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2021,04,03, Saturday
MOF 2021.1.29北海道新聞 2020.12.21時事 (図の説明:左図が、2020年度二次補正予算まで入れた日本の歳出・歳入・国債残高で、新型コロナによる散財でわにの口が上に折れた。これに、中央の図の第三次補正予算も加わり、2020年度の総歳出額は170兆5,512億円となる。そして、2021年度も、106兆6,097億円の歳出と43億5,970円の新規国債発行を見込んでいる) President図1、図2 President図3 President図4 President図5 (図の説明:Presidentの図1、図2のように、日本における新型コロナの感染者数・死者数は欧米の1/100だが、発生数は世界中で頭打ちになっているのに、日本だけ漸増している。そして、Presidentの図3、4、5のように、日本では大都市圏に感染者数が多く、いずれも頭打ちではなく右肩上がりという特殊な動きをしているのである) (1)日本の財政 1)2021年度予算について 2020年度の本予算は102兆6,580億円で9兆2,047億円の債務純増だったが、さらに、コロナ禍の克服対策として第1次補正予算16兆8,057億円(うち9兆5,000億円あまりが自粛で困った企業の救済資金)、第2次補正予算31兆9,114億円(すべて自粛による倒産危機に備える支出)だった。さらに、2021年になってから第3次補正予算19兆1,761億円が組まれ、2020年度分の支出合計は170兆5,512億円になった。 しかし、新型コロナの検査と隔離を徹底し、新型コロナ関係の機器・治療薬・ワクチンの開発と承認を速やかに行えば、ずっと少ない支出で新型コロナを止めて国民の命と生活を守り、産業の高度化にも繋がって、経済効果はよほど大きかった。にもかかわらず、検査をケチり、検疫や隔離も不完全にして、国民に自粛を促したり、緊急事態宣言を出したりした結果、その後のバラマキが多すぎて賢い支出とは言えない状況になった。 2021年度予算(106兆6,097億円)は、*1-1のように成立し、グリーン化・脱炭素社会の実現・デジタル化とそれらを支える大学の研究を促す基金への支出をするのはよいが、新型コロナで大学への立入を禁止したのは、大教室で行う文系の講義とその遠隔化(デジタル化)しか眼中になく、理系の実証的な教育研究を妨害することになって教育・研究を疎かにすることとなった。そして、この1年間の遅れは大きい。 また、「“災害”と名がつけば、いくら予算を付けてもよい」とばかりに、効果の薄い公共工事に減災・防災と称して多額すぎる資金を投じるのは無駄遣いである。国民の血税を投じる公共工事は、少子高齢化で人手不足となっている日本では、雇用の確保やバラマキのために行うのではなく、最小費用で最大効果を出すように設計にすべきだ。 なお、環境に適応してヒトの人種が次第に変わっていくのと同様、ウイルスの変異もウイルスがいる限りどこででもアット・ランダムに起き、環境に適合してより生存しやすくなったものの割合が次第に増えていく。しかし、種が変わるほどの大きな変異でなければワクチンが効かなくなるわけではないのに、「外国由来の変異型」を口実に愚策を正当化しているのは見苦しい。 2)日本の借金について このように、農業でやってきたのと同様、働くことを禁止して働かなかった人に補助金を出したため、国と地方が抱える長期債務残高は著しく膨らんで、今ではGDPの2倍に当たる1200兆円にのぼり、年60兆円前後の税収ではとうてい賄えない金額になった。 しかし、日本のように、インフレ目標を立ててインフレで借金を目減りさせるのは、法律によらずに全国民に見えざる負担を押し付け、支出の割合が大きい貧しい人から土地・株式を持つ富む人へ財産の移転が行われる所得の逆再配分であり、本末転倒のやり方である。 また、*1-2のように、単純に「将来世代につけを回してはいけない」とするのも正しくない。何故なら、公共事業の中にも将来世代にとっても役立つ資本的支出(投資)に当たるものが多く、この資本的支出部分と無駄遣いのバラマキ部分をしっかり区別することが大切なのだが、国はこれをやらずにバラマキを多くしているのが問題だからである。 なお、新型コロナ対策を例にとれば、関係する機器や治療薬・ワクチンの開発は資本的支出にあたる投資部分が大きく、国民に自粛を促したり、緊急事態宣言を出したりして企業が立ち行かなくなったため出す補助金は、無駄遣いのバラマキ部分が殆どである。しかし、米国のように、失業した人を雇用吸収するために行うグリーンニューディールは、適正な価格で行う範囲において資本的支出の部分が大きい。 社会保障については、4)の消費税に関する項目で同時に記載する。 3)飲食店への営業時間短縮協力金、雇用調整助成金、GoToトラベルは賢い支出か? 政府は、*1-3-1のように、新型コロナ感染収束と経済正常化に向けると称して、2021年度も巨額の財政出動を続けることとした。 このうち、①自治体が営業時間短縮に応じた飲食店に1日4万円配る協力金の財源 ②広く経済活動を止めたために必要となった雇用調整助成金 ③自粛を要請して必要になった消費喚起策 などを、いずれも○兆円単位で支出しているが、これらは国が検疫・検査・隔離などの予防的処置と治療行為をしっかり行っていれば不要だったものである。 また、日本の感染者は、*1-3-2のように、欧米の1/100程度だったが、それでも医療が対応しきれないとされ続けたのは、これまでの政治・行政のミスと言わざるを得ない。さらに、対数グラフで各国の感染者数・死者数の推移を比較すると、中国・韓国などの東アジアでは早期に横ばいになり、欧米でも次第に横ばいになっているのに、日本だけが右肩上がりなのである。 ドイツは、感染者数は他の欧米諸国と殆ど同じパターンだが、死亡者数はかなり早い段階で拡大テンポが落ち、他の欧米諸国より良好なパターンを示した。その理由は、感染拡大の地域的偏りが小さく、医療体制が充実し、PCR検査の充実等により感染者が高齢者に偏らなかったこと等が指摘されている。そのため、今後、あるべき医療・介護制度を整備したい地方自治体は、自治体の担当者・医師会・介護担当者が、ドイツ・スウェーデン・イギリスなどのヨーロッパ諸国を視察して、よいところは参考にし、国に要望しながら整備していくのがよいと思う。 つまり、医療システムや検疫システムの充実は将来世代のためにもなる資本的支出だが、単なる景気刺激策は賢くないバラマキであり、特定地域の飲食店全店に科学的な理由の説明もなく営業時間の短縮を求めたのは、政治・行政の不作為のツケを国民に皺寄せする不公平・不公正なやり方だったのである。 なお、脱炭素は研究開発ではなく実用化の時代であり、今は公共に環境関連のインフラ整備が求められている時なので、肝心な時に「財政に余力がない」と言うのは、日本の愚かさだ。 4)消費税と社会保障がセットである必要はないこと 2021.3.31日経新聞 (図の説明:左図のように、高齢者の70歳までの雇用を努力義務化することによって年金支給を減らし、同一労働同一賃金によって低賃金労働者を減らそうとしているのは理に適っているが、高齢者の健康状態を考えれば75歳定年制でもよいと思う。しかし、公立小学校で2年生までをやっと35人学級にするというのは、教育が大切な割には小出しである。なお、公的年金引き下げや介護報酬引き上げは、低所得の高齢者を直撃するため賛成できない。そのため、国や地方自治体は、税収だけでなく税外収入を増やす努力もすべきだ。また、下に書いたように、価格を総額表示しただけでは買い手の購入判断や会計処理に不便であるため、中央の図のインボイス制度開始時には、ヨーロッパ型の適格請求書を義務化し、これからはそれに沿った設備投資をした方がよいと思う。中小企業者でも、右図のように、領収書様式に明細欄をつければすむことだ) イ)消費税について 2021年4月1日から、*1-4-1のように、消費税の総額表示が義務化された。支払金額が分かりやすいように、2004年に税込価格の総額表示が義務化されていたが、2014年の税率アップ前に税抜価格表示が認められていたのだそうで、「消費税額を書かなければ、消費税の痛みを感じないだろう」と思ったとは、あまりに国民を馬鹿にしている。また、値札の表示と実際の支払金額が異なるのは詐欺だし、買い手に暗算で真の支払金額を計算させるのは不親切だ。 そのため、領収書は、前にもこのブログに記載したとおり、商品毎に税抜価格・消費税率・消費税額・税込価格を記載し、総合計欄に税抜価格合計・消費税率・消費税額合計・税込価格合計を記載すべきだ。そうしなければ、売り手に手を省かせて優しくしたつもりでも、買い手が領収書を見て会計処理する際に総額から消費税額を割り戻して計算した上、端数処理まで気にしなければならず、いたずらに煩雑化させ無駄な時間をとらせて生産性を下げる。 しかし、支払総額だけを表示したからといって消費者が値上げと錯覚して、さらに個人消費(売上)が落ち込むことはない。何故なら、どんぶり勘定の人でも、値札が税込表示か税抜表示かにかかわらず、支払後の残額は同じで(ここが重要)、消費税分だけ値上げされたのと効果が同じであることは変わらないからである。 *1-4-2も、総額表示が義務化され、値上げの印象に懸念を示しており、農業系は殆どの商品が税率8%かもしれないが、今後のインボイス制度導入も視野に入れ、商品毎に税抜価格・消費税率・消費税額・税込価格を記載し、総合計に税抜価格合計・消費税額合計・税込価格合計を記載するのが、買い手が会計処理するのに親切でよいと思う。 現在の消費税法は、簡便さを目的として推定や割り戻し計算を多く採用しており、かえって複雑で不正確になっている。そのため、複数税率にも難なく対応できるヨーロッパと同じ形式のインボイス制度(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/110.htm 財務省:主要国の付加価値税におけるインボイス制度の概要 参照)を早急に取り入れ、公正・中立・簡素な制度にしながら、標準化した領収書を使うことによって、正確で素早い自動会計処理ができるようにした方がよいと思う。 ロ)社会保障について *1-4-1に書かれているとおり、消費税法1条2項に「消費税の収入は、制度として確立された年金・医療・介護の社会保障給付及び少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」と明記されている(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=363AC0000000108 消費税法 参照)。 これに対する疑問は、「①消費税は、本当に目的通り社会保障のみに使われているのか」だけでなく、「②何故、社会保障給付には、消費税を充てなければならないのか」の2つがあり、①については、社会保障だけに使われているのではないと言われている。また、②については、そもそも社会保障も国の重要な支出であるため、所得税・法人税・相続税等の他の国税収入から充当しても差し支えない筈なのだ。 さらに、公的医療保険はリスクの低い人と高い人が混在して支える保険制度なのだが、リスクの低い期間(被用者として就業している期間)に入る健康保険・船員保険・共済組合には退職してリスクが高くなった後は入らないため、健康保険・船員保険・共済組合は黒字になるのが当然ということになる。その反面、被用者としての就業が終わった退職者や自営業者・農業従事者・フリーターが入る国民健康保険は、所得の低い人やリスクの高い人の割合が高くなるため、当然のことながら赤字となり、これに税金で補助している。しかし、被用者としての就業期間が終わった退職者は、元の健康保険に入り続けるのが保険の理論にあっているのだ。 また、介護保険制度は、40歳以上の人の加入が義務付けられ、被用者は健康保険料と一緒に介護保険料を徴収されて事業主が保険料の半分を負担する。被用者でない国民健康保険加入者は、自治体が計算して介護保険料を徴収し、65歳以上の人は原則として年金から天引きして市区町村が徴収する。 ここで不自然なのは、65歳以上の人だけが介護サービスの対象者で、40歳以下の人は介護保険料を徴収されないが介護サービスも受けられないこと、40~64歳の人は介護保険料の支払義務はあるが、老化に起因するとされた特定疾病により介護認定を受けた場合しか介護サービスを受けられないことだ(https://kaigo.homes.co.jp/manual/insurance/about/ 参照)。しかし、65歳未満の人でも、出産や自宅療養時には介護を受ける必要があるため、医療保険に入った時から介護保険にも加入することを義務付けて、介護サービスの対象者にするのがよいと思う。 このような不合理を包含しながら、「社会保障に投入されることになる税金は、景気に左右されない安定財源だから消費税から賄う」としているが、これは、消費税が所得に関係なく税を徴収していることの裏返しであり、さらに消費支出割合の大きな低所得者の方が消費支出割合の小さな高所得者よりも税負担率が高くなるという逆進性を持つ負担力主義に反する税であるということなのだ。そのため、消費税に頼る姿勢は、小さければ小さいほどよいのである。 (2)人口を分散した方が、ゆとりある暮らしができること (図の説明:左図のように、日本の人口密度は、東京・大阪・神奈川・埼玉・愛知・千葉・福岡で高く、中央の図のように、人口密度と新型コロナの人口当たり患者数は相関関係がある。つまり、大都市は、一人当たり専有面積が狭く、混み合っているということで、右図のように、公園における1人当たりの占有面積にも大きな違いがあり、自宅・保育園・学校・列車における一人当たり専有面積も同じだ。つまり、人口の集中しすぎは、住環境の悪化を招くことがわかる) 一番上の下段・中央の図のように、新型コロナの感染者数が多かったのは、東京・大阪・神奈川・埼玉等の大都市圏と北海道・北陸などの特定地域で、これらは人口の密集や観光地であるなどの条件から納得できる。しかし、日本には、鉄道・上下水道等の基礎的インフラすら維持管理しにくくなっている過疎地も存在し、*2-1のように、過疎地域には日本の全人口の1割しか住んでいないのに、その面積は国土の約6割を占めるのである。 そのため、*2-3のように、2021年3月26日に、議員立法で「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」が成立し、「東京一極集中の是正」と「地方の活性化」を国づくりの車の両輪としながら、国土全体を活かし切って日本の持続可能性を徹底的に追求し、国民の安全安心を確固としたものにするための法律ができたのは歓迎だ。 確かに、過疎地は人口減少・少子高齢化をはじめ課題先進地であるため、これを解決することは、これから日本に起こるさまざまな課題を解決するためのヒントになる。また、一極集中しないことは、国全体として災害に強く、ゆとりある住環境を提供できる上、国内で食料・エネルギーを作ることにも資する。さらに、自然の近くで生物や環境に関する感受性を育てることによって、地球温暖化の防止や水源の涵養に資する人材を育てることにもなるのである。 そのため、私も、*2-1に書かれている分散型社会は必要で、その分散型社会への受け皿となる過疎地域の持続的な発展も重要であり、成立した新過疎法で地域公共交通網・医療機関・介護施設・教育施設・デジタル社会向けのインフラ整備などを行い、農林漁業はじめ地場産業を振興して雇用を創出し、人口密度が低く十分な生活空間を提供できる過疎地域を、環境がよくて住みやすい地域にすることは、将来の国民の利益に繋がると考える。従って、これらは決して無駄遣いではなく、資本的支出(≒投資)になるように計画しなければならない。 なお、一極集中している大都会は、エネルギーも食料も水も作れない。国連は、2020年9月に食料システムサミットを開き、貧困・飢餓の撲滅・気候変動対策等の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた方策を議論し、各国に食料の生産、加工、輸送、消費の一連の活動を変革する取り組みを示すよう求めたそうだ。また、EUは既に新戦略「農場から食卓へ」で、2030年を期限に化学農薬使用量の半減・有機農業面積の25%への拡大などの目標を設定し、米国のバイデン政権も、農業での温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言している。 日本は、*2-2のように、農水省が2021年3月中に、温室効果ガスの削減などを目指す農業の政策方針「みどりの食料システム戦略」の中間取りまとめを行い、2050年までに、①化学農薬使用量を半減 ②化学肥料3割減 ③有機農業を全農地の25%に拡大 ④化石燃料を使用しない園芸施設に完全移行 などを目標に掲げたそうだが、それならEUと同様、2030年までには行うべきだし、そうすることによって新しい方法への研究と実用化が進む。 *2-2に書かれているとおり、確かに、日本の政策は、機械・施設の開発に力点を置く技術革新を重視しており、生態系の機能を回復・向上させる技術開発が手薄だ。そして、環境負荷を軽減する農業を点から面に広げる地域ぐるみの後押し政策も貧弱な場所が多いが、これらは、教育において生物系の勉強を疎かにしていることが原因だろう。 (3)エネルギーの自給率を上げて、豊かな国になろう 1)環境税(炭素税) *3-1のように、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に国境炭素税を課す多国間協議が始まるそうだ。私は、炭素(or排気ガス)排出量に応じて環境税を課すべきだと思っていたが、これまで経産省と産業団体の反対で導入できず、またまたEUなどの外圧に頼ることになった。 それでも、この環境税(炭素税)を、「事実上の関税になる」「対立の少ない制度づくりができるか」などと言っているようでは、環境分野での日本のリーダーシップや信用は壊滅する。何故なら、これは自由貿易以前の地球環境を護る取組だからで、各国は歩調を合わせて環境税(炭素税)を導入するようにし、環境税(炭素税)を導入しない環境軽視国に対しては、地球環境を護る国が損をしないように国境調整するしかないのである。 もちろん、温暖化ガス排出量の計算と炭素への価格付けは、環境税(炭素税)によって化石燃料から再エネへの移行に資するものにしなければならない。また、データは客観性の持てる集め方をして、第三者の検証を可能にしておかなければならない。さらに、集めた税収は、再エネ普及のためのインフラ整備に使うのがよいと思う。 「日本は脱炭素への寄与度が高い製品の輸入にかかる関税を引き下げる案も各国に提案する方向だ」とも書かれているが、環境税(炭素税)は化石燃料から再エネへの移行が進む単価にしなければならないし、そうすれば回り道をせずに優れた再エネ製品に移行するため、日本政府のこういう意図的な取引はむしろ邪魔になる。また、関係国で対話をし、回り道をさせることによって、日本が再エネ機器でも自動車と同じ轍を踏まないようにしてもらいたい。 2)再エネ (図の説明:水素は再エネ由来でなければ意味がなく、左図のように、水を電気分解して水素を作るさまざまなシステムができている。できた水素は、中央の図のように、移動手段用・産業用・家庭用の燃料電池として使うことができ、右図のように、水素を使わずに効率良く蓄電する全固体電池もできているため、後は、これらを安価で速やかに普及することが重要なのだ) イ)国産・再エネ由来の電力を使おう 米アップルが、*3-2-1のように、2021年3月31日、アップルに納める製品の生産に使う電力を全て再エネで賄うと表明したサプライヤーが110社を超えたと発表し、日本企業は村田製作所・ツジデン・日本電産・ソニーセミコンダクタソリューションズなどが、アップル向け製品生産で消費する電力を全て再エネに切り替えると約束している。 アップルは2030年までに自社の全製品の生産から利用を通じて排出するCO₂を実質0に抑える方針を2020年7月に表明し、アップルの呼びかけに応じた取引先数は2020年7月の約70社から8カ月間で1.6倍に増えたのだそうだ。影響力は、このように、世界をリードする方向で使いたいものである。 ロ)水素も国産・再エネ由来にすべき *3-2-2のように、政府は国内の水素利用量を、2030年時点で国内電力の1割分にあたる1000万トン規模とする目標を設ける調整に入ったそうだ。 その内容は、発電や燃料電池車(FCV)向けの燃料として利用を増やしてコストを引き下げ普及に繋げるとのことだが、移動手段のエネルギーは燃料電池か電気に変え、ビルや住宅の電力自給率をスマートな機器で引き上げた上、再エネで発電した電力を送電すれば、水素を発電所の燃料に使ってエネルギー変換を繰り返し、エネルギーロスを出すよりずっと効率的だ。そのための送電線敷設費用や充電設備設置費用などを、環境税収入から支出すればよいと、私は思う。 前から、「①太陽光や風力等の再エネは天候に左右される」「②再エネはコストが高い」という話は何度も聞いたが、①については、再生エネ発電で余った電力を使って水素を作って貯めておく蓄電システムにすれば蓄電コストが安くなるし、②については、石炭や液化天然ガス(LNG)などの化石燃料を外国から輸入し、原発に膨大な国費を投入しているので、再エネや水素のコストが高いと言うのは質の悪い世論の誘導にすぎない。 また、製鉄は、鉄鉱石の還元を石炭由来から水素に切り替えなければ製品を使えなくなるので、2050年までの技術の実用化では遅いだろうし、発電も同じだ。このような中、オーストラリアの「褐炭」から水素を製造し、運賃をかけて船で日本に運ぶシステムを思いつくとは、何を考えているのかと思う。 しかし、東芝エネルギーシステムズは、*3-2-3のように、水を電気分解して作るグリーン水素を作る次世代型水素製造装置を開発中だそうだ。グリーン水素を製造する水電解装置の開発も欧州メーカーが先行しているそうだが、何でも外国が開発した技術の追随と改良しかできないのではなく、この分野の技術開発や研究に環境税収入から奨励金を出して特許をとれるようにすることも資本的支出(≒投資)であり、現在及び将来の国民のためになることである。 3)今から原発にテコ入れするのは、馬鹿としか言えないこと イ)原発に対する国の姿勢 2021.3.14日経新聞 (図の説明:左図のように、日本は、ユーラシアプレート・太平洋プレート・フィリピン海プレートが押し合い、隆起・火山の噴火・地震・津波・浸食などを繰り返しながらできた陸地だ。そのため、中央の図のように、すぐ近くに海溝や海底山脈があり、断層が多くて地震多発地帯でもあり、原発の立地には全く不向きなのである。しかし、海底火山が多いため、右図のように、日本の排他的経済水域にはレアアース等の地下資源が豊富だということもわかっているのだ) フクイチ原発事故で明らかなように、原発事故は、広範囲の住宅や田畑を使えなくすることによって先祖が長期間かけて作りあげてきた膨大な資産の価値を無にする。また、「今後も、原発事故の発生確率は0ではない」と、原子力規制委員会は明言している。 さらに、原発は、事故を起こしていない時でも、稼働すれば使用済核燃料を作り出し、使用済核燃料は発電しなくなってから10万年もの管理が必要だ。そのため、原発の稼働は、将来に膨大な負の遺産を残すことになる上、そもそも、日本には、これを埋設する適地もない。 にもかかわらず、*3-3-4のように、国は運転開始から40年を超える原発1カ所当たりに最大25億円を県に交付し、老朽原発を動かそうとしている。原発の耐用年数は40年であるため、原発の耐用年数を65年に延長するのは、原発の建設当初よりも安全意識が薄くなっているということだ。 さらに、「立地地域の将来を見据える」「国・電力会社による地域振興」「原子力研究・廃炉支援・新産業創出等について議論する会議を創設する」等と言っても、わざわざ0リスクではない原発近くに移住する企業や個人はないだろうし、原発付近の農水産物もできるだけ避けることになる。そのため、このような負の効果のある原発を、国から県に一基当たり最大25億円も交付金を出して稼働させるというのなら、原発のどこが安いのかについて、きっちりした説明を要する。決して、できないと思うが・・。 ロ)避難は可能か? 玄海原発 福島第一原発 使用済核燃料貯蔵 廃炉予定 (図の説明:1番左の図は、SPEEDIで示された玄海原発で事故が起こった際の放射性物質の拡散の様子で、左から2番目の図が、風向きに応じて変えるべき避難方向だが、風向きは季節や昼夜によって変わり一定ではない。中央の図は、福島第一原発事故による実際の汚染で、SPEEDIで示された予想図と似ているため、SPEEDIは正確な予想をしていたことになる。右から2番目の図が、各原発の使用済核燃料貯蔵の余裕で、玄海原発は詰めて並べ替えをしなければ3年分しか残っていなかった。また、玄海1、2号機は、40年の耐用年数で廃炉が決まっているが、他の原発は耐用年数を65年に延長することさえやっているのだ) *3-3-5の原子力災害対策特別措置法は、第3条で、原子力事業者は「①原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずる」「②原子力災害の拡大防止と原子力災害からの復旧に関して誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する」と規定しており、原子力災害の発生が前提となっている。 第4条では、国は③原子力災害対策本部の設置 ④地方公共団体への必要な指示その他緊急事態応急対策の実施のために必要な措置 ⑤原子力災害予防対策・事後対策の実施に必要な措置を講ずる 等として、原子力災害の発生を前提としているが、大した予防策はできそうもない。 また、⑥国は大規模な自然災害・テロリズム等の犯罪行為による原子力災害の発生を想定し、警備強化・深層防護の徹底・被害状況に応じた対応策の整備・その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講ずる責務を有するとも規定されているが、東電柏崎刈羽原発では対応できていなかったし、他の原発も大差ないだろう。 さらに、第27条の2では「⑦原子力災害事後対策実施区域で放射性物質による環境汚染が著しいと認められた場合、市町村長は区域内の必要と認める地域の居住者・滞在者・その他に対し、避難のための立退き・屋内退避を勧告し、急を要すると認めるときは、指示することができる」とし、第27条の6で「⑧原子力災害事後対策実施区域の放射性物質汚染が著しいと認められた場合は、当該原子力災害事後対策実施区域内に警戒区域を設定し、原子力災害事後対策に従事する者以外の者の立入りを制限・禁止・退去を命ずることができる」とも規定している。 しかし、原発事故が起きれば放射性物質による環境汚染は広範な地域に及び、復旧には数十年単位の長時間かかるため、「避難する」といっても、(何年も体育館に居続けるわけではないだろうが)どこにどういう形で避難でき、復旧にいくらかかるかはフクイチ事故を見れば想像できる。つまり、他の地域で原発事故がもう一度起これば、日本が終るくらいの重大事なのだ。 このような中、*3-3-1のように、佐賀市議会議員の質問でわかったのだが、「⑨原発周辺自治体の避難計画は約30キロ圏になっている」が、その人口は2020年5月現在18万人を超え、このうち「⑩佐賀市が受け入れる分は約7万7千人であるのに対し、受け入れ可能な人数約5万6千人だけを避難者数として認識」していて、予想避難者数が約2万人もずれていたそうだ。 このうち、⑨については、風向きによっては30キロを超える地域も汚染されるため、30キロ圏の人が近くの市町村に避難すればよいわけではないことが、フクイチ事故時に飯館村の例で明らかになった。その教訓を忘れたのか? また、⑩については、避難を真剣に考えていないということだろうが、風向きによっては佐賀市も避難対象地域になるため当然ではある。 さらに、「⑪原発事故が発生した際、まず屋内退避・その後に自家用車・それが難しい場合はバスでの避難になる」としているが、屋内退避で防げないほど放射性物質による汚染が進んだ地域に、誰が運転するバスで、どういう順番で迎えに行き、バスに乗るまでに暴露される放射線量は許容範囲なのか否かは考えられていないようだ。それは、「ともかく避難さえすればよい」という発想が、甘すぎる新しい安全神話になっているということだろう。 ハ)原発立地自治体の本当の望みは? (図の説明:1番左の図は日本にある原発の運転開始年で、2021年3月現在、1981年3月以前に運転を開始した原発は40年の耐用年数を過ぎている。