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2014.3.19 小保方晴子さんのSTAP細胞に関する論文の称賛・批判の両方に含まれるジェンダー
   
        *1-2より           STAP細胞の作り方

 関連記事が多く、*6の論文にも目を通さなければならなかったので、遅くなりましたが・・。

(1)批判するにも褒めるにも、日本のメディアはジェンダーを含んでいる
 朝日新聞社が、*1-2の写真で報じている「かっぽう着姿で作業する」というのは、研究とは関係のない事項で、男性の研究者に対して、このような褒め方はしない。そもそも、「かっぽう着」は、着物を着た人が台所で作業する場合に都合のよい台所のコスチュームであるため、かっぽう着姿で研究室にいるのは、警察官が消防団の法被を着て仕事をしているのと同じくらい場違いなのである。それにもかかわらず、親しみの持てる人であるというメッセージを込めて「かっぽう着姿で作業する」としたのは、「女性=かっぽう着姿で台所にいるのが普通で親しみやすい」というジェンダーを含んでおり、スーツ姿や白衣で颯爽と働いている女性に対して失礼である。

 そして、「やめてやると思った」と報じたのは、本当に小保方さんがそう言ったのかどうかは不明だが、「この程度の人なら、かわりはいくらでもいるのに不遜だ」と読者に思わせ、小保方さんに悪いイメージを刷りつけた。また、「泣き明かした」としたのも、研究者にしてはプロ意識が足りないというイメージを刷りつけており、そのような言葉を、無理に本人から聞き出して脚色して記事を書いたとすれば、それは、記者の中にあるジェンダーのなせる業である。しかし、私の経験では、本人は全く言わなくても、記者のジェンダーに基づいて、低レベルのストーリーに仕立て上げられた記事は、大変多い。

 一方で、*1-2の中で、理研の笹井副センター長が、「化学系の出身で、生物学の先入観がなく、データを信じて独自の考えをもっていた」と表しているのは、小保方さんに研究のアイデアやヒントを提供したチャールズ・バカンティ米ハーバード大教授は生物系・医学系の人であり、生物系の人にもいろいろなレベルの人がいるため、生物系の人に対して失礼な発言となっている。しかし、小保方さんの評価には、ジェンダーは含んでいない。

(2)STAP細胞の研究は捏造で、その存在は嘘か?
 *1-1の朝日新聞記事は、「理化学研究所などが、新しい『万能細胞』の作製に成功し、マウスのリンパ球を弱酸性の液体で刺激するだけで、どんな細胞にもなれる万能細胞に変化することを発見した」「生命科学の常識を覆す画期的な成果で、英科学誌ネイチャー電子版のトップ記事として掲載された」「受精卵にSTAP細胞を注入して子宮に戻すと、全身がSTAP細胞から育った胎児になった」「究極の再生医療への応用にまでつながる可能性がある」と報じており、私には、これは自然に思えた。

 また、*6-1の論文には、「本研究で、分化した体細胞が潜在的には驚くべき可塑性を持っていることが明らかになった」と書かれているが、これについては、私は、東大理Ⅱの学生時代(今から41年前)に、ノーベル賞級と噂されていた動物学の先生に教わった。つまり、受精して卵割が始まると、胃の場所に行った細胞は胃になり、肺の場所に行った細胞は肺になるというように、細胞は、場所を与えられてから、その場所に応じた分化をするということだ。そして、胃に肺の細胞ができないように、また、通常は勝手な分化をしないように、遺伝情報で制御されているのである。

 *6-1には、「なぜ体細胞は致死以下の刺激が加わると自らをリプログラミングできる潜在能力を持っているのか?」と書かれているが、考えてみれば、リンパ球が致死以下の刺激で細胞の初期化を起こすのは、当然かもしれない。何故なら、リンパ球は、傷を負った場所に集まって傷を治す役割を持つ細胞で、その役割を果たすためには、何にでも分化できなければならないため、そのように遺伝情報でセットされているのではないかと思う。

 そして、「いつ初期化されて修復するための新しい分化を始めるか」については、リンパ球が、毛細血管に似た環境の細いガラス管を多数回通されたり、傷口ができて血液が空気に触れて酸化したような状態の弱酸性になった時で、傷口を修復しなければならず、傷口に集まった時のような刺激を与えられた時なのだろう。

 「このリプログラミングのメカニズムは、正常の状態ではどのように抑制されているのか?」については、それぞれの場所にある細胞が勝手に変化して収拾がつかない状態にならないように制御するシステムが、遺伝情報に組み込まれているからである。なお、「強い環境のストレスを受けても、通常の組織では多能性細胞(または奇形腫)の出現が見られないのはなぜか?」という問いもあるが、ストレスのすべてが癌化や奇形腫に繋がるわけではないし、身体には防御システムも備わっているからだ。

(3)研究への批判は正しいか
 英科学誌ネイチャーに掲載された小保方さんのSTAP細胞に関する論文は、*2-1のように、小保方さんの博士論文が参考文献リストをコピペしていたとか、*2-2のように、小保方さんの博士論文は、米国立衛生研究所サイト冒頭をコピペしていたなど、対象論文とは関係がなく、事情があって悪いことではないかもしれないことでも叩かれた。しかし、これらは、STAP細胞に関する論文の内容を否定できるようなものではなく、あらさがしの類であり、女性である小保方さんには、批判もまた、女性蔑視とジェンダーが含まれていたと思う。

 なお、*2-3では、①STAP細胞からマウスの胎盤ができたことを示す2種類の胎盤の画像が似ており、同じ画像を使い回した ②論文の中の実験手法に、海外の別の研究者の論文と同じ記述があり、引用の記載がないので盗用だ ③1月末に公表されたネイチャー誌の論文と、3月5日に公開された作り方の手順書で、符合しない点がある ④ネイチャー誌の論文で、STAP細胞の「万能性」を示す根拠とされていた画像と、小保方さんの博士論文で使われていた別の現象の画像が酷似しており、博士論文の画像を使い回した 等が指摘されたが、このうち①④は研究者として真実を追求する姿勢が問われるが、②③はそういうことがあったからといって盗用とは限らないし、STAP細胞の存在を否定するものでもない。そもそも、主たる部分を盗用して書いたような論文であれば、独創的でないため、生物学の常識から外れているなどとは言われないものである。

 そして、*2-3には、その後、共著者の若山照彦教授が、「確信が持てないと表明して、取り下げを呼びかけた」と書かれているが、若山教授自身が、確信も持てないまま論文の共著者になっていたことは問題であり、最も圧力に屈しやすそうな人でもあって、論文に名を連ねた以上は共同責任者だという自覚がないのも変だ。

 さらに、*2-3などで、朝日新聞は、「理研、遅れる対応」などとして理研に調査と論文撤回を迫っているが、メディアの無責任な記事と違って、研究者が論文を撤回すれば成果が白紙になるだけではなく、関係した研究者は研究生命を断たれるのだということや、論文不正といっても京都府立医大が中心になった高血圧薬をめぐるデータ捏造の臨床研究論文と今回のSTAP細胞の論文とは、目的も次元も全く違っていることを理解していない。
 
 そして、*2-4で理研が、論文の改ざんがあったと認定して、重大な過誤があると認めた部分は、*1-1で、 「受精卵にSTAP細胞を注入して子宮に戻すと、全身がSTAP細胞から育った胎児になった」とされたことを証明する部分だが、受精卵に遺伝子を注入すれば胎児になるのは普通であり、それは家畜ではすでに実用化されており、また、胎児にならなくても再生医療には十分に利用できるのである。

(4)STAP細胞の結論に影響はないと思う
 *3-1のように、青山学院大生物学教授の福岡伸一氏は、「STAP細胞の実在性に著者らがなお信念をもっているのであれば、論文を撤回するのではなく、訂正や続報で対応すべきで、撤回すれば、故意のデータ操作や捏造などの不正があったと世界はみなすだろう」と書かれているが、全くその通りだ。

