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2022.6.6~14 教育・文化と経済の関係 (2022年6月16、18、20、22、23、24、25日に追加あり)
 
2021.12.25西日本新聞     財務省     2021.12.21西日本新聞 2021.12.11  
                                    毎日新聞
(図の説明:2022年3月22日、1番左の図の2022年度一般会計予算107.6兆円が成立したが、左から2番目の図のように、1975年(昭和50年)以降、一般会計歳出は一般会計税収を上回り続け、その収支差額を国債で賄ってきたため、特例公債を含む公債発行高が著しく増えた。もちろん、税外収入で収支差額を賄ったり、公債を返済したりすることも可能ではあるが、日本はその割合が著しく小さい。また、2022年度税制改正の主な項目は、右から2番目の図のとおりで、このうち化石燃料に補助しながら炭素税を保留するのは時代に逆行している。そのため、エコカー減税見直し時は、EVや水素燃料に特化した補助にして機種変更を促すべきである。2022年度の税制改正では、1番右の図のように、賃上げや教育訓練を行う企業に法人税から控除する形で税制優遇することにもなっているが、そもそも賃上げや教育訓練は、企業の生産性や付加価値を向上させるために行うものなので、国が割合を決めて税制優遇するのは邪道のように思う)

(1)日本の国家予算 ← 政府は、本当に国民の生命や財産を守っているか?
1)国の債務残高について
 財務省は、*1-1-1のように、2022年5月10日、新型コロナ感染症対策の財源確保のため国債発行を増やしたことが響いて、国の長期債務残高は2022年3月末時点で1,017兆1,072億円、国債と国の短期借入金を合計した借金全体は1,241兆3,074億円(0歳児まで含み国民1人あたり991万円)になり、2021年3月末からは24兆8,441億円増え、6年連続過去最多を更新したと発表した。

 これらの借金は、政府に才覚があれば、中東やロシアのように国有財産である資源から得られる税外収入で返済することも可能であるため、税収で返済しなければならないとは限らない。しかし、「賢い支出」を行って成長力を上げ、経済を活性化させて、将来の税外収入や税収を増やすことはあっても、その場限りの景気対策や物価高騰対策でバラマキとなる歳出を行って債務だけが膨らむ事態は避けなければならないのである。

 しかし、現在は、日銀が金融緩和策を採用して国債利回りを低く抑え、政府債務が増えても国債の利払いが増えないようにしているのであり、それは、本来ならば預金者が受け取るべき利息を、借入者に強制移転している状態なのである。さらに、金融緩和で見かけ上の景気は維持しつつ、国内の産業に成長力や競争力をつけなかったのは、過去の蓄積を食いつぶしながら無駄遣いしている状態なのだ。

 従って、日本政府の政策の方が異常であるため、このままでは外国との金利差はさらに広がって円安が進み、物価高で国民の実質可処分所得が減ると同時に、その場の思いつきにすぎない物価高騰対策でバラマキと借金がさらに増えるという悪循環になっている。

2)円安の原因
 *1-1-2は、20年ぶりの水準まで円安が進行している原因は、①コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻等の外的要因による原油価格高騰による経常収支の悪化 ②各国が大幅な金融緩和から出口戦略を探る中で日銀だけが金融緩和を堅持したことによる金利差 ③黒田総裁の金融緩和維持の明言したこと と説明している。

 しかし、①については、日本には資源のない化石燃料にいつまでも頼るという意思決定をした政府に問題があるため、外的要因のせいにするのは責任逃れだ。また、②は、他国が行っているインフレ防止政策が国民の生命・財産を守る基本であり、国の借金・賃金・年金の実質額をインフレで棒引きにしようとする日本政府のやり方が間違っているのであるため、「悪事を露見させずに長期間続けることはできない」ということの証明である。そして、③は、金融緩和で景気を下支えしている間に、本当に成長力のある産業を育てて初めて意味のある政策だったが、無駄遣いのバラマキばかりしていたため、この政策は裏目にしか出なかったということだ。

 また、新型コロナ感染症が流行しても、必要十分な政策を行ってワクチン・治療薬・医療用器具・マスク等を輸出した国もあり、支出だけがかさむことはない。しかし、日本はワクチンからマスクまで輸出どころか輸入しかできなかったため、コロナ禍とさえ言えば免責されると考えるのは甘く、何が必要十分な対応で、政策の何が間違っていたのかを、正確に列挙して反省しなければ、今後の改善も望めないのだ。

 なお、内製率の高い物ほど相対的に安くなって競争力が増したのはよいが、麺やパンの原料を味も特性も異なる小麦粉から米粉に切り替えることを消費者に強制するよりも、余っている米ではなく足りない小麦を生産するようにしたらどうか。何故なら、日本農政の最大の失敗原因は、「需要のあるものを作る」ではなく、「作ったものを食べろ。さもなくば国民が認識不足だ」というスタンスでやってきたことだからである。

 さらに、*1-1-2は、④過去30年間、家計金融資産は大幅に伸びたが、家計消費はほとんど変わらず、金融資産実質量の変動は消費に影響しない ⑤実質資産量の消費への悪影響は小さくても貧困層への影響は大きいので再分配政策が必要 とも記載している。

 しかし、④は、人口の高齢化による老後の備えが家計金融資産の伸びという形で現れているのであり、将来の必要に備えて準備している資産であるため、家計金融資産が伸びたからといって現在の家計消費の伸びには繋がらない。それどころか、将来必要な家計金融資産も物価上昇等によって増加したため、いつまでも目標を達成できなくなっているのであり、人口動態の変化と将来の消費を考慮せずに足元の消費のみを見つめている点で、④は誤りである。

 さらに、⑤の実質金融資産・実質賃金・実質年金額の減少による貧困層への影響は確かに大きいが、意図的なバラマキ方をすると、不必要な人に配布したり、必要な人に届かなかったりなど、不十分や不公正が頻発する。そのため、私は、消費税の食品に対する軽減税率を0%にすることを容認し、対応できない店舗は今のままでよく、できる店舗からやればよいと考える。

3)円安の経済への影響
 毎日新聞は、*1-1-3のように、①野党は大規模金融緩和に伴う円安が物価高に拍車をかけたと追及し ②立憲民主党の泉健太代表は、衆院予算委で物価抑制のため金利を引き上げるべきだと提案したが ③首相は一般論と断りつつ「円安は生活者には物価の引き上げで大きなマイナスになる」との認識を示したものの、予算措置などで物価高に対応するとして金融緩和の見直しには同調しなかった と記載している。

 このうち①は正しいが、上記1)2)に記載したように、日本政府が2%のインフレ目標を設定して金融緩和をしている目的は、政府の実質債務を目減りさせると同時に、実質年金・実質賃金を下げることである。従って、政府債務が大きい状況が変わらない中、②のように、金利を引き上げると国債の支払利息が跳ね上がって財政破綻するのだ。つまり、やっと見えたと思うが、これまでの無駄遣いや政策ミスのツケを物価上昇による実質年金・実質賃金の引き下げという形で国民に支払わせているのであり、③のような目先の予算措置をすると、さらなる無駄遣いが国民間の不公正を増幅するのだ。そして、ここが、日本政府と他国の政府の違いなのである。

 日本と他国の違いは、④円安は「アベノミクス」のキモで ⑤安易に見直せば自民党内に強い影響力を持つ安倍元首相との関係にひびが入りかねず ⑥首相は「物価の安定」と「党内の安定」のどちらを優先させるかという難題に直面している などと、原因を岸田首相と安倍元首相間の人間関係や自民党内の安定に起因させる説明にもある。

 実際には、「実質年金・実質賃金を引き下げつつ、政府の実質債務を目減りさせよう」というとんでもないアイデアは、安倍元首相が思いついたわけではない。それは、私自身は、内容と結末が見えていたため反対し続けたのだが、このアイデアは1990年代からあった。

 つまり、無駄遣いを温存しながら、消費税を引き上げ、再度バブルを起こして景気を回復させようとしたのは省庁・メディアはじめ多くの国民だった。自民党や首相も、政権を維持し続けるには省庁や国民の声を無視できないため、トップである首相のみに責任を負わせるのは日本独特のやり方だ。そして、そのやり方では、首相が後退しても政策は変わらず、イノベーションも進まないのである。

4)予備費と補正予算
 *1-2-1は、①政府が総額2.7兆円の小ぶりの補正予算案を提出 ②そのうち1.5兆円を物価高対策で使った予備費の埋め戻しにあて ③これまで「コロナ対策」としていた使途を物価高対策にも拡大し ④憲法は政府の支出に国会の事前議決を義務づけ、例外的に「予見しがたい予算の不足に充てるため」予備費の計上を認めているのであり ⑤国会は1月から開会しているので、必要な支出なら国会で補正予算を審議するのが憲法の要請で ⑥財政法が禁じた筈の赤字国債も特例法による発行が常態化し、財政規律の軽視は目に余る と記載している。

 このうち、①については、必要最小限でよいため、小ぶりであることを批判する必要はない。しかし、②③のように、物価高対策や不必要なコロナ対策に充てるために予備費や補正予算を組むのは、足元しか見ない無駄遣いであり、将来の生産性向上に寄与しない支出である。そのため、使い方を批判するのではなく、手続きのみを批判している点で、この記述は不足だ。

 なお、④のとおり、日本国憲法は第7章が「財政」の章を設けて、「第86条:内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」「第83条:国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて行使しなければならない」として、財政民主主義の基本原則を規定しているが、予見しがたい予算の不足に充てるための予備費の計上も認めているため、政府のやり方は憲法違反にはならない。

 しかし、「第84条:新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」「第85条:国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする」としているため、金融緩和して物価を上昇させることにより、国民が気づかぬうちに政府の実質債務を目減りさせ、実質年金・実質賃金を引き下げて国民負担を上げようとするのは、まさに日本国憲法違反である。

 また、⑤については、国会が1月から開会中であるため、できれば本予算を修正し、成立のタイミングから考えてできないようなら、補正予算を作って国会審議するのが憲法の要請である。さらに、⑥財政法が禁じたはずの赤字国債も発行が常態化しているのは、赤字国債自体がよくないのではなく、無駄遣いばかりしている使い方に問題があるのだ。

 なお、「第90条:国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」とも規定しているが、会計検査院も些末な指摘ばかりで本質をついた指摘はしていない。その理由は、会計検査院は、政府の下部機関であるため、内部監査程度の役割しか果たせず、国民の視点を代弁していないからである。

 そして、何が無駄遣いで、何が必要な支出かを、全体を見ながら議論できるためには、国の収入支出の決算だけでなく資産負債の財務情報も公開されていなければならない。そして、それを定めた公会計制度を導入していないのは、アフリカの数カ国を除けば日本だけであるため、早急に国際基準に沿った公会計制度を導入し、定期的に交代する独立性の高い公認会計士の外部監査を導入する必要があるのだ。従って、改憲するならここである。

 また、*1-2-2は、⑦物価高対策を盛り込んだ2022年度補正予算が5月31日の参院本会議で自民・公明・国民民主の賛成多数で可決・成立し ⑧一般会計総額は2兆7,000億円規模、財源は赤字国債 ⑨ガソリン・灯油への補助金給付を延長・拡大する6~9月分の経費に1兆1,739億円使い ⑩岸田首相は「財源確保には官・民の協働で大きな成長のエンジンを作る」「財政出動・規制緩和・税制改正によって民間資金の活用を促す」と説明した ⑪斉藤国交相は、旅行業界向け指針に明記しツアー参加者に同意を得る形で、受入再開する外国人観光客にマスク着用を求める方針 と記載している。 

 ⑦⑧⑨⑪のように、無駄遣いは指摘されず、補正予算が賛成多数で可決・成立するのは、全体の財政構造や結末は見えずに、「無駄使いでもよいから、今、ばら撒いてもらいたい」と考える国民が多く、それが票に結び付くからである。従って、国民に、日本の財政構造の全体を知らせずに無駄遣いを支える赤字国債発行をやめさせることはできないのだ。

 なお、⑩の「財源確保には官・民の協働で大きな成長のエンジンを作る」というのはずっと言われてきたが、イノベーションが進まないためできなかったのである。そのため、ここで、本物のイノベーションを進めるイニシアチブをとれるか否かは重要なのだが、人間関係を第一に考えれば、多数の抵抗勢力の意見も重視しなければならないため、イノベーションが進まないのである。ただ、再エネの利用に目途がたち、民間資金が入っても儲かる時代になっているため、「民間資金の活用を促す」というのは期待が持てそうではある。

5)無計画な上に気前の良い軍事費増強
 このように、赤字国債の発行を常態化させ、政府が2%のインフレ目標を設定して金融緩和をして政府の実質債務を目減りさせつつ、国民の実質年金や実質賃金は下げ、医療や介護保険料の給付を減らして負担を増やしながら、*1-3-1のように、防衛費は“現実的対応”としてGDPの2%まで増額するそうだ。

 しかし、日本国憲法は第9条で「1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」「2項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と規定しており、「敵基地攻撃能力」「長射程ミサイル導入」が憲法の専守防衛を空文化しつつあるという見方は的を得ている。

 さらに、敵も一つの基地からミサイルを発射するだけではなく、潜水艦から、移動しながら、複数の基地からなど、ミサイルの種類や発射の仕方に工夫を凝らしているため、憲法違反をしながら、効果が薄い。その上、「敵基地攻撃」という呼び方を、「我が国への武力攻撃に対する反撃能力」と言い換えても、「相手側に明確に攻撃の意図があり、既に着手している状況」だということを、どう証明するかについても説明が必要だ。

 確かに、中国の軍拡を踏まえれば外交と防衛を織り交ぜた抑止力の強化は必要だろうが、日本は、外交上は「台湾を含めて1つの中国」としており、尖閣諸島についても領海に中国船が入っても「力による一方的な現状変更は、いかなる地域でも許してはならない」「厳重な抗議をした」と言うだけであり、尖閣諸島が日本に所属するのか、中国に所属するのかという最も肝心な点について曖昧な態度をとっている。そのため、尖閣諸島の領海に中国船が入っても、武力行使どころか苦情も言えないのである。

6)一方、人への投資には新しい財源が必要なのか?
 日本国憲法は、第26条で、「1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」「2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」と規定している。

 そして、第1項は、「能力に応じて、ひとしく」という文言で「教育の機会均等」の理念を示し、第2項は、「義務」とは「国民=保護者」が「保護する子女に普通教育を受けさせる義務である」と定め、さらに義務教育は無償としているのだ。

 そして、この「教育を受ける権利」は、第25条の「生存権(すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する)」を全うし、第27条の「勤労の権利義務」や第30条の「納税の義務」を果たす基礎となるものだ。
 
 このような中、*1-3-2は、①政府が公表する「骨太の方針」の原案は出産育児一時金の増額・ヤングケアラー支援等の子ども政策を進める安定財源について社会全体での費用負担のあり方を含め幅広く検討する方針を盛り込み ②消費税分以外も含めて適切に財源を確保し ③財政健全化の『旗』は下ろさず、これまでの目標に取り組み ④PB目標を維持するか否かは自民党内の積極財政派と財政再建派の間で意見が割れているが ⑤経済あっての財政なので、現行の目標年度によってマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならないとする文言も入れる と記載している。

 しかし、教育については、1947年5月3日施行の日本国憲法26条で「教育の機会均等」と「義務教育の無償」が既に定められており、この時点で消費税は存在しなかったため、教育にかかる費用が他の税で賄われる前提だったことは明らかだ。そのため、教育と言えば、②のように、「消費税分も含めて別の財源を確保しなければならない」と言うこと自体、消費税増税と引き換えにする意図があり、1947年5月3日の憲法施行時よりも大きく後退している。そのため、まず憲法を守るようにすべきだ。

 また、①の中の出産育児一時金は、出産費用を医療保険と介護保険でカバーできるようにすれば問題なく解決でき、出産したことに対する報奨金は不要である。また、①の中のヤングケアラーも、介護保険制度の範囲を広げれば問題がなくなるのであり、介護保険制度の適用を特定の疾病に限らず全世代に広げることで簡単に解決できる。そして、これらは、憲法第25条の「生存権」と第26条の「教育を受ける権利」にあたるのだ。

 なお、③については、これまで述べてきたとおり無駄遣いを廃せばよいのであり、それなら④の積極財政派と財政再建派の間で意見が割れることはないだろう。また、無駄遣いを廃してイノベーションを進めることによって、経済はむしろ活性化するため、国民が憲法第27条の「勤労の権利義務」や第30条の「納税の義務」を果たす結果、財政も生き返る。つまり、補助金で意図的に歪められ生産性が落ちていたマクロ経済を、正しい目的を掲げてまっすぐなものにすれば、生産性と所得が上がるのである。

(2)労働力としての人材
1)日産・三菱が今ごろ大逆襲とは、先見の明がなさすぎる
 2022年5月20日、*2-1-1のように、「2022年を改めてEV元年と受け止める」と日産が三菱自動車と共同開発した新型軽EV「サクラ」の発表会で、日本・アメリカ等の市場で2010年に世界初のEV市場投入を行った日産の副社長が述べたのは残念なことである。

 新型軽EVの販売価格は、電動車の国の補助金(55万円)と自治体の補助金(東京都で45万円)を使えば133万円とガソリン車の軽とほぼ同じ値段になるそうだが、世界初のEVを市場投入した会社であれば、既にEVがガソリン車より安くなっていても当然である。また、日本の軽自動車市場の大きさやその使い方を見れば、軽EV「宏光MINI EV」が中国で大ヒットして日本に入ってくる前に思いついていても全く不思議ではない。

 つまり、日産が世界の政府に陳情すべきだったのは、「地球危機をふまえて、移動手段の電動化と再エネ発電による地域電力を利用したエネルギー自給率の向上を目指し、環境政策からもガソリン車からEVに転換するためEVへの補助金や充電設備を充実して欲しい」ということであって、「(EVを世界で初めて市場投入し世界で広めた)ゴーン会長を、有価証券報告書虚偽記載の罪で逮捕して欲しい」と日本政府に陳情することではなかった筈である。

 なお、国際会計基準をまとめるIFRS財団の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、年内に地球温暖化ガス排出量などの非財務情報の統一開示ルールを策定し、その素案では温室効果ガスだけでなくNOx等の排出削減も評価の対象になっているため、資本市場も排気ガス0のEVや燃料電池車に有利に働き始めた。

2)政策によって人為的に作られたエネルギー危機
 *2-1-2は、①次の冬の寒さが厳しければ、日本は約110万世帯分の電力が全国で不足する ②老朽火力発電所の休廃止が続き ③原発は安全審査を通過したものは17基あるが、地元同意が得られない・定期検査中・テロ対策工事中などで、動いているものは4基のみ ④東日本大震災以来の節電頼みは限界に達している ⑤将来を見据えればガソリン補助金に1.8兆円つぎ込むより不足する200万kw分の蓄電池を1千~数千億円で作る手もある ⑥大手電力10社ごとに送電網を管理してきたため地域をまたぐ送電線が細く送電網の投資を進めるているが、まだ十分でない と記載している。

 このうち①③については、電力不足や停電をだしにして原発を稼働させようとするのは、政府や経産省の無能力を批判されるだけであるため、もうやめた方がよい。②の老朽火力発電所の休廃止も当然で、④は節電機器や創電設備の導入でまだ可能性は高いものの、⑤のガソリン補助金1.8兆円は時代に逆行している。そのため、私も蓄電池を備えたり、鉄道の敷地を利用して次世代送電網を備えたりした方が賢いと考える。

 しかし、根本的には、エネルギーや食料を自給できない都市に人口を集中させすぎた国土政策にも問題がある。そのため、人口を分散させて地震等による被害を抑えながら、生産活動を行い易いようにする街づくりや産業政策のために公共工事をするのは、無駄遣いではないだろう。

 なお、東日本大震災による原発事故後11年経っても適切な判断ができず、上から下まで同じことを言っているのは、日本の教育の問題だ。その点、ドイツのメルケル元首相は、さすがに優秀だったと思う。

3)ITについて
 *2-2は、企業のDXが加速する中、①ITの人材不足が強まっており ②求人倍率は約10倍に急上昇して全職種で突出して高いが ③日本企業の年功序列型賃金がIT職種の賃金を相対的に低くして人材を集めにくくし ④旭化成は「従来の中途採用の条件では難しい」と言い ⑤ノジマも「事業経験とIT知識を兼ね備えた人材が見つからない」と言い ⑥日本はジョブ型雇用でないため、職種毎の人材の需給が賃金に反映されにくく ⑦ITスキルがあっても十分に評価されないため人材が流入しにくい と記載している。

 しかし、企業は⑤のように、「事業経験とIT知識を兼ね備えた人材」などという自社にはいない高度な人材を求めながら、③④⑥⑦のように、新卒よりも悪い従来の中途採用の条件を適用しようと考えているため、わざわざITスキルを身に着ける動機が生まれず、①②のように、人材不足になるのである。

 それに加えて、ITは技術進歩が速く、磨き続けなければすぐに古びてしまうため、短命でもペイするような賃金体系が必要で、長く同じ仕事をして経験を積むほどスキルが上がる年功序列に適した職種とは異なるわけである。

 ただし、基礎知識としてのITは、既に誰でも持っていなければ通用しない時代になっているため、義務教育の過程で親しむことができるようにすることも重要だ。

4)若手の学力不足


        Intweb           Benesse      2020.4.25毎日新聞
(図の説明:左図は、学力を5段階評価と10段階評価した場合の正規分布で、3σ以内に99.7%の子どもが入る。また、中央の図は、平成20年度の全国学力・学習状況調査の結果をそのまま記載したものだが、問題の難易度や受験する集団の性格によって異なって、いつも左右対称の正規分布になるわけではない。そして、右図は、県別の公立小中高校における教育用PC1台当たりの児童・生徒数で、《現在はもっと普及していると思うが》地域の意識によって教育環境が全く異なることを示している)

 *2-3は、職場では、①若手の学力不足を懸念する現場の声をきっかけに、9割は有名大大学院修士課程修了者の技術系新入社員に、クボタが機械設計の基礎である材料力学、疲労強度、材料・熱処理の3分野で学び直し教育を実施し ②2016年7月に入社10年以内の技術系社員360人にテストをすると、降伏点・引っ張り強さ・ヤング率等の基礎的用語の理解や計算問題の正答率がわずか22%という衝撃的な結果で ③人事担当者は「上の世代ならできて当然」と漏らした と記載されている。

 また、学校では、④事実上全入状態の大学では、AO入試・推薦入試・受験科目縮減等の入試の軽量化が進み、進学実績を上げたい高校がこれに迎合し ⑤高校レベルの学力がない学生が大学で増えて補習授業が常態化し ⑥教育困難校といわれる高校では小学校の学習から学び直す「マルチベーシック」で生徒を支援し ⑦高校生の7割・中学生の5割・小学生の3割が授業についていけない(七五三)の状況が生まれ ⑧行き過ぎた履修主義の浸透が小学校から大学まで卒業に甘い文化を生み ⑨一見、子どもに優しいようだが、必要な能力が身につかないまま社会に放り出すむごい側面を持つ とも記載している。

 このうち①②については、大学の入試科目が限定されており、小学校から高校までの学力がしっかりついていなくてもパスできる有名大学は多く、修士課程になるとさらに狭い領域に専門化するため、広い範囲の基礎学力を得る機会がなかったのだと思われる。

 また、③については、上の世代(60代以上)は子供の数が多く、大学全入でもゆとり教育でもなかったため、かなり勉強しなければ大学に受からない厳しさがあって、その結果、大卒者はだいたい高校までの学力は持っていたのだと言える。

 なお、④のように、事実上全入状態の大学では、入試自体が簡易化し、進学実績を上げたい高校がこれに迎合し、⑤のように、高校レベルの学力がない大学生が増えて高校までの補習授業が常態化している状況もあるそうだ。

 さらに、⑥のように、教育困難校といわれる高校では、小学校からの学び直しで生徒を支援せざるを得ず、⑦のように、高校生の7割・中学生の5割・小学生の3割が授業についていけない状況が生まれ、⑧⑨のように、履修主義で卒業に甘くするのではなく、留年させても必要な能力を身につけさせる方が社会に出すにあたってむしろ優しいのだという意見もある。

 私は、学力分布は正規分布で、3σ以上左に位置する人も右に位置する人もいるため、平均を右に動かすためには、義務教育を3~18歳の15年間とし、前般を初等学校(3~12歳)の9年間、後半を中等学校(12~18歳)の6年間として、教える内容と教師の質を充実させた上で、初等学校から中等学校に進む時に一回目の入試を行い、中等学校は生徒のレベルを一定の範囲内に収めるのがよいと思う。

 そして、3σ以上左に位置する生徒は(場合によっては)留年させ、3σ以上右に位置する生徒は飛び級も可能にした方が、生徒に教育課程で必要十分な教育を行うことができてよいと思う。こうすると、義務教育は、原則として、初等学校(3~12歳)9年間と中等学校(12~18歳)6年間の計15年間となり、日本国憲法により、この15年間は誰でも無償で教育を受けられる。

 そして、中等学校から大学に進む時に二回目の入試を行い、それぞれの大学・学部で学生の興味やレベルを一定の範囲内に収めながら、一回目の進路決定を行うのがよいと考える。

5)公立中学校の運動部活動について
 私はこの記事しか読んでいないが、公立中学校の運動部活動のあり方を検討していたスポーツ庁の有識者会議が、*2-4-1のように、2023年度から部活を民間人材等に委ねる「地域移行」を進める提言をしたのはよいことだろう。

 何故なら、教員の長時間労働の原因になっていることが前から言われていたのに改善されることもなく同じ状況が続き、部活などの運動を専攻したことのない教員が指導することによって、生徒が多くの時間を費やした割にはそれほど上達しないという環境が続いているからだ。

 そのため、学校外の民間人材に指導させる時には、日本では既に多くなっているその分野の専門家に指導を頼み、スポーツ選手のOBなどに指導員という職場を与えると同時に、教わる生徒が有意義な時間を過ごせるよう努めた方がよいと思う。

 なお、少子化で学校規模が縮小したことについては、一学年や一学級の人数が少なすぎると、学校で互いに影響しあったり、勉強や運動を通して競争したりすることができないため、全寮制やスクールバスを導入して、離島・山間部の子供たちでも親が心配せずに一定規模以上の公立学校に通える仕組みを作った方がよいと思う。

 特に、経済的に裕福でない家庭の子どもは、下宿して私立に通うことなどできないため、公立学校の施設が充実していなければ、実質的に教育の機会均等が守られないのである。

 このような中、*2-4-2のように、「行き過ぎた勝利至上主義」に対する懸念から、全柔連が毎夏開催してきた全国小学生学年別柔道大会を廃止すると発表したのには、私は疑問を感じた。何故なら、スポーツは勝利することを目的をとして行う人も多く、それを勝利至上主義と言って禁止してしまえば闘う動機づけがなくなるからである。勝利することを目的としない人は、サークル活動をすればよく、必要なのは選択肢の多さであろう。

 また、教育の視点から見ても、社会に出れば競争は多いのであり、体力・知力などの総合力を駆使して競争に勝たなければ負けるのであって、学校教育はその体力・知力などの総合力を作るための訓練の場としても重要で、これを疎かにすれば社会に出てから苦労するという本当の惨さに出会うのである。

 なお、体罰や鉄剤注射などの不適切な行為は、それ自体をルールによって禁止すればよく、そんなことをしなくても勝てる体力・知力は、(根性を叩き込むだけの素人ではなく)スポーツ選手OBのように本物の技術を知っている人によってのみ伝授できるものだと思われる。

(3)人材を育てるべき教育
1)多額の塾代・私立中高一貫校・難関大合格のコースについて
 *3-2-1は、①開成中入試のために小1からの塾通いに月10万円かけ、「東大に受かるためなら高くない」と考える母親もいる ②多額の塾代をかけないと難関大合格はおぼつかず ③塾代が小4からの3年間で500万円を超すこともあり ④学校が格差構造を再生産し ⑤東大合格者は私立中高一貫校の卒業生が多数を占め、学生の54%は年収950万円超の家庭出身で ⑥年収が高いほど学費の安い国公立大を志望する割合が高く ⑦似た環境で育った“エリート”だけでは複雑化する社会のかじ取りは難しく ⑧年収の少ない世帯は教育機会も狭められるようでは分断が広がり ⑨弱者の側で物事を考えられる人材を育てなければならないので、学校が平等な機会提供と有為な人材の育成を果たせるか問われている と記載している。

 このうち、①②③⑤⑥の月10万円の塾代と男女別学の私立中高一貫校から東大への進学について、私自身は、費用が高すぎるし、進学校が男女別学ばかりで選択肢に乏しく、それに加えて母親として変な批判を受けるのではたまったものではないので、「子どもを作らず、DINKSとして働き続けて、自分自身の自己実現に勤しんだのは、本当に正解だった」とつくづく思う。

 しかし、⑦の似た環境(i.東京などの都市育ち ii.比較的裕福な家庭育ち iii.同レベル以上の家庭の子しか友達がいない etc.)で育った“エリート”だけで社会のかじ取りをすると、フクイチ事故で井戸を掘ったら地下水を止められると考えたり、原発を農林漁業地帯に置いておけば安全と考えたり、高齢者には年金減額・社会保障負担増を行わなければ世代間公平が保てないと考えたりなど、自然の凄さともろさ・生態系・食糧生産システム・人々の暮らしに関する実感のない人ばかりが、中央省庁や政治を占めることになるのである。

 そのため、⑧のように、年収の少ない世帯の教育機会が狭められるのではなく、⑨のように、弱者側で物事を考えられる人材も育てて、公立学校が教育の機会均等と有為な人材の育成を果たすのは、本当に重要なことである。しかし、④の学校が格差構造を再生産しているというのは、これらのことができていないことによって生じる結果にすぎないだろう。

 また、*3-2-2は、⑩学力に影響を及ぼす最大の要因は学習時間や指導方法ではなく、親の所得や学歴等の水準(=家庭のSES、社会経済的地位)で ⑪勉強時間の長短だけでSESによる差を覆すのは困難であり ⑫勉強の仕方もあるが、幼少期からの幅広い体験の差が影響しており ⑬難関校に一部の限定的な階層の子が集まるだけでは子どもが異質なものに触れ合う機会がなく ⑭学校に色々な人が集まって多様な価値観に揉まれた方が人間形成によく ⑮困窮家庭への経済的援助や塾に通えない子どもへの学校での補習などの格差是正に向けた支援も強化すべきである 等を記載している。

 遺伝による親の能力の継承を口にするのはこれまでタブーだったが、⑩⑪⑫は、親の能力とその親が作り出す家庭環境が、幼少期からの子への影響を通して子の体験を作り、その体験の差が学力に影響を及ぼしているのだと言える。ただし、子に重要な影響を及ぼす要因の一つは環境であるため、親が作れなくても、祖父母・おじ・おばなどの親族や、⑮のように保育園・学校などの公的機関が作れるものも多い。

 なお、⑬⑭の多様な価値観や生活程度の人にもまれた方が人間形成によいというのも本当で、公立学校で多様な価値観・生活程度の人、異性などと同じ教室で学べば、自分の何が他の人と同じで何が違うかを知る良い機会となる。そして、その多様性には、異なる文化を持つ外国人や外国からの移住者も含むのだ。

2)日本における博士号取得者割合の減少

 
 2022.5.2日経新聞            2021.2.24日経新聞   

(図の説明:左図のように、日本は人口100万人あたりの博士号取得者が少なく、2018年度の進学者数が2008年度以下になっている点が他の先進国と異なる。米国の場合は、中央と右の図のように、名門大では高所得家庭の子の割合が高く、高学歴になるほど賃金も高い傾向がある。日本も、これと似た傾向があるが、その理由は、高所得家庭ほど親の意識が高く、塾代や私立進学校に進学させる費用も出せるからだと言われている。そのため、学費の安い公立学校がしっかりしなければ、教育の機会均等は守れず、世代を超えた貧困の連鎖が起こるわけである)

 *3-1-1は、①日本の経済成長に必要な人材の資質が変わったのに改革を怠っているうちに世界との差が開き ②世界は博士が産業革新を牽引する時代に移って、日本は先進国の中で「低学歴国」となり ③注目度の高い科学論文数も1990年代前半まで世界第3位だったが、2018年に10位に落ち ④大学院軽視の背景には、過剰な学歴批判や学問より経験を重視する「反知性主義」があり ⑤文系の大学院も脱皮する必要がある 等と記載している。

 また、*3-1-2は、⑥平成の30年間に企業の競争力と大学の研究力が同時に落ちたのは、大量生産のものづくり社会が情報化・グローバル化社会に変わる段階で産学がともに出遅れ ⑦これからは知識集約型でイノベーションと価値創造が行方を左右するため大学院を強化する必要があり ⑧大学院教育では専門的知識と幅広い横断的知識を併せ持つT字型の人材を育ててほしいが ⑨大学院は企業が望む先端性が乏しいので、企業と大学の間で教育内容を詰めていく必要があり ⑩大量生産時代は自社に親和的な人材を社内教育で育てるのが日本の強みで、企業は修士・博士をあまり採らず給与も学部卒と明確な差をつけなかった と記載している。

 このうち②④の学歴批判・反知性主義は、大学院軽視だけでなく教育軽視にも繋がり、初等・中等教育で「学力テストの結果を公表してはいけない」「勝敗を明確にしてはいけない」などと言われる状態を作って低知識化・低学力化を促した。そして、長い期間に日本経済にもボディーブローを効かせて、基礎学力が乏しいまま大学院を卒業した学生もいるため、大学院を卒業したからといって、⑧のような専門性と幅広さのある知識を持っているとは限らないのである。

 また、①⑥⑦のように、大量生産・ものづくりの社会が情報化・グローバル化社会に変わったから必要な人材の資質が変わって経済成長しなくなったのではなく、大量生産・ものづくり産業は現在でも必要だが、どんな産業も新技術を取り入れイノベーションを起こすことによって生産性を上げなければならないのに、それをやらずに雇用喪失を言いたてて進歩を妨害し、日本全体の生産性や適応力を低めたというのが現実である。

 なお、③については、産業の付加価値を高めるには、優秀な人を集めて出てきた新発見を素早く実用化することが必要であり、米国や中国はこの基本に忠実にやっているのだが、日本は、博士課程を修了した人の研究職としての報酬は学部卒のサラリーマン以下であり、雇用条件も不安定であるため、優秀な人の多くが博士課程に進まず、博士課程を修了しても研究職に残れないという全く逆のことをしてきたことが原因である。

 そして、⑤の「文系大学院も脱皮する必要がある」という点については、これまで政策決定をしてきた人の大部分が文系であり、自身が理系の勉強や研究の仕方を理解しておらず、学歴批判・反知性主義による低知識化・低学力化を促すような発言も多かったため、文系と呼ばれる学部も入試や学部教育の内容をまず見直すべきであろう。

 ⑨の「大学院は企業が望む先端性も乏しく、企業と大学の間で教育内容を詰めていく必要がある」については、具体的に例を挙げると、私の衆議院議員時代に産業のロボット化を進めるロボット議連ができ、東工大でロボット研究をしている最先端と言われる研究室に話を聞きに行った時、その研究室では遊びのようなロボットしか作っていなかった。しかし、産業界では、製造業のみならず農林水産業・医療・介護などでもロボットの需要が多いため、大学院・研究室と産業界が緊密な連携をとれば、市場の需要に合ったロボットを速やかに作って収益に結びつけることができ、双方にとってメリットが大きいのである。

 なお、⑩の「自社に親和的な人材を社内教育で育てたい」というのは大量生産時代特有のことではないが、それだけでは限界があるのは、現在の日本経済の状況が示しているとおりだ。

3)学校選びが自由になるのはよいことだ
 佐賀県は、*3-2-3のように、2023年度から県立中学・高校の普通科の通学区域をなくして「全県1区」にし、今後は住んでいる市町に制限されず希望に応じて主体的に学校を選択できるようにするそうだ。通学区域の廃止によって特定の高校に志望が偏る可能性もあるが、それなら1期、2期に分けて入試を行い、県立中学・高校の受験チャンスを生徒に2回与えればよい。

 普通科以外の専門学科や総合学科、太良高と厳木高の全県募集枠は従来から「全県1区」で受け入れており、県教委は学校独自の特色を引き出す「唯一無二」の学校づくりを2021年度から提唱して2022年度は県立高にコーディネーターを配置するなど取り組みを支援し、受験生が魅力を感じる学校を自由に選べるようにするとのことである。

 これだけまとまれば、部活を例にすれば、唐津西は体操、唐津東はボート、伊万里はヨット、武雄は弓道、佐賀北はサッカーの専門家など、(日本人でなくてもよいので)学校毎にオリンピック選手級のプロの指導員を雇って特色を出せば魅力的になると思う。

4)デジタル教科書の導入について
 私は、アナログ人間ではないが、*3-3のように、①OECDの国際学習到達度調査でデジタルよりも紙に親しむ生徒の方が読解力が高かった ②紙の方が記憶や読解の効果が高いとする研究も複数ある というのは理解できる。その理由は、紙の方が動画よりも、受け身の情報入手にならず、主体的な思考を行い易いからである。

 しかし、大陸移動説や生物の進化のように、時間を短縮して動画で示すと紙に描かれた図から頭で想像して理解しているよりわかりやすいことも多い。そのため、「教科書」と呼ぶか「教材」と呼ぶかは出版社や教師の工夫に任せるが、デジタルと紙の両方を教育に利用するのが合理的だと、私は思う。

 そのため、どちらを主体にするかと言えば紙の教科書だが、紙の教科書を効果的に補助するためにデジタル教材を活用するのがよいだろう。

(4)外国人の労働者・留学生・旅行者について
 これまでは、日本人の雇用を護るため、外国人には門戸を閉ざし、外国人労働者を差別したり冷遇したりしてきた傾向があるが、少子高齢化で“生産年齢人口”の割合が減っているのだから、全自動化によって生産性を上げつつも、外国人労働者も積極的に雇用して、日本国内の産業を活性化すべき時である。


                 2022.3.23GlobalSuponet  

(図の説明:左図は、2021年の在留資格別外国人労働者数で、約170万人いる。中央の図は、外国人労働者を雇用している産業別事業所割合で、右図は、それらの外国人労働者が従事している主な職種だ)

 
   2019.1.7Economist     2022.3.23GlobalSuponet  2022.6.9日経新聞

(図の説明:左図は、2018年までの国籍別在留外国人数の推移、中央の図は、2021年の国籍別在留外国人数で、アジア出身の人が多く、全体で約166万人になっている。しかし、右図のように、外国人労働者の雇用形態は非正規社員の割合が大きく、昇給幅も小さいため、今後は日本人とともに昇進・昇給が行われ、社会保険にも入れるよう正規社員への移行が求められる)

1)福祉人材について
 *4-1は、①医療・福祉分野でグローバルな人材獲得競争が激しさを増し ②若者の多い東南アジアが高齢化する先進国の人材供給地になり ③フィリピン出身の女性が母国の5~6倍の収入を見込める日本に介護に関する「特定技能」の在留資格を得て来た ④日本の滞在期間は最長5年だが、介護福祉士の国家試験(日本語)に合格すれば何度でも在留資格を更新でき、家族も呼び寄せられる ⑤フィリピンの人材が向かう先は日本だけではなく英国などもあり ⑥フィリピンは英語が公用語なので英国は言葉の壁が低く、同僚の多くはフィリピン・インド・アフリカの出身者で給料は5倍になって数年働けば国籍取得も可能 と記載している。

 このうち、①②③はそのとおりで、アジア人は日本の中にいても殆ど違和感のないのがメリットだろうが、④のように、「滞在期間が最長5年で、介護福祉士の国家試験に合格しなければ在留資格を更新できず、家族も呼び寄せられない」という限定があれば、⑤⑥のように、英語が通じて言葉の壁が低く、数年働けば国籍取得も可能な国と比較して労働条件が悪すぎる。

 また、*4-1は、⑦外国人労働者の純増が2019年に20万人超/年になり ⑧永住を前提とした移民は受け入れないと言いつつ、在留外国人の約3割に当たる80万人超が永住資格を持っており ⑨JICAは「日本の経済成長率目標を1.24%とすれば2040年には600万人台の外国人労働力が必要になる」とし ⑩日本が低成長なら外国人労働者数は現状で十分だが、労働力を確保できれば大きな経済成長が可能になり、選択するのは日本人自身だ とも記載している。

 日本人の労働人口は長期的には減少するが、女性や高齢者の労働参加率上昇によって、直近の労働人口は2023年までは増加を続けるそうだ。また、2019年7月1日現在の総人口は1億2626万5千人で、前年同月比で26万4千人減少したが、⑦の外国人労働者純増20万人超は、ちょうど人口減を補完しているようである。

 しかし、せっかく外国人労働者を受け入れるのなら、⑧のように、「永住を前提とした移民は受け入れない」などとは言わず、気持ちよく受け入れて永住権を与えた方が正規雇用にして日本社会の支え手にしやすく、外国人労働者にもメリットが大きい。さらに、高コスト構造によって国内生産では国際競争力がなくなった産業も、⑨⑩のように、外国人労働者を増やすことによって産業の国際競争力が上がれば、日本の経済成長率が高まるわけである。

2)技能実習生について
 *4-2は、①多くの外国人が劣悪な条件で働かされており ②勤務先を変更する自由のない技能実習生が特に厳しい状況下にあって ③安全基準違反・違法残業・賃金未払い・パワハラなどが相次ぎ ④監理団体も役割を果たさない例が報告され ⑤技能実習制度は、現実は安い労働力を確保する手段になっており、速やかに廃止すべきで ⑥2019年には転籍や一定条件下で家族の帯同を認める「特定技能制度」が導入されたが、受け入れ人数は2022年3月時点で約6万4千人と技能実習生の1/4に満たず ⑦新制度の下でも職場環境や処遇に関して同様の苦情が出ている としている。

 このうち、①②③は前から言われており、それを改善するために、⑥の特定技能制度が導入されたのだから、⑤のとおり、技能実習制度は速やかに廃して特定技能制度に移行するのがよい。何故なら、そうしなければ、日本国内で行われている外国人差別が多くの帰国者を通して世界に暴露され、日本の評判をさらに下げて、決してよいことにはならないからである。

 しかし、④のように、監理団体もその役割を果たしていなかったり、⑦のように、新制度の下でも職場環境や処遇に関して同様の苦情が出たりするのはどうしてか? 日本人は、年齢差別や女性差別を含め、その人が属する集団によって人の優劣を認識し、同一集団に属する人は同じと考えがちであるため、差別を是とする価値観になり易いのだろうか?

3)定住外国人でも「正社員」への壁


男女別年齢階級別非正規雇用者 実質GDP成長率と非正規雇用者割合 実質年収推移国際比較

(図の説明:左図は日本人の男女別・年齢階級別の非正規雇用者割合の推移を示したもので、近年はあらゆる世代で女性の非正規雇用割合が男性よりも高く、学業と両立するためのアルバイトが多い15~24歳を除けば、高齢になると非正規雇用割合が高くなり、これは雇用において生産年齢人口の男性が優遇されていることを示している。しかし、中央の図のように、非正規雇用割合が高いほど実質GDP成長率は低く、これは非正規雇用が低賃金である上に生活も不安定で実質可処分所得が低いからだと思われる。このように、非正規雇用の労働者を増やして冷遇した結果、日本だけ全体年収が横這いで、現在では韓国にも追い越されているわけである)

 *4-4は、①勤続5年以上でも外国人は非正社員が36%と国内全体の2倍を超え ②契約社員・嘱託等の非正社員は正社員より昇給しにくく生活も安定せず ③外国人労働者は約172万人で2021年調査でフルタイムの外国人労働者の47%が非正社員で ④勤続5~9年でも36%が非正社員で同じ勤続期間で日本人を含む全体の非正社員率は16% ⑤勤続10年以上の外国人正社員の1ヵ月換算給与53.9万円は勤続1~2年の2.2倍だが、非正社員は同じ比較で1.5倍に留まり ⑥来日前の学歴や職歴は評価されにくく、非正規採用の外国人を育てようという企業の意識も薄く ⑦このように、定住外国人すら活躍しづらい実態では、海外人材が日本を敬遠する要因になる と記載している。

 このうち①②③④⑤は、上の図で女性・高齢者の非正規雇用割合が高く、非正規労働者は昇進しないのと同じ理由だが、このように被雇用者を正規と非正規に分けて搾取される労働者を作るのは人権侵害である上に、非正規雇用は低賃金で生活も不安定であるため実質可処分所得が低くなり、その結果、非正規雇用の割合が高いほど実質GDP成長率も低くなっているのだ。

 そして、⑥のように、来日前の学歴や職歴を評価せず、外国人労働者を非正規採用にして社会保障の支え手にもせず、人材として育てようともしないのはもったいない限りだ。まして、日本の子どもが難しいことや競争を過度に回避するよう甘く育てられている現状では、外国人労働者の方が苦労を知っており、真剣に働こうともするため、優秀な場合が多いのである。

 にもかかわらず、⑦のように、定住外国人ですら活躍しにくい状況は、海外の人材が日本を敬遠する要因となり、円安による円建報酬の下落や経済における日本の魅力低下と相まって、日本が見向きもされなくなるのは時間の問題である。

4)コロナ禍での非科学的な鎖国政策と外国人留学生の入国制限について
 *4-3は、①日本は外国人観光客の入国を認めない事実上の鎖国政策を敷いており ②6月には水際措置を欧米並みに緩和するが入国者数などの制約はあまり緩めず ③日本は新型コロナのオミクロン型流入を止めようと2021年11月30日に全世界からの外国人の新規入国を停止し ④WHOは2022年1月に「渡航制限は効果的でない」と日本等に緩和を促し ⑤日本は「G7で最も厳しい」と水際対策をむしろ誇示し ⑥外国人留学生は限定的な受け入れ方針を示したが、決定が遅すぎ人数も少なすぎ ⑦日米大学間の交換留学制度で日本からの学生はもう受け入れないという声が届き ⑧日本に関心を持つ米国学生の機会を奪い学術交流にも長期的支障が生じる甚大な損失で ⑨本来、インバウンド消費や投資が点火される局面だが、日本は意図的にそれを止めている と記載している。 

 私も、最近では「2022.1.26~2.2 最新の科学技術と産業」の「PS(2022年2月9、10日追加)」という部分に記載したとおり、日本の厚労省は、国内で使用したワクチンや種々の予防策・治療薬の効果を検証することもなく、「欧米がするから」と3回目・4回目の接種を呼びかけたり、あらゆる場所で全員にマスクを強要したり、全外国人の新規入国を停止させたりして、非常に非科学的だったと思う。

 さらに、ワクチン接種証明書を活用したり、ワクチン接種証明書のない人は水際で注意してしっかりPCR検査をしたりすればよいのに、それはせずに、①②③のように、全世界からの全外国人の新規入国を停止し、④のようにWHOが「渡航制限は効果的でない」と言っても、⑤のように「G7で最も厳しい」と非科学的な水際対策をむしろ誇示したが、これらは、科学や文化を理解していない鎖国政策そのものなのである。

 また、新型コロナ禍が始まって2年経っても「外国人だから」と全留学生の日本への入国を禁止し、⑦⑧のように、文句を言われたから全外国人を1日1万人を上限に入国許可するというのも、全く科学的根拠のない政策決定である。さらに、これら不要な禁止や制限を行った結果、⑨のように、稼ぐ機会を喪失させ、それを個別には少し補填するために、全体では莫大な補助金を配っているのだから、やはり馬鹿としか言いようがない。

(5)女性の登用について
1)「ガラスの天井」が起こる理由
 東大教授の山口氏が、労働市場における女性の活躍が進む中で、*5-1のように、①部課長級の管理職に女性が占める割合は12%にすぎず、管理職の女性が少ない とし、その理由を、②管理職の労働時間が長く、夜間・休日も稼働することが前提で、女性がそうした職を避けがちであること ③従って、「働き方改革」は女性の管理職登用を進めるうえで有効な施策である としておられるが、①はそのとおりであるものの、②③については、私の経験では、管理職には残業手当がつかないかわりに自分の裁量で労働時間を決められるため、管理職になった後の方が、むしろ働き易かった。

 また、④人事評価には無意識でも女性を過小評価するバイアスがつきもので ⑤昇進に関する評価を下す場面でこのバイアスが大きく悪さする というのも本当だが、「女性は家庭責任があるから、労働時間が長かったり、夜間・休日も稼働しなければならなかったりする職を避けがちなので、管理職に向かない」「女性は一般社員に求められる能力があっても、管理職に求められる能力はない」「男性は逆に部下としての現在の仕事はパッとしないが、管理職になれば将来性がある」等と考えて男性に下駄をはかせることこそ、そのバイアスそのものなのである。

 そのため、「現在までの働きの評価」を立場の異なる複数の人物が評価するシステムに変えると、ある程度は公正な評価になる。しかし、性的役割分担意識のように、事実でも義務でもないのに日本では“一般常識”とされる観念は、日本人ばかりの複数人が評価しても同じバイアスを持っているため、その “一般常識”を変えなければ何人で評価しても公正な評価にはならないのである(私の場合は、外国人上司や理解ある少数の日本人上司に救われた・・)。

2)男女間賃金格差の開示について
 *5-2-1は、日本は先進国の中でも男女間賃金格差が大きく、①政府が企業に男女間賃金格差の開示を義務付けることになったが ②女性は非正規労働の割合が高く、正社員でも賃金が低く、管理職が少ないため ③女性は男性の75%程度の賃金水準に留まるが、開示義務付けで格差解消が進むか? と指摘している。

 また、*5-2-1は、④フランスは従業員50人以上の企業に男女間賃金格差とその解消に向けた方策をHPで公表させ ⑤英国は従業員250人超の企業等に詳しく賃金格差を明らかにさせ ⑥日本も1999年まで上場企業等に有価証券報告書で開示を義務付けていたが、連結決算を本格導入した際に廃止され ⑦近年は女性活躍に関する情報が投資判断に使われるようになり ⑧男女間賃金格差のあることは名誉ではないため、格差が可視化されれば解消に向けて議論が進むのではないか とも記載している。

