるリスクについて「人と人との距離が近く接触度の高い生活をしているので、一度ウイルスが持ち込まれるとクラスターが発生しやすくなる。感染が収束に向かうような流れがあっても、最後の最後まで気が抜けない環境であることに変わりはない」と指摘しています。そして、施設内で感染者や疑わしい人が出た場合は、個室に移動させて隔離し対応する介護職員を限定することや、入所者や職員が食事する際、換気のいいところでなるべく離れて食べるといった対応を速やかにとることが大切だとしています。一方で、人手や施設の構造など施設ごとの事情があるとしたうえで「個室が難しければ、カーテンで仕切ってそこから出ないようするなど、感染リスクを下げるために与えられた環境で可能な対応を考えていく必要がある」と話しています。そのうえで、今後高齢者が入所する施設の中でクラスターを防ぐために必要なこととして「クラスターの発生には1つのことが理由になっていることもあれば、いくつかの事情が重なっていることもある。海外や国内で起きた事例から学んで、対策の見直しを行うことが求められる」と話しています。

<年金崩壊>
*6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14494753.html?iref=comtop_shasetsu_01 (朝日新聞社説 2020年5月30日) 年金改革 残る課題の検討を急げ
 年金改革関連法が成立した。非正規雇用で働く人たちに厚生年金の適用を広げることなどが柱だ。適用拡大は長年の懸案で、今回の見直しは半歩前進だ。ただ、積み残しとなった課題も多い。制度の安定と将来不安解消のため、次の改革に向けた議論を急がねばならない。雇われて給料をもらう人は厚生年金に入るのが原則だ。しかしパートなどで週の労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者は、「従業員数501人以上」の企業で働く人にだけ加入を義務づけている。この要件を22年10月に「101人以上」、24年10月に「51人以上」に改める。約65万人が新たに厚生年金に加入すると見込まれる。本人の年金が充実するのに加え、厚生年金の支え手が増え、年金財政の改善にもつながる。新たに保険料の負担が生じる中小企業への支援、当事者への丁寧な説明を通じて理解を得つつ、着実に進めたい。そもそも厚生年金に加入するかどうかが、勤め先の規模で異なるのは不合理だ。野党は24年10月に企業規模要件をなくす修正案を提出し、安倍首相も「撤廃を目指すべきだ」と述べた。にもかかわらず今回、廃止時期を示せなかったのは遺憾だ。いつまでにこの要件を撤廃し、それを実現できる環境をどのように整えるのか。議論を深める必要がある。コロナ禍で経済が打撃を受け、今後の景気の動向は見通しにくい。年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている。ただ、今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない。しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ。全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない。参院では、コロナ後の経済・社会の動向も踏まえた年金財政の検証を求める付帯決議がつけられた。作業の前倒しも含め、検討を急ぐべきだ。昨年の財政検証では、国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示されたが、これも付帯決議で、今後の課題として先送りされた。政府・与党内で、基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まないためだ。今は65歳まで働くことも一般的になっており、見直しは待ったなしだ。財源の議論も含め、これ以上の先送りはできない。

<日本における経済分析の問題点>
*7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202005/CK2020051802000225.html (東京新聞 2020年5月18日) <新型コロナ>GDP年3.4%減 2期連続マイナス 1~3月期
 内閣府が十八日に発表した二〇二〇年一~三月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期比0・9%減、このペースが一年続くと仮定した年率換算では3・4%減だった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が緊急事態宣言を発令する前だが、外出自粛で個人消費が低迷。訪日外国人客の減少も響き、約四年ぶりに二・四半期連続のマイナス成長となった。項目別に見ると、GDPの六割近くを占める個人消費が前期比0・7%減。政府による二月末のイベント自粛要請で「自粛ムード」が広がったため、外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだほか、自動車や衣服の消費も振るわなかった。外食や宿泊などのサービス消費額は今回、外出自粛の影響をより正確に反映させるため、業界統計を基に推計する異例の手法を採った。従来は一~二月の実績から三月分を推計していたが、これではサービス消費が急減した状況を織り込めず、実態と懸け離れると判断した。輸出は6%減で一一年四~六月期以来のマイナス幅。統計上は輸出にカウントされる訪日客の消費が減り、世界経済の減速で半導体製造装置の出荷が滞ったことも響いた。一方、輸入も国内消費の弱さを背景に原油や天然ガスの減少などで4・9%減となった。企業の設備投資は0・5%減。新型コロナ感染拡大の収束が見通せない中、先行きの不透明感から投資を先送りする企業が増えたとみられる。住宅投資も4・5%減った。この他、物価の変動を反映し、生活実感に近いとされる名目GDPの成長率は0・8%減。年率で3・1%の減少となり、実質と同じく二・四半期連続のマイナスだった。一九年度のGDPは、実質が前年度比0・1%減と五年ぶりにマイナス。名目は同0・7%増と八年連続のプラスだった。

*7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/525813 (佐賀新聞 2020年5月22日) 消費者物価が3年4カ月ぶり下落、4月0・2%、コロナで原油安
 総務省が22日発表した4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月より0・2%下がり101・6だった。下落は2016年12月以来、3年4カ月ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった。市場では当面、指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い。物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まってきた。3月は0・4%の上昇だった。昨年10月の消費税増税の影響を除いた4月の下落率は0・6%となった。品目別ではガソリンが9・6%、灯油が9・1%それぞれ下落した。いずれも原油価格がすぐに反映されやすい。ホテルなどの宿泊料は訪日外国人の激減で7・7%下がった。新型コロナでイベント中止や冠婚葬祭の縮小の動きが出て、切り花は1・9%下落した。総務省の担当者は「電気代やガス代は(原油安の影響が)少し遅れて数カ月後に出てくる」と、ガソリンなどを含めたエネルギー価格が一段と下がる可能性を指摘した。一方、品薄が続いたマスクは5・4%上昇し、上げ幅は3月よりも1・3ポイント拡大した。増税影響で外食が2・7%上がった。生鮮食品を除いた指数には含まれないものの、外出自粛による需要の高まりを背景に、生鮮野菜は11・2%上がり、キャベツは48・2%も上昇した。新型コロナと関係なく価格変動が大きかった品目では、損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9・3%上昇。増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94・0%下がった。生鮮食品とエネルギーを除いた4月の指数は0・2%の上昇で、伸び率は0・4ポイント縮小した。

*7-3:https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO4170568025022019000000/ (日経BizGate 2019/3/6) 「新自由主義」という謎の言葉~「小さな政府」という意味ではないの?~
 「新自由主義(ネオリベラリズム)」という言葉がニュースや論説によく登場します。最近では、フランスで反政府運動「黄色いベスト」の抗議デモにさらされるマクロン政権の政策路線が新自由主義的だと言われます。けれどもこの新自由主義という言葉、なんとも正体不明です。いちおうの定義はあるものの、実際には、どう考えても定義と正反対の意味で使われることが少なくありません。たとえるなら、赤は「血のような色」と説明された後で、青空を指差して「ほら、赤いでしょう」と言われるようなものです。これでは頭が混乱します。たとえだけではわからないでしょうから、新自由主義がどのように正体不明で、人を混乱させるのか、具体的に見ていきましょう。まず、新自由主義の定義を確認しましょう。辞典では「政府などによる規制の最小化と、自由競争を重んじる考え方」(デジタル大辞泉)、「20世紀の小さな政府論」(知恵蔵)などと説明されています。これらの定義は明確です。言い換えれば、経済に対する政府の介入を否定する考えです。ところが実際には、この定義に当てはまらない政策や考えを新自由主義と呼び、批判するケースをしばしば目にします。
●「小さな政府」をめざしているのに増税や金融機関救済
 たとえば、冒頭で触れたマクロン仏政権です。マクロン大統領は、企業活動の活性化のため雇用・解雇をしやすくしたり、財政赤字の削減のため公務員を減らしたりする策を打ち出しています。なるほど、これらの政策は「小さな政府」をめざすという新自由主義の説明に素直に当てはまります。しかし、マクロン政権に抗議する「黄色いベスト」運動が広がったきっかけは、これらの新自由主義的な政策ではありません。政府が環境政策の一環として今年1月から実施する予定(抗議を受け今年は見送り)だった、ガソリンと軽油の増税です。増税は、政府が経済への介入を控え、小さな政府をめざす新自由主義の定義には当てはまりません。予算規模の拡大につながりますから、むしろ正反対の「大きな政府」の政策です。最近では燃料増税だけでなく、雇用・解雇の規制緩和や公務員削減といった新自由主義的な政策に対しても抗議が広がっているのは事実です。けれども、そもそも増税という大きな政府路線への反対からデモが始まったのに、それが小さな政府をめざす新自由主義に対する抗議だと報じられてしまうと、読者や視聴者は混乱しますし、事実の本質をゆがめかねません。似た例は、米国でもあります。2008年にリーマン・ショックと呼ばれる金融危機が起こったときのことです。当時はブッシュ(子)政権で、英国のブレア政権や日本の小泉政権と並び、新自由主義の権化のように言われていました。しかしリーマン・ショックで米国経済への不安が広がると、ブッシュ大統領は総額7000億ドル(約70兆円)の総額不良資産救済プログラム(TARP)法案に署名し、金融機関の救済に乗り出します。もちろん、政府が経済への介入を控える新自由主義の定義とは正反対です。税金を投入したこの救済策に対しては、米国内で強い批判が巻き起こりました。けれどもなぜか、今でもブッシュ政権は新自由主義だと言われます。オンライン百科事典のウィキペディアでは、ブッシュ大統領の政策について、新自由主義、小さな政府の方針と重なるところが多いと記しています。同じ政権の政策に、新自由主義的なものとそうでないものが混在することはあるでしょう。けれどもリーマン・ショックのような重大な出来事に対し、明らかに新自由主義の定義に反する対応をしたにもかかわらず、その政権の性格を新自由主義という言葉で表現するのは、適切とは言えません。青空を「赤い」と言うようなものです。ブッシュ政権は自由貿易を信奉すると言いながら、国内の鉄鋼業を保護するため、鉄鋼輸入に対し関税や数量制限をかけたりしました。この点からも新自由主義というレッテルは疑問です。
●都合が悪くなると放棄されるか、ねじ曲がる程度の「原理」に基づく?
 マクロン、ブッシュ両政権の例から気づく点があります。国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線であるにもかかわらず、一部のメディアや知識人はそれを新自由主義のせいにしたがることです。そうした解説は現実と食い違うので、無理が目立ちます。たとえば、新自由主義批判の代表的な論客であるデヴィッド・ハーヴェイ氏は著書『新自由主義』(作品社)で、新自由主義は市場への国家の介入を最低限に保つ理論だと述べる一方で、現実には「新自由主義的原理がエリート権力の回復・維持という要求と衝突する場合には、それらの原理は放棄されるか、見分けがつかないほどねじ曲げられる」と言います。苦しい説明です。都合が悪くなると放棄されたり、ねじ曲げられたりする程度の「原理」は、そもそも原理と呼ぶに値しません。「建前」とでも呼ぶのが適切です。経済への介入を控えるというのはあくまで建前にすぎず、本音では増税や企業救済、輸入制限といった大きな政府路線をためらわない。こう説明するほうが、はるかにすっきりします。そう言われても、新自由主義を批判する知識人は、すんなり従うわけにはいかないでしょう。ハーヴェイ氏を含め、彼らの多くはマルクス主義を信奉する左翼やそれに賛同する人々で、大きな政府を支持するからです。政治的な敵として攻撃する相手は、たとえ現実と食い違っても、小さな政府をめざす新自由主義者でなければ都合が悪いのです。明治学院大教授(社会学)の稲葉振一郎氏は、新自由主義といわれる経済学の諸学派には、ひとくくりにできるような一貫性のある立場は見出せないと述べます。そのうえで、あたかも実体のある新自由主義というイメージの「でっち上げの主犯」は、批判すべきわかりやすい対象を見出したい、マルクス主義者たちなのではないかと厳しく問います(『「新自由主義」の妖怪』、亜紀書房)。以上の説明で、新自由主義とは表面上の定義と実際の意味が食い違う、謎の言葉である理由がわかったのではないでしょうか。物事を正しく理解し、議論するには、明確な言葉を使うことが欠かせません。新自由主義という、定義と正反対の使用がまかり通るような言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはおぼつかないでしょう。

*7-4:https://kotobank.jp/word/%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-77046 (自由主義)
 個人の諸自由を尊重し,封建的共同体の束縛から解放しようとした思想や運動をいう。本格的に開始されたのはルネサンスと宗教改革によって幕をあけた近代生産社会においてであり,宗教改革にみられるように,個人の内面的自由 (信教の自由,良心の自由,思想の自由) を,国家,政府,カトリック,共同体などの自己以外の外在的権威の束縛,圧迫,強制などの侵害から守ろうとしたことから起った。この内面的諸自由は,必然的に外面的自由,すなわち市民的自由として総称される参政権に象徴される政治的自由や,ギルド的諸特権や独占に反対し通商自由の拡大を求め,財産や資本の所有や運用を自由になしうる経済的自由への要求へと広がっていった。これらの諸自由の実現を求め苦闘した集団や階級が新興ブルジョアジーであったため,自由主義はしばしばそのイデオロギーであるとみられた。しかし各個人の諸自由を中核とした社会構造は,その国家形態からみれば,いわゆる消極国家,中性国家,夜警国家などに表象されるように,自由放任を生み,当然弱肉強食の現象を現出させることになり,社会的経済的に実質的な平等を求める広義の社会主義に挑戦されることになった。しかし,20世紀に出現した左右の独裁政治の実態は,自由主義が至上の価値としてきた内面的自由,政治的社会的諸自由などが,政治体制のいかんにかかわらず,普遍的価値があることを容認せしめ,近代西欧社会に主としてはぐくまれてきた自由主義は再評価されている。

