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2024.11.25~12.4 地球温暖化と環境 (2024年12月6、7、8、9、10、12、14、15、16、17、18、19、21、22~27、28日追加)
(1)COP29について


 2024.11.24日経新聞    2024.11.20沖縄タイムス    2024.11.18日経新聞

(図の説明:左図が、COP29で合意されたポイントで、中央の図が、COP29で各国が公表した2035年の温室効果ガス削減目標だ。また、右図は、脱石炭の廃止目標だが、日本は国民の金を拠出すること以外は何の目標も示せず、気候変動について真剣に考えていないことがわかる)

1)米国の「パリ協定」からの離脱可能性と日本の対応

 
 2024.11.7毎日新聞             資源エネルギー庁

(図の説明:左図は、世界の平均気温の上昇で、2024年は1.5℃を超えそうだ。中央の図は、米国が2006年以降に開発を進めたシェール層のシェールガス・シェールオイルの説明で、右図のように、シェールガスの生産開始によって天然ガスの値段は著しく下がったが、変動費は再エネより高く、燃焼時にCO₂を出すことも間違いない)

 *1-1のように、地球温暖化によって2024年の世界平均気温は過去最高で、記録的な猛暑や干ばつ・巨大台風・豪雨・洪水等の災害が世界で多発している。そして、その被害は米国の経済・企業・住民にも影響を及ぼしているが、米国のトランプ次期大統領は、環境規制に否定的なリー・ゼルディン氏を米環境保護局(EPA)長官に起用して、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱しそうである。

 確かに、米国は2006年以降にシェール層の開発を進め、シェールガスやシェールオイルの生産が本格化するに伴って、天然ガス・原油の輸入量が減少し、価格も下がる「シェール革命」を起こしたため、簡単に脱化石燃料とは行かないだろうが、いつまでも化石燃料に固執していると、むしろ米国の産業や技術は世界に遅れるというパラドックスを抱えている(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/1-1-1.html 参照)。

 このような中、アゼルバイジャンで開かれたCOP29の焦点は、*1-2-1・*1-2-2のように、現状では年1000億ドル(約15兆円)の先進国から途上国への金融支援を、先進国側が2035年までに少なくとも年3千億ドル(約45~46 兆円)出すことで合意し、それに加えて官民あわせて1.3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決め、途上国からの任意の支援資金拠出も奨励したが、脱化石燃料についてはCOP28の成果を再確認しただけに終わったそうだ。

 また、EU・(産炭国)オーストラリアは、会期中に石炭火力発電所新設に反対する有志連合を立ち上げたのに対し、日本・米国はこれに入らず、国連傘下の国際的炭素クレジット売買に関する市場創設ルールについて合意して、再エネ導入等による温暖化ガス排出削減効果を取引して炭素クレジットを購入できるようにし、温暖化ガス排出削減効果を取引して削減目標を達成したことにするのでは、自国の温暖化ガス排出削減は進まない。

 その上、日本は石炭火力削減ではG7最下位で、調達量や価格に課題のあるアンモニアへの転換に活路を見いだしているそうだが、これは現実を直視した取捨選択ができていないということである。

2)途上国の対応


日立ソーシャルイノベーション Jccca         日立システム

(図の説明:左図は、COPの変遷で、1997年日本開催のCOP3で温室効果ガスの排出削減を定めた京都議定書が採択され、2015年開催のパリ協定で京都議定書に代わって全ての国が参加して世界共通の長期目標としての2℃目標と1.5℃に抑える努力等が定められた。中央の図は、2020年の主要国CO₂排出量と1人当たり排出量の比較だが、国別では中国・米国・インド・ロシア・日本の順で、1人あたりでは米国・ロシア・韓国・日本・中国・ドイツの順となっており、必ずしも新興国の排出量が少ないわけではない。右図は、人工衛星から森林の状況を把握してCO₂の吸収量を可視化するシステムで、現在はカーボンクレジット創出量の算出に用いられているが、逆にカーボンクレジット喪失量の把握にも使用することができる)

 *1-3-1・*1-3-2は、①COP29では大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と負担軽減を図る先進国が対立 ②再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧に多額の資金を要する途上国は、年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求しており、最後の全体会合でも合意に至った達成感がなかった ③途上国への支援目標は2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった ④インドとや途上国の代表は「合意は私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言 ⑤協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策に繋げる必要 ⑥合意した金額を先進国の公的資金だけで賄うのは厳しく、資金が足りなければ途上国の対策が滞るので、資金の出し手を増やす必要 ⑦温暖化ガスの世界最大排出国である中国や中東産油国などは余力がある筈 ⑧G20は世界の温暖化ガスの約8割を排出し、裕福な国や地域は協力する責任 ⑨民間の投資加速も不可欠 ⑩COP29では2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった 等としている。

 このうち①④⑧の途上国が大量の温室効果ガスを排出してきた先進国に対して責任に見合う拠出を求め、インド代表等が「合意は私たちが直面する課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言しているのは、⑧のように産業革命後と現在のCO₂排出量のみを見ればそうかもしれない。しかし、長い歴史を有する文明の中で、化石燃料を使わず森林を伐採して燃料にしてきたのであれば、CO₂吸収源を減らしてきた効果も大きいと思われるため、これも正確に測定すべきであるし、現在は砂漠でも本来は森林や田園にできる場所であればそうすべきである。

 そのため、②③のように、途上国が再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧のためとして年1兆3千億ドル(約200兆円)の資金を要求し、“先進国”が裕福(?)だという理由で支援目標を年3000億ドル(約46兆円)にすると決めたのでは、気候危機を題材にしたオネダリとバラマキの構図に見える。

 そして、⑥⑩のように、COP29で2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すことを合意した金額でも、一般増税と給付減が続いている“先進国”日本では、当然、公的資金だけで賄うのは厳しいだろう。そのため、⑨の民間投資も含めて資金の出し手を増やす必要があるのだが、⑦の温暖化ガスの大量排出国である中国はじめ米国・インド・ロシア等も、財政に余力があるからではなく、排出量に応じて公平に公的資金を拠出する義務があると思う。

 なお、それを公平に行なう方法は、化石燃料の消費量に応じて炭素税(環境税の1つ)をかけて資金を集めることだが、現在、ガソリンにかかっている税は、i) 本則税(揮発油税・地方揮発油税):28.7円/L ii)石油税(石油石炭税・地球温暖化対策税):2.8円/L iii)暫定税率:25.1円/L iv)消費税:税を合わせた総額の10%であり、「トリガー条項」とは、ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で160円/L超の場合、自動的にガソリン税が“本則税率”のみに引き下げる仕組みとのことだ。

 そのため、*1-4-1のように、国民民主党の要求を受け入れ、自民・公明両党が2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始めるそうだが、それなら必需品である燃料にかかる、i)の本則税(揮発油税・地方揮発油税28.7円/L)を廃止し、ii)の暫定税率25.1円/Lも意味不明であるため廃止して、消費税10%は本体価格に掛けて算出することとし、現在2.8円/Lしか課税されていない石油石炭税・地球温暖化対策税をCO₂はじめ有害物質の排出量に応じて50~60円/Lに引き上げ、再エネ化・電動化・地球温暖化対策等にかかる費用はここから出すのが時代の要請に合っていると同時に、簡素で合理的でもあると思う。

 そして、⑤の途上国支援費や⑩の年1兆3000億ドルのうち官が出す部分は、当然、ここから出すべきだ。

3)ガソリン減税と温暖化対策


   *1-4-3の図1           *1-4-3の図2

(図の説明:左図のように、日本では自動車関係諸税が国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなる。また、右図のように、取得と保有段階で車体課税され、走行段階では燃料に課税される)


   *1-4-3の図3           *1-4-3の図4

(図の説明:左図が、定められた自動車関係諸税の歴史で、一番下が本則税率に対する実際の税率の倍率で、右図には、各自動車関係諸税が国・地方自治体のどこに入るのかが示されている)

 
      *1-4-3の図5           *1-4-3の図6

(図の説明:左図は、日本の自動車関係諸税の他国との比較で著しく大きいし、右図は、購入からリサイクルまで自家用乗用車ユーザーにかかる税負担額で新車購入額の8割にもなる)

 *1-4-2は、①経産省・環境省は、11月25日、現行ペースを継続する「2035年度:2013年度比60%減」「2040年度:73%減」とする案を示した ②2050年実質排出0への温暖化ガス削減と脱炭素技術開発を通じた経済成長の両立を目指す ③「パリ協定」に基づき、政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえ、年内に具体的削減目標を固めて国連に提出 ④両省は2050年に向け、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出0を達成する案を検討する意向 ⑤温暖化ガス次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となり、排出削減強化を求める意見と脱炭素技術普及効果に時間を要する点に配慮を求める意見あり ⑥国立環境研究所のシナリオでは、CO₂回収等の脱炭素技術が2030年以降順調に普及し、再エネ・水素・アンモニア等の脱炭素燃料が広がれば2050年の実質排出0を実現でき、十分普及せずに導入を急げばエネルギー調達コスト等の負担が増大する、現行削減ペースを持続すれば技術導入にかかる2050年までの総費用額は比較的抑えられると分析 ⑦「グリーントランスフォーメーション政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要」という意見も ⑧「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」との指摘も ⑨国連は2035年迄に2019年比60%削減する必要があるし、日本の新削減目標はぎりぎり範囲内 ⑩国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギ 等としている。

 このうち、①②⑤⑨は、環境は経済の足を引っ張るという既得権益を持つ企業の言い分を前提としているため、「環境対応はなるべくゆっくりしたい」という考えが根底にあるが、これまで述べてきたとおり、21世紀の環境対応は経済の足を引っ張るどころか経済の前提であり、それに加えて、日本の場合は、環境対応がコストダウンの要であると同時に、やり方によっては食料自給率・エネルギー自給率の上昇にも資するのである。

 そのため、③の「パリ協定」は先進的だが、④の経産省・環境省は2050年の実質排出0に向けて2030年度目標を直線的に達成する案を検討する意向で、⑧のように、一部委員から「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」などという指摘があるのは、技術革新や普及によるコストダウンを考慮しておらず、この委員は工学系でもなければ経済にも原価計算にも弱いと思われる。そして、⑦の「GX政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めることが重要」と言う委員の意見は重視されていないため、「結論ありき」の事務局とその委員の選抜に問題があることがわかった。

 また、⑩のように、国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギと言いながら、⑥の国立環境研究所のシナリオは、脱炭素技術としてコストアップにしかならないCO₂回収や量と価格で供給に問題のあるアンモニアの使用を前提とし、再エネ・水素の普及に重点を置いてそこに投資することを考えていない点で、「環境対応=コスト負担」という固定観念から抜け出せておらず、とても最先端の環境研究をしているとは言い難いわけである。

 このような中、*1-4-1は、⑪国民民主の要求を受け入れ、自民・公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金軽減策の議論開始 ⑫ガソリン等の燃料油の課税体系は複雑で当初目的とは異なる社会保障等の財源にも流用されている ⑬それらを整理し財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探すべき ⑭53.8円/Lのガソリン税は「本則分28.7円/L」と「特例的上乗せ分25.1円/L」からなる ⑮国民民主は物価高対策として価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」適用を主張 ⑯道路特定財源だったガソリン税は2009年に一般財源化され、2010年に上乗せ分の廃止を決め、財源確保の観点から「当分の間維持」とした ⑰流通過程で消費税も二重に課税されている ⑱財務省の試算で国・地方計年1.5兆円分の税収減に繋がるため、上乗せ分を単純にはやめれない ⑲価格下落で消費が増えれば脱炭素に逆行 ⑳与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしており、税収中立や脱炭素との整合性を考えれば妥当 等としている。

 (1)2)に書いたとおり、⑪⑳のように、国民民主の要求を入れて与党が2025年度税制改正でガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体を見直し、自動車ユーザーに二重課税はじめ不合理な負担をかけないよう簡素化・軽減に手をつけるのに、私は賛成だ。そして、⑬については、自動車関係諸税を整理して簡素化し、二重課税をなくしつつ、脱炭素の流れと矛盾せぬように炭素税(環境税の一種)をかけ、脱炭素のイノベーションを起こす財源とするのが最適解であろう。

 しかし、⑫に関しては、⑯のように、一般財源(1つの大きな財布)化された財源は、社会保障に使われても「流用」ではない。流用とは、厚生年金保険料から国民年金を支払ったり、国民健康保険の目的積立金を子育て支援金に使ったりするような別の財布に手を突っ込んで資金を出すことを言うのであり、国はそうすることに罪悪感を持っていない点が最大の問題なのだ。

 なお、⑭のように、本則分以外に特例的上乗せ分があり、⑯のように、財源確保のために上乗せ分の廃止を当分の間維持したり、⑰のように、他の税金部分にまで消費税をかけたりするのは、明らかに公正・中立・簡素の税の原則から外れているため、⑮の「トリガー条項」の適用を待つまでもなく、速やかに整理すべきだったのである。

 そして、⑱⑲のように、国・地方の税収減に繋がったり、価格下落で化石燃料の消費が増えれば脱炭素に逆行することに関しては、CO₂排出量に応じて炭素税をかけることによって解決でき、これによってCO₂を排出しないEVへの移行も促されて、二重にイノベーションを進める効果があるのだ。

 なお、*1-4-3が、上に図を載せた日本自動車工業会の自動車関係諸税に関する解説だが、私1人でまとめるのは時間がかかりすぎるため、各自で消化してもらいたい。

(2)災害とリスク管理


    BBC       2024.5.1気象庁  2023.9.1WhetherNews  YouTube

(図の説明:1番左の図は1940~2023年の世界平均気温で2024年は過去最高を更新した2023年より高かった。また、左から2番目の図は日本の4月の気温を推移で2024年4月は著しく高くなっている。さらに、右から2番目の図は日本の夏の平均気温偏差で2023年でも1.76℃と高い。1番右の図は日本近海の海水温の変化で、福島県沖から北に向かって著しく高くなっており、この高さは世界でも群を抜いている)

1)2024年は統計開始以来最も暑い年だったこと
 *2-1-2は、①欧州気象当局は「猛烈な熱波や多くの犠牲者を出した嵐が世界各地を襲った2024年が統計開始以来最も気温の高い年となる」と発表 ②EUのコペルニクス気候変動サービスは「今年の世界平均気温は工業化以前(1850~1900年を基準)と比べて摂氏1.5度以上高くなり、この高気温は主に人為的な気候変動による」とした ③パリ協定で200カ国近くが気候変動による最悪の影響を回避するには長期的な気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束 ④英王立気象協会のベントリー最高責任者は「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対し、これ以上の温暖化を制限する行動が急務という厳しい警告を発するもの」とした ⑤国連は「現在の政策のままでは、今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性がある」と警告 ⑥科学者らは「大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、新たな記録が更新されるのは時間の問題」と警告 ⑦ホーキンス教授は「気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になり、世界中の人々に目にもあらわな影響が出る」「炭素排出量ネット0を実現して地球の気温を安定化させることが災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法」 等としている。

 確かに、今年は体感でも暑い年で、10月になっても夏日が続き、11月になると急に寒くなって秋が非常に短かったわけだが、上の①②⑤は、その様子を世界規模で示している。

 そして、COP21のパリ協定では、③のように、200カ国近くが長期的気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束し、④⑥のように、英王立気象協会の最高責任者や科学者らは、COP29での速やかな行動を警告していたが、COP29の成果はCOP21と比較すると新鮮さがなかった。

 しかし、⑦のホーキンス教授の予測どおり、気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になって、既に世界中の人々の目にあらわな影響が出ており、これを止めるためには、炭素排出量ネット0を速やかに実現して地球の気温を安定化させるしかなさそうだ。

2)地球温暖化により、日本でも豪雨災害が頻発していること
 *2-1-1は、①石川県能登半島の記録的豪雨で、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害 ②輪島市の4ヶ所が大雨による洪水リスクの高い区域に立地していた ③輪島市幹部は「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」とし、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した ④他の仮設住宅団地でも床下浸水被害の可能性 ⑤豪雨による死者8人。行方不明者2人、安否不明者5人 としている。

 ①②④⑤については、大規模地震の被害で仮設住宅の建設用地が足りなかったとはいえ、大雨が降れば浸水するような場所に、国・県・市が仮設住宅を建設して住民を何度も被害に遭わせたこと自体が間違いであり、③のように、注意喚起や避難誘導をすればすむという話ではない。

 そのため、近くに仮設住宅の建設用地がなければ、他の自治体であっても安全な場所に仮設住宅を建設するか、宿泊施設を借りるかするのが住民のためであるし、国民も同じ地域に何度も資金援助をしなければならないのでは、たまったものではないのである。

 また、*2-2-1は、⑥国交省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(2023年度版)と国勢調査の人口データ(2000~2020年)から、大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある地域に住む人は全国で約2594万人(2020年)と過去20年間で約90万人増 ⑦気候変動で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える ⑧2020年の日本の全人口は最多だった2010年から約1.5%(約191万人)減ったが、浸水想定エリアの人口は約3%増えた ⑨浸水想定3m以上の地域の人口は約257万人で約7万人増 ⑩浸水5m以上の地域の人口も約26万人に上る ⑪浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で都民の3 割弱 ⑫埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間に20都道県で増加 ⑬2000年の都市計画法改正で、住宅建設が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響 ⑭日本大学の秦教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体があるが、毎年のように水害が起きる中、安全な場所に居住誘導するなど災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべき」と話す としている。

 上の⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫についても、既に大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある「洪水浸水想定区域」が開示されているため、開示以後に移り住んだ人は「回避できる浸水リスクを回避せずに移り住んだ」のであるため自己責任で、その人たちにまで被災時に資金援助をしていては、国民がどれだけ税金を払っても「財源」「財源」と言われて必要な福祉に金が廻らないのだ。

 また、⑬のように、「2000年に都市計画法改正で住宅建設が原則禁止された市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされた」というのも、人口を維持することを住民の安全よりも優先した自治体であるため、その地域で起こった浸水被害まで全国民が支払った税金を使って救済するのは筋が通らない。

 つまり、災害のリスク管理は、基本的にはそこに住む住民自身が行なうべきであり、そのための情報として都市計画法で住宅建設可能地域を指定しているのだから、(その指定が間違っていない限り)⑭のように、自治体が人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的だったり、安全な場所に居住誘導する等の災害リスクを踏まえた土地利用を進めなかったりしたのは、まさに自治体の責任そのものであって国の責任ではないのである。

3)保険料をリスク別に分けるのは名案だが、市区町村別では分け方が粗すぎること
 *2-2-2は、①水害が多発する中、浸水の恐れがある地域に住む人が2020年は全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3m以上の地域 ②東日本台風では水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流して溢れる内水氾濫が原因で武蔵小杉駅周辺のタワーマンション地下が浸水 ③被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価は前年比約2~5%上昇し、利便性が良ければ水害等の災害の影響は一時的 ④2000年の都市計画法改正で住宅等の建築が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で指定した地域は例外扱いとなったのが、浸水の恐れがある地域での人口増の一因 ⑤国交省の水害統計で2013~2022年の10年間の水害被害額は計7兆3千億円で前の10年の約1.4倍 ⑥浸水リスクのある地域で人口が増え、住宅等の資産も集中して、面積当たりの被害額が増加 ⑦水害多発を背景に火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが導入され、これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったのが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化 と記載している。

 このうち①②③④のように、利便性を求めて浸水の恐れがある地域に住む人が増え、被災直後であっても地価は上昇し、都市計画法で住宅等の建築が原則禁止される地域でも自治体の条例で例外扱いできるのでは、「住民も自治体も、浸水リスクは覚悟の上でそこに住んでいるのだ」と言わざるを得ない。

 さらに、⑤⑥のように、人口増に伴って住宅等の資産も集中し、面積当たり被害額も増加するのであれば、その被害は、⑦のように、民間の水災保険でカバーしてもらいたいが、水害の多発を背景に火災保険の水災保険料は高リスク地域ほど高くなるそうで、それは合理的だと思う。

 しかし、同じ市町村内でも地域によって浸水リスクには違いがあるいため、市区町村別に保険料を変えるというのは分け方が粗すぎる。そのため、むしろ浸水の想定リスクに応じて保険料を変え、その結果として安全な場所に居住誘導することになる方が合理的である。

(4)日本における行政の環境意識
1)温室効果ガス削減と電気・ガス・ガソリン補助金について
 *3-1-1のように、約80の国・地域の首脳らが参加したCOP29で、英国を含む一部の国が気候変動対策の国際ルール「パリ協定」に基づく新たな温室効果ガス削減目標を発表し、英国のスターマー首相は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意」「2035年の排出量を1990年比81%削減」など前保守党政権の78%減をさらに高めた発表をして存在感を示したそうだ。なお、英国は、今年の9月に石炭火力を0にし、G7最速で新目標を発表するなど、気候変動対策に積極的な姿勢を示している。

 一方、日本は、(1)の図に示されているとおり、COP29の終了時までに削減目標を公表することができず、(1)3)のとおり、11月25日になってから、経産省と環境省が現行ペースを継続する案を示したが、これはリーダーシップとは程遠い現状維持策である。

 その上、*3-1-2のように、日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻で経済制裁したために高騰した化石燃料価格対策として2023年1月使用分から開始された補助金の終了に踏み込めず、国民が支払った税金から電気・ガス・ガソリンへの補助金を来年1~3月にも再実施することを決めたそうだ。そして、この補助金の額は、これまで投じられた累計額だけでも電気・ガスで約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達しているのである。

 もちろん、国民は燃料価格が抑制されれば短期的には助かるが、もともとトップランナーだった日本の再エネやEVにこの金額を投資していれば、エネルギー自給率は上がり、COP29でもリーダー的な立場に立つことができ、化石燃料価格の高騰に右往左往して無駄使いする必要もなかったことから、無能な現状維持策が如何に国益を害するかが証明されたのである。

2)根拠無き廃炉工程と放射線量暫定基準
 *3-2-1は、①原子力規制委員会前委員長の更田氏は「燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するか正確にはわからず、高線量の中で遠隔作業しなければいけないのが取り出しの難点」とする ②フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器の底を破って外側の格納容器まで広がっているため、建屋の老朽化で放射性物質が漏れ出す恐れ ③東電は「2号機で試験的に3g以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やし、2030年代初めに3号機で大規模な取り出しを始めて1号機に展開」「最初のステップが今年9月に始まった」とする ④開始遅れの原因は関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足で、今回の取り出しには「釣りざお式装置」を使った ⑤当初の計画は1~4号機に計3108体ある核燃料を2021年までに取り出すとしていたが、2021年までに取り出せたのは3、4号機のみ ⑥政府関係者は「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くなく、事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だったため、何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」と明かす ⑦政府は廃炉に必要な技術開発への支援等として毎年100億円以上を企業などに補助しており、最新の見積もりで廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用等はこれに含まれていない ⑧福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的で、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべき としている。

 このうち①については、火星の表面の写真でさえ鮮明に送られてくる時代に、未だに地球上で高線量の放射線を出している燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するかもわかっていないのなら、それは原発関係者の技術レベルが低いか、真実を隠しているかのどちらかである。

 そして、やはり②のように、フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器を破って外側の格納容器まで広がっていることがわかっており、これは事故当初に「圧力容器は壊れておらず、燃料デブリは圧力容器の中にある」と強弁していたこととは、全く違っているのである。

 さらに、③④⑤のように、78億円もの国費を投じて開発したロボットアームの不具合により、東電は今回の取り出しに「釣りざお式装置」を使って2号機からやっと3g以下を取り出し、当初の計画は1~4号機の計3108体の核燃料を2021年までに取り出すというものだったが、2021年までに取り出せたのは3、4号機だけだったのだ。 

 これについては、⑥のように、政府関係者が「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くない」「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だった」「何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」等と明かしているが、これは「廃炉がどうなろうと、線量が高かろうと、原発周辺の避難区域の住民が帰還しさえすれば良い」という考え方であり、全く住民の安全側には立っていない。

 全く住民の安全側に立っていない事例は多いが、*3-2-2も、文部科学省は学校の校庭利用をめぐる放射線量の暫定基準を「定めた時と比べて線量が大幅に減った」という理由で年間20mSV(本来は年間1mSV以下)の目安を撤廃する方針を固めたそうだが、これもまた、子どもがいる住民の帰還をを促すためだけで科学的根拠はなく、住民の安全側には全く立っていない暫定基準なのである。

 なお、⑦のように、政府は廃炉に必要な技術開発支援として毎年100億円以上を企業等に補助し、廃炉費用は8兆円とされ、燃料デブリの最終処分にかかる費用はこれに含まないそうだ。しかし、原発に関することなら、まるで既得権ででもあるかのように「財源」「財源」とは言わずに、私たちが支払った税金から私企業に対し、次々と金を出すのは全くおかしい。

 そのため、⑧のように、「フクイチの廃炉は、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的」というのに私は賛成だ。さらに、海水で薄めれば基準値以下になるなどという科学的根拠とはかけ離れた説明をして流している処理水も、対話や説明の時期はとうに終わっているため、水で冷やしさえすれば良いという発想を早急にやめ、これまでの損害は補償すべきである。

3)プラ生産削減の要否と改善すべきごみ分別収集の不便


 2021.3.21三井住友TAM        2021.5.31Long Life Labo 

(図の説明:左図は、世界の温室効果ガス排出量で、発電・熱生産25%、その他エネルギー9.6%、輸送14%、建築物6.4%で55%と過半数を占め、産業は21%しかない。右図は、日本のCO₂排出量推移と部門別割合で、2019年度は運輸18.5%、エネルギー転換8.0%、家庭14.3%で40.8%を占め、産業34.6%のうち約40%は鉄鋼業からの排出で、プラスチック生産による排出は少ない。ただし、世界は、CO₂の部門別排出量データが少ないようである)


  
  2024.5.28朝日新聞    2024.4.22日経新聞     2022.10.14WWD

(図の説明:左図は、世界のプラスチック使用量は2060年には2019年の3倍になる予測だが、ここで問題になるのは不適切な投棄で海や川にプラスチックを蓄積させることであるため、それをなくせば問題ない筈だ。また、中央の図は、プラ生産削減条約に対する各国の立場だそうだが、EUはじめ賛成している国は、原油由来のプラスチック製品を使わないのだろうか?もちろん、右図のように、切れた漁網や使い終わった漁網を海に廃棄したり、海や川にプラスチックを蓄積させたりすると生態系に悪影響を与えるため、リサイクルやアップサイクルしやすい製品を作ったり、水や土の中で一定時間が経過すれば跡形もなく溶けて肥料になったりするような進歩系の製品が必要であることは間違いない)

  
   2024.10.16PR Times      2021.12.2HATCH   2024.11.14日経新聞

(図の説明:左図が、廃棄資源利用の流れであり、分別を簡単にするためには、容器は同じ材質にする等のリサイクルまで考慮した生産体制が望まれる。また、中央の図が、循環型社会の3R《Reduce・Reuse・Recycle》だが、最終処分時に公害を出さず、最終処分を要するゴミを極力減らすことが必要だ。さらに、右図は、ゴミ屋敷に潜むさまざまな問題だが、ゴミを出しやすくすることで解決するのが最も安価で生活の質を上げるのではないかと思う)

 *3-3-2・*3-3-3は、①プラスチックごみを減らすため100ヶ国超がプラ生産量の削減目標を設定する条約作りを提案 ②EU加盟の全27カ国・スイス・カナダ・オーストラリア・メキシコ・パナマ・フィジー・ケニアなどの約180カ国、国連加盟193カ国の半数超が提案書提出 ③生産規制には中東産油国やロシアが抵抗、日本は一律の生産規制に慎重 ④プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出し、ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こして、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響との指摘も ⑤提案国は「この汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要がある」と主張 ⑥プラスチックの生産規制を巡って厳しい規制を求めるEU側と原料の石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらない ⑦条約案への合意は先送り としている。

 ①②⑤については、「ごみを減らす解決法=生産量の削減」というのは、原因分析を行なわずにいい加減な解決法を出し、環境のためとして市民に不便を強いる行為であるため、このようなことを続けていると「環境⇒不便の強制、経済の足かせ」という認識が広がり、むしろ環境意識が高まらないと考える。

 そのため、③⑥の産油国だけではなく、プラスチック製品を使っている人も、このような提案には賛成しかねるのだ。仮に石油由来のプラスチック製品の生産を規制するとすれば、かわりに木を切り倒して作った紙を原料にしたり、食料のトウモロコシからプラスチックを作ったり、靴下や衣類は絹・綿・麻に昔帰りさせたり、箸は象牙に戻したりするつもりだろうか?それに伴って、別の多くの弊害が起こることは明らかである。

 また、④の「プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出する」というのは、(4)3)の一番上の図のように、発電・エネルギー生産・輸送部門が温暖化ガス排出の約半分を占め、産業部門のうちのプラスチック生産による温暖化ガス排出は多くないため、他の弊害と比較考慮した場合に大きくはない。

 しかし、「ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こし、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響」というのは、ごみをポイ捨てするのが悪いのであるため、徹底的にポイ捨てをなくすシステムを作り、上から2段目の図のような循環型社会を作れば良いのである。

 なお、⑥の化石燃料を産出する国は、原油等を燃料として使わなくなれば、現地で原油由来のプラスチックをはじめさまざまな製品に加工して輸出する必要がある。そのため、それも禁止してしまえば、産地は稼ぐ手段を失う上に、現在、それを使っている人も困るのである。また、そのようなことになって、世界に貧しい人が増えれば、その人たちは誰が養うつもりだろうか。

 従って、⑦の「条約案への合意は先送り」というのは、ひとまずまっとうな判断であり、今後は使用済プラスチックの廃棄に関する徹底した規制とリサイクル・アップサイクルに軸足を移すべきで、課題先進国だった日本は既にそのノウハウがなければならない筈なのだ。

 それでは、日本における循環型社会はどこまで進んでいるかと言えば、*3-3-1は、⑧ごみ屋敷は疾患・認知症等の問題が影響するケースも多い ⑨環境省の調査で、全国1741自治体の38%が「ごみ屋敷」事案を認知している ⑩ごみ屋敷形成の要因の1つに「セルフネグレクト」がある ⑪認知症等で判断能力が低下して物をため込む場合も ⑫身体的・精神的な障害や特性で、ごみを出せない例も ⑬高齢単身世帯の増加等による孤立・孤独も絡み、ごみ屋敷は社会の縮図といえる ⑭総務省の報告書では181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患疑い ⑮問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題 ⑯知的障害を持つ40代男性は、分別ができずに捨てられなかった 等としている。

 ごみのリサイクルは、1995年前後に私が言い出して始まり、それから30年近く経過したが、自治体が集めているせいか、やたら手間をかけて分別させ、資源物や粗大ごみは滅多に集めず、朝8時までに出さなければならないなど、未だに複雑怪奇で不便なままなのである。

 そのため、リサイクルに最大限協力していた私でさえ、分別せずに燃やすごみにして出してしまおうかと思うくらいで、分別し易く出し易くすれば、ゴミ屋敷は減りリサイクル率も上がる。また、地下鉄サリン事件以降は駅等の公共施設にゴミ箱すらないことが多いが、これならポイ捨てしたくなるのも無理はなく、知恵を尽くして捨てる際の利便性を上げることが必要不可欠だ。

 具体的には、⑧⑪⑫⑬⑯のような、単身高齢者・認知症患者・身体的に弱っている人・知的障害者等が、分別できないためゴミを捨てられなかったり、滅多にない収集日に重たいゴミを引きずって行く必要がなくなったりすれば、⑨のゴミ屋敷はかなり減るし、そのための課題解決は簡単なのである。

 また、⑩のやる気をなくして「セルフネグレクト」になる原因はさまざまだが、それを⑭⑮のように、精神疾患や精神上の課題と片付けるのではなく、その根本原因を無くしたり、誰でもゴミを出し易くしたりしつつ、徹底してリサイクル・アップサイクルするシステムにすべきだ。

 30年という期間は、真面目に改善し続けていれば、技術開発・問題解決が十分にできていなければならない期間である。そのため、1つ1つの解決策を細かく書くことはしないが、早急に課題解決すべきであり、そのノウハウは開発途上国にも応用できる筈だ。

4)PFASの世界基準と日本の“暫定目標値”

   
     2023.6.9東京新聞       2024.11.29日経新聞 2023.1.31東京新聞

(図の説明:左図は、PFASの用途と健康への影響で、体内に蓄積されると腎臓癌・脂質異常症・抗体反応の低下や乳児・胎児の成長阻害が起こるとされている。中央の図は、2023年12月公表の国際がん研究機関《IARC》による評価で、PFOAはたばこ・アスベストと同様に最も高い発がん性があるとされ、ストックホルム条約の規制対象となった。しかし、日本は、いつものとおり「毒性評価が固まるまで現状維持」「健康影響は調査中で都内は対象外」という状況だ)


 2024.11.26日経新聞  2024.6.26産経新聞      2024.7.3TBS

(図の説明:左図は、「ストックホルム条約で規制対象となったのはPFASの一部だ」という図だが、どれが、どういう理由で、どの程度危険で、取り扱い上の注意は何か、という情報は伝わっていない。中央の図は、飲料水1LあたりのPFAS目標値であり、日本の50ナノグラム/Lは、米国の4ナノグラム/Lやドイツの4種類合計で20ナノグラム/Lと比較して高い。右図は、中央の図と1週間違いだが、米国の基準値はPFOSとPFOAの合計で4ナノグラム/L、ドイツの基準値はPFOSとPFOA合計で20ナノグラム/Lとなっており、中央の図と異なるため最終確認が必要だ。しかし、日本の基準値が甘いことには変わりがない )

 *3-4-2は、①発癌性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出 ②環境省と国交省が11月29日に水道水の全国調査結果を公表し、2024年度に富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出された ③PFASの代表物質PFOA・PFOS合計で“暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)”超の水道事業はなかった ④岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと“暫定目標値”に近い数値が検出された ⑤現在は“暫定目標値”超でも水質改善等の対応は努力義務止まり ⑥浅尾環境相によると、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げして対応を法的に義務付けるか否かは2025年春に方向性を示す ⑦“暫定目標値”超の事業数は2020年度は11、2021年度は5、2022年度は4、2023年度は3と低減傾向 ⑧PFASには1万種類以上の物質があり、耐熱や水・油をはじく特性から布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤に使われてきた ⑨有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが2021年に輸入・製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された としている。

 これに加えて、*3-4-3は、⑩“暫定目標値”を超えていた例の大半は、汚染源が特定されていない ⑪安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査を継続しなければならない ⑫PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた ⑬自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積する恐れ ⑭沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出 ⑮岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源 ⑯検査を実施していない事業者は取り組みを始める必要 ⑰環境省は、今回の結果について水源切り替え等の対策の効果があったと評価 ⑱検出された例でも、対策で目標値以下にすることができた ⑲国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかける ⑳検出状況に応じて健康調査等の対応を検討する必要があり、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整える必要 としている。

 このうち①②⑨については、有機フッ素化合物(PFAS)とは、(4)4)の上の左図のとおり発癌性等が懸念され、中央の図のとおり有害化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、日本国内では代表物質であるPFOSが2010年・PFOAが2021年・PFHxSがその後に輸入・製造が原則禁止されたものである。

 しかし、②③のように、環境省と国交省の11月29日の水道水全国調査結果で、2024年度にPFASの代表物質PFOA・PFOS合計で暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)超の水道事業はなかったが、富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出されたのだそうだ。

 その日本の“暫定目標値”は、いつまで暫定を続けるのかも不明だが、*3-4-1のように、米環境保護局(EPA)は、PFASの中で毒性の強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を飲料水で4ナノグラム/Lと決め、これは同50ナノグラム/Lの日本の“暫定目標値”を大幅に下回る1割未満の厳しい水準であり、強制力のない目標値は0なのだそうだ。

 また、「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を10ナノグラム/Lと定め、新規制は全米6万6000の水道システムが対象となり、水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定して情報を公開し、基準を超えるPFASが測定された場合は5年以内に削減するよう対応を求めるそうで、基準が甘くて対応も曖昧な日本とは大きく違うが、安全側の目標を定め期限を切って対応するのが、本来は当たり前である。

 しかし、日本では、④⑦のように、岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出され、暫定目標値超の事業数は2020年度には11、2021年度に5、2022年度に4、2023年度に3あったが、⑤のように、暫定目標値超でも水質改善等の対応は努力義務止まりで、浅尾環境相は、⑥のように「対応を法的に義務付けるか否か2025年春に方向性を示す」などと悠長だ。
 
 さらに、⑩は“暫定目標値”を超えていた例の大半は汚染源が特定されていないとするが、⑧⑫のように、PFASは、布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤・半導体・防水加工・自動車の製造過程などで使われており、⑭のように、沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたり、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出されたり、⑮のように、岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源だったりし、*3-4-1のように、沖縄県では過去に米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されたのだから、現在は汚染源の特定が容易な筈である。

 なお、⑬のように、PFASは自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積するため、⑪⑯のように、安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査は継続しなければならないが、既に「ストックホルム条約」で有害な化学物質として規制対象となり、他国の基準は“暫定”ではなく厳しいものになっているので、今更、⑳のように、検出状況に応じて健康調査等の対応を検討するのでは遅すぎ、健康被害の「予防」は疫学調査の結果を受けて速やかに行うべきなのだ。

 また、⑰⑱のように、環境省は検出された例でも対策で目標値以下にすることができた今回の結果を「水源切り替え等の対策の効果があった」と評価しているが、国交省は原発処理水の例など目標値や規制値以下にするために、その物質を含まない水と混ぜる方法を使うことがあるため、その評価は甘い上、食品容器やフライパンのコーティング等の食品とともに摂取される可能性が高い水道水以外のものについては何も述べていないため、本気度が疑われるのである。

 最後に、⑯⑲のように、「今まで検査を実施していない事業者に取り組みを始める必要がある」などとして、国は未検査や回答がなかった自治体に検査を義務付けるのではなく呼びかける程度というのは、公衆衛生に対する意識が低すぎる。

・・・参考資料・・・
<COP29>
*1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1289T0S4A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2024年11月12日) 米国は温暖化対策の歩みを止めるな
 世界の温暖化対策を話し合う第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が始まった。米国のトランプ次期大統領は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱する構えをみせる。世界2位の温暖化ガス排出国である米国は、脱炭素に向けた歩みを止めるべきでない。トランプ氏は米環境保護局(EPA)長官に元下院議員のリー・ゼルディン氏を起用する方針だ。環境規制に否定的で、バイデン政権が取り組んだ脱炭素政策を大幅に見直すとみられる。記録的な猛暑や干ばつ、巨大台風、豪雨、洪水などの災害が世界各地で多発する。温暖化による被害は米の経済や企業、住民にも及ぶ。米国がパリ協定から抜けないよう日本や欧州は説得すべきだ。2024年の世界の平均気温は23年を上回り、過去最高となる見通しだ。COP29の冒頭で、ムフタル・ババエフ議長は「温暖化対策を軌道に乗せる最後のチャンス」と各国に呼びかけた。最大の焦点は、先進国による途上国への金融支援の増額だ。現状は年1000億ドル(約15兆円)だが、途上国は年1兆ドル以上を求める。難色を示す先進国との隔たりは大きいが、少しでも対策を前進させるよう妥協点を探るべきだ。先進国からの技術や資金を前提に、排出削減を進めようと考える途上国は多い。支援額の上積みが進まなければ、世界全体の排出削減の遅れにつながる。米国が資金を打ち切れば、途上国の削減機運をそぐ恐れがある。温暖化は人類共通の課題で、一国の政権交代に左右されては困る。日欧は削減技術や人材育成など途上国支援を打ち出し、議論をリードすべきだ。世界最大の排出国の中国や中東産油国にも資金を出すよう促すことも必要になる。資金力のある国には、相応の責任が求められよう。米国内でも、州や産業界ではトランプ氏の方針とは距離を置く動きが目立つ。脱炭素に積極的なグローバル企業や機関投資家も多い。投資しやすい環境や制度づくりにも知恵を出し、民間資金のさらなる活用に道筋をつけたい。国連環境計画の報告書によると、現状の対策のままでは産業革命前からの気温上昇が最大3.1度に達する。各国は35年までの削減目標を25年2月までに提出する必要がある。削減強化に向けた機運醸成も大きな課題だ。

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16091553.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2024年11月25日) 気候資金、年3000億ドルで合意 途上国支援、35年までに COP29閉幕
 アゼルバイジャンのバクーで開かれた国連気候変動会議(COP29)は24日、途上国支援の新たな資金目標として、先進国側が2035年までに年3千億ドル(約45兆円)を出すことで合意し、閉幕した。官民あわせて1・3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決めた。会期は22日までの予定だったが、交渉は難航。24日の明け方まで延長した。途上国の脱炭素化や異常気象による被害対応を支援する「気候資金」は、COP29で最大の焦点だった。先進国は09年、途上国に対し年1千億ドル(約15兆円)の資金を出すことを約束。25年までに新しい目標を決めることになっていた。合意された成果文書では、先進国側からの年1千億ドルの資金を35年までに3倍の年3千億ドルに増やす▽官民含めて35年までに少なくとも年1・3兆ドルの投資を呼びかける▽途上国も任意で資金を出すことを奨励する――などが入った。一方、脱化石燃料をめぐっては、昨年のCOP28での成果文書の確認にとどまった。最近のCOPでは、徐々に脱化石燃料をめぐる表現が強まっていたが、目立った前進は乏しかった。今回は、紛争や分断が続く世界情勢の中で各国が結束できるか試されたCOPだった。パリ協定脱退を示唆する米国のトランプ次期大統領という「不安要素」もあった。会期延長後の23日にも、資金の総額や支援内容などで各国が折り合えず、個別交渉で中断しながら全体会合を進めた。24日未明、ギリギリで着地点を見いだしたが、結束には不安を残す幕引きとなった。(バクー=市野塊、福地慶太郎、合田禄)
■COP29の成果文書の主な内容
 ◆2035年までに先進国側から途上国に年3千億ドルを支援
 ◆同年までに官民で年1.3兆ドルへの投資拡大を呼びかけ
 ◆途上国からの任意の支援資金拠出を奨励
 ◆「化石燃料からの脱却」などを含む昨年のCOP28での成果を再確認

*1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA233TA0T21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月24日) 途上国支援3倍、年3000億ドル以上で合意 COP29閉幕
 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)は24日未明、温暖化対策で先進国から発展途上国向けに拠出する「気候資金」について、2035年までに少なくとも年3000億ドル(約46兆4000億円)に増やすことで合意した。石炭火力発電の廃止時期の明示は見送った。11日に始まった会議は合意文書の採択を経て、24日に閉幕した。22日の会期最終日を大幅に延長した。35年までに世界全体で官民あわせて途上国への支援額を少なくとも年1兆3000億ドルに増やす目標も採択した。今回のCOPでは、現在年1000億ドルが目標の拠出額の増額幅が最大の焦点になっていた。22日が会期最終日だが協議が難航し、24日に入っても協議を続けていた。議長国アゼルバイジャンが22日に先進国から年2500億ドルを草案として提示したが、途上国から低すぎるとの批判が相次いだ。その後に先進国が年3000億ドルへの増額を提案し、島しょ国など一部の途上国の反発が続き、24日未明に「少なくとも」の文言をつけることで決着した。化石燃料の削減については「およそ10年間で脱却を加速する」とした23年の会議の合意文書から大きな進展はなかった。今回のCOP29は12〜13日に開いた首脳級会合で米国や欧州連合(EU)、日本など世界の主要国・地域のトップの欠席が相次ぐなど、例年に比べて合意形成の機運の乏しさが指摘されていた。国連傘下の国際的な炭素クレジットの売買に関する市場創設のルールについても合意した。クレジットは再生可能エネルギーの導入などによる温暖化ガスの排出削減効果を取引できる形にしたもので、政府や企業は削減目標の達成にむけて購入できる。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は気候変動の悪影響が大きくならないように地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標を掲げる。実現のためには世界で35年に19年比で60%の温暖化ガスを減らす必要があり、25年2月までに国連に35年までを見据えた新たな削減目標を提出するよう義務付けている。気候資金は途上国の気候変動対策や温暖化ガス削減の取り組みに欠かせない原資となっている。会期中にはEUや産炭国のオーストラリアが石炭火力発電所の新設に反対する有志連合を立ち上げた。温暖化ガスの排出量が多い石炭火力を増やさないよう呼びかけ、各国に脱炭素の取り組みの強化を求める。日本や米国は入らなかった。そのほか、日本を含む有志国は再生可能エネルギーの活用に欠かせない蓄電池や水素といったエネルギー貯蔵容量を、世界で30年までに22年比6倍の1500ギガ(ギガは10億)ワットに増やすことを目指す誓約をとりまとめた。

*1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241125&ng=DGKKZO85012200V21C24A1PE8000 (日経新聞社説 2024年11月24日) COP29合意後も分断回避へ努力続けよ
 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)で、途上国への支援目標を2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった。防災インフラが未整備な途上国では、地球温暖化に伴う気候災害が頻発する。COP29では年1兆ドル以上の要求に対し、先進国がどう応えるかが焦点だった。紛争や分断が続くなか、結束できるかが試されていた。妥協の産物とはいえ、分裂は避けられた。インドなど途上国の一部は金額を不満として抵抗。協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策につなげねばならない。合意した金額を先進国の公的資金だけでまかなうのは厳しいだろう。資金が足りないと途上国の対策が滞る。世界全体の排出削減の遅れを避けるには、様々な形で資金を集める必要がある。まず出し手を増やす努力を続けたい。温暖化ガスの世界最大の排出国である中国や中東産油国などは余力があるはずだ。20カ国・地域(G20)は世界の温暖化ガスの約8割を排出する。裕福な国や地域は協力する責任があると改めて認識してもらいたい。民間の投資加速も不可欠だ。COP29では、35年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった。省エネルギー設備や再生可能エネルギーの導入支援などは民間資金を集めやすい。国際的な炭素市場のクレジット(排出枠)基準が承認されたことは前進だ。国連が支援する二酸化炭素(CO2)削減事業に国や企業が出資し、成果を排出量の相殺に当てられる。民間投資を促す起爆剤になると期待できる。日本は今回のCOP29では交渉を主導できず、影が薄かった。途上国は資金だけでなく、防災の技術やノウハウも求めている。日本には災害対策の蓄積がある。供与を積極的に進めることで世界に貢献し、存在感を高めたい。世界2位の排出国の米国では、温暖化対策に否定的なトランプ前大統領が返り咲く。来年1月の就任後、国際枠組み「パリ協定」から再離脱すると懸念される。温暖化による被害は米国内でも広がっている。日欧などはパリ協定から抜けないように説得すべきだ。トランプ政権の動向にかかわらず、気候危機は進む一方であり、対策が急務だ。あらゆる手段を総動員することが重要になる。

*1-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1362595 (佐賀新聞 2024/11/25) 【COP29合意】要求届かず渦巻く憤り、資金支援巡り対立鮮明
 国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国の地球温暖化対策を支援する新たな資金目標に合意した。大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と、負担軽減を図る先進国の対立が鮮明となり、会期は2日も延長。最後の全体会合でも合意に至った達成感はなく、要求から程遠い幕切れに途上国の憤りが会場に渦巻いた。
▽隔たり
 「深く失望した」。閉幕予定日の22日に議長国アゼルバイジャンが示した合意文書案に、既に温暖化の深刻な影響下にある小島しょ国グループは怒りをあらわにした。途上国は年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求。再生可能エネルギーの導入など温暖化対策のほか、既に生じた異常気象に伴う災害復旧などに多額の資金を必要とするからだ。債務の増大を避けるため、先進国からの無償供与が大半を占めることを望んだが、示された先進国からの資金は年2500億ドルと要求から懸け離れていた上、資金の貸し付けや投資を含むものだった。特に先進国に起因する温暖化による自然災害に見舞われている低所得国は、自分たちへの割当額を明示するよう強く求めたがかなわず反発。「議長国は他国からのアドバイスを聞き入れないらしい」。各国代表団や非政府組織(NGO)の間に議長采配への不安が渦巻く中、閉幕予定日は早々に過ぎ去った。
▽中断
 延長1日目の朝。「もう文書の改定版はできているらしい」とのうわさが広がった。会合予定を表示する会場のテレビには、夜から全体会合が開かれるとの予告が表示され、成果文書採択への期待が高まった。だが午後に開かれた議長と主要閣僚の会合は紛糾する。2500億ドルを3千億ドルに上積みする案が示されたが途上国の要求には依然遠く、小島しょ国などが会合の中断を要求。先だって開かれた途上国と先進国が協議する場に呼ばれなかったことも怒りに火を付けた。一方の先進国側も「現在の(目標の)1千億ドルが3千億ドルになるのは、かなり踏み込んだ数字だ」(浅尾慶一郎環境相)とアピールしたが、さらなる上積みには慎重姿勢。ただ、途上国側も交渉決裂で何も残らなくなる事態は望まなかった。
▽疲労
 結局、会期を2日延長した閉幕日の24日未明に出た最終的な合意文書案でも支援額の上積みはなかった。疲労が色濃くにじむ中、閉幕の全体会合が開始。アゼルバイジャンのババエフ議長は議題を読み上げると、異議申し立ての確認時間も取らずつちを振り下ろし、採択を宣言した。直後、インド代表は「合意は目の錯覚だ。私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言。会場に拍手が湧き起こった。「先進国が資金と実施手段を提供する義務を果たさないという不公平を強化するものだ」(ボリビア代表)と失望を表明する声も続いた。ただ合意成立により、国際協調に背を向けるトランプ米次期政権の誕生を前に気候変動対策が勢いを失う事態は避けられたとみるのは世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之さんだ。「たとえ不十分だとしても、国際協力をつなぎとめることはできた」

*1-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2572O0V21C24A1000000/ (日経新聞社説 2024年11月26日) ガソリン減税は脱炭素や財源との整合を
 自民、公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始める。10月の衆院選で「手取りを増やす」と訴えて躍進した国民民主党の要求を受け入れ、総合経済対策に検討を明記した。ガソリンなど燃料油の課税体系は複雑なうえ、当初目的と異なる社会保障などの財源にも流用されている。それらを整理し、財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探してもらいたい。1リットル53.8円のガソリン税は、本則分(28.7円)と特例的な上乗せ分(25.1円)からなる。国民民主は物価高対策として、価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の適用を主張。全国平均のガソリン価格が160円を3カ月連続で超えると課税を止め、逆に3カ月連続で同130円を下回れば再開する仕組みだ。2010年に創設されたが、翌年の東日本大震災の復興財源確保のため特例法で凍結してきた。目先の物価高対策に中長期の財政収入にかかわる税を使うのは賛成できない。特にトリガー条項は発動・停止時に価格が大きく変動する。値下がりを見越した買い控えや値上がり前の駆け込み需要が生じ、販売現場の混乱が必至だ。今回の税制改正における検討に意義を見いだすとすれば、あるべき税体系への見直しだろう。もともと道路特定財源だったガソリン税は09年に一般財源化された。10年に上乗せ分の廃止を決めたものの、財源確保の観点から「当分の間維持する」とした経緯がある。それが際限なく続いているうえ、流通の過程で消費税が二重に課されているのも問題だ。ただし上乗せ分を単純にやめればいいわけではない。財務省の試算では国・地方で計年1.5兆円分の税収減につながる。価格下落に伴って消費が増えれば、脱炭素の取り組みにも逆行する。与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしている。税収中立や脱炭素との整合性を考えれば、妥当といえよう。受益者負担の原則に立つなら、ガソリン税は老朽化する道路の補修費や脱炭素支援などの財源に用途を限るのも一案だ。総合経済対策で規模を縮小しつつ延長を決めたガソリン補助金は、一日も早く打ち切るべきだ。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策を、いつまでも続けるのは許されない。

*1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA250KT0V21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月25日) 35年度の温暖化ガス60%減 政府目標案、現行ペース継続
 経済産業、環境の両省は25日、次期温暖化ガスの排出削減目標に関して2035年度に13年度比で60%減、40年度に同73%減とする案を示した。50年のカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)に向けた着実な温暖化ガス削減と脱炭素技術の開発を通じた経済成長の両立を目指す。15年に採択した温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」は世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標をかかげる。協定に基づき各国は25年2月までに新目標の国連への提出が義務づけられている。政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえて年内にも具体的な削減目標の数字を固め、国連に提出する。同日の会合で両省は50年に向けて、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出ゼロを達成する案を検討する意向を示した。現行の削減ペースを持続する道筋となる。22年度は13年度比22.9%減で、政府は目標通りに推移しているとみている。温暖化ガスの次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となっていた。これまでの会合では排出削減の強化を求める意見のほか、脱炭素技術が普及し効果が表れるまでに時間を要する点に配慮を求める声も産業界などからあがっていた。両省は性急に削減すると経済への負担が大きいことも踏まえて、排出削減の上積みを目指す。
国立環境研究所は複数のシナリオに基づき排出量やコストなどを推計した。二酸化炭素(CO2)の回収などといった脱炭素技術が30年以降順調に普及し、再生可能エネルギーのほか水素やアンモニアなどの脱炭素燃料が広がれば、50年の実質排出ゼロを実現できるという。一方、脱炭素技術が十分普及しないなかで導入を急ぐとエネルギー調達コストなどの負担が増大するとも分析した。現行の削減ペースを持続した場合には、技術の導入にかかる50年までの総費用額は比較的抑えられるとした。委員からは「グリーントランスフォーメーション(GX)政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要だ」といった意見が出た。「直線の経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要だ」との指摘もあった。国連は1.5度以内に抑えるには世界全体で温暖化ガスを35年までに19年比60%削減する必要があると分析する。分析には49〜77%の幅があり、日本が基準年とする13年度比に換算すると35年度で58〜81%、40年度で66〜92%となる。新しい削減目標の道筋はいずれも範囲内にあり、政府は1.5度目標の実現に整合するとみる。地球温暖化への危機感は世界で高まっている。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7日、24年の世界の平均気温が産業革命前と同程度の1850〜1900年の推定平均気温と比べて1.55度を超える上昇幅になる見通しだと発表した。初めて1.5度を上回ることがほぼ確実だとしており、対策強化が欠かせない。次期の排出削減目標は、政府が年内にまとめるエネルギー基本計画と表裏一体の関係にある。国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギを握るためだ。次期計画では40年度の電源構成を定める。現行目標で30年度に36~38%と据える再生可能エネルギーの上積みや、化石燃料を使う火力発電の減少が一層重要となる。政府はエネルギー基本計画と排出削減目標を踏まえ、年内に「GX2040ビジョン」をまとめる。脱炭素とエネルギーの安定供給、経済成長の同時実現を政策の柱に据える。カーボンプライシングの本格導入や脱炭素電源への投資の後押しなど対策を急ぐ。

*1-4-3:自動車関係諸税
●9兆円にもおよぶ自動車関係諸税収
 自動車関係諸税は第1次道路整備五箇年計画がスタートした1954(昭和29)年度に道路特定財源制度が創設されて以来、これまで増税、新税創設が繰り返されてきました。現在自動車には9種類もの税が課せられ、ユーザーは多額の自動車関係諸税を負担しています。2024年度の当初予算では自動車ユーザーが負担する税金の総額は国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなります。
●図1.2024年度租税総収入の税目別内訳並びに自動車関係諸税の税収額(当初)
注:1.租税総収入内訳の消費税収は自動車関係諸税に含まれる消費税を除く。 2.自動車関係諸税の消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 3.消費税収には地方消費税収を含む。 資料:財務省、総務省
●図2.2024年度自動車関連税収と税率
注:1.消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 2.税率は2024年5月1日現在。
●図3.道路整備計画に関連した新税創設・増税の経緯
エコカー減税対象車は本則税率適用。 注:税率は2024年5月1日現在。 日本自動車工業会調
●図4.自動車の税金のしくみ(税金および税額は2024年5月1日現在)
*別途、エコカー減税に対する「自動車重量税」の軽減措置が講じられている
○ユーザーの負担
●多種・多額の自動車関係諸税
 自家用乗用車ユーザーの場合、車両価格308万円の車を13年間使用すると、6種類の自動車関係諸税が課せられ、その負担額は合計で約190万円にもなります(自工会試算)。さらに自動車ユーザーは、これらの税金以外にも有料道路料金、自動車保険料(自賠責および任意保険)、リサイクル料金、点検整備等多種・多額の費用を負担しています。
●図5.税負担の国際比較
前提条件: ①排気量2000cc ②車両重量1.5t以下 ③WLTCモード燃費値 19.4km/ℓ(CO2排出量119g/km)④車体価格308万円(軽は144万円)⑤フランスはパリ、米国はニューヨーク市 ⑥13年間使用(平均使用年数:自検協データより)⑦為替レートは1€=¥158、1£=¥186、1$=¥146(2023/4~2024/3の平均)
※2024年4月時点の税体系に基づく試算 ※日本のエコカー減税等の特例措置は考慮せず
※自動車固有の税金に加え、以下のとおり付加価値税等も課税される。(日本の場合は消費税、米国・ニューヨーク市の場合は小売売上税)日本(登録車)30.8万円、イギリス61.6万円、ドイツ58.5万円、フランス61.6万円、米国27.3万円、日本(軽自動車)14.4万円
●図6.自家用乗用車ユーザーの税負担額(13年間)
前提条件: ①2000ccで車体価格308万円(税抜き小売り価格)の乗用車 ②車両重量1.5トン以下 ③年間燃料消費量1,000ℓ ④重量税は車検証交付時または届出時に課税(第1年目は新車に限り3年分徴収) ⑤税率は2024年4月1日現在 ⑥消費税は10%で計算 ⑦リサイクル料金は2000ccクラスの平均的な額
注:1.有料道路料金、自賠責及びリサイクル料金は自動車諸税に準ずる性格を有するため計算上加味した。(自賠責保険は2024年4月1日現在の保険額) 2.有料道路料金は2022年度料金収入より日本自動車工業会試算。 日本自動車工業会調

