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2022.5.6~14 侮辱や誹謗中傷を「言論の自由」「表現の自由」と考える社会の民主化度 (2022年5月16、23日に追加あり)
(1)侮辱や誹謗中傷は「人格権の侵害(=人権侵害)」である

     
    2022.4.16朝日新聞      2022.4.26朝日新聞  2022.4.26読売新聞

(図の説明:左図のように、イーロン・マスク氏がツイッター社の買収を提案し、ツイッター社は買収防衛策を検討していた。マスク氏の主張は中央の図の通りだが、これでは悪意の投稿は防げない。しかし、右図のように、4月25日、ツイッター社はマスク氏の買収提案を受け入れた)

1)イーロン・マスク氏のツイッター社買収から
 *1-1のように、徹底的な「言論の自由」を求めてツイッター社の投稿管理を批判していた米テスラCEOのイーロン・マスク氏による買収提案を、ツイッター社が受け入れたそうだ。しかし、市民が政治の良し悪しを判断する民主主義国で、市民の判断材料となる情報に関しては、「言論の自由」「表現の自由」の名の下であっても偽情報を容認するわけにはいかない。

 近年は、ツイッターのようなネット利用者が直接情報発信するプラットフォームで、正義の名の下に書かれた暴力・差別・ヘイト(憎悪)を助長する投稿が後を絶たず、ツイッター社は、有害投稿の削除や常習者のアカウント凍結などの対策を強化してきた。

 その中で、マスク氏は米国のトランプ前大統領のアカウント凍結などに強く反対してこられたそうだが、私も、トランプ前大統領が発した情報は米国民が選んだトップの主張を、メディアのフィルターを通さず知ることができるよい機会であったため、「(自分と意見が異なるから)偽情報で有害だ」と決めつけるのは、奢った価値観でよくないと思っていた。

2)ネット事業者に対する世界の潮流と改善すべき事項
イ)欧州のケース
 EUは、*1-3のように、グーグルやメタなどのネット事業者に違法コンテンツの排除や広告の適正表示を義務づける「デジタルサービス法(DSA)」を欧州議会で可決し、プラットフォーム企業に対して児童ポルノ・差別・デマ・ヘイトスピーチなどを含んだ違法コンテンツの排除や差し止めを厳しく義務づけた。

 また、ターゲット広告のために利用者のデータや閲覧履歴などが使われるのを簡単に拒める仕組みを提供し、子どもをターゲット広告の対象にしないことも規定し、利用者が意図しないサービスの契約や物品の購入を促すサイトの設計も禁止して、広告表示のルールも厳しくするそうで、どれも重要なことである。

 しかし、私は、個人情報保護や民主主義に響くとみて制御に乗り出すのには賛成だが、暮らしの隅々に行き渡っているサービスは独占的地位ある巨大IT企業だけが行っているわけではないため、まだ不足だと思う。

ロ)米国のケース
 米国では、*1-2のように、「利用者による投稿の内容にネット企業が責任を負わなくてよい」とする「通信品位法230条」を、「利用者の身体的、精神的被害に繋がるコンテンツを推奨するアルゴリズムを意図的に使った場合、230条による保護をなくす」という改正案が提出されたが、未だ合意は見通せていないそうだ。

 そのため、私自身は、ツイッターにこのブログに書いている内容の題名を一度だけ紹介するのみで、他のプラットフォームは使っていない。また、「反論を許していたら、批判のための批判ばかりされた」という民主主義とはかけ離れた経験から、現在は反論も受け付けないシステムにしているのである。

ハ)日本のケース
 日本は、昨年、ネット上の違法な投稿について被害者が投稿者を特定するための司法手続きを迅速化する「プロバイダー責任制限法」を改正し、ネット企業に違法な投稿を削除する「自主的対応」を求めているそうだ。

 しかし、私(被害者)の経験では、プロバイダーの自主的対応には限界があった上、司法手続きを使っての削除には時間と金がかかり、既にあちこちでコピーされている内容を完全に削除させることは不可能に近かった。さらに、判決が出て削除される前に生じた損害に対する賠償額は、「心の傷を癒やすため」とする慰謝料だけで、日本の裁判所には「その間の逸失利益を賠償させる」という発想がないため、損害賠償額が著しく低いのが問題だった。その結果、「加害者はやり得」で「被害者は徒労」という状態になっているのである。

ニ)「個人の尊厳」を踏みにじる侮辱と誹謗中傷
 近年は、*1-4のように、SNSの普及で誰もが瞬時に不特定多数に向けて発信し、表現できる時代になったため、これまで自分の意見を公に言うことができなかった人も、意見を言って書き残すことができるようになった。これにより、憲法が保障する「言論の自由」「表現の自由」の実現可能性が増してよくなったのだが、反面、ネット上で相手を貶める侮辱・誹謗中傷などの人格攻撃を行えば、「営業妨害」や「人格権の侵害(≒人権侵害)」などの深刻な被害を引き起こして、「心の傷」だけでは終わらないことになる。

 さらに、国民が正確な情報を入手して選挙時にそれを反映し、自分自身も自由に意見表明ができることは、民主主義の根幹だが、ネット上で容易に行える政治家への事実無根の侮辱・誹謗中傷などの人格攻撃は、その政治家に対する「政治活動の妨害」「人格権の侵害」を引き起こすだけでなく、結果として公正な選挙を妨げる。私もそういうことをされた経験があって司法に訴えたが、ハ)で述べたとおり、日本の司法には問題が多かったわけである。

 なお、政治家だけでなく、特定の企業を誹謗中傷する事例でも、名誉毀損・侮辱のみでなく「営業妨害」が発生し、司法判決が出る頃には、その企業は潰れていて判決の如何にかかわらずライバルらしき加害者は目的を達していることもある。そのため、「ネット情報は不特定多数が瞬時に閲覧可能となり、時として被害は深刻なものとなり得る」というのは本当だ。

 *1-4は、①インターネット上での中傷は、個々の投稿は軽微な内容でも、特定の人に殺到すれば大きな精神的負担となる ②投稿者が自身と考えの違う人を全否定し、自分なりの「正義」を掲げる投稿が目立つのも特徴 ③「表現の自由」は人権侵害につながる意見表明を無制限に許容していない ④リテラシー教育が重要 ⑤SNS運営事業者の取り組みも鍵を握る とも書いており、私は賛成だ。

 従って、問題のある投稿を放置して被害者の削除依頼に応じない事業者は、刑事事件として公権力が介入してよいと、私は思う。何故なら、被害者の不利益になっていることは明らかであり、事業者には、それでも公開し続けなければならない理由はないからだ。その後、削除された加害者から苦情が出れば、書いてある内容が事実か否か、仮に事実であったとしても公開すべき内容か否かによって、いったん削除したものを再度公開することは可能だが、「営業妨害」や「人格権の侵害」によって失われた被害者の逸失利益は戻らないからである。

(2)侮辱・誹謗中傷などの人格攻撃を「言論の自由」「表現の自由」とするメディアと野党
 *2-2のように、インターネット上での匿名の投稿者による誹謗中傷が後を絶たず、気に入らない人物や書き込みを不特定多数によって集中攻撃するという愚かな行為が生じやすくなった。その結果、非難された側が追い込まれて、自殺につながる例が国内外で相次いでいるのだが、ネット社会に法整備が追いついていない。

 また、「匿名での意見や情報発信を認めなければ、社会の不正を正す機会は保障されない」という人もいるが、匿名でしか書けないということは、「自分が書いていることの真実性に責任を持たず、相手に不都合なことを書きたいだけ書く」ということであるため、そのような無責任な侮辱・誹謗中傷が「言論の自由」を支えているなどと考えられては困る。そして、これは優位な立場にあるか劣位な立場にあるかが問題なのではなく、一人の主権者として、民主主義に責任を持つ大人の態度ではないという問題なのである。

 そして、4月21日、衆院で審議入りした刑法改正案の柱となる侮辱罪の厳罰化を巡って、*2-1のように、立憲民主党は「恣意的適用への歯止めが効かず、政府による言論弾圧に繋がりかねない」と批判を強め、泉代表が「侮辱罪は『言論の自由』を侵しかねない」と指摘されて、対案となる議員立法を国会に提出したそうだ。

 しかし、侮辱罪の法定刑の上限を「1年以下の懲役もしくは禁錮」「30万円以下の罰金」に引き上げるのが、被害者の損害と比較して厳しすぎるとは全く思えず、軽すぎて抑止力にもならなそうだ。さらに、名誉毀損罪のように「公共性がある場合は罰しない」として、政治家に対する誹謗中傷をすべて「公共性がある」と解すれば、政策論争ではない単なる人格攻撃の誹謗中傷・侮辱に「公共性」があるされ、それこそ恣意的に民主主義が破壊される。そのため、誰に対する誹謗中傷・侮辱かは関係なく、平等に人格権の侵害(≒人権侵害)として罰すべきである。

(3)過去には“普通”で“常識”だった差別と偏見の事例
 *3-1-1は、①SNSの誹謗中傷には、書き込む人の“正義感”が背景にある ②ネットで多数の批判や誹謗中傷が集まる「炎上」が頻発し、芸能人の活動自粛・企業の株価下落・倒産のみならず ③誹謗中傷を避けて発信しなくなったり ④「ネットで政治の話はしない」という人たちも出たり ⑤大衆による表現の規制と言っても過言ではない状況で ⑥他人に押しつける正義感が最もやっかいで ⑦マスメディアも自分たちが『正しい』と思って批判をするが、それも暴力になり得る と結論づけている。

 このうち、①②③は事実であり賛成だが、④⑤⑦については、政策に関する議論はできずに人格攻撃に終始する人が多く、これをマスメディアも煽っているのが、日本の民主主義のお粗末さである。そして、大きな割合の人がそうであるのなら、それは身分制度によって作られてきた文化とそれを修正しない教育に問題がある。

 また、⑥の他人に押しつける正義感すべてを悪者にする発想も「浅はか」のレベルに達するほど単純だ。何故なら、「他人を根拠もなく誹謗中傷して、その人に迷惑をかけてはいけない」というのは人権を大切にする日本国憲法の基本であるし、「そういうことをして人権侵害している人を見たら、無視するのではなく注意してやめさせなければならない」というのも大人が持っておくべき正義感だからだ。

 しかし、本人が「自分は普通だから正義だ」と思っていても、その時代・その人が住んでいる地域での“普通”にすぎず、それが永遠に世界標準で“正義”であるとは限らない。そのため、その時代の“普通”は時代を先取りする“先進”よりも下位にあるもので、「普通だから自分の考えが正義だ」と考え、他人に自分の価値観を押し付けたりしないことは重要である。以下に、“正義”ではないことになった“普通”の事例を、一部ではあるが列挙する。

1)障がい者に対する差別と偏見
イ)身体障がい者のケース
 *3-1-1のように、車いすを使う人が、①車いすユーザーが乗車拒否されたり ②駅員に「エレベーターのない無人駅で下車したい」と申し出たら「案内できない」と言われたり ③それをブログに書いたら「わがままだ」「感謝の言葉がない」などの誹謗中傷や批判が殺到したり ④「本当は歩ける」といった虚偽の記述をされたり ⑤子どもの学校を特定してさらされたり など、「誰もが生きやすい社会になるよう皆に考えてもらいたかった」という本人の意図からかけ離れた嫌がらせを受けたそうだ。

 駅へのエレベーター設置は、「高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称:バリアフリー法)(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000091 参照)」が制定された2006年から開始され、この法律の目的は「高齢者・障害者等が自立した日常生活・社会生活を確保する重要性から、公共交通機関・建築物・設備等を改善することにある。しかし、それから16年後の現在でも改善されていない場所が多く、その分、ヘルパーの出番が増えている。

 そして、現在は、高齢者・障害者の日常生活や社会生活に障壁となる社会における事物・制度・慣行・観念その他一切のものの除去に資することや全ての国民が年齢・障害の有無・その他の事情によって分け隔てられることなく共生できる社会を実現することを目指しているが、この法律の制定前は、「高齢者や障害者は、世話をしてもらうことに感謝しながら、社会から隔絶された目立たない場所で、ひっそり暮らせ」と言わんばかりの“常識”だった。

 この“常識”が、高齢者や障害者の健康に悪く、彼らの人生を味気ないものにし、昭和21年11月3日に定められた日本国憲法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION 参照)の「25条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「13条:すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」に反していることは明らかだが、日本国憲法にもついてきていない“常識”を持つ人が多かったことは否めない事実である。

ロ)精神障がい者のケース
 それでも、身体障がい者については、バリアフリーの考え方が浸透し始めているが、精神障がい者の場合は、刑法第39条が「i) 心神喪失者の行為は罰しない ii) 心神耗弱者の行為はその刑を減軽する(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045 参照)」と定めており、現在でも法律で差別がなされている。

 そして、その理由を「心神喪失者・心神耗弱者は行為の善悪や是非について判断ができないため責任能力がないからで、心神喪失者・心神耗弱者とは重度の精神障害・知的障害・泥酔状態を指す」と説明しているが、そもそも心神喪失とか心神耗弱という病名の病気はないのである。

 そのため、具体的な状況も示さずに、「精神障害者・知的障害者は何をするかわからない潜在的犯罪者で、責任能力がない」という印象を刑法が一般人に与えているのであり、メディアもまた、このような報道を頻発させて“一般常識”を作っている。なお、泥酔状態になることは本人の意思で防ぐことが可能であるため、泥酔状態であることを理由に刑罰を軽減するのも不合理だ。

 そのような中、*3-1-2の「精神科病院に入院中に新型コロナ患者のうち、235人が重症化しても治療設備が整った別の病院に転院できず死亡した」という事件が起きた。これについて、日本精神科病院協会の山崎会長は、「医療体制が逼迫したというだけではなく、精神科患者だから転院を拒まれた例もある」が話されたそうだ。もともと日本の精神病患者の入院日数は他国と比較して著しく長いが、それに加えて、薬で症状を抑えることができるようになった現在でも不当な差別が残っているのは、あまりにおかしいわけである。

2)女性に対する差別と偏見

   
  2021.3.31Yahoo   2021.3男女共同参画局     2021.5.15日経新聞

(図の説明:2021年3月に公表された2020年の男女格差報告では、左図のように、日本は120位で下から数えた方が早く、156位で最下位のアフガニスタンの方にむしろ近い。また、中央の図のように、日本はG7中最下位をキープしており、男女格差指数が改善せずに横這いなのは日本だけである。そして、右図のように、日本国内でも「管理的職業従事者に占める女性の割合」にはばらつきがあって、全体の傾向としては東日本より西日本の方が高い)

イ)教育の機会における女性差別と偏見
 芝浦工大が、*3-2-1のように、「2022年度の入試から、上位の女子約100人と公募制推薦入学者選抜(女子)の入学者約30人に入学金相当の28万円を給付して入学金を実質免除する」とのことである。

 この背景には、2019年調査で工学系の高等教育機関の入学者に占める女性割合がOECD加盟国平均で26%であるのに対し、日本は16%と最下位で、日本の女子の大学進学率が上昇しているにもかかわらず、工学部志望者が少ないことがある。しかし、工学の分野から女性のニーズを取り込むにあたっては、工学部の女性割合は増える必要があるわけだ。

 しかし、埼玉県の県立高校長などを務めた真下峯子校長が「①教育界には女子に無理をさせない、数学や理科は難しいから文系でよい、という文化があった」と指摘しておられ、保護者も「②工学部などは卒業後にきつい現場で働く」と考え、「③理系科目が得意な女子は医師、薬剤師といった仕事内容や働き方が想像しやすい分野に進ませがちだった」としている。

 上の右図にあるとおり、「管理的職業従事者に占める女性の割合」は、東京都と青森県を除いて西高東低だが、これには東日本の公立高校の多くが未だに男女別学で、女子高には理系コースがないという恐ろしい状況がある。私は、佐賀県の男女共学進学校から東大に来て、東日本では公立高校に男女別学のところがあるのに唖然としたくらいなのだ。

 ちなみに、日本国憲法は、「第14条:すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定しており、戦前は男女別学だった学校制度も、戦後になって男女共学に再編された経緯がある。しかし、西日本の公立高校では真面目にこれを実施したのに対し、東日本では実施しなかった上、私立の進学校は殆どと言っていいくらい男女別学にしたのだ。

 それにしても、①は、私から見れば失礼にも程があり、②は、女性の割合が低い職場は男性中心になるため3Kの現場が多くなる面はあるものの、③の医師は、(誰もが知っているとおり)最も3Kで体力を要する仕事であるため、学校はじめ保護者の理解不足によって、女性に均等な教育の機会が与えられてこなかったことは明白だ。

 さらに、*3-2-1は、④東大の女子学生割合は2021年度で19.7%で、東大は3割に高めようと地方出身の女子向けの住宅費補助を始めた ⑤女性は自宅外通学・浪人のしにくさがある ⑥「東大卒女子は婚活に不利」という俗論もある ⑦その結果、女子の挑戦意欲を冷ます土壌が強く残っている ⑧日本の女性学長割合は20年で13%で、英米独の20~30%を大きく下回る ⑨日本の停滞と閉塞感の根底には人の能力を十分に発揮させないことがある としている。

 ④はそのとおりで、東大は地方出身の女子学生のために、1~2年の学部生と外国人留学生のために三鷹国際学生宿舎(通称、三鷹寮)を用意したり、女子学生向けに住宅費補助を始めたりしている(https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/welfare/h04_11.html 参照)。そして、私の経験では、寮に住んで様々な場所から集まった人と学部を問わず話をすることは、優秀な人が集まっているだけに、視野を広げるのに大いに役立つものだった。

 ⑤については、保護者の理解度や経済力にもよるが、保護者がよくても企業が自宅外通学や浪人歴のある女子学生をシャットアウトする場合があったが、これは今でもそうなのだろうか? また、⑥は真っ赤な嘘であるため気にする必要はないが、全体が相まって⑦⑧⑨の結果を生んでいることは間違いないだろう。

ロ)社会“常識”としての女性差別と偏見
 吉野家の常務取締役企画本部長である伊東正明常務が、*3-2-2のように、早稲田大学のマーケティング講座で、「①生娘をシャブ漬け戦略」「②田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘な内に牛丼中毒にする」「③男に高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない」などという講演をして吉野家から解任されたが、この講演を聞いていた人の中に女性はいなかったのだろうか?

 その場に女性がいたとすれば、その女性に対して配慮がなさすぎるし、配慮以前に女性を性的に見下している。そのため、この発言がネットですぐに報告され、「④こういう発言がさらっと出てくるのは、普段からこういう思想を持っているということ」「⑤顧客を軽視かつ蔑視している発言は取締役としても問題」「⑥上場会社の取締役がこんな差別的表現しか出来ないことに唖然」などと誰もが批判できるようになったのはよいことだ。
 
 しかし、記事の方では「⑦ウケを狙ったつもりが見事に滑って失敗した痛いおじさん」程度にしか批判していない。そして、ちょっと前までは、こういう発言を批判すると、むしろ「⑧笑って受け流せ」「⑨そんなことに目くじらを立てて」「⑩だから女がいるとやりにくいんだ」などと批判する方が悪いかのように言われたものである。そのため、これは、ほんの10年程の間に“一般常識”が変わったと言える事例なのだ。

 なお、「⑪吉野家はいつの間にか顧客を軽んじるような社風になりつつあったのではないか」と書かれている点については、日本はBSEに関して全頭検査をしていたにもかかわらず、私が衆議院議員をしていた期間(2005~2009年)に「米国に合わせて規制緩和しろ」と政府に言っていたのが吉野家で、それに反対していた私の落選後の2013年に、日本でもBSE検査対象牛の月齢を、30か月齢超、48か月齢超へと次第に引き上げる規制緩和がなされた(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070497.html 参照)。つまり、吉野家が男社会で、安さに重きを置いて顧客の安全を軽んじていたのは、今に始まったことではない。

ハ)世界最下位の国アフガニスタンで起こっている間接差別・人権侵害など
 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省が、*3-2-3のように、「①女性は公共の場で目の部分以外の顔を布で覆わなければならない」という命令を出し、女性が従わなければ近親男性が当局から注意を受け、それでも従わなければ近親男性が3日間拘束され、投獄される場合もあり、政府機関で働く女性職員が命令を守らなければ解雇され、妻や娘が守らなければ男性職員を職務停止にするそうだ。

 タリバン暫定政権は、女性に髪や体の線を隠す服装の着用を求めていたが、②女性だけでの長距離移動禁止など女性への制限を強め ③家族以外の成人男性と会う場合は目の部分以外の顔を覆うよう指示し ④髪や体の線を隠す服装を「ヒジャブ」と呼ぶと定めて中でも全身を覆うブルカが最適とし、その理由を、「⑤ヒジャブを着用すれば、邪悪で堕落した者から守られるからだ」としている。

 しかし、①③④のように、女性全員に黒装束の衣装を着せて容姿を含めた人格を見えなくし、②のように、移動等を制限して一人前の人間としての活動をできなくするのは、人権侵害も甚だしい上、それを⑤のように、「(その定義は不明だが)“邪悪で堕落した”男性から身を守るため」としているのは本末転倒だ。何故なら、“邪悪で堕落した”人から女性を守ることが目的なら、邪悪で堕落した行為をした人を罰すべきであり、そうでない人を予防的に閉じ込めるのは乱暴極まりない差別と偏見だからである。

 さらに、女性がヒジャブを着なければ近親男性が当局から注意を受けたり、拘束されたり、投獄されたりするというのは間接差別と人権侵害が重なっており、政府機関で働く女性職員が命令を守らなければ解雇され、妻や娘が守らなければ男性職員は職務停止というのは労働法違反になりそうだ。

 しかし、これがアフガニスタン暫定政権が現在 “常識”にしようとしていることであり、これをアフガニスタンのような外国のことと無視できないのは、アフガニスタン人に起こっている間接差別や人権侵害などの不幸が、程度の差こそあれ日本にもあって、それに抗って最初に変革しようとした先進的な人ほど犠牲になってきた歴史があるからである。

3)メディアやSNSで増幅される差別と偏見
 これまで述べてきたように、差別や偏見は、メディアやSNSで“常識”とか“空気”の名の下に、その枠に入らないと思われる人に向かって誹謗中傷として浴びせられるもので、侮辱・人格権の侵害・営業妨害・政治活動の妨害等の深刻な被害を引き起こすものである。

 そして、SNSで発せられる誹謗中傷は、*3-3のように、匿名やニックネームを使っているため、被害者が損害賠償請求すべき相手を開示させるには、弁護士に依頼して訴訟を起こさなければならず、訴訟を受けたプロバイダーは「一般論の意見や感想に過ぎない」「名誉感情侵害とは言えない」「公共性がある」等の勝手な理屈付けをして投稿者の身元を開示せず、開示した場合でもIPアドレスのみという場合が多い。そのため、そのIPアドレスを元に利用者の実名・住所等を持つプロバイダーを突き止めて、さらに開示請求しなければならないことになる。

 従って問題点は、①「匿名やニックネームで無責任に他人を誹謗中傷してもよい」というルールにしていること ②プロバイダーが利用者の実名・住所等を持たず、IPアドレスのみでプラットフォームを使わせていること ③被害者が加害者を特定したい時に、個人情報保護・一般的意見・公共性などの勝手な理由をつけて加害者を隠蔽できる仕組みにしていること ④訴訟を通じた加害者の特定や損害の認定に時間がかかれば、被害者の逸失利益が膨らむ ということだ。

(4)女性議員が少ない理由にも“常識”としての女性差別・女性蔑視があること

  
2021.3男女共同参画局             2021.3Huffintonpost 

(図の説明:左図は、2021年3月に公表された総合のジェンダーギャップ指数と順位で、中央の図は、日本における総合と政治・経済・教育・健康という要素別の指数の推移だ。また、右図が、政治における小項目の順位であり、いずれも世界平均より著しく低い)

1)女性議員が増えない理由は何か
 *4-1のように、世界の諸機関が算出するジェンダーギャップ調査で、日本は常に下位に沈んでおり、特に、政治・経済面での不平等が際立っている。

 そして、2020年末に閣議決定した男女共同参画基本計画は国政選挙の女性候補割合を2025年までに35%にする目標だったが、候補者の男女均等化を政党に求める法律が施行され初めて行われた昨秋の衆院選でも、女性候補の割合は2割以下で、特に自民党・公明党は1割以下だった。

 2003年に小泉政権が掲げた「202030」は、「社会のあらゆる分野で、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度とする」という目標だったが、なかなか意思決定層に女性が増えず、指導的地位に占める女性割合は未だに低い。

 また、2007年の男女共同参画会議で「指導的地位」の定義を、①議会議員 ②法人・団体等における課長相当職以上の者 ③専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者 と決定したが、これはむしろ妥協の産物であり、①については、議員になっただけでは意思決定できる指導的地位でないため内閣や首長に30%以上の女性がいることとすべきで、②については、課長ではなく役員(取締役等)に30%以上の女性がいることが必要で、③は専門的・技術的職業の経営者クラスに30%以上の女性がいることとすべきであって、こうなって初めて女性の意見がスムーズに社会に反映されるのである。

 しかし、2022年現在、「202030」も達成できなかっただけでなく遠く及ばず、身近な暮らしを支える意思決定の場が男性ばかりで運営されるのは、多面的意見を反映できないため政治にも経済にもマイナスになっている。その解決策として、世界の約130カ国・地域が「クオータ制」を導入して効果を上げており、日本も政党に女性候補者割合の数値目標設定の義務化を求めるなどの強化が必要という意見が多い。

 それも必要かも知れないが、私は、これまで書いてきたように、「指導的地位」に行こうとする向上心ある女性を何とかかんとか悪しざまに言って名誉を棄損することが、女性が「指導的地位」に昇ることを妨げているため、これを変えることが必要不可欠だと考える。何故なら、この社会の因習が、女性の政治参画を遅れさせ、経済でも女性に低い地位を押し付けて、男女の賃金格差を合理化しているからである。

 なお、岸田首相が施政方針演説で賃金格差是正に向けて「企業の開示ルールを見直す」として企業に対して格差報告を義務化する方針を示されたのはよいことであるため、この情報を徹底して開示し、投資家は気候危機に対する対応と男女格差に関する情報も見て投資先を決めるようにした方がよいと思う。

 その理由は、東証1部上場企業約900社を対象とした大手コンサルティング会社の調査のとおり、女性役員比率と企業業績には正の相関関係があり、多様性によって変革とイノベーションが進んで中長期に渡って利益率が上がり、日本経済の成長のためにもプラスだからである。

2)現職女性議員の話から
 世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数」で、日本は昨年156カ国中120位で、とりわけ政治分野の147位がワースト10位に入るため、女性国会議員が増えない理由について、*4-2のように、7党の女性議員が障壁や解決策を率直に語り合う企画があったそうだ。

 その結果、①自民党の三原氏は「社会の意識。女性議員が必要だと本気で感じている方がどれほどいるか疑問だ」と指摘し ②立憲民主党の徳永氏も「男性は外で仕事、女性は家で家族の世話という性別の役割分担の意識」にある と述べられたとのことである。

 私は、①②については、1)の大手コンサルティング会社の調査で既に結論が出ており、性的役割分担している男性で殆どを占める日本の政治が、国の借金を量産し、イノベーションを阻害して日本経済を停滞させ、そのパフォーマンスは世界の中でも低いのを、誰もが見ているため重ねてコメントはしない。

 また、国会議員の働き方改革については、③公明党の古屋氏は「朝から晩までフル回転で働き続けるのが国会議員のかがみという風潮がある」とし ④国民民主党の矢田氏は「オンラインの国会がなかなか実現できず、家庭と両立していく制度が整っていない」とし ⑤三原氏は国会の質問対応が深夜に及ぶことから「霞が関と永田町が一緒に変わらなければ政治は変わらない」とし ⑥生理など女性特有の体調不良について声を上げにくいとの声もあがった のだそうだ。

 しかし、③~⑥については、女性の参画というと必ず、働き方改革と称して全員に対して働かない改革を強い、女性特有の不利な条件として「家庭との両立」「生理や更年期障害」を上げるが、「指導的地位」に昇るような女性はそれらを克服して働いてきているので、全女性に対して観念的な短所を押しつけるのは、むしろ女性が「指導的地位」に昇るのを妨げると、私は思う。

 また、選挙制度については、⑦小選挙区が現職優先になっているため、男性の現職がいるところに女性は立候補できず ⑧社民党の福島瑞穂氏は「北欧が女性議員を増やしたのは比例代表制のためで、政党の政策で選ばれる制度に変える必要がある」とし、⑨日本維新の会の石井苗子氏も「現職優先を守っている人たちはそう簡単には(議席を)明け渡さないから制度を変えないと絶対に変わらない」と応じたそうだ。

 私は、⑦⑧⑨は本当だと思うが、自民党は「現職優先」だけでなく、「勝つ候補」を公認するポリシーを持っており、選挙で勝ちやすい候補は、「現職」「世襲」「男性」「選挙に強い人気者」などの特徴があり、現職か世襲の男性候補が地方組織から上がってきやすいわけである。そのため、「そういう人ばかりが議員になって政治がうまく廻るのか」については、投票する側の国民が真剣に考えて投票先を選ぶ必要があるが、「公認されないため立候補していない人には投票できない」というジレンマもある。

 「クオータ制」を「優秀な男性が出られなくなる」と言う人も少なくないが、教育やキャリア形成で均等な機会を与えていれば優秀な人の割合は人口の割合に比例する。そのため、なかなか均等な機会が与えられない以上、男女の候補者割合を半々にすることに合理性はある。その結果として、選挙で当選し続けて意思決定できる立場まで昇る人が30%以上になるべきなのであり、日本における現在の状況を見る限り、「クオータ制」は必要だろう。

 私も、英国やドイツで女性がトップになって、国がよい方向に変革されたと思っているが、サッチャー英首相もメルケル独首相も本当に優秀な人であったため、そういう人を選んだ国民も賢いのだと思う。

3)女性の意見・能力・実績を軽く評価したがる偏見(“常識”)の存在
 60年前にレイチェル・カーソンが世に出した「沈黙の春」の冒頭「自然は、沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは、どこへ行ってしまったのか」という記述は有名だが、DDTなどの殺虫剤の大量散布が生態系を破壊し、人の健康に影響を及ぼす可能性を訴え、米国社会に大きな衝撃を与えた生態学者のレイチェル・カーソンが、男性優位の産業界・科学界・メディアから、*4-3のように、「女性は科学者に向いていない」「ヒステリー」「未婚の女がなぜ遺伝のことを心配するのか」といった性差別的な攻撃を受けていたのは、本当に気の毒である。

 しかし、ジョン・F・ケネディ大統領がこの本の真価に気づき、大統領の科学諮問委員会が農薬の使用を制限すべきという報告書をまとめ、カーソンの警告が葬られなかったのは、世界にとって幸運なことだった。
     
 私も1995年頃、経産省に地球温暖化問題やその対策としてのEV・再エネ発電などを提案し、1997年に京都で開催されたCOP3で京都議定書が採択されてCO₂排出量削減が義務付けられたが、それ以外はなかなか進まなかった。それどころか、EVは「音がしないので危険(!?)」とか「航続距離が短い(?)」「高い(??)」など、また、太陽光発電も「廃棄物処理が大変だ(!?)」「高い(??)」「変動するのでバックアップ電源が必要だ(?)」などの馬鹿馬鹿しいいちゃもんをつけられることが多く、「これは私(女性)の科学力を馬鹿にしているせいだ」と感じている。そして、このような時に、内容を評価して実現に導いてくれるのは、本人も理解力のある優秀な人なのである。

 日本は、*4-4のように、①脱炭素社会のインフラ作りのためには、政府が金を出し惜しみすべきではない という主張が世界で勢いづいているのは、当然でよいことである。そして、このような場合に、②先進国で最悪の財政状況だ ③グリーン化にかかる膨大なコストをまかなう余力はあるのか などとして、無駄遣いと必要なインフラへの投資を混同する主張が出てくるのは、全く変である。

 さらに、④MMTの自国通貨建て国債を発行できる国なら、インフレになるまで赤字を気にせず財政拡大できる などとする意見は狂っており、今ある産業と雇用を維持するための浪費ばかり行い、グリーン投資をてこにして社会システムを転換させようとする近未来の視点もなく、新陳代謝を妨げる予算を作って国民に迷惑をかけたという意識にも欠けると言わざるを得ない。

4)人間の歴史と地球の歴史を関連づけて考えるには地質学が必要だが・・
 *4-5は、「大学での学生の人気は宇宙や気象に集まりがちで、地質学は地味な学問だが、興味を持つ若者が少ないと発展が望めない」「高校でも地学の履修率は低く、裾野を広げることが長年の懸案になっている」と記載しているが、私は、高校で地学も履修し、その地学は単に地質だけを述べていたため、無味乾燥な暗記科目になっていたと思う。

 人間は、目的があれば現地を歩いて調べたり、深く探究したりすることを全く厭わない動物で、①地下資源の探査 ②陸上の地震・津波に関する記録を調べて将来リスクの予測 ③火山や活断層の存在から原発の安全性確認 ④海底の地形や地質を把握して地図を作り、他の活動に使用 ⑤化石の年代とその時代の状況を推定 などが、これまで熱心に行われてきた個々の地質調査であろう。

 そして、「何の役に立つかわからないものを地道に調べろ」と言われても、人材が流入しないため研究や育成にも繋がらないため、高校の教科書(動画を使った方がわかりやすいと思うが)で、地球の始まりから現在までの「⑥陸地と海の変化」「⑦それが起こった理由」「⑧その時の気候」「⑨その時点で住んでいた動植物の種類と変化及び周囲の環境変化」「⑩人類が生まれて以降の地球の気候変動と人類の拡散(DNAの分布も調べる必要がある)」「⑪人間の歴史上で政権転覆や革命が起こった時の気候・収穫(各国の歴史家の協力が必要)」などを時系列で有機的に結び付けて解説すれば、実証的・科学的であると同時に興味深いと思う。

 つまり、生物や人間の壮大な歴史も、その背後には地球で起こった気候の変化やそれに伴う地政学上の変化があると思われ、今までは、それを科学的関連性を持って語られなかった点で無味乾燥だったため、国際的に協力してそれらを解明すれば、首尾一貫した科学になって興味深いと思うわけである。

(5)議員に対するメディアのスタンスの誤り
1)選挙に関する報道について
 *5-1-1は、①公職選挙法第148条は、新聞が選挙について報道、評論する自由を大幅に認めている規定で ②はじめから虚偽・事実を曲げた報道・それに基づいた評論でない限り ③政党等の主張や政策、候補者の人物、経歴、政見などを報道し ④これを支持・反対する評論を行うことはなんら制限を受けず ⑤そうした報道・評論により、結果として特定の政党や候補者にたまたま利益をもたらしたとしても、第148条にいう自由の範囲内に属するため問題はない ⑥従って選挙に関する報道・評論で、どのような態度をとるかは、法律の問題ではなく新聞の編集政策の問題で ⑦新聞に対して選挙の公正を確保する趣旨から、積極性を欠いた報道・評論を行ってきたとする批判があったが ⑧これは「表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」とのただし書き規定が、言論機関によって選挙の公正を害されたとする候補者側の法的根拠に利用されてきたためだ と記載している。

 このうち①については、*5-1-2の公職選挙法第148条は、1項に「新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない」と規定しており、「大幅に認めている」のではなく「妨げない」のである。

 また、「虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」という但し書きもあって、「虚偽や事実を歪曲した記載は『表現の自由』の濫用によって選挙の公正を害するものである」と規定しており、②③④は言いすぎである。さらに、⑤は、「結果として特定の政党や候補者にたまたま利益をもたらした」などと、意図しない結果で偶発的なものであるかのように書いているが、私のケースでは、女性蔑視を利用して議員としてマイナスのイメージを擦り付ける明らかに結果を意図したものだったし、そういう報道は例を挙げればきりがないほど多かったため、私は忘れても許してもいないのである。

 さらに、⑥は、「法律の問題ではなく編集政策の問題」などとしているが、虚偽や事実を歪曲した記載で「表現の自由」を濫用することは、日本国憲法では人権侵害であり、公職選挙法でも「選挙の公正を害する」と明確に規定されているため、明らかに法律上の問題であり、「儲かりさえすればよい」という編集政策の問題ではない。

 これに加えて、⑦⑧のように、「新聞に対して積極性を欠いた報道・評論を行ってきたとする批判があったが、これは但し書き規定が『言論機関によって選挙の公正を害された』とする候補者側の法的根拠に利用されてきたためだ」とするのは我田引水で、議員や候補者にも日本国憲法が適用されることを忘れるべきではない。

2)メディアの女性政治家に関する報道にも女性蔑視があること
 朝日新聞社は、*5-2のように、報道・各種事業・組織等におけるジェンダーバランスを見直そうと、2020年4月に「ジェンダー平等宣言」を発表し、①多様性実現のため、報道・事業・働き方に関する4つの指標を掲げ ②登場者・登壇者の女性比率をほぼ5割にし ③記事の見出し・写真がジェンダー格差を助長しないか目配りし ④男性社員の(2週間以上の)育休取得率は2020年度が約12%で、職場の雰囲気に問題のあることがわかり ⑤管理職・専門職に占める女性割合は14.2%で40代以上の社員の女性比率と等しいが、意思決定の場に女性が圧倒的に少ない現状は変わりなく ⑥日本のジェンダーギャップ指数低迷の責任はメディアにもあるため、男社会のメディアの変革は待ったなしだ と記載している。

 今でもそういう面は多いが、私の議員及び候補者時代には、メディアの報道には女性蔑視がしばしば見られた。例えば、私の出身地・経歴・実績などを全て無視して「落下傘だ」「刺客だ」と喚き立てたメディアは多かったし、私が社会調査を兼ねて玄海町を1件毎に要望や意見を聞きながらあいさつ廻りしていた時、「同行したい」と言ったテレ朝の記者を同行させていろいろと説明したにもかかわらず、TVで報道にする時には「単なる刺客で能力も実績もない馬鹿な女」ということになっていて「何を考えているのか」と思った。

 つまり、女性政治家の能力や実績を過小評価したり、事実を歪曲して悪く報道したりすれば、それは選挙という能力・実績・評判で闘っている人の足を引っ張ることになるため、政治活動の妨害以外の何物でもない。そのくせ、男性に対しては、大したこともないことを褒めて不公平・不公正を助長する現実があるのである。

3)変なことで政治家を叩き、官僚におべっかを使うメディアの姿勢も問題
 日本国憲法は、前文で、①主権は国民に存する ②国政は国民の信託によるもので、権威は国民に由来し、権力は国民の代表者が行使し、福利は国民が享受する ③日本国民は、正当に選挙された代表者を通じて行動する 等を定めて(https://hourei.net/law/321CONSTITUTION 参照)、議員による間接民主制を選択しているスマートな憲法だ。

 そして、③を実現するツールが選挙であるため、議員の意思が国政に反映されなければ、①②の国民主権は達成されないのに、朝日新聞は、2022年1月22日、*5-3-1のように、④官僚が「政治家の下請け」になり、根回しばかり奔走した結果、政策が劣化した と題して、下のことを記載している。

 つまり、⑤政府統計で統計的処理による補完は認められているが、官僚がデータを書き換えて、それを隠したのはアウト ⑥霞が関で統計不正が起きる原因は、統計軽視の姿勢と人員不足 ⑦統計軽視の理由は、統計データに基づいて政策や制度を見直すと間違いを認めることになる ⑧官僚も「無謬性の原則」に囚われている ⑨政治家は次の選挙で勝つことが最優先の短期志向で政策評価や分析ができず ⑩政治主導で政治家が上になって、官僚が政策評価や問題点の指摘をできず政治家の下請けになった ⑪官僚の役割は政策を検討したり実施したりすることで専門性が重要だが ⑫殆どの官僚が政治家や業界の根回しに奔走して勉強する時間がなく ⑬霞が関の幹部は法学部出身のゼネラリストが多く、専門家が不足して博士号を持つ人も少なく ⑭事務次官・課長・局長が1年ほどで異動し、卒なくこなしてリスクはとらなくなる人事制度が最大のネック などである。
 
 このうち、⑤は正しいが、人員不足を言いたてて、⑥⑦⑧⑫⑬⑭のように役立たずの人材を増やされては、国民負担が重くなりすぎる。また、⑨の政治家が短期志向であることは確かに問題だが、メディアは議員が各種委員会で政策に関する質問をしている場面を報道し、足りない点があればそれを指摘すべきなのに、政治家の人格攻撃に終始して国民の誰にもメリットにならない報道をしているのが大きな問題なのである。

 また、⑩は、憲法で国民主権と間接民主主義が定められている以上、選挙を通じて国民に選ばれた議員(=政治家)が官僚に指示するのは当然で、さもなくば民主主義が有名無実化するため何を言っているのかと思うし、また⑪の政策の検討や実施に専門性を要するのは官僚だけでなく政治家も同じであるため、そういう人が議員として当選するようなメディアの論調が必要で、それはメディアの社会的役割の1つであるのに何を勘違いしているのかと思うわけである。

 そして、朝日新聞は、2022年5月14日、*5-3-2のように、⑮「建設工事受注動態統計」の不正で受注実績を無断で書き換え二重計上した金額は、2020年度で実際より3.6兆円過大 ⑯2013~19年度には年5.8兆円過大だっていた可能性があるが ⑰正しい数字は今も見えない としている。

 そもそも、実績ではなく統計でもよいとし、仮の数字を入れて放っておくなどという行政特有の発想は、実績を重視する会計を全く理解しておらず、政策のレビューにも役立たない統計を作っている。そのため、その発想を変える根本的な制度変更が必要なのであり、それが公会計制度の導入と「Plan(計画)→Do(実行)→Chech(確認)→Action(行動)」システムの制度としての導入なのだ。

4)国民が選ぶ政治家の汚さを言いたててフィーバーするメディア
                  ← 国会議員の文書通信交通滞在費から
 *5-4のように、国会議員の文書通信交通滞在費の支給方法が法改正で月単位から日割りへと変わるそうだが、まだ使い道を開示する必要はないため、議員の「第2の給料」と皮肉られ、使い道の開示など改革の必要性が残っているのだそうだ。

 これについて、①法改正の発端は初当選した新人議員が在職1日で月100万円満額の文通費を受け取ったことを「世間の常識からしたらおかしい」とブログに綴ったことで ②今回の法改正で月単位の支給は廃止となったが ③非課税なので全額が議員のもとに入り ④使い切らなかった分の国庫返納の必要がなく ⑤一般社会では経費として使ったものの精算に領収書の添付は常識なのに ⑥国会議員の文通費は使途の公開義務がないため、正当な政治活動に使われていないとの指摘がある そうだ。

 昨年の衆議院議員選挙の後はこの話題でもちきりだったが、①については、私も初当選した時は在職1日で月100万円もらえる文通費は確かに「世間の常識と異なる」と思ったが、政治家の政治活動費も世間の常識とは異なる大きさだったので、これとは別に支給される交通費まですべてを無駄遣いではない必要経費に使っても足りない月が多かった。そのため、「国会活動とプライベートでの支出の線引きが曖昧」などと言われるのは、痛くもない腹を探られる気がする。

 どんな経費に使うのかと言えば、新人議員はまず東京と地元に事務所を設置して机やパソコンなどの備品を揃えなければならないため、その費用は100万円どころか300万円くらいかかる。そのため、私の場合は、地元を廻る自動車やコピー機はリースで済ませたが、毎月のリース料も決して安くなかったし、毎週末に九州の地元と東京を往復する交通費は国から支給される交通費を上回っていた。さらに、地元に送付する資料や国政報告会・タウンミーティングを知らせるチラシの数も世間の常識からかけ離れて大きいため、印刷代や送付料も著しく大きいのである。

 そのため、②のように、月単位の支給が廃止となったのなら、新事務所を設置しなければならない議員には東京と地元への事務所設置資金を渡した方がよいくらいだと思う。また、③については、経費なので非課税でよいが、確かに⑤⑥のように、領収書をつけて使途は開示した方がよいだろう。そして、④については、使い切らなかった分の国庫返納は必要だが、それなら地理的事情等で足りなくなる人には追加支給も必要だ。

 私は、もらった文通費の全額を政党支部に寄付して使途を全て開示し、監査も受けていたため文句を言わせないが、調査研究や広報などの政治活動を熱心にやればやるほど活動費はかさむので、名称を「調査研究広報滞在費」に改め、支給目的を「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため」としたのは、議員を経験した人の妥当な判断だと思う。

 また、政策研究大学院大学の竹中教授(政治学)が、「よい人材を採用するなら金銭的な待遇は大事になる」と指摘しておられるのは尤もで、金がなければ政治家になれない環境になれば、政治家の適正性に別の要素が加わって、寄付集めばかりしている人や一般人のニーズがわからないような金持ちが政治家になることになる。そして、それが国民にとってプラスかどうかは、考えなくてもわかることだろう。

<侮辱や誹謗中傷は「人権侵害」である>
*1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2648P0W2A420C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2022年4月27日) ツイッターの公共性と社会的責任を問う
 米ツイッターが、米テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏による買収提案を受け入れた。徹底的な「言論の自由」を求めるマスク氏はツイッターの投稿管理を批判してきた。同氏には、言論の自由と有害情報防止という難しいバランスに細心の注意を払うよう求めたい。ツイッターは世界の著名人や一般市民が数億人のネット利用者に向け直接情報発信する基盤(プラットフォーム)であり、極めて公共性が高い。市民が政治の良しあしを判断する民主主義国では、判断のもとになる正確な情報の流布を担う役割もある。ところが近年、暴力、差別、ヘイト(憎悪)を助長する投稿や、ロシアのプーチン政権や米国のトランプ前大統領らが発する偽情報などの有害投稿が横行し、公共的な情報基盤として機能不全に陥りつつあった。このためツイッターは、有害投稿の削除や常習者のアカウント凍結などの対策を強化してきた経緯がある。トランプ氏のアカウント凍結はその一環だが、マスク氏は強く反対してきた。買収に成功した場合、同氏にはツイッターの公共性とそれに伴う責任を改めて強く自覚して行動してほしい。個人が支配する非上場企業になれば、株式市場を通じた社会による統治が効かなくなる。このため、買収成立後のマスク氏の行動次第では、法律規制によって有害情報を防ごうという潮流が世界で強まる可能性がある。すでに法律による規制にカジを切ったのが欧州だ。欧州連合(EU)は23日、「デジタルサービス法案」に合意した。年内にも施行する見込みだ。SNS(交流サイト)や動画共有などのプラットフォームの運営企業に有害情報を防ぐ管理責任を負わせ、違反企業には高額の罰金を科す。マスク氏が支配権を握ったとしてもツイッターは欧州でむしろ管理強化を強いられそうだ。米国で有害情報が増えれば、足踏みしてきた米議会での法規制導入論議が前進するかもしれない。日本では国家による言論規制を避けるためプラットフォーム企業や有識者が自主規制の枠組みを検討してきたが、効果的な具体策はまだできていない。ワクチンを巡る誤情報の横行で有害情報防止は社会の要請になった。関係者はツイッターの動向を注視しつつ、防止策の具体化を進めてほしい。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15181362.html (朝日新聞 2022年1月23日) 巨大IT規制、遅れる日米 自主的対応が軸/与野党足並みそろわず
 米巨大IT企業の規制をめぐっては欧州だけでなく、日米でも動きが出ている。ただ、包括的な規制の網をかけようとする欧州に対し、与野党の足並みがそろわない米国や、企業の自主的な対応を軸としてきた日本はそこまで踏み込めてはいない。米下院の民主党議員らは昨年、利用者による投稿の内容にネット企業が責任を負わなくていいとする「通信品位法230条」の改正案を提出した。利用者の身体的、精神的被害につながるコンテンツを推奨するアルゴリズムを意図的に使った場合、230条による保護をなくすという内容だ。米国では、メタ傘下のフェイスブック(FB)をめぐる内部告発などを受け、規制強化の機運が超党派で高まっている。ただ、230条の改正には超党派の支持があるものの、共和党側はIT大手による投稿の削除を「やり過ぎ」と批判し、民主党側は有害投稿への対応が不十分だと訴えるなど合意は見通せていない。日本では昨年、ネット上の違法な投稿について、被害者が投稿者を特定するための司法手続きを迅速化する「プロバイダー責任制限法」の改正があった。ネット企業には、こうした投稿を削除する「自主的な対応」を求めている。ただ、国ごとの対応を公表しない米企業もあり、総務省の有識者会議は、この状況が続けばルールづくりなどの「具体的な検討が必要」との意見を昨秋に出した。また、情報管理については巨大IT企業に対する規制強化の動きがある。政府は大規模な検索サービスやSNS事業者にも厳格な管理の義務を課す電気通信事業法の改正案を、今年の通常国会に出す予定だ。ただ、当初盛り込む方針だったネット閲覧履歴の第三者への提供についての本人同意の原則は、日米の経済界の反対で見送りになりそうだ。利用者への通知・公表だけでも認める方向となっている。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15181454.html (朝日新聞 2022年1月23日) 欧州議会、巨大IT規制可決 差別・デマ排除、成立へ前進
 「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業の規制へ、欧州連合(EU)が取り組みを急いでいる。グーグルやメタ(旧フェイスブック)などのネット事業者らに、違法コンテンツの排除や広告の適正な表示を義務づける法案を、欧州議会が可決した。暮らしの隅々に行き渡る巨大企業のサービスは、個人情報の保護や言論など民主主義のありようにも響くとみて制御に乗り出す。欧州議会が20日に可決した「デジタルサービス法(DSA)案」はプラットフォーム企業に対し、児童ポルノや差別、デマ、ヘイトスピーチなどを含んだ違法コンテンツの排除や差し止めを厳しく義務づける。広告表示のルールも厳しくする。ターゲット広告のために利用者のデータや閲覧履歴などが使われるのを簡単に拒める仕組みの提供や、子どもをターゲット広告の対象にしないことなどを規定。利用者に意図しないサービス契約や物品購入を巧みに促すサイトの設計も禁止する。企業は違反すれば、最大で世界売上高の6%の罰金が科される。今後、EU加盟国でつくる理事会との協議を経て成立に向かう。EUは、他国のモデルにもなりうるとみており、巨大IT企業の規制づくりをリードしたい考えだ。DSAは、EUの行政を担う欧州委員会が2020年12月に発案した。圧倒的な規模と資金力を持つ巨大IT企業に対し、独占的地位の利用を禁じてビジネスの競争環境を整える「デジタル市場法(DMA)案」とセットで法制化を進めている。DMAの法案は昨年12月に一足早く可決しており、問題が起きた後に競争法違反などで罰する仕組みから事前規制への転換をめざす。両法案は00年に定めた法律の包括的な改定にあたり、市民がネットを安全に使えるようにし、公正な競争を促す狙いがある。社会のデジタル化への対応は、気候変動とともにEUが取り組む主要課題だ。ただし、ネット上で憎悪があおられたり、犯罪が誘発されたりする問題点もたびたび指摘される。欧州委のフォンデアライエン委員長は「プラットフォーマーのビジネスモデルは、自由で公正な競争だけでなく民主主義や安全にも影響を及ぼす。巨大な力を制御していかねばならない」と指摘する。

*1-4:https://mainichi.jp/articles/20220428/k00/00m/040/330000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20220504 (毎日新聞 2022/5/3) ネット中傷の連鎖どう防ぐ 「個人の尊厳」と「表現の自由」考
 インターネット上でSNS(ネット交流サービス)が普及したことで、誰もが不特定多数に向けて発信したり、表現したりできる時代になった。憲法21条が保障する「表現の自由」の重要性が増す一方、ネット上の中傷は「言葉の刃(やいば)」となり、時に深刻な人権侵害を引き起こす。ネット空間で「個人の尊厳」をどう守っていくのか――。デジタル社会の大きな課題となっている。
●「加害者」にも「被害者」にも
 国民が自由に意見表明できることは民主主義の根幹だ。だが、他人の名誉やプライバシーを侵害する表現は「個人の尊厳」や幸福追求権を保障する憲法13条の理念に反して違法となり、司法は被害者への損害賠償や表現内容の削除を命じることで被害回復を図ってきた。名誉毀損(きそん)と認定されるのは、従来はマスメディアの表現内容が多かったが、1990年代後半からインターネットが普及すると、個人によるネットへの投稿が対象となるケースが増えた。99年に開設された匿名ネット掲示板「2ちゃんねる」を巡り、投稿内容で中傷されたとする人たちが掲示板管理人に損害賠償を求めた訴訟で、中傷を放置したことへの違法性を認める判決が2002~03年ごろに相次いだ。08年に米アップルのスマートフォン「アイフォーン」が日本に上陸すると、パソコンに向かわずとも手元でのネット接続が容易になった。ツイッターなどSNSの広がりもあり、誰もが投稿による「加害者」や「被害者」になり得る時代になった。こうした状況下で最高裁は10年、二つの重要な判断を示した。自らのホームページで特定企業を中傷したとして名誉毀損罪に問われた男性の刑事裁判で、「ネットの情報は不特定多数が瞬時に閲覧可能となり、時として被害は深刻なものとなり得る」と指摘。ネット上の表現も、従来の紙媒体などでの表現方法より緩やかな基準で扱うべきでないとした。また、名誉毀損に当たる投稿内容に関してプロバイダー(接続業者)に発信者情報の開示義務があるかが争われた訴訟で、「開示義務がある」との初判断を示した。匿名の投稿者による中傷に対して法的責任を問うには被害者側が投稿者を割り出す必要がある。最高裁がプロバイダーに情報開示義務があると認めたことで、ネット上の中傷を抑止することが期待された。
●中傷相談、10年間で4倍超
 だが、被害は急速なペースで深刻化してきた。総務省が委託する「違法・有害情報相談センター」に寄せられた中傷相談は、10年度の1337件が20年度に5407件と4倍超に増加。ツイッター社に対する発信者情報の開示請求も16年の58件が20年は364件と6倍超に及んでいる。20年5月には、フジテレビの人気番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さん(当時22歳)が、放送内容を巡ってSNS上で中傷を受けた後に急死。ネット中傷の拡散と連鎖が社会問題として広く認知され、被害者救済の動きが本格化した。21年4月にはプロバイダー責任制限法が改正され、中傷投稿者の特定に必要な2段階の裁判手続き(①ネット上の住所であるIPアドレスの開示をSNS事業者らに求める②事業者から開示されたIPアドレスを基に契約者情報をプロバイダーに求める)について、同じ裁判官が判断できるように簡略化された。また、裁判所が通信記録の消去禁止をSNS事業者側に命じる措置も新設された。この改正法は今年秋までに施行される。さらに、政府は3月、侮辱罪を厳罰化する刑法改正案を閣議決定し、今国会での成立を目指している。改正が実現すれば、現行の「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」に「1年以下の懲役もしくは禁錮」と「30万円以下の罰金」が追加され、公訴時効は1年から3年に延長される。
●欧州で保護進む「忘れられる権利」
 広大な海にも例えられるインターネット上では、グーグルやヤフーなどの検索サイトは欠かせないツールとなっている。だが、ネットでの名誉侵害などを訴える人にとっては、不都合な情報が不特定多数へ容易に広まることとなり、検索サイトを相手取って削除を求め裁判を起こす動きは絶えない。ただ、「表現の自由」との兼ね合いがあり、司法はこうした訴えに対して慎重な姿勢を示す。最高裁は2017年、児童買春容疑で逮捕された男性が、逮捕歴が表示される検索結果の削除をグーグルに求めた仮処分申請を退けた。この際の決定で「公表されない利益が公表される利益に明らかに優越する場合には削除が認められる」との初判断を示した。検索サイトの存在については「情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」と意義付け、検索結果を安易に削除することはこの役割を制約するとした。サイトによる検索結果の提供を表現行為と捉え、「表現の自由」を重く見た決定だった。インターネット上の個人情報の削除を求める権利は「忘れられる権利」として欧州で保護が進み、日本でもさいたま地裁が15年に新たな権利として認める判断を示した。だが、2審・東京高裁は地裁決定を取り消し、最高裁もこれまで「忘れられる権利」に言及した判断を出していない。ネット情報の削除訴訟に詳しい神田知宏弁護士は「逮捕歴などがいつまでも検索結果として残ると、就職などに影響して更生に支障が生じる。ネットで情報が拡散する時代は、紙媒体中心の時代では考えられないほど問題が深刻だ。17年の最高裁決定以降、裁判所が削除を命じるハードルが上がり、以前なら削除が認められていた事案でも認められない傾向が続いている」と指摘する。
●中傷投稿対策 事業者に公表義務化を
 インターネット上での中傷は、個々の投稿は軽微な内容でも、特定の人に殺到すれば大きな精神的負担となる。投稿者が自身と考えの違う人を全否定し、自分なりの「正義」を掲げる投稿が目立つのも特徴だ。「表現の自由」は人権侵害につながる意見表明を無制限に許容しておらず、自身の投稿に問題がないかを判断するためのリテラシー教育が重要となる。SNS(ネット交流サービス)の運営事業者の取り組みも鍵を握る。プロバイダー責任制限法の改正により、投稿者の責任を追及するための裁判手続きは簡易になるが、一般市民にとっては裁判手続きを経ること自体が負担だ。まずは中傷投稿の全体数を減らす必要があり、問題のある投稿を放置している事業者に行政処分や罰金などを科すことも考えられるが、安易な公権力の介入は過剰な削除を招き、表現の自由との関係で問題が生じかねない。そこで考えられるのは、中傷やプライバシー侵害に当たる違法な投稿にどういった対策をしているのか、各事業者に公表義務を課すことだ。具体的には、どれぐらいの削除要請があり、どういった内容の投稿を何件削除したかなどが分かれば、国民が事業者を評価できるようになる。ただ、中傷投稿には明らかに違法というものから、社会的に不適切というものまで幅があり、画一的な対応は難しい面もある。事業者は社会と対話をしながら、自社の方針を常に改善していくことが求められる。
■日本国憲法(抜粋)
第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第21条
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

