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2024,11,25, Monday
(1)COP29について
2024.11.24日経新聞 2024.11.20沖縄タイムス 2024.11.18日経新聞 (図の説明:左図が、COP29で合意されたポイントで、中央の図が、COP29で各国が公表した2035年の温室効果ガス削減目標だ。また、右図は、脱石炭の廃止目標だが、日本は国民の金を拠出すること以外は何の目標も示せず、気候変動について真剣に考えていないことがわかる) 1)米国の「パリ協定」からの離脱可能性と日本の対応 2024.11.7毎日新聞 資源エネルギー庁 (図の説明:左図は、世界の平均気温の上昇で、2024年は1.5℃を超えそうだ。中央の図は、米国が2006年以降に開発を進めたシェール層のシェールガス・シェールオイルの説明で、右図のように、シェールガスの生産開始によって天然ガスの値段は著しく下がったが、変動費は再エネより高く、燃焼時にCO₂を出すことも間違いない) *1-1のように、地球温暖化によって2024年の世界平均気温は過去最高で、記録的な猛暑や干ばつ・巨大台風・豪雨・洪水等の災害が世界で多発している。そして、その被害は米国の経済・企業・住民にも影響を及ぼしているが、米国のトランプ次期大統領は、環境規制に否定的なリー・ゼルディン氏を米環境保護局(EPA)長官に起用して、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱しそうである。 確かに、米国は2006年以降にシェール層の開発を進め、シェールガスやシェールオイルの生産が本格化するに伴って、天然ガス・原油の輸入量が減少し、価格も下がる「シェール革命」を起こしたため、簡単に脱化石燃料とは行かないだろうが、いつまでも化石燃料に固執していると、むしろ米国の産業や技術は世界に遅れるというパラドックスを抱えている(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/1-1-1.html 参照)。 このような中、アゼルバイジャンで開かれたCOP29の焦点は、*1-2-1・*1-2-2のように、現状では年1000億ドル(約15兆円)の先進国から途上国への金融支援を、先進国側が2035年までに少なくとも年3千億ドル(約45~46 兆円)出すことで合意し、それに加えて官民あわせて1.3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決め、途上国からの任意の支援資金拠出も奨励したが、脱化石燃料についてはCOP28の成果を再確認しただけに終わったそうだ。 また、EU・(産炭国)オーストラリアは、会期中に石炭火力発電所新設に反対する有志連合を立ち上げたのに対し、日本・米国はこれに入らず、国連傘下の国際的炭素クレジット売買に関する市場創設ルールについて合意して、再エネ導入等による温暖化ガス排出削減効果を取引して炭素クレジットを購入できるようにし、温暖化ガス排出削減効果を取引して削減目標を達成したことにするのでは、自国の温暖化ガス排出削減は進まない。 その上、日本は石炭火力削減ではG7最下位で、調達量や価格に課題のあるアンモニアへの転換に活路を見いだしているそうだが、これは現実を直視した取捨選択ができていないということである。 2)途上国の対応 日立ソーシャルイノベーション Jccca 日立システム (図の説明:左図は、COPの変遷で、1997年日本開催のCOP3で温室効果ガスの排出削減を定めた京都議定書が採択され、2015年開催のパリ協定で京都議定書に代わって全ての国が参加して世界共通の長期目標としての2℃目標と1.5℃に抑える努力等が定められた。中央の図は、2020年の主要国CO₂排出量と1人当たり排出量の比較だが、国別では中国・米国・インド・ロシア・日本の順で、1人あたりでは米国・ロシア・韓国・日本・中国・ドイツの順となっており、必ずしも新興国の排出量が少ないわけではない。右図は、人工衛星から森林の状況を把握してCO₂の吸収量を可視化するシステムで、現在はカーボンクレジット創出量の算出に用いられているが、逆にカーボンクレジット喪失量の把握にも使用することができる) *1-3-1・*1-3-2は、①COP29では大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と負担軽減を図る先進国が対立 ②再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧に多額の資金を要する途上国は、年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求しており、最後の全体会合でも合意に至った達成感がなかった ③途上国への支援目標は2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった ④インドとや途上国の代表は「合意は私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言 ⑤協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策に繋げる必要 ⑥合意した金額を先進国の公的資金だけで賄うのは厳しく、資金が足りなければ途上国の対策が滞るので、資金の出し手を増やす必要 ⑦温暖化ガスの世界最大排出国である中国や中東産油国などは余力がある筈 ⑧G20は世界の温暖化ガスの約8割を排出し、裕福な国や地域は協力する責任 ⑨民間の投資加速も不可欠 ⑩COP29では2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった 等としている。 このうち①④⑧の途上国が大量の温室効果ガスを排出してきた先進国に対して責任に見合う拠出を求め、インド代表等が「合意は私たちが直面する課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言しているのは、⑧のように産業革命後と現在のCO₂排出量のみを見ればそうかもしれない。しかし、長い歴史を有する文明の中で、化石燃料を使わず森林を伐採して燃料にしてきたのであれば、CO₂吸収源を減らしてきた効果も大きいと思われるため、これも正確に測定すべきであるし、現在は砂漠でも本来は森林や田園にできる場所であればそうすべきである。 そのため、②③のように、途上国が再エネ導入など温暖化対策・異常気象に伴う災害復旧のためとして年1兆3千億ドル(約200兆円)の資金を要求し、“先進国”が裕福(?)だという理由で支援目標を年3000億ドル(約46兆円)にすると決めたのでは、気候危機を題材にしたオネダリとバラマキの構図に見える。 そして、⑥⑩のように、COP29で2035年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すことを合意した金額でも、一般増税と給付減が続いている“先進国”日本では、当然、公的資金だけで賄うのは厳しいだろう。そのため、⑨の民間投資も含めて資金の出し手を増やす必要があるのだが、⑦の温暖化ガスの大量排出国である中国はじめ米国・インド・ロシア等も、財政に余力があるからではなく、排出量に応じて公平に公的資金を拠出する義務があると思う。 なお、それを公平に行なう方法は、化石燃料の消費量に応じて炭素税(環境税の1つ)をかけて資金を集めることだが、現在、ガソリンにかかっている税は、i) 本則税(揮発油税・地方揮発油税):28.7円/L ii)石油税(石油石炭税・地球温暖化対策税):2.8円/L iii)暫定税率:25.1円/L iv)消費税:税を合わせた総額の10%であり、「トリガー条項」とは、ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で160円/L超の場合、自動的にガソリン税が“本則税率”のみに引き下げる仕組みとのことだ。 そのため、*1-4-1のように、国民民主党の要求を受け入れ、自民・公明両党が2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始めるそうだが、それなら必需品である燃料にかかる、i)の本則税(揮発油税・地方揮発油税28.7円/L)を廃止し、ii)の暫定税率25.1円/Lも意味不明であるため廃止して、消費税10%は本体価格に掛けて算出することとし、現在2.8円/Lしか課税されていない石油石炭税・地球温暖化対策税をCO₂はじめ有害物質の排出量に応じて50~60円/Lに引き上げ、再エネ化・電動化・地球温暖化対策等にかかる費用はここから出すのが時代の要請に合っていると同時に、簡素で合理的でもあると思う。 そして、⑤の途上国支援費や⑩の年1兆3000億ドルのうち官が出す部分は、当然、ここから出すべきだ。 3)ガソリン減税と温暖化対策 *1-4-3の図1 *1-4-3の図2 (図の説明:左図のように、日本では自動車関係諸税が国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなる。また、右図のように、取得と保有段階で車体課税され、走行段階では燃料に課税される) *1-4-3の図3 *1-4-3の図4 (図の説明:左図が、定められた自動車関係諸税の歴史で、一番下が本則税率に対する実際の税率の倍率で、右図には、各自動車関係諸税が国・地方自治体のどこに入るのかが示されている) *1-4-3の図5 *1-4-3の図6 (図の説明:左図は、日本の自動車関係諸税の他国との比較で著しく大きいし、右図は、購入からリサイクルまで自家用乗用車ユーザーにかかる税負担額で新車購入額の8割にもなる) *1-4-2は、①経産省・環境省は、11月25日、現行ペースを継続する「2035年度:2013年度比60%減」「2040年度:73%減」とする案を示した ②2050年実質排出0への温暖化ガス削減と脱炭素技術開発を通じた経済成長の両立を目指す ③「パリ協定」に基づき、政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえ、年内に具体的削減目標を固めて国連に提出 ④両省は2050年に向け、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出0を達成する案を検討する意向 ⑤温暖化ガス次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となり、排出削減強化を求める意見と脱炭素技術普及効果に時間を要する点に配慮を求める意見あり ⑥国立環境研究所のシナリオでは、CO₂回収等の脱炭素技術が2030年以降順調に普及し、再エネ・水素・アンモニア等の脱炭素燃料が広がれば2050年の実質排出0を実現でき、十分普及せずに導入を急げばエネルギー調達コスト等の負担が増大する、現行削減ペースを持続すれば技術導入にかかる2050年までの総費用額は比較的抑えられると分析 ⑦「グリーントランスフォーメーション政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要」という意見も ⑧「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」との指摘も ⑨国連は2035年迄に2019年比60%削減する必要があるし、日本の新削減目標はぎりぎり範囲内 ⑩国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギ 等としている。 