<災害とリスク管理>
*2-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1326448 (佐賀新聞 2024/9/24) 能登豪雨、浸水想定域の仮設被害、死者8人に、捜索続く
 石川県能登半島の記録的豪雨により、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害が発生、うち輪島市の4カ所が大雨による洪水リスクが高い想定区域に立地していることが24日、分かった。これまでに指摘されていた立地のリスクが現実になった形だ。避難誘導が十分だったかなどの検証が求められそうだ。度重なる被災で入居者の生活再建の遅れが懸念され、県と市は今後の住まいに関する意向を確認する。他の団地でも床下浸水の被害があった可能性があり、県や地元自治体が調査する。輪島市は、浸水した団地の住民らをホテルや旅館などに2次避難させる方向で、県と調整している。県や消防によると、珠洲市大谷地区の土砂崩れ現場で新たに1人が見つかり死亡が確認され、豪雨による死者は8人となった。行方不明者は2人。県によると、連絡が取れなくなっている安否不明者は24日時点で5人。生存率が急激に下がるとされる発生72時間が経過する中、警察や消防などが捜索を続けた。県などによると、24日時点で床上浸水が確認されている仮設団地6カ所は輪島市5カ所と珠洲市1カ所。このうち輪島市の宅田町第2団地、宅田町第3団地、山岸町第2団地、浦上第1団地は洪水浸水想定区域にある。宅田町の2カ所は、付近を流れる河原田川が氾濫して団地一帯が浸水、住宅内にも泥水が流れ込んだ。24日、県のボランティアによる泥掃除や家財片付けが始まった。浸水した団地では、被害拡大後に救助される住民が相次いだ。輪島市幹部は取材に「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」として、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した。県によると、24日午後4時時点で輪島市、珠洲市、能登町の計46カ所の集落で少なくとも367人が孤立状態になっている。輪島市門前町七浦地区では仮設住宅の住民約70人が取り残されている。また、輪島市、珠洲市、能登町で計5216戸が断水している。

*2-1-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/cev903mwz9lo (BBC 2024年11月7日) 2024年は史上最も暑い年になる見通し エルニーニョ終息後も高気温続く、マーク・ポインティング気候変動・環境調査員
 欧州の気象当局はこのほど、猛烈な熱波や多くの犠牲者につながった嵐が世界各地を襲った2024年が、統計開始以来で最も気温の高い年となることが「ほぼ確実」となったとの見通しを発表した。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、今年の世界平均気温は、人類が化石燃料を大量に燃やし始める前の「工業化以前」と比べて摂氏1.5度以上高くなる見込み。こうした高気温は、主に人為的な気候変動によるもので、エルニーニョ現象のような自然要因による影響は小さいという。科学者たちは、来週アゼルバイジャンで開かれる国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)を前に、これを警鐘として受け止めるべきだと指摘している。英王立気象協会の最高責任者、リズ・ベントリー氏は、「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対して、これ以上の温暖化を制限するための行動が急務だという、厳しい警告を新たに発するものだ」と話した。2024年には、10月までの世界気温があまりに高かったため、最後の2カ月間で気温があり得ないほど急降下しない限り、記録更新は防ぎようがないもようだ。実のところ、欧州コペルニクス気候変動サービスのデータによると、2024年は工業化以前と比べて、少なくとも1.55度は気温が高くなる可能性が高い。「工業化以前」とは、1850~1900年を基準にした期間のこと。この期間は、人間が化石燃料を大量に燃焼させるなどして地球温暖化を大幅に促進する以前の時代と、ほぼ一致している。欧州当局の今回の予測によると、2024年は昨年更新されたばかりの1.4度という最高気温を上回る可能性がある。欧州コペルニクス気候変動サービスのサマンサ・バージェス副ディレクターは、「これは地球の気温記録における新しい一里塚になる」と話した。加えて、コペルニクスのデータによると2024年には初めて、1月1日から12月31日までの1年の平均気温が1.5度上昇することになる。これは象徴的な意味を持つデータだ。2015年のパリ協定では200カ国近くが、気候変動による最悪の影響を回避しようと、長期的な気温上昇を1.5度未満に抑えるよう努力すると約束したからだ。ただし、今年に1.5度という上限を超えても、パリ協定の目標が破られたということにはならない。パリ協定の規定は、自然の変動を平均化するため、20年程度の期間における平均気温として定められているからだ。しかし、1年ずつ上限突破が積み重なるごとに、長期的には1.5度のラインに近づいていくことになる。国連は先月、現在の政策のままでは今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性があるという警告を発した。2024年のデータの細かい中身も、懸念材料となっている。2024年初頭の温暖化は、自然現象のエルニーニョ現象によってさらに拍車がかかった。これは、南太平洋で温かい海水が海面まで上昇し、大気中に暖かい空気を押し出される現象だ。直近のエルニーニョ現象は2023年半ばに始まり、2024年4月頃に終息したが、それ以降も、気温は依然として高い状態が続いている。コペルニクスのデータによると、この1週間、世界の平均気温は毎日、この時期の最高記録を更新している。多くの科学者は、エルニーニョ現象の反対で、海面水温が低下するラニーニャ現象が間もなく発生すると予測している。理論的にはこの現象により、来年には地球の気温が一時的に低下するはずだが、その正確な推移は不明だ。英レディング大学のエド・ホーキンス教授(気候科学)は、「2025年以降に何が起こるのか、興味深く見守っていきたい」と話す。しかし、大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、科学者らは新たな記録が更新されるのは時間の問題だと警告している。「気温の上昇によって嵐はより激しくなり、熱波はさらに暑くなり、豪雨はますます極端になる。その結果、世界中の人々に、目にもあらわな影響が出るはずだ」とホーキンス教授は言う。「炭素排出量を差し引きゼロにする『ネットゼロ』を実現し、地球の気温を安定化させることが、こうした災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法だ」

*2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046569.html (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスク地域に2594万人 居住者、20年間で90万人増
 大雨で河川が氾濫(はんらん)した際に浸水の恐れがある地域に住む人は、全国で約2594万人(2020年)と、過去20年間で約90万人増えたことが朝日新聞のデータ分析で分かった。気候変動の影響で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える。分析したのは、全国の3万以上の河川のうち、主に流域面積や洪水時の被害が大きな約3千河川で、河川整備の目標とすることが多い「100年に1回程度」の大雨により浸水が想定されるエリア内の人口。国土交通省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(23年度版)と、国勢調査の人口データ(00~20年)を元に推計した。それによると、20年の日本の全人口は最多だった10年から約1・5%(約191万人)減った一方、浸水想定エリアの人口は20年までの過去20年間で約3%増え、約2594万人となった。うち浸水想定3メートル以上の地域の人口は約257万人で約7万人増えた。浸水5メートル以上の地域の人口は約26万人に上る。浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で、都民の3割弱を占める。埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間で20都道県が増加した。高度経済成長期以降、治水対策により、浸水リスクがある低地の開発が進み、相対的に地価も安価なため、人口が流入した。また、現在は一部規制が強化されたものの、00年の都市計画法の改正で、住宅の建設が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響した。日本大学の秦康範教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体がある一方、毎年のように水害が起きるなか、安全な場所にある空き家を活用して居住誘導するなど、災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべきだ」と話す。
◇市区町村ごとのデータ分析は、デジタル版からアクセス出来ます。

*2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046472.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスクより利便性? 多摩川周辺…近い都心、氾濫後も新築
 水害が多発するなか、浸水の恐れがある地域に住む人が増えている。2020年には全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3メートル以上の想定エリアに住んでいる。なぜリスクのある場所に人は集まるのか。21日に能登半島北部を襲った豪雨では、元日の地震で大きな被害が出た石川県で計27河川が氾濫(はんらん)し、多くの住宅が水に浸(つ)かった。地震で焼失した「輪島朝市」にほど近い輪島市河井町では、近くを流れる河原田川が氾濫。介護職員の50代女性の自宅は地震で壊れ、1カ月前にリフォームを終えたばかりだったが、約1・5メートル浸水し、1階は泥だらけになった。一帯は最大で3~5メートルの浸水が想定され、女性によると、65年ほど前にも約2メートル浸水した。ただ、堤防工事が進んだことや、自宅を50センチかさ上げしたことで安心し、「(浸水想定は)あまり気にしたことがなかった。まさか自分が生きているうちにまた来るとは思わなかった」と振り返った。朝日新聞の分析では、浸水想定エリアの人口は20年までの20年間で石川県を含む20都道県で増えた。特に増加が目立つのが、人口が密集する都市部だ。百貨店などが立ち並び、「にこたま」の愛称で知られる二子玉川駅(東京都世田谷区)から、多摩川を隔てた川崎市の一角。全国で90人以上の死者・行方不明者が出た19年の東日本台風では、多摩川の支流が氾濫し、多くの住宅が水に浸かり、マンション1階の60代の住民が亡くなった。近くに住む60代の男性の自宅も1メートル浸水した。玄関ドアや床下収納から水が一気に入り込み、1階のリフォーム代には総額で約1200万円かかった。この地区は3~5メートルの浸水が想定されている。男性は「50年以上住むが初めてのことで、まさかだった。最近異常な雨が増えているので怖い」。一方、近所では水害後に新しいアパートや戸建てが複数建った。2年前に夫婦で住み始めた女性(38)は、二子玉川で働き、「水害リスクは知っているが、利便性や家賃の安さから選んだ」と話す。東日本台風ではタワーマンションが林立する市内の武蔵小杉駅周辺で、地下が浸水したタワマンもあった。水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流してあふれる内水氾濫が原因だったが、被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価(20年1月時点)は前年比約2~5%上昇。不動産鑑定士の藤田勝寛さんは「水害などの災害が起きると取引は鈍くなるのが一般的だが、利便性が良ければ影響は一時的にとどまるケースが多い」と話す。川崎市は都心へのアクセス性が高く、人口も増加し続けている。朝日新聞の推計では神奈川県内で浸水リスクのある地域に住む人は同市を中心に過去20年間で約25万人増えた。18年7月の西日本豪雨で、災害関連死を含めて75人が亡くなった岡山県倉敷市。推計では浸水リスク地域に住む人は過去20年間で約3万人増えた。多数の犠牲者が出た同市真備地区は川沿いに浸水3メートル以上のエリアが広がり、過去に何度も水害に見舞われてきた。ただ、70年代ごろから市中心部のベッドタウンとして水田の宅地化が進んで人口が急増。水害後に人口が1割ほど減ったが、スーパーなどの商業施設は整っている。地元の不動産業者は「水害によって土地の価格は下落し、価格に魅力を感じて新たに移り住む人はいる」と話す。
■国は住宅建築を制限、地域は衰退懸念
 浸水の恐れがある地域での人口増は、2000年の都市計画法の改正も一因とされる。住宅などの建築が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で指定したエリアは例外扱いとなった。市街化調整区域は街の開発を抑制する区域で、低湿地帯など浸水リスクをはらむ場合も少なくない。19年の東日本台風で洪水被害が発生した場所の約8割を占めたとする国土交通省の調査もある。同省によると、既存集落の維持などを目的に22年度時点で全国で180自治体が条例を制定。地価が比較的安いことなどから居住者が増えている。熊本市中心部まで車で20分ほどの同市南区富合町もそのひとつ。1級河川の緑川や支流の流域にあり、12年に一定の住宅が集まる地域が条例でエリア指定された。一方で、各地で甚大な水害が相次ぎ、国は20年に法改正し、浸水などの災害リスクが高い場所は原則除外するよう規制を強化。当時、富合町自治協議会の会長だった男性(82)は「除外対象になる場所は多く、開発制限されると人口が減って地域が衰退する」と、条例エリアの維持を求める要望書を市に出した。結果的に、市は条件付きで開発を認め、来年4月以降、一部地域で家を建てる場合は浸水しない高さの部屋を設けることを義務づけた。男性は「次々に戸建てが建っているが、垂直避難できる2階建てが増えている」と話す。国も水害対策を進めるために21年に同法など九つの法律を一括改正。ハード事業の促進に加え、避難場所の整備推進や、浸水リスクが高い場所を都道府県が「浸水被害防止区域」に指定し、住宅や高齢者施設の建設を許可制とする仕組みなどを導入した。
■保険料、リスク別に
 水害による被害は拡大傾向にある。国交省の水害統計によると、13~22年までの10年間の水害被害額は計7兆3千億円で、その前の10年間の約1・4倍に膨らんだ。特に19年は東日本台風の影響で約2兆1800億円となり、統計開始以来で最悪となった。浸水リスクエリアで人口が増えたことで、住宅などの資産もより集中し、面積当たりの被害額も増えている。東京理科大マルチハザード都市防災研究拠点の二瓶泰雄教授の調査によると、水害被害額(前後5年、計10年間の平均)は、1960年代は浸水面積1平方キロメートルあたり2億~3億円だったが、2010年は20億円、18年には30億円に増加。さらに、死者・行方不明者数(同)についても、1960~2000年は0・1~0・2人だったが、18年には0・52人と、最大5倍ほどに増えた。二瓶教授は「高齢化が進み、人的被害はさらに増える可能性がある」と指摘する。また、水害の多発などを背景に、火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが10月から導入される。これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化する。

<環境>
*3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083920.html (朝日新聞 2024年11月14日) 温室ガス減、英に存在感 首相、目標引き上げ発表 COP29
 アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動会議(COP29)で、英国が存在感を示している。13日までの首脳級会合では、主要排出国などのトップが欠席する中、スターマー首相が登壇。スピーチに好意的な評価が相次いだ。約80の国・地域の首脳らが参加した会合では、英国を含む一部の国が、気候変動対策の国際ルール「パリ協定」にもとづく、新たな温室効果ガス削減目標を発表した。スターマー氏は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意だ」と宣言。2035年の排出量を1990年比で81%減らすと発表した。前保守党政権でまとめていた78%減をさらに高めた。各国の温室効果ガス削減目標は、次は25年2月までに、35年までの目標を国連に提出することが求められている。英国は主要7カ国(G7)で最も早く新目標を発表。今年9月、国内で稼働する石炭火力をゼロにするなど、気候変動対策に積極的な姿勢を強調している。スターマー氏は他国にも目標引き上げを呼びかけた。2大排出国の米中や、世界の温暖化対策をリードしてきた欧州連合が、軒並み首脳の出席を見送る中、気候変動対策に取り組む姿勢を首相自ら訴えた形だ。英紙ガーディアンは社説で「重要な一歩」と評価。米シンクタンク「世界資源研究所」(WRI)は「気候変動に関するリーダーシップの輝かしい例」と持ち上げた。

*3-1-2:https://mainichi.jp/articles/20241122/k00/00m/020/374000c (毎日新聞 2024/11/22) 電気・ガス、ガソリン…補助金の終わり見えず 事業の出口戦略に注目
 22日に閣議決定された総合経済対策で、10月で終了した電気・ガス料金への補助金を来年1~3月に再実施することが決まった。年内を終了期限としていたガソリン補助金も規模を縮小して延長する。政府は時限措置だった補助金の終了に踏み込めずにいる。暖房需要で電力の消費量が最も増える1~2月は家庭向けで電気は1キロワット時あたり2・5円、ガスは1立方メートルあたり10円を補助する。電気代は標準家庭(使用量400キロワット時)で月1000円の補助となり、ガス代と合わせると計1300円程度の負担軽減になる。3月は電気1・3円、ガス5円に補助額を縮小する。電気・ガス代への補助金は、ウクライナ危機に伴う燃料価格の高騰対策として2023年1月使用分から開始。その後、燃料価格が落ち着いたため24年5月分でいったん終了した。しかし、岸田文雄前政権が酷暑対策として8~10月の限定で電気は最大1キロワット時あたり4円、ガスは同1立方メートルあたり17・5円の補助を復活。今回、またも終了直後に再開が決まった形だ。一方、ガソリン価格を抑制するため22年1月から続いている石油元売りへの補助については、12月から段階的に補助の規模を縮小させるものの、年明け以降も延長する。来年1月中旬のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は約180円、2月中旬には約185円になる見込み。それ以降は月5円程度の価格上昇となるよう補助率を見直す。終了時期は定めていない。10月の衆院選中には公明党が「寒い時期が一番電気・ガス代がかかる」として経済対策に盛り込むよう要求し、石破茂首相も「電気代が上がって困る人には十分な支援を行う」との意向を表明。選挙の結果、衆院で過半数割れし少数与党となった自公と政策協議していた国民民主党も値下げを求めていた。電気・ガスやガソリン代に対する補助金が長期化していることに対し、「市場原理を無視している」「脱炭素に逆行している」といった批判の声が噴出している。だが、酷暑対策で補助金が復活した際には「絶対に冬もやることになる」(経済官庁幹部)と政府内には諦めムードが広がっていた。電気・ガス補助金は問題も指摘されている。会計検査院の調査によると、補助金事業の事務局業務を319億円で受託した広告大手の博報堂が、業務の大部分を子会社などに委託し、さらに別会社に再委託されていたことが判明している。業務委託費率が50%を超える場合は所管する資源エネルギー庁に理由書を提出する必要があるが、書類には委託が必要だとする理由が具体的に記載されておらず、エネ庁にも委託を認めた経緯の記録が残っていなかった。経済産業省の事業では、過去にも新型コロナウイルス禍を受けた中小企業向けの持続化給付金を巡り、事業を受託した一般社団法人が大半の業務を再委託していたことが発覚して問題になったこともある。エネ庁の担当者は「今後、同じように再委託があればどういう形で適切と判断したのかが残るように手続きを検討している」としている。経産省は今回の補助金の再開・延長で必要な予算額を明らかにしていないが、これまで投じられた累計額だけで電気・ガスは約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達している。ガソリン補助金は間もなく開始から3年がたつ。膨大な税金を投じた補助金事業の出口戦略を描けるかにも注目が集まる。

*3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSB041PWSB0ULBH00QM.html (朝日新聞 2024年11月3日) 福島第一原発、根拠なき「2051年廃炉完了」 現実的な工程示せ
*ポイント: 福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的だ。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もある。処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべきだ。
 「燃料デブリが原子炉内のどこにどれぐらい分布するかが正確にはわからない。しかも、高線量の中で遠隔で作業しなければいけない。それが取り出しの難しさだ」。原子力規制委員会の前委員長、更田豊志氏は、燃料デブリの取り出しについて、こう解説する。東京電力福島第一原発の1~3号機には推計880トンの燃料デブリがある。3基とも圧力容器の底を突き破り、外側の格納容器にまで広がっている。放っておけば、将来、建屋の老朽化などで放射性物質が漏れ出す恐れがある。政府と東電は、全て取り出して安全な状態で管理しようとしている。東電の構想では、まずは2号機で試験的に3グラム以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やす。それから、30年代初めに3号機で大規模な取り出しを始め、その後、1号機に展開する。この構想の最初のステップが今年9月に始まった。東電は2号機の原子炉格納容器の側面にある貫通口から取り出し装置を挿入した。カメラの不具合で作業は1カ月以上中断したが10月28日に再開。燃料デブリを装置でつまみ、今月2日に装置ごと格納容器の外側の設備に入れた。線量が基準を下回り容器に収めれば初の取り出し成功となるが、これから続く道のりは深い霧に覆われている。政府と東電は51年までの廃炉完了を掲げている。11年12月の工程表で示したものだ。当時の想定では21年までに燃料デブリの取り出しに着手し、10~15年程度で1~3号機すべての取り出しを終える計画だった。しかし、開始は3年遅れた。主な原因は、関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足だ。ロボットアームはいまも試験中で、今回の取り出しには簡易的な「釣りざお式装置」を使った。原子炉建屋のプールにある核燃料の取り出しも大幅に遅れている。当初の計画では、1~4号機に計3108体ある核燃料を21年までに取り出すとしていた。だが、ガレキの撤去など作業環境の整備に時間がかかり、21年までに取り出せたのは3、4号機だけ。1、2号機はいまも始まっていない。最新の工程表では、当初から10年遅れの31年までにすべての取り出し完了をめざしている。重要作業の遅れが続いても、政府と東電は51年までの廃炉完了という旗はおろしていない。東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は「51年までの完了を目標に仕事を積み上げていくことが大事だ」と強調する。そもそも、なぜ51年までの廃炉完了を目標にしたのか。政府関係者は技術的な根拠はまったくなかったと明かす。「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できないような空気だった。何かしらの数字を出さざるを得なかった」。参考にしたのが1979年に事故を起こした米スリーマイル島(TMI)原発2号機だ。事故から11年後に99%の燃料デブリの取り出しが終わっていた。福島第一原発は1~3号機に燃料デブリがあるため、3倍の時間がかかるとみて、30~40年後(51年まで)の廃炉完了を目標にしたという。だが、TMI原発と福島第一原発は状況が大きく異なる。TMI原発では原子炉圧力容器に水をはった状態で、燃料デブリを取り出すことができた。水は放射線を遮れるうえ、作業時に放射性物質の飛散を抑えられるという、大きなメリットがある。
●取り出し困難な燃料デブリ
 一方、福島第一原発は圧力容器の損傷が激しく、水をはることができない。外側の格納容器まで広範囲に燃料デブリが広がり、TMI原発よりも取り出しの難易度が格段に高いとみられている。そもそも事故を起こしていない原発でも、原子炉に核燃料がない状態から作業を始めて廃炉完了までに30~40年かかるとされる。このため、51年までに廃炉完了とする目標については、多くの専門家が「あり得ない」などと指摘している。政府や東電は廃炉の工程をすぐには見直そうとしていない。専門家の間では、自主的に根拠のある見通しを示そうという動きが出ている。早稲田大学の松岡俊二教授(環境経済・政策学)は22年、福島第一原発の燃料デブリの全量取り出しにかかる期間を試算し、論文を発表した。TMI原発では約132トンの取り出しに4年3カ月かかった。週休2日で作業が年間260日とすると、1日の取り出し量は120キロ。TMI原発より作業が難しい福島第一原発の取り出し量は、1日20キロ、もしくは50キロと仮定した。その場合、全量取り出しにかかる期間はそれぞれ170年、68年という結果だった。松岡さんは「3グラム以下の取り出しに難航している現状を踏まえれば、170年でも相当楽観的な数字だ」という。廃炉作業で出る放射性廃棄物は、事故を起こしていない原発600基分になるとの見方もある。技術コンサルタントの河村秀紀さんらは、福島第一原発の図面などの公開情報をもとに試算した。敷地の放射線量が下がり、自由に出入りできる状態にする場合の放射性廃棄物は約780万トンになるという。日本原子力学会の分科会はこの試算を参考に、汚染された地盤などを残して継続管理とする「部分撤去」のシナリオについて検討した。廃棄物量を試算すると約440万トンとなる。放射性物質が自然に減るのを待つために数十年間の期間を挟めば、さらに約110万トンまで減らせるという。
●地元と対話で探る将来像
 政府と東京電力は福島第一原発の廃炉完了の姿を明確にしていない。更地をめざすのか、一部の施設が残っても完了とみなすのか。ゴールはあいまいだ。福島県は燃料デブリを含む放射性廃棄物をすべて県外で最終処分するよう、繰り返し求めている。だが、処分地探しなどの議論は進んでいない。原発事故を後世に継承できるよう、一部を「遺構」として残すよう求める意見もある。廃炉の費用は東電が出すが、電気代の一部として国民の負担になる。政府は廃炉に必要な技術開発への支援などとして、毎年100億円以上を企業などに補助している。最新の見積もりでは廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用などは含んでいない。さらに膨らむのは確実で、廃炉の将来像は国民全体に関わる問題だ。日本原子力学会の分科会が示すように、将来像や時間のかけ方で発生する廃棄物の量は変わる。技術的な検討だけでは解決できず、社会的な合意形成が重要となる。昨年8月に始まった処理水の海洋放出では、政府は専門家会議での技術やコスト面からの議論を重視した。放出の方向性を固めた後に、地元や漁業者らへ説明して理解を得ようとした。だが、結論ありきの姿勢に幅広い納得は得られず、強い反発を招くことになった。福島では地元の住民や専門家、東電社員らが対話し、廃炉の将来像を探る「1F地域塾」が22年から続く。廃炉作業について助言する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」も今年6月、原発事故の避難指示が出るなどした13市町村で住民の声を直接聞く場を設けた。政府と東電はこうした取り組みを参考に、丁寧な対話を重ね現実的な工程を探るべきだ。

*3-2-2:https://www.asahi.com/special/10005/TKY201108240683.html (朝日新聞 2011年8月25日) 校庭利用の基準「20ミリシーベルト」撤廃へ
 学校の校庭利用をめぐる放射線量基準について、文部科学省はこれまで示してきた「年間20ミリシーベルト」の目安を撤廃する方針を固めた。基準を定めた今年4月と比べて線量が大幅に減ったため。児童生徒が学校活動全体で受ける線量を年間1ミリシーベルト以下に抑えるとの目標は維持するという。目標達成のため、学校で毎時1マイクロシーベルトを測定した場合は除染が必要との考えを示す予定で、26日にも福島県に通知を出す。ただし、校庭利用の制限基準とはしないという。東京電力福島第一原発の事故を受け、文科省は4月、福島県内の学校で毎時3.8マイクロシーベルト以上が校庭で測定された場合、校庭の利用を制限すべきだとの暫定基準を示した。子どもが年間に受ける放射線量が20ミリシーベルトに達しないよう設定された値だったが、保護者らから「上限20ミリシーベルトは高すぎる」との批判が相次いでいた。文科省はこの夏、基準を改めて検討。自治体による校庭の土壌処理も進み、福島県内の学校の線量は現在3.8マイクロシーベルトを大きく下回っていることから、「役割を終えた」としてこの基準を撤廃する考えだ。合わせて、年間被曝(ひばく)量を1ミリシーベルト以下にするとの目標を改めて示す。学校内では局所的に線量が高い場所があるため、こうした場所を把握するための測定や除染も呼びかける。測定方法をまとめた手引も公表するという。

*3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241114&ng=DGKKZO84780400U4A111C2KNTP00 (日経新聞 2024.11.14) ごみ屋敷、精神的支援に軸足、医師とも連携、包括的に対処
 悪臭や害虫の発生などで周囲に大きな影響を与えるごみ屋敷。居住者の自己責任と思われてきたが、疾患や認知症などの問題が影響するケースも多いことが分かってきた。自治体は当事者に寄り添った精神的な支援に軸足を移している。「ごみが壁のようになっていた」。愛知県内に住む自営業の40代女性は実父の家の状態を振り返る。2023年2月、父の入院を機に足を踏み入れると、服やティッシュ箱、缶などが室内にあふれていた。「父は昔から物を全く捨てられない性格。家族が訪ねても、中に入るのを嫌がられ状況がつかめなかった」という。事態に気づいた後は夫と週2回、1年以上通い、8割ほど片付けた。衛生上の懸念や親戚の反発、近隣住民からの苦情もあり、結局は家の解体を決めた。「自分も幼少期から20年ほど住んだ思い出があり、残せるなら残したかった」と複雑な思いもある。環境省の調査によると、全国1741自治体の38%が「22年度までの直近5年度で『ごみ屋敷』事案を認知している」と回答した。ごみ屋敷が形成される要因の一つに、生活への意欲を失い無頓着になる「セルフネグレクト」がある。ほかにも身体的、精神的な障害や特性があってごみが出せない例もある。認知症などにより判断能力が低下し、周りの環境を正しく認識できずに物をため込む場合もあり、事情は様々だ。ごみ屋敷はその居住者だけの問題と捉えられやすいが、実情は異なる。東京都立中部総合精神保健福祉センターの菅原誠副所長は「高齢単身世帯の増加などによる孤立や孤独などの問題も絡んでおり、ごみ屋敷は社会の縮図ともいえる」と話す。8月公表の総務省の報告書によると、181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患やその疑いがあるという。菅原さんは「住環境の改善に加えて支援に精神医学的な知見を入れる必要がある」と説く。当事者への精神的な支援を重視し、手厚く対応する自治体も出てきた。東京都足立区は23年、ごみ屋敷対策のために精神科医を配置した。職員は月1回、悩みや課題を相談できて実際の対応に生かせる。これまでの事例を分析したところ、問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題があることが分かった。ごみ屋敷対策係の小野田嗣也係長は「医療的な助言があると自信になり、現場としてとても助かる」と安堵感をにじませる。20年から3年間対応した70代男性の事例では、医師の指摘で解決に近づいた。当初は男性が区への不満を一方的に話すだけだった。職員が医師に相談すると「(1)自尊心を大切に向き合う(2)ごみ屋敷解決のための『支援』ならできると伝える」と本人の特性を踏まえた助言を得た。男性は支援という言葉に興味を示し、片付けを申し出たという。23年7月に「ごみ屋敷」条例を施行した浜松市の担当者は「制定で法的根拠をもって動けるほか、部署間の連携が取りやすくなった」と話す。看護分野に詳しい専門家などに意見を求められる体制も整えた。当事者への命令や行政代執行の前に相談する。今後は個別の例に対して助言をもらうことも視野に入れる。地域社会での包括的な支援も進む。福岡県の知的障害を持つ40代男性は20年に自宅にたまった不用品を捨てた。民生委員らが手伝ったほか、社会福祉法人は袋や車を提供してくれた。男性は「分別ができずに捨てられなかった」と話す。片付けに参加した自治会長に「いつでも教えるから持ってきて」と言われ、安心して捨てられるようになったという。地域での顔が見える関係作りは問題解決の一手になりそうだ。

*3-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD301N40Q4A131C2000000/ (日経新聞 2024年11月30日) プラ生産削減目標、100カ国超提案 条約交渉国の過半
 プラスチックごみを減らす初の条約作りを目指す政府間交渉で、100カ国超がプラ生産量の削減目標を設定するよう提案した。12月1日の交渉期限が近づくなか、生産削減に賛同する国の広がりを示して受け入れを迫る。提案書を出したのは欧州連合(EU)に加盟する全27カ国やスイス、カナダ、オーストラリア、メキシコ、パナマなど。島しょ国のフィジーやアフリカのケニアも加わった。政府間交渉に参加中の約180カ国、国連に加盟する193カ国の半数を超えた。生産規制には中東産油国やロシアが抵抗しており、交渉国間の隔たりが大きい。日本は一律の生産規制に慎重で提案に加わっていない。100を超える国々は11月末までに交渉事務局の国連環境計画(UNEP)に対して文書を提出した。パナマがEU加盟国を含む80を超える国の幹事として提案書を起草した。11月25日に始まった政府間交渉の場で、参加国が追加提出した提案書をもとに日本経済新聞社が集計した。プラのほとんどは石油由来で、生産時に大量の温暖化ガスを排出する。ポイ捨てが原因で海洋などに流出したプラが環境汚染を引き起こしたり、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響を及ぼしたりしているとの指摘もある。こうした汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要があるというのが提案国の主張だ。これらの国は以前からプラの「削減」あるいは「持続可能な生産」への切り替えを掲げてきた。条約をめぐる政府間交渉委員会の全体会合ではロシアや産油国が生産規制について繰り返し反対している。100を超える国々は交渉期限間際に改めて提案書を出すことで、多数の国が生産削減に賛同していることを示すのが狙いとみられる。

*3-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1366805 (佐賀新聞 2024/12/1) プラ条約、合意先送りへ、生産規制巡り溝埋まらず
 プラスチックごみによる環境汚染を防ぐための国際条約作りを進める政府間交渉委員会は1日、全体会合を開き、ルイス・バジャス議長が、この会合で目指していた条約案への合意を先送りすることを提案した。議長は「私たちの作業は完了からはほど遠い」と述べた。最大の焦点となっているプラスチックの生産規制を巡り、厳しい規制を求める欧州連合(EU)側と、プラスチックの原料となる石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらないことが背景にあるとみられる。韓国での今回の交渉委は条約案を取りまとめる最終会合の位置付けで、各国の代表団が1週間にわたり議論した。だが会期末のこの日までに合意が得られず、今後の交渉も難航が予想される。生産規制を巡っては、パナマやEU、島しょ国など100カ国以上が、条約発効後に開く第1回の締約国会議での国際的な削減目標の採択を提案。中東諸国側は「(条約は)あくまで廃棄物対策に絞るべきだ」と反対している。

*3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN10EIA0Q4A410C2000000/ (日経新聞 2024年4月11日) 米政府、飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満に
 米環境保護局(EPA)は10日、人体への有害性が指摘されている有機フッ素化合物「PFAS」について飲料水における含有基準を決めた。日本が定めた暫定基準値の1割未満に相当する厳しい水準にした。米連邦政府がPFASを巡り、強制力のある基準を定めるのは初めて。PFAS規制を巡る日本の議論にも影響を及ぼす可能性がある。EPAはPFASのなかで毒性が強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を1リットル当たり4ナノ(ナノは10億分の1)グラムと定めた。強制力のない目標値はゼロにした。両物質の合算で同50ナノグラムとする日本の暫定基準を大幅に下回る。「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を1リットル当たり10ナノグラムと定めた。新規制は全米6万6000の水道システムが対象となる。水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定し、情報を公開するよう求める。基準を超えるPFASが測定された場合、5年以内に削減するよう対応を求める。EPAは、新基準に対応が必要となる水道システムを全体の1割程度と推定している。対応費用は全体で年間およそ15億ドル(約2300億円)と見積もった。EPAは新規制で「PFASにさらされる人が約1億人減り、数千人の死亡を防ぎ、数万人の重篤な病気が減る」と理解を求めた。水道を運営する州や自治体に対し、PFAS検査や対応を支援するため約10億ドルを提供する。水道事業者が加盟する非営利団体の米国水道協会(AWWA)は声明を出し「公衆衛生を保護する強力な飲料水基準を支持する」と規制の設定に支持を表明した。新基準に対応するための費用負担はEPAの試算値の「3倍以上になる」と指摘し、多くの地方で水道料金の値上げにつながると懸念を示した。バイデン政権は2021年の発足以来、PFASの規制強化に取り組んできた。EPAは21年10月、飲み水や産業製品、食品などに含まれるPFAS量を調べたり、飲料水の安全基準を引き上げたりするなど3年の工程表を公表した。毒性が強い6種類のPFASを有害物質に指定し、規制の枠組みづくりを進めてきた。直近ではPFAS汚染に企業の責任を問う動きも広がる。23年には、公共水道システムのPFAS汚染の責任を問う訴訟で、製造元の米化学大手スリーエムとデュポンが相次いで巨額の和解金の支払いに合意した。
▼有機フッ素化合物「PFAS」 4700種を超える有機フッ素化合物の総称。数千年にわたり分解されないため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水や油をはじき、熱に強いなどの便利な性質から、消防署で使う消火剤や、フライパンの焦げ付き防止加工まで、幅広い産業品や日用品に使われてきた。PFASのうち「PFOS」と「PFOA」は毒性が高いとされている。自然界に流出すると、土壌に染み込むなどして広範囲に環境を汚染する。環境省が国内の河川や地下水への含有量を調べた結果、2022年度は東京、大阪、沖縄など16都府県の111地点で国の暫定目標値を超えていた。沖縄県では過去にも米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されており、健康被害への不安が根強い。

*3-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1365559 (佐賀新聞 2024/11/29) 2割の水道でPFAS検出、46都道府県、332事業
 発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出されている問題を巡り、環境省と国土交通省は29日、水道水の全国調査結果を公表した。2024年度に富山県を除く46都道府県の332水道事業でPFASが検出された。検査を実施した全国1745水道事業の2割に相当する。PFASに特化し、小規模事業者にも対象を拡大した大規模調査は初めて。PFASの代表物質PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という国の暫定目標値を超えた水道事業はなかったが、岩倉市水道事業(愛知県)と新上五島町水道事業(長崎県)、むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出された。調査は5月下旬から9月下旬に実施。対象は給水人口が5千人超の上水道や101~5千人の簡易水道など。浄水場の出口水や給水栓から出る水の水質を調べた。社宅などで使用する専用水道は現在集計中のため今回の発表に含まれていない。現在は暫定目標値を超えても水質改善などの対応は努力義務にとどまる。浅尾慶一郎環境相は29日の閣議後記者会見で、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げし、対応を法的に義務付けるかどうか25年春をめどに方向性を示すとした。今回調査では「水道法上の測定義務がない」として20年度以降、一度も検査を実施していない水道事業が一定数確認された。20~23年度に暫定目標値を超えた事業数は20年度は11、21年度は5、22年度は4、23年度は3と低減傾向だった。国交省は高濃度で検出された事業者向けに、国内12カ所で実施されたPFASの対応事例集を公表した。PFASは近年、日本水道協会の水道統計でも検査項目の一つとして調べられているが、対象は規模の大きい水道事業などに限定。今回は小規模な簡易、専用水道にも対象を広げた。有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。1万種類以上の物質があるとされる。耐熱や水、油をはじく特性から布製品や食品容器、フライパンのコーティングのほか、航空機用の泡消火剤に使われてきた。有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となっており、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが21年に輸入や製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された。

*3-4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16097877.html (朝日新聞社説 2024年12月3日) 水道PFAS 実態と影響 調査続けよ
 健康への影響が懸念される有機フッ素化合物(総称PFAS〈ピーファス〉)について、水道水の全国調査が公表された。直近では、国の目安である「暫定目標値」を超えた例はなかったが、昨年度までは超えていた例もあり、その大半の汚染源は特定されていない。安心して水道を使い続けられるよう、検査や影響の調査を継続しなければならない。国による水道水の全国調査は初めて。環境省と国土交通省が20~24年度の水道事業者など3755事業の検査状況をまとめた。20~23年度は計14事業で暫定目標値を超え、一方で今年度は9月末時点までで検査した1745事業で暫定目標値超えはなかった。比較的小規模な専用水道は集計中で後日、公表する。PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた。自然界でほとんど分解されず、生物に蓄積する恐れがある。沖縄の米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や、各地の工場周辺でも検出されてきた。それ以外でも、「思いがけない所から検出された例もある」と専門家は指摘する。岡山県では、使用済みの活性炭が置かれた場所が発生源と考えられた。検査を実施していない事業者は、取り組みを始めることが求められる。今回の結果について、環境省は、水源の切り替えなどの対策の効果があったと評価する。検出された例でも対策で目標値以下にすることができた。国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかけていく。検査と対策を進めれば、水道の安全性は高まる。住民への結果の速やかな公表は信頼関係を損なわないために不可欠だ。検出状況に応じて、健康調査などの対応を検討する必要もあるだろう。汚染があった自治体では、水源の井戸の一部使用停止や新たな水源の確保などを進める。血液検査を始めた自治体もある。沖縄県金武町では約3億円かけて新たな送水管を整備した。国は、検査や除去に関して財政や技術面で自治体を支援し、PFASでどんな健康への影響があるのか、調査と研究例の収集を進めてほしい。暫定目標値は、水質基準と違って公表や超えた場合の改善の義務はない。環境省は水質基準にすべきか検討を続けている。過剰な対策は混乱を招きかねないが、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整えなければならない。どんな制度が望ましいのか、国民が安全な水を安心して使えるよう探るのが国の責務だ。

<国際学力調査から>
PS(2024年12月6日追加): *4は、①2023年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)で、算数・数学・理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は小4理科で国際平均を上回ったが、それ以外は下回った ②文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている ③小4は、「楽しい」が算数は前回より7%減の70%・理科は2%減の90%で、「得意」が算数は9%減の56%、理科は5%減の81%  ④中2は、「楽しい」が数学で4%増の60%、理科は横ばいの70%で、「得意」が数学で1%減の39%、理科が2&減の45%となった ⑤理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った ⑥「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差 としている。
 学問は、ドラマや漫画と異なり、その場で「楽しい(満ち足りて愉快な気持ち)」と感じるよりは、(やり方によるが)やっているうちに面白さ(興味をそそられ心引かれること。例:仕事が面白くなった)がわかってくるものであるため、記事のうち「楽しい」の部分と増減部分を除くと、小4では、③のように、「算数が得意」としたのは56%、「理科が得意」としたのは81%で、中2では、④のように、「数学が得意」がとしたのは39%、「理科が得意」としたのは45%と、学年が上がるにつれて「得意」の割合が下がっている。
 これは、①のように、小4理科のみで国際平均を上回り、それ以外は下回ったという結果であり、②のように、文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としているが、苦手意識は学校だけではなく、メディアはじめ社会や家族からも発信されており、子どもは大人の真似をしながら成長し、成長に伴って大人の影響を大きく受けていくため、教師だけでなく、社会人を変える必要があるのだ。
 その証拠は、⑤⑥のように、理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%であるのに対し、中2数学では男子49%、女子28%と大きな差になっていることだ。そして、そうなる理由は、「女の子は理数系は苦手」「女の子は勉強が苦手と言わなければ生意気」「成長すれば、どうせ男の子に負ける」等々、周囲から苦手意識を促すようなことばかり言われて育つからである。私の場合は、社会からはそう言われて育ったが、家族が違ったのだ。
 しかし、いつも感じるのは、TIMSSは中学生までの学力しか調査していないことであり、高校2年生と大学2年生の学力も調査すべきだ。そうすれば、高校で文系と理系を分けている日本の理系学力は驚くほど低く、大学2年生ではさらに低くなるため、OECDでもG20でも最下位に近くなって、教育システムや教え方に関する良い反省材料になると思うのである。


2024.12.6西日本新聞 2024.12.4Goo        2024.9.23Coki

(図の説明:左図は、TIMSS2023の順位と平均得点で、小学4年は算数5位・理科6位、中学2年は数学4位・理科3位と上位にいるが、高校・大学での調査はなく、こちらの方が悪そうだ。また、中央の図は、小学4年と中学2年の数学・理科に関する得意度で、学年が上がると男子の方が女子よりも[得意]と答えた人の割合が上がる。右図は、日本が直面している教育システムの課題について聞いたもので、どの世代も「教員教育の不十分」「時代遅れのカリキュラム」「公的資金の不足」を挙げているのは尤もだが、世代によって割合が異なるのは興味深い)

*4:https://news.goo.ne.jp/article/kyodo_nor/nation/kyodo_nor-2024120401001406.html (Goo 2024/12/4) 平均より上、小4理科のみ 「勉強は楽しい」「得意」の割合
 2023年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)によると、算数・数学と理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は、小4理科で国際平均をそれぞれ6ポイントと16ポイント上回ったものの、それ以外は4〜11ポイント下回った。文部科学省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている。小4では、「楽しい」の割合が算数で前回より7ポイント減の70%、理科は2ポイント減の90%。「得意」は算数が9ポイント減の56%、理科は5ポイント減の81%だった。中2は、「得意」が数学で1ポイント減の39%、理科が2ポイント減の45%、「楽しい」は数学で4ポイント増の60%、理科は横ばいの70%となった。理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った。「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%。「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差があった。

<カネと不倫で足を引っ張るえせ“民主主義”について>
PS(2024年12月7日追加):*5-1-1のように、2024年10月の衆議院議員選挙後に議員数を4倍に増やして“103万円の壁”を突破すべく交渉していた国民民主の玉木代表は、*5-1-2の不倫問題をきっかけとして3カ月間の役職停止処分となった。国会議員・公務員はじめ各界のリーダーになろうとする人は、他の人が身辺を粗探ししても何も出ない生活をしておく必要があるため、「玉木氏は脇が甘すぎた」とは言える。しかし、「処女」「やまと撫子」などの言葉は死語となりつつあり、メディアにおける性の不道徳は不潔で見ていられない程であるのに、玉木氏やトランプ氏の不倫を批判した人たち自身は批判する資格があるのかを私は問いたい。何故なら、民主主義は、政策論争をする限りは有意義だが、個人が聖人のような生活をしてきたか否かに関して粗探しする場になると時間を空費し、独裁主義の方がよほど効率的になるからである。
 また、*5-2-1・*5-2-2・*5-2-3のように、韓国の尹大統領が12月3日夜に、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言されたことには私も驚いたが、尹大統領の「非常戒厳宣言」のおかげで世界中が現在の韓国が置かれている立場を理解したと言える。その「非常戒厳宣言」は、与野党や市民の強い反発で12月4日未明には解除が表明され、その後、韓国与党「国民の力」の韓代表が、尹大統領の「速やかな職務執行停止」を要求したり、野党が尹氏の弾劾訴追案の可決に向けて与党の切り崩しを図ったりしている状況だそうだ。
 しかし、そもそも尹大統領が選挙で大敗し、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が予算案や法律案の通過を次々と阻止して政治の停滞を招く結果となった原因には、i)2023年12月、韓国の国会が尹大統領の妻が株価操作事件に関与したとして「特別検察官」を任命する法案を可決し、尹大統領が2024年1月に拒否権を行使したこと ii) 尹大統領の妻が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる(くだらない)疑惑をかけられ、韓国ソウル中央地検は10月2日に「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」という理由で不起訴処分としたこと 等々、本人の人格否定ができなければ妻の人格を否定すべく粗探しをして中傷に結びつける民主主義とはかけ離れた人権無視の態度があったと思う。さらに、韓国では、大統領になると次は監獄に行くという事態が続いており、このような形で司法が活躍する社会は、とても民主主義国家とは言えないのである。

*5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSCW342QSCWUTFK00FM.html?comment_id=30148&iref=comtop_Appeal4#expertsComments (朝日新聞 2024年11月27日) 「全国の女性を敵に回した」と憤る連合 玉木氏が不倫問題で謝罪
 国民民主党の玉木雄一郎代表は27日、党の支援組織である連合の芳野友子会長と国会内で会談し、自身の不倫問題について「期待と信頼を裏切る結果になったことに心からおわびを申し上げたい」と謝罪した。芳野氏は会談後、記者団に「信頼回復に向けご努力をいただきたい」と述べ、玉木氏の進退については「ご本人が考えることだ。その考えを尊重する」と語った。ただ、不倫問題に対し、連合内では「参院選に影響が出る。全国の女性を敵に回した」との厳しい声も出ている。会談では来年夏の参院選に向けた対応も協議。国民民主、立憲民主党に連合を加えた3者で、原発を含むエネルギーなどの基本政策について協議していくことを確認した。

*5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/352e4eb116d971b16a0a59108237a6445e9718de?page=1 (Yahoo 2024/11/15) 玉木代表の不倫相手“元グラドル”を男性は絶賛、女性は同情…のワケ。「あふれ出るB級感に悲しみを感じる」
 11月11日、国民民主党の玉木雄一郎代表(55)が、香川県の高松市観光大使を務めるタレント・小泉みゆき(39)と不倫関係にあることが、週刊誌『FLASH』の電子版『SmartFLASH』により報じられた。10月27日に投開票が行われた衆議院選挙で28議席を獲得するなど大躍進を見せた国民民主党。その立役者である玉木代表のスキャンダルに多くの有権者から失望の声が寄せられている。ただ、今回の不倫報道にSNSでは玉木バッシングだけではなく、もう一つ別の角度からの声が少なくない。それは不倫相手の小泉の容姿に言及するものだ。そういったコメントを見ていると、男女で意見が大きく異なっている印象を受ける。男女間で小泉に対する声がどのように違うのか考えたい。
●男性からは「この人相手なら、不倫するのも仕方ない」と絶賛も
まず男性の意見は小泉の容姿を絶賛する傾向が強い。目元が大きく、サラサラした髪が特徴的な顔に好感を示す声は少なくない。また、スキャンダルが報じられた記事内では、ボディラインがはっきりと見えるパツパツの服を着た小泉の写真が何枚も添付されており、その妖艶な身体つきに「不倫するのも仕方ない」と玉木の不倫を肯定する声もかなり寄せられていた。小泉があまりに“エチエチ”すぎたがゆえに、玉木の情状酌量を訴える人が続出しているが、実際のところ小泉が男性に魅力的に映るのは理解できる。やはりボディラインがまるわかりの服を着ていると、否応なしに男性の性的興奮を高める。クリクリした目元も“小動物感”を演出しており、男性の支配欲・守ってあげたい欲をより一層駆り立てている印象。小泉は現在39歳ではあるが、そのファッションセンスはとても幼い。どことなく“痛さ”を覚えるが、「痛い」は「天然」「ドジっ子」と変換できる。虚栄心の強い男性からすれば、そういったデメリットを持つ女性のほうが好都合。“自分の思い通りに支配しやすい女性”と想起させ、むしろ安心感を与えるのだろう。隙が多い女性がモテるのはそういった背景が大きい。男性が小泉に惹かれるのも無理もない。
●女性からは「あふれ出るB級感」「権力者に遊ばれて気の毒」
一方、女性のものと思われる声を見てみると、小泉の容姿には否定的。年齢不相応のファッションセンスに嫌悪感を示す人ばかり。中には、40歳手前であるにもかかわらず、腕時計をはじめとしたアクセサリーを身に付けている写真が一切ないことに懐疑的な見解を示す“観察眼の鋭い人”から声も見られた。実際のところ、女性は小泉のビジュアルをどのように捉えているのか。取材するとパンチの利いた声が集まった。「一部でバッシングされてますけど、単純に『容姿に嫌悪感』というより、なんていうか、あふれ出るB級感に悲しみを感じるんですよね。39歳ではもうレースクイーンなどの稼業は無理、これといったキャリアもなくて、玉木程度のショボい権力者に遊ばれて、お飾りのような『観光大使』の職まで奪われそうになっている」(40代女性)。「あのパツパツのTシャツも膝上30センチくらいのミニスカも、今のトレンドとは真逆だし、街で振り返られるぐらい珍しい。いまもその土俵で勝負せざるを得ないのが悲しいです。 でも、手が届きそうな感じがあるほうが、男性はグッとくるのもわかります。本人もわかってやってるはずですよ。あのお顔とボディなら、もっとステキになれるはずなのに」(50代女性)。
●“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い
「もし小泉さんが自力で何かをなしとげていて、生き生きして、自分の好きなものを着てるなら、40でも50でもミニスカでステキに見えますよ。でも、そうじゃないことに、世の女性は気づいてしまっているんです」(50代女性)。各女性の言い分から察すると、今回のスキャンダルを“小泉が男性ウケに振り切ったがために起きた悲劇”と捉えており、“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い。たしかに小泉の容姿を否定しつつも、小泉の“軌跡”を想像して憐れむ声が散見される。つまりは、「男性は容姿に対する表面的な感想」「女性はその容姿から想像される小泉の生き様に関するお察し」に大きく分類できそうだ。
●“不倫両成敗”ではない、女性だけが割を食う哀しさ
男女の見解が異なる背景が見えてきた。ただ、まだまだ釈然としないことがある。今回のスキャンダルを受け、小泉は自身のX、Instagramなどのアカウントを削除。小泉が19年12月から香川県高松市観光大使を務めてきたが、各メディアの取材に対して高松市は「解職も含め検討している」と回答している。また、7年前に退社したものの当時所属していた芸能事務所には小泉の公式プロフィールが残っていたが、12日までにそのページは削除された。小泉は窮地に追い込まれている中、玉木は代表の座を降りずに続投する見通しだ。小泉と同じように玉木も何かしらの責任を取るべきではないか。玉木が今後どのような対応を見せるのかも注目したい。

*5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241207&ng=DGKKZO85315040X01C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.7) 尹氏停職、与党代表が要求 狭まる包囲網、弾劾案採決へ 国防省、司令官の職務停止
 韓国与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は6日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「速やかな職務執行停止」を要求した。野党は尹氏の弾劾訴追案の可決に向け与党の切り崩しを図る。尹氏への包囲網が狭まってきた。韓国メディアによると、最大野党「共に民主党」は弾劾案を7日午後5時に採決したい考えだ。国会は弾劾案を8日未明までに議決する必要がある。韓氏は6日の党会議で、尹氏が軍の防諜(ぼうちょう)司令官に主要政治家を逮捕するよう指示した事実があると説明した。「信頼できる根拠を通じて確認した。政治家を逮捕し、収監しようとする具体的な計画も把握した」と述べた。国家情報院の次長は6日、逮捕リストに韓氏や野党の代表らが含まれていたと国会議員に明らかにした。韓氏は国会議員ではなく、弾劾案への投票権はない。韓氏が尹氏を批判する一方、与党内には尹政権を形だけでも維持し、大統領選までの時間を稼ぐべきだとの意見もある。大統領が弾劾となれば次期大統領選で不利な立場に置かれるとの懸念が渦巻く。与党は6日、断続して議員総会を開いた。党の報道官は同日深夜、弾劾案に反対するという党方針を維持すると明らかにした。7日午前9時に議員総会を再招集するとしている。与党の指導部から尹氏に党内の意見を伝え、尹氏は「議員の話の意味をよく傾聴し、よく考える」と応じたと説明した。与党側は尹氏の対応を見極めているとみられる。聯合ニュースによると、韓氏は6日の尹氏との会談後、党所属議員に「私の判断を覆すほどの言葉は聞いていない」と話したという。与党が弾劾案に反対すれば世論の批判は免れず、造反票が出るかが焦点になる。所属議員の安哲秀(アン・チョルス)氏は尹氏が退陣しないなら弾劾に賛成すると明言した。弾劾案の可決には国会(定数300)の在籍議員の3分の2に当たる200議席以上の賛成が必要となる。108議席を占める与党「国民の力」から8人以上の賛成が要る。警察と検察の当局は6日、非常戒厳を巡ってそれぞれ特別捜査体制を組んだ。警察は120人あまりの専門捜査チームで本格捜査に着手。検察は軍の検察機関と合同で捜査にあたる。国防省は6日、非常戒厳に関わったとされる陸軍の首都防衛司令官、特殊戦司令官、防諜司令官の3人の職務を停止したと発表した。それぞれ別々の場所で待機措置とし、各司令部に職務代理を置いた。国会は終日、騒然とした状況が続いた。午前には野党の政治家や支持団体が集まり、尹氏の弾劾を求めて声を上げた。尹氏は4日未明に非常戒厳の解除を宣言して以降、公の場に姿を見せていない。「尹氏が2度目の非常戒厳宣言を出す可能性がある」といった報道も緊張を高めた。3日の非常戒厳を巡る軍の動きは金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相が指示を出したとの証言がある。国防相の職務を代行している金善鎬(キム・ソンホ)国防次官は「もし戒厳発令の要求があっても、国防省と合同参謀本部はこれを絶対に受け入れない」と明言した。禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は「第二の非常戒厳は許されない。万が一誤った判断があったら国会議長と国会議員はすべてをかけて阻止する。軍と警察は憲法に反する不当な命令に応じずに、制服を着た市民としての名誉を守ってほしい」と呼びかけた。

*5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASSD40D5RSD4UHBI00QM.html?iref=pc_extlink&_gl=1*iw58rc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年12月4日) 尹大統領とは何者か 酒豪の親日家、検察出身で「友達人事」に批判も
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言した。だが、与野党や市民の強い反発を受け、一転、4日未明に解除を表明する事態に追い込まれた。尹氏とは一体、どんな人物なのか。尹氏は1960年、ソウル生まれ。検察トップの検事総長だった2020年12月、捜査妨害や政治的中立性違反などの疑いで、当時の文在寅(ムンジェイン)政権の法相から懲戒処分を受けた。有力な政治指導者がいなかった保守勢力が、「反文在寅の象徴」として尹氏を担ぎだし、22年3月の大統領選では僅差(きんさ)で勝利した。尹氏は政治家としての経験がないため、当初から人脈や指導力が不安視されていた。閣僚や政府高官に次々と検察出身者や大学時代の旧友らを起用した。各国の大使や有力政治家が出席した22年5月の大統領就任式には、検事総長時代にソウルの日本大使館に勤務していた検事を招待し、周囲を驚かせた。
●妻の疑惑に拒否権を行使したことも
 強大な人事権を握る韓国大統領は「王様と帝王を合わせたような権力者」(元大統領府高官)とされる。関係筋によれば、尹氏がある日、側近の閣僚にソウル大学当時の旧友の近況を尋ねた。側近はすぐ、この旧友に連絡を取り、政府関係機関のトップとして起用したという。こうした忖度(そんたく)ともいえる空気が非常戒厳を宣言する背景の一つにもなったと言える。親しい人物を重用する政治の極みが妻、金建希(キムゴニ)氏の存在だった。韓国の国会は23年12月、金氏が株価操作事件に関与した疑いで「特別検察官」を任命する法案を可決したが、尹氏は今年1月、拒否権を行使した。世論の不満が高まり、支持率が2割を切る事態に至り、尹氏は11月の記者会見で陳謝する事態に追い込まれていた。韓国では若者の就職難や不動産価格の高騰などから、政治に対する不信感が増大している。国会で過半数を握る最大野党・共に民主党が、予算案や法律案の通過を次々と阻止し、政治の停滞を招いたことも一因だが、世論の不満は尹氏の「わかりやすい独断政治」に向けられる事態になっていた。
●岸田氏と夜遅くまで酒を飲み交わした
 尹氏は親日家としても知られる。就任直後には、新型コロナウイルスの感染拡大で停止していた羽田・金浦両空港の直行便再開を指示。日本企業に賠償支払い命令が出ていた徴用工問題でも、韓国側が賠償金相当額を肩代わりする解決策を発表。冷え込んでいた日韓関係の急速な改善につなげた。日韓外交筋によれば、石破茂首相が来年1月上旬に訪韓する際、「来年の日韓国交正常化60年を契機に、両国関係をさらに発展させる」ことで合意する方向で調整していたという。尹氏は酒豪でも知られる。23年3月、大統領就任後初めて日本を訪れた際、岸田文雄首相(当時)と遅くまで痛飲した。酒席が終わらず、金建希氏が声を荒らげて止めたという。ソウルでの日本政府関係者を招いた酒席では、お土産に持参された度数40度以上の芋焼酎をいきなり開封し、オンザロックで出席者とともに回し飲みしたとされる。野党側は、混乱を招いた責任を追及するとして、尹大統領に辞任を求めている。弾劾(だんがい)決議案の発議には国会(定数300)の過半数、決議には3分の2の賛成がそれぞれ必要。4月の総選挙で大勝した野党勢力は3分の2に肉薄する議席を確保しており、与党の一部が離反すれば、弾劾が決議される可能性もある。与野党は世論の動向を注視したうえで、今後の方針を判断するとみられるが、低支持率の尹大統領の弾劾を求める声が高まる可能性が強い。非常戒厳に対する国民の反発は強く、決議されれば、最終的に憲法裁判所も弾劾を認める可能性もある。

*5-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSB233WBSB2UHBI022M.html?iref=pc_extlink&_gl=1*1qazrlc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年10月2日) 韓国大統領の妻、検察が不起訴処分に 高級ブランドバッグ授受疑惑で
 韓国のソウル中央地検は2日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の妻の金建希(キムゴニ)氏が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる疑惑をめぐり、不起訴処分(嫌疑なし)としたと発表した。理由について「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」としている。疑惑を追及してきた野党は反発している。金氏は知人の在米韓国人の牧師からバッグを受け取ったとして、請託禁止法違反などの疑いがもたれていた。検察は7月に金氏を事情聴取するなど捜査を進めてきた。金氏の疑惑をめぐっては、国会で多数を占める野党が主導して、政府から独立した特別検察官を任命するための法案を9月に可決したが、尹氏は2日、拒否権を行使した。進歩(革新)系最大野党・共に民主党は2日、尹氏が検察出身であることを念頭に「検察は大統領府が望む結論を出した」と批判した。金氏の疑惑は「金建希リスク」と呼ばれ、尹氏の支持率低迷の理由の一つとされている。金氏はドイツ車の輸入販売会社の株価操作に関与したとされる疑惑ももたれており、検察は捜査を続けている。