 日本では、*5-2-2のように、⑨岸田首相が、「新しい資本主義実現会議」で、賃金格差を解消するために300人超雇用の企業に対し、男女間の賃金格差の開示を義務付けることを明らかにされた そうだ。

 私も、従業員の男女間賃金格差の存在とその理由や格差解消に向けた企業毎の方策を何らかの形で可視化すれば、投資家だけでなく顧客や求職者の参考にもなり、その解消に向けての議論も進むと思う。しかし、⑨のように、常時雇用する労働者が301人以上の企業(国内に約1万8千社)に限ると、女性の大部分は中小企業で働いているため、大きな影響はないだろう。

 そのため、求職者には、どの規模の企業も例外なく男女間賃金格差とその理由を公表させ、上場企業が提出する有価証券報告書には、従業員の男女間賃金格差の存在とその理由、格差解消に向けた取り組みの詳細についての記載を義務付けるのがよいと思う。

 なお、*5-2-3のように、⑩政府は男女間賃金格差の公表を中央省庁や地方自治体にも義務付け ⑪国家公務員や地方公務員の一部がこの対象となり ⑫世界でも賃金差が大きい日本の現状を官公庁自ら把握して改めるよう促し ⑬官民で足並みを揃えて不当な待遇格差の縮小に取り組み ⑭国家公務員は国会議員などを除く最大30万人程度を対象と見込む そうだ。

 私も、⑩⑫⑬には賛成だが、⑪のように一部を対象とするのでは無く、⑭は国家公務員全員を省庁別に比較できるようにし、国会議員は党派別に比較できるようにするのが、情報の利用者に対する十分な開示だと考える。

 そのため、*5-2-4の⑮女性の力を生かせない企業は若い世代に選ばれない危機感を持ちたい ⑯政府は根強い性別役割分担意識を変える必要性を強調 ⑰日本の賃金格差は突出 ⑱公表は、男性賃金に対する女性賃金の割合に加え、正社員と非正規社員の男女別割合も求め ⑯客観的なデータの出し方や計算方法を速やかに示すべきだ 等にも賛成だが、まずメディアにおける男女間賃金格差、男女間勤務年数の差、管理職の男女別割合、正社員・非正規社員の男女別割合を皆で開示しあって、どういう開示なら有用かを検討したらどうかと思う。

・・参考資料・・
<国家予算>
*1-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220511&ng=DGKKZO60649270R10C22A5EA1000 (日経新聞 2022.5.11) 国の長期債務、1000兆円超す 昨年度末、コロナ対策膨張
 財務省は10日、税収で返済しなければいけない国の長期債務残高が3月末時点で1017兆1072億円になったと発表した。18年連続で増え、初めて1千兆円を超えた。新型コロナウイルス感染症の対策の財源を確保するため国債発行を増やしたことが響いた。「賢い支出」で成長力を底上げしないと経済が停滞し税収が増えないまま債務が膨らむ懸念がある。2002年3月末の長期債務残高は485兆4180億円で、20年間で倍増した。21年3月末からは約44兆円増えた。国債と借入金、政府短期証券を合計したいわゆる「国の借金」は1241兆3074億円で、21年3月末から24兆8441億円増え、6年連続で過去最多を更新した。22年4月1日時点の総務省の人口推計(1億2519万人、概算値)で単純計算すると国民1人991万円の借金を背負う。財投債などを含む国債発行残高は1104兆6800億円で、30兆5204億円増えた。うち普通国債は44兆7643億円増の991兆4111億円だった。政府債務が増える中でも国債の利払い金が少なくすむのは日銀が国債の利回りを低く抑えているのが大きい。一方、緩和策で日米金利差が広がって円安が進めば、物価高への政府の対策費が膨らむリスクが高まる。

*1-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220511&ng=DGKKZO60640300Q2A510C2EN8000 (日経新聞 2022.5.11) 円安の原因を誤解するなかれ
 円安が20年ぶりの水準まで進行している。原因に挙げられているのは以下の3つだ。第1はコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻など外的要因による経常収支の悪化だ。コロナ禍で輸出需要が減ったところに、世界3位の産油国であるロシアの原油輸出が減り、価格が高騰した。原油高は他の産油国にとっても都合がよく、消費国の増産要求に応じていない。原油を輸入に頼る日本の経常収支が悪化し、円安になっている。第2は金利差だ。各国が大幅な金融緩和から出口戦略を探る中、日銀だけが緩和を堅持し、日米金利差が拡大し円売りが進むという見立てだ。だが、黒田東彦・日銀総裁が2013年の就任直後に異次元緩和を打ち出して以降、日本の緩和が突出する構図は大きく変わらず、今回特に円安が進む要因とは言い難い。しかし、黒田総裁は異常な緩和の維持を明言する。このままでは円の信用喪失につながりかねない。これが第3の原因だ。人々は円を物や他の資産に換えようと殺到し、円が紙くずとなるハイパー・インフレへの懸念である。今回の円安の日本経済への影響はどうか。原油などの輸入価格の高騰は、輸入比率の高い物ほど影響が大きい。逆にいえば内製率の高い物ほど相対的に安くなって競争力が増し、輸出需要だけでなく、国内需要の増加にもつながる。例えば、麺やパンで原料を小麦粉から米粉に切り替える動きがある。経常収支の悪化がコロナ禍やウクライナ侵攻など外的要因によるなら、世界需要も落ち込んでいるから円安による輸出の伸びは限定的だ。それなら経常収支の回復は遅く、円安が続いて国産品の内製化はさらに進む。実は日本経済にプラスになる。一方、物価上昇は金融資産の実質価値を下げ、国内需要の抑制要因になる。だが過去30年、家計金融資産は大幅に伸びたが家計消費はほとんど変わらない。金融資産実質量の変動は消費に影響しない。そのため円安は前述のプラス効果の方が大きいはずだ。実質資産量の消費への悪影響は小さくても貧困層への影響は大きいので、再分配政策が必要だ。さらに円安が信用不安につながるなら、国産品需要の増加どころか経済崩壊につながる。日銀は引き締めの悪影響より、円の信用不安を心配すべきだ。

*1-1-3:https://mainichi.jp/articles/20220602/k00/00m/010/305000c (毎日新聞 2022/6/2) アベノミクス、もはや腫れ物 見直せば関係にひび、首相の難題
 物価高を巡り岸田文雄首相が守勢に回る場面が増えてきた。野党は大規模金融緩和に伴う円安が物価高に拍車をかけたと追及し、首相も円安の行方に気をもむが、円安は「アベノミクス」の事実上のキモでもある。安易に見直せば自民党内に強い影響力を持つ安倍晋三元首相との関係にひびが入りかねず、首相は「物価の安定」と「党内の安定」のどちらを優先させるかという難題に直面している。
●進む「悪い円安」 物価高を危惧
 「円安が一層進み、物価高が顕著になった」「異次元の物価高で『岸田インフレ』だ」。立憲民主党の泉健太代表は1日の衆院予算委員会でまくし立てた。泉氏は5月26日の衆院予算委でも、物価抑制のため金利を引き上げるべきだと提案。首相は同日、円安について一般論と断りつつ「生活者には物価の引き上げで大きなマイナスになる」との認識を示したが、予算措置などで物価高に対応するとし、金融緩和の見直しには同調しなかった。円安は3月から急激に進み、5月9日に一時1ドル=131円台と約20年ぶりの円安・ドル高水準を記録。その後いったん戻したものの、6月2日には再び130円台まで円安が進んだ。鈴木俊一財務相が「悪い円安」だと発言するなど、政府要人による市場けん制発言が続いているが、目立った効果は出ていない。値上げはカップ麺や飲料など身近な食品にまで広がり始め、7月10日投開票予定の参院選も目前に迫った。与党はこのままでは「選挙戦の命取りになりかねない」と危惧。首相も「物価への影響を極力抑えたい」と周囲に漏らしている。
●副作用あっても安倍氏に誠意
 だが、党内最大派閥・安倍派を率いる安倍氏は5月19日の講演で「130円前後は経済に大きな打撃を与えることはない」と言い切った。第4派閥の会長で党内基盤が盤石と言えない首相にとって安倍氏は無視できない存在だ。首相は安倍氏への誠意を示すように、5月31日に示した「新しい資本主義」実行計画案に、アベノミクスの三本の矢である「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」をそのまま盛り込んだ。自民党中堅議員は現状をこう解説する。「アベノミクスの副作用が目立ってきたが、誰も見直しを主導したくはない。『責任は誰かに押しつけたい』のがみんなの本音だ」

*1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15308772.html (朝日新聞社説 2022年5月29日) 予備費の乱用 財政民主主義 骨抜きに
 国会は国民から託された責務を投げ出すつもりなのか。おととい衆院で可決された補正予算案は、政府による予備費の乱用という財政の根幹にかかわる問題をはらむにもかかわらず、歯止めをかけるような審議に至らなかった。民主主義の機能不全を危惧せざるをえない。参院では厳しい追及が求められる。政府が提出した補正予算案は、総額2・7兆円と規模は小ぶりだ。しかし、うち1・5兆円を、物価高対策で使った予備費の埋め戻しにあてるという重大な問題を抱えている。憲法は、政府の支出に国会の事前議決を義務づけており、例外的に「予見しがたい予算の不足に充てるため」に予備費の計上を認めている。岸田政権は今年度予算に5・5兆円の予備費を計上していた。4月末からの物価高対策の背景には、ロシアのウクライナ侵略という不測の事態もあった。しかし国会は1月から開会中であり、必要な支出ならば国会でその分の補正予算を審議するのが憲法の要請だろう。政府も、国会開会中の予備費使用は、災害など「比較的軽微な経費」に限ると繰り返し閣議決定で確認していたはずだ。こうした筋の通らない予備費支出を、再び予備費で補填(ほてん)するというのだから、あきれるしかない。しかも、これまで「コロナ対策」としていた使途を物価高対策に拡大するという。事実上何にでも使えることになりかねず、政府への「白紙委任」が常態化する危険性がある。ところが、衆院の審議では、与党は予備費の問題を指摘しなかった。立憲民主党は25日の本会議では「政府が使いたい放題使ったプリペイドカードを減った分だけチャージするのが国会の役割なのか」と批判した。しかし、突っ込んだ質疑が可能な予算委員会では、野党側も質問の大半を消費減税や給付金充実などの要求に費やした。統治機構の基盤が揺らぐ危機を前に、与野党が参院選に向けた人気取りを優先するのであれば、あまりに情けない。財政法が禁じたはずの赤字国債は、特例法による発行が常態化している。安倍元総理が「日本銀行は政府の子会社」「(国債を)何回借り換えたって構わない」と公然と言い放つなど、財政規律の軽視は目に余る。このうえ近代議会の大原則である財政民主主義までが骨抜きにされるのは、看過できない。議員一人一人が政府と緊張関係を保ち、憲法をはじめとする法令の精神が守られるよう監視しなければ、権力が暴走しかねない。そのことを銘記して参院の審議に臨むよう、与野党に強く求める。

*1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA314100R30C22A5000000/ (日経新聞 2022年5月31日) 2022年度補正予算が成立 物価高対策など2.7兆円
 物価高対策を盛り込んだ2022年度補正予算が31日の参院本会議で自民、公明両党と国民民主党などの賛成多数により可決、成立した。一般会計の総額は2兆7000億円規模で、財源は赤字国債でまかなう。ガソリンや灯油への補助金の給付を延長・拡大する6~9月分の経費などに1兆1739億円を使う。4月末に決めた第1弾の物価高対策として支出した予備費を穴埋めするために1兆5200億円をあてる。岸田文雄首相は31日の参院予算委で「物価高騰は国民生活や事業に大きな影響を与える」と指摘した。「予備費などをしっかり用意し不測の事態に備える」と訴えた。財源確保の考え方にも言及した。「官と民の協働によって大きな成長のエンジンを作る」と強調した。財政出動や規制緩和、税制改正によって民間資金の活用を促すと説明した。斉藤鉄夫国土交通相は6月10日に受け入れを再開する外国人観光客にマスク着用を求める方針を明らかにした。旅行業界向けの指針に明記しツアー参加者に同意を得る形式をとる。国民・伊藤孝恵氏に答弁した。首相はマスク着用推奨の全面解除には慎重な姿勢を示した。「まだこの段階で外すのは現実的ではない」と述べた。日本維新の会の柳ケ瀬裕文氏の質問に答えた。

*1-3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASQ5W3FCVQ5MULZU006.html (朝日新聞 2022年5月28日) 核心避けた「敵基地攻撃能力」論議 専守防衛の空文化進む
 岸田文雄首相は昨年12月の所信表明演説で「敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」と語り、今年末までに改定する国家安全保障戦略で「敵基地攻撃能力」の保有宣言を検討する考えを示した。だが、日本は既に「敵基地攻撃能力の手段の一部は導入を決定済み」というのが、防衛省・自衛隊幹部、安全保障専門家の認識だ。布石が打たれたのは、安倍晋三政権下で策定された2013年の防衛計画大綱だ。「敵基地攻撃」の議論を回避しつつ、「我が国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力のあり方についても検討の上、必要な措置を講ずる」と記した。
●着々進む長射程ミサイル導入
 これを受け政府は18年度予算に、長射程巡航ミサイルの開発・導入の関連予算を計上。ノルウェー製巡航ミサイル「JSM」(射程約500キロ)や米国製「JASSM(ジャズム)」(同約900キロ)などの導入を決め、20年末には、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾を現在の射程約200キロから900~1500キロへと延ばす長射程巡航ミサイルの国産化も決定した。これらは日本領空から発射すれば、北朝鮮や中国内陸部も射程に入り、「敵基地攻撃」への転用も可能だが、当時の政府はこれを否定。「遠く離れた(Stand off)」ところからの攻撃を意味する「スタンド・オフ・ミサイル」と呼び、離島防衛のためで専守防衛の範囲内だと主張してきた。長射程巡航ミサイルの最も早い配備は21年度に予定していた「JSM」で、納入が遅れているものの本格配備の段階が迫っている。議論を加速させたのは安倍元首相で、退任間際の20年、「迎撃能力を向上させるだけで、本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」と敵基地攻撃能力の検討の必要性を説き、これを岸田政権も踏襲した格好だ。国内外に説明せず「敵基地攻撃能力」を着々と築く姿勢も問題だが、保有を「政治宣言」すれば、それは日本の防衛政策の大転換を意味する。日米安全保障条約や過去の日米合意文書では、日本防衛のため米軍が打撃力の「矛」の役割を担い、自衛隊は専守防衛の「盾」に徹する方針が示されてきた。「矛」を自衛隊も担うとなれば専守防衛の理念との整合性が問われる。議論の背景には北朝鮮に加え、中国のミサイル能力の強化がある。米国は、これまでは米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約により、射程500~5500キロの陸上配備型の中距離ミサイルは保有できなかった。中国は、日本を射程に収めるミサイルを千発以上保有し、優位にある。米国はINF条約を離脱して新型の中距離ミサイル開発に着手。日本を含むアジア太平洋地域への配備を模索している。これとは別に、日本も独自に相手国を直接攻撃できる中距離ミサイルを保有しようというのが今回の議論だ。
●相手を攻撃できる条件とは
 専守防衛との兼ね合いで「敵基地攻撃能力」保有で焦点となるのは、どのような場合に相手国への攻撃に着手するかだ。自民党は4月に岸田首相に示した提言書で「負の印象が定着し、公明党が受け入れない」(防衛相経験者)との理由から「敵基地攻撃」の呼び方を改め、「我が国への武力攻撃に対する反撃能力」と言い換えた。「反撃能力」といえば、攻撃を受けた後の報復措置との印象を与えるが、小野寺五典・党安保調査会長は「相手側に明確に攻撃の意図があって、既に着手している状況」なら、相手のミサイル発射前でも攻撃可能との認識を示す。ただ、岸田首相は昨年9月の自民党総裁選の際、「第2撃への備えを考えなければならない」とし、攻撃を受けた後の第2撃を阻止する能力と説明しており、微妙に食い違う。焦点になるのは「着手」の定義だ。攻撃目標について提言ではミサイル基地に限らず「指揮統制機能等も含む」とした。これもあいまいで、市民を巻き込む都市部を狙った攻撃も念頭に置くなら専守防衛の矩(のり)を超える。日本政府が検討を本格化させる背景には、米国の変化もある。日本がそうした能力を持てば地域が不安定化するとの懸念もかつては強かったが、米国の国力低下や中国の軍事的台頭で、日本をむしろ後押しするようになった。ただ、日本の核保有や核共有論には米国は否定的だ。そもそも米国との核共有は、核兵器を「直接または間接に受領しない」との核不拡散条約(NPT)第2条に違反するほか、日本の非核三原則の変更も必要だ。論争は国外にも波及し、現実的ではない。軍事戦略上も必要性と効果が認められないとの見方が安保専門家の間でも大勢だ。核共有しても最終的な決定権は米大統領にあり、今の日米同盟による核抑止の構図と変わらない。しかも日本国内に核を持ち込めば標的となり、かえってリスクを呼び込む。自民党内では「議論は回避すべきではない」との声があがる。しかし、議論を促す前に、知見を持つ政治家自身がどう評価しているのか、説明するのが先だろう。
●「ゴールポストを動かす」?
 政府内には「空文化した専守防衛の看板を外すべきだ」(防衛省幹部)との意見も根強い。だが、自民党提言は「専守防衛の考え方の下」と明記し、「必要最小限度の自衛力の具体的な限度は、その時々の国際情勢や科学技術等の諸条件を考慮し、決せられる」という専守防衛の説明までつけている。私は米軍幹部から「米国では政策や装備導入で議論になるのは目的や運用方法だ。なのに日本人はそうした核心部分を議論せず、呼び方をめぐって論争する。実に不思議だ」と言われたことがある。政府・自民党内では「ゴールポストを動かすしかない」とのせりふを耳にする。これこそ本質的な議論を避け、言い回しでごまかすことを指している。閣議で憲法解釈を変え、集団的自衛権行使を容認したのがその例だ。「専守防衛」を掲げつつ理念を形骸化させるのも「ゴールポストを動かす」一環と言えるだろう。中国の軍拡を踏まえれば、外交と防衛を織り交ぜた抑止の強化が必要だろう。ただ、国民を欺くような手法で政策を転換してよいのか。敵基地攻撃能力も、専守防衛の理念と照らし合わせた正面からの議論が必要だ。

*1-3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15310298.html (朝日新聞 2022年5月31日) 子ども政策、新財源検討 「消費税分以外も」 骨太の方針原案
 政府が31日に公表する「骨太の方針」の原案で、出産育児一時金の増額やヤングケアラー支援などの子ども政策を進めるための安定財源について「社会全体での費用負担のあり方を含め幅広く検討する」との方針を盛り込むことが分かった。岸田首相はこれまで将来的に子ども関連予算の「倍増」を目指すと強調する一方、「10年程度は上げることは考えていない」と消費増税は否定。政権内では新たな企業負担や社会保険料の上乗せが水面下で検討されており、「消費税分以外も含め、適切に財源を確保していく」との表現を盛り込む。夏の参院選後に具体論が本格化することになりそうだ。財政健全化の政府目標である「2025年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化」については、「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」と表現する。PB目標を維持するかどうかは、自民党内の積極財政派と財政再建派の間で意見が割れている。昨年の骨太では25年度目標を「堅持する」だったが、今回の原案では「旗を下ろさない」とする一方、積極財政派にも配慮して「PB」「25年度」という言葉をあえて使わない。「経済あっての財政であり、現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪(ゆが)められてはならない」とする文言も入れ、玉虫色の表現となる見通しだ。

<労働力としての人材>
*2-1-1:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220614/se1/00m/020/051000c?cx_fm=maileco&cx_ml=article&cx_mdate=20220606 (エコノミスト 2022年6月2日) 《EV・日本の大逆襲》日産と三菱が「130万円台」軽EVで大攻勢
◎日産と三菱自が攻勢
●「130万円軽」で巻き返し=稲留正英/加藤結花
 「日本にとってもカーボンニュートラルに進むということで、本日は本当にエポックメーキングな日になる。2022年を改めて、電気自動車元年と我々は受け止めている」──。5月20日、日産自動車の星野朝子副社長は、新型軽電気自動車(EV)「サクラ」の発表会で宣言した。電気自動車の分野で欧米や中国に押されていた日本が、ついに反撃ののろしを上げた。日産が発表したサクラは三菱自動車と共同開発した。容量20キロワット時のリチウムイオン電池を搭載し、満充電で180キロを走ることが可能だ。(EV・日本の大逆襲 特集はこちら)
●年産6万台目標
 注目はその値段だ。販売価格は233万円から。国の電動車の補助金(55万円)を使えば、180万円弱、さらに自治体の補助金(東京都で45万円)を使えば、133万円と、ガソリンエンジンの軽自動車とほぼ同じ値段で買える。三菱自動車も同日、姉妹車「ekクロスEV」を発表、両社はこの夏から発売を開始する。2社を合わせた年間の生産目標は6万台だ。軽自動車で本格的なEVが登場した意義は大きい。日本の自動車の保有台数8257万台のうち、軽自動車は3361万台と41%を占める。21年の年間の販売台数でも軽は165万台と全体の37%だ。都道府県別の普及率を見ると、軽自動車は高知県の56%を筆頭に、地方の過疎地域ほど、日常の足として利用されていることが分かる。こうした地域は、人口減少に直面し、ガソリンスタンドが次々に閉鎖されている。一方で、地方にはバイオマス、風力、太陽光、地熱、水力など、豊富な再生エネルギー資源があるところが少なくない。軽EVを「蓄電池」として地域の再エネ資源とマイクログリッド(小規模電力網)でつなげば、中東の石油やロシアの天然ガスに依存しない「地産地消」のエネルギー源となる。
●米テスラ取締役も「祝福」
 米EV大手、テスラの水野弘道・社外取締役は、日産がサクラを発表した5月20日、「地方での軽の利用パターン(一戸建て、近所用)はEVの最も得意とするもの。価格に敏感なオーナーが多いので、中国EVに席巻されると心配していたのでサクラの意義は大きい」とツイッターでコメント。伊藤忠総研の深尾三四郎・上席主任研究員は、「軽EVは地域活性化と経済安全保障に貢献する国益にかなった車だ。災害時は、『走る蓄電池』として、ガソリンスタンドの撤退で脆弱(ぜいじゃく)化した地方のライフラインの危機耐性を高める」と高く評価する。軽分野ではホンダが24年、スズキが25年に商用EVを投入する。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストは、「軽商用車は、ガソリンスタンドが少ない地方の山間部で使われている例が多い。この領域は結構、電動化が早いのではないか」と見る。日本はこれまで、再エネとEVの導入が遅々として進まなかった。電力コストが上昇するとして鉄鋼や自動車の産業界が抵抗する一方、「脱炭素にはハイブリッド車で十分」との考え方が自動車業界で支配的だったためだ。だが、菅義偉前政権が20年10月に、「2050年までにカーボンニュートラル」を宣言したことで、状況は一変した。30年度の地球温暖化ガスの削減量がそれまでの13年度比26%から46%に一気に引き上げられ、それに伴い、電源に占める再エネの構成比率目標は30年度で22~24%から36~38%に上方修正された。日照時間や風などの気象条件で発電量が変動する再エネには、大型の蓄電池を持つEVがバッファーとして不可欠となる。バイオマス発電などの再エネによるエネルギー自給率が62%と高い岡山県真庭市の太田昇市長は、「EVで低価格の小型車が出ることは大きなインパクト」と語る。世界的にも、EV化の流れは加速している。国際エネルギー機関(IEA)が5月23日に発表した「世界EV見通し2022」によると、21年の世界のEVとPHV(プラグインハイブリッド車)の販売台数は660万台と前年比2・2倍となった。21年の新車販売台数に占めるEVの比率は欧州が17%、中国が16%、米国が4・5%だ。
●日本市場狙う韓中勢
 対する日本のEV比率は21年で0・9%、PHVを合わせても1・8%とまだ低い。しかし、自動車の販売台数で中国、米国に次ぐ世界3位と潜在的な市場の大きさから、外国メーカーの新規参入やEVの新製品の投入が相次いでいる。代表例が韓国の現代自動車だ。日本市場を09年に撤退した同社は、今年2月、13年ぶりの再参入を発表した。日本の脱炭素の流れが強まったことで、地球温暖化ガスを排出しないEVと燃料電池車(FCV)2車種のオンライン販売で、市場を開拓する。日本法人ヒョンデモビリティジャパンの加藤成昭マネージングディレクターは、「日本のEV比率は1%未満、かつ、消費者の価値観も大きく変わってきている。チャンスは大きい」と期待を寄せる。仏プジョーや伊フィアットなど欧米14ブランドを擁するステランティスは今年、日本市場でEVとPHV19車種を用意する計画だ。独アウディとスウェーデンのボルボ・カーズも、従来より大幅に安い500万円台のEVをラインアップする。国内勢ではトヨタ自動車とSUBARU(スバル)が共同開発したEVを5月から発売、トヨタはレクサスブランドの高級EVを年内に投入する(表)。デロイトトーマツグループの後石原大治ディレクターは、「EVは小型のバッテリーで価格を抑えた小型車と、大容量のバッテリーで航続距離を伸ばした高級車の両極から普及が進む」と予想する。商用車でもEV化が進みそうだ。中国のEV大手BYDは5月10日、日本向けに大型と小型の電気バスの発売を発表した。23年末に納車を開始する予定だ。日本法人BYDジャパンの花田晋作副社長は、「年内に日本市場での延べ納入台数100台を見込んでいたが、それを大きく超える需要がある」と説明する。「国の脱炭素目標に合わせるには、今年から電気バス導入に着手しないと間に合わない。車庫における充電器の設置など課題はあるが、これがクリアされれば、バス事業者は加速度的に電動化を進めていく」と予想する。
●資本市場もEV化促す
 資本市場でも脱炭素・EV化を促すイベントが控えている。国際会計基準をまとめるIFRS財団の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は年内に、地球温暖化ガス排出量など非財務情報の統一開示ルールを策定する。自動車メーカーなどは、ユーザーが購入した自社製品の使用から生じる排出量(スコープ3)の開示を求められることになる。デロイトトーマツグループの森啓文・シニアマネジャーは、「ISSBが3月末に発表した素案では、温室効果ガスだけでなく、NOX(窒素酸化物)等の排出削減も評価の対象になっており、排気ガスがゼロのEVには更に有利に働く」と語る。環境ジャーナリストで、安倍晋三政権のパリ協定長期成長戦略懇談会などで委員を務めた枝広淳子氏は、「EVが普及すると、地方で地域資源を使った再エネの活用が進んでいく。それは地域経済の活性化と自立につながる。軽のEV化にはすごく期待している」と語る。22年は確実に日本の「EV元年」となりそうだ。

*2-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220606&ng=DGKKZO61456850W2A600C2MM8000 (日経新聞 2022.6.6) エネルギー危機・日本の選択(上)電気不足、冬に110万世帯分、火力閉鎖・動かぬ原発…節電頼み 停電回避へ政策総動員
 日本の電気が足りていない。次の冬の寒さが厳しければ一般家庭で約110万世帯分の電気が全国で不足する見通しだ。火力発電所の休廃止が相次ぎ、原子力発電所の再稼働は遅れた。ロシアからの燃料調達も不透明感が高まる。東日本大震災以来の節電頼みの需給調整は限界に達した。ウクライナ侵攻や資源高によるエネルギー危機が、抜本改革を放置してきた日本を直撃している。「主要7カ国(G7)として電気が足りないなんてあってはならない。ロシアにつけこまれ燃料を接収されるかもしれない。原発を動かせ」。4月中旬の自民党本部での会合。出席議員から叱責され、資源エネルギー庁の保坂伸長官は「忸怩(じくじ)たる思いだ」と釈明した。「東日本大震災以来の電力危機」。経済産業省幹部は危機感をあらわにする。電力広域的運営推進機関によると厳冬の場合、2023年1月の東京電力ホールディングス(HD)管内の予備率(総合・経済面きょうのことば)はマイナス0.6%。予備率は電力需要に対する供給の余裕の度合いを示す。安定した供給には少なくとも3%が必要だ。震災直後を除くとマイナスは昨冬の東電が初めてで、2年連続の異常事態となる。23年1月は中部から九州の西日本6エリアも1.3%しかない。東電を含め7電力の予備率を3%にするには350万キロワットが必要で、試算では約110万世帯分にあたる。宮城県の世帯数を超える規模で計画停電などが起きかねない。
●稼働は4基のみ
 現時点で1月までに再稼働を検討する火力は150万キロワット。経産省は残りを新設火力の試運転などで埋められるか検討するが「稼働が不安定で当てにできない」。仮にロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入が全て止まるとさらに400万キロワット強の火力が動かなくなるとの試算もある。対応策はないか。昨冬のように閉鎖予定の火力をかき集めることが想定されるが、古い火力はトラブルも起きやすい。主力電源の一つの原発は、原子力規制委員会の安全審査を通過したものが17基ある。動いているのは4基のみで、残る13基の発電能力は計1300万キロワット。全て動けば危機下でも電力は十分賄えるが、地元の同意が得られていないことや定期検査、テロ対策工事などを理由にすぐには動かない。20万キロワットを超える大型案件が国内でも出始めた蓄電池も考えられる。ただ工事に一般的に1年半程度かかり、冬には間に合わない。将来を見据えれば、ガソリン補助金に1.8兆円つぎ込む代わりに不足する200万キロワット分の蓄電池を1千~数千億円で作る手もある。不測の事態で一気に電気は足りなくなる。福島県沖地震で複数の火力が止まり、3月下旬には東電と東北電力管内で「電力需給逼迫警報」が初めて出る事態となった。今夏も東電などで予備率がギリギリの3.1%を見込むため萩生田光一経産相は「家族で部屋を分かれてエアコンを使わず、テレビは一つの部屋で見てもらう試みで乗り越えていける」と5月下旬に発言。節電頼みを改めてにじませた。そもそも電気が不足するのは震災以降の政策のほころびに起因する。燃料費がかからない再生可能エネルギーが増え、火力の出番は減った。16年の電力自由化で競争が激化し、発電所の整備や運営費用などをルールに基づき電気料金で回収できる総括原価方式も崩れた。電力会社は利用率や収益が悪化した火力を廃止していった。
●限られる融通量
 経産省によると30年度までの10年間に火力発電は新設と廃止の差し引きで約1300万キロワット分が減る。大手電力の供給力の1割弱の規模だ。経産省は火力の投資確保のため「容量市場」を設けたがまだ機能せず、代替電源の確保も進まない。電気が余る地域から足りない地域に融通できる電気の量も限られる。地域をまたぐ送電線が細い。大手電力10社ごとに送電網を管理してきたためだ。送電網の投資を進めるがなお十分でない。日本が立ちすくむ中で海外は先を行く。英国はウクライナ危機を受け、安定供給のため再生エネや原発の増設計画を公表。ドイツはロシア産ガス代替のLNGを増やそうと受け入れ基地を造る。送電網が欧州全体でつながり融通できるうえ迅速に対策を総動員する。日本は見直し策の検討段階にある。その裏では資源高により2人以上世帯の月間電気代は3月に1万6273円と、00年以降で最も高くなった。逼迫解消に向け、経産省は大手企業が対象の罰則付きの使用制限令や計画停電の準備も進める。電気が確保できなければ製造業は国外に流出し、脱炭素化もおぼつかなくなる。積み残してきた課題に加え、目の前の危機に対応する新たな戦略が求められている。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220529&ng=DGKKZO61233630Z20C22A5MM8000 (日経新聞 2022.5.29) IT人材難、低賃金が拍車、求人倍率10倍 需要映さぬ待遇、転職の壁
 企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するなか、IT(情報技術)人材の不足が強まっている。求職者数に対する求人数の割合である求人倍率は約10倍に急上昇し、全職種で突出して高い。IT職種の賃金が相対的に低いことが人材を集めにくくしている。背景には日本企業の賃金が欧米のように職種の市場価値に応じて決まらず、年功序列の要素が根強いことがある。DX推進の障害になりかねない。「人材争奪戦が顕著になってきた。内定を出しても辞退が増えている」。富士ソフトの広瀬敦子人財開発部長は話す。ITコンサル事業の強化などで2022年度は技術系人材の中途採用を約430人と23年春の理工系大卒採用並みを計画するものの、人材確保は容易ではない。
パーソルキャリア(東京・千代田)の大手転職情報サイト「doda」によると、IT技術職の毎月の新規求人倍率は19年に3~5倍だったが、21年12月に初めて10倍を超えた。22年3月は9.5倍と営業職(2.8倍)や販売職(0.4倍)を上回る。新型コロナウイルス下にあらゆる業種でデジタル化が進みIT技術職の求人が拡大する一方、求職者は伸び悩んでいる。旭化成は21年、DXエンジニアに特化した採用サイトを設け、素材開発への人工知能(AI)活用など自社のIT業務の魅力を訴える。だが「従来の中途採用の条件では難しい」(堀江俊保常務執行役員)。ノジマもIT人材の採用を増やすものの、登山征一人事労務グループ長は「事業経験とIT知識を兼ね備えた人材が見つからない」と話す。旺盛な需要に人材供給が追いつかない理由の一つは、日本のIT職種の賃金が相対的に低く、働き手にとって魅力的でないからだ。dodaによれば、21年のIT職種の平均年収は438万円と19年比4%減った。ITスキルを持っていても十分に評価されないため人材が流入しにくく、賃金の押し上げ効果が弱い。海外は職種ごとに賃金体系が異なる「ジョブ型雇用」(総合2面きょうのことば)が浸透しており、賃金が各職種の市場の需給で決まる。米コンサル大手マーサーの21年の調査によると、人材不足の米国や中国はIT・ネット職(上級専門職)の年収中央値が全職種(同)の中央値を8~10%上回る。一方、日本は全職種中央値より2%低い。市場の需給が賃金に反映されにくい。日本も一部でジョブ型雇用が増えつつあるが、なお職種の限定されない「メンバーシップ型雇用」が多い。経団連の19年の調査では、社外から専門人材を採用する場合、65%の企業が「一般社員と同じ人事賃金制度を適用している」と答えた。「個別に処遇を決定」(28%)したり、「独自の賃金制度を設けている」(6%)のは少数だ。ITスキル習得のコストは割高だ。転職のための基本知識を習得する専門学校などの講座は通常3~6カ月かかり、料金も30万~60万円が相場だ。コストに見合うだけの賃金を得にくいため、積極的にスキルを習得して転職しようという動機づけが働きにくい。dodaによると21年にIT技術職に転じた人のうち、異職種出身は24%。販売・サービス職(50%)や事務職(56%)の半分にとどまる。総務省によれば、DXを進める際の課題として日本企業の53%が「人材不足」を挙げる。米国(27%)やドイツ(31%)よりも高く、日本企業にとって最大の懸案になっている。ジョブ型雇用の浸透を急ぎ賃金に市場メカニズムが働くようにしなければ、人材不足は解消されない。日本のDXの遅れが一段と深刻になりかねない。

*2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220503&ng=DGKKZO60511240T00C22A5MM8000 (日経新聞 2022.5.3) 揺らぐ人材立国(2)空洞化する卒業証書 学び直し、企業も学校も
 若手の基礎学力が落ちているのではないか―。大手機械メーカーのクボタは技術系新入社員を対象に、機械設計の基礎である材料力学、疲労強度、材料・熱処理の3分野で「学び直し教育」を実施している。きっかけは若手の学力不足を懸念する現場の声だった。2016年7月、入社10年以内の技術系社員360人にテストを受けさせると衝撃的な結果がでた。
●基礎知識が欠落
 降伏点や引っ張り強さ、ヤング率など基礎的な言葉の理解や計算問題の正答率がわずか22%だったのだ。急きょ、同年秋から2年間、全員に1回90分の学び直し教育を計14回実施し、新入社員の研修にも導入した。技術系新入社員の9割は有名大大学院の修士課程修了者。人事・総務本部長の木村一尋専務執行役員は「大学院は先端分野の研究が中心で、学部の初期に勉強した基本を忘れたのだろう」とおもんぱかるが、別の人事担当者は「上の世代ならできて当然」と漏らす。企業で始まった学び直し。学校では既に広がる。事実上全入状態の大学では総合型選抜(AO入試)や学校推薦型選抜(推薦入試)、受験科目縮減など入試の軽量化が進み、進学実績を上げたい高校が迎合した。大学では高校レベルの学力がない学生が増え、補習授業が常態化した。ベネッセコーポレーションの調査(16年)では大学生の35%が補習を経験している。教育困難校といわれる高校はさらに深刻だ。私立横芝敬愛高校(千葉県横芝光町)の白鳥秀幸校長は、かけ算九九や漢字の書き取り、日本地理など小学校の学習から学び直す「マルチベーシック」を週に4コマ設定、生徒を支援する。「初期でつまずき、九九やABCの読みも怪しいまま高校に入る生徒は少なくない。授業が分からないから学校がつまらなくなり、非行に走る。学び直しは生徒指導にもつながる」。かつて荒れた県立高校を立て直した実践が話題を呼び、今は全国に広がる。日本の義務教育は3月末に学年が終わると、子どもの理解度に関係なく進級させる「履修主義」をとる。「留年はかわいそう」との配慮からだ。
●「七五三」の現実
 その結果、「高校生の7割、中学生の5割、小学生の3割が授業についていけない」(七五三)とやゆされる状況が生まれた。自分の学校に小学校の学習内容が十分定着していない生徒が「ほとんどいない」と言い切る中学校長はわずか2.3%で、12.5%が「3、4割以上いる」と答えたという調査もある。行き過ぎた履修主義の浸透は、小学校から大学まで卒業に甘い文化を生んだ。一見、子どもに優しいようだが必要な能力が身につかないまま社会に放り出す側面も持つ。教育成果は問われないから学校には都合が良い。学び直しの広がりは、そうした学校文化への異議申し立てでもある。日米で通算50年の教員経験を持つ鈴木典比古・元国際基督教大学長は「本来、制度が保証すべき力が形骸化している」と指摘し"学びの質の保証"を説く。付けるべき力を付けないままでいると卒業証書は空洞化し、学校制度の信頼性が揺らぐのに、危機感は乏しい。

*2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220608&ng=DGKKZO61527640X00C22A6EA1000 (日経新聞社説 2022.6.8) 持続可能な部活へ制度設計を
 公立中学校の運動部活動のあり方を検討していたスポーツ庁の有識者会議が、休日の指導を民間人材などに委ねる「地域移行」を2023年度から3年間で進める提言を公表した。将来は休日だけでなく、平日の部活も地域に軸足を移す構想だ。少子化で学校単位での大会への参加が困難になったことに加え、教員の長時間労働の一因になっていることが背景にある。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の中学教員の勤務時間は加盟国・地域で最長の週56時間。特に部活などの課外活動指導は平均の約4倍と突出する。授業の準備など教員の本務に支障をきたしている実態が明らかになった。看過できない。過重な労働が若者に嫌われ、各教育委員会は教員採用に苦労している。持続可能な部活にするためには、学校外に指導の受け皿を広げる改革は避けられない。地域移行は、大きく3つに分類される。地域のスポーツクラブなどの活用、外部指導員の配置、教員が正当な報酬を得て「兼業」で指導するケースだ。地域の実情を考慮し、複数の選択肢を組み合わせて部活を刷新することが期待されている。生徒がスポーツに親しむ機会を確保するためには課題もある。これまで部活は教員の献身に支えられてきた。地域移行により、保護者は従来よりも高額な費用を負担することが予想される。経済的に困難な家庭への国や自治体の支援が欠かせない。そのためには曖昧だった部活の法的根拠を明確にすべきだ。学校教育法には部活を規定する条文がない。学習指導要領で、「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」と短く言及するが、実態とあまりにかけ離れている。例えば、学校外での教育について行政の役割を定めた社会教育法で、部活への支援などを明示したらどうか。地域移行を円滑に推進するには、法規に基づく透明性の高い制度設計が必要だ。

*2-4-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/b184970948b6e2a81acc848f79e4bcfaba230137 (静岡新聞 2022/4/30) 少年団や部活動の勝利至上主義、どう考える①【賛否万論】
 全日本柔道連盟(全柔連)が毎夏開催してきた全国小学生学年別柔道大会(個人戦)を今年から廃止すると発表しました。ロサンゼルス五輪金メダリストの山下泰裕会長が理由に挙げたのは「行き過ぎた勝利至上主義」に対する懸念でした。この決定に賛同の声が上がる一方、子どもたちの目標が突然失われ、保護者からは「廃止までする必要があるの?」という声も漏れてきます。他の競技団体、中学や高校の部活動でも勝利至上主義を巡る問題は尽きません。柔道界が鳴らした警鐘をどう受け止めますか。
■2年越しの夢かなわず
 「廃止を聞いた時は私も娘もショックでした。心が折れてしまった感じで…」。浜北柔道スポーツ少年団に通う大城星夢さん(6年)の母志帆さんは、全柔連の突然の決定に言葉を失ったという。娘の星夢さんは幼少の頃から柔道を続けてきた。努力が実り、昨年5年生の県大会で優勝。しかし、初出場となるはずだった全国大会はコロナ禍で中止になった。年が変わり、「さあ今年こそ」「絶対に全国に行こう」と家族で意気込んでいた直後に、大会廃止の知らせが届いた。全柔連が3月中旬に出した通知書には「心身の発達途上にあり、事理弁別の能力が十分ではない小学生が勝利至上主義に陥ることは好ましくない」とあった。競技の始祖・嘉納治五郎師範の「将来大いに伸びようと思うものは、目前の勝ち負けに重きをおいてはならぬ」という言葉も引用されていた。成長期の子どもに厳しい減量を強いる指導者がいるという話も、全柔連に入っていたという。娘の頑張りを見てきた志帆さんは笑いながらつぶやいた。「指導者や保護者がしっかりすれば、開催してあげられるのでは」
■体罰や鉄剤注射
 勝利至上主義に対する懸念は、他のアマチュア競技でもさまざまな形で表面化してきた。2012年、大阪府の高校バスケットボール部主将が顧問から繰り返し体罰を受けて自殺。この事件をきっかけに全国各地で次々と体罰問題が浮上した。全国の陸上長距離の強豪校では、貧血治療用の鉄剤注射が不適切に使用されていたことが問題に。古くは1992年全国高校野球選手権で、プロ注目打者だった松井秀喜さん(元ヤンキース)が5打席全て四球で歩かされ、相手の敬遠策に賛否が巻き起こった。保護者の過度な関わりも、多くの競技団体に共通する悩みだ。勝利を期待するあまり、わが子に乱暴な言葉を浴びせ、審判団にクレームをつける父母は少なくない。星夢さんが通う同少年団の指導者で、県スポーツ少年団指導者協議会の一瀬誠理事は「力のある子どもたちにとっては残念な話だが、現状では悪影響の方が大きい。一度仕切り直しが必要だった」と全柔連の決定に理解を示す。全柔連事務局の話 試合や大会は学校のテストと同じで「自分は何ができて、何ができないか」が分かるもの。全てを否定するわけではない。ただ小学生年代は基礎を身に付けることが大切で、勝利が全てになってはいけない。ナンバーワンを決める大会ではなく、別の形を探っていきたい。日本柔道界の将来的な強化にもつながると考えている。
■目標失う/問題は大人 他競技指導者の思い
 子どもにとって県大会や全国大会は大きな目標だ。スポーツ庁が2017年度に実施した運動部実態調査で、「部活動に所属している最大の目的」について中学生や高校生に聞いたところ、「大会・コンクール等で良い成績を収める」を選んだ生徒が最も多かった。柔道界の決定を、他競技の指導者はどう捉えているか。県西部地区の剣道指導者(49)は「廃止にしなくてもよかったのでは。原因は子どもたちではなく、よからぬ指導をする大人にある」と指摘し、「指導者向けの対策をしっかりしていく必要があるのでは」と話した。静岡市の少年サッカーチームの指導者(55)は、コロナ禍によるさまざまなスポーツ大会の中止で競技力低下が危ぶまれることに触れ、「緊張感のある試合を経験するかしないかで、今後の成長スピードが違ってくる」と大会の重要性を強調。「手段を選ばず勝利を目指すのは論外。指導者が子どもたちに丁寧にアプローチできているかが大事だ」と語る。
■送りバント 分かれる是非
 「チームの勝利のために、子どもに送りバントをさせるのは是か非か」-。少年野球の指導者や保護者の間で長く意見が交わされてきたテーマだ。「勝つことは楽しさにつながる。チームワークも学べる。バントを成功させた時にしっかり褒めてあげれば」という考えもあれば、一部には「野球の楽しさを知ってもらうために、小学生時代はどんな場面でもフルスイングしてほしい」という意見もある。サッカー界では「世界で勝つためにはマリーシア(ずる賢さ)が必要」と言われる。高校年代では、勝っているチームの選手が足を痛めた振りをして時間稼ぎをしたりする場面を目にする。勝利を目指したプレーや駆け引きを、どこまで子どもに求めるか。線引きは難しい。
■団員減少 目的食い違いも
 スポーツ少年団の登録団員数の減少に歯止めがかからない。県スポーツ協会によると、1994年に4万1579人だった団員数は、2020年には2万264人と半減した。原因は少子化や習い事の多様化だけでなく、指導者の暴言や厳しい長時間練習などもあると指摘される。チームに強さを求めるか、楽しさを求めるかで保護者同士でも考えが食い違い、子どもがやめていくケースもあるという。日本スポーツ少年団は「対外試合は団員の自己研鑽(けんさん)や全体の活性化に結びつく大切なもの」としつつ、「勝利至上主義の過度な活動に陥ったり、健全な発育を阻害したりするものであってはいけない」と呼び掛けている。

<人材を育てるべき教育>
*3-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220502&ng=DGKKZO60477280S2A500C2MM8000 (日経新聞 2022.5.2) 揺らぐ人材立国(1)「低学歴国」ニッポン、博士減、研究衰退30年 産学官で意識改革を
 教育で人を育て国を立てる。日本の近代化と経済成長を支えた「人材立国」のモデルが揺らいでいる。成長に必要な人材の資質が変わったのに、改革を怠るうちに世界との差は開いた。教育の機能不全を招いた岩盤に迫る。「Ph・D(博士)が活躍する職場をつくりたい」。フリーマーケットアプリ大手のメルカリは今年から国内の大学院博士課程に社員を送り出す。研究職の社員以外も対象で、原則3年間の学費を支給。時短勤務や休職を認め、仕事と研究の両立に道をひらく。テーマは同社に有益で、経済発展や社会課題の解決につながるなら何でも可。6月までに5人程度を選ぶ。マネジャーの多湖真琴さんは「企業で働く博士のロールモデルにしたい」と意気込む。
●産業革新の源泉
 大学院教育を通じた人材の高度化に経済界が期待を寄せ始めた。世界はとうに博士が産業革新をけん引する時代に移っている。山口栄一・京都大名誉教授らによると、米国では革新的なベンチャーを政府が支援するSBIR制度で、対象企業の代表者の74%が博士号を持つ。経営共創基盤の冨山和彦グループ会長は米国の大学院について「今は存在しない仮説を立て、検証して一般的通用性を証明する。米国でPh・Dを取るまでの知的訓練は破壊的イノベーションそのもの」と強調する。大学教育が普及し、教育水準が高い――。そんなニッポン像は幻想で、先進国の中では「低学歴国」となりつつある。文部科学省科学技術・学術政策研究所によると、日本は人口100万人当たりの博士号取得者数で米英独韓4カ国を大きく下回る。減少は中国も加えた6カ国中、日本だけだ。2007年に276人いた米国での博士号取得者も17年は117人に減少。国別順位は21位だ。注目度の高い科学論文数の国際順位は1990年代前半までの世界3位が2018年は10位に落ちた。同じ平成の30年間に産業競争力も低落。イノベーションの担い手を育てる仕組みの弱さが産学の地盤沈下を招いた。根っこには大学院への評価の低さがある。どの大学に合格したかが企業の採用基準になる社会では、学びは学部に入った時点で終わり。研究を志す学生だけが集う大学院の魅力が高まるはずはなかった。過剰な学歴批判や、学問より社会経験を重視する一種の「反知性主義」も大学院軽視の岩盤を強固にした。危機感は広がる。中央教育審議会の渡辺光一郎会長(第一生命ホールディングス会長)は「私の世代までは学部卒でも何とか堪えられた。これからは違う。大学も企業も変わり、仕事と学びの好循環を実現すべきだ」と語る。その芽はある。
●文系も脱皮必要
 早稲田大を幹事校とする国公私立の13大学が18年に始めた「パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム」。大学に限らず、企業などで脱炭素を含むエネルギー分野の革新に貢献できる博士を育てる。各大学の学部からの進学者に加え、大手商社や電力会社の社員も参加。企業実習やビジネスアイデアを練る演習を通じて磨き合う。統括する林泰弘早大教授は「交渉力やマネジメント力も備えた世界で戦える博士を輩出したい」と意気込む。文系の大学院も教授の後継者を育てる場から脱皮する必要がある。関西学院大の村田治学長は「学問で身につく大局観や学び続ける習慣、科学的に人を説得する技術は経営者になる訓練として有効だ」と指摘。教員の意識改革を求める。最大の課題は岩盤を砕くドリルが見えないことだ。文科省は義務教育の管理官庁の性格が強く、高等教育政策の司令塔としての存在感は薄い。多くの企業も院卒採用のノウハウがなく大胆な一歩を踏み出せずにいる。産学官が連携してビジョンを描き、実行することなしに危機は脱せない。