<侮辱や誹謗中傷を「言論の自由」「表現の自由」としたメディア>
*2-1:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6424696 (Yahoo 2022/4/24) 侮辱罪厳罰化、見直し要求 立民「言論弾圧」と批判 刑法改正案
 21日に衆院で審議入りした刑法改正案の柱となる侮辱罪の厳罰化をめぐり、立憲民主党が批判を強めている。インターネット上の中傷抑止が狙いだが、改正案では恣意(しい)的な適用への歯止めが効かず、政府による「言論弾圧」につながりかねないとの主張だ。既に対案となる議員立法を国会に提出。修正も含め見直しを求めている。「街頭演説で『悪夢のような民主党政権』と言えば、侮辱罪で逮捕される可能性がある。自民党はそれでもいいのか」。立民の藤岡隆雄氏は21日の衆院本会議で、安倍晋三元首相による在任中の旧民主党政権批判を例に挙げながら、改正案の問題点を追及した。改正案は、現行で「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」となっている侮辱罪の法定刑の上限を、「1年以下の懲役もしくは禁錮」「30万円以下の罰金」に引き上げる内容だ。きっかけは、ネットで中傷を受けたプロレスラーの木村花さん=当時(22)=が命を絶った問題。投稿者2人が略式命令を受けたものの、科料9000円にとどまったため、「軽過ぎる」との声が強まった。ただ、侮辱罪には、名誉毀損(きそん)罪にあるような「公共性などがある場合は罰しない」との条文がなく、立民は政治家らへの批判を萎縮させかねないと問題視。さらに、侮辱罪は「公然と人を侮辱」したケースが対象のため、交流サイト(SNS)などでのいじめに対応しにくいと指摘する。立民の対案は、SNSでの中傷を対象にする「加害目的誹謗(ひぼう)等罪」を新設。併せて、正当な批判への同罪適用を封じる規定も盛り込んだ。泉健太代表は22日の記者会見で「侮辱罪は言論の自由を侵しかねない」と指摘。同党関係者は「修正されなければ反対する」と明言した。これに対し、古川禎久法相は「表現の自由は極めて重要な権利で、不当に制限してはならないのは当然だ」と反論。政府・与党は法案見直しの必要性を認めておらず、今後の審議は難航が予想される。 

*2-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/638156/ (西日本新聞 2020/8/24) ネット中傷対策 表現の自由も守る制度を
 人権を傷つけられた被害者の救済と表現の自由の両立-。容易ではないが、情報技術(IT)進展に伴う法整備など時代に即した対策が求められる。インターネット上で匿名の投稿者による誹謗(ひぼう)中傷が後を絶たない。「死ね」「つぶせ」といった特定の個人や団体の存在を否定する内容もある。少し前のパソコン全盛の時代は掲示板サイトが主な舞台だったが、最近はスマートフォンを使った会員制交流サイト(SNS)に移った。SNSは誰でも意見を匿名で気軽に投稿でき、その内容は瞬時に他の利用者に拡散もされる。このため、気に入らない人物や書き込みを、不特定多数により集中攻撃する行為も生じやすい。その結果、非難された側が追い込まれ、自殺などにつながる例が国内外で相次いでいる。SNSは知らぬ間に不特定多数とネット上の知人を介してつながり、自分の情報が次々に掲載されていくケースもある。投稿による人権侵害への対応を定めたプロバイダー責任制限法は2002年に施行した。被害者側がネット事業者(プロバイダー)に投稿の削除を求め、応じない場合、投稿者の特定につながる情報開示を求め、裁判に移行する制度だ。総務省の有識者会議は今年7月、こうした裁判手続きの迅速化のため、投稿者の氏名を特定する情報として、従来のネット上の住所に加え、電話番号も開示するという中間報告案を示した。それでも開示請求の裁判自体は必要で、その労力を苦に泣き寝入りする被害者はいるだろう。ネット社会に法整備が追いつかない現状の一端である。人工知能(AI)を使いネット上の投稿から有害な内容を検出する試みもある。新たな問題はないか成否を注目したい。一方、匿名での意見や情報の発信を認めなければ、社会の不正を正す機会は保障されないとの議論もある。確かに、匿名性が言論の自由を側面から支えているのは間違いない。危ぶむべきは、優位な立場にある行政や大企業が自らに不都合な投稿の削除を不当に求めることだ。その危険性を排除する仕組み作りは欠かせない。現行制度はネット事業者が独自の基準を投稿者に示し、誹謗中傷と判断した場合は削除するとしている。自主判断は、恣意(しい)的な権力の介入を招かぬためにも必要だ。新聞も公序良俗に反すると判断した投稿は掲載しない。社会の公器としての責務であり、ネット事業者にも共通の部分があるはずだ。もとより表現の自由にも憲法上の制約はある。ヘイトスピーチ規制法の成立がその好例だ。

<ネット中傷に含まれる差別も過去には“常識”だったこと>
*3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15282598.html (朝日新聞 2022年5月1日) 「正しさ」が生む、誹謗中傷 5・3集会 阪神支局襲撃35年
 1987年に朝日新聞阪神支局で記者2人が殺傷された事件から、5月3日で35年を迎える。朝日新聞労働組合は事件翌年から「言論の自由を考える5・3集会」を開いてきた。昨年に続き今年もオンラインで開く。タイトルは「『正しさ』が暴力になるとき ネット上の誹謗(ひぼう)中傷と向き合う」。登壇予定のパネリストたちに、メディアの現状について考えを語ってもらった。
■差別の構造、強く表れるネット上 コラムニスト・伊是名夏子さん
 昨年4月、車いすを使う私が、JRの駅で「乗車拒否されました」とブログに書いたところ、多くの誹謗(ひぼう)中傷や批判が寄せられました。1年が経った今でもネットで書かれ、被害が続いています。ネット上の攻撃は粘着質で、どんどんエスカレートします。発端は、私が「エレベーターのない無人駅で下車したい」と駅員に申し出て、一時は「案内できない」と言われた体験を明かしたことです。これに対し、「わがままだ」とか「感謝の言葉がない」などの批判が殺到しました。「本当は歩ける」といった事実無根の記述もありました。子どもの学校も特定してさらされ、迷惑や危険が及ぶことを考えて怖かったです。例えば、レストランの予約をする時に「伊是名です」と名乗るのも怖い。今は自分のツイッターの書き込みをやめています。ブログに書いたのは腹いせのためではなく、誰もが生きやすい社会になるようみなさんに考えていただきたいと思ったからです。でも本当に難しいと感じます。車いすユーザーへの乗車拒否はよくありますが、今回は炎上した。鉄道の駅は「歩いている人」に身近な場所。そうした空間では人々にとって、車いすユーザーよりも駅員の方が身近だからかな、と思います。ネットでは差別の構造がより強く表れます。社会には障害者や女性、在日コリアンの問題などまだまだ見えない差別があり、ネット上に誹謗中傷として「うわっ」と出てきている。メディアは、被害者だけでなく加害者や第三者の主張も採り入れて中立性を保とうとすることがあります。でも被害者と加害者らは対等ではありません。差別への向き合い方についても議論したいと思います。
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1982年生まれ。生まれつき骨の弱い「骨形成不全症」で電動車いすを使う。東京新聞・中日新聞、ハフポストなどでコラムを執筆。著書に「ママは身長100cm」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
■違う観点、「まじること」の健全さ 演出家・高山明さん
 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で一時中止された企画展「表現の不自由展・その後」について、寄せられる意見を出展作家の有志で受ける「Jアートコールセンター」を期間中に設置しました。電話線を通じ、電話をかけてきてくれている人との間に、文字どおり回線がつながった感じがありました。不自由展の開催者側、抗議する側の双方が「自分の方が正しい」と競い合うことに息苦しさを感じていました。自分はそうあるまいと思っていても、電話で反対意見を聞くと「いやあなたが間違っている。税金でそういうことをやるのはドイツでは当然で……」などと言ってしまう。相手も違う観点から自分の「正しさ」を主張するだけ。場合によっては3時間話してけんか別れのようになりました。「説得」は「自分が正しい」ということが前提のコミュニケーション。対等ではなく、お互いマウントを取ろうとする。途中から自分も相手も声をあげ、それを両者の間に置くだけでいいじゃないかと思うようになりました。インターネットは開いているようで、どんどん閉じていくものだと思います。SNSはある程度選別された相手と社会を作るので、似たもの同士になりやすい。行き場のない感情、怒りやねたみが「正しさ」と結びつき、制御不能となり、集団リンチを始めてしまいます。制御するシステムを作らなければならないと思いますが、それもエスカレートすれば、一定の傾向の意見が排除されて「まじっていること」の健全さが損なわれてしまう。無法地帯にならないようにジャッジするのは誰なのか。どう折り合いをつけていくのか。考えたいと思います。
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1969年生まれ。演出家・アーティスト。2002年に演劇ユニット「Port(ポルト) B」を結成。東京芸術大学大学院映像研究科教授。著書に「テアトロン:社会と演劇をつなぐもの」(河出書房新社)。
■「大衆による表現の規制」で萎縮 経済学者・山口真一さん
 計量経済学というデータ分析手法を使って、2014年からソーシャルメディアの研究をしています。私が始めた時点ですでに、ネット上で多数の批判や誹謗(ひぼう)中傷が集まる「炎上」は頻発していました。影響は芸能人の活動自粛や企業の株価下落、倒産にとどまりません。誹謗中傷が怖くて自由な発信ができなくなってきた。現実に「ネット上では政治の話はしない」という人たちがいます。SNSが普及して、誰もが自由に発信できるようになった。けれど気がついてみたら、みんなの発信によって発信が萎縮してしまっている。まさに、大衆による表現の規制と言っても過言ではない状況です。「ネット上の誹謗中傷」と言いますが、加速させる一因にマスメディアの影響が少なからずあります。昨年にかけて起きた秋篠宮家の眞子さんと小室圭さんの結婚を巡る騒動は、誹謗中傷にメディアが加担してしまった事例と言えます。多くの人が必要以上にネガティブな感情を抱いて、過剰にあおられるという現象が起きてしまった。私が17年に調査したところ、誹謗中傷に参加した人の動機として、6~7割は「許せなかったから」「失望したから」といった、その人なりの「正義感」があることが分かりました。私は、他人に押しつける正義感が人間で最もやっかいで、人は正義感を抱いたときこそ注意しなければいけないと考えています。他方で、マスメディアも自分たちが「正しい」と思って批判をする立場ですよね。ときにそれが暴力になり得てしまう。ネット上の誹謗中傷だけでなく、どうすればよりよい社会になるのか、メディアはどうしていけばいいのかという議論もできればと思います。
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1986年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授(計量経済学)。著書に「正義を振りかざす『極端な人』の正体」(光文社新書)。朝日新聞朝刊で「メディア私評」を連載中。
■自由権が言葉の暴力ぶつける方便に コーディネーター・朝日新聞デジタル機動報道部、藤えりか記者
 SNSの誹謗(ひぼう)中傷をめぐり、運営企業や法規制などのあり方を取材してきました。被害を訴える人たちにも話を聞いてきましたが、多くは相手側から「言論の自由だ」「意見論評にすぎない」と異口同音に反論を受けているといいます。批判の範疇(はんちゅう)と思える表現もありますが、裁判所に権利侵害が認められても「言論の自由」を主張し続け、書き込みをやめない例もあります。書き込む人なりの「正義感」が背景にある場合は顕著なようです。民主主義の根幹を成す自由権が、言葉の暴力をぶつけるための方便として利用されています。結果、「言論の自由」を否定的にとらえる言説もネットで見かけます。攻撃対象になりたくないと、SNSでの発信をやめる人も出ています。言論機関の一員として、憂慮すべき事態だと感じます。言葉の暴力に追い詰められ、自死に至る例も出ました。誹謗中傷や偽情報に感化された可能性のある暴力事件も起きました。5月3日は言論の自由を再確認する日。現在のゆがめられた状況を立て直すにはどうしたらいいのか、考えたいと思います。
■言論の自由、今年も語り合う
 35年前の憲法記念日の夜、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局に目出し帽姿の男が押し入り、散弾銃を発砲した。小尻知博記者(当時29)が左脇腹を撃たれて死亡し、犬飼兵衛記者(当時42)は右手の小指と薬指を失うなど重傷を負った。「赤報隊」を名乗り、「すべての朝日社員に死刑を言いわたす」「反日分子には極刑あるのみ」と記した犯行声明文が事件の3日後、共同、時事両通信社に届いた。警察庁は、後に判明した東京本社銃撃などとともに、全8事件について「広域重要指定116号事件」として捜査したが、2003年までに全ての事件が未解決のまま公訴時効を迎えた。朝日新聞労働組合は事件翌年から、「言論の自由を考える5・3集会」を主に兵庫県内で開催している。言論への暴力やナショナリズム、メディア不信など、年ごとにテーマを設け、多彩なゲストを迎えるパネルディスカッション形式で語り合ってきた。コロナ禍で昨年は初めてオンラインでの開催となり、今年も同じ形式になる。
◇集会は5月3日午後1時から。参加無料。視聴するには申し込みが必要。パソコンやスマートフォンから専用サイト(https://53asahiroso35.peatix.com別ウインドウで開きます)にアクセスする。イベントサイトPeatixの会員登録も必要。問い合わせは5・3集会事務局(auosk@asahi.email.ne.jpメールする)。

*3-1-2:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210915-OYT1T50211/ (読売新聞 2021/9/15) 精神科入院の235人、コロナ重症化で死亡…別の病院に転院できず
 日本精神科病院協会は15日、全国の精神科病院に入院中に新型コロナウイルスに感染した患者のうち、235人が重症化しても治療設備が整った別の病院に転院できずに死亡した、との調査結果を発表した。調査は8月、協会に加盟する民間精神科病院1185か所を対象に実施。昨年以降の感染者の発生状況などを尋ね、711病院から回答を得た(回収率60%)。その結果、310病院で入院患者3602人、病院職員1489人の感染が判明。うち30病院の患者235人が、転院要請に応じてもらえず死亡した。同協会によると、精神科病院では、患者のマスク着用など感染対策の徹底が難しい。内科や呼吸器科の医師が不在の病院もあり、感染症の専門的な治療を行うには限界があるという。同協会の山崎学会長は記者会見で「医療体制が 逼迫ひっぱく したというだけではなく、精神科患者だから転院を拒まれた例もあると思われる」と話した。今回の調査を受け、同協会は15日、新型コロナに感染し重症化した精神疾患患者が迅速に転院できる体制の整備などを求める要望書を厚生労働省に提出した。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220506&ng=DGKKZO60526440W2A500C2MM8000 (日経新聞 2022.5.6) 揺らぐ人材立国(5)偏見が狭める女性の進路 国の未来、多様性がひらく
 成績優秀な女子学生は入学金を実質免除――。芝浦工業大は2022年度の入試から、女子限定の"大盤振る舞い"を始めた。
●限定の奨学金
 一般入試合格者で上位の女子約100人と「公募制推薦入学者選抜(女子)」の入学者約30人に入学金相当の28万円を給付する。女子学生の3人に1人弱が恩恵を受ける計算だ。反応は上々で一般入試の女子志願者は前年度比9%増えた。女子の大学進学率は上昇傾向なのに工学部志望者が少ないことは日本の大学に共通の悩みだ。経済協力開発機構(OECD)の19年調査では工学系の高等教育機関の入学者に占める女性割合は加盟国平均で26%。日本は16%で最下位だ。2月中旬、昭和女子大付属昭和中学・高校(東京・世田谷)を東京大の染谷隆夫工学部長らが訪れ、教員や生徒と懇談した。女子学生比率(学部で10%)の大幅上昇へのヒントを得る狙いだ。染谷氏は「人々が困っていることを技術で解決するのが工学。色々な立場の人のための問題解決には男女双方のアイデアが必要です」と語りかけた。「教育界には女子に無理をさせない、数学や理科は難しいから文系でよい、という文化があった」。埼玉県の県立高校長などを務めた同校の真下峯子校長は指摘する。保護者も「工学部などは卒業後にきつい現場で働く」と考え、理系科目が得意な女子は医師、薬剤師といった仕事内容や働き方が想像しやすい分野に進みがちだった。だが今、工学部卒の女性は産業界から引く手あまた。製品開発などでは女性の発想が不可欠なのに「高校教員はほとんど知らない」(真下校長)ままだ。
●「東大卒は不利」
 大学選びでも壁がある。東大生のうち女子は21年度で19.7%。東大は3割に高めようと地方出身の女子向けの住宅費補助を始めるなど懸命だが、自宅外通学・浪人のしにくさや「東大卒女子は婚活に不利」という俗論など、女子の挑戦意欲を冷ます土壌が強く残る。「学生の5割弱は女性なのに、大学の経営トップ層は男性ばかり」と訴えるのは津田塾大の高橋裕子学長だ。同学長らでつくる研究会の調査によると、日本の女性学長割合は20年で13%で、英米独の20~30%を大きく下回る。高橋学長は「女性の経営人材を育成していない」と批判する。米マサチューセッツ工科大は1990年代から女性教員の地位向上を進め、04年に初の女性学長が誕生した。学部の女子学生の割合は21年秋で48%に達する。米国の大学が奨学金や入試での配慮を通じて女性や黒人ら少数派を積極的に受け入れるのは、高度な学びや革新的な研究成果の創出には人の多様性が欠かせないからだ。日本はその認識が薄く、教育の質やイノベーションを生む力を落としている。工学部や女性学長の問題はその象徴だ。日本の停滞と閉塞感の根底には人の能力が十分に発揮されていないことがある。教育を一新し、知を磨き行き渡らせることで国の将来をひらく。人材立国に再び挑戦するときがきている。

*3-2-2:https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/304228 (日刊現代 2022/4/21) 吉野家に常務を“生娘シャブ漬け”発言で解任された伊東正明氏は「痛いおじさん」のテンプレか
 今月16日の早稲田大学のマーケティング講座で、牛丼チェーン大手の吉野家の常務取締役企画本部長である伊東正明常務(49)の発言が大炎上し、吉野家HDは19日解任を発表した。伊東元常務は若年女性向けマーケティングについて「生娘をシャブ漬け戦略」と表し、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘な内に牛丼中毒にする。男に高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない」という旨の内容の講演を展開していたという。受講者の目撃情報の投稿がSNS上で拡散されていた。
■女性を性的かつ下に見るような言葉のチョイス
 ネットでは<こういう発言がさらっと出てくるということは普段からこういう思想を持っていたということ><顧客を軽視かつ蔑視しているような発言は取締役としても問題><マーケティング戦略は分からなくもないが、上場会社の取締役がこんな差別的表現しか出来ないことに唖然>と女性を性的かつ下に見るような言葉のチョイスや、表現方法の問題性に指摘と批判が相次いだ。さらに伊藤元常務の発言は、計29回、受講料38万5000の1回当たり約1万3000円の社会人向けのマーケティング講座の初回授業で飛び出したものということもあり、その金額に対しても注目が集まった。確かに安くない受講料を払って「生娘のシャブ漬け戦略」を聞かされたのでは堪らない。権力のある男性による舌禍が後を経たないが、この件は単に人権、ジェンダー問題の観点だけでは語れないところに根深さがある。
■ウケ狙いで炎上
 伊東元常務は慶大卒で日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に入社。ブランドマネージャーを務め、米国本社やヨーロッパ本社などでも勤務し、グローバルチームのマーケティング責任者も担当。輝かしい経歴と共に18年10月に吉野家の常務に就任した。「マーケティングのプロ」としてメディアや講演にもたびたび登場し、今回は早稲田大学の社会人向けの講座での初回での発言ということもあり、よく言えば「若者向けに受けるようなユーモアある講座を展開しよう」と張り切って講義に臨んだのだろう。「ウケを狙ったつもりが見事に滑って失敗した痛いおじさんだなという印象です。ユーモアを交えつつ、笑いをとりながら有益な講座を提供したかったのでしょうが、そこには『自分は成功している』というエゴや慢心、ナルシズムが垣間見えます。奇抜な言葉を用いることで『自分のセンスのよさ』もアピールしたかったのでしょうが、それらが完全に裏目に出てしまった例のテンプレのような気がします」(コラムニストの水野詩子氏)。伊東元常務は男性客に対しても「家に居場所のない人が何度も来店する」といった趣旨の発言があったという。女性蔑視以前に顧客を下に見るような“上から目線”が元常務の根っ子にあったのではないか。
■「魁‼男塾」のコラボ企画でも炎上した吉野家
 吉野家の21年7月に開催した人気漫画『魁!!男塾』とのコラボ企画でも炎上した。マイル(米礼)を貯めて得られる最も豪華な特典の「お名前入りオリジナル丼」に任意の名前を入れることができると説明していたにも関わらず、一転して「家族、友人等第三者、キャラクター、タレント、ニックネームなどは使用できません」との方針転換したことで炎上した。事前に「本名しか記載できない」という案内を出していれば、顧客から文句も出なかったはずだ。今回の伊東元常務の発言といい、コラボ企画の恣意的なルール変更といい、吉野家はいつの間にか顧客を軽んじるような社風になりつつあったのではないか。今一度本当のブランディングとは何かを考えなければならない時期に差し掛かっているのかもしれない。

*3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB073UE0X00C22A5000000/ (日経新聞 2022年5月8日) 全身覆う服を女性の義務に タリバン、近親男性投獄も
 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、「女性は公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならない」とする命令を発表した。従わなければ父親や夫などの近親男性が投獄される場合があるとしている。女性には既に髪や体の線を隠す服装の着用を求めており、規制を強化した形だ。暫定政権は国際承認や人道支援を求める一方で、女性だけでの長距離移動禁止など女性への制限を強めている。新たな服装規制は、女性の権利確保を求める欧米各国などから、さらなる批判を呼びそうだ。命令は、家族以外の成人男性と会う場合、目の部分以外の顔を覆うよう指示した。髪や体の線を隠す服装を「ヒジャブ」と呼ぶと定め、中でも全身を覆うブルカが最適としている。ヒジャブを着用すれば「邪悪で堕落した者から守られる」としている。女性がヒジャブを着用しなかったり顔を隠さなかったりすれば、近親男性が当局から注意を受ける。それでも女性が従わなければ男性は3日間拘束され、投獄される場合がある。政府機関で働く女性職員が命令を守らなければ解雇される。男性職員は、妻や娘が守らなければ職務停止となる。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/ASQ234DNYP9VULFA008.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2022年2月7日) SNS中傷、なぜ「加害者」が守られる? 訴えて見えたいびつな構図
 クリエーティブディレクターの辻愛沙子さん(26)は2021年、書類に連なった文言に、目を疑った。辻さんは、ツイッターなどで「誹謗(ひぼう)中傷」を書き込んだ人の個人情報を開示するよう求める訴えを、ツイッター社やネットのプロバイダー(接続事業者)に対して相次いで起こしている。訴訟プロセスの中で、プロバイダーから代理人弁護士を通して送られてきた答弁書や準備書面を相次ぎ読んだ。そこには、書き込みについてこんな見解が書いてあった。「一般論の意見や感想に過ぎない」「名誉感情侵害と言えない」。辻さんには、まるで投稿者の立場に寄り添うかのような反論に思えた。「ひどい書き込みをした人を、なぜ接続事業者がこんなにかばうのか」。実は、こうした書面が送られてくるのには理由がある。
*SNS上の誹謗中傷――。それが「書き込んだ人の問題」であることは疑いがありません。しかし、ネット上の仕組みや法制度、企業のあり方も、被害の回復をより難しくしています。被害者をさらに追い詰めるものは何か。その構造を追いました。記事の最後では、記者によるポッドキャストでの解説もお聞きいただけます。
●大量に押し寄せる中傷をリスト化
 辻さんはジェンダー平等や人権、反差別などについて、SNSなどで積極発信してきた。それに対し、匿名のアカウントから「若い女性の政治的な発言」を攻撃する内容の投稿が相次いだ。辻さんはそのたび、そうした投稿も引用しながら説明を加え、根気よく言葉を継いだ。「第三者の、特に女性たちが、こういう風に言っていいんだ、傷ついても我慢しなければいけないなんてことはないんだと思える前例を作っていくためにも発信している。でないと、社会は変わらない」。プロバイダ責任制限法(プロ責法)に基づく発信者情報開示請求に踏み切ったのも、その一環だ。声を上げることで、「匿名で『石』を投げてくる人が減るかもしれません。開示の過程でどれだけ大変なことがあるのかも、自分の目で見たい」と考えたからだという。スタッフや弁護士と手分けし、とりわけ権利侵害が著しいと判断した投稿をリスト化した。20年11月、まずはネット上で利用者にサービスを提供するツイッター社を相手取り、ツイッター上の8件の書き込みに関する情報開示を求める仮処分を東京地裁に申請した。東京地裁は翌12月、7件について名誉感情侵害や名誉権侵害を認め、ツイッター社に開示を命じた。
●訴えは認められたのに……
 だが、ここで開示されたのはIPアドレスのみ。実名などを登録せずに使えるツイッターの特性から、同社は書き込んだ人の実名や住所といった個人情報をそもそも持っていない。そこで辻さん側は、利用者の実名や住所などを持っているはずのプロバイダーを、IPアドレスを元に突き止めていった。21年3月、その情報開示をプロバイダーに求める訴訟を起こした。冒頭の答弁書や準備書面は、そうした経緯の中で辻さんがプロバイダーから受け取ったものだった。裁判所が辻さんの「名誉感情侵害」を認めたうえでツイッター社への仮処分を決定してもなお、プロバイダーが「意見論評である」と改めて主張するのはなぜか。背景には、法律の建て付けがある。プロ責法は、開示請求を受けた事業者が「当該発信者の意見を聴かなければならない」と定める。その結果、権利侵害にあたるかどうかを争う場で、事業者は投稿者の「代弁者」となる構図が生まれる。辻さんはそんな構図に対し、「被害を訴える側は自力で弁護士を依頼するのに、書いた人は事業者の弁護士に守られ、代弁してもらう状況はどうなのか」と指摘する。
●「我々にも法的リスクが」
 辻さんと同じような思いを抱いた人は、他にもいる。東京都内のあるツイッター利用者は、誹謗中傷を書き込まれたとして、発信者の情報開示をツイッター社に求めて東京地裁に仮処分申請。その際の審尋で同社の代理人弁護士は、書き込みが「意見論評」だと主張、書き込みが予想されたものだとも述べたという。最終的に、名誉感情侵害や侮辱が成り立つとして、同地裁は開示を命じる仮処分を決定したが、その過程は辻さんの裁判とうり二つの構図だった。プロ責法は22年秋までに改正されることとなり、手続きは簡素化されるが、この構図自体は改正後も変わらない。ツイッター日本法人は「被害を受けた方のつらい思いに申し訳なく思う一方で、権利侵害を明確にしないと我々にも法的リスクが発生する。個人情報開示の重さもわかってもらえればと思う」と昨年9月時点の取材で説明した。プロ責法改正の方向性をまとめた総務省の有識者会議「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の座長を務めた曽我部真裕・京都大学法科大学院教授(憲法・情報法)はこう指摘する。「開示されるまでは書き込んだ本人が出てこないし、事業者が投稿者を代弁しなければならない仕組み自体いびつだ。プロ責法は、権利侵害に明白性があれば裁判手続きを経なくても開示できると規定しており、個別に開示に応じる運用もあり得る。企業の姿勢が問われている」

<女性議員が少ない理由にも過去の“常識”としての女性蔑視があること>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/821842 (佐賀新聞 2022.3.9) 国際女性デー 格差是正へ政治が範を
 国連が制定した女性の地位向上を目指す「国際女性デー」を8日迎えた。世界の諸機関が算出するジェンダーギャップ調査で、日本は常に下位に沈んでいる。政治、経済面の不平等が際立つが、自民党などの対応は鈍いと言わざるを得ない。まずは国会、地方議会で確実に女性議員を増やし、政治が変わるとの姿勢を示すべきだ。1年前、森喜朗元首相の女性蔑視発言に抗議署名が集まるなど、性差別に反対し、格差解消を求める声が高まった。だが、政治にその機運は生かされていない。候補者の男女均等化を政党に求める法律が施行され初めて行われた昨秋の衆院選で、女性候補の割合は2割に届かず、前回の2017年と同水準だった。特に自民、公明両党はいずれも1割を切った。この結果、衆院議員の女性比は1割未満。20年末に閣議決定した男女共同参画基本計画では、国政選挙の女性候補割合を25年までに35%にする目標だが、現状は遠く及ばない。女性の地方議員も2割に満たず、女性首長の比率は極めて低い。身近な暮らしを支える意思決定の場が、男性ばかりで運営されているのは極めていびつである。世界の約130カ国・地域が、性別を基準に候補者や議席の一定比率を割り当てる「クオータ制」を導入し、効果を上げている。日本も、政党に女性候補者割合の数値目標設定の義務化を求めるなど、同法の強化が必要となろう。今夏の参院選に向け、立憲民主党が「女性候補者5割達成」を目指す方針を示した。他党の動向も注視したい。政治参画の遅れとともに、日本女性の置かれた地位を象徴するのが、男女の賃金格差である。女性の就業率は米国やユーロ圏を抜き7割を超えているが、女性の5割強がパート・アルバイトなど、不安定で低賃金になりがちな非正規従業員である。このため、女性の平均給与は男性の7割。男女の賃金格差は経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最悪レベルだ。新型コロナウイルス禍が、この就業構造の問題点を浮き彫りにした。雇用調整を受けやすい非正規の女性たちが職を失い、生活が困窮している。女性の低賃金労働に依存する構造にメスを入れねばならない。岸田文雄首相は1月の施政方針演説で、賃金格差是正に向け「企業の開示ルールを見直す」として、企業に対し格差の報告を義務化する方針を示した。これを機に是正へ本腰を入れることを期待したい。一方、妻の年収が130万円未満の場合、夫の扶養に入り国民年金と国民健康保険の保険料を払う必要がなくなる「130万円の壁」の問題など、女性の就業拡大を阻む制度の見直しが急務だ。コロナ対策の「特別定額給付金」が世帯主に一括給付され、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者が受け取れない問題も生じた。「世帯主」の考え方は今の時代にそぐわず、各種制度で「給付と負担」を個人単位に変えていく必要がある。東証1部上場企業約900社を対象とした大手コンサルティング会社の調査で、女性役員比率と企業業績の相関関係が確かめられた。多様性があれば企業が活性化し、イノベーションが生まれる。日本の成長のためにも格差解消が必要だ。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15282765.html (朝日新聞 2022年5月2日) 女性国会議員の道、開くには 7党の現職、語り合う 記者サロン
■まなび つながる 広場
 女性の国会議員はなぜ、増えないのでしょうか。その障壁や解決策について7党の女性議員が率直に語り合う朝日新聞オンラインイベントの収録が4月、東京・築地の浜離宮朝日ホールでありました。司会はジャーナリストの長野智子氏が務め、政界を長年取材してきた田原総一朗氏らをゲストに招き、意見を交わしました。
■「男は外、女は家」根強い意識/「現職優先」見直しを
 長野氏が冒頭、世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダーギャップ(男女格差)指数」にふれ、日本は昨年156カ国中120位、政治分野は147位でワースト10位に入ると紹介した。女性の国政進出を阻む原因について、自民党の三原じゅん子氏は「社会の意識。女性議員が必要だと本気で感じている方がどれほどいるか疑問だ」と指摘。立憲民主党の徳永エリ氏も「男性は外で仕事、女性は家で家族の世話という性別の役割分担の意識」にあると述べた。国会議員の働き方改革と選挙制度のあり方についても議論になった。公明党の古屋範子氏は「朝から晩までフル回転で働き続けるのが国会議員のかがみだという風潮がある」。国民民主党の矢田稚子氏は「オンラインの国会がなかなか実現できない。家庭と両立していく制度が整っていない」。三原氏は、国会の質問対応が深夜に及ぶことなどから「霞が関と永田町が一緒に変わらなければ政治は変わらない」と訴えた。生理など女性特有の体調不良について声を上げにくいとの声もあがった。選挙制度について、小選挙区が現職優先になっている現状も取り上げられた。社民党の福島瑞穂氏は「小選挙区では何回お祭りに行ったかなど地元密着なため、家事を担わない男性が有利だ。北欧が女性議員を増やしたのは比例代表制のためで、政党の政策で選ばれる制度に変える必要がある」、日本維新の会の石井苗子氏も「現職優先を守っている人たちはそう簡単には(議席を)明け渡さない。だからこそ、制度を変えないと絶対に変わらない」と応じた。今回参加した議員は、選挙の候補者の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」の勉強会のメンバー。矢田氏はクオータ制の議論が日本で進まない背景について「(男性議員の)抵抗の壁が厚すぎて一歩も動けない」、石井氏は「女性の割合を決めてしまうと優秀な男性が出られなくなる、と言われた」と説明。候補者の選び方についても、古屋氏は「選挙の過酷さなどから当選できる人をとなると、男性候補が地方組織から上がってくる」。徳永氏は、昨秋の衆院選で「比例の上位に女性を立てようと提案したが、(男性議員が)選挙区で勝てなかったら比例で復活したいとなり、いざやるとなると反対された」と振り返った。2018年に候補者男女均等法が施行されたが、共産党の田村智子氏は「努力義務であったとしても、なぜ候補者数を男女均等にできなかったのかの総括を各党は議論するべきだ」と検証を呼びかけた。女性候補を増やす具体策として、夏の参院選に向け「女性候補者50%」を掲げる立憲が女性支援チームを発足し、研修会を開いていることが紹介された。ゲストには田原氏のほか、ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長、働き方評論家の常見陽平氏、朝日新聞政治部の三輪さち子記者が参加。田原氏は「英国やドイツ、北欧など女性がトップになって国が変わるのが世界の常識。日本も早く女性をトップにするべきだ」。小室氏は、働かない時間を確保する「インターバルの保障」、常見氏は「女性議員を育てる後方支援体制づくり」、三輪記者は「党執行部に女性の配置を」をそれぞれ訴えた。会場では、れいわ新選組から大石晃子衆院議員の「女性議員が増えれば、男性中心の世の中ですくってこなかった声や事実を表にしていくことができる」とのビデオメッセージも披露された。(構成・西尾邦明)
■討論の出席者
 三原じゅん子氏(自民党元女性局長)
 古屋範子氏(公明党女性委員長)
 徳永エリ氏(立憲民主党ジェンダー平等推進本部長)
 矢田稚子氏(国民民主党男女共同参画推進本部長)
 田村智子氏(共産党政策委員長)
 石井苗子氏(日本維新の会)
 福島瑞穂氏(社民党党首) (以下略)

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15289923.html (朝日新聞 2022年5月11日) エコロジーと女性 「沈黙の春」から60年のいまも 岡崎明子
 3年ぶりに行動制限がかからない大型連休、伊豆高原を訪れた。鳥たちの鳴き声を聞きながら、ある文章を思い出した。自然は、沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは、どこへ行ってしまったのか。60年前、レイチェル・カーソンが世に出した「沈黙の春」の冒頭の一節だ。彼女は「女性は科学者に向いていない」と公然と言われる時代に、周囲の反対を押し切り生物学を学んだ。著書は、DDTなど殺虫剤の大量散布が生態系を破壊し、人の健康に影響を及ぼす可能性を訴え、米国社会に大きな衝撃を与えた。一方で「ヒステリー」「未婚の女がなぜ遺伝のことを心配するのか」といった性差別的な攻撃が相次いだ。産業界や科学界、メディアは、いま以上に男性優位だった。幸運なことに、当時のジョン・F・ケネディ大統領はこの本の真価に気づいた。大統領の科学諮問委員会は、農薬の使用を制限すべきだという報告書をまとめ、カーソンの警告が葬られることはなかった。映画「不都合な真実」で脱温暖化を訴えたアル・ゴア元副大統領は「この本がなければ、環境保護運動は全く発展していなかったかもしれない」とまで語っている。
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 理系の女性研究者が少ない、グレタ・トゥンベリさんら、気候変動対策を訴える女性の言動がバッシングを受ける――。これは、60年たった今も残る不都合な真実だ。NPO法人「環境・持続社会」研究センターの事務局次長、遠藤理紗さんはこう話す。「気候変動対策とジェンダー平等は、実はつながっている問題です」。ここ10年ほど、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)の合意文書には「ジェンダー平等」の文字が盛り込まれるようになった。途上国では子どもや高齢者を守るために女性の避難が遅れることが多く、男性より死者数が多い。また水くみは主に女性の仕事で、干ばつが進むと労働時間が増え、学校に通えなくなる少女も増える。このように女性の方が気候変動の影響を受けやすいにもかかわらず、政策決定にかかわる女性は少ないからだ。女性の政治家が多いほど、より厳しい気候変動政策がとられるというデータもある。だが、女性が環境大臣を務める国は15%ほどだ。ちなみに経済協力開発機構(OECD)によると、COP14~25の日本の政府代表団に女性が占める割合は平均21%で、38カ国中38位と最低だった。
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 気候変動は大切なテーマだ。でも残念なことに、正論は響きにくい。さらに主語が「地球」「人類」と大きすぎる。自分事と感じにくい人も多いのではないか。実は私もその一人だった。だが、遠藤さんの指摘を聞いてハッとした。「コロナ下、日本でもDV被害や非正規雇用の失業増加など社会の脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りになりました。気候変動も同じ構造で、災害や経済リスクの影響をまず受けるのは社会的弱者です。日本の気候変動対策を行う人に、そういう視点があるでしょうか」。社会の格差を縮めなければ、いくら対策を進めても取りこぼされる人がでてきてしまう。この意識があるかないかによって、気候変動対策への取り組み方も変わってくるだろう。だからこそ、ジェンダー平等とセットで考える必要がある。歴史はその重要性を教えてくれる。130年前、「人々が健康で幸福な生活を送る条件を考える科学」をエコロジーと命名したのは、米国初の女性化学者エレン・スワローだった。現代の環境保護運動につながる思想だが、当時の社会ではいわば「わきまえない女」だと黙殺された。翌年、男性科学者たちが「自然の探求や開発に基礎を置く科学」と定義し直した。歴史に「もし」はないというが、彼女の提案が無視されなかったら? 「不都合な真実」も、生まれなかったかもしれない。

*4-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15289968.html (朝日新聞 2022年5月11日) 脱炭素へ、乏しい財政支出
 脱炭素社会のためには、政府がお金を出し惜しみすべきではない――。世界で勢いづく主張が、日本にも波及する。先進国で最悪の財政状況から抜け出せない中、グリーン化にかかる膨大なコストをまかなう余力はあるのか。
■細い送電網、再エネ生かし切れず
 九州と本州を結ぶ交通の要衝、関門橋。開通は1973年だが、その28年前の太平洋戦争終戦の年、関門海峡には橋より先に電線が架かった。いまも九州と本州を結ぶ唯一の送電線「関門連系線」だ。国内最高レベルの電圧50万ボルトを誇る電線が、脱炭素の足かせになっている。九州は日照に恵まれ、太陽光発電施設が多い。関門連系線を通じ、電力需要が大きい本州に送電している。しかし、送電の容量に限界があるため、太陽光や風力の発電を一時的に停止する「出力制御」が頻発する。せっかくの再エネを生かし切れていない。九州電力が実施した出力制御は3年半で250回を超す。送電網増強の課題はコストだ。関門連系線の場合、容量を2倍にするのにかかる費用はざっと3600億円。電力需給の調整役を担う国の「電力広域的運営推進機関」が試算した。将来、国内で再エネの発電比率を5~6割まで高めるには、北海道と関東を海底ケーブルで結ぶなど、大がかりな工事が必要だ。同機関は投資額は最大2・6兆円と見積もる。電気自動車(EV)の普及に欠かせない充電スタンド、古い住宅の断熱改修……。温暖化を止めるコストは果てしない。日本政府のグリーン成長戦略は「政府の資金を呼び水に民間投資を呼び込む」と明記した。市場原理に任せていては時間がかかり、国の後押しが欠かせないとの声が国内外で高まる。東北大の明日香寿川教授らの試算によると、日本で必要な投資は30年までに202兆円。うち51兆円は公的資金でまかなわなければならない。明日香氏は言う。「日本ではグリーン化への財政支出は多くが研究開発に限られ、実際に再エネや省エネを拡大するお金が少ない。思い切った補助金や規制が必要だ」
■高まる「積極派」の声
 財政出動への圧力とともに勢いが増すのが、この際、財政健全化は後回しでもよいとする主張だ。代表格が現代貨幣理論(MMT)。自国通貨建ての国債を発行できる国なら、インフレになるまで赤字を気にせず財政拡大できる、という考えだ。米国では積極財政によって脱炭素社会への早期の転換をはかる「グリーン・ニューディール」支持派とMMT派の親和性が高い。バイデン政権は増税に前向きでMMTを受け入れたわけではないが、「大きな政府」が容認されやすい素地となっている。積極財政派の声は日本でも高まっている。自民党が昨年末にたちあげた財政政策検討本部は、MMTが議論の土台となった。これまであった財政再建推進本部から「再建」をとる形で改編。最高顧問に安倍晋三元首相、顧問に高市早苗政調会長、本部長にMMT支持の西田昌司政調会長代理といった積極財政派がずらりと並ぶ。夏の参院選に向け、岸田文雄首相に提言を出す計画だが、財政健全化目標であるプライマリーバランス(PB)の黒字化の見直しなどを視野に入れる。西田氏は「積極派の考えを正しく理解してくれれば、首相も無視はできない」。現状でも、コロナ下の財政出動は欧米と比べてもひけをとらない。35兆円の補正予算、107兆円の当初予算はいずれも過去最大。しかし、いまある産業や雇用を維持するのが中心で、グリーンへの投資をてこに、社会システムを転換させようとする未来図までは見えてこない。東京工業大の阿部直也教授は「新陳代謝を妨げるためにお金をつぎ込んでいて、新たなものを生み出せていない」と話す。地球への負荷を抑え、持続的に成長できる経済構造に切り替えるには何が必要か。大きな絵を描くことから始めなければ、せっかくの支出は財政赤字を膨らますだけに終わりかねない。

*4-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15289898.html (朝日新聞社説 2022年5月11日) 地質に親しむ 大地に関心 変わる風景
 ふだん気にとめなくても、「地質」は災害や開発など日々のくらしと深く関わっている。表土の下にどんな岩石や地層があるかを示す地質図は、地図と同じく、国土を把握するための基本データといえる。その地質図を作成する国の機関が、産業技術総合研究所の地質調査総合センター(GSJ)だ。前身の旧地質調査所の設立から、今年で140年になる。日本で初めて広域的な地質図ができたのはその6年前で、完成した5月10日は「地質の日」と定められている。これを機に、足元に広がる世界をのぞいてみてはどうだろう。地質調査の歴史をたどると、その時どきの社会の様子や課題が浮かび上がる。最初は「富国」をめざして石炭などの資源の探査が目的だった。第2次世界大戦の頃は軍需省の所属に。戦後は海洋地質の調査や地熱開発、最近は地震を引き起こす活断層や、過去にあった大津波の解明などで注目を集めた。気候変動対策として、二酸化炭素を地中に貯留する技術への貢献も期待される。ところが全国の地質図の整備はなお途上にある。20万分の1のものは2010年に完成したが、精度が高い5万分の1は、国土の76%程度しかカバーできていない。専門家が実際に現地を歩いて調べる必要があり、手間がかかるからだ。GSJは近年、地下利用の頻度が高い都市圏の地層分布を立体的に示す地質地盤図を続けて作成し、先月には火山噴火が起きた時の推移を予測して被害の軽減を図る「火山灰データベース」を公開した。いずれも長年の蓄積に支えられたものだ。ただちに役に立たなくても、地道な整備を怠ればこうした果実を受け取ることはできない。そのためにも、野外調査ができる人材の育成に取り組む必要がある。ところが地質学は地味な学問で、大学での学生の人気は同じ地学分野でも宇宙や気象に集まりがちだ。興味を持つ若者が少なければ発展は望めない。高校でも地学の履修率は低く、裾野を広げることが長年の懸案になっている。きっかけはある。大勢の観客を集める恐竜展は地質学抜きに語れないし、地質の話題が豊富なNHK番組「ブラタモリ」のファンは多い。08年に認定が始まった日本ジオパークは46地域に増え、2年前には千葉県内の地層から地質年代のある時期が「チバニアン」と命名され、話題となった。住んでいる土地の成り立ちを知ることから始めるのもいい。新たな魅力や隠れた危険がわかり、風景の見え方が少し違ってくるかもしれない。

<議員に対するメディアのスタンス>
*5-1-1:https://www.pressnet.or.jp/statement/report/661208_99.html (第222回編集委員会 1966年12月8日) 公職選挙法第148条に関する日本新聞協会編集委員会の統一見解(要旨)
 第148条は、新聞が選挙について報道、評論する自由を大幅に認めている規定である。この報道、評論の自由を個々の記事の具体的扱いにあてはめてみると、従来の選挙訴訟をめぐるいくつかの判例でも明らかなように、はじめから虚偽のこととか、事実を曲げて報道したり、そうしたものに基づいて評論したものでない限り、政党等の主張や政策、候補者の人物、経歴、政見などを報道したり、これを支持したり反対する評論をすることはなんら制限を受けない。そうした報道、評論により、結果として特定の政党や候補者にたまたま利益をもたらしたとしても、それは第148条にいう自由の範囲内に属するもので、別に問題はない。いわば新聞は通常の報道、評論をやっている限り、選挙法上は無制限に近い自由が認められている。したがって、選挙に関する報道、評論で、どのような態度をとるかは、法律上の問題ではなく、新聞の編集政策の問題として決定されるべきものであろう。従来、新聞に対して、選挙の公正を確保する趣旨から、ややもすれば積極性を欠いた報道、評論を行ってきたとする批判があった。このことは同条ただし書きにいう「......など表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」との規定が、しばしば言論機関によって選挙の公正を害されたとする候補者側の法的根拠に利用されてきたためだと考えられる。しかし、このただし書きは、関係官庁の見解あるいは過去の判例によっても明らかなように、一般的な報道、評論を制限するものでないことは自明であり、事実に立脚した自信のある報道、評論が期待されるのである。

*5-1-2:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000100 (昭和二十五年法律第百号) 公職選挙法より抜粋
(新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由)
第百四十八条 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。
2 新聞紙又は雑誌の販売を業とする者は、前項に規定する新聞紙又は雑誌を、通常の方法(選挙運動の期間中及び選挙の当日において、定期購読者以外の者に対して頒布する新聞紙又は雑誌については、有償でする場合に限る。)で頒布し又は都道府県の選挙管理委員会の指定する場所に掲示することができる。
3 前二項の規定の適用について新聞紙又は雑誌とは、選挙運動の期間中及び選挙の当日に限り、次に掲げるものをいう。ただし、点字新聞紙については、第一号ロの規定(同号ハ及び第二号中第一号ロに係る部分を含む。)は、適用しない。
一 次の条件を具備する新聞紙又は雑誌
イ 新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであること。
ロ 第三種郵便物の承認のあるものであること。
ハ 当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年(時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙にあつては、六月)以来、イ及びロに該当し、引き続き発行するものであること。
二 前号に該当する新聞紙又は雑誌を発行する者が発行する新聞紙又は雑誌で同号イ及びロの条件を具備するもの
(新聞紙、雑誌の不法利用等の制限)
第百四十八条の二 何人も、当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者に対し金銭、物品その他の財産上の利益の供与、その供与の申込若しくは約束をし又は饗応接待、その申込若しくは約束をして、これに選挙に関する報道及び評論を掲載させることができない。
2 新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者は、前項の供与、饗応接待を受け若しくは要求し又は前項の申込を承諾して、これに選挙に関する報道及び評論を掲載することができない。
3 何人も、当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて新聞紙又は雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して、これに選挙に関する報道及び評論を掲載し又は掲載させることができない。
(人気投票の公表の禁止)
第百三十八条の三 何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない。

*5-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15286380.html (朝日新聞 2022年5月6日) 報じる側も、当事者として 朝日新聞社ジェンダー平等宣言2年
■gender equality 朝日新聞×SDGs
 報道や各種事業、組織などにおけるジェンダーバランスを見直し、ジェンダー平等を進めていこうと、朝日新聞社は2020年4月に「ジェンダー平等宣言」を発表しました。2年目の歩みを報告します。
■「男社会」のメディア、その変革の先頭に 朝日新聞社代表取締役社長・中村史郎
 「朝日新聞社ジェンダー平等宣言」を公表して2年余り。少しずつですが、私たちは変化を実感しています。宣言のきっかけは、ジェンダー格差の問題を現場で取材してきた記者たちの危機感でした。この問題を報じるなら、私たち自身が足元を見つめ直す必要があるのではないか。多様性を実現するため、私たちは報道と事業、働き方に関する四つの指標を掲げました。そのうち、「ひと」欄の登場者、朝日地球会議の登壇者の目標は2年続けて達成し、初年度に4割強だった女性比率がほぼ5割になりました。編集の現場では記事の見出しや写真がジェンダー格差を助長しないか、目配りする姿勢が浸透してきています。一方、働き方に関する指標の達成はまだまだです。男性社員の育休取得率は20年度が約12%で前年を下回りました。理由を調べたところ、職場の雰囲気などに問題があることがわかりました。育休を取った男性とその上司が体験を語る催しを社内で開き、育休が取りやすい環境づくりを強く呼びかけました。結果として、21年度の取得率は30%を超えました。もちろん、これで満足してはいません。改正育児・介護休業法が4月から段階的に施行され、育休取得の意思確認などが義務化されました。私たちも独自の特別休暇制度を整え、22年度は男性社員による育休(2週間以上)の取得率100%を目指します。女性登用も道半ばです。4月現在の管理職と専門職に占める女性の割合は14・2%で、40代以上の社員の女性比率と等しくなりました。それでも意思決定の場に女性が圧倒的に少ない現状に変わりはありません。ジェンダーへの対応や女性リーダーの育成などについて、社外の専門家の助言も得ながら、取り組みを加速させます。日本のジェンダーギャップ指数が低迷する責任の一端はメディアにもあります。長年「男社会」とされてきたメディアの変革は待ったなし。私たちは、その先頭に立ちたいと思います。(中略)
■宣言骨子(全文はQRコードから)
1.朝日新聞の朝刊に掲載する「ひと」欄に登場する人物は、年間を通じて男女どちらの性も
  40%を下回らないことをめざす。
2.「朝日地球会議」をはじめとする主要な主催シンポジウムの登壇者は、男女どちらの性も
  40%を下回らないことをめざす。
3.管理職に占める女性比率を2020年の約12%から少なくとも倍増させることをめざす。
  男性の育休取得率を向上させる。
4.ジェンダー平等に関する社内の研修や勉強会を定期的に開催する。
5.ジェンダー平等に関する報道をまとめた冊子を定期的につくる。
6.宣言の達成度を定期的に点検、公表する。

*5-3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ1P2VRSPDQUPQJ00P.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2022年1月22日) 「政治家の下請け」になった官僚 根回しばかり奔走、劣化する政策
 建設業者の提出データを無断で書き換えていた統計不正問題で、国土交通省が21日、事務次官らを処分した。国の針路の決定に使われる基幹統計の信頼は大きく揺らいだ。不正を生んだ原因はどこにあるのか。再発防止には何が必要か。公共政策と国際政治の専門家に聞いた。
●「政策過程の劣化、政治システムの問題」 田中秀明さん(明治大学教授)
―国土交通省の統計不正をどうみますか。
 「政府の統計でデータが集まらない場合、統計的な処理で補完することは認められています。しかし、官僚がデータを勝手に書き換えるのはアウトです。2018年に厚生労働省の毎月勤労統計の不正が明らかになり、各省庁の統計が一斉点検された際、国交省は正直に不正を報告するべきでした。隠した結果、事態は悪化しました」
―霞が関で統計不正が起きる原因はどこにあるのですか。
 「原因は複合的だと思います。まず、政策を形成する過程や制度改革で、統計データが重視されていません。政府はEBPM(証拠に基づく政策立案)が重要と言っていますが、かけ声だけでしょう。肝心の統計が信用できません」「人員不足も顕著です。14日に公表された検証委員会の報告書で業務を担う統計室の人員不足が指摘されたのも、統計軽視の姿勢の表れといえます」
―統計が軽視されるのは、なぜでしょうか。
 「政策や制度は統計データなどに基づき見直すことが必要ですが、官僚は苦手です。先輩たちを含め、今までの取り組みの間違いや不十分さを暗に認めることになるからです。官僚自身も、自分たちは間違えないという『無謬(むびゅう)性の原則』にとらわれています。政策や制度は本来不完全で、実施しながら見直せばいいのですが、いまの日本社会では許容されないという問題もあります」
―政治の側に問題はないのでしょうか。
 国の針路の根幹に関わる統計の書き換え問題。記事の後半で、北大教授の遠藤乾さんは「ギリシャ危機」との共通点を指摘。金融危機の観点から、今回の不正問題を読み解きます。「政治家にとっては、次の選挙で勝つことが最優先です。極めて短期志向です。だから、安倍政権の『三本の矢』や『地方創生』のような目玉政策を次々と打ち出す。しかし、こうした政策の評価や分析は不十分です。岸田政権は賃上げ税制の拡大を決めましたが、これまでに減税分を上回る効果はあったのでしょうか。課題の解決にどれだけ寄与したかわからないため、『やっている感』を出すだけになっています」
―政治家と官僚の関係はどう変わってきたのでしょうか。
 「かつては一定の緊張感があった両者の関係は平成以降、政治主導の流れのなかで変わってきました。いま官僚は常に目玉政策を考えねばならず、過去の政策を振り返る余裕などありません。政治家が思いついた政策に『ノー』と言えば、左遷もありえます。そんな上下関係があるから、政策を評価したり、問題点を指摘したりすることはできないのです」「官僚が、政治家の下請けになり、先輩たちがやってきた政策を否定せず、自分たちの利害を優先する。私は『公務員の政治化』と名づけました」
―それが霞が関や官僚の劣化なのでしょうか。
 「官僚の役割は政策を検討したり実施したりすることですが、それには専門性が重要です。しかし、係長級を含めほとんどの官僚が、政治家や業界の根回しに奔走します。経済社会は複雑化しているので、より高い専門性が必要ですが、根回しで勉強する時間もありません」「霞が関の幹部は法学部出身のゼネラリストが多く、エコノミストやITの専門家は不足しています。諸外国では、省庁幹部に博士号を持つ人が多いですが、日本では限られています」
―人事制度が最大のネックになっているというのですね。
 「課長や局長は短ければ、1年ほどで異動します。そつなくこなし、リスクはとらなくなる。可能な限り専門性を磨いて、政治家を忖度(そんたく)するのではなく、成果をもとに処遇されるようになれば、不正は減り、政策過程も少しは改善するでしょう。事務方トップの事務次官が毎年のように交代し、名誉職化している点も問題です。英国などの次官は予算執行や内部統制に一義的な責任を負っており、内部監査委員会も設置されています。次官が組織運営に指導力を発揮するべきでしょう」
―外部の機関が政策をチェックするのはどうでしょうか。
 「これが著しく弱いことが大きな問題です。ほとんどの先進国で導入されている独立財政機関は、日本にはありません。国会の政府監視機能も弱い。与党議員も一議員としてその役割を担うべきです。法律を作る際、与党の事前審査で審査も修正も実質的に終わるため、国会審議も形骸化しています。結局のところ、政策過程の劣化は日本の政治システムの問題なのです」(以下略)

*5-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15293370.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2022年5月14日) 二重計上、20年度3.6兆円 13~19年度は5.8兆円の可能性 統計不正、調査報告
 国の基幹統計「建設工事受注動態統計」の不正をめぐり、国土交通省が設置した有識者の検討会議は13日、受注実績を無断で書き換えて二重計上したことで、2020年度の統計の金額が実際より3・6兆円(4・8%)過大だったとする報告書をまとめた。13~19年度については年5・8兆円(7・7%)過大になっていた可能性があるとの目安も示した。国交省は今秋までをめどに過去の統計を修正する方針だ。今回の統計不正は、朝日新聞が昨年12月に報じて発覚。業者から未提出の受注実績を推計値として計上しながら、遅れて提出されたデータも計上し、13年度から二重計上となっていた。国交省は検討会議を設置し、データの復元に着手。その結果、データが残る20年度の調査票を使って改めて算出したところ、二重計上の影響で統計が3・6兆円過大になっていたことが確認されたという。朝日新聞は1月、公表データをもとに、20年度の二重計上の影響を試算し、約4兆円(約5%)過大だった疑いがあると報じていた。19年度以前はデータが残っていないため、復元できなくなっている。合算する受注実績の量がより多く、過大額は大きくなることから、20年度の実績をもとに計算すれば年5・8兆円過大だったことになるとの目安も示された。国交省は二重計上とは別に、回収率に基づく推計の計算にも誤りがあったと公表。20年10月に担当室長が誤りを認識しながら公表せず、「責任追及を回避したいとの意識があった」と特別監察の報告書で指摘した。検討会議の報告書によると、この誤りは統計の金額を下ぶれさせるもので、この誤りと二重計上の影響をふまえて計算し直すと、20年度の実際の過大額は2・8兆円になり、19年度以前は年約5・1兆円過大だったと想定されるとした。統計は国内総生産(GDP)の算出にも使われる「建設総合統計」のもとになっており、この統計への影響はマイナス0・3%~プラス0・6%程度だったという。国はGDPへの影響についても調査する。
■<視点>書き換え、正しい数字いまも見えず
 統計は私たちが暮らす社会の状態を映す鏡であり、健康診断のデータのようなものだ。誤っていれば政策の失敗につながりかねない。事業者から提出された調査票の生データが、公務員の手で長年無断で書き換えられ、国の基幹統計が兆円単位で過大になっていた事実は重い。ゆがめられた過去の統計は今もそのまま公表され、訂正後の数字を私たちが知るすべはまだない。今回、是正の手法が示されたが、是正後の統計もあくまで推定だ。焦点の一つとなった国内総生産(GDP)への影響は「軽微」との見方を政府が示してきたが、数字はなお見えぬままだ。そもそもGDPへの影響が小さければ、その基となる統計が不正なものであってもいい、ということではない。統計のうち特に重要とされる基幹統計は、政策立案のほか、民間の経営判断や研究活動などに幅広く使われる。正しいデータを社会が共有できていない状況を政府は重く受け止め、できるだけ正しいデータを早急に示すべきだ。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220422&ng=DGKKZO60225850S2A420C2EAC000 (日経新聞 2022.4.22) 国会の文通費、改革道半ば、名称に「調査研究」入る
 国会議員の文書通信交通滞在費(文通費。調査研究広報滞在費に名称変更)の支給方法が法改正で月単位から日割りへと変わる。文通費は使い道を明らかにする必要がなく議員の「第2の給料」と皮肉られる。日割りへの変更は一歩前進といえるが、使い道の開示など改革の必要性はまだ残る。「世間の常識からしたらおかしい」。2021年の衆院選の投開票日は10月31日だった。初当選した新人議員らは10月の在職日数はたった1日となった。在職1日にもかかわらず新人議員を含めて満額の文通費を受け取った。当選したばかりの新人があり方を疑問視しブログにつづった。それが法改正の発端だった。文通費は国会議員に月100万円支給する。今回の法改正で月単位の支給は廃止となった。4月24日投開票の参院石川選挙区補欠選挙の当選者から適用する。非課税なのでそのまま全額が議員のもとに入る。加えて使途の公開の義務がない。使い切らなかった分の国庫返納の必要もない。一般社会では経費として使ったものの領収書の添付による精算は常識といえる。公開の義務がないことから正当な政治活動に使われていないとの指摘がある。論点は使途の公開などにも広がった。自民、立憲民主、維新、公明、国民民主、共産の6党は国会内に協議会を設置し22年2月から協議を続けてきた。使途の公開や未使用分の国庫返納の是非は与野党で引き続き議論する。今回の法改正で文通費の名称は「調査研究広報滞在費」に改めた。支給の目的は「公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等」から「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため」に変えた。「調査研究」「広報」「国民との交流」の定義はあいまいだ。使途を事実上広げたままにする焼け太りではないかとの批判もあがる。共産党は日割りには賛成だが名称と目的の改正には同意できないと主張し反対した。使い道の名目の幅が広いと国会活動とプライベートでの支出の線引きが曖昧になりかねない。依然として不透明だとの懸念は残る。日本維新の会の馬場伸幸共同代表は「『日割り』『領収書の公開』『未使用分の返還』の3点セットは譲らない」と強調する。公明党の山口那津男代表は「使途の範囲や公開、未使用分について国庫に返納する仕組みをつくるなど積極的に議論していくべきだ」と述べる。駒沢大学の富崎隆教授(政治学)は「政治資金を透明化し公私を峻別(しゅんべつ)するため領収書添付などの公開は最低限必要になる」と語る。手続きの煩雑さなどから慎重な意見がある。ある議員は「国会議員は選挙区にずっと住むわけではない。二重生活とか多重生活が基本だ。雑費をいちいち公開しないといけないのか」と打ち明ける。「有識者と会食したらおごらなければならない。そういうのをやめて政治家らしくない政治家像が求められているのか」と続ける。政策研究大学院大学の竹中治堅教授(政治学)は「よい人材を採用するなら金銭的な待遇は大事になる」と指摘する。歳費のかなりの部分を日常的な政治活動に充て、生活費を切り詰める議員も少なくない。若手を中心に「お金持ちでないと政治家になれなくなる」という不満も聞こえる。与野党6党はこれまで2週間に1回の頻度で協議を続けてきた。今国会中に結論を出すとなるとあと数回の協議の機会しか残されていない。自民党の高木毅国会対策委員長は「与野党の協議会を開き、精力的に議論されると思う」と話す。立民の馬淵澄夫国対委員長も「何らかの形で具体的な結果が出ると思う。協議会に議論を尽くしていただきたい」と主張した。国会の会期末は延長がなければ6月15日で、そのあとは各党は参院選に走り出す。会期末まで残り2カ月を切った。使途の公開のルールなど議論すべきことは山積する。

