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2022.7.28~8.6 日本が、何でも他国に後塵を拝して、産業の育成に失敗するのは何故か? (2022年8月8、10、11、14、15、18、25、29日、9月1、3日追加)

2021.3.19Tepco   EV充電器住宅用  EV充電器公共施設用  EV充電器高速道路用
                              2021.8.23読売新聞    
(図の説明:1番左の図はEV用充電器の設置場所の分類で、左から2番目は住宅に設置されたEV用充電器、右から2番目は公共施設に設置されたEV用充電器で、1番右は高速道路に設置されたEV用充電器だ。しかし、もっと便利なのは、駐車したら自動で充電できるEV用充電器で、駐車場で太陽光発電すれば充電料金は安くできる)

(1)自動車の電動化と自動運転について
1)EVの普及
 中国のEV大手BYDが、*1-1-1のように、日本の乗用車市場に進出し、2023年から主力の3車種を皮切りに、新型車を順次発売していくことについて、私は歓迎だ。何故なら、日本は、1995年頃からEV普及を目指していたのに、未だにEVの車種が少なく、自動運転のレベルは低く、スマートでもないのに価格だけは高止まりさせたまま、充電も不便で、世界の中でも日本市場におけるEV普及が遅れているからである。

 従って、これらの課題を解決していれば、日本の消費者に受け入れられることは間違いない。何故なら、商用車では既にSBSホールディングスや佐川急便などの物流大手が中国製の小型商用EVの大量導入を決めているのに、日本の自動車メーカーは、①乗用車新車全体で見ればEVの販売は1%にすぎず ②まだEVへのシフトに抵抗しており ③日本の自動車産業の足元が揺らぐほどのインパクトではないと油断しており ④環境や高齢者・障害者への対応を疎かにするという低い志でいる からである。

 アジア勢では韓国の現代自動車も、今年、EVなどで12年ぶりに日本進出を果たしたそうだが、それなら、地方自治体は、これらの自動車を日本国内で生産させるよう尽力すべきだ。何故なら、そうすれば、何でも輸入ではなく、地方に良質の生産拠点と雇用が生まれるからである。

 また、*1-1-2のように、世界の公共交通機関で中国製電気バス採用が拡大しているが、日本では路線バスをEV化する動きがあっても国産の選択肢はない。その理由は、水素バスの価格を高止まりさせたまま、水素の充填設備もいつまでも高価なものにして設置数が増えなかったため、世界に水素バスの潮流を作ることができなかったからである。

 そのため、2021年12月に、京都市と京阪電鉄が市内の循環バスに4台のEVバスを導入するイベントを開いたが、導入したのは中国EV大手の比亜迪(BYD)製で、大阪府の阪急バスも今年4月から中国製を路線に投入し、国内の自治体が脱炭素に向けてEVバスを導入する際も中国製を選ばざるを得ないのだそうだ。また、BYDは、COP26に合わせ、技術改良で高速充電も可能になったEVバスを、グラスゴー市の交通局に計120台以上卸したとのことである。

 さらに、政府のEVバス導入補助金も補助対象の8種類のうち7種類は中国メーカーで、唯一の日本企業も製造は中国に委ねており、日野自動車が近く市場投入を控える小型バスもBYDに製造を委託するため、まるで国民の税金由来の補助金を中国企業に提供してEVバスの開発・導入を進めてもらっているような実態になっているのである。

2)充電と蓄電池
 *1-2-1は、①王さんが愛車のEVで迎えに来てくれ、車は中国EVメーカー「小鵬」の小型SUV「G3」で、外観は欧州車を思わせるデザイン ②小鵬は2018年からEV販売を始めた新興メーカーで、アリババ集団なども出資して2020年にニューヨーク証券取引所に上場し、1870億円調達して急成長 ③王さんがG3を購入したのは昨年10月で、補助金による1万元(約17万5千円)の割引があり、支払いは約17万元(約300万円) ④EVのため、車が動く時も殆ど音がしない ⑤この1年で約2万km走行したが充電代は小鵬から付与されたポイントで賄えた ⑥ショッピングモールの駐車場に小鵬設置の急速充電器があり、90%まで充電するのに43分 ⑦「小鵬」は新車購入者に自宅に設置する小型充電器を無料提供 ⑧高層ビル地下駐車場にも小鵬の充電スポットがある ⑨一般の充電スポットならショッピングモールなど中心部に何カ所もあり、料金を自己負担すればいつでも充電できる と記載している。

 私は、①について、最近の中国製・韓国製はデザインがよく、日本製にはなかった工夫もあると思っている。また、②のように、新興メーカーを伸ばす協力があるのもよく、③は環境と自動車産業の育成に配慮する中国政府の肝いりだ。また、④は、EVが持つ利点である。さらに、競争の激しい市場で自社のEV販売を伸ばすには、⑤⑥⑦⑧のような作戦が必要で、⑨のように、一般の充電スポットならショッピングモールなどに何カ所もあり、料金を自己負担すればいつでも充電できる状態は羨ましい。日本も、ショッピングモールやマンションの駐車場などに急速充電器を設置すれば、EVの販売が伸びると思う。

 そのような中、*1-2-2は、⑩2021年11月19日に始まった広州国際モーターショーで展示車1020台のうち約1/4の241台がEV・PHV等の新エネルギー車 ⑪800vの高圧充電設備5分間の充電で200km以上走れる『極速充電』も開発 ⑫中国自動車大手広州汽車が初展示したEV「AION LX Plus」は走行距離1008km ⑬3~5分間で充電済みのバッテリーに取り換える「交換式」も ⑭2021年9月時点で198社のEVメーカーが中国にあり、150社は2018~2020年に誕生し、5社倒産 ⑮中国EVの約9割は大都市で、ガソリン車は台数制限でナンバーをとりづらく、EVはナンバーをとりやすいよう政策誘導しているから ⑯他の地域は充電スタンドが都市部ほどなく、EVより車両価格が安くガソリン車より燃費が良いHVのニーズが根強い ⑰中国のEVでは事故が目立つが、日産は50万台以上販売しているEVリーフで重大事故は一度も起こしておらず、「80年以上この事業をやってきて培われた安全性・耐久性・信頼性は、一朝一夕でコピーされるものではない」 と記載している。

 このうち⑩は、EVにおける中国の勢いを示し、それには⑮やEVへの補助金などの中国政府の環境改善のための政策誘導がある。また、日本でEVの欠点としてしばしば取り上げられる走行距離の短さや充電スポットの問題は、その気になればすぐ改善できるもので、その例が⑪⑫⑬なのだ。そのため、⑯の中国の他地域でEVが普及するのも時間の問題である。

 また、中国は人口が多く、スタートアップの意欲やそれに対する協力があるため、その結果が⑭に出ており、倒産割合は少ない方だと思う。そのような中、⑰のように、「中国のEVは事故が目立つが、日産EVリーフで重大事故は一度もない」などと言っているのは、油断がすぎるだろう。何故なら、安全性ならスウェーデンのボルボが一番だし、そのような自動車会社とEVを安価に作れる中国メーカーが手を結ぶのはよくあることだからである。

(2)地方の鉄道について

   
2022.7.29日経新聞 2022.7.29中日新聞 2022.7.18鉄道News 2022.7.31西日本新聞

(図の説明:1番左の図のように、輸送密度が500人未満/日、1000人未満/日の赤字路線が全国の地方に広がっているが、鉄道が廃線になればその地域の人口はさらに減るだろう。左から2番目はJR東日本の2000人未満/日の路線で、非常に多い。右から2番目は中国地方の1000人未満/日の路線、1番右は2000人未満/日のJR九州の路線だ。なるべく廃線を避けるには、鉄道会社が列車の運行コストを極限まで下げたり、駅近のまちづくり計画を立てて商店や住宅地などの建設を行ったり、鉄道網を使って乗客の輸送以外のサービスを行ったりする方法もある)

 西日本新聞は、*1-3-1で、①乗客の減少で赤字ローカル鉄道が存続の危機に立ち ②人口減少で経営環境がさらに厳しくなり ③「地域の足」の将来像を描くのは沿線自治体や鉄道事業者の責務だが ④国も支援策を用意して積極的に議論に加わるよう求めたい ⑤国交省有識者検討会の地方鉄道再構築に関する提言も、「国は存続が危ぶまれる特定線区の沿線自治体か鉄道事業者の要請を受けて線区ごとに協議会を設け、存続や廃止の前提なしに協議して3年以内に結論を出す」と国の主体的な関与を盛り込んだ と記載している。
 
 また、佐賀新聞は、*1-3-2で、⑥廃線圧力が高まれば、自治体が反発を強める可能性があり ⑦広島県は「貴重な移動手段がなくなれば地域の衰退が加速する」「輸送密度千人未満など、存廃協議の目安は廃止を目的としたものに見える」と懸念を示し ⑧7月25日の検討会では「自治体が協議に応じなかったのは廃止前提という危機感があったからだ」など、関係者が予断を持たずに議論のテーブルに着く重要性を訴える声が多く ⑨人口減が加速する中、コストを抑えながら乗客を増やすのはハードルが高く ⑩国鉄から転換したバスは運行回数が減ったり、値上げされたりしたケースも少なくない ⑪地域の現場では交通維持に向けた工夫も と記載している。

 さらに、佐賀新聞は、*1-3-3では、⑫人口減少・高齢化・マイカー普及等で地方の鉄道経営は長年「右肩下がり」にあり、新型コロナ感染拡大で利用者が減って一層苦しくなった ⑬鉄道事業者、沿線自治体・国が協力して地域を支える交通手段としての最適解を探る時 としている。

 私も、③④⑬のように、「鉄道事業者、沿線自治体・国が協力して最適解を出すべきだ」と思うが、最適解は前提条件を変えれば変化する。例えば、上記①②⑨⑫は、「人口減→乗客の減少→コスト高→赤字の拡大」という前提だが、産業を誘致して生産を開始すれば、人口減ではなく人口増になる。しかし、人口が増加しても乗客の減少が起こる可能性はある。ただ、コストは列車を再エネ由来の電動にし、自動運転化すれば下がるし、鉄道の敷地に地方で生産した再エネ電力の送電線を敷設して送電料をとったり、列車に地方からの貨物を積んだりして稼げば、乗客が減少しても赤字になるとは限らない。つまり、鉄道の「連続した敷地」という先祖から受け継いだ膨大な資産を無価値にすることなく、如何に賢く使って稼ぐかも⑪の工夫に入るわけである。
 
 ただ、⑤⑥⑦⑧のとおり、「現状で赤字→存続や廃止が前提」となっていれば、自治体は協議に応じたくないのが当然であるため、国は一石四鳥になる上記の政策を打ち出すのがよいと思う。なお、バス事業者も赤字では運航できないため、⑩のように、バスも運行回数が減らしたり値上げしたりするケースが少なくなく、“現状”を固定することに無理があるのだ。

(3)日本の人材・リスキリング・人への投資について
1)日本の労働市場の問題点
 私も、*2-1の①日本の問題は新自由主義が原因ではない ②賃金が停滞する原因は労働市場の歪み という星教授の意見に賛成だが、③企業の新陳代謝滞り技術革新の不足招く については、「新陳代謝」という言葉は「古いものを捨てて新しいものと入れ替えさえすればよい」という意味になるため単純すぎると思う。何故なら、古いからこそ組織がしっかりし、暖簾の価値が上がることも多いからで、ここは「時代に先んじて(もしくは、合わせて)イノベーションを行い続けることができない会社は、去らねばならない」と言い換えたい。

 岸田政権が掲げる「新しい資本主義」は、首相官邸HPによると、「分配なくして次の成長はないため、大切なのは成長の果実をしっかり分配することで、次の成長が実現するには成長と分配の好循環が重要で、そのためにあらゆる政策を総動員する」と記載されている(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seisaku_kishida/newcapitalism.html 参照)。

 しかし、*2-1は、④6月に閣議決定された実行計画は、世界経済の様々な問題が1980年代以降台頭した新自由主義の弊害で、その解決のために新しい資本主義を構築せねばならないとし ⑤新自由主義は成長の原動力の役割を果たしたが、その弊害が今や顕著になっているとするが、⑥気候変動問題・経済的格差・経済安全保障リスク・都市への人口集中などが、すべて新自由主義により引き起こされたわけではなく ⑦これらの問題が、新しい資本主義が強調する官民連携により解決される道筋も明らかではなく ⑧日本の経済停滞・少子化と人口減少・世代間負担格差・地方の衰退・子供の貧困という問題も新自由主義の弊害ではない と記載している。

 このうち④⑤⑥については、気候危機は環境維持を考慮していなかったために起こり、経済安全保障リスクは世界の状況変化を無視して金さえ出せばモノが買えると思っていたために起こり、都市への過度の人口集中は無駄のない計画的な国土利用をしなかったために起こったものであるため、新自由主義によって起こされたのではないと、私も思う。また、競争すれば結果として経済格差が生じるが、競争がなければよりよい財やサービスを生み出すことができず、経済成長もしないため、競争の結果として起こる一定の格差は受容すべきであり、そうしなければ頑張る人ほど国内で仕事をしなくなるだろう。

 また、⑦の官民連携については、EV・再エネ・ワクチン・医薬品の事例を見ればわかるとおり、官はイノベーションを応援するのではなく、イノベーションの足を引っ張る行動が多い。その理由は、日本の官は新しい可能性を見極めて全体として育てる能力に乏しく、過去からの古い規制で縛るためで、これが規制緩和(or規制改革)した方が経済成長する原因なのである。

 さらに、⑧は、日本の経済停滞の原因は、(これまでこのブログに記載してきたとおり)政策ミスによる散財が多い上、世界人口は爆発寸前で日本の食料・エネルギー自給率は極めて低いのに「少子化と人口減少」が問題などと言い、地方には投資せず移民鎖国までして地方経済の衰退を招いたことにある。その上、社会保障については、そのような保障がなかったため自助努力してきた高齢者との間に世代間負担格差があるなどと盛んに言いたて、「離婚の進め」をしてシングルマザーを増やし、女性の賃金は低く抑えて、子どもの貧困割合を増やしているのである。

 なお、*2-1は、⑨人手不足でも賃金が上がらない理由は、市場の需給で賃金が決まらない日本の労働市場の問題で ⑩看護や介護など政府の価格規制がある産業で賃金が停滞し ⑪他産業でも賃金が上がらないために人手不足が生じ ⑫賃金を一度上げると下げられないので、人手不足でも企業は賃金を上げず ⑬これらは、規制や社会慣習によって労働市場が十分働いていないことが理由で ⑭日本の労働市場が正規と非正規、フルタイムとパートタイムに分断されて二重構造になっていることも賃金を停滞させる要因で ⑮賃金が停滞したのは市場での競争にさらされるパートタイム労働者ではなく、市場からある程度隔離されたフルタイム労働者で ⑯厚生年金・所得税等で妻の年収が一定額を超えなければ夫が配偶者控除等をとれるため女性の所得抑制が促され ⑰行き過ぎた資本主義より資本主義の不徹底が問題なのは労働市場に限らず ⑱既存の大企業が不十分な生産性向上でも生き残ることができ、イノベーションの源泉であるスタートアップが参入しにくいことがイノベーション不足の原因で ⑲この意味で、日本に必要なのは新しい資本主義ではなく、普通の資本主義だ とも述べている。

 私も、⑩⑪のように、看護や介護など政府の規制が強い産業で賃金が停滞して人手不足が生じ、⑫⑬のように、正規労働者の賃金は下げられず、労働者が余っても解雇できず、労働者にとっても退職すると損をする制度であるため、全体の生産性が低くなるのだと思う。

 また、労働法に護られていない非正規やパートタイムは、⑨⑭⑮のように、市場での競争にさらされ人手不足の折に賃金の停滞こそなかったが、常にフルタイム労働者より低い賃金で福利厚生も乏しく、日本の労働市場を正規と非正規、フルタイムとパートタイムに分断して二重構造にしているのは日本の労働市場を歪めている大きな原因で、⑯⑰⑱⑲は、事実であると思う。

2)「公正な移行」とリスキリング
 *2-2は、①ILOは2030年までに石油など化石エネルギー分野で約600万人の雇用が失われるとし ②欧州は官民一体で再エネへの労働移動を進めており ③日本も自動車エンジン産業の裾野は広く、対岸の火事ではなく ④ENEOSは2023年10月に和歌山製油所を閉鎖して約450人の従業員は配置転換などで雇用を維持するが、協力会社の約900人は見通しが立たず ⑤仁坂和歌山県知事は「モノカルチャー経済のところなので、地域に死ねというのか」とENEOSに雇用対策を強く要請 としている。

 しかし、日本における時代の変化は、1997年に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議(COP3)から明確になっており、それから既に25年経過しているため、①は展望できた筈である。そのため、②の労働移動は欧州より早く準備していても不思議ではなく、③のように、いつまでもガソリン車に頼って手を打たなかったことが問題なのだ(https://www.pref.kyoto.jp/tikyu/giteisyo.html 参照)。

 ④については、ENEOSは既に定款で石油会社ではなく、エネルギー等を販売する会社になっているため(https://www.hd.eneos.co.jp/ir/stock/pdf/article_teikan.pdf 参照)、その範囲で雇用を吸収することは可能かも知れないが、⑤のように、和歌山県がモノカルチャー経済のままにして、ENEOSが製油所を閉鎖すれば地域が死ぬ状態にしておいたのは、産業のセキュリティーを考えていない点で和歌山県の失敗である。そもそも、産業構造変化への対応や失業対策は、国や地方自治体の仕事であって民間企業の仕事ではない。

 また、*2-2は、⑥温暖化ガス排出削減のパリ協定に基づいて主要国は2050年に「カーボンニュートラル」を達成する目標で ⑦ILOは2030年までに世界の石油精製ビジネスで約160万人が仕事を失うと試算し ⑧原油採掘で140万人、石炭火力発電で80万人が失業する可能性があり ⑨日本国内の石油産業で働くのは元売りの製油所からガソリンスタンドのアルバイトまで含めて約30万人なので、これだけならマクロ経済への影響は限定的だが ⑩日本の産業構造は自動車の環境対応が最大の不安要因であり ⑪LCAの広がりで火力発電比率の高い日本は製造時の電力消費でCO2を多く排出して国際競争で不利であるため ⑫再エネ導入が進まなければ国内自動車産業70万~100万人の雇用に影響し ⑬新車すべてがEVになれば車の駆動装置に関わる雇用約31万人が仕事を失い ⑭欧州は脱炭素をめぐる雇用対策と産業振興をセットにした「公正な移行」を進め ⑮英政府はシェル・BP・民間最大労組ユナイトと連携して石油採掘プラントの技術者らに再エネのスキルを身に付けさせるリスキリングを始動し ⑯エネルギー転換にはスキルの再配置が重要で、関連産業が協力して労働移動を促進し ⑰日本は省庁の縦割りで、欧州のような総合戦略をまとめ切れていない とも記載している。

 このうち、⑥は日本なら遅すぎるくらいの決定であるため、⑦⑧⑨⑩⑪⑫⑬の準備は、欧州よりも早く行っていて当然であったし、それだけの時間的余裕もあった筈だ。にもかかわらず、⑭⑮⑯のように、欧州を見て初めて同じことをしようと思いつき、⑰のように、省庁も議員も総合戦略をまとめ切れない点が、日本の大きな欠点なのである。何故、そうなるのだろうか。

3)「人への投資」に100社超連携
 このような中、*2-3は、①日本の主要企業が、社員のリスキリング(学び直し)で連携する協議会を8月に設立し ②経産省と金融庁が支援して100社超の参加をめざし ③社員が相互に兼業・副業する仕組みを設けたり、共同で学び直しの場を提供したりすることを検討して「人への投資」拡大に繋げ ④意欲的な企業が知見を持ち寄って取り組みが遅れている企業の人材戦略に刺激を与える連携をめざし ⑤デジタル技術などを集中的に学び直し、企業内でイノベーションを起こしたり、成長分野に転職したりしやすくする必要があり、リスキリングは企業や社員の成長力向上に欠かせない 等としている。

 しかし、②は経産省と金融庁が誘導したのだろうが、①③④⑤のように、企業内でイノベーションを起こしたり、成長分野に転職したりしやすくするようなKeyとなる技術を、グループ企業ならともかく競合他社と協力してリスキリングするのは困難だ。そのため、大学や公的機関における学び直しやスカウト等による転職があるので、ここまで民間企業に頼って支援しても本物のリスキリングはできないように思われた。

(4)脱炭素から脱公害へ
1)生態系の保全
 *3-1は、①2021年のG7で合意され、2022年12月にカナダで開かれるCOP15での採択が検討されている2030年までに陸と海のそれぞれ30%を保全する国際目標があり ②世界は食料、医薬品、エネルギー等として、約5万の野生種から便益を得ているが ③将来も利用できる野生生物は34%に留まり ④全漁獲量の1/3は乱獲状態で ⑤木材等も含めた違法取引は最大年間2千億ドル(約27兆円)で ⑥日本はこれまでに陸の20.5%、海(領海と排他的経済水域)の13.3%を保護地域に指定したが ⑦企業等が持つ水源林・里山・緑地公園・河川敷等の自然が守られている場所も生物多様性保全に役立つ地域に位置づけ ⑧海は漁業等との両立が引き続きの課題だが ⑨取り返しがつかなくなる前に生態系の損失を食い止めて回復させず、このまま陸や海の資源を使って枯渇させることは未来の世代に対する背信だ と記載している。

 このうち①の陸と海の30%を保全する国際目標には賛成だが、30%でよいのかは疑問だ。何故なら、漁業の多くは②③の野生生物利用にあたるが、その野生生物が枯渇しないためには、④のような乱獲規制だけでなく、山川海と繋がった環境の保全が必要だからだ。また、⑤の木材も、計画的に利用しながら山の保全を行うことは、水源維持や生態系保全に重要なのだ。

 そのため、⑥⑦はよいが、日本は⑧のように国内漁業者に対して漁業規制をしすぎる。それよりも、山川海と繋がる環境を健全に維持することによって、ウナギやサケが産卵しやすくしたり、汚染水や温排水を川や海に流さないようにするなど、漁獲高が減った理由を正確に調査して改善することが重要で、外国漁船の乱獲も規制すべきだ。そして、⑨の生態系を維持できずに陸や海の資源を枯渇させることは、未来の世代だけでなく現在の世代にとっても背信なのである。

2)海への汚染水放出について
イ)フクイチの汚染水海洋放出


2021.4.14日経新聞                     2021.3.10毎日新聞 

(図の説明:左図が、フクイチ汚染水の海洋放出日程で、中央の図が、各国のトリチウム濃度規制値だ。また、右図が、2021年2月13日のフクイチの様子で、多額の予算を使って凍土壁を作ったのに、未だに汚染水を出し続けているところにも計画の甘さと杜撰さを感じるのだ)

 世界には三大漁場と呼ばれる魚種の多い優良漁場があり、それはノルウェー沖、カナダのニューファンドランド島沖、三陸の金華山沖で、この三陸・金華山沖は親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかることに加え、三陸沿岸に連なるリアス式海岸や多くの島々の点在が魚の絶好の住処となって、非常に豊富な種類の魚介類が水揚げされる。このリアス式海岸は山が海の間近まで迫り、森のミネラルを含んだ山の水が絶えず海に流れ込むため、世界有数の植物プランクトン発生地となっており、プランクトンを食べて育つ海産物にとって極上の環境が整っている(https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10452000b/-kanko/1001/20130225195847.html 参照)。

 それに加えて、海産物加工にも工夫が凝らされており、宮城県産の海産物は美味しいため、私も原発事故前は優先して購入していたが、原発事故後は日本海産か西日本産のものを優先して購入している次第だ。

 このような中、*3-2-1は、①原子力規制委は、フクイチ事故以降、タンクに保管してきた処理水を海洋放出する設備の工事計画を認可し ②認可は、環境影響評価をIAEAが求める方法でやり直す必要が生じたため2ヶ月遅れたが、2023年4月の放出開始を目指し ③2023年夏~秋には既存タンクが満杯になって新設場所も限られ、タンクは廃炉作業の妨げになり ④着工前に福島県等の地元の了解を得る必要があるので、地元の理解や工期短縮に力を入れる ⑤フクイチでは冷却等のため毎日約130tの汚染水が出ており ⑥東電は専用装置で大半の放射性物質を浄化処理し、敷地内のタンクに溜めてきた と記載している。

 このうち①②③⑥は、事故を起こした原発側の都合にすぎないため、万難を廃して処理水と称する汚染水を海洋放出する理由にはならず、④の地元の了解がなければ海洋放出できないのは当然である。また、この“処理水”が本当にトリチウムしか含まないのかについても、⑤のように、未だに毎日約130tの汚染水を出している技術力と不誠実さから見て疑わしい。

 また、*3-2-1は、⑦処理水にはトリチウムなどの放射性物質が含まれ、海水で100倍以上に希釈してトリチウムの濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1にして放出し ⑧トリチウムの海洋放出は国内外の原子力施設で実施しているが ⑨全国漁業協同組合連合会等が反対しており ⑩政府は風評被害に対応するため、300億円の基金創設を決めて漁業後継者を育てる支援策も検討しており ⑪中国・韓国等の近隣諸国は懸念を示している とも記載している。

 ⑦⑧については、海水で100倍以上に希釈してトリチウム濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1にして放出するから安全で、トリチウムの海洋放出は国内外の他の原発でも実施しているとする点が納得できない。何故なら、薄めてその分だけ分量を増やせば、海洋放出する総量は変わらず、事故を起こしていない他の原発とは比較にならないからである。

 さらに、国際的飲料水の基準は、EUは100Bq/L以下、アメリカは740Bq/L以下、WHOは10,000Bq/L以下、オーストラリアは76,103 Bq/L以下、日本は規制値なしで、100Bq/L以下なら飲んでもよいとは思わないが、日本は飲料水の規制値がなく、排水のみ60,000Bq/L以下(アメリカは37,000Bq/L以下)とし、フクイチは1,500Bq/L以下を目標としているそうなのだ(https://synodos.jp/fukushima-report/22597/ 参照)。

 そのため、海洋放出が終わるまで、私は三陸以北の魚介類を購入しないことになるが、⑨の全国漁業協同組合連合会等の反対は当然で、「薄めれば総量が同じでも無害」などという非科学的なことを言いつつ、⑩のように、政府が風評被害などとして無視したり、新しい漁業後継者を育てればよいと考えたりしているのは論外だ。そのため、⑪の中国・韓国等近隣諸国の懸念は意地悪ではなく、北部太平洋の海産物を食べている国の意見ではないかと思う。

 さらに、*3-2-1は、⑫今年後半にも原子炉容器内で核燃料が溶けて固まったデブリの取り出しに着手する ⑬事故から30~40年かかる廃炉作業が本格化する中、タンクで敷地が埋まり、放射性廃棄物の管理といった作業スペースの確保などが課題になっていた ⑭更田豊志委員長は7月22日の記者会見で、タンクが減れば作業スペースをとれるとして「大変意義がある」と指摘し ⑮足元では電力不足が懸念され、脱炭素の効果もある原発について岸田文雄政権は「最大限の活用」を掲げている ⑯原子力全体の信頼回復のためにも、処理水の放出や廃炉作業が重要 とも記載している。

 しかし、⑫⑬⑭は事故を起こした原発側の都合にすぎず、⑮は電力不足を名目に、なし崩し的に原発再稼働を行おうとしており、⑯は無理にでも汚染水を海洋放出したり原発再稼働したりすれば国民は原発が安全だと思うだろうなどと、国民を馬鹿にしているのである。なお、現在の日本では、原発由来の電力よりも食料の方が貴重品になりつつあることも忘れてはならない。

 そのため、*3-2-2が、⑰「処理水」放出案認可は責任を取れる判断か ⑱処理水に含まれる放射性物質トリチウムなどが健康被害をもたらす可能性は否定できない ⑲東電がトリチウム以外は除去したと説明してきた処理水に基準値を超えるヨウ素やルテニウムなどの放射性物質が存在していたことも明らかになっている ⑳不安が拭えない根本に、これまでの不誠実な対応のツケがあるということを政府や東電はまず自覚せねばならない 等と記載しているのに、全く賛成である。

ロ)原発新増設と建て替え
 原発関連企業等でつくる「日本原子力産業協会」が、7月22日、*3-2-3のように、原発の新増設やリプレース(建て替え)を求める提言を発表し、①原発のサプライチェーン(供給網)維持のために新増設や建て替えが必要で ②再稼働や新増設の見通しが不透明なため、原発事業から撤退する企業が出ており ③技術維持や人材確保のため新増設や建て替えを国のエネルギー計画に明記するよう求め ④昨年秋に同協会が会員企業に実施したアンケートで「新設でしか継承できない技術がある」「学生や若手技術者を育成するためのプロジェクトが必要」との意見が出た としている。

 申し訳ないが、公害の多すぎる原発は滅び行くエネルギー源である。そのため、①のように、無理に原発の新増設や建て替えを行って、②③④のように、技術継承や人材確保を行えば、石炭と同様、そこに入った学生の仕事人生が終わるまで、国民は原発と付き合わなければならなくなる。これは、原子力の研究室にとっては有難いことかもしれないが、赤字財政で理系人材に乏しく、国土の狭い日本には、重すぎる負担なのだ。

 また、*3-2-3は、⑤フクイチ事故を受けて国民の原発への不信感は根強く ⑥政府は「新増設や建て替えは現時点で想定していない」とし ⑦国内では凍結が続くが ⑧ウクライナ危機でエネルギー安定供給が揺らぎ、「原発復権」の機運が政府・与党内で高まった とも記載している。

 これまで明らかになった原発の技術力の乏しさ、リスク管理の甘さ、運用の不誠実さから考えて、⑤⑥⑦は当然であり、⑧のように、ウクライナ危機に乗じてなし崩し的に原発の復権を計るのが無思慮なのである。ウクライナ危機では、ロシア軍がチェルノブイリ原発やザポリージャ原発に陣を置き、ウクライナ軍が攻撃できなかったのを忘れたのか。都合の良いところだけをピックアップするのも、原子力ムラの習わしだったが・・。

ハ)自衛隊の汚染水放出
 佐賀県有明海漁協は、7月14日、*3-3-1のように、佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画を巡り、佐賀県との間で結んでいる自衛隊との空港共用を否定した協定を条件付きで見直すことを、正式に文書で県に伝えたそうだ。山口知事が2018年8月に防衛省からの要請を受け入れて漁協に協定の変更を申し入れていたように、周辺から外堀を埋められて妥協したのだと思うが、もともと品質のよかった有明海苔のブランド化を提案し、すばらしく育った佐賀県産有明海苔を誇りに思って毎年購入していた私にとっては、誠に残念なことである。

 何故なら、①漁協・佐賀県・防衛省の3者で検討状況を確認する実務者協議の場を設置することを求め ②佐賀空港建設時に佐賀県・漁協間で結んだ協定について、i)駐屯地からの排水対策 ii)土地価格の目安 iii)駐屯地候補地以外の土地取得に関する考え方 の三つを示すことを条件に見直したとしても、駐屯地からの排水管理は都合の悪いことがあれば特定秘密にできるため実効性がなく、佐賀空港建設時に佐賀県と漁協との間でせっかく結んでいた先見の明ある自衛隊との空港共用を否定する協定を、土地の売却価格を条件に変更することになるからである。

 こうなると、自衛隊基地の拡張のため、宝の海が安心して使用できない海となり、有明海ブランドは負のブランドとなって、漁業者が廃業し、漁獲高が減り、漁業収入全体も減って、食料自給率は下がる。つまり、平等に、あちこちの海をつぶせばよいわけではないのである。

 また、*3-3-2は、③排水対策では淡水と海水を混ぜて流すというが、干潮で海水がない時、どういう対策を取るのか答えが出てこなかった ④土地価格は防衛省が地権者にこの正式な金額を出してこれでどうかというもの ⑤西南部地区は(昨季のノリ漁が)悪かったし、漁期が始まる9月になったら話す余裕はない とも記載している。

 このうち③の排水は、「自衛隊の排水と淡水・海水を混ぜて流す」という意味だろうが、これも「薄めて基準値以下にすればよい」という程度の発想でしかなく、猛毒だったり、有害だったりする場合は総量が問題なのである。そのため、水俣病を忘れたかのように、食料を生産している入口が狭くて浅い内海に流すべきでは決してないのだ。

 また、⑤は西南部地区のノリ漁が悪かった理由を正確に調査し、改善するか、ノリ漁を諦めるかしかないが、有明海に自衛隊の排水を流せば、西南部地区だけでなく有明海全体が汚染される可能性があるため、④の土地売買に負けて妥協すべきではない。西南部地区がノリ漁を諦める場合は、佐賀空港に近い場所なら別の産業を考えればいいではないか。その方がずっと着実だ。

3)ふるさと納税と地方の産業


       2021.8.3ふるさと納税ガイド        2021.9.25日経新聞     

(図の説明:左図は、2008年の開始時から2020年までのふるさと納税受入額の推移で、著しく伸ばすことができた。中央の図は、2020年の都道府県別受入金額と受入件数で、当初の目的どおり地方の農林漁業地帯で多くなっており、佐賀県も約337億円の受入額がある。右図は、受入金額を段階別に色分けした地図で、農林漁業地帯でふるさと納税に熱心な北海道・九州で色が濃くなっており、これも当初の目的どおりだ)

 「上のように、原発と自衛隊からの排水をなくせば、迷惑施設を置いた見返りとして入る交付金をもらえないではないか」と言いたい人もいると思うが、迷惑施設を置いて見返りとしてもらっている交付金よりも農林漁業をはじめとする普通の産業で稼ぐ金の方がずっと大きい。

 話を地方自治体に入る税金に限っても、農林漁業から入る住民税は多くないかもしれないが、地域の産業を育て地方を活性化する狙いで2008年に始まったふるさと納税の受入額は、2020年には佐賀県で約337億円あり、この50%が地方自治体の収入になったとしても168.5億円の税収になった。これは、原発から入ってくる交付金よりずっと大きいし、原発が事故が起こせば、住民がその地域に住めなくなる上に、農林漁業はじめすべての産業を失うのである。

 そのような中、*3-4は、①ふるさと納税額が2021年度は8,302億円と前年度から23%増え ②寄付の順位は、1位:北海道紋別市152億円、2位:宮崎県都城市(146億円)、3位:北海道根室市(146億円)で ③寄付による2022年度の住民税控除額は5,672億円と前年度に比べて28%多くなり ⑤2019年度の制度改正で返礼品を寄付額の3割以下の地場産品に限り、全経費を5割以下と定めている としている。

 2021年度のふるさと納税受入額が2020年度からさらに23%も増えたのは喜ばしいことで、それぞれの地域が競って産業を創出するのも、全体を上げるよい効果だと思う。

(5)男女不平等について
1)ペロシ氏の中華民国(=台湾)訪問は、勇気ある行動であること

  
 2022.8.4日経新聞      2020.4.11産経新聞    2012.7.11AFPBB

(図の説明:左図は、ペロシ米下院議長の中華民国訪問を受けて中華人民共和国軍が演習を行う地域で、中央の図は、両国の中間線である。なお、右図は、尖閣諸島と両国の関係だ)

 *4-5-1は、①大統領継承順位が副大統領に次ぐ2位のペロシ米下院議長が8月3日に台湾を訪問して蔡英文総統と会談し ②ペロシ氏は「米台の団結を明確にするため訪問した」「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と語り ③米国は「一つの中国」政策を尊重しつつも「台湾への関与を放棄しない」と強調した ④蔡氏は謝意を示して「民主主義の防衛線を守る」と語り ⑤猛反発する中国の王毅国務委員兼外相は、「中国の平和的台頭をぶち壊すことは完全に徒労で必ず頭を打ち付けて血を流す」とペロシ氏を非難し ⑥台湾を囲む形で軍事演習に乗り出し ⑦軍事演習場所は台湾の「領海」と重なり ⑧G7外相は中国の「威嚇的な行動、特に実弾射撃演習や経済的威圧を懸念する」との共同声明を出した と記載している。

 私は、⑤のように、中国がペロシ氏を狙う可能性を示唆したにもかかわらず、①②の行動をとったペロシ米下院議長はサッチャー元英首相と同じくらい偉いし、勇気があるため、米国初の女性大統領は、単に女性というだけでなく、ペロシ氏くらいの人がよいと思った。また、④のように、蔡氏も首尾一貫しており、尊敬できる。

 ただし、③の米国が尊重する「一つの中国」は、*4-5-4のように、第二次世界大戦後、中国本土で敗れた蔣介石が「中華民国(=台湾)」を設立し、「中国を代表する政府は中華民国だ」として「一つの中国」政策を打ち出したものである。

 しかし、国際連合での中国の代表権をめぐって中華人民共和国を支持する国が増加したため、米国のニクソン政権が中華民国に中国の代表権と安全保障理事会常任理事国の地位を放棄して、一般加盟国として国連に残る道を蔣介石に勧めたが、蔣介石が妥協せず、1971年のアルバニア決議後に中華民国が国際連合を脱退し、その後、李登輝総統の時代に憲法改正と民主化へ歩みだしたものである。

 そのため、「一つの中国」とは、もともと中華人民共和国が主張するような中華人民共和国による中華民国の併合ではなく、中華民国による中華人民共和国の併合であり、この計画は1971年に頓挫していると言える。そのため、第三国が中華民国という独立国に対し、国際連合に加入していないことを理由に、勝手に「一つの中国」を主張するのはおかしい。

 にもかかわらず、⑥⑦のように、中華人民共和国はペロシ氏の中華民国訪問を受けて中華民国を囲む形で軍事演習に乗り出し、その軍事演習場所は中華民国の「領海」と重なった。これは、米国や日本の「一つの中国」政策からすれば一国なのだから矛盾がないため、⑧のように、G7外相は中国に対して「威嚇的な行動、特に実弾射撃演習や経済的威圧を懸念する」という共同声明しか出せないが、他国の“懸念”とは言っただけのものであり、意味のある発言ではない。