*3-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220511&ng=DGKKZO60645020Q2A510C2CT0000 (日経新聞 2022.5.1) (揺らぐ人材立国)博士活躍へ産学変われ、中央教育審議会会長・渡辺光一郎氏(わたなべ・こういちろう 1976年東北大経卒。2010年第一生命保険社長、16年第一生命ホールディングス社長、17年会長。同年、中央教育審議会委員となり19年に会長就任)
 日本の近代化と経済成長を支えた「人材立国」のモデルが揺らいでいる。教育の機能不全を招いた岩盤を砕くには何が必要か、有識者にインタビューした。中央教育審議会会長を務める渡辺光一郎第一生命ホールディングス会長が指摘したのは、高度人材育成の期待が高まる大学院の課題だ。
―平成の30年間に企業の競争力と大学の研究力が同時に落ちました。
 「ものづくり・大量生産型の社会が情報化・グローバル化した社会へと変わる段階で産学がともに出遅れたのが大きい。同じ時期、米国は大学発を含むスタートアップの育成に大投資した」「これからは知識集約型のソサエティー5.0(超スマート社会)だ。イノベーションと価値創造が行方を左右する。産学連携と合わせて大学院を強化する必要がある」「博士課程進学率の低下が止まらず、主要国で博士号取得者が減少しているのは日本だけだ。政府の強化策が出始めたのはよいが、国際的にはまだまだ劣後している」
―大学院教育に求められるものは。
 「専門的知識というプロの軸と、幅広い横断的知識を併せ持つT字型の人材を育ててほしい。リカレント教育(社会人の学び直し)も弱い。工学や理学分野のプログラムは意外に少ないし、社会実装につながる広がり、企業が望む先端性も乏しい。企業と大学の間で教育内容を詰めていく必要がある」
―日本は企業も博士人材を評価・活用してきませんでした。
 「学歴を問わない実力主義が会社を活性化するという考え方が非常に強かった。大量生産の時代は、自社に親和的な人材を社内教育で育てる制度が日本の強みでもあった。それゆえ企業は修士、博士をあまり採らず、給与も学部卒と明確な差をつけなかった」
―もっと企業やその経営層に博士人材が入っていくべきでは。
 「理系の博士課程修了者の就職先をみると日本は4割弱が企業。米国は6割が企業に就職する。経営者も米国は7割が院卒だが日本は15%だ。自社がグローバル展開して初めて、その差に気づく。私たちの世代までは経営者が学部卒でも何とか堪えられたが、これからは違う」「従来の日本企業はゼネラリストが基本で、ごく一部にプロフェッショナルがいる形だった。今後はT字型人材のプロがぶつかり合いながらイノベーションを起こし、その中からリーダー層が育っていくような形になるのではないか」
―大学院教育への評価を高めるには。
 「全体構造を変える。産学がともに変わるべきだ。企業の採用制度も複線化・多様化が進み始めている。リカレント教育を通じた学びと仕事の好循環をつくり、人材の流動性を高めるべきだ」

*3-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220505&ng=DGKKZO60520540V00C22A5MM8000 (日経新聞 2022.5.5) 揺らぐ人材立国(4)「合格歴競争」格差を再生産、難関突破、親の経済力次第
 2月1日、私立中学の最難関、開成中(東京・荒川)の入試会場に向かう受験生を小4男児と父母が見つめていた。2年後の本番に向けた「見学」という。小1からの塾通いに月10万円かける母親(41)は「東京大に受かるためなら高くない」と言い切る。慶応義塾を創始した福沢諭吉が「門閥制度は親の敵(かたき)」と訴えたように、日本の近代教育は身分に関係なく有為な人材を育てる目的で始まった。学校は平等な機会を開く装置とされた。
●塾のため塾通い
 100年以上がたった現在、学校は格差構造を再生産する装置になっている。多額の塾代をかけないと難関大合格がおぼつかない現実がそれを物語る。過熱する中学受験では、有名塾の指導についていくため別の塾に通う子も出てきた。塾代は小4からの3年間で500万円を超すこともある。中学合格で終わりではない。東大受験指導で有名な塾は難関中合格直後の親子に「大学受験の準備は早ければ早いほど有利」とさらなる"投資"を促す。結果は明確に表れる。東大合格者は私立中高一貫校の卒業生が多数を占め、学生の54%は年収950万円超の家庭出身だ。少子化と大学増で「受験地獄」は死語となり、えり好みしなければ誰もが大学に入れる時代になった。大学入学後に燃え尽きて無気力になるなどハードな受験勉強はリスクもある。それでも難関大を目指す「合格歴競争」はやまない。耳塚寛明・青山学院大特任教授(教育社会学)は「学歴くらいしか努力で手に入るものがないからだろう。ただし出身家庭による不平等は大きい」と話す。
●米分断の一因に
 子どもの貧困率が約3割と全国平均の2倍近い沖縄県。全国学力テストの成績が全国最低水準に沈んでいたのを受け2013年から小中学校での放課後補習を進めた。21年度の正答率は小学校国語で全国平均を上回るなど改善している。しかし多額の費用がかかる大学進学は別だ。同県の21年の大学などへの進学率は41%と全国最下位で、1位の京都府とは29ポイント差がつく。学力向上を主導した諸見里明・元県教育長は「家庭環境の差を埋めるのは簡単でない」と語る。取り残された側の不満は強い。米ハーバード大のマイケル・サンデル教授は、米国では恵まれた境遇で育ち難関大に入った「能力主義的エリート」が特権を享受し、敗れた層を見下していると指摘。軽んじられた人々の怒りが米社会の深刻な分断を生んだとする。日本も無縁ではない。国立教育政策研究所は19年、高校生がいる世帯の進路希望を調べた。すると年収が高いほど学費の安い国公立大を志望する割合が高い傾向がみられた。年収の少ない世帯が教育機会も狭められるようでは分断が広がる可能性がある。似た環境で育った「エリート」だけでは複雑化する社会のかじ取りは難しい。格差を研究する橋本健二・早稲田大教授は「弱者の側で物事を考えられる人材を育てなければならない」と話す。平等な機会の提供と有為な人材の育成という役割を果たせるか。学校が問われている。

*3-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220521&ng=DGKKZO61004950R20C22A5CT0000 (日経新聞 2022.5.21) (揺らぐ人材立国)親の所得で学力差対策を 青山学院大特任教授・耳塚寛明氏
出身家庭の経済力や文化的環境によって学力差が生まれ、難関大への進学状況にも差が出る構図が鮮明になっている。学力格差の研究をしてきた青山学院大の耳塚寛明特任教授に原因や打開策を聞いた。
―子どもの学力差が生じる原因は何でしょうか。
「学力に影響を及ぼす最大の要因は学習時間でも指導方法でもなく、親の所得や学歴などの水準ということがデータの分析で分かってきた。この水準を示すのがSES(社会経済的地位)と呼ぶ指標で、文部科学省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)ではSESが低い家庭の子どもほど学力が低い傾向がみられる」
―具体的にはどのようなことが分かりますか。
「SESと小学6年の学校外での学習時間、全国学テの正答率の関係が典型的だ。最もSESが低いグループが1日に3時間以上勉強した場合でも、全国学テの平均正答率は、最も高いグループが全く勉強しない場合よりも低かった。勉強時間の長短だけでは家庭のSESによる差を覆すのは難しいことを示している」「勉強の仕方という問題もあるが、幼少期からの幅広い体験の差が影響しているのだろう。都心の貧困世帯では自然体験も少なく、文化的体験も制約がある。学力が出身家庭によって制約を受けるのは大きな問題であり、見直す必要がある」
―学校は学力差の解消に役立っていないのでしょうか。
「学校は『偉大なる平等化装置』という考え方がある。学校に通うことで生まれにかかわらず高い地位を得られるというものだ。身分制の下では一部の人の能力しか活用できなかったが、より多くの人々の力を社会の発展に生かせるようになった」「学歴によって地位が決まることは本来、望ましいことだ。学歴くらいしか努力によって獲得できそうなものがないからだ。しかし現在は出身家庭による不平等が大きく、それが問題になっている。低所得世帯の子は進学が困難になり、地位上昇の機会が奪われる悪循環になる」
―人材育成の面ではどんな影響がありますか。
「難関校に一部の限定的な階層の子が集まるだけでは、子どもが異質なものに触れ合う機会がなくなる。学校は社会の縮図といわれてきたように、色々な人が学校に集まり、多様な価値観にもまれる体験ができる方が人間形成によいことは明らかだ」
―学校や行政はどう対応すべきでしょうか。
「抜本的な改革が難しくても、少しずつ改善策をとっていく必要がある。困窮家庭への経済的援助や、塾に通えない子どもに対する学校での補習の拡充など、格差の是正に向けた支援を強化すべきだ」

*3-2-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/865075 (佐賀新聞 2022/6/4) 佐賀県立中高、通学区域を廃止 2023年度から佐賀県教委「学校選び自由に」
 東西2学区が設けられている佐賀県立中学、高校の普通科の通学区域が2023年度からなくなり、「全県1区」になる。県教育委員会は3日、関連規則の廃止を決めた。学区外からの受験は合格枠に一定の制限があったが、今後は地域を問わず同じ条件になり、県教委は「住んでいる市町に制限されず、進路希望に応じて主体的に学校を選択できる」としている。県内の通学区域は、15年度まで東部、中部、北部、西部の4学区に分かれ、16年度から東部と西部の2学区に統合した。これまでも学区が異なる県立中高は受験できたが、学区外からの入学者は募集定員の20%以内としており、学区内の合格者を上回る入試結果でも不合格となるケースが生じる枠組みだった。普通科以外の専門学科や総合学科、太良高と厳木高の全県募集枠などは、従来から「全県1区」で受け入れている。県教委は学校独自の特色を引き出す「唯一無二」の学校づくりを21年度から提唱し、22年度は県立高にコーディネーターを配置するなど取り組みを支援している。「普通科の学校も含めて特色づくりを進めている。受験生が魅力を感じる学校を自由に選べるようにしたい」と通学区域廃止の狙いを説明する。通学区域は、特定の高校への生徒集中を避けたり、地元生徒受け入れを一定程度担保するなどの機能を持っていたが、廃止によって特定の高校に志望が偏る可能性もある。県教委は「引き続きデータを集め、状況を注視していきたい」としている。通学区域の廃止は来春の入試から適用される。試験は県立高の特別選抜が23年2月8日、一般選抜が3月7、8日、県立中は1月14日。

*3-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15308773.html (朝日新聞社説 2022年5月29日) 本件、私は読売に同感です 黒沢大陸
 科学社説担当だけどコンピューターに詳しくない。スマホ利用は極力減らしてネット浸りを避けたい。こんなアナログ人間だからデジタル教科書導入に違和感を持っている。特に気になるのは学習効果だ。経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査では、デジタルより紙に親しむ生徒の方が読解力が高かった。紙の方が、記憶や読解の効果が高いとする研究も複数ある。デジタルの方が、理解が深まることもあるだろう。立体図形の把握は回転する動画を見ればわかりやすそうだ。それは教科書でなくとも教材で足りるだろう。文部科学省は2024年度の本格導入に向け、全小中学校への提供を始めた。子どもに影響が大きい政策。効果と弊害の検証を深めてからでは遅いのか。本格導入を求めた有識者会議の中間提言に対するパブリックコメント(意見募集)が昨年あった。310件の意見があったが、文科省が公表したのは主な意見とそれに対する考え方を簡単にまとめた資料だった。全件の内容を担当課に求めたら「パブコメは普通全部は公表しない」と断られた。それは違う。公開例はある。隠されると調べたくなるのが記者、情報公開請求した。すると一転して「情報公開でなく、任意で提供する」と連絡が来た。届いた資料には、賛否問わず熱心な注文や指摘が書き込まれていた。学習効果に否定的な研究を示した意見、公表資料にはない「メリットばかりが強調」「課題の検証を後回し」との表現も目に付いた。ただ、文科省が神経質になるような内容とは思えなかった。デジタル教科書について弊紙は昨年3月の社説で、教育格差の発生や拡大などの課題を指摘しつつ、「国は前向きに取り組んでほしい」と主張した。着任前だったので、担当者に当時の論説委員室での議論を尋ねると、慎重論もあったが、推進論が多かったそうだ。一方、読売新聞は今年4月に「紙を補助する活用法が有効だ」とする社説を載せた。これまでも慎重な対応を求める社説を繰り返し掲載、教育効果に疑問も投げかけ、関連記事も多い。意見を異にすることが多い新聞だが、本件については、同感してしまう。

<外国人労働者>
*4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15308790.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞社説 2022年5月29日) (多民社会)福祉人材、奪い合う先進国 供給国のフィリピン、看護師不足
 新型コロナウイルスの感染拡大などを機に、医療・福祉分野の人材をめぐるグローバルな獲得競争が激しさを増している。なかでも若者が多い東南アジアが、高齢化が進む先進国にとっての人材の供給地になっている。「日本でお金を稼いで3人の妹たちを大学に行かせてやりたい」。フィリピン南部ダバオ出身のポール・ジュン・サロデスさん(22)は6日、東京都西東京市の病院で介護職員として働くために、空路で日本に向かった。ダバオの最低賃金は月1万ペソ(約2万5千円)ほど。日本では5~6倍の収入が見込めるという。介護を仕事に選んだのは、5年前に亡くなった祖母の食事や入浴を自宅で介助した経験があったからだ。ダバオの空港で出発を待つ間、故郷を離れる寂しさと同時に日本で働ける喜びを感じたという。「日本は清潔で便利な国のイメージがあり、子どもの頃から行ってみたかった」。介護に関する「特定技能」の在留資格を得ており、日本での滞在期間は最長で5年。その間に介護福祉士の国家試験に合格すれば、何度でも在留資格を更新でき、家族も呼び寄せられる。「国家資格を取って高齢の両親を招き、日本に住み続けたい」。サロデスさんの日本への渡航は、東南アジア4カ国で介護分野の特定技能の人材育成と紹介事業を展開する「オノデラ・ユーザー・ラン」(OUR、東京都千代田区)が手がけた。対象は18~25歳の若者。無償で授業を実施し、日本への渡航時にも手数料を徴収しない。日本側の受け入れ企業や施設が支払う紹介料でまかなう仕組みだ。OURが学生の負担を無償化したのは、技能実習制度をめぐり、実習生にのしかかる手数料の高さが問題になってきたからだ。この制度では最大の送り出し国であるベトナムを中心に、実習生が「送り出し機関」と呼ばれる現地の人材派遣会社に100万円前後の手数料を支払うことが常態化している。OURは今年4月、コロナ前まで5カ所に分散していたダバオの教育拠点を1カ所に集約した。中高一貫の私立学校を改装した建物で定員は700人。介護の実習室に加えて学生が寝泊まりできる寮も整備した。現地責任者のプレシー・アルダニさん(43)は「フィリピンから近くて給料が高い出稼ぎ先として日本が認知されている」と手応えを口にする。ただ、フィリピンの人材が向かう先は日本だけではない。フィリピン人看護師のアンジェリカ・ラマノーさん(29)は2020年11月、6年間勤めたマニラの病院を辞め、英イングランド中部の病院に移った。マニラの病院ではコロナ禍で看護師や医師が相次いで死亡し、医療スタッフの不足が深刻になった。外国に出稼ぎに行こうと決め、条件が良いと思った英国を選んだ。フィリピンでは英語が公用語で言葉の壁も低い。一定の英語力があれば、仲介業者の手配ですぐに現地に渡航できる。英国で看護師として働き始めて1年半。今は高齢の患者を担当する部門に所属している。同僚の多くはフィリピンやインド、アフリカの出身者だ。給料は5倍になり、故郷の家族にも仕送りができている。あと数年働けば認められる国籍の取得も検討している。国際看護師協会(本部・スイス)が1月に発表した報告書によると、コロナ禍で世界的に看護師不足が加速し、先進国は外国から看護師を引き抜くことに力を入れ始めた。オーストラリアは政府が飛行機代などを補助。英国では21年4~9月に外国から来た看護師の登録が1万人を超え、19年の同時期の約2倍に上った。フィンランドなど外国からの雇用に慎重だった国も拡大を検討している。そうした先進国への最大の看護師の供給国となっているフィリピンでは、国内の看護師が足りない。フィリピン病院協会の副会長ブー・カストロさん(64)によると、私立病院を中心に100人単位で看護師が足りない施設もあるという。「集中治療室の担当など技術と経験のある看護師が引き抜かれている」と嘆く。マニラ首都圏ケソンにあるアジア・トリニティ大学看護学部4年生のフランシス・ヨセフ・バレリアーノさん(22)は6月に卒業を控える。いつか、フィリピンの貧しい家の子どもたちが病院できちんと診てもらえる仕組みをつくりたい。その夢をかなえるため、「看護師でも高収入が得られる米国」に渡り、経験を積むつもりだ。
■「移民受け入れ国」日本 2040年には600万人超が定着、推計
 新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きつつある今、日本は海外からの労働力に熱い視線を送っている。急激な人口減少に直面し、「働く世代」が減り続けているからだ。コロナ禍により、政府は外国人の新規入国を厳しく制限してきたが、中期的には、海外からの労働力は増え続けている。出入国在留管理庁などによると、コロナ禍前の19年には、技能実習生が約17万人、専門的な技術や知識を有するハイスキル層が約6万人など計約54万人が来日した。出国を差し引いた純増は、2000年代の年5万人程度から、19年には年20万人超に急増している。日本政府は、永住を前提とした移民は受け入れないと言い続けてきた。その言葉と裏腹に、在留外国人の約3割に当たる80万人超が永住資格を持っており、日本は事実上の「移民受け入れ国」だ。とはいえ、低成長が続く日本に、これからも働き手が来るのだろうか。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の是川夕・国際関係部長は、各国の「労働力送り出し力」が、経済成長などによってどう変わるかを調べた。研究では、1人あたりの国内総生産(GDP)が高い国の労働者ほど、日本を選ぶ傾向があった。さらに高学歴であるほど日本や米国、豪州といった先進国を希望していた。これらの傾向から将来を見通すと、どうなるか。是川氏が国際協力機構(JICA)の依頼を受け、アジア各国が日本に移民を送り出す潜在的可能性を推計したところ、18年後の40年には600万人以上が日本に定着する可能性があるという結果になった。JICAはその上で、日本側がどれほど外国からの労働力を必要とするかも推計。日本の経済成長率の目標を政府が目指す年1・24%とした場合、40年には600万人台の外国人労働力が必要になるとした。一方、成長率を年1%とした場合は、現状と同じ約170万人にとどまるという。
■受け入れの可否、選択を 国立社会保障・人口問題研究所、是川夕・国際関係部長
 いまアジアは、世界の中で人の移動が最も活発な地域で、移民送り出しの中心地といえる。その域内にあり、就労のために入国、在留しやすい政策を採っている日本は、アジア各国の人々にとって目指しやすい国となっている。ベトナムや中国といったアジア各国の過去の送り出し実績や、行きたい国の希望などから推計したところ、今後、アジアが少子高齢化し、日本との経済格差が小さくなったとしても、日本を目指す移民は増え続けそうだ。アジア各国が豊かになって中間層が増えると、さらによい生活を求めて国外を目指す若い人たちが増えることもわかってきた。日本が長年にわたって低成長となった場合、海外からの労働力は現状で十分という需要側の推計もある。だが、労働力を確保できれば経済成長が可能になるという関係も成り立つ。日本を目指す移民が今後も増えるなら、それを受け入れ続けるかどうかは、日本人自身が選択しないといけない。この国の将来をどう描くのか、選ぶのは私たち自身である。

*4-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15309009.html (朝日新聞社説 2022年5月30日) 技能実習制度 政治の責任で見直せ
 トヨタ自動車など大手企業8社が共同して、外国人労働者を支援する事業を始めた。取引先も含め、職場での権利侵害などの相談を受け付け、実態の把握と解決をめざすという。多くの外国人が劣悪な条件で働かされているとの指摘は絶えず、国際問題にもなっている。改善を急がねばならない。なかでも厳しい状況下にあるのが、勤務先を変更する自由がない技能実習生だ。岡山市内の建設会社で働いていたベトナム国籍の男性の実習生が、同僚から暴行を受けたと訴えたケースで、先日示談が成立した。会社と、男性を同社に紹介した機関(監理団体)が謝罪し、示談金を支払った。隣の広島県福山市で活動する労働組合が男性を支えた。暴力をふるわれた様子を記録した動画を入手して会社と交渉し、世間にもその非道を訴えた。安全基準違反や違法残業、賃金の未払い、パワハラなど、実習生の心身を傷つける行為が相次ぐなか、労組が救済に貢献した例は他にもある。自治体、弁護士会、そして現状に危機感をもつ使用者側とも連携して、取り組みを強化してほしい。5年前に設立された認可法人の外国人技能実習機構が事業者などの指導監督にあたるが、20年だけで5700余の労働基準法令違反があった。また、実習生に生活上の支援をするはずの監理団体が、今回のように役割を果たさない例がしばしば報告され、許可取り消しも続く。さらに同機構をめぐっても、地域の労組に加入したベトナム人女性3人に対し、仙台事務所の職員が脱退を促すメールを送っていたことが判明。先月、後藤茂之厚生労働相が国会で遺憾の意を表明した。社会を支える働き手として外国人を正当に遇し、その生活や人権を守る意識があるのか。事業者、監理団体、機構それぞれが問われる事態だ。技能を身につけて母国に帰ってもらうことを目的に掲げながら、現実は安い労働力を確保する手段になっている技能実習制度は速やかに廃止すべきだと、社説は主張してきた。19年には、転籍や一定の条件下で家族の帯同を認める「特定技能制度」が導入された。ところが受け入れ人数は3月時点で約6万4千人と、技能実習生の4分の1に満たず、かつ新制度の下で働く人からも、職場の環境や処遇に関してこれまでと同様の苦情が出ている。技能実習と特定技能。二つの制度のあり方を検討するため、今年初め、法相の下に勉強会が設けられた。待ったなしの課題と認識し、政治の責任でこの異常事態に終止符を打つべきだ。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220511&ng=DGKKZO60624090Q2A510C2TCR000 (日経新聞 2022.5.11) 「優しい鎖国」の見えない損失 上級論説委員 菅野幹雄
 「日本は今後とも世界に対してオープンです。ぜひ日本にお越しください。最大限のおもてなしをいたします」5日、ロンドンの金融街でこう訴えた岸田文雄首相の発言に違和感を覚えたのは、筆者だけではないだろう。日本は外国人観光客の入国を認めない事実上の鎖国ともいえる政策を敷いている。首相は水際措置を「6月には」欧米並みに緩和すると述べたが、入国者数などの制約は徐々にしか緩めないようだ。ぜひ日本に行きたくても、入れてもらえない実態はなかなか変わらないのではないか。新型コロナウイルスのオミクロン型の流入を止めようと日本は2021年11月30日に全世界からの外国人の新規入国を停止した。未知の脅威を水際で食い止める措置は当初はやむを得ないとしても、その意味が薄れた段階で機敏な見直しが必要だった。世界保健機関(WHO)は22年1月に渡航制限が「効果的でない」と日本などに緩和を促したが、「主要7カ国(G7)で最も厳しい」と水際対策を誇示した首相の動きは鈍かった。ワクチン接種者への隔離義務などを緩め、4月に入国者数の上限を1日1万人に引き上げたが、再開の出遅れは著しい。国内にも海外にも優しい顔をしようとする日本の代償は大きい。米テキサス州にあるサザンメソジスト大学の武内宏樹准教授は約20人の学生を日本に送る今夏のプログラムを断念し、英国に切り替えた。日本政府は限定的に外国人留学生を受け入れる方針を示したが「決定が遅すぎ、受け入れ数が少なすぎ」で、準備が間に合わなかった。「今夏、日本に学生を送る米国の大学はおそらくないだろう」と語る。「日本からの学生はもう受け入れない」「来年は米国から送る交換留学生を2倍にしてほしい」……。日米の大学間の交換留学制度でもこうした声が日本側に届き始めているという。米国側だけが日本の留学生を受け入れて一方的に財政負担をかぶる構図となり、不満が蓄積している。「今後1年、2年したら状況は戻るだろう、という発想は学生の立場を全く分かっていない」。武内氏はこう指摘する。1月に同氏など米国の研究者らが首相に嘆願書を出したが、政府の反応は鈍かった。日本に関心を持つ米学生の機会を奪い、学術交流にも長期的な支障が生じる。数値に出ないが、甚大な損失だ。外国人がビジネスで新規入国するには日本の企業などが「受け入れ責任者」として厚生労働省のシステムにオンライン申請し、入国者が出発前に日本大使館などでビザを取らねばならない。国内での行動制限がなくなる中で、外国人に多大な事務負担を強いる必要がどこまであるのか。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「19年に日本のインバウンド消費は4.8兆円あった。国内の需要はなかなか高まらないので、海外需要の助けが必要だ」と語り、政策の再構築が欠かせないと説く。円安・ドル高が進み、外国人の潜在的な購買力は高まった。本来なら日本への観光でインバウンドの消費や投資が点火する局面だが、日本は意図的にそれを止めてきた。4月に4年間の米国赴任から戻り、東京の街を歩いて、2つ気づいたことがある。まず、外国人の姿を本当に見かけなくなった。人口の高齢化と相まって、街の活気が一段と衰えたように感じる。もうひとつはマスクだ。混雑した電車の中や店舗、オフィスで感染防止の対策を取るのは重要だが、日本では他人と十分な距離がとれる路上や公園ですらマスクを外すことは許されない空気がある。米国では屋外でマスクをする人はまばらで、着用の義務はごく一部の施設に限られる。3年越しで外国との接触を断たれた日本の人々が、外国人の入国に一定の警戒感を抱くのは無理もない。だが、現状維持に安住する鎖国政策を敷いた日本のソフトパワーの衰えは、国の将来に深い爪痕を残しつつある。地位の挽回には国民に長期的な視野での国益を説き、果断に動くことが必要だ。「開かれた国」を語る岸田首相にどこまでの覚悟があるか。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220609&ng=DGKKZO61561210Z00C22A6MM8000 (日経新聞 2022.6.9) 定住外国人「正社員」に壁 昇給遅い非正規、日本人の倍、生活描けず来日敬遠も
 長く日本で働きながら正社員になれない外国人が多いことが、国の賃金構造基本統計調査を分析して分かった。外国人は勤続5年以上でも非正社員が36%を占め、国内全体の2倍を超す。正社員を新卒中心に採用する雇用慣行が、社会人で来日し中途入社することが多い外国人に不利との指摘もある。定住外国人すら活躍しづらい実態は、海外の人材が日本を敬遠する要因となりかねない。契約社員や嘱託などの非正社員は正社員より昇給しにくく、生活が安定しない。新型コロナウイルス対策の入国制限が緩和され、外国人材の来日が拡大する中、働きながら日本語やスキルを磨けて正社員になりやすい環境の整備が求められる。厚生労働省によると国内の外国人労働者は約172万人。約4万9千事業所が回答した2021年の同調査で、フルタイムの外国人労働者の47%が非正社員だった。「技能実習」など在留の短い人が含まれない勤続5~9年でも36%が非正社員。同じ勤続期間で日本人を含む全体は16%だった。正社員になれるかが賃金水準の分かれ目となる。勤続10年以上の外国人正社員の1カ月換算の給与(賞与など含む)は53万9千円で、勤続1~2年の2.2倍だった。非正社員は同様の比較で1.5倍にとどまる。非正規の多さを背景に、外国人の約9割は所定内給与が全体の平均(30万7千円)を下回った。約30年前にブラジルから来日した男性(63)は派遣社員として数十の職場を転々とした。自動車メーカーの正社員採用では「漢字が苦手では雇えない」と断られた。今は手取りで月15万円程度。自宅のローン約1400万円の支払いに悩む。新卒入社なら外国人と日本人の待遇は変わらない可能性が高いとの指摘もある。国立社会保障・人口問題研究所の是川夕国際関係部長は19~20年調査の個票を分析。大卒の専門職や技術者らが対象の在留資格「技術・人文知識・国際業務」の20代では、日本人と統計学的に有意な賃金格差はみられなかった。是川部長は「一括採用や長期雇用を前提とする日本企業の賃金体系は、処遇面で外国人に不利になりやすい」と話す。契約、派遣社員の外国人は景気後退で職を失いやすい。厚労省によると、新型コロナの影響が深刻化した20年6月、ハローワークで外国人の新規求職者は前年同月比1.89倍に上昇。日本人の1.15倍を大きく上回った。企業は日本語力を重視するが、働きながら学ぶ機会は乏しい。文化庁によると、全国の約1900市区町村(行政区含む)で日本語教室が設置されているのは約4割だ。武蔵大のアンジェロ・イシ教授(国際社会学)は「来日前の学歴や職歴は評価されにくく非正規採用の外国人を育てようという企業意識も薄い」と話す。低賃金で子どもの進学や老後に不安を抱く人は多い。働き手を確保し活力を生むには、女性や高齢者の就労拡大とともに海外の若者から選ばれる仕組みが不可欠だ。

<女性の教育と登用>
*5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD0418C004042022000000/ (日経新聞 2022年4月18日) 女性登用、バイアス除いて評価を 東大教授・山口慎太郎
 労働市場における女性の活躍が進む中、残る大きな課題の一つが管理職女性の少なさだ。先月25日に、厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査によると、部課長級の管理職に女性が占める割合は12%にすぎない。もっともこれは、日本特有ではない。女性管理職の少なさは先進国共通の課題なのだ。なぜ女性の管理職登用は進まないのか。管理職の労働時間が長く、夜間も休日も稼働することが前提となっており、女性がそうした職を避けがちであることは一因だ[注1]。したがって「働き方改革」は、女性の管理職登用を進めるうえで有効な施策といえる。人事評価において意識・無意識を問わずバイアスがあることも原因の一つだ。厄介なことに、昇進について評価を下す場面でこそ、こうしたバイアスが大きく悪さをすることが最新の研究で指摘されている[注2]。昇進の判断は人事評価の中でもとりわけ難しい。そもそも将来のことには不確実性が伴う。加えて、管理職に求められる能力は、一般社員に求められる能力と本質的に異なり、一般社員として有能な人物であっても、昇進後のポジションで活躍できるかどうかについては明らかではない。こうした理由で、恣意性が入り込む余地が特に大きい。一方、現在までの働きを評価することは、比較的容易だ。恣意性を完全に排除できるわけではないが、事前に設定した目標に対して、ある程度客観的に到達度を評価できる。米国のある大企業では、現在の働きについて最高の評価を受ける女性は男性よりも7%多かったにもかかわらず、女性の昇進率は男性に比べ14%も低かった。その原因は、将来性についての評価の違いだ。昇進には将来性の評価に重きが置かれるが、女性の将来性は男性よりも8%低く評価されていた。ところが、その後の仕事ぶりを追跡してみると、むしろ女性の方が高い評価を得ており、女性の将来性が過小評価されていたことが分かる。どうすれば公正に将来性を評価できるだろうか。ひとつの対策は、評価軸を事前に設定し、評価の根拠を求めることだ。また、立場の異なる複数の人物の評価を織り込むことも、恣意性の軽減につながる。誰もが無意識のバイアスと無縁ではない。それを自覚し、解決のために工夫を重ねることで、バイアスを減らすことができる。
※出典 [注1]Goldin, Claudia. 2014. "A Grand Gender Convergence: Its Last Chapter." American Economic Review, 104 (4): 1091-1119.
[注2]Benson, Alan, Danielle Li, and Kelly Shue. 2021. ""Potential" and the Gender Promotion Gap." Massachusetts Institute of Technology

*5-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15300573.html (朝日新聞 2022年5月21日) 男女賃金差、是正遅い日本 英仏独…既に開示ルール
 企業が従業員に支払う賃金は男性と女性とでどれぐらい差があるのか、政府が企業に開示を義務づける方向となった。日本は先進国の中でも男女の賃金差が大きい。開示義務づけによって格差の解消は進むのか。男性は33・7万円、女性は25・3万円。2021年の賃金の平均額(賃金構造基本統計調査)は、これだけの差がついた。年々その差は縮まっているものの、女性は男性の75%程度の水準にとどまる。女性は賃金の安い非正規労働で働く割合が高い、勤続年数が短いので正社員でも賃金が低い、管理職が少ない……。賃金格差の理由は、これまでさまざまに指摘されてきた。労働力調査などによると、役員をのぞく雇用者のうち、非正規労働者の割合は36・7%だが、女性に限ると53・6%にのぼる。勤続年数は男性の13・7年に対し女性は9・7年。管理職に占める女性の割合は13・2%と、3~4割の米国や英国、フランスなどと比べてかなり見劣りする。日本総研の山田久・副理事長は「諸外国でも男女間の賃金格差はあるが、日本では特に大きい。女性の勤続年数が短いことが要因の一つだ。結婚や育児によって退職するケースから、企業が『重要な仕事を期待しづらい』と考えていることも背景にある。医師など賃金が高い職種では、男性に比べて女性が少ないことも影響している」と話す。格差の是正策についても日本は後れをとってきた。金融庁の資料によると、フランスは従業員50人以上の企業に、男女の賃金格差とその解消に向けた方策をホームページで公表するよう求めている。英国は従業員250人を超える企業などに、賃金格差について詳しく明らかにするよう定めている。日本も1999年までは上場企業などに有価証券報告書で開示を義務づけていたが、連結決算を本格導入した際、企業の負担感もふまえて廃止された。ただ、近年は女性活躍に関する情報が投資の判断に使われるようにもなっている。賃金格差の開示の義務付けについて、経団連の十倉雅和会長は20日、「女性活躍に一生懸命取り組んでいる企業にとっては絶好のアピールポイント。全体の底上げにもなるのでいいことだと思う」と評価した。もっとも、単に開示しただけで格差が解消するわけではない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員は「義務化されても、『賃金格差の解消も女性のためだ』と考えるような企業では、おそらく格差は解消しない。『生産性の低い仕事に女性をつけていることで、人材を有効に活用できていない』と考える企業は改善が進むだろう」と話す。女性の労働問題に詳しい中野麻美弁護士はこう予測する。「男女間で賃金格差があることは、会社にとって名誉なことではない。格差が可視化されれば、その解消に向けて労使間の議論が進むのではないか」

*5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15300631.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2022年5月21日) 男女の賃金差、開示義務 首相表明 300人超雇用の企業
 岸田文雄首相は20日に開いた「新しい資本主義実現会議」で、企業に対し、男女間の賃金格差の開示を義務づけることを明らかにした。賃金格差を解消することで女性活躍を促し、首相が目指す「成長と分配の好循環」につなげる狙いだ。岸田氏は会議で「早急に女性活躍推進法の制度改正を実施し、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を開示することを義務化する」と述べた。この夏には制度を始められるよう準備を進めるという。開示を義務づける対象は常時雇用する労働者が301人以上の企業で、国内に約1万8千社ある。全社員における男女の賃金格差に加え、正社員・非正規社員それぞれにおける賃金格差も開示を求める。公表方法は、各社のホームページや厚生労働省の専用データベースなど、求職者が確認できるようにする。開示義務に違反し、労働局の指導にも従わないなどの悪質なケースは企業名を公表する。現在、女性活躍推進法では、女性労働者の割合など様々な項目から企業が1~2項目以上を選んで公表することを義務づけている。男女の賃金格差はその枠組みの中に、開示が必須な項目として盛り込む。今後は厚労省の審議会で議論したうえで省令を改正し、施行を目指す。政府は男女の賃金格差について、上場企業などが提出する有価証券報告書にも記載を義務付ける方針。内閣府令を改正し、早ければ2023年から適用する。政府の資料によると、正規・非正規のフルタイム労働者について、日本では女性賃金の中央値が男性賃金の中央値より22・5%低く、男女の格差は主要7カ国(G7)の中で最も大きくなっている。海外では、企業に対し男女別賃金の開示ルールを定めている国も多い。

*5-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220602&ng=DGKKZO61350970S2A600C2MM0000 (日経新聞 2022.6.2) 男女の賃金差、公務員も開示義務 政府、「女性版骨太」明記へ
 政府は男女の賃金差の公表を中央省庁や地方自治体にも義務づける方針を固めた。国家公務員や地方公務員の一部が対象となる。世界でも賃金差が大きい日本の現状を官公庁自ら把握し、改めるよう促す。男女の賃金差について政府は常時雇用301人以上の企業に義務づける方針を示している。官民で足並みをそろえて不当な待遇の格差の縮小に取り組む。内閣府を中心にまとめる女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)に盛り込む。3日に予定する政府の「すべての女性が輝く社会づくり本部」と「男女共同参画推進本部」の合同会議で示す。今夏以降に女性活躍推進法の内閣府令を改正する。具体的な公表対象は今後、地方側などと調整する。国の省庁、都道府県、市区町村の単位での公表を想定する。職員数で区分はせず、小規模な自治体も対象とする。
国家公務員は国会議員などを除く最大30万人程度を対象と見込む。

*5-2-4:https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/173377 (中国新聞社説 2022年6月7日) 男女賃金差公表 政府は是正へ本気出せ
 女性活躍推進策をまとめた政府の重点方針(女性版骨太の方針)に、男女の賃金差の公表を従業員300人超の企業に義務付ける施策が盛り込まれた。今夏、女性活躍推進法に基づく省令を改正する。全国で約1万7600社を見込む。こうした情報開示は国際的な潮流である。しかも他の先進国に比べて賃金差は大きく、遅過ぎるくらいだ。女性の力を生かせない企業は、若い世代に選ばれないとの危機感を持ちたい。昭和の時代の想定は通用しない―。政府は女性版骨太の方針で税制や社会保障制度の見直しや、根強い「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担の意識を変える必要性を強調した。賃金差の公表は、岸田文雄首相の看板政策「新しい資本主義」の実行計画案の中で数少ない新たな具体策だ。是正の実現に結びつくよう本気を出すべきだ。残業代などを除く給与の月額平均は2020年、男性の33万8800円に対し、女性は25万1900円と74%にとどまる。賃金差は先進国で共通の課題だが、日本は突出している。労働基準法は同じ条件で働いた場合の賃金差を禁じる。なぜ女性の平均賃金が低いかといえば、働く立場や処遇に差があるからだ。男性に比べ、賃金の低い非正規で働く割合が高い。正社員であっても勤続年数が短く、管理職はいまだ圧倒的に少ない。医師など高所得の専門職が少ないのも要因の一つだ。公表は男性の賃金に対する女性の賃金の割合に加え、正社員と非正規ごとの割合も求める。ホームページなどに載せる想定で、求職者や世間の視線を浴びることで努力を促す。詳細は厚生労働省の審議会で検討するという。施行直前の急ごしらえでは困る。計算方法やデータの出し方を速やかに示すべきだ。企業は賃金差の原因をよく分析してほしい。組織改革に生かすとともに、とりわけ意図しない格差に気を配りたい。役員や管理職に男性が多い現在、仕事のさせ方、評価、昇進の判断で偏りはないだろうか。客観的なデータを基に是正に努めたい。ここで思い出す。女性活躍推進法は15年に制定され、企業に女性採用比率、女性管理職比率、育休取得率など最低2項目の公表、行動計画の策定を義務付けた。指導的地位に占める女性の割合を「20年までに30%程度」の政府目標を後押しするはずが達成されず。目標は「20年代の可能な限り早期に30%程度」と、かなり後退している。目指した女性活躍と程遠い実態は、新型コロナウイルス禍で改めて浮き彫りになったのではないか。サービス業に多い非正規の女性たちが雇用調整で職を失い、貧困に陥った。そもそも採用段階で男性の割合が高い上、年功序列など中高年に優位な雇用慣行が続く。こうした職場環境で染みついた意識や長時間労働を背景に、家事や育児の負担が女性にのしかかったままだ。この構造こそが賃金差を固定させてきた。民間の努力だけでは限界があろう。賃金差の公表は首相自ら主導したという。家族の形は多様化している。妻の年収が130万円以上になると夫の社会保険の扶養から外れる仕組みや、配偶者控除は今のままでいいのか。社会保障制度と税の在り方の議論に踏み込んでもらいたい。

<“インフレ目標”の目的は、何だったか?>
PS(2022年6月16日追加): *6-1は、①ウクライナ危機に中国のゼロコロナ政策が加わり、資源高と供給制約が連鎖してコストを押し上げて ②OECDのデータから、日米欧30カ国の4月の生活費は1年前と比べ9.5%上がり ③上昇ペースはコロナ前の19年までの5年間の平均1.3%の7倍で ④日本も4.4%とようやく2%に届いた全体のインフレ率を上回り  ⑤世界を覆う歴史的な物価高は、経済のみならず政治も揺らす と記載している。
 しかし、④のように、日本は2%のインフレ率を目標として金融緩和を続け、4.4%のインフレ率を「ようやく届いた」などと言っているのである。2%のインフレ率を目標とした理由は、*6-2-1・*6-2-2の日銀総裁による「家計の値上げ許容度が高まった」という発言に示されるとおり、家計に値上げを容認させて家計の実質可処分所得を減少させることで、その目的は国民に気づかれないように賃金や年金を目減りさせ、同時に貯蓄も目減りさせて借金の多い国に利益を移転することだ。そして、これは、国会を通さず国民に重い税をかけて国の借金を返すのと同じ効果がある。何故なら、1000万円の貯蓄や賃金・報酬は、2%の物価上昇率なら10年で実質820万円、20年で実質673万円、30年で実質552万円に目減りし、10%の物価上昇率なら10年で実質386万円、20年で実質149万円、30年で実質57万円にまで目減りして、同時に1000兆円の国債残高も物価上昇率が大きいほど大きく目減りするからである(Excelで表計算すればすぐ出る)。従って、②③⑤は①による世界全体の傾向だが、日本政府はインフレ政策の結果をウクライナ危機とコロナ禍に擦りつけることで、言い逃れようとしているふしがある。しかし、年金が下がり、賃金も上がらない中で、家計や企業にさらに厳しいやりくりを強いるのは、とうに限界を超えているのだ。
 なお、*6-1は、⑥ヒト・モノ・カネの自由な動きが支えてきた低インフレの時代が変わりつつあり ⑦ウクライナ侵攻後、約30カ国が食料やエネルギーの輸出を制限して分断がコスト高を招き ⑧世界経済のグローバル化が逆回転してブロック化が頭をもたげ ⑨自国優先の輸出制限が広がれば分断が深まり、インフレ圧力が増す悪循環に陥りかねない とも記載している。
 ⑥については、ヒト・モノ・カネが自由に動く世界の大競争の中で、需要が増えても輸入が増えるだけで物価は上がらない期間が続いたが、そのような中でも食料・エネルギーの自給率は高くし、国内の製造業も成立するようにしておかなければ、今後の世界人口の増加で困ることは前から明らかだった。にもかかわらず、「日本は製造業に特化するので、食料・エネルギーは金を出して買えばよい」などと生意気なことを考えていたのが、日本政治の失敗である。何故なら、⑧のブロック化が進まなくても、⑦の輸出制限がなくても、輸入ばかりが多くて輸出の少ない(つまり、他国に頼っていて自立できない)国になれば、食料・エネルギーを買うことさえできなくなるからである。
 このような中、*6-3の「135円/$台半ばまで円が下落した」理由は、経常収支(貿易・サービス収支、海外との利子・配当金のやり取りによる資本収支など)が赤字になり、円買いよりも円売りの方が多くなって、現在は135円台半ばで均衡しているからである。そして、円買いよりも円売りの方が多くなった理由は、食料・エネルギーの自給率が低く輸入が多いため貿易収支が悪化し、これまで製造業やサービス業の輸出超過でそれを補ってきたがそれもできない状態となり、生産性が上がらず利子率や配当性向の低い日本に投資しても儲からないので資本収支も悪化したからだ。そして、そうなった理由は、食料・エネルギーの自給率が減っているのに、0金利政策で金融緩和を行って国債を発行し、それを食料・エネルギーの自給率向上や国内で製造業やサービス業をやり易くするために投資することなく、「景気対策」と称してバラマキばかりしたため、生産性が上がらず利上げできる状態にならないからで、これらの政策を続ける限り、中長期的には円安が進むことはあっても円高に振れることはないのである。

 
 沖縄タイムス               2022.6.15日経新聞

(図の説明:左図のように、国内企業物価指数は、2022年に10%近くまで上がり、中央の図のように、生活費のインフレ率も9.5%まで上がった。右図は、インフレ率は各国で上昇しているとしているが、他国は購買力平価に換算した年収も上がっているため実質可処分所得はさほど減らず、日本だけ購買力平価に換算した年収が不変だったので実質可処分所得が物価上昇分だけ減っていることを忘れてはならない)

*6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220615&ng=DGKKZO61720840V10C22A6MM8000 (日経新聞 2022.6.15) 世界インフレの実相(1) 生活費、1年で1割上昇、日米欧7倍速の物価高 分断で深まる供給制約
 歴史的な物価高が世界を覆っている。日米欧30カ国の4月の生活費は1年前と比べ9.5%上がった。上昇ペースは新型コロナウイルス禍前の7倍に達し、経済のみならず政治も揺らす。ウクライナ危機に中国のゼロコロナ政策が加わり、資源高と供給制約が連鎖してコストを押し上げる。ヒト・モノ・カネの自由な動きが支えてきた低インフレの時代が変わりつつある。「住宅購入者の半数が泣いた」。米不動産情報会社ジローは2日、こんな調査を発表した。物件を予算内で探すのがどんどん難しくなっている。全米不動産協会によると4月の中古住宅価格の中央値は39万1200ドル(約5300万円)と前年同月比15%上昇した。米国の消費者物価(総合2面きょうのことば)指数の上昇率は5月に8.6%と40年5カ月ぶりの水準になった。まずコロナ後の経済再開で急回復する需要がある。米運輸省によると、米国の自動車総走行距離は3月にコロナ前を超えた。経済活動の活発さを示す。こうした旺盛な需要に供給が追いつかず、インフレ圧力となる。SUBARU(スバル)は2月に3車種を一律200ドル、4月に8車種を500ドル値上げした。中国の都市封鎖などによる部材などの調達難が背景にある。現地の在庫は4月時点でわずか3日分だった。自動車大国ドイツも供給制約に悩む。オンラインサイトのカーワウによると、納車にかかる時間はメルセデス・ベンツの主力セダンCクラスで最大1年3カ月など異例の長さになっている。足りないのはモノだけではない。4月に米求人数は1140万人と、失業者(594万人)のほぼ2倍の規模に達した。米トラック協会は2030年までに運転手が16万人不足すると見込む。「入社初年度で11万ドル稼げます」。米ウォルマートは4月、トラック運転手の採用強化を発表した。米メディアによると給与は従来の2割増し。賃金上昇は物価をさらに押し上げる要因となる。日本経済新聞は経済協力開発機構(OECD)のデータから日米欧など30カ国の食料品(飲料含み酒類除く)と光熱費・家賃・住居費を合成した「生活費」物価指数を計算した。1年前からの上昇率は22年4月に9.5%と2ケタに迫った。上昇ペースはコロナ前の19年まで5年間の平均1.3%の7倍で物価全体の7.6%を上回る。生活に欠かせないモノやサービスほど値上がりしているためだ。上昇率はエネルギー高が襲う欧州で12.4%に達する。日本も4.4%と、ようやく2%に届いた全体のインフレ率を上回る。歴史的な物価高はいつまで続くのか。ピークアウトを示唆するデータもある。香港の調査会社カウンターポイントは1~3月の世界のスマートフォン出荷台数を前年同期比22%減と推計する。コロナ下で拡大したデジタル需要が一巡した可能性がある。台湾積体電路製造(TSMC)の魏哲家最高経営責任者(CEO)は4月の決算で「スマホやパソコン、タブレットなどの最終市場は少し軟調」と説明した。米国ではコロナによる混乱を経て増やした在庫が重荷になりつつある。小売り大手6社の2~4月期の在庫回転日数は前年同期比1割増の68日と16年以降の最高水準になった。今後、値引き販売が広がる可能性もある。こうした下落圧力を考慮してもインフレが落ち着くには時間がかかるとの見方が多い。国際通貨基金(IMF)は「急激に高まる地経学的分断のリスク」に警鐘を鳴らす。ウクライナ侵攻後、約30カ国が食料やエネルギーの輸出を制限している。分断はコスト高を招く。国連食糧農業機関(FAO)が3日公表した5月の食料価格指数は157.4と前年同月比23%上昇した。穀物に限れば過去最高水準だ。IMFのゲオルギエバ専務理事は「食料価格は上がって上がって上がり続けている」と懸念を示す。中国の強権的な措置も影を落とす。世界最大のコンテナ港、上海港は都市封鎖で待機船舶が一時最大約120隻と通常の約2倍になった。封鎖が6月に終わっても、ゼロコロナ政策が残る限りリスクはくすぶり続ける。世界経済は分業と協調でコストを抑えて成長してきた。そのグローバル化が逆回転し、ブロック化の反動が頭をもたげる。日立製作所の河村芳彦副社長は「手を打たなければグローバルリスクは2000億円に上る」とコスト増を警戒する。複合的な危機の下、生活費の上昇が続けば社会の不満は膨らむ。自国優先の輸出制限のような動きが広がれば分断が深まり、インフレ圧力が増す悪循環に陥りかねない。歴史的な物価高に世界の結束が試されている。

*6-2-1:https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/174467 (中国新聞社説 2022年6月10日) 日銀総裁発言 国民感覚とずれ過ぎだ
 耳を疑うような発言は批判されて当然だ。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が昨今の物価高について「家計の値上げ許容度も高まってきている」と講演会で述べた。反発はすぐさま広がり、総裁は釈明に追われたものの結局は異例の謝罪、撤回に追い込まれた。2013年に就任した黒田総裁は、安倍政権の「アベノミクス」以降の金融政策を担ってきた。長年にわたる異次元の緩和で株価は上昇したとはいえ、最近は急激な円安など負の側面が深刻化していた。参院選で物価高対策が大きな争点になりそうな中、国民の暮らしを軽視するような発言は不適切としか言いようがない。黒田総裁には「物価の番人」である日銀の役割を再認識してもらいたい。求められているのは日本経済の立て直しである。総裁発言は東京大教授らによる調査に基づく。「なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったときにどうするか」という問いに「他店に移る」とした人が以前は57%だったのに44%に減ったことが根拠とされた。だが調査には6割以上が「その店で買うが、量や頻度を落とす」という別データもあった。そもそも他店も価格が上がるのなら店を変えても同じだろう。発言は、データの良い部分だけを抜き出した感が否めない。コロナ禍で外出が控えられ、使いたくても使えないお金「強制貯蓄」が家庭に50兆円も眠っているという話も信じがたい。家計がこのお金を取り崩して物価高に対処している間に、賃金の本格上昇につながるような手を打つという考えもいささか都合が良過ぎないか。「強制貯蓄」の多くは高所得世帯に集中しているとされる。物価高でより深刻な影響を受けている低所得者層はどう対応すればいいのだろう。民間調査機関の調べでは、主要食品会社が年内に実施もしくは予定する値上げ品目は1万を超え、平均値上げ率は13%にもなる見込みだ。今後さらなる物価高も想定される中で、値上げ許容度を高めている国民がそんなにいるはずがなかろう。さらに気がかりなのは20年ぶりの円安水準だ。世界が物価高抑制へ金利引き上げ姿勢を強めているのに、黒田総裁は「円安は全体的には経済にプラス」として今なお低金利政策を推し進める姿勢を維持している。海外との金利差が広がれば円安は加速し、一段の物価高を招く。黒田総裁は値上げ許容度の発言こそ撤回したものの、円安容認の態度は変えていない。これでは、日銀はさらなる物価高を歓迎していると言っているようなものだ。この10日ほどでドルに対し8円近くも円安が進んだことは、日銀が今後も円安を容認すると市場が受け止めたためにほかならない。黒田総裁は歴代最長の任期10年目に入っている。異次元緩和を続けてきたが日本経済が利上げできる状況にまで回復できたとは言いがたい。円安が進み、予期せぬロシアのウクライナ侵攻もあって急激な物価高という副作用が深刻になっている。もはや「粘り強く金融緩和を続ける」と繰り返すだけでは国民の理解は得られないだろう。黒田総裁の任期満了は来春である。そろそろ従来の政策を総括し、異次元緩和からの出口戦略も示す時ではないか。