このうち、①②⑤⑨は、環境は経済の足を引っ張るという既得権益を持つ企業の言い分を前提としているため、「環境対応はなるべくゆっくりしたい」という考えが根底にあるが、これまで述べてきたとおり、21世紀の環境対応は経済の足を引っ張るどころか経済の前提であり、それに加えて、日本の場合は、環境対応がコストダウンの要であると同時に、やり方によっては食料自給率・エネルギー自給率の上昇にも資するのである。 そのため、③の「パリ協定」は先進的だが、④の経産省・環境省は2050年の実質排出0に向けて2030年度目標を直線的に達成する案を検討する意向で、⑧のように、一部委員から「直線経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要」などという指摘があるのは、技術革新や普及によるコストダウンを考慮しておらず、この委員は工学系でもなければ経済にも原価計算にも弱いと思われる。そして、⑦の「GX政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めることが重要」と言う委員の意見は重視されていないため、「結論ありき」の事務局とその委員の選抜に問題があることがわかった。 また、⑩のように、国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギと言いながら、⑥の国立環境研究所のシナリオは、脱炭素技術としてコストアップにしかならないCO₂回収や量と価格で供給に問題のあるアンモニアの使用を前提とし、再エネ・水素の普及に重点を置いてそこに投資することを考えていない点で、「環境対応=コスト負担」という固定観念から抜け出せておらず、とても最先端の環境研究をしているとは言い難いわけである。 このような中、*1-4-1は、⑪国民民主の要求を受け入れ、自民・公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金軽減策の議論開始 ⑫ガソリン等の燃料油の課税体系は複雑で当初目的とは異なる社会保障等の財源にも流用されている ⑬それらを整理し財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探すべき ⑭53.8円/Lのガソリン税は「本則分28.7円/L」と「特例的上乗せ分25.1円/L」からなる ⑮国民民主は物価高対策として価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」適用を主張 ⑯道路特定財源だったガソリン税は2009年に一般財源化され、2010年に上乗せ分の廃止を決め、財源確保の観点から「当分の間維持」とした ⑰流通過程で消費税も二重に課税されている ⑱財務省の試算で国・地方計年1.5兆円分の税収減に繋がるため、上乗せ分を単純にはやめれない ⑲価格下落で消費が増えれば脱炭素に逆行 ⑳与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしており、税収中立や脱炭素との整合性を考えれば妥当 等としている。 (1)2)に書いたとおり、⑪⑳のように、国民民主の要求を入れて与党が2025年度税制改正でガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体を見直し、自動車ユーザーに二重課税はじめ不合理な負担をかけないよう簡素化・軽減に手をつけるのに、私は賛成だ。そして、⑬については、自動車関係諸税を整理して簡素化し、二重課税をなくしつつ、脱炭素の流れと矛盾せぬように炭素税(環境税の一種)をかけ、脱炭素のイノベーションを起こす財源とするのが最適解であろう。 しかし、⑫に関しては、⑯のように、一般財源(1つの大きな財布)化された財源は、社会保障に使われても「流用」ではない。流用とは、厚生年金保険料から国民年金を支払ったり、国民健康保険の目的積立金を子育て支援金に使ったりするような別の財布に手を突っ込んで資金を出すことを言うのであり、国はそうすることに罪悪感を持っていない点が最大の問題なのだ。 なお、⑭のように、本則分以外に特例的上乗せ分があり、⑯のように、財源確保のために上乗せ分の廃止を当分の間維持したり、⑰のように、他の税金部分にまで消費税をかけたりするのは、明らかに公正・中立・簡素の税の原則から外れているため、⑮の「トリガー条項」の適用を待つまでもなく、速やかに整理すべきだったのである。 そして、⑱⑲のように、国・地方の税収減に繋がったり、価格下落で化石燃料の消費が増えれば脱炭素に逆行することに関しては、CO₂排出量に応じて炭素税をかけることによって解決でき、これによってCO₂を排出しないEVへの移行も促されて、二重にイノベーションを進める効果があるのだ。 なお、*1-4-3が、上に図を載せた日本自動車工業会の自動車関係諸税に関する解説だが、私1人でまとめるのは時間がかかりすぎるため、各自で消化してもらいたい。 (2)災害とリスク管理 BBC 2024.5.1気象庁 2023.9.1WhetherNews YouTube (図の説明:1番左の図は1940~2023年の世界平均気温で2024年は過去最高を更新した2023年より高かった。また、左から2番目の図は日本の4月の気温を推移で2024年4月は著しく高くなっている。さらに、右から2番目の図は日本の夏の平均気温偏差で2023年でも1.76℃と高い。1番右の図は日本近海の海水温の変化で、福島県沖から北に向かって著しく高くなっており、この高さは世界でも群を抜いている) 1)2024年は統計開始以来最も暑い年だったこと *2-1-2は、①欧州気象当局は「猛烈な熱波や多くの犠牲者を出した嵐が世界各地を襲った2024年が統計開始以来最も気温の高い年となる」と発表 ②EUのコペルニクス気候変動サービスは「今年の世界平均気温は工業化以前(1850~1900年を基準)と比べて摂氏1.5度以上高くなり、この高気温は主に人為的な気候変動による」とした ③パリ協定で200カ国近くが気候変動による最悪の影響を回避するには長期的な気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束 ④英王立気象協会のベントリー最高責任者は「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対し、これ以上の温暖化を制限する行動が急務という厳しい警告を発するもの」とした ⑤国連は「現在の政策のままでは、今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性がある」と警告 ⑥科学者らは「大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、新たな記録が更新されるのは時間の問題」と警告 ⑦ホーキンス教授は「気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になり、世界中の人々に目にもあらわな影響が出る」「炭素排出量ネット0を実現して地球の気温を安定化させることが災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法」 等としている。 確かに、今年は体感でも暑い年で、10月になっても夏日が続き、11月になると急に寒くなって秋が非常に短かったわけだが、上の①②⑤は、その様子を世界規模で示している。 そして、COP21のパリ協定では、③のように、200カ国近くが長期的気温上昇を1.5度未満に抑える努力を約束し、④⑥のように、英王立気象協会の最高責任者や科学者らは、COP29での速やかな行動を警告していたが、COP29の成果はCOP21と比較すると新鮮さがなかった。 しかし、⑦のホーキンス教授の予測どおり、気温上昇で嵐はより激しく、熱波はさらに暑く、豪雨はますます極端になって、既に世界中の人々の目にあらわな影響が出ており、これを止めるためには、炭素排出量ネット0を速やかに実現して地球の気温を安定化させるしかなさそうだ。 2)地球温暖化により、日本でも豪雨災害が頻発していること *2-1-1は、①石川県能登半島の記録的豪雨で、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害 ②輪島市の4ヶ所が大雨による洪水リスクの高い区域に立地していた ③輪島市幹部は「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」とし、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した ④他の仮設住宅団地でも床下浸水被害の可能性 ⑤豪雨による死者8人。行方不明者2人、安否不明者5人 としている。 ①②④⑤については、大規模地震の被害で仮設住宅の建設用地が足りなかったとはいえ、大雨が降れば浸水するような場所に、国・県・市が仮設住宅を建設して住民を何度も被害に遭わせたこと自体が間違いであり、③のように、注意喚起や避難誘導をすればすむという話ではない。 そのため、近くに仮設住宅の建設用地がなければ、他の自治体であっても安全な場所に仮設住宅を建設するか、宿泊施設を借りるかするのが住民のためであるし、国民も同じ地域に何度も資金援助をしなければならないのでは、たまったものではないのである。 また、*2-2-1は、⑥国交省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(2023年度版)と国勢調査の人口データ(2000~2020年)から、大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある地域に住む人は全国で約2594万人(2020年)と過去20年間で約90万人増 ⑦気候変動で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える ⑧2020年の日本の全人口は最多だった2010年から約1.5%(約191万人)減ったが、浸水想定エリアの人口は約3%増えた ⑨浸水想定3m以上の地域の人口は約257万人で約7万人増 ⑩浸水5m以上の地域の人口も約26万人に上る ⑪浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で都民の3 割弱 ⑫埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間に20都道県で増加 ⑬2000年の都市計画法改正で、住宅建設が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響 ⑭日本大学の秦教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体があるが、毎年のように水害が起きる中、安全な場所に居住誘導するなど災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべき」と話す としている。 