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2021.5.5~15 日本は人を大切にしない(人権侵害の多い)国だが、正しい意思決定には知識に基づいた判断力が必要なのである (2021年5月17、20、22、25、26、27、28、30、31日、6月2、3、4《図》、5、6、7、8、9、10、11日に追加あり)
(1)日本国憲法変更の危険性

  
 2021.5.7中日新聞   2018.5.3産経新聞          IWJ

(図の説明:左図のように、2021年5月6日に国民投票法改正案が衆議院憲法審査会で可決して今国会で成立する予定となった。その後の『改憲4項目』として自民党が示しているのが中央の図で、このうち、右図の緊急事態条項は、国会決議を通さずに基本的人権を制限したり、法律と同じ効果を持つ政令指定を可能にしたりできるようにするもので、問題が多い。)

1)憲法記念日における与党幹部のメッセージから
 憲法記念日の5月3日、菅首相は、*1-1のように、ビデオメッセージで「①憲法9条への自衛隊明記」「②新型コロナ感染拡大や大災害時に内閣が国民の権利を一時的に制限する『緊急事態条項の創設』は極めて大切」「③参院選の合区解消」「④教育無償化」など、「⑤現行憲法も制定から70年余り経過し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべき」等を語られたそうだ。

 このうち、①は、前にこのブログで詳しく記載したため省略するが、②も、このような厚労省の故意又は重過失による感染症の蔓延を国民のせいにし、それを理由として「国民の権利を制限する緊急事態条項の創設が重要」と結論づける政府であるからこそ、決して緊急事態条項を創設してはならないし、③は、憲法を変更しなくても下位の法律を改正すればできるのである。

 さらに、④は、憲法第26条に「第1項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」「第2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。 義務教育は、これを無償とする(http://law.main.jp/kenpou/k0026.html 参照)」と定められているため、既に憲法で義務教育は無償化されており、義務教育以外についても給付型奨学金を支払ってはいけないなどとは憲法に記載されていないため、憲法変更は不要なのである。

 それにもかかわらず、「仕方がない」として緊急事態条項の創設を許せば、政府の放漫経営によって財政破綻するにもかかわらず、さらなる年金カットや医療・介護サービスの削減など国民との契約で政府が保険料を徴収した社会保障の受給権(私権)を制限することも、政府が憲法に基づいて行うだろう。日本政府が前から熱心な「税と社会保障の一体改革」や「マイナンバーカードの創設」はその準備作業だが、それに感染症の蔓延を利用するなどもってのほかである。

 これを裏付けるように、与党系の幹部が、*1-2のように、「この憲法で国家の危機を乗り越えられるのか!-感染症・大地震・尖閣-」と述べているが、感染症・大地震・尖閣を乗り越えられないのは、日本国憲法に「緊急事態条項」がないからではなく、感染症に対する基本的理解の不足、都合の悪いことを想定外にする危機意識の低さ、領土保全の努力のなさという運用上の問題である。そのため、憲法9条に自衛隊を明記し、緊急事態条項を創設したからといって、これらの問題が解決するわけではない。

 また、⑤のように、憲法制定から70年余り経過して時代にそぐわない部分・不足している部分があると言うのも、それなら、イ)どこが ロ)どうして改正によってしか解決できないのか を論理的に説明すべきで、憲法変更という結論ありきで、とってつけたような理由を並べるのは国民を馬鹿にしすぎている。

2)憲法学者と弁護士会の見解
 *1-3の憲法学者で東京都立大学教授木村草太氏が、①現行憲法下でも規制の目的が自由の制限を正当化できるほど重要で ②規制の方法が合理的かつ必要不可欠なら法律に根拠のある規制は合憲だが ③感染症対策だからどんな制約でも我慢しろという論理は通用せず ④その感染症の抑制が社会にとって重要性があり、科学的・法的根拠に照らして手段が適切であれば重要だが ⑤目標がないままの場当たり的規制が多かったし ⑥自由を制約する政策は法律の正しい解釈に基づく細かな検討こそ必要だが、この1年以上にわたるコロナ禍で政府にはこうした意識が決定的に欠けていることが明らかになり ⑦政府が法の解釈や整合性を気にしなくなったことのマイナス面がわかりやすく示された 等と述べておられ、私も全く賛成だ。

 また、*1-4のように、日本弁護士連合会会長の荒中氏も、2021年5月3日、憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話として、⑧緊急事態宣言等の下で市民や企業等には外出・移動の自粛や休業・時短等が要請されているが、そのような感染拡大防止策を講ずる場合であっても個人の権利は最大限尊重される必要がある ⑨新型コロナの感染拡大を受けて憲法を改正して緊急事態条項の新設を求める声も与野党の一部にあるが、感染拡大防止は市民の協力を得ての法律上の対応で十分可能で ⑩憲法に緊急事態条項を新設することは、立法事実を欠くだけでなく、個人の権利の侵害に繋がる恐れがある ⑪新型コロナ感染拡大の下でも、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、人権擁護のための活動を積極的に行っていく と書かれており、法律家としての論理性が感じられて納得できた。 

(2)新型コロナのワクチン・検査・治療薬について

   
 2020.6.19毎日新聞   2021.4.17時事

(図の説明:1番左の図のように、G7やAPECの中では日本の人口100万人当たり新型コロナウイルスによる死亡率は低いが、東南アジア・東アジアの中では最も高い。これを見て、先進国は新型コロナウイルスによる死亡率が高いのだと理解した人は愚かであり、実際には地理的所在地によって人間側の遺伝的形質や免疫履歴が異なるのである。そのため、日本の成績は悪い方に属する。また、左から2番目の図のように、日本国内で確認された新型コロナ変異ウイルスの中に『由来不明』があるが、これは非科学的であると同時に日本由来ではないかと思う。右から2番目の図は、日本国内で新型コロナに使われる主な薬だが、承認済みは2つだけで厚労省の能力のなさがあらわれている。そして、1番右の図のように、日本は科学技術にかける予算が少なく、今後の産業構造に悪影響を与えそうだ)

1)新型コロナワクチンの開発と普及について
 河野規制改革相が、*2-1-1のように、5月10日からの2週間で自治体に届ける高齢者向けの新型コロナワクチンの供給量が自治体の要望量に約400万回分足りないと陳謝したそうだが、まず、誰かが陳謝すれば喜ぶというメディアをはじめとする日本人全般の感じ方はおかしい。何故なら、陳謝されても亡くなった人の人生は戻ってこないため、陳謝などしなくてよい政策を採ることの方がずっと重要だからである。

 そして、65歳以上の高齢者向けワクチン接種が4月に始まったそうだが、新型コロナウイルスに暴露される機会が多く、決して患者にうつしてはならない医療・介護従事者に高齢者より先にワクチンを接種するのは当然だ。その後に、高齢者・基礎疾患のある人・不特定多数の客に接せざるを得ない勤労者への接種となる筈だが、そもそも製造業が得意な世界第三位の経済大国と豪語しながら、必要な時に間に合わせてワクチンすら作れず、米ファイザー社からの輸入に頼りながら、公正な判断もできずにロシア製や中国製を馬鹿にしているのは滑稽ですらある。

 なお、*2-1-2のように、米製薬大手ファイザーは、2021年の新型コロナウイルスワクチン売上高が260億ドル(約2兆8千億円)、モデルナも、2021年のコロナワクチンの売上高が184億ドル(約2兆円)になる見込みだそうだ。このように、ワクチンも、感染症が蔓延し必要とされる時に1番・2番で完成することが重要なのであり、日本でよく言われるように「時間をかけたからよい」というものでは決してない。そのため、厚労省の非科学的な承認遅れや治験妨害は、経済的にもチャンスを逃す重大な原因になっているのである。

 このような中、*2-4-1のように、ワクチンの足りない途上国のWTOへの要請として、バイデン米政権が新型コロナワクチンの国際的な供給を増やすために、特許権の一時放棄を支持すると表明したそうだ。しかし、*2-4-2のように、製薬会社は強く反発しており、ドイツのメルケル政権は「知的財産の保護はイノベーションの源泉で、将来もそうでなければならない」と反対している。リスクが大きく金がかかる研究開発を行う動機づけを失わせないためには、メルケル政権の見解の方が正しい。そのため、新型コロナワクチンを途上国に供給する目的なら、開発した製薬会社の負担ではなく、国が製薬会社から特許権を購入して開発途上国の製薬会社に供与する方法を採るべきだ。メダルその他の報酬がなければ、いろいろなことを犠牲にしてオリンピック等のスポーツで頑張る人はいないのと同じ理屈である。

2)治療薬の治験と承認
イ)アビガンのケース
 細胞に入ったウイルスの増殖を抑える薬であるアビガンは、*2-1-3のように、2014年に新型インフルエンザ薬として承認され、製造元の富士フイルム富山化学が2020年3月に新型コロナ向けの治験を始め、2020年9月23日に治験の結果を発表して2020年10月16日に厚労省に製造販売の承認申請をしたが、2020年12月21日の厚労省専門部会で審査を担うPMDAが「エビデンス(科学的根拠)がない」「解析計画やデータの取り扱いに信頼性がない」「新型コロナへの有効性を現時点で明確に判断することは困難」と判断したそうだ。

 その科学的根拠がないという理由の1つは、20~74歳の重症でない新型コロナの患者156人が参加し、偽薬とアビガンをのんだ患者の経過を比べ、アビガンをのんだ患者はPCR検査で陰性になるまでの期間の中央値が偽薬をのんだ患者より2.8日短かったが、医師が知っている「単盲検」だったからだそうだが、陰性になるまでの期間が2.8日短かければ、それだけ入院日数が減り、患者や病院の負担も減るのである。

 さらに、単盲検だから本当に科学的根拠がないかと言えば、国民への移動の自粛要請や飲食店の時短営業要請よりはずっと明確な科学的根拠があり、「動物実験で胎児に奇形が出る恐れがわかり、副作用の懸念」というのも使う対象を絞ればよいため、厚労省は新型コロナの蔓延を防ぎたくない理由でもあるのかと思うのである。

ロ)イベルメクチンのケース
 北里大学の大村智特別栄誉教授が発見し、2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した微生物が生産する天然有機化合物アベルメクチン由来のイベルメクチンを、*2-1-5のように、北里大学大村智記念研究所感染制御研究センターが、新型コロナウイルス感染症の治療薬として、2021年3月に臨床試験を終了して製造元の米製薬大手MSDに試験結果を提供し、MSDは効果を検証しながら承認申請を検討する見通しだそうだった。

 米ブロワードヘルスメディカルセンターの研究では、イベルメクチン投与で新型コロナ重症患者の致死率は80.7%から38.8%に改善し、イベルメクチンは駆虫薬として2019年には世界で4億人以上に投与されているが、大きな副作用は確認されていないそうだ。ちなみに、ペニシリンはじめ抗生物質は、生物が他の微生物を排して自らを守るために合成する化合物由来が多い。

 その治験結果がどうなったかは不明だが、*2-1-4のように、東京都医師会会長の尾崎治夫氏が「海外で重症化を防ぐ効果が示されているため、抗寄生虫薬イベルメクチンも自宅療養中のコロナ感染者に重症化を防ぐ狙いで投与すべき」「副作用が少ないので、かかりつけ医が治療ができるよう国に検討してほしい」と言っておられ、軽症から重症まで効果があると思われるので、厚労省は新型コロナの治療をしたければ治験を助けて早々に承認すればよかったのだ。

3)変異型について
 変異は、生物が遺伝子をコピーする際のコピーミスで起きるため、ランダムに起き、生存により適した変異のみが選択されて残っていく仕組みになっている。そして、地球上に広がった人間が、住む地域に適応して異なる進化を遂げ、さまざまな人種が存在するのと同様、ウイルスも住む地域に適応して異なる進化を遂げ、さまざまな変異が存在するのは当たり前だ。また、人種間の違いも小さなものはあるが、大きくなると生物としての種が変わるわけである。

 一方、新型コロナウイルスにとっての住む地域は、宿主である人間の体の中であるため、人間の体の中で早く増殖して次々と感染する能力の高いウイルスほど生き残る確率が高い。従って、日本のように、検査数を絞って原型となる新型コロナウイルスを大量に残したのは、変異を生み出す確率も増え、大失敗だったのである。しかし、治療薬やワクチンに対する新型コロナウイルスの抵抗力は、変異で小さな差は出るだろうが、大きな差は出ないと思う。

 そのため、変異型が首都圏で急拡大して5月前半に8~9割を占めるようになるのなら、その理由こそが重要なのだが、*2-2-1は、「①国内の変異型は、英国・南アフリカ型・ブラジル型・由来不明型の4種類がある」「②英国型はウイルスが細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパクに細胞と結び付く力を強めるN501Y変異がある」「③由来不明型は関東・東北で拡大し、ワクチンの効果低減が懸念されるE484K変異がある」「④南ア型とブラジル型は両方の変異を併せ持つ」「⑤東京でもN501Y変異に置き換わってきているが、プラスアルファの変異が出る恐れもある」と記載しているだけだ。

 しかし、ウイルスがいる限り変異型は発生し、それは国名に意味があるのではなく、宿主である人間側の免疫履歴や生活様式・インフラの違いが変異型ウイルスの生存確率の違いになる。ここで、由来不明型としているのは“日本型”ではないのか?それらの変異型について、厚労省専門家組織のメンバーは、「ゲノム解析を通じて変異型を追い掛けることが重要だ」と話しているそうだが、国民に自粛を促して人の流れを止めるのではなく、数多く検査やゲノム解析を行い、感染経路を分析して、科学的に対処法を考えるのが厚労省の仕事の筈である。

 なお、*2-2-2のように、厚労省の助言機関の集計によると、国内で4月に発生した新型コロナのクラスターは463件に上り、場所別では学校・高齢者施設を含む職場(96件)が最多で、会議で使うデスク・電話機・コピー機などの共用備品を通して感染が拡大した可能性があるとされている。私は、共用トイレもそうで、トイレを清潔に保つための改修は経済の停滞している今がやりどきだと思う。

 そして、第4波は日常生活全般で感染が懸念される事態となり、対応策として国立感染症研究所の脇田所長は、「大型連休に向けて1人1人が不要不急の外出を減らし、マスク着用などの感染防止対策を徹底してほしい」と話されているそうだが、ウイルスがものを介して感染する理由はマスクの着用を怠ったからではなく、石鹸をつけて流水でよく手を洗うのではなく、アルコールを吹きかけたり擦り込んだりすればよいという指導をしたからだろう。日本で生き残るウイルスは、そういう日本の弱点を突いたものになると思う。

4)新型コロナとオリンピック
 「感染拡大が続いているのに五輪中止を決定できないのは、戦時中に無謀な作戦を強行して多くの犠牲者を出したのに責任回避した旧日本軍のようだ」と、*2-3のように、菅首相に批判が殺到しているが、先進国ではワクチン接種が進み移動制限が解除されつつあるのに、厚労省が対応を誤った日本は未だ制限解除もできない状況なので、旧日本軍と同じなのは厚労省である。

 そもそも、世界第三位の経済大国になっているのに、「国家の威信のため」などとして1965年当時と同じスローガンを振りかざし、東京という同じ場所にオリンピックを誘致し、大金を使って新国立競技場を建て替えたのには、私は全く賛成できなかったが、誘致した以上は万難を排して完全な形で遂行するのが先進国のやることである。

 また、オリンピック選手はオリンピックに出場するために多くを犠牲にして努力してきたのに、4年に1度の機会を逃せば年齢が進んで次のチャンスはない人が多い。そのため、IOCが東京五輪を開催すると各国のオリンピック委員会とともに決めたのなら、オリンピックの開催判断に政治が介入することは控え、誘致した責任として完全な形で開催できるようにあらゆる努力をするのが当たり前である。私には、東京五輪中止派の人の方が、オリンピックを政治利用しているのではないかと思われるので、オリンピックを中止した場合の損害や影響を明確にすべきだ。

 なお、「①五輪開催の最も大きな障害は医療陣の確保」「②五輪組織委員会は五輪期間中に1日に医師300人、看護士400人ずつの医療陣が必要と予想」「③医療界は『テレビで五輪を見る時間もない』として難色」「④新型コロナ感染再拡大で昼夜なく働いているのに、5月からはワクチンの大規模接種も始まり、人材派遣は不可能」「⑤日本政府の感染症対策分科会を率いる尾身会長は、組織委員会など関係者が感染レベルや医療の逼迫状況を踏まえて五輪開催の議論をしっかりやるべきとした」などと言って、五輪を開催できない理由を医療に押し付けるのは妥当ではない。その理由は、新型コロナの治療をする医師とオリンピックで働くスポーツドクターは別の診療科であり、医療関係者全員が新型コロナの治療に専念しているわけではないからだ。

 さらに、「⑥五輪に参加する選手と大会関係者は出国時点を基準として96時間以内に2回の新型コロナウイルス検査を受けて陰性証明書を提出」「⑦入国時に日本の空港の検査で陰性判定を受ければ14日間の隔離が免除され、入国初日から練習できる」「⑧入国後は毎日1回ずつ新型コロナウイルス検査を受ける」「⑨活動範囲は宿泊施設、練習会場、競技場に制限される」「⑩ここまで制限しながら五輪をやるべきか」とも書かれている。

 このうち⑥⑦で十分であり、⑧は、観客を入れて大会を行うなら必要だが、無観客なら毎日1回ずつ検査を受ける必要はないかもしれないが、検査しても毒にはならない。また、⑨⑩は、オリンピックに出場するために多くを犠牲にして努力してきたオリンピック選手は、日本に遊びに来るわけではなく競技で勝つためにくるのであるため、万難を排して参加したいだろう。それは、当然のことである。

(3)環境軽視は生存権の侵害である

 
 2021.4.22東京新聞               JCCCA

(図の説明:1番左の図のように、政府はCO₂排出量を2030年までに2013年度比で46%削減するように目標を変更したが、これでも甘いという声が大きい。世界のCO₂排出量に占める日本の割合は、左から2番目の図のように3.4%で小さいという主張があるが、右から2番目の図のように、1人当たりCO₂排出量は、米国・韓国・ロシアに続いて日本は4番目と大きい。日本の部門別CO₂排出量は、1番右の図のように、産業部門と運輸部門が著しく大きい)

1)日本国憲法から見た環境の重要性
 日本国憲法は、生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務として、第25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定している。

 この25条の意味は、国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するので、国は生活面のすべてで、社会福祉・社会保障・公衆衛生の増進に努めなければならないということだ。そのため、今回の新型コロナのように、他国の1/100程度の感染者数・重症者数で医療崩壊を起こしたり、原発による放射能汚染リスクを国民に甘受させたりする政策は採ってはならないということで、この条文は多くの事柄に適用できるので覚えておくべきだ。

 このうち、温室効果ガス削減については、*3-1のように、菅首相が2030年度の排出量を13年度より46%削減する目標を掲げて50%の高みを目指すと表明されたのはよかったが、2015年のパリ協定から5年、1997年の京都議定書からは23年も経過しているため、遅いと言わざるを得ない。この間に世界の先進国は、脱炭素に向けて産業構造の転換や技術開発の加速を進める政策を行い、日本は遅れれば競争力を損なう状況となっているのである。

2)日本人の歪んだ心
 日経新聞は、*3-2のように、「①グリーン成長の野心と下心」というように、グリーン戦略は悪いことででもあるかのように書く点で歪んでいるが、これは少なからぬ日本人が持っている感性だ。ここで言う「野心」とは、「aggressive」の翻訳のつもりかもしれないが、欧米人が使う「aggressive」は「積極的」という意味で、素直な「positive」に近い。逆に、グリーン戦略を下心があるなどとして否定する人こそ、環境改善に「negative」な下心を持つ歪んだ人であり、本当はグリーン戦略で大規模に雇用創出できれば一石二鳥で言うことがない筈だ。

 また、「②最も野心的な目標を掲げたのは英国で、グリーン産業革命を表明して総額120億ポンド(約1.8兆円)の政府投資で25万人の雇用創出を狙い、切り札は北海の強い風と遠浅の海を武器とする洋上風力」などと書いているが、得意分野を探して伸ばすのは当然であり、それは野心でも下心でもない。それより、「日本は再エネに有利な条件を欠き、日本には資源もエネルギーもない」などという虚偽を書き、「資源・エネルギーは外国から高い価格で買えばよい」などとして国民や産業に迷惑をかけるのを「馬鹿の一つ覚え」と言う。

 さらに、「③EUはいち早くグリーンディールを打ち出し10年間で1兆ユーロ(約130兆円)の投資に踏み切り、民間からも1兆9500億ユーロのグリーン投資を促して雇用を創った」というのは立派なことであり、私も、こういう国がリードして欲しいと思う。それにもかかわらず、「④それだけでなく国際的な環境基準づくりで主導権をとろうとする意図を隠さない」とまたまた歪んだ意見を披露しているが、本当によいものは日本発でも国際基準になるし、歪んだものを無理に押し込もうとしても国際基準にはならず、筋の通った正論が主導権をとるというのが私の経験だ。また、「⑤EUは環境規制が手ぬるい国々からの輸入に関税を上乗せする国境炭素税を導入予定」というのは尤もなことであり、「やはりEUがリードして欲しい」と感じざるを得ない。

 このように、それこそ下心ある歪んだ主張を重ねて、「小型モジュール炉は、原子炉をプールのなかに沈めることで緊急時にも外部電源に頼らずに済む」などとして原発の推奨を結論づけているが、冷やした熱は水中に発散されることを無視している上、放射能汚染の問題も解決しておらず、憲法25条違反の政策を国民に押し付けているのである。

3)水素エネルギーで動く都市とEV・FCV
 水素を作ったり運んだりするのに原発や化石燃料を使うのは論外だが、*3-3のように、中国や韓国が水素エネルギーを中核として都市を作り始め、交通機関をEVやFCVにするのは歓迎だ。今後は、日本はじめインド・インドネシア・フィリピンなどの人口の多い国は特に続いて欲しいが、人口が少なくてもエベレストなどの自然を観光資源にする国は、まずその付近を水素エネルギーで動く都市にすると観光との相乗効果が図れると思う。

 しかし、「生態系」という言葉は、食物連鎖を中心とした生物システムに対して使う言葉であるため、*3-3のように人間の文化や工業に使うのは誤りだ。また、「DNA」も生物の遺伝子を表す言葉であり、インターネットやAI関係 の会社が「DeNA(発音が同じ)」という社名にしているのは、国民(特に子ども)を混乱させ、正確な理解を困難にする。そのため、冗談のつもりでも、社会に悪影響を与える。

 運送手段である路面電車・バス・トラックがFCVで静かに走るのは、環境にも景観にも配慮しておりスマートだが、製造業の副産物である水素を使うのは賢いし、再エネ由来の水素にも手を打ち、まずインフラを整えやすい商用車や鉄道に投資を集中して国家主導で需要を作り出しているのは偉い。

 これを「強引にも映る市場創出」と感じる記者は、エネルギーイノベーションに「negative」なようだが、これらは「日本の文系人(エリートまで含む)が、生物・物理・化学・数学に著しく弱く、丸暗記の勉強しかしていないのが原因」というのが、理由を長くは書かないが私の結論だ。そして、この文系の暗愚さこそが、水素大国を目指して技術で先頭を走っても、市場の育成をすることすらできずに、日本だけが置いてきぼりになる原因なのである。

 なお、*3-4に、「①水素(元素記号H)の普及を阻むのはコストや技術だけではなく、規制も高いハードル」「②ガソリン車やEVは通常の車検のみで利用できるが、FCVは水素貯蔵タンクが車検対象外であるため、国交省とは別に経産省所管の検査が必要で空白期間が生まれる」「③日本では、水素は危険物扱いでガソリンより危険というイメージがある」「④海外では安全に配慮しつつ水素を利用する動きが広がる」と書かれている。

 このうち①については、水素は、元素記号で書くならHでは存在しないのでH₂と書く方が正しく、②のように、車検という規制でFCVを使いにくくしているのなら論外だ。③については、ロケットが燃料の水素とそれを燃やすための酸素の両方を積んで地球の重力から抜け出して行くように、水素のエネルギーは大きく、使い方に注意すれば安全だ。そして、今後は、航空機・船・作業機械にも水素燃料を応用して燃料電池の関連産業を育てることが必要であるため、航海を始める前に座礁していたのでは話にならない。

 また、英国はじめEUのように、既存のガス管を活用して、ガスへの水素混入を広げるのもよいと思う。なお、日本人には「技術で勝って普及で負ける」などと言う人が多いが、製品として普及していく過程で開発される技術が多いため、普及で負ければ技術でも負けるのである。

(4)医療・介護について

  

(図の説明:左図のように、日本の人口1000人あたり病床数は13.1で、他の先進国と比較して著しく高い。また、中央の図のように、急性期病床数も人口1000人あたり7.79で、他の先進国と比較して著しく高いが、右図のように、精神科病床数が多く、精神科の入院日数も他国と比べて長いため、急性期や感染症に当てることのできる病床数が他国と比べて多いとは言えない)

  

(図の説明:左図のように、公立病院の71%、公的病院の83%が新型コロナ患者を受け入れたが、民間病院は21%しか受け入れておらず、これは、院内感染を起こすと診療と病院経営に支障が出るからだろう。また、中央の図のように、日本の人口1000人あたり医師数・看護師数・病院数・病床数・CT台数・MRI台数の国際比較があるが、病院数・病床数が多い割には医師数・看護師数が少なく、急性期に対応できる病院は少ないと推測できる。なお、右図のように、医療施設に勤務する人口10万対医師数は、東京及び関西以西で多い)

1)医療制度について
イ)“非効率な医療供給体制”とは何か?
 日経新聞は、*4-1-1のように、「①団塊の世代が75歳以上になり医療費が急膨張する2022年の壁を乗り越えるには非効率な医療供給体制の改革が必要」「②都道府県別1人当たり医療費は、病床数が全国最多の高知県は病床数最少の神奈川県の3倍」「③1人当たりの医療費は人口当たりの病床数と関係が強く、供給が需要を作り出しており、病床数が危機時の力を左右するとは限らない」「④神奈川県はコロナ患者を症状ごとに重点医療機関やホテル療養で柔軟に対応する神奈川モデルを導入して、病床数最少でも県主導で効率的な体制を作り、その手法は全国に広がった」と記載している。

 医療制度改革は、①のように、団塊の世代が75歳以上になって医療費が急膨張するのを止めるという財政的見地のみで主張する人が多く、これが重大な問題を引き起こしている。何故なら、75歳以上になった人が医療のお世話になる機会が増えるのは当然であり、医療費が増えるのも当たり前であるため、これを抑えれば日本国憲法第25条「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に反するからである。

 また、②については、高知県と神奈川県は人口の年齢構成が異なるため、高知県の方が病床数が多く、医療費が高くなるのは理解できる。その年齢構成の違い以上に高知県の病床数が多いとすれば、介護制度が整っていないため高齢者を社会的入院させ、Quality of Life(生活の質、以下QOL)の低い生活を強いている状態ではないかと思われ、このままなら、その状態は次第に全国に広がるだろう。

 さらに、③は、「医療従事者が儲けのために病床数を増やして不要な供給を作り出し、危機時には役立たない」と言っているのだが、慢性期の高齢者が多く入院している病床を感染症病床に併用することはできないため、急性期の感染症に対応できる病院を効率化と称して減らした政策ミスが問題なので、それを医療従事者の強欲のせいとして責任転嫁することは許されない。

 なお、④の神奈川県の対応は、重点医療機関ですべてのコロナ患者を最後までケアできる医療体制になっていなかったため、移動制限によって空室が増えたホテルを療養病棟のように使ったもので、それが全国に広がったのは同じ理由からだ。しかし、数週間程度の療養期間しかない患者のケアを症状毎に異なる病院で行えば、転院先の病院では患者の病態を把握しにくく、短期間で転院させられる患者も落ち着いて療養できない。

 その上、*4-1-1は、「⑤日本の千人あたり病床数は先進国最高水準で英国・米国の約5倍だが、感染爆発時は小さな医療機関を中心にコロナ患者をたらい回しにし、医療供給体制に無駄のあることがコロナで浮き彫りになった」「⑥自民党財政再建推進本部小委員会は、地域に応じた医療体制構築と医療費適正化の計画作りで都道府県のガバナンス強化を求めたが、都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらっている」「⑦現行制度で医療体制整備の権限は都道府県にあり、国は都道府県毎に『地域医療構想』を作るよう求めて過剰な急性期病床の削減等を進め在宅医療への転換を促してきた」「⑧全国知事会は医療提供体制の議論について、地域医療の混乱を理由にコロナ収束後に先送りしたい意向」「⑨医療行政は責任を負いたくない地方自治体と、本音では権限を失いたくない厚労省の利害がもつれあう」と記載している。

 ⑤の「日本の千人あたり病床数は先進国最高水準で英国・米国の約5倍」というのは間違っていないが、日本の病床数の内訳は精神科病床や慢性期病床が多いため、感染症に対応できる病院か否かを正確に把握しなければ比較しても意味がない。また、小さな医療機関が感染症患者を受け入れるのは、院内感染のリスクから困難であるため、総合的な医療計画が妥当であったか否かを検証すべきなのだ。

 さらに、⑥⑦のように、政治・行政は、地域に応じた医療体制構築と医療費適正化と称して都道府県に民間病院への病床機能転換を促し、急性期病床の削減を進めて在宅医療への転換を促してきたが、民間病院は収支の合わない診療科に長期に医療資源を割くことはできない上、急性期病床で対応すべき病気を在宅医療で対応することも不可能であるため、*4-1-3のように、感染症の中等症・重症には公的病院や大規模基幹病院の役割が大きかったのである。

 そのため、⑧のように、全国知事会が医療提供体制の議論を先送りしたのは正解で、これを⑨のように、利害関係のみに結び付けるのは質の悪い議論だ。

ロ)日本の医療の弱点は、コロナで浮き彫りになったのか?
 日経新聞は、*4-1-2で「①感染者を受け入れる病床が足りなくなる事態を医療崩壊と呼ぶなら、日本では2020年9月13日時点で医療崩壊は起きていない」「②OECDの調査で、人口千人当たり病床数は日本が13.1と突出して多く、OECD加盟国平均の4.7を大きく上回る」「③その病床は、一般病床・療養病床・感染症病床・結核病床・精神病床のうち感染症病床は1886で、152万を超える病床全体に占める割合は0.1%程度」「④厚労省は緊急時には感染症病床以外の病床に入院が可能との見解を示したが、それでも病床数に入院者数が近づいている地方がある」「⑤厚労省は地域医療構想の下で、病床数を削減する方向を打ち出していたが、コロナ対応で病床不足が問題となった」「⑥慶応大学の土居教授は『地域医療構想で打ち出したのは一般病床と療養病床の再編で、新型コロナの病床不足は、病床が足りないのではなく機能分化と連携が進んでいなかったことが問題』と強調」「⑦みずほ情報総研の村井チーフコンサルタントは『病床をとにかく増やすというのは現実的でなく、どんな機能の病床を増やすのかを明確にすることが必要で、これは地域医療構想の考え方とも一致する』と述べた」と記載している。

 2021年5月10日現在では、①の感染者を受け入れる病床が足りなくなる医療崩壊が大阪府で起こっているそうだが、検疫はザルである上に、他県との医療における広域連携ができていないため、やはり人災だ。②③については、イ)で述べたとおり、病床数ではなく全体を総合的に考えて、地域に少なくとも1つは頼れる基幹病院を持っておく必要があるということだ。④の緊急時に感染症病床以外の病床に感染症患者を受け入れるのは、今回は仕方がなかったとしても、今後は感染症も軽視しないゆとりある医療計画を立てておくべきである。

 ⑤については、医療費削減目的ありきのケチな医療制度改革が、経済を止めて大出費を招いた事例であり、⑥の土居教授の発言は言い訳がましいが、⑦の村井チーフコンサルタントの「どんな機能の病床を増やすかを明確にする医療計画が必要」というのは、そこまで考えた地域医療計画を立てなければならないという意味で正しい。

ハ)本当に必要な医療体制は何か?