*6-2-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1530967.html (琉球新報社説 2022年6月10日) 日銀総裁値上げ発言 生活者との乖離 甚だしい
 日本銀行の黒田東彦総裁が、「家計が値上げを受け入れている」という発言に批判が噴出したことを受け、発言の撤回に追い込まれた。商品価格の相次ぐ値上げに苦しむ生活者の実態と乖離(かいり)した発言だ。中央銀行に対する国民の信用を揺るがしかねない。賃金は上がらない中で、先の見えない物価高騰に家計も企業も厳しいやりくりを強いられている。「アベノミクス」の失敗という自身の責任を棚上げし、現在の物価上昇に期待するような認識は日銀総裁の資質が問われる。黒田氏は6日の講演で、商品価格が10%上がっても半数以上が「その店でそのまま買う」と回答したアンケート結果を基に、「家計の値上げ許容度も高まってきている」「家計が値上げを受け入れている間に、賃金の本格上昇につなげていけるかだ」など、国民に我慢を強いるような見解を示した。だが、引用したアンケート結果は買う量や頻度を減らして節約するとした回答には触れられていないなど、恣意(しい)的な引用や根拠の薄さが指摘される。黒田氏はコロナ禍の行動制限下で蓄積した「強制貯蓄」にも言及したが、低所得層では増えていない。2013年に総裁就任した黒田氏は、2%の物価上昇目標を2年で達成するとして、大規模な金融緩和を導入した。金融緩和を通じた円安や株高は大企業や富裕層に恩恵をもたらしたが、多くの国民に豊かさは行き渡らなかった。デフレ克服の物価目標を達成できず、21年の実質賃金指数(15年=100)は98・6と低下している。家計は値上げを許容しているとした今回の発言は、自身の掲げた2%の物価目標の正当化に拘泥し、一般国民の視点が欠け落ちている。日銀の金融緩和政策の継続が円安による物価高を促し、国民生活を圧迫する一因となっていることにも無自覚だ。現在の物価上昇は、日銀が企図したものではない。コロナ禍やウクライナ情勢、原油高騰、急速な円安といった外部要因によるエネルギー価格、輸入原材料価格の上昇が要因だ。国内企業はコスト増に耐えきれず、続々と価格転嫁に踏み切っている。食品や光熱費など生活に必要なあらゆる価格が値上がりし、消費者は影響を避けようがない。家計が値上げを「許容」したわけでは全くない。コスト増に伴う商品値上げは企業業績にはつながらず、消費者は生活防衛のため財布のひもを締める。個人消費が低迷し、景気悪化の悪循環に陥る。迅速な物価高騰対策こそが求められる。黒田氏の総裁在任期間は昨年9月に歴代最長を更新した。黒田氏は物価上昇と賃金上昇との好循環を主張してきたが、9年をかけても目標を果たせなかった。賃上げを伴わない物価高騰がのしかかる中、金融政策のかじ取りをいつまで任せるのか問われる。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220615&ng=DGKKZO61726350V10C22A6MM0000 (日経新聞 2022.6.15) 円、一時135円台半ば 下落進む
 15日の外国為替市場で円が対ドルで下落し、一時1ドル=135円台半ばと1998年10月以来およそ24年ぶりの円安・ドル高水準となった。米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースが加速するとの見方から米長期金利が一段と上昇した。日米金利差の拡大を意識にした円売り・ドル買いの動きが強まっている。円は15日に一時、1ドル=135円60銭程度まで下落した。14日のニューヨーク市場で一時135円48銭程度と、13日に付けた135円22銭の安値を下回った。15日には円安がさらに進んだ。市場ではFRBが15日まで開く米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の大幅利上げを決めるとの見方が強まっている。米長期金利の指標となる米10年物国債利回りは14日に一時3.49%と、2011年4月以来約11年ぶりの高水準となった。日本では日銀が日本国債の利回り上昇(価格の下落)を抑え込む方針だ。14日には、15日の通常の国債買い入れ枠を前日の9500億円から2兆円超に大幅拡大すると公表した。15日には利回り0.25%で国債を無制限に買い入れる「指し値オペ(公開市場操作)」について、債券先物で受け渡し可能な国債を対象にすることも新たに通知し、債券価格の下落を食い止める姿勢を強めている。

<日本における“経済専門家”の不思議な発言>
PS(2022年6月18日追加):6月17日、各国の中央銀行が記録的なインフレの抑制のため、金融緩和策を見直して利上げする金融引締政策にかじを切る中、日銀だけが、*7-1のように、国内景気を下支えするためとして大規模な金融緩和策を維持することを決めた。これにより、日本と米欧の金利差がさらに広がって日本の資本収支はマイナスとなり、為替市場では円安が加速して、輸入依存型になっている日本経済はさらに物価が上がる見込みだ。そして、日銀の黒田総裁はじめ日経新聞は、生活に必要不可欠な食品やエネルギーを除いて物価上昇率を計算し、「日本の消費者物価上昇率は欧米に比べてまだ低い上、日本経済の回復もまだ途上」などとしている。しかし、日本は欧米と比較すれば所得が増えていないため、物価上昇すれば実質可処分所得が減り、消費者物価が欧米と同様に上がれば、国民はさらに貧しくなって経済回復どころではないのに、日本の“経済専門家”と称する人は「不動産と自動車の値段が上がらないから、まだ物価上昇が足りない」等と言い、(生活実感を持たない男性ばかりが意思決定権を持っているせいか)物価上昇と消費の関係を理解していない人が多いのには呆れるわけである。
 さらに、日経新聞は、*7-2-1のように、①4月の消費者物価上昇率は生鮮食品を除いて前年同月比2.1%と日銀目標の2%を7年ぶりに超えたが ②資源高の影響が大半でエネルギーも除くと0.8%に留まり ③食品等の「基礎的支出」4.8%に対し、贅沢品などの「選択的支出」は0.1%の上昇率で ④米国は食品・エネルギーを除いても6%を超える高インフレだが日米の差は依然として大きく ⑤毎月の光熱・水道代は2022年に入って前年比2桁増が続き ⑥ここ数年、消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数が高まっているところに食品値上げラッシュが重なり ⑦生活防衛色を強める家計の財布のひもは緩みそうになく ⑧資源や食料の高騰を円安が増幅して、1月~5月の原油価格上昇率はドルベース32%に対し、円ベース48% ⑨小麦価格の上げ幅もドルベース40%に対し、円ベース56% ⑩企業物価上昇率は1月以降9%台で、消費者物価上昇率を上回るが価格転嫁できない と記載している。
 そもそも、①のように、日銀のような中央銀行が2%のインフレ目標を立て、⑦のように、家計の財布のひもが緩むことを期待しているのが、通貨の安定を図って国民の財産を護るべき中央銀行として誤った政策である。何故なら、この目標は、通貨価値の安定を放棄して国民を毎年2%ずつ貧しくするもので、その結果、国民は、⑥のように、同じ食品でも安い方にシフトしながらエンゲル係数が上がり、それでも食品等の「基礎的支出」は節約に限度があるため、③のように4.8%上昇したが、贅沢品等の「選択的支出」は買わなくてもすむため0.1%の物価上昇率に留まっているからである。さらに、①②のように、買わずにすますことができない食品・エネルギーを除いて物価上昇率を語るのはおかしく、⑤のように、毎月の水光熱費は2022年には前年比2桁増が続いているのだ。さらに、食品・エネルギーが輸入依存の日本では、⑧⑨のように、ウクライナ情勢に起因する物価上昇も起こっているのであり、④のように、「米国は食品・エネルギーを除いても6%を超える高インフレで日米の差は依然として大きい」などと食品・エネルギーの輸出大国なので景気が良い米国と比較するのは支離滅裂なのだ。そのため、⑩のように、より貧しくなった国民に対し企業が価格転嫁すれば、売れなくなるのは当然だ。
 なお、毎日新聞は、*7-2-2に、⑪家計負担となる食品値上げが本格化し ⑫食品主要105社が年内に実施したか予定している値上げが1万品目を突破し ⑬食用油・小麦粉の急騰が響いて平均値上幅が13%に上り ⑭値上げのピークは夏だが秋以降も再値上げが広がり ⑮為替相場で円安が続いているため価格改定の動きは長期化する と記載している。
 つまり、⑪~⑮のように、i) 食料・エネルギー自給率の低さ ii) 金融緩和続きによる円安 に、iii) ロシアのウクライナ侵攻 が重なり、食品の値上げが続いて国民生活を圧迫しているのであり、iii)は直ちに日本政府の責任とは言えないが、i) ii)はこれまでの失政が原因なのだ。
 さらに、*7-2-2は、⑯メーカーは価格転嫁しなければ業績悪化が避けられず、家計も負担感が増しているが ⑰値上げしてもなお業績悪化に苦しむ企業が少なくなく ⑱ウクライナ危機の長期化で小麦価格等は今後も上昇が見込まれ、原材料高騰と商品値上げのいたちごっこは続きそうで ⑲食品分野別値上率は加工食品14%、酒類・飲料15%、菓子12%で ⑳今春闘では所得の底上げにつながる賃金のベースアップが伸び悩び エコノミストが「消費者は工夫して支出を減らす努力をするしかない」と指摘した としている。
 しかし、エコノミストなら「消費者は工夫して支出を減らす努力をするしかない」などと素人でも言えるようなことを言って消費者に負担をかけるのではなく、何故、⑯~⑳の結果になったのかを考え、これまでの経済政策の失敗とその理由を指摘すべきだ。さらに、2016年と比較すれば20%近く上昇していてもおかしくない食品等の「基礎的支出」が、③のように4.8%の上昇で止まり、贅沢品などの「選択的支出」は0.1%しか上昇していないのは、消費者が不便な思いをしながら支出を減らしているからにほかならないため、当たり前のことをして支出を減らす努力をしなければならないのは、国民ではなく日本政府の方なのだ。


2022.6.1PRtimes      2022.6.14NewsInfoseek     2022.6.3毎日新聞

(図の説明:左図は、2022年6月1日時点で前年同月と比較した価格改定済の食品数で、中央の図は、その具体的な品目と値上幅だ。また、右図は、2022年6月以降に予定されている主な食品の値上げだそうである)

*7-1:https://news.yahoo.co.jp/articles/e6f3225aa79bf844b2f5bf68fc8e8e14ff4d3e25 (Yahoo、毎日新聞 2022/6/17) 日銀、大規模な金融緩和策を維持 円安加速の可能性
 日銀は17日、金融政策決定会合を開き、国内景気を下支えするため、大規模な金融緩和策を維持する方針を決めた。利上げを進める米欧との金利差が一段と広がり、為替市場で円安が加速する可能性がある。各国の中央銀行は記録的なインフレの抑制に向け、金融緩和策を見直し、利上げを軸にした金融引き締めにかじを切っている。15日には米連邦準備制度理事会(FRB)が0・75%の大幅利上げを決定。欧州中央銀行(ECB)も7月に0・25%の利上げに踏み切る方針を表明している。為替市場では金利差拡大の思惑から円売りの流れが強まり、対ドルの円相場は一時、1ドル=135円台半ばと1998年以来、24年ぶりの円安水準に下落した。円安による輸入コスト上昇に国内の不満が高まる中、日銀の対応が注目されていた。急速な円安の進行について、日銀の黒田東彦総裁は「経済にマイナスであり、望ましくない」としているが、日本の消費者物価上昇率は欧米に比べてまだ低いうえ、日本経済の回復もまだ途上だとして金融緩和の継続が適切と判断した模様だ。黒田氏は17日午後に記者会見し、決定理由を説明する。

*7-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220617&ng=DGKKZO61792870X10C22A6MM8000 (日経新聞 2022/6/17) 世界インフレの実相(3)日本の家計、緩まぬ財布 物価上昇、エネルギー除き0%台
 問わず語りの釈明だった。7日、首相官邸で経済財政諮問会議に出た日銀の黒田東彦総裁は去り際、記者団に「誤解を招いた表現だった」と認めた。6日の講演で「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言し、野党が「無神経」などと批判を強めていた。8日には衆院財務金融委員会で発言の撤回に至った。日本もインフレが進むのか。評価が難しいことが迷走の背景にある。4月の消費者物価上昇率は生鮮食品を除き前年同月比2.1%と、日銀が目標とする2%を7年ぶりに超えた。内実は資源高の影響が大半。エネルギーも除くと0.8%にとどまる。消費の性質別にみても食品など「基礎的支出」の4.8%に対し、ぜいたく品など「選択的支出」は0.1%とまだら模様だ。米国は食品・エネルギーを除いても6%を超える高インフレで、日米の差は依然大きい。日本の家計の余裕が行方を左右する。総務省の家計調査で、可処分所得は2021年に月平均49万円強と10年前から約7万円増えた。共働きが広がり、世帯収入が増えたためだ。この間、消費支出はほとんど伸びず31万円弱にとどまる。代わりに預貯金の純増額が5万円から15万円になった。
●9割を100円維持
 貯蓄の拡大は将来不安もにらんだ節約志向を映す。毎月の光熱・水道代は22年に入って前年比2桁増が続く。さらにここ数年、消費支出に占める食費の比重を示すエンゲル係数が高まっているところに食品値上げラッシュも重なる。生活防衛色を強める家計の財布のひもは緩みそうにない。100円ショップ「ダイソー」を運営する大創産業はコップや文具などの商品を米国で3月下旬から0.25ドル(約34円)引き上げて1.75ドルにした。日本では商品全体の9割を100円のまま据え置いている。米国などで値上げしたトヨタ自動車も国内となると言葉を濁す。長田准執行役員は5月の決算会見で「資材が上がったから値上げでお金を頂くというのは大変難しい問題」と吐露した。
●転嫁にためらい
 資源や食料の高騰を円安が増幅する構図もある。1月から5月にかけての原油価格の上昇率はドルベースの32%に対し、円ベースだと48%。小麦価格の上げ幅も同様にドルで40%、円で56%と顕著な差がある。この重荷は現状では企業が多く負う。企業物価上昇率は1月以降9%台で推移し、消費者物価上昇率を8~9ポイントほど上回る。家計が値上げを受け入れるか見定められず、企業は価格転嫁をためらう。2月にハム・ソーセージの価格を引き上げたプリマハム。「日経CPINow」によるとハム・ベーコン部門の売上高は3月最終週に前年同期に比べ13.8%減った。山崎製パンの飯島延浩社長は21年10月の和洋菓子の値上げを「失敗だった」と認める。やはり販売の低迷を招いたためだ。企業も家計もインフレ耐性が乏しく、海外発のコスト高の波に立ちすくむ。企業は価格転嫁できないままなら国内で合理化を迫られる。賃上げが進まないようなら「値上げ許容度」も高まらない。日本経済へのデフレ圧力が再び高まる危うさもちらつく。

*7-2-2:https://mainichi.jp/articles/20220603/ddm/008/020/101000c (毎日新聞 2022/6/3) 食品値上げ1万品超 原料高騰、上げ幅平均13% 帝国データ調査
 家計の負担となる食品の値上げが本格化している。帝国データバンクは1日、食品主要105社が年内に実施したか予定している値上げが、同日時点で1万品目を突破したとの調査結果を発表した。食用油や小麦粉の急騰が響き、平均の値上げ幅は13%に上る。値上げのピークは夏だが、秋以降も再値上げが広がりそうだ。為替相場の円安傾向も続いており、価格改定の動きは長期化する恐れがある。帝国データによると、年内の値上げは累計1万789品目で、うち6000品目超は6月末までに値上げを実施。さらに7~8月には計約3000品目が、9月以降に1000品目程度の値上げが決定済みだ。日清食品は6月1日、即席のカップ麺「カップヌードル」や袋麺「チキンラーメン」など約180品の希望小売価格を5~12%引き上げた。カップヌードルの希望小売価格は208円から231円となった。日本水産は、2月の63品に続き8月にも「わが家の麺自慢 ちゃんぽん」など家庭用冷凍食品82品を値上げ。テーブルマークも全ての冷凍食品を値上げする。背景にあるのが、輸入小麦の高騰だ。農林水産省が半年ごとに見直している売り渡し価格は、4月から平均17・3%上昇した。世界有数の産地であるウクライナの危機が、さらなる上昇につながると懸念されている。幅広い食品に使われる食用油も、大豆や菜種といった原料の価格上昇が影響し、日清オイリオグループは7月から業務用を15~30%値上げする。夏以降の値上げでは、円安による輸入コスト増や、原油高に伴う容器価格の上昇を背景にした値上げが目立つ。アサヒビール、キリンビール、サントリービールは10月から、輸入麦芽や缶容器などの価格上昇を受け酒類価格を改定。アサヒの主力商品「スーパードライ」など家庭用ビール類は約14年ぶりに上がる。アサヒは、生産・物流コストの上昇は今後も継続が想定されるとして「企業努力だけで(コスト増を)吸収することが困難」と説明。日本水産は「今後の状況によっては新たな価格改定の可能性もある」と、再値上げの可能性に言及している。消費者物価指数(生鮮食品を除く)は上昇が続きそうだ。値上げが続くと消費が落ち込み新型コロナウイルス禍から脱却しつつある景気は冷え込む。物価高と景気後退が重なるスタグフレーションも懸念される。
●企業と家計、苦境の連鎖
 食品の値上げラッシュが止まらない。メーカー側は原材料高や燃料高を価格に転嫁しなければ業績悪化が避けられず、家計も負担感が増す一方で苦境が連鎖している。「悪い物価上昇」に打てる手だては限られ、景気を下押しする懸念も出ている。「消費者の方もつらいだろうが、われわれも背に腹は代えられない部分がある」。主力商品「お~いお茶」などの値上げを決めた伊藤園の本庄大介社長は1日の決算記者会見で、苦しい胸の内を明かした。段ボールなどの資材を含めて「取引先からこれだけ値上げを求められたのは初めて」(本庄氏)。企業間の取引コストの上昇が収益を圧迫し、商品値上げに追い込まれる構図だ。値上げに踏み切ってもなお業績悪化に苦しむ企業が少なくない。昨年来、価格改定が繰り返された食用油は値上げラッシュを象徴する商品だが、業界大手のJ―オイルミルズは本業のもうけを示す営業損益が今年3月期決算で赤字に転落。価格引き上げでも原材料の高騰分を賄えなかった。ウクライナ危機の長期化で小麦価格などは今後も上昇が見込まれ、原材料高騰と商品値上げのいたちごっこは今後も続きそうだ。企業側に価格転嫁せざるを得ない事情があっても、相次ぐ値上げは消費者の購買意欲を冷え込ませかねない。帝国データバンクの調査では、食品分野別の値上げ率は加工食品が14%、酒類や飲料は15%、菓子も12%に及ぶ。今春闘では所得の底上げにつながる賃金のベースアップが伸び悩んでおり、生活必需品の価格急上昇は家計に痛手となる。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は5月30日の記者会見で、一連の値上げを「好ましくない物価上昇で(不況時に物価が上昇する)スタグフレーションの様相だ」と指摘。ただエネルギーや食料の国際価格上昇は複合的な要因が絡み合っており、政策的な対応手段は限られる。三井住友DSアセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミストは「消費者は当面、工夫して支出を減らす努力をするしかない」と指摘した。
●サッポロも4~12% ビール大手4社そろう
 サッポロビールは2日、主力商品「サッポロ生ビール黒ラベル」と「エビスビール」を含むビール類や缶酎ハイ、ノンアルコール飲料などを10月1日納品分から4~12%程度値上げすると発表した。アサヒビールとキリンビール、サントリービールも10月からの値上げを発表しており、大手4社の足並みがそろった。原材料価格や輸送コストなどの上昇が原因としている。値上げの対象は計121品目で、家庭用ビール類の値上げは約14年ぶりとなる。店頭実勢価格ベースで「サッポロ生ビール黒ラベル」は、350ミリリットル缶が現在の217円前後から230~240円程度になるとみられる。350ミリリットル缶が現在254円前後の「エビスビール」は、270~280円程度となる見込みだ。

<各政党の参院選公約と令和臨調への期待>
PS(2022年6月20日追加):「経済政策」に関する各党の公約は、*8-1のように、自民党は①「新しい資本主義」で強い経済と豊かさを実感できる社会を創る ②「人への投資」を促進し、本格的な賃金増時代を創る ③最低賃金引き上げなどを進める ④原油価格の高騰を踏まえて燃油価格の激変緩和策を継続し、大きな影響を受ける業種への支援を行う ⑤1兆円の地方創生臨時交付金を配布して地方の対策を強化する で、公明党は②③に加えて⑥最低賃金年率3%以上をメドとした着実な引き上げ ⑦生活困窮者への住宅手当を創設 としている。
 このうち①は、*8-3-1・*8-3-2のように、物価上昇を目指して大規模な金融緩和を続ければ、経営や家計が圧迫されて国民が豊かさを実感できる社会とは程遠くなる。そのため、言っていることとやっていることが逆で、「それが新しい資本主義だ」と言うのなら誤った論理である。また、金利を上げれば景気に下押し圧力がかかる場合でも、同時にグリーンニューディールを行って変動費無料の再エネでエネルギーを100%自給できるようにすれば、景気の下押し圧力は打ち消され、その後は日本の基礎体力を強めることができるが、さもなければ円安が永遠に進む。なお、積み上がった借金は、国に公会計制度を導入して合理的に歳出を削減したり、国産の資源・エネルギーを販売したり、基礎体力を強めて税収を増やしたりすることによって着実に返済すべきで、バラマキのツケをインフレ政策を使って国民からぶんだくることによって借金を帳消しにするなどというのは、とんでもないことである。
 また、②の「人への投資」はよいが、②⑥の賃金増は、2025年には、日本の人口構成が20~64歳の生産年齢人口は男女合わせて54%になり、65~75歳は12%、75歳以上は18%、0~20歳は16%で、高齢者とされる65歳以上の人が30%を占めるため、働き盛りの正規雇用の男性の賃金だけ上げても27%の人口にしか影響がない。そのため、女性や高齢者を正規雇用にしてそれなりの所得が得られるようにしなければ支え手が足りず、生活苦の人ばかりになれば消費も伸びない。さらに、③⑥は、それだけの生産性のない人はクビになる。そのような中、④⑤は、政府のこれまでの誤った政策の結果であるとしても、バラマキである上、気候危機対策に逆行している。⑦は、対象を絞って家賃の安い公営住宅かみなし公営住宅を紹介すればよいだろう。
 *8-1の立憲民主党の経済政策も、⑧物価高と戦うため消費税率の5%への時限的引き下げ ⑨トリガー条項発動によるガソリン減税・灯油・重油・LPガス・航空機燃料の購入費補助など総合的原油価格高騰対策実施 ⑩円安の進行・悪い物価高をもたらす異次元の金融緩和を市場と対話しながらの見直し としているが、⑧のように消費税率を時限的に引き下げれば、その後はさらに高くなるので本質的解決にはならない。また、⑨⑩は単なるバラマキで、その後の税収増も見込めないため希望が持てず、気候危機対策にも逆行している。
 さらに、日本維新の会の⑪消費税減税、ガソリン減税、中小企業減税、社会保険料減免、高速道路料金の減額などを最優先で実現 ⑫消費税の軽減税率は、現行の 8%から段階的に 3%に引き下げ、その後は消費税本体を 2 年を目安に 5%に引き下げ というのは、国の莫大な借金をどうやって返済していくかに関する提案がなければ短なるバラマキとなる。
 国民民主党も、⑬給料が上がる経済を実現 ⑭物価高騰から家計を守るため、時限的に消費税率を5%に引き下げ ⑮「インフレ手当」として国民1人あたり一律10万円を現金で給付 ⑯「トリガー条項」の凍結を解除し、減税によりガソリン価格などを値下げ としているが、⑬は上に書いたとおり、給料を上げただけでは消費は増えないし、⑭⑮⑯は国の莫大な借金を返済する財源を明らかにしなければさらなるバラマキにしかならず、気候危機対策にも逆行する。
 日本共産党は、⑰物価高騰から生活を守るため、弱肉強食の新自由主義を終わらせ、やさしく強い経済に転換 ⑱消費税率を5%に緊急減税 ⑲大企業の内部留保への適正な課税で賃上げと「グリーン投資」を促進 ⑳最低賃金を時給1500円に引き上げ 21)コロナ危機で収入が減った人、生活が困っている人に一律10万円の特別給付金支給 としているが、新自由主義を弱肉強食と断定し、これを終わらせればやさしく強い経済に転換して物価高騰が防げるとしている点で経済の原理がわかっていない。さらに、新旧を問わず自由主義に反対するのは、日本国憲法の「第12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」に反する。実際、規制だらけで不自由な方がよいのだろうか? また、⑳のように最低賃金を時給1500円に引き上げれば、それだけの生産性のない人はクビになり、⑱21)は財源を明らかにしなければ将来のツケになるバラマキだ。さらに、⑲の「グリーン投資」はよいのだが、課税済所得から積まれた内部留保に課税すれば、特定の人への二重課税となって税法の基本原則に反する。
 れいわ新選組の22)消費税廃止 23)ガソリン価格が安定するまでガソリン税は0にする 24)悪い物価上昇が収まるまで、春夏秋冬、季節ごとに1人あたり10万円の現金給付を行う 25)全国一律で最低賃金を1500円にし、中小零細企業には国が賃上げ分を補償する 26)家賃補助制度を創設して所得の低い人・子どもができて広いところに引っ越す費用がない人も支援する について、22)23)24)は、財源の提案がなければ将来にツケを残すバラマキとなり、25)は⑳と同様で、中小零細企業に国が賃上げ分を補償すればバラマキとなる。また、26)は、⑦と同じだ。
 社民党は、28)物価高騰や新型コロナの影響で疲弊した生活を再建するため、消費税の税率を3年間0%にし、財源は大企業の内部留保への課税 29)生活困窮者に緊急に特別給付金10万円、低所得の子育て世帯に生活支援特別給付金を速やかに支給 30)最低賃金を全国一律時給1500円に引き上げ としているが、28)の内部留保への課税は二重課税だ。また、29)は、対象を絞れば妥当だが、30)の最低賃金全国一律時給1500円は、それだけの生産性のない人がクビになる。
 このように、各政党の公約には、将来にツケを残すバラマキが多い中、*8-2は、経済界・労働組合・有識者で構成する民間組織「令和国民会議(令和臨調)」が6月19日に東京都内のホテルで発足大会を開き、「統治構造改革等の3分野で、政策提言活動を展開する」と記載している。是非、経済に関するセンスのある提案をし、国民を犠牲にしない財政健全化と国の基礎体力の強化を両立されるべく期待したい。


  日本の人口構成の変化     2018.6.4東洋経済    2021.8.23日経新聞

(図の説明:左図は、1990年、2015年、2025年、2065年の人口ピラミッドの変化で、2025年には65歳以上が30%を占める。そのため、男女とも75歳までは勤労を原則とし、所得に応じて税や社会保険料を支払うシステムにするのがよいと思う。中央の図は、日本の人口と経済成長の関係で、経済成長率と人口増加の相関関係は低い。また、これにより、一人一人が豊かに暮らせるようにすることが、経済成長に繋がることがわかる。右図の世界人口の推移は、現在は約80億人だが、もうしばらく増加し、2100年頃に100億人程度で頭打ちになると予想されている)

*8-1:https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/pledge/policy/01/ (NHK 2022年6月16日) 各党の公約「経済政策など」
●自由民主党
 「新しい資本主義」で、強い経済と豊かさを実感できる社会を創る。「人への投資」を促進し、本格的な賃金増時代を創る。最低賃金引き上げなどを進める。原油価格の高騰を踏まえ、燃油価格の激変緩和策を継続するとともに、大きな影響を受ける業種への支援をきめ細かく行う。1兆円の地方創生臨時交付金により、地方の実情に応じた対策を強化する。
●立憲民主党
 物価高と戦う。消費税率の5%への時限的な引き下げを実施する。トリガー条項の発動によるガソリン減税、灯油・重油・LPガス・航空機燃料の購入費補助など、総合的な原油価格高騰対策を実施する。円安の進行とそれによる「悪い物価高」をもたらす「異次元の金融緩和」は市場との対話を通じながら見直しを進める。
●公明党
 「人への投資」を抜本的に強化する。持続的な賃上げに向けて学者などを中心とする中立的な第三者委員会を設置し、適正な賃上げ水準の目安を明示する。最低賃金を年率3%以上をメドとして着実に引き上げる。生活困窮者などの住宅確保に困難を抱えている人への住宅手当を創設する。
●日本維新の会
 消費税減税、ガソリン減税、中小企業減税、社会保険料減免、高速道路料金の減額などを最優先で実現する。消費税の軽減税率は、現行の 8%から段階的に 3%に引き下げ、その後は消費税本体を 2 年を目安に 5%に引き下げる。
●国民民主党
 「給料が上がる経済」を実現する。物価高騰から家計を守るため、時限的に消費税率を5%に引き下げる。「インフレ手当」として国民1人あたり一律10万円を現金で給付する。いわゆる「トリガー条項」の凍結を解除し、減税によりガソリン価格などを値下げする。
●日本共産党
 物価高騰から生活を守るため、弱肉強食の新自由主義を終わらせ「やさしく強い経済」に転換する。消費税率を5%に緊急減税する。大企業の内部留保への適正な課税で、賃上げと「グリーン投資」を促進する。最低賃金を時給1500円に引き上げ、コロナ危機で収入が減った人、生活が困っている人に一律10万円の特別給付金を支給する。
●れいわ新選組
 消費税は廃止。ガソリン価格が安定するまでガソリン税はゼロにする。悪い物価上昇が収まるまで、春夏秋冬、季節ごとに1人あたり10万円の現金給付を行う。全国一律で最低賃金を1500円にし、中小零細企業には国が賃上げ分を補償する。家賃補助制度を創設し、所得が低い人や、子どもができて広いところに引っ越す費用がない人も支援する。
●社会民主党
 物価高騰や新型コロナの影響で疲弊した生活を再建するため、消費税の税率を3年間ゼロ%にする。財源には大企業の内部留保への課税を提言する。生活困窮者に緊急に特別給付金10万円、低所得の子育て世帯には、生活支援特別給付金を速やかに支給する。最低賃金を全国一律時給1500円に引き上げる。
●NHK党
 消費税をはじめとした税金や社会保険料の引き下げを政府に求めていく。規制を緩和して国民の経済活動をより自由にしていく方向へ政策転換するよう国会で提案していく。

*8-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/4270588f358fde171e36134c96907bc6a6f89d81 (Yahoo、毎日新聞 2022/6/19) 「令和臨調」が発足 経済界と労組ら統治構造改革など政策提言
 経済界と労働組合、有識者らで構成する民間組織「令和国民会議(令和臨調)」は19日、東京都内のホテルで発足大会を開いた。統治構造改革など3分野で政策提言活動を展開する。共同代表には公益財団法人日本生産性本部の茂木友三郎会長(キッコーマン名誉会長)のほか、小林喜光・三菱ケミカルホールディングス取締役、佐々木毅・元東京大学長、増田寛也・日本郵政取締役兼代表執行役社長が就いた。共同代表4人のうち、茂木氏と小林氏は、ともに財界3団体の一つ「経済同友会」で活躍した経歴で共通している。茂木氏はかつてナンバー2の副代表幹事を務めており、小林氏は前代表幹事だ。大手企業を中心に組織する経団連が財界主流派を形成するのに対し、同友会は「進歩的な経済人」を会員資格に定める経営者個人の集まり。財界では非主流派と位置づけられており、2人は令和臨調の意思決定機関「共同代表会議」のメンバーとして今回主導する。また臨調内で2院制など「統治構造」の政治改革を議論する専門部会の共同座長に、ともに現職の同友会副代表幹事を務める新浪剛史氏(サントリーホールディングス社長)と秋池玲子氏(ボストン・コンサルティング・グループ日本共同代表)が起用されている。令和臨調は1992年の「民間政治臨調」、99年の「21世紀臨調」の後継組織として位置づけられている。事務局の日本生産性本部によると、今回の臨調では政治改革のほかに、中長期的な財政見通しを示す「財政・社会保障」や、人口減少や環境に配慮したポストコロナ時代の「国土構想」という経済と社会の国家課題にも切り込むのが特徴だという。
◇首相「財政健全化、掲げ続ける」
 岸田文雄首相は令和臨調の発足大会で、財政再建について「経済活動を支える中でも、財政は国の信認の礎だ。今後も財政健全化の旗はしっかり掲げ続けていかなければならない」と述べた。首相は、自民党内で財政再建派と積極財政派の対立があることを念頭に「経済成長あっての財政再建であるという考え方も私は大切にしたい」と一定の配慮を示した。その上で、「国際環境がどんどん変化する中、国際社会やマーケットの信頼をつなぎ留める財政政策を日本が維持できるかが重要なポイントだ」と指摘。「経済成長を実現するために政府予算の単年度主義の弊害など、さまざまな現状の問題点についてはしっかりとメスを入れることで財政健全化、(国際社会やマーケットの)信頼の確保に努めたい」と述べた。社会保障改革については「給付は高齢者、負担は若者という考え方から脱却し、負担能力によって世代にかかわらず社会保障を支えていく体制に切り替える」と強調。防衛費については「国民の生命と暮らしを守るだけの十分な防衛力か、現実的に議論を積み上げながら必要とされる予算と財源を考える」と述べた。大会には立憲民主党の泉健太代表、公明党の山口那津男代表、日本維新の会の馬場伸幸共同代表、共産党の志位和夫委員長、国民民主党の玉木雄一郎代表など各党の党首らも参加した。

*8-3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15327528.html (朝日新聞 2022年6月18日) 一斉利上げ、動かぬ日銀 黒田総裁「目指す物価上昇と異なる」
 急速な円安が拍車をかける物価高に不満が強まる中、日本銀行は金融政策決定会合で、大規模な金融緩和を続けることを決めた。海外の主要な中央銀行が物価高を抑えるため一斉に利上げを進めるが、日銀は動かなかった。理由について黒田東彦(はるひこ)総裁は、日本の景気回復の弱さなどを指摘したが、大規模な緩和が長年続いたため、利上げのハードルが高くなっているとの見方も出ている。「景気に下押し圧力がある時に金利を上げると、さらに景気に下押し圧力を加えることになる。そういった金融政策は適当でない」。黒田氏は記者会見で、円安を抑えるための金融引き締めに動かない理由を、こう説明した。円安は輸入品の価格上昇に拍車をかけ、家計や企業の負担が増している。円安が進む要因には、米国の中央銀行が利上げを進める一方、日銀が緩和を続けていることで両国の金利差が開いていることがある。円安に歯止めをかけるには、日銀も金融引き締めに転じるのが効果的とみられている。だが、国の経済規模を示す国内総生産(GDP)は、米国などと違って日本はコロナ禍前の水準にいまだ戻っていない。ウクライナ情勢の悪化による資源価格の高騰は、企業の収益を圧迫したり消費を冷え込ませたりして景気の下押し圧力になっている。黒田氏は「経済を金融面からしっかりと支える」として、緩和の継続を優先する姿勢を示した。日銀が利上げに動かない理由には、海外で起きている物価高との質の違いも影響している。米国では消費者物価の上昇率が8%を超えるが、商品への需要や賃金も大きく伸びている。一方の日本では、4月に日銀が目標としてきた2%を超えたが、その上昇の主因はエネルギーや食料品の高騰だ。需要増加や賃金上昇の動きも弱く、黒田氏は会見で「我々が目指している物価上昇とは異なっている」と語った。「賃金上昇に伴って物価も上がることを目指して、金融政策を運営する」とも述べ、景気を支えるための金融緩和を続ける考えを繰り返した。
■積み上がった借金、影響大
 市場では日銀が動きたくても動けない事情があるとの見方もある。9年以上に及ぶ異例の金融緩和のもとで緩和マネーに政府や企業も頼り、引き締めを始めると影響が大きいためだ。
日銀は金融緩和の一環で市場から大量の国債を買い入れ、政府は低い金利で多額の借金を重ねてきた。日銀が保有する国債は、黒田総裁が就任後の2013年4月の大規模緩和開始前と比べ、4倍以上にあたる500兆円超に膨らんだ。日銀が利上げに動けば、政府の財政問題が一気に深刻になる。財務省の試算では、国債の金利が1%上昇した場合、25年度の元利払いは想定より3兆7千億円も増える。政府関係者は「財政が健全化しないと、緩和はやめられない」と語る。低金利下で銀行からの貸し出しも増えた。利上げをすれば、借り入れを増やした企業の返済負担が増え、経営が行き詰まるおそれもある。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「(日銀の緩和のもとで)中小企業の経営者は、金利上昇リスクを考えることが少なくなった。金利コストがないと考えて借り入れを増やしてきており、経営体質は悪化している」と指摘する。元日銀理事の東京財団政策研究所の早川英男氏も「何とか低金利で生き延びている中小企業はしんどくなるだろう。そういう企業はコロナ禍で非常に増えている」と話す。
■野党、参院選争点化狙う
 当面円安に歯止めがかからない見通しの中、7月の参院選では物価高対応が争点になりそうだ。金融緩和継続の一報を受け、立憲民主党の泉健太代表は17日、訪問先の宇都宮市で記者団に「国民生活の放置だ。今年、来年は相当な物価高に苦しまなければならない」と語った。国会論戦で攻め手を欠いた立憲は、「政府の無策ぶりが円安と物価高を招いている」と参院選の争点に狙いを定める。撤回に追い込まれた黒田総裁の「家計が値上げを受け入れている」発言や円安を「追い風」とみており、「慢性疾患の治療に差し支えるから、急性疾患に対応できないなんて『やぶ医者』もいいところ。参院選はおもしろくなる」(ベテラン議員)とみる。共産党も「黒田円安、岸田インフレは重大な争点」(小池晃書記局長)と参院選で訴える構えだ。政府・与党は、参院選中の物価高の動向に神経をとがらせる。松野博一官房長官は17日の記者会見で「政府・日銀として最近の円安の進行に憂慮している」との認識を示し、為替市場の動向や物価への影響を注視していると強調した。

*8-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/869415 (佐賀新聞 2022/6/13) 食品値上げ、佐賀県内悲鳴 飲食店やスーパー、価格抑制に苦慮
 食品の相次ぐ値上げが、飲食店の経営や家計を圧迫している。食用油や小麦粉など幅広い品目で高騰が続き、県内の飲食店の中には「価格を据え置くのは限界」と、値上げに踏み切ったところもある。スーパーは消費者の節約志向の高まりを受け、総菜を少量パックで販売するなど価格を抑える努力を続けている。佐賀市の飲食店「ぶぅぶぅポルコ」は、4月にランチを千円から1200円に値上げした。食用油の一斗缶価格が一昨年の2倍となる6千円に跳ね上がり、小麦粉や調味料なども軒並み上がった。店主の野畑かずみさん(41)は「旬の安い野菜を増やして油も大事に使っているが、原価率が見合わなくなった。お客さんからも価格据え置きを心配されて」と、やむを得ず値上げに至った経緯を語る。安さとボリュームを売りにしている唐津市の飲食店も、4月から全メニューを50円引き上げている。店主の男性は、材料の仕入れをより安い卸業者に切り替えてしのいできたが、値上がりした品目のあまりの多さに「(売値を)上げないとやっていけない」。心配なのは10月からのビールの値上げだ。アルコール類の売り上げが多いだけに、今から気をもんでいる。価格の引き上げをためらう店もある。佐賀市のレストランバーは、客が離れないためにも値上げは1回しかしないつもりだ。ただ「今後も食材の値上がりは続くので上げ時が難しい」と、慎重にタイミングを見計らっている。家計にも重くのしかかる値上げの波。県内のスーパーは「生活費でまず削られるのは食費」と懸念し、総菜などの価格を抑える企業努力を続ける。ゆめタウン佐賀などを運営するイズミ(広島市)は、4月から独自ブランドの総菜を販売。企画や製造、販売の全工程を自社で賄う内製化を図り、コストを削減した。「今のところ、ほとんど価格を据え置いている」と担当者。今後も種類を増やす考えだ。アルタ・ホープグループ(佐賀市)は、店舗ごとに品ぞろえを工夫。高齢者など少人数の家庭の利用が多い店舗では、少量パックや年配者の好みに合わせた総菜を用意。担当者は「うちで買いたいと思ってもらえる店づくりを進めている」と話す。「毎日安い」をキャッチフレーズにするスーパーモリナガ(同)は、経費節減にも踏み込む。ペーパーレス化や節電のほか、業者に依頼していた備品の修理を自社で行うなどして商品の値上げを抑える。消費者も家計の負担を減らそうと知恵を絞る。「食べ盛りの子どもたちがいて、値上げは悩ましい」と西松浦郡有田町の40代女性。野菜が安い地元の商店に足を運ぶなど、以前より慎重に店を選ぶようになったという。小麦粉高騰によるパンの値上げを受け、米を食べる回数を増やすなど工夫を重ねてやりくりしている。

<食料安全保障と農漁業>
PS(2022年6月22日追加):*9-1は、2021年度の農業白書が、①海外への食料依存度が高い日本は、新型コロナやロシアのウクライナ侵攻で、食料の安定供給に懸念が生じ ②輸入先の多角化や食料自給率向上が急務 と記載したそうだ。しかし、日本は食料の海外依存度が高すぎ、不測の事態などなくても、世界の人口増加や気候危機による不作で容易に食料不足が起こる状態だったため、私は現職時代から食料自給率を上げる必要を指摘していた。また、栄養バランスから考えても、炭水化物ばかり食べているわけにはいかないので、③主食は米で ④米消費の減少が食料自給率のマイナス要因の一つ などと言っている人たちに食料計画を任せることはできないと考える。従って、畜産や野菜に転換が進むのは当然だが、広大な山林・耕作放棄地があり、日本でも作れるのに小麦・畜産飼料・肥料などを輸入しているのも不合理極まりなく、2020年度の食料自給率が37%と言っても輸入した飼料や肥料で作られていれば食料自給率のうちに入れるべきでない。さらに、2030年度までに食料自給率を45%にするというのも低い目標だ。
 そのため、*9-2のように、家畜飼料の原料に輸入トウモロコシを多く含み、それが中国の輸入やバイオ燃料としての使用で価格高騰し、高騰分の一部を国が基金を積む配合飼料価格安定制度によって補填しているのは国債残高が増える原因になっているため、いつまでも補填しなくてすむように根本的解決をすべきだ。
 なお、*9-3-1・*9-3-2・*9-3-3のように、原料主産国の中国が国内流通を優先して輸出制限し、ウクライナ危機による経済制裁でロシアからの調達も滞ったため、農作物の生育に欠かせない化学肥料が高騰して日本の農業経営に影を落としているそうだが、土壌分析や堆肥の有効活用はこれまでもやっていたのに、国内の有機栽培面積が2018年時点でも農地面積の0.5%に留まり、輸入原料から作る化学肥料に未だ大きく頼っているというのは、意思決定権者の意識が低すぎると思う。
 このような中、*9-4-1・*9-4-2・*9-4-3のように、養殖に着目する地域が多く、漁業の柱が養殖にシフトしているのは、(その餌を国内で生産しているのであれば)良質のたんぱく質を自給することができるので食料自給率向上にプラスである。また、養殖技術の向上により、「海なし県」にも養殖が広がり、天然ものと遜色ない味を売りにする地域も出たり、ハウス施設に太陽光発電と蓄電システムを備えたり、自動給餌機を開発したりなどの工夫があるのは期待できる。
 しかし、*9-4-4のように、公正取引委員会が「生産者に全量出荷を不当に求めている」として独禁法違反の疑いを持ち、国内最大のノリ生産地である有明海の養殖ノリの取り扱いを巡って福岡有明海漁連、佐賀県有明海漁協、熊本県漁連とその関係先約10カ所に立ち入り検査したのはいかがなものかと思う。何故なら、佐賀県有明海漁協の場合は、海苔が色落ちしないよう地域ぐるみで排水を管理し、売上高が最大になるよう厳しく選別してブランド化することによって生産者の所得と自治体の税収を最大化しようとしており、漁協や漁連が一括して販売や購買を行った方が組合員である生産者にも奉仕することになるからだ。そのため、(畑と違って個人の所有物ではない)海で生産した海苔を個人で受注した取引先に直接納めたい場合は、最大限譲歩しても別のブランド名を使うことが必要で、そのようにして小さな個人同士が自由競争すると、むしろ全体の利益が小さくなって組合員個人の所得も減るのである。従って、「全量出荷に努める」に改めれば十分で、○○組合と言えば不正をしていると推測するのは歪んでいると思う。


   2022.2.5佐賀新聞         NARO         2022.6.2日経新聞 

(図の説明:左図は、畜産配合飼料の原料輸入価格の推移で、2021年には上がり始めていたにもかかわらず、中央の図のように、放牧や飼料の国内生産も可能であるのに国の補填をあてにして輸入に頼り続けていたのは同情の余地がない。また、右図のように、化学肥料の原料もほぼ全量を輸入に頼り、畜産との連携等によって有機肥料に変更することも可能であるのに放置していたのも、やはり同情の余地がない)

*9-1:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=158069 (南日本新聞 2022/6/21) [農業白書] 輸入頼みではいけない
 政府は2021年度版の農業白書(食料・農業・農村の動向)を閣議決定した。新型コロナウイルスの感染拡大や、ロシアのウクライナ侵攻で食料安定供給に懸念が生じていると強調。海外への依存度が高い日本は輸入先の多角化や食料自給率の向上が急務と訴えた。食料の安定的な確保について国民の関心は高まっている。不測の事態に備え、国内生産の拡大を急がなければならない。白書によると、21年の農産物輸入額は7兆388億円で、相手国は米国が最も多く、次いで中国である。上位6カ国で輸入割合の6割程度を占める。特に小麦やトウモロコシなどの穀物と牛肉は上位2カ国に8~9割を依存している気掛かりな状況だ。国連食糧農業機関(FAO)によると、農産物の輸出入額(19年)は、オーストラリアやフランス、カナダは輸出が輸入を上回り、米国は拮抗(きっこう)。中国の輸入は輸出の2.4倍だが、日本は11.3倍もあり、依存の高さが際立つ。小麦の国際価格が3月には過去最高値を記録するなど、世界的に食料価格は高騰している。国際情勢は見通せず、長期的に見て一層の食料価格上昇は避けられないとの見方もある。輸入相手国との安定的な関係を保ちながら、白書が主張する通り、調達先の多角化を図る必要がある。併せて、食料をどう自前で確保していくかが課題となる。白書は食料自給率のマイナス要因の一つに、コメの消費が減っていることを挙げている。主食用米の国内需要は食生活の変化や人口減少などを背景に毎年10万トン前後のペースで減少。かつてはほぼ全ての都道府県でコメが生産額の首位だったのに対し、現在は大半で畜産や野菜が主力になり転換が進んでいる。政府は食料安全保障の強化に向け、輸入に頼る小麦や飼料の国内生産を促しており、コメ以外への転作機運は今後高まる可能性がある。コメ以外の産出額が大きい都道府県ほど農家当たりの所得も大きい傾向があり、白書は需要の変化に応じた生産の取り組みが重要だとする。一方で、小麦が高騰する中、米食が見直される可能性があるとの指摘もある。主食用米の活用法について、食料安保の観点から需要拡大策を検討していいのではないか。20年度の供給熱量ベースの食料自給率は、18年度と並ぶ過去最低の37%にとどまる。白書は30年度までに45%とする目標に向け、担い手の育成や農地集約、ITを活用したスマート農業の導入を進める必要性を示している。国際情勢にできるだけ左右されないよう、生産と消費の両面から食の安定確保を図るべきである。