*7-5:https://kotobank.jp/word/%E6%96%B0%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-298677 (新自由主義)
 政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策。債務危機の解決をめぐって国際通貨基金(IMF)など国際金融機関が融資の条件として債務国に採用を求めたこともあって、急速に中南米各国に広まった。緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い。ベネズエラ大統領選でのチャベス政権誕生やエクアドル政変、アルゼンチン、ボリビアでの暴動など、新自由主義への反対を掲げた市民の動きが目立ち、南米の左派政権誕生の原因となった。 20世紀の小さな政府論を新自由主義と呼ぶ。18世紀イギリスの思想家、アダム・スミスは『国富論』で、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要を説いた。その後20世紀に入ると、大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった。しかし、1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率などが大きな問題となり、イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権を皮切りに、減税、規制緩和、民営化を軸とする小さな政府への改革が広まった。日本でも80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた。ただ、日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対してきた。つまり、日本の場合、保守の自民党の中に小さな政府と大きな政府という相対立する思想が同居しており、政策が円滑に決定されない。「官から民へ」というスローガンを唱えて登場した小泉政権も、新自由主義改革を推進するために、党内の抵抗勢力との間で複雑な駆け引きを繰り返してきた。結果的には、郵政民営化や社会保障費の抑制など新自由主義的政策が小泉政権の遺産となった。

<資源の使い方と財源>
*8-1:https://mainichi.jp/articles/20190516/k00/00m/040/193000c (毎日新聞 2019年5月16日) 国有林、過剰伐採の恐れ 民間開放拡大 法改正案衆院委可決
 全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、16日の衆院農林水産委員会で自民、公明両党と国民民主党、日本維新の会の賛成多数で可決された。21日の衆院本会議で可決されて参院へ送られる見通し。全国の森林の3割を占める国有林の伐採を民間へ大きく開放し、低迷する林業の成長を促すとしているが、伐採後の植え直し(再造林)が進まなければ国土の荒廃につながりかねないなどの懸念も浮上している。現行の国有林伐採は農林水産省が数ヘクタール程度について1~数年単位で入札。再造林は別の入札で委託している。同案はこれに加え、数百ヘクタール規模の「樹木採取区」で公募した業者に「樹木採取権」を付与。大規模集約化による効率化を図り、対価として一定の権利設定料と樹木料を徴収する。

*8-2:https://www.agrinews.co.jp/p51016.html (日本農業新聞 2020年6月8日) 放牧経営どうなる 中止、畜舎義務化 懸念広がる 農水省基準案に「唐突」「根拠は」
 農水省が7月決定を目指す家畜の「飼養衛生管理基準」の改正案に、豚や牛などの放牧制限につながる事項が盛り込まれたことで、放牧で豚を飼育する農家に波紋が広がっている。豚熱のワクチン接種地域の24都府県で豚の放牧が実質できなくなり、それ以外の地域でも豚や牛は畜舎の整備などを義務化する。長年の経営を抜本的に見直さなければならない農家もいる中、科学的根拠を示さず案を示した同省の姿勢に疑問の声が相次ぐ。全国で放牧に取り組む養豚農家は140戸。自然に近い形で育て、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などにつなげてきた。一方、基準案は「放牧の停止又は制限があった場合に備え、家畜を使用できる畜舎の確保又は出荷もしくは移動のための準備措置を講じること」「大臣指定地域に指定された場合の放牧場、パドック等における舎外飼養の中止」などと明記。11日まで国民からの意見を募集しており、7月までの決定を目指す。放牧中止を余儀なくされる養豚農家らは「根拠を示してほしい」「国は放牧を推進してきたのに矛盾する」などと基準案の内容を疑問視する。長野県安曇野市で40年前から放牧豚を飼育してきた藤原喜代子さん(59)は「根本的に経営が変わる。理由を教えてほしい」と話す。畜産試験場で豚熱が発生しても、放牧で150頭を飼育する藤原さんは防疫と放牧を両立させて発生を防いできただけに、放牧を危険視する根拠の提示を求める。同省は5月13日に改正案をホームページなどで周知したが、理由は明記していない。事実上の放牧中止にまで踏み込んだ内容にもかかわらず、農家への影響調査はしていないという。同省の対応に静岡県富士宮市の「朝霧高原放牧豚」代表、関谷哲さん(45)は放牧豚ができなくなれば経営が成り立たなくなるだけに「どういう状況を放牧というのか、屋外に豚を出してはいけないのかなど、全く説明がない」と困惑する。大臣指定地域の豚熱のワクチンを接種する24都府県以外にも波紋は広がる。熊本県山都町で120頭を飼養する坂本幸誠さん(62)は、豚熱対策として4月に700万円かけて放牧場に550メートルのフェンスを設置した。「放牧でストレスのない環境で免疫力が向上し、病気にも強い。10年かけて、やっとここまできた」と坂本さん。顧客は放牧で飼育する希少種だから取引しているという。簡易畜舎はあるが、放牧中止の準備を求める同省の基準案に「寝耳に水。防疫と放牧は両立できるはず」と訴える。鹿児島県伊佐市で黒豚1000頭を飼育している沖田健治さん(61)も「豚熱はいつどこで発生してもおかしくなく、ワクチン接種地域以外にも影響は大きい」と指摘する。熊本県天草市で50頭の豚を飼育する大橋範子さん(46)は「放牧する養豚農家は、誰もが伝染病対策の大切さを考えている。突然案を示すのではなく、どんな対策ができるのか農家と考えてほしい」と要望する。

*8-3:https://www.agrinews.co.jp/p50881.html (日本農業新聞 2020年5月24日) 東京圏在住 半数「移住に関心」 農業人気 田園回帰志向強く
 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部は、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県在住者を対象に行ったアンケートの結果を公表した。東京圏在住者の半数が地方暮らしに関心があると答え、都市住民の田園回帰志向が浮き彫りになった。「やりたい仕事」の最多は「農業・林業」だった。j調査は、東京一極集中の解消に向けて移住を促進するために、同本部が今年1月、東京圏在住の20~59歳の男女1万人を対象にインターネットで実施した。東京圏在住者全体の49・8%が、1都3県以外の地方圏暮らしに関心があると回答した。出身別では東京圏出身者は45・9%、地方圏出身者では61・7%に上った。「やりたい仕事」では「農業・林業」が15・4%で最多。「宿泊・飲食サービス」(14・9%)、「サービス業」(13・3%)「医療・福祉」(12・5%)が続いた。また、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かった。一方、地方圏暮らしへのネガティブイメージは、「公共交通の利便性が悪い」(55・5%)が最も多く、「収入の減少」(50・2%)、「日常生活の利便性が悪い」(41・3%)などが挙がった。同本部は「新型コロナウイルスの影響が及ぶ前の調査だが、コロナ禍で地方への関心層は一層、高まる可能性もある。新型コロナウイルスが収束し、都道府県をまたいで行き来ができるようになれば、地方暮らしをPRしていく」と説明する。

*8-4:https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20200612.inc (山形新聞社説 2020.6.12) コロナと公立病院再編 危機に強い医療構築を
 厚生労働省は新型コロナウイルス流行で入院病床が逼迫(ひっぱく)したのを受け、約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしする。同省が主導した従来の検討では、感染症対応の視点欠如が明らかだ。経済合理性を優先して病床削減を進めれば国民の生命を守れない。コロナの教訓を生かし、効率的かつ危機に強い病院再編に向けて仕切り直しをすべきだ。病院再編は、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増する2025年を見据え病院の統合や診療機能の役割分担、病床数削減も含めて医療提供体制を見直す。厚労省は再編に向けた議論を促すため昨年秋、診療実績が乏しいか、近隣に競合病院があり、再編・統合が必要と判断した約440の公立・公的病院を都道府県に伝え、地域で結論を出すよう求めた。本県では県立河北、天童市民、朝日町立、寒河江市立、町立真室川、公立高畠の各病院が該当し、県は四つの2次医療圏に設置した地域医療構想調整会議で議論を促している。寒河江市は来月、市立病院と県立河北病院の統合を軸とした検討を進めるよう県に要望する。病院再編の検討は少子高齢化に伴うものだ。急病や大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性は低くなる一方、高齢者のリハビリといった「回復期」病床のニーズが高まる。厚労省はこれらを調整し、18年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らす方針だ。だが地方側は、赤字が深刻な公立病院改革の必要性は認めつつ、病院名を挙げての再編要請には「地域医療の最後の砦(とりで)だ。個別事情を評価していない」と反発し、議論が難航していた。そのさなかに新型コロナの感染拡大が起きた。2月時点で全国の感染症指定医療機関の病床は約2千床。政府は当初、5千床の緊急確保を表明したが、とても足りず、5月末で1万8千床をようやく確保できた。一時は東京、石川で用意した病床の約9割が埋まり、感染症への危機対応の弱さが浮き彫りになった。しかも公立病院は感染症病床の約6割を担っている。再編が必要とされた公立・公的病院約440の中には感染症指定医療機関53病院が含まれ、コロナ対応の拠点となっており、それを考慮しない病床削減は地域の理解を得られない。厚労省の有識者会議で有事対応への余力維持を求める意見が出ているのも当然だろう。公立・公的病院は過疎地での医療や、救急、小児医療など採算が取りにくい部門を引き受けている。だが少子高齢化で医療や病床のニーズが変わるのに合わせ病院、病床の機能を効率化していかなければ将来の医療費負担は重くなる一方だ。同時に、コロナの教訓を踏まえ、感染症流行拡大に即応できる体制を強化しなければならない。ただし未知のウイルスに備え常時多くの空きベッドを抱えれば人件費など医療機関の経営コストが過重になりかねない。しかもコロナ患者を受け入れた公立病院の9割以上が通常の診療ができず減収に苦しむ問題も起きた。複雑な連立方程式であり最適の解を見いだすのは容易ではないが、官民とりわけ地域の英知を結集し展望を開きたい。

<研究と特許>
*9-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/531307 (佐賀新聞 2020.6.5) ノーベル賞本庶佑氏が法廷闘争へ、がん免疫薬の特許巡り小野薬品と
 本庶佑京都大特別教授は5日、自身の研究チームの発見を基に開発され、ノーベル医学生理学賞の受賞にもつながったがん免疫治療薬「オプジーボ」の特許収入として、小野薬品工業に約226億円の支払いを求め、今月中旬にも大阪地裁に提訴すると発表した。新たながん治療薬の種を見つけた研究者と、リスクを取って実用化に結びつけた製薬企業の収入配分を巡る対立は法廷に持ち込まれる。本庶氏は収入を若手研究者の支援のため設立された京大の基金に充てる考え。本庶氏は記者会見し「話し合いで解決したかったが誠意ある回答が得られず、やむなく訴訟を決意した」と説明。「アカデミアの成果を社会がきちっと評価することが必要だ」と訴えた。小野薬品の広報担当者は「内容を正確に把握できておらず、コメントは差し控える」と話した。本庶氏は2006年、小野薬品と収入配分に関する契約を締結。だが「金額が著しく低く不当だ」として11年以降、見直しを求め交渉していた。本庶氏は、14年に小野薬品から「特許を巡る米国の製薬会社との訴訟に協力すれば条件を見直し、その会社から得られる特許使用料の40%を配分する」と提案され、協力。しかし裁判終了後にほごにされたと主張する。一方の小野薬品は、この提案内容で両者が合意したとは認めていない。今回求める約226億円は、17~19年に米国の製薬会社から小野薬品に入った特許使用料の約39%。本庶氏によると、小野薬品は40%ではなく「1%分を支払う」と通知してきており、その差額に当たる。小野薬品は19年、本庶氏が求めてきた料率の引き上げではなく、京大への最大300億円の寄付を提案。だが本庶氏は受け入れず、協議を続けていた。オプジーボは体内の免疫細胞に作用し、がんへの攻撃を継続させる薬。14年に国内で発売され、皮膚のがんから肺、腎臓などへと用途が拡大してきた。

*9-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO78790300T21C14A0X11000/ (日経新聞 2014/10/24) 15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬
 日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD-1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆けて実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫薬とは――。
■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価
 「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった小野薬の抗PD-1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそう評価する。ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野薬が生み出せたのか。1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD-1」という分子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD-1が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15年かかったことになる。当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」など免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的だった。そんな中で小野薬だけが"しぶとく"開発を続けてきた背景には「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らかの治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長兼取締役)という。もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーでは断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD-1抗体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。しかし抗PD-1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」(河上教授)。
■年間数百億円のロイヤルティー効果
 副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田本部長)という。足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD-1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界の目が注がれている。