<安全保障と人材鎖国・外国人差別>
PS(2022年5月16日追加):*6-1のように、①半導体等の国内生産や海外調達を強化する仕組みを導入してサプライチェーンを強靱化し ②情報通信等の基幹インフラの安全性を事前審査し ③先端技術開発の官民協力を行い ④技術情報の流出を防ぐ特許を非公開にする4点を柱に、政府が企業活動への公的関与を強化して重要な産業・技術を育成・保護する経済安全保障推進法が成立した。
 安全保障を無視した経済活動を行えばそのうち国民の首を絞めることは間違いないが、安全保障上必要な物資の選定については、この経済安全保障推進法では不十分だと、私は思う。何故なら、供給網を強化すべき特定重要物資に(米国をまねて)半導体・医薬品・蓄電池・レアアースなどのハイテク分野だけを指定しているが、安全保障として国民を守る視点があるのなら基幹インフラの第1として食糧・エネルギーの自給率向上こそ重要だからである。米国は、これらの自給率が十分に高いため、指定する必要がないだけだ。つまり、場当たり的に指定したいものを指定しただけで国民を守る視点に欠けているように見えるし、技術は国の方が民間より遅れるため、国の介入や制限を強めすぎればかえって経済発展が望めない。そのため、企業の自由をできる限り尊重する運用は重要なのである。なお、世界は、もともと極楽とんぼのように性善説を前提として無防備な状態でいるわけではなく、いつも最悪の事態に備え、それを回避する準備も同時に行っているものだ。そのため、「信じる力」などと言って性善説を推し進めてきた日本の方が異常で、安全保障や経済に恣意的運用をしている余裕などない筈なのである。また、民間人に身上調査や罰則が入るのなら、人権や企業活動の自由という視点からの議論も重要だ。
 さらに、*6-2-1のように、G7外相会合が、⑤ロシアのウクライナ侵攻で世界的な食糧・エネルギー危機が起きており ⑥ウクライナ農産物の輸出支援や飢餓に直面する人々への人道支援で具体的行動を進めることを合意し ⑦ロシアが軍事侵略によって変えようとした国境は決して認めず、全ての国の主権と領土保全の取り組みを堅持するとし ⑧ロシアに対する経済的・政治的圧力を高めて団結し行動し続けることを確認した そうだ。ここでも、戦争によってウクライナからの穀物輸出だけでなくロシアからの穀物・エネルギー輸出も停滞し、世界の思いもよらぬ場所で一般人の飢餓やエネルギー不安を誘発しているわけである。
 それにしても、*6-2-2のように、⑨国土の7割が森林で2020年の森林率はOECD37カ国中3番目に高いのに ⑩安い輸入材の台頭で国内林業が長期間低迷し ⑪担い手も高齢化して人工林の2/3に手入れが行き届かず ⑫国際的な木材の需給逼迫が生じて初めて国産材の需要増になった というのには呆れるが、2020年には⑬木材自給率が4割を回復し ⑭2015~20年度の公共施設の平均木造率は、努力の結果、東北が上位を独占した のはよかった。
 このように、必要なことをやろうとすると必ず「高齢化による人手不足」「人件費高騰による国際競争の場での敗北」等のネックを言いたてて前に進まない一方で、日本政府は移民や難民の受け入れを拒んで全分野の人件費を高止まりさせ、日本企業の海外生産や輸入を促進している状況がある。例えば、*6-3-1のように、ウクライナからの「避難民」へは支援の輪が広がったが、クルド人・アフガニスタン人などの祖国で迫害を受けるため逃れてきた「難民」には在留資格を与えず、働くことも許さず、社会保険にも入れず、移動も禁止するなどしている。そのため、日本政府は速やかに人材鎖国を排して移民・難民を受け入れるよう考え直すべきで、これについては立憲民主・共産・れいわ新選組・社民などの野党が、*6-3-2のように、難民保護の新法案と出入国管理法改正案を参院に提出したそうだ。そして、難民政策を国際水準に近づけることは少子高齢化しつつある先進国として当然であると同時に、その方がさまざまな意味で日本経済を活性化させ、人の繋がりによって安全保障も強化できるのである。
 このような中、*6-3-3のように、政府は今夏にも企業に対して従業員の育成状況や多様性の確保等の人材への投資に関わる19項目の経営情報を開示することを求め、(遅すぎるくらいだが)そのうち一部は2023年度にも有価証券報告書への記載を義務付けるそうだ。多様な人材や文化の存在とそれらの摺合せによって生み出されるアイデアが新製品や新サービスを生み出す源泉であるため、有価証券報告書における多様性の開示は重要だ。そのため、役員・従業員の男女比や人種等の開示基準を国際基準と合わせて比較できるようにすれば、人材の多様性と企業の利益率、国の経済成長率などの関係が比較できるようになって便利だと思う。


 2022.5.11日経新聞 2022.2.26西日本新聞 2022.2.25毎日新聞 2022.2.7時事

(図の説明:経済安保推進法は、1番左の図のとおり成立した。そのポイントが左から2番目の図で、右から2番目の図のように、政府の関与と違反者に対する罰則が定められている。そして、この経済安保推進法の施行予定が、1番右の図の通りだ)

*6-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/852709 (佐賀新聞 2022/5/12) 経済安保法成立 抑制の効いた運用を
 半導体など戦略物資の国内生産や海外調達を強化する仕組みを導入し、重要な産業や技術を政府が直接育成、保護する制度を盛り込んだ経済安全保障推進法が成立した。同法は(1)半導体などのサプライチェーン(供給網)強靱化(きょうじんか)の支援(2)情報通信など基幹インフラの安全性の事前審査(3)先端技術開発の官民協力(4)技術情報の流出を防ぐための特許の非公開化制度―の4項目を柱に、企業活動に対する公的関与を強化する。2023年春から段階的に施行する。安全保障と経済活動はもはや密接不可分になった。国民生活を守るには一定の規制強化や国家介入は必要だ。国家機密や個人情報の海外への流出を防ぎ、日本経済の屋台骨である自動車産業が力を入れる電気自動車(EV)に必要な半導体確保などに道筋を付けるのは政府の責務である。新法には、非公開の特許情報を漏らした場合に2年以下の懲役を科すなどの罰則が導入された。「特定重要物資」に指定された医薬品や半導体の調達先を隠したり、インフラ設備を製造した国を偽ったりした場合も罰則の対象になる。だが、国の介入が過大になれば経済活動が萎縮しかねない。企業の自由をできる限り尊重する抑制の効いた運用を求めたい。安全保障環境を整える観点から経済活動への規制を強化しようという議論は、情報通信やデジタルなどのハイテク分野を巡る米中対立激化を背景に始まった。ロシアによるウクライナ侵攻で、経済安保の重要性が一段と増す国際情勢となっている。日米欧はロシアの戦力をそぐため、対ロ金融・経済制裁に踏み切ったが、原油や天然ガスなどエネルギーの対ロ依存度が高い欧州が、特に厳しい状況に追い込まれているからだ。ロシアを排除した世界規模での経済構造の組み直しが急務になっている。だが、これまで長期間にわたる貿易などにより築かれた取引関係の解体は一朝一夕にはできない。日本はエネルギーの対ロ依存度が比較的低いが、多くの企業はロシア市場からの撤退や戦略見直しを強いられている。貿易・金融網が世界に広がるグローバル化は平時には有効に機能し、各国の経済成長を後押しした。しかしいったん有事になれば、それは国家運営の基礎をなす重要物資が「敵国」ににぎられる状態に変質することを世界は今、痛感している。プーチン大統領の言動を見ていると、もはや世界は性善説を前提にしては成り立たないと認識せざるを得ない。政府はこうした状況にも耐え得る経済構造を構築しながら、同時に企業活動の活力を維持、向上させなければならない。その成否の鍵は制度運用の透明性だ。経済安保法は規制や支援の対象となる企業や設備を、国会審議を経ない政令や省令で決めるため、経済界には恣意(しい)的運用への懸念が強い。円滑な制度運用には不信感を取り除くことが急務であり、丁寧な説明と可能な限りの情報公開が不可欠だ。その上で、政策執行を事後的に検証できるようなルールも検討したい。今回は民間人が対象となる機密情報の資格制度「セキュリティー・クリアランス」は見送られたが政府与党内にはなお導入を求める声が強い。資格の前提となる身上調査の是非を含め、人権、企業活動の自由の侵害を回避する議論を求めたい。

*6-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15294495.html (朝日新聞 2022年5月15日) 食糧・エネルギー危機懸念 対ロシア「団結」声明 G7外相会合
 ドイツ北部ワイセンハウスで行われた主要7カ国(G7)外相会合は14日、共同声明を採択し、閉幕した。共同声明や関連文書では、ロシアのウクライナ侵攻が、世界的に深刻な食糧とエネルギーの危機を引き起こしているとの懸念を表明。ウクライナ農産物の輸出支援や飢餓に直面する人々への人道支援など、さまざまな枠組みで具体的行動を進めることで合意した。声明などでは「ロシアが軍事侵略によって変えようとした国境は決して認めない」とし、ウクライナや全ての国の主権と領土保全のための取り組みを堅持すると明記。ロシアに対し「経済的および政治的圧力をさらに高め、団結して行動し続ける」ことを確認した。ロシア産の石炭と石油の輸入を段階的にやめるというG7の方針に基づき、「ロシアへのエネルギー依存を減らし、可能な限り早期に終わらせるための努力を促進する」とした。会合では、ロシアの侵攻でウクライナからの穀物輸出が制限され、世界的な食糧供給の危機が生じかねないことへの対応も議論された。ロシアに対し、港湾を含むウクライナの主要な輸送インフラへの攻撃を直ちに中止し、ウクライナが農産物の輸出ができるようにすることを求めた。議長国ドイツのベアボック外相は会合終了後の記者会見で「G7は戦争が世界に及ぼす影響を確実に防ぎ、飢餓やエネルギー不安などが誘発されないようにしなければならない」と話した。穀物輸送のための鉄道の活用などさまざまな可能性を検討し、「できるだけ早く穀物を輸出できるようにする」と述べた。また、共同声明では、中国に対し、ウクライナに対するロシアの侵略を支援しないよう要求。米欧が主導する制裁を弱体化したり、ロシアの行為を正当化したりしないよう求めた。日本は今回の外相会合を「アジアの厳しい安全保障環境にもきちんと目を向けてほしいと問題提起をする場」(外務省関係者)と位置づけた。ロシアと同様に、海洋進出の動きを強める中国が地域の平和と安定を崩しかねないとの危機感があるからだ。林芳正外相は、アジアを含むインド太平洋地域が議題となった13日の会合で、中国による東シナ海、南シナ海での一方的な現状変更の試みの継続・強化に対して「深刻な懸念と反対」を表明。「中国との関係において、原則の問題について妥協してはならない」と強調し、連携を呼びかけた。

*6-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220514&ng=DGKKZO60783110T10C22A5EA1000 (日経新聞 2022.5.14) 国産材活用を東北けん引 木造公共施設、秋田34%で首位、ウッドショックも影響 森林荒廃防ぐ
 国産木材の建築利用の裾野が広がっている。主要部に木材を活用した公共施設の割合(木造率)は2010年度の8.3%から20年度は13.9%に上昇し、低層に限れば3割に迫る。災害に強い部材開発に加え、国際的な需給逼迫で外国産材価格が高騰する「ウッドショック」も需要増につながる。戦後に植林した人工林が利用期を迎えるなか、資源を循環利用する脱炭素の地域づくりが欠かせない。日本は国土の約7割が森林で、20年の森林率は経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国で3番目に高い。一方、林業は安い輸入材の台頭などで長期低迷する。担い手の減少とともに高齢化が進み、私有林の半分近くを占める人工林の3分の2は手入れが行き届いていない。こうした状況を改善しようと、国は10年、公共施設などの木材利用を促す法律を施行。02年に18.8%まで沈んだ木材自給率は20年に4割を回復した。林野庁の試算を基に15~20年度の公共施設の平均木造率を調べたところ、都道府県別で最も利用したのは秋田県の34.3%だった。以下は岩手県、山形県、青森県が続き、東北が上位を独占した。日本政策投資銀行東北支店の渡辺秀幸企画調査課長は「東北は壁や柱に適したスギやマツが豊富で、製材工場も整っている」と指摘する。秋田県は01年、県産材利用推進会議を設置した。木造化や内装の木質化になじまない案件は理由を添えて会議に諮るなど「原則木造化」を徹底し、20年度までの8年間に造った県営125施設のうち7割を木造・木質にした。岩手県も木材需要が低迷していた03年、秋田と同種の組織を立ち上げた。市町村と連携し東日本大震災で被災した公共施設や災害公営住宅の整備に県産材を積極利用しており、20年度に市町村が整備した低層(3階建て以下)の木造率は43.8%と全国平均(17.2%)を大きく上回る。森林は二酸化炭素(CO2)を吸収する特徴があり、木を燃やさずに使えばCO2を長期間貯蔵できる。民間が整備する病院や学校も含め、多くの人が集う公共的な施設は木造の良さも訴えやすい。山形県白鷹町は人工林が流出するなどした13、14年の豪雨災害を契機に森林を循環利用する機運が高まった。製材所など6社が16年、木材乾燥施設を整備し、伐採から加工まで町内でほぼ完結できるようになった。19年に完成した庁舎などの複合施設では木材利用量の約75%に地元のスギが使われ、民間施設に活用が広がるきっかけになった。教育分野では、木造校舎そのものが「木育」の教材になる。建築規制の緩和を受け、富山県魚津市で19年、全国初となる木造3階建ての小学校が誕生。文部科学省によると、20年度に新築した学校施設の19.1%(154棟)は木造だった。国内最大級の木造校舎の整備で、千葉県流山市が姉妹都市の長野県信濃町から木材を調達するなど、地域材の確保が難しい都市部と地方の連携も広がる。木材利用を促す法律は21年に改正法が施行され、民間建築物も利用促進の対象になった。事業者は国や自治体と協定を結べば、技術的な助言や財政支援を受けやすくなる。木造率が1割以下の中高層建築などは需要開拓の余地が大きいが、鉄骨造などと比べ10~15%費用が高いとされる。木造建築に詳しい東京都市大の大橋好光名誉教授は「実績を増やしてコストを下げるとともに、地方の工務店の技術向上を支援し、新しい領域への挑戦を後押しする取り組みも必要だ」と話す。

*6-3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ5B6T5ZQ4TUTNB00P.html (朝日新聞 2022年5月11日) 避難の外国人をどう扱うべきか ウクライナ問題が突きつける課題とは
 戦禍のウクライナを逃れてきた人々への支援の輪が広がり、埼玉県内の自治体も続々と住居の提供などを打ち出している。一方で、県内に多く住むクルド人は、迫害を受けて祖国を逃れてきたが、公的支援は乏しい。日本に避難してきた外国人間の差が、浮き彫りになっている。戸田市役所で先月下旬、市と日本リサイクルソリューション(本社・戸田市)との間で協定が結ばれた。市が用意したウクライナ避難民用の住宅6戸に、同社が家電や家具などを無償で貸与する。菅原文仁市長は「避難民がいつ来てもすぐに安心して住めるようになった」というが、10日時点で、住宅の利用予定はないという。市は住宅提供だけでなく、避難民支援対策連絡会議を設置するなど手厚い支援態勢を敷いた。今月末には市民の理解を深めるため、ウクライナ情勢に関する市民講座も開く。ウクライナ避難民を対象にした支援は他の自治体にも広がっている。深谷市や行田市などが住宅の確保や物資の提供、相談窓口の開設をしている。一方で、戸田市に隣接する川口市や蕨市には、迫害から逃れてきたクルド人が約2千人いるとされる。在留資格がなく、出入国在留管理庁から一時的に釈放されている仮放免の人も多い。川口市に住む30代のクルド人の男性は、5年前から難民申請をしているが、いまだに認められない。働くことは許されず、医療保険にも入れず、県外への移動も禁止されている。自治体からの支援もない。入管の収容におびえながら、他人名義で家を借りて妻と子ども3人と何とか暮らしている。男性は、戦禍から逃れてきたウクライナ避難民への支援は必要だと認めつつ、「彼らと私たちは立場が違うのかもしれない。差別とは言わないが……」と言葉を濁す。政府はウクライナから逃れてきた人たちを「避難民」と位置づけ、クルド人やアフガニスタン人ら「難民」とは区別している。避難民は90日間の短期滞在の在留資格で入国させ、1年間働ける特定活動への切り替えを認め、その更新も考慮するなど、前例のない対応をしている。菅原市長はウクライナ避難民について「国が支援を打ち出したのに、地方自治体が何かしないのは不誠実だ」と説明する一方、「市が難民にこれだけの支援をした記憶はない」とも話す。クルド人支援団体「在日クルド人と共に」の温井立央代表理事もまた、複雑な思いを抱えている。ウクライナ避難民の支援には異を唱えないが、「同じように祖国を追われたクルド人らが明日をも知れない状態で暮らしていることも、考えてほしい」と訴える。そのうえでウクライナ避難民の今後を危惧する。「数年たって避難民が日本に永住したいといったら、どうするのか。ウクライナ人はOKでクルド人はだめなのか。そんなことはできないと思う。国は難民問題を考え直す時ではないか」と指摘している。

*6-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15289937.html (朝日新聞 2022年5月11日) 難民保護の新法案、5野党・会派提出 国民民主は加わらず
 立憲民主、共産、れいわ新選組、社民など野党5党・会派は10日、難民保護の新法案と出入国管理法(入管法)改正案を参院に提出した。ウクライナ侵攻を逃れた「避難民」の位置づけなどを国際水準に近づける内容で、夏の参院選を前に人権意識の高さをアピールしたい考えだ。長期化が課題となっている外国人収容、送還のルールを見直す政府提出の入管法改正案をめぐっては、昨年の通常国会会期中に、入管施設に収容されていたスリランカ人女性が死亡する事案が発生。世論の反対が高まったことなどから政府・与党が衆院選を前に成立を断念した。今年も参院選を控え、政府が批判の高まりを懸念して再提出を見送るなか、野党側は国際的に遅れているとされる難民保護に積極的に取り組む姿勢を打ち出した形だ。立憲の石橋通宏参院議員は法案提出後、「参院選に向けてしっかり訴えるべき課題」と記者団に強調した。岸田政権が推進する経済安全保障推進法案に賛成するなど、存在感を示せていない立憲は「野党が対立軸を示すチャンス」(党国会対策幹部)と期待をかける。一方、同様の議員立法を昨年、共同提出した国民民主党は今回加わらなかった。同党の玉木雄一郎代表は10日の記者会見で「状況の変化を踏まえた」と述べるにとどめ、野党の足並みはそろわなかった。

*6-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220514&ng=DGKKZO60783710U2A510C2MM8000 (日経新聞 2022.5.14) スキルや女性登用…「人的資本」情報開示へ政府指針
 政府は今夏にも企業に対し、従業員の育成状況や多様性の確保といった人材への投資にかかわる19項目の経営情報を開示するよう求める。企業が従業員について価値を生み出す「人的資本」と捉えて適切に投資しているかを投資家が判断できるようにする。うち一部は2023年度にも有価証券報告書への記載を義務付ける。開示を通じて人材への投資を促すことで無形資産(総合2面きょうのことば)を積み上げ、日本企業の成長力を高める。従業員を投資の対象である人的資本と位置づける考え方は企業経営で広がっている。製造ラインでの作業などが多かった時代は、人件費をコストと捉える傾向があった。今は経済のデジタル化が進み、従業員が生むアイデアが企業に利益をもたらす。企業が人材にどう投資しているかは、財務諸表の数値だけでは読み取れず開示機運が高まっている。政府の要請を受け、統合報告書などに人的資本に関わる記述を盛り込む企業が増えると見込まれる。内閣官房は今夏にも、人的資本への投資を企業がどのように開示すべきかの指針を作る。6月中にまとめる骨子案では、投資家に伝えるべき情報を19項目に分けて整理する。主な項目は従業員のスキル向上などの人材育成や多様な背景を持つ人材の採用状況などだ。企業には自社の戦略に沿う項目を選び、具体的な数値目標や事例を公表するよう求める。例えば多様性を示す従業員の男女比や人種、女性役員の比率などは、企業ごとの差を測れるように具体的な算出基準の開示を促す。企業によって異なる従業員の研修方法などは、できるだけ具体的な事例を記載してもらう。金融庁は23年度にも人的資本に関する一部の情報を有価証券報告書に記載することを義務付ける方針で、育児休業の取得率、男女間の賃金差、女性管理職の比率が候補となっている。内閣官房は金融庁の方針とは別に、人的資本にかかわる幅広い情報を公表することを企業に求める。欧米は人的資本の情報開示が進んでいる。米国では米証券取引委員会(SEC)が20年8月、企業に対して人的資本にかかわる情報開示を義務づけた。企業がそれぞれ重視する指標や、その目標値の開示を求めている。欧州連合(EU)は14年、従業員500人以上の企業を対象に開示を義務化している。日用品の米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は21年のアニュアルリポートから開示を始めた。消費財を扱う企業は多様な顧客のニーズに応えることが重要としたうえで、米国の経営層で40%を多様な文化的背景を持つ人材にするという目標を記載した。現状では投資家の要求水準を満たす日本企業は少ない。一橋大の伊藤邦雄氏や三井住友信託銀行の調査によると、経営層や中核人材の多様性をどう確保するかについて、67%の投資家が開示を求めている。実際にはプライム市場に上場する企業で19%、スタンダード市場では5%の企業しか公表していない。人的資本への投資の遅れは、日本企業が競争力を失う一因となっている。知的資産の評価を手掛ける米オーシャン・トモによると、20年の主要企業の時価総額から有形資産の評価額を引いた額を無形資産の価値と考えると、米国はこの比率が90%を占め、日本は32%にすぎなかった。米企業は人材への投資で無形資産を積み上げ、株価を上げている。岸田文雄首相は21年12月の所信表明演説で「人材投資の見える化を図るため、非財務情報開示を推進する」と述べた。形式的な開示内容にとどまれば市場の評価は高まらず、投資家に分かりやすく伝える努力が求められる。

<日本政府の環境に対する考え方について>
PS(2022年5月23日):朝日新聞は社説で、*7-1のように、①経産省の部会が脱炭素・経済安全保障等を重点分野に設定して「大規模・長期の支援を総動員」する中間整理案を出した ②社会・経済課題の解決を目的に財政出動を「大規模・長期・計画的」にして財政支援をてこに他の先進国を上回るペースで企業の投資を増やすことを目指す ③脱炭素のように、社会的合意のある明確な課題の解決に政府が取り組むのは当然で ④再エネ活用に欠かせない送電網やEV充電スタンドに予算を投じることに異論は無いが ⑤過去30年間、経産省主導の国家プロジェクトは多くが失敗 ⑥インフラ整備や基礎研究を超えて、個別の大企業に多額の税金を投じるのが適切とは思えない ⑦官僚は業界実態に疎く、意思決定も遅い上、責任を負わず、政治家の意向で判断が歪められることもある ⑧日本は2000年代に最先端を走っていた太陽光発電で競争力を失いEVも後れたが ⑨既存技術を手放せない産業界の声に流されて脱炭素規制を不十分にしたことが原因 ⑩官庁からの有力企業への天下りも多く、自民党は多額の企業献金を受けている ⑪政官財の癒着を断ち切れぬまま予算を増やせば、歪みのほうが大規模になりかねない ⑫「新機軸」を目指すなら、経産省はまずは炭素税に否定的な姿勢を改めることから始めてはどうか と記載している。 
 このうち、⑤⑥⑦⑨⑩はその通りで、失敗の中には大量の資金を投じて原発による電源開発を行い、稼働させるために災害を想定外にするなど国民の安全を疎かにする本末転倒の行動があった。そして、これは原発や原発事故に限らないため、①②③④⑪も正しいのである。
 また、*7-3は、今でも⑬EVは当面の需要が読みにくいので各社に柔軟な供給体制の整備を求めたい ⑭EVは充電スタンドなどのインフラ整備が十分と言えないため、日本市場はまだハイブリッド車を含むガソリン車の人気が根強い ⑮当面の需要の動向に応じてガソリン車とEVを柔軟につくり分けられる「混流ライン」の構築 ⑯内燃機関が電池等に置き換わることで裾野産業に大きな影響が及ぶ などとしており、このような環境への対応が、⑧のように、日本は2000年代に最先端を走っていた太陽光発電の競争力を失わせ、EVも後れる状況を作ったのである。具体的には、太陽光発電についてはくだらないことを言って先進日本メーカーを撤退にまで追い込み、EV充電スタンドが足りなければそれこそ作ればよいのに、「混流ライン」でガソリン車とEVの両方を作るなどの生産性の上がらないことをしているわけである。
 さらに、*7-2は、日本政府が⑰今後10年間で官民合わせて150兆円超を投資するため ⑱20兆円規模の資金を確保して民間資金を呼び込む「GX経済移行債(脱炭素社会に移行する投資に使い道を限る国債)」を発行する ⑲GX経済移行債はカーボンプライシング制度を決定した上で排出枠取引や炭素税による収入が入るまでの繋ぎ ⑳省エネ法等の規制対応、水素・アンモニアなどの新たなエネルギーや脱炭素電源の導入拡大に向け、新たなスキームを具体化させる と記載している。
 私も⑰⑱は良い考えで、良いグリーン国債があれば買いたいとは思うが、日本のグリーン国債は企画と利子率が悪すぎるため、外国のグリーン国債を買わざるを得ない。何故なら、⑫のように、カーボンプライシングしてCO2排出量に応じた炭素税の賦課をすれば公平になるが、⑲のように、排出枠取引を許せば日本の国富が開発途上国に流出するだけでCO2排出量は減らず、繋ぎの立場と言われては投資家も嫌な感じがするからだ。また、⑳の使い道も、省エネ規制の強化・再エネの普及・次世代型電線の敷設、EV充電スタンドの普及・水素エネ普及などの徹底したエネルギーのグリーン化ならよいが、CO2を減らしさえすれば良いという中途半端な発想で、原発やアンモニアに投資されればまたまた壮大な無駄遣いになるからだ。
 つまり、日本政府は「環境を護るには金がかかり、環境を汚さなければ効率よく経済発展することはできない」という考え方をしている点で限界がある。実際には、環境を護ると、i) 農林漁業に問題が起きず ii) 海水面も上昇せず iii) エネルギー自給率を飛躍的に上げることが可能で iv) EVへの変更で生産性が上がり v) 空気が汚れないため快適で健康によく vi) 生産性が上がれば営業利益率が上がるため、賃金・配当・債権利子を上げられる という1石6鳥以上の効果があるのである。

*7-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15294707.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2022年5月16日) 新産業政策 失敗の歴史繰り返すな
 政府の審議会が「経済産業政策の新機軸」を掲げた議論を進めている。財政資金を投じて民間産業への介入を強めようという方向性だ。過去の産業政策の失敗を繰り返すことにならないか、重大な懸念がある。昨秋、経済産業省の産業構造審議会に部会が設けられ、先月末に中間整理案が示された。脱炭素や経済安全保障などを重点分野に設定し、「大規模・長期の支援を総動員」するとうたう。財政支援をてこに他の先進国を上回るペースで企業の投資を増やすことを目指すという。経産省が部会に出した資料には次のような整理がある。伝統的産業政策は特定産業の保護・育成を目指して「中規模・中期」の財政出動をしてきたが、構造改革路線で「小規模・単発・短期」になった。「新機軸」では社会・経済課題の解決を目的に、財政出動も「大規模・長期・計画的」にする――。脱炭素のように、社会的な合意のある明確な課題の解決に政府が取り組むのは、当然のことだ。実際、50年の温室効果ガス排出実質ゼロの実現は容易ではない。再生可能エネルギーの活用に欠かせない送電網や、電気自動車の充電スタンドに予算を投じることに異論は無い。ただ、インフラ整備や基礎研究を超えて、個別の大企業に多額の税金を投じるのは適切とは思えない。だが、経産省は昨年、台湾半導体大手の国内工場誘致に4千億円もの巨費を投じることにした。今後、同様の補助が相次ぐ可能性がある。そもそも日本の大企業が競争力を失ったのは、資金不足が主因ではない。手元に現預金を積み上げ、法人実効税率の引き下げなど政策の優遇も受けてきた。それでも賃上げや投資拡大には十分に結びつかなかった。一方で過去30年、経産省が主導した国家プロジェクトの多くが失敗した。官僚は業界の実態に疎く意思決定も遅い。頻繁に異動し「長期」の責任を負える立場にない。政治家の意向で判断がゆがめられることもある。日本は、00年代に最先端を走っていた太陽光発電での競争力を失い、次世代エコカーでも後れをとりつつある。火力発電やハイブリッド車などの既存技術を手放せない産業界の声に流され、脱炭素に向けた規制の強化が不十分になったことが、大きな原因だ。官庁からは有力企業への天下りも多く、自民党は多額の企業献金を受けている。政官財の癒着を断ち切れぬまま予算を増やせば、ゆがみのほうが大規模になりかねない。「新機軸」を目指すのなら、経産省はまずは炭素税に否定的な姿勢を改めることから始めてはどうか。

*7-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA193Y50Z10C22A5000000/ (日経新聞 2022年5月20日) 脱炭素へ新国債発行、首相が検討表明 財源20兆円確保
 政府は脱炭素社会に移行するための投資などに使い道を限る新たな国債を発行する検討に入った。「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」を発行し、市場から資金を調達する。今後10年間で官民合わせて150兆円超の投資を実現するために、政府として20兆円規模の資金を確保して民間資金を呼び込む。岸田文雄首相が19日、首相官邸で開いた「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会の会合で表明した。GX経済移行債は、二酸化炭素(CO2)排出に値付けをする「カーボンプライシング」の制度を決定したうえで、排出枠取引や炭素税による収入が入るまでの「つなぎ」の役割を想定する。早ければ2023年の通常国会に関連法案を提出し、同年度中の発行を目指す。新しい債券は、海外で発行が広がるグリーン国債(環境債)を参考に設計するとみられる。ドイツなど欧州の各国が環境債を発行している。財務省は21年の有識者懇談会で、環境債について「現時点で直ちに発行することは考えていないが、海外の動向などについては注視していきたい」と説明していた。首相は19日の会議で「政府はまず規制、市場設計、政府支援、金融枠組み、インフラ整備など包括的にGX投資のための10年のロードマップとして示していく」と言明した。「本予算、補正予算を毎年繰り返すのではなく、複数年度にわたり予見可能性を高め、脱炭素に向けた民間の長期巨額投資の呼び水とする」と強調した。具体的な政策をまとめるために今夏に官邸に新たに「GX実行会議」を設置し、速やかに結論を得ると説明した。首相は「省エネ法などの規制対応、水素・アンモニアなどの新たなエネルギーや脱炭素電源の導入拡大に向け、新たなスキームを具体化させる」と話した。脱炭素に取り組む企業の資金調達を支える「トランジション・ファイナンス」など新たな金融手法も例示した。カーボンプライシングをめぐっては、脱炭素に取り組む企業で構成する「GXリーグ」の段階的発展や活用に言及した。9月から東京証券取引所でGXリーグに参加する企業を対象にCO2排出量を取引する実証実験を予定する。官民による投資はデジタル技術を使って電力を需給に応じて効率的に送るスマートグリッド(次世代送電網)のほか省エネ住宅や電気自動車など幅広い分野を想定する。GXは首相が掲げる「新しい資本主義」の柱になる。

*7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220523&ng=DGKKZO61020680S2A520C2PE8000 (日経新聞社説 2022.5.23) EVシフトへ柔軟な生産体制の工夫を
日本車メーカーが相次ぎ電気自動車(EV)への投資計画を表明し始めた。国内ではSUBARU(スバル)がEV工場の新設を決めた。海外でもスズキはインドに、ホンダは中国と北米にEV専用の生産ラインや工場を建設する方針だ。EVは当面の需要が読みにくい面もあり、各社には柔軟な供給体制の整備を求めたい。EVは欧米で普及が進み始めたが、各国政府の補助金に支えられている面がある。アジアも含め今後は地域によって普及のペースが異なる展開が予想される。日本市場に目を向ければまだまだハイブリッド車を含むガソリン車の人気は根強く、EVは充電スタンドなどインフラ面の整備も十分とは言えない。日本車メーカーは欧米勢と比べて難しい立ち位置にある。とはいえ、将来を見据えて後手に回ることは避けたい。そこで不可欠となるのが、当面の需要の動向に応じてガソリン車とEVを柔軟につくり分けられる生産体制の構築だろう。スバルはEV工場の新設に先立ち、ガソリン車とEVを同時につくる「混流ライン」を立ち上げる。EV工場の生産規模も現時点では決めておらず、需要に応じて引き上げるという。トヨタ自動車や日産自動車も当面は同様の混流生産で対応する。部品など関連産業との精緻な擦り合わせが求められるこのような生産方式は、もともと日本勢が得意とする。これまでに培ってきたものづくりの力をEVでも生かしてもらいたい。海外での電池調達など新たな課題にも向き合うことになるが、問われるのは完成車メーカーだけではない。内燃機関が電池などに置き換わることで裾野の産業にはより大きな影響が及ぶだろう。強固なピラミッド構造で成り立ってきたサプライチェーンも新陳代謝は避けられまい。日本電産がモーターで攻勢をかけるように、EVが生み出す新たな商機への挑戦を多くの企業に期待したい。一方でこれまでガソリン車に依拠していた企業は経営基盤の抜本的な見直しを迫られる。欧州で軽油を燃料とするディーゼル車の部品に強みを持っていた独ボッシュは、電動化やソフトウエアへの投資に力を入れ始めた。ガソリン車もEVも関連企業の力なくしてつくることはできない。業界を挙げて長期視点でのEV生産の工程表が求められる。

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2022.4.4~18 人道の時代に・・ (2022年4月19、23、25、28、29日、5月1、3、4、5日に追加あり)
(1)ロシアのウクライナ侵略から

  
 2022.3.30共同   2022.3.25日経新聞 2022.3.20毎日新聞 2022.4.3朝日新聞

(図の説明:停戦交渉のポイントは、1番左の図のようになっていた。また、左から2番目の図のように、欧州の主な中立国は、オーストリア・スウェーデン・スイス・フィンランドの4つだ。そして、米中首脳会談のポイントは右から2番目の図のとおりだった。なお、1番右の図は、4月2日時点のロシア軍の状況だ)

     
   2022.3.31Yahoo        2022.4.4福島民報    2022.4.19朝日新聞

(図の説明:左の図はロシア軍のキーウ《キエフ》撤退に関する米国防省の見解で、日本でもこれがよく報道されている。しかし、プーチン大統領は「キーウやウクライナ全土を占領するつもりはない」と言っておられたため、私は交渉を有利に進めるため首都や原発を攻撃しているのだと思っていた。中央の図は、ロシア軍撤退後のキーウで、市民を含む無残な遺体が多く残されていたそうだが、他国を侵略すると地域住民全員が抵抗するため、市民も含めて虐殺が起こるのは歴史上の経験的事実だ。なお、右図は、4月19日時点のロシア軍のウクライナ侵攻状況だ)

 
      2021.8.12日経新聞                旭硝子

(図の説明:左図は、広がった3Dプリンターの活用範囲で、臓器から建物まで作ることができる。また、中央の図のように、住宅を丸ごと製造する会社も出てきたため、ゴシック調の建物も、写真があれば元どおりの彫刻や柱を比較的簡単に作ることができるだろう。さらに、右図のように、建物の壁や窓を太陽光発電にしたり、光触媒塗装を使って太陽光と雨で汚れを落としたりすることもできる。そのため、ロシアとウクライナの戦争が終わったら、これらを駆使すれば、便利でおしゃれな街を比較的早く復活させることが可能だ)

1)国連のロシア撤退決議
 2022年3月24日、*1-1-1のように、①193カ国で構成する国連総会が140カ国の賛成でロシア軍即時完全無条件撤退を迫る決議案を採択し ②中立国オーストリアも(フランス・メキシコが中心となりウクライナと協力して作られた)決議案を支持し ③ベラルーシ・北朝鮮・エリトリア・ロシア・シリアの5カ国が反対票を投じ ④中国・インド・ベトナムなどの38カ国が棄権し ⑤10カ国が無投票で ⑥南アフリカはロシアの責任には触れない決議案を提出し ⑥ウクライナの国連大使はロシア提出の決議案と似ていると怒りをあらわにし ⑦次の課題は戦争を終わらせること とのことである。

 確かに、ウクライナにおける民間人殺害などの悲惨な状況を見ればロシア軍に即時撤退を求めたいが、④⑤⑥の国は西側先進国から過去に植民地にされたり、理由なく攻撃されたりしたことがあり、ロシアにのみ二重基準を適用して制裁することには反対で、自国経済のためにも経済制裁などやっていられないように見える。しかし、ウクライナとロシアが戦争中では世界的な食料不足とエネルギー不足に陥り、原子力施設を巻き込んだ攻撃は核戦争と同じくらい危険であることは間違いない。

2)ロシアのウクライナ侵攻に関する米中首脳協議
 ロシアのウクライナ侵攻後初となった3月18日の米中首脳協議で、*1-1-2のように、バイデン米大統領は「①米国はNATOやインド太平洋地域の友好国と団結している」「②中国がロシアを支援すれば中国も経済制裁の対象になる」と警告され、習国家主席は「③全方位的・無差別な制裁を実施しても、苦しむのは庶民だ」「④現在のウクライナ情勢は中国も望まないもので、中国はずっと戦争に反対している」「⑤各国がロシアとウクライナの交渉を支持すべきで、米国とNATOもロシアと対話し、ロシア・ウクライナ双方の安全保障上の懸念を解消しなければならない」と強調されたそうだ。

 両首脳は、台湾問題についても議論したが、習国家主席は「⑥米国の一部の者が『台湾独立』勢力に誤ったシグナルを送っており、非常に危険だ。台湾問題をうまく処理しなければ、両国関係に破壊的な影響をもたらす」と米側に警告し、バイデン米大統領は「⑦一つの中国政策は維持している」「⑧台湾海峡における中国の挑発的な行動に懸念を表明した」そうだ。

 しかし、⑦のように、一つの中国政策を維持すれば、台湾と中国間の争いは中国の国内問題となってしまうため、ここを曖昧にしたまま台湾の独立性を支持することは困難である。

3)ロシアによるウクライナ侵略の落としどころは?
 2022年3月25日時点では、私は、*1-1-3のように、ウクライナが「中立化」してオーストリア型の永世中立国となり、周辺国と国連を中心とした多国でウクライナの安全を保証し(←国連をそれが可能な組織にしなければならない)、軍事同盟でないEUには加盟すればよいと思っていた。また、ロシアは、ウクライナの中立宣言を条件に、部隊の撤収に応じる等の15項目の合意案をたたき台にしていたそうでもある。

 しかし、キーウ周辺のロシア軍撤退に伴い、*1-1-4のように、キーウ周辺の約30か所がウクライナの管理下に戻ると、*1-1-5のように、キーウ近郊のブチャ・イルピンなどで民間人410人の遺体が見つかり、中には両手を後ろで縛られた遺体や多数の銃弾を受けた遺体もあったそうで、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ジェノサイド」だと主張し、欧米各国も一斉に批判の声を上げた。

 一方、ロシア国防省は、「市民の誰一人としてロシア軍による暴力を受けていない」と虐殺を否定し、「殺害された人々の映像や写真はウクライナ側による挑発だ」と主張しており、国連のグテレス事務総長は映像などに「深い衝撃を受けている」として、独立した調査による事態の解明が必要だと述べられたそうだ。

 確かに、「戦争を継続したい」という動機づけのある人や国もあるだろうから、独立した調査機関による迅速で正確な事態の解明が必要だ。なお、ロシア軍が破壊して包囲しているマリウポリには、未だに約10万人の市民が取り残されており、痛ましい限りだ。

4)ゼレンスキー大統領が日本の国会演説で訴えたこと、日本ができること
 2022年3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領が、*1-2のように、日本の国会でオンライン演説し、①両国間には8193kmの距離があるが、自由への思いに差はない ②ロシアがウクライナの平和を破壊し始めた2月24日、日本がすぐ援助の手を差し伸べてくれ、感謝している と述べられた。

 また、③チェルノブイリ原発周辺「30キロゾーン」の森の土に原発事故のがれき・機械・資材が埋められているが、その上をロシア軍の装甲車両が通って放射性物質を空気に巻き上げ ④破壊された原子炉上の核物質処理場を戦場に変え ⑤ウクライナへの攻撃準備のため、閉鎖区域を使い ⑥ヨーロッパ最大のザポリージャ原発も攻撃を受け ⑦ガス・石油パイプライン・炭鉱・化学工場の施設など多くが被害を受けて環境リスクになっている とも言われ、原発はじめインフラを戦争に巻き込んだ場合の環境への悪影響を示された。

 さらに、⑧シリアと同様にサリン等の化学兵器を使った攻撃をロシアが準備しており ⑨核兵器を使用された場合に世界がどうなるか世界中の話題になっており ⑩ウクライナ軍は28日間、この大規模な攻撃に対して国を守っており ⑪1000発以上のミサイルや多くの空爆が落とされて数十の街が破壊され全焼し ⑫多くの街で家族や隣人が殺されても、ちゃんと葬ることさえできず ⑬多くのウクライナ人が住み慣れた家を出て、身を隠すため、命を救うため避難し ⑭ロシアは海も封鎖して数十の交易路を封鎖した と、大量破壊兵器使用の可能性や攻撃による街・交易路の破壊についても述べられた。

 そして、⑮国連の安保理は機能せず改革が必要で ⑯ウクライナ・そのパートナー・反戦連立だけが世界の安全保障を出すことができ ⑰これからも戦争をしたいロシアという侵略者に対して非常に強い注意が必要で ⑱アジアで初めてロシアに対する圧力をかけ始めたのは日本で、その継続をお願いする ⑲ウクライナの復興・人口が減った地域の復興を考えて避難した人たちが故郷に戻れるようにしなければならない とも述べられ、私もそのとおりだと思った。

 現在、キーウ近郊などロシア軍が撤退した地域もあるため、その片づけと復興なら日本が手伝うことができる。例えば、日本国憲法の規定により戦争を手伝うことはできないが、遺体を探して一定の場所に安置したり、地雷や不発弾を処理したり、残された武器等を決められた場所に片づけたりなどは、西側諸国と協力しながら日本の自衛隊も手伝うことができる。また、整地された後、速やかにゴシック調の元の建物を復元しつつ、実はスマートに作り替えることも、西側諸国と日本の技術で可能だろう。

5)日本における難民・避難民の受入体制


   2021.6.3、2021.8.29日経新聞        2021.6.17Goo

(図の説明:左図は、2019年の難民認定率で、日本は他の先進国と比較して0.4%と極めて低く、少子高齢化で生産年齢人口の割合が減り、やるべき仕事もできずに産業が衰退しているにもかかわらず、人材鎖国している状態である。また、中央の図は、アフガニスタンから退避支援した人数で、日本のために働いていたアフガニスタン人すら退避させるという発想がなかった。さらに、右図は、2019年のミャンマー出身者の難民認定数と認定率で、0.0%と極めて低い)

 ロシアのウクライナ侵攻後にウクライナを出た人は、*1-3-1のように、3月29日時点で400万人にのぼり、周辺国のポーランドは230万人以上、ルーマニアは60万人以上受け入れ、米国も最大10万人を認めると表明したそうだ。

 難民の定義は、1951年に難民条約で「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあるため他国に逃れる人」とされており、今回のウクライナ侵攻で国外に逃れる人は難民そのものだと私は思うが、日本では「難民条約の定義にあたらない」として「避難民」という法的根拠のない立場で、3月27日時点で288人を受け入れた。

 また、日本の国内法は出入国管理法で「難民」の規定をしており、認定には迫害を受ける恐れがある理由等を記した書類やパスポートなどを持参して申請し(難民なら、それが可能な人は少ないだろう)、出入国在留管理庁が根拠の正否を調べて判断し(「迫害の恐れ」を認定する条件が厳しすぎ、認定・不認定を分ける基準も不明確で不公正)、2020年の難民認定は4000人ほどの申請に対して47人で、ドイツの6万3000人、カナダの約2万人と圧倒的な差がある。

 このような中、ウクライナからの「避難民」は入管法にもない概念で、①最長90日の短期滞在で入国し ②特例で更新可能な資格として1年の就労を認めるが、「難民」であれば、③パスポートを代替する旅行証明書と5年の在留資格を受け ④国民年金・児童扶養手当等の社会福祉もあるのだそうだ。

 一方、内戦のあったシリア難民の場合は、ドイツが44万人、フランス・英国が約1万人、米国は5000人弱を認定したが、日本は留学生95人を除けば22人を認定したにすぎない。古川法相は、ポーランドのミレフスキ駐日大使と会談し、「ニーズに応えられるような支援は何か検討を進めたい」とされたそうだが、日本の難民政策は外国人排除型から受入型に転換すべき時だ。

 現在、ウクライナから国外へ避難した人は400万人を超え、*1-3-2・*1-3-3のように、ポーランド訪問中の林外相が、避難民20人を政府専用機に乗せて羽田空港に到着し、日本政府は、⑤滞在施設を提供して当面の生活費を支給し ⑥最長90日の短期滞在で入国し ⑦希望があれば就労可能で1年間滞在できる「特定活動」の資格に切り替え ⑧日本語教育面での支援や企業との引き合わせにも取り組むそうだ。

 しかし、⑥⑦では、短期過ぎて生活の目途が立たない。また、⑧については、日本政府は必ず外国人に日本語の使用を求めるが、日本語は日本でしか使えない言語であり、英語が使えれば支障なく働ける仕事は多いため、生活に関わる表記は英語併記にして英語でも暮らせる社会にした方が、外国人観光客や日本人の英語教育まで含めて皆のためになると思う。

 なお、*1-3-4は、2019年に日本で難民認定を申請した人は1万375人もいるのに、難民と認定されたのはわずか44人で、欧米各国の10~50%と比較して日本の難民認定率0.4%は極端に低いことを示している。さらに、日本の難民申請者は、在留資格がないという理由で入管施設に無期限拘束される外国人が相次ぎ、国際的に批判も出ていると同時に、好意を持って日本に来た外国人を敵にして追い出している始末なのだ。

6)北方領土について
 ロシアが日本との平和条約締結交渉を中断すると発表した後、ロシア軍が北方領土の国後・択捉両島の演習場で1,000人以上を参加させ、対戦車ミサイル・自走砲・ドローン等を投入して軍事演習を開始したことを受けて、松野官房長官は、*1-4-1・*1-4-2のように、「北方四島でのロシアの軍備強化は、これらの諸島に関する我が国の立場と相いれず、受け入れられない」と、外交ルートを通じて非難されたそうだ。

 しかし、「航行の自由」として津軽海峡はじめ日本の領海内を自由に通行させているのだから、外交ルートを通じて形だけ非難したり、情報収集したりしても、本気度が見えない。

(2)日本における経済政策の誤り


       2022.3.18、2022.3.18、2022.4.5、2022.1.3日経新聞 

(図の説明:1番左の図が、EV販売上位の一覧表だ。左から2番目の図は、2020年~2022年のEV販売台数《2021以降は予測》だ。右から2番目の図は、IPCCの報告書で、1番右の図が、日本で必要とされた次世代送電網だが、私は鉄道や高速道路を利用して陸上を網の目のように走らせた方がよいと思う)

  
         Enechange                  農水省  
(図の説明:左図のように、日本のエネルギー自給率は諸外国と比較して著しく低いが、これは、再エネを普及させれば高めることができる。また、右図のように、2020年度の食料自給率もカロリーベース:37%・生産額ベース:67%と著しく低い。そして、これらが低いままでは、貿易収支は次第に赤字になり、安全保障以前でもある)

1)エネルギー変換の遅れによるエネルギー自給率の低迷と日本経済の停滞
 中国は、*2-3-1のように、国策でEVを後押ししており、2021年のEV販売台数上位20社・グループ中には中国勢12社が入り、首位の米テスラは中国市場がけん引し、2位の上海汽車集団は米GMとの合弁で格安車をヒットさせ、比亜迪(BYD)も勢いづいている。そして、これには、世界の学者を集めた学会を頻繁に開き、研究者を厚遇するなど、中国政府が基本に忠実な産業高度化政策を採っていることが功を奏している。

 一方、研究・教育・知識を軽視してきた日本は、脱炭素やSustainable Development Goals(持続可能な開発目標、以下“SDGs”と記載する)の必要性を理解できず、リーダーとして潮流を作るどころかついていくことすらできていない。その結果、化石燃料を動力とするエンジンにしがみついてEVを軽んじ、日産・ルノー・三菱自動車の日仏連合は5位に留まったが、トヨタは29位となり、自動車産業の存在感もなくなった。今後は、公害を無視しながら突出したコストをつぎ込まなければならない原発も過去のエネルギーになるので、注意されたい。

 2022年3月24日、朝日新聞が社説で、*2-3-2のように、①経産省が電力需給逼迫警報を東京・東北電力管内に出し ②その理由は地震で福島県等の火力発電所が稼働できなくなったこと ③季節外れの寒波が襲って暖房需要が増え、需給が厳しくなったこと ④エリア外からフルに送電を受けても供給余力が安定供給に必要な3%を大きく下回ること ⑤生活や経済活動に支障のない範囲で節電を呼びかけた と記載している。

 確かに、関東でも⑤の節電が呼びかけられ、私は「電力改革を始めて10年も経過するのに、まだそんなことを言っているのか」とうんざりして、電力会社を東電から再エネ発電による電力を供給する会社に変更して東電の電力を節電して差し上げようと決めた。しかし、大口電力需要家が再エネで自家発電をしたり、再エネ電力を購入したりすれば、化石燃料や原発に依存している電力会社から電力を購入せずにすむため、今後は、金融市場や消費者も選択権を行使した方がよいと思う。

 また、朝日新聞社説は、⑥再生可能エネルギーが主役となることが望まれ ⑦太陽光は天候に左右されやすく今回も発電量の低迷が逼迫の要因の一つで ⑧風力等と組み合わせて脱炭素社会の流れとの両立を図りたく ⑨蓄電技術の開発や周波数の違う東日本と西日本の間も含めた広域送電網の強化も大切で ⑩原発稼働は新規制基準への適合や避難計画の整備が前提であり、目先の需給と直結させて議論すべきではない とも記載している。

 しかし、⑥には賛成だが、⑦⑧⑨⑩は、フクイチ事故後10年以上も言ってきたことで、未だにそんなこともできていないのが、日本のエネルギー自給率が低迷し、日本経済が停滞を続けている理由の1つなのである。また、⑩は、再エネで電力を賄えるようになるまでの経過措置にすぎないため、目先の需給が逼迫したからと言って後戻りさせれば、国産再エネもまたEVと同じ経路を辿るだろう。

2)著しく低い食料自給率と人口分散失敗の理由
イ)国交省・総務省の問題点
 過疎法に基づく過疎自治体の数を820から885に増やすことが、*2-4-1のように、4月1日に官報で公示され、全市町村に占める過疎自治体の割合は47.7%から51.5%に上昇して半数を超えたそうだ。

 自治体は、①過疎自治体になるとインフラ整備事業などで国の手厚い財政支援を受けられ ②割合の増加は人口減少の進行に加えて過疎の要件緩和が影響しており ③国と自治体の取り組みによって過疎地を活性化できるかどうかが問われ ④過疎自治体になると「過疎債」を発行して、インフラ整備事業などの財源を確保でき ⑤「過疎債」の元利支払費の7割は国が地方交付税で手当てされるため、地方側に「支援対象を幅広くしてほしい」という意向が強く ⑥選挙対策からも自治体の意向を無視できずに過疎要件を緩和し続け、過疎自治体の割合はほぼ一貫して伸びている と書かれている。

 私は③は正しいと思うし、そのためには、過疎になった理由をリストアップし、解決するための総合計画を作って達成することが必要で、それに必要なインフラは整備する必要があるため、①④⑤も必要だと思う。そのため、②も、国土を無駄なく使って食料やエネルギーの自給率を高めるために必要だが、使わないインフラを作るのは無駄であるため、「Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)」のサイクルをしっかり行うことが重要だ。

 ⑥については、議員が地元から陳情されれば拒みにくいが、近年は地方公共団体の外部監査も整ってきたので、独立性と専門性を有する包括外部監査人がPlan・Do・Check・Actionが適切に行われているか否かについても報告するシステムにし、そのやり方を自治体にアドバイスすれば、民間企業並みにできると思う(https://www.soumu.go.jp/main_content/000059448.pdf 参照)。

 このPlan・Do・Check・Actionが適切に行われていない例は、*2-4-4の津波で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市の復興で、住宅の高台移転はよかったが、高台の下の浸水域を最高16㍍盛り土したかさ上げ工事は17.9㍍の最大津波が来る地域にしては中途半端で安全性が低く、そこに気仙小学校を3年前に新築し、気仙中学校は高台ではなく気仙川のほとりにあるということで、驚いた次第だ。
 
 これでは、走る車が少なく、空き地が目立つのは当たり前で、人口が減り、空き地が増えたのなら農林漁業や関連加工産業に従事してもらえばよいと思われる国内移住者や外国難民に移転を奨めることもできない。また、小中学校が地震・津波の際に安全を守り、避難センターになることも考えておらず、また災害が起こって流出したら建てなおすつもりかと呆れられた。

 このかさ上げのために、総延長約3㌔の巨大ベルトコンベヤーで約500m³(東京ドーム約4個分)の土砂を高田町に運び、1年半かけて浸水域に盛ったが、造成規模が大きく整備は長期化し、時間を費やす間に住民が流出したと書かれている。しかし、元住民も、巨額の資金を使った割には中途半端な安全対策に愛層をつかして移住したのではないか?