<政治雑感>
PS(2024年12月8日追加):*6-1-1のように、6階建マンションの最上階にある猪口邦子参院議員宅から出火し、国際政治学者で東大名誉教授の夫孝氏と長女が亡くなった。しかし、i)最初のテレビの画像では何かが爆発したような燃え上がり方だった ii)出火原因が特定されないのに事件性はないとされた iii)最初は台所からの失火と言われたが、燃え方が激しかったのは応接室だった iv)事件性は外部から侵入して油をまくことに限っている 等の不自然さがあってすっきりしない。猪口氏は、私と同期の2005年の郵政解散で衆議院議員となり、2005年に内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)になられ、私の提言も受けて少子化対策を行って、その結果、合計特殊出生率は2005年の1.26から2015年は1.45まで上がった。少子化の真の原因は、*6-1-2に纏められているとおりだと思うが、2016年以降に合計特殊出生率が下がり始めたのは、物価上昇による生活費の高騰、都市部マンションの高騰、高齢になった時の準備、教育費の高騰など、多くの子を育てる費用を捻出できなくなったことが原因であろう。
 また、*6-2のように、仙台市秋保地区周辺のメガソーラー建設計画については、地元の町内会や温泉組合など10団体が、景観悪化や森林伐採による土砂崩れの懸念のため、郡和子市長に建設中止を要望されたそうだ。私も、自然豊かな景観を悪化させたり、土砂崩れのリスクが増したりするだけでなく、CO₂の吸収源自体を失うことになるため、森林を伐採してメガソーラーを建設するのは止めた方が良いと思う。そのため、これまで作ったメガソーラーも下を放牧地等にして二重に利用したり、今後メガソーラーを作るとすれば農地に併設する形で作ったりし、森林に設置するのは風力発電機にした方が良いと思うわけである。
 さらに、*6-3のように、佐賀平野のクリークののり面劣化が進んでいたため、全703kmの護岸工事を進め、県は東西を走る「横幹線」や支線など約580kmを担当して木柵による護岸工事を行い、国は南北を走る「縦幹線」約170kmを担当して植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどして整備しているそうだ。整備が進めばクリークの貯留容量が増えて災害対策効果向上が期待できるのは良いことだが、せっかくクリークの整備を進めるのなら、水をたたえたクリークのある風景は希少で美しいため、両岸に水をよく吸って根が張り、桜のような花が咲くアーモンドを植えると、公園以上の田園風景になるのに、と思った。


  2023.3.1東京新聞    2023.5.3日経新聞       Zehitomo

(図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で、2005年に最低の1.26を記録してから2015年の1.45までは上昇した。また、中央の図は、合計特殊出生率の推移のみを大きな縮尺にして表したもので、同じ結果が出ている。それでは、どうやって生産年齢人口不足を解決するのかと言えば、右図で75歳までを生産年齢人口と考え、それと同時に機械化も進めれば、年金問題と同時に当面の解決はできそうだ)

    
     地域の礎       横尾土木(株)     2024.12.7佐賀新聞

(図の説明:左は、有明海を干拓して農地を広げた筑後川流域の航空写真で、クリークが不規則に曲がりくねっているため、大型機械が入りにくいとのことである。そこで、中央のように、まっすぐにしてクリークを広げ、木材やコンクリートでのり面を補強しており、右は植生を妨げないコンクリートで補強したところだが、水をたたえたクリークのある風景は少ないため、せっかくなら両岸に水をよく吸って根が張るアーモンド《花は桜と同じ》を植えると、さらに美しい田園風景になりそうだ)

*6-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/370859 (東京新聞 2024年12月1日) 「事件性はなく失火」か…猪口邦子参院議員宅、出火原因は未特定 死亡は夫・孝さんと長女と確認
 東京都文京区にある自民党の猪口邦子参院議員(72)の自宅マンションで2人が死亡した火災で、警視庁捜査1課は1日、死亡したのは夫で国際政治学者の孝さん(80)と、長女(33)と判明したと発表した。いずれも死因は焼死だった。出火原因は特定されていないが、事件性はなく失火とみられる。同課は、特に燃え方が激しかった応接室から出火したとみている。室内にストーブはなく、ライターなどの着火物もなかった。外部から人が侵入した形跡や、室内に油をまいた跡も確認されなかった。死亡した2人は台所付近で倒れているのが見つかった。火災は11月27日午後7時10分ごろに発生。6階建てマンションの最上階150平方メートルが全焼した。一家は4人暮らし。猪口氏と次女は外出中で無事だった。28、29日の2日間にわたり実況見分が行われていた。死亡した孝さんは政治学や国際関係論が専門の東大名誉教授。

*6-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD180MY0Y4A111C2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 少子化の真の要因は何か 近藤絢子・東京大学教授(1979年生まれ。東京大経卒、コロンビア大博士(経済学)。専門は労働経済学)
○80年前後に生まれた女性の出産数は微増
○背景に出産後も就業継続できる環境整備
○足元の出生率低下は固定観念離れ分析を
 少子高齢化は日本経済が直面する最大の課題の一つである。選挙のたびに少子化対策が焦点になり「若年層の経済状況の悪化が少子化の元凶である」「若年層の雇用を安定させ、収入を増やせば子供は増える」との主張が繰り返される。若年層の経済状況の悪化と少子化を結びつける議論は、1970年代前半生まれの第2次ベビーブーマー世代が30代を迎えた2000年代ごろから盛んになった。バブル崩壊後の「就職氷河期」によって若年層の収入が減り、非正規雇用が増えたことで少子化が加速しているという論調だ。たしかに第2次ベビーブーマー世代が大学を卒業するころに就職氷河期が始まり、彼らの出産適齢期に第3次ベビーブームと呼べるほどの出生数の増加が起こらなかったのは事実だ。以来、就職氷河期世代が子供を持てなかったために少子化がさらに進行したというのが通説となっている。しかし未婚化・少子化の傾向は氷河期世代が生まれる1970年代からすでに始まっていた。90年代以前は、女性の社会進出が進んで結婚・出産に伴う機会費用が上昇したことが少子化の主な要因とされてきた。事実、バブル期も合計特殊出生率は下がり続けていた。そして第2次ベビーブーマー世代より就職状況の悪かった80年前後生まれの世代では、むしろ出生率は下げ止まっていたのだ。
◇   ◇
 図は、人口動態統計(厚生労働省)の母親の年齢別出生数と国勢調査(総務省統計局)の各歳別人口を用いて、生まれ年別に1人の女性が35歳及び40歳までに産んだ子供の数の平均を示したものだ。就職氷河期世代を「1993年から2004年の間に高校や大学を卒業した世代」と定義すると、生まれ年で1970〜85年生まれに相当し、第2次ベビーブーマーはその最初の5年間にあたる。確かに66年生まれの女性に比べると70〜85年生まれの女性が産んだ子供の数は少ない。しかし出生数の減少は主に66〜70年生まれの間で起きていて、40歳時点の平均出生児数は70年代前半生まれ、35歳時点は76〜77年生まれを底にわずかながら増加に転じている。最も景気が冷え込んでいた2000年前後に大学を卒業したのは1970年代後半生まれ、高校を卒業したのは80年代前半生まれだ。彼女たちはその上の世代よりもさらに厳しい雇用状況にさらされてきたはずだが、1人当たりの出生数は下げ止まっていたのだ。なぜ、この世代で1人当たりの出生数は下げ止まったのだろうか。おそらくは育児休業の期間や育児休業給付金の拡充、保育施設の整備、社会規範の変化などによって、出産後も仕事を続けられるようになったことが大きいのではないか。単なるタイミングの一致を因果関係と解釈することには慎重であるべきだが、若い世代ほど既婚女性の就業率や正規雇用比率が高いのは事実だ。労働力調査(総務省統計局)で1960年代後半生まれと80年代前半生まれを比べると、大卒既婚女性の30歳前後(卒業後7〜9年目)の就業率と正規雇用比率はそれぞれ8.2%ポイントと7.4%ポイント上昇した。他の学歴でも、卒業後7〜9年目の既婚女性の就業率は上昇している。背景には、第1子出産前後での就業継続率の上昇がある。出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、女性が第1子出産後も就業継続する割合は、85〜99年に出産した女性は24%程度で横ばいだったのが、2000年代に入ると上昇し始め、10〜14年には42%、直近の15〜19年では54%に達した。2000年代は、1970年代生まれが30代を迎える時期に相当し、既婚女性の就業率や正規雇用割合が上昇した時期と一致する。もう一つ無視できない要因として、体外受精をはじめ高度生殖医療の普及があるかもしれない。国による不妊治療の助成は2004年に開始され、22年の保険適用に至るまで段階的に拡充された。35歳時点と40歳時点の平均出生児数の差が拡大していることから、30代後半での出産数が増えていることが分かる。ここに高度生殖医療の普及が影響していた可能性がある。もっとも35歳までに産む子供の数への影響は限定的なので、出産後も仕事を続けられる環境整備が寄与した部分は大きいのではないか。2010年代は認可保育所の待機児童が問題となったが、保育所のキャパシティー自体は継続的に拡大していた。それに追いつかないほど就業を続ける母親が増えたことが、待機児童が増えた原因だったのだ。
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 ただし世代内の格差という視点で見ると、経済的に安定している方が子供を持ちやすいことも事実だ。昔から男性は経済力のあるほうが結婚し子供を持ちやすい傾向があるが、近年は女性にも同様の傾向が見られ、しかも若い世代ほどその傾向が強まっている。かつては高学歴でキャリア志向の女性ほど、仕事と家庭の二択に直面して、子供を持つことを諦める割合が高かった。しかし社会規範が変化し共働きが増えると、家庭と両立できるような安定した仕事に就いている女性のほうが子供を持ちやすくなってきたのだ。経済力の指標として、学校を卒業してすぐに正社員の仕事に就いた女性とそうでない女性を比較してみよう。卒業後すぐに正社員にならなかった女性は20代のうちはむしろ既婚率や子供がいる割合が高いものの、これはおそらく因果が逆で、若年妊娠の結果、就職する前に結婚・出産をする女性がいるためだろう。30代に入ると逆転し、正社員だった女性の方が既婚率が高く子供の数も多くなる。学歴別で見ても、30歳代後半以降で同じ世帯にいる子供の数は、大学卒ではやや増加傾向にあるが、高校卒では減少傾向にある。かつては大卒の女性は高卒の女性よりも結婚や出産をしない傾向があったのだが、ちょうど1980年前後生まれのあたりで大卒と高卒の子供の数が逆転した。こうした経済力による世代内格差の出現が「雇用の不安定化が少子化を招いている」という印象につながっているのかもしれない。世代内の経済格差が子供を持てるか否かにまで影響すること自体は看過できない問題だ。しかし近年再び出生率が急激に下がってきている原因は別のところにあるのではないだろうか。近年は人手不足から若年の実質賃金は相対的には上がっている。保育所にも余裕が出てきて育児休業の取得率も上がっているのに少子化は加速しているのだ。新型コロナウイルスによる行動制限で若い男女が出会う機会が失われたことや、医療へのアクセス不安から妊娠を控えた影響もあるだろう。しかし出生率の低下はコロナ禍の前から始まっており、行動制限がほぼなくなった23年以降も回復する兆しがみられない。都市部のマンション高騰、高齢化に伴う将来不安、過熱する教育投資など考えられる要因は幾つかある。何がいま出生率を下げているのか、一度固定観念から離れて考える必要がある。

*6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC248BG0U4A021C2000000/ (日経新聞 2024年10月24日) 仙台・秋保でメガソーラー計画 住民らが市長に中止要望
 仙台市の秋保地区周辺での大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画を巡り、地元の町内会や温泉組合など10団体は24日、郡和子市長に建設中止を要望した。景観の悪化や森林伐採による土砂崩れなどが懸念されるためとしている。秋保小学区連合町内会によると、沖縄県の企業が約600ヘクタールの山林に太陽光パネルと蓄電池の製造工場と、メガソーラーを整備する計画で、3月に地権者向けの説明会を開いた。2027年5月に工事に着手し、31年4月の操業を予定しているという。同会の大江広夫会長は「秋保地区は里山や温泉に代表される自然豊かな地域だ。国の脱炭素の政策は理解できるが、つくる場所を考えてほしい」と話す。

*6-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1370316 (佐賀新聞 2024/12/7) 佐賀平野のり面劣化、護岸工事703キロ必要 クリーク補修81%完了 計画遅れも2028年完了見込み
 のり面の劣化が進んでいた佐賀平野のクリークに関して、整備事業が進展している。佐賀県が2011年に打ち出した翌年度から12年間の整備計画で、総延長約1500キロのうち護岸工事などが必要な区間703キロで、本年度までに約81%にあたる572キロで補修が終了した。若干の遅れはあるものの、一部をのぞき、28年までの事業完了を見込んでいる。県農山村課によると、土がむき出しののり面が水位の上下や浸食で崩落している場所が目立ち、貯水機能や営農に支障をきたすおそれがあった。県では東西を走る「横幹線」や支線など約580キロを担当し、木柵による護岸工事を行っている。南北を走る「縦幹線」約170キロは国が担当し、植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどしてのり面の整備を行っている。県が整備する13地区のうち、佐賀市西部、上峰、神埼市千代田中央の3地区で整備が完了している。残り10地区についても着々と整備が進み、範囲の広い佐賀市川副をのぞいた9地区で28年までの事業完了を見込んでいる。事業完了が12年間の整備計画期間からずれ込む見通しとなった要因としては、旧民主党政権時代の「事業仕分け」で「農業農村整備事業関係予算」が大幅減額となったことなどがあるという。民主党政権前の2009年は5820億円だったが、政権交代後の12年には2187億円まで落ち込んだ。クリークではここ数年、大雨対策で事前放流を行い、約1200万トンの洪水貯留容量を確保している。整備が進めば貯留容量も増え、災害対策への効果向上が期待できる。江口洋久課長は「クリークの事前放流が佐賀の風土として定着してほしい」と話した。

<日本のサイバー・セキュリティーについて>
PS(2024年12月9日追加):*7-1は、①能動的サイバー防御の法整備には一定の条件の下で通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要 ②政府は有識者会議の最終提言を踏まえて、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする ③有識者会議の最終提言は、通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載 ④通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提で、提言は定期的な報告書公表などの適切な情報公開の必要性を訴え、独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集する問題がないかを調べる機能を備えて、憲法や通信の専門家らで構成する見通し ⑤監視対象はi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報で、日本から海外への通信も監視するのはマルウエアに感染した国内サーバーがあるため ⑥「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要とし、メールの中身をすべて見ることは適当でないと明記 ⑦膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないため、検索条件等を絞り、機械的にデータを選別すべきと唱えた ⑧経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向けて協議に応じる義務を課し、使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエア情報の国への登録を義務づける制度も提案 ⑨電力・ガス事業者等がサイバー攻撃に遭うと国民生活への影響が大きいため、重点的に監視対象へ ⑩有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラ等への攻撃も重点 ⑪「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」とした と記載している。
 まず、EUは、個人の人権を大切にし保護する個人主義が根底にあるのに対し、日本は、「防衛や企業のため」と称すれば個人の人権を疎かにすることが許される集団主義・全体主義の発想が根底にあり、それがEUと日本の法律及び運用の違いとなって出て来ているのである。
 そして、日本国憲法は、敗戦後に欧米の指導で作られたため、②のように、「通信の秘密」が憲法に記載されているのだが、日本政府は、①のように、能動的サイバー防御の法整備には通信情報の監視が必要として有識者会議を設定し、その有識者会議は、③のように「通信の秘密は、法律により公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と提言している。そして、憲法との整合性をとるために、④⑪のように、透明性確保や憲法や通信の専門家らで構成する独立の第三者機関のチェックを加えたようだが、“独立の第三者”というのは、メンバーの選び方によってどんな結論でも出せることが、経産省設置の原発推進派だらけの有識者会議や原子力規制委員会の適合性審査を見れば明らかなのである。また、政府が設置した有識者会議は、⑤⑦のように、監視対象をi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報としているが、そもそもサーバーのウイルス感染対策は、それぞれのサーバーが行なうべきで、日本政府にやってもらうべきものではないし、⑥の「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」を見ていただく必要など全く無いのである。
 さらに、⑧⑨⑩のように、国民の重要なインフラを担っていたり、有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラは、サイバー攻撃だけではなく、複合災害や武力攻撃に対するセキュリティーもやっておくのが当然であるため、今更、サイバー攻撃に的を絞って政府が監視するというのは、政府が国民を監視するためのこじつけにしか見えない。
 次に、*7-2は、⑫政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行するEUと比べて限定的 ⑬EUは、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて問題点を幅広く捉える ⑭EUは、デジタル市場法(DMA)と同時に企業に違法コンテンツ排除や偽情報拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定 ⑮EUは、2018年施行の「一般データ保護規則(GDPR)」で、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護 ⑯日本は包括的法整備には至らず、個人データ保護は規制強化に反対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる ⑰EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く設定 ⑱課徴金水準も、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%としたのに対し、EU の制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)と巨額 ⑲日本の経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」とする と記載している。
 EUは、⑬⑭⑮のように、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて、デジタル市場法(DMA)と同時に「デジタルサービス法(DSA)」を制定し、「一般データ保護規則(GDPR)」によって「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護する。しかし、日本は、⑯⑲のように、包括的法整備はせず、規制強化に反対するIT業界に応えて、個人データ保護はEUから大きく遅れているが、経済官庁幹部は「企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」としているのである。
 その結果、⑫⑰のように、EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く限定し、⑱のように、日本の課徴金水準は、EUの制裁金と比較して著しく低い。実際、私は、週刊文春に嘘八百の記事を書かれ、その偽情報が検索サイト上位で拡散されたことによって選挙結果を歪められたのだが、訴訟で人権侵害や侮辱は認められたものの、損害賠償金額は普通の人なら「訴え損」と思う程度の低い金額で、「(女性である)私が一生かかって築き上げた人格に対する誹謗中傷の値段は、たったこの程度か、ふざけるな!」と憤りを覚えた次第なのである。なお、虚偽で他人を陥れる行為は“表現の自由”で護られる範囲にはならず、憲法21条の「表現の自由」の範囲も人権侵害・人格権の侵害・セクハラ等の範囲の進展とともに狭くなっているため、メディアはじめSNSが“表現の自由”を武器に「何を言ってもいいだろ!」と主張できる範囲は、これらを除く範囲であることを忘れてはならない。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241130&ng=DGKKZO85152850Z21C24A1EA1000 (日経新聞 2024.11.30) サイバー防御、「通信の秘密」と両立探る、監視データは選別/定期的に情報公開
 能動的サイバー防御の法整備には平時から通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要になる。政府は29日に有識者会議がまとめた最終提言を踏まえ、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする。提言は重大なサイバー攻撃への対策には一定の条件の下で通信を監視する必要があると提起した。通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載した。監視対象は(1)日本を経由する海外間(2)海外から日本(3)日本から海外――の通信情報を想定する。海外から海外の通信は日本の海底ケーブルを経由するものが多く、中国やロシアなど懸念国のサイバー攻撃に関する情報の入手が期待できる。日本から海外への通信も監視するのはマルウエア(悪意のあるプログラム)に感染した国内サーバーが踏み台となって国内外への攻撃に悪用される場合があるためだ。「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要だと整理した。メールの中身を逐一すべて見るようなことは「適当とは言えない」と明記した。膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないと記した。検索条件などを絞り、機械的にデータを選別すべきだと唱えた。攻撃の標的となりやすいインフラ事業者には事前に同意を得ておくべきだとの考えも示した。経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向け「協議に応じる義務を課すことも視野に入れるべきだ」と書き込んだ。電力・ガス事業者などがサイバー攻撃に遭った場合、国民生活への影響も大きいため、重点的に監視対象とする。有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラなどへの攻撃も重点を置く。基幹インフラ事業者が使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエアの情報の国への登録を義務づける制度も提案した。攻撃の兆候がある相手サーバーに入って無害化する手法は「状況に応じ臨機応変な判断」が必要と指摘した。「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」と盛り込んだ。通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提となる。提言は定期的に報告書を公表するなど適切な情報公開の必要性を訴えた。独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集するといった問題がないかを調べる機能を備える。憲法や通信の専門家らで構成する見通しだ。提言は官民の人材交流や中小企業への対策支援の重要性も説いた。すでに能動的サイバー防御を導入している英国や米国などは情報の取得や処理のプロセスを第三者機関が監視する仕組みをもつ。政府は海外事例を参考に制度設計する。

*7-2:https://mainichi.jp/articles/20240418/k00/00m/020/316000c (毎日新聞 2024/4/18) スマホ新法、EUに比べデジタル規制は「限定的」 日本が遅れる理由
 政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行する欧州連合(EU)に比べると限定的だ。EUは巨大IT企業のビジネスモデルの問題点をより幅広く捉えている。市場支配によって公正な取引がゆがめられるだけでなく、個人データの乱用や偽情報の拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えるためだ。EUはデジタル市場法(DMA)と同時に、企業に違法コンテンツの排除や偽情報の拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定した。また、2018年に施行された「一般データ保護規則(GDPR)」により、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護している。個人データは巨大ITのビジネスモデルの核心だ。日本はこうした包括的な法整備には至っていない。特に個人データ保護の面では規制強化に対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる。DMAは巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、今回のスマホ新法は規制対象の範囲をスマホアプリ市場と狭く設定した。また、課徴金の水準を見ても、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%と定めたのに対し、DMAの制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)とより巨額だ。EUにはデジタル分野でのルール作りを主導することで、米巨大IT企業が牛耳るデジタル市場での影響力を確保する狙いがある。実際にEUの規制によって巨大ITがサービスのあり方の変更を迫られる例が相次いでいる。一方、政府は今後もさまざまなデジタル規制を検討していくとみられるが、ある経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべきだ」と話す。

<マイナ保険証のセキュリティーについて>
PS(2024年12月10日追加):*8-1は、①12月9日から救急患者を受け入れた病院が患者の意識がなく同意がなくてもマイナ保険証で使用中の薬や持病など過去の医療情報を閲覧できるシステムを運用開始 ②救命率向上・治療後生活の質の向上に繋がる可能性 ③例えば心臓・脳の血管が詰まって倒れた救急患者は血液サラサラにする薬を飲んでいると出血を起こしやすいので正確な薬の情報が重要 ④厚労省が開発する新システムは医療者が過去5年分の患者の受診歴・処方された薬剤・診療・健診等の情報と過去100日分の電子処方箋情報等が閲覧可能 ⑤今後はマイナ保険証なしでも名前・生年月日・性別・住所の4情報がわかれば閲覧可能 ⑥消防庁もマイナ保険証を使って救急隊が患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備し119番通報した家族らに患者本人のマイナ保険証を準備しておくよう依頼 としている。
 また、*8-2・*8-3は、⑦政府は国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証廃止を閣議決定 ⑧2024年12月2日から新規の保険証発行ができなくなる ⑨2023年11月のマイナ保険証利用率は4.33% ⑩「何のメリットもない」「顔認証や暗証番号が面倒」「保険証で十分」が患者・国民の声で、世論調査では8割超が存続・延期を求める ⑪保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後に紐づけミス報告 ⑫医療現場でマイナトラブルは多岐 ⑬こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱するので、保団連は患者・国民、諸団体と保険証存続を求める取り組みを推進 ⑭2024年も健康保険証を使い続けることが保険証を残す最大の力 ⑮2023年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率は4.36% ⑯政府はキャンペーンで2024年5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせているが、2024年1月の国民のマイナ保険証利用率は4.60% ⑰推進側の国家公務員のマイナ保険証利用率も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印 ⑱マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を12月に廃止することは大問題 等としている。
 マイナ保険証の問題点について、保団連は、⑪⑫⑬のように、i)紐づけミスが多発していること ii)医療現場でのトラブルが多岐に渡ること iii)こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱する としているが、これらは導入初期のインプットミスと不慣れによるトラブルであるため、導入して時間がたてば解消していくものである。
 しかし、⑨のように、国民全体で利用率が4.33%と低い理由を明らかにしているのが、⑮⑰の国家公務員のマイナ保険証利用率がわずか4.36%と国民全体より低く、「マイナ保険証のメリット無し」という烙印を押していることで、現職国家公務員は、それでも「メリット無し」という柔らかな拒否感を示しているが、実際には被保険者にとってはディメリットの方が大きいのだ。
 そして、そのディメリットとは、マイナンバーカードに載ったマイナ保険証は、一枚のカードですべての情報にアクセスできるため、便利である反面、紛失や悪用が起こった場合には、すべての情報がリスクに晒されることである。従って、最善のセキュリティー対策は、1つのカードに情報を紐付けしすぎないことで、医療情報のように守秘義務を要する情報は、医療の専門家だけが見る保険証をネットワークで繋げば良く、①~⑥は、それで十分解決できる筈なのだ。
 では、政府は、何故、⑦⑧⑯のように、キャンペーンや217億円もの補助金を使ってまで保険証を廃止し、半強制的にマイナンバーカードに保険証を紐付けして、マイナ保険証に変更したがっているのかと言えば、まさに紐付けされたその情報を使いたいからである。例えば、所得と紐付けして公的医療保険でカバーされる割合を変えたり、特定秘密保護法・運転免許証等で特定疾患の患者を排除したりするための悪用で、公務員はそれを知っているためディメリットを感じているのであり、国民もまたうすうすそれを感じているから、⑩の結果になっているのだ。
 そのため、専門家集団である全国保険医団体連合会が保険証廃止に抗議するのであれば、⑭⑱のように、マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を廃止することは大問題として抵抗するのではなく、疾患に基づく差別や保険医療を受ける段階での(大したこともいない)所得差による負担割合の差の問題について、資料を添えて正攻法で抗議するのが良いと思う。

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSD435GVSD4UTFL01DM.html (朝日新聞 2024年12月6日)意識ない救急患者、マイナ保険証で医療情報を閲覧 病院で運用開始へ
 救急患者を受け入れた病院が、患者の過去の医療情報を閲覧できるシステムの運用が9日から始まる。患者の意識がなく、同意がとれなくても、保険証にひもづいたマイナンバーカード(マイナ保険証)があれば、患者が使っている薬や持病などを医療者が把握できるようになる。救命率の向上や、治療後の生活の質を上げることにつながる可能性がある。救急現場では、意識のない患者から得られる情報が乏しいことが、治療法を選ぶ上で大きな障壁になってきた。例えば、心臓や脳の血管が詰まって突然倒れた救急患者では、手術前に血液検査などをしないと危険な場合がある。患者が普段、血液をサラサラにする薬をのんでいると、出血を起こしやすくなり、手術前に中和薬などが必要になるためだ。どの薬をのんでいるかによっても対応が異なるため、正確な薬の情報が重要になる。厚生労働省が開発する新たなシステムでは、医療者が、過去5年分の患者の受診歴や処方された薬剤、診療、健診などの情報のほか、過去100日分の電子処方箋(せん)の情報などを閲覧することができる。9日から順次、病院に導入され、今年度中には救命救急センターがある病院のほとんどで使われる見込みだ。また、今後はマイナ保険証がなくても、名前、生年月日、性別、住所の4情報がわかれば、閲覧できるようにする。総務省消防庁でも、マイナ保険証を使って、救急隊が救急車の中で患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備しており、来年度には全国の消防本部で展開する予定だ。119番通報した家族らに、患者本人のマイナ保険証を準備しておくように依頼していくという。

*8-2:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/information/hokensyonokose/ (全国保険医団体連合会 2024.12) 保険証廃止勝手に決めるな
 政府は、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定(政府は、国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定しました。2024年12月2日からは新規で保険証を発行することができなくなります。2023年11月のマイナ保険証の利用率はわずか4.33%と7カ月連続で低迷しています。厚労省が示した患者総件数に占めるマイナ保険証利用率はわずか2.95%とさらに低い数字です。「何のメリットもない」、「顔認証や暗証番号が面倒」、「保険証で十分」が患者・国民の声です。世論調査で8割超が存続・延期を求めています。保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後も紐づけミスが報告されています。医療現場でマイナトラブルは多岐にわたり、厚労省が対策したトラブルも一向になくなりません。こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱します。保団連は、患者・国民、諸団体とともに、保険証存続を求める取り組みを推進します。「#保険証廃止勝手に決めるな」を掲げて記事を配信します。 2024年も健康保険証使い続けることが保険証を残す最大の力となります。「#保険証廃止勝手に決めるな」の声をSNS等で拡散していきましょう。

*8-3:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-02-29/ (全国保険医団体連合会 2024.2.29) 12月以後の国家公務員マイナ保険証利用率を速やかに公表すべき!
 厚労省は2月29日の医療保険部会で23年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率を公表しました。国家公務員全体でマイナ保険証の利用率がわずか4.36%です。政府は、マイナ保険証使ってみようキャンペーンでは数値目標として5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせています。ところが24年1月の国民のマイナ保険証利用率が4.60%であり、推進側の国家公務員のマイナ保険証も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印を押しています。マイナ保険証利用率が低調なままで健康保険証を12月に廃止することは大問題です。保団連は、厚労省に23年12月以後の国家公務員のマイナ保険証利用率を速やかに公表するよう要望しました。

<おかしな財源論>
PS(2024年12月12~16日追加):平成29年度税制改正によって、平成30年分以降の所得税で適用されている配偶者控除は、下段の左図のように、扶養者(仮に夫とする)の所得によって変わり、被扶養者(仮に妻とする)の所得が103万円以下で、扶養者の所得が900万円以下なら満額の38万円、900万円超950万円以下なら26万円、950万円超1,000万円以下なら13万円、1,000万円超なら0円というように、配偶者控除を満額とれる妻の最大所得が103万円なのである。また、配偶者控除の壁を緩やかにするため配偶者特別控除制度も変更して、上段の左図のようになだらかになり、配偶者特別控除をとれる妻の最大所得が年収201万円になったわけである。しかし、妻はじめ親族を扶養すれば夫の生活費負担が大きくなるのは夫の所得額とは関係無い上、物価上昇で生活コストが上がり、累進課税で所得の再分配はできているため、夫の所得によって控除額を変更するのは所得税の計算が複雑になりすぎ、公正・中立・簡素の税の原則にも反する。
 従って、理論から離れて屋上屋を重ね複雑怪奇になっている配偶者控除・配偶者特別控除は、共働きが普通になった現在であれば生産年齢人口の人は廃止し、共働きでも必要な保育・介護は保育制度・介護制度を充実させて対応すべきである。また、子の扶養控除も子育てに関する物価上昇に応じた児童手当の増額と教育無償化をセットにして廃止すべきで、そうすれば何に使われるかわからない僅少な税額控除より確実に子への投資になる。なお、米国の選択的夫婦合算課税は、夫婦間で所得差が大きい場合に累進税率が低くなる合理的な制度であり、フランスのN分N乗方式は、それに加えて子の数も累進税率に影響させるというさらに合理的な制度である。
 そのような中、*9-1-1は、①自・公・国の幹事長は所得税が生じる「年収103万円の壁」を2025年から引き上げることで合意し178万円を目指す ②自公は引き上げ時期で現場事務負担等を理由に2025年からの実施に消極的 ③非課税枠の引き上げに伴い財源の手当てが必要 ④ガソリン税の暫定税率廃止も一致 ⑤大学生年代(19~22歳)の子を扶養する親の特定扶養控除も、国は少なくとも150万円で2025年分から実施するよう要求 ⑥高校生の扶養控除について国は維持を求めた ⑦2024年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳を加え、与党は2024年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要 等としている。
 また、*9-1-2は、⑧自・公は12月13日、所得税がかかる年収最低ラインを基礎控除と給与所得控除の最低保障額を10万円ずつ引き上げ103万円から123万円にする案を国に示した ⑨自の宮沢税制調査会長は30年間で生活必需品の物価が約2割上がったことを念頭に決めたと説明 ⑩国の古川税調会長は「グリーンも全然見えない距離」と拒否 としている。
 上の①⑧⑨⑩については、1995年から2025年の30年間の物価上昇率は、頻繁に買う生鮮食品を含む必需品では約2割ではなく3割以上であり、さらに統計と体感(頻繁に購入する財・サービス)との差も15%程度あるため、物価上昇から考えれば150万円に引き上げるのが妥当で、これは、⑤の大学生年代の子を扶養する親の特定扶養控除150万円とも整合性がある。また、②については、所得税の扶養控除と特定扶養控除の数値を変えるだけなので、やるとすれば2025年分から実施可能だ。さらに、生活の基礎的コストである基礎控除を物価上昇に伴って上げるのは当然なので、住民税にも同じ変更を適用すれば簡素になる上、③の財源は(これまで公正でも中立でもなかった)配偶者控除の廃止と物価上昇に伴って生じる税収増で賄える筈である。なお、⑥の高校生の扶養控除は、⑦のように、月1万円の児童手当が給付され始めたため、2024年度税制改正で(縮小ではなく)廃止し、児童手当の金額自体を物価上昇に合わせて上げるべきである。なお、④のガソリン税の暫定税率廃止には賛成だ。
 また、社会保険には、上段の中央の図のように、106万円と130万円の壁があり、106万円の壁は、i)賃金月額8.8万円(年収約106万円以上 ii)厚生年金保険被保険者である従業員数51人以上 iii)週の所定労働時間20時間以上 iv)学生でない という条件をすべて満たす従業員を雇用する企業は社会保険の加入手続きを行わなければならず、130万円の壁は、i)企業の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人以下 ii)年間収入見込み130万円以上  という条件を満たすと、企業もしくは個人が社会保険の加入手続きを行わなければならないというもの(https://www.mdsol.co.jp/column/column_121_2607.html 参照)だが、従業員の福利の観点から見れば、企業規模で従業員の社会保険加入を差別するのは適切でないため、企業規模要件は速やかに廃止すべきだと思う。しかし、所得要件は「基礎的生活コストの除外」という視点から税制と同じ150万円にするのが、仕組みを変に複雑化させず整合性がとれると考える。
 このような中、*9-2-1・*9-2-2は、5年に1度の年金制度改革に関する厚労省の項目案は、①老後受給額の底上げと幅広い世代の就労促進が柱 ②見直しの第1は基礎年金の底上げ ③全ての人が受け取る基礎年金は年金財政悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるため、過去30年と同程度の経済状況が続くと将来の受け取り水準が3割下がる ④厚労省は財政が比較的安定している厚生年金積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げすると、基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まる ⑤上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金底上げ効果で厚生年金受給者の大半は合計年金額増 ⑥経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は生涯総額で136万~215万円受給額が増え、2024年度に65歳になる人は76万円減ることもある ⑦パート労働者は週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入 ⑧週20時間の手前で働き控えが起きないよう月収13万円(年収156万円)未満・標準報酬月額12.6万円(年収151万円)未満のパート労働者を対象に労働者側の厚生年金保険料負担を企業が肩代わりできる仕組みを作る ⑨例えば年収106万円の人は9対1で企業が負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻せば働く人の手取り急減が防げる ⑩制度導入は企業毎の労使合意が前提 ⑪一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を月50万円から62万円か71万円に引き上げ ⑫働く女性が増えているため遺族厚生年金の男女差をなくす ⑬厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限(月収65万円)を75万~98万円に引き上げ ⑭経済同友会と連合は、会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致 ⑮連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきで、働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考えるべき0」と語った としている。
 このうち、④⑤⑥の「足りなくなったら、給付水準を下げればよい」という発想自体が公的年金の信頼性を損なう原因になっている上、③の基礎年金の年金財政悪化は「第3号被保険者制度」と社会保険庁(日本年金機構の前身)のずさんな運用が原因であるため、まさに⑭⑮のとおり、まず第3号被保険者制度の廃止で賄うのが筋である。本来なら、他人の負担で専業主婦を優遇する理由などなかったため過去に遡って返して貰いたいくらいであり、「比較的安定している」などという理由で高い年金保険料を支払ってきた人の厚生年金積立金の一部を使うのでは、日本年金機構も社会保険庁と同様、他人の年金積立金を平気で流用する組織だということであり、運用のずさんさも変わっておらず、公正性に欠ける。従って、⑦のパート労働者で週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入というのは正しいし、厚生年金に加入しない人は自営業の妻と同様、自分で国民年金に入るべきで、そうすれば⑧⑨⑩のように、屋上屋を重ねてパート労働者の厚生年金保険料負担を労使合意で企業が肩代わりするなどという不完全かつ不公平な仕組みを作る必要はないのだ。なお、⑪の一定の給与所得がある高齢者の受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を引き上げるのは良いが、保険料を支払って積み立ててきた金額に応じて「ねんきん定期便」で支給額を確認してきたのであるから、働いたからと言って年金支給を停止したり、年金支給に上限を設けたりすることは契約を反故にしているものである。なお、⑫の働く女性が増えたため遺族厚生年金の男女差をなくすのは良いが、未だに労働条件に男女差があるため、同時に労働条件の男女差をなくすべきであろう。さらに、⑬の厚生年金保険料算出に用いる「標準報酬月額」の上限引き上げも良いが、保険は税金とは違うため、支払った分だけの見返りがなければ誰も納得しないのである。つまり、物価上昇で基礎的生活コストが上がっているため、①②のように、年金受給額の底上げは必要不可欠だと思うが、その目的を「幅広い世代の就労促進」に置くと、年金の目的や保険契約に反するのだ。
 さらに、*9-3は、⑯厚生年金の積立金等を活用して基礎年金を底上げする背景は、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙い ⑰実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要だが、財源確保は置き去りのまま ⑱社会保障審議会年金部会では基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ ⑲厚労省は一定負担を下に受給額を増やす改革として基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していたが、負担増への批判が強くて見送った ⑳抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかず ㉑基礎年金底上げが必要となる背景は過去のデフレ下で給付抑制がなされず年金財政が悪化したこと ㉒日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず将来の年金水準を一段と切り下げる必要 ㉓厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と給付引き下げに繋がるデフレ下での抑制に慎重 としている。
 日本政府は、原発・特定産業・農業には非効率で無駄の多い補助金を湯水のように使いつつ、国民生活に必要な福利厚生(年金・医療・介護・教育・保育etc.)にはケチケチしながら、不公正・不公平の屋上屋を重ねている。年金はその1例であり、i)「基礎年金を底上げするため」として厚生年金積立金を流用 ii)消費税増税 iii)年金・健康保険料・介護保険料の負担増・給付減 など、必要不可欠な社会保障間での流用や負担増・給付減を当然の如く行ないながら、政府歳出全体の無駄や非効率は野放しにしている。そして、これが誰にも追求されない理由は、明治維新以降、藩のかわりに省というテリトリーを作り、省毎に既得権たる財源を作り、無駄な歳出であっても他省の財源とならないよう省益を死守し、歳出の効率性を正確に比較できる会計制度にもなっておらず、政治家は世襲か金持ちの男性が殆どで社会保障の必要性を感じなかったり、または能力不足で官の言いなりだったり、メディアもまた能力不足で官の言いなりだったりするからである。そのため、有権者ができることは、官に対して論理的に対抗できる有能な人を政治家にし、上場企業並みの公会計制度を国や地方自治体に導入させ、その場限りの観念論ではない本当の意味の有効性や効率性を追求し続ける政府を作ることなのである。
 そのような中、*9-3は、メディアが官の発言を拡声器よろしく垂れ流しているという典型例で、⑯は、弱者保護と称して他人の財布の資金を流用する詐欺行為である。また、⑰⑱は消費税増税をほのめかし、3号被保険者制度は維持しながら、不公正や流用を黙認し続ける体質であって、この発想ではいくら増税しても国民を貧しくするだけで豊かにはしない。
 なお、⑲の厚労省の基礎年金保険料支払い期間を40年から45年に伸ばす案は、平均余命・健康寿命・年金受給期間が伸びているので、定年を65歳以上にする制度とセットであれば良いと思うが、厚労省は批判があったら合理的な説明もできずに見送る程度なのである。そして、⑳㉑のように、“マクロ経済スライド”などと呼ぶご都合主義の抑制措置を導入し、物価を上昇させることによってただでさえ少ない年金の実質額をさらに減らして、㉓のように、厚労省幹部が「年金受給者が気にしているのは名目額だ」などと言っているのであり、これは消費者を甘く見ている。なお、㉒のように、日本経済は次のPSで述べるとおり、政治や官の責任で不景気やデフレが続いているのであるため、抑制措置を続けて年金水準をさらに切り下げれば、それに応じて消費が減退して物価はさらに下落し、深刻なデフレスパイラルに陥ると思う。 


    生命保険文化センター       JB Press    2024.11.26日経新聞 

(図の説明:左図が、平成30年分の所得から適用されている所得税の配偶者控除と配偶者特別控除額で、配偶者の所得だけではなく本人の所得によっても金額が異なる。その結果、中央の図のように、税金の壁は、住民税の所得割が課され始める100万円、所得税が課され始める103万円、配偶者特別控除が減り始める150万円、配偶者特別控除も全く受けられなくなる201万円の4つになり、所得税の配偶者に関する控除額は、壁ではなく下り階段になった。しかし、社会保険は本文で説明するとおり、106万円と130万円の壁が残っている。また、配偶者手当の壁は、公正・公平の観点から企業が判断し、基本給を上げながら無くしていくべきものである。右図は、103万円の壁撤廃に対する国民民主党《以下、国》と政府与党の論点で、国は最低賃金の伸びに合わせて178万円への増加を主張し、与党は財源問題を縦に、またまた屋上屋を重ねる理論からかけ離れた改正案を提示していた)


     上山市        2024.12.12佐賀新聞     2024.12.10時事

(図の説明:左図は、平成30年分の住民税から適用されている住民税の配偶者控除と配偶者特別控除の例で、現在は全国一律になっているが、地方自治の観点からは一律にする必要のないものだ。しかし、物価上昇によって基礎的生活コストが上がっていることは所得税と同じであるため、控除額を据え置いて良いわけではない。中央の図は、親が大学生の子の特定扶養控除を適用できる子の年収の上限だが、こちらは103万円から150万円に上がることが決まった。右図は、社会保険料《厚生年金・健康保険》の壁を「企業が一部肩代わりできる仕組み」を導入することによってなだらかにする与党案だが、これも屋上屋を重ねて理論から離れていくその場しのぎの仕組みにすぎない)

*9-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1149B0R11C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月11日) 年収103万円の壁、25年から引き上げ 自公国が合意
 自民、公明、国民民主の3党は11日、所得税の非課税枠「年収103万円の壁」に関し、2025年から引き上げることで合意した。3党の幹事長が25年度税制改正をめぐる合意書を交わした。引き上げ幅については「178万円をめざす」と明記し協議継続を確認した。ガソリン税に上乗せしている旧暫定税率の廃止でも一致した。自公は補正予算案の12日の衆院通過をめざし国民民主の主張に譲歩した。国民民主の榛葉賀津也幹事長は幹事長会談後、国会内で記者団に「この合意書をもって補正予算案に賛成したい」と明言。24年度補正予算案が衆院で可決する公算が大きくなった。103万円の壁の具体的な引き上げ幅やガソリン税の旧暫定税率の廃止時期は引き続き話し合いを続ける。自公は103万円の壁の引き上げ時期について、現場の事務負担などを理由に25年からの実施に消極的だった。非課税枠の引き上げに伴って財源の手当てが必要となる。自民党の森山裕幹事長は3党合意後、記者団に財源の議論が深まっていないと問われ「健全な財政へ引き続き努力しないといけない」と語った。「103万円の壁」は税負担を避けるために働き控えが起きている問題だ。国民民主は手取りを増やすために非課税枠の調整の必要性を指摘し、最低賃金の伸び率を根拠に178万円への引き上げを求めていた。政府は非課税枠を178万円に引き上げると国税で4兆円弱、地方税で4兆円程度の税収減になると試算する。特に地方税の減収に全国知事会などから懸念が出ている。国民民主は主張が盛り込まれなければ補正予算案に賛成できないとの立場を強調していた。10月の衆院選を経て少数与党となった自公は補正予算案の衆院通過を急ぐため、幹事長同士による交渉で妥結した。ガソリンは1リットルあたり28.7円の通常の税率に、さらに25.1円を上乗せする旧暫定税率を適用している。国民民主は価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の凍結解除のほか、旧暫定税率の恒久的な廃止などの減税策を訴えている。もう一つの「103万円の壁」である大学生らを扶養する親の税負担を軽減する特定扶養控除については3党の税調会長が11日に協議した。自公は子の年収要件を現在の「103万円以下」から「130万円以下」に緩和する案を示した。国民民主は「150万円以下」で25年から実施するよう求めた。自公側は国民民主からの要求について「前向きに検討する」と伝えた。高校生の扶養控除については国民民主は維持を求めた。24年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳が加わったことから、与党は24年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要になる。

*9-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/fe05c347fac374996acc98836580468341adaceb (Yahoo、朝日新聞 2024/12/13) 課税最低ライン123万円案 国民民主拒否「グリーンもみえない」
 自民・公明両党は13日、所得税がかかる年収の最低ラインを103万円から123万円に引き上げる案を国民民主党に示した。178万円への引き上げを求めてきた国民民主は自公案を拒否し、週明けに再び協議することになった。与党は、大半の納税者が対象になる「基礎控除(48万円)」と、会社員などの経費にあたる「給与所得控除の最低保障額(55万円)」を、10万円ずつ引き上げる案を示した。自民の宮沢洋一税制調査会長は、ここ30年間で生活必需品の物価がおおむね2割上がったことを念頭に決めたと説明。来年1月の所得から適用し、年末調整で減税分を還付することも提案した。これに対し、国民民主の古川元久税調会長は協議後、記者団に「(ゴルフに例えると)グリーンも全然見えないような距離しか飛んでない」と、与党案を拒否したことを明かした。3党は週明けの17日にも再び協議に臨む。自民税調幹部は「提示した数字が低すぎるということだから、こちらとしても何ができるか考える」と語った。税制に詳しい大和総研の是枝俊悟主任研究員の試算によると、今回の与党案の場合、所得税の減収は5千億円程度になる。是枝氏は「物価上昇への対応としては、妥当な提案だ」とみる。

*9-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380430R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 5年に1度、年金改革の狙いは 給付を底上げ 将来世代、多くは受給増
 5年に1度となる年金制度改革について厚生労働省の項目案が10日、出そろった。老後の受給額の底上げと幅広い世代の就労促進を柱に据えた。将来世代の多くは受給増につながる。厚労省は2025年の通常国会に法案提出を目指す。少数与党のもとで政策の実現は簡単ではない。
見直しの第一の柱は基礎年金の底上げだ。厚生年金の受給者を含めた全ての人が受け取る基礎年金は、過去30年と同程度の経済状況が続く場合、今のままでは将来の受け取り水準が3割下がる。年金財政の悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるからだ。そこで厚労省は財政が比較的安定している厚生年金の積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げする。基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まり、現状の見通しに比べると3割上振れする。上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金の底上げ効果が大きく、厚生年金受給者の大半は合計の年金額が増える。厚労省は10日の社会保障審議会年金部会で、関連の試算を公表した。仮に経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は、生涯総額で136万~215万円受給額が増える。他方、24年度に65歳になる人は、76万円減ることもあるという。第二の柱は「働き控え」を減らすことだ。パート労働者は現在(1)企業規模が51人以上(2)月額賃金が標準報酬月額で8.8万円以上(年収106万円以上)(3)所定労働時間が週20時間以上――などの要件を全て満たすと、厚生年金に入る義務がある。改革案では「週20時間以上働く人は原則として厚生年金に入る」というルールに見直す。「106万円の壁」はなくなり、約200万人が新たに厚生年金の対象となる。それでも週20時間の手前で働き控えが起きうるため、実際の月収で13万円(年収156万円)未満のパート労働者を対象に、労働者側の厚生年金保険料の負担を企業が肩代わりできる仕組みをつくる。標準報酬月額では12.6万円(年収151万円)未満となる。例えば年収106万円の人は9対1で企業が多く負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻していけば、働く人の手取り急減が防げるため、「年収の壁」を意識せずに働けるようになると厚労省はみている。制度導入は企業ごとの労使合意が前提となる。高齢者の働き控えも防ぐ。一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」を縮小して、満額受給できる人を増やす。現在は給与と厚生年金の合計額が月50万円を超えると、受け取る厚生年金が減る。この基準額を62万円か71万円に引き上げる方向だ。高齢者の就労意欲がそがれないようにする。働く女性が増えていることを受け、配偶者が亡くなった際に受け取る遺族厚生年金も男女差をなくす。20歳代から50歳代で配偶者と死別して子がいない人の場合、給付期間を原則5年で統一する。これまでは30歳以上の女性は生涯支給、男性は55歳未満では支給なしだった。第三の柱は高所得者の負担増を通じた年金財政の安定だ。賞与を除く年収798万円以上の人の厚生年金保険料を増やす。現在は厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限が月収65万円となっているが、75万~98万円に引き上げる。同日の部会でパート労働者の厚生年金の適用拡大と遺族年金制度の見直しについて大筋で了承された。

*9-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA122ZV0S4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月12日) 年金「第3号」廃止要望、経済同友会・連合が一致
 経済同友会と連合は12日、都内で幹部による懇談会を開いた。会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致した。終了後、経済同友会の新浪剛史代表幹事は「年金制度改革は5年に1度。5年後の実現を目指したい」と述べた。連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきだ。働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考える方がいい」と語った。懇談ではこのほか、賃上げの継続や適切な価格転嫁の推進などについても話し合った。

*9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380490R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 財源確保、なお置き去り 実現、野党の賛成必要に
 厚生年金の積立金などを活用し基礎年金を底上げする背景には、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙いがある。実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要になるが、財源の確保は置き去りのままだ。「将来の安定財源の確保時期など曖昧な点が問題ではないか」。10日の社会保障審議会年金部会では、基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ。基礎年金の財源は半分は保険料などを活用するが、半分は国庫が出す。厚労省は具体的な策は示していない。高所得者にとっては年金の増加より税負担の増加が上回る可能性があり、国民にとってはわかりにくい。もともと厚労省は基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していた。一定の負担をもとに受給額を増やす改革だ。働く高齢者が増えた今の時代にも合っていたが、負担増への批判が強かったため7月には早々と見送りを決めた。現在の厚労省案では今後、必要な安定財源をどう確保するかが火種になる可能性がある。抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかずのままだ。基礎年金の底上げが必要となる背景には、過去のデフレ下で給付抑制がなされず「もらいすぎ」の状態が続き、年金財政が悪化したことがある。日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず、将来の水準を一段と切り下げる必要に迫られる。ただ、厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と、給付引き下げにつながるデフレ下での抑制には慎重だ。衆議院では与党が過半数を割り込んでいる。25年の年金改革を巡る厚労省案を実現させるには、国民民主党など一部野党の賛成を得る必要がある。国民民主は税制改正では所得税の「103万円の壁」の引き上げを強く主張しているが、年金改革で何にこだわるのかはまだ見えていない状況だ。厚労省が描く一連の制度見直しがどこまで形になるかは、少数与党という現状も重要な変数となる。過去の年金改革に比べ今後の不透明感は強い。

<イノベーション阻止による日本の停滞・政府の膨大な無駄使い・国富の流出>
PS(2024年12月17、18、19、21日追加):*10-1-1は、①環境・経産両省は11月、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、世界的目標達成に向けた水準としては不十分 ②両省案は経団連が10月に提言した消極的な数字に沿っての現行目標の延長で、2035年度に2013年度比60%削減が軸 ③COP26は産業革命前からの平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを世界目標とし、COP28は「2019年比で2030年までに43%、35年までに60%削減が必要」と合意し、これは日本の2013年度比なら66%減に相当する ④(日本を含む)先進国が高い目標を掲げることは途上国に対策を促すことに繋がる ⑤短期的な経済的利点にこだわって低い目標を掲げるのは気候変動被害軽視 ⑥環境団体の批判だけでなく大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めている ⑦低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含め国際的に後れをとりかねず、策定中のエネルギー基本計画は世界水準との整合性がない ⑧温室効果ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべき としている。
 日本政府(環境・経産両省)は、①②③のように、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、経団連が提言した消極的数字に沿って現行目標の延長をしたため、COP26の産業革命前からの平均気温上昇を1.5℃に抑える世界目標もCOP28の段階的目標も達成していない。そのため、⑤⑥⑦のように、「低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含めて国際的に後れをとる」として、大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体が「企業の産業競争力に影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めているが、技術先進国であり続けたければ当然である。さらに、下段の右図のように、輸入化石燃料による発電が3/4近くを占め、⑧のように、石炭火力発電脱却への道筋も示せず、日本に豊富な再エネの拡大に全力を尽くさず、④のように、「途上国に対策を促す」等と言うのは、環境後進国の根拠無き自信と言わざるを得ない。なお、日本は外交力が低く、国民が稼いだ国富を海外に流出させて高い価格で化石燃料を購入することによって相手国との繋がりを保とうとするため、政府の無能力を国民からの搾取で尻拭いしており、いくら国民負担を上げても「財源がない」と言って国民を豊かにするための福祉政策が削られるのである。そのため、これらすべては、教育に由来するわけである。
 また、*10-1-2は、⑨石炭産出国オーストラリアに「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、蓄電池が天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという通説を覆した ⑩豪州最大の資源最大手BHPグループは基幹電源を再エネで供給する契約を仏ネオエンと結び、ネオエンは風力・太陽光発電所の近くに巨大蓄電池を設置して電力を安定供給し、銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は26年6月に85%、2027年までに100%の実現を目指す ⑪米西部カリフォルニア州は蓄電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源 ⑫全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超し、市場でお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた ⑬国際エネルギー機関(IEA)は2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測 ⑭再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠 ⑮蓄電池の2023年導入量は、トップの中国27.1GW、米国15.8 GW、日本0.6 GW ⑯大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無で、米国は2022年成立のインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛り、蓄電池の製造業者に1 GWhあたり3500万ドル(約50億円)を減税して蓄電池工場を米国に誘致 ⑰中国政府は再エネを巨額支援して蓄電池シェアは世界首位 ⑱日本政府は次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があり、ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではなく、長期的に蓄電池を増やす政策にせず民間任せ」と疑問視している としている。
 つまり、日本が石炭を輸入する石炭産出国のオーストラリアにさえ、⑨⑩のように「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、豪州最大の資源大手BHPグループは仏ネオエンと結んで巨大蓄電池を使って電力を安定供給し、2027年までに南オーストラリア州の再エネ発電比率100%を目指すそうだ。ただし、「天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという“通説”を蓄電池が覆した」と書いてあるのは、蓄電池は1859年に発明され、必要に応じて改良されてきたものであるため(https://ncltrading.com/column/history/ 参照)、その“通説”自体が再エネ普及を妨げるため発せられた“俗説”にすぎず、そのことにすぐ気づかないのは勉強不足も甚だしい。
 それに加えて、シェールガスやシェールオイルが出現して石油・天然ガスとも世界一の輸出入貿易を誇る米国(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009863.html 参照)でも、⑪⑫のように、カリフォルニア州で電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源となり、全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超えて電気の「マイナス価格」が頻発しているいそうだが、電力料金の引き下げ・蓄電池の普及・水素の製造などを目的として電気のマイナス価格はあって良いと思う。これについて、*10-1-3は、「再エネ急増のひずみ(再エネ普及が悪い!?)」などと記載しているが、世界の電力料金が下がる中、日本の電力料金だけが高止まりしていれば、国民が仮に勤勉だったとしても日本の全産業の足を引っ張ってコスト競争力がなくなり、日本からは産業が消えて、国民は賃金引き上げどころか自給自足しなければならなくなるだろう。そして、これは日本政府やメディアの無能力の結果なのである。
 一方、国際エネルギー機関(IEA)は、⑬のように、「2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測」しており、当然のことながら、⑭⑮のように、再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠だが、2023年の蓄電池導入量は、中国27.1GW・米国15.8 GWで日本は0.6 GWに過ぎないそうで、これなら生産拠点が中国に移るのは当然と言える。これについて、⑯⑰は、大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無とし、日本政府は、⑱のように、次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト(資源エネルギー庁)」などという後ろ向きな声があるそうだが、日本の場合は、国立大学である東京大学が2016年の調査で南鳥島周辺海域に鉄・マンガン・レアメタル・コバルト等が含まれる海底鉱物資源(マンガンノジュール)が広範囲にあることを発見し、詳細な調査の結果、日本の排他的経済水域である南鳥島周辺の海底100km四方に約2.3億トンものマンガンノジュールがあると判明したのであるため、「日本は資源がない」「蓄電池は日本では海外より高コスト」などと言っているのは、(勉強不足か故意かは知らないが)不作為も甚だしいのである(https://news.yahoo.co.jp/articles/f12abc01b8fae98abfe90ba48a34424d1b9a2491 参照)。
 そして、*10-2-1・*10-2-2・*10-2-3は、⑲経産省は原発建替の障害になる「可能な限り原発依存度を低減」という表現を削除して、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示した ⑳経産省は「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という表現も盛り込み、原発を再エネとともに最大限活用と明記 ㉑既存原発の大半の30基程度を再稼働させても2030年度目標20~22%、2040年度の原発割合が2割程度 ㉒ロシアのウクライナ侵攻による資源価格急騰で岸田前政権が原発推進に転換 ㉓次はデータセンター・半導体工場の新増設に伴って将来の電力需要増加に対応するという理由 ㉔廃炉作業中の玄海原発1、2号機(佐賀県)のかわりに九電川内原発(鹿児島県)敷地内での新設を見込み、原発建替要件を緩和して同電力会社なら廃炉が決まった原発敷地外でも建設できるとした ㉕2040年度の再エネ割合は 2023年度の22.9%から4~5割程度と提示したが、「最優先で取り組む」との文言は削除 ㉖2023年度68.6%の火力は2040年度3~4割程度とし、CO₂を多く排出するため世界的に廃止圧力の強い石炭火力割合は具体的に示さない ㉗再エネと原発を脱炭素社会実現の核に位置づけた原案は、パブリックコメントを経て来年2月頃閣議決定 ㉘2040年度電源構成は技術革新やデジタル化の進展に伴う電力需要増加を見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた ㉙安全性を大前提に安定供給・経済効率性・環境適合性が原則 ㉚経産省幹部によると「今回の狙いは軌道修正」 ㉛原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めていた ㉜再エネは天候に依存するため、安定的電力供給には原発が欠かせないとの立場 ㉝福島事故後に民主党政権が掲げたのは「2030年代原発0」だが、遠くかけ離れた未来図 ㉞新エネ基は、発電所建設支援制度対象の拡大、原発建設費・廃炉費を電気料金に上乗せして回収できる制度導入も盛り込み、原発推進に大きく転換 ㉟経産省が震災後に進めてきた電力自由化にも逆行 ㊱市民団体から「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判 等としている。
 しかし、㉙のように、i)安全性が大前提 ii)安定供給 iii)経済効率性 iv)環境適合性が原則と言いながら、㉕㉗のように、平時から放射性物質を出し、事故時には人がコントロールできなくなって莫大な被害を与える原発を、再エネと同列に脱炭素社会の核に位置づけ最大限活用するのは、「iv)環境適合性」を脱炭素のみと意図的に狭く解釈している上、「i)安全性を大前提」にすれば原発は使えない筈であるため、根本的に矛盾を含んでいる。
 また、技術革新は、デジタル化だけでなく再エネにも起こってコストが下がるため、真面目に再エネを増やせば2040年には国民負担を加味した「統合コスト」は原発の方が比較にならないくらい高くなり、再エネの方が「iii)経済効率性」でもずっと優れる。だからこそ、*10-2-4のように、無理なこじつけで「40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも」などという記事を書かなければならないのだ。つまり、技術革新があるため、㉘のように、2040年度の電力需給を見通すのが難しいのは当然である上、「ii)安定供給」についても、㉜のように、「再エネは天候に依存するから安定的電力供給に原発が欠かせない」などと言い続けて蓄電池の普及を妨げつつ再エネの安定電源化を阻害している人たちが「エネルギー基本計画」をたてること自体が市場に任せるより悪い結果をもたらしているのである。その上、㉟のように、東日本大震災と津波によるフクイチ事故ときっかけとして進めてきた電力自由化も反故にしている。
 では、何故、日本の経産省は、㉒㉓のように、長期的展望のない思いつきの理由を並べて、⑲のように、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示したのかと言えば、㉚のよう軌道修正しながらどうしても原発建替に漕ぎ着けたいからで、その浅薄な発想が現在の経産省の限界なのである。その過程として、㉑のように、既存原発のフル活用をまず示し、㉔のように、大手電力会社のために発建替要件を緩和し、㉞のように、発電所建設支援制度対象拡大・原発建設費・廃炉費は電気料金に上乗せして国民から徴収する制度を盛り込んで原発推進に大きく転換しているのだが、原発の方が再エネよりも安ければ支援金は一切不要であるため、㊱のように、市民団体が「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判するのは当然なのである。
 なお、㉖のように、日本政府は世界的に廃止圧力の強い輸入石炭による石炭火力発電廃止を考えていないため期限を設けず、㉛のように、原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないのに経済界が求めているのだそうで、経済界もこの程度であるため、先進的な企業の芽をつぶし、イノベーションの好機を逃して国を挙げてのコストダウンも出来ず、製造業の生産拠点は日本から海外に移って、実質経済成長率が低いままなのだ。
 つまり、㉝のように、フクイチ事故をきっかけとして作られた「2030年代原発0」「再エネによるエネルギー自給率100%」「再エネによるエネルギーコスト大幅削減」という明確な展望は、日本の経産省と経済界によって潰されつつあり、⑳のように、「エネルギーミックス」「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」「原発を再エネとともに最大限活用」などと言って将来性のないことが明らかなエネルギーに補助し続けることによって、環境対策のみならず、真に合理的なエネルギーの普及を遅らせてコストを高止まりさせ、国民に無益な負担をさせているのであり、*10-2-5のとおり、時代の要請に全く応えていないわけである。