左から2番目は、それらの原発の稼働状況で、耐用年数を超えて稼働中の原発はない。右から2番目の図が、原発の運転差し止めを巡る司法判断だ。1番右の図は、原発事故の被害者が起こした集団訴訟の結果だが、国に責任があるとしたものは少ない。今後は、国は「100%の安全はない」と明言した上で、地方自治体がそれを承知で原発を稼働させるのだから、さらに国には責任がないという構造になる) 「耐震設計の目安となる基準地震動の妥当性」と「阿蘇カルデラの破局的噴火リスク」の2点を争点として、*3-3-6のように、九電玄海原発の周辺住民ら559人が国と九電に対して、玄海3、4号機の設置許可取り消しと運転差し止めを求めた訴訟の判決が、2021年3月12日に佐賀地裁で行われ、達野ゆき裁判長が、「①新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の審査に看過しがたい過誤や欠落は認められない」とした。 このうち、基準地震動については「②規制委の内規『審査ガイド』に記載された平均値を超える地震データ『ばらつき』」が焦点となり、大阪地裁は「ばらつき分の上乗せ要否を検討しなかった規制委の判断過程は『審査すべき点を審査しておらず違法』」としたが、佐賀地裁は「③規制委は原発の安全性に関して高度の専門性を有する機関」「④規制委が専門的知見に基づき策定した新規制基準や同基準による原発の設置許可は合理的」「⑤ばらつきは基準地震動を導く計算式の『適用範囲を確認する留意点』にすぎず、上乗せを要求する記載はない」とした。 しかし、私は、大阪地裁の「ばらつき分の上乗せ要否を検討しなかった規制委の判断過程は『審査すべき点を審査しておらず違法』」という判決の方が正しいと思う。何故なら、平均という揺れは存在せず、平均とは、大から小までの地震動の値を合計して地震の発生回数で割ったものにすぎないため、最大地震動に対応していなければ原発が地震で壊れるからだ。わかりやすく言えば、かもいの高さは、人の身長の平均値ではなく最大値より高くなければ、平均以上の身長の人はかもいを通る時に頭をぶつけ、人が歩く時には背のびをして身長より高くなる瞬間があるため、かもいはゆとりを持って身長が最大の人より高くなければならないのと同じである。 佐賀地裁は、また「③規制委は原発の安全性に関して高度の専門性を有する機関」だとしているが、専門性を有する機関でも不都合なことを想定しなかったため事故を起こしたのがフクイチであるため、④の規制委が策定した新規制基準やそれに基づく原発の設置許可だからといって合理的であるとは限らず、それを第三者の立場で判断してもらうために提訴しているのだから、佐賀地裁の判決は役に立たないのである。 なお、⑤の「ばらつきは基準地震動を導く計算式の留意点にすぎず、上乗せを要求する記載はない」というのは、いくら裁判官でも数学・統計学に弱すぎる。これについて、京都大複合原子力科学研究所の釜江特任教授(地震工学)が、*3-3-3のように、「基準地震動の策定過程をきちんと理解しており、納得できる判決だ」としておられるが、原告の中にも専門家はおり、使用済核燃料のプールを高い場所に造り、細かい配管の多い原発が、最大の地震動にも対応可能だとは、私には思えない。 この佐賀地裁判決は、四国電力伊方原発を巡る1992年の最高裁判決「原発は専門性が高いため裁判所は安全性を直接判断せず、審査基準や調査に不合理な点や重大な過ちがあった場合のみ違法とすべきだ」という判決を踏襲したのだそうだ。しかし、それなら裁判所は高度な専門性を持つ医療過誤に関する訴訟判断もできない筈だが、第三者である他の専門家の意見を参考にすることによって、これを可能にしているのである。 「阿蘇カルデラの破局的噴火リスク」については、2016年4月に九電川内原発を巡る福岡高裁宮崎支部が、「⑥どのような事態にも安全を確保することは現在の科学では不可能」「⑦破局的噴火など発生頻度が著しく小さいリスクは無視できるものとして容認するのが社会通念」と決定している。 しかし、⑥であっても、原発は、一度事故を起こすと長期間にわたって先祖が築いてきた膨大な資産を無価値にしたり、膨大な負の遺産を作ったりするため、一度の事故も許容できない。従って、⑦のように、発生頻度が著しく小さい(これも疑わしいが)からといってリスクを無視することはできないというのが、現在の社会通念だ。だからこそ、九電玄海原発の周辺住民ら559人もが、住民を代表して国と九電に対し、玄海3、4号機の設置許可取り消しと運転差し止めを求めたのである。 このような原発であるため、*3-3-2のように、「これ以上、市民に不安を押しつけるのはやめてほしい」として、廃炉を求めるのが本音だ。玄海原発から11キロしか離れていない唐津市の人口は11万人を超えるが、佐賀県や玄海町のように「事前了解」をする権限もない。 しかし、 “準立地自治体”として何でもいいから発言をし、原発関連の交付金をもらえばいいのかと言えば、既にそういう時期ではない。玄海町と一緒になって産業・観光・教育・福祉を新興し、周囲の膨大な数の人にリスクを押し付ける迷惑施設の原発をなくして如何にやっていくかを考え、国や県にそのための支援を頼むべき時なのである。 (4)教育と研究の重要性 1)イノベーションには、知識に裏打ちされた考察力とチャレンジ精神が必要なのである 2018.12.6毎日新聞 (図の説明:1番左の図のように、中国のGDPは、1992年の改革開放後から、経済が市場化によって急速に伸び、2027年には米国を抜く勢いだ。日本は、左から2番目の図のように、景気対策という名のバラマキ《無駄遣い》ばかりしていた結果、財政が困窮した割には名目経済成長率が1~2%に留まっており、実質経済成長率は0%近傍だ。経済を高付加価値化するための科学技術関係予算も、右から2番目の図のように、中国は急速に伸びているが、日本は人口規模以上に低迷している。また、一番右の図のように、世界の主要企業の研究開発費と学術論文数も、日本は次第に振るわなくなっており、正確な原因究明と根本的な解決が必要だ) 政府は、3月26日、*4-1のように、社会変革・研究力強化・人材育成の3つを柱とする第6期科学技術・イノベーション基本計画を閣議決定し、脱炭素やデジタルトランスフォーメーションなどの社会変革に向けて、2021年度からの5年間で研究開発投資を総額30兆円とする目標を掲げたそうだ。 また、日本は研究論文の質・量ともに国際的地位が低下し、その理由には、①研究者の任期付き雇用増 ②大学院博士課程への進学者減 等があるため、新計画では、博士過程の学生への生活費支援等の研究力強化と人材育成に抜本的な取り組みを盛り込むとのことである。 さらに、予算の拡大で企業にも研究開発投資を促し、今後5年間で官民で総額120兆円の研究開発投資を行う目標を掲げて、*4-4のように、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質0にする政府目標に向け「グリーン投資」に踏み切る企業を後押しし、脱炭素に繋がる製品の生産拡大を促して設備投資額の最大1割を法人税から税額控除する税優遇策を与党税制改正大綱に盛り込むそうだ。しかし、グリーンとデジタルの2分野は、世界では既に常識となっているため、(いつもながら)研究としては日本は周回遅れなのである。 このように、○兆円単位で予算をつけているが、やる内容は周回遅れで、日本の研究論文は質・量ともに国際的地位が低下している。その理由は、①②だけではなく、研究者になる人を育てたり、そのチャレンジ精神をバックアップしたりせず、理不尽な批判をして研究の邪魔をする土壌が社会にあることが、まず1つ指摘できる。 しかし、知識に基づく考察力やチャレンジ精神を持ち、科学技術の担い手となる研究者を増やすことが最も重要であり、そのために世界の英知を集める「千人計画」を作った中国は、基本を行って結果を出しているのである(https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize2018/tokushu/tokushu_01.html 参照)。 2)高校・大学の教育について 文科省は、*4-3のように、来春から主に高校1年生が使う教科書の検定結果を発表し、多くの科目が新設されて、生徒同士の議論や課題の探究を重視する内容となったそうだ。 もちろん、主権者教育や男女平等教育は重要で、週に何時間かは議論するのもよいが、生徒同士が議論しながら勉強する科目が多すぎると、グループの他のメンバーのレベルに勉強の達成度が依存してしまう。そのため、基礎知識をマスターさせるには、やはり教科書に書いて教師が教えるしかなく、これを「一方通行型の詰め込み教育」と批判するのは考察力の基礎となる知識をマスターしてからで遅くない。何故なら、議論する基礎とするために教える知識の量を減らすと、研究どころか大学教育や社会生活にも耐えない生徒が増えてしまうからである。 しかし、教師は、背景にある理論を含めてわかりやすく教えられるようなレベルの高い人でなければ、生徒にとっては授業時間が無駄になってしまう。そのため、大学院卒業者や技術者がプログラミングや一般科目を教えられるよう、教師の採用方法を見直す方法もある。また、最近は大画面テレビでYouTubeを見ることができるので、ダンス・音楽・映画だけでなく外国語・議論の仕方・一般科目にも強力なツールとして使えるようになった。なお、国会議員や地方議員の議論も、生徒たちがYouTubeで見て勉強になるようなレベルの高いものにすべきである。 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、*4-2のように、米国の一部の大学では、学生に週2回のPCR検査を実施し、閉鎖した大学を再開させた。一方、日本では、東大でさえ、研究者や学生の大学内への立入を禁止した。 日本の新型コロナウイルス対策は、ほかにもおかしな点が多く、その1は、中国が最初から「無症状の感染者がいる」と言っていたのに、日本は発熱したり濃厚接触者になったりしなければ(しても!)検査をしなかったことだ。その2は、研究者や学生の大学内への立入を禁止したため、PCR検査機器の進歩・ロボットの活用・ゲノム解析・プール方式の採用といった安全で正確に数をこなすための検査方法の進歩が遅れ、ワクチンもできなかったことだ。 初めての感染症であっても、他の知識や経験を応用すれば素早く解決法を見出すことができる。そのため、日本の対応の遅れは、メディアによって作られた世論とそれを意識する意思決定権者の能力の差が、結果に出たと言える。そして、このようなことばかり起こさないためにも、基礎教育を疎かにしてはならないのである。 3)どういう人に育てるかも重要だ もちろん、教育は知識だけでなく、どういう人物に育てるかの検討が重要だ。その中で、「これはいけない」と気付いた点を挙げると、以下のようである。 イ)他人に対する人権侵害を気にも留めない人を育ててはいけない 「デジタル改革関連法案」が、*4-5のように、与党等の賛成多数で衆院を通過し、このまま成立すれば、地方自治体ごとに整備してきた個人情報保護のルールが白紙となってデータ利用の推進を掲げる国の規定に一元化され、行政機関が持つ膨大な情報をデジタル庁が一手に収集でき、「監視社会」「商業利用」といった多くの懸念を抱えたまま、首相に強大な権限を集めることになるそうだ。 そのデジタル関連法案は、60本以上もの法改正を一括して審議し、この間、メディアは新型コロナ報道・野球中継・ぼやっとしたニュースなどに専念し、デジタル関連法案の内容を国民に知らせることはなかった。これは、議論や民主主義以前である。 特に、マイナンバーと預貯金口座のひも付けは、将来は個人の権利を制限することを視野に入れているので要注意であり、データを民間のビジネスに容易に利用できるようにするという個人情報保護法の変更は、プライバシー保護が徹底せず人権侵害に繋がり易いため、国会審議を疎かにしてよいような問題ではない。そのため、私も、個別の法案として提案し直し、論議を尽くす必要があると思う。 ロ)公正さを重視する人に育てるべきである 2021.4.11日経新聞 2021.2.1時事 (図の説明:日経新聞は、左図のように、EVは製造時にガソリン車よりもCO₂排出量が多いため、何万キロも走らなければガソリン車の方がCO₂排出量が少ないと印象付ける記事を書いている。しかし、中央の図のように、車体製造時のCO₂排出量は同じで、エンジン製造時のCO₂排出量は少なく見積もり、蓄電池の製造のみを問題にしている点が事実に反している。そして、このように、誤った印象を流布することによって、新しい製品の実用化や普及を阻害し、右図のように、日本の実質GDP成長率を0近傍にしているのだ) *4-6-1に、「①EVは走行時にCO₂を排出しないが、生産時のCO₂排出量はガソリン車の2倍を超える」「②その半分を占めるのが電池で、材料に使う化合物などの製造に多くのエネルギーを使う」「③EUは2024年から電池の生産から廃棄まで全過程で出る温暖化ガスの排出量を申告するよう義務付ける」と書かれている。 また、*4-6-2には、「④充電する電気がクリーンでなければ充電する度に温暖化ガスを排出するので、EVの普及は温暖化ガス排出量を実質0のイメージだけになりかねない」「⑤製造工程全体では、EVはガソリン車の2倍を超えるCO2を排出する」「⑥EVは充電の電気がクリーンかどうかも問われるが、電力会社から届く電気は化石燃料を使って発電している」「⑦走行距離が長ければEVが有利だが、米国では6万キロ、欧州では7万6千キロ、日本では11万キロ走って、やっとEVのCO2排出量がガソリン車を下回った」と書かれている。 これを読むと、生産から廃棄までの全工程を見れば、あたかもEVの方がガソリン車よりもCO₂を多く排出するかのような印象を与えるが、①②で比較しているのは電池だけだ。また、ガソリン車はEVの3倍の部品を使うため、車体と部品全体を合計すれば、ガソリン車の方が車体製造時にEVよりも多くのCO₂を排出するのは明らかで、⑤は真実性が疑わしい。 さらに、③でEUが2024年から電池の生産から廃棄まで全過程で出る温暖化ガスの排出量を申告するよう義務付けるのは、主要国では既にガソリン車の販売が眼中にないからである。 その上、発電も化石燃料から再エネに変更することが前提なので、④⑥も、早晩、解決される問題だ。さらに、EVを使う人は、自宅や駐車場の屋根に太陽光発電機器を設置して燃料代0で乗るのが賢い方法であるため、⑦は、「EVが温暖化ガス排出量を実質0にするというのはイメージだけにすぎない」と強調するために、現実的でない仮定を積み重ねて導いた結果である。 そして、この手法は、「原発の発電コストは安い」と強弁した時と同じであり、コストの一部だけを抜き出して比較することによって、読者に、あたかも従来品の方が有利であるかのような誤った印象を与えている。しかし、このように中立でなく不公正な判断を積み重ねてきた結果が、マクロでは現在の日本の経済成長率に現れていることを忘れてはならない。 ハ)「差別」の意味すら知らないような人を育ててはいけない EUは、*4-7のように、新型コロナワクチンを接種したことを公的に示す「ワクチン証明書」の導入を進めているそうだ。私は、ワクチン接種証明書やPCR検査の結果を入国制限の緩和に結びつけたり、観光旅行や日常生活で利用したりするのは、「差別」ではないと思う。 何故なら、「差別」とは、人種や性別など特定の集団に属する個人に対し、その属性を理由として主に不利益な行為を行うことであり、ワクチンを接種したか否かは、属している集団を変更できないものではないからだ。もちろん、ワクチンを接種したくてもまだ接種できていない人はいるだろうが、その数は次第に減っていく。 また、何かの病気でワクチンを接種できない人も、大部分の人がワクチンを接種していれば、(全くとは言わないが)新型コロナに感染する心配なく外出できるようになる。さらに、病気でワクチンを接種できない人がいるから、健康な人もみな外出を自粛して何もしないのが差別なき平等な社会というわけではない。 なお、「承認済のワクチンが変異株に効くか?」という疑問もよく聞くが、それは治験をすればわかることだ。しかし、ウイルスが少し変異しただけで効かなくなるようなワクチンは適用範囲が狭すぎるし、そういうことはないだろう。 ・・参考資料・・ <日本の財政> *1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210327&ng=DGKKZO70411470X20C21A3EA1000 (日経新聞社説 2021.3.27) 予算成立後の財政運営はより慎重に 2021年度予算が成立した。菅義偉政権は20年度第3次補正予算も含めた「15カ月予算」を着実に執行し、コロナ禍の克服と日本経済の底上げを目指す。財政出動の役割はなお大きいが、コロナの感染状況や景気動向を見極めながら、さじ加減を調整すべき局面に入りつつある。政府・与党はより慎重な姿勢で今後の財政運営に臨んでほしい。21年度予算の一般会計総額は106兆円で、20年度3次補正を加えると122兆円にのぼる。一連の予算措置でコロナ対策や家計・企業の支援を急ぎ、グリーン化やデジタル化を促すのはいい。だが不要不急の支出を排除できたとは言い難い。21~25年度の5年間に総額15兆円を投じる減災・防災事業は、不断の見直しが必要だ。脱炭素社会の実現や大学の高度な研究を促す巨額の基金も、丼勘定になるのでは困る。財政運営の真価が問われるのは、むしろこれからだ。緊急事態宣言が全面解除されたとはいえ、変異型ウイルスの流行でコロナ禍が悪化する恐れがある。国民の命と生活を守るため、必要な財政出動をためらうべきではない。しかしワクチンの接種が進むにつれて経済活動が正常化に向かい、消費や投資が予想以上のペースで回復する可能性も残る。米国では1.9兆ドルの追加経済対策が景気の過熱やインフレを助長するとの懸念が浮上しており、日本も神経質にならざるを得まい。政府・与党内には今秋までに実施される衆院選をにらみ、追加経済対策の策定を求める声がくすぶる。政治的な思惑で過剰な財政出動に踏み切り、日本経済を危険にさらしてはならない。財政悪化の現状も直視する必要がある。国と地方の基礎的財政収支を25年度までに黒字化する目標は遠のくばかりだ。国と地方が抱える長期債務残高も膨らみ続け、国内総生産(GDP)の2倍に当たる1200兆円にのぼる。こうした状態を懸念し、日本国債の格付け見通しを引き下げる動きもあった。すぐに実行するのは難しくても、財政再建の目標や手段を考えておいた方がいい。英国はコロナ対策の費用を賄うため、23年4月から法人税率を引き上げると発表した。米国もインフラ・環境投資の財源確保や格差是正を目的とする増税を検討中だ。日本も欧米の動きから学べる点があるのではないか。 *1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/94237 (東京新聞 2021年3月27日) 国の借金1000兆円超え 長期債務残高コロナで膨張、将来世代につけ回し 国債や借入金といった将来税収で返済しなければならない国の借金「長期債務残高」が、3月末に1千兆円の大台を超える見通しとなった。新型コロナウイルス対策の巨額支出を賄うため新規国債を大量に発行したことも加わり、債務残高はここ10年で約1・5倍に急増した。単純計算で国民1人当たり約800万円となり、つけは将来世代に回ることになる。国の長期債務残高は借金全体から、貸し付けの回収金を返済に充てる「財投債」や、一時的な資金不足を補う「政府短期証券」などを除いた額。2020年度はコロナ対策で3度の補正予算を組んだため、財務省の見通しでは今年3月末時点の残高は前年3月末から100兆円近く増え、1010兆円に達する。既にコロナ感染拡大前から、当初予算の一般会計の歳出は100兆円を上回り、年60兆円前後の税収では到底賄えない。不足分は新規の国債発行で穴埋めするほか、満期を迎えた国債の返済に充てる「借換債」も発行し、借金で借金を返す構図だ。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210327&ng=DGKKZO70412110X20C21A3EA4000 (日経新聞 2021.3.27) コロナ持久戦で巨額予算 感染収束・経済正常化 問われる歳出効果 26日成立した2021年度予算は一般会計総額が106.6兆円と過去最大になった。政府は新型コロナウイルスの感染収束と経済正常化に向けた巨額の財政出動を続ける。財政の持続性を高めるためにも、効果的な感染防止や将来の経済成長につながる「賢い支出」が課題になる。予算規模は20年度当初の102.6兆円から4兆円ほど膨らんだ。柔軟に使途を決められるコロナ対策予備費を5兆円盛り込んだ。感染拡大の「第4波」に機動的に対応できるように備える。予備費の使い道で主に想定されるのは自治体が営業時間短縮に応じた飲食店に1日4万円を配る協力金の財源だ。首都圏の1都3県や大阪府などが4月21日まで継続する方針で出口は見えない。感染拡大する宮城、山形、愛媛の3県も相次ぎ時短要請に踏み切った。厚生労働省は感染再拡大に備え、病床の確保計画を見直すよう都道府県に要請した。患者受け入れや検査の体制強化に向けた費用も必要になる。コロナ第1波の1年前とは状況が異なる。20年4月の緊急事態宣言後は製造業を含め幅広い経済活動が止まり、2度の補正予算で57兆円を計上した。2年目の現在は主に飲食に絞った感染対策を講じ、直接関係しない業種は回復の動きもある。麻生太郎財務相は26日夜の記者会見で「当面、予想を上回るほどひどいことになる感じはないので、いますぐ21年度補正を考えているわけではない」と述べた。政府は危機対応の出口も探る。雇用調整助成金を上乗せする特例措置は5月以降、感染拡大地域や業況が厳しい企業を除いて段階的に縮減。実質無利子・無担保融資は民間金融機関で3月末、日本政策金融公庫は21年前半までを期限とする。感染拡大で支出を止めている消費喚起策を投入する時期も焦点になる。国内旅行支援策「Go To トラベル」は20年度分の予算を1.4兆円ほど繰り越す。当面は全国での再開を見送り、感染状況や病床が逼迫していない県内での旅行割引を支援する。4月から1人あたり1泊7000円を上限とする。文化芸術公演やイベント開催への支援も時期を見極める。過度な財政悪化を防ぐには、財政支出を成長力の底上げにつなげる必要もある。脱炭素の研究開発を支援する2兆円の基金も運営を始める。世界でも危機対応の先を見据えた動きが広がる。バイデン米政権は3月、家計への現金給付を柱とする1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策を成立させ、さらに環境関連のインフラ整備を含む総額3兆ドルの対策を提示する見込みだ。欧州連合(EU)は7500億ユーロ(約97兆円)の復興基金創設で合意し、環境投資などを促進する。国際通貨基金(IMF)によると、21年の一般政府債務残高は日本が国内総生産(GDP)比で258.7%に上る。米国の132.5%、ドイツの69.9%などと比べて突出している。財政に余力がない日本はより効果的な歳出が求められる。 *1-3-2:https://president.jp/articles/-/35219?page=1 () 世界中で日本だけ「コロナ感染のグラフがおかしい」という不気味、絶対的な死者数は少ないのだが… PRESIDENT 新型コロナウイルスによる日本の死者数は欧米に比べて少ない。だが感染者数と死亡者数を「対数グラフ」で分析すると、日本だけが異常な推移をたどっている。統計データ分析家の本川裕氏は、「他国のように収束へ向かう横ばい化への転換が認められず、増加ペースが落ちていない。そこには3つの理由が考えられる」という——。 ●世界中で日本だけ「コロナ感染のグラフがおかしい」 新型コロナウイルスは、海外でも日本でも「感染爆発」と呼ばれた一時期ほどの急拡大は見られなくなってきた。だが、それでもなお深刻な感染状況が続き、医療が対応しきれないこともあって各国で死者が増えている。1月に中国・武漢ではじまった新型コロナの感染拡大は、その後、韓国、イラン、イタリアなどと広がり、また、さらに欧州各国や米国などを中心に全世界に拡大してきている。この4カ月余りを過ぎた時点で、地域によって感染拡大のテンポや規模がどのように違っているかを、世界各国と日本の国内で振り返ってみたい。感染拡大を表すデータとしては、「累積の感染者数の推移」を折れ線グラフで表すことが多かった。その後、感染拡大のピークを過ぎたかどうかに焦点が移り、「毎日の新規感染者数の推移」の棒グラフをみる機会が増えている。本稿では、地域間の比較に重点をおいて、「累積の感染者数の推移」の折れ線グラフ、しかも「対数」でのグラフを使用する。対数グラフは、データの大きさが大きく異なる系列の比較に適しており、また指数関数的な拡大のテンポを傾きで表現できることから、欧米メディアでは定番になっている。また欧米メディアでは、グラフの時間軸の起点を「累積感染者数が100人を超えた時点」とするのが通例だ。これは、感染拡大の時期が大きくずれている中国とイタリア、英国などを比較するうえで適切だからである。 ●コロナ感染者数・死者数、日本だけ「増加ペース」が一向に落ちない 主要感染国の感染者数推移の対数グラフをまとめたのが図表1だ。Y軸(縦軸)の目盛りが100人、1000人、10000人と10倍ずつ増えていくのが対数グラフの特徴だ。米国と日本では感染者数の規模は大きく異なっている。グラフの最終日である5月4日時点で米国が118万人に対して日本は1万5000人と100倍違う。普通のグラフでは米国の推移は追えても、日本の推移はX軸(横軸)に張り付いた横ばいの線にしか見えないだろう。対数グラフの場合、軌跡線の傾きが直線の場合は、指数関数的な増加、すなわち、ねずみ算式の倍々ゲームで増えていることを示している。図表中に、参照線として「黒の点線」で、累積感染者数が「1日目100人から始まって、2~3日に2倍のペースで増え、25日目からは1カ月に2倍のペースで増えるようにペースダウンした場合」の軌跡線を描いた。この参照線より傾きが急であるなら拡大テンポもより高いことを示し、より緩やかなら拡大テンポもより低いことを示す。こう理解した上で各国の軌跡を追うと、欧米諸国(米国、スペイン、イタリア、ドイツ、フランスなど)では感染拡大と収束へ向かう右方向に折れ曲がる動きが相互に非常に似ており、参照線に近い形で推移していることが分かる。もちろん、米国は人口規模が3億3000万人と6000万~8000万人の欧州諸国の数倍大きいので感染者数の規模も異なっているが、拡大テンポと収束へ向かう横ばい化傾向はよく似ているのである。 ●世界で日本だけ「横ばい化」せず、「右肩上がり」の不気味 さらに興味深いのはこうした欧米諸国と東アジア諸国との対照的な推移パターンである。感染の発生地である中国、そして次に感染が拡大した韓国は、感染100人を超えてからの経過日数別の推移でみると、当初はほぼ欧米諸国と同様の拡大テンポが続いたが、欧米諸国よりかなり早い段階で横ばいに転じている点が目立っている。中国の人口規模は特段に大きいので人口当たりの感染者数の推移で見れば、感染拡大と収束へ向かうパターンについては中国と韓国は見かけよりもっと似ているということになろう。一方、これらの海外諸国の推移と全く違うパターンで進んでいるのが日本である。日本の感染拡大のペースは、これまでのところ、他国のように当初急速に拡大(いわゆるオーバーシュート)、そして一定の日数を経て、伸びが急速に落ちるといったパターンでなく、一貫して、「9日間に2倍ぐらいのテンポ」(図表1のグレーの点線)で増加している。他国のドラスチックな変化とは明確に異なっているのである。 ●日本の感染者数・死亡者数が「横ばい化」しない3つの理由 次に、累積死亡者数の数について、同様の対数グラフにまとめたのが図表2だ。こちらでは感染拡大の起点を累積死者数が10人に達してからの経過日数にしている。グラフを見れば、感染者数の推移グラフと似たようなパターンが認められるが、各国のばらつきはより大きいことが分かる。例えば、ドイツは、感染者数は他の欧米諸国とほとんど同じパターンだが、死亡者数はかなり早い段階で拡大テンポが落ち、他の欧米諸国より良好なパターンを示している。理由としては、感染拡大の地域的な偏りの小ささ、ベッド数など医療体制の充実、PCR検査の充実により感染者が高齢者に偏っていない点などが指摘される(『The Ecomist』March 28th 2020)。韓国なども早い段階で増加ペースが落ち、ある時点から日本を下回る良好な推移を示している。日本は死亡者数自体の規模は大きく他国を下回っているものの、推移パターンはかなり日数が経過しているのに、他国のように収束へ向かう横ばい化への転換がなかなか認められない点が懸念される。