 また、津波だけではなく津波以外の防災についても考えておくのが当然であるため、今後は適切にPlan・Do・Check・Actionを行い、災害から身を護れる構造の建物を造るべきだ。

ロ)経産省の問題点
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、*2-4-2のように、①世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して1.5度以内に抑える目標達成の方策をまとめ ②世界の温暖化ガス排出量は遅くとも2025年には減少に転じさせる必要があり ③CO₂排出量を2030年に半減させるには最大30兆ドルの投資が必要だとし ④再エネ普及や化石燃料からの脱却など需給両面で各国に対策を迫って ⑤脱炭素に向けた将来への投資を改めて各国に促した そうで賛成だ。

 また、IPCCがCO₂排出削減にかかる費用を分析したところ、⑥太陽光発電や風力発電は技術進歩等で既に導入コストが下がり ⑦100ドル以下のコストでCO₂1tを減らせる再エネの導入を進めれば、世界全体の排出量を2030年までに2019年の半分に減らすことができ ⑧化石燃料を使う発電所をそのまま稼働させれば温暖化ガスの削減目標は達成できず ⑨温暖化が進めば激しい自然災害等で経済活動に支障が出て、気温上昇を抑える効果は温暖化対策にかかる莫大なコストを上回る可能性が高い としたそうで、そのとおりだ。

 さらに、⑩IPCCが示した再エネ導入費用と温暖化ガス削減の効果から推計すると、2030年までに排出量を半減するために必要な投資額は最大30兆ドル(約3680兆円)に達する可能性があり ⑫世界のクリーンエネルギー関連投資は現状年1兆ドル規模で ⑬20~30年に必要な年間の平均投資額は現在の水準の3~6倍になるが ⑭温暖化ガス削減の実効性を高めるには、経済成長で排出量が増えるが対策が遅れた途上国での技術導入も重要で ⑮太陽光や風力などの再エネやEV技術を持つ企業にとっては、こうした投資の必要性は成長の好機となる そうで、これも全く同感だ。

 そして、1997年に京都で開催されたCOP3では、採択された京都議定書をまとめたリーダーだったのに、現在は再エネやEVの技術で日本が遅れてしまったのは、現状維持圧力によって後戻りばかりして再エネやEVを普及させず、コストを高止まりさせてしまった経産省の問題である。

ハ)農水省の問題点

 
             2022.1.3朝日新聞、論座より

(図の説明:左図は、牛乳から生まれる乳製品で、中央の図は、それが可逆的であるということ、右図は、中国に対する国別牛乳輸出の推移だ)

 牛乳は、それだけで子牛の成長を支える栄養満点の飲み物で、人間にとっても栄養や成長ホルモンを含む有益な食品であるため、私もなるべく多く摂るよう工夫している。しかし、*2-4-3のように、政府が農業政策目的で、「廃棄を防ぐために、牛乳をいつもよりもう1杯多く飲んで」と消費者に向かって言うのは、工夫がなさすぎると思うため、「日本の農政は、何故こうなるのか」について説明する。

 朝日新聞の論座に、①わずか数年で牛乳が不足から過剰になった仕組み→行き当たりばったりの政策 ②時代遅れになった過去の成功体験 という記事を、農水省で酪農・牛乳問題に係わった後にキヤノングローバル戦略研究所研究主幹をされている山下氏が書いておられる。しかし、①の「行き当たりばったりの政策」とうのは正しいが、農水省の政策が成功だったことは殆どないため、②は誤りだ。

 具体的には、③数年前にバター不足が大きな問題となった時、農業の専門家たちは酪農家の離農で生乳生産が減少したと主張し ④今回は新型コロナで需要が減少したため年末年始に余った生乳5,000tが廃棄される懸念が出て、岸田総理が「1杯多く飲んで」と呼びかけ ⑤生乳は需給調整の難しい産品で過剰や不足を繰り返し、その都度行き当たりばったりの対策が講じられたが ⑥牛乳が難しい理由は、生産面で酪農が飲用乳向け主体の都府県とバターなどの加工原料乳向け主体の北海道に分かれ、商品面で生乳から様々な商品が加工され、加工したものを牛乳に戻すことができる可逆性があることで ⑦冬に余った牛乳からバターと脱脂粉乳を作り、それを夏に加工乳にして供給する方法がとられ ⑧全国各地に余乳処理工場があった頃はバター・脱脂粉乳が余ると過剰に牛乳が作られてしまい、牛乳価格、酪農家の手取りとなる生産者乳価が低下し ⑨バター・脱脂粉乳向けの生乳価格は飲用向けより安く、通常の飲用牛乳よりも安いコストで還元乳を供給できるため、牛乳と還元乳との値段の差がそれほどなければ 乳業メーカーにとっては加工乳を作った方がもうかる ⑩農水省担当課の人は酪農・乳業・牛乳・乳製品の現状や制度の細部に精通しているが、農水省に経済学を勉強した人は極めて少なく、既存制度や発想の枠組みを超えられない役人の限界がある と書かれている。

 しかし、農水省の政策が成功しない理由は次のとおりで、まず、③については、離農もあったが、大規模化・機械化が進めば少ない人数で同量以上の生産ができ、生産効率が上がらなければ酪農家の所得を根本的に上げることはできないが、それを理解していない人が多いことだ。

 また、⑤のように、生乳が需給調整の難しい産品で過剰や不足を繰り返すのなら、消費者に不便をかけずに生産者が所得を上げるには、冷凍するか、殺菌してパック詰めするか、加工するしかない。そのため、⑥⑦⑨のように、可逆性があることは、メリットであってディメリットではなく、④のように、余剰が出て廃棄されるので消費者が1杯多く飲まなければならないなどと言ったり、⑧のように、バター・脱脂粉乳が余ると過剰に牛乳が作られて、酪農家の手取りとなる生産者乳価が低下する などと言ったりするのは、安価で良質の食品を提供するという生産者の責任を放棄しており、工夫も足りない。

 さらに、⑪国際的に牛乳は腐りやすいという自然の貿易障壁があって貿易されてこなかった ⑪乳製品は貿易されるのでバター・脱脂粉乳を輸入して牛乳を作れば、事実上牛乳を輸入することが可能 ⑫乳製品輸入は牛乳の国内市場にも影響を与えるので、関税(バター360%、脱脂粉乳218%)や国家貿易で輸入制限されてきた ⑫生乳が余ったからバターに加工しても、いずれ加工乳が作られるので解決策にならない とも書かれている。

 しかし、生乳が余れば、加工して日本から海外に輸出すればよいのであり、この時、日本製の価格が品質の差以上に高すぎて競争力がないのなら、普段から独占・寡占の状態にして価格を高止まりさせ、海外と比較して購買力を低くし日本の消費者に迷惑をかけているのだ。また、食料の足りない国も多いため、ODAで脱脂粉乳を送ったり、乳児用ミルクを送ったりすれば、比較的安価に友好国を増やすこともできる。

 なお、*2-4-3には、⑬農水省の担当者は、生乳の供給を削減するか、牛乳・乳製品の消費拡大を考えるしかなかった ⑭一定量の生乳から需要に合ったバターを作ると脱脂粉乳が余ってしまい、脱脂粉乳が過剰になると加工乳が作られて牛乳全体の供給が増える ⑮そうなると、都府県の酪農家にとって重要な飲用向けの生乳価格が低下するのを、農水省や酪農界は恐れた ⑯こうして脱脂粉乳が余らないよう生乳の供給を抑制し、そうなるとバターも少なくしか供給されなくなった とも記載されている。

 しかし、⑬⑭⑮⑯は、日本国内の飲用向け生乳価格を維持することのみを考え、細かく生産量・消費量の統制をし、小さく分けすぎて簡単なことを複雑化しつつ、結果として誰も幸福にしていない。従って、⑩のように、農水省の人は経済に弱く、既存制度や発想の枠組みにはまって小さく固まっている。そのため、私は、経産省と農水省は合併し、両方の長所を出し合って、産業政策として農林水産業を伸ばしつつ、食料自給率やエネルギー自給率も向上させ、経済安全保障を全うできるようにした方が良いと考える。

 なお、"不足払い法"のような補助金政策は、農水省や自民党議員への酪農家の依存度を高め、自民党議員への投票行動を促す効果はあるが、米と同様、作りすぎを規制するため生産意欲を無くさせる。そのため、放牧しやすいように牧場の整備を行い、酪農家が広い土地や施設を持っていることを利用して再エネ発電器の設置に補助し、再エネ電力収入で酪農家の所得を下支えするようにした方がよいと思う。

 また、⑰生乳生産量が減少したのは、飲用の需要を緑茶飲料にとられたから とも記載されているが、パイの取り合いをするのは間違いだ。何故なら、私は「緑茶飲料」を定期的に買うが、その理由は、i) カロリーがない ii) 歯磨きした後の口を汚さない iii) 殺菌力がある iv) 水道水をそのまま飲めない地域に住んでいる v) 茶葉を買って飲料水を作らなくてすむ などの牛乳とは異なる効用があるからである。

(3)外交・防衛の問題点と経済安全保障


 2021.11.26産経新聞    2022.2.1朝日新聞     2021.12.17東洋経済

(図の説明:左図の「国家安全保障戦略」など3文書の改定を巡り、自民党は敵基地攻撃能力の保有等を視野に入れた防衛費増額の検討を本格化させたそうだ。また、中央と右の図のように、経済安全保障推進法は、メディアがウクライナに集中して殆ど報じないうちに、4月7日、衆院本会議で自民・公明・立憲民主・日本維新の会・国民民主の賛成で可決された)

1)防衛費をGDP比2%以上に増額すれば国を守れるわけではないこと
 *2-4-5は、①米国はロシア対処のため欧州に力を割く割合を高めざるを得なくなった ②アジアで中国や北朝鮮に対峙するため日本に防衛力強化を迫る可能性があり ③自民党は台湾有事に備えて防衛費を22年度予算のGDP比1%前後から2%以上に高める提言を4月中にまとめ ④増額分の使途は敵の攻撃射程外から反撃する装備やサイバーのような新領域の部隊増強、米軍との共同訓練の拡大などが想定され ⑤年末に改定する国家安全保障戦略への反映をめざす ⑥ウクライナ侵攻後、米国は23会計年度の国防費を22年度比4%増やすと掲げ、ドイツもGDP比で1.5%程度だったが2%以上に高める と記載している。 

 しかし、①②は、それが防衛予算増額の口実ではなく、事実であることを明確にしなければ議論が始まらない。

 また、③についても、日本は、1972年の日中国交正常化の前提条件として、当時の田中内閣が「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」という共同声明を出しており、現在もその立場をとっている(https://www2.jiia.or.jp/RESR/column_page.php?id=141 参照)ため、まず台湾に中華人民共和国とは異なる独立国であることを明確にしてもらわなければ、台湾が中華人民共和国に武力攻撃されても、日本は集団的自衛権を行使して援助することはできない。

 さらに、「GDP比2%以上に高める」という根拠も、⑥の米国は4%に増やし、ドイツも2%以上に高めるというのもロシアの侵攻でウクライナに武器供与などを行った欧米諸国の動向にすぎず、平和憲法を持つ日本が最少限の必要経費を積算したものではないため、やりすぎだろう。

 そして、④の増額分の使途は武器だが、戦争は武器だけでできるわけではないため、⑤の年末に改定する国家安全保障戦略には、イ)日本本土が攻撃された場合に甚大な被害を受けないための5年以内の原発撤去 ロ)中華人民共和国及びその同盟国から制裁や海上封鎖を受けても困らないための5年以内のサプライチェーン変更 ハ)中華人民共和国及びその同盟国から制裁や海上封鎖を受けても困らないための5年以内の食料・エネルギーの自給体制 二)最後に闘いになった場合に最小のコストで自衛するための軍備 を記載する必要があることになる。

 つまり、外交でやるべきことをやっておらず、生産は相手国におんぶにだっこされながら、GDP比2%以上の支出で軍備だけを整えても、戦争することは不可能であり、これらを総合的に考えていない点が日本の外交・防衛の問題点なのである。

2)国家安全保障戦略など3文書改定で国や国民を守れるのか?
 自民党安全保障調査会は、*2-4-6のように、「国家安全保障戦略」など3文書の改定を巡り、①敵基地攻撃能力の保有を視野に入れた防衛費の増額に関してGDP比2%目標の達成を前提に「論点整理」を示し ②中国や北朝鮮の軍事動向を念頭に「5年後に戦える自衛隊をつくる」などと増額ペースを加速すべきだ という意見が出たそうだ。

 しかし、1)にも記載したとおり、①の敵基地攻撃を行えば、それが合図となって戦争が始まり、戦争が始まれば自衛隊や武器だけで戦えるわけではない。そのため、ロシア・ウクライナ戦争を見れば具体的にわかるとおり、原発・化学工業地帯・石油備蓄基地などの危険物を除去し、建物には地下シェルターを標準装備し、食料・エネルギーの自給率を上げ、戦費を出すため貿易収支と財政収支の双子の赤字を無くす必要があり、それを、②の「5年後に戦える自衛隊をつくる」のであれば、5年以内に行わなければならないのである。

3)経済安全保障推進法で国や国民を守れるのか?
 経済安全保障推進法案が、*2-2-4のように、2022年4月7日、衆院本会議で自民・公明・立憲民主・日本維新の会・国民民主の賛成多数によって可決された。しかし、これは重要な質疑だったのにTVで放映される機会が非常に少なかったため、重要な事項について正確な情報を国民に伝え、国民が選挙で正しく代表を選ぶことを助けるべきメディアが、民主主義を護る社会的責任を果たしていなかったと思う。

 なお、具体的規制内容は、①サプライチェーンの強化として国が生産設備基盤強化を支援するのは半導体・レアアース・蓄電池に限り ②基幹インフラ(エネルギー・水道・金融・情報通信・運輸・郵便)の事前審査を国が行い ③先端技術の官民協力は宇宙・海洋・AI・量子・バイオで ④原子力や武器関連の技術は出願時の特許を非公開にできる仕組みを設定し ⑤罰則も設ける というもので、「自由な経済活動に対する過度な制限に繋がる」と主張した野党の懸念に対応する付帯決議をつけたため、賛成多数で採択されたのだそうだ。

 しかし、経済安全保障において国が生産設備基盤強化を支援しなければならない1丁目1番地は食料・エネルギーである。そして、①③の半導体・レアアース・蓄電池・宇宙・海洋・AI・量子・バイオなどの先端技術は、産業の付加価値向上のために普段から大学や研究機関が研究しやすく、国内での生産がやりやすくなるように、国が資金・人材・場所等で補助を行い、④⑤のような経済安全保障は防衛関係品に限るべきなのだ。
 
 また、②の基幹インフラの事前審査を行うのも建前はよいものの、これまで、国は、エネルギーや食品で自給率を高めるための工夫もせず、水道・金融・情報通信・運輸・郵便システムは数十年遅れであり、新しいことをしようとすれば審査がむしろ抵抗勢力に味方するというお寒い状況だったため、信用できないのである。

 さらに、④の罰則をつけて原子力や武器関連技術の出願時特許を非公開にできる仕組みは、国民に秘密にしながら何でもできる状態にするため、民主主義の根幹にかかわるので厳格に制限すべきだ。

 これに先立ち、*2-2-1・*2-2-2・*2-2-3・*2-2-4のような議論が新聞に掲載されていたが、これらによると、⑥経済安全保障推進法の施行は2023年以降 ⑦3段階に分けて実施する方針 ⑧半導体等の戦略物資をめぐる米中覇権争いを受けて供給網強化と先端技術協力の2分野は法律公布後9カ月以内に施行 ⑨「特許非公開」は2024年施行 ⑩基幹インフラはサイバー攻撃対策のため法律公布後1年6カ月以内に審査対象を指定 ⑪命令措置は1年9カ月以内に施行 ⑫野党には規制対象の範囲が曖昧だと問題視する意見があり対案も出ており ⑬国民民主は、重要物資にエネルギー・鉱物資源・食料安定供給の確保も明記していた ⑭2010年の沖縄県・尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件を機に中国が日本向けレアアース輸出の禁止措置に踏み切り、中国からのレアアース輸入に依存していた日本経済界は混乱に陥った ⑮議論は未だ消化不良 としている。

 しかし、言うべきことを言えば⑭のようなこともあるため、日本における原料の自給率向上は必要不可欠で、⑬の第1次産業の復活は特に重要だ。そのため、米中覇権争いを受けて単純に欧米に追随し、⑥⑦⑧⑨⑩⑪を行うのでは、欧米とは異なる日本の長所を伸ばし、短所を是正するように主体的に考えておらず、⑫⑮のとおり、消化不良と言わざるを得ない。

(4)金融緩和の継続とお手盛りの予算について
1)金融政策について


  2022.4.14日経新聞     2021.12.31時事      2021.10.16日経新聞

(図の説明:左図のように、円の対ドル相場は日銀による「異次元の金融緩和」で下がり続けている。また、中央の図のように、消費者物価指数は、2019~22年に新型コロナによる供給制約で上がり、2022年のロシア制裁によるエネルギー・食料価格の上昇によって著しいコスト・プッシュインフレーションが起こるに至った。一方で、右図のように、購買力平価ベースの日本の年収水準は一定で、他の先進国は生産性上昇に伴って上がっているため、現在は先進国平均の8割弱になったが、これは「異次元の金融緩和」の目的の一つなのである)

イ)日本経済が円安とコストプッシュインフレーションに陥った理由
 *2-1-1は、4月13日の円相場が126円/米ドル台前半まで下落して20年ぶりの安値となり、①その理由は資源高によるマネーの海外流出を輸出増加でカバーできない経済構造への変化で ②経常収支赤字が定着するとの見方も浮上しており ③米国等が金融引締に動いて金利上昇圧力が高まる中、日本は金融緩和をやめられずに低金利政策を続けるため内外金利差が拡大し ④エネルギー価格の高止まりと円安で個人消費が打撃を受け ⑤日銀黒田東彦総裁の「現在の強力な金融緩和を粘り強く続ける」という発言で円安がさらに加速した と記載している。

 このうち、①は、エネルギー・食料・鉱物資源を海外に依存しつつ、「日本は加工技術の優れた加工貿易の国である」などと1990年の東西冷戦終了時に終わり始めた論理を信じ続けていることに原因がある。つまり、日本企業は生産拠点を生産コストの安い新興国に既に移し、研究開発拠点は研究開発の容易な先進国に移して、日本国内では、金融緩和による円の価値の低下により皆で貧しくなりながら過去の蓄積を食いつぶしつつやってきたのだが、今後は、②のように経常収支の赤字が定着して急速に貧しくなるということなのである。

 また、③⑤のように、他国が金融引締に動いても日本が金融緩和をやめられない理由は、金融緩和していた期間に必要な構造改革を行わず、現状維持のためのバラマキを続けてきたため、成長力のある産業が育たず、国内消費だけでなく国内投資も減り、国債残高だけが著しく増えたため、金利を上げれば国が破綻するからである。

 さらに、「日本経済は強い」と錯覚している馬鹿なメディアが「中国制裁だ、ロシア制裁だ、北朝鮮制裁だ」と大合唱し、政治・行政も正確な情報を言えずにメディアの論調に従ったため、④のように、エネルギー価格の高止まりと円安で個人消費は大打撃となった。その上、*2-1-1は、「貿易赤字の主因は原発停止によるエネルギー輸入の増加。円安を止めるために原発を再稼働すべきだ」などというエコノミストの意図的な意見を掲載しているが、これは、再エネで資源の輸入を抑える改革を行わせなかった現状維持圧力の一つである。

 つまり、日本の経済政策・金融政策は、世界人口の増加とグローバル化で必ず起こる事実に基づく現状分析を行って政策を決めるのではなく、やりたい政策を屁理屈をつけてやっていることに失敗の原因がある。そして、これは第二次世界大戦の時も同じだったが、この傾向は、調査した事実を分析する方法を勉強せず、「観念的に法律で決めれば、自然現象や経済現象もそのとおりに動く」と思っている法学部卒に多いようだ。

ロ)「良いインフレ」「悪いインフレ」とは、どういうインフレなのか
 *2-1-3は、黒田日銀総裁は、20年前、⑥中国はデフレを輸出している ⑦消費者物価下落が5年目に入った日本は物価安定目標の採用を含む抜本的な金融政策転換を図るべきだ とされ、その後、⑧デフレが諸悪の根源で ⑨13年3月の就任直後から2%のインフレ目標を掲げ ⑩異次元の金融緩和を日本経済がデフレから抜け出すまで続けるとなったが ⑪9年経過した2022年2月の消費者物価指数上昇率は前年同月比0.6%の上昇に留まって目標に届かず ⑫円安の大波が押し寄せて悪いインフレに陥っている としている。

 しかし、⑥については、当時の「元」は安く設定されすぎていたのかもしれないが、為替が自由化されても生産コストの安い国で生産した方が輸出競争力があるのであり、技術は生産国で磨かれる。また、⑦の物価下落は、生産コストの安い国で生産できるようになり、グローバル化によって米国を含む世界全体で起こったことであるため、これを妨げるには鎖国するしかないが、それは日本国民の著しい犠牲が伴うものだ。従って、⑧は、グローバル化と新興国の世界経済への参入で起こった経済現象を、悔しがって逆恨みしているにすぎないのである。

 また、*2-1-2は、⑬外国為替市場で円安が進み、消費財メーカーが製品の値上げを発表し、アベノミクス下で日銀が9年前から目標としていた2%インフレ目標は来月にも達成する見通しになった ⑭目標を達成したら終える筈の大規模緩和を黒田総裁は引き続き「粘り強く続ける」とし ⑮黒田総裁は現在のインフレ要因は殆どが資源価格高騰によるもので「好ましいものではない」からだとし ⑯食料品・ガソリン等の生活必需品値上げに「生活が苦しくなる」という人々の声が多い と記載している。

 そのため、“悪いインフレ”の定義は、「資源価格高騰等によるコストプッシュインフレーション」で、“良いインフレ”の定義は、「⑰値上がり分を吸収できる所得増加が見込まれ ⑱物価上昇が継続する状況下でも全体的な需要が持続的に旺盛な状態で ⑲インフレ期待→消費喚起→経済活動拡大→所得増→購買力増の好循環になり ⑳値上がりする前に消費しておこうと大勢が判断することで経済活動が促進されるもの」 なのだそうだ。

 しかし、⑰については、金融緩和しただけでは生産年齢人口の所得増加は見込めず、高齢者の所得は年金・福祉の負担増・給付減でむしろ減少しているので、全体の実質所得(=購買力)は低下したわけである。また、⑱⑲⑳のように、物価上昇を期待するから購買するなどという人は土地バブル時代を除いてないため、“良いインフレ”の定義自体が(私が最初から言っていたとおり)経済学の現象としてないのである。

 つまり、そもそも日銀のような中央銀行の役割は、「紙幣の発行」「物価の安定」「金融システムの安定」であり、EUでは欧州中央銀行(ECB)、米国では連邦準備制度理事会(FRB)が同じ役割を担っており、⑨⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯のような異次元の金融緩和を行ってバブルやインフレを作り出し、国民の実質財産を減らすことでは決してないということである(https://job.career-tasu.jp/finance/special/today_future/306/ 参照)。

2)財政政策について


  2022.3.22日経新聞     2022.3.22毎日新聞     2021.12.26日経新聞

(図の説明:左図のように、2022年度の歳出は、社会保障関係費36.3兆円と国債費24.3兆円が大きく、明細は不明だが、社会保障関係費の殆どは国民のために使われている費用と言える。しかし、国債費は旧国債の償還分と支払利子分が合計して表示され、新規国債発行が36.9兆円あって、金融緩和と低金利政策をやめると新規国債発行分の支払利子が増える。なお、税収は65.2兆円で全歳入の60.6%しかなく、税外収入も全歳入の5.1%しかないが、中東・ロシア等の資源国は税外収入が大きいわけである。また、中央の図のように、一般会計で税収で賄っているのは、通常は歳出の2/3弱だが、2020年は新型コロナ関係支出が著しく増え、毎年の差額が国債残高の積み上げとなる。そのため、右図のように、日本は債務比率が高く、ギリシャ以上である)

 *2-1-4は、①一般会計総額107兆5964億円の2022年度予算が3月22日の参院本会議で可決し ②社会保障費は初めて36兆円を突破し ③防衛費も台湾海峡などに対応するため5.4兆円規模にし ④新型コロナ感染再拡大に備えて2021年度と同様5兆円の予備費を積んだが ⑤岸田首相は当面の原油・食料高騰対策に予備費を活用する方針で ⑥ロシアへの経済制裁によるガソリン・穀物・食料品等の価格高騰対応策の参院選前の執行をめざし ⑦人への投資・科学技術立国・グリーン・スタートアップ等の成長力の底上げに資する骨太の方針を6月にまとめ ⑧2022年度補正予算を伴う経済対策も6月にまとめて参院選後の実施を見込む と記載している。

 このうち、②の社会保障費36兆円が大きいか、小さいか、また節約できる場所があるかについては、明細を見て内容を分析しなければわからないが、③の防衛費5.4兆円規模というのは、必要な支出を積み上げて見積もったのではなく、規模ありきの金額で秘密も多いため無駄が多いと思われる。

 また、④の予備費は不測の事態なら何に使ってもよく、余れば戻すため、⑤⑥のように、ロシア経済制裁によるガソリン・穀物・食料品等の価格高騰対応策に使うこともできるが、日頃から計画的に⑦のような歳出を行っておけば、自給率や生産性を上げるわけでもないガソリン・穀物・食料品等の価格高騰対策のためにバラマキをしなくてすむのだ。

 なお、公会計制度を取り入れて継続的な検証を行っているのが、上の右図はじめ多くの国々なのだが、日本の場合は、①のように、1/3以上を新規国債発行で賄う107.6兆円の2022年度一般会計予算を3月に成立させても、6月には⑧のような2022年度補正予算を伴う経済対策をまとめて参院選後の実施を見込む というコントロールのなさなのである。

 *2-1-5は、⑨名目3%・実質2%という経済成長率の見通しと実績とのズレが他の先進国の倍近い ⑩成長戦略や国・地方の基礎的財政収支が2026年度に0.2兆円の黒字になるという財政健全化の議論は現実離れしている ⑪マイナス成長だった年も6回ある ⑫そのため歳出削減努力が疎かになって予算の無駄な膨張を招きがち ⑬解決策は、OECD加盟38カ国中約30カ国が持つ「独立財政機関」の創設 と記載している。

 私も、⑨⑩⑪⑫のようなお手盛りの見積りによる使いたい放題の財政では、効果的な財政運営ができないため、⑬のような中立の立場で財政の試算を出したり、政策効果を検証したりする組織が必要だと思う。そして、国会議員は、正確なデータや第三者の意見を参考にしながら、決算委員会における決算の検証や予算委員会における次年度予算案の議論を行った方が、効率的で生産的な議論ができると思う。

 そうすれば、*2-1-6の、⑭国債の発行残高は2021年度末に1000兆円を超える見通しなのに ⑮一般会計の歳出規模は過去最大でありながら ⑯与野党ともに参院選に向けて物価高対策のための追加経済対策や補正予算の議論が盛り上がる という事態は、避けられるだろう。

(5)人的投資とジェンダー・ギャップ
1)人的投資に関する世界と日本の流れ
イ)「人的資本」の開示について
 「人的資本」とは、個人が持つ知識・技能・能力・資質などを、付加価値を生み出す資本と見なして投資の対象とする考え方で、優秀な人材を採用したり、教育・訓練を行って育成したりすることによって蓄積され、生産性の向上やイノベーションに繋がるもので、企業の競争力を左右するものでもある。

 そのため、現在、*3-3-2のように、企業が抱える人材の価値を示す「人的資本」の開示を求める動きが世界各地で進み、新興国ではインドが2022年度から時価総額上位1000社にESG情報・人材の多様性・離職率・賃金・福利厚生・労働安全衛生などの開示を求め、ブラジルも2023年から上場企業に性別・人種などの多様性に関する情報開示を促す方針だそうだ。

 また、EUは、2022年10月にも人的資本を含めたESG(環境・社会・企業統治)の情報開示ルールを策定し、対象を海外企業の欧州拠点を含む約5万社に広げて取引先従業員まで含めた開示を求め(さすが!)、米国も2021年秋に退職率・スキル・研修、報酬・福利厚生などの開示を検討しているそうだ。

 日本は、今夏、女性や外国人社員の比率、中途採用者の情報に加え、リスキリングなどの人材教育、ハラスメント行為の防止策などを対象にして情報開示指針を作り、金融庁も連携して上場企業を中心として有価証券報告書への記載義務付けを視野に入れるそうだ。

 定性的だけでない定量的な人的資本の開示がグローバルな基準によって義務化されれば、国・地域によって労働法制が違ったり最適な人的資本構成が違ったりはするかも知れないが、投資家・債権者・求職者等の利害関係者が比較するため企業の意識も上がり、労働法制や開示基準も次第に改善されて有益だと、私は考える。

ロ)日本における勤務時間主義から成果主義への転換
 日本の労働基準法は勤務時間(=拘束時間とされる)に応じて賃金が決まる「時間給」を原則としているが、これは、工場で流れ作業をしている場合を除いて成果とは一致しない。また、企業が勤務時間を労働に報いる賃金の尺度にしている限り、従業員の働き方に対する価値観は変わらないため、労働時間ではなく成果を重視する労働法制への変更が必要だ。

 このような中、*3-3-3のように、日本政府は2021年6月に閣議決定した経済財政運営の基本方針に選択的週休3日制の促進を盛り込んだ。そして、日立が月間の所定労働時間を勤務日毎に柔軟に割り振ることができる新制度を2022年度中に導入し、給与を減らさず週休3日にできる新しい勤務制度にして多様な人材を取り込み、従業員の意欲を高めて生産性を引き上げることにし、パナソニックホールディングス(HD)やNECも週休3日を検討するそうだ。

 また、英レディング大学が週休3日を導入した英国の経営者約500人を対象にした2021年11月の調査で、68%が「優れた人材の獲得に繋がる」と答えたそうだが、採用時に優れた人材を獲得して向上の機会を提示すれば、3日間の休日を使って勉強したり、視野を広げる活動をしたりできるため、よい循環が生じると思われる。

2)人的投資におけるジェンダー・ギャップについて

  
    清水氏ブログ    2021.3.8東京新聞     Huffintonpost

(図の説明:左図が2021年のジェンダーギャップ指数であり、日本は参加した156カ国中120位で、政治《147位》・経済《117位》などの職業に関する分野とそのための教育《92位》に関する分野で特に低い。また、中央の図は、分野毎の『指導的地位に女性が占める割合』で、政治・経済分野で特に低い。右図は、経済分野の中の項目毎の評価で、労働参加率と比較して管理職についている男女の差、収入における男女格差、専門職・技術職の男女差が大きく、同一労働を行っても男女間賃金格差があることもわかる)

 
     2022.4.17日経新聞

(図の説明:左図は、男女別・学歴別の年収の推移だが、就職時は高卒男性と大卒男女の年収の差はあまりなく、40代~50代の管理職になる時期に差が開き、大卒女性は管理職になりにくいため高卒男性の年収に近づくのだ。なお、「管理職にしない」というのは、組織の「配置や研修を通じた人的投資をしない」「意思決定権のある立場にするつもりもない」という意思表示で、これは女性の向上心や勉学への意欲を削ぐ効果がある。また、右図は、「ポジティブアクション推進が必要な理由」と「取り組まない理由」を調査したものだが、推進が必要な理由の殆どは従業員を公正に評価することによって能力を有効活用し、経営の成果を上げようというものであるため、当たり前のことであって女性に対してのみポジティブなわけではない)

イ)職業におけるジェンダー・ギャップ
 「人的資本」開示の動きは広がっており、*3-3-1のように、①2021年に統合報告書を発行した718社の約5割《382社》が女性管理職の登用目標を開示し ②約3割《246社》が従業員の研修体系を示すなど、開示は進み始めている。

 日本政府は、2021年6月改定の企業統治指針に「人的資本への投資を開示すべき」との文言を盛り込んだが、今後は、開示項目・数値目標・その目標にする理由などの具体的な開示基準が必要で、数値や達成度に関する監査も可能な限り行うべきである。

 これに先立ち、世界経済フォーラムが、*3-1-1のように、各国の男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数2021」を公表していた。1が完全平等を示すが、③日本の総合スコアは0.656で、順位は156か国中120位(前年は153か国中121位) ④先進国の中で最低レベル ⑤アジア諸国の中でも韓国・中国・ASEAN諸国より低く ④特に「政治《156か国中147位》」「経済《156か国中117位》」(どちらも職業分野)の順位が低く 各国がジェンダー平等への努力をしている中で、日本が遅れている事実が定量的に浮き彫りになった。そして、これは、私が職業生活の中で定性的に感じていた肌感覚と同じである。

 私は、1977年3月に東大医学部保健学科を卒業した時に、「女性は東大卒でも高卒と同じ資格でしか採用しない」と一般企業の採用担当者に電話で言われ、「就職時からこんなことを言われるようでは、先が真っ暗だ」と思って公認会計士を目指し、1982年に公認会計士二次試験に合格して、PW(当時のビッグ8)で働き始めた。

 勤務先のPWでは仕事上の差別はあまり感じずに済んだが、クライアントのケミカルバンク(チェースマンハッタンとの合併前)に往査に行くと、優秀な日本女性の管理職が多くおり、「日本の銀行とやりとりをすると、『上司を出せ』と言われるから、『うちはどこまで行っても女性です』なんて言い返すのよ」とぼやいておられた。当時の日本企業は補助職以外の女性を採用しなかったため、優秀な日本女性は外資系企業で働いていたわけである。そして、今でもその傾向はあり、かなり頑張ってきた私たちまで軽く見られて不快な思いをすることも少なくないが、そのような例は話せばきりがないくらいあるのである。

 そのような中、2022年3月23日、*3-1-2のように、女性として初めて米国務長官を務められたマデレーン・オルブライト氏が84歳で癌のため亡くなられた。ものすごく偉い人だ。私は、1997年か98年の日米投資協議に通産省(当時)を通じて参加する機会を得て「日本における組織再編や連結納税制度の必要性」について述べたことがあり、その時、国務長官として日本に来られたオルブライト氏にお会いした。日本側で参加した女性は私1人だったためか、オルブライト氏はにこにこしながら私のところに近づいて来られて話をされたのだが、私の方は米国の女性国務長官に話しかけていただいたのに、大した返事もできなかったのを今でも残念に思っている。今後の女性は、専門性や内容のある話を堂々と流暢な英語でやれなければ、世界では通用しないと心得ておくべきだ。

 一方、日本では今でも、*3-1-3のように、⑥女性が大都市に集まりがちな理由は、性別によって異なる暮らしやすさの差が地方に根強く残り ⑦地方に残る根強い性別役割意識も影響し ⑧都内の企業で働き始めた女性は、女性でもキャリアアップできる企業が多いことが上京の決め手になり ⑨今の若い女性はやりたい仕事が明確だが、希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題で ⑩男女を問わず希望や能力に応じて多様なキャリアを実現できる環境を整えなければ地域経済の活性化はおぼつかない 等の現象がある。

 地方では、これまで人的投資をして女性を職場で活躍させるという発想がなかったためか、仕事で活躍した女性が少なく、都会より女性の可能性・経歴・能力などを過小評価する傾向があり、その結果、職場での女性に対する人的投資も男性より少なくなっている。私は、それらの偏見に対して「失礼で、不快だ」と思ったが、国内の差は海外との差と比較すれば小さい上、差別されて心地よいと思う人はいないため、どの地域も人を差別するのはやめるべきである。

ロ)教育におけるジェンダー・ギャップ
 2022年4月17日、日経新聞は、*3-2-1のように、①大学の学部生に占める女性の割合は2021年度に45.6%と過去最高を更新し ②同じ大卒正社員でも年収には男女格差があって年齢が上がるにつれ差が広がり ③大学・大学院卒正社員の生涯賃金は男性2億6,920万円・女性2億1,670万円で、5,250万円の差がある ④厚労省は「格差の要因で大きいのは役職の違いと勤続年数の違い」とする ⑤英国など9カ国が「賃金格差報告制度」を採用して男女間賃金格差のデータの定期報告を義務付け ⑥岸田内閣は女性の経済的自立を中核に位置づけて男女の賃金格差是正のため企業の開示ルールを見直す と記載している。

 このうち、①は、男女の人口が、2021年12月1日現在、15~19歳は合計559万人・男性287万人(51.3%)・女性272万人(48.7%)であるため、大学入学割合全体ではあまり女性差別のないことがわかる(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202112.pdf 参照)。

 しかし、進学先に関しては、*3-2-2のように、未だに、⑦結婚相手探しに苦労するため、女性は東京大学へ進学するべきではない ⑧高学歴は、女性がよいパートナーを見つけることの障害になる ⑨キャリアは、女性がよいパートナーを見つけることの障害になる 等の女性の社会進出の妨げになるような潜在的価値観が少なからず存在し、⑩女性の幸せは、結婚して子どもを産むことに左右される ⑪女性の幸せは、仕事での成功に左右されない ⑫妻は夫の3歩後ろを歩くべきという考えに共感する ⑬妻は夫に意見すべきではない 等の性別役割分担意識や家父長制を維持したい保守的思考が親世代以上に少なくないため、男女格差があると思われる。そのため、学校での先入観や差別のない進路指導が重要になる。

 また、「従業員を公正に評価することによって能力を有効活用し、経営の成果を上げよう」と言うだけでは、この古い“常識(価値観)”を持つ人に評価される女性は、やはり能力を発揮できず、リーダーや管理職になれない。そのため、この状態を覆すには、能力の公正な評価だけでなく、リーダーや管理職の一定割合を女性にすることを義務づけるような本当のポジティブアクションが必要なのだ。

 ②③④の「同じ大卒・大学院卒の正社員でも、役職や勤続年数の違いから年収に大きな男女格差がある」というのは、専攻した学部の違いや性別役割分担意識の大きさの違いに依るところもある。しかし、私の経験では、夫婦が共働きを当然と考え、性別役割分担意識を持っていなくても、周囲がその状況を批判したり、子育てが母親の仕事にされていたりなど、社会システムが共働きをやりにくくしている側面が大きかった。そのため、⑤⑥については、その方向で女性差別の実態をしっかり開示し、原因分析して、改善していってもらいたいと思う。

 さらに、「女性の外見は、知性よりも重要である」という質問もあったが、そもそも外見は知性によって形作られる部分が大きいため、外見と知性は相反しない。また、男性にも知性に裏打ちされた外見は求められるもので、男女とも、そういう美しさが「クール」とか「スマート」とか言われる魅力である。なお、女性によく見かける馬鹿のふりをした「かわいさ」の演出は、魅力ではなく幼さだと思う。

ハ)「東大に行ったらお嫁に行けない」って、本当ですか? ← 嘘です 女性
 *3-2-3のように、「祖母が『東大に行ったらお嫁に行けない』と言いますが本当ですか?」という質問があり、米山隆一議員(灘高卒・東大理Ⅲ卒)が、「興味深い質問なので横からですが、私も回答させて頂きます」として、回答しておられる。

 そして、その内容は、①東大の女子学生は、東大内ではモテます ②理由は、男性8対女性2の人数比 ③この中からパートナーを選べば、結婚相手には困らない ④単なる体感だが東大卒の女性は独身率・離婚率とも高い ⑤その理由は「結婚しないでも困らない」「自分より尊敬できる人がいいという条件をパートナーに課す」など ⑥2SD以上の人は多くはおらず、仮にいてもその人と恋に落ちる可能性は高くない ⑦東大で学問すると、モテるモテない・結婚するしないから自由になれ、それだけでも頑張って受験勉強する価値がある などである。

 このうち、①②③は、女性である私の経験からも事実だった。さらに、同じ東大でも学部によって男女比が異なるため、男性の比率が高いところほどしっかり比較してよいパートナーを見つけやすく、これは職場でも同じだ。④については、このようなことがよく言われるため、さつき会(東大女子同窓会)で結婚率・離婚率を統計調査した女性の先輩がいて、その結果、結婚率は一般より高く、離婚率は一般より低かったため、単なる迷信であることが証明された。

 また、私の同窓生の中には、高校時代の恋人と結婚したため相手は東大卒でなかったり、高卒だったりするケースも少なからずあったので、⑤は事実ではない。さらに、⑥については、世界では東大がBestな大学でもないため、留学したり、外国で働いたりすれば、さらに新しい展望を開くこともできる。従って、⑦のように、学問を深めると、モテるモテない・結婚するしないだけではない次の展望が開けるため、頑張って勉強する価値は確実にあると言えるのだ。

・・参考資料・・
<ロシア・ウクライナ問題から>
*1-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ3T269PQ3TUHBI003.html?iref=pc_rellink_02 (朝日新聞 2022年3月25日) 国連総会「ロシアは即時撤退を」 決議採択もウクライナ大使は怒った
 ウクライナの人道危機が深刻化する中、国際社会が再び、ロシア軍に対して即時の完全無条件撤退を迫った。193カ国で構成される国連総会が24日、140カ国の賛成で、ウクライナの人道状況の改善に向けた決議を採択した。ただ、ロシアがどう受け止めるかは見通せない。総会では23日から、ウクライナ危機に関する「緊急特別会合」を再開。24日も各国の国連大使らが順次、ロシアに非難を浴びせた。「我々は、いかなる軍事同盟の当事者でもない中立国だ。中立性は憲法にも定められている」。オーストリアのマーシック大使は、国連加盟国として最後の70番目に演説台に立ち、そう話した。同国はEU(欧州連合)の一員だが、NATO(北大西洋条約機構)加盟国ではない。「中立とは、価値観の中立を意味しない。また、一方的な、正当化できない国際法違反に直面し、なんらの立場も取らないということでもない。被害者と侵略者をはっきり区別する決議案を、私たちは支持する」。採択された決議は、フランスとメキシコが中心となり、ウクライナと協力してつくられた。ロシアについては、ウクライナ領内で軍事攻撃をしている▽国連事務総長が停戦を求めている▽悲惨な人道的結果を生んだ――といった文脈で6回言及。「ロシアによる敵対行為の即時い停止」も求め、決議案への強い賛意を示す「共同提案国」は90カ国に上った。反対票を投じたのは、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5カ国。棄権票は中国やインド、ベトナムなど38カ国で、無投票は10カ国だった。ただ、採択後に40秒間の拍手が響いた今月2日とは違い、議場に熱気はない。理由の一つは、前回採択されたロシア非難決議の賛成数141カ国を上回れなかったことだ。たとえばアフリカ諸国(54加盟国)の棄権票は前回(17カ国)よりも増え、20カ国に上った。また、人道決議の採決直後に「もう一つの決議案」について投票が行われることになっていたことも影響した模様だ。この決議案を提出したのは南アフリカだった。南ア案は、同国が以前から一定の関係を保つロシアの責任には触れていない。また、23日に安全保障理事会で否決されたロシア提出の決議案と似ており、ウクライナのキスリツァ国連大使は二つを「双子の兄弟」と表現した。キスリツァ氏は「あなたの腕の中で死にゆく子どもを想像してください。何のチャンスもなく見捨てるのか」と机をたたいて怒りをあらわにし、南ア案への不支持を呼びかけた。南ア案を採決するかどうかを決める投票では、結局、反対が67カ国で採決前に廃案となった。一方、「採決に賛成」とする国も50に上った。ブラジルやエジプト、サウジアラビアやタイは、人道決議案と南ア案ともに賛成した。後味の悪さを残し、ロシアへの対応が必ずしも一枚岩ではない現状を露呈することになった。それでも、前回採択された決議とほぼ同じだけの支持を得たことは、欧米にとっては及第点と言えそうだ。国際社会の憤りがなお強いことを明確に打ち出せた形だ。「ウラジーミル・プーチンが、ウクライナで勝利を得ることはない。それは、ニューヨークでもそうだ」。採決後、報道陣にそう話した米国のトーマスグリーンフィールド大使は「141と140に差はない。ウクライナ国民とともに立たねばならない」と訴えた。問題は、ロシアがこの決議をどう受け止めるかだ。去り際に「次はなにを?」と問われたトーマスグリーンフィールド氏は、立ち止まって、こう答えた。「戦争を終わらせることだ」
■国連総会決議の要旨
・ウクライナにおけるロシアの軍事攻撃、その人道的影響が過去数十年間欧州で見たことがない規模であることを認識
・ロシア軍にウクライナからの即時完全無条件撤退を要求
・ロシアによるウクライナに対する敵対行為がもたらした悲惨な人道的影響に遺憾の意を表明
・民間人に対する保護、支援、安全な通行確保の必要性を強調
・世界的な食料不安の増大に懸念を表明
・原子力施設に対する攻撃の結果として起こりうる事故の深刻な人道的影響に懸念を表明
・南東部マリウポリなどにおける包囲を終わらせるよう要求
・平和的な手段による紛争の即時の平和的な解決を強く推奨
      ◇
 ウクライナの悲惨な人道状況はロシアの敵対的行為の結果だと断じ、ロシア軍の即時撤退を求める決議案について、国連総会における各国の投票行動は次の通り。
【共同提案国(賛成)=90カ国】
アフガニスタン、アルバニア、アンドラ、アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、豪州、オーストリア、バハマ、バルバドス、ベルギー
ベリーズ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、カンボジア、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、クロアチア、キプロス
チェコ、コンゴ民主共和国、デンマーク、ドミニカ共和国、エクアドル、エストニア、フィジー、フィンランド、フランス、ジョージア
ドイツ、ギリシャ、グレナダ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イスラエル
イタリア、ジャマイカ、日本、キリバス、ラトビア、リベリア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マラウイ
マルタ、マーシャル諸島、メキシコ、ミクロネシア、モナコ、モンテネグロ、ミャンマー、オランダ、ニュージーランド、ニジェール
北マケドニア、ノルウェー、パラオ、パナマ、パプアニューギニア、パラグアイ、ペルー、ポーランド、ポルトガル、韓国
モルドバ、ルーマニア、サモア、サンマリノ、シンガポール、スロバキア、スロベニア、スペイン、スリナム、スウェーデン
スイス、東ティモール、トンガ、トリニダード・トバゴ、トルコ、ツバル、ウクライナ、英国、米国、ウルグアイ
【共同提案国以外の「賛成」=50カ国】
バーレーン、バングラデシュ、ベナン、ブータン、ブラジル、カボベルデ、チャド、コートジボワール、ジブチ、エジプト
ガボン、ガンビア、ガーナ、ホンジュラス、インドネシア、イラク、ヨルダン、ケニア、クウェート、レバノン
レソト、リビア、マレーシア、モルディブ、モーリタニア、モーリシャス、ナウル、ネパール、ナイジェリア、オマーン
フィリピン、カタール、ルワンダ、セントクリストファー・ネビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サントメ・プリンシペ、サウジアラビア、セネガル、セルビア
セーシェル、シエラレオネ、ソロモン諸島、南スーダン、タイ、チュニジア、アラブ首長国連邦(UAE)、バヌアツ、イエメン、ザンビア
【反対=5カ国】
ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリア
【棄権=38カ国】
アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、ボリビア、ボツワナ、ブルネイ、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ共和国
キューバ、エルサルバドル、赤道ギニア、エスワティニ、エチオピア、ギニアビサウ、インド、イラン、カザフスタン、キルギス
ラオス、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、南アフリカ、スリランカ
スーダン、タジキスタン、トーゴ、ウガンダ、タンザニア、ウズベキスタン、ベトナム、ジンバブエ
【無投票=10カ国】
アゼルバイジャン、ブルキナファソ、カメルーン、コモロ、ドミニカ、ギニア、モロッコ、ソマリア、トルクメニスタン、ベネズエラ

*1-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ3M5K4CQ3MUHBI01G.html?iref=comtop_7_05 (朝日新聞 2022年3月19日) バイデン氏と習氏が互いに「警告」 ウクライナ・台湾巡り議論平行線
 ロシアのウクライナ侵攻後初となった18日の米中首脳協議では、両首脳がこの問題をめぐる互いの主張をぶつけた。バイデン米大統領は中国がロシアを支援すれば「結果」が伴うと警告し、習近平(シーチンピン)国家主席は「全方位的、無差別な制裁を実施しても苦しむのは庶民だ」と制裁による圧力に反対した。議論は平行線をたどり、国際社会の分断を色濃く映し出す結果となった。テレビ電話形式の協議は約2時間にわたり、米政権高官によると、ウクライナ問題が大半を占めた。バイデン氏は習氏に対し、米国が北大西洋条約機構(NATO)やインド太平洋地域の友好国と団結していると強調し、「中国がロシアに物質的な支援を行うことがもたらす影響と結果について明確に伝えた」という。中国が経済制裁の対象になることを示唆するものだ。
●米国が持つ警戒、中国がにじませた考え
 米政権は、中国がロシアへの軍事・経済支援に踏み切る可能性が高いとみて警戒している。ブリンケン米国務長官は17日、中国が対ロ支援を行えば「代償」を支払わせると明確に伝える、と語っていた。政権高官は「影響と結果」の具体的な中身については言及を避けたが、首脳協議後の記者会見でサキ大統領報道官は「制裁も手段の一つだ」と話した。一方、中国外務省によると習氏は「現在のウクライナ情勢は、中国も望まないものだ。中国はずっと戦争に反対している」と強調。そのうえで「各国がロシアとウクライナの交渉を支持すべきだ。米国とNATOもロシアと対話し、ロシア・ウクライナ双方の安全保障上の懸念を解消しなければならない」と、NATOの東方拡大に反対するロシアへの配慮を求めた。中国が平和交渉を仲介する可能性については、「カギを握るのは当事国が政治意思を示して解決方法を探し出すことだ。その他の国は条件を作り出さねばならない」とし、積極的には動かない考えをにじませた。両首脳は、台湾問題についても議論した。習氏は「米国の一部の者が『台湾独立』勢力に誤ったシグナルを送っており、非常に危険だ。台湾問題をうまく処理しなければ、両国関係に破壊的な影響をもたらす」と、逆に米側を警告。米政権高官によると、バイデン氏は「一つの中国」政策は維持しているとしたものの、台湾海峡における中国の挑発的な行動に懸念を表明したという。両首脳は対話の継続では一致したが、ウクライナ問題の解決へは「各自が努力する」とするなど、溝の深さが際立った。

*1-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220325&ng=DGKKZO59371410U2A320C2FF1000 (日経新聞 2022.3.25)ウクライナ「中立化」焦点、オーストリア型の永世中立国/スウェーデン型の軍事非同盟 ロシア側提示
 ロシアとの停戦協議で、ウクライナの「中立化」が大きな焦点になってきた。同国はすでに北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念したもようだが、中立化の条件として米国を含めた多国間での安全の保証を求める。ロシア側は中立化のモデルとしてオーストリア、スウェーデンをあげ、ウクライナ側に譲歩を迫っている。ウクライナのゼレンスキー大統領はすでに「NATOにはウクライナを受け入れる覚悟がないと理解している」と指摘し、加盟断念を示唆した。代わりに、NATOとは別の「信頼できる安全保障が必要だ」と訴えている。停戦協議ではウクライナ側が「米国、英国、トルコがウクライナの安全を保証する枠組み」の確立を求めているという報道もあるが、詳細は明らかでない。軍事同盟に入らず、いかなる戦争にも関与しないのが中立国の一般的な定義だ。ロシアのペスコフ大統領報道官は最近、ウクライナの「中立化」のモデルとしてオーストリア、スウェーデンが停戦協議のなかであがっていると確認した。オーストリアは国際条約に基づく「永世中立国」だ。「軍事非同盟」を外交の基本方針として「中立」を自称しているスウェーデンとは国際社会での扱いが異なる。いずれも欧州連合(EU)に加盟しているが、NATOには参加していない。欧州ではほかにスイス、フィンランドも中立を標榜している。スイスは、欧州をナポレオン戦争の前の状態に戻そうとした19世紀のウィーン議定書に基づき、永世中立国と認められるようになった。EU、NATOのいずれにも加わっていない。ロシアとスウェーデンに挟まれ、圧迫されていたフィンランドは1917年に独立。第2次世界大戦中に当時のソ連と戦火を交え、国土の1割を奪われた。戦後はソ連と友好協力相互援助条約を結び、「積極的中立主義」をうたった。反ソ連とみられる政治勢力を原則として排除し、ソ連崩壊後も「ロシアの顔色をうかがってきた」(外交関係者)。ロシアのウクライナ侵攻後、フィンランドの世論はNATO加盟に傾いているが、同国のニーニスト大統領は3月下旬に英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が伝えたインタビューで、NATO加盟には「大きな危険」が伴うと明言した。3月中旬のFTの報道によると、停戦協議では、ウクライナの中立宣言などを条件にロシアが部隊の撤収に応じるなど15項目の合意案がたたき台になっているもようだ。ウクライナの中立化について、同国のポドリャク大統領府顧問は、受け入れられるのが「ウクライナだけのモデルで、安全を法的に裏付けられて、はじめて成立する」と主張している。特定の国の例を参考にすることには消極的な姿勢を示している。

*1-1-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/68a860251a64c9feeb5693fde66be087b0d02de2 (Yahoo、読売新聞 2022/4/2) ロシア、キーウ近郊の空港から撤退…ウクライナ軍前進「30か所が管理下に戻った」
 ロシアによるウクライナ侵攻で、米CNNは1日、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港から撤退したと報じた。英国防省の2日の発表によると、キーウ周辺では露軍の撤退に伴い、ウクライナ軍が前進を続けている。一方、露軍は、軍事作戦の重心を移すと表明した東部や南部で支配地域の拡大に向け、ミサイルなどでの攻撃を強めている。アントノフ国際空港は、2月24日の侵攻開始直後から露軍が制圧していた。CNNは、米宇宙企業が3月31日に撮影した衛星写真と米国防総省関係者の分析を基に、空港に駐留していた露軍の軍用車両などが姿を消したと報じた。ウクライナ軍参謀本部は1日、キーウ周辺などの約30か所の地区が、露軍の撤退を受けてウクライナ側の管理下に戻ったと発表した。空港の南にあるブチャの市長は1日、「市が露軍から解放された」と明らかにした。一方、東部では露軍の攻勢が強まっている。ウクライナ軍は1日、東部ハルキウ(ハリコフ)州で輸送の拠点となっているイジュームを露軍が占領したと認めた。露国防省は、東部の複数の軍用飛行場をミサイルで攻撃したと発表した。南部オデーサ(オデッサ)では1日、ロシアが併合したクリミアから発射されたミサイルが着弾し、死傷者が出ているという。ウクライナ軍は2日、隣国モルドバのウクライナとの国境沿いでロシア系住民らが一方的に独立を宣言している「沿ドニエストル共和国」で、駐留する露軍部隊がウクライナへの攻撃を準備していると指摘した。一方、露軍が包囲する南東部マリウポリでは、赤十字国際委員会(ICRC)が住民の退避の支援に向け、2日も引き続き現地入りを試みている。ウクライナ大統領府の高官によると、1日にはマリウポリから独自に住民約3000人が退避したが、約10万人がいまだに取り残されているとされる。また、露南西部ベルゴロド州の燃料貯蔵施設がウクライナ軍のヘリコプター2機により空爆されたと露国防省が発表したことについて、ウクライナの国家安全保障国防会議のトップは1日、「事実と全く異なる」と露側の主張を否定した。

*1-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220404&ng=DGKKZO59673280U2A400C2MM0000 (日経新聞 2022年4月4日) キーウ近郊、民間人遺体400人超か 欧米「戦争犯罪」、国連、独立調査を検討
 ロシアがウクライナの占領地で市民を虐殺した疑いが浮上し、欧米各国が3日、「戦争犯罪」などとして非難した。ロシア軍が撤退した後の首都キーウ(キエフ)近郊で民間人とみられる多数の遺体が見つかっており、対ロ制裁をさらに強化すべきだとの声が高まっている。ウクライナ検察は3日、2日までに奪回したキーウ近郊のブチャ、イルピンなどで民間人410人の遺体が見つかったと明らかにした。現地入りした欧米のメディアは路上に多くの遺体が横たわる写真や映像を伝えた。両手を後ろで縛られた遺体や多数の銃弾を受けた遺体もあるという。ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、米CBSの番組で、特定集団を抹殺するための大量虐殺を意味する「ジェノサイド」だと主張した。欧米各国も虐殺に対し一斉に批判の声を上げた。ジョンソン英首相は声明で「プーチン(ロシア大統領)とその軍団による新たな戦争犯罪だ」と激しく非難した。「プーチンの戦争マシンを干上がらせるためにできることは何でもする」とも述べ、制裁やウクライナへの軍事支援を強化する考えを示した。ドイツのランブレヒト国防相は「犯罪行為には報いがなければいけない」として、欧州連合(EU)はロシア産ガスの輸入禁止を議論すべきだと主張した。国防省がツイッターで発言を紹介した。マクロン仏大統領もツイッターで「ロシア当局はこうした犯罪(疑惑)に対し答えなければいけない」と述べた。ブリンケン米国務長官は米CNNの番組で「我々はロシア軍が戦争犯罪を行ったと確信しており、関連する情報をまとめようとしてきた」として、ロシア軍の責任を追及する構えだ。ウクライナへ兵器の支援を惜しまない姿勢も強調した。国連のグテレス事務総長も、映像などに「深い衝撃を受けている」として、独立した調査による事態の解明が必要だと述べた。一方、ロシア国防省は3日、「市民の誰一人としてロシア軍による暴力を受けていない」と虐殺について否定し、殺害された人々の映像や写真は「ウクライナ側による挑発だ」と主張した。AP通信はブチャ住民の話として、ロシア軍が地下の防空壕(ごう)を一つ一つ訪れて住民のスマートフォンを調べ、SNS(交流サイト)の履歴などから反ロシア的だと判断した人を射殺したり連れ去ったりしたと報じた。英BBC(電子版)はキーウ近郊の路上で3月上旬、ロシア軍の戦車に向かって両手を挙げて民間人だとアピールした後に射殺された夫妻のものとみられる遺体が見つかったとも報じた。