上の⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫についても、既に大雨による河川氾濫で浸水の恐れがある「洪水浸水想定区域」が開示されているため、開示以後に移り住んだ人は「回避できる浸水リスクを回避せずに移り住んだ」のであるため自己責任で、その人たちにまで被災時に資金援助をしていては、国民がどれだけ税金を払っても「財源」「財源」と言われて必要な福祉に金が廻らないのだ。 また、⑬のように、「2000年に都市計画法改正で住宅建設が原則禁止された市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされた」というのも、人口を維持することを住民の安全よりも優先した自治体であるため、その地域で起こった浸水被害まで全国民が支払った税金を使って救済するのは筋が通らない。 つまり、災害のリスク管理は、基本的にはそこに住む住民自身が行なうべきであり、そのための情報として都市計画法で住宅建設可能地域を指定しているのだから、(その指定が間違っていない限り)⑭のように、自治体が人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的だったり、安全な場所に居住誘導する等の災害リスクを踏まえた土地利用を進めなかったりしたのは、まさに自治体の責任そのものであって国の責任ではないのである。 3)保険料をリスク別に分けるのは名案だが、市区町村別では分け方が粗すぎること *2-2-2は、①水害が多発する中、浸水の恐れがある地域に住む人が2020年は全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3m以上の地域 ②東日本台風では水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流して溢れる内水氾濫が原因で武蔵小杉駅周辺のタワーマンション地下が浸水 ③被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価は前年比約2~5%上昇し、利便性が良ければ水害等の災害の影響は一時的 ④2000年の都市計画法改正で住宅等の建築が原則禁止される市街化調整区域でも自治体が条例で指定した地域は例外扱いとなったのが、浸水の恐れがある地域での人口増の一因 ⑤国交省の水害統計で2013~2022年の10年間の水害被害額は計7兆3千億円で前の10年の約1.4倍 ⑥浸水リスクのある地域で人口が増え、住宅等の資産も集中して、面積当たりの被害額が増加 ⑦水害多発を背景に火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが導入され、これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったのが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化 と記載している。 このうち①②③④のように、利便性を求めて浸水の恐れがある地域に住む人が増え、被災直後であっても地価は上昇し、都市計画法で住宅等の建築が原則禁止される地域でも自治体の条例で例外扱いできるのでは、「住民も自治体も、浸水リスクは覚悟の上でそこに住んでいるのだ」と言わざるを得ない。 さらに、⑤⑥のように、人口増に伴って住宅等の資産も集中し、面積当たり被害額も増加するのであれば、その被害は、⑦のように、民間の水災保険でカバーしてもらいたいが、水害の多発を背景に火災保険の水災保険料は高リスク地域ほど高くなるそうで、それは合理的だと思う。 しかし、同じ市町村内でも地域によって浸水リスクには違いがあるいため、市区町村別に保険料を変えるというのは分け方が粗すぎる。そのため、むしろ浸水の想定リスクに応じて保険料を変え、その結果として安全な場所に居住誘導することになる方が合理的である。 (4)日本における行政の環境意識 1)温室効果ガス削減と電気・ガス・ガソリン補助金について *3-1-1のように、約80の国・地域の首脳らが参加したCOP29で、英国を含む一部の国が気候変動対策の国際ルール「パリ協定」に基づく新たな温室効果ガス削減目標を発表し、英国のスターマー首相は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意」「2035年の排出量を1990年比81%削減」など前保守党政権の78%減をさらに高めた発表をして存在感を示したそうだ。なお、英国は、今年の9月に石炭火力を0にし、G7最速で新目標を発表するなど、気候変動対策に積極的な姿勢を示している。 一方、日本は、(1)の図に示されているとおり、COP29の終了時までに削減目標を公表することができず、(1)3)のとおり、11月25日になってから、経産省と環境省が現行ペースを継続する案を示したが、これはリーダーシップとは程遠い現状維持策である。 その上、*3-1-2のように、日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻で経済制裁したために高騰した化石燃料価格対策として2023年1月使用分から開始された補助金の終了に踏み込めず、国民が支払った税金から電気・ガス・ガソリンへの補助金を来年1~3月にも再実施することを決めたそうだ。そして、この補助金の額は、これまで投じられた累計額だけでも電気・ガスで約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達しているのである。 もちろん、国民は燃料価格が抑制されれば短期的には助かるが、もともとトップランナーだった日本の再エネやEVにこの金額を投資していれば、エネルギー自給率は上がり、COP29でもリーダー的な立場に立つことができ、化石燃料価格の高騰に右往左往して無駄使いする必要もなかったことから、無能な現状維持策が如何に国益を害するかが証明されたのである。 2)根拠無き廃炉工程と放射線量暫定基準 *3-2-1は、①原子力規制委員会前委員長の更田氏は「燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するか正確にはわからず、高線量の中で遠隔作業しなければいけないのが取り出しの難点」とする ②フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器の底を破って外側の格納容器まで広がっているため、建屋の老朽化で放射性物質が漏れ出す恐れ ③東電は「2号機で試験的に3g以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やし、2030年代初めに3号機で大規模な取り出しを始めて1号機に展開」「最初のステップが今年9月に始まった」とする ④開始遅れの原因は関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足で、今回の取り出しには「釣りざお式装置」を使った ⑤当初の計画は1~4号機に計3108体ある核燃料を2021年までに取り出すとしていたが、2021年までに取り出せたのは3、4号機のみ ⑥政府関係者は「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くなく、事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だったため、何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」と明かす ⑦政府は廃炉に必要な技術開発への支援等として毎年100億円以上を企業などに補助しており、最新の見積もりで廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用等はこれに含まれていない ⑧福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的で、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべき としている。 このうち①については、火星の表面の写真でさえ鮮明に送られてくる時代に、未だに地球上で高線量の放射線を出している燃料デブリが原子炉内のどこにどれだけ分布するかもわかっていないのなら、それは原発関係者の技術レベルが低いか、真実を隠しているかのどちらかである。 そして、やはり②のように、フクイチ1~3号機には推計880トンの燃料デブリがあり、3基とも圧力容器を破って外側の格納容器まで広がっていることがわかっており、これは事故当初に「圧力容器は壊れておらず、燃料デブリは圧力容器の中にある」と強弁していたこととは、全く違っているのである。 さらに、③④⑤のように、78億円もの国費を投じて開発したロボットアームの不具合により、東電は今回の取り出しに「釣りざお式装置」を使って2号機からやっと3g以下を取り出し、当初の計画は1~4号機の計3108体の核燃料を2021年までに取り出すというものだったが、2021年までに取り出せたのは3、4号機だけだったのだ。 これについては、⑥のように、政府関係者が「2051年までの廃炉完了を目標にした技術的根拠は全くない」「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できない空気だった」「何かしらの数字を出さざるを得なかったので、状況が大きく異なる米スリーマイル島原発2号機を参考にした」等と明かしているが、これは「廃炉がどうなろうと、線量が高かろうと、原発周辺の避難区域の住民が帰還しさえすれば良い」という考え方であり、全く住民の安全側には立っていない。 全く住民の安全側に立っていない事例は多いが、*3-2-2も、文部科学省は学校の校庭利用をめぐる放射線量の暫定基準を「定めた時と比べて線量が大幅に減った」という理由で年間20mSV(本来は年間1mSV以下)の目安を撤廃する方針を固めたそうだが、これもまた、子どもがいる住民の帰還をを促すためだけで科学的根拠はなく、住民の安全側には全く立っていない暫定基準なのである。 なお、⑦のように、政府は廃炉に必要な技術開発支援として毎年100億円以上を企業等に補助し、廃炉費用は8兆円とされ、燃料デブリの最終処分にかかる費用はこれに含まないそうだ。しかし、原発に関することなら、まるで既得権ででもあるかのように「財源」「財源」とは言わずに、私たちが支払った税金から私企業に対し、次々と金を出すのは全くおかしい。 そのため、⑧のように、「フクイチの廃炉は、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もあるため、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的」というのに私は賛成だ。さらに、海水で薄めれば基準値以下になるなどという科学的根拠とはかけ離れた説明をして流している処理水も、対話や説明の時期はとうに終わっているため、水で冷やしさえすれば良いという発想を早急にやめ、これまでの損害は補償すべきである。 3)プラ生産削減の要否と改善すべきごみ分別収集の不便 2021.3.21三井住友TAM 2021.5.31Long Life Labo (図の説明:左図は、世界の温室効果ガス排出量で、発電・熱生産25%、その他エネルギー9.6%、輸送14%、建築物6.4%で55%と過半数を占め、産業は21%しかない。