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2025.4.23~ 政府のカネの使い方と国民負担
・・工事中・・

(1)トランプ関税と日本の米について


 2025.2.14日経新聞     2025.4.23沖縄タイムス   2025.4.15日本農業新聞

(図の説明:左図は、米国が訴える日本の貿易障壁だが、自動車や牛肉・食品添加物の安全基準についてはすべてが正しいわけではないため、安全を犠牲にすべきではない。しかし、国内の生産者を保護するための米や豚肉の関税については、日本の消費者が高い物を買わされているということであるため、国際競争力をつけて速やかに関税障壁をなくすようにして貰いたい。中央の図は、私も高すぎると思う米の関税障壁で、右図は、それに対する財務省の提言である)

 *1-1は、①米国は、「輸出を妨げている」と日本の米輸入制度を批判 ②財務省は国内需給の調整弁として輸入米のMA米のうち主食用を年間最大10万トン増やすべきと提言 ③MA米は1993年のガット・ウルグアイラウンド合意に基づいて導入され、日本は米国等から年間77万tを義務的に輸入して最大10万tを主食用にし、残りを(需給に影響を与えないため)飼料用・加工用等にしている ④政府は1993年閣議了解の農業施策基本方針で「売買同時契約(SBS)米を含むMA米で転作の強化は行わない」と定め、MA米が国産米の需給に影響を与えないよう運用してきた ⑤MA米の主食用米としての利用を増やせば、この閣議了解との整合性が問われる ⑥財務省は「飼料用米も一律に高単価で支援する必要があるとは言えない」「毎年度約2000億円もの巨額の財政負担が生じている」として支援方法を見直すよう迫った ⑦米の価格上昇や不足感を背景に輸入米に頼ることは、食料安全保障強化に逆行 ⑧米国は日本の輸入米制度を「非関税障壁」として批判してきた としている。

 このうち①⑧については、上の左図と中央の図のとおり、日本はTPPに入っていない米国からの米の輸入に関し、③④のように、1993年のガット・ウルグアイラウンド合意に基づいて導入された無関税のミニマムアクセス米(以下、“MA米”)年間最大77万t(うち主食用10万t)を義務的に輸入し、残りは主食用米の価格を下げないために、1993年の閣議了解の農業施策基本方針で「売買同時契約(SBS)米を含むMA米で転作の強化は行わない」と定めて飼料用・加工用に回している。また、自由に輸入できる米には、341円/kg(約200%)の関税をかけて米作農家を保護してきたため、確かに複雑で高関税で輸入障壁の多い制度になっている。

 これについて、⑤は「MA米の主食用米としての利用を増やせば1993年の閣議了解との整合性が問われる」とするが、1993年の閣議了解の源は私で経緯を知っているため記載すると、太平洋戦争中の食糧不足で1942年(昭和17年)に定められた食糧管理法(以下“食管法”)は、とっくに米不足が解消していた1993年(平成5年)まで50年間も漫然と続けられていたのである。

 そのため、2年かかって食管法を廃止し食糧法を1995年(平成7年11月)から施行したのだが、計画流通制度とその関連制度は残されたため、米の流通自由化をより本格化させる目的で、2004年(平成16年)4月から改正食糧法が施行され、米価維持目的で1970年(昭和45年)から実施されてきた米の減反政策は2018年(平成30年)にやっと廃止された。しかし、この間に、日本の食料自給率や耕地面積は減少し続け、農業従事者は新規参入が少ないため高齢化したのである(https://smartagri-jp.com/agriculture/247 、https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/s_sankou/pdf/s1.pd 参照)。

 つまり、必要に迫られて作られた制度を、その必要が失せて時代に合わなくなっても何十年も続けることは、現状維持どころかマイナスにしかならないのだ。また、現在は、食糧法が施行されて30年経過しているが、最初から言っていたのに激変緩和のための仕組みを次第になくしていかず、農業は世界で勝てるようにならなかったのだが、それをやらなければならなかったのが(決して短くはない)この30年だったのだ。

 そのため、世界と比較して値段の差ほど価値の差がない農産物は、あらゆる方法を使って改善し、何とか生産を維持しなければならないと思う。従って、⑥の財務省と同様、「水田があるから米を作りたいので、飼料用米にも高単価で支援すべき」というのはあまりに安易すぎ、生産年齢人口にあたる人に毎年数千億円もの巨額な補助金を支給し続ければ、本当に働けない子供の福祉や教育、高齢者への福祉ができなくなると、私も考えている。

 そのため、②については、誰も合理的とは思っていないMA米のうち主食用を増やして、残りは飼料用・加工用に回すのではなく、産地・銘柄・価格を明確に表示して消費者に選ばせればよいだろう。私自身、カリフォルニア産・オーストラリア産・カナダ産のサガビヨリ・コシヒカリ・ユメピリカがあっても良いと思うし、値段との関係でそちらを選ぶ人も多いと思われる。そして、この時、⑦の「米の価格上昇や不足感を背景に輸入米に頼ることは、食料安全保障強化に逆行する」というのは、食料安全保障上、必要な農産物は米だけではない(これは常識)し、そのためにこそ、あらゆる方法で世界競争に勝てる農産物を生産しなければならないのだ。

 また、*1-2は、⑨農水省は2月3~9日にスーパーで販売された米5kgの平均価格が前年同期と比べて89.7%高い3,829円だったと発表 ⑩1月下旬に政府が備蓄米放出の新方針を表明したが高騰は続いた ⑪農水省は値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいると見ている としている。

 このうち⑨については、2025年4月24日現在、アマゾンで見た米5kgの値段は、ななつぼし4,910円、あきたこまち6,090円、はえぬき5,800円、ブレンド米3,900円であり、ブレンドして銘柄不明になった米以外は、143~242%の値上がりである。これは、子供が多くて食べる分量の多い家庭ほど困ったことだろう。

 なお、⑩⑪の「備蓄米放出表明後も高騰が続いた」「値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいる」という点については、去年の米不足で困った実需者(食品会社や家庭)が少しづつ在庫を増やしているのであり、その理由は「価格を抑える気のない口先だけの備蓄米放出など当てにできない」と考えているからだ。

 さらに、*1-3・*1-4は、⑫トランプ米政権の関税措置を巡る日米交渉で、米や検疫体制が農産品を巡る攻防の焦点になってきた ⑬米国は、米の市場開放やジャガイモなどの検疫の緩和を要求 ⑭石破茂首相は4月21日の参院予算委員会で、「自動車を守るために農業を犠牲にする考えは全く持っていない」と述べた ⑮米国は自動車や鉄鋼・アルミに25%の追加関税を賦課。それ以外の輸入品には一律10%追加し、国ごとの相互関税の上乗せ分は7月上旬まで停止中 ⑯米国の要求は、3月に公表した「外国貿易障壁報告書」に沿ったもの ⑰検疫体制ではジャガイモ・牛肉等について問題視 ⑱首相は4月20日のNHK番組で「食の安全を譲ることはない」と強調 ⑲第1次トランプ政権時の日米貿易協定で日本は牛肉等の関税をTPP並みに下げ、自動車の追加関税を回避 ⑳江藤農相は「調整弁は備蓄米を活用している」と述べ、輸入米拡大による需給調整に否定的 ㉑立民が生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案について農水省から聞き取りをし、米はじめ農産物価格が上昇して家計を直撃する中で消費者の理解を得ながら価格形成を進めるハードルの高さを指摘する意見が相次いだ ㉒同法案は売り手と買い手に価格交渉に誠実に臨むよう努力義務を課し、対応が不適切な事業者に国が指導・勧告を行う ㉓米・野菜等を対象に価格交渉の材料になる「コスト指標」を作成する方針 としている。

 このうち⑫の米の流通については、無関税のMA米を政府が購入して10万tしか主食に回さず、残りの67万tは主食用米の価格を下げないため飼料用・加工用に回すというもったいないことをしている。そして、民間輸入米には200%もの関税をかけ、ここには日本の消費者のための視点が全くない。そのため、米国に言われなくても米の関税率は一律に単純化して低くすべきであり、食料安全保障には米だけが必要なのではなく、日本の農業を強くすることが必要なのだ。

 また、⑫⑰の検疫体制については、牛肉の例を挙げると、2001年に国内で1頭目のBSE感染牛が確認され、同年に肉骨粉の飼料利用完全禁止、解体される牛の全頭検査、特定部位(全月齢の頭部)・脊髄・扁桃及び回腸遠位部)の除去・焼却が義務づけられたが、米国からやかましく言われて、2005年に検査対象牛の月齢を21か月以上と緩和し、2013年には48か月超とさらに緩和したのである(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bse/domesticmeasures.html 参照)。

 そして、そのBSE検査の規制緩和は輸入牛だけではなく国産牛にまで適用したため、国産牛の安全性に関する付加価値も米国からの輸入牛並になったのだ。そのため、私は、牛肉は米国産でも日本産でもなく、原発を使わず農産品の安全性を追求しているオーストラリア産に決め、オーストラリア産がなかったら買わないことにしているのだが、オーストラリア産は脂肪が少なく蛋白質の部分が多いため、価格だけではなく栄養的にも良い。

 さらに、⑬の米の市場開放やジャガイモの検疫緩和については、「遠い外国に輸出するものだから」と安全性を犠牲にするのでなければ良いが、害虫もつかないように遺伝子組み替えした大豆などは、仮に輸入したとしても消費者の区別に資するよう、販売時に明確に表示してもらいたい。そのため、⑭⑱の石破首相の「自動車を守るために、農業を犠牲にする考えはない」という発言も消費者の視点を欠いているし、「食の安全を譲ることはない」は、どう安全を護るのかについて具体性がないため、不安が残るわけである。

 なお、⑮⑯は、米国人の視点ですることなので、日本人の視点で止めることは困難だが、⑲のように、第1次トランプ政権時の日米貿易協定で日本は牛肉等の関税はTPP並みに下げているそうだ。また、⑳の江藤農相の「調整弁は備蓄米を活用している」とについては、日本政府の視点は、消費者である国民を豊かにする大きな戦略がなく、その場限りのつじつま合わせが多すぎるため、調整を政府が行なうこと自体に無理があると思う。

 また、㉑㉒の立民の「生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案」については、さまざまな工夫をして生産コストを下げることもビジネスの重要な要素であるため、消費者が理解しないのではなく、そういうことを言う政治家自身がビジネスを理解しておらず、消費者の視点にも立っていないのだと思う。そのため、国が変な法律を作って事業者等に不適切な指導・勧告を行うと、日本の国際競争力はさらに下がり、経済成長も阻害されるのである。

 さらに、輸入豚肉にも関税がかかっており、国内の養豚農家を保護するために、日本の消費者は海外よりも高い価格で豚肉を購入することになっている(=日本の消費者を貧しくしている)が、これも生産性の向上等で速やかに国際価格に追いつくようにすべきだ(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/shokuniku/lin/l_buta_sagaku/index.html、https://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/attach/pdf/index-2.pdf 参照)。

 *1-5は、「牛乳の消費拡大が必要」として、㉔牛乳は差別化が難しく、食品全体の価格が上がる中、業界一体で対策に取り組む必要 ㉕2030年度の生乳生産数量目標は732万t、10年後は780万tを目指し、今後の需要拡大策が焦点 ㉖ホクレンは消費拡大に向けて台湾・香港等の輸出先での試飲や広告展開を進める ㉗牛乳は加工度が低く、差別化が難しい。利益も薄く積極的な販売拡大策が取りにくいのが課題 ㉘Jミルクは「物価高騰が牛乳消費に影響を与えている」「理解醸成だけで消費を維持するのは限界」と指摘 ㉙消費拡大に向けたイベントなどの開催時期やコンセプトを業界全体で行うことが必要と提案 ㉚自民党の簗委員長は「生産現場が安心して営農できる環境の基となるのが需要拡大」と強調 としている。

 ここで問題なのは、㉙㉚のように、i)政治家に依頼すれば消費拡大できる ii)「牛乳の消費が拡大しないのは消費者の理解が乏しいからなので、イベントを行なえば消費が拡大する」 と思っていることである。何故なら、戦後に育った子どもは、給食により牛乳を飲むことには慣れており、牛乳の栄養価についても中学校で勉強するため、牛乳の消費が頭打ちになっているのは、理解が乏しいことが理由ではないからだ。

 しかし、もし政治家に何かを頼みたいのであれば、子どものうちから牛乳に親しむよう無償で牛乳や乳製品を学校給食で提供して貰ったり、義務教育で(家庭科ではなく、生物学の1項目として)男女ともに栄養学を論理的に教えるようにして貰った方が良いと思う。

 ㉔㉕については、確かに牛乳自体は差別化しにくいが、牛乳が中心のイチゴミルク・コーヒー牛乳・ヨーグルト等の飲料を作れば差別化は簡単である。しかし、差別化するには独自の工夫が必要であるため、「業界一体」というのは差別化には向かないだろう。

 また、㉖㉗については、牛乳自体ではなく、チーズにして鉄・カルシウム・わさび・からしめんたい・ほたての燻製などを加えれば、日本独自のチーズができ、輸出しても人気が出そうだ。さらに、スキムミルクだけではなく、全粉乳にしたり、冷凍パイ生地・冷凍シュークリーム・アイスクリームなどに加工すれば、保存がきく上、多くの家にあるオーブン・電子レンジ・ホームベーカリー等の機器を使ってできたての味を楽しめる。私自身は、ホームベーカリーでパンを作ったり、モチを作ったりする時に、そこに全粉乳を加えてカルシウム等の補給をしている。

 しかし、㉘のように、確かに物価高騰で牛乳の消費は控えざるを得なくなっているため、それを解決するには、販売単位を大きくして安くしたり(アメリカはガロン単位)、全粉乳やスキムミルクにして販売したりなど、節約志向の人でも購入しやすい売り方を工夫すべきだ。

(2)消費税の位置付けと実際の使途

  
  2019.9.25毎日新聞   2025.4.26東京新聞    消費者経済総合研究所

(図の説明:左図のように、日本が消費税導入の見本と称したヨーロッパは、実は付加価値税であり、消費者ではなく生産者にかかるもので、税率も食料品・水・書籍等の必需品は0%に近い軽減税率だ。日本の消費税は、中央の図のように、1989年に3%の税率で導入され、2014年には8%、2019年には10%とうなぎ登りに引き上げられたが、食料品と定期購読の新聞のみには8%の軽減税率が適用されたため、新聞はこぞって消費税率引き上げに賛成の立場をとっているのだ。しかし、日本が見本と称しているヨーロッパは、食料品・水道水・書籍・雑誌等は0%に近い軽減税率である。消費税は逆進税であるため、累進課税の所得税の方が優れた課税方法なのだが、税制間のバランスなどと称して日本は消費税の割合を増やし、必需品への軽減度も低くしているため、消費税の短所である逆進性が本家のヨーロッパよりも大きく出ているわけである)

     
 2023.12.23、2024.12.12、2025.4.26沖縄タイムス  2025.4.27佐賀新聞 

(図の説明:1番左の図が2024年度の政府予算だが、歳入の31.2%が国債発行で賄われており、実質国債残高は物価上昇によって減り、その減った分は国民の実質預金残高が減ることによって賄われるため、国民は税・社会保険料以外に物価上昇による預金残高の目減りという膨大な負担も強いられている。左から2番目の図が税制改正の政府案だが、防衛費増加分をたばこ税で賄っているのは問題で、その理由は、1989年4月1日の消費税法施行に伴って奢侈品・嗜好品に課されていた物品税が廃止されたが、酒税・たばこ税・自動車税・ガソリン税は現在も残っているからだ。その消費税については、右から2番目の図のとおり、各党が議論しているが、少なくとも食料品等の必需品の税率は0に近い軽減税率にすべきである。1番右の図は、ガソリンの暫定税率を0にした場合の問題点だが、環境税として地方が独自に徴収すれば良いだろう)

 消費税導入の目的は、i)税制間のバランス ii)個別間接税の問題点解決 iii)高齢化社会の財源確保とされ、「所得税中心の財源では所得税納税世代(20歳~64歳)に負担がかかり、高齢化で年金・福祉に関する財源が増加するから」と理由付けされている(https://airregi.jp/magazine/guide/1795/ 参照)。

 また、物品税は間接消費税の一つで、日本では1940年(戦争中)に制定された物品税法によって宝石・毛皮・電化製品・乗用車・ゴルフクラブ等の奢侈品・嗜好品に課され、メーカー出荷時に課税されたが、「国民の生活水準が上がって贅沢品の線引きが曖昧になったため一律の消費税導入でその問題を解決する」として、1989年4月1日の消費税法施行に伴って廃止された。

 しかし、現在も、酒税・たばこ税・自動車税や*5-3のガソリン税等は残っており、このうち自動車やガソリンは1940年代と違って贅沢品どころか必需品になっているため、自動車税やガソリン税は、早々に廃止するのが筋であろう。しかし、現在では、化石燃料の使いすぎによる環境悪化が著しいため、化石燃料には地方が環境税を賦課すれば、自動車税やガソリン税の廃止による問題は解決する。

 一方、酒税やたばこ税は、消費税の一部である上、酒やたばこを飲みすぎると癌のリスクが増して医療・介護費が増えるため、酒税・たばこ税は消費税の一種としてさらに税率を上げ、医療・介護費にまわすのが筋であって、防衛費の財源にするなどもってのほかである。

 また、現在、電化製品や乗用車が必需品で奢侈品でないのは明らかだが、高価な宝石や高すぎる住宅・入場料などが奢侈品に入るのも明らかであるため、単価によって税率を変えつつ消費税をかければ、食料品の税率を0にしてもカバーできる。そして、このような複数税率に、正確かつ容易に対応できるのが、インボイス方式の長所なのである。

 そのような中、*5-1は、①立民が江田氏を中心に食料品の軽減税率8%が適用される飲食料品の税率を0%に引き下げて年5兆円規模の減税を実現させる夏の参院選公約に向けた提言書をまとめた ②党税制調査会等の合同会議も開かれ、出席議員の多くが消費税減税を訴えた ③財政規律を重視する枝野幸男元代表が「減税ポピュリズム」と批判し、対立が先鋭化 ④提言書は、食料品の税率を当分の間、0%にすることで「物価高から国民生活を守る」と強調 ⑤中低所得者の消費税を実質的に還付する「給付付き税額控除」を導入するまでの時限的措置 ⑥減税は国内総生産(GDP)を0.39%押し上げると試算 ⑦財源には米国債の償還金活用を挙げた 等としている。

 上に記載した理由から、私は、①②には賛成だが、④の「食料品の税率を当分の間、0%にする」では足りないと思うし、「物価高から国民生活を守る」だけでは理論的に弱すぎると思う。ましてや、③のように、「消費税減税はポピュリズム」と言うのは、選挙に都合の良い無駄なバラマキは堅持しつつ、税理論はさておき、とれるところからとる というスタンスであり、民主主義の理念も税理論も無視した政治であろう。

 さらに、⑤の「中低所得者の消費税を実質的に還付する『給付付き税額控除』を導入する」については、人間のすることには、変な価値観による恣意性が入り、公正とは言えず、漏れも多く、遅すぎるため、消費税をとってから給付付き税額控除を導入するよりは、ヨーロッパのように、必需品には0%の軽減税率を適用する方が、国民生活を守るためによほど有用なのである。