 さらに、メディアは、悪乗りして的外れな賞賛や批判をするため、研究者の基本姿勢や倫理観を育てる科学教育だけでなく、官僚や記者や評論家などの文科系の人にも科学の基礎知識を学ばせる中等教育での科学教育を重視すべきで、それは、基礎知識がなければ、説明しても理解できないし、重要性の判断をすることもできないからである。

 このような状況であるため、*3-2のように、共著者のチャールズ・バカンティ米ハーバード大教授が、「論文に対して持ち上がっている疑問や懸念は、私たちの研究結果や結論には影響を与えないと確信している」とする声明を発表したのはもっともで、*3-3の共著者、丹羽仁史理研プロジェクトリーダーが、「STAP細胞ができたという根幹は揺るがない」と述べ、STAP細胞の作製は事実だと訴えたのも、もっともだと思う。

 なお、*3-4で、STAP論文を巡って「検証を待つ」と繰り返しているノーベル化学賞受賞者の野依良治理事長はじめ理研幹部は畑違いの専門家であり、「極めてずさんで、あってはならないこと」と論文の不備を認めたといっても、STAP細胞が存在するかどうかを判断できるとは思えない。また、*3-5で、小保方さんたちが細胞の証明不十分とされて、STAP論文の撤回に同意したのは、このような日本国内の圧力に屈したものであり、米大学教授の反対はもっともなのである。そして、*3-6のように、理研は、STAP記者向けに、iPSと比較してSTAP細胞の方が作りやすいとした資料を、誤解を招いたとして撤回している。

(5)妨害の陰が見えた
 *3-5等では、新聞が、小保方さんらにSTAP論文の撤回を同意させ、幹細胞研究に詳しい九州大教授の赤司氏が「いったん撤回して、科学的に批判の出ない論文を出し直すのは正当だ。そうすれば、(今回の研究メンバーの研究生命はなくなるかもしれないが)STAP細胞は生き残ることができる。それには、経験の豊富な科学者が責任を持ち、実験に参加する態勢が欠かせない」とたたみかけているが、STAP論文の共著者であるチャールズ・バカンティ米ハーバード大教授は経験豊富な科学者である。

 また、*4-1で、共著者で山梨大教授の若山氏が、「科学的真実を知りたい」などとして、2014年3月18日に、小保方さんから送られて保存していた細胞を第三者機関に送ったそうだが、今まで真実を知らなかったというのは呆れる上、何から作ったかわからないと言われている問題の細胞を使っても、新たな事実が見つかるわけがなく、他の人にその細胞を提供しただけに終わりそうだ。

 そのような中、*4-2のiPS細胞から赤血球を生産したという記事が目を引いた。何故なら、iPS細胞より優れていそうなSTAP細胞を否定して得をするのは、iPS細胞で特許を得ようとしている人たちだからである。*4-3のiPS細胞を年内配布して患者治療を後押しするという記事も同様だ。

 さらに、*4-3では、「iPS細胞の活用として、創薬分野での産学連携に期待している」とされているが、官がiPS細胞のみに加担して、他の再生医療研究を予算で抑えれば、最も優秀な再生医療を日本で開発する機会が奪われ、iPS細胞以外の再生医療研究者は海外で研究開発せざるを得なくなる。そして、既に、そういう人はいるのだ。従って、Fairに、多様性を保って伸ばすことにより、その中で一番良い物を選抜しなければ最も良い方法を得ることはできないため、iPS細胞のみに加担してはならず、一騎当千の優秀な研究者の海外流出は、日本にとって大きな損失であることを強調しておく。

(6)メディアの報道について
 *5に、朝日新聞が、「理研の調査委員会が不適切と認めたが、報道のあり方が問われている」という記事を書いている。確かに、社会面での小保方晴子ユニットリーダーの研究人生紹介はジェンダーを含み、その後は一転して、新聞の1面、2面を大きく割いて、くだらないことまで含むあらさがしの批判を行い、共著者や理研に論文撤回をせっついたというのが朝日新聞の態度だった。そのため、新聞記者の資質や編集姿勢の検証も必要である。

*1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASG1Y41F4G1YPLBJ004.html?iref=comkiji_redirect (朝日新聞 2014年1月29日) 新しい万能細胞作製に成功 iPS細胞より簡易 理研
 理化学研究所などが、まったく新しい「万能細胞」の作製に成功した。マウスの体の細胞を、弱酸性の液体で刺激するだけで、どんな細胞にもなれる万能細胞に変化する。いったん役割が定まった体の細胞が、この程度の刺激で万能細胞に変わることはありえないとされていた。生命科学の常識を覆す画期的な成果だ。29日、英科学誌ネイチャー電子版のトップ記事として掲載された。
●万能細胞
 理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の小保方晴子(おぼかたはるこ)ユニットリーダー(30)らは、新たな万能細胞をSTAP(スタップ)細胞と名付けた。STAPとは「刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得(Stimulus―Triggered Acquisition of Pluripotency)」の略称だ。iPS細胞(人工多能性幹細胞)よりも簡単に効率よく作ることができた。また、遺伝子を傷つけにくいため、がん化の恐れも少ないと考えられる。作り方は簡単だ。小保方さんらは、マウスの脾臓(ひぞう)から取り出した白血球の一種のリンパ球を紅茶程度の弱酸性液に25分間浸し、その後に培養。すると数日後には万能細胞に特有のたんぱく質を持った細胞ができた。この細胞をマウスの皮下に移植すると、神経や筋肉、腸の細胞になった。そのままでは胎児になれないよう操作した受精卵にSTAP細胞を注入して子宮に戻すと、全身がSTAP細胞から育った胎児になった。これらの結果からSTAP細胞は、どんな組織にでもなれる万能細胞であることが立証された。酸による刺激だけではなく、細い管に無理やり通したり、毒素を加えたりといった他の刺激でも、頻度は低いが同様の変化が起きることも分かった。細胞を取り巻くさまざまなストレス環境が、変化を引き起こすと見られる。さらに、脳や皮膚、筋肉など様々な組織から採った細胞でもSTAP細胞が作れることも確かめた。STAP細胞は、iPS細胞とES細胞からは作れない胎盤という組織にも育ち、万能性がより高く、受精卵により近いことを実験で示した。さまざまな病気の原因を解き明かす医学研究への活用をはじめ、切断した指が再び生えてくるような究極の再生医療への応用にまでつながる可能性がある。ただ、成功したのは生後1週間というごく若いマウスの細胞だけ。大人のマウスではうまくいっておらず、その理由はわかっていない。人間の細胞からもまだ作られていない。医療応用に向けて乗り越えるべきハードルは少なくない。万能細胞に詳しい中辻憲夫・京大教授は「基礎研究としては非常に驚きと興味がある。体細胞を初期化する方法はまだまだ奥が深く、新しい発見があり、発展中の研究分野なのだということを改めて感じる」と話す。
■山中伸弥教授「重要な研究成果、誇りに思う」
 京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授は「重要な研究成果が、日本人研究者によって発信されたことを誇りに思う。今後、人間の細胞からも同様の手法で多能性幹細胞(万能細胞)が作られることを期待している」とのコメントを発表した。
    ◇
〈万能細胞〉 筋肉や内臓、脳など体を作る全ての種類の細胞に変化できる細胞。通常の細胞は筋肉なら筋肉、肝臓なら肝臓の細胞にしかなれない。1個の細胞から全身の細胞を作り出す受精卵のほか、少し成長した受精卵を壊して取り出したES細胞(胚(はい)性幹細胞)、山中伸弥・京都大教授が作り出したiPS細胞(人工多能性幹細胞)がある。万能細胞で様々な組織や臓器を作れるようになれば、今は治せない病気の治療ができると期待されている。