右図は、日本のCO₂排出量推移と部門別割合で、2019年度は運輸18.5%、エネルギー転換8.0%、家庭14.3%で40.8%を占め、産業34.6%のうち約40%は鉄鋼業からの排出で、プラスチック生産による排出は少ない。ただし、世界は、CO₂の部門別排出量データが少ないようである) 2024.5.28朝日新聞 2024.4.22日経新聞 2022.10.14WWD (図の説明:左図は、世界のプラスチック使用量は2060年には2019年の3倍になる予測だが、ここで問題になるのは不適切な投棄で海や川にプラスチックを蓄積させることであるため、それをなくせば問題ない筈だ。また、中央の図は、プラ生産削減条約に対する各国の立場だそうだが、EUはじめ賛成している国は、原油由来のプラスチック製品を使わないのだろうか?もちろん、右図のように、切れた漁網や使い終わった漁網を海に廃棄したり、海や川にプラスチックを蓄積させたりすると生態系に悪影響を与えるため、リサイクルやアップサイクルしやすい製品を作ったり、水や土の中で一定時間が経過すれば跡形もなく溶けて肥料になったりするような進歩系の製品が必要であることは間違いない) 2024.10.16PR Times 2021.12.2HATCH 2024.11.14日経新聞 (図の説明:左図が、廃棄資源利用の流れであり、分別を簡単にするためには、容器は同じ材質にする等のリサイクルまで考慮した生産体制が望まれる。また、中央の図が、循環型社会の3R《Reduce・Reuse・Recycle》だが、最終処分時に公害を出さず、最終処分を要するゴミを極力減らすことが必要だ。さらに、右図は、ゴミ屋敷に潜むさまざまな問題だが、ゴミを出しやすくすることで解決するのが最も安価で生活の質を上げるのではないかと思う) *3-3-2・*3-3-3は、①プラスチックごみを減らすため100ヶ国超がプラ生産量の削減目標を設定する条約作りを提案 ②EU加盟の全27カ国・スイス・カナダ・オーストラリア・メキシコ・パナマ・フィジー・ケニアなどの約180カ国、国連加盟193カ国の半数超が提案書提出 ③生産規制には中東産油国やロシアが抵抗、日本は一律の生産規制に慎重 ④プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出し、ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こして、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響との指摘も ⑤提案国は「この汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要がある」と主張 ⑥プラスチックの生産規制を巡って厳しい規制を求めるEU側と原料の石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらない ⑦条約案への合意は先送り としている。 ①②⑤については、「ごみを減らす解決法=生産量の削減」というのは、原因分析を行なわずにいい加減な解決法を出し、環境のためとして市民に不便を強いる行為であるため、このようなことを続けていると「環境⇒不便の強制、経済の足かせ」という認識が広がり、むしろ環境意識が高まらないと考える。 そのため、③⑥の産油国だけではなく、プラスチック製品を使っている人も、このような提案には賛成しかねるのだ。仮に石油由来のプラスチック製品の生産を規制するとすれば、かわりに木を切り倒して作った紙を原料にしたり、食料のトウモロコシからプラスチックを作ったり、靴下や衣類は絹・綿・麻に昔帰りさせたり、箸は象牙に戻したりするつもりだろうか?それに伴って、別の多くの弊害が起こることは明らかである。 また、④の「プラの殆どは石油由来で生産時に大量の温暖化ガスを排出する」というのは、(4)3)の一番上の図のように、発電・エネルギー生産・輸送部門が温暖化ガス排出の約半分を占め、産業部門のうちのプラスチック生産による温暖化ガス排出は多くないため、他の弊害と比較考慮した場合に大きくはない。 しかし、「ポイ捨てが原因で海洋流出したプラが環境汚染を引き起こし、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響」というのは、ごみをポイ捨てするのが悪いのであるため、徹底的にポイ捨てをなくすシステムを作り、上から2段目の図のような循環型社会を作れば良いのである。 なお、⑥の化石燃料を産出する国は、原油等を燃料として使わなくなれば、現地で原油由来のプラスチックをはじめさまざまな製品に加工して輸出する必要がある。そのため、それも禁止してしまえば、産地は稼ぐ手段を失う上に、現在、それを使っている人も困るのである。また、そのようなことになって、世界に貧しい人が増えれば、その人たちは誰が養うつもりだろうか。 従って、⑦の「条約案への合意は先送り」というのは、ひとまずまっとうな判断であり、今後は使用済プラスチックの廃棄に関する徹底した規制とリサイクル・アップサイクルに軸足を移すべきで、課題先進国だった日本は既にそのノウハウがなければならない筈なのだ。 それでは、日本における循環型社会はどこまで進んでいるかと言えば、*3-3-1は、⑧ごみ屋敷は疾患・認知症等の問題が影響するケースも多い ⑨環境省の調査で、全国1741自治体の38%が「ごみ屋敷」事案を認知している ⑩ごみ屋敷形成の要因の1つに「セルフネグレクト」がある ⑪認知症等で判断能力が低下して物をため込む場合も ⑫身体的・精神的な障害や特性で、ごみを出せない例も ⑬高齢単身世帯の増加等による孤立・孤独も絡み、ごみ屋敷は社会の縮図といえる ⑭総務省の報告書では181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患疑い ⑮問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題 ⑯知的障害を持つ40代男性は、分別ができずに捨てられなかった 等としている。 ごみのリサイクルは、1995年前後に私が言い出して始まり、それから30年近く経過したが、自治体が集めているせいか、やたら手間をかけて分別させ、資源物や粗大ごみは滅多に集めず、朝8時までに出さなければならないなど、未だに複雑怪奇で不便なままなのである。 そのため、リサイクルに最大限協力していた私でさえ、分別せずに燃やすごみにして出してしまおうかと思うくらいで、分別し易く出し易くすれば、ゴミ屋敷は減りリサイクル率も上がる。また、地下鉄サリン事件以降は駅等の公共施設にゴミ箱すらないことが多いが、これならポイ捨てしたくなるのも無理はなく、知恵を尽くして捨てる際の利便性を上げることが必要不可欠だ。 具体的には、⑧⑪⑫⑬⑯のような、単身高齢者・認知症患者・身体的に弱っている人・知的障害者等が、分別できないためゴミを捨てられなかったり、滅多にない収集日に重たいゴミを引きずって行く必要がなくなったりすれば、⑨のゴミ屋敷はかなり減るし、そのための課題解決は簡単なのである。 また、⑩のやる気をなくして「セルフネグレクト」になる原因はさまざまだが、それを⑭⑮のように、精神疾患や精神上の課題と片付けるのではなく、その根本原因を無くしたり、誰でもゴミを出し易くしたりしつつ、徹底してリサイクル・アップサイクルするシステムにすべきだ。 30年という期間は、真面目に改善し続けていれば、技術開発・問題解決が十分にできていなければならない期間である。そのため、1つ1つの解決策を細かく書くことはしないが、早急に課題解決すべきであり、そのノウハウは開発途上国にも応用できる筈だ。 4)PFASの世界基準と日本の“暫定目標値” 2023.6.9東京新聞 2024.11.29日経新聞 2023.1.31東京新聞 (図の説明:左図は、PFASの用途と健康への影響で、体内に蓄積されると腎臓癌・脂質異常症・抗体反応の低下や乳児・胎児の成長阻害が起こるとされている。中央の図は、2023年12月公表の国際がん研究機関《IARC》による評価で、PFOAはたばこ・アスベストと同様に最も高い発がん性があるとされ、ストックホルム条約の規制対象となった。しかし、日本は、いつものとおり「毒性評価が固まるまで現状維持」「健康影響は調査中で都内は対象外」という状況だ) 2024.11.26日経新聞 2024.6.26産経新聞 2024.7.3TBS (図の説明:左図は、「ストックホルム条約で規制対象となったのはPFASの一部だ」という図だが、どれが、どういう理由で、どの程度危険で、取り扱い上の注意は何か、という情報は伝わっていない。中央の図は、飲料水1LあたりのPFAS目標値であり、日本の50ナノグラム/Lは、米国の4ナノグラム/Lやドイツの4種類合計で20ナノグラム/Lと比較して高い。右図は、中央の図と1週間違いだが、米国の基準値はPFOSとPFOAの合計で4ナノグラム/L、ドイツの基準値はPFOSとPFOA合計で20ナノグラム/Lとなっており、中央の図と異なるため最終確認が必要だ。しかし、日本の基準値が甘いことには変わりがない ) *3-4-2は、①発癌性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出 ②環境省と国交省が11月29日に水道水の全国調査結果を公表し、2024年度に富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出された ③PFASの代表物質PFOA・PFOS合計で“暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)”超の水道事業はなかった ④岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと“暫定目標値”に近い数値が検出された ⑤現在は“暫定目標値”超でも水質改善等の対応は努力義務止まり ⑥浅尾環境相によると、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げして対応を法的に義務付けるか否かは2025年春に方向性を示す ⑦“暫定目標値”超の事業数は2020年度は11、2021年度は5、2022年度は4、2023年度は3と低減傾向 ⑧PFASには1万種類以上の物質があり、耐熱や水・油をはじく特性から布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤に使われてきた ⑨有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが2021年に輸入・製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された としている。 これに加えて、*3-4-3は、⑩“暫定目標値”を超えていた例の大半は、汚染源が特定されていない ⑪安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査を継続しなければならない ⑫PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた ⑬自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積する恐れ ⑭沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出 ⑮岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源 ⑯検査を実施していない事業者は取り組みを始める必要 ⑰環境省は、今回の結果について水源切り替え等の対策の効果があったと評価 ⑱検出された例でも、対策で目標値以下にすることができた ⑲国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかける ⑳検出状況に応じて健康調査等の対応を検討する必要があり、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整える必要 としている。 