*9-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20200523&be・・ (日経新聞 2020.5.23) ワクチン量産 設備が壁 特殊な技術 欧米勢が先行 日本、資金支援を検討、 ワクチン、国家の争い激化 国際協調に課題 、 米、コロナ関連に1300億円/中国、年内に実用化めざす
 新型コロナウイルスのワクチン開発を巡り各国が激しい主導権争いを演じている。先行する米国は自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて、欧米医薬企業の実用化を後押しする。中国も国を挙げて開発を強化しており、欧州勢も世界競争に割って入る。国際協調でワクチン開発を支援する動きもあるが、国主導の開発スピードが加速している。米国で新型コロナワクチン開発を支えるのが、米生物医学先端研究開発局(BARDA)だ。BARDAはバイオテロなどに対応するために2006年に設立。米保健福祉省(HHS)の傘下組織で国の予算で運営されている。米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援する。BARDAは米でコロナ感染が深刻化した3月初旬以降、新型コロナ案件に集中している。投じた金額は12億ドル(1300億円)を超える。BARDAは開発を支援するだけでなく、開発を終えてすぐに供給できるように生産体制の構築まで視野に入れ巨額資金を投じる。すでにジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と設備投資費用10億ドル(約1千億円)を折半して、10億回分の新型コロナワクチン供給契約も締結した。BARDAは米バイオ企業モデルナにも約4億3000万ドル(約460億円)を投じる。ワクチンの有効性を確認する前から投資を決断し、同時に大量に買い取る契約も結んだとされる。4月30日、国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は21年1月までにワクチンを数億本供給する計画の存在を明らかにした。「有効かどうか答えが出る前に、リスクをおかして生産増強を進める」(ファウチ所長)。詳細は明らかになっていないがBARDAの存在が見え隠れする。米国は自国への供給を最優先としているが同様の動きは広がっている。中国では政府と関係の深いバイオ企業や研究所で3つのワクチン治験が進む。開発費用や治験の設計、製造体制まで政府の支援を受けていると言われる。安全性重視の欧米と違い有効性確認を優先するため実用化スピードは速い。支援を受けるカンシノ・バイオロジクスが手掛けるワクチンは世界で初めて有効性を確認する治験まで進んでおり、年内実用化を目指す。中国は自国だけでなく、途上国にも供給することで外交的な影響力拡大も狙う。ワクチン開発を急ぐのは米中だけではない。英国でワクチン治験を始めたオックスフォード大学は4月30日、製薬大手の英アストラゼネカ(AZ)との提携を発表した。英国政府も同大に2000万ポンド(27億円)を助成。年内に1億回分のワクチン製造体制を構築し英国民への供給を急ぐ。欧州連合(EU)もドイツの有力ワクチンメーカーに8千万ユーロ(約94億円)の研究助成を決めたのも、優先供給を狙う米国から同メーカーを防衛するためとされる。ただ、仏製薬大手サノフィのポール・ハドソン最高経営責任者(CEO)は「(ワクチン開発支援で)欧州委員会がBARDAレベルに達していない」と指摘し、開発スピードなどで遅れかねないと懸念する。国際的な官民連携組織である感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は「平等なアクセス」を理念とする。支援を受けた企業は手ごろな価格で分け隔てなく供給することが求められる。ただ、CEPIの支援は研究開発が中心で、BARDAのように供給体制構築まで踏み込まない。日本もCEPIに資金拠出している。国内では内閣府などが所管する日本医療研究開発機構(AMED)がワクチン開発を支援する。支援規模は小さく、治験などの助成に限る。世界がワクチン開発で覇権争いを繰り広げるなか、海外製ワクチンが日本に速やかに輸入されるという保証はない。国産ワクチン開発を急ぐためにも、制度、資金だけでなく生産体制にそそぐ必要がある。

*9-3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613631/ (西日本新聞 2020/6/3) 高齢運転対策「終わりはない」池袋暴走の遺族訴え 改正道交法成立
 高齢者運転対策を盛り込んだ改正道交法が2日、衆院本会議で可決、成立した。契機となったのは昨年4月、東京・池袋で高齢運転者の車が暴走し、松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3)=が死亡した事故だった。悲しみの淵にありながら事故防止を訴え続けた夫拓也さん(33)は、法改正を「大きな一歩だけど、終わりではない」と語る。都市と地方の格差、免許返納者の生活支援など課題は残されている。インターネットのビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で思いを聞いた。事故の5日後、拓也さんは会見で涙ながらに訴えた。「運転に不安がある人は運転しない選択を考えてほしい」。犠牲者を減らしたい一心だった。6月には福岡市早良区で80代男性の車が逆走し、10人が死傷する事故も発生。「また起きた。もっと伝えられることがあったのでは」と自分を責めた。妻子が事故に遭った時間に手が震え、見ていない事故の瞬間の光景が目に浮かんだ。同様の経験をした遺族たちと出会い、交通政策の勉強を始めた。東京生まれ、東京育ちの拓也さん。車でないと買い物や病院さえ行けないという地方の窮状を知った。免許が自尊心そのものという人もいる。「『運転しない選択』を迫った発言は短絡的だった」と省み、今はこう考える。「高齢者を切り離して事故は防げるが、今生きてる命を見放すことになる。事故で奪われる命も、車を手放すことで脅かされる日常も望まない」。高齢化に伴い、75歳以上の運転免許保有者数は昨年までの10年間で140万人も増えた。改正道交法は、一定の違反歴がある75歳以上への実車試験の義務付けや安全運転サポート車(サポカー)の限定免許創設を定める。「従来の免許更新は足が不自由など体の機能を調べていなかった。一定の効果は出る」と期待する。一方、サポカーへの過信が事故につながらないか懸念する。自動ブレーキの作動には多くの条件があり、池袋の事故もサポカーで防げなかった。「技術を過信しないよう正確な情報発信が必要」と求める。拓也さんの活動は世の中を動かした。運転免許の返納件数は昨年、過去最多の約60万件に上った。「高齢の親の説得などそれぞれの家庭の頑張りに支えられた結果」と受け止める。事故は高齢者だけが起こすものではない。誰もが加害者にも被害者にもなる。高齢者運転対策が「若年者と高齢者の対立構造になってほしくない」と願う。「1人でも命が守られれば、2人の命を無駄にしないことにつながる」と一周忌を機に実名を公表し、会員制交流サイト(SNS)などでも発信を始めた。「僕の寿命が尽きたとき、2人に『生ききったよ』と言えるようにしたい」。事故のない社会のために、前を向く。

*9-3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613906/ (西日本新聞 2020/6/4) 高齢運転者の免許返納急増 10人死傷の多重事故から1年
 福岡市早良区で高齢ドライバーの車が逆走して10人が死傷した多重事故から4日で1年。事故を機に高齢者を中心に運転免許証の自主返納が急増していることが西日本新聞の調べで分かった。昨年、九州7県の返納件数は5万6578件と2018年の1・3倍。今年も新型コロナウイルスの影響が本格化した4月以外は高止まりが続いている。警察庁によると、昨年は75歳以上のドライバーによる死亡事故件数は401件。免許人口10万人当たりの件数は6・9件で、75歳未満の2・2倍だった。九州7県の昨年1月以降の月別返納件数(西日本新聞調べ)は、東京・池袋で男性=事故当時(87)=の車が暴走して母子2人を死亡させた事故が同4月に起き、同5月は全県で増加。福岡市の逆走事故があった同6月は、福岡(2381件)▽佐賀(418件)▽熊本(786件)▽鹿児島(804件)の4県で最多になった。今年1月には大分(628件)▽宮崎(520件)の両県で最も多くなり、免許返納に対する意識が浸透していることをうかがわせる。年齢別では75歳以上が6~7割を占めた。各県警もあの手この手で高齢運転者の対策を進めている。福岡県警は3月に交通安全を啓発する専用車を導入。認知機能や体力が低下した高齢者の運転を疑似体験し、身体能力を測定できる機器を備える。公共施設などを巡回し、運転を見つめ直すきっかけにしてもらう狙いだ。佐賀県警は、運転寿命を延ばす一方、免許証を返納しやすい環境づくりを進める。昨年4月に「シルバードライバーズサポート室」を設置し、70歳以上を対象にした無料の運転技能教習には昨年5~12月に87人(平均年齢78・6歳)が参加。今年4月からは基山町役場でも返納ができるようにした。久浦厚室長は「知恵を出しながら高齢運転者に寄り添った対応を進めたい」と話した。 

*9-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59924040T00C20A6MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200603_Y (日経新聞 2020/6/3) 日本電産、中国にEVモーター開発拠点 日本級の規模
 日本電産は中国に駆動モーターの開発拠点を新設する。成長の柱と位置づける電気自動車(EV)用が中心で、2021年に稼働させる計画。人員規模は約1千人と日本の中核拠点と同規模になる見通し。米国との政治対立や新型コロナウイルスの感染問題で中国展開に慎重な企業も増えるなか、日本電産は中国を重要市場と位置づけている。米国も含めた複数の拠点整備で、現地の需要を取り込む。中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に設ける。EV用の駆動モーターに加え、家電製品などに使うモーターの開発にあたる。人員規模は滋賀県の開発センターと同程度になる。このうち、300~400人程度がEV用駆動モーター専任となる予定。中国に設置済みの2拠点でも増員し、EV関連の技術者は現状の約100人から数年後に650人に増やす。競合も中国での拠点開設を急いでいる。独コンチネンタルが21年に天津市に開発センターを設置する予定。独ボッシュも現地企業と合弁を組み、EV用駆動モーターの供給を目指す。日本電産はシェア拡大とコスト競争力を高めるうえで、現地で開発強化が欠かせないと判断した。米中が貿易問題で対立を深めており、米国が中国製品への制裁を強めるとの懸念から、外資企業が中国の拠点を他国に移す動きが広がるとの見方も出ている。ただ、日本電産は米国でもエンジン冷却用などの車載用モーター拠点を抱えるほか、米中西部のセントルイスには家電や産業用モーターの事業拠点を持つ。米中は世界の二大消費国でもあるだけに、両国に拠点を構えることで、さらなる成長につなげる。

*9-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59635330X20C20A5000000/?n_cid=DSREA001 (日経新聞 2020/5/27) 日本電産のEV用モーター、吉利汽車が採用
 日本電産は27日、同社が手掛ける電気自動車(EV)用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたと発表した。2019年4月に量産を始めた最大出力150キロワット型を吉利汽車向けに改良し、新型のインバーターを採用するなどして走行性能を高めた。E-Axleは内燃自動車のエンジンにあたる駆動用モーターにインバーターやギアなどを組み合わせた基幹部品。吉利汽車のハイエンド新型EV「Geometry C」に採用された。既に量産している150キロワット型のE-Axleを、吉利汽車向けに改良し供給する。同社のEV用駆動モーターの受注見込みはE-Axleやモーター単体を合わせて4月時点で26年3月期までに1600万台と、中国や欧州を中心に採用が増えている。日本電産はEV用駆動モーターを今後の成長を担う中核製品と位置づけており、30年に世界シェア35%の獲得を目指す。

<日本の教育について>
PS(2020年6月16日追加):米国は世界から留学生を受け入れ、比較的差別なく要職にもつけており、中国人も同様に扱ったため、*10-1-1のように、「①テキサス州にある世界有数の癌研究機関が、疫学・分子生物学の研究を手掛ける3人の中国系研究者(教授も含む)を追放した」「②ジョージア州のエモリー大学が、2人の中国系米国人の神経科学の研究者夫妻(教授を含む)を解雇した」「③ナノ化学の世界的研究者でノーベル賞候補でもあったハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が、中国政府が進める『千人計画』に協力して年間15万ドルに加えて毎月5万ドルの報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に虚偽の説明をしていたため逮捕された」等のことが起きている。米国は、これまで世界の優秀な頭脳が米国内で働き、研究して特許を得ることによって利益を得てきたのだが、中国が「千人計画」で優秀な中国人研究者を呼び戻して飛躍的に研究開発力を高め始め、世界の新技術の覇権争いに負ける可能性すら出てきたことから、これらの行動に踏み切ったものだ。中国人の方は、母集団の多さや勤勉さもあって、世界のどの国に行っても活躍しているため、市場主義に変革した中国に帰っても活躍できるだろう。
 一方、日本は、優れた人材が新市場を作りだして富を生みだすにもかかわらず、*10-1-2・*10-2のように、研究者等の育成を疎かにしている。研究者だけでなくビジネスパースン(businessperson)も、少ない母集団から選ばれた人材よりも留学生も加えた多くの人材から選ばれた方が優秀になるのは当然である上、留学生は2つの文化を理解して擦り合わせることができるため、気付くことが多いのである。にもかかわらず、日本が今の段階で、学生給付金等々で留学生差別を行うのは、人材確保・国際戦略の両面で誤っている。
 さらに、日本では、いつまでたってもできない理由を並べて解決せず、*10-3-1のような保育士不足や、*10-3-2のような教員不足・学童保育施設不足が言われるが、子どもは生まれた時から周囲の環境を感じながら1人の人間としての美意識や価値観などの感性を形づくっていくものであるため、教育投資を疎かにすべきではない。従って、私は、コロナ危機を境に、*10-3-3のように、9月入学制度を採用するか否かにかかわらず、義務教育開始を5歳か3歳からにするのがよいと思う。何故なら、できるだけ前倒しして教育することによって無駄な時間を過ごさせず、無理なく楽しく必要な知識や理解力・判断力などを身に着けさせるのが、日本に住む子どものためだからだ。


    2017.3.28毎日新聞    アフリカ諸国の人口ピラミッド 2020.5.5佐賀新聞

(図の説明:左図のように、日本の1950年の人口ピラミッドは、中央の現在のアフリカの人口ピラミッドと似た二等辺三角形の多産多死型だったが、現在は少産少死化が進んで人口構造が変わった。そして、日本では、生産年齢人口や教育期間人口の割合が減ったため、学校にはゆとりがあり、留学生や移民を受け入れる余地は大きくなった筈である)