(図の説明:日本における新型コロナによる死者数は、左図のように、欧米の1/50~1/100だが、医療崩壊・医療崩壊と騒がれている。一方、世界の専門医の平均年収を比較すると、日本は欧米の1/2~1/3であり、先進国の中では著しく低い。さらに、右図のように、米国の専門医は診療科で年収が2倍以上の開きがあり、3Kで重労働になりやすいため人材が集まりにくいと思われる科ほど高給となっており、これは合理的だと思う)

 結論から言って、どの地域にも当てはまる最適解はないが、日本国憲法第25条の「1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という規定は、国民のために護られなければならない。

 具体的には、どの地域に住んでいても、人種・年齢・性別・社会的身分等にかかわらず、必要な場合は最新の医療を受けられ、平時も気軽に受診でき、健康管理しやすい医療・介護システムが必要で、これは国や地方自治体が普段から心がけて作っておくべきインフラの一つである。

 また、日本国憲法は14条で、「すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定しており、ここに年齢による差別が記載されていないのは、憲法制定当時は当然のこととして高齢者を大切にしていたため、わざわざ書く必要がなかったからである。

 このような中、*4-1-3は「①日本の医療機関は自由開業制で、政府・都道府県は民間病院に患者の受け入れを命令する権限はない」「②税金で医療を運営する国には、感染症等の緊急時に医療機関や医療従事者を国や地方政府が動員する仕組みもあるので、社会保険方式の日本も医療機関や医師には医療体制を確保する責務がある」「③菅首相は緊急事態の際の病床確保に関する特別措置が必要とした」「④非常時に医療機関の経営の自由を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべき」としている。

 この①②③④をまとめると、「非常時(緊急事態)には、医療機関の経営の自由を制限して病床を確保させることができるよう、政府や都道府県が民間病院に患者の受け入れを命令する権限を有するようにすべきで、その根拠は医療は社会保険方式だから」ということだが、これまで述べてきたように、政府や一部都道府県は自らの不作為や失政によって生じた事態を「緊急事態だ」「非常時だ」「変異種だ」と主張しているのであり、新型コロナ以外の病気は眼中にない状況であるため、政治・行政に強い強制力を持たせれば状況が改善するとは思えない。

 それどころか、政府や都道府県が民間医療機関の経営の自由度を下げて医療機関への強制を増やせば、短期的には通常の医療に弊害を及ぼし、長期的には医師の志望者が減って優秀な人材を医療に送り込めなくなることにより、むしろ国民の命を危険に晒しそうである。

 また、*4-1-3は「⑤小規模医療の源流は1961年の国民皆保険制度の創設で公的病院に病床規制が導入され、診療所の一部が規模拡大して入院機能を持つ病院に衣替えした」「⑥民間開業医を中心とする医療体制はこうして形成され、経営の自由が確保された病院が増加の一途をたどった」「⑦世界一とされる医療へのアクセスの良さは日本が誇る長寿社会を実現する大きな支えになったが、非常事態に対応できない致命的な欠陥が露呈したので、改革をためらうべきではない」「⑧医療機関の徹底した役割分担の必要性はコロナ前から指摘されており、軽い病気なのに大病院で受診する人が多く、患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる一方、急性期病床を名乗りながら重篤ではない患者で病床を埋める病院がある」「⑨これでは医療人材の確保が年々難しくなる今後の人口減少社会で医療の質を維持できないため、改革は喫緊の課題だ」とも記載している。

 このうち⑤については、普段は収支の合わない診療科や病床を持つには公的病院が最適であるため、数合わせで公的病院の病床規制を行ったのは失敗だった。⑥については、経営の自由度が大きい民間病院の方が、最新の医療設備や快適な闘病空間を備えていることも多いため、診療所の一部が規模拡大して入院機能を持つ病院になったのも時代の流れとして必要だった。⑦については、「緊急」「非常事態」とさえ言えば何でもありではなく、その定義を限定すべきであり、本当に非常事態なら公的病院だけでなく自衛隊病院を使うのも選択肢の一つである。

 ⑧の医療機関の徹底した役割分担については、軽い病気か重い病気かを患者が判定することはできないため、まず大病院でしっかり検査して病名を明らかにしてから、その後の対応を決めるべきである。そのため、「紹介状のない人は大病院で受診するな」とか「37.5°C以上の熱が4日以上続かなければ病院には行くな」等の誤った強制が多く、PCR検査までケチったことが問題なのであり、これは、政府が⑦の医療へのアクセスを阻害した重大な事例である。

 なお、⑧の「患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる」というのは、技術・設備・スタッフ等の揃った病院で手術するのが合理的だからで、そういう病院の医師はじめスタッフ不足の方が問題なのだ。また、⑨の「医療人材確保が年々難しくなり、今後の医療の質を維持できない」というのは、政府や都道府県が医療スタッフに不合理な強制や負担を押しつけず、医師などの医療スタッフの年収を先進国並みに引き上げ、女性差別をやめて働く人の母集団を2倍にすれば、解決すると思う。

 また、*4-1-4の家庭医は、*4-1-3で悪いかのように書いた民間開業医が主として担うため、病床を持たない民間開業医も一定数は必要で、初期診療や慢性期対応を任せられることが重要なのである。家庭医がおり、介護体制が充実していれば、自宅療養をしやすくなるため、QOLを下げてまで社会的入院をする必要はなくなる。

 しかし、病院の機能を低下させ、介護制度を充実するどころかその逆にしてきたため、「世界に冠たる国民皆保険は幻想にすぎず」「介護制度も未だに充実していない」ということとなった。また、薬やワクチンの開発にも行政のネックが浮き彫りになった。

 そのため、私は、総合診療を担える家庭医がいることには賛成だが、医療の主役である患者第一を貫けば、どの病院・診療所にもかかれる「フリーアクセス」の原則は保つべきであり、総合診療を担える家庭医の実力が認められれば、強制しなくてもその重要性は自然と高まると思う。日本の行政は、財政削減と効率性だけを求めて、国民の権利を制限し、強制しさえすればうまくいくなどと考えているため、かつての共産主義の失敗と同じことを繰り返し、「世界に冠たる」という名を返上する結果となってしまったのだ。

二)ザルになっている検疫と厚労省の言い訳について
 日本の水際対策について、*4-1-5のように、自民党の佐藤外交部会長が政府の対策の甘さを指摘し、自民党外交部会が入国者の管理を強化するよう政府に要求したところ、田村厚労相は「①憲法の制約上、移動の自由がある」「②我が国は私権の制限に対しての法律がないため、強制するのは難しい」と述べ、「③厚労省は、過去にハンセン病患者を強制隔離し批判を浴びた歴史がある」としている。

 しかし、①②については、日本国憲法22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定めており、ワクチン接種証明や陰性証明を持たない人に対する原則14日間のホテル待機が本人に与えるディメリットは、「公共の福祉」のメリットと比較して著しく小さいため、憲法違反にならない。

 また、③のハンセン病患者の強制隔離は、1947年に特効薬ができて「公共の福祉」のメリットがなくなった後まで続き、それから約50年後の1996年にやっと「らい予防法」が廃止されたが、それまで無意味にハンセン病患者に対して人権侵害や家族まで含む差別を続けて人生を台無しにしてきたので、深刻さの質が全く異なる。にもかかわらず、厚労省がこの事例を引き合いに出すとすれば、その違いもわからないほどの馬鹿でなければ意図的であり、こういうことをする人は厚生労働担当にふさわしくないと言わざるを得ない。

2)介護制度について
 *4-1-4には、「①高齢コロナ患者が回復期も病院にとどまり、医療職が介護を提供する例がみられる」「②都道府県が域内の医療機関に、コロナ患者の重症度に応じて機能分担・連携してもらうのは難しいので、医療の公定価格である診療報酬の一定範囲を県独自に設定できるようにすれば、病床誘導がしやすく医療費抑制への動機づけになる」「③地域ごとに医療機関と介護施設が円滑な連携策を探ってほしい」とも書かれている。

 しかし、①③については、脳卒中等の患者が急性期を終えて慢性期に入った時に自宅療養するのに介護は不可欠だが、感染症は慢性疾患ではない上、患者を自宅に帰せば家族に感染する。その上、介護士は感染症防護を徹底しているわけではないため、介護士や介護用器具から感染する可能性もあり、介護を通じて別の患者に感染する可能性が高くなる。さらに、感染症は比較的短期間で治癒するため、重症度に応じて病室を変更することはあっても同じ病院で完治するまで治療するのが、患者の安心感に繋がる。

 このように慢性疾患と感染症の違いすら理解していない人が、②のように、医療の診療報酬に踏み込んで変な病床誘導を推進し医療費抑制に繋げようとすることが、感染拡大を助長してより大きな惨事を引き起こしていることを忘れてはならない。まさか、「高齢者はコロナで早く死んでもらった方が、年金給付や医療・介護サービスが不要になって助かる」などと思っているのではないだろうが、仮にそうだとすれば日本国憲法25条違反だ。

 このような中、*4-2-1に、「④介護保険料が4月から改定され、65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は、2000年の介護保険制度開始時の2倍の月額6,000円程度になる」「⑤年金で暮らす高齢者の負担は限界に近づいた」「⑥介護保険サービスの費用は、利用者が払う自己負担分を除いて加入者の保険料と税から半分ずつ賄う」「⑦介護保険料は40~64歳については毎年改定され、加入する公的医療保険を通じて納付する」「⑧65歳以上の保険料は市区町村や広域連合毎に3年に1度見直され公的年金からの天引きが原則」と書かれている。

 この④⑤⑥⑦⑧は事実だが、介護保険制度創設に尽力した私は、年金生活の高齢者に集中して重い介護保険料負担を課している点で全く不本意だ。また、65歳以上の人は、要介護状態や要支援状態である場合はすべて介護保険適用の対象となるのに、40~64歳の人は、受けられる介護サービスに「老化に起因する指定の16疾病で介護認定を受けた場合に限る」という限定があるのも非科学的で不合理だと思っている。

 さらに、「⑨高齢化で介護が必要なお年寄りが増え、人手不足の介護職員の処遇改善のために、介護報酬が4月から全体で0.7%引き上げられた」「⑩保険料アップに繋がったが、公的年金給付額は賃金水準下落を受けて4月分から0.1%引き下げられた」「⑪保険料は高齢化率や要介護認定率が高い自治体ほど高く、大阪市は8,094円まで上がった」「⑫このままでは高齢者の生活費が圧迫され、介護サービス利用時の原則1割負担が払えず、介護保険に加入しながら利用できない」というのも事実だが、このうち⑩⑪⑫は、明らかに邪魔者ででもあるかのように高齢者いじめをしており、憲法25条違反だ。

 また、⑨については、介護保険制度はサービスの担い手の仕事を確保するために作った制度ではなく、介護サービスを受けるべきユーザーのために作った制度であるため、日本人の潜在看護師や看護師資格を持つ外国人労働者など比較的安価で介護に志を持つ質の高い労働力の導入を検討したり、車椅子などの介護用品に高すぎる価格をつけたり不要な人に支給したりしていないかなど、支出の妥当性も検証すべきだ。

 最後に、「⑬日本の高齢化は2040年頃にピークを迎え、そこに向けて介護人材を確保してサービスを充実させることは避けて通れない」「⑭それを抜本改革抜きに実現しようとすれば、財源捻出のため保険料は天井知らずになり『介護を社会全体で担う』という介護保険制度の理念は破綻しかねない」「⑮介護保険料は40歳以上が支払っているが、支え手を増やすために20歳以上に広げる案も検討せざるを得ない」というのも事実だ。

 しかし、私は、介護サービスの提供に関する負担と給付の不公平是正のため、働く人すべてが介護保険制度に加入して保険料を引き下げ、出産・療養などの老化に起因しない介護ニーズにも応えられるよう単純明快にするのが第一だと考える。介護サービスが充実すれば自宅療養しやすくなるため、社会的入院の必要性が低くなって医療費は下がるだろう。

 なお、*4-2-2は、「⑯一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案が衆院厚生労働委員会の賛成多数で可決し」「⑰単身なら年金を含み年収200万円以上、夫婦世帯なら合計年収320万円以上の収入ある高齢者を2割負担として現役世代の負担増を抑える」としているが、年収限度が著しく低いため、月額医療費に上限を設けることが必要不可欠だ。この時、どうせ戻ってくる医療費なら、窓口負担は避けた方がよい。

(5)日本は、本当に領土・領海・排他的経済水域を保全する意志があるのか?


       朝日新聞                       海上保安庁

(図の説明:尖閣諸島に対する日中の領有権の主張は左図のようになっている。また、尖閣諸島は、中央の図のように、日本の石垣島と台湾からともに170kmの距離にあるが、李登輝総統は「尖閣諸島が台湾領だったことはない」と言っておられた。そして、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、右図のように、排他的経済水域境界付近の海底で原油が発見されて以降のことであるため、中国の方に恣意性があるだろう)

   
    ameblo            canpan            goo

(図の説明:日本は四方を海に囲まれた島国であるため、左図のように、排他的経済水域が世界で6番目に広い。さらに、中央の図のように、日中中間線付近に石油・ガス田があり、そのほかレアアース・コバルトリッチクラフト・メタンハイドレート等も多く埋蔵されているため、現在では「資源のない国」ではなく、単なる「掘る気のない国」になっている。さらに、右図のように、メタンハイドレートは領海内にも多く存在し、交通機関に使わなくても化学製品の原料として使えるため、今後は資源を買う国ではなく資源を売って税外収入を得る国になるべきだ)

 中国全人代が、2021年4月29日、「①海上交通安全法を改正して外国船が領海に入った場合は中国の判断で退去を命じたり罰金を科したりできるようにし」「②中国は尖閣を『固有の領土』と主張しており」「③海警局に武器使用を認めた海警法も2021年2月に施行していたため」「④尖閣周辺で操業する日本漁船にとってはさらなる脅威となり」「⑤領海や接続水域より広い『管轄海域』で中国の実効支配が進む懸念がある」と*5-1に書かれている。

 これに対し、日本政府は、前から「⑥尖閣に領土問題はない」「⑦一方的な現状変更に反対する」「⑧自由で開かれたインド太平洋の航行の自由」という対応をしてきたため、現状に意義はないから変更せずに誰でも自由に航行できるようにしようと主張して中国の行動を容認していることになる。これが世界の率直な受け取り方であり、メディアでよく言っている「大人の対応」というよりは、不作為に近い対応だ。

 また、*5-2のように、中国が2021年4月に空母を沖縄本島・宮古島間の海域に航行させ、尖閣諸島周辺で中国海警局の船が領海侵入を繰り返している中で、同年4月の日米首脳会談を受けて、4月30日に日米制服組トップ会談が行われ、台湾海峡の平和と安定の重要性を確認し、日本と米国は共同で抑止力と対処力を強化すると申し合わせたそうだ。

 日本は米国と日米安全保障条約5条に基づく「米国の揺るぎないコミットメント」を再確認し、多国間協力を進めていく方針でも合意して、これに基づいて英国は空母「クイーン・エリザベス」を日本に派遣すると決め、フランスも日米と離島防衛訓練を実施するそうだが、尖閣諸島の領有権と中国海警局の船の領海侵入については、どう話し合われたのだろうか?

 しかし、このような時に、「米中対立に巻き込まれないよう・・」「中国とは経済で切っても切れないから・・」と言ったり、聞く方がくだらないような同盟国首長の批判のための批判をしたりしているのは、どこの国のためにこういうことをしているのかを忘れているようで、日本のメディアに眉をひそめさせられた。

 また、台湾の独立性について無関心で「寄らば大樹の陰」を決め込んでいるのも、節操がない上に日本国憲法前文の中の「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION 日本国憲法 参照)」に反している。

(6)知識と判断力を得られる教育にするには・・

 

(図の説明:左図のように、英国は、4歳から初等教育を始め、15歳までの11年間が義務教育である。日本は、右図のように、3歳時点で90%近くが幼稚園か保育園に通っており、せっかく預かるのならいろいろ教えた方がよいし、教育格差はこの時代から始まっているため、3歳から義務教育を始めてはどうかというのが、私の意見だ)

 

(図の説明:左図のように、高校進学率は全世帯では既に99%に達しているが、生活保護世帯は93%であり、大学進学率はさらに大きな差があるため、保護者の所得格差は次世代の教育に影響している。また、関東以北では公立高校でも男女別学の地域があり、中央の図のように、私立進学校は多くが男女別学であるため、ジェンダーは初等教育から始まっている。国立大学では文理融合型の学部ができているが、大学教養程度の基礎知識は、文系・理系を問わずすべての人が持っていた方がよいと思われる)

 日本では、*6-2のように、「課題解決力」を育成するとして文系・理系の枠組みを超えた文理融合型学部の創設が国立大学で広がり、高校で文系のクラスにいた東京都内私立高校の女子生徒が「文理融合型」の学部に勧められたそうだ。しかし、率直に言って文系・理系のどちらに進むか決めかねている場合は、理系クラスにいなければ理系には進めない。

 その理由は、日本の高校では、理系クラスは数IIIまで教えるが、文系クラスは数IIまでしか教えないため、文系クラスから大学の理系学部に進学するのは困難だからで、逆に理系クラスが文系に比べて文系科目の勉強量が少ないわけではないため、理系クラスからは大学のどの学部に進学することも可能だからである。

 しかし、東京周辺やそれより北の地域は、公立高校でも未だ男女別学で、女子高には理系コースのないところもあるそうで、さらに、私立の進学校は男女別学ばかりと言っても過言ではないため、ジェンダーは初等・中等教育から始まっているのである。

 なお、九大が文理融合型の「共創学部」を設けたのは、異なる視点や学問的知見を持つ人が連携して新たなものを創造する課題解決力の獲得をめざすことが目的だそうだが、これは現在の初等・中等教育を前提として大学内でできることをしたのだろう。私は、大学の教養くらいまでの基礎知識は、共通言語として理系・文系にかかわらず誰でも身に着けておくことが必要で、そうでなければ仕事等で他の専門分野の人と話をした時に、お互いの話を理解して次のアクションに結び付けることができないと思う。

 それでは、大学の教養くらいまでの知識を、現在は95%の人が進学している高校の卒業時までに習得させる方法があるかと言えば、幼稚園と小中高の就学年齢を3年前倒しすればできる。

 *6-1の私立玉川学園のケースでは、秋入学を導入して小学校教育の開始を半年繰り上げ、高校まで学ぶ「初等中等一貫教育学校」を作り、幼稚園年長児(5歳)の9月から小1の学習を始めて翌年6月で1学年を修了することを構想しており、こうすると、高校までの教育課程全体を半年前倒しして、海外の大学に進学したり、ゆとりを持って国内の大学に進学したりできる。

 しかし、諸外国には、4~5歳児から小学校に就学させる国も少なくないため、学校教育法の義務教育開始時期を「満6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」ではなく、「(今では90%以上の子が幼稚園か保育園に通う)満3歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」に変更して小学校教育を始め、義務養育期間を12年か15年に伸ばせばよいと、私は思う。

 何故なら、義務教育期間を中学校までとすれば3年伸びて12年となり、高校までとすれば15年となって、現在の大学の教養くらいの知識までを、高校でゆとりを持って教えることができ、大学教育はもっと専門性の高いものにできるからだ。そして、中等学校以上は、義務教育であっても受験して、合格すればその学校に入学できる制度にすればよいだろう。

・・参考資料・・
<改憲の危険性>
*1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP535S6SP53UTFK009.html (朝日新聞 2021年5月3日) 緊急事態条項や「改憲4項目」実現を 首相がメッセージ
 菅義偉首相は憲法記念日の3日、改憲派の集会に自民党総裁としてビデオメッセージを寄せた。新型コロナウイルスの感染拡大に触れ、大災害などの時に内閣が国民の権利を一時的に制限する「緊急事態条項」に関し、「極めて重く大切な課題」と語った。その上で、同条項や、憲法9条への自衛隊明記を含む自民党「改憲4項目」の実現をめざす考えを示した。この集会には安倍晋三氏も首相当時にメッセージを寄せており、菅首相も同じ形をとった。首相は「現行憲法も制定から70年余り経過し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべきではないか」と述べた。続けて「新型コロナ対応で緊急事態への備えに関心が高まっている」とし、「大地震等の緊急時に国民の命と安全を守るため、国家や国民がどのような役割を果たすか、憲法にどう位置づけるかは極めて重く、大切な課題だ」と訴えた。さらに「自衛隊は大規模災害や新型コロナへの対応で国民の多くから感謝されているが、自衛隊を違憲とする声がある」とも主張。その上で、自民党が掲げる「自衛隊明記」「緊急事態条項創設」「参院選の合区解消」「教育無償化」の「改憲4項目」について、「自民党は、(国会の)憲法審査会で活発に議論を行っていただくため、憲法改正のたたき台を取りまとめている」と強調した。また、与党が6日にも衆院憲法審査会で採決をめざす、憲法改正の手続き法である国民投票法改正案に関し、「憲法改正議論を進める最初の一歩として、成立を目指さなければならない」と意欲を示した。菅首相は改憲について、昨年9月の就任以来、国会演説やメディアのインタビューなどで、国会での議論への期待を述べるにとどめてきた。「先頭に立って責任を果たしていく」と訴えた安倍氏に比べ、改憲への意欲は低いとされる。先月の訪米時にも、米誌ニューズウィークのインタビューで、首相は「(改憲は)現状では非常に難しいと認めなければならない」と話している。ただ、今秋までに衆院選や自民党総裁選が予定されることから、自民党の支持基盤である保守層に向けてアピールする狙いがあるとみられる。一方、立憲民主党の枝野幸男代表は3日、護憲派の市民団体が開いたイベントにオンラインで参加。コロナ対策を理由に「緊急事態条項」創設のための改憲を自民党などが訴えている点について、「公共の福祉にかなう私権制限は現行憲法でも許されている」とした上で、「必要な対策が打てていないのは、根拠なく楽観論に基づき、命や暮らしを守ることを最優先しない政策判断にある。まったく関係ない憲法のせいにしている」と批判した。ただ、枝野氏は、国民投票法改正案については触れなかった。同じイベントに参加した、共産党の志位和夫委員長は同法案について「憲法改定に向けた地ならしが狙いだ。採決を断固として止めよう」と訴えた。

*1-2:https://www.sankei.com/politics/news/210503/plt2105030026-n1.html (産経新聞 2021.5.3) 改憲派集会に参加した与野党幹部・有識者らの主な発言
 3日にオンライン形式で行われた憲法改正を訴える公開憲法フォーラム「この憲法で国家の危機を乗り越えられるのか!-感染症・大地震・尖閣-」(民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会共催)では、与野党幹部や有識者らが講演などを行った。主な発言は次の通り。
■自民党・下村博文政調会長
 南海トラフ巨大地震のような大災害がこれから30年以内に70~80%の確率で発生する。そのときに感染症などがもし重なっていたとしたらこの国はどうなるのか。そのときの対応として世界では常識の緊急事態条項を入れなければならない。
■日本維新の会・足立康史氏
 憲法改正の中身の議論を進めるためにも、国民投票法改正案についてはただちに採決し、速やかに可決・成立を図るべきだ。立憲民主党が改正案に対する修正案を提示してきた。付則に3年の期限を切り、CM規制や資金規正に関する検討規定を設けるというもので、常識的な範囲だが、立民や共産党に常識は通用しない。3年間は手続きに関する議論を優先し、憲法改正を拒むカードにさえしかねないと危惧している。
■国民民主党・山尾志桜里氏
 (国の交戦権を否定した)憲法9条にしっかり自衛権を位置付け、それを戦力であることをきちんと認めた上で、国民の意志で枠づけをしていくことをこれからも皆さんの知恵を借りながら訴えたい。国家が危機を乗り越えるために必要不可欠な力を、憲法で無視し続けることでその力を抑制しようというのは、日本の「法の支配」にとっては有害だ。
■日本経団連・井上隆常務理事
 緊急事態条項を持たない憲法は世界でもまれだ。「オールハザード型」の危機対応にはなっていないことは気がかりで、複合型の災害や国家の危機を乗り越えられるのか、法治国家としての制度的な備えは十分なのか、今こそ再考する必要がある。わが国最高法規である憲法も社会の変化や時代に即し、国民的な議論が行われることは当然であり、決して不磨の大典ではない。国民一人一人が議論をし、次の世代に引き継いでいく作業が必要だ。
■日本青年会議所・佐藤友哉副会頭
 今の憲法には住民自治を明確に示す言葉がない。新型コロナウイルス禍では感染対策は地域によってさまざまだ。地域の実情にあった対策が打てるように国と自治体の権限のあり方を考えるべきだ。これからの地域発展を考える上でも、地方自治に関する憲法のあり方が今後大いに議論されることを心から期待する。
■国士舘大・百地章特任教授
 国家的な緊急時においても、国会の機能を維持し、国民の生活を守る必要がある。例えば、感染症の拡大によって全国から国会議員が集まれず、定足数が満たせない場合、どうするのか。来週に国会で感染症が発生し、定足数を満たせなかったら、すぐに起きる問題だ。国会の機能を維持するためにも憲法に根拠規定を置く必要がある。

*1-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP515JTYP4XUPQJ008.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2021年5月3日) 制限と補償の前に、問いたい法解釈と統治 木村草太さん
 いま、日本の統治機構の憲法原則が脅かされている――。憲法学者の木村草太さん(東京都立大学教授)は言う。長引くコロナ禍で、移動や営業の自由が制限される生活が続き、十分な補償がない「制約」には、反発の声が繰り返し上がる。そんななか、統治のあり方にこそ、日本社会の危機の本質がある、という指摘だ。どういう意味なのかを聞いた。
●必要なのは正しい解釈に基づく検討
――東京や大阪、京都、兵庫で緊急事態宣言が出されています。「感染拡大を抑えるため」「人の流れを止めるため」という理由です。結果、移動や営業の自由に制約がかかっている。そもそもこの状況は、日本国憲法が保障する自由の侵害には当たらないのでしょうか。
 「結論からいうと、二つの条件が満たされれば、私権の制限は可能です。①規制の目的が自由の制限を正当化できるほど重要で、②規制の方法が合理的かつ、必要不可欠であれば、法律に根拠のある規制は合憲とされます。コロナ禍に当てはめれば、毒性の強い感染症のまん延を防ぐという『目的』の重要度は高い。感染症の専門家が合理的で必要だと考え、かつ法律に即した『手段』であれば、自由の制約は正当化され得るということになります。日本に限らず、欧米など立憲的憲法を持つ国々では、このような論理でコロナ禍における自由の制約がなされてきました」
――意外にハードルが低いように聞こえます。
 「いや、違います。むしろ『感染症対策なのだから、どんな制約でも我慢しろ』という論理は通用しないことを意味しています。その感染症を抑制することが社会にとってどれほどの重要性を持つのか、そして制約の内容、すなわち手段が科学的・法的根拠に照らして適切なのかという視点が重要です。そして法的根拠も伴わなければなりません。米国では、制約の度合いが適切な範囲を超えているから違憲だ、という判決も出ています」
――「やりすぎ」はいけない、ということですね。
 「感染症の拡大を止めるという目的に対して、その対策は役に立っているといえるのか。もっと緩やかな制約で効果的なものはないのか。こうした細やかな検討が不可欠です。具体的にいえば、人が集まってもほとんど会話しない映画館や、個人が黙々と打つパチンコ店の営業を制約する必要があるのか。営業自粛を要請するとして、それに従わない場合の罰則はどの程度にするのか」
●ユカちゃん店主、首相答弁に衝撃 コロナ禍の自由とは?
 「言い換えれば、自由を制約する政策には、こうした法律の正しい解釈に基づいた細かな検討こそが必要です。ですが、この1年以上にわたるコロナ禍でこうした意識が今の政府には決定的に欠けていることが明らかになりました」「自由と補償をめぐる議論が繰り返されてきましたが、憲法上の問題という意味では、法の支配や政府の国民への説明責任といった、日本の統治機構の憲法原則が危機にさらされていることがより深刻だと考えています」
[記事後半で木村さんは、コロナ対策に関する国の目標設定のあいまいさや、不十分な説明について論じます。そのうえで、近年の政権の憲法や法解釈に対する向き合い方についても鋭い指摘をします。]
●目標ないまま場当たり規制
――どういうことですか。
 「まず、先ほど示した条件の一つ目、『規制の目的』について考えてみましょう。政府は、これを具体的に設定できていないし、国民に十分な説明もしていない。今回のウイルスをどの程度封じ込めるべきかという問題です。例えば、完全な『ゼロコロナ』を目標にするなら、行動抑制は広範で強いものになります。一方、1日千人くらいの陽性者は許容するということにするなら抑制の程度は弱まります」「感染拡大から1年以上が経った現在も、目的・目標を明確に示せずにいる。これがないと、第2の条件に当たる規制の正当性は評価できません。規制の方法が合理的かつ必要不可欠かは、目標によります。それがなければ国民からすれば場当たり的にしか映らない規制がまかり通ることになります」
――他国も感染は拡大しました。
 「もちろん日本と同じように当初混乱しました。ただヨーロッパの多くの国では、感染者数・死者数の規模が大きかった。そのため、コロナの毒性への評価や恐怖について、社会的に合意形成がしやすかった。日本では、人によってウイルスの毒性に対する評価が違うので、必要だと考える規制の範囲や強度にも食い違いが顕著に生じたように見えます。新型コロナウイルスは、より致死性の高いエボラ出血熱などと比較すると、社会的な意思決定がしにくい特徴を持っているともいえます。しかしここは、政治が率先してリーダーシップを取るべきでした」
――「営業自粛を求めるならば、その分の補償を」という議論が繰り返されてきました。十分な額とはいくらかという議論はあるとしても、一部の業種にだけ制約が偏るならば憲法14条が定める法の下の平等、あるいは29条の営業の自由の侵害にならないのですか。補償がない、あるいは十分ではない、というのは憲法違反と言えませんか。
 「それは難しい。憲法29条3項は『私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる』と定めていますが、公平性の観点からの議論です。つまり、ある人だけが不公平に財産権を制約されてはいけない。でも制約される人に理由があれば別なのです。例えば、食中毒を出した店への営業停止命令が出た際に、補償はされませんよね。その店に『内在するリスク』があるからです」「コロナ禍のスタート時点では、憲法の観点からすると、飲食店には社会を脅かすウイルスの感染を拡大させるリスクが内在するから補償はできない、という論理だった。ただ、私は今は状況が変わったと考えています」
――どういうことでしょう。
 「緊急対応を余儀なくされた当初と比較すれば、ウイルスについてわかってきた情報も多く、各飲食店もさまざまな対策を講じている。一方で、営業自粛要請は非常に長期間に及んでいる。感染症対策をしていようがいまいが一律に規制する手法が、『内在するリスク』への対応として正当なのかどうか、疑問が生まれます。映画館や書店に関しても同様です」
●揺らぐ立憲主義の根幹
――リスクの評価の基準はどうすれば?
 「このリスクの評価は、政府が掲げる目標との関係で決まります。コロナ・ゼロを目標にするならば、もちろん制約は広範囲に強く、そして長くなります。その場合は『3密』産業には業種転換支援を政策として打たないといけません。『人の流れを止めるため』という漠然とした理由で、ある業種だけが狙い撃ちになるのは正当化できません」
――政府が目標を設定し、説明責任を果たせていないのが問題だということですね。 「明確な目標を設定し、それを法令に明記して国民に説明し、理解を得ようとする。それをしないまま政策を打ち続けるということは、『法律による行政』を軽んじていることになる。立憲主義の根幹を揺るがしかねない問題です」「思い返すと、昨年2月に当時の安倍晋三首相が法的根拠もないまま、全国一斉休校宣言をしました。当時は新型コロナウイルスには新型インフルエンザ特別措置法は適用できませんでしたから、法の外からの『要請』でした」「翌月にはこの特措法を適用できるよう法改正をしました。少しテクニカルな話ですが、新型インフルエンザ対策であるこの法律では、市中感染が広がっている状況では、緊急事態宣言は継続する、となっていた。これだと新型コロナの場合、宣言は解除できない。ですがそうなりませんでした。そして昨年4月の緊急事態宣言の理由として、医療体制の崩壊が語られました。これも法律に書かれていない。何となく数字が下がってきたので解除し、増えると宣言を出す。一貫して法的根拠という視点が軽視されてきました」
――当初は想定されていなくて対応が遅れた、ということではありませんか。
 「今も変わっていないと思います。まん延防止等重点措置をめぐる混乱がその一例です。この措置とは、法律で定められた内容をみると、『医療崩壊寸前に行われる強力な措置』です。でも、『まん延防止』と表現してしまうと、一般的には医療崩壊寸前というより『まだまん延していない』というニュアンスで受け取られます」「官僚がこういう名称を提案してきても、政治家は、果たしてこの名称で、自分が日頃から付き合っている地元の支援者たちに法律の内容が伝わるだろうかと考えないといけない。政治家が政府と国民をつなぐ仕事ができていない。政治家が想像力を働かせて主張するべきところでしたが、機能しませんでした」
●問われる統治のあり方
――こうした事例から言えることは何でしょうか。
 「政府が法の解釈や整合性などを気にしなくなってしまったことのマイナス面がわかりやすく示されてしまった。コロナ禍によってと言うよりも、もう少し長いタイムスパンで起きてきました。2015年の安保法制時の憲法解釈の変更、そして最近では日本学術会議の問題でも従来の法解釈をないがしろにしてきた」「法文言の正しい解釈を尊重しながら、必要な目標設定をしてそれを国民に向けて説明する。こうした統治や民主主義の根幹を揺るがすことに慣れてしまっているように見える。国民の命や暮らしをおびやかす形で、露呈したのがコロナ禍といえます」
――行政に権力が集中していなかったから感染症対策で後手に回って、東京などでは3度の緊急事態宣言を出さないといけなくなった、ではなくて……。
 「その反対でしたね。法の支配や説明責任を軽んじてきたから、様々な法改正や宣言の意味を国民と共有できていない。権力があるだけでは、統治機構はきちんと機能しない。実際に法を超えて、権力行使して実現したのが、首相による『一斉休校』とマスクの配布だったことを思い出すと、いかに憲法に基づいた法の支配が重要かがわかります」「自由と補償の前提、統治のあり方の問題です。自由と補償の議論は重要なんですが、むしろそうした議論ばかりになってしまうと、それが今の危機を見失うごまかしの手段になってしまうことを懸念しています」(聞き手・高久潤)
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1980年生まれ。専門は憲法。著書に「憲法学者の思考法」「平等なき平等条項論」など。
 
*1-4:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210503.html (日本弁護士連合会会長 荒 中 2021年5月3日) 憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話
 本日は、日本国憲法が施行されてから74年目の憲法記念日です。昨年から続く、新型コロナウイルスの感染拡大については、引き続き予断を許さない状況にあり、本年も新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置(以下「緊急事態宣言等」といいます。)の下で憲法記念日を迎えることになりました。緊急事態宣言等の下で、市民や企業等には、外出・移動の自粛や休業・時短等が要請されている状況にあります。しかし、そのような感染拡大防止策を講ずる場合であっても、個人の権利は最大限尊重される必要があります。規制により生活が脅かされたり、事業活動が著しく制約されたりする場合には、速やかに適切な措置を講ずる必要があるとともに、その補償も課題となります。また、感染者やその家族、医療従事者等への偏見や差別は決して許されないことに留意する必要があります。加えて、ワクチン接種に伴い発生する様々な問題についても、きめ細やかに対応していく必要があります。報道によると、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、憲法を改正して緊急事態条項の新設を求める声も、与野党の一部にあるようです。しかしながら、感染拡大防止は市民の協力を得ての法律上の対応で十分可能です。憲法に緊急事態条項を新設することは、立法事実を欠くだけでなく、これにより個人の権利の侵害につながるおそれがあります。また、現在、衆議院の憲法審査会では、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」といいます。)の一部を改正する法律案の審議が行われており、本年5月6日に開催予定の同審査会において採決される可能性も報道されています。当連合会の2018年6月27日付け「憲法改正手続法改正案の国会提出に当たり、憲法改正手続法の抜本的な改正を求める会長声明」で指摘しているとおり、現在審議されている改正法案で取り上げられている事項以外にも、テレビ・ラジオの有料意見広告規制や最低投票率制度等、検討や見直しを行うべき重要な課題があります。当連合会は、今後もこれらの重要な課題の検討や見直しを含む憲法改正手続法の抜本的な改正を求めていきます。さらに、昨年は、検察官の定年後勤務延長問題や日本学術会議会員の任命拒否問題が発生しましたが、当連合会は各問題について意見表明を重ね、憲法の基本原則を脅かすような問題があることを指摘しました。当連合会は、新型コロナウイルスの感染拡大という状況の下においても、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、人権擁護のための活動を積極的に行ってまいります。

<コロナのワクチン・検査・治療>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2291I0S1A420C2000000/ (日経新聞 2021年4月22日) ワクチン、自治体要望に400万回分不足 GW後の供給分
 河野太郎規制改革相は22日の記者会見で、5月10日からの2週間で自治体に届ける高齢者向けの新型コロナウイルスのワクチンを巡り都道府県別の配分量を発表した。自治体の要望する量に供給が約400万回分足りないといい、河野氏は「申し訳ない」と陳謝した。政府は2週間で1万6千箱(約1900万回分)を配送する計画にしている。自治体に希望量を聞いたところ1万9571箱(約2300万回分)で、供給量を約400万回分超えた。そのため希望量に応じて傾斜配分し、供給量を決めた。東京都が2064箱(約240万回分)と最も多く、埼玉県1095箱(約130万回分)、大阪府1058箱(約120万回分)と続いた。河野氏は「最初だからまだ手元に在庫がなく、予約を取るときに若干の不安があるということも入った数字だと思う」と述べ、自治体が在庫分も含めて発注した可能性を指摘した。その後の供給については、各自治体の希望と接種実績を踏まえて決めていくという。65歳以上の高齢者向けワクチン接種は4月12日に始まった。当初は供給量が限られ、大型連休前後から米ファイザーからの輸入量が増加する。政府は6月末までに高齢者全員が2回分の接種を受けられる量を供給できるとしている。

*2-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP546WW5P54ULFA009.html?iref=comtop_7_05 (朝日新聞 2021年5月4日) ファイザーワクチン、売上高2兆8千億円の見込み
 米製薬大手ファイザーは4日、今年の新型コロナウイルスワクチンの売上高が260億ドル(約2兆8千億円)になる見込みだと発表した。年内に供給する予定の16億回分の売上高にあたる。2月時点の予想(150億ドル)から大幅に増えており、今後契約数が増えればさらに金額が増えるという。ワクチンの売上高が上積みされ、会社全体の売上高は705億~725億ドルと、前年の419億ドルから大幅に増える見込みだ。4日発表した1~3月期決算で明らかにした。1~3月期のコロナワクチンの売上高は34・6億ドル(約3800億円)。会社全体の売上高は、前年同期比45%増の145・8億ドル、純利益も同45%増の48・7億ドルで、ともにワクチンの販売が大きく貢献した。ワクチンは、ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが共同で開発した。日本政府が契約しているモデルナも2月、今年のコロナワクチンの売上高が184億ドル(約2兆円)になる見込みだと明らかにしている。