*1-2:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6421778 (Yahoo、AERA 2022/3/23) 「ウクライナへの侵略の津波を止めたい」 ゼレンスキー大統領が12分の演説で訴えたこと
 ウクライナのゼレンスキー大統領が23日、国会で12分にわたってオンライン演説をした。ロシアによるウクライナへの侵攻を巡り、「日本はアジアで初めて援助の手を差し伸べた」と述べ、謝意を示した。以下に演説の全文を掲載する。細田衆議院議長、山東参議院議長、岸田総理大臣、日本国会議員の皆様、日本国民の皆様。本日は私がウクライナ大統領として史上初めて、国家元首として直接皆様にお話できることを光栄に思います。両国の間には、8193kmの距離があります。経路によっては、飛行機で15時間もかかります。ただし、お互いの自由への思いに差はありません。また、生きる意欲の気持ちにも差はありません。それを実感したのは、2月24日です。日本がすぐ援助の手を差し伸べてくれました。心から感謝しております。ロシアがウクライナの平和を破壊し始めたとき、私たちは世の中の本当の様子を見ることができました。本当の反戦運動、本当の自由や平和への望み、本当の地球の安全への望み。日本はアジアのリーダーになりました。皆様は、この苦しい大変な戦争を止めるために努力し始めました。日本はウクライナの平和の復活に動き始めました。それはウクライナだけではなく、ヨーロッパ、世界にとって重要なことです。この戦争が終わらない限り、平和がない限り、安全だと感じる人はいないでしょう。皆様は、チェルノブイリ原発の事故をご存知だと思います。1986年に大きな事故がありました。放射能が放出し、世界各地域で(事故が)登録されました。原発周辺の「30キロゾーン」というのはいまだに危険な場所で、その森の土の中には、事故終息後から多くのがれき、機械、資材などが埋められました。2月24日、その土の上にロシア軍の装甲車両が通りました。そして、放射性物質のダストを空気にあげました。チェルノブイリ原発が支配されたのです。事故があった原発を想像してみてください。破壊された原子炉の上にある、現役の核物質処理場をロシアが戦場に変えました。また、ウクライナに対する攻撃準備のために、30キロメートルの閉鎖された区域を使っています。ウクライナでの戦争が終わってから、どれだけ大きな環境被害があったかを調査するのには何年もかかるでしょう。皆様。ウクライナには現役の原子力発電所が4カ所、15の原子炉があり、すべて非常に危険な状況にあります。ザポリージャ原発というヨーロッパ最大の原発が攻撃を受けています。また、工業施設の多くが被害を受け、環境に対するリスクになっています。ガス、石油パイプライン、および炭鉱もそうです。先日、スムイ州にある化学工場において、アンモニアの漏れが発生しました。シリアと同じように、サリンなどの化学兵器を使った攻撃をロシアが今準備しているという報告も受けています。また、核兵器を使用された場合、世界がどうなってしまうかが世界中の話題になっています。将来への自信、確信は今誰にも、どこにもないはずです。ウクライナ軍は28日間にわたって、この大規模戦争、攻撃に対して国を守り続けています。最大の国がその戦争を起こしました。ただし、影響の面で、能力の面では大きくなく、道徳の面では最小の国です。1000発以上のミサイルや多くの空爆が落とされ、また数十の街が破壊され、全焼されています。多くの街では、家族や隣の人が殺されたら、彼らをちゃんと葬ることさえできません。埋葬は家の庭や道路沿いでせざるを得ません。数千人が殺され、そのうち121人は子どもです。多くのウクライナ人が住み慣れた家を出て、身を隠すために、命を救うために避難しています。ウクライナの北方、東方、南方の領土の人口が減り、人が避難しています。また、ロシアは海も封鎖して、数十の交易路を封鎖しています。海運を障害することによって、他の国にも脅威を与えるためです。皆様。ウクライナ、そのパートナーおよび、反戦連立だけが世界の安全保障を出すことができます。すべての民族、国民にとって、社会の多様化を守り、それぞれの国境や安全を守り、子どもや孫のための将来を守るための努力が必要です。国際機関は機能してくれませんでした。国連の安保理も機能しませんでした。改革が必要です。機能するためには、「誠実の注射」が必要です。ただ話し合うだけでなく、影響を与えるためです。ロシアによるウクライナ侵攻によって、世界が不安定になっています。これからも多くの危機が待っています。世界市場も不安定で、資材の輸入などにも障害が出ています。環境面や食料面の調整も前例のないものです。また、これからも戦争をしたいという侵略者に対して、非常に強い注意が必要です。「平和を壊してはいけない」という強いメッセージが必要です。責任のある国家が一緒になって、平和を守るために努力しなければならないです。日本国が、建設的、原理的な立場をとっていただいていることをありがたく思います。また、ウクライナに対する本当の具体的な支援に感謝しています。アジアで初めてロシアに対する圧力をかけ始めたのは日本です。引き続き、その継続をお願いします。また、制裁の発動の継続をお願いします。ロシアが平和を望む、探すための努力をしましょう。また、このウクライナに対する侵略の津波を止めるために、ロシアとの貿易禁止の導入をお願いします。また、各企業は市場から撤退しなければなりません。その投資は、今後のロシア5年の投資になります。そして、ウクライナの復興も考えなければなりません。人口が減った地域の復興を考えなければならないです。避難した人たちが故郷に戻れるようにしなければならないです。日本のみなさんも、きっとそういう気持ち、住み慣れた故郷に戻りたい気持ちがおわかりだと思います。また、全世界が安全を保障するために動けるためのツールが必要です。既存の国際機関がそのために機能できていないので、新しい予防的なツールを作らなければなりません。本当に侵略を止められるようなツールです。日本のリーダーシップは、そういったツールの開発に大きな役割を果たせると思います。ウクライナのため、世界のため。また、明日、将来のために自信を持てるように。慢性的で平和的な明日がくると確信できるように。皆様、日本の国民の皆様、一緒になって努力すれば、想像以上のことができます。日本は、発展の歴史が著しい国です。調和を作り、その調和を維持する能力は素晴らしいです。また、環境を守り、文化を守るということは素晴らしいことです。ウクライナ人は日本の文化が大好きです。それはただの言葉ではなくて、本当にそう思っているのです。2019年、私が大統領になってまもなく、妻のオレナが、目がよく見えない子どものためのプロジェクトに参加しました。オーディオブックのプロジェクトでした。そこで、日本の昔話をウクライナ語でオーディオブックにしました。これは一つの例ですが、日本の文化はウクライナ人にとって非常に興味深いものなのです。距離があっても、私たちの価値観はとても共通しています。ということは、もう距離がないということになります。私たちの心は同じように温かいです。今日の努力が、ロシアに対するさらなる圧力をかけることによって、平和を戻すことになります。また、ウクライナの復興を行い、国際機関の改革を行うことができるようになります。将来、反戦連立ができあがった際には、日本が今と同じようにウクライナと一緒にいてくれることを期待しています。(日本語で)ありがとう。ウクライナに栄光あれ、日本に栄光あれ。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA29B9H029032022000000/ (日経新聞 2022年3月31日) ウクライナ「避難民」法規定なし 特例1年受け入れ
 ロシアの侵攻を避けてウクライナを出国する人が増え続けている。欧州諸国が「難民」を多く迎える見通しの一方で、日本は「避難民」という法的な規定がない立場で一部を受け入れる。特例で1年の就労を認める。曖昧な対応の背景には日本の慎重な難民政策がある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、侵攻後にウクライナを出た人は29日時点で400万人にのぼる。周辺国ではポーランドが230万人以上、ルーマニアが60万人以上を受け入れた。日本は「避難民」の数を公表する。27日時点で288人だ。ウクライナから遠く、言葉や文化の壁もある。とはいえ日本と同様にウクライナから離れた米国も最大10万人を認めると表明した。難民は狭義では1951年に国連で採択された難民条約に基づく言葉だ。同条約は難民を「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見」を理由に迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人と定める。今回のウクライナ侵攻のように紛争で国外に退避した人の大半は、狭い意味では同条約の定義にあたらない。欧州諸国ではそうした人を救うため、難民認定に近い形式で在留を認める「補完的保護」という考え方をとる。ひとくくりに「難民」と表記し、数万人単位で受け入れる例もあるという。日本も同条約に加入する。国内法は出入国管理法で難民を規定する。認定は迫害を受ける恐れがある理由などを記した書類やパスポートなどを持参して申請する。出入国在留管理庁が根拠が正しいか調べて判断する。日本は難民も補完的保護も少ない。2020年の難民認定は4000人ほどの申請に対して47人だった。人道的配慮で認めた在留をあわせても91人だった。ドイツの6万3000人、カナダのおよそ2万人と圧倒的な差がある。支援団体などは「迫害の恐れを認定する条件が厳しすぎる」「認定と不認定を分ける基準が詳細でない」と指摘する。難民保護を求めても却下して本国に送還する例もあるという。入管庁は制度を乱用する経済的な理由の申請が多いと分析するものの、実情はわかりにくい。今回、ウクライナからの「避難民」は入管法にもない概念だ。日本政府は狭義の難民にあてはまらない「紛争で国外に退避した人」を含む意味で使う。難民認定をするかは別の判断になる。待遇は大きく違う。避難民は最長90日の短期滞在で入国し、特例で更新可能な資格として1年の就労を認める。難民はパスポートを代替する旅行証明書と5年の在留資格を受ける。国民年金や児童扶養手当といった社会福祉もある。立教大学大学院の長有紀枝教授は避難民の呼称について「基本的に難民条約に合致する人だけを受け入れてきた日本の姿勢を示す」と説く。「紛争による難民を受け入れる法改正が必要だ」と主張する。難民支援協会によると内戦があったシリアの難民はドイツが44万人認定した。フランス、英国が1万人程度、米国は5000人弱だ。日本は留学生95人を除くと22人だった。過去に日本はベトナム戦争後の「インドシナ難民」を30年ほどで1万1000人迎えた。単年なら1981年に1203人の例がある。ミャンマー出身の難民は200人近く入国した。古川禎久法相は30日、ポーランドのミレフスキ駐日大使と会談した。ウクライナの隣国で退避してきた人が多くいる国だ。古川氏は「ニーズにこたえられるような支援は何か検討を進めていきたい」と強調した。古川氏は4月1日にもポーランドへ政府専用機で出発し、要人と会談する。避難民を同機に乗せて帰国する案もある。日本経済新聞の3月の世論調査でウクライナからの避難民の受け入れについて聞くと「賛成だ」が9割に達した。日本の難民政策を問う重要な局面にある。

*1-3-2:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220403-OYT1T50058/ (読売新聞 2022/4/3) 林外相、ウクライナ避難民の政府専用機同乗「可能性を追求」…実現に向け調整
 首相特使としてポーランドを訪問中の林外相は2日夕方(日本時間3日未明)、日本への渡航を希望する避難民を帰国する政府専用機に同乗させることについて、「帰国時までに調整できれば、可能性を追求したい」と述べ、実現に向けて調整を進める考えを示した。ロシアの侵攻を受けたウクライナからの避難民が生活する施設の視察は「日本に来られた避難民の方々に対する国内の支援策を考えていくのに大変有益な機会となった」と強調した。首都ワルシャワ市内のホテルで記者団に語った。

*1-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220405&ng=DGKKZO59710440V00C22A4MM0000 (日経新聞 2022.4.5) ウクライナ避難民、日本に20人到着 6~66歳の男女
 ロシアの侵攻を受けたウクライナからの避難民20人が5日午前、日本の政府専用機で羽田空港に到着した。首相特使としてポーランドを訪れた林芳正外相の帰国に合わせて日本行きを望む避難民を乗せた。政府関係者によると6~66歳の男女という。日本政府は滞在施設を提供し当面の生活費も支給する。最長90日の短期滞在で入国してもらい、希望があれば就労が可能で1年間滞在できる「特定活動」の資格に切り替える。日本語教育面での支援や企業との引き合わせにも取り組む。ウクライナから国外へ避難した人は400万人を超えた。隣国ポーランドは240万人を上回る最大の受け入れ国だ。日本政府は3日までに404人のウクライナ避難民を受け入れた。難民条約や出入国管理法に基づく支援を受けられる「難民認定」は個別の状況ごとに判断する。松野博一官房長官は5日の記者会見で「入国後の様々な支援策を実施したい」と述べた。自治体や企業の支援内容の整理や避難民のニーズの把握に努めるとも説明した。林氏はポーランド出発前、記者団に「避難を切に希望しているものの自力で渡航手段を確保するのが困難な20人に乗ってもらう」と語っていた。林氏は訪問先のワルシャワで、ポーランドのモラウィエツキ首相やラウ外相と相次ぎ会談した。

*1-3-4:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67109190Y0A201C2TL3000/ (日経新聞 2020年12月9日) 極端に低い日本の認定率
 2019年に日本で難民認定を申請したのは1万375人で、難民と認定されたのはわずか44人だった。日本の難民認定率は0.4%で、10~50%が多い欧米各国に比べて極端に低い。政府が外国人労働者の受け入れを拡大する一方、難民申請者については就労目的の制度乱用が多いとして審査を厳格化しているためだ。認定の厳しい状況を見て日本での在留を諦め、第三国へと渡っていく難民もいるという。欧米各国と比べ厳しすぎるといわれる「迫害のおそれ」の定義などを緩和し、もっと多くの難民が日本で救済されることが必要だとの声は多い。日本の難民申請者を巡っては、在留資格がないとの理由で入管施設に無期限拘束される外国人が相次ぎ、国際的な批判も出ている。認定審査の透明性やスピードを高め、真に救済が必要な難民を着実に保護することが大事だ。世界で増え続ける難民にどう対処するかは日本に突きつけられた課題である。

*1-4-1:https://mainichi.jp/articles/20220328/k00/00m/010/353000c (毎日新聞 2022/3/28) 日本政府、北方領土のロシア軍演習に抗議 「受け入れられない」
 松野博一官房長官は28日の記者会見で、ロシア軍がクリル諸島(北方領土と千島列島)で軍事演習を始めたと発表したことを受け、「北方四島でのロシアの軍備強化は、これらの諸島に関する我が国の立場と相いれず、受け入れられない」と非難した。25日に外交ルートを通じてロシア側に抗議したことも明らかにした。北方領土でのロシア側の軍事演習は、ロシア外務省が21日に日本との平和条約締結交渉を中断すると発表して以降初めて。松野氏は「わが国周辺におけるロシア軍の動向について、情報収集、警戒監視に万全を期す」と述べた。

*1-4-2:https://www.yomiuri.co.jp/world/20220401-OYT1T50309/ (読売新聞 2022/4/2 ) ロシア軍、国後と択捉両島で軍事演習開始…1000人以上参加・対戦車ミサイルなど投入
 ロシア国防省は1日、北方領土の国後、択捉両島の演習場で1000人以上が参加した軍事演習を開始したと発表した。計約200の対戦車ミサイルや自走砲、無人機(ドローン)などを投入しているという。ロシアは3月25日にも、クリル諸島(北方領土と千島列島)で3000人以上が参加した軍事演習の開始を発表したばかりだった。ロシアは、ウクライナ侵攻を巡って対露制裁を科した日本に強く反発しており、示威行動の一環として、北方領土での軍事演習を一層活発化する可能性がある。ロシアはウクライナ侵攻後、日本や欧米を「非友好国」とし、3月21日には日本の対露制裁への報復措置として、平和条約締結交渉の中断も発表している。

<経済政策の誤り>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220414&ng=DGKKZO59973640U2A410C2MM8000 (日経新聞 2022.4.14) 円、20年ぶり安値 一時126円台、資源高、資金流出続く 消費に打撃の恐れ
 13日の外国為替市場で円相場は対ドルで一時1ドル=126円台前半まで下落した。約20年ぶりの安値となった。止まらない下落は資源高によるマネーの海外流出を、輸出増加でカバーできない経済構造に変化したことが大きい。経常収支の赤字が定着するとの見方も浮上。金融緩和をやめられず、国内外の金利差拡大も続く。エネルギー価格が高止まりし円安も続けば、個人消費への打撃となる恐れがある。13日午後に円安が加速したのは、同日の信託大会で日銀の黒田東彦総裁が「現在の強力な金融緩和を粘り強く続ける」と発言したことがきっかけだ。米国などが金融引き締めに動き金利の上昇の勢いが増すなか、金融緩和を続ける日本では低金利が続く。内外金利差が広がるとの読みが一段の円売りを招いた。2015年6月に付けたアベノミクス後の最安値を下回り、02年5月以来の安値を付けた。2月末の1ドル=115円から1カ月半で10円超も下落した。為替はおよそ20年前の水準にあるが、資源の輸入拡大など日本の経済構造は当時から大きく変わった。円に下落圧力がかかりやすくなっている。理由の一つが経済活動に伴う日本から海外へのマネーの流れだ。貿易・サービス収支は02年に6.5兆円の黒字だったが、21年に2.5兆円の赤字となった。ロシアのウクライナ侵攻を受けた原油など商品価格の上昇を受け22年にモノやサービス、利子・配当金の海外とのやり取りなどを示す経常収支が赤字になりかねないとの見方が浮上。年間で赤字に転じれば1980年以来42年ぶりだ。経常赤字になると国内に入るお金より、モノを買うため海外に支払うお金が多い状態にある。海外に払うには自国通貨を外貨に替える必要があるため、日本円を売って外貨を買うことになる。円安圧力がかかりやすい。製造業は生産拠点を海外に移した。企業の海外生産比率は02年度は17.1%だったが、19年度は23.4%に拡大。国内からの輸出は減った。海外子会社からの配当などは増加しているが、円に転換されず、外貨のまま再投資される傾向が強い。訪日外国人による円買いの動きも新型コロナウイルス禍で急減した。円安が輸出型の大企業の業績を押し上げ、国内の設備投資を増やすプラスの効果は低下している。大和証券が主要上場200社を対象に利益の為替感応度を集計したところ、ドルに対し1円円安が進んだ場合の経常利益の押し上げ効果は22年度は0.43%と、09年と比べ半減した。原油高の下では輸入物価の上昇で中小企業の業績が悪化し、個人消費が低迷するマイナスの効果が目立つ。止まらない円安に政府も神経をとがらせている。鈴木俊一財務相は13日夕、「為替の安定は重要。特に急激な変動は大変問題がある」と財務省内で記者団に答えた。しかし、円安圧力を反転させる政策の対応は容易ではない。日銀が緩和路線を修正するとの見方は少ない。賃上げによる需要増が物価上昇を生む好循環は生まれておらず、緩和を弱められない。円買い為替介入の観測も浮上するが、構造的に円安になりやすいなかでは効果は持続しにくい。インフレに悩む米国では輸入物価を抑えるドル高は歓迎の姿勢で、協調介入のハードルは高い。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「貿易赤字の主因は原子力発電所の停止によるエネルギー輸入の増加。円安を止めるために原発を再稼働すべきだという意見は今後、強まる」と話す。もっとも原発再稼働は政治的な合意のハードルが高い。

*2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ3L7JR1Q3LULZU00C.html (朝日新聞 2022年3月19日) 日銀の10年緩和 「悪い円安」「悪いインフレ」に対応できない理由
 外国為替市場ではじりじりと円安が進み、消費財メーカーが次々と製品値上げを発表している。これはアベノミクスのもとで日本銀行が異次元の金融緩和に乗り出し、インフレ目標を掲げてまで実現をめざしていた状況である。ところが、世論にはこれを歓迎する空気はまったくない。むしろ聞こえてくるのは食料品やガソリンなど、生活必需品の値上げに「生活が苦しくなる」という人々の不安の声、政府に対策を求める声である。そうしたなか、日銀は18日、金融政策決定会合を開き、現在の大規模な金融緩和の枠組みを維持すると決めた。その後の記者会見で黒田東彦総裁は当然、苦しい説明を余儀なくされた。日銀が9年前から目標としていた2%インフレ目標は、ようやく来月にも達成する見通しになった。それなのに、目標を達成したら終えるはずの大規模緩和を引き続き「粘り強く続ける」というのだ。目標と結果のこのちぐはぐな関係について、黒田総裁は、現在のインフレの要因はほとんどが資源価格の高騰によるもので「好ましいものではない」からだと強調した。とはいえ、こうなると9年にわたって続けてきた異次元緩和とは何だったのか、「2%インフレ」はあらゆる政策手段を講じてでも達成しなければいけない絶対目標だったのか、という疑問がわいてくる。足もとでは世界経済、日本経済が複雑な様相を呈している。もともと日本経済は成熟化にともなって長期停滞に陥っていた。そこにコロナ禍による経済活動の人為的制約が加わり、最近では資源や部品などの供給の停滞と生産制約が意図せざるインフレを引き起こしている。さらにロシアのウクライナ侵攻である。これが輪をかけて資源高騰などの混乱をもたらしている。マクロ経済政策の方向性を決めることがきわめて難しい局面ではある。日銀は動くに動けなくなっているのではないか。日本にとって不気味なのは、このところゆっくりとだが着実に進む「円安」だ。17日には1ドル=119円台と、対ドルでは6年ぶりの円安水準となった。さまざまな通貨に対する円の強さを示す実質実効為替レートでは、2010年を100とすると、この2月は66ほどだ。50年ぶりの低水準である。黒田総裁はこれまで一貫して「円安は総じて日本経済にプラス」と言ってきた。黒田日銀のもとで進んできた円安基調は、異次元緩和の最大の成果だと経済界が評価していたし、日銀自身もそこを異次元緩和を長期にわたって続ける根拠としてきたからだ。ところが18日の記者会見では、黒田総裁自身が「業種などによって影響は不均一」「輸入物価の上昇を通じて家計を圧迫」などと、マイナス面にも言及せざるをえなかった。なぜ日銀は異次元緩和の継続にそこまでこだわるのか。意図せざる資源価格の高騰、半導体や部品などの供給制約がもたらした「悪いインフレ」に直面しているのは米欧も同じはずだ。その米欧の中央銀行は今月、こぞって大規模緩和の正常化に動き出している。日銀だけが動けないのがインフレ率の違いからだとしても、近く2%インフレになればその理由も通用しなくなる。懸念されるのは日銀が出口戦略を「始めない」のではなく、「始められない」のではないかということである。なまじの景気回復ていどでは出口戦略を始められないほど、異次元緩和がどっぷり日本経済や政府財政の下部構造になってしまっている、ということだ。日銀は異次元緩和の名のもとでこの9年のあいだ、国債を買い支え、保有残高を400兆円以上増やした。現在日銀が保有する国債は529兆円、政府の発行残高の4割以上である。実質的に日銀が政府財政を支えている構図だが、日銀は「金融政策の一環として買っているのであって財政ファイナンスではない」と言い張っている。この状態から日銀がもし異次元緩和の出口戦略を始めたらどうなるか。保有国債の残高を減らし始めたら、国債価格が急落(長期金利は急上昇)するリスクは当ある。国債の新規発行も日銀の買い支えなしにこれまで通り続けられる保証はない。あるいは、日銀が保有国債を売れずにそのまま抱え、その国債に含み損が出ることによって日銀が債務超過に陥るリスクもある。そうした問題に警鐘を鳴らす経済専門家はけっして少なくない。その代表は、前参院議員で元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史氏だろうか。藤巻氏は「日銀が債務超過になれば信用は失墜する。その日銀が発行した紙幣など世界中の誰も受け取ってくれなくなる。それは円の暴落であり、日本がハイパーインフレになるということだ」と言う。議員時代、国会でもたびたびこの問題を黒田総裁にぶつけてきた。日銀はそういう事態は「ありえない」と強く否定してきたが、そんな心配をされること自体が「信用」を背景に通貨を発行する中央銀行としてはかなり危ういことである。日銀自身もそういった見方にかなりデリケートになっていることを示すエピソードがある。昨年11月、政府の財政制度等審議会の分科会が開かれた。30人以上の民間委員が集い、2022年度の予算編成に向けて財務相に提出する「建議」をまとめた。財政に詳しい学者やエコノミストら7人の委員が取りまとめた素案に、他の出席委員たちから修正意見を示す場だ。そこで委員の一人である雨宮正佳・日銀副総裁が修正を求めたのが円暴落リスクをめぐる記述だった。素案には、日銀の財務が悪化した場合に通貨・円の信認が損なわれる恐れがあることに留意する必要がある、という趣旨の記述があった。雨宮氏は「こうした懸念があることは認識しているが、我々は中央銀行の財務が一時的に悪化したとしても、金融政策や金融システム安定のための政策遂行能力が損なわれることはないと考えている」と説明。「通貨の信認を日銀の財務と関係させて論じることは必要ではないし、適当ではない」と記述の変更を求めた。その結果、最終的に建議からは「日銀の財務の悪化」を示す記述が削除されることになったという。こうした事実から浮き彫りになるのは、日銀がこれまでやってきた政策の正当性を訴えることばかりを優先し、日本経済が抱える最悪リスクにどこまで備えているのか、という疑問である。日銀は一刻も早く出口戦略を国会と国民に示すべきだろう。

*2-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA04BA90U2A400C2000000/ (日経新聞 2022年4月7日) 中国を怒らせた黒田論文 デフレとの闘い、20年目の孤独 (経済部長、経済・社会保障グループ長 高橋哲史:大蔵省(現・財務省)を振り出しに霞が関の経済官庁や首相官邸、自民党、日銀などを取材。中国に返還される前の香港での2年間を含め、計10年以上に及ぶ中華圏での駐在経験をもつ。2017年4月からは中国総局長として北京を拠点に中国の変化を報じ、21年4月に帰国した)
 20年前、日銀の黒田東彦総裁は中国で嫌われ者だった。まだ財務省で財務官を務めていた2002年12月、英フィナンシャル・タイムズへの寄稿で「中国はデフレを輸出している」と批判したからだ。当時の中国は輸出を後押しするため、人民元相場を実勢よりはるかに低い水準で固定していた。「元の上昇を容認しなければならない」。黒田氏は中国に為替政策の変更を迫り、元の切り上げを求める国際世論に火をつけた。寝た子を起こすような黒田論文に、中国が怒ったのは言うまでもない。「日本は中国の成長をつぶそうとしているのか」。中国の知人から、そんなメッセージが届いたのを覚えている。もっとも、黒田氏が問題視したのは、中国だけではなかった。財務官の退任後に記した回顧録で、次のように振り返っている。「私は、既に消費者物価の下落が5年目に入った日本こそ、物価安定目標の採用を含む抜本的な金融政策の転換を図るべきだと考えていた」(通貨外交―財務官の1300日)。日本で深刻になっていたデフレは、欧米にも広がりつつあった。黒田氏の目には真っ先に動くべき日銀が、手をこまねいているようにしか映らなかったのだろう。その日銀に、黒田氏が総裁として乗り込んだのは13年3月である。就任直後に「異次元」と銘打った前例のない大胆な金融緩和に踏み出した。2%のインフレ目標を掲げ、日本経済がデフレから抜け出すまでそれを続けると約束した。結果はどうだったか。異次元緩和の開始から9年たったいまも、消費者物価指数(CPI)の上昇率は目標に届かない。22年2月は前年同月に比べ0.6%の上昇にとどまった。約束を守るなら、とても金融政策を引き締め方向に動かせる状況にはない。そうとばかりも言っていられなくなった。円安の大波が押し寄せているからだ。円相場は3月28日に一時1㌦=125円台に下落し、6年7カ月ぶりの円安・ドル高水準をつけた。日銀が長期金利の上昇を抑え込むために、複数日にわたって国債を無制限に買い入れる「連続指し値オペ」の実施を決めたのが直接のきっかけだった。世界を見わたせば、デフレはもはや過去の話である。40年ぶりの歴史的なインフレの脅威におびえ、米連邦準備理事会(FRB)をはじめ主要な中央銀行は利上げを急ぐ。一方、日銀だけがデフレ退治の金融緩和をやめられない。日米の金利差が開き、円安が進むのは当然だ。ウクライナ危機で原油や穀物の価格は一段と高騰している。それらを輸入に頼る日本にとって、円安はいまやマイナス面の方が大きい。経常収支の悪化がさらなる円の下落を招く「円安スパイラル」が現実味を増す。それでも黒田氏は「円安は日本経済にとってプラス」と繰り返し、円安を後押しする金融緩和を続ける。日本経済はまだデフレ下にあるという認識を変えられないからだ。夏の参院選を控えて与党内から景気対策を求める声が強まるなか、岸田政権に金融緩和の縮小を受け入れる余地はない。20年前、中国の元安政策を批判した黒田氏は国際世論を味方につけた。しかし、20年たっても「デフレとの闘い」には終止符を打てずにいる。援軍はもういない。輸出を増やしたい米国は、円安への不満をくすぶらせる。黒田氏の日銀総裁としての任期はあと1年。孤独な闘いの終わりはみえない。

*2-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA211UY0R20C22A3000000/ (日経新聞 2022年3月22日) 22年度予算が成立 過去最大の107兆5964億円、首相、近く原油・食料高騰対策を指示
 2022年度予算が22日の参院本会議で与党や国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。岸田文雄首相は月内にも予算に盛り込んだ予備費を活用し、当面の原油・食料高騰対策のとりまとめを指示する。22年度補正予算案の編成を伴う経済対策は6月にもまとめ参院選後の実施を見込む。22年度予算は一般会計総額が107兆5964億円で10年連続で過去最大を更新した。成立日としては村山内閣時の1995年と並ぶ戦後4番目の早さだった。税制改正などの予算関連法も22日に成立した。社会保障費は初めて36兆円を突破し、防衛費も台湾海峡など安全保障環境の変化に対応するため5.4兆円規模と過去最高になった。新型コロナウイルスの感染再拡大に備える予備費として、21年度当初予算と同じ5兆円を積んだ。予算はロシアによるウクライナ侵攻に伴う物価上昇は想定していない。家計や中小企業に与える影響を抑える必要がある。首相は月内にも政策パッケージの策定を指示し、ロシアへの経済制裁の強化により供給不足が懸念されるガソリンや穀物、食料品などの価格高騰に対応する。4月中にとりまとめ、参院選前の執行をめざす。国際情勢の変化に機動的に対処するため、主な財源として22年度予算に盛り込んだ予備費を充てる。政策パッケージではガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」などの扱いなどが焦点となる。自民、公明、国民3党の実務者での調整を急ぐ。現在は石油元売りに補助金を配って対応している。公明党の石井啓一幹事長は同条項発動のための関連法改正を念頭に「4月下旬までに何らか対応をしないといけない」と指摘する。補助金や税制の仕組みを活用した総合的な支援策を視野に入れる。与党が求めている年金受給者向けの臨時給付金も配るかどうか判断する。首相は22日の参院予算委員会で「物価高騰の状況など様々な観点に鑑みて様々な対策を考えていかなければならない。そのなかで扱いを検討したい」と述べた。政府はそれに続く経済対策を夏の参院選後に打ち出す段取りを描く。6月に「新しい資本主義」の実行計画や経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)をまとめる。そこに盛り込む政策は22年度補正予算案を裏付けとする経済対策で実行する。人への投資や賃上げ策のほかデジタル、科学技術立国、グリーン、スタートアップといった成長力の底上げに資する内容を想定する。

*2-1-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA084M00Y2A300C2000000/ (日経新聞 2022年3月20日) 経済曇らすピンボケ政府試算 ズレ大きく成長戦略空回り
 政府の経済見通しや財政試算のピンボケぶりが一向に改まらない。成長率の実績とのズレは他の先進国の倍近い。土台があやふやなため成長戦略や財政健全化の議論も空回りする。政府から独立した機関が推計を示す海外で一般的な仕組みが日本にはないのが問題だ。財政運営の主導権を保ちたい財務省が抵抗勢力になっている構図も浮かぶ。「民間の試算に比べてかなり楽観的。信頼性が落ちていると思わざるを得ない」(サントリーホールディングスの新浪剛史社長)。「(政府が掲げる成長率は)なかなか実現できていない状況にある」(東京大学の柳川範之教授)。1月14日の経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)で、内閣府の中長期経済財政試算に民間議員から苦言が相次いだ。国・地方の基礎的財政収支が2026年度に0.2兆円の黒字になるとの内容だった。基礎的収支の黒字化は、新たな借金に頼らずに政策経費を賄える財政健全化の目安。問題は試算が現実離れしていることだ。まず成長率が名目3%、実質2%というシナリオに政府内ですら疑問の声が絶えない。高成長の見通しは、技術革新などを反映する「全要素生産性」がバブル期並みに伸びることを前提にしている。経済官庁の幹部は「達成のハードルは相当に高い」と明かす。02年度以降、名目成長率が3%を超えたのは15年度のみ。マイナス成長だった年も6回ある。経済見通しは予算編成の土台になる。経済実態にかかわらず前例踏襲で、この数年、前提を大きくは変えていない。いきおい歳出削減の努力がおろそかになり、予算の無駄な膨張を招きがちになる。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「制度的欠陥だ」と明言する。解決策として考えられるのが「独立財政機関」の創設だ。中立な立場で財政の試算を出したり政策効果を検証したりする組織で、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中約30カ国が持つ。比較可能な1999~2016年度の実績をみると、独立財政機関を持つ欧州連合(EU)加盟国の実質成長率見通しの誤差の平均値は0.28ポイントだった。日本は0.48ポイントで倍近いズレがあった。第2次安倍政権以降の13~19年度の誤差は0.77ポイントに達する。明治大学の田中秀明教授は独立財政機関について「政府をけん制し、国民に多様な判断材料を提供する」と解説する。政策効果を過大に見積もるような試算やばらまきに歯止めをかける存在といえる。独立機関の出す数字が国家予算のもとになる例も一部にある。英予算責任局(OBR)は新型コロナウイルス禍で休業補償の経費や効果を試算したり、教育・医療の支出不足を指摘したりした。炭素税など気候変動に伴う中長期の国民負担もはじく。オランダの独立機関は総選挙前に各政党の公約の財政基盤を検証・公表する。米メディアは大統領の意向を反映しがちな行政管理予算局(OMB)をうのみにせず、独立機関の米議会予算局(CBO)の情報と併せて報じるのが常だ。日本はお目付け役がいない。国際通貨基金(IMF)は1月に公表した対日経済審査で政府試算の甘さを問題視し、経済の「下振れシナリオ」の追加を提案した。「枠組みの信頼性を高めうる」として独立財政機関にも言及した。独立機関については、財政健全化を重視しているはずの財務省が乗り気ではない現実もある。鈴木俊一財務相は2月8日の記者会見で、IMF報告書に関して「今ある組織を有効に活用する。専門的、中立的視点で検討を重ねる」と述べるにとどめた。自分たちが舞台回しできる経済財政諮問会議などで予算や財政の枠組みを固めるやり方を変えたくない思惑が透ける。ある幹部は「財政健全化目標を維持できるなら、非現実的な試算でかまわない」と声を潜める。これで持続可能なのか。「コロナ禍での巨額の財政出動について、何ら検証がなされないまま高成長シナリオが維持されるのは違和感がある」。フィンテック企業マネーフォワードの創業者の一人、瀧俊雄氏は人工知能(AI)なども活用し、一定のコスト内で高精度の経済見通しを民間で出すことも可能とみる。「国の分析が唯一正しいものなのか。財政分野でも健全な競争があるべきだ」。日本は21年度末に国債残高が1000兆円を超える見通しだ。毎年のように大規模な補正予算を組み、財政を大盤振る舞いしてきたツケだ。米国の利上げ、ロシアのウクライナ侵攻による物価高の増幅などで世界経済の不透明感が増す。独りよがりの経済見通しや財政試算でいつまでもお茶を濁していられないはずだ。
●〈Review 記者から〉経済運営にも「社外取締役」を
 上場企業に社外取締役の導入を義務づけ、身内の論理に陥りがちな取締役会にメスを入れた企業統治改革。試行錯誤も続くが、日本市場の評価を内外から高めた。その旗を振った当の政府の経済運営は社外取締役がおらず、ぬるま湯の状態が続く。新型コロナウイルス対策を名目とした巨額の経済対策や補正予算の効果も十分に検証されぬままだ。もちろん外部の目を入れるのは一筋縄ではいかない。独立財政機関として国際的に評価が高い英国の予算責任局(OBR)も財務省から分離する過程では根強い反発があった。地道な政策検証や事後に誤差を子細に分析するなどの積み重ねで存在感を高めた。リチャード・ヒューズ局長は「独立性の確保の仕組みが最も大切」と話す。独立財政機関は将来世代の声を代弁する役割もある。「現政府が短期志向になってしまうのはある程度仕方がない。だからこそ独立した機関が厳しい目で検証する枠組みに意味がある」(PHP総研の亀井善太郎氏)。2021年6月に発足した超党派議連は参議院への設置を求めている。解散がなく長期的課題に取り組みやすいことなどから、かねて経済同友会も提案していた。「新しい資本主義」を掲げる岸田政権は、複数年にわたる予算制度なども提起する。政権に都合のよいバラマキにつながらないよう歯止めをかける仕組みもあわせて考える必要がある。独立財政機関は有力な選択肢になるはずだ。
■独立財政機関
 経済協力開発機構(OECD)は「政府や政党からの独立性を有し、中立的な観点から財政状況などを管理・評価し、必要に応じて政府に提言する公的機関」と説明する。米国の議会予算局(CBO)、英国の予算責任局(OBR)などが代表例として知られる。2008年のリーマン危機後、財政悪化の反省から設立の動きが広がった。役割は国によって異なる。10年にできた英OBRの予測は政府予算案などに採用される。ベトナム戦争による財政悪化を受けて1974年に議会内に発足した米CBOは政府の財政状況や推計を中立の立場で検証することを重視する。東京財団によると、ドイツは複数の民間機関が競争入札などによって中長期の財政推計を担う。

*2-1-6:https://mainichi.jp/articles/20220322/k00/00m/010/294000c (毎日新聞 2022/3/22) 視線は既に参院選 与野党、「経済対策」の大合唱 22年度予算成立
 2022年度当初予算が22日成立し、通常国会は後半に入る。一般会計の歳出規模は過去最大で、国債の発s行残高は21年度末に1000兆円を超える見通しだが、与野党の視線は既に7月に想定される参院選に向いている。当初予算の成立前から、物価高対策を名目にした追加の経済対策や補正予算の議論が盛り上がる異例の展開だ。
●後半国会、対決法案乏しく
 「国民からも批判が大きいことは理解しているのか」。立憲民主党の福山哲郎氏は22日の参院予算委員会で、年金生活者への支援策として、自民、公明両党が提案し、政府が検討中の「一律5000円給付案」を非難した。岸田文雄首相は「参院選前の露骨なバラマキだ」「高齢者ばかり優遇して不公平だ」などの批判が多いことを踏まえ、「さまざまな意見があることは承知している。必要かどうかよく検討していきたい」と説明したが、福山氏は「選挙目当てで、筋が悪い」と切り捨てた。後半国会では、新型コロナウイルス対応に加え、ロシアのウクライナ侵攻に伴う物価高などに対応する新たな経済対策が主な論点になりそうだ。年金生活者への5000円給付案のほか、ガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」の凍結解除、これらの対策の裏付けとなる補正予算案編成の有無も焦点になる。野党はこれらの論戦を通じて政権を追及する構えだ。ただし、岸田政権では、首相が矢面に立つスキャンダルは出ておらず、内閣支持率も堅調に推移している。政府は参院選前に野党に批判の機会を与えないため、提出法案を絞り込んでおり、後半国会の「対決法案」は乏しい。審議されるのは「こども家庭庁」設置法案や経済安全保障推進法案など野党も反対しにくい法案が多くなる見通しだ。立憲は17日に衆院で審議入りした経済安保推進法案を巡り、準備作業で中核を担った藤井敏彦・元法制準備室長(既に辞職)が無許可の兼業などで懲戒処分を受けた問題を追及する構えだが、日本維新の会と国民民主党は政府案に一定の評価を示しており、足並みは乱れている。
●「国民は野党の枠を超えて与党に行くべき」
 とりわけ国民民主は22日の参院本会議で「トリガー条項の凍結解除を主張してきたことに対し、具体的に話が前に進んでいる」などとして22年度当初予算に賛成した。本予算は政府の全ての施策の裏付けとなる。賛成は、閣外からの協力を宣言したに等しく、野党は結束できていない。立憲の小川淳也政調会長は国民について「予算に賛成することはもはや野党ではないことを意味する」と批判。維新の馬場伸幸共同代表も「国民は野党の枠を超えて与党に行くべきだ。我々はそういう政党と協力することは非常に難しい」と突き放した。参院選前に与党との違いをアピールしたい野党だが、物価高対策を示して有権者にアピールしたいのは与党と同じだ。立憲幹部は、与党が補正予算を編成するとしても、審議は秋の臨時国会になるとの見通しを示した上で、「今国会で補正予算を通すべきだ、と言って戦うのはアリだ」と話し、補正予算の早期成立を求める可能性を示した。
●専門家「日本政治の悪癖」
 「状況の変化を見た上で、さらなる対策が必要なら機動的に対処していく」。岸田首相は22日、当初予算の成立を受けて首相官邸で記者団に語り、追加の経済対策に含みを残した。22年度当初予算はそもそも、政府の経済対策の財源を盛り込んだ21年度補正予算と連動した「16カ月予算」として、新型コロナの感染拡大対策と景気の底入れを並行して進めていくという触れ込みだった。だが、自民党の茂木敏充、公明党の石井啓一、国民民主党の榛葉賀津也の3党幹事長は16日、国会内で会談。「トリガー条項」の凍結解除を議論する検討チームの設置を決めると同時に、追加経済対策の必要性でも一致した。新たな施策を実施するには当面、当初予算に盛り込まれた「新型コロナウイルス対策予備費」5兆円から、事業費を引き出すしかない。さらに大規模な経済対策を実施しようとすれば、補正予算を再度編成して、必要な財源を確保する必要がある。政府関係者は「どんなに急いでも7月の参院選前の補正予算編成は間に合わない」とクギを刺す。だが、国民民主党の玉木雄一郎代表が10兆~20兆円規模の経済対策を求め、与党からも賛同する声が上がるなど、歳出圧力は強まるばかりだ。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介上席主任エコノミストは「選挙のたびに経済対策を打ち出すのは日本政治の『悪癖』だ。効果よりも規模感が重視され、支える財源はないため国債発行に頼らざるを得ない。効果の薄い事業のために国の財政が悪化していく構図だ」と疑問を呈した。

*2-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022020700729&g=pol(時事 2022年2月8日) 経済安保法、3段階で施行 来年春、供給網強化など先行―特許非公開は24年・政府方針
 政府が今国会成立を目指す経済安全保障推進法案の施行を2023年以降、3段階に分けて実施する方針を固めたことが7日、分かった。半導体など戦略物資をめぐる米中摩擦が激化する中、「サプライチェーン(供給網)強化」など早期に導入できる措置から先行する。制度変更を伴う「特許非公開」は官民の調整に時間をかけ、施行が24年になる公算が大きい。法案は「供給網強化」「基幹インフラの事前審査」「先端技術の官民協力」「軍事転用可能な機微技術の特許非公開」の4分野で構成。政府は今月下旬、国会に提出する予定だ。法案によると、供給網強化と先端技術協力の2分野は法律の公布後9カ月以内に施行する。供給網強化は半導体、医薬品などを念頭に「特定重要物資」を指定し、財政・金融支援措置を講じる。先端技術協力では、人工知能(AI)などの「特定重要技術」を資金支援し、官民の研究体制の拡充を図る。今夏に推進法が成立・公布された場合、施行は22年度末~23年度初めになる。基幹インフラは、サイバー攻撃対策のため政府が設備や管理体制を事前審査する。公布後1年6カ月以内に審査対象を指定、審査や設備変更などの命令措置は1年9カ月以内に施行する。対象は電気、ガス、石油、水道、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港の14業種から絞る。特許非公開では特許庁の1次審査に加え、内閣府の新部署が「保全審査」(2次審査)を実施。非公開とする機微技術の関連収入を政府が補償する。審査体制の見直し・補償制度の新設には官民の入念な調整が不可欠と判断し、施行は公布後2年以内とした。推進法案は供給網に関する調査やインフラ審査に対する回答や報告の義務を定め、民間企業には負担が生じる。厳格な罰則を導入する案には懸念もあり、法制化から施行まで官民の十分な意見交換が必要となりそうだ。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220318&ng=DGKKZO59185720X10C22A3PD0000 (日経新聞 2022.3.18) 経済安保、規制の範囲論点、実効性や活動制約、法案審議入り 「対象曖昧」野党が主張
 政府が提出した経済安全保障推進法案が17日の衆院本会議で審議入りした。半導体などの重要物資のサプライチェーン(供給網)について国が調達先や在庫を把握できるようにすることを盛り込んだ。野党には規制対象の範囲が曖昧だと問題視する意見があり、対案も出ている。岸田文雄首相が17日の衆院本会議に出席し、趣旨説明と質疑に臨んだ。政府は目玉となる法案と位置付け、今国会での成立を目指す。法案は(1)供給網の国内構築強化(2)基幹インフラの安全確保(3)先端技術の官民研究(4)特許の非公開――の4本柱で構成する。2023年度ごろから段階的に施行する。供給網の強化は重要物資を海外に依存するリスクを減らす狙いがある。半導体や蓄電池、レアアース(希土類)などが対象になる。政府が関連産業を財政支援し、原材料の調達先や在庫を調べられるよう定める。基幹インフラから安保上の脅威となる外国製品を排除する措置も柱になる。電気や金融、鉄道など14業種を指定し、企業が導入する機器の概要や仕入れ先、部品の詳細を事前に報告させる。国会の論戦では経済活動を制約する懸念、安保上の実効性や米欧との足並みなどが論点になる見通しだ。法案は重要物資や基幹インフラの対象事業者を明記していない。政府は政令や省令で定める運用を想定する。野党からは規制対象がはっきりしないのは問題だという主張がでる。立憲民主党の篠原豪氏は17日の質疑で重要物資の定義が「あまりにも広い」などと訴えた。「経済安保の定義が曖昧なまま議論が拡大すれば経済の費用対効果が無視される恐れがある」と言及した。日本維新の会の青柳仁士氏は「安全保障の名のもとでの既得権益への資金投入や市場原理で淘汰される企業や産業への過剰な保護が起こりうる」と指摘した。維新は衆院に対案を提出した。客観的な基準に基づいて施策の対象となる物資や技術を定める規定を盛り込んだ。首相は17日の答弁で、重要物資の指定に関し海外への依存度や供給途絶時のリスクを例にあげ「要件で真に必要な物資に絞り込む。具体的な考え方を基本指針で示し予見性の確保を図る」と説明した。インフラの対象範囲は民間と調整する方針を示した。「日頃より事業者と緊密に連携して事業者の予見可能性を確保し、取り組みを促していく」と説いた。政府・与党には夏の参院選を前に国会の会期延長や法案を巡る対立を避けたいとの立場がある。2月下旬に法案を閣議決定する直前、事業者が供給網の実態調査に対応しない場合に科す罰則を一部削った。自民党の一部議員から「罰則を削れば実効性が担保できない」との意見も出た。それでも懸念を示していた経済界や公明党に配慮して削除した。首相は調査の実効性を問われ「企業負担の増加や企業が求めに応じるかを踏まえ、事業者に本調査の重要性や趣旨・目的を丁寧に説明する」と語った。政府・与党にはこれに加えて野党の要求を受ける形で明確な定義で範囲を狭めれば法案の実効性が低下するとの意見がある。国民民主党は別の視点から独自の案を提起している。情報流出を防ぐため安保に関する情報への接触者を限定する「セキュリティー・クリアランス」(SC)の導入を掲げ、政府側に対応を迫る。政府内で導入を検討してきたものの、今回の法案に含めることは見送った。小林鷹之経済安保相は「今後の検討課題の一つになり得る」と説明してきた。SCは米国や欧州の主要国で導入が進んでいる。日本も整備しないと量子コンピューターや人工知能(AI)に関する日米共同研究の障害になりかねないとの指摘がある。日本の経済安保絡みの法整備は米国や欧州の主要国と比べて整備が遅れてきた。法案審議は経済活動の制約回避だけでなく、政府案の内容を広げようとの論点も考え得る。国民の案は重要物資を巡ってもエネルギーや鉱物資源、食料の安定供給の確保を明記した。法案を巡っては責任者だった藤井敏彦前内閣審議官が停職処分を受けた。無届けの兼業による報酬が確認された。首相は「特定個人の一存で法案の内容がゆがめられる余地は構造上ない」と述べ、法案の中身には関係ないと強調した。

*2-2-3:https://mainichi.jp/articles/20220225/k00/00m/010/267000c (毎日新聞 2022/2/25) 経済安保、欧米並みに強化 民間人に罰則 中国依存を脱却できるか
 政府は25日、経済安全保障推進法案を持ち回り閣議で決定した。ハイテク分野で台頭する中国をにらみ、半導体などの重要物資の供給網や重要技術の流出防止などを欧米並みに強化する。情報漏えいした民間人らに対し、最高で懲役2年以下の罰則も設ける。今国会で成立を目指す。法案は「供給網」「基幹インフラ」「先端技術開発」「特許非公開」の4分野を柱とし、岸田文雄首相が重視する経済安保政策の中核となる。小林鷹之経済安保担当相は25日の記者会見で「我が国の経済構造の自律性を高め、技術を含めた他国に対する優位性を磨いて国際社会にとっての不可欠性を獲得していく」と強調した。供給網の分野では、国民生活や産業に欠かせない「特定重要物資」を指定。半導体やレアアース(希土類)などを指定対象に想定し、供給網強化に向けて民間事業者を資金支援する。政府が、生産や輸入を担う事業者を調査する仕組みも設ける。基幹インフラでは、電気や金融、鉄道など14業種の大企業に対し、重要設備を導入する際に国に計画書の届け出を義務づける。政府は、中国製品の使用の有無などを審査し、問題があった事業者に改善勧告や命令を出すことができる。先端技術開発では、政府と民間の研究者で官民協議会をつくり、宇宙や量子、人工知能(AI)などの開発を支援する。民間研究者には国家公務員と同じく守秘義務を課す。特許非公開制度は、特許出願された発明のうち、核技術や先進武器技術などに関わる内容を「保全対象発明」に指定。指定されれば、発明は非公開となり、外国への出願は禁止される。それによって出願者が受ける経済的損失の補償も盛り込んだ。虚偽の計画書を届け出た基幹インフラ事業者や、保全指定された特許を漏えいした出願者には、2年以下の懲役か100万円以下の罰金とした。供給網や先端技術開発の分野にも、罰金刑などを盛り込んでいる。与党は3月中旬にも同法案を審議入りさせ、早期成立を図りたい方針だ。だが、経済界ではビジネス活動への影響を懸念する声もある。企業への「規制」が適正かどうかが焦点となる。経済同友会は16日に意見書を発表し、経済安保の定義や規制の対象範囲を明確にすることや、裁量によって適用範囲が拡大する余地を排除することを求め「企業のイノベーションや生産性向上といった『攻めの経営』精神をくじかない整備を求める」と訴えた。小林担当相は「企業の制約は最小限」と理解を求めているが、実際に立憲民主党も政府の事前審査など企業への負担が大きい点などを問題視している。政府にとって誤算だったのは、法案策定を中心的に担った藤井敏彦・前経済安保法制準備室長の事実上の更迭だ。民間ビジネススクールで講師を務めて報酬を得たことなどが週刊誌で報じられたためだが、野党側は法案策定に当たり、藤井氏が有識者や経済関係者に「不当な圧力」をかけたかどうかを問うなど追及を強めている。法案審議に藤井氏の「更迭」が影響を与える可能性がある。
●対中「経済を切り離すのは不可能」?
 政府が経済安保推進法案の成立を急ぐのは、海洋進出のみならず経済分野で台頭する中国に対抗する狙いがある。米中覇権争いの激化を受け、欧州なども経済・技術分野で中国と距離を置き始めている。日本も法整備により、中国依存から脱却し、欧米との協調に軸足を置く方針だ。岸田文雄首相は4日の関係閣僚会議で「経済安保はグローバルルールの中核になる」と強調した。法案の骨格とした4本柱は、いずれも米国や英独仏がすでに導入した制度に日本も歩調を合わせた形だ。経済安保への関心を強めたきっかけは、2010年の沖縄県・尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件を機に中国が踏み切った、日本向けレアアース輸出の禁止措置だ。中国からのレアアース輸入に依存していた日本経済界は混乱に陥った。最大の貿易相手国として中国に頼ってきた日本だが、こうした過去の「痛手」もあり、中国依存からの脱却を目指す方向へとかじを切った。特に法案整備を後押ししたのは、その後の米中対立の激化だ。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げ、発展途上国への影響力を強めるとともに民間の技術力を軍の近代化に活用する「軍民融合」を展開。外国人技術者を招くなど先端・基礎技術力も高めてきた。一方で17年には国家情報法を施行し、民間が商取引で得た他国情報を国家が収集・活用する道を開いた。これに米国は神経をとがらせた。米側は「安全保障を損なう」として中国の半導体や通信機器メーカーに対する製品・技術の禁輸措置に踏み切ったが、中国も戦略物資やハイテクの輸出規制を強化する輸出管理法の施行などで対抗し、対立がエスカレートした。米国はこうした中で、民主主義の同盟国間でのサプライチェーン(供給網)構築や民間も含めた先端技術協力のルールを定める必要があると判断し、各国に協調を求めた。日本政府の法案策定は米側の要求に沿ったもので、米中間の緊張が軍事分野のみならず経済分野にまで広がる現状を浮き彫りにしたと言える。だが、日本経済界は日中の政治的な対立が起きる中でも中国との関係を強めてきた経緯がある。政権幹部は「中国は既に世界の経済システムに深く組み込まれており、米ソ冷戦時代のように経済を切り離すのは不可能だ」と指摘する一方、「先端分野など部分的な切り離しはできる」と法整備の意義を強調した。

*2-2-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15258925.html (朝日新聞 2022年4月7日) 経済安保法案「消化不良」 きょう衆院可決見通し
 岸田政権が今国会の成立をめざす経済安全保障推進法案が6日、衆院内閣委員会で採決され、賛成多数で可決された。自民、公明両党の与党のほか、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党が賛成した。7日の衆院本会議で可決される見通し。経済活動の規制につながる恐れがあるほか、運用面であいまいな部分が多く、野党から「具体的なイメージが持てない」との指摘がでていた。この日の委員会には岸田文雄首相が出席した。立憲の岡田克也氏は、法案には具体的な運用が書き込まれず、国会審議を経ない「政令」「省令」で詳細が決まることを問題視。首相は「本法案は事業者の予見可能性には配慮している」と述べ、政省令を作る際は、産業界や学術界の有識者から意見を聞くと説明した。岡田氏はさらに、法案で規制の範囲について「合理的に必要と認められる限度」としている点について、政府の裁量に左右されるのではないかと指摘した。首相は「規制は必要最小限度にするよう努めるのは当然だ」としつつ、「国際情勢の変化に伴う安全保障のリスクは絶えず変化し、予測しがたい」とし、政府の裁量を維持したい考えを示唆した。先端技術を官民で研究開発する協議会について、共産の塩川鉄也氏が質問した。「防衛、軍事といった政府側のニーズと研究者を結びつける場なのか」との問いに対し、首相は、協議会が防衛省だけでなくすべての省庁に適用されると説明。「防衛とか軍事だけをことさら研究者と結びつけるという指摘はあたらない」と反論した。3月23日の委員会での審議開始から計27時間15分を費やしてきたものの、議論が深まったとは言いがたく、6日の審議でも政府側の説明は明快さを欠いた。立憲の大串博志氏が、サプライチェーン(供給網)の強化で国が指定する「特定重要物資」に関し、想定する数を尋ねたが、小林鷹之・経済安保担当相は「予断を持って言及することはできないが、相当程度絞り込まれる」と述べた。無所属の緒方林太郎氏は法案に賛成する旨を表明しつつ、「法成立後、何が起こるのかの具体的なイメージがつかめない。審議は非常に消化不良だった」とも述べ、説明に立つ政府側の姿勢を問題視した。採決では、自由な経済活動に対する過度な制限につながるとの野党側の懸念に対応した付帯決議を賛成多数で採択。「事業者の事業活動における自主性を尊重」などの項目が盛り込まれたことから、立憲、維新両党は賛成に回った。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220318&ng=DGKKZO59180500X10C22A3TB2000 (日経新聞 2022.3.18) 〈Bizランキング〉EV販売、中国勢ずらり、昨年トップ20に12社入り、国策が後押し 2位上海汽車、格安車で
 2021年の電気自動車(EV)販売台数をメーカー別に集計したところ、上位20社・グループ中12社が中国勢となった。2位の上海汽車集団は米ゼネラル・モーターズ(GM)との合弁で格安車をヒットさせ、比亜迪(BYD)も勢いづく。中国は国策でEVを後押しする。首位の米テスラは中国市場がけん引する。トヨタ自動車は29位で日本勢の存在感は薄い。調査会社マークラインズのデータと各社の発表を基に日本経済新聞が集計した。テスラは小型車「モデル3」(約550万円、米国での最低価格)と小型多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」(約740万円)が人気で前年比9割増の93万台だった。世界のEV販売450万台強の約2割を占める。販売を押し上げているのが中国市場だ。19年に上海工場を稼働させ21年に中国での生産と販売が米国を超えた。その中国でテスラを急速に追い上げるのが2位の上海汽車だ。前年比2.4倍の59万台を販売した。上海汽車は自社で大衆ブランド「栄威」などのEVを販売するが、けん引役は格安EV「宏光MINI EV」だ。同社が50.1%を出資する上汽通用五菱汽車が開発・製造し、価格は約50万円。自転車や電動バイクなどに代わる生活の足として、中国の地方都市を中心にヒットしている。上汽通用五菱は商用バンを手掛けてきたノウハウを生かし、宏光MINI EVではブレーキを簡素化したり半導体などで汎用品を活用したりして機能を絞りコストを抑えた。自動運転などにも対応する高度な機能を持つテスラと対極のコンセプトで、21年は42万台を販売。上海汽車のEV販売の約7割を占めた。上汽通用五菱にはGM(中国名が通用汽車)も44%出資している。GMは自社の販売台数に上汽通用五菱も含めて公表しており、その場合GMのEV販売は50万台超になる。格安車を先兵に、EV時代の中国での足場を強化しようとしている。GM本体は小型車「シボレー・ボルトEV」(約370万円)や大型車「ハマーEV」(約1300万円)などを販売しているが21年の実績は約4万3千台で21位にとどまる。
●4位BYD2.4倍
 中国の21年のEV販売は291万台と世界の6割超を占めた。中国政府は車メーカーにEVなど「新エネルギー車」を一定比率で生産することを義務付け、35年をめどに国内販売の5割にする目標を掲げている。上位20社・グループには上海汽車を含む中国勢12社が入った。国策を後押しに勢いが鮮明だ。4位のBYDは主力のセダン「漢」(約400万円、中国での最低実売価格)などが人気で前年比2.4倍の32万台を販売した。電池技術に強みを持ち、普及価格帯にセダンからSUVまで幅広いEVをそろえた。中国ではEV専業の新興勢も台頭している。小鵬汽車、上海蔚来汽車(NIO)、合衆新能源汽車など4社が20位以内に入った。小鵬汽車、NIOは月間の出荷台数が1万台を超えるなど生産が軌道に乗りつつあり、年間販売も10万台に迫る。
●日本勢出遅れ
 他方、日本勢の出遅れは明らかだ。日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の日仏連合が24万台で5位になった。だがガソリン車なども含む21年の世界新車販売の上位10社で、EV販売で20位に届かなかったのはGMのほかトヨタ、ホンダ、スズキの4社。販売台数に占めるEV比率はトヨタが0.1%、ホンダが0.3%と低い。EV比率が高い企業は脱炭素銘柄として株式市場の期待を集めやすい。19年末と3月14日時点の株価を比べると、EV専業のテスラが9倍、NIOが3.5倍のほか、EV比率が43%のBYDは4.6倍となった。全般的にEV比率が低い既存大手も巻き返しを急いでいる。米フォード・モーターは22年春に発売予定のピックアップトラック「F-150」のEVを既に20万台受注している。25年までに300億ドル(約3兆5400億円)を電動化に投じる計画を表明し、EV比率は1%と低いが株価は19年末と比べて7割上昇した。トヨタも22年に初の量産EV「bZ4X」を発売し、30年までに4兆円を投じてEVの世界販売台数を350万台に引き上げる計画を掲げる。既存大手は今後、ガソリン車で稼ぎながらEVの開発を効率的に進められるかが焦点となる。英調査会社LMCオートモーティブは22年の世界のEV販売台数を21年比で5割増の約700万台と予測する。勢力図は大きく変化する可能性がある。

*2-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15243262.html (朝日新聞社説 2022年3月24日) 電力の逼迫 抜本的な備えの強化を
 電力不足への備えがいかにお寒いか。実態が露呈した。経済産業省が、初の電力需給逼迫(ひっぱく)警報を東京、東北両電力管内に出した。先週の地震で福島県などにある火力発電所が稼働できなくなったところに、季節外れの寒波が襲って暖房需要が増え、需給が厳しくなった。東電管内に警報が出されたのは連休最終日の21日夜。最新の天気予報を受け、翌22日にはエリア外からフルに送電を受けても、供給余力が安定供給に必要な3%を大きく下回るとして、生活や経済活動に支障がない範囲で節電を呼びかけた。東日本大震災後、政府は電力逼迫時の対応策を申し合わせ、余力が3%を下回る見通しになったら、前日の午後6時をメドに警報を出すことになっている。しかし、今回は発表が2時間以上遅れ、さらにその時点では必要ないとしていた東北電管内も当日の22日午前、警報の対象に追加した。初動の遅れもあって、22日午前中の節電量は東電の目標の3分の1にとどまった。午後に萩生田経産相が緊急会見し「このままでは広範囲での停電を行わざるを得ない」として一層の節電を要請。暖房温度を下げたり、工場が操業を取りやめたりする協力が進んで節電量が倍増し、停電は回避されたが、手放しでは喜べない。電力は昨年1月にも、燃料不足による全国的な供給不足が起きた。自由化で採算が悪化した火力発電所の休廃止が加速するなど供給体制は過渡期にあり、夏冬のピーク期を中心に厳しい状態が続く。安定供給には需給状況を見える化し、節電などに幅広い参加を促してバランスを図ることが欠かせない。しかし、先週の地震による発電所の損傷が供給にどう影響するのか、電力業界も経産省も分かりやすく示しておらず、需給逼迫は大半の利用者には寝耳に水だった。政府や東電は直ちに経緯を検証し、節電の呼びかけ方を一から見直す必要がある。中長期的に需給を安定させていくには、再生可能エネルギーが主役となることが望まれる。太陽光は天候に左右されやすく、今回も発電量の低迷が逼迫の要因の一つになったが、比較的早く稼働できる利点もある。風力などとうまく組み合わせ、脱炭素社会をめざす流れとの両立を図りたい。蓄電技術の開発や、周波数の違う東日本と西日本の間も含めた広域送電網の強化も大切だ。需給改善に、原発の活用を挙げる声もある。しかし、原発の稼働は新規制基準への適合や避難計画の整備が前提であり、目先の需給と直結させて議論すべきではない。