 また、*4-5-2は、⑩バイデン米大統領と習近平中国国家主席が電話協議したように、衝突回避が最も重要で ⑪双方は台湾を念頭に置く危機管理メカニズムの構築を真剣に考えるべきで ⑫米民主主義は三権分立でバイデン大統領に議会を代表するペロシ氏の行動を止める権限はなく ⑬バイデン氏が「一つの中国政策」維持を明言した以上、中国側は危険な軍事的威嚇に踏み切るべきではなく ⑭最近、中国は「台湾海峡は国際水域ではない」と主張し始め、米側はこれを否定して、国際法で認められる航行を続ける構えだが ⑮偶発的な衝突がいつでも起きうる状況なので ⑯米中首脳は、顔を突き合わせた会談で腹を割って話し合う必要がある とも記載している。

 ⑩⑪⑬は、米国は中華民国を見捨てても中華人民共和国との衝突回避が最も重要だとしているのであり、⑫は、ペロシ氏の中華民国訪問はさほど価値がないとし、⑭は、中華人民共和国が中華民国を既に併合したかのような行動をとっても、⑮のように衝突が起きればそれは偶発的なものにすぎないとする。また、⑯のように、米国と中華人民共和国の首脳が中華民国の首脳抜きで顔を突き合わせ腹を割って話し合えば問題は解決するなどとしている点で支離滅裂だ。

 さらに、沖縄タイムスは社説で、*4-5-3のように、⑰ペロシ米下院議長の台湾入りをきっかけに、台湾周辺で米国と中国の軍事的緊張が高まり ⑱中国軍はペロシ氏が訪台した2日夜から台湾周辺で演習や実弾射撃を始め ⑲中国軍の動きを受けて米軍は、沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ「第1列島線」近くに原子力空母ロナルド・レーガンや強襲揚陸艦2隻を配置し、艦載輸送機が嘉手納に飛来したのも確認され ⑳米軍嘉手納基地では同基地所属でない外来のKC135空中給油機21機が駐機しているのも確認された 等と記載した。

 沖縄の地方紙だけあって話が具体的だが、中華民国を併合したい中華人民共和国にとって⑱は必然的な行為であり、中華民国の独立を護ろうとすれば⑰⑲⑳も当然のことになるため、付近が戦場になりそうで緊張している沖縄には大変なことだが、それが米軍基地の意味である。そして、それは、日本の自衛隊基地であっても同じだろう。

2)世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数」から見える日本の現状

 
2022.7.13中日新聞 2022.7.14福井新聞        内閣府 

(図の説明:左図は、男女格差報告の総合に関する主な国の順位で、中央の図は、日本の項目別ジェンダー・ギャップ指数だ。また、右図は、男女別学歴別年収の推移で、管理職が多くなる世代で男女格差が大きくなる状況がわかる)

 *4-1・*4-2は、①WEFが、「ジェンダー・ギャップ指数」を発表し ②日本は146ヶ国中116位で ③G7(ドイツ10位・米国27位・イタリア63位など)だけでなく、東アジア太平洋地域諸国のいずれでも最下位で ④総合評価上位5ヶ国は2021年と同じアイスランド・フィンランド・ノルウェー・ニュージーランド・スウェーデンで ⑤女性の政治進出が活発なルワンダは6位で ⑥最下位はアフガニスタンで ⑦地域別では北米が最も男女格差が小さく、次に欧州で格差が小さく ⑧インド等の南アジアで格差が最も大きく ⑨日本と同水準の国は、西アフリカのブルキナファソ(115位)、インド洋のモルディブ(117位)など としている。

 また、*4-1・*4-2は、男女格差の内容を、日本の評価が著しく低いのは政治・経済で、⑩政治分野だけでみた順位は139位の世界最下位圏で、「女性のいない民主主義」表現する政治学者もおり ⑪経済は管理職の女性の少なさや男女間所得差が順位を下げ ⑫日本女性の賃金は男性より22.1%低く、G7中男女格差が最も大きく ⑬日本は性別役割分担意識が根強いため、順位が低迷したままであり ⑭多様な人が力を発揮できる社会の実現には男女格差の解消が急務で ⑮ジェンダー平等は多様な人の声が反映される社会の第一歩 とも記載している。

 上の①~⑨は事実であり異論の余地がないが、⑥⑧⑨のように、南アジア・東アジア・アフリカで女性蔑視が多いのは、仏教(紀元前6世紀発祥)・儒教(紀元前500年頃発祥)・イスラム教(紀元600年頃発祥)の影響だろう。その結果、ペロシ氏に対する中国や日本における批判も、どこか女性政治家を馬鹿にしていると感じた。しかし、21世紀の現在、生物学はじめ他のあらゆる文明が進歩したのだから、誰のためにもならない女性蔑視は早急にやめるべきである。

 誰のためにもならない理由は、日本の政治に欠けているのが、i)公害問題や生態系維持等の環境意識 ii)安全で栄養バランスの良い食料生産を行う意識 iii)物価の安定など家庭生活を脅かさない政策 iv)社会保障等の家庭への支援であり、これらは日本では女性が担当し意識することが多いため、まさに⑩⑪⑬が原因で意思決定時に欠け易いからである。

 また、女性が意見を言った時に男性と対等に相手をしてもらえるためには、馬鹿にされないだけの知識・経済力とそれに基づく独立性がなければならない。しかし、⑫のように、女性の賃金が男性より22.1%も低く、女性蔑視の文化が残って入れば、女性の発言力はそれだけ乏しくなる。その結果、⑮のように、多様な人による多面的な声を政治に反映することができず意思決定が歪むため、ジェンダー平等は多様な人の声を反映させる社会の第一歩なのである。

 これに加えて、*4-3は、⑯性差による差別をなくすジェンダー平等実現は、行政施策や企業活動で待ったなしの課題で ⑰女性が男性と対等に意思決定の場に加わるのは当然の権利であり、多様な価値観の反映で政策や事業に歪みが少なくなる点でも重要で ⑱組織中で意思決定に変化をもたらすのに必要な割合は3割とされるが、長野県の現状は3割さえ遠い ⑲民間企業を含めると女性管理職割合は全国を大きく下回り ⑳教育現場のジェンダー平等は、女性は指導的な立場に向かないという無言のメッセージになりかねず、子どもの意識に影響を及ぼすため、特に大切 等と記載している。

 ⑯⑰⑱⑲は全くそのとおりで、⑳についても、幼い頃から刷り込まれる「女性は指導的な立場に向かない」という先入観は、大人になっても常識や美意識となって残ってしまうため、早急に全体を変える必要がある。

3)文系男子の視点が多い少子化論議
イ)間違い探し


     厚労省         2018.6.10朝日新聞     2017.4.11AGORA

(図の説明:中央の図のように、第二次世界大戦直後は合計特殊出生率が4.0を超えており、「団塊世代」で2.0を下回り、1995年に1.5、2005年に1.26まで下がったので、左図のような人口ピラミッドになった。従って、2021年に62万8205人の自然減があるのは当然である。しかし、右図のように、人口減が始まったのは2007年くらいからで、それまでは合計特殊出生率が2.0を下回っても人口は増加した。その理由は、長寿命化して一世代の期間が延びたため、人口維持に必要な合計特殊出生率が2.0よりも著しく低くなったからにほかならない)


  2018.6.4東洋経済    内閣府   2021.7.4大野研究室 2021.8.23日経新聞

(図の説明:1番左の図は、日本の人口と実質GDPの関係で、実質GDPは人口が増えたから上がったのではなく、豊かな暮らしを求め、それを実現することによって上がったことがわかる。左から2番目の図は、名目経済成長率の推移なので物価上昇が激しい時には成長率が高く出るが、これも豊かさを求める過程で高く出て成熟するにつれ低くなる。右から2番目の図は、購買力平価《真の豊かさ》による雇用者一人当たりGDPの推移で、現状維持に汲々として改革を怠れば現状維持もできずに順位を下げることがわかる。1番右の図は、過去2000の世界人口の推移で、産業革命と医療の普及で近年になって人口が著しく増えたが、地球が養える人口には限りがあることを忘れてはならない)

 *4-4-1・*4-4-2は、①厚労省は、6月3日、合計特殊出生率が2021年1.30だったと発表し ②2021年の出生率1.30は過去4番目に低く ③合計特殊出生率1.5未満は「超少子化」水準、1.3未満はさらに深刻で ④厚労省は15~49歳の女性人口減少・20代の出生率低下・結婚減少を理由に挙げ ⑤米国は2021年に約366万人が生まれ、出生率は1.66と前年1.6より上昇した ⑥フランスも2021年の出生率は1.83 ⑦日本の出生から死亡を引いた自然減は62万8205人と過去最大で ⑧日本の終戦直後は合計特殊出生率4.0を超えていたが、「団塊世代」が2を割り込み、1995年に1.5を下回って2005年に過去最低の1.26を記録し ⑨人口を維持には2.06~2.07が必要 と記載している。

 このうち①②④⑤⑥⑦は、事実かそれに近く、間違いではない。しかし、⑨は、上の段の図を見ればわかるとおり、戦後すぐの頃は、⑧のように、結婚・出産ラッシュと医学の普及による乳児死亡率の低下によって、(一般の人が成人まで育たない子がいることを前提として続けていた)合計特殊出生率4.0の状態の下で「団塊世代」が生じたため、国が子ども2人の家族計画を奨励していたことによって生じた。しかし、人口動態を見る限り、合計特殊出生率が2.0人以下になっても日本の人口は増え続け、2005年頃にやっと減り始めたのである。

 また、国の家族計画の効果もあり、日本の人口は増えすぎることなく2005年頃の1億3000万人くらいを上限として増加が止まった。そのため、③の「合計特殊出生率1.5未満は超少子化で、1.3未満は深刻」が事実かと言えば、これまでは日本の適正人口(1億人?)に向かって、最初は政策的に、その後は自然に、人口の調整が進んだのだと言える。

 また、*4-4-1・*4-4-2は、⑩日本は男性の育休取得率が2020年度で12.7%に留まり ⑪結婚に至らない理由に経済的不安定さもあり ⑫日本は国境を越える人口移動が乏しく、将来の人口規模は出生率でほぼ決まり ⑬自然減は労働力や経済力の低下を招き、現役世代が支える構図の社会保障制度の維持が困難になって社会全体の活力を低下させる としている。

 それでは、今後も適正人口に向かって自然に人口調整が進むのかと言えば、子育てに適した住居の広さ・養育費・教育費・周囲の支援がなければ子育てはできないが、都市に過度な人口集中をさせたままでは、適切な広さの住居・生活費・周囲の支援を得ることが難しいため、自然減が過度に進むだろう。また、⑪は、子育ての基盤作りができないため事実だろうが、⑩については、諸外国を見ても多様な方法がある。

 しかし、上の段の1番右の図のように、世界には未だ人口調整に入っていない地域もあり、世界人口は爆発的に増加し続けていて、これを止めなければ生存競争としての戦争が起こる。

 一方で、日本は、食料・エネルギーの殆どを外国に依存し、国内の製造業による輸出高も減少の一途を辿っているが、これは、⑬のように、人口の自然減が労働力や経済力の低下を招いたのではない。日本が不振である理由は、イノベーションを嫌い、⑫のように、外国人労働者を迎え入れることもなく、原価を高止まりさせて既存産業の競争力さえもなくしたからである。

ロ)本当は・・

  
2022.7.13日経新聞            2022.7.31日経新聞

(図の説明:左図は、2021年の国別男女平等度の順位で、中央の図は、平等度の高い先進国はコロナ禍で出生率が上がったが、家事負担が女性に偏っている日本や韓国はむしろ出生率が下がったことを示すグラフだ。また、右図の左側は、先進国では男女平等と出生率に正の相関関係があることを示すグラフで、同じく右側は、年収の低い男性は年収の高い男性と比較して、《教育費の関係か》近年になるほど子どもの数が少なくなっている傾向を示すグラフだ)

 *4-4-3は、①先進国の8割で2021年の出生率が2020年に比べて上昇し ②男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧では回復の兆しが見え ③そうでない日本や韓国では反転できず ④2020年~2021年の国別出生率の差とジェンダー格差を示す指標には相関関係があり ⑤長い時間をかけてジェンダー格差をなくしてきた北欧では家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく女性に負担が偏りにくいが ⑥家庭内の家事・育児時間の男女差が4~5倍ある韓国と日本は、女性の出産意欲がコロナ禍で一段と弱まり ⑦直近では、男性の年収が低いグループの子供の数が高いグループの半分以下になり ⑧共働きで世帯収入を増やすことは出生率を底上げするが ⑨日本は女性の就業率が7割と比較的高いが出産に繋がりにくいのは、家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さなどの多岐にわたる原因があり ⑩保育の充実といった支援策に加えて男女格差是正から賃金上昇の後押しまで、あらゆる政策を打ち出していく覚悟が必要になる と記載している。

 このうち、①②③④⑤⑥は、右図の左側で示されているとおり、家庭内での家事・育児時間の男女格差が減ってジェンダー平等が進んだ国ほど出生率が改善したということを示すために述べたものだと思うが、i)2020年と2021年のみを比較している点で特殊すぎること ii)サンプルとなる年数が少なすぎること などにより、今一つ説得力に欠ける。また、「女性の社会進出が出生率を下げた」というジェンダー平等への反対論に応えるためか、ジェンダー平等を出生率の回復と結び付けて述べているが、これは男性の視点を意識した論述だと思う。本当は、ジェンダー平等は、女性に対する差別・セクハラ・人権侵害の問題としてとらえるべきである。

 また、⑦⑧は尤もだが、⑨については、男女雇用機会均等法改正で女性差別そのものや妊娠・子育てにおける女性に対する不利な扱いを禁じたのに、労働基準法にも男女雇用機会均等法にも護られない労働者を作るために非正規雇用という区分を作り、女性に高い割合で非正規雇用労働を押し付けている点が、日本社会はあくどい。

 さらに、日本では、コロナ禍で夫婦とも在宅勤務が増えても夫に家事・育児を頼れない状況だったそうだが、これは家事・育児に関する子ども時代からの教育や情報量の違いによる。そのため、⑩の「保育の充実」「頼れる家政婦の存在」など、働く女性の雇用の安定・賃金の上昇・その他の支援がなければ、将来の計画を立てる人ほど出産はできないのである。

・・参考資料・・
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220726&ng=DGKKZO62893710W2A720C2EA1000 (日経新聞社説 2022.7.26)中韓勢の参入が問うEV化への覚悟
 中国電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)が日本の乗用車市場に進出する。2023年から主力の3車種を皮切りに、新型車を順次発売していくという。日本の消費者に受け入れられるかは未知数だが、日本車メーカーも油断してはいられない。BYDの計画からは日本市場を攻略しようという強い意志がうかがえる。国内の販売店と契約し100以上の実店舗を構える。複数の自動車ローンやサブスクリプション(継続課金)方式での提供も取りそろえるという。世界的に見れば日本市場におけるEVの普及は遅れている。直近では日産自動車などが新型車を発売した影響で、1~6月のEV販売台数が前年同期の2.1倍となった。それでも乗用車の新車全体で見れば1%にすぎない。BYDは2年近く前から日本参入の時期を見計らっていたもようだ。ビーワイディージャパンの劉学亮社長は日本参入を決めた理由について「自然な流れ」と多くを語らないが、日本でEVシフトへの機運がいまひとつ高まらないことと無関係ではなかろう。今のうちに参入すれば日本車の牙城を崩すことも不可能ではないと判断したと推察できる。アジア勢では韓国の現代自動車も今年、EVなどで12年ぶりに日本進出を果たしたばかりだ。外資の参入は消費者の選択肢を増やし競争を促すという点では歓迎すべきだ。中韓勢の挑戦を奇貨として、日本勢には足元のEV戦略を見つめ直してもらいたい。新規参入組の当面の販売台数は限られるかもしれない。日本の自動車産業の足元が揺らぐほどのインパクトではないだろう。ただ、商用車ではすでにSBSホールディングスや佐川急便など物流大手が中国製の小型商用EVの大量導入を決めている。日本車メーカーもお手並み拝見とばかりに侮ってはいられまい。かつては日本勢も欧米では後発の苦労を強いられながら、徐々に品質を高めて市民権を得たことを忘れてはならない。現在はEVや自動運転など、新技術が競争軸となる100年に1度の変革期にさしかかっている。新興勢にとっては逆転を狙う好機といえる。ドイツではフォルクスワーゲンの社長が事実上更迭された。EVシフトへのかじ取りを巡る混乱が背景にあるという。日本勢にもEV戦略への覚悟を問いたい。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220726&ng=DGKKZO62898330W2A720C2MM0000 (日経新聞 2022.7.26) EVバス、世界で快走、中国製席巻 日本、水素出遅れ
 公共交通機関での電気バス採用が世界で拡大している。そのほとんどが中国製だ。日本でも路線バスを電気自動車(EV)化する動きはあるが、国産の選択肢すらない。日本は水素バスの開発に重点を置き、EV対応が遅れた。二酸化炭素(CO2)などの排出を実質ゼロにするゼロエミッション化は、自動車分野でも後じんを拝している。2021年12月、京都市と京阪電鉄は市内の循環バスに4台のEVバスを導入するイベントを開いた。導入したのは中国EV大手の比亜迪(BYD)製だ。出席した閣僚経験のある政治家はツイッターで「日本企業にも奮起を促したい」とつぶやいた。関西では、大阪府の阪急バスも今年4月から中国製を路線に投入している。国際エネルギー機関(IEA)によると、21年に販売されたEVバスは約9万台だった。先行して導入するのは中国と欧州だ。21年11月に英国グラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)でも、市内の主要地と会場をEVバスが結んだ。COP26に合わせ、BYDはグラスゴー市の交通局に計120台以上のバスを卸したという。高速充電も技術改良で可能になり、軽油で走るバスと比べても性能に遜色がなくなった。BYDは世界で5万台以上のバスを普及させるなどシェアを拡大している。IEAはEVバスが30年には300万~500万台になり、全体の16%ほどを占めると予想する。製造・供給で優位に立つのはBYDなど中国メーカーだ。安い価格と技術力で圧倒する。日本の主要メーカーはEVバスを量産化できておらず、劣勢だ。国内の自治体などが脱炭素に向けてEVバスを導入する際も中国製などを選ばざるを得ない。政府のEVバス導入補助金もハイブリッド車などを除くと補助対象8種類のうち7種類が中国メーカーだ。唯一の日本企業の1社は北九州市のスタートアップだが、現状は製造を中国に委ねている。日野自動車が近く市場投入を控える小型バスも、自社開発ではなくBYDに製造を委託する。国や日本の自動車メーカーは水素を燃料とするバスの開発に注力してきたことが裏目に出ている。水素は燃料充填の時間が短く、荷物や人を乗せて重くなっても航続距離が長い。バスなどの大型車には「EVよりも水素が向いている」という説明だった。経済産業省などが17年に発表した水素基本戦略では「20年度までに100台程度、30年度までに1200台程度の導入」の目標を掲げた。だが蓋を開けると、世界では水素バスではなく、EVバスが席巻している。COP26では自動車の脱炭素化に向けた有志連合にメルセデス・ベンツやBYD、フォードなど20以上の国・地域や企業が参加したが、日本からはゼロだった。自動車分野の脱炭素の流れに、政府も日本メーカーも乗り遅れている。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASPCZ4GF4PCWUHBI015.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2021年12月3日) 「2万キロ走って充電タダ」 中国でEV乗ったら 思わぬ落とし穴も
 10月下旬の日曜日、午前5時45分。まだ薄暗い中国南部の広州市内の路上に、濃いグレーのスポーツ用多目的車(SUV)が現れた。この日私は、なじみの日本式焼き鳥居酒屋の主催するゴルフ大会に参加することになっていた。店のオーナーの一人、王思琪さん(30)が愛車の電気自動車(EV)で、私ともう一人の友人を迎えにきてくれた。王さんの車は中国のEVメーカー「小鵬」の小型SUV「G3」。小鵬は2018年からEV販売を始めたばかりの新興メーカーだが、中国のネット大手アリババ集団なども出資。2020年に米ニューヨーク証券取引所に上場して約1870億円を調達するなど、急成長している。G3の外観は欧州車を思わせるようなデザインで、中国では若者や女性に人気がある。フロントガラスが運転席の上部まで延びていて、日光が差し込んで車内はかなり明るい。後部座席の片側を前方に倒せばゴルフバッグ三つを楽に載せられ、セダンより車高があるので大人3人が座ってもゆったりとした空間がある。王さんがG3を購入したのは昨年10月。補助金による1万元(約17万5千円)の割引もあり、支払ったのは約17万元(約300万円)だった。似た車種でいうと、中国で売られているトヨタの「RAV4」のエントリーモデル(ガソリン車)と同等の値段だ。内燃機関(エンジン)がないEVのため、車が動くときもほとんど音がしない。時速100キロに達するまでの時間は8秒台と、世界最大手の米テスラ(モデル3は同3・3秒)などのようには速くはないが、初心者にはむしろ安心して運転できるようだ。運転は性格が出るというが、王さんは慎重なタイプなのか高速道路でもほとんど車線変更せず、常に制限速度より控えめ。大会に参加するほかの車より到着は少し遅れたが、安全運転で同乗者はみな安心して乗ることができた。王さんは、広州市南部の番禺区から市中心部まで片道約35キロの通勤も、毎日この車で往復しているという。どうしてEVを買ったのだろう。日本や欧米のメーカーではなく、なぜ中国ブランドにしたのか――。そんな疑問が頭に浮かび、質問を投げかけたら、「充電も便利で、料金もほとんどタダ。なによりお金が節約できるから」と言うのだ。中国でEVの充電代は、ガソリン代よりずっと安いのは知っていた。しかし、まさか無料とはどういうことか。王さんは言う。「車を買ったあとのコストが安いんです。この1年で約2万キロ走行したけれど、充電代はほぼ小鵬から付与されたポイントでまかなえました」。詳しく聞いてみると、小鵬のEVを買って同社の充電スポットを利用すれば、年間3千キロワット時までの急速充電が毎年無料になるのだという。G3は1キロワット時で約7・8キロ走れる仕様になっているので、確かに計算上は3千キロワット時で約2万3400キロ走ることができる。中国の充電スポットはどんなところだろう。面倒ではないのだろうか――。こんな疑問が次々と浮かび、今度は充電にも同行させてもらうことにした。11月中旬、王さんと充電スポットがある番禺区のショッピングモール前で待ち合わせした。車に乗せてもらい、車載の液晶パネルを見ると、残り走行可能距離は「153キロ」と表示されている。
●EVの充電を体験
 G3はフル充電で最大520キロ走れる仕様だが、王さんはバッテリーの寿命を延ばすため90%までしか充電しない。さらに、ガス欠ならぬ「電欠」になって車が動かなくなったらレッカー移動しなければならないので、怖いから残り100キロ余りになったら充電するようにしている。毎回350キロ程度走ったら充電スポットに行くサイクルだ。ショッピングモールの駐車場に入ると、小鵬が設置した急速充電器が四つあり、そのうち3カ所が空いていた。「平日はほぼ待たずに充電できます」と王さん。壁に沿った充電器の差し込み口に向かって前向きに駐車し、黒いケーブルの先のソケットを車の左前方の差し込み口につなげると、充電が始まった。スマホに入れた小鵬のアプリと車のシステムは連動しており、スマホの画面を見ると90%まで充電するのに「50分」と表示されている。充電量はスマホで操作できる。王さんの自宅は、ここから徒歩10分くらいと近い。しかし帰宅しても、ゆっくりする間もなく戻らなければならないので、充電中は帰らない。出勤する前に充電に立ち寄り、車の中でSNSの返信を書いたり、動画を見たりして過ごすことが多い。ショッピングセンターにあるスターバックスでソファに座り、コーヒーを飲みながら待つこともある。この日は、注文したコーヒーをしばらく待ち、取材を始めたら、聞きたい質問を終える前にスマホのアプリに「充電完成」を告げられてしまった。実際にかかった時間は43分。36・3キロワット時を充電し、49・06元(約850円)と値段が出ているが、この金額は「年3千キロワット時」までだと課金されない仕組みだ。王さんは「11カ月半で3千キロワット時を使い切り、最後の半月だけ自分で充電代を払った」という。初年度の自己負担額は数千円程度だった。
●自己負担は年数千円 貯金に回せた
 「小鵬のEVを選んだ理由の90%は、充電代がかからないから」。王さんは、節約が理由だと迷わず言った。充電は時間帯によって電気代が異なり、この日と同じ条件で計算すると3千キロワット時分の4050元(約7万円)が節約できたことになる。もし、小型SUVのガソリン車を買っていたら――。1リットルあたりの燃費が12キロだったとすると、現在のガソリン高では年1万3300元(約23万円)の燃料代がかかる。王さんは結果的に、その分を貯金にまわすことができた。王さんは日本に留学し、3年間を過ごしたことがある。2019年から始めた焼き鳥居酒屋は、コロナ禍前までは多くのお客が来て、順調だった。しかし、今は日本からの出張者がいないので、その時に比べると経営は楽ではない。「だから、充電代がかからないのは、心理的にもプラス面が大きいんです」。小鵬によると、年3千キロワット時の顧客への付与は、今年8月以降に新車を購入した人向けには年1千キロワット時に減らした。「(新エネ車1台あたりの)政府の補助金が減ったため」と説明する。ただ同社は新車購入者には、自宅に設置する小型充電器(充電時間は満タンで7時間前後)を無料で提供している。電気代は午前0時から同8時までは安くなる。「コードをつないで、この時間帯に充電予約すれば、G3をゼロから満タンに充電しても22元(約390円)しかかからない」としてコスト安を強調する。小鵬は、赤字経営を続けながらも、顧客を囲い込むためにお金を注いでいる。21年4~6月期決算は、売上高が前年同期の6・4倍に急増したが、最終損益は約200億円の赤字とマイナス幅が大幅に拡大。今年7月には香港証券取引所にも上場して約2千億円を調達したが、生産能力の拡張や顧客囲い込みの販促費にお金を使い、黒字転換はできていない。こうした赤字覚悟の手法は、珍しくない。出前のデリバリーサービスや中国版ウーバーなどでも、新興企業が乱立する最初の時期は値引き合戦が過熱し、赤字は当たり前で「お客の囲い込み」を優先させることが多い。小鵬の充電ポイント贈呈も、他社と差別化し、顧客を囲い込むためなので、いずれはなくなるかもしれない。王さんは、EVのデメリットも感じている。「週2、3回、充電に行くのは確かに面倒。週1回くらいなら、もっと便利なんだけど」。ガソリン車なら1回の給油で600~700キロ走る車種が多く、給油の頻度は半分ですむ。
●充電スポット 街を出ると少なく不便
 小鵬が無料で提供してくれる自宅用の小型充電器は、自宅マンションの駐車場の使用権(約350万~400万円)を購入し、許可を得ないと取り付けられない。しかし、王さんの駐車場は賃貸のため設置できない。夜に充電して朝起きたら完了している、という電気自動車の便利さを享受することができない。出先で思い通りに充電できないこともある。王さんは以前にゴルフ場近くの小鵬専用ではない充電スポットで、昼過ぎに充電して帰ろうとした。事前に充電スポットを調べて訪れたが、5~6台のスペースはすべて埋まっていた。しかもよく見ると、何台ものガソリン車がまぎれて駐車していて、EV用の充電場所を占拠していた。思いも寄らぬ展開。しかも、その車は充電しているわけではないので、すぐには戻ってこない。「ゴルフ場がある郊外や地方都市ではほかの充電スポットは近くにはなかった。途中で電気がなくなるのが怖くて、待つしかなかった」。結局、夕方まで充電場所が空かず、しかも渋滞する夕方のラッシュ時に重なり、「自宅に着いたら午後9時ごろになっていた」。都市部でEVを利用するには不便はないというが、地方などを長距離走るには現時点ではEVは向いていない。ただ、長距離を運転するときは、一緒に住む姉のガソリン車を利用するようにしているといい、「普段の生活スタイルからすると、私の要求を十分満たしてくれている」という。充電を終え、王さんが経営する焼き鳥居酒屋まで約40分の道のりを乗せてもらった。職場から約500メートルのところにある高層ビル地下駐車場にも、小鵬の充電スポットがある。また、一般の充電スポットならばショッピングモールなど中心部には何カ所もあり、料金さえ自己負担すればいつでも充電できる。思った以上に「EV生活」は便利だな、というのが正直な感想だ。充電スポットを促進する業界団体によると、6月時点で広東省に公共の充電器が約14万3千台、上海には約8万9千台設置されているという。EVの販売台数が伸びれば、充電スポットもさらに増えてもっと便利になるのだろう。中国では、EVなどの新エネルギー車の新車販売が急速に伸びている。中国自動車工業協会によると、1~10月の新エネ車の販売台数は254万台を超え、約90万台だった前年同期から一気に2・8倍に急増した。年後半になるにつれて新エネ車の販売台数が増え、10月は38万3千台に。新エネ車だけで、過去最低だった日本の10月の新車販売台数(軽自動車を含む)全体の27万9341台を上回った。1~10月の中国の新車販売全体に占める新エネ車の割合は、昨年1年間の5・4%から2倍以上の12・1%に急拡大している。世界最大の自動車市場で、売れた新車のおよそ8台に1台は新エネ車だったことになる。1~9月のメーカー別のEV販売トップ10は、2位だった米テスラを除き、残りすべてが中国メーカーだった。トップだった上汽GM五菱(ブランドは五菱)は、昨年発売した日本円で40万円台からの格安小型EV「宏光ミニEV」が大ヒット。約28万台に達した。比亜迪(BYD)や小鵬なども大きく売り上げを伸ばしている。一方、2020年の日本のEV新車販売台数は約1万5千台で、乗用車の販売台数の約0・6%だった。中国政府は昨年、2035年に新車販売のすべてをEVなどの新エネ車やハイブリッド車(HV)にする方針を打ち出した。これまでEVを作る自動車メーカーやEVを購入する消費者に幅広く補助金を出し、ガソリン車からの転換を後押ししてきた。構造が複雑なガソリン車やHVが得意な日本や欧米勢に追いつくのはなかなか難しいため、部品が少なく参入が比較的容易なEVへの参入を促し、国際競争で優位に立つという国家戦略もある。ただ、新エネ車1台(走行距離300~400キロ)あたりの国の補助金は2018年の4万5千元(約80万円)から2021年には1万3千元(約23万円)に減っており、中国でもEVメーカーの自助努力が求められる時代に入りつつある。

*1-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASPD37QZ6PD2ULFA01Y.html?iref=comtop_list_01 (朝日新聞 2021年12月6日) 日本は置いていかれる?きらびやかなEVショー、記者が感じた寂しさ
 中国では電気自動車(EV)がたくさん走っている。と知ったような顔で記事を書いているが、中国でEVを買ったこともなければ、日本ではガソリン車しか運転したことがない記者2人(奥寺、西山)。中国EVのリアルを理解したい。そう考えて、2人は中国人の助手2人とともに、11月19日から始まった広州国際モーターショーを初日に訪れた。広東省は中国の自動車産業の一大集積地で、昨年300万台以上を生産した。その省都・広州市中心部にある大きな展示館が会場となっていた。事前に主催者のウェブサイトなどを調べたところ、展示車1020台のうち、約4分の1にあたる241台が電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの新エネルギー車だという。昨年より約100台も新エネ車が増え、その様相はもはや「EVショー」だ。「800ボルトの高圧充電設備により、5分間の充電で200キロ以上走れる『極速充電』を開発した」。中国のEVメーカー、小鵬汽車(本社・広州)の展示スペースは記者(奥寺)が到着した時にはすでにむっとした暑さを感じるほどの人出だった。小鵬は2019年にEV販売を始めた新興企業だが、発表会場は通路に100人を超す記者らがあふれている。小鵬として4車種目となる新型SUV(スポーツ用多目的車)のEV「G9」がステージの真ん中でスポットライトを浴びていた。極速充電への驚きの声やざわつきが止まらない中、記者のすぐ横で、米ビジネスニュース放送局のCNBCが中継を始めた。エンジ色のスーツに身をまとった英国出身のリポーターが、G9を紹介している。放送後、「小鵬はニューヨーク証券取引所にも上場しているので、米国での関心も高い」と話してくれた。
●次々と… 驚くラインナップ
 次に驚いたのは、中国EVの「走行距離」だ。走行距離1008キロ――。中国の自動車大手・広州汽車(本社・広州)が初展示したEVの「AION LX Plus」は、そんな世界初の数字を掲げていた。EVの欠点は充電スポットの少なさと、走行距離がガソリン車に比べて短いことだ。中国でも充電スポットの数は急速に増えているが、走行距離がどこまで伸びるかの関心はとりわけ高い。すでにEVを出しているメーカーでもほとんどは400~600キロあたりが主流。そんな中で同社幹部は記者が訪れた発表会で「走行距離の新たな基準を作った」と胸をはった。充電スポットが心配? いや、もはや充電は古い。高級EVを手がける中国の蔚来汽車(NIO)が展示した1回の充電で1千キロ走れる新モデル「eT7」。ただ他と違うのは、1時間以上かけて車載バッテリーを充電する方法だけでなく、3~5分間で充電済みのバッテリーに取り換える「交換式」があることだ。展示会場では「電池交換」の実演に多くの人が見入っていた。私たちは4人で日本企業や話題の中国EVメーカーなどを手分けしてまわり、10~20分ごとに展示ブースをはしごしていた。それだけで手いっぱいだったのだが、一通り取材を終え、まわりを見渡して驚いた。社名を聞いたことも、ロゴを見たこともない中国のEVメーカーが数え切れないくらい出展していたのだ。「零跑」というロゴが目に入った。中国で人気のゆったりとしたSUVが複数展示され、丸みを帯びた可愛いタイプのコンパクトカーが目を引いた。記者(奥寺)は初めて見たので、スタッフに会社のことを聞いたら、浙江省杭州に本社があるという。そして、「私たちは監視カメラで世界シェア第2位の会社で、15年にEVに参入しました」という。よく聞くと、監視カメラ大手の「浙江大華技術」(ダーファ・テクノロジー)がつくったEVメーカーだった。同社は、トランプ前米政権からウイグル族など少数民族の監視に使われているとの理由で、禁輸リストに追加された会社でもあった。スタッフから「テスラの(SUVの)モデルYと同じ電池を使用している」とも売り込まれた。自動運転や安全技術でカメラの技術は役に立つと思うが、従来のガソリン車ではこうした新規参入はほとんどないので、驚いた。このように唐突とも思える、他業種からの参入組は中国で非常に多い。白いコンパクトなEVを展示していた軽橙時代は、IT大手テンセントでゲーム開発をしていた創業者がつくったメーカーだ。今回は展示がなかったがいま経営危機で話題の不動産大手、中国恒大集団はEVに参入し、将来の主力事業にしようとしている。女性を主な顧客に見据え、独フォルクスワーゲンの往年の名車であるビートルのような車を売る欧拉(オーラ)、戦闘機のようにごつい見た目の約1千万円のEVスポーツカーを売る沙竜(サルーン)、EVで世界初の高級ミニバンを売りにした嵐図汽車……。中国の調査会社によると、今年9月時点で198社のEVメーカーが中国にあるが、うち18~20年の間に150社が誕生している。
●隆盛の裏では
 展示ブースからは見えない事実もある。新たなブランドが生まれる一方で、すでに消えたブランドもある。明らかになっているだけで昨年EVメーカー5社が倒産。16年に香港で誕生した拝騰汽車は独BMWや米テスラ、米グーグル、アップルなどから人材を引き抜き、19年にはEVの量産に入ると宣言して注目されていた。だが今年になって南京市の工場が破産し、量産は絶望的な状況だ。EVメーカーの生と死が隣り合わせの中国では、きょうみたメーカーが来年また展示をしているかはわからない。目立つ中国勢に比べ、静かだったのが日本勢だ。記者(西山)が訪れたトヨタ自動車、日産自動車の発表会で目玉としてお披露目したのはハイブリッド車(HV)。ホンダが22年春に発売する電動SUV「e:NP1」の実車を初めて展示したり、EVの新たなコンセプトカーを発表したりしたぐらい。日産の高級ブランド・インフィニティは展示車すべてがガソリン車だった。3社とも中国でのEVの投入は発表済みで、たまたま広州モーターショーのタイミングでEVの世界初披露がなかっただけともいえるが、少し寂しい感じは否めなかった。こうした情勢を見ると、日本勢はEVで大きく出遅れているのは明らかだ。モーターショーが来年にかけての市場を見通すとするならば、差はまだ広がるかもしれない。やはり出遅れている日本は今後、追いつくことはどんどん難しくなっていくのだろうか。日産の合弁相手である東風汽車で副総裁を務める山口武氏に話を聞く機会があり、日本勢はどう追いつこうとしているのか聞いてみた。「中国企業のイノベーションはものすごい速さで、力をつけてきている。あぐらをかいてはいられない」としつつ、市場を冷静にみる必要があるとも語ってくれた。
●大都市中心の市場拡大 重大事故も
 どういうことか。電気自動車が中国で売れているとはいえ、その約9割は1級、2級都市といわれる大都市中心。こうした都市では普通の自動車を買おうと思っても台数制限で普通のナンバーがとりづらく、EVならナンバーをとりやすいよう政策誘導されている。他の大多数の地域ではいまだガソリン車中心だ。充電スタンドも都市部ほど整備されておらず、電気自動車よりも車両価格が安く、ガソリン車より燃費が良いハイブリッド車のニーズはいまだ根強いという。結果にも表れていて、中国における20年のトヨタの新車販売は、前年より1割あまり多い約180万台となり、過去最高を更新。ホンダも同年、過去最高の162万台を販売し、好調を維持している。さらに山口氏が強調したのが安全性だ。実は中国のEVでは事故が目立ち始めている。記者がある中国のネット上の調査をみると、昨年120件超の発火事故が起きたとされ、死亡者も複数出ている。山口氏は日産は50万台以上販売しているEVのリーフで重大事故は一度も起こしていないと強調した上で、「80年以上この事業をやってきた中で培った安全性や耐久性、信頼性が我々の強み。一朝一夕でコピーされるものではない」。確かに説得力はあると思った。ただHVが売れているからと安心は出来ない。中国における1~10月のEVなどの新エネ車販売は254万台を突破し、新車全体に占める新エネ車の割合は、昨年1年間の5・4%から12・1%となった。事故が多いという印象が広がらない限りは、中国の人々の間で中国メーカーのEVを選ぶ価値観が根付くのではないか。中国企業の勢いがすさまじい今回のモーターショーを歩いてみて、そんな不安は完全にはぬぐえなかった。日本企業がEVのビッグウェーブに間に合い、うまく乗り切れるのか。毎年開かれるモーターショーはその指標となることは間違いない。