 
    2022.7.4 Sustainable Switch       2022.6.27福島ミエルカ

(図の説明:左図は、世界の再エネ発電・バッテリー・EV普及量とそれに伴うコスト低減の状況で、普及して大量生産すればコストが低減するという当たり前の結果が出ており、そのうち集光型太陽熱発電はあまり普及しないうちから化石燃料以下のコストになっている。また、右図は、世界の電源別発電コストで、再エネ《特に太陽光》が最も安く、原発が最も高くなっているが、再エネは設置費《固定費》はかかるが、運転費《変動費》がかからないため、大量に発電するほど発電単価が安くなり、電力会社の水力発電の事例が原価計算の教科書に出てくるのである)

   
            すべて2024.2.8 Carbon Media

(図の説明:左図は、G7各国の2030年の電源構成だが、化石燃料を全量輸入しながら火力発電を41%も残すような馬鹿なことをするのは日本だけであり、ドイツ・イタリアが原発0で再エネ70~80%と意欲的、米国・英国・カナダも脱炭素化に意欲的である。中央の図は、日本の電源構成の推移だが、「エネルギーミックス」と称して思いつきでえいやっと決めた現状維持に近い数値を目標に掲げてきた結果、右図のように、現在でも石炭・LNG・石油による発電が約73%を占め、世界でも遅れた国になってしまったのだ)

*10-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16105707.html (朝日新聞社説 2024年12月14日) 温室ガス削減 世界目標満たす水準に
 温室効果ガス削減の新しい目標を決める期限が近づいている。先月、環境省と経済産業省が案を示したが、世界的な目標達成に向けた水準としては不十分だ。削減幅を上積みする必要がある。気候変動の国際ルールのパリ協定では、各国は「国が決定する貢献(NDC)」として削減目標を5年ごとに提出し、実現に向けて取り組むことになっている。次の提出期限は来年2月だ。環境・経産両省の案は、基本的には現行目標の延長で、2035年度に13年度比で60%削減するのが軸になっている。50年の排出実質ゼロと整合的な道筋だとの説明だ。しかし、これでは明らかに削減が足りない。21年の国連の気候変動会議(COP26)では、産業革命前からの平均気温の上昇を1・5度に抑えることが世界目標になった。昨年のCOP28では「19年比で30年までに43%、35年までに60%」の削減が必要と合意されている。これは日本が基準とする13年度比なら66%減に相当する。両省案の60%減では、この水準に届かない。温室効果ガスの排出を重ねて発展してきた先進国として、責任を果たす姿勢とは到底言えない。21年に掲げた現行の目標でも、30年度に「13年度比で46%削減」を目指すにとどまらず、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と世界に宣言していたはずだ。日本を含む先進国が高い目標を掲げることは、途上国に対策を促すことにもつながる。短期的な経済上の利点にこだわって低い目標を掲げるのは、すでに顕在化しつつある気候変動の被害を軽視するに等しい。地球温暖化で災害や熱中症に拍車がかかり、犠牲者が増えれば、国内経済も打撃を受ける。両省案は、経団連が10月に提言した数字に沿っている。経団連は1・5度目標の実現に必要な削減幅の範囲内に入るというが、その説明でも35年度段階での「幅」の下限に近い数字で、消極的な目標であるのは明らかだ。環境団体からの批判だけでなく、大企業も含め気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として、13年度比で75%以上の削減を求めている。低い目標で再生可能エネルギーの拡大を怠れば、技術力を含め国際的にも後れをとりかねない。策定中のエネルギー基本計画も、世界水準との整合性が問われる。温室ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と、再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべきだ。

*10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241214&ng=DGKKZO85470250U4A211C2MM8000 (日経新聞 2024.12.14) エネルギーの新秩序 国富を考える(4)「再エネ100%」導く革命 蓄電池、米欧中が覇権争い
 石炭産出国オーストラリアに「再生可能エネルギー100%」の電力網を目指す州がある。天候によって発電量が大きく変わる再生エネは安定供給に向かないという通説を覆したのは、蓄電池の存在だ。鉱石を運び出す巨大なエレベーターが24時間動き続ける豪州最大の銅鉱山オリンピックダム。地下坑内を昼間のように明るく照らす照明や、換気や温度を管理するエアコンなど、操業には大量の電気を使う。
●不安定さを克服
 鉱山を運営する資源最大手BHPグループは、基幹電源を再生エネで供給する契約を仏ネオエンと初めて結んだ。ネオエンは風力・太陽光発電所近くに巨大蓄電池を設置、雨天や夜間も絶え間なく送電する。「蓄電池があることで電力が安定供給される」(BHPの責任者アナ・ワイリー氏)
銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は2025年7月~26年6月に85%になる見通し。27年までに100%の実現を目指す。米西部カリフォルニア州のニューサム知事は10月、同州の蓄電池容量が5年間で15倍超に増えたと発表した。日没後の送電は火力発電などで補ってきたが、4月に蓄電池が初めて最大の供給源になった。「蓄電革命だ」(ニューサム氏)。蓄電池が増えたのは電気が余っているためだ。全米の3割の太陽光パネルが同州に集積し、日中は発電量が消費量を超す。電力卸市場ではお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた。
国際エネルギー機関(IEA)は30年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再生エネの発電比率が46%とほぼ半数になると予測する。再生エネを基幹電源にするには、蓄電池の大量導入が不可欠となる。主要7カ国(G7)は4月の閣僚会合で、世界の蓄電容量を30年に22年比6.5倍に増やすことで合意した。英業界団体によると蓄電池の23年の導入量は、トップの中国が27.1ギガ(ギガは10億)ワット。米国が15.8ギガワットと続くが、日本は0.6ギガワットにとどまる。
●戦略描けぬ日本
 大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無だ。米国は22年に成立したインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛った。蓄電池の製造業者に1ギガワット時あたり3500万ドル(約50億円)を減税し、蓄電池工場を米国に誘致した。中国が念頭にある。中国政府は再生エネを巨額支援し、蓄電池のシェアは世界首位。安価な中国製品が市場を席巻するのを米欧は警戒する。
欧州連合(EU)は23年に電池規則を施行し、廃電池のリサイクルを義務付けた。コバルトやリチウムなどの重要原材料は高い回収率を求め、中国などへの依存を減らす。日本は出遅れている。政府が策定する次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があがる。ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではない。日本は長期的に蓄電池を増やす政策になっておらず、事実上民間任せだ」と疑問視する。

*10-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1041D0Q4A710C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2024年7月14日) 電力「マイナス価格」世界各地で 再エネ急増のひずみ
世界の電力卸市場が再生可能エネルギー急拡大の「ひずみ」を映している。天候に左右されやすい太陽光や風力発電が需給をかく乱し、取引価格がマイナスになる事例が頻発している。事業者の収益悪化を招き再生エネへの逆風となりかねない。1メガワット時マイナス67ドル、マイナス87ユーロ、マイナス45オーストラリアドル――。2024年の春から夏にかけて、米国や欧州、豪州の電力卸市場で取引された電力価格(1日前取引のスポット=随時契約)の一例だ。マイナス価格は発電事業者が小売業者や需要家にお金を支払って電力を引き取ってもらうことを意味する。原油では新型コロナウイルスの感染拡大で需要が消失した20年春に史上初めてマイナス価格をつけたが1〜2日で解消した。そうそう起きることではない。しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日になって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。なって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。

*10-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1375810 (佐賀新聞 2024/12/17) 原発、再エネと最大限活用、2割維持、大半を再稼働へ
 経済産業省は17日の有識者会議で、中長期的な政策指針「エネルギー基本計画」の原案を示した。2011年の東京電力福島第1原発事故以降に記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除。再生可能エネルギーとともに最大限活用すると明記した。40年度の発電量全体に占める原発の割合は2割程度と見通した。既存原発の大半に当たる30基程度を再稼働させる想定で、30年度目標の20~22%と同水準を維持した。原発は建て替えの要件緩和も盛り込んだ。同じ電力会社であれば、廃炉が決まった原発の敷地外でも建設できるようにする。政府関係者によると、当面は玄海原発1、2号機(佐賀県)の廃炉作業中の九州電力が川内原発(鹿児島県)の敷地内に新設することを見込んでいる。40年度の再エネの割合は4~5割程度と提示。23年度の22・9%から約2倍に増やすが、前回計画にある「最優先で取り組む」との文言は消した。23年度に68・6%の火力は40年度に3~4割程度にする。二酸化炭素(CO2)を多く排出し、世界的に廃止圧力が強い石炭火力の割合を今回は具体的に示さない。国内では削減ペースが予測しにくいと説明している。原案は17日の議論を踏まえ来週の有識者会議に諮る。パブリックコメント(意見公募)を経て、来年2月ごろの閣議決定を目指す。40年度の電源構成は、技術革新やデジタル化進展に伴う電力需要の増加を明確に見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた。21年に閣議決定した現行の計画では30年度の電源構成は原発の他に、再エネが36~38%、火力が41%、水素・アンモニアが1%。エネルギー基本計画 日本の中長期的なエネルギー政策指針。2002年施行のエネルギー政策基本法に基づいて策定する。おおむね3年ごとに見直し、閣議決定する。今回は第7次計画となる。安全性を大前提に安定供給、経済効率性、環境適合性を原則とする。東京電力福島第1原発事故以降は、福島の復興・再生を最重要課題と位置付けている。

*10-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1376505 (佐賀新聞 2024/12/18) 【エネルギー基本計画】官僚主導の原発復権、政権弱体化で念願成就へ
 経済産業省が17日提示した次期エネルギー基本計画の原案は、原発の復権を強く打ち出した。少数与党で弱体化し、政治的な資源を割く余裕がない石破政権を横目に、経産省が議論を主導。脱炭素化に加え、脆弱な供給体制、人工知能(AI)普及に伴う大量電力消費時代の到来を訴え、念願である原発建て替えの要件緩和にもこぎ着けた。
▽軌道修正
 「今回の狙いは軌道修正だ」。経産省幹部はこう解説する。前回の計画は菅義偉元首相が表明した「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」達成に向け、政治主導で再生可能エネルギーの偏重を迫られたとの思いがある。現在は閣外の河野太郎行政改革担当相と小泉進次郎環境相(いずれも当時)が再エネの割合を高めるよう水面下で強く働きかけたと、前回のとりまとめ作業を知る関係者は証言する。それが野心的な30年度の再エネ目標36~38%につながった。今回は対照的に政治の影が薄かった。自民党総裁選で一時言及した「原発ゼロ」を早々と封印した石破茂首相は「議論に口出ししなかった」(経産省関係者)。政府内には「そもそも関心がない」といった声も漏れる。その結果、40年度の原発の電源割合は、既存原発のフル活用を事実上意味する2割程度に設定。一方の再エネは4~5割程度と最大電源に位置付けたものの、30年度目標から大きな上積みがあったとは言い難い。
▽敷地外も
 「戦後最大の難所」。別の経産省幹部は、データセンター増設や半導体産業の強化で電力需要が高まる中、温暖化対策で火力発電所の休廃止も進めなければならない当面のエネルギー事情をこう表現する。再エネは天候に依存するため、安定的な電力供給には原発が欠かせないとの立場だ。既存原発を廃炉にする際、別の原発敷地での新設を容認する「敷地外」の建て替えにも道筋を付けた。建設には20年程度を要するため、40年度電源への寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めてきた。「将来的に原発に依存しない社会」と訴える連立与党の公明党はこれまで「敷地内」に限って認めてきたが、衆院選で議席数とともに発言力を減らし、容認に転じた。公明のエネルギー基本計画に対する提言は、経産省との文言調整を重ねた上で「わが党の基本的な方針に変わりはない」と書き込むのにとどまった。公明幹部は「(建て替えても)原発の数は今より増えない」と強弁するしかなかった。
▽住民不在
 次期エネルギー基本計画も東京電力福島第1原発事故を受け、福島の復興・再生を最重要課題と位置付ける。ただ、地元との話し合いに割かれた時間は短く、住民不在の懸念は尽きない。NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は「正面から福島の事故に向き合わず、経産省主導で原発の積極活用に踏み込んだ。空虚な議論で終わっている」と指摘する。経産省内では「やりたいことが粛々と進む」(中堅幹部)と楽観論が広がり、原発新増設を訴える国民民主党との協力を期待する声もある。福島事故後に当時の民主党政権が掲げたのは「30年代に原発ゼロ」。事故から14年近くたつ今、遠くかけ離れた未来図が描かれている。

*10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSDC3GR5SDCULFA00XM.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2024年12月11日) 原発依存度「可能な限り低減」の文言削除へ 経産省のエネ基本計画
 国の中長期のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」(エネ基)について、経済産業省が近くまとめる新しい計画案の概要が分かった。東日本大震災後に掲げた「原発依存度を可能な限り低減する」との表記を削り、原発回帰の姿勢をより鮮明にする。経産省が来週にも開く有識者会議で素案を提示する。「低減」の文言をなくすかわりに、「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という趣旨の表現を盛り込む方向で、最終調整している。エネ基はおおむね3年に1度のペースで改定し、震災後の2014年に策定した計画では「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」と掲げた。その後の改定でも「可能な限り低減」の文言は維持されてきた。だが、ロシアによるウクライナ侵攻により資源価格が急騰したことをきっかけに、岸田文雄前政権は原発推進に転換。22年6月、経済財政運営の指針となる「骨太の方針」で、前年に盛り込んでいた「依存度低減」の表記を見送り、原発を「最大限活用する」と踏み込んだ。23年2月に閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」でも、原発回帰の動きを鮮明にした。新しいエネ基もその流れを引き継ぎ、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む方針だ。GX基本方針では建て替えを「廃炉を決めた原発の敷地内」に限ったが、新しいエネ基には、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも、廃炉した分だけ原子炉をつくれるようにする案を盛り込む。ただ、40年度の電源構成に占める原発の割合は2割を目標とし、震災前の3割には達しないとする。その分、再生可能エネルギーは4~5割に増やし、火力は3~4割とする方向だ。新しいエネ基の議論は今年5月に始まり、40年度に向けて原発を再生可能エネルギーとともに脱炭素電源と位置づけ、「拡大する必要がある」との議論が進む。データセンターや半導体工場の新増設に伴い、将来の電力需要が増加する可能性が高く、それに対応するためとの理由だ。ただ、稼働できる原発が減っていくため、少しでも早く原発の建て替えに着手したい経産省にとって、障害になりうる「低減」の文言を削ることが課題だった。「低減」は「足かせ」だった政府が原発回帰の姿勢を改めて鮮明にした。近く示す新しい「エネルギー基本計画(エネ基)」の素案で、これまで掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を削り、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む。今後は電力需要が増えるため、原発を最大限活用するべきだとの理屈からだ。福島事故の反省をふまえた方針が、転機を迎える。「(次の)エネ基の最大のミッションは、依存度低減の文言を書き換えることだ」。経済産業省の幹部はエネ基の改定にあたり、こう語っていた。原発推進を掲げる同省にとって、「低減」の一文が政策の求心力をそぐ「足かせ」となっていたという。それが外れることで、原発の支援策も大手を振って打ち出せる。新しいエネ基には、原発への投資を後押しする新制度についても盛り込む。エネ基はおおむね3年に1度改定する。同省は今回のタイミングに向けて、手を打ってきた。岸田文雄前政権が、ウクライナ危機をきっかけに立ち上げた「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」だ。会議では脱炭素社会の実現をめざすため、再生可能エネルギーとともに原発も核に位置づけた。2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」では、原発を「最大限活用する」とし、廃炉を決めた原発内での建て替えも認めた。原発回帰には慎重だった公明党も、GX基本方針を了承した。廃炉した分だけ建て替えるなら、原発の基数は増えないからだ。新しいエネ基では、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも廃炉した分だけ建設することも認める。同党は先の衆院選でも「将来的に原発に依存しない社会をめざす」とする公約を掲げた。新しいエネ基から「低減」を削ることとの整合性が問われそうだが、足元では再稼働すら順調に進まず、40年度の電源構成に占める原発の割合も2割を目標とする。東日本大震災前の3割には達しないことから、受け入れたもようだ。週内にも政府に出すエネ基に向けた「提言」にも、「低減」の文字は盛り込まない。新しいエネ基には、発電所の建設支援制度「長期脱炭素電源オークション」の対象を拡大し、原発の建設費や廃炉費を電気料金に上乗せして回収できるようにする制度の導入についても盛り込む。「低減」どころか、原発推進に向けて大きく転換する。経産省が震災後に進めてきた電力自由化に逆行するともいえる。市民団体からは「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせるものだ」との批判もあり、慎重な議論が求められる。

*10-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1622U0W4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月16日) 40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも
 経済産業省は16日、2040年時点の電源ごとの発電費用の試算結果を発表した。発電費用だけをみると太陽光発電が原子力を下回るものの、関連コストを合わせると原発の方が下回る可能性があるとの結果を示した。太陽光は昼間しか発電できず、電気が余った時間には使われずに捨てられるケースがある。再生エネを大量に導入すると、電力の需給を均衡させるために発電をとめる出力制御と呼ぶ費用も発生する。こうした費用を加味した「統合コスト」を検証した。経産省が試算のとりまとめ案として同日公表した資料によると、各電源の発電費用は1キロワット時あたり、太陽光(事業用)が8.5円、原子力が12.5円以上、洋上風力(着床式)が14.8円、液化天然ガス(LNG)火力が19.2円などとなった。各電源の統合コストについては1キロワット時あたり太陽光(事業用)が15.3〜36.9円、原子力が16.4円以上、洋上風力(着床式)が18.9~23.9円、LNG火力が20.2〜22.2円などとなった。関連コストなどを合わせると再生エネよりも原子力が割安になる可能性があるとした。現行のエネルギー基本計画を策定した際に検証した電源別コストでは、1キロワット時あたりの発電費用が30年時点で太陽光(事業用)なら8.2〜11.8円、LNG火力なら10.7〜14.3円、原子力が11.7円以上、洋上風力が25.9円などと見込んでいた。経産省は週内にも示す次期エネルギー基本計画の素案に今回の結果を反映する。11年の東日本大震災後に加わり、21年度に閣議決定した現行の計画でも明記している「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除し、原子力を再生エネとともに最大限活用することを記す方針だ。

*10-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1377035 (佐賀新聞 2024/12/19) エネルギー基本計画素案 時代の要請に応えてない
 経済産業省が、新たなエネルギー基本計画の原案を示した。東京電力福島第1原発事故以降、明記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を撤回。同一原発の敷地内に限って認めていた建て替えの要件も緩和するなど「原発回帰」を鮮明にした。2040年度の電源構成は現状の2割程度を維持した。経済界の一部意見に沿った内容だが、原発の将来に関する議論は不十分だし、高コストで建設から運転開始まで長時間を要する原発の電力安定供給や、気候危機対策への貢献は限定的だ。気候危機やエネルギー安全保障を視野に入れた将来ビジョンなしに、既得権益の調整に終始する過去の過ちを繰り返した結果で、時代の要請に応えたとは言いがたい。原案は、原子力について安全性の確保を大前提に必要な規模を持続的に活用していくとした。だが、23年度の原発の発電比率は8・5%で、30年度に20~22%とする現行目標達成すら危うい。今後、廃炉となる原発も見込まれ「40年度2割」の実現には再稼働や運転期間の延長、新増設などに多額の投資が必要になる。大手電力会社にその体力はほとんど残っていないのが現実だろう。熟議に基づく合意と、裏打ちとなる政策導入の見通しがない方針転換はあまりに無責任だ。深刻化する気候変動への危機感が極めて希薄なのも原案の大きな問題点だ。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるという日本も支持する国際目標の達成には、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量を今から早急かつ大幅に減らし、50年には実質ゼロにすることが求められている。40年度が視野の新計画では、そのための野心的なビジョンを示した上で、思い切った政策メニューを示すことが求められているのだが、原案にはそれがない。40年度の電源構成は再生可能エネルギーを4~5割程度、火力発電は3~4割程度で、30年度の目標と大差ない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や1・5度目標への言及もない。気候危機の解決に加え、エネルギー安全保障を確保し、化石燃料購入費の国外流出を防ぐために、短期間で何より効果的なのは再生可能エネルギーの大幅導入だ。にもかかわらず原案からは再エネ導入に「最優先で取り組む」との文言が消えた。目標数値も既に一部の国で達成されているレベルの小ささだ。石炭火力への依存を続ける日本には国内外から厳しい批判が出ているが、火力のどれだけを石炭が担うのかは示されていない。「35年までに電力供給の全て、または大部分を脱炭素化する」という日本を含めた先進7カ国(G7)の合意はどこに行ったのだろうか。ヒアリングの中で、1・5度目標の重要性や世代間の公平性に基づく長期的な視点の明記を訴えた若者団体の声が反映されることはなかった。経産省は40年度の温室効果ガス削減割合として13年度比で73%という数字を示したが、この目標案にも「先進国としては不十分で1・5度目標に整合的でない」との批判が根強い。温室効果ガスの大排出国としての国際的な責任、次世代の人々に安全安価で持続可能なエネルギーを提供するという責任。原案はその両者から目を背ける内容だ。

<日本の停滞・低成長の理由 ← 傲慢さと科学に基づくイノベーションを嫌う国民性>
PS(2024年12月22~27日追加):新興国が世界市場に参入し始めたのは、今から35年前の1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、同年12月に米国のブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が「冷戦終結」を宣言した時からで、それまで社会主義体制下にあった国々は、教育水準は高かったが人件費は安かったため、安価な生産基地として世界市場に参入してきた。つまり、冷戦中、日本が生産国として独壇場のような経済成長をすることができたのは、社会主義国が世界市場に参加していないという幸運があったからなのである。
 そのような中、*11-1-1・*11-1-4は、①ホンダ・日産は持株会社設立を目指し経営統合協議に入る ②三菱も持株会社への合流検討 ③持株会社を上場させ、ホンダ・日産両社は上場廃止方針 ④持株会社社長はホンダの取締役から選出し、取締役の過半もホンダ ⑤EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示していた ⑥鴻海幹部が日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオCEOと会談する可能性も ⑧鴻海が経営参画すれば一段と踏み込んだリストラを迫られるため、内田社長はホンダとの経営統合を選んだ ⑨ホンダ・日産・三菱3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる 等としている。また、*11-1-2は、⑩世界の自動車大手が戦略の転換点を迎え、EVや車載ソフトウエアを強みとするBYDやテスラ等の新興勢との競争激化で経営環境が厳しい ⑪EVを軸にした協業や連携相手の変更、大規模リストラを通じ100年に1度と言われる変革期を乗り越えようとしている ⑫自動車産業の構造はダイナミックに変化し、対応できない企業は淘汰 ⑬ガソリン車を強みとした自動車メーカー間で、EVを軸に新たな提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ ⑭GMはホンダとの低価格EV量産を中止、新たな連携先として韓国の現代自動車を選択 ⑮2024年7~9月の自動車世界販売は、BYD(前年同期比38%増)、テスラ(6%増)、ホンダ(8%減)、日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減) ⑯ホンダ・日産に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ・VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点ではテスラ・BYDには及ばず ⑰今後の競争の軸となる自動車の電動化・知能化に向け巨額な投資が必要になり、各社とも適切な人員・生産規模・協業相手を見極めて機動的に構造対策に踏み切る重要性増 としている。
 しかし、自動車は、1769年(周囲は馬車)にフランスでキュニョーが蒸気自動車を発明し、1873年にイギリスで電気式四輪トラックが実用化され史上初の時速100㎞超を達成し、その後、1885~1886年にドイツでダイムラーがガソリン車を発明し、1908年からアメリカでフォード社が自動車を大衆化し(https://gazoo.com/feature/gazoo-museum/car-history/13/05/30_1/)、その間もニーズに合わせて改良されてきたため、⑪のように、「100年に1度の変革期」と言うのは、現在の形のガソリン車しか知らない人の固定観念である。そして、世界中で自動車が普及する中で加えるべき付加価値は、大気を汚さず、地球温暖化を防止し、何処にでもある安価なエネルギーを使うことと、少子高齢化に対応して運転しやすいことなのである。
 そのため、日産が2010年12月に初代EVを市場投入し、2017年10月に「プロパイロット」「プロパイロット パーキング」を搭載する等の「電動化」「知能化」を進めたのは変化を先取りしていて良かったのだが、その後、HVに投資し始めたりして資金を分散させたのは、自らの売りとなる技術を伸ばさずに後ろ向きの技術に資源を浪費したと言わざるを得ない。世界では、⑬⑰のように、競争の軸が「電動化」「知能化」であり、EVを軸とした提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ中、日産は軸がぶれて利益を減らし、①④のように、ホンダ・日産が設立する持株会社では社長と取締役の過半をホンダに占められることになったのである。なお、日本では、⑧のように、リストラを嫌うため、企業のイノベーションに時間がかかりすぎ、高コスト構造で、世界競争に負けるという現実もある。
 また、(共同記者会見で日産の内田社長とホンダの三部社長は否定しておられたが)メディアは、⑤⑥のように、EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示し、鴻海の幹部が日産株を持つ仏ルノーのデメオCEOと会談する可能性もあったため、ホンダと日産の経営統合が進んだとしていた。これについては、オリンピックのスポーツではないので、⑨のように、一瞬、販売台数が世界3位の日本の自動車会社ができたとしても、その提携や統合の後に長所を活かし合ってシナジー効果を出せなければ心中せざるを得なくなる。つまり、⑫のように、自動車産業もダイナミックな変化に速やかに対応できなければ淘汰されるのであり、ホンダも日産も三菱も、他の会社の動きとは関係なく、本当に必要で最善の提携先を探さなければならないのだ。そのような状況の中、③の持株会社を上場させて、ホンダ・日産両社が上場を廃止する方針なのは、いつぞやの日産のように、短期的視野で外野からくだらない指摘をされないためには良いと思うが、②のように、三菱も持株会社に合流して日本の自動車会社がたった2グループになってしまうと、⑯のように、規模が大きくなって、国内では寡占状態となり、競争が起こらず多様性に欠けそうな気がする。しかし、世界では、⑩⑭⑮のように、BYD・テスラ・現代等の新興自動車会社が出てきており、日本人でもBYDやテスラを選ぼうかと思うため、i-MiEVを作った三菱でも厳しい競争環境にいることは推測できる。
 なお、前日産自動車会長のゴーン氏は、*11-1-3のように、⑱似た製品を同じ市場で展開しているため、日産とホンダは事業にほとんど補完性がなく、ホンダと日産の経営統合に相乗効果を見いだすのは難しい ⑲背景には日本政府(経産省)の圧力があり、ホンダはこの協議に押し込まれた ⑳日産は米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない とされており、私も⑲は事実だと思うが、⑳のように、日産が米国や中国で苦戦しているのに対し、ホンダは、“脱エンジン”の電動化戦略を2021年4月に発表し、2024年3月期の連結営業利益は1兆円に達して米国を中心とする北米市場の四輪事業で前期比38%もの販売増を見込んでいるため、技術と販売市場での相互補完性はあると考えている。

   
2024.12.19日経新聞    2021.5.11大学院       2023.6.8CNETJapan

(図の説明:左図のように、IEAは2035年に世界のEV販売は5,000万台に達すると予測している。しかし、中央の図のように、世界のEV販売台数・保有台数は中国・欧州・米国が上位で、将来予測ではインドが加わるが、世界で最初にEVを市場投入した日本は「その他」に入っている程度だ。また、右図は、世界のEV販売台数トップ10で、アジアでは1位にBYD、9位にHYUNDAIが入っており、日本の姿は見えない。そして、何故、こういう結果になったのかは、多くの人が知っているだろう)

 
    左から、2023.1.4、2022.10.19、2024.12.18、2024.12.18日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、日本は屁理屈をこねてガソリンエンジンやガソリンスタンドの保護に固執したため、人口1万人あたりの公共充電器数が世界でも低い方になっており、これでは日本の自動車産業の未来は暗い。しかし、EVを世界で最初に市場投入したのはゴーン氏率いる日本の日産自動車であり、左から2番目の図のように、その技術力や可能性にルノーは魅力を感じていたのだが、検察を使ってゴーン氏を退任させ、世界では通用しない方向に日産の経営方針はかわった。その結果、取り柄を失って日産の利益は次第に縮小し、右から2番目の図のように、身売りに近い統合話が持ち上がっているのだ。なお、研究開発費も固定費であり、積極的に研究開発しながら利益を上げるには効率的な技術開発に加えて販売規模の大きさが必要であるため、1番右の図のように統合や協業が進んでいるのだが、経営方針の誤った統合は瞬間的に売上規模が大きくなるだけで、その後は次第に衰退していくものである)

*11-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85565050Z11C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.19) ホンダ・日産、EV世界競争へ連合、来週統合協議入り 「鴻海の買収」危機感
 ホンダと日産自動車は23日にも経営統合に向けた協議に入る。背景にはトヨタ自動車と並ぶ2大勢力の結集に向けたホンダの強い覚悟がある。巨額投資が必要な電気自動車(EV)やソフトウエア搭載車(総合2面きょうのことば)の世界競争で劣後する状況の打破をめざす。日産には台湾電機大手・鴻海(ホンハイ)精密工業が経営参画の意欲も示しており、買収回避へ一気に統合に動いた。今秋、日産の周辺に鴻海の影がちらついていた。鴻海は2019年にEV事業への参入を表明した。日産が持つEVの開発力や製造技術に目をつけ、経営参画に動いていた。ホンダと日産はその動きを察知した。「日産と鴻海が連携すれば、こちらの連携は白紙に戻す」。ホンダ幹部は日産に強く警告していたが、焦りの裏返しでもあった。両社は8月に全面提携を発表した。ホンダにとって日産との協業は成長の軸で、破談は何としても避けたい。鴻海が日産に対して敵対的TOB(株式公開買い付け)に踏み切れば、ホワイトナイト(友好的買収者)になることも検討していた。同時期に日産の内田誠社長は業績面でも追い込まれていた。「日産を救済すると共倒れリスクがある」。ホンダ幹部は驚いた。11月に日産が発表した24年4~9月期の連結純利益はわずか192億円。前年同期比で9割も落ち込んだ。想定以上の業績悪化に、ホンダ側でも近づきすぎることに反対意見が出るようになった。日産は抜本的な構造改革の策定に時間をとらざるをえなくなった。9000人の人員削減や世界生産能力の2割減を打ち出したが、具体的なプランの公表は遅れていた。決断が遅い経営陣に対して、日産社内でも批判の声が高まっていた。12月に入り、内田社長は苦境ぶりが深まる。日産は構造改革のスピードを速めるために、前倒しで経営人事を見直した。最高財務責任者(CFO)ら一部担当の席替え人事にとどまった。内田社長は続投が決まったが、一部から反対の声が上がり、全面的な信任は得られなかった。「内田社長を継ぐ人材が育っていないだけだ」。社内からは厳しい声が聞こえるようになってきた。鴻海の動きも活発になっていた。中旬には鴻海幹部と日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)が会談する可能性があるとの情報も入ってきた。鴻海が経営に参画すれば、一段と踏み込んだリストラを迫られる。追い込まれた内田社長は、挽回策として自主再建でなくホンダとの経営統合の道を選んだ。将来的には三菱自動車との合流も視野に入れる。3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる。「3社連合は10年来の悲願だ」。ホンダの三部敏宏社長は実現の意欲を周囲に隠してこなかった。世界のEV市場で生き残りに必要な規模だと考えていた。18日の東京株式市場で日産株が制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比80円(24%)高の417円60銭で取引を終えた。収益改善への期待感から買いが先行した。一方で、ホンダ株は財務の悪化懸念から一時4%安となり、年初来安値を更新した。今回の経営統合は日産の救済ととらえる投資家が多く、ホンダの投資負担の拡大を嫌気したとみられる。ホンダと日産は社内の反対や批判を乗り越えて提携に動き出した。経営資源を結集して生き残れるか。早期に相乗効果を示すことが求められる。

*11-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85564850Z11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.19) 自動車大手、迫られる改革 協業相手組み替え/大規模な人員削減
 世界の自動車大手が戦略の転換点を迎えている。新興勢との競争激化により、多くは経営環境が厳しい。電気自動車(EV)を軸にした協業や連携相手の変更、大規模なリストラなどを通じて、100年に1度とも言われる変革期を乗り越えようとしている。「自動車産業の従来構造はダイナミックに変化している。対応できない企業は淘汰される」。8月、日産自動車とのEV協業について記者会見したホンダの三部敏宏社長は危機感を隠さなかった。ホンダと日産が三菱自動車を加えて世界3位グループを目指す背景には新興勢の成長がある。EVや車載ソフトウエアを強みとする中国・比亜迪(BYD)や米テスラが勢いを増している。ガソリン車を強みにしてきた自動車メーカーの間で、EVを軸に新たな提携関係を結んだり、協業相手を見直したりする動きが相次いでいる。伝統的な自動車メーカー同士の提携が主だった従来と比べ、業界内の連携の様相は大きく変わった。米ゼネラル・モーターズ(GM)はホンダとの低価格EVの量産を中止し、新たな連携先として韓国の現代自動車を選んだ。電池やソフトウエアなど次世代車で規模を追求する。独フォルクスワーゲン(VW)は中国の新興EVメーカー小鵬汽車(シャオペン)に7億ドル(現在の為替レートで約1070億円)を出資し、中国向けに多目的スポーツ車(SUV)など2車種のEVを共同開発している。欧州自動車大手のステランティスは、中国EV新興の浙江零●科技(リープモーター・テクノロジー、●はあしへんに包)との共同出資会社をオランダに設立した。24年7~9月の自動車の世界販売は、BYDが前年同期比38%増の113万台と躍進し、テスラも6%増と前年同期を上回った。対照的にホンダ(8%減)や日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減)などは軒並み前年同期を下回った。新たな協業先探しと並行して、自動車大手は構造改革を急ぐ。まず、現地企業の攻勢を受けている中国市場で工場閉鎖などを進めている。GMは4日、中国の工場閉鎖や事業再編で50億ドル超の特別損失計上を発表。GMの中国の自動車販売台数はピークの17年は400万台だったが、直近の23年は210万台まで減った。VWも上海汽車集団(SAIC)との合弁工場を閉鎖する検討に入っている。日本勢もホンダが中国でのガソリン車の生産能力を3割減らす方針を固めている。中国ではスマホメーカーの小米(シャオミ)や華為技術(ファーウエイ)など異業種からの参入も相次ぐ。日米欧の自動車メーカーが巻き返すのは容易ではない。中国市場の依存が高かった欧州勢は、地盤の欧州域内のリストラにまで影響が及んでいる。VWは欧州でのEV需要の低迷と高コスト体質も響き、独国内で少なくとも3工場の閉鎖と数万人規模の人員削減などを労組に通告した。同社にとってドイツでの工場閉鎖は初となる。ステランティスも最大2万5000人の削減を検討している。12月にはカルロス・タバレス氏が任期途中で最高経営責任者(CEO)を辞任することを発表するなど経営が混乱している。ホンダと日産も新興勢に対抗するために次の一手が求められていた。両社に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ、VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点で見ればテスラやBYDには及ばない。今後、競争の軸となる自動車の電動化や知能化に向けては巨額な投資が必要になる。各社ともに適切な人員・生産規模や協業相手を見極め、機動的に構造対策に踏み切る重要性が増している。

*11-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241221-OYT1T50094/ (読売新聞 2024/12/21) ゴーン被告「日産にはパニック状態が広がっている」「ホンダは押し込まれた」
 前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告は20日、米ブルームバーグ通信のインタビューに応じ、ホンダと日産の経営統合協議について「相乗効果を見いだすのは難しく、現実的な取引ではない」と指摘した。ゴーン被告は、両社が協議を行う背景には日本政府の圧力があったとの見方を示した。「経済産業省の影響力により、ホンダはこの取引に押し込まれた」と語った。また、「日産とホンダは事業にほとんど補完性がない。似たブランドと製品を同じ市場で展開している」と述べ、相乗効果は薄いとの見方を示した。日産の経営状況については「米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない。日産の内部にはパニック状態が広がっている」と指摘した。ゴーン被告は会社法違反(特別背任)などで起訴されたが、保釈中の2019年に不正に出国、レバノンに逃亡した。23日に日本外国特派員協会でオンライン記者会見を開く予定。

*11-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASSDR2FC0SDRULFA00PM.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2024年12月23日) ホンダと日産、経営統合協議入り正式発表 来年6月の最終合意めざす
 ホンダと日産自動車は23日、持ち株会社の設立を目指して経営統合の協議に入ると発表した。三菱自動車も同日、持ち株会社への合流を検討することを正式に表明した。来年6月までの最終的合意を目指し、2026年8月に持ち株会社が発足する統合が実現すれば、販売台数で世界3位の巨大グループが誕生する。23日午後5時から東京都内で3社の社長が記者会見し、説明する。ホンダと日産は同日、経営統合に向けた協議に入ることで基本合意書を結んだ。持ち株会社を設立して上場させ、傘下に入る両社は上場廃止となる方針。持ち株会社の社長はホンダの取締役から選出し、新会社の取締役の過半もホンダが占める方針だ。事実上、新会社の主導権はホンダが握ることが鮮明になった。

<買収の失敗事例←相手の立場を考えないメンツのための買収は成功しないこと>
PS(2024年12月28日追加):日本製鉄はアメリカの鉄鋼大手USスチールを約2兆円で買収すると発表したが、*11-2-3のように、USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)は、「買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性がある」とバイデン氏に報告し、バイデン米大統領に決定を委ねることになったそうだ。「鉄は国家なり」という言葉があるくらいに製鉄業はどの国でも重要な産業であるため、バイデン米大統領だけでなく、トランプ次期大統領や全米鉄鋼労組が「USスチールは、国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠」と考えるのは当然で、その理由は、同盟国であっても韓国の鉄鋼大手ポスコが日本製鉄を買収すると発表すれば、日本人も反対するのと同じであろう。
 また、日本製鉄は、「提示してきた約束は米国の雇用を維持すること」としているが、米国は年功序列・終身雇用・義理人情型の社会ではないため、USスチールでは有能な人が退社し、取引先も離れて販売も振るわなくなり、原子力発電所建設を手掛けていたストーン・アンド・ウェブスター社を高値で買収した東芝と同様、多額の損失を出して本業まで危うくしそうだ。
 これに先立ち、*11-2-1・*11-2-2は、①日本製鉄はUSスチールの買収計画を巡り、安全保障の問題を審査するCFIUSに対し、さまざまな提案や説得を続けたが、CFIUSの懸念を払拭できなかった ②バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい ③日本製鉄は、トランプ次期米大統領の反対表明を受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」とする声明を出した ④日本製鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」「日本製鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」「買収はUSスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱化する」と説明した ⑤日本製鉄は政治リスクを縮小するため、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた としている。
 このうち、①②については、最初に説明したとおり、米国の対応は理解できるし、③については、理由の説明がないため説得力が無く、米国が鉄鋼産業を護ろうとすれば日本製鉄以上のことができる。また、④のうち、「雇用を守る」というのは米国ではさほど重視されることではなく、仮に日本製鉄が最先端の技術を持ち、それをUSスチールに供与してしまえば日本の優位性はなくなるため、日本製鉄の説明は実行不可能なようなのである。


 2024.12.18日経新聞       2024.4.13時事       2024.9.13読売新聞  

(図の説明:左図のように、メディアは買収によって世界での販売量・生産量の順位が上がると主張するが、合計売上高や合計生産高の順位が一瞬上がることに意味は無い。そして、中央の図のように、USスチールの買収を巡っては全米鉄鋼労組はじめ現米国大統領・次期米国大統領がともに反対しており、買収できたとしてもその後の経営は困難を極めると予想されるため、買収額の2兆円はドブに捨てるようなものである。なお、右図のように、USW会長や幹部も最初から乗り気ではなく、日本製鉄の買収計画には無理があったため、2兆円もかけるのなら、今後、確実に鉄鋼需要が伸び、かつ喜ばれるアフリカの適地に製鉄所を作った方が賢いと思う)

*11-2-1:ttps://jp.reuters.com/economy/industry/SSRJFBBWP5KGZCIBDGOGBZQJN4-2024-12-18/ (Reuters 2024年12月19日) 日鉄、USスチール買収でCFIUSの懸念払しょくできず=書簡
 日本製鉄(5401.T), opens new tabは米鉄鋼大手USスチール(X.N), opens new tab買収計画を巡り、安全保障上の問題を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)に対してさまざまな提案や説得を続けたものの、CFIUS側の懸念を払しょくできなかったもようだ。CFIUSが14日付で日本製鉄に送った書簡の内容をロイターが確認して分かった。CFIUSは23日までにバイデン米大統領に買収計画を承認するか、審査を延長するか、あるいは計画を認めないことを提言する見通し。書簡によると、CFIUSを構成する関係省庁の間でなお意見がまとまっておらず、このままの状況ならば最終的にバイデン氏の判断に委ねられる形になる。バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい。書簡には、9月初めから日本製鉄がCFIUS側と対面で4回、電話で3回の協議をしたとの経緯が記されている。直近では13日にも米財務省および米商務省の事務局との話し合いがあった。また、日本製鉄は安全保障上の懸念を和らげるための対応策も3回提案していたという。

*11-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0354A0T01C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 日鉄「米国の安全保障強化」 USスチール買収意義を強調
 日本製鉄は3日、トランプ次期米大統領が日鉄によるUSスチール買収計画に反対すると表明したことを受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」と買収意義を強調する声明を出した。日鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」とも改めて強調した。声明では、日鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」と説明。買収は「USスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱(きょうじん)化する」とした。トランプ氏の反対表明についての直接的な言及はしていない。トランプ氏は2日(米国時間)、「かつて偉大で力強かったUSスチールが外国企業に買収されることは私は完全に反対だ」と自身のSNSに投稿した。大統領選のさなかも、日鉄による買収計画に反対する考えを再三述べてきた。日鉄のUSスチール買収計画は現在、対米外国投資委員会(CFIUS)による安全保障上の審査と、独禁法上の審査の最中だ。CFIUSの審査期限は12月23日とされており、日鉄は現バイデン政権下で12月末までの買収完了を目指している。買収計画は米大統領選の影響で政治問題化してきた。9月にはバイデン大統領が中止命令を出すと欧米メディアが報じた。日鉄は政治リスクを縮小するために、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた。

*11-2-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241224-OYT1T50042/ (読売新聞 2024/12/24) 日鉄のUSスチール買収、バイデン大統領に最終判断委ねられる…15日以内に決定へ
 日本製鉄は日本時間24日、米鉄鋼大手USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)から、審査結果について全会一致に至らず、バイデン米大統領に決定を委ねたとの報告を受けたと明らかにした。バイデン氏は15日以内に決定を下す必要がある。米紙ワシントン・ポストも23日、事情に詳しい関係者の話として伝えた。報道によると、CFIUSは、買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性があるとバイデン氏に報告した。その上で、日鉄側のリスク解決に向けた対策や投資計画の実現可能性などについて、委員会内で意見の一致に至らなかったと伝えたという。バイデン氏は3月、USスチールについて「国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠だ」との声明を発表。ホワイトハウスは、その立場は現在も変わっていないとしている。日鉄は「日鉄が提示してきた約束が米国の雇用を維持し、ひいては国家安全保障を強化するということについて、大統領が熟慮されることを強く要望する」とコメントした。CFIUSは財務長官や国務長官らで構成し、全会一致の結論が出なければ、大統領が最終判断する。日鉄は米大統領選前の9月中にCFIUSへ買収計画を再申請しており、今月23日が審査期限だった

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2023.4.27 地球は、確かに温暖化している

     梅        水仙         桜        さつき

 3月、4月は多忙だったので、あまりブログを書かずにいるうちに、あっと言う間に季節は冬から初夏になり、いろいろな花が咲いては散っていきました。

 そして、季節の変わり方は、確かに早くなっています。

| 環境::2015.5~ | 04:46 PM | comments (x) | trackback (x) |
2021.12.29~31 「行く年、来る年」 ← 日本の可能性と魅力  皆さま、よいお年を!

 椿(つばき)  シクラメン     梅        水仙    蠟(ろう)梅

(図の説明:冬の花を並べました。現在は、椿とシクラメンが咲き、次第に水仙・梅・蠟梅が咲き始めます。私も忙しくて、いろいろ書いている時間がありませんでしたが、よいお年を!)



(図の説明:森も冬から春へ。日本列島は、雪景色から緑までの森が広がり、潜在力は豊か)



(図の説明:冬の海。左から、北海道、下田、沖縄。沖縄)

   

(図の説明:1番左の図のように、輸入農産物を国内生産するには、現在の2.5倍の耕地面積が必要と言われていますが、左から2番目の図のように、耕作放棄地は耕作地と変わらないくらいの面積に達しています。右から2番目と1番右の図が、耕作地の様子です)

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2021.7.22~29 身近に起こっている地球温暖化の影響 (2021年7月30、31日、8月1、2《図》、7、10、11、13日追加)
(1)地球温暖化の影響で増える自然災害
1)洪水の多発とダム決壊の恐れ
イ)欧州の「100年ぶり」の豪雨 ← これから頻繁に起こるのでは?


  2021.7.16Yahoo    2021.7.17News Week     2021.7.17NHK

(図の説明:2021年7月16日、欧州西部を襲った記録的豪雨で河川が氾濫して発生した洪水)

 欧州西部を襲った記録的豪雨で、*1-1-1のように、水位の上昇が続いて河川が氾濫し、洪水が発生して住宅が押し流されるなどの大規模な被害が発生し、7月16日時点で、ドイツ・ベルギー・オランダで約1,300人の安否が確認されず、死者が120人を超えたそうだ。

 また、ケルン当局の報道官は「ネットワークが完全に遮断され、インフラは完全に破壊された。病院は患者を受け入れられなくなっている」とし、ドイツ政府は700人を超える軍隊を動員して救援にあたっているが、ダムが決壊すれば下流地域が一段の洪水に見舞われる恐れがあるとして放流も試みているとのことである。

 気象学者は、「気候変動の影響でジェットストリームの流れが変わったため、今回の豪雨が引き起こされた」と指摘し、欧州委員会のフォンデアライエン委員長も、「今回の洪水の規模を踏まえると気候変動が影響していることは明らかなので、迅速に対応する必要がある」という考えを示しているそうだ。

ロ)中国河南省は「1000年に1度」の暴雨 ← これから頻繁に起こると思うが・・


   2021.7.22Ameblo      2021.7.21BBC       2021.7.21Yahoo

(図の説明:中国河南省の記録的大雨で、左図は、地下鉄が浸水した様子、中央の図は、街中の様子、右図は、亀裂が生じて決壊する恐れがあるとされる満タンのダムの様子)

 中国河南省でも、7月17日以降に記録的な大雨が続き、*1-1-2のように、鄭州市で地下鉄が浸水するなどして7月21日までに少なくとも計16人が死亡して10万人が避難し、鄭州の気象局は「1000年に1度の暴雨」だとして警戒を呼びかけているそうだ。

 鄭州市では、7月17日以降の3日間で年間雨量に匹敵する617ミリの雨量を計測し、20日午後6時頃に、雨水が地下鉄構内への浸水を防ぐ遮水壁を越えて線路まで流れ込み、市内の地下鉄全線が運行停止となって、500人余りが避難したが逃げ遅れた12人が死亡した。このほか、家屋の倒壊等によっても4人が死亡したそうだ。

 また、*1-1-3のように、駅や道路が冠水し、住民1万人以上が避難を余儀なくされ、人口約9400万人の河南省に最高レベルの気象警報が発令されている。さらに、洛陽市のダムに20メートルほどの亀裂が生じて決壊する恐れも出ており、同地域には兵士が配備されいるが、軍は「いつ決壊してもおかしくない」と警告したそうだ。

 同地域では少なくとも今後24時間は土砂降りの雨が続くと予想されており、洪水発生の原因は複合的であるものの気候変動による気温上昇は激しい降雨のきっかけになる。

2)気温の上昇に伴う海面の上昇
イ)氷河の融解

   
    2020.1.16朝日新聞     2019.12.24日本気象協会  2019.9.25毎日新聞

(図の説明:左図は、世界の気温の推移を、1951~1980年の平均気温を基準として1880~2020年の年間平均気温についてグラフにしたもので、初めは低かった気温が近年になって急速に上がり、全体で約1°C上がっているが、上昇幅は新興国が市場参入して多くの化石燃料を使い始めた時期に大きくなっている。中央の図は、日本の気温が1981~2010年の平均を基準として年間平均でどれだけ高かったか低かったかを1899~2019年についてグラフにしたもので、マイナス部分が多いように見えるが、実際には1889年と比較して2019年は2°C近く上昇している。世界の気温上昇に伴って海水温も上がり、右図のように、1950年と比較すると2020年には既に30~40cmは海面上昇しており、これは見た目の実感と一致している)

   
  2021.7.22Gooddo     2021.7.21AmericanView    2018.11.15産経新聞
                    氷河の後退
(図の説明:気温が上がると海面が上昇する理由は、左図のように、極地の氷が解けたり、中央の図のように、山間部の氷河が解けて後退したりするからだ。右図は、北極海の氷が解け、北極海を通行しやすくなった場合の航路短縮のメリットを記載しているが、海面上昇で国土が狭くなったり、インフラが使えなくなったりするディメリットは考慮されていないようだ)

 *1-2-1のように、カナダ・フランス・スイス・ノルウェーの研究者が、NASAの衛星「Terra(テラ)」に搭載したカメラで世界各地21万カ所以上の氷河の写真を撮影し、20年分の衛星写真をまとめて、2000年から2004年にかけては年間2,270億メートルトンの氷河が失われ、2015~2019年には年間2,980億トンが解けて、このままのペースで融解が続けば、今世紀半ばには多くの氷河が完全に失われる可能性があると、『Nature』に掲載したそうだ。

 論文は、この変化の原因に温暖化や降水量の増加を挙げており、溶けて河川や海に注ぎ込んだ水の量は、過去20年間に観測された海面上昇分の約5分の1に相当するとしているが、過去20年間に観測された海面上昇分の約1/5にすぎないのなら、残りの4/5はどこから来たのか?