*9-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/807073 (佐賀新聞 2022/2/5) 飼料高騰、畜産農家に打撃 コロナ禍、円安…「厳しい綱渡り」
 佐賀県内の畜産農家に飼料価格の高騰が重くのしかかっている。値上がりの原因は、海外から輸入している原料であるトウモロコシなどの国際的な競合だ。円安などで今後も飼料の高値が続くと予測される一方、牛肉などの値段はコロナの感染拡大で先が全く見通せない状況。「ずっと、厳しい綱渡りが続く」と関係者の危機感は強い。値上げが問題となっているのは、配合飼料だ。牛の場合、餌はワラなどの牧草と配合飼料だが、金額ベースでは配合飼料が7割と多い。配合飼料は約半分がトウモロコシ、ほかは大豆油かすや大麦、小麦などで、9割が輸入という。その配合飼料は、1年半前から値上がりしている。JAさが畜産部飼料課によると、20年ほど前は1キロ30円台だったが、2020年秋から1キロ15円ほど上がり、現在、60~70円するという。
■中国が輸入
 社団法人・全日本配合飼料価格畜産安定基金の資料によると、2020年10月~12月に1トン当たり2万5078円だった輸入原料の平均価格は、21年1月~3月に2万9669円に上がり、同7月~10月は4万1353円まで跳ね上がっている。値上がり原因は、トウモロコシがバイオ燃料として使われるようになったこと、中国が飼料用にトウモロコシや大豆油かすの輸入に力を入れていることなどという。佐賀市久保田町で牛75頭を肥育する横尾慎太郎さん(22)は「2年前は月に100万円だった飼料代が今は150万円になって大変。餌を減らすわけにいかないし、対策しようがない」とこぼす。出荷する枝肉の価格が高めで赤字ではないというが「年明けから肉の値段が下がってきた」と、コロナ禍、価格の行方に気をもむ日々だ。JAさがによると、肥育農家は子牛を20カ月育てる。この間、牛1頭に食べさせる配合飼料は5~6トン。1キロ当たり15円値上がりすると、牛1頭で7万5千円ほどのコスト増となり、200頭飼育している場合、コストが1500万円増える計算だ。
■輸送費も上昇
 対策として、農家や飼料メーカー、国が基金を積む配合飼料価格安定制度があり、配合飼料の輸入原料価格が直近1年平均より一定値上がりすると、差額が農家に支払われる。算定は年4回で、今回は急激な値上がりを受け、直近の2021年度第3四半期(10~12月)まで4期連続の発動が決まった。補てん額は1トン当たり8500円~1万2200円などで、同基金佐賀県協会は「今まで、こんなに高額になったことはない」と、今回の値上げの大きさを指摘する。ただ、補てんはあくまで原料の平均値との差額で、実際には現場のマイナス分の全てはカバーできないという。価格が高止まれば基金が出ないことも予想される。既に、飼料だけでなく海上輸送賃や国内の輸送費も上昇している。国際情勢は原油高、円安基調で、関係者は「いい話は何もない」と嘆き、今後も飼料代の高値は続くと予測する。畜産農家の現状について、JAさがは「国の支援策もあって、佐賀牛などの値段がコロナ前の水準に持ち直したので、何とか経営が持ちこたえている」と説明。ただ、感染が広がるコロナの影響で市場がどう動くか全く見えず、「まさに綱渡りで、畜産業界の危機感は強い」とし、現在、短期と中長期の対策について検討中という。

*9-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/863851 (佐賀新聞 2022/6/2) 「そんなに上がるのか」肥料値上げに佐賀県内の農家絶句 JA、県に支援要請を検討
 全国農業協同組合連合会(JA全農)が、地方組織に6~10月に販売する肥料の値上げを発表した。前期(昨年11月~今年5月)比で最大94%と過去最大の上げ幅に、佐賀県内の関係者からは「既に肥料確保にも苦労しているのに」など戸惑いの声が上がっている。肥料原料となる尿素が94%、塩化カリウムが80%、複数成分を組み合わせた「高度化成肥料」が55%の引き上げとなる。佐賀市嘉瀬町で麦の収穫をしていた男性(72)は「せいぜい30%と思っていたが、そんなに上がるのか」と絶句した。所属する集落営農組織は約40ヘクタールの農地で麦などを生産。「規模が大きい分、影響も深刻。私たちでもきついのに、個人で何とかやっている高齢者は農業をやめてしまうのでは」と危惧する。6月からのコメ生産に使う肥料の確保にも苦労し「10年前から納品している業者が断ってきて、農協に何とかお願いした。先が見えないのがつらい」と肩を落とす。全農から原料を仕入れて唐津市の工場で肥料を生産するJAさがは「組合員がパニックにならず、農業に従事してもらうのが私たちの仕事。原料や製品をしっかり確保したい」と安定供給に力を注ぐ。値上がりした原料を使った肥料の価格は今月中に決める予定だ。JAグループ佐賀の幹部は5月中旬、県関係与党国会議員5人に肥料価格高騰に対応する支援制度の創設などを要請した。JA佐賀中央会は県にも支援を要請する方針で「具体的な内容はこれから協議する」。肥料の適正量を調べる土壌分析、堆肥の有効活用などを例に挙げ「コストや労働力を含めて総合的な対策を考える必要がある」と話した。

*9-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220621&ng=DGKKZO61897980R20C22A6MM0000 (日経新聞 2022.6.21) 肥料高騰、農業に打撃 中国輸出制限・ロシア侵攻が拍車、食料安保に新たな課題
 農作物の育成に欠かせない化学肥料の価格高騰が農業経営に影を落としている。原料主産国の中国が国内流通を優先して輸出制限したほか、ウクライナ危機に伴う経済制裁でロシアからの調達も滞ったためだ。影響は長期化が予想され、政府はカナダやモロッコなどからの代替調達を急ぐ。食料安全保障の観点から化学肥料に頼らない農業への転換が課題だ。化石燃料を原料とする化学肥料の削減は脱炭素化にも欠かせない。政府は21日の農林水産業・地域の活力創造本部(本部長・岸田文雄首相)で、化学肥料の使用量を2016年時点から20%ほど低減させ、30年までに72万トンにする中間目標を決めた。農水分野の二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロに向け、50年には30%減の63万トンにする。化学肥料は「肥料の三要素」とよばれる窒素、リン酸、カリ(塩化カリウム)からつくる。原料はほぼ全量を輸入に頼る。農業の経営費に占める肥料費の割合は最大13%にのぼる。特に畑作、野菜、水稲などで肥料が多く使われる。肥料高は農業現場に波及する。「値上げは痛手だ」。広島市内でコマツナを栽培する今田典彦さん(42)は語る。昨年夏ごろから、年間900袋ほど購入している肥料のうち、一部の価格が10%ほど上がった。深刻なのは農作物の販売価格に転嫁できないことだと訴える。「価格は市場相場に左右される。相場が上がらなければ契約販売先との交渉は難しい」と嘆く。兵庫県豊岡市のコメ農家の間でも「肥料は高くても買わざるを得ないが……」と不安が広がる。コメ価格は低下傾向にあり、肥料高は経営を圧迫する。「生産コストがさらに上がれば、農家をもうやってられない」との声も漏れる。世界銀行の肥料価格指数は22年第1四半期に前年同期を10%ほど上回り、過去最高に達した。主産国であるロシアと中国の供給停滞が響いた。世界的な食料増産を背景に、中国は21年秋から自国内での流通を優先して輸出制限をかけた。中国の動きは日本の産地を揺らす。全国農業協同組合連合会(JA全農)は5月末に肥料価格を前期に比べて最大94%値上げすると決めた。ウクライナ危機の長期化で調達不安は高まり、世銀は22年の通年価格が前年比で70%近くまで上がるとみる。肥料の原料調達を国別にみると、日本はリン酸の9割を中国に依存する。塩化カリウムは3割弱をロシアとベラルーシからの輸入に頼る。肥料の海外依存は日本の食料安全保障のアキレスけんとなりかねない。農林水産省は代替品の確保に動く。中村裕之副大臣は20日からカナダを訪問し、ロシアからの調達が困難となった塩化カリウムの供給確保を依頼する。5月中旬には武部新副大臣がモロッコを訪問しリン酸の安定供給を要請。肥料の世界的な争奪戦は今後も続くとみられ、農作物の価格上昇圧力となり得る。有機農業への転換がカギを握る。国内の有機栽培面積は18年時点で2万3700ヘクタールと農地面積の0.5%にとどまる。農水省の環境保全指針「みどりの食料システム戦略」が掲げる「50年までに25%」はまだ遠い。政府は物価高対策で肥料の原料への資金支援に着手したが、補助金だけでは限界がある。農業経済学に詳しい東京大学の鈴木宣弘教授は「肥料に調達難の危機が迫る今こそ、農業そのものを見直す大局的な視点が求められる」と話す。

*9-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/871699 (佐賀新聞 2022/6/18) 肥料高騰などで支援要請 JA佐賀中央会と県農政協議会が佐賀県に
 ウクライナ情勢や中国からの輸出停滞、円安などで燃料や肥料、飼料価格が値上がりしていることを受け、JA佐賀中央会と佐賀県農政協議会は17日、県に支援を要請した。生産者の負担を軽減できるよう、国の対策が行き届かない部分への対応を求めた。JA佐賀中央会の金原壽秀会長が要請書を山口祥義知事に手渡した。JAさがの大島信之氏ら4農協の組合長も出席した。要請書には、園芸生産の燃料費を支援する県の事業継続や拡充、肥料や配合飼料の価格高騰の影響を受ける生産者へのサポート、万全な対策が取れるよう国への働き掛けなどを盛り込んでいる。山口知事は「国に政策提案しており(国の動向を見ながら県としても)、9月にさらなる対応をしたい」と応じた。金原会長は「佐賀県はタマネギが基幹作物でかなりの肥料を使う。作物が違えば(農業)体系が違い、国の対策だけで十分か心配がある」と指摘し、「国で消費する食べ物は国で生産する観点からも、中山間地を含めてしっかり手当てしないといけない」と佐賀農業の実情に応じた対策を要望した。

*9-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC18D2Z0Y2A510C2000000/ (日経新聞 2022年6月17日) 養殖漁業、福岡で7割に増加 全国では30年代にも過半に
 漁業の柱が養殖にシフトしている。漁業産出額に占める養殖業の割合はデータが残る60年間で4倍に増加し2020年に36%に達した。足元のペースで増加が続けば30年代に養殖が漁船漁業を上回る。消費者の魚離れや資源枯渇による市場縮小に加え、従事者の減少も続く中「売れる魚種」を計画的に生産する養殖に着目する地域は多い。福岡県や和歌山県でシフトが加速している。卸価格の漁獲高を示す農林水産省の漁業産出額を使い、淡水魚を除く海面漁業のうち養殖業の割合を算出した。1960年、9%だった養殖率はほぼ一貫して上昇が続く。都道府県別では佐賀県が89.3%、熊本県85.8%と、ノリ産地が上位を占める。このほか愛媛県、岡山県など12県が5割を上回った。15~20年の5年間で養殖率を最も高めたのは福岡県で18.3ポイント上昇の70.9%だった。次いで和歌山県が14.9ポイント上昇の51.4%、沖縄県(14.2ポイント上昇の49.0%)となった。福岡県では貝類の養殖に積極的に取り組む。博多湾で「煮干しイリコ」用のカタクチイワシなどが捕れなくなったことを受け、福岡市漁業協同組合が加工に使用していたボイル釜を殺菌水槽に転用、カキ養殖に乗り出した。03年に「唐泊恵比須かき」としてブランド化した。直営のカキ小屋も始め、外国人観光客の人気を集めた。3月にはシンガポールへの輸出を開始した。福岡県水産海洋技術センターの担当者は「収入を下支えする裏作だったが、安定した収入源となった」と話す。和歌山県では受精卵から人工でふ化させたクロマグロの稚魚を親魚とし、採卵して再び人工ふ化につなげる完全養殖に取り組む。資源の枯渇が懸念されていたが、完全養殖は稚魚を捕獲し育てる従来の養殖と異なり、資源量の増減に左右されない。近畿大学水産研究所(白浜町)が02年に実用化した技術で「近大マグロ」としてブランド化した。東京・銀座や大阪に飲食店を展開するほか、海外販路も拡大する。10年には和歌山東漁協(串本町)が大手水産会社系列の2社を誘致した。各地で不漁が相次ぐことが養殖シフトを加速させる。国際的な漁業管理を受ける遠洋だけでなく、沿岸でも漁獲量は減少し、従来型漁業は「出漁ごとの当たり外れが大きい」などとの見方が広がる。水産白書によると、漁船漁業を営む企業は20年度の漁労利益で平均4211万円の赤字となった。一方、海面養殖を営む企業は平均526万円の黒字と経営が比較的安定する。さらに養殖技術の向上で従来、適地とされてきた温暖で穏やかな海のある地域以外でも注力するケースが増えてきた。特に陸上養殖は気候の影響を受けにくく、船を使わないため、高齢者でも働きやすいなど利点は多い。滋賀県甲賀市でも民間業者がトラフグやヒラメなどを試験養殖する。寄生虫やウイルスの影響を避ける狙いで人工海水を使用した。さらにふん尿などを分解するバクテリアで浄化し繰り返し使うことで、周辺環境に影響を及ぼす排水も出さない。養殖場を設けた廃校の旧校舎は甲賀市が無償貸与し、改修費も4割ほどを負担した。埼玉県の温泉施設では21年秋からサバの養殖を始めた。近く併設のレストランで提供を開始する。従来、内陸部では「足が早い」として生食を避ける傾向があったサバの刺し身を前面に押し出し、集客につなげる。

*9-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC079AR0X00C22A6000000/ (日経新聞 2022年6月17日) 埼玉のサバ・群馬のウナギ 「海なし県」でも養殖拡大
 日本の漁業に占める養殖の割合が高まる中、関東・山梨でも養殖を地域振興に活用する取り組みが目立ってきた。漁業が盛んな千葉、神奈川、茨城各県はもちろん、「海なし県」の埼玉や群馬などにも養殖が広がる。設備面の充実もあって養殖魚の質や生育環境も向上、天然ものと遜色ない味を地域の売りにする動きも出てきた。埼玉県の最北部に位置する神川町。県内を中心に温浴施設の運営を手掛ける温泉道場(埼玉県ときがわ町)の「おふろcafe白寿の湯」に2021年10月、サバの陸上養殖場が設置された。海がない埼玉でおいしく新鮮なサバが食べられるようになると話題になり、地域活性化に向けた期待が高まっている。養殖場には3基の水槽やろ過設備を備える。開設当初に投入したサバの稚魚は順調に育ち、体長が20センチほどに育ったサバも確認できた。今年4月には稚魚を追加投入し、23年5月には第1号を出荷できる見込み。海のサバには寄生虫のアニサキスがいることもあるため生食は勧められないが、管理された設備で育つ養殖サバは生で食べられるのが強みだ。温泉道場の担当者は「日々水質改善に努め、質の高い養殖サバを提供したい」と話す。埼玉同様に海がない群馬県でも、太陽光発電所の建設やメンテナンスなどを手掛けるジースリー(同県伊勢崎市)がウナギを養殖する。前橋市内の約1万6000平方メートルの敷地に、複数の水槽が入ったハウス施設3棟と太陽光発電所、蓄電システムを備える。くみ上げた地下水を太陽光発電で温めることで養殖池をウナギの生育に最適な温度に保つ。19年から試験飼育を開始。現在は約30万匹のウナギを養殖している。伊勢崎市内にはウナギの加工場も新設し、22年8月に稼働する予定だ。金子史朗社長は「ウナギを収益源にしたい」と意気込み、地域の新たな名産品を目指す。水族館を思わせる大型水槽の中をチョウザメが悠々と泳ぐのは、茨城県つくば市にある半導体用特殊バルブメーカー、フジキン(大阪市)の研究所。流体制御の技術を生かし、陸上養殖を手がけようと旧ソ連時代のウクライナから30年以上前に輸入したチョウザメなど合計4000匹が育つ。体長は大きなもので約2メートルに達する。チョウザメといえば高級品のキャビアを連想するが「キャビアがとれるまで8年はかかる」(平岡潔・特任主査)。エサ代などコストがかかり、収益には結びつきにくいことから、水耕野菜栽培とチョウザメ養殖を組み合わせたシステムで知恵を絞る。陸上養殖のトキタ(河内町)は廃校跡の水槽でこのシステムを取り入れ、植物の生育に必要なチッ素などを含むチョウザメのフンを肥料に、クレソンなどの葉物野菜を育てる。茨城県内では常総市の水産加工会社、西京漬の寺田屋がチョウザメの肉に着目し、チョウザメのみそ漬けを販売。同市のふるさと納税の返礼品としても人気で、町おこしにも一役買っている。海水温の上昇など海の変化に対応を迫られ、新たな養殖を模索する例もある。江戸前ノリで知られる養殖ノリの生産量が減り続けている新富津漁業協同組合(千葉県富津市)は苦境を打開するため、東京湾では珍しいカキの養殖に着目した。18年から養殖施設の一角でかごに入れた稚貝を育て、21年度の水揚げは約14万個、22年度は20万個以上を見込む。「江戸前オイスター」と名付けて当初は漁協が販売先の飲食店も開拓した。味の良さが評判となり、東京都内のオイスターバーなどで提供され、今は豊洲など各市場経由でも流通する。豊富な海の幸がとれる神奈川県の海面養殖の主役はワカメで、養殖生産量の56%を占める。19年のワカメ類の養殖生産量は546トンと全国6位だ。県の沿岸部各地で養殖が行われ、横須賀市の猿島周辺で育てる「猿島わかめ」、茅ケ崎市のえぼし岩周辺で育てる「えぼしわかめ」などのブランド化も進めている。1970年代に4千トン近くあった生産量は温暖化の影響もあってか年々減少している。横浜市などは「ワカメの地産地消を通じて温暖化対策を学んでほしい」と、子どもたちによる収穫体験イベントも開いている。養殖を地域振興の目玉として有効活用するには、地元住民に関心を持ってもらう努力も欠かせない。

*9-4-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61827960X10C22A6L91000/ (日経新聞 2022年6月18日) 養殖、三重はヒラメ増やす 自動で餌やり効率的に、愛知・豊根村 チョウザメ/飛騨 トラフグ
 東海4県で養殖がじわりと広がっている。三重県で水産会社が高級魚のヒラメの生産を増やし、静岡市では昨年に出荷が始まった陸上養殖のサーモンを地域資源に育てる動きが進む。生産効率化のための最新技術の導入にも各地が熱を入れている。東海4県で2015~20年に漁業産出額に占める養殖業の割合(養殖率)を最も高めたのは静岡県で1.8ポイント増えた。増加率は全国20位だった。三重県が1.6ポイント増(22位)、愛知県が0.1ポイント増(28位)で続く。三重県南部の大紀町に本社を置く丸年水産は海に近い陸上に池を作って養殖するヒラメの生産を拡大する。明和町の拠点でウナギ養殖池だった隣接地を確保し新たな養殖池の造成に着手。数年内に全体の年間生産能力を25%増の75万匹とする。同社は高級魚のヒラメを専門に養殖を手掛け、年間出荷量は大紀町が30万匹、明和町と松阪市がそれぞれ15万匹。生産量は全国最多という。1970年代にヒラメの養殖を始めた当時、市場での卸価格は1キロ1万円することもあったが、現在は2000円を切る水準まで下がっているという。自動給餌装置の導入も進めており、省力化で生産コスト圧縮も進める。三重県では「スマート養殖」に向けデジタルトランスフォーメーション(DX)の研究も盛んだ。鳥羽商船高等専門学校(鳥羽市)は江崎修央教授が中心となり、カメラやセンサーが付いた観測装置「うみログ」を開発。鳥などによる食害や、水温や潮流の変化を調べて養殖に生かす。三重県の伊勢湾や愛知県の三河湾など全国120カ所の養殖場で導入が進んだ。江崎氏はマダイなどの養殖を効率化する自動給餌機も開発中だ。タイやハマチの養殖は今も人の手で餌をやることが多く、魚の食欲次第で無駄が生まれやすい。カメラで魚の動きを読み取り食欲傾向などのデータを蓄積したうえで自動化し、ロスを抑える。実用のメドもついているという。
●三保サーモン
 養殖魚を地域資源に育てようとするのが静岡市。井戸からくみ上げる塩分を含んだ「地下海水」で育ち、寄生虫の心配がない陸上養殖の「三保サーモン」の出荷が2021年に三保地区で始まった。生臭さが少なく弾力のある肉質が特徴で、9割を市内の飲食店や加工業者に出荷している。かす漬けなどが同市のふるさと納税の返礼品に採用され「需要が多く供給が追い付かない状態だ」(担当者)。地下海水は温度が一定で通年生産できる利点もある。将来は年間50トン程度の生産を目指している。「三河湾や伊勢湾は浅い海でのり養殖は盛んだが、魚には向かない」(県水産課)という愛知県では養殖率の伸びこそ小さかったが、山間部で養殖に挑戦する動きがある。人口約1000人の豊根村では12年からチョウザメの養殖が始まった。面積の9割を占める森林の豊かな栄養分を取り込んだ沢の水資源を生かせる。4月には初めてキャビアの生産にこぎ着けた。ふるさと納税の返礼品に登録し、これまでに70件を超える申し込みがあった。養殖に取り組みたいと移住する若者も出ているという。
●陸上で育てる
 「海なし県」の岐阜県でも、トラフグが養殖されている。飛騨海洋科学研究所(飛騨市)が稚魚を陸上養殖で育てる技術を確立。地域の料理人や飲食店がふぐ調理師免許を取得し、「飛騨とらふぐ」のブランドで地域名物の一つとなった。水温や水流などを調節できるため「年中育てられるうえ、海中の菌などによる毒の危険も少なく、安全性も高い」と深田哲司社長は強調している。

*9-4-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/943520/ (西日本新聞 2022/6/21) 公取委の検査 ノリの全量出荷を見直せ
 インターネットを使った直接販売が広がり、農水産物の流通は多様化している。消費者ニーズに応える商品は高値で取引され、生産者の所得が増える。こうした努力を妨げてはならない。国内最大のノリ生産地、有明海における養殖ノリの取り扱いを巡り、公正取引委員会が福岡、佐賀、熊本3県の漁協や漁連に立ち入り検査した。生産者に全量出荷を不当に求めているなどとして、独禁法違反(不公正な取引方法)の疑いが持たれている。立ち入り先は福岡有明海漁連(福岡県柳川市)、佐賀県有明海漁協(佐賀市)、熊本県漁連(熊本市)とその関係先約10カ所で、漁協や漁連に公取委が立ち入り検査するのは初めてという。漁協や漁連は販売や購買などを通じて組合員に奉仕するための組織である。養殖ノリの区画漁業権を生産者に貸し出す優越的な地位を背景に、組合員のノリ生産者に不利益を強いているとすれば本末転倒だ。この機会に悪弊を正し、自らの存在意義と役割を見つめ直してほしい。水揚げされたノリは乾燥した状態で漁協や漁連に集め、問屋に共同販売される。生産者は漁協や漁連の求めに応じて、ノリをほぼ全量出荷している。個人で受注した取引先へノリを納めるために、問屋から買い戻す生産者もいたという。ノリをどこに出荷するかは生産者の自由なのに、漁協や漁連は長年、全量出荷する旨の誓約書を提出させていた。自由な競争を阻害してきたのは明らかだ。ノリ生産日本一の佐賀県によると、佐賀県有明海漁協は昨年、公取委の指摘を受けて誓約書の「全量出荷する」を「全量出荷に努める」に改めた。それでもなお、公取委は独禁法に触れる「拘束条件付き取引」や「排他条件付き取引」に当たる可能性が高いとみたのだろう。漁協による独禁法違反行為は以前からの課題で、昨年6月にまとまった政府の規制改革実施計画にその根絶が盛り込まれた。組合員の所得向上に貢献するのが漁協本来の姿であり、系統外出荷を制限してはならないという趣旨の指摘があった。水産庁は実施計画に従い、昨年11月に水産物・水産加工品の適正取引推進ガイドラインを策定したが、漁協の理解が深まったかは疑問だ。今年2月の規制改革推進会議の会合では、誓約書について「ブランド維持と価格交渉力強化のため、可能な限り全量出荷に努めるようお願いしている」とする全国漁業協同組合連合会と、「不公正な取引方法の温床」と問題視する委員の溝は埋まらなかった。公取委の判断を待ちたい。有明海は熊本県産アサリの偽装表示問題でも関心を集めたばかりだ。漁協関係者は社会の厳しい視線を正面から受け止める必要がある。

<物価抑制と賃金上昇を両立させる生産性の向上>
PS(2022年6月23、24、25日追加):*10-1-1は、6月22日に公示された参院選で、物価高騰対策や安全保障の在り方が争点になるとして、①食料品・電気・ガソリンなど日用品の多くの値段が上がり、財布のひもは固くなる一方で ②高齢者は物価高騰の中で年金が引き下げられ、「減額と聞くだけで出費を抑えよう」と思い ③ケマネジャーは慢性的な人手不足で「こちらにも目を向けて」と言い ④気候変動や河川改修の影響で浸水被害が広がり ⑤若者は、「教育費の無償化など若者に向けた政策が議論されれば関心が高まる」と言っている と記載している。
 このうち①②は尤もで、意思決定権者がこういうことに気づかない方が不思議である。また、③は、介護の担い手がもともと低賃金であることに原因があるため、全世代型介護に切り替え、全世代が所得に応じて薄く広く負担する制度に改正し、スマート化によって生産性も上げるべきだ。さらに、④は、気候危機を前提にした土地活用に変更しつつ、リスクを増すような公共工事は避けるべきだ。しかし、⑤の「若者が政治に関心がない」ことについては同情の余地がないが、国の現在の状況や今後の方針について意見を言いやすい環境整備は必要であろう。
 また、*10-1-2は、⑥生活に困窮する子育て世帯に支援団体が物価高騰の生活への影響を調査したら、「大変苦しくなった」「苦しくなった」との回答が85%に上り ⑦子どもに給食がない上、家にいる時間も長くなって、光熱費がかかる夏休み中の食事に8割以上が不安を抱え ⑧子どもの食事は「食事の質(栄養バランス)が悪くなった(64%)」「食事のボリュームが減った(60%)」「肉や魚が買えない(37%)」と続き ⑨「家計が切迫しておかずのある食事は1日1度になりそう」「カップ麺や冷凍うどんが増える」などの声があった としている。
 ⑥も尤もで、子供は多ければ多いほど食費もかかるので、意思決定権者がこれに気づかないのは不思議なくらいだ。また、共稼ぎが一般的な現在、⑦のように、休み中に給食がなければ親が著しく大変な思いをするか、⑧⑨のように、栄養バランスの悪い食事で子の生育に悪影響を与えるかのどちらかになる。そのため、休み中も、希望者は学校で勉強したり、給食を食べたりできるようになればよく、そのための人材は退職教員の再雇用で調達できるだろう。
 このような中、物価抑制と賃金上昇を両立させる生産性向上を期待できる事例もあり、*10-2-1の3Dプリンター革命は、i) 3Dプリンターで部品を作れば、サプライチェーン(供給網)の再構築ができ ii) 3Dプリンターは多くのパーツを合体せずに欲しい形の部品を一発で成形でき、AIやセンサー技術との親和性も高いので、生産工程を大胆に見直すことができ  iii)前例に縛られないものづくりの発想ができるため、人間の創造性を開放する。*10-2-2は、トヨタ自動車が日本HPの3Dプリンターを導入して復刻部品を生産した事例であり、確かに3Dプリンターを使えば短時間で部品の製造ができるため、部品の在庫を減らしながら、過去に製造をやめた部品を再供給することも可能なのだ。
 また、*10-2-3のように、航空業界でも脱炭素に繋がる電動化が期待されており、東芝は、中型機で必要とされる出力と小型化・軽量化を両立させた飛行機の動力源となるモーターを開発して次世代電動航空機向けの中核部品生産に参入し、2020年代後半までの事業化を目指すそうだ。それなら、妥協して寄り道することなく、是非、バッテリーとモーターに置き換える形式か、水素燃料とモーターを組み合わせるハイブリッド型で、電動航空機・水素航空機時代をリードにして欲しいわけである。
 さらに、*10-3のように、佐賀大が、佐賀市、伊藤忠エネクス、不二製油グループとCO2を活用した大豆育成の共同研究プロジェクトを始め、将来的には佐賀市の清掃工場でごみ焼却時の排ガスから分離回収したCO2を使って大豆の収量を上げる効率的な育成を目指すそうだ。施設園芸でCO2が植物の生育を早めることは既に実証されているため、田畑だけでなく山林にCO2を撒いても効果がありそうだ。
 *10-4のように、佐賀牛の安定生産に向けて佐賀県内で繁殖から飼育までを一貫して行うため、牛の繁殖を行う「佐賀牛いろはファーム」の起工式が唐津市肥前町で行われ、新施設は、⑩母牛の種付け・出産 ⑪子牛の飼育 ⑫畜産農家が育てる母牛の不妊治療 を行う計画で、畜産農家を目指す人が研修する場も備え、敷地面積約4haに牛舎など12棟が立ち並ぶそうだ。しかし、⑩⑪をするのなら、乳牛の雌に肉牛の受精卵を移植して出産させ、乳牛は牛乳が出るようにしながら良質の肉牛を生ませて牧場で乳牛に育てさせるのが、最も安いコストで足腰が強くて健康な牛を育てることができ、現在はそれも可能である。ただ、牛は家畜なので、⑫のように、不妊治療が必要なようなら、その牛は繁殖に適さないと言える。なお、人間も、不妊治療などしなくてよい年齢で出産するのが最もよい状態で出産でき、集団として不妊治療に頼りすぎると、(詳しい理由は書かないが)よい子孫を残せる確率がそれだけ下がる。

*10-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/874168 (佐賀新聞 2022/6/23) <参院選さが2022>物価高騰、年金不安…暮らしどうなる 将来見据えた施策を 佐賀県内有権者、切実な声
 22日に論戦がスタートした参院選。物価高騰対策や緊迫する国際情勢を受けた安全保障の在り方などが争点になる。新型コロナウイルス禍から徐々に「平時」へ軸足が移る中、佐賀県内の有権者はそれぞれの営みや暮らしから、福祉や防災など候補者の訴えに耳を傾ける。
▽物価高騰
 食料品や電気、ガソリンなど身の回りの多くのモノの値段が上がっている。「このままでは財布のひもは固くなる一方だ」。神埼市で麺類の製造や販売を行う井上製麺の井上義博社長(64)は消費マインドの落ち込みを不安視する。経営にも響き、小麦や包装材の価格上昇を受け、6月に商品の値上げを余儀なくされた。ウクライナ情勢の影響などでさらなる原材料費の値上げが予想され、「物価高の終着点が全く見えない」と先の見通せる具体的な施策を求めた。
▽年金
 物価高騰の中、年金は引き下げられた。6月に受け取る年金支給額は、前年度と比べて0・4%減額された。三養基郡みやき町の寺﨑彪たけしさん(79)は「すぐに影響を実感しているわけではないが、減額と聞くだけで出費を抑えようと思う」。政治は日常生活と直結しており「自分の地位を守るためや口先だけのパフォーマンスはもうこりごり。全世代の将来を見据えた政治を」と話した。
▽社会福祉
 介護施設と利用者を結ぶケアマネジャーの伊藤睦さん(39)=神埼郡吉野ヶ里町=は、ケアマネジャーの処遇改善を求める。利用者や家族、事業者や医師など複数の関係者の仲介役を担うため「板挟みになることも多く、精神的にきついこともある」とこぼす。ケマネジャーは介護職員の処遇改善加算の対象外。「慢性的な人手不足が続いている。現場の介護職だけでなく、政治はこちらにも目を向けて」と訴える。
▽防災
 2019、21年と浸水被害に遭った六角川流域の住民は、梅雨入りで今年も心配な季節を迎えている。1990年も含めれば3度の浸水被害を経験した武雄市橘町の鳥越一夫さん(79)は「とにかく水に漬からないようにしてほしい」。気候変動による雨の降り方の変化はもちろん、河川改修や周辺の道路整備の影響で浸水被害が広がっていると実感する。「候補者には現地まで足を運んでほしい。そしてわれわれの意見や思いに耳を傾けてもらいたい」と願っている。
▽若者
 選挙管理委員会などの「貴重な一票」の呼びかけにも、投票率は若者を中心に低迷している。長崎県内の公立大学に通う鹿島市の大学1年の中村弘一郎さん(18)は4月の市長選に続く選挙。初の国政選挙は「行きたいとは思っているけど…」と身近な問題が投票の基準になった市長選との違いに戸惑いを少し感じているという。大学生になり、学費負担の大きさを気にしている。「若者が政治に関心がないのは確か。教育費の無償化など若者に向けた政策が議論されれば、関心は高まると思う」

*10-1-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/873812 (佐賀新聞 2022/6/22) 物価高で生活苦しい85%、子育て中の困窮世帯
 生活に困窮する子育て世帯に、支援団体が物価高騰の生活への影響を調査したところ、「大変苦しくなった」「苦しくなった」との回答が85%に上ることが分かった。子どもに給食がない上、家にいる時間も長くなって光熱費がかかる夏休みを前に不安を訴える声が強まっており、団体では食料支援を行うためにインターネットで資金を募るクラウドファンディングを始めた。調査をしたのは、貧困問題に取り組む認定NPO法人「キッズドア」(東京)。18歳以下の子どもがいて生活困難な保護者1386人がネットを通じたアンケートに回答した。物価高騰で生活が苦しくなったかを尋ねた質問では「大変苦しくなった」が48%、「苦しくなった」が37%だった。子どもの食事状況を複数回答で聞いたところ、「食事の質(栄養バランス)が悪くなった」が64%と最多で、「食事のボリュームが減った」(60%)、「肉や魚が買えない」(37%)と続いた。夏休み中の食事には8割以上が不安を抱えており、「家計は切迫し、おかずがある食事は1日1度になりそうだ」「カップ麺や冷凍うどんが増える」との声があった。団体の広報担当者は「新型コロナウイルス禍による苦境に物価高が追い打ちをかけている」と指摘。夏休みに2500世帯に食料を配布するため、8月31日までに1千万円を目標にクラウドファンディングを実施する。

*10-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220623&ng=DGKKZO61937370S2A620C2TCR000 (日経新聞 2022.6.23) 3D印刷に3つの潜在力
米テクノロジー誌ワイアードの編集長だったクリス・アンダーソン氏の著書「メイカーズ」が出版され、「3Dプリンター革命が起きる」と騒がれてから10年がたつ。期待先行の反動もあり、「試作にしか使えない」「個人のホビー用だ」などネガティブな声が高まるにつれ、表舞台での議論が日本では急速に下火になった。しかし、この間も技術は進歩し、経済、社会の情勢変化を受けて、重要性が一段とはっきりした。日本も動きが鈍いままでは、さまざまな機会を逃す。3D印刷には3つの潜在力があると思う。第1にサプライチェーン(供給網)の再構築だ。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻に見舞われた世界は、あちこちで供給網が寸断され、多くの企業が混乱に陥った。部品確保の手段として3D印刷は有力な選択肢との見方が強まっている。米バイデン政権が5月に大手メーカー5社と打ち出した「アディティブ・マニュファクチャリング(AM=3D印刷)フォワード」イニシアチブは象徴だ。インフレを抑えるためにも丈夫な供給網がいると考え、3D印刷にかかわる設備投資やスキル教育にとり組む企業を政府が支援する。3Dプリンターの米新興企業マークフォージドによれば、あるドイツの自動車メーカーは、3D印刷した部品を使って車の生産を続け、難局をしのいだ。「調達先の国を増やす複線化はコスト上昇を招く。まったく違うアプローチが求められ、3D印刷がカギとなる」。長岡技術科学大学の中山忠親教授は語る。半導体リレーという電子部品がある。必要なプラスチックパーツの供給が滞り、品不足になった。「まずは仮のパーツを3D印刷し、リレーを完成させて出荷。その後、正規パーツが手に入った段階でリレーごと交換する」。そんな柔軟さが大事だと中山氏はみる。3D印刷の2つ目の注目点は、工場の刷新。5月、ドイツのBMWは自動車に使う金属部品を3D印刷する自動システムができたと公表した。3D印刷は万能ではなく、従来製法との共存が欠かせない。だが人工知能(AI)やセンサー技術との親和性が高い3D印刷の採用は、生産工程全体を大胆に見直す突破口だ。多くの製造業にヒントとなる事例といえる。いくつもの構成パーツを集めて合体するのではなく、3D印刷なら欲しい形の部品を一発で成形できる。手元にプリンターがあれば、外部調達に過度に頼らず、温暖化ガスを排出する物流を減らせる。さらに、工場で働く人の権利を守れるかもしれない。「人海戦術的な製造のままでいいのか。先進的な企業は(重労働である)大量の組み立て作業をなくす自動化を思考している。3Dプリンターが役に立つ」。PwCコンサルティングの赤路陽太ディレクターは訴える。こういう労働者保護の意識は欧州で色濃いが、早晩、波は世界におよぶとみておいた方がいいだろう。ESG(環境・社会・企業統治)経営の要請が3D印刷に光をあて、工場の姿を変えていく。3D印刷が秘める力の3番目は人間の創造性の開放だ。「3Dプリンター・ネーティブ」と呼ぶべき新世代が台頭してきたと、マークフォージドのシャイ・テレム最高経営責任者(CEO)は話す。米ペプシコ傘下で、ポテトチップスで有名なフリトレーが一例だ。生産ラインで用いる治工具はかつて外注し切削加工でつくっていたが、自社での3D印刷に切り替えた。製造にかかる期間は2週間から1日となり、コストは550ドルが12ドルに下がった。発案者は3D印刷に慣れ親しんだ若いエンジニアだった。米国内の35工場への3Dプリンター配備が決まった。前例に縛られないものづくりの発想がものをいう。いま3Dプリンター会社が技術を競う主戦場のひとつに宇宙産業がある。ロケット用など、かつてない形状の部品を生む知恵の勝負だ。この先は「3D印刷だからこそつくれるもの」の市場が現れ、つくり手が感性やセンスを存分に生かす時代が来るのではないか。欧米に比べて日本の出遅れ感は否めないが、目を凝らせば新たな芽が出てきている。長野県塩尻市にあるセイコーエプソンの事業所を訪ねると、2023年の商用化をめざす3Dプリンターがテスト稼働を続けている。射出成型などに用いる一般的な材料が使え、車や事務機器など最終製品の部品生産をねらう。トヨタ自動車が最終製品への活用を視野に米HPのプリンターを導入したことも先日、明らかになった。起業支援会社quantum(東京・港)のmitateプロジェクトも面白い。人とAIが組んでデザインした器を3D印刷した。形が独特でカラフル。斬新な製品を編み出したい人を助け、クリエーター経済を拡大する3Dプリンターの可能性を感じさせる。そして長岡技術科学大では「AM人材」の育成が始まった。学内のラボには3Dプリンターのほかスキャナー、ロボットなどが並ぶ。「設計から製造、品質保証までできる人材を育てたい」。中山氏は日本の製造業の生き残りを左右する試みと力が入る。3D印刷は発展途上だが、デジタル化する生産現場のコア技術と位置づけなければならない。「本格的なビジネスに使えないニッチ技術」という認識のままで備えを怠れば、後悔することになる。

*10-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC171EW0X10C22A6000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2022年6月17日) トヨタ、部品生産視野に3Dプリンター導入
 トヨタ自動車が試作品だけではなく、顧客に供給する部品を3Dプリンター(付加製造装置)で製作する検証のために、日本HPの3Dプリンターを導入した。導入を支援したSOLIZE(ソライズ、東京・千代田)と日本HPが15日に発表した。SOLIZEはトヨタの復刻部品の生産を3Dプリンターで担った実績がある。導入したのは「HP Jet Fusion 5200シリーズ」。平らに敷き詰めたプラスチック粉末材料に対し、インクジェット・ノズルから選択的に液剤を吐出。熱を加えて断面形状を溶融させ、冷却して固化させる「HP Multi Jet Fusion」技術によって造形する。断面形状の部分には溶融を促進する薬剤を、断面の輪郭の外側すぐの部位には逆に溶融を阻害する薬剤を噴射した上で加熱し、造形品の表面の細部が精緻に仕上がるように工夫している。材料としてポリアミド(PA)11、PA12、熱可塑性ポリウレタン(TPU)などが使える。トヨタは過去に生産したクルマの補給部品のうち、既に廃版となったものを復刻し、純正部品として再販売する取り組み「ヘリテージパーツプロジェクト」を手掛けている。トヨタが2021年6月に発表した「A70スープラ」向け復刻部品の中では、フロントドアガーニッシュを付加製造(3Dプリンティング)で生産。SOLIZEがHPの3Dプリンターで造形を担当し、トヨタが磨きや塗装などの仕上げを施した。これらの取り組みの一環として、トヨタ自身が同方式の3Dプリンターを導入する。試作品製作に加え、小ロットの実製品生産への適用可能性を検証していく。

*10-2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220623&ng=DGKKZO61955630S2A620C2TB2000 (日経新聞 2022.6.23) 東芝、電動航空機モーター参入 脱炭素へ小型・高出力
 東芝は次世代の電動航空機向け中核部品の生産に参入する。飛行時の動力源となるモーターで、数十人が乗る中型機で必要とされる出力規模と小型・軽量化を両立させる技術を開発した。2020年代後半までの事業化を目指す。航空業界でも脱炭素につながるとされる電動化が期待されており、電気抵抗をゼロにする「超電導」技術を活用して先行する。東芝子会社の東芝エネルギーシステムズが最高出力2000キロワットの試作機を開発した。大きさは直径約50センチメートル、全長約70センチで重量は数百キログラム。一般的な同出力規模のモーターと比べ、10分の1以下に小型・軽量化した。電動航空機は、電気によってファンを駆動させ、推進力を得る。燃料を燃やして噴出させることで進むジェットエンジンよりも温暖化ガス排出量を減らせる。ジェットエンジンとモーターを組み合わせるハイブリッド型や、バッテリーとモーターに置き換える形式などが想定されている。十数人乗りまでの小型機では試験飛行などが始まっている。ただ、旅客機などで一般的な中・大型機では1000キロワット級出力のモーターが必要で、機体が大型になるほどモーターが大きくなり実用化が難しいとされる。東芝は発電機器などで培った技術を応用することで実現した。今後、航空機メーカーなどと連携し、実用化を目指す。大出力のモーターは大型トラックや船舶の動力源としても期待され、幅広い電動化用途を想定している。国際航空運送協会(IATA)は50年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする目標を掲げる。ジェット燃料の代替となる再生航空燃料(SAF)の導入を進める動きが各企業で始まっており、電動航空機や水素航空機といった次世代機の開発も始まっている。インドの市場調査会社マーケッツアンドマーケッツは、航空機の電動化市場は21年に60億ドル(約8000億円)、30年までには200億ドル規模まで拡大すると予測している。東芝は現在、企業価値の向上へ株式非公開化を含む再編を検討している。2日に中長期の新事業計画を公表し、26年3月期に売上高を4兆円と22年3月期比で約20%増とする計画を掲げた。成長を加速するには新事業の創出が欠かせない。温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を注力領域に据えており、電動航空機市場を成長への足がかりの一つと位置づける。

*10-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/864617 (佐賀新聞 2022/6/3) 大豆育成にCO2活用 佐賀大が佐賀市、大手2社と共同研究
 佐賀大は、二酸化炭素(CO2)を活用した大豆の育成研究プロジェクトを始めた。佐賀市、エネルギー関連の「伊藤忠エネクス」(東京都)、大豆食品メーカー「不二製油グループ本社」(大阪府)と共同研究して、効率的な栽培法を探る。将来的には佐賀市清掃工場でごみ焼却時の排ガスから分離回収したCO2を使った育成を目指す。環境負荷を軽減するとともに、佐賀市産大豆を使ったサステナブル(持続可能)な食品づくりにつなげる。佐賀大農学部の渡邊啓史准教授(植物遺伝育種学)らが、同大の実験施設で研究する。同大はこれまで、環境への影響が懸念される遺伝子組み換えではなく、突然変異を基に健康に良い成分を多く含む大豆を育成する研究を進めてきた。今回は、生育が早い品種を特定し、トマトなどの研究成果を踏まえながら、CO2の濃度など収量を上げるための栽培環境を調べていく。本年度の研究成果を生かし、栽培規模を段階的に拡大する。不二製油が大豆たんぱく食品や豆乳などの開発、マーケティングのノウハウを生かし、佐賀市産大豆を使った食品製造の事業化を図る。将来的には大規模プラントの設置を構想しており、佐賀市が清掃工場から回収したCO2に関する情報を、伊藤忠エネクスが植物工場でのエネルギーサービスの情報などを提供する。不二製油は、日本は食用大豆の大半を輸入に頼っている点を強調し「今回の研究は、わが社にとって原料調達のリスクマネジメントの観点でも重要。日本の食料自給率向上にも寄与するはず」。伊藤忠エネクスは「太陽光パネルの下で作物を栽培する『営農型太陽光発電』と今回の研究を組み合わせることにも可能性を感じる」と話す。渡邊准教授は「全国有数の大豆産地である佐賀県に着目してもらえた。産官学で効率的な生産方法を長期間にわたって研究したい。まずはしっかりと基礎研究を進めていく」と抱負を語る。

*10-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/874801 (佐賀新聞 2022/6/24) 佐賀牛、繁殖から飼育までの体制づくり いろはファーム、2023年度の稼働目指す 現地で起工式
 佐賀牛の安定した生産に向けて、牛の繁殖に取り組む施設「佐賀牛いろはファーム」の起工式が23日、唐津市肥前町瓜ケ坂の建設地で開かれた。佐賀県内で繁殖から飼育まで一貫して行う体制づくりの一環で、2023年度の稼働を目指す。21年度に新型コロナによる資材高騰の影響で建設工事の入札不落が2度続き、運営開始が当初より1年遅れとなる。将来佐賀牛となる小牛「肥育素牛」の県内自給率は30・4%(21年度)で、7割を県外から仕入れている。新施設は母牛の種付けから出産、小牛の飼育のほか、畜産農家が育てている母牛を預かって不妊治療なども行う計画。母牛250頭の飼育を目指し、小牛の出荷は年間160頭を見込む。畜産農家を目指す人が研修する場も備える。敷地面積約4ヘクタールに牛舎など12棟が立ち並ぶ。整備費は12億円で、そのうち県は原発再稼働に伴う国の交付金10億円を活用し、運営するJAからつは2億円を負担する。式典には約40人が参加した。JAからつの堤武彦組合長は「資材の高騰など畜産農家を取り巻く状況は厳しいが、佐賀牛の安定生産に取り組みたい」とあいさつ。山口祥義知事は「佐賀牛は県にとってかけがえのない財産で、足腰の強い佐賀牛を作るための施設をと思っていた。ようやくの起工式で万感の思い」と語った。

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2020.11.10~15 エネルギーの変換と分散化が日本経済を回復させるKeyである (2020年11月18、21、22、23、25、27、28日、12月2、3、5、7、11日追加)
    
2020.6.17日本農業新聞 農山漁村の再エネ       田園地帯の風力発電機 

    
    ハウスや畜舎の太陽光発電機     放牧地帯の風力発電機  日本の地熱発電所 

(図の説明:上の1番左の図のように、基幹的農業従事者の平均年齢が65歳を超えて次第に上がっているのは、次世代の参入が極めて少ないからだ。これは、農業が他産業と比べて魅力のないものとなって選択されていないからだろうが、上の左から2番目の図のように、農業・再エネ・地方は親和性が高く、農地への再エネ発電機の設置に補助することにより、電源のグリーン化を行いながら農業者の所得を増やし、以後の農業補助金をカットすることができる。つまり、電源のグリーン化をうまくやれば、農林漁業や地方の活性化・地方への人口分散・国の歳出削減を同時に行うことができる。その例として、上の右から2番目と1番右の図のような田園に設置した風力発電機、下の1番左の図のようなハウスに設置した太陽光発電機、左から2番目の図のような畜舎に設置した太陽光発電機、右から2番目の図のような放牧地に設置した風力発電機などがあり、1番右の図のように、我が国は地熱を利用できる地域も多いのである)

(1)電源はグリーン&ブルー化すべき
1)エネルギーは燃料を燃やさなければ得られないものではないこと
 日本では、*1-2のように、電力業界が、①CO₂を出さないアンモニアを燃やす発電 ②化石燃料を使ってCO₂を分離・回収・再利用する技術の実用化 ③発電時にCO₂を出さない原発の使用 を狙っており、2030年度の総発電量に占める火力発電の割合は56%もあるそうだが、①②③とも、CO₂だけが公害だと思っている点で失格だ。

 そして、経産省や電力会社が「原発や石炭火力がベースロード電源」などとしているため、個人や一般企業は電力会社を当てにできず、ゼロエネルギー住宅やゼロエネルギービルディングに移行せざるを得なくなったのである。このままでは、日本は電力でも世界に後れを取り、ゼロエネルギー住宅やゼロエネルギービルディングでは(皮肉にも)トップランナーになるだろう。

 なお、米国の大統領選挙では、確かにおかしな点も多かった。しかし、*1-1のように、バイデン氏が当選を色濃くしたことで、米国のエネルギー・環境政策が一変し、太陽光・風力発電が促進されて、2050年までの温暖化ガス排出0をめざし、米国が「パリ協定」に復帰しそうなのは喜ばしい。

 また、米国が環境・インフラに4年で2兆ドル(約210兆円)を投じて再エネへの設備投資を促し、電力部門では2035年までにCO₂排出0をめざし、ガソリン車から電気自動車への移行を後押しするというのも明快である。

 ただ、米国は2010年代に進んだ「シェール革命」で世界一の原油生産国になっているため、燃料での脱石油に伴い、採掘にコストがかかったり、採掘時に公害を出したりする油田から停止して、サウジアラビアと同じように原油を国内で化学製品に加工して使うようシフトするのがよいと思われる。そうすれば、さらに付加価値を創出しながら、雇用を維持できるからだ。

2)原発も廃止するのが当然だ
 政府は、*1-3のように、「エネルギー基本計画」の見直しに向けた議論に着手したそうだが、CO₂を出さない再エネを主力とした電源構成に転換する必要があるのであって、脱炭素化に向けて「ベースロード電源」などとして原発を活用することがあってはならない。

 何故なら、日本の再エネによる発電コストが高いままで、海外のようにコストの低下が進まなかったのは、*1-4のように、大手電力会社や原発を優遇した結果、再エネの普及が拡大しなかったからだ。

 また、「原発はクリーンな電源だ」と主張する人もいるが、*1-5のように、事故を起こした原発の後始末すらうまくできず、放射性物質を含む大量の原発処理水を発生させ、それを海洋放出して国民にさらなる迷惑をかけようというのだから、技術力・公害への感度・食品安全への感度のいずれについても信頼に値しないという結果が既に出ているからである。

(2)IT化とデータや情報の流用
 現在の日本は、自ら総合的・論理的な判断をして改革することができず、他国がやっているのを見て追随することしかできないという意味で、意識が低い。

 例えば、日本は、1979年に国連総会で採択された女子差別撤廃条約(日本を含む130ヶ国が賛成)に1980年に署名し、条約への批准要件である第一次男女雇用機会均等法を作って1985年には日本でも女子差別撤廃条約が発効したのに、それから35年も経ち、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」が2019年に153カ国中121位になってから、ようやく女性のリーダーへの登用を推進しようとしているのである。