*10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60224600R10C20A6000000/?n_cid=DSREA001 (日経バイオテクオンライン 2020年6月10日) ワクチン開発競争 実力増す中国、いらだつ米国
 新型コロナウイルス感染症を契機に、米国と中国の対立が深まっている。その主戦場の1つがワクチン開発だ。製薬業界で新しい医療用医薬品(先発医薬品、いわゆる新薬)を生み出した経験を持つのは、これまで欧州や米国、日本ばかりだった。しかし中国は近年、新薬の研究開発力を飛躍的に高めている。中国が米国に先んじてワクチン開発に成功する可能性も否定できない。「最初にワクチン開発に成功した国が世界に先駆けて、その国の経済と世界的な影響力を回復するだろう」――。4月末、米国で医薬品の審査・承認を担当する米食品医薬品局(FDA)の元長官であるスコット・ゴットリーブ氏は、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発の重要性について、こう見解を述べた。米国がワクチン開発に血眼になるのは、世界で最も感染者数の多い自国民を救うのにとどまらず、ゴットリーブ氏が言及したように、世界の覇権争いの行方を左右すると考えるからとみられる。とりわけ意識するのが中国だろう。トランプ米大統領が「中国ウイルス」と連呼するほどに「敵視」するのが中国だ。一昔前であれば、創薬大国の米国に中国がワクチン開発で先着する可能性はゼロだった。これまで中国が得意としてきたのは、生薬や後発医薬品(特許切れした先発医薬品と同等の医薬品)の開発・製造であり、新薬の研究開発経験はほとんど無かった。しかし、「過去10年で、中国の新薬の研究開発力は飛躍的に高まっている」と製薬業界の関係者は口をそろえる。世界に先駆けて、中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に成功する可能性もある。
■中国、新薬・ワクチン開発に軸足
 これまで中国は海外留学から帰国した研究者などに多額の研究費を投じ、大学・研究機関のレベルの底上げを図ってきた。近年は最先端のiPS細胞や間葉系幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)などを用いた細胞医薬や遺伝子治療などを含め、新薬の研究開発を手掛ける中国のスタートアップが続々誕生。中国政府が、医薬品の規制をグローバルの規制に近づけたり、医薬品の臨床試験の環境を整えたりしたこともあり、中国企業は、「中国での後発医薬品の開発」から、「世界での先発医薬品の開発」へと軸足を移している。2019年11月には、スタートアップの中国ベイジーンが米国で悪性リンパ腫というがんの治療薬「BRUKINSA」(一般名ザヌブルチニブ)の承認を獲得。先端的な創薬技術や開発力が求められるがん領域の新薬を、中国企業が生み出せることを世界に印象付けた。同様に中国は感染症領域のワクチンの研究開発にも力を入れてきた。一般的にワクチンは健常者に打つため高い安全性が求められ、種類によっては製造が難しく、開発・製造するのは簡単ではない。ただ、中国企業がワクチンを開発・供給できれば、自国のためだけでなく、公衆衛生上、感染症が大きな課題であるアジアやアフリカなどで存在感を増すことにもつながるという、中国政府の戦略もあるのだろう。13年10月には、中国生物技術集団傘下の成都生物制品研究所が開発・製造した日本脳炎ワクチンが、世界保健機関(WHO)の事前認定基準に準拠していると認められた。同基準はWHOが途上国などへ医薬品を供給するに当たって、医薬品の品質、安全性、有効性などを事前に確認するためのもの。中国製のワクチンがWHOの認定を受けるのは初めてのことだった。最近では、アフリカで問題になっていたエボラ出血熱に対して、欧米企業に並んで、中国スタートアップのカンシノ・バイオロジクスが独自技術を活用したワクチンを開発し、中国政府から緊急時と国家備蓄向けの承認を獲得。同ワクチンは国連の下、アフリカに派遣された中国の平和維持軍や中国の医療専門家などに投与されている他、アフリカでの臨床試験が計画されていた。今回、新型コロナウイルス感染症に対しては、世界で100品目超のワクチンの開発が進められている。その中で、スタートアップである米モデルナ、英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカと並び、先頭を走っているのがカンシノだ。同社はエボラ出血熱に対するワクチンと同じ基盤技術を活用。ウイルスのたんぱく質(具体的にはスパイクたんぱく質)の遺伝子を、風邪の原因の1つであるアデノウイルスからつくった、人に害のないアデノウイルスベクター5型というウイルスの運び屋に搭載し、体内でウイルスのたんぱく質をつくらせるワクチンを開発した。このワクチンに関しては、「もともとアデノウイルスベクター5型に免疫のあるヒトには効きにくいのでは」といった懸念が挙がっているものの、カンシノは着々と開発を進めている。既に少数の被験者を対象に安全性を確認する第1相臨床試験を終え、最適な投与量を決める第2相臨床試験を500人を対象に進めているところだ。さらに今後カナダで同ワクチンの臨床試験や製造を行うことも計画している。ワクチンが実用化されるまでには、新型コロナウイルス感染症が流行している地域で数多くの被験者を対象に第3相臨床試験を実施して、安全性、有効性の確認が必要となる。いずれにせよ、現状では中国のスタートアップが新型コロナウイルス感染症のワクチン開発の先頭集団にいることは間違いない。もっとも、新型コロナウイルス感染症に対しては相当数のワクチンが開発されていることから、複数のワクチンが実用化される可能性が高く、「ワクチンの製造能力や特徴に応じて、高齢者向け、小児向けなど、使い分けが進むのではないか」と業界関係者はみている。そのため、カンシノのワクチンも、(仮に臨床試験がうまく行ったとして)製造能力がどの程度あるか、副反応など安全性がどの程度か、どの国で承認を得られるかなどによって、世界で使い分けられるワクチンの1つになるだろうと考えられる。
■FBI、中国を名指しで異例の警告
 中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発で存在感を増していることについて、いら立っているのが米国だ。20年秋に大統領選を控えるトランプ大統領が、対中強硬姿勢を先鋭化させている影響もあるにせよ、米国政府が以前にも増して、中国の動きに神経を尖らせていることは間違いない。米連邦捜査局(FBI)と米国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティー専門機関(CISA)は5月13日、新型コロナウイルス感染症の研究を手がける米国の大学・研究機関や企業に対して共同で警告を発出した。警告では、中国を名指しした上で「中国政府とつながりのあるハッカーが、米国の研究機関から新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬、検査に関するデータを不正に取得しようとしているケースが、複数回確認されている」と指摘。疑わしい活動があれば、積極的に報告するように呼びかけた。米国は以前から、中国によるサイバースパイ活動を批判してきたが、FBIとCISAが共同で警告を出すのは異例のことだという。なお中国政府は今回の警告について、「米国による中傷だ」として反論している。もっとも、バイオ・医学分野での米中対立は最近始まった話ではない。米国では数年前から公的資金で実施されたバイオ・医学分野の研究成果が、中国に不当に利用されているのではないかという懸念が強まっていた。それを印象付けたのは18年夏、著名な研究者でもある米国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長が、全米の大学や研究機関へ送付した1枚の書簡だ。NIHは米保健福祉省(HHS)傘下で様々な医学研究を手掛ける研究所の集合体であるとともに、年間300億ドル(約3兆2000億円)以上という莫大な研究費をバイオ・医学分野の研究者に配分している政府機関である。米国でバイオ・医学分野の主要な研究を手がけるアカデミアの研究者で、NIHからの研究費を得ていないものはほとんどいない。コリンズ所長は公表した書簡の中で、「残念ながら、米国のバイオ・医学分野の研究の清廉性を脅かす存在がある」と明らかにしたのだ。清廉性を脅かす存在が誰なのか、書簡では具体的な国名などには言及しなかったが、「NIHが支援した研究に基づく知的財産を、一部の研究者が他国政府など外部組織へ盗用している」「NIHが支援した研究者が、他国政府など外部組織から相当な研究費を得ているにもかかわらず、情報を開示していない」といった違反行為の具体例を挙げ、他国政府が関与している可能性を示唆。違反行為を減らすため、NIHとして政府機関や研究コミュニティと協力して取り組みを進める方針を示した。
■米で相次ぐ中国系研究者の追放
 さらに19年春、NIHは米国の大学や研究機関に対し、他国政府など外部組織とのつながりを開示していない研究者について、情報提供するよう要請したとされる。これまでの事態の推移をみると、研究の清廉性を脅かす存在として、NIHの念頭にあったのは、やはり中国ということになるだろう。19年春以降、米国では、「中国と関わりがあるにもかかわらず、その事実を開示していなかった」などとして、バイオ・医学分野の研究者が何人も大学から解雇されたり追放されたりしている。19年4月、テキサス州にある世界有数のがん研究機関MDアンダーソンがんセンターが、疫学や分子生物学の研究を手掛ける3人の研究者を追放した。3人はいずれも中国系で、中には教授も含まれていた。また、19年5月には、ジョージア州にあるエモリー大学で、神経科学の研究を手掛けていた、教授を含む2人の中国系米国人の研究者夫妻が突然解雇された。研究室はその日のうちに閉鎖され、研究室のウェブサイトにもつながらなくなった。20年1月には、ハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が逮捕された。逮捕の理由は、中国政府が進める「千人計画」に協力し年間15万ドルに加えて毎月5万ドルという莫大な報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に対し虚偽の説明をしていたため。これまで数々の受賞歴を持つ、ナノ化学の世界的な研究者であり、ノーベル賞の受賞者候補の1人でもあったことから、全米で大きく報道された。バイオ・医学分野ではこれまで、直接的なスパイ活動をしたというよりも、「中国との関係を開示していなかった」ことを理由に研究者が追放・解雇されたり逮捕されたりするケースが相次いでいるのが実態だ。しかし今回、FBIとCISAが警告を出したことで、今後、中国絡みのバイオ・医学分野のサイバースパイ活動に関しても、具体的なケースが出てくる可能性がありそう。新型コロナウイルス感染症のワクチン開発競争が決着しても、バイオ・医学分野での米中対立は続くことになりそうだ。

*10-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN6F7F61N69PLZB01M.html (朝日新聞 2020年6月14日) 京大総長、学生給付金を批判 「留学生差別、おかしい」
 新型コロナウイルスの影響で困窮する学生を対象にした国の「学生支援緊急給付金」が、外国人留学生だけ成績の良さを申請要件にしている問題で、京都大の山極寿一(じゅいち)総長(68)が9日、朝日新聞のインタビューに応じた。要件を「差別的だ」と批判した上で、留学生を排除しない姿勢を取ることが「日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になる」と訴えた。同給付金を外国人留学生が申請する場合、「成績が優秀」「出席率が8割以上」といった日本人学生にはない要件を満たす必要がある。批判の声が出ており、山極氏はネット上の反対署名運動の呼びかけ人の一人にもなった。インタビューで山極氏は「(同給付金は)生活困窮者への支援だ。成績を重んじる奨学金とは目的が違う」と述べ、成績要件を批判。「日本人学生の要件は基本的に経済的な事情だけ。留学生も、経済事情が逼迫(ひっぱく)している人に支給するのが本筋だ」と指摘した。留学生に対する日本政府の方針について、「日本も少子高齢化でだんだん労働者人口が減っていく。外国の優秀な学生を頼らなければいけなくなる時代が目の前に来ている」「優秀な留学生を集めるには、日本の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だ」と述べ、「差別するのはおかしい」と批判した。留学生の自主性を尊重することの重要さも強調。「(在学中の数年間に)どう教育を得るかは、学生が自分でスケジュールを立てるべきだ」とし、文部科学省が前年度の成績を申請要件にしたことに疑問を呈した。国立大の総長が国の仕組みに反対する運動に加わった理由については、「だいたいいつも、教員の立場に立っている」として、「現場の教員が『留学生と日本人を、我々は差別したくない』という声を上げることが大事だ。直接留学生と向き合う現場の教員が出すメッセージは強い」と話した。山極氏は、野生ゴリラ研究の第一人者として知られる。「私は、アフリカ赤道直下の『ゴリラの学校』に留学した」と自らの経験を紹介。「(ゴリラは)決して排除することなく私に接してくれた。それはゴリラの社会を知る上で大変に役立った。現場に行って、いろんな人と付き合って、様々な知識を学ぶのが留学の良さだから」とも述べ、留学生を排除せず、多くの人を受け入れる姿勢が大事だと訴えた。京都市立芸術大も同様の方針を示していることについても触れ、「個性を開花させる芸術家養成の大学であることを考えれば、そういう認識を持ったのはごく当然と思う」とも発言。「京都は文化や芸術に特化する大学が多い。留学生も多く、国際感覚を持った大学や教員も多いのではないか」との考えを示した。この問題をめぐり、要件に反対する大学教員らがネット上で賛同署名を呼びかけたところ、10日午前0時の締め切りまでに1701筆が集まった。うち大学教員は1100人を超えた。署名は5月26日から集め、呼びかけ人には京都大の山極氏ら約40人が名を連ねた。15日にも文部科学省に結果を届ける。
       ◇
 学生支援緊急給付金 新型コロナウイルスの影響でアルバイト収入が減るなど、困窮した学生に対する国の給付金。大学が学生から申請を受け付けて推薦者リストを作り、リストに基づいて日本学生支援機構(JASSO)が最大20万円を支給する。外国人留学生にだけ「成績優秀」の申請要件が設けられた。
●山極総長への単独インタビュー
 山極寿一・京都大総長との主なやりとりは以下の通り。
―京都大は留学生に成績要件を付けないことにしましたね
 「今回は生活困窮者への支援だ。日本人学生にも(給付金の支給)条件が六つあるが、基本的に経済的な事情だけだ。だから、留学生も、成績のいい人だけというのでなく、生活困窮者、経済事情が逼迫(ひっぱく)している留学生に支給するのが本筋だと思う。奨学金とは目的が違う」「英国のオックスフォード大では、自国民の学生の年間授業料は130万円なのに、アジアの学生は390万円と3倍を要求している。日本は決して高いお金を払ってもらうことを目的に『大学ビジネス』として留学生を集めているわけではない。その意味では、日本は他の国に比べて、留学生と日本人とを差別していない」「このコロナ騒ぎで国境を越えた移動が制限され、オンラインの遠隔授業が組み合わされる形式になり、さらに激しい留学生獲得競争にさらされている。日本に来てくれる優秀な学生、日本を好きになり日本で働いてくれる、あるいは自国に帰っても日本のために尽くしてくれる留学生を育てるためには、またとないチャンス。この好機をとらえて国際的に発信しなければ、英語圏になかなか太刀打ちできない。大学ランキングは英語圏(の大学)が強いわけですから」「英語を母国語としない国として、優秀な留学生を集めるためには、日本人の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だと思う。(政府は)なぜそれをやらないのか」
―大学教員による署名の呼びかけ人の一人になりましたね
 「文部科学省と話をしても、『各大学に最終的な判断をお任せしている』と言われて終わり。やっぱり現場の教員が声を上げていくことが大事なんです。留学生と向き合う教員が、『日本人学生と留学生を一緒に教育しようとしてるんだ』という態度を出す。このメッセージが強い。文科省の態度がひっくり返らなかったとしても、そういうメッセージが伝わればいいと思っている」「成績が良い悪いに関係なく、みんな一生懸命に生活を成り立たせ、学問に励んでいる。そのバランスのとり方によって成績が良くなったり悪くなったりするわけじゃないですか。そこで各大学がその成績上位を選ぶ(給付金)というのは、やっぱりおかしいわけでね。だって、4年間、あるいは2年間、学生が大学に在籍する中で、どういうふうに教育を得ていくかは、学生が自分自身でスケジュールを立てるわけだから。そこまで我々が介入するものではない。我々が今するべきは、本当に今、学業を続けられなくなって困っている学生をきちんと選別して、支給してあげられるようにすることだ」「(大学としての方針を決める前に署名を呼びかけたのは)僕はだいたいいつも、教員の立場に立っているからです」
―自身の留学体験は
 「私は『ゴリラの学校』に留学したからね。アフリカの赤道直下の」「今はインターネットを使えば、既存の知識は何でも手に入る。現場に行って、いろんな人と付き合って、伝統知など様々な文字になっていない知識を学ぶっていうのが留学の良さだから。私はゴリラの知識まで学ばせていただいた。それはもうすごく、私の中では貴重な体験です」
―そういう体験をより多くの人にしてほしいと
 「学生個人が金太郎あめみたいになってもらっては困るわけです。我々は工業製品を作っているわけじゃない。それぞれが個性を持った、違う育ち方をする学生を相手にしている。違う目標を持ち、個性を持った学生に育ってほしいと思っているわけですよ。だから、日本人は日本人だけでいてはいけないし、いろんな国の学生と入り交じってほしい。その時に、彼らが対等に付き合うことが重要。我々が対等な扱い方をしなければ、そういう環境は生まれません」
―ゴリラは対等に扱ってくれましたか
 「まあねえ、出来の悪いゴリラとしてなあ、扱ってくれたと思うよ。もちろん、ゴリラとして認めてくれたわけじゃなくて、やっぱり外部者なんだけど、決して排除することなく、ゴリラの流儀で、私に接してくれた。それはゴリラの社会を知るうえで、大変役に立ったね」
―日本も留学生に対してそういう社会であるべきだと
 「それが日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になると思う。日本は軍事力もなければ、いまは経済力も弱っている。日本が今、示すべき大きな力は、学術と教育力だと思う」「日本政府にとって、お金をかけずに国際戦略として一番有効なのは、大学や教育を通じてアフリカやアジアの国と手を結ぶこと。日本の大学で学んだ人たちが日本のファンになってくれるネットワークを作るべきなんですよ。留学生をこれまでも大事にしてきたんだから、同じように大事にしてよ、ということです。今度だけ差別するっていうのはおかしいじゃない、ってことです」(聞き手・小林正典)
     ◇
〈やまぎわ・じゅいち〉 1952年生まれ。京都大の大学院理学研究科長・理学部長などを経て、2014年から総長。日本学術会議会長も務める。専門は人類学・霊長類学。著書に「ゴリラ」「暴力はどこからきたか」など。