*1-3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/963532/ (西日本新聞社説 2022/7/28) 地方鉄道の危機 国の積極関与が不可欠だ
 乗客の減少で、赤字ローカル鉄道が存続の危機に立つ。人口減少で経営環境がさらに厳しくなるのは間違いない。「地域の足」の将来像を描くのは沿線自治体や鉄道事業者の責務である。国も支援策を用意し、積極的に議論に加わるよう求めたい。国土交通省の有識者検討会がまとめた地方鉄道の再構築に関する提言も、国の主体的な関与を盛り込んだ。それによると、国は存続が危ぶまれる特定線区の沿線自治体か鉄道事業者の要請を受け、線区ごとに協議会を設ける。存続や廃止の前提なしに協議し、3年以内に結論を出すとしている。地域戦略として鉄道を存続させる判断もあれば、専用道を走るバス高速輸送システム(BRT)やバスに転換し、利便性を向上させる選択も想定される。第三セクターや鉄道施設を地元が所有する上下分離方式への移行、BRTへの転換は先行事例がある。これらを参考に、利用者の立場で地域の最善策を検討してほしい。国交省は来年度から協議を始める方針だ。JRの場合、1キロ当たりの1日平均乗客数を示す「輸送密度」が千人未満の線区が協議会設置の目安となる。国鉄分割民営化の前後では原則、輸送密度4千人未満の線区がバスや三セクへの転換対象だった。JRは2千人を下回れば、経営努力だけで利便性や持続性の高いサービスを保つのは困難と主張する。千人未満の線区が極めて厳しい状況なのは確かだろう。新型コロナ禍の影響が限定的だった2019年度は、輸送密度が千人未満のJR線区は全国で100程度あった。九州では20年の熊本豪雨で一部不通が続く肥薩線(八代-隼人)、吉都線(吉松-都城)、日南線の一部(油津-志布志)などが該当する。もちろん、鉄道の価値は乗客の多寡や収支だけでは測れない。国内外から誘客する観光資源として活路を開く赤字ローカル線もある。その一つが福島県会津若松市と新潟県魚沼市を結ぶJR只見線だ。10月に11年ぶりに全線で運転を再開する。豪雨で鉄橋が流された不通区間は被災前の輸送密度がわずか49人だった。運転再開は上下分離方式への移行と、年約3億円の維持管理費の地元負担が決め手になった。地元が復旧を望む肥薩線では、被災前に年9億円あった赤字の扱いが焦点だ。国の支援を拡充し、赤字路線復旧のモデルとしてほしい。コロナ禍でJR各社の経営が悪化し、赤字ローカル線問題が急浮上したように見えるが、国や地域が対応を先送りしてきたのが実態だろう。鉄道は国土を支える重要な交通インフラである。鉄道による貨物輸送は産業や暮らしを下支えしている。こうした基幹となる鉄道網をどう守るかについても国は検討を急ぐべきだ。

*1-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/891305 (佐賀新聞 2022/7/26) 「表層深層」地方鉄道 廃線圧力も、進むか対話、交通網再編の動き活発に
 経営が厳しい地方鉄道の存廃を国主導で協議することになった。ただ乗客を増やし、鉄路を維持するのは容易ではない。廃線圧力が高まれば、自治体が反発を強める可能性もあり、事業者との対話が進むかどうかは見通せない。各地では、地域交通の再編を模索する動きも活発化している。
▽衰退
 「貴重な移動手段がなくなれば、地域の衰退が加速する」。国土交通省の有識者検討会のヒアリングで採算重視の切り捨てにくぎを刺していた広島県。湯崎英彦知事は25日、「輸送密度千人未満」など存廃協議の目安について「いかにも廃止を目的としたものに見える」と懸念を示した。国鉄改革では、当時の不採算路線を含め全体で収支が釣り合うよう制度を設計。債務のほとんどを国が肩代わりし、JRは引き継いだ不動産で駅ビル事業を成功させた。ところが新型コロナウイルス禍で大都市の運賃収入が落ち込み、設計はほころびが目立ち始めた。地方には、分割民営化の枠組みが正しかったのか検証を求める声もある。JR関係者は「普段は乗らないのに廃止には反対する」と不満げだ。廃線反対の申し入れで来訪した自治体幹部に移動手段を聞いたら「車」と言われたといい「赤字路線だらけでは食べていけない」と漏らす。
▽縦割り
 25日の検討会では「自治体が協議に応じてこなかったのは廃止前提という危機感があったからだ」など、関係者が予断を持たず、議論のテーブルに着く重要性を訴える声が多かった。ただ人口減が加速する中、コストを抑えつつ乗客を増やすのはハードルが高い。ある自民党議員は「乗客がわずかな路線を続けろというのは現実的ではない」と指摘する。国交省幹部は、学生が下校後、駅で1時間以上待たされる例を挙げ「不便なのに鉄道があるからバスが参入しない。何が便利なのか話し合ってほしい」と話す。もっともバス転換には懸念もある。国鉄から転換したバスは運行回数が減ったり、値上げされたりしたケースも少なくなかった。国交省は鉄道維持でも、バスなどへの転換でも事業者らに財政支援する方針だ。鉄道予算は2022年度当初で1千億円余りだが、ほとんどは整備新幹線向け。道路予算は2兆1千億円あるものの、縦割りのため融通が難しく「支援に回せる予算は少ない」(幹部)。
▽工夫
 地域の現場では、交通維持に向けた工夫が広がる。阿佐海岸鉄道は昨年12月、徳島、高知両県間で道路、線路の両方を走る「デュアル・モード・ビークル(DMV)」の営業運行を開始。世界初とあって観光客が増え、約3カ月で年間平均収入の1・7倍に当たる約1千万円を稼いだ。鳥取県は今年5月、通勤手段をマイカーから鉄道へ切り替えるなどした企業に10万円の奨励金を出すといった県民運動を開始。滋賀県は全国初の「交通税」導入を目指している。県税への上乗せを想定し、公共交通維持に充てる計画だ。ローカル線を抱える市長の一人は「維持費のかかる線路は公設とし、運行は民間に任せる役割分担以外に道はない」と語り、都市部路線の収益に課税し、地方の維持費に充てるよう提案する。中山間地域では道の駅を拠点に、自動運転の電気自動車が役場や診療所を巡るサービスが始まっている。政府関係者は「鉄道やバスにこだわらず、自動運転を含め交通網の在り方を考えるべき時期に来た」と話す。

*1-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/891723 (佐賀新聞論説 2022/7/27) 苦境のローカル鉄道 地域交通の最適解を探ろう
 苦境にあるローカル鉄道の在り方を議論してきた国土交通省の有識者検討会は、利用が著しく落ち込んでいる路線を対象に、存廃やバスへの転換を協議する場の国による設置を柱とした提言をまとめた。鉄道事業者、沿線自治体そして国が協力し、地域を支える交通手段としてどのような形が最適か、先々を見据えた「解」を探る時だ。人口減少に高齢化、マイカーの普及などで地方の鉄道経営は長年「右肩下がり」にあったが、新型コロナウイルスの感染拡大で利用者が減り、一層苦しくなっている。国交省によるとJR旅客6社の総営業距離のうち、1キロ当たりの1日平均乗客数を示す「輸送密度」が4千人に届かない割合は、2020年度で6割に上った。4千人未満は旧国鉄改革時に、採算難から「バス輸送への転換が適当」とされた低い水準だ。さらに半分の2千人未満が全体の4割を占める。提言が「コロナ感染症が収束してもローカル鉄道の危機的状況は解消されず、これ以上の問題先送りは許されない」と指摘したのはもっともだ。この状況を踏まえた提言の特徴は、国による「特定線区再構築協議会(仮称)」の設置にある。平常時の輸送密度が千人未満、複数の自治体にまたがるなど広域調整が必要―などの目安に当たる線区について、事業者か自治体の要請を受けて国が協議会を設置。路線の存続が可能かどうかをはじめ、バス高速輸送システム(BRT)など代替手段への転換を検討し、3年以内に結論を出すとの案を示した。乗客減で赤字が慢性化した路線について事業者は、これまでも自治体や住民との協議を望んできたが「鉄道がなくなると地域が廃れる」などと抵抗感が強く、話し合いの場を設けられないことが少なくなかった。提言は、客観的な基準を示した上で国が主体的に協議の場を設置する仕組みで、事態の具体的な進展が期待できるだろう。一方、自治体では「廃線が加速しかねない」と不安を感じるかもしれない。そもそもJRのような広域事業者は、都市部路線や不動産事業の利益で赤字線区の穴埋めが可能と理解されており、釈然としない面があろう。この自治体と事業者間の認識の食い違いについて提言は、情報開示の不足が一因と指摘した。JR西日本は不採算路線の収支を今年初めて公表したが、経営難が続く北海道や四国などに比べて後手に回った感は否めない。事業者は、都市部の路線もコロナの長期化で採算が悪化している点など、自治体や利用者の理解を促す情報提供に一段と力を入れるべきだ。苦境路線の「解」は一様でない。駅に公共施設を併設し利便性を向上させる施策や、自治体が鉄道施設を保有し事業者は運行に専念することでコスト減を図る「上下分離(公有民営)方式」への移行、鉄道に代わるBRTへの転換などがある。その際に国の支援が重要なのは言うまでもない。提言は財政面をはじめ、地元の合意を条件に国の認可なく値上げできる運賃制度の導入や、BRT専用道の整備時などに多様な支援を国に要請した。法整備を含めた早急な具体化が求められる。滋賀県のように新たな税財源を検討している自治体もある。地域交通を支える手だてのさらなる拡充を望みたい。

<人材>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220728&ng=DGKKZO62937640X20C22A7KE8000 (日経新聞 2022.7.28) 「新しい資本主義」の視点(中) 志すべきは「普通の資本主義」、星岳雄・東京大学教授(1960年生まれ。MIT博士。専門は金融・日本経済。UCSD、スタンフォード大を経て現職)
<ポイント>
○日本の問題は新自由主義が原因ではない
○賃金が停滞する原因は労働市場のゆがみ
○企業の新陳代謝滞り技術革新の不足招く
 参院選の勝利を受け、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」はその実行過程に入る。6月に閣議決定された実行計画は、世界経済の様々な問題について1980年代以降台頭した新自由主義の弊害であり、解決のために新しい資本主義を構築せねばならないと説く。新自由主義は成長の原動力の役割を果たしたと認める一方で、その弊害が今や顕著になっているという。だが気候変動問題、経済的格差、経済安全保障リスク、都市への人口集中などがすべて、新自由主義により引き起こされたわけではない。またこれらの問題が、新しい資本主義が強調する官民連携により解決される道筋も明らかではない。そしてもっと重要な論点は、日本が直面してきた経済停滞、少子化と人口減少、世代間の負担格差、地方の衰退、子供の貧困といった問題も新自由主義の弊害なのかということである。本稿では、日本が直面する最重要の問題の一例として、人手不足でも賃金が上がらないことを取り上げ、その理由として経済学的研究が示す要因を確認する。そこから見えてくるのは新自由主義の問題ではなく、市場の需給で賃金が決まる古典的な労働市場とは大きく違う日本の労働市場の姿である。世界的インフレと急激な円安による物価高が家計を圧迫するなか、賃金がなぜ上がらないのかが問題視されている。だがコロナ禍以前から日本では「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」ということが経済学者の間で議論されてきた。2017年の玄田有史・東大教授の編さんによる研究書に収められた論文の多くは、その理由として日本の労働市場が経済学の教科書的なモデルとかけ離れている点を指摘する。例えば近藤絢子・東大教授は、(1)看護や介護など政府による価格規制がある産業で賃金が停滞し、(2)他の産業では人手不足なのに賃金が停滞しているというよりは賃金が上がらないために人手不足が生じている、そして(3)賃金は一度上げると下げられないのでたとえ人手不足でも企業は賃金を上げない――と論じる。いずれも資本主義の行き過ぎによるものではなく、政府の規制や社会の慣習により労働市場が十分に働いていないという指摘だ。日本の労働市場が正規と非正規、フルタイムとパートタイムなどに分断され、二重構造になっていることも賃金を停滞させる要因である。筆者はカナダ・トロント大のフィリップ・リプシー教授と編さんした「The Political Economy of the Abe Government and Abenomics Reforms」(21年)の一章でアニル・カシャップ米シカゴ大教授と共に、ここ30年ほどの間に日本の賃金がなぜ労働需給に反応しなくなり、物価も景気に反応しなくなったのかを分析した。まず、毎月勤労統計調査の「きまって支給する給与」の額をその月の総労働時間数で割った時間あたり賃金を、フルタイム労働者とパートタイム労働者について計算した。その賃金が失業率で測られる労働市場の状況にどれだけ反応するかをみると、失業率が低下するとき、パートタイムの賃金は上昇するのに対し、フルタイムの賃金はそれほど上昇しないことがわかった。つまり労働需給が逼迫すると、パートタイム労働者の賃金は上昇するが、フルタイム労働者の賃金はあまり反応しないのである。図は論文のグラフを21年まで更新したもので、フルタイム、パートタイムおよび全労働者の平均賃金の推移を示す。90年代末から10年代半ばまで、フルタイムの賃金が名目でほとんど変わらなかった一方、パートタイムの賃金は水準こそ低いが緩やかに上昇したことがわかる。賃金が停滞したのは、市場での競争にさらされたパートタイム労働者ではなく、市場からある程度隔離されたフルタイム労働者だったのだ。北尾早霧・東大教授と東大大学院の御子柴みなも氏の最近の論文「Why Women Work the Way They Do in Japan: Roles of Fiscal Policies」も、日本の労働市場の二重構造に注目する。特に既婚女性の多くが非正規で低賃金の職に就く理由が、配偶者に対する税制や社会保障制度上の条件付き優遇措置にあることを示す。厚生年金に加入する夫(第2号被保険者)に扶養される女性は、第3号被保険者として社会保険料を納付する義務がない。さらに第2号被保険者が死亡した場合、扶養されていた配偶者に遺族年金が支給される。こうした優遇措置があるため、主婦は夫の扶養家族にとどまれるように、自身の年収を低く抑えようとする。所得税法上も妻の年収が一定額を超えない限り、夫は配偶者控除を利用できるので、女性の所得抑制が促される傾向がある。北尾教授らの計算によれば、これらの優遇措置を撤廃すれば女性の労働参加率は12.5%上昇し、平均所得も27.7%増加する。低所得の配偶者を助けようとする政策が、労働市場の機能をゆがめて、女性そして非正規労働者の賃金が抑えられる結果を招いている。賃金が上がらない理由には、日本の労働者・労働組合が賃上げを要求しないという文化的要因もあるようだ。リクルートワークス研究所が20年に実施した「5カ国リレーション調査」によると、入社時に自分から希望の賃金額を伝えたり、会社からの提示後に自分の希望を伝えたりした人の比率は、希望がかなわなかった場合も含め24%にすぎない。米国では68%、フランス、デンマーク、中国ではそれ以上である。また賃金の決定に最も影響を与える要因を会社との交渉、労働市場の相場、会社の人事制度、上司の主観、個人の成果などから選んでもらう問いで、日本では24%が「わからない」と答え、次に多いデンマーク(8%)の3倍になっている。日本で賃金が停滞しているのは、新自由主義の下で株主に行き過ぎた分配がなされているからではない。資本主義的な労働市場とは違った形で賃金が決定されたり、伝統的な家族像にフィットするような低所得の配偶者を助けようという政策があったり、労働者が能力や貢献に応じた賃金を要求しにくい文化だったりと、資本主義が十分に浸透していないからである。行き過ぎた資本主義よりも、資本主義の不徹底が問題なのは労働市場に限らない。岸田政権が強調するイノベーション(技術革新)の不足も、既存大企業が不十分な生産性向上でも生き残ることができ(低い退出率)、イノベーションの源泉であるスタートアップが参入しにくい(低い参入率)ことに原因がある。日本の開廃業率を高め、経済のダイナミズムと成長を促す必要があるという指摘は正しい。ただし、そのためにまず必要なのは現状以上に厳しい市場環境ですべての企業が付加価値の増進を目指すことだ。この意味で、日本に必要なのは新しい資本主義ではなく、普通の資本主義なのだろう。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220726&ng=DGKKZO62864380V20C22A7TL5000(日経新聞 2022.7.26) 脱炭素、いざリスキリング、欧州で進む「公正な移行」、日本は政策構想なく 
 世界的な脱炭素のうねりは労働市場も揺るがす。国際労働機関(ILO)によると、2030年までに石油など化石エネルギー分野で約600万人の雇用が失われるという。欧州は官民一体で再生可能エネルギーへの労働移動を進める。資源小国の日本も自動車エンジン産業の裾野は広く、対岸の火事ではない。この波を越えていく政策構想は描けているか。石油元売り大手、ENEOSホールディングスは23年10月、和歌山製油所(和歌山県有田市)を閉鎖する。約450人の従業員は配置転換などで雇用を維持するが、協力会社の約900人は見通しが立っていない。有田市の製造品出荷額の9割以上を占めるだけに仁坂吉伸・和歌山県知事は「ある意味でモノカルチャー経済のところ。地域に死ねというのか」と同社に雇用対策を強く要請した。
●世界の石油精製 雇用160万人消失
 温暖化ガス排出削減のパリ協定に基づき、主要国は50年に実質的な排出ゼロ「カーボンニュートラル」を達成する目標で歩調を合わせた。ILOは30年までに世界の石油精製ビジネスで約160万人が仕事を失うと試算しており、ENEOS和歌山製油所はその一部だ。原油の採掘では140万人、石炭火力発電では80万人が失業する可能性がある。日本国内の石油産業で働くのは元売りの製油所からガソリンスタンドのアルバイトまで含めて約30万人とされる。約6700万人の就業人口の1%に満たず、これだけならマクロ経済への影響は限定的だ。ただし、カーボンニュートラルで雇用が減るリスクがあるのは化石エネルギー関連にとどまらない。日本の産業構造をみると、自動車の環境対応が最大の不安要因といえる。「再生エネルギー導入が進まなければ、国内自動車産業の70万~100万人の雇用に影響が出る」。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は21年の記者会見で警鐘を鳴らした。車の走行時だけでなく、製造工程から最終的に廃車になるまで総合的に環境性能を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」が広がっている。火力発電の比率が高い日本は製造時の電力消費によってCO2を多く排出するとみなされ、国際競争で不利になりかねない。政府は35年までに国内で販売される新車をすべて電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などとする方針を掲げた。神戸大学の浜口伸明教授の試算によると、車のパワートレイン(駆動装置)にかかわる雇用は約31万人。新車すべてがEVになれば、多くが仕事を失う可能性がある。「中国や欧州のEV化の加速を肌身で感じていたが、コロナ前までまだ10~15年は仕事があるとみていた」。21年に破産したエンジン向けアルミニウム鋳造設備メーカー、大阪技研(大阪府松原市)の大出竜三元社長は振り返る。主要取引先のホンダが想定外に早くEVへとかじを切り、大阪技研はついていけなかった。欧州は脱炭素をめぐる雇用対策と産業振興をセットにした「公正な移行」を進めている。英国政府は21年、北海油田の石油ガス産業と「北海移行協定」を締結。洋上風力発電や水素製造など再生エネに共同で最大160億ポンド(約2兆6000億円)を投じる。
●英国の官民連携 洋上風力へ7万人
 英政府はこのほど石油メジャーのシェルやBP、民間最大労組ユナイトと連携し、石油採掘プラントの技術者らに再生エネのスキルを身に付けさせるリスキリング(学び直し)を始動させた。24年までに石油ガスと洋上風力の技能資格の共通化を進める。北海移行協定には、今後10年で石油ガスの雇用が約5万人減り、洋上風力は約7万人増えるという具体的なシナリオがある。グレッグ・ハンズ・エネルギー担当閣外相は「エネルギー転換にはスキルの再配置が重要。関連産業が協力して労働移動を促進する」と政策の意義を強調する。スペインでも政府とエネルギー会社が協定を結んで石炭から再生エネへの転職を支援する。欧州連合(EU)は21年、化石エネルギー産業からの労働移動のため175億ユーロ(約2兆4000億円)の基金を設立している。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まりフェローは「日本は省庁の縦割りで、欧州のような総合戦略をまとめ切れていない」と指摘する。地元産の摘果ミカンによるバイオエタノール製造か、バイオマス発電か――。ENEOS和歌山製油所の跡地転用はまだアイデア出しの段階だ。設備の撤去や土壌浄化に数年を要することもあり、中小取引先には廃業を検討する動きも出ている。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220725&ng=DGKKZO62860570V20C22A7MM0000 (日経新聞 2022.7.25) 「人への投資」100社超連携、ソニーやキリン、相互に兼業も
 ソニーグループやキリンホールディングス、SOMPOホールディングスといった日本の主要企業が、社員のリスキリング(学び直し)で連携する協議会を8月に設立することが明らかになった。経済産業省と金融庁が支援し、100社超の参加をめざす。社員が相互に兼業・副業する仕組みを設けたり、共同で学び直しの場を提供したりすることを検討し「人への投資」の拡大につなげる。官民共同で設立するのは「人的資本経営コンソーシアム」。人への投資は岸田文雄政権が掲げる経済政策「新しい資本主義」でも重視される。具体策は手探り状態の企業が多い。意欲的な企業が知見を持ち寄り、取り組みが遅れている企業の人材戦略に刺激を与えるような連携をめざす。協議会の参画企業はまずリスキリングの先進的な事例の共有や協力を検討する作業部会を設ける。参加企業間で相互に兼業人材を受け入れたり、リスキリングのメニューを共同開発したりすることも視野に入れる。リスキリングは企業や社員の成長力向上に欠かせない。デジタル技術などを集中的に学び直し、企業内でイノベーションを起こしたり、成長分野に転職したりしやすくする必要がある。企業が成果を適切に評価し、処遇することも求められる。例えば自動車部品最大手の独ボッシュは、世界40万人の全社員のリスキリングを試みている。独自の教育施設を整備し、ソフトウエアやデータ分析などに精通した人材を育成。クルマの電動化や自動運転など成長市場を開拓するための教育に注力する。兼業や副業を通じて獲得した多様な能力や経験は、本来の所属先にも新たな刺激やアイデアをもたらす可能性を秘める。協議会には人的投資の情報開示のあり方を協議する作業部会もつくる。政府は企業に対し、従業員の育成費用や育児休業取得率、男女の賃金格差といった多様性を示す指標など、人への投資にかかわる経営情報を開示するよう求める方針だ。企業は具体的な数値目標や事例の公表を迫られる。国内外の投資家が企業価値を判断する際、人への投資の実績に着目し始めている。実際にどの項目をどう開示すればよいか悩む企業担当者も多いとみられる。協議会では効果的な開示手法の情報共有も想定する。企業の採用活動でも人への投資は無視できない要素となっている。兼業・副業の容認などに着目して企業を選ぶ学生もおり、企業の開示の重要性は増している。発足メンバーにはアセットマネジメントOneといった投資会社も入る方向だ。協議会で、参加企業の最高経営責任者(CEO)と投資家が意見交換できる場をつくり、資本市場の視点でどのような人的投資が望ましいか学べる環境も整える。日本は人への投資で米欧に大きく後れを取る。厚生労働省の推計では、国内総生産(GDP)に占める企業の能力開発費の割合は2010~14年の平均で0.1%だった。米国や欧州は90年代から1~2%で推移する。経済協力開発機構(OECD)によると、仕事に関連するリスキリングへ参加する人の割合は日本で35%と、50%前後の米国や英国に比べて低い。

(脱炭素から脱公害へ)
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15370473.html (朝日新聞社説 2022年7月28日) 生態系の保全 未来への責任を果たす
 2030年までに陸と海のそれぞれ30%を保全する―。「30by30」と呼ばれる国際目標がある。どんな施策を講じてこれを達成し、貴重な生態系を守るか。日本も確実にその役割を果たさねばならない。目標は、昨年の主要7カ国首脳会議で合意され、今年12月にカナダで開かれる生物多様性条約締約国会議(COP15)での採択が検討されている。生物多様性と生態系の現状を科学的に評価する国際組織(IPBES)が今月上旬にまとめた報告書によると、世界は食料、医薬品、エネルギーなどとして、約5万の野生種から便益を得ている。だが、将来も食べたり利用したりできる野生生物は34%にとどまると推測。全漁獲量の3分の1は乱獲というべき状態にあり、木材なども含めた違法な取引は最大年間2千億ドル(約27兆円)近くに及ぶという。人類の「持続可能性」が問われる数字だ。報告書が指摘するように、価値観の転換と社会の変革が求められる。「30by30」に向けて、国内では関係省庁が具体策を詰める作業を進めている。30%は高い数字だが、これまでに陸域の20・5%、海域(領海と排他的経済水域)の13・3%が保護地域に指定されており、この拡大をめざす。企業などが持つ水源林、里山、緑地公園、河川敷といった自然が守られているところを取り込み、生物多様性の保全に役立つ地域に位置づける。海は漁業などとの両立が引き続きの課題だ。数字をただ積みあげて30%に近づけるのではなく、継続して管理し、着実に生態系を守る制度にすることが大切だ。企業や地域住民が進んで協力しようと思える「メリット」を提供することも必要になろう。気候変動対策との調整という課題もある。保全区域が太陽光発電や風力発電の適地とされることは十分考えられる。場所の決め方、区域指定を解除する要件、それにかわる新たな区域の指定に関する手続きなど、柔軟に対応できる仕組みを用意しておくことも欠かせない。取り返しがつかなくなる前に有効な手を打ち、生態系の損失を食い止め、回復させていく。今に生きる私たちの責務だ。このまま陸や海の資源を使い、枯渇させることは、未来の世代に対する背信に他ならない。気候変動対策と同じく、それぞれの国・地域の戦略、今日まで自然の恵みを享受してきたところとそうでないところとの対立など、難題が待ち受ける。政府には、目標の達成に早期に道筋をつけ、国際社会で議論をリードすることを期待したい。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220723&ng=DGKKZO62845640S2A720C2EA1000 (日経新聞 2022.7.23) 規制委が処理水放出の計画認可 設備着工、近く地元判断 東電、来春実施へ猶予なく
 原子力規制委員会は22日、東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、タンクに保管してきた処理水を海洋放出する設備の工事計画を認可した。2023年夏~秋には既存のタンクが満杯になる見通しで新設場所も限られるため、23年4月の放出開始を目指している。認可が想定より2カ月遅れ、工程に余裕がなくなっているが、タンクは廃炉作業の妨げになっており、地元の理解や工期の短縮に力を入れる。2カ月遅れたのは、東電が実施した放出に伴う環境への影響の評価について、国際原子力機関(IAEA)が求める方法でやり直す必要が生じたため。東電は当初、6月の着工を予定していた。23年4月の完成に向けて2カ月ほど工期を短縮する必要があり、具体的な工事計画を練り直す。東電が8月と見込む着工の前には福島県など地元の了解を得る必要がある。福島第1原発では冷却などのために毎日約130トンの汚染水が出ている。東電は専用装置で大半の放射性物質を浄化処理し、敷地内に1000基を超えるタンクを設置し処理水をためてきた。東電は22年後半にも原子炉容器内で核燃料が溶けて固まったデブリの取り出しに着手する。事故から30~40年かかる廃炉作業が本格化する中、タンクで敷地が埋まり、放射性廃棄物の管理といった作業スペースの確保などが課題になっていた。更田豊志委員長は22日の記者会見で、タンクが減れば作業スペースをとれるとして「大変意義がある」と指摘した。規制委は5月に放出の設備計画について事実上の合格証である「審査書案」をとりまとめ、一般の意見を募った。寄せられた1200を超える意見を踏まえて審査書を決定し、計画を認可した。
処理水を巡っては21年4月に当時の菅義偉首相が2年後をめどに海洋放出する方針を決めた。処理水にはトリチウムなどの放射性物質が含まれる。計画では海水で100倍以上に希釈して、トリチウムの濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1にして放出する。トリチウムの海洋放出は国内外の原子力施設で実施されており、更田氏も繰り返し「環境影響は起こりえない」との見解を示している。地元関係者や近隣諸国などが放出に反対しており、対策を講じてきた経緯がある。国と東電は漁業者に対して「関係者の理解なしに(処理水の)いかなる処分も行わない」と公表している。全国漁業協同組合連合会などが反対している。政府は風評の影響に対応するため、300億円の基金創設を決め、漁業後継者を育てる支援策も検討している。近隣諸国は懸念を示している。中国外務省の汪文斌副報道局長は22日の記者会見で「日本(政府)は各方面の関心を顧みず、無責任を極めており、断固として反対する」と発言した。そのうえで「もし日本が自分の意思を押し通し、危険な一歩を踏み出すのなら、無責任な行動に代償を払うことになり、必ず歴史に汚点を残すだろう」と主張した。韓国は外務省が「日本に海洋放出の潜在的影響に対する憂慮を伝え、必要な情報提供を求める」とのコメントを出した。こうした状況もあり、政府はIAEAに検証を依頼した。第三者の厳しい目でチェックしてもらい、放出計画の科学的な安全性や実施体制などのお墨付きを得る狙いがある。グロッシ事務局長やIAEAが派遣した専門家はこれまでのところ放出に関して「問題はない」と明言している。IAEAは放出の前にも改めて報告書を公表する。足元では電力不足が懸念され、脱炭素の効果もある原発について岸田文雄政権は「最大限の活用」を掲げる。原子力全体の信頼回復のためにも、処理水の放出や廃炉作業が重要になっている。

*3-2-2:https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/192505 (中國新聞社説 2022年7月24日) 「処理水」放出案認可 責任取れる判断なのか
 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出計画を原子力規制委員会が認可した。「設備の安全性や緊急時の対応に問題がない」ことを理由に挙げている。認可を受け、東電は来春をめどに放出開始を目指すが、放射性物質を含む処理水を海に流すことには賛成できない。処理水を保管する千基余りのタンクは来秋には満杯になるという。廃炉作業に支障が出かねないとして菅政権が昨春、海洋放出を決めた。認可はその決定に対する技術的な「お墨付き」であり、放出を既定路線化したい政府の思惑も透けて見える。処理水に含まれる放射性物質トリチウムなどが健康被害をもたらす可能性は否定できない。それが確認されなくても風評被害を招くことは避けられまい。地元の漁業者を含め、全国漁業協同組合連合会が激しく反対している。政府や東電が放出計画を強引に進めることなどあってはならない。高濃度の放射性物質を含む汚染水を、多核種除去設備(ALPS)で浄化したものが処理水である。計画では国基準値の40分の1未満になるよう大量の海水で薄め、海底トンネルを通して沖合1キロに放出する。ただALPSでトリチウムは除去できない。政府は「原発の排水にも含まれている物質」と危険性の低さを強調するが、体内に蓄積される内部被曝(ひばく)の影響まで否定できるものではない。そもそも通常運転の原発からの排水と、メルトダウンした核燃料(デブリ)に触れた福島第1原発の汚染水では事情が全く異なる。東電がトリチウム以外は除去したと説明してきた処理水に、基準値を超えるヨウ素やルテニウムなどの放射性物質が存在していたことも明らかになっている。不安が拭えない根本に、これまでの不誠実な対応のツケがあるということを政府や東電はまず自覚せねばならない。「関係者の理解なしに海洋放出は行わない」と約束もしている。ならば漁業者らの反対を押し切って計画を強行することが許されるはずもなかろう。宮城県の村井嘉浩知事が規制委の認可に対し「海洋放出以外の処分方法の継続検討を求めていく」としたのももっともだ。東電は周辺地域にさらに負担をかけるとして、原発敷地外での保管には消極的という。だからといって海洋放出が許される理由にはならない。新たな敷地探しや洋上保管なども選択肢として検討すべきではないか。規制委の認可に韓国は「潜在的影響」への憂慮を示し、責任ある対応を日本政府に求めることを決めた。中国は「無責任」と激しく反発している。原発事故による輸入規制は13カ国・地域まで減っているが、海洋放出をすれば再び規制を強化する国が増えかねない。風評被害の克服に取り組んできた福島の人たちに冷や水を浴びせることにもなろう。福島第1原発事故に由来するセシウムが北極海にまで広がっていた事例も報告されている。人体に静かに蓄積され、長期間にわたり被害を及ぼしかねないことを踏まえれば、海洋放出の判断には慎重を期すべきだ。子や孫やその先の世代に影響が出ても、その時に今回の認可の責任を取れる人は誰もいないことを忘れてはならない。

*3-2-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15365762.html (朝日新聞 2022年7月23日) 「原発新増設や建て替え必要」 原子力産業協会が提言
 原子力発電に関連する企業などでつくる「日本原子力産業協会」は22日、原発の新増設やリプレース(建て替え)を求める提言を発表した。同協会は、こうした提言を出すのは初めてとしている。原発のサプライチェーン(供給網)維持のために新増設や建て替えが必要だと訴えている。東京電力福島第一原発事故を受けて、原発への国民の不信感は根強い。政府は新増設や建て替えは「現時点で想定していない」とし、国内では凍結が続く。だが、ウクライナ危機によってエネルギーの安定供給が揺らぎ、「原発復権」の機運が政府・与党内で高まっている。原発の「最大限活用」を掲げる岸田政権について、同協会の新井史朗理事長は同日、「原子力に対して強い期待を述べられている」と評価した。提言は、再稼働や新増設の見通しが不透明なため、原発事業から撤退する企業が出ていると説明。技術の維持や人材確保のために新増設や建て替えを国のエネルギー計画に明記するよう求めている。昨年秋に同協会が会員企業に実施したアンケートでは、「新設でしか継承できない技術がある」「学生や若手技術者を育成するためのプロジェクトが必要」との意見が出たという。

*3-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/783543 (佐賀新聞 2021/12/14) <オスプレイ>漁協「条件付き協定見直し」回答 空港の協定巡り佐賀県に文書、防衛省含む実務協議求める
 佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画を巡り、佐賀県有明海漁協は14日、県との間で結んでいる自衛隊との空港共用を否定した協定を条件付きで見直すことを、正式に文書で県に伝えた。提示した条件について、県と防衛省の3者で検討状況を確認していく実務者協議の場を設置することも求めた。漁協の西久保敏組合長が県庁に山口祥義知事を訪ねて文書を手渡した。漁協が11月末の幹部会議で決定した事項を記したもので、空港建設時に県との間で結んだ協定について、(1)駐屯地からの排水対策(2)土地価格の目安(3)駐屯地候補地以外の土地取得に関する考え方-の三つを示すことを条件に見直す、とする内容。山口知事は2018年8月に防衛省からの要請を受け入れ、漁協に協定の変更を申し入れていた。文書を受け取った後、山口知事は記者団の取材に応じ「西久保組合長からは『3年間、ずっとボールを持ったままで申し訳なかった』とおわびの言葉があったが、3年間もつらい思いで検討を続けていただき、改めて感謝を申し上げた」と面談の様子を説明した。漁協から要請された協議の場の設置については「課題を共有して条件を解決していく実務者レベルの場をつくっていきたい」と応じる構えを見せた。三つの条件はいずれも防衛省が対応する内容のため、山口知事は「遅くならないうちに、私自身が防衛省に(漁協の考えを)伝えなければならない」と、近く防衛省幹部と面談する意向を示した。「示された条件の解決については、私がしっかり防衛省と向き合って頑張りたい。『ボールが戻ってきた』という感じだ」と述べた。

*3-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/891680 (佐賀新聞 2022/7/27) <オスプレイ 配備の先に>協定見直しの3条件回答 西久保組合長一問一答 「干潮時の排水対策出なかった」
 佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画を巡り、佐賀県有明海漁協の検討委員会は、自衛隊との空港共用を否定した協定を見直す条件として、「駐屯地からの排水対策」など3項目について防衛省から回答を受けた。西久保敏組合長の一問一答は次の通り。
-検討委の内容は。
 排水対策では淡水と海水を混ぜて流すというが、干潮で海水がない時、どういう対策を取るのか答えが出てこなかった。(ノリ漁への影響を)漁業者は気にしている。今日の説明では組合員を納得させる材料が不足している。
-九州防衛局によると、説明した内容を15支所に持ち帰って再度検討してもらい、見直すかどうか判断をされる見立てだった。
 その前に検討委で排水問題を説明してもらわないと。決められない。
-もう1回、検討委を開き、今日の説明より詳しい手続きを書いたものを示してもらって、15支所に投げるのはその後か。
 うーん、多分、そういう風になるのではないか。
-土地価格の目安と、駐屯地候補地以外の土地取得に関する考え方は、報告を聞いて終わりか。
 そう。価格は防衛省が地権者にこの正式な金額を出してこれでどうかというもの。うちが安い高いという話ではないから。
-ノリ漁期に始まる前に方向性をと言われていたが、間に合いそうか
 うーん、防衛省の考え次第。西南部地区は(昨季のノリ漁が)悪かったし、漁期が始まる9月になったら話す余裕はない。検討委を開く話はできない。
-結論としては協定見直しの手続き入りはまだということか
 まだまだだ。
-次の検討委の日程は決まったか。
 決まっていない。