感染者数の推移にせよ、死亡者数の推移にせよ、日本の感染拡大のパターンが諸外国と大きく異なっていることは、この2つのグラフから明らかだ。問題は、その理由である。考えられるのは、以下の要因、あるいはその組み合わせであろう。 ①感染拡大抑止対策の違い 「クラスターつぶし」など個別ケースに密着したきめ細かな感染拡大抑止策が、当初、功を奏して感染拡大を低く抑えることができたが、ある一定レベルの累積数に至ると、この対策では限界が生じ、一方で当初の成功体験から別個の対策へと大きくシフトできず、ジリジリと感染拡大を許してしまっているのかもしれない。もっとも対策の差が、感染拡大パターンの差につながっているのではなく、逆に、感染拡大パターンの差が対策の差につながっているという考え方もありうる。 ②もともとの体質や生活習慣の差 BCG接種を行っているかどうかが欧米と東アジアの感染率の差になっているという説があるが、それに加え、お酒に弱いといった日本人がもっている遺伝的な体質が逆に新型コロナには強いといった可能性も考えられる。体質的な差ではなく、日本には、ハグやキスなど個々人が身体を密着させる習慣がない、風呂によく漬かる、家の中では靴を脱ぐといった独自の生活習慣があるため、感染拡大に差が生じたという可能性もあろう。 ③ウイルスの変異 国立感染症研究所によるウイルス検体の検査・分析によると、国内で初期に発生した複数のクラスターやダイヤモンドプリンセス号の患者から検出されたウイルスは、1月初旬に中国・武漢市で検出されたウイルスと関係が深く、これは3月以降、国内で広がることはなく、終息したとみられるという。一方、これに代わって国内で確認されるようになったウイルスは、武漢市で確認されたウイルスよりも、欧州各国で感染を広げたウイルスの遺伝子に特徴が近く、3月以降、欧州など海外からの旅行者や帰国者を通じて全国各地に広がった可能性があるという。こうしたウイルスの変異が、①と組み合わさって、なかなか感染拡大が収束へと向かわない理由になっているのかもしれない。 ●都道府県別の感染者数と感染率(人口10万人当たり感染者) 次に、国際比較から国内の地域差に目を転じよう。まず、都道府県別の感染状況のランキングを感染者数自体と人口10万人当たりの人数とで16位まで掲げたグラフを図表3に掲げた(いずれも5月4日確定分までの累計、以下同)。感染者数そのものについては、1位の東京が4708人と2位の大阪の1674人の2倍以上となっている。東京、大阪といった大都市圏の中心地域で特別に感染率が高くなっている。3位以下、10位までの上位地域としては、北海道を除くと東西の大都市圏の近郊地域や愛知、福岡といった中枢都市が占めており、概して都市部の感染がウエートとして大きいといえる。ところが、人口当たりの感染者数(感染率)の都道府県ランキングは実数規模のランキングとはかなり様相を異にしている。1位は34.3の東京であるが、2位の石川も23.5人、3位の富山も19.7人で高い値を示している。今は6位の福井は一時期1位だったこともある。首都圏近郊の神奈川、埼玉は、実数規模では3~4位と大きいが、感染率のランキングについてはずっと低くなる。神奈川は11位であるし、埼玉は13位である。感染率は両県の場合、全国平均と同水準である。そして、飲み会、ライブ、高齢者施設、医療機関などを通じた特定の感染集団によるクラスター感染が偶発的に発生し、それが連鎖的にある程度の広がりをもった特定感染地域ともいうべき都道府県がむしろ上位を占めているのである。しかし、石川、福井、富山といった北陸3県が人口当たりでそろって上位なのはなぜだろうか。偶発的にしては地域的なまとまりがあるのが気になるところである。 ●東京は他地域と比べ、感染拡大の規模とテンポが群を抜いている こうした状況を踏まえ、国際比較と同様に対数グラフで主要な都道府県の感染者数の推移パターンを比較してみよう(図表4参照)。前出の各国の動きを表した対数グラフと同じように、主要都道府県別に感染拡大経過日数別の対数グラフを描いてみると感染拡大傾向の地域別の違いが明らかになる。東京は他地域と比べ、感染拡大の規模とテンポが群を抜いていることがわかる。埼玉、神奈川などの東京圏の近郊県も100人超過後15日ぐらいは、東京とほぼ同様の軌跡を描いていたが、それ以降は、やや横ばい方向に転じており、大きな都心部を抱える東京とはその点が異なっている。実は福岡はこうした東京近郊県と同様のパターンをたどっている。これら地域に対して、大阪、兵庫、京都といった大阪圏の府県は拡大のテンポが一段低くなっていることがわかる。名古屋圏の愛知、あるいは北海道は拡大ペースではさらにゆるやかである。ただし、北海道については、ゆるやかだったと過去形で言わなければならない。最近の北海道は再度拡大テンポが上がっており、第二波に襲われているという印象が強い。 ●政府は都心部特有の感染拡大要因をどう抑えたらよいかわからない 図表4をよく見ると、東京と大阪では感染拡大のレベルでは違いがあるが、最初はやや遅くはじまり、一気に加速し、最近やや拡大テンポが落ちているという感染拡大のカーブでは、お互いに似通っている点に気づく。東京・大阪以外では、クラスター連鎖の勃発による急拡大と、その後、それを強力に抑えて収束へと向かう、という動きが認められるが、大きな都心部を抱える東京や大阪では、都心部特有の感染拡大要因が作用して、どう抑えたらよいかわからないような感染拡大の軌跡を描いているのではないかと思われる。この都心部特有の感染拡大要因は、 ① 接待を伴うような飲食店が多い大きな繁華街からの波及 ② 海外赴任や海外旅行からの帰国者が多く海外からのウイルスの持ち込みが多い ③ 都心に居住することが必要な職業人が抱えるその他の感染拡大要因 といったものが可能性として考えられるが、いまだ定かではない。 ●「繁華街&富裕層」中央区、港区、世田谷区、渋谷区に感染者が多いワケ 最後に最も感染拡大が突出している東京について、都内の地区別のこれまでと同様な対数グラフを描いてみた。都内でも感染拡大が大きく進んでいるのは、銀座、新宿、赤坂、六本木といったわが国の代表的な繁華街を有する「都心地区」(中央区、港区、新宿など)、および富裕層も多い住宅地域である「西部地区」(世田谷区・渋谷区など)であり、この2地区が感染者数規模においても、また感染拡大のテンポにおいても他地区を圧倒している。他方、感染拡大のテンポが緩やかなのは、「下町地区」と「東部地区」であり、累積感染者数100人以上の本格的感染拡大がはじまる時期も遅かったし、その後の拡大規模も比較的小さい。こうした「都心・山の手方面」と「下町方面」との間の地域的な傾向差からも、偶発的なクラスター感染の連鎖とは異なる上述のような都心部特有の構造的な感染拡大の要因が作用しているはずだと感じられる。ともあれ、都道府県別に見ても都内の地区別に見ても、エリアによって感染者数の偏りはあるものの、全体として数の「横ばい化」は認められず、日本国内において予断を許さないことは確かだ。 *1-4-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/95108?rct=editorial (東京新聞社説 2021年4月1日) 消費税総額表示 柔軟対応で混乱避けよ 消費税の総額表示が一日から義務化された。今後、表示価格の変更が「値上げ」との誤解を招く恐れもある。消費者や事業者双方に無用な混乱を招かぬよう国には柔軟で慎重な運用を求めたい。総額表示は、消費者が払う額を分かりやすくする狙いで二〇〇四年にいったん義務化された。だが一四年の税率アップの前、特例として「千円(税別)」といった表示が認められた。支払総額だけの表示だと消費者が「値上げ」と錯覚し、個人消費の足かせ要因となる恐れがある。このため影響を緩和する時限措置が取られた。今後は商品やサービスの税抜き価格が一万円の場合、「一万一千円(税込み)」あるいは「一万一千円(税額千円)」などとなる。消費者が払う総額が明示されるため、以前と比べ価格が引き上げられたとの誤解が一時的に生じるのは避けられないだろう。ただ実際の値上げではないのに売り上げが大きく落ち込む事態は極力避けたい。国も事業者側も仕組みの変更について誠実かつ丁寧に説明し、誤解を解くよう最大限の努力をする必要がある。消費税増税をめぐっては過去、大手事業者が値下げ分の負担を小売店などに強要する事例も相次いだ。今回も悪質な行為が起きないよう国はきめ細かくチェックすべきだ。義務化による納税意識への影響についても指摘したい。支払う総額だけがクローズアップされると、この中に税が含まれているという認識は当然弱まる。痛税感が薄まれば安易に消費税増税を行う機運をつくり、財政支出のさらなる膨張につながりかねない。「税を払っている」という認識を持ち続けるためにも、価格の総額と共に具体的な税額を併記する方法を定着させるべきである。消費税による財源は、年金や医療、介護、少子化対策を軸とした社会保障に充てることが法に明記されている。だが「本当に目的通り使われているのか」といった疑問は納税者の意識の底に沈殿している。消費税は富裕層も所得の低い層も同様に負担せざるを得ない「逆進性」という不公平な特徴も持つ。税の最重要課題は目的の明確化と公平性の担保だ。税収増や徴税の利便性を優先するあまり、一部の納税者や事業者にしわ寄せが及ぶことは許されない。より配慮の行き届いた税制を強く求めたい。 *1-4-2:https://www.agrinews.co.jp/p53924.html (日本農業新聞 2021年4月1日) 「総額表示」きょうから義務化 値上げ印象に懸念 商品やサービスの価格で消費税を含む「総額表示」が1日から義務化される。表示の移行に伴って外食が値上げで、小売りは税込み・税別価格の併記で対応するケースが目立つ。だが、税別表記に慣れた消費者には、表示の変更が値上がりとも映りかねず、米など単価の高い商品では、消費が冷え込む懸念も出ている。動きが大きいのは外食だ。ハンバーガーのモスフードサービスは1日、表示を税別から税込みに改めると同時に、店内飲食と持ち帰りの価格を統一する。看板商品「モスバーガー」は税込み390円とし、店内飲食は13円、軽減税率対象の持ち帰りは20円それぞれ値上げした。回転ずしのくら寿司は店舗外の看板の「一皿100円」を、「一皿100円(税込み110円)」に変える。店内メニューは税別、税込みを併記。「『100円』の訴求力を残し、総額表示に対応する」(広報)。日本フードサービス協会は「総額表示には一貫して反対してきた。価格設定は高度な経営判断。かつての牛丼戦争では10円の差が各社の業績に影響を与えた。売れ筋を値上げし、販売てこ入れしたい商品は値下げするなど、各社が苦労している」と指摘する。スーパーでは首都圏に展開するサミットが1月から順次、本体価格と税込み価格の併記に切り替えた。ニラ2分の1束など、消費者ニーズに合う量目や加工度合いを上げた商品を充実。担当者は「店頭価格が上がったと誤解を与えないように努めたい」と話す。マルエツは31日までに青果物の値札を差し替えた。その他、ライフやイオンリテール、ヤオコーは「3月までに対応済み」と回答。日本スーパーマーケット協会は「衣料品などと比べて利益率が低い食品は、事実上の値下げ対応が難しい」と指摘する。他の食品に比べて1回の買い物金額が大きくなる精米では、5キロ商品だと税別と税込みの表示の違いで100円以上価格差がある。併記するスーパーが多いが、米の業界団体は「総額表示で価格は高く映り、販売に影響が出ないか心配だ」と指摘する。 <人口の分散> *2-1:https://www.agrinews.co.jp/p53856.html (日本農業新聞 2021年3月27日) 新過疎法成立 分散型社会の受け皿に 新型コロナウイルス感染症の流行で、十分な生活空間の必要性が高まっている。東京一極集中から分散型社会への受け皿として、過疎地域の持続的な発展が重要だ。成立した新過疎法での支援強化を求める。過疎地域は全人口の1割に満たないが、国土面積の約6割を占める重要な地域だ。少子高齢化と人口減少が著しく、集落の消滅が続いている。政府は、これまで4次にわたる過疎法で財政的な支援を行ってきたが、全国的に見て社会インフラなどで格差がある。現行法は3月末で期限を迎え、その後の対応が課題になっていた。法律に基づく過疎支援が継続されることは歓迎である。10年を時限とする新法は、過疎対策事業債や税制特例などによる財政支援を拡充する。指定要件は見直したが、対象は現行を上回る820市町村が見込まれる。対象外となるところには6年間の経過措置などを設ける。丁寧な説明が必要だ。新法の目的に「持続的発展」という新たな理念を掲げた。人口密度が低く十分な生活空間を提供できる過疎地域の維持は、国民的利益につながるという考え方だ。都市への過度な人口集中が大きなリスクを伴うことは、コロナ禍や豪雨災害などで明らかだ。人口の分散が必要で、過疎地域はその受け皿となる。過疎地域にとっても、特定の地域と継続的に関わる「関係人口」をはじめ、若者の田園回帰の機運が高まっている今が、再生の絶好のチャンスだ。都会からの移住者も含めて安心して生活できるように、地域公共交通網や医療機関、介護施設、教育施設などのインフラ整備を急ぐべきだ。また農業など地場産業の振興による雇用創出に加え、遅れている、デジタル社会に対応するインフラ整備も重要だ。これらは、財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な過疎地域の「自助」では難しい。新法に基づく十分な財政支援が必要だ。地域の活性化には人材が必要だ。注目したいのは、「地域おこし協力隊」である。総務省の2020年度の調査によると、全国で1065の地方公共団体が受け入れ、過去最多の5464人の隊員が活躍し、元隊員の約6割がそのまま定住した。同省は、24年度までに8000人を目指す。期待は大きい。同省はまた、地域住民や企業、外部の専門人材と連携しながら地域振興を推進する「地域プロジェクトマネジャー」を創設する。農水省の「新しい農村政策の在り方に関する検討会」でも、地域づくりをサポートする人材の重要性が指摘されている。過疎地域の維持・活性化に取り組む人材確保への支援を強化すべきだ。新法では、総務相、農相、国土交通相だった主務大臣に、文部科学、厚生労働、経済産業、環境の各大臣を追加した。関係省が連携し、疫病や災害などに強く、持続可能で均衡ある国づくりを政府一体で目指すべきだ。 *2-2:https://www.agrinews.co.jp/p53840.html (日本農業新聞論説 2021年3月26日) みどりの食料戦略 具体策検討 現場基点で 農水省は月内に、温室効果ガスの削減などを目指す農業の政策方針「みどりの食料システム戦略」の中間取りまとめを行う。農業は地球温暖化の被害を被っており、環境負荷の軽減は農業の持続性の確保には不可欠である。農業者が積極的に取り組めるよう、生産現場を基点とした具体策の検討が求められる。中間取りまとめ案では、2050年までに①化学農薬使用量を半減②化学肥料を3割減③有機農業を全農地の25%(100万ヘクタール)に拡大④化石燃料を使用しない園芸施設に完全移行――することなどを目標に掲げた。農業の在り方を巡る世界的動向が戦略策定の背景にある。国連は9月、食料システムサミットを開き、貧困・飢餓の撲滅や気候変動対策など持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた方策を議論。各国には食料の生産、加工、輸送、消費の一連の活動を変革する取り組みを示すよう求めている。欧州連合(EU)は既に新戦略「農場から食卓へ」で、30年を期限に化学農薬使用量の半減や有機農業面積の25%への拡大などの目標を設定。加盟国に計画策定と進捗(しんちょく)管理を徹底する。米国のバイデン政権も、農業での温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言。こうした情勢から日本も戦略をつくり、これを軸にサミットで表明する。サミットを機に国際的ルール作りの動きも起こり得る。高温多湿なアジアモンスーン気候に適した取り組みを反映させなければならない。具体策で同省は、農業の持続性と生産力の向上を両立させるとの方針の下、技術革新を重視。スマート農業などの機械・施設の開発に力点を置いているとの印象だ。日本有機農業学会は、課題として生態系の機能を向上させる技術開発が手薄だと指摘。有機農業は農家が開発した技術が大部分で、農家の技術交流や試験研究機関との共同研究などボトムアップ型の技術創出の仕組みづくりも提起する。環境負荷を軽減する農業を点から面に広げるには、地域ぐるみの取り組みの後押しが不可欠だ。土台は新技術の導入などの負担に見合った収入の確保、所得の向上である。必要なのは補助金など国による直接支援だけではない。消費者、食品・外食産業や、学校など公的機関による適正価格での積極的な購入の促進策が鍵となる。担い手の確保など生産基盤の強化や地域振興にどう結び付けるかも課題だ。また、環境に配慮せずに生産・輸入された安い農産物の流通を放置すれば、国産の適正価格の実現や需要拡大が困難になる恐れがある。これまで同省は生産者や企業、団体などと意見交換をしてきた。中間取りまとめ後は一般から意見を募集し、5月に決定したい考え。30年間の長期戦略である。より幅広い対話を通じて施策の総合化・体系化を図り、短期目標を含め、途中で検証可能な工程表を策定すべきだ。 *2-3:https://www.zck.or.jp/uploaded/attachment/3757.pdf (全国町村会長 荒木泰臣 令和3年3月26日)「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」の成立について 本日、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」が成立しました。議員立法の実現にご尽力いただいた国会の皆様をはじめ関係の皆様には、全国各地の過疎地域に足を運び、現場の声をしっかりと汲み取っていただきました。新たな過疎法は、人口減少・少子高齢化をはじめとする課題先進地である過疎地域の持続的発展に大きく貢献するものと期待しており、新たな過疎地域の指定要件のもとで支援措置の継続・拡充が図られるとともに、いわゆる卒業団体に対する経過措置にもきめ細かくご配慮をいただくなど、関係の皆様に心から感謝申し上げます。過疎地域を取り巻く環境は、多くの地域課題とともに新型コロナ感染症という未曾有の国難に直面し、極めて厳しい状況が続きますが、「東京一極集中の是正」と「地方の活性化」を国づくりの車の両輪にして、過疎地域も含めて国土全体を活かし切り、我が国の持続可能性を徹底的に追求し、国民の安全安心を確固としたものにしていかなくてはなりません。政府におかれましては、過疎地域の持続的な発展は、我が国の今世紀を見通して最大の課題ともいえる人口減少・少子高齢社会を克服し、自然災害や新型コロナウイルス等の災禍に強く、持続可能な国づくりを推進するうえで必須の取組であるとの認識のもと、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に基づく万全の措置を講じていただくようお願いします。多様な過疎地域を抱える私たち町村は、本会が繰り返し主張するように、我が国の文化・伝統の継承の場であるとともに、食料やエネルギーの供給、水源かん養、国土の保全、地球温暖化の防止、都市と農山漁村の交流など、国民生活にとって欠くことのできない重要な役割を担い続けており、新たな過疎法による力強い支援を一層の推進力にして、持続可能な地域づくりに全力で取り組んでまいる決意であります。 <エネルギー政策> *3-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70224300S1A320C2EE8000/ (日経新聞 2021年3月23日) 国境炭素税 WTO協議へ、事実上の「関税」紛争の火種 欧州前向き、日本も提起 温暖化対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せする「国境調整措置」をめぐる多国間協議が始まる。国境炭素税とも呼ばれ、事実上の関税となる制度が各国・地域で乱立すれば貿易戦争に発展する懸念があった。欧州連合(EU)が多国間協議に前向きで、日本も22日に開く世界貿易機関(WTO)の有志国会合で協議に着手するように提起する。対立の少ない制度づくりができるか、国際協調が試される。国境調整はEUなどが単独で制度設計に向けた考えを表明するにとどまっていた。各国・地域がそれぞれの産業に有利になる恣意的な措置をとると、反発した国が対抗措置を打ち「脱炭素」を名目とした通商問題が勃発するおそれがあった。こうした状況に危機感を強める日本は、国境調整を含む環境分野の貿易制度についてWTOで本格的な議論に着手するよう働きかける。米国にも参画を求めるほか、炭素の排出が多い新興国との橋渡し役も担う考え。EUも非公式にWTOで環境分野でのルールづくりに着手すべきだと主要国に打診しており、WTOが議論の主戦場になる流れになってきた。WTOなど多国間で話し合い、公平で透明性のある制度設計ができれば、世界全体での脱炭素に貢献できるとの期待がある。日本政府内には日米欧3極での検討の枠組みを模索する動きもある。多国間協議では、WTOルールに違反しない制度設計、温暖化ガス排出量の計算法、炭素への価格付けの手法、データの透明性の確保などが論点になる。関税のような仕組みにする場合、具体的にどのような製品を対象にするかも問題。EUが鉄鋼や石油化学品に課税するとの警戒論もある。日本は脱炭素への寄与度が高い製品の輸入にかかる関税を引き下げる案も各国に提案する方向だ。風力や燃料アンモニア、蓄電池、太陽光といった分野で数百以上の品目を念頭に置く。国境調整を巡っては、このほど経済協力開発機構(OECD)でもEUを中心に有志国での非公式会合が始まったことが分かった。OECD幹部は「気候変動問題ではこれまで以上に多国間協調が重要。関係国が対話する機会を増やしていく必要がある」と語り、議論を加速させる考えを示した。世界では先行するEUを中心に国境調整措置の検討を表明した国・地域が増えている。日本は経済産業、環境両省を中心に政府内での検討が始まったものの、実際に導入するかの判断はしていない。主要な貿易国である中国や米国との通商問題に発展するリスクもあり、まずはEUなどの動向を注視する構え。一部の国・地域が先行して制度設計を進めると、日本など取り残された地域は不利な制度での貿易を余儀なくされる懸念もある。EUがWTOでの国境調整のルールづくりを働きかけるのも、議論を主導し、EUに有利な制度を世界標準にする狙いもあるとみられる。日本は脱炭素をめぐるルール形成で存在感を発揮できるかどうかが課題になる。 *3-2-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN313BE0R30C21A3000000/ (日経新聞 2021年3月31日) Apple、取引先の半数が再エネ100%を表明 村田製作所も シリコンバレー=白石武志】米アップルは31日、同社に納める製品の生産に使う電力をすべて再生可能エネルギーでまかなうと表明したサプライヤーが110社を超えたと発表した。同社の主な取引先の約半数に相当する。アップルは取引の条件として環境対策を重視しており、残るサプライヤーも対応を迫られる。日本企業では村田製作所とツジデンの2社が、米企業では電子部品メーカーのマリアンなどが新たにアップル向け製品の生産で消費する電力を全面的に再生可能エネルギーに切り替えると約束した。すでに日本電産やソニーセミコンダクタソリューションズ、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業や台湾積体電路製造(TSMC)などがアップルに対し同様の取り組みを約束している。アップルの呼びかけに応じた取引先の数は2020年7月の約70社から8カ月間で1.6倍に増えた。アップルは30年までに自社の全製品について、生産と利用を通じて排出する二酸化炭素を実質ゼロに抑える方針を20年7月に表明した。同社製品の生産を担うサプライヤーには今後、再生可能エネルギーへの移行をより強く求めるとみられ、対応できない企業はアップルと取引ができなくなる恐れもある。再生可能エネルギーの利用経験が乏しい企業には、調達ノウハウなどを提供しているという。中国ではサプライヤーとともに3億ドル(約330億円)規模の基金を設立し、湖南省などで風力発電や太陽光発電プロジェクトにも投資している。アップルは31日、再生可能エネルギーの安定供給のため、カリフォルニア州で米国最大級の蓄電施設を建設していることも明らかにした。同社の太陽光発電施設で日中に発電した電力をためるため、約7000世帯が1日に消費する電力に相当する240メガ(メガは100万)ワット時の蓄電容量を持たせる。 *3-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODC07348007122020000000/ (日経新聞 2020年12月8日) 水素を30年に主要燃料に 目標1000万トン、国内電力1割分 政府は国内での水素利用量を2030年時点で1000万トン規模とする目標を設ける調整に入った。2050年の温暖化ガス排出実質ゼロを実現するには二酸化炭素(CO2)を出さない水素の活用が不可欠で、欧州や中国も力を入れ始めた。発電や燃料電池車(FCV)向けの燃料として利用を増やし、コストを引き下げて普及につなげる。政府が17年にまとめた水素基本戦略では、30年時点で30万トンの水素を使う目標を立てている。30万トンは原子力発電所1基分に相当する100万キロワットの発電所をほぼ1年間稼働させられる量になる。1000万トンなら30基以上を稼働できる。稼働率を考慮しない単純計算で国内全体の設備容量の1割強にあたる。電力の脱炭素では太陽光や風力など再生可能エネルギーの活用が進んでいるが、天候に左右されるため既存の発電所も必要だ。二酸化炭素(CO2)を出さない水素を発電所の燃料に使えば温暖化ガスを減らせる。再生エネの発電で余った電力を活用し水素を作ってためておくこともできる。課題はコストの高さだ。現在は1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり100円程度とみられ、液化天然ガス(LNG)の同13円程度を大幅に上回っている。政府は同等に抑えるために必要な年500万~1000万トン程度を将来的な目標に据えていた。今後見直す水素基本戦略では30年と目標時期を明確にすることを検討する。実証実験が進む水素発電の実用化を急ぎ、FCVの普及も加速させる。新設する2兆円の基金を活用したり設備投資への税優遇などで支援する。再生エネの拡大や石炭などの化石燃料の使用削減と合わせて推進する。民間も動き出した。トヨタ自動車や岩谷産業など88社は7日、水素インフラの整備を進める「水素バリューチェーン推進協議会」を立ち上げたと発表した。水素では14年に世界で初めて量産型FCV「ミライ」を発売したトヨタが民間の主導役を果たしてきた。ミライは9月までの世界販売が1万千台どまり。19年度の日本でのFCV販売はトヨタを含め約700台でEVの約2万台と比べ小さい。打開策として水素のフル充塡での航続距離を現在の約650キロメートルから約3割伸ばした新型ミライを12月中に発売する予定だ。決まったルートを走り水素を定期充塡しやすい商用車でも活用を促す。協議会は自動車以外でも水素の利用を進める。製鉄では鉄鉱石の還元を石炭由来から水素に切り替える。日本製鉄など高炉大手は50年までに水素を使ってCO2排出を減らす技術の実用化を目指す。東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAも発電燃料を水素に変え50年にCO2排出量を実質ゼロにする。一方でこうした水素を使った発電や製鉄の実現には大量の水素エネルギーを安く調達する必要がある。川崎重工業や岩谷産業、丸紅などは18年からオーストラリアで「褐炭」と呼ばれる低品位炭から水素を製造、液化し、日本に船で運び、発電などに使う輸送する実証事業を始めている。21年までに最初の水素製造・輸送試験を行う計画だ。川重はLNG運搬船の技術を生かし、液化水素を運搬する専用船の開発で先行している。30年には大型の水素運搬船の商用化を目指している。岩谷産業や関西電力なども25年に向けて水素で動く船の実用化を検討する。燃料電池を搭載し、水素と空気中の酸素を反応させてつくった電気で動かす。蓄電でも水素は有用だ。東芝は太陽光発電などによる電力をいったん水素に変えて保存・運搬し、再び電力などとして活用する技術を持つ。