 日本でも、海面上昇は重大問題で、これまで標高の低かった地域は海抜以下になって下水の排水が困難となり、洪水も起こり易くなる。中国で地下鉄に水が流れ込んだ例は、東京・大阪でも他人事ではなく、これ以上、海抜の低い地域に人口を密集させて、そこに地下鉄をはじめとするインフラを集中投資することは意味が問われるようになった。

 氷河が減ると、氷河をバッファとして比較的低く保たれてきた海水温はさらに上がりやすくなり、急速に溶ける氷河の水は北インドでは狭い渓谷を下ってふたつのダムに到達し、200人が亡くなる事故という環境災害を引き起こした。そして、国連の気候変動に関する政府間パネルが2018年に発表した報告書は、その凄まじい洪水や地滑りが高山で起きやすくなっている原因を温暖な気候にあると指摘している。

ロ)2020年は日本も世界も平均気温が史上最高で、豪雨・異常高温が相次いだ

  
    RBBTODAY COM        日生基礎研究所       日生基礎研究所

(図の説明:左図のように、世界人口は産業革命後に急速に伸びはじめ、現在は70億人程度だ。また、中央の図のように、日本の人口は太平洋戦争後の経済成長期に都市に集中し始め、三大都市圏それも東京圏に住む人口が著しく増えて、今では都市しか知らない人の割合も多くなった。右図は、2019~2020年の社会的移動による人口増加の割合で、これらの複合的要因が都市におけるヒートアイランド現象の原因となっている)

 2020年夏以降は太平洋の中部・東部の海面水温が平年より低くなるラニーニャ現象が発生して2020年末から2021年にかけては寒い冬になったが、英国気象庁によると、2021年の世界の気温は2015年以降の数年間よりはラニーニャ現象の影響で少し涼しくなるものの、1850~1900年の平均よりは約1度高く、長期的な温暖化傾向に変わりはないとのことである。

 また、*1-2-3によると、都市部ではヒートアイランド現象による気温上昇が別途加味されるが、日本全体の気温の推移を確認する場合は都市部を除いた地点の全国をまんべんなく抽出して調べたところ、日本の平均気温は昭和元年から令和元年(1926~2019年)の94年間で1.4度上昇し、猛暑日も平成以降急激に増えて2010年代の10年間は1980年代と比較すると日数が4.6倍になるそうだ。

 その上、都市部は建築物・舗装道路・人工排熱等の影響で気温が上がりやすく、ヒートアイランド現象が起こるため、全国平均よりも気温の上昇が大きく、年間猛暑日も明確に多いそうだが、これも体感と一致している。

(2)それではどうすればよいのか
1)都市の構造を変える

   
     東京(日本)         大阪(日本)        福岡(日本)

(図の説明:左図は、東京の空中写真だ。スカイツリーの近くを流れる空を映して青く見えているのは隅田川で、下水道で処理しきれなくなった場合は汚水も流すため、近くで見ると濁っていてきれいでない。また、東京の地面は、殆どがコンクリートとアスファルトで覆われており、コンクリート製の建物が密集して緑が少ないため、ヒートアイランド現象を起こし易い。つまり、都市計画が乏しい。中央の図は、大阪の空中写真で、大阪城近くを撮影しているため緑が多く見えるが、街中は東京と同じかそれ以下だ。大阪城近くを流れている大川(旧淀川)や寝屋川も、空を映して青く見えてはいるが、近くで見るときれいな川ではない。なお、右図は、福岡の空中写真で、空港にJR直通の地下鉄が乗り入れていたり、空港が街に近かったりするのはよいが、都市は東京と同じくコンクリートとアスファルトで覆われ、コンクリートの建物が密集して緑は東京より少ない《福岡の人は「自然が近いからいい」と言っていたが》。そして、どの都市も飛行機から見ると家並が時代を経るに従って無秩序に広がっていき、都市計画はないようだ)

   
   ロンドン(英国)      パリ(フランス)      上海(中国)

(図の説明:左図は、ロンドンの空中写真で、東京よりは高さの揃った建物が並んでいるが、コンクリート・アスファルト・石造りの建物が多く、街中を流れるテムズ川はきれいでない。しかし、東京より緯度が高いため、年間平均気温は低い。中央の図は、凱旋門を中心として放射状に広がったパリの街で、建物の高さ・設計がかなり統一されているため、街の景観が良く絵になる。緑は道路からは多く見えないが、建物の中庭にもあるようだ。また、右図は上海で、競って近代的な建物を建てているので一つ一つはおしゃれな建物も多いが、街全体としての整合性・統一性がなく、少し路地に入ると昔ながらの汚ない建物も多い。緑は東京と同じか少し多いくらいで、道は広くなったが近くを流れる蘇州河・黄浦江の水はきれいでない。そのため、ここも、環境に配慮した都市計画が必要だろう)

イ)日本の都市構造について
 日本の都市は、奈良・京都を除いて、道路は建物の隙間を利用して作ったかのように狭くてわかりにくく、碁盤の目になっていない。そのため、番地で住所を探しにくいが、スマホの地図を見ながら歩くと危ない上、逆に居場所を探知されて悪用されるケースもあるため、私自身はスマホを使っていない。

 そのため、これからの都市造りは、あらかじめ安全性で土地にランクを付け、水やエネルギーの供給計画を立て、必要な交通システム・上下水道・電気・ガス・病院・学校・保育所・介護施設・緑地などのインフラ整備を行う必要がある。何故なら、そういうことを考えずに建物を増やしていくと、災害のリスクが上がり、結局は住環境が悪くなるからで、既にできている都市も、今後10~100年の街づくり計画を立て、それに合わせていく必要があろう。

ロ)「空飛ぶクルマ」を使った交通システム
 JALは、*3-3のように、2025年度に、三重県等で空港と観光地を結ぶ「空飛ぶクルマ」を使ったサービスを始めるそうだ。空港を起点に目的地に行く「空飛ぶクルマ」が実用化されれば、道路の渋滞緩和や過疎地の交通に役立ちそうだ。

 しかし、「クルマ」が空から落ちてきては人も建物もたまったものではないため、事故時も安全が保たれるクルマ・道・ルールを作って欲しい。例えば、道路を3階建てにして、1階は歩行者・自転車・自動二輪車・緑地専用、2階は自動車専用、3階は「空飛ぶクルマ」専用にしておけば、「空飛ぶクルマ」は最悪でも3階に落ちるだけですみ、3階の道路に不時着することも可能だ。そして、目的地となる場所は、建物の屋上か3階以上にポートを作る必要があるだろう。

 なお、この交通システムは、これまで道路の整備が遅れていた場所で作った方が早くできそうで、もしアフリカで作れば、サバンナを道路で分断せずに自動車専用道路を作ることができる。

2)せめて「30年の計」がある予算を作るべき

 
2021.7.3日経新聞   2021.7.15日経新聞   2021.6.24日経新聞 2021.7.14日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、政府は2021年12月下旬に来年度予算を閣議決定するが、そのためには7月から各省庁が財務省に概算要求を提出して折衝しており、2022年1~3月に国会の予算委員会で行われる議論は殆ど反映されない。そして、予算委員会は、予算審議の場ではなく、首相・大臣を小さな政治とカネ問題で誹謗中傷する場と化している。また、左から2番目の図のように、米国や欧州は、複数年かけてグリーンイノベーションを行うため徹底的な投資をするが、日本は、グリーンイノベーションには単年度で思いつき程度の予算しか割かず、役に立たない景気対策ばかり行って無駄遣いしており、財源は赤字国債なのだ。さらに、さっさとワクチンや治療薬を承認して先に進めば、人流ばかり止めなくても新型コロナの流行は止まるのに、それはやらずに人流を止め、その保証として右から2番目の図のように大きな無駄遣いをしている。なお、1番右の図のように、EUが環境対策の緩い国の製品に対し国境炭素税を導入するのは正しく、これに反対している環境保護に消極的な日本のメディアは見識が疑われるのだ)

イ)日本の財政支出
 政府が6月に閣議決定した骨太の方針では、*2-2-1のように ①グリーン社会の実現 ②デジタル化の加速 ③少子化の克服 ④地方の活性化の4分野を今後の重点課題とし、2022年度予算で重点分野の予算を増やすために、財務省は各省庁の裁量的経費を前年度から10%減らし、削減額の3倍を特別枠で要求できるようにして成長分野に優先的に予算配分できる特別枠を設けるよう調整するとのことである。

 そして、予算規模の大きい社会保障関係費は高齢化による自然増に抑え、医師の技術料等の診療報酬見直しなどでどれくらい伸びを圧縮できるかを今後の焦点にし(このように医療及び医療人材を粗末にしたのが今回の情けない結果を招いたのだが)、新型コロナに関連する予算は影響が現時点で見通しにくいため、金額を示さない(無限の)事項要求を認めるそうだ。

 しかし、財務省のこのような硬直したやり方では、無駄な支出(長くは書かないが、本当は社会保障費ではない)を省いて効率的な財政運営を行うことはできない。そのため、国の財政状態及び収支の状況を一目瞭然に把握することができ、事業別の費用対効果を計測することが可能な複式簿記による公会計制度を導入して、支出の費用対効果やその財源(国民に賦課する税収だけでなく資産から得られる収入を含む)について、毎年度、見直しを行うべきなのだ。

 なお、私は、日本も環境税(or炭素税)をかけ、そこから環境によい製品への投資を促す補助金を出して、民間の力をフル活用し、できるだけ早い時期に気候変動問題を片づけるべきで、それは可能である上に、日本にとってメリットが大きいと考えている。

ロ)欧米の財政支出と財源
 米国や欧州は、*2-2-2のように、新型コロナ危機の出口を見据えて環境・デジタル分野で数十兆円規模の財政支出に動き始め、その財源として、米国は法人税率の引き上げや富裕層への課税強化策を表明し、EUは国境炭素税案を公表している。

 なお、*2-2-3のように、EUの国境炭素調整措置案は、第三国にEU並みの気候変動政策を要求するもので、当然、中国・ロシアはじめ日米も対象になる。これを貿易摩擦に繋がるなどとと捉える思慮の浅い国は、国際基準作りでリーダーになる資格がない。

(3)エネルギーを変える

   
 2017.6.27日経BP  2013.4.24IBM研究所等 2019.5.21日板 2021.3.23exite news

(図の説明:1番左は、バスの駐車場屋根にとりつけた従来型の太陽光発電機で、左から2番目は、鏡を使って2000倍の面積から太陽光を集める太陽光発電機だ。また、右から2番目は、ビルの窓に取り付けた透明ガラスの太陽光発電機、1番右は、温室に使った透明膜の太陽光発電機で、いろいろな進化形があるので場所を選んで使えばよい。そして、これらの技術は、都会にとっても、農業地帯にとっても、また砂漠にとっても福音となるだろう)

イ)2030年度の日本の電源構成は再エネのみにすべき
 朝日新聞は社説で、*2-1-1のように、経産省が政府の次期エネルギー基本計画素案で新しい目標を示し、①2030年度の再エネ比率を36~38%とし ②再エネ最優先と明記したが ③原発比率は昨年の発電実績で4.3%に過ぎないのに20~22%に据え置いた と記載している。

 高知新聞も、*2-1-2のように、④最安値とされた原子力のコストが上がり、太陽光が原子力を下回った ⑤改正地球温暖化対策推進法は2050年までの脱炭素社会の実現を明記し ⑥それには大規模な省エネとCO₂排出量の4割を占める電力部門の対応がKeyで ⑦太陽光など再エネの導入量を増加して主力電源にすべきで、火力は縮小へ国際的な圧力がある ⑧再エネ拡大には送電網の整備が必要だ と記載している。

 また、愛媛新聞も社説で、*2-1-3のように、「太陽光『最安電力』 再生エネを促進し、原発は全廃を」と題して、⑨「最も安い電力」が原子力から太陽光に交代した ⑩原子力は発電コストの安さを強みとしてきたが、安全性への懸念・高レベル放射性廃棄物の最終処分・経済的な優位性も揺らいでいる ⑪国は太陽光など再エネの主力電源化を推し進め、原発の速やかな全廃に道筋を付けるべき と記載しており、全くそのとおりだ。

 しかし、そもそも①④⑨⑩の「原発が最安コストの電源だった」というのも嘘だったことは確実で、使用済核燃料の最終処分費用や事故時の対策費、平時の公害対策費などのすべてを加えたコスト計算はしていなかったのだ。そのため、これらをすべて含めれば、1kwh当たり11 円台後半という試算も安く見積もりすぎであろう。

 一方、太陽光は日本では30年時点で8円台前半~11円台後半と言われているが、現在は日射量の少ないドイツ・デンマークでも7~8円、日射量の多いチリ・メキシコは3~5円、アラブ首長国連邦は3円であるため、日本も次世代太陽光発電機器を住宅・ビルなどに地道に取り付けていけば相当の発電効果・節電効果が得られ、5円程度にはなるだろう。そして、水力・地熱・風力なども無駄にせず発電すれば、変動費0の低コストエネルギーを国内で自給できるのである。

 そのため、⑦⑧⑪のように、再エネの主力電源化を進め、送電網を整備して、原発は速やかに全廃するのが無駄遣いをなくす前向きの投資となる。もちろん、火力は⑥⑦のように、CO₂を排出し、縮小へ国際的な圧力がある上、変動費が0ではなく高価な輸入燃料を使わなければならないため、2030年度の電源構成で41%も残す必要はないと思う。

 なお、「原発はCO₂を排出しないから地球温暖化防止に資する電源だ」という主張もあるが、原発は平時でも温排水を排出して海を温めており、外国の分まで含めて数が多ければ、これも見過ごすことはできない。また、*2-3のように、中国広東省の台山原発で燃料棒が破損し、冷却材中の放射性物質の濃度が上昇したそうだが、放射性物質は平時でも取り除くことができないという理由でトリチウムを海に流しており、公害は地球温暖化だけでないことを考慮すれば、一日も早い廃止が必要なのである。

ロ)「現役世代からの医療費召し上げ」とはどういうことか
 (2)2)イ)の新型コロナで無差別に休業させた企業への助成金、景気対策のバラマキ、(3)の原発補助金のように、もっと賢い方法があるのに血税を無駄遣いしてきた例は多い。しかし、日経新聞はじめいくつかのメディアは、それらを批判するどころか推奨してきた。

 その上で、*2-1-4のように、「現役世代からの医療費召し上げは限界だ」と題して、①75歳以上の後期高齢者が入る医療制度に対して現役世代の加入者を中心とする企業の健康保険組合などが負担する支援金が一段と膨張した ②全世代型社会保障を看板に掲げるなら医療費膨張を制御し ③不足する財源は現役世代からの召し上げだけに頼らず安定した税財源の確保に力を尽くす必要がある などと記載している。

 しかし、①③の問題は、現役サラリーマンは協会けんぽ・組合健保・共済組合に加入し、退職すると国民健康保険に入り、75歳以上になると後期高齢者医療制度に入るという年齢で区切ったため医療需要が増える時には別の保険に入ることになる誤った区切り方が原因で発生している。

 保険理論に沿った保険制度は、サラリーマンが加入する協会けんぽ・組合健保・共済組合に退職者も加入し続け、75歳以上になっても同じ保険に加入し続けるものである。そうすれば、応能負担で保険料を支払い、リスクの低い人がリスクの高い人を支え、生涯を通じて見れば損得なしの本来の保険制度となる。そして、その結果は、現役サラリーマンの負担はもっと増え、企業は定年年齢を延長して健康な支え手である期間を伸ばすようにするだろう。介護保険も同様で、これらを徹底したときに、②の全世代型社会保障になるのだ。

 にもかかわらず、「高齢者と同じ保険に入り続けるのは嫌だ」「現役世代が高齢者の保険に支援金を払うのも嫌だ」「医療費に消費税投入を増やせ」「高齢者は世代内互助せよ」と言うのなら、それはわがままにすぎない。「後期高齢者人口が増加する」のは前からわかっていたことで、医薬品・医療機器などのイノベーションは早く治す方向に起こるため、医療費削減に資する筈だ。また、新薬の値段が高いのは、普及が遅いため単価が高いか、厚労省が言い値で機材や薬品を買っているか が理由で、いずれにしても改善すべき点は高齢者ではなく厚労省側にある。

 なお、2006年6月に老人保健法が改正され、2008年4月から後期高齢者医療制度が創設されたが、その原案を厚労省の担当者が自民党内の厚労部会に持ってきた時、私は「保険の原理に反する」と言って反対したが、その時の担当者の答えは、「そのかわり、患者負担以外は医療保険者からの拠出金と公費(税金)で賄うから」というものだった。私は、「そういう意図的な割合では、不公平になる」と言ったのだが、現在、後期高齢者医療制度の財源は、患者の自己負担分を除いて現役世代からの支援金(国保や被用者保険者からの負担)4割・公費(国・都道府県・区市町村の負担)5割・被保険者からの保険料1割で構成されているのである。

 また、「医療現場で検査の重複を減らせ」というのも、単純すぎる。その理由は、独立した病院で「Second Opinion」を取りたい場合もあるからで、デジタル化した検査結果記録を患者自身が簡単に持ち運びできるようにするのはよいものの、別の病院で二重に検査することも当然あってしかるべきだからである。

 このように、社会保障を疎かにしてきたことが、実需であり成長分野でもある産業の伸びを抑えてきた。そして、これにより、本来なら上昇する潜在力のあったGDP成長率も上昇せず、国民は豊かになるどころか貧しくなっているのだ。

(4)機械を変える ← 先端技術の使用


2021.7.15日経新聞 2021.7.22日経新聞 2021.1.26朝日新聞    2021.4.16
                            Business Insider Deutschland 

(図の説明:1番左の図は、EUの主な気候変動対策で、左から2番目の図は、自動車各社のEV専業化スケジュールだ。また、右から2番目の図は、ボルボのEVで、1番右の図は、メルセデス・ベンツのEVだ)

1)EVへの移行
イ)欧米のケース
 欧州委員会は、*3-1のように、7月14日、温暖化ガス排出大幅削減に向け、①2050年の温暖化ガス排出実質0という目標の中間になる2030年までに、1990年比で55%減らす目標を実現するため ②ガソリン・ディーゼル・ハイブリッド等の内燃機関車の販売を2035年に事実上禁止し ③自動車からのCO₂排出を2035年までに100%減らすよう定め ④環境規制の緩い国からの輸入品に国境炭素調整措置を2023年にも暫定導入し ⑤自動車及びビルの暖房用燃料に新しい排出量取引制度を設けてCO₂排出の炭素価格を上乗せするそうで、Perfectな案である。

 これを受けて、*3-2-2のように、ボルボは製品ラインナップの完全な電気自動車(EV)化へ向けた技術ロードマップを発表し、⑥実走行距離1000kmのEVを目指し ⑦バッテリーパックをクルマのフロアに統合しセル構造を利用して車両全体の剛性(安全性)を高め ⑧充電時間もバッテリー技術の向上とソフトウエア・急速充電技術の継続的改善によって2020年代半ばまでに現在の半分にし ⑨バッテリーセルを100%再エネで生産することを目指し ⑩使用済バッテリーのリユースやリサイクルも計画し ⑪EVのエネルギーインフラでの活用も計画している とのことである。
 
 さらに、独自動車大手ダイムラーのメルセデス・ベンツは、2021年7月22日、*3-2-3のように、⑫販売する新車を2030年にもすべてEVにすると発表し ⑬8つの電池セル工場を新設するなど、2030年までに400億ユーロ(約5兆2000億円)をEVに投資し ⑭EVに不可欠な車載電池では専業メーカーと共同で世界に8つの大型工場を設け ⑮2022年に満充電で航続距離1000km以上の新型車を発表し ⑯EVファーストからEVオンリーに踏み込む こととし、このほか独アウディや英ジャガー等の高級車ブランドもEV専業への転身を発表しているそうだ。

 このように、政府が政策の方向性を明確にすると、民間企業も戦略を立てやすく、そのための技術開発や投資を行えるのだが、さすがボルボは徹底していてスマートであり、ベンツは世界展開が早く、日本だけ置いてきぼりになった感がある。日本は屁理屈が多すぎ、競争もなさすぎるため、ボルボやベンツの工場を誘致してはどうか?

ロ)中韓のケース
 これまで日本車が圧倒的なシェアを占めていた東南アジアの自動車市場でも、*3-2-1のように、現地政府のEV振興策に呼応して中国・韓国のメーカーがEVで先手を取ろうとしており、タイでは中国の長城汽車が、インドネシアでは韓国の現代自動車が現地生産に乗り出そうとしているそうだ。

 タイは、現在は日本車の生産・販売シェアが約9割に達するが、大半をガソリン車が占め、長城汽車は2020年にタイから撤退した米GMの工場を取得して参入し、3年間でEVを含む9車種の電動車を投入するとのことである。

 タイ、インドネシア両政府に共通するのは、動きの鈍い日本車へのいらだちで、タイではEV普及目標の引き上げを検討する政府に対し、バンコク日本人商工会議所自動車部会が「全体でのゼロエミッションを考えて段階的に進めるべきだ」として慎重な議論を求め、インドネシアも同様だということだが、日本国内でもよく言われるこの屁理屈は、どちらから先でもよいが解決すべき問題を先送りするために使われている見識の低いものである。

ハ)日本のケース
 日本車は、*3-2-1のように、東南アジアで1960年代から現地組み立てを始め、主要国の新車販売に占めるシェアが約8割に達しているが、いつまでもガソリン・エンジンに執着した結果、EVでゲームチェンジが起こって中国勢が小型車・商用車で攻勢をかけているそうだ。

 そのため、*3-2-4に、2021年7月21日、スズキ・ダイハツがトヨタ・日野・いすゞの商用車連合に合流すると発表し、トヨタにとって電動化など脱炭素における商用車分野協業の総仕上げになると記載されているが、商用車の技術開発会社に軽自動車を得意とする2社が加わって大型から小型まで商用車を全方位で開発する体制が整うのはよいものの、すべてがトヨタ頼みでは多様性がなくなりそうである。

 地方では、狭い道でも通りやすくて自転車代わりに乗りこなせるため、軽自動車が初心者用や主婦用として購入されるケースが多い。ただし、安い価格で脱炭素を実現してもらいたいのは当然だが、ダサくてもよいわけではないため、VWやフィアットを選ぶ人もいる。つまり、日本車は、企画が洗練されておらず、(馬鹿の一つ覚えで)工夫が足りない感があるのだ。

2)有望な新技術を選ぶ脱炭素ファンドができた
 このような中、*3-4のように、企業の脱炭素化に向けた世界最大規模の枠組みとして、米投資ファンドTPGキャピタルが気候変動対策に特化したファンドを組成し、アップル・グーグル・ボーイングなどの米国を代表する企業20社以上と日本の三井住友銀行が出資して、当初の運用規模が約54億ドル(約6000億円)になるそうだ。

 そして、このファンドは、①脱炭素化に向けた技術を有するベンチャー企業に資金を投じ ②新技術開発を促進し ③2021年中に出資額を70億ドル程度まで引き上げ、④三井住友銀行は出資先への融資や新規株式公開の支援などで連携し、また、⑤気候変動対策を巡っては米アップルが2億ドル規模の森林再生ファンドを既に立ち上げており ⑥アルファベットは環境関連に使途を絞った社債「サステナビリティボンド」の発行を決めている とのことである。

 このほか、脱炭素化を巡っては米ブラックロックが新興国向けインフラファンドを立ち上げ、国際協力銀行・第一生命・三菱UFJ銀行などが出資を決めて、ファンド総額5億ドル規模を目指しており、このように、金融の視点から気候変動問題に対応し、脱炭素化の技術を保有する企業を探して育てるのはよい考えだと思う。

3)日本に国際ルール作成能力があるのか
 日経新聞は、*3-2-5のように、EUが2021年4月に公表した「タクソノミー(事業が持続可能と判定される基準)」について、「①『閻魔大王』のように企業が選別される」「②環境に優しいとされるプラグインハイブリッド車はEVへの移行期に伸びると見込まれていたが、2026年以降は新車で売りにくくなる」「③天然ガスは石炭よりCO2排出量が4割少なく、石炭から再生エネへの移行期の繋ぎ役になるとされてきたが、欧州投資銀行のホイヤー総裁は2021年末までにガスへの投融資から手を引く方針を表明した」等と記載している。

 しかし、②③は繋ぎ役でしかなく、繋ぎ役が出演できるのは主役が出てくるまでの時間でしかないため、もともと予想されていたことで、繋ぎ役で凌いでいる間に主役を作らなければならなかったのだ。また、天然ガスについては、燃料として使わなくても化学工業原料として使える上、燃料としてのガスならオリンピックの聖火と同じく再エネ由来のH₂を使えばよいだろう。

 つまり、「完全にはできないから妥協する」という地点から出発すると何も解決できないため、「日本は欧米主導のルールを受け入れることが多かったが、ルールをつくる側に回れるかどうかは国益を左右する」と言いたいのなら、我田引水によって歪んでいない合理的なルールを作って見せる必要がある。何故なら、これまでは、日本人の私が見ても、先進的かつ合理的で世界のリーダーになってもらいたいのは、欧州のルールの方だったからだ。

・・参考資料・・
<洪水の多発と地球温暖化の関係>
*1-1-1:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/07/1201300.php (Newsweek、Reuters 2021年7月17日) ドイツ・ベルギー洪水の死者120人超に、行方不明約1300人
 欧州西部を襲った記録的な豪雨で河川の氾濫により洪水が発生し、16日時点でドイツ西部などで約1300人の安否が確認されていない。水位の上昇が続き、一部地域で通信が途絶える中、ドイツとベルギー両国の死者は120人を超えた。ドイツのラインラント・プファルツ州とノルトライン・ウェストファーレン州に加え、ベルギーとオランダで、河川の氾濫で住宅が押し流されるなど大規模な被害が発生。これまでにドイツだけでも103人の死亡が確認された。このうち12人は、夜間に鉄砲水に襲われたケルン南方のジンツィッヒにある障がい者施設の入所者だった。地元メディアは、洪水による家屋倒壊が増えているため、犠牲者数が増加する恐れがあると報道。ベルギーではこれまでに少なくとも20人の死亡が確認され、安否不明は20人となっている。ドイツでは16日時点で約11万4000世帯が停電。洪水に見舞われている一部の地域では携帯電話網が機能停止に陥り、被災者と連絡が取れない状態になっている。ラインラント・プファルツ州では、ケルン南方のアールワイラー地区で約1300人の安否が未確認。ケルン当局の報道官は「ネットワークが完全に遮断され、インフラは完全に破壊された。病院は患者を受け入れられなくなっている」と述べた。ドイツ政府は700人を超える軍隊を動員し、救援にあたっている。独政府報道官によると、メルケル首相は次期首相候補であるキリスト教民主同盟(CDU)のラシェット党首から捜索や救助活動を巡る状況報告を受け、近く被災地を訪問する予定という。ARD(ドイツ公共放送連盟)は、メルケル首相が18日にシュルトを訪れると報じた。当局は、ダムが決壊すれば下流地域が一段の洪水に見舞われる恐れがあるとして、放流を試みている。ドイツ西部シュタインバッハタール・ダムは昨晩にかけて決壊の恐れが高まったため、下流地域で約4500人が避難した。気象学者は、気候変動の影響でジェットストリームの流れが変わったために今回の豪雨が引き起こされたと指摘。欧州委員会のフォンデアライエン委員長も、今回の洪水の規模を踏まえると気候変動が影響していることは明らかだとし、迅速に対応する必要があるとの考えを示した。

*1-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP7P4142P7PUHBI00V.html (朝日新聞 2021年7月21日) 地下鉄浸水12人死亡 中国・河南「千年に1度の暴雨」
 中国・河南省で17日以降、記録的な大雨が続き、省都の鄭州市で地下鉄が浸水するなどして21日までに少なくとも計16人が死亡、10万人が避難した。鄭州の気象局は「1千年に1度の暴雨」だとして、警戒を呼びかけている。習近平(シーチンピン)国家主席は同日、被災者の救済に取り組むよう関係部門に対して重要指示を出した。中国メディアによると、鄭州市では、20日午後4~5時の1時間で201・9ミリの雨が降り、中国全土での観測史上最大を記録した。17日以降の3日間では、鄭州市の年間雨量にほぼ匹敵する617ミリの雨量を計測したという。地元メディアによると、鄭州市では20日午後6時ごろ、地下鉄構内への浸水を防ぐ遮水壁を越えて雨水が線路にまで流れ込んだ。市内の地下鉄は全線が運行停止となり500人余りが避難したが、逃げ遅れた12人が死亡したという。ほかに5人がけがを追った。中国のSNSには、鄭州市内の地下鉄車内で乗客が胸のあたりまで水につかったまま取り残されている様子を映した動画も投稿されている。このほか、鄭州市内では家屋の倒壊などによって4人が死亡した。

*1-1-3:https://www.bbc.com/japanese/57911006 (BBC 2021年7月21日) 中国・河南省で記録的豪雨 12人死亡、1万人以上が避難
 中国中部・河南省は、今月16日から続く記録的豪雨で、深刻な洪水被害に見舞われている。駅や道路が冠水し、住民1万人以上が避難を余儀なくされている。当局によると、鄭州市でこれまでに少なくとも12人が死亡した。また、主要道路が閉鎖され、空の便が欠航するなど、10都市以上に被害の影響が出ている。人口約9400万人の河南省には最高レベルの気象警報が発令されている。洪水発生の原因は複合的だが、気候変動による気温上昇は激しい降雨のきっかけになる。
●ダム決壊の恐れも
 ソーシャルメディアでは、道路全体が水没している様子が画像から確認できる。水の流れは速く、車やがれきが漂流しているのがわかる。こうした中、河南省のダムが決壊する恐れが出ている。当局によると、洛陽市のダムに20メートルほどの亀裂が生じている。同地域には兵士が配備され、軍は声明で「いつ決壊してもおかしくない」と警告した。ツイッターには、鄭州市で浸水した地下鉄の車両に乗っていた乗客が、肩のあたりまで水に浸かっている映像が投稿されている。現実の状況を撮影したものなのかは不明。救助隊がロープを使って人々を安全な場所に引き上げる様子や、列車の座席に立って水に浸からないようにする人の姿などが確認できる。車両内に何人が閉じ込められているのかは不明だが、これまでに数百人が救助されたとの報告がある。シャオペイと名乗る人物は、中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボ)」に助けを求めるメッセージを投稿した。「車両内の水が自分の胸にまで達している。もう声も出ません」。消防局はその後、この人物が救助されたと明らかにした。
●3日間で1年分の雨量
 「生まれてからずっと鄭州市で暮らしているが、こんな大雨は経験したことがない」と、56歳のレストラン経営者はAP通信に語った。鄭州市ではこの3日間で、通常の1年分の雨量に匹敵する雨が降ったと報じられている。同地域では少なくとも今後24時間は土砂降りの雨が続くと予想されている。

*1-2-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/794b549b846d24273ef57f58173d01c107872ca7 (Yahoo 2021/5/1) 世界の山間部の氷河が、2050年までに“完全消失”する:衝撃の研究結果が意味すること
 これまでに氷河を散策した経験がないなら、近いうちに行きたくなるかもしれない。標高の高い場所にある世界の氷河が、科学者が想定していたよりも速く溶けていることが判明したのだ。すでに2015年以降だけで年間3,000億トン近くの氷が失われている。4月28日に発表された包括的な研究によると、このままのペースで融解が続けば、今世紀半ばには多くの氷河が完全に失われる可能性があるという。このほどカナダとフランス、スイス、ノルウェーの研究者たちが、米航空宇宙局(NASA)の衛星「Terra(テラ)」に搭載された特殊なカメラで撮影された20年分の衛星写真をまとめた。このカメラは「ASTER(Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer=アスター)」と呼ばれる機器で、世界各地の21万カ所以上の氷河の写真を撮影している。氷河の表面の特徴を立体的に捉えるために、撮影にはふたつのレンズが使用された。今回の研究にはグリーンランドと南極の大規模な氷床は含まれていないが、こちらは別の科学者のチームが調査している。今回の研究は『Nature』に掲載されたもので、2000年から04年にかけて年間2,270億メートルトンの氷河が失われたことが判明した。ところが15~19年には、溶ける量が年間2,980億トンまで増えていたことも明らかになっている。こうした変化の原因として論文では、温暖化や降水量の増加を挙げている。すべてを合わせると、溶けて河川や海に注ぎ込んだ水の量は、過去20年間に観測された海面上昇分の約5分の1に相当するという。
●人々の生活を脅かす現象
 問題は海面上昇にとどまらないが、重大な問題であることには変わりない。インドネシアやバングラデシュ、パナマ、オランダといった沿岸国や米国の一部の住民の生活が脅かされているからだ。また内陸地域の一部では、何百万人もの人が雪解け水からきれいな水を得ている。降雪量が少ないときは、長年にわたって氷河が予備の水源になっているのだ。そうした状況はアンデス山脈やヒマラヤ山脈、アラスカ州の一部に特に見られている。「氷河は地球全体の多くの場所に冷涼で豊富な水を提供しています」と、ノーザンブリティッシュコロンビア大学の地球科学教授で今回の論文執筆者のひとりであるブライアン・メヌーノスは言う。「これらの氷河がなくなると、そうしたバッファとしての機能が失われてしまいます」。これまでの氷河溶解に関する研究では、空間的にも時間的にもほとんど計測が実施されていなかった。このため氷河が実際にどれほど後退しているのかについては、不明瞭な点があったという。それが詳細な衛星写真を使うことで、「わたしたちの推計では不明確な部分を大幅に減らすことができました」と、メヌーノスは言う。21万1,000カ所すべての氷河のデータを処理するために、ノーザンブリティッシュコロンビア大学のスーパーコンピューター1台を1年間にわたってほぼフル稼働させる必要があった。
●厳しい未来への警鐘
 今回の研究結果は厳しい未来に警鐘を鳴らしているのだと、ブリストル大学の地理学教授のジョナサン・バンバー(今回の研究には参加していない)は言う。「これは21世紀の世界の氷河の質量損失に関する最も包括的、徹底的かつ詳細な評価です。かなり詳細な研究結果のおかげで、世界全体の個々の氷河の変化を初めて知ることができました」と、バンバーは説明する。現在の傾向が続けば、標高の低い山地の一部では2050年までに氷河が完全に失われることが分析で示されていると、バンバーは言う。「研究自体やその成果は素晴らしいものですが、最上段に掲げられたメッセージはとても悲観的です。氷河は消えゆく運命にあり、水源や自然災害、海面上昇、観光、そして地域の生活に深刻な影響を与えているのです」。論文の筆者たちも、この評価と同じ考えだ。ノーザンブリティッシュコロンビア大学のメヌーノスは、今世紀半ばまでにカスケード山脈やモンタナ州のグレイシャー国立公園などの場所から氷が完全になくなるだろうと指摘している。「見られるうちに見ておいたほうがいいでしょうね」と、メヌーノスは促す。急速に溶ける氷河が生み出す水は、環境災害を引き起こすことがある。例えば今年2月には、融解が進んでいたヒマラヤの氷河が北インドで崩れ、水の壁が狭い渓谷を下ってふたつのダムに到達して200人が亡くなる事故が起きた。国連の気候変動に関する政府間パネルが18年に発表した報告書は、そうした凄まじい洪水や地滑りが高山で起きやすくなっている原因は、温暖な気候にあると指摘している。「氷河の後退や永久凍土の融解によって山の斜面の安定が崩れ、氷河湖の数や面積が増えると予測される」と、報告書では結論づけている。「その結果、地滑りや洪水、水が滝状に流れる現象が、かつてそうした現象がなかった場所でも起きるだろう」
●氷河の損失の半数が北米に
 カナダと欧州の研究者たちが執筆した今回の論文は、アラスカやカナダ西部、米国で溶けつつある氷河が、世界全体で加速する氷河の質量損失の半分近くを占めていることも突き止めている。「アラスカ州の南東部は心配な場所です。ここ10年間で途方もない変化が起きています」と、メヌーノスは指摘する。アラスカ州では融解する氷が原因で地震の規模が大きくなっている。3月に『Geophysical Research』に掲載されたアラスカ大学フェアバンクス校の研究者たちの論文によると、氷河の下にある地面が隆起して圧力が解放され、付近の断層にかかる力に影響を及ぼしているのだという。全体としては悪いニュースではあるが、研究チームが20年間の衛星写真からまとめたデータの量に専門家は感銘を受けている。「本当に素晴らしい成果だと思いました」と、NASAゴダード宇宙飛行センターの雪氷圏科学研究所所長のトム・ノイマンは言う。「時系列の威力がはっきりと示されています。多くの場合、こうした調査には5~7年単位の年月がかかります。研究チームがいまでも優れたデータを集めているという事実は驚きに値します。そうしたデータは史上初の成果を得る上で大きな力になったのです」。ノイマンは、NASAの地球観測衛星「ICESat-2」のミッションのプロジェクトサイエンティストを務めている。ICESat-2は、地球の極地にレーザーを反射させて氷河や極地の氷床の損失を計測し、世界の海面上昇への影響を監視する。「20年は続けたいと思います。そしていつの日か、今回の論文のようなものを執筆できればいいですね」と、ノイマンは語る。

*1-2-2:https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/210104/cpd2101040638001-n1.htm (産経BZ 2021.1.4) 2020年は日本も世界も平均気温が史上最高 豪雨、異常高温相次ぐ
2020年の世界と日本の平均気温が、観測が始まった19世紀末以降、最高となる見込みであることが気象庁の調査で分かった。気温上昇に伴い、各地で30年に一度の規模の高温や大雨などが頻発。国内も九州で豪雨災害が発生するなどした。地球温暖化も寄与したとみられ、2020年は新型コロナウイルスだけでなく、気象も人類に牙を向いた年として記憶されそうだ。一方、今年はこうした傾向がやや緩和されるとの見方もある。気象庁によると、世界の1~11月の平均気温は平年(1981~2020年の平均)から0・47度上がり、16年1~11月の0・45度を抜いて1891年以降、歴代1位となった。100年で0・75度上昇したことになる。太平洋南東側やアフリカ大陸の南東側の海を除くほとんどの地域で、平年より平均気温が高くなった。日本の平均気温も1898年の観測開始以来、過去最高となり、平年より1・07度高かった。100年あたりでは1・27度上昇した。各地で異常高温もみられ、気象庁がまとめた主な現象だけでも世界の11地域で発生。シベリアの一部地域では気温が平年より14・2度高くなり、永久凍土まで解ける地域もあった。気象庁のまとめでは、8~9月に米国西部で森林火災が発生するなど、2020年は8件の気象災害が発生。うち6件が大雨、1件がハリケーンによる被害だった。6~10月にインドなどを含む南アジアで発生した大雨で、周辺では2700人以上が亡くなった。国内では7月に九州で長期にわたる豪雨災害が発生したが、この雨をもたらした暖かく湿った空気と長く停滞した梅雨前線は、九州を襲う前の6月中旬以降、中国の長江の中・下流域でも活動を活発化させ、270人以上が死亡・行方不明となる豪雨を発生させた。気象庁異常気象情報センターの担当者は「20年が暑かった原因は、温室効果ガスによる地球温暖化に加えて複数ある」と分析する。20年初頭は北極にある寒気が南に降りてきにくい大気の状態だったことから、暖冬が進行。さらに19年ごろからインド洋の海面水温が平年より高まったことが地球全体に広がり、年間を通してさらなる温暖化に寄与した可能性があるという。一方、20年夏以降は太平洋の中部・東部の海面水温が平年より低くなるラニーニャ現象が発生。ラニーニャ現象が発生した年は日本列島は寒くなる傾向にあるといい、20年末から21年にかけては一転して寒い冬となるという。気象庁と同様に地球温暖化を監視している英国気象庁によると、21年の世界の気温は15年以降の数年間よりはラニーニャ現象の影響で少し涼しくなるものの、1850~1900年の平均よりは約1度高く、長期的な温暖化傾向に変わりはないとみられる。

*1-2-3:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000044799.html(パシフィック・コミュニケーションズより抜粋 2020年3月23日)昭和から令和で気温1.4度上昇!
■平成の31年間は1989年の観測史上、もっとも日本の気温が上昇した期間。
 昭和元年から令和元年(1926~2019年)の94年間で、日本の平均気温は1.4度上昇。
■世界全体で見ても平均気温は上昇傾向。2019年の世界の年平均気温は史上2番目の高さで、15~19年の5年間、10~19年の10年間の平均気温はいずれも過去最高。
■気象庁発表によると、2020年3月~5月の気温は全国的に高く、夏(6月~8月)の気温も全国的に平年並みか、高め。昨年より早い時期から真夏の太陽が照り付けると想定される。
■日本全体で進む高気温化
 都市化による影響が小さい全国15地点(※)の年平均気温偏差(濃い折れ線)および全国13地点*1の猛暑日*2の平均年間日数(薄い折れ線)の推移。
*1:全国15地点:網走*,根室,寿都,山形,石巻,伏木,飯田*,銚子,境,浜田,彦根,宮崎*,多度津,名瀬,石垣島(全国13地点:全国15地点のうち、*以外の地点)
 ※都市部ではヒートアイランド現象による気温上昇が別途加味されるため、日本全体の気温推移を確認する場合は、都市部を除いた地点を全国まんべんなく抽出している。
*2:日最高気温が35度以上の日
 日本気象協会によると、昭和元年から令和元年(1926~2019年)の94年間で、日本の平均気温が1.4度上昇したことがわかりました。2015年7月に発表された研究によると、大気中の二酸化炭素レベルが現在とほぼ同じだった300万年前の気温は、現在よりも2℃から3℃高く、海抜は最低でも6メートル高かったことがわかっています(※)。この内容から単純に計算すると、気温が1度上昇するごとに海面は2mほど高くなることから、気温1.4度の上昇がどれほど大きな変化かわかるでしょう。中でも、平成以降の約30年は気温が一段と高くなっており、統計的にも平成の30年は1898年の統計開始以降、最も暑い30年間だったと言うことができます。また、猛暑日の出現日数についても1920年から10年刻みで日数を確認したところ、平成以降急激に猛暑日が増えていることがわかりました。特に2010年代の10年間は1980年代と比較すると猛暑日の日数が4.6倍にも及ぶほか、1926年以降で猛暑日の出現日数が多かった年をランキングにしてみると、上位5カ年のうち4カ年が平成元年以降に集中するなど、直近30年の気温の高さが伺えます。
 ※Dutton et al. 2015 https://science.sciencemag.org/content/349/6244/aaa4019
■都市部でも大きな変化が
 横浜・京都・福岡など都市部では全国平均よりも大きく気温が上昇。年間の猛暑日数に関しても明確な増加傾向にあることが分かりました。一般的に、都市域では建築物や人工排熱などで気温が下がりにくいヒートアイランド現象の影響を受けやすいため、その効果が全国平均よりも顕著な気温上昇傾向として表れた可能性があります。
■令和を迎えた昨年、日本全体の年平均気温の最高を更新。2020も高気温の見通し
 2020年1月、気象庁は、2019年の日本の年平均気温(基準値との差:+0.92℃)が、1898年の統計開始以来で最も高い値であると発表。加えて、世界気象機関(WMO)は、2019年の世界の年平均気温(基準値との差)が史上2番目の高さであり、15~19年の5年間、10~19年の10年間の平均気温はいずれも過去最高であると発表するなど、日本だけでなく世界全体で見ても多くの研究で高気温化が認められています。日本全体の気温上昇は、地球温暖化の影響と自然変動の影響を受けていると考えられ、今後ますます注意が必要です。また、気象庁が20 年2月25日に発表した、向こう3ヶ月(3月~5月)と今年夏(6月~8月)の天候見通しによると、今年の夏の気温も全国的に平年並みか高めになるとのことです。また、梅雨時期の降水量はほぼ平年並みで、その後は高気圧に覆われて晴れる日が多くなると予想。昨年は7月下旬まで雨が続き、気温が上がらなかったことを考えると、今年は昨年より早い時期から真夏の太陽が照り付けるでしょう。この結果を受けて、日本気象協会は、今年は本格的な夏を待たずに、いち早く猛暑対策を行う必要があるとしています。(以下、略)

<政策の方針と予算>
*2-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14983912.html (朝日新聞社説 2021年7月22日) 30年電源構成 原発維持は理解できぬ
 2050年に脱炭素社会を実現するために、30年度にどんな電源構成をめざすべきか。経済産業省がきのう、政府の次期エネルギー基本計画の素案で新しい目標を示した。再生可能エネルギーを「最優先」と明記し、30年度の再エネ比率を36~38%と現行目標より14ポイント高くした。再エネを主力電源と明確に位置づけたことは評価できる。一方、理解できないのが、原子力の比率を20~22%に据え置いたことだ。国際エネルギー機関(IEA)が集計した昨年の国内の発電実績の速報では、原発の割合は4・3%に過ぎない。素案が示す原発比率の達成には、新規制基準で審査中の11基を含む国内の原発27基を、8割の高稼働率で運転させる必要がある。しかし現実には、福島の事故以来、国民の不信感が根強く、再稼働は進んでいない。コストが安い電源だとの主張も根拠が揺らいでいる。経産省が今月まとめた電源別の発電コスト試算の最新結果では、30年に新設する原発は1キロワット時当たり11円台後半以上。04年には5・9円とされていたが、安全対策費用が増え続けて上昇傾向が止まらない。30年時点で8円台前半~11円台後半と最も安くなる見通しの事業用太陽光など、コスト低下が進む再エネとは対照的だ。素案が「可能な限り原発依存度を低減」としながら、非現実的な目標を掲げざるを得ないのは、30年度の温室効果ガス排出を13年度より46%減らす新しい政府目標との整合性を取る必要があるからだろう。それだけ無理をしても、30年度の電源構成の目標で最も大きいのは火力だ。昨年実績の7割からは下がる見通しだが、依然、41%もある。そもそも、8年半後の電源構成を現状から大きく組み替えることには限界がある。発電施設の建設や送電システムの改革には時間がかかるからだ。まずやるべきは、脱炭素社会実現をめざす50年のあるべき電源構成の姿を示すことではないか。主役は現時点では、再エネしか考えられない。昨年の発電実績で21・7%と、現行の30年目標(22~24%)に匹敵する水準に育った再エネの潜在力を、できる限り生かすのが得策だ。30年度の数字は、50年の目標に向けての足取りを検証するための中間指標との位置づけで考え直すのが望ましい。太陽光や風力など電源ごとに具体的な施策を挙げた長期の実行計画をまとめ、検証と修正を重ねながら柔軟に進めていく。そんな態勢を整えることこそ、脱炭素社会への早道になるだろう。

*2-1-2:https://www.kochinews.co.jp/article/471271/ (高知新聞 2021.7.14) 再生エネの優位性を磨け
 2030年時点の各電源の発電コストについて経済産業省が示した新たな試算は、太陽光が最安になった。これまで最も安いとされた原子力のコストが上昇し、太陽光は初めて原子力を下回った。原子力は東京電力福島第1原発事故を受けた規制強化に伴い、安全対策費が膨らんだ。このため前回15年の試算より1割程度上がった。改正地球温暖化対策推進法は、50年までの脱炭素社会の実現を明記している。そのためには、大規模な省エネルギーとともに、二酸化炭素(CO2)排出量の4割を占める電力部門の対応が鍵を握る。中期目標では、30年度の排出量を13年度比で46%削減する。取り組みの加速が求められている。太陽光など再生可能エネルギーは導入量の増加で主力電源になると見込まれる。今夏をめどに改定する「エネルギー基本計画」に合わせた電源構成の新目標は、現行より引き上げる方向で検討されている。火力は縮小へ国際的な圧力がある。そこで、原子力は目標を維持するとの見方が出ている。CO2を排出しない再生エネと原発の電源割合を引き上げることで補うことをもくろむ。発電コストを巡っても、経産省は原子力の安さを強みと位置付けてきた。だが、その見方も安全性とともに揺らいでしまった。災害などを想定した事故防止対策のコスト増加が見込まれる。第1原発の廃炉で最難関とされる溶融核燃料(デブリ)の取り出し費用などは含んでおらず、コストはさらに上昇することは間違いない。この試算は発電設備を新たに更地に建設して運転した場合を前提としている。土地取得の費用などは含まず、利用状況などで数値は変動するとはいえ、運転開始から40年を過ぎた原発が再稼働する中、新増設は厳しい状況だ。石炭火力はCO2排出抑制の対策費がかさむため、上昇を見込む。一方、太陽光の発電コストは、事業用、住宅向けとも下がるとした。世界的に普及が進むことでパネルなどの価格が低下するとみる。陸上風力や液化天然ガス(LNG)火力なども、発電コストを最も安く見込んだ場合の試算値では、原子力の発電コストを下回った。ただし、再生エネへの期待を膨らませても、導入は簡単に拡大するものではない。送電網の整備費などは今回の試算に含まれていない。天候に左右される発電条件など、乗り越えなければならない課題も多い。来年4月施行予定の改正温対法は、太陽光や風力発電などの促進区域を市町村が設定する制度を創設する。手続きの簡素化や資金面での優遇を想定している。だが、生態系や景観の悪化を懸念する住民らの反対運動も目立つようになった。国は土砂災害などが想定される地域は指定対象から除外する方針のようだが、地域の混乱を誘発するようでは本末転倒だ。再生エネの優位性を生かすように、きめ細やかな対応が求められる。

*2-1-3:https://www.ehime-np.co.jp/article/news202107150013 (愛媛新聞社説 2021年7月15日) 太陽光「最安電力」 再生エネを促進し原発は全廃を
 経済産業省が2030年時点での発電コストの試算を示し、「最も安い電力」が原子力から太陽光に交代した。太陽光の発電コストが原子力を下回るのは初めてとなる。原子力は発電コストの安さを強みとしてきた。だが、安全性への懸念や、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分などの問題に加え、経済的な優位性も揺らぎ、存在意義は薄れる一方となっている。国は太陽光など再生可能エネルギーの主力電源化を推し進めるとともに、原発の速やかな全廃に道筋を付けるべきだ。試算は、発電設備を更地に新設して運転するのが前提となっている。原子力の発電コストは04年試算で1キロワット時当たり5・9円だったが、11年の東京電力福島第1原発事故を機に上昇。前回15年は10・3円以上、今回は11円台後半以上だった。前回試算と比べると、1基当たり平均1千億円と見積もった安全対策費が今回は2千億円になった。福島の事故を巡る廃炉や賠償、除染などの見積額も12兆2千億円からほぼ倍増。これらが発電コストを押し上げている。廃炉で最難関の溶融核燃料取り出しや、除染土壌の最終処分の費用は試算に含まれておらず、原発のコストが上振れするのは避けられないだろう。二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力も排出抑制対策に費用がかかり、発電コストの上昇が見込まれる。地球温暖化の元凶でもあり、原発と同様に一刻も早く廃止すべきだ。一方、太陽光は世界的な普及拡大でパネルなどの価格が低下し、発電コストが下がる。最安の計算値は、事業用が1キロワット時当たり8円台前半、住宅用が9円台後半。陸上風力も原子力を下回る見通しという。今年5月、「50年までの脱炭素社会実現」を明記した改正地球温暖化対策推進法が成立。政府は30年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%減らす目標を掲げる。達成に向け、省エネと合わせ、より安全で安価な再生エネの普及拡大に注力するのが合理的といえる。ただ、課題も残る。太陽光や風力発電の適地は全国に分散しており、大消費地への送電網拡張が欠かせない。天候の変化に備えた蓄電池の整備なども必要になる。こうした費用は試算に入っておらず、コストを抑える取り組みが重要だ。大規模施設を設置するための森林伐採が土砂災害リスクを高めるとの懸念もある。水質や景観への悪影響を理由とした反対運動も各地で起きている。国は地元に対応を丸投げしてはならない。行政と住民、事業者の利害を調整し、丁寧に合意形成を図る制度が必要ではないか。経産省は今月21日にもエネルギー基本計画の改定案を提示する。計画の土台となる30年度の電源構成目標で、再生エネを大きく伸ばす姿勢を明確に打ち出し、民間企業による投資拡大や技術革新につなげたい。

*2-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210726&ng=DGKKZO74163590V20C21A7PE8000 (日経新聞社説 2021.7.26) 現役世代からの医療費召し上げは限界だ
75歳以上の後期高齢者が入る医療制度(後期制度)に対し、現役世代の加入者を中心とする企業の健康保険組合などが負担する支援金が一段と膨張した。今後、団塊世代の後期高齢化で消費する医療サービスはますます増える。菅政権が全世代型社会保障を看板に掲げるなら、医療費膨張を制御するとともに、不足する財源は現役世代からの召し上げだけに頼らず、安定した税財源の確保に力を尽くす必要がある。厚生労働省によると、2019年度に健保組合などが後期制度に払った支援金総額は前年度より3.7%増え、6兆5220億円となった。後期制度を導入した08年度以降で最高だ。主因は(1)後期高齢者人口の増加(2)医薬品・医療機器などのイノベーションがもたらした診療報酬の増額――の2点だ。イノベーションの恩恵は全世代の患者が広く享受する。新型コロナの例を出すまでもなく病の脅威に診療報酬政策を適切に用いるのは当然である。一方、後期高齢者人口の増大は22年から拍車がかかる。すべての団塊世代が後期高齢者になる25年に向け、医療費膨張に歯止めが利かなくなる事態を憂慮する。国会は先の通常国会で、一定以上の年金所得などがある後期高齢者の窓口負担を1割から2割に高める法改正をした。しかし対象者が限られ、医療費膨張を制御する効果は乏しい。根本からの対策を視野に入れるときだ。医療現場では検査の重複を減らすのが課題である。マイナンバーを生かし、デジタル化した検査結果の記録を患者自身が簡単に持ち運びできるようにすべきだ。また、最も有効かつ安全で経済的な薬の使用方針を決める「フォーミュラリー」も医療費の制御効果が高い。厚労省は来年度の診療報酬改定で、病院への導入を後押しする仕組みを工夫してほしい。もっとも、これらの対策をとっても現役世代の支援金増加をくい止めるのは難しい。骨折や慢性疾患のリスクがほかの世代よりも格段に高く、保険原理が働きにくい後期高齢者の特質を考えれば、その医療費に消費税の投入を増やすのが理にかなっていよう。今後10年程度は、消費税増税は不要というのが首相の立場だが、超高齢国のリーダーとして責任ある考えとは言えまい。税率10%後のあり方について政治的な議論の場を設定するときである。

*2-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0311G0T00C21A7000000/ (日経新聞 2021年7月3日) 概算要求に特別枠 22年度予算、成長分野の投資促す
 財務省は2022年度予算の概算要求基準で、成長分野に優先的に予算配分できる特別枠を設けるよう調整する。各省庁で使い道を決められる裁量的経費を前年度からまず10%減らすよう求め、削減額の3倍を特別枠で要求できるようにする。デジタル化の加速や脱炭素など菅義偉政権が力を入れる分野で政策を集め、投資を促す狙いがある。概算要求基準は各省庁による予算要求のルールとして位置づけられる。政府が近く与党と調整し、正式に決める。各省庁は8月末までに財務省に概算要求を出す。財務省は金額と政策を査定し、年末までに政府の予算案をつくる。政府は6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で①グリーン社会の実現②デジタル化の加速③少子化の克服④地方の活性化――の4分野を今後の重点課題にした。22年度予算編成に向けて、既存の事業の見直しを求めてメリハリを利かせたうえで、重点分野の予算を増やす。公共事業や教育など一般会計の裁量的経費は、21年度当初予算で約15兆円だった。前提として各省庁には既存経費の10%削減を求める。特別枠は削った額の3倍を上乗せして要求できる。人件費など義務的経費を減らした分についても特別枠に入れることを認める。歳出に上限は設定しない。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、昨年の予算編成では概算要求の締め切りを1カ月遅らせて9月末にするなどの対応を取った。特別枠も設けなかったため、22年度は例年のかたちに戻る。予算規模の大きい社会保障関係費の扱いについては、骨太方針に従い、過度に膨張しないよう高齢化に伴う伸び(自然増)に抑える方針を示す。21年度予算では社会保障費の伸びを4800億円と見込んでいたが、薬価改定などで実質的な伸びを3500億円にとどめた。22年度は団塊の世代が75歳以上になり始める影響もあって、自然増はこれまでより増える見通し。医師の技術料など診療報酬の見直しなどでどれくらい伸びを圧縮できるかが今後の焦点になる。新型コロナに関連する予算などでは、影響が現時点で見通しにくいことを考慮し、金額を示さない事項要求を認める。21年度の当初予算は一般会計で106.6兆円と9年連続で過去最大を更新した。22年度も膨張が予想される。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA13AP70T10C21A7000000/ (日経新聞 2021年7月15日) 米欧の財政支出、脱炭素・ITに集中 日本は配分課題
 米国や欧州が新型コロナウイルス危機の出口を見据え、環境やデジタルの分野で数十兆円規模の巨額の財政支出に動き始めた。税財源の計画も打ち出し、数年単位の持続的な成長戦略と位置づける。明らかになっているメニューの比較で日本は支出が実質的に10分の1に及ばず、メリハリも効いていない。長期構想に基づいて予算を無駄なく戦略的に配分する仕組みを整えなければ国際競争で劣後する恐れがある。米欧はもともと産業振興に巨額の補助金などを投じることには慎重だった。ただ脱炭素などの新技術の開発では政府がインフラ開発などで旗を振らなければ、民間の投資が伸びにくい。国家を挙げて技術覇権の確立を狙う中国に後れを取りかねないとの危機感も米欧政府の背中を押す。米バイデン政権が掲げた「雇用計画」は8年間で2兆ドル(約220兆円)をインフラ整備や気候変動対策に投じる。電気自動車(EV)を購入する消費者への補助金などに総額約19兆円、電力網の刷新に約11兆円など巨額のメニューが並ぶ。中国との覇権争いも絡むデジタル経済のカギを握る半導体支援も重点テーマだ。2022会計年度(21年10月~22年9月)から5年間で、米国内に工場や開発拠点を設ける企業への補助金など計5.7兆円を出す法案を米議会上院が可決した。政策を実現する財源確保の一環で法人税率の引き上げや富裕層への課税強化策も表明している。欧州連合(EU)は気候変動分野に集中投資する。21年から7年間の中期予算と「コロナ復興基金」の計約1兆8千億ユーロ(230兆円)のうち3割を気候変動対策にあてる。目玉は水素戦略だ。30年までに日本の目標の3倍超にあたる年1千万トンの生産体制を整える。EUは14日、国境炭素税の案を公表した。環境対策が不十分な国・地域からの輸入品に欧州の排出枠価格と同程度の税を課す。事実上の関税として年100億ユーロ近くの収入を想定し、環境投資の新たなサイクルを回す。中国は2014年から基金を作り、半導体関連技術に5兆円超の大規模投資を進めている。上海に二酸化炭素排出枠の取引所を設け、気候変動対策にも本腰を入れる。成長分野への支出で日本は質量ともに見劣りする。脱炭素に10年間で2兆円を投じる基金は20年度第3次補正予算に急きょ盛り込んだ。EVなど向けの経産省の補助金は21年度に155億円で、19兆円の米補助金に比べ桁違いに少ない。第一生命経済研究所の永浜利広氏は「経済規模の違いを考えても日本の支出は米国の10分の1以下。成長力で差が広がりかねない」という。単年度主義の硬直的な予算で赤字国債の発行に頼る財政運営も限界がある。大和総研の神田慶司氏は「コロナ後にどういう経済社会をつくるのか、財政健全化に目配りしつつ、いつまでにどれだけの政策・予算が必要なのか大きな青写真が見えない」と指摘する。日本もコロナによる経済への打撃を和らげるため、予算は大幅に増やしている。国際通貨基金(IMF)の集計によると20年以降の財政対応は計88兆円、国内総生産(GDP)比にして15.9%に上る。米国の25.5%ほどではないが、先進国で中程度の水準だ。しかし規模ありきの編成の結果、約30兆円を使い残した。無駄な部分を大胆に見直しつつ、民間の投資を促すような戦略的配分が求められる。政府は22年度予算編成ではデジタルや脱炭素などに充てる特別枠を2年ぶりに設けた。実際は各省庁のばらばらの要求の受け皿という面がある。経済成長がないまま政府債務ばかり膨らむ危うい状態に陥る恐れがある。経済協力開発機構(OECD)の見通しによると日本の21年と22年の実質成長率は主要7カ国(G7)で最も低い。長期展望や柔軟性に乏しい予算や政策の仕組みのままでは米欧の背中がますます遠のきかねない。

*2-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR13BNE0T10C21A7000000/ (日経新聞 2021年7月14日) EU並み気候変動対策、第三国に要求 国境炭素税
 欧州連合(EU)の欧州委員会が14日公表する国境炭素調整措置(CBAM)案は、第三国にEU並みの気候変動政策を要求するものだ。中国やロシアをはじめ、日米なども対象になる可能性がある。EUは緩やかに導入を進めることで他国との対立を避けたい考えだが、貿易摩擦につながるリスクがある。「第三国の生産者が排出を減らすインセンティブになる」。欧州委の担当者はこう強調する。EU域外の事業者がEUに製品を輸出するために排出減に向けて努力するというわけだ。実際、EU並みの気候変動対策をとっていれば制度の対象にはならない。CBAMは国境炭素税とも呼ばれる。影響が大きそうなのがロシアや中国、トルコの企業だ。EUの輸入に占める割合を見ると、セメントではトルコが37%を占めるほか、肥料では36%をロシアが、鉄鋼ではトップ3に中国、ロシア、トルコが名前を連ねる。厳しい環境規制で競争力の低下を懸念する欧州の鉄鋼やセメント業界などは制度の導入を支持する一方、中ロや日米などの域外国は懸念を示してきた。保護主義的な措置で、世界貿易機関(WTO)の無差別原則などのルールに違反しているのではないかといった理由だ。EU高官は6月、日本経済新聞の取材に「2050年に温暖化ガス排出の実質ゼロを宣言した先進国を念頭に置いた制度ではない」と述べた。だが日米などの企業のすべての製品が対象外になるかは不透明な面が残る。日米などは全国的な排出量取引制度を持たないため、EUと同等の環境対策をしているとデータで示すことが難しい可能性がある。EUでは排出量取引に基づいて、二酸化炭素(CO2)を出す権利の価格が日々公開される。データで示せなければ、制度の対象になるリスクが高まる。EU内にも貿易摩擦につながりかねないと不安視する声はある。とりわけ米国とはトランプ前政権時代には通商問題を巡って関係が冷え込んだ。フォンデアライエン欧州委員長は6月のバイデン大統領との首脳会談でCBAMを巡って意見交換することに同意するなど、一定の配慮を見せた。23年から3年間の移行期間を設けたのも、各国の理解を得るためだ。制度が成立するには、加盟国の承認と欧州議会の同意を得る必要がある。成立までに1~2年かかるとの見方もあり、制度設計を巡って曲折がありそうだ。日本経済研究センターは欧米が国境炭素調整を導入した場合の日本の製造業への影響について、CO2・1トンあたり50ドル(約5500円)の場合、EU向けに年2.5億ドル、米英に年5.67億ドルを支払う可能性があると試算する。業種別の負担額は機械産業で290億円、輸出額の大きい自動車産業も215億円になる。関税の上乗せで輸出額も減少する見通しだ。試算ではCO2排出量の多い鉄鋼業は欧米への輸出額が5・7%、窯業・土石業で4・7%、それぞれ減少する見通し。日本も炭素税などを導入すれば越境課税は回避できる。ただCO2・1トンあたり50ドルの炭素税を導入すると、日本経済研究センターは製造業の納税額が約1兆2010億円になると試算する。19年度に企業が納めた法人税(10.8兆円)の1割強に相当する。

*2-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/118798 (東京新聞 2021年7月23日) 中国・台山原発、仏なら一時停止 燃料棒破損、合弁の電力会社見解
 中国広東省の台山原発の燃料棒が破損し冷却材中の放射性物質の濃度が上昇した問題で、合弁で同原発を建設したフランス電力(EDF)は23日までに「フランスであれば、状況を正確に把握し(濃度上昇の)進行を止めるため、原子炉を一時停止する」との見解を発表した。23日付のフランス紙レゼコーは「事故ではないが、進行性の状態で深刻だ。フランスであれば、できるだけ早く原子炉を止める必要がある」とのEDF関係者のコメントを伝えた。EDFは22日の声明で、原子炉を止めるかどうかの決定は、中国側が主導権を握る運営企業にあると指摘した。