<男女不平等について>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220713&ng=DGKKZO62562890T10C22A7MM0000 (日経新聞 2022.7.13) 男女平等、日本116位 格差指数、G7で最下位 政治分野はアフガン下回る
 世界経済フォーラム(WEF)は13日、男女平等がどれだけ実現できているかを数値にした「ジェンダー・ギャップ指数」を発表した。調査した146カ国のうち、日本は116位だった。改善の必要性が長年指摘される政治や経済分野で指数が上昇せず、主要7カ国(G7)で最低となっている。WEFは経済、教育、健康、政治の4分野で男女平等の現状を指数化。完全に実現できている場合を1、まったくできていない場合をゼロとして毎年分野ごとと総合評価のランキングを発表している。総合評価の上位5カ国は21年と同じ顔ぶれで、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデンだった。女性の政治進出が活発なルワンダは6位に入った。最下位はアフガニスタンだった。地域別では北米が最も格差が低く、次に欧州が続いた。インドなどの「南アジア」で格差が最も大きかった。日本は2021年の発表では156カ国中120位だった。22年のG7各国の順位はドイツが10位、米国が27位、イタリアが63位などで、日本は大きく引き離されている。日本と同水準の国は西アフリカのブルキナファソ(115位)、インド洋のモルディブ(117位)などだ。日本の評価が著しく低いのは政治が理由だ。女性の議員数、閣僚数が圧倒的に少なく女性の首相も誕生していない。政治分野だけでみた順位は139位で世界の最下位圏をさまよう。女性の権利を制限していると指摘されるアフガニスタン(107位)やサウジアラビア(132位)も下回る。家庭との両立に困難を感じ、政界入りをためらう女性がいると指摘されている。家事は女性が担当するものという意識や社会構造が進出を妨げているのも一因だ。世界では議席や候補者数に占める女性の最低の割合を定め、効果を上げている事例もある。女性議員の割合は衆院の3月時点のデータを基にしており、10日投開票の参院選の結果は反映していない。次に評価が低かったのは経済の項目だ。管理職に就く女性の少なさや男女の所得に差があることが順位を下げた。企業が多様性のある判断をしにくくなるほか日本で働く魅力も下がる。海外の優秀な人材が日本に集まらなくなる恐れも強まる。

*4-2:https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202207/0015507300.shtml (神戸新聞社説 2022/7/28) 男女平等の遅れ/改善に向け具体的行動を
 各国の男女平等の度合い示す「ジェンダー・ギャップ指数」の2022年版で、日本は146カ国中116位だった。先進7カ国(G7)、東アジア太平洋地域諸国のいずれでも最下位となった。多様な人が力を発揮できる社会の実現に向け、男女格差の解消は急務である。問題意識を共有し、具体的な行動につなげねばならない。指数は、スイスに拠点を置くシンクタンク、世界経済フォーラムが06年から毎年公表している。政治、経済、教育、健康の4分野で女性の進出状況を数値化する。日本は旧来の性別役割分担意識が根強く、順位は低迷したままだ。中でも、政治と経済の分野で重大な意思決定に関わる女性が極めて少ない。政治では、女性の権利抑圧を強めるアフガニスタンよりも順位が低かった。国会議員の女性割合は衆院で1割に満たず、岸田内閣の女性閣僚は19人中、2人にとどまる。今回の参院選では女性候補者が戦後初めて3割を超えたものの、与党の消極姿勢が目立った。この現状を「女性のいない民主主義」と表現する政治学者もいる。変えていくには、思い切った政策が求められる。候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」を導入する国は、今や120カ国を超える。日本も検討を始めるべきだ。経済分野は、前年より指数が悪化した。コロナ禍では、多くの国で女性の方が経済的な打撃を受けた。日本は景気回復が遅れたこともあり、働く女性が減ったほか、もともと低い管理職の女性比率が下がった。見過ごせないのは、日本の女性の賃金が男性より22・1%低く、G7の中で最も男女格差が大きいという問題だ。女性管理職の少なさや勤続年数の短さが要因とされる。女性が力を発揮するための環境整備が追いついていない証しといえる。政府は7月、従業員300人超の企業に対して男女の賃金格差の開示を義務付けた。全社員、正社員、非正規社員のそれぞれについて、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を公表させる。実際の数字が出るのは来春以降になりそうだ。賃金格差を「見える化」することで、改善につなげる必要がある。国際的にも企業の男女平等に関する取り組みは重視されている。各企業は、何が女性登用の障壁となっているのかを検証し、職場風土や人材育成のあり方、評価制度などをいま一度見直してほしい。ジェンダー平等は、多様な人の声が反映される社会の第一歩である。格差解消に取り組む政党や企業に対して、有権者や消費者が前向きな評価をすることも重要になる。

*4-3:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022072800040 (信濃毎日新聞社説 2022/7/28) ジェンダー平等 残念な現状をどう変える 【8・7知事選】
 性差による差別をなくすジェンダー平等の実現は、行政施策や企業活動において待ったなしの課題である。女性が男性と対等に意思決定の場に加わるのは当然の権利であり、多様な価値観の反映により政策や事業のゆがみが少なくなる点でも重要だ。今知事選で、候補の金井忠一氏、阿部守一氏、草間重男氏とも男女共同参画に積極的だ。金井、阿部両氏は、男女の役割分担意識の解消や、政策決定への女性の参画を公約に掲げている。積年の課題であり、厳しい時代を切り開く鍵でもある。その道筋を具体的に語ってほしい。組織の中で、意思決定に変化をもたらすために必要な集団の割合は3割とされる。直近のデータから見えてくるのは、3割さえ遠い長野県の残念な現状だ。県職員の管理職に占める女性の割合は1割に満たない。増えてはいるが、全国平均に届かない。民間企業を含めると、女性管理職の割合は全国を大きく下回る。男女共同参画を率先するために、まず県組織から改善に取り組まなくてはいけない。教育現場のジェンダー平等は、子どもの意識に影響を及ぼす点でより大切になる。県内の小学校の女性教員は6割を超え、中学で4割強、高校で3割強。だが管理職となると、小学校で3割に届かず、中学、高校とも1割強にとどまる。女性は指導的な立場に向かないという無言のメッセージになりかねない。県の審議会などの女性委員は、近年4割台で推移している。専門分野の人材を育成し、県が努力目標とする5割を達成したい。地域においても偏りは著しい。女性の公民館長は8%弱。福祉や防災の要となる区長・自治会長は女性が1・5%しかいない。性別による役割分担意識をどう解消していくのか。上意下達や前例踏襲の組織運営など、自治会のあり方そのものを見直す必要がある。県は市町村と連携して実効性ある啓発に取り組んでほしい。金井、阿部両氏が公約に挙げる賃金や雇用の男女格差の是正は、ジェンダー平等の大事な足掛かりになる。女性が多い保育士や介護士の待遇を改善することは、ケア労働に携わる男性を増やすことにもつながるだろう。男性の育児休業の取得促進も、ケアの権利を保障する側面がある。力を入れてほしい。

*4-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA02A7D0S2A600C2000000/ (日経新聞 2022年6月3日) 21年の出生率1.30 少子化対策見劣り、最低に迫る、6年連続低下
 厚生労働省は3日、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が2021年は1.30だったと発表した。6年連続で低下し、出生数も過去最少だ。新型コロナウイルス禍後に出生数を回復させた欧米と比べて対策が見劣りする上、既存制度が十分使われず、支援が空回りしている。このままでは人口減少の加速に歯止めがかからない。出生率は05年の1.26が過去最低。21年の1.30は前年より0.03ポイント低下し、過去4番目に低い。1.5未満が「超少子化」水準で、1.3未満はさらに深刻な状態とされる。出生数は81万1604人と前年比2万9231人減で6年連続で過去最少だった。厚労省は15~49歳の女性人口の減少と20代の出生率低下を理由に挙げる。結婚の減少も拍車をかけた。21年は50万1116組と戦後最少でコロナ禍前の19年比で10万組近く減った。婚姻数の増減は出生数に直結する。コロナ下の行動制限の影響で出会いが減少したことが影響したとみられる。コロナ下で出生数が減る現象は各国共通だが、欧米の一部は回復に向かっている。米国は21年に約366万人出生し7年ぶりに増えた。出生率も1.66と前年の1.64から上昇した。フランスも21年の出生率は1.83で、20年の1.82から上がり、ドイツも21年の出生数は増加する見通しだ。手厚い少子化対策が素早い回復を促した。野村総合研究所のまとめでは、フランスや英国などは不妊治療の費用を全額助成する。日本は長く不妊治療への支援が限定的だった。22年4月から不妊治療への保険適用が始まったが、仕事との両立に悩むカップルは多い。治療しやすい環境が伴わなければ、保険適用の効果は限定的になる。子育て環境の面でもスウェーデンは両親で合計480日間の育休を取得できる。90日は両親それぞれに割り当てられ、相互に譲渡できない。取得しないと給付金を受け取る権利を失う。日本は男性の育休取得率が20年度で12.7%にとどまる。制度を整えるだけで、取得促進が後手に回った。ミスマッチも目立つ。94年の「エンゼルプラン」で仕事との両立や家庭支援など施策に取り組むと表明したが、多くは子どもを産んだ後の支援だった。前段階となる婚姻を促す若年層への経済支援は限定的だった。中京大の松田茂樹教授は「若い世代の雇用対策と経済支援が必要」と話す。結婚に至らない理由に経済的な不安定さがあるといい、「正規雇用でも賃金が不十分な人が多い。若い世代のキャリア形成支援が結婚、出産に結びつく」と指摘する。出生から死亡を引いた自然減は62万8205人と過去最大になった。国立社会保障・人口問題研究所の予想を上回る速さで進む出生減が主因だ。想定以上の少子高齢化が進めば日本の社会基盤が揺らぎ、世界の経済成長に取り残されていく。

*4-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA032RT0T00C22A6000000/ (日経新聞 2022年6月4日) 合計特殊出生率とは 人口維持には2.06~2.07必要
▼合計特殊出生率 1人の女性が生涯のうちに産む子どもの数の平均。15~49歳の女性が産んだ子どもの数を、それぞれの年齢別の人口で割って合算する。専門家によって用法に違いはあるが、1.5未満が「超少子化」とされ、1.3未満はさらに深刻な区分となる。日本は終戦直後は4.0を超えていた。1947~49年生まれの「団塊世代」が20代後半になった75年に2を割り込み、低下傾向が続く。95年に1.5を下回り、05年には過去最低の1.26を記録。近年は1.3台で推移する。人口を維持するには2.06~07が必要とされる。日本は国境を越える人口移動が乏しく、将来の人口規模は出生率でほぼ決まる。先進国を中心に各国も低下基調にある。結婚や出産に対する価値観の変化や子育て費用の増加などが背景にある。ただ保育関連政策を手厚くしたスウェーデンなどは日本より高い出生率を保つ。少子化は将来の人口減に直結する。労働力や経済力の低下を招くほか、現役世代が支える構図の社会保障制度の維持が困難になり、社会全体の活力を低下させる。

*4-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220731&ng=DGKKZO63058800R30C22A7MM8000 (日経新聞 2022.7.31) 出生率反転、波乗れぬ日本、先進国の8割上昇、夫在宅でも妻に負担偏重
 先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した。新型コロナウイルス禍で出産を取り巻く状況がまだ厳しい中で反転した。ただ国の間の差も鮮明に現れた。男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れを変えられていない。経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国のうち、直近のデータが取得可能な23カ国の21年の合計特殊出生率を調べると、19カ国が20年を上回った。過去10年間に低下傾向にあった多くの国が足元で反転した格好だ。21年の出生率に反映されるのは20年春から21年初にかけての子づくりの結果だ。まだワクチンが本格普及する前で健康不安も大きく、雇用や収入が不安定だった時期。スウェーデンのウプサラ大学の奥山陽子助教授は「出産を控える条件がそろい、21年の出産は減ると予想していた。それでも北欧などでは産むと決めた人が増えた」と話す。理由を探るカギの一つが男女平等だ。20年から21年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると相関関係があった。世界経済フォーラム(WEF)の22年版ジェンダーギャップ(総合2面きょうのことば)指数で首位だったアイスランドの21年の出生率は1.82。20年から0.1改善し、今回調べた23カ国で2番目に伸びた。19年まで出生率の落ち込みが大きかった同2位のフィンランドは2年連続で上昇し、21年は0.09伸びて1.46まで回復した。奥山氏は「長い時間をかけてジェンダー格差をなくしてきた北欧では家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく、女性に負担が偏りにくい」と指摘。コロナ禍で在宅勤務が広がるなか「男性の子育ての力量が確認された」という。日本は状況が異なる。「第2子を期待したが諦めた」。埼玉県に住む30代の共働き世帯の女性は肩を落とす。コロナ禍で夫婦とも在宅勤務が増え、夫が家事・育児に加わり2人目の子を持つ余裕ができると考えた。結果は「頼れないことがわかった」。自宅で何もしない夫のケアまで上乗せされ、逆にコロナ前より負担が増えたという。先進国の中でもジェンダー格差が大きい日本と韓国の出生率はいずれも0.03下がった。韓国は出生率0.81と深刻で、日本も1.30と人口が加速的に減る瀬戸際にある。家庭内の家事・育児時間の男女差が4~5倍ある両国は女性の出産意欲がコロナ禍で一段と弱まった恐れすらある。ジェンダー格差とともに少子化に影を落とすのは収入だ。東京大学は男性を年収別のグループで分けて40代時点における平均的な子供の数の推移を調べた。2000年以前は差が小さかったのに対し、直近は年収が低いグループの子供の数が高いグループの半分以下になった。十分な収入を確保できない状況が続けば育児は難しい。共働きで世帯収入を増やすことは出生率を底上げする。先進国で女性の社会進出は少子化の一因とされ、1980年代には女性の就業率が上がるほど出生率は下がる傾向にあった。最近は北欧諸国などで経済的に自立した女性ほど子供を持つ傾向があり、直近5年では女性が労働参加する国ほど出生率も高い。日本は女性の就業率が7割と比較的高いにもかかわらず出産につながりにくい。家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さといった多岐にわたる原因が考えられる。保育の充実といった支援策に加え、男女の格差是正から賃金上昇の後押しまであらゆる政策を打ち出していく覚悟が必要になる。

*4-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220804&ng=DGKKZO63171260U2A800C2MM8000 (日経新聞 2022.8.4) 米下院議長「米台は団結」 25年ぶり訪台、蔡総統と会談、中国、島囲み軍事演習
 ペロシ米下院議長が3日、訪問先の台湾で蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談した。ペロシ氏は「米台の団結を明確にするため訪問した」と述べ、台湾の民主主義を支える考えを強調した。蔡氏は謝意を示し「民主主義の防衛線を守る」と語った。訪問に強く反発する中国は、台湾を取り囲む形で軍事演習に乗り出す。ペロシ氏は3日夜、次の訪問先である韓国に到着した。米下院議長の訪台は1997年のギングリッチ氏以来、25年ぶり。米下院議長は大統領の継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職だ。ペロシ氏は会談で「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と語った。中国本土と台湾が不可分だとする中国の立場に異を唱えないが、台湾の安全保障には関与する米国の「一つの中国」政策を尊重し「台湾への関与を放棄しない」と強調した。蔡氏は「自衛力を高め、台湾海峡の平和と安定に努力する」と述べた。ペロシ氏は会談後の共同記者会見で、米台の貿易協定が近く実現する可能性があるとの見方を示した。台湾積体電路製造(TSMC)などの半導体工場を補助金を出して誘致する米の新法については「米台の経済交流の扉を開くものだ」とアピールした。台湾は先端半導体の生産で世界の9割を占める。台湾メディアは蔡氏が3日開いた昼食会に、ペロシ氏に加え、TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が出席したと報じた。ペロシ氏は2日夜に台北に到着。中国への配慮から滞在を短時間にとどめるとの見方もあったなか、一晩を過ごしたのは台湾が歴訪先の他のアジア諸国と「同格」と示す狙いがあったとみられる。ペロシ氏の訪台を受け中国は猛反発している。王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は3日の異例の談話で「中国の平和的台頭をぶち壊すことは完全に徒労で、必ず頭を打ち付けて血を流す」とペロシ氏を非難した。台湾の国防部(国防省)は3日、中国軍機27機が防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表した。うち22機が台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を、台北に近い北側で越えた。中国人民解放軍は即座に対抗措置に動いた。2日夜から、海空軍やロケット軍、サイバー攻撃を担う戦略支援部隊などが台湾の北部、西南部、東南部の空海域で統合演習を実施している。4日から7日にかけては台湾を取り囲む6カ所で軍事演習を始める。演習場所は複数の箇所で台湾の「領海」と重なるうえ、台湾海峡の中間線上でも実施する。96年の台湾海峡危機の際の演習エリアは4カ所だったが、今回は2カ所増やした。台湾本島から約20キロメートルの空海域も指定されている。主要7カ国(G7)外相は3日、中国の「威嚇的な行動、特に実弾射撃演習や経済的威圧を懸念する」との共同声明を出した。中国による飛行禁止区域設定を受け、ANAホールディングスは、5日と6日の羽田―松山(台北)便について、通常とは別ルートでの対応を検討する。バンコク便や香港便にも影響が生じる可能性がある。日本航空(JAL)も同様の対応をとる。日本郵船は台湾海峡の通航回避を検討するよう注意喚起を出した。

*4-5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220804&ng=DGKKZO63170780T00C22A8EA1000 (日経新聞社説 2022.8.4) 米中は台湾めぐる危機管理の構築急げ
 ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、蔡英文総統との会談で「米国は台湾と団結する」と訴えた。反発する中国は、台湾を取り囲むように6カ所の海・空域を一方的に設定し、4日から軍事演習を予告するなど緊張が高まっている。バイデン米大統領と習近平・中国国家主席が電話協議で意見交換したように、衝突回避こそが最も重要だ。双方は、台湾を念頭に置く危機管理メカニズムの構築を真剣に考えるべきである。米下院議長の訪台は初めてではない。1997年、下院議長だったギングリッチ氏が台北入りし、当時の李登輝総統に会った。中国は反発したものの自制し、半年後のトップ訪米で対米関係を軌道に戻した。今回との違いは、ペロシ氏がバイデン民主党政権の与党幹部で、大統領職の継承順位が副大統領に次ぐ地位にある点だ。当時、野党共和党の重鎮だったギングリッチ氏とは重みが異なるというのが中国側の言い分である。とはいえ、米民主主義の三権分立により、バイデン氏に議会を代表するペロシ氏の行動を止める権限がないのは明らかだ。バイデン氏が「一つの中国政策」維持を明言した以上、中国側は危険な軍事的威嚇に踏み切るべきでない。台湾封鎖を想起させる周辺部での軍事演習が数日間、実施されれば、台湾の人々の対中感情はさらに悪化する。国際的な対中圧力が強まるのは必至で、中国にとっても利は少ない。最近、中国は「台湾海峡は国際水域ではない」と主張し始めた。米側はこれを否定し、国際法上、認められる航行を続ける構えだ。今後は中国軍機が台湾海峡の中間線を無視する行動を頻繁にとる可能性もある。偶発的な衝突がいつでも起きうる状況だ。米中首脳は今こそ、顔を突き合わせた会談で腹を割って話し合う必要がある。見解の相違はあるだろう。それでも欠如している危機管理の仕組みづくりは不可欠だ。まずは11月、インドネシアのバリ島で開く20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)を利用した直接会談が考えられる。米中は、ロシアのウクライナ侵攻でも立場を大きく異にする。両国には率直な対話を通じて、早期の和平に道筋を付ける責任がある。ウクライナと台湾をめぐる問題は、今後の世界経済の安定にとっても極めて重要だ。

*4-5-3:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1002339 (沖縄タイムス社説 2022年8月4日) [米下院議長の訪台]緊張緩和の努力 今こそ
 ペロシ米下院議長の台湾入りをきっかけに、台湾周辺で米国と中国の軍事的緊張が高まっている。中国軍はペロシ氏が訪台した2日夜から台湾周辺で演習や実弾射撃を始めた。これに対し米海軍は、周辺海域に空母打撃群を派遣、台湾軍も警戒態勢を強化するなど軍事的威嚇がエスカレートしている。ペロシ氏は大統領権限の継承順位で副大統領に次ぐ2位の位置付けだ。下院議長による訪台は1997年にもあったが、当時は野党だった。今回は与党で重みが違う。新疆ウイグル自治区などでの中国政府による人権弾圧を批判してきたペロシ氏の訪台計画について、中国は当初から猛反発していた。バイデン大統領もリスクがあることをペロシ氏に直接伝えた。中国軍が訪台阻止を目指して行動に出たり、ミサイル発射など台湾の安定を損なう動きに出たりする懸念を表明したとみられる。訪台の結果、中国軍は台湾を囲む六つの海空域で実弾を使用した軍事演習を予定するなど、さらなる軍事的圧力を強めている。このタイミングでの訪台が適切だったのか。米中両国は、7月末に電話による首脳会談を実現するなど安定した関係を模索していた。しかし今月、ともに国際会議に出席する王毅国務委員兼外相とブリンケン国務長官について中国外務省は「会う予定はない」とした。緊張が高まる今こそ、両国は対話の道を閉ざすべきではない。
   ■    ■
 台湾に近い与那国町では、近海での偶発的な衝突を懸念する漁協が、周辺海域での操業について漁業者らに注意を呼びかけた。演習予定海域については水産庁などから情報提供はあったものの、不安は尽きない。台湾近海での演習は爆発音が聞こえることもあるといい、緊張感が高まる。米軍嘉手納基地では、同基地所属でない外来のKC135空中給油機21機が駐機しているのが確認された。多数の給油機が同時期に集結するのは異例だ。訪台に関係した動きとみられる。中国軍の動きを受けて米軍は、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」の近くに原子力空母ロナルド・レーガンや強襲揚陸艦2隻を配置。艦載輸送機が嘉手納に飛来したのも確認された。米軍基地が集中する県内では有事への懸念が高まり、外来機増加による騒音被害も心配だ。県民の不安と基地負担を取り除く外交努力は、日本政府の責務でもある。
   ■    ■
 台湾を巡る情勢の安定は、アジア太平洋地域の安全保障に直結する。バイデン政権は三権分立制度の下、ペロシ氏の判断で訪台したとして、政府の関係構築とは切り離して対応する方針だ。高まった緊張を緩和し、米中は危機時の連絡体制の確立を急ぐ必要がある。ペロシ氏は4日に来日し、岸田文雄首相との会談も調整している。日本を含む関係国の安全保障に直結する危機であり対話が重要だ。

*4-5-4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E3%81%A4%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%9B%BD (Wikipediaから一部抜粋) 一つの中国
●中華人民共和国が主張する「一つの中国」
 かつて、国際連合安全保障理事会常任理事国であった中華民国は、中華人民共和国と『中国唯一の正統政府である』との立場を互いに崩さなかった。1949年から中華人民共和国側が国際連合総会に「中国代表権問題」を提起し、長きに亘って否決された。しかし、1971年のアルバニア決議後に中華民国が国際連合を脱退、新たに加入し常任理事国となった中華人民共和国が提唱する「一つの中国」の概念が国際社会に宣布された。中国大陸に存在する政権は世界でただ一つだけあって、台湾は中国の一部分であり、中華人民共和国政府が全中国を代表する唯一の合法的政府である。中国大陸と台湾島は一つの中国であり、中国の主権と領土の分割は許さない。現在まだ統一が達成されていないことに、双方は共に努力すべきで、一つの中国の原則の下、対等に協力し、統一を協議する。一つの国家として主権と領土の分割は認めず、台湾の政治的地位は一つの中国を前提として一国二制度の適用を検討する。2005年には、台湾「独立」阻止を念頭に反分裂国家法を制定した。2022年現在はこの原則により、中華人民共和国と国交を結ぶ国は中華民国と正式な国交を結ぶことができない。また、中華民国と正式な国交を結ぶ場合は、中華人民共和国と断交しなければならない。
●中華民国の反応
 中華民国も過去に「中国を代表する政府は、中華民国である」との立場から「一つの中国」政策を打ち出していた。
○蔣介石時代
 蔣介石は双十協定で分裂の解消に失敗してから国共内戦の延長としてしか両政府の関係を定義できず、「漢賊不兩立 (漢賊並び立たず)」との主張を繰り返した。アメリカや日本から「二つの中国」を検討するよう説得されても、反発し続けた。しかし1960年代を中心に相次いだアジア・アフリカ諸国の独立により、国際連合の中国代表権をめぐって中華人民共和国を支持する国が増加していた。アメリカのリチャード・ニクソン政権は、「中国代表権と安全保障理事会常任理事国の地位を放棄して、一般の加盟国として国連に残る」という道を蔣介石に勧めた。しかし蔣介石が妥協しなかった(あるいはアメリカの最後通告の後に妥協を決断したが、遅過ぎて間に合わなかったとの説もある)ため、1971年に国連における「中国代表権」を失った(いわゆるアルバニア決議)。また、国内的には、中華民国憲法の本文を形式上維持しつつ、中国大陸で選出された国会議員の任期を無期限に延長することで、中国の正統政府であることを誇示しようとした(「法統」)。
○蔣経国時代
 中華人民共和国の鄧小平は改革開放政策を打ち出し、毛沢東時代のように資本主義の中華民国を敵視せず、「台湾解放」という従来の姿勢を転換し、「平和統一」「一国二制度」を呼び掛け始めた。しかし、当時の中華民国政府は、強権的だった蔣介石の死後、重しがとれたことで民主化要求が抑え切れないという不安定な状況にあった。そのため、蔣経国総統は中華人民共和国の呼びかけに応えることをためらい、「不接觸、不談判、不妥協的(接触しない、交渉しない、妥協しない)」という「三不政策(三つのノー政策)」を掲げた。その一方で、敵対政策を転換する必要性も徐々に認識され、老兵(中華民国国軍の退役兵士)の要請を受けて中国大陸の家族・親戚を訪問することも解禁して密使の沈誠を北京に派遣して大陸部工作指導チーム設置などを指示した。
○李登輝時代
 1990年以降、基本方針は大きく変化していく。1990年には行政院大陸委員会と海峡交流基金会と国家統一委員会が設置され、1991年に国家統一綱領を定める。「一つの中国」の意味を曖昧にしつつ、「法統」を放棄して事実上の法理独立、つまり憲法改正と民主化へ歩みだした。しかし「一つの中国」を原則として否定もできなかったため、中華民国憲法増修条文には「統一前の需要により、憲法を以下のように修正する」との一文を前文に挿入した。1999年の李登輝総統による「特殊な国と国の関係」発言に至ると、中華人民共和国側はこれを「両国論(二国論)」と呼び、「一つの中国」を放棄したものと解釈して強く反発した。

<日本のインフレ政策も文系男子の発想>
PS(2022年8月8日追加):*5-1は、①現在の物価上昇は過去と比較して幅広い品目が値上がりしているが、上昇率は6月に9.1%の米国、8.6%のユーロ圏と比較して低水準 ②デフレ脱却には物価・賃金とも安定的に上昇していくことが必要 ③課題は労働生産性向上だが、実質賃金の伸びは労働生産性の伸びを下回っている ④企業収益が高水準で個人消費・設備投資は持ち直しているため、日本経済は「スタグフレーション」ではない ⑤ロシアのウクライナ侵攻による資源高等で日本の物価上昇率は6月までの3ヶ月連続で2%を超えたが、2006~2008年頃と比べると家電・住宅設備等が幅広く値上がりしている ⑥総体としてデフレ脱却に向けて十分とは言えず ⑦国内では中小企業の価格転嫁が遅れて輸入インフレに留まり ⑧GDPデフレーターは、米国では既にプラスに転じたが、日本はマイナス続きで「需給ギャップ」が2021年もマイナスのまま ⑨白書は「外的要因に起因する一時的物価上昇ではなく、企業収益改善が賃金上昇に繋がり、個人消費や設備投資が増加する中で経済全般の需給が持続的に改善していく好循環を実現する必要がある」「企業が賃金を決める際に、物価上昇や労働生産性の伸びなどのマクロ経済動向を重視していないことが懸念」とした と記載している。
 このうち①は、前にも述べたとおり、米国・ユーロ圏は経済成長した結果として賃金が上昇したため、そうでない日本の物価上昇率を米国やユーロ圏と単純に比較して低水準だとするのは生活者の視点がなく、これは、家計を妻に任せきりにしている日本人男性の欠点である。また、生活者視点の欠如によって、②⑥⑦のように、デフレ脱却(=インフレ)や価格転嫁自体を目標とする政策を採っているのも、経済学的に正しくない。なお、③はまあ正しいが、労働生産性以上の賃金を支払うと、企業は持続可能でなくなる。④については、現在の日本は⑤の資源高等によるコストプッシュインフレで輸入インフレの状態であるため、国富が外国に流出し、個人消費が次第に落ち、それに伴って設備投資も減るのは、再エネ設備導入などのイノベーションを推進する新規設備投資でもなければ時間の問題である。また、⑧のGDPデフレーターが米国はプラスに転じたのに、日本はマイナス続きなのは、コロナ禍でも米国はワクチン・治療薬の開発を行って世界に販売し収入に結び付けたのに対し、日本は経済を停止し、ワクチン・治療薬を輸入することしかしなかったからである。そして、このような1つ1つは小さな事象の連続が、⑨の日本で「企業収益改善→賃金上昇→個人消費・設備投資増加→需給ギャップ改善」とならない理由なのである。つまり、ミクロ経済とマクロ経済は別物ではなく、ミクロの多変数の行動が積分され集積したものが、マクロ経済を形作るのだ。
 さらに、*5-2は、⑩4月の物価上昇率は2.1%になったが、主因はウクライナ危機が影響する資源高で賃金上昇を伴う経済の好循環が物価を安定的に高める流れではない ⑪高インフレが続く米欧と異なり、日本の物価上昇は長続きしないとの見方が市場で多い ⑫デフレ下では企業の売り上げが伸びず、賃上げ・設備投資に慎重になって経済が停滞する悪循環に陥る ⑬デフレ脱却は経済・金融政策の大きな目標で ⑭総務省が発表した4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年同月比2.1%上昇し、エネルギーの上昇率が19.1%で全体を1.38%押し上げ、電気代上昇率は21.0%、ガソリン代上昇率は15.7%だった ⑮食料品は全体で4.0%上昇し、食料油の上昇率36.5%が目立つ ⑯照明器具(11.3%)、電気冷蔵庫(16%)などインフレの波は全般に及びつつあるが ⑰企業が原材料価格高騰を販売価格に上乗せしにくく、日本経済のデフレ体質は根深い 等を記載している。
 しかし、⑩⑪⑬は物価を上昇させ“デフレ脱却”させること自体を目的としている点で、中央銀行は役割を放棄しており、政府も正しい経済政策を採っていないと言わざるを得ない。また、⑫もデフレだから企業の売り上げが伸びないのではなく、自由貿易の下で必要とされるものを世界競争に勝てる価格で作って売らないから売り上げが伸びないのであり、その結果、賃金も上げられないのである。そのような中、⑭⑮のように、必需品のエネルギーや食料が物価上昇しているのだから、消費者はそれらを優先して買わなければならない結果、⑯も買い控えが起こり、⑰のように、企業は原材料価格高騰を販売価格に上乗せすれば売り上げが落ちるため価格を上げにくいという状況になっているのである。つまり、他国は待っていてくれないため、正攻法で経済を活性化させなければ、長期的には破綻するしかないということなのだ。

*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220729&ng=DGKKZO63008780Z20C22A7MM0000 (日経新聞 2022/7/29) 経済財政白書 脱デフレ「賃上げ必要」、物価上昇、品目幅広く
 山際大志郎経済財政・再生相は29日の閣議に2022年度の経済財政報告(経済財政白書)を提出した。今の物価上昇局面は過去に比べ幅広い品目が値上がりしていると分析した。それでもインフレ圧力は米欧より弱い。「デフレ脱却には物価と賃金がともに安定的に上昇していくことが必要」と指摘し、労働生産性の向上を課題にあげた。白書は、日本経済について不況下で物価上昇が進む「スタグフレーション」には陥っていないとの見方を示した。「企業収益が高水準にあり、個人消費や設備投資は持ち直しの動きが続いている」ことなどが理由だ。足元のインフレは海外や過去の局面と比較、検証した。ロシアのウクライナ侵攻で拍車がかかった資源高などにより、日本の物価上昇率は6月まで3カ月連続で2%を超えた。消費増税の影響を除けば約30年ぶりの伸びだ。同様に資源高だった06~08年ごろと比べると、今は家電や住宅設備などが幅広く値上がりしているのが特徴という。1年前より価格が上がった品目数の割合から下がった品目数を引いた割合は22年5月に45%に達した。前回局面は最高でも32%だった。総体としては「デフレ脱却に向けて十分とはいえない」と評価した。物価上昇率は6月に9.1%の米国、8.6%のユーロ圏に比べるとなお低水準にある。国内では中小企業の価格転嫁が遅れて「輸入インフレにとどまっている」と分析した。政府が脱デフレの判断で消費者物価と並ぶ材料に位置づける指標は低迷している。国内の幅広いモノやサービスの値動きを示す「国内総生産(GDP)デフレーター」はマイナス続きだ。経済の需要と潜在的な供給力の差である「需給ギャップ」は21年もマイナスのままだった。米国は既にプラスに転じている。賃金動向を示す単位労働コストは米国が21年10~12月期に前年同期比4.5%上がったのに対し、日本の伸びは0.5%にとどまる。賃金はスタグフレーションの回避や脱デフレに向けたカギを握る。白書は「外的要因に起因する一時的な物価上昇ではなく、企業収益の改善が賃金上昇につながり、個人消費や設備投資が増加する下で経済全般の需給が持続的に改善していく好循環を実現する必要がある」と説く。実質賃金の伸びは2000年以降、労働生産性の伸びを下回る。投資によって生産性をより高めつつ、生産性に見合った賃金上昇も進めるには、省エネルギーの取り組みなど経済構造の転換も求められる。白書は、企業が賃金を決める際に物価上昇や労働生産性の伸びなどマクロの経済動向を重視していないことに懸念を示した。「データやエビデンスを踏まえ、適正な賃上げの在り方を官民で共有していくことが必要」と訴えた。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20220729&be=NDSKDBDGKKZO6100395021052022EA4000・・・ (日経新聞 2022/5/21) 需要不足、脱デフレの壁、4月物価、7年ぶり2%上昇 資源高が押し上げ
 4月の物価上昇率が2.1%となり、7年1カ月ぶりに政府・日銀の2%目標に達した。主因はウクライナ危機も影響する資源高だ。政府が脱デフレの目安として重視する需要の強さは不十分で、賃金上昇を伴う経済の好循環が物価を安定的に高める流れにはなっていない。高インフレが続く米欧と異なり、国内は物価上昇が長続きしないとの見方が市場では多い。デフレ下では企業の売り上げが伸びにくい。賃上げや設備投資に慎重になり、経済が停滞する悪循環に陥りやすい。デフレ脱却は経済・金融政策の大きな目標だ。総務省が20日発表した4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年同月に比べ2.1%上がった。2%に乗るのは消費増税の影響があった2015年3月(2.2%)以来となる。エネルギーの上昇率は19.1%に達し、全体を1.38ポイント押し上げた。電気代は21.0%、ガソリンは15.7%上昇した。ロシアのウクライナ侵攻で原油や天然ガスなどの供給不安が高まっている。エネルギー価格が上がると輸送費の高騰などで他品目も値上がりしやすい。食料品は全体で4.0%上昇し、7年1カ月ぶりの伸びとなった。食料油(36.5%)などが目立つ。照明器具(11.3%)や電気冷蔵庫(16%)などインフレの波は全般に及びつつある。結果としてインフレ率は2%に到達した。経済の現状を点検するとデフレ脱却を果たしたとは言い切れない姿が浮かぶ。政府は脱デフレの目安として4指標を重視してきた。そのひとつが消費者物価で、今回ようやく目標の2%に達した。他の3指標(GDPデフレーター、需給ギャップ、単位労働コスト)は十分に上向いていない。GDPデフレーターは、消費者物価だけでなく、企業の設備投資や公共投資なども含む国内総生産(GDP)ベースの総合的な物価の動きを示す。22年1~3月期まで5期連続のマイナスとなった。日本経済新聞が民間エコノミスト10人に聞いたところ、全員が4~6月期もマイナスが続くとの見方だった。輸入価格の上昇分の転嫁が十分に進まなければマイナスになる。企業が原材料価格の高騰を販売価格に上乗せしにくい状態を示しており、マイナス基調は日本経済のデフレ体質の根深さを映す。需給ギャップは労働力や設備の量など経済の潜在的な供給力を需要が上回ればプラス、下回ればマイナスになる。家計や企業が旺盛に消費や投資に動く活況ならプラスに、逆に皆が節約志向になるような状況ならマイナスになりやすい。内閣府の直近の21年10~12月時点の推計では3.1%減、金額にして10兆円を超す需要不足(マイナス)の状態にある。国際通貨基金(IMF)は日本は22年通年でマイナスとの見通しを示している。高インフレの米国などがプラスで推移しているのとは対照的だ。単位労働コストは国全体の賃金の動向を示す。22年1~3月期まで2期続けて伸び率はゼロ%台にとどまる。日本経済は1990年代からの経済の低迷でデフレがしみつき、先進国でも突出して物価が上がらない状態が続いてきた。家計は将来、モノの値段が上がるという見通し(インフレ期待)を持ちにくく、企業はそうした消費者心理を踏まえて値上げに及び腰になる。その循環でインフレがなかなか定着しない。物価上昇が2%の節目を超えた今回も需要不足などの壁は厚いままだ。市場では原油高などが落ち着けば物価は再び低迷するとの見方が多い。日本経済研究センターがまとめたESPフォーキャスト調査によると、23年の物価上昇率は再び0%台に逆戻りする。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏は「物価の上昇は定着しない。資源価格高や円安などを理由とした物価上昇であり、いずれ押し上げ効果は一巡する」と話す。