 なお、⑥の減税がGDPを0.39%押し上げるというのは、国民の可処分所得が増える分だけ正しいと思われるが、⑦の財源は、米国債の償還金のような一時的なものではなく、酒税やたばこ税の引き上げと奢侈品への15~20%税率で賄えば良いだろう。付加的ではあるが、1億円超などの高すぎる住宅に高税率をかけると、企業や住宅の地方移転を促すことにもなる。

 また、*5-2は、自民の森山氏は、⑧「消費税を下げる議論だけが先行しては大変なことになる」 ⑨「社会保障に充てていく約束で消費税制が成り立っていることを忘れてはいけない」 ⑩「消費税を下げる分の財源をどこに求めるかの話があって初めて議論できる」 ⑪「2012年に旧民主党・自民党・公明党3党で交わした社会保障と税の一体改革に関する合意は、正しい選択・判断だった」 ⑫「日本は経済的にも大きな国で、日本の財政が信任を失ったら国際的に大変なことになるのを認識しておかなければいけない」 ⑬「消費税が地方交付税の財源にもなっており、消費税は色々なことに影響する税金であることを国民に理解してもらわないといけない」 と述べたとしている。

 このうち⑧⑩⑫の財源については、選挙目的の無駄なバラマキや時代遅れの補助金の廃止による歳出の組みかえこそが重要なのだが、これには一切触れず、国民の負担増ばかりを強調している点が不誠実だ。

 また、消費税導入時には、⑨のように「消費税は社会保障に充てる」というふれ込みだったが、実際には、⑬のように地方交付税の財源にしたり、消費税の一部であるたばこ税を防衛費の財源にしたり、同じく消費税の一部である酒税を福祉以外の財源にしたりなど、当初のふれ込みとは異なる流用が甚だしい。そのため、消費税の使い道を正確に分析する必要はあるが、国民は、財政全体の使い道を理解すればするほど、これではたまったものではないと思うのである。

 なお、⑪の「社会保障と税の一体改革」の3党合意も、皆でガラガラポンしてわけがわからないようにし、どうやっても(当然)残る負担は国民に押しつける理不尽な手法であったため、私は、最初から反対で賛成したことは一度もなかったのである。

(3)教育について
1)義務教育について


 2020.6.4朝日新聞      2022.6.9AeroWorld       2012.6.12Synodos

(図の説明:左図のように、フランスの義務教育は3~17歳の15年間である。また、中央の図のように、オーストラリアは5歳の1月から11年間、イギリスは5歳の9月から11年間の義務教育が行なわれるが、日本は6歳の4月から9年間、米国は6歳の9月から8年間と義務教育期間が短い。しかし、日本は3歳の4月から幼稚園に入れる人も多いため、右図のように、就学前教育の私的支出割合が高く、義務教育以前に既に親の経済力や地域格差による教育格差が生じている)

  
  2025.5.4東京新聞     2019.4.9つながりAI   2024.6.25ID学園高校

(図の説明:左図のように、15歳未満の子の割合は、1950年は35.4%だが、2025年は11.1%まで減少している。また、中央の図のように、2017年の保育園と幼稚園の年齢別利用者数及び割合は、3歳児でも90%を超えている。さらに、右図のように、高校進学率も通信制まで入れると令和2年に98.8%となっており、殆どの人が高校に進学しているのである)

 上の上段の左と中央の図のように、ヨーロッパにおけるイノベーションリーダー国の1つフランスの義務教育は3~17歳の15年間(https://suumo.jp/journal/2024/09/24/204965/ 参照)で、オーストラリア・イギリスは5~16歳の11年間だが、日本は6~16歳の9年間と義務教育の期間が短い。また、日本では子を3歳から保育園や幼稚園に入れる人も多く、上段の右図のように、就学前教育の私的支出割合が高くなって、義務教育の開始前に親の経済格差や地域差による教育格差が生じている。

 このような中、*3-2は、①義務教育のカリキュラムを根本から考え直す時 ②教育基本法の義務教育の目的は「児童生徒各個人の有する能力を伸ばし、社会で自立的に生きる基礎を培う」「国家・社会の形成者として必要な基本的資質を養う」と規定 ③小学校6年と中学校3年の分断を解消して9年間を一貫し、質を保障する義務教育学校にヒント ④義務教育学校は学校教育法改正で2016年に新設された小中一貫校で、全体の9年間を4・3・2や5.4といった段階に設定 ⑤義務教育9年間で柔軟な指導計画を立案するのが目指すべき方向 ⑥例えば美術なら中学校の美術教員が一貫して指導した方がより質の高い学習成果が期待でき、小学校でも高学年では学習内容が高度なので教科担任制を5年生くらいから導入した方が質の高い教育ができる ⑦社会で自立的に生きる基礎的資質・能力を保障するには、出口の中3終了時点の姿を想定しての学びのキャリア設計が重要 ⑧英国は義務教育終了16歳で受ける科目毎全国統一試験(GCSE制度)で義務教育終了時の出口を管理 ⑨日本の全国学力テスト(中3の4月)は義務教育学習の確認としては活用できず、日本の卒業証書は何の公的証明にもならない ⑩義務教育の保障は子どもにとって資質・能力向上の義務と権利であり、国家・社会の形成者としての義務でもあり、生存権に関わる「学習権」の保障であって、国家・社会の責務である 等としている。

 私は、①に賛成である。また、②の教育基本法の義務教育目的である「児童生徒各個人の能力を十分に伸ばして社会で自立的に生きる基礎を養うこと」にも賛成で、これができれば生産年齢人口になってから仕事をするのにいつまでも公的補助を必要としないですむ筈であり、さらに自ら考えてイノベーションを起こすための基礎も作れる筈である。さらに、「国家・社会の形成者として必要な基本的資質を養う」ことも必要不可欠で、政策内容も理解できずに選挙で投票しても、良い結果が出せる筈はないのである。

 それでは、③④⑤のように、小学校6年と中学校3年を一貫して義務教育学校にすれば十分かと言うと、⑥のように、確かに分けたままよりは充実した教育ができるが、イギリスやフランスと異なり、⑦⑧⑨のように、日本の全国学力テスト(中3の4月)は学習修了の確認にはならず、飛び級や留年の制度もないため、平均より出来る子にとっては授業の進捗を待っている時間が多すぎ、平均より後れる子にとっては、未消化のまま義務教育が修了する。そのため、親は、私的に子に塾の費用を支払い、塾通いのケアまでしなければならなくなるわけである。

 従って、⑩のように、国家・社会により、子どもに資質・能力向上の義務と権利、国家・社会の形成者としての義務、生存権に関わる学習権の保障がなされているとは、まだ言えない。

 そこで、私は、上の下段の中央の図のように、2017年時点で「幼稚園・保育園・認定子ども園の年齢別利用者数及び割合」が3歳児でも90%を超えていることから、日本は義務教育を3~18歳の15年間とし、小学校を3~12歳の9年間、中等学校を12~18歳の6年間として、中等学校以上は希望と試験による選別を基本として試験に合格すればそこに行ける(飛び級も可能)ようにすれば良いと思う。

 そうすれば、第26条2項を変えなくても3~18歳までの教育は無償となるが、上の下段の左図のように、15歳未満の子の割合は1950年には35.4%だったが、2025年には11.1%まで減少しているため、これは可能な筈である。さらに、語学や芸術のように、3歳から始めた方が効果的な科目もあるため、これらのカリキュラムに最も適した教師の配置をすれば良いだろう。

 また、現在のように、中学と高校を分ける制度では、学ぶ科目は重複しているのに、それぞれの時間が短いため中途半端な学びで終わるという短所があるため、中高一貫にして出口から学習計画を立てるというのは、やはり重要なことである。

2)高校無償化について


2023.12.23日経新聞     2025.3.31UFJ銀行       2025.2.25読売新聞  

(図の説明:1番左の図のように、2024年10月から高校生にも児童手当が支給され、所得制限も撤廃されて、第3子以降のみ手当が増額された。兄弟数の数え方は、左から2番目の図のとおりだ。また、大学進学への支援は、右から2番目の図のとおり、親の所得によって支援内容が変わり、親の所得が大きくなくても私的負担は大きい。高校無償化は、1番右の図のとおりだが、支援の趣旨から考えて学費の高い私立高校の授業料まで全額支援する必要はないと思われる)

 上の下段の右図の通り、高校進学率は通信制まで入れると令和2年(2020年)に98.8%となり、殆どの人が高校に進学している。そのため、現在は経済的理由等で定時制や通信制を選択せざるを得ない人も、希望すれば全日制高校に通って勉強できるように、1)に記載したとおり、中学・高校を一貫教育として義務教育化すれば、国民の潜在的能力をさらに活かせると考える。

 そのような中、*3-1-1・*3-1-2は、①高校無償化は公立は授業料相当、私立は一定額を支給して授業料負担を軽減する制度だが、授業料が全額支給されれば実質無償化になる ②高校のほか高専・専修学校高等課程・特別支援学校高等部等の高校相当学年も対象 ③2025年度は11万8,800円支給への所得制限が撤廃され、高校生全員が対象で追加財源約1,000億円 ④2026年度以降は私立高生向け上乗せも所得制限を撤廃し、私立高授業料の全国平均額最大45万7,000円を助成して追加財源約4,000億円 ⑤私立高向け支援拡充で、公立高離れの加速・私立高授業料便乗値上げの懸念 ⑥高所得世帯も支援対象とすることへの疑問 ⑦無償化により「教育の質は向上しない」が66% ⑧基礎年金支給額底上げのための厚生年金減額は、「反対」が52% ⑨高額療養費制度患者負担の上限額引き上げ見送りは、「妥当」が66% としている。

 このうち①②は、子どもの数が減って公立でも定員に満たない高校が出ている中で、本来なら中高一貫の義務教育にしてカリキュラムの再編成をしたいのだが、それができるまで、公立高校の授業料無償化と私立高校生への公立高校授業料相当額支給は妥当だと思う。従って、⑦については、高校無償化の目的自体が「教育の質向上」ではないため、無償化したからといって教育の質が向上するわけでないのは当然だ。

 しかし、現在の公立高校は私立高校ほど設備や補習が充実しておらず、親が私的に塾に通わせなければならないため、自ら選択して私立に通わせている生徒の親に対する③④の加算は、むしろ不公平だろう。なお、⑤は、公立高校には伝統ある志の高い学校も多いため、私立高向け支援の拡充が単純に公立高離れを促進するとは思わないが、伝統があっても現在の実績が振るわなければ淘汰されるのは世の常であり、淘汰されないためには教育の質向上が不可欠なのである。

 なお、⑥のように、馬鹿の1つ覚えのように「高所得世帯への支援を除外」したがる人は多いが、高所得世帯だから子の教育に熱心とは限らず、東大女子卒業生の中には、親の反対を押し切って東大に入った人も少なからずいる。つまり、親より子の方が時代の先端を走っていることも多く、また、そうでなければ社会の発展はない。そのため、教育は、親への支援ではなく子への支援と割り切って、親の所得とは関係なくできるだけ子の方に現物給付すべきなのである。

 ただし、後の項で詳しく書くように、⑧の基礎年金支給額底上げのための厚生年金減額は流用そのものであるため私も反対だし、⑨の高額療養費制度患者負担の上限額引き上げも、いざという時のために健康な時から保険料を納めているのだからもってのほかである。そして、こういうことを、人から言われなければわからならないような大人に育ててはならないのだ。

3)大学と研究機関について
 *3-3は、①急速な少子化で学生確保が難しい地方大学が岐路 ②政府は事態が深刻な大学には円滑な撤退・縮小を促しつつ、地域連携強化で必要な高等教育機関の確保もめざす ③1989年に北信越初の法学部を備えた4年制私大として開学した高岡法科大は、1999年度以降は入学定員を満たせず ④富山の大学進学者数は20年間で4%減って4%増えた全国平均と異なるが、文科省は全国でも2026年頃をピークに大学進学者が減少局面に入るとみる ⑤隣県の金沢市内の大学は文理融合型や情報系の学部新設 ⑥2024年度は国立富山大と富山県立大だけが入学定員をクリア、私立は定員の3~8割台 ⑦18歳人口は2024年に約106万人で1990年代前半より半減したが、大学進学率が約32%上がって大学入学者は過去最多 ⑧大学数は2024年に813校で1992年の約1.5倍 ⑨私大の約6割は定員割れで3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92.4%、定員充足率が70%台の地域も ⑩大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないよう、文科省は入学者数が定員を大幅超過した私大の私学助成を減らしたり、東京23区内の大学の収容定員を10年間原則据え置いたりしたが、地方大学の定員割れは更に進んだ ⑪中央教育審議会は地方大学には地域ニーズに合う人材輩出の役割を示して自治体や企業との連携強化の必要性を指摘 ⑫宮崎国際大は1994年開学・定員150人で授業を英語で行う国際教養学部は英語教員を教育学部は小学校・幼稚園の教員や保育士を毎年数十人送り出し、同じ敷地にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出したが、定員割れが多い ⑬宮崎県保育連盟連合会は「2校が縮小・撤退すれば保育士を確保できず定員を減らす園が出る」と心配する ⑭宮崎県の総合計画は「県内大学等新卒者の県内就職割合引き上げ」のみで「保育士確保」はない ⑮国は地方大学と地元自治体の連携を強める考え ⑯高等教育機関は「高校生の進学先」だけではなく、知の拠点で、人を繋ぐ役割もあり、地域の成長や活性化の中心になり得る ⑰大学が撤退するとネットワークを失うことが地域にとって一番の損失 ⑱良質な教育を進め、地元が求める人材を育てて社会貢献する必要があるが、学生も教職員も少なく、学べる分野が限られる大学が多い 等としている。

 このうち、⑦⑧のように、「18歳人口が2024年には1990年代前半より半減しても、大学進学率が上がって大学入学者が過去最多になった」「大学数は2024年に813校で1992年の約1.5倍」というのは、希望者が大学に入り易くなったという意味で国民にとっては幸福なことである。そのため、②のように、安易に撤退・縮小を促すのではなく、地域連携の強化で必要な高等教育機関の確保をめざすべきだ。

 しかし、③の1989年に開学した高岡法科大が1999年度以降は入学定員を満たせなかったのは、①のような急速な少子化が原因ではなく、⑤⑥⑯のような情報系等の現在求められている学科がなく、総合大学ではないため、知の拠点としての役割も果たせていないからではないか?

 一方、⑫⑬の宮崎国際大の場合は、1994年開学・定員150人で授業を国際教養学部は英語教員を、教育学部は小学校・幼稚園の教員・保育士を毎年数十人送り出し、同じ敷地内にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出したが定員割れが多いそうだが、こちらは、⑪の地域のニーズに基づいた人材輩出をしてはいるが、教員や保育士等福祉関係者の労働条件が悪いため、その職業を目指す人が少ないのだと思われる。

 従って、教員や保育士等の福祉系の場合は、仕事の評価となる給与や労働条件が改善されなければ、その職業を目指す人は徐々に減り、その結果、質も上がらないだろう。また、⑭⑮のように、宮崎県の「保育士確保目標」も重要だが、⑪に基づいて国も協力すべきで、必要な学科への進学にあたっては、自治医大のように卒業後に所定の勤務をすれば奨学金の返還を免除する等の制度が有効だ。そうすれば、親に経済力がなくても、開発途上国等の出身者であっても、また転職目的のリカレント教育であっても、大学への進学が容易になって希望者の母集団が増えるため質も上がると思う。

 なお、④⑥⑨のように、「文科省は全国でも2026年頃をピークに大学進学者が減少局面に入る」としており、私大の約6割は定員割れで3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92.4%で、定員充足率が70%台の地域もあって、この解決策として、⑩のように、大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないよう、東京23区内の大学の収容定員を10年間原則据え置いたりした。

 しかし、大学は単なる高校生の進学先ではなく、そこで学べる内容とそこでできる同窓生のネットワークが重要なのであるため、既に知が集積している大学に行った方が学生のニーズに合うのだ。そのため、東京23区内の大学の収容定員を据え置くよりも、地方大学の魅力を増すことが重要だったのである。

 その魅力は、⑰⑱の知の拠点としてのネットワークや良質な教育だが、「学生も教職員も少ない」とされることについては、*3-4の外国人留学生・外国人労働者やその家族は学生の母集団になり得るし、教職員も、*3-5のように、トランプ米政権下で米国を離れようとする研究者等を念頭に、EUのように日本での研究を保証して移住を支援し、技術革新の好機にすれば良い。

 例えば、富山県であれば、既に新幹線で東京から2時間半になっている上、昔から薬が有名なので、広い敷地を使ってバイオテクノロジーはじめ健康・医療分野の研究者を招ける研究所と大学を充実し、経営をサポートする学科も増設して、米国を離れる研究者や他国の優秀な研究者を招き、博士課程の学生やポスドクの研究に資金支援すれば、一挙に人材が集まって大学の魅力も増すだろう。

 トランプ米政権の研究費削減は、優秀な研究者や教職員の招致をめざす地域にとっては好機となっており、気候変動・宇宙などが適する地域や大学もあると思われる。つまり、日本は、これまで頭脳流出専門だったが、これからは頭脳を求めて優秀な研究者を探すべきである。

(4)高齢者いじめ
1)“年金改革”について


  2021.6.28NipponCom         2019.3.7ニッセイ基礎研究所

(図の説明:左図は、年齢階級別就業率の推移で、2020年には60~64歳の70%超、65~69歳の50%超、70~74歳の30%超が就業している。また、右図は、65歳時点の男女の平均余命と健康寿命の推移で、2016年時点では男性の健康寿命は79歳、女性の健康寿命は81歳であり、どれも延長傾向だ。さらに、人手不足でもあるため、いつまでも60~65歳定年制を固持する必要はない)

 *4-1は、①厚労省が厚生年金積立金を活用(正しくは流用)して、国民年金を底上げする案を年金制度改革法案から削除する方針を固めた ②年金制度改革法案にはパートらの厚生年金加入拡大に伴う企業の保険料負担増なども含む ③全ての国民が受け取る基礎年金の底上げは、給付水準を改善するために財政が堅調な厚生年金の積立金を活用する ④厚労省は、国民年金だけに加入する人や就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として改革の柱に位置付けてきた ⑤積立金の活用に伴い厚生年金の受給額が一時的に減るため、与野党から懸念や批判が出ている ⑥自民の一部で「厚生年金からの流用だ」との批判も強く、厚労省は理解を得られないと判断 ⑦底上げは今回の法案に規定しないものの将来の底上げ実施を念頭に積立金の活用に向けた措置を取る ⑧具体的には厚生年金の受給額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長する ⑨国民年金保険料の納付期間を現行の「60歳になるまで40年」から5年間延長することを検討する規定を法案に盛り込む としている。

 わが国の公的年金制度は「2階建て」で、全員加入する基礎年金(1階部分)と、正規雇用の民間企業の従業員や公務員が加入する厚生年金(2階部分)から成っており、自営業者や非正規雇用者は厚生年金に加入していないため、厚生年金保険料を支払うことはない。そして、厚生年金積立金は、厚生年金加入者が支払った保険料を原資として積み立てているのである。

 さらに、1985年に行なわれた年金制度の変更により、厚生年金に加入している会社員や公務員に扶養されている配偶者のうち年収130万円未満で20歳以上60歳未満の人は、3号被保険者として国民年金保険料も支払わずに、基礎年金を受け取ることができるようになった。