<先端技術の応用>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210715&ng=DGKKZO73887760V10C21A7MM8000 (日経新聞 2021.7.15) EU、ガソリン車販売を35年に禁止、排出ゼロへ包括案、国境炭素税は23年にも
 欧州連合(EU)の欧州委員会は14日、温暖化ガスの大幅削減に向けた包括案を公表した。ハイブリッド車を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売について2035年に事実上禁止する方針を打ち出した。環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける国境炭素調整措置(CBAM)を23年にも暫定導入する計画だ。欧州委案が成立するには、原則として加盟国との調整や欧州議会の審議を経る必要がある。企業や域外国の反発も避けられそうにない。欧州委の政策パッケージは、30年までに域内の温暖化ガスの排出量を1990年比55%減らす目標を実現するための対策だ。2030年目標は50年に排出実質ゼロにする目標の中間点となる。欧州委はガソリンやディーゼルといった内燃機関車について、35年に事実上禁止する方針を初めて提案した。自動車のCO2排出規制を同年までに100%減らすよう定める。フォンデアライエン欧州委員長は14日の記者会見で「化石燃料に依存する経済は限界に達した」と述べ、速やかに脱炭素社会を実現すると表明した。対応を迫られる自動車業界は反発を強める。ドイツ自動車工業会のヒルデガルト・ミュラー会長は7日、「35年にCO2をゼロとすることはハイブリッド車を含むエンジン車の事実上の禁止だ。技術革新の可能性を閉ざし、消費者の選ぶ自由を制限する。多くの雇用にも響く」と訴えた。トヨタ自動車幹部は「戦略練り直しは避けられない」と話す。欧州委は燃料面からも運輸部門の排出減を促す。自動車とビルの暖房用の燃料を対象にした新しい排出量取引制度を設け、CO2排出にかかる炭素価格を上乗せする。EUには産業や電力など大規模施設を対象にした排出量取引制度がある。だが炭素価格の上昇による燃料費の高騰が低所得層の家計を圧迫しかねないとの批判もあり、当面は別建ての制度とする。従来の排出量取引制度では海運を新たに対象とする。欧州委が導入を目指すCBAMは国境炭素税とも呼ばれる。当初は鉄鋼、アルミニウム、セメント、電力、肥料の5製品を対象とする方針。23年からの3年間を移行期間として暫定的に始め、事業者に報告義務などを課す。26年から本格導入され、支払いが発生する見通しだ。欧州委は30年時点でCBAMに関連する収入を年91億ユーロ(約1.2兆円)と見込む。制度案では、EU域外の事業者が環境規制が十分でない手法でつくった対象製品をEUに輸出する場合、EUの排出量取引制度に基づく炭素価格を支払う必要がある。製品の製造過程における排出量に応じた金額を算出し、事業者に負担させる。EU域内外の負担が等しくなるという考え方だ。

*3-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS155WI0V10C21A7000000/ (日経新聞 2021年7月21日) 中韓勢、東南アジア市場でEV先手 長城汽車や現代自
 日本車が圧倒的なシェアを占める東南アジアの自動車市場に、中国・韓国メーカーが電気自動車(EV)で先手を取ろうとしている。タイでは中国・長城汽車、インドネシアで韓国・現代自動車が現地生産に乗り出す。両社とも現地政府のEV振興策に呼応した。日本勢は、21日に発表したトヨタ自動車やスズキなどの商用車連合で、こうした動きに対抗する構えだ。「変化する時が来た」。長城汽車は6月末、バンコクで開いた新車発表会で日本車への宣戦布告ともとれるスローガンを打ち出した。タイは日本車の生産・販売シェアが約9割に達するものの、大半をガソリン車が占める。長城汽車は3年間でEVを含む9車種の電動車を投入して市場の切り崩しを狙う。同社は2020年にタイから撤退した米ゼネラル・モーターズ(GM)の工場を取得して参入した。800億円弱を投じて人工知能(AI)技術やロボットを導入し、年産能力約8万台の「スマート工場」に改修。手始めに6月からハイブリッド車(HV)の生産を始めた。23年までにEV生産を開始する計画だ。工場改修はタイ政府のEV振興策を利用し、最長8年間の法人税免除の恩典を受けた。タイは30年までに国産車の3割をEVにする目標を掲げる。長城汽車タイ法人の張佳明社長は「タイで電動車のリーダーとなり、産業高度化に協力する」と強調する。タイは東南アジア最大級の自動車市場だが、EVシフトは遅れている。自動車大手はEVを現地生産しておらず、20年の販売台数は約1400台にすぎない。このうち約6割を中国・上海汽車集団の輸入車が占める。同社はタイ財閥チャロン・ポカパン(CP)グループとの合弁工場でEVを現地生産する予定という。日本車は日産自動車の「リーフ」やトヨタ自動車の高級車「レクサス」の一部車種の輸入販売にとどまる。現地生産は三菱自動車が23年から開始する計画を持つものの、全体的にはHVを優先する傾向が強い。充電インフラが整っておらず、所得水準もまだ低いためだ。長城汽車もまず、中国で補助金分を引いた実売価格が約120万円の小型EV「欧拉」を、中国から輸出してタイ市場に投入する。市場開拓を進めながら時期をみて現地生産に切り替えるとみられる。野村総合研究所タイの山本肇シニアマネジャーは「中国勢が間隙を突いて、低価格EVでシェアを伸ばしてくるのは確実だ」と指摘する。タイと並ぶ域内2大市場の一角であるインドネシアには現代自動車が攻め入る。首都ジャカルタ近郊で総事業費約1700億円の工場建設が進む。当初の年産能力は15万台で、年内にガソリン車の生産を開始する。現地報道によると22年にもEV生産に乗り出す。同国は日本車の販売シェアが9割台後半と、ほぼ市場を独占してきた。現代自の工場建設にはインドネシア政府の働きかけがあった。進出が決定した19年11月はインドネシアと韓国が経済連携協定(EPA)を妥結した時期と重なる。韓国から輸入する自動車部品の大半が無関税となり、韓国メーカーは日本車と同等な条件での競争が可能になった。インドネシア政府は19年の大統領令で、国産車の20%をEVとする目標を打ち出した。だが、同国が13年に出した小型エコカーの振興策を受けて、日本車は設備増強を実施済みで追加投資に慎重だ。そこで白羽の矢が立ったのが現代自動車だった。タイ、インドネシア両政府に共通するのは、動きが鈍い日本車へのいらだちだ。タイではEV普及目標の引き上げを検討する政府に対し、日本車の業界団体に当たるバンコク日本人商工会議所自動車部会が「全体でのゼロエミッションを考えて段階的に進めるべきだ」として慎重な議論を求めた。タイは火力発電が中心のため、EVだけ増やしても温暖化ガスの排出は減らせないという理屈だ。インドネシアも同様の課題を抱える。日本車の主張は一理あるものの、中韓勢との投資競争に後れをとれば、かつて家電や携帯電話でシェアを失ったように自動車市場も奪われかねない。
●商用車も日本強く 5社連合で守り固める
 日本車は東南アジアで1960年代から現地組み立てを始め、主要6カ国の新車販売に占めるシェアは約8割に達した。ただ、足元で中国勢がEVで小型車のみならず商用車でも攻勢をかける。21日にスズキやダイハツ工業が、トヨタ自動車、日野自動車、いすゞ自動車の商用車連合に合流すると発表したのも、中国勢の攻勢に対抗する守り固めの意味がある。東南アジア最大級の市場のタイは小型商用車「ピックアップトラック」が市場の半分以上を占める。20年の国内販売全体でもいすゞのシェアは23%に達し、トヨタ(31%)に次ぐ2位を占める。インドネシアでも日野、三菱ふそうトラック・バス、いすゞが商用車で寡占状態だ。だが、日本勢のすきを狙い、中国勢が商用車でも攻勢をかける。タイでは商用車大手、北汽福田汽車がEVトラックを21年中にも発売する予定だ。現状、スズキは軽商用車の海外展開をしていない。5社連合で技術力を結集した小型EVなどを出せれば、日本勢の存在感が維持できる可能性がある。

*3-2-2:https://www.webcg.net/articles/-/44769 (Webcg 2021.7.1) ボルボが全車EV化へ向けたロードマップを発表
 ボルボ・カーズは2021年6月30日(スウェーデン現地時間)、製品ラインナップの完全な電気自動車(EV)化へ向けた、技術ロードマップを発表した。
●目指すは実走行距離1000kmのEV
 ボルボは現在、自社製品の急速な電動化と、より長い一充電走行可能距離や短い充電時間を可能とするバッテリーセル技術の開発を推し進めている。特にプロダクトについては、近い将来、SUVタイプの新型EVを投入し、2020年代半ばにはその次の世代となる第3世代のEVも導入するとしている。このモデルでは、航続距離をさらに伸ばすとともに、バッテリーパックをクルマのフロアに統合し、セル構造を利用して車両全体の剛性を高める、より高効率な車両パッケージも実現するという。一方、バッテリーの開発・生産に関しては、スウェーデンの大手バッテリーメーカーであるノースボルトと提携。現在のものより最大で50%エネルギー密度の高いバッテリーセルの開発を計画している。さらに2020年代の後半には、1000Wh/リッターというエネルギー密度の達成と、実走行距離1000kmのEVの実現を目指しているという。また充電に要する時間については、バッテリー技術の向上、ソフトウエアや急速充電技術の継続的な改善により、2020年代の半ばまでに現在のほぼ半分になると予想している。
●生産や廃棄の段階における環境負荷低減にも腐心
 ボルボはプロダクトの電動化以外の点でも二酸化炭素排出量の削減を推進。ノースボルトと共同開発するバッテリーセルについては100%再生可能エネルギーを使用して生産することを目指しており、他のサプライヤーとも2025年までに100%再生可能エネルギーでバッテリーを生産できるよう、取り組みを進めているという。加えて、使用済みバッテリーのリユースやリサイクルについても計画。エネルギー貯蔵などの二次利用の可能性も調査を進めている。EVのエネルギーインフラでの活用についても計画しており、SUVタイプの次世代EVでは、双方向充電により車載バッテリーの電気を電力網に流すことができるようになるという。これにより、EVのドライバーは電力の生産時に排出されるCO2量がピークとなる時間には、電力網にエネルギーを供給してCO2の排出抑制に貢献。そしてCO2排出量が減少する時間にクルマを充電することができるようになると説明している。(webCG)

*3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR223I60S1A720C2000000/ (日経新聞 2021年7月22日) 独メルセデス、30年にもEV専業に 5.2兆円投資
 独自動車大手ダイムラーの高級車事業会社、メルセデス・ベンツは22日、販売する新車を2030年にもすべて電気自動車(EV)にすると発表した。8つの電池セル工場を新設するなど、30年までに400億ユーロ(約5兆2000億円)をEVに投資する。オンラインで開いた記者会見で、オラ・ケレニウス社長は「高級車のEVシフトは加速している。転換点は近づいており、30年までにメルセデスは準備できているようにする。EVファーストからEVオンリーに踏み込む」と述べた。22年に満充電で航続距離1000キロメートル以上の新型車を発表する。25年にEV専用の車台(基本設計)を3種類導入。それ以降に出す車台はすべてEV専用とする。代表車種の「Sクラス」や「Cクラス」の次期モデルはEVだけになる見通しだ。ガソリン車などの販売終了時期は市場によって前後するとしている。ハラルト・ウィルヘルム最高財務責任者(CFO)は30年までにEVの生産コストを同じ車格のガソリン車と同等水準に引き下げるとしたうえで、売上高に占める調整後EBIT(利払い・税引き前損益)比率を10%以上で維持するとの見通しを示した。EVに不可欠な車載電池では専業メーカーと共同で世界に8つの大型工場を設ける。4つは欧州で、米国と中国にも建設する。年間生産能力は高級EV200万台分前後に相当する計200ギガワット時(2億キロワット時)を計画する。メルセデスはこれまで30年に新車販売の半分をEVかプラグインハイブリッド車(PHV)にし、39年にガソリン車の販売終了などで二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す計画を掲げていた。半分をEV・PHVにする期限は25年に前倒しする。EV専業化に向け、PHVを含むエンジン搭載車への投資を26年までに19年比で8割減らす。欧州連合(EU)の欧州委員会は14日、35年にエンジン搭載車の販売を事実上禁止する規制案を発表した。すでに独フォルクスワーゲン(VW)傘下の独アウディや、ボルボ・カー(スウェーデン)、英ジャガーなどの高級車ブランドが相次いでEV専業への転身を発表している。

*3-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD21AF30R20C21A7000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2021年7月21日) トヨタ、商用車連合を拡大 大型から軽まで電動化
 トヨタ自動車が中心の商用車連合にスズキとダイハツ工業が加わる。トヨタにとって電動化など脱炭素における商用車分野の協業の総仕上げとなる。4月に日野自動車といすゞ自動車と立ち上げた商用車の技術開発会社に軽自動車を得意とする2社が加わり、大型から小型まで商用車を全方位で開発する体制が整う。「国内の自動車保有台数7800万台のうち軽は(4割の)3100万台を占める。地方では半数を超える」。トヨタの豊田章男社長は21日の記者会見でこう切り出し、「商用軽は収益だけを考えると非常に厳しいが日本では欠かせないものだ」と軽の重要性を強調した。スズキの鈴木俊宏社長は「求めやすい価格で脱炭素を実現するには単独では非常に難しい」と参加の理由を説明した。「企業としても脱炭素をアピールできる軽の商用電気自動車(EV)へのニーズはこれまでも高かった」と別のスズキ幹部は背景をこう解説する。今回の協業で改めて強調したのが、商用車分野を電動化や脱炭素の技術開発の起点とする考えだ。物流を担う商用車はあらかじめ決められたルートを通ることが多い。「(充電設備など)インフラとセットで考えることが不可欠」(豊田社長)なEVや燃料電池車(FCV)などの開発には向いている。トヨタが日野・いすゞとの商用車連合を発表した際、念頭にあったのが、福島県での再生エネルギーから作った水素を活用したFCVのトラックによる物流網の構築だった。今回の参画で、FCVの軽商用車も視野に入り取り組みが広がる可能性がある。3月の商用車提携発表後に、自治体・インフラ事業者、運送事業者など、多くの関係者から一緒にやりたいとの声がトヨタに寄せられた。荷物の集配所から受け取る人までの「ラストワンマイル」の物流を担う軽自動車は電動化やコネクテッドなど新技術の開発には欠かせないと判断した。トヨタからスズキとダイハツに声をかけた。軽の商用車が加わることで、中長距離物流を支える大中型トラックを含めて物流に関わる技術開発が加速できるとみる。鈴木社長は「大型と軽がつながることで非常に効率がいい物流ができる。大きな成果に結びつくのではないか」と期待を示す。トヨタにとっては、大きさの制約がある中で、いかに安く作るかを突き詰めてきた軽メーカーのノウハウを取り込む狙いもある。電動化やつながる車などは今後いかに安く作れるかがカギとなる。商用車を軸とした5社連合で、新たなプロジェクトを始める起点にもなり得る。

*3-2-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210724&ng=DGKKZO74149360U1A720C2MM8000 (日経新聞 2021.7.24) GXの衝撃(5)取捨選択、欧州が主導 ルールが決する競争力
 欧州委員会が4月に公表した、分類を意味する「タクソノミー」と呼ぶ数百ページの資料。企業が手がける事業がどういう基準を満たせば「持続可能」と判別されるかを示す。「まるで『閻魔(えんま)大王』みたいに企業が選別される」。こんな受け止め方が広がる。電池製造や発電などが対象で、欧州連合(EU)の温暖化ガス排出の8割をカバーする。企業は基準外の製品を作れなくなるわけではないが、ESG(環境・社会・企業統治)が広がる中、投資を集めにくくなる。
●PHVにも逆風
 環境に優しいとされる製品もやり玉に挙がる。例えば日本の自動車メーカーが強みを持つプラグインハイブリッド車(PHV)。2026年以降は「持続可能」などの分類から外れ、新車で売りにくくなる恐れがある。PHVは、ガソリン車と電気自動車(EV)の間に位置する。EVへの移行期に伸びると見込まれているが「タクソノミーでPHVの普及期の寿命は5年ほど短くなった」と専門家は分析する。石炭火力発電がタクソノミーで外される一方、天然ガスは欧州でも意見が割れる。ポーランドなど東欧諸国は「脱石炭を進めるうえで当面は認めるべきだ」と訴える。逆風の予兆はあった。「控えめに言ってガスは終わった」。欧州投資銀行(EIB)のホイヤー総裁の1月の発言。21年末までにガスへの投融資から原則、手を引く方針を表明し波紋を呼んだ。
●ガスも縮小懸念
 天然ガスは石炭より二酸化炭素(CO2)排出量が4割少ない。天候によって変わる太陽光や風力の発電量を補う役割から、石炭から再生エネへの移行期の「つなぎ役」になるとされてきた。「天然ガスの黄金時代」が到来するとのリポートを国際エネルギー機関(IEA)が公表したのは10年前。クリーンとされる液化天然ガス(LNG)の消費はこの間に6割増えた。ただ、IEAは21年5月、50年のカーボンゼロ達成には、ガスを含む化石燃料の開発投資の即時停止が必要とのシナリオを公表した。日本エネルギー経済研究所の二宮康司氏は「今のままでは30年代以降、ガスも石炭のように悪者扱いされる」とみる。国内最大手の東京ガスが関東で張り巡らすガスのパイプラインは地球1.5周分。輸入のため港湾に設けたLNG基地は1カ所で1000億円規模だ。ガスが石炭のように縮小の道をたどればこうした設備が「座礁資産」となり使い道を失う。タクソノミーのような欧州発のルールが世界の潮流となってきたケースは多い。欧州各国によるガソリン車の販売規制の表明を伊藤忠総研の深尾三四郎氏は「欧州自動車メーカーのディーゼル不正を機に欧州が有利になるようなルールに変えてしまった」と指摘する。車が製造されてから廃棄されるまでの10年間の「ライフサイクル」でみたCO2の排出量は、IEAの20年のまとめによるとガソリン車で1台あたり平均34トン程度だった。EVが24~28トンで、PHVは約25トンと、PHVは環境性能に優れるケースもあるのにEU基準ではアウトになる。欧州がEV導入の高い目標を掲げる中、ESGの圧力により、石油開発は足元で急減。ただ実際に選ぶのは消費者で、EVの普及が遅れれば需給バランスが大きく崩れ、ガソリン価格は高騰しかねない。多角的なリスクを抱えながら企業は難しい選択を迫られている。日本は通貨や通商などで欧米主導のルールを受け入れることが多かった。グリーントランスフォーメーション(GX=緑転)でルールをつくる側に回れるかどうかは、産業競争力にとどまらず、国益をも左右する。

*3-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC071580X00C21A7000000/?n_cid=NMAIL006_20210709_Y (日経新聞 2021年7月9日) JAL「空飛ぶクルマ」で旅客輸送 25年度に事業化
 日本航空(JAL)は2025年度に「空飛ぶクルマ」を使った事業に乗り出す。三重県などで空港と観光地を結ぶ旅客輸送サービスを始める。ANAホールディングス(HD)も25年度に同様のサービスへの参入を検討している。空の移動が身近になれば道路渋滞の緩和や過疎地の交通対策にも役立つ。海外でも実用化競争が進んでおり、新ビジネスに見合うルール整備が課題となる。空飛ぶクルマは空を飛び近中距離を手軽に移動する次世代の乗り物。JALが使うのはeVTOL(電動垂直離着陸機)と呼ぶ2人乗りのドローン型の機体で、航続距離は35キロメートル。最高時速は110キロ。三重県とこのほど実証実験や事業化に向けた連携協定を結んだ。機体を開発したのはJALが20年に出資したドイツのスタートアップ、ボロコプター。リチウムイオン電池に蓄えた電気で複数のプロペラを回して飛ぶ。まず20キロの近距離圏内を飛ぶ実験を進め、さらに地方の都市間を結ぶような50~150キロの中距離圏のサービスを検証する。事業化の際は発着ポートを設けやすい空港を起点に観光地をつなぐ見通し。料金は今後詰める。最終的には中距離圏内であらゆる場所に行き来するタクシーのようなサービスにする構想だ。輸送事業者としてだけでなく、操縦者の訓練や安全管理などのオペレーターサービスを他の輸送事業者に提供して稼ぐ仕組みも想定する。空飛ぶクルマは滑走路が不要で機動性が強み。都市内を簡単に移動できるため、交通渋滞の解消につながると期待されている。交通手段に乏しい過疎地の移動問題の克服にもつながる。一方で社会で広く受け入れられるサービスとするにはルール整備が不可欠だ。三重県は特区として空飛ぶサービスを認めているが、他県との行き来はできない。政府は電動かつ自動操縦で飛ぶ機体を空飛ぶクルマと見なし、ルールづくりを急いでいる。機体は航空機とみなされるため航空法に基づく制度の見直しが必要で、25年までに詰める。航空機燃料を使わないため安全基準も新たな考え方が必要となる。操縦ライセンス、運航の決まりなど整理すべき点は多い。実用化では海外が先行する。トヨタ自動車が出資する米新興企業のジョビー・アビエーションは24年に輸送サービスの商用化を計画。欧州エアバスも24年のパリ五輪での有人サービスの実現を目指している。将来はスマートフォンから予約可能なタクシーサービスの提供をめざす。国内航空大手は空飛ぶクルマなど次世代モビリティー事業を成長の柱の一つと期待する。米モルガン・スタンレーは40年までに世界の空飛ぶクルマの市場規模が1兆5千億ドル(約165兆円)に成長すると予測する。

*3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB273460X20C21A7000000/ (日経新聞 2021年7月27日) 脱炭素ファンド、Appleなど参画 三井住友銀行も出資
 企業の脱炭素化に向けた世界最大規模の枠組みが立ち上がる。米投資ファンド、TPGキャピタルは気候変動対策に特化したファンドを組成する。当初の運用規模は約54億ドル(約6000億円)で、脱炭素ファンドでは過去最大規模となる。アップルやグーグル、ボーイングなど米国を代表する企業に加え、日本からは三井住友銀行が出資する。脱炭素化に向けた技術を有する世界のベンチャー企業に資金を投じることで、新技術の開発を促進する。TPGが27日に発表した。米国の大企業や大手年金基金などから約54億ドルを集めた。2021年中に出資額を70億ドル程度まで引き上げる方針だ。ファンド出資者にはグーグルの持ち株会社であるアルファベットやアップルなど米IT(情報技術)大手に加え、ボーイングやゼネラル・モーターズ(GM)なども名を連ねる。20社以上が加わるとみられ、日本からは三井住友銀行が5000万ドルを投じて参画する。ファンドを通じて、再生可能エネルギーや二酸化炭素を排出しない輸送手段など、脱炭素化に貢献する技術を有するベンチャー企業などに出資する。投資額は1件当たり数百億円規模を想定している。ポールソン元米財務長官がファンドの取締役会長を務める。ポールソン氏は自身のシンクタンクで気候変動対策に向けた分析を手掛けており、出資先の選定などで手腕を振るう。気候変動対策を巡っては、米アップルが2億ドル規模の森林再生ファンドを立ち上げたほか、アルファベットが環境関連などに資金使途を絞った社債「サステナビリティボンド」の発行を決めるなど米IT大手の取り組みが加速している。だが、気候変動対応に関する技術を有したベンチャー企業に出資するファンドにこうしたIT大手が参画するのは異例だ。背景には投資先が有する技術にいち早くアクセスしたいIT大手側の思惑がある。ファンドは出資者や投資先が参加する企業連合を立ち上げる方針。こうした場を通じて、脱炭素化に向けた有望な技術を有するベンチャーとの協業や出資につなげていく。日本から参画する三井住友銀行は、出資先への融資や新規株式公開(IPO)の支援などで連携していく考えだ。TPGは1992年創業のプライベートエクイティ(PE=未公開企業投資)。直近の運用資産残高は960億ドル(約10兆円)で、未公開株や不動産投資などに強みをもつ。脱炭素化を巡っては、米ブラックロックが新興国向けのインフラファンドを立ち上げた。国際協力銀行や第一生命、三菱UFJ銀行などが出資を決めており、ファンドは総額5億ドル規模を目指している。

<新型コロナと五輪に関する世論から見た教育の問題点>
PS(2021年7月30日、8月2日《図》追加):*4-1のように、衆院内閣委員会で、政府の新型コロナ分科会の尾身会長が「①医療の逼迫が既に起き始めている」「②一般の人々に危機感が十分に伝わっていない」「③緊急事態宣言が出て人流は徐々に減っているが、期待されるレベルには至っていない」「④日本社会みんな危機感を共有することが今非常に重要だ」「⑤入院や重症者の数が増え、入院調整・宿泊療養・自宅療養の人も急増している」「⑥今の状況で求められることは、人々に危機感を共有してもらえるようなメッセージを出し、効果的な対策を打つことに尽きる」等と言われたそうだ。
 しかし、2020年1月に始まった新型コロナ騒動から既に1年半経過し、②の一般の人々の危機感は2020年2月から高まって協力したのに、厚労省だけが危機感を持たず、蔓延や①⑤を防ぐための検査による潜在患者の洗い出し、水際対策の徹底、ワクチン・治療薬の開発・承認、医療機関の広域連携、療養先の確保などの全てを行わず、③の“緊急”事態宣言による人流減少だけを主張して現在に至っているのだ。そのため、④は、これまでの経緯を忘れて、どの口で言えたものかと思う。また、⑥の「人々が危機感を共有するメッセージ」として「国民に自粛を求めながら、オリンピックを行うのは矛盾だ」などと関係のない2つの事象を結びつけるのも“専門家”からかけ離れており、そんなことは根拠を示してきちんと説明すれば理解されることである。さらに、「⑦デルタ株の感染力を前提としていない」というのも、デルタ株は何故感染力が高いのか、それに対してどういう対応方法が適切なのかに関するしっかりした調査もなく、ワクチンや治療薬が効かないというデータもない時に、言うべきではない。
 また、*4-2のように、日本医師会、日本病院会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、東京都医師会も、「⑧感染爆発を避けるため危機感共有を」という緊急声明を7月29日に出し、その内容は「⑨40~50代の中等症患者の増加で医療の逼迫が懸念されると指摘し、政府に十分で安定したワクチンの供給を要請する」だそうだ。しかし、ワクチン接種を進めるのは当然のことで、今回の五輪はお祭り騒ぎどころか練習試合ででもあるかのように観客もいないため、間接的影響ででもこの2つを結び付けるのはおかしい。さらに、医療関係者が国民にテレワークの実施を求めるのも越境で変であり、国民は運動をせず、目が悪くなったり、ロコモになったり、孤独で心を病んだりした方がよいとでも言うのだろうか。
 なお、IOCのアダムス広報部長は、*4-3のように、東京五輪のメインプレスセンターで記者会見し、「⑩五輪関係者は最も頻繁に検査されており、別世界みたいで、われわれから感染を広げていることはない」と強調し、バジェット医事部長も五輪が「⑪医療崩壊に影響することはない」と訴えられたそうだ。組織委がまとめた大会関連の陽性者は7月1日以降で累計198人となり、陽性となった海外からの大会関係者2人が入院したそうだが、母国なら入院の必要があるのか、その後に中等症や重症になったかについても、報告された方が役に立つ。
 このように外国の対処方法と比較した方がよい理由は、*4-4のように、日本政府が「⑫新型コロナワクチン接種証明書の国内利用を特別な事情で接種できない人への差別を理由として認めなかったり(本当は、差別にならないようにすることもできる)」「⑬接種証明書を持つ入国者に72時間以内の陰性証明の提出と14日間の待機措置を求めたり(本当は、いずれか1つでよい)」「⑭外国が発行した接種証明書の利用を認めず、日本の証明書は受け入れるよう交渉したり(相互主義の常識に反する)」など、非科学的かつ非常識な対応が多いのに「何様のつもりか」と思うような不公平な取り扱いを求めているからである。
 なお、上昌広氏が、*4-5に、「⑮新型コロナ対策で日本は1回以上ワクチン接種を受けた人がG7最下位で一人負け」「⑯ワクチン接種が進む国は感染者が急速に減少」「⑰G7で感染者数が増加しているのは日本だけ」「⑱米疾病対策センターはワクチン接種を済ませた人はマスク着用義務を解除し、ドイツもワクチン接種を終えた人への制限を緩和」「⑲日本の最初の躓きは無症状感染対策なのにPCR検査を抑制したこと」「⑳感染の抑制と最も相関したのは、感染者数当たりの検査数だったが、厚労省や専門家たちはこの研究成果を無視し続け、政府のコロナ対策分科会会長の尾身氏は、2021年10月の講演で『無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない』と公言している」「㉑これは厚労省で医療政策を仕切る医系技官の意向を代弁したもので、医系技官は、『PCRは1%程度の偽陽性があり、PCR数を増やせば医療が崩壊する』と主張して検査数を抑制した」「㉒『米国医師会誌(JAMA)』5月6日号は『殆どのPCRの特異度は100%』と記しており、2020年5月の段階でPCR検査の精度が高いことは世界の常識となって世界各国が大規模スクリーニング検査体制の構築を進めていた」と書かれており、全くその通りだ。
 また、「㉓日本の人口千人あたり検査数は、インドの半分以下で後進国レベル」「㉔厚労省は、変異株の大部分を見落とした」「㉕世界は『マルチプレックスPCR』を用いて1回の検査で変異株の感染を判断しているが、日本は検体を国立感染症研究所などの専門施設に運ぶ2段階検査に固執している」「㉖厚労省がここまでPCRを抑制する理由は、感染症ムラ(厚労省医系技官、感染研、専門家で構築される利益共同体で健康局結核感染症課が中心)の利権に関わるからである」「㉗コロナ対策で、感染症ムラにとっての『公共事業』となったのは積極的疫学調査で、法定感染症が発生した時、厚労省が指示して感染研と保健所が連携して実施することと定められている」「㉘コロナ感染症対策分科会委員の押谷東北大学教授が、2020年3月22日のNHKスペシャルで、『全ての感染者を見つけなければいけないというウイルスではなく、クラスターさえ見つけていればある程度の制御ができる』」と述べたが、この指摘が間違いだったのは明白で、感染が蔓延すればクラスター対策では対応できないことは素人でもわかる」と書かれているが、私も㉓~㉘は、あまりにも不自然でおかしいと思っていたのである。
 さらに、「㉙彼らがクラスター対策に固執している理由は研究費(2019年度の約3億4千万円から、2020年度には36億5400万円に増額)で、2020年度に採択された41人中20人が感染研、27人が感染症ムラの関係者」「㉚研究成果は東京大54報、感染研19報、横浜市大16報であり、感染症ムラの情報独占や過剰な資源投入は、日本の研究力を削いでいる」「㉛4月8日現在、PubMedには6万2905報のコロナ論文が収載されており、米国1万1251報、中国(8881報)、イタリア(6945報)、イギリス(6448報)、日本(1333報)でG7最下位だ」「㉛ワクチン開発に成功した独ビオンテックと米モデルナは、元はがん治療ワクチンを開発していたバイオベンチャーで、ゲノム情報を分析してワクチン候補となるmRNAの配列を決定するノウハウを有しており、2020年1月に中国の研究チームがコロナのゲノム配列を公開すると、その情報を分析してワクチン開発に取りかかったが、彼らの成功は感染症・免疫学・情報工学の専門家の有機的な連携によるものだ」等も書かれており、なるほどそうだったのかと思われた。
 最後に、「㉜PCR検査もできず、37.5度4日間の自宅待機を強要し、ワクチン・治療薬の開発もできず、緊急事態宣言を繰り返す日本で、多くの人命と財産が失われた」「㉝クラスター対策に固執して非科学的な対応を取り続けてきた感染症ムラと、彼らの暴走に目をつぶった政治家による人災だ」「㉞これまでの経緯を検証し、ゼロベースで体制を見直さねばならない」と書かれているのは全くそのとおりだ。しかし、「感染症ムラの暴走をコントロールするのは、本来、政治の役割だ」というのは、それをやるためには厚労省の医系技官をリードできるようなその分野に詳しく能力ある人材を担当に選ばなければならないが、「国民から選ばれて選挙で勝つ人」は必ずしもそうではなく、仮にそういう人がいたとしてもやはり厚労省の医系技官から煙たがられて担当になれないという日本特有の人事の根本的問題があるのである。

   
2021.7.9毎日新聞 2021.8.2琉球新報  2021.6.17日経新聞   2021.7.12日経新聞

(図の説明:東京圏の患者数が増えていると言われるが、1番左の図のように、東京都のPCR検査数は少し増えたが、ワクチン効果で重症者数は漸減している。また、左から2番目の図のように、新型コロナウイルスも中等症以上になると後遺症を残すケースが多発しており、これは日本脳炎やポリオ《小児麻痺》ウイルスも重症化すると神経系に後遺症を残すことを考えれば常識的に考えられることだが、日本では、最初、『軽症者は病院に行くな』と呼びかけられていた。なお、日本脳炎やポリオはワクチンによって撲滅されたのだが、現在は、右から2番目の図のように、ワクチンの副作用ばかりを強調し、1番右の図のように、感染リスクの低減したワクチンの既接種者にワクチンパスポートを出すことをためらうという世界でも珍しい対応をしている)

*4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14991935.html (朝日新聞 2021年7月29日) 尾身氏「危機感伝わらず」 迫る医療逼迫指摘 閉会中審査
 衆院内閣委員会の閉会中審査が28日開かれ、東京都の新型コロナウイルスの感染者が急増している点について、政府の新型コロナ分科会の尾身茂会長は「医療の逼迫(ひっぱく)がもうすでに起き始めている」との認識を示した。その上で「人々に危機感が十分に伝わっていない」などと懸念を語った。菅義偉首相は27日に記者団に対し、感染の急拡大による五輪への影響について「人流は減少している。心配はない」と述べた。28日の内閣委では、立憲民主党の柚木道義氏が人流の減り方は十分なのか尋ねた。尾身氏は「緊急事態宣言が出て徐々に減っているが、期待されるレベルには残念ながら至っていない」と指摘。続けて「入院や重症者の数が増えている。入院調整や宿泊療養、さらに自宅で療養している人も急増している」と述べ、医療逼迫の懸念を示した。その上で、尾身氏は「一般の人々に十分に危機感が伝わっていないということが、大きい一つの原因だ。日本の社会みんな危機感を共有することが今非常に重要だ」と語った。柚木氏から、首相による発信の仕方など政府の対応について問われ、尾身氏は「今の状況で求められることは二つだ。人々にしっかりと危機感を共有してもらえるようなメッセージの出し方。効果的な対策をしっかり打つ。この2点に尽きる」と述べた。感染拡大と五輪開催との関係を指摘する意見も出た。共産党の塩川鉄也氏は「政府は国民に自粛を求めながら、世界最大の式典を行う。大きな矛盾だ」と指摘した。西村康稔経済再生相は「都内の人流は一定の減少をみている」と強調した上で、「医療提供体制を確保していく上でも、自宅で家族か、いつもいる仲間と少人数で観戦応援をお願いできれば」と述べた。また、ワクチン接種に関し、首相が会見で、野村総合研究所のリポートをもとに「人口の4割がワクチンを1回接種したあたりから、感染者の減少傾向が明確」と発言した点について、立憲の玄葉光一郎氏が「デルタ株の感染力を前提としていない」と問題視した。これに対し、西村経済再生相は「野村総研以外のデータも首相は理解している。政府全体で正確な情報を伝えたい」と語った。
■都の説明、都庁内からも批判 「医療逼迫、第3波ほどではない」 「大丈夫との発信、意味あるのか」
 新型コロナウイルスの新規感染者数が2日連続で過去最多を更新した東京都が強調するのが、病床が逼迫(ひっぱく)して医療危機に陥った冬の第3波との違いだ。都は重症化しやすい高齢者の感染が激減し、医療への負荷が当時とは異なると説明する。だが、入院者数は急増し、病床逼迫へ警鐘を鳴らしてきた都の専門家の説明とも食い違い、政府内、都庁内から批判の声が出ている。「第3波のピーク時と比べるとワクチン接種が加速した。重症化しやすい60代以上も減っている。第3波の時とは状況が異なると認識している」。小池百合子知事は28日午後、国内外のメディア向けのオンライン講演で、そう強調した。27日の2848人の感染者を年代別にみると、60代以上は全体の5%。一方、第3波でピークとなった1月7日(2520人)では、60代以上が14%に達した。1月7日に121人を数えた重症患者数も、27日は82人にとどまる。27日夜、都のコロナ対策を担当する吉村憲彦・福祉保健局長は記者団に異例の説明の場を設け、「第3波のピークとは感染状況の質が違う。医療に与える圧迫は変わっていることをご理解いただければ」と説明した。吉村局長は、第3波で9割弱に達した病床使用率が今は半分弱になっているとも強調。「医療提供体制がにっちもさっちもいかなくなって、死者がばたばた出ることは現状ない」とした上で、「いたずらに不安をあおるようなことはしていただきたくない」と述べた。だが、こうした吉村局長の説明は、都が毎週開いてきたコロナ対応のモニタリング会議での、感染症対策の専門家や医師たちの説明とは食い違う。21日の同会議では、「新規陽性者数が急速に増加すれば、医療提供体制が逼迫の危機に直面する」との専門家のコメントを公表。指摘の通り、病床は徐々に埋まり、27日時点の入院患者数は2864人と1カ月前と比べて倍増している。厚生労働省の幹部は「不安をあおらないでほしい」との吉村局長の訴えについて、「東京の感染状況は不安になる状態。逆のメッセージを出した方がよかったんじゃないか」と指摘する。病床に余裕があるとの説明に対しても、「いまはそうかもしれないが、来週、再来週は絶対に逼迫する」と警鐘を鳴らす。東京五輪が開かれる中、あえて第3波との違いを強調した吉村局長の説明に対し、都の福祉保健局内からも批判の声が上がる。ある幹部は「病床にまだ余裕があることは事実だとしても、その点を強調して『まだ大丈夫だ』と発信することにどれだけの意味があるのか」と疑問を呈する。

*4-2:https://mainichi.jp/articles/20210729/k00/00m/040/401000c (毎日新聞 2021/7/29) 日医など9団体が緊急声明「感染爆発避けるため、危機感共有を」
 新型コロナウイルスの感染者急増によって医療提供体制の逼迫(ひっぱく)は間近だとして、日本医師会(日医)や日本病院会など9団体が29日、緊急声明を出した。声明は全国の感染者数が過去最多を更新したことに触れ、「今後の爆発的感染拡大を避けるための危機感の共有と対策が必須」と指摘。全国を対象に緊急事態宣言を出すことを検討し、40~64歳のワクチン接種を推進するよう政府に求めている。記者会見した日医の中川俊男会長は「(緊急事態宣言は)要請がないから発令しないというスタンスでは間に合わない。政府には早め早めに手を打ってほしい」と訴えた。開催中の東京オリンピックの影響について問われた東京都医師会の尾崎治夫会長は「(五輪の開催で)お祭り騒ぎをしているのに自粛してと言うのは難しく、間接的な影響はあったかもしれない」と語った。声明は、40~50代の中等症患者の増加で医療の逼迫が懸念されると指摘し、政府に十分で安定したワクチンの供給を要請。国民には徹底的にテレワークを実施することなどを求めている。声明は日医、日本病院会のほか、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、東京都医師会の連名で出された。

*4-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/120263 (東京新聞 2021年7月29日) IOC広報部長「五輪はパラレルワールド。われわれから広げていない」新型コロナ感染者数過去最多に
 国際オリンピック委員会(IOC)のアダムス広報部長は29日、東京五輪のメインプレスセンター(東京都江東区)で記者会見し、国内で感染者数が過去最多を更新していることに関連し「五輪関係者は最も頻繁に検査されており、パラレルワールド(別の世界)みたいなものだ。われわれから感染を広げていることはない」と強調した。バジェット医事部長も五輪が「医療崩壊に影響することはない」と訴えた。大会開催でお祭りムードが広がり、間接的に感染拡大につながっているのではないかとの質問に対し、東京五輪・パラリンピック組織委員会の高谷正哲スポークスパーソンは「専門家の評価に耳を傾けながら安全安心な大会運営に努めたい」と述べるにとどめた。組織委は29日、大会関連で選手3人を含む24人が新たに新型コロナウイルス検査で陽性になったと発表した。組織委が取りまとめた大会関連の陽性者数としては1日当たりで最多。陽性者は今月1日以降で累計198人となった。陽性となった海外からの大会関係者2人が入院していると明らかにした。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210725&ng=DGKKZO74155890U1A720C2EA3000 (日経新聞 2021.7.25) 接種証明、入国活用も検討 五輪後の感染状況見極め、」渡航向け申請あすから、まず5カ国
 政府は26日、新型コロナウイルスワクチンの接種証明書の申請受け付けを始める。海外渡航向けの発行が目的で、全国の市区町村で対応する。まずイタリアなど5カ国が対象になる。東京五輪後の感染状況を見ながら、証明書を持つ人が日本への入国時に利用できる措置の導入も検討する。接種証明書を査証(ビザ)の発行時や入国審査の際に示すと、入国後の待機措置やPCR検査が免除される。手続きが省略されるため、新型コロナ禍での出入国の負担が減る。ビジネス往来の活性化にもつながる。政府は21日、日本で発行する接種証明書が海外の5カ国に入国する際に利用可能になると発表した。イタリア、オーストリア、トルコ、ブルガリア、ポーランドが対象になる。5カ国のほか、韓国でも入国時に隔離されないようにする手続きが簡素になる。隔離免除の申請に必要な書類の一つに認められた。証明書の申請は26日から市区町村で受け付ける。ワクチンを接種した時点で住民票があった市区町村が窓口になる。申請書と接種済み証、パスポートなどを提示する。当面、証明書の交付は書面になる。接種した日時やワクチンの種類、パスポート番号、氏名、生年月日などを日本語と英語で表記する。費用は無料で、スマートフォンのアプリを使う電子証明書の発行も視野に入れる。日本の外務省は外国が発行した証明書の利用を認めず、日本の証明書は受け入れてほしいと交渉してきた。フランスなど一部の国は日本の要請を容認しなかった。出入国の制限は両国が同じ条件を課す「相互主義」を原則にしていることも一因になったとみられる。現時点で5カ国のみとなった日本の証明書の受け入れ国を広げるには「相互主義」への対応が避けられないとの声があがる。外国で発行された証明書を持つ人が日本への入国時に利用できる基準などが課題になる。そのひとつが中国製やロシア製など日本で承認されていないワクチンの扱いだ。中国製を巡っては米欧製に比べて効力が低いとの見方がある。日本の場合、海外からの入国者に原則として72時間以内の陰性証明の提出や、14日間の待機措置を求める。渡航先で活用できても日本への再入国時に証明書が使えない点も議題になる。出入国在留管理庁によると、6月に帰国した邦人は4万3千人、外国人の入国者は1万7千人にのぼる。宿泊施設での待機措置は大きな負担になっている。足元ではコロナの感染状況が再び拡大傾向にあり、政府は導入時期を慎重に探る構えだ。新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は20日の日本テレビ番組で、東京都の1日当たりの新規感染者数が「8月第1週に3千人近くまで増加する」との見通しを示した。政府は入国時の接種証明書を活用するのは感染者数が減少局面に入った段階を想定しており、8月8日の東京五輪の閉幕後になる公算が大きい。経団連は移動自粛の緩和など証明書の国内での活用を提言したが、政府は現状では及び腰だ。ワクチン接種は任意でアレルギーなど特別な事情で接種できない人への差別につながりかねないと懸念する。当面は海外渡航での利用を念頭に置く。

*4-5:https://facta.co.jp/article/202106024.html (POLITICS 2021年6月号[罷り通る出鱈目])「ワクチン敗戦」のA級戦犯、「感染症ムラ」の暴走を止めるのは、本来、政治の役割。加藤官房長官と田村厚労大臣は、その責任を放棄してきた。
 新型コロナウイルス(以下、コロナ)対策で、日本は一人負けを続けている。1回でもワクチン接種を受けた人の割合は、2.0%以下(4月29日現在)で、主要先進国(G7)で最下位だ。英国(50.4%)、米国(43.0%)は勿論、G7で日本に次いで接種が少ないフランス(22.4%)にもはるかに及ばない。ワクチン接種が進む国では、感染者が急速に減少している。英国の人口百万人あたりの感染者数は1月10日のピークの881人から32.5人(5月1日現在)に減少し、日本(40.0人)よりも少ない。G7で感染者数が増加しているのは日本だけだ。この状況は国民生活にも影響する。英国では、5月17日に屋内での飲食、映画館などの娯楽施設、ホテルの営業が再開し、6月21日にはマスクの着用を緩和し、ナイトクラブの営業を再開する予定だ。米国も状況は変わらない。カリフォルニア州のユニバーサル・スタジオは4月16日に営業を再開し、27日には、米疾病対策センター(CDC)が、ワクチン接種を済ませた人には、マスク着用義務を解除する方針を出した。5月4日、ドイツでもワクチン接種を終えた人への制限を緩和する方針が発表された。この状況は、緊急事態宣言下の日本とは対照的だ。なぜ、日本だけ上手くいかないのだろうか。実は、このことは今に始まった話ではない。日本のコロナ対策は、昨年から一貫して「劣等生」だった。政府は「日本型モデルの成功」と自画自賛してきたが、実態は違う。本稿では、日本のコロナ対策の失敗の本質をご紹介しよう。
●医系技官の意向を代弁した出鱈目
 コロナ対策の目的は国民の生命と生活を守ることだ。これは、人口当たりの死者数と国内総生産(GDP)の変化を用いれば国際比較が可能となる。日本の2020年の人口10万人あたりのコロナによる死者は2.6人、GDPは対前年比で4.8%減だ。19年のGDPは前年より0.3%増だったから、実質5.1%減となる。本稿では、この値を「GDP変化率」と定義する。では、G7ではどうだろうか。10万人あたりの死者数は日本とは桁違いだ。最も多いのはイタリアで122.7人、日本の47.2倍だ。最も少ないドイツ(40.3人)でも日本の15.5倍となる。一方、経済ダメージは、死者数ほどの差はない。最もダメージが軽微なドイツの「GDP変化率」は5.5%減で、日本(5.1%減)と大差ない。欧米と比較した場合、日本は経済ダメージは大きいものの、死者数の抑制に成功したという見方も可能だ。東アジアと比較すれば、この評価は一変する。主要4カ国・地域の死者数は日本2.6人、韓国1.8人、中国0.3人、台湾0.03人で、「GDP変化率」は、日本5.1%減、中国3.7%減、韓国3.0%減、台湾0.3%増だ。死者数、「GDP変化率」の何れにおいても、日本は最低だ。日本はどこで間違えたのだろう。最初の躓きはPCRを抑制したことだ。コロナ対策が難しいのは、感染者の多くが無症状であることだ。それゆえ周囲にうつしてしまう。コロナ対策の本丸は無症状感染対策で、世界中の研究者がこの問題に取り組んだ。最初の報告は、昨年1月24日、香港大学の研究者たちが英『ランセット』誌に無症状感染の存在を報告したものだ。その後、「無症状コロナ感染」をタイトルに含む約800の英文論文が発表されている。この中で特記すべきは、11月11日、米海軍医学研究センターの医師たちが、米『ニューイングランド医学誌』に発表したものだ。1848人の海兵隊の新兵を隔離して感染状態を調べたところ、51人(3.4%)で感染が確認され、46人は診断時に無症状だった。若年者においては、感染者の大半が無症状ということになる。その後、12月2日にスリランカの研究者が、PCR体制の強化がもっとも有効な対策という論文を、医療政策研究の最高峰『ヘルス・アフェアー』誌で発表した。この報告で、感染の抑制と最も相関したのは、感染者数当たりの検査数だった。ところが、厚労省や専門家たちは、このような研究成果を無視し続けた。政府のコロナ感染症対策分科会会長を務める尾身茂氏は、10月14日の横浜市での講演で「無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない」と公言している。もちろん、これは厚労省で医療政策を仕切る医系技官の意向を代弁したものだろう。尾身氏自身、医系技官OBだ。医系技官は、流行当初から「PCRは1%程度の偽陽性があり、PCR数を増やせば、医療が崩壊する」と主張し、検査数を抑制してきた。昨年8月まで医系技官トップで事務次官級の医務技監を務めた鈴木康裕氏は、10月24日の毎日新聞で「陽性と結果が出たからといって、本当に感染しているかを意味しない」とコメントしている。この発言も出鱈目だ。『米国医師会誌(JAMA)』5月6日号には「コロナの診断テストの解釈」という論文が掲載され、「ほとんどのPCRの特異度*注は100%である」と記されている。昨年5月の段階で、PCRの精度が高いことは世界の常識となっており、中国をはじめ世界各国が大規模スクリーニング検査体制の構築を進めていた。この手の出鱈目は枚挙に暇がない。11月25日の衆議院予算委員会で田村憲久厚労大臣は「アメリカは1億8千万回検査しているが、毎日十数万人が感染拡大している」と答弁しているが、これも不適切だ。前述したように、感染抑制と相関するのは、検査の絶対数ではなく、感染者数あたりの検査数だ。田村大臣発言当時の米国の感染者あたりの検査数は12.3回で、日本の18.9回以下だ。その後、米国は検査体制強化に努め、4月29日現在の感染者あたり検査数は20.0件で、日本(14.5件)を追い越した。
* 特異度(とくいど)=臨床検査の性格を決める指標の1つで、ある検査について「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」として定義される値である。
●変異株6割見落とす「二段階検査」
 感染症対策の根幹は検査だ。菅義偉総理は繰り返し「検査体制の強化」を主張するが、日本の検査能力はいまだに後進国レベルだ。4月29日現在の人口千人あたりの検査数は0.58件で、英国(15.8件)、米国(3.1件)はもちろん、インド(1.22件)の半分以下である。PCR抑制は様々な影響を与えた。変異株のまん延もその一つだ。厚労省はPCR陽性例の4割を変異株の検査に回したが、そもそもの検査数が少なく、かつ6割はノーチェックなのだから、変異株の大部分を見落としてしまった。4月19日~25日の間に東京都では5090人のPCR陽性が確認され、このうち41%に変異株検査を実施したが、56%が陽性だった。大阪・兵庫・京都では、変異株の割合は80%を超える。実は、世界の変異株検査のやり方は、日本とは全く違った。二段階検査のような手間のかかる方法ではなく、複数の遺伝子配列を同時に増幅することができる「マルチプレックスPCR」を用い、一回の検査で変異株の感染を判断している。この方法を用いれば、検体を国立感染症研究所(感染研)などの専門施設に運ぶ必要はなく、医療機関や民間検査センターでも検査が可能で、結果はその日中にわかる。1月8日、米食品医薬品局(FDA)は、「マルチプレックスPCR」の使用を推奨したが、感染研は執拗に従来の方法にこだわり、いまだに導入されていない。
●「公共事業」と化した積極的疫学調査
 なぜ、厚労省は、ここまでPCRを抑制するのか。それは感染症ムラの利権に関わるからだ。感染症ムラとは、厚労省医系技官、感染研、専門家で構築される利益共同体だ。その中心は健康局結核感染症課だ。コロナ対策の法的根拠となる感染症法と検疫法を所管し、後述する感染症関係の研究予算を差配する。課長は医系技官の指定席だ。コロナ対策で、感染症ムラにとっての「公共事業」と化したのは積極的疫学調査だ。この調査は、感染症法で規定される法定感染症が発生したとき、厚労省が指示し、感染研と保健所が連携して実施することと規定されている。この調査では、感染者を発見したら、保健所が濃厚接触者を探しだし、PCRを実施する。もし、感染していれば、さらに濃厚接触者を探し、芋づる式に感染者を見つける。この芋づるをクラスターと呼ぶ。クラスター調査は、世界のどこでも実施している標準的な感染対策である。日本があえて「積極的」と称するのは、感染者の過去14日間の行動を調べ、接触者を探しだし、彼らを検査するからだ。この際、保健所職員を動員しての人海戦術による聞き取りを実施する。海外では感染者が見つかると、その後に接触した人を洗い出し、発症するか調査するだけだ。この際、接触アプリを活用する。厚労省や「感染症ムラ」の研究者は、積極的疫学調査を自画自賛する。コロナ感染症対策分科会の委員を務める押谷仁・東北大学教授は、昨年3月22日のNHKスペシャルに出演し、「全ての感染者を見つけなければいけないというウイルスではないんですね。クラスターさえ見つけていれば、ある程度の制御ができる」と述べている。この指摘が間違いであったのは、いまや明白だ。感染がまん延すれば、クラスター対策では対応できないことは素人でもわかる。感染研も積極的疫学調査の実施要領に「(大流行下では)感染経路を大きく絶つ対策が行われているため、個々の芽を摘むクラスター対策は意味をなさない場合がある」と記していた。ところが、彼らは未だにクラスター対策に固執する。1月8日には、実施要領の記載を「効果的かつ効率的に積極的疫学調査を行うことが重要になる場合がある」と変更し、2月25日に分科会が提出した提言には現行の調査を強化した「深掘積極的疫学調査」を盛り込む始末だ。なぜ、ここまでしてクラスター対策に拘り、PCRを抑制するのか。それは「クラスターさえ見つけていれば、ある程度の制御ができる(押谷教授)」というフィクションが通用している限り、彼らがカネとポストを独占できるからだ。研究者にとってのカネとは研究費だ。結核感染症課は「新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業」を所管する。この予算は19年度の約3億4千万円から、20年度には36億5400万円に増額された。公募形式だが、採択されるのは感染症ムラの面々ばかりだ。20年度に採択された41人中、20人が感染研で、27人が感染症ムラ関係者だ。彼らが受け取った研究費の総額は約31億1800万円で、全体の85%を占める。もちろん、感染症ムラの研究者がしっかり成果を出してくれれば問題はない。ところが、研究成果が乏しい。米国立医学図書館データベース(PubMed)によれば、4月14日現在、日本人研究者が筆頭著者の856報の論文が発表されている。施設別で最も多いのは東京大で54報だ。感染研は19報で7位、横浜市大(16報)と同レベルだ。感染症ムラの情報独占や過剰な資源投入は、日本の研究力を削ぐ。4月8日現在、PubMedには6万2905報のコロナ論文が収載されている。国別でトップは米国の1万1251報で、中国(8881報)、イタリア(6945報)、イギリス(6448報)と続き、日本(1333報)はG7で最下位だ。人口10万人あたりで比較すると、日本は1.1報。OECD加盟国37カ国中32位で、ハンガリーやコロンビアと同レベルである。コロナ研究は熾烈な競争の世界だ。様々な分野の専門家が参入する。例えば、ワクチン開発に成功した独ビオンテックと米モデルナは、元はがん治療ワクチンを開発していたバイオベンチャーだ。ゲノム情報を分析し、ワクチン候補となるmRNAの配列を決定するノウハウを有していた。昨年1月、中国の研究チームがコロナのゲノム配列を公開すると、その情報を分析し、ワクチン開発に取りかかった。彼らの成功は感染症に加え、免疫学や情報工学の専門家の有機的な連携によるものだ。感染症ムラの「お医者さん」がカネと情報を独占する日本とは違う。
●「感染症ムラ」の暴走に目をつむる
 余談だが、ゲノム研究の世界的リーダーは中村祐輔・がん研がんプレシジョン医療研究センター所長だ。昨年、米メディアがノーベル生理学・医学賞候補に挙げた。残念なことに、中村氏が「感染症ムラ」から招聘されることはない。中村氏は大阪大学を卒業した外科医だが、あまりにも高名な中村氏は「感染症ムラ」にとって煙たい存在なのだろう。話を戻そう。では、どうすればいいか。感染症ムラの暴走をコントロールするのは、本来、政治の役割だ。その役割を担うべきは、加藤勝信官房長官と田村厚労大臣だ。前職は、それぞれ厚労大臣と自民党コロナ対策本部本部長で、政府・与党の責任者を務めた。ところが、彼らは、その責任を放棄してきた。PCRについての田村厚労大臣の不適切な発言は前述の通りだ。加藤官房長官の姿勢を象徴するのは、37.5度4日間の自宅待機への対応だ。検査を希望する国民に理解を示すことなく、昨年5月8日には「我々から見れば誤解」と国民に責任を押し付けた。PCRもできず、ワクチンも開発できず、緊急事態宣言を繰り返す日本で、多くの人命と財産が失われた。クラスター対策に固執し、非科学的な対応を取り続けてきた感染症ムラと、彼らの暴走に目をつむった政治家による人災だ。これまでの経緯を検証し、ゼロベースで体制を見直さねばならない。
*著者プロフィール:上昌広(かみまさひろ);特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長、1968年生まれ。兵庫県出身。東大医学部卒。国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年まで東大医科学研究所特任教授を務める。2005年より東大医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長を兼ねる。

<五輪開会式から見た教育の問題点>
PS(2021年7月31日追加):五輪選手は世界の一流であるため、さすがに質が高くて気持ちの良い競技をするが、それぞれ地域の代表なので東京五輪のような無観客の会場で競技をするのは久しぶりだろう。その五輪で開催地の見識と実力が最も現れるのは開会式と閉会式だが、*5-1のように、開会式は新型コロナのパンデミックを理由に無観客・選手のマスク着用が義務付けられていた。しかし、ワクチン接種が済み、毎日PCR検査をして陰性を証明している選手にマスク着用は不要であるし、観客にワクチン証明か陰性証明があれば無観客である必要もないのだが、その判別もつかないのが、日本の厚労省・同専門家会議・政治家・メディアなのである。
 私も東京五輪の開会式は見たが、①選手の入場行進に「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」などのゲームの楽曲が多く使われ ②歌舞伎俳優市川海老蔵さんの演技は少しで ③各種競技のピクトグラム(絵文字)をパントマイムのパフォーマーが演出し ④聖火リレーの最終ランナーに大坂なおみ選手が起用されていた。
 私の感想は、①②は、日本の芸術の貧困であり、③は面白くはあったが笑う以上の何ものでもなく、歌も上手ではなくて、この開会式にはリオ五輪のようなメッセージ性も本当の芸術もないと思った。唯一存在したメッセージは、最後に④で日本の多様性を示したことだが、これは先進国では当たり前のことで、それと同時に、声がスタジアムに届くよう五輪開会式の会場近くで五輪中止の抗議デモが行われていたのは、外国人差別が現れている上に、外国からのお客さまに対して失礼で、航空自衛隊が描いた空の五輪も風で吹き飛ばされて形にならなかった。
 五輪の開会式は、企業にとっても技術や製品を世界に発信する好機だった筈だが、*5-2のように、⑤夜空に立体的な地球を描いたドローンショーは米インテル ⑥水素で聖火をともしたのはENEOS ⑦国立競技場にプロジェクター・音響設備・照明器具を納入して開会式の演出を支えたのはパナソニック ⑧聖火のトーチに使ったアルミニウムの3割は東日本大震災の仮設住宅の窓サッシを再利用してLIXILが製造 ⑨日本代表選手が着る「式典服」と「開会式服」をAOKIHD が用意 ⑩スウェーデン選手団の公式ウエアはサステナビリティーを重視して回収したペットボトル由来の再生ポリエステルなどを採用してユニクロが提供 だそうだ。
 しかし、⑤は、素晴らしかったが、米企業インテル製で平昌冬季五輪でも同じショーを披露していたので目新しくはなかった。また、⑥⑧⑨⑩は、開会式の放送時に解説や地球環境配慮のメッセージがなかったため、気付いた人が少ない。⑦は、今や日本の家電はパナソニックしか生き残っていないというお寒い状況を告げるメッセージなのである。さらに、だらだらと入ってきた選手団のプラカードは、国名が漫画の吹き出しに書いてあってアホかと思った。
 なお、この開会式を演出したのは、*5-3のように、元お笑い芸人の小林氏だったそうで、小林氏は過去にユダヤ人のホロコーストをコントで茶化した人権意識と見識の低い人だった。組織委の武藤事務総長は小林氏の役割を「全体を統一的で一貫性あるものにするもの」と説明されているが、確かに一貫性を持って教養の香りのない開会式だった。また、7月19日には、開会式の冒頭の楽曲を制作した小山田氏が学生時代の暴行で辞任し、その前には式典を統括するクリエーティブディレクターの佐々木氏が女性タレント容姿侮辱問題で辞任しているため、今回の開会式の軽薄さは、大会を組織した人の首尾一貫した軽薄で教養に欠ける価値観に基づく人選の結果だと言える。なお、*5-4のように、東京五輪の開会式で演出を担当した小林氏の解任について、海外の主要メディアは一斉に報じ、ベンアリ駐日イスラエル大使もツイッターで「ホロコーストの生存者の娘として、小林氏の過去の反ユダヤ主義的な言動に衝撃を受けた」と投稿されたのは当然のことだが、軽薄の仲間である日本メディアは大して問題にしなかった。