 また、1995年には、日本が議長国をしてCOP3で京都議定書が採択されたにもかかわらず、日本政府は、それから25年も遅れてやっと環境・再エネ・EVに本格的に取り組み始めている。そして、他にも、このような事例は多いのだ。

 これらは、世界に後れをとってから初めてキャッチアップする形で追随するため「黒船型改革」と言われるが、実際には、日本人(実は私)が最初に問題提議を行い、外国で認められ稼働してから祖国が追随するという悲劇になっており、こういうことが多すぎるため、そうなる理由を考えるべきなのである。

 なお、*2-1のように、第2期(次期)の日本政府の共通プラットフォームは、10月1日から米国企業Amazonが提供するAWS(Amazon Web Services)のクラウド・コンピューティング・サービスに移るそうで、それは、比較・検証の結果、AWSが『セキュリティ対策』も含め、クラウドサービスのメリットを最大限活用するという点で国内各社のクラウドサービスよりも優れていたからとのことである。

 しかし、私にも、日本政府の共通プラットフォームを作るにあたって、Amazonのシステムが最善とは思えず、それより、ミロクやブギョウをクラウドで仕事ができるように改善してもらい、セキュリティー(情報の流用などは論外)を徹底して導入した方が、誰にでも操作しやすく、出来上がりのよいシステムになると考える。

 私は、ITについても、「2000年頃から政府が旗振りをしていたのに、まだ言っているのか」と思うが、確かに、日本は何でも公共工事にしてしまうため、目的を追求した優れたものができないのだろう。

 また、日本政府と地方自治体は組織が全く独立しているので、連結する必要はなく、地方自治体は自らが最もやりやすいシステムを導入すればよい。そして、地方自治体には外部監査が導入されているため、会計・資産管理・人事管理・内部統制・記録保存・セキュリティー等については外部監査人からアドバイスを受けながら改善していけば、それぞれの組織に最も適したシステムを作り、その過程でシステム作りを担当したIT企業を育てることも可能だ。

 さらに、日本政府のプラットフォームを独立した地方自治体にまで共通化する必要はないため、それぞれの自治体がこれぞと思うシステムを作り、よくできたものをBest Practiceとして参考にすれば、よくないものは改善されて、よいものを作り出していくことができる。

 *2-2には、「デジタル化の敵は、言うこと聞かぬ省庁」と書かれており、確かに、省庁が最もデジタル化に遅れてはいるが、マイナンバーカードを健康保険証として使うような行き過ぎを抑えている面もあるので、デジタル化しさえすれば進歩したと考えるのは間違いであり、重要なのは内容だ。

 そして、一律10万円の給付でオンライン申請をしても時間がかかったのは、慣れた人を使わず慣れない人を使ったことが大きな理由である。また、医療や教育の現場も、オンライン化しさえすれば進歩したと考えるのは誤りで、よりよいものになったか否かが重要なのだ。

 なお、「マイナンバーカードを通じて情報が漏れるのではないか」「政府があらゆる情報を覗くのではないか」という懸念は、政府が情報の流通を促進している無神経さから考えて当然であり、議論を聞けば聞くほど信頼するに足りないのである。さらに、デジタルによるオンラインサービスが最高なわけではないため、不慣れな人や使いこなせない人は、(窓口に来る人の数が減るのだから)窓口に来てもらって親切に手助けすればよいだろう。

(3)日本の農業について
 農業は、一昔前までは主たる産業であり、現在も安全な食料を供給するために重要な産業なので、合理的な経営をすれば必ず成立する筈である。にもかかわらず、狭く区切った田畑で、余っている米を皆が生産したがり、付加価値も生産性も低いのが、農業者の所得が増えない理由だ。

 また、国から補助金をもらってやっと成立するようでは、(当然のことながら)職業としての魅力に乏しいため、次世代の農業者をなかなか得られず、耕作放棄地は増え、食料自給率も下がって、農村が過疎化する結果となったのである。

1)ロボット技術やICTを活用したスマート農業
 そのため、農水省が、*3-1のように、「ロボット技術やICTを活用して、省力・高品質生産を実現するのがスマートな農業だ」と広報し始めたのは、少ない人数で多くの農産物を生産でき、職人技がなくても品質の安定を保つことができるためよいと、私は思う。

 また、スマート農業の中にも、無人の農業機械が畑を走り回り、ドローンや衛星から送られる情報に従って耕したり収穫したりするレベル4~5から、農業機械が人のサポートをする程度のレベル1~3まであってよいし、作物の種類・農地の広さ・農業者の資金によって選択すればよい。

 なお、日本人には、「①成長するには競争するしかない」「②競争は他人を蹴落とすもの」「③社会の経済格差が広がるのがいけない」という発想をする人が少なくないが、①については、隣人とは競争するより協力して地域ブランドを作らなければ、他の地域や他国との競争には勝てない。

 また、②は非常に視野の狭い競争でしかなく、いくら他人を蹴落としても見える範囲にいる人にしか勝てないので、そういうことにエネルギーを使うよりは、必要なことをクリアするように集中して努力した方が、気がついた時には全員の上にいられるものだ。

 さらに、③については、国から補助金をもらいながら農家が皆で底辺に居続けては誰にとっても将来性がなく、努力や能力によって差がつくのを受け入れなければ、農業に成功者は出ない。そして、成功者が出なければ、農業の魅力が薄くなって次世代を得ることができず、農村が過疎化するため、農業で成功者を出すことは、農村を復活させるKeyなのである。

2)物流の迅速化と冷凍・冷蔵技術の進歩
 農水産物や食品の新鮮さという付加価値を保ったまま流通できれば、食品ロスが減り、農水産業者・食品業者の所得が増え、食料自給率も上がる。そして、それを実現する方法には、①流通の簡素化 ②配送の迅速化 ③冷蔵・冷凍技術の進歩 ④加工販売などがある。

 このうち、③を極めたのが、*3-2の「細胞を破壊せず、鮮度を保ったまま冷凍する技術」で、「採れたてのおいしさを求める消費者」のニーズに応える形で磨かれたそうで、世界で通用するだろう。

 また、④も、電子レンジが普及して冷凍や冷蔵の加工品を調理するのが容易になったため、プロが作った冷凍・冷蔵の総菜を、中食でも味に妥協せず食べられるようになった。これは便利なことで、今後は、外食・中食の垣根を超えたり、外食産業の形を変えたりすると思われる。

3)需要の多い作物への転作
 滋賀県のJAこうかが、*3-3のように、半永久的に収穫できる薬草ドクダミの産地化に力を入れ、茶の収穫機を転用して、耕作放棄地の農地再生に繋げるそうだ。

 それはよいのだが、JAこうか管内だけで200haを超える遊休農地があり、日本の食料自給率が38%まで落ちているのは、農業を産業としてバックアップせず、その場限りの練られていない政策やバラマキでお茶を濁してきた政治の責任だ。

4)過剰在庫と国産回帰
 新型コロナの流行で、小豆や砂糖原料など需要が減った作物の産地が過剰在庫に苦慮し、*3-4のように、新たな需要創出や輸入品からの国産回帰に向けて総力で取り組んでいるそうだ。

 そのためには、加工・販売業者と組んだり、冷凍・冷蔵技術を駆使したり、輸出したりするのがよいだろう。私自身は、小豆から料理することはなく、冷蔵の小豆餡や冷凍の鯛焼きなど、一手間かければ完成品になる材料を購入して使うので、半加工品のニーズは多いと思う。

 しかし、先日は、ふるさと納税の返礼品として5kgもらったマイヤーレモン(皮ごと)と蜂蜜を使い、甜菜糖を加えてレモンジャム(マーマレード?)を作ったら、美味しい上に美容と健康に良いものができた。にかっ

 また、和菓子やケーキが冷凍になっていると、まとめ買いしてもあわてて食べなくてすむので助かる。さらに、最近は生クリームのケーキばかりしか売っていないので、私は、Amazonを使ってわざわざ北海道や神奈川県から冷凍のバタークリーム・デコレーションケーキを取り寄せて食べるが、常温に1日置くと作りたてのようになって驚くほど美味しいのである。

 なお、日本一のソバの産地である北海道のJAきたそらちが、製粉業者や地元自治体と連携し、輸入品を使っていた大手外食店やコンビニに働きかけて、2,000ha分の販路を新たに確保し、過剰在庫の解消にめどをつけたそうだが、私にとっては、ソバも輸入品だったことがむしろ驚きで、日本には耕作放棄地も多いので、是非、国産を増やして欲しいと思っている。

・・参考資料・・
<電源はグリーン化>
*1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65975470Y0A101C2FF8000/?n_cid=NMAIL006_20201109_H (日経新聞 2020/11/8) バイデン氏当確 21年1月、パリ協定復帰へ
 米大統領選で民主党候補のバイデン前副大統領が当選を確実にしたことで、米国のエネルギー・環境政策は一変する。太陽光や風力発電の促進で2050年までに温暖化ガスの排出ゼロをめざし、現政権が離脱した温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」に21年1月にも復帰する。国際社会の脱炭素の流れが加速し、企業も対応を迫られるだけでなく、バイデン氏の国際協調路線の象徴となる。バイデン氏は「気候変動は深刻な脅威」と断じ、環境・インフラに4年で2兆ドル(約210兆円)を投じる公約を掲げた。太陽光など再生可能エネルギーへの設備投資を促し、電力部門で35年までに二酸化炭素(CO2)排出ゼロをめざす。全米に充電設備を50万カ所設けるなどして、ガソリン車から電気自動車への移行を後押しする。トランプ大統領が進めた化石燃料業界への規制緩和は、再び強化の方向に向かいそうだ。現政権は原油や天然ガスを運ぶパイプラインの建設を認めたり、規制緩和で石炭火力発電所の投資を後押ししたりした。オバマ前政権が定めた自動車の燃費規制を緩めて、環境技術で日欧に劣る米国メーカーの競争力を支えてきた。米国は11月4日にパリ協定から離脱したが、バイデン氏は21年1月20日に就任すればすぐに復帰に動く構えだ。温暖化ガスの排出量削減に動く欧州や中国に加え、日本も50年までの実質ゼロを目指すと表明した。排出量で世界2位の米国も再び合流すれば環境対策には追い風となるが、主導権争いも激しくなる。世界のエネルギー業界の勢力図にも影響を及ぼしそうだ。米国は10年代に進んだ「シェール革命」によって、中東のサウジアラビアを抜いて世界一の原油生産国に躍り出た。輸出も解禁して原油価格を左右してきたが、脱石油の流れが進めば需給も変わりうる。ただ予算や法制化の権限を握る米議会で上下院の多数派が異なる「ねじれ」が予想されるなか、バイデン氏が実効性のある政策を打てるかは未知数だ。同氏も多くの雇用を抱える石油・ガス業界を意識し、シェール開発のフラッキング(水圧破砕法)を禁じるか曖昧な発言を繰り返す。化石燃料に関わる企業や労働者のほか、野心的な環境対策を求める民主党内の左派など様々な勢力との利害調整を求められる。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14668247.html (朝日新聞 2020年10月23日) 温室ガス実質ゼロ、問われる本気度 菅首相「2050年目標」表明へ
 政府は、温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げる方針だ。複数の政府関係者が明らかにした。菅義偉首相が、26日召集の臨時国会での所信表明演説で表明する方向で調整している。欧州連合(EU)の目標と足並みをそろえ、地球温暖化対策に取り組む姿勢をアピールする狙いだ。温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の目標を実現するには、50年までに世界全体の温室効果ガス排出を森林吸収分などを差し引いた実質ゼロにする必要がある。日本政府は「50年までに80%削減」といった目標は掲げていたが、いつ「実質ゼロ」を実現するのか具体的な年限を示していなかった。
■電源構成見直し・大量排出業界の対応、必須
 「50年実質ゼロ」の実現には飛躍的な技術革新が欠かせない。国内の二酸化炭素(CO2)の4割近くは発電部門から排出される。日本でも太陽光や風力などの再生可能エネルギーが増えてきたが、大量導入には課題が多い。発電設備の高効率化に加え、天候による発電量のぶれを調整する大容量の蓄電池などの普及も重要だ。電力業界などは、CO2を出さない水素やアンモニアを燃やす発電技術や、化石燃料を使う場合でもCO2を分離・回収したり再利用したりする技術の実用化をめざしているが、コスト低減が欠かせない。運輸部門では、電気自動車や燃料電池車を本格的に普及させる必要があるが、インフラ整備には時間がかかる。鉄鋼やセメントなど、大量のCO2を排出する業界が、どこまで対応できるかも課題になる。国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の大幅な見直しも避けられない。いまの計画の目標では、30年度の総発電量に占める火力発電の割合が56%もある。再生エネ比率の引き上げや石炭火力の削減など、電源構成の見直しは必須だ。その際には、再生エネ同様に発電時にCO2を出さない原発の扱いも焦点となる。
■30年度目標と、大きな隔たり
 「50年実質ゼロ」を掲げる国はイギリス、ドイツなど100カ国を超える。日本も遅ればせながら、それらの国々と、パリ協定の目標達成に向けたスタートラインに立つことになる。環境NGO「気候ネットワーク」の平田仁子理事は「50年と決めたことで、それを達成するための30年度目標がより重要になってくる」と指摘する。日本は30年度に13年度比で温室効果ガスの排出を26%減らす目標を掲げるが、50年実質ゼロと大きな隔たりがある。NGOのネットワーク「Japan Beyond Coal」によると、新設を計画あるいは建設中の石炭火力は国内に17基。発電所の稼働年数は40年程度と見込まれ、近年稼働した発電所も含めれば、50年時点で数十基が動いている見込みだ。石炭火力を容認したままで実質ゼロの実現は疑問が残る。CO2を分離・回収し地中にためる「CCS」を石炭火力につける考えもあるが、日本は地形的に適地が限られる。水素技術などのイノベーションが、CO2の削減にきいてくると考えられるのは30年度以降だ。東京大の高村ゆかり教授は「まずは(再生可能エネルギーやゼロエネルギー住宅など)今ある技術を普及させることが大事」と指摘する。

*1-3:https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=127560 (南日本新聞社説 2020/10/25) エネルギー計画:脱炭素社会へ大転換を
 政府は中長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の見直しに向けた議論に着手した。地球温暖化を抑えるため「脱炭素」の潮流が国際的に加速する中、火力発電が過半を占める日本は遅れをとっている。二酸化炭素(CO2)を出さない再生可能エネルギーを主力とした電源構成へ大きく転換する必要がある。エネルギー基本計画は将来の電源構成や原発の運営の方向性などを示し、おおむね3年に1度見直してきた。2018年7月に閣議決定した現在の計画は30年度の電源構成を、火力で56%程度、再生エネ22~24%程度、原発20~22%程度に置いたそれまでの目標を維持した。ただ、18年度実績は火力が77.0%、再生エネ16.9%、原発6.2%で目標には程遠い。とりわけ、原発は目標達成に20~30基の稼働が必要だが、東京電力福島第1原発事故後の再稼働は9基にとどまり、実態と大きくかけ離れている。脱炭素化に向けて原発の活用を求める声もある。しかし、事故による安全対策費の増加や原発に対する厳しい世論、安全審査の長期化などを考えれば、行き詰まりは明らかだ。原発を「ベースロード電源」と位置付けた従来の路線を踏襲するのは無責任と言わざるを得ない。一方、太陽光や風力といった再生エネについては「主力電源化を目指す」と現在の計画にも明記している。ただ、発電量全体に占める再生エネの比率が35.3%のイタリア、33.4%のドイツなど欧州各国に比べ、日本の遅れが際立つ。日本では再生エネの発電コストの高さが問題になるが、海外ではコスト低下が進み、普及が拡大している。再生エネ分野の産業競争力を強化するためにも政策的な後押しが欠かせない。経済産業省は7月、非効率な石炭火力の縮小や、再生エネの普及を推進する本格的な仕組みづくりに乗り出すと表明した。特に大規模な洋上風力への期待が大きい。再生エネは天候に左右されるため、蓄電池の普及や送電線の利用ルールの見直しなどが必要だ。普及拡大のインフラ整備が進むことを期待したい。経済同友会は、再生エネの比率を30年に40%まで引き上げるよう求める提言をまとめた。再生エネ普及は経済界の要請でもある。官民協議会などで積極的に推進してもらいたい。菅義偉首相は週明け召集の臨時国会で、50年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすると表明するとみられる。国際社会で進む脱炭素化の機運は避けて通れないという判断だろう。目標を実現するには、現行のエネルギー基本計画の大幅な見直しが不可欠だ。将来を見据えた責任ある議論を尽くすことが重要である。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201024&ng=DGKKZO65423290U0A021C2EA1000 (日経新聞 2020.10.24) 新設の「容量市場」、初入札結果が波紋、電力需給見誤り高騰か
 電力システム改革の一環として政府が創設した新市場「容量市場」が議論を呼んでいる。今夏に初めて実施した新市場の入札で、当初の想定をこえる高い価格がついたからだ。価格は同じ市場を導入する米国や英国の2倍超で「市場設計の失敗」との声もあがる。
●24年度分を確保
 容量市場は、電力の安定供給のため発電事業者に必要な電源を確保させる仕組みだ。電力自由化で卸売電力価格が市場で決まるようになり、太陽光発電など燃料費がかからない電源の普及で電力価格は下がっている。火力や原子力発電は巨額の設備費を回収できず設備の維持や新規投資ができない恐れが生じた。そこで全国の電力需給状況を監視する電力広域的運営推進機関は入札で発電能力(容量)を募り電源維持の対価を払う。原資は電力を購入したい小売事業者から集める。最初の入札は2024年度に必要となる約1億8千万キロワット分について実施した。発電事業者の応札で安い順に落札していったところ、最終的な約定価格は1キロワット当たり1万4137円に達した。これは事前に決められた落札の上限価格とほとんど同額。落札結果が公表されると、関係者からは「想定をこえる価格」と驚きの声が上がった。原資を負担する小売事業者への配慮から、古い電源の受取額を割り引く「経過措置」があり実質的な価格は9534円になる。単純比較はできないが、英国は1キロワット当たり1千~3千円、米国では同3千~7千円にとどまる。このまま調達すると、落札事業者にはおよそ1.6兆円が支払われる。消費者が支払う電気料金への影響について「本来得られるべき電力供給のコストを卸売市場と容量市場に分けて支払うので電力価格には中立的」と電力中央研究所の服部徹・副研究参事。電気事業連合会も「(1.6兆円が)まるごと消費者の負担になるのではない」と説明する。容量市場の収入は卸売市場で未回収のコストを補うので電力料金をあげる要因にはならないとの理屈だ。
●原発は抜け落ち
 ただ電源をもたず払う一方の新電力には打撃で大手との競争で不利だ。経過措置があっても「これでは激変緩和の意味がない」との声も上がる。なぜ想定外の高値になったのか。「需要が過大」か「供給が過小」だったからだろう。需要は広域機関が将来必要とみた発電能力で、供給は発電事業者による応札価格と量から決まる。需要曲線と供給曲線が一致したところが約定価格となる。「需要曲線を人為的に決めるわけで、過大だと余剰電源を抱え込み過小だと電源不足に陥りかねず、さじ加減が難しい」と京都大学の安田陽・特任教授。欧米でも決め方には苦慮する。今回、需要は災害を想定して約12%積み増した。北海道や千葉県での大規模停電の経験が影響した。供給は応札しなかった電源が約2千万キロワットあった。24年度に発電を保証できない原子力発電所などが抜け落ちた。容量市場に詳しいエネルギー戦略研究所の山家公雄所長は「米国の市場では応札可能な電源は必ず応札しなければならないルールがある」と出し惜しみ防止を指摘する。価格の不当な引き上げがなかったかを検証した電力・ガス取引監視等委員会は13日、「算定に問題はなかった」と報告したが、「検証が足りない」と有識者から批判が出た。「(大手電力が)ぬれ手で粟(あわ)の利益を手にしているなどと言われないよう」(松村敏弘・東京大学教授)積極的な情報公開が必要だ。消費者の目線でみれば容量市場は発電設備の維持・更新を促し電力システム全体がより効率的で環境面でも持続可能になってこそ意義がある。既存設備の温存に終わっては困る。需給逼迫時に需要を調整するデマンドレスポンスや蓄電池など次世代に向けた誘導策の存在感が薄いのは課題だ。気候変動対策から石炭火力の休廃止が急ぎの課題だが、容量市場は電源の区別なく維持を保証する。政策の整合性がとれていないのも問題だ。

*1-5:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1212256.html (琉球新報社説 2020年10月23日) 原発処理水海洋放出 地元の不安を押し切るな
 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の問題で、政府は海洋放出の方針を月内に決定する。地元は漁業者を中心に反対の声を上げており、影響を受ける人々と向き合わないまま方針決定に突き進むことになってしまう。処理水には放射性物質トリチウムが含まれる。環境や人体に与える影響を巡る検証は十分ではなく、復興に取り組む地場産業に及ぶ風評被害にも懸念が尽きない。放射性物質の除去技術や安全性が確立するまでの間の新たな保管場所の確保など、海洋放出を回避する方策を探るべきだ。第1原発では溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水などで、現在も1日に170トン程度の汚染水が増え続けている。東電は多核種除去設備(ALPS)を使って汚染水から放射性物質を取り除く処理をしているが、水に似た性質があるトリチウムは除去することができない。東電は処理水を保管する原発敷地内のタンク容量が、2022年夏に限界に達するとしている。政府も処分方法の決定を急ぐ姿勢を強めており、菅義偉首相は21日に「いつまでも先送りできない」と語った。背景には、海洋への放出を始めるには設備工事や原子力規制委員会の審査などで2年程度の準備を要するため、現状が決定のタイムリミットだとする判断がある。だが、時間切れを理由に地元の反対を押し切ることなど許されるはずがない。炉心溶融(メルトダウン)した原発から出る処理水を海に流し続けることによる環境影響は簡単に予見できるものではなく、問題視するのは当然だ。処理水の保管を東電の敷地内に限定せず、政府としても別の保管先の確保を検討する対応などがとれるのではないか。トリチウムの除去技術開発に注力することも、原発事故を起こした東電や国の責任であるはずだ。また、震災の津波でさらわれた漂着物が沖縄で見つかることがあるように、海洋放出の影響は原発沿岸だけにとどまらない。周辺諸国からの非難は避けられないだろう。19年には、韓国による水産物の輸入規制を巡って世界貿易機関(WTO)の紛争処理手続きで日本が敗訴した。国際社会は福島の原発事故を終わったと見なしていないことを自覚する必要がある。処理水の扱いに関する議論は13年に始まった。この間には、17年に東電の川村隆会長(当時)が海洋放出について「判断はもうしている」と発言し、地元の反発を招いた。18年には、国民の意見を聞く公聴会の直前に、本来除去されているべきトリチウム以外の放射性物質が処理水に残留しているのが発覚した。東電、政府の結論ありきの姿勢やデータに対する不信も、処理水の処分方法が長年決まらない要因の一つにとなってきた。地元や国民の不安の払拭を第一とした、誠実で慎重な対応が必要だ。

<IT化とデータや情報の流用>
*2-1:https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020092600003.html?page=1 (朝日新聞論座 佐藤章 2020.9.26) アマゾンに日本政府のIT基盤を丸投げする菅政権~NTTデータはなぜ敗北したのか、菅政権「デジタル改革」の罠(2)
今から167年前の1853年、浦賀沖に米国ペリー提督率いる黒船が来航して徳川幕府は上を下への大混乱に陥り、明治維新につながっていった。それ以来、日本人の保守的で慣習に流されがちな側面を揶揄して「黒船が来ないと改革はできない」としばしば表現される。10月1日から、次期政府共通プラットフォームは米国企業のAmazonが提供するAWS(Amazon Web Services)のクラウド・コンピューティング・サービスに移る。この事態をわかりやすく言えば、「みんなで黒船に乗って改革してもらおう」という話だ。「みんなで乗れば怖くない」という意識が安倍政権の方針を引き継いだ菅政権にはあるのかもしれないが、本当に「怖くない」のか。幕末の黒船には吉田松陰が乗り込もうとしたが、その話とはまるで違う。松陰は身を捨てても先進文明を学ぼうとする覚悟を決めていたが、現在の日本政府は黒船Amazonの単なる客だ。しかも、国民や政府の機密情報が大々的に流出するリスクにも目をつぶって乗ろうとしている。
●「AWSは国内各社より優れていました」
 Amazonにみんなで乗ることを決めた安倍内閣の総務相、高市早苗氏は日本会議国会議員懇談会の副会長でもあり、右翼的な言動が目立つ。その高市氏は今年5月20日、自らのホームページ上のコラムでこう綴っている。「私は、『第2期(次期)政府共通プラットフォーム』について、何とか『純国産クラウド』で整備できないかと考えていました。昨年9月の総務大臣就任直後、『設計開発の一般競争入札』は昨年3月に終わっていたものの、諦め切れずに、改めて国内各社のクラウドサービスとの比較・検証を行いました」。愛国の情がそうさせたのか、高市氏はAmazonと国内メーカーとの比較、検証の再調査をしたと記している。だが、その結果についてはこう続けている。「日本人としては残念ですが、十分な比較・検証の結果、AWSは、『セキュリティ対策』も含め、『クラウドサービスのメリットを最大限活用するという点』で、国内各社のクラウドサービスよりも優れていました」。本当にそうなのか。この高市氏の言葉に対して、私が取材した日本有数のセキュリティ設計専門家は問題の深さをこう指摘している。「ふざけるなという話ですよ。それだったら、なぜもっと早く国内メーカーや専門家にそういう問題提起をしなかったのでしょうか。問題は政府基幹システムのアプリケーションもセキュリティも今後はAmazonに従うということです。もっと早く議論すれば専門家や学者がいろんな意見を出したでしょう。安倍さんや菅さんのやり方はまさに独裁でしょう。議論や意見の出しようがない」。しかし、この専門家も高市氏も、Amazonなどの海外勢に比べて日本の国内メーカーが技術力で劣っていることを認めている。なぜ、こんな状態になってしまったのだろうか。
●ITゼネコンの市場寡占が日本のIT産業を衰退させた
 私は日本の国内メーカーがどんどん力を落としていった2007年から09年にかけて、この問題を集中的に取材したことがある。この問題は、メーカー側を取材してもその原因はなかなか見えてこない。むしろ、クライアント側に目を移すことによって問題の所在がはっきりと浮かび上がってくる。当時の取材現場からわかりやすい事例を二つほど挙げてみよう。2000年7月、国税庁システム構築の入札で驚くべきことが起こった。最終的に61憶円の契約となったが、当初NTTデータがわずか1万円で応札してきたのだ。いったんシステム構築の仕事を取れば、以後の随意契約で高値の改修作業を取り続けることができるからだ。NTTデータのこの入札はふざけたやり方だが、このころ日本の大手IT企業はやはりそれぞれの縄張りを確保しようと躍起になっていた。経済産業研究所の報告によると、2001年度の政府調達ではNTTや日立製作所、NEC、富士通の4大グループで6割、これに東芝や日本IBMなどを加えた10大グループで8割を受注していた。これら大手グループのトップ企業は2次下請け、3次下請けなどの多重構造ピラミッドの頂点に君臨しているため、土木建設業界のゼネコン企業にちなんで「ITゼネコン」と呼ばれている。このITゼネコンの市場寡占こそ、日本のIT産業が衰退していく最大の要因となった。2001年4月、日本総合研究所から長崎県にひとりのシステムエンジニアが出向してきた。同県の最高情報責任者(CIO)に就いた島村秀世氏だ。島村氏は当初建設業界のゼネコンで電算業務を担当していたが、日本総研に移って金融機関の電算化を手掛けた。だが、子会社へ出向していた時に、技術力があっても中小IT企業はなかなか受注できず、ブランド力だけで受注していくITゼネコンのやり方に疑問を感じていた。国税庁システムを1万円入札で落としたNTTデータのやり方は極端な事例だが、当時のITゼネコンは縄張りを築くためにかなり貪欲な姿勢を見せていた。このため、自治体からのIT調達改革を目指していた長崎県の呼びかけに「大喜びで飛びついた」(島村氏)。私が長崎県庁に島村氏を訪ねた時、彼の「実績」のひとつが真っ先に目に飛び込んできた。長崎県の観光案内映像などを流すディスプレイのコンピューターは地元業者が県内の電器店で買った部品で作り上げたもので、製作費は70万円。ITゼネコンに発注すれば300万円程度は取られた。島村氏はまず県庁職員自身のIT知識向上を目指した。このため、職員全体の休暇システム作りを育児休暇から復帰したばかりの30代の女性職員に任せた。この職員は当初、パソコンでメールや検索ができる程度で、入門書からスタートしなければならなかった。しかし、地元業者と打ち合わせを重ねて半年後には設計書を完成させるまでにこぎつけた。第一歩から始めて職員全体のIT知識の水準もどんどん上がり、大手業者に依頼すれば数百万円かかりかねない少々のシステム変更などは職員自身がこなせるまでになった。このために長崎県全体のシステム製作費は年を追って低下し、地場企業の受注割合は増加していった。ITゼネコンはいったんシステム構築を受注すると設計仕様などのソースをクローズする。こうしておけばこのシステムには他社は入れず、翌年度以降の改修事業などは黙っていても随意契約で入ってくる。これは、自治体や国税庁などの中央省庁だけではなく、民間企業でも同じ構図だ。このクローズドソース体制に挑戦したのが長崎県であり、島村氏が率いる同県の職員たちだった。
●「韓国モデル」を下敷きにしたオープンソース
 もうひとつの事例を紹介しよう。沖縄県浦添市はITコンサルタント企業と共同して独自の業務システムを開発した。さらにこのシステムの設計図を公開して、他の自治体に共同管理を呼びかけた。このように設計や仕様を公開するやり方をオープンソース体制と呼ぶ。先のクローズドソース体制に対して、システム全体を社会の共有財産にしようという考え方である。こうしておけば、自治体や中央省庁のシステム構築は競争の下に置かれ、予算低廉化とITを中心とした社会全体の進化につながっていく。私が取材した2009年に稼働を始めた、地方税や国民健康保険、年金などの「基幹系」と呼ばれるシステムの発注価格は約8憶円で、ITゼネコンを使っていたころに比べて半分以下で済んだ。これを可能にしたのは2年間かけて実施した市役所の業務見直しだ。余計な手続きが減れば、それだけシステム構築費は安くなる。「なぜ、ここでその作業が必要なんですか」。見直し期間の間、コンサルタント企業の社員が市の職員の後ろにはりつき、一つひとつの作業の意味を洗い出し、作業の効率化を目指した。極端な例は、小中学生の保護者への就学援助だった。それまで申請から通知までに必要だった20もの作業をわずか二つの作業にまで減らせることがわかった。いかに無駄な作業をしていたか。すべての作業を見直した結果、システム費用が安くなっただけでなく、市職員も業務に習熟した。以前はシステム構築や補修をすべて大手ITメーカーに任せきっていたが、職員自身がシステムや市全体の業務を幅広く知るようになった。そして、この先進的な事例を考える上で欠かすことのできない視点は、このオープンソース体制は「韓国モデル」を下敷きにしたという点だ。浦添市のこの新システム構築を裏で支えていたのは、ITコンサルタントの廉宗淳(ヨムジョンスン)イーコーポレーションドットジェーピー社長だ。廉氏はソウルの工業高校を卒業後、韓国空軍で3年間、戦闘機のエンジン整備に携わった。除隊後、夜間大学でITプログラムを勉強し1989年に初来日。当時はIT先進国の位置にあった日本の企業でプログラム作成の仕事をした。1991年にいったん帰国し、97年に再来日するが、そのころから韓国はIT分野で日本を追い抜き始めた。再来日後ITコンサルタント企業を作り、病院関係のコンサルタントから佐賀市や佐賀県、青森市、そして浦添市など自治体のIT改革を手掛けた。「私は現代のIT朝鮮通信使を自任している。日本に韓国の方法を伝えたい」。廉氏は当時、私にこう語っていたが、現在IT分野では韓国は日本のはるか先に行ってしまった。同じ浦添市役所で、決済書類がいまどこの部署にあるか一目瞭然に見えるパソコンのディスプレイを初めて見た時、私は大変な驚きを味わった。便利なこの小システムを開発したのが韓国の若者が立ち上げた小さいベンチャー企業だと聞いて再び驚かざるをえなかった。
●「台湾のオードリー・タンは日本には出てこない」
 IT社会全体がオープンソース体制を取っているために若者のITベンチャー企業がどんどん出てきている。このためにIT社会全体のイノベーションが日々新たになり、韓国はIT五輪の世界で常にメダル争いを演じるまでに成長した。翻って日本は、ITゼネコンだけが、外界から閉じた秘密のソースの中でいつまでも随意契約で楽な儲け口を見出しているクローズドソース体制によって、技術のイノベーションは衰え、IT業界全体が没落の道をたどっている。韓国がメダル争いを演じている一方、日本は10位台から20位台をウロウロしているのが現状だ。「日本人は不思議なんですよ。自分たちは何か科学技術に非常に優れた民族で日本製品は素晴らしいと思っている。確かにそういう時代はあった。だけど、今や全然そうではない」。日本有数のセキュリティ設計専門家はこう言葉を継いだ。「日本製のコンピューターのモニターなんかもう存在しないですから。ぼくはここ20年、一貫してLGのモニターしか買っていませんが、やっぱりLGは素晴らしいですね」。LGエレクトロニクスはサムスン電子に次ぐ韓国電機業界のナンバー2。同社の液晶モニターのシェアは世界トップクラスだ。まだ日本のIT技術が世界トップレベルにあると思われていた2000年のころ、この専門家が韓国で講演したことがある。その時、会場の収容能力2000人のところを5000人が詰めかけ、講演の後半は質問攻め、ホテルに引き上げてからも韓国の自治体関係者が質問のために部屋に押しかけてきた。当時の韓国は日本のIT技術を吸収するためにそのくらい貪欲だった。ところが、今や韓国のIT企業のホームページを開くと、この専門家でも教わりたいくらいの技術が載っているという。「もう韓国には勝てないです。いや勝つ勝てないじゃなくて、もう日本はキャッチアップもできないでしょう」。専門家はこう話し、さらにこう続けた。「日本のITゼネコンには秀才が100人いるんですよ。だけど、秀才100人は一人の天才に勝てないんです。それがコンピューターセキュリティの世界なんです。日本ではみんなで天才の足を引っ張る。『お前は静かにしてろ』というわけです。だから、台湾のオードリー・タンは日本には出てこないんです」
●国内IT産業は消失の危機
 言葉を変えて言えば、クローズされた縄張りの中で随契の儲けを稼いでいくITゼネコンの世界では、「天才」の頭に閃くイノベーションはむしろ邪魔になる。オードリー・タンのいない日本のITゼネコンは、最初の政府共通プラットフォームの構築に失敗した。NTTデータが中心となって構築するはずだったが、2016年9月、会計検査院はあらゆる面で「不十分」と指摘した。さらに2018年には、利用実績がゼロだったために約18憶円かかったこのシステム自体をそのまま捨ててしまう事態にまで追い込まれた。昨年5月、この失敗の後を受けて、次期政府共通プラットフォームの設計・開発などの請負業務一般競争入札があった。落札したのはアクセンチュア。同社はAmazonのAWSの利用を前提に設計を進めていたようだ。この点は発表がないためよくわからないが、専門家によれば、Amazonのクラウド・コンピューティング・サービスによる次期政府共通プラットフォームの試験走行はすでに相当の距離を走っているのではないか、という。菅首相は9月25日、自治体のシステムについて、「全国一斉に迅速な給付を実現するため、25年度末までをめざし作業を加速したい」(9月25日付朝日新聞夕刊)と述べた。また、マイナンバーカードについても、2022年度末にはほとんどの国民が手にするよう、普及策を加速するように指示した。ここまで書けば、菅首相の頭の中はCTスキャンをかけたようにはっきり見えるだろう。つまり、菅首相が考えていることは、国内ベンダーはどこも頼りないから米国のAmazonに日本政府全体のIT基盤構築を全部やってもらおうということだ。そして、新政権最大の目玉のデジタル庁はその露払い役というわけだ。「みんなで黒船に乗って改革してもらおう。みんなで乗れば怖くない」。菅政権の本音の合言葉は恐らくこのようなものだろう。しかし、本当に「怖くない」のか。例えば、これまで政府共通プラットフォーム構築のイニシアティブを執ってきたNTTデータは今後確実に退いていく。同じように、他の中央省庁システムを担当していたITゼネコンの業務も確実に縮小していくだろう。確かに、これまで見てきたように、日本のITゼネコンの業容縮小は自業自得の面も少なくない。しかし、一国の経済政策、産業政策の側面から見れば、自前のIT産業全体の消失にまでつながりかねないこのような政策は、とても歓迎できたものではない。もっとはっきり言えば、21世紀の産業を引っ張るIT技術を自ら捨てるこの政策は、まさに亡国の政策だ。確かに長年続いてきた自民党政権はIT業界の構造的な重大問題に目をつぶり、問題を放置してきた。しかし、専門家や学者らが議論を重ねれば、日本のIT産業をきちんと守りながら業界全体に改革を促し、政府共通プラットフォームの構築についてもソフトランディングさせる方法が出てきたかもしれない。私は菅首相に問いたい。その道を模索する努力も払わず、黒船に乗ることを簡単に決めてしまったのはなぜなのか。

*2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN9Q40ZSN9LULZU00L.html?ref=hiru_mail_topix1 (朝日新聞 2020年9月23日) 第1回デジタル化の敵は「言うこと聞かぬ省庁」 3密も生んだ
 4連休初日の19日午後2時前、東京・虎ノ門の民間オフィスビルに入る内閣官房IT総合戦略室の会議室に、私服の官僚たちが集まってきた。菅義偉首相が目玉政策に掲げるデジタル庁創設に向けた、キックオフ検討会のためだ。具体化を任されたのは、IT業界にくわしく、安倍政権でIT担当相を務めた平井卓也デジタル改革担当相だ。「総理の指示は相当なスケジュール。素早く立ち上げ、小さく産んで大きく育てたい」。紺のポロシャツ姿の平井氏は、檄(げき)を飛ばした。菅氏は政権発足翌日の17日、平井氏に作業を急ぐよう指示した。休日返上となった19日の検討会にはオンラインを含めて20人ほどが参加し、議論は4時間に及んだ。「省庁がポストに人を送りこむのではなく、官民のデジタルを強くしたい人を集めた組織に」「法律で、各省庁への権限をしっかり持たせないと」「エンジニアはリモートワーク前提で」「国民から広く意見を寄せてもらおう」。冒頭以外は非公開で、お菓子をつまみながら、具体化に向けた課題や進め方を次々に出し合った。連休明けの23日には、すべての閣僚が出席する会議が首相官邸であり、菅氏が設置準備室をつくるよう指示を出す。来年は通常国会で法整備を進め、立ち上げまでこぎつけたい考えだ。菅氏がデジタル庁創設を急ぐのは、政権の売りにしたい「縦割り打破」の象徴となるからだ。新たに発足した菅政権はどういう政策をどのように進めていくのか。首相が重視する「菅印」の主な政策について、菅氏のこだわりの背景や課題を検証しつつ、今後の行方を探る。官房長官時代は、その縦割りの典型がマイナンバーカードにあると見ていた。「今年は、マイナンバーをやる」。2019年の1月初旬、菅氏は総務省や厚生労働省など省庁の幹部を急きょ集め、マイナンバーカードの普及策を考えて前進させるよう指示した。発行から3年たっても普及率が12%ほどの状況を、かなり気にしていたという。所管する総務省では、情報通信を担う旧郵政省系は前向きでも、地方自治体をみる旧自治省系は腰が重い。カードを健康保険証として使えるようにする作業も、厚生労働省の動きが鈍く、進んでいなかった。マイナンバーに限らず、省庁のデジタル化の取り組みの大半は、優先順位が低かった。そのつけはコロナ禍で、一気に噴き出す。一律10万円の給付では、窓口となる自治体と国のシステムの連携が悪く、オンライン申請をしても時間がかかった。医療や教育の現場でも、すぐにオンライン化への切り替えが進まない。さまざまな行政手続きで対面での確認やはんこを必要とし、「3密」回避の大きな障害になった。こうした課題に、デジタル庁はどのような体制で、何に取り組むのか。「デジタル敗戦から立ち上がる」「既存の役所とは一線を画す」と強調する平井氏は、最新の知見を持つエンジニアなど、民間の人材も多く登用する考えだ。マイナンバーカードは使える行政サービスを広げる。省庁でばらばらのシステム調達をまとめ、医療や教育などあらゆる分野のデジタル化の予算を集約する。自治体のシステムの共通化を進める。そんな構想を描く。最大の課題は、それぞれの省庁に実行を迫る強い権限と予算、人材を集約できるかどうかだ。「横串を通す」作業は、関連する仕事と予算と定員の削減につながり、省庁や関連業界は強く抵抗する。政府のデジタル化の「司令塔」としてはIT総合戦略室があるが、「いまは予算がほとんどなく、単なるアドバイザー。省庁は言うことを聞かない」(内閣官房幹部)のが実態だ。新組織が二の舞いとなれば、実行力は乏しくなる。「(政権の方針に)反対するのであれば、異動してもらう」。菅氏はこう明言して、これまでも反対を抑え込んできた。ただ、社会全体のデジタル化は、力ずくだけでは進まない。「デジタル化のかぎ」と位置づけるマイナンバーカードには、オンライン上で本人確認ができるICチップがついている。これを活用し、今後さまざまな情報とひもづけて使い道を広げていくと、便利にはなる。一方でカードを通じて情報が漏れるのではないか、政府があらゆる情報をのぞくのではないか、との懸念は強まる。情報漏れを防ぐ対策とともに、国民からの信頼を得る丁寧な説明が欠かせない。デジタル化に不慣れな人や使いこなせない人を、どう手助けするのか。高齢社会で新たな格差をつくらないためのきめ細かな対応も、求められる。

<日本の農業について>
*3-1:https://www.agrinews.co.jp/p52065.html (日本農業新聞 2020年10月6日) スマート化で何をする? 新技術が経済格差に 特別編集委員 山田優
 スマート農業が花盛りだ。本紙には無人の農業機械が畑を走り回り、ドローン(小型無人飛行機)や衛星から送られた情報に従って耕したり収穫したりする事例が、全国各地で登場する。農水省のウェブサイトによると、「ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業」がスマートな農業だという。高齢化や過疎で農村の人手不足が深刻な中、魅力的に見えるのは確か。省力化と品質向上の一石二鳥になるのであれば、期待されるのは当然だ。厳しさが強調される農業で、数少ない明るい話題といえる。政府のスマート農業関連予算は拡充されている。デジタル化に熱心な菅政権でさらに農業のスマート化が進むことは確実。目指すのは農家がいち早くスマートになって競争力を高めることだ。この場合の競争相手は、国内の他産地や輸出先の競合国などだろう。政府のスマート農業は、安倍前政権から続く攻めの農政とぴったり歩調を合わせている。成長するには競争するしかない。他人を蹴落としてでも強い農業を目指しなさいというわけだ。新しい技術は私たちの暮らしや経営を便利にする一方で、社会のひずみを広げることもある。ここ数十年の間に、世界中でITが浸透した。インターネットやスマートフォンがない生活はもはや想像しにくい。半面で社会の経済格差は大きく広がった。ITをスマートに利用するごく一部の企業や富裕層が巨万の富を独占し、一方で多くの貧困層が生まれた。新自由主義的なさまざまな規制緩和と、ITの発展が結び付き、競争の勝者だけがおいしい思いをできるようになったからだ。農業でスマートな技術がもてはやされ、気が付いたら農村に取り返しのつかない経済格差が生まれることはないだろうか。人影のない田んぼで、無人トラクターとコンバインが走り回る。収穫した米は自動で乾燥調製機に運び込まれる。経営者の命令で全ての作業を指示するのは人工知能(AI)。従うのは地元の補助要員か海外からの研修生。一つ一つの技術を見れば便利で営農に役立つものばかり。だが、こんな風景の中、一握りのスマートな経営者が、戦前の地主のように「旦那さま」として農村を歩き回る姿は見たくない。