<経済学も総合的学問で、理系に適すること>
PS(2022年8月10、11日追加):*6-1-1・*6-1-2・*6-2は、①東工大・東京医科歯科大が国内トップクラスの理工・医療分野の研究力を融合させ ②政府が年間数百億円を支援する「国際卓越研究大学」の指定を目指し ③その背景には、2022年のアジア大学ランキングでトップ10に入ったのは東大(6位)のみで、日本の大学の国際評価は下落傾向という大学側の危機感もあり ④統合手法としては、両大学を一つにする方式・運営法人のみを統合する方式が想定され ⑤東工大と東京医科歯科大の「医工連携」が実現すれば医療機器開発力などの向上が期待でき ⑥「科学技術指標2021」では自然科学系の注目度の高い論文数で日本は過去最低の10位と、日本の研究活動の国際的地位の低下が進んでいることが浮き彫りになった と記載している。
 生物学等の理論が飛躍的に進歩している中、③⑥は経済成長を妨げる深刻な事実で、日本は一般の産業と比べて特に医療機器や薬剤の開発が遅れているが、これは専門分野を細かく分けて多様な分野からのアプローチを阻害しているために起こる面がある。そのため、①②⑤の選択は正しいと思うが、目的を達成するには、④は、両大学の運営法人のみでなく、通学する場所や講師陣も統合して、学生や研究者が自由に交流し情報交換できるようにした方が効果的だ。
 ただ、日本で遅れているのは医歯薬工学だけでなく経済学もであり、*6-3は、⑦円安・ドル高は米国の金融引き締めで起こり ⑧前に米国を高インフレが襲った1970~80年代の経験も踏まえると、「不況下のドル高」になる可能性があり ⑨米国のインフレが鎮まらなければ、行き過ぎた金融引き締めが急激な景気後退に繋がって世界的金融不安に陥る事態もあり ⑩日銀は打つ手が限られる中、金融緩和に迫られているため ⑪日本の金融政策も米国のインフレ次第 等と記載している。
 つまり、日本の経済学は、⑦⑨⑩のように、“経済の専門家”とされる人の視界に入らない事象は一定である与件と仮定し、欧米の経済学者が過去に欧米企業の行動や欧米消費者の行動を基に作った“公式”をあてはめてものを考え、現実との接点は、⑧のように、歴史に求めているだけなのだ。しかし、本当は、一定であると仮定されている事象は、地球環境の制約・人口からの制約・化石燃料の制約・食糧の制約・世界的大競争の始まり・太陽光発電の発明・地殻変動への認識・宇宙や生物学に関する著しい理論的進歩等によって大きく変化しているため、これらを一定と仮定して論じると、⑩⑪のように政策作成上の大きな間違いを犯したり、チャンスを逃したり、論文なら世界では相手にされなかったりする。そのため、何かの要素が変化した場合の他の要素の変化率を調査で求め、その要素を変化させた場合の他の変化を多変量解析(https://www.intage.co.jp/glossary/056/ 参照)でコンピューターを使って予測することが必要なのだが、これは理工系の素養があって初めてできることなのだ。従って、合併後の新大学には、理系の試験で合格者を決める経済学の研究分野も創設したらいかがかと思う。
 なお、イノベーションには、*6-4-1のような3Dプリンターによってコストダウンした住宅建築で安価な住宅を提供したり、*6-4-2のような新築建物に太陽光パネルの設置を義務化して電気料金を安くしつつ環境維持を図るような賢いものが多いため、景気は単純に循環するのではない。そして、そのような賢いイノベーションは、課題を総合的に解決するというミッションから生まれるため、まずは課題を総合的に把握できることが重要なのだ。
 このような中、日経新聞は8月11日、*6-5のように、⑫東工大と東京医科歯科大は、一橋大・東京外語大と4大学連合を結んでいる ⑬両大学トップは統合の未来像や間接部門を効率化する組織の在り方など改革の工程表を語ってほしい ⑭工学系・医学系の学生がともに医療用ロボットなどの先端技術の基礎を学び、研究者を育てる試みだ ⑮どこを改善すれば長寿社会を支える世界水準の「医工連携」を実現できるのか ⑯国立大の基盤的経費である運営費交付金や私学助成は頭打ちの傾向にある ⑰研究力を底上げするために政府は国公私立の設置形態を超えた連携や再編を促しているが、必ずしも国際競争力強化に繋がっていない ⑯世界に目を向ければ研究者による論文引用回数の上位ランキングで中国が台頭し、日本は大きく順位を落としている ⑰有力大の統合構想の課題を検証する機会ともしたい と記載した。
 私は、⑫のように4大学連合を結んでいるのなら4大学とも統合して総合大学にすれば、法律・経済・外国語も選び抜かれた教授陣にすることができると思う。また、学生は教養時代は同じキャンパス、専門に進んでから別のキャンパスに通うことにすれば現在の建物もかなり利用できる。さらに、東京外語大とも合併するのなら、東京外語大の中に学科をすべて英語で学べるコースを作れば留学生を受け入れ易く、将来留学したい日本人学生も受け入れることができる。明治時代とは異なり、現在は外国語だけできれば仕事ができるという職種は少なく、外国語(特に英語)を使ってビジネスや研究をしなければならないことが多いため、そのニーズは多いだろう。
 また、⑬⑯については、1つの大学になれば間接部門は1つでよいため、異なる場所はクラウドで管理しながら人員削減は可能で、東工大を中心としたチームを作って最小の人数で現在以上のサービスができるシステムを作れば、それは他大学や他産業でも使うことができる。また、⑭⑮については、ロボット化だけでなく、東工大・一橋大のチームが協力して東京医科歯科大の診療システムを「診療→カルテ記載=請求書・処方箋発行=会計処理」のように、医師が電子カルテを記載すれば同時に会計処理まですべてできるシステムを作れば、会計処理が正確になって監査にかかる時間や監査費用を抑えられる上、そのシステムは他大学や民間でも使用することができる。さらに、日本は検診や検査が普及しているため検査機器の開発は重要だし、検査結果から医師に対して病因の候補リストを出すところまではコンピューターでできる筈だ。最後に、⑯⑰については、誰にとっても役立つものを作って特許を取得すれば運営費や大学発奨学金の足しになるし、世界が注目するニーズの高い研究をすれば国際競争力は自然とつくものである。

    
2020.8.7日経新聞 2021.10.1毎日新聞 2022.8.10産経新聞 2022.1.24Yahoo 

(図の説明:1番左の図のように、主要国のうち中国の研究論文数は等比級数的に伸びているが、これは中国が生産基地になっていることと積極的に優秀な研究者を招聘していることによる。また、左から2番目・3番目の図のように、引用数の多い論文数でも中国は飛躍的に伸びており、日本は順位を下げ続けている。その結果、日本の世界に対する貿易収支は、1番右の図のように、研究も生産も振るわないことから近年は赤字の年が多い)

*6-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220809&ng=DGKKZO63286020Y2A800C2EA1000 (日経新聞 2022.8.9) 東工大・医歯大、統合協議へ、10兆円ファンドの支援対象「卓越大学」指定めざす
 東京工業大と東京医科歯科大が統合へ向けた協議を始める。国内トップクラスの理工・医療分野の研究力を融合させ、政府が「10兆円ファンド」の運用で年数百億円を支援する「国際卓越研究大学」の指定を目指す方針だ。日本の大学の国際評価は下落傾向にあり、統合協議の背景には大学側の危機感の高まりもある。関係者によると2大学の法人を統合して1つの大学となり、名称も変更する案が浮上している。2大学は教育環境や研究力が国内最高水準にあるとして文部科学省が特別に支援する「指定国立大学法人」で、指定国立大同士の統合は実現すれば初めてとなる。1881年設立の東京工業大は大学院を含め約1万人の学生がいる。2030年までに世界トップ10の理工系総合大学となる目標を掲げている。東京医科歯科大は1928年設立で学生数は約3千人。新型コロナウイルスのゲノム解析などで国内の研究をリードしている。統合の狙いの一つは国際卓越研究大学への指定だ。選ばれると10兆円規模の大学ファンドの運用益をもとに1校あたり年数百億円の支援を受ける。高い研究力や年3%の事業成長を条件に公募され、23年度にも最初の支援先が決まる。東工大は理工系で国内トップクラスの研究力をもつが「卓越大に選ばれるためには研究分野が広くない点が弱み」(文科省幹部)という指摘があった。東京医科歯科大との「医工連携」が実現すれば、医療機器開発力などの向上が期待できる。統合は経理や人事といった管理部門の効率化にもつながる。日本の大学の国際評価は伸び悩んでいる。英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)による22年のアジアの大学ランキングでトップ10に入ったのは東大(6位)のみだった。THEは「日本の全体的な順位が下落傾向にある」と指摘した。大学内では「国際競争力の低下は研究費や優秀な人材獲得に大きなマイナス」(国立大元学長)という懸念が強い。少子化が進むなかで大学の再編・統合や機能強化を求める声も強まっている。国は1つの大学法人が複数の大学を運営できるように19年に国立大学法人法を改正。名古屋大と岐阜大が20年に運営法人を統合させた例などがある。

*6-1-2:https://www.sankei.com/article/20220808-UVNWDVTP5JPXRBZJIT3KOWB5MY/?outputType=theme_nyushi (産経新聞 2021/8/8) 東工大と東京医科歯科大が統合に向け協議へ
 東京工業大と東京医科歯科大が統合に向けた協議を始めることが8日、関係者への取材で分かった。いずれも国立大で、理工系と医療系の国内トップレベルの研究力がある両大学が統合することで、政府が年間数百億円の資金を支援する「国際卓越研究大学」の認定を目指す方針という。関係者によると、両大学は近く、統合に向けた協議を始める方向で調整している。統合の手法としては、両大学を一つにする方式や、運営法人のみを統合する方式などが想定されているとみられる。両大学はいずれも国内最高水準の研究力があるとして特別に国が支援する「指定国立大」に指定される10大学の一つ。指定国立大学同士が統合した例は過去にない。取材に対し、東京工業大は「現時点では、公表できる内容はありません」、東京医科歯科大は「現段階ではお答えする内容はございません」と回答した。両大学のホームページによると、東京工業大は創立から約140年の歴史がある理工系の総合大学。東京都目黒区や港区、横浜市緑区にキャンパスがあり、大学生と大学院生の計約1万500人が学んでいる。東京医科歯科大は昭和3年に「東京高等歯科医学校」として設置された。東京都文京区などにキャンパスがある。

*6-2:https://www.sankei.com/article/20210810-4MMXUCZJZFOWPPJ4SL2EIEVE24/?outputType=theme_nyushi (産経新聞 2021/8/10) 日本の注目論文は過去最低10位 国際的地位低下
 文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は10日、日本などの世界主要国の科学技術に関する研究活動を分析した「科学技術指標2021」を公表した。自然科学系の注目度の高い論文数で日本は前回から順位を1つ下げて過去最低の10位となり、日本の研究活動の国際的地位の低下が進んでいることが改めて浮き彫りになった。同研究所は2017~19年の3年間に、科学誌に掲載された自然科学の論文数を分析。他の論文に多く引用される注目度の高い論文を示す指標「Top10%補正論文数」を算出した。論文は国をまたいだ複数の研究者の執筆による国際共著が多いため、国ごとの論文への貢献度に対応して数値を補正している。それによると、対象期間の1年あたりの平均で日本は3787本の10位。前回(16~18年)の9位から順位を下げ、10年前(07~09年、5位)に比べても大きく後退している。また、全論文数で日本は今回4位で、10年前の3位から下がった。今回の1年平均は6万5742本で、10年前の6万5612本からほぼ横ばいだが、世界各国の論文数は増加傾向にあり、日本のシェアが低下している。逆にこの10年間での中国の台頭が顕著で、「Top10%補正論文数」、全論文数ともに米国を抜いて1位となった。研究者数では日本は3位の68万2千人(20年)で、前年比0・5%増。一方で中国は210万9千人(19年)と1位で、前年比でも13・0%増と成長を続けている。19年の研究開発費は米国が68・0兆円で首位。中国54・5兆円、日本18・0兆円と続くが、対前年比では米国8・2%増、中国12・8%増に対し、日本は0・5%増とこちらも停滞がみられる。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220809&ng=DGKKZO63278640Y2A800C2ENG000 (日経新聞 2022.8.9) 不況下のドル高、再来か、日銀、消えぬ円安リスク
 円安・ドル高の流れは再び強まるのか。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ減速を先読みして一服していたが、FRBは根強いインフレ圧力を前に景気を犠牲にしてでも金融引き締めを続ける覚悟だ。前回、高インフレが米国を襲った1970~80年代の経験も踏まえると「不況下のドル高」になる可能性がある。日銀を苦しめる円安再燃のリスクは消えない。7月に1ドル=139円台と約24年ぶりの安値をつけた円相場。8月に入り130円台まで上げたあと、5日は7月の米雇用統計で労働市場の過熱が鮮明になると円売りが膨らみ、一時135円台に戻した。7月下旬にパウエルFRB議長が利上げ減速に言及すると米長期金利が低下し円高・ドル安圧力がかかったが、流れに変化もみえる。FRBはインフレ鎮圧まで引き締めをやめるつもりはない。求人数の伸びはやや鈍ったが、なお失業者数の1.8倍に及ぶ。このギャップが賃金に強い上昇圧力をもたらし、サービス価格を押し上げる。景気を冷やして求人を減らさない限り、インフレは収まらない。FRBは景気の軟着陸を主張するが、サマーズ元財務長官や国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミスト、ブランシャール氏は「大量の失業を伴わずに求人を減らせる可能性は極めて低い」として不可能だと断じる。米大統領経済諮問委員会(CEA)のファーマン元委員長はインフレ率を1ポイント押し下げるのに失業率を年5ポイントほど上げる必要があるとはじく。問題はもはや「景気が軟着陸するのかどうか」ではなく「景気後退はどの程度ですむのか」に移りつつある。景気停滞と高インフレが併存するスタグフレーションも現実味を帯びる。ドルはどう動くのか。70~80年代の米国のスタグフレーション期を振り返ろう。70年代を通してドルは低位で推移した。金とドルの交換停止を表明した71年のニクソン・ショックの余韻もあった。当時のFRBは物価上昇が鈍りそうになるとすぐに利上げの手を緩め、インフレの根治につながらなかったことも影響した。状況が変わったのはボルカー氏がFRB議長に就いた79年以降だ。悪性インフレの退治へ猛烈な金融引き締めに動いた。政策目標を金利から資金量に切り替えて市場へのマネー供給を絞り、短期金利を急騰させた。ドルの主要通貨に対する強さを示すドル指数(名目実効為替レート)は反転し、80年と81~82年に景気後退を経験しつつも上昇を続けた。前年同月比でみると、ドル指数の上昇率と短期金利はピークがほぼ重なる。米ゴールドマン・サックスによると、伝統的な理論では高インフレは通貨価値を下げるのが定説だという。ただし市場が中央銀行のインフレ制御能力を信じる場合、短期的には利上げ予想がインフレ率と通貨に正の相関を生む。ボルカー時代の米国はまさにこのケースに当てはまる。ドル高はインフレ鎮圧後も「強いアメリカ」を掲げたレーガノミクス下で続き、やがてドル高是正を狙った85年の「プラザ合意」へとつながる。今回のFRBの金融引き締めの勢いはすでにボルカー期以来の強さだ。80年代ほどではないにせよ、ドル高が続く可能性は十分にある。消えない円安リスク。日銀には資源高が収まれば問題ないという空気もある。日本の場合、物価高の主因は資源高であり、あくまで円安は「添え物」だからだ。だが、日本は米国などよりも原料高が国内価格に反映されるまでに時間がかかる。みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は「少なくとも今後半年分くらいは過去の資源高を反映する値上げのパイプラインが残っている」と語る。欧州のエネルギー危機が日本に及ぶリスクも残り、円安は物価高と絡み頭痛の種であり続ける。米国のインフレが鎮まらなければ、行き過ぎた金融引き締めが急激な景気後退につながり、世界的な金融不安に陥る事態もありうる。世銀は「70年代のスタグフレーションからの回復には先進国の急激な利上げを必要とし、新興・発展途上国の金融危機を引き起こす主因となった」と警戒する。この場合も、米国へのマネー還流を背景にドル高は続きそうだ。ただし投機的な円の売り持ち高も解消され、円に関しては対ドルで上昇に転じる可能性もある。日銀は今度は打つ手が限られるなか金融緩和に迫られる。日銀の黒田東彦総裁はこのまま静かに来年4月までの任期を終え、2%インフレの持続的な達成を後進に託したいのかもしれない。円安を「ドルの独歩高」のせいだとして静観した黒田氏。金融政策の行方もまた、米国のインフレ次第だ。

*6-4-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1564303.html (琉球新報 2022年8月10日) 3Dプリンターで住宅建築 新興企業「車を買える値段で」
 兵庫県西宮市の新興企業「セレンディクス」が、3Dプリンターで造るコンクリート製の小型住宅を発売した。24時間以内の完成が可能で、価格は330万円。グランピング施設や災害時の仮設住宅などとしての活用を想定する。将来は「車を買える値段で住宅を提供し、人類を住宅ローンから解放したい」との理想像を描き、さらなる研究開発を進めている。同社は電気自動車(EV)のベンチャー企業の創業経験を持つ小間裕康社長(45)と、東南アジアで高級コンドミニアム建築を手がけていた飯田国大最高執行責任者(COO)(49)が「世界最先端の家を造ろう」と意気投合し、2018年に設立した。

*6-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220809&ng=DGKKZO63267220Y2A800C2L83000 (日経新聞 2022.8.9) 太陽光パネル義務化を最終答申
 東京都の環境審議会は8日、新築建物への太陽光パネルの設置義務化などを含む環境確保条例の改正に関する最終答申をとりまとめた。2030年までに温暖化ガスの排出量を00年比で半減する「カーボンハーフ」の達成に向け、再生可能エネルギーの普及や省エネの加速などを求めた。最終答申を受け、都は条例改正に向けた基本方針を9月上旬メドに策定する。

*6-5:ttps://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220811&ng=DGKKZO63367100R10C22A8EA1000 (日経新聞社説 2022.8.11) 国際競争力高める大学統合に
 国立大学法人の東京工業大と東京医科歯科大が、統合に向けた協議を始めると発表した。早ければ、2024年春の統合実現を目指すという。両大学は世界の有力大学と競い技術革新のけん引役を担う「指定国立大」に選ばれている。起債などの経営裁量が与えられた指定国立大同士の統合構想は初めてだ。それぞれが強みを持つ工学、医学の学際的な研究を深化させ、将来その成果を広く社会に還元してほしい。国際競争力を高める大学の統合・再編の先駆事例となることを期待したい。今回の統合協議の背景には、政府の10兆円規模の「大学ファンド」の創設があるとされる。運用益を研究力に秀でた大学に傾斜配分する仕組みだ。だが、ファンドの支援対象になることだけが統合の目的ではあるまい。両大学は一橋大、東京外国語大と4大学連合を結んでいる。その一環として「医用工学コース」を開設した。工学系、医学系の学生がともに医療用ロボットなどの先端技術の基礎を学び、研究者を育てる試みだ。これまでの連携の成果と課題は何なのか。どこを改善すれば長寿社会を支える世界水準の「医工連携」を実現できるのか。両大学のトップは、統合の未来像や間接部門を効率化する組織の在り方など改革の工程表を語ってほしい。近年、国立大の基盤的経費である運営費交付金や私学助成は頭打ちの傾向にある。大学ファンドは財政投融資などを原資に、卓越した研究大学に限って資金を配分する。各大学が配分の査定指標となる研究実績を競い合う構造だ。一方、世界に目を向けると研究者による論文の引用回数の上位ランキングで中国が台頭し、日本は大きく順位を落としている。研究力を底上げするために政府は国公私立の設置形態を超えた連携や再編を促している。だが、必ずしも国際競争力の強化につながっていない。有力大の統合構想の課題を検証する機会ともしたい。

<安全保障と財源・産業など>
PS(2022年8月14、15日):*7-1は、①政府は2023年度予算概算要求基準を閣議了解し、防衛費の扱いについては「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定に合わせ、年末までの予算編成過程で検討するとしたが ②少子化をはじめ社会保障、脱炭素など予算を割くべき優先課題は山積し ③財源が限られて安易な借金頼みは許されないため ④防衛費の増額には冷静な議論を求めたい ⑤一方、政府は6月には「骨太方針」に「5年以内の防衛力抜本強化」を盛り込み、自民党はNATOと同じGDP比2%以上を掲げて大幅な国防予算の上積みを求め ⑥各省庁による要求総額が9年連続100兆円超の緩さで予算の膨張が強く懸念される 等としている。
 日本政府は賢くないバラマキを繰り返してきたため、②③⑥のように、9年連続で100兆円超の歳出を行っても経済は盛り上がらず、国民生活も不安だらけで、借金だけが積みあがった。その最たるものは、生産性を向上させるのではなく破壊力を向上させる防衛費だが、④⑤のように憲法も状況も異なるNATOと同じならよいという増額では機能しないため、私も冷静な議論を行って必要最小限にして欲しいと思う。何故なら、防衛装備にだけNATOと同じ金額を支出しても、*7-2-1・*7-2-2のように、食料自給率が38%しかなく(それも肥料・農薬・農機具は輸入品?)、「食料の潜在生産能力」は太平洋戦争時と同様にイモ類を中心に作付した場合に限って満腹感だけは得られるという程度で(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012_1.html 参照)、エネルギーも殆ど輸入であれば、①のような議論をして武器だけ増やしても決して戦争はできず、無駄遣いが増えるだけだからである。
 また、日本では、原油・天然ガス等化石燃料価格上昇・エネルギー自給率向上・脱炭素等を名目にして「安全が確認された原発の再稼働を急ぐべき」という原発再稼働推進が行われているが、*7-3-1は、⑦地震大国の日本で原発の耐震性は不十分で ⑧武力攻撃にも対応できず ⑨原発は国防問題そのもの としており、私もこれに賛成だ。何故なら、具体的には*7-3-2のように、日本と戦争をするなら、日本海側の原発をミサイルで破壊して原発内部に保管されている使用済核燃料を自爆させれば、広島・長崎以上の放射性物質が吹き出して、日本の食糧生産地帯が汚染され、住民も住めなくなって、戦争遂行どころではなくなるからである。
 このような中、*7-4-1は、⑩関西電力の森社長が「燃料価格高騰で、原発の必要性が高まった」とし ⑪関電は大飯原発3・4号機、高浜原発3号機を福井県内で既に稼働させ ⑫森社長は「使用済核燃料搬出問題は最大の経営課題で2023年末までに決着をはかる」とし ⑬政府が今冬までに動かすと表明した原発9基のうち5基は関電で ⑭福井県は美浜3号機等を再稼働させる条件として関電が使用済核燃料搬出先の候補地を示すことを挙げている としている。
 このうち、⑩⑪⑬のように、原発をさらに稼働させようとしながら、⑫⑭のように、未だに使用済核燃料の処理も考えていないのは無責任極まりなく、他国から爆撃されれば自爆する場所や一般の人が容易にアクセスできる場所に搬出・保管されても困る。従って、早急にその解を出してから、原発再稼働の話をするのが筋だろう。
 一方、*7-4-2は、西村経産大臣が、⑮「来夏以降の電力安定供給に向け原発のさらなる再稼働が重要」と強調して、現状で再稼働が見込めない原発の運転にも意欲を示し ⑯再稼働に向けた地元同意に向け「国も前面に立って理解、協力を得られるように粘り強く取り組む」とし ⑰西村氏の発言は安全審査を通過しても自治体の同意を得られず再稼働に至っていない7基や審査で合格していない原発も稼働させる必要があるとの認識を示したもので ⑱小型モジュール炉などの次世代原発についても言及した と記載している。
 しかし、コスト・マネジメントは、地震・津波等の自然災害や武力攻撃のリスクも含めた総費用でコストを最小にするように計画するもので、当面の運転費用のみでコストを評価すべきではない。この点で原発は既に落第で、これは、⑱の小型モジュール炉でも同じだ。さらに、⑮⑯⑰のように、「電力が足りないから、自治体の同意を得られない原発や審査で合格していない原発も、国が前面に立って自治体の理解・協力を得て稼働させる」などというのは本末転倒も甚だしい。一方、自治体の方は、*7-5-1のように、広大な農地や自然を生かしたり、柔軟な発想と戦略で企業を呼び込んだりして、地域経済を活性化させ住民税の税収を増やしたところもある。そして、それができるためには、原発などない安全でクリーンな地域であること、通信等のインフラが整っていること、社会環境もよいことなどが必要条件になるため、経産省には早くこちらの仲間になれるように知恵を出してもらいたいのだ。
 なお、*7-5-2は、米議会下院は、⑲気候変動対策を盛り込んだ歳出・歳入法案を可決して再エネへの移行加速と国内への生産回帰を促し ⑳太陽光パネル・風力タービン・蓄電池など脱炭素に必要な製品への税額控除を導入する 等と記載しており、私は日本もこうすればよいと思う。今は、経済安全保障や食糧・エネルギー安全保障が重視されている時期であるため、地方自治体はこのチャンスを活かして必要なインフラを整え、新産業を創出するのがよいからだ。

     
2022.5.11日経新聞 2022.2.26西日本新聞   2022.8.13日経新聞  

(図の説明:1番左の図が経済安保推進法の概要・左から2番目が経済安保推進法のポイントだが、半導体等先端技術・サイバー攻撃からのインフラ防護、特許の非公開しか言っていない。また、右から2番目は西村経産相の発言のポイントだが、原発再稼働・次世代炉の研究開発は武力攻撃や自然の大災害にも耐えうる原発にして初めて議論の遡上に乗るものだ。一方、地方自治体には、1番右の図のように、原発のような激しい公害をもたらさないクリーンな産業で法人住民税収を増やしたところもあり、こちらの方が産業として将来性がある)


               すべて農林水産省
(図の説明:左図は、諸外国と日本の食料自給率の推移で、日本は1960年代から一貫して下がり続けて現在は38%だが、欧米諸国はそこそこ自給できており、輸出もできている国がある。中央と右の図は、戦時にどこまで自給できるかという「食料の潜在生産能力」でイモ類ばかり生産すれば必要なカロリーは満たせるとするが、栄養バランスが悪すぎる上、タネ・肥料・農機具にも輸入品が多く、戦時は労働力が限られるため、これでも絵に描いたモチになりそうだ)

*7-1:ttps://www.saga-s.co.jp/articles/-/894064 (佐賀新聞論説 2022/8/1) 来年度予算 防衛費増は冷静な議論を
 政府は、2023年度予算の概算要求基準を閣議了解した。岸田文雄首相が増額を表明した防衛費の扱いが最大の焦点で、要求金額は明示せず年末までの予算編成過程で検討することとした。深刻な少子化をはじめ社会保障、脱炭素など予算を割くべき優先課題は山積する。一方で財源は限られ、安易な借金頼みは許されない。急激な軍備拡大は東アジアの緊張をかえって高める恐れもある。防衛費の増額には冷静な議論を求めたい。首相は5月の日米首脳会談で、中国の軍事的脅威やロシアのウクライナ侵攻を念頭に、防衛費の「相当な増額」を伝達。政府は6月、経済財政運営の指針「骨太方針」に防衛力の「5年以内の抜本強化」を盛り込んだ。一方で自民党は、北大西洋条約機構(NATO)が国内総生産(GDP)比2%以上の国防予算目標を設けている点を挙げて、今の目安である1%程度から予算の大幅な上積みを求めている。ただ政府は、外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を年末にかけて予定しているため、防衛予算の具体化もその作業に合わせる格好となった。このほか要求基準では首相が掲げる「新しい資本主義」の実現へ、「人への投資」「スタートアップ(新興企業)」などの施策に「重要政策推進枠」を設けて優遇。防衛費に加え、新型コロナウイルス、原油・物価高、少子化、脱炭素関連も金額を明示しない「事項要求」を認め、予算編成過程で検討するとした。今後の状況が見通しにくかったり、政策がまだ固まっていなかったりするためだが、要求の基本方針がこの緩さでは予算の膨張が強く懸念される。8月末が締め切りの各省庁による要求総額は、9年連続で100兆円を超える見込みだ。焦点の防衛費を巡っては内容・額だけでなく多面的な議論をすべきであり、その一つが財源だ。首相は「内容と予算と財源を3点セットで議論する」としているが、他方で故安倍晋三元首相をはじめ自民党には国債発行で賄うとの主張が強くある。しかし、これは受け入れ難い。スウェーデンは国防予算の増額に際して、たばこや酒の増税を打ち出した。財源の裏付けがあって当然だ。予算の透明性も向上させるべきだ。防衛費は近年、査定の緩い補正予算で上積みが常態化。21年度は5兆3千億円余りの当初予算に、過去最大の約7700億円が補正で追加された。この「抜け道」的な手法を続けては安全保障政策への国民の信頼が損なわれよう。防衛費の「GDP比」については整理が必要だ。防衛省は21年度で0・95%と説明するが、NATO基準で海上保安庁予算などを加えると1・24%になると認めている。2%以上を目指す場合、どう算出するかで今後の道筋は大きく異なる。あいまいで都合のいい使い分けは許されない。予算の要求基準が膨張含みとなった背景には、コロナ禍でも税収が好調な点などがあろう。内閣府の試算ではこの結果、25年度とした財政健全化の収支黒字化目標の達成が視野に入るという。だが、これは実質2%程度の高い成長を前提にした甘い試算だ。主要国で最も厳しい財政状況は相変わらずで、予算編成の手綱を緩める余裕はないはずだ。

*7-2-1:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/855240 (京都新聞社説 2022年8月11日) 食料自給率 輸入依存を見直さねば
 わずかに改善したものの、なお食の基盤のもろさは否めない。農林水産省が発表した2021年度の食料自給率(カロリーベース)が、前年度より1ポイント上昇し、38%となった。食料安全保障の重要性が増しており、輸入依存を見直し、生産者を支え、育てる政策実施が急務だ。食料自給率は、国内の食料消費を国産でどの程度賄えているかを示す指標だ。農林水産業が有する食料の潜在生産能力を表しているとも言える。自給率は20年度に18年度と並ぶ過去最低の37%に落ち込んだ。わずかに上昇に転じたのは、新型コロナウイルス禍で低迷していた外食需要が持ち直し、自給率の高いコメの消費が上向いたためという。政府が手厚い補助金を出し、コメからの転作を支援する自給率の低い小麦や大豆の生産量が増えたのも影響したとみられる。ただ農水省によると、1965年度は73%だったのに、食生活の洋風化やコメ離れなどから長期的に低落し続けている。2012年度以降は40%を割り込んだまま横ばいで推移。海外では自給率を主に金額に換算した生産額ベースで算出しており、単純には比較しにくいが、日本の38%は先進国では突出した低水準という。食生活の変化に日本の農業が十分対応できていないと言えよう。このままでは政府が掲げる「30年度に45%」の達成は難しい。気候変動や世界人口の増加、コロナ禍に、ウクライナ危機も加わり、世界的に穀物や飼料、化学肥料の価格が高騰し、食料供給が混乱している。各国がそれぞれ自国内での消費を優先する動きが強まり、日本がこれまで通り食料輸入を続けられるとは限らない。食料の多くを輸入に頼る日本にとって不測の事態に備える自衛策として自給率向上は避けて通れない。だが、日本農業の基礎体力の低下は著しい。担い手は22年に約122万5千人と、10年と比べて4割減り、それも65歳以上が7割と高齢化が目立つ。農地面積も減り続け、国内生産の縮小に歯止めがかからない。自給率は一朝一夕には改善できない。政府が付加価値の高い農林水産業分野の支援に限らず、穀物など基礎的な食料を守っていくことこそ肝要だ。政府は今秋にも食料・農業・農村基本法の見直しに着手するが、担い手育成や農地集約、ITを活用したスマート農業の導入を急ぐ必要がある。現状打破には生産者支援と併せ、「国産国消」へ向け国民の意識改革も欠かせない。

*7-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220814&ng=DGKKZO63422560T10C22A8EA1000 (日経新聞社説 2022.8.14) 農政の抜本見直しで食料安保を強めよ
 ウクライナ危機による穀物相場の高騰を受け、食料や肥料の多くを輸入に依存する日本の危うさが浮き彫りになった。国民への食料の安定供給を確保するため、政策を抜本的に見直すべきときだ。
日本の農業は離農などで田畑が減り、食料自給率は38%と主要国の中で著しく低い水準に落ち込んでいる。そこをウクライナ危機による混乱が直撃した。国際相場の影響で輸入小麦などの価格が上がり、加工食品の値上げが相次いだ。輸入に頼る飼料用トウモロコシや肥料も上がり、農業経営を圧迫している。これから重要になるのが、コメを中心にしてきた農業と農政の大転換だ。政府は小麦や大豆、トウモロコシなどの本格的な生産振興に取り組む必要がある。現行制度は、田んぼに水を入れずにこれらの作物を作れば、手厚い補助金が出る仕組みになっている。需要が減り続けるコメの転作が課題になってきたからだ。実態を見れば、転作作物という中途半端な位置づけでは生産を増やせないのは明らかだ。小麦などを食料安全保障にとっての戦略作物と考え、栽培面積の拡大を含めて正面から推進すべきだろう。いずれも広い土地を使う作物のため、農地の保全にも寄与できる。コメに関しては、ブランド化を進めて値崩れを防ぐ従来の路線はすでに限界に達している。生産効率を高めて値ごろ感を出さなければ、国内の消費喚起も輸出の拡大も、ともに実現は難しい。国内で確保しにくい食料の輸入を続ける努力も大切だ。完全な自給は現実的でなく、多様な食生活を守るには海外産も欠かせないからだ。主な農産物の輸出国と安定した関係を保つとともに、必要な食料を調達できる経済力を維持することが不可欠になる。一方、政府は当面の対策として肥料価格の上昇分の一部を補填することを決めた。急激なコスト増によって農業経営が暗礁に乗り上げるような事態を避けるため、丁寧な対応を求めたい。最近の農政はスマート農業の普及や農協改革、新規就農の促進などに注力してきた。そうした個々の措置も大事だが、いま必要なのは食料政策の全体構想だ。政府は農政の基本方針を定めた食料・農業・農村基本法を見直すための作業を秋にもスタートさせる。長期的な視点で新たな食料政策を構築してほしい。

*7-3-1:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20220803/biz/00m/020/009000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20220807 (毎日新聞 2022年8月7日) 「原発は国防問題」9月公開映画の元裁判長が語る、映画「原発をとめた裁判長」に込めた思い(上)
 「原発は国防問題です」。2014年5月、関西電力大飯原発の運転差し止め判決を出した福井地裁の元裁判長、樋口英明さん(69)はこう語る。樋口さんを主人公とする映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」が9月10日から全国で順次公開となる。果たしてどんな映画なのか。「国防問題」とはどういう意味か。樋口さんと映画監督の小原浩靖さん(58)に、この映画に込めた思いをオンラインで聞いた。11年3月の東京電力福島第1原発の事故以降、原発の運転を認めない司法判断は全国で9件ある。その先駆けとなったのが樋口さんの判決だ。樋口さんは「映像の力はすごく大きい。多くの方に私の考えを訴えられるのではないかと思い、映画の話をお受けしました」と話す。樋口さんの8年前の判決は衝撃的だった。地震大国の日本で、原発の耐震性は不十分だとして運転を差し止めたからだ。映画では「日本で頻発する地震に原発は耐えられない」とする科学的立証を“樋口理論”と呼ぶ。地震が来ても原発は必要な耐震性を備えていると電力会社は主張し、多くの人が信じている。ところが「原子力規制委員会の新規制基準が定める耐震性は極めて低い。世界一厳しいというのは地震に関しては当てはまらない」というのが樋口さんの主張だ。原発の耐震設計基準に外部電源などが含まれず、非常用電源も現実に起こりうる地震に照らすと十分でないという。
●脱原発と再エネ推進
 映画は判決当時はもちろん、17年に裁判官を退官後、全国で原発について講演する樋口さんの姿を描く。福島県の被災地で一度は離農したものの、農場に日本最大級の営農型太陽光発電を備え、農業を再開した若手営農者の活動も伝える。脱原発と再生可能エネルギーの推進がメインテーマだ。ところが脱原発と再エネ推進の道のりは決して平たんでない。足元では世界的な原油高とウクライナ侵攻から天然ガスなどエネルギー価格が上昇。日本では安全が確認された原発の再稼働を急ぐべきだという議論がある。この点に話題が及ぶと、樋口さんは「エネルギーが足りないから原発を動かそうとする保守政治家は間違っています。東電の株主代表訴訟で13兆円余の損害賠償を認めた東京地裁判決が示したように、原発事故が起きたら我が国の崩壊につながりかねません。原発をエネルギーや環境問題でとらえるのは筋違いです。それよりはるかに大きな問題で、私は国防問題と思っています」と、語気を強めた。「私は革新系の元裁判官と思われていますが、保守系の人間です。原発の問題は地震だけではありません。ウクライナ侵攻を見てもわかるように、原発を攻められたらどうしようもない。日本の存続にかかわります。だから原発を止めることが国防の第一なんです。外交交渉も防衛予算もいりません」と、樋口さんは主張する。
●クラウドファンディングに支援集まる
 商業ベースに乗らないこの映画はクラウドファンディングを活用し、8月9日までに製作費の一部に当たる300万円を集めることを目標にしている。8月6日時点で254人から約275万円が集まったという。このほか文化庁に映画製作の補助金を申請したところ、文化芸術活動への支援として600万円の助成が認められた。小原さんは「映画のタイトルだけで、まだ見てもいない映画に、これだけ多くの方が意義を感じ、支援してくださるのには驚きました。原発推進の国策を批判する映画なのに、国費で支援してくれる文化庁も、捨てたものではありません。原発に興味がない方にも見ていただき、原発にはこんな問題があるのだと気付いていただきたい」と話している。