 そのため、①③⑤⑥については、与野党から批判が出ているとおり、厚生年金保険料から積み立てられ、「ねんきん定期便」で確認をとっていた厚生年金積立金の一部を厚生年金保険料を支払わなかった国民年金加入者等の給付に充てるのは、厚生年金加入者が老後に備えて高い保険料を支払って積み立てていたものを、関係のない人への給付に流用するということであり、高い保険料を支払った人が払い損になるため、保険制度の信頼性がなくなるのである。

 また、②の「年金制度改革法案にパートらの厚生年金加入拡大」を行なうのはまあ良いが、そのために企業の保険料負担増を補助したり、3号被保険者制度を未だに温存しようとしたりしていることは、同じ時代に差別を受けながら働き、1985年に男女雇用機会均等法を作り、1997年に努力義務規定から禁止規定にした女性から見れば、不公正・不公平そのものなのである。

 従って、⑦⑧のように、底上げは今回の法案に規定しないが、将来の底上げを念頭に「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長して年金給付額を実質的に目減りさせ、積立金活用に向けた措置を取るというのは、国民にわからないうように密かに厚生年金受給者の年金を減額するということであり、もってのほかである。

 そのため、*4-2-3は、「年金改革から逃げる政治は無責任」などと記載しているが、こうなることがわかりきっている制度を作り、年金保険料を集め、年金の支払いも行なってきた厚労省の責任こそが問われるべきであり、ここに国民の責任は全くないと言える。

 そのような中、④及び*4-2-1・*4-2-2のように、「国民年金だけに加入する人や就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として厚生年金積立金流用を年金改革の柱に位置付けた」という姿勢こそが、これまで日本政府が国民に膨大な負担を強いながら、給付時に「足りない。足りない。財源は?」と言っている理由である。そのため、このようないい加減な運営を改めなければ、国民がいくら負担しても財源が足りない状態は変わらない。

 なお、*4-2-4は、⑩政府は首相官邸で就職氷河期世代支援に向けた関係閣僚会議の初会合 ⑪首相は就労・処遇の改善、社会参加、高齢期への備えの3つを柱に、閣僚に支援策の拡充を指示 ⑫重点政策としてリスキリング(学び直し)支援、農業・建設業・物流業分野における就労拡大 ⑬公務員・教員の積極的採用も ⑭資産形成や住宅確保の強化にも言及 ⑮就職氷河期世代は一般的に1973~82年頃に生まれた世代で、就職時期に金融危機等の影響で企業の新卒採用が少なく、非正規雇用期間が長くなる傾向 と記載している。

 「就職氷河期世代」とは、⑮のように、1973~82年頃に生まれた世代と言われるが、1970年代半ばから1985年までも、日本の求人倍率が 0.9倍から1倍、有効求人倍率は 0.6倍から0.7倍の間で推移した就職氷河期だった。さらに、この時代には男女雇用機会均等法もなかったため、有効求人倍率に女性が入っていたかどうかも疑わしく、私が大学を卒業した1977年はこの時期に入るが、日本企業は堂々と「男性のみ」と書いている募集が殆どだったのである。

 そのため、⑩~⑭のように、農業・建設業・物流・福祉分野などにいくらでも働き口があり、リスキリングはじめさまざまな支援を受けられる近年の就職氷河期世代のために、ひどい女性差別の中で頑張って働いて多く積み立ててきたきた女性の厚生年金積立金を、低年金だからと国民年金加入者への給付に流用するなどというのは、甘ったれるのもいい加減にして欲しい。

 結論として、⑨のように、定年は少なくとも75歳まで延長し、年金保険料納付期間は「65歳になるまで」にして、「年金+就労所得」で65歳以上の人の低年金の問題は解決すべきだ。

2)高齢者医療への健保からの拠出等について


2024.4.11メットライフ生命     国立癌研究センター       厚労省

(図の説明:左図は、心疾患の年齢階級別総患者数で、30~59歳では864千人だが、60歳以上では2,639千人と約3倍になる。中央の図は、年齢階級別の癌罹患者数で、60歳以上の罹患者数は面積の比較になるので、60歳未満の20倍以上である。さらに、糖尿病有病者も50歳以上で増え始め、60歳以上は60歳未満の1.4倍だが、健保連が保証するのは60~65歳までの人なのだ)

  
  日本腎臓学会   2022.12.13時事Equity      2022.107NHK

(図の説明:左図は、年齢階級別の慢性腎臓病《CKD》有病率で、59歳以下は8%未満、60~69歳は15%、70~79歳は30%前後、80歳以上は45%以上と増加するが、健保連が保証するのは60~65歳までの比較的健康な人で、その他の人は国保に入っているのである。また、中央の図のように、実質年金収入は下げながら、有病率の高い後期高齢者《75歳以上の人》の1人当たり医療保険料を上げ、その上、右図のように、65歳以上の1号被保険者からは、平均7万円/年以上の介護保険料を徴収し、40歳未満からは徴収していないという不公平さなのである《https://www.minnanokaigo.com/guide/care-insurance/fee/ 参照》)

 *4-3は、①健保連発表の2025年度予算早期集計で、大企業の従業員が入る健康保険組合の平均保険料率が過去最高 ②高齢者医療への拠出が膨らんだのが要因 ③給付と負担のバランスを見直さなければ、賃上げが進んでも現役世代の消費拡大はおぼつかない ④支出増の要因の1つは高齢者医療費への拠出で、75歳以上が全員入る後期高齢者医療制度は後期高齢者自身の保険料約1割、税金約5割、現役世代の支援金約4割 ⑤65~74歳の前期高齢者も勤め先を退職すれば国民健康保険に入ることが多いため、健保組合等が納付金を支出して国保を支える制度 ⑥2025年に団塊の世代全員が75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増 ⑦健保連の経常支出のうち加入者の医療費支払いに充てる保険給付費は5割で高齢者拠出金が4割 ⑧健保連佐野会長代理は「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』割合が高い傾向が続いている」と説明 ⑨経団連の十倉会長は「若い人が消費に向かわない。社会保険料は右肩上がりで増えており、世代による分断や格差を避けて公正・公平な社会保障にしないといけない」「税と社会保障の一体改革が必要」と語った ⑩現役世代の負担を抑えるには医療・介護の歳出改革が欠かせない ⑪財政制度等審議会分科会は「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」と訴えた ⑫医療費増加要因のうち高齢化等の人口要因は半分程度で、他は新規医薬品保険適用・医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響 ⑬保険料負担を抑えるには、これらの改革が急務 ⑭現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象拡大、市販薬と効果やリスクが似る「OTC類似薬」の保険適用からの除外など ⑮日本医師会松本会長は「賃金上昇・物価高騰・医療技術革新への対応には十分な原資が必要」と述べ、診療報酬引き上げを要求 ⑯2025年春季労使交渉の賃上げ率は2年連続5%台の高水準になる見通しだが、社会保険料も上がれば効果は薄れる ⑰賃上げが消費拡大に結びつかなければ企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない としている。

 医療・介護保険制度は、病気に備えて健康な時から保険料を支払い、医療や介護が必要になった時には保険で補償される仕組みで、健康な人と慢性疾患を抱える人の割合は、上の図のように、定年前(60~65歳)と定年後で著しく異なる。つまり、定年後の人は、糖尿病1.4倍、心臓病3倍、癌20倍以上であり、腎臓病も年齢とともに等比級数的に増えるが、働いている健康な人から保険料を集めている健保連は、慢性疾患を患う定年後の人の補償をしないのである。

 本当に公平・公正な保険制度というのは、定年前の健康に働いていた時代に入っていた保険が定年後の人も補償するものだが、現在は、⑤のように、65歳以上の高齢者は勤め先を退職すると同時に国民健康保険に入る。そのため、④⑦のように、健保が高齢者に支援金を約4割しか払っていないのは、むしろ大負けに負けている状態で、国保に税金を約5割も投入しなければならないのは、それが主な理由である。そして、高齢になればなるほど有病率が高くなるということは、厚労省はじめ政策立案する人なら誰でも知っておかなければならないことだ。

 そのような中、⑧のように、健保連会長代理が「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』割合が高い傾向が続いている」などと説明しているが、『仕送り』したくなければ、定年後も健保連が補償するのが保険の理屈である。また、⑨のように、経団連会長が「若い人が消費に向かわない。世代間格差がある」などと言うのなら、介護制度のなかった時代に自ら家族を介護しなければならなかった世代の世代間格差はどう埋め合わせるのだろうか。さらに、年齢構成が変われば消費対象も変わるため、それも考慮できないようなら、日本のGDPは下がりこそすれ上がらない。

 従って、⑥の「団塊の世代全員が75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増」というのは、無理やり抑えた結果、むしろ少なくなっていると言える。また、⑩のように、「現役世代の保険料負担を抑える」のが最も重要なのではなく、保険料を支払った人には補償することが最も重要なのである。

 そのため、高齢化による有病率の変化も考慮せずに、⑪のように、「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」などと訴えたり、⑬のように、「保険料負担を抑えるには、医療・介護の歳出改革が急務」として、⑭のように、「現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象を拡大せよ」などと主張したりしているのは、それなら生活保護以下の所得で暮らしている高齢者の医療・介護費は無料にすべきであり、子どもや妊婦の医療費を0にする必要はなく、0というのはむしろ有害なのである。

 さらに、⑫は、「医療費増加要因のうち高齢化等の人口要因は半分程度」「他は新規医薬品保険適用・医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響」としているが、上の図のとおり、高齢化すれば高齢者人口の増加以上に医療費が増加するのが当然だ。また、世界に先駆けて高齢化した国は、世界に先駆けて高齢化に対応する予防や治療技術を開発し易く、それを汎用すれば新規医薬品の価格も下がるのだが、これも欧米がやることを真似することしかできないのだろうか。

 なお、医師数・医療機関増加・診療報酬改定等の影響を問題視しているが、これについては、⑮の日本医師会会長の「賃金上昇・物価高騰・医療技術革新への対応には十分な原資が必要」というのが正しく、労働に応じた診療報酬でなければ必要な分野の医師の質と量も確保できない。

 つまり、*4-3は、①②は「健保連の平均保険料率が過去最高で、原因は高齢者医療への拠出が膨らんだから」と述べ、⑯⑰で「2025年の賃上げ率は5%台だが、社会保険料も上がれば効果が薄れ、現役世代が消費拡大しなければ、企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない」などと背景の理解もせずに、単に現在ある消費財の消費を促進しようとしているだけなのである。そのために、③のように「給付と負担のバランス」などと尤もらしい理屈をつけているが、実は、以前は介護も家族が担い、癌になれば助からず、リハビリという概念はなく、病気の早期発見もできなかったという事実を忘れた、お粗末な内容なのだ。

 しかし、実際には、医療・介護はじめ、現在でも消費したくてもないサービスは多く、これを地道に改善していくことこそが、経済成長のKeyなのである。

3)物価高騰による国民の貧困化について

  
   2025.2.8西日本新聞        2023.10.20、2022.6.25日経新聞

(図の説明:食糧物価が高騰したため、左図と中央の図のように、エンゲル係数《家計消費支出にしめる食料費割合》が上がり、2024年の日本は、1981年と同水準の貧乏な国に後退した。また、右図のように、購入頻度の高い必需品ほど物価上昇したため、体感物価は統計より高い)


      NHK       2025.2.21西日本新聞   2024.11.17日経新聞

(図の説明:左図は、頻繁に購入する44品目と総合の物価指数《前年同月比の物価上昇率》で、前年同月と比較しただけでも総合で約3~5%、頻繁に購入する44品目は約6~9%物価上昇している。また、中央の図の主食とされる米は、2025年5月時点では前年の2倍程度になっており、食糧物価高騰の旗手になった。これらの結果、日本のエンゲル係数は、1981年以来の高水準・G7で首位《つまり日本国民はG7で最貧》になったが、これを「首位」と表現したり、コストプッシュ・インフレを「物価の伸び」と表現したりしているのが、全くおかしいのである)

  
   2025.5.16読売新聞    2024.3.7President  2025.1.9第1生命基礎研究所

(図の説明:左図のように、実質GDPは、コロナ対応時の異常値を除いて0近傍で推移しているが、貨幣価値を下げることによって生産性向上を伴わずにインフレとそれ以下の賃上げを人為的に作っているだけであるため、当然である。中央の図が、実際の国民の豊かさを示す実質購買力平価《その貨幣で、どれだけのものが買えるかを示す》による1人あたりGDPの推移で、2000年頃に香港、2008年頃に台湾、2018年頃に韓国に抜かれている。右図の名目GDPも、2022年頃にイタリア・韓国以下になり、「“責任政党”が国民に責任を果たした」とはとても言えない)

1) 2025年1~3月期の国内総生産(GDP)と2024年度家計調査から
 *4-4-2は、①2025年1~3月期のGDPが1年ぶりにマイナス成長になった ②肝心の個人消費が冴えなかった ③その原因とされるのは、賃金上昇を上回る物価高の継続 ④消費者物価の総合指数は昨年末頃から伸びを高め、今年1~3月は3%前後で推移 ⑤キャベツなどの生鮮食品が値上がりし、コメが前年の倍近いという異例の高騰が続く ⑥内閣府が公表する消費者態度指数は昨年12月からじりじり低下 ⑦4月はトランプ関税の影響も加わってか、さらに大きく落ち込んだ ⑧日銀が出した「経済・物価情勢の展望」で、今年度の実質成長率見通しは、1月時点の1.1%から0.5%に下ぶれ ⑨第一生命経済研究所の新家氏は「もともと内需が弱いところに、関税引き上げの悪影響が顕在化し、景気の停滞感は一段と強まる。場合によっては景気後退局面入りの可能性」 ⑩SMBC日興証券の集計で東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は純利益総額が4年連続で過去最高に ⑪GDPの動きを中長期に見ると、「名目」と「実質」・「GDP全体」と「個人消費」の2つのギャップ ⑫2024年度の名目GDPは初めて600兆円超 ⑬1970~80年代は5年で約100兆円ペースで増えたが、1992年度に500兆円を超えた後、600兆円まで32年 ⑭このうち2022年度以降の伸びが50兆円近く ⑮実質GDPの伸びは限定的で、2024年度までで5兆円強の増加に留まる ⑯実質GDPの伸びを支える顔ぶれも様変わりし、2018年度と2024年度を比べるとGDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りマイナス、住宅投資・設備投資を加えた民間需要全体もマイナスで、政府消費のみが11兆円増 ⑰政府消費には、医療・介護給付や公共サービス支出が含まれる ⑱内閣府幹部は「高齢化で、政府消費は伸びざるを得ず、より重要なのは国内の民間需要がしっかり伸びていくこと」と話す としている。

 また、*4-4-3は、⑲物価高により個人消費が力強さに欠けた ⑳GDPの半分以上を占める個人消費はほぼ横ばいで、肉・魚等の食料品がマイナスでパックご飯もマイナス ㉑外食は天候に恵まれプラス ㉒モノの輸出は自動車が伸び、輸入は2.9%増と大きく増加してGDP成長率を下げた 等としている。

 このうち、②⑲は、「物価高で個人消費が冴えなかった」とし、その原因を、③のように、「賃金上昇を上回る物価高」としているが、この分析は、*4-4-4のとおり、勤労者世帯のことしか考えておらず、人口の3割を占める65歳以上の高齢者などの無職者を無視しているため不十分だ。その上、新しいニーズに応えることを拒んで現状維持に汲々としつつ、金融緩和とロシア・ウクライナ侵略に端を発するコストプッシュ・インフレが国内の賃金上昇を上回ることがあるなどと考えるのがどうかしている。

 また、④の「消費者物価の総合指数は昨年末頃から伸びを高めたが、今年1~3月は3%前後」と物価が上がることをあたかも良いことであるかのように書いているが、現在の物価上昇は、コストプッシュ・インフレでディマンド・プル・インフレではなく、国民を貧しくするだけの悪いインフレであるのに、まるで良いことであるかのように書いているのも変である。従って、①のように、「2025年1~3月期のGDPがマイナス成長になった」のは当然なのである。

 なお、⑤⑥⑳のように、キャベツ等の生鮮食品が値上がりし、コメは前年の倍近くに高騰して、肉・魚・パックご飯等の食料品消費はマイナスになったが、値段が上がってもその分だけ消費が落ち込み、個人消費はほぼ横ばいになっているのである。実質年金が著しく下がり、実質賃金も下がっているのだから、消費者が節約志向になったのは当然のことで、唯一、㉑のように外食がプラスだったのは、海外の観光客が多かったことと、海外旅行に出る日本人が減って短期の国内旅行に切り替えたことが理由ではないのか?

 つまり、物価が上がるから生鮮食品を10~20年分も買っておくような人はおらず、将来、物価が上がるのなら、できるだけ節約して物価上昇に備えるのに、「物価が上がるという予想を人々がもてば、商品が売れて経済が改善される」などという馬鹿なことを誰が発想して、経済の専門家と称する多くの人が一斉に同じことを言ったのか? 的外しもいいところなのである。

 日銀は、⑧⑨のように、「経済・物価情勢の展望」で今年度の実質成長率見通しを0.5%に下げたそうだが、経済政策の失敗を外国のせいにするのはいつも通りではあるものの、⑦のように、すべてトランプ関税のせいにするのは誤りだ。何故なら、敗戦後80年経っても米国頼みの加工貿易の発想から抜け出さず、㉒のように、時代遅れの自動車の輸出頼みで、化石燃料価格の上昇や円安による輸入増など、時代に合わない経済政策を維持したことに原因があるからである。

 しかし、日銀の金融緩和による円安と物価上昇で得をした団体もあり、その1つは、借金が多いか、輸出割合の高い企業である。そのため、⑩のように、東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は純利益総額が4年連続で過去最高になったのだ。

 もう1つは、政府で、⑫のように、名目GDPや名目賃金が増えれば、例えば消費税(消費者への最終売上の8%or10%)・法人税(純利益の原則23.2%)・所得税(所得の一定割合で累進課税)の徴収額が増える。しかし、日本政府の国債残高(借金)は簿価のまま変化しないため、実質価値が落ち、その分は密かに国債保有者や預金者に負担させているのだ。

 国民には、⑫⑬⑭のように、名目GDP総額が600兆円であろうと500兆円であろうと関係なく、関係があるのは購買力平価に基づく1人あたりGDPだけである。しかし、⑮のように、購買力平価に近い実質GDPの伸びは限定的であるため、日本の購買力平価に基づく1人あたりGDPは高くなく、日銀が金融緩和して物価が上昇し始めてからは、むしろ下がったのである。

 そのため、⑯のように、実質GDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りのマイナス、住宅投資・設備投資を加えた民間需要全体もマイナスで、政府消費のみが11兆円増加したそうだ。もちろん、⑰の政府支出のうち、保険制度に基づく医療・介護給付は当然しなければならないが、政府支出のうち化石燃料への補助やその場限りのバラマキなど税金の無駄使いにあたる歳出は、将来性も理念もなく有害無益と言わざるを得ない。つまり、金融緩和して政府が無駄使いを増やした分だけ、⑪のように、GDPは「名目」と「実質」がかけ離れ、「GDP全体」と「個人消費」も大きなギャップが生じ、国民は貧しくなったのである。

 このように、日本政府は、理念もなく環境にも将来の生産性向上にも資さないその場限りの無益なバラマキが多すぎるため、公会計制度の導入が必要不可欠であるし、⑱のように、将来性と効果をしっかり見据える民間需要が伸びることは重要なのである。