*2-1-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14894139.html (朝日新聞 2021年5月5日) コロナ薬にアビガン、実現は 安倍前首相「承認めざす」発言、1年
 新型コロナウイルス治療薬の候補として、注目を集めた抗インフルエンザ薬「アビガン」について、安倍晋三・前首相が「今月中の承認をめざしたい」と異例の発言をして1年が経つ。承認申請はされたが継続審議となり、新たな臨床試験(治験)が始まった。この間に何がわかったのか。今後どうなるのか。
■申請→有効性「判断困難」→再治験
 アビガンは2014年、従来の薬が効かない新型インフルエンザ向けに承認された。細胞に入ったウイルスの増殖を抑える薬だ。製造元の富士フイルム富山化学が20年3月に新型コロナ向けの治験を始めた。有効性を示すデータがまだ出ていない昨年5月4日、安倍氏は会見で、「一般の企業治験とは違う形の承認の道もある」などと述べ、月内の承認をめざすとした。この直後に厚生労働省は、「治験データは後でも可」と早期承認が可能となる特例を設けた。だが患者が減り参加者が集まらず、治験と別の特定臨床研究では、統計的な有効性は示せなかった。同社は9月23日、治験の結果を発表。特例は使われず、10月16日に厚労省に製造販売の承認申請をした。12月21日、厚労省専門部会での審議は荒れた。審査を担う医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は新型コロナへの有効性について、「現時点で明確に判断することは困難」としながら、流行が広がる緊急的な状況に備えるため、「使用可能な状況にすることも検討は可能」と説明した。朝日新聞が入手した議事録によると、委員からは厳しい意見が相次いだ。「ちゃんとしたエビデンス(科学的根拠)がない」「解析計画とかデータの取り扱いに信頼性がない」「有事だからこそ正当な科学的手続きは通すべきだ」。論点の一つは治験の手法だ。20~74歳の重症ではない新型コロナの患者156人が参加し、偽薬とアビガンをのんだ患者の経過を比べた。どの患者がアビガンをのんだか、医師が知っている「単盲検」という手法だった。アビガンをのんだ患者は、PCR検査で陰性になるまでの中央値が11・9日。偽薬をのんだ患者より2・8日短かった。客観的な効果の評価には、薬か偽薬かを医師も患者も知らない「二重盲検」という手法が通常は使われる。単盲検にした理由は、急変時の患者の安全の確保のためなどという。どの患者が薬をのんだか医師が知っていると、薬が効いたのだろうとの思いこみが生じうる。PCR検査や肺のCT画像撮影のタイミングに客観性がない可能性も指摘された。結果の解析方法の不備も指摘され、承認は先送りとなった。同社は審議結果について「治験のプロトコル(実施計画書)は適正プロセスにのっとって、PMDAに提示し、合意を得た」とのコメントを出した。
■専門家「治験、根本的見直しを」
 継続審議となったアビガンは今も、患者の希望と医師の判断による「観察研究」の枠組みで使われている。クウェートや米国での二重盲検の治験の結果が待たれていた。クウェートでは1月に治験を終え、結果を発表。中等症と重症の計353人の患者では、アビガンをのんだ方が、偽薬よりも回復期間が1日早かったが、有意差はなかった。ただ、軽症者ら181人ではアビガンの方が3日早く退院できた。米国では昨年から軽症、中等症の826人での治験を続ける。そんな中、富士フイルム富山化学は4月21日、国内で二重盲検による治験を新たに始めたと発表した。対象は50歳以上の男女316人。発熱などの症状が出たばかりの軽症者で、基礎疾患があるなど重症化リスクがある患者に絞り、薬の効果が出やすいようにした。10月末まで有効性や安全性を調べる。データを基に、部会で再審議される。ただし予定通り終わるかや、審査にかかる期間は見通せない。アビガンはのみ薬で使いやすいが、動物実験で胎児に奇形が出る恐れがわかり、副作用も懸念されている。承認前の薬だが、備蓄のための追加購入もあった。元々新型インフルのために約70万人分を備蓄していたが、厚労省は昨年度、新型コロナ治療のため、約134万人分を購入した。予算案では139億円を計上した。臨床現場からは「ハイリスクの患者がのみ、重症化が防げるならばブレークスルー(突破口)になりうる」という声が上がる。一方、「効かないという前提をつくりたくないだけではないか。ほかの感染症が次に流行した時にアビガンを使いにくくなるから」との声も漏れる。臨床試験に詳しい日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之教授(腫瘍〈しゅよう〉内科)は言う。「科学的に有効性が示されて初めて薬は承認される。これが基本。ヒトを対象にした試験が成功する可能性は低く、結果が出る前に承認への言及があることそのものがおかしい」。日本では製薬企業主導の試験が多く、米国のように研究者によるものが少ないことも問題視する。「コロナ禍を機に、臨床試験を推進し、正しい情報発信をする機関を作るなど根本的な見直しをすべきだ。政治から独立した機関を設け、質の高い臨床試験ができる環境を整えてほしい」と話す。

*2-1-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFB25AAL0V20C21A1000000/ (日経新聞 2021年2月9日) 東京都医師会、イベルメクチン投与を提言 重症化予防で
 東京都医師会の尾崎治夫会長は9日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、主に自宅療養者の重症化を防ぐ狙いで薬剤の緊急使用を提言した。海外で重症化を防ぐ効果が示されているとして、抗寄生虫薬「イベルメクチン」などをコロナ感染者らに投与すべきだと強調した。イベルメクチンのほか、ステロイド系の抗炎症薬「デキサメタゾン」の使用を国が承認するよう求めた。尾崎氏は「(いずれも)副作用が少ない。かかりつけ医のレベルで治療ができるよう、国に検討してほしい」と述べた。イベルメクチンもデキサメタゾンも国内で処方されている。ただ、コロナの治療薬としては承認されていない。8日時点で都内には自宅療養者が約1600人、入院先などが決まらず「調整中」になっている感染者も約1600人いる。軽症や無症状の多い自宅療養者の容体急変にどう対応するかも課題になっている。尾崎氏は都内の1日当たり新規感染者数について「100人ぐらいまでに抑えることが4~6月の状況を良くする道だ」と強調した。都内では9日、412人の新規感染者が確認された。

*2-1-5:https://newswitch.jp/p/25238 (Newswitch 2020年12月27日) 来年3月に臨床試験終了へ、抗寄生虫薬「イベルメクチン」はコロナに効くか
 北里大学大村智記念研究所感染制御研究センターは、抗寄生虫薬「イベルメクチン」について、新型コロナウイルス感染症の治療薬としての臨床試験を2021年3月にも終了し、製造元の米製薬大手MSDに試験結果を提供する。MSDは効果を検証しながら、承認申請を検討する見通しで、新型コロナの治療薬として認められれば、抗ウイルス薬「レムデシビル」とステロイド薬「デキソメタゾン」に続き、3例目となる。臨床試験を取りまとめている花木秀明センター長が方針を明らかにした。イベルメクチンは寄生虫感染症の治療薬だが、エイズウイルス(HIV)やデングウイルスへの効果が報告されている。ウイルスの遺伝子であるリボ核酸(RNA)の複製やたんぱく質生成を阻害するほか、サイトカインストーム(免疫暴走)を抑制する作用が期待される。米ブロワードヘルスメディカルセンターの研究では、イベルメクチンの投与により、新型コロナ重症患者の致死率が80・7%から38・8%に改善した。イベルメクチンは駆虫薬として、19年には世界で4億人以上に投与され、大きな副作用は確認されていない。新型コロナへの治療薬としては、インドやペルーなど29カ国で研究が続けられている。花木センター長は「日本ではイベルメクチンの知名度が低いが世界では駆虫薬として知られ、新型コロナの治療効果の検証が進んでいる」と説明。「日本でも新型コロナ治療薬としての可能性を広く知ってもらい、試験を進めたい」と述べた。イベルメクチンは、寄生虫によって引き起こされる「オンコセルカ症」の治療に使われる。オンコセルカ症は目のかゆみや発疹などが生じ、失明に至ることもある。イベルメクチンのもととなる化合物アベルメクチンの発見により、北里大学の大村智特別栄誉教授は15年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

*2-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041700411&g=soc (時事 2021.4.17) 変異型、首都圏で急拡大 「5月前半に8~9割」―全国は1カ月で4倍
 新型コロナウイルス感染拡大の「第4波」が鮮明になる中、関西圏で急拡大する変異ウイルスが首都圏でも猛威を振るう恐れが強まっている。国立感染症研究所は、首都圏での新規感染者に占める変異型の割合が5月前半に8~9割に達する恐れもあるとみて、警戒を強める。厚生労働省によると、全遺伝情報(ゲノム)解析で確定した変異型の国内感染者は、3月9日時点では21都府県の271人だった。今月13日時点で42都道府県の1141人となり、1カ月で4倍超に激増した。国内の変異型は大きく分けて、英国型、南アフリカ型、ブラジル型、由来不明型の4種類。国内感染者の94%超を占める英国型は、ウイルスが細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパクに細胞と結び付く力を強める「N501Y」変異がある。厚労省の集計に含まれない由来不明型は関東や東北で拡大し、ワクチンの効果低減が懸念される「E484K」変異が特徴。南ア型とブラジル型は両方の変異を併せ持つ。フィリピン、米国に由来する変異型も確認されたが広がりはない。変異は、ウイルスが細胞に入り込み、遺伝物質RNAをコピーして増殖する際のコピーミスで起きる。N501Yは、スパイクタンパクの501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変わったことを意味する。E484Kは484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リシン)に変化している。特に急拡大が懸念されるのが、感染力が強いN501Y変異だ。東京で拡大した由来不明型は、英国型に取って代わられつつある。感染研によると、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)での感染者に占めるN501Y変異の割合は、現在の約5割から、5月前半には8~9割になると推定される。東海圏(静岡、愛知、岐阜、三重)、関西圏(大阪、京都、兵庫)、沖縄では5月前半までに9割台後半になる見通しだ。厚労省専門家組織のメンバーは「東京でもN501Y変異に置き換わってきているが、プラスアルファの変異が出る恐れもある。ゲノム解析を通じ変異型を追い掛けることが重要だ」と話す。

*2-2-2:https://www.yomiuri.co.jp/national/20210428-OYT1T50275/ (読売新聞 2021/4/28) 変異ウイルス猛威の「第4波」、クラスター発生場所が多様化
 国内で4月に発生した新型コロナウイルスのクラスター(感染集団)が463件に上り、場所別では初めて職場(96件)が最多となったことが、厚生労働省の助言機関の集計でわかった。昨年末以降の第3波では飲食店を「急所」とみて対策が強化されたが、変異ウイルスが猛威をふるう今の「第4波」では、学校や高齢者施設なども含めて、発生場所が多様化している。助言機関によると、把握が難しい家庭内を除いて、昨年1月以降に発生した5人以上のクラスターは計4631件。昨年春の第1波では医療機関で、続く夏の第2波では接待を伴う飲食店を中心とした「夜の街」での感染事例が目立った。年末から年始にかけて感染者が急増した第3波では、会食のリスクが注目され、各地で飲食店への営業時間短縮要請などが行われた。だが現在の第4波では、日常生活全般で感染が懸念される事態となっている。今年4月1日~23日の暫定値463件の内訳をみると、最多の職場(96件)に続いて、学校・児童福祉施設(90件)、高齢者施設(86件)、飲食店・会食(82件)などが多かった。職場感染は2月は49件だったが、4月に入り拡大した。厚労省の職員らが3月下旬、深夜まで23人が参加する送別会を開催したケースでは、参加者12人を含む同じ部局の29人の感染が判明。送別会との因果関係は不明のままだが、会議で使うデスクや電話機、コピー機など共用の備品を通して感染が拡大した可能性があるという。一方、助言機関は小中学校や大学、学習塾などで昨年1月以降に起きた489件のクラスターも分析。その結果、部活やサークル活動が要因とみられる事例が2割(100件)に上り、大学では4割(58件)を占めた。横浜市では、慶応大ラグビー部員ら78人(28日現在)の感染が確認された。寮生活などが原因の可能性があるという。政府は、こうした部活やサークル活動の自粛を呼びかけている。東京、大阪など4都府県への緊急事態宣言による飲食店の休業などで、「路上飲み」による集団感染も新たな課題となっている。国立感染症研究所の脇田隆字所長は「大型連休に向けて一人一人が不要不急の外出を減らし、マスク着用など感染防止対策を徹底してほしい」と話している。

*2-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/23b1e6bf4c3850bde326210845eca8900e01a7b3 (Yahoo 2021/4/29) 「戦時中に責任回避した旧日本軍のようだ」…五輪中止決定できないという菅首相に批判殺到
 「感染拡大が続いているのに自ら五輪中止を決定できないとは、戦時中に無謀な作戦を強行し多くの犠牲者を出した旧日本軍と全く同じだ」。日本の医療関係者がある日本メディアで新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも「五輪開催決定は国際オリンピック委員会(IOC)がすること」としながら責任を転嫁した日本の菅義偉首相をこのように批判した。東京五輪開幕を85日後に控え、日本政府は「五輪強行」を叫んでいるが、責任者の間では内紛が起きる雰囲気だ。五輪開催と進行案をめぐり日本の首相はIOCに、担当大臣は主催都市である東京都に、互いに決定と責任を転嫁しようとする。こうした中、日本政府の新型コロナウイルス分科会会長は28日、五輪開催の是非について「そろそろしっかり議論すべき時期にきている」と警告した。
◇「安倍首相は『五輪延期』を直接決定」
 菅首相は23日、東京都や大阪府など4都府県に3度目の緊急事態宣言を発令する席で、五輪中止の可能性と関連した質問を受け「五輪の開催権限はIOCにある」と話した。感染者がさらに増加しても、緊急事態宣言が続いても、自身には五輪中止を決める権限がないという「責任回避」だ。菅首相は続けて「IOCがすでに東京五輪を開催するということを各国のオリンピック委員会とともに決めた」とも述べた。現在日本の新型コロナウイルスの状況は深刻だ。緊急事態宣言にもかかわらず、28日の1日だけで日本全国で5791人の感染者が確認された。五輪開催都市である東京では29日に1027人の感染者が確認され、3カ月ぶりに1日の感染者数が1000人を超えた。楽観を難しくするのは変異ウイルスだ。28日に開かれた東京都のモニタリング会議では現在の東京都内の感染者の59.6%が感染力の高い「N501Y」型の変異ウイルス感染者とされ、「こうした状況が続く場合、2週後には東京都の1日の新規感染者は2000人になるだろう」という予測も出てきた。だが、緊急事態宣言が延長される場合に五輪はどのようにするのかなどに対してはだれもが明言を避けている。特に菅首相の無責任な態度に対する批判が激しい。東京新聞は、五輪で感染が全世界に広がっても(IOC委員長の)バッハさんがやれと言ったとして責任を転嫁するのだろうかと皮肉った。昨年安倍晋三首相(当時)は五輪を1年延期することを直接決め、こうした意向をIOCに伝えた。
◇医療陣確保問題、政府と都知事、互いに「相手のせい」
 現在五輪開催の最も大きな障害に挙げられるのは医療陣の確保だ。五輪組織委員会は五輪期間中に1日に医師300人、看護士400人ずつ、大会期間中に延べ1万人以上の医療陣が必要なものと予想している。だが、医療界は「テレビで五輪を見る時間もない」として難色を示している。新型コロナウイルスの感染再拡大でそうでなくとも昼夜なく働いているところに、5月からはワクチンの大規模接種も始まるだけに、人材派遣は不可能だという立場だ。丸川珠代五輪担当相は27日の記者会見で、これを確認する質問に「(責任を持っている)東京都がどのように取り組んでいくのか、具体的なことがまだ示されていない」としながら東京都に苦言を呈した。これを受け東京都の小池百合子知事は「実務的には詰めている。コミュニケーションをしっかりとっていく必要がある」と受け返した。日本政府と東京都が医療陣の確保をめぐり舌戦を行った格好だ。こうした中、日本政府の感染症対策分科会を率いる尾身茂会長は28日の国会で「組織委員会など関係者が感染のレベルや医療の逼迫状況を踏まえて(五輪開催の)議論をしっかりやるべき時期に来ている」と話した。政策決定に深く関与してきた尾身会長が五輪中止の可能性に公式に言及したのは今回が初めてだ。彼は五輪開催の可否判断には、感染の状況と医療の逼迫状況が最も重要な要素だと説明した。
◇五輪参加選手は毎日コロナ検査
 一方、五輪組織委員会が28日に公開した東京五輪の感染防止に必要なルールをまとめた「プレーブック」の内容についても論議が起きている。このルールによると、五輪に参加する選手とすべての大会関係者は各国から出国する時点を基準として96時間(4日)以内に2回の新型コロナウイルス検査を受けた後に陰性証明書を提出することを明記した。入国時に日本の空港での検査で陰性判定を受けた選手は14日間の隔離が免除され、入国初日から練習できる。だが、入国後は毎日1回ずつ新型コロナウイルス検査を受けなければならず、活動範囲は宿泊施設、練習会場、競技場に制限される。また、選手を含むすべての関係者は原則的に一般市民とは接触できず、公共交通機関も利用できない。五輪による感染拡大を防ごうとする措置だが、行き過ぎた制限という反発も出てくる可能性が大きい。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などには「ここまでしながら五輪をやるべきなのか」という懐疑的な反応が続いている。上智大学の中野晃一教授は東京新聞に、さまざまな国の選手たちと観衆の交流という五輪の意義そのものがすでに失われた状況で、海外から不参加通知が続いてやむを得ず五輪中止に追い込まれる前に日本の政治家が責任を持って決定を下さなければならないと話した。

*2-4-1:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20210507&be=NDSKDBDK・・ (日経新聞 2021.5.6) 米、ワクチン特許放棄を支持 途上国の供給後押し
 バイデン米政権は5日、新型コロナウイルスワクチンの国際的な供給を増やすため、特許権の一時放棄を支持すると表明した。ワクチンが足りない途上国が世界貿易機関(WTO)で要請していた。製薬会社は反対しており、交渉の先行きは不透明だ。米通商代表部(USTR)のタイ代表は声明で、WTO加盟国がワクチンの特許権を保護する規定を適用除外とする案を支持すると表明した。「コロナのパンデミック(世界的な大流行)という特別な状況では特別な政策が必要だ」と指摘した。各種特許はWTOの「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」で保護が定められている。インドや南アフリカは自国でワクチンの生産を増やすため、ワクチンを同協定から一時的に適用除外とするよう求めていた。ワクチンを開発した製薬会社を抱える米国のほか、欧州連合(EU)など先進国は特許権の放棄に反対してきた。米国が支持に回ったことで、WTOで具体的な条件を詰める。USTRは問題が複雑で「交渉には時間がかかる」と指摘した。バイデン政権は自国民へのワクチン接種を優先するため、他国への供給に消極的な姿勢を貫いてきた。国内外から「ワクチンを独り占めにしている」との批判が高まっていた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は5日、「新型コロナとの闘いで、記念すべき瞬間だ。特許の放棄の支持は、世界の健康問題に取り組む米国のリーダーシップの強力な例だ」との声明を出し、米国の決定を称賛した。

*2-4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210507&ng=DGKKZO71628670X00C21A5MM0000 (日経新聞 2021.5.7) 独、ワクチン特許放棄に反対の構え EU首脳が議論へ
 欧州連合(EU)は7日から始まる首脳会議で、新型コロナウイルスのワクチン供給拡大に向けて、特許権を一時的に放棄する考え方を支持するかどうかを討議する。バイデン米政権が前向きな姿勢を示したためだが、ドイツのメルケル政権は反対する構えだ。特許権を持つ製薬会社が本拠地を置く国・地域での議論が本格化する。EUは7~8日、ポルトガルのポルトで首脳会議を開く。フォンデアライエン欧州委員長は6日の講演で、ワクチンの供給増という目的の達成に向けて「バイデン米大統領の提案を議論する用意がある」と語り、27カ国の首脳間で話し合う考えを表明した。ドイツメディアによると、独政府の報道官は「知的財産の保護はイノベーションの源泉で、将来もそうでなければならない」などと述べ、特許権の一時放棄に否定的な考えを示した。ワクチンの普及を妨げているのは生産能力や品質管理の問題であって、知的財産の保護が原因ではないというのがドイツ政府の主張だ。ドイツにはワクチン開発にいち早く成功したビオンテックが本拠を置く。急浮上した特許の一時放棄という考え方への反発を強めている。ただ、欧州内でも考え方は分かれている。フランスのマクロン大統領は6日、「完全に賛成する」との考えを示した。首脳会議で結論が出るかどうかは見通せない。バイデン米政権は5日、ワクチンの特許権の一時放棄について、従来の慎重姿勢を一転させ、支持する姿勢を打ち出した。ワクチンの供給が遅れている途上国向けの生産を増やすためだ。だが製薬会社は強く反発している。

<環境軽視は生存権の侵害>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14883435.html?iref=comtop_Opinion_04 (朝日新聞社説 2021年4月25日) 温室ガス削減 具体策示して変革促せ
 菅首相が、米国主催の気候変動サミットで、2030年度の温室効果ガスの排出量を13年度より46%削減する目標を掲げ、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と表明した。従来を大幅に上回る目標を世界に約束したことは評価できる。しかし実現へのハードルは高い。乗り越える道筋を早期に描く責務が、首相にはある。地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定からトランプ政権の際に離脱した米国は、バイデン大統領になって復帰すると、サミット開催を呼びかけた。すでに昨年新たな目標を掲げた欧州連合に続いて今回、米国や英国も野心的な目標を提示。中国も参加し、気候変動では協調する姿勢を示した。世界で脱炭素の動きが強まるなか、日本は昨春、30年度の削減目標を13年度比で26%と、5年前のまま据え置いて国連に提出し、国際的に批判された。その後の昨年10月、菅首相が、森林などの吸収量を差し引いた実質的な排出量を「50年までにゼロにする」と表明したことから、30年度目標の引き上げ幅が注目されていた。首相が掲げた「50年実質ゼロ」は、気候変動の影響を減らすため、パリ協定が努力目標とする「産業革命前からの世界の平均気温の上昇を1・5度までに抑える」のに必要とされる。達成には、50年までの段階での二酸化炭素(CO2)排出削減も欠かせない。排出量1位の中国などの動きを促すためにも、5位の日本のさらなる目標上乗せを期待したい。今回の目標は議論を積み上げた結果ではなく、首相主導の政治判断で示された。世界は脱炭素に向けた産業構造の転換や技術開発を加速させており、取り残されれば日本経済の競争力を損なう。政府も産業界も対策を怠ってきた末、追い詰められて決断したともいえる。首相が強調する再生可能エネルギーの活用拡大を始め、CO2排出削減に向けた産業の構造変革を考えると、残された時間は短い。本気で「1・5度」を目指すなら、分野別の目標を示し、社会の理解を得る必要がある。そのうえで排出規制や税制改正、補助金などの誘導策を練り上げることが求められる。ただ、発電時にCO2を出さないことを理由に原発に頼るべきではない。日本社会は事故による甚大な被害を経験した。原発はリスクが極めて大きく、「ゼロ」を目指すべきだ。新目標の達成には、産業界も国民の生活も大きな変化を迫られる。それでも進めるべき意義を、政府は真摯(しんし)に説明し、新しい社会構造をつくる変革を促さなければならない。

*3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD271T10X20C21A4000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 「グリーン成長」の野心と下心 各国の覇権争いの舞台に
 削減率は米国が50~52%、欧州連合(EU)は55%、英国は78%、日本も46%へ。4月22~23日に開いた気候変動サミット。各国首脳は温暖化ガス削減の目標を競い合った。その舞台裏では「グリーンの土俵」の囲い込みを狙う各国の下心がのぞく。まず主催国である米国。「何百万もの高給な、中間層の、労働組合員の雇用を創出する」。バイデン政権は温暖化対策の訴えを、大規模な雇用創出と結びつけている。3月31日にはインフラ投資が柱の総額2兆2510億ドル(約240兆円)の「米国雇用計画」を発表済み。電気自動車(EV)支援の1740億ドルや電力網整備の1000億ドルが、環境対策の目玉だ。 2030年までに50万カ所にEV充電施設を設け、35年までに発電による温暖化ガスをなくす。今回のサミットは雇用計画の売り込みの場だ。最も野心的な目標を掲げたのは英国。昨年11月に「グリーン産業革命」を表明している。政府による総額120億ポンド(約1.8兆円)の投資で、25万人の雇用創出を狙う。なかでも切り札とする洋上風力は、30年までに発電量を4000万キロワットと現在の4倍に増やす。北海の強い風と遠浅の海を大きな武器とする。英国は今年6月に主要7カ国首脳会議(G7サミット)、11月に第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を議長国として開催する。EU離脱による孤立から抜け出し、温暖化対策の晴れ舞台で世界の主導権を握ろうとする意図は明らかだろう。そしてEU。いち早く19年12月に「グリーンディール」を打ち出した。その投資計画では、EU自身が30年までの10年間に1兆ユーロ(約130兆円)の投資に踏み切るとともに、民間から1兆9500億ユーロのグリーン投資を促す。産業の方向を示し、雇用を創るばかりでない。国際的な環境基準づくりで主導権をとろうとする意図を隠さない。例えば、環境にかなった「グリーン投資」とは何なのかの線引き。タクソノミー(分類)と呼ばれるが、EUは自らの基準を国際基準にしようと狙う。グリーンボンド(環境債)の発行額は年4000億ドルに達するとみられるが、そうした環境投資がEU基準となれば、投資家のマネーを吸い寄せることができる。環境規制によるコスト増で域外との競争で不利にならないためにも、EUは周到な用意をしている。「国境炭素税」だ。21年に原案を提示し、23年には導入の予定である。環境規制が手ぬるい国々からの輸入に関税を上乗せし、税収は欧州復興基金に充てる。輸入相手国に「最高レベルの環境基準」を求め、輸入品の製品価格を引き上げることでEUの産業競争力を維持する。しかも環境基準を満たすためにEUの脱炭素技術を導入したら、と売り込みを図る。あわよくば日本などから生産拠点をEU域内に移させようとも企てる。世界の温暖化ガスの4分の1を排出する中国はどうか。気候変動サミットでは、より高い目標は見事にやり過ごした。温暖化ガスの排出ピークの時期は従来の30年を変更せず、排出ゼロの目標年も60年と先進国より10年先のまま。これだと先進国が50年の排出ゼロの目標達成に失敗した場合にも、自国の経済活動が制約を被らずに済む。中国は20年にも原子力発電所30基に相当する3000万キロワットの石炭火力発電所の建設を続けた。その傍らで世界のEV市場を低価格車で席巻しようとする。今回のサミットは中国の参加を最優先したためか、そんないいとこ取りに目をつむる結果となった。翻って日本。議論を主導する米欧が投資や雇用、市場拡大を目指すのと同様、菅義偉首相はグリーン成長を掲げる。政府は脱炭素の研究開発を支援する2兆円の基金を用意したが、実際にどれだけの投資と雇用を創出できるのか。内外の市場は広がるのか。知りたいのはこの点である。広大な米国、平地主体のEU、風と浅瀬が強みの英国。再生可能エネルギーに有利なこれらの条件を日本は欠く。もともと高い電力料金が温暖化対策で一段と上昇すれば、グリーン成長どころか産業空洞化を加速させかねない。菅政権が活路を探るのは、米国との提携かもしれない。4月16日の日米首脳会談の後で発表された共同声明には「日米気候パートナーシップ」と題した付属文書がある。温暖化対策の枠組み(パリ協定)の「未決定要素の策定」で日米が協力する。付属文書はそう記す。温暖化対策の勝負は基準づくりだが、そこで「日米が連携しEUに対抗する」と経済財政諮問会議の新浪剛史氏は明言する。付属文書のもうひとつの注目点は、環境技術での日米協力。再エネ、蓄電池、次世代送電網と並び「革新原子力」なる耳慣れない言葉に言及している。米、英、カナダをはじめ各国が開発を競う「小型モジュール炉」のことだ。大規模な原子力施設を建てる代わりに、小型原子炉をコンパクトな格納容器に納め、設計の複雑さを解消したのが特徴。原子炉をプールのなかに沈めることで、緊急時にも外部電源に頼らずに済む、次世代の原発とされる。実用化は20年代末とみられる。福島の原発事故を経験した日本では役割を終えたように見られる原発。その間にも世界では急速な技術革新が進んでいる。温暖化対策で高い目標を掲げるには、エネルギー源の問題は避けて通れない。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210504&ng=DGKKZO71577370U1A500C2MM8000 (日経新聞 2021.5.4) Hを制する(2)水素都市へ走る中韓 見えてきた新・生態系
 中国南部の広東省仏山市高明区。経済発展に伴って立ち並ぶ高層マンションの間を縫うように路面電車が静かに走る。よく見ると給電に必要な架線がない。燃料電池を載せて水素(元素記号H)で走る「高明有軌電車」だ。
15分間の水素充填で100キロメートル走り料金は路線バス並みの2元(30円強)。地元に住む徐さんは「子どもと公園に行くのに使う。音が静かで快適だよ」と話す。2019年11月から運行を始め、20年の1日当たりの乗客数は1千人を超えた。
●国家主導で需要
 仏山市では水素で走るバスやトラックが約1500台運行し、中国全土の普及台数の約2割を占める。広東省には製造業が集積し材料となる樹脂製品工場も多く、副産物で水素が出る。市は18年から本格的に関連産業を振興し、数十の燃料電池関連企業が集まる。世界最大の水素生産国である中国。現状は工業用が大勢を占める。そこでいくつかの都市を仏山のような「水素都市」に選定。インフラを整えやすい商用車や鉄道に投資を集中し、国家主導で需要を作り出す。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、19年9月時点で中国を走る水素燃料車の99%超が商用車だった。現在は生成過程で二酸化炭素(CO2)が出る「グレー水素」が主流だが、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」でも手を打つ。北京市に隣接する河北省張家口市の農村地帯。小高い山に数百メートルの間隔で風車が幾重にも並ぶ、風力発電が盛んな場所だ。同省の国有企業は、この電力を使って水を分解し水素を生成する世界最大級の装置をつくった。欧州で固体水素の貯蔵技術を誇るマクフィーなどの技術協力を得て、設備やパイプラインの整備を進め、年間約1500トンの水素生産を見込む。調査会社の米ブルームバーグNEF(BNEF)のアナリスト、テングレル・マルティン氏は「水素を生成する水電解装置は半分以上が中国市場で売れる」と指摘する。強引にも映る市場創出で水素大国をめざすのは中国だけではない。韓国南東部の蔚山(ウルサン)。現代自動車が旗艦工場を置く人口115万人の工業都市を、韓国国土交通省は19年12月「水素モデル都市」に指定した。石油精製の過程で年間82万トン出る水素を使い、生産から消費までの生態系を整える。蔚山市の燃料電池車(FCV)の登録数は2000台と韓国全体の約2割を占める。購入時に半額が補助され、現代自のネッソ(NEXO)なら3400万ウォン(約330万円)で買うことができる。水素ステーションの設備費に至っては全額を公的補助。市によると一部では黒字化した。翻って日本はどうか。09年、世界に先駆けて家庭用燃料電池(エネファーム)を実用化し、14年にはトヨタ自動車が世界初の量産型FCV「ミライ」を発売した。水素大国を目指し技術では先頭を走っていたのに、市場の育成で中韓の後じんを拝す。
●供給網生かせず
 官営八幡製鉄所が整備され日本の近代産業発祥の地である福岡県北九州市の八幡東区。街中を長さ1.2キロメートルの水素パイプラインが走る。日本製鉄が製鉄過程で生まれる水素を供給し、岩谷産業が世界でも珍しい「街中パイプライン」を管理。実証住宅などに置かれた燃料電池に供給する。このプロジェクト、世界に先駆け10年度にパイプラインによる水素供給実験を始めたが、5年で一度打ち切った。18年度に再開したが来春にまた一部実験が終わる。官民一体で中韓のような「水素生態系」をつくり上げているとは言いがたい。せっかくの供給網を生かさなければ、日本だけ置いてきぼりだ。

*3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71582530V00C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.5) Hを制する(3)新ルールで市場創造 水素阻む縦割り規制
 水素(元素記号H)の普及を阻むのはコストや技術だけではない。規制も高いハードルとなる。「車検を通ったのに水素を充填できない」。奇妙な出来事が日本の燃料電池車(FCV)で起きている。ガソリン車や電気自動車(EV)は通常の車検のみで利用できる。FCVの水素を貯蔵するタンクは車検の対象外だ。国土交通省とは別に経済産業省所管の検査が要る。車検との間隔があわない場合があり、空白期間が生まれる。「タンクの横に貼ったシールで検査の期限が分かる。期限切れの場合はお客様に説明して帰ってもらう」と水素ステーションの運営者は話す。
●FCV活用に影
 全国に約100台あるFCバスは大型の燃料電池を載せ、地震や台風による停電時の非常用電源としても期待される。もっとも、学校などの防災拠点にFCバスから電気を送るには20日前までに自治体に届けておく必要がある。いつ起こるかわからない停電の備えとしては使いにくい。日本で水素は危険物扱い。たしかに水素は滞留すると爆発しやすく、漏れれば空気中に逃がす必要がある。2012~13年のアンケート調査では2割強が「水素はガソリンより危険」と答えた。水素の製造装置を開発する英ITMパワーのグラハム・クーリー最高経営責任者(CEO)は「水素はとても軽く、もし漏れても数秒で消える。ガスや燃料よりも危険度が低い」と話す。海外では安全に配慮しつつ水素を利用する動きが広がる。韓国政府は19年、南東部の工業都市、蔚山(ウルサン)を水素特区に指定した。韓国では動力源としての燃料電池は乗用車とバスに限るが、特区の蔚山はフォークリフト、船、ドローンにも応用できる。燃料電池の関連産業を育てる思惑だ。同年には国会敷地内に水素ステーションも開いた。規制の特例を活用したもので「水素は危ない」という不安を払拭する宣伝効果を期待する。FCVに力を入れる現代自動車は日本市場もねらう。英国北東部では今春、ガス管に20%の水素を混ぜる実験が本格化する。水素の混入分だけ温暖化ガスを減らせる。19年にキール大学で始まった実験の第1段階は成功し、規模を広げる。実験に参加するITMパワーによると、英国では1969年までガス管に60%の水素が混ざっており、北海ガス田の発見後にガス100%になった。クーリーCEOは「50年までにガス管を通る水素を100%にしたい」と話す。英国では水素はガス管に0.1%しか混ぜられないが、特別に規制を緩めて実験する。欧州のエネルギー企業など90社超も3月、欧州連合(EU)の欧州委員会にガス管への水素混入を広げるように求める要望書を出した。既存インフラを使えるガス管混入は、短距離では水素の最も安い輸送手段とされ、需要を押し上げる効果も大きい。
●韓国は専用の法
 日本は混合規制そのものがなく、ガス事業者に対応が委ねられる。日本ガス協会の広瀬道明会長(当時)は3月に「既存のガス管を活用する発想が大事」と語っており、統一のルール作りを急ぐ必要がある。日本で水素は化学プラントなどを対象にした高圧ガス保安法で主に規制される。韓国は水素の活用や安全規制をまとめた「水素経済法」を制定した。日本の企業関係者は「水素を推進したいならば、水素専用の法律が必要だ」と指摘する。国が安全性を担保するのは当然としても、水素利用を想定しない古い枠組みで縛れば規制もちぐはぐになる。水素社会という新市場を創造するには新しい枠組みを用意するのが近道だ。このままでは他の脱炭素技術と同様、水素も技術で勝って普及で負けかねない。