*2-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/834248 (佐賀新聞 2022年4月2日) 自治体の半数超「過疎地」、885市町村 人口減、70年以降で初
 過疎法に基づく過疎自治体の数を820から885に増やすことが1日、官報で公示された。全市町村に占める割合は47・7%から51・5%に上昇。1970年の法制定以降、初めて半数を超えた。過疎自治体になると、インフラ整備事業などに対し、国の手厚い財政支援を受けられる。割合の増加は人口減少の進行に加え、過疎の要件緩和が影響している。過疎法は70年に10年間の時限立法として制定後、新法に衣替えしながら事実上の延長を繰り返している。現行法は五つ目の法律で、2031年3月末が期限。国と自治体の取り組みによって、過疎地を活性化できるかどうかが問われる。20年国勢調査で得られた最新データを当てはめた結果、27道府県65市町村が人口減少率などの要件を満たし、新たに過疎自治体となった。総数885の内訳は、管内全域が過疎地域となる全部過疎が713、一部過疎が158、市町村合併により管内に過疎地域が含まれた「みなし過疎」が14。佐賀県で新たに過疎自治体になった自治体はない。県内は全部過疎が多久市、大町町、江北町、白石町、太良町の1市4町で、一部過疎が佐賀市、唐津市、武雄市、小城市、神埼市、有田町の5市1町となっている。過疎自治体になると、借金である「過疎債」を発行し、インフラ整備事業などの財源を確保できる。さらに元利の支払い費の7割は、国が地方交付税で手当てする。このため、地方側には「支援対象を幅広くしてほしい」との意向が強い。過疎法はいずれも議員立法だ。選挙対策の観点からも自治体の意向は無視できず、支援の枠組みを大きく変えない一方、過疎要件は法律が変わるたびに緩和。この結果、70年に23・6%だった過疎自治体の割合はほぼ一貫して伸びている。

*2-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220405&ng=DGKKZO59705500V00C22A4MM8000 (日経新聞 2022.4.5) 炭素半減に最大30兆ドル IPCC報告、30年目標、投資促す
 国連の気候変動に関する政府間パネルは4日、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える目標達成の方策をまとめた。世界の温暖化ガス排出量は遅くとも2025年には減少に転じさせる必要があるとする。排出量を30年に半減するには、最大で30兆ドルの投資が必要になる。再生可能エネルギーの普及や化石燃料からの脱却など、需給両面で各国に対策を迫る。ロシアのウクライナ侵攻を受け、天然ガスの輸入をロシアに頼っていたドイツなどの欧州各国では、廃止予定だった石炭火力を使い続けるといった動きも予想される。世界的なインフレ懸念もあり各国の関心は化石燃料の増産に向く。国際協調の揺らぎが地球規模の温暖化対策に影を落とす中、IPCCの報告は脱炭素に向けた将来への投資を改めて各国に促す。IPCCは報告書で、排出削減にかかる費用を分析した。太陽光発電や風力発電は技術進歩などで導入コストが下がった。報告書では可能性の高いシナリオとして、100ドル以下のコストで二酸化炭素(CO2)を1トン減らせる再生エネなどの導入を進めれば、世界全体の排出量を30年までに19年の半分に減らせるとする。一方で今の化石燃料を使う発電所などがそのまま稼働すれば、温暖化ガスの削減目標は達成できないと明記した。結果として温暖化が進めば、激しい自然災害などで経済活動に支障がでる。気温上昇を抑える効果は、温暖化対策にかかる莫大なコストをも上回る可能性が高いとする。IPCCが示した再生エネ導入の費用と温暖化ガス削減の効果から単純に推計すると、30年までに排出量を半減するために必要な投資額は最大30兆ドル(約3680兆円)に達する可能性がある。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のクリーンエネルギー関連の投資は現状で年1兆ドル規模。今後10年未満で最大30兆ドルもの投資は、米国の民間設備投資全体(20年に約2.8兆ドル)に相当する額の投資を温暖化対策に振り向ける必要性を意味する。IPCCも報告書で、気温上昇を2度もしくは1.5度に抑えるために20~30年に必要な年間の平均投資額は現在の水準の3~6倍になるとの見方を示した。温暖化ガス削減の実効性を高めるには、経済成長で排出量が増える一方、対策は遅れた途上国での技術導入も重要だ。太陽光や風力といった再生エネ、電気自動車(EV)などで有力な技術を持つ企業にとっては、こうした投資の必要性は成長の好機となる。天然ガスをロシアに依存する欧州連合(EU)は3月、脱ロシア政策の計画を打ち出した。省エネの徹底でロシアからの輸入天然ガスの消費量を減らし、バイオメタンや余った再生エネでつくった水素で置き換えを急ぐ方針だ。足元では化石燃料の調達を急ぐ動きがあるが、「中長期的な脱炭素の方向性は変わらない」との見方は多い。今回はIPCCの第3作業部会による8年ぶりの報告で、ロシアのウクライナ侵攻といった動きは反映していない。

*2-4-3:https://webronza.asahi.com/business/articles/2022010300001.html?page=1 (論座 2022年1月5日) わずか数年で、牛乳が不足から過剰になった仕組み〜行き当たりばったりの政策、時代遅れになった過去の成功体験 [山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹]
 数年前にバター不足が大きな問題となった。このときは、農業の専門家たちから酪農家が離農したので生乳生産が減少したのだと主張された。今回は、新型コロナの影響で需要が減少し、この年末年始に余った生乳5000トンが廃棄される懸念が出たため、岸田総理が、「廃棄を防ぐために牛乳をいつもより1杯多く飲んで」と異例の呼びかけを行った。数年のうちに生乳は不足から過剰になった。生乳は過剰や不足を繰り返してきた。需給調整が難しい産品で、その都度行き当たりばったりの対策が講じられてきた。
●知恵がない農水省の提案
 生乳廃棄に対して、牛乳が余るならバターに加工すればよいという意見や牛乳のカゼインという成分からミルク繊維を作るという新規用途を利用すべきだなどの意見も出されている。このような酪農問題についての素人的な意見に対して、玄人であるはずの農林水産省が提案したのが、総理の呼びかけにあるように、家庭などで牛乳を「いつもよりもう1杯、もう1本消費」してもらうようアピールしていく「NEW(乳)プラスワンプロジェクト」という単純な解決策だった。“NEW”と“乳”をかけるというダジャレのようなタイトルで世間の注意を引くことが精いっぱいだったようだ。
●経済学を知らない役人
 日常的に酪農問題に関与している農林水産省の担当課の人たちは、酪農・乳業や牛乳・乳製品の現状にも、制度の細部も精通しているだろう。しかし、農林水産省の中で経済学を勉強した人は極めて少ないし、既存の制度や発想の枠組みを超えられないという役人の限界もある。彼らに、現在の制度や政策の本質を理解し、その枠を超えた政策を提示することは、期待できない。私は平成元年から4年間農林水産省で酪農、牛乳問題に係わった。バター不足が問題となっていたころ出版した「バターが買えない不都合な真実」(幻冬舎新書、2016年)は、ある国立大学で酪農問題を専門に研究している人から、酪農の制度や政策を勉強するうえで最高の教科書だと評価された。農林水産省の担当者も、知らないことや気づかなかったことが多かったのではないかと思う。出版してから5年以上経過しているが、未だにそこそこの売り上げはあるようだ。この記事では、この本で書いた内容を踏まえて、不足から過剰に揺れる酪農問題の根本的な解決策を提示したい。
●牛乳・乳製品という特殊で不思議な食品
 かつて農林水産省では、米、牛乳、砂糖の3つを担当すれば出世できると言われていた。私が出世できなかったのは、このうち砂糖を担当しなかったからかもしれないが、これらはいずれも白いので、“三白”と言われた。
いずれも、政策的にも政治的にも一筋縄では済まない品目・業種だが、牛乳(酪農)はこの中で特に難しい。その理由として、生産面では、酪農が飲用乳向け主体の都府県とバターなどの加工原料乳向け主体の北海道に分かれていることがあり、商品面では、生乳から様々な商品が加工されるばかりではなく、いったん加工したものを牛乳に戻すことができるという特殊性があるからである。とくに、後者が問題解決を複雑にする。簡単に説明しよう。次は、生乳から作られる様々な製品のうち主要なものだけを掲げたものである。単に製品の種類が多いだけではない。牛乳は不思議な商品である。牛乳から生クリームと脱脂乳が分離される。生クリームを撹拌(かくはん)するとバター(脂肪分)、脱脂乳を乾燥させると脱脂粉乳(たんぱく質(カゼイン、ホエイ)や糖分などの無脂乳固形分)になる。そのバター、脱脂粉乳に水を加えると、元の牛乳(加工乳または還元乳という)に戻る。牛乳と乳製品に可逆性があるのである。このような農産物は他にない。スーパーの店頭で、“牛乳”と表示されているものは生乳だけから作られるもの、“加工乳”と表示されているものは生乳と乳製品だけから作られるもの、“乳飲料” と表示されているコーヒー牛乳などは生乳・乳製品以外の成分を加えたものである。ただし、“牛乳”と“加工乳”で、成分に違いがあるわけではない。国内では、夏は、牛乳の消費が高まるが、牛は夏バテで乳を出さない。牛乳は不足する。逆に、冬は、消費は少ないのに、乳はたくさん出るので、牛乳は余る。このため、冬に余った牛乳(余乳という)からバター、脱脂粉乳を作り、それを夏に牛乳(加工乳)に戻して供給するという方法がとられてきた。都府県の生乳生産が飲用牛乳の需要をほぼ満たしていた時、全国各地に余乳処理工場があった。バター、脱脂粉乳が余ると過剰に牛乳(加工乳)が作られてしまうので、牛乳価格、さらには酪農家の手取りとなる生産者乳価も低下する。他方で、後述するように、バター、脱脂粉乳向けの生乳価格は飲用向けよりも安いので、通常の飲用牛乳よりも安いコストで還元乳を供給できる。牛乳と還元乳との値段の差がそれほどなければ、 乳業メーカーにとっては、加工乳を作った方がもうかる。国際的には、牛乳については腐りやすいという自然の貿易障壁があるので、これまで牛乳は貿易されてこなかった。牛乳の関税は25%で、バター等の関税(従価税換算)が200%を超えることと比べると著しく低い。しかし、乳製品は貿易されるので、バター、脱脂粉乳を輸入して牛乳を作れば、この自然の貿易障壁を乗り越えて、事実上牛乳を輸入することが可能となる。乳製品輸入は、牛乳の国内市場にも影響を与えるので、関税や国家貿易などの輸入制限が採られてきた(農林水産省は、従価税に換算すると、バターは360%、脱脂粉乳は218%となるとしている)。国際的には、牛乳については腐りやすいという自然の貿易障壁があるので、これまで牛乳は貿易されてこなかった。牛乳の関税は25%で、バター等の関税(従価税換算)が200%を超えることと比べると著しく低い。しかし、乳製品は貿易されるので、バター、脱脂粉乳を輸入して牛乳を作れば、この自然の貿易障壁を乗り越えて、事実上牛乳を輸入することが可能となる。乳製品輸入は、牛乳の国内市場にも影響を与えるので、関税や国家貿易などの輸入制限が採られてきた(農林水産省は、従価税に換算すると、バターは360%、脱脂粉乳は218%となるとしている)。バター加工や新規用途は解決にならない。生乳が余ったからといって、バターに加工しても、いずれ加工乳が作られてしまう。これは解決策にならない。農林水産省の担当者は、生乳の供給を削減するか、今回の提案のように牛乳・乳製品の消費拡大を考えるしかなかった。それだけではない。生乳から、バター、脱脂粉乳が同時に生産・供給される。しかし、バター、脱脂粉乳は、それぞれ異なる商品なので、異なる需要を持つ。2000年6月の雪印乳業の集団食中毒事件では、北海道大樹工場の停電で脱脂乳に毒素が発生し、これから作られた脱脂粉乳を原料とした雪印低脂肪乳(加工乳である)を飲んだ子供が、食中毒を起こした。以降、脱脂粉乳の需要は大きく減少した。一定量の生乳から需要に合ったバターを作ると、脱脂粉乳が余ってしまう。脱脂粉乳が過剰になると、これから加工乳が作られ、加工乳も含めた牛乳全体の供給が増える。そうなると、都府県の酪農家にとって重要な飲用向けの生乳価格が低下する。これを、農林水産省や酪農界は恐れた。こうして脱脂粉乳が余らないように、生乳の供給を抑制した。そうなると同時に生産されるバターは少なくしか供給されなくなる。
●「不都合な真実」を隠した学者や農水省
 2014年バターが不足した当時、国際市場ではバターは大量に余っていた。バターが自由な民間貿易の下にあれば、不足すれば輸入されるので、問題は起きなかった。ところが、バター、脱脂粉乳の輸入は、農林水産省(独立行政法人農畜産業振興機構)による国家貿易で一元的・独占的に行われている。農林水産省は輸入したバターが余って加工乳が作られ過ぎることを恐れて、十分なバターを輸入しなかった。飲用向けの生乳生産主体の都府県の酪農団体が乳製品の輸入に反対してきた。2014年のバター不足の本質は、以上である。農業経済学者や農林水産省が主張したような、酪農家の離農が原因ではない。農林水産省は不都合な真実を隠したのだ。今回は、脱脂粉乳が余っている。政府・与党は12月23日、需要低下で民間在庫が積み上がった脱脂粉乳2万5千トン分を家畜の餌用に振り向ける費用の一部などとして、約36億円を助成することを決定したばかりだ。生乳をバターに回すと、脱脂粉乳がさらに過剰になってしまう。新規用途の提案も、牛乳・乳製品の性質を理解していない。カゼインは牛乳から脂肪分、ホエイ蛋白を除いたものなので、カゼインを利用すると、同時に生産されるバター、ホエイの処分を検討する必要がある。現在バターの需給が均衡しているのであれば、これで増えた分、バター等向けの生乳生産を減少しなければならない。過剰の解決にはならない。そもそも、新規用途が有望なら既に企業が牛乳を使用しているはずだ。それが行われていないということは、技術的な問題があったり、コストが高くて他の繊維と競争できないなどの経済的な理由があるからだ。
●成功した過去の酪農政策
 酪農を振興させたのは、1965年の加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(いわゆる"不足払い法")だった。それまで、乳価は、飲用向け、乳製品向けという区別がない、一本の価格だった。乳製品は安いので、乳業メーカーがその価格で乳製品を作ると赤字になる。それを補おうとすると、酪農家に支払う乳価を抑えて、飲用牛乳で大きな利益を出す必要があった。このため、乳業と酪農団体との乳価交渉は熾烈を極めた。不足払い法は、バター、脱脂粉乳などに向けられる生乳(加工原料乳という)について、農家の再生産が可能となる保証価格と乳業メーカーの支払い可能価格との差を国が補てん(不足払い)する仕組みである。飲用向けと異なり、バターや脱脂粉乳などの乳製品の価格は低いので、これら乳製品向けの加工原料乳に、乳業メーカーが支払える乳代は少ない。したがって、規模の大きい北海道の生産者でも、その価格では再生産できない。このため、政府が不足払いを乳業メーカーが支払える乳代に加算することによって、農家に一定の価格を保証し、北海道の酪農が再生産できるようにしたのだ。乳業メーカーも、支払う乳代が低くてもよいので採算がとれる。価格関係は、[飲用向け乳価>不足払いを含めた農家への保証価格>乳業メーカーが支払える乳代]である。飲用牛乳に仕向けられる都府県の乳価が、保証価格に北海道から都府県への輸送費を加えた額以下であれば、北海道からの流入を防ぎ、都府県の乳価を安定させることができる。別の言い方をすると、加工原料乳の保証価格に都府県への生乳移送価格を加えた価格までは、都府県の飲用向け乳価が保証されることになった。不足払い法によって、飲用向け、加工原料乳向けの用途に応じた乳価が設定された。不足払いで加工原料乳に乳業メーカーが払う価格を低くすることで、乳業メーカーは、乳製品の生産で赤字がでないようになった。このため、これまでの一本の乳価よりも、高い価格を飲用向け乳価として払うことが出来るようになった。北海道の加工原料乳だけ不足払いすることで、飲用を含めた全国の乳価保証を間接的に実現した。これ以降酪農家と乳業メーカーの激しい乳価紛争は止み、北海道の生乳生産は全国の56%(2020年)を占めるまでに発展した。
●過去の政策を時代遅れにした「緑茶飲料」
 乳製品の国家貿易制度も不足払い法も、裏に隠された目的は飲用向け乳価の高値維持である。しかし、これが時代遅れになりつつあることを、農林水産省も酪農・乳業界も気づかない。1990年代には850万トンほどあった生乳生産量が750万トンに減少しているのは、飲用の需要を急増した緑茶の清涼飲料にとられたからだ。90年にはほとんど消費がなかった緑茶の清涼飲料は2007年頃には250万キロリットルまで拡大している。飲用牛乳の価格を高くしたままでは、消費拡大はできない。牛乳は貿易商品になった。これまでの制度は、関税や国家貿易によって、乳製品だけでなく飲用牛乳も含めて、国内市場を国際市場から遮断することを目的にしてきた。つまり、国内の酪農政策から、輸出の可能性を排除してきたのである。しかし、乳製品ではなく、牛乳が貿易される時代に変化している。酪農界は気づいていないようだが、地理的に離れたドイツ、ポーランド、ニュージーランドが、中国への牛乳輸出を急激に拡大させている。メラミン事件を起こした中国では、日本への中国人旅行者が育児用の粉ミルクをこぞって購入するなど、日本の牛乳・乳製品に対する評価は高い。中国では牛乳の消費量も輸入量も増加している。しかも、ドイツ、フランスやニュージーランドなどから中国に輸出されている牛乳はLL(ロングライフ)牛乳だ。中国に近い日本は、焦げ臭いLL牛乳よりもおいしい牛乳を輸出できる。30年以上も前から北海道の生乳(その生産量は2000年360万トンから2020年416万トンへ拡大)は、都府県に船で輸送されている。今では、北海道釧路港と茨城県日立港とを20時間で結ぶ高速大型船によって、毎日、北海道の生乳を関東・中京圏に供給している。2020年で生乳53万トンだ。これ以外に、北海道でパッキングした飲用牛乳が都府県に移出されている。こちらは、2020年は40万トン。いずれも過去最高だ。合計すると、北海道の生乳生産の22%に相当する。北海道から関東に生乳を輸送できるのであれば、日本から中国等への生乳や飲用牛乳の輸出ができるはずだ。北海道を含め、日本の酪農は、アジアの飲用牛乳供給地帯を目指すべきなのだ。
●輸出によって需給調整ができる時代
 この大きなメリットは生乳の輸出によって需給調整を可能にすることだ。今回のように生乳が多く生産されるようだと輸出を増やし、少なくなると輸出を減らせばよい。これまで国内市場だけで需給調整を考えてきた。国際市場を生乳需給の調整弁とするのだ。飲用向けの輸出を考えるなら、ニュージーランドより高い国内の生乳価格で、わざわざ国際価格の3倍もするバター等の乳製品を作る必要はない。輸出の拡大によって、北海道の加工原料乳とこれから作られるバターや脱脂粉の生産が減少していけば、不足払い額が減少するだけでなく、バターなどの乳製品に対する高関税も国家貿易制度も不要となる。国民は、納税者としても消費者としても、負担を大きく軽減される。国際市場から自由に安いバターを輸入できる。バターは不足しなくなる。これまでの用途別乳価は、加工原料乳価を安く飲用乳価を高く設定することで、飲用需要を減少させた。アジアの飲用牛乳市場を目指すのであれば、品質面での優位性だけではなく、価格競争力も持たなければならない。用途別乳価と不足払いを廃止して、オーストラリアが改革したように、単一乳価制に移行すべきだ。飲用乳価が低下すれば、現在緑茶にとられている国内の飲用需要も奪回できる。消費者も牛乳価格低下のメリットを受ける。酪農家の採算が採れないというのであれば、欧米のような直接支払いを講じる方法もある。しかし、酪農家の平均純所得は1500万円を超える。また、アメリカ等からトウモロコシや牧草を輸入している酪農は、食料危機の際には食料供給の役割を果たせない。また、糞尿による大量の窒素分を日本の国土に蓄積させ、環境に大きな負荷を与えている。これは、食肉、卵など他の畜産も同じだ。畜産の保護が必要かどうか、国民は真剣に議論すべきだ。

*2-4-4:https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022030194841 (岩手日報 2022/3/3) 「高台移転した被災地の現状は?」 住宅新築ほぼ一段落 岩手県陸前高田市中心部 
 全国のJOD加盟紙が連携したプロジェクト「#311jp」で東日本大震災から11年を前に行った読者アンケートには「高台移転した被災地の現状はどうなっていますか」との質問が複数寄せられた。津波で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市中心部は浸水域のかさ上げと高台移転でまちの再生を進めた。1年前に宅地の引き渡しが終わり、住宅新築もほぼ一段落した。津波災害への安全性は高まったが、町内会ができていない地区もあるなどコミュニティー再構築は途上だ。住民流出でかさ上げ地には多くの空き地が残り、将来への道のりは平たんではない。名勝・高田松原や「奇跡の一本松」を眼下に望む同市気仙町今泉地区の高台。3年前に新築された気仙小の周囲には真新しい戸建て住家が並ぶ。高台の下には、浸水域を最高で16㍍盛り土したかさ上げ地が広がる。走る車は少なく、周辺は空き地が目立つ。今泉地区は同市を南北に流れる気仙川の西岸。藩制時代は気仙地方の政治の中心地として栄え、醸造業など伝統産業が営まれてきた。住民同士の結び付きも強い土地だったが、津波で約600戸のうち592戸が被災した。対岸の高田町も大きな被害を受け、市は両地区で土地区画整理事業を導入。生活を続ける人たちの安全確保を最優先した。今泉の山を切り崩し、総延長約3㌔の巨大ベルトコンベヤーで約500万立方㍍(東京ドーム約4個分)の土砂を高田町に運び、1年半かけ浸水域に盛った。切り崩した後の土地も含め両地区の計約300㌶に計1464戸分の宅地を造成した。同市は津波で家屋のほぼ半数の約4千世帯が全半壊した。震災直前の人口約2万3千人のうち死亡・行方不明は1759人に上る。気仙川近くに住んでいた鈴木英俊さん(67)は同居する妻とその両親を津波で亡くした。4年前に今泉の高台に新居を構え今は1人で暮らす。「津波の心配がなく防災面では安心だ。当時も高い場所に家があれば3人を守れていたかもしれない」。安心感と後悔の念が複雑に交錯する。高田、今泉地区は造成規模が大きく整備は長期化した。時間を費やす間に住民が流出し、今泉地区に暮らすのは震災前の半数以下の約250世帯。無人区を除き6行政区が新たに設けられたが、うち三つはまだ町内会を発足できていない。気仙小周辺の約50戸で構成する愛宕下町内会は2021年12月に発足。かつての町内の住民が入り交じって転居し、地区外から来た人もいる。ゼロからのコミュニティーづくりで公民館建設や自主防災組織の立ち上げもこれから。村上諭会長(76)は「課題はこれからも出てくるだろうが、助け合っていくしかない」と前を向く。気仙町で約900年の歴史を誇り、数台の山車をぶつけ合う「けんか七夕」は、復活した。新型コロナウイルス禍で20、21年は中止となったが熱意ある住民らが存続へ汗を流す。今泉地区コミュニティ推進協議会の菊池満夫会長(69)は「住民の輪をつくり、機運を醸成してまとまりをつくり、今泉の歴史をつなげていかなければならない」と決意する。岩手県沿岸部は東日本大震災の津波で広範囲が浸水し安全確保のため高台移転が進んだ。造成後の住宅再建が落ち着きつつある今、専門家は津波以外の災害に対する防災意識の低下を懸念。再び起こり得る大災害への備えとして「事前復興」の重要性も強調する。岩手県沿岸部12市町村のうち、陸前高田市、釜石市など南部を中心とした7市町村で土地区画整理事業と防災集団移転促進事業による高台移転が行われた。107地区で計7001区画が造成され、2021年1月までに地権者への引き渡しを完了した。県内自治体の復興計画策定に携わった岩手大農学部の三宅諭教授(49)=都市・地域デザイン=は高台移転による安全性の担保を評価しつつも「住民は津波への意識が高かった分、それ以外の災害への意識が十分ではない」と指摘する。震災発生後、全国的に集中豪雨が頻発。移転先の高台に調整池を造り、斜面崩落の安全対策も施しているが、三宅教授は「地形バランスが崩れていることも考えられる。計画雨量を超える雨が降れば、低地部での内水氾濫の危険性も高まる」と警鐘を鳴らす。有事の備えとして重視するのが「事前復興」の取り組みだ。発生前に防災面の危険性や地域課題、将来のまちづくりについて住民が話し合っておくことが必要とし「平時からしっかり話し合える態勢があれば、それが下地になる。住民主体での取り組みが理想だが、行政や専門家、NPOといった団体などのサポートも重要だ」と呼び掛ける。東日本大震災発生から間もなく11年となり、被災者の生活再建や事業所再建、公共施設や橋・道路といったハード面の復旧はほぼ完了した。現在は「目に見えにくい課題」と向き合う段階に入り、高台移転に伴うコミュニティーの再構築や維持の問題もその一つだ。岩手県沿岸部は元来住民のつながりが強い地域だが、震災後のコミュニティー再構築には労力を費やした。中心となるべき人材が犠牲になったり、まちづくりの長期化が住民の流出を生じさせるなど現実は厳しかった。次の災害に備えるため、平時から膝を突き合わせて即応できる土台をつくっておきたい。高台移転で津波災害への安全性は高まったが、それが災害への慢心を招いては本末転倒だ。1日中高台にいるとは限らない。津波の際はどこでも高台避難する意識付けや、事前復興の取り組みも、人ごとにせず主体性を高めることに主眼を置いて進めたい。

*2-4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220407&ng=DGKKZO59774850X00C22A4MM8000 (日経新聞 2022.4.7) 防衛費増、自民提言へ 月内、台湾有事に備え
 自民党は台湾有事を念頭に防衛費の増額を求める提言を4月中にまとめる。政府に抑止力を高める装備の導入などを促し、年末に改定する国家安全保障戦略への反映をめざす。ロシアによるウクライナ侵攻で安保への関心が高まる世論を踏まえ、当初予定よりも1カ月前倒しでつくる。国家安保戦略は国の外交・防衛政策の基本方針で、2013年に策定してから初の改定となる。防衛力の整備目標を示す防衛計画の大綱と、5年間の防衛費を見積もる中期防衛力整備計画を合わせて見直し、ウクライナ侵攻で激変した安保環境への対応を盛り込む。米国はロシアに対処するため欧州へ力を割く割合を高めざるを得なくなった。アジアで中国や北朝鮮に対峙するため日本に防衛力強化を迫る可能性がある。自民党はウクライナ侵攻を機に日本周辺で起こり得る有事への対応について国民的な議論を喚起する狙いだ。提言の柱の一つは防衛費の増額だ。ウクライナ侵攻後、米国は23会計年度の国防費を22年度比4%増やすと掲げた。ドイツも国内総生産(GDP)比で2%以上に高めると公表した。これまでは1.5%程度だった。自民党は21年衆院選公約で防衛費のGDP比(総合2面きょうのことば)について「2%以上を念頭に増額を目指す」と記した。今回の提言にも「2%以上」を盛り込む案がある。達成時期や年ごとの増額幅などの実現可能性を探る。日本の22年度予算の防衛関係費はGDP比1%弱だ。海上保安庁の予算や恩給費を含める北大西洋条約機構(NATO)の基準で計算しても21年度の当初予算と補正予算の合計は同1.24%にとどまる。増額分の使途は敵の攻撃射程外から反撃する装備やサイバーのような新領域の部隊増強、米軍との共同訓練の拡大などが想定される。提言は「攻撃すれば報復を受ける」と相手に思わせて攻撃を諦めさせる方法に関しても言及する。岸田文雄首相はミサイル発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」の保有に関する検討を明言している。「敵基地攻撃」という表現は先制攻撃を認めると誤解を招くとの指摘がある。提言は別の文言に置き換える方向で検討する。党内には「打撃力」「反撃力」「自衛反撃能力」といった候補がある。

*2-4-6:https://www.tokyo-np.co.jp/article/170394 (東京新聞 2022年4月7日) 外交・防衛政策巡る3文書改定へ検討本格化 自民安保調査会 「5年後に戦える自衛隊つくる」意見も
 自民党安全保障調査会は7日の会合で、外交・防衛政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書の改定を巡り、政府への提言とりまとめに向けた検討を本格化させた。敵基地攻撃能力の保有を視野に入れた防衛費の増額に関し、昨年の衆院選公約で掲げた対国内総生産(GDP)比2%目標の達成を前提にした「論点整理」が示された。会合では、調査会の執行部側が対GDP比2%目標を「何年で達成すべきか」と提起した。出席者からは、中国や北朝鮮の軍事動向を念頭に「5年後に戦える自衛隊をつくる」などと増額ペースを加速すべきだという意見が出た一方、期限を区切ることには慎重な考えも示され、結論は持ち越した。2%目標がある欧米の軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)にならい、防衛費だけでなく沿岸警備を担う海上保安庁の経費を含めるかどうかも議論したが、意見集約はしなかった。提言は月内にまとめ、岸田文雄首相に提出する予定。11日の次回会合では、敵基地攻撃能力の保有の是非などを議論する。

<日本の人的投資とジェンダー・ギャップ>
*3-1-1:https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202105/202105_05.html (内閣府男女共同参画局総務課) 世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2021」を公表
 世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が2021年3月、「The Global Gender Gap Report 2021」を公表し、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)を発表しました。この指数は、「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示しています。2021年の日本の総合スコアは0.656、順位は156か国中120位(前回は153か国中121位)でした。前回と比べて、スコア、順位ともに、ほぼ横ばいとなっており、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となりました(図1)。各分野における日本のスコアは、次のとおりです(図2)。日本は、特に、「経済」及び「政治」における順位が低くなっており、「経済」の順位は156か国中117位(前回は115位)、「政治」の順位は156か国中147位(前回は144位)となっています。政治分野では、スコアは上がっているものの、順位は下がっています。これは、各国がジェンダー平等に向けた努力を加速している中で、日本が遅れを取っていることを示しています(図3)。WEFのレポートでは、日本は政治分野において格差が縮小したものの女性の参加割合が低く、国会議員の女性割合は9.9%、大臣の同割合は10%に過ぎないことにより、「政治」のスコアが0.061と低いままであることが述べられています。さらに過去50年間、女性の行政府の長は存在していないことも指摘されています。また、経済分野についても、管理職の女性の割合が低いこと(14.7%)、女性の72%が労働力になっている一方パートタイムの職に就いている女性の割合は男性のほぼ2倍であり、女性の平均所得は男性より43.7%低くなっていることが指摘されています。詳しくはこちらを御覧ください。(Global Gender Gap Report 2021:https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2021)

*3-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ3S1PK1Q3SUHBI003.html (朝日新聞 2022年3月24日) マデレーン・オルブライト氏が死去 女性初の米国務長官 84歳
 女性として初めて米国務長官を務めたマデレーン・オルブライト氏が23日、がんのため死去した。84歳だった。親族が同日、声明で明らかにした。1937年に旧チェコスロバキアのプラハでユダヤ系外交官の家に生まれた。ナチス・ドイツの侵攻時は迫害を逃れ英国で過ごし、旧チェコスロバキアの共産化を受けて、48年に一家で米国に移住した。ジョンズ・ホプキンズ大、コロンビア大などを経て、米議会や国家安全保障会議に勤務した一方で、旧ソ連や東欧の専門家として教壇にも立った。名門のウェルズリー女子大出身で、女子教育の振興にも熱心だった。米クリントン政権で、93年から国連大使、97年から01年まで国務長官を歴任。コソボ紛争の際には、北大西洋条約機構(NATO)による空爆の実施を主導した。00年10月には米国務長官として初めて北朝鮮を訪問したが、人権問題への懸念を提起しなかったなどと批判もされた。国務長官退任後もさまざまな活動を続け、外交・安全保障政策でも発言を続けていた。ウクライナ問題については2月下旬、「プーチン氏は歴史的な過ちを犯している」とする論考を米ニューヨーク・タイムズに寄稿した。バイデン大統領は23日に発表した声明で、外交官だったオルブライト氏の父親が旧ソビエト連邦から殺害対象とされて米国に逃れたことに触れ、「オルブライト氏はその後、世界の自由を守り、抑圧下で苦しむ人々を支援するために過ごした」と追悼した。国連総会の緊急特別会合で23日に演説したトーマスグリーンフィールド米国連大使は「チェコを逃れ、米政府の最高レベルに上り詰めた彼女の物語は、私のなかで、現在のウクライナ危機と響き合う」と悼んだ。

*3-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220410&ng=DGKKZO59866430Q2A410C2MM8000 (日経新聞 2022.4.10) 地方回帰 女性なお慎重、男性は「東京転出超」 働きやすさで差
 人口動態で男女の違いが鮮明になっている。全国から人を吸い寄せ続けてきた東京都は2021年、男性だけみれば25年ぶりに流出する人が多くなった。女性はなお流入が勝る。女性が大都市に集まりがちな傾向は、性別による暮らしやすさの差が地方社会に根強く残ることを映す。男女を問わず希望や能力に応じて多様なキャリアを実現できる環境を整えなければ地域経済の活性化はおぼつかない。新型コロナウイルス禍でテレワークが広がり、東京の求心力は低下した。総務省によると、都内は転入者が転出者を上回る転入超過が21年に5433人と前年の6分の1近くに縮小した。性別にわけるとベクトルの違いが浮かぶ。男性は1344人の転出超過に転じ、女性は転入超過(6777人)のままだった。女性の流入先は首都圏が目立つ。転入超過数が最も多かったのは神奈川県の1万7555人だった。埼玉県の1万4535人、千葉県の8473人が続く。転出超過は広島県の3580人、福島県の3572人など地方の県だ。全国で緊急事態宣言が解除された21年10月、関西出身の女性(23)は都内の企業で働き始めた。地元の大学で関東出身の同級生から伝え聞く東京の生活に憧れていた。「女性でもキャリアアップできる企業が多い」ことも上京の決め手になったという。一般に都市部は地方に比べ就労環境が整っている。総じて賃金水準が高く、求人も多い。最新の20年の国勢調査をみると特に大都市で人口に占める女性の割合が10年前に比べ高まっている。上昇幅が大きいのは横浜市(0.71ポイント)、さいたま市(0.69ポイント)、川崎市(0.67ポイント)などだ。下落幅は愛知県知立市(0.65ポイント)、三重県いなべ市(0.92ポイント)など大都市圏周辺の地方の自治体で大きい。もともと日本は都市への集住度が高い。国連によると人口に占める都市住民の比率は1950年は53%だったのが2020年には92%に上昇した。米国の83%、ドイツの78%などを上回り、主要先進国で唯一90%台にのる。50年には95%に高まる見通しだ。ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏は「今の若い女性はやりたい仕事が明確だが、希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題だ」と指摘する。実際、進学や就職を機に東京に移る例が多く、年代別では10代後半や20代前半の流入が際だつ。地方の一部に残る古い性別役割意識も影響している。国土交通省の20年の調査で、上京した女性の15%は出身地の人たちが「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛同すると回答した。この割合は全体の8%の倍近い。「地方の若い女性の流出は少子化を加速させる」(ニッセイ基礎研の天野氏)。なにかと便利な都市での暮らしに慣れるほど地方に戻ろうという気持ちは薄れる。危機感にかられた動きも出てきた。過去10年で女性比率が0.48ポイント下がった兵庫県豊岡市。女性正社員を増やす目標を掲げ、官民で就労環境の改善に取り組む。市内の宿泊業者ユラクは女性上司の割合が56%と男性より高い。不規則な勤務形態をなくすなど、性別を問わず働きやすい職場づくりを進める。宮崎県日南市は民間出身のマーケティング専門家の下、東京のIT企業など30社以上を誘致し、地元女性の受け皿を増やした。女性に選ばれる環境づくりが企業や地域の将来を左右する。コロナ下の人口動態は地方の意識改革を迫っている。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220417&ng=DGKKZO60067920W2A410C2EA4000 (日経新聞 2022.4.17) 企業の賃金開示ルール見直し 男女の格差 改善急げ
 大学では新入生を歓迎する様々なイベントが開催されている。大学の学部学生に占める女性の割合は2021年度に45.6%と過去最高を更新した。性別に関係なく学べる環境は整いつつあるが、社会に出てからも同じようにキャリアを積めるのだろうか。男女共同参画社会に向けた施策を推進するため設置された内閣府の計画実行・監視専門調査会。1月の会議資料では、同じ大卒正社員でも年収に男女格差があり、年齢が上がるにつれて差が広がるとのデータが示された。大学・大学院卒正社員の生涯賃金は男性2億6920万円に対し女性2億1670万円。5250万円の差になるという。厚生労働省によれば、格差の要因で最も大きいのは役職の違い、次いで勤続年数の違いだ。年功序列が残る組織では、一度職場を離れると再びキャリアを築くのは容易ではない。男女の賃金格差は先進国共通の課題だ。男性の賃金を100とした場合の女性の賃金(2020年時点)は経済協力開発機構(OECD)の平均で88.4。日本は77.5とさらに低い。格差解消に向け、各国は賃金透明化ツールの義務化を進める。OECDが昨秋まとめた報告書によれば、英国など9カ国が「賃金格差報告制度」を採用し、男女間賃金格差のデータの定期報告を義務付けている。公表を怠った場合、罰金など罰則が科される可能性もあるという。英国では17年以降、従業員250人以上の雇用主は毎年、男女別の賃金およびボーナスの平均値と中央値を査定し、賃金格差を公表しなければならない。フランスなど9カ国は賃金格差の原因分析や行動計画の策定を求める「同一賃金監査制度」を導入している。岸田内閣が掲げる新しい資本主義は女性の経済的自立を中核に位置づけ、岸田文雄首相は男女の賃金格差是正のため企業の開示ルールを見直すと発言した。男女別の賃金水準の公表義務付けや、有価証券報告書の中で企業の多様性に関する指標として男女間賃金格差の開示が議論されている。6月にも「女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)」に盛り込まれ、早ければ来年度から実施される方向だ。データ開示を意味あるものにするためには、明確なガイドライン作成や企業の負担を最小限に抑える仕組みづくりも求められる。

*3-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASPCN7SJ8PCMTIPE00R.html?iref=comtop_ThemeLeftS_03 (朝日新聞 2021年11月22日) 女性の東大進学はだめ?「男らしさ」「女らしさ」意識を質問で数値化
 「男らしさ」「女らしさ」についての意識を八つの質問によって数値で示す方法を、九州大の室賀貴穂講師(労働経済学)が開発した。女性の幸せやキャリアなどに関する問いに共感するかどうかを4段階で答え、点数化。回答者がどのくらい保守的な考え方であるかがわかるという。女性の社会進出の妨げになっている潜在的な価値観に光をあてるのがねらいで、「結婚相手探しに苦労するため、女性は東大へ進学すべきでない」といった質問を入れたのが特徴。伝統的な性別役割分担や家父長制などの意識をみる質問も加えた。「とてもそう思う」が1点、「全くそう思わない」が4点で32点満点。合計点が低いほど保守的な考え方であることを示す。昨年3月、調査会社に登録した全国の男女約2400人を対象に調べたところ、平均は男性が14・73点、女性16・01点で、統計的に意味のある差がついた。男女差はどの質問でもみられ、男性では40~50代と30代でも差がついた。セクハラや性被害の撲滅を訴える「#MeToo」運動やフェミニズムへの共感度が高いほど合計点が高くなる相関関係も確認できた。意識を測る指標として適切と結論づけ、米国の社会学会の専門誌に今月発表した。室賀さんは「この指標を使って自分の意識に気づき、話し合うきっかけにしてほしい。意識の変革で、チャレンジしたいと考えている女性が自由に羽ばたける社会になってほしい」と話している。
●男らしさ、女らしさの意識を測る八つの問い
①女性の幸せは、結婚して子どもを産むことに左右される
②女性の幸せは、仕事での成功に左右されない
③妻は夫の3歩後ろを歩くべきという考えに共感する
④女性の外見は、知性よりも重要である
⑤結婚相手探しに苦労するため、女性は東京大学へ進学するべきではない
⑥高学歴は、女性がよいパートナーを見つけることの障害になる
⑦キャリアは、女性がよいパートナーを見つけることの障害になる
⑧妻は夫に意見すべきではない
「とてもそう思う」=1点、「そう思う」=2点、「そう思わない」=3点、「全くそう思わない」=4点
(室賀貴穂・九州大講師による)

*3-2-3:https://togetter.com/li/1813863 (2021.12.8) 祖母が「東大に行ったらお嫁に行けない」と言いますが本当ですか?→米山隆一議員(灘高卒・東大理Ⅲ)の回答に謎の説得力が
興味深いQAなので横からですが私も回答させて頂きます。
Q. 祖母が「東大に行ったらお嫁に行けない」と言いますが本当ですか?
A. いいえ。そんなことはありません。上野先生の回答は、随分古い話で現在の話ではありません。私も大分古いですが、経験を踏まえて回答します。
 まずもって東大の女子学生は、世間一般ではどうかは存じ上げませんが、東大内ではモテます。人は半径30mで恋をする動物です。東大に少なくない、中高一貫男子校で過ごした学生の何割かは、東大で生まれて初めて、半径30m内で、普通に歩いて、普通に自分と話してくれる同年代の女性に出会います。そしてその何割かは、カルガモの雛が初めて見る動くものをお母さんと思う様に、目の前の女子学生さんを「この人こそわがマドンナ」と思い恋に落ちます。勿論そういう人がそれ程多い訳ではありませんが、男性8対女性2の人数比は偉大で、女子学生が授業に出れば、概ね3~5人の男子学生が、「〇〇さん元気?分からない所ない?ノート見せようか?」とカルガモの雛の様に後ろをついていく光景が、東大春の風物詩としてキャンパスのあちこちで展開されます。そしてこの「東大刷り込み効果」は絶大で、新学期だけにとどまらず、なんと多分一生(私が検証しているのは50代までですが)続きます。ですのでこの中からあなたがパートナーを選ぶつもりがあれば、多分一生結婚相手には困りません。ただし、不都合な真実もあります。詳しい統計に基づかない単なる体感数値ですが、多分東大の女性卒業生は、独身率、離婚率とも高いと思います。ただしその理由の多くは、上記のとおりパートナーがいないからではありません。恐らく最大の理由は、①結婚しないでも困らない事 ですが、多分第2の理由は、ご本人が、②「私より尊敬できる人がいいわ」という条件をパートナーに課している事です。勿論どのような条件をパートナーに課すのも個人の自由ですが、人の尊敬できる度合いが正規分布するとして、2SD以上のあなた以上の人はそう多くはおらず、仮にいたとしても、首尾よくその人と恋に落ちる可能性はそれほど高くないという事は、聡明なあなたならきっとご理解いただけるでしょう。さて結論として、モテるかモテないかという質問に対してなら、世間一般に思われているところとは違い東大の女子学生は少なくとも東大内ではモテますので、希望に胸膨らませて東大入学を目指していただければと思います。ただしその結果、結婚する必要性を感じなくなったり、もしくはパートナーに対する要求水準が高まったりして、実際は結婚しなかったり、離婚したりする可能性は高まるかもしれないのですが、それはそれ、結構楽しい人生だろうと思います。要するに、東大に入って学問をすると、モテるモテないとか、結婚するとかしないとかから、ちょっと自由になれるところは現実としてあり、それだけでも頑張って受験勉強をする価値はあると思います。ぜひ悔いのないように頑張られてください。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220324&ng=DGKKZO59337050U2A320C2MM8000 (日経新聞 2022.3.24) 人への投資、開示広がる 718社、女性登用目標は5割 従業員満足度2割
 企業が抱える人材の価値である「人的資本」を開示する動きが広がっている。2021年に統合報告書を発行した718社の5割が女性管理職の登用目標を開示。会社の経営方針や職場への満足度を示す「従業員エンゲージメント」は2割が公表した。人への投資を通じて企業価値を高めようとしている。投資家が人的資本を重視する流れは強まっており、企業の選別が進む可能性がある。人的資本は人の能力やスキルなどを資本とみなし投資する考え方だ。企業の競争力がソフトウエアや特許など無形資産に移るなか、教育や訓練などを充実させて企業価値を高める必要がある。ディスクロージャー&IR総合研究所(東京・豊島)によると、21年の統合報告書の発行企業で女性管理職の登用目標などについて開示したのは382社。従業員の研修体系を示したのは3割の246社だった。双日は女性管理職の育成に取り組む。31年3月期に課長職候補の30%(21年3月期は12%)、課長職の20%程度(同9%)を女性にする目標を掲げる。「多様な意見を取り込み、価値創造につなげる」(同社)狙いだ。リコーリースは従業員の研修体系の開示を充実させた。経営者養成塾、SDGs(持続可能な開発目標)ワークショップ、育児休業からの復職セミナーなどを用意する。NTTデータは社員の研修に1人当たり年間91時間を充てていると公表した。デザインや人工知能(AI)、クラウドなど独自プログラムを設けてサービス創出を促す。従業員の働きがいを高め、生産性改善や離職防止につなげようとする企業も出ている。統合報告書発行企業の17%が従業員エンゲージメントを、6%が離職率を示した。味の素は従業員が業務で経営方針を実践しているかどうか把握するため従業員エンゲージメントスコアを集計している。21年3月期の64%から26年3月期に80%を目指す。社内取締役の報酬をスコアに連動させる。大日本住友製薬は離職率の推移を開示しており、17年3月末から低下傾向だ。企業の人への投資を重視する投資家は増えている。ニッセイアセットマネジメントの井口譲二氏は「経営戦略を実行するのは従業員だ。経営戦略と人事や教育制度が連動しているかに注目している」と話す。米証券取引委員会は20年から人的資本の開示を義務づけ始めた。日本も21年6月改定の企業統治指針に「人的資本への投資を開示すべき」との文言が盛り込まれた。今後は数値目標など具体的な開示を求める流れが強まる見通しだ。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB111CB0R10C22A2000000/?n_cid=NMAIL006_20220218_Y (日経新聞 2022年2月18日) 人材価値の開示、投資選別基準に 日米欧が年内にルール
 企業が抱える人材の価値を示す「人的資本」の開示を求める動きが世界各地で急速に進んでいる。欧州連合(EU)や米国、日本は年内にも開示ルールをつくる。インドは2022年度から大手企業に多様性や研修などの開示を求める。経済のデジタル化が進み、投資家の人的資本に対する注目が高まっていることが背景にある。開示情報が増えれば世界の投資家による企業の選別が一段と加速する可能性がある。人的資本は人間が持つ知識やスキルなどを資本とみなしたもの。教育や訓練などで蓄積され、生産性向上やイノベーション(技術革新)創出につながる。経済のデジタル化やグローバル化の進展で、優秀な人材を確保したり育成したりできるかが企業の競争力を大きく左右するようになっている。EUは22年10月にも人的資本を含めたESG(環境・社会・企業統治)の情報開示ルールを策定する。14年に「社会・従業員」の開示を義務づけたが、開示内容の詳細は定めていなかった。新ルールでは対象を日本など海外企業の欧州拠点も含め約5万社と従来の4倍に広げる。自社だけでなく取引先の従業員まで含めた開示を求める。米国も開示ルール改正に動く。米証券取引委員会(SEC)は20年8月に上場企業に対して人的資本の情報開示を義務付けた。ただ、開示が義務化されたのは従業員の数のみで、企業が福利厚生の内容や従業員の勤務地などを自主的に開示している。より具体的な開示手法の義務化が必要との見方から、21年秋に現行ルールの改正計画を提案。退職率やスキル・研修、報酬・福利厚生などを検討しており、今春にも新ルール案が示される見通しだ。背景には投資家の要請の高まりがある。世界の主要年金や資産運用会社が加盟する国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)は、目的や測定可能な目標などを明確にした人的資本管理方針を出すべきだとする。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて労働環境や人材活用への関心は一段と強まった。英シュローダーは投資先企業の評価で、従業員の給与水準や従業員教育のコスト、事故件数、従業員満足度や離職率などを考慮する。「人的資本の管理は1人当たりの生産性に直結する、企業価値の根本」(シュローダー・インベストメント・マネジメントの豊田一弘ファンドマネジャー)という。日本も今夏に情報開示指針をつくる。内閣官房の専門会議で開示項目や評価方法の具体的な検討を進める。女性や外国人社員の比率、中途採用者の情報に加え、リスキリング(学び直し)など人材教育、ハラスメント行為の防止策などが対象になる。金融庁も連携し、将来は上場企業を中心に有価証券報告書への記載義務付けを視野に入れる。新興国ではインドが22年度から時価総額上位1000社にESG情報の開示を義務化。人材の多様性や離職率、賃金、福利厚生、労働安全衛生など様々な項目の開示を求める。ブラジルも23年から上場企業に性別や人種など多様性に関する情報開示を促す方針だ。企業価値の源泉は工場や機械など有形資産から、人が持つアイデアやノウハウ、ブランドなど「無形資産」に移っている。米オーシャン・トモによると、米主要企業の企業価値に占める無形資産の割合は1975年の17%から2020年には90%に拡大した。欧州主要企業も20年は75%にのぼるが、日本は32%にとどまる。開示内容が増えれば「企業の選別が進む可能性が高い」(ニッセイアセットマネジメントの橋田伸也投資調査室室長)。投資家は企業との対話で得ていた定性的な取り組みを、定量面からも把握できるようになる。現状、各国・地域が求める開示内容はバラバラだ。英IFRS財団傘下で世界共通のESG情報開示基準づくりが進んでおり、人的資本も対象になる可能性がある。ただ、国や地域によって労働法制が異なるなど、すでにルールづくりが進む気候変動などと比べると基準づくりは難しいとの見方が多い。人材に関する開示の強化は、企業の経営資源の配分を変える可能性がある。これまでのようにコストではなく、資本と捉えて中長期で投資する必要性が高まるからだ。現状、各国・地域が求める開示内容はバラバラだ。国や地域によって労働法制が異なるなど、すでにルールづくりが進む気候変動などと比べると基準づくりは難しいとの見方が多い。企業の負担増に対する懸念もある。やみくもに開示を求めるのではなく、企業価値向上につながる制度設計が欠かせない。

*3-3-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59903190S2A410C2MM8000/ (日経新聞 2022年4月12日) 日立、週休3日で給与維持 生産性向上へ働き方改革、時間から成果へ転換 
 日立製作所は給与を減らさずに週休3日(総合2面きょうのことば)にできる新しい勤務制度を導入する。働き方を柔軟に選択できるようにして多様な人材を取り込み、従業員の意欲などを高めて生産性を引き上げる。パナソニックホールディングス(HD)やNECも週休3日を検討する。成果さえ上がれば働く日数や時間にこだわらない経営が日本で広がる可能性がある。日立は本体の1万5000人を対象に、月間の所定労働時間を勤務日ごとに柔軟に割り振ることができる新制度を2022年度中に導入する。1日3.75時間としていた勤務時間の下限をなくし、働く日を従業員が選びやすくする。例えば、月~木曜日の労働時間を9~10時間と所定の7時間45分より長くし金曜日を休めば週休3日にできる。月前半の労働時間を長くして月末に大型連休をとることもできる。子供の学校行事などの合間に1時間だけ働くことも可能だ。週休3日制はこれまで、介護などで長時間労働が難しい従業員の就業支援を目的に導入する企業が多かった。勤務日の減少に伴い総労働時間も減り賃金も減るのが一般的だった。日立の週休3日は勤務日の労働時間を増やすことで、総労働時間も賃金も維持する。IT(情報技術)関連の仕事が増えるなど産業のサービス化や知識集約化が進み、労働時間と成果は必ずしも比例しなくなっている。時間の使い方について従業員に幅広い裁量を認め、成果で評価するような仕組みの整備が企業に求められている。週休3日も成果重視型の働き方の一つだ。米フューチャー・フォーラムが21年11月に日米英などの約1万人を対象に実施した調査では、95%が勤務時間を柔軟に変えられる働き方を希望すると答えた。厚生労働省の21年の調査によると、完全週休2日よりも休みが多い制度を持つ企業は8.5%ある。政府は21年6月に閣議決定した経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に選択的週休3日制の促進を盛り込んだ。NECは22年度中の週休3日制導入を目指している。まず本体の社員2万人が週休3日を選べるようにし、グループ会社に順次広げる。給与は勤務日数が減った分だけ減額を検討する。パナソニックHDも22年度中に試験的に採用する。持ち株会社や一部子会社の社員が対象だ。海外でも週休3日制が広がり始めている。英ユニリーバやスペイン通信大手のテレフォニカなどが試行する。ベルギーでは2月、政府が雇用主の同意があれば週休3日を可能にする労働法の改革案を発表。年内にも制度化される見通しだ。英レディング大学が週休3日を導入した英国の経営者約500人を対象にした21年11月の調査によると、68%が優れた人材の獲得につながると答えた。工場での労働などを除けば働く時間と成果は一致しないことも多い。勤務時間を長らく労働に報いる尺度としてきた日本企業が従業員の働き方を変えられるかが課題だ。日本の労働基準法も働いた時間に応じて賃金が決まる「時間給」を原則としている。労働時間ではなく成果が重視されるなか、在宅勤務など新しい働き方も増えており、労働法制の見直しなども必要になりそうだ。

<21世紀の戦争における事実開示について>
PS(2022年4月23日追加):*4-1のように、東大大学院情報学環の渡邉教授と青学地球社会共生学部の古橋教授が始めて、被害を受けた建物の写真を3D化していたドイツの研究者ら世界各国の有志が加わり、現地の市民が撮影したデータも含むウクライナの現状を伝える3Dマップ「ウクライナ衛星画像マップ」が、ウェブ上に公開されているそうだ。確かに、衛星写真と地上の画像を組み合わせて戦争の実態を可視化し、デジタル上に記録していくことは、戦争に関する事実関係を明らかにする上で重要なことだ。そのため、私は、国連は、どの戦争についても、このような3D衛星画像マップを時系列で作成し、*4-4-2のような会談や仲裁をする時には客観的証拠として使用するのがよいと思うし、その作成にはメディアも協力できるだろう。
 今回の戦争では、*4-2-1のように、4月21日、プーチン大統領が「マリウポリ事実上制圧」を宣言し、ウクライナ兵が籠城して市民の避難場所にもなっているアゾフスターリ製鉄所に突入する掃討作戦を中止して封鎖を徹底するよう軍に命じたそうだ。ゼレンスキー大統領は「マリウポリの包囲を軍事的に解くのは不可能だ」と劣勢を認めたが、製鉄所の地下では食料・水が欠乏する中で約1000人の民間人と500人の負傷兵が生活しており、まさに人道危機である。また、4月22日には、*4-2-2のように、ロシア軍は製鉄所の包囲を継続して休戦提案は拒否し、マリウポリだけで死者は2万2千人に上るとされ、ロシア軍が集団墓地を作っているそうだ。さらに、ロシア軍幹部が、*4-2-3のように、「ウクライナ侵攻作戦の目標は同国東部に加えて南部を制圧し、クリミア半島やモルドバ領と地続きの支配域を確保することだ」と述べたそうだが、いくら何でもやりすぎだ。なお、*4-3のように、ロシア軍はウクライナ東部のドンバス地方で攻勢を強め、米欧は高性能の兵器提供でウクライナを支えるため追加軍事支援を進めているそうで、ドンバスの戦線は480kmに及ぶ平野部であるため長距離射程を持つ兵器の有効性が高く、戦車・りゅう弾砲・戦闘機等の装備の差が戦果に表れ易いが、西側から供与された兵器をウクライナ軍が東部戦線まで安全かつ迅速に輸送するのは容易でないとのことである。
 このような中、対ロ制裁は、*4-4-1のように、G20半数の9カ国が参加せず、制裁に参加した国はインフレに拍車がかかった。また、G7はG20へのロシアの欠席を求め、中国・ブラジル・インドなどがロシアを参加させるよう主張して、シルアノフ財務相がロシア代表団を率いるとロシア財務省は発表した。しかし、金融は食糧・エネルギー・工業製品等の実物経済を支えるものであるため、金融を使って実物を持つ国を制裁しようとしても弊害が大きく効き目は小さい。さらに、「制裁」「欠席を求める」等々のロシアを馬鹿にして村八分にしようとした行動が、プーチン大統領を烈火のごとく怒らせ、今回の戦争を招いたようにも見える。
 そのため、「みんなでやれば怖くない」とばかりに私的制裁を行うのではなく、国連が、*4-4-2のような「銃声を静めて安全に人々が避難できるよう、今すぐ取れる行動について協議する」だけでなく、歴史と客観的事実に基づいて的確な解決法を提案すべきだ。


   2022.4.10ExciteNews     2022.4.19日経新聞    2022.4.23日経新聞

(図の説明:左図は、ロシアと輸出入関係のある日本国内の企業で、中央の図は、人権理事会におけるロシアの理事国資格停止決議の内容だ。また、右図は、4月21日時点でロシアが侵攻・支配しているとされる地域である)