2)物価高騰の国民及び経済への影響
 *4-4-1は、①総務省が発表した2024年度家計調査で、1世帯(2人以上)当たり月平均消費支出は30万4,178円で、物価変動の影響を除く実質で前年度比0.1%減少し、2年連続マイナス ②食品などを中心に長引く物価高で、消費者の節約志向が根強かった ③2024年度の家計消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%で、1981年度以来43りの高水準 ④所得の伸びが食品価格高騰に追い付かず、家計を圧迫する構図 ⑤消費支出のうち「食料」が1.0%減、野菜・肉類・乳製品等の幅広い分野で値上げが相次ぎ、支出を減らす動きが広がった ⑥同時に発表した3月の消費支出は33万9,232円で前年同月比2.1%増 ⑦寒さが厳しかった影響で電気代を含む「光熱・水道」が7.2%増 ⑧大学の授業料値上げ等の影響で「教育」も24.2%増と大きく伸びた ⑨食料への支出は0.7%減と6カ月連続減 としている。

 このうち①②の2024年度家計調査で「物価変動(物価高騰)の影響を除いた実質消費支出が前年度比0.1%減少し、2年連続のマイナス」というのは、実質賃金・実質年金等の実質収入が減り、食品等の必需品を中心に物価高騰が続いて、この状態は今後も続くと見込まれる以上、消費者が必要なものでも買い控えて節約志向になったのは当然である。そのため、“責任政党”と言っている政党や政府は、誰に責任を果たしたつもりでいるのかを、あらためて問いたい。

 また、③のように、2024年度の家計消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数(家計消費支出にしめる食料費割合)」は28.3%と1981年度以来43年ぶりの高水準(つまり、43年分貧乏に逆戻りしたということ)になったが、この物価高騰は生産性向上を伴わない賃上げや円安・いつまでも使って国富を流出し続けている化石燃料の高騰などによるコストプッシュ・インフレであるため、④のように、価格高騰に所得の伸びが追い付くわけはなく、単に家計を圧迫しているだけなのだ。

 そのため、消費者は、⑤⑦⑨のように、生活必需品である食料品の購入数量をかなり控えても物価高騰の影響で1.0%減にしかならず、水光熱費は節約したにもかかわらず7.2%増え、⑧の大学授業料は無理してでも支払わざるを得ないため授業料値上げ等の影響で教育支出が24.2%増となったのである。それらの消費者行動を総合した結果、⑥のように、3月の全体消費支出は、前年同月比2.1%増となったのだ。

・・以下、工事中・・

・・参考資料・・
<米について>
*1-1:https://www.agrinews.co.jp/news/index/300680 (日本農業新聞 2025年4月16日) [ニッポンの米]MA米の主食枠拡大を 国内需給の調整弁に 財務省提言
 財務省は15日、輸入米であるミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米を巡り、主食用米として利用できる量を増やすべきだと提言した。米の不足感が強まる中、国内需給の調整弁になるとして、年間最大10万トンの主食向けの枠を増やすことなどを求めた。輸出を妨げていると、米国が日本の米の輸入制度を批判している最中であり、今後の日米協議に影響を及ぼす懸念もある。提言は同日、財政制度等審議会(財政審)の分科会で示した。財政審は国の財政運営の在り方について議論しており、5月にも建議(意見書)をまとめる。MA米は、1993年のガット・ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)合意に基づき導入され、日本は米国などから年間77万トンの米を義務的に輸入している。うち最大10万トンは売買同時契約(SBS)方式で輸入され、主食用に仕向けられる。残りは需給に影響を与えないよう、飼料用や加工用など非主食用に仕向けられる。提言では、SBS枠を増やすなど、必要に応じて主食用米として利用できる量を増やせば、MA米が「国内需給の調整弁」になると指摘した。国産米の不足時に活用することなどが念頭にあるとみられる。増田寛也分科会長代理(日本郵政社長)は分科会後に記者会見し、主食用の米の輸入枠拡大について「国内需給の調整弁として、いくつかの手法を持っておくのは有力だ」と話した。政府は1993年に閣議了解した農業施策の基本方針の中で、SBS米を含むMA米について「MA導入に伴う転作の強化は行わない」と定め、MA米が国産米の需給に影響を与えないよう運用することとしてきた。MA米の主食用米としての利用を増やせば、この閣議了解との整合性が問われる。提言では飼料用米について、「一律に高単価で支援する必要があるとは言えない」として、支援の在り方を見直すよう迫った。「毎年度約2000億円もの巨額の財政負担が生じている」と指摘。食料自給率の引き上げ効果は0・4%分にとどまるとした。米農家と畜産農家が直接取引しているのは全体の7%にとどまり、「配合飼料工場などで加工され、流通しているものが太宗」と問題視した。
[解説]食料安全保障に逆行
 財務省が、MA米について、主食用米として利用できる量を増やし、国内の需給の「調整弁」に使うことを提言した。米の価格上昇や不足感を背景にしたものだが、安易に輸入米に委ねることは、食料安全保障強化に逆行しかねない。新たな食料・農業・農村基本計画では、米の安定供給へ、水田政策の見直しや総合的な備蓄の構築に向けて検討を進めることを掲げた。米輸出や不測時の対応も踏み込んだ方針を掲げ、国内生産での安定供給を目指す。財務省の提言は、この方向性に水を差すものだ。近年、主食用米の需給と価格を安定させる機能を担っていたのが飼料用米だが、同省は支援の削減を一貫して求めている。目先の需給と財政負担削減を優先していると判断せざるを得ない。日本政府はトランプ米政権の追加関税を巡り、米国との交渉に臨む。その米国は、日本の輸入米制度を「非関税障壁」として批判してきた。交渉を前に輸入米制度を巡る提言を出すことは、食料安保への姿勢が問われる。

*1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1410997 (佐賀新聞 2025/2/18) 2月上旬のコメ価格、9割高騰、5キロ平均3829円、農水省
 農林水産省は18日、2月3~9日にスーパーで販売されたコメ5キロ当たりの平均価格が、前年同期と比べ89・7%高い3829円だったと発表した。1月下旬には政府が備蓄米放出の新方針を表明していたものの、高騰が続いた。江藤拓農相は2月14日に最大21万トンを放出すると具体策を発表し、3月下旬にもスーパーなどに並ぶ見通しで、値下がりに転じるかどうかが注目される。金額にして1811円の値上がり。前週比でも141円高かった。全国約千店舗のスーパーの販売データに基づいて農水省がまとめた。販売数量は前年同期比9・4%減だった。江藤氏は18日午前の閣議後会見で、14日の放出発表後、コメの流通取引が活発になっているとの認識を示した。卸売業者から小売業者に対し、コメを売りたいという声が「かなりの数出てきている」という。農水省は17、18日、集荷業者を対象に備蓄米の説明会を開催し、入札手続きなどを説明した。江藤氏は、参加者が多く「非常に関心は高い」と評価した。農水省は値上がりを見込んだ一部業者や農家がコメを抱え込んでいるとみている。今後、備蓄米放出による値下がりが意識されて流通量が増えれば、放出前に価格が下がる可能性もある。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/news/index/301747 (日本農業新聞 2025年4月21日) 日米交渉で首相「農業犠牲にしない」 米や検疫、攻防の焦点に
 トランプ米政権の関税措置を巡る日米交渉で、米や検疫体制が農産品を巡る攻防の焦点になってきた。米国は、米の市場開放やジャガイモなどの検疫の緩和を要求。石破茂首相は21日の参院予算委員会で、「自動車を守るために農業を犠牲にする考えは全く持っていない」と述べた。米国は自動車や鉄鋼・アルミに25%の追加関税を賦課。それ以外の輸入品には一律10%追加し、国ごとの相互関税の上乗せ分は7月上旬まで停止中。日本政府は関税措置の撤廃を求め、17日に米国との初交渉に臨んだ。米国の要求は、3月に公表した「外国貿易障壁報告書」に沿ったものとみられる。検疫体制では、ジャガイモや牛肉などについて問題視している。首相は20日のNHK番組では「食の安全を譲ることはない」と強調した。交渉内容について、対米交渉を担う赤沢亮正経済再生担当相は21日の参院予算委員会で、「この場で申し上げることは差し控えたい」と述べるにとどめた。立憲民主党の徳永エリ氏への答弁。第1次トランプ政権時の日米貿易協定では、日本が牛肉などの関税を環太平洋連携協定(TPP)並みに下げ、自動車の追加関税を回避。米国向けの自動車・同部品の関税も撤廃に向けて交渉するとしていた。徳永氏はこれを踏まえ、今回の関税措置と同協定の整合性を問題視した。首相は「整合性はこれから先もきちんと指摘していく」と述べた。財務省は、毎年77万トンを輸入するミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米のうち、主食向けの量を増やし、「国内需給の調整弁」とすべきと提言した。江藤拓農相は「調整弁は備蓄米を活用している」と述べ、輸入米拡大による需給調整に否定的な考えを改めて示した。

*1-4:https://www.agrinews.co.jp/news/index/301755 (日本農業新聞 2025年4月21日) 消費者理解ハードル高い 価格形成法案で立民が議論
 立憲民主党は21日、生産コストを踏まえた農畜産物の価格形成に向けた法案について、農水省から聞き取りをした。現在、米をはじめ農産物の価格が上昇し、家計を直撃する中、消費者の理解を得ながら価格形成を進めるハードルの高さを指摘する意見が相次いだ。同日、党農林水産部門(金子恵美部門長)の会合を開いた。同法案では、売り手と買い手に価格交渉に誠実に臨むよう努力義務を課し、対応が不適切な事業者には国が指導や勧告を行う。米や野菜などを対象に、価格交渉の材料になる「コスト指標」を作成する方針だ。階猛氏(衆・岩手)は、生産コストの価格転嫁が長らく進まず、厳しい経営環境にある生産現場を踏まえ、「農業者の立場に立てば(価格転嫁を)やるべきだ」と強調した。一方で、「消費者に(価格転嫁を)理解してくれと言っても理解してもらえるのだろうか」と危惧。消費者から理解を得るハードルの高さを指摘した。金子部門長も「消費者に丁寧に説明しなければ、ただ単に(農畜産物の)価格を上げるための法律と思われる」と危機感を示した。

*1-5:https://www.agrinews.co.jp/news/index/302257 (日本農業新聞 2025年4月23日) 牛乳消費拡大 業界結束が必要 自民畜酪委が団体聴取
 自民党畜産・酪農対策委員会(簗和生委員長)は23日、新たな酪農・肉用牛生産近代化基本方針(酪肉近)を踏まえ、生乳の需要拡大に向けて議論した。ホクレンやJミルク、中央酪農会議が出席し、需要拡大に向けた取り組みや課題を説明。牛乳は差別化が難しいことや、食品全体の価格が上がる中、業界一体となって対策に取り組む必要性などを指摘した。11日に公表された酪肉近では、2030年度の生乳の生産数量目標を732万トンに設定した上で、おおむね10年後の「長期的な姿」として需要拡大を前提に780万トンを目指す。今後の需要拡大策が焦点になる。ホクレンは、消費拡大に向け、台湾や香港などの輸出先での試飲や広告展開を進めている。牛乳について「加工度が低く、差別化が難しい。利益も薄く積極的な販売拡大策が取りにくい」といった課題を挙げた。Jミルクは、物価高騰が牛乳の消費に影響を与えているとし、「理解醸成だけで消費を維持していくのは限界がある」と指摘。消費拡大に向けたイベントなどの開催時期やコンセプトを、業界全体でそろえて行うことが必要と提案した。簗委員長は「生産現場が安心して営農できる環境の基となるのが需要拡大だ」と強調。出席議員からは、インバウンド(訪日外国人)向けに乳製品を使った土産を販売していくことや、おなかに優しいとされる牛乳「A2ミルク」をアピールしていく必要性を指摘する意見が出た。

<経済対策⁇>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16197355.html (朝日新聞社説 2025年4月19日) 経済対策の迷走 必要性の見極め怠るな
 物価高やトランプ関税への「経済対策」として、消費税やガソリン税、所得税などの大型減税を求める声が与野党に広がっている。与党は国民全員に現金を配る案を取り下げたが、参院選を夏に控えて負担減のアピール競争は収まりそうにない。しかし政治がまずなすべきは、日本経済と国民生活への影響を冷静に見極めることだ。高関税で誰にどんな痛手が及ぶのか。物価高が長引くなか、対策は適切か。浮足立つことなく、必要な手立てを考えることが欠かせない。トランプ関税では、自動車など輸出産業への打撃の緩和と、雇用面の安全網といった優先度の高い対策への準備を急ぐ局面と言える。米国の方針は二転三転し、日米交渉も始まったばかりで影響は見通しにくいが、企業の資金繰り支援をはじめ、機敏に対処するものを絞り込みたい。与野党とも、関税問題にかこつけて家計支援策に前のめりだ。関税と物価高の話をないまぜにすべきではない。物価高では所得税の減税や低所得者への給付、ガソリン補助など、多くの対策がとられている。電気・ガス代補助も再開の方向だ。それでも政界では減税論が強まる。さらに家計支援が必要と言うなら、理由と財源を明確に説明する責任がある。方策の妥当性や財政への影響を考えることを怠れば、的外れなものが入り込み、無駄遣いは膨らむ。なにより、本当に困っている人に絞った支援策を最優先するのが筋だろう。所得制限のない大型減税や現金給付は本来、深刻な大不況や危機時に検討する異例の手法だ。いま必要かを考えるうえでは、まずトランプ関税の影響で日本経済がどれほど悪化するのか、慎重に見定めることが不可欠なはずだ。ところが、与党の給付案はこうした検討を素通りした。各報道機関の世論調査でも反対が多く、「選挙対策のバラマキ」と批判されて短期間でしぼんだ。一律の減税論も、同じそしりは免れない。大がかりな減税に踏み出すならば、何らかの支出を大きく削るか、将来世代にツケが回る国債の増発に頼らざるをえなくなる。膨大に積み上がった借金の利払い費の増加、過度な金利上昇やインフレのリスクに目を配る必要性も高まっている。政治家たちは厳しい現実に目をつむり、国の財布は便利な「打ち出の小づち」だとばかりに、人気取りに走っていないか。中長期的な視点で持続的な国のかじ取りを考える重責を忘れてはならない。

*2-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250419&ng=DGKKZO88156400Z10C25A4MM8000 (日経新聞 2025.4.19) 政府・自民、ガソリン価格10円下げ 電気・ガス補助は7~9月
 政府・自民党は物価高対策として、ガソリン価格を1リットルあたり10円値下げする方針だ。5月中に措置を始める。電気・ガス料金の補助は7月から再開し、夏の電気代がかさむ9月までの3カ月間、家計への負担を減らす。与党の幹部が来週、石破茂首相に物価高対策を申し入れる。国民一律の現金給付と消費税減税の即時実施は求めない。政府は月内をめどに物価高への対応策をとりまとめる。ガソリンの値下げ幅は公明党の意向を踏まえて最終判断する。ガソリン価格は現在、補助金を入れて185円程度に抑えている。この補助金は原油の国際価格の下落を受け2024年12月から段階的に縮小している。足元の原油安と円高進行を反映して17日にはゼロになった。新たな措置として、定額の値下げによる抑制策を導入する。ガソリンの市場価格が185円を下回っても補助が適用されるため、今の補助制度よりガソリン価格が下がる可能性が高い。原油相場が高騰すると消費者負担が増すこともある。財源は1兆円ほど残高がある既存の基金を活用する。ガソリン価格の負担軽減を巡っては自公両党と国民民主党が4日、定額で引き下げる方針で合意していた。国民民主は補助金ではなく、ガソリン税の旧暫定税率の廃止を求めている。電気・ガス料金の補助額は5月をめどに決める。24年8~9月は家庭向け電気料金を1キロワット時あたり4円補助した。電気・ガス価格の値下がりが見込まれているため、今年は4円より少ない額で調整する。財源に7000億円ほどある予備費から確保する。政府は今国会での25年度補正予算案の編成を見送る公算が大きい。いまある財源を使い、迅速に対応できるエネルギー関連の補助を打ち出す。トランプ米政権の関税措置の日本経済への影響も見極める。必要であれば追加の負担軽減策も検討する。

*2-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250423&ng=DGKKZO88226100T20C25A4EA1000 (日経新聞 2025.4.23) エネルギー補助を選挙目当てに使うな
 夏の参院選に向けた露骨なバラマキと言われても仕方あるまい。政府・与党が物価高への対応だとしてガソリンや電気・ガス代への補助を再開する。月内にとりまとめる経済対策に盛り込む。エネルギー補助は価格が上がれば需要が減るという市場原理をゆがめ、脱炭素の取り組みに逆行する。しかもいまは原油安や円高で価格が下落基調にある。合理性を欠く政策を集票目当てに乱用すべきではない。ガソリン補助金は原油価格が急騰した2022年1月から支給している。当初は3カ月間の期間限定と位置づけていたのに、ずるずると延長を繰り返してきた。現在は全国平均のガソリン価格を1リットル185円程度に抑えるよう調整している。トランプ米政権の高関税政策による世界経済の減速懸念などから原油安・円高が進み、直近では補助金が初めてゼロになった。にもかかわらず、今後は価格の目安をなくし、新たに同10円の定額補助を導入する。補助の期限に関しては、ガソリンに上乗せされる旧暫定税率の廃止に向けた与野党協議を踏まえて判断するとみられる。電気・ガス代の補助はロシアのウクライナ侵略に伴う燃料高騰への対応策として23年1月に始め、24年5月でいったん打ち切った。ところが岸田文雄前政権が朝令暮改で復活させ、先月末に終了したばかりだ。夏場の冷房代がかさむ7~9月に改めて再開する。一連の支出はすでに計約12.5兆円に膨らんでいる。政府は23年に、脱炭素投資の呼び水とするため10年間で20兆円のグリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債の発行を決めた。エネルギー補助はそれに迫る金額だ。エネルギー補助はあくまで燃料価格高騰の激変緩和措置だったはずで、長期化は本来の趣旨に反する。ウクライナ戦争で多くの国が補助を実施したが、先進国でいまも続けるのは日本くらいだ。脱炭素のアクセルとブレーキを同時に踏むような施策は、税金の浪費だけでなく、日本が温暖化対策に消極的だという誤ったメッセージを国内外に送りかねない。エネルギー補助が必要ならば、燃料費や夏の光熱費負担がとりわけ重い低所得世帯、零細企業に対象を絞るべきだ。貴重な財源を成長投資に振り向け、持続的な賃上げを後押しすることが、物価高対策の本筋である。