*1-2:http://apital.asahi.com/article/news/2014013000016.html
(朝日新聞 2014年1月30日) 泣き明かした夜も STAP細胞作製、理研の小保方さん
 いつも研究のことを考えています――。世界を驚かす画期的な新型の万能細胞(STAP〈スタップ〉細胞)をつくったのは、博士号をとってわずか3年という、30歳の若き女性研究者だ。研究室をかっぽう着姿で立ち回る「行動派」は、負けず嫌いで、とことんやり抜くのが信条だ。「やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れないですが、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやっていたら、5年が過ぎていました」。28日、神戸市内の理化学研究所発生・再生科学総合研究センターでの記者会見。無数のフラッシュの中、小保方晴子(おぼかたはるこ)さんはこれまでの日々を振り返った。千葉県松戸市の出身。2002年、早稲田大学理工学部に、人物重視で選考するAO入試の1期生として入った。当時、面接で「再生医療の分野に化学からアプローチしたい」とアピール。ラクロスに熱中し、「日々、大学生の青春に忙しかった」というふつうの学生生活を送っていた。応用化学科の研究室で海の微生物を調べていたが、指導教官から「本当は何をやりたいか」を問われ、最初の夢を思い出し、大学院から、再生医療の分野に飛び込んだ。小保方さんを大学院時代に指導した大和雅之・東京女子医大教授は「負けず嫌いで、こだわりの強い性格」と話す。一から細胞培養の技術を学び、昼夜問わず、ひたすら実験に取り組んでいた。半年の予定で米ハーバード大に留学したが、指導したチャールズ・バカンティ教授に「優秀だからもう少しいてくれ」と言われ、期間が延長になったという。ここで、今回の成果につながるアイデアを得た。研究の成功に欠かせない特殊なマウスをつくるために、世界有数の技術をもつ若山照彦・理研チームリーダー(現・山梨大教授)に直談判。ホテルに泊まり込みながら半年以上かけて、成果を出した。今回の発見について、小保方さんは「あきらめようと思ったときに、助けてくれる先生たちに出会ったことが幸運だった」と話す。理研の笹井芳樹・副センター長は「化学系の出身で、生物学の先入観がなく、データを信じて独自の考えをもっていた。真実に近づく力と、やり抜く力を持っていた」と分析する。昨年、理研のユニットリーダーになった小保方さんは、自身の研究室の壁紙をピンク色、黄色とカラフルにし、米国のころから愛用しているソファを持ち込んでいる。あちこちに、「収集癖があるんです」というアニメ「ムーミン」のグッズやステッカーをはっている。実験時には白衣ではなく、祖母からもらったというかっぽう着を身につける。研究をしていないときには「ペットのカメの世話をしたり、買い物に行ったりと、普通ですよ」と話す。飼育場所は研究室。土日も含めた毎日の12時間以上を研究室で過ごす。「実験室だけでなく、おふろのときも、デートのときも四六時中、研究のことを考えています」

*2-1:http://digital.asahi.com/articles/ASG3D32NBG3DULBJ002.html?iref=comkiji_redirect&iref=comtop_6_01
(朝日新聞 2014年3月12日) 小保方さんの博士論文、参考文献リストもコピペか
 英科学誌ネイチャーに掲載された新しい万能細胞「STAP(スタップ)細胞」論文の筆頭著者、理化学研究所の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーが早稲田大に提出した英文の博士論文で、参考文献リストが他の論文と酷似していることが12日わかった。リストは論文の根拠となる文献を示すもので、学位取り消しの検討が求められる状況となっている。博士論文は2011年2月付。動物の体中から万能性をもつ幹細胞を見つけ出すもので、STAP細胞の論文ではない。章別に参考文献リストがある。たとえば、第3章では本文に引用の印がないのに、文献リストには38件分の著者名、題名、雑誌名、ページが列挙されている。これは10年に台湾の病院の研究者らが医学誌で発表した論文の文献リスト53件のうち、1~38番とほぼ一致した。博士論文では一部文字化けしている文字があり、コピー・アンド・ペースト(切りはり、コピペ)の可能性がある。リストは著者名のABC順。元論文の38番はPで始まる姓のため、ありふれたSやTで始まる著者名が博士論文にはないという不自然さがあった。普通の論文では本文で文献を参照した箇所に(1)などの番号を添えるが、図を除いて5ページある第3章の本文にはこのような番号はつけられていない。このため、意味不明な参考文献リストになっている。この博士論文に関しては11日、米国立保健研究所(NIH)がネット上に掲載している文章との酷似が指摘されたばかり。酷似は108ページある博士論文の約20ページ分に及ぶとされたが、今回判明した参考文献リストを合わせると約35ページ分になる。小保方さんは理研に就職する前、論文審査を通り博士の学位を得た。審査には早稲田大教授2人、東京女子医科大教授1人のほか、STAP細胞論文の責任著者になっている米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授も加わっている。研究倫理に詳しい山崎茂明・愛知淑徳大教授は「これで論文審査を通ったこと自体が驚き。審査した教授や大学の責任は重い。学位取り消しを含めて検討すべきだ」と語る。早稲田大広報課は「確認中。学位取り消しに相当するかは調べきってから評価することになる」としている。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2645323.article.html
(佐賀新聞 2014年3月12日) 小保方氏の博士論文、米に同じ文 / 国立衛生研究所のサイト冒頭
 万能細胞「STAP細胞」の論文を執筆した理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーが、博士号を得るため早稲田大に提出した英語の博士論文の冒頭部分が、米国立衛生研究所(NIH)のサイトの文章とほぼ同じだったことが11日、分かった。博士論文にはこれまでも不適切な画像の操作の指摘がインターネット上で広がり早大が調査している。博士論文は、骨髄から採取の細胞がさまざまな細胞に変化できることなどを示したもので2011年2月発行。約100ページの冒頭26ページは幹細胞研究の意義や背景を説明、うち20ページはNIHの「幹細胞の基礎」というサイトとほぼ同じだった。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11022434.html?iref=comkiji_redirect
(朝日新聞 2014年3月11日) 画像酷似、新たに指摘 論文裏付け、疑念 STAP細胞
 生物学の常識を覆すとして世界に衝撃を与えた万能細胞「STAP細胞」の論文が、撤回される可能性が出てきた。発表からわずか1カ月余り。論文の不適切さを問う声が相次ぎ、共著者まで「確信が持てない」と表明した。次々に明らかになる問題に、理化学研究所の対応は後手にまわっている。「きょうの昼ごろに、理研の(幹部)3人から、メールや電話で『論文を取り下げてはどうか』と著者全員に連絡があった。それに後押しをされて、取り下げを呼びかけることにした」。10日夜、甲府市の山梨大。報道陣に囲まれ、論文の共著者である若山照彦教授は話した。若山さんはマウスのクローンを作る第一人者。論文では、STAP細胞がどんな組織にでもなれる「万能性」を持つことを裏付ける決定的な証拠のための実験を担った。STAP細胞の特徴は、(1)万能性を持ち、(2)体のふつうの細胞から作られる、という2点だ。こうした研究内容そのものにかかわる疑問が、今月に入り相次いで浮上した。万能性への疑問は、論文不正などを取りあげるインターネットのブログで9日に指摘された。筋肉や腸の組織をとらえた計4枚の画像で、英科学誌ネイチャー発表の論文では、いずれもSTAP細胞から育ったと説明された。だが、これらは論文の主著者である理研の小保方晴子ユニットリーダーが2011年に書いた博士論文の写真とそっくりだった。博士論文ではSTAP細胞ではなく、骨髄の中に元々含まれている万能の細胞を育てたとしていた。若山さんは「この写真は細胞がいろいろなものに分化できることを示す写真で、研究の根幹が揺らいだ。私が実験をしたのが何だったのか、確信が持てなくなった」と話した。第二の特徴にも疑念が出ている。論文では、血液に含まれるリンパ球という細胞からSTAP細胞をつくったとされ、人為的につくったことを示す遺伝子の変化がSTAP細胞に見つかったと書かれていた。ところが、理研が今月5日に公表した詳しい作製手順には、STAP細胞を改変した細胞(STAP幹細胞)にはこの遺伝子の変化がなかったと書かれていた。若山さんはこれまで小保方さんを擁護していた。論文については他にも、画像の「使い回し」や、記述の一部が別の研究者が発表した論文とほぼ同一だったとの指摘もあったが、STAP細胞を作ったという成果自体には影響しないと見られてきた。若山さんは「研究成果を信じたい気持ちがあるので、一度論文を取り下げて、もう一度研究を行い、だれからも文句の出ない形で論文を出したい」と話した。
■理研、遅れる対応
 これまで相次ぎ指摘されてきた問題点について、理研は「調査中」を理由に詳しい説明を拒んできた。研究の中心となった小保方さんも、論文の掲載時以降、取材に応じていない。理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の広報担当者は10日夜、理研所属の著者について質問されても「いま対応を協議しているところです」と繰り返した。このうち小保方さんについては「様々な指摘を真摯(しんし)に受けとめている」と説明し、内部で対応を議論しているという。STAP細胞の姿は、発表後まもなくから揺らぎ続けた。まず指摘されたのはSTAP細胞を用いて育ったマウスの胎児と胎盤の画像だ。別々の被写体のはずの2枚で一部が酷似していた。理研、ネイチャー誌が相次ぎ調査開始を公表。理研は「成果そのものは揺るがない」と自信を示した。当初、「簡単にできる」と説明したことについても疑問が噴出。研究者から「再現できない」との声が相次ぎ、理研は製法の詳細を公表した。だが、内容が当初の発表と矛盾するとの指摘が出て、さらに対応を迫られた。理研を所管する文科省幹部は「理研の調査委の中に、STAP論文について、正しいと見ている研究者と、疑いの目を持った研究者がいるので結論が出ていない」と説明する。一方、日本分子生物学会は日本の科学研究の信頼性への影響を懸念し今月3日、迅速な調査結果の公表を求める声明を出している。
■撤回なら成果は「白紙」に
 論文の撤回は、そこに記載された科学研究の成果全体が「白紙」となることを意味する。現段階でSTAP細胞ができたこと自体まで否定されたわけではないが、論文を発表した理研とは別のチームによる実験で同じ結果が示され、その結果が研究者のあいだで信用されるまでは、STAP細胞が本物とも言えない状態になる。公表された論文の内容に問題が見つかった場合、意図的でない小さなミスであれば論文の訂正がなされる。しかし、データの改ざんや捏造(ねつぞう)、ほかの研究者の論文からの盗用といった不正行為があった場合は論文そのものを取り下げ、雑誌にも撤回の事実を明記するのが一般的なルールだ。論文不正に詳しい愛知淑徳大の山崎茂明教授は「誤った研究結果がそれ以上広まらないようにするのが撤回の目的」と話す。今回も、盗用を含む複数の不正の指摘がある。撤回は、論文を書いた著者が自ら申し出るのが原則だが、雑誌の側がすることもある。京都府立医大が中心になった高血圧薬をめぐる臨床研究の論文は、掲載した欧州心臓病学会誌が昨年撤回している。悪質な不正があったとして、著者が所属する大学から解雇されたケースもある。今回の論文が掲載されたネイチャーのほか、サイエンスやセルといった影響力の大きい科学雑誌での撤回は実は珍しくない。「一流雑誌に載る論文ほど競争の激しい分野の研究が多い。それだけ、問題も生じやすい」と山崎さんはいう。
■指摘されている主な問題点
(1)STAP細胞からマウスの胎盤ができたことを示す2種類の胎盤の画像が似ているため、同じ画像を使い回して別の画像のように見せかけたのではないかと疑われている
(2)論文の中の実験手法について書かれた部分に、海外の別の研究者の論文とほぼ同じ記述があった。論文には引用の記載がなく、盗用したのではないかと疑われている
(3)1月末に公表されたネイチャー誌の論文と、3月5日に公開された作り方の手順書で、符合しない点がある
(4)ネイチャー誌の論文で、STAP細胞の「万能性」を示す根拠とされていた画像と、小保方さんの博士論文で使われていた別の現象の画像が酷似していた。博士論文の画像を使い回した疑いがある
■STAP細胞、これまでの主な経緯
<1月29日>
英科学誌ネイチャーにSTAP細胞の論文が掲載される
<2月13日>
「論文に不自然な画像がある」とインターネットなどで指摘され、理研が調査開始
<17日>
ネイチャーも調査開始を公表
<18日>
早稲田大が小保方さんの博士論文について調査を始める
共同研究者の若山・山梨大教授が朝日新聞に「画像取り違えの単純ミス」と説明
<3月3日>
日本分子生物学会が理研に対し、迅速な調査結果の公表を求める声明を発表
<5日>
理研がSTAP細胞の詳しい作製手順を公表