*3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48973690U9A820C1X11000/ (日経新聞 2019/8/26) COOLジャパンが世界を変える 進化する冷凍・冷蔵技術
 ニッポンの冷凍・冷蔵技術に熱視線が注がれている。米国で生まれた急速冷凍の技術が、食材のおいしさにこだわる日本で鍛えられて、その進化が止まらない。鮮度を保ったまま冷凍できる新技術が登場し、農水産物の加工や小売り、外食などで新たなビジネスが広がっていく。冷食市場が広がる新興国ではコールドチェーン(低温輸送網)構築の動きも加速する。世界の食の未来を激変する潜在力を秘める「COOLジャパン」の最前線を追いかけた。「本当に冷凍されたシイタケの香りなのか。ありえない」。中国工商業連合会の幹部は、手に取った冷凍シイタケを鼻に近づけると驚きの声を上げた。数年前に冷凍されたメロンやホウレンソウなども次々と試食すると、興奮気味に呼びかけた。「生と変わらないみずみずしさ。中国でもっと話しを聞かせて欲しい」
■水の分子を振動
 7月20日、同連合会の「日本低温物流視察交流訪問団」の22人が訪れたのは、千葉県流山市にある冷凍技術のアビーの本社。お目当ては大和田哲男社長が発明した冷凍システム「CAS」だ。「セル・アライブ・システム」の略で、凍結時に細胞を生かしたまま素材を冷凍できる。素材本来がもつうまみや香りなどを長期間保てる。これまでの急速凍結装置は、セ氏マイナス40~50度の冷風を素材に直接吹き付けて凍らせる。このとき、水の分子が集まった氷の結晶が表面で膨張し、素材の細胞組織を破壊して、うまみや香りなど素材の質を劣化させていた。肉や魚を解凍し、素材から汁がにじみ出る「ドリップ現象」が起きるのはそのためだ。CASは急速凍結機に組み合わせて使う。独自装置で凍結機のなかに磁界を発生させて、微弱な電流で素材に含まれる水の分子を振動させ、表面の氷の成長を抑える。素材と水の分子の凍結点を同期させ細胞を壊さずに凍らせる。大和田氏は「細胞破壊がないため、素材の新鮮さをいつでも再現できる」と胸を張る。大和田氏は1973年、不二製油と生クリームを使ったケーキの凍結と解凍に世界で初めて成功した職人として知られる。その技術力に目を付けた細胞医学者が細胞や臓器、血液などへの応用研究を大和田氏に働きかけ、CASの開発につなげた。2004年に第1弾のCASフリーザーを発売し、今では世界22カ国で使われている。まだまだ進化中だ。「冷凍食品の父」と言われる米実業家のクラレンス・バーズアイ氏は1920年代に急速冷凍した食品を発案し、食の世界に革命をもたらした。
■安心とおいしさを両立
 それから約1世紀。大和田氏は凍結速度の進化が中心だった「クールテック」に創造性を加えた。画期的なイノベーションとしてCASを特集した米経済誌フォーブスは、大和田氏を「ミスター・フリーズ」と評した。大和田氏は現在、大半の時間を海外食品メーカーの担当者との接客に費やす。6月に米ウエスト・バージニア州のエドワード・ガンチ商務長官が大和田氏を訪ね、米国の農産物の輸出拡大の切り札としてCASを求めた。大和田氏は「世界で勝負できる手応えを感じ始めた」と語る。米国発祥の技術が日本で独自の進化を遂げた。ニッポン発のクールテックが食の世界で新たな風を吹かせている。冷凍船で世界シェア8割以上を誇る産業用冷凍機大手、前川製作所の高橋繁執行役員は「とれたてのおいしさを求める消費者に鍛えられた」と説明する。日本の冷凍・冷蔵技術は、まずマグロなどの水産物加工の保存に用いられ、冷凍食品に広がった。前川製作所も顧客のニーズに合わせて、技術を発展させてきた。おいしさだけが魅力ではない。人手不足やフードロス(食材廃棄)などの課題解決に一役買う。「ヤシノミ洗剤」で知られるサラヤ(大阪市)は、中小の食品加工場の衛生管理を向上するため、急速凍結機に着目した。大きな食品工場が導入する大型機は充実しているが、小型な凍結機は少なかった。中小に急速凍結機が入れば「加工食品を保管しやすくなり、フードロスや人手不足を解消できる」(食品衛生部の脇本邦裕副統括部長)
■液体は速度の20倍
 サラヤは洗浄機や消毒器など食品衛生分野における商材やコンサルティングなどを主力としている。「衛生管理に人を回せない」。そんな声を聞き、独自の急速液体凍結機「ラピッドフリーザー」を開発した。ラピッドフリーザーはエタノールを用いた専用冷凍液で素材を急速凍結する。洗剤で培ったアルコールのノウハウを生かし、不純物が少ない冷凍液の開発につなげた。一般の冷凍機と比べて、冷凍速度は約20倍になる。冷凍速度を速めて、氷の結晶を小さくし、食材の細胞破壊を抑えられる。外装殺菌したパックに加工した素材を詰め、冷凍液をくぐらせるため、より効率良く保存し、配送もしやすくなる。加工業者は一括仕入れ・調理が可能となる。青果仲卸を手掛ける泉州屋(大阪市)は、ラピッドフリーザーを卸売市場に導入し、冷凍商品開発のラボを開設した。味は良くても小売りに卸せない規格外品、完熟直前の廃棄対象といった食材の保存にも活用する。サラヤは泉州屋からそうした果物や野菜を調達し、スムージージュースとしてサラヤの店舗で販売し、フードロスの活動を展開している。20年6月には食品加工業者に国際基準である「危険度分析による衛生管理(HACCP)」に基づく衛生管理が義務化される。サラヤ食品衛生部の中田慧悟係長は「冷凍技術で食の安心安全とおいしさの両立を提案していく」と語る。磁石と電磁波に冷風を組み合わせ、ドリップ現象を防ぐ「プロトン凍結機」を展開する菱豊フリーズシステムズ(奈良市)。食材を長期保存し、長距離輸送できる冷食に強みを持つ。同社は沖縄県うるま市に冷食の製造・販売などを手掛けるアンリッシュ食品工業を15年に設立。冷食のセントラルキッチン(CK)機能を備え、伊勢丹新宿本店などにプロのシェフが手作りした凍結総菜を供給している。菱豊の弓削公正営業統括部長は「冷凍機だけでなく、冷凍素材の最適な調理法も研究している」と話す。「アンリディッシュ」という手作り冷凍総菜ブランドを今年から本格展開する。日本各地の産地と組み、長期保存できる冷食の利点を生かし、全国津々浦々に高品質な食材を届ける。国連は60年にも世界の人口が100億人を超えると予測する。アビーの大和田氏は「食糧難を防ぐため、冷食を世界で広げる」と誇りを感じる。
■「COOLジャパン」戦略が世界を席巻
 クールテックは農水産業、畜産が抱える題を克服する力を持つ。「いつまでも自動車に頼れない。冷凍・冷蔵技術で農水産業を競争力ある産業にしたい」(大和田氏)。日本企業が展開する「COOLジャパン」戦略が世界を席巻する。日本では手抜きのイメージが強かった「レン(ジで)チン」が、ひと味もふた味も違った味を引き出している。クールテックの進化によって、冷食の商品力を格段に上げた。味や食感のレベルを保ちながら、保存料なども使わず食卓で楽しめる。小売店の売り場や外食の現場でも存在感を増しており、人手不足やフードロスなど流通業界が抱える課題を溶かすパワーをみせる。フォーク越しに伝わるふわりとした感覚。口の中に運ぶとしっとりとした柔らかさの後にじんわりと甘さが広がる。「ギャザリング テーブル パントリー」(東京・中央)の「ベイクドチーズケーキ」(税別480円)は、39秒の「レンチン」を経た冷凍食品だ。チーズケーキだけではない。かむと皮のぱりっとした感触と肉汁があふれるチキンをはじめ、すべての商品が火と油を使わない厨房で生み出される。パントリーは「ロイヤルホスト」を運営するロイヤルホールディングス(HD)が17年に出店した実験店だ。パナソニックと共同研究で同社の新型機器を導入。セントラルキッチン(CK)で調理した冷蔵、冷凍食材を高い品質で提供できるようにした。店での仕込み時間はゼロ。清掃の労力も短く済む。ロイヤルHDとコールドチェーンには歴史的に深いつながりがある。実はロイヤルHDが1970年の大阪万博の会場で運営する飲食店で冷凍食品を活用し、外食産業でコールドチェーンの先駆けとなった。創業者の故・江頭匡一氏は米軍基地のコック見習いから身を起こし、米国の流通業界を支えていた冷凍技術に早くから着目した。当時、米国ではロサンゼルスとサンフランシスコ間でコールドチェーンが構築されていた。「ちょうど福岡県のCKから大阪と同じ距離。米国にできて、日本で実現できないわけがない」江頭氏は福岡県のCKから片道8時間の冷食の輸送に踏み切った。万博の会期中は周囲が欠品を起こす中で料理を提供し続け、半年で11億円超の売上高を稼ぎ出した。ロイヤルHDで研究開発を担う野々村彰人常務は「多店舗展開の基礎を実証した転換点になった」と振り返る。
■新たな消費スタイルも
 コールドチェーンは70年以降の外食企業の興隆を下支えした。クールテックの進化は、人手不足などの難題に悩まされる外食産業にとっても次なる飛躍をつかむきっかけとなる。「冷凍技術は調理と消費のタイミングをずらせる。労働集約型の外食産業を変えられる」(野々村氏)。パントリーはその先兵だ。ロイヤルHDが冷食で狙うのが、食卓だ。ロイヤルホストでは17年秋ごろからカレー、シチューといったメニューを冷凍食品として販売。現在75店舗で展開している。野々村氏は「ロイヤルの味を店に来なくても家庭に届けられれば新たな市場ができる」と自信をみせる。クールテックが「外食」と「内食」の垣根も崩しつつある。食卓に食品を届けるのが冷凍食品専門店「ピカール」だ。品ぞろえは約350種。有機野菜を使った「Bio野菜のラタトゥイユ」(735円)のような手軽なおかずから、「サーモンのパイ包み焼き」(3219円)のようにパーティーに出るような本格的な料理まで、レンジやオーブンで温めるだけで楽しめる。仕事を抱える女性を中心に人気が広がる。冷凍食品は品質の高まりに加えて、共働きの増加などライフスタイルの変化もあり、消費量はプラス基調が続く。日本冷凍食品協会(東京・中央)によると、18年の冷凍食品の国内消費量は289万トン。消費量は1人あたり22.9キログラムで08年から18%増えている。消費者アンケートでも週1回以上利用するとの答えが半数を超えた。新たな消費スタイルも生み出しそうだ。冷食売り場の拡大を進めているファミリーマートが今、照準を合わせるのは、「朝食」だ。コンビニの冷食といえば、帰宅時に夜食用に買われていた。商品・物流・品質管理本部で冷食を手がける栗原栄員氏は「朝食に冷食を広げるメニュー開発を進めている」と話す。例えば、冷凍サンドイッチをチンして食べられるようにする。チルドで時間の経過で出るぱさつきなどを抑えながら、翌朝でも食べられるようになる。「瞬間凍結できれば中食のメニューで冷凍商品で販売できないものはない」(栗原氏)。どの家庭も多忙なだけに、冷食朝食というカテゴリーが加われば、消費者も助かるというわけだ。ファミリーマートは冷食を成長領域に定め、約44億円を投じて、冷凍食品を増やした店舗を9月までに4000店にする計画だ。冷凍食品のケースは従来の3枚扉でなく4枚扉と大きくし、収容する商品のアイテム数を51から73に増やす。店舗運営の効率化、フードロス軽減にもつなげる。コールドチェーンの進化は、地場でしか味わえなかった食品流通も変えつつある。ホルモン専門店など約130店舗展開するい志井(東京都調布市)が鹿児島大学と共同で開発したのは、医療用に使われている溶液を活用した新たなホルモンの流通方法だ。鮮度劣化が早いホルモン。これまで解体から2日目までしか提供してこなかったが、11日目まで鮮度を保ち保存できるようになる。保存期間が延び、これまで1割ほどだったホルモンの廃棄率がゼロになった。関東圏の食材しか仕入れられなかったが、畜産県である鹿児島とも取引できるようになった。鹿児島ではホルモンを消費しきれず廃棄されるケースも多かったが、同社の保存技術で都市圏への出荷が可能になった。冷食市場はグローバルでみても成長分野だ。英調査会社ユーロモニターによると世界の冷凍食品の市場規模は18年に1193億ドル。5年で12%増の1339億ドルまで拡大する見通し。フードロス削減や厨房・加工場の省力化、流通コストの圧縮など、日本の食の現場で日々蓄積されているクールテックのノウハウは、これからの成長産業の隠し味となる。

*3-3:https://www.agrinews.co.jp/p52069.html (日本農業新聞 2020年10月6日) [滋賀・JAこうか移動編集局] 「忍者の里」動く ドクダミ産地化 手間かからず“半永久的”
 滋賀県のJAこうかは、薬草として知られるドクダミの産地化に力を入れている。一度植えると半永久的に収穫できて毎年定植する必要がない他、茶の刈り取り機が使えるなど、手間がかからない点に着目。耕作放棄地中心に導入し、農地再生につなげたい考えだ。JA管内は薬の扱いにたけていたとされる甲賀忍者ゆかりの地。かつて得意とした薬草の産地化に“忍者の里”が動きだした。
●放棄地解消へ一手
 ドクダミはハート形の葉が特徴の多年草で、全国に分布する。開花期の葉と茎は薬効の多さから「十薬」と呼ばれ、利尿や消炎の作用の他、便秘にも効果があるとされる。古くから民間療法に使われ、日本三大民間薬の一つに数えられている。現代でもドクダミ茶の原料に使われるなど、健康志向の消費者を中心に人気を集める。JAは2019年に産地化に乗り出した。JA営農経済部の上田典孝次長は「管内の遊休農地が200ヘクタールを超え、何とか活用できる作物はないかと模索していた」と振り返る。
●茶どころ強み収穫機を転用
 決め手となったのは、栽培に手間がかからない点だ。ドクダミは多年草で、苗を一度植えると「半永久的」(上田次長)に収穫できる。さらに、茶の刈り取り機を転用することで収穫を機械化できる。全国有数の茶産地を抱えるJAならではの強みを生かすことができた。他にも、ドクダミは湿地でよく育つため、耕作放棄地のほぼ全てが水田だったことも有利に働いた。JAの栽培モデルでは、1年目の4月ごろに苗を定植、2年目から収穫が可能となる。収穫は夏と秋の2回で、収穫後は追肥をする。鍵を握るのは雑草対策だ。JAによるとドクダミには使える除草剤がなく、手作業で取り除くしかない。昨年から5アールで栽培する大平啓治さん(70)は「定植後に小まめに雑草を取り除き、いかに密に生育させるかが重要となる。ドクダミが定着すれば、雑草は次第に生えにくくなる」と強調する。JA管内の20年の栽培面積は、前年(10アール)の4倍に当たる37アールに広がった。収穫されたドクダミはJAが全量を集荷し、茶などの加工品の原料向けに出荷する。上田次長は「今後は雑草対策や施肥体系を確立し、10アール5トンの収量を目指す。ドクダミ栽培を耕作放棄地対策の柱の一つにしたい」と、意気込みを見せる。
●伸びる 国産需要
 日本特産農産物協会によると、国内のドクダミ栽培面積は、データがある直近の18年産で666アール。16年産まで長らく200アールを切っていたが、17、18年産で急拡大した。県別では、兵庫(253アール)と徳島(250アール)での栽培が盛んで、両県で全体の8割近くを占めている。農水省は「(ドクダミを含む)薬用作物は全般的に国産の需要が伸びている」(生産局)と指摘する。

*3-4:https://www.agrinews.co.jp/p52337.html (日本農業新聞論説 2020年11月7日) 農作物の過剰在庫 国産回帰運動を総力で
 新型コロナウイルスの流行で、小豆や砂糖原料など需要が減った作物の産地が過剰在庫に苦慮している。産地は、新たな需要の創出や輸入品からの需要の奪還に向けて、加工・販売業者や自治体と連携し需要拡大に取り組む必要がある。過剰在庫が滞留し続ければ地域経済にも影響する。国の支援も必要だ。国内の小豆収穫量でシェア9割を占める北海道。ホクレンによると、昨年10月から今年9月の道産の年間消費量は4万560トンと、平成以降で最低だった。コロナ禍で、土産物や手土産用の和菓子の売れ行きが悪化したためだ。3万2466トンが在庫となり、繰り越された。土産物需要の落ち込みで、砂糖も過剰在庫が発生。原料のテンサイやサトウキビは北海道や沖縄には欠かせない地域の基幹作物だ。過剰在庫が続けば、需給を長期に圧迫してしまう。早く手を打たなければならない。需要拡大に産地は懸命だ。テンサイの主産地、JAグループ北海道は、昨年から「天下糖一(とういつ)」プロジェクトと銘打ち、人工甘味料や加糖調製品などに奪われた需要を取り返すため、イベントやインターネットの活用などで多様なPRを展開。コロナ禍の今秋も、札幌市近郊の銭湯で、砂糖を使った入浴剤を入れた「砂糖のなごみ湯」イベントを行った。また、ホクレンは十勝、オホーツク地区のJAや農家にも呼び掛け、小豆をはじめ道産豆類を使用した和菓子の購入や、菓子メーカーなどと連携した商品開発など、需要拡大に積極的に取り組んでいる。しかし、産地だけでの需要拡大策には限界がある。卸や和菓子業界などとの連携を国も後押しし、“国産回帰運動”の裾野を広げなければならない。また、生産者の作付け意欲が減退しないような振興策や、安心して輪作体系に組み込める契約栽培への支援なども必要だ。小豆は台風の被害などで作付面積が減っていたが、国産を望む和菓子業界などの声を受け、北海道の産地の努力で増産してきた背景がある。ここで作付けが減れば、コロナ禍が収束し需要が回復しても、すぐに増産できるわけではない。この機会に、国産の需要を増やすことが重要だ。酒米などさまざまな産地が同じ状況にある。参考となるのがソバだ。販売が激減する中、日本一の産地、北海道・JAきたそらちは、製粉業者や地元自治体と連携し、輸入品を使っていた大手外食店やコンビニに働きかけ、2000ヘクタール分の販路を新たに確保、過剰在庫の解消にめどをつけた。農水省の国産農林水産物等販売促進緊急対策を活用した。製粉業者は「一産地だけでなくソバ業界全体が国産志向になるきっかけとなっている」とみる。同対策の対象は一部品目に限られる。需要奪還と生産安定へ国は多くの農作物の在庫を把握し、中長期的な視点で支援を強化すべきだ。

<あまりにも生物学を理解していない政治・行政・メディア>
PS(2020年11月18日追加):立教大学経済学部特任教授の金子氏が、*4-1のように、①徹底的にPCR検査を行い、隔離・追跡・治療するという基本的対策をなおざりにした ②人口100万人当たりの検査数は、219の国・地域で日本は150位前後 ③徹底的に検査しなければ無症状者を見逃し、そこから感染拡大する ④人口100万人当たり死亡率は15人と、中国・韓国・台湾など東アジア諸国の中で突出して高い と書かれており、同意見だ。特に、④について、欧米人と東アジア人は獲得免疫が異なるのに日本の死亡率が東アジア諸国の中で突出して高いのは、①②③の政策が誤っていたからにほかならない。その政策の誤りの結果、国民は自粛を余儀なくされ、経済が縮小し、政府は財政支出を増やして給付金をばら撒かざるを得なくなり、2020年度の財政支出は3次補正まで合わせると約190兆円にもなる。そして、その財源は日銀の金融緩和で、貨幣価値を下げて物価を上げるため、国民生活をさらに圧迫しているのだ。
 さらに、*4-2の種苗法改正案は、優良品種の海外流出を防ぎ、開発者の権利を保護することが目的とされているが、④登録品種の自家増殖に許諾制を導入する ⑤これは、農家の種や苗を次期作に使う国際的に認められた農家の「種の権利」を害する ⑥現行法でも自家増殖した種苗の海外への持ち出しは違法で、登録品種全般を許諾制にする理由はない というのに、私は賛成だ。その理由は、農家も種や苗を次期作に使いながら品種改良しているため、これを禁止すると農家の権利を奪うだけでなく、作物の改良をも阻害するからだ。また、この改正案は、種苗開発者の権利を少しは守るかもしれないが、優良品種の海外流出を止める根本的解決とはならず、日本の農家の権利を害するだけだからである。
 このように、生物系の事象に関する判断にはあまりに誤りが多いので、私は、政治・行政・メディアの担当者は、MITの全学生が学び全米の学生が絶賛する「大学生物学の教科書(D.サダヴァ著、石崎泰樹・斎藤成也監訳)、1~5巻」を読んでおくのがよいと考える。理系だけでなく文系の人も読むべき理由は、バイオの最先端を理解して政策を誤らず、社会に余計なストレスを与えずに、バイオ関係の研究や創薬を助けたり、正確に伝えたりできるようにするためだ。

   
2020.11.14毎日新聞  ジョンズホプキンズ大学・藻谷氏 コロナウイルスの発祥地など

(図の説明:左図のように、日本では感染者数のみを出して騒いでおり、検査の母集団が変化しているのに、母集団から見た死亡率は出していない。また、中央の図のように、西太平洋諸国の人口100万対累計死亡者数は低いが、誤った政策により日本だけ増加が止まらなかった。そして、西太平洋諸国の人口100万対累計死亡者数が低い理由は、右図のように、普段からコロナウイルスに暴露されており、人体も免疫や遺伝で対応しているからだと思われる)

*4-1:https://www.agrinews.co.jp/p52415.html (日本農業新聞 2020年11月16日) コロナ禍の経済政策 格差生む調達改めよ 立教大学経済学部特任教授 金子勝
 新型コロナウイルスの感染第3波が来た。ウイルスの変異が激しく、周期的に押し寄せてくる。非常に厄介なウイルスだ。ところが、徹底的にPCR検査を行い、隔離し、追跡し、治療するという基本的な対策をずっとなおざりにしてきた。人口100万人当たりの検査数は、219の国と地域の中で日本は150位前後。他方で、100万人当たりの死亡率は15人と、中国、韓国、台湾などの東アジア諸国の中でも突出して高い。
●危うい日銀頼み
 徹底検査をしなければ、無症状者を見逃し、そこから感染が拡大する。自粛をすると感染者数が減り、経済活動を再開すると感染者数が拡大する。政府はジレンマに陥っている。そして、ひたすら財政支出を増やして給付金をばらまくだけになる。実際、2020年度予算は約102・6兆円の大規模予算だったが、2次にわたる補正予算を加えると、約160兆円に達する。さらに、また30兆円規模の第3次補正予算を編成するという。だが政府は、どのように巨額の財政支出の財源を調達しているのか。それは日銀による赤字財政のファイナンスによる。しかし、日銀は8年近くも国債買い入れによる金融緩和策を続けてきたため、年間購入予定とした80兆円の国債を買えなくなっている。実際、17年は約30兆円、18年は約29兆円、19年には約14兆円弱まで購入残高が落ちている。¥一方で、補正予算の際に、政府は銀行、地方銀行、信用金庫に実質無利子・無担保の貸し付けをさせる企業金融支援を決めた。日銀は、それを支えるために、企業や個人の民間債務を担保にして、日銀はこれら金融機関に対してゼロ金利の貸付金を大量に供給し始めた。その金額は約60兆円にも及び、20年11月段階で約107兆円の貸付残高に達している。その結果、日銀は売るに売れない国債、株、社債、CP(コマーシャルペーパー)を大量に抱え、戦時財政・戦時金融と同じく“出口のないねずみ講”のような状況に陥っているのである。
●株価好調の裏で
 しかも、日銀がリスク管理の弱い貸付金という過剰流動性を大量に供給したことで、コロナ禍にもかかわらず、バブルが引き起こされている。株価も2万5000円台に急上昇し、今年5月に8割以上も落ち込んだ首都圏マンションの販売が、6月から急速に回復し、7月には前年水準を上回った。それは、猛烈な格差拡大をもたらす。コロナ禍で多くの倒産、休廃業、そして雇い止めが引き起こされる一方で、富裕層は資産バブルの恩恵を受けるからだ。その上、やがてバブルが崩壊した時に、弱小金融機関だけでなく、民間債務担保を日銀に付け替えているので、日銀信用を大きく傷つけていくだろう。経済政策は根本的に間違っている。徹底検査による抜本的コロナ対策とともにエネルギー転換を突破口とする地域分散型の産業戦略が不可欠になっている。
*かねこ・まさる 1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、18年4月から現職。著書に『金子勝の食から立て直す旅』など。近著に『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)。

*4-2:https://www.agrinews.co.jp/p52414.html (日本農業新聞 2020年11月16日) 種苗法改正案 保護と権利 バランスを
 今国会で審議中の種苗法改正案は、優良品種の海外流出を防ぎ、開発者の権利を保護することが目的である。一方で、登録品種の自家増殖に許諾制を導入することには、疑問や異論もある。知的財産の保護と農家の「種の権利」のバランスをどう取り、農業振興につなげるか、徹底審議を求める。同改正案は先の通常国会に提出されたが、新型コロナウイルス対応などで審議時間が取れず、今国会に持ち越していた。衆院で本格審議が始まったが、改めて論点も見えてきた。改正の背景には、日本が長年にわたって開発してきたブランド品種の海外流出問題がある。現行法では、正規に販売された種苗の海外への持ち出しは禁じられていない。改正案は、品種の開発者が、輸出先や栽培地域を指定できるようにし、違反した場合に育成者権の侵害を認定し刑事罰を問いやすくする。こうした市中流通ルートに加え、農家の自家増殖にも許諾制の規制をかける。現在は登録品種であっても農家は原則自家増殖ができる。種や苗を次期作に使うことは国際的にも認められた「種の権利」である。現行法でも自家増殖した種苗の海外への持ち出しは違法だが、なぜ登録品種全般に許諾制の網をかけるのか。農水省は、品種開発者が増殖の実態を把握することで、流出時に適切な対応ができると説明。違法流出の立証が容易になり、刑事罰や損害賠償請求をしやすくなるとも指摘する。あくまでも流出防止のための規制で「種の権利」に対する侵害ではないとの立場だ。だが、許諾制による管理強化がどれほど流出防止に実効性があるのか、国会審議を通じてさらなる説明が必要だ。欧米では、登録品種であっても主要作物の一部に自家増殖を認めるなど例外規定がある。日本でも柔軟な対応を求めたい。流出防止の核心は、同省も認めているように輸出国での品種登録だ。海外での品種登録はコストや申請手続きなどハードルが高い。同省は登録経費の支援などを行っているが、海外での育成者権の行使に向け包括的な支援の充実こそ急務だろう。農家が不安を抱く自家増殖の許諾料について同省は、営農の支障になる高額な設定にはならないと説明する。民間種苗会社も農研機構や都道府県の許諾料水準を参考にすると指摘。品種の太宗はこれまで通り自家増殖ができる一般品種であり、経営判断で選択できるとして不安を打ち消す。だが企業による種苗の寡占化が進めば、将来負担増にならないと言い切れるのか。許諾料の上昇に対する歯止め規定も検討すべきだ。許諾手続きの事務負担が増えないよう簡素化や団体代行も進めたい。改正案は「食料主権」に関わる内容を含むだけに、幅広い利害関係者の意見もくみ取りながら、将来に禍根を残さない慎重かつ徹底した審議を求める。

<日本における製造業の落日と技術の喪失>
PS(2020年11月21日):*5-1は、「①パナソニックは2021年3月期の連結営業利益率が2%台と低迷」「②パナソニックの不振は、『選択と集中』が進まなかったため」「③EV向け電池は大口顧客テスラの成長スピードについていけなかった」「④大阪本社を移転するようなショック療法も検討しなければいけないのではないか」「⑤電機産業は自動車と並ぶ日本の2本柱だったが、韓国サムスン電子などに水をあけられている」等と記載している。
 しかし、②のように「選択と集中」を進めれば、⑤のサムスンだけでなく、中国や欧米のメーカーにも負け、日本の家電メーカーはなくなる。現在、家電量販店に行って電気製品を探せば、日本の有名ブランドはパナソニックしかない。そして、製造しない国には技術がなくなるため、国民が求める製品を作れず、修理もできなくなる。これは何がいけなかったのかと言えば、国として構造改革を行わず、高コスト構造のまま、①のように、「連結営業利益率が2%以下の事業は止めるべきだ」などという傲慢な評論をしたことだ。これでは、株主の利益率は一時的に上がったとしても、日本には製造業がなくなるのであり、④のようなショック療法を乱発すると、これまであった産業集積や技術も失う。さらに、③は先見性があったが、国内でEVがこき下ろされていたため、経営陣が今一つ本気になれず、誤った経営意思決定をしたのではないかと思う。つまり、政府やメディアが間違った誘導をすると、それを情報源とする人が誤った判断をするので、気を付けるべきなのだ。
 なお、電機産業と自動車は日本の2本柱だったが、*5-2のように、自動車も、中国が世界の輸出拠点になってきている。中国は、早くからEVの普及に向けた規制でバッテリー等の関連部材企業を集積し、サプライチェーンの整備も進んで、販売・生産の両面で世界を主導する「EV強国(=次の自動車強国)」として存在感を増しているのであり、日本は中国等が市場に参入する前はバッシングされていたが、今ではパッシングされる立場になっているのだ。私も、中国製で安価な上に、コンセプトやデザインの優れた欧州車が日本で市場投入されたら欲しいくらいで、こうなると日本は米国と同様、双子の赤字に悩まされることになる。

*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201120&ng=DGKKZO66428700Z11C20A1EA1000 (日経新聞社説 2020.11.20)明暗が分かれたソニーとパナソニック
 パナソニックが9年ぶりとなるトップ交代を決めた。2022年には持ち株会社にも移行して低空飛行が続く業績の回復を目指すとするが、克服すべき課題は多い。ライバルのソニーは好業績が続いており、明暗がはっきり分かれた。パナソニックに求められる経営改革は、多くの事業を抱えたまま停滞する他の大企業に共通するものだ。12年にパナソニックの社長に就任した津賀一宏氏は、プラズマテレビからの撤退といった構造改革を進めて巨額赤字からの脱却を果たした。しかし、その後は収益の柱を絞り込めずに時間を浪費した。14年には「売上高で10兆円を目指す」としたが、わずか2年でこの目標を撤回。21年3月期の連結売上高は6兆5千億円と30年前と同じ水準に沈む見通しで、営業利益率は2%台に低迷するありさまだ。ソニーもテレビ事業などで大規模なリストラを断行したが、スマートフォン向け画像センサーと家庭用ゲーム機に集中的に投資した。18年3月期に20年ぶりに営業最高益を更新し、コロナ禍にもかかわらず足元の業績も堅調だ。パナソニックの不振は、幾度となく指摘されてきた「事業の選択と集中」が進まなかったことに尽きる。低迷するデジタル家電事業を引きずり、力を入れるとした電気自動車(EV)向けの電池でも大口顧客の米テスラの成長スピードについていけずに追加の投資に二の足を踏んだ。21年6月に新社長に昇格する楠見雄規常務執行役員は、歴代トップが繰り返してきた中途半端な改革では抜本的な再建は難しいことを認識する必要がある。競争力のない事業を見切り、成長領域へ果敢に攻め入るべきだ。過去との決別を明確に示すためには、大阪の本社を移転するようなショック療法も検討しなければいけない状況なのではないか。一方のソニーも1990年代に参入したゲーム事業への依存が強まっており、新たな事業の育成では大きな課題を残したままだ。もう一段の成長には、時代を先取りする製品や技術を生み出す努力が欠かせない。電機産業は自動車と並ぶ日本の2本柱だったが、近年では韓国サムスン電子などに水をあけられている。パナソニックとソニーには良きライバルとして、電機産業を再びけん引する役割を望みたい。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201121&ng=DGKKZO66521020R21C20A1MM8000 (日経新聞 2020.11.21) 中国産EV、輸出始動、テスラ・BMWまず欧州へ 部材集積生かす
 中国が電気自動車(EV)の世界への輸出拠点になってきた。米テスラや独BMWが2021年初めまでに中国から欧州にEVの輸出を開始。中国メーカーの輸出も弾みがついている。中国はEV普及に向けた新エネルギー車(NEV)規制(総合2面きょうのことば)でバッテリーなど関連の部材企業も集積。販売だけでなく生産面でも世界を主導する「EV強国」として存在感を増している。英LMCオートモーティブによると2020年1~6月の世界のEV生産台数66万台のうち中国が約4割の25万台を占め、米国(23%)や日本(2%)に差をつけた。1~6月の中国の自動車輸出は減少したが、EVを中心とするNEVは前年同期の2.4倍の3万6900台に拡大。輸出額は3.7倍の11億ドル(約1100億円)に伸びた。EVの輸出はさらに増えそうだ。BMWは遼寧省で生産する新型EV「iX3」を欧州に輸出し21年初めにも納車を開始する。米国への輸出も模索する。欧州への乗用車輸出は10%関税がかかり販売価格は約6万5000ユーロ(約800万円)。テスラも10月、上海工場で生産した「モデル3」を欧州へ送り出した。中国で民営自動車大手の浙江吉利控股集団傘下の電動車メーカー、ポールスターは欧州や北米にEV「ポールスター2」の輸出を始めた。ポールスターの生産台数の多くは輸出向けだ。EVが市場の過半を占めるノルウェーで9月新車販売全体の3位に入った。新興勢も海外市場に狙いを定める。愛馳汽車は多目的スポーツ車(SUV)「U5」をフランスのレンタカー会社に500台販売したほか、年内にドイツやスイスでも販売する。小鵬汽車も9月に輸出を開始。ガソリン車では限定的だった先進国での中国ブランドがEVで浸透しつつある。中国はNEVの販売台数で19年まで5年連続で世界1位。工業情報化省によるとNEVで累計2兆元(約31兆円)超が投資され、サプライチェーンの整備も進んでいる。車載電池で中国最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)がテスラなどEV大手に供給している。冷却部品の浙江三花智能控制や高圧直流送電リレーのアモイ宏発電声などもEVに欠かせないという。日本の自動車産業は裾野が広い部品や素材企業が支えてきたが、同様の産業構造をEVで中国が世界に先駆けて構築している。日本の自動車メーカーも中国でのEV生産に乗り出す。日産自動車は東風汽車集団と合弁でEVを生産・販売する。来年に稼働する湖北省武漢市の生産拠点で新型EV「アリア」を生産するが、当面は中国で販売する。ホンダは合弁ブランドEVを中国で生産・販売している。中国で生産を計画する自社ブランドのEVについては「(将来的に)他国への展開も視野に入れる」(ホンダ)。中国で拡大するEV生産の恩恵は日本の部品・素材企業にも及ぶ。EV用駆動モーターで世界大手の日本電産は中国での事業展開を強化。リチウムイオン電池の構成部材でシェアの高い旭化成や住友化学なども現地生産で取り込みを狙う。日米欧から中国を軸とした自動車産業の勢力図に変わりつつある。日本にとって基幹産業である自動車の輸出・生産に影響が出る可能性がある。

<政治・行政・メディアによる医療破壊>
PS(2020年11月22、25、27日、12月2、3日追加):*6-1は、「①団塊世代が75歳以上になり始め医療費が急膨張するので、非効率な医療供給体制の改革が必要」「②都道府県別の1人当たり医療費は最大4割近くの差が出ており、1人当たり医療費は病床数の供給が需要を作り出している」「③神奈川県はコロナ患者を症状毎に重点医療機関やホテル療養で対応し、病床数は最少でも県主導で効率的な体制を作った」「④日本の千人当たり病床数は先進国最高水準で米英の約5倍だが、春先の感染爆発時はコロナ患者をたらい回しにした」「⑤医療供給に無駄がある」「⑥自民党財政再建推進本部小委員会は、都道府県の医療体制へのガバナンス強化を求めた」「⑦新型コロナとの戦いで都道府県の体制整備責任に焦点が当たっている」「⑧国は都道府県に『地域医療構想』を作るように求め、過剰な急性期病床の削減を進めて在宅医療への転換を促してきた」「⑨都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらう」等としている。
 このうち②は、都道府県により人口構成が異なるため、都道府県別1人当たり医療費が異なるのは当然で、それだからこそ75歳以上の人口が増えると医療費がかさむのであり、75歳以上の人に増える疾患は、癌・心疾患・脳血管疾患・誤嚥性肺炎・老衰などであって感染症ではないため、この記事は人口構成と疾病の関係もわかっていない人の主張であることがわかる。そして、①⑤のように、医療費がかさむからといって、団塊の世代を標的として受けられる医療の質を落とすのは、これまで保険料を支払ってきた人に対して不誠実だ。さらに、③は、神奈川県はホテルや大規模病院が多いため、効率的と言うより病状に応じた対応を取りやすかったが、地方には大規模病院は公的病院しかなくホテルも少ないため、⑦⑧⑨は言っていることが支離滅裂なのである。また、④は、ざっくり千人当たりの病床数しか見ていないが、疾病毎、治療方法毎、診療科毎に比較すべきだ。また、春先のコロナ感染爆発時に患者がたらい回しになった理由は、検査して感染者か否かを判別する方法が閉ざされ、防護服も足りなかったため、院内感染を恐れたという理由からだったと記憶している。なお、介護施設が足りずに社会的入院を余儀なくされている場合も、国に責任がある。つまり、⑥のように、あるべき医療体制を議論せずに、「医療は無駄」というところから出発している点が、すべての誤りの始まりなのである。
 NHKは、*6-2のように、新型コロナの1日毎の全国の新規感染者数・感染者の年代別割合・入院・療養中の人数・重症者数・死者数を報道しているが、このうち新規感染者数は検査数に比例して変わるので重視できない。確実で他の疾患と比較しやすいのは死者数だが、日本では、癌・心疾患・脳血管疾患による死者数より2桁少なく、インフルエンザによる死者数の2/3だ。メディアは、よく病床が逼迫すると報道しているが、(バチカン市国じゃあるまいし)重傷者が251人いると病床が逼迫するとは、日本の医療も地に落ちたものだ。近年、厚労省は何をやっていたのか。さらに、専門家と呼ばれる人が、いつまでも「(i)3密回避」「(ii)マスク着用」「(iii)消毒」「(iv)換気」などと小学校の補導の先生のようなことを言っているが、(ii)のマスク着用はほぼ100%なされており、(i)の3密は人口の集中しすぎによるもので、(iv)の換気は窓を開けなくても技術でクリアできる。さらに、公共の建物でも水道の水がチョロチョロで3秒毎に止まる設定にして濡らす程度にしか手を洗わせず、(iii)のように消毒液をすり込めばウイルスが全部死滅するかのように教えこむのは、不潔にも程がある。
 朝日新聞が、2020年11月24日、*6-3のように、「⑩厚生労働省に助言する専門家会議が、北海道・首都圏・関西圏・中部圏で感染者数が増加して入院者数が増加し医療が逼迫している」として「⑪『この状況が続けば通常の医療で助けられる命が助けられなくなる』と警鐘を鳴らした」と記載していたが、ダイヤモンドプリンセス号事件から9カ月も経過しているのに、最初の2カ月と同じことを言って国民に迷惑をかけていること自体が、助けられる命を助けようとしていない証拠だ。そのため、厚労省と助言した専門家が不作為の責任も取らずに、平気で国民にさらなる犠牲を強いているのは常識外れであり、もし「⑫自分たちはやるべきことはやってきたので、責任はない」と言いたければ、単に税金を原資とする大金をばら撒いただけでなく、他の先進国の検査・治療・ワクチン開発等の対応に見劣りしない対応をしてきたことを示すべきだ。100年前のスペイン風邪の時代とは異なり、現在はウイルス等のDNAを読んで検査することが可能な時代で、新型コロナウイルスにより検査方法も進歩したのに、日本は各リーダーがそれを理解することすらできず、科学に貢献もしなかったことを反省すべきだと、私は思う。
 なお、*6-4のように、福岡県は、北海道・首都圏・中部圏・関西圏のような騒ぎにはなっていない。その理由は、福岡市が、⑬PCR検査・抗原検査導入による検査の拡充 ⑭早期発見 ⑮軽症・無症状者の宿泊療養施設利用徹底による陽性者の隔離強化 ⑯*6-5のアビガン早期投与による治療という当たり前の医療を行っているからだ。初期に中国が公表した「無症状でも感染力がある」という新型コロナウイルスの特性を考えれば、⑬⑭⑮の必要性は明白だったにもかかわらず、厚労省はそのすべてを非常に不完全に行い、⑯については、米製薬会社開発のレムデシビルは承認したが、日本の製薬会社が開発したアビガンは未だ承認しておらず、まるで新型コロナ感染症を広げたいかのような対応をしている有様なのである。何故だろうか?
 2020年12月1日、*6-6のように、菅首相と小池都知事が緊急会談を行い、⑰重症化リスクの高い65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人は東京発着の『GoTo トラベル事業』の利用自粛を呼びかけることで一致し ⑱これに先立って都内飲食店への営業時間短縮の要請も行われている。さらに、*6-7のように、野田聖子幹事長代行は、⑲新型コロナは原因不明で特効薬がないと主張しており、⑳立憲民主党は、緊急事態宣言を出す権限と財政的な裏付けを知事に与えるのが柱の新型コロナ特別措置法改正案を今国会に提出する とのことである。
 しかし、原因は、中国によって新型コロナウイルスだということがその遺伝子型とともに当初から公表されており(今は、そういう時代)、特効薬は軽症なら抗ウイルス薬のアビガン、重症なら治癒した人の抗体を含む血清であることが明らかになっているため、⑲は誤りだ。また、⑱は、都内のどこが感染源になっているのか不明で、都内の飲食店が営業時間を短縮したからといって感染が減るわけではないので、政策に根拠がない。さらに、下図のように、日本の新型コロナ致死率は40~50代から徐々に上がるものの、65歳以上になって急に上がるわけではなく、80歳以上でも17.5%であり、基礎疾患があるといっても疾患の状況によって異なるため、⑰は、政府が新型コロナで高齢者や基礎疾患のある人を差別したにすぎず、見識が低い。⑳についても、ウイルス撃退のために手を尽くさず、緊急事態宣言という形で国民の自由を奪い、経済を停滞させてバラマキしようとしているので、人権に疎くて筋が悪いと言わざるを得ない。
 政府は、*6-8のように、来夏の東京五輪・パラリンピックで、㉑ワクチン接種は入国時の条件にせず ㉒大規模な外国人客を受け入れ、㉓ウイルスの陰性証明書を提出して ㉔専用アプリを利用すれば ㉕入国後2週間の待機は不要で ㉖交通機関の利用にも制限をかけずに行動できるようにする とのことである。日本への入国時に、㉓のウイルス陰性証明書の提出が義務付けられていれば、㉕のように入国後2週間の待機は不要だが、㉑のように、ワクチンを接種していない人がいるので、㉒の大規模な外国人客が、㉖のように自由に行動すれば、国内で感染する可能性が大きい。さらに、人の多い会場を複数訪れ、その中に感染した人がいた場合は大変なことになるため、会場に入る度に手荷物検査とPCR検査を受けて陰性証明書をもらうシステムにしておけばよいと思う。しかし、㉔の専用アプリは、感染した人がいた場合には膨大な数になるであろう接触者を追跡できるだけで、感染予防の効果は全くないことを理解しておくべきだ。

 
      2020.11.17NHK              2020.11.17NHK

 
 2020.6.6東京新聞   2020.6.6朝日新聞      2019.7.13朝日新聞

(図の説明:上の段の左右の図のように、日本の新型コロナ感染症は、11月16日、重傷者251人・死者15人だが、11月22日までの合計は感染者130,179人・死者1,974人だ。これは、下の段の右図の癌約30万人・心疾患約15万人・脳血管疾患約8万人の死者と比較すれば著しく少なく、インフルエンザ約3千人と比較しても少ない。しかし、数は少なくても亡くなる方は気の毒で、さっさと検査と治療を充実させ、ワクチンや治療薬の開発をしつつ普通に活動すれば、下の段の左や中央の図のような新型コロナを名目にした大きな無駄遣いをする必要はなかった筈だ)


 2020.11.12時事       2020.10.31Yahoo        worldpress
 
(図の説明:左図のような新型コロナの感染者数を示して連日大騒ぎしているが、そこには科学的思考がない。そして、死亡率は65歳以上は急上昇するなどと言っているが、実際には、中央の図のように、日本の新型コロナ致死率は全体で1.8%で、致死率の上昇は40~50代から起こりはじめ、70代でも7.2%、80代以上で17.5%となめらかなカーブを描いており、これは寿命の長い国の致死率上昇の自然なカーブだ。さらに、右図のように、新型コロナウイルスは顕微鏡写真があり、致死率は第2波で低下している。政治・行政には、このような情報は入らないのか?)

*6-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201120&ng=DGKKZO66372040Y0A111C2EE8000 (日経新聞 2020.11.20) コロナ禍に迫る2022年の壁(下) 地域医療、浮かぶ非効率 改革の重責、自治体及び腰
 団塊の世代が75歳以上になり始め、医療費が急膨張する2022年の壁を乗り越えるには、非効率な医療供給体制の改革も必要だ。新型コロナウイルス危機は地域の医療体制の権限を持つ都道府県の力量を試した。都道府県別の1人当たりの医療費は最大4割近くの差が出る。千人当たりの病床数で全国最多の高知県は1人当たりの医療費が66万5294円と2位。病床数は最少の神奈川県の3倍だ。大和総研の鈴木準執行役員は「1人当たり医療費は人口当たり病床数と関係が強く、供給が需要を作り出している」と指摘する。病床数が危機時の力を左右するとは限らない。3月、神奈川県はコロナ患者を症状ごとに重点医療機関やホテル療養で柔軟に対応する「神奈川モデル」を導入した。病床数は最少でも県主導で効率的な体制を作り、その手法は全国に広がった。日本の千人当たりの病床数は先進国で最高水準で、米英の約5倍。それでも春先の感染爆発時は小さな医療機関を中心にコロナ患者をたらい回しした。「医療供給体制に無駄があることが浮き彫りになった」(鈴木氏)。「新型コロナとの戦いで都道府県の体制整備の責任に焦点が当たっている」。自民党の財政再建推進本部の小委員会は10月末、都道府県の医療体制へのガバナンス強化を求めた。地域に応じた医療体制の構築と医療費適正化の計画作りに関し、都道府県の責任を法律で明確にする内容だ。国は都道府県に「地域医療構想」を作るよう求め、過剰な急性期病床の削減などを進め在宅医療への転換を促してきた。だが都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらう。独自策を探る動きもある。「収入増には地域別の診療報酬が活用できる」。7月、奈良県の荒井正吾知事は新型コロナによる受診控えで収入減に悩む医療機関を支援するアイデアを示した。診療報酬は全国一律が通例。高齢者医療確保法は都道府県が地域別の報酬を決めることを可能としているが、適用例はない。奈良県は医療機関の動向に影響を与えるには収入である診療報酬を使うのが効果的とみる。今夏に厚生労働省に提言したが、奈良県の医師会や厚労省は反対の方針だ。全国知事会は地域医療の混乱を理由に医療提供体制の議論をコロナ収束後に先送りしたい意向を示す。医療行政は責任を負いたくない地方自治体と、本音は権限を失いたくない厚労省の利害がもつれあう。医療制度に迫る22年の壁は高く厚い。

*6-2:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/medical/detail/detail_55.html (NHK 2020年11月17日) 【データで見る】“第3波” 第2波との違いは
 新型コロナウイルスは、東京などの大都市部だけでなく、北海道など気温が下がってきた地域などでも感染が広がるなど、11月以降、感染拡大のペースが速くなっていて、感染の“第3波”とも言われるようになっています。新規の感染者数や重症患者数は夏に拡大した感染の第2波のピークを超えました。感染の第2波と比べると、重症化するリスクが高い高齢者の割合が増える傾向が見られているほか、クラスターが多様化し、行政の対応が難しくなってきているとして、専門家は改めて基本的な感染対策を徹底するよう呼びかけています。
●【全国の新規感染者】第2波のピーク上回る
 7月初めから東京を起点に拡大した感染の第2波では、全国の新規の感染者数は8月7日に1605人、当時、1週間平均では1300人を超えピークを迎えました。一方、11月に入っての感染拡大では、10月下旬まで500人余りだった感染者が、およそ半月の間に11月14日には1736人、1週間平均でもおよそ1400人となり第2波のピークをすでに上回っています。
●【年代別割合】60代以上が第2波の2倍以上に
 また、感染者の年代別の割合についても重症化しやすいとされる60代以上の割合が、第2波より高い傾向が見られています。 たとえば、東京都では、第2波で感染者が急増した7月には
  ▽10代以下が4.6%
  ▽20代が43.1%
  ▽30代が24.0%と30代以下が70%以上を占め、
  ▽40代は12.7%
  ▽50代は7.5%
  ▽60代以上は8.2%と、高齢者は比較的少ない状態でした。
一方で、11月は16日までで
  ▽10代以下が7.7%
  ▽20代が25.3%
  ▽30代が19.8%と30代以下は半数ほどに減り、
  ▽40代は16.5%
  ▽50代は13.6%
  ▽60代以上は17.1%と、特に60代以上の占める割合が第2波の2倍以上になっています。
 大阪府でも同様の傾向で、60代以上の割合が7月には9.5%だったのに対し、11月は25.8%と高くなっています。
●【入院・療養している人】11月15日には1万2358人に
 一方で、入院や療養している人の数は、第2波では6月下旬のおよそ700人から急激に増え、8月10日には1万3724人と1か月余りで20倍近くになりました。その後、徐々に減って、10月下旬には5000人ほどになりましたが、十分減りきらない中で感染が拡大し、11月15日には1万2358人となっています。
●【重症者】第2波のピーク超える
 重症患者も同様の傾向で、第2波では、感染者のピークから2週間あまりたった8月24日に259人と最も多くなったあと、10月5日には131人まで減りましたが、十分に減らない中で感染が拡大し、11月17日、272人となり、第2波のピークを超えました。
●【死者】11月に入り10人をやや上回る日多く
 また、死者は、第2波では8月18日に16人、8月28日に20人が報告されたあと10人を下回る日が多くなっていましたが、11月に入っては10日に15人など10人をやや上回る日が多くなっています。
●専門家「クラスターが多様化 基本的な対策の継続を」
 このほか、厚生労働省の専門家会合によりますと、第2波では感染者の集団=クラスターは、大都市圏の接待を伴う飲食店や、職場での会議などが多かったのに対し、11月以降は、会食や職場に加えて、地方の歓楽街や外国人のコミュニティー、それに医療機関や福祉施設などと多様化し、地域への広がりも見られるとしています。日本感染症学会の理事長で東邦大学の舘田一博教授は「第2波の際には、感染の広がりが特定の地域に限定され、ターゲットを絞って対応できたが、第3波ではクラスターが多様化し対応が難しくなってきている。今後、医療機関や高齢者施設などを巻き込んで、さらに大きなクラスターに発展するおそれもある」と指摘しています。そのうえで、「感染が続き、疲れや緩みが出た人もいると思われるが、改めて一人一人が感染リスクを避ける行動を取る必要がある。3密を避け、マスクの着用や消毒、換気といった基本的な対策を続けてほしい」と呼びかけています。

*6-3:https://www.asahi.com/topics/word/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9.html?iref=kijiue_bnr (朝日新聞 2020年11月24日) 「助けられる命助けられなくなる」医療逼迫に専門家警鐘
 厚生労働省に助言する専門家組織は24日、北海道や首都圏、関西圏、中部圏で感染者数が顕著に増加し、入院者数の増加が続いているとして「このままの状況が続けば、通常の医療で助けられる命が助けられなくなる」と警鐘を鳴らした。分析では11月以降、新規感染者が2週間で2倍を超える伸びとなるなど過去最多の水準だとした。感染者1人が何人に感染させるかを表す実効再生産数は、大阪、京都、兵庫では2を超え、北海道、東京、愛知などで1を超える水準が続いている。入院者数や重症者数の増加が続き、予定手術や救急の受け入れ制限や、まったく異なる診療科の医師が新型コロナ患者を診療せざるを得ない事例も出てきたという。その上で、各地で通常の医療との両立が困難になり始めているとした。出席者の1人は医療体制について「2週間後3週間後の見通しが立たない。それまでにかなり悲惨な状況に状態になる」と語った。今後の対応については、政府が示している「Go To」キャンペーンの見直しや営業時間の短縮、移動の自粛要請などを速やかに実行することを求めた。政府が「Go Toトラベル」について、旅行の目的地だけを制限している点について座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は、一般論と断った上で「感染の高い所から低い所に広めないという意味では、両方を止めることが有効と考える」と述べた。既に医療提供に困難が生じている地域では、接触機会の削減など強い対策が必要とした。会合の資料によると、23日までの1週間の感染者数は全国で1万4919人で、前週から1・46倍に増えた。北海道、東京、大阪の3道都府で半数を占めたものの、すべての都道府県で感染者が確認されており、全国的な広がりが懸念される。実効再生産数は、全国では5日時点で1・30。北海道は1・24、東北は1・12、首都圏は1・27、中京圏は1・35、関西圏は1・41、九州北部は1・29、沖縄は1・04だった。感染が広がる中、検査の陽性率も上がっている。15日までの1週間でみると、全国では5・5%で前週より1・2ポイント増。北海道では17・4%に上り、兵庫県が9・9%、大阪府が9・7%、愛知県が9・4%で続いた。
●直近の感染状況の評価の要約
<感染状況>
・新規感染者数は2週間で2倍を超える伸びとなり、過去最多の水準。特に北海道や首都圏、関西圏、中部圏を中心に顕著な増加が見られる。地域によってはすでに急速に感染拡大が見られており、このままの状況が続けば医療提供体制と公衆衛生体制に重大な影響を生じるおそれがある。
・感染拡大の原因となるクラスターについては、多様化や地域への広がりがみられる。
・感染拡大の要因は、基本的な感染予防対策がしっかり行われていないことや、人の移動の増加、気温の低下による影響に加えて、人口密度が考えられる。
・予定された手術や救急の受け入れなどの制限、病床を確保するための転院、診療科の全く異なる医師が新型コロナウイルスの診療をせざるを得なくなるような事例も。病床や人員の増加も簡単には見込めない中で、各地で新型コロナの診療と通常の医療との両立が困難になり始めている。このままの状況が続けば、通常の医療で助けられる命が助けられなくなる。
【感染拡大地域の動向】
①北海道
 札幌市近郊を含め、道内全体にも感染が拡大。福祉施設や医療機関で大規模なクラスターが発生。患者の増加や院内感染の発生により、札幌市を中心に病床が窮迫。旭川市でも院内感染が発生し、入院調整が困難をきたす例が発生するなど厳しい状況となりつつある。
②首都圏
 東京都内全域に感染が拡大。感染経路不明割合も半数以上となっている。埼玉、神奈川、千葉でも同様に感染が拡大し、医療機関、福祉施設、接待を伴う飲食店などの様々な施設でクラスターが発生し、医療体制が厳しい状況。感染経路不明割合は4~5割程度と上昇傾向。茨城でも接待を伴う飲食店などでクラスターが発生し、感染者数が増加。
③関西圏
 大阪では大阪市を中心に感染が大きく拡大。医療機関や高齢者施設などでのクラスターが発生。感染経路不明割合は約6割となり、重症者数が増加し、医療体制が厳しい状況。兵庫では高齢者施設や大学などでクラスターが発生。医療体制が厳しい状況。京都でも感染が拡大。
④中部圏
 愛知県内全域に感染が拡大。感染経路不明割合は約4割。名古屋市で歓楽街を中心に感染者が増加し、保健センターの負荷が大きくなっており、医療機関での対応も厳しさが増大。静岡でも接待を伴う飲食店などでクラスターが発生し、感染が拡大。