このうち①②⑨については、有機フッ素化合物(PFAS)とは、(4)4)の上の左図のとおり発癌性等が懸念され、中央の図のとおり有害化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となり、日本国内では代表物質であるPFOSが2010年・PFOAが2021年・PFHxSがその後に輸入・製造が原則禁止されたものである。 しかし、②③のように、環境省と国交省の11月29日の水道水全国調査結果で、2024年度にPFASの代表物質PFOA・PFOS合計で暫定目標値(50ナノグラム/L《ナノは10億分の1》)超の水道事業はなかったが、富山県以外の46都道府県332(全国1745水道事業の2割)水道事業でPFASが検出されたのだそうだ。 その日本の“暫定目標値”は、いつまで暫定を続けるのかも不明だが、*3-4-1のように、米環境保護局(EPA)は、PFASの中で毒性の強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を飲料水で4ナノグラム/Lと決め、これは同50ナノグラム/Lの日本の“暫定目標値”を大幅に下回る1割未満の厳しい水準であり、強制力のない目標値は0なのだそうだ。 また、「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を10ナノグラム/Lと定め、新規制は全米6万6000の水道システムが対象となり、水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定して情報を公開し、基準を超えるPFASが測定された場合は5年以内に削減するよう対応を求めるそうで、基準が甘くて対応も曖昧な日本とは大きく違うが、安全側の目標を定め期限を切って対応するのが、本来は当たり前である。 しかし、日本では、④⑦のように、岩倉市水道事業(愛知県)・新上五島町水道事業(長崎県)・むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出され、暫定目標値超の事業数は2020年度には11、2021年度に5、2022年度に4、2023年度に3あったが、⑤のように、暫定目標値超でも水質改善等の対応は努力義務止まりで、浅尾環境相は、⑥のように「対応を法的に義務付けるか否か2025年春に方向性を示す」などと悠長だ。 さらに、⑩は“暫定目標値”を超えていた例の大半は汚染源が特定されていないとするが、⑧⑫のように、PFASは、布製品・食品容器・フライパンのコーティング・泡消火剤・半導体・防水加工・自動車の製造過程などで使われており、⑭のように、沖縄米軍基地の消火設備から大量に漏れたり、首都圏の基地や各地の工場周辺でも検出されたり、⑮のように、岡山県では使用済活性炭が置かれた場所が発生源だったりし、*3-4-1のように、沖縄県では過去に米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されたのだから、現在は汚染源の特定が容易な筈である。 なお、⑬のように、PFASは自然界で殆ど分解されず、生物に蓄積するため、⑪⑯のように、安心して水道を使い続けられるよう検査や影響調査は継続しなければならないが、既に「ストックホルム条約」で有害な化学物質として規制対象となり、他国の基準は“暫定”ではなく厳しいものになっているので、今更、⑳のように、検出状況に応じて健康調査等の対応を検討するのでは遅すぎ、健康被害の「予防」は疫学調査の結果を受けて速やかに行うべきなのだ。 また、⑰⑱のように、環境省は検出された例でも対策で目標値以下にすることができた今回の結果を「水源切り替え等の対策の効果があった」と評価しているが、国交省は原発処理水の例など目標値や規制値以下にするために、その物質を含まない水と混ぜる方法を使うことがあるため、その評価は甘い上、食品容器やフライパンのコーティング等の食品とともに摂取される可能性が高い水道水以外のものについては何も述べていないため、本気度が疑われるのである。 最後に、⑯⑲のように、「今まで検査を実施していない事業者に取り組みを始める必要がある」などとして、国は未検査や回答がなかった自治体に検査を義務付けるのではなく呼びかける程度というのは、公衆衛生に対する意識が低すぎる。 ・・・参考資料・・・ <COP29> *1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1289T0S4A111C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞社説 2024年11月12日) 米国は温暖化対策の歩みを止めるな 世界の温暖化対策を話し合う第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が始まった。米国のトランプ次期大統領は温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱する構えをみせる。世界2位の温暖化ガス排出国である米国は、脱炭素に向けた歩みを止めるべきでない。トランプ氏は米環境保護局(EPA)長官に元下院議員のリー・ゼルディン氏を起用する方針だ。環境規制に否定的で、バイデン政権が取り組んだ脱炭素政策を大幅に見直すとみられる。記録的な猛暑や干ばつ、巨大台風、豪雨、洪水などの災害が世界各地で多発する。温暖化による被害は米の経済や企業、住民にも及ぶ。米国がパリ協定から抜けないよう日本や欧州は説得すべきだ。2024年の世界の平均気温は23年を上回り、過去最高となる見通しだ。COP29の冒頭で、ムフタル・ババエフ議長は「温暖化対策を軌道に乗せる最後のチャンス」と各国に呼びかけた。最大の焦点は、先進国による途上国への金融支援の増額だ。現状は年1000億ドル(約15兆円)だが、途上国は年1兆ドル以上を求める。難色を示す先進国との隔たりは大きいが、少しでも対策を前進させるよう妥協点を探るべきだ。先進国からの技術や資金を前提に、排出削減を進めようと考える途上国は多い。支援額の上積みが進まなければ、世界全体の排出削減の遅れにつながる。米国が資金を打ち切れば、途上国の削減機運をそぐ恐れがある。温暖化は人類共通の課題で、一国の政権交代に左右されては困る。日欧は削減技術や人材育成など途上国支援を打ち出し、議論をリードすべきだ。世界最大の排出国の中国や中東産油国にも資金を出すよう促すことも必要になる。資金力のある国には、相応の責任が求められよう。米国内でも、州や産業界ではトランプ氏の方針とは距離を置く動きが目立つ。脱炭素に積極的なグローバル企業や機関投資家も多い。投資しやすい環境や制度づくりにも知恵を出し、民間資金のさらなる活用に道筋をつけたい。国連環境計画の報告書によると、現状の対策のままでは産業革命前からの気温上昇が最大3.1度に達する。各国は35年までの削減目標を25年2月までに提出する必要がある。削減強化に向けた機運醸成も大きな課題だ。 *1-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16091553.html?iref=pc_shimenDigest_top01 (朝日新聞 2024年11月25日) 気候資金、年3000億ドルで合意 途上国支援、35年までに COP29閉幕 アゼルバイジャンのバクーで開かれた国連気候変動会議(COP29)は24日、途上国支援の新たな資金目標として、先進国側が2035年までに年3千億ドル(約45兆円)を出すことで合意し、閉幕した。官民あわせて1・3兆ドル(約200兆円)への投資拡大を呼びかけることも決めた。会期は22日までの予定だったが、交渉は難航。24日の明け方まで延長した。途上国の脱炭素化や異常気象による被害対応を支援する「気候資金」は、COP29で最大の焦点だった。先進国は09年、途上国に対し年1千億ドル(約15兆円)の資金を出すことを約束。25年までに新しい目標を決めることになっていた。合意された成果文書では、先進国側からの年1千億ドルの資金を35年までに3倍の年3千億ドルに増やす▽官民含めて35年までに少なくとも年1・3兆ドルの投資を呼びかける▽途上国も任意で資金を出すことを奨励する――などが入った。一方、脱化石燃料をめぐっては、昨年のCOP28での成果文書の確認にとどまった。最近のCOPでは、徐々に脱化石燃料をめぐる表現が強まっていたが、目立った前進は乏しかった。今回は、紛争や分断が続く世界情勢の中で各国が結束できるか試されたCOPだった。パリ協定脱退を示唆する米国のトランプ次期大統領という「不安要素」もあった。会期延長後の23日にも、資金の総額や支援内容などで各国が折り合えず、個別交渉で中断しながら全体会合を進めた。24日未明、ギリギリで着地点を見いだしたが、結束には不安を残す幕引きとなった。(バクー=市野塊、福地慶太郎、合田禄) ■COP29の成果文書の主な内容 ◆2035年までに先進国側から途上国に年3千億ドルを支援 ◆同年までに官民で年1.3兆ドルへの投資拡大を呼びかけ ◆途上国からの任意の支援資金拠出を奨励 ◆「化石燃料からの脱却」などを含む昨年のCOP28での成果を再確認 *1-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA233TA0T21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月24日) 途上国支援3倍、年3000億ドル以上で合意 COP29閉幕 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)は24日未明、温暖化対策で先進国から発展途上国向けに拠出する「気候資金」について、2035年までに少なくとも年3000億ドル(約46兆4000億円)に増やすことで合意した。石炭火力発電の廃止時期の明示は見送った。11日に始まった会議は合意文書の採択を経て、24日に閉幕した。22日の会期最終日を大幅に延長した。35年までに世界全体で官民あわせて途上国への支援額を少なくとも年1兆3000億ドルに増やす目標も採択した。今回のCOPでは、現在年1000億ドルが目標の拠出額の増額幅が最大の焦点になっていた。22日が会期最終日だが協議が難航し、24日に入っても協議を続けていた。議長国アゼルバイジャンが22日に先進国から年2500億ドルを草案として提示したが、途上国から低すぎるとの批判が相次いだ。その後に先進国が年3000億ドルへの増額を提案し、島しょ国など一部の途上国の反発が続き、24日未明に「少なくとも」の文言をつけることで決着した。化石燃料の削減については「およそ10年間で脱却を加速する」とした23年の会議の合意文書から大きな進展はなかった。