*10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54653250R20C20A1MM0000/ (日経新聞 2020/1/22) 「ポスドク」支援へ奨学金拡充・採用増 政府が総合対策
 政府がまとめる若手研究者支援の総合対策案が明らかになった。博士課程の大学院生を対象に、希望すれば奨学金などで生活費相当額を支給して研究に集中できるようにする。企業に協力を求め、理工系の博士号取得者の採用者数を2025年度までに16年度比で1千人増やす。若手研究者ら「ポスドク」を取り巻く環境を改善し、研究力の強化につなげる。23日に開く総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍晋三首相)で決める。日本で若手研究者を取り巻く環境は厳しい。博士号の取得後、大学の教員になれず企業にも就職できない「ポスドク」問題が指摘されている。企業でも博士号取得者は他国に比べて少なく、100万人あたりの人数は米国やドイツ、英国、韓国の半分以下とされる。優秀な研究者が日本での研究を見切って海外留学をめざす人材流出の問題もある。政府は今後の目標として、修士課程から博士課程に進学した大学院生のうち約5割が、学内奨学金などで月15万~20万円の生活費相当額を受給できる状況の実現を盛り込んだ。博士課程の大学院生は18年度は約7万4000人で、このうち修士課程からの進学者は約3万2000人に上る。博士号取得者の企業への橋渡しも支援する。博士号取得者の採用者数は16年度は産業界全体で約1400人だった。これを25年度までに65%増やす目標を明記した。企業には博士課程の大学院生を対象とする長期有給インターンシップの設置を促し、官民連携による若手研究者の発掘にもつなげる。政府も博士号を持つ国家公務員の待遇改善を検討する。若手研究者向けに大学教員の採用の間口も広げる。今回まとめた支援策では40歳未満の大学教員の割合を3割以上に高める目標を盛り込んだ。16年度は23.5%だった。若手研究者を巡っては大学内の事務作業に煩わされ、十分な研究時間を確保できないとの声もある。25年度までに学内事務の半減を求め、政府側も関連する手続きの簡素化に取り組むとした。

*10-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/524492 (佐賀新聞 2020.5.19) 保育士1万7000人不足 9月入学で政府試算
 政府は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、9月入学制を来年導入した場合、未就学児が一時的に増えるため保育士が約1万7千人不足するとの試算をまとめた。都市部を中心に保育施設の確保が困難になることも指摘した。関係者が18日、明らかにした。安倍晋三首相が学校休校の長期化を踏まえ、各府省に課題の洗い出しを指示していた。政府はこれを基に、6月上旬にも論点整理をまとめる。試算では、来年9月の小学校新入生は4月入学の場合より約40万人増える。この学年は17カ月の年齢差が生じるため「発達段階の差が大きい」として指導の工夫や学校、教員への支援も必要とした。夏場の入試の熱中症対策も課題に挙げた。

*10-3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN5J5W43N5GUTIL052.html (朝日新聞 2020年5月17日) 9月入学で教員2.8万人不足の推計 待機児童も急増
 新型コロナウイルスの感染拡大で政府が検討している「9月入学」を来秋から実施した場合、学校教育や保育などにひずみを生みかねないことが、苅谷剛彦・英オックスフォード大教授の研究チームの推計でわかった。新1年生を4月生まれから翌年9月生まれまでの17カ月に再編し、特に施策を取らなければ、初年度は、教員は約2万8千人が不足し、保育所の待機児童も26万人超に上り、地方財政で3千億円近くの支出増が見込まれると試算した。
●教員不足、大都市で深刻に 9月入学「教育の質低下も」
 研究チームは、教育社会学の研究者やシンクタンク代表ら計7人。地方教育費調査や学校基本調査、社会福祉施設等調査などをもとに推計した。9月入学は、緊急事態宣言の対象が全国に広がり、休校が長期化するなか、学習の遅れを取り戻す時間を確保するために一部の高校生や東京都、大阪府などの知事が導入を求めた。安倍晋三首相も14日の記者会見で「有力な選択肢の一つだ」と言及している。政府は6月上旬をめどに来秋からの9月入学について論点や課題を整理する方針で、自民党が設置した「秋季入学制度検討ワーキングチーム(WT)」は5月末~6月初旬に政府への提言をまとめるという。文部科学省が主に検討しているのは、小学校開始年齢の遅れを解消するために、2021年9月の新入生を14年4月2日生まれから15年9月1日生まれまでと5カ月分増やす案だ。研究チームの推計では、この場合、新入生は例年より42万5千人増え、1・4倍になる。14年4月2日生まれから15年4月1日生まれの児童は保育所に5カ月長くいることになるため、初年度、地方財政支出は2640億円、教員は2万8100人が追加で必要になり、保育所は新たに26万5千人、学童保育は16万7千人の待機児童が生まれる。一方、文科省は、現行の学年の区切り(4月2日生まれから翌年4月1日生まれまで)を変えずに、新学年を9月1日から始める案も検討する。ただ、この場合、児童全体の教育が5カ月後ろ倒しになり、小学校の開始が遅い児童で7歳5カ月からとなる。欧米は6歳が主流で、韓国や中国も6歳。日本の児童はそれよりさらに1年以上遅れることになる。推計では、学校教育の支出や教員、学童保育の待機児童の大きな増加は見られないものの、保育所の待機児童26万5千人は初年度だけでなく毎年生まれ続ける。苅谷教授は推計をふまえ、来秋からの9月入学について「学校教育だけでなく保育などのシステムを崩壊させ、子育て世代の働き方に大きな影響を与える。エビデンスに基づいた冷静な議論が必要だ」と話す。

*10-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200603&ng=DGKKZO59886200S0A600C2EA2000 (日経新聞 2020.6.3) 9月入学、「義務教育5歳から」軸 政府・自民検討 首相「来年度は難しい」
 始業や入学の時期を9月に変える「9月入学」を巡り、政府は2022年度以降の課題として検討を始める。義務教育の開始年齢をいまの6歳から半年ほど前倒しして国際標準に合わせる案が軸だ。幼稚園の入園時期を早める構想もある。20~21年度の導入は見送り、中期的に検討する。9月入学を議論する自民党のワーキングチーム(WT)は2日、安倍晋三首相に21年度までの導入は見送るべきだと提言した。首相は「法律を伴う形で改正するのは難しい」と述べた。WTの柴山昌彦座長は記者団に「国民に理解をいただける形でじっくり検討するのがふさわしい」と語り、9月入学は中期的に議論する意向を表明した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校を受け、提言では「学びの保障は一刻の猶予も許さない喫緊の課題」と明記した。9月入学に関しては「国民的合意や実施に一定の期間を要する」と指摘し「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と結論づけた。9月入学の検討は続ける。提言は「秋季入学制度の導入の方式について」と題した文書を添付した。小学校の入学年齢を前倒しするか遅らせるかなどの違いで5案を示した。政府・自民党では、6歳0カ月からの就学年齢を5歳5カ月に前倒しする案を軸に検討する。同案では現行制度と同様に4月2日から翌年4月1日生まれを一学年にするものの入学は9月にする。4月2日以降に6歳になる児童は前年9月に小学校に入学するため、就学年齢は最年少で5歳5カ月になり、現行制度より7カ月早まる。「前倒し」をすれば義務教育が早まり、現在より若い年齢で学力が上がる期待がある。米国の一部の州や英仏独、オーストラリアは5歳で小学生になる子どもがいる。新型コロナに伴う休校で今年の4月入学を9月に遅らせる案があがった際も、政府・自民党内では「義務教育の開始が遅れる。国際競争を考えれば米欧にあわせて『前倒し』にすべきだ」との声が根強かった。提言では幼稚園の入園を前倒しする案も示した。課題もある。移行期の年は小学1年生が大幅に増え、教員や教室を増やす必要がある。移行期の1年生は数が多いまま進級する。受験や就職で他の世代より激しい競争を強いられる懸念がある。前倒し案への賛成論は多い。経団連の井上隆常務理事は「義務教育の開始年齢や入学時期を欧米とそろえれば、大学の国際化に直結して産業界の人材獲得にプラスとなる」と語る。9月入学に反対する声明を5月に出した日本教育学会の広田照幸会長(日大教授)も「国際的にも幼児教育の開始時期は早まっている。選択肢の一つとして議論する価値はある」と話す。新型コロナで当初浮上した9月入学論は、4月の入学を同じ年の9月に遅らせて休校による授業不足を補うものだった。海外の秋入学に足並みをそろえれば留学生の派遣や受け入れが進み、国際化につながるとの意見があった。最年少の入学者は6歳5カ月になり、義務教育の開始が米欧主要国より大幅に遅れる。提言は「影響が大きいため、就学年齢を後ろ倒ししないことを基本に考えるべき」と記した。提言に示した5案には文部科学省の案も含めた。(1)1年で移行するために最初の1学年だけ対象を広げる(2)対象を段階的に変えて5年かけて移行する――の2つだ。提言は「首相の下の会議体で各省庁一体となって、専門家の意見や広く国民各界各層の声を丁寧に聴きつつ、検討すべき」と促した。提言を参考に政府は今夏までに今後の方針を示す見通しだ。