*2-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11030070.html?ref=pcviewpage
(朝日新聞 2014年3月15日) STAP細胞、証明できず 万能性の根拠、別画像 理研中間報告
 新しい万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の論文に対し、理化学研究所は14日、「重大な過誤がある」と認めた。研究の根幹となる万能性を示す画像が、3年前に書かれた別の論文の画像と同一だったとした。野依良治理事長は「論文の疑義についておわび申し上げたい」と謝罪。STAP細胞を作製したことの具体的な根拠を示せず、証明できないと説明した。これまで「成果は揺るがない」としていた理研の姿勢は大きく後退した。
■「論文、極めてずさん」
 理研の調査委員会によると、問題の画像は、英科学誌ネイチャーの論文で、STAP細胞がいろいろな細胞になれることを示した証拠として使われていた。ところが、著者の理研発生・再生科学総合研究センターの小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーが博士論文に載せた別の実験による画像と同じことが判明した。野依理事長は「極めてずさん。あってはならないことだ」、竹市雅俊センター長は「完全に不適切。論文としての体をなさない」と述べた。論文は撤回に向けた協議が進んでいる。調査委は著者の小保方さんらに聴取するなどして、六つの項目を調べ、中間報告をまとめた。うち4項目は、疑わしい部分が残るなどとして調査を継続する。残る2項目については「不適切な点はあったが、研究不正にはあたらない」と判断した。実験手法の記載の一部が、他の海外論文をコピーしていたとする疑いについて、小保方さんにはコピーした記憶がある様子だったが、どこから取ってきたかは「覚えていない」と話したという。遺伝子を分析する画像に切り張りした形跡があるとの指摘について、小保方さんは条件の異なる実験の画像を挿入したと認めた。調査委はこうした問題点については、不正かどうかを判断するために継続調査とした。最終報告を公表する時期は明言しなかった。これまでの調査で、実際に実験していないデータなどの捏造(ねつぞう)はないという。一方、マウスの胎盤の画像を使い回したとの指摘については、小保方さんが「不要になった画像を削除し忘れた」と説明。実験ノートなどから、不正ではなく「不適切」だとした。STAP細胞が実在するかについては、理研の川合真紀研究担当理事は「まだ初めの段階しか再現されていない」と話した。さらに、詳しい作製手順を提供する方針を明かした。小保方さんは現在、同センターがある神戸市にいるが、研究は停止している。自身の未熟さを反省しているという。小保方さんを含む共著者3人は「心よりおわび申し上げる。適切な時期に改めて説明する機会を設ける」とする連名のコメントを出した。

*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11030073.html?iref=comkiji_redirect (朝日新聞 2014年3月15日) 科学巡る課題、浮き彫り STAP細胞論文 福岡伸一(青山学院大教授〈生物学〉)
 iPS細胞の成功以降、生命科学がテクノロジーに走りすぎ、「作りました」という研究がもてはやされる風潮がある。今回の問題もその延長線上に起きたのではないか。科学は本来、もっとじっくり「How(どのように)」を問うべきものだ。STAP細胞の実在性に著者らがなお信念をもっているのであれば、論文を撤回するのではなく、訂正や続報で対応すべきだ。撤回すれば、故意のデータ操作や捏造(ねつぞう)などの不正があったと世界はみなすだろう。不適切と不正の切り分け。つまりどこまでが過失で、どこからが作為なのか。こうした点が明確にならないと、科学界に広がった多大な混乱と浪費は回収できない。著者や理研はきちんと説明してほしい。
 さらに言えば、問われるべきは個人の資質や共著者の責任だけではない。メディアも当初は無批判に称賛していたし、研究者の基本姿勢や倫理観を育てる科学教育のあり方は十分だったのかなど、論点は限りなくあるように思える。今回は論文発表直後から、世界中の研究者の集合知的なあら探しによって問題点があぶりだされた。最高権威だった科学誌の審査が機能せず、草の根的なレビューが機能したという点でも興味深い。