*2-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1451782 (佐賀新聞 2025/4/24) 「ガソリン・電気代補助」選挙目当てと言うほかない
 石破茂首相は国民の苦しい生活実態ではなく、迫る参院選での票しか見ていないようだ。表明した物価高対策はタイミング、内容ともに的外れで、選挙目当てと言うほかない。首相率いる政府与党にこの国を任せていいのかどうか、有権者は来たる選挙で厳正な判断を下すべきだ。首相はガソリン価格の押し下げと電気・ガス代の補助を柱とする、新たな物価高対策を発表した。コメの値上がりに対処した政府備蓄米の追加放出などと合わせて、物価高への取り組み姿勢をアピールする狙いがある。柱の一つはガソリン価格の抑制策で、1リットル当たり10円値下げする仕組みを5月下旬から始める。これまでは設定した目標価格に抑えるよう補助を調整していたが、定額を下げるため現在より安くなる可能性がある。公共交通機関の充実した都市部と異なり、それ以外の地域では自動車に頼ることが多いため、ガソリンは安い方が好ましい事情は分かる。しかし足元では原油価格の値下がりと円高進行で、ガソリンの小売値は下落傾向にある。今月中旬には目標価格に収まったため、価格抑制の補助金支給がゼロになった。このような市場環境下では、ガソリン値下げの追加策に合理的な理由は見いだせない。原資には従来策の基金残高約1兆円を充てる。物価対策の目玉として2022年に始まったガソリン補助は、「出口」が見えないまま8兆円超の予算を投じてきた。補助策は恩恵が自動車の所有者に偏るだけでなく、かえってガソリン消費を促し、脱炭素社会に逆行する。むしろ、このような弊害のある政策に幕を下ろすタイミングは、価格が下がり始めた今しかなかろう。電気・ガス代の補助は7月から3カ月間実施する計画で、具体的な補助内容を今後詰める。冷房需要で電気代がかさむ時期に当たり、ガス料金と合わせたエネルギーコストの軽減を図る。暑さ対策にエアコンは不可欠であり、電気代支援はまだ理解できる。だが夏場は使用が減るガス代まで補助の対象にする必要があるのか。補助の財源を、25年度予算に盛り込まれた約7千億円の予備費から賄う点も問題だ。予備費は予期せぬ自然災害などに備えた資金であり、政府与党による「選挙対策費」のような使い方はふさわしくない。記録的なインフレが生活を襲って既に4年目。自民・公明の与党と政府が、その場しのぎで効果の乏しいばらまき政策を繰り返すのはなぜなのか。しかも足元は、低所得世帯への給付金など24年度補正予算や25年度予算に盛り込まれた経済政策が、動き出しているタイミングである。一つは、口先ばかりで国民の苦境に正面から向き合っていないからだ。でなければ今回のようなお粗末なコメ価格対策はなかったはずだ。もう一つは政府与党が「デフレ脱却」の看板を手放そうとせず、それを選挙向け財政出動の口実にしたいためだろう。日銀は金融緩和で足並みをそろえ、輸入コスト増になる円安を招いてきた。少子高齢化と人口減で内需に力強さの欠ける日本経済の基調と、過去のデフレは別のものだ。石破首相は時代遅れのその認識を改めない限り、国民の支持と共感は得難いと気づくべきだ。

*2-2-4:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250420-OYT1T50048/ (読売新聞 2025/4/20) 戸田市議を公選法違反容疑で逮捕、運動員に現金渡したか…防犯カメラ映像などから浮上
 1月26日投開票の埼玉県戸田市議選で運動員2人に報酬を渡したとして、県警は20日、同市議の渡辺塁容疑者(46)(戸田市新曽)を公職選挙法違反(買収)容疑で逮捕した。発表によると、渡辺容疑者は1月30日、ビラ配りなどの選挙運動を手伝った見返りとして、JR戸田駅前で、2人に現金計3万5000円を手渡した疑い。防犯カメラの映像や陣営の聞き取りなどから、容疑が浮上した。調べに対し、「弁護士と話をするまで、話せない」などと話している。渡辺容疑者は市議選に無所属で出馬し、初当選していた。県警は20日夕、戸田市役所内の渡辺容疑者の議員控室を捜索した。

*2-2-5:https://mainichi.jp/articles/20250419/ddm/008/020/085000c (毎日新聞 2025/4/19) トランプショック、LNG参画、交渉切り札 日本政府、アラスカ開発巡り
 トランプ米政権の関税措置を巡る日米協議は、4月末にも次回閣僚協議が開かれ本格化する。日本政府が有力なカードとみるのが、米側が投資と購入を迫る米国産液化天然ガス(LNG)だ。2月の日米首脳会談で石破茂首相が輸入拡大方針を表明し、米側の態度軟化を期待する。ただトランプ大統領がこだわる米アラスカ州での大規模LNG開発案件への参画を巡っては官民に慎重な見方も根強く、「ディール(取引)」が成立するかは見通せない。
●実現性で慎重論も
 「選択肢が広がる。すばらしいことだ」。電気事業連合会の林欣吾会長(中部電力社長)は18日の定例記者会見で、政府の輸入拡大方針をこう評価した。米国産LNG価格は「ヘンリーハブ」と呼ばれる米国内の天然ガス指標価格に連動して決まる。原油価格の影響を受けやすい中東産LNGなどと比べて価格は安定的で「うまく併用すれば価格ヘッジにも使える」(中国電力の中川賢剛社長)という利点もある。トランプ氏にとってLNGの輸出拡大は重要政策の一つだ。大統領就任直後、バイデン前政権が凍結していたLNG新規輸出許可を再開する大統領令に署名。化石燃料の増産でエネルギー価格を引き下げると強調し、各国と交渉している。日本にも恩恵はある。2024年貿易統計によると、日本のLNG輸入量は6589万トン。このうち10%を占める米国はオーストラリア、マレーシアに次ぐ3位の輸入相手だ。ロシアによるウクライナ侵攻後、エネルギー安全保障の観点から調達先の多様化が急がれるなか、米国産の輸入拡大は「日米双方にウィンウィン」(経済官庁幹部)。カタールなど第三国への転売を禁じる産出国もあるが、米国産にはこうした制限はなく、購入分を柔軟に取引できる。ただし、アラスカLNG開発に対しては、その実現性を巡って懐疑的な見方が絶えない。アラスカ北部のガス田から南岸のLNGプラント予定地まで長さ約1300キロのパイプラインが必要で、総事業費は440億ドル(約6・3兆円)に上るとされる。数十年前から構想はありながらも巨額のコストがネックとなり事業は進んでおらず、政府内にも「トランプ政権のうちに完成するのか」(外務省幹部)と冷ややかな見方がある。三菱商事の中西勝也社長は、アラスカLNG開発への参画の可否を以前から検討中だとしたうえで「10年以上かかる案件だと思う。本当にフィージブル(実現可能)なのか慎重に評価している」と話す。購入価格は高水準になると見込まれており、日本ガス協会の内田高史会長(東京ガス会長)は「通常のLNG開発コストは半分以下」だと断言する。住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミストは「コストがさらに高くなる可能性もあり、採算が合わない」との見方を示す。課題は山積しているが、トランプ氏は日米首脳会談後の会見で「日本が記録的な数字のLNGの輸入を始める」と歓迎してみせ、「パイプラインの建設についても話し合った」と言明した。石破氏は「LNG採掘が成功裏に進展することを期待する」と応じるだけだったが、4月7日の参院決算委員会では「アラスカのLNGをどう考えるべきか、パッケージとして示していかねばならない」などと含みを持たせた。米側は攻勢を強める。関税交渉を担うベッセント財務長官は8日、米メディアのインタビューで、日本などがアラスカLNG開発への資金を拠出すれば「米国の雇用を生み出すだけでなく貿易赤字の縮小にもつながる」としたうえで、関税引き上げの「代替案になるかもしれない」と揺さぶりをかける。関税を取引材料にLNG開発への参画を迫る米側の圧力を前に、ある経済産業省幹部は「民間に『コストの高いガスを買え』とは言えない……」と頭を抱えた。

*2-3:https://www.sponichi.co.jp/society/news/2025/04/17/kiji/20250417s00042000041000c.html?nid=20250417s00042000295000c&ref=yahoo (Yahoo 2025年4月17日) 現金一律給付見送りへ 経済対策、補正提出せず 政権、ばらまき批判考慮 野党「迷走、統治
 石破政権は、新たな経済対策を念頭に置いた2025年度補正予算案の今国会提出を見送る方針を固めた。これに伴い、参院選前の国民一律の現金給付も行わない方向となった。与党幹部が16日明らかにした。世論のばらまき批判を考慮し、当面は25年度予算などに盛り込んだ物価高対策の効果を見極める。与党で検討中の夏場の電気・ガス代補助やガソリン価格引き下げは、予備費など既存財源を活用する方針だ。一方、野党は補正を巡る政権の迷走ぶりを「統治不全」だと非難した。政府高官は16日、報道各社の世論調査で評価の低かった現金給付案について「世論に響かない対策を打っても意味がない」と否定的な考えを示した。公明党の岡本三成政調会長は記者会見で、党内で賛否が割れているとして「必ず必要だと政府に強く求める段階ではない」と述べた。24年度補正予算には、住民税が課税されない低所得世帯に3万円の給付金を配る施策が既に盛り込まれている。政権内では、大型の経済対策を打つために補正予算を検討する動きがあった。自民党の森山裕幹事長は13日に「補正で対応しなければならない」と明言した。だが、米政権の関税措置の影響が見通せず、さらに少数与党のため、提出しても野党との調整に時間がかかることが見込まれた。夏の参院選を控え、6月22日までの会期を延長することが難しいとの事情もあり、補正を見送る要因となった。現金給付とは別に減税の可否については物価動向を注視した上で、年末の税制改正大綱の策定に向けて与党内で議論を続ける見通しだ。立憲民主党の重徳和彦政調会長は会見で「石破茂首相の統率力の問題に由来している。政権のガバナンス(組織統治)が機能不全を起こしている」と批判。日本維新の会の前原誠司共同代表も党会合で「政権の混迷ぶりが現れた」と断じた。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250505&ng=DGKKZO88477960V00C25A5MM8000 (日経新聞 2025.5.5) 曲がる太陽電池、大都市に数値目標 政府要請へ 都「55万世帯分」構想
 経済産業省は薄くて曲がる新型のペロブスカイト太陽電池について、近く東京、大阪、愛知、福岡の4都府県に導入目標の策定を要請する。平野の少ない日本で従来型の太陽光パネルの設置場所は限られる。東京都は2040年までに年間電力消費量で55万世帯分の設置目標を表明する。50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする政府目標の実現に向けては、太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電の導入拡大が求められる。太陽光では今後は都市部の高層ビルなど建造物への設置が有効だとみて、普及加速を後押しする。7日に開く経産省の官民協議会で大都市圏の東京、大阪など4都府県にギガワット級の導入目標の策定を要請する。具体策を盛り込んだロードマップの作成や設置補助金の創設といった取り組みも求める。高層ビルや大規模集客施設といった既存の建造物や、今後着工する施設への設置を促す。東京都は40年までに2ギガワット分の導入目標をまとめており、協議会で表明する。標準世帯で55万世帯分の年間電力消費量にあたる。公共施設に加え、商業ビルや空港、駅といった場所への導入をめざす。都で独自に補助金を設け、設置費用を支援する。日本発の技術であるペロブスカイトには薄くて曲げられるフィルムタイプや、ガラスに埋め込めるタイプといった複数の種類がある。建物の屋上や壁面、窓などに設置しやすく、広大な土地を確保しなくても大規模な導入を期待できる。実用化も日本勢がリードする。積水化学工業は25年度中に販売を始め、30年までに年100万キロワット級まで生産規模を拡大する。3100億円超のコストの半分を政府が補助する。パナソニックホールディングス(HD)は26年にも住宅建材と太陽電池を組み合わせた製品の試験販売を始める。経産省は40年までに国内で、標準家庭の550万世帯分の年間電力消費量にあたる20ギガワット(1ギガワット=100万キロワット)の設置を目標にかかげる。政府は2月に閣議決定した新たなエネルギー基本計画で、電源全体に占める太陽光の割合を足元の9.8%から、40年度に23~29%へ引き上げる方針を打ち出した。ペロブスカイトの導入目標策定は他の道府県への要請も検討する。普及が進めば、価格が低下し、個人による設置拡大にもつながるとみる。太陽光パネルは近年、適地が少なくなってきたことから設置が伸び悩んでいる。発電容量10キロワット以上のパネルの導入は茨城県や福島県、千葉県など広大な用地を確保しやすい自治体に集中する。24年9月時点で設置量が最も小さいのは東京都の15万キロワット分で、最大の茨城の407万キロワット分との差は大きい。

*2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16207903.html (朝日新聞 2025年5月6日) (電ゲン論)原発新増設へ、利益生む仕組みを 九州電力社長・池辺和弘さん
 政府は原子力発電を「最大限活用」するとし、これまでの方針を転換しました。大手電力は原発の必要性を主張する一方、新増設に向けた具体的な動きはみられません。九州電力の池辺和弘社長は、投資には原発をより収益が上がる事業にしなければならないと言います。その理由と具体策を聞きました。電力需要の増加が見込まれる半導体工場やデータセンター(DC)は、安定的な電力供給が必要で、脱炭素も求められます。安定供給という意味では、やはり原子力しかない。必要なのは、具体的に新増設をどう進めていくかという議論です。新増設を考えた時に、ファイナンス(資金調達)がつかないのが一番怖い。私たちの事業は、地域独占でも、総括原価方式でもなくなりました。銀行がお金を貸してくれない、株主・投資家が許してくれないとなれば、原発はつくれません。彼らは利益率が低ければ、ほかの投資先を探します。いかに原子力がプロフィタブル(利益を生む)かを示し、納得させないといけません。投資を回収するためには、建設費を電気料金に上乗せする英国の「RABモデル」でもいいですが、民間の力を活用する仕組みがいい。事故などで発電所の運転が止まるリスクは全て電力会社が負っていますが、リスクをシェアする仕組みがほしい。例えば、DCなどと20年間供給する契約を結び、リスクも半分みてもらう。その分、安い料金で提供でき、私たちも利益を上げられます。米国では、再生可能エネルギーと原子力は、CO2(二酸化炭素)を出さない「カーボンフリー電源」として、ひとくくりという感覚になってきています。GAFAなど米テック大手でも、DCに原発から電気の供給を受ける動きが出てきました。日本も変わってくると思います。太陽光も風力も入れられるだけ入れたいのですが、電気はためにくいのが最大の弱点です。福岡県の発電所に蓄電池を置きましたが、30万キロワット時で200億円。日本全体で1日に使う電気が30億キロワット時くらいで、その分の蓄電池を買うと200兆円ほどかかります。再エネで全ての電力需要をまかなうのは、非現実的です。電気がこないとなれば、DCなどは中国や韓国に移り、若い人たちの働く場所がなくなってしまう。原発の建設には約20年かかります。将来の需要を考えると、いまがギリギリのタイミング。政府には投資が可能な制度をつくってもらい、私たちも(新増設を)早く決断したいです。(聞き手・松本真弥)
     *
 いけべ・かずひろ 1981年、九州電力に入社。取締役常務執行役員などを経て、2018年6月から代表取締役社長執行役員。今年6月には会長に就く。20年3月~24年3月には東京、中部、関西の3電力会社以外で初めて電気事業連合会の会長を務めた。

<教育>
*3-1-1:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250225-OYT1T50162/ (読売新聞 2025/2/25) 高校無償化とは?…公立は授業料相当額・私立は一定額を支給、新年度から所得制限撤廃
Q 高校無償化とは。
A 高校生のいる世帯に対し、公立の場合は授業料相当額、私立の場合は一定額を支給して授業料負担を軽減する制度で、授業料全額が支給でまかなえれば実質的に無償化となる。民主党政権だった2010年に就学支援金制度が創設され、高校のほか、高等専門学校(高専)の1~3年や職業能力育成のための専修学校高等課程、特別支援学校高等部など、高校相当の学校も対象となっている。現行法では、高校生のいる年収910万円未満の世帯に、公立私立問わず年11万8800円が助成され、私立に通う低所得世帯には支援金が上乗せされている。東京都や大阪府などでは、独自に支援金をさらに上乗せしている。
Q 自民、公明両党と日本維新の会の合意内容が実現すると、制度はどう変わるのか。
A 25年度は、11万8800円の支給に対する所得制限が撤廃され、326万人の高校生(23年度現在)全員が対象となる。26年度からは、私立高生向けの上乗せについても所得制限が撤廃され、私立高授業料の全国平均額にあたる最大45万7000円を助成することになる。上乗せ支給の対象者は、高校生全体の約4割となる約130万人に上る見通しだ。
Q 追加で必要となる財源は。
A 25年度は1000億円程度が必要で、政府・与党は基金など一時的な財源を活用する方針だ。26年度以降は年4000億円程度が必要となる。
Q 課題は。
A 私立高向けの支援が拡充されることで、公立高離れの加速や、私立高の授業料の便乗値上げを懸念する声がある。子育て世帯の負担軽減に効果がある一方、高所得世帯も支援対象とすることへの疑問や、どこまで教育の質の向上につながるかが不透明だといった指摘もある。