    
                 2021.7.23、2021.7.24日経新聞     
(図の説明:1番左の表は、開会式で使われたゲーム曲のリストで、左から2番目の図は、日本選手団の入場の様子だ。また、右から2番目の図は、聖火の点火の様子で、1番右の表は、東京五輪をめぐる不祥事のリストだ)

*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210724&ng=DGKKZO74152200U1A720C2NNE000 (日経新聞 2021.7.24) 異例の開会式、各国で詳報 無観客や選手マスク姿、東京五輪、大坂選手の点火速報
 東京五輪の開会式が23日、国立競技場(東京・新宿)で行われた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)下で開かれた今回の開会式について海外メディアは、初めて無観客となったことや選手がマスクを着用して参加したことなど異例ずくめである様子を報じた。米メディアのCNNやニューヨーク・タイムズ(NYT)などは開会式をライブで中継した。選手の入場行進には「ドラゴンクエスト」など日本の有名ゲームの楽曲が使われたと紹介し、各種競技のピクトグラム(絵文字)をパントマイムのパフォーマーが演出したなどと伝えた。歌舞伎俳優の市川海老蔵さんによる演技も開会式のハイライトとして注目を集めた。聖火リレーの最終ランナーにはテニス女子の大坂なおみ選手が登場、聖火を点火したときには主要メディアが相次いで速報を流した。AP通信は「空っぽのスタジアムで控えめなセレモニーが開かれるなか、東京五輪は始まった」と伝えた。「想像していたものと大きく異なったが、ようやく集まれたのでこの時間を大切にしよう」と呼びかけた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長による開会式の演説も紹介した。英BBCは「リオ五輪のようなカーニバルも、ロンドン五輪のようにスカイダイビングする女王もいなく、世界が最大の試練に立ち向かうなかで開かれる大会だと思い知らされた」と報じた。「この大会はマスク着用やコロナの陽性検査、そして無観客などこれまでとは異なるが、オリンピックが世界最大のショーであることに変わりはない」と指摘した。五輪の中止を呼びかける抗議デモについても報道が相次いだ。米公共ラジオ放送NPRは五輪開催について日本人の大半が「必要ではなく、危険な状況を作って国民に健康リスクをもたらすと感じている」と報じた。NYTは東京都が現在、コロナの感染拡大に伴い緊急事態宣言を発令中だと指摘。開会式のプログラムの合間に静けさが戻ると、会場の外に集まった抗議デモ参加者の声がスタジアムにも届いたと伝えた。

*5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC242IB0U1A720C2000000/ (日経新聞 2021年7月24日) 幻想ドローンショー 五輪開会式、企業の技術が支える、環境配慮を世界に発信
 23日の東京五輪開会式は、企業にとっても技術や製品を世界に発信する好機となった。夜空に立体的な「地球」を描いたドローン(小型無人機)ショーを手がけたのは米半導体大手のインテル。エネルギー大手のENEOSホールディングス(HD)は五輪史上初めて、環境負荷が小さい水素で聖火をともした。スポーツと平和の祭典を企業が培った技術が支える。夜空を彩ったドローンショー。1824台のドローンが五輪のエンブレムを形作り、平和を象徴する青い地球へと姿を変えた。インテルは2018年の平昌冬季五輪でも1200台超のドローンでショーを披露した。今回、使ったのは4つの羽根を備える「シューティング・スター」という同社のドローンだ。数は平昌の約1.5倍。1台340グラムと軽く、最大秒速11メートルまでの風にも耐える。高精細LEDを4つ搭載。「鮮明で境界のない明るさを実現し、より細かいグラフィックス表現が可能になった」(インテル日本法人の鈴木国正社長)。平昌では各機1つだった。ドローンの動き、光の色や点滅はアニメーションのソフトウエアなどで設計した。インテルは今回の東京五輪で、高性能CPU(中央演算処理装置)を駆使したデータの生成・処理などの技術を提供する。アスリートの動作を複数のカメラで即座に分析したり、立体データから自由に視点を移動したりといったもので、テレビ放送にも活用される。パナソニックは国立競技場にプロジェクションマッピングに使うプロジェクターや音響設備、照明器具を納入し、開会式の演出を支えた。音響設備はスピーカーから離れていても明瞭な音が聞こえる。照明器具は瞬時にオン・オフでき、高精細な4Kや8K放送で色を鮮やかに再現できるように設計した。地球環境への配慮は今大会の大きなテーマだ。国立競技場と夢の大橋(東京・江東)に設置された聖火台にはENEOSHDが水素を供給する。再生可能エネルギー由来の水素だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが福島県に設立した「福島水素エネルギー研究フィールド」(福島県浪江町)で製造し、東京まで運ぶ。再生エネ電力を使い、水を電気分解して発生させた「グリーン水素」だ。製造時にも二酸化炭素(CO2)は出ない。聖火のトーチに使うアルミニウムの製造はLIXILが担った。アルミをリサイクルして窓サッシなどをつくる技術が評価された。素材の約3割は東日本大震災の被災者が暮らした仮設住宅の窓サッシを再利用した。トーチ本体を作ったのは金属加工・販売のUACJ押出加工(東京・中央)。軽量化しつつ、桜をイメージした複雑なデザインを実現する必要があった。金型の設計を繰り返し、約3年がかりで完成させた。トーチは全長71センチ、重さ1.2キロ。約1万本が全国で聖火をつないだ。紳士服大手のAOKIホールディングス(HD)は日本代表選手が記者会見の場などで着る「式典服」と「開会式服」を1600人分用意。日本オリンピック委員会(JOC)などが19年に実施したコンペで数十社の中から選ばれた。開会式服は白いジャケットと赤のパンツ。ジャケットの生地には日本の職人の特殊技術で小さな穴をあけ、通気性と伸縮性を高めた。シャツやブラウスには吸水・速乾機能を持たせた。AOKIHDの青木彰宏社長は「国内で60年間スーツを作ってきた技術を発信できる」と期待する。ファーストリテイリング傘下のユニクロは、スウェーデン選手団に公式ウエアを提供した。環境先進国とされる同国のためサステナビリティー(持続可能性)の観点を重視。回収したペットボトル由来の再生ポリエステルなどを採用した。選手入場時には、国内外で人気の高い家庭用ゲームのテーマ曲などが使われた。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などスクウェア・エニックス・ホールディングスの6作品から9曲が採用された。ネット上では「ドラクエの曲で鳥肌が立った」などと大きな反響があった。カプコンの「モンスターハンター」やバンダイナムコホールディングスの3作品、セガサミーホールディングスやコナミホールディングスから各2作品が使われた。

*5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210723&ng=DGKKZO74137290S1A720C2NN1000 (日経新聞 2021.7.23) 五輪組織委、止まらぬ迷走、開会式演出の小林氏解任、低い人権意識が根底に
 東京五輪の運営を担う大会組織委員会の混乱が収まらない。開会式を翌日に控えた22日、ショーディレクターを務める元お笑い芸人の小林賢太郎氏を過去のコント内容を巡って解任した。かねて不祥事は相次ぎ、19日には開会式の楽曲担当者が辞任したばかり。根底にある人権意識の希薄さや「密室体質」を払拭できず、東京五輪そのもののイメージを損なった。開閉会式の制作・演出チームの一員だった小林氏は過去にユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)をコントで扱い、SNS(交流サイト)上で批判が集まっていた。組織委の橋本聖子会長は22日の記者会見で「次々と多くの問題が発覚し、後手に回っている印象があり反省している」と述べた。組織委の武藤敏郎事務総長は小林氏の役割を「全体を統一的、一貫性あるものにするもの」と説明。組織委は演出内容を見直すかどうかを検討したが、22日夜に変更しないと発表した。精査した結果、小林氏1人で演出を手掛けた部分はなかったとし、「予定通り実施する方向で準備を進めている」とコメントした。橋本氏が問題を把握したのは22日未明。外交上の問題にもなりかねないとして同日午前に解任した。米ユダヤ系団体が小林氏を非難する声明を出していた。菅義偉首相も首相公邸で記者団の質問に答えて「言語道断だ。全く受け入れることはできない」と批判した。組織委を巡っては、3月に式典を統括するクリエーティブディレクターの佐々木宏氏が演出関係者に女性タレントの容姿を侮辱するメッセージを送った問題で辞任した。組織委はこれを受け、式典の制作や演出を担うチームを再編成。詳細なメンバーを開会式の9日前となる7月14日になって発表した。選定過程などの説明はなかった。19日にはメンバーの一人、ミュージシャンの小山田圭吾氏が雑誌で告白した学生時代のいじめが問題となり、辞任に追い込まれた。小山田氏は開会式の冒頭の楽曲を制作しており、当該部分の変更を迫られた。小山田氏の場合、いったん組織委は続投させる意向を示していた。今年2月には前会長の森喜朗氏が女性蔑視発言で辞任。組織委の人権意識の低さが相次ぐ不祥事の根底にはある。小山田氏辞任の際、武藤氏は「佐々木氏の辞任後、時間がない中で必要な人たちを仲間内で集める形になった」と説明。小山田、小林両氏について過去の問題の把握や精査はできていなかった。かねて不透明な体質が批判されてきた組織委。2015年には大会エンブレムで盗作疑惑が浮上し、アートディレクターを限られた幹部で決めた経緯が批判された。森氏辞任の際も後任人事を巡り、森氏が元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏へ直接就任を打診したことが「密室人事」と非難された。教訓が生かされず、不祥事が収まらない。組織委は都や日本オリンピック委員会(JOC)、政府や民間など出身母体が異なる職員が集まり14年に発足した。専門家が集まった混成組織で職員は約8千人に及び、統治機能が働きにくい。エンブレム見直しでは選考方法を公募に切り替えた。当時の幹部は「国民的事業なので、オールジャパンで策定すべきものだった」と反省の弁を述べたが、不透明な構図は再び繰り返された。五輪の開会式目前になって制作・演出の主要メンバー2人が去った。開会式の演出はほぼ完成し、国立競技場ではリハーサルが連日行われていた。「このタイミングで演出を変更するのはかなり難しい」(組織委の担当者)のが実情だった。開会式は10億人以上がテレビで視聴するとされる。「マイナスのイメージがどうしてもぬぐえない状態で開幕を迎えようとしている」(橋本氏)。「多様性と調和」をテーマに、日本を世界に発信する場は揺らぐ。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210723&ng=DGKKZO74137320S1A720C2NN1000 (日経新聞 2021.7.23) イスラエル大使「衝撃受けた」 海外から批判相次ぐ
 23日に開かれる東京五輪の開会式で演出を担当する元お笑い芸人の小林賢太郎氏の解任について主要な海外メディアも一斉に報じた。スキャンダルが立て続けに起きていることから厳しい批判が相次ぐ。ロイター通信は小林氏がユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)をコントのネタにしていたとみられる動画が拡散したことについて「組織委員会の頭を悩ませる最新のスキャンダルとなった」と報じた。小林氏の解任は開会式の楽曲を制作したミュージシャンの小山田圭吾氏の辞任に続くもので「さらに恥をさらす事態となった」と断じた。AP通信は「感染再拡大の懸念が高まっているにもかかわらず開催を優先させる政府への批判が土壇場の不祥事につながっている」と分析した。外国政府からも批判の声が上がる。ベンアリ駐日イスラエル大使はツイッターで「ホロコーストの生存者の娘として、小林氏の過去の反ユダヤ主義的な言動に衝撃を受けた」と投稿。その上で、小林氏を解任した組織委員会に対して「迅速な対応に感謝する」と述べた。

<先端技術の応用から見た教育の問題点>
PS(2021年8月1日追加):*6-1のように、全ゲノム健診で欧米が先行しており、ゲノム解析装置の進化で1人あたりの解析コストは20年前の10万分の1の1,000$(約11万円=109.7¥/$X1,000$)に下がって、世界のゲノム関連市場は2028年までに20年比3倍超の約630億$(約7兆円=109.7¥/$X630億$)に拡大するそうだ。日本では、「①ビッグデータだ」「②マイナンバーだ」「③位置情報だ」と言って勝手に他人の個人情報を集めて使っておきながら、このような時だけ「個人情報保護」「医療倫理」などとして進歩を妨げる声が強くなる。しかし、それなら通常の健診も同じだ。さらに、医療は守秘義務を護るため、①②③よりはずっと安全で、遺伝情報は病気になる可能性が他の人より高いことを示すだけで、現時点で病気でなければ仕事に影響ないため職場で降格や解雇をする理由はない。さらに、遺伝情報は、生命保険会社がそれだけを見てリスク判定できるほど高い確率で一定の病気にかかることを現すわけではないため、守秘義務を護り、データ管理をしっかりしておけば問題ない筈だ。
 このように、新型コロナ・ゲノム・地球環境・五輪等の問題を考えるにあたって、驚くほど非科学的で基礎的教養に欠ける思考が続いているのは呆れるほかないが、その根源は多くの国民に行われている教育にあるだろう。
 例えば、*6-2-1のケースのように、「①東京都立高校が70年以上も普通科110校で男女別の募集定員を設定して入試の合格ラインで男子に下駄をはかせ」「②都教委が『急に変えると中学の進路指導などが混乱する』と言い」「③副校長だった教員が『理系難関大学への進学実績は保護者の関心事であり、理数系に苦手意識を抱きがちな女子より男子が増えるほうが喜ばしい』と言ったり(これは『ふざけるな』と言いたい)」「④都教委と私立高が全体の定員が都立約6割、私立約4割になるよう調整したり(私立は男女別学で高いのに)」「⑤複数の大学医学部入試で女性差別をして男子に下駄を履かせたり」など、憲法26条1項の「能力に応じて、等しく教育を受ける権利を保障する」に反すると同時に女性に対する人格権の侵害を行い、能力ある人から安価でよい教育を受けさせ社会の発展に資するという教育のもう1つの目的も果たしていない。にもかかわらず、教育者が憲法や教育基本法に反する①~⑤の考え方を持ち、それを疑問にすら思わずに70年以上も継けてきたことは、教育者の質に疑問を感じざるを得ないのだ。
 さらに、*6-2-2は、「⑥文科省は小中高校や幼稚園等の教員に10年毎の講習を義務付ける『教員免許更新制』を廃止する方針を固め」「⑦最新の知識や技能を習得する狙いだったが」「⑧多忙な現場の負担が一層増すなど数々の問題が当初から指摘されていた」「⑨現役教員の調査では、8割超が負担を感じ、6割弱が講習内容に不満を持っていた」「⑩講習の頻度が10年に1度では技能向上に結びつかない」「⑪各教育委員会の研修内容とも重複する」としているが、⑥⑩は、確かに10年に1度では技能向上に結びつかないものの、⑪は、教育委員会によって研修レベルが異なるため全国統一された底上げが必要だ。また、⑧⑨のように、多忙を理由として負担を感じるのなら、長期休暇のない職種も研修が義務付けられているのだから工夫が足りないし、⑦の意欲に欠ける不適格な教員と言わざるを得ない。なお、「⑫教え子の未来を左右する教員の責任は極めて重く、教育者としての力や質を高める努力が常に求められる」と言っても、(私はその時に議論の中心にいたので知っているのだが)政治主導がなければ教員が研鑽を積み技能を高める仕組みは入らなかったし、愚痴のように実態を言っているだけでは改善しない。
 そのため、政治を批判する前に、教育者自らが常日頃から問題点を把握・検証・改善し続けるべきであり、また、それができる人材を公立校の教員として採用すべきだ。そうでなければ、親の負担が重すぎて、子育てはできないのである。


 2019.11.28毎日新聞       resemon         2019.8.1西日本新聞

(図の説明:左図のように、教育用PCは九州・四国で普及しており、大都市圏の方が普及していない。また、中央の図のように、普通教室の電子黒板は佐賀県が飛びぬけて普及しており、これらは教育に対する優先順位のつけ方に違いがあるからだろう。右図は、九州地区と全国を比較した学力テストの正答率で、これは地方より大都市、公立より国公私立全体の方が高いが、全国と比較して理由を分析し、教え方を改善していくのも教育者の仕事だと思う)

*6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210725&ng=DGKKZO74155430U1A720C2EA4000 (日経新聞 2021.7.25) 倫理や個人情報課題に 全ゲノム健診、欧米先行
 筑波大学などが始める全ゲノム健診では欧米が先行する。一例は米新興企業バリアンティクス(マサチューセッツ州)で1回5600ドル(約62万円)。米国立ヒトゲノム研究所によると、解析装置の進化で1人あたりの解析コストは1000ドルと、20年前の10万分の1に下がったという。米調査会社グランドビューリサーチによると、世界のゲノム関連市場は2028年までに20年比3倍超の約630億ドルに拡大する。予防意識の高まりから健康診断サービスが市場の成長をけん引するとみられている。ただ個人情報保護や医療倫理などの面で課題は多い。ゲノム情報に関する倫理制度に詳しい早稲田大学の横野恵准教授は「ルール整備を通じて差別や不利益に対する利用者の懸念を軽減することが必要だ」と話す。米国では検査の結果に基づいて生命保険や医療保険などの加入を拒否されるといった問題が起きた。08年に遺伝情報に基づく差別を禁止する法制度が整ったが、なお職場での降格や解雇といった事例が相次ぐ。日本では17年、複数の生命保険会社の約款に遺伝情報を用いるかのように読める記載があったことから、金融庁が削除を要請した経緯がある。筑波大でも検査により不利益を被る可能性を事前に説明することや、厳格なデータ管理を求める意見が出たという。今回のサービスでは検査前に対面でリスクを説明し、データは専用サーバーで物理的に隔離する。森・浜田松本法律事務所の吉田和央弁護士は「十分なインフォームド・コンセント(説明と同意)が必要だ」と話す。

*6-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14987293.html (朝日新聞 2021年7月25日より抜粋) 男女別定員は必要か
 東京都立高校は、募集定員が男女別に設定されています。70年以上にわたって続く制度で、性別によって入試の合格ラインが異なるため、問題視する声があがっています。2018年には大学の医学部入試で、女性や浪人生が差別を受ける不正も明らかになりました。中学の学校現場の声や法律の専門家の話から、入試にまつわるジェンダーの問題について考えました。
■公立高では都立入試だけ 本社アンケート
 都立高校の男女別定員は、全国でみると異例の制度だ。朝日新聞が今年6月、47都道府県にアンケートしたところ、都道府県立高校で定員を男女別にしているのは東京都だけだった。過去に男女別にしていた7府県は「男女の比率にあらかじめ一定の範囲を定めることは合格ラインが異なることになり、男女平等の理念にそぐわない」(兵庫県)などとして、いずれも廃止。一部の学校で残っていた群馬県でも昨年春の入試を最後に廃止した。アンケートでは、男女の生徒数が同程度であるメリットも聞き、「混声合唱や部活動での団体活動が実施しやすい」といった回答があった。一方、「入学時に男女の数字に差が生じることがあるが、課題は生じていない」と答えた自治体もあった。都立高校の男女別定員制度は1950年度に導入された。現在は普通科110校で定員が男女別になっている。一方、定員の9割までを男女別の成績順で決め、残り1割を男女合同の成績順で決める「緩和措置」も98年度から導入。今春の入試では42校がこの措置をとった。男女別定員制度については、これまでも撤廃を求める声が上がっていた。男女別定員を話し合う東京都の検討委員会は90年に撤廃を提言。「小中学校での『男女平等』が高校で一転し、全日制普通科のみ男女を区別して選抜するのは疑問」とした。また、外部の有識者や学校の関係者でつくる都の入試検討委員会も見直すよう指摘している。制度が続いているのはなぜか。都教育委員会は「急激に変えると中学の進路指導などが混乱する。影響が大きいので慎重に検討する必要がある。緩和措置を導入するなど、議論は進めている」としている。私立高校との関係も影響している。都教委と私立高校は、全体の定員が都立約6割、私立約4割になるよう調整。朝日新聞のアンケートでは、東京都以外の17県も私立高との定員調整をしていると回答した。東京都以外の道府県では、性別に基づく定員の調整はいずれも「ない」と答えた。一方、男子生徒の比率が高い東日本の公立難関高で昨年まで副校長だった教員は「数学と理科が難しいと(結果として)女子の合格者が減る」と打ち明ける。理系の難関大学への進学実績は保護者の関心事でもあったといい、「理数系に苦手意識を抱きがちな女子より、男子が増えるほうが、喜ばしい。女子のほうが元気なので、女子がちょっと少ないほうが学校としてはバランスがいいと感じていた」という。
(中略)
■「違憲、医学部入試と根は同じ」 ジェンダー平等を求める弁護士の会
 都立高校入試の男女別定員制は、憲法や教育基本法に違反する許されない性差別だ――。「都立高校入試のジェンダー平等を求める弁護士の会」が6月末、制度の廃止と、合否判定における男女格差の是正を求める意見書を公表した。同会のメンバーは2018年に発覚した複数の大学医学部入試での女性差別問題で、訴訟などに関わってきた。意見書では、男女別定員制について「能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を保障する憲法26条1項に反すると指摘。性別などによる教育上の差別を禁じた教育基本法にも反すると訴えている。また、日本も批准している女子差別撤廃条約は男女に「同一の試験」を保障することを求めているとしたうえで、男女別定員は、受験生個人に保障されている「自ら選んだ学校の入試で公正に評価される権利」の侵害にあたると指摘している。都立高入試は、男女別の定員を明示している点では医学部入試問題と異なるが、同会メンバーの山崎新弁護士(48)は「男女の合格最低点の差を明示せず、正確な情報を隠してきたという点で、東京都は入試の公正性についての説明義務を果たしているとは言えない。性別のみに着目した入試を長年行ってきたという意味で、医学部入試問題と根は同じ」と指摘する。私立校でも男女別定員があり、男女で倍率が異なる学校はあるが、山崎弁護士は「公立校は、憲法に適合し、男女の機会平等を担保しなければならないため、例えば『男女の人数は半々が良い』などの目的で現状のような男女格差を正当化することができない」と訴える。自身も都立高出身といい、「塾が出す偏差値分布では、当時から明らかに男女で差がある高校もあった。にもかかわらず制度が長年維持されてきたのは、多くの場合、不利益を受けるのが女子だったからだ」と指摘する。「根底には性差別への感度の鈍さがある。公正に評価され、能力に応じた教育を受ける個人の権利をないがしろにしてまで、『私立校との定員調整』といったシステムを維持する合理性はない」
◇フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●その後の人生にも影響
 共学と言っても大学は成績順で合否が決まるし、高校でも理系文系でクラスが分かれれば男女比が極端に異なるクラスもたくさんある。男女比を半々にしたいがために有能な子が不合格になり、希望する教育を受けられないのはおかしいと思う。その後の人生にも影響してしまうのでは。(東京都 30代女性)
●ステレオタイプ、目の当たりに
 数年前に大学受験をしました。知人の女性が国立の大学に不合格になり、その母親が「女の子だし私立で十分だ」と慰めるように言ったのを見て衝撃を受けました。また先日、中学生の女の子の親から勉強について相談を受けていたところ「女の子だから数学は苦手で」と言われました。どちらも言った当人に悪気のない慰めや擁護ですが、そのような言葉で子供の首を絞めている側面があるように思います。適当に作られたステレオタイプが実際に成績に影響する(ステレオタイプ脅威)という事実もあるそうです。大人によるこうした刷り込みをどうにか減らせれば、と願います。(東京都 20代男性)
■不利益の当事者、見えぬまま
 取材の過程で1990年の朝日新聞朝刊1面の記事を見て驚きました。30年以上前に、都の検討委員会が都立高校の男女別定員制度を撤廃するよう求める記事が載っていたからです。当時からこの制度が「男女平等」に反するという指摘があったにもかかわらず、議論が進まないのはなぜなのでしょうか。山崎新弁護士が「この議論が深まらないのは、当事者が見えないから」と指摘していました。合格最低点が明示されない今の制度では、性別で合否が分かれても受験生自身が知ることができません。合格最低点は東京都だけでなく、すべての都道府県で公表しておらず「ブラックボックス」となっています。公平な入試のために何ができるか、受験生目線で知恵を絞るべきではないでしょうか。

*6-2-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/573482 (北海道新聞 2021/8/1) 教員免許更新制 廃止に併せ検証必要だ
 文部科学省は小中高校や幼稚園などの教員に10年ごとの講習を義務付ける「教員免許更新制」を廃止する方針を固めた。最新の知識や技能を習得する狙いだったが、多忙な現場の負担が一層増すなど数々の問題が当初から指摘されていた。講習の効果自体にも疑問符が付き、マイナス面ばかりが目立つ。廃止は当然である。2009年度に導入されたこの制度は、「教育再生」を掲げた第1次安倍政権の看板政策だった。現場の実態を十分に反映していない制度設計や運用は、政治主導が過ぎた面がなかったか。教員が研さんを積み技能を高める大切さは言うまでもない。文科省は廃止で済ませず、問題点を検証し今後に生かす責務がある。更新制は教員免許に10年の期限を設け、更新時に大学などで30時間以上の講習を受ける仕組みだ。教員は約3万円かかる講習費を自己負担し、受講するために長期休暇などのまとまった時間を割く必要があった。面積が広大な道内では移動や宿泊も重荷だった。文科省による現役教員の調査では、8割超が負担を感じ、6割弱が講習内容に不満を持っていた。講習の頻度が10年に1度では技能向上に結びつかない、各教育委員会による研修内容と重複する―といった現場の指摘も当初から上がっていた。もっと早く対応する必要があったのではないか。教員はいじめや不登校、さらにコロナ禍への対応に追われ、長時間労働を強いられている。免許更新の負担が加われば、教員志望者が減るのも無理はなかろう。導入前の論議では、指導力を欠く「不適格教員」の排除が強調され、現場の管理を強める安倍政権の意向が色濃く反映した。教育の実態に詳しい専門家の知見を軽んじる姿勢も顕著だった。それが今回の方針転換につながったことを忘れてはならない。文科省は来年の通常国会で廃止に必要な法改正を目指す。国会の論議を通じ、教訓を探るべきだ。教え子の未来を左右する教員の責任は極めて重い。教育者としての力や質を高める努力が常に求められる。ただ今回の経緯を踏まえれば、いたずらに制度を変えても実効性に乏しいのは明白だ。子どもの思いや悩みにじっくりと向き合い、学ぶ喜びが感じられるよう授業で創意工夫を重ねる。そんな人材を育てるため、文科省や各教委には働き方改革や研修の改善を進めてもらいたい。

<新型コロナへの対応から見た厚労省はじめ政府の問題点>
PS(2021年8月7日追加):*7-1のように、「①新型コロナ第5波の勢いが止まらず、染み出すように地方へと広がっている」「②『五輪を開催しながら外出自粛を求めるのは矛盾したメッセージになる』と専門家が指摘してきた」などとして五輪と結び付ける論調が多いが、①については、7月20日前後は夏休みが始まって学生が帰省する影響であり、②については、国民は五輪と外出自粛が矛盾したメッセージになるから戸惑うほど馬鹿ではなく、変異株を口実にしていつまでも人流を抑えることしかしない厚労省に愛層をつかしているのである。
 また、*7-2-1の「③首相は第5波による患者急増を受けて重症者以外は基本的に自宅療養の方針を8月2日に出し、病床逼迫の緩和を狙った」「④入院制限を巡って、急変を見逃すリスクが増すとして、知事や与野党から批判が続出した」「⑤政府は8月5日、新型コロナ患者の入院制限に関して、肺炎などの中等症で酸素吸入が不要でも、高リスクなら入院できると明確にした」については、③⑤は、医師が患者の状況から臨機応変に入院や治療の判断をするのが合理的で、入院・治療に医師以外の人が基準を設け、保健所が重症度の判断をするのは、そもそも医師法違反である。また、入院制限があると、④のように急変を見逃すリスクがあったり、必要な治療を行えなくなったりするので、医師も治療に責任を持てなくなる。そのため、病床逼迫していない地方自治体が同じにする必要はないし、1年半も“病床逼迫”と言い続けている厚労省と同専門家会議は国民に対して無責任極まりなく、これが国民が怒っている理由なのだ。
 さらに、*7-2-3のように、さっさとワクチンを接種してリスクの低くなった人から経済活動を始めればよいし、そのためには、感染リスクの高い職域の人には企業がワクチン接種を求めてよい。また、*7-2-2のように、抗体カクテル療法等の治療薬も早く承認し、ワクチン接種ができない人も安心できるようにすればよかったのに、これまで厚労省がやってきたことは、検査を十分に行わず、水際も不合理で、ワクチンや治療薬も承認せずに、まるで国民の身体で新型コロナウイルスを大切に培養しているかのように逆の対応が多かったのである。
 なお、*7-3のように、「⑥全国知事会が国への緊急提言をまとめて、ロックダウン(都市封鎖・強制的外出禁止・生活必需品以外店舗閉鎖措置)のような手法の検討を求めた」とのことだが、私は日本の感染状況なら水際対策を合理的にし、さっさとワクチンを接種し、治療薬を素早く承認して治療すれば、私権の制限は不要なくらいだったと考える。むしろ、故意にそれをやらず、国民の身体で新型コロナウイルスを培養してきたのは、私権の制限やロックダウンの可否を口実に憲法に緊急事態条項を入れたり、(詳しくは書かないが、そのうち表に出るのでわかる)特定の事柄を推し進めたりするのが目的だったようで、とても許せるものではないのだ。
 また、*7-4のように、米国の企業や州政府では「⑦職員に新型コロナワクチンの接種を義務づける動きが広がり、違反すれば解雇される場合もある」「⑧未接種者には週1~2回の検査やマスク着用を求める」とのことだが、取引相手・客・同僚などに迷惑をかけないため当然だ。日本で接種を急がせるとすれば、接種可能な希望者には接種できる体制が整ってからのことだが、例えば「11月以降の接種は、無料ではなく有料」にすればよいと思う。

 
   2021.7.7NHK       2021.8.5琉球新報     2020.8.19日経新聞

    
          2021.8.6日経新聞     2021.7.6毎日新聞 2021.6.26日経新聞

(図の説明:上の段の左図のように、人口100万人あたりの新型コロナ感染者数は沖縄県が最高だが、下の段の1番左と左から2番目の図のように、全世代のワクチン1回接種率も沖縄県が47都道府県中最下位で、ワクチンの効果は明らかである。また、下の段の右から2番目の図のように、英国とフランスは感染者数が一時的に増加したが、死者数は一貫して減っており、ここでもワクチンの効果が明らかで、1番右の図のように、ワクチン接種によって入国条件を緩和する国が増えたが、これは科学的合理性がある。しかし、日本政府は、必要なことは行わずに入院制限や私権制限を行おうとするばかりで、先進国とは言えない。そして、上の段の中央の図のように、重症か中等症かで入院制限をしているが、医師でもない人がわけもわからず勝手な基準を作って医療行為の可否を決めるのは医師法違反である上に国民皆保険に反する。また、上の段の右図のように、重傷者の定義も常識からかけ離れており、1年半も何をやっていたのかと思う)

*7-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/e741ddbcf183aafe6bd5f889864b3b3ba17e6f33 (朝日新聞 2021/8/4) 勢い止まらぬ「第5波」 お盆を待たず地方にも急拡大
 新型コロナウイルスの「第5波」の勢いが止まらない。五輪が開催される中、感染が東京など都市部だけでなく、染み出すように地方へと広がる――。専門家が懸念していた状況が現実になっている。人の移動が活発になるお盆の時期を前に、さらなる全国的な感染拡大への懸念が高まっている。朝日新聞の集計では、人口10万人あたりの1週間の感染者数をみると、4連休直前の7月19日には、最も深刻なステージ4(25人以上)は東京、神奈川、千葉、沖縄の4都県。ステージ3(15人以上)も埼玉、石川、鳥取、大阪の4府県だった。それが連休明け直後の25日には、埼玉や大阪はステージ4に。茨城や京都も新たにステージ3になった。今月3日時点でみると、ステージ4に茨城、栃木、群馬などの北関東の各県や、京都、兵庫などの関西圏、福岡などが加わって計23都道府県に拡大。ステージ3はこれらの隣接県を中心に8県となり、全国的に感染者数は増え続けている。昨年末には東京で感染者が増え、帰省の影響もあって年明けから全国に拡大した。第5波でも、お盆で感染が全国に拡大することが心配されていたが、それよりも前にすでに拡大している形だ。五輪を開催する一方で、外出自粛を求めることが「矛盾したメッセージ」になると専門家は指摘してきた。実際、繁華街の人出はこれまでの宣言時に比べても減り方が鈍い。

*7-2-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1369431.html (琉球新報 2021年8月5日) 中等症、高リスクなら入院 政府、説明内容を修正
 政府は5日、新型コロナウイルス患者の入院制限に関し、自治体に示した説明内容を修正した。肺炎などの中等症で酸素吸入が不要でも、高リスクなら入院できると明確にした。菅義偉首相は、入院制限を行うかどうかは自治体の判断とした。首相は感染「第5波」による患者急増を受け、重症者以外は基本的に自宅療養との方針を2日に打ち出し、病床逼迫の緩和を狙ったが、与党からも反発。わずか3日で説明の見直しに追い込まれた。入院制限を巡っては、重症手前の中等症で自宅療養する人が増え、急変を見逃すリスクが増すとして、知事や与野党から批判が続出。与党が撤回を求めたが、首相は拒否した。

*7-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/120971 (東京新聞 2021年8月1日) <新型コロナ>抗体カクテル療法 墨田区がスタート
 墨田区内四カ所の医療機関で、新型コロナウイルスの新たな治療「抗体カクテル療法」が始まった。基礎疾患のある軽症者や中等症の患者向けで、重症化を防ぐ効果があるとされている。区は独自に、この療法を受けられる区民向けの入院枠計二十床を確保した。政府が特例承認した抗体カクテル療法は、二種類の抗体を組み合わせて点滴投与する。海外の臨床試験では、入院や死亡のリスクを七割減らす効果があるとされた。区内では、都立墨東病院(江東橋四)などで七月二十七日から順次、治療をスタートした。
     ◇ 
 墨田区によると、六月以降、区内高齢者施設でクラスターは起きていない。七月からは六十五歳以上の高齢者の重症者はゼロだ。西塚所長は「命を守るワクチンの効果は出ている」と手応えを語る。区は集団接種会場として、仕事帰りに利用できる駅近くのホテルなどを平日夜間や週末に活用。金曜日の七月三十日夜、錦糸町駅に近い「東武ホテルレバント東京」(錦糸一)では、シャンデリアのきらめく宴会場で約四百人が接種を受けた。会社員の渋江みのりさん(23)は「夜までやってくれて助かる。快適な会場でスムーズに受けられて驚いた」と話した。

*7-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210804&ng=DGKKZO74484910U1A800C2MM0000 (日経新聞 2021.8.4) NY市、接種証明義務付け 飲食やジム利用で米国初、接種率向上目指す
 二ューヨーク市のデブラシオ市長は3日、同市内のレストランやバー、スポーツジムなどの屋内施設を利用する顧客や従業員に新型コロナウイルスのワクチン接種証明の提示を義務付けると発表した。全米の都市で初めて。ワクチンの接種拒否層に対する圧力が広がっている。接種証明の義務付けは8月16日から段階的に導入し、9月13日には全面実施する。デブラシオ市長は3日の記者会見で「ワクチン接種は健康で充実した生活を送るためには必要だ」と述べた。新たに接種証明パスを発行する計画を示した。同市長はすでに警察官や教員を含む市職員にワクチン接種を義務付ける方針を示した。市の成人の66%はワクチン接種を完了したが、接種率は伸び悩む。接種を加速するため、接種者に100ドル(約1万1000円)支払う取り組みも始めた。民間も独自に接種証明書を求める。ニューヨークを拠点に高級レストランやバーを展開するユニオン・スクエア・ホスピタリティー・グループは、9月7日から店内の飲食客にワクチン接種証明書の提示を求める。提示がない場合は「屋外の座席で飲食はできるが店内には通さない」という。
●社員に接種要求
 大手企業ではグーグルやフェイスブックなどが従業員にワクチン接種を求める。米メディアは3日、マイクロソフトが9月から米国内のオフィスで従業員にワクチン接種を求めると報じた。米食肉大手タイソンフーズも3日、全従業員のワクチン接種を義務付けると発表。従業員の半分以上が未接種といい、現場で働く接種者には200ドルを出す。アワー・ワールド・イン・データによると、米国の新規感染者数(7日移動平均)は2日に8万5千人を超え、およそ5カ月半ぶりの高水準となった。感染力の強いインド型(デルタ型)が全体の8割超を占めるなか、ワクチン接種率の低い南部州などで感染拡大が顕著となっている。デルタ型の感染リスクが懸念され、接種ペースはじわりと回復する。1日あたりの接種回数(7日移動平均)は2日時点で67万回となり、50万回まで落ち込んだ7月上旬から増えた。それでもピークだった4月の338万回に比べると5分の1程度にとどまる。(以下略)

*7-3:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021080300105 (信濃毎日新聞社説 2021/8/3) 知事会緊急提言 ロックダウンは危うい
 新型コロナの流行第5波を受け、全国知事会が国への緊急提言をまとめた。感染対策、検査・医療体制、事業者支援と雇用対策、ワクチン接種などについて計91項目に及ぶ。国民に対しても、夏の帰省や旅行の中止や延期を求めた。第5波は、緊急事態宣言下で五輪を開く東京から一気に地方へ波及し、各地で急拡大が続く。政府は、宣言対象地域の拡大で対応している。効果は乏しく、危機感を共有できる国民への強いメッセージも打ち出せていない。緊急提言は、政府へのいら立ちや不信、悪化する足元の感染状況への焦りが、形になったと言える。政府は知事たちの危機感をきちんと受け止めるべきだ。一方、知事会が提言の中で「ロックダウンのような手法」の検討を求めた点は、人権や自由との兼ね合いから問題がある。ロックダウンは、都市を封鎖したり、強制的に外出禁止や生活必需品以外の店舗の閉鎖をしたりする措置だ。人出を抑えるには有効だが、経済への影響は大きい。欧米を中心に多くの国や地域が踏み切ったものの、感染封じ込めに成功したとは言い難い。昨年3月から断続的にロックダウンを行いワクチン接種も進めた英国では、ほぼ規制が解除された先月27日時点でも1日の新規感染者が2万人を超えている。他の国でも、感染力が強いデルタ株がまん延する中、減少につながらなかったり、解除するとすぐに増加に転じたりしている。ロックダウンを強いられたために家庭内で女性や子どもへの暴力が増え、被害者支援が受けられない事態も起きている。外出禁止を理由に、集会やデモを取り締まる国もある。日本には、強制的な外出禁止を定めた法規定がない。営業や移動の自由を保障する憲法に抵触する恐れがあるからだ。ロックダウンの法整備を求めることは、改憲への誘い水になりかねない。新型コロナに対応する特別措置法も「権利制限は必要最小限でなければならない」と定める。措置を強める前に、やるべきことがあるのではないか。いつでも誰でも何回でも受けられる検査体制は構築できたか。陽性者を一般の生活から離し確実に医療につなげているか。国も地方も不断の検証と見直しが要る。住民と行政に信頼関係がなければ、どんな対策も効果は期待できない。不信が飛び交う中でロックダウンを口にするのは危うい。

*7-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210807&ng=DGKKZO74611080X00C21A8MM0000 (日経新聞 2021.8.7) 米、接種義務相次ぐ 企業・州政府、違反なら解雇も
 米国の企業や州政府で職員に新型コロナウイルスのワクチン接種を義務づける動きが広がってきた。違反すれば解雇される場合もある。インド型(デルタ型)の感染が止まらないためだ。米ユナイテッド航空は6日、全米の拠点に所属するすべての従業員に接種を義務づけると通知した。全米の大手航空会社で初めての試み。「全員が接種すれば全員がより安全になる」。スコット・カービー最高経営責任者(CEO)は従業員への手紙で利点を強調した。米食肉大手タイソンフーズは3日、全従業員に完全な接種を義務づける方針を発表した。マイクロソフトも9月から、従業員や取引先などが職場に入る際に接種証明の提示を求める。グーグルやフェイスブックなども出社する従業員に義務づける方針だ。米CNNは6日までに、未接種のまま出社した従業員3人を解雇した。州政府でも接種の義務づけが相次ぐ。ハワイ州や南部バージニア州などは5日、州の職員に接種証明を求めると発表した。未接種者には毎週のコロナ検査を課す。ハワイ州の場合、接種を受けない場合の解雇も辞さない。バイデン大統領も7月末、連邦政府職員に接種状況の開示を義務づけると発表した。未接種者には週1~2回の検査やマスク着用を求める。連邦政府の取引企業にも同様の措置を求めている。

<五輪を見て思ったこと>
PS(2021年8月10、13日):*8-1のように、菅首相が、東京五輪について「開催国としての責任を果たし、無事に終えることができた」と言われたのはそのとおりで、五輪を誘致しておいて途中で投げ出すのは無責任すぎるので、無観客開催で高揚感や経済効果が落ちたのは残念だったが、中止するよりはずっとよかったと思う。
 私は、*8-3のうち、開会式・閉会式・男女体操決勝・新体操決勝・アーティスティックスウィミング・100m決勝・男子マラソン後半・マラソンスウィミングなどを見たが、100m決勝や男子マラソンでは国籍が違ってもアフリカにルーツを持つ選手が細くて長い足で快走するのに感心し、女子体操・新体操・アーティスティックスウィミングは、旧ソ連系と中国選手の技術の高さと美しさに感心した。日本選手も頑張っていたが。
 また、マラソンスウィミングも見たのだが、*8-2のように、水質汚染で薄いカレー汁のような色をして、私なら足もつけたくないくらい汚かった。この場所は、前から、i)悪臭が報告され ii)大腸菌の濃度を懸念する場所で iii)大雨が降ると大量の未処理下水道排水が流れこんでトイレ臭を放っていたため、東京都は、iv)水質改善のために神津島の砂を海中投入し v)大腸菌を防ぐためのポリエステル製のスクリーンを設置し vi)降雨時の流出水を貯める新しい貯水タンクを設置して湾内に放出する前に処理できるようにした のだそうだが、あれは汚染水の色だった。そのため、フォックススポーツ・オーストラリアが「排泄物の中で泳ぐ。オリンピック会場で下水漏れの恐れ」という見出しで水質汚染と悪臭問題を報じたり、ブルームバーグ誌が東京湾の水質問題を「it stinks」と報じたりしたのも理解でき、これを「人工ビーチがあり、レインボーブリッジを眺める景観が最高」と表現する人は、自然の美しい海岸を見たことのない人だと思う。なお、iv) v) vi)の東京都の水質改善対策は大した効果のなさそうな弥縫策であるため、このような場所で2時間前後も泳がせることは、新型コロナが流行している今はなおさら不潔で、選手に失礼である上に人権侵害も心配された。そのため、東京都の下水処理システムを最新のものに変更して東京湾を清潔な海にすることは、東京湾の環境や漁業に不可欠である。
 なお、*8-4にも書かれているとおり、東京五輪は開会式だけでなく閉会式も芸術性が乏しくお粗末だった。大竹しのぶは灰色のセンスの悪いスタイルで昭和の格好の子供たちと何かをしていたが、私も「ここで、大竹しのぶ?」と思ったので、芝生でイベントを見ていた外国人選手たちが続々と引き揚げたのも理解できる。一方、*8-5のように、次の開催地パリからのライブ中継は、マクロン大統領も登場し、仏空軍のアクロバットチームがスモークで空にフランス国旗を描き、BMXに乗った若者が競技施設の屋根や名所を走る映像が流れて見応えがあった。また、ワクチン接種証明書か陰性証明書の提出を義務付け、イベルメクチン等の治療薬を承認していれば“密”になってもかまわないため、日本国民が中止や無観客五輪ばかりを主張し、バッハ会長の“銀ブラ”にまでケチをつけるような非科学的“空気”を作っていることには呆れるほかない。
 *8-6も、「①バッハ会長の銀座散歩は、IOCファーストに映った」「②新型コロナ感染対策規則集『プレーブック』によって柔道ジョージア代表の2人が東京タワー等を観光した際は参加資格剥奪された」「③政府は『大会関係者は入国後14日間は行動範囲が限定されるが、その後は制約がない』として、バッハ会長の行動を問題視しなかった」「④大会序盤の7月26日に、バッハ会長が笑顔で話しかけた視線の先には阿部兄妹がいて、マスクはつけていたものの、距離は1メートル以内と近かった」と記載している。
 しかし、②③は、ワクチン接種済なら選手やIOC関係者は入国後14日間の自粛も不要であるのに、14日間行動範囲を限定したり、ワクチン接種済選手家族の観戦を認めなかったりする規制の方が過剰なのである。ただ、ジョージア代表の2人の選手が東京に関心を持ってくれ、被感染リスクを犯しても街に出たいと思ってくれたことは有難いものの、街に出ると重症にならないまでも感染する可能性はあるため、ワクチン接種をしていない人もいると思われる他の選手に競技中に感染させて迷惑をかける可能性はある。従って、ワクチン接種済で入国後14日経過後のバッハ会長が、①のように、大会終了後に“銀ブラ”をしたり、④のように、ワクチン接種済の選手にマスクなしで話しかけたりしても何の問題もない。それどころか、このようなことに対して、“IOCファースト”とか変な“公平性”を持ちだして他人に不自由を強いたり、足をひっぱったりしたいと考える心を持つことこそ重症の心の病で、外国人差別でもあり、教育の問題である。


             日刊スポーツ              2021.8.8daily
(図の説明:1番左の図は、大竹しのぶと子どもたち、左から2番目の図が男声ソプラノ《!?》によるオリンピック賛歌だが、いずれもミスキャストでレベルの低い出し物だった。右から2番目の図は、東京音頭による盆踊りで少しは明るくなったものの豪華さはない。さらに1番右は、途中で退場する外国人選手たちだ)

*8-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA091130Z00C21A8000000/ (日経新聞 2021年8月9日) 五輪閉幕、首相「開催国の責任果たした」 国民に謝意
 菅義偉首相は9日、長崎市内で記者会見し、8日に閉幕した東京五輪について「開催国としての責任を果たし、無事に終えることができた」と評価した。「国民の理解と協力のたまものだ。心から感謝申し上げたい」と謝意を示した。新型コロナウイルスの感染拡大による1年の延期で「様々な制約の下での大会となった」と振り返った。感染対策は「海外から『厳し過ぎる』という声もあったが、『日本だからできた』と評価する声も聞かれた」と説明した。「選手のみなさんは大活躍だった。素晴らしい大会になった」と強調した。大会関係者や医療従事者、ボランティアにも賛辞を送った。首相は9日、首相官邸のツイッターにビデオメッセージを投稿した。すべての選手に「大きな拍手を送りたい」とたたえた。「夢や希望、感動を子ども、若者、世界の人々に届けてくれたことは何ものにも代えがたい未来への財産になった」と訴えた。

*8-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/42e2b7d0eccbf2bb31db3c3673ee4cf3f8620f16 (Yahoo 2021/7/20) 東京五輪のお台場会場の水質汚染と“トイレ臭”問題も海外に波紋…「排泄物の中を泳ぐ」「大腸菌濃度レベルが上昇」
  「選手村」での新型コロナウイルス感染や猛暑問題など3日後に開会式を控えた東京五輪に次から次へと懸念すべき問題が浮上しているが、今度はトライアスロンやオープンウォータースイミングなどの会場となっている、お台場海浜公園の水質汚染問題が海外に波紋を広げている。フォックススポーツ・オーストラリアのホームページは「排泄物のなかで泳ぐ。オリンピック会場で下水漏れの恐れ」という強烈な見出しで水質汚染と悪臭問題について報じている。「暑さもさることながら、オリンピックのオープンウォータースイミングやトライアスロンの選手たちが最も心配しているのは、東京湾の水質に懸念がある“臭い湾”だ。トライアスロンやオープンウォータースイミングの会場では、悪臭が報告されており、大腸菌の濃度レベルが上昇していることが懸念されている」としている。お台場海浜公園は、綺麗な砂浜の人工ビーチがあり、レインボーブリッジを眺める景観は最高だが、大雨が降ると、大量の未処理の下水道排水がここに流れこみ、強烈なトイレ臭を放つ。2019年にトライアスロンと、パラトライアスロン、オープンウォータースイミングのプレ大会が開催されたが、選手からは「臭い」とのクレームが続出。パラトライアスロンのスイムは基準以上の大腸菌が検出され中止になっていた。東京都は水質を改善するために伊豆諸島の神津島の大量の砂を海中に投入し、大腸菌を防ぐためにポリエステル製のスクリーンを設置。降雨時の流出水を貯めるための新しい貯水タンクを設置して湾内に放出する前に処理できるようにした。様々な対策は講じてきたが大雨が降ると未処理水を放水せざるを得ないようで、根本的な解決にはなっていない。記事では、それも踏まえて「東京では7月27日から大雨が予想されており、東京湾へ下水が流入する危険性が高まっている」と不安視している。ちなみにトライアスロンは26、27、31日に開催され、マラソンスイミングは8月4、5日に行われる。オーストラリアのトライアスロンチームは1日に2回、自ら水質検査をし、対策を練っており「チームは独自の戦略を準備している」という。ブルームバーグ誌もトライアスロンやオープンウォータースイミングの会場である東京湾の水質問題を報じており、ブルームバーグのレポートは、「it stinks (臭い)」というたった2つの言葉に、今回の問題を集約した。同誌は「問題は単に湾内の水が臭うということではない。これは、東京都が合流式下水道を採用していることが原因だ。合流式下水道とは、雨水と汚水の排水を分離せずに合流させる方式である。ほとんどの場合、このシステムはうまく機能するが、しかし、東京は台風や洪水の影響を受けやすい地域であり、排水システムはすぐに負荷がかかる」と原因を分析。東京都の水質改善の対策を紹介した上で「数週間前から不快な匂いを放っている」と、大会直前になっても改善されていない悪臭と、大会期間中の雨によってさらに状況が悪化することを懸念している。

*8-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP8B5W9QP8BUCVL010.html?iref=com_tokyo2020_news_list_n (朝日新聞 2021年8月10日) 五輪閉会式、推計4700万人見た 視聴率最高の競技は
 ビデオリサーチは10日、NHK総合が8日に中継した東京オリンピック(五輪)閉会式の前半(午後7時58分開始)の平均世帯視聴率(速報値、以下同)が関東地区で46・7%だったと公表した。他地区は関西41・3%、名古屋40・7%、北部九州で41・5%だった。関東地区の個人視聴率は31・5%だった。全国32地区分のデータをもとにした同社の推計では、全国で4699万7千人がこの中継をリアルタイムで視聴したという。ニュースを挟んだ閉会式後半(午後9時23分開始)の世帯視聴率は関東地区で39・8%だった。競技を中継した番組で世帯視聴率(関東地区)が高かったのは▽日本が米国に勝って金メダルを獲得した野球男子決勝の後半部分(7日、NHK総合)=37・0%▽大迫傑(すぐる)選手が6位入賞した男子マラソンの後半部分(8日、同)=31・4%▽日本が延長の末スペインに敗れたサッカー男子準決勝(3日、日本テレビ)=30・8%。
東京五輪で番組平均視聴率が高かったのは
※左から内容(放送日・放送局)、世帯視聴率、個人視聴率
①開会式(7月23日・NHK) 56.4% 40.0%
②閉会式(8月8日・NHK) 46.7% 31.5%
③野球男子決勝 日本×米国の後半部分(8月7日・NHK) 37.0% 23.5%
④男子マラソンの後半部分(8月8日・NHK) 31.4% 17.7%
⑤サッカー男子準決勝 日本×スペイン(8月3日・日本テレビ) 30.8% 19.6%
⑥サッカー男子準々決勝 日本×ニュージーランドの後半~PK戦 (7月31日・NHK) 26.9% 17.0%
⑦卓球女子団体決勝 日本×中国の前半部分(8月5日・NHK) 26.3% 16.4%
⑧野球男子準決勝 日本×韓国の後半部分(8月4日・NHK) 26.2% 15.9%
⑨サッカー男子1次ラウンド 日本×南アフリカの後半(7月22日・NHK) 25.1% 15.9%
⑩卓球混合ダブルス決勝~表彰式(7月26日・フジテレビ) 24.6% 15.7%
(ビデオリサーチの関東地区の速報値をもとに作成。世帯視聴率はチャンネルを合わせた世帯の、個人視聴率は見た人の割合。競技が連続した複数番組にわたる場合は視聴率の高い方のみを記載)

*8-4:https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12136-1191509/ (日刊ゲンダイ 2021年8月10日) 大竹しのぶは“貧乏クジ”を引かされた…五輪閉会式で大トリも演出ドッチラケで評価散々
 「まるで葬式」と海外メディアに報じられた東京五輪開会式よりも、評価が低いともっぱらなのが閉会式だった。とりわけ大竹しのぶ(64)が合唱団の子供たちと宮沢賢治の「星めぐりの歌」を歌い、聖火台の火が消えるのを見守る大トリのフィナーレはドッチラケで、「なぜ大竹しのぶだったのか」「大女優に恥をかかせた」などとSNSでの評価は散々である。「会場は暗くシーンとして、芝生でイベントを見ていた外国人選手たちも続々と引き揚げていった。彼らも楽しもうとしていたはずですが、出演者も演出も意図も、何が何だか分からなかったのだと思います」(スポーツ紙デスク)。それはお茶の間で式典を見ていた視聴者も全く同じ。組織委によると閉会式のコンセプトは「Worlds we share」。エグゼクティブプロデューサーでスポーツマネジメント会社経営の日置貴之氏(46)は日刊スポーツに対しこう語っていた。「大会の基本コンセプトに『ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と調和)』とある。それを考え開閉会式をつくってきた。僕が大事にすべきは、みんながそれを言える、理解する開閉会式」。東京五輪招致の際のコンセプトだった「復興五輪」については「省いたつもりはない。演出には復興の観点もあり、1ミリも忘れていない」とし、東北・復興へのメッセージは「見てもらえば分かる」と胸を張ったそうだ。で、なぜ大竹しのぶだったのか。某ベテラン広告プロデューサーはこう言う。「芸能界の大御所で、選考で名前を挙げれば誰からもケチがつかなかったでしょうし、次の五輪のパリは芸術の都ですから、大竹さんのアートな雰囲気もぴったり。閉会式でmilet(ミレイ)の歌ったエディット・ピアフの『愛の讃歌』は大竹さんも舞台などで歌われているし、何より反戦護憲派で、容姿侮辱や凄惨ないじめ喧伝、ホロコーストをネタにするような過去もありませんからね。また、夜10時すぎに子供を登場させるのは本当はアウトなのですが、その母親、理解ある保護者役のイメージも大竹さんに託したかったのかもしれません」。だが、五輪担当記者はこう言って、首をかしげた。「事実、いわゆる『身体検査』は念入りだったと思います。とはいえ、大竹さんの出演は唐突だったし、復興五輪を印象付けるためでしょうが岩手生まれの宮沢賢治の合唱は安直だったのではという意見が現場ではほとんどでした」。いずれにしても、こうした後ろ向きな基準で閉会式の演出プランが練られていたとすれば残念な限りである。前出のプロデューサーはこうも言う。「今回の東京大会も仕切った電通の担当者たちは電通の中でも特権階級でIOCのバッハ会長が接待されれば、自分たちも同じように優遇されて当然てなものです。世論などどこ吹く風どころか、完全に見下していますから。今回の閉会式も素晴らしい出来だったと自画自賛していて不思議じゃない。だからバッハ会長は大会が終わるやコロナ禍の中、堂々と“銀ブラ”なんかしてるんですよ」。大竹は9日、自身のインスタグラムを更新。「私自身、今この時の開催に、全く疑問が無かったわけではありません」と複雑な心境を打ち明けながらも「制作側のお話を聞いた上で考え、選手の皆さんの5年間を想い、明日に繋がる力になればと舞台に立ちました」と閉会式を振り返った。誰が何をやっても批判されるのは承知の上とはいえ、貧乏クジを引かされた気分だろう。

*8-5:https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2021/08/08/kiji/20210808s00041000661000c.html (スポニチ 2021年8月8日) 東京五輪閉会式 中継のパリ会場は“めっちゃ密”…ネット驚き「過去の動画かと」「同じ世界なのか」
 東京五輪は8日、17日間の全日程を終え、無観客の東京・国立競技場で閉会式が行われた。式の終盤では小池百合子東京都知事からパリのアンヌ・イダルゴ市長へ五輪旗渡されるなど、次の開催地への「引き継ぎ式」が行われた。式では東京とパリを一部ライブ中継でつなぐ演出が行われ、エマニュエル・マクロン大統領らが登場。仏空軍のアクロバットチーム「パトルイユ・ド・フランス」が大空を飛び、セーヌ川、エッフェル塔など美しい街並みをバックにトリコロールのスモークを空に描いた。BMXに乗った若者が競技施設や名所から魅力をアピールする映像も流れた。パリのエッフェル塔近くの特設会場にはフランス国旗を手にした大勢の人々が詰めかけて「密」の状態。無観客の東京とは正反対の映像にネット上では驚きの声が続出し、「人多すぎて過去の動画かと思った」「もはや突き抜けてて凄い」「同じコロナ禍の世界とは思えない」「パリってこれ生中継なの?」「パリ、めっちゃ密だけど大丈夫?」「めっちゃマスク無しで密」「めっちゃ密で盛り上がってるパリの映像見ると、なんともいえん気持ちになる」などの声が上がっていた。