*3-2:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2645856.article.html
(佐賀新聞 2014年3月12日) STAP論文「結論に影響ない」 / 共著の米教授
 【ワシントン共同】新たな万能細胞「STAP細胞」の論文に相次いで不自然な点が指摘された問題で、共著者のチャールズ・バカンティ米ハーバード大教授は12日、「論文に対して持ち上がっている疑問や懸念は、私たちの研究結果や結論には影響を与えないと確信している」とする声明を、所属する米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院を通じて発表した。撤回の可否については明言しなかった。

*3-3:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2645792.article.html
(佐賀新聞 2014年3月12日) STAP細胞「根幹は揺るがず」 / 共著者の丹羽氏
 新たな万能細胞「STAP細胞」を報告した論文の画像や表現に相次いで不自然な点が指摘された問題で、共著者の1人、丹羽仁史理研プロジェクトリーダーは12日までに共同通信などの取材に「STAP細胞ができたという根幹は揺るがない」と述べた。丹羽氏は一連の指摘について問題点を認めた上で、「(STAP細胞が)科学的に正しいかどうかは別の問題だ」と強調。STAP細胞の作製は、事実だと訴えた。外部の研究者がまだSTAP細胞の作製を再現できていない点には、「実験のそれぞれの段階で時間がかかる」と説明し、再現には数カ月かかるとの見通しを示した。

*3-4:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1404L_U4A310C1CC1000/?dg=1
(日経新聞 2014/3/14) 理研幹部「検証待つ」繰り返す STAP論文巡り
 新たな万能細胞の発見として世界を驚かせた発表から44日、STAP(スタップ)細胞の論文は国内外から示された様々な疑義により、研究の根幹が揺らぐ事態に発展した。4時間に及んだ14日の理化学研究所の記者会見でも、細胞が本当に存在するのかどうかは釈然としないままだった。科学者を志す学生らは「早く真相をはっきりさせて」と求めた。
●会見4時間、小保方氏動向に質問集中
 ノーベル化学賞受賞者でもある野依良治理事長らは午後2時すぎから、東京都内で会見。海外メディアの姿も見られ、「世紀の発見」に浮上した疑惑への関心の高さをうかがわせた。「科学社会の信頼性を揺るがしかねない事態を引き起こした」。冒頭、野依理事長らは厳しい表情のまま深々と頭を下げた。不正の有無の調査は続けるとしたが、「極めてずさんで、あってはならないこと」と論文の不備を認め、苦渋の色をあらわにした。会見ではSTAP細胞が存在するかどうかの質問も相次ぎ、理研側は「第三者の検証を待つしかない」と繰り返すばかり。当初は「研究成果そのものは揺るがない」との立場だったが、川合真紀理事(研究担当)は「楽観的に見ていたきらいは否めない」と釈明した。川合理事によると、理研の研究者が論文を雑誌に投稿したり、学会で発表したりする際は所属長の許可がいるが、全ての論文に目を通すかは「ケース・バイ・ケースで、個々の研究者の良識がベース」。野依理事長は「氷山の一角かもしれないので、倫理教育をもう一度徹底してやりなおしたい」と強調した。一方、小保方晴子研究ユニットリーダーら論文の執筆者は姿を見せず、文書でコメントを出したのみ。上司で発生・再生科学総合研究センターの竹市雅俊センター長は、論文撤回を勧めた際の小保方氏の様子について「心身とも消耗した状態で、『はい』とうなずく感じだった」と話した。

*3-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11028261.html?iref=comkiji_redirect (朝日新聞 2014年3月14日) 小保方さんら、撤回同意 STAP論文、細胞の証明不十分 米大学教授は反対
 「STAP(スタップ)細胞」の論文に多数の疑問が指摘されている問題で、主要著者4人のうち理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーを含む3人が、論文の撤回に同意していることがわかった。複数の理研幹部が朝日新聞の取材に認めた。「生物学の常識を覆す」として世界中を驚かせた研究成果は、白紙に戻る公算が大きくなった。著者側から論文を撤回するには、最低でも主要著者全員の同意が必要。小保方さんの留学時代の指導教官だった米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授は反対しており、現在、CDB幹部が同意するよう説得しているという。STAP細胞論文は2本で構成され、著者は計14人。うち10人がCDBの関係者で、全員、撤回に同意の意向だという。主要著者4人のうち同意しているのは、小保方さんと、CDBの笹井芳樹・副センター長、前CDBチームリーダーの若山照彦・山梨大教授。論文が掲載された英科学誌ネイチャーでは、撤回にはすべての著者の同意が原則だが、主要著者全員の同意で撤回を申し入れることもできる。こうした申し入れで撤回を認めるかどうかは、個別に判断するとしている。また、著者側が論文を撤回しなくても、ネイチャー編集部が自身の判断で撤回することもある。複数の理研幹部によると、撤回の理由は、STAP細胞の存在や万能性の証明が科学的に不十分になってきたと判断したためという。マウスの血液細胞からSTAP細胞ができたとする証拠への疑問や、万能性を示す写真が小保方さんの博士論文から流用された疑いなどが指摘されていた。論文を撤回すると、研究成果は白紙に戻る。ただし、CDBの研究者らは、STAP細胞の存在自体が否定されたわけではないとして、実験をやり直して疑問に十分答えられる論文にし、改めて投稿することをめざすという。撤回には、研究結果が否定されていなくても、証明が不十分だったり、画像が不適切だったりした場合もあるからだ。STAP細胞論文をめぐっては、CDBを管轄する理研本部が調査委員会をつくり、指摘されている問題点を調べている。14日には調査委員長らが会見を開き、中間報告をする。日米の幹細胞研究に詳しい赤司浩一九州大教授は「いったん撤回して、科学的に批判の出ない論文を出し直すのは正当だ。そうすれば、STAP細胞が生き残ることができる。それには、経験の豊富な科学者が責任を持ち、実験に参加する態勢が欠かせない」と話している。

*3-6:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/science/article/76556
(西日本新聞 2014年3月18日) 理研、STAP記者向け資料撤回 iPSと比較、誤解招いた
 理化学研究所は18日、発生・再生科学総合研究センター(神戸市)で1月に開いた、STAP細胞の作製に関する会見で配布した記者向け資料の一部に「誤解を招く表現があった」として撤回すると発表した。撤回したのは、STAP細胞と人工多能性幹細胞(iPS細胞)を比較した補足資料。 理研は、資料でiPS細胞の作製にかかる時間を2~3週間とし、作製効率を0・1%とした点に問題があったとしている。iPS細胞を開発した山中伸弥・京都大教授は2月、資料にあるiPS細胞の作製時間と効率は、最初に論文を発表した2006年当時のものだと反論していた。

*4-1:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/science/article/76426
(西日本新聞 2014年3月18日) STAP細胞を第三者機関に送付 若山氏「真実知りたい」
 理化学研究所などのチームによるSTAP細胞の論文疑惑で、共著者の若山照彦・山梨大教授は18日、保存している細胞を第三者機関に送り、分析を依頼したことを明らかにした。若山教授は「自分の判断で送付した。科学的真実を知りたい」としており、STAP細胞を増殖しやすいように変化させた「STAP幹細胞」を17日に送付したという。送った分析機関の名称は明らかにしていない。若山教授は、理研の小保方晴子研究ユニットリーダーからSTAP細胞を渡され、マウスに成長させたが、論文の画像の流用が明らかになり、どんな細胞だったのか確信が持てなくなったと説明していた。