*7-3-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/195474?rct=world (東京新聞 2022年8月12日) ザポロジエ原発への攻撃で安保理会合 IAEA「重大な結果招きかねない」と警告 原子炉緊急停止も
 ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発への攻撃を受け、国連安全保障理事会は11日、公開会合を開いた。オンラインで出席した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、攻撃の影響で原子炉1基が緊急停止したと述べ「大規模な核施設近くでの軍事行動は非常に重大な結果を招きかねない」と警告、専門家による現地調査の実施を求めた。会合はロシアの要請で開催。グロッシ氏は、攻撃により配電盤付近で数回の爆発が発生、原子炉1基が配電網から切り離されて保護システムが作動し緊急停止したと説明した。原発の安全性に差し迫った脅威はないものの「状況はいつでも変わりうる」と指摘した。同原発には5日から攻撃が相次いでおり、ロシアとウクライナは相手側によるものだとして非難し合っている。会合ではロシアが「ウクライナは自国民であるシフト交代中のスタッフを砲撃して脅した」などと主張。ウクライナは「ロシアの撤退と施設の返還こそが核の脅威を取り除く唯一の道だ」と訴えた。米国は同じ国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に触れ「ロシアの行動がNPTが進む中で起きているのが特に腹立たしい」と非難した。

*7-4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15381941.html (朝日新聞 2022年8月9日) 使用済み核燃料搬出「最大の経営課題」 関西電力・森望社長
 関西電力の森望社長が就任後初めて報道各社のインタビューに応じ、燃料価格の高騰が続く中、原発の必要性がより高まっているとの認識を示した。使用済み核燃料の搬出問題は「最大の経営課題」と位置づけ、2023年末までに決着をはかるとした。関電は現在、大飯原発3、4号機、高浜原発3号機の3基を福井県内で稼働させている。政府が今冬までに動かすと表明した原発9基のうち5基が関電だ。森氏は「燃料価格高騰、(電力)需給の逼迫(ひっぱく)など足元の状況を振り返ると原子力の必要性はよりいっそう高まっている」と語った。ただ、今月12日に発送電再開予定だった同県内の美浜原発3号機は、放射性物質を含む水漏れで延期に。運転開始から40年を超す老朽原発だが、森氏は「古いからといってそういうこと(トラブル)が起こっているのではなく、(これまでと)同じ安全水準が維持されている」と述べた。県は美浜3号機などを再稼働させる条件として、関電が使用済み核燃料の搬出先の候補地を示すことをあげていた。期限は来年末だが、目立った進展は見られていない。森氏はこの課題について「お約束しているものだから、なにがなんでも実現する」とした。元役員による金品受領や役員報酬の減額補填(ほてん)を巡る問題も決着していない。大阪第二検察審査会は1日、元会長らを起訴相当などと議決し、「電気利用者への裏切り行為」などと指摘した。検察の再捜査次第では元役員が起訴される恐れもある。森氏は「経営に携わった人間が告発を受けていることは重く受け止めなければならない」とした上で、金品受領問題を受けて作成した業務改善計画を進めると述べるにとどめた。

*7-4-2: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220813&ng=DGKKZO63409360S2A810C2EA4000 (日経新聞 2022.8.13) 〈岸田改造内閣 閣僚に聞く〉西村経産相、来夏にらみ原発稼働拡大、地元の理解「国が前面」 冬には9基、電力確保急ぐ
 西村康稔経済産業相は12日、日本経済新聞社などのインタビューに答えた。原子力発電所の活用を巡り「来夏以降の電力安定供給の確保に向けて原発のさらなる再稼働が重要だ」と強調した。現状で再稼働が見込めていない原発の運転にも意欲を示した。再稼働に向けた地元同意に向けて「国も前面に立って理解、協力を得られるように粘り強く取り組む」と述べた。国内に原発は33基ある。25基が再稼働を国に申請し、17基が原子力規制委員会の安全審査を通過した。うち10基は地元の同意も得ていったんは再稼働し、現在は7基が運転している。政府は冬に向けて稼働を9基まで増やす方針を示している。西村氏の発言は、安全審査を通過しても自治体の同意を得られないといった理由で再稼働に至っていない7基や、審査で合格していない原発も稼働させる必要があるとの認識を示したものだ。東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に関しては「当然、一定の規模を持つ柏崎刈羽の再稼働も重要だ」と指摘した。東電には「抜本的な組織改革に真摯に取り組んでもらいたい。地域、社会からの信頼回復に全力を挙げて取り組んでもらいたい」と求めた。同原発では2021年にIDカードの不正な利用や侵入検知装置の不具合などの不祥事が相次いで判明。規制委が核燃料の移動を禁止し事実上、運転できない。不祥事の検査結果がまとまり、地元の同意を得るまで再稼働の行方は見通せない。足元の電力需給に関しては「この夏は安定供給を確保できる見通しが立っているが、冬に向けては厳しい見通しがある」と説明した。原発の運転再開と休止中の火力発電所を着実に稼働させることで「見通しも改善されてきている」との認識を示した。小型モジュール炉(SMR)など次世代原発のあり方についても言及した。「研究開発、人材育成、原子力サプライチェーンの維持強化など将来を見据えた取り組みもしっかり進めたい」と述べた。一方で新増設は「想定していない」と従来の政府方針を引き継いだ。経産省の審議会は9日に次世代原発の技術開発に関する工程表案をまとめたが、現状の政府方針と矛盾する部分がある。日本企業が権益を持つ極東の資源開発事業「サハリン1」と「サハリン2」に関して「権益を維持する方針に変わりはない」と話した。

*7-5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220813&ng=DGKKZO63414540T10C22A8MM8000 (日経新聞 2022年8月13日) 法人住民税575市町村増収、熊本・合志、4.9倍で実質トップ 北海道・更別、過疎対策へIT集積
 立地企業数や業績に連動する法人住民税を10年間で増やした市町村が全国の3割にあたる575に達した。税制改正や新型コロナウイルスの影響を受け1143市町村の税収が低迷するなか、従来型の団地整備だけでなく、広大な農地や自然など「地方の弱み」を逆に生かす、柔軟な発想と戦略で企業を呼び込み域内経済を活性化させた。企業が立地自治体に納める法人住民税の税収を調べた。法人住民税は資本金と従業員数から出す均等割と法人税額を基にした法人税割で計算する。2010年度と20年度の市町村税収を比べると、全国平均は7.2%の減少だった。一方で直接徴収しない東京23区を除く1718市町村のうち33%が税収を増やした。震災復興の影響が大きかった福島県広野町(5.5倍)、同県葛尾村(5.1倍)を除く実質トップは熊本県合志市で4.9倍に伸ばした。群馬県明和町(4.8倍)が続く。大規模な工業団地を整備し、企業を呼び込んだ。熊本は県主導で半導体関連の集積を進めた。1982年に「熊本テクノポリス建設基本構想」を公表し推進役を担う財団や技術開発基金などを相次ぎ創設した。83年に知事に就任した細川護熙県政下で団地開発・誘致が加速した。合志市は県と連携し80年代後半ごろから誘致や地場企業育成に取り組み、構想の一翼を担った。団地整備などのハード面に加え2億円を上限に用地取得費の20%を補助するなどソフト面も整備し興味を持つ企業に担当者が出向き利点をPRした。結果、人口は12%増え、税収増加分で道路や学校などの整備も進む。隣接する菊陽町にも台湾積体電路製造(TSMC)が進出を予定する。県と合志市は工場立地の需要がさらに高まるとみて、それぞれ新たな工業団地の造成を目指す。4.8倍となった群馬県明和町には域内消費の拡大もあり、コストコが23年、町内に進出する。企業の増加は地域の生活利便性も高める。ただ、大規模開発を伴う企業誘致はリスクも伴う。1960年代以降「国土の均衡ある発展」として、企業は立地の分散化を進めたが、バブル崩壊やグローバル化の進展で縮小・撤退し、地域に大きな影響を与えた。こうした教訓を基に、ありのままの土地や自然環境で誘致を目指す新たな形も生まれている。過疎指定を受ける北海道更別村は先端技術を持つ企業の集積で税収を2.8倍とした。取り組みは2016年、4つの台風が相次いで北海道に上陸・接近し、村内の多くの畑が浸水被害を受けたことがきっかけだ。「20~30年後も豊かで持続可能な村」(西山猛村長)を目指し、実証フィールドの拠点としてサテライトオフィスを整備した。農地を実験場として使えることも利点となり、IT(情報技術)企業など5社が入居する。高速通信規格「5G」などの通信インフラも整い、21年には東京大学がサテライトキャンパスを設けた。村はさらなる集積の呼び水となることを期待する。北海道ニセコ町も税収が3.2倍に増えた。外国人旅行者からの高い注目を背景に観光や不動産関連企業からの税収が大きいが、町庁舎や観光施設の省エネに取り組み、国の「環境モデル都市」の指定を受けたことなどでクリーンなイメージに共感した食品関連業も集まるようになった。茶専門店を展開するルピシアが工場や本社を構えたほか八海醸造(新潟県南魚沼市)が19年にウイスキーの蒸留会社を設立し雇用を創出した。

*7-5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220814&ng=DGKKZO63422670T10C22A8EA2000 (日経新聞社説 2022.8.14) 米、脱炭素・生産回帰を加速 IT大手課税を財源に、歳出・歳入法が今週にも成立
 米議会下院は12日、気候変動対策を盛り込んだ歳出・歳入法案を可決した。再生可能エネルギーへの移行加速と国内への投資回帰を促す。再エネの国内供給網の構築は、エネルギーの安全保障の意味も持つ。歳入面では巨大企業の法人税の最低税率を設定し、IT(情報技術)大手などへの課税を強化する。バイデン大統領が今週にも署名し、成立する。歳出は法案原案では4300億ドル(57兆円)規模。太陽光や風力などの発電や設備投資への税額控除を延長・拡充する。法案は太陽光パネルや風力タービン、蓄電池など脱炭素に必要な製品への税額控除も導入する。中国や東南アジアへの依存を減らし、米国への生産回帰を進める狙いだ。太陽光や風力の発電を手掛ける米パターン・エナジーのマイク・ガーランド最高経営責任者(CEO)は「米国生産と、中国などからの輸入の間でバランスを取らなければいけない」と話す。風力などは大型設備が必要で、輸送費の観点からも国内の生産基盤の再構築が重要という。住宅向け太陽光発電を扱う米サンノバ・エナジー・インターナショナルのジョン・バーガーCEOも「米中対立が深まるなか、再生エネの分野で中国に過度に頼らない米国内の供給網が不可欠だ」と指摘する。太陽光パネルはかつて米国が高シェアだった。中国などアジア各国に押され米国内の基盤が弱った。米シンクタンクのエナジー・イノベーションなどによると、2030年の温暖化ガス排出量の削減幅は従来政策のままなら05年比で2~3割だが、法案成立で約4割に拡大する。30年に5割削減の目標に向け前進する。歳入面での法案のポイントは、巨大企業の法人税の15%の最低税率の設定だ。大企業が税控除の活用などで、実効税率を低く抑えている現状を問題視した。日本の国税庁にあたる米内国歳入庁(IRS)も機能を強化する。企業の自社株買いにも1%課税する。法案全体でみれば財政支出を大きく上回る歳入増が見込まれ、財政健全化の効果が大きい。米議会は法案修正後の予算規模を明らかにしていないが、米ペンシルベニア大学の試算では10年間で政府債務が2640億ドル削減される。バイデン政権は家庭の医療費とエネルギー代が減らせるとしてこの法案を「インフレ抑制法案」と呼ぶが、疑問の声もある。23~24年は歳出額と歳入額がほぼ拮抗する見通しのためだ。米紙ニューヨーク・タイムズは多くのエコノミストが物価高への効果は小幅なうえ、実感できるまで数カ月から数年はかかると予想していると指摘した。野党・共和党は、今回の法案が物価上昇にほとんど効果がないとして反発した。政府の支出が増え、徴税強化で米国民の生活を圧迫すると批判を強めている。

<核と安全保障>
PS(2022年8月18日追加):日本では、*8-1-1・*8-1-2・*8-1-3・*8-1-4に書かれているように、2022年8月15日の終戦の日は、平和外交を薦める記事が多く見られるが、日本国憲法9条が掲げる平和主義は尊いと思うし、私も賛成だ。しかし、その方法に関しては、「外交努力を重ねる」「外交に力を注ぐ」「不断の努力」くらいしか書かれておらず、“外交努力”はこれまでもやってきたため、具体的に何が足りないのかを指摘しなければ改善はないだろう。
 そして、まず、8月15日を「敗戦の日」とせず「終戦の日」とし、言葉をマイルドにすることによって失敗の原因を追究しないことが、「科学的・合理的思考の欠如」という同じことを何度も繰り返す原因になっていると、私は思う。
 また、東シナ海周辺の安全保障環境について、日本のメディアは、①ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発した中国が台湾への軍事圧力を強めた ②中国人民解放軍が発射した弾道ミサイルのうち5発が日本のEEZ内に落下した ③中国は軍事圧力を常態化させる構えを見せている 等の論調が多いが、中国は計画的に台湾を併合しようとしているため、①の「ペロシ米下院議長の台湾訪問が刺激になって中国が反発した」と言うのは、(パブロフの犬ではあるまいし)中国に対しても馬鹿にした失礼な態度だ。そのため、このように、根拠もなく他国を馬鹿にする態度は、「不断の努力」としてやめるべきである。一方、台湾は「中国に併合されまい」と頑張っているのであるため、「台湾を孤立させない」というペロシ米下院議長の判断は正しく、「中国が猛反発する中で訪台したため、情勢が緊迫化した」などというおかしな批判をした日本のメディアに対し、ペロシ米下院議長に同行したタカノ下院議員が、*8-3のように、「中止すれば『訪台できるどうか中国の感情次第』になる」「悪しき前例になるのを避けた」と反論されているのは、全くその通りだと思う。なお、②③については、日本が「(諦めずに)尖閣諸島は、日本の領土だ」と主張する限り、中国とは利害対立関係になるため、(外交上必要なこともやっていないと思うが)外交だけでは解決しないことが既に明らかになっている。
 それでは、2022年版防衛白書がロシアと中国の軍事動向の警戒レベルを引き上げ、「オーストラリア・韓国・英国・フランス・ドイツは日本の約2〜3倍だ」と強調して、自民党が防衛費をGDP比1%から2%程度に引き上げることを念頭にしているのは正しいのかと言えば、日本は食料自給率・エネルギー自給率がこれらの国とは比べ物にならないくらい低く、武力攻撃を想定していない原発には使用済核燃料が多量に詰め込まれていて、「隙だらけ」と言うより「隙のない場所がない」という状態であるため、防衛費のみを増額しても戦えないため抑止力にはなり得ず、さらに「東アジアの安定」と言っても、単なる「現状維持」ではなく、どういう状態で安定させたいのかが重要であるため、ここを明確にしなければ防衛方針が固まる筈がないのである。
 そのような中、*8-2-1のように、2022年8月6日、広島は被爆77年の原爆の日を迎え、*8-2-2のように、松井広島市長が条約批准を訴え、国連のグテレス事務総長が広島市の平和記念式典で「核の先制不使用」と「締約国が最終兵器のない世界に向けたロードマップを策定するため初めて集った」と核兵器禁止条約をアピールしたが、日本政府は未だ条約批准の目途が立たず、唯一の被爆国としての役割も果たせていない状態なのである。

*8-1-1:https://kahoku.news/articles/20220815khn000004.html (河北新報 2022年8月15日) 終戦から77年 平和再構築へ外交力発揮を 社説(8/15)
 日本にも近い将来、戦争が迫り来るかもしれない。この半世紀近く、今年ほど、そんな危機感を抱いてこの日を迎えたことはなかっただろう。ロシアのウクライナ侵攻から間もなく半年になる。欧米や日本などによる制裁の効果は限定的だ。子どもを含む多くの罪のない市民が犠牲になり、国土が焦土と化しても、停戦への道筋は依然として見通せない。日本を含む東シナ海周辺の安全保障環境も緊迫化している。ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発した中国が台湾への軍事圧力を強め、4日の軍事演習では、中国人民解放軍が発射した弾道ミサイルのうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。中国は軍事圧力を常態化させる構えを見せている。ロシアのウクライナ侵攻では国連の機能不全ぶりが露呈した。第2次大戦後、曲がりなりにも保ってきた「法による支配」が有名無実化し、「力による支配」が再び台頭しつつある。だが、断じてそれを許すわけにはいかない。緊張感が増す国際情勢を受け、政府、自民党は防衛力の増強に前のめりだ。来年度の防衛費要求額は過去最大だった2021年度の5兆4898億円を大きく上回りそうだ。自民党内からは国内総生産(GDP)比1%から2%程度に引き上げることを念頭に、6兆円代半ばを求める声が強まっている。敵基地反撃能力を改称した反撃能力は、国内に被害がなくても、敵が攻撃に着手したと認められれば攻撃可能とする。専守防衛の原則を逸脱するとの懸念の声がある。原則の逸脱と言えば、文民統制(シビリアンコントロール)も揺らぎつつある。来年度予算要求を決定する防衛省内の調整で、査定を受ける側だった制服組自衛官を中心とする統合幕僚監部が査定する側に加わったという。防衛力を増強することで、他国の軍事強化の連鎖を招く「安全保障のジレンマ」に陥りはしないか。その危険性を危惧する。日本世論調査会が実施した全国世論調査で、戦争回避に最も重要な手段は「平和に向け日本が外交に力を注ぐ」が32%で最多だった。戦争放棄を掲げた日本国憲法順守の24%が続き、軍備の大幅増強は15%にとどまった。これまでの原則がなし崩し的に守られなくなった先に、何が待ち受けているのか。国民が冷静に見極めている結果と言えよう。ならば、国際平和の原則に立ち返り、日本は国際秩序を立て直すために血のにじむような外交努力を重ねるべきではないか。日本は来年、国連の非常任理事国となる。16~17年以来12回目で、国連史上最多だ。国連改革を含め、日本が戦後、連綿と培ってきたはずの外交力の真価が、今こそ問われている。

*8-1-2:https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022081599701 (福島民報 2022年8月15日) 【終戦の日】世界の平和考えたい(8月15日)
 きょう十五日、七十七回目の終戦の日を迎えた。ロシアによるウクライナ侵攻で、戦争の痛みと無情さを改めて思い知らされた。複雑な国際社会の中で、自国のみが平和であり続けることは困難な現実も突き付けられた。戦後国家の礎となった人々に鎮魂の祈りをささげるとともに、日本と世界を見つめ、平和を求める声を高めていきたい。ロシアの苛烈な攻撃とウクライナの決死の抗戦が始まって半年になる。米欧は武器の供与によってウクライナを後押しし、日本は人道的立場で資金協力した。後方支援がなければ、ウクライナは持ちこたえられない。民主主義と専制、覇権主義の戦いともいわれる中での支援の意味を、頭で理解はしても、戦っているのは生身の人間であることを忘れてはならない。民主と主権、領土を守る持久戦を支える一方で、武器による加勢は止めどなく死者を増やす。米などの関係国はインフレ、エネルギーなどの内政問題を抱え、支援疲れも指摘されている。ウクライナ情勢に対する世界の関心が弱まれば、停戦への道も遠ざかってしまう。日本をはじめ、国際社会は一刻も早く糸口を見いだしてほしい。手をこまねいている間に、多くの子どもや市民が巻き添えになっていく。不安定な国際情勢下、岸田政権は防衛力の抜本的な強化を打ち出した。防衛費は、過去最高だった今年度の五兆四千五億円を上回る規模を目指している。集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法によって、自衛隊と米軍の一体化が進む。米国と対立する中国が対台湾軍事演習で、沖縄近海に複数の弾道ミサイルを撃ち込み、日本を威嚇するなど、東アジアの緊張は確かに高まってはいる。しかし、歯止めのない防衛力の増強は専守防衛の一線を越えかねない。慎重な検討が必要なのは言うまでもない。日本世論調査会の全国調査で、日本が今後、戦争をする可能性があると、48%が答えた。他国同士の戦争に巻き込まれる、あるいは他国から侵攻を受けるとの見方が大半だった。戦争回避に最も重要な手段は「外交に力を注ぐ」が最多の32%を占め、戦争放棄を掲げた日本国憲法の順守が24%と続いた。軍備の大幅増強は15%にとどまった。戦力不保持と交戦権の否定をうたい、平和を希求してきた日本にふさわしいのは、むしろ和平や国際協調への役割だろう。政府は肝に銘じた議論を進めるべきだ。国民、県民は動向を厳しく見ていかねばならない。

*8-1-3:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=161198 (南日本新聞社説 2022年8月15日) [終戦記念日] 平和外交に徹する時だ
 戦争の現実をいま、目の当たりにしている。ウクライナ各地でミサイルが飛び交い、建物は炎を上げて崩れ落ち、灰色の街が広がる。ロシア軍に破壊された学校など教育施設は2000カ所を超えたという。
遺体を埋めるための穴が掘られている。命が助かっても家族は引き裂かれ、地下のシェルターに身を潜める人たちがいる。為政者の野心や権勢欲の犠牲になるのは罪のない市民である。日本を取り巻く安全保障環境も悪化している。中国は軍備拡張を急速に進め、台湾周辺で軍事活動を活発化させる。北朝鮮の核・ミサイル能力は飛躍的に向上した。先月末の全国世論調査によると、日本が今後、戦争をする可能性があるとした人は半数近くに上り、年々増えている。若年層ほど戦争の脅威を感じていることも明らかになった。太平洋戦争の終結から77年を迎え、緊迫する東アジア情勢にどう対処するのかが問われている。日本を再び戦場にしてはならないという強い意志を持ち、国際社会の中で進むべき道を考えたい。
●国防力偏重を懸念
 先月、閣議報告された2022年版防衛白書は、ロシアと中国の軍事動向の警戒レベルを引き上げた。北朝鮮には「重大かつ差し迫った脅威」と警戒感を示した。米中対立の最前線になっている台湾情勢の記述は昨年から倍増し、軍事的緊張が高まる可能性に触れた。国民1人当たりの国防費も各国と比較し掲載した。オーストラリア、韓国、英国、フランス、ドイツはいずれも日本の約2〜3倍と強調。こうした記述からは防衛費の大幅増額など国防力強化への思惑がうかがえる。防衛費については、北大西洋条約機構(NATO)が掲げる国内総生産(GDP)比2%の目標を初めて記載。自民党が4月末に岸田文雄首相に提出した提言とほぼ同じ内容だ。23年度予算の概算要求基準では、防衛費は予算額を示さず事業内容だけの要求を認めた。年末に改定する「中期防衛力整備計画」(中期防)に合わせて必要な予算を見積もる。岸田首相は「相当な増額」を明言しているが、防衛費増額が抑止力を高め、東アジアの安定につながるのか疑問が残る。中国や北朝鮮はどう受け止めるのか。脅威が増したと捉え、軍拡競争に拍車をかける恐れがないとは言い切れまい。国民の意見も分かれる。6月下旬の共同通信の世論調査では「今のままでいい」が36.3%と最も多く、GDPの「2%までの範囲で増額」が34.1%、「2%以上に増額」は13.7%だった。多額の税金が投入されるだけに国民の理解が欠かせないのは当然だ。政府は相手領域内でミサイル発射を阻止する「反撃能力」の保有も検討している。防衛白書は「先制攻撃とは異なる」との見解を示すが、自衛隊と米軍の一体化が進む中、緊張感を高めては元も子もない。日本は戦後、憲法の平和主義に基づく外交を貫いてきた。ロシアが一方的に占拠した北方領土の返還を巡る交渉でも首脳対話による解決を目指した。こうした外交姿勢は、多大な犠牲を生んだ太平洋戦争の反省が礎になっているに違いない。国防力重視に偏りすぎれば、戦後77年間の歩みを逆戻りしかねない。
●戦争のない時代に
 ロシアの侵攻から間もなく半年になる。しかし終結の見通しは立たず、死傷者は日ごとに増え続ける。戦争がひとたび起きれば、引き返すことは困難で泥沼化する証しだろう。日本も戦時中、各地が空襲被害に遭い、広島と長崎への原爆投下では20万人以上が犠牲になった。日中戦争以降の日本人戦死者は軍人と一般国民合わせて約310万人にも上る。「戦争は非情なものだ。どんなに勉強したくてもできない。したいことがまだたくさんあったのに。戦争のない時代に生まれたかったということをのちのちの人に伝えてほしい」(宮良ルリ著「私のひめゆり戦記」)。1945年、学徒出陣の壮行会であいさつに立ち、こう話した沖縄県八重山出身の青年は戦線で最期を遂げた。著者の宮良さんは戦争が終わった後、共に教師を志していた青年の言葉が胸の奥深くに残っていたことに気づいたという。戦争のない時代に生まれたかった-。ウクライナ市民の叫びにも聞こえるし、国の平和を願い戦死した一人一人の思いを代弁しているようにも思う。決して忘れてはなるまい。台湾有事が実際に起きた時、日本はどう対処するのか。南西諸島や本土への影響を最小限に食い止める手だてはあるのか。有事への備えと同時に、国際社会に平和外交を浸透させ、戦争を未然に防ぐことこそ、日本の役割である。

*8-1-4:https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1610092 (福井新聞論説 2022年8月15日) 終戦の日 「不断の努力」誓う機会に
 ロシアによるウクライナ侵攻が長期戦の様相を呈し台湾周辺での中国の大規模な軍事演習を目の当たりにする中、日本は戦後77年の「終戦の日」を迎えた。310万人もの戦没者に鎮魂の祈りをささげる日でありながら、ウクライナでは戦争による死傷者が後を絶たない。先の大戦の犠牲者を悼みつつ、今も戦火にさらされている人々の苦難に思いをはせたい。1999年5月にオランダ・ハーグで開かれた100カ国以上による非政府組織(NGO)の国際平和市民会議。北大西洋条約機構(NATO)軍によるユーゴスラビア空爆が続いているさなか「日本の憲法9条を手本にした戦争禁止決議を各国議会が採択する」よう訴える提言がなされた。作家の故井上ひさしさんは「日本国憲法が世界の目標になった」と評価した。この会議から23年。憲法9条の精神は日本国内でも存在感が薄れつつあるのではないか。ウクライナ侵攻は無論、「台湾危機」を巡る米中の対立、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への懸念など、日本を取り巻く安全保障環境は険しさを増す一方だからだろう。こうした情勢を背景に、岸田文雄首相は10日の改造内閣発足を受けた記者会見で「年末に向けた最重要課題の一つが防衛力の抜本強化だ」と会見の冒頭で訴えた。強化の一環として政府や自民党が掲げるのは「敵基地攻撃能力」を言い換えた「反撃能力」がある。加えて、首相は憲法改正を宿願とした安倍晋三元首相の不慮の死を受けて早期の改憲発議に意欲を隠さない。自民党の改憲案は9条に自衛隊を「必要な自衛措置を取るための実力組織」として明記することを柱にしている。安倍氏が持論としてきた「自衛隊違憲論」を解消するためとしている。だが、こういった改憲対応が周辺国に受け入れられるのか、立ち止まって熟慮する必要があろう。日本への警戒心が高まれば、軍備拡張の理由になりかねず、果てしない軍拡競争へと陥る恐れもある。気になるのは、防衛省の2023年度予算を決定する省内調整で、制服組が査定側に加わったとされる報道だ。これまでは背広組の防衛官僚が陸海空自の要望を精査し、財務省への要求を決めてきたという。現場主義は理解できるものの、制服組の権限が強化されれば、旧軍の暴走を許した戦前の反省がないがしろになる可能性も否めない。改憲論議の行方次第では「世界の目標」とされた9条の輝きが損なわれる事態にもなりかねない。憲法が掲げる平和主義の尊さを胸に刻み、自由と権利を守るため憲法が一方で求める「不断の努力」を誓う機会としたい。

*8-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/897586 (佐賀新聞 2022/8/6) 広島被爆77年、埋まらぬ溝、市長ら「核禁止批准を」
 広島は6日、被爆77年の原爆の日を迎えた。被爆地では繰り返し、日本政府に核兵器禁止条約の批准を求める声が上がった。一方、地元広島選出の国会議員として期待された岸田文雄首相は「核保有国の対応を変えさせないと、厳しい現実は変わらない」として即時批准を否定。昨年の菅義偉前首相の「考えていない」から実質的な変化はなく、条約を「希望の兆し」と評価したグテレス国連事務総長らとの溝は埋まらなかった。「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」(平和記念式典)での平和宣言で松井一実広島市長は、昨年に続き条約批准を訴えた。グテレス氏も首相の目の前で「締約国が最終兵器のない世界に向けたロードマップを策定するため、初めて集った」と条約をアピール。一方、首相は式典で条約に一言も触れなかった。被爆者団体代表らとの面談で首相は、批准の要望に対し「大変重要な条約だ」としつつも「同盟国の米国を変えるところから始めないといけない」と述べ、核保有国と非保有国の橋渡し役として核拡散防止条約(NPT)体制の維持・強化を図ると強調した。面談後、広島被爆者団体連絡会議の田中聡司事務局長(78)は「核保有国との交渉のテーブルを一生懸命つくることが橋渡しだ。目に見える形でやっていない」と批判。広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長(80)も「プロセスが違うと言いたかったんだろう。被爆者が生きている間に核兵器がなくなるのか」と懸念した。6日に市内の集会で被爆証言した小倉桂子さん(85)は「首相の話は多くの被爆者を落胆させた。私たちが核廃絶へ一歩一歩踏み出せるよう、死にものぐるいで頑張らなくては」と力を込めた。

*8-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/897544 (佐賀新聞 2022/8/6) 国連総長「先制不使用」に初言及、核戦争「断じて許容できない」
 国連のグテレス事務総長が6日、広島市の平和記念式典で核兵器保有国に「核の先制不使用」を約束するよう呼びかけたのは、事務総長として初めてだったことが分かった。国連当局者が明らかにした。グテレス氏は同日、広島市で記者会見し、核の脅威の高まりに改めて危機感を表明し、核戦争は「断じて許容できない」と強調した。グテレス氏は記者会見で、保有国が「先制不使用」政策を導入するための議論が、来年5月に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)で進展することに期待感を示した。日本政府に対しては、停滞する核軍縮を動かす上で「大きな役割がある」と指摘した。

*8-2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/195914 (東京新聞 2022年8月15日) 再び原発「新増設」?原子力政策に転換の兆し 岸田政権「現時点で想定せず」だが脱炭素背景に地ならし
 岸田政権の重要課題の一つが、ウクライナ危機で顕在化したエネルギー問題。電力の需給逼迫も重なり、岸田文雄首相は原子力の最大限活用を掲げ、既定路線の原発再稼働を「政治主導」のアピールに使うなど前のめりな姿勢となっている。東京電力福島第一原発事故後に封印された「原発の新増設」方針の復活への準備も着々と進んでおり、原子力政策は新たな局面を迎える可能性が出てきた。
◆原発活用「待ったなしだ」と経団連会長
 「原発の再稼働とその先の展開策などの具体的な方策について、政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」。岸田首相は7月27日、2050年の脱炭素(カーボンニュートラル)社会の実現に向けた取り組みを議論する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」の初会合で関係閣僚に指示した。経済界では「その先の展開策」に、原発の新増設がテーマになることへの期待が膨らむ。会議メンバーの十倉雅和経団連会長は初会合後、原発活用は「待ったなしだ」と話した。実行会議の2週間後、岸田首相は内閣改造を実施し、GX実行推進を兼務する西村康稔経済産業相が新たに就任。西村氏は会見で「原発の新増設・リプレース(建て替え)は現時点では想定していないというのが政府の方針」としつつ、脱炭素に向け「原子力を含めたあらゆる選択肢を追求する」と含みを持たせた。
◆自民公約から消えた「依存度を低減」
 ウクライナ危機を受け、自民党は7月の参院選公約から、これまで明記してきた「可能な限り原発依存度を低減」を消した。脱炭素の実現には、発電時に温室効果ガスを排出しない原発は不可欠な電源という位置づけを明確にもした。政府は、原発の新増設に向けた下地をつくる議論も進めている。8月9日には経産省資源エネルギー庁の審議会「原子力小委員会」で、次世代原発の導入に向けた技術工程表の骨子案を提示。最新技術を導入した大型の革新軽水炉を30年代に建設・運転開始するという目安を示した。経産省の担当者は工程表骨子案を「作業部会の委員の意見を踏まえた中間報告」とし、「原発新増設は想定していない」という政府方針の転換ではないとする。ただ、福島第一原発事故後、具体的に次世代原子炉の導入時期が示されたのは初めてだった。
◆「政治決断」へ月内のGX実行会議で進展の可能性
 福島事故時には、8原発11基の新増設計画が進んでいた。民主党政権は着工していた東電東通原発1号機(青森県)など3原発3基の建設を認めたものの、他の計画は中断して宙に浮いたままとなっている。自民党政権は、この方針を引き継いできた。岸田内閣が昨年10月に閣議決定した中長期的な指針「第6次エネルギー基本計画」では、多くの有識者が求めた原発の新増設方針を盛り込まず、「必要な規模を持続的に活用する」と明記し「新型炉の研究開発を進める」とするにとどめた。次世代原子炉の技術工程表などは基本計画に沿っているというのが、政府の立場だ。政府が原発の新増設方針を掲げるとなると、首相の「政治決断」が避けて通れない。それが必要となる項目は早ければ、8月中にあるGX実行会議の2回目の会合で示される。

*8-3:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1565467.html (琉球新報 2022年8月12日) 訪台中止なら、あしき前例に 米議員、対中で日米韓連携強化を
 ペロシ米下院議長の台湾訪問に同行したマーク・タカノ下院議員が11日、共同通信の電話インタビューに応じた。中国が猛反発する中で訪台し情勢が緊迫化したとの批判について「中止すれば『訪台できるどうかは中国の感情次第』になる」と述べ、あしき前例になるのを避けたと反論。対中抑止へ日米韓の連携強化が急務だとして日韓に関係改善を促した。日系3世のタカノ氏はペロシ氏と同じく民主党所属。下院退役軍人委員長の要職を務め、昨年11月にも超党派の米議員団の一員として訪台した。日米交流にも積極的に取り組み、政権与党の有力議員としてバイデン政権を支えている。

<経営の最適化に資する公会計制度《交通・エネルギー政策から》>
PS(2022年8月25日追加):8月20、21日に長崎市で開催された国際公会計学会に、Zoomで参加した。下の図のように、現在、殆どの地方自治体は総務省の統一的基準である単式簿記・現金主義会計を使っており、これは民間企業の複式簿記・発生主義会計と異なり、資産・負債を含む正確な情報を迅速に公開することができず、検証可能性もない。ただ、東京都だけが2006年から複式簿記・発生主義に基づく新公会計制度を全国に先駆けて導入し、正確な事業別費用対効果分析も容易になって無駄の削減に貢献している。一方、国は世界に大きく遅れて国際基準に基づく公会計制度を導入していないが、予算審議に間に合わせて資産負債を含む監査済の正確な前年度決算の開示を行うのは、主権在民の国として当然のことである(http://www.hi-ho.ne.jp/yokoyama-a/chihoujichitai.htm#20140523 参照)。
 また、今年の国際公会計学会は長崎市で開催されたため、田上長崎市長の「100年に1度のまちづくり」という興味深いお話を聞くこともできた。長崎港は1571年開港以来、日本全体としては鎖国していた江戸時代も含めて約450年間国際貿易を行っていた港で、国際性が半端ではない。しかし、*9-1のように、未だ新幹線も通っておらず、観光客のアクセスにも時間がかかり、現在は西九州新幹線(武雄温泉⇔長崎)の開業に合わせて長崎駅付近が新しく生まれ変わろうとしているところなのだ。この西九州新幹線(武雄温泉⇔福岡)は、佐賀県内では「現在より停車駅が減る上、時間短縮効果は小さく、メリットが少ないのに費用負担は大きい」という反対があるため、それこそ事業別の費用対効果分析を行って、効果の大きい地域とこれまで新幹線すら通していなかった国が費用負担するのが筋だろう。なお、佐賀県の南側を通す場合は、私は、九州佐賀国際空港を停車駅にするのが、21世紀の国際化を見据えた計画になると考える。
 このような中、日経新聞は、*9-2-1のように、①政府は電力の安定供給と脱炭素の実現に向け、原発の再稼働や運転延長、次世代型の建設などの検討に入る ②現時点で安定供給と脱炭素の目標を両立できる電源は原発以外にない ③ウクライナ危機もエネルギー調達の課題を浮かび上がらせた ④原発の稼働が少ない状況は、電力の安定供給を危うくしている ⑤日本は東日本大震災前、総発電量の3割ほどを原発に頼っていたが、2020年度は4% ⑥6月下旬には強い節電要請が出て、電力各社は古い火力発電所を稼働して凌いでいるが、トラブルのリスクが拭えない ⑦英国は2030年までに最大8基、フランスも2050年に向け大型原発を最大14基建設する方針 ⑧LNG輸入のうち1割ほどがロシアからの日本も欧州と共通点がある ⑨日本政府は2030年度の温暖化ガス排出量を2013年度から46%減らす目標を掲げており、達成には発電量のうち再生エネ36~38%、原発20~22%に高める必要がある 等と記載している。 
 しかし、地球温暖化(⇒海水温の上昇)の原因は炭素だけではなく、原発や使用済核燃料を冷やすための温排水もだ。そのため、⑤⑨のように、温暖化ガス排出量を減らす目標をかざして、2020年度は4%しかない原発由来の電力を20~22%までも増やそうとしていること自体に科学的合理性がない。さらに、②④のように、「安定供給と脱炭素の目標を両立できる電源は原発以外にない」などという言い訳を続けた結果が、日本の太陽光発電その他の再エネが進まなかった理由なのである。その上、③のウクライナ危機では、原発の危険性を学ばなかったのだろうか?そのような中で、①⑥⑧のように、電力不足を煽ってなし崩し的に原発再稼働や運転延長を行うのは安全どころか事故の危険性を高める行為で、次世代型の建設に使う資金があったら分散発電用の送電線等インフラ投資に廻した方がよほど賢い。さらに、⑦の英国・フランスと異なり、日本列島は地震・津波・火山噴火などの災害が多い地域的特色がある上に、情勢が不安定なアジアに位置しているのだ。そのような場所で、原発近くの高い位置に多くの使用済核燃料を詰め込み、武力攻撃には無力の状態で、どうして再稼働や新増設が可能なのか、情緒的で楽観的な主張ではなく、理路整然とした合理的な説明を聞きたいものである。
 なお、毎日新聞は社説で、*9-2-2のように、⑩フクイチ原発事故の反省を政府は忘れたのか ⑪最長60年と定められた原発の運転期間延長も検討する ⑫次世代原発は従来より耐震性を強化し、炉心を冷却する手段を増やすなど安全性を高めるというが、事故のリスクは0でない ⑬原発運転後に発生する高レベル放射性廃棄物の処分方法も見通しが立たない ⑭日本はフクイチ事故で、エネルギー供給を原発に依存する危うさを学び、事故やトラブルが起きれば影響は甚大・長期で原発回帰が安定供給につながるとは限らない 等と記載している。
 私は、⑩~⑭は全くその通りで、事故のリスクが0でない原発を、どの地域が誘致して稼働させるのか見たいものである。フクイチ原発事故で安全性の限界は既に明らかになっているため、原発事故のコストは、国民全員ではなく、それを承知で誘致した自治体が負担すべきだ。
 このような中、*9-3は、⑮中国は、太陽光発電の世界生産シェア8割だが、カーボンニュートラルを宣言した各国の需要増と発電効率の高いタイプの量産が可能になったことで大手各社が増産投資を競っている ⑯計画・建設中の生産能力追加分は原発を毎年340基新設するのに等しい規模 ⑰採算より規模拡大を優先する投資競争は新たな淘汰の引き金にもなり、収益より規模を重視した投資競争は淘汰を通じて業界の勢力図を塗り替える可能性 ⑱値下げ圧力は経済面の米中対立で習近平指導部を側面支援する可能性 等と記載している。
 ⑮のように、中国は太陽光発電の世界生産シェアが8割と突出しており、⑯のように、計画・建設中の生産能力追加分が原発を毎年340基新設するのに等しい規模になるというのは素直にすごいと思うし、原発に固執して無駄遣いしている日本とは違うとも思う。また、中国の電力単価はこれによって下がるため、製造業のコストダウンが行われて世界の工場としての地位がますます強固になり、⑱のように、習近平指導部を側面支援することも明らかだ。そして、ここで、⑰のように、投資競争による淘汰や業界勢力図の塗り替えを心配するのは、大企業を護ってスタートアップ企業を成功させない、むしろ自由主義市場経済から遠い発想なのである。