<医療・介護>
*4-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66372040Y0A111C2EE8000/ (日経新聞 2020年11月20日) 地域医療、浮かぶ非効率 改革の重責に自治体及び腰、コロナ禍に迫る2022年の壁(下)
 団塊の世代が75歳以上になり始め、医療費が急膨張する2022年の壁を乗り越えるには、非効率な医療供給体制の改革も必要だ。新型コロナウイルス危機は地域の医療体制の権限を持つ都道府県の力量を試した。都道府県別の1人当たりの医療費は最大4割近くの差が出る。千人当たりの病床数で全国最多の高知県は1人当たりの医療費が66万5294円と2位。病床数は最少の神奈川県の3倍だ。大和総研の鈴木準執行役員は「1人当たり医療費は人口当たり病床数と関係が強く、供給が需要を作り出している」と指摘する。病床数が危機時の力を左右するとは限らない。3月、神奈川県はコロナ患者を症状ごとに重点医療機関やホテル療養で柔軟に対応する「神奈川モデル」を導入した。病床数は最少でも県主導で効率的な体制を作り、その手法は全国に広がった。日本の千人あたりの病床数は先進国で最高水準で英国や米国の約5倍になる。それでも春先の感染爆発時は小さな医療機関を中心にコロナ患者をたらい回しした。「医療供給体制に無駄があることがコロナで浮き彫りになった」(鈴木氏)。「新型コロナとの戦いで都道府県の体制整備の責任に焦点が当たっている」。自民党の財政再建推進本部の小委員会は10月末、都道府県の医療体制へのガバナンス強化を求めた。地域に応じた医療体制の構築と医療費適正化の計画作りに関し、都道府県の責任を法律で明確にする内容だ。現行制度で医療体制整備の権限は都道府県にある。国は都道府県ごとに「地域医療構想」を作るよう求め、過剰な急性期病床の削減などを進め在宅医療への転換を促してきた。だが都道府県は民間病院に病床機能の転換を促すことをためらう。独自策を探る都道府県もある。「収入増には地域別の診療報酬が活用できる」。7月、奈良県の荒井正吾知事は新型コロナによる受診控えで収入減に悩む医療機関を支援するアイデアを示した。診療報酬は全国一律がこれまでの通例。高齢者医療確保法は都道府県が地域別の報酬を決めることを可能としているが、適用例はない。奈良県は医療機関の動向に影響を与えるには収入である診療報酬を使うのが効果的とみる。今夏に厚生労働省に提言したが、奈良県の医師会や厚労省は反対の方針だ。全国知事会は医療提供体制の議論について、地域医療の混乱を理由にコロナ収束後に先送りしたい意向を示す。医療行政は責任を負いたくない地方自治体と、本音では権限を失いたくない厚労省の利害がもつれあう。コロナ禍で医療制度に迫る22年の壁は高く厚い。

*4-1-2:https://style.nikkei.com/article/DGXMZO63622860Z00C20A9EAC000 (日経新聞 2020/9/13) 日本の医療、コロナで弱点浮き彫り 回復期病床少なく
 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本の医療が崩壊するのではないか、との懸念が広がっています。感染者を受け入れる病床が足りなくなる事態を医療崩壊と呼ぶなら、日本では現時点では医療崩壊は起きていません。経済協力開発機構(OECD)の調査によると(各国のデータはおおむね2017年時点)、人口千人当たりの病床数が日本は13.1と突出して多く、OECD加盟国平均の4.7を大きく上回っています。入院後の治療も含め、日本の医療体制を評価する声は少なくありません。しかし、病床を種類別にみると、決して十分とはいえません。日本の医療法では、病床を一般病床、療養病床、感染症病床、結核病床、精神病床の5種類に分類しています。厚生労働省の調べでは、3月末の病院全体の感染症病床は1886で、152万を超える病床全体に占める割合は0.1%あまりにとどまっています。そこで同省は2月、緊急時には感染症病床以外の病床への入院が可能であるとの見解を示しました。一般病床を転用する動きが広がり、コロナの入院患者受け入れが可能な病床数は全国で2万を超えています。ただ、受け入れ可能な病床数と、現在の入院者数の比率には都道府県によって大きな差があり、病床数に入院者数が近づいている地方は特に注意が必要です。同省はこれまで「地域医療構想」のもとで、病床の総数を削減する方向性を打ち出していました。しかし、コロナ対応で病床不足が問題になり、構想を批判する声も聞かれます。これに対し慶応大学の土居丈朗教授は「地域医療構想で打ち出したのは、一般病床と療養病床の再編であり批判は的外れ。コロナの病床不足は、病床そのものが足りないのではなく、機能分化と連携が進んでいなかったことが問題だ」と強調します。みずほ情報総研の村井昂志チーフコンサルタントは「病床をとにかく増やすというのは現実的ではない。どんな機能の病床を増やすのかを明確にすることが必要であり、これは地域医療構想の考え方とも一致する」と指摘します。

*4-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210504&ng=DGKKZO71577210U1A500C2PE8000 (日経新聞社説 2021.5.4) 医療体制を問い直す(上) 非常時の病床確保に強力な措置を
 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の医療提供体制のもろさを浮き彫りにした。人口あたり患者数が米英の10分の1でも病床が足りなくなり、緊急事態宣言を三たび出す事態に追い込まれた。パンデミック(感染大流行)という非常時の対応力を高めるためだけでなく、今後の人口減少社会で医療の質を維持するためにも、日本の医療体制に早急にメスを入れる必要がある。
●小規模分散で余力なく
 日本に急性期病床は約88万9千床ある。人口千人あたりでは7.8床と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も多い。しかし、重症患者に対応するはずの急性期病床でコロナ患者を受け入れたのは、わずか3%にすぎない。それも公立・公的病院が大半だ。全病院の8割を占める民間病院の受け入れは少ない。コロナ患者に対応するには、院内感染を防ぐために、感染リスクがある場所と安全な場所を施設改修で分ける必要がある。そのうえで感染症に対応できる専門医を確保し、一般病床の何倍もの看護師を配置しなければならない。患者を数人受け入れるだけで、他の入院患者を数十人規模で転院させたりすることも必要になる。ところが民間病院の7割強は200床未満と規模が小さく、人材も手薄で余力が乏しい。小規模に分散した医療資源でコロナ病床を増やすには、医療機関の役割分担を徹底するしかない。1月末時点で全国自治体病院協議会が実施した調査では、400床以上の公立病院に入院するコロナ患者の3分の1が軽症で、重症者は1割に満たなかった。大規模な公立病院や大学病院は、重症者を中心とした受け入れに特化した方がいい。集中治療室(ICU)や体外式膜型人工肺(ECMO、エクモ)など重症者向けの治療設備や、これを使いこなす人材を集中的に配置すべきだ。重症者に対応できない中規模以下の病院は、中等症を中心にコロナ患者を受け入れてほしい。患者が重症化したら速やかに重症者向け病院に転院させるなど、地域の医療機関が密接に連携して一体的な医療を提供する。回復期の患者は療養型病院や高齢者施設に受け渡す。こうした階層型にして医療資源を有効に使えば、受け入れ能力は増えるはずだ。問題はこうした医療体制をどうやって構築するかだ。日本の医療機関は自由開業制で、政府や都道府県には民間病院に患者の受け入れを命令する権限はない。税金で医療を運営する国々には、感染症などの緊急時に医療機関や医療従事者を国や地方政府が動員する仕組みもある。社会保険方式の日本でも医療従事者の育成には公費が投じられ、病院の収入は保険料と税金で支えられている。医療機関や医師には医療体制を確保する責務があるはずだ。菅義偉首相は4月23日の記者会見で病床確保に関して「緊急事態の際の特別措置をつくらなければならない」と述べた。非常時には医療機関の「経営の自由」を制限し、強制力を持って医療機関に病床を確保させることができる仕組みを早急に整えるべきだ。
●病院の自由経営に限界
 小規模医療の源流は、1961年の国民皆保険制度の創設にさかのぼる。皆保険で急増した医療ニーズを引き受ける形で民間の診療所が増えた。公的病院に病床規制が導入される一方、診療所の一部は規模を拡大し、入院機能を持つ病院に衣替えしていった。民間開業医を中心とする医療体制はこうして形成され、結果として「経営の自由」が確保された病院が増加の一途をたどった。世界一とされる医療へのアクセスの良さは、日本が誇る長寿社会を実現する大きな支えになった。しかし、非常事態に対応できない致命的な欠陥が露呈した今、改革をためらうべきではない。医療機関の徹底した役割分担の必要性は、コロナ前から指摘されていた。軽い病気なのに大病院で受診する人が多く、患者に追われて数十時間も寝ずに手術をする外科医がいる。一方で急性期病床を名乗りながら、重篤ではない患者で病床を埋める病院がある。これでは医療人材の確保が年々難しくなる今後の人口減少社会で、医療の質を維持できない。勤務医の働き方改革の観点からも、改革は喫緊の課題だ。

*4-1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210505&ng=DGKKZO71583880V00C21A5PE8000 (日経新聞社説 2021.5.5) 医療体制を問い直す(下)初期診療をこなす家庭医を増やせ
「世界に冠たる」は、国民皆保険に代表される日本の医療制度の枕ことばとして医師会や与野党の関係議員、厚生労働官僚、また一部の学者らが多用してきた。それが幻想にすぎなかった現実をあぶり出したのがコロナ禍である。欧州主要国や米国より感染者が桁違いに少ない一方、人口あたりの病床数は格段に多いにもかかわらず、治療体制のゆき詰まりが露見した。特効薬とワクチンの開発にも大きく後れをとった。
●医師の働き方改革も
 ワクチン接種は遅々として進んでおらず、当面はコロナとの共存を覚悟せざるを得ない。その間にも将来をにらんで医療体制を根本的に再構築する必要性は、論を俟(ま)たない。医療の主役である患者第一を貫きつつ、効果が高くコストが低い医療体制に向けた再構築のカギを握るのは、欧州などで一般化している家庭医制度の普及である。さまざまな病をひと通り診る力を備えた医師だ。総合診療医などとも呼ばれる。健康保険証があれば、どの病院・診療所にもかかれる「フリーアクセス」が日本の医療制度の特徴だ。これは患者の安心につながる面があるが、体調を少々崩しただけでも建物や設備が整った病院に行けばいいという思い込みを生む要因にもなっていた。そこで、患者はまず家庭医にかかるのを原則とし、診断・治療・処方を受ける。複数の診療科をこなし初期診療に責任をもつ家庭医は、慢性期の持病をいくつか抱えた高齢患者の診察にも適任だ。ただし、その過程で専門的な治療や手術が必要と判断すれば、遅滞なく病院の専門医につなぐのが家庭医の重要な役割になる。「まず家庭医へ」が浸透すれば、病院の勤務医や看護職に過重な負担がかかる事態は緩和されよう。家庭医制度が浸透している国のひとつが英国だ。税財源で運営する同国の医療制度NHSは、原則として患者に医療費の負担を求めない。その代わりに患者はGPと呼ばれる資格を持つ家庭医に登録し、病院ではなく登録GPにかかるのを基本とする。GPは担当患者の健康管理にも携わる。病院での専門治療や手術が必要な患者にとっては一定期間、待たされるリスクがある。半面、コスト意識が強いGPが初期診療をこなすので必要度が低い検査や処方を省き医療費を抑えやすくなる。日本は一般に、開業医に比べ勤務医の労働環境が過酷だ。最近は減ったが、夜勤明けの外科医がメスを握ることもある。働き方改革を推し進めるためにも大学医学部は家庭医養成を急いでほしい。家庭医制度は患者の医療機関へのアクセス制限につながるので医療界に根強い反対論があるが、風向きは変わりつつある。慢性期治療の専門病院で組織する日本慢性期医療協会は、医師の卒後臨床研修を見直し、後期研修のうち2年を総合診療機能の習得に充てるよう求める要望書を4月に出した。医師不足の懸念に対し、政府・医療界はこれまで医学部の定員増などで対応してきたが、人口高齢化に即した研修強化をはじめ、医学教育の質拡充へカジを切るときだ。次の感染症パンデミックへの備えとしてもそれは有用である。
●介護との連携必要
 患者の特性や高齢化の度合いにみられる地域差への対応も、課題に浮上している。とくにコロナ禍で浮き彫りになったのは、患者の重症度に応じて都道府県当局が域内の医療機関に機能分担・連携してもらう難しさだ。
医療の公定価格である診療報酬は全国一律だが、一定範囲で県独自に設定できるようにすれば、病床誘導がしやすくなろう。医療費抑制への動機づけにもなる。医療サービス価格に大きな地域差がつくのは好ましくないが、一定の裁量を認める手法は検討に値する。不可欠なのが介護サービスとの連携だ。高齢コロナ患者が回復期も病院にとどまり、医療職が介護を提供する例がみられる。地域ごとに医療機関と介護施設が円滑な連携策を探ってほしい。団塊世代の後期高齢化が迫り介護需給は逼迫の度を増す。海外人材の受け入れ拡大やロボット介護の保険適用なども急ぐべきだ。コロナによって日本の医療の弱みが誰の目にもみえてきた。「世界に冠たる」の復活へ向け、多面的改革を推し進めるときである。

*4-1-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210513&ng=DGKKZO71815760S1A510C2EA1000 (日経新聞 2021.5.13) 入国後待機「管理強化を」 自民要求、要請の実効性低く、厚労省慎重「憲法の制約」
 変異型の新型コロナウイルスを巡る日本の水際対策が課題に浮上してきた。自民党の外交部会は12日、入国者の管理を強化するよう政府に要求した。自宅での待機要請などに従わない人は1日300人に及ぶ。厚生労働省は「移動の自由」を記す憲法の制約を理由に厳しい措置に慎重だ。「(水際対策が)強化されていないのはゆゆしき問題だ。菅義偉首相に恥をかかせたと言わざるを得ない」。佐藤正久外交部会長は会合で政府の対策の甘さを指摘した。「入国した300人と連絡がつかない状況は水漏れだけでなく水道管が破裂して水浸しとの批判も出かねない」と語った。感染者数が減らないのは入国者を完全に捕捉できていないのも一因になっているとの危機感だ。田村憲久厚生労働相は10日の衆院予算委員会で「憲法の制約上、移動の自由がある。判例でも出ている」と言及した。「我が国は私権の制限に対しての法律がない」とも述べ、強制するのは難しいとの認識を示した。憲法22条は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定める。過去に厚労省が「公共の福祉」を理由にハンセン病患者を強制隔離し批判を浴びた歴史がある。私権制限の措置に消極的になる背景だ。政府は入国者に国籍を問わず、原則14日間の自宅・ホテル待機と健康状態の報告を促す。厚労省によると1日2万人超いる報告が必要な入国者のうち報告がない人が200~300人いる。位置情報を把握できなかったり指定した場所などから離れたところにいたりするケースも多い。政府の「要請」に従う義務がないのが要因だ。政府は入国後の居場所や健康状態を把握するため警告メールや自宅訪問による本人確認などの対策を講じているが、義務化は私権制限になりかねないと懸念する。憲法学者の中には入国した邦人や外国人に一時的な待機を義務づける措置は憲法上、認められると指摘する声がある。慶大教授の横大道聡氏は「邦人と外国人を問わず、合理的な根拠と明確な法律に基づく条件を満たせば移動の自由を制約できる」と話す。「待機期間が科学的に必要かどうか検証がいる。そのうえで期間や要件などを定めた法律を整備すれば憲法上許される余地がある」とも唱える。元三重中京大教授の浜谷英博氏は「違憲とは考えないが、移動を制約した法律に対する違憲訴訟になる恐れはある。憲法に緊急事態条項の創設が必要だ」と訴える。日本は海外に比べ外国人の入国規制が緩いとの批判もある。150を超える国・地域からの入国を原則拒否しているものの、希望する外国人に「特段の事情」があると認めた場合は許可する。例えば、重篤な状態の家族への見舞いや、死亡した家族の葬儀のためといったケースだ。4月は1万7557人の外国人が入国した。変異ウイルスが広がるインドだけで1900人ほどいた。米国や台湾などはインドからの自国民以外の入国を禁止している。

*4-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/662531 (佐賀新聞 2021年4月17日) 65歳以上の介護保険料、高齢者負担は限界に近い
 介護保険料が4月から改定された。65歳以上の高齢者が払う保険料は多くの市区町村で引き上げられ全国平均は月額6千円程度になりそうだ。2000年の介護保険制度開始時の2倍であり、年金で暮らす高齢者の負担は限界に近づいている。介護保険のサービス費用は、利用者が払う自己負担分を除き、加入者の保険料と税からの公費で半分ずつ賄う。介護保険料は、40~64歳については毎年改定されて、加入する公的医療保険を通じて納付。65歳以上の保険料は、市区町村や広域連合ごとに3年に1度見直されて、原則的に公的年金から天引きされる。高齢化の進行で介護が必要なお年寄りが増える一方、人手不足が深刻な介護職員の処遇改善などのため、介護サービス事業者に支払う介護報酬は4月から全体で0・7%引き上げられた。これらが保険料アップにつながった一方、公的年金給付額は賃金水準下落を受け4月分から0・1%引き下げられた。高齢者の暮らしには厳しい逆風の春だと言わざるを得ない。共同通信の調査では、65歳以上の介護保険料は、都道府県庁所在地と政令指定都市の計52市区の60%で引き上げられ、81%が6千円以上となった。かつて「5千円が負担の限界」とも言われたが、高齢化が加速する25年度には20超の市区が7千円を上回るとの推計もあり、負担増への歯止めは待ったなしの課題だ。保険料は高齢化率や要介護認定率が高い自治体ほど高くなる。家族のケアがない単身高齢者の割合が高く、1人当たりの介護費用がかさむ大阪市は8094円まで上がった。このままでは高齢者の生活費が圧迫され、介護サービス利用時の原則1割負担が払えず、介護保険に加入しながら、利用したくてもできないという矛盾が現実化する。介護保険料滞納で18年度に資産差し押さえ処分を受けた高齢者は、全国で1万9221人と前年度より3千人超増えて過去最多を更新している。65歳以上で働いて賃金を得ている人は約900万人、うち約400万人はパートなど非正規雇用だ。新型コロナウイルス流行拡大による景気低迷が重なって収入減になり、高齢者の家計はさらに苦しくなるとみるべきだ。日本の高齢化は、団塊の世代が全員75歳以上となる25年を経て40年ごろピークを迎える。そこへ向け介護人材を確保し、サービスを充実させることは避けて通れない課題だ。だがそれを抜本改革抜きに実現しようとすれば、財源捻出のため保険料は天井知らずになり「介護を社会全体で担う」という介護保険制度の理念が破綻しかねない。改革は「給付と負担」の見直し以外にない。介護保険料は40歳以上が払っているが、支え手を増やすため「20歳以上」に対象年齢を広げる案も検討せざるを得ない段階に来ている。一定所得がある高齢者が介護サービス利用時に払う2割負担の対象拡大も焦点だろう。給付の伸びを抑えるため、要介護度が低い人の掃除、洗濯など生活援助を介護保険から外し市区町村事業に移すことなども課題になる。介護保険料引き上げが限界となれば、残る財源の柱は税しかない。そして社会保障に充てる税とされるのは消費税だ。菅義偉首相は消費税10%超への引き上げを「10年は考えない」とするが、いずれ議論は避けられまい。

*4-2-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1318009.html (琉球新報社説 2021年5月9日) 75歳以上2割負担 窓口負担増避ける議論を
 一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案について衆院厚生労働委員会が賛成多数で可決した。自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党が賛成し、立憲民主、共産両党は、高齢者が受診を控え体調を損ねるとの理由で反対した。医療制度改革は、収入のある高齢者に窓口負担を求めることで、医療費を保険料で支える現役世代の負担増を抑える狙いがある。団塊世代が2022年から75歳以上になり始め、医療費が膨張することが背景にある。法案は今週にも衆院を通過し参院に送られる見通しだ。今国会で成立する可能性が高まっているが、国会で審議入りしてまだわずか1カ月。議論は不十分だ。高齢者の経済的事情にどれだけ配慮しても、受診控えを招かないという保証はない。この点を十分に認識し、窓口負担増を避ける方策を探るべきである。75歳以上の高齢者の窓口負担は現在、原則1割で、現役並みの収入がある場合は3割だ。それ以外の財源は、5割が公費、4割が現役世代の保険料で賄われている。法案は、この現役世代の負担を抑えるため、単身だと年金を含む年収200万円以上、夫婦世帯では計年収320万円以上を対象に2割負担にする内容だ。22年度からの実施を目指す。厚生労働省によると、全国で後期高齢者医療制度に加入する75歳以上の人約1815万人のうち、2割負担の対象は約370万人に上る。自己負担の増加幅が月最大3千円とする上限額があるものの、窓口負担が2倍になる人もいる。このため立民、共産両党は「経済的な理由から受診を控え、病気が重症化する可能性がある」と懸念する。立民は75歳以上の高所得者の保険料上限を引き上げて財源を捻出する対案を出した。共産は高齢者医療の国庫負担を35%から、少なくとも従来の45%に戻し国が公的役割を果たすことで若い世代の負担軽減を図るべきだと主張する。誰でも高齢になれば体が弱る。受診する機会が増えるのはやむを得ない。しかし受診を控えると、命や健康を損ねるリスクが高まる。政府の試算では、負担引き上げに伴い、75歳以上の外来受診回数は1人当たり年平均で33回から32・2回に減るとの見通しだ。さらに収束が見通せないコロナ禍にある。ただでさえ受診を控えている高齢者に拍車を掛けて受診をためらわせないか。そのリスクに配慮すべきだ。受診控えを招く窓口負担増以外に財源を捻出する方策を、あらゆる観点から探る必要がある。高齢者は長期にわたり社会に貢献した敬うべき存在である。なおかつ現在は社会的弱者だ。憲法25条が国に義務付けている生存権の保障にも関わる。これらの点を重視し、高齢者に負担を強いることは極力避ける方向で議論を進めるべきだ。

<領土保全の意志>
*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210430&ng=DGKKZO71487210Z20C21A4FF8000 (日経新聞 2021.4.30) 中国、外国船「領海侵入」に罰金 関連法を改正
 中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は29日、改正海上交通安全法を可決した。外国船が中国の「領海」に入った場合、中国当局の判断で退去を命じたり罰金を科したりできるようになる。沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で緊張が高まる懸念がある。9月1日に施行する。中国国営の新華社通信は改正法の狙いを「海上の交通条件を向上させて、安全保障の水準を高める」と解説した。交通運輸省の傘下の海事局の権限を強める。中国が主張する領海で「海上交通の安全に危害を及ぼす恐れ」のある外国籍の船舶に事前報告を義務づけた。違反すれば退去を命じたり、船舶の管理者に5万元(約83万円)以上50万元以下の罰金を科したりできる。中国は尖閣を「固有の領土」と主張しており、周辺海域も領海とみなしている。中国当局が危害を及ぼす恐れのある船舶について幅広い解釈権を持つとみられる。尖閣周辺で操業する日本漁船にとって脅威になる。中国は海上警備を担う海警局に武器使用を認めた海警法を2月に施行した。海警局が管理する中国公船と海事局の巡視船が連携し、尖閣周辺の海域での監視活動を増やす可能性がある。領海やその周辺の接続水域より広い「管轄海域」にも海事局の監督権限が及ぶとしている。管轄海域で海事局が任意に「航行禁止区域」を設定できる権限も盛り込んだ。中国の民間船への管理も強める。中国版全地球測位システム(GPS)「北斗」の設置や航行データの保全の徹底を求めた。益尾知佐子・九州大准教授は「管轄海域で中国の実効支配が進む懸念がある」と指摘する。海事局は大型の巡視船の建造を進めている。中国メディアは年内に初の1万トン級の巡視船「海巡09」が広東省広州で就役すると伝えた。中国共産党の機関紙、人民日報は「世界中で巡視、救援が可能」と強調している。

*5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA021DY0S1A500C2000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 東シナ海の現状変更反対 日米制服トップ会談、中国念頭
 防衛省は2日までに、山崎幸二統合幕僚長が米ハワイで米軍のミリー統合参謀本部議長と会談したと発表した。中国が海洋進出を強める東シナ海に関し、一方的な現状変更の試みに「断固として反対する」と一致した。日米制服組トップの会談は2019年11月以来、1年半ぶり。4月30日(日本時間5月1日)に実施した。台湾海峡の平和と安定の重要性を確認した4月の日米首脳会談を受け、自衛隊と米軍の連携策について意見を交わした。中国は4月に空母「遼寧」を沖縄本島と宮古島の間の海域に航行させるなど、緊張を高める行動を続ける。沖縄県尖閣諸島周辺では海警局の船が領海侵入を繰り返す。両氏はこうした状況を念頭に、日本と米国が共同で抑止力と対処力を一層強化すると申し合わせた。米国の日本防衛義務を定める日米安全保障条約5条に基づき「米国の揺るぎないコミットメント」を再確認した。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、多国間協力を進めていく方針でも合意した。英国は空母「クイーン・エリザベス」を日本に派遣すると決め、フランスも今月、日米と離島防衛訓練を実施する。軍備を増強する中国に対峙するため、欧州各国との協調をめざす。山崎氏は米インド太平洋軍司令官の交代式に出席するためハワイを訪れた。アキリーノ新司令官とも会い、日本やインド太平洋地域の情勢について認識をすり合わせた。日米の会談に先立ち、韓国軍の元仁哲(ウォン・インチョル)合同参謀本部議長を交えて日米韓3カ国の会談も実施した。北朝鮮の核・弾道ミサイル計画に対する懸念を共有した。山崎氏から国連安全保障理事会決議の完全な履行が重要だと伝えた。

<教育>
*6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH308QR0Q1A430C2000000/ (日経新聞 2021年5月2日) 幼小中高一貫校で初の秋入学 玉川学園、23年度にも
 私立学校の玉川学園(東京都町田市、小原芳明理事長)が秋入学(9月始業)を導入する方向で文部科学省と協議していることが分かった。小学校教育の開始を半年繰り上げ、高校まで学ぶ「初等中等一貫教育学校」構想だ。国際標準の9月始業・6月終業とし、高校は6月卒業とする。2023年度にも発足させたい意向だ。構想が実現すれば日本初となり、秋入学や早期就学を巡る国の議論にも影響を与える。「K-12」と呼ぶ構想では、幼稚園年長児(5歳)は9月から小1の学習を始め、翌年6月で1学年を修了する。9月から2学年に上がり、高校までの教育課程全体を半年前倒しする。高校卒業が6月だと夏休み明けに海外大学に進め、国内大学に入る場合は入学前の時間をギャップタームとして多様な活動に使える。幼稚園以降の学費総額も軽減できる。秋入学・9月始業の国や、4歳児、5歳児から小学校に就学させる国は少なくない。日本でも東京大学が秋入学の導入を模索した。20年には新型コロナウイルスの感染拡大への対応策として首長らから秋入学と就学年齢見直しを求める声が上がったが、課題が多いとして議論は棚上げとなった。学校教育法は義務教育の開始を「満6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の初め」とし、同法施行規則は小学校の学年の始業は4月1日とする。構想実現には同法との兼ね合いが課題になる。文科省幹部は「運用上の対応なら問題ない。秋入学を制度的に認めるには法改正が必要」と指摘するが、「研究開発校などの既存制度をうまく使えば実現可能ではないか。私学が秋入学などに実験的に取り組むのは意義がある」という声もある。小原理事長は「戦後間もなくできた学校制度を守り続ける必要があるのか。文科省と相談しながら実験的な取り組みに挑戦したい」と話している。1929年創立の同学園は幼稚園から大学院まで擁し、幼小中高の総定員は2480人に上る。

*6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63028960V20C20A8TCN000/ (日経新聞 2020年8月26日) 文理融合学部、国立大で広がる 「課題解決力」を育成
 文系と理系の枠組みを超えた文理融合型学部の創設が国立大で広がっている。幅広い分野を学べる環境をつくり、社会での活躍に必要な「課題解決力」を育てる狙いがある。受験生の人気も高いが、就職などを見据えて専門分野も学びやすい仕組みを合わせて整えられるかなど課題もある。「文系と理系のどちらの学部を志望するのか聞かれ、すぐに答えられなかった」。東京都内の私立高校3年の女子生徒が振り返る。高校は文系クラスだが、文系学部に進むのは迷いがあった。7月の進路相談で教員に「興味ある分野を探しながら学びを深めたい」と伝えると、勧められたのが「文理融合型」の学部だった。文理融合型の学部新設の代表例は2018年4月、「共創学部」を設けた九州大だ。共創を「異なる観点や学問的な知見の融合を図り、ともに構想し、連携して新たなものを創造すること」と定義。課題構想力や国際コミュニケーション力などを育て、「共創的課題解決力」の獲得をめざすという。所属する学生は「データサイエンス基礎」「共創デザイン思考発想法」「フィールド調査法」など必修7科目に加え、生命科学や歴史などの分野から好きな科目が選べる。文理どちらかだけの科目を選ぶことはできない。英語力の育成にも力を入れる。1年生から、他学部よりも英語に触れる機会を多くし、3年生の討論、4年生の卒業研究発表は全て英語で行う。鏑木政彦学部長は「社会の課題をベースに学問の切り口を考えるために、文系・理系の枠を超え自由に学んでいこうという考えが核心にある」と語る。初年度の志望倍率は4倍以上。19、20年度も3倍超で、予備校関係者は「新設学部としては異例の人気」と話す。従来、国立大の多くが学部を文理に分けてきた。だが、社会のグローバル化やデジタル化が急速に進むなか、幅広い視野を持った人材を輩出できるようにすべきだとの認識が高等教育の専門家らの間で広がった。文部科学省も15年に国立大の組織見直しに関する通知を出した。教育・研究の質の向上には学問分野を超えた総合性や融合性、国際性などが必要とし、人文社会科学系学部などには廃止を含めて組織改編を迫る内容だった。通知には批判も集まったが、結果的に文理融合型の学部やカリキュラムをつくる動きが活発になった。九州大の鏑木学部長は「色々な立場の感覚を持ち、世界でも司令塔としての役割を果たせる人材が必要だという社会の要請に国立大として応える責任がある」と語る。地域社会の課題解決を目指す文理融合型の学部も増えている。新潟大は17年に「創生学部」を創設した。地元の企業や自治体に出向き、課題を見つけて議論する実践型の授業を実施。他学部の22科目から関心がある分野を学べる。宮崎大の地域資源創成学部も地域資源を生かす経営学・マネジメントを身につける実習などに加え、生物学や食品学などを選べるようにしている。ただ、法学部や工学部などに比べると、文理融合型の学部は卒業後のキャリアを明確に示しにくい面がある。広島大高等教育研究開発センターの大膳司副センター長は「視野の広い人材が求められているのは事実だが、最終的には大学院などで専門性を身につけた方が将来有利になる可能性は高い」と指摘。「専門分野を少しでも深く学べるプログラムを組み、学生がこだわって勉強した経験をつくれる環境が必要だ」と語る。
*情報系学部が人気、専門性獲得に期待か
 文系と理系の垣根が低い学部への志願者数は増加傾向にある。2020年度入試を巡る河合塾の調査によると、国公立大の13学部系統のうち、志願者数が19年度より増えたのは文理両方から入れる「総合・環境・情報・人間」のみだった。特に人気があるのが情報系学部だ。河合塾担当者は「全てのものがインターネットでつながる『IoT』や人工知能(AI)などの情報技術の発展に伴い、専門分野を学べる期待感がある」と指摘する。滋賀大データサイエンス学部は情報や統計関連の理系科目に加え、データを生かすための経済や経営などを開講する。一橋大は「ソーシャル・データサイエンス学部」の設立準備委員会を設置。両大学を含めた6校は20日に「データサイエンス系大学教育組織連絡会」を立ち上げた。今後は規模を拡大し人材育成や研究などで連携を進める。

<その他の憲法違反と人権侵害>
PS(2021年5月17日追加):*7-1のように、アイルランドの高等裁判所は、米国には連邦政府レベルのプライバシー保護法がないため、欧州から米国への個人データ移管を禁じた仮命令に対してフェイスブックが申し立てた異議を棄却した。また、欧州司法裁判所は2020年にプライバシー・シールドも無効と判断している。これに対し、日経新聞は、「①個人データの移管禁止が確定すれば、他の米国企業も欧州の個人データを米国に送れず、ターゲティング広告やマーケティング分析などが制約を受ける」「②そのため、ネット企業の国際展開の足かせになり、迅速に対応できない中小が大手との競争で不利になる可能性がある」などと記載している。
 しかし、①は、個人のプライバシー保護よりもターゲティング広告やマーケティング分析の方が重要だという本末転倒の考え方を明示している。また、②は、個人のプライバシー保護のために割くことができる人材や資金が大企業より限られる中小企業が競争で不利になることを問題にしているのである。これが、個人情報を勝手に使うことを許し、それが漏れた時には人権侵害になる可能性もあることを気にかけない日本ではなく、欧州が国際基準づくりのリーダーになって欲しい理由の1つだ。
 なお、日本における個人のプライバシー保護は、*7-2のように、「③日本政府と与党が自己情報のコントロール権を保障せずに個人情報保護を後退させるデジタル改革関連6法を可決・成立させ」「④国民の利便性向上のみを強調して、現行制度を抜本的に変更するのに法案を60本以上束ねて提出して国会の熟議なしで成立させ」「⑤行政手続きのオンライン化を進めてマイナンバーの利用拡大等を行っており」「⑥民間・行政機関・独立行政法人に分かれていた個人情報保護法を一本化して最も規制の緩い国のルールに合わせさせ」「⑧中央省庁が持つ個人情報を匿名加工して民間に提供する現行制度を自治体にも広げて、目的外使用や漏洩の可能性を拡大させ」「⑨個人情報保護に関する監視体制は不適切な個人情報の取り扱いに対して命令ができない」という状況なのである。
 このうち③④は、新型コロナ騒動で国民の目から隠しながら、議会で情報を開示した議論をしなかった点で、日本国憲法(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm 参照)前文の「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、ここに主権が国民に存することを宣言する」等の主権在民に反している。また、⑥⑦⑧のように、このような粗雑な議論をした結果、国民にとって不利益な法案を可決し、決して国民の福利を増加させる変更にはなっていない。
 さらに、⑤⑨は、個人情報を使った国による国民への監視体制強化の意図を含んでおり、「19条:思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」「21条1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「21条2項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」に次第に反していく可能性があるのだが、この法案の内容や問題点を報道しなかった日本のメディアは、日頃から主張している「言論の自由」「表現の自由」が本物ではないことを露呈させた。また、日本国憲法は「12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」と定めているが、報道もされずにこそこそと遂行され蚊帳の外に置かれて事実を知らされなかったことがあれば、(いくら選挙をしても)国民は主権者としての権利行使ができないのである。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210516&ng=DGKKZO71936610V10C21A5EA2000 (日経新聞 2021.5.16) フェイスブックの異議棄却、欧米間データ移管に逆風、ネット事業拡大に制約も
 欧州から米国への個人データ移管に対する逆風が強まっている。米フェイスブックが欧州統括拠点を置くアイルランドの高等裁判所は14日、データ移管を禁じた仮命令に対する同社の異議を棄却した。プライバシー保護の観点から歓迎の声が上がる一方、ネット企業の国際展開の足かせになる恐れもある。「フェイスブックの完敗だ」。オーストリアの弁護士でプライバシー保護活動家のマックス・シュレムス氏は14日、コメントを出した。2013年にフェイスブックによる欧州から米国へのデータ移管が違法だとアイルランドのデータ保護当局に申し立てた人物だ。米国には連邦政府レベルのプライバシー保護法がない。さらに13年に発覚したスノーデン事件で米国家安全保障局(NSA)による情報収集が明るみに出て、欧州は米国のデータ保護体制に懸念を強めた。欧州連合(EU)は18年、一般データ保護規則(GDPR)を施行し個人データの域外移管を厳しく制限。一方で例外を残し、欧米間では「プライバシー・シールド」という独自のデータ移転の枠組みや、「標準契約条項(SCC)」というデータ移転契約のひな型が利用されていた。ただEUの最高裁判所にあたる欧州司法裁判所は20年、プライバシー・シールドを「無効」と判断。SCCについては有効としたが、米当局が企業の持つ個人データを監視しかねないという問題意識が強く示された。この判断などを受けてアイルランドのデータ保護当局はフェイスブックへの調査を始め、20年8月にデータ移管を禁止する仮命令を出した。同社は「壊滅的な結果をもたらす」などと異議を申し立てたが、高裁は今回、同社の主張を退けた。フェイスブックは14日の声明で「仮命令は当社だけでなく利用者やほかの企業に損害を与える可能性がある」と指摘。移管禁止が確定すれば売上高の約4分の1を占める欧州向けサービスが一時中断を余儀なくされるとの見方もある。ほかの米国企業も欧州の個人データを米国に送れなくなり、ターゲティング広告やマーケティング分析などデータを活用した事業展開が制約を受けかねない。アイルランド当局によるフェイスブックへの個人データ移転の禁止については他のEU加盟国当局も精査する。異議がなかったり、異議が退けられたりすれば事実上、EU全体でアイルランドを支持したことになる。フェイスブック側が追加の法的手段に訴えるとの観測もあり、判断が確定するまでには時間がかかるとの見方も多い。米国では20年に当時のトランプ大統領が中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の運営会社に米国の利用者の個人データを国内に保管するように求めた。各地でデータの国内・域内保管を求める動きが強まっている。EUがGDPRを施行した際、フェイスブックのような資金や技術者が豊富な大手は迅速に対応し、影響を軽微にとどめた。一方、中堅・中小企業の一部は欧州向けサービスの一時中断に追い込まれた。データ移管を巡っても、結果として中小が大手との競争で不利になる可能性もある。