*3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250324&ng=DGKKZO87537320T20C25A3PE8000 (日経新聞 2025.3.24) 高校無償化の効果疑問視 本社世論調査、「教育の質高まらず」66% 国会論戦「評価せず」6割
 日本経済新聞社とテレビ東京は21~23日の世論調査で、自民党、公明党、日本維新の会が合意した所得制限なしで高校の授業料を無償化する方針に関してもたずねた。無償化により教育の質が「高まると思う」と答えた人が24%で「高まるとは思わない」が66%だった。衆院で少数与党の自公は維新が求める高校無償化などと引き換えに2025年度予算案への維新の賛成を取り付けた。「教育の質が高まると思う」の回答を支持政党別にみると、自民党支持層と維新支持層ともに3割弱、無党派層は2割だった。維新支持層も7割弱が「高まるとは思わない」と答えた。与野党の論戦をはじめとする国会活動への評価を聞いた。「評価しない」が62%となり「評価する」(29%)を上回った。「評価しない」は2月の前回調査から8ポイント上昇した。自民党支持層は「評価しない」が60%で「評価する」(35%)を上回った。立憲民主党の支持層は「評価する」が43%とやや比率が高くなった。政府・与党が今国会での提出を目指す基礎年金の支給額を底上げするため厚生年金を減額する内容を含む年金制度改革法案について聞いた。基礎年金底上げの方針に賛成が31%、反対が52%だった。世代別でみると60歳以上で反対が6割を超えた。18~39歳の反対は4割だった。年金法案を巡り、自民党内で夏の参院選を控え国会提出に慎重論が広がる。自民党支持層は賛成、反対とも4割で、反対が少し多かった。医療費の支払いを一定に抑える高額療養費制度を巡り、石破茂首相は患者負担の上限額の引き上げを見送った。見送りを「妥当」とした回答は66%で、「妥当ではない」は26%だった。すべての世代で6~7割前後が見送りを「妥当」と答えた。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250324&ng=DGKKZO87533090T20C25A3CK8000 (日経新聞 2025.3.24) これからの義務教育 9年間の「出口」保障を、小松郁夫・関西国際大客員教授
 学習指導要領の改訂論議が始まった。義務教育のカリキュラムを根本から考え直す時だ。小松郁夫・関西国際大客員教授(国立教育政策研究所名誉所員)は各地に広がる義務教育学校の学びにヒントがあると指摘する。まもなく新年度が始まり全国各地の小学校が新1年生を迎える。入学後の9年間で、どんな生活と義務教育の学びを体験するのだろうか。義務教育として行われる普通教育の目的は、教育基本法第5条で「各個人の児童生徒の有する能力を伸ばしつつ社会で自立的に生きる基礎」を培うことと「国家及び社会の形成者として必要な基本的な資質を養うこと」の2点にある旨が規定されている。最近の義務教育改革では小学校6年間と中学校3年間の分断を解消し、9年間を連携・一貫して質を保障する「義務教育学校」の創設が示唆に富んでいる。学校教育制度の多様化、弾力化を推進するため、学校教育法の改正により2016年に新設された制度で、初等教育と前期中等教育までの義務教育を一貫して行う。前期課程(小学校に相当)6年と後期課程(中学校に相当)3年からなる小中一貫校であり、全体の9年間を一体化して4・3・2や5.4といった教育課程上の新しい段階を設定するなど、特色ある教育活動を展開している。国語であれば9年間で体系的、発展的に育てたい資質・能力を柔軟に構想するのと、各学年の学習内容を細かく定め、学年別の配当漢字を示すといった配慮をするのとでは授業計画に違いが出てくる。児童生徒により適切に対応するには、義務教育の9年間で柔軟な指導計画を立案することが今後目指すべき方向性だと思う。算数と数学、図画工作と美術のように小学校と中学校で教科名が違うのも、今日では違和感がある。それぞれ後者に統一し、美術なら中学校の美術教員が一貫して計画し、指導する方がより質の高い学習成果が期待できる。小学校でも高学年に入ると学習内容が徐々に高度になる。担任ではなくその教科・科目を専門とする教員が教える教科担任制を5年生くらいから大胆に導入し、教科の特性に応じた指導に挑戦すべきだろう。たとえば、中学校レベルの設備のある専用の教室で、専科の教員が中学以降の学びを視野に入れながら小学校高学年の理科の実験指導をした方が学ぶ喜びを実感しやすく、さらなる学びへと発展するのではないか。より質の高い義務教育を保障するシステムの実現にもつながりうる。子どもによっては特別なニーズへの配慮も求められる。義務教育の9年間、丁寧で一貫した方針の下で子どもに関わることで、本人と保護者が安心できる学習環境を保障できる。かつて教育界では「七・五・三」と称し、すべての子どもに個別最適な学びが保障できず、義務教育9年を終了する時点で5割程度(小学校卒業時で7割、高校卒業時には3割)しか十分な学びを得ていないのではないか、という反省を語ることがあった。社会で自立的に生きるための基礎的な資質・能力を保障するには、出口の中3終了時点での姿を想定して各自の学びのキャリアを設計することが大切だ。私が学校改革にかかわってきた京都市左京区にある市立大原小中学校(通称・京都大原学院)は09年4月に小中一貫校になり、18年に義務教育学校として新しいスタートを切った。前期(小1~4)、中期(小5~中1)、後期(中2~3)という教育課程上のブロック(区分)を新たに設定。義務教育終了までに学ぶべきこと、身につけるべきこと、生き方などについて育てたい児童生徒像を保護者、地域住民と学校が一緒に考え、子どもに向き合いながら検討してきた。義務教育9年間の出口は地元の大原で活躍し、京都の輝かしい歴史と伝統、進取の精神を受け継ぎ日本をリードする若者の姿だ。「大人になる科」と呼ぶ探究的学習のまとめとして9年生(中3)が発表する「大原提言」は、義務教育の卒業論文のようなものである。生活と学びが密接に関連している義務教育では地域から・地域で・地域を「学ぶ」ことも重要だ。地域に開かれた教育課程を編成し、地域と共に学ぶ義務教育の創造が期待される。私は日英の比較教育研究をしてきて、英国(スコットランドを除く)のGCSE(中等教育修了一般資格)制度に興味を持った。義務教育終了の16歳で受ける科目ごとの全国統一試験である。この制度の長所は義務教育終了時での出口管理がしっかりしていることだ。日本にこうした制度はなく、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)も中3の4月に実施される。これでは義務教育の学習に関する確認の評価としては活用できない。日本の卒業証書はなんの公的証明にもなっていない。義務教育学校の運営状況は都市部と児童生徒が減っている地域では様相が異なる。だが、9年後どのように成長しているかのゴールを意識し、小中学校の教員が協働して学校改革を熟議している点は共通する。未来の理想像から逆算して今やるべきことを考えるバックキャスティングの思考である。小中の教員が互いの学校文化や指導観の違いを見直し、義務教育はどうあるべきかを協働して考え、地域や保護者とも連携して各地域社会の良さや特色を次世代につなげていくことは、少子化などで悩む多くの地域に新たな希望をもたらすのではないか。「義務」の保障は子どもにとっての資質・能力向上の義務と権利であるとともに、国家・社会の形成者としての義務であるという二面性を持つ。さらにいえば生存権に関わる「学習権」の保障であり、国家・社会の責務である。義務教育は、その後に生きる学びのコンパス(羅針盤)にあたる。次の教育改革では子どもを主語とした新しい義務教育の学びと、それを保障する学校のあり方を再考しなくてはならない。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16199727.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2025年4月23日) あえぐ地方大、探る活路 県唯一の法学部、単科大募集停止
 急速な少子化で、特に学生確保が難しい地方大学が岐路に立っている。政府は、事態が深刻な大学には円滑な撤退・縮小を促しつつ、地域連携の強化で必要な高等教育機関の確保もめざす。地方大学の活路はどこに。
■「県外に出る若者、増えるのでは」
 「大学のない街にしたくはない」。「学ぶ機会をなくしてしまっていいのか」。昨年3月。高岡法科大(富山県高岡市)の運営法人の理事会は、3時間以上に及んだ。終盤、理事たちは理事長が提案した「2025年度以降の学生募集停止」に声をあげた。見守った根田正樹学長は、やりきれぬ思いとともに「いかんともしがたい」と感じていた。1989年に、北信越では初めて法学部を備えた4年制の私大として開学した。国公立を合わせても法学部は富山県内で唯一。法律知識を備えた「地域社会に貢献する人材の養成」を掲げた。初年度は定員200人に対し570人が入学。しかし99年度以降、入学定員を満たすことはなかった。なぜ定員割れから抜け出せなかったのか。富山県内の18歳人口は約8900人(24年)で、20年間で約25%減ったが、減少率は全国平均と大きく変わらなかった。一方、学校基本統計に基づく算出などで大学進学率をみると、富山は50・4%(24年度)。20年間で約11ポイント上がったが、約16ポイント上昇の全国平均ほど伸びなかった。その結果、大学進学者数は富山は20年間で4%減り、4%増えた全国平均とは違う傾向だった。国立教育政策研究所は、全国の数値は進学率が比較的高い大都市圏の影響が強く表れており、所得水準や大学数の地域差が背景にあるとする。ただ文部科学省は、全国でも26年ごろをピークに大学進学者が減少局面に入るとみる。中央教育審議会(文科相の諮問機関)の2月の答申では「中間的な規模の大学が1年間で90校程度、減少する規模」とされた。「大学がなくなったら県外に出てしまう若者が増えるのでは」。地元出身で同大に通う飯野圭吾さん(21)は話す。同大の約35年間の卒業生は4770人。6割が県内企業に就職か県内在住だ。根田学長は「地域の人材育成を担う大学として十分な役割を果たしてきた」と話す。18年の就任以降、学生募集のため、中学や高校で法律や選挙の出前講座をしたが効果は限られた。学部新設の構想も持ち上がったが、定員割れの中、身の丈に合わないと白紙に。対照的に、隣県の金沢市内の大学では文理融合型や「情報」系の学部新設が相次ぎ、コロナ禍の収束とともに県外進学も再び増えた。就職支援で県内大学と自治体・企業の連携組織はあったが、県の担当者は高岡法科大との関係について「私立大に行政がどう関わるのかは難しい」とも語った。県内に大学・短大は六つ。24年度は国立の富山大と富山県立大だけが入学定員をクリアし、私立の入学定員充足率は、高岡法科大が最低で37%だが、他も7~8割台だ。昨年4月に高岡法科大が募集停止を発表すると、県は昨夏、効果的な学生募集の方法などを検討する会議を県内大学と開催した。根田学長は「動き出すのが遅すぎた」と悔やむ。「地方大学は生活インフラを支えるもの。なくなることは、地方社会全体が機能しなくなり、いずれは崩壊することを意味するのではないか」
■私大6割定員割れ、撤退支援も浮上
 少子化が進む中、大学をめぐる状況や国の施策はどう変わったのか。18歳人口は約106万人(2024年)で、1990年代前半より半減した。ただ、この間、大学進学率は約32ポイント上がったため、大学入学者は近年、過去最多水準の63万人前後で推移している。一方で大学は、24年は813校で92年の約1・5倍。少子化が予測される中でも、政府は03年、従来の大学設置認可の抑制方針を撤廃した。ただ、私大の約6割は定員割れ。地方は特に厳しく、3大都市圏以外の入学定員充足率は平均92・4%にとどまり、70%台の地域もある。大都市圏の私大に学生が集まり過ぎないように、文科省は、入学者数が定員を大幅超過した私大への私学助成を減らしたり、東京23区内の大学(学部)の収容定員を10年間原則据え置きとしたりした。一時改善は見られたが、地方大学の定員割れは更に進んでいる。近く、大学入学者数は減少局面に入る。40年の見込みは約46万人。入学定員充足率は群馬や沖縄が80%超の一方、地方の一部は60%未満とも推計される。中央教育審議会は答申で、深刻な定員割れや経営悪化の大学が撤退・縮小しやすい支援を提言。地方大学には地域ニーズに合う人材輩出の役割を示し、自治体や企業との連携強化の必要性を指摘した。文科省は地方大学振興の部署を新設。地域人材育成の観点で、私学助成の配分方法見直しも進めている。
■自治体は 県立高を付属校に/連携し経営者学校
 地元の大学をどう位置づけ、連携するか。自治体によって対応は違う。宮崎国際大(宮崎市)は1994年開学で入学定員150人。授業を英語で行う国際教養学部は英語教員を、教育学部は小学校・幼稚園の教員や保育士を毎年数十人、送り出す。同じ敷地にある宮崎学園短期大学も60年間に1万人以上の保育士を輩出してきた。それでも定員割れとなるのは珍しくない。大学・短大の村上昇前学長=3月に退任=は「県外からの学生確保は難しい」と話した。一方、宮崎県保育連盟連合会によると、地域や施設によっては保育士が足りないという。もし今後、2校が縮小・撤退すれば「保育士を確保できず定員を減らす園が出る」と連合会担当者は影響を心配する。ただ、宮崎県の総合計画(23年)で大学関係の指標は「県内大学等新卒者の県内就職割合」の引き上げのみだ。保育士確保に向けた指標も見当たらない。県の産業政策担当者は「大学認可は国。県が大学経営に直接関わる取り組みは難しい」。一方、国は、地方大学と地元自治体の連携を強める考えだ。中教審は2月、高等教育振興を担当する部署の設置▽大学・産業界を交えた地域人材の育成に関する議論――などを自治体に求める答申を示した。自治体主導で大学振興を図る例はある。鉄鋼や化学などの工場が多い山口県には、三つの国立高専と工業系学科を持つ18の高校がある。「待遇の良い大企業の工場に就職できる。大学進学率がなかなか上がらない」と山口県立大(山口市)の田中マキ子学長。県の大学進学率は43%(24年)と全国で3番目に低く、県外への進学者も多い。県内の大学10校の学生は県内高校出身が29%。大卒者の県内就職率も27%にとどまる。県はまず、県立周防大島高校を26年度に県立大の付属高校にする。田中学長は「県東部からの進学者を増やし、地元のリーダーとなる人材を高大7年で育成したい」。また、県の総合戦略(24年)には若者の定着に向けた施策や目標が並ぶ。大学や企業が連携した課題解決型学習は「23~27年度に累計330件」が目標だ。就職先に考える契機に、との期待がある。大学などでのデータサイエンス教育の強化も盛り込んだ。担当者は「デジタル人材を育成してほしい」と望む。33万人の人口が60年に23万人に減ると推計される前橋市も悩みは若者の流出。18年時点で地元大学に進む市内の高校生は13%、地元大学に進んだ市内出身者でも市内に就職したのは36%だった。市は、若者の地元進学や定着を目指す組織を設立。大学や商工会議所と経営者を育てるビジネススクールを催し、各大学の授業紹介動画を市内の中学・高校に配信する。入学定員約300人の共愛学園前橋国際大の大森昭生学長は「個々の大学の努力だけでは学生を確保できなくなった」と連携強化が重要だと訴える。「地域に欠かせない人材を養成していると訴えつつ、地元課題の解決にも積極的に取り組む必要がある」
■<考論>大学は知の拠点、地域活性化の中心 両角亜希子・東大大学院教授(高等教育論)
 高等教育機関は「高校生の進学先」だけではない。知の拠点であり、様々な人をつなぐ役割もある。地域の成長や活性化の中心になりえる。大学が撤退すると、こうしたネットワークを失うことが地域にとって一番の損失になる。若者が消えれば活気がなくなり、労働力が減る。ただ、中教審の答申には、どんな地方大学も生き延びさせるべきだとは書いていない。良質な教育を進め、地元が求める人材を育てて社会貢献する必要がある。学生も教職員も少なく、学べる分野が限られる大学が多い。他の大学と単位互換や事務の共通化などで協力すべきだ。自治体との連携も重要だ。積極的に動かない自治体もある。大学から働きかけた方がよい。自治体や企業が連携相手として見極めやすい仕組みも要る。学生を成長させる教育をする大学かどうか。わかりやすい情報公開の仕組みを国が整えることが重要になる。

*3-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1450373 (佐賀新聞 2025/4/22) 日本人89万人減 外国人増は解決にならない
 総務省が2024年10月1日時点の人口推計を公表した。日本人は前年同月比89万8千人減の1億2029万6千人で、過去最大の落ち込み幅だった。外国人を含む総人口は55万人減の1億2380万2千人。少子高齢化で進む日本人の人口減少を、外国人の増加で補う構図が鮮明になった。24年の日本人の出生数は、過去最少を更新して初めて70万人を割る可能性が高い。政府は「次元の異なる少子化対策」に取り組むが、効果が上がるまでには長期間を要する。事態は深刻の度を増し続けている。その中で、日本に3カ月を超えて滞在する外国人は過去最多の350万6千人で総人口の2・8%まで増えた。これが70年には10%に達すると国立社会保障・人口問題研究所は推計している。このままいけば、外国人は日本社会に欠かせない位置を占めるに違いない。是非論を超えて、建設的に共生の道を探っていくべきだろう。一方、人口減少の影響が一層深刻な地方では、地域経済、コミュニティーの維持に既に困難が生じている。とはいえ、このまま外国人の受け入れ拡大に安易に活路を見いだそうとしても、すぐには十分な解決に結びつかないだろう。
まず「良き隣人」として地域社会に溶け込めるかという問題がある。そして外国人労働者の増加が地域の賃金水準を抑制する懸念がある。それが原因となり、日本人の若者も比較的に高賃金の都市部へ流出するのを促してしまう可能性がある。外国人との共生推進は、東京一極集中を是正する「地方創生」、子どもを産み育てやすい環境を整える少子化対策という政府の二大政策と関連性が強く、一体的に進める必要があるだろう。今回の推計では、全都道府県で人口が増えたのは東京、埼玉のみ。東京は外国人流入も手伝って3年連続で増えている。首都圏4都県には総人口の約30%が集中する。これが少子化進行にも大きく影響している。23年の日本の合計特殊出生率は過去最低の1・20で、中でも東京は最も低い0・99だった。少子化の原因は一般的に、若者世代の価値観変化や雇用・所得の不安定化に起因する非婚化、晩婚化の傾向にあるとされる。加えて、東京では地方より住宅費や教育費が高いため子どもを持つのをためらうケースが多いという。どうすれば一極集中に歯止めがかかるのか。東京は、進学や就職を機に多くの若者世代が地方から集まることが転入超過の要因となっている。特に若い女性が去って戻らないことが、地方の少子化に響いている。「若者や女性に選ばれる地方」を実現するには、思い切った税制優遇などで有望企業の本社機能や主力工場を誘致するなど、安定した仕事と所得を地方にもたらす具体策が引き続き求められる。これは都市部と地方、正社員と非正規労働者、そして男女間の所得格差是正と同時に進めたい。石破政権は最低賃金の全国加重平均を20年代に1500円に引き上げる目標を掲げた。ならば、地方の中小企業の人件費負担を支援しつつ、現在の都道府県別の最低賃金を欧州主要国のように全国一律に移行することも検討すべきではないか。所得格差が解消できれば、若い日本人も外国人労働者も地方に定着しやすくなると期待できる。

*3-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250511&ng=DGKKZO88584530Q5A510C2EA5000 (日経新聞 2025.5.11) 外国人材、地方で争奪戦 浜松市・インド大が覚書 製造業、国内回帰で
 大都市圏に近い自治体が、IT(情報技術)系エンジニアなど高度外国人材の確保を急いでいる。浜松市はインド理系最高峰の大学と覚書を交わし、神奈川県や栃木県は地元企業と人材のマッチングに取り組む。国内では製造業回帰が進んでいる。各地域は高度人材の定着で競争力を高め、生産拠点の誘致も狙う。浜松市は2024年12月、インド理系で最高峰とされるインド工科大ハイデラバード校と高度外国人材の誘致に関する覚書を交わした。25年度からはインドとの交流を加速させる。浜松市職員をインドにあるスズキ子会社に派遣し、同国のスタートアップと浜松市内の企業の交流を図る。山梨県もインドに目を向け、北部ウッタルプラデシュ(UP)州との関係を深める。24年末に長崎幸太郎知事がヨギ・アディティヤナートUP州首相と会談し、県内製造業での実習機会の創出を提案した。人材受け入れや交流を進めるため、日本語学習や医療保険制度の環境を整備する。自治体が相次ぎ高度外国人材獲得に乗り出す背景には、為替や世界貿易の不安定化を受けた国内への製造業回帰がある。「24年版ものづくり白書」によると、直近1年で国内事業所を新増設した製造事業者は回答者の51%に上った。海外に生産拠点を持つ事業者の34%は国内の生産機能を拡大すると答えた。製造業では、特にデジタル化における担い手が足りていない。厚生労働省がまとめた報告書は、人手不足が経済成長の制約となって深刻な影響を与えることが懸念されていると指摘する。直接的な補強策として期待されるのが、外国人材の確保だ。出入国在留管理庁によると、23年末の高度人材の在留者数は2万3958人と前年末比3割増えた。地元企業と外国人材のマッチングに取り組む自治体も増えている。神奈川県は4月に「外国人材活用支援ステーション」を設け、採用コストを支援する補助金制度も新設した。栃木県も4月、「外国人材受入支援センター」を発足させた。千葉県は24年度から外国人材向けの職場見学会や採用セミナーを始めている。京都府、京都市、京都大学は優秀な外国人材を呼び込もうと協定を結び、留学生の住宅支援などを検討する。外国人材に詳しいKPMGジャパンの濱田正章マネジャーは「安定雇用や安定収入、社内教育など日本の企業の就業環境に魅力を感じる高度外国人材は多い」と話す。

*3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250430&ng=DGKKZO88377700Q5A430C2EAF000 (日経新聞 2025.4.30) EU、米研究者の移住支援、トランプ政権下の「米国離れ」念頭 技術革新の好機に
 欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は29日、トランプ米政権下で米国を離れようとする研究者を念頭に、欧州への移住を支援する政策を検討すると表明した。EU域内に呼び込み、技術革新の好機としたい考えを示した。EUの立法機関、欧州議会の最大政党である欧州人民党(EPP)の会合で演説した。「私たちの大学での議論は歓迎され、科学と研究の自由は尊重される。卓越性と技術革新が花開く土壌だからだ」と述べた。「Choose Europe(欧州を選んで)」と銘打ち、米国などの研究者がEU域内の大学や機関を選ぶよう新たな施策を欧州委員会が提案すると明かした。欧州メディアによると、博士課程の学生やポスドク(博士研究員)が欧州で研究するのをEU予算で資金支援する案がある。トランプ政権は多様性プログラムや反ユダヤ主義への対応を口実に、大学への介入姿勢を強める。研究機関では気候変動や宇宙、健康・医療分野などで予算の削減が進む。こうした環境に嫌気がさした研究者が海外に渡る事例が増え始めている。英科学誌ネイチャーは3月、米研究者1600人以上を対象に実施した調査で、トランプ政権を理由に「米国を離れることを検討している」と回答した割合が75%に上ったと発表した。若手の研究者に特に移動を検討する傾向があったという。カナダなどすでに在米の研究者を受け入れようと動く国が出てきた。優秀な研究者の招致をめざしてきた国や地域にとっては好機に映る。フォンデアライエン氏は演説で「欧州を再び技術革新の本拠地にする」と強調した。フランスも近く独自の施策を発表する予定だ。EUや加盟国による呼び込みが本格化すれば、米国からの頭脳流出に拍車がかかる可能性がある。