天候に左右されやすい再エネを安定的に供給できるようになる。協議会は21年1~2月に水素の普及に向けた議論を進め、2月中に政府に提言する方針だ。協議会の記者会見で梶山弘志経済産業相は「幅広いプレーヤーを巻き込みコスト削減を進める」と述べた。日本独自の技術があるとされる水素だが、普及への取り組みでは海外も無視できなくなっている。ドイツ政府は6月に国家水素戦略を発表、新型コロナウイルスからの復興策の一環として1兆円を超える予算を盛り込んだ。とくに製鉄や化学などの産業分野、船舶や航空機などの長距離・重量輸送の分野といった電動化が難しい分野での水素活用を推進する。ドイツが日本と違うのは、乗用車に活用の多くを委ねない点だ。独ダイムラーは小規模生産していた乗用車のFCVの生産を年内で終了し、開発をトラック部門に集約した。そのトラック部門では、燃料電池スタックの開発を競合のボルボ(スウェーデン)と統合し効率化、25年以降に航続距離1千キロメートルを超えるFCVトラックを量産する。中国も商用車を中心にFCVのサプライチェーン(供給網)を構築する。モデル都市群を選定し、都市群が技術開発を手掛ける企業を支援する仕組みを導入する。35年までに100万台前後の保有台数をめざす。中国政府は9月にFCVの販売補助金制度を撤廃し、FCVのモデル都市群を選定して技術開発企業に奨励金を与える制度を導入すると発表した。都市群に4年間でそれぞれ最大17億元(約260億円)の奨励金を支給する仕組みだ。 *3-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ231ZP0T20C21A3000000/?n_cid=NMAIL006_20210402_H (日経新聞 2021年4月2日) 「グリーン水素」へ東芝系など挑む 脱炭素の切り札に 燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、カーボンゼロ実現に向けた有望なエネルギーだ。その製造過程でもCO2を一切、排出しない水素が「グリーン水素」だ。製造に必要な電力は再生可能エネルギーを使う。グリーン水素を作り出す水電解装置の開発・製造では日本、欧州を中心に世界各社がしのぎを削る。 ●従来型より電力を3割削減へ 横浜市の臨海工業地帯にある東芝エネルギーシステムズの京浜事業所。ここでは燃料電池の技術を応用した次世代型の水素製造装置の開発が進む。目指しているのは省電力だ。装置が完成すれば、従来型より電力を3割削減できるようになる。水素には様々な製造法があるが、グリーン水素は水を電気で分解して作る。水電解の方法は、水素の取り出しにイオン交換膜を使う「固体高分子形(PEM形)」と強アルカリの水溶液に電流を流す「アルカリ形」の2つが主流だ。一方、東芝エネルギーシステムズが開発を進めるのは燃料電池の技術を応用した「固体酸化物形(SOEC)」と呼ぶ方式。水素と酸素を反応させて電気を生み出すのが燃料電池だ。これを逆にして水蒸気と電気から水素を作るのがSOEC方式の水電解装置だ。エネルギーシステム技術開発センター化学技術開発部の長田憲和氏は「PEM形やアルカリ形に比べ省電力に優位性がある。20年代後半には実用化したい」と話す。製造システムの低コスト化を目指すのはPEM形を製造する日立造船だ。構造を簡素化し部材を減らすなどして、従来品よりも製造費用を抑える製品を開発している。 ●相次ぐ大規模プロジェクト グリーン水素を製造する水電解装置の開発では、欧州メーカーが先行している。装置を大型化し、大規模なグリーン水素の製造プロジェクトを次々と打ち出している。独シーメンス・エナジーは15年から欧州などで大型の水素製造装置の出荷を始めた。19年にはオーストリアで6000キロワットの再エネ電力を使った水素製造装置を納入した。現在は1万7500キロワットの電力で年間約2900トンの水素を製造できる装置の開発に着手している。対応する電力容量が増えれば増えるほど大量の水素を製造できる。英ITMパワーは、2万4千キロワットの電力で水素を製造する装置を22年後半にも稼働させると発表。ノルウェーのネルもスペインなどで太陽光発電を利用した大規模な製造拠点を展開している。一方、日本でもグリーン水素の大規模製造プラントの建設が始まっている。旭化成は福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」で1万キロワットの太陽光発電の電力に対応した製造設備を納入。年間900トンの水素を製造でき、現時点では世界最大規模だ。地熱発電を利用する取り組みも始まる。21年7月をめどに大林組は大分県九重町で実証プラントを設置する。ただ、日本国内ではプラントの大型化に課題がある。ボトルネックになるのが再生エネ電力の価格だ。火力発電が主力の日本では再生エネ電力の価格が高止まっている。一方、メガソーラーや大規模な洋上・陸上風力発電設備の設置が進んでいる欧州では安価で再生エネ電力が調達できる。建設費などを含めた再生エネの発電コストを比べると日本は英国やドイツの2~3倍にもなる。一方、日欧メーカーでタッグを組む事例も出てきた。三菱重工業は20年10月、ノルウェーのハイドロジェンプロに出資。ハイドロジェンプロは、1日あたり水素を4.4トン製造できる9000キロワット級の水電解装置を開発している。欧州が先行し、日本が技術に磨きをかけている水電解装置だが、北米でもグリーン水素製造に動き始めた。20年11月、エンジンメーカーの米カミンズはカナダの水素製造装置メーカー、ハイドロジェニックスを買収。今後は中国メーカーの本格参入も見込まれる。上海電気は中国科学院大連化学物理研究所と提携してPEM形のR&Dセンターを新設すると発表。中国では大型プラントの開発計画もある。 ●日本政府も重視 日本政府は20年12月に発表した「グリーン成長戦略」で水素を重要な産業の一つに位置づけた。経済産業省は水電解装置は50年までに年間で約8800万キロワットの導入が進み、年間の市場規模が約4兆4000億円にまで及ぶと予測する。日本よりも再生エネの導入が先行する欧州市場への日本企業の参入を促す政策も打ち出している。世界に先駆け水素に着目し、技術開発を続けてきた日本メーカー。だが実用化・大型化では欧州に遅れをとっている。今後は技術力を生かし、海外勢にない製品をスピーディーに市場に投入する開発体制が求められる。 注)水素は無色透明な気体だが、カーボンゼロの観点から色分けされている。製造過程で完全に二酸化炭素(CO2)を排出しないのがグリーン水素。水を電気分解して水素を取り出す過程だけでなく、使用する電気も再生可能エネルギーを使う。もし火力発電など化石燃料由来の電力を使うとグリーン水素とは呼べなくなる。一方、現在世界で作られる水素の9割以上は、もっともレベルの低いグレー水素だ。天然ガスや石炭など化石燃料を燃やしガス化して抽出する。その際、CO2が発生し、大気に放出するとグレーとなる。CO2を地中に埋めてとじ込め、大気中に放出しなければブルー水素になる。ほかにターコイズ水素もある。天然ガスなどに含まれるメタンを電気で熱分解する製法で、炭素を固体化することでCO2を排出しない。使用する電気は再生エネルギーを使う。さらにはグリーン水素と同じ水電解で、原子力の電力を使うイエロー水素もある。水素自体はエネルギー源として使うため燃焼させてもCO2を発生しない。だが、その製造過程でCO2を排出してしまってはクリーンエネルギーとは呼べない。最終的にはグリーン水素の製造を目指す動きが欧州を中心に活発になっている。 *3-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/651651 (佐賀新聞 2021.3.30) <原発と暮らすということ>(4) 自治体の避難計画 形骸化、実効性に懸念、東日本大震災10年さが 佐賀市の3月議会一般質問。議員は納得のいかない表情で、九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の重大事故に備えた避難計画について質問を重ねた。「(佐賀市の住民は)施設や避難住民をどの程度受け入れるのか、ご存じないのでは」。担当部長は「唐津市から佐賀市に避難して来られる住民がいらっしゃることはご理解いただいていると思っている」と答弁する一方、こうも述べた。「(避難所の管理者に)通知、説明をしたかについて、書類は残っていない」 ●2万人のずれ 原発周辺の自治体には、重大事故に備えて避難計画の策定が義務付けられている。10年前の東京電力福島第1原発事故では広範囲の住民が避難を強いられた。これを教訓に、国は策定する範囲をそれまでの約10キロ圏から約30キロ圏に広げた。玄海原発の場合、玄海町だけでなく唐津市のほぼ全域と伊万里市の一部が入る。範囲内の人口は2020年5月現在、18万人を超える。避難先は範囲の外にある県内の全17市町になる。このうち佐賀市は、旧唐津市、相知町、厳木町の避難者を受け入れる。ただ、2人の議員が避難計画を取り上げた3月議会の質疑では唐津市から受け入れる避難者数について「約5万6千人」と「約7万7千人」の大きく異なる二つの数字が議論のベースとなった。大前提になる「避難者数」が約2万人もずれ、議論がかみ合わない場面もあった。市消防防災課は議会前、避難者数は約7万7千人との認識だったが、一般質問前のヒアリングで議員から「5万6千人では」と問われ、県や唐津市に確認。受け入れができる最大収容人数を、避難者数と勘違いしていた。同課課長は「正しい数字は恥ずかしながら、そのときに知った」と明かした。「市は受け入れる人数さえ分かっていない。お粗末な対応で、避難計画が形骸化している」。質問した議員は憤りを隠さない。このやり取りの直後、今月18日、水戸地裁は日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の運転差し止めを命じた。広域的な避難計画の見通しが立っていないことを問題視した。原発の稼働に、避難計画に関わる自治体にも一定の責任を負わせた形だ。 ●「正しく理解を」 玄海町は昨年から、防災専門官を採用し、原発事故を含めた避難計画の策定などを担っている。塚本義明専門官は「自然災害が激甚化し、町民の避難の意識は高まっている」とした一方、原子力災害では「どの時点で何をするかを伝えきれていない」と苦慮する。原発事故が発生した際、まずは屋内退避が基本。その後に自家用車、それが難しい場合はバスでの避難になる。ただ年1回の原子力防災訓練ではバス移動だけを行うケースが多い。塚本専門官は「事故が起きたらバスで避難だと思っている町民もいる。避難の流れを正しく理解してもらう必要がある」と頭を悩ませる。原発そのものの安全対策と「車の両輪」になる避難計画について、水戸地裁はこう要求する。「避難の実現が可能な計画で、実行できる体制が整備されていなければならない」 *3-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/652391 (佐賀新聞 2021/3/29) <原発と暮らすということ>(6)“準立地自治体”として 「原発議論の場」へ正念場、東日本大震災10年さが 東京電力福島第1原発事故から10年となった今年の3月11日、唐津市の大手口バスセンター近くでは、市内四つの市民団体が交代でマイクを握った。「これ以上、市民に不安を押しつけるのはやめてほしい」。行き交う人たちに九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の廃炉を訴えた。団体の代表として参加し、市内で薬局を営む北川浩一さん(74)は約5年前から、原発の情報を市民に伝え続けようと、平日に市役所前などに立ち続けている。「事故はいつ起きるか分からないからね。ここは玄海原発から11キロしか離れていないんですよ」。外津湾を隔て、玄海原発が目と鼻の先にある唐津市。避難計画が必要になる半径5~30キロ圏内(UPZ)の人口は11万人を超え、玄海町のUPZ人口2057人よりけた違いに多い。しかし、佐賀県や玄海町のように、再稼働や廃炉などの重要事項について「事前了解」をする権限はない。 ▽“もの申す”権利 原発建設以降、“蚊帳の外”だった唐津市はプルサーマル計画を転機に、県と交渉を始めた。2006年に確認書を交わし、市の意向に十分配慮することや必要に応じて連絡内容を市に通知することを盛り込んだ。3・11を受け、12年には九電とも協定書を締結する。九電が原発の重要な事項について県と玄海町に説明するときには市にも説明し、市は九電に意見の申し出ができると明記した。事前了解はできなくても、九電に“もの申す”ことができる枠組みを自ら勝ち取ってきた。市幹部は「市は意見ができる権利がある。プルサーマル、3・11を経て、県と九電には必ず確認書や協定書を守ってもらいたいというスタンスでやっている」と説明する。 ▽交渉のテーブル 「市民の立場を考えると“準立地自治体”として何かしらの施策、発言する場が必要」。唐津市議会の特別委員会は18年7月、玄海町の脇山伸太郎町長の就任を機に、玄海原発に特化した協議会の設置を峰達郎市長に申し入れた。福島の事故では被害が広範囲におよび、市民と近い議会側が動いた。念頭には日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の再稼働を巡り同年3月、立地する東海村と周辺5市に事前了解を認めた「茨城方式」があった。ただ、2年にわたる話し合いの末、峰市長は20年9月、原発に特化した協議会設置は「困難」と説明。玄海町側の難色を理由にゼロ回答だった。市議会特別委は同年12月、産業や観光、福祉なども含む包括的な形に「ハードルを下げた」(議員)報告書をまとめた。何とか玄海町をテーブルにつかせたい思惑がにじんだ。「議論の場を望む声は強い」。ある議員は議会側の雰囲気を明かす。事務レベルでは現在、協議会設置に合意しており、原発の議論ができるかどうかが焦点になる。「市長がどこまで腰を据えて交渉するのか。原発の話ができなければ、これまでと何も変わらない」。市民の声を代弁する議員の一人はくぎを刺した。 *3-3-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/706425/ (西日本新聞 2021/3/13) 原発リスク評価、割れ続ける司法 玄海訴訟判決 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の運転を「容認」した12日の佐賀地裁判決は、国の安全審査に「ノー」を突き付けた昨年12月の大阪地裁判決とは対照的な結論を導いた。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故から10年。各地で多くの訴訟が起こされ、なお司法判断が揺らぎ続ける現状は、改めて事故の深刻さと共に、今後原発エネルギーとどう向き合うのかを社会に問い続ける。「基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)の策定過程をきちんと理解しており、納得できる判決だ」。京都大複合原子力科学研究所の釜江克宏特任教授(地震工学)は、この日の判断を評価した。判決が踏襲したのは、四国電力伊方原発(愛媛県)を巡る1992年の最高裁判決が示した司法判断の枠組み。「原発は専門性が高いため裁判所は安全性を直接判断せず、審査基準や調査に不合理な点や重大な過ちがあった場合のみ違法とすべきだ」とする見解だ。多くの原発訴訟で、この枠組みに沿った「行政追認型」の判断が示されてきたが、裁判官の意識に変化が見られるようになったとの指摘もある。 ◆ ◆ 福島原発事故後、初めて原発の運転差し止めを命じた2014年5月の福井地裁判決は「福島原発事故後、同様の事態を招く具体的な危険性が万が一でもあるかという判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」と言及。最高裁枠組みにとらわれず地震対策に「構造的欠陥がある」とした。「想定を超える地震が来ないとの根拠は乏しい」「過酷事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」。その後も原発の運転を禁じる判断は相次いだ。高裁レベルでも17年12月と20年1月、四国電力伊方原発3号機を巡り、広島高裁が「火山の噴火リスクの想定が不十分」として運転差し止めを命じた。最高裁は12年1月、各地の裁判官を集め、原発訴訟をテーマにした特別研究会を開いていた。関係者によると、研究会では92年の最高裁判決の枠組みを今後も用いるとの方向性を確認。一方で、裁判所も原発の安全性について、より本格的に審査すべきだという意見も相次いでいたという。以降、個々の裁判体によって、原発の「リスク評価」の判断は割れ続ける。 ◆ ◆ 「どのような事態にも安全を確保することは現在の科学では不可能」(16年4月、九電川内原発を巡る福岡高裁宮崎支部決定)。破局的噴火など「発生頻度が著しく小さいリスクは無視できるものとして容認するのが社会通念」とする姿勢も根強い。原発の運転を禁じる判断はいずれも上級審や異議審で覆され、確定した例はない。原発の安全性に司法はどう向き合うべきか。中央大法科大学院の升田純教授(民事法)は「原発は非常に高度かつ総合的な科学技術。関連した専門性がない裁判官は、審査の手続きなどに看過できない誤りがある場合にのみ介入すべきだ」とし、最高裁判決の枠組みを尊重すべきだとする。一方、06年に金沢地裁裁判長として北陸電力に原発の運転差し止めを命じた井戸謙一弁護士(滋賀県)は「専門的で難しい内容はあるが、国や行政、学者の意見を丸のみしては司法の役割は果たせない」と指摘。この判決後、原発の耐震指針は強化されており「運転を認める場合でも安全性を高めるためのチェック機能を果たさなければ、司法は国民から見放されてしまう」と述べた。 ●原子力規制庁「厳格審査認められた」 九州電力玄海原発3、4号機の原子炉設置許可取り消しを求める訴えを退けた12日の佐賀地裁判決を受け、原子力規制委員会は「東京電力福島第1原発事故を踏まえて策定された新規制基準により、厳格な審査を行ったことが認められた結果と考えている。引き続き新規制基準に基づき、適切な規制を行ってまいりたい」とのコメントを出した。 ●妥当な結果、安全性確保に万全期す 九州電力のコメント 国と当社の主張が裁判所に認められ、妥当な結果と考えている。今後ともさらなる安全性・信頼性向上への取り組みを自主的かつ継続的に進め、原発の安全性確保に万全を期していく。 *3-3-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/96184 (東京新聞 2021年4月6日) 40年超原発、国が県に交付金 福井知事「再稼働の議論を」 福井県の杉本達治知事は6日、畑孝幸・県議会議長と面談し、運転開始から40年を超えた原発1カ所当たり最大25億円が国から県に交付されると明らかにした。国や関西電力による地域振興策や、住民への理解活動を説明した上で「県議会で(40年超原発の)再稼働の議論を進めてほしい」と改めて要請した。県内には関電の高浜原発(高浜町)と美浜原発(美浜町)に40年超の原発があり、県への交付金は最大50億円となる見通し。国は、立地地域の将来を見据え、原子力研究や廃炉支援、新産業創出といった振興策を関電や自治体で議論する会議を創設し、秋にも結果をまとめるという。 *3-3-5:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000156 平成11年法律第156号、平成24~30年6月改正までを含む「原子力災害対策特別措置法」より抜粋 (原子力事業者の責務) 第三条 原子力事業者は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し、誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。 (国の責務) 第四条 国は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害対策本部の設置、地方公共団体への必要な指示その他緊急事態応急対策の実施のために必要な措置並びに原子力災害予防対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により、原子力災害についての災害対策基本法第三条第一項の責務を遂行しなければならない。 2 指定行政機関の長(当該指定行政機関が委員会その他の合議制の機関である場合にあっては、当該指定行政機関。第十七条第七項第三号を除き、以下同じ。)及び指定地方行政機関の長は、この法律の規定による地方公共団体の原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように、その所掌事務について、当該地方公共団体に対し、勧告し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない。 3 内閣総理大臣及び原子力規制委員会は、この法律の規定による権限を適切に行使するほか、この法律の規定による原子力事業者の原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように、当該原子力事業者に対し、指導し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない。 第四条の二 国は、大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為による原子力災害の発生も想定し、これに伴う被害の最小化を図る観点から、警備体制の強化、原子力事業所における深層防護の徹底、被害の状況に応じた対応策の整備その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講ずる責務を有する。 (地方公共団体の責務) 第五条 地方公共団体は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により、原子力災害についての災害対策基本法第四条第一項及び第五条第一項の責務を遂行しなければならない。 (関係機関の連携協力) 第六条 国、地方公共団体、原子力事業者並びに指定公共機関及び指定地方公共機関は、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策が円滑に実施されるよう、相互に連携を図りながら協力しなければならない。 第一章の二 原子力災害対策指針 第六条の二 原子力規制委員会は、災害対策基本法第二条第八号に規定する防災基本計画に適合して、原子力事業者、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体、指定公共機関及び指定地方公共機関その他の者による原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策(次項において「原子力災害対策」という。)の円滑な実施を確保するための指針(以下「原子力災害対策指針」という。)を定めなければならない。 2 原子力災害対策指針においては、次に掲げる事項について定めるものとする。 一 原子力災害対策として実施すべき措置に関する基本的な事項 二 原子力災害対策の実施体制に関する事項 三 原子力災害対策を重点的に実施すべき区域の設定に関する事項 四 前三号に掲げるもののほか、原子力災害対策の円滑な実施の確保に関する重要事項 3 原子力規制委員会は、原子力災害対策指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 第四章 緊急事態応急対策の実施等 (原子力事業者の応急措置) 第二十五条 原子力防災管理者は、その原子力事業所において第十条第一項の政令で定める事象が発生したときは、直ちに、原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、当該原子力事業所の原子力防災組織に原子力災害の発生又は拡大の防止のために必要な応急措置を行わせなければならない。 2 前項の場合において、原子力事業者は、同項の規定による措置の概要について、原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、内閣総理大臣及び原子力規制委員会、所在都道府県知事、所在市町村長並びに関係周辺都道府県知事(事業所外運搬に係る事象の発生の場合にあっては、内閣総理大臣、原子力規制委員会及び国土交通大臣並びに当該事象が発生した場所を管轄する都道府県知事及び市町村長)に報告しなければならない。この場合において、所在都道府県知事及び関係周辺都道府県知事は、関係周辺市町村長に当該報告の内容を通知するものとする。 (緊急事態応急対策及びその実施責任) 第二十六条 緊急事態応急対策は、次の事項について行うものとする。 一 原子力緊急事態宣言その他原子力災害に関する情報の伝達及び避難の勧告又は指示に関する事項 二 放射線量の測定その他原子力災害に関する情報の収集に関する事項 三 被災者の救難、救助その他保護に関する事項 四 施設及び設備の整備及び点検並びに応急の復旧に関する事項 五 犯罪の予防、交通の規制その他当該原子力災害を受けた地域における社会秩序の維持に関する事項 六 緊急輸送の確保に関する事項 七 食糧、医薬品その他の物資の確保、居住者等の被ばく放射線量の測定、放射性物質による汚染の除去その他の応急措置の実施に関する事項 八 前各号に掲げるもののほか、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止を図るための措置に関する事項 2 原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間においては、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、原子力事業者その他法令の規定により緊急事態応急対策の実施の責任を有する者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、緊急事態応急対策を実施しなければならない。 3 原子力事業者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体の長その他の執行機関の実施する緊急事態応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、原子力防災要員の派遣、原子力防災資機材の貸与その他必要な措置を講じなければならない。 第五章 原子力災害事後対策 (原子力災害事後対策及びその実施責任) 第二十七条 原子力災害事後対策は、次の事項について行うものとする。 一 原子力災害事後対策実施区域における放射性物質の濃度若しくは密度又は放射線量に関する調査 二 居住者等に対する健康診断及び心身の健康に関する相談の実施その他医療に関する措置 三 放射性物質による汚染の有無又はその状況が明らかになっていないことに起因する商品の販売等の不振を防止するための、原子力災害事後対策実施区域における放射性物質の発散の状況に関する広報 四 前三号に掲げるもののほか、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止又は原子力災害の復旧を図るための措置に関する事項 2 指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、原子力事業者その他法令の規定により原子力災害事後対策に責任を有する者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、原子力災害事後対策を実施しなければならない。 3 原子力事業者は、法令、防災計画、原子力災害対策指針又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体の長その他の執行機関の実施する原子力災害事後対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、原子力防災要員の派遣、原子力防災資機材の貸与その他必要な措置を講じなければならない。 (市町村長の避難の指示等) 第二十七条の二 前条第一項第一号に掲げる調査により、当該調査を実施した原子力災害事後対策実施区域において放射性物質による環境の汚染が著しいと認められた場合において、当該汚染による原子力災害が発生し、又は発生するおそれがあり、かつ、人の生命又は身体を当該原子力災害から保護し、その他当該原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、当該原子力災害事後対策実施区域内の必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退き又は屋内への退避を勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退き又は屋内への退避を指示することができる。 2 前項の規定により避難のための立退き又は屋内への退避を勧告し、又は指示する場合において、必要があると認めるときは、市町村長は、その立退き先又は退避先として第二十八条第一項の規定により読み替えて適用される災害対策基本法第四十九条の四第一項の指定緊急避難場所その他の避難場所を指示することができる。 3 前条第一項第一号に掲げる調査により、当該調査を実施した原子力災害事後対策実施区域において放射性物質による環境の汚染が著しいと認められた場合において、当該汚染による原子力災害が発生し、又は発生するおそれがあり、かつ、避難のための立退きを行うことによりかえって人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあると認めるときは、市町村長は、当該原子力災害事後対策実施区域内の必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、屋内での待避その他の屋内における避難のための安全確保に関する措置(以下「屋内での待避等の安全確保措置」という。)を指示することができる。 4 市町村長は、第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避を勧告し、若しくは指示し、若しくは立退き先若しくは退避先を指示し、又は前項の規定により屋内での待避等の安全確保措置を指示したときは、速やかに、その旨を原子力災害対策本部長及び都道府県知事に報告しなければならない。 5 市町村長は、避難の必要がなくなったときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。前項の規定は、この場合について準用する。 (警察官等の避難の指示) 第二十七条の三 前条第一項又は第三項の場合において、市町村長による避難のための立退き若しくは屋内への退避若しくは屋内での待避等の安全確保措置の指示を待ついとまがないと認めるとき、又は市町村長から要求があったときは、警察官又は海上保安官は、当該原子力災害事後対策実施区域内の必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退き若しくは屋内への退避又は屋内での待避等の安全確保措置を指示することができる。 2 前条第二項の規定は、警察官又は海上保安官が前項の規定により避難のための立退き又は屋内への退避を指示する場合について準用する。 3 警察官又は海上保安官は、第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避又は屋内での待避等の安全確保措置を指示したときは、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。 4 前条第四項及び第五項の規定は、前項の通知を受けた市町村長について準用する。 (指定行政機関の長等による助言) 第二十七条の四 市町村長は、第二十七条の二第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避を勧告し、若しくは指示し、又は同条第三項の規定により屋内での待避等の安全確保措置を指示しようとする場合において、必要があると認めるときは、指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長又は都道府県知事に対し、当該勧告又は指示に関する事項について、助言を求めることができる。この場合において、助言を求められた指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長又は都道府県知事は、その所掌事務に関し、必要な助言をするものとする。 (避難の指示等のための通信設備の優先利用等) 第二十七条の五 災害対策基本法第五十七条の規定は、市町村長が第二十七条の二第一項の規定により避難のための立退き若しくは屋内への退避を勧告し、若しくは指示し、又は同条第三項の規定により屋内での待避等の安全確保措置を指示する場合について準用する。 (市町村長の警戒区域設定権等) 第二十七条の六 第二十七条第一項第一号に掲げる調査により、当該調査を実施した原子力災害事後対策実施区域において放射性物質による環境の汚染が著しいと認められた場合において、当該汚染による原子力災害が発生し、又は発生するおそれがあり、かつ、人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、当該原子力災害事後対策実施区域内に警戒区域を設定し、原子力災害事後対策に従事する者以外の者に対して当該警戒区域への立入りを制限し、若しくは禁止し、又は当該警戒区域からの退去を命ずることができる。 2 前項の場合において、市町村長若しくはその委任を受けて同項に規定する市町村長の職権を行う市町村の職員による同項に規定する措置を待ついとまがないと認めるとき、又はこれらの者から要求があったときは、警察官又は海上保安官は、同項に規定する市町村長の職権を行うことができる。この場合において、同項に規定する市町村長の職権を行ったときは、警察官又は海上保安官は、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。 3 第二十七条の四の規定は、第一項の規定により警戒区域を設定しようとする場合について準用する。 *3-3-6:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/706523/ (西日本新聞 2021/3/13) 玄海原発設置許可取り消し認めず 佐賀地裁、規制委審査「合理的」 九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の周辺住民ら559人が国と九電に対し、玄海3、4号機の設置許可取り消しと運転差し止めを求めた二つの訴訟の判決が12日、佐賀地裁であった。達野ゆき裁判長は、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の審査について「看過しがたい過誤や欠落は認められない」と述べ、いずれも請求を退けた。原告側は判決を不服として控訴する方針。原告は「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」。主な争点は、原発の耐震設計の目安となる基準地震動の妥当性と、阿蘇カルデラ(熊本県)の破局的噴火リスクだった。同様の訴訟では昨年12月、大阪地裁が関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の設置許可を取り消す判決を出しており、佐賀地裁の判断が注目されていた。判決は規制委について「原発の安全性に関して高度の専門性を有する機関」と説明。規制委が専門的知見に基づき策定した新規制基準や同基準による原発の設置許可も合理的だと述べた。基準地震動については、規制委の内規「審査ガイド」に記載された平均値を超える地震データ「ばらつき」の考慮が焦点となった。大阪地裁判決は、ばらつき分の上乗せの要否を検討しなかった規制委の判断過程を「審査すべき点を審査しておらず違法」と断じたが、佐賀地裁判決はばらつきは基準地震動を導く計算式の「適用範囲を確認する留意点」にすぎず、上乗せを要求する記載はないとした。阿蘇カルデラの噴火リスクに関しては「原発の運転期間中に破局的噴火を起こす可能性は十分に小さい」と指摘。このような噴火を想定した法規制などが原子力安全規制分野の他に行われていないことを踏まえ「リスクは社会通念上容認されている」と結論付けた。 *玄海原発 九州初の原発。1975年に1号機、81年2号機、94年3号機、97年4号機が運転開始。3号機は2009年から使用済み核燃料を再処理したプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電をしている。11年の東京電力福島第1原発事故を踏まえた新規制基準による審査を経て18年3月に3号機、同6月に4号機が再稼働。1、2号機は廃炉が決定した。 <教育・研究> *4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210327&ng=DGKKZO70407180W1A320C2EA3000 (日経新聞 2021.3.27) 社会変革へ30兆円投資 科技基本計画 進学者減り弱る研究現場 政府は26日、科学技術政策の方針を示す「第6期科学技術・イノベーション基本計画」を閣議決定した。脱炭素やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった社会変革に向け、2021年度から5年間で政府の研究開発投資を総額30兆円とする目標を掲げた。新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークやオンライン教育など日本のデジタル化や社会変革の遅れが浮き彫りとなった。20年度までの第5期基本計画でも目指す社会像として「ソサエティー5.0」と名付けた「超スマート社会」を提唱したが、実現にはほど遠い。第6期基本計画は社会変革、研究力強化、人材育成の3つが柱となる。日本は研究論文の質・量ともに国際的地位が低下。研究者の任期付き雇用増加や大学院博士課程への進学者減少など研究現場は危機的な状況にある。新計画は博士学生への生活費支援など研究力強化と人材育成には抜本的な取り組みも盛り込んだが、社会変革に向けた道筋は明確でない。政府は科技予算の拡大を呼び水に、企業にも研究開発への投資を促す。今後5年間で官民合わせた研究開発投資で総額120兆円との目標も掲げた。規制緩和や税制なども含む政策の総動員とともに、産官学が一体となってイノベーションを生み出し、普及させる必要がある。 *4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14864870.html?iref=comtop_Opinion_01 (朝日新聞 2021年4月8日) 米は学生に週2回PCR、日本は根本的対策なし 宮地ゆう ■大学での検査、安心のために整備を 新型コロナウイルスの感染拡大が続く昨年6月ごろ、米国の一部の大学で学生に週2回、定期的にPCR検査を実施する「サーベイランス検査」の態勢を作ろうとしていると聞いた。学内で1日数千件の検査をすることで感染を抑え、一度閉鎖した大学を再開させるという。折しも、日本では発熱したり濃厚接触者になったりしても検査が受けられないという悲痛な声があがっていたころだ。どうしたら、そんなことが可能なのか。米国のいくつかの大学を取材すると共通点があった。無症状の感染者を見つけて隔離する重要性に早期に気付いたこと。そして、どれだけ検査をすれば「科学的に安全」と言えるのかを計算し、その態勢を目指したことだ。とはいえ、前代未聞の試みに、どの大学も試行錯誤だったようだ。研究用に使っていたPCR検査機に加え、ロボットを自作して検査数を増やしたり、複数の検体をまとめて検査する「プール方式」を採用したり。保健当局と折衝をしつつ、数をこなすために独自の検査方法を編み出した大学もある。こうして1日数千件という検査態勢を作り上げた。その背景には、「学生間や地域への感染を広げないことは大学の責務」(コーネル大副学長)との考えがあったようだ。日米では大学の置かれた環境も財政規模も違い、容易に比較はできない。だが、日本では「若者が感染を広げている」と、大学生らに厳しい目が向けられる一方で、若者の間の感染を抑える根本的な対策はほとんどない。文部科学省は大学での対面授業を促しているが、多くの大学は教室の人数制限や換気といった対策がメインだ。ある私大の教授は「検査などの基本的な態勢がないのに対面授業を拡充しろと言われ、しわ寄せは現場の教員にくる」と訴える。研究室にPCR検査機を持つある国立大の教授は「学内の検査だけでも感染抑止には意味がある。設備も人材もあるのに、大学はなかなか動かない」と嘆いた。学内の検査態勢を整えることは、学生や教職員の安心につながる。長期化するコロナ禍の大学生活を乗り切るために、考えるべきではないだろうか。 *4-3:https://mainichi.jp/articles/20210401/ddm/005/070/115000c (毎日新聞社説 2021/4/1) 新しい高校教科書 探究支える体制づくりを 来春から主に高校1年生が使う教科書の検定結果が発表された。新しい学習指導要領に対応した初めての教科書となる。多くの科目が新設され、生徒同士の議論や課題の探究を重視する内容となった。「現代社会」に代わる「公共」は、政治や社会への関わり方を考える主権者教育に重点を置いた。大学入試で女性の受験者が不利な扱いを受けていた問題を、男女平等に関する議論の題材にするなど、身近な事柄を通じて社会の課題を考えさせる工夫が凝らされている。高校の授業は、教師による一方通行型の詰め込み教育と批判されてきた。そこから転換を図る方向性は間違っていない。だが、課題も多い。教えるべき知識の量はさほど減っていない。そのため、授業で議論に多くの時間が割かれるようになると、知識を定着させるために長時間の家庭学習が必要となる可能性がある。生徒の負担が過重にならないよう配慮することが不可欠だ。新たな必修科目や、探究型の学習への対応を求められる教師自身の負担も小さくない。プログラミングなどを教える「情報Ⅰ」も必修となる。だが、免許を持つ教師は少なく、現在は専門外の教師が教えているケースが多いのが実情だ。教師の指導力の差が広がれば、生徒がそのしわ寄せを受ける心配がある。できるだけ多くの教師が専門性を高められるように、研修の充実が欠かせない。今回、「公共」や、近現代の日本史と世界史を統合した「歴史総合」では、領土問題に関する記述に多くの意見がつき、政府見解に基づく表現に修正された。探究型の学習を重視するのなら、多様な意見を知ったうえで、議論を交わし、問題の本質を理解する過程を大事にすべきだろう。大学入学共通テストも2025年から、新学習指導要領に応じた形で編成が変わる。入試に備える点からも、生徒と教師が新しい教科書を十分に活用できるようにすることが大切だ。国は自治体と連携し、探究型の学習を実現できる体制づくりを進めなければならない。 *4-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF075O6007122020000000/ (日経新聞 2020年12月8日) 脱炭素、投資額の1割税額控除 政府・与党最終調整 政府・与党は脱炭素につながる製品の生産拡大を促すために検討している税優遇策について、最大で設備投資額の1割を法人税から税額控除する方向で最終調整に入った。製造設備への投資を促す減税としては過去最大の控除率となる見通し。2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標に向け「グリーン投資」に踏み切る企業を後押しする。近く決定する与党税制改正大綱に盛り込む。次世代型のリチウムイオン電池や燃料電池、電圧制御に使うパワー半導体、風力発電機など、脱炭素を加速すると見込める分野を政府が指定し、製造設備の増強や生産プロセスの省エネルギー対応などを税優遇の対象とする。さらに対象分野を増やすことも検討する。税優遇を受けるには企業が国に対し、投資を通じた脱炭素への貢献を示す事業計画を提出する。認定を受ければ税額控除を活用できる。国が定める脱炭素への貢献度の指標に応じ、5%か10%を法人税から差し引ける仕組みで調整する。来年の通常国会に産業競争力強化法改正案を提出し認定制度を設ける。21年度から3年間の税制とする。菅義偉首相は4日、脱炭素に向けた研究・開発を支援する2兆円の基金創設を表明した。グリーンとデジタルの2分野を成長の源泉と位置づけており、予算と税制の両面で支援策を講じる。 *4-5:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1301211.html (琉球新報社説 2021年4月9日) デジタル法案衆院通過 拙速な手続き許されない デジタル庁創設を柱とした「デジタル改革関連法案」が6日、与党などの賛成多数で衆院を通過した。このまま成立すれば、地方自治体ごとに整備してきた個人情報保護のルールが白紙となり、データ利用の推進を掲げた国の規定に一元化されてしまう。「監視社会」の到来や、企業による商業利用といった多くの懸念を抱えたまま、首相に強大な権限を集め、行政機関が持つ膨大な情報をデジタル庁が一手に収集できるようになる。数の力で成立を押し切ることは、将来に必ず禍根を残す。日程ありきの手続きは拙速であり、許されない。デジタル関連法案は、60本以上もの法改正を一括して審議するよう求める「束ね法案」だ。本来であれば法案の一つ一つを審議し、相応の審議時間が必要になる。しかし、衆院内閣委員会で関連法案の審議時間は30時間にも満たず、過去の重要法案と比べてもあり得ない短さだ。熟議とは程遠く、国会審議が形骸化していると言わざるを得ない。60を超える法案には、「脱はんこ」として話題を集めた押印手続きの削減もあれば、マイナンバーと預貯金口座のひも付け、個人情報保護法の見直しなど、個人の権利との関わりで慎重な議論を要するものまで一緒くたになっている。一括審議で国会審議を進めていい案件ではない。これまで個人情報の保護は、住民に近い自治体がそれぞれで条例を制定し、思想信条や病歴・犯歴などの要配慮情報の収集は禁じるなどの慎重な取り扱いを定めてきた。何の目的に使うかという住民本人の合意を得た上で、個人情報を取り扱うことが自治体では原則となっている。これに対し政府は、膨大なデータを民間のビジネスにも容易に利用できるようにするという目的を掲げ、規制が緩い国のルールに自治体まで組み込んでしまおうとしている。本人同意による直接収集という個人情報保護の原則はなし崩しとなり、本人の同意なく個人情報を吸い上げることも可能となる。企業による個人情報の収集では、就職情報サイトの「リクナビ」が、サイト閲覧履歴のデータなどから学生の「内定辞退率」を予測し、企業に販売したことが問題となった。世界的にも「GAFA」と呼ばれる大手IT企業が大量の個人データを独占し、規制の難しさに国際社会が直面している。デジタル化の推進はプライバシー保護との間で慎重な議論が求められる。当事者のあずかり知らないところで情報がやり取りされる状況がある中で、国民の権利として「自己情報コントロール権」を確立し、保障することこそ、これからの時代に政府が果たす役割だ。「木を隠すなら森の中」と言わんばかりの、束ね法案による乱暴な手続きは認められない。個別の法案として、提案をし直すことだ。 *4-6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210411&ng=DGKKZO70895430R10C21A4MM8000 (日経新聞 2021.4.11) EV製造時のCO2削減 ホンダなど検討 部品ごと排出量公開 ホンダや独BMWなど世界の自動車大手が電気自動車(EV)向けの電池で、生産段階から温暖化ガスの排出量を減らす取り組みに着手する。素材や部品ごとの二酸化炭素(CO2)排出量の公開を検討し、取引先に対策を促す。環境対応力による選別が進むことになる。EVは走行時にCO2を排出しないが、生産時の排出量はガソリン車の2倍を超える。その半分を占めるのが電池だ。材料に使う化合物などの製造に多くのエネルギーを使う。今後は管理が強まる。欧州連合(EU)は2024年から、電池の生産から廃棄まで全過程で出る温暖化ガスの排出量を申告するよう義務付ける。自動車メーカーが対応に動き始めた。ホンダやBMWは世界経済フォーラムの傘下組織である「グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)」に加盟し、GBAが準備を進める新たな仕組みの活用を検討する。GBAのベネディクト・ソボトカ共同議長は「(ホンダ以外にも)多くの企業に参加を呼びかけている」と話した。GBAは電池の生産工程などに関するデータベースを立ち上げる計画だ。生産履歴を遡り、部品や素材ごとに産出地のほか生産や輸送で発生したCO2の排出量なども調べられるようにするものだ。22年にも試験運用を始める。自動車メーカーは自社が使う電池の情報を登録する。データベースを通じ、より環境負荷の低い製品を選べるため、電池メーカーは対策を迫られる。情報の正確性はGBAが企業に裏付けを求めるなどして担保する。ホンダは日本経済新聞の取材に「GBAに参画するのは事実。データベースの活用はまだ決めていない」と答えた。BMWからは回答がなかった。 *4-6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210411&ng=DGKKZO70853300Z00C21A4MY1000 (日経新聞 2021.4.11) 電気自動車が「排ガス」、電池製造でCO2、再エネに期待 電気自動車(EV)は「排ガス」を出さず脱炭素にうってつけの技術に思えるが、死角がある。製造時にガソリン車を上回る二酸化炭素(CO2)が出る。さらに、充電する電気がクリーンでなければ、電気を使うたびに温暖化ガスを排出しているようなものだ。2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにしようと、日本などの主要国は30年代にガソリン車の新車販売を禁じる。EVの普及は切り札になるのか、それともイメージ先行なのか。20年12月、欧州連合(EU)の欧州委員会がEVなどの電池の生産に環境規制を課す案を公表した。24年7月から、製造から廃棄までのCO2排出量の報告を義務付け、27年7月には排出上限を定める。工業製品の環境負荷を評価するライフサイクルアセスメントに詳しい日本LCA推進機構の稲葉敦理事長は「欧州の規制に対応できるように日本の規制の枠組みも考えないといけない」と指摘する。なぜEVにも規制が必要なのか。ガソリン車はガソリンをエンジンで燃やし、CO2などを出して走る。EVは電池にためた電気で必要な運動エネルギーを得る。電気でモーターを動かし、走行時にCO2を出さない。だからこそクリーンな車とされてきた。盲点は動力源の電池だった。EVにも力を入れるマツダは19年、工学院大学教授だった稲葉理事長と共同で、先行研究も参考にして分析した。製造工程全体でEVはガソリン車の2倍を超えるCO2を排出する計算になった。EVは電池をつくるだけでエンジン製作の4~5倍となる約6トンのCO2を出すという。主流のリチウムイオン電池は多様な金属の化合物を使い、金属の製造や化学工程で大量のエネルギーを消費する。米アルゴンヌ国立研究所の研究者が19年に公表した論文によると、リチウムイオン電池の製造ではリチウムやマンガンなどでできた正極材料の作製に最も多くのエネルギーを費やす。全体の4割を占めるという。リチウムイオン電池に使うアルミニウムの製造にも大量の電気が要る。EVは充電の電気がクリーンかどうかも問われる。自宅や充電ステーションの電気は多くが電力会社から届く。太陽光、水力、風力など再生可能エネルギーや原子力発電の電気であればCO2排出は抑制される。化石燃料を燃やす火力発電の電気なら、CO2を出しているとみなされる。再生エネの割合は国によって違う。マツダと稲葉理事長は日米欧中豪の5カ国・地域について、「製造」「使用」「廃棄」などを通じたEVとガソリン車のCO2排出量を比べた。充電の電気がCO2と関わっていても、走行距離が長ければEVが有利になる。だが米国では6万キロ、欧州では7万6千キロ走って、やっとEVのCO2排出量がガソリン車を下回った。日本では11万キロの走行が必要だった。米国はガソリン車の燃費などが悪く、EVが有利になりやすい。欧州は再生エネや原子力発電の割合が高く、CO2をともなう発電が少ない。日本はガソリン車の燃費が良いうえに火力発電頼みが裏目に出る。結果として、EVが多くのCO2を出す。マツダは研究を踏まえ、あえて電池の容量を抑えた同社初の量産型EVを1月に発売した。EVは真の温暖化対策になり得るのか。京都大学の藤森真一郎准教授らは、世界で50年にEVが100%導入された場合の未来をコンピューターで描き出してみた。CO2排出量の削減効果をシミュレーションしたところ、火力発電に依存した現状のままでは、EVを大量導入してもCO2排出量はほとんど減らず、増加する可能性すらあった。藤森准教授は「EV製造時の排出量削減やエネルギー効率の向上、供給する電気の再エネ化などを進めないとEV導入の脱炭素効果は上がらない」と指摘する。EVとガソリン車の比較を巡っては英国で20年に「EVがガソリン車よりCO2の排出を減らすには5万マイル(約8万キロ)も走る必要がある」との趣旨の試算を自動車会社と関わる団体が公表し、一部報道で「(ガソリン車を有利に見せる)誇大広告だ」との批判も出た。製造時のCO2の排出量については研究によってまちまちで評価が定まっていない面もある。それでもEVの導入がムダだという専門家は少ない。EVが切り札になるかどうかは国を選ぶ。EVは各国・地域が再生エネの導入や製造工程の脱炭素化に真摯に取り組んでいるかを映す鏡なのだ。 *4-7:https://www.asahi.com/articles/ASP313HVBP2VUHBI002.html (朝日新聞 2021年3月2日) EU、ワクチン証明書導入へ 「差別につながる」懸念も 欧州連合(EU)は、新型コロナワクチンを接種したことを公的に示す「ワクチン証明書」の導入を進めているとし、技術面だけで少なくとも3カ月かかるとの見通しを2月25日に示した。ただ、観光旅行や日常生活などでの利用については、ワクチン接種が進んでいない現状では「差別につながる」との懸念も強く、慎重に議論を続ける。オンライン形式で開いた首脳会議後の記者会見でフォンデアライエン欧州委員長が説明した。証明書はデジタル化を想定し、接種したワクチンの種類やPCR検査の結果といった基本的なデータを盛り込んでEU共通の仕様にする。各国のシステムの連携などに時間がかかるという。観光への依存度が高いギリシャなどでは、証明書を「ワクチンパスポート」として入国制限の緩和などに結びつけ、観光業の再興につなげたい考えだ。ただ、EU内でワクチンを1回でも接種した成人は、まだ5%どまり。フォンデアライエン氏は、証明書の夏までの実用化も念頭に、「どう使うかは各国の判断だ」としつつも、バランスの取れた対応が必要だとした。EU域内では、変異ウイルスが広がりを見せており、加盟27カ国のうち7カ国で感染が増える傾向にあるという。このため、承認済みワクチンの変異株対応の審査を迅速化したり、域内での治験がスムーズに進むよう連携を深めたりする方針だ。 PS(2021年4月15、30日追加): *5-1のように、米アップル・グーグル・ネスレ・コカコーラ・ウォルマート・ナイキ・GE・エジソンインターナショナル等の米国企業310社が、4月13日、「①2030年までに温暖化ガスを2005年比で半減する目標を掲げるよう求める」「②クリーンエネルギーに投資してエネルギー効率を高めることは米経済をより包括的で公正にする」「③2030年の高い目標設定が力強い景気回復をもたらし、何百万もの雇用を生み出す」「④耐久力あるインフラ・排気ガス排出0の車・建物などの構築にも繋がる」という書簡をバイデン米大統領に送ったそうだ。また、欧州議会の環境委員会も、自動車大手ルノー・家具のイケアなど多くの企業の支持を得て、「⑤欧州連合(EU)は2030年に1990年比で温暖化ガスの排出量を55%減らす目標を掲げている」「⑥一緒に行動することで変化を起こせる」として脱炭素に向けて協調するよう求める書簡を米政府に送っている。これらは、日本にも完全に当てはまることだが、地球温暖化を止め持続可能性を維持することが目標であるため、平時でも温排水やトリチウムなどの放射性物質を海洋に放出している原発は、クリーンエネルギーに含まれない。 なお、*5-2-1のように、「⑦フクイチは2011年の津波で炉心の溶融事故を起こし、高濃度の放射性物質を含む汚染水が今も発生している」「⑧汚染水は、専用装置(アルプス?)