                        Amebro  2011.4.20NewTokyo
(図の説明:左図は、総務省基準による地方公会計と企業会計の違いだ。地方公会計は毎日仕分けするのではなく、期末にまとめて仕分けする出納整理期間があることで決算が遅くなり、複式簿記でないため検証可能性もない。中央の図は、東京都の新公会計制度で、すべてのコストを明確化し、資産・負債も浮き彫りにすることで無駄を削減している。右図は、国際会計基準による公会計制度を導入している国で、未だ導入していないのは日本とアフリカの数か国にすぎない)

  
  2021.8.9BBC              2022.8.23日経新聞

(図の説明:左図は、世界の平均海面水位の上昇で、その原因を、①化石燃料由来のCO2による地球温暖化《⇒海水温上昇》としているが、実際には、②原発からの温排水排出 ③海底火山の噴火 による海水温の上昇もあり、このうち①②が人間を起因とするものだ。中央の図は、現在の中国の発電割合で、右の図のように、中国の太陽光各社は、現在、投資に積極的である)

  
      2022.8.25日経新聞            2022.8.15東京新聞

(図の説明:左図のように、日本の首相は、電力逼迫を理由として、なし崩し的に原発再稼働・運転期間の延長・次世代炉の開発・建設を指示し、経団連はこれを喜んでいるが、さらに環境を悪化させ、莫大な金を使って、高レベル放射性廃棄物を増やすことになる。中央の図が、来夏以降の再稼働を目指す原発で、右図が新増設が計画される原発だそうだが、日本は原発事故も2度起こさなければ目覚めないのだろうか。とんでもないことだ)

*9-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/905744 (佐賀新聞 2022/8/23) <鉄路の行方 第4章・新幹線開業前夜(1)>「100年に1度」変わる長崎 再開発、転出歯止めへ期待
 到着と同時に2階のホームから港が望める。JR長崎線の終着駅・長崎駅は、西九州新幹線(武雄温泉-長崎)の開業に合わせて新しく生まれ変わった。ホームの先に県庁と県警本部が移転しているが、駅から海が見えるように建物の配置が工夫され、港町・長崎の新幹線への期待が伝わる。1カ月後、ここから新幹線の1番列車が走り出す。在来線駅と新幹線駅が並び、船の帆を思わせる白い大きな膜屋根が包む。光を透過する屋根で日中は明るい空間を作り出し、夜は夜景に一役買う。長崎市は駅中心に「100年に1度」と言われる都市の変革期を迎えている。旧駅に隣接していた車両基地を早岐駅(佐世保市)に移転し、新駅から浦上駅まで約2・5キロの在来線を高架化(約529億円)して踏切による市街地の分断を解消した。その上で駅周辺の約19・2ヘクタールで土地区画整理事業(約154億円)に取り組み、一体的な開発を推し進めている。
     ■
 7月に推計人口が40万人割れした長崎市。近年、転出超過数が市町別で2年連続の全国ワーストを記録するなど危機感がある。市長崎駅周辺整備室の松尾英幸室長(50)は「交流人口を増やして経済を回す。若者が外に出ないように魅力的な町にする。そして駅に来た人を旧市街地に送るポンプの役割もある」と再開発の狙いを語る。駅西側は西口駅前広場が完成。21年にコンベンション施設「出島メッセ長崎」(約216億円)と外資系の高級ホテル「ヒルトン長崎」ができ、新たな交流拠点が動き出している。一方、メインとなる駅東側は「今も工事が最盛期」(同室)。本工事と並行し、バス、タクシーの仮設の乗降場の整備が進む。JR九州も既存の商業施設アミュプラザに加えて、商業、ホテル、オフィスなどが入る13階建ての新駅ビルを建設中。既存施設を大きく上回る規模で23年秋の全面開業に向け、早朝から夜遅くまで工事の音が響く。東口全体の整備終了は25年を予定している。
     ■
 駅前の大黒町自治会長の片岡憲一郎さん(75)は20代の頃、のぼり旗を立てたトラックで中心部を回るなど地元青年会で新幹線の誘致運動に関わった。戦前、にぎわいをもたらした上海航路の復活も願い「上海につなぐ長崎新幹線を」と訴えたという。8月上旬、開業ムードを高める小旗が駅前商店街に並んだ。「ようやく来た」と歓迎する半面、様変わりする駅周辺に不安も抱く。「想像していた以上に変化が大きい」。(宮﨑勝)
   ◇    ◇
 九州新幹線長崎ルートは1973年の整備計画から約半世紀が経過し、武雄温泉-長崎間が9月23日に開業する。連載「鉄路の行方~地域と交通」の第4章は、開業直前の長崎・佐賀の沿線の準備状況や期待の声、課題に光を当てる。全8回の予定。

*9-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220825&ng=DGKKZO63733110V20C22A8EA2000 (日経新聞 2022.8.25) 首相、再稼働7基追加 エネ安保で活用にカジ 
 政府は電力の安定供給と脱炭素の実現に向け、原子力発電所の再稼働や運転延長、次世代型の建設などの検討に入る。東日本大震災後、安全審査や地元同意のハードルで再稼働は遅れてきたが、現時点で目標を両立できる電源は他にない。ウクライナ危機もエネルギー調達の課題を浮かび上がらせた。再生可能エネルギーを含めた供給網を早急に整える必要がある。日本は東日本大震災前、総発電量の3割ほどを原発に頼っていた。東京電力の福島第1原発での事故を受けてすべての原発が稼働を止め、原子力規制委員会による安全審査に合格した原発から再稼働を進めてきた。しかし審査を通過した17基のうち、現在稼働するのは6基のみ。審査が10年近くの長期にわたり、結論の出ない原発もある。2020年度の総発電量のうち原発の割合は4%にとどまる。原発の稼働が少ない状況は、電力の安定供給を危うくしている。夏場の電力は夕方に逼迫する傾向にあり、季節外れの猛暑に見舞われた6月下旬には強い節電要請が出た。電力各社は古い火力発電所を稼働してしのいでいるが、トラブルのリスクは拭えない。石炭や液化天然ガス(LNG)に頼る電源構成は、ロシアによるウクライナ侵攻で問題が浮き彫りになった。原油や天然ガス価格は高騰し、ロシアからパイプラインで天然ガスを輸入する欧州の指標価格のオランダTTFは、8月中旬に1メガワット時当たり250ユーロ台と、侵攻直後の3月より高い値段をつけた。欧州ではエネルギー安全保障の観点から原発の活用にカジを切る国が出てきた。英国は30年までに最大8基を新設する方針を掲げた。フランスも50年に向け大型原発を最大14基建設する方針だ。日本の状況も欧州と共通点がある。LNG輸入のうち1割ほどがロシアからだ。日本の商社が出資するLNG開発事業「サハリン2」から有利な価格で調達しているが、ロシア次第で供給が途絶する恐れがある。原発は化石燃料を使わずに安定して電力を供給できる。発電時には二酸化炭素(CO2)をほぼ排出しないことから、各国とも「脱炭素」を両立できる電源として意識せざるを得ない。日本政府は30年度の温暖化ガス排出量を13年度から46%減らす目標を掲げている。達成には発電量のうち再生エネを36~38%に、原発を20~22%に高める必要がある。建設中の原発を含めて、電力会社が稼働を申請した27基すべてが運転しなければならない計算だ。さらに温暖化ガスの排出を50年に実質ゼロにする目標は、原発の再稼働だけでは不十分との見方が多い。政府は再生エネを主力電源として伸ばす方針だが、天候に左右される特性などを考えれば、火力以外に安定した電源が必要になる。岸田文雄首相が表明した「運転期間の延長など既設原発の最大限活用」は再生エネへの移行を見据えたつなぎとして有力な手段といえる。いずれ寿命となる既存の原発の後継としては、安全性や経済性の高い次世代型原発の開発が欠かせない。もっとも、新設や再稼働は簡単には進まない。公明党は7月の参院選で将来的に原発に依存しない社会をめざすと掲げた。新設にも慎重な姿勢だ。政府が新設を打ち出しても、電力会社の投資判断につながるかは不透明だ。東京電力柏崎刈羽原発はテロ対策の不祥事で信頼が失墜している。使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル事業も未完成のまま停滞が続く。高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分場もめどはついていない。原発をめぐる後始末の部分にも、政府は道筋を付けなければならない。

*9-2-2:https://mainichi.jp/articles/20220825/ddm/005/070/068000c (毎日新聞社説 2022/8/25) 原発新増設へ方針転換 福島の反省を忘れたのか
 2011年に起きた東京電力福島第1原発事故の反省を、政府は忘れてしまったのか。岸田文雄首相が、次世代原発の開発・建設の検討を指示した。「原発の新増設とリプレース(建て替え)は想定していない」という事故以来の政府方針を大きく転換するものだ。最長60年と法律で定められている原発の運転期間の延長についても検討する。50年に温室効果ガス排出実質ゼロを目指す政府の会議で表明した。岸田政権は、脱炭素化の実現には、発電で二酸化炭素(CO2)を排出しない原発の活用が欠かせないとの立場を取っている。近年、老朽化した火力発電所の休廃止が相次ぎ、エネルギーの供給力不足が指摘されている。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によって、世界的にエネルギー調達が不安定になり、電力逼迫(ひっぱく)の恐れが高まっているのは確かだ。そうした現状を理由に、自民党は今年の参院選公約には「可能な限り原発依存度を低減」という文言を盛り込まず、「最大限の活用を図る」と原発回帰の姿勢を強めている。しかし、今回の方針転換には疑問が多い。政府のエネルギー基本計画は、原発の新増設・リプレースに言及していない。国民の理解を得るための議論を欠いたまま唐突に打ち出された形だ。次世代原発は、従来の原発よりも耐震性を強化し、炉心を冷却する手段を増やすなど安全性を高めたものだというが、事故のリスクはゼロではない。「核のごみ」と呼ばれる原発運転後に発生する高レベル放射性廃棄物の処分方法についても、見通しは立たないままだ。日本は福島の事故で、エネルギー供給を原発に依存する危うさを学んだはずだ。ひとたび事故やトラブルが起きれば、影響は甚大で、長期に及ぶ。原発回帰が安定供給につながるとは限らない。再生可能エネルギーを含めた多様な供給源を構築すべきだ。福島の事故以降、原発の安全性への不安は根強く残る。国民不在の方針転換は、政治への信頼を失わせるだけだ。

*9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220823&ng=DGKKZO63658170S2A820C2FFJ000 (日経新聞 2022.8.23) 中国、太陽光の増産過熱、新設工場の能力、原発340基分 高効率の新型量産
 太陽光発電の世界生産シェア8割を握る中国の大手各社が増産投資を競っている。カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出実質ゼロ)を宣言した各国の需要増に加え、発電効率が高いタイプの量産が可能になったためだ。計画・建設中の生産能力の追加分は、原子力発電所を毎年340基新設するのに等しい規模に上る。ただ採算より規模拡大を優先する投資競争は新たな淘汰の引き金にもなりかねない。「出荷量を毎年倍増させる」。江蘇省常州市の中堅太陽光発電メーカー、億晶光電科技(イージン・フォトボルタイク・テクノロジー)の唐駿総裁はこう宣言する。2021年の出荷量は2.6ギガワット。これを22年に5ギガワット、23年に10ギガワットと毎年倍増させる。1ギガワットはおよそ原子力発電所1基分に当たり、23年には毎年原発を10基新設するのに相当する規模のパネルを供給することになる。太陽光発電は典型的な装置産業で、生産規模を増やすほど単価当たりのコストが下がる。規模の利益を追求する戦略だ。太陽光発電パネル(モジュール)は発電素子「セル」が中核となる。21年まではコスト競争力に優れるp型のセルが圧倒的な主流だったが、理論上の発電効率がより高く、n型と呼ばれるセルが22年から低価格で量産できるようになった。顧客の需要が一気にシフトする可能性があり、各社は他社に乗り遅れまいと投資を積み増している。最大手の隆基緑能科技(ロンジソーラー)は浙江省嘉興市など4カ所で計100億元(約2000億円)超を投じて新工場を建設中。江蘇省などで工場建設中の天合光能(トリナ・ソーラー)は6月、青海省で新たに年産10ギガワットのセルやパネルなどの工場を着工し、25年末までに完成すると発表した。業界3位の晶澳太陽能科技(JAソーラー)は安徽省やベトナムなどで計170億元超を投じている。長城国瑞証券の6月時点での集計によると、計画・建設中の工場(n型の代表的な生産手法が対象)の年産能力は計340ギガワットにのぼるという。政府系研究所の電力規画設計総院によると、中国の21年の発電能力は計2380ギガワット、このうち太陽光は307ギガワットだった。計画・建設中の工場がすべて完成した後は、21年の発電能力を超える太陽光発電パネルが毎年出荷される計算だ。太陽光発電は好材料が目白押しとなっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、50年に太陽光は世界の発電量の33%を占め、風力(35%)に次ぐ存在となる見通し。中国太陽光発電産業協会(CPIA)の2月の発表によると、世界の太陽光発電の新設量は25年には300ギガワットを超える見通し。このうち中国は3割強を占める。国内外で大きく需要が伸びる見通しで、世界の生産シェアの8割超を占める中国メーカーにとって恩恵は極めて大きい。市場拡大を背景にスタートアップも参入する。台湾積体電路製造(TSMC)とオランダのNXPセミコンダクターズの合弁会社出身の技術者が21年に創業した中能創光電科技(キャンドゥ・ソーラー・フォトエレクトリック・テクノロジー)。導電体となる銀ペーストの使用量を減らし発電量1ワット当たりのセル製造単価を0.2元減らせる生産技術を開発した。広東省深圳市のエンゼル投資家(個人の資金でスタートアップに投資・支援する人)と投資ファンド5社から出資を受け、「近く1ギガワットの量産ラインを新設する予定」(黄強董事長)。中国企業の激しい投資競争は、供給増を通じて太陽光パネルの価格を世界的に押し下げる見通しだ。その値下げ圧力は経済面での米中対立で、習近平(シー・ジンピン)指導部を側面支援する可能性がある。米国のトランプ前政権は18年にセーフガード(緊急輸入制限)を発動し、バイデン政権も22年2月に延長した。今月12日には米議会下院が、再生可能エネルギーへの移行加速と国内への投資回帰を促す歳出・歳入法案を可決した。太陽光パネルの輸入に占める中国製品の比率は21年にほぼゼロとなった。ただ一部の中国製品は東南アジアを経由して米国に流出していると指摘される。米政府が保護姿勢を強める太陽光パネル産業も中国の投資競争の影響を免れない。米ホワイトハウスを脅かす中国の太陽光各社だが盤石ではない。太陽光発電は性能による差別化が困難で、コモディティー(汎用品)化しやすい。技術革新のサイクルも早く、10年に中国企業として初めて世界首位になった尚徳電力(サンテックパワー)は13年に経営破綻した。12年に世界首位になった英利緑色能源(インリー・グリーンエナジー)は14年に経営危機に陥った。太陽光発電はカーボンニュートラルを背景に長期的な需要拡大が確実だ。とはいえ激しい投資競争は各社の体力を消耗させる。中国の調査会社Windによると、21年12月期は中国本土の株式市場に上場する太陽光発電パネルメーカー11社のうち6社の最終損益が赤字だった。収益よりも規模を重視した投資競争は、淘汰を通じて業界の勢力図を塗り替える可能性がある。

<上場JRと大手私鉄の収益分析>
PS(2022年8月29日追加):*10は、①JR上場4社と大手私鉄15社の第1四半期連結決算(6月末)が出揃い、19社全てが最終黒字を達成 ②JR東とJR西はコロナ後初の運輸部門(鉄道、バスなど)の黒字化で、JR東海は3回目、JR九州は2回目の黒字達成 ③大手私鉄と同じく不動産・ホテル事業が鉄道事業に並ぶ柱となっているJR九州を除き、他の部門で運輸事業の赤字を埋められなかったのが過去2年のJRの苦境原因 ④大手私鉄15社は阪急・阪神HD約168億円、近鉄グループHD、東武鉄道等の8社が50億円以上の連結最終黒字達成 ⑤空港輸送はコロナで苦戦の京成・南海電鉄も含めて全社が営業黒字達成 ⑥不動産事業は引き続き堅調 ⑦物流部門は好調 ⑧関東圏は定期利用の減少率が高く、関西圏は定期外利用の減少率が高い ⑨通学定期は感染状況に応じて利用の増減があり、通勤定期は2年半殆ど変化しなかった ⑩定期外利用と密接なレジャー・ホテル部門は阪神タイガース・宝塚歌劇団を運営する阪急・阪神HDGと東京スカイツリーを運営する東武鉄道が収益源にした 等と記載している。
 このうち①は、民間大企業は4半期毎に3か月以内に連結決算を終了して事業に関する「Plan→Do→Check→Action」を行い、綿密に事業計画を練っているということだ。また、③④⑥は、鉄道事業と街づくりを一体的に行えば、鉄道会社はそのメリットを活かして不動産事業やホテル事業で稼ぐことができるという事例だ。さらに、⑦の物流部門は、インターネット通販の発展で消費者は日本のみならず世界の製品を買うことができるようになったため、今後、ますます好調になることが予想される。なお、②⑤と⑧⑩の定期外利用の減少は、新型コロナによる入国者数制限や国内移動制限等による観光需要の激減とその回復過程であり、⑧⑨の関東圏では通勤定期は2年半変化しないのに定期利用の減少率が高いのは、通学定期が感染状況に応じて休校や遠隔授業の影響を受けたからだろう。ただし、新型コロナによる入国者数制限や移動制限は極めて特殊な状態であるため、今後の鉄道事業計画を立てるにあたっては、コロナに一喜一憂することなく、地方自治体が地元の鉄道会社と連絡を取り合って、21世紀型の街づくり・企業誘致・スタートアップの支援等の成功例を参照しつつ、地域の事情に合わせて行うのがよいと思われる。

 
               すべて*10より
(図の説明:左図のように、JR各社の連結営業損益は、新型コロナによる移動制限で2020年に大赤字に転落し、2022年になって少し回復の兆しが見えた。また、私鉄各社は、中央の図のように、2022年にはすべて営業利益を出しており、セグメント《部門》別では不動産からの利益が確実だ。さらに、右図では、新型コロナによる入国制限や移動制限時に運輸・レジャーによる利益がマイナスとなり、不動産からの利益で支えている。ただ、今後は、鉄道の連続した土地を利用して送電線を敷設したり、高架下を貸し出したりして利益を出す方法も考えられる)

*10:https://diamond.jp/articles/-/308691?utm_source=daily_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20220829 (Diamond Online 2022.8.29) JR・私鉄19社が最終黒字に転換、アフターコロナの「新たな課題」とは
JR上場4社、大手私鉄15社の第1四半期連結決算が出そろった。目下、感染第7波の影響が全国に波及しているが、感染が増加傾向にありながらも比較的、状況が落ち着いていた今期は19社全てが最終黒字を達成した。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
●JR上場4社は運輸事業の赤字を段階的に縮小
 JR上場4社の最終黒字は、JR東日本が約189億円、JR西日本が約470億円、JR東海が約579億円、JR九州が約69億円だった。鉄道事業の費用は必ずしも四半期ごと等分されないため参考値ではあるが、JR東日本とJR西日本はコロナ以降で初めて運輸セグメント(鉄道、バスなど)が黒字化した。JR東海は2020年度第3四半期、2021年度第3四半期以来3回目、JR九州は2021年度第3四半期以来2回目の達成となる。各社の2019年度から今年度までのセグメント別営業損益の推移を見ると、3年をかけて運輸事業の赤字を段階的に縮小し、黒字転換にこぎ着けたことが分かる。大手私鉄のビジネスモデルと同様に、不動産・ホテル事業が鉄道事業に並ぶ柱となっているJR九州を除き、他のセグメントで運輸事業の赤字を埋めきれなかったのが過去2年のJRの苦境の要因だ。鉄道事業の実情を知るために、4社の旅客営業収入をコロナ前(対2019年度第1四半期)と比べると、概ね7割前後の水準まで戻ってきている。一昨年度は2~3割、昨年度は同3~5割の水準だったことを考えると、旅客需要は長い時間をかけながら回復傾向にあるといえるだろう。ただ事業者ごとに利益率が異なるため、利用が同じペースで戻ってきても利益には開きが生じる。収入の8割以上を東海道新幹線の売り上げが占めるJR東海は、旅客運輸収入の落ち込みという観点で見れば、コロナ禍当初は他の3社より深刻だったが、営業赤字は比較的少なかった。利用が同程度に回復した現在、JR東海の運輸セグメント営業利益は2019年度同期の39%で、JR東日本の14%、JR西日本の16%、JR九州の24%に差を付けている。第1四半期の好調な成績を足掛かりに各社は、初めての行動制限のない夏休み・お盆の夏季輸送に臨み、本格的な利用回復の足掛かりにしたいと期待してきたが、7月に入って本格化した第7波の到来が水を差した格好だ。JR西日本の月次情報によれば、これまで特に利用が落ち込んでいた中・長距離(新幹線・在来線特急など)の定期外運賃収入は6月にコロナ前の68.1%の水準まで回復していたが、7月(速報値)は62.1%、8月(1~21日までの速報値)は61.4%となっており、一歩後退したまま足踏みしている。ただ過去最大規模の感染拡大が進行する中においても2020年、2021年のような大幅な落ち込みは発生していない。コロナがどのように収束あるいは定着するかは見通せないが、(感染防止の観点から良いか悪いかは別として)コロナを警戒しつつも状況に応じて外出するスタイルが続くようなら、状況は好転していくはずだ。それを占うためにも、第7波の直接・間接の影響が表れる第2四半期決算に注目したい。
●大手私鉄15社で8社が50億円超の最終黒字
 続いて大手私鉄15社の状況だが、阪急・阪神ホールディングスの約168億円を筆頭に、近鉄グループホールディングス、東武鉄道、京浜急行電鉄、東京メトロ、京阪ホールディングス、東急、小田急電鉄の8社が50億円以上の連結最終黒字を達成した。業績回復の主要因は営業利益の回復だが、特別利益として京急が95億円、京阪HDが約44億円の固定資産売却益を計上している。また近鉄は、業績好調な物流事業の関連会社「近鉄エクスプレス」の投資利益約69億円を営業外収益に計上している。近鉄GHDは今年7月、同社を株式公開買い付けによって連結子会社化しており、今後は物流事業の利益が本体に直接上積みされることになる。
●回復著しいのが鉄道やバスなどの運輸セグメント
 営業利益の回復をセグメント別に見ると、特に回復著しいのが鉄道やバスなどの運輸セグメントだ。事業規模が小さい西日本鉄道が約7800万円、航空需要の落ち込みで空港線が苦しい京急が約2億円の赤字を計上した以外は、同じく空港輸送で苦戦を強いられている京成電鉄、南海電鉄も含めて全社が営業黒字を達成した。鉄道の不調を支える不動産事業も引き続き堅調である。また西鉄は近鉄と同様、グループの物流部門が業績好調で、物流セグメント(図中は「その他」)は約54億円の営業黒字を計上しており、結果的に営業利益、純利益ともコロナ前の2019年度第1四半期を上回る業績となった。鉄道利用の回復の実態を探るために各社の旅客運輸収入を比較してみると、京成や南海など空港アクセス路線を運営する事業者を例外として、関東圏は定期利用の減少率が高く、関西圏は定期外利用の減少率が高い傾向にあることが分かる。例えば2022年度第1四半期の東急電鉄の定期外収入は2019年度同期比92%だが、阪急電鉄は83%。一方、定期収入は東急が72%なのに対し、阪急は89%だ。また関東9社では東武の83%が最大だったが、関西4社の最小は南海の84%だった。ただし増減の傾向は東西で大差ない。定期利用を通勤と通学に分解(一部の事業者は非公開)すると、通学定期は感染状況に応じて利用の増減があるのに対し、通勤定期は東急電鉄が65~70%、阪急電鉄が概ね85~89%で推移しており、2年半ほとんど変化がない。路線間の減少率の差は沿線住居者の業種や職種、年齢層などが影響していると思われる。感染状況にかかわらず増減がないということは、コロナが収束しても定期利用者は戻ってこないと考えるのが自然だろう。そうなると鉄道事業復活の道は定期外利用の回復しかないということになる。
●アフターコロナの課題は定期外利用の更なる拡大
 アフターコロナの定期利用はコロナ以前の70~80%程度しか戻らないという説は、各社の見立てからしても、実際のデータから見てもおおむね確かなようだ。だが、定期外利用がどこまで回復するかは「通説」が存在しない。長期的にコロナ前に近い水準に戻ると見ている事業者がある一方、利用は戻らないと判断して輸送力の削減を決断した事業者もある。そうした中、コロナ以前と比較した定期外収入が、空港アクセスを担う京成、京急、南海、名鉄を除けば、東急の92%を筆頭に、概ね80%超の水準まで回復したという事実は重要だ。大手私鉄では概ね、輸送人員の6割を占める定期旅客が4割の収入をもたらしてきた。定期利用者は割引率が高く、利用時間帯が集中(ラッシュ)するため、事業者からすれば効率の良い個客ではなかった。それが一定程度、減少し、収益源の定期外利用が微減にとどまるのであれば、コロナがもたらした地殻変動は決して悪いばかりの話ではない。いずれ避けられなかった人口減少社会への対応が一気に進んだと捉えることもできる。最後に、定期外利用と密接なかかわりを持つレジャー・ホテルセグメントだ。2020年度第1四半期は近鉄GHDが約214億円、西武ホールディングスが約143億円という巨額の営業損失を計上したが、今期は近鉄GHDが約7億円の赤字まで縮小、西武HDは1000万円の黒字に転じた。赤字の縮小だけでなく、収益源にまで立て直した事例もある。阪神タイガースと宝塚歌劇団を運営する阪急・阪神HDGと、開業10周年を迎えた東京スカイツリーを運営する東武鉄道だ。両社とも不動産部門を超える利益を生み出すに至っており、観光需要の回復は都市型施設が先行していることがうかがえる。大手私鉄15社のセグメント別連結営業損益を四半期ごとに合算してみると、興味深いトレンドが浮かんでくる。最初の緊急事態宣言が発出された2020年度第1四半期、東京の感染者数が初めて1日1000人を超えた2020年度第4四半期、同じく1日1万人を超えた2021年度第4四半期に底があり、回復と下落が繰り返されていることが見えてくる。ところが感染者数や死者など数字の上では被害は大きくなり続けているのに対し、下落幅は小さくなり、回復のペースも上がっているように思える。第7波がどのように位置づけられるかは非常に興味深い所だが、新たな下落が起きても黒字をキープできる日が来たならば、それが鉄道におけるアフターコロナの始まりなのだろう。

<新型コロナへの政府対応のまずさ>
PS(2022年9月1日):*11-1-1は、岸田総理大臣は「負担が増えている」とする医療現場と自治体の要請を受け、8月24日に新型コロナ感染者の「全数把握」を見直す方針を明らかにした。その理由は、①感染症法が新型コロナと診断した医師に患者全員の氏名・年齢・連絡先等の情報を「HER-SY(開始当初に入力項目は約120あり、最も入力項目が少ない重症化リスクの低い患者はこれまでに7項目に絞った)」を使って「発生届」として保健所に提出するよう義務づけ ②保健所等が「発生届」をもとに健康観察・入院先調整を行っているが ③「第7波」の感染者急増で入力・確認作業が医療機関や保健所の業務負担となり、医療現場から「コロナ患者対応に集中させてほしい」という声が高まっていた からで、その結果として、④国や自治体は「発生届」を集計して全国・地域毎の感染状況を把握してきたが、今回の見直しにより自治体の判断で「発生届」を必要とする対象を高齢者と重症化リスクの高い人等に限定できるようにした ⑤対象外になった人は感染者総数と年代別人数を把握して感染者数の集計は続けるが ⑥対象外の人が自宅療養中に体調が悪化しても気付きにくくなる ⑦厚労省は発熱外来や保健所業務が極めて切迫した地域で都道府県から届け出があった場合、「発生届」の対象を限定する措置を実施可能にする ⑧定点となる医療機関を指定して定期的に報告を求める「定点把握」は、具体的な制度設計に時間が必要なことから第7波が収まった後で検討する としている。
 これに対し、⑨全国知事会会長の平井知事は「知事会としては『早く全数把握を見直してほしい』と求めていたので感謝するが、この対応が感染対策を緩めるものだと国民に誤解されないようPRして欲しい」と述べ、 *11-1-2は、⑩東京・神奈川・埼玉県は、当面全数把握を続ける方針を決め、その理由を、⑪発生届がなく健康観察の対象とならない感染者が重症化した際の入院調整の混乱と感染動向分析の困難 ⑫現時点で一般医療の制限を伴うフェーズでない ⑬1人1人の健康状態を把握して必要な医療につなげる重要な機能がある ⑭政府が全国一律で全数把握を見直した場合の対応を見たい ⑮ワクチン接種記録と電子カルテが統合されていない現状が入力作業する医師に何度手間をかけるのか考えてほしかったこと 等としている。一方、*11-1-3は、佐賀県は⑯「県陽性者登録センター」を8月27日に開設し、自主検査などで陽性になった人が自身でインターネットにより陽性者登録ができるようにし ⑰これは、i) 県内在住 ii) 65歳未満 iii) 無症状か軽症  iv) 高血圧、肥満、糖尿病などの基礎疾患がない人に限り ⑱本人確認資料や検査結果の画像などを添えて登録申請し ⑲佐賀大の医師が申請内容を確認して診断し、患者の発生届を保健所に提出する としている。
 このうち、①③⑦は、「泣きが入ったから規制を緩めた」というだけの話で、科学的根拠が示されていない。また、②④⑤のように、“重症化リスクの高い、低い”を保健所が決めるのも、年齢と生活習慣病の有無という単純な基準を使って分けているだけで個人差を無視しているため、⑥⑪のようなことが起きるのである。従って、感染者全員の届け出がある間に、「重症化リスクが高いとされた人とその他の人の間の重症化の差は、本当はどこまであったか」について厚労省が定量的に追跡調査する必要があったのだが、それがなされていないため、科学的ではない単なる観念的な分類に終わっているのだ。
 それでは、本当はどう解決すべきだったかについては、医療は、⑫のように、新型コロナ患者を診るために一般医療の制限をしなければならなかったり(人口に対して医師数が著しく少ない開発途上国ではあるまいし)、発生届がなければ感染者が重症化しても入院すらできなかったりするのが問題なのであり、これは⑬のように、「1人1人の健康状態を把握して、必要な医療に繋げるため」と称して治療の専門家でない保健所を通していることが問題なのだ。そのため、新型コロナ確認から3年後の今やるべきことは、病院に行って検査に基づき医師の診断を受けて治療し早く治すようにすることで、そのためには厚労省が馬鹿なことを言って承認しなかった*11-3の塩野義製薬の「ゾコーバ」はじめ「モルヌピラビル」「パキロビッド」等の抗ウイルス薬が既にあるし、何度もワクチンを接種して、接種証明書も持っている。
 さらに、全数把握については、⑧⑩⑭⑮を見ると、感染者の全数把握をすることとワクチン接種記録や電子カルテを統合することが新型コロナ騒ぎの目的になっているようだが、感染症と生活習慣病を混同するほどわけがわからず、非科学的で患者の立場に立った医療を行おうとしない政府や地方自治体が患者のプライバシーに入り込むことこそ、差別や人権侵害の温床になる。佐賀県の場合は、⑯のように「県陽性者登録センター」を開設し、⑰⑱のように、“重症化対象外”の人はインターネットにより自分で陽性者登録ができるようにし、⑲のように、佐賀大の医師が申請内容を確認して診断することとしており、希望者だけが登録するため人権侵害の問題は軽減されるが、医師が診断すれば十分で患者の発生届を保健所に提出することは不要である。
 そのため、⑨の全数把握については、*11-2-1の「特定医療機関を選んで定期的に感染者数の報告を求める『定点調査』」では統計が恣意的になって全体を代表しないため(何を考えているのかな)、むしろ*11-2-2のように、「地方自治体が下水から新型コロナウイルス等を自動的に検出するシステム」にし、ウイルス量が増加した地域で全数検査することにすれば、クラスター防止や収束に役立つと思う。


          2022.8.24NHK             2022.8.24時事
(図の説明:左と中央の図のように、新型コロナの全感染者の保健所への届出提出を医師に義務付けて事務負担が多く、見直しが求められたため、コロナの全数把握を見直すことになった。そして、右図のように、感染者の全数届け出を都道府県判断にし、陽性者の待機期間短縮を検討する等としているが、いずれも場当たり的ではなく方針と科学的根拠を明示して行うべきである)

 
    2022.2.11読売新聞    2022.8.20東京新聞    2020.6.8GemMed

(図の説明:左図のように、新型コロナによる死者数の累計は3年間合計で2万人であり、それまで1年間にインフルエンザで亡くなっていた人の数より少ない。また、中央の図のように、2022年8月の1週間平均重症者数は60人、死者数は250人くらいだ。これらは、右図の人口10万対年間死亡数を1億人対に直した場合の悪性新生物30万人《300X1000》、不慮の事故4万人《40X1000》、自殺2万人《20x1000》と比較して著しく少なく、騒ぎすぎではないかと思う)