*7-2:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1320217.html (琉球新報社説 2021年5月13日) デジタル法成立 個人情報保護 後退させた
 デジタル庁設置を柱とするデジタル改革関連6法が参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。
国民の利便性向上を強調するが、実態は自己情報コントロール権を保障せず個人情報保護を後退させる内容だ。現行制度を抜本的に変更するにもかかわらず、法案を60本以上束ねて提出した政府の国会軽視と、熟議せず成立させた国会の責任は重大だ。デジタル改革関連法成立によって、改革の司令塔で首相をトップとするデジタル庁を9月1日に発足させる。デジタル庁に権限を集中させ他省庁に業務見直しなどを勧告する。行政手続きのオンライン化を進め、マイナンバーの利用拡大や押印を求める手続きの削減などデジタル社会に向けた環境を整備する。関連法の柱の一つが個人情報保護制度の見直しだ。民間、行政機関、独立行政法人の三つに分かれている個人情報保護法を一本化し、共通のルールを導入する。内実は規制が緩い国のルールに合わせるということだ。その上で中央省庁が持つ個人情報を匿名加工して民間に提供する現行制度を、自治体にも広げる。これまで個人情報の保護は、住民に近い自治体がそれぞれ条例を制定し、思想信条や病歴・犯歴などの要配慮情報の収集は禁じるなど慎重に運用してきた。住民本人の合意を得た上で、個人情報を取り扱うことが自治体では原則となっている。制度の見直しで個人情報保護の原則はなし崩しになり、目的外に使われ、漏えいする恐れがある。実際に現行制度でも、防衛省が米軍横田基地の夜間飛行差し止め訴訟や、航空自衛隊小松基地の騒音訴訟の原告名簿などを民間への提供対象にしていたことが発覚した。関連6法の中で基本理念を定めた「デジタル社会形成基本法」に、個人の権利を担保する自己情報コントロール権が明記されていない。専修大学の山田健太教授(言論法)は「情報を有する側の縛りを一貫して緩めてきたのが日本の法制度であって、一方で自己情報コントロール権も含め、個人の権利化は進捗(しんちょく)がない。その結果、両者のバランスはますます崩れる一方」と警鐘を鳴らす。個人情報の保護について監視する仕組みにも問題がある。全体の監督は個人情報保護委員会に委ねられる。しかし、捜査情報は個人情報保護委員会の監視対象から外されている。不適切な個人情報の取り扱いに対して勧告はできるが、命令はできない。権限が不十分だ。日本弁護士連合会は、官民で管理する個人情報全般の取り扱いを監視・監督する独立した第三者機関を創設し、専門的な能力を備えた職員をそろえるための定員と予算を担保するよう求めている。政府は日弁連の提言を真摯(しんし)に受け止め、デジタル庁設置までに、監視・監督の権限を強化する手立てを講じるべきだ。

<生物的性差と社会的性差>
PS(2021年5月20、27日追加):*8-1のように、山谷えり子氏が「①LGBTの問題で大きな議論が必要」と言われたそうで、*8-2には「②就活で『らしさ』を押しつけないで」という声が性的少数者を中心に上がっている」「③就活で身につける衣類や振舞方が男女で分けられ、LGBTの存在が取り残されている気になった」「④服装やマナーでつまずいて、どんな仕事がしたいのかまでたどり着けない」「⑤極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押しつけをやめ多様性のある装いのスタイルを提案すべき」等が書かれている。
 まず①については、「多様性・ダイバーシティー=LGBT」という記事が多すぎるのには、私も辟易している。何故なら、“多様性”はLGBTだけでなくすべてに存在し、日本国憲法は75年も前の公布時から「14条:すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定して属性による差別を認めておらず、LGBTはそのごく一部にすぎないからだ。また、日本はLGBTの割合が高いと言われているが、その理由は、男女共学校なら中学・高校・大学の同窓生・同級生間で恋愛結婚して一般的ケースになるものが、男女別学校の場合はLGBTとなり、男女別学校が多いからだと思われる。そのため、LGBTにも生物的違いのあるものだけではなく、社会的に作られたものが多いのではないか?
 次に、②③④⑤については、求められる人柄や服装は職種によって異なり、就活指導として一律に男らしさ・女らしさを押し付けるのは不適切だが、求人する会社が求める人柄は一律ではないため、求職者は会社が求める人材を知った上で就活した方がよいと思う。そうすれば、就活時に不合理な条件を出す会社は、有用な人材を採用できなくなって次第に変わらざるを得なくなる。つまり、就活する人は、会社に選ばれる人材であるための何かを身に着けた上で、実績を示して変な慣習をなくしていくのが正攻法であり、門前払いされて実績を示すことすら妨げられたり、実績を示しても不合理が改善されない場合に差別に当たるのだと考える。
 なお、*8-2に、「⑥大手アパレルは、女性用のリクルートスーツの紹介で『女性らしさを引き立たせて、第一印象から美しく』の言葉が目立つ」「⑦別のアパレル企業のサイトでは、ファンデーションで肌を明るく均一に整え、ポイントメイクはいつもよりもしっかりめに」等を書いているそうだが、⑥は士業・研究者・学校の先生・記者・看護師などの実務型職種の採用試験ならむしろマイナスで、⑦は肌のきれいな若者なら濃くファンデーションを塗るより薄化粧で素肌を見せた方が長所を強調できる。つまり、自分の長所は強調し短所はカバーしつつ、採用側が求める人材像が合理的なら合わせ、不合理なら次第に変えるようにした方がよいと思う。
 性同一性障害の原告が、*8-3のように、経産省トイレ制限訴訟で逆転敗訴されたのは気の毒だが、経産省も性別不問の障害者用トイレくらいは各階に複数作ったらどうか?私は、狭い公共女子トイレでコートやかばんがばさっと下に落ちて不潔な思いをしたのに懲りて障害者用トイレを使うようにしているが、「障害者優先」と書いてあるので罪悪感を感じなければならないのにも参っている。公共トイレも、使いやすくて手洗いの水くらいはふんだんに出る清潔なものであって欲しい。

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14909980.html (朝日新聞 2021年5月20日) 「ばかげたこと起きている」 性自認めぐり自民・山谷氏
 自民党の山谷えり子元拉致問題担当相は19日、党内の会議で、自分の性別をどのように認識しているかを意味する「性自認」をめぐり、「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことはいろいろ起きている」と発言した。性自認をめぐっては、戸籍上は男性だが女性として生きる性同一性障害の経済産業省職員が、女性トイレの使用を制限される差別を受けたなどとして国を訴えた。2019年12月の東京地裁では、経産省の対応は違法として国に132万円の賠償を命じた。判決は「トランスジェンダーが働きやすい職場環境を整える重要性が日本でも強く意識されるようになっている」と指摘した。その後、敗訴した国と勝訴した職員の双方が東京高裁に控訴している。LGBTなど性的少数者に関し、超党派の議員連盟が、「理解増進」法案の今国会での成立を目指しており、20日に自民党内で法案審査を予定している。これに対し、山谷氏は、法案の目的と基本理念で「性自認を理由とする差別は許されない」とされている点を問題視。「このまま自民党として認めるにはやっぱり大きな議論が必要。しっかりと議論することが保守政党としての責任だ」と語った。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP5F5Q8BP56ULFA00N.html (朝日新聞 2021年5月16日) 就活で「らしさ」を押しつけないで 性的少数者たちの声
 「女性らしさ」が強調されたリクルートスーツ、面接時には必須とする「ちょうどいい化粧」――。就職活動する学生に対して、こうした押しつけをやめてほしいという声が性的少数者を中心に上がっています。履歴書の性別欄のあり方にも変化が起きるなど、就活におけるジェンダーのあり方を問う動きが広がっています。
●「おかしいと思われる」
 フリーで翻訳の仕事をする水野優望(ゆみ)さん(31)は大学生だった10年前、就職活動に臨んだ。ゆったりめのパンツスーツにネクタイを締め、面接会場に向かった。その途中で怖くなった。「面接担当者におかしいと思われる」
駅のトイレに駆け込んだ。ネクタイをはずし、化粧をした。ヒールのある靴に履き替え、靴下はストッキングに。それでも、かばんが男性用だと気づかれたらどうしよう、と不安は消えなかった。戸籍上は女性だが、性自認は、女性にも男性にも当てはまらないと考える「Xジェンダー」。就職活動で身につける衣類や振る舞い方は、どれも「男性用」か「女性用」に分けられていると感じ、自身の存在が取り残されている気持ちになった。「服装やマナーでつまずき、どんな仕事がしたいのかまでたどり着けなかった」。就職活動を断念。体調を崩し、大学卒業前後の3カ月ほど自宅から出ることができなくなった。職場でパンプスを強制することに疑問の声を上げる「#KuToo」運動を立ち上げた俳優の石川優実さんに数年前に出会い、就職活動での「らしさ」の押しつけも抑圧や差別だと気がついた。昨年11月、インターネット上で「#就活セクシズムをやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」という署名活動を立ち上げた。メンバーは会社員や就職活動中の学生、マナー講師ら約10人だ。「極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押しつけをやめて、多様性のある装いのスタイルを提案して」「女性はこうすべき、男性はこうすべきという偏った表現は差別や抑圧につながるため見直しを」と求める。集まった1万5千筆強を、マイナビやリクルートキャリアといった就職支援企業や、青山商事やAOKIなどの大手アパレル企業、大学などに提出する予定だ。
●体の曲線美を強調する表現
 どういった表現が「ジェンダーの押しつけ」に当たる恐れがあるのか。署名活動のメンバーに聞いた。例えば大手アパレルのホームページでは、女性用のリクルートスーツの紹介で「女性らしさを引き立たせて、第一印象から美しく」の言葉が目立つ。「女性らしい美しさと清潔感を引き立たせる、カービーシルエットを採用」と体の曲線美を強調する表現もある。化粧をすることを「マナー」として求める記述も。「オンライン就活での好印象の与え方」を助言する別のアパレル企業などのサイトでは、ノーメイクの女性のイラストを提示し、「ファンデーションで肌を明るく均一に整え、ポイントメイクはいつもよりもしっかりめに」と求める。メンバーの調べでは、合同企業説明会の情報を掲載するサイトで「オジサマ受けの良いシンプルでさわやかなスーツで身を包み、清楚(せいそ)な子を演じればいい」との表現も一時期見られた。書籍では、「一次面接こそスカートで勝負を」「女性は面接官の息子の嫁にしたいタイプがベスト」などと記載されたものもあった。こうした表現について、水野さんは「就職活動で学生にリスクをとらせないために生み出されたものだろうが、『美しさ』『清楚さ』など仕事の能力とは無関係の要素を女性に求めるのはセクハラにあたる」と指摘。「就活関連企業は、学生が自分らしく働くための第一歩となるよう多様なスタイルを提案してほしい。そして学生を採用する企業は、その人らしい服装や振る舞いを受け入れると積極的にアナウンスして」と求める。
●「困難感じる」 トランスジェンダーの8割以上
 性的少数者たちは就職活動中に、どのようなことに難しさを感じているのか。NPO法人「ReBit(リビット)」によるLGBTを対象にした調査(2018年、有効回答241人)では、生まれた時の体の性と異なる性で生きるトランスジェンダーの当事者(95人)のうち、性のあり方で困難やハラスメントを経験した人は87・4%にのぼった。具体的な困りごとでは、半数弱が「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須だった」と回答。「男女別のスーツやバッグなどの購入」「人事や面接官から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言」などが続いた。「性自認と異なるスーツ・服装、髪型、化粧をしなくてはならなかった」も3割いた。事務局長の中島潤さんは「服装をきっかけに、企業側に対して本人が望まないカミングアウトにつながる恐れもある」と懸念する。困難を感じる当事者は多いとみられるのに、支援機関などに相談できていない現状もあるようだ。別の調査で、性的指向や性自認からくる悩みを学校の就職課やハローワークなどの就労支援窓口に相談したかどうかを聞いたところ、「していない」が95・9%にのぼった。理由は「どこに相談していいかわからなかった」「相談しても解決してもらえない」がそれぞれ3割強だった。ReBitではこうした状況を受け、キャリアコンサルタントらを対象に、LGBT当事者への支援方法を伝える研修プログラムを20年に始めた。知識を学ぶ講義や、ロールプレイング、当事者へのカウンセリングなどが中心だ。

*8-3:https://mainichi.jp/articles/20210527/k00/00m/040/127000c?cx_fm=mailsokuho&cx_ml=article (2021.5.27) 経産省トイレ制限訴訟 性同一性障害の原告が逆転敗訴 東京高裁
 戸籍上は男性で、女性として生きる性同一性障害の経済産業省の50代職員が、女性トイレの利用を不当に制限されたとして、国に処遇改善などを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(北沢純一裁判長)は27日、利用制限を違法とした1審・東京地裁判決(2019年12月)を変更し、制限の撤廃を求めた原告側の請求を棄却した。北沢裁判長は「国の対応は不合理とは言えない」と述べた。原告側の逆転敗訴となった。

<ワクチン頼みで、どうしていけないのか?>
PS(2021年5月22日追加):*9-1のように、コーツ副会長が「①(五輪)選手村に居住予定の75%が既にワクチンを接種もしくは確保し、大会時には80%を超える」「②選手と接触が多い人についても協力する用意がある」「③できるだけ多くの大会参加者がワクチンを接種したうえで来日することになるよう、IOCは努力する」と言っておられるため、開催国の日本は選手村に居住予定の残り20%とボランティアや来日する関係者にワクチンを接種する方法を考えればよいのである。にもかかわらず、「④ボランティア8万人への優先接種は想定していない」「⑤来日する約8万人の関係者やメディアの行動をどう制限し、感染拡大を防ぐのか」などと言っているのは愚かにも程があり、「⑥IOCと米製薬大手ファイザー社が、各国・地域の選手団向けに無償提供を受けることで合意してから、ワクチン頼みの姿勢が強まっている」などと、協力してくれているIOCやファイザー社に感謝もせずに、ワクチンに依存することを批判しているのだから、その無責任さ・無礼さに世界が呆れ、IOCが怒ったとしても文句は言えまい。
 さらに、「⑦欧米ではワクチン接種が進み、新型コロナに対する状況が明らかに変わった」そうだが、ワクチン接種が進めば集団免疫を獲得するため欧米に限らず普通に暮らせるようになるのが当然で、行動ルールをまとめたプレーブックが「⑧大会関係者やメディアはワクチン接種の有無に関わらず、原則3日間の待機を経る必要がある」「⑨14日間、外出先は競技会場などだけで移動は専用車。食事も会場内やホテル内か宅配に原則限られる」などと決めていることが非科学的なのである。また、「⑩入国から14日間が過ぎれば公共交通機関を使えるようになり、活動の範囲を広げることができる」というのも、(PCR検査ができないわけではないのに)検査に基づいた判断をしないのは非科学的で、ワクチンを打った人と打っていない人、PCR検査で陰性の人とそうでない人を同じ扱いにしなければならない理由は全くない。そのため、「⑪1万5千人の選手のほか、7万8千人の大会関係者が世界中から来日予定と明らかになり、選手村などで徹底隔離される選手と違って条件を満たせば市中に出られる大会関係者やメディアの感染対策が課題」というのは、航空機に搭乗する前にワクチン接種証明書か陰性証明書を提示してもらい、ワクチン接種証明書を提示できなかった関係者には、日本政府が成田空港でワクチン接種することを申し出てもよいくらいだ。そのため、「⑫メディアはコロナ下の東京を取材したいのではないか。行動管理が本当にできるのか」については、非科学的な行動管理を続けていれば、それが世界に報道され、呆れられて、日本の医療への信頼が地に落ちるということである。
 また、*9-2のように、迅速にワクチンを接種して行動制限を無くすのが経済回復への道であるのに、非常に狭い了見で医療費やPCR検査をケチり、ワクチンや治療薬の開発・承認を遅らせた結果、この分野において日本は先進国ではなく後進国になっていることを心に銘記すべきだ。そして、日本のワクチン接種の遅れは先進国の中で際立っており、行動制限により所得が減って個人消費は回復せず、1~3月期のGDPはマイナス成長となって、経済は感染を抑えた国への外需頼みになっているのである。

  
         President               2021.5.19日経新聞

(図の説明:左図は、各国の新型コロナ感染者数と死者数の推移だが、日本以外の国は頭打ちになっているのに対し、日本だけが不名誉な右肩上がりだ。そして、その理由は、専門家会議を含む厚労省はじめ行政・政治の誤った政策である。中央の図は、PCR検査を徹底して感染を抑え、新しい検査法・ワクチン・治療薬の開発や承認を行う正攻法をとった国の経済回復状況で、その効果は、右図の2021年3月期経済成長率に明確に現れている。日本は、医薬品や医療機器の開発・普及がやりにくい国で、①治験のやりにくさ ②厚労省の承認遅れ ③メディアの誤った批判 などが、その理由になっているため、よい結果を出している国のやり方を研究すべきだ)

*9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASP5P73Z8P5PUTQP00N.html?iref=comtop_7_03 (朝日新聞 2021年5月21日)東京五輪、強まるワクチン頼み 大会関係者へ接種も
 海外で新型コロナウイルスのワクチン接種が広がるなか、東京五輪に参加する選手や関係者にも接種を促す動きが加速している。開幕まで約2カ月。来日する約8万人の関係者やメディアの行動をどう制限し、感染拡大を防ぐのか。議論は大詰めを迎えている。国際オリンピック委員会(IOC)で東京大会の準備状況を監督する責任者のジョン・コーツ副会長がこの日、「緊急事態宣言下でも大会を開ける」との認識を示したことについて、大会組織委員会の幹部は「本当に宣言中にできるのかは、国民も疑問に思うし、慎重にやっていかないといけないが、宣言下でもテスト大会はやっていたので、安全性を担保していくということだろう」と話した。コーツ副会長はこの日、「ワクチンに関する議論もできた」とも述べた。新型コロナウイルスへの対策をめぐっては、IOCと日本側はともに「ワクチン接種を前提とせずに、安全で安心な大会を開く」と繰り返してきた。だが、IOCと米製薬大手ファイザー社などが今月6日、各国・地域の選手団向けに無償提供を受けることで合意してからは、ワクチン頼みの姿勢が強まっている。コーツ副会長はこの日の総括会見で「選手村(ベッド数は五輪で1万8千台)に居住予定の75%がすでにワクチン接種をしているか、ワクチンを確保している。大会時には80%を超えるだろう」と述べた。また、「選手との接触が多い人についても協力する用意がある」と述べ、日本の大会関係者に対するワクチン確保の可能性に言及した。IOCのトーマス・バッハ会長は19日、中止や延期を求める日本国内の世論を意識し「日本人を守ることが重要」と強調。「できるだけ多くの大会参加者がワクチンを接種したうえで来日することになるよう、IOCは努力する」とした。国内では高齢者のワクチン接種を7月末までに終わらせるという政府目標がある。五輪関係者について、丸川珠代五輪相は6日時点ではボランティア8万人への優先接種は想定していなかったが「打たないとIOCも心配するだろう」と話す官邸幹部もいる。さらに丸川五輪相は21日の閣議後会見で、報道関係者についても「調整委での議論を踏まえ、どう対応すべきかは話を詰めたい」と言及した。ある大会関係者は「欧米ではワクチン接種が進んでおり、新型コロナに対する状況が明らかに変わっている」と話す。6月に最終版を発行する大会時の選手や関係者の行動に関するルールブック(プレーブック)について「ワクチンを打っている人と、打っていない人が同じ扱いでいいのか議論がある」と明かす。この日の調整委員会では1万5千人の選手のほか、7万8千人の大会関係者が世界中から来日予定と明らかになった。選手村などで徹底隔離される選手と違い、条件を満たせば市中に出られる大会関係者やメディアの感染対策が課題だ。五輪に向けた飛び込みのテスト大会があった今月、東京イーストサイドホテル櫂会(かいえ)(東京都江東区)には、約30カ国から審判や国際水泳連盟役員らがピーク時は80人滞在した。一般客と接触しないよう全9階のうち6、7階を専用フロアとし、食事は各部屋で。出入りも警備員常駐の業者用を使ってもらった。関係者は競技会場へ行く以外、部屋にこもっていたという。本番も関係者を受け入れる予定で、多田敬一営業部長は「大会関係者は毎日の検査で陰性を確認し、行動管理も徹底していた。ホテルも従業員の健康をしっかり管理して臨みたい」と話す。行動ルールをまとめたプレーブックによると、大会関係者やメディアはワクチン接種の有無に関わらず、原則3日間の待機を経て活動可能になる。ただ14日間、外出先は競技会場などだけで移動は専用車。食事も会場内やホテル内、宅配に原則限られる。違反すれば大会に関わる権利が失われたり、14日間の隔離や強制退去の対象になったりする可能性がある。だが、入国から14日間が過ぎれば公共交通機関を使えるようになり、活動の範囲を広げることができる。選手村や多くのホテルがある東京都中央区の保健所の担当者は、特に村外に宿泊する人たちの行動に気をもむ。「メディアはコロナ下の東京を取材したいのではないか。行動の管理が本当にできるのか」と話す。来日15日目以降に規制が緩むことに複雑な思いを抱く海外メディアもいる。南ドイツ新聞からは記者4人が来日予定。東京特派員のトーマス・ハーンさんは自宅から通っての取材となる。「私は一般の人と一緒に電車に乗るわけで、市中感染し、プレスセンターにウイルスを持ち込むリスクは消えない」と話す。来日する各国や団体に違反がないよう管理・監督する責任者が各団体に置かれるが、専門家は「プレーブックは性善説に基づいており、実効性をどう担保するのか」と不安視する。

*9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK184780Y1A510C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2021年5月18日) 迅速なワクチン接種が経済回復の前提だ
 1~3月期の実質国内総生産(GDP)が3四半期ぶりのマイナス成長となり、年明け以降の日本経済の足踏みが鮮明になった。新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が再発令され個人消費が大きく減ったのが響いた。先進国で際立つ日本のワクチン接種の遅れは、経済の正常化をさらに後ずれさせかねない。景気の一段の下押しを避けるためにも、迅速な接種を進めたい。内閣府が18日発表した1~3月期の実質GDPは前期比1.3%、年率換算で5.1%減った。20年度の実質GDPは前年度比4.6%減と2年連続で減り、マイナス幅も戦後最大となった。直近で目立つのは内需の不振だ。年初から3月下旬にかけての2度目の緊急事態宣言で外食や宿泊の消費が低迷し個人消費は3四半期ぶりに減った。企業の売り上げ不振を背景に設備投資も2四半期ぶりのマイナスとなった。中国などへの輸出が回復し、経済の下振れをある程度は食い止めた。足元の経済は外需頼みだ。先行きは予断を許さない。変異型も含めた感染の再拡大で主要都市では4月下旬に3度目の緊急事態宣言が発動された。対象地域は広がり、4~6月期のマイナス成長を予想する声も多い。再び正念場を迎えた経済に政府・日銀は抜かりなく対応してほしい。気になるのは内外経済の回復度合いの違いだ。米国では1~3月期の実質GDPが前期比年率で6.4%増え、GDPの規模もコロナ危機前をほぼ回復した。ユーロ圏の同期間の実質GDPは2.5%減だったが、ここへきて21年の成長率見通しを大幅に引き上げるなど明るさを増す。ワクチンの接種が進み経済正常化への動きが加速しているためだ。この点、日本では厳しい状況が続く。少なくとも1度目のワクチン接種を終えた人の割合は3%未満。全人口の半数が1度目の接種を終えた英米、3割前後のドイツやフランスに大きく遅れる。菅義偉首相は7月末までに高齢者への接種を終えると述べたが、予約などの手続きをめぐり混乱が続く。問題を一つずつ解消し、円滑な接種につなげてほしい。今後も外出規制が繰り返されるような事態になれば経済の正常化はさらに遠のく。人びとが安心して生活できる環境を取り戻すことが経済回復の前提になることをあらためて認識すべきだ。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その1)>
PS(2021年5月25日追加):*10-1のように、IEAが2050年までに世界で温暖化ガス排出量を実質0にするための工程表を公表し、①化石燃料への新規投資を即時停止 ②2035年までにガソリン車の新車販売停止 ③2050年にエネルギー供給に占める再エネ割合を約7割に引き上げる必要 ④原子力割合を11%に増やし、石炭は2050年までに2020年比で9割減らす そうだ。
 しかし、①②はよいが、「パリ協定」は化石燃料だけではなく、原発の使用も禁止している。具体的には、③④は、原発は放射性物質だけでなく温排水も出しており、「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標には合致しないため、再エネ100%にするしかない。日本は、最初に脱化石燃料を言いはじめた再エネに恵まれた国であるのに、EVも再エネも遅れた原因は、このように従来型の高コストエネルギーを残そうとしてきたことである。また、2035年までに全車をEV・FCVにすることも、人口の多い他の国がモータリゼーション化する時代には必要不可欠であり、1997年に京都議定書が決められる頃からそのつもりだった。そのため、ハイブリッド車に時間とカネをかけすぎたのは無駄遣いで、従来型の雇用が減っても代替分野で新規雇用が発生するのは歴史を見れば明白なのである。
 また、*10-2のように、発電所を新設した場合に一番安い電源を国・地域ごとに調べれば、再エネが最も安い国が多数だったのは当然である。その理由は、電力は装置産業であり、原価の殆どが「(i)発電装置の建設費(固定費)+(ii)燃料代(変動費)+(iii)公害対策費(変動費)」だからだ。従って、(i)は、発電所を新設する場合なら原子力・火力より仕組みが簡単な再エネの方が安いに決まっており、(ii)の燃料代は、原子力・火力ともに高いが再エネは無料であるため、これほど安いものはない。また、(iii)の公害対策費も再エネが最も安いため、「日本で最も安い電源は石炭火力で、太陽光・風力の方が高い」というのがおかしいのである。なお、送電網の問題は人為的で、総括原価方式で作った既存の装置を使いたい大手電力会社の要請で経産省が故意に行ったものであり、電力市場を歪めているものでもある。
 このように、「再エネ電力は高コスト」などとできない理由を並べている間に、*10-3のように、車載電池では日本のチャレンジャーメーカーがはじき出されて脱落し、米国は韓国メーカー等と連携を深めている。一方、従来型に固執して既得権益を守るメーカーと新規事業にチャレンジするメーカーのどちらが次の時代に必要であるかは明白であるのに、政府が誤った選択をする日本は、新規のベンチャー企業などが育ちにくい。他国がやったのを見てあわてて追随するのは、文明開化時代の後進国ならともかく、既に経済発展をしてリーダーの立場になっていた日本としてはあまりにお粗末で、これでは今までの取引を失ってもやむを得まい。
 その上、*10-4のように、経産省が40年以上経過しても原発の使用済核燃料の貯蔵や処分、プルサーマル発電の推進のために自治体に支援策として血税を大量投入し、市場に誤った勝敗をもたらしているのは、国民にとっては「百害あって一利なし」であり、税と高額な電気料金の二重負担になっているのである。

*10-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO72030850Z10C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.19) 化石燃料へ新規投資停止 50年脱炭素、IEAが工程表
 国際エネルギー機関(IEA)は18日、2050年までに世界で温暖化ガス排出量を実質ゼロにするための工程表を公表した。化石燃料への新規投資をすぐに停止し、35年までにガソリン車の新車販売をやめる。50年にはエネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を約7割に引き上げる必要があり、脱炭素へ具体的な取り組みが求められる。50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにするのは、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が定める「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」目標と合致する。主要国が相次ぎ「排出量ゼロ」を表明したことを踏まえ、11月に英国で開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を前にIEAが具体的な道筋を示した。代表的な温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)でみると、燃料燃焼や産業工程からの排出量は20年で340億トンだった。50年の温暖化ガス排出実質ゼロを宣言した日米EU(欧州連合)や、60年のCO2排出実質ゼロを宣言した中国など各国・地域の目標を集計すると、CO2排出量は30年に300億トンになる。50年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにするには、30年にCO2排出量を20年比で約4割減の210億トンにする必要がある。IEAのビロル事務局長は「(実質排出ゼロは)難しいが、達成可能だ」との声明を発表。各国政府が強力な対策をとるよう求めた。化石燃料への新規投資を即時にやめ、エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの比率を30年時点で3割、50年時点で約7割にする必要も指摘した。原子力の割合を11%に増やす一方、石炭は50年までに20年比で9割減らす。電気自動車(EV)への移行や新興国の成長で発電量は50年までに2倍強に増える。先進国は35年、世界全体も40年までに再生エネ導入などで電力部門の排出を実質ゼロにする必要がある。輸送部門ではEV普及がカギだ。新車販売でEVとプラグインハイブリッド車(PHV)などの割合は足元で4.6%だが、30年に6割、35年までにほぼ全車がEVと燃料電池車(FCV)になることが必要だ。ハイブリッド車は含まれない。スウェーデンのボルボは30年、米ゼネラル・モーターズ(GM)は35年に新車をすべてEVにすると決めた。ホンダは40年までに全ての新車をEVかFCVに切り替える。30年以降の排出減には新技術の活用が不可欠だ。代表例が水素活用や、CO2を地中に埋めたり再利用したりするCCUSと呼ばれる技術だ。IEAの50年排出量実質ゼロの筋書きではCCUSを使い76億トンのCO2を取り込むと試算する。エネルギー投資は20年までの5年間は年平均2.3兆ドル(約250兆円)で推移しているが、30年までに年5兆ドルに引き上げる必要がある。脱炭素の取り組みで化石燃料部門で500万人の雇用が減る一方、30年に向けて1400万人の新規雇用が生まれ、世界の経済成長率を0.4ポイント押し上げるとみている。

*10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK282N90Y1A220C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2021年3月1日) 日本の再生エネ発電費用が高い理由は?
 2021年3月1日の日本経済新聞朝刊1面に「緑の世界と黒い日本(カーボンゼロ)」という記事がありました。1000㌔㍗時の電気をつくる場合、日本の太陽光発電にかかる費用は中国の約4倍になります。なぜ日本は再生可能エネルギーの発電にかかる費用が高いのでしょうか。
●ここが気になる
 発電所を新設した場合どの電源が一番安いかを国・地域ごとに調べたところ、再生エネが最も安い国が多数でした。1世帯が4カ月間に使う1000㌔㍗時の電気をつくる場合、中国は太陽光(33㌦)、米国は風力(36㌦)が最安でした。一方、日本で最も安い電源は石炭火力(74㌦)で、太陽光は124㌦、風力は113㌦かかります。日本で再生エネの発電費用が高止まりしている背景には不十分な送電網があります。地域をまたいで送電できる量が限られているうえ、送電網の運用は電力会社から独立しておらず、電力会社の自前の火力発電所や原子力発電所でつくった電力を優先的に接続します。この仕組みが再生エネの大量導入を阻み、コスト削減につながりにくい一因となっています。英国では送電線の利用に新たなルールを導入したことで再生エネが送電線を使いやすくなり、普及率が高まりました。日本も似た制度を21年に導入するものの、再生エネ事業者にとって不利な状況は変わりません。現在ほとんどない洋上風力が再生エネ拡大の切り札とされていますが、送電網の強化に加え、発電した電気を貯めておく蓄電池の整備も必要で、課題は山積しています。

*10-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210522&ng=DGKKZO72162700R20C21A5TB0000 (日経新聞 2021.5.22) EV電池、相次ぐ米韓連合 供給網で中国に対抗
 車載電池で米韓メーカーの連携が広がっている。米フォード・モーターは20日、韓国のSKイノベーションと米国に電気自動車(EV)電池の合弁工場を建設すると発表した。EVの基幹部品である電池で韓国メーカーの存在感が増せば、日本の部品や素材メーカーがサプライチェーン(供給網)からはじき出される可能性がある。フォードとSKは約6000億円を投じて米国に新工場を建設する。建設地は未定だが、2020年代半ばをめどにピックアップトラックのEV60万台分に相当する60ギガワット時の生産能力を確保し、能力増強も視野に入れる。フォードは19日に主力ピックアップトラックのEVモデル「F-150ライトニング」を公開した。「F-150」は米国で最も売れている人気車で、新型コロナウイルス危機下の20年も78万台を売り上げ、フォードの米国販売の4割を占めた。SKとの合弁で電池の調達にめどをつけ、看板車種のEV化で量産に弾みをつける。米ゼネラル・モーターズ(GM)は19年に韓国のLG化学と提携。22~23年にオハイオ州とテネシー州に合弁の電池工場を完成させ、合計70ギガワット時の電池を生産する。米自動車2強のEVシフトを、韓国の電池大手が支える構図だ。米韓2陣営の投資計画はバイデン米大統領の意向とも合致する。バイデン氏は2月に「半導体」「医薬品」「レアアース(希土類)」とともに「EV電池」を主要4品目と位置づけ、中国に依存しない調達体制の構築を指示した。車載電池は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)が大手だが、両社は米国への輸出や投資が難しい。18日にフォードのEV工場を見学したバイデン氏は「EVの競争で中国に勝たせるわけにはいかない」と強調した。韓国勢は米中の緊張関係が続く状況を米国開拓の好機ととらえ、投資を加速する。SKの金俊(キム・ジュン)社長は20日、「フォードとの合弁事業は米政府が推進するEV産業のバリューチェーンの構築と育成において核心的な役割を担う」と米国への貢献をアピールした。SKとLGはEV専業の米テスラとの契約こそパナソニックに譲ったものの、米2大メーカーを押さえて一気にシェア拡大を狙う。フォードとGMはEV事業で独フォルクスワーゲン(VW)、ホンダとそれぞれ提携しており、合弁事業を通じて提携先への供給拡大にも道筋がつく。同じ韓国のサムスンSDIも、旧クライスラーを引き継いだ欧州ステランティスに電池を供給している。一方、日本企業では日産自動車と組んでいたNECが車載電池事業から撤退。ジーエス・ユアサコーポレーションも独ボッシュとの電池の合弁事業を解消した。本格的な電池供給を手掛けるのはテスラやトヨタ自動車と組むパナソニックのみだ。完成車メーカーも日産が米テネシー州でEV「リーフ」を生産しているものの、年間1万~2万台と規模は小さい。バイデン大統領は電池だけでなくEVそのものも米国内で生産するよう求めており、生産設備をもたない日本や欧州メーカーは追加投資の判断を迫られる。EVシフトが進むにつれ、自動車のサプライチェーンは電池とモーターを中心としたかたちへと組み替えが進む。基幹部品である電池を中国や韓国メーカーに押さえられれば、日本の部品や素材メーカーは従来の取引を失いかねない。