で主な放射性物質を取り除いた後も放射性物質のトリチウム(三重水素)を含む」「⑨その放射性物質が残る汚染水を海洋放出することが決まった」「⑩配管の設備工事などを終えて実際に放出できるのは2年後になる」「⑪風評被害が起きた場合は、東電が被害の実態に見合った賠償をする」とのことである。 ここで、第1の問題点は⑦で、まだ高濃度の放射性物質を含む汚染水が発生しているのなら、大金をかけて凍土壁を作ったのは無駄遣いだったのではないかという点だ。また、第2の問題点は⑧で、*5-2-2に書かれているとおり、トリチウムだけでなく他の放射性物質も残っていることは隠されていた上、現計画でもトリチウムの分離等の他の方法は検討されていないことだ。さらに、第3の問題点は、⑨⑩の根拠として、100倍以上に薄めてWHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を下げて海洋放出すれば、放出する総量が変わらなくても問題ないと強弁している点である。第4の問題点は、「⑫廃炉を円滑に進めるためには保管施設として6万平方メートルの土地が必要でタンクが減らなければ廃炉に支障が出る」と言うが、それなら始めから海洋放出することを前提にタンクを建設して無駄遣いしていただけではないかという点だ。その上、⑪のように、「⑫売れなくなったら風評被害だ」「⑬関係者が理解していない」として福島県や近隣県の農産品の販路拡大の支援をするというのは、公害による汚染に無頓着な人が、気にしている人を馬鹿にするという本末転倒の状況なのである。 それでは、専用装置(ALPS《アルプス》)で再処理してトリチウム以外の放射性物質が含まれない“処理水”にすれば安全なのかと言えば、*5-2-3のように、「体内に取り込まれたトリチウムが遺伝子の構成元素になると、放射線(β線)を出してトリチウムがヘリウムになる時に遺伝子(DNA)が壊れる」のである。しかし、その前に水や食品に含まれて体内に入ったトリチウムはβ線を出すときに消化管の細胞を傷つけ、その後に、血液中に移って体中を巡り、体中の細胞を傷つける(これが内部被曝だ)。そして、100倍以上に薄めてWHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を下げたとしても、EUの水質基準の26倍の濃さであり、総量を海洋放出すれば魚介類等の海産物はトリチウムを含む水の中に住み、その水を体内に取り込んで暮らすことになり、食物連鎖で次第に濃縮する。そのため、「風評被害だ」「販路拡大だ」と言っている人こそ、この生態系の仕組みを理解していないと思う。 なお、*5-2-2・*5-2-4に書かれている中国・台湾・韓国による汚染水の海洋放出批判は尤もだが、これらの国の排他的経済水域に至るには、海流に乗って太平洋全域を汚染した後に東シナ海や日本海に入るため、太平洋でかなり薄まり、北太平洋の公海で獲る魚以外は汚染がないだろう。それより、中国や韓国にある原発が同じ事故を起こせば、太平洋よりもずっと狭い日本海が汚染されるため、中国や韓国も早々に卒原発に舵を切ってもらいたい思う。 このような中、*5-3のように、「①福井県の杉本知事が運転開始から40年超の関電美浜原発3号機、高浜原発1、2号機の3原発の再稼働に同意」「②原則40年ルール下での初の延長運転」「③40年超原発1カ所当たり最大25億円の交付金交付」「④使用済核燃料は県外搬出が前提」とのことだが、①②④は、国民の血税から支払われる③の交付金に目が眩んだ無責任な判断だ。そのため、海流の川下になる石川県や風下になる滋賀県・京都府などからは苦情が出るのが当然で、パリ協定のCO₂排出0は、平時でもトリチウムや温排水を出し続け、事故時には海を含む広い地域に深刻な汚染をもたらす原発に頼らず再エネのみで達成すべき目標である。従って、今は、「原発は安定電源」などと無理な合理化をせず、再エネや分散型発電を国際価格並みに安価にするための投資に集中すべき時である。 *5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN13E7L0T10C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月14日) 米の温暖化ガス「30年に半減を」 Appleなど310社要望 米アップルやグーグル、ネスレなど米国で事業を展開する企業310社が13日、バイデン米大統領に対し、2030年までに温暖化ガスで05年比で半減とする目標を掲げるよう求める書簡を送った。欧州議会も同様の書簡を送付。米国が22日から開催する気候変動サミットを前に、50年の排出ゼロに向け具体的な道筋を求める動きが強まっている。書簡に署名した企業はコカ・コーラやウォルマート、ナイキなど製造業から小売業まで多岐にわたる。ゼネラル・エレクトリック(GE)やエジソン・インターナショナルなどエネルギー関連企業も含まれる。声明では30年の目標設定が「力強い景気回復をもたらし、何百万もの雇用を生み出す」と強調した。「クリーンエネルギーに投資し、エネルギー効率を高めることは、米経済をより包括的で公正なものにするだろう」とつづり、耐久力のあるインフラ、排出ゼロの車や建物などの構築にもつながるとした。さらに記録的なハリケーンや山火事などが「天災に耐えることが困難な低所得層を直撃している」との懸念を示した。米国が30年の目標を約束することは「他の先進国を刺激し、野心的な目標の設定につながるだろう」と国際協調における意義も示した。欧州議会の環境委員会は13日、自動車大手ルノーや家具のイケアなど多数の企業の支持を得る形で米政府に対し書簡を送った。「一緒に行動することで変化を起こせる」として脱炭素に向けて協調するよう求めた。欧州連合(EU)は30年に1990年比で温暖化ガスの排出量を55%減らす目標を掲げている。バイデン米政権は22日に、主要な排出国を集めて気候変動サミットを開催する。バイデン氏に対して「国としての目標を引き上げるなら、我々自身の目標も厳しくする」とつづったグローバル企業からの書簡は、米政府の気候変動対策の具体策を後押しするとともに圧力にもなる。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210414&ng=DGKKZO70976330U1A410C2MM8000 (日経新聞 2021.4.14) 福島第1 廃炉へ一歩 処理水の海洋放出決定 風評被害、東電が賠償 政府は13日、東京電力福島第1原子力発電所の敷地内にたまり続ける処理水を海に放出する方針を決めた。東京電力ホールディングスは原子力規制委員会の認可を受けて2年後をめどに放出を始める。風評被害が起きた場合は、東電が被害の実態に見合った賠償をする。廃炉作業の本格化に一歩前進となる。同日開いた福島第1原発の廃炉や処理水に関する関係閣僚会議で決めた。梶山弘志経済産業相は福島県を訪ね、同県庁で面会した内堀雅雄知事に「徹底した風評対策に取り組む」と伝えた。内堀氏は「福島県の復興にとって重く困難な課題だ。(政府の)基本方針を精査し、県としての意見を述べる」と答えるにとどめた。会談は6分間で終わった。政府の決定を受けて、東電は処理水の海洋放出に向けた対応方針を定める。放出の手順について原子力規制委の手続きを進め、配管の設備工事などを終えて実際に放出できるのは2年後になる。福島第1原発は2011年3月の東日本大震災の津波で炉心の溶融事故を起こし、高濃度の放射性物質を含む汚染水が今も発生している。専用装置で主な放射性物質を取り除いた処理水も放射性物質のトリチウムを含む。この処理水を100倍以上に薄めて海へ流す。世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を下げる。東電はこれまで処理水を原発の敷地内のタンクにため続けてきた。タンクは3月時点で1061基に上る。50年ごろの完了をめざす廃炉作業の山場は事故で溶けた燃料が固まったデブリの取り出しだ。デブリは放射線量が高い。作業員の安全を確保しながら、放射性物質を外に漏らさない厳重なデブリの保管が求められる。東電の計画では一時保管施設に6万平方メートルの土地が必要となる。政府と東電は海洋放出でタンクを減らしてスペースを確保し、廃炉を円滑に進める方針だ。海洋放出は長期にわたるためタンクはすぐ減らず、廃炉に支障が出る可能性は残る。東電の小早川智明社長は13日、記者団に「タンクで敷き詰められた敷地でこれからより厳しいデブリの取り出しなどを行っていく」と強調した。政府と東電は周辺海域の海水のモニタリングを強化する。福島県と近隣県の農産品の販路を拡大する支援にも取り組む。基本方針には風評被害が発生した際に東電が「被害の実態に見合った必要十分な賠償を迅速かつ適切に実施する」とも記した。風評被害対策などを進めるための新たな関係閣僚会議も近く開く。それでも原発事故とその後の汚染水の漏出など度重なる不祥事を受け、地元関係者らの不信感は強い。安全性の確保を政府と東電が慎重に確認し、関係者の理解を得ながら放出していく姿勢が求められる。 *5-2-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1304270.html (琉球新報社説 2021年4月14日) 原発処理水放出決定 最善の選択と言えない 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の処分に関し、政府は海洋放出の方針を正式決定した。放射性物質の海洋放出によって海の環境や人体に与える影響はないと断言できるのか。漁業など風評被害はどのように払拭(ふっしょく)するのか。中国、韓国、台湾など近隣諸国は決定を非難している。国際社会の理解は得られるのか。これらの疑問に政府は答えているとは言い難い。海洋放出は実行可能な最善の選択とは言えず、政府決定は容認できない。原子力発電推進という国策の結果、事故を招いた。事故のつけを国民に押し付けてはならない。これまで社説で主張してきたように、トリチウム分離など放射性物質を取り除く技術が開発されるまで地上保管を選択すべきだ。第1原発では溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水が、建屋に流入する地下水などと混じり汚染水が発生する。東電は浄化した処理水を敷地内のタンクに保管している。来年秋以降、タンクの容量が満杯になるとみている。なぜ他に増設場所を確保する努力をしないのか。処理水には技術的に除去できない放射性物質トリチウムが含まれており、海水で十分に薄めた上で海に流すと説明している。しかし、濃度を下げたとしても、トリチウムの総量は莫大な量に上るはずだ。全量放出すれば海を汚染しないと断言できないだろう。浄化後の水にトリチウム以外の放射性物質が除去しきれず残留し、一部は排水の法令基準値を上回っていたことも判明している。トリチウム以外の放射性物質の総量はどれだけなのか。トリチウム水の取り扱いを巡っては、経済産業省の専門家会合が、薄めて海洋放出する方法が、より短期間に低コストで処分できるとの内容を盛り込んだ報告書をまとめた。コストを優先し、海洋放出ありきだったと言われても仕方ない。なぜ他の実現可能な選択肢を検討しないのか。手続きも不十分だ。放出について東電は「関係者の合意を得ながら行う」と明言していたはずだ。国も関係者の理解なしにいかなる処分も行わないと説明していた。全国漁業協同組合連合会(全漁連)は放出に反対し、抗議声明を発表した。到底理解を得たとは言えない。福島や隣県の漁業関係者が「原発事故の風評に悩まされてきた10年間に積み重ねてきた努力が無駄になる」と憤るのは無理もない。国連の人権専門家は3月、処理水は環境と人権に大きな危険を及ぼすため「太平洋に放出するという決定は容認できる解決策ではない」との声明を発表した。海洋放出は子どもたちの将来的な健康リスクを高めるなど、人権侵害に当たると警告している。中国や韓国、台湾は相次いで批判している。政府は国際社会の警告を真摯(しんし)に受け止めなければならない。 *5-2-3:http://tabemono.info/report/former/genpatu5.html (NPO法人食品と暮らしの安全基金) トリチウム(三重水素)、浄化水を放出するな!水蒸気も怖い! ●基準以下のトリチウム 「体内に取り込まれたトリチウムが遺伝子の構成元素になると、放射線を出してトリチウムがヘリウムになったとき、遺伝子DNA そのものが壊れるのです」。槌田敦先生にインタビュー(2012年3月号8ページ)しているとき、こう伺いました。トリチウムは、先月号、先々月号でお知らせしたより、もっと怖い放射能でした。トリチウムは三重水素ですが、たいていは水として存在します。口や鼻、皮膚から吸収されると、 ほとんどが血液中に取り込まれ、体内のどこにでも運ばれ、水や水素として体の構成要素になります。 このトリチウムは、基準が非常に緩いので、世界中の原発から放出され続けています。まれにしか検査されませんが、検出されても「基準以下」と報道されることがほとんど。処理して取り除くことができないため、問題にしても仕方ないという雰囲気なのです。原発推進を掲げた新聞では、トリチウムの危険性が取り上げられることはありません。反原発派もあまり問題にしていません。 ●コップの水はEU 水質基準の26 倍 それでも原発事故後、大きな話題にかかわったことがあります。10月31日、内閣府の園田康博政務官が、5、6号機から出た汚染水の純水をコップに入れて、 報道陣の前で飲み干した水に含まれていた放射能がトリチウムです。原発事故後、伐採した樹木が自然発火することを予防するために散布されていた水の危険性が問題になりました。「東京電力が『飲んでも大丈夫』って言ってるんですから、コップ1杯ぐらい、どうでしょう」と、 記者会見でフリージャーナリストの寺澤有さんが質問。会見後、寺澤さんは「絶対飲まないほうがいいです」と園田政務官に言ったのですが、 「飲めるレベルの水であることを言いたかった」と飲んでしまったのです。その前に公表されていた東電の資料を見ると、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137は「不検出」で、 トリチウムは1リットル当たり2,600ベクレル(Bq)とありました。下欄に、WHO 基準が10,000Bq/リットルとあったので、「飲めるレベル」と思ったのでしょう。しかし、アメリカではトリチウムが原発周辺でガンを起こして問題になっていることを、 月刊誌「食品と暮らしの安全」の2011年8月号「アメリカの市民生活」で取り上げています。アメリカの飲用水のトリチウム基準は2万ピコキュリー(740ベクレル)/ リットル。コップの水は飲用水基準の3.5 倍だったのです。EUの水質基準はもっと厳しく、100Bq/ リットルなので、コップの水は26 倍になります。知っていたら、この水は飲めないでしょう。やはり東電にだまされていたわけで、園田政務官が白血病にかからないことを祈ります。 ●蒸発濃縮装置から水もれ 12月8日、10万トンのトリチウム汚染水を海洋に放出することを東電が検討していることが判明。 全漁連(全国漁業協同組合連合会)と鹿野農林水産大臣が反対したので、東電はいったん海洋放出案をひっこめました。 その直前の12 月3日、汚染水処理施設の蒸発濃縮装置から水漏れが発覚しましたが、 この装置から蒸発させているのがトリチウムを含む水蒸気でした。3.11 以降に原発が次々と爆発しましたが、水素爆発の「水素」には多量のトリチウムが含まれていました。ただ、当時は半減期の短いヨウ素が危険な放射能の主役だったので、トリチウムの危険性が報道されなかったのは仕方ありません。 ●DNA の中に入ると危険 トリチウムは、弱いベータ線を出します。このベータ線は細胞内では1ミクロン(1000分の1mm)ぐらいしか飛ばないので、 血液として全身をめぐっている間は、遺伝子DNA をほとんど攻撃しません。ところが、トリチウムが細胞に取り込まれ、 さらに核の中に入るとDNA までの距離が近くなるので、 ここからは、放射性セシウムや放射性ストロンチウムと同じようにDNA を攻撃するようになります。トリチウムには、この先があります。化学的性質が水素と同じなので、水素と入れ替わることができるのです。DNAの構造には、水素がたくさん入っていて、トリチウムがここに入っても、DNAは正常に作用します。問題は、放射線を出したときで、トリチウムはヘリウムに変わります。そうなると、放射線で遺伝子を傷つけるのに加えて、ヘリウムに変わった部分のDNA が壊れて、遺伝子が「故障」することになります。この故障がリスクに加わるので、トリチウムはガン発生確率が高くなるのです。遺伝子が故障した細胞は生き残りやすいので、ガン発生率が高いとも考えています。そのことを裏付けるような訴訟がアメリカで起きています。シカゴ郊外で100 人以上の 赤ちゃんや子どもがガンにかかった(先月号P6)のは、事故を起こした原発から放射能が出たことが原因ではありません。正常に運転されている原発から出ているトリチウムが、飲み水を汚染し、放射能の影響を受けやすい赤ちゃんや子どもにガンを発生させたとして、訴訟が起きているのです。 ●原子力ムラがNHKに抗議 放射能の国際基準はいい加減に作られているという当事者の証言と、 シカゴ郊外で子どもにガンが多発している事実を放送した 『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』(NHK、2011年12月28日放送)に対して、 原発推進を訴える3団体のメンバーがNHKに抗議文を送っていたことを、2月1日に東京新聞が明らかにしました。事故までは「原発事故は起きない」と抗議活動をしていた団体が、少なく見ても5000人をガンで殺すような大事故が起きたにもかかわらず、1年もたたないうちに原発利権を守る抗議活動を再開したわけです。私たちは、この番組を応援する必要があります。 ●福島県民が危ない 爆発した福島原発は、炉の下に落ちた核燃料を水を入れて冷やしているので、トリチウムの大量生成装置になっています。トリチウムの検査データを調べると、2011年9月に2号機のサブドレンの水から2,400Bq/リットル検出されていました。取水口内の海水では、2011年9月に470Bq/ リットル、2011年10月に920Bq/リットルのトリチウムが検出されていましたが、 これは、海水で薄まった値と考えられます。これ以外のデータが見つからないので、トリチウムの検査結果はまだすべて隠されたままです。原発の汚染水を浄化しても、トリチウムだけはまったく除去することができません。それは最初からわかっていたので、問題にならないようにトリチウムの基準を緩くして、 水蒸気として大気中に放出したり、海に流してきたのです。今でもトリチウムは、毎日、原発から水蒸気として放出され続けています。 それに加えて、「いつまでもタンクを増設することはできないでしょう」と言って、 東電は近いうちに10 万トンを超えるトリチウム汚染水を海に流そうとしています。 これを止めないと、福島県と周辺の県民に被害者が出ます。トリチウム汚染水は、海水より軽いので、海面から蒸発し、それが雨になって陸にも落ちてくるからです。すでにトリチウム汚染は広がっていると考えられますが、それがさらに広範囲になるので、原発の浄化水の放出を止めるように世論を形成していく必要があるのです。水道水にトリチウムが含まれるようになると、白血病や脳腫瘍が多発します。 トリチウムは、水素と化学的性質がほぼ同じですが、まったく同じではなくて、脳の脂肪組織に蓄積しやすいことが判明しています。 だから、トリチウムがつくるガンでは、脳腫瘍がもっとも多いようです。 トリチウムによる被害が出ないようにするには、タンクを造り続けるしかありません。トリチウムの半減期は12.3 年なので、120年ほど貯蔵すれば、トリチウムは1000 分の1になって汚染水を放出できるようになります。 *5-2-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/661564 (佐賀新聞 2021.4.15) 韓国で処理水放出への批判強まる 日本政府による東京電力福島第1原発処理水の海洋放出決定を受け、韓国で日本に批判的な世論が強まっている。一方、15日付の韓国紙は韓国政府の作業部会が昨年「科学的に問題ない」との趣旨の報告書をまとめていたと報道。文在寅大統領の強硬姿勢とのちぐはぐさを非難する声も上がっている。大手紙の中央日報によると、海洋水産省など政府省庁による作業部会は昨年10月の報告書で、放出された処理水が韓国国民と環境に及ぼす影響を分析。数年後に韓国周辺海域に到達しても「海流に乗って移動しながら拡散・希釈され、有意な影響はない」と判断した。処理水に含まれる放射性物質トリチウムについても「生体に濃縮・蓄積されにくく、水産物摂取などによる被ばくの可能性は非常に低い」とした。韓国首相室は「一部専門家の意見」だったと釈明した。最大野党「国民の力」の報道官は「作業部会は問題ないとの趣旨の報告書を出す一方、大統領府は(国際海洋法裁判所に)提訴するというなら国民は誰の言葉を信じればいいのか」と批判した。ソウルの日本大使館前では、15日も市民団体が放出に反対する集会を開催した。日本の方針を支持している米国や国際原子力機関(IAEA)への批判の声も上がっている。 *5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/668863 (佐賀新聞 2021.4.30) 原発40年超運転、課題先送りの判断だ 福井県の杉本達治知事が、運転開始から40年を超えた関西電力美浜原発3号機(同県美浜町)、同高浜原発1、2号機(同県高浜町)の再稼働に同意した。東京電力福島第1原発事故後に定められた「原則40年」のルール下で初めての延長運転となる。会見で知事は「総合的に勘案した」と述べたが、この間議論された多くの課題のうち、具体策が示されたのは「40年超原発1カ所当たり最大25億円の交付金」という地域振興策だけで、多くの課題を先送りした判断だと言わざるを得ない。一つは、知事が当初は同意の前提として福井県と関西電力との間でやりとりしていた、使用済み核燃料の搬出の問題だ。各原発にたまり続ける使用済み核燃料は、国の再処理政策の不透明さもあって、その行き先が定まらない。関西電力は青森県むつ市の中間貯蔵施設を選択肢の一つに挙げ、2023年末までに確定すると表明。電気事業連合会も電力各社の共同利用を検討する方針を提示。杉本知事はこの問題を再稼働の是非とは切り離して検討すると理解を示した。むつ市の施設は本来、東電と日本原子力発電の2社の使用済み核燃料を一時保管するものだ。共用の具体化は地元同意も含めて容易ではなく、再稼働を認めさせるための方便とも映る。むつ市長が「市や青森県の民意を踏みにじっている」と反発したのも当然だ。避難計画の具体化が遅れていることも懸念材料となる。広域避難のリスクはほかの発電にはない原発固有の課題。東電の事故後、各地で計画策定は進んだものの、自然災害とは桁違いに対象区域が広く、住民も多いことが高いハードルになっている。交通手段や避難先は確保できるか。離島や半島部の避難は可能か。地震や津波、風水害との複合災害への備えはあるのか。事故が拡大した際の二次避難ができるか。昨年の福井県知事との懇談で滋賀県知事が、県境を越えた広域避難における連携、協調を呼び掛けたように、県域をまたいだ避難の実効性が担保されたとはいえない。将来の日本のエネルギー政策に原発をどう位置付けるのかも問われなければならない。本来は東電の事故で決断を迫られたはずのその議論が棚上げされている。菅義偉首相が言う50年の二酸化炭素(CO2)排出ゼロ目標の実現には本来、発電構成の将来像が原発比率を含めて明らかにされるべきだ。杉本知事と27日にオンライン会談した梶山弘志経済産業相は「原発を含む脱炭素電源を最大限活用」と強調した一方、内容は今後のエネルギー基本計画に盛り込むと述べるにとどまった。最近の資源エネルギー庁の試算では、新増設を前提にしなければ、全ての原発で40年超運転を認めたとしても、2040年代には経年化により急速に原子力の設備容量は減少し、60年には1千万キロワットを割り込む。その試算は、全原発が順調に運転できるとの想定だが、故障や事故による停止、訴訟による運転差し止めなどの予期せぬリスクがある。40年超運転は、安全対策の追加を強いられ経済的に見合わなくなる恐れもある。諸外国のように再生可能エネルギーや分散型電源へシフトするための議論は待ったなしだ。 <送電網も独占・寡占では工夫がなく、コストも下がらない> PS(2021年4月17日追加): *6-1のように、2020年12月15日、①経産省・国交省・民間事業者が洋上風力の普及に向けた長期計画をまとめ ②2040年までに最大4500万kw(北海道:1465万kw、九州:1190万kwキロワット、東北:900万kw)を導入する目標を掲げ ③大消費地から遠いため長距離を効率的に送電できる「直流送電」の導入に向けた検討も始め ④着床式の発電コストは国際平均に並ぶ8~9円/kwhを目指すとした。 このうち①②③については、海底ケーブルを敷設したり、新たに用地買収をしたりしなくても、鉄道・高速道路等の既に繋がっている土地を利用すれば用地買収が不要なため工事費が安価で早くなり、事業費を電気料金に上乗せして賄わなくても事業者が送電料を収入にすればすむ。そのため、経産省・国交省・農水省が縦割りの壁をなくして協力した方がよいにもかかわらず、*6-3のように、地域間送電網も経産省が予算獲得のネタにして省益を図れば、これまでと同様、大手電力を優遇して新規事業者をつぶし、予算と時間ばかりかかって大した変革はできず、他国に遅れて④のような値段の高いエネルギーとなり、日本企業をさらに国外に出してしまうことになる。大手電力と経産省が送電網を握ったために起こった非生産性と不合理は、九州で太陽光発電由来の電力が余っているのに、原発由来の電力を送電するために出力制御を迫られたことで明らかである。また、直流・超電導電線による送電等の新しい技術を現在も使わず、東日本と西日本で異なる周波数の変換装置が必要などと言っているのも、大手電力と経産省が電力事業を地域独占して合理化しなかったからである。 そのため、②のように、地方で再エネ発電をするにあたっては、洋上風力だけでなく、農林水産業の盛んな地域でその場所にあった再エネ機器を設置するのが安価な上、そうすれば、その地域の農林水産業にエネルギー代金が入って補助金が不要になる。従って、①には、経産省・国交省・民間事業者だけでなく、農水省や農協・漁協・森林組合なども加えて省庁横断的にエネルギー代金を最も安くする方法(変動費≒0)を考えるべきで、財政状況が悪い現在、送電線敷設費用を数兆円の景気対策(≒無駄遣いのバラマキ)と捉えることなどは決して許されない。 なお、*6-2のように、地域間送電網を複線化することは、災害時のセキュリティー・再エネの普及・電力自由化の徹底のために重要だ。しかし、都市部に送る送電網は地方からの鉄道や道路が縦横無尽に走っているため、そこを使えば電線を目立たなくして景観に配慮しながら送電線を安全に通すことが可能だ。これには、国交省の協力も欠かせないが、人口の地方分散のためにも地方の収入源・送電線・通信ネットワーク・医療・福祉施設は不可欠なインフラであるため、その場限りの景気対策ではなく、生産性向上のための投資として行うべきである。 2020.10.31、2021.4.15 古川電工 鉄道に敷設された超電導電線 日経新聞 (図の説明:左の2つの図のように、日経新聞は、不十分な送電網が再エネ普及の妨げになるとし、洋上風力発電普及のため海底に送電線を敷設すると記載している。しかし、新たに海底に送電線を敷設するよりも、右の2つの図のように、鉄道・道路・地下鉄などの既にあるインフラに超電導電線などを併設した方が安価な上、過疎地の鉄道に送電料という収入源をもたらして廃線鉄道を減らすことに繋がる。さらに、送電ロス・セキュリティー・景観から考えても、これまで通りの鉄塔より鉄道・道路・地下鉄等への超電導電線敷設の方が優れているのだ) *6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF1532J0V11C20A2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020年12月15日) 洋上風力、北海道・東北・九州に8割整備へ 官民が目安 経済産業、国土交通両省と民間事業者は15日、洋上風力の普及に向けた長期計画をまとめた。2040年までに最大4500万キロワットを導入する目標を掲げた。全体の8割にあたる約3500万キロワットを北海道、東北、九州に整備する目安も示した。大消費地から遠いため、新しい方式を導入して長距離を効率的に送電できるようにする。同日に開いた官民協議会で「洋上風力産業ビジョン」としてまとめた。