今回のCOP29は12〜13日に開いた首脳級会合で米国や欧州連合(EU)、日本など世界の主要国・地域のトップの欠席が相次ぐなど、例年に比べて合意形成の機運の乏しさが指摘されていた。国連傘下の国際的な炭素クレジットの売買に関する市場創設のルールについても合意した。クレジットは再生可能エネルギーの導入などによる温暖化ガスの排出削減効果を取引できる形にしたもので、政府や企業は削減目標の達成にむけて購入できる。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は気候変動の悪影響が大きくならないように地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標を掲げる。実現のためには世界で35年に19年比で60%の温暖化ガスを減らす必要があり、25年2月までに国連に35年までを見据えた新たな削減目標を提出するよう義務付けている。気候資金は途上国の気候変動対策や温暖化ガス削減の取り組みに欠かせない原資となっている。会期中にはEUや産炭国のオーストラリアが石炭火力発電所の新設に反対する有志連合を立ち上げた。温暖化ガスの排出量が多い石炭火力を増やさないよう呼びかけ、各国に脱炭素の取り組みの強化を求める。日本や米国は入らなかった。そのほか、日本を含む有志国は再生可能エネルギーの活用に欠かせない蓄電池や水素といったエネルギー貯蔵容量を、世界で30年までに22年比6倍の1500ギガ(ギガは10億)ワットに増やすことを目指す誓約をとりまとめた。 *1-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241125&ng=DGKKZO85012200V21C24A1PE8000 (日経新聞社説 2024年11月24日) COP29合意後も分断回避へ努力続けよ 第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)で、途上国への支援目標を2035年までに現状の3倍の年3000億ドル(約46兆円)にすると決まった。防災インフラが未整備な途上国では、地球温暖化に伴う気候災害が頻発する。COP29では年1兆ドル以上の要求に対し、先進国がどう応えるかが焦点だった。紛争や分断が続くなか、結束できるかが試されていた。妥協の産物とはいえ、分裂は避けられた。インドなど途上国の一部は金額を不満として抵抗。協調を続けるため、国際社会は途上国支援の増額などに知恵を絞り、実効性のある対策につなげねばならない。合意した金額を先進国の公的資金だけでまかなうのは厳しいだろう。資金が足りないと途上国の対策が滞る。世界全体の排出削減の遅れを避けるには、様々な形で資金を集める必要がある。まず出し手を増やす努力を続けたい。温暖化ガスの世界最大の排出国である中国や中東産油国などは余力があるはずだ。20カ国・地域(G20)は世界の温暖化ガスの約8割を排出する。裕福な国や地域は協力する責任があると改めて認識してもらいたい。民間の投資加速も不可欠だ。COP29では、35年までに官民あわせて年1兆3000億ドルを目指すと決まった。省エネルギー設備や再生可能エネルギーの導入支援などは民間資金を集めやすい。国際的な炭素市場のクレジット(排出枠)基準が承認されたことは前進だ。国連が支援する二酸化炭素(CO2)削減事業に国や企業が出資し、成果を排出量の相殺に当てられる。民間投資を促す起爆剤になると期待できる。日本は今回のCOP29では交渉を主導できず、影が薄かった。途上国は資金だけでなく、防災の技術やノウハウも求めている。日本には災害対策の蓄積がある。供与を積極的に進めることで世界に貢献し、存在感を高めたい。世界2位の排出国の米国では、温暖化対策に否定的なトランプ前大統領が返り咲く。来年1月の就任後、国際枠組み「パリ協定」から再離脱すると懸念される。温暖化による被害は米国内でも広がっている。日欧などはパリ協定から抜けないように説得すべきだ。トランプ政権の動向にかかわらず、気候危機は進む一方であり、対策が急務だ。あらゆる手段を総動員することが重要になる。 *1-3-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1362595 (佐賀新聞 2024/11/25) 【COP29合意】要求届かず渦巻く憤り、資金支援巡り対立鮮明 国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は、発展途上国の地球温暖化対策を支援する新たな資金目標に合意した。大量の温室効果ガスを排出してきた責任に見合う拠出を先進国に求める途上国と、負担軽減を図る先進国の対立が鮮明となり、会期は2日も延長。最後の全体会合でも合意に至った達成感はなく、要求から程遠い幕切れに途上国の憤りが会場に渦巻いた。 ▽隔たり 「深く失望した」。閉幕予定日の22日に議長国アゼルバイジャンが示した合意文書案に、既に温暖化の深刻な影響下にある小島しょ国グループは怒りをあらわにした。途上国は年1兆3千億ドル(約200兆円)規模の資金を要求。再生可能エネルギーの導入など温暖化対策のほか、既に生じた異常気象に伴う災害復旧などに多額の資金を必要とするからだ。債務の増大を避けるため、先進国からの無償供与が大半を占めることを望んだが、示された先進国からの資金は年2500億ドルと要求から懸け離れていた上、資金の貸し付けや投資を含むものだった。特に先進国に起因する温暖化による自然災害に見舞われている低所得国は、自分たちへの割当額を明示するよう強く求めたがかなわず反発。「議長国は他国からのアドバイスを聞き入れないらしい」。各国代表団や非政府組織(NGO)の間に議長采配への不安が渦巻く中、閉幕予定日は早々に過ぎ去った。 ▽中断 延長1日目の朝。「もう文書の改定版はできているらしい」とのうわさが広がった。会合予定を表示する会場のテレビには、夜から全体会合が開かれるとの予告が表示され、成果文書採択への期待が高まった。だが午後に開かれた議長と主要閣僚の会合は紛糾する。2500億ドルを3千億ドルに上積みする案が示されたが途上国の要求には依然遠く、小島しょ国などが会合の中断を要求。先だって開かれた途上国と先進国が協議する場に呼ばれなかったことも怒りに火を付けた。一方の先進国側も「現在の(目標の)1千億ドルが3千億ドルになるのは、かなり踏み込んだ数字だ」(浅尾慶一郎環境相)とアピールしたが、さらなる上積みには慎重姿勢。ただ、途上国側も交渉決裂で何も残らなくなる事態は望まなかった。 ▽疲労 結局、会期を2日延長した閉幕日の24日未明に出た最終的な合意文書案でも支援額の上積みはなかった。疲労が色濃くにじむ中、閉幕の全体会合が開始。アゼルバイジャンのババエフ議長は議題を読み上げると、異議申し立ての確認時間も取らずつちを振り下ろし、採択を宣言した。直後、インド代表は「合意は目の錯覚だ。私たちが直面している課題の巨大さに対処できるものではない」と反対を明言。会場に拍手が湧き起こった。「先進国が資金と実施手段を提供する義務を果たさないという不公平を強化するものだ」(ボリビア代表)と失望を表明する声も続いた。ただ合意成立により、国際協調に背を向けるトランプ米次期政権の誕生を前に気候変動対策が勢いを失う事態は避けられたとみるのは世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之さんだ。「たとえ不十分だとしても、国際協力をつなぎとめることはできた」 *1-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2572O0V21C24A1000000/ (日経新聞社説 2024年11月26日) ガソリン減税は脱炭素や財源との整合を 自民、公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始める。10月の衆院選で「手取りを増やす」と訴えて躍進した国民民主党の要求を受け入れ、総合経済対策に検討を明記した。ガソリンなど燃料油の課税体系は複雑なうえ、当初目的と異なる社会保障などの財源にも流用されている。それらを整理し、財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探してもらいたい。1リットル53.8円のガソリン税は、本則分(28.7円)と特例的な上乗せ分(25.1円)からなる。国民民主は物価高対策として、価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の適用を主張。全国平均のガソリン価格が160円を3カ月連続で超えると課税を止め、逆に3カ月連続で同130円を下回れば再開する仕組みだ。2010年に創設されたが、翌年の東日本大震災の復興財源確保のため特例法で凍結してきた。目先の物価高対策に中長期の財政収入にかかわる税を使うのは賛成できない。特にトリガー条項は発動・停止時に価格が大きく変動する。値下がりを見越した買い控えや値上がり前の駆け込み需要が生じ、販売現場の混乱が必至だ。今回の税制改正における検討に意義を見いだすとすれば、あるべき税体系への見直しだろう。もともと道路特定財源だったガソリン税は09年に一般財源化された。10年に上乗せ分の廃止を決めたものの、財源確保の観点から「当分の間維持する」とした経緯がある。それが際限なく続いているうえ、流通の過程で消費税が二重に課されているのも問題だ。ただし上乗せ分を単純にやめればいいわけではない。財務省の試算では国・地方で計年1.5兆円分の税収減につながる。価格下落に伴って消費が増えれば、脱炭素の取り組みにも逆行する。与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしている。税収中立や脱炭素との整合性を考えれば、妥当といえよう。受益者負担の原則に立つなら、ガソリン税は老朽化する道路の補修費や脱炭素支援などの財源に用途を限るのも一案だ。総合経済対策で規模を縮小しつつ延長を決めたガソリン補助金は、一日も早く打ち切るべきだ。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策を、いつまでも続けるのは許されない。 *1-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA250KT0V21C24A1000000/ (日経新聞 2024年11月25日) 35年度の温暖化ガス60%減 政府目標案、現行ペース継続 経済産業、環境の両省は25日、次期温暖化ガスの排出削減目標に関して2035年度に13年度比で60%減、40年度に同73%減とする案を示した。50年のカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)に向けた着実な温暖化ガス削減と脱炭素技術の開発を通じた経済成長の両立を目指す。15年に採択した温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」は世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標をかかげる。協定に基づき各国は25年2月までに新目標の国連への提出が義務づけられている。政府はエネルギー基本計画の議論も踏まえて年内にも具体的な削減目標の数字を固め、国連に提出する。同日の会合で両省は50年に向けて、現在の進捗状況と現行の30年度目標の46%減を結んだ直線を伸ばして実質排出ゼロを達成する案を検討する意向を示した。