*11-1-1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220824/k10013785761000.html ( NHK 2022年8月24日) 新型コロナ「全数把握」見直しへ 理由は? 変更点は?
 新型コロナ対策をめぐり、岸田総理大臣は24日、感染者の「全数把握」を見直す方針を明らかにしました。厚生労働省は、早ければ今月中にも運用を開始したいとしています。なぜ見直すのか、見直しで何が変わるのか、そして「負担が増えていた」という医療現場や自治体の受け止めなどについてまとめました。
【なぜ変わるのか】
 新規感染者の「全数把握」は医療機関が作成した患者の「発生届」をもとに行われています。感染症法は、新型コロナウイルスを診断した医師に対し、すべての患者の氏名や年齢、連絡先などの情報を、「発生届」として保健所に提出するよう義務づけています。国や自治体は「発生届」を集計して全国や地域ごとの感染状況を把握してきたほか、保健所などが「発生届」をもとに健康観察や入院先の調整を行っています。「発生届」の提出は国が導入した「HER-SYS(ハーシス)」と呼ばれるシステムを使用して行われますが「第7波」で感染者が急増し、入力や確認の作業が医療機関や保健所の業務負担となっていました。医療現場からは、コロナ患者対応に集中させてほしいと、見直しを求める声が高まっていました。
【変更点は】
 今回の見直しでは、自治体の判断で「発生届」が必要とする対象を、高齢者や重症化リスクが高い人などに限定できるようにしました。若者など対象外となった人についても感染者の総数と年代別の人数を把握するとしています。感染者数の集計は続けられることになるため、感染状況は引き続き把握できますが、「発生届」の対象外の人が自宅療養中に体調が悪化しても気付きにくくなるなどの懸念もあります。厚生労働省は発熱外来や保健所の業務が極めて切迫した地域では、都道府県から届け出があった場合「発生届」の対象を限定する措置を順次、実施可能にするとしています。一方、定点となる医療機関を指定して定期的に報告を求める「定点把握」については具体的な制度設計に時間が必要なことなどから第7波が収まった後で、検討する方針です。
【見直しの経緯は】
 「HER-SYS」のシステムの運用はおととしから始まり、開始当初に入力項目はおよそ120ありました。
入力項目はこれまでに段階的に削減され、現在、最も入力項目が少ない重症化リスクの低い患者については、◇氏名、◇性別、◇生年月日、◇市区町村名、◇電話番号◇医療機関からの報告日、◇症状の有無などといった診断類型の7つの項目まで絞りました。しかし、いわゆる「第7波」で感染拡大が続く中、医療現場や自治体などからさらに見直しを求める声が相次いだ状況を受け、先の内閣改造で新たに就任した加藤厚生労働大臣と全国知事会の会長を務める鳥取県の平井知事らがオンラインで会談。平井知事は全数把握について「必要性は理解しているが、現場は夜遅くまで入力作業をしなければならない。これまでも入力項目を緩和してもらったが さらに踏み込んでほしい。第7波が終わってからではなくすぐに取り組んでほしい」と直ちに見直すよう要望しました。さらに日本医師会からも同様の要望が寄せられました。これを受けて加藤大臣は、先週の国会審議で「医療機関の負担を減少しながら、全数把握の目的・機能をどのように残していくのか、専門家や医療現場から話を聞きながら検討している状況だ」と述べ、速やかに対応する考えを示していました。
【厚労相 ”速やかに届け出の受付を始める”】
 加藤厚生労働大臣は24日夜、厚生労働省で開いた記者会見で「届け出た都道府県は、日ごとの感染者数の総数と年代別の総数を毎日公表していただくことを前提に、厚生労働大臣が定める日から届け出の対象を▽65歳以上▽入院を要する方▽重症リスクがありコロナの治療薬の投与や酸素投与が必要と医師が判断する方▽妊婦の方に限定できるようする」と述べました。そのうえで関係する省令の改正について、24日の厚生労働省の審議会で了承が得られれば、25日に省令を公布し速やかに都道府県向けの説明会を実施して届け出の受け付けを始める考えを示しました。厚生労働省は、届け出を受けて事務手続きを進め、早ければ今月中にも運用を開始したいとしています。また加藤大臣は「全国ベースでの見直しについては今後の感染状況の推移などを見極めたうえで検討していきたい」と述べました。
【医療機関からは負担軽減に期待の声】
 感染が拡大した7月中旬以降、連日70人から100人の患者を診察している東京・世田谷区にあるクリニックの発熱外来では、24日も発熱外来には発熱やのどの痛みなどの症状を訴える患者が検査を受け、薬を処方してもらっていました。このクリニックでは1日50件以上の発生届を入力する日もあり、24日も看護師が診察の合間や昼休みに、陽性になった人の名前や電話番号、基礎疾患があるかなどの入力作業をしていました。入力には1件当たり5分ほどかかり、クリニックでは1日3時間前後を作業に費やしているとということです。「クリニックプラス下北沢」の長谷啓院長は「看護師も受付も常に走り回っているような状況で、発生届にも時間と人員が取られていたが、少しでも負担が軽減されると現場としては期待している」と話していました。一方、「患者の中には若い人や基礎疾患のない人で軽症だったのに状態が悪くなる人もゼロではなかったので、届け出の対象ではない人も健康観察をしながらケアが必要な人を見極めていきたい」と話していました。
【見直し受け 各知事の反応は】
 全国知事会の会長を務める平井知事は、山際担当大臣と会談し政府が感染者の全数把握を見直す方針を決めたことについて「知事会の要求に応えていただいたことに感謝する。ただ、この対応が感染対策を緩めるものだと国民に誤解されないようしっかりPRしてほしい」と述べました。これに対し、山際大臣は「感染が収まらない中、どう社会経済活動を止めずに前に進むかは難しい課題だが、お盆や学校再開の影響などを議論しながら有効な対策をどう打つか、さらに密に自治体と連携していきたい」と述べました。会談のあと平井知事は、記者団に対し「知事会としては『早く全数把握を見直してほしい』と先月末から求めていたので、首を長くして待っていた。きょう示されたことは評価に値する」と述べました。東京都の小池知事は24日午後、都庁で記者団の取材に応じ「総理大臣が発表したということだがもう少しよく確認していかなければならない。都は他県の何千件もの届け出も手続きしているなどの状況もあり、緊急で手を挙げるというところに今、至っているわけではない」と述べ、政府の方針をよく確認したうえで都の対応を判断する考えを示しました。そのうえで「根本の問題は電子カルテと「HER-SYS」が連動していないなどのシステムの問題だ。国はこれからも続くかもしれない感染症に備えるという大きな観点の戦略が必要なのではないか」と指摘しました。大阪府の吉村知事は「全数把握が保健所や医療機関の負担になっているのは間違いなく、負担を軽減したいという思いがある。重症化のリスクが高い人を守ることが重要で、見直しには賛成だ」と述べました。一方で「報告の対象から外れた人たちの医療費の公費負担がどうなるのかや、宿泊療養施設への入所や配食サービスなどの支援の手続きをどのように行うのか、仕組みが分からないと判断しづらい」と述べ、具体的な見直しの内容を確認したうえで、対応を検討する考えを示しました。

*11-1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/198291 (東京新聞 2022年8月26日) 東京に続き神奈川・埼玉も「全数把握」維持 「矛盾にあふれた制度」政府見直し案に苦言続々
 政府が打ち出した新型コロナウイルスの全数把握見直しについて、神奈川、埼玉の両県は26日夜、会議を開き、当面見直しは行わず、現在の全数把握を続ける方針を決めた。東京都の小池百合子知事もこの日あらためて全数把握を続ける意向を表明した。政府は早ければ9月中旬にも全国一律で全数把握を見直すことを検討しているが、首都圏の知事からは政府の見直し方法に疑問が相次いだ。かねて見直しを国に求めてきた神奈川県は「政府が課題を整理するまでは全数把握を続ける」と決めた。対策本部会議では、氏名や連絡先を記載した発生届がない自宅療養者に「悪化した際の入院調整をすることは困難」などの課題が指摘された。黒岩祐治知事は会議で「首相が見直しを明言した際に私は『歓迎したい』と言ったが、矛盾にあふれた制度と言わざるを得ない」と語った。埼玉県の大野元裕知事も「当面は見直しをしない」と表明した。高齢者ら重症化リスクが高い感染者のみが発生届を出すようにした場合、発生届がなく健康観察の対象とならない感染者が重症化した際の入院調整が混乱したり、感染動向が分析しづらくなると指摘。「現時点では一般医療の制限を伴うフェーズに至ってなく、発生届を限定する状況ではない」と説明した。小池都知事は会見で「一人一人の健康状態を把握し、必要な医療につなげる重要な機能がある」と当面、現在の全数把握を継続する考えを表明。一方、政府が全国一律で全数把握を見直した場合の対応は「国がどういう形で決めるのか(見たい)。現場に混乱を来さないようにお願いしたい」と明言を避けた。政府の入力システムの煩雑さを指摘し「今、最も必要なことから優先順位を決めていく、戦略的な大本営が必要ではないか」と述べた。感染者の情報管理システム「HER-SYS(ハーシス)」のほか、ワクチン接種記録システム(VRS)や電子カルテが統合されていない現状については「(入力作業をする医師にとって)何度手間なのか。考えてほしかった。使いやすく安心できるデータが積み重ねられることを期待する」と、政府システムの抜本的な改善を求めた。

*11-1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/907228 (佐賀新聞 2022/8/26) <新型コロナ>陽性者登録センター 8月27日開設、佐賀県サイト申請可能に
 佐賀県は25日、新型コロナウイルスの感染拡大で業務が逼迫(ひっぱく)する医療機関の負担軽減策として導入を決めていた「県陽性者登録センター」を27日に開設すると発表した。自主検査などで陽性になった人が医療機関に足を運ぶことなく、インターネットで陽性者登録ができる。午前9時から受け付ける。薬局での無料検査や購入した抗原検査キットでの検査で陽性となり、(1)県内在住(2)65歳未満(3)無症状か軽症(4)高血圧、肥満、糖尿病などの基礎疾患がない-のすべてに該当する人が対象。「研究用」として販売されている国の審査を経ていない未承認のキットは対象外となる。県ウェブサイト内の専用フォームから、本人確認資料や検査結果の画像などを添えて登録申請する。佐賀大の医師が申請内容を確認して診断し、患者の発生届を保健所に提出する。申請は24時間可能だが、担当医師(1日1人)の業務時間は1日数時間となる。感染者の全数把握見直しについて、山口祥義知事は発生の届けを重症化リスクが高い人に限定する方針を示しており、新たな方針に合わせてセンターが発生届を提出する対象者も見直す。県ウェブサイトでは、受け付け開始に合わせて申請手順も公開する。

*11-2-1:https://nordot.app/935853343681429504?c=39546741839462401 (47ニュース 2022/8/26) コロナ定点調査9月にも試行へ 特定医療機関で、政府検討
 新型コロナウイルスの感染状況を把握する手法として、政府が9月半ばにも、特定の医療機関を選んで定期的に感染者数の報告を求める「定点調査」を試行する方向で検討していることが26日、関係者の話で分かった。全ての感染者個人の情報を発生届で報告する従来の全数把握方法から、長期的に定点調査への切り替えも視野に入れる。一方、政府は全数把握について、緊急避難的に都道府県判断で発生届を高齢者らに限定できる方針を打ち出し、さらに全国一律に見直す方向で検討している。当面は定点調査の試行と、発生届の対象を絞りながら感染者総数は把握する二つの仕組みが共存する見込み。

*11-2-2:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220828/k10013791281000.html (NHK 2022年8月28日) 下水からコロナ感染の広がり把握 選手村で去年調査 北海道大学
 下水から新型コロナウイルスを検出する研究を進めている北海道大学などの研究チームが、東京オリンピック・パラリンピックの選手村で採取した下水のデータを調べたところ、ウイルスの検出率と選手村での陽性者数の傾向がほぼ一致し、感染の広がりを高い精度で把握できることがわかりました。北海道大学大学院工学研究院の北島正章准教授などの研究チームは、去年行われた東京オリンピック・パラリンピックの期間中、毎日、選手村で下水を採取し、下水に含まれる新型コロナウイルスの量を調査しました。その結果、下水からのウイルスの検出率が上がると、ほぼ一致して選手村での陽性者数も増え、感染の広がりを高い精度で把握できることがわかったということです。選手村では毎日、選手や関係者が抗原検査を受けていましたが、下水の調査の方が2日早く、ウイルス量の増加を検知できたとしています。北島准教授は、「新型コロナウイルスの疫学調査を下水で行えることがより明らかになった。クラスターの防止や収束に役立ててもらいたい」と話しています。

*11-3:https://scienceportal.jst.go.jp/explore/review/20220722_e01/ (Science Portal 2022.7.22) 国内初コロナ飲み薬、「緊急承認」見送り 塩野義製薬、第7波で期待の一方慎重論多く継続審議に(内城喜貴 / 科学ジャーナリスト 共同通信客員論説委員)
 新型コロナウイルス感染症「第7波」の急拡大が全国的に続いている。そうした中で厚生労働省薬事・食品衛生審議会の医薬品第二部会と薬事分科会の合同会議が20日夜開かれた。この日の審議議題は塩野義製薬が開発した国内初の新型コロナ飲み薬である「ゾコーバ」の「緊急承認」を認めるかどうかだった。2時間以上に及ぶ熱を帯びた議論の結果、審議を継続することになった。同社は臨床試験(治験)の最終結果を11月にも提出する予定で、改めて審議される。新開発の薬を速やかに使えるよう5月に創設された緊急承認制度の初適用は見送られ、国産初の軽症者向け飲み薬の実用化は実現しなかった。
●海外飲み薬は投与しにくく
 身近なクリニックで診断・処方でき、自宅でも服用できる軽症者向けの新型コロナ飲み薬は、治療の遅れによって重症になる患者を減らして医療現場の負担も軽減できる。厳しい行動制限をせずに日常生活に戻るための鍵になるとも期待されていた。現在、軽症者にも使える飲み薬としては米製薬大手メルクの「モルヌピラビル」と同ファイザーの「パキロビッド」が「特例承認」されている。特例承認は海外での治験データを前提に、国内治験データも加味して承認する制度だ。モルヌピラビルはウイルスの設計図であるRNAの複製を妨げる働きがある。パキロビッドはウイルスが体内で増殖するのを防ぐ効果が期待される。いずれも抗ウイルス薬だ。だが、2剤とも外国製で調達量に一定の制限があり、適用の対象は重症化リスクがある高齢者や基礎疾患がある患者だ。パキロビッドは高血圧や脂質異常症の薬など「併用禁忌」の薬が30種以上もあるという問題もあった。このほか軽症者向け治療薬としては英製薬大手グラクソ・スミスクラインなどが開発した「ソトロビマブ」があるが、点滴で投薬する必要がある。モルヌピラビルは長径2センチ以上あり、高齢者は飲みにくいという指摘もある。政府は約160万人分を確保したが、厚労省などによると、投与されたのは7月中旬時点で約23万人。政府はパキロビッドも約200万人分を確保したが、高齢者中心の投与者の多くは併用禁忌薬も飲んでいることから投与者はわずか約1.5万人にとどまるという。
●承認を前提に100万人分を基本合意
 こうした中で開発が進んでいた塩野義製薬のゾコーバは国内産で手軽に服用できる飲み薬として政府内部のほか、臨床医や感染症の専門家の間でも実用化への期待は大きかった。薬は動物実験や「第Ⅰ相」「第Ⅱ相」「第Ⅲ相」の3段階の臨床試験データを厳密に審査し、安全性や効果が確認されて初めて承認される。医薬品の審査は多くの場合1年程度かかる。新型コロナの国内拡大が続いて対応を迫られた政府は海外で開発され、先行して流通している医薬品を対象に審査を簡略化できる特例承認の制度を用いて新しい薬やワクチンを承認してきた。しかしこの制度でも国産の新薬は対象外で、ワクチンの承認では欧米より承認が2~5カ月程度遅れた。このため政府は新たな制度を急いだ。それが緊急時にワクチンや治療薬などを速やかに薬事承認する緊急承認制度だ。5月13日に同制度の新設を盛り込んだ改正医薬品医療機器法が国会で成立した。この制度は、国民の生命に重大な影響を及ぼす恐れがある病気のまん延を防ぐことが目的で、治験完了前の中間段階でも安全性が確認され、臨床上意義のある評価指標で有効性が「推定」できれば実用化を認める、としている。感染状況を踏まえた緊急性も考慮される。塩野義製薬は今年2月に国内初の軽症者向け飲み薬としてゾコーバの承認を厚労省に申請。その際は比較的迅速な審査が期待できる「条件付き早期承認制度」の適用を要望した。しかし、同制度は希少疾患などの患者数が少ない医薬品を対象としているため、緊急承認制度が成立した後の5月下旬にこの制度の適用を申請した。政府はゾコーバの実用化に期待し、承認を前提に塩野義製薬と100万人分購入の基本合意をしている。
●治験の初期段階の評価は微妙
 ゾコーバは塩野義製薬が北海道大学と共同で開発した低分子の経口薬、つまり飲み薬で開発番号は「S-217622」。この新薬は新型コロナウイルスが増殖する時に必要な「3CLプロテアーゼ」という酵素を選択的に阻害し、ウイルスの増殖を防ぐとされる。同社は2月7日に治験の第Ⅱ相のうち69例を対象にした「2a」の、その後428例を対象にした「2b」のそれぞれデータを公表している。「速報」とも言える69例データでは、投与4日目(3回投与)後のウイルス量(力価)は偽薬と比べ(投与用量などにより)60~80%減少。臨床症状も改善が見られ、一方重篤な副反応はなかったという。公表データによると、第Ⅱ相「2b」は軽症・中等症の428例(日本人419例、韓国人9例)が対象。428人を低用量投与、高用量投与、偽薬(プラセボ)投与の3群に分け、1日1回、5日間投与した。その結果は、低用量と高用量の2群は偽薬群と比べウイルス力価は有意に減少した。臨床効果について症状をスコアにしたところ、初回投与から120時間(6日目)までの変化量はゾコーバの2群は偽薬群と比べに減少したが、「統計学的有意」な差までには至らなかった。この中で鼻水、喉の痛み、咳、息切れという呼吸器症状だけでは有意差があった。しかし12症状改善の総合評価では偽薬群と比べ明確な差は出せなかった。治験の初期段階の評価としては微妙だった。
●「『BA.5』にも効果」と塩野義製薬
 7月に入り、国内のではオミクロン株の派生型の「BA.2」から感染力が約1.3倍強いとされる「BA.5」への置き換わりが進んだ。国立感染症研究所によると、8月第1週にはほぼ全てBA.5に置き換わる見通しだ。塩野義製薬は14日に「ゾコーバはBA.4やBA.5に対しても高い抗ウイルス活性を確認した」と発表した。細胞レベル(イン・ビトロ)での試験データで、同社は「繰り返される変異株に対しても速やかに評価を実施して公衆衛生上有益な情報を提供する」などとコメントした。ゾコーバの緊急承認を巡る審議は6月22日の医薬品第二部会の会合で有効性の評価で賛否両方の意見が出てまとまらず一度継続審議になっている。その後、第7波が急拡大。7月20日に広く審議結果が注目される中、公開で行われた。
●審議会合で賛否の意見2分
 20日午後6時から始まった合同会義にはオンライン参加も含め30人以上が参加した。まず、医薬品医療機器総合機構(PMDA)代表が審査報告書の内容を説明した。「ウイルス量が減少する傾向が認められることは否定しないが、効能・効果に対する有効性が推定できるとは判断できず、第Ⅲ相の結果を踏まえて改めて検討する必要がある」「社会的観点からより早期に使用可能とする検討も可能と考える」。相いれないような2つの評価の併記に審査の難しさが読み取れた。審議で3人の参考人はいずれも示されたデータでも緊急承認の要件である「有効性の推定」はできる、などと指摘。「新設された緊急承認制度の意義を考えると早期診断や早期治療に有効」「既存の2剤に使用制限がある中で治療の選択肢が増えることは有益」などと発言した。症状改善の効果が明確にならなかった理由として「臨床試験中に(流行株が)デルタ株から(軽症者が多い)オミクロン株に代わり症状が大きく変化したことも影響した」との解説も聞かれた。しかし、参加した委員からは緊急承認に反対や慎重な意見が相次いだ。「動物実験では胎児に影響する催奇形性リスクが示されている」「(私は)示されたデータからは有効性を推定できない」「低用量と高用量で反応にあまり差がないのはおかしいのでは」「ゾコーバも一緒に使えない薬が多くある」などだ。動物実験での催奇形性を挙げた反対意見に対し、承認済みの外国製飲み薬にも同じような報告があることを指摘する意見が出るなど、議論は熱を帯びた。「評価対象の症状の中でも発熱や呼吸器症状への効果はあるようだ」として感染者が急増する中で新たな治療手段につながる緊急承認に前向きな声は聞かれたものの反対、慎重な意見の方が多かった印象だ。意見は多様だったが議論の流れは「第Ⅲ相の結果まで待つべきだ」に傾いた。最後は薬事分科会の太田茂会長が「データから有効性は推定されないとの意見が多くを占めた。(現在進んでいる)第Ⅲ相の結果を待って改めて審議したい」と締めくくって継続審議が決まった。
●治療の決め手なく、医療現場から不安や戸惑いも
 第7波の猛威は凄まじく、ゾコーバの緊急承認が見送られた翌21日。全国の新規感染者は、3万人を超えた東京都をはじめ多くの県で過去最多を記録し、総計では18万人を超えた。使用上の制限が比較的少ないとされるゾコーバは多くの臨床医のほか、政府や保健行政の関係者からは期待されていた。政府部内ではPMDAの審査報告書に「社会的観点からより早期に使用可能とする検討も可能」との表現があることから第7波の急拡大の現実を考慮されて緊急承認される、との楽観的見方が多かった。厚労省からは後藤茂之厚労相が緊急承認後の記者対応を準備していたとの話も伝わった。医療現場でも審議会での議論と同じように、早期承認を待ち望む声と慎重な意見が入り交じる。「詳しいデータが論文などで出ないと現場で使えるか判断がつかない」と明言する意見がある。その一方で連日大勢の感染者を診断、診療している現場の医師からは「治療の決め手がない現在、審議継続には正直がっかりした」「示されたデータから私は使用できると考えていた。何のための緊急承認の枠組みを作ったのか」といった戸惑いや今後の診断、診療に不安を訴える声も少なくない。審議会会合の議論ではゾコーバの効果評価で一致できなかった。治験の最終結果を待つべきとの結論は説得力がある。ゾコーバは承認されれば多くの人が服用すると見込まれるだけに、慎重な判断と審議継続の結論は妥当と言うべきだろう。
●政府、いまだ「出口戦略」を描けず
 審議から離れて現在のコロナ禍の現実に目を向ける。想定を超える第7波の急拡大を受けて医療現場は再び逼迫(ひっぱく)しつつある。PCR検査も依然「いつでも誰でも受けられる」体制は整っていない。自宅で簡単に感染の有無をチェックできる抗原検査キットも入手しにくい。ゾコーバの緊急承認は見送られた。医療現場は依然治療の「切り札」を見いだせないまま患者対応に奮闘している。政府はコロナ禍の収束をいまだ見通せず、「出口戦略」を描けないでいる。

<経済を支える人材←科学技術は教育から>
PS(2022年9月3日追加):*12-1は、「『科学技術力の低下』になぜ危機感を覚えないのか」と題し、①世界的にインパクトのある自然科学分野の論文数で日本はこの20年で4位から10位に転落 ②トップ1%補正論文数が世界に占める比率は1位:中国27.2%・2位:アメリカ24.9%で日本は1.9%しかなく、NISTEPの注目度の高い「トップ10%補正論文数」でも日本は世界10位から12位に低下 ③科学技術行政は重点政策から抜けたが ④科学技術力が国力の大きな構成要素であることは明らか ⑤新型コロナ対応もワクチン・治療薬がすべて外国企業依存 ⑥国内の塩野義製薬が国産治療薬の承認を目指しても薬事審議会で緊急承認が得られず ⑦半導体も日本企業に最先端の半導体を生産する能力がなく ⑧“科学技術力=国力”と考えて至急強化すべきで ⑨日本は人口でGDPは何とか3 位を保つが、科学技術力は米中にまったく太刀打ちできず ⑩日本の科学技術力低下の原因は質の高い論文の生産性の低さ(日本の大学・企業の生産性の低さに起因)にある ⑪日本の労働生産性は世界34位の$78.000とアメリカの半分で、ドイツ、イギリスにも太刀打ちできず ⑫日本企業や日本人の持つ年功序列・リスクを取らない文化・チームワーク重視のため周囲を過度に忖度する文化・個人の責任と権限が明確化されない組織が日本の労働生産性が低い原因で ⑬ノーベル賞受賞者は若手時代のアイデアに基づく研究だったが、日本の研究機関は若手研究者の自由な発想を認めない 等としている。
 このうち④⑧⑩⑪には全く賛成で、①②⑤⑦⑨が現在の日本の研究力だが、③については、「文部化科学大臣が変わったから科学技術行政は重点政策から抜けた」とは言えないと思う。何故なら、⑥は製薬会社の研究者が悪いわけではなく厚労省の無理解と不作為が問題だからで、⑫は行政や企業だけでなく日本では初等教育からメディアが発信する情報に至るまで多くの人が持っている文化であり、その文化はチームワークのみを重視して周囲を忖度させ(そして、これを“空気を読む”と呼ぶ)、個性を育まない教育をしてきたことによって生まれたものだからである。しかし、世界で注目される論文は、前に誰かが言ったことをなぞったような内容の論文ではなく、これまで誰も言わなかった皆が「あっ」と思うような論文であり、それは個性を大切にして自由な発想をさせた場合にのみ生まれるものなのだ。この点、⑬の「ノーベル賞受賞者は若手時代のアイデアに基づいて研究した」というのは正しいが、それは当時の若手の話であり、現在の日本の若手はむしろ初等・中等教育で自由な発想を認めず過度に空気を読む教育を受け、その結果、社会全体が個性を殺して皆と同じことをするのが美徳であるかのように思っている。そのため、文科省には、初等・中等教育段階から個性ある才能を大切に伸ばし、それと同時に自由と責任の関係をしっかり教える教育をすることが望まれる。
 このように、日本では第一線で活躍している“生産年齢人口”の多くが、チームワークを重視して“空気”を読みすぎる教育を受け、個性ある才能を伸ばしていない現在、*12-2のシンガポール・タイ・英国のように、外国で教育を受けて先端知識や技術を持つ高度人材を、高給を払い、優遇して、獲得するしかないだろう。明治時代には日本もこれを行っていたが、現在は、世界の大競争の中で教育を疎かにしてきた結果、システマチックに海外で教育を受けた高度人材を獲得しなければ追いつかなくなったということだ。
 しかし、日本で足りないのが高度人材だけではないことは、国内では第1次産業も第2次産業も廃れ、食料自給率は37%まで落ちて、輸出より輸入の方が多いため円弱状態になっていることから明らかである。しかし、需要者は値段の割にさほどでもない物を慈善事業で買いたいとは思わない(=競争力がない)ため、国内産業を充実させるには、*12-3の外国人労働者も必要不可欠で、そのためには外国人労働者にとって中長期的に魅力的で選ばれる国になるための行動が、今まさに求められている。

*12-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/49b2bec05a8aebe891872c5d5dcb6f452e674b16 (東洋経済 2022/8/21) 「科学技術力の低下」になぜ危機感を覚えないのか 日本の地位は20年あまりで4位から10位に陥落
 8月9日、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は「科学技術指標2022」を発表した。世界的にインパクトのある自然科学分野の論文数で、日本の地位はこの20年あまりの間に、4位から10位に陥落した。論文のシェアは1位の中国が27.2%、2位のアメリカが24.9%であるのに対し、日本はたったの1.9%。国内の科学技術力の低下に歯止めがかからない。その翌日、岸田文雄首相は内閣改造を行った。記者会見で喫緊の課題として挙げたのが、防衛力の抜本的な強化、経済安全保障の推進、「新しい資本主義」の実現による経済再生、新型コロナウイルス対策の新たな段階への移行、そして子ども・少子化対策の強化の5つだ。そこに「科学技術力の強化」という文言は出てこなかった。科学技術行政を所管する文部科学大臣には新任の大臣が当てられ、重点政策から抜け落ちてしまった。
■科学技術力こそ国力
 科学技術力が国力の大きな構成要素であることは、日本が直面している課題をみれば明らかだ。ロシアのウクライナ侵攻にみるアメリカを始めとするNATO(北大西洋条約機構)の圧倒的な軍事力と、人工衛星を使ったロシア軍の情報収集能力の高さ。これらの基礎となっているのは、科学技術力であることは言うまでもないだろう。新型コロナへの対応をみても、現時点において日本は、ワクチンや治療薬はすべてアメリカのファイザー社やモデルナ社、メルク(MSD)社、ドイツのビオンテック社、イギリスのアストラゼネカ社など、外国の製薬企業、バイオ医薬企業に依存せざるを得ない。国内では塩野義製薬が国産の治療薬の承認を目指すが、8月19日時点において薬事審議会でも緊急承認は得られていない。自動車や電機メーカーが調達に苦しんでいる半導体についても、日本企業に最先端の半導体を生産する能力はほとんどなく、日本政府が台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に巨額の補助金をつけて、熊本に工場を建設してもらう始末である。科学技術力は、防衛でも、経済でも、新型コロナウイルス対応でも、大きな役割を担っている。“科学技術力=国力”と考えて至急強化していかないと、防衛力の強化も、経済安全保障の推進も、新型コロナウイルス対応もすべて絵に描いた餅になってしまうのである。NISTEPが発表した「科学技術指標2022」の内容は衝撃的である。他の論文によく引用され、注目度の高い論文である「トップ10%補正論文数」では、日本地位は世界10位から12位に低下。より重要度の高い「トップ1%補正論文数」では、日本は過去最低の10位に落ちた。簡単にこの数字の意味を解説しておきたい。これは、化学、材料科学、物理学、計算機・数学、工学、環境・地球科学、臨床医学、基礎生命科学の8分野から発表された論文を集計、共著論文は、例えば日米の2大学の共著なら日本2分の1、アメリカ2分の1とカウントして論文数を補正したもの(補正論文数)によって、ランク付けをしている。質の高い論文は各国の研究者に頻繁に引用されるため、引用数の多いものは質が高いと評価される。その、トップ1%補正論文数のランキングの時系列での変化をみると、日本の低下ぶりに驚く。1998~2000年には、1位アメリカ、2位イギリス、3位ドイツに次いで4位だった。ところが、2008~2010年には、アメリカ、イギリス、中国、ドイツ、フランス、カナダに次いで7位に落ちた。そして、今回発表された2018~2020年は、中国、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、イタリア、カナダ、フランス、インドに次いで10位である。日本のトップ1%補正論文数が世界に占める比率は、たった1.9%に過ぎない。ちなみに、中国は27.2%、アメリカは24.9%、イギリスは5.5%、ドイツは3.9%であるから、科学技術力でも米中2大大国体制が築き上げられている。日本はGDPこそ人口の多さから何とか3位を保っているものの、科学技術力では、米中にまったく太刀打ちできないことが、白日の下にさらされたのである。
■低下の原因は「生産性」の低さ
 同資料では、日本の科学技術予算の伸びが低い、研究者数の伸びも低いことが問題だと述べているが、そこに示されている数値を客観的に見る限り、日本の科学技術力の低下の原因はそこではなく、「科学技術予算や研究者数に比べて成果物である質の高い論文数が少ない」という生産性の低さにあるのではないか。日本の研究開発費、研究者数は、今でも堂々たる3位である。2015年基準、OECD購買力平価換算の2020年の数字で比較するなら、日本は18兆円、アメリカは67兆円、中国は58兆円。ドイツは13兆円。イギリスについては2020年の数字がないので、2019年の数字で見ると5.3兆円しかない。米中には完敗だが、トップ1%補正論文数で上位にランクしているドイツやイギリスより、投下されている金額は大きい。研究者の数では、日本は2020年に69万人、アメリカは2019年に158万人、中国は2020年に228万人、ドイツは2020年に45万人、イギリスは2019年に38万人である。これも米中には完敗であるが、ドイツ、イギリスを大きく上回っている。こうした数字を見ると、いかに日本の科学技術研究の生産性が低いかがわかる。今の生産性のまま科学技術予算を増額していっても、ただ死に金が増えるという事態になりかねないのである。科学技術力低下の原因は、日本の大学や企業における生産性の低さに起因する。日本全体の労働生産性の低さと同じ結果になっている。2019年の世界銀行のデータによれば、日本の1人あたりの労働生産性(GDPを就業者数で割ったもの)は世界34位の78000ドルである。労働生産性が高い国には人口の少ない国が多いのだが、アメリカはそのなかで5位の136000ドル。ドイツは17位の105000ドル。イギリスは24位の94000ドルだ。おおざっぱに言えば、日本の労働生産性はアメリカの半分となり、ドイツ、イギリスにも太刀打ちできなくなっているということだ。その理由として識者が挙げているのが、経済が成長しないから、IT化が進んでいないから、政府が生産性の低い企業を温存しているから、といった要因だが、最大の要因は日本企業、日本人の持つ文化ではないかと思う。年功序列とリスクを取らない文化、チームワーク重視のため周囲の人の気持ちを過度に忖度する文化、個人の責任と権限が明確化されず、誰が責任者かわからない組織のあり方が、日本人の生産性を低下させている。本来、組織というものは、個々の構成員に明確に責任と権限が与えられ、各人が自分の能力で与えられた課題を解決するよう作られるべきである。こうなっていれば、各人は自分の与えられた役割について、自分で決断し実行することができ、きわめて効率的に仕事を進めることができる。
■世界と対極にある日本の組織
 組織に入っても、各人の役割や責任、権限は不明。何となく全員で仕事を進めていく。仕事の出来、不出来の評価もハッキリせず、組織内での年功と人間関係で各個人の評価が決まる。年功が絶対的で、若手の意見は取り入れられない。おそらく研究機関でも同じことが起こっているのではないか。若手の研究者が研究所に入ると、先輩研究員の下働きから始めさせられ、彼らが革新的なアイデアを持ち、新しい研究をやってみたいと思っても、組織の壁に跳ね返される。若手研究者が予算を取りたいと思っても、説明資料の作成、関係部署への根回しを命じられる。これに膨大な時間を費やすることになり、肝心の研究時間が少なくなる。先輩研究員が若手の研究者の意見を聞いても、その革新性がよくわからないから、とりあえず年功序列で予算を配分する。こうして若手研究者のやる気はそがれていく。ノーベル賞受賞者も、その表彰の対象がほとんど若手時代の斬新なアイデアに基づいた研究であったという事実があるにもかかわらず、日本の研究機関は若手研究者の自由な発想を認めない。研究機関という、本来個人の能力だけで評価されるべきフィールドであるにもかかわらず、責任と権限の不明確な日本的組織のもと、年功序列の考え方が支配している。これを変えるためには、研究機関への研究成果に基づいた徹底した実力主義の導入が望ましい。これまでのような年功序列は廃止し、徹底した実力主義で人事を行い、研究予算の割り当てを決める。こうした改革を進めるためには、研究機関のマネジメントは研究者ではなく、専業の人間に任せた方がよいだろう。こうした改革は大学や研究機関の常識を覆すもので、大きな抵抗が予想される。しかし、こうした抜本的改革なくしては、研究開発予算がムダに使われ、そこで勤めている研究者が腐ってしまうという悪循環が続いていくだけだ。

*12-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220902&ng=DGKKZO63968120R00C22A9FFJ000 () シンガポール、高度人材獲得へ新ビザ、月収300万円、長期滞在可
 シンガポールは2023年1月、月収3万シンガポールドル(約300万円)以上を条件に、複数の企業での同時勤務を認め、通常より長い5年間の滞在を認める新たなビザ(査証)を導入する。国境をまたぐ高度人材の獲得競争で先手を打ち、新型コロナウイルスによる打撃からの経済回復にはずみをつける狙いだ。シンガポールが新設するビザは、過去1年の固定給あるいはシンガポールで勤務後の固定給が3万シンガポールドル以上の人材が対象だ。取得要件のハードルが高いかわりに、滞在可能期間は通常の専門職ビザの2~3年より長くする。複数の企業で同時に働けるようになる。配偶者も「LOC」と呼ばれる承諾証を得れば、シンガポールで働くことができる。高収入を得る能力がある外国人材に特別待遇を与え、働く場所としてシンガポールを選んでもらう狙いだ。月収が3万シンガポールドルに達しなくても、需要の多い人材には5年間の長期滞在を認める。不足気味のテック人材、顕著な実績がある研究者、学者、スポーツ選手などだ。これには最先端の知識や技能を持つ人工知能(AI)の専門家やプログラマーらが該当するとみられている。タン・シーレン人材開発相は8月29日「天然資源に恵まれないシンガポールにとって、人材が唯一の資源だ」と述べ、戦略的な外国人材の獲得が重要だと強調した。ビザ発給のための審査期間は現状の3週間程度から10営業日以内に短縮するとも発表した。企業がシンガポールの国外から迅速に人材を送り込めるようにする。シンガポールがこうした「エリートビザ」を設ける背景には、各国が高度人材の獲得にしのぎを削っている現状がある。タイは9月、電気自動車(EV)や医療など重要分野に高度人材を求め、期間10年の長期ビザを導入。英国は5月、世界のトップ大学の卒業生を対象に就職先を事前に確保しなくても申請、取得できるビザを新設した。シンガポールのリー・シェンロン首相は8月21日の年次演説で、英国の新たなビザを引き合いに「シンガポールには他国に後れを取る余裕がない」と述べ、危機感をあらわにした。世界では、新型コロナの感染拡大で一時厳しく制限されていた国境を越えた移動も以前の状態にほぼ戻り、優秀な人材の国境を越えた移動が再び活発になってきた。シンガポールは国民のリスキリング(学び直し)にも力を入れている。海外の高度人材を受け入れ、その技能の移転を促すことで、国民の能力の底上げにつなげる。一方、国内でも充足できる水準の海外人材については、むやみに増やすことはしない方針だ。専門職向けビザの取得に必要な最低月収額は1日、それまでの4500シンガポールドルから5000シンガポールドルに引き上げた。要件の月収額は年齢が上がればあがるほど高まる。40代半ばの応募者は月収が日本円換算で100万円以上でないと、ビザは発給されない可能性が高い。高所得の優秀な海外人材を厳選するシンガポール政府の思惑が透ける。シンガポールの新方針は、高い報酬を得るグローバル企業の幹部社員や最先端のIT(情報技術)能力を持つ外国人材にとって、働き方の自由度が高まる利点がある。だが、給与水準で見劣りする日本企業にとっては、社員をシンガポールに派遣するうえで障害となるかもしれない。

*12-3:https://digital.asahi.com/articles/ASQ2372X3Q23UHBI019.html (朝日新聞 2022年2月4日) 外国人材、2040年に「今の4倍必要に」 JICAなどが初の試算
 2040年に政府がめざす経済成長を達成するには外国人労働者が現在の約4倍の674万人必要になり、現状の受け入れ方式のままでは42万人不足するとの推計を国際協力機構(JICA)などがまとめ、3日に公表した。外国人労働者の需給に関する長期的な試算は初めてといい、今後の議論の出発点として役立つとしている。調査研究をしたのは、JICAや日本政策投資銀行グループの価値総合研究所など。政府のシナリオから40年の国内総生産(GDP)の目標を、15年比36%増の704兆円と設定。国内の労働人口の減少や、人手を補う自動化などの設備投資が促進されると仮定した上で、目標達成には30年に419万人、40年に674万人の外国人労働者が必要になると推計した。厚生労働省によると、21年10月末時点の国内の外国人労働者は約172万7千人で、うち約35万人が日本で技能や技術を学ぶ目的の「技能実習」、約33万人が留学生によるアルバイトなど「資格外活動」の在留資格で働いている。40年の成長目標を達成するには、現在の約4倍が必要となる計算になる。一方、日本に主に労働者を送り出している中国やベトナムなどアジア13カ国の人口動態や経済成長率、来日外国人の滞在年数の平均などを分析。これらの国々の経済成長や少子化で労働者の獲得競争の激化が予想され、需要に対して30年に63万人、40年には42万人が不足すると推計した。JICAの北岡伸一理事長は3日にオンラインで開かれたシンポジウムで「外国人労働者にとって中長期的に魅力的な、『選ばれる』日本になるための行動がいま必要だ」と述べた。

| 経済・雇用::2021.4~ | 02:25 PM | comments (x) | trackback (x) |

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