*10-4:https://this.kiji.is/769847994391150592 (共同通信 2021/5/25) プルサーマル発電で支援策、自治体向けに検討、経産相
 原発の使用済み核燃料の貯蔵や処分に関する対策推進協議会が25日、経済産業省で開かれ、梶山弘志経産相が、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を通常の原発で使うプルサーマル発電の推進に向け、自治体の支援策を検討する考えを表明した。原発を持つ電力各社はオンラインで会合に参加した。梶山氏は、プルサーマル発電を拡大するため事業者間の連携強化を要望し、自治体支援にも触れ「地元の理解確保に向けて、事業者と一体となって取り組む」と述べた。電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「支援は大変ありがたい」と答えた。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その2)>
PS(2021年5月26日追加): 新型コロナワクチンについては、*11-1のように、「①複数のワクチンを仕分けして適正配分する仕組みが欲しい」「②自衛隊のセンターについては、自治体接種との『二重予約』が防げない等の問題点も判明した」「③打ち手確保のため医師・看護師・歯科医師だけでなく、薬剤師・救急救命士に広げたい」「④大学病院や産業医がいる事業所の診療所などの活用も進めたい」等々、打つ段階になっても問題の指摘が多い。
 しかし、①については、持病のある高齢者など高リスクの人は、かかりつけ医と相談した上で、かかりつけ医か紹介された大病院で安全にワクチンを接種した方がよいため、市区町村が日本で実績を積んだファイザー製を使うのは理にかなっている。また、大規模接種センターは、高齢者や一般人の中でも比較的低リスクの人が素早く接種するために行くので、承認されたばかりのモデルナ製を使ってよいだろう。さらに、②の二重予約は、二重にワクチンを打つ必要はないため遅い方をキャンセルすればよく、どれも普通の大人が考えてわかることである。
 また、③については、日本は人口当たりの医療従事者数が少ないわけではなく、注射するにもリスクがあるため、「緊急だから何でもあり」では困る。従って、④のように、大学病院・産業医のいる事業所・校医のいる学校・大規模スーパーなどで適切なワクチンを選んで接種すれば素早く終了できるだろう。また、ワクチンを打てずに旅行しようとする人等のためには、一度の接種ですむJ&Jのワクチンを、航空会社が空港で有料接種すれば良いと思う。
 なお、日本は新型コロナウイルスのワクチン開発や承認が遅れており、*11-2のように、「⑤科学的エビデンスに基づいて実用化するための国内治験に壁がある」「⑥実用化されたワクチンが既に存在するのに、国産ワクチン候補の治験に参加者を集めるのは難しい」「⑦比較のための『偽薬』を接種する通常の手法が倫理的に許されない」などの課題がある。しかし、⑤⑥については、ワクチンや治療薬の開発を行うには、最初は必ず希望者を募って治験しなければ科学的エビデンスはできないのに、日本では希望者を募っての治験すらやりにくいのが問題なのである。また、⑦については、新型コロナのような重篤にもなりうる感染症で偽薬を使われた人はたまったものではないため、iPS細胞を使った臨床試験など他の方法を開発すべきだ。さらに、いくら難病になってもいい加減に承認された薬剤を使われては困るが、患者が希望しても日本の厚労省が承認していない薬は使えないのも、治験が進まず新薬を世に出せない理由となっている。そして、メディアも、批判のための批判が多すぎて、「君子危うきに近寄らず」という環境を作ってしまっているのは改めるべきだ。

*11-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/681276 (佐賀新聞 2021.5.25) 国、地方は連携強化を
 米モデルナ製と英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチン承認に続き、東京と大阪で自衛隊運営の大規模接種センターが始動した。都道府県や政令指定都市による独自の大規模会場設置も拡大する見通しだ。10都道府県で緊急事態宣言が発令される中、東京五輪開幕まで2カ月を切った。菅政権は7月末を目標とする高齢者への接種完了に向け大規模接種で局面転換を狙う。ただ複数のワクチンをきちんと仕分けして適正配分する仕組みや、打ち手確保など効率的な接種態勢整備にはなお課題がある。国と地方自治体は連携を最大限に強化しこの難局を乗り切ってほしい。自衛隊運営のセンターは首都圏1都3県と関西3府県の高齢者それぞれ900万人、470万人が対象だ。最大で1日当たり東京1万人、大阪5千人に接種する想定だが、3カ月間フル稼働したとしても対象者の1割程度にしか接種できない。全国の高齢者3600万人に対応するには市区町村が実施する集団、個別接種がフル回転してもなお不足だ。政府の要請で宮城、群馬、愛知各県が開設し、今後は計約30自治体に広がる見通しの自治体独自の大規模会場を早く軌道に乗せたい。それには医師、看護師、歯科医師で注射の打ち手が十分確保できるのか、薬剤師などに広げることが可能なのか、政府は早急に検討し対処すべきだ。自衛隊のセンターについては、自治体接種との「二重予約」が防げないなどの問題点も判明した。予約の際に高齢者に注意喚起するほかない現状であり、政府と自治体の情報共有、連携が従来になく重要とみるべきだ。一方、都道府県と政令市は、7月末完了を目指す政府から尻をたたかれ、市区町村の力不足を補う大規模接種に乗り出す形だ。会場確保・設営、接種や問診に当たる要員確保などの準備は突貫作業を迫られている。自治体同士の人材争奪を避けるためにも大学病院や産業医がいる事業所の診療所などの活用も進めたい。政府が主導して地方への支援を強めてほしい。政府は複数のワクチン活用で接種加速化を図る方針だ。いずれのワクチンも2回接種が必要だが、自衛隊や自治体独自の大規模接種ではモデルナ製、市区町村が先に開始した接種はファイザー製を使う。1回目と2回目で別のワクチンを打つと短期的な副反応が多いとされるため、配送経路も含めてすみ分けを明確にし、現場の混乱を防ぐ。ただ大規模会場がある地域では、どこに予約するかで高齢者が二つのワクチンを選択できてしまう実態がある。別ワクチンを打つことがないよう防止策徹底を求めたい。アストラゼネカ製は、まれに接種後に血栓が生じる例が海外で報告されているため、政府は当面公費接種の対象から外す方針だ。ただ英国などで接種実績があって効果も確認されている上、6千万人分の供給契約が済んでいる同社製を完全に排除するのもどうか。リスクと利益の兼ね合いで接種年齢を絞るなど対策を講じた上で使用する道も探るべきではないか。内閣支持率がジリ貧の菅義偉首相は「ゲームチェンジャー」と位置付けるワクチン接種に起死回生を懸ける。だが集団免疫の獲得には国民8~9割の接種が必要ともされ、すぐに以前の日常が戻るわけではない。過度な期待もまた禁物だ。

*11-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14916621.html (朝日新聞 2021年5月25日) 国内治験に壁、政府が承認過程見直し議論 国産ワクチン、科学的検証は必須 野口憲太
 「有効性と安全性について、みんなが納得できる科学的なエビデンスがなければならない」。新型コロナウイルスのワクチンについて取材したときの専門家の言葉だ。「周回遅れ」とされ、実用化が待望される国産ワクチンだが、スピードありきではない、科学に基づいた実用化を求めたい。国内企業による「後発」のワクチン開発は大きな壁に直面している。十分な有効性と安全性があるかをみる、最終段階の臨床試験(治験)を国内でやることが難しいのだ。ファイザー製など実用化されているワクチンがすでに存在するなかで、国産ワクチン候補の治験のために未接種の参加者を大勢集めるのは難しい。比較のための「偽薬」を接種する通常の手法が倫理的に許容されるのか、という論点もある。ワクチン候補を使って体内の免疫反応を確認し、有効性を評価する方法もある。だが、「どんな免疫反応が起きれば、感染や発症を防げるのか?」の知見は確立していない。海外での治験も模索されるが、世界でワクチン分配がすすめば、同じ壁にぶつかる。政府は今後、承認過程の見直しの議論をすすめる。難病の治療薬開発で使われる「条件付き早期承認制度」の適用を求める声があるが、大勢の健康な人が接種するワクチンへの適用は慎重になるべきだ、という意見は重い。さまざまな制約を克服するためには、厚生労働省など規制をかける側にもある程度の柔軟さが必要だろう。ただ、壁を乗り越えることや迅速さが目的となって、科学的な検証がないがしろにされてはならない。そもそもなぜ治験をするのか? ワクチン候補の有効性と安全性を確かめるための、科学的な証拠を得るためだ。柔軟さが必要でも、それは科学に基づいた検証に耐えうるものでなければならず、世論の期待感や政治的な思惑とは距離を置く必要がある。たとえ「後発」でも、使えるワクチンが増えることは望ましい。使われる技術は次の危機への備えにもなる。「みんなが納得できる」ワクチンを、この国がしっかり生み出すことができるのか、これからも注目したい。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その3)>
PA(2021年5月28、31、6月4《図》日追加):*12-1のとおり、自宅療養に必要な介護サービスを支える介護保険料は、現在は主として65歳以上の高齢者に支払わせている。そのため、所得の少ない年金生活者に月額6千円を超える負担を強い、現在の制度のままでは高齢者人口がピークの2040年度には高齢者の介護保険料負担が8千円を超えるという試算もある。その上、年収200万円(月収16.7万円)以上の高齢者は医療費の窓口負担が1割から2割に引き上げられ、収入源である年金の方は減らされて、高齢者の暮らしが成り立たなくなった。これら一連の政府(特に厚労省)の政策は、「高齢者はお荷物だから、早く死んでくれ」と言わんばかりだ。
 しかし、戦後の働き手は、制度ができて以降は制度に従って社会保険料を支払ってきたため、受給段階になって積立金が足りないのなら、それは100%管理者の責任だ。さらに、日本は高齢化先進国であるため、高齢者の需要を満たす製品は今後の世界の売れ筋商品になり、これは政治や行政が勝手に決めた供給政策よりずっと利益獲得機会が確実なのである。
 その一例として、*12-2のセコムのセンサー技術等を使った見守りサービスがあり、今後、サービス内容を充実させたり、1人あたりの生産性を高めたりすれば、便利でニーズの高い第三次産業になる。また、*12-3の食事の準備が難しくなった高齢者の自宅に美味しくて栄養バランスのよい食事を届ける配食サービスも、自活や自宅療養をやりやすくして社会的入院を減らすことに貢献する。そのため、医療や介護と連携して自治体が協働するのもアリだが、実需なので民間の工夫で第一次産業・第二次産業・第三次産業を包含しながら発展することも可能なのだ。それにもかかわらず、政府は高齢者の可処分所得を減らすことに専念して、高齢者がそのニーズにあった消費を選択できないようにしているのである。
 なお、*12-4のように、公表されているだけで全国の介護施設で9,490人が感染して486人が死亡し、46自治体で入院が必要なのに施設にとめおかれた高齢者がおり、介護現場はコロナ療養まで担って負担が激増するというあってはならない事態が起こった。しかし、介護施設に入所している高齢者は出歩かないため、介護担当者や出入業者などの関係者から感染したことは明らかで、検疫をザルにし、介護関係者のPCR検査やワクチン接種をケチった厚労省(含:専門家会議)の責任は重い。

   
    2021hitoshia          2021njg        2021nliresearch
 
(図の説明:左図が介護保険制度の仕組みだが、主として65歳以上の高齢者しか対象にしていないため、負担に無理があると同時に給付内容に不足がある。また、中央の図のように、負担に上限が設けられているのは良いが、介護は医療と同時に行われ、長期に渡るため、医療費と合計した上限にすべきだ。なお、右図のように、介護保険制度は、2003年から2019年まで改正を重ねてきたが、その度に介護保険料が上がり、高齢者の保険料負担が上限を超えている)

   
2021.5.30琉球新報   2021nliresearchi

(図の説明:左図は、2020年5月と2021年5月で介護施設の新型コロナ感染者数と死者数を比較したものだが、病態がわかってきたのに感染者数が20倍にもなっているのは自然でない。また、中央の図は、厚労省の介護保険部会で論じられている検討事項だが、介護予防や健康作りのために介護保険料を支払っているのではないため、これは目的外支出だろう。さらに、自宅療養を可能にするためには、右図の地域包括ケアの充実が必要不可欠だが、現在は介護としての生活支援が不足しており、ケアマネジメントやケアプランは最低コストで最大効果を出して患者を護るための介護計画であるため、介護費用に含まれるべきであって有料にするのはおかしい)

*12-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/743038/ (西日本新聞社説 2021/5/23) 介護保険料上昇 制度改革へ国民的議論を
 生活がだんだん苦しくなる。そんな実感から不安を募らせる高齢者も少なくないだろう。65歳以上の高齢者が支払う介護保険料が全国平均で初めて月額6千円を超え、6014円となった。制度が始まった2000年度から2倍に膨らんだ。高齢者の保険料は市区町村や広域連合が3年に1度見直す仕組みで、今年4月の改定ではおおよそ半数が引き上げた。九州でも高齢化が進む市町村などの多くで保険料が上昇した。高齢化が進むと、要介護や要支援と認定される人は増え続ける。高齢者が払う保険料は、団塊の世代がすべて75歳以上になる25年度には7千円に迫り、高齢者人口がほぼピークに達する40年度は8千円を超えるという推計もある。このままでは、負担の増大は避けられない。一定の収入がある高齢者は医療費の窓口負担を1割から2割へ引き上げる法案が今国会で成立の見通しだ。その一方で高齢者の主な収入である年金は減っている。介護保険料を滞納し、資産を差し押さえられる人も増え、18年度は全国で約2万人に達した。困窮する高齢世帯の支援は待ったなしの課題だ。介護保険制度はこれまで保険料の引き上げと利用時の自己負担増、サービスの縮小で維持されてきた。その結果、高齢者全体の暮らしは徐々に厳しさを増している。介護報酬体系の複雑化を問題視する声もある。日本の高齢化率は40年以降も上昇するだろう。慢性的な介護人材不足の解消には待遇改善は不可避だ。介護保険制度の持続には「負担と給付」の在り方を抜本的に見直す必要がある。現役世代の過度な負担増には配慮が欠かせないとはいえ、保険料を支払う年齢を現行の40歳以上から引き下げることも検討対象とすべきだ。サービス利用時に2割、3割を自己負担する高齢者の範囲を広げることについても議論の余地があろう。介護保険の財源の半分は国や自治体の公費で賄われている。保険料や自己負担の引き上げだけでなく、税制全体に踏み込んだ議論も避けるべきではない。必要なサービスが過不足なく提供されているか。無駄なサービスがないか。チェックが欠かせない。自治体による介護予防の効果も検証を急ぎたい。高齢になった子が老いた親を介護する老老介護や介護離職に続き、介護などの負担にあえぐ若年層を意味する「ヤングケアラー」が社会問題化している。このまま手をこまねいていては、介護保険制度の柱である「介護を社会全体で担う」との理念が損なわれてしまう。政府は早急に制度の見直しに着手し、国民的議論を喚起すべきだ。

*12-2:https://digital.asahi.com/articles/ASNCW5DBQNCTULFA02G.html (朝日新聞 2020年12月2日) 会えない、だけど見守りたい セコム社長語るコロナ需要
 コロナ禍の猛威が続くなか、企業に広がったテレワークや時短営業。その影響は警備業にも及んでいるという。どんな状況なのか、セコムの尾関一郎社長に聞いた。私たちの売上高(連結)の5割以上はセキュリティーサービス事業で、主力はオンラインによる機械警備です。会社に出勤する人がいなくなったり、店が24時間営業を取りやめたりすれば、無人の時間帯が発生し、警備の需要が発生します。4、5月の緊急事態宣言期間は経済活動が止まった一方、サービス解約の動きはあまり出ませんでした。国内のグループ合計のセキュリティー契約件数(事業所や家庭など)は9月時点で約250万件で、3月時点から約3万件増えました。コロナ対応でオフィスが集約されると、需要が減る面はありますが、世の中の動きとしてはあまり出ていないと思います。今後の感染状況にも左右される外食やアパレル業界などの店舗の統廃合は心配ですが、現状は新規の契約でカバーしています。一方、コロナ禍で家庭向けのサービスでは、当初の想定とは違う形でニーズが出てきました。離れて暮らす高齢の家族に「会いたいけど会えない」状況でも、健康状態を見守りたいというニーズです。当社は以前から見守りのサービスに力を入れてきましたが、センサー技術を使った新たなサービス導入に向けて準備しています。事業者向け、家庭向けともに需要が高まると、異状があれば現場に急行する警備員にとっては、担当件数も増えます。1人あたりの生産性を高める必要があります。コロナの影響で雇用が流動化して比較的人材が採りやすい環境になり、いっそう中途採用に力を入れています。とはいえ、ただでさえ夜勤があるような厳しい職場。社員の負担を軽くすることは取り組むべき課題です。

*12-3:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63735200R10C20A9KNTP00/ (日経新聞 2020年9月14日) 高齢者に配食サービス、自治体が支援、安否確認も
 食事の準備が難しくなった高齢者の自宅に弁当を運んでくれる配食サービスが広がっている。住む地域によっては、ひとり暮らしやお年寄りだけの世帯向けに自治体が料金を一部負担したり、安否確認を兼ねたりするサービスもある。栄養バランスのとれた食事の活用も考えてみてはどうだろう。東京都東村山市に住む80代のひとり暮らしの男性は、夕方に弁当が届くたびに配達員との会話を楽しみにしているという。玄関で弁当を手渡すと男性は事前に購入した複数枚つづりの配食チケットを1枚(550円)を切り取って交換。その日にあった出来事などを軽く雑談するという。「栄養バランスもあり、季節ごとのメニューも良い」と満足した様子だ。東村山市の助成は、原則65歳以上のひとり暮らしか70歳以上の高齢者のみの世帯が対象。心身の障害や傷病などで調理が困難だと認められる場合、月曜から金曜日に夕食の配食サービスを利用できる。1食あたりの料金の一部を市が負担する。7月末時点で約120人が利用している。配食時に見守りサービスを組み合わせる自治体は多い。京都府長岡京市は配食事業者へ安否確認を委託。見守り費用として1日につき1回320円を助成、市が事業者に支払う。事業者は高齢者に食事を手渡し「今日もお変わりないですか?」といった声かけもする。利用者から毎回、サインやなつ印をもらう。玄関の呼び鈴を押しても反応がないなど異変を発見した場合は市役所や家族、介護などの窓口になる地域包括支援センターなど事前に登録してもらった場所に速やかに連絡する。「孤独死防止や生活不安の解消が狙いだ」(同市)。現在、市内で約280人の高齢者が利用している。愛知県西尾市は2018年から昼食か夕食かを選択できるようにした。19年度の利用者は375人になった。市は1日1食あたり250円を負担する。「利用者も増え、高齢者の安否確認を充実させることにつながっている」(同市)。福岡県直方市では高血圧や糖尿病の高齢者向けに減塩食のメニューが選択できる。1食の塩分使用量が2.3グラム以下の弁当を用意し、市が1食209円を支援する。減塩食の利用者負担は520円と普通食の370円より高いが「配食利用者約220人のうち39人が頼んでいる」(直方市)。東京都台東区では社会福祉協議会が業者に依頼し、普通食のほか糖尿病や腎臓病などで食事制限がある人向けにカロリーやたんぱく質を調整する特別食(600円から730円)を昼と夕食のメニューに加えている。健康管理に役立てている。配食支援は各地の自治体などが手がけているが意外と知らない人も多い。申し込む場合は高齢者の居住地によって心身の衰えや疾病の状況、家族の支援の有無の条件などが異なる。高齢者と離れた場所で暮らす親族が敬老の日を前に、自治体の公式ウェブサイトや役所に電話で確認してみるのもいいかもしれない。

*12-4:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1330404.html (琉球新報 2021年5月30日) 全国の介護施設で感染9490人 486人死亡、共同通信調査
 高齢者が入所する介護施設で、新型コロナウイルスに感染した入所者が全国で少なくとも累計9490人おり、このうち486人が亡くなっていたことが30日、共同通信の調査で分かった。46自治体が、入院が必要にもかかわらず施設にとどまった高齢者がいたと回答した。昨年5月に共同通信が実施した同様の調査では、感染した入所者は474人、死者79人。感染者は1年で約20倍となった。非公表とする自治体もあり、実際の数はさらに多いとみられる。介護現場では本来の業務に加え、感染防止策、コロナ療養も担うなど負担が激増。感染弱者の高齢者に病床逼迫のしわ寄せが及んでいる恐れもある。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その4)>
PA(2021年5月30日追加): 日本政府は、*13-1のように、2021年版「ものづくり白書」で、経済安保の観点から国内の製造業にサプライチェーンを強化し、リスクを把握するよう求めたそうだ。私も、*13-2のように、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の後にレアアースが輸出制限されたこともあり、日本も国内供給網を充実させておくことは必要不可欠で、自由貿易だからといって「石油は中東」「レアアースは中国」「家電も中国」「食料も中国ほか外国」「繊維製品も中国ほか外国」など何でも輸入に頼っているようでは、そのうち売る物がなくなり、言うべきことも言えなくなると思う。さらに、レアアース・メタンハードレート・原油などが、上の(5)で述べたとおり、日本の排他的経済水域に大量に埋蔵されていることは既に発見されており、現在は日本が資源国になっていることに外国は気付いているのに、日本の行政・政治・メディア・国民だけがそれに気付いていないという情けない状況なのだ。
 資源があれば、それを巡っての争いも起きやすくなる。そのため、日本は、論理的に筋を通した上で自衛する必要もあり、*13-3のように、米軍が国外兵員配置を欧州・中東から東アジア・太平洋に移しているのも必然だ。しかし、日本では「石油供給の9割を中東に依存するため、米国が中東から手を引く影響を最も受ける」などと馬鹿なことを言っているのであり、資源所在の変化に気付いていないのである。また、*13-4のように、英空母群もインド太平洋に出航し、米国やオランダの艦船も加わって日本での共同訓練を調整しているのは頼もしいが、ジョンソン首相が外交安保の新戦略で「経済、地政学上の中心」としてインド太平洋地域への「傾斜」を表明したのは、香港・台湾の自由と民主主義のためだけではない筈だ。

*13-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210528&ng=DGKKZO72359120Y1A520C2EAF000 (日経新聞 2021.5.28) 「供給網リスク把握を」 ものづくり白書、経済安保を重視
 政府は28日、2021年版の「ものづくり白書」を閣議決定した。経済安全保障の観点で米国や中国、欧州が輸出入の管理を強めていることを踏まえ、国内製造業に自社のサプライチェーン(供給網)を強化し、リスクを精緻に把握するよう求めた。脱炭素化とデジタル化の推進も不可欠とした。新型コロナウイルスの感染拡大や米中の貿易摩擦を背景に国際的な供給網の再構築が課題となっている。デジタル化や脱炭素化が加速するなか、半導体や蓄電池といった重要部品で強固な供給網をつくることが国際競争力の向上に直結すると強調した。コロナ禍で物資供給に支障が出たことを受け、「世界で同時多発的に発生する寸断リスクへの対応に取り組まねばならない」と指摘し、事業継続計画(BCP)では自社被害だけでなく供給網全体で備えることを求めた。

*13-2:https://news.yahoo.co.jp/byline/nishiokashoji/20210223-00224079/ (Yahoo 2021/2/23) アメリカに「レアアース輸出制限」をちらつかせながらも踏み切れない――中国に根深い “対日トラウマ”
 レアアース(希土類)の主要産出国である中国が「仮に輸出制限に踏み切れば、米欧の防衛産業にどれだけの打撃を与えられるか」という値踏みを始めた――と、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が最近報じた。米国に対するレアアース規制という中国の“報復”措置はたびたび俎上に載せられるが、いつの間にか、立ち消えになっている。中国側が踏み切れない事情とは……。
◇「輸出制限で米防衛産業にどれぐらいの影響?」
 FTは今月16日、「米中対立の際、中国がレアアースの輸出を制限した場合、防衛請負業者を含む米国や欧州の企業にどのぐらい影響が及ぶかと、中国政府当局者が業界幹部に質問した」と伝えた。中国がレアアースの輸出規制というカードで米側に揺さぶりをかけるというポーズをちらつかせた形だ。レアアース規制は2019年に米中関係が悪化した時にも注目された。当時のトランプ政権が中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に対し、米製品輸出や米国由来の技術移転を規制するなど強硬姿勢を見せた。この際にも、中国側が報復措置としてレアアース輸出規制に踏み切るかどうか、国際社会の関心を集めていた。中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の胡錫進編集長は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で、FT報道を「米中対立の機運をさらに盛り上げて、これを喜んでいる」と批判しつつも「中国が米国に『レアアース戦争』を仕掛けなければならないほどの対立には至っていない」と火消しに回った。同時にバイデン現政権に向けて「理性を取り戻し、米中を深刻な関係断絶の方向に推し進めないよう願う」と求めた。
◇「中東に石油、中国にレアアース」
 レアアースとは、希少金属(レアメタル)の一種。磁力を強めるネオジムや、高温でも磁力が落ちないジスプロシウムなど、17種の元素の総称だ。スマートフォン、パソコン、省エネ家電、ハイブリッド車、電気自動車(EV)、最新鋭ステルス戦闘機F35、対戦車ミサイル「ジャベリン」、レーザーなど、幅広い分野で不可欠な材料であり、「産業のビタミン」などとも呼ばれる。そのレアアースの埋蔵量は中国が世界の30%以上を占める。中国では1950年代から周恩来首相(当時)らがレアアース産業に注目し、発展計画を立ててきた。92年には当時の最高指導者、鄧小平氏が南方視察の際、「中東に石油あり、中国にレアアースあり。どうあろうとも、レアアースの仕事をうまく処理していくべきだ」と積極展開を指示してきた。中国は安い採掘コストを背景に生産を急拡大させ、それに押された米国などは産業を縮小せざるを得なくなった。その結果、中国は2007年、世界の生産量の96.8%を握る「一人勝ち」状態になった。一方で、中国のレアアース産業には多様な問題点が浮き彫りになった。需要が高まる中で生産統制が甘くなり、不法採掘や密輸が横行▽生産過程で土壌・地下水・大気の汚染が深刻化▽中国の急速な経済成長に伴いレアアースの国内需要の大幅増――などから、そもそも輸出に慎重にならざるを得ない状況にはある。
◇尖閣事件のダメージ
 中国は「一人勝ち」を背景に、外交関係が悪化した国に対し、輸出規制というカードをちらつかせてきた。それがはっきり示されたのが、2010年9月7日に起きた沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件だった。日本領海内で違法操業した中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしたため、海保が船長を逮捕。すると中国側が反発し、日本向けのレアアース輸出の通関手続きを滞らせる事実上の「禁輸」措置に打って出て、日本側に動揺が広がった。ただ、レアアースの戦略的活用が相手国に打撃を与える一方で、多くの「副作用」も露呈した。日本は事件後、「中国に頼らない供給の仕組みをつくるべきだ」として新たな供給網の構築を進めるとともに、代替技術の開発も促進した。このため輸入全体に占める中国の割合は09年の85%から18年には58%にまで引き下げられた。さらに、中国産レアアースの相対的な価値が低下した▽中国が国際的な信頼を失い、海外で別の資源を採掘するのが困難になった▽不法採掘や密輸が一段と深刻化した――などの逆風が吹き、中国のレアアース産業もダメージを受ける形となった。対米規制が実施された場合にも、同様の事態が予想される。中国にとってレアアース規制は「もろ刃の剣」でもあるようだ。

*13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210523&ng=DGKKZO72176310T20C21A5MM8000 (日経新聞 2021.5.23) 軍事の重心、西から東へ、対中シフト、在外米兵5割がアジア
 世界の軍事力の重心が西から東へ移ってきた。米軍の国外の兵員配置は20年間で、欧州や中東に代わり東アジア・太平洋が最も多くなった。世界全体の兵力もアジア太平洋の比重が高まる。冷戦期の東西対立から対テロ戦争を経て、中国が安全保障上の脅威になった変化を映す。米国の対外戦略が転換点を迎えている。バイデン米大統領はアフガニスタンの駐留軍を9月までに撤収する方針を打ち出した。4月には日米首脳の共同声明で台湾海峡に触れた。中国抑止を重視する姿勢が前面に出る。米国防総省のデータから米軍の在外兵力の配置の変遷をみた。2000年の駐留先は6.9万人のドイツが最多だった。01年の米同時テロ以降は中東に軸足を移し、ピーク時はアフガニスタン、イラクに各10万人超を投じた。13年に当時のオバマ米大統領は「もはや世界の警察官ではない」と語った。20年までの10年間で在外兵力は全体で5割程度減った。一方で東アジアの同盟国の日本や韓国では規模を保っている。米国以外の動向はどうか。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が発行する「ミリタリー・バランス」のデータで世界の兵力分布や装備の変化を調べた。世界全体の兵力は縮小が進む。冷戦期に東西対立の前線だった欧州・旧ソ連諸国は30年間で半分以下に減らした。対照的に中国周辺の新興国などが増加した。インドネシアは30年間で4割、フィリピンは3割、国境紛争を抱えるインドは15%伸びた。アジアの比重が顕著に高まった。中国は兵員数を減らしたものの装備の充実が目覚ましい。1990年にゼロだった中国の近代型戦闘機の保有数は30年間で米国に次ぐ規模に膨らみ、自衛隊や在日米軍を上回る。日韓台も新型装備の導入に力を注ぐ。中国が競争を招く構図が浮かび上がる。中国はミサイルや潜水艦も大幅に増強した。米国防総省などの分析によると、台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルは95年の50発から19年時点で750~1500発に増えた。中距離弾道ミサイルも950発以上と推計される。「多くの人が考えるよりもずっと近いと思う」。4月末に就任したアキリーノ米インド太平洋軍司令官は3月、上院の公聴会で中国の台湾侵攻への危機感を訴えた。オースティン米国防長官は3月の来日時、記者会見で「中国などへの競争優位性を持つ必要がある」と強調した。同氏は中東を管轄する米中央軍司令官だった。いまは「この20年、我々は中東に関心を払ってきた。その間に中国は軍の近代化を進め、威圧的な行動をとるようになった」と警鐘を鳴らす。防衛研究所の塚本勝也社会・経済研究室長は「米国にとって地域の軍事バランス回復は急務だ」と話す。「前方展開能力を高め、中国のさらなる台頭を抑え込もうとしている」と分析する。米国のプレゼンスだけで中国に対峙するのは難しく、同盟国の責任も増す。日米首脳の共同声明は日本の防衛力強化の決意を盛り込んだ。岸信夫防衛相は国内総生産(GDP)比1%の枠にこだわらず防衛費を増やす方針を示す。変化の影響は中東にも及ぶ。三菱総合研究所の中川浩一主席研究員は最近のイスラエルとパレスチナの衝突激化を「バイデン政権の脱中東、対中国シフトの外交戦略による面が大きい」とみる。日本は石油供給の9割を中東に依存する。中川氏は「米国が中東から手を引く影響を最も受ける」と警戒する。世界の軍事バランスの変動は日本に新たな安保上の難題をもたらしている。

*13-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/680768 (佐賀新聞 2021年5月23日) 英空母群、インド太平洋へ出航、日本で共同訓練調整
 英軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群が22日、初のインド太平洋地域への展開に向けて英国を出航した。英メディアが23日報じた。同地域を重視するジョンソン政権の安全保障戦略の象徴として、日本やインドなど約40カ国に寄港。台頭する中国をけん制する狙いもあるとみられる。艦隊は7カ月をかけて地中海やインド洋、太平洋に展開。日本では自衛隊との共同訓練も調整されている。シンガポールや韓国にも寄港する。クイーン・エリザベスは2017年に就役した英最大級の艦艇で、排水量6万5千トン、全長280メートル。英政府によると、今回の派遣では駆逐艦やフリゲート艦、潜水艦を従え、最新鋭ステルス戦闘機F35Bなども配備する。米国やオランダの艦船も加わる。出航前の22日にはエリザベス女王が司令官らの激励に訪れた。ジョンソン首相は「インド太平洋地域の平和と安全への関与を行動で示し、われわれの影響力を示す」と意義を強調している。ジョンソン政権は3月に公表した外交安保の新戦略で「経済、地政学上の中心」としてインド太平洋地域への「傾斜」を表明した。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その5)>
PS(2021年5月31日追加): 医療が逼迫してパルスオキシメーターも足りなくなり、自宅療養中に死亡者が出たという沖縄県で、*14-1のように、治療が必要な自宅療養者を対象として訪問看護が開始されたそうだ。訪問看護も介護と同時期に始まった自宅療養に必要な制度であるため、これまで表に出なかったのが不思議なくらいだ。しかし、沖縄は島なのに、新型コロナ感染者が増えた理由は、空港での検査がザルだったからではないのか?理由を明らかにしてそれを止めなければ、現象のみに対応しても「焼石に水」である。また、家族がいるのに感染者が自宅療養すれば、マスクを着けたり消毒したりしても家庭内感染を止めることはできないため、軽症ならホテル療養することになっていたではないか?
 また、*14-2には、「①診療所には内科でも発熱患者を拒むところが多い」「②発熱・体調不良の患者が最初に相談する窓口は住民に身近な診療所であるべき」「③日本ではその役割を保健所が引き受け、業務逼迫でパンクした」「④通常の診察を大きく減らして地域の高齢者に幅広く接種する開業医は少数」「⑤コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけている」「⑥小規模な民間病院の再編・統合を促す政策を打ち出すことが必要」と書かれている。
 しかし、①②は、一般の患者と動線を分けられない診療所は、新型コロナの疑いのある患者を避けて院内感染を防ぐ必要があるので仕方がない。また、④は、病気は新型コロナだけではないため、通常の診察を大きく減らすわけにもいかない。しかし、③のように、保健所が間に入ったことで、医師以外の慣れない人に相談して埒があかなかったり、無駄な時間を費やしたりするケースが多かったのだ。従って、⑤については、自宅療養するためには適切な数の診療所は必要であり、⑥のように、小規模な民間病院を再編・統合すればうまくいくとは限らない。
 それでは何が必要かと言えば、*14-3のように、都道府県が地域の事情に合わせて「地域医療構想」を作り、病院間の役割分担・訪問看護・介護の計画や広域医療計画を立てることが必要なのだ。ただし、重症者や救急患者に対応する急性期を治療するのが病院なので、病院の急性期病床を減らすのは誤りだ。それ以外にリハビリ病床は必要だが、生活習慣病などの慢性期は病床を増やすよりも自宅療養を可能にする方が重要だろう。つまり、「急性期病床を減らせ」「症状が軽くなったら主治医を変えよ」などという誤った指示をするから話が進まないのであり、それらの総合的結果として「新型コロナ患者受入拒否」や「医療崩壊」に繋がったのだと思う。

*14-1:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1330606.html (琉球新報 2021年5月31日) 自宅療養1000人超す これまで2人死亡 沖縄県は訪問看護開始
 沖縄県の糸数公医療技監は30日、これまでに県内で自宅療養中に亡くなったのは、今月15日に発表した那覇市の70代女性と、4月30日に発表した那覇市の40代男性も新たに含まれることを明らかにした。新規感染者の急増で医療がひっ迫し、病床占有率は30日現在、95・7%に上る。自宅療養者は1088人となり、高齢者や持病がある人も自宅療養せざるを得ない状況となっている。血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターも全ての自宅療養者に配布されておらず、県の配布対象は高齢者や基礎疾患がある人などに限られている。急増する自宅療養者への対応強化は必至だ。県によると、自宅療養者にはパルスオキシメーター300個を高齢者と基礎疾患がある人に優先的に配布した。500個を追加で購入する予定だが、不足が想定されるため、全員に行き届いていない。療養期間が終了した人は返却するよう返信用封筒も渡しているものの、返却状況が好ましくないという。糸数技監は「感染者が増える中で、パルスオキシメーターは貴重な医療機材だ。返却の協力をお願いしたい」と訴えた。県は投薬などの治療が必要な自宅療養者を選定し、県看護協会に委託して訪問看護を始めている。30日現在、これまでに実施したのは6件。今後、投薬が必要な自宅療養者の増加が想定され、調整を進めている。酸素投与や薬の投与などの医療行為は訪問看護がなければ受けることはできず、解熱剤のアセトアミノフェンなど一般の市販薬を常備し、自身で服用するしかないのが現状だ。糸数技監は「体調が変化したときは近くにいる人に速やかに伝え、県に連絡をいただきたい。家庭ではマスクの着用、触ったところの消毒など家庭内の感染対策にも注意が必要だ」と述べた。