<高齢者いじめ>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1447151 (佐賀新聞 2025/4/16) 厚労省、基礎年金底上げ見送りへ、自民反発で法案から削除の方針
 厚生労働省は16日、今国会への提出を目指す年金制度改革法案から、基礎年金(国民年金)を底上げする案を削除する方針を固めた。会社員らが入る厚生年金の積立金活用が夏の参院選で争点化する可能性があり、自民党内の懸念や反発を踏まえて見送る。17日の自民会合で示す。法案にはパートらの厚生年金加入拡大に伴う企業の保険料負担増なども含む。底上げ案を削除しても、自民には法案提出自体の参院選後への先送り論が根強く、意見の集約につながるかどうかは見通せない。複数の関係者が明らかにした。全ての国民が受け取る基礎年金の底上げは、給付水準を改善するため、財政が堅調な厚生年金の積立金を活用。厚労省は国民年金だけに加入する人や、就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として改革の柱に位置付けてきた。だが積立金の活用に伴い厚生年金の受給額が一時的に減るため、与野党から懸念や批判が出ている。自民の一部で「厚生年金からの流用だ」との批判も強く、厚労省は理解を得られないと判断した。底上げは今回の法案に規定しないものの、将来の底上げ実施を念頭に、積立金の活用に向けた措置を取る。具体的には、厚生年金の受給額の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」の実施期間を当初の想定より2年延長し、2030年度まで続ける。一方、国民年金保険料の納付期間を現行の「60歳になるまでの40年」から5年間延長することを検討する規定を法案に盛り込む方向だ。自民幹部は15日、法案提出の是非に関する3度目の協議をしたが結論は出ず、党厚労部会などで議論することを確認した。年金制度改革 将来の推計人口や雇用・経済動向を踏まえ、おおむね5年に1度実施される年金制度の見直し。厚生労働省が公的年金の長期的な給付水準を試算し、年金財政の健全性を点検する「財政検証」の結果を参考にする。2024年の検証結果を踏まえ、厚労省は(1)基礎年金底上げ(2)厚生年金への加入拡大(3)働く高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」見直し(4)高所得の会社員らが支払う厚生年金保険料の上限引き上げ―などの改革が必要としていた。

*4-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250418&ng=DGKKZO88123760X10C25A4EP0000 (日経新聞 2025.4.18) 低年金対策、相次ぎ後退、厚労省、基礎年金底上げを削除 自民内で法案提出に異論
 厚生労働省は17日、今国会への提出を目指す年金制度改革法案から基礎年金(国民年金)の底上げ策を削除する方針を示した。低年金対策は相次いで断念・修正に追い込まれた。自民党には参院選への影響を懸念して法案提出を見送るべきだとの意見も目立ち、党執行部は意見集約を急ぐ。自民党が17日に開いた厚生労働部会などの合同会議に修正案を示した。基礎年金は財政が厳しく、将来の給付水準は3割目減りする。厚労省は厚生年金を減額して財源をつくり追加の国庫負担も投入して、将来の基礎年金を何もしない場合より3割底上げする改革を検討してきた。制度上、厚生年金の減額が先行するうえ、国庫負担の財源も探す必要がある。自民党内で反対論が拡大し削除に追い込まれた。今回の年金改革の柱だった低年金対策は後退が相次いでいる。厚労省は基礎年金保険料の納付期間を5年延ばすことを検討していた。年金額が年10万円増える一方で、保険料負担が計100万円増えることへの国民の反発が強く、2024年7月に早々に断念した。パート労働者の厚生年金への加入拡大も後退した。加入すると基礎年金に加えて厚生年金を受け取れる。基礎年金の財政も改善する。保険料を半分負担する事業主への配慮を求める声が自民党内で強く、拡大完了の時期を29年から35年まで先送りした。もともと基礎年金の受給額は25年度の満額で月6.9万円だ。これだけで老後を暮らすのは厳しい。今後水準が下がり続ければますます困窮する人が増え、生活保護を受け取る人が増えるリスクがある。低年金対策が遅れるほど状況は深刻になる。厚労省は年金改革の修正を重ねてきたものの、参院選を控えて今国会への法案提出に反対する声は消えない。自民党参院議員の佐藤正久幹事長代理は17日の会議後、法案提出について「国民とのキャッチボールをやって(参院選後の)臨時国会に出すというのもありだ」と記者団に述べた。別の参院議員は「この政治状況で提出するのは厳しい」と指摘した。年金改革を推進する厚労族の一人も「提出できないだろう」と語った。年金は自民党にとって鬼門のテーマだ。旧社会保険庁の年金記録問題は「消えた年金」と批判された。自民党は07年の参院選で大敗し09年の政権交代につながった。厚労省は高所得者の厚生年金保険料の引き上げなどは法案に残す方針だ。負担増につながる項目で法案から追加で削除を迫られる可能性がある。法案の反対派に配慮して内容が後退すれば、今度は年金改革の推進派が反発する公算が大きい。厚労省幹部は「年金改革はゼロサムゲームだ」と話す。恩恵を受ける人がいる一方で、必ず誰かの負担が増えたり給付が減ったりする。政府・与党が正面から改革の必要性を訴える姿勢を欠いた面は否めない。低年金対策が進まないなかでは、自力で備えを進めることも欠かせない。まずは長く働くことだ。給与収入を得られるのに加えて、69歳まで厚生年金保険料も納めれば月々の年金額も増やせる。次に年金の受け取り開始を遅らせる方法がある。1年遅くすると、月々の年金額は8.4%増える。給与や蓄えだけでしばらくしのげるなら「長生きリスク」への耐性は高まる。少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)で手持ちの資産を増やすことも考えられる。

*4-2-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20250418&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO88123760X10C25A4EP0000&ng=DGKKZO88123800X10C25A4EP0000&ue=DEP0000 (日経新聞 2025.4.18) これでは高齢化に克てない
 与党は将来の国民生活を守る政治の責任をどう考えているのか。目先の選挙対策を優先し、有権者が反発しそうな改革を遠ざけてしまう。こんな逃げの姿勢では、少子高齢化に克(か)つのは到底不可能だ。現状を放置すると、公的年金の1階部分である基礎年金の給付水準は最終的に3割も下がる。その影響を最も強く受けるのは就職氷河期世代だ。近年は人手不足で正社員が増えたが、年金の受取額は過去に納めた保険料の累積で決まる。事業主負担がある厚生年金が適用されず、低収入の非正規雇用に長く置かれた人は報酬比例の2階部分が薄くなり、基礎年金への依存度が高くなる。その基礎年金が3割も下がれば、生活保護との逆転が強まり、保護を申請する人が急増しかねない。政治はそれをよしとするのだろうか。基礎年金がこんな事態になった原因は、2004年改正で導入した世代間調整の失敗にある。足元の給付を抑えることで将来の年金水準を確保する予定だったが、デフレへの想定が甘く、足元の給付水準は逆に上昇した。厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)でみると、給付水準(所得代替率)を04年の59.3%から23年までに50.2%へと下げるべきところ、実際は24年に61.2%まで上がった。このツケは将来世代に回り、とりわけ氷河期世代が年金生活に入る40年以降の基礎年金に影響が集中する。今の引退世代に年金を払いすぎていることが問題の根本原因なので、これを是正するのが対策の本筋だ。なのに与党議員にはこれを国民に訴える覚悟と自信がなく、夏の参院選を前に白旗を揚げてしまった。「年金を政争の具にするな」。国会で年金改正案が審議されるたびに政権が訴えてきた言葉だ。ところが少数与党の自民は政争の具になることを防ぎたいがために、改革そのものから逃げてしまった。こんなことでは年金の未来が心配だ。

*4-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250419&ng=DGKKZO88155790Z10C25A4EA1000 (日経新聞社説 2025.4.19) 年金改革から逃げる政治は無責任だ
 夏の参院選を意識した自民党議員の反対によって、政府の年金制度改正案が大幅な骨抜きを余儀なくされている。政治がこんな逃げ腰では、日本はこの先の少子高齢化を乗り越えられない。少子高齢化が進む局面で年金の持続性を保つには、世代間で痛みを分かち合う給付調整が避けて通れない。複雑な制度の課題を国民に説明し、改革への協力を求めるのが国会議員の役割のはずだが、今の与野党議員はそれを放棄していると言わざるを得ない。全国民共通の1階部分である基礎年金が目減りする問題は年金制度が抱える最大の課題だ。財政悪化によって最終的な給付水準が今より3割も低下してしまう。だが石破茂政権が対策の本命と位置づけた厚生年金の積立金を活用する案に、自民党議員の一部は強く反対してきた。厚生年金の給付水準が一時的に低下するため、影響を受ける国民から反発を受けることを恐れたのだ。厚生労働省は自民側の指摘を踏まえた修正案を何度か示したが、反対論は収まらない。他の制度改正を進めるために基礎年金の改革を断念し、関連項目を削除した改正案を17日に示した。日経新聞社説 2025.4.19礎年金の財政が悪化したのは、2004年の改革で少子高齢化対策として導入した世代間調整の仕組みが機能しなかったためだ。当時の想定では足元の年金を19年間抑制することで、それ以降の年金を確保する計画だった。ところがデフレへの想定が甘く、この間の給付水準は逆に上昇した。厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)でみると、給付水準(所得代替率)を04年の59.3%から23年までに50.2%へと下げるべきところ、実際には24年に61.2%まで上がってしまった。過剰給付のツケは将来世代に回り、とりわけ就職氷河期世代が年金生活に入る40年以降の基礎年金に影響が集中する。不安定な雇用が長く続いた氷河期世代は基礎年金への依存度が高く、このままだと生活保護を申請する人が相次ぐ懸念がある。政治がこの状況を放置するのはあまりに無責任だ。少数与党の国会では野党の責任も重大だが、立憲民主党などは政府に法案提出を迫るだけで、改革案に関する自公からの事前協議の呼びかけに応じていない。今が良ければいいという姿勢では年金は持続しない。国民生活を守る政治の責任を自覚すべきだ。

*4-2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250426&ng=DGKKZO88313090V20C25A4EA3000 (日経新聞 2025.4.26) 氷河期世代支援 3本柱 就労・社会参加・高齢期の備え 6月メドにとりまとめ
 政府は25日、首相官邸で就職氷河期世代の支援に向けた関係閣僚会議の初会合を開いた。石破茂首相は就労・処遇の改善、社会参加、高齢期への備えの3つを柱に据え、閣僚に支援策の拡充を指示した。6月をめどに対策をとりまとめ、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込む。会議の議長は首相が務める。首相は重点政策としてリスキリング(学び直し)の支援や農業・建設業・物流業の分野における就労拡大を求めた。公務員や教員の積極的な採用も挙げた。資産形成や住宅確保の強化にも言及した。就職氷河期世代は一般的に1973~82年ごろに生まれた世代をさす。就職時期に金融危機などの影響で企業の新卒採用が少なかった。希望の職につけず非正規雇用の期間が長くなる傾向があった。首相は「今もなお様々な困難を抱えておられる方々が大勢いらっしゃる。ニーズに応じた適切かつ効果的な支援は待ったなしの課題だ」と述べた。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250424&ng=DGKKZO88251770U5A420C2EA2000 (日経新聞 2025.4.24) 賃金上昇、医療費に消える 大企業健保料率が最高の9.34%、消費拡大に向かわず
 健康保険組合連合会(健保連)が23日に発表した2025年度予算の早期集計で、大企業の従業員らが入る健康保険組合の平均保険料率は過去最高になった。高齢者医療への拠出が膨らんだのが要因だ。給付と負担のバランスを見直さなければ、賃上げが進んでも現役世代の消費拡大はおぼつかない。およそ1400ある健保組合の平均保険料率は9.34%で、24年度予算比で0.03ポイント上昇する。赤字の健保組合は全体の76%にあたる1043組合にのぼる。支出増の要因の一つは高齢者の医療費への拠出だ。75歳以上が全員入る後期高齢者医療制度は、後期高齢者自身の保険料が約1割、税金が約5割、現役世代の支援金がおよそ4割を賄う。65~74歳の前期高齢者も、勤め先を退職して自営業者らが中心の国民健康保険(国保)に入る場合が多いことから、健保組合などが納付金を支出して国保を支える制度がある。25年に団塊の世代が全員75歳以上になり、健保組合から後期高齢者医療制度への支援金が前年度より2.5%増える。経常支出のうち加入者の医療費の支払いに充てる保険給付費は5割にとどまり、高齢者拠出金が4割を占める。健保連の佐野雅宏会長代理は23日の記者会見で「現役世代の負担が重く、高齢者への『仕送り』の割合が高い傾向がずっと続いている」と説明した。高齢者拠出金は25年度の3兆8933億円から27年度は4兆円に達する可能性がある。「若い人がなかなか消費に向かわない。社会保険料は右肩上がりで増えており、世代による分断や格差を避けて公正・公平な社会保障にしないといけない」。経団連の十倉雅和会長は24年12月にこう語り、税と社会保障の一体改革が必要だと訴えた。厚生年金の保険料率は17年9月に18.3%で固定した。現役世代の負担を抑えるには医療・介護の歳出改革が欠かせない。財務省によると、医療・介護の保険給付費は12~23年度に年2.9%のペースで伸びた。この間の雇用者報酬の伸びは年1.8%にとどまる。給付費の伸びに届かない部分は、保険料率の引き上げで穴埋めしてきた。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は23日に開いた分科会で「医療・介護給付費と雇用者報酬の伸びを同水準にする必要がある」と訴えた。医療費の増加要因のうち、高齢化などの人口要因は半分ほどに過ぎない。ほかは新規医薬品の保険適用や医師数・医療機関の増加、診療報酬改定などの影響という。保険料負担を抑えるには、これらの改革が急務となる。現役世代の負担抑制策はかねてから議論されてきた。現役世代と同じ窓口負担3割となる後期高齢者の対象拡大、市販薬と効果やリスクが似る「OTC類似薬」の保険適用からの除外などだ。一方で日本医師会の松本吉郎会長は23日の記者会見で「賃金上昇と物価高騰、医療の技術革新への対応には十分な原資が必要だ」と述べ、診療報酬の引き上げを要求した。25年の春季労使交渉の賃上げ率は2年連続で5%台の高水準になる見通しだが、同時に社会保険料も上がれば効果は薄れる。賃上げが消費拡大に結びつかなければ企業の設備投資意欲は高まらず、成長と分配の好循環は実現しない。26年度は診療報酬改定の年にあたる。年末にかけた予算編成プロセスの中で、どれだけ医療の効率化を進められるかが問われる。

*4-4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1460565 (佐賀新聞 2025/5/9) 24年度消費支出0・1%減、物価高で節約志向根強く
 総務省が9日発表した2024年度の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの月平均消費支出は30万4178円となり、物価変動の影響を除く実質で前年度比0・1%の減少だった。マイナスは2年連続。食品などを中心に長引く物価高で、消費者の節約志向が根強かった。認証不正問題に伴う自動車大手の出荷停止も響いた。24年度の家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28・3%で、総務省によると1981年度以来、43年ぶりの高水準となった。所得の伸びが食品価格の高騰に追い付かず、家計を圧迫する構図となっている。消費支出を項目別にみると「食料」が1・0%減。野菜や肉類、乳製品など幅広い分野で値上げが相次ぎ、支出を減らす動きが広がった。「交通・通信」は2・6%減で、一時の出荷停止を受け自動車の購入が低調だった。一方で外食は4・0%増だった。同時に発表した3月の消費支出は33万9232円で、前年同月比2・1%増だった。プラスは2カ月ぶり。2月が全国的に寒さが厳しかった影響で、電気代を含む「光熱・水道」が7・2%増となった。大学の授業料値上げなどの影響で「教育」も24・2%増と大きく伸びた。ただ食料への支出は0・7%減と6カ月連続で減った。多分野で進む物価高騰を前に、消費者がめりはりを付けた慎重な購買活動を心がけていることがうかがえる。

*4-4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16215205.html (朝日新聞 2025年5月17日) 物価高、さえぬ個人消費 GDP、1年ぶりマイナス成長
 1~3月期の国内総生産(GDP)が1年ぶりにマイナス成長となった。4月以降、トランプ関税の影響が本格的に出てくる懸念もあるなかで、それを乗り越えられる基礎体力があるのか、心もとない状況だ。1~3月期のGDPでは、肝心の個人消費がさえなかった。その原因とされるのが、賃金上昇を上回る物価高の継続だ。消費者物価の総合指数は、昨年末ごろから伸びを高め、今年1~3月は3%前後で推移。キャベツなどの生鮮食品が値上がりし、コメが前年の倍近いという異例の高騰が続く。内閣府が公表している消費者態度指数は昨年12月からじりじりと低下。4月はトランプ関税の影響も加わってか、さらに大きく落ち込んだ。では、米国の関税措置の影響は、どのくらい及ぶのか。日本銀行が今月初めに出した「経済・物価情勢の展望」では、今年度の実質成長率見通しが、1月時点の1・1%から0・5%に下ぶれした。民間の見通しも同様の下方修正が相次ぐ。第一生命経済研究所の新家義貴氏は「もともと内需が弱いところに、関税引き上げの悪影響が顕在化することで、景気の停滞感は一段と強まる。場合によっては景気後退局面入りの可能性も否定できない」と話す。
■最高益でも、関税の影響これから
 マイナス成長は一時的なものにとどまるのか。トランプ関税の影響が読み切れず、企業は先行きに不安を抱えている。SMBC日興証券の集計では、東証株価指数(TOPIX)を構成する上場企業の2025年3月期決算は、純利益の総額が4年連続で過去最高になりそうだ。ただ、1~3月期に限ると、円高の影響などで24年10~12月期より3割以上減った。1~3月期の決算が減収減益だった半導体大手ルネサスエレクトロニクスでは、自動車や産業機器向けの半導体市況の回復の遅れなどから、販売が伸びなかったという。トランプ関税の影響が本格化する今年度は、さらに不透明感が増す。ソニーグループは26年3月期の営業利益について、関税の影響を織り込むと、ゲームや半導体事業などの利益が1千億円下押しされると見込む。十時裕樹社長は5月14日の決算会見で「景況感はある程度、時間差で起きるので注視したい」と話す。明治ホールディングスの川村和夫社長は9日の会見で、「せっかく日本もデフレ脱却して新しい経済の成長路線に移りつつある。トランプ関税が悪影響を及ぼさないといいなと思う」と述べた。経済同友会の新浪剛史代表幹事(サントリーホールディングス会長)は16日の定例会見で、GDPのマイナス成長について「一喜一憂すべき状況ではない」としたうえで、「トランプ関税を始めとして、先行きが見通せない。消費マインドを冷やしているのは事実だと思う」と語った。
■伸びを支えた政府消費
 GDPの動きを中長期でみると、二つのギャップが目に付く。一つは「名目」と「実質」の差。もう一つはGDP全体と個人消費の動きの違いだ。24年度の名目GDPは、年度では初めて600兆円を超えた。1970~80年代は5年で約100兆円のペースで増えてきたが、92年度に500兆円を超えた後、次の大台まで32年かかった。このうち22年度以降の伸びが約50兆円近くある。一方、実質GDPの伸びは限定的だ。23年度にコロナ禍前のピークの18年度を上回った程度。24年度まででも5兆円強の増加にとどまる。実質GDPの伸びを支える顔ぶれも、かつてと様変わりしている。18年度と24年度を比べると、GDPの5割強を占める個人消費は3兆円余りマイナス。住宅投資や設備投資を加えた民間需要全体で見てもマイナスだ。全体のプラスとの差を埋めているのは政府消費で、11兆円増えた。政府消費には、人々の暮らしを支える医療・介護の給付や、様々な公共サービスのための支出が含まれる。民需がさえないなかで、そうした政府消費がGDPを底支えしている構図にみえる。内閣府幹部は「高齢化のなかで、政府消費は伸びていかざるをえない。ただ、より重要なのは国内の民間需要がしっかり伸びていくことだ」と話す。民間と公的部門がいかにバランスよく伸びていけるか。そんな課題も浮かび上がる。