現行の削減ペースを持続する道筋となる。22年度は13年度比22.9%減で、政府は目標通りに推移しているとみている。温暖化ガスの次期削減目標を巡っては、経済とのバランスが大きな論点となっていた。これまでの会合では排出削減の強化を求める意見のほか、脱炭素技術が普及し効果が表れるまでに時間を要する点に配慮を求める声も産業界などからあがっていた。両省は性急に削減すると経済への負担が大きいことも踏まえて、排出削減の上積みを目指す。 国立環境研究所は複数のシナリオに基づき排出量やコストなどを推計した。二酸化炭素(CO2)の回収などといった脱炭素技術が30年以降順調に普及し、再生可能エネルギーのほか水素やアンモニアなどの脱炭素燃料が広がれば、50年の実質排出ゼロを実現できるという。一方、脱炭素技術が十分普及しないなかで導入を急ぐとエネルギー調達コストなどの負担が増大するとも分析した。現行の削減ペースを持続した場合には、技術の導入にかかる50年までの総費用額は比較的抑えられるとした。委員からは「グリーントランスフォーメーション(GX)政策で産業構造を脱炭素型に転換し、国際競争力を高めていくことが重要だ」といった意見が出た。「直線の経路には賛成だが、今ある技術で削減できるよう追求していく努力も重要だ」との指摘もあった。国連は1.5度以内に抑えるには世界全体で温暖化ガスを35年までに19年比60%削減する必要があると分析する。分析には49〜77%の幅があり、日本が基準年とする13年度比に換算すると35年度で58〜81%、40年度で66〜92%となる。新しい削減目標の道筋はいずれも範囲内にあり、政府は1.5度目標の実現に整合するとみる。地球温暖化への危機感は世界で高まっている。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7日、24年の世界の平均気温が産業革命前と同程度の1850〜1900年の推定平均気温と比べて1.55度を超える上昇幅になる見通しだと発表した。初めて1.5度を上回ることがほぼ確実だとしており、対策強化が欠かせない。次期の排出削減目標は、政府が年内にまとめるエネルギー基本計画と表裏一体の関係にある。国内のCO2排出量の9割を占めるエネルギーの脱炭素がカギを握るためだ。次期計画では40年度の電源構成を定める。現行目標で30年度に36~38%と据える再生可能エネルギーの上積みや、化石燃料を使う火力発電の減少が一層重要となる。政府はエネルギー基本計画と排出削減目標を踏まえ、年内に「GX2040ビジョン」をまとめる。脱炭素とエネルギーの安定供給、経済成長の同時実現を政策の柱に据える。カーボンプライシングの本格導入や脱炭素電源への投資の後押しなど対策を急ぐ。 *1-4-3:自動車関係諸税 ●9兆円にもおよぶ自動車関係諸税収 自動車関係諸税は第1次道路整備五箇年計画がスタートした1954(昭和29)年度に道路特定財源制度が創設されて以来、これまで増税、新税創設が繰り返されてきました。現在自動車には9種類もの税が課せられ、ユーザーは多額の自動車関係諸税を負担しています。2024年度の当初予算では自動車ユーザーが負担する税金の総額は国の租税総収入117兆円の7.7%に当たる約9兆円にもなります。 ●図1.2024年度租税総収入の税目別内訳並びに自動車関係諸税の税収額(当初) 注:1.租税総収入内訳の消費税収は自動車関係諸税に含まれる消費税を除く。 2.自動車関係諸税の消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 3.消費税収には地方消費税収を含む。 資料:財務省、総務省 ●図2.2024年度自動車関連税収と税率 注:1.消費税収(自動車整備含む)は日本自動車工業会の推定。 2.税率は2024年5月1日現在。 ●図3.道路整備計画に関連した新税創設・増税の経緯 エコカー減税対象車は本則税率適用。 注:税率は2024年5月1日現在。 日本自動車工業会調 ●図4.自動車の税金のしくみ(税金および税額は2024年5月1日現在) *別途、エコカー減税に対する「自動車重量税」の軽減措置が講じられている ○ユーザーの負担 ●多種・多額の自動車関係諸税 自家用乗用車ユーザーの場合、車両価格308万円の車を13年間使用すると、6種類の自動車関係諸税が課せられ、その負担額は合計で約190万円にもなります(自工会試算)。さらに自動車ユーザーは、これらの税金以外にも有料道路料金、自動車保険料(自賠責および任意保険)、リサイクル料金、点検整備等多種・多額の費用を負担しています。 ●図5.税負担の国際比較 前提条件: ①排気量2000cc ②車両重量1.5t以下 ③WLTCモード燃費値 19.4km/ℓ(CO2排出量119g/km)④車体価格308万円(軽は144万円)⑤フランスはパリ、米国はニューヨーク市 ⑥13年間使用(平均使用年数:自検協データより)⑦為替レートは1€=¥158、1£=¥186、1$=¥146(2023/4~2024/3の平均) ※2024年4月時点の税体系に基づく試算 ※日本のエコカー減税等の特例措置は考慮せず ※自動車固有の税金に加え、以下のとおり付加価値税等も課税される。(日本の場合は消費税、米国・ニューヨーク市の場合は小売売上税)日本(登録車)30.8万円、イギリス61.6万円、ドイツ58.5万円、フランス61.6万円、米国27.3万円、日本(軽自動車)14.4万円 ●図6.自家用乗用車ユーザーの税負担額(13年間) 前提条件: ①2000ccで車体価格308万円(税抜き小売り価格)の乗用車 ②車両重量1.5トン以下 ③年間燃料消費量1,000ℓ ④重量税は車検証交付時または届出時に課税(第1年目は新車に限り3年分徴収) ⑤税率は2024年4月1日現在 ⑥消費税は10%で計算 ⑦リサイクル料金は2000ccクラスの平均的な額 注:1.有料道路料金、自賠責及びリサイクル料金は自動車諸税に準ずる性格を有するため計算上加味した。(自賠責保険は2024年4月1日現在の保険額) 2.有料道路料金は2022年度料金収入より日本自動車工業会試算。 日本自動車工業会調 <災害とリスク管理> *2-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1326448 (佐賀新聞 2024/9/24) 能登豪雨、浸水想定域の仮設被害、死者8人に、捜索続く 石川県能登半島の記録的豪雨により、元日の地震で自宅が被災した人が入る仮設住宅団地6カ所で床上浸水の被害が発生、うち輪島市の4カ所が大雨による洪水リスクが高い想定区域に立地していることが24日、分かった。これまでに指摘されていた立地のリスクが現実になった形だ。避難誘導が十分だったかなどの検証が求められそうだ。度重なる被災で入居者の生活再建の遅れが懸念され、県と市は今後の住まいに関する意向を確認する。他の団地でも床下浸水の被害があった可能性があり、県や地元自治体が調査する。輪島市は、浸水した団地の住民らをホテルや旅館などに2次避難させる方向で、県と調整している。県や消防によると、珠洲市大谷地区の土砂崩れ現場で新たに1人が見つかり死亡が確認され、豪雨による死者は8人となった。行方不明者は2人。県によると、連絡が取れなくなっている安否不明者は24日時点で5人。生存率が急激に下がるとされる発生72時間が経過する中、警察や消防などが捜索を続けた。県などによると、24日時点で床上浸水が確認されている仮設団地6カ所は輪島市5カ所と珠洲市1カ所。このうち輪島市の宅田町第2団地、宅田町第3団地、山岸町第2団地、浦上第1団地は洪水浸水想定区域にある。宅田町の2カ所は、付近を流れる河原田川が氾濫して団地一帯が浸水、住宅内にも泥水が流れ込んだ。24日、県のボランティアによる泥掃除や家財片付けが始まった。浸水した団地では、被害拡大後に救助される住民が相次いだ。輪島市幹部は取材に「入居者への注意喚起や避難の呼びかけが不十分だった可能性がある」として、対応を検証し、適切な避難誘導に努める考えを示した。県によると、24日午後4時時点で輪島市、珠洲市、能登町の計46カ所の集落で少なくとも367人が孤立状態になっている。輪島市門前町七浦地区では仮設住宅の住民約70人が取り残されている。また、輪島市、珠洲市、能登町で計5216戸が断水している。 *2-1-2:https://www.bbc.com/japanese/articles/cev903mwz9lo (BBC 2024年11月7日) 2024年は史上最も暑い年になる見通し エルニーニョ終息後も高気温続く、マーク・ポインティング気候変動・環境調査員 欧州の気象当局はこのほど、猛烈な熱波や多くの犠牲者につながった嵐が世界各地を襲った2024年が、統計開始以来で最も気温の高い年となることが「ほぼ確実」となったとの見通しを発表した。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、今年の世界平均気温は、人類が化石燃料を大量に燃やし始める前の「工業化以前」と比べて摂氏1.5度以上高くなる見込み。こうした高気温は、主に人為的な気候変動によるもので、エルニーニョ現象のような自然要因による影響は小さいという。科学者たちは、来週アゼルバイジャンで開かれる国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)を前に、これを警鐘として受け止めるべきだと指摘している。英王立気象協会の最高責任者、リズ・ベントリー氏は、「この新記録は、COP29に参加する各国政府に対して、これ以上の温暖化を制限するための行動が急務だという、厳しい警告を新たに発するものだ」と話した。2024年には、10月までの世界気温があまりに高かったため、最後の2カ月間で気温があり得ないほど急降下しない限り、記録更新は防ぎようがないもようだ。実のところ、欧州コペルニクス気候変動サービスのデータによると、2024年は工業化以前と比べて、少なくとも1.55度は気温が高くなる可能性が高い。「工業化以前」とは、1850~1900年を基準にした期間のこと。この期間は、人間が化石燃料を大量に燃焼させるなどして地球温暖化を大幅に促進する以前の時代と、ほぼ一致している。欧州当局の今回の予測によると、2024年は昨年更新されたばかりの1.4度という最高気温を上回る可能性がある。欧州コペルニクス気候変動サービスのサマンサ・バージェス副ディレクターは、「これは地球の気温記録における新しい一里塚になる」と話した。加えて、コペルニクスのデータによると2024年には初めて、1月1日から12月31日までの1年の平均気温が1.5度上昇することになる。これは象徴的な意味を持つデータだ。2015年のパリ協定では200カ国近くが、気候変動による最悪の影響を回避しようと、長期的な気温上昇を1.5度未満に抑えるよう努力すると約束したからだ。ただし、今年に1.5度という上限を超えても、パリ協定の目標が破られたということにはならない。パリ協定の規定は、自然の変動を平均化するため、20年程度の期間における平均気温として定められているからだ。しかし、1年ずつ上限突破が積み重なるごとに、長期的には1.5度のラインに近づいていくことになる。国連は先月、現在の政策のままでは今世紀中に世界は3度以上も温暖化する可能性があるという警告を発した。2024年のデータの細かい中身も、懸念材料となっている。2024年初頭の温暖化は、自然現象のエルニーニョ現象によってさらに拍車がかかった。