*4-2:http://digital.asahi.com/articles/OSK201312050167.html?iref=comkiji_redirect (朝日新聞 2013年12月6日) iPS細胞から赤血球生産 東大・京大が開発
 京都大と東京大のグループは、ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から大量の赤血球をつくる方法を開発した。輸血用血液の不足解消に役立つと期待される。米科学誌「ステムセルリポーツ」で6日発表する。京大iPS細胞研究所の江藤浩之教授らは、これまでホルモンなどを使ってiPS細胞から赤血球をつくっていた。だが、赤血球になる率が非常に低かった。今回、細胞の増殖に関係する遺伝子と細胞死を抑える遺伝子の2種類を使い、まず、赤血球になる前の前駆細胞をつくった。この細胞はiPS細胞と同じく無限に増やすことができる。入れた遺伝子の働きを止めると、赤血球前駆細胞はまず未熟な赤血球に変わり、核が抜けて赤血球になった。iPS細胞から直接つくるのに比べ、効率が20倍高まったという。がんウイルスの遺伝子を使う同様の方法があったが、今回は、人間が本来持っているのと同じ遺伝子を使ったのでより自然なでき方に近いという。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140318&ng=DGKDASGG1703C_X10C14A3EA2000
(日経新聞 2014.3.18) 山中教授、iPS細胞を年内配布 患者治療後押し STAP「結果再提出を」
 京都大学の山中伸弥教授は17日、日本経済新聞のインタビューに応じ、治療を計画する研究機関へiPS細胞を年内に配布する方針を明らかにした。理化学研究所が発表した新型万能細胞「STAP細胞」の作製に疑義が生じている点については「患者に不安を与えてしまうことが心配」と述べ、「もう一度はっきりしたデータを出していただきたい」と求めた。iPS細胞を使った治療では患者自身の細胞から作るのは数千万円かかるといわれ、普及が難しい。他人に移植しても拒絶反応が起きにくい人の血液細胞からiPS細胞を作って備蓄し、配布する計画を進める。山中教授は「(安全性の)評価のために各機関に配布する」と患者への治療を後押しする考えを示した。配布先には理化学研究所や慶応義塾大学、大阪大学などを挙げた。理研は目の難病、慶応大は脊髄損傷、阪大は重度な心疾患をそれぞれ対象に治療を計画する。山中教授は「安全性が特に重要だ」と指摘。「大丈夫だと信じているが、何が起きるか分からない点もある。(配布を受けた大学などに)全面的に協力する」と述べた。STAP細胞については、いったん成長した細胞が受精卵に近い状態に戻る「初期化」の研究の根幹に関わる科学的に興味深い現象と指摘。ただ、不信感が募ったままの状態は「しっかりした再生医療の研究がなされているのか、患者が不安に感じている」と理研による最終報告での解明を待ちたいとした。再生医療の実用化を巡っては、「改正薬事法」と「再生医療安全性確保法」が2013年11月に成立。山中教授は「再生医療に関わる医薬品や医療機器の規定が明確になり、再生医療の普及に向け大きな前進だ」と評価した。半面「これまで厚生労働省の指針で扱われてきた人の幹細胞を用いる臨床研究が法律の規制対象になり、手続きが煩雑になる恐れもある」と指摘した。iPS細胞の活用では「創薬分野での産学連携に期待している」と表明。患者から採取した皮膚や血液からiPS細胞を経由して病気を再現し、これらに新薬の候補物資を与えて治療効果を調べられる。事前に副作用などが調べられれば個人の体質にあった新薬を開発できる。「将来の個別化医療につながる有望なテーマだ」と強調した。

*5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11030201.html?iref=comkiji_redirect
(朝日新聞 2014年3月15日) 取材重ね、検証していきます STAP細胞論文 科学医療部長・桑山朗人
 理化学研究所などの研究チームが、新たな万能細胞「STAP細胞」を作製したとする英科学誌ネイチャーの論文について、データの扱いに問題があったとして、理研の調査委員会が不適切と認めました。研究論文の信頼性を著しく損なう事態です。私たち報道機関も、報道のあり方が問われていると受け止めています。論文について、朝日新聞は1月30日付朝刊1面トップで報じ、2面で科学的な成果とその意味、社会面で研究の中心的存在である小保方晴子ユニットリーダーの研究人生なども紹介しました。理研の発表を踏まえ、私たちは複数の専門家に論文を読んでもらうなどして、内容の妥当性について取材を進めました。その結果、実験で得られた細胞がこれまでと違う新たな万能細胞の可能性が高いこと、万能性を示す記述も説得力があること、などの評価を得ました。英科学誌ネイチャーは専門家による厳しい審査で知られ、掲載率は1割以下です。そうした審査を経て特に注目すべき記事の一つとして扱われたことや、論文に名を連ねている研究者の過去の実績も踏まえ、この論文は信頼できると判断しました。しかし、報道後、論文を読んだ別の研究者からデータの使い回しや盗用を疑う指摘が相次ぎました。論文の共著者や、同じ研究分野の専門家などにその指摘について取材を重ねました。その一方で、再現実験を試みている大学の取材も進めていました。そんな中、理研も調査に乗り出し、重大な不備が見つかったわけです。私たちは、発表段階で論文の問題点を見抜けませんでした。限られた時間で論文中のずさんなデータの扱いまで把握するのは容易なことではありません。それでも今回の件を教訓として受け止めなければならないと考えています。論文が撤回されれば、STAP細胞の存在は「白紙」になります。ただ、理研はまだ、再現実験などでSTAP細胞の存在が確認できれば、改めて論文として世に問いたいとしています。STAP細胞が本当に存在するかを見極めるためにも、私たちは再現実験の行方をしっかりとフォローしていきます。また、今回の経緯と問題点の詳細、さらに科学論文のチェック体制など、引き続き取材を重ね、検証していきます。