<地方では、“高齢者”の就労は普通であること>
PS(2020年6月18日):*11-1のように、農業分野では新型コロナの影響で日本酒の消費が落ち込み、原料の酒造好適米「山田錦」の産地に影響が表れているそうだが、「酒は百薬の長(適量の酒はどんな良薬よりも効果がある)」と言われているように、麹菌は他の菌を殺して自身が生き残るためにアルコールを作っているのだと思われるため、新型コロナウイルスの抗体を作らせることもできそうだ。そして、これは甘酒・味噌・醤油・酢・ワイン・ヨーグルト・納豆・チーズ等でも起こり得るため、近くの大学と共同研究して新型コロナはじめ各種ウイルスへの抗体を持つ発酵食品を作れば世界で売れると思う。そうすると、*11-3のように、減少するばかりだった地方の生産年齢人口も増加に転じるのではないか?
 なお、生命科学は、現在のところ、漁業で、*11-2のように、1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹のニジマスをふ化させるところまで進歩している。
 さらに、*11-4のように、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が2020年3月31日に参院本会議で成立し、政府は将来的な義務化も視野に入れている。しかし、70歳まで働く機会を確保できるようにするのはよいが、働き手の保護に欠けるのはよくない。では、65歳以上の高齢者は働く能力が低いのかといえば、*11-3のように、基幹的農業従事者の平均年齢は2019年には66.8歳となり、農業は「生産年齢人口」「高齢者」の定義を変えなければならないくらい高齢者に支えられている。もちろん、次世代の人材確保や若者の地方移住は喜ばしいことだが、主たる生産者としての女性や“高齢者”の存在にも気がついてもらいたい。

   

(図の説明:左図は、実った稲で、中央は、農業就業人口とその平均年齢の推移だ。また、右図は、林業の従事者数と林業及び全産業の高齢化率・若年者率の推移だ)

*11-1:https://www.agrinews.co.jp/p51077.html (日本農業新聞 2020年6月14日) [新型コロナ] 日本酒低迷、米産地を直撃 契約3割見直しか 需要回復いつ… 兵庫
 型コロナウイルスの影響で日本酒の消費が落ち込む中、原料の酒造好適米の産地に影響が表れている。酒造好適米の生産量日本一の兵庫県では需要が3割落ち込むとの想定もあり、契約予定数量の見直しを迫られている。来年産以降の生産計画に影響する可能性があり、生産者に不安が広がる。
●来年産計画に影響も
 酒造好適米「山田錦」の作付面積が、地域の水田面積の8割を占める兵庫県三木市吉川町。県内の主力品種「コシヒカリ」から遅れること約1カ月後の5月30日、「山田錦」の田植えが本格的に始まった。生産者の表情は険しく「収穫する頃、世間はどうなっているのか」。苗を見つめながら同町冨岡地区で水稲15ヘクタールを手掛ける冨岡営農組合の西原雅晴組合長は出来秋を不安視する。産地関係者の「悩みの種」は、新型コロナ禍に伴う日本酒の消費減だ。日本酒造組合中央会によると、出荷量は2月が前年同月比9%減、3月が同12%減、4月が同21%減と月を追うごとに落ち込む。5月は集計中だが、4月と同水準とみられる。同中央会は「流通在庫が積み上がっているところもあり、事態は数字以上に深刻」と分析する。産地にも影響が出始めている。JA全農兵庫では4月中旬以降、今秋収穫される2020年産の契約数量の見直しを求める問い合わせが、取引先から相次いだ。「当初の契約予定数量(約1万5000トン)の3割の見直しを迫られるとの想定もあり、現在協議を進めている」(全農兵庫の土田恭弘米麦部長)。深刻な事態を受け、全農兵庫は4月下旬、県内のJAみのり、JA兵庫みらい、JA兵庫六甲と共同で、県内生産者に緊急通知を発出。酒造好適米から主食用品種などへの転換を呼び掛けた。ただ、多くの農家が苗作りを始め「変更できない農家が大半。問題が表面化した時点で手遅れだった」(JA関係者)。当初の生産計画から減産できたのは「数%」(同)だった。冨岡営農組合は緊急通知を受け、酒造好適米の作付面積を1割減らし、主食用品種に切り替えた。「山田錦」に比べ10アール当たり収入は半減する見込みだが、西原組合長は「産地と酒造メーカーは一蓮托生(いちれんたくしょう)。酒造メーカーが苦しむ中、産地も減産に協力したい」と覚悟を決める。兵庫県も独自支援に動く。20年度6月補正予算案に酒造好適米の産地支援を盛り込んだ。余剰在庫の解消に向け、米粉など日本酒以外の用途向けに19年産の酒造好適米を販売する際、販売価格の下落補填(ほてん)に60キロ1万800円を支給。20年産の作付け転換や消費喚起にも取り組む。ただ、影響の長期化は避けられない見通しだ。「自粛ムードが続き、日本酒の需要はすぐに回復しない」(同中央会)とみられるためだ。土田部長は「来年産以降の生産計画の見直しも避けられない」と肩を落とす。西原組合長は「日本酒を飲んで、産地を応援してほしい」と呼び掛ける。

*11-2:https://www.chunichi.co.jp/article/73300 (中日新聞 2020年6月15日) ニジマス、試験管で大量増殖 東京海洋大が世界初、養殖に貢献
 ニジマスの卵や精子のもとになる生殖幹細胞を、試験管で大量に増殖させることに世界で初めて成功したと、東京海洋大の吉崎悟朗教授(魚類養殖学)のチームが15日付の国際的な科学誌の電子版に発表した。たった1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹がふ化した。順調に成魚に成長しており、貴重な水産資源の魚を保護しつつ、大量生産を可能にする技術として期待される。吉崎教授は、養殖生産や絶滅危惧種の保全に貢献したいと説明し「ニジマスに近いサケやマスの仲間ならば、数年で保全事業に活用できる。クロマグロへの応用も5年程度で実現化を目指したい」と話した。

*11-3:https://www.agrinews.co.jp/p51096.html (日本農業新聞 2020年6月17日) 担い手さらに減少 60代以下100万人割れ続く
 担い手を含め農業に携わる人材の減少と高齢化に歯止めがかからない。販売農家の世帯員のうち主な仕事を農業とする「基幹的農業従事者」は2019年時点で140万人と5年間で27万人減った上、60代以下は100万人を割り込んだ状態が続いていることが農水省のまとめで分かった。一層の減少・高齢化が見込まれる中、生産基盤を維持するには、60代以下の人材をどう確保していくかが喫緊の課題となる。基幹的農業従事者は、1995年に256万人いたが、05年に224万人、15年に175万人、19年に140万人と大幅な減少が続いている。若年層の減少が止まっておらず、60代以下は95年の205万人から05年には135万人に減少。その後、15年は93万人と100万人を割り、19年はさらに81万人にまで落ち込んだ。高齢化も進展。平均年齢は95年に59・6歳だったが、05年に64・2歳に跳ね上がった。15年は67歳、19年は66・8歳と依然として高い水準で推移する。同省は、農地の維持、活用策などを検討するため5月に新設した「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」で、基幹的農業従事者は「今後一層の減少が見込まれる」との見方を示した。農業生産を支える層の減少に伴い、「農業の持続可能性が確保できない地域が増加する可能性がある」と指摘する。人材確保に向けて、同省は、新規就農や第三者も含めた経営継承を引き続き推進する方針だ。新型コロナウイルス感染拡大の中で「食の大切さに改めて気付いたり、地方への移住を希望したりといった動きもある」(就農・女性課)とし、若年層の参入・定着に一層力を入れる方針。農業の働き方改革や地域の受け入れ態勢の整備も重視する。新たな食料・農業・農村基本計画は、基幹的農業従事者数と農業法人の従業員・役員らを合わせた「農業就業者数」を30年に140万人確保する方針を掲げる。同省は、現状の傾向が続けば30年に131万人に減ると見込む。人材確保に結び付く実効性のある対策を講じることができるかが問われる。

*11-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN306GWKN30ULFA010.html (朝日新聞 2020年3月31日) 70歳まで働けるよう、改正法が成立 企業に努力義務
 70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が31日、参院本会議で可決、成立した。来年4月から適用され、政府は将来的な義務化も視野に入れる。健康な高齢者の働き手を増やし、人手不足に対応するとともに、年金などの社会保障の担い手を厚くする狙いがある。いまの法律は企業に対し、定年廃止、定年延長、再雇用などの継続雇用といった対応をとることで従業員が65歳まで働ける機会をつくることを義務づけている。改正法はこれを70歳まで延長し、現在の三つの対応に加え、別の会社への再就職、フリーランス契約への資金提供、起業の後押し、社会貢献活動への参加支援の四つも選択肢として認める。企業には七つのうちのいずれかの選択肢を設けるよう努力義務を課し、どれを選ぶかは企業と労働組合が話しあって決める。起業の後押しといった雇用契約を結ばない選択肢をとる場合、従業員の収入が不安定になるおそれがあるため、改正法は企業に従業員や勤め先と業務委託契約を継続的に結ぶよう求める。厚生労働省は今後つくる指針の中に働き手の保護策を盛り込む方針だ。新型コロナウイルスの感染拡大が企業業績を急激に悪化させるなか、今回の見直しは企業の人件費負担を増やす要因になりうる。現在は約8割の企業がいったん退職してから賃金水準が低い契約社員などで再雇用する方法をとっているが、70歳に延長した場合も、多くの企業は同じように契約社員などでの再雇用を選ぶとの見方がある。この日成立した関連法には、兼業や副業をする人の労働災害を認定するしくみを見直す改正労災保険法や、定年後に再雇用されて賃金が大きく下がった人に65歳まで支払われる「高年齢雇用継続給付」を縮小する改正雇用保険法なども含まれる。

<遺伝子から人類の進化を辿る>
PS(2020年6月21日):*12-1のように、 中国公安当局が“犯罪捜査を名目に”、全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めているそうだ。もちろん、①遺伝子を調べて犯罪を起こしやすい人をあらかじめ逮捕するのは人権侵害である ②遺伝子による判定は、第三者の検証が入りにくいため日本の捜査でも冤罪を生んでいる などの理由で、国民統制や犯罪捜査に使われれば悪である。
 しかし、純粋に科学的に調査すれば、中国のようなユーラシア大陸の人類の交差点で男性7億人分の「遺伝子地図」を作成すれば、人類の進化の過程を辿ることができるため興味深い。また、*12-2のウイルスが、③どの民族に ④いつ感染して ⑤どういう理由で優位性を持って人類の進化を演出したか を解明することができ、東アジア人が新型コロナウイルスに強い理由も人間側の遺伝的要素からわかるかもしれない。また、日本でも地域ごとに調査すれば、⑥どういう民族が ⑦いつ ⑧どこから ⑨どのくらいの人数 ⑩日本列島に移住してきたか がわかると思う。
 このように、新型コロナ致死率・その他の死亡率等を比較すればいろいろな調査に役立つため、*12-3・*12-4の原因別死亡数は、WHOで統一した基準を作って国際比較できる形で正確に出した方がよいと思われる。

   
    2020.5.11毎日新聞     *12-4より    2020.6.12西日本新聞
    
(図の説明:左図は、2020年5月4日現在の各国の新型コロナによる「死亡率/人口100万人」の推移で、欧米が高い。中央の図は、2020年5月16日現在の各国の新型コロナによる致死率「死亡者数/感染者数」「死亡者/人口10万人で、検査数や死亡原因の特定に違いはあるが、やはり欧米で高い。右図は、2020年6月11日現在の日本の死亡率だが、日本全体では中央の図の4.4%より高い5.2%《938/18,008X100》で、中国の5.5%に近い)

*12-1:https://www.sankei.com/world/news/200618/wor2006180033-n1.html (産経新聞 2020.6.18) 中国、男性7億人分の「遺伝子地図」作成 国民統制を強化
 中国公安当局が犯罪捜査を名目に全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めていると、米紙ニューヨーク・タイムズが17日、オーストラリアの研究機関の調査を基に報じた。国民統制が一層強まる恐れがあり、外国の人権団体だけでなく中国内でも一部当局者が反対しているという。中国では既に人工知能(AI)による顔認識技術などを駆使した捜査による人権侵害が指摘されているが、DNAのデータベースの一部も既に犯罪捜査に利用され始めているという。公安当局は2017年、小学生男児を含めた全国の男性を対象に血液採取を開始。3500万~7千万人のサンプルを採取し、それを基に全男性の遺伝子地図作成を目指している。データベースを使えば男性1人の遺伝子情報で、その親族も特定が可能。対象を男性に絞っているのは犯罪率が高いためとしている。犯罪と無関係の親族らの人権が損なわれる恐れや当局が情報を乱用する懸念もあり、人権活動家らは遺伝子地図により公安当局が「空前の権力」を手にすると批判している。