*14-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210531&ng=DGKKZO72396640Y1A520C2TL5000 (日経新聞 2021/5/31) 開業医、問われる役割
日本の医学部定員は9330人と過去最多の水準にある。2016年には37年ぶりに医学部を新設した。厚労省は医師数が現在の33万人弱から36万人台まで増える29~32年ごろに需給が均衡するとしている。だが政府が医師数を増やす方針に転じたのは08年から。1980年代から医療の質を高める改革を始めたことを考えると、後手に回ったのは明らかだ。80年代前半に8280人だった医学部定員はその後縮小され、90年代以降は7600人程度に据え置かれた。医師が増えると医療機関の開業も増え、既存の診療所や病院に患者が集まらなくなる。こう懸念した日本医師会が医師を増やすことに反対したためだ。小規模な民間病院の再編・統合を促す政策も打ち出せず、病院勤務医の業務が増えるにつれて日本の医療は機動力を失っていった。医師会が守ってきた診療所には、内科でも今なお発熱患者を拒むところが少なくない。コロナとの闘いの「外側」にいる医師がかなりいる。ワクチン接種には多くの診療所が手を挙げたが、接種対象者を日ごろの患者に限っている例が多い。通常の診察を大きく減らし、地域の高齢者に幅広く接種するという開業医は少数だ。発熱や体調不良の患者が最初に相談する窓口は本来、住民に身近な診療所であるべきだ。日本ではその役割を保健所が引き受け、そして業務逼迫でパンクした。コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけている。

*14-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210531&ng=DGKKZO72385760Y1A520C2TCS000 (日経新聞 2021/5/31) 病状・緊急性で役割分担 全日本病院協会会長 猪口雄二氏
 国は都道府県に「地域医療構想」を策定させ、2025年に向けて病院の再編・統合や病床の転換を促してきた。団塊の世代がすべて75歳以上になって長期療養の病床が必要になるとともに、人口減少で医療需要が大きく変わるためだ。国は全国の病院に対し、病床を(1)高度急性期(2)急性期(3)回復期(4)慢性期――の4つに分類して現状と25年の見通しを報告させた。急性期病床を少なくし、リハビリを中心とする回復期病床や生活習慣病などに対応する慢性期病床を増やす推計を基本とした。18年から都道府県ごとの調整会議で検討してきたが、25年の推計病床数を達成できないのはほぼ間違いない。調整会議で病院団体や地元医師会の代表が議論しても、個々の病院が経営判断として急性期病床の転換に踏み切れなかった。日本は重症者や救急患者に対応する急性期だけでなく、回復期や慢性期病床を併せ持つケアミックス(混合型)病院が多い。こうした病院は高齢者が多く、職員配置も薄いため、院内感染のリスクが高いコロナ患者を受け入れにくい。国内に一般病床は90万床近くあるが、人手を要するコロナ患者に対応できる急性期病床は40万床程度ではないか。ただ、人口が減少する地域では急性期の需要が減ることは変わりがない。地域に最適な機能分化が必要だろう。欧米の病院では急性期の入院患者に特化している。日本では東京都でさえ、医療スタッフが分散し、夜間に心筋梗塞などの救急患者に緊急手術できる病院は限られる。病院単位で機能分化して再構築を進める必要があるだろう。難易度が高い緊急手術のような高度急性期の患者は大学病院など大病院に集約する。通常の救急患者は地域医療支援病院など中核病院が対応する。急性期に至らない「亜急性期」の患者を受け入れる地域に密着した病院も必要だ。外来は地域密着型病院や診療所で総合診療医などが担当する。このような再構築の実現には身近な地域単位で病院自身が加わって議論する必要がある。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その6)>
PS(2021年6月2日追加):*15-1のように、2020年度森林・林業白書は、2050年にCO₂排出量を実質ゼロに減らす政府目標に向け、温暖化ガス吸収源の森林整備が重要だと明記したそうだ。林業の経営強化には、省力化に繋がる技術開発も重要だが、林業地域は住居費が安く自然環境もよいため、343万円という年間平均給与は、再造林の意欲をしぼませて造林面積を伐採面積の3~4割程度に留まらせるほど低くはない。つまり、「環境として、資源として、森林を護る」という意識の欠如が問題なのだと思う。
 このような中、*15-4のように、日本は、在留資格のない外国人を大した罪もないのに入管施設に収容して送還し、難民認定率は僅か0.4%などと難民保護に消極的な国だが、これをやめて条件を明示し、日本で働きたい外国人(難民を含む)を募れば、人件費で物価を高騰させて国際競争力を失うことなく、多くの産業を再開できる。
 しかし、*15-3のように、日本で働く外国人が172万人にも達するという労働力の実需があり、移民の子に日本で教育を行えば生産年齢人口減少時代に良質な労働力となり、多言語・多文化の背景を持って日本社会の多様性を支えていく存在になって社会的コスト以上の見返りがあるにもかかわらず、「技能実習」「特定技能」の外国人労働者に家族帯同を認めないことで、日本政府は人権侵害と日本国憲法違反を犯しているわけである。
 また、農業白書も、*15-2のように、食料供給リスクの高まりを指摘する内容だが、日本の食料自給率は4割以下となり、多くを海外依存したまま具体的解決策が示されていないそうだ。人口が減るなら輸入どころか輸出できてもおかしくないが、国内の農業生産は高めず輸出規制回避のため国際協調を進めるなど外国依存を増やそうという呑気な政策のままなのである。今では、興味を抱いて都市部から就農を目指す若者が増え、生産現場を支えている外国人も多いため、外国人労働者に「技能実習」等の劣悪な労働条件を押し付けるのではなく、労働法に沿った安定した人材確保を行うべきである。

*15-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA288S60Y1A520C2000000/ (日経新聞 2021年6月1日) 脱炭素へ林業経営の支援強化 20年度林業白書
 政府は1日、2020年度の森林・林業白書(森林・林業の動向)を閣議決定した。50年に二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロに減らす政府目標に向け、温暖化ガスの吸収源である森林の整備が重要だと明記した。林業経営の支援強化策として省力化につながる技術開発などを盛り込んだ。白書は伐採面積に比べて人工造林された面積が3~4割程度にとどまり、林業に適した場所でも再造林が進まないとの事例を示した。林業従事者の所得水準が低く、再造林の意欲がわかないことが一因だと指摘した。17年の林業従事者の年間平均給与が343万円と4年前から38万円増えたものの、全産業平均(432万円、17年)に比べると低いことに触れた。人材の定着も長期的な課題として挙げた。再造林の担い手である林業従事者数は15年時点で10年前から1割強減ったとの調査結果をもとに、定着率を高めるために林業の収益性向上が重要だと強調した。経営改善に向けた具体策として、自動化を進める機械の導入や成長速度が早い品種の投入などを例示した。

*15-2:https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021053100121 (信濃毎日新聞社説 2021/5/31) 農業白書 見通せぬリスクへの備え
 政府が先日閣議決定した農業白書は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を踏まえ食料供給のリスクの高まりを指摘する内容となった。日本の食料自給率は4割を切っており、多くを海外からの調達に依存する。途絶えるようなことがあれば大きな混乱が生じる。供給不足には至らなかったものの、ロシアやウクライナなど19カ国が昨年、小麦やソバの一時的な輸出規制に踏み切った。都市部を中心に不足への懸念が広がり、長期保存できるパスタや冷凍食品がスーパーで品薄になる事態も昨年、一部で発生した。白書は、自然災害や家畜伝染病の多発に加え、感染症の拡大も食料供給に影響を及ぼすリスクになるとし、不測の事態に備えていく必要があると強調した。もっともな指摘である。では具体的にどう備えを進めていくかとなると、説得力は乏しい。安定供給への道筋が見えてこない。輸出規制回避などのため、国際協調を進める、とある。当該国が深刻な不足に陥った場合にも輸入を継続できるだろうか。小麦やトウモロコシの備蓄を挙げている。リスクを踏まえ備蓄水準を見直していく必要はある。だが対応には限界がある。国際市場で食料が逼迫(ひっぱく)する恐れが中長期的に増すのが避けられない以上、重要度が高まるのは国内の農業生産だろう。何をどれだけ維持・拡大していくか。腰を据えた議論が必要ではないか。農業の生産基盤は長期間、弱体化が止まっていない。担い手が減り、高齢化している。農地の減少と荒廃も進んでいる。白書によると、2020年の基幹的農業従事者数は136万3千人。10年前から34%減少した。平均年齢は67・8歳で、この10年で2歳ほど高齢化している。一方、興味を抱いて都市部から就農を目指す若者も少なくない。農協や自治体による就農支援の強化など、長い目で人材育成の取り組みに力を入れたい。コロナ下では、農業の外国人材に関する問題も顕在化した。農繁期の労働力を東南アジアなどから来る技能実習生に頼る構造が定着し、コロナの影響で来日できなくなった途端、人手不足に陥った。県内では高原野菜産地が深刻な状況になっている。厳しい労働環境に失踪する技能実習生もいる。生産現場を外国人が支えている現実に改めて目を向けつつ、安定的な人材確保策を考えていく必要がある。

*15-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14905817.html (朝日新聞 2021年5月17日) 子どもと来日、閉ざす日本 「家族分離生む政策」批判も
 日本で働く外国人は昨年172万人に達し、5年でほぼ倍増した。その一方で、政府から家族の帯同を認められず、母国に子どもを残してくる外国人労働者も多い。日本の政策が、家族の分離を生み出していると批判の声があがる。二国間の経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士の候補者は、インドネシア(2008年~)、フィリピン(09年~)、ベトナム(14年~)から受け入れ、これまでに約5500人が来日した。原則として来日4年目に介護福祉士試験に合格すれば、その後も日本で働き、配偶者や子どもを呼び寄せることもできるが、合格率は約5割にとどまる。日本で働く外国人のうち、在留資格別で最多の40万人を占める「技能実習」では、家族の帯同が認められていない。人手不足の14業種で外国人労働者を受け入れるため、19年に新設された「特定技能」(約7千人)でも、家族帯同の道は、ほぼ閉ざされている。フィリピンからの移民労働者を研究する小ケ谷(おがや)千穂・フェリス女学院大教授(国際社会学)は「家族が分離されることなく一緒に暮らすことは基本的な権利。それを国が認めないのは大きな問題だ」と言う。特定技能の新設をめぐる18年の国会審議でも、野党側から「深刻な権利侵害に問われる」との批判があった。しかし、安倍晋三前首相は国会答弁で「受け入れれば、家族に対する支援も検討する必要があり、幅広い観点から国民的なコンセンサスを得る必要がある」と、家族の生活支援にかかる社会的コストを理由に、否定的な認識を示した。出入国在留管理庁の担当者は取材に、技能実習や特定技能について「制度上、日本で一定期間、働いた後は帰国することになっている。家族帯同を認める必要性は低い」と説明する。働き手自身が日本語や生活上の支援を必要としていることや、家族と一緒に暮らすために十分な賃金を得られないケースが多いことも、帯同を認めない理由に挙げた。小ケ谷教授はこうした日本の外国人労働者政策について「政府は短期的な労働力だけを求め、家族にかかるコストの負担を拒否している」と指摘する。「移民の子どもは多言語や多文化の背景をもち、日本社会の多様性を支えていく存在にもなり得る。長期的視野をもって、受け入れていくべきだ」と話す。
■残された子、精神面に課題
 フィリピンの人材を日本企業に紹介するN.T.グループ(大阪市)は06年以降、約2千人を日本へ送り出した。家族や親戚に子どもを預けて来日する人も多く、高橋信行会長(72)は「国際電話しかなかった十数年前に比べ、スマートフォンの普及で親子の連絡が簡単になり、出稼ぎへの心理的な壁は低くなった」と話す。送金が重要な外貨収入であるフィリピンでは、政府が移民労働者の子ども向けに奨学金を設け、出稼ぎを後押しする。親が海外に働きに出ることの子どもへの影響は、評価が割れている。フィリピンなどの移民送り出し国での調査でも、子の精神面や学習面に悪影響が「ある」「ない」という両方の結果が出ている。ユニセフは昨年9月に出した「残された子どもたち」に関する報告書で、「親からの送金によって子が学校に長く通えるようになる」一方、「親と長期間離れることでうつ病や不安症といった精神面のリスクを高めかねない」と指摘した。「健全な発達のために、コミュニティーの支援や親子の頻繁な連絡が必要」としている。

*15-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210528&ng=DGKKZO72356160Y1A520C2EAC000 (日経新聞 2021.5.28) 難民保護、政策手薄の10年、日本の認定率わずか0.4%
 オーバーステイ(超過滞在)などの理由で在留資格のない外国人の保護のあり方が注目を集める。政府・与党は入管施設での長期収容を防ごうと出入国管理法の改正を目指したが野党が反発し今国会での成立を見送った。難民認定をはじめ入管行政は効果的な政策が打たれないままだ。「きょう食べるものにも困っている」。NPO法人の難民支援協会(東京・千代田)には、生活や就労などの支援を求める外国人からの連絡が年間4000件近く寄せられる。最近は新型コロナウイルス禍で困窮した人からの相談が急増しているという。紛争や人権侵害のため母国に住めず日本に難民申請する人は増加傾向にある。申請者数はピークの2017年に1万9629人となり10年に比べ16倍に達した。協会は「難民は仲介人らを通じ国を探す。入国できそうな国の航空券を取り入管などで保護を求めることが多い」と指摘する。難民が日本を訪れるのは多くの場合「偶然、査証(ビザ)が発給された」ためだ。日本に来る難民はもともと、ベトナム、ラオス、カンボジア人が中心だった。ベトナム戦争の「ボート・ピープル」が典型例として知られる。02年に中国の日本総領事館に北朝鮮の脱北者が駆け込む事件が発生。それを機に、難民の申請要件を緩和し、認定前の仮滞在を可能にした改正入管法が04年に成立し申請がしやすくなった。政府は10年、申請者の就労も一律で認めた。年間1000人程度だった申請者数は14年には5000人に。入管の人手不足もあり「就労目的で申請を悪用したとみられる事例が増え審査期間も長くなった」(出入国在留管理庁)。10年代には紛争の激化で世界の難民の数も増えた。日本は観光客の誘致へビザの発給要件を緩和したこともあり難民が来日する事例も増えた。法務省は申請増に歯止めをかけようと、18年、明らかに難民に当てはまらない申請者の在留や就労の制限を強化した。支援団体は日本の認定率を問題視する。19年は1万375人の申請に対し認定は44人と、0.4%にとどまった。56%のカナダ、46%の英国に比べ低水準が際立つ。認定されず在留期限が切れて日本に残る不法残留者は今年1月時点で17年に比べ3割多い8万2868人に達する。そうした人は摘発され帰国するまで原則として入管施設にとどまる。3月に名古屋出入国在留管理局で死亡したスリランカ人女性は半年以上施設に収容されていた。仮放免を求めハンガーストライキを起こし体調を崩す収容者も多い。難民申請を繰り返す人が多く入管施設は逼迫する。「送還忌避者」は20年12月時点で3100人にのぼる。「入管法改正の背景には送還忌避があとをたたない状況がある。迅速な送還の実施に支障が出て収容が長期になることの要因となっていた」(上川陽子法相)。法務省は入管法改正案で長期収容の問題解決を目指した。3回目以降の申請は強制送還の対象になるとの規定を設けた。現在は認定申請すると回数や理由に関係なく送還できない。強制送還が可能になると収容者は減るが帰国先で迫害を受けかねない。野党は「人権侵害のスリーアウトルール」と呼び反対の論拠にした。法務省は外国人の受け入れを広げるため難民に準じた新資格「補完的保護対象者」を提案した。母国が紛争中の人を念頭に難民と同じように定住者の資格で在留を認める。筑波大の明石純一准教授は法改正の必要を強調する。それだけでは長期収容の問題は解決せず「難民認定などを審査する入管の体制強化が必要だ」と話す。支援団体などは難民認定を入管当局ではなく専門性の高い独立機関がすべきだと主張する。日本の入管行政はこの10年間、申請の急増に対応する政策が手薄だった。改正案の成立は見送りになったが長期収容の問題は残る。

<日本は役に立つ新産業の育成・普及が遅れる国である(その7)―生物由来の薬>
PS(2021年6月3日追加): *16-1のように、ヘルペスウイルスの遺伝子を組み換えて癌細胞だけで増殖するようにした「癌治療薬」が初めて実用化され、5年生存率10%の難病患者の1年後の生存率が92.3%で、これは他の抗癌剤治験で示された34.5%より高いそうだ。また、*16-2のように、新型コロナウイルスは武漢研究所で遺伝子操作によって造られたという法医学的学術論文が、英国とノルウェーの学者によって発表された。最初の状況から見て中国政府が意図的にばら撒いたとは考えにくいが、遺伝子操作が容易にできるようになり、構造の単純な人工ウイルスを作り出すのは簡単だというのが現在の常識になっている。
 また、「ウイルスには免疫とワクチン」というのが私が学生の頃から常識であるため、*16-3のように、厚労省新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長が、徹底的な検査をしたり、ワクチン・治療薬の開発・承認を急がせたりすることなく、検疫もザルにしたまま「人の流れを止めよ」と言って緊急事態宣言を出させて経済に大損失を与えた上、ワクチン接種が始まっても「五輪開催は普通はない」「規模をできるだけ小さくして管理体制を強化するのが主催する人の義務」などと言っているのは、とても医学の専門家とは思えない。さらに、「オリンピックを開く際は、何のためにやるのか、しっかり明言することが重要」などと指摘するのは、行政にいた人とは思えない無知であるため、これらの必要な対応をしなかった日本の厚労省の方に、新型コロナ感染症を広げる意図があったように、私には見える。
 なお、*16-4のミドリムシ(藻類)は、動物と植物に分化する前の生物なので、動物が持つ栄養素と植物が持つ栄養素の両方を持っており、それを食べると野菜と肉を同時に食べたのと同じ効果があるのだそうだ。、佐賀市は、そのミドリムシを下水の廃液やごみ処理場のCO2を活用して増やし、鶏の餌や肥料にして賢く効果を出している。私は、ミドリムシもウイルスに対する抗体を作れる筈なので、抗体薬を作るのに使えそうだと思っている。

*16-1:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20210525-OYT1T50156/ (読売新聞 2021/5/25) ウイルス使った「がん治療薬」初の実用化へ…5年生存率10%の難病患者、1年後で92・3%生存
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は、がん細胞だけで増殖する特殊なウイルスを使った悪性脳腫瘍の治療薬「テセルパツレブ」の条件付き承認を了承した。近く厚労省が承認し、第一三共が製造販売する。ウイルスを使ったがん治療薬の実用化は初めて。この薬は東京大医科学研究所と同社が共同開発した。ヘルペスウイルスの遺伝子を組み換え、がん細胞だけで増えるように加工。増殖の過程でがん細胞の破壊を狙う。治療の対象は、脳腫瘍の中でも特に悪性度が高い膠芽腫こうがしゅ。年間の新規患者数は約2400人で、5年生存率は10%程度と治療が難しい。東大医科研の治験では、手術、放射線治療、抗がん剤の標準治療を行った後の患者13人に投与したところ、1年後の生存率は92・3%だった。同じ状況で投与された他の抗がん剤の治験で示された34・5%より高い。ただし、治験対象者が少数のため、7年かけて有効性と安全性を確認する条件が付いた。

*16-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/8b36470ee15dcbe2899f76571ee3d820aa9bb39c (Yahoo 、FNNプライムオンライン 2021/5/31) 「コロナウイルスは武漢研究所で人工的に変造された」英研究者らが法医学的学術論文発表へ 
●「ウイルスは中国研究所で人工的に変造された」
 新型コロナウイルスの武漢研究所流出説が再燃する中、英国の研究者らがウイルスが中国の同研究所で人工的に変造されたことを法医学的に突き止めたと、近刊の学術誌で論文を発表する。英国の日刊紙デイリー・メイル電子版28日の特種報道で、近く発行される生物物理学の季刊誌Quarterly Review of Biophysics Discoveryに掲載される学術論文を事前に入手し「中国がコロナウイルスを造った」と伝えた。論文の筆者は、ロンドンのセント・ジョージ大学で腫瘍学専科のアンガス・ダルグライシュ教授とノルウェーの製薬会社イミュノール社の会長で生物学者でもあるビルゲール・ソレンセン博士の二人で、研究の発端はイミュノール社で新型コロナウイルスのワクチンを開発するために、ウイルスを調べ始めたところ、ウイルスが人工的に改ざんされた痕跡(フィンガープリント)を発見したことだったという。そこで二人は、武漢ウイルス研究所を疑って2002年から2019まで同研究所で行われた実験にかかわる研究論文やデータから、その根源を探る「レトロ・エンジニアリング」という手法で分析した。その結果二人は、中国の研究者が、その中には米国の大学と協調して研究していた者もいたが、コロナウイルスを「製造する術」を手にしたらしいことが分かった。彼らの研究のほとんどは、米国では禁止されている遺伝子操作で性質の異なるウイルスを作り出すことだった。
●コウモリのウイルスを遺伝子操作で変造
 二人は、中国の研究者が中国の洞窟で捕らえたコウモリからそのウイルスの「バックボーン」と呼ばれる部分を別のスパイクに接着させ、より致死性が高く感染力の強いウイルスを造ったと考える。そのウイルスのスパイクからは4種のアミノ酸の列が見つかったが、こうした構造は自然界のウイルスには見られないことで、人工的なウイルスであることを裏付けるものだとソレンセン博士は言う。コロナウイルスの発生源については、世界保健機関 (WHO)の調査団が中国で調査した結果「コウモリから別の生物を介してヒトに感染した可能性が高い」と報告し、中国のキャンペーンもあって自然界での変異説が有力視されてきた。
●「軍事利用」が目的だったのか?
 しかし、ここへきて武漢ウイルス研究所の研究員3人が2019年秋にコロナと似た症状で入院していたという米情報当局の情報がマスコミに流されたり、英国の情報部もウイルスが武漢研究所から流出したものと判断したと伝えられ「研究所流出原説」が再燃。バイデン米大統領も26日コロナウイルスの発生源再調査を命じ、90日以内に報告するよう求めた。そうしたタイミングで出てきた今回の研究論文は、単なる噂話ではなくウイルスを法医学的に分析した学術研究なので説得力があり、今後このウイルス変造が「軍事利用」を目的としていたのかどうかなどの論議に火をつけることになりそうだ。

*16-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210603&ng=DGKKZO72534310T00C21A6PD0000 (日経新聞 2021.6.3) 尾身会長、五輪開催「普通はない」 規模最小化訴え
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は2日の衆院厚生労働委員会で東京五輪・パラリンピックに言及した。開催に関し「いまの状況でやるというのは普通はない」と述べた。「規模をできるだけ小さくして管理体制を強化するのは、主催する人の義務だ」とも強調した。五輪実施が人流の増加などにつながらないよう政府や大会組織委員会などが一体となった取り組みを促した。大会を開く際は「いったい何のためにやるのか、しっかりと明言するのが重要だ」と指摘した。十分な説明がなければ「なかなか一般の人は協力しようと思わない」との考えを示した。加藤勝信官房長官は11~13日の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で菅義偉首相から各国首脳に開催への理解を求める方針を示した。2日の記者会見で「感染対策を徹底し、安全・安心な大会を実現すると各国に説明する」と話した。

*16-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/b3c6863a0c84d9cee87cacd0c6f7d741f126111b (Yahoo 2021/5/29) 藻・ミドリムシ循環担う 下水の廃液・CO2活用 鶏の餌や肥料に 佐賀で実証
ミドリムシなど藻類を野菜の肥料や鶏の餌にする試みが、佐賀市で加速している。藻類は下水や、ごみ処理場の二酸化炭素(CO2)で培養可能だ。未利用資源の有効活用となる。藻類を原料とした餌を食べた鶏の卵は、黄身が濃く機能性も増す。市は企業と連携して藻類の利用を促進。低炭素社会の実現を後押しする。養鶏業やパン製造販売を手掛ける「むーらん・るーじゅ」は、卵かけご飯専門店を市内にオープンした。使う卵は藻類「ヘマトコッカス」を混ぜた餌を与えた鶏が産んだものだ。卵は免疫力を高める効果がある赤い色素「アスタキサンチン」を含み、抗酸化成分は通常の250倍とされる。石井利英社長は「黄身が熟した柿のような濃い色でお客さんが驚く」と話す。原料のヘマトコッカスはCO2を吸収して光合成して増える。市のごみ焼却場から排出されるCO2を買い取り、(株)アルビータが培養を担う。市と同社が2014年に結んだバイオマス(生物由来資源)資源利活用協定に基づく。市は「一般社団法人さが藻類バイオマス協議会」の事務局を務める。資源活用の旗振り役だ。賛同する(株)ユーグレナは4月、市内に試験農場を開設した。藻類・ミドリムシを肥料に混ぜてホウレンソウなどを栽培。肥料効果を実証する。ミドリムシは、市下水浄化センターの汚泥処理で出る廃液とCO2で培養する。同社によると、年間130トンのCO2で75トンのミドリムシを生産できるという。廃液には窒素やリンなどが多く、ミドリムシの栄養源となる。ただこれまで悪臭などの問題で、廃液のままでは農業利用が難しかった。廃液の成分をミドリムシが吸収し、下水処理場の負荷軽減にもつながる。ミドリムシの肥料で育てた作物は収穫後の鮮度を保てるとされる。小松菜を収穫後に低温保管したところ、1週間後に失われる水分が慣行の肥料のものより3割少なかった。市バイオマス産業推進課は「廃棄物を安価に資源化でき、無理のない形で資源循環が実現できる」と説明する。
<ことば> 藻類
主に水中に生息し、光合成を行う生物のこと。ミドリムシなど微細なものから、コンブなど大型の海藻も含む。バイオマス利用には微細藻類が中心に使われている。

<「できない」「できない」ではなく、やる方法を考えるべき(その1)>
PS(2021年6月5日追加):*17-1は「①47都道府県庁所在地のある市区のうち、51%に当たる24市で64歳以下のワクチン接種開始時期が決まっていない」「②自治体は高齢者接種の7月末完了に追われている」としているが、ワクチンが足りないわけではなく接種するか否かの問題であるため、「できない、できない」と言うのではなく、やる方法を考えたらどうかと思う。私が住んでいる埼玉県の場合は、市町村以外に埼玉県浦和合同庁舎に集団接種会場を設けてモデルナのワクチンを接種しており、市町村よりそちらの方が予約しやすかった。沖縄県の場合は、市町村が接種券さえ発効すれば、国際通りの前の県庁近くに会場を設けて感染確率の高い人たちに大量に接種することが可能だろう。
 また、*17-2のように、小規模離島の首長から「③できるだけ一斉接種ができる体制が作れないか」という要望があったのなら、沖縄県の場合は自衛隊の病院船に離島を廻って集団接種してもらってもよいくらいだ。基礎疾患のある人は、あらかじめかかりつけ医に相談しておいたり、かかりつけ医で接種したりすればよい。
 なお、*17-3のように、遅くとも6月21日から職場・大学でモデルナのワクチン接種を始めるため、一般向けの接種券も早く配布した方がよい。また、*17-4のように、トヨタ・日航・住友生命・楽天などは職場での接種を検討しているそうだが、タクシー業界や宅配など不特定多数の人に接する職種も会社や組合で早く接種した方がよいと思う。農業者は、家族まで含めてJA全厚連がやればよいだろう。
 しかし、*17-5のように、「④沖縄県は出発地で検査と陰性確認を求めてきたが、事情があって出発地で検査を受けられない場合は県内で到着時に検査を受けるよう呼び掛けている」「⑤宮古空港と下地島空港(ともに宮古島市)、石垣空港(石垣市)でのPCR検査は有料で義務ではない」という水際は、やはりザルだ。何故なら、陰性証明でもワクチン接種証明でもよいが、要求するからには完全に要求しなければ漏れが生じ、⑤のように希望者だけがPCR検査をして検査結果の通知は翌日しか来ないのであれば、その漏れも完全には捕まらないからだ。これでは「感染を予防する気があるのか!?」と言いたいわけである。

*17-1:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1333949.html (琉球新報 2021年6月5日) 一般接種、51%時期未定 高齢者対応で追い付かず
 新型コロナウイルスワクチンを巡り、47都道府県庁所在地のある市区のうち、51%に当たる24市は64歳以下の一般接種の開始時期が決まっていないことが5日、共同通信の調査で分かった。接種券を国の方針通り6月発送としたのは28%(13市区)にとどまった。政府は自治体に対し、高齢者接種に一定のめどが立てば、基礎疾患のある人を含めた64歳以下にも広げるよう要請した。しかし、自治体は高齢者接種の7月末完了に追われており、政府の思惑通りに自治体の事業が加速するかどうかは不透明だ。調査は5月31日~6月4日、47都道府県庁所在地の市区(東京は新宿)に実施した。

*17-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1333571.html?utm_source=ryukyushinpo&utm_medium=referral&utm_campaign=top_kennai (琉球新報 2021年6月5日) 「一斉接種体制を作って」離島首長ら要望 沖縄コロナ意見交換会
 県は4日、新型コロナウイルス感染症対策に向けて、県内41市町村の首長らとインターネットのビデオ会議システムを通じて意見交換会を開催した。県内で感染が急拡大した5月は、医療提供体制が脆弱(ぜいじゃく)な小規模離島でも感染が相次いで報告されている。小規模離島の首長からは「できるだけ一斉接種ができる体制が作れないか。役場職員が急患対応するため非常にリスクが高い」(座間味村)などの要望が上がった。また県が7日から県立学校の休校を決めたことで、「学校が休校になると本島から学生が島に帰ってくる可能性がある」(伊平屋村)として、事前のPCR検査の徹底などを求めた。(以下略)

*17-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE010PD0R00C21A6000000/ (日経新聞 2021年6月1日) ワクチン接種、職場・大学で21日から 一般接種券も送付
 加藤勝信官房長官は1日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスワクチンの職場や大学での接種を21日から始めると発表した。準備が整えば21日より前に始める。米モデルナ製を使う。6月中旬には一般向け接種券の配布を始めるよう自治体に要請した。職場での接種は社員、大学は学生と職員が対象になる。企業や大学、地方自治体の判断で、対象者の家族や周辺の住民への接種も認める。職場の接種は産業医や委託機関が企業内の診療所や会議室で実施する。提携先の医療機関で受けることもできる。中小企業には商工会議所を通じた共同接種を呼びかける。従業員の住所と職場がある市区町村が異なる場合が多いため、自治体が発行する接種券がなくても受けられる仕組みを検討する。いまは自治体からの接種券が届き次第、接種の予約ができる。新たに導入するのは後日、自治体の接種券が届けば接種が済んだと登録できる仕組みだ。加藤氏は企業や大学へのワクチン供給について「かなりモデルナのワクチンを持っている。峻別しなくても、要望があればそれに応じて発送していくことは十分可能だ」と述べた。供給先の順位付けはしない意向を示した。政府は65歳以上の高齢者の次に基礎疾患を持つ人や一般の人への接種を認める。加藤氏は「6月中旬をめどに一般接種の対象者全体に接種券を送付できるよう、各自治体で準備を進めてほしい」と強調した。政府はこれまで医療従事者と高齢者の接種を優先してきた。7月末に高齢者への2回目の接種を終える目標を掲げる。職場での接種はモデルナ製を使い、ファイザー製を用いる高齢者接種に支障がでないよう配慮する。首相は5月31日の自民党役員会で「高齢者接種にめどをつけたい。6月中には基礎疾患のある人を含め一般の接種を開始する」と述べた。政府発表によると5月30日時点での総接種回数は1234万回に達した。

*17-4:ttps://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1331423.html (琉球新報 2021年6月1日) トヨタ、職場での接種を検討 日航や住友生命、楽天も
 トヨタ自動車は1日、新型コロナのワクチンの職場接種を検討していると明らかにした。21日から企業での接種を可能にするとの政府方針に対応した。日本航空や住友生命保険、楽天グループなども実施方針を表明。時期や対象者が未定の企業は多いが、コロナ収束に協力する動きが早速出てきている。トヨタはワクチン接種を巡り、地域支援の一環として本社がある愛知県豊田市などに産業医を派遣している。この取り組みと並行し、職場接種の方法を詰める。日本最大のメーカーで、子会社を含む従業員が約36万人(2020年3月末時点)に上るトヨタが実施に踏み切れば、追随する企業も出てきそうだ。

*17-5:ttps://ryukyushimpo.jp/news/entry-1331157.html (琉球新報 2021年6月1日) 沖縄・宮古島と石垣島の空港でPCR検査 3日から開始、専用サイトで予約受付も
 沖縄県は31日、新型コロナウイルス感染症対策として、宮古空港と下地島空港(ともに宮古島市)、石垣空港(石垣市)でのPCR検査の予約受け付けを専用サイトで開始した。6月3日から実際の検査が始まる。離島での水際対策として整備を求める声が上がっていた。検査は義務ではなく、対象空港の発着便利用者のうち、希望者が有料で検査を受けられる。検査料金は県内在住者は3千円、県外在住者は5千円。利用できる時間は午前9時から午後8時(下地島のみ同6時)まで。空港で提出した唾液を那覇の検査場に送るため、結果の通知は原則翌日。航空便の都合によっては翌々日以降になる可能性もある。県は1日当たりの検査数を宮古と新石垣で100件程度、下地島で50件程度と想定している。検査事業者は、那覇市松山で沖縄PCR検査センターを運営するミタカトレード沖縄支社。県は基本的に出発地での検査と陰性確認を求めてきたが、事情があって出発地で検査を受けられない場合は県内で到着時に検査を受けるよう呼び掛けている。離島空港PCR検査プロジェクトに関する問い合わせは沖縄PCR検査センター(電話)050(8880)2391。

<「できない」「できない」ではなく、やる方法を考えるべき(その2)>
PS(2021年6月6、7日追加):*18-1のように、東京五輪組織委員会・政府・東京都・IOC・IPCの代表が選手向け新型コロナ対策をまとめたプレーブックの変異株に対応した改訂版を確認し、その内容は、「①入国時に陰性証明を求め、空港でも検査する」「②全ての大会関係者は、出発前に2回検査する」「③出場するアスリートとチーム役員は、原則毎日検査する」「④滞在中は、公共交通機関の使用禁止」「⑤行動計画に反した場合は、資格剥奪も検討」だそうだ。
 しかし、①②の陰性証明書かワクチンの接種証明書を提示させれば、その人が新型コロナの感染者である確率は、どちらもない日本人よりずっと低いため、③④は、日本人よりアスリートとチームの役員を護るための対策だ。従って、⑤は「自分をリスクに晒さないため」という説明をすればよく、資格剥奪までは不要だろう。このような中、「ワクチンを接種した人と接種していない人の間に差別が生まれる」などと言う人がいるのは、“差別”の意味すらわかっていない。また、大会期間中に医療スタッフとして看護師500人を確保しても、地域医療に影響がないようにすることは可能であるため、証拠に基づかない感情的な反対は止めるべきである。
 さらに、*18-2のように、「⑥何百、何千の命と天秤にかける『平和の祭典』などあり得ない」等として五輪の中止を求める声が大きいが、「五輪を開催すると感染拡大して何百・何千の命が失われる」という科学的根拠はないため、あると言う人はその根拠を明示すべきだ。さらに、今から五輪の開催を中止しても既に費やした金とエネルギーは埋没原価となっていて戻らず、新たに多くの損害や信用棄損が生じるため、⑦徹底した検疫 ⑧ワクチン接種による国民の集団免疫形成 ⑨出入りする観客や関係者への陰性証明書かワクチン接種証明書の提示義務化 などで、無観客や時間短縮はせずに感染の制御と五輪を両立させた方が合理的である。
 このような中、*18-3のように、「⑩息子は運動会を楽しみにしていて、徒競走で『1等賞を取る』と張り切っていたけど中止が決まって家で泣いていた」という親がいたそうだが、運動会を断念する必要はなく、緊急事態宣言中になったのなら雨天と同じく順延にするか、文科相が言うように秋にすればよいだろう。にもかかわらず、小学生の息子に「運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?」と聞かれて答えに窮するのは、(答え方は沢山あるため)保護者の教育力に欠ける。また、「⑪死人が出てまで行われることではないから、1人もコロナの患者が出ない時に五輪はやるべき」「⑫コロナ禍で国民が様々な我慢を強いられる中、東京五輪だけが開催されることに違和感を持つ」というのも、必要な予防を徹底すれば五輪開催と新型コロナによる死者数の相関関係はなくなるため、感情論にすぎない。
 さらに、*18-4は、「⑬日本では9都道府県に発令中の緊急事態宣言が6月20日まで延長され、酒類を提供する飲食店、カラオケを使用する飲食店、遊興施設に引き続き休業を要請している」「⑭東京五輪に出場する選手らが宿泊する選手村に、アルコール類の持ち込みが許可される」として「アスリートだけ特別扱い」という不公平論が囁かれるのもおかしい。何故なら、①~⑤のように、アスリートには必要以上の感染防止策を講じているので規制は不要だからで、批判すべきは、厚労省が「⑮国民へのPCR検と検疫をいい加減にして新型コロナを国内で蔓延させ」「⑯酒や外食をターゲットにして休業・時短を要請し」「⑰ワクチン・治療薬の開発・承認をせずに国民に迷惑をかけたこと」だからである。それにもかかわらず、これらを不公平やモヤモヤとしか表現できないのは、スポーツ偏重にして勉強を疎かにした教育の結果だろう。
 *18-5のように、移動解禁に向けて7月から運用を始めるEUはじめ世界で新型コロナワクチンの接種証明書を発行し活用する動きが広がり、遅すぎるものの日本政府もEUの「デジタルCOVID証明書」をモデルとしてワクチン接種者とコロナからの回復者を対象に発行することにしたのはよいことだ。これについて、「接種は任意なのに、証明書の導入で未接種者への差別を招く」とする意見もあるようだが、任意で行う自由な意思決定がメリットとディメリットを受容することになるのは当然であるため、これと病気にかかった人への差別とを混同するのは、あまりに見識が低いと言わざるを得ない。