ビジョンでは洋上風力を「(再生エネの)主力電源化に向けた切り札」と位置づけ、導入目標の設定や普及に向けた制度整備の内容を記載した。導入目標は40年までに3000万~4500万キロワットとした。再生可能エネルギーの先進地であるドイツを上回る規模となる。ビジョンでは地域ごとの設置量のイメージも示した。設置に適した気候の北海道が最大1465万キロワット、九州が1190万キロワット、東北が900万キロワットと3地域で8割を占める。電力の大消費地である東京圏や関西圏から遠い点が大きな課題となる。導入目標の達成に向けて新たな送電網の整備計画を来春に示す。長距離を効率的に送電できる「直流送電」の導入に向けた検討も始める。部品などの国内調達率は60%に設定。着床式の発電コストについて国際平均に並ぶ1キロワット時あたり8~9円を目指す方針も盛り込んだ。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65690120Q0A031C2MM8000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2020年10月31日) 再生エネ普及へ地域間送電網を複線化、政府、東北・九州候補に 再生可能エネルギー拡大の妨げとなっている送電網の弱さを解消するため、政府は送電網を複線化して増強する。電力会社と来年春までに計画を策定して具体的な場所や規模を詰める方針で、東北や九州などが候補になる。2050年までに温暖化ガス排出量を「実質ゼロ」にする政府目標の実現に向け、欧州に比べて遅れている送電インフラの整備を急ぐ。電力は発電所から送電網を使って各地域に送る。送電網が不十分だと太陽光や風力など再生可能エネルギーの電気を十分に送れない。特に都市部に送る送電網の不十分さが目立つ。東北から首都圏に送る連系線の容量は615万キロワットで東京電力のピーク電力需要の11%にとどまる。地方と都市部を結ぶ連系線は他の地域でも需要の1割前後しか送れないケースが多い。東日本と西日本では周波数が違うため変換装置が必要だが、能力は120万キロワットと東電のピーク需要の約2%分しかない。経済産業省は温暖化ガス排出ゼロに向けた実行計画をつくり、これに合わせて送電網の増強計画を策定する。電力会社と連携し、地域を越える連系線や、地域内の主要路線の基幹系統の状況を調査する。2021年春をメドに優先的に整備する地域を示す。現時点では東北や九州が有力候補だ。東北では大手電力が原発や火力発電用に送電網を確保し、実際は空いていても再生エネ事業者が使えない問題がある。秋田など日本海側では洋上風力の建設計画が進み今後も再生エネの発電量が増える。政府は送電網の利用ルールを見直すとともに、東北や新潟と首都圏を結ぶ連系線の複線化を検討する。太陽光発電が拡大する九州では、電気を使い切れず太陽光事業者が出力を抑える事態が起きている。19年度は計74回発生し、1回あたり最大289万キロワットと原発約3基分の出力を抑えたこともあった。本州とつなぐ連系線を増強して送電できる量を増やせば出力抑制を減らせる。九州から本州へと結ぶ連系線は238万キロワットと九州電力のピーク電力の15%程度で設備を複線化して増強することなどを検討する。投資額はそれぞれの地域で数百億~数千億円の見込み。実際の工事は大手電力の送配電部門が実施する。費用は6月に成立した電気事業法などの改正法に基づき、電気の利用者が負担する仕組みを適用する。すでに工事を始めた宮城県と首都圏をつなぐ連系線では、約450万キロワット増やす工事の投資額が約1500億円。30年超にわたって全国で分担すると、1世帯あたりの負担額は毎月数円になる見込みだ。国内でこれまで送電網の整備が遅れてきた背景には大手電力の消極的な姿勢があった。連系線を拡充すれば地域を越えた販売が容易になり競争が激しくなる。地域独占が続いていた各社は増強に後ろ向きだった。東日本大震災で東京電力福島第1原子力発電所が重大な事故を起こし、東電は計画停電を実施した。送電線を増強して他地域から融通を増やす対策に東電などは「数兆円の投資がかかる」と二の足を踏んだ。震災から約10年がたった今も拡充は遅れている。大手電力は送電網の拡充について「災害時に停電リスクを減らせる」といった声がある一方、再生エネの流入で自社の発電量が減ったり、他社の越境販売を後押しして顧客を奪われたりすることなどを警戒する声が根強い。菅義偉政権は温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を打ち出し、実現のため再生エネの導入加速がさらに欠かせなくなった。主に電力会社に委ねる従来の体制から切り替え、国の主導で強力に推進することで、どこまで電力会社を動かせるかが焦点になる。国のエネルギー基本計画で政府は、30年度の電源構成に占める再生エネの割合を22~24%とする。自然エネルギー財団は、送電網の増強への政府の後押しや、電気をためておく蓄電池のコスト低下が進めば、再生エネの設備が30年度に2億キロワットと2019年度の2倍以上に増えると予測する。全体の発電量に占める比率は45%まで引き上げることが可能とみる。再生エネの普及で先行する欧州では、国をまたいで電力を融通する国際送電網が発達している。各国が平均1割ほどの電力を輸出したり輸入でまかなったりする。電力の過不足を融通することで天候などに発電量が左右される再生エネの弱点を補う。島国の日本では海外との連携が難しく、国内の地域間ですら融通量が限られている状況の改善は喫緊の課題だ。 *6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210416&ng=DGKKZO71059040W1A410C2MM8000 (日経新聞 2021.4.16) 地域間送電網、容量2倍 洋上風力の融通円滑に、経産省、再生エネ普及へ計画 経済産業省や電力広域的運営推進機関(広域機関)は地域間送電網(総合2面きょうのことば)の容量を最大2300万キロワット増強し、現行の2倍とする計画案をまとめた。北海道と関東、九州と本州の間などで複数のルートを新増設する。再生可能エネルギーの主力となる洋上風力発電の大量導入に向けて、欧州などに比べて遅れていた広域の送電インフラの整備がようやく動き出す。政府は2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。達成に欠かせない再生エネの普及は送電網の弱さが足かせとなってきた。太陽光発電が盛んな九州では送電網の容量不足で出力制御を迫られる事態が頻発する。欧州は国境を越えて電力をやりとりする国際送電網が張り巡らされており、各国は電力の2割程度を輸出入する。発電量の変動が大きい再生エネ普及を後押ししてきた。日本は地域ブロック間で電力をやりとりする仕組みが十分に整っていない。地域独占を続けてきた大手電力各社が競争を敬遠し、消極的だった。地域間送電網の利用実績は19年度時点で874億キロワット時で、日本の総発電量(約1兆キロワット時)の8.5%にとどまる。経産省は電力を広域で効率よく使えるようにするため、地域間送電網の増強案を大手電力会社を交えて検討してきた。詳細を4月中に公表する。再生エネの柱となる洋上風力発電は40年までに原発約45基に相当する4500万キロワットを導入する目標がある。年間の発電量に換算すると約1300億キロワット時程度となる。単純計算で今の日本の総発電量の1割ほどをまかなえる規模だ。送電網の増強案は洋上風力の8割が立地に適した北海道、東北、九州に集中する前提で、首都圏や関西圏など遠隔の大消費地に電力を円滑に送れる体制を整える。北海道と関東を結ぶルートでは海底ケーブルを日本海側と太平洋側に敷設する。北海道と東北を海底ケーブルで結び、東北から関東は陸上の送電網を使う構想もある。本州と九州や四国などを結ぶ系統も増強。東日本と西日本の間は異なる周波数の変換装置も必要だ。洋上風力が北海道以外の各地に分散する場合は必要な増強量は減るため、今後策定する次期エネルギー基本計画を踏まえてさらに見直す。経産省は再生エネの導入量が膨らむ場合でも、全体として最大2倍の増強で対応できるとみている。送電網の敷設作業は各電力会社の送配電部門が担当する。事業費は合計で数兆円に達する可能性がある。20年に成立した改正再生エネ特措法に基づき、電気料金に上乗せして賄う仕組みの活用を視野に入れる。工事計画の策定や用地確保に時間を要するため、送電網の整備に着手するのは早くても22年以降になりそうだ。増強が実現し、電力料金への反映が始まるのは30年代と見込む。地域間の電力融通が拡大すれば競争原理が働き、より安いグリーン電力が消費者に届くようになる可能性もある。 <再エネの拡大法> PS(2021年4月18日追加):*7のように、日米首脳会談で①2050年の温暖化ガス排出の実質0目標に向け、2030年までに確固たる行動をとることで一致 ②両国は4月22日からの気候変動に関する首脳会議までに30年の削減目標をまとめるが ③日本は2030年度に2013年度比で26%減らす目標で、1990年比55%減のEUや68%減の英国に見劣りするため ④2013年度比40%程度の削減を土台に上積みの余地を探ろうと政府内で調整が続いているが ⑤2030年度までの期間では革新的クリーンエネルギー技術の普及は織り込みにくく ⑥2030年度までに導入量を上積みしやすいのは太陽光発電で、環境相は屋根置き太陽光パネルなどの普及を進める考えで ⑦経産省は2030年度の太陽光発電容量を8800万kwにする試算を示した そうだ。 このうち、①②は、遅すぎたものの進展があってよかったが、③④は、1995年に初めて環境問題とクリーンエネルギーを取り上げて京都議定書をまとめたのは日本なのに、また「遅れたから追いつく」という論理しか言えないのがおかしい。その1995年には、太陽光発電を視野に入れ、屋根に不自然な傾斜をつけて置くのではない建材一体型の太陽光発電装置を作ろうと言っていたので、既に下のようにツールはできている。そのため、⑤の革新的クリーンエネルギー技術は既にできているのであり、⑥⑦は容易であるのに、中央で情報を集めている政治・行政の幹部が科学的知識に基づいた情報処理能力に欠けているらしいのが、現在の深刻な問題である。これも、教育や採用・配置・昇進の仕方に問題があるのだろう。 2021.4.17東京新聞 ビルへの太陽光発電設置例 農業用ハウスへの設置例 (図の説明:1番左の図のように、再エネの比率を上げる必要があるが、政府がいつまでもベースロード電源と言って原発と化石燃料の維持に汲々としていたことが、この25年間の再エネ普及を阻害した原因だ。しかし、左から2番目のように、ビルにスマートに組み込んでビルの光熱費を下げている太陽光発電や、右から2番目のオランダのビルのように、透明な太陽光発電をふんだんに使った明るいビル、1番右のように、透明な太陽光発電フィルムを使った農業用ハウスなどが既にできており、価格が高すぎなければマンションや一般住宅にも使えるのである) FCVバス EV自動車 (図の説明:上の図のように、陸上交通のFCV化・EV化技術は既にできているので、後は「やるか、やらないか」の意思決定だけである) *7:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA15EDS0V10C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月17日) 日米、脱炭素へ「確固たる行動」 再生エネ拡大が課題 菅義偉首相とバイデン米大統領は16日の会談で、日米双方が掲げる2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロ目標に向けて「30年までに確固たる行動をとる」ことで一致した。両国はそれぞれ22日からの気候変動に関する首脳会議(サミット)までに30年の削減目標をまとめる。日本は再生可能エネルギーの拡大や石炭火力発電の縮小といった構造転換が課題となる。「日米で世界の脱炭素をリードしていく」。首相はバイデン氏との会談後の共同記者会見で強調した。両首脳は日米気候パートナーシップを立ち上げた。これに基づき、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に関する対話やクリーンエネルギー技術の開発、途上国が脱炭素社会に移行するための支援で連携する。脱炭素で欧州に遅れる日米は50年に実質ゼロにする道筋を描ききれていない。まずは30年までの取り組みが重要になる。日本が掲げてきた30年度に13年度比で26%減らす目標は、1990年比で55%減の欧州連合(EU)や同じく68%減の英国の目標に見劣りする。首相は会談後、同行記者団に22~23日に米国が主催するオンラインの気候変動サミットまでに新目標をまとめる考えを示した。13年度比40%程度の削減を土台に上積みの余地を探ろうと政府内で調整が続く。日本政府の説明によると、首脳会談では具体的な数値の言及はなかったという。温暖化ガスの排出量の多くは発電などの燃料の燃焼に由来する。30年度までの期間を考えると革新的なクリーンエネルギー技術の普及は織り込みにくい。発電時に温暖化ガスを出さない原子力発電所の再稼働の大幅な進展が見通しにくい日本では「再生可能エネルギーをいかに入れるかが重要なポイントだ」(小泉進次郎環境相)。政府は30年度の発電量のうち再生エネで22~24%、原子力で20~22%、火力で残りをまかなうことを想定してきた。30年度の温暖化ガスの排出削減目標を引き上げるのにあわせ、この計画を見直して再生エネの割合を高める。切り札とされる洋上での風力発電は環境アセスメントや建設に8年程度かかる。40年までに原発約45基に相当する最大4500万キロワットを導入する政府目標があるが、大量導入の本格化は30年度より先になる。現実的に30年度までに導入量を大幅に上積みしやすいのは太陽光発電だ。30年度に再生エネの比率を現在の2倍以上の40%超にしたい小泉環境相は設置までの期間が短い屋根置きの太陽光パネルなどの普及を進める考えだ。今国会で地球温暖化対策推進法改正案が成立すれば再生エネの導入促進区域を自治体が定めて大量導入を促せるとみる。一方、経済産業省はこのほど、30年度の太陽光の発電容量を19年度より6割多い8800万キロワットにする試算を示した。支援策の強化でさらに上積みをめざすが、省内は「6割増でも相当厳しい」との声がもっぱらだ。1平方キロメートルあたりの日本の導入容量は主要国ですでに最大。農地の転用も農林族議員の反対などで一筋縄でいかない。首脳会談の共同声明には、日本政府の石炭火力発電に対する輸出支援などを念頭に「官民の資本の流れを気候変動に整合的な投資に向け、高炭素な投資から離れるよう促進する」と盛った。日本は温暖化ガスの排出の多い石炭火力依存からの転換も求められている。 <再エネ・EVにおける日本の失敗の理由> PS(2021年4月24、25日追加):*8-1-1・*8-1-2は、「①菅首相は2030年までの温暖化ガス排出削減目標を、(米国・英国は50%減を迫ったが)2013年度比46%減にすると表明」「②46%減は首相が掲げた50年の実質排出ゼロが視野に入る削減率」「③梶山経産相は積み上げでは39%減が限界と言っていた」「④首相が外交舞台で50%減の約束をした場合、国内での説明に窮するリスクがあった」「⑤首相は午後6時すぎに地球温暖化対策推進本部で『50%の高みに向けて挑戦を続ける』と発言した」「⑥2013年度比46%減の目標実現に向けた道は険しく、産業界は抜本的な対応の見直しが必要」「⑦技術革新などを通じて競争力の強化につなげられるか問われる」「⑧日本は発電量の7割以上が火力発電で、風力・太陽光等の再エネ18%、原子力6%」「⑨欧州は再エネと原発合計で5割を上回る国が珍しくなく日本の出遅れは明らかで原発再稼働は足踏み状態」「⑩燃焼時にCO2を出さない水素やアンモニアを火力発電に使う手法は既存の設備を生かせるケースもあり期待を集めるが、短期で大きな貢献は見込みにくい」「⑪EVは走行時にはCO2を出さないが現状では動力となる電力を作る際に大量にCO2を出すので、発電所由来のCO2排出量が減れば電EVの普及も効果を発揮する」「⑫政府は補助金を通じ2035年までに新車販売をすべてEVやHVなどの電動車にする計画を掲げる」「⑬CO2と水素を合成して作る新たな燃料イーフューエルをガソリンに混ぜて使うとHV並みの環境性能になる」等と記載している。 このうち、①②③④⑤については、菅首相のリーダーシップで50%減が明示されたことは評価できるが、英国のジョンソン首相が78%減を表明しておられる時に、同じ島国である日本が米国・英国の圧力に抗するという形で、「資源がない」「遠浅の海がない」等の事実ではない理由を並べ、「39%減・46%減・50%減のいずれか」と議論していること自体が、野心的どころか低すぎる目標だ。また、温室効果ガス排出削減のため日本がCOP3の議長国として1997年に京都議定書を採択して既に23年以上が経過しており、当時からこれらはすべて織り込み済みだったため、今頃になっても⑥⑦を言っているのは不作為にも程があるのだ。そして、このような政治・行政の迷走によって、*8-2のように、普及できずに中国企業との価格競争に敗れ、最初は世界をリードしていて特許が多かった筈の太陽光発電でも日本企業の撤退や経営破綻が相次いで、日本は再エネの開発・実用化・産業化のいずれにも失敗した経緯があるのである。 さらに、⑧⑨のように、これを機会に「CO2を出さないから原発」と言っているのは、原発は温排水で海を温めて水産業に大きな被害を与えているだけでなく、事故を起こせば深刻な公害を出し、コスト高でもあることを意図的に無視している。そのため、⑩⑬のような寄り道や資金分散をすることなく、まっしぐらに再エネ発電による⑪を達成するのが、あらゆる方向から考えて最善の策なのだ。⑫については、化石燃料に環境税を課して環境税収入で新しいインフラを整備をすれば、補助金をばら撒かなくても必要なことはできる。にもかかわらず、日本の論調は、「再エネは高い」「再エネを使うためのインフラがない」等のできない理由を並べているだけであるため、*8-3のように、グリーン水素を2025年に100%にするための取り組みを強化している米プラグパワーは、アジアでは韓国のSKグループと最初に提携し、今後は中国・ベトナムでも事業を広げたいそうで、日本はスルーしているのだ。 その上、EVも最初に市場投入したのは日本の日産・ルノー組だったにもかかわらず、EVを自動車のうちに入れない変な風潮によって国内では普及できず、*8-4のように、ガソリン車製造のサプライチェーンを持たない身軽な中国企業のEVが急激な価格破壊を起こして産業構造を変えており、佐川急便は日本で保有する7200台の軽自動車を2030年迄にすべて中国の広西汽車集団のEVに取り換えるそうだ。同じ機能を有するのなら、部品点数が多いよりも少ない方が軽くて安価で故障が少ないのは当然で、優秀な製品にしやすいのである。そのような中、*8-5のように、ホンダが、2040年までに北米・日本など世界の新車販売全てをEVとFCVにすると発表したのはよかったが、日本でのEV発売は2024年に軽自動車のみというのはどういうことか? 2021年4月25日、日経新聞は社説で、*8-6のように、「⑭経済と両立する温暖化ガス削減には原発が不可欠」「⑮2030年度の温暖化ガス排出を13年度比で46%減らす目標のハードルが高い」「⑯国連の専門組織の分析等では、途中の30年時点では10年比で45%程度の削減でよい」「⑰温暖化ガスを多く排出する素材産業は短期間での産業構造転換を求められ、それに依存する地域経済が大きな痛み」「⑱日本の産業競争力が全体として低下することのないよに目配りして計画を現実的内容に修正していく柔軟さも必要」「⑲平地の少ない日本は大規模な太陽光発電の適地が限られるため、エネルギーの安定供給確保のため原子力発電を選択肢からはずせない」「⑳イノベーションの加速と新産業の育成も重要」などとした。 つまり、⑭の原発は不可欠という結論が先にあり、⑮~⑳の理由は、後から考えて事実か否かを問わず並べたものにすぎず、これがまさに日本の非科学性・不合理性で、日本の経済敗戦を導いた原因なのである。例えば、⑮⑯は、先進国の最低基準であり、これから世界の大競争の中で環境産業を発展させたい工業国の目標にはならない。また、⑰は、京都議定書から23年余り(決して短期間ではない)経過した現在も未だ環境対応ができていないのなら、それは有望産業ではなく撤退候補産業であるため、その産業に依存する地域は環境対応型の製品に変えるよう働きかけたり、地域電力で協力したり、他の産業を育てたりした方が前向きで生産性が高い。さらに、⑱は、このように「現実に合わせる」と言って妥協ばかりしてきたのが、⑳のイノベーションや新産業創出に失敗してきた原因であるため、この態度を改めなければ、今後も同様の経済敗戦が続いて国の財政が破綻する。その上、⑲には、「次は平地が少ないから大規模太陽光発電の適地が限られるときたか」と呆れるが、平地が少なければ水の位置エネルギーや運動エネルギーを使うことができ、大規模太陽光発電は景観等を悪化させ発電の生産性も低いため、太陽光発電機器は地道に各住宅・ビル・駐車場の屋根などに取り付けて自家発電する方がよい。それでも、殆どの建物が建材としてスマートに太陽光発電機器を取り付ければ、大きな発電力になるのだ。 なお、「エネルギーの安定供給確保のため原子力発電を選択肢からはずせない」というフレーズもよく聞くが、1970年の商業運転開始から50年以上経過してもなお補助金を出さなければ成立しないのなら競争力のない電源であるため、他の発電方法と同様、血税からの国民負担なしでも環境を悪化させずに原発が生き残るのでなければ、選択肢から外すのが当然である。 2021.3.2日経新聞 2021.3.27日経新聞 2021.4.23日経新聞 (図の説明:左図は、諸外国の投資状況で、CO₂排出への企業の姿勢を選択基準に入れている。しかし、これが有効に機能するためには、各企業のエネルギー及び公害に対する取組を有価証券報告書に記載し、監査できるようにすることが必要だ。中央の図は、脱炭素目標に関連する日程だが、右図のように、日本の産業部門・発電所でCO₂排出が多い。しかし、発電によるCO₂排出は、別の深刻な公害を出す原発ではなく、速やかな再エネ導入によって解決すべきだ) 2021.4.23日経新聞 2021.4.23日経新聞 2021.4.22日経新聞 (図の説明:左図のように、産業部門のCO₂排出は鉄鋼が最大だが、これは酸化鉄の還元にCOでなくH₂を使えば解決できると23年前から言っていた。中央の図は、日本企業のCO₂削減への取り組みだが、実質0というのは検証できない上、妥協の産物である。このように甘いことばかりしてきたため、右図のように、日本は再エネ技術の特許出願数や実用化で遅れたのである) *8-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE2314O0T20C21A4000000/?n_cid=BMSR3P001_202104231416 (日経新聞 2021年4月23日) 首相、懐に忍ばせた50% 脱炭素「30年46%減」の舞台裏、米調整遅れで「積み上げ型」に 菅義偉首相は22日、2030年までの温暖化ガス排出削減目標を13年度比で46%減にすると表明した。一時は米国が水面下で日本に50%減を迫り、受け入れを検討する場面もあった。米の国内調整が遅れ、経済産業、環境両省がまとめた「積み上げ型」に落ち着く薄氷の調整過程をたどった。16日午後のホワイトハウス。「何も言ってこなかったな」。首相は2時間30分ものバイデン米大統領との初の首脳会談を終え、安堵の表情を浮かべていた。会談前、対中国を念頭にした台湾問題に加え、首相が身構えていたのが脱炭素を巡る30年の目標だった。脱炭素で先行する欧州だけでなく、日米が野心的な目標を示すことで、気候変動でも中国に圧力を加える――。気候変動問題を担当する米ケリー大統領特使はこうしたシナリオを描き、日本に50%削減を求めていた。首相の腹心である梶山弘志経済産業相は会談前の12日、「積み上げでは39%減が限界です。それ以上は総理の政治判断になりますよ」と伝えていた。首相が外交舞台で約束を交わした場合、国内での説明に窮するリスクがあったためだ。とはいえ、バイデン氏との初の対面での会談相手として米が首相に中国を巡る踏み絵を迫っているのは明白だった。首相は米国出発前、リスクを考慮しつつも「バイデン氏から求められたら50%減を確約する」との交渉方針を決めた。首脳会談で2つの「想定外」が起きた。「削除して欲しい」。首脳会談当日に米側から要請が入った。事前に両政府でまとめた文言は「22日の気候変動サミットまでに30年目標を表明する」などと記述していた。いまでこそ脱炭素に前向きな米だが、石炭やシェールガスなど多くの関連業界を抱えている。米側の土壇場の豹変(ひょうへん)は米の国内要因が背景にあるとみられた。両首脳が22日までの表明を宣言する案は幻と消えた。もうひとつが首脳会談でのバイデン氏の対応だ。会談で50%減を懐に忍ばせる首相に、バイデン氏が目標数値を問う場面は最後までなかった。その後の共同記者会見で「日米が野心的な気候変動対策の牽引(けんいん)役となろう」と強調した。米国の要因が薄らぐと、30年目標をとりまく状況は一変した。首相はかねて「50年と違い30年目標は企業に負担をかけてしまう」と経済への影響を懸念していた。担当閣僚である梶山氏と小泉進次郎環境相がどこまで積み上げられるかに焦点が移った。夜に米主催の気候変動サミットを控えた22日午前の首相官邸の執務室。「46%減までは積み上げでいけます」。小泉、梶山両氏が報告すると首相は46%減案を了承し、こうひきとった。「海外の水準も意識して考える」。46%減は首相が掲げた50年の実質排出ゼロが視野に入る削減率となる。日本は13年度を基準年においた。一方で日米関係や6月以降の外交日程を熟慮すると、首相にはそれだけでは十分には映らなかった。数日前、米側から「大統領は50%削減を求めている」といったメッセージが届いた。6月に控える主要7カ国(G7)首脳会議の議長国を務める英国のジョンソン首相もまた、「日本は50%減にコミットすべきだ」と首相に伝達していた。積み上げの数字としつつも対外交渉をどう乗り切るか――。首相が苦心の末、たどり着いた結論が「50%」というもうひとつの目標を設定することだった。午後6時すぎに地球温暖化対策推進本部で「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と発言した。気候変動の交渉は各国が自らに有利な産業構造をつくろうとする国益のぶつかり合いでもある。薄氷の決着はこれから本格化するグリーン外交の序章にすぎない。 *8-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210423&ng=DGKKZO71287020T20C21A4EA2000 (日経新聞 2021.4.23) 脱炭素「産業革新」迫る、温暖化ガス削減目標を46%に上げ、電源構成の組み替え必須 政府が2030年度時点の温暖化ガスの排出削減目標を7割以上、引き上げた。13年度比46%減という新たな目標の実現に向けた道は険しい。産業界は抜本的な対応の見直しが迫られる。技術革新などを通じて競争力の強化につなげられるかが問われる。最大の課題が発電所の低炭素化だ。19年度の日本全体の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、発電所を中心とするエネルギー部門は約4割を占めた。発電量の7割以上が火力発電で、風力や太陽光など再生可能エネルギーは18%。再生エネと同様にCO2を排出しない原子力は6%にとどまる。欧州では再生エネと原発の合計で5割を上回る国が珍しくなく、日本の出遅れは明らかだ。日本政府も現行のエネルギー基本計画で、再生エネと原子力の構成比を30年時点で42~46%まで増やすとの目標を掲げている。ただ、自然エネルギー財団の試算では、この計画を達成できてもエネルギー由来のCO2の削減率は13年度比22%にとどまる。再生エネの構成比を45%まで増やし、石炭火力発電をゼロにしてようやく47%減らせるという。現実には現行目標でさえ達成がおぼつかない。原発再稼働は足踏み状態が続く。燃焼時にCO2を出さない水素やアンモニアを火力発電に使う手法は既存の設備を生かせるケースもあり期待を集めるが、短期では大きな貢献は見込みにくい。発電所由来の排出量が減れば電気自動車(EV)の普及も効果を発揮する。EVは走行時にCO2を出さないが、現状では動力となる電力を作る際に大量に排出している。20年のEV販売実績は1.4万台だった。