*12-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59746430Z20C20A5MY1000/?n_cid=SPTMG053 (日経新聞 2020/5/30) 人類に宿るウイルス遺伝子、太古に感染 進化を演出、驚異のウイルスたち(2)
 地球上にはいろいろなウイルスがいる。人類の進化にもウイルスが深くかかわってきた。太古のウイルスが人類の祖先の細胞に入り込み、互いの遺伝子はいつしか一体化した。ウイルスの遺伝子は今も私たちに宿り、生命を育む胎盤や脳の働きを支えている。新型コロナウイルスは病原体の怖さを見せつけた。過酷な現実を前に、誰もが「やっかいな病原体」を嫌っているに違いない。ウイルスが「進化の伴走者」といわれたら、悪い印象は変わるだろうか。母親のおなかの中で、赤ちゃんを守る胎盤。栄養や酸素を届け、母親の「異物」であるはずの赤ちゃんを育む。一部の種を除く哺乳類だけが持つ、子どもを育てるしくみだ。「哺乳類の進化はすごい」というのは早まった考えだ。この奇跡のしくみを演出したのはウイルスだからだ。レトロウイルスと呼ぶ幾つかの種類は、感染した生物のDNAへ自らの遺伝情報を組み込む。よそ者の遺伝子は追い出されるのが常だが、ごくたまに居座る。生物のゲノム(全遺伝情報)の一部と化し、「内在性ウイルス」という存在になる。内在性ウイルスなどは、ヒトのゲノムの約8%を占める。ヒトのゲノムで生命活動などにかかわるのは1~2%程度とされ、ウイルスが受け渡した遺伝情報の影響は大きい。見方によっては、進化の行方をウイルスの手に委ねたといっていい。哺乳類のゲノムに潜むウイルスは注目の的だ。東京医科歯科大学の石野史敏教授は、ヒトなど多くの哺乳類にある遺伝子「PEG10」に目をつけた。マウスの実験でPEG10の機能を止めると胎盤ができずに胎児が死んだ。PEG10は、哺乳類でも卵を産むカモノハシには無く、どことなくウイルスの遺伝子に似る。状況証拠から「約1億6000万年前に哺乳類の祖先にウイルスが感染し、PEG10を持ち込んだ。これがきっかけで胎盤ができた」とみる。胎盤のおかげで赤ちゃんの生存率は大幅に高まった。ウイルスが進化のかじ取りをしていた証拠は続々と見つかっている。哺乳類の別の遺伝子「PEG11」は、胎盤の細かい血管ができるのに欠かせない。約1億5000万年前に感染したウイルスがPEG11を運び、胎盤の機能を拡張したようだ。ウイルスがDNAに潜むのには訳がある。「生物の免疫細胞の攻撃を避け、縄張りも作れる」(石野教授)。ウイルスは生きた細胞でしか増えない。感染した生物の進化も促し、自らの「安住の地」を築きたいのかもしれない。東海大学の今川和彦教授は「過去5000万年の間に、10種類以上のウイルスが様々な動物のゲノムに入り、それぞれの胎盤ができた」と話す。ヒトや他の霊長類の胎盤は母親と胎児の血管を隔てる組織が少ない。サルの仲間で見つかる遺伝子「シンシチン2」は、約4000万年前に感染したウイルスが原因だ。さらにヒトやゴリラへ進化する道をたどった一部の祖先には、3000万年前に感染したウイルスが遺伝子「シンシチン1」を送り込んだ。初期の哺乳類はPEG10が原始的な胎盤を生み出した。ヒトなどではシンシチン遺伝子が細胞融合の力を発揮し、胎盤の完成度を高めた。本来のシンシチン遺伝子はウイルスの体となるたんぱく質を作っていたが、哺乳類と一体化すると役割を変えた。父親の遺伝物質を引き継ぐ赤ちゃんを母親の免疫拒絶から守る役目を担っているとみられる。石野教授は「哺乳類は脳機能の発達でもウイルスが進化を助けた」と指摘する。「複雑になった脳の働きを、ウイルスがもたらす新たな遺伝子が制御しているのだろう」。ウイルスが「進化の伴走者」と言われるゆえんだ。ウイルスの影響がよくわかる植物の研究がある。東京農工大学や東北大学などのチームはウイルスがペチュニアの花の模様を変える様子をとらえた。花びらの白い部分が、ゲノムに眠るパラレトロウイルスが動き出すと色づく。ダリアやリンドウでも似た現象がある。東京農工大の福原敏行教授は「一部はウイルスの仕業かもしれない」と語る。哺乳類のように進化の一時期に10種類以上の遺伝子がウイルスから入った例は見つかっていない。哺乳類も、形や機能の進化にウイルスを利用してきたのだろう。進化の歴史を隣人として歩んできたウイルスと生物の共存関係は今後も続く。

*12-3:https://www.yomiuri.co.jp/national/20200614-OYT1T50084/ (読売新聞 2020/6/14) 「コロナ死」定義、自治体に差…感染者でも別の死因判断で除外も
新型コロナウイルス感染症の「死者」の定義が、自治体ごとに異なることが、読売新聞の全国調査で分かった。感染者が亡くなった場合、多くの自治体がそのまま「死者」として集計しているが、一部では死因が別にあると判断したケースを除外。埼玉県では10人以上を除外したほか、県と市で判断が分かれた地域もある。専門家は「定義がバラバラでは比較や分析ができない。国が統一基準を示すべきだ」と指摘している。
■全員精査 厳しく
 読売新聞は5月下旬~6月上旬、47都道府県と、県などとは別に独自に感染者集計を発表している66市の計113自治体に対し、集計方法などを取材した。これまでに感染者の死亡を発表したのは62自治体。このうち44自治体は、死因に関係なくすべて「死者」として集計していた。その理由として、「高齢者は基礎疾患のある人が多く、ウイルスが直接の死因になったのかどうか行政として判断するのは難しい」(東京都)、「全員の死因を精査できるとは限らない」(千葉県)――などが挙がった。感染者1人が亡くなった青森県は「医師は死因を老衰などと判断した。感染が直接の死因ではないが、県としては陽性者の死亡を『死者』として発表している」と説明している。
■「区別は必要」
 一方、13自治体は、「医師らが新型コロナ以外の原因で亡くなったと判断すれば、感染者であっても死者には含めない」という考え方で、埼玉県と横浜市、福岡県ではすでに除外事例があった。埼玉県は12日時点で13人の感染者について、「死因はウイルスとは別にある」として新型コロナの死者から除外。13人はがんなどの死因が考えられるといい、県の担当者は「ウイルスの致死率にもかかわるので、コロナなのか、そうでないのかを医学的に区別するのは当然だ」と話す。横浜市でも、これまでに死亡した感染者1人について、医師の診断により死因が別にあるとして、死者から除外したという。
■県と市でズレ
 福岡県では、県と北九州市で死者の定義が異なる事態となっている。北九州市では、感染者が亡くなればすべて「死者」として計上している。これに対し、県は、医師の資格を持つ県職員らが、主治医らへの聞き取り内容を精査して「コロナか否か」を判断。この結果、これまでに4人の感染者について、北九州市は「死者」として計上し、県は除外するというズレが生じている。また、62自治体のうち残る5自治体は「定義は決めていないが、今のところコロナ以外の死因は考えられず、死者に含めた」などとしている。厚生労働省国際課によると、世界保健機関(WHO)から死者の定義は示されていないといい、同省も定義を示していない。だが、複数の自治体からは「国が統一的な定義を示してほしい」との声が上がっている。
●国「速報値と捉えて」
 厚労省は12日現在、「新型コロナウイルス感染症の死亡者」を922人と発表している。都道府県のホームページ上の公表数を積み上げたといい、この死者数をWHOに報告している。一方で同省は、新型コロナによる死者だけでなく国内のすべての死亡例を取りまとめる「人口動態統計」を毎年公表している。同統計は医師による死亡診断書を精査して死因が分類されるため、新型コロナの死者は現在の公表数よりも少なくなるとみられる。国として二つの「死者数」を示すことになるが、同省結核感染症課の担当者は「現在の公表数についての判断は自治体に任せており、定義が異なっていることは承知している。現在の数字は速報値、目安として捉えてもらいたい。統一された基準でのウイルスによる死者数は、人口動態統計で示される」と話している。
●識者「統一すべきだ」
 大阪市立大の新谷歩教授(医療統計)は「死者数は世界的な関心事項で、『自治体によって異なる』では、他国に説明がつかない。国際間や都道府県間での感染状況を比較するためにも、死者の定義を国が統一し、明示すべきだ」と指摘する。患者の治療に当たっている国立国際医療研究センター(東京)の大曲貴夫・国際感染症センター長も「医療従事者にとって、死者数は医療が適切に行われているかどうかを見定める指標の一つ。第2波に備える意味でも、ぜひ定義を統一してほしい」と求めた上で、「迅速性が重要なので、『陽性判明から4週間以内に死亡したケース』など、人の判断を挟まない方法が良いのではないか」と提案している。

*12-4:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14724 (Web医事新報No.5014 2020年5月30日発行) [緊急寄稿]日本の新型コロナ対策は成功したと言えるのか─日本の死亡者数はアジアで2番目に多い(菅谷憲夫) 、菅谷憲夫 (慶應義塾大学医学部客員教授,WHO重症インフルエンザガイドライン委員) 、登録日:2020-05-20、最終更新日: 2020-05-20
1.SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)の日本の流行
 世界保健機関(WHO)は,本年3月11日に新型コロナウイルス〔SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)〕のパンデミックを宣言し,日本国内でも,2020年3月から流行が本格化した。4月7日に,東京,神奈川,千葉など7都府県に緊急事態宣言が出て,4月16日には,宣言が全国に拡大された。5月に入り,日本の流行も終息傾向が見られるようになった。Social Distancingや休校の効果が出てきたものと思われる。
2.緊急事態宣言解除の影響
 これからの問題は,休校,外出やイベントの自粛,飲食店の休業,テレワークなどの対策が解除されると,流行が再燃する可能性が大きいことである。今,欧米諸国では,ロックダウンの解除,reopeningが課題となっている。国によって差はあるものの,5月中旬から徐々に厳しい外出禁止措置が解除されつつある。これがどのような影響をもたらすかは注目されるところである。ロックダウン期間中に人々が免疫を獲得したわけではなく,またSARS-CoV-2が完全に消失するとは考えられず,単に厳しい外出制限により人と人の接触が減ったので,患者数が一時的に減少したに過ぎない。夏になると,気候により流行が下火になると期待する向きもあるが,インドやフィリピンの流行状況を見ると,インフルエンザほどの季節性は望めないのではないかという意見もある。
3.日本のSARS-CoV-2対策は優れていたか
 政府を中心に,日本の死亡者の絶対数が欧米に比べて少ないから,日本のSARS-CoV-2対策は優れていたとか,成功したという論調が,最近多く聞かれる。ところが,アジア諸国は欧米諸国に比べて,感染者数も死亡者数も圧倒的に少ない事実がある。そして,アジア諸国間で,人口10万人当たりに換算した死亡者数を比較すると,日本は,フィリピンに次いで2番目に多く,日本の対策が優れていたとは言い難い(表1)。欧米諸国での人口10万人当たりのSARS-CoV-2感染者数は,アジア諸国に比べて10倍から100倍以上も多い。スペイン,イタリア,フランス,英国での感染者数は,10万人当たり275〜492人にもなるが,インド,中国,日本,韓国,台湾では,10万人当たり1.9〜21.5人に過ぎない。日本は,10万人当たり感染者数では,シンガポール,韓国,パキスタン等に次いで,5番目に位置する。シンガポールでは,最近,外国人労働者の宿舎で集団発生が起きたために,例外的に感染者数が488人と急増した。現時点での日本の感染者数は1万6203人,死亡者数は713人である(5月16日)。致死率を計算すると,4.4%(713/1万6203)と,かなり高率である。日本の例年の季節性インフルエンザの致死率は,1000万人のインフルエンザ患者数で,5000人の死亡者が出ていると仮定すると,0.05%(5000/1000万人)程度であるから,その約100倍の致死率となる。いずれにしろ,日本の感染者数は,国際的にも批判されたが,RT-PCR検査数が異常に少ないことが影響し,信頼できる数値とは言えない。
4.世界各国のSARS-CoV-2致死率
 世界各国の致死率(死亡者数/感染者数)は,欧米諸国では極めて高く,英国,フランス,イタリア,スペインなどでは,12〜15%となる(表1)。これは,1918年のスペインかぜの欧米の致死率1〜2%をはるかに超えて,驚くべき高値である。不明の点も多いが,欧米での高い致死率は,長期療養施設での流行により,多数の高齢者が死亡したためとも報道されている。アジア諸国の致死率は,インドネシアとフィリピンは6%台と高いが,中国が5.5%,日本は4.4%である。韓国が2.4%,台湾が1.6%と低い。表1を見ても,アジア諸国の致死率は,欧米諸国よりも明らかに低い。欧米よりもアジア諸国の死亡者数が少ないという現象は,スペインかぜの経験とは真逆であり,説明が困難である。例えば,スペインかぜの死亡者数は,アジア全体で1900万から3300万人で,欧州全体で230万人と報告されている(表2)。1918年当時は,アジアに比べて欧州諸国が社会経済的に圧倒的に優位だった影響と説明されてきた。社会経済的な格差は大幅に改善されたとはいえ,現在も欧州諸国が優位であると考えられるにもかかわらず,アジア諸国の死亡者数が少ない理由は説明がつかない。
5.人口10万人当たりSARS-CoV-2の死亡者数
 欧米諸国とアジア諸国での,SARS-CoV-2流行のインパクトの違いは,10万人当たりの死亡者数で比較すると,一段と明確となる(表1)。スペイン,イタリア,フランス,英国での死亡者数は,10万人当たり40〜60人にもなる。欧米諸国の中で,流行を徹底的に抑え込んだと高く評価されるドイツでも,10万人当たり死亡者数は9.5人であるが,対照的に,アジアで最も死亡者数の多いフィリピンでも,10万人当たり0.77人に過ぎない。インド,中国,日本,韓国,台湾などでは,10万人当たり0.03〜0.56人となる。欧米諸国とアジア諸国との差は明らかである。日本とドイツの人口10万人当たりの死亡者数を比べると,0.56人対9.47人で17倍差があり,特に多くの死亡者が出ているスペインと比べると,0.56人対58.75人で,実に105倍となる。まさに,欧米諸国ではSARS-CoV-2流行のインパクトは桁違いに大きい。欧米とアジアとの死亡者数には,100倍の違いがあるが,原因は不明である。可能性として考えられるのが,①人種の差,②年齢構成の違い,すなわちアジア諸国では若年層が多い,③BCG接種の影響,④欧米諸国では,高い感染力を持ち病毒性の強い,アジアとは別のSARS-CoV-2流行株が出現した─等が考えられる。
6.日本の死亡者数はアジアでワースト2
 欧米諸国と比べて死亡者数が少ないというだけで,日本のSARS-CoV-2対策が成功したという報道は誤りである。人口10万人当たりの死亡者数をアジア諸国で比べると,1位はフィリピン,2位が日本であり,日本は最も多くの死亡者が発生した国の一つである。注目されるのは,医療崩壊した武漢など,SARS-CoV-2の発生源とされた中国を上回っている点である(表1)。最も死亡者が少ない国・地域は台湾で,感染者数440人で死亡例はわずかに7人である。台湾の人口は2370万人なので,この割合を日本に当てはめると,患者数2350人,死亡者数は37人と驚異的な低値となる。日本では700人以上の死亡者が出たが,対策によっては,まだまだ多くの命を救えた可能性がある。
7.今季は大規模なインフルエンザ流行が予測される
 2019/20年シーズンの日本のインフルエンザ流行は,例年よりも数週早く,11月中に各地で注意報が出て大流行が懸念されたが,結局,A/H1N1pdm09による流行のみで,A/香港型(H3N2)の流行はなく,2020年1月には終息した。また,2018/19年シーズンに流行がなかったB型インフルエンザも出現せず,2年連続して流行がなかった。約700万人程度の患者数と言われ,小規模の流行に終わった。したがって,2020/21年シーズンは,A/香港型(H3N2)とB型による,大規模な混合流行の可能性が高い。
8.おわりに
 日本では,欧米と比較してSARS-CoV-2死亡者数は少ないことは事実である。しかし,それは日本の対策が成功したとか,優れていたわけではない。アジア諸国の感染者数,死亡者数は,欧米に比べて,圧倒的に少ないのであり,その中では,最大級の被害を受けているのが日本である。今,第2波の問題が世界のトピックとなっているが,日本を含めたアジア諸国では,第2波は,欧米諸国と同じような激甚な流行となる危険性もある。そのため,日本の第2波対策は,欧米の被害状況を詳しく分析して,慎重に立案,準備する必要がある。特に今季は,A/香港型とB型の大規模なインフルエンザ混合流行が予測され,インフルエンザとSARS-CoV-2の同時流行にも備える必要がある。