*8-6:https://mainichi.jp/articles/20210812/k00/00m/050/181000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20210813 (毎日新聞 2021.8.12) IOC、選手家族の観戦認めず バッハ会長は視察ざんまい
 東京オリンピックは主催者の国際オリンピック委員会(IOC)のためにあるのか。そう言いたくなるトーマス・バッハ会長の行動だった。大会期間中、IOCファーストに映る場面はいくつもあった。極めつきは閉幕翌日の9日、東京・銀座の散歩だろう。ポロシャツ姿のバッハ会長は午後4時過ぎ、警護がつく中で銀座を散策した。政府はこの行動を問題視しなかった。新型コロナウイルスの感染対策をまとめた規則集「プレーブック」で選手は厳しい制限下にあった。柔道ジョージア代表の2人が東京タワーなどを観光した際は、参加資格証を剥奪されている。一方、大会関係者は入国後14日間、行動範囲が限定され公共交通機関の不使用などが求められるが、それを経過すれば行動に制約はない。7月8日に入国したバッハ会長は行動制限の対象に該当しないというのだ。大会序盤の7月26日、柔道の競技会場となった日本武道館で、バッハ会長は上機嫌だった。笑顔で話しかけた視線の先には、前日に金メダルを獲得した男子66キロ級の阿部一二三、妹で女子52キロ級の阿部詩のきょうだい。関係者席で大野将平が2連覇を果たした男子73キロ級を一緒に観戦した。マスクはつけていたものの、距離は1メートル以内と近かった。(以下略)

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2016.4.11 ドローンの危険性について
    
     <ドローンの回転するプロペラは凶器になり、小型カメラは覗きを可能にする>

(1)ドローンのリスクはテロだけではないこと
 *1のように、テロ対策のため、重要施設上空を小型無人機「ドローン」が飛行することを禁じる規制法が成立したそうだ。これは、首相官邸、皇居、外国要人がいる施設などとその周辺の上空飛行を禁止する法律だが、(2)で述べるように、ドローンの危険性はテロに使われるだけではない。

(2)ドローンのプロペラが人に接したらどうなるか考えるべき
 *2のように、ドローンでマンションに荷物を宅配する実証実験が千葉市で始まり、風が吹きすさぶ中、荷物を積んだドローンがマンションや大型商業施設の屋上と隣接する公園を往復して成功し、数年以内の実用化が目標だそうだ。

 しかし、荷物を積んでも飛べるほどの力を出すドローンのプロペラが人に当たれば、殺傷事故を起こすことは間違いなく、そのような事故が起きてから「想定外でした」とか「“信頼”していたのに」などと言うのは止めてもらいたい。従って、実用化にあたっては、①当たっても決して人を殺傷しない構造にすること ②カメラを搭載して、他人の家を勝手に覗いたり盗撮したりできないようにすること ③墜落すれば被害の出やすい人口密集地では飛ばさないことが、必要条件である。

(3)ドローンの落下も危険
 また、荷物を積んだ重量の大きなドローンが高いところから落下してくれば、人間に当たれば100%死亡し、家屋に当たれば破壊される。国は、「ドローン管制官」まで作ってドローンを飛ばすつもりのようだが、首相官邸、皇居、外国要人がいる施設やその周辺を飛行禁止にしても、高層マンションのベランダにドローンの離着陸場を設置することを義務付けるなどというのは、「一般市民の危険はどうでもいい」と言わんばかりで呆れた。

*1:http://qbiz.jp/article/82942/1/
(西日本新聞  2016年3月17日) ドローン規制法が成立 テロ対策を強化
 テロ対策強化のため、重要施設上空の小型無人機「ドローン」の飛行を禁じる規制法が17日午後の衆院本会議で可決、成立した。5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向けた関係閣僚会合の皮切りで4月10、11日に広島市で予定されている外相会合までに施行される見込みだ。閣僚会合が迫る中、与党が成立を急いでいた。規制法は首相官邸や皇居、外国要人がいる施設などと周辺の上空飛行を禁止する。必要に応じて警察当局に不審なドローンの破壊も認める。ドローン規制では、改正航空法が昨年9月に成立したが、強制排除を認める規定がなく、テロ対策上の不備が指摘されていた。

*2:http://qbiz.jp/article/84548/1/
(西日本新聞 2016年4月11日) ドローン 千葉で宅配実験 戦略特区の産学官連携
●都市部初、マンションなど
 小型無人機「ドローン」でマンションに荷物を宅配する実証実験が11日、千葉市美浜区の幕張新都心で始まった。風が吹きすさぶ中、荷物を積んだドローンがマンションや大型商業施設の屋上と隣接する公園を往復した。国家戦略特区の規制緩和を活用した事業で、国と千葉市、楽天などの大手企業、研究機関が共同で実施。同種の実験は、過疎地の買い物難民対策として徳島県那賀町で2月に実施されたが、都市部では初めて。数年以内の実用化が目標で、今後、約10キロ離れた東京湾沿いの倉庫から海上を飛行して幕張地区まで荷物を運ぶといった、より高度な実験にも取り組む。この日は、ワインボトル1本を積んだドローンが「イオンモール幕張新都心」の屋上(高さ23メートル)から安定した飛行で公園に着陸。マンション屋上(同31メートル)からの運航も無事成功した。実験を基に、雨天や強風時でも安定飛行できる技術の確立や管制システムの設計を目指す。実験に使ったドローンを開発した千葉大の野波健蔵特別教授は「実用化に向けた課題を一つ一つクリアしていき、物流に革命を起こしたい」と話した。
●管制官資格 創設構想も
 高層マンションの立ち並ぶ千葉市・幕張地区で11日、ドローン宅配の実証実験がスタート。市は衝突事故を防ぐため、航空機の管制官をモデルにした「ドローン管制官」の資格を独自につくることも構想している。先進技術を活用して街の魅力を高め、関連産業の誘致にも取り組む。市は2020年の東京五輪・パラリンピックまでに事業化を狙う。同地区で高層マンションを建設予定の不動産業者に、各戸のベランダにドローンの離着陸場を設置するよう協力を求める方針。市内に進出したドローン関連企業に補助金を出す制度も本年度から始め、既に問い合わせが寄せられたという。3月下旬、同地区の幕張メッセで開かれたドローンの国際展示会で、熊谷俊人市長は「先駆的なアイデアと技術を集め、他にない町づくりを目指す」と強調した。

| 環境::2015.5~ | 04:55 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.6.18 オリンピック・パラリンピックに使用する国立競技場について (2015年6月19、23、24、27日、7月1、15、18日に追加あり)
   
  ザハ・ハディド氏の設計      坂茂氏の設計      その他の例     建設地域

(1)新国立競技場建設の状況
 *1-1のように、新国立競技場の改築計画が、建設費の高騰や工期の遅れで、基本設計を変更したり見直しを求められたりしているそうだが、舛添東京都知事は、国立競技場の改築費のうち500億円程度を都に負担してもらいたいという国の要請を断り、都民が納得できる説明をするよう求めている。

 そして、*1-2のように、森喜朗氏が「五輪をやりたいと言ったのは東京都だから支出を求める」としているのは、舛添知事に気の毒だろう。何故なら、2020年に東京でオリンピック、パラリンピックを是非やりたいとしていたのは、石原知事、猪瀬知事であって、舛添知事ではないからだ。

(2)そこで提案
 しかし、*1-1のように、基本設計を縮小したり、開閉式屋根の設置を大会後に延ばしたり、可動席を手動や仮設で対応するくらいなら、ザハ・ハディド氏設計のどこかパソコンのマウスのような形をした国立競技場の建設は中止し、*2-1、*2-2のように、国立競技場の後背地にある明治神宮の森の景観を壊すことなく、周囲の環境を活かしてこれに溶け込む国立競技場を建設することにして、「成熟国家日本が、世界にポジティブな変革を促し、それを未来へ継げる」という基本コンセプトから、プリツカー賞を受賞した坂茂氏のデザインを使ったらどうかと考える。

(3)木材の利用
 また、現在の日本は、*3-1、*3-2のように、森林・林業白書で、国産材の利用推進・輸出推進・木材産業の役割などが強調されている時代だ。そして、木材は直交集成板などの新技術により建材としての新たな需要を作り出し、木材製品に加工したりして、付加価値を高めることが期待されている。

 そして、*3-3のように、九州北部3県は杉の原木を中国に伊万里港から共同輸出する事業に乗り出し、福岡県の森林組合などが同港まで原木を運ぶ経費を一部負担して支援するそうだ。

 さらに、*3-4のように、大分県の日田市も「川上(森林・林業)」から「川下(木材産業)」までの関連業種やまちづくり団体等が連携して新ビジネスの創出・日田材の付加価値向上などに繋げようとしている。しかし、せっかく育てた森林資源をバイオマスの燃料にして燃やしてしまってはもったいない。

 そのため、木材を使って最先端の環境技術を備え、長く使える国立競技場を建設し、座席や家具にもなるべく木材を利用して、木材がいろいろな点で優れた材料であることを示すのがよいと考える。また、木材関係だけではなく、家具関係の会社にも座席や部屋の家具などを大量かつ安価に作ってもらったり、寄付部分があればそれを税額控除可能にしたりして、一定以上の金額を寄付してくれた会社や個人は、寄付額に応じ、まとめて寄付者のネームプレートを開示したりするようにすればよいと考える。

 なお、東京の国立競技場に使うのであれば、木曽ひのき始め近くに優れた木材が多く、国産材の利用を推進しながら、成熟国家日本が環境を大切にポジティブな変革を未来に継げる象徴にできると考える。

<新国立競技場>
*1-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150609/k10010108001000.html
(NHK 2015年6月9日) 新国立競技場 「責任の所在不明確が問題」
 新国立競技場の改築計画が建設費の高騰や工期の遅れの問題などから変更されていることについて、IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長が懸念を示したことに関連して、下村文部科学大臣は閣議の後の記者会見で、「全体的な責任者というのがはっきりわからないまま来てしまったところもあるのではないか。工期に間に合わないかもしれないと報告が来たのはことし4月なので、もうちょっと早く報告があればもっといろんな柔軟な見直しというのもあり得たのではないかと思う」と述べ、責任の所在の不明確さに問題があったという認識を示しました。そのうえで、「国際的な信用を失墜させることなく、まだ4年あるので、十分、間に合うように対処する」と話しました。また、下村文部科学大臣は、東京都の舛添知事が、国立競技場の改築費の一部を都に負担してもらいたいという国の要請に反発していることに関連して、東京都に負担を求める根拠となる法律の整備を検討する考えを示しました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる国立競技場を巡って、国は、改築費のうち500億円程度を東京都に負担してもらいたい考えですが、東京都の舛添知事は、「都からの支出が法的に認められるのは50億円程度だ」などと述べて、都民が納得できる説明をするよう求めています。これに関連して、下村文部科学大臣は、9日の閣議のあとの記者会見で、「根拠法を明確につくる準備をしたい」と述べ、都に対して国立競技場の改築費の一部の負担を求める、根拠となる法律の整備を検討する考えを示しました。下村大臣は、改築費の積算根拠を都に説明する時期について、「舛添知事は、『途中経過は聞かない』と言っているので、改築費の積算結果が出てから詳しく説明にいきたい。来月上旬までには施工予定業者と契約を締結したいと思っているので、それまでにはまとめていくよう努力したい」と述べました。 .新国立 改築巡る問題の経緯と焦点改築される国立競技場は、2020年東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる施設で、2019年のラグビーワールドカップの開催に間に合わせるため2019年3月の完成を目指して工事が進んでいます。改築を巡っては、2012年11月、イラク人の女性建築家、ザハ・ハディドさんのデザインが採用されました。競技場は、観客席を8万人規模に増やし開閉式の屋根をつける構想で、競技場を運営する文部科学省所管の独立行政法人、「JSC=日本スポーツ振興センター」は、費用の見込みは当初、「1300億円」としていました。その後、2020年東京大会決定後の2013年10月、ハディドさんのデザインを忠実に再現した場合、費用が当初の2倍を超える3000億円に上ることが判明しました。経費がかかりすぎるうえ、巨大すぎて神宮外苑の景観にそぐわないと建築家や市民グループから批判が相次いだことを受けて、下村文部科学大臣は当初のデザインより縮小する方向で検討する方針を示しました。そして、去年5月にまとまった基本設計案では、当初のデザインと比べ、立体型の通路を見直し延べ床面積を25%程度縮小、高さも5メートル低くし、建設費も1625億円の見込みとなりました。この時点では、屋根は開閉式で、サッカーやラグビーなどの試合では、座席がピッチサイドまで自動でせり出す可動式になっているのが特徴としていました。ようやく計画がまとまったものの、今度は解体工事を巡って入札の不調や談合の疑いなどたび重なる問題が発生しました。去年12月に3回目の入札で業者がようやく決定し、当初の予定からおよそ半年遅れたことし1月から解体作業に入って順調に進み、ことし10月から建設工事を始める予定となっていました。こうしたなか、工事を請け負う予定の建設会社の試算で、建設資材の高騰なども加わり、このままの計画では総工費が大幅に増え、工期も間に合わないことが分かりました。このため下村大臣は、先月に入って、開閉式の屋根の設置を大会後に先延ばし、フィールドに向けてせり出すおよそ1万5000席の可動席を自動ではなく手動による仮設で対応することを明らかにしたうえで東京都に対して500億円程度を負担するよう要請していました。現在は、JSCがさらなるコスト削減を目指して建設会社側と来月上旬までの契約に向けて詰めの交渉を進めていますが、総工費がどの程度圧縮できるのか、変更後の総工費やデザインなどの詳細を、いつ、どのような形で明らかにするのかが今後の焦点となります。

*1-2:http://www.huffingtonpost.jp/2015/06/04/mori-talks-on-new-national-stadium_n_7507938.html (The Huffington Post 2015年6月4日 ) 新国立競技場の問題に森喜朗氏「五輪やりたいと言ったのは東京都」支出求める
 建設計画をめぐって混乱が続いている新国立競技場の問題で、2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、東京都が費用を支出するのは当然、との考え方を示した。6月3日に内外情勢調査会が開いたイベントに登壇し、語った。新国立競技場の費用を巡っては、下村博文文科相が東京都に580億円の支出を要請。舛添要一東京都知事は「説明不足」などとして断っており、国と東京都の溝が深まっていた。この状況をオリンピック組織員会の会長で、自民党の有力者でもある森喜朗氏が間をとりなした形だ。「東京都が(オリンピックを)やりたいといったんでしょ。東京都が場所を全部用意するのは当たり前のことなんです。知事が『俺は知らん』と言うのはおかしな話なんです」と森氏は語り、東京都も支出すべきとの考え方を示した。また、落選した2016年オリンピックの招致活動の際、石原慎太郎元都知事と競技場について、国と都で折半すると約束していたことも明かしている。新国立競技場は当初、2012年にコンペで選ばれたイギリスの建築家、ザハ・ハディドさんがデザインした案で建設される予定だった。この案では天候にかかわらず使用できる開閉式屋根と、約8万人を収容できるスタンドを備えていたが、設計通りに作ると、当初の予算の1300億円を大幅に超える、3000億円まで工費が膨らむことが判明した。日本スポーツ振興センター(JSC)はハディドさんの原案のまま建設することを諦め、原案のテイストを残しつつ、大幅に規模を縮小し、総工費1692億円の修正案で建設することを決めた。しかし、資材の値上がりで総工費がさらに上回る可能性が高く、工期も2019年のラグビー・ワールドカップに間に合わないことから、整備費の減額や工期短縮を図るために、さらに建設プランを変更することになった。下村文科相は5月18日の舛添知事との会談で、新国立競技場の屋根の建設はオリンピック終了後となる見通しを示した。また、当初計画していた8万人収容の一部を仮設スタンドとし、オリンピック後に5万人規模へ縮小されるという。下村文科相は舛添知事に、周辺整備にかかる費用500億円の負担を要請。これに対し、舛添知事は「説明不足」などを理由とし、文科省担当者の説明を断わっていた。

<建築家・坂茂氏>
*2-1:http://news.livedoor.com/article/detail/10152161/ (Livedoor News 2015年5月25日) 迷走する新国立競技場。今こそ建築家・坂茂氏を推したいこれだけの理由
 2020年に開催の迫る東京オリンピック・パラリンピック。そのメイン会場である新国立競技場の建設計画が、揺れている。建設計画の目玉であった開閉式の屋根が、オリンピック開催に間に合わないというのだ。5月18日、下村文部科学相は東京都の舛添都知事と会談し、開閉式屋根の設置を五輪後とすることや観客席の一部を仮設スタンドとして規模を縮小することなどを伝える一方、周辺整備にかかる費用500億円の負担を求めた。国が都に対し「納期に間に合わない。しかし費用負担はお願いしたい」と、なんとも無様なお願いをした格好だ。今回の建築案には、選定当初から様々な疑問が呈されてきた。「アンビルドの女王」とも揶揄されるザハ・ハディド氏の当初プランは、あの自転車用ヘルメットのような奇抜な外観もさることながら、規模も費用もあまりにも大きすぎたのだ。また、安藤忠雄氏が主導する選定過程にも、合理性のなさや不透明さを指摘する声が絶えない。しかし安藤氏や事業主体の一つである日本スポーツ振興センターは、責任のなすり合いに終始し、これらの批判に向き合っていない。こうした中、一部有識者からは、計画の白紙撤回を求める声も上がりつつある。すでに、旧・国立競技場は解体され全くの更地になっている。新しいスタジアムを作らねばならない以上、この際、ザハ案を白紙撤回し、選定作業からやり直すというのも合理的な選択肢の一つだろう。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の公式サイトに掲載された「ビジョン」(http://tokyo2020.jp/jp/vision/)によれば、2020年東京オリンピックの基本コンセプトの一つは、「成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく」ことだそうだ。国立競技場の後背地には、日本が世界に誇る明治神宮の人工自然林がある。「明治神宮御境内 林苑計画」が当時の森林学の最新知見を集めてまとめられたのが、1921年(大正10年)。ちょうどオリンピックから100年前のこと。計画段階から「およそ100年後には広葉樹を中心とした極相林(人の手によらず自然の力だけで森林が維持でき、自生する植物の構成が安定する状態)になる」ことを目指して造営された。それから100年。明治神宮の森は、「成熟都市・東京」のシンボルのような存在だ。コンセプトに照らし合わせて考えると、新しい国立競技場は、この明治神宮の森の景観を壊すことなく周囲の環境に溶け込む必要があるだろう。また、「東日本大震災からの復興」も東京オリンピックの大きなテーマの一つだ。2013年に行われたオリンピック誘致のための最終プレゼンは、高円宮妃久子殿下による「世界から寄せられた東日本大震災被災地支援への感謝の言葉」からスタートしている。安部首相も「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。」と発言し、東日本大震災や福島第一原発事故はオリンピック開催の障害にはならないことを「保証」した。で、あるならば大会のシンボルである新国立競技場も、「震災からの復興」を象徴するものでなければならないはずだ。そこで、注目したいのが、坂茂(ばん しげる)氏がコンペにあたって提出したプランだ。日本スポーツ振興センターが公開している応募作品集に残る坂氏の外観パース図には、「周囲の環境に溶け込む小さなモジュール構造と開閉式屋根」との注釈が添えられている。また、他の応募作品に比べて、特筆して緑が多いのも氏のプランの特徴だろう。プラン立案にあたって、氏が、明治神宮の森をはじめとする神宮外苑エリアの地域特性を考慮した様子がうかがえる。また「震災からの復興」というテーマからも、坂氏の作品は注目に価する。坂茂氏は、2014年、「建築界のノーベル賞」とよばれるプリツカー賞を受賞した。審査委員長を務めた英国のピーター・パルンボ卿は「自然災害などで壊滅的な打撃を受けて家を失った人々に対して、自発的な活動を展開する」ことを、受賞理由の一つとしてあげている。つまり、坂氏は「復興建築の第一人者」としてプリツカー賞を受賞しているのだ。氏は1994年にルワンダ難民キャンプへシェルターを提供したことを皮切りに、阪神淡路大震災、四川省大地震、ニュージーランド地震そして東日本大震災と、紛争地・被災地にシェルターや仮設住宅を建て続けてきた。東日本大震災では、女川町に仮設住宅を建設。平地が少ない立地特性にあわせ、「コンテナを多層的に組み合わせる」解決策を打ち出したこの仮設住宅は、被災者からも「仮設とは思えない」「出て行きたくないほど快適」との声が聞こえるほど、好評を博している。また、東日本大震災における津波被害の一つのシンボルとも言えるJR石巻線・女川駅の復興駅舎を設計したのも坂氏だ。オリンピックのテーマの一つが震災からの復興であるならば、実際に東日本大震災の被災者での活動実績があり世界的な評価も高い坂氏のプランこそ、新国立競技場にふさわしい。そう思えてならないのだ。

*2-2:http://president.jp/articles/-/12514 (PRESIDENT 2014年5月9日) 建築界のノーベル賞」が志向する、建築家の大切な使命とは、 プリツカー賞建築家・坂茂氏インタビュー
●被災地支援にも高い評価
 坂茂のプリツカー賞受賞は、胸のすくような快事だった。ハイアット財団が”建築界のノーベル賞”を坂に与えた事実は、権力や富に依存する建築家像を大きく変えた。「社会の役に立つ」ことが建築家の大切な使命として真正面から見直されたのである。ポンピドゥー・センター・メス(photo by Didier Boy de la Tour)坂は、高校卒業後、単身米国に渡り、名門クーパーユニオンの建築学科で学んだ。素材・構造・デザインの三位一体となった建築の王道を歩み、東京とパリを一週間おきに往復する。欧州最大の現代美術館、ポンピドゥー・センターの別館「ポンピドゥー・センター・メス」は坂の代表作のひとつだ。一方で、1994年にルワンダ難民キャンプへシェルターを提供したのを皮切りに阪神淡路大震災、四川省大地震、カンタベリー地震、東日本大震災、フィリピン台風災害……と被災地にいち早く入り、仮設住宅を建ててきた。材料には厚紙の再生紙を耐火、防水加工した「紙管」や貨物用の「コンテナ」などを使う。こちらはすべてボランティアだ。王道建築と仮設建築、この車の両輪のような活動が国際的に高く評価されて受賞に至った。じつは、2007~2009年にかけて坂はプリツカー賞の審査委員を3回務めている。賞の重さと意味を熟知する彼自身、今回の受賞をどう受けとめているのだろうか。「今年1月末に賞のエグゼクティブ・ディレクター、マーサ・ソーンから受賞内示の電話がかかってきました。車で移動中だったのですが、彼女とは昔から親しくて、よく電話し合っていたので、最初、冗談を言っていると思いました。まったく予想してなくて、驚いた。で、正式発表まで絶対に誰にも言うな、と。それから2カ月くらい、ずうっと、みんなに、パートナーにも黙ってなくちゃいけなくて、けっこうキツかったな(笑)。賞って怖いじゃないですか。驕ったら終わりだし、チャンスも、仕事も増える可能性が高いけど、それに飛びついて自分の時間を失くしてボランティアができなくなったら意味がない。だから、この受賞は、今までどおりに続けなさいという奨励だととらえています」
●リーズナブルな紙管のポテンシャル見出す
 実際、坂が世界各地で講演をすると、「ボランティアの仲間に入れてほしい」と声をあげる若い建築家や学生がどんどん増えている。次世代がめざす建築家像は変わりつつある。「僕らが学生のころは、スター建築家になりたい、大きなディベロッパーの仕事で巨大な建物を建てたいという人が多かったけれど、変わってきていますね。建築の社会的有用性に若い世代は目を向けている。もしも、その先駆的や役割を僕が果たせたのだとしたら、この賞はそういう人たちの励ましにもなるでしょう」。坂が紙管に着目したのは、建築の仕事が少なくて展覧会の構成ばかりしていた80年代だった。無造作に積まれた反物の芯を「もったいない」と眺めていて、「コレだ!」と閃く。厚紙の管は長さも大きさも変えられて強度もある。研究を重ねて建築の材料にした。坂に初めて私が長いインタビューをしたのは1997年。坂は阪神淡路大震災で焼失した聖堂の代わりに「紙の教会」を、家を失ったベトナム人のために行政の規制を突破して「紙のログハウス」を公園に建てた後だった。なぜ、こんな活動をするのか、と不躾に訊ねると「建物が崩壊して人が亡くなるのを見てね、建物をつくる建築家として責任を感じた」とポツリと言った。ただ、被災地神戸でのボランティア活動は難行苦行の連続だった。心身は消耗し、どことなく「もうこりごり」と辟易しているようにも見えた。だが、坂は、その後も被災地に寄り添い続ける……。「もともと一般的な建築とボランティアの災害支援、両方を自分の仕事としてバランスをとりたいと考えていました。それが最近は、別々のものじゃなくて、つながってきた。唯一違う点は、設計料をもらっているか、いないかです(笑)。仮設住宅でも、お金のある人の家でも、自分自身の仕事としての満足度や取り組む情熱は、まったく変わりません。(photo by Hiroyuki Hirai)たとえば東日本大震災後に宮城県女川町に建てた仮設住宅。平らな土地が十分にないので、コンテナを重ねて3階建てにしました。特殊な解でしたが、部屋のレイアウトや木の利用、断熱、防音など工夫しています。いま行くと、住民の皆さん、ずっと住み続けたいと言ってくれます。仮設ですからローコストです。でも手抜きの安普請にはしていません。特権階級が財力や権力を社会に見せるために建築家が雇われて、モニュメンタルな建物はつくられてきました。それを否定するつもりはありませんが、お金のない社会的弱者の仮設でも建築家の技能は生かせると信じてやってきた。ところが、クライストチャーチで『紙のカテドラル』を完成させて、両者の境目はなくなったんです」。2011年2月のカンタベリー地震でニュージーランドの首都、クライストチャーチの大聖堂は深刻な被害を受けた。坂は現地の紙管とコンテナで三角形の断面を構成する「紙のカテドラル」を設計。13年8月に700人収容できる紙の大聖堂が出来上がった。「ボランティアでつくったけれど、完全に街のモニュメントになりました。教会の行事だけでなく、コンサートやコミュニティ・サービス、イベントにも使われ、復興のシンボルとして旅行社のパンフレットにも載っています。仮設でもモニュメンタルな建物になるんです。現実的な話をすると、事務所のパートナーはお金の入らない仕事ばかりでヒヤヒヤしてる。スタッフの給料を払うには他のプロジェクトもしっかり遂行しなくてはいけません。全体が滞ります」
●新国立競技場コンペの舞台裏
 建築家・坂茂氏これまで日本の建築界は、必ずしも坂を正当に評価してはこなかった。紙管を一瞥して「堅牢性のないアレが建築か」と見下す建築家もいた。狭い建築家ムラは坂を異端視することで奇妙な序列を保とうとしてきた。その建築家ムラが、2020年東京五輪に向けた「新国立競技場」の国際コンペでザハ・ハディドの巨大で複雑な形状のデザインが選ばれたことで揺れている。日本人で二人目のプリツカー賞受賞者の槇文彦が「緑豊かで歴史的文脈の濃い風致地区が損なわれる」と問題提起し、賛同した建築家約100人が計画縮小の要望書を文部科学省と東京都に提出。事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、床面積を25%縮小し、建設費を約1800億円に抑えると発表したが、まだ判然としない。この騒動を坂はどう眺めているのだろう。「まず、オリンピックの開催地選考で、絶対にイスタンブールにすべきだと思っていました。やはり中東、イスラム圏で最初の五輪になりますからね。イスタンブールはヨーロッパともアジアともつながっていて、素晴らしい街です。こんなに最適な場所はない。それが、まぁ東京に決まった。仲間の建築家の批判はしたくないし、ザハだってよく知っている。先日、わざわざ、『受賞おめでとう』と手紙をくれました。彼女はもともとコンテクストを考える建築家ではないし、自分なりの案を出したわけで、選んだほうの問題です。どう考えたって、あんな巨大なものを……選んだほうの問題です」。ザハは、1950年にイラクのバクダッドで生まれている。父はリベラル派の政治家で、サダム・フセインが政権を掌握した後、家族とともにバクダッドを脱出した。1972年に渡英し、ロンドンの建築学校で学ぶ。彼女はコンセプトを重視し、空想的なものを現実空間に現出させる「脱構築派」の建築家といわれる。新国立競技場の話をしていて、坂の口から驚くような言葉が飛び出した。「あのコンペに僕も案を出したんですよ。見事に落ちましたけど(笑)。神宮の森と競技場を溶け込ませる配慮は当然です。規模も小さくなります。それは、僕だけじゃなく、他の提案者もしています。当たり前のことなのです。そのうえで、僕の案は、予算(当初の予定価格は1300億円)の8割ぐらい。もっと簡単にドームの開閉ができるプランです。従来の開閉式ドームは、建設にもメンテナンスにもすごくお金がかかる。一回一回の開閉が大変で、時間もかかります。そこを簡単な構造で、スピーディにできるようにしました。オリンピック用の競技場って、競技結果を公式記録とするために地面の風速は秒速何メートル以下とか、厳しい基準があるんですけど、そのコントロールもできるシステム。既存の技術で可能です。詳しく喋ると真似されちゃうので言えませんが、今度、どこかで競技場のコンペがあったら、やろうと思っています」
文科省や東京都の五輪担当者たちは、坂の発言をどう受けとめるだろうか。

<木材の利用推進>
*3-1:http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=33493
(日本農業新聞 2015/5/30) 木材産業に焦点 14年度林業白書
 政府は29日、2014年度の森林・林業白書を閣議決定した。国産材の利用推進などの点で、林業と実需者を結ぶ木材産業の役割が重要だと強調。木材産業が直交集成板(CLT)をはじめとする新技術の開発などで新たな木材需要をつくり出すことや、国産材を木材製品に加工し、付加価値を高めて輸出することへの期待を示した。白書で木材産業を特集するのは初めて。国内の人工林が利用期を迎え国産材の供給量が増える中、原木の販売先となる木材産業は森林整備の観点からも欠かせない存在として焦点を当てた。需要に応じた木材製品の製造・販売を担い、林業の成長産業化にも貢献するという。

*3-2:http://qbiz.jp/article/63291/1/
(西日本新聞 2015年5月29日) 木材輸出、円安背景に45%増 14年度林業白書
 政府は29日、2014年度の「森林・林業白書」を閣議決定した。14年の木材輸出額が178億円と、前年比約45%増と大幅に伸びたことを紹介。為替の円安傾向などが背景だ。20年までに輸出額を250億円に伸ばす目標の達成に向け、国産材の普及活動に取り組む姿勢を強調した。日本の木材輸出は、12年は93億円にとどまっていた。その後、円安のほか、中国などの木材需要の増加が寄与して、13年には約32%増の123億円となっていた。14年の輸出先は中国が最も多く、韓国、台湾、フィリピンといったアジア諸国が上位を占めた。品目別では丸太が特に増加した。白書は「新興国での経済発展や人口増加により、今後も木材需要が増加することが見込まれている」と指摘した。13年の木材自給率は、国産材の供給量が増加したことなどから、前年比0・7ポイント増の28・6%となった。過去最低だったのは02年の18・2%。白書ではこのほか、木材産業の現状や課題が取り上げられた。競争力強化のために、消費者らの需要に応じた木材製品の生産や販売が必要だとした。

*3-3:http://qbiz.jp/article/63797/1/
(西日本新聞 2015年6月5日) スギ原木を中国へ共同輸出 九州北部3県が事業計画
 円安を追い風に、福岡、佐賀、長崎3県が本年度、スギの原木を中国に向けて共同輸出する事業に試験的に乗り出す。経済成長が続く中国では貨物を保護する梱包(こんぽう)材や建築用構造材の需要が急拡大。各県単独では輸送船に見合う一定量の確保が難しいことから、合同集荷で安定供給を図る。財務省貿易統計によると、日本のアジア向け原木輸出は2010年ごろから増え始め、14年の輸出量は約51万8千立方メートルと、ここ5年で約8倍に膨らんだ。輸出先の5割以上を中国が占めており、3県の共同輸出も主に中国市場を狙う。全国有数の林業地帯の九州南部では、すでに森林組合などが原木輸出に取り組み、輸出量を伸ばしている。九州北部3県ではスギやヒノキの人工林の7〜8割が伐採の適齢期を迎えているが、国内需要が低迷しており、利用先の確保が課題になっている。ただ3県は林業規模が小さく、県単位では中国向けの輸送船に見合う量(1回の航行当たり1千立方メートル程度)を定期的に確保するのは難しいのが現状。3県が連携して集荷することで安定的な量を確保できれば、販路を開拓しやすくなる。中国向けは需要に応じて主にスギの低級材を、韓国にもヒノキを輸出する。佐賀県の伊万里港から輸出する予定で、福岡県は森林組合などが同港まで原木を運ぶ経費を一部負担して支援する方針。3県は「安定供給の仕組みを構築し、価格交渉力をつけて各県産材の需要拡大につなげたい」としている。

*3-4:http://qbiz.jp/article/60425/1/ (西日本新聞 2015年4月17日) 日田市、20年ぶり林業振興ビジョン 業種横断的な連携目指す
 大分県日田市は林業振興の指針となる「新しい日田の森林・林業・木材産業振興ビジョン」をまとめた。基幹産業の再生に向けた鍵は「業種横断的なネットワークの形成と強化」にあると指摘。「川上(森林・林業)」から「川下(木材産業)」までの関連業種、観光やまちづくりの団体などが連携し、新ビジネスの創出や日田材の付加価値向上などにつなげたいとしている。ビジョン策定は1993年の「新日田林業構想」以来、約20年ぶり。市が設置した林業や行政関係者、学識経験者らでつくる策定委員会と、川上と川下の関係者でつくる二つの専門部会で議論を重ねてきた。振興ビジョンでは、森林・林業・木材産業の現状と課題を整理した上で、森林の適正な整備や保全を図る「森林(もり)を守り・育てる」▽伐採期を迎えた森林資源を有効活用する「森林を活(い)かす」▽担い手育成や市民の関心を高める「森林でつながる」−の三つの目標を掲げ、実現に向けた具体例を示している。例えば、木質バイオマスの燃料を安定供給するため、市有林を活用した早生樹種の育成、現代の生活スタイルに合ったデザイン性の高い木材製品の開発、「森林浴ツアー」など、地域資源を生かした観光プログラムの開発などに取り組むとしている。振興ビジョンは市のホームページから閲覧できる。原田啓介市長は「ビジョンをどう具体化させていくかが問われる。市民と協働しながら基幹産業の再生に取り組みたい」と話している。


PS(2015年6月19日追加):*4の「寄付を募ってもよい」「稼ぐ発想が不可欠」という各競技団体の意見はもっともであるとともに、いろいろな団体が世界大会を誘致して世界に注目されれば、地球環境を護る方法や健康維持対策を世界の多くの人に発信することができる。ただ、オリンピックのように大量の金が動く場合は、きちんと管理され公正に使われていることについて、監査法人の監査を受けて監査証明をもらっておくことが、国民のため及び運営に関するいちゃもんづけに対応するために必要だ。

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11814678.html
(朝日新聞 2015年6月19日) 新国立、競技団体も物申す 「寄付募ってもいい」「稼ぐ発想不可欠」
 新国立競技場の建設は最近、国と東京都の対立ばかりに注目が集まり、政治問題のように取り上げられる。でも、2020年東京五輪・パラリンピックで使い、大会後の活用法を考えるべき主役はスポーツ界のはず。サッカー、陸上、ラグビー界に聞いた。
■問われる発信力
 サッカー界が見据えるのは、2度目のワールドカップ(W杯)日本開催。だから、小倉純二・日本サッカー協会名誉会長は憤る。「安倍総理が五輪招致のプレゼンで立派な国立を造ると約束した。国際公約を破る損失は計り知れない」。当初の計画通り、五輪後も可動式の客席を備えた8万人規模の維持を日本協会が求めるのは、国際サッカー連盟(FIFA)の規定で、W杯開催にはその規模の競技場が必須とされているからだ。小倉氏自身、国際オリンピック委員会(IOC)委員でもあるブラッターFIFA会長らに新国立の魅力を力説し、東京支持を訴えてきた。ザハ・ハディド氏のデザインを採用した国際コンペにも審査委員として参加した小倉氏は、「コンペの過程では建築の専門家も入り、技術的に難しい部分を何十カ所もチェックして2千億円を超える案は外した。その予算の範囲で出来ると思っていたら、突然数千億円とは……」。50年までに再び日本でW杯を開いて優勝するという目標がかすみかねないが、前向きな提案もある。「使う団体が払っても、寄付を募ってもいい。W杯をまた見たい人なら、寄付をしてくれる」。日本陸連の横川浩会長は新国立建設は「意味のある社会投資だ」と訴える。常設か仮設かで結論が出ないサブトラック問題も、常設にして一般開放すれば、1964年東京五輪で選手村の練習場だった通称「織田フィールド」のように、市民に親しまれる存在になると考える。「陸上の大会だけで新国立の維持費(年間約35億円)を賄えるとはとても言えないが、使ってもらえばそれなりの収入になる。五輪の余韻が冷めないうちに、世界陸上も招致したい」。新国立の本格的な「こけら落とし」は、19年秋開幕のラグビーW杯日本大会の開幕戦。決勝の舞台にもなる。日本ラグビー協会は、8万人の観客で満杯にすることを見込んでいる。一方、新国立にほど近い秩父宮ラグビー場は、五輪期間中は駐車場になる予定だ。日本協会幹部は「秩父宮が使えない期間は、ファンが離れないよう別会場の整備などで自治体と交渉したい」と話している。元IOC委員で日本サッカー協会会長などを歴任した岡野俊一郎氏は、ポスト五輪を見据えて提案する。「国立競技場のスポーツクラブをつくるべきだ。プールやレストラン、医療施設など、スポーツや健康にかかわるものがすべてそろうのが理想。都心の一等地にあるのだから、年会費10万円でも需要は見込める。民間の知恵を借りて、稼ぐ発想が不可欠」。求める水準の競技場を建てるためにも、スポーツ界には有益な活用法に向けた知恵を出し合い、世論を喚起する発信力が問われる。

PS(2015年6月23、24日追加):東京は容積率を緩和して再開発が済んでいる東京駅近郊でさえも、下の写真のように皇居以外は申し訳程度にしか緑がなく、再開発しても環境がよくなっていない。また、スカイツリ―(そもそも、これを“ツリ―”と呼ぶのは可哀想な感覚である)周辺には殆ど緑がなく、川や川べりも見るに堪えない。一方、海外では、道路に占める並木や緑の面積が大きくて、町全体が目を覆いたくなるようなものではなく心を潤すものが多く、都市の気温上昇を抑えている。私は、東京も環境都市になる計画を立てて、東京オリンピックまでに関連地域を変えていくのがよいと考える。
 また、*5のように、経産省は、「買い取り費用が電気料金に上乗せされて国民負担が増える」ことを理由として太陽光発電を抑制するそうだが、国民負担・環境への悪影響リスクが原発は無限大であり、自然エネルギーとは比較にもならない。そして、東京など大都市のビルや道路で、建材に溶け込む形で太陽光発電を行えば膨大な電力が得られると同時に、電気に変換されたエネルギーは熱にならないため、都市の気温上昇が緩和される。そのため、このような電源構成比率を定めて技術進歩を妨害する経産省の科学的合理性のない思考力・判断力が重大な問題なのである。

    
  再建済の東京駅     東京駅周辺     スカイツリー周辺    イギリスの並木道

   
  米国の並木道   パリ、凱旋門付近の並木道  ドイツの並木道  チリ、サンチアゴの自転車道

*5:http://qbiz.jp/article/65192/1/
(西日本新聞 2015年6月24日) 経産省、太陽光偏重の見直し着手 再生エネ買い取りで
 経済産業省は24日、有識者委員会を開き、太陽光など再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の再見直しに着手した。太陽光に偏らず、地熱や小規模水力などをバランス良く普及させるための価格設定の在り方を検討し、安定した運用につなげる。年内にも方向性を示す見通しだ。政府は2030年の電源構成比率で再生可能エネルギーを現在の約2倍の22〜24%にする目標を掲げており、制度の再検討で達成を後押しする。事業化に時間がかかる地熱などの拡大に向け、年度ごとに算定する買い取り価格を長期間据え置くなど価格設定の方法についても議論した。太陽光は買い取り価格が高く設定され、太陽光に偏って導入が進んだ経緯がある。普及に伴い、買い取り費用が電気料金に上乗せされて国民負担が増える懸念もあり、負担抑制策も検討を続ける。制度をめぐっては高い買い取り価格で認定を受け、太陽光パネルの値下がりを待ってから発電を始める事業者がいるとも指摘される。設備が整い電力会社と売買契約した段階で買い取りを認めるなど、チェック態勢強化も今後の焦点だ。買い取り制度は12年7月に始まった。太陽光の増加が想定を超え、電力5社が新たな契約手続きを一時、中断したことから経産省が今年1月に制度を見直し、発電抑制の要請をしやすくした。


PS(2015年6月27日追加):都市に、並木、緑地帯、公園を増やして、やすらぎや楽しさのある街を作るには、里山から大きな木を運んだり、里山で木を栽培したりすることが必要不可欠であるため、*6はよいと思う。私は、クリスマスに銀座で、並木がモミの木のクリスマスツリーになっていたのを見てびっくりしたことがあるが、並木や緑地帯の木は、街の雰囲気にあわせて、いろいろな季節にそれぞれの花を咲かせる木の需要が高いと思うので、都市の街づくりと木の需要を調査して栽培すればヒットすると考える。

*6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/201946
(佐賀新聞 2015年6月27日) 武雄市“売れる木”植え住民管理 里山再生で雇用創出
■高齢者の生きがいにも
 荒れた山を開墾して苗木を植え、高齢者に管理を任せて生きがいづくりと所得向上につなげてもらう武雄市の「里山再生プロジェクト」が26日、始動した。北方町の市有山林にサカキとシキミの苗木を植えた。育った木は挿し木用に無償で提供し、新たに里山を開く取り組みを広げる。過疎化や高齢化に伴う里山の荒廃対策として考えた。人が入らなくなった山を開墾し直して苗木を植え、管理は地域の高齢者に任せる。市は市場調査などを通じて流通ルートを開拓し、植栽に取り組む人が増える環境をつくる。里山再生と地域活性化、高齢者の健康づくりと所得向上、産業としての雇用創出を目指す。第1弾として北方町西宮据地区の市有山林約2千平方メートルを開墾した。神事に需要があるサカキの苗木140本、仏事に使うシキミの苗木60本を1千平方メートルずつ植えた。地区の60~70歳代の11人が「緑の会」をつくって管理する。2年ほどで挿し木用の苗木がとれるようになる。苗木は山で栽培を考える人たちに無償で配り、里山再生を拡大する。本年度の事業費は、苗木購入やイノシシ防護柵、管理委託費など計100万円。植栽式で小松政市長は「サカキは武雄の山にも自生しているが、市場にあるのはほとんどが輸入物といわれている。国産をしっかり供給することで所得向上や里山保全につなげ、雇用創出にも広げたい。武雄の宝を発掘して第2、第3弾を考えたい」と意気込みを語った。


PS(2015年7月1日追加): *7-1、*7-2のように、東京オリンピック・パラリンピックで使用する新国立競技場は巨大アーチを維持して、オリンピック史上最高の2520億円の整備費をかけることになったそうだ。私も、女性建築家のザハ・ハディド氏のデザインが取り入れられた当時は祝福したが、近い将来、首都直下地震が想定される中、鉄骨製の重たい巨大アーチは耐震性に問題がある上、このデザインは、「環境」という視点でのメッセージ発信力もなく、2520億円もの建設費は他と比較して高すぎる。そのため、迅速に変更するのがよいと考える。

*7-1:http://qbiz.jp/article/65194/1/
(西日本新聞 2015年6月24日)新国立競技場の巨大アーチ維持 整備費2520億円に
 政府は24日、2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の整備費について当初予定を800億円以上も上回る2520億円とする方針を固めた。屋根を支える2本の巨大なアーチ構造を特徴とするデザインは維持する。近く建設業者と工事契約を結び、10月に着工する予定で、19年のラグビー・ワールドカップ日本大会までの完成を目指す。景観を阻害し、コストも掛かりすぎるとして、建築家や市民からデザインの見直しを求める声が上がっていたが、政府は工事の遅れにつながる大幅な設計変更は困難と判断した。財源確保策が今後の焦点となる。資材や人件費の高騰、消費税増税の影響などで、整備費は大幅に膨張した。東京五輪の準備に携わる主要団体の調整会議で29日、報告する。文部科学省と事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は建設費1625億円、旧国立競技場の解体費67億円を含めて当初1692億円としていた整備費が膨らむのを抑えるため、観客席の一部を仮設にするなどコスト削減に向けた計画見直しを続けていた。文科省は今後、東京都にも見直しの内容を説明、費用の一部として500億円の負担を受け入れるよう求めたいとしている。巨大アーチのデザインは、12年にJSCが実施した国際公募で選ばれた。だが、技術的に難しくコスト増や工事の遅れにつながるなどと建築家らが反発、デザインの見直し案も提案していた。

*7-2:http://thepage.jp/detail/20150626-00000005-wordleaf?utm_expid=90592221-37.fVZ9WgkFQES3eBF2lg39IQ.0&utm_referrer (The Page 2015.6.26) 新国立競技場の計画見直し 責任はどこにあるのか? 大杉覚・首都大院教授
 東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設計画が迷走している。総工費が当初予定よりも1000億円近く膨らみ、政府は東京都に費用の一部負担を求めているが、都側は反発し、解決の糸口は見えていない。この迷走の責任はどこあるのか。原因は何なのか。都市行政が専門の大杉覚(おおすぎ・さとる)首都大学東京大学院教授に寄稿してもらった。2020年東京五輪の会場整備が急ピッチで進められています。都心に会場を集中させる「コンパクト五輪」をコンセプトとした当初計画は、東日本大震災の復興事業等の影響で建設資材費・人件費の高騰に見舞われて変更を余儀なくされたものの、さいたまスーパーアリーナ(バスケットボール)や江ノ島(セーリング)など首都圏各地の既存施設を活用することで、ようやくほとんどの競技で会場確保の見通しがつきました。そうしたなか、要となるメインスタジアム、新国立競技場の建設計画が混迷を極めています。なぜでしょうか。何が問題で、この混迷の原因と責任はどこにあるのでしょうか。
●これまでの経緯と問題点
 新国立競技場の建設計画に対しては、これまでに様々な立場からの批判が提起されています。まずは膨大な建設費を要することであり、建築構造上に欠陥や技術的な困難があること、あるいは、神宮外苑という歴史的な景観にそぐわないデザインであることなどです。これらの批判は、国際コンペで最優秀賞として採用された、世界的に著名な建築家ザハ・ハディド氏による、アーチ状の構造に巨大な可動式屋根を配した奇抜なデザイン案に由来するといってよいでしょう。ただし、混迷の「原因」はより根深いものです。一言で言えば、事業構想から計画、実施に至る事業プロセスに「不透明な構図」が伺えるのです。これまでの経緯を振り返りながら、問題点を確認しましょう。新国立競技場のデザイン案決定は、国際コンペ方式で行われました。建築家安藤忠雄氏をトップに据えた審査委員会が設けられ、公募が開始されたのが2012年7月、審査結果を受けて、国立競技場将来構想有識者会議がハディド氏のデザイン案を決定したのが同年11月のことです。ハディド案に対する批判をいち早く唱えた建築家の槇文彦氏は、大規模な事業にもかかわらず、公募条件が緩く、国際コンペの進め方が粗雑であったため、ハディド案のような景観面で配慮を欠いた巨大な建築物のデザインが提示されたのではないかと、初期段階での取組の問題点を指摘しています(『新国立競技場、何が問題か』平凡社)。また、審査過程についても問題が指摘されています。公募段階での総工費は約1300億円と想定さていました。ところが、翌13年9月に東京五輪開催が決定され、改めて発注者である日本スポーツ振興センター(JSC)がハディド案をもとに試算したところ、一挙に3千億円にまで跳ね上がったのです。ロンドンをはじめ過去の夏季五輪メインスタジアムの整備費はいずれも1千億円に及ばなかったことを考えると、そのコストがいかに突出したものかがわかります。少なくとも、安藤氏ら建築の専門家を中心としたチェックが甘かったと言わざるを得ないでしょう。本来、現実的ではない建設費を要する案は審査過程を通じて退けられたはずです。その後、さすがにJSCは規模を縮小して総工費の圧縮を図り、1625億円に修正して基本設計の承認を有識者会議から得ますが(2014年5月)、旧国立競技場の解体着手(2015年3月)後の試算では総工費は再び膨張し、2500億円あるいはそれ以上の費用を要する見通しが示されました。下村博文文部科学大臣が都庁を訪問し、正式に500億円の費用分担協力を舛添要一都知事に要請したのもこのタイミングでのことでした(同年5月18日)。


PS(2015年7月15日追加):文科省とJSC現行案を変更できない理由は、①女性建築家ザハ・ハディド氏のデザインを基にするとした「国際公約」に反すること ②一九年のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会に間に合わないこと だそうだが、①のハディド氏のデザインを基にするか否かは国内で決めるべき問題であって国際公約ではない上、「カネをかけないオリンピックを行う」というオリンピックのコンセンサス違反でもある。さらに、建物のデザインを考えるのは小学生のお絵かきではないため、あらかじめ耐震設計やコストを考慮しておくのが当然で、受注価格が当初の予定を大きく上回り、耐震性も保証できないのであれば、ハディド氏と何らかの契約があったとしても破棄する理由になるだろう。また、②については、横浜スタジアムの改装や東北に新しいスタジアムを建設するなどの代替案もあり、それらは、ハディド氏のデザインを変更すれば費用の捻出も容易だ。

*8:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015071502000124.html
(東京新聞 2015年7月15日) 新国立問題で公開質問状 市民団体が文科相らに
 二〇二〇年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場(東京都新宿区)の工費が二千五百二十億円に高騰した問題で、計画の見直しを求めている市民団体「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」は十四日、下村博文文部科学相と事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長に対し、工費の内訳など十四項目の公開質問状を郵送した。文科省とJSCは現行案を変更できない理由として、女性建築家ザハ・ハディド氏のデザインを基にするとした「国際公約」に反することや、一九年のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会に間に合わないことなどを挙げる。質問状では、これらの根拠を尋ね、ハディド氏との契約書の公開を要求。完成後の設置となる開閉式屋根などの費用を含めた「ほんとうの総工費」や、計画の責任者が誰かも明らかにするよう求めている。会は、「現行案を承認しない」とする同会の主張がネット上で四万七千人超の賛同を得ていると強調。公開質問状には二十八日までの回答を求め、内容は会のホームページでも公開するとしている。JSCは九日、施工業者の大成建設とスタンド部分の一部資材の発注契約を結んだが、会の共同代表の建築家大橋智子さんは「今からでも止められる」と話す。会は計画見直しを求める請願を国会に提出するため、八月末までに二十五万人を目標に署名を集める。


PS(2015年7月18日追加):これまで新国立競技場建設計画の変更を決断できなかったのは、①森元首相が「たった2500億円出せないのか」という発想で“夢”を追い駆けるタイプの人である ②首相はじめその周辺には旧森派が多く、世話になったため森氏には気を使う ③変更すると違約金発生などの問題が生じる可能性があり、変更決定前にそれらをクリアにする必要があった 等が理由だろう。
 しかし、首相の最終結論である現在の新国立競技場建設計画の白紙撤回は英断であるため、素直に褒めるべきであり、これを批判するようであれば「国が一度決めたことは、どんなに不都合が明白になっても決して変更できない」ことになってしまう。なお、安保関連法案が衆議院を通過した直後の決定だったことは、メディアが、安保関連法案について、感情論や政争に落とし込まずにポイントをついた理論的な議論をわかりやすく淡々と展開すればよく、報道するからにはその能力が求められるのである。

*9:http://qbiz.jp/article/67069/1/ (西日本新聞 2015年7月18日) 支持率に陰り、新国立白紙で英断演出 首相、安保審議への影響懸念
 安倍晋三首相は17日、巨額の総工費問題に揺れた新国立競技場(東京都新宿区)建設をめぐり現行計画の白紙撤回に踏み切った。2020年東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会会長を務める森喜朗元首相との会談を経て、トップダウンによる政治決断を演出した。見直し期限を過ぎつつあった局面での突然の方針転換は、巨額費用に対する国民の強い批判に追い込まれた形だ。安全保障関連法案の強引な審議と併せ、政権批判が増幅しかねないとの「焦り」(官邸筋)も透ける。
◆「先月から検討していた」
 「このままでは、みんなに祝福される大会にすることは困難だ」。首相は17日午後、官邸で記者団を前に現行計画を全面的に見直す意義を強調した。競技場の建設を所管する文部科学省を中心に計画見直しを始めたのは、政府の説明では「1カ月ほど前」(首相)。負担をめぐり下村博文文部科学相と開催都市の東京都の舛添要一知事が言い合う姿が連日のように報道された。首相は周囲に、巨額の総工費に関し「絶対におかしい」として新たな計画づくりを指示したという。だが、こうした動きが現実のものとして表面化したのは今週だ。報道各社の世論調査で計画見直しを求める声が高まり、与党内からも不満が噴出。15日には首相が「白紙に戻す」という言葉を17日の発表の際に盛り込むことを決めたという。
◆説得工作
 首相にとって、見直しを進めるには避けては通れない道があった。実現には、19年5月とした完成を遅らせることが不可欠で、鍵を握るのは大会組織委会長を務め、首相の大先輩に当たる森喜朗元首相だった。日本ラグビー協会会長も6月まで10年間務めた森氏が主導し、19年秋のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会を招致した。主会場は新国立競技場で、それに間に合わせるとの制約が「見直しのネック」(官邸筋)に。W杯での使用断念へ説得工作が必要だった。首相への援護射撃もあった。自民党の二階俊博総務会長が15日のBS番組で競技場について「節約する方法はないのか」と問題提起をすると、公明党幹部も含め見直し論が相次ぎ、森氏説得の舞台は整った。17日午後の官邸執務室。「ゼロベースで計画を見直したい。ラグビーのW杯は間に合いません」。首相がこう告げると、森氏は「残念ですね」と言うよりほかなかった。
◆突貫工事
 「白紙」発表の決断の大きな要素として、安保法案をめぐる首相の政治姿勢に、世論の批判が集中したことがあるのは間違いない。報道各社の内閣支持率も低落傾向で、政府、与党内に「これ以上問題を抱えれば、政権が持たない」(官邸関係者)との危機感が募ったのは事実だからだ。本格検討に入ったのはいつか。政府関係者は「約1週間前だ。首相の表明に向けて突貫工事だった」と内幕を明かす。森氏は、首相との会談で「20年の五輪までにできなかったら、大変なことになりますよ」と忠告した。唐突な変更には関係者から「朝令暮改はやるな」(舛添氏)との不満がくすぶる。野党は「世論の反発に押され、見直しを迫られた」(今井雅人維新の党政調会長)と捉え、同様に反対が根強い安保法案とともに国会論戦で追及する構えだ。国際オリンピック委員会(IOC)や建築家、建設業者らの思惑も交錯する。政府高官はこうつぶやく。「白紙撤回は、パンドラの箱を開けるようなものだ」
◆森氏「たった2500億円出せないのか」
 2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場の建設計画が白紙となったことを受け、大会組織委員会の森喜朗会長は17日、東京都内の組織委オフィスで取材に応じ「施設に掛けるお金は都が3千億円。組織委が五輪に掛けるお金はその比ではない。国がたった2500億円も出せなかったのかねという不満はある」と語った。コスト削減を促す国際オリンピック委員会(IOC)の五輪改革の趣旨に沿う判断と認めつつ「日本スポーツの聖地としていろいろと生み出していけると夢を描いていただけに大変残念」と思いを吐露した。本番前に設備や運営をチェックするための「テスト大会がどういう日程でできるか。一番気になるのは完成時期」と懸念を示した。安倍晋三首相に新たなデザインとして12年の国際公募の優秀賞、入選の2作品を検討するように進言したものの「そちらの方が(工費が)高いのでゼロからやる」との返答があったことも明かした。下村博文文部科学相に対しては「これまで責任があるっていったって何もやってやしない。今度は少し本気になってやらなきゃ」と注文を付けた。
   ◇   ◇
 森喜朗元首相は17日のBS朝日番組収録で、新国立競技場の総工費が2520億円に膨張する大きな原因となった屋根を支える2本の巨大なアーチ構造のデザインについて「見直した方がいい。もともとあのスタイルが嫌だった」と述べた。「生がきみたいだ。(東京に)合わないじゃないか」とも語った。
◆抜本見直し、否定の末
 安倍晋三首相は新国立競技場の建設計画を「1カ月ほど前から見直せないかを検討してきた」と語った。だが、政府が建設費を約2520億円と発表した6月29日以降も、首相や閣僚は見直しに否定的な発言を重ねていた。首相は10日の衆院平和安全法制特別委員会で、建設計画を見直せば「(五輪に)間に合わない可能性が高い」と答弁。菅義偉官房長官も16日の記者会見で「工期の問題が現実的にある」と述べた。下村博文文部科学相は12日の会見で「斬新なデザインを招致に使ってきた。『お金がないからやめた』では国際的な信用の問題にも関わる」と話し、デザイン変更を否定している。6月29日の建設計画発表を受け、7月7日には新競技場の整備主体である日本スポーツ振興センターの有識者会議が実施計画を了承した。首相が言う「1カ月前」から、見直しを具体的に検討した形跡は見当たらない。政府高官は「文科省に聞いてみたが、見直しを検討する話はなかった」と打ち明ける。菅氏は17日の会見で「下村氏から今月中に判断すればぎりぎり五輪本番に間に合うと、きょう報告を受けた」と説明。下村氏は会見で根拠を問われると「専門家に詳しく聞いた結果」と述べるにとどめた。週末は世論調査が予定されている。「安保法案と新競技場への批判が重なれば数字はボロボロだ。週末をまたぎたくなかったので、駆け込みで見直したのだろう」。自民党関係者は方針転換の背景をこう解説した。

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