*6-4:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/668001/ (西日本新聞 2020/11/27) 福岡「第3波」大丈夫? 検査拡充で拡大抑制 「いつ来ても」警戒
 大都市を中心に全国で新型コロナウイルス感染の「第3波」が押し寄せる中、福岡県でも感染者がじわりと増え始めている。26日の新規感染者は53人で、約3カ月ぶりに50人を超えた。ただ、連日のように過去最多を更新している東京や大阪などと比べると拡大のペースは抑制気味。県や専門家もその明確な理由は分かっておらず、「いつ次の波が来てもおかしくない」と警戒している。「今後、福岡でも感染が拡大する危険性があり得る」。福岡県がん感染症疾病対策課の佐野正課長は26日の記者会見で、第3波への危機感を口にした。県内では、第2波とされる7~8月に感染者が急増。7月31日には過去最多の169人に上った。その波が落ち着いた9月中旬以降は、10人前後で推移。全国的に感染が再拡大した11月に入って増加傾向が強まっている。ただ、26日に判明した53人も1日の感染者としてはピーク時の3割程度。全国と比較すると秋以降は抑え込めている。小川洋知事は24日の記者会見で理由を問われ、「取り組んだ対策は説明できるが、よく分からない」と首をかしげた。
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 このまま感染者を抑制することができるのか-。小川知事や県内感染者の約6割を占める福岡市の高島宗一郎市長が対策の切り札として期待するのが、検査拡充による早期発見だ。県内では、医療機関で受けられるPCR検査や抗原検査の導入を促進。PCR検査可能件数は1日最大約4200件(11月10日時点)で、8月から2倍近くに増えている。福岡市は、人口10万人当たりの累計検査数(10月20日時点)を独自に調査。政令市では同市が全国最多(4064件)で、2位は北九州市(3945件)。第3波が猛威を振るう大阪市(2365件)や札幌市(2095件)を大きく引き離しているという。福岡市は、検査対象者を国が示す「濃厚接触者」より拡大。職場や施設内で感染が疑われる場合、同じフロアなどにまで広げて検査をしている。市幹部は「無症状者を含めた早期発見が重要だ」と強調する。
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 宿泊療養施設の利用徹底による陽性者の隔離強化も鍵を握りそうだ。県は、入院が必要ない軽症や無症状者に対し、県内4カ所にある宿泊療養施設の積極活用を呼び掛けている。8月中旬には利用の手順を簡素化して陽性確認の翌日には入所できるようにした。県内の累計感染者約5600人のうち、約4割の2千人超が宿泊療養施設を利用。東京都では利用率が3割を下回っており、県幹部は「一定の成果が出ているのではないか」とみる。これまでの抑制傾向について気候や地理的な要因を指摘する声もあるが、明確な理由は不明だ。県幹部は「県民や事業者にはより注意してもらい、できるだけ増加を抑え込めれば」と話す。
●「油断せず予防を」
 九州大の柳雄介教授(ウイルス学)は、福岡県内の感染者数が比較的抑えられていることについて「福岡県民だけが特に予防策の実施を徹底しているというわけでもないと思うので、運が良かったのだろう」と指摘。「福岡に他の地域からやって来る人の中にたまたま感染者が少なかったなど偶然が重なった結果では」と話す。流行の波は全国一律ではなく地域差があるのは当然だとした上で、「福岡もいつ増えてもおかしくない。感染者が多い地域への移動は慎重になるなど、油断することなく感染予防を続けてほしい」と呼び掛けた。

*6-5:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/607425/ (西日本新聞 2020/5/11) アビガン投与「福岡県方式」構築 47機関、医師判断で早期対応可能に
 福岡県医師会は11日、新型コロナウイルス感染症への効果が期待される新型インフルエンザ治療薬「アビガン」を、主治医が重症化の恐れがあるなどと判断した場合、軽症でも早期投与できる独自の体制を整えたと発表した。県内47の医療機関が参加を表明しており、県医師会は「『福岡県方式』の構築で新たに投与できる患者はかなり多く、影響は大きい」としている。アビガン投与には、藤田医科大(愛知)などの観察研究への参加が必要。県医師会が一括して必要な手続きを行ったことで、これまで未参加だった27機関が加わり、計47機関で投与できるようになった。今後も増える見通し。主に重症や中等症の患者に投与されていたが、「主治医等が重症化の可能性を憂慮する患者」を対象に明記したことで、主治医が必要と判断すれば軽症でも早期投与が可能としている。投与には入院が必要という。ただ、アビガンは動物実験で胎児に奇形が出る恐れが指摘され、妊婦や妊娠の可能性がある人などには使えない。肝機能障害などの副作用も報告されており、患者への十分な説明と同意が必要となる。新型コロナ感染症の治療薬としては、厚生労働省が7日、米製薬会社が開発した「レムデシビル」を国内で初承認。安倍晋三首相はアビガンについても今月中に承認する意向を示している。

*6-6:https://www.travelvoice.jp/20201201-147643 (トラベルボイス 2020年12月1日) 東京発着のGoToトラベル、65歳以上の高齢者と基礎疾患ある人を対象に自粛呼びかけ、12月17日まで
 菅首相と小池都知事は、2020年12月1日に緊急会談を行い、「GoTo トラベル事業」について、重症化リスクの高い65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人を対象に、東京を発着する旅行での利用自粛を呼びかけることで一致しした。小池都知事は「重症化をいかに抑えていくのか。重症化しやすい高齢者の感染をどのように防いでいくのか。ここに今回ポイントを当てていく」と話し、今回の取り組みの目的を説明した。自粛の要請は、キャンセル対応など国の判断によって始め、都内飲食店への営業時間短縮の要請期間に合わせて、12月17日まで継続する予定。また、小池都知事は、キャンセルの手続きや対象となる出発日について、「詳細は国の方から出てくるだろう」としている。

*6-7:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112900191&g=pol (時事 2020年11月29日) 与党、GoTo見直し擁護 立憲は特措法改正案提出へ―新型コロナ
 与野党幹部は29日のNHK番組で、政府の新型コロナウイルス対策について論戦を交わした。与党は需要喚起策「Go To」キャンペーンの運用見直しが続いていることについて、政府による試行錯誤の一環だと擁護。立憲民主党は政策の基本が定まらないのが迷走の原因だとして、新型コロナ対策に関する特別措置法改正案を今国会に提出する方針を明らかにした。自民党の野田聖子幹事長代行は「Go To」に関する政府方針について「ころころ変わるのは事実」と認めながらも、「新型コロナは原因不明で特効薬がない。臨機応変に対応しなければならない」と主張。公明党の石井啓一幹事長も「ある程度の試行錯誤はやむを得ない」と語った。日本維新の会の馬場伸幸幹事長も「致し方ない」と同調した。これに対し、立憲民主党の福山哲郎幹事長は「朝令暮改で混乱が広がっている。原理原則を再構築しないと感染は広がる一方だ」と指摘。12月5日の今国会会期末までに特措法改正案を国会に提出すると説明した。改正案は緊急事態宣言を出す権限と財政的な裏付けを知事に与えるのが柱で、他の野党にも協力を呼び掛ける。共産党の小池晃書記局長は「菅義偉首相は記者会見もせず、国民の不安は深まるばかりだ。菅政権による人災と言われても仕方がない」と政府を批判。国民民主党の榛葉賀津也幹事長は「政府の政策は小出しで後手」と断じた。

*6-8:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201202&ng=DGKKZO66879970R01C20A2MM8000 (日経新聞 2020.12.2) 五輪、外国人客を大規模に 感染対策 アプリ活用、政府検討 移動の自由を重視
 政府は来夏の東京五輪・パラリンピックで新型コロナウイルス対策をとりながら大規模な外国人客を受け入れる。ワクチン接種は入国時の条件にはせず、交通機関の利用にも制限をかけない。ビザ(査証)と入場チケット、移動情報の記録を連携させるスマートフォン向けのアプリの導入を促す。移動の自由と感染対策の両立を目指す。チケットは国内で約445万枚、海外で100万枚近く販売した。複数会場を訪ねる人が多く、新型コロナ次第でキャンセルもあるため外国客数は見通せない。政府は各国の感染状況を見極めるため、各会場の観客数や受け入れ体制の決定は来春に持ち越す。大原則はコロナ禍でも安全を確保しながら移動の自由を保障する大会運営だ。外国客のワクチン接種は出身国の判断に委ねる。日本側にウイルスの陰性証明書を提出して専用アプリを利用すれば入国後2週間の待機は不要で、制限なく行動できるようにする。外国客には日本政府が運用する接触確認アプリ(総合2面きょうのことば)「COCOA(ココア)」と、感染者でないことの証明やビザなどの情報を管理するアプリを組み合わせて使ってもらうよう求める。一体的に利用することで、感染者との接触の有無を確認しながら、各地で「感染者ではない」との証明もできる。訪問した場所の履歴は本人の意思で各自の端末内に残す。全地球測位システム(GPS)で政府が位置情報を追跡するような手法はとらない。感染者と接触した可能性があれば通知が来る。通知を受ければ滞在中や帰国後に保健所や医療機関に自ら赴く。プライバシー保護と移動の自由を保障しながら感染判明時に本人が迅速に対応するやり方になる。外国客は専用のIDをつくり、ビザやチケット番号、顔写真、陰性証明書のデータをアプリに登録する。ビザや観戦チケットと連動させることで接触確認の機能の利用につなげる。入国審査や検疫、税関手続きで、アプリ内の陰性証明書やチケット情報を確認する。五輪会場でも提示を求める。ホテルや飲食店でQRコードを読み取り、自ら来店記録を保存する方法も検討する。アプリに体調を記録し、発熱時は多言語対応の相談窓口に簡単に連絡できる体制を目指す。東京五輪はコロナ禍で開く初の世界的大イベントになる可能性が高い。人権と安全を両立して大規模な往来を実現すれば国際的なモデルになる。五輪後も外国客向けに活用する案も出ている。

<ロボット・IoT・オンラインでさえあれば“先進的”なわけではないこと>
PS(2020年11月23日追加):*7-1に、「①オンライン診療は、かかりつけ医を対象として安全性と信頼性をベースに初診も含めて恒久的に進める」「②医療機関へのアクセス向上という視点で捉えられがちなオンライン診療が本格的な普及段階に入れば、医師資格のあり方にもかかわってくる」「③医師会はかかりつけ医の普及には熱心だが、患者と対面して五感を研ぎ澄ませて診察する方が見落としのリスクが小さいとする」「④デジタル専門教育を受けた医師なら初診からのオンライン診療を認めるとの考え方も成り立つ」等が書かれている。
 このうち、①については、病気を悪化させずに治せるか否かは、初診とそれに伴う治療方針の正確さによって決まるため、かかりつけ医でも安全性を妄信するのは危険で、深刻な病気であれば、Second Opinion をとる必要がある場合もある。そのため、初診で検査の行き届いた大病院にかかりにくくするのは問題であるとともに、初診でもオンライン診療でよいとするのはやりすぎだ。そのため、私は、③の医師会の意見に賛成で、その理由は、病院に行く時は女性も化粧をせず素顔を見せなければ本当の病状はわからないのに、検査もせず、身体の一部しか映さない画像だけで病名を当てようとすれば、外れるリスクが高くなるからである。これについて、②④のように、「医師がデジタル専門教育を受けておらず、オンラインを使えないからオンライン診療を認めないのだ」などと言うのは、事実を曲げており、失礼も甚だしい。
 さらに、*7-2のように、川崎重工業とシスメックスが共同出資して設立したメディカロイドが、2013年に「hinotori」という手術支援ロボットを開発したそうだが、非常に簡単な手術ならともかく(それなら人がやっても簡単だ)、途中で何が起こるかわからない手術をロボットの方が人より適切に行うことができると考えるのは甘い。何故なら、ロボットが得意とするのは、同じことを繰り返して正確・迅速に行うことで、血管・神経・病変の位置などが異なる人間にメスを入れて、非常時の対応まですることはできないからだ。料理に例えれば、自動でよい焼き加減で魚を焼いたり、てんぷら油の温度を一定に保ったりすることは器械ができるが、それを使って調理師が離れた場所から調理すれば、吹きこぼれて火が消えガスが漏れたり、火事になったりした時に、素早く気付いて迅速に対応することができず大変なことになる。しかし、調理師がそばにいれば視覚だけでなく五感で感じて適切な対応をとることができるため、ロボットは、人の傍で忠実に働き、正確な仕事を素早く行う相棒の位置づけにするのがよいと思う。なお、手術支援ロボットなら、「hinotori」より「Jack」か「Pinoko」という名前の方がよくないか?

 
                手術ロボットhinotori 

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201121&ng=DGKKZO66521430R21C20A1EA1000 (日経新聞 2020.11.21) 初診「かかりつけ医」に限定、オンライン診療、恒久化の議論迷走 英には似て非なる「家庭医」
 菅義偉首相が指示したオンライン診療解禁の恒久化をめぐり、政府内の議論が迷走気味だ。医療機関へのアクセス向上という視点で捉えられがちなオンライン診療だが、本格的な普及段階に入れば医師資格のあり方にもかかわってくる可能性がある。キーワードは「かかりつけ医」と似て非なる「家庭医」である。かかりつけ医が政策の焦点に浮上した。10月30日の田村憲久厚生労働相の記者会見が契機だ。「オンライン診療は安全性と信頼性をベースに初診も含めて進める。首相から恒久化という言葉ももらっている。普段かかっているかかりつけ医を対象に初診も解禁というか、恒久化すると3者で合意した」。3者は、河野太郎規制改革相、平井卓也デジタル改革相を含めた3閣僚を指す。オンライン診療は安倍政権時の4月、規制改革推進会議(首相の諮問機関)がコロナ禍を受けて特命タスクフォースを新設し、収束までの特例として全面解禁した。感染リスク対策の意味合いが強かったが、首相の恒久化指示で政府の動きが慌ただしくなった。
●対面原則譲らず
 日本医師会を中心に医療界には全面解禁への慎重論が強い。医師会はかねて、かかりつけ医の普及に熱心だ。意を受けた厚労省は、タレントのデーモン閣下が「気軽に相談できるかかりつけ医をもちましょう」と勧める広告動画をつくり、東京メトロの車内モニターなどで流している。問題はかかりつけ医の定義だ。医師会のウェブサイトには「何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要なときに専門医や専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的能力を有する医師」とある。こんな名医が自宅や勤め先の近くにいて平時から健康管理を任せられれば、誰だって心強い。日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が9月にまとめた意識調査によると、かかりつけ医がいる人は55%。年齢別では70代以上の83%に対し、20代は22%だ。普段あまり医者の世話にならない若年層が低いのは当然だが、20代の31%が「いるとよいと思う」と答えた。この割合は前回調査より高い。日医総研はコロナの影響があるのではと推測する。英国にはGP(ジェネラル・プラクティショナー)と呼ばれる資格がある。日本語なら「家庭医」といったニュアンスだ。すべての人が自宅近くの診療所に勤務する家庭医を1人登録し、初期診療はその家庭医に診てもらうのを原則とする。同国の国民医療制度(NHS)の家庭医になるには医学部卒業後に基礎研修を受け、最短3年の専門研修が義務づけられている。指導医から一定の評価が得られれば一人前として登録される。いくつもの診療科の治療をこなし、手に負えない患者は素早く病院の専門医につなぐのが使命だ。日本医師会は「患者と対面して五感を研ぎ澄ませて診察する方が見落としなどのリスクを小さくできる」などを根拠に、とくに初診時の対面原則を崩そうとしない。むろん対面診療の重要性に異論はない。病状や患者が置かれた環境で対面でなければならない場面はある。一方、デジタル技術の飛躍的な革新で対面を上回る効果を発揮するオンライン診療が可能になるケースも出よう。
●医学教育に一石
 医師会関係者は「日本の医学教育はオンライン診療を想定しておらず、医学生は対面診療が基本と教わる。オンライン診療がなし崩しに広がれば医療の質が下がる心配が強い」とも話す。裏を返せば、医学教育にもデジタル化が前提の改革が必要になるのではないか。デジタル専門教育を受けた医師なら初診からのオンライン診療を認めるとの考え方も成り立つ。かかりつけ医の範囲が曖昧なままオンライン初診を認める厚労相の方針は果たして機能するのか。仮に英国のような家庭医資格の創設を俎上(そじょう)に載せるなら、それはそれで意義深い改革になるかもしれない。

*7-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/91075fd9f35372b0e126f049ba9423c7acb755d7 (Yahoo 2020/10/27抜粋) 国産手術支援ロボット「hinotori」がIoTプラットフォームと連携、AI解析が可能に
●国産で初めて製造販売承認を得た手術支援ロボット「hinotori」
 hinotoriは、2013年に川崎重工業とシスメックスが共同出資して設立したメディカロイドが開発した手術支援ロボットである。オペレーションユニット、サージョンコックピット、ビジョンユニットの3ユニットで構成される。手術を実施するオペレーションユニットのアームは、ヒトの腕に近いコンパクトな設計で、アーム同士やアームと助手の医師との干渉を低減し、より円滑な手術が可能となることが期待されている。サージョンコックピットは、執刀医の姿勢に合わせることが可能なように人間工学的な手法で設計されており、執刀医の負担を軽減し、ストレスフリーな手術を支援する。ビジョンユニットは、サージョンコックピットに高精細な内視鏡画像を3Dで映し出すとともに、執刀医と助手の医師との円滑なコミュニケーションをサポートする。2015年度から“人とロボットの共存”をコンセプトに開発が進められてきたhinotoriは、2020年8月7日に国産の手術支援ロボットとして初めて製造販売承認を取得しており、同年9月からは保険適用となった。まずは、日本市場で泌尿器科を対象に早期の市場導入を目指しているところだ。

<農業の可能性と将来性>
PS(2020年11月28日、12月5日追加):*8-1のように、2020年2月1日現在の基幹的農業従事者は136万1,000人と5年前の前回調査から39万6,000人(22.5%)減少し、1経営体当たりの平均耕地面積は北海道30.6ha・都府県2.2haと拡大し、北海道は100ha・都府県も10ha以上の経営体が増えたそうだ。また、個人経営体は103万7,000と前回から30万3,000(22.6%)減ったが、団体経営体は3万8,000と1,000(2.6%)増え、特に会社形態の法人の増加が貢献したそうで、これは、農業の高齢化を解決しつつ、大規模化・スマート化して米豪の農産品にも対抗できる農業を作ろうと意図して、(私が衆議院議員時代に)アドバイスした結果だ。
 しかし、農水省のスマート農業実証プロジェクトでは、*8-2のように、「スマート農機の導入で労働時間は短縮されたが、農機導入費で利益が減った」ということもあったそうで、これは、ロボットトラクターを10aというような小規模な水田や分散した水田で使うと費用対効果が合わないが、耕作地を大規模・大区画にすればコスト低減するということだ(規模の利益)。そのため、個人がパートナーシップ(弁護士事務所方式)を組んだり、複数の個人が土地を現物出資して会社を作ったりして、土地を整理し区画を大きくして大型の農機を導入し、農機を減価償却したり、割増償却制度を導入してもらったりすれば、生産性を上げることが可能なのである。
 また、*8-3のように、日本政府も化石燃料への依存度を下げる取り組みを本格化させ始めたので、速やかに農機具を電動化し、太陽光発電・風力発電・小水力発電等で電力を作れば、温室効果ガス削減に貢献しつつ、エネルギー代金を節約したり、副業としてエネルギー代金で稼いだりすることができる。また、園芸施設の加温における省エネにも、ヒートポンプや*8-4の地中熱を使う方法があるが、高すぎない価格で機材の供給が行われることが必要だ。
 なお、数羽の鶏に鳥インフルエンザが発生したという理由で、*8-5のように、「香川県、福岡県、兵庫県、宮崎県の養鶏場でウイルスを封じ込めるため、何万羽、何十万羽もの鶏を殺処分する」というヒステリックなニュースが多くなった。そして、鶏の殺処分や埋却には、県職員325人・JAグループ職員76人が参加して鶏糞の搬出や鶏舎・農場周辺の清掃・消毒などを含めた防疫作業をするそうだが、殺処分による損害や本来は不要だった筈の辛い労働を繰り返すのはもうやめたい。そのためには、野鳥から隔離できるように鶏舎を密閉し、鶏舎内はウイルスを除去できる空調を行い、それぞれの鶏が免疫力を高めたり、ウイルスや細菌を紫外線で殺菌したりできるような鶏舎にした方が結局は安上がりだ。そのためには、空調に地中熱と太陽光由来の電力を利用し、鶏が太陽光を浴びることができるよう必要な場所に光ファイバーで太陽光を導き、使用するエネルギーを極限まで節約しながら、健康な鶏を育てるのがよいと思う。これは、豚熱でも同じで、畜産は装置産業にすることで、かなりの省力化と生産性向上が可能だ。

  
地中熱とヒートポンプを利用した冷暖房        ヒートポンプの仕組み

  

(図の説明:上の段は、地中熱とヒートポンプの仕組みだ。太陽光を室内《鶏舎内》に導く方法が下の段の左図で、「ひまわり」システムで太陽光を集めて光ファイバーケーブルで室内の必要な場所に導き、端末照明器具を通して部屋に照射する。光ファイバーケーブルは、中央の図のように、光を必要な場所に導くことができるので、右図のように、部屋なら照明器具のように使うこともできるが、鶏舎なら個々のケージに太陽光を導いた方がよいだろう。そして、これは、マンションやビルの太陽光が入らない部屋に太陽光を導きたい場合にも使えるのである)

*8-1:https://www.agrinews.co.jp/p52529.html (日本農業新聞 2020年11月28日) 農業従事者40万人減の136万人 減少率、過去最大 20年農林業センサス
 農水省は27日、2020年農林業センサス(2月1日現在)の調査結果を発表した。主な仕事が農業の「基幹的農業従事者」は136万1000人と、5年前の前回調査から39万6000人(22・5%)減った。減少率は、比較可能な05年以降で最大。高齢化が大きく響いた。一方、1経営体当たりの耕地面積は初めて3ヘクタールを超え、経営規模の拡大が進んだ。基幹的農業従事者は一貫して減り続けており、減少ペースも加速している。同省は、この要因の一つに高齢化を挙げる。20年の基幹的農業従事者の平均年齢は67・8歳。65歳以上の割合は4・9ポイント増の69・8%に達した。「70歳を超えると、離農するか、統計対象とならない規模に経営を縮小する傾向にある」(センサス統計室)という。全国の農業経営体数は107万6000で、前回より30万2000(21・9%)減った。前回の5年間の減少率(18%)と比べ、やはり減少のペースが加速している。農業経営体のうち、家族で営む個人経営体の数は103万7000で、前回から30万3000(22・6%)減った。一方、家族以外の「団体経営体」は3万8000と、1000(2・6%)増えた。このうち、任意組織の集落営農などを除いた法人経営体は3万1000で4000(13%)増加。会社形態の法人の増加が貢献した。担い手の減少に伴い、経営規模が拡大する傾向は鮮明となった。全国の1経営体当たりの耕地面積は3・1ヘクタールで、前回の2・5ヘクタールから21・5%増えた。北海道が30・6ヘクタール、都府県が2・2ヘクタールで、それぞれ初めて30ヘクタール、2ヘクタールを超えた。耕地面積が10ヘクタール以上の割合も増えて全国で55・7%となり、初めて過半に達した。耕地面積別に経営体の増減率を見ると、北海道は100ヘクタール以上の経営体が増加。都府県も10ヘクタール以上の経営体が増えた。いずれも、それを下回る面積の経営は減った。同省は「農業経営体の減少が続く中で、法人化や規模拡大が進展している」(同)と分析する。農林業センサスは、全ての農業経営体を対象に5年に1度行う農業版の国勢調査。今回は精査が済んだ統計の概数値を公表した。農地関係などの統計を含めて、確定値は来年3月以降に公表する。

*8-2:https://www.agrinews.co.jp/p52499.html (日本農業新聞論説 2020年11月25日) スマート農業 経営効果見極め導入を
 農水省は、スマート農業実証プロジェクトの水田作の成果について中間報告をした。スマート農機の導入で労働時間は短縮されたが、機械の費用がかさんで利益が減る結果となった。農業現場ではスマート農業への期待が大きいが、万能ではない。地域や経営ごとに導入の効果を見極める必要がある。
プロジェクトは、先端技術を生産現場に導入し、生産期間を通じた効果を明らかにするのが狙いだ。2年間行う。2019年度に全国69地区で始め、現在148地区で実証中だ。中間報告では、水田作での初年度の結果を分析。①平場の大規模②中山間③輸出用の超低コスト──それぞれの代表的な1事例について、労働時間や経営収支を慣行区と比較した。実証区の水田作では、耕耘(こううん)に2台同時作業ができるロボットトラクター、移植に直進キープ田植え機、防除に農薬散布ドローン(小型無人飛行機)を導入する例が多い。自動水管理システムやリモコン式草刈り機、自動運転コンバインなども組み合わせて採用した。その結果、大規模水田作では、慣行区と比べて労働時間は10アール当たり1・9時間減り、人件費を同13%削減できた。一方、スマート農機を追加投資したことで機械・施設費は同261%増加し、利益は同90%(約2万8000円)減った。人件費は減るものの、機械・施設費が増え、利益が減少する傾向は、中山間と輸出でも同じだった。必要なのは効果の見極めだ。ドローンを使った農薬散布は10アール当たりの労働時間を平均81%削減できた。動力噴霧器を使った防除より省力化でき、散布の際にホースを引いて歩く必要がないなど軽労化も期待できる。自動水管理システムも見回りの距離や回数を減らせて、労働時間が平均87%減と効果が高い。一方、効果は地域や経営内容で異なる。2台で耕すロボットトラクターは効率の面で大区画水田での作業に向く。ドローンはバッテリーを使うため作業できる時間が短く、手作業で散布するような小規模な水田に向くとの指摘もある。のり面が広い水田にはリモコン式草刈り機が、水田が分散する経営には水管理システムが力を発揮する。経営面積や課題に応じたスマート農機の採用や組み合わせが重要になる。同省は、経営面での見通しが立つよう適正な面積まで見極めた経営モデルを作成する。経営で負担となる初期投資を抑えるため、農機を共同利用するなどの支援・活用策も検討する。作業の省力化で労働時間が減っても収支が悪化してはスマート農業の普及は望めない。中間報告後も同省は、品質・収量などのデータを含め、経営への効果を分析する。併せて重要なのは、生産現場への情報提供である。経営課題に対しどんな技術・機械を採用したら最も費用対効果が大きいか、判断に役立つ情報を整備してもらいたい。

*8-3:https://www.agrinews.co.jp/p52479.html (日本農業新聞論説 2020年11月23日) 温室効果ガス削減 農業も脱炭素化めざせ
 政府が、化石燃料への依存度を下げる取り組みをようやく本格化させる。温室効果ガスの農業からの排出量は国全体から見れば数パーセント。しかし農業には排出量を減らす潜在能力がある。地球温暖化の影響をまともに受ける産業でもある。農家ら農業関係者も、温室効果ガスの排出削減に正面から向き合うべきだ。地球温暖化対策には世界各国が本腰を入れている。欧州連合(EU)諸国は石炭火力発電を中止にする方針を示した。世界最大の温室効果ガス排出国の中国も、太陽光発電への転換を進めている。排出量2位の米国はトランプ大統領が地球の温暖化自体を否定し、温暖化対策の国際的な枠組みを定めたパリ協定から離脱した。しかし、次期大統領に当選確実となったバイデン氏は、温暖化対策を強化する方針を表明している。日本はどうか。スペインで昨年12月に開かれた気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)では、化石燃料からの離脱に消極的だとして環境団体から2度にわたり「化石賞」を贈られた。小泉進次郎環境相らが石炭火力発電からの脱却を明言しなかったことで、日本の姿勢が世界から問われた形だ。それがここに来て、菅義偉首相が初の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と述べ、「脱炭素社会」の方向を明確にした。政府は、地球温暖化対策を新たな成長戦略と位置付けた。産業構造を変え、経済と環境の好循環を生み出す考えだ。農業は自然と共存しているイメージを持たれているが、実際は化石燃料を使って農機を動かし、園芸施設を加温する。牛のげっぷや水田からは温室効果ガスが空気中に出ている。温暖化は農業への影響が大きいだけに、温室効果ガスの削減に農業関係者は率先して取り組む必要がある。水田から発生するメタンガスの削減技術や、牛の胃からの発酵ガスを減らすための微生物の研究などは進んでいるが、農業関係者は、農村ならではの資源を利用した温室効果ガス削減策にも注目すべきだ。小水力発電や太陽光発電、バイオ燃料など、化石燃料に頼らなくても、エネルギーを生産できる可能性が農村には潜んでいる。食の地産地消だけでなく、エネルギーの地産地消を目指したい。地域でクリーンなエネルギーを自給しているとなれば、生産される農産物のイメージアップにもつながる。地産地消の発電体制が整っていれば、災害時の停電にも対応できる。自動車では、ハイブリッド、さらには電気自動車、水素電池車へと開発が進んでいる。農業用トラクターの電化にはまだ時間がかかるとしても、刈り払い機などの農機具では電動機種がそろってきた。園芸施設の加温にも、燃油の代わりにヒートポンプを使う方法がある。温室効果ガス削減に向け、農村ならではのエネルギーの生産と消費の方策へと転換していきたい。

*8-4:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/index.html (資源エネルギー庁 抜粋) 再生可能エネルギーとは
●地中熱利用
○日本中いたる所で利用可能
 地中熱とは、浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギーです。大気の温度に対して、地中の温度は地下10~15mの深さになると、年間を通して温度の変化が見られなくなります。そのため、夏場は外気温度よりも地中温度が低く、冬場は外気温度よりも地中温度が高いことから、この温度差を利用して効率的な冷暖房等を行います。
○特長
 1.空気熱源ヒートポンプ(エアコン)が利用できない外気温-15℃以下の環境でも利用可能
 2.放熱用室外機がなく、稼働時騒音が非常に小さい
 3.地中熱交換器は密閉式なので、環境汚染の心配がない
 4.冷暖房に熱を屋外に放出しないため、ヒートアイランド現象の元になりにくい
○課題
 設備導入(削井費用等)に係る初期コストが高く設備費用の回収期間が長い。
○地中熱利用冷暖房・給湯システム
                          (出典:地中熱利用促進協会HP)

*8-5:https://www.agrinews.co.jp/p52568.html (日本農業新聞 2020年12月2日) 肉用鶏最大産地 宮崎で鳥インフル 新たな感染疑い例も
 肉用鶏(ブロイラー)最大産地の宮崎県の養鶏場で1日、鳥インフルエンザの疑似患畜が確認された。県は日向市にある発生農場で午前4時30分から殺処分などの防疫措置を開始。ウイルスの封じ込めへ全力を挙げる。香川、福岡、兵庫に続く4県目の発生。また、宮崎県では同日、都農町の養鶏場から、香川県でも三豊市の養鶏場から簡易検査陽性の鶏が見つかったことが分かった。
●隣県 警戒強める
 今季11例目となった農場では、30日午後に死んだ鶏が増えたことを確認し、家畜保健衛生所に通報。鳥インフルエンザの簡易検査で陽性を確認した。1日午前3時には、遺伝子検査でH5亜型を確認し疑似患畜となった。発生農場は肉用鶏約4万羽を飼育。農場から3キロ圏内の移動制限区域に養鶏場はなく、3~10キロ圏内の搬出制限区域には16戸、約55万3000羽が飼育されている。宮崎県は1日、対策本部会議や緊急防疫会議で、防疫方針や当面の防疫措置をJAや関係団体・企業に示した。鶏の殺処分や埋却など初動防疫に県職員325人、JAグループ職員76人が参加。2日中に鶏ふんの搬出、発生鶏舎や農場周辺の清掃・消毒などを含めた防疫作業を終える計画だ。日向市内の採卵鶏農家(58)は香川、福岡、兵庫県での発生を踏まえ、「こっちにこないでくれという気持ちが本音だった」とつぶやく。1日早朝から鶏舎を見回り、防鳥ネットに破れがないかなどを入念に確認。今後は石灰散布や消毒なども進める。「飼育羽数も多く、心配だ」と発生農家を気遣う。県養鶏協会も「鳥インフルが落ち着く3、4月まで長く警戒が必要になるだろう」と覚悟する。隣県の鹿児島も警戒を強めた。出水市では11月以降、野鳥のふんなどからウイルスの検出が相次いでいる。JAグループ鹿児島は1日、緊急対策会議を開いた。JA鹿児島県経済連は系統農場に消石灰を配り、早急に散布するよう要請。鹿児島くみあいチキンフーズも防疫態勢レベルを引き上げた。農場や関連工場などへの来訪者の禁止、農場内を2日に1回消毒するなど防疫を強化する。流通業界にも緊張が走った。「香川で発生が広がった例もあり、主産地の宮崎県での発生に危機感は強い」(東日本の鶏肉流通業者)という。新型コロナウイルス禍による内食需要の高まりなどで、鶏肉相場は6月以降、前年を1割ほど上回って推移。在庫も少なく、国産は不足感があるまま12月の最需要期を迎えている。「今は静観しているが、感染が拡大すれば相場にも影響が出る」(同)とみる。

<漁業の衰退>
PS(2020年12月7、11日追加):*9-1のように、日経新聞は社説で、「①養殖を含めた2019年の日本の漁業生産量は416万トンと統計開始以降最低を記録し、1984年ピーク時の3分の1に落ちた」「②低迷の背景には取り過ぎや気候変動等の様々な要因があるが、放置すれば衰退がさらに速まる恐れがあった」「③漁業競争力の向上を目指す改正漁業法が施行された」「④柱の一つは水産資源の科学的調査強化で漁獲可能量(TAC)制度の本格導入」「⑤水産資源の科学的管理を可能にする今回の漁業法改正を、漁業を成長軌道に乗せるきっかけにしてほしい」「⑥これまで地元の漁業協同組合や漁業者に優先的に割り当ててきた漁業権を適切に管理されていない漁場は企業が新規参入できるようにした」「⑦漁業法改正は、競争の促進を通して漁業を活性化するのに必要」「⑧漁業関係者から制度への不安の声も出ており、資源管理強化は一時的に収入の減少を招く」「⑨多くの漁業関係者が撤退して水産業の苦境を深めることのないよう、政府にはきめ細かい対応を求めたい」などと記載している。
 このうち①②については、私が衆議院議員の時に予算委員会分科会で質問したが、政府は「取り過ぎだから資源管理する」以外の解決策は言わなかった。しかし、実際には、「i)海水汚濁で魚の生息環境が悪化した」「ii)海水温上昇で魚の生息適地が変化した」「iii)燃油代が高くて漁業の費用・収益が見合わない」などの原因が当時からあった。それに加え、「iv)*9-4のフクイチ原発事故とその汚染水で好漁場を失った」「v)*9-2の尖閣諸島沖への中国公船の領海侵入で沖縄県の漁船が危険に晒されて好漁場を失ったが、*9-3のように、日本政府は領有権を主張する中国に対し、領海侵犯を許したまま間の抜けたことを言っているのみ」という問題が加わり、i )~v)まで、日本の漁業者の取り過ぎより、日本政府の原因究明と解決能力のなさが原因である。なお、i)については、私の衆議院議員時代に漁村優先の下水道緊急整備が始まり、海水汚濁が改善されて魚影は濃くなった筈だ。
 従って、原因追及して解決したわけではないため、④はしないよりましかもしれないが、これにより③の漁業競争力向上、⑤の漁業の成長が可能だとは思わない。それよりも、⑥は個人漁業者を犠牲にして企業に漁業権を割り当て、⑦は競争を促進して企業を勝たせる政策であるため、沿岸を守ったり沿岸漁業や沖合漁業を活性化したりすることはさらにできなくなる。そのため、⑧⑨の漁業関係者の不安は当然で、漁業者の減少を招いて水産業の生産高が減少し、ますます食料自給率が下がると思われ、きめ細かい(≒恣意的で小さい)対応などは有害無益だ。
 *9-5に、化石燃料を使わない“グリーン水素”の量産プロジェクトがオーストラリアで動き出したと記載されており、まさか日本がこれを輸入することはないだろうが(皮肉)、日本は再エネが豊富であるため、輸入どころか輸出すべきだ。また、言葉の定義もおかしく、①農林業地域の再エネを使って水を電気分解して作る水素を「グリーン水素」と呼ぶのが正しく、②石炭や天然ガスなどの化石燃料から取り出す水素は「グレー」ではなく「レッド」、③化石燃料由来で製造時に出る温暖化ガスを地中に戻したり工業原料などに再利用したりするのが「イエロー」、④海の再エネを使って水を電気分解して作る水素を「ブルー」と呼ぶべきで、海を温める原発由来の水素こそ「グレー」だ。なお、製造コストは、グリーンやブルーの水素が高いわけはなく、低コストなのは燃料も運搬費もいらない①と④に決まっている。

  
    Fukuoka Leapup    2020.5.10沖縄タイムス    2020.8.9Goo

(図の説明:左図のように、日本の漁獲高は《養殖を含み》2018年は442万t、2019年は416万tと漸減して1984年の1/3以下となっており、これで漁業者の取りすぎはないだろう。しかし、日本政府は、原発事故とその汚染水で三陸沖の好漁場を台無しにし(これを風評被害と強弁すれば日本食品の安全に関する信用をなくす)、中央と右図の尖閣諸島の領有権や排他的経済水域の主張はいい加減にしか行わず、漁船の改良や燃料の変換も指揮せず、水環境の改善も行わず、漁獲高の減少原因をすべて漁民の取りすぎのせいにしているので、とうてい許せるものではない)

    

(図の説明:1番左は養殖場に設置された風リング風車の風力発電機、左から2番目は洋上風力発電機で、これら由来の水素は「ブルー水素」だろう。右の2つは、尾根や田園に設置された風力発電機で、これら由来の水素が「グリーン水素」と呼ぶにふさわしい。なお、田畑をつぶし太陽光発電を設置して作った水素は、「ブラック水素」だ)

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201206&ng=DGKKZO67021930U0A201C2EA1000 (日経新聞社説 2020.12.6) 新漁業法で水産業を成長させよう
 漁業の競争力の向上を目指す改正漁業法が施行された。水産資源の科学的な管理を可能にする今回の改正を、漁業の衰退に歯止めをかけ、成長軌道に乗せるためのきっかけにしてほしい。養殖を含めた2019年の日本の漁業生産量は416万トンと、統計開始以降の最低を記録した。ピークの1984年の3分の1の水準に落ち込んでいる。低迷の背景には取り過ぎや気候変動など様々な要因があるが、放置すれば衰退がさらに速まる恐れがあった。政府が70年ぶりの抜本見直しと位置づける新漁業法は、こうした流れにブレーキをかけるのを目的にしている。柱の一つは魚を増やし、漁獲量を高めるうえで前提となる水産資源の科学的な調査の強化だ。生態系や資源量などを魚種ごとにきめ細かく調べる。その対象を現在の50魚種から200魚種に増やすことで、食卓に上る大半の魚をカバーすることを目指す。これらの調査も踏まえながら、魚を取る量に制限を設ける「漁獲可能量(TAC)制度」を本格導入する。今はサバやマイワシなど国民の生活にとくに重要な8魚種に対象が限られているが、今後はホッケやブリなど15種ほどを追加する。取り過ぎで資源が減るのを防ぐには当然の措置だ。沿岸域で漁業を営む権利の「漁業権」のルールも見直した。これまでは地元の漁業協同組合や漁業者に優先的に割り当ててきた。今後はこれを改め、適切に管理されていない漁場などは企業が新規参入できるようにした。競争の促進を通し、漁業を活性化するには必要な制度改正だろう。漁業関係者からは制度への不安の声も出ている。資源管理の強化は一時的に収入の減少を招く可能性があるからだ。制度の運用が軌道に乗るまでの間に多くの漁業関係者が撤退して水産業の苦境を深めることのないよう、政府にはきめ細かい対応を求めたい。国内では年々深刻になる水揚げ量の減少など厳しい話ばかりが伝えられているが、国際的には水産業は成長産業に位置づけられる。人口の増加や健康志向で魚の消費が増えているからだ。日本の漁業者の多くが資源管理に理解を示す一方、「早く取った者勝ち」の体質から抜けきらない面も残る。改革を機にそうした発想を改め、世界での存在感を高めることを期待したい。

*9-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/628822 (沖縄タイムス 2020年9月8日) 尖閣沖衝突10年、沖縄漁船の苦悩「水揚げ半減」 やまぬ中国船侵入 トラブル避け漁やめる人も
 尖閣諸島沖で中国漁船が第11管区海上保安本部の巡視船に衝突した事件から、7日で10年。この間、尖閣諸島の領有権主張を強める中国公船の領海侵入はやまず、近年は沖縄県内の漁船を追尾する事案も多発。トラブルを懸念して漁をやめる漁業者もおり、尖閣周辺海域を漁場とするマチ類の漁獲量は減少している。一方、日本政府は中台連携をけん制するため日台漁業協定を締結したが、県内漁業者は「日本側に不利な内容となっている」と問題視。粘り強く改定を求めている。
■好漁場消失
 「事実上、漁場の大半が消失した」。マチ類の深海一本釣りをしている、漁師の丸山文博さん(55)=糸満市=はこう訴える。尖閣海域はマチ類やカツオの好漁場だが、領海内にもかかわらず中国公船が航行するため、落ち着いて漁ができていない。十数年前は1日に1トン以上捕れる日もあったが、現在の水揚げは500キロと半分以下になった。昨年まで領海付近にいる中国公船は3隻だったが、今年の4月には4隻に増えたという。漁場に近づきたくても海保から「中国公船が近づいてきているので、近くの島に逃げてください」と連絡が入り、避難せざるを得ないこともある。
■不平等協定
 衝突事件を機に日台が2013年に締結した漁業協定(取り決め)では、日本の排他的経済水域(EEZ)での台湾漁船の操業を容認。はえ縄船同士の距離を長く取って漁をする日本と、距離が短い台湾との漁法の違いからはえ縄が絡まったり、切断したりするトラブルも相次いだ。はえ縄船でマグロ漁をしている那覇地区漁業協同組合の山内得信組合長によると、台湾との間でもトラブルを避けるため操業を自粛せざるを得ない状況が続き、漁獲量も減少傾向にあるという。山内組合長は「尖閣衝突の問題や不平等な協定がなければ、県内の水産業はより発展できたはずだ。行政はもっと県内漁業者の声を尊重してほしい」と訴える。県水産課の担当者は「県内の漁業者が自由な操業ができるような環境を求めていく」と述べるにとどめた。

*9-3:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201126/k10012731281000.html (NHK 2020年11月26日) 菅首相 王毅外相に尖閣諸島問題で対応求める 経済は協力強化
 菅総理大臣は25日、中国の王毅外相と会談し、沖縄県の尖閣諸島をめぐる問題などで中国側の前向きな対応を強く求めました。政府としては懸案の解決に向けた働きかけを続ける一方、経済分野では協力を強化し、関係改善を進めたい考えです。菅総理大臣は25日、日本を訪問していた中国の王毅外相と会談し、沖縄県の尖閣諸島をめぐる問題や日本産食品の輸入規制などについて、中国側の前向きな対応を強く求めたほか、香港情勢について懸念を伝えました。茂木外務大臣や加藤官房長官も王毅外相との会談で同様の姿勢を示し、政府関係者は日中間の懸案や国際社会の懸念事項について、率直な意見を伝えたことは意義があったとしています。政府は、東シナ海や南シナ海の問題など安全保障分野の懸案で中国側が早期に譲歩することは難しいとみていて、両国間の意思疎通を継続し、解決に向けた働きかけを粘り強く続ける考えです。一方、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた経済の回復は両国共通の課題だとして、月内に再開するビジネス関係者らの往来をはじめ、経済分野での協力を強化し、関係改善を進めたい考えです。また、延期されている習近平国家主席の日本訪問については、一連の会談で話題にならなかったということで、政府は、与党内の意見や世論の動向などを踏まえながら対応を検討していく方針です。

*9-4:https://digital.asahi.com/articles/ASNB85QZ0NB7ULBJ017.html?iref=pc_extlink (朝日新聞 2020年10月8日) 東京電力福島第一原発にたまる処理済み汚染水の処分方法について、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は8日、政府が開いた関係者の意見を聴く会に出席し、海洋放出への反対を表明した。聴く会はこれが7回目。政府はすでに地元関係者や経済団体など計27団体、41人から聴取しており、海洋放出反対を訴えてきた全漁連の動向が注目されていた。 岸会長は「我が国全体の喫緊の課題であるとは認識している」としつつ、海洋放出で懸念されている風評被害は「極めて甚大なものとなることが憂慮される」と述べた。その上で「漁業者、国民の理解を得られない海洋放出には、我が国漁業者の総意として絶対反対だ」と強調した。また、福島県だけでなく、全国の漁業者や水産物の消費者、観光客や輸出先の外国にも影響を与えると指摘。「これまで以上に幅広い英知を結集し、政府をあげて議論を深め、慎重に判断していただきたい」と求めた。処分方法をめぐっては、経済産業省の小委員会が今年2月、海洋放出と大気放出の2案を現実的とした上で、海洋放出を「確実に実施できる」と有力視する提言を公表。これに対し、全漁連は6月、風評被害の拡大や水産物の信頼回復への悪影響を懸念し、「断固反対する」との特別決議を採択していた。政府は小委の提言を受けて4月以降、福島県と東京都で聴く会を開催。地元の首長や農林水産団体、住民、隣接県の首長、全国の経済団体や消費者団体などから意見を聴いてきた。全漁連が出席したことで主な関係者の意見表明はほぼ出そろった。座長の江島潔・経産副大臣は、今回で会を終えるかどうか明言を避ける一方、「政府として責任を持って可及的速やかに結論を出し、次の段階にすすんでいかなければならない」と述べた。

*9-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201211&ng=DGKKZO67219570Q0A211C2FFE000 (日経新聞 2020.12.11) 豪、「グリーン水素」輸出へ 官民で石炭依存脱却 、再生エネ使い年産175万トン計画
 化石燃料を使わない「グリーン水素」の量産プロジェクトがオーストラリアで動き出す。豪マッコーリー・グループ系の投資会社など4社で構成する企業連合が、原発6基分の発電所燃料に相当する年175万トンの生産を目指す。石炭や天然ガスに次ぐ輸出資源に育てる狙いから豪州政府も支援する。巨額の事業資金確保などが課題になる。マッコーリーなどが目指す「アジアン・リニューアブル・エナジー・ハブ(AREH)」プロジェクトでは、香港の6倍に当たる6500平方キロメートルの敷地に風力や太陽光による発電機2600万キロワット分の新設を計画する。総事業費は360億米ドル(約3兆7千億円)。既に西オーストラリア州で土地の貸借契約を結んだ。
●原発6基分相当
 地質調査や事業資金の確保などを進め、26年の建設開始を目指す。作った水素は運搬しやすいアンモニアに換え、国内外に燃料として供給する。水素175万トンは、原発6基分に相当する火力発電所を稼働させられる。大規模生産することで、豪政府が掲げる「水素1キログラムの生産コスト2豪ドル(約150円)以下」を達成したい考えだ。ある水素ビジネス関係者は「現在の水素生産コストは日本の場合で1000円前後。150円が達成できれば需要はあるだろう」とみる。参加企業の一つ、香港インターコンチネンタル・エナジーのアレックス・タンコック社長は「豪州は太陽光や風力など再生エネ発電に向いた広大な土地があるほか、資源ビジネスへの恵まれた投資環境があり、水素生産に理想的な地域だ」と話す。豪州の現在の電源構成で再生エネは約2割。まだ開発の余地が大きいとの見方だ。AREH事業の一部は既に州政府の環境認可を得たという。今後は水素の安定的な買い手の確保などに取り組むことになる。豪州政府はこの計画を「豪州の経済成長、雇用促進など国家的に重要な意義を持つ」ことを示す「主要プロジェクト」に認定した。許認可などで支援する。政府のお墨付きは取引先や投資家との商談にも後押しになると関係者は期待する。
●供給先確保急ぐ
 豪州は2019年11月に「国家水素戦略」を発表し、30年をめどに「水素大国」になることを目指すと宣言した。技術開発や実証事業の支援額は予算計上済みのものだけで5億7千万豪ドル(約430億円)。水素関連産業は50年時点で国内総生産(GDP)を年最大で260億豪ドル押し上げるとみている。背景にあるのは産業構造に関する危機感だ。同国は石炭と液化天然ガス(LNG)が輸出額の4分の1を占める。世界的な脱・炭素の流れは深刻な打撃になりかねない。主要輸出先である日本が50年に温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を明らかにした際、調査会社ブルームバーグNEFのコバド・バーブナグリ氏は「(豪州への)『離婚届』だ」と述べた。豪州には再生エネ発電がしやすい以外にも、水素産業に向いた特徴がある。石炭や天然ガスは水素の原材料になる点だ。川崎重工業や電源開発などは豪電力大手AGLと企業連合を組み、豪州で化石燃料から水素を生産、日本に運搬する実証事業を進めている。5億豪ドルの事業費のうち、計1億豪ドルを豪政府とビクトリア州政府が補助する。同州で産出される低品位の石炭「褐炭」から水素を取り出して液化、専用船で21年3月にも日本に運搬する見通しだ。これ以外にも豪州では複数の水素関連プロジェクトが進んでいる。最大の課題は、いかに長期の供給先を確保し、いつどういった規模で生産を始めるかだ。「長期的な供給契約がないと、施設建設に踏み切れない」(資源関係者)からだ。日本をはじめ水素活用を目指す国は多いが実際の本格的なインフラ整備はこれからだ。インターコンチネンタル・エナジーのタンコック氏も具体的な顧客像や需要量はまだ見えないと話す。
▼グリーン水素 再生可能エネルギーを使い、水を電気分解して作る水素。石炭や天然ガスなど化石燃料から取り出す水素は「グレー水素」と呼ぶ。化石燃料由来だが、製造時に出る温暖化ガスを地中に戻したり工業原料などに再利用したりするのが「ブルー水素」だ。現時点での製造コストはグリーン水素が最も高い。

| 教育・研究開発::2020.11~ | 09:25 PM | comments (x) | trackback (x) |

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