*4-4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250516&ng=DGKKZO88711090W5A510C2MM0000 (日経新聞 2025.5.16) GDP、1~3月0.7%減 4期ぶりマイナス、実質年率 個人消費伸びず
 内閣府が16日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%減、年率換算で0.7%減だった。2024年1~3月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高によって個人消費が力強さに欠けた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値の年率0.2%減を下回った。GDPの半分以上を占める個人消費は1~3月期は前期比0.04%増でほぼ横ばいだった。肉や魚などの食料品がマイナスとなった。24年夏ごろに備蓄需要が高まり好調だったパックご飯もマイナスだった。外食は天候に恵まれたこともあり、プラスだった。輸出は0.6%減と4四半期ぶりにマイナスに転じた。知的財産権の使用料が減ったほか、24年10~12月期に大型の案件があった研究開発サービスの反動減があらわれた。モノの輸出の中では自動車が伸びた。米国の関税措置が発動される前の駆け込み需要が一定程度あったと考えられる。増えるとGDP成長率にはマイナス寄与となる輸入は2.9%増と大きく増加し、成長率を押し下げた。ウェブサービスの利用料といった広告宣伝料が増えたほか、航空機や半導体関連もプラスだった。前期比の成長率に対する寄与度をみると、内需がプラス0.7ポイント、外需がマイナス0.8ポイントだった。寄与度については内需のプラスは2四半期ぶり、外需のマイナスも2四半期ぶりだった。個人消費に次ぐ民需の柱である設備投資は前期比1.4%増だった。研究開発やソフトウエア向けの投資が目立った。デジタルトランスフォーメーション(DX)向けの投資などが含まれるとみられる。公共投資は同0.4%減、政府消費は0.0%減となった。1~3月期の収入の動きを示す実質の雇用者報酬は前年同期比1.0%増だった。24年10~12月期の3.2%増から縮小した。赤沢亮正経済財政・再生相は16日、日本経済の先行きについて「米国の通商政策による景気の下振れリスクに十分留意する必要がある」と指摘した。「物価上昇の継続が消費者マインドの下振れなどを通じて個人消費に及ぼす影響も我が国の景気を下押しするリスクとなっている」と言及した。

*4-4-4: https://diamond.jp/articles/-/357947?utm_source=wknd_dol&utm_medium=email&utm_campaign=20250126 (Diamond 2025.1.23) 物価高で押しつぶされる「無職世帯」、日銀金融緩和政策の“看過できないマイナス”(野口悠紀雄:一橋大学名誉教授)
●11月家計調査、無職世帯は、実収入も支出も前年から減少
 ここ数年の物価上昇と賃上げは、国民生活にどのような影響を与えているだろうか?この影響は、世帯のタイプによって大きく違う。勤労者世帯は賃上げの影響を享受しているので生活が改善している面はあるだろう。だがそれに対して、高齢者などの無職世帯は、物価上昇の影響だけを受けて生活が困窮していると考えられる。このことは直近の家計調査でも確かめられる。1月10日に公表された11月分の家計調査報告(総務省)によると、11月の実収入は、勤労者世帯では対前年同月比が実質で0.7%の増になっているのに対して、無職世帯では5.5%の減少だ(注1、2)。消費支出も、勤労者世帯は同1.5%増に対して無職世帯は同2.4%減となっている。日本銀行は、将来、物価が上がるというインフレ期待(予想)が生まれれば、消費が増え経済も上向くということで、物価目標政策のもとに金融緩和策を続けてきた。そして高賃上げの波及を物価目標達成の重要なメルクマールとしてきた。今週23、24日に開かれる金融政策決定会合でも、今春闘でも高い賃上げが続くとの見通しから、利上げをすると市場ではいわれている。だが、家計調査が示しているのは日銀が想定しているのと全く逆の事実だ。
●勤労者世帯の実収入は増えたが、3割強占める無職世帯は賃上げの恩恵なし
 家計調査では、「2人以上の世帯」を主に、その収入や消費の動向をみているが、2人以上の世帯には、「勤労者世帯」と「無職世帯」がある。世帯人数で、前者が54.0%、後者が34.5%だ。この他に個人営業の世帯(11.5%)がある。世帯主の平均年齢は、勤労者世帯は50.8歳、無職世帯が75.3歳だ。後者は退職後の年金生活者が中心だ。1世帯当たりの世帯人員は、勤労者世帯で3.2人、無職世帯では2.3人となっている。だが 勤労者世帯と無職世帯では、収入の状況も支出の中身なども大きく違う。まず、収入の状況をみると、24年11月では、実収入は、勤労者世帯では51.4万円なのに対して、無職世帯では5.6万円でしかない。収入差が大きいのは11月が年金支払い月でないことによる。年金支払いがあった10月でも、実収入は勤労者世帯58.1万円に対して、無職世帯は47.5万円(このうち公的年金給付は2カ月分41.8万円)だ。11月は増加率でも大きな差がある。こうした差をもたらす最大の要因は、勤労世帯では世帯主の勤め先収入が49.5万円と大きく、かつ実質で1.3%増えているのに対して、無職世帯では定義によって世帯主の勤め先収入がゼロであることだ。無職世帯でも、世帯主以外の勤務先収入はあるが、額は少なく、伸び率がマイナスになっている。このように、勤労世帯と無職世帯では、賃金上昇の影響を享受しているか否かという大きな違いがある。賃金上昇がすべての世帯に同じように恩恵を与えているという錯覚に陥りがちだが、決してそうではないことに注意しなければならない。2人以上世帯のうちの3分の1強を占める無職世帯は、賃上げの恩恵に浴していないのだ。
(注1)「毎月勤労統計調査統計」では11月の実質賃金上昇率はマイナスだが、家計調査ではこのようにプラスになっている
(注2)11月の無職世帯の実収入で公的年金は、11月が年金支払い月でないため448円でしかない。なお、2024年で国民年金は満額で月額6万8000円だ。賃金や物価の上昇分は翌年の年金給付にスライドされる建前だが、マクロ経済スライドによって、少子化(現役世代の減少率)や長寿化(平均余命の伸び率)分を差し引いて調整される。
●無職世帯、緊急でないものは買い控え、食料品切り詰め、修繕や家事サービスは支出増
 一方、支出額は、勤労者世帯では40.9万円なのに対して、無職世帯では27.4万円だ。世帯員1人当たりで見れば、勤労者世帯では12.7万円、無職世帯では11.7 万円で、あまり大きな差がない。ところが、物価高騰の影響はどちらのタイプの家計にも同じような影響を与える。だから、支出の伸び率や中身は二つのタイプの家計で大きく異なる。家計調査の11月のデータでは、実質消費支出の対前年同月比は、勤労者世帯が1.5%増なのに対して、無職世帯では2.1%の減となっている。また中身を見ると、食料の実質対前年同月比が、勤労者世帯では+1.8%となっている。それに対して無職世帯では-3.6%だ。米が-12.8%、生鮮肉が-12.1%などだ。項目の中には2桁の減少率になっているものがかなりある。生活をするためには誰もが食料品には一定の支出は必要なはずだが、無職世帯では食料品の価格高騰のために、実質支出を減らさざるをえない状況に追い詰められていることが分かる。一方で無職世帯では、食料品とは対照的に住居関係の実質支出は、前年同月比39.6%増という極めて高い増加率になっている。特に住宅や庭などの修繕や維持の「設備材料」は121.3%の上昇率だ。これはどうしても必要な支出だからだろう。ところが家具・家事用品は、どちらのタイプの世帯でも、実質の伸びがマイナスになっている。勤労者世帯では-14.4%、無職世帯では-6.5%だ。こうしたものは緊急に買う必要はないので、価格が高騰したために買い控えていると考えられる。とりわけ無職世帯の場合、家事用耐久財は-38.3%、一般家具は-30.1%、室内装備装飾品は-25.0%だ。なお、ホームヘルパーなどの家事サービスについては、勤労世帯が-23.2%なのに対して、無職世帯は10.3%増となっている。勤労者世帯では、家族メンバーが比較的若いために、家事サービスを頼む必要性はそれほど高くない。それに対して無職世帯の場合には高齢者なので、これがどうしても必要だという事情を反映しているのだろう。このように、全般的には、無職世帯では支出を切り詰める傾向が強いが、修繕費や家事サービスのようにどうしても必要なものに対しては、価格が高くても支出を増やさざるを得ない状況になっていることが分かる。
●「物価が上がれば経済は改善」!? 誤った想定での金融緩和、家計調査データが裏付け
こうした家計調査の結果は、日本銀行の大規模金融緩和政策の評価に関して、重要な意味を持つ。日銀は、大規模金融緩和を進めるにあたって、「ノルム」という概念を持ち出した。「人々が物価は上昇しないと考えれば、いつでも買えるので、商品が売れなくなる」という考えだ。この考えに従って、物価がいずれ上がるという予想を人々がもてば、商品が売れて経済が改善されるとした。
しかし、無職世帯で実際に起きているのは、これとは全く逆のことだ。物価が上がれば、当面、必要がないものは買い控える。だから、支出が減るのだ。それだけではない。食料品のように生きていくために必要なものでさえ、実質支出を切り詰める。物価が上がると支出が増えるものもあるが、それは修繕費や家事サービスのように、どうしても必要だから購入せざるをえないからだ。この場合には、前と同じサービスを得るための支出が増えるのだから、家計は貧しくなることになる。こうしたことが、少なくとも2人以上の世帯の3割強で起きているのだ。日銀の金融緩和政策は、誤った想定に基づいたものだったことを、家計調査のデータは雄弁に語っている。大規模緩和政策を導入したときには、物価が上昇しなかったので、物価が上昇すれば家計がどう反応するかが分からなかった。しかしここ数年間の物価上昇によって、日銀が想定したことは全くの誤りであると分かった。結局のところ日銀は、全く誤った想定に基づいて物価上昇という目標を追い求めたことになる。

<消費税:位置付けと使途の分析>
*5-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1446361 (佐賀新聞 2025/4/15) 食品0%で年5兆円の消費減税を、立民・有志議員、参院選へ提言書
 立憲民主党の有志議員でつくる「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」(会長・江田憲司元代表代行)は15日、国会内で会合を開き、夏の参院選公約に向けた提言書をまとめた。軽減税率8%が適用される飲食料品の税率を0%に引き下げ、年5兆円規模の減税を実現させるのが柱。近く執行部に提出する。党税制調査会などの合同会議も開かれ、出席議員の多くが消費税減税を訴えた。党内では、別の勉強会も11日に消費税率5%への引き下げを盛り込んだ提言を策定するなど減税論が拡大。これに対し、財政規律を重視する枝野幸男元代表が「減税ポピュリズム」と批判し、対立が先鋭化している。江田氏は15日の会合で、枝野氏の発言に対し「言論の自由を封殺しようとするのは看過できない。大変遺憾だ」と反発。「どう喝や圧力に屈することなく、正々堂々と政策論議を深める」と述べた。提言書は、食料品の税率を当分の間、0%にすることで「物価高から国民生活を守る」と強調。実施期間は、中低所得者の消費税を実質的に還付する「給付付き税額控除」を導入するまでの時限的措置とした。減税により国内総生産(GDP)を0・39%押し上げると試算。財源には米国債の償還金活用を挙げた。合同会議では、食料品の消費税率引き下げを含む減税を訴える声が続出。将来的な給付付き税額控除の導入を目指す姿勢は変えるべきではないとの意見も出た。野田佳彦代表は記者団に、消費税を巡る議論について「活発な意見交換をして、一定の時期が来たら集約する」と説明。党内が二分している現状を踏まえ「いろいろな意見があっても、結論が出たら従うという政治文化をつくるのが私の役割だ」と語った。

*5-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/a67b8fe874373b83888502204e4a4777b88072bb (Yahoo 2025/4/13) 「消費税を下げる議論だけ先行は大変なことになる」自民・森山氏 財源論が必要と強調「正直に正しい政治を」
 自民党の森山幹事長は13日、消費税について「下げるという議論だけが先行して、おかしなことになってしまっては、大変なことになる」と述べ、減税に慎重な姿勢を示した。鹿児島市での党の会合で森山氏は、「私は今、日本の政治の中で大変、気になることがある。それは税制の話だ」として、消費税の減税を求める意見に言及。森山氏は「消費税をゼロにするという政党も出てきた。消費税を5%に下げるという政党も出てきた。消費税が下がることは喜ばしいことかもしれない」とした上で、「社会保障にしっかり充てていくという約束をして消費税の税制が成り立っていることを忘れてはいけない」と強調した。そして、「消費税を下げる分の財源をどこに求めるかという話があって、初めて議論ができるのではないか」と財源論の必要性を指摘し、「消費税を下げるという議論だけが先行して、おかしなことになってしまっては、大変なことになる」と述べた。また、2012年に旧民主党と自民党、公明党の3党で交わした社会保障と税の一体改革に関する合意について、「谷垣総裁(当時)が、日本の財政の状況、今後の高齢化社会の到来を考え、(自民議員)一人一人を説得した」と振り返り、「我々は正しい選択、判断をしたのだと思う。この精神を忘れてはならない」と訴えた。さらに、「日本は経済的にも大きな国だ。国際的に日本の財政が信任を失ったら大変なことになるということを、しっかりと認識をして政治を進めていかなければいけない」として、「裏付けのない減税政策というのは、国際的な信任を失うと大変なことになる」と指摘。消費税が地方交付税の財源になっていることにも触れ、「消費税は色々なことに影響する税金であることを、国民に理解してもらわないといけない」と述べた。森山氏は、「正直に正しい政治をさせてもらいたい。自民党の幹事長として強く思う」と語った。

*5-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1453698 (佐賀新聞 2025/4/26) 自治体、最大300億円減収、ガソリン暫定税率廃止、政府試算
 ガソリン税などに上乗せされる暫定税率が廃止された場合、地方自治体の税収の減少幅は最も多い愛知県で330億円となるなど、地方財政に広く影響が及ぶことが26日、政府の試算で分かった。北海道が318億円で続き、100億円を超える減収は全体の4割に当たる19都道府県に上る。合計では5千億円を超え、インフラ維持などに向け新たな財源を確保する必要性が浮き彫りとなった。ドライバーは減税の恩恵を受ける一方、自治体にとっては景気の動向に影響を受けにくい安定的な税収が減ることになる。都道府県によってばらつきがあるものの、減収幅は地方税収の数%に相当するケースが多い。地方部の方が負担割合は大きくなる傾向がある。2023年度の決算を分析した。国税であるガソリン税の地方に譲与する分や地方税の軽油引取税の暫定税率に相当する金額を機械的に算出した。ほかに減収幅が大きいのは、埼玉県が287億円、大阪府が263億円、神奈川県は222億円と続く。軽油引取税の比重が大きく、トラックなどに使われる軽油の販売が盛んな都道府県ほど上位に来る。物流拠点や保有台数の多さが影響する。政府、与党は暫定税率を廃止する方向で決まっているとしつつも、地方財政への影響の大きさなどを理由に実施には時間が必要との立場だ。補助金よりも暫定税率の廃止の方が値下げ効果が大きいとして、野党は早期実現を要求している。主張は平行線で、これまでに具体的な代替財源をどうするかについては議論は深まっていない。政府、与党は年末にかけての税制改正の議論の中で、恒久的な代替財源を検討する構えだ。それまでの間、5月22日からガソリン価格を1リットル当たり10円引き下げる補助制度を実施する。ガソリン税の暫定税率 ガソリン税は本来1リットル当たり28円70銭だが「当分の間」の措置として25円10銭が上乗せされている。1974年に道路整備の財源に充てるために始まり、その後も財政事情の厳しさなどを背景に維持されている。上乗せ分のうち80銭は地方に譲与される。軽油にも同様の地方税「軽油引取税」があり、暫定税率は17円10銭となっている。

*5-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250511&ng=DGKKZO88584130Q5A510C2EA1000 (日経新聞社説 2025.5.11) 参院選対策の消費減税公約は無責任だ
 自民・公明両党の幹事長らが夏の参院選までに新たな経済対策を示すことで合意した。事実上の選挙公約となる公算が大きい。すでに主な野党が消費税の減税策を競うなか、見過ごせないのは政権を担う公明党や参院自民党にまで減税論が広がっていることだ。政策効果や財源の議論抜きに選挙目当てのバラマキに走るようでは「責任政党」とはいえない。公明党は食料品を中心とする物価高対策としての減税を訴える。減税実現までのつなぎ策として現金の給付も唱えている。自民党では党執行部こそ減税に慎重なものの、参院議員の8割が消費税減税を望んでいる。近く党税制調査会の勉強会を開き、税率を下げる場合の課題を整理する。野党第1党の立憲民主党では13年前に消費増税を主導した野田佳彦代表が食料品の税率を1年間ゼロにする方針に転じた。延長も1回できるという案だ。党内の減税派に押し切られ、政策の一貫性も損なった。日本維新の会、国民民主党も減税をめざしている。そもそも減税が必要な局面なのか。3月の全国消費者物価指数によると、確かにコメは1年前の2倍近くと高い。食料全体としてならしても7.4%上がっている。所得が低く、収入の多くを食費に回す人ほど消費税の負担が重く感じられる面はあろう。だからといって消費税を下げればいいというのは短絡的だ。食品に掛かる8%の軽減税率をゼロにすれば約5兆円の財源が必要になる。石破茂首相が「高所得の方も含めて負担が軽減される。低所得の方が物価高で一番苦しんでいるのにどうなのか」と認める通り、再分配策としての効率も悪い。備蓄米の出し方の改善や加工用米の転用など、コメ価格の抑制に打てる手ももっとあるはずだ。「トランプ関税」は物価高対策の口実にならない。需要が弱まるならば物価は下がる方向に働くからだ。日銀が1日に公表した展望リポートによると、生鮮食品を除く消費者物価指数の上昇率は2026年度が1.7%上昇で目標の2%を下回る。エネルギー価格の高騰も一服し、減税をしなくても物価は落ち着く兆しがある。消費税は医療・年金・介護・子育て支援など社会保障や地方の財源となる基幹税で、下げたら容易に戻せない。次の選挙のために次の世代にツケを回さないか。政治家も有権者も問われている。

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