*18-1:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-04-28/QS7MWWT0AFB501 (Bloomberg 2021年4月28日) アスリートは原則毎日検査、出発前に検査2回を要請-東京五輪
 東京五輪・パラリンピック組織委員会と政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者は28日、選手向けの新型コロナウイルス対策をまとめた「プレーブック」の改訂版について確認した。発表資料によると、東京五輪・パラリンピック大会に出場するアスリートとチーム役員は原則毎日検査するほか、全ての大会関係者には出発前に2回の検査を求める。滞在中の公共交通機関の使用は禁止する。また、組織委の武藤敏郎事務総長は記者会見で、行動計画に反した場合には資格のはく奪も検討すると述べた。五者協議後に発表された改訂版では、入国時に陰性証明が必要とした上で、空港でも検査をすることを明記。到着後の3日間は自室で隔離が必要としながらも、アスリートとチーム役員については、期間内の検査が陰性であれば、組織委の監督下で活動はできる。組織委はIOC、IPCと共に医療専門家らの助言を受けながら選手や大会関係者らの感染対策をまとめたプレーブックの第1版を今年2月に公表。大会参加者に日本到着時にコロナ検査の陰性証明を提示することや、少なくとも4日ごとに検査を受けることとしていた。その後、変異株の感染拡大など状況の変化に対応するため大幅に更新をした第2版を策定した。開催都市である東京都では、3度目となる緊急事態宣言が出され感染収束のめどが立っていない。組織委の武藤敏郎総長は26日の会見で、日本看護協会に大会期間中の医療スタッフとして看護師500人の確保を要請したことを認めた上で、「地域医療に影響がないよう勤務時間やシフトで対応して折り合う」と述べた。一方で、28日に開かれた政府の新型コロナ感染症対策調整会議では、組織委の感染症対策センターや大会保健衛生支援東京拠点を6月に開設する方針が示された。大会開催中は選手村に設置する診療所発熱外来などを24時間態勢で運営する。大会期間中にアスリートらへの医療提供を行う大会指定病院には、組織委員会が協力金を支払う予定としている。7月に予定されている大会は海外からの一般客の受け入れを断念して行われることになったが、アスリートやコーチ、競技団体の関係者やメディアなどが200カ国余りから東京に集まる。組織委は入国する大会関係者の削減についても精査している。

*18-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/90e6e4f42e5c603cea15ea5a06f7b75f7b785221 (Yahoo 2021/5/10) 東京五輪「無観客開催」にさえ消極的なIOCと政府 小池知事は四面楚歌
 何百、何千の命と天秤にかける「平和の祭典」などあり得ない。5月5日に札幌で行なわれたマラソンの五輪テスト大会では、沿道に「五輪ムリ 現実見よ」とプラカードを掲げる市民が見られ、「オリンピック反対!」と叫ぶ声が中継にも流れた。日本政府、組織委員会、そしてIOC(国際オリンピック委員会)も強行開催に突っ走っているが、いよいよ病床確保が怪しくなってきた東京都の小池百合子知事は、1300万都民の命とオリンピックの板挟みに苦悩している。都庁幹部の1人は、「小池知事は四面楚歌の状態」と指摘する。「都民の命を預かる小池さんは五輪開催と感染拡大の危険との板挟みになっている。IOCも政府も組織委員会も五輪強行すれば都民にどれだけの犠牲を強いることになるかを考慮せずに開催に走っており、都民の安全は小池知事の判断にかかっているが、IOC側からは“もし、ここまで来て東京が中止を言い出すなら、全損害を負担できるのか”という強いプレッシャーを感じる」。五輪が1年延期されて以来、「簡素な大会」への見直しを掲げた小池氏はカネの問題でIOCの意向に振り回されてきた。その1つが世界で高い視聴率が期待される開会式の見直しだ。各国の選手団1万人以上が入場行進することから数時間の待ち時間に「3密」が発生し、感染リスクが懸念されている。東京都や組織委員会は規模や時間短縮を検討してきたが、IOCから“待った”がかかったのだという。組織委の森喜朗・前会長が交渉の舞台裏をこう明かしている。「(開会式は)個人的には半分の2時間で良いと思っている。しかしIOCが反対。テレビ局が枠を買っている。時間を短縮すると契約違反で違約金が発生する。それを日本が払ってくれとなる恐れがある。それ以上の議論をすると深みにはまるから、私はそこは引っ込めて、他の案を考えようと言った」(日刊スポーツ1月1日付インタビュー)。五輪の放映権は米国3大ネットワークのNBCが取得しており、五十音順の選手団入場の順番も、先頭に近いアメリカを米国内での視聴率を考慮するIOCの意向で最後尾近くに登場する順番にしたと報じられている。IOCは放映権の収入を守るためにそこまで口を出している。五輪中止となれば、IOCは放映権料だけで約1300億円の損失が出る。さらに組織委員会が集めた公式スポンサー料が約3700億円にのぼる。合わせて5000億円だ。そんな巨額の賠償金を「東京が払え」と言われれば、小池氏もよほどの覚悟がなければ中止を言い出しにくい。

*18-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/d6c0c7628dbfbd0c3f9ddb24b1f72dc56e892426 (Yahoo 2021/5/18) 「運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?」 小3の息子が泣きながら口にした一言
 新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中、感染のリスクを抑えるため、全国各地の小・中学校が運動会の中止、延期を決めている。「息子は運動会を楽しみにしていました。徒競走で『1等賞を取る』と張り切っていたけど中止が決まり、家で泣いていました」――。こう複雑な胸中を口にしたのは、北海道在住で小3の男児を持つ父親だ。
■「子供でも不思議に思うことなのに」
 政府は東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発令している緊急事態宣言の期限を2021年5月31日まで延長。愛知、福岡を新たに対象地域に加えた。「まん延防止等重点措置」の対象地域だった北海道、岐阜県、三重県も感染拡大の勢いが止まらないため、政府は方針変更して14日に3道県に緊急事態宣言を出した。宣言地域を中心に、運動会を断念する小・中学校は少なくない。先述した北海道在住の父親は、運動会中止に泣いた息子の話について、こう続ける。「東京五輪は開催すると政府が発言しているニュースを見て、息子に『運動会はやらないのに、なんで五輪はやるの?』と聞かれて...。答えに窮しましたがその通りですよね。海外の何十カ国から選手たちが日本に集まる五輪の方が運動会よりもコロナの感染リスクがはるかに高い。子供でも不思議に思うことなのに、政府は矛盾を感じないのでしょうか」
●萩生田文科相も「運動会問題」にコメント
 海外のトップアスリートが東京五輪の出場辞退を発表する中、男子テニスの日本のエース・錦織圭も5月10日に開催されたイタリア国際1回戦の試合後の会見で、「死人が出てまでも行われることではないと思うので。究極的には1人もコロナの患者が出ない時にやるべきかなとは思います」と五輪の開催を疑問視。この発言は海外メディアでも大きく取り上げられた。「コロナ禍で国民が様々な我慢を強いられる中、東京五輪だけが開催されることに違和感を持つ人たちは多い。アスリートも今は五輪での目標を言えない状況になっている。気になるのは政府の対応です。菅首相は『安全、安心の大会実現は可能』と発言していますが、その根拠を何も示していない。これでは国民が不信感を抱くのは当然です」(一般紙の政治部記者)。運動会が中止になり、東京五輪は開催される。この現実に違和感を抱くのは決して不思議ではないだろう。なお、萩生田光一文部科学相は5月18日の閣議後会見で、緊急事態宣言下における小中学校などの運動会について、中止するのではなく、感染対策などを工夫して実施する可能性を探ってほしい、と話している。

*18-4:https://news.yahoo.co.jp/articles/1f32624898ede99e09fbe5697c20d91622b7e85c (Yahoo 2021/5/29) 選手村での飲酒はOK 国民の不満爆発「アスリートだけ特別扱い」
 東京五輪の開幕まで残り2か月を切ったが、国民の怒りが噴火間近となっている。米国などでは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、一部地域では規制が緩和がされつつある。一方で、日本では9都道府県に発令中の緊急事態宣言が6月20日まで延長。東京都の小池百合子知事(68)は、酒類を提供する飲食店、カラオケを使用する飲食店、遊興施設に引き続き休業を要請しており「居酒屋に行きたい」との声が多方面から聞かれる。そんな中、関係者によると、東京五輪に出場する選手らが宿泊する「選手村」に、アルコール類の持ち込みが許可される見込みだという。この判断にネット上では「国は五輪のことしか考えてない」「居酒屋でも節度をもって飲酒すればOKですよね!」「アスリートだけ特別扱いはおかしいな?」などのコメントがあふれている。東京五輪の開催を巡ってさまざまな声が上がっているが、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長(71)による「緊急事態宣言下での開催? 答えはイエスだ」との爆弾発言や、今回の選手村でのアルコール解禁などで、国民の不満は日に日に上昇。ある組織委関係者は「街の飲食店がこんなに苦しんでいるからね…」と頭を抱えた。先の見えないコロナ禍の現状。国民の行き場のないモヤモヤはたまる一方だ。

*18-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210607&ng=DGKKZO72641020X00C21A6MM8000 (日経新聞 2021.6.7) 「ワクチン証明」今夏に 渡航者用、経済正常化後押し EUは来月から
 新型コロナウイルスワクチンの接種証明書を発行・活用する動きが世界で広がってきた。感染のリスクを抑えながら経済活動を正常化する狙いがあり、企業からも期待の声が上がっている。日本はまず海外渡航者用に今夏にも発行し、ビジネス往来などを後押しする。欧州連合(EU)は域内の移動解禁に向けて7月から運用を始める。既に一部の政府高官らは非公式の証明書を作成し、海外に持参している。欧米などで接種履歴を聞かれるケースが増えているためだという。一般のビジネス利用も想定した公的な制度は、加藤勝信官房長官をトップとする省庁横断のチームで検討を急いでいる。まずは紙の公式証明書を今夏に利用できるようにする想定だ。年内にはスマートフォンのアプリなどでデジタル化する段取りを描く。国内でもファイザー製やモデルナ製の調達・供給量が増えていることが背景にある。21日には企業の職場での接種も始まる。接種を証明することで渡航者と受け入れ国側の双方のリスクが低減すれば、海外での商談などのハードルが下がる。証明書は住民情報を持ち、接種の実務を担う自治体が出す。氏名やワクチンメーカー、打った時期などを記載する。接種履歴を一元的に管理する国の「ワクチン接種記録システム(VRS)」と連動させ、内容を国が保証する仕組みとする方針だ。飛行機への搭乗時や海外での入国審査時などに提示する。ビジネスや留学で渡航する日本人、日本に滞在中で母国に戻る外国人らの利用を見込む。日本貿易会の小林健会長(三菱商事会長)は「経済人の立場からいえばワクチンパスポート(証明書)で自由に行き来できるようになるのが理想だ」と話す。エイチ・アイ・エス(HIS)は「帰国後の14日間の隔離期間が海外旅行の最大のハードル。ワクチンパスポート制度により措置が緩和されると風向きは変わる」と期待を寄せる。政府がモデルとするのはEUが7月から運用する「デジタルCOVID証明書」だ。接種経験者やコロナからの回復者が対象で、自主隔離や検査を免除する。ドイツなど7カ国は6月から先行運用している。レインデルス欧州委員(司法担当)は「自由で安全な移動を取り戻す」と力説する。欧州委員会は5月31日、証明書の活用を念頭に、加盟国に移動制限を緩和するよう提言した。米国や日本など域外からも、EUが認めるワクチンを打った人は入域できるようにする方向だ。接種は任意なのに、証明書の導入で未接種者への差別を招くとの懸念もある。米国は州によって対応が割れる。東部ニューヨーク州は3月、接種歴を示すスマホアプリ「エクセルシオール・パス」を導入した。発行数は既に100万を超える。一方、南部ジョージア州は公的機関による証明書要求を禁止している。「接種は個人的な決定」(ケンプ知事)との考えからだ。州が保有する接種データは民間企業などに提供しない。住民への接種は引き続き奨励する。米メディアによると、少なくとも10州が禁止・制限している。日本も国内向けの導入は慎重に検討している。経済再開を急ぐ自治体や企業の独自ルールが乱立する恐れもあるため、政府が統一指針をつくることも視野に入れる。ワクチン証明書は国際協調も必要になる。主要7カ国(G7)は3~4日、英南部オックスフォードで開いた保健相会合で連携の必要性を確認した。世界保健機関(WHO)を中心に相互承認の仕組みづくりを進める。

<ワクチン接種で、五輪の観客も数や行動の制限が不要になる>
PS(2021年6月8、9、10日追加):*19-1のように、米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンの対象年齢は12~15歳に広げることができ、日本政府が無料で打つ対象に追加したそうだ。しかし、京都府伊根町が12~15歳に新型コロナワクチンの接種を始めたところ、*19-2のように、「①人殺しに加担している」「②殺すぞ」「③子どもへの接種はリスクがある」「④若い女性が接種すると不妊につながる」などという町職員を問い詰める電話が相次いだそうである。が、③④は科学的根拠がなく(科学的根拠があると主張する人はそれを明示すべき)、①②は脅迫であるため、相手を特定して警察に届けるべきである。
 なお、日本政府は、*19-3のように、新型コロナワクチン接種済を証明する「ワクチンパスポート」を今夏にも発行するそうだが、各国の水際対策に対応するだけでなく、国内での感染対策にも使うべきである。具体的には、「⑤新型コロナワクチン接種済証を持つ外国人は通常の検疫のみで入国させる」「⑥オリンピックはじめ多くの観客が集うイベントの入場にあたっては、ワクチン接種済証を提示させる」などだ。
 こうすると、*19-4のように、東京五輪の観客もワクチン接種済証があれば陰性証明を求める必要はなく、会場や入り口での健康チェック・マスクの常時着用・応援禁止・分散退場なども不要になる。また、ワクチン接種が間に合わなかったがチケットを持っている人は、「⑦観戦日の前1週間以内の陰性証明書を提示する」という緩い規制では感染が広がるため、会場の入り口で10分で結果が出る抗原検査・抗体検査をして陰性を証明するか、ワクチン接種済証を提示できる人に譲るかの2者択一にすべきだ。それによって空席になる観客席があるようなら、スポンサー企業の社員や学校でその競技を練習している生徒のうちワクチン接種済の人に譲れば、観客席が寂しくないだけでなく、プラスの効果も出るだろう。
 新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長が、*20-1のように、「⑧観戦に行かず感染対策を求められる人に不公平感や不満が生じない対応が必要」「⑨(そのためには)スタジアムの中の景色が大事」「⑩やるのであればかなり注意してやる必要がある」と言われたそうだが、⑧⑨は、「幸福な人がいると(それを見て)不幸を感じる人が多いため、国民全員を不幸にすれば文句が出ない」という中央省庁がよくやる狭くて国民を馬鹿にした発想である。現在は、国内外の情報が自由に手に入るため、国民全員を不幸にすれば外国政府と比較して日本政府の能力不足を見定める。また、⑩については、何をすれば注意したことになるのか列挙されればよいが、医療・介護の不備、治療の遅れ、ザルの検疫、積極的疫学調査と称する疫学の名に値しない消極的検査と陽性者に対する不当な差別、ワクチン・治療薬の開発・承認の消極性など厚労省の失敗ばかりが多く、それによって無駄遣いした血税が数十兆円にも昇るのである。その上、無観客のオリンピックで大きな損失を出して血税を投入しようというのか。国民はそれらに不満を持っているのであって、観戦に行く人がいるのに自分が行かないから不満を持っているのではない。つまり、考えることの視野が狭くて次元が低いのである。
 私は、党首討論を全て見たが、*20-2のうち、「⑪感染ルートの徹底的遮断」「⑫ワクチンが切り札」というのは正しいと思う。また、1964年の東京五輪の時、私は小学5年生でオリンピックのために両親が買ったカラーテレビで、開会式から閉会式まで殆どを見て感動したため、菅首相が語られたことは重要だと思う。“東洋の魔女”と呼ばれた日本女子バレーは日本女性の頑張りを見せ、マラソンのアベベ選手は裸足で走ってマラソンが終わってから体操をするゆとりがあり、体操のチャスラフスカは優美でキレがあり、世界は広いことを実感させた。また、オランダのへーシング選手が柔道で日本選手を破って金メダルをとった時は心から拍手を送った。そのため、菅首相が東京五輪を「⑬子どもたちに見てほしい」と言われたのはよくわかるのだが、立憲民主党の枝野代表はじめ現役のメディア記者など1964年の東京オリンピックを見ていない世代には無駄話に聞こえたようで、これだから若い人だけで意思決定をすると偏るのである。なお、新型コロナについては、緊急事態宣言等で人流を止めて一時的に下火になったとしても、集団免疫ができていなければ人が動き始めれば何度でもリバウンドする。それだからこそ、ワクチンと治療薬が重要なのであり、厚労省のやり方は100年前のスペイン風邪の時代から進歩していないばかりか、ワクチンを軽視している点で私が子どもの頃より遅れているのだ。

  
 2021.5.1日経新聞      2021.6.1琉球新報      2021.5.13日経新聞 

(図の説明:左図がメッセンジャーRNAを使ったワクチンの仕組みだ。中央の図は、職場接種の方針を示している企業で、これが増えるとワクチンの接種が飛躍的に進む。右図が日本の水際対策だが、ワクチン接種済証を持つ人は通常の検疫だけで通してよいと思う)

*19-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/107205 (東京新聞 2021年5月28日) 12~15歳にも接種拡大 ファイザー製ワクチン 厚労省部会が了承
 厚生労働省の専門部会は28日、現在16歳以上となっている米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンの対象年齢について、12~15歳にも広げることを了承した。31日に別の専門分科会で12~15歳を予防接種法に基づき無料で打てる対象に追加することを決める。2~8度の冷蔵庫での保存期間を5日間から最長1カ月間とすることも認めた。管理がさらに容易になると期待される。ファイザーは、対象年齢の拡大や保存期間の延長に向けて、国の審査機関「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」に添付文書の改訂を相談していた。米国では既に認められている。同社が12~15歳の2260人を対象に実施した臨床研究(治験)の結果によると、ワクチンを投与したグループでは100%の発症予防効果が確認された。政府はファイザー社との間で、9700万人分の供給を受ける契約を交わしている。米モデルナも、18歳以上が対象となっている同社製ワクチンについて、12~17歳も有効とする臨床研究結果を発表しており、各国で接種年齢拡大に向けて準備を進めている。

*19-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109215 (東京新聞 2021年6月7日) 子どもへのワクチン接種やめろ 抗議の電話殺到 「殺すぞ」と脅迫も
 京都府伊根町が6日から始めた12~15歳への新型コロナウイルスワクチン接種を巡り、町へ抗議の電話が殺到していたことが7日、分かった。「人殺しに加担している」「殺すぞ」と脅迫するような内容もあり、町は問い合わせ窓口のコールセンターを停止。京都府警に相談した。町によると、7日朝から「子どもへの接種はリスクがある」「若い女性が接種すると不妊につながる」などと職員を問い詰める電話が相次いだ。センターは回線がパンクし、午前9時の開始から約30分で停止した。その後は代表番号にかかってくるようになり、午後5時までに計約100件に及んだ。全て町外で、異なる番号が多かったという。抗議文はメールで20件以上、ファクスでも8件あった。

*19-3:https://news.yahoo.co.jp/articles/b06fa652a4d0a40a0f8cb4eb228a3b2304006566 (Yahoo 2021/6/7) ワクチン接種証明、今夏にも発行 渡航者向け、往来円滑化図る 政府
 政府は、新型コロナウイルスワクチンの接種歴を証明する「ワクチンパスポート」を今夏にも発行する方向で調整に入った。複数の政府関係者が7日、明らかにした。各国の水際対策で接種履歴の確認を行う動きが広がっていることを受けた対応。海外渡航者向けに発行し、主にビジネス往来の円滑化を図る。ワクチンパスポートに関しては、加藤勝信官房長官をトップに、外務省や厚生労働省でつくるチームで検討を進めている。接種時期やワクチンのメーカーを明記する方向で、まずは紙の証明書を発行。将来的にスマートフォンのアプリで管理することを視野に入れる。日本がワクチンパスポートを交付した場合、入国後の待機免除などの措置を相手国で受けられるかや、相手国のワクチンパスポート保持者をどのような条件で受け入れるかについて、今後、各国と交渉を行う。ただ、一部の国では「未接種者への差別につながる」との懸念も出ている。加藤氏は7日の記者会見で「海外の動きにしっかりと対応できるように検討を進めていきたい」と語った。

*19-4:https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/20210530-OYT1T50102/ (読売新聞 2021/5/31) 【独自】東京五輪観客に「陰性証明」求める、1週間以内の取得条件…政府原案
 夏の東京五輪・パラリンピックの観客の新型コロナウイルス対策について、政府が検討している原案が判明した。入場時にPCR検査などの陰性証明書提示を求めることや、会場内での食事や飲酒の禁止などが柱となっている。厳しい対策により、大会期間中の感染拡大防止を図る。複数の政府関係者が明らかにした。政府と東京都、大会組織委員会は会場の観客数上限を6月中に判断する方針だ。一定の観客を入れる場合を想定し、原案を基に3者で感染対策の具体化を急ぐ。原案によると、観客全員に事前にPCR検査などを求め、入り口で観戦日の前1週間以内の陰性証明書を提示することを条件に入場を認める。ワクチンを接種した人は接種証明書があれば陰性証明書は求めない。検査費は自己負担で、政府は検査数は1日最大約40万件と試算しており、今後、検査態勢の拡充も図る。会場では、入り口での健康チェックやマスクの常時着用、分散退場などを徹底する。観戦中の食事や飲酒、大声での応援、ハイタッチは禁止の方向だ。警備員を配置し、違反に対しては入場拒否や退場などの措置も想定している。

*20-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109698 (東京新聞 2021年6月9日) 尾身会長、五輪開催の場合は「観客以外の納得感が大事」
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は9日、衆院厚生労働委員会で、東京五輪・パラリンピック期間中の感染対策に関し「大事なのは人々の納得感だ」と指摘し、開催する場合も、観戦に行かずに感染対策を求められる人たちに不公平感や不満が生じないような対応を求めた。尾身氏は「ほとんどの人は観戦に行かない。そういう人たちに一定の感染対策をお願いすると思うので、そういう人たちに納得してもらえるようなスタジアムの中の景色が大事だ」と語った。競技場内の観客と、観戦に行かない住民の双方への感染対策が「矛盾しない形での五輪の在り方が求められる」とも話した。五輪開催による感染拡大への影響については「さらに感染の機会が増加するということなので、本当にやるのであればかなり注意をしてやる必要がある」と重ねて慎重な検討を求めた。尾身氏ら専門家は近く、五輪開催に伴う感染拡大リスクの評価をまとめ、独自に提言する方針。

*20-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/109592 (東京新聞 2021年6月9日) 初の党首討論 菅首相、東京五輪「子どもたちに見てほしい」6分45秒とうとうと…
 菅義偉首相と立憲民主など野党4党の代表が1対1で論戦を交わす党首討論が9日午後4時から開かれた。菅政権発足後初めて。持ち時間は立民の枝野幸男代表が30分、日本維新の会の片山虎之助共同代表と国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長が各5分で東京五輪・パラリンピック開催の是非や新型コロナウイルス対策などをテーマに論戦を繰り広げた。
◆討論開始「ワクチンは切り札」
 菅義偉首相と枝野幸男代表の党首討論が始まった。枝野氏は、政府のコロナ対策から口火を切った。今年1月から2度の緊急事態宣言の発令があり、法令に基づく自粛などがなかったのは3週間だと指摘。「リバウンドを防ぐためには十分な補償がセットでないといけない。第5波を防ぐためにも、3月の解除が早すぎたという反省を明確にした上で、私たちのような厳しい基準を明確にすべきだ」と問いただした。菅首相は「緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は専門家の委員にかけて決定している。世界どこでもロックダウンをした国でも簡単におさまっていない」と答えた。ワクチン接種が始まり1日100万回に達成していることを挙げ、「国民のみなさんの接種に必要なワクチンは既に確保している。ワクチン接種こそが切り札だと思っている」と成果を強調した。さらに枝野氏は、ニュージーランドやオーストラリア、台湾が感染防止に成功したことを例に挙げ「感染者を1日50人に抑えるために感染ルートを徹底的に遮断することが必要だ」と強調。また、首相が東京五輪開催をめぐって「国民の命と健康を守る」と発言していることについて、「開催を契機に国内で感染が広がるといった、国民の命と健康を脅かす事態を招かないことも意味するのか」と迫った。首相は「私権制限の強い国などと比較するのはいかがなものか」と反論。大会関係者の訪日数を半分以下に抑え、参加選手の8割以上にワクチン接種を行う方針をアピールした。
◆菅氏独演「子どもに見てほしい」
 続けて、菅首相は「57年前の東京五輪の時、私は高校生だったが、『東洋の魔女』の回転レシーブ、マラソンのアベベ選手、敗者に敬意を払ったオランダ柔道のへーシング選手など今も鮮明に覚えている。こうしたことを子どもたちにも見てほしい」と力説。さらに、前回の東京大会で初めてパラリンピックと名付けられたことを挙げ、「パラリンピックの開催が共生社会の1つの契機になった。素晴らしい大会をぜひ、今の子どもや若者に希望や勇気を伝えたい。さらに心のバリアフリーこうしたものもしっかり、大きな学習にもなるのではないか。世界の人たちに東日本大震災からの復興もみてもらいたい」と訴えた。菅首相は五輪の質問に対して、約6分45秒にわたって、とうとうと述べ続けた。枝野氏は「2年ぶりの党首討論。後半はここにはふさわしくない話だった」と話した。

<新型コロナワクチンに関する優先順位の不合理と接種予約のやりにくさ>
PS(2021年6月11日追加):*21-1のように、新型コロナワクチンの接種加速のために国・地方自治体が大規模会場の利用促進を急いでおり、自衛隊の大規模会場は予約を受け付ける高齢者の居住地を全国に拡大するそうだが、ワクチンを接種するためにリスクの高い高齢者がわざわざ感染多発地帯に公共交通機関を使って出ていくのは不合理だ。そのため、年齢制限を廃してオリンピック関係者や東京・大阪・周辺地域の人に接種した方が効果的に集団免疫を獲得できる。また、対象者の設定が悪く、高齢者施設のスタッフで未だにワクチン接種していない人がいるというのには呆れるが、厚労省の専門家会議はどういう目的で何をアドバイスしたのか?
 なお、*21-2のように、「①ワクチンの職場接種を着実に進めたい」としながらも、「②冷凍庫の関係で1000人以上に実施する場合に限る」「③1000人規模の接種を進めるだけの医療従事者を抱える企業は少ない」などと言い、「④職域接種では65歳未満で市区町村から接種券が届いていない人も対象になるため、後日届いた接種券を国の記録システムに登録する必要がある」「⑤政府は職域接種の対象を取引先企業の社員や地域住民にも広げるよう企業に呼びかけているが、対象を広げると事務は複雑になる」「⑥ワクチンを接種するかどうかは本人の意思に委ねなければならず、接種を強制したり、働き手に強制と受け止められたりすることはあってはならない」と記載している。
 しかし、②③は、冷凍庫を有料のレンタルにすれば国の無料配給を待つ必要はなく、ネックの出ない規模で接種を行うことができる。また、④⑤は、年齢制限を廃して市区町村の接種券を速やかに送付すれば解決する。さらに、⑥は、若い人でも免疫をつけて他人に感染させない必要があるため、多くの集客をする場所の入り口で、また人と接する職業の人には、免疫パスポートか頻繁な陰性証明書の提示を求めればよいのだ。
 このような中、*21-3のように、加藤官房長官が新型コロナ感染拡大を踏まえ、「⑦未曽有の事態を全国民が経験して緊急事態の備えに関心が高まっているので、今が緊急事態条項の創設を進める絶好の契機だ」と言われたそうだが、まさに⑦が、厚労省が新型コロナ感染拡大にあたっていい加減な対策を繰り返して全力を尽くさなかった理由だろう。しかし、自民党内の少なからぬ人が緊急事態条項創設の必要性を主張しているため、野党のように、その時点の首相を貶めて責任追及ばかりしても何も変わらない。そのため、国民は国政選挙の時には、「誰が緊急事態条項の創設に賛成しているか」を確認した上で、政党にかかわらず投票するのがよい。

*21-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210611&ng=DGKKZO72793360R10C21A6EA2000 (日経新聞 2021.6.11) 接種加速へ対象拡大 国・自治体の大規模接種、予約の空き活用 国は10日から全国予約
 新型コロナウイルスワクチンの接種加速を目指し、国や自治体は大規模会場の利用促進を急ぐ。自衛隊の大規模会場は予約を受け付ける高齢者の居住地を10日から全国に拡大。自治体の会場も対象年齢・地域を広げる。空きの目立つ予約枠を埋め、大規模会場の接種能力を最大限生かす。防衛省は10日、自衛隊が東京と大阪で運営する大規模接種センターについて、同日以降は全国の高齢者から予約を受け付けると発表した。従来は首都圏と関西の7都府県としてきた居住地の制限をなくした。防衛省によると、14~27日の枠は東阪合計で10日午後5時時点で76%が埋まっていない。東京会場は14万人の枠のうち11万2000人、大阪会場も7万人のうち4万7000人の空きがある。インターネットに加え、12日午前7時から電話での予約受け付けを新たに始める。ネットに不慣れな高齢者の利用を促す。対象地域拡大と合わせて予約率アップにつなげ、接種を加速する。当面は65歳以上の高齢者が対象だが、64歳以下で基礎疾患を持つ人や高齢者施設のスタッフへの拡大も検討する。各自治体による接種券の発行状況をみて、拡大時期を判断する。28日以降は1回目を終えた人の2回目接種が始まり、予約枠の空きは少なくなる見通しだ。中山泰秀防衛副大臣は10日の記者会見で「1回目の接種を希望する人は27日までの枠を確保するよう、早めの予約をお願いする」と呼びかけた。地方でも予約が伸び悩むケースが出ている。広島県は福山市内の会場で7日に接種を始めたが、17日までの枠は9日午前の時点で3%しか埋まらなかった。アクセスの不便さや周知不足に加え、対象年齢の設定が影響したもようだ。福山市内の高齢者について80歳以上を受け付け対象としたところ、遠方の会場を敬遠し、近くのかかりつけ医での個別接種を選ぶ人が多かったという。県は10日から対象を65歳以上に拡大し、予約率は同日午後3時時点で32%に上がった。徳島県は徳島市内の大規模会場で予約率が5割程度にとどまっているのを受け、同市以外からの予約を受け付ける。1回目の接種期間である5~24日のうち、22.23日に阿南市、24日は小松島市の高齢者にも開放する。大規模会場の空いた予約枠を活用し、64歳以下への接種を検討しているのが大阪市だ。14日以降の枠に空きがあった場合は市立学校の教職員や消防局職員らに接種するほか、接種券が届いた市民の予約も受ける。市の大規模会場は14~20日の予約枠の7割が空いている。64歳以下にも16日から接種券を順次発送し、早い人は18日にも届く見通し。その時点で空きがあれば、64歳以下の予約を認める考えだ。松井一郎市長は「例えば月~木曜は高齢者だけ、金土日は64歳以下も予約できるような方式を考えている」と話す。高齢者の予約伸び悩みは個別接種が進んだ裏返しとの見方もある。札幌市は個別接種が集団接種の2~3倍の規模で進んでいるという。集団接種の予約枠は3割近く残っているが「個別接種を補完する位置づけであり、あるべき姿に落ち着いてきた」(ワクチン接種担当部)とみる。

*21-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210611&ng=DGKKZO72792160Q1A610C2EA1000 (日経新聞社説 2021.6.11)ワクチンの職場接種を着実に進めたい
 新型コロナウイルスのワクチン接種が、職場や大学で21日から始まる。すでに多くの企業が申請しており、接種のスピードアップが期待できる。こうした職域接種は65歳未満の人も対象となり、1000人以上に実施する場合に認められる。大企業による単独実施だけでなく、商工会議所などを通じた中小企業の共同実施も可能だ。労働安全衛生法は企業に産業医の選任を求めている。1000人以上が働く事業所で1人、3000人超なら2人以上の専属医を置く必要があり、オフィスや工場に診療所を持つ企業も多い。日ごろから健康を管理している企業内診療所でワクチンを打てるのなら、労働者は安心だ。業務の性質上、在宅では仕事ができない人たちが早く接種できれば、感染防止と企業活動の安定の両面で大きなメリットがある。ただ1000人規模の接種を速やかに進めるだけの医療従事者を抱える企業は少なく、外部の医療機関の助けが必要だ。政府は企業や大学に自力で医療従事者を確保することを求めている。医療機関はぜひ協力してほしい。事務負担も気がかりだ。職域接種では65歳未満で市区町村から接種券が届いていない人なども対象になる。企業や医療機関は接種記録を管理しつつ、後日届いた接種券を本人から回収し、国の記録システムに登録する必要がある。さらに予診票や接種券の写しを5年間保管しなければならない。政府は職域接種の対象を取引先企業の社員や地域住民などにも広げるよう企業に呼びかけている。しかし、対象を広げると事務は一段と複雑になる。対象者の範囲は企業の判断に任せるべきだ。ワクチンを接種するかどうかは本人の意思に委ねなければならない。職域接種ではこの点を特に注意すべきだ。接種を強制したり、働き手に強制と受け止められたりすることはあってはならない。会社員は職場、学生は大学など生活スタイルに合った接種拠点はワクチンの浸透に有効だろう。一方、自衛隊が東京と大阪で運営する大規模接種会場で予約が埋まらなくなったのは、都心オフィス街という立地が高齢者の日常生活から遠いのが一因だ。高齢者に身近な診療所での接種を強化し、大規模会場は勤め人を主な対象にするなど、立地の特性にあった運用を考えたい。

*21-3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021061101031&g=pol (時事 2021年6月11日) コロナ禍は改憲の好機 加藤官房長官
 加藤勝信官房長官は11日の記者会見で、自民党が憲法改正案に盛り込んだ緊急事態条項の創設について、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ「未曽有の事態を全国民が経験し、緊急事態の備えに関心が高まっている。議論を提起し、進めるには絶好の契機だ」と発言した。国難と言える状況を「絶好」と形容した真意を問われると、加藤氏は「この状況が良い状況だとは全く思っていない。申し上げたいのは、緊急事態というものに大変高い関心を持っているということだ」と釈明した。

| 日本国憲法::2019.3~ | 11:04 AM | comments (x) | trackback (x) |

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