国内の新車販売の1%にも満たない。政府は補助金の支給などを通じ、35年までに新車販売をすべてEVやハイブリッド車(HV)などの電動車にする計画を掲げる。ただ、国内の自動車保有台数は約7800万台に上る。年間新車販売は500万台程度のため、仮に半分がEVや燃料電池車などのゼロエミッション車になっても「すべて入れ替わるには30年はかかる」と豊田章男・日本自動車工業会会長(トヨタ自動車社長)は語る。豊田氏はHVの普及拡大を「現実解」と位置づける。新技術にも取り組んでおり、その一つがCO2と水素を合成して作る新たな燃料「イーフューエル」だ。CO2を原料にするため、ガソリンに混ぜて使うとHV並みの環境性能になるという。実用化の時期やコストが鍵になる。製造業でCO2を最も多く排出する鉄鋼業にも、新たな削減目標は重くのしかかる。日本製鉄は生産プロセスの改善などで30年の排出量を13年度比30%減らす計画だ。JFEホールディングスも鉄鋼事業の排出量を同期間に20%以上減らすと打ち出しているが、いずれもさらなる対応が求められる。製造過程でCO2を多く排出するコークスの代わりに水素を使う新製法が対応策の一つだ。ただ、実用化には時間がかかり、当面の寄与は限られる。「(目標の引き上げにより)現実感のない数字が独り歩きする」(神戸製鋼所幹部)と懸念の声も上がる。コスト面の課題もある。水素製鉄など新製法の実現には「4兆~5兆円かかる」(日鉄)。コークスを使う場合と同水準の費用に抑えるための水素価格は、1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり8円とみる。政府が将来目標で掲げる水素のコストは同20円。一層の引き下げが必要だ。日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は「技術開発や設備投資でも政府の支援が欠かせない」と強調する。政府は2兆円の基金をつくり、脱炭素につながる研究開発を支援する方針だ。炭素税などによる排出削減も検討している。みずほリサーチ&テクノロジーズの柴田昌彦氏は「炭素税などを財源に、次世代技術を普及させる取り組みが必要だ」と指摘する。脱炭素は今や世界の産業界が向き合わざるを得ないテーマだ。日本企業が得意とする分野もある。EVの競争力に直結する車載電池用の素材では高いシェアを持ち、人工光合成といった未来技術でも世界の先頭集団を走る。さらなるイノベーションを起こせれば新たな成長機会につながる。 *8-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD09D4W0Z00C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月22日) 太陽光、応用に強い米企業 特許多い日本勢は撤退続出 温暖化ガスの実質ゼロを目指すうえで、太陽光発電や、人工光合成を含む関連技術への関心はこれまで以上に高い。太陽光発電の利用を広げるビジネスが立ち上がり始め、次世代電池の開発や応用も進む。一方で市場環境の変化や競争が激しく、事業撤退や経営破綻も相次いだ。特許などを分析するアスタミューゼ(東京・千代田)のデータをもとに、世界の動向を探った。日本は1970年代の石油危機を受けて発足した国家プロジェクト「サンシャイン計画」でシリコン太陽電池の研究開発を進め、住宅用に実用化が進んだ。日本企業は21世紀初めまで高いシェアを誇り、発電効率の向上など技術開発でも世界をリードした。アスタミューゼによると、2000年以降に出願して成立した特許の数はキヤノン、ソニー、シャープなど日本企業が上位を占めた。だが、装置産業化が進んで中国企業との価格競争になると、シェアを落としていった。特許数トップのキヤノンは太陽電池事業からすでに撤退し、関連特許のほとんどを保有していない。8位のパナソニックも21年度中に太陽電池生産を終了する。太陽光パネルで世界シェアの上位を占める中国企業は技術開発に力を入れており、特許出願が増えている。中国は10年に国別の出願数で日本を抜いて世界一になり、15年に世界の総出願数の過半数になった。日本や米国、韓国、欧州は13年以降出願が減り、差が拡大している。太陽光パネルは過当競争だけでなく、各国の政策や通商問題の影響を受け、需給バランスが崩れやすい。かつて世界トップだった独Qセルズのほか、中国の有力太陽光パネルメーカーだった無錫サンテックパワーやLDKソーラーなどが経営破綻した。有望な次世代電池の技術を持ったスタートアップも10年代に姿を消した。例えば、米イリノイ大学から誕生したセンプリウスは印刷技術で製造できる高効率のガリウムヒ素太陽電池の実用化を目指した。同大はアスタミューゼが保有する技術が総合的に優位な「リーディングプレーヤー」の2位で、センプリウスは米政府や独シーメンスなどから出資を受けた。しかし製造技術の確立でつまずき、17年に企業活動を停止した。5億4000万ドルを資金調達した米ナノソーラーもガリウムヒ素薄膜太陽電池への評価は高かったが、13年に経営に行き詰まった。栄枯盛衰の激しい分野では、優れた技術や特許だけで競争優位を保つのは難しい。性能向上やコスト低下だけでなく、出口を見すえて使用目的に応じた技術開発を進め、市場を開拓する戦略が重要になる。例えば、公立諏訪東京理科大学の渡辺康之教授は大阪大学や石原産業と組み、インクジェットのような印刷技術で作る有機薄膜太陽電池を農業に生かす研究に取り組んでいる。この電池は緑色の波長の光だけで発電する。ビニールハウスの表面に電池を印刷すれば、植物の光合成に必要な赤色と青色の波長の光を通す。発電効率はシリコンよりも低く、売電するのではなく、ハウスの換気や農作業用の装置の電源に使う。長野県果樹試験場と協力し、ぶどうの栽培と発電が両立することを確かめた。ホウレンソウなどの葉もの栽培にも使えた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の資金援助を受けて電池の性能向上とコストダウンを進め、実用化を目指す。アスタミューゼが選ぶリーディングプレーヤーでも、関連技術や応用を重視している。すでにビジネスとして成長し始めているのが7位の米Ampt(アンプト)だ。07年に設立されたスタートアップ企業で、太陽光パネルの電圧と電流を細かく制御し、発電量を高める装置を開発、販売している。日陰やパネルの劣化の影響を最小化する効果がある。日本でも約80カ所の太陽光発電所に納入した。大分県の太陽光発電では、発電量が導入前より平均で8%多くなった。条件にもよるが、5%ほどの増加が見込めるという。6位の米ワイトリシティは電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に無線給電する技術を持つ。電力機器大手のダイヘンなどと技術協力し、太陽光パネルで発電した電気をEVなどに送るシステムを開発した。装置の上にEVを止めると、蓄電池に電気が供給される。20年2月には、関西電力が万博記念公園(大阪府吹田市)で実証実験した電動カート用に給電システムを提供した。ワイトリシティは19年、EV向けの無線給電の規格争いを続けてきた米クアルコムから関連技術や特許を買収した。業界標準となる可能性が高い。政府の研究投資(09年以降が対象)を獲得している研究機関のランキングでは、東京大学がトップになった。上位は英国、米国、日本の大学が並んだ。東大は助成件数が多く、英米は大型プロジェクトを受けている。3位の英ラフバラー大学には再生可能エネルギーの研究センターがあり、同国の太陽光研究の中心になっている。ただ、日英とも企業の存在感は薄い。現在の技術の優位性でも、特許の将来性でも上位には入っていない。大学の優れた成果をいかに産業化につなげるかが課題だ。 *8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGV06CON0W1A400C2000000/ (日経新聞 2021年4月22日) アジアの水素市場、韓国SKと開拓 米プラグパワーCEO、物流分野に強み、水素ステーションも運営 約13年前にプラグパワーに加わり、単に水素や燃料電池を売ろうとはせず、価値を売ろうとしてきた。食品流通センターや自動車メーカーに生産性改善という価値を提供できた。顧客の米ウォルマートなどが使っていたフォークリフトの鉛蓄電池は1日に何度も取り出す必要があったが、燃料電池ならば作業を約1割も省けた。水素ステーションの利用をどう増やし、いかに採算を取るかが課題だ。我々は大量のフォークリフトを長時間稼働する顧客と取引したため、使用頻度の高い水素ステーションをつくることができた。いま世界は気候変動対策としての水素の活用を重要視している。我々はフォークリフトなど物流業務に水素システムを提供するだけでなく、仏ルノーと共同出資会社を設立したり、航空機の開発企業に出資したりしている。これからは再生可能エネルギーで水を電気分解してつくる「グリーン水素」の供給が重要になる。いまはグリーン水素は供給全体の3割しかないが、2025年には100%にしたい。昨年には米国で液化水素を扱うユナイテッド・ハイドロジェン、水分解の高い技術を持つ会社を買収した。25年には米国で1日あたり500トン以上のグリーン水素を供給できる体制をつくり、スペインなど国外でも取り組む。グリーン水素を天然ガスを改質した水素と同等の価格にするには、再生エネを1キロワット時3~4セント(3~4円)で調達しなければならない。再生エネ発電事業者と提携しているほか、ニューヨーク州電力公社から再生エネを同3セントで買っている。米国では自前で顧客を開拓する。欧州では提携するスペインのエネルギー大手アクシオナやルノーなどと連携する。アジアは4~5年後に、売上高全体の3分の1を占める可能性があるとみる。売上高を現在の3.3億ドル(約360億円)から24年に17億ドルにする目標を掲げており、アジアの位置づけは重要だ。アジアは株主でもある韓国のSKグループとの提携で取り組む。ちょうど我々が韓国の水素市場で組む相手を探していた時にSKから声がかかった。韓国では物流業務向けの水素システムもふくめて全サービスを展開する。23年には工場をつくり、水分解装置と燃料電池スタック(構造体)を生産する。燃料電池は公用車や定置用電源に使う想定だ。SKの化学プラントから出る水素を使う計画だ。多くの国や企業が二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、SKも長期的には再生エネ利用を増やす方針で、今後はグリーン水素がより好まれるだろう。韓国だけでなく、SKの拠点網を生かして中国やベトナムでも事業を広げたい。弊社のフォークリフトや車両向けのノウハウ、水素ステーション設置の実績は両国でも役立つはずだ。Andrew Marsh 米デューク大学修士、南メソジスト大学経営学修士号(MBA)を取得。米ルーセント・テクノロジーのベル研究所(現ノキア)を経て、2001年に電源システム会社バレール・パワーを共同創設。最高経営責任者(CEO)を務め、07年にノルウェー電源メーカーのエルテックに売却。08年4月から現職。 *8-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210423&ng=DGKKZO71286880T20C21A4EA1000 (日経新聞社説 2021.4.23) 中国製EVが促す構造変化に備えよ 日本自動車工業会が今秋の東京モーターショーの開催中止を決めた。一方、中国で開催中の上海国際自動車ショーでは、自動車産業の構造変化を予感させる出展が相次いでいる。主役となっているのが電気自動車(EV)だ。日本勢にはEV時代の到来を見越した戦略の転換を求めたい。上海では、日本勢でもトヨタ自動車やホンダが意欲的な新車の投入計画を表明した。それでも目立つのは中国企業の勢いだろう。中国企業は自国で生産合弁を組む日米欧のメーカーから、様々な形で技術移転を進めてきたものの、複雑な構造を持つガソリン車では追いつくのが難しかった。だが、部品点数が大幅に減るEVとなると、中国企業は侮れない存在となることを認識すべきだ。中国では急激な価格破壊が起こり、国内で売られるEVの4分の1は10万元(約170万円)以下とみられる。日本で言えば軽自動車にあたる価格帯だ。日本の自動車メーカーが価格競争で消耗するのは、できるなら避けたい。より重要なのは、EVがもたらす構造変化への対応だ。EVは完成車メーカーを頂点とするピラミッド型の産業構造まで変えようとしている。日本勢は3万点に及ぶ部品の「擦り合わせの妙」を競争力の源泉としてきたが、構造が簡素なEVでは大胆な国際分業が起きつつある。その波頭は日本にも及んでいる。佐川急便は国内で保有する7200台の軽自動車を、2030年までにすべてEVに取り換える。佐川にEVを供給する日本のスタートアップは設計と開発だけを手がけ、車両の生産は中国の広西汽車集団に委託する。生産と設計・開発の分離というパソコンやスマートフォンで起きた現象が、すでに自動車産業にも押し寄せているのだ。世界最大の自動車市場を抱える中国企業にとっては規模の経済性を発揮しやすい。ハードだけでなく自動運転の社会実装でも一歩リードする。日本の自動車メーカーに構造変化への備えはあるか。国内でいち早く普及させたハイブリッド車に頼り続けていては、「イノベーションのジレンマ」に陥りはしまいか。EV時代に何を強みにすべきかを、日本の自動車産業はもう一度問い直してほしい。100年に一度の大転換を成長の好機にする必要がある。 *8-5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC236740T20C21A4000000/ (日経新聞 2021年4月23日) ホンダ、世界販売全てをEV・FCVに 40年目標 ホンダは23日、2040年までに北米や日本など世界の新車販売全てを電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にすると発表した。そのための新車投入計画も明らかにした。これまでは30年に世界の新車販売の3分の2をEVなど電動車にするとしていたが、具体的な方策は示していなかった。4月1日付で就任した三部敏宏社長が同日の記者会見で「ホンダはチャレンジングな目標に向かって人が集う会社だ。高い目標を掲げて実現に向けて取り組んでいく」と語った。先進国市場ではEVとFCVの割合を30年に40%、35年には80%に高める。具体的には24年に北米で米ゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発した大型EV2車種を投入し、20年代後半から別のEVも発売する。中国では22年に新型EVを発売し、今後5年以内に10車種のEVを投入する。日本では24年に軽自動車のEVを発売する。そのために今後6年間で研究開発に総額5兆円を投じる。菅義偉首相は22日夜、首相官邸で米国主催の気候変動に関する首脳会議(サミット)で30年度に温暖化ガスを13年度比で46%削減することを表明した。これをうけ、ホンダが23日に具体的な電動化戦略を明らかにした。ホンダは16年に30年メドで世界の新車販売の3分の2を電動車にする方針を表明。八郷隆弘前社長は「HVとプラグインハイブリッド車(PHV)が50%以上、EVとFCVで15%」としてきたが、具体策は明示していなかった。 *8-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210425&ng=DGKKZO71348740U1A420C2EA1000 (日経新聞社説 2021.4.25) 経済と両立する温暖化ガス削減を 政府は2030年度の温暖化ガス排出を13年度比で46%減らす目標を決めた。菅義偉首相が気候変動に関する首脳会議(サミット)で発表したが、達成へのハードルは高い。米欧や中国と協力し、経済と両立させつつ世界全体の排出削減を加速することが重要だ。サミットではバイデン米大統領が30年に05年比で50~52%減、ジョンソン英首相は35年に1990年比で78%減らすと表明した。いずれもかなり思い切った目標だ。 ●目標のハードルは高く 温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は今世紀末までの気温上昇を産業革命前に比べ、1.5度以下にとどめる目標を掲げる。それには、2050年に世界の温暖化ガス排出を実質ゼロにしなければならない。国連の専門組織の分析などによれば、途中の30年時点では10年比で45%程度の削減が必要になる。各国のこれまでの削減目標では、達成できたとしても気温上昇が3度を上回る恐れがある。熱波や豪雨の頻発、海面の上昇による洪水などが避けられなくなる。農業への打撃で食料不足が深刻化し、移民の増加、政情不安などのリスクも高まる。気候サミットでは削減目標の引き上げや加速を表明した国が相次ぎ、こうした事態の回避へ一歩前進した。日本の新しい目標も米欧に近い意欲的なものだ。ただし、達成への道筋は相当な困難を伴う。温暖化ガス排出を30年度までに13年度比で26%減らすとしていた従来の目標には裏付けがあった。産業別の対策で見込める削減を積み上げて出していた。30年までのわずか9年で、この目標を7割以上も上回る削減を実現しなくてはならない。温暖化ガスを多く排出する素材産業などは、短期間で産業構造の転換を求められる。それに依存する地域経済は大きな痛みを迫られる可能性が高い。政府はこうした実情も踏まえ、削減目標に実効性をもたせるための計画を早急に決めてほしい。日本の産業競争力が全体として低下することのないよう目配りし、計画を現実的な内容に修正していく柔軟さも必要だ。排出削減を加速するには、化石燃料への依存を極力減らす必要がある。生産から消費まであらゆる段階で電化を進めつつ、石炭火力発電を再生可能エネルギーなどに転換することが急務だ。平地の少ない日本は、大規模な太陽光発電の適地が限られる。期待の高い洋上風力発電も、建設や試験、周辺漁業への影響調査などを考えると30年までの本格展開は難しい。とすれば、エネルギーの安定供給を確保するために原子力発電を選択肢からはずすことはできない。経済産業省は現在作成中の次期エネルギー基本計画のなかで、原発の役割を明確にすべきだ。イノベーションの加速と新産業の育成も重要だ。日本は二酸化炭素を回収し地中に埋めたり再利用したりする技術(CCUS)や水素利用、宇宙太陽光発電などの先端技術をもつ。ただ、これらが低コスト化し普及するのはかなり先だ。当面は既存の技術を総動員するとともに、規制の見直しなどで着実に排出を減らすしかない。その際、国民の負担増を最小限に抑え国力を弱めないのが前提となる。たとえば、風力発電に必要な環境影響評価(アセスメント)や保安林指定の解除などの手続きは迅速化できる。太陽光発電や家庭用蓄電池を使い、エネルギー消費を実質ゼロとするZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及策も改善の余地がある。 ●国際連携でしたたかに 気候変動対策は地球規模で考えることが大切だ。日本の温暖化ガス排出量は世界全体の約3%にすぎない。世界最大の排出国である中国、2位の米国が先頭に立たなければ削減は進まない。トランプ前大統領によって大きく後退した米国の対策が、バイデン政権の下で再び前へ動き出したのは国際社会にとって好ましい。ただ、政権が代わるたびに方針が大きく転換するのは困る。政策に一貫性を保つよう、日本が注文を付けてもよい。中国の習近平国家主席は気候サミットで、30年までに排出のピークを迎え、60年までに実質ゼロをめざす従来の目標を繰り返した。当面は排出が増え続ける。日本は米欧と連携し、中国に一層の削減努力を促すべきだ。省エネや新エネの技術力も生かし、排出大国を望ましい方向に動かすしたたかさが要る。 <人を犠牲にしない国になるべき> PS(2021年4月26日追加): 2019年4月の総務省調査で、*9-1のように、65歳以上の高齢者が人口に占める割合が50%を超える「限界集落」がその時点で2万372ヶ所あり、集落機能維持困難集落が2618、いずれ無人化する可能性ある集落が2744に上ったそうだが、その集落も道路・公共交通・上下水道・家屋などの生活インフラや山林・田畑などの生産基盤を備えているため、もったいないことである。しかし、高齢化や人口減少が進むと、*9-2のように、地域のインフラ維持が困難になり、佐賀県内では10市10町のすべてで自治体運営のバス・タクシーが運行することになったが、高齢化や人口減少で財政状況が厳しくなればこれも限界になる。そのため、乗り合いタクシーや自動運転タクシーだけでなく、根本的に人口を増やして地域を元気にする「まちづくり」が必要である。 一方で、国は、*9-3のように、政府が掲げる「多文化共生」の理念には程遠い入管難民法改正案の審議を衆院で始めているそうだ。しかし、日本は難民認定割合が以上に小さく、難民収容の可否が裁判所の審査を経ずに法務省の裁量で決められ、国際標準の人権上の配慮に乏しく、手続きの公正性・透明性を欠くにもかかわらず、この入管難民法改正案は送還の徹底に主眼があるため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)・日弁連・外国人支援団体などから強い懸念や反対の声が上がっている。つまり、日本は、外国人の人権を無視しており、せっかく日本に来た外国人にひどいことをして追い返しているわけである。 その結果、日本製品は価格が高くなり国際競争に負けるので国内企業も外国に出て行き、高齢化による労働力不足として耕作放棄地を増やし食料自給率を低下させて、限界集落を消滅集落化しようとしており、その理由を国内労働者の保護目的と言っているのである(実際は国民にとってマイナス)。しかし、これらの限界集落に難民を迎えて仕事を与え年少者や希望者を教育すれば、安価な労働力でしか作れない製品でも国際競争に勝つことができ、多様性のメリットを出すこともでき、難民にも感謝され、国民を豊かにしながら限界集落の消滅集落化を防ぐことが可能だ。そのため、私は、外国人の人権侵害や外国人の排斥をしたがる人の考えには賛同しない。 *9-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200327-OYT1T50270/ (読売新聞 2020/3/28) 「限界集落」1割増え2万か所超す、いずれ無人化の可能性2744集落 総務省は27日、65歳以上の高齢者が人口に占める割合が50%を超えた「限界集落」は、昨年4月時点で2万372か所に上ったと発表した。過疎地域にある6万3237集落のうち、限界集落が占める割合は32・2%で、2015年の前回調査から約1割増えた。集落機能を維持するのが困難だと回答したのは2618集落に上った。10年以内に集落が無人化する可能性があると回答したのは454集落、いずれ無人化する可能性があると回答したのは2744集落だった。 *9-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/666936 (佐賀新聞 2021年4月26日) 公共交通を支えるには、官業民一体で知恵絞ろう 高齢化や人口減少で地域の公共交通が縮小する中、自治体が事業運営を担うケースが増えてきた。佐賀県内では4月から大町町がコミュニティーバス「まちバス」の運営を試験的に始めたことにより、10市10町すべてで自治体が運営するバス、タクシーが運行することになった。地域の公共交通は利用者の減少で、今まで通り維持することは難しい。自治体はバスの赤字路線を公費で補てんしたり、コミュニティーバスで代替するが厳しい財政状況では限界がある。「地域の足」をいかに守るか、自治体、事業者、住民が一体となって知恵を絞る必要がある。武雄市は4月から市内各地で運行している循環バスの一部を、予約型の乗り合いタクシーに切り替えた。「ほんわカー」と親しみを込めた名称のタクシーは、運行経路の設定にAI(人工知能)を活用し効率化を図っている。これまでの循環バスでは運行範囲が狭く、時間帯によっては誰も乗っていないこともあった。予約型乗り合いタクシーによって、乗降場所も増え利用者に寄り添った運行が可能となる。市企画政策課は「エリアの拡大や待ち時間、乗車時間の短縮など利便性の向上につながる」と説明。最終的には循環バスからの全面切り替えも検討する。佐賀新聞では、地域の公共交通の現状と課題を考える企画「地域と交通 さが未来路」の第2章「自治体」で試行錯誤する市町職員の姿を伝えた。一定の利用者を確保しなければ国からの補助金が削減されるため、職員自らバス通勤できないかと検討したり、多くの市町が企画部門で担当するところを、高齢者の利用が多いことから福祉部門が担当となり、利用者ニーズを引き出すことに注力するなど、涙ぐましい努力の実態が浮かび上がった。苦悩する県内の市町に対し県は、年3回の研修会を開いている。コミュニティーバスや予約型乗り合いタクシーのアイデアは、研修を通じて生まれている。しかし利用者自体が減少傾向では、これらのアイデアもいつか行き詰まるかもしれない。コミュニティーバスや乗り合いタクシーなどの運用は移動手段を確保するだけでなく、地域をいかに元気にするかという「まちづくり」の視点も求められるのではないだろうか。高齢化、過疎化が進む現状では「地域の足」を確保するためにはまず、コミュニティーバスや乗り合いタクシーの運用が最優先だ。しかし「地域の足」を高齢者だけでなく、通勤・通学や日常の買い物まで利用範囲を広げることができれば、人々の交流が増え地域の活性化にもつながるはずだ。県内では地域交通の利用促進を図るためノーマイカーデーやICカードの導入を呼びかけているが、広がりは限定的だ。公共交通を維持する取り組みにまだ「最適解」はない。何が利用者と地域にとって有効なのか、今後の動きを見極め議論を深めなければならない。 *9-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/729086/ (西日本新聞社説 2021/4/25) 入管法改正案 多文化共生の理念どこに 外国人の収容や母国への送還のルールを見直す入管難民法改正案の審議が衆院で始まった。政府が掲げる「多文化共生」の理念に合致する改正案とは言い難い。国内外から長年、閉鎖的と批判されてきた入管行政の実態を直視し、再考すべきだ。不法滞在などで摘発されても帰国を拒む外国人(送還忌避者)が近年増加している。昨年末時点で約3100人に上り、入管施設での収容が数年に及ぶ事例もある。改正案はそうした状況の解消が目的とされる。まず目を引くのは、忌避者に期限を定めた国外退去の命令を下し、応じない場合は刑事罰を科す点だ。難民認定を申請すれば送還が一時的に停止される現行制度も改め、申請は原則2回までとし、3回目以降は送還の対象とする。他方、難民に準じて人道上の観点から在留を認める「補完的保護」や、弁護士らの監督下で施設外での生活を認める「監理措置」などを新設する。所管の法務省は、これら硬軟を取り交ぜた改正案が成立すれば、入管行政は適正化されるという。これに対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や日弁連、外国人支援団体などから強い懸念や反対の声が上がっている。補完的保護などの新設は一歩前進とはいえ、例外的に滞在を認める既存の在留特別許可や仮放免の延長にすぎず、改正案全体としては送還の徹底に主眼があると言えるからだ。日本の入管行政は難民認定の少なさに加え、身柄収容の可否が裁判所の審査を経ずに法務省の裁量で決められる点が問題とされる。国際標準に照らして人権上の配慮に乏しく、手続きの公正さや透明性を欠く。にもかかわらず、この点の是正が見送られたことも看過できない。重要なのは不法滞在の背景に目を向けることだ。外国人技能実習生が劣悪な労働環境に耐えかねて失踪する例は後を絶たない。帰国すれば身に危険が及ぶ不安があったり、家族が日本で暮らしていたりして送還を拒む人も少なくない。新型コロナウイルス禍の中、職を失って困窮する外国人も増えている。野党は、難民の認定審査を行う独立行政委員会の設置や収容の可否を裁判所が判断する仕組みを柱とした対案を共同で提出している。政府、与党はこうした案も参考に、入管行政の抜本的な改革を図るべきだ。安倍晋三前政権が「多文化共生」に向けて旧入国管理局を改組し、外国人支援業務も担う出入国在留管理庁を設置し今月で2年になる。日本社会をさまざまに支える人々の境遇は改善されたのか。政府は自らの取り組みの検証も忘れてはなるまい。
| 経済・雇用::2021.4~2023.2 | 10:25 PM | comments (x) | trackback (x) |
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