*4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ4P6J6YQ45UTIL04G.html?iref=comtop_Tech_science_05 (朝日新聞 2022年4月22日) 命がけの写真を未来へ 世界の有志がウクライナの戦禍伝える3D地図
 世界各国の有志が連携して、ウクライナの戦禍の現状を伝える写真の位置情報を特定して3Dマップにしてウェブ上に公開し、戦争を可視化する取り組みを進めている。日本発の取り組みで、現地の市民らが命がけで撮影したデータも含まれる。連日、現地の写真が届く中、この取り組みに協力していたウクライナ人の写真家の悲報が伝えられた。
●侵攻翌日に始まった「ウクライナ衛星画像マップ」
 プロジェクト名は「ウクライナ衛星画像マップ」。3Dマップでは、住民が避難していたにもかかわらず爆撃されたマリウポリの劇場の様子や、キーウ(キエフ)近郊の激戦地イルピンで火の手が上がり、日を追うごとに中心部へ被害が拡大していく状況を立体的に見ることができる。攻撃を受けたキーウの高層マンションの3D画像では、部屋の中の家具が見えるほど精巧につくられている。マップは、東京大学大学院情報学環の渡邉英徳教授(情報デザイン)と、青山学院大学地球社会共生学部の古橋大地教授(空間情報)が始めた。2人は東日本大震災でも地図上に写真や証言などを保存するプロジェクトに関わった経験をもつ。2人は現地の住民が撮影した映像をもとにした3D画像や、米国の衛星会社などが公開した衛星写真の位置をグーグルアースで一枚ずつ探しだして特定し、画像の縦横の比率やゆがみを調整して、実際の場所と重なるように地図に落とし込む。被害を受けた建物の写真を3D化していたドイツの研究者ら世界各国の有志もこのプロジェクトに加わり、衛星写真と地上での画像とを組み合わせて、より立体的に戦争を可視化して、デジタル上に記録していく作業を続けている。
●レビンさんから届いた「いいね」
 現地の住民からは、避難している地下室の画像なども届けられる。画像は、連日のように増え、4月21日時点で約240のデータが公開されている。3Dマップには、キーウから北西約50キロのボロジャンカで、砲撃によって破壊された高層マンションやトラックの3D画像もある。マンションの中央部が崩れ落ちた写真は、世界に大きな衝撃を与えた。これらの写真を撮ったウクライナの報道写真家マクス・レビンさんも、ドローンなどで撮影した現地の映像を提供してくれていた。渡邉さんはレビンさんの3D画像を公開した直後の3月6日、お礼のメッセージをツイッターで送ると、「いいね」がついた。しかし、それが最後のやり取りになった。4月2日、レビンさんがキーウ郊外で亡くなっているのが見つかったとニューヨーク・タイムズなどが報じた。3月中旬に戦闘を撮影すると友人に告げた後、連絡が取れなくなっていた。ロシア軍による銃撃で亡くなったとみられるという。渡邉さんは「彼の撮影してくれたものは、まだ炎がみえているものもあった。攻撃の直後に、命を賭して撮影してくれた本当に貴重なものだ。未来に伝え続けるため、長く保存していきたい」と話す。
●忘却に抗い、歯止めになれば
 ロシアの侵攻から24日で2カ月。渡邉さんは「現地の惨状を伝える写真は多いが、まとめておかないと流れ去り、忘却されてしまう」と危機感をあらわにする。地図化することで、他の攻撃地点との位置関係をつかめ、画像の撮影日も記録しており、時系列で攻撃を比較することもできる。地図上で立体的に可視化することで、なぜその場所が狙われたのか、軍事施設ではなく明らかに住宅が被害を受けているといった実態が、より多角的な視点で理解できるようになると考えたという。5年後、10年後、今回の侵攻を振り返る記録作りの狙いもある。渡邉さんは「これまでにも戦争や虐殺は繰り返されてきた。ウクライナの実態をマップ上で伝えることで、侵攻の激化や今後の戦争の歯止めに少しでもなれば」と話している。マップのURLは「https://cesium.com/ion/stories/viewer/?id=8be6f99c-0d4c-46ce-91a3-313e3cac62fe」別ウインドウで開きます。

*4-2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/173118 (東京新聞 2022年4月21日) プーチン大統領が「マリウポリを事実上制圧」宣言 市民残る製鉄所は「封鎖せよ」
 ロシアのプーチン大統領は21日、3月1日から包囲攻撃を続けてきたウクライナ南東部の港湾都市マリウポリが「解放された」と主張し、事実上の制圧を宣言した。ウクライナ兵が籠城し、市民の避難場所にもなっているアゾフスターリ製鉄所に突入する掃討作戦の中止を命じる一方、封鎖を徹底するよう軍に命じた。マリウポリでの勝利を演出し、街の掌握を既成事実化することで、東部ドンバス地域の制圧を急ぐ狙いがあるとみられる。マリウポリの市長顧問は「単に勝利宣言したいだけだ」とSNS(交流サイト)で陥落を否定。一方、ゼレンスキー大統領は、フランスのテレビ局の取材に「マリウポリの包囲を軍事的に解くのは不可能だ」と劣勢を認め、ロシア軍によるウクライナ侵攻は開始2カ月を前に重大局面を迎えた。プーチン氏は21日、ショイグ国防相と会談し「マリウポリのような要衝で軍事作戦が成功した」と祝福。ショイグ氏は、製鉄所に立てこもるウクライナ内務省の軍事組織「アゾフ連隊」の制圧には3、4日間を要すると説明したが、プーチン氏はロシア兵の犠牲が出ないよう掃討作戦の中止を命令。一方で「ハエも通さないように製鉄所を封鎖せよ」と語った。
◆人道回廊「ロシア軍の妨害で市民脱出できず」
 ウクライナのベレシチューク副首相によると、製鉄所地下では食料や水が欠乏する中、約1000人の民間人と500人の負傷兵が生活しており、人道危機が深刻化する恐れがある。ロシア軍は19日、20日に市民が退避するための「人道回廊」を設置したと主張するが、ウクライナ側は「ロシア軍の妨害で市民は脱出できていない」と説明している。ロシアでは「欧州をナチスから解放した」とする第二次大戦の対独戦勝記念日を5月9日に控え、ドンバス地域の制圧が最優先の課題となっている。ウクライナの報道によると、ロシアはマリウポリでの戦勝記念イベントを計画している。

*4-2-2:https://kahoku.news/articles/knp2022042201000934.html (河北新報 2022年4月22日) ロシア休戦拒否、包囲継続 マリウポリ死者2万2千人
 ウクライナ南東部の要衝マリウポリの制圧を宣言したロシア軍は22日、ウクライナ側部隊が抵抗を続ける製鉄所の包囲を継続した。ゼレンスキー大統領は同日、ロシア側が休戦提案を拒否したと明らかにした。ロシアの侵攻開始から24日で2カ月。マリウポリだけで死者は2万2千人に上るとされる。ロシア軍が集団墓地をつくっているとみられることも判明。戦争犯罪の隠蔽を図っている可能性が指摘され、犠牲はさらに拡大する恐れが強まった。ロシアのプーチン大統領は21日、マリウポリの軍事作戦成功を表明したが、米国防総省によると完全には制圧できていない。

*4-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220423&ng=DGKKZO60277890T20C22A4MM0000 (日経新聞 2022.4.23) ロシア、黒海沿岸制圧目標 ウクライナ南部 地続きの支配域狙う
 ロシア軍幹部は22日、ウクライナ侵攻作戦の目標は同国東部に加え、南部を制圧することだと明らかにした。一方的に編入したクリミア半島やロシア系住民が独立を主張するモルドバ領とも地続きの支配域を確保するという。ロシアに南部を制圧されればウクライナは黒海への接続を封じられ、同国経済にとって大きな打撃となる。タス通信などがロシア軍中央軍管区のミンネカエフ副司令官の発言として報じた。ペスコフ大統領報道官はこの発言についてコメントを避けた。事実ならロシアは南部の港湾都市オデッサなど黒海の北岸全域を標的としていることになる。オデッサは穀物大手などのターミナルが集積し、ウクライナにとって小麦やトウモロコシの重要な輸出拠点だ。ただ、ロシア黒海艦隊旗艦の巡洋艦「モスクワ」はウクライナ軍のミサイル攻撃を受けて沈没した。地上戦でもロシア軍が苦戦するなか、実現性を疑問視する声もある。ミンネカエフ氏は、作戦の新段階が2日前(20日)に始まったとしたうえで、「作戦目標の1つは東部ドンバス地方のほか、南部を完全に制圧すること」と述べた。ウクライナが南部の海岸線を失えば、重大な経済的打撃を受けるとも指摘した。ウクライナ国防省は、ロシアがこれまでウクライナ政権などを「ナチス」と呼んで排除を掲げていたことを念頭に「彼らは取り繕うのをやめた」「(目的は)ウクライナ東部、南部を支配するという帝国主義だ」などとツイッターで非難した。モルドバが次の標的になるとも主張した。モルドバ外務省は声明で、ロシア大使を呼び出して「深刻な懸念」を伝えたと明らかにした。ウクライナ国境沿いのモルドバ東部・沿ドニエストルでは、1990年にロシア系住民が独立を宣言し、ロシアの支援を受けている。モルドバや国際社会は認めていない。ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリや東部ではロシア軍による包囲戦やミサイル攻撃などが続く中、多くの民間人が取り残されている。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB207BZ0Q2A420C2000000/0 (日経新聞 2022.4.20) 米欧、ウクライナに追加軍事支援 戦闘機も提供
 ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、米欧が追加の軍事支援を進めている。米CNNによると米国は8億ドル(約1030億円)相当の兵器類を新たに提供する見通しだ。欧州も相次ぎ追加支援を表明した。戦闘機も提供されたもようだ。ロシアがウクライナ東部ドンバス地方で攻勢を強めるなか、高性能の兵器提供に踏み込むことでウクライナを支える。バイデン米大統領は19日、記者団から火砲を追加でウクライナに送るのかと問われ「そうだ」と明言した。バイデン政権は13日に8億ドル相当の軍事支援を決めたばかりだった。米国防総省のカービー報道官は19日の記者会見で「ウクライナは2週間前に比べて多くの戦闘機を運用可能だ」と述べた。「他国が何を提供しているかは言えない」としながらも米国以外の国が戦闘機を供与した事実を認めた。ウクライナはかねて、制空権の劣勢をはね返すために戦闘機の提供を求めていた。3月にはポーランドが保有する旧ソ連製の戦闘機「ミグ29」の提供案が表面化した。この時はロシアと北大西洋条約機構(NATO)間の緊張が高まることへの懸念などから、供与は見送られていた。ウクライナ軍が運用に習熟する「ミグ29」は一部の東欧諸国が保有している。ウクライナのゼレンスキー大統領は19日のビデオ演説で「ロシア軍に匹敵する兵器があれば、戦争は既に終えられていただろう」と語り、積極的な軍事支援を改めて求めた。ロイター通信などによると、ジョンソン英首相は19日に対艦ミサイル提供検討を表明し、ショルツ独首相もドイツ製兵器を調達するための資金支援を実施すると明らかにした。東欧チェコの国防省は19日、ウクライナ軍の戦車など軍事車両の補修をチェコ企業が請け負うと発表した。チェコはすでに旧ソ連製戦車「T72」をウクライナに供与している。米欧が軍事支援を急ぐのは、ドンバス地方での戦闘が今後の展開を左右するとみるからだ。首都キーウ(キエフ)攻略に失敗したロシア軍はドンバス地方に戦力を集中し、攻撃を激化させている。ウクライナ当局によるとドンバス地方の戦線は480キロメートルにも及ぶ。平野部であることから、市街戦に比べて長距離射程を持つ兵器の有効性が高く、戦車、りゅう弾砲、戦闘機といった装備の差が戦果に表れやすい。米国のウクライナに対する軍事支援は表明済みだけで累計26億ドルにのぼる。検討中の8億ドルが上積みされれば、2020年のウクライナ国防費59億ドル(ストックホルム国際平和研究所調べ)の6割近くに及ぶ水準となる。13日に決めた支援内容には、旧ソ連時代に開発されたヘリコプター「Mi17」や携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」、自爆攻撃機能を有する無人機「スイッチブレード」などを含んでいた。もっとも、ポーランドなど西側の国境を通じて供与される各種の兵器をウクライナ軍が東部戦線まで安全かつ速やかに輸送するのは容易ではない。英国防省は20日、ロシアはドンバス地方以外の都市にも攻撃を続けており、前線への兵器輸送を妨げようとする意図が透けると指摘した。

*4-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220420&ng=DGKKZO60147370Z10C22A4EP0000 (日経新聞 2022.4.20) 対ロ制裁、G20半数どまり 財務相会議きょう開幕、ウクライナ侵攻・経済減速懸念、問われる危機対応力
 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が20日に米ワシントンで開幕する。ウクライナに侵攻を続けるロシアへの経済制裁は半数の9カ国が参加せず、対ロシアでG20は真っ二つに割れる。ウクライナ危機が拍車をかけるインフレで世界経済が急減速する懸念が強まるなか、機能しない国際舞台がリスクそのものとなりうる。2月24日にロシアがウクライナ侵攻を始めてから初めてのG20の閣僚会議となる。鈴木俊一財務相やイエレン米財務長官らが出席する。ロシア財務省は19日、日米など主要7カ国(G7)が欠席を求めていたシルアノフ財務相が会議のロシア代表団を率いると発表した。参加形式については明言を避けた。一方で、中国やブラジル、インドなどはロシアを参加させるよう主張していた。鈴木氏とイエレン氏は個別に会談し、急速に進む円安・ドル高についても話し合う見通しだ。鈴木氏は19日の参院財政金融委員会で「会談終了後の外向けの発言が重要だというご指摘もあった。十分その点も心に置きながら万全の対応をしたい」と述べた。G20は開幕前から亀裂が深まる。ロシアと欧州連合(EU)を除く18カ国のうち、ロシアに資産凍結や輸出入制限などの経済制裁を科すのは、G7にオーストラリアと韓国を加えた9カ国。中印やブラジル、トルコなど9カ国は科しておらず、対立は鮮明だ。国連総会が7日に93カ国の賛成多数で採択した、ロシアの人権理事会の理事国資格を停止する決議をめぐってはG7と豪州、韓国、アルゼンチン、トルコが賛成し、中国は反対した。インドやブラジルなど6カ国は棄権した。日米英など11カ国がシリアのアサド政権の化学兵器使用に対する非難声明を出した、2013年のG20首脳会議をほうふつとさせる。国際通貨基金(IMF)は19日に改定した世界経済見通しで、22年の実質成長率を3.6%と前回1月の予測から0.8ポイント引き下げた。ウクライナ侵攻による資源や食料の価格高騰が足かせとなる。新型コロナウイルス禍からの回復途上にある世界経済への影響は大きい。G7はウクライナに攻め入ったロシアが世界経済の減速を招いていると非難する。中国やロシアはG7などの制裁が経済を悪化させていると主張する。減速要因の見方が大きく食い違うなか、各国で一致した対処法は見いだしにくい。G20は近年、すでに機能低下が指摘されていた。過大な債務をかかえる貧困国の救済のため、20年につくった債務返済の猶予や債務削減の枠組みは最大の貸し手の中国が消極的で滞る。アフリカのチャドやエチオピアが求めた債務削減の交渉も難航している。歴史的な危機対応で力を発揮できなければ、G20の存在意義は薄れてしまう。

*4-4-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20220423&c=DE1&d=0&nbm=DGKKZO60277890T20C22A4MM0000&ng=DGKKZO60277910T20C22A4MM0000&ue=DMM0000 (日経新聞 2022.4.23) 国連総長、プーチン氏と会談へ ウクライナ大統領とも
 国連のグテレス事務総長は、ロシアの首都モスクワを26日に訪問し、プーチン大統領とラブロフ外相と会談をする。国連の金子絵里事務総長副報道官が定例の記者会見で発表した。28日にはウクライナも訪問し、ゼレンスキー大統領とクレバ外相と会談をする。金子氏によると、ロシア側は前提条件を設けなかったという。グテレス氏は「銃声を静め、安全に人々が避難できるよういますぐ取れる行動について協議する」という。

<人間は、なぜ戦争をするのか>
PS(2022年4月25日追加): 2022年4月7日、自然人類学者で行動生態学が専門の長谷川氏が、毎日新聞に、*5-1のように、①戦争はヒトの本能か? と題し、②「ヒトは本能的に戦争するようにできているのか」ということが1960~70年代に一般的に問われていたが ③人間に同種個体間の致死的な攻撃性が生物として本能的に備わっているということはない ④生物は自身を取り巻く環境の中で利害対立する同種の他者と戦わねばならない ⑤攻撃をどこまでエスカレートさせるかは、相手がどう出るかに依存するゲーム理論的状況にある ⑥高い攻撃性が備わった動物なら仲間に対しても攻撃が起こり、そうでなければ攻撃はないというシナリオは無効だ ⑦集団間の利害対立とその解決のための攻撃の結果として戦争がある 等を記載されていた。
 私は、医学部保健学科の男性指導教官に「そのとおりで感激した」と薦められ、1976年にコンラート・ローレンツ著の「攻撃」という本を読んだが、「動物の行動がゲノム(DNAで作られる遺伝情報)に由来する本能に左右されている部分は大きい」と納得したものの、私自身はそのような攻撃性を持っていないため、感激しなかった。そのため、「この感受性の差は人間の男女の本能の違いだろう」と理解したが、長谷川氏も女性であるため人間の攻撃性についてピンと来られなかったのではないだろうか。そのため、女性が行動学・生態学はじめ多くの学問分野を研究すると、今まで男性のみの視点で語られていた生物の新たな真理が明らかになると思う。
 で、ローレンツによると、①②④⑦について、人間の男性には攻撃性が備わっており、それは獲物を得るための縄張り争いや農地に水を引くための水争いの際に必要だったもので、戦って強い者が弱い者を追い出したり、殺したりして解決してきており、歴史を見てもそのとおりだ。また、③⑥については、ローレンツはライオンと鳩の例を挙げ、ライオンは生まれつき鋭い武器を持っているため、それに見合った制御本能を持って仲間同士が殺しあって自滅することを防いでいるが、鳩は鋭い武器を持っていないため制御本能がなく、通常は負けた方が飛び去って逃げるが、逃げられないようにして闘わせると負けた方が死ぬまで闘うと述べている。人間の場合は、生まれつき持っている武器は鋭くないため制御本能もそれに見合って小さいが、有史時代の数千年の間に道具として強力な武器を手に入れたため、制御本能が武器に見合っていないのだそうだ。そのため、なぐり合って人を殺すことができる人は少ないが、空爆(核兵器を含む)等の相手が苦しむ姿を見ずに人を殺すことは簡単にできるのだそうで、現代における攻撃の制御は文化の力によるしかないわけである。また、⑤の攻撃をどこまでエスカレートさせるかは、争いが起こった理由の深刻さに依存するため、ゲームの理論で説明できるほど甘くはないだろう。なお、女性に攻撃の本能がない理由は、縄張り争いの担当が何百万年も男性だったからで、近代数十年での人間の本能の変化は、何百万年と比較すれば著しく小さいからである。
 そして、*5-2は、国連開発計画(UNDP)が「人新世における人間の安全保障に対する新たな脅威」と題する報告書を出し、⑧2020年に世界で4050万人が安全を脅かされたという理由で移住し ⑨このうち暴力犯罪・政治的暴力・対立住民間の暴力・武力紛争などの治安の悪化により住まいを奪われた人が980万人、災害により住まいを奪われた人が3070万人 ⑩うち約3千万人は気象災害が原因で、気候変動が「人間の安全保障」を脅かす大きな要因になった としている。具体的には、*5-3のように、記録的熱波・山火事・洪水等の気候危機が世界で起こり、特にアフリカで「干ばつ」「洪水」が多発して農業が成り立たなくなり、他地域に移住せざるを得なくなっている。そして、国連世界食糧計画は、現在130万人以上が深刻な飢餓に直面しているとするが、このような時、少ない食糧を奪い合ったり、移住する人と移住される地域の間で戦争が起きたりし易いわけで、どちらも相手の出方を見る余裕などない生存をかけての戦いなのである。しかし、現代は、グローバルに情報交換ができる時代で、寒冷地が温かくなったり、少子化で労働人口が減少したりしている国も多いため、生産物・生産地域・産業構造を変えることによって、人間は殺し合いを避けることができると思われる。

*5-1:https://mainichi.jp/articles/20220406/k00/00m/030/276000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20220407 (毎日新聞 2022/4/7) 戦争はヒトの本能なのか? 自然人類学者が読み解くウクライナ侵攻 長谷川眞理子・総合研究大学院大学長
 ロシアによるウクライナへの侵攻があり、世界はすっかり変わってしまった。21世紀のこの世の中で、こんなにもあからさまな軍事的侵略行為が起こるとは、私はまったく考えていなかったが、皆さんはどうか。今回、何を書こうかと考えてはいたのだが、こんな出来事の前には、アカデミックな話題など吹き飛んでしまいそうだ。同じような感覚は、2011年3月11日、あの地震と津波、そして福島の原発事故が起こった時にも感じた。昆虫の神経生理学が専門の同僚と、こんな時に研究なんか続けていてもいいのかと話したことを覚えている。私は、現代政治や戦争のパワーバランスの専門家ではない。だから現在進行形でこの事態がこれからどう展開するのかについては、ただただニュースを見て解説を聞くだけである。しかし、私は自然人類学者だ。ヒトという生物の本性について研究している学者である。この際、私が何か言えるとすれば、ヒトにおける攻撃性の進化と、集団間の戦争が起こる条件についてだろう。振り返れば、1960年代から70年代にかけて一般的に問われていたのは、「ヒトという生物は本能的に戦争するようにできているのか」ということだった。戦争とは、同種の個体が集団間で行う、致命的な攻撃行動である。第二次世界大戦の悪夢はまだ記憶に新しく、それに続く冷戦で、いつ核のボタンが押されるかという緊張があった時代だ。その中で、アフリカに生息する野生チンパンジーの研究を行っていたジェーン・グドール氏が、チンパンジーたちが集団同士で殺し合うことを報告した。チンパンジーは、私たちヒトにもっとも近縁な生物である。私たちは、このような同種個体間に起こる攻撃的性質を、生物として受け継いでいるのだろうか?これは、本質的に問いの立て方が間違っていたのだと思う。攻撃、とりわけ同種個体間での致死的な攻撃性が、生物として本能的に備わっている、ということはない。そうではなくて、生物は誰であれ、自分自身を取り巻く環境の中で、利害が対立する同種の他者と戦わねばならない状況がつねにある。そういう時に、攻撃行動をどこまでエスカレートさせるのかは、相手がどう出るのかという、相手の戦略に依存するのだ。これは、ゲーム理論的状況である。ゲーム理論とは、自分と相手との間に、ある状況において取り得る行動選択肢がいくつかあり、自分が一つの選択肢を取り、相手もまた一つの選択肢を選んだ時、双方の利益と損失がどうなるかを分析する理論である。例えば、「とことん攻撃」という選択肢もあれば、「いい加減で引く」という選択肢もある。どちらにも、それぞれの戦略を取り、相手がどちらかの戦略を取った場合の利益と損失がある。自分が「とことん攻撃」戦略を採用し、相手が「いい加減で引く」戦略を取ってくれれば、それは自分が勝つだろう。しかし、相手も「とことん攻撃」戦略を取るのであれば、双方の損失は増加の一途をたどる。こんなことなら、「いい加減で引く」戦略を取っていた方がましだ。では、どこに落ち着くか。こうして、高い攻撃性が備わった動物であれば仲間に対しても攻撃が起こり、そうでなければ攻撃はない、といったシナリオは無効であることがわかった。生存のためには、誰でも攻撃性を備えているのだが、それがどのように表出されるのかは、社会関係の状況によるのである。さらに、戦争という問題になると、これは個人対個人の攻撃の話ではなく、集団対集団の攻撃の話である。集団が、自分たちの集団としてのアイデンティティーを持ち、その内部で結束して、他の集団と対決するのである。これができるにはかなりの認知能力が必要だし、そんな攻撃が有利になるような事態も、動物界でそれほどあることではない。ヒトにおける戦争が、「ヒトに生物学的に備わっている本能的性質によるものなのか」という問いは無意味だ。集団間にどのような利害対立があるのか、それを解決するためにどれほどの攻撃を用意するのか、自集団はどれだけ結束できるのか、といった問題の集合の結果として、戦争という行為が選択されるのかどうかが決まる。昨今は、その選択をする指導者はいなかったのだが、今回は?

*5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC15BC20V10C22A2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2022年2月21日) 気候変動、対策不備は人権問題 「身の安全の脅威」に
 気候変動は人間の安全を脅かす問題で、対策の不備は人権にも影響する。こうした考え方に光が当てられるようになってきた。国連開発計画(UNDP)が8日に発表した「人新世における人間の安全保障に対する新たな脅威」と題する報告書のなかで目を引いたのは、安全を脅かされ移住を余儀なくされた人々の数と原因別の推計である。
●3千万人が気象災害で移住
 これによると、2020年に世界で新たに4050万人が安全を脅かされたとの理由で移住している。このうち、暴力犯罪、政治的暴力、対立住民間の暴力、武力紛争などの治安の悪化により住まいを奪われた人が980万人なのに対して、災害により住まいを奪われた人の数は、3倍以上の3070万人に及ぶ。災害のうち、地震や噴火といった地質災害が原因なのは66万人にすぎず、約3千万人が気象災害の原因によるとされている。内訳としては、サイクロン、ハリケーン、台風などの荒天が1460万人、洪水が1400万人、山火事が120万人で、その他に地滑り、異常高温、干ばつなどが挙げられている。かつて「人々の安全は国家による保護を通じて保障される」と考えられていた。それが冷戦終結後、外部からの侵略や領土的一体性に対する脅威がなくても、人々が国内における民族や宗教、社会集団間の歴史的な対立や反目に起因する暴力に直面する事態が多発した。国ではなく人々が暴力に目を向け、保護を提供し、安全を確保しなければならないとして「人間の安全保障」という理念も生まれた。それから30年近くがたって、今度は気候変動が「人間の安全保障」を脅かす大きな要因となっている。
●気候変動巡る訴訟増加
 こうした情勢は気候変動を理由とする訴訟の増加に如実に反映されている。英国のグランサム研究所の調べによると、21年5月末までに世界で確認できた気候変動を理由とする訴訟は1840件あった。このうち1986~2014年の件数は834件なのに対し、15年以降は1006件に及ぶという急増ぶりである。20年5月1日から21年5月31日の13カ月では191件の新規訴訟が起こされているのだ。国際法の下で、人権を尊重し、保護し、促進する直接的な義務を負っているのは国家である。したがって訴訟の矛先はまず国の政府や州政府に向く。多くの国で政府の気候変動対策が不十分であり、人権を保護する観点から、より野心的な行動を取るよう訴えが起こされている。政府の敗訴が確定したケースもある。19年12月、オランダ最高裁は「国は20年までに1990年比で25%(温暖化ガス排出を)削減すべきだ(既存の政府目標は同20%削減)」と命じたハーグ地裁(15年6月)およびハーグ高裁判決(18年10月)を支持し、オランダ政府の上告を棄却した。ほかにも21年4月にはドイツ連邦憲法裁判所が「19年に施行された気候保護法が温暖化ガスの削減に十分ではない」と判断し、22年末までに厳格化するように政府に命じる判断を下した。
●供給網で侵害を把握
 企業が訴えられる事例も増えている。当面は裁判所が特定企業に対して「温暖化ガスの排出削減を命令する」といったケースは極めて少数で、敗訴の確定に至っていないものがほとんどだ。ただ世界では弁護士と非政府組織(NGO)が人道に対する新たな犯罪として「エコ(環境)」と「ジェノサイド(大量虐殺)」を組み合わせた「エコサイド」という概念を普及させようという運動を始めている。ESG(環境・社会・企業統治)という言葉は日本でも定着してきたが、EとSの要素を別個の概念として捉える感覚が時代遅れになる可能性がある。例えば、フランスではサプライチェーン(供給網)全体で人権侵害を把握し、予防策を講じる仕組み「人権デューデリジェンス」を企業に対して義務付ける「企業注意義務法」が2017年に制定された。そこで注意を払うべき対象は気候変動を助長する活動も明確に含まれる「ビジネスと人権」で問われるのは、児童労働や強制労働にとどまらないのだ。21年10月、日本が気候変動対策に後ろ向きと見られかねない出来事があった。国連人権理事会で「安全でクリーン、健康的で持続可能な環境への権利」の決議が採択された。その内容は、気候変動などの環境被害が人権に悪影響を及ぼし、脆弱な立場にある人々を厳しい状況に追いやることを政府は認識し、環境対策を通じて人権を尊重・保護する義務があるとするものだ。
●日本と中ロ印が棄権
 この決議には43カ国が賛成したのだが、4カ国が棄権に回った。それが、中国、ロシア、インド、そして日本だったのだ。「環境権は国際的に認識されたものではない」というのがその理由だったと伝えられるが、こうした状況が続くのなら、日本企業がグローバル市場で気候変動対策をいくら発信しても国全体のイメージにかき消されてしまうことを危惧せざるを得ない。01年、国連と日本政府の発議により「人間の安全保障委員会」が設置され、ノーベル賞を受賞した経済学者アマルティア・セン氏と委員会の共同議長に就いたのは日本人初の国連難民高等弁務官となった緒方貞子氏だった。温暖化ガス排出に対し一定の緩和策を実施したとしても、21世紀末までに気温の変化によって累積で約4千万人が命を失いかねないとする、今回のUNDPの警鐘を、緒方氏ならどう聞かれるだろうか。

*5-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD134KQ0T10C22A1000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2022年1月19日) 「気候危機」アフリカで深刻化 干ばつや洪水多発、科学記者の目 編集委員 青木慎一
 2021年は記録的な熱波や山火事、洪水など「気候危機」が世界で相次いだ。欧米や中国に比べて報道は少ないが、気候危機が最も深刻な地域がアフリカだ。二酸化炭素(CO2)の排出は世界全体の約4%にすぎないが、被害は大きく、家を捨てざるを得ない「気候難民」も出現している。アフリカでは50年までに約1億500万人が家を捨てて国内の他地域に移住せざるを得ない可能性がある――。世界銀行は21年、地球温暖化による異常気象に伴う気候難民について報告書をまとめた。最悪のケースでは、世界全体で2億1600万人にのぼるとみており、サハラ砂漠以南のアフリカの住民が約8600万人と4割を占める。30年にも、中央アフリカなどで移住に追い込まれる人々が多発する地域が出現し、50年までに深刻化するという。国境を越える難民も出始めた。「干ばつで農業が成り立たなくなったアフリカから欧州へ大勢の人が向かっている。今後、さらに増えるのではないか」。21年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員をインタビューした際、こう危惧していた。ここ数年、アフリカではサハラ砂漠以南の国々を中心に異常気象に見舞われている。21年も、東アフリカに位置する南スーダンで7~11月に大規模な洪水が多発し、約85万人が住む家を失った。一方、隣接するケニアなどでは干ばつが起きた。中でも、南西部のアンゴラの干ばつは過去40年で最悪といわれ、国連世界食糧計画(WFP)によると130万人以上が深刻な飢餓に直面している。水がなければ人は生きていけず、農作物や家畜も育てられない。世界気象機関(WMO)は、サハラ砂漠以南では温暖化によって国内総生産(GDP)が3%押し下げられる可能性があると予測する。アフリカ諸国は農業が主要産業で、干ばつや洪水、熱波の影響を受けやすい。異常気象の影響を受ける国々は貧しい人が多い。世界銀行のユルゲン・フォーグレ副総裁は「温暖化の影響は(CO2排出が少なく)温暖化への関与が最も小さい貧しい国や人々に集中している」と指摘する。アフリカでは、これまでも異常気象が多発してきた。水不足や貧困が紛争を招いたとの指摘もある。紛争がさらに状況を悪化させてきた。ただ、アフリカ各地で起きている異常気象が温暖化の影響なのかはっきりしないことが多い。例えば、西インド洋にある島国マダガスカルでは、雨不足が長期化し、深刻な食糧危機が起きている。しかし、世界の異常気象を調べる国際組織ワールド・ウェザー・アトリビューションは21年12月、コンピューターによるシミュレーション(模擬実験)などを使って分析し「気候の自然変動の可能性が最も高く、温暖化の影響は極めて小さい」と発表した。現在の雨不足は135年に1回の割合で起こりうる現象で、マダガスカルで過去に起きた気候パターンと違いはなかった。一方、ワールド・ウェザー・アトリビューションは、南アフリカやケニアでは温暖化によって水不足のリスクが高まったとも分析している。影響がはっきりしないケースを含めて、国際的な取り組みが遅れて温暖化が進むと、アフリカの広い地域で異常気象が増える可能性を指摘している。「アフリカでは多くの国が雨水に頼った農業を続けている。先進国なら技術で克服できるような気候の変化でも、住民の生命を脅かしかねない」。東京大学未来ビジョン研究センターの華井和代講師は、農作物の被害は栽培技術の未熟さや治水インフラの未整備なども影響している可能性が高いと解説する。華井講師は「国連の持続可能な開発目標(SDGs)にある貧困の撲滅を達成できればダメージを減らせる。アフリカで多い紛争を減らすことにもなる」と指摘する。実現には、CO2を大量に出してきた先進国や経済成長した中国による様々な支援が欠かせない。22年秋、国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)がエジプトで開かれる。英国で開かれたCOP26では途上国への資金援助が焦点のひとつとなった。アフリカに必要な支援は温暖化対策技術だけではない。高温や乾燥に強い作物の導入や治水の整備も欠かせない。国際社会のリスクを減らすことにもつながるはずだ。

<このように自給率の向上に抗ってきた日本の先行きは暗いこと>
PS(2022年4月28、29日追加):*6-1のように、日本の食料自給率は、20年度で先進国最低水準のカロリーベース37%になっているが、日本の農水省幹部は①小麦が輸入できなくなっても余っているコメで代替できる ②長く食料調達が難しくなる事態では、まず小麦・大豆・コメを増産し、足りなければイモを作る ③既存の農地以外の土地活用も促す 等とし、④食料安保指針は物価統制令も挙げているなど、栄養・嗜好・調理法・生産基盤・自由主義経済のすべてを無視して第二次世界大戦時程度の発想をしている。そのような中、岸田首相は「食料自給率を上げないといけない」と語っておられるが、それには「補助金がなければ○○」という農業はじめ全産業の姿勢が限界を作っているため、産業への参入障壁を取り除かなければならないだろう。
 また、*6-2のように、自民党が原油・物価高騰“緊急(?)”対策として、国産の米・米粉・小麦の増産支援を要請したそうだが、需要のある製品を作ることが産業を成長させる鉄則であるため、これまで米に偏って補助してきたこと自体が予算の無駄遣いだったのだ。さらに、まだ配合飼料価格の安定や肥料原料調達先の多角化支援などと言っているのは、これらを海外から調達している限り国産とは言えないため、予算の使い方が賢くない。そのため、JA全農は、食料安全保障の強化として配合飼料や肥料も国内で安く作ることを考え(方法はあるのだから)、燃油価格高騰についても20年以上も同じことを言っているのでは工夫がなさすぎるため、むしろ供給者の国内競争を促すべきである。
 なお、*6-3のように、⑤日本の経済制裁に反発したロシアが建材の輸出を止めたので木材高騰の懸念がある という報道にも呆れた。何故なら、⑥ロシア産のアカマツが国産より2割安い ⑦ロシア材はくせが無く使い易い ならば、日頃から「森林国だから平地が少ない」と弁解している日本産の木材を需要に合うよう品種改良や加工すればよいからで、やる気の問題だからだ。また、この事態を、⑧全く予想していなかった というのも甘すぎで、世界情勢を見ていない。そのため、⑨対策として県産スギの販売に力を入れ始めた というのは良いが、⑩宮城産を使えば補助金が出る というのは、私が現職時代(2005~2009年)に始めた日本産木材を使って森林の手入れを促すプロジェクトに甘えすぎで、それから10年以上経過した今なら、国産材を使うだけでもらえるような補助金は止められるように環境整備できておくべきだと思う。
 一方、*7-1のように、住友林業が賃貸集合住宅「Forest Maison」を全棟ZEHマンションにして、入居者には快適な暮らし・オーナーには環境に配慮した付加価値の高い賃貸集合住宅を提供し、太陽光発電の搭載も推進して、生活で排出するCO2を削減する取り組みを始めたそうだ。これについては、国交省が定めたZEH-M(住棟)評価基準(建築物の省エネ性能表示ガイドラインに基づく第三者認証制度の一つ)があるのを参考にして、☆の数に応じて補助する制度を設けた方がよいと思われる。もちろん、☆の中には「国産材の使用」による加点もあってよいと思うが、環境省と国交省で科学的な評価基準を決めるべき時だろう。
 そのような中、経産省傘下の経団連が、*7-2のように、「2050年の脱炭素社会実現には、原発再稼働や新増設に総額400兆円に上る投資が必要」とする提言を発表したそうだが、原発は今から56年も前の1966年に東海発電所が英国から導入して営業運転を開始し、各電力会社も続いて営業運転を開始したが、未だに莫大な補助金を要し、災害回復や最終処分まで国に依存する著しく経済性の低い発電法である。そのため、機械設備の耐用年数は5~20年が多く、ガスタービン発電設備は15年で、長いものでも水力発電設備22年、送配電用設備22年(https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shisan/info/hyo02.pdf 参照)であり、耐用年数の延長はしないことを知っている経団連が「原発運転期間の40年から60年への延長の円滑化を求める」としているのはおかしい。その上、「CO2排出量に応じて課税する炭素税は、産業の国際競争力を損なう」などと炭素税に反対しているが、そのような現状維持と昔返りばかりをしたがったことが、日本経済の低迷と双子の赤字という現在の状況を生んだことに気がつかないのだろうか。
 さらに、*7-3には、アラビア石油・日本エネルギー経済研究所等を経て東京国際大学特命教授をしている武石氏が、⑪権威主義のロシアが自由主義のウクライナを侵攻したことでエネルギー不安が高まったから自由主義陣営は連携を強化すべきだ ⑫エネルギー基本計画の達成目標見直しが必要 ⑬化石燃料プロジェクトへの資金提供が必要 ⑭再生エネやEVへの過度の期待は避けよ などと書いており、氏の経歴から見て化石燃料派であることはわかるが、“権威主義”のロシアを制裁するために“権威主義”のサウジアラビア等に原油増産を依頼したり、“権威主義”の中国にロシアを制裁するよう求めたりなど、どれも根拠が屁理屈にすぎないのだ。その上、「エネルギー価格が上昇したから」と日本政府がガソリンの市販価格引き下げを目指して補助金を出すというのも、言いだして30年近くも再エネやEVには本格的投資を促さずに、化石燃料使用期限の先延ばしを画策して無駄遣いするなど、どれだけの無駄遣いを重ねるのかと思われた。
 2022年4月29日、*7-4のように、日経新聞が、⑮電力供給予備率が3%を下回り、警報基準に当てはまる状況になった ⑯電力供給の限界を超えれば病院や高齢者施設などで致命的な事態を招きかねないのに、一般向け周知が遅れた ⑰呼びかけは暖房の設定温度の引き下げやこまめな消灯といった基本的な内容に留まった ⑱電力の所管は経産省でも「外局」の資源エネルギー庁で、リスクを認識しながら役所間のエアポケットにはまったかのように肝心の警報は遅れた ⑲電力逼迫は一過性の問題ではなく、2023年1~2月は東京から九州までの広範囲で必要な予備力を確保できない ⑳ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー安全保障の前提も変わったため、原子力を含めたエネルギー政策の総点検が急務 と記載している。
 しかし、化石燃料・原子力から再エネへの転換を始めたのは2011年で11年前、電力完全自由化は2016年で6年前であるにも拘らず、未だに⑮⑯⑲のようなことを言っているのは、この間に本気で再エネ利用のためのインフラ整備をすることなく、再エネの出力を制御してきたからである。従って、⑰を厳しく行えば、経産省はじめ政府の無能が明らかになるだけであり、⑳のように、ロシアのウクライナ侵攻を理由として原発利用に舵を切るのも見え透いている。そして、⑱の資源エネルギー庁については、経産省の外局でフクイチ事故を防げず、事故の後始末も十分にできず、周囲に迷惑ばかりかけながら、既得権を駆使して予算を獲得したがる庁であるため、経産省の外局から内閣府の外局に変更して、首相管轄の下、農水省・環境省・国交省などと連携して安価で環境に負荷をかけない電力を供給するようにした方がよいと、私は思う。また、既に電力完全自由化も完了しているので、東電には廃炉部門だけを残して廃炉経費を見える化させ、電力供給部門は東北電力・中部電力もしくはその他の希望する電力会社に吸収合併させるのがよいだろう。今までそこまで厳しくは追求しなかったが、嘘八百言って稼働させていた原発事故の責任は、関係者にとってそのくらい重いものであることを実感させるべきである。

*6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220428&ng=DGKKZO60395540Y2A420C2MM8000 (日経新聞 2022年4月28日) 〈ニッポンの統治〉空白の危機感3 食料安保、最後はイモ頼み 不測の事態に乏しい備え
 「小麦が輸入できなくなっても、余っているコメで代替できる」。ロシアのウクライナ侵攻が始まったころ、農林水産省幹部はこう語っていた。コメは政府備蓄が年間需要の1割超にあたる100万トンほどある。問題は長く食料調達が難しくなる深刻な事態への備えだ。2012年策定の「緊急事態食料安全保障指針」は1日の供給量が1人2000キロカロリーを下回る最悪の場合の対策を「熱量効率が高い作物などへの生産の転換」と記す。
●「生産転換」に障壁
 まずは小麦、大豆、コメを増産する。足りなければ最後はイモだ。既存の農地以外の土地の活用も促す。イモ頼みは机上の空論のように映る。食料自給率は先進国で最低水準で20年度にはカロリーベースで37%と過去最低になった。自給率がほぼ100%だった江戸時代に飢えをしのいだようにはいかない。「国内生産基盤の弱体化が最大のリスクだ」。3月24日、農水省の非公開会合で有識者が指摘した。農業を主な仕事とする人は136万人。過去5年で40万人減った。農地もピークの1961年の7割の437万ヘクタールに縮んだ。サツマイモは苗を植えてから収穫まで3~6カ月かかる。保存が難しく備蓄もないため、緊急時の穴埋めはできない。食料安保指針のメニューは物価統制令もあげる。戦後の最大約1万件の指定は50年代前半にほぼ廃止した。72年にはコメを外し、農産物は全て対象外になった。今や銭湯だけが対象の旧態依然の法令をうまく活用できるのかは見通せない。
●EUは枠組み議論
 ロシアとウクライナで世界の輸出量の3割を占める小麦は国際価格が侵攻前より一時3割上がった。国内でも政府が民間に売り渡す価格が4月に半年前より17.3%高くなり、過去2番目の水準まで上がった。国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数は3月に2カ月連続で過去最高を更新した。3月29日の国連安全保障理事会で世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長は「第2次世界大戦後、目にしたことのないような影響を世界の食糧供給にもたらそうとしている」と訴えた。欧州では農業大国フランスを軸に主要国が穀物を出し合い、有事に配分する構想が浮上する。農業経済学に詳しい東京大学の鈴木宣弘教授は「各国が自国優先で輸出を止めた場合、日本は食料が確保できなくなる恐れがある」と指摘する。食料安保はいつどんなかたちで脅かされるか分からない。新型コロナウイルス禍でも供給網は揺らいだ。食料安保指針の直近の改正は21年7月。早期注意段階という区分を設け、すぐ適用した。食料高や物流の乱れを踏まえた対応だった。2XX0年、北米の天候不順により、小麦や大豆の輸入が大幅に減少――。21年11月には、こんな想定のシミュレーションも省内で実施した。米国からの輸入代替や備蓄の切り崩し、それでも足りない場合の増産や生産転換といった対応の手順を確認した。結局はイモ頼みの現実性が問題になる。岸田文雄首相は17日、石川県輪島市での車座集会で「食料自給率を上げないといけない」と語った。それには今までのような補助金漬けの農業の延長では限界がある。担い手不足や農地の大規模化の遅れといった構造的な課題に正面から向き合う必要がある。機械化による生産性の向上、参入障壁を取り除く規制改革など取り組むべきことは山積みだ。ロシアのウクライナ侵攻は食料危機を現実的な脅威として突きつけた。地道な備えを怠れば国民生活の底が抜けかねない。

*6-2:https://www.agrinews.co.jp/news/index/67556 (日本農業新聞 2022年4月6日) 小麦 国産転換・増産を 自民、高騰対策で提言
 自民党は5日の農林合同会議で、政府が月内に策定する原油・物価高騰緊急対策に向けた提言をまとめた。輸入小麦の高騰を巡り、国産の米や米粉、小麦製品の需要拡大や国産小麦の増産支援を要請。配合飼料価格安定制度の基金の積み増しや、肥料原料の調達先の多角化を支援することも掲げた。政府は緊急対策の財源に2022年度予算の予備費を活用する方針。同党は各部会からの要望をまとめ、政府に申し入れる。小麦は北米産の不作に加え、ロシアによるウクライナ侵攻も重なり価格が高騰し、食品の値上げにつながっている。提言では、輸入小麦の代替として、国産の米・米粉、小麦を原料とする商品への転換、これらの販路開拓を求めた。「国産小麦の生産拡大等を支援」することも要請した。配合飼料は「セーフティネット基金の積み増し等により価格高騰の影響を緩和」するよう求めた。肥料は原料の調達先の多角化を支援し、秋肥の安定調達につなげるよう求める。JA全農などは、中国産への依存度が高い原料について、モロッコから代替調達を進める。これに伴い膨らむ輸送や保管などの経費を、どう支援するかが検討課題になる見通しだ。肥料を巡っては、秋肥の価格高騰が懸念される中、党内には国も拠出する価格補填(ほてん)策を求める声がある。同日の会議でも江藤拓総合農林政策調査会長が「配合飼料価格安定制度のようなものを検討してもらいたい」と訴えた。
●自民農林会議で全中会長 資材高対策、食料安保の強化を
 JA全中は5日の自民党農林合同会議で、原油価格・物価高騰を受けた政府の緊急対策の決定に向けた要請を行った。中家徹会長は肥料をはじめとした生産資材の高騰対策を訴え、食料安全保障の強化につながる基本政策の確立を呼び掛けた。生産資材対策で全中は、当面の営農継続や必要な資材の確保に向けた緊急的な対策を要請。調達先の多元化で輸送費や保管料などの費用がかさむ肥料原料について安定確保に向けた支援が不可欠だとした。肥料には、燃料や飼料のように国が拠出する補填(ほてん)事業がないことから、農家の負担を軽減するセーフティーネット対策の具体化を訴えた。燃油、飼料のセーフティーネット対策の財源確保や拡充も求めた。また、長期化が避けられない資材価格の高騰に対し、将来を見据えた食料安全保障の強化の必要性を指摘。食料・農業・農村基本法の検証・見直しも含めた基本政策の確立を求めた。流通・消費面では、国産農畜産物の利用を拡大したり、輸入品から切り替えたりする食品産業などへの手厚い支援を要請した。中家会長は「大幅な値上げが避けられない秋肥価格が示された時に、多くの農家が営農を諦めることなく、国民に食料供給を続けられるよう、強力な対応をお願いしたい」と強調。今後の経済対策を含め「食料安全保障を強化する観点から、将来を見据えた万全な対策が必要だ」と訴えた。全中は、今回の要請内容も踏まえJAグループとしての考え方をまとめ、引き続き政府・与党に働き掛ける。

*6-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/10d81faf0cebf03d6f96a6573aaa3ffcbf1177fb (Yahoo 2022/4/27) ロシアから輸入禁止で木材高騰の懸念 宮城
ロシアによるウクライナへの侵攻の影響が広がっています。日本の経済制裁に反発したロシアが建材の輸出を止めていて、宮城県内でも建材の高騰への懸念が広がっています。仙台市で住宅用の建材を販売する会社です。国産より2割ほど安いロシア産のアカマツを取り扱ってきました。
○仙台木材市場 営業課 阿部利彦課長
「これがロシア材の在庫。くせが無く使いやすい。意外とロシアの輸入材は多い。うちは1割ですが大手だと3~4割」。しかし、ウクライナへの軍事侵攻に対する経済制裁に反発したロシアは先月、木材の日本への輸出を停止しました。
○仙台木材市場 阿部課長
「全く予想していなかった。流通量がなくなる。高くて物が動かなくなるので営業的には厳しくなる」
去年、北米の輸入建材のひっ迫によるウッドショックで、国内の木材は3~4割ほど高騰し、以来、高止まりが続いてきました。そこへ、今回のロシア材の禁輸措置。阿部さんは、住宅建設が減って、景気にも影響が出るのではと心配しています。
○仙台木材市場 阿部課長
「ロシアの影響で(建材が)また一段上がるかも。家一軒建つと幅広い経済効果がある。(住宅建設が減れば)景気は良くなくなる」。今回の禁輸は長期化が見込まれるため、この会社では、対策として県産のスギの販売に力を入れ始めています。
○仙台木材市場 阿部課長
「宮城産を使えば補助金が出るので、活用しながら家を建てることもできる。入って来ないものを当てにするより、近所にいいものがあれば有効活用するのが理に適っている」

*7-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP631311_W2A420C2000000/ (日経新聞 2022年4月26日) 住友林業、賃貸集合住宅「Forest Maison」全棟でZEH-M(ゼッチマンション)化を推進
○賃貸集合住宅「Forest Maison」を全棟 ZEHマンションに
○快適性と省エネ性を向上
○BELSの最高ランク5つ星で入居者、オーナーともに利点
 住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎 本社:東京都千代田区)は賃貸集合住宅「Forest Maison(フォレスト メゾン)」全棟でZEH-M(ゼッチマンション)(※1)化を推進し、快適な室内環境と大幅な省エネ性能を実現します。国が進めるBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)(※2)の最高ランク5つ星に対応する仕様を標準とし、省エネ性を高めたZEH-Mを全棟で取得します。入居者には快適な暮らしを、オーナーには環境に配慮した付加価値の高い賃貸集合住宅を提供します。太陽光発電の搭載も推進し、生活で排出するCO2を削減します。
(*参考画像は添付の関連資料を参照)
「Forest Maison」のZEHマンションはZEH-M Orientedの基準以上を目指します。住まいの断熱性能を大幅に高め、高効率な設備システムを導入して快適な室内環境を保ち、共用部を含む建物全体の一次エネルギー消費量(※3)の20%以上を削減(※4)する賃貸集合住宅です。太陽光発電システムを搭載することで『ZEH-M』、Nearly ZEH-M、ZEH- M Readyも推進します。
※1 ZEH-M(ゼッチマンション)
 Net Zero Energy House Mansion(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)の略。住まいの断熱性・省エネ性能を上げ、太陽光発電などでエネルギーを作り、年間の1次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の収支をプラスマイナス「ゼロ」にする集合住宅。国が定める集合住宅のZEH基準で4区分に分類される。
<ZEH-M(住棟)評価基準>
*表資料は添付の関連資料を参照
※2 BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)
 国土交通省が定めた「建築物の省エネ性能表示ガイドライン(建築物のエネルギー消費性能の表示に関する指針)」に基づく第三者認証制度の一つ。制度運営主体は一般社団法人 住宅性能評価・表示協会。省エネルギー性能を客観的に評価し、5段階の星マークで表示する。「Building- Housing Energy-efficiency Labeling System」の略称。
※3 1次エネルギー消費量
 1次エネルギー消費量は住宅や建築物で消費するエネルギーを熱量換算したもので省エネ基準の指標。1次エネルギーは、石油、石炭などの化石燃料、原子力燃料、水力・太陽光など自然から得られるエネルギーのこと。電気や都市ガス、灯油など、1次エネルギーを加工・変換して得られる2次エネルギーを住宅で使用する。種類の異なる2次エネルギーを1次エネルギー消費量に換算することで、建物の総エネルギー消費量を求めることができる。
※4 2016年省エネ基準による「暖房」「冷房」「換気」「照明」「給湯」の基準一次エネルギー消費量との比較。
*以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
参考画像
https://release.nikkei.co.jp/attach/631311/01_202204261428.PNG
表資料
https://release.nikkei.co.jp/attach/631311/02_202204261428.PNG
添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/631311/03_202204261428.pdf
 建築物省エネ法による省エネ適合基準義務化や、建物購入者や賃借人への省エネ性能の表示が求められてきています。2020 年9 月から当社の戸建注文住宅はBELS の5 つ星に対応する仕様を標準とし、2022 年4 月以降は賃貸集合住宅も同様に全棟申請します。BELS は新築・既存の建築物の省エネ性能を第三者機関が評価し認定する制度で、建物の省エネ性能、資産価値を示す指標となります。断熱性能を強化しBELS の評価書に裏付けされた快適さを備えます。当社はSDGsの目標年である2030 年を見据え、脱炭素社会の実現に向けてあるべき姿を事業構想に落とし込んだ長期ビジョン「Mission TREEING 2030」を発表しました。建築部門では脱炭素設計のスタンダード化を進めていきます。国内外で森林経営から木材建材の調達・製造、木造建築、木質バイオマス発電まで「木」を軸とした事業を展開する当社は、木を伐採・加工、利用、再利用、植林という住友林業の「ウッドサイクル」を回して森林のCO2 吸収量を増やし、木材を活用し炭素を長く固定します。世界の脱炭素シフトへのパートナーとして当社グループならではの「ウッドソリューション」を提供することで持続可能な社会の実現に貢献していきます。
■「Forest Maison」のZEH の特徴
 木造住宅は原料調達から建設までのCO2 排出量が少ない上、長期にわたり炭素を固定し続けます。「ForestMaison」のモデルプランで試算した炭素固定量はCO2 換算で1 棟当たり約35t-CO2 となり、これは約0.48ha の植林杉林が50 年間に吸収するCO2 量に相当します。使用した木材分を再植林することで森林を若返らせCO2 吸収量を増やします。参考)モデルプラン(2 階建て、重層長屋:延床面積207.02 ㎡)で試算
・炭素固定量(CO2 換算量)は、林野庁の「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドラ
イン」に則り、モデルプランの構造材、羽柄材を対象に算出しています。
・再植林相当面積はモデルプランの構造材、羽柄材を対象に50 年生の杉林に換算しています。
入居者は高気密・高断熱の建物性能の他に高効率給湯器、断熱浴槽、ワンストップシャワー水栓などの節湯水栓やLED 照明等の省エネ設備機器により光熱費を削減できます。オーナーは30 年間メンテナンス不要な屋根材、外壁材などを建物に用いることで長期修繕にかかる手間とコストを軽減できます。高遮音床を装備しゆとりの住空間を提供する賃貸集合住宅として提案します。素材感のある石目柄、木調柄の組み合わせ等街並みにあうスタイリッシュな外観の賃貸集合住宅です。
<オーナーのメリット>
○ZEH-M 賃貸集合住宅の建設により温暖化防止につながり、環境配慮の集合住宅としてアピールできます。
○快適な住まいの提供が入居率アップに寄与し、安定的な賃貸経営を実現します。
<入居者のメリット>
○高い断熱性で住まいの快適性が向上します。
○省エネ設備により光熱費を削減できます。
■太陽光発電の活用
 太陽光発電は、住戸連係システムとし、入居者へ直接太陽光発電システムによる光熱費削減メリットを訴求。居住時のCO2 排出量を削減し、賃貸住宅のさらなる付加価値を提供します。太陽光発電によるメリットの他に勾配屋根を利用したロフト設計もでき、ゆとりの室内空間を提案します。
■高遮音床で安心の遮音性能
 階上の床仕上げ材は弾性木質フロアを採用。当社オリジナル遮音モルタル板、吸音材、床材の組み合わせにより重量床衝撃音(LH 値)はLH-50、軽量床衝撃音(LL 値)では住宅業界トップレベル(当社調べ)のLL-35 を達成しています。ライフスタイルが多様化する中、衝撃音を抑える遮音性能の高さは入居者の満足度を高めます。L値とは、床への衝撃音に対する遮音性能を表す単位。値が小さくなるほど遮音性能が高いことを示す。
・LL値(軽量床衝撃音):器物の落下や靴での歩行、椅子の引きずりなどによって発生する比較的軽い音に対する性能。
・LH 値(重量床衝撃音):子どもの飛び跳ねや走り回ることで発生する「ドスンドスン」という重い音に対する性能。

*7-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/b5ac2ef60a79646de7d32ab768fa6150bb2ed9ee (Yahoo、テレ朝 2022/4/27) 経団連「脱炭素実現に原発再稼働と巨額投資必要」
 経団連は、2050年の脱炭素社会の実現に向けて「原発の再稼働や新増設、総額400兆円に上る投資が必要」とする提言を発表しました。経団連・十倉雅和会長:「原子力をはじめとする既存の技術の最大限の活用が不可欠。着実な再稼働、運転期間の60年への延長の円滑化を求める」。提言では、2050年に脱炭素社会を実現するには原発の再稼働や新増設、火力発電では化石燃料の代わりに水素やアンモニアを使うように求めています。目標の達成には総額400兆円の投資が必要で、年2兆円は政府が環境対策向けの国債を発行し残りは民間からの投資を促す必要があるとしています。一方、二酸化炭素の排出量に応じて課税する炭素税については「産業の国際競争力を損なう」として慎重な姿勢を示しました。