<地方住まいの長所と短所>
PS(2020年6月22日):*13-1のように、2019年度の「森林・林業白書」は、2015年の国連サミットで採択され①気候変動対策 ②森林の持続可能な管理等の17目標を掲げた国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集したそうだ。森林は、地球温暖化防止・水源涵養、国土保全、教育など幅広い機能があり、日本は国土の2/3を森林が占め収穫期でもあるため、大切に使えば大きな資源になる。しかし、そのためには、「スマート林業」「3Kからの脱却」「若者に魅力ある産業への脱皮」を急いで山村を再生する必要があり、国民は一部の企業を潤わせるために森林環境税を支払うのではないため、山から得られる「富」を地元に還元して魅力ある山村造りに役立てることが重要だ。また、せっかく育てた国有林を、民間企業に皆伐させ、造林は国が環境税を使って責任を持って行うなどという呆れた政策を作らない国民を育てるためには、子どもをコンクリートで作られた都市ではなく、自然の近くで育てて自然の美しさ・素晴らしさ・すごさ・貴重さを肌身で感じさせる必要がある。そこで、地方の学校では、*13-2のように、近くの森林や農園に児童の手で巣箱を設置し、森や農園や巣箱の中の変化の様子をカメラで撮影し、ITを使って学校のパソコンに映し出せる仕掛けをしたらどうかと思う。なお、現在の科学は、*13-3のように、太陽系外に地球に似た公転軌道をもつ第2の地球をすばる望遠鏡が発見し、太陽系内でも火星や月には人間が住めそうとのことだ。
 しかし、地方に住むにあたって不便なのは、*13-4・*13-5のような公共交通機関における赤字路線の存在と廃止の危機だ。私は、工夫すればいろいろなやり方があると思うが、人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が5月27日に成立し、国交省は、路線維持への自治体の関与を強めることで影響を最小限にとどめたい考えだそうだ。路線廃止だけでなく、多様な利用をして黒字化したり、自治体の総合戦略とあわせて駅ビル・駅前の街づくり・産業・住宅地などとセットで考える必要があるため、確かに自治体主導にするのがよいだろう。

 

(図の説明:1番左は十勝千年の森、左から2番目は人間がかけた巣箱で子育て中のフクロウの雛だ。また、右から2番目は、手入れされた森林で、1番右は、庭にかけた巣箱で子育てしているシジュウカラだ)


  EV電車      燃料電池電車       貨客混載     超電導電線敷設

(図の説明:電車だけ考えても、1番左のEV電車、左から2番目の燃料電池電車などに変更して電力を自ら作る方法がある。また、右から2番目のように、宅急便などと組んで貨客混載したり、1番右のように、線路に超電導電線を敷設し、地方から都市への送電を担って稼ぐ方法もある。なお、電車は自動運転にすれば、人件費が節約できるだろう)

*13-1:https://www.agrinews.co.jp/p51121.html (日本農業新聞論説 2020年6月20日) 林業白書 成長と循環で再生促せ
 政府が閣議決定した2019年度の「森林・林業白書」は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集した。時代の要請に沿った役割発揮への期待を込めたが、成否の鍵は山村の再生が握る。SDGsは、2015年の国連サミットで採択された。持続可能な世界を実現するため、貧困や飢餓の撲滅、気候変動対策、森林の持続可能な管理など17の目標を掲げた。2030年までの実現に向けて、世界的な取り組みが始まっている。森林は、地球温暖化防止や水源のかん養、国土保全、教育など幅広い公益的機能がある。日本の森林は、国土面積の3分の2を占め、公益機能の発揮に期待が高まっている。白書は「伐(き)って、使って、植える」という循環利用を基本にした管理が、SDGsの実現に貢献することを示した。特集で取り上げたのは、政府が掲げる森林・林業の成長産業化と、SDGsに沿った管理の両立を目指す決意表明とも言えよう。ただ森林・林業の現状は楽観できるものではない。木材の自由化政策と木材価格の低迷で、山村は廃れ、所有者や境界が分からない森林、手入れの届かない森林が目立つ。担い手不足と高齢化も深刻で、このままでは、成長産業化どころか、森林を維持することも危うくなる。林野庁は、所有者が放置している森林を林業経営者の管理に委ねる森林経営管理制度や森林環境税の導入で、循環利用にてこ入れをする。白書は、そうした政策の背景と狙いを詳しく示した。国民理解には必要なことだろう。難問は山村の再生である。若者が定住できるように魅力ある山村の創造が必要だ。機械化による「スマート林業」を進め、「きつい、汚い、危険」の「3K」イメージを払拭(ふっしょく)し、男女を問わず若者に魅力ある産業への脱皮も急ぐ必要がある。「担い手」である森林組合の活性化を促し、林家や林業従事者の経営と生活を安定させる環境がなければ、成長産業化と循環利用との両立は困難だろう。日本の森林は、戦後に植えた人工林を中心に主伐期を迎えている。いわゆる収穫期だ。国産材の利用も増えている。SDGsへの貢献と併せて、森林・林業に追い風が吹いていると言える。これを、山村再生につなげる必要がある。宝の持ち腐れにせず、計画的で適切な伐採と活用を進めるべきだ。その際に、山から得られた「富」をきちんと地元に還元し、魅力ある山村づくりに役立てることが肝心だ。一部の木材企業だけが潤って、森林を守る人たちが暮らす山村が衰退するようでは、循環利用の森林・林業を展開することはできない。白書は、「山村の活性化」を巡って地元に利益を還元する必要性を示した。しかし、山村社会のインフラ整備や就業機会の創出などに関する記述は厚みに欠ける。今後の課題である

*13-2:https://www.agrinews.co.jp/p51141.html (日本農業新聞 2020年6月22日) 絶滅危惧「ブッポウソウ」 ブドウ園に巣箱 害虫駆除で一石二鳥 広島県世羅町のワイナリー
 絶滅危惧種の渡り鳥「ブッポウソウ」を利用してブドウの害虫を駆除するプロジェクトが広島県世羅町で始まった。ワインブドウを栽培する園地に巣箱を設置して繁殖を促し、葉を食害するコガネムシ類を捕食してもらう。薬剤防除を減らすことで、生産者の負担を減らしながら、鳥の生育数の増大、良質なブドウで地域の特色を打ち出したワイン作りを目指す。ブッポウソウは、羽が青色でハトより小さい夏鳥。越冬場所の東南アジアから4月末~5月上旬に、本州や四国、九州に飛来する。昆虫を食べ、コガネムシなど甲虫類を好む。ただ、営巣場所が減り、急激な生息数の減少で、近い将来絶滅の可能性が高いとされる環境省のレッドリストでIB類に指定される。電柱などにも営巣することから、生息数の回復に巣箱の設置が有効という。プロジェクトは町産ブドウでワインを造る「せらワイナリー」を経営するセラアグリパークが始めた。三原野鳥の会の指導を受け、同社にブドウを出荷する世羅ブドウ生産組合と連携する。せらワイナリーと隣接するせら夢公園自然観察園では、野鳥の会が昨年初めて巣箱を設置し、ひなが巣立ったことを確認した。今年は組合員19戸が、園内や周辺の柱に巣箱30個を設置した。セラアグリパークは、巣箱を設置した園のブドウで造った商品をブランド化する計画だ。 

*13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200531&ng=DGKKZO59745590Z20C20A5MY1000 (日経新聞 2020.5.31) 「第2の地球」公転軌道 地球に似る 太陽系外惑星 すばる観測
 太陽系外で生命が存在できる領域にあり「第2の地球」の候補とされる惑星が、地球と似た公転軌道をもつことが、国立天文台のすばる望遠鏡による観測でわかった。この領域にある惑星の軌道が詳しくわかったのは初めてで、生命の生息条件を探る一歩になるという。東京工業大学や自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターなどのチームが、みずがめ座の方向、約40光年の距離にある赤色わい星「トラピスト1」を観測した。周囲には少なくとも7つの惑星が公転し、うち3つは生命がすめる領域「ハビタブルゾーン」にあり岩石でできている。このゾーンは恒星から適度に離れていて熱すぎたり冷たすぎたりせず、液体の水が存在できる。研究チームは、米ハワイ島にあるすばる望遠鏡に搭載した観測装置でトラピスト1を調べた。観測中にハビタブルゾーンにある2つの惑星を含む3つの惑星が、トラピスト1の前面を横切るように通過した。トラピスト1が放つ光の変化を詳細に調べたところ、自転軸の傾きが判明。惑星の公転軌道面に対してほぼ垂直であることがわかった。太陽系の惑星は太陽の自転軸に対しほぼ垂直の軌道で回っているが、太陽系外では軌道が傾いた惑星もある。軌道の傾きは、恒星から受ける放射線や紫外線の変化を通じて環境を左右している可能性がある。成果は軌道の傾きと環境を探る研究の出発点になるという。

*13-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527823 (佐賀新聞 2020.5.28) 伊万里-唐津、1億9300万円赤字 JR九州、線区別収支公表
 JR九州は27日、1日1キロ当たりの平均通過人員が2千人未満だったのは2018年度に17線区あり、営業損益が全て赤字だったと発表した。佐賀県内の線区の赤字額は筑肥線(伊万里―唐津)が1億9300万円、唐津線(唐津―西唐津)は2億2900万円で、ローカル線の厳しい現状が改めて浮き彫りになった。同社が線区別の収支を幅広く公表したのは初めて。沿線の自治体や住民に利用促進の手だてを考えてもらいたいとして、青柳俊彦社長が福岡市での会見で説明した。「将来的な鉄道網の維持可能性を高めるために知恵を出し合いたい」とし、複数の線区で立ち上げた自治体との検討会で対策を講じる考えを示した。運賃などの営業収益から、運行にかかる人件費や燃料代などを営業費として差し引いた金額を公表した。伊万里―唐津では営業収益3900万円に対し、営業費は2億3200万円、唐津―西唐津は営業収益3300万円、営業費2億6200万円だった。筑肥線の唐津―筑前前原(福岡県)と筑前前原―姪浜(同)、唐津線の久保田―唐津は2千人以上で、公表の対象外としている。JR九州管内には全59線区があるが、公表対象を限定した点について青柳社長は「ローカル線では30年前と比べて平均通過人員が7割以上減っているところもある。まずスポットを当て、一企業だけで維持するのは大変だということを理解いただく」と述べた。17線区を廃止したり、バスなど別の交通形態に転換したりする可能性に関しては「結果としてあるかもしれないが、今の段階でそれらを前提に議論することは考えていない」と話した。赤字額が最大だったのは日豊線の佐伯(大分県)―延岡(宮崎県)間の6億7400万円。災害の影響があった日田彦山線などは公表していない。

*13-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527934 (佐賀新聞 2020.5.28) 地域の足、自治体主導で、改正地域公共交通活性化再生法が成立
人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が27日、参院本会議で可決、成立した。過疎地域などでバス路線の存続が難しくなる前に、自治体が後継事業者を公募するなど、対策を早期に検討する制度を創設。住民の足が途切れないようにする。バス事業は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛で乗客が大幅に減少しており、路線撤退が増える恐れもある。国土交通省は、路線維持に対する自治体の関与を強めることで、影響を最小限にとどめたい考えだ。新制度では、採算割れなどを理由にバス事業者が路線廃止を想定し始めた段階で、自治体が対策に着手する。人口や住民の年齢層など地域の実態に応じて(1)コミュニティーバス(2)乗り合いタクシー(3)マイカーを使う自家用有償旅客運送―といった存続の選択肢を検討。事業者を公募するか、自治体が直接運営する。一方、地方都市を念頭に、路線バスの参入審査に地元自治体の意見を反映させる仕組みも設ける。新規参入により、客を奪い合って経営が悪化したり、通勤・通学など利用客が見込める時間帯だけに運行が集中して不便になったりする恐れがあるためで、国は自治体の意見を参考に、認可するかどうか決める。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 04:14 PM | comments (x) | trackback (x) |

PAGE TOP ↑