*6:http://syodokukai.exblog.jp/20313842/
分化した体細胞における外部刺激に惹起される多能性の獲得 (STAP)
【まとめ】
 刺激惹起性多能性獲得(stimulus-triggered acquisition of pluripotency; STAP)という、核移植も転写因子の導入も不要な、独特の細胞リプログラミングについて報告する。哺乳動物の分化した体細胞に外界からの強い刺激を一時的に加えたところ、体細胞はリプログラミングを起こして多能性細胞を生じたため、得られた多能性細胞を「STAP細胞」と名付けた。本研究では、新生児マウスの脾臓からFACSでソートしたCD45陽性リンパ球を酸性溶液(低pH)に30分置いて、LIF含有培地で培養することによりSTAP細胞を作製した。STAP細胞は、もとの細胞サンプルに含まれていた未分化細胞が単に低pH耐性によって「選択」されたのではなく、まさに低pH刺激に惹起されて「分化状態の体細胞にリプログラミングが起きた」ことによって生成していた。STAP細胞は、多能性マーカー遺伝子の調節領域のDNAメチル化が大きく減少しており、エピジェネティック状態のリプログラミングがあることが確認された。STAP細胞を胚盤胞に注入したところ、この細胞はマウスキメラ胚の形成に高効率で寄与し、生殖細胞系列伝達によって次世代の仔マウスに移行した。さらに、STAP細胞から増殖可能な多能性細胞株「STAP幹細胞」を得ることができた。以上の結果から、分化した体細胞のエピジェネティックな運命決定は、強い外界環境刺激によって著明に転換しうることが初めて示された。
【論文内容】
 体細胞(Somatic cells)の運命は、ちょうど下り坂を落ちていくように細胞分化が進む方向に決定されており、これはWaddingtonの「エピジェネティックランドスケープの方向付け」として知られている。この分化の方向を逆行させるには、核の物理的な操作を行うか(核移植)、複数の転写因子を導入する(iPS細胞の作製)ことが必要であると一般的には信じられている。本研究では、このような体細胞のリプログラミング(「初期化」)が、外部刺激によって起きるかどうかを検討した。植物では、この外部刺激による体細胞のリプログラミングが起きることが知られている。植物の分化した体細胞、例えば単一のニンジンの細胞は大きな環境の変化によってカルスと呼ばれる未分化な細胞(芽体細胞)へと変わることがあり、オーキシン(auxin)の存在下ではそこから茎や根といった植物全体が発生する。では、動物の分化した体細胞も特殊な環境下に置けば、多能性を獲得する潜在能力を持っているのだろうか?
●低いpH刺激によって体細胞の運命転換を起こすことができる
 ここでは、CD45(白血球共通抗原)が陽性の造血幹細胞を「運命決定された分化した体細胞(committed somatic cell)」として用いた。もし、この細胞がリプログラミングされれば、多能性のマーカーであるOct4を発現するはずである。そこで、Oct4が発現(Oct4の転写が活性化)するとそのプロモーター下でGFPが発現して緑色蛍光を発するトランスジェニックマウス(Oct4-gfpマウス)の体細胞である、CD45+細胞を用いて以下の実験を行った。
 出生後1週齢のC57BL/6系統Oct4-gfp トランスジェニックマウスの脾臓を採取し、そのリンパ球分画をFACS(蛍光活性化セルソーター)にかけてCD45+細胞をソートした。これらの細胞をLIF (leukaemia inhibitory factor;多能性細胞の維持・増殖に必要な増殖因子)とB27(血清フリーサプリメント)を加えたDMEM/F12培地(LIF+B27培地と呼ぶ)に懸濁して数日培養し、GFPを検出することによってOct4の発現を調べた。
 FACSでソートされて得られる細胞は、ソートの過程で一時的にさまざまな強い物理的・化学的刺激にさらされている。ここでは、それらの細胞外刺激の中で、特に低pHという化学的刺激に注目した。これは、組織を一時的な低pHという「致死的以下の(sublethal)」条件に置くとその分化状態が変化することが従来示されていたためである(例えば、サンショウウオの動物極キャップは、pH 6.0以下のクエン酸培地に置くことで自発的に神経に転換するなど)。
 そこで、上記で得られたCD45+細胞を酸性の培地 (pH 5.4-5.8)に30分間(25分の培養と5分の遠心の間)置いた後、LIF+B27培地で7日間培養した。その結果、Oct4-GFPを発現する球状凝集塊が多数出現した(刺激なしではOct4-GFP発現細胞が出現しなかった)。新生児の脾細胞で30回実験した場合でも、全部の実験で同様に多数のGFP陽性細胞が出現した。このCD45+細胞由来Oct4-GFP発現細胞はフローサイトメトリーでも観察できた。
 次にCD45+細胞を、CD90 (T細胞)、CD19 (B細胞)、CD34 (造血幹細胞)の陽性・陰性で分画し、同様に低pH溶液で刺激した。T細胞・B細胞の分画の細胞からも高効率(7日目の生存細胞の25-50%)でOct-GFP発現細胞が生成した。CD34+造血幹細胞からはOct4-GFP陽性細胞の生成率は低かった(<2%)。
 低pH溶液後5日目にはOct4-GFP発現細胞は集合して凝集塊を形成した。このGFP陽性の凝集塊はきわめて動きやすかった(supplement video1に示されている)。Oct4-GFP発現細胞は細胞質が少なく細胞のサイズは小さく、核の詳細構造はもとのCD45+リンパ球に比べて明瞭だった。7日目のOct4-GFP発現細胞は、もとのCD45+細胞やES細胞といった一般的に小さいと考えられている細胞に比べても、サイズが小さかった。
 ここで、FACSでソートしたCD45+細胞の中に非常に少ないCD45-の多能性細胞が不純物として混ざっていて、それが急速に増殖して最初の数日でOct4-GFP+細胞集団を形成した可能性も考えられる。しかし、Oct4-GFPの発現開始は細胞分裂を伴っておらず、酸性ストレス刺激の後にEdU取り込みは見られていない(すなわち酸性刺激後には大きな細胞分裂、細胞増殖は起きてない)ため、その可能性は否定的である。また、FACSで精製されたCD45+細胞およびCD90+CD45+ T細胞から生成したOct4-GFP陽性細胞でT-cell receptor 遺伝子のゲノム再構成が認められたため、Oct4-GFP陽性細胞は分化したT細胞から生じたことが示された。以上より、Oct4-GFP陽性細胞は低pH処理したCD45+細胞からリプログラミングによって新たに生成されたものであり、低pHストレスに耐性を示す細胞が単に選択されたわけではないことが分かる。
●低pH刺激によって生成したOct4陽性細胞は多能性を示す
 低pH刺激後7日目のOct4-GFP発現細胞では、多能性関連マーカー蛋白(Oct4、SSEA1、Nanog、E-cadherin) とマーカー遺伝子(Oct4、Nanog、Sox2、 Ecat1 (Khdc3)、Esg1 (Dppa5a)、Dax1 (Nrob1)、Rex1 (Zfp42))の発現が、ES細胞と同程度に認められた。この多能性関連マーカー遺伝子の発現は、刺激後3日目には中等度認められていた。3日目には早期造血マーカー遺伝子Flk1 (別名Kdr) およびTal1が発現していたが、これは7日目には発現していなかったため、 Oct4-GFP発現細胞は3日目にはまだ運命転換の動的な過程にあったと考えられる。低pH処理7日目のOct4-GFP発現細胞では、ES細胞と同様にOct4とNanogプロモーター領域の広範な脱メチル化が認められていた。これは低pH処理されたCD45+細胞で、多能性のための主要な遺伝子のエピジェネティックな状態がリプログラミングされていることを示すものである。
 In vitro分化アッセイ(In vitro differentiation assay)によって、低pH刺激によって生じたOct4-GFP発現細胞は3胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)の誘導体と近位内胚葉様上皮を生じることが示された。Oct4-GFP発現細胞の凝集塊をマウスに移植したところ、この細胞は奇形腫(teratoma)を形成した(n=20)が、奇形癌(teratocarcinoma)にはならなかった(n=50)。
 凝集塊の中にはOct4-GFPシグナルのレベルにさまざまなものがあることから、7日目の細胞を大部分のGFPシグナルが強い細胞と少数のGFPシグナルが弱い細胞にFACSでソートし、分けたそれぞれをマウスに注入した。その結果、GFPが強い細胞のみで奇形腫が形成された。定量的PCRで解析したところ、GFPが強い細胞は多能性マーカー遺伝子を発現しており、早期系統特異的マーカー遺伝子は発現していなかった。一方でGFPが弱い細胞では逆に早期系統特異的マーカー遺伝子(Flk1、Gata2、Gata4、Pax6、Sox17)は発現しているが、多能性マーカー(Nanog、Rex1)の発現は見られなかった。したがって、上記の3胚葉誘導体は多能性マーカー遺伝子を発現しているGFPシグナルが強い細胞から生成されていることが示唆された。