*7-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220426&ng=DGKKZO60297170V20C22A4KE8000 (日経新聞社説 2022年4月26日) 高まるエネルギー不安(下) 自由主義陣営の連携強化を、武石礼司・東京国際大学特命教授(1952年生まれ。早大博士(学術)。アラビア石油、日本エネルギー経済研究所などを経て現職)
<ポイント>
○エネルギー基本計画の達成目標見直しも
○化石燃料プロジェクトへの資金提供必要
○再生エネやEVへの過度の期待は避けよ
 2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻した。隣国同士の大規模な戦争の発生で世界に衝撃が走った。欧州地域は、石油や天然ガスから石炭までロシアからの輸入に依存しており、エネルギー安全保障面の脆弱さが露呈した。ドイツでは脱化石エネルギーを掲げる緑の党が政権の一翼を担うが、エネルギー供給の確保のために、液化天然ガス(LNG)受け入れ基地の建設や石炭火力発電の継続運転を迫られている。欧州の天然ガス価格はウクライナ危機前から高騰していた。コロナ禍が最悪期を脱して需要が増え始めたことに加え、エネルギー供給面では脱炭素政策の強化や風量不足による風力発電量の低下が背景にある。欧州で生じたエネルギー価格高騰は、指標価格を提示する欧米などの国際的な先物取引市場を通じて瞬く間に世界全体に波及した。米国ではガソリン価格が1ガロン(約4リットル)あたり4~5ドル(約510~640円)という高値を付けた。日本のエネルギー価格も急速に上昇しており、日本政府はガソリン市販価格の引き下げを目指した激変緩和措置事業(現在1リットルあたり最大25円の補助金)や石油備蓄の一部放出も実施している。今後ロシアへの経済制裁がさらに強化されると、エネルギー資源国であるロシアからの供給不足分をいかにカバーするかが、欧州諸国、日本などアジア諸国も含めて大きな課題となる。再生可能エネルギー導入に世界中が熱中し、石炭、石油、天然ガスはすべて急速に削減できるとの論調が欧米先進国を中心に高まっていたが、ロシアのウクライナ侵攻によりこうした状況は一変してしまった。ドイツでの化石燃料の継続使用への戦略変更からもうかがえるように、日本でも2021年策定の第6次エネルギー基本計画の達成目標の見直しが求められる状況となっている。少なくとも化石燃料使用の期限の先延ばしが求められよう。エネルギーの需要と供給の変動は、産業・輸送分野など経済状況の好不調次第で二次的にもたらされる。今後どの程度の経済成長率が見込まれるか、エネルギー多消費産業がどの程度あるかなどにより、エネルギー需要は決まってくる。経済が好調なときには、経済成長率が5%に対しエネルギー需要の伸び率は7~8%に達するというように、エネルギー弾性値が1を上回ることもある。一方、エネルギー需要の減少は、1970年代のオイルショックや今回のコロナ禍のような大規模な経済活動の停滞時に生じるぐらいで、そう簡単には年々のエネルギー消費量は減少しない。各国のエネルギー消費の動向をみるとき、どのようなエネルギー資源を多く用いている国であるかも重要だ。短期的にはエネルギー源となる燃料を転換することは難しく、時間をかけないと設備は変更されず、燃料の転換は生じない。必需品であるエネルギーの価格は需給変動、それをもたらす政治状況の変化、紛争の発生、金融情勢の変化、気象条件などにより変動する。こうした変動を抑えるためにエネルギーの消費側ができるのは、(1)自らエネルギー資源(化石燃料・再生エネなど)の生産・活用に進出する(2)自国に備蓄資源を持つ(3)異なる種類のエネルギー源(石炭、原子力も含む)の利用を図る(4)エネルギーの先物市場を利用する――ことなどだ。図は世界のエネルギー消費量(各種エネルギーを発電燃料に用いる前の総供給量、左側)と世界の発電量(右側)を燃料別でみたものだ。化石燃料が1次エネルギー消費の83%、発電量の61%を占める。水力とその他再生エネの合計は1次エネルギー消費の13%、発電量の29%にとどまる。地球環境問題への関心の高まりを受け、脱炭素が声高に言われるようになったが、水力および再生エネが占める比率はいまだ少ない。こうした中で、この1~2年の石油と天然ガスの輸入を確保できるのか、価格高騰を抑えられるのか、中東、米国、オーストラリアなどからの安定的な輸入を維持できるのかが、世界各国にとって大きな課題となる。だが米民主党政権は、米国内での石油と天然ガスの増産に熱心ではなく、中東など米国外での増産を期待するスタンスをとる。アフリカや南米などで新たな石油と天然ガスが発見されながらも、生産段階への移行が遅れているプロジェクトへの資金提供が必要だ。SDGs(持続可能な開発目標)の推進に熱心な金融機関は、化石燃料プロジェクトへの投資を控えつつある。だがエネルギー供給が大幅に足りなくなる国難を前にしては、従来の方針の見直しが求められる。石炭に関しては、石炭火力発電所が将来収益を生まない座礁資産という見方を改めて、貴重な電力供給源であるとの位置付けに修正していく必要がある。さらに原子力発電については、原子力規制委員会の審査の進捗状況を確認しつつ、早期の稼働再開により停電リスクを避けることが国民経済上必要だろう。一方、再生エネ導入に関しては技術進歩とコストを見つつ進めるべきだろう。そもそも太陽光発電量は日照時間に左右される。風力発電では、海岸沿いに固定型の洋上風力を一通り設置すると、あとはコストの高い浮体式に取り組むしかなく、コスト引き下げの余地は限られる。また風況次第の面があり、欧州で21年に生じたような風が吹かない状況に対応するため、予備の発電設備も必要となる。バイオマス(生物資源)発電も、日本のように輸入木材と輸入ヤシ殻に大きく依存するようでは、カーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)とはとても言えない。地熱発電にしても、日本では発電に必要な地下の水蒸気量が足りない事例が多くみられる。1次エネルギーのうち、石油は運輸用の消費量が過半を占める。電気自動車(EV)の導入により石油消費量は減少する見込みだが、EVは電池および半導体を多く用いることから、希少金属を消費するとともに、製造、廃棄の両面で多大の環境負荷をもたらす。ウクライナ侵攻に対しロシアへの経済制裁をさらに強化していけば、世界が自由主義諸国と権威主義諸国に二分されかねない。欧州の緑の党をはじめとして、化石燃料の使用では妥協することがあったとしても、権威主義国での人権問題に対しては譲らない状況が続くと予測される。だが中国は深刻な人権問題を抱える一方で、世界の太陽光パネル生産の約7割のシェアを握るという現実もある。ロシアとそれをサポートする中国、そして中国に近い立場をとるアフリカや南米などの資源国という形が今後明確になってくる可能性がある。権威主義国に頼るしかなくなっている多くの発展途上国を自由主義諸国側に引き戻すことが必要だ。日本は自由主義国である欧米諸国、カナダ、豪州、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などと連携して、エネルギー資源の確保を目指す協調政策にかじを切るべきだろう。

*7-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220429&ng=DGKKZO60453560Z20C22A4MM8000 (日経新聞 2022.4.29) 〈ニッポンの統治〉空白の危機感4 首の皮一枚の停電回避、極まる縦割り、官僚及び腰
 3月21日午後8時、経済産業省が公表した資料には「警報」の記載がなかった。警報は電力需給の逼迫で大規模停電の恐れがある場合に家庭や企業に強く節電を求める仕組み。東日本大震災後の危機を踏まえて導入した。これまでは発動せずに済んできた。今回、地震による発電所の停止と気温低下などが重なった。電力供給の余裕を示す予備率は3%を下回った。警報の基準にあてはまる初めての状況だった。しかし一般向けの周知が遅れた。「3月22日は電力需給が厳しくなるため東京電力管内で節電の協力をお願いします」。呼びかけは暖房の設定温度の引き下げやこまめな消灯といった基本的な内容にとどまった。
●警報3時間遅れ
 軌道修正したのは当初の資料発表から1時間あまり後の午後9時過ぎだった。「警報という理解でいい」。発令は資源エネルギー庁の担当課長が口頭で追認するあいまいなかたちになった。この時点で前日午後6時までに出すルールから3時間遅れ。最終的に「警報」と資料に明記するのは22日未明にずれ込んだ。電力供給の限界を超えれば病院や高齢者施設などで致命的な事態を招きかねない。危機感を政府内で共有できていたのか。綱渡りの状況は首相官邸も把握していた。首相周辺は「21日に東電から厳しいと聞いた」と明かす。東電は警報が出る前の20日から大口需要家に「業務に支障の無い範囲」で節電を求めていた。それぞれリスクを認識しながら役所間のエアポケットにはまったかのように肝心の警報は遅れた。企業や家庭に厳しい対応を迫る責任をかぶりたくない官僚たちの思いが透ける。21日、インド・カンボジア訪問から帰国した岸田文雄首相を経産官僚が訪ねた形跡はない。首相が国民に呼びかける場面は翌朝もなかった。政府高官は「災害の場合は官邸が対策室を立ち上げるが、今回は経産省が担当」と話した。岸田政権は「官邸1強」の修正を掲げ、ボトムアップを重視する。一歩間違えば、役所の縦割りも復活しかねない。経産省でも電力を所管するのは「外局」の資源エネルギー庁だ。たこつぼに逆戻りしないよう目を光らせる必要がある。今回、結果として対応は後手に回った。各省庁に所管する業界へ協力要請を周知するように頼んだのは22日午前10時になってから。結局、午前中は節電効果がほとんど上がらず、焦った官僚は大臣にすがった。
●経済活動に影響
 午後2時45分ごろ、萩生田光一経産相は緊急会見で「このままでは広範囲での停電を行わざるをえない」と表明した。首相が表に出てきたのは午後6時前。「暖房の設定温度を下げる、使用していない照明を消すなど日常生活に支障のない範囲で節電にご協力いただきたい」。既に停電の危機は遠のきつつあった。萩生田氏は4月3日のNHK番組で「本当に首の皮一枚までいっていた。あの場所で声高に言わなければたぶん東京圏は停電していた」と振り返った。企業の協力で最悪の事態こそ回避したが、早く広く節電を促せば経済への影響はより抑えられた可能性がある。電力の逼迫は一過性の問題ではない。23年1~2月は東京から九州までの広範囲で安定供給に必要な予備力を確保できない見通しが明らかになっている。ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー安全保障の前提も変わった。首相は26日の記者会見で「原子力の活用を進めることも極めて大切だ」と述べた。原子力も含めたエネルギー政策の総点検は急務だ。次の冬まで時間は少ない。

<やはりそうだったのか・・>
PS(2022年5月1日追加):*8-1は①プーチン体制、ついに「終了」か と題して、②米国の姿勢が変わって、戦争目的を「ウクライナ防衛」から「ロシア打倒」に変えた ③ロシアは、これに対し「核の使用」をちらつかせて威嚇 ④米国のオースチン長官はブリンケン国務長官とキーウを訪問し、「我々はロシアがウクライナ侵攻でやったことをできないようにするまで弱体化させたい」と語り ⑤バイデン政権は、大統領が3月1日に「彼を捕まえろ」と言った頃からプーチン体制の転覆を視野に入れていた ⑥米国は太平洋戦争でドイツ・日本が降伏する前から、英・ソと会談を重ねて戦後処理と戦後体制構築を議論していた ⑦米国はロシア軍とプーチン体制打倒を目標に掲げており、それを正確に認識しているのはロシアだ と記載している。
 私は元監査人なので、説明の食い違いや全体の雰囲気から語られなかった真実を探るのに慣れており、ロシア産コロナワクチンに対する日本メディアの不合理な批判・オリンピックでのロシア選手への差別的対応・ロシアのウクライナ侵攻時のプーチン大統領に対する批判等から、メディアで語られる内容とは別の意図を感じてきた。その結果、①②④⑤は、かなり前から意図され、そのための世論づくりがなされていたように思うし、③⑦のように、この目論見に対してプーチン大統領率いるロシアが抵抗するのは当然だとも思う。また、ロシアの次は中国なので、中国が制裁に参加するわけがない。そして、これらは日本が太平洋戦争を始めざるを得なくなった理由と似ており、⑥の戦後処理の一環として、日本の無条件降伏後に、ロシアは日ソ不可侵条約を破って北方領土を占拠し、日露戦争で失ったサハリンも取り戻したのである。
 そのような中、*8-2は、⑧プーチン大統領は歴史的な過ち直視せよ と題し、⑨第2次大戦後の欧州の歴史で例を見ない規模の人道危機が終わりそうにない ⑩誰の利益にもならない戦争はなぜ起こされ、なぜ止められないのか ⑪今は何より戦闘中止と人命救出を急ぎ実現すべき ⑫南部のマリウポリでは住民2万人が死亡し ⑬国外に逃れた人は500万人を超え ⑭侵略の責任はひとえにプーチン大統領にある ⑮実質的な個人支配が20年に及ぶロシア政治の停滞が背景 ⑯ロシアはウクライナの親欧米政権をナチスになぞらえるが、今の侵略こそナチスの再来を思わせる 等と記載している。
 しかし、私も中学生時代に「プラハの春」を旧ソ連が戦車で踏みつぶしたのを見て心を痛めたものの、冷戦終結後のロシアはそれほど乱暴ではなかったと思っている。そのため、「ウクライナ侵攻でやったことをできないようにするまでロシアを弱体化させたい」と前から西側諸国が考えていたとすれば、⑧~⑬はロシアから見れば西側諸国のエゴということになる。もちろん、⑯のように事実でないことを侵攻理由にするのは悪いが、⑭⑮は外国が干渉すべきことではないのに、「すべてトップの責任」「長く権力の座にいるのがいけない」などと日本独特の批判をしているため、ロシア憎悪やロシア蔑視が日本発でないことを、私は祈りたい。
 このような中、*8-3のように、⑰国連のグテレス事務総長が停戦実現に向けロシアとウクライナを訪問し ⑱マリウポリ製鉄所からの民間人避難に国連と赤十字国際委員会が関与すると原則合意し ⑲ウクライナはロシア軍の攻撃で退避できないと訴え、プーチン大統領はウクライナが民間人を「人間の盾」にしていると主張し ⑳米国などが繰り返し侵攻の可能性を警告していたが、グテレス事務総長は「深刻な事態は起きないと考えて信じなかった」 そうだ。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアのウクライナ侵攻直後の2月24日、「国民総動員令」に署名して18~60歳の男性の出国を禁止したため、18~60歳の男性は本人の意思とは無関係に「民間人ではない」と見做されても仕方がないことになる。また、⑱のマリウポリ製鉄所からの民間人避難は人道上最優先事項だが、18~60歳の男性以外を素早く避難させなかったことは疑問で、⑲の「民間人を人間の盾にしている」という解釈も成り立ちそうだ。さらに、⑳の米国などが繰り返し侵攻の可能性を警告したのがいつかは不明だが、「深刻な事態は起きないと考えて信じなかった」では、国連の役割を果たさないように思われる。
 なお、日本は、*8-4-1のように、「ロシアにウクライナ侵攻の代償を払わせ、国際秩序の破壊に歯止めをかけるため」として、2月27日の夜、米欧に半日遅れでSWIFTからのロシア除外を表明したが、金融を安全保障カードにして一般人を困窮させたり、本来ならロシアのウクライナ侵攻がなくても行うべき化石燃料削減を「容易でない」としたりなど、理念なき奔走が目に余る。そして、*8-4-2のように、岸田首相は4月29日にインドネシアのジョコ大統領と会談して「ロシアのウクライナ侵攻について、軍事攻撃は容認できず、いかなる地域でも武力の行使・威嚇による主権や領土一体性の侵害は認められないことを確認した」とのことだが、これでは他地域における武力行使と難民の発生についてはあまり批判してこなかったことを説明できず、「法の支配」の法が相手によって変わるように見える。また、「東シナ海や南シナ海における力による力を背景とした一方的な現状変更の試みや経済的威圧に対して強い反対を表明した」といつもどおりの文言を言われているが、永遠に現状のままでいいのかも疑問である。

  
 2022.1.14毎日新聞     2022.3.1西日本新聞     2022.2.21日経新聞

(図の説明:左図は、ロシアと欧米諸国の主張の違いで、中央の図は、核兵器を巡るプーチン大統領の発言だ。また、右図は2020年の身の安全を脅かされて移住を余儀なくされた人《約4050万人》の原因の内訳で、今後は戦争や内乱によるものも別表示にした方がわかりやすいと思う)

*8-1:https://news.livedoor.com/article/detail/22084379/ (Livedoor 2022年4月29日) プーチン体制、ついに「終了」か…とうとう米国が「ロシア打倒」に本気を出した! 「核戦争」をどうやって回避するか?
●米国の姿勢が明らかに変わった
 米国がウクライナ戦争の戦略を大転換した。戦争の目的を「ウクライナ防衛」から、事実上の「ロシア打倒」に切り替えたのだ。これに対して、ロシアはこれまで以上に「核の使用」をちらつかせて、威嚇している。米国は核戦争に陥る危険を、どう評価しているのか。私は4月15日公開コラムで「米国は本気でロシアと対決する覚悟を固めている」と書いた。そう考えた理由は、ジョー・バイデン大統領が「プーチンを権力の座から追い落とせ」などと、強硬発言を繰り返していたからだった。そんな見方は、最近のロイド・オースチン米国防長官の発言によっても、あらためて裏付けられた。オースチン長官は4月25日、アントニー・ブリンケン米国務長官とともにウクライナの首都キーウを訪問した後、ポーランドで開いた記者会見で、次のように語った。
〈我々は、ロシアがウクライナ侵攻でやったようなことを(再び)できないようにするまで、弱体化させたい(We want to see Russia weakened)。我々は、彼らが自分の力を極めて迅速に再生産できるような能力を持っていてもらいたくはない〉
 この発言について、記者から真意を問われたホワイトハウスのジェン・サキ報道官は25日の会見で、こう答えた。
〈プーチン大統領は2カ月前、演説でウクライナを飲み込み、彼らの主権と領土を奪取したい、という野望を語っていた。彼らはそれに失敗したが、いまや、その先に行こうとしている。国防長官が言ったのは、そんな事態が起きないようにするのが我々の目的、ということだ。たしかに、戦争はウクライナで起きている。だが、我々はロシアが力を尽くし、プーチン大統領がいま以上に目標を拡大するのを阻止しようとしている〉
 すると、記者から「ホワイトハウスには、長官発言がロシア国内で『西側は我々をやっつけようとしている。封じ込めようとしている』と受け止められ、それが『プーチンの権力を強める結果になる』という懸念はなかったのか」と質問が飛んだ。報道官はこう答えた。
〈いいえ。長官の発言は「プーチン大統領を追い返すために、できることはなんでもやる」という我々とバイデン大統領、そして長官自身の見方と一致している。プーチンはウクライナを征服し、領土と主権を奪いたいのだ。そして、2カ月前に彼が抱いていた野望はいま、その先に進もうとしている(go beyond that)〉
 以上で明らかなように、国防長官の発言は失言ではない。そうではなく、これはバイデン政権で共有された見方なのだ。そして、一連のバイデン発言とも整合的である。振り返れば、バイデン大統領が3月1日の一般教書演説で「彼を捕まえろ」と絶叫したあたりから、政権はウラジーミル・プーチン体制の転覆を視野に入れていた、とみていい。長官発言を額面通りに受け止めれば「米国はロシア軍が2度と他国を侵略できなくなるまで、徹底的に壊滅する」という話になる。私は、太平洋戦争で敗北した日本の軍部が、米国との戦いとその後の占領政策によって、完全に壊滅させられた例を思い出す。
●加速するウクライナへの軍事支援
 米国の決意は、言葉だけでもなかった。オースチン国防長官は26日、ドイツのラムシュタイン空軍基地に40カ国以上の同盟国、友好国の軍トップや政府代表を集めて、ウクライナ支援の調整会議を開いた。そこで、ドイツはゲパルト対空戦車50両をウクライナに提供する方針を表明した。ドイツは当初、ウクライナにヘルメットを提供するだけで、軍事支援に腰が引けていた。その後、防御用兵器の提供に踏み切ったが、今回は完全な攻撃用兵器である。こちらも方針の大転換だ。背景には「ここで米国と足並みをそろえておかなければ、戦後体制の構築で発言権を失う」という判断もあったに違いない。米国は太平洋戦争で、ドイツや日本が降伏するはるか前から、英国、ソ連とカイロ(1943年11月)、テヘラン(同)、ヤルタ(45年2月)、ポツダム(45年7月)で会談を重ね、戦後処理と戦後体制構築を議論した。今回もドイツの空軍基地に集まった約40カ国を中心に、新たな世界秩序を議論していくだろう。そう考えれば、ドイツも米国に協力する以外に道はない。日本もまったく同じである。ただ、岸田文雄政権の不甲斐なさを指摘するのは、別の機会に譲ろう。米国は、どこまでやるつもりなのか。ブリンケン国務長官は26日、米上院外交委員会で「もしも、ウクライナが国の主権と民主主義、独立を守るのが(戦いの)目的であると考えるなら、我々はそれを支持する」と語った。ニューヨーク・タイムズによれば「ウクライナがロシア軍の東部からの追い出しを目指すなら、米国はそれを支援する」という意味だ。これも国防長官発言と整合する。なぜなら「ロシア軍を壊滅する」と言っても、核戦争の危険を考えれば、米軍が直接ウクライナで、あるいはロシア領土に踏み込んで戦うわけにはいかない。戦場は、あくまでウクライナ領土だ。したがって、ロシア軍殲滅にはウクライナ東部の戦いが鍵になる。つまり「東部から追い出すまで戦う」必要があるのだ。
●ロシアの核兵器にどう対峙するのか?
 米国の対決姿勢に、ロシアはどう反応したか。真っ先に声を上げたのは、セルゲイ・ラブロフ外相である。彼は国営通信のインタビューで「危険を過小評価すべきではない。第3次世界大戦の危険はリアルだ」と語った。これだけでは不十分、と考えたのだろう。27日には、プーチン大統領自身が議会で演説し「核の使用」をちらつかせた。
〈もしも、だれかが外部から介入し、ロシアの戦略的立場を脅かすようなら、彼らは「稲妻のようなスピード(with lightning speed)」の反撃が起きることを知っておくべきだ〉
 ロシアはこれまでも核で脅してきたが、東部から追い出されそうになったら、本当に核のボタンに手を伸ばす可能性は否定できない。バイデン政権は危険をどう評価しているのか。国防総省のジョン・カービー報道官は27日の会見で、こう語った。
〈ロシアの指導者、最近ではラブロフ外相が核対決の亡霊に言及したが、まったく無責任だ。そんなことは誰も望んでいない。この戦いが核戦争にエスカレートするのは誰も見たくはないし、そうなる理由もない。プーチン氏が、そんなことに興味があるようにも見えない。なぜなら、彼はドンバス地域と南部で、いまも戦っているからだ。我々は核の脅威を毎日、監視している。今日もだ〉
 重要なのは、最後の部分である。米国は、ロシア軍の動静を日々、詳細に把握している。26日付のワシントン・ポストは「ロシア軍が戦闘でどう動いているか、彼らの戦術と手順について、米国は宝のような情報を入手している」と報じた。次のようだ。
〈我々(米軍関係者)は、それを「フリーチキン(ただのチキン)」と呼んでいる。情報機関はこれまで「相手が何をしているのか」を探るのに、何年も費やしてきた。ところが、いま我々はそれを毎日、タダで手にしている。それは今後、何年も相手の行動プロファイルをつくるのに役立つはずだ〉
 米軍の情報入手について、実態が報じられることはめったにないが、このコメントは一端を垣間見せている。通信傍受、スパイからの情報など、ありとあらゆる手段を使って情報収集している様子をうかがわせる。報道官発言と合わせてみれば、米国は核兵器の運用についても「詳細な情報をリアルタイムで入手している」とみていいのではないか。国防長官の大胆な発言は、そうした機密情報の分析を基に「ロシアに本格的な対決姿勢を示しても、深刻な危機は当面ない」と判断したように見える。ウクライナの戦争は、ロシアが敗北した首都キーウの攻防戦から東部、南部をめぐる攻防に主戦場を移した。米国はさらに一歩踏み込んで、ロシア軍とプーチン体制の打倒を目標に掲げた。それを正確に認識しているのは、ほかならぬロシアである。ラブロフ外相は、先のインタビューで「西側はウクライナを守ると言いながら、我々と『代理戦争(a proxy war)』を戦っている。それは世界的な核戦争にエスカレートする可能性がある」と語っている。当事者が「真の敵は米国」と認識しているのだ。ウクライナの隣国、モルドバではロシアの「偽旗作戦」とみられる爆発事件も起きた。戦争は拡大する気配が濃厚になってきた。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15275718.html (朝日新聞社説 2022年4月24日) プーチン大統領 歴史的な過ち直視せよ
 ロシア軍が隣国のウクライナへの侵略を始めてから、きょう24日で2カ月となる。第2次大戦後の欧州の歴史で例を見ない規模の人道危機は、いまなお終わりそうにない。誰の利益にもならない戦争がなぜ起こされ、なぜ止められないのか。冷酷な現実を前に、国際社会は苦悩している。いまは何より戦闘の中止と人命の救出を急ぎ実現するべきだ。南部のマリウポリでは、住民2万人が死亡したとされる。全国でどれだけ犠牲になったかは不明だ。国外に逃れた人は500万人を超えた。両軍の兵士も、それぞれ死者が1万人を超えるとみられるが、実態は明かされていない。侵略の責任はひとえにプーチン大統領にあり、実質的な個人支配が20年に及ぶロシア政治の停滞が背景にある。大国の指導者が独裁色を強め暴走すれば、抑える手立てがない現実を露呈した。今後の国際社会が平和と安全をどう築くか、大戦以来の難題を突きつけている。ロシア軍は当初めざした首都攻略に失敗した後、東部地域に絞って攻勢を強めようとしている。攻防が長引けば国土は荒廃し、住民を巻き込む悲劇が拡大することは避けられない。いまプーチン氏の念頭にあるのは、5月9日の対ナチスドイツ戦勝記念日であろう。ウクライナの親欧米政権をナチスになぞらえ、歴史的な日に「戦果」を誇りたいらしい。だが今の侵略こそが、ナチスの再来を思わせる世界秩序への挑戦であり、第2次大戦の勝利の歴史を汚す愚行だ。国内の支持は表面上保たれてはいるが、一部の知識人やロシア財界からは批判の声が出てきた。占領地を無理やり広げられたとしても、その代償は甚大だ。失墜した国際的信用は長年取り戻せず、地元の抵抗と各国の制裁は続く。人材は流出し、国力の衰退は免れない。だが、プーチン氏は現実を直視していない。オーストリアの首相は直接会談したあと「自分だけの世界にいる」と評した。もはや冷静な思考ができないほどに大ロシア主義の時代錯誤に染まっているのだろうか。プーチン氏は大統領就任前、かつて旧ソ連が「プラハの春」など東欧の自由化運動を武力でつぶした歴史について、「私たちが今、ロシアへの憎悪に直面しているのは、こうした過ちの結果だ」と述べていた。同じ轍(てつ)を踏む過ちの重さを悟らせるには、あらゆる対話の機会を駆使して説得するしかない。国連事務総長や各国首脳に改めて外交努力の強化を求める。これ以上、虐殺と破壊が続くことを許してはならない。

*8-3:https://mainichi.jp/articles/20220430/k00/00m/030/155000c (毎日新聞 2022/4/30) 国連事務総長いらだちあらわ ウクライナ侵攻、両国調停の旅も不調
 ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、国連のグテレス事務総長は4月29日、訪問先のウクライナを離れ、停戦実現に向けた両国訪問を終えた。滞在していたウクライナの首都キーウ(キエフ)にロシア軍がミサイルを撃ち込むなど、ロシアの強硬姿勢は変わらず、調停は今後も難航必至だ。2時間に及んだプーチン露大統領との26日の会談。成果となったのが、ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所からの民間人避難に国連と赤十字国際委員会が関与すると原則合意したことだ。製鉄所は2000人がとどまっているとされ、訪問の優先課題だった。ただ、ウクライナ側はロシア軍の攻撃で退避ができないと訴えているのに対し、プーチン氏はウクライナ側が民間人を「人間の盾」にしていると主張。国連人道問題調整事務所(OCHA)が露国防省と協議を続けているが、29日の段階でも「情勢は複雑で流動的」(事務総長副報道官)で、実現するか不透明だ。「あなたは何を望んでいるのでしょうか。人々が救出されてほしいのか。それとも、その障害になるようなことを私に言ってほしいのか」。ウクライナのゼレンスキー大統領との会談後に臨んだ28日の記者会見。避難の実現見通しを問われたグテレス氏はそう、いらだちをあらわにし、「やれることは全てやっている」と強調した。グテレス氏の両国訪問は侵攻から2カ月以上たってからだ。侵攻前も独仏を含めた仲介枠組みがあることなどを挙げ、自身の関与に消極的だった。米国などが繰り返し侵攻の可能性を警告していたが、「深刻な事態は起きないと考え、決して信じなかった」と安全保障理事会の会合で告白している。

*8-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220426&ng=DGKKZO60322790W2A420C2MM8000 (日経新聞 2022.4.26) 〈ニッポンの統治〉空白の危機感2 30年前のトラウマ いかせぬ経済・金融カード
 2月27日午前9時。日曜日の首相公邸に松野博一官房長官や国家安全保障局長の秋葉剛男氏らが駆けつけた。案件は国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア除外。日本以外の主要7カ国(G7)は同日未明に方針を決めていた。ロシアにウクライナ侵攻の代償を払わせ、国際秩序の破壊に歯止めをかける。国際決済網から締め出すSWIFT排除はその切り札だった。「G7と協調してやってくれ」。岸田文雄首相は米欧と足並みをそろえるよう指示し、11分で協議を終えた。SWIFT排除を表明したのは同日夜だった。
●米欧に半日遅れ
 半日あまりとはいえ日本は米欧に出遅れた。ロシアからエネルギーを輸入しているだけに、迅速に対処しなければ国際社会から誤解を招きかねなかった。背景には財務省や外務省などの受け身の姿勢があった。「SWIFTはベルギーに本部がある民間団体で日本は直接関与できない」と首相官邸に説明してきた。金融を安全保障のカードにする意識は薄かった。平時に備えをせず、国際社会から遅れそうになると追従する――。こんな構図は他の場面でもみられた。4月5日。「ロシア産石炭の輸入禁止は電力需給を考えれば容易でない」。欧州連合(EU)の欧州委員会が禁輸案を示すと経済産業省は首相官邸や与党に説明してまわった。G7は7日、ロシアによる民間人虐殺を受けて首脳声明で石炭禁輸を打ち出した。首相が日本も歩調を合わせると表明したのは翌8日だった。
●「第2の湾岸戦争」
 輸入を止める時期や方法を経産省と詰めないままの政治判断で、政府内には「禁輸すれば冬に停電しかねない」との懸念がある。ロシア産の代替策はいまだみえない。対ロシア制裁を巡る政府の姿は30年前と重なり、そのトラウマを引きずる。日本は1991年の湾岸戦争で、米国が求めた自衛隊派遣はできなかった。多国籍軍へ拠出した130億ドルは金額の割に「少なすぎ、遅すぎる」と評された。政府は人的貢献の必要性を痛感し、国連平和維持活動(PKO)協力法を制定して自衛隊の海外派遣に道を開いた。その後のイラク戦争などでも自衛隊派遣のあり方に関する議論が中心で、経済力も外交手段に使うという意識は抜け落ちていた。ウクライナ侵攻で日本は当初、金融やエネルギーの対ロ制裁をためらった。台湾有事ではどうなるか。中国の国内総生産(GDP)はロシアの10倍、日本との貿易総額は15倍に上る。制裁は報復措置が予想されるためハードルは対ロシアよりも高くなる。一方で日本との取引に依存する中国企業も少なくない。東京に駐在する社員は「日本が米国にならって電子部品などの対中輸出を制限しないか」と情報収集している。日本は中国が貿易を止められたら困る戦略物資を把握し、万が一の事態に備える対抗手段として持つこともできる。日本のGDPは世界3位で、民主主義陣営では米国に次ぐ。宮沢喜一氏は冷戦終結時に「マネー・トークス、経済が強いのはちっとも恥ずかしいことではない」と語っていた。経済力と人的貢献の両輪が危機時の国際協調には欠かせない。安倍政権で官房副長官補を務めた同志社大の兼原信克教授は苦言を呈す。「日本は有事で経済力をどう活用するか考えてこなかった。ウクライナ侵攻を第2の湾岸戦争と位置づけて総点検すべきだ」

*8-4-2:https://digital.asahi.com/articles/ASQ4Y6VXNQ4YUTFK00C.html?iref=comtop_Politics_01 (朝日新聞 ) 岸田首相、インドネシアで首脳会談 ウクライナ侵攻「容認できず」
 岸田文雄首相は29日、東南アジア、欧州の5カ国を訪問するために日本を発ち、最初に訪れたインドネシア・ジャカルタでジョコ大統領と会談した。ロシアのウクライナ侵攻について、軍事攻撃は容認できず、いかなる地域でも武力の行使・威嚇による主権や領土一体性の侵害は認められないことを確認した。会談は約1時間半、大統領宮殿で行われた。首相は会談後の共同記者発表で「ウクライナ情勢、東シナ海、南シナ海情勢、北朝鮮情勢等の多くの挑戦に直面しており、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持、強化がこれまで以上に重要だ」と述べた。また、首相はジョコ氏に対して、海洋進出を強める中国を念頭に「東シナ海や南シナ海における力による、力を背景とした一方的な現状変更の試みや、経済的威圧に対して強い反対を表明した」と語った。11月に開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)についても意見を交わし、首相は「成功に向け、最大限協力する」と約束。ロシアのプーチン大統領は参加の意向を示しており、議長国のインドネシアの差配が焦点になっている。首相は30日にベトナムに向かい、その後、タイ、イタリア、英国を訪れて6日に日本に帰国する予定だ。

<指揮統制機能等を含む「反撃能力」があれば、国民を守れるのか>
PS(2022年5月3日追加):*9-1は、①国家安全保障戦略改定に向けて自民党が岸田首相に提言を出し ②中国・北朝鮮・ロシアの軍事力を「脅威」と位置付けて抑止力強化を促し ③迎撃のみでは防衛しきれないとして「反撃能力」と名を変え「敵基地攻撃能力」の保有し、反撃の対象に相手国の「指揮統制機能等を含む」と明記した ④小野寺元防衛相は相手に意図があって攻撃に着手したと認めれば反撃可能と説明するが ⑤攻撃着手の判断は困難を伴い国際法違反の先制攻撃と見なされる危険性も孕み ⑥東アジアの軍拡競争を助長しかねない ⑦また、積算根拠や財源も示さずGDPの1%程度からNATO並みの2%以上を目指す防衛費増額を求めているが ⑧防衛政策は先の大戦の教訓から専守防衛が基本で ⑨危機を回避するための備えは不可欠だが国民の不安に乗じた粗雑な議論になってはならない 等と記載しており、全く賛成だ。
 これに加えて、*9-2は、⑩平和主義の理念堅持を と題し、⑪憲法施行から75年、国の柱となってきた理念を反故にしてはならない ⑫他国を攻撃するのは憲法の平和主義や9条に基づく「専守防衛」の転換ではないのか ⑬自民内からは「専守防衛では限界があるのでは」との見直し論さえ出ているが ⑭反撃能力を持てば抑止力向上に繋がって安保環境が改善されるのか ⑭逆に軍拡競争に陥る危険はないのか ⑮日本は唯一の戦争被爆国であり、世界の核廃絶こそ主導しなければならない ⑯今夏の参院選では憲法改正を争点化し、議論を深める必要がある 等と記載している。私も、積算根拠もなくGDPの2%以上を目指す防衛費増額を求め、食糧・エネルギーの自給率は最低水準にしたまま、「原発への攻撃は想定外」などとしている国が指揮統制機能等を含む反撃能力を持てば、国民を守るどころか国民を害する危険性が増すため、日本は平和主義と専守防衛を堅持する以外に方法はないと考える。
 さらに、東京都立大教授で憲法学者の木村草太氏は、*9-3のように、⑰「憲法の平和主義さえ変えれば安心」という単純な精神論の方が危険 ⑱ロシアのウクライナ侵攻の原因は、ウクライナに日本国憲法9条に類似した規定があったからではない ⑲憲法9条がなければイラク戦争等で日本が武力攻撃に参加していた可能性があり、そうしなかったからロシアを非難したり国際社会にメッセージを発信したりできている ⑳憲法の専守防衛は日本外交の重要な資源になってきたし、今後もなり得る としておられ、全く賛成だ。

*9-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/915555/ (西日本新聞社説 2022/4/29) 「反撃能力」提言 専守防衛を逸脱しないか
 年末に予定される国家安全保障戦略改定に向け、自民党が岸田文雄首相に提言を出した。憲法に基づき、戦後日本が国是としてきた専守防衛の理念から逸脱する恐れのある内容を含む。国際情勢を冷静に捉え慎重に議論すべきだ。提言は中国や北朝鮮、ロシアの軍事力を「脅威」と位置付け、攻撃を思いとどまらせる抑止力の強化を促す。憂慮されるのは「敵基地攻撃能力」の保有だ。提言では「反撃能力」と名称を変えたが、相手国領域内のミサイル発射拠点が破壊できる能力を指すことに変わりはない。保有するのは、周辺国のミサイル技術が向上し「迎撃のみでは防衛しきれない恐れがある」のが理由という。日本の防衛政策は先の大戦の教訓から専守防衛を基本に据える。敵基地攻撃能力について歴代政権は自衛の範囲で許容し、他に防御手段がない場合に限るという極めて抑制的な見解を踏襲してきた。反撃能力は、攻撃されてから初めて実力を行使する従来の想定を超えることになる。提言を取りまとめた小野寺五典元防衛相は、相手に意図があり、攻撃に着手したと認めれば反撃可能と説明した。提言の背景には東アジアの安保環境の悪化がある。中国や北朝鮮はミサイルや核の開発を急速に進めている。ミサイルは音速を超える速度や変則軌道で飛ばすなど性能を高め、潜水艦や鉄道車両で発射場所が変えられる。現状では攻撃着手の判断は困難を伴い、場合によっては国際法違反の先制攻撃と見なされる危険性をはらむ。提言は反撃対象について、相手国の司令部などを想定し「指揮統制機能等を含む」と明記した。国の中枢が標的になり得ると警戒されれば、東アジアの軍拡競争を助長しかねない。防衛費の増額も求めた。国内総生産(GDP)の1%程度から、北大西洋条約機構(NATO)並みの2%以上を目指すという。積算根拠や財源を示さず、予算枠拡大ありきと指摘せざるを得ない。ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、日本の安全は守れるのかと心配する国民は多い。危機を回避するための備えは不可欠だが、不安に乗じたような粗雑な議論になってはならない。そもそも日本は単独で防衛できない。日米安保条約によって攻撃を米国に委ね、防衛に徹する体制を取ってきた。その役割分担や東アジアへの関与を米国と再確認する必要がある。中国や北朝鮮、ロシアが軍備を増強し米国へのけん制を強める中で、日本に及ぶ脅威を見極めるべきだろう。日本と近隣国との関係が良好とは言い難い状況で抑止力だけを強化していいのか。中国や韓国などと緊張を緩める方策を協議する努力も欠かせない。政府にはそうした外交構想を含めた総合的な安保戦略を求めたい。

*9-2:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=155555 (南日本新聞 2022.5.3) [憲法施行75年] 平和主義の理念堅持を
 日本国憲法は1947(昭和22)年5月3日施行された。その後間もなく、当時の文部省が発行したのが「あたらしい憲法のはなし」である。同年から義務教育になった中学1年生向けに分かりやすく書かれている。例えば、前文が掲げる考えとして「民主主義」「国際平和主義」「主権在民主義」の三つを挙げ、「これからさき、この憲法をかえるときに、この前文に記された考え方と、ちがうようなかえかたをしてはならないということです」と説明する。9条「戦争の放棄」については「兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戦争をするためのもの」は一切持たず、「おだやかにそうだんして、きまりをつけようというのです」と解説。政府が新憲法をどう解釈していたかを示す資料と言えるだろう。ロシアによるウクライナ侵攻など国際情勢の緊迫化や新型コロナウイルス禍を契機に、憲法の改正や解釈を巡る論議が活発化している。施行から75年、国の柱となってきた理念をほごにしてはならない。
■専守防衛の転換か
 政府が年末に予定する外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書の改定に向けて、自民党は提言をまとめ、岸田文雄首相に提出した。焦点だった相手領域内でミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力」は「反撃能力」に名称を変更した上で保有。基地だけでなく「指揮統制機能等」も攻撃対象にするよう求めた。保有論は、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の計画断念をきっかけに盛り上がった。北朝鮮のミサイル技術が進化し、音速の5倍以上の速度で飛ぶ極超音速弾などを迎撃するのは困難とされるためだ。しかし、他国を攻撃することは憲法の平和主義や9条に基づく「専守防衛」の転換ではないか。政府は敵国が攻撃に着手した後に反撃するので先制攻撃とは異なる、との立場である。そもそも相手国のミサイル発射の兆候をつかむのは技術的に難しいとされる。自民内からは「専守防衛では限界があるのでは」と見直し論さえ出ている。歴代政府は憲法解釈上、必要最小限の敵基地反撃は可能としながらも、日米安保条約の下、打撃力は米国に委ねてきた。相手国の司令部など指揮統制機能まで攻撃する能力を持つのは専守防衛とは言えまい。提言は必要最小限の具体的範囲は「その時々の国際情勢や科学技術を考慮する」としている。あいまいなままでは反撃の範囲が際限なく広がりかねない。確かに弾道ミサイルを発射する北朝鮮や軍備を増強する中国に加え、ロシアのウクライナ侵攻で世界の秩序は大きく揺らいでいる。だが、反撃能力を持つことで抑止力向上につながり、安保環境が改善されるのか。逆に軍拡競争に陥る危険はないのか。国会などで憲法の理念に照らした明確な説明が不可欠だ。核抑止力の保有を検討すべきだとの声も上がり始めた。安倍晋三元首相は、米国の核兵器を日本に配備して共同運用する「核共有」政策に言及した。岸田首相は「非核三原則を堅持するわが国の立場から考えて認められない」とするが、賛同する意見は少なくない。日本は唯一の戦争被爆国である。「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を堅持するのはもちろん、世界の核廃絶こそ主導しなければならない。
■参院選で争点化を
 今国会中、衆参両院の憲法審査会が断続的に開かれている。論点の一つは自民が党憲法改正案4項目に掲げる緊急事態条項の新設だ。災害や武力攻撃の際に政府の権限を一時的に強化。国会が法律を制定できない場合、内閣は緊急政令を制定できるとしている。憲法審で、自民は改憲による国会議員の任期延長や大規模災害など事態の対象明記が各党の「意見の大勢だ」と主張したが、立憲民主党は改憲不要の立場から拙速な議論だと批判した。緊急事態認定の手続きには、裁判所の関与が必要とする意見のほか、権力の乱用につながる恐れを指摘する声もある。さらなる議論が求められよう。自民、日本維新の会、公明の3党などは憲法改正の手続きに関する国民投票法の改正案を衆院に共同提出した。投票立会人の選任要件の緩和などの規定を公選法にそろえる内容だ。立民が求めるテレビ・ラジオCMの規制強化などを先送りしたのは、改憲論議を進展させたいとの思惑があるのではないか。岸田首相は9条への自衛隊明記を含む改憲案4項目の実現に意欲を示しながら「鍵を握るのは国民の理解だ」と丁寧な議論の必要性を力説する。今夏の参院選では憲法改正を争点化し、議論を深める必要がある。憲法は国民投票で過半数が賛成すれば改正される。主権者である国民一人一人が日本の将来を決めることになる。

*9-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15283965.html (朝日新聞 2022年5月3日) 憲法の平和主義、外交に貢献 ウクライナ侵攻受け、議論活発化 東京都立大教授・木村草太さん(きむら・そうた 1980年生まれ。著書に「憲法学者の思考法」など)
 ロシアのウクライナ軍事侵攻を受け、日本国憲法の「平和主義」をめぐる議論が活発になってきている。どう考えればいいのか。東京都立大の木村草太教授(憲法学)に聞いた。
―ウクライナ侵攻を受け、日本の安全保障を心配する声も出ている。
 憲法9条は原則として武力行使を禁じている。しかし、「急迫不正の侵害があった場合の防衛はできる」と政府は解釈している。
―安倍晋三元首相は4月、憲法に自衛隊を明記することを改めて主張した。
 「憲法を改正しないと説得しきれないような強い違憲の疑いがある」ことを前提にしているようだ。ただ、自衛隊の存在自体が違憲だと考える国民は多くない。このため、国民にあまり浸透しないのだと思う。
―日本を攻撃する相手の基地などをたたく「反撃能力」の検討を自民党が提言し、政府も前向きだ。憲法との整合性は。
 政府は、1956年の鳩山一郎首相の答弁から、「急迫不正の侵害」「他に手段がない」「必要最小限」の要件を満たせば、日本の領域外での武力行使も違憲にならないとの立場をとってきた。「反撃能力」が違憲かどうかは、3要件を満たしているかで決まる。3要件を満たしているかは「反撃」にどんな武器を使うかや、相手国の状況などに左右される。現状では具体的な説明が不足しており、判断するのは困難だ。
―小野寺五典元防衛相は「反撃能力」に関し、「攻撃に着手した」と認められれば攻撃可能だと述べた。相手が「先制攻撃」と受け止める恐れはないか。
 見極めは難しいと思う。日本は領域外での防衛能力は持たず、日米安保条約に基づいて米国に防衛を協力してもらう政策をとってきた。もし(「反撃能力」を持つなど)安保政策を転換するというなら、これまでうまくいってきた要因が失われたことを、国民に説明する必要がある。
―憲法の平和主義が揺らいでいるとの声もある。
 「憲法の平和主義さえ変えれば安心できる」という単純な精神論の方が危険に見える。ロシアのウクライナ侵攻の原因が、ウクライナに日本国憲法9条に類似した規定があったから、というわけではないだろう。
憲法9条がなければ、イラク戦争などで日本が武力攻撃に参加していた可能性があった。そうしなかったからこそ、米英などと異なる立場で、ロシアを非難したり、国際社会にメッセージを発信したりできているという理解もできる。攻められない限り、こちらから手出しをしないという憲法の専守防衛の考え方は、日本外交の重要な資源にもなってきたし、今後もなりうることは知っておく必要がある。

<次の生産基地、アフリカ>
PS(2022年5月4日):佐賀新聞が「川口隊長のSDGs見聞録」と題して、*10-1のような連載をしている。*10-1の内容は、①折り曲げ可能でプリンターで印刷できるペロブスカイト型太陽光発電シートをアフリカで開発・普及しようとしており ②それはスマートウオッチ・スマートフォン・外壁・自動車のボディーに設置できるためバリエーションが多く ③太陽光パネルに見えないため景観も損ねず ④昨年初めに日本最大の鉄鋼商社からアフリカのビジネスについて相談を受けて一緒にビジネスモデルの最終構築に取り組んでおり ⑤まだ変換効率が10%程度なので日本では商売にならないが、アフリカなら十分ビジネスになり ⑥アフリカ最大の屋根製造メーカーとアフリカ市場を攻めるべく合意を得て ⑦安価で容易に製作できる太陽光発電システムでアフリカから世界に向けてチャレンジする時が来た というものだ。「そいぎんたあ」は佐賀弁で、標準語では「それじゃ、また」と意訳できる。
 1990年代は、東ヨーロッパ・中国・東南アジアがコストの安い生産基地となり、電力等のインフラが十分でない場所では、日本企業は自家発電設備を伴って進出した。しかし、これらの地域は既に新興国となったため、これからのフロンティアはアフリカだろうし、アフリカが先進国と同じ段階を踏んで発展すべき理由はないため、途中を飛ばしてスマートフォン・EV・ペロブスカイト型太陽光発電等を普及させてよく、アフリカに目をつけたのはGoodだ。ただ、①~⑦のペロブスカイト型太陽光発電シートは広い面積に設置できるため、変換効率が10%程度であっても日本で採用されて十分よい製品で、このようなことで採用されないのが日本経済停滞の理由であり、そのうち日本は中国・東南アジアだけでなくアフリカよりも遅れると思う。
 また、*10-2によると、⑧電力小売りのUPDATERと京都大学が再エネ・火力等由来の電力を周波数で区別して送り分ける技術を開発し ⑨無線給電技術でこの仕組みを使って ⑩給電元に電子機器を組み込んで電力を区別すると同時に送電先にも同様の機器を組み込んで盗電を防ぎ ⑩無線送電は技術的課題も多かったが、現在は世界各地で規制緩和が進んでいる そうだ。既に電線を持つ大手電力会社のある日本では進みにくそうだが、アフリカなら電線を敷設する前に普及させればよいため素早く進ませることができ、九電工などがアフリカで普及させれば、*10-3の「中小企業にアフリカでビジネスチャンス」となる。
 なお、*10-3には、養鶏技術の要望を養鶏業の社長さんに繋いだことが書かれているが、養鶏場も野生鳥獣を遮断できる頑丈な造りにして太陽光発電で内部を空調できるようにした方がよいと私は思う。また、既に大手商社・大手製造メーカー・少数のスタートアップ企業がアフリカで仕事を始めているそうなので、九電未来エナジー等がアフリカの生産基地に同伴して地熱・風力・太陽光発電で電力供給すると新規市場開拓になる。


             すべて、2021.8.23日経新聞より

(図の説明:左図は、過去2000年の世界人口の推移で、産業革命以降、医療と栄養の改善で急速に増加した。しかし、国別に見ると、中央の図のように、所得が増えると教育の普及で《?》出生率が低下し、右図のように、アジアも2050年がピークとなって次第に高齢化するが、アフリカだけ出生率が高止まりして、2100年まで人口増加が続くと予想されている)

*10-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/821115 (佐賀新聞 2022/3/7) <佐賀とアフリカ>(13)太陽光発電、アフリカから世界へ、川口隊長のSDGs見聞録
今、新しいビジネスにチャレンジしようとアフリカで奮闘中です。それは日本初のペロブスカイト太陽光発電シートの開発です。この技術は日本の大学教授の手によって開発された特許のない太陽電池です。どのくらいすごいかというと、ペラペラになっていて折り曲げ可能で、プリンターで印刷できます。スマートウオッチのバンドに塗布すればもう充電する必要はなくなるし、スマートフォンの裏面に張り付けておくと、使っていない時に太陽の恵みで充電します。外壁への設置なども想定され、バリエーションが多岐にわたることは間違いないでしょう。自動車のボディーに採用されれば駐車中に充電するので、将来はカーポートがなくなるかもしれません。私はこれを屋根材として広めようと活動しています。今までは屋根の上に別途パネルを敷いていましたが、今後は屋根そのものが発電します。太陽光パネルには見えないので、景観も損ねません。数年前から日本の超大手化学メーカーのアドバイザーをしながら出口戦略を練ってきました。昨年初めに日本最大の鉄鋼商社からアフリカのビジネスについて相談を受けていて、このプロジェクトに参画するよう依頼して一緒にビジネスモデルの最終構築に取り組んでいます。太陽発電は変換効率によって作られる電気の量が変わってきます。このペロブスカイトはまだ10%程度が安定的につくれるくらいなので、日本での商いにはもう少し時間を要します。そこで目を付けたのがアフリカです。アフリカは10%の変換効率でも十分にビジネスになると確信しています。アフリカ最大の屋根製造メーカーと一緒にアフリカ市場を攻めるべく、昨年にケニアまでプレゼンテーションに行って合意を得ました。安価で容易に製作できる太陽光発電システムでアフリカから世界に向けチャレンジするときが来ました。3月からいよいよケニアのナイロビ(標高1700メートル)と港町モンバサ、ベナンのコトヌーでパイロット事業を開始します。「GOOD ON ROOFS」の理念のもと、屋根の上から世界に貢献できればこんなに楽しい仕事はないと思うのです。人々の生命と財産を自然から守るための屋根が、今まさに働く屋根として世界で愛されることを夢見ながら挑戦は続きます。夢の中からそいぎんたあ。

*10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC122K70S2A410C2000000/ (日経新聞 2022年5月3日) 再エネ由来の電力、電線使わず送り分け 新電力と京大
 電力の小売りを手掛ける新電力のUPDATER(旧みんな電力、東京・世田谷)と京都大学は再生可能エネルギー由来の電気と、火力発電由来の電力などを周波数で区別して送り分ける技術を開発した。無線を使って電気を飛ばす未来の技術でこうした仕組みを取り入れることを目指す。開発した技術は「無線給電」と呼ばれ、太陽光などで発電した電気を電線を使わずに飛ばす仕組みに使う。これまで送電は同じ周波数で電気を飛ばすため、様々な発電所でつくった電力が送電所で混ざってしまい、どれが再生エネ由来かわからなくなってしまう課題があった。関連する特許を取得し、新しい電力調達の手法として企業などの需要を見込む。UPDATERと京大の技術では、電力の種類ごとに周波数を変えたり、給電元に特殊な電子機器を組み込んで電波を変調させたりして電力を区別する。送電先にも同様の電子機器を組み込み、狙った設備や契約者だけが受電できるようにして盗電を防ぐ。例えば再生エネ由来の電力のみを送電したり、火力発電所で作られた電力のみを安く販売したりすることができるようになる。すでに国内特許を取得しており、海外でも特許を出願中という。2021年2月にはすでに短距離での送電で実証試験に成功しており、長距離送電にも応用が可能という。「技術の価値の裏づけができたことで、開発資金の調達などがしやすくなる」と京大の梅野健教授は話す。無線を使った送電は技術的な課題も多かったが、世界各地で規制緩和も進んでいる。米国や中国の企業から共同開発の申し出が相次いでおり、今後はこうした企業も合わせて実証試験や国際標準化を進め、5年後の実用化をめざす。

*10-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/845499 (佐賀新聞 2022/4/25) <佐賀とアフリカ>(20)中小企業にビジネスチャンス、川口隊長のSDGs見聞録
「オンライン」がすっかり定着してきたせいか、日本から取材を受けたり講演を依頼されたりする機会がずいぶん増えました。世界中どこにいても仕事はできるんだな、と実感しています。今年になって特に増えてきたのが、さまざまな企業からの相談です。日本の企業からアフリカ進出について尋ねられ、アフリカでは「日本の技術が欲しい」という話が寄せられます。現地にいると、日本の技術が世界トップクラスであることが分かります。アフリカでの日本企業といえば大手商社や大手製造メーカー、少数のスタートアップ企業で、他はNGOやボランティア系のグループです。中小企業の進出は圧倒的に少ないというか、ほとんどありません。日本の中小企業の技術はアフリカでポテンシャルがあります。使い古された技術でも十分ビジネスになるだろうし、また実際にそれを欲しがっています。先日も養鶏の技術の要望があり、知人を介して養鶏業の社長さんにつなぐことができました。鉛バッテリーしかないアフリカでリチウムイオンバッテリーの生産をやりたいという人々もいます。海外に出たい日本企業とアフリカに日本の技術を受け入れたい企業は、結果的に同じ方向にベクトルが向いているはずです。日本、いや佐賀の中小企業の皆さんに申し上げたい。アフリカはチャンスですよ。大企業にはできないフットワークを生かし、きめ細やかなサービスにつなげることができます。ぜひアフリカでのビジネスを考えてみてください。新しい市場を生み出す大きな「ブルーオーシャン」が目の前にあります。アフリカについて聞くだけでなく、一度自分の目で見てはいかがでしょうか。私も佐賀人としてお手伝いできるところは存分に時間を割いていきたいと考えています。佐賀の中小企業の皆さん、カモーン! そいぎんたあ。

<気候変動・再エネ・貯水型ダム>
PS(2022年5月5日追加):*11-1のように、地球温暖化に伴う異常気象で住まいを追われる「気候難民」が世界で増えている中、日本ではダムを作っても多目的ではなく単一目的にしているケースが多い。しかし、どうせダムを作るのなら、*11-2のように、「貯水型」にして貯水・水害防御・水力発電等を行った方が同じくらいの労力で多くのメリットを得られる。
 特に、今後は再エネ発電による電力と水素燃料が主要なエネルギーになるため、それに答える形にした方が、自治体が水道料金・電力料金(他の自治体に売ってもよい)や余った水と電力で作った水素や酸素の代金を稼ぐことができる。従って、土地が水没するため移転を強いられる地域住民は大変だろうが、よりよい代替地か金銭と交換すればそれは解決できる筈で、人口減少時代の日本ならそれは可能だ。

*11-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220424&ng=DGKKZO60283630U2A420C2MM8000 (日経新聞 2022.4.24) 温暖化 膨らむ気候難民、3000万人超、紛争原因の3倍 50年に2億人も
 地球温暖化に伴う異常気象で住まいを追われる「気候難民」が各地で増えている。その規模は、武力紛争が原因で生じる難民の3倍に上り、2050年までに2億人を超すとの試算もある。自然災害に国境はない。各国は防災や難民対策で協力態勢を整える必要に迫られている。「雨期の洪水は毎年のことだが頻度と規模が異常だ」。国連難民高等弁務官事務所の専門家ニアル・ティートマメル氏は3月、南スーダン北部オールド・ファンガク集落にヘリコプターで降り立ち、異常さを目の当たりにした。滑走路は2019年から水没したまま。家も農地も家畜も水に奪われ、食糧は足りず人々は郷里を離れる。同国北部を中心とした昨年の洪水では80万人超が被災し半数が難民に。内戦に災害も加わり、人々は二重苦に直面する。紛争や政治的抑圧から逃れる一般的な難民と異なり、気候難民は災害で住む土地を失い難民化する人々をさす。国内避難監視センター(IDMC、ジュネーブ)によると、気候難民は20年に3070万人生まれ、紛争などの難民980万人の3倍に上った。最大の要因は自然災害の増加だ。世界気象機関(WMO)によると洪水や干ばつなどの災害は1970年代の10年間の711件から、2010年代は3千件へ増大した。季節など周期的な要素に地球温暖化も加わり、災害は近年、深刻さも増す。昨年はインド北部でヒマラヤの氷河が崩壊し、大規模な雪崩と洪水で数十人が死亡した。南アフリカ東部の都市ダーバンや周辺では11日から記録的な豪雨が襲い、洪水などで1万3千世帯以上が家を失った。気候変動のせいで移住者が多発する地域が世界各地に生まれ、50年までに最大2億1600万人が難民化すると世銀は昨年の報告書で警告した。サハラ砂漠以南のアフリカが8600万人、アジア太平洋地域が4900万人、南アジアが4千万人と続く。気候難民の拡大を抑えるにはどんな対策があり得るか。サイクロンの影響で高潮や洪水が頻発するバングラデシュ南西部では過去10年で数万人の気候難民が港町モングラに移住した。政府が堤防や排水システムなど防災機能を整備したうえ、移住者が働ける工場も建てて、居住し続けられる地域を整えたからだ。だが有効な手立てを打ち出せる途上国は一部にとどまる。水鳥真美・国連事務総長特別代表(防災担当)は取材に対し「途上国は目の前の食糧危機や紛争などに対応しなければならず、防災の優先度は高くない。先進国が貢献できることは多い」と指摘する。同様の危機意識は広がる。世界経済フォーラムは1月の報告書で、気候難民を保護する国際的な枠組みが必要と強調した。国連も18年、気候難民へのビザ(査証)発給など、国境を越えた移住支援に各国が取り組むと明記した文書を採択した。ハードルは高い。難民条約で保護を義務付けるのは迫害などから逃れた人で、気候難民は該当しない。先進国は途上国からの移住希望者の流入を危惧し、気候難民の受け入れに及び腰だ。WMOは気候変動による経済損失が19年までの10年で1.4兆ドル(約180兆円)となり、この40年で8倍に増えたと試算する。損失額の膨張は、災害で都市インフラや職場、住居など生活基盤を失い難民化する人が増えることの裏返しでもある。温暖化ガスの排出削減、途上国での災害予測、頑強なインフラ整備、防災教育、難民の受け入れ――。2億人を超す気候難民が生まれないよう、国際社会が協力して取り組むべき課題は多い。

*11-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/842750 (佐賀新聞 2022/4/20) 城原川ダム整備方式 知事「変更考えていない」 内川・神埼次期市長発言受け、水没地域の住民、意見交換要望
 神埼市脊振町に建設予定の城原川ダムの整備方式について、23日に神埼市長に就任する内川修治氏(69)が「流水型」から「貯水型」への変更を模索する考えを示した報道を受けて、山口祥義知事は19日、整備方式の変更について「考えていない」と否定的な見解を示した。水没地域の住民は会合を開き、早急に内川氏との意見交換の場を設けるよう市側に求めた。山口知事は同日の県議会の臨時議会後、取材に答えた。「水没される皆さんに寄り添ってずっと対応してきたので、そこが基本線だ。(整備方式の変更は)考えていない」と述べた。水没地域の住民らでつくる城原川ダム建対策協議会は同日、13人が集まって役員会を開き、今後の対応について話し合った。役員会は非公開で行われた。会合後、取材に応じた眞島修会長(84)は、地域がどれほど疲弊しているかを内川氏に視察してもらい、住民との意見交換会を早急に開くよう、市ダム対策課に要望したことを明らかにした。眞島会長は、内川氏の旧千代田町長や県議などの経歴に触れ、「ダムはある程度詳しいだろうが、再確認のために来てもらい、われわれの苦しみを直接聞いて」と率直な思いを吐露。「ためるダムに変わることを住民は心配している。(地元住民の)意見は一致しており、(変更反対を)強力に言っていく」と話した。内川氏は神埼市長選投開票翌日の18日、佐賀新聞などの取材に答え、脊振地域の活性化の観点からダムの整備方式は貯水型が望ましいとの考えを示した。住民の移転や生活再建は整備方式の変更とは分けて考え、先に移転を進めることで住民にも寄り添うとしている。

| 民主主義・選挙・その他::2020.10~ | 12:23 AM | comments (x) | trackback (x) |

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