 以上より、運命が決定した体細胞の分化の状態は、低pHなどの強い細胞外刺激を加えると多能性の状態へと転換しうることが示された。そこで、このことを「刺激惹起性多能性獲得(stimulus-triggered acquisition of pluripotency; STAP)」、この結果得られた細胞を「STAP細胞」と呼ぶことにした。
●ES細胞と比較したSTAP細胞の特徴
 STAP細胞は、マウスES細胞と違って、LIFを含む培地で自己複製する能力がなかった。また、単細胞に分離した後のコロニー形成能が低く、分離誘導性アポトーシスを抑制するROCK阻害剤(Y-27632)の存在下でもコロニーを形成しなかった。部分的分離後の高濃度培養を行っても、STAP細胞数は2回の継代後には細胞数が大きく減少し始めた。さらに、ES細胞マーカー蛋白であるEsrrβの発現は、STAP細胞では少なかった。
 一般に、メス由来のES細胞は、メスCD45+細胞やEpiSC(エピブラスト幹細胞;ES細胞とは別の多能性幹細胞)とは異なって、X染色体不活化を示さず、それを示唆するH3K27me3密度が高いフォーカス(不活性化されたX染色体を示す)を持たない。ところが、Oct4-GFP強陽性のメスSTAP細胞では、40%程度にH3K27me3密度が高いフォーカスが認められた。さらに、STAP細胞はEpiSCと異なり、Klf4が陽性、上皮体とジャンクションマーカーであるclaudin 7とZO-1が陰性であった。
●他の臓器由来のSTAP細胞
 次に1週齢のOct4-gfpマウスの脳、皮膚、筋肉、脂肪、骨髄、肺、肝臓からの体細胞で同様の運命転換実験を行った。転換効率はさまざまであったが、確認した全部の組織で、低pH刺激後7日目にはOct4-GFP発現細胞が生成された。これらの中には、FACSでCD45でソートされない脂肪組織間質細胞や新生児心細胞も含まれていた。
●STAP細胞によるキメラ形成とSTAP細胞の生殖細胞系列への伝達
 次に、GFPを恒常的に発現するマウス(C57BL/6系統のcag-gfpトランスジェニックマウス)の新生児からCD45+細胞を採取し、そこから作製したSTAP細胞の胚盤胞注入実験(blastcyst injection assay)を行った。まず、STAP細胞の凝集塊を、マイクロナイフを用いて手作業で切って小さい断片とした。得られたSTAP細胞をマウス胚盤胞(着床前胚)に注入してマウスの仮親の子宮に戻したところ、得られたキメラ胚の形成にはGFPを発現するSTAP細胞が高度から中等度寄与していた。このキメラマウスはかなりの率で出生し、すべて正常に発生し、CD45+細胞由来のSTAP細胞は調べたすべての組織の発生に寄与していた。さらに、キメラマウスからSTAP細胞由来の仔マウスが生まれ、STAP細胞由来遺伝子の生殖細胞系列への伝達(germline transmission)が認められた。Germline transmissionは、ゲノムおよびエピゲノムの正常性とともに、多能性にとって厳格な基準の一つである。さらに、発生能の最も厳密な試験と考えられている四倍体胚補完実験(tetraploid complementation assay)を行ったところ、CD45+細胞由来STAP細胞は胎生10.5日(E 10.5)にはすべてのGFP発現胚を生成した。すなわち、STAP細胞は、in vivoにおいて生殖細胞を含む体のすべての細胞に分化する能力を持っており、それのみで全胚構造を構成するのに十分であることが明らかになった。
●STAP細胞から得られた増殖可能な多能性細胞株
 STAP細胞は上記の樹立条件下では限られた自己複製能しか持たないが、胚発生においてはSTAP細胞凝集塊の小断片が全胚へと成長しうることが明らかになった。そこで次に、STAP細胞はin vitroで増殖可能な全能性細胞系列を生成するかを検討した。STAP細胞は、通常のLIF+FBS培地または2i培地(マウスESおよびiPS細胞用の無血清培地)では継代培養できない。そこで、ES細胞のクローン増殖を促進する培地であるACTH+LIF含有培地をMEF feederまたはゼラチン上に置き、STAP細胞の凝集塊の一部を培養したところ、マウスES細胞と同様にコロニーに成長し、高レベルのOct4-GFPを発現した。
 STAP細胞は、ACTH+LIF含有培地で7日間培養すると、単細胞として継代可能となり、2i培地で成長し、少なくとも培養120日間は指数関数的に増殖した。このとき染色体異常は認められなかった。そこで今後は、このSTAP細胞由来の増殖細胞を「STAP幹細胞 (STAP stem cells)」と呼ぶことにする。
 STAP幹細胞は多能性細胞の蛋白およびRNAマーカーを発現しており、Oct4とNanog座位のDNAメチル化レベルが低下している。また、核の微細構造はES細胞と同様であった。STAP幹細胞を分化培養すると、in vitroで外胚葉、中胚葉、内胚葉のそれぞれの誘導体となり、拍動する心筋やin vivoで奇形腫を形成することもできた。STAP幹細胞を胚盤胞注入したところ、この細胞は高効率にキメラマウス形成に寄与し、germline transmissionも見られた。四倍体補完法においても、注入したSTAP幹細胞によって、成体まで成長し仔を産める能力を持つマウスを作製することができた。STAP幹細胞と元のSTAP細胞の違いは、(1)STAP細胞には発現してなかったES細胞マーカー蛋白EssrβがSTAP幹細胞では発現していること、(2)STAP細胞で見られたH3K27me3フォーカスがSTAP幹細胞には見られないことである。以上の結果よりSTAP細胞は、ES細胞と同様の性質を持つ増殖可能なSTAP幹細胞を生じる能力を持っていることが明らかになった。
【結論】
 本研究によって、分化した体細胞が潜在的には驚くべき可塑性を持っていることが明らかになった。この体細胞が多能性細胞となる能力は、通常の環境では経験されないような強い刺激(ここでは低pH)に一時的にさらされた時に発揮されるものであった。
 本研究で用いた低pH刺激は、酸性培地によってサンショウウオの動物極がin vitroで神経に転換されるというHoltfreterの実験(1947)で用いられている。Holtfreterは、強くしすぎると細胞を死滅させてしまうような刺激を少し弱めた刺激、すなわち致死以下の刺激を細胞に加えることによって、細胞の運命転換を抑制している何らかの内因性抑制機構が解除されると考えた。本研究は外部刺激による核のリプログラミングであるためHoltfrenerの研究とは方向性が異なるが、「致死以下の刺激による細胞の運命転換抑制機構の解除」という点で共通した側面を持つ現象なのかもしれない。
 この多能性細胞へのリプログラミングが低pH刺激に特異的に起こるものなのか、それとも他のストレス(物理的な傷害、細胞膜の穿孔、浸透圧ショック、成長因子の除去、ヒートショック、高Ca2+への曝露など)でも起こるものなのかは不明である。少なくとも、細胞を細いガラス管の中に多数回通したり(細胞にせん断力を加える)やstreptolysin Oを用いて細胞膜に穿孔を作ったりする刺激で、CD45+細胞からのOct4-GFP発現細胞生成が起きることは確認されている(論文中には示されていないが)。このようなさまざまな致死以下のストレスはある共通の調節機構を活発化し、それが分化した体細胞で保持されているエピジェネティックな状態を解放し、多能性の状態へと細胞を「初期化」するのに働いている可能性はある。
 では、なぜ体細胞は致死以下の刺激が加わると自らをリプログラミングできる潜在能力を持っているのか?このリプログラミングのメカニズムは、正常の状態ではどのように抑制されているのか?強い環境のストレスを受けても、通常の組織では多能性細胞(または奇形腫)の出現が見られないのはなぜか?未解決の問題は多いが、今回の発見は生物の多様な細胞状態の意味に新たな光を投げかけるものと言える。
<図:分化した細胞を「初期化」する2つの方法―iPS細胞とSTAP細胞>
(a) 分化した細胞は、転写因子を導入し、多能性を促進する培地で培養することによって、多能性の状態にリプログラミングできることが知られている。この  方法により誘導多能性幹細胞(iPSC)が作製できる。iPS細胞は自己複製でき、胚のすべてのタイプの細胞に分化できることが分かっているが、胎盤形成には寄与していない。
(b)酸性(低pH)の短時間刺激によって刺激惹起性多能性獲得(STAP)が起きる。STAP細胞は増殖しないが、多能性促進培地で培養することによりSTAP幹細胞となり、これはiPS細胞と同様の特性を持つ。STAP細胞を、栄養芽細胞(trophoblast)を成長させる培地で培養すると、iPS細胞と違って胎盤形成に寄与できる。

| 男女平等::2013.12~2014.6 | 05:14 PM | comments (x) | trackback (x) |

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