これは、南太平洋で温かい海水が海面まで上昇し、大気中に暖かい空気を押し出される現象だ。直近のエルニーニョ現象は2023年半ばに始まり、2024年4月頃に終息したが、それ以降も、気温は依然として高い状態が続いている。コペルニクスのデータによると、この1週間、世界の平均気温は毎日、この時期の最高記録を更新している。多くの科学者は、エルニーニョ現象の反対で、海面水温が低下するラニーニャ現象が間もなく発生すると予測している。理論的にはこの現象により、来年には地球の気温が一時的に低下するはずだが、その正確な推移は不明だ。英レディング大学のエド・ホーキンス教授(気候科学)は、「2025年以降に何が起こるのか、興味深く見守っていきたい」と話す。しかし、大気中の温室効果ガス濃度は依然として急速に上昇しており、科学者らは新たな記録が更新されるのは時間の問題だと警告している。「気温の上昇によって嵐はより激しくなり、熱波はさらに暑くなり、豪雨はますます極端になる。その結果、世界中の人々に、目にもあらわな影響が出るはずだ」とホーキンス教授は言う。「炭素排出量を差し引きゼロにする『ネットゼロ』を実現し、地球の気温を安定化させることが、こうした災害被害をこれ以上増やさない唯一の方法だ」 *2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046569.html (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスク地域に2594万人 居住者、20年間で90万人増 大雨で河川が氾濫(はんらん)した際に浸水の恐れがある地域に住む人は、全国で約2594万人(2020年)と、過去20年間で約90万人増えたことが朝日新聞のデータ分析で分かった。気候変動の影響で大雨が増える中、全人口の約2割が水害リスクのある土地に住み、専門家は安全な地域への居住誘導の必要性を訴える。分析したのは、全国の3万以上の河川のうち、主に流域面積や洪水時の被害が大きな約3千河川で、河川整備の目標とすることが多い「100年に1回程度」の大雨により浸水が想定されるエリア内の人口。国土交通省の国土数値情報に掲載されている「洪水浸水想定区域」(23年度版)と、国勢調査の人口データ(00~20年)を元に推計した。それによると、20年の日本の全人口は最多だった10年から約1・5%(約191万人)減った一方、浸水想定エリアの人口は20年までの過去20年間で約3%増え、約2594万人となった。うち浸水想定3メートル以上の地域の人口は約257万人で約7万人増えた。浸水5メートル以上の地域の人口は約26万人に上る。浸水想定エリア内の人口が最も多いのは東京都の約415万人で、都民の3割弱を占める。埼玉県(約277万人)、神奈川県(約170万人)、愛知県(約160万人)、兵庫県(約140万人)と続き、20年間で20都道県が増加した。高度経済成長期以降、治水対策により、浸水リスクがある低地の開発が進み、相対的に地価も安価なため、人口が流入した。また、現在は一部規制が強化されたものの、00年の都市計画法の改正で、住宅の建設が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で定めた地区は例外扱いとされたことも影響した。日本大学の秦康範教授は「人口流出を懸念して浸水想定エリアの開発抑制に消極的な自治体がある一方、毎年のように水害が起きるなか、安全な場所にある空き家を活用して居住誘導するなど、災害リスクを踏まえた土地利用を進めるべきだ」と話す。 ◇市区町村ごとのデータ分析は、デジタル版からアクセス出来ます。 *2-2-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16046472.html?iref=pc_shimenDigest_sougou2_01 (朝日新聞 2024年9月30日) (災害大国)浸水リスクより利便性? 多摩川周辺…近い都心、氾濫後も新築 水害が多発するなか、浸水の恐れがある地域に住む人が増えている。2020年には全人口の約2割の約2594万人に達し、その1割は命の危険が高まる浸水3メートル以上の想定エリアに住んでいる。なぜリスクのある場所に人は集まるのか。21日に能登半島北部を襲った豪雨では、元日の地震で大きな被害が出た石川県で計27河川が氾濫(はんらん)し、多くの住宅が水に浸(つ)かった。地震で焼失した「輪島朝市」にほど近い輪島市河井町では、近くを流れる河原田川が氾濫。介護職員の50代女性の自宅は地震で壊れ、1カ月前にリフォームを終えたばかりだったが、約1・5メートル浸水し、1階は泥だらけになった。一帯は最大で3~5メートルの浸水が想定され、女性によると、65年ほど前にも約2メートル浸水した。ただ、堤防工事が進んだことや、自宅を50センチかさ上げしたことで安心し、「(浸水想定は)あまり気にしたことがなかった。まさか自分が生きているうちにまた来るとは思わなかった」と振り返った。朝日新聞の分析では、浸水想定エリアの人口は20年までの20年間で石川県を含む20都道県で増えた。特に増加が目立つのが、人口が密集する都市部だ。百貨店などが立ち並び、「にこたま」の愛称で知られる二子玉川駅(東京都世田谷区)から、多摩川を隔てた川崎市の一角。全国で90人以上の死者・行方不明者が出た19年の東日本台風では、多摩川の支流が氾濫し、多くの住宅が水に浸かり、マンション1階の60代の住民が亡くなった。近くに住む60代の男性の自宅も1メートル浸水した。玄関ドアや床下収納から水が一気に入り込み、1階のリフォーム代には総額で約1200万円かかった。この地区は3~5メートルの浸水が想定されている。男性は「50年以上住むが初めてのことで、まさかだった。最近異常な雨が増えているので怖い」。一方、近所では水害後に新しいアパートや戸建てが複数建った。2年前に夫婦で住み始めた女性(38)は、二子玉川で働き、「水害リスクは知っているが、利便性や家賃の安さから選んだ」と話す。東日本台風ではタワーマンションが林立する市内の武蔵小杉駅周辺で、地下が浸水したタワマンもあった。水位の上がった多摩川の水が排水管を逆流してあふれる内水氾濫が原因だったが、被災直後の同駅周辺の住宅地の公示地価(20年1月時点)は前年比約2~5%上昇。不動産鑑定士の藤田勝寛さんは「水害などの災害が起きると取引は鈍くなるのが一般的だが、利便性が良ければ影響は一時的にとどまるケースが多い」と話す。川崎市は都心へのアクセス性が高く、人口も増加し続けている。朝日新聞の推計では神奈川県内で浸水リスクのある地域に住む人は同市を中心に過去20年間で約25万人増えた。18年7月の西日本豪雨で、災害関連死を含めて75人が亡くなった岡山県倉敷市。推計では浸水リスク地域に住む人は過去20年間で約3万人増えた。多数の犠牲者が出た同市真備地区は川沿いに浸水3メートル以上のエリアが広がり、過去に何度も水害に見舞われてきた。ただ、70年代ごろから市中心部のベッドタウンとして水田の宅地化が進んで人口が急増。水害後に人口が1割ほど減ったが、スーパーなどの商業施設は整っている。地元の不動産業者は「水害によって土地の価格は下落し、価格に魅力を感じて新たに移り住む人はいる」と話す。 ■国は住宅建築を制限、地域は衰退懸念 浸水の恐れがある地域での人口増は、2000年の都市計画法の改正も一因とされる。住宅などの建築が原則禁止される市街化調整区域でも、自治体が条例で指定したエリアは例外扱いとなった。市街化調整区域は街の開発を抑制する区域で、低湿地帯など浸水リスクをはらむ場合も少なくない。19年の東日本台風で洪水被害が発生した場所の約8割を占めたとする国土交通省の調査もある。同省によると、既存集落の維持などを目的に22年度時点で全国で180自治体が条例を制定。地価が比較的安いことなどから居住者が増えている。熊本市中心部まで車で20分ほどの同市南区富合町もそのひとつ。1級河川の緑川や支流の流域にあり、12年に一定の住宅が集まる地域が条例でエリア指定された。一方で、各地で甚大な水害が相次ぎ、国は20年に法改正し、浸水などの災害リスクが高い場所は原則除外するよう規制を強化。当時、富合町自治協議会の会長だった男性(82)は「除外対象になる場所は多く、開発制限されると人口が減って地域が衰退する」と、条例エリアの維持を求める要望書を市に出した。結果的に、市は条件付きで開発を認め、来年4月以降、一部地域で家を建てる場合は浸水しない高さの部屋を設けることを義務づけた。男性は「次々に戸建てが建っているが、垂直避難できる2階建てが増えている」と話す。国も水害対策を進めるために21年に同法など九つの法律を一括改正。ハード事業の促進に加え、避難場所の整備推進や、浸水リスクが高い場所を都道府県が「浸水被害防止区域」に指定し、住宅や高齢者施設の建設を許可制とする仕組みなどを導入した。 ■保険料、リスク別に 水害による被害は拡大傾向にある。国交省の水害統計によると、13~22年までの10年間の水害被害額は計7兆3千億円で、その前の10年間の約1・4倍に膨らんだ。特に19年は東日本台風の影響で約2兆1800億円となり、統計開始以来で最悪となった。浸水リスクエリアで人口が増えたことで、住宅などの資産もより集中し、面積当たりの被害額も増えている。東京理科大マルチハザード都市防災研究拠点の二瓶泰雄教授の調査によると、水害被害額(前後5年、計10年間の平均)は、1960年代は浸水面積1平方キロメートルあたり2億~3億円だったが、2010年は20億円、18年には30億円に増加。さらに、死者・行方不明者数(同)についても、1960~2000年は0・1~0・2人だったが、18年には0・52人と、最大5倍ほどに増えた。二瓶教授は「高齢化が進み、人的被害はさらに増える可能性がある」と指摘する。また、水害の多発などを背景に、火災保険の水災保険料が高リスク地域ほど高くなる仕組みが10月から導入される。これまでは住む地域にかかわらず全国一律だったが、水害リスクに応じて市区町村別に五つに細分化する。 <環境> *3-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16083920.html (朝日新聞 2024年11月14日) 温室ガス減、英に存在感 首相、目標引き上げ発表 COP29 アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動会議(COP29)で、英国が存在感を示している。13日までの首脳級会合では、主要排出国などのトップが欠席する中、スターマー首相が登壇。スピーチに好意的な評価が相次いだ。約80の国・地域の首脳らが参加した会合では、英国を含む一部の国が、気候変動対策の国際ルール「パリ協定」にもとづく、新たな温室効果ガス削減目標を発表した。スターマー氏は「英国は、気候危機の最前線にいる国々と共に立ち、明日への好機をつかむ決意だ」と宣言。2035年の排出量を1990年比で81%減らすと発表した。前保守党政権でまとめていた78%減をさらに高めた。各国の温室効果ガス削減目標は、次は25年2月までに、35年までの目標を国連に提出することが求められている。英国は主要7カ国(G7)で最も早く新目標を発表。今年9月、国内で稼働する石炭火力をゼロにするなど、気候変動対策に積極的な姿勢を強調している。スターマー氏は他国にも目標引き上げを呼びかけた。2大排出国の米中や、世界の温暖化対策をリードしてきた欧州連合が、軒並み首脳の出席を見送る中、気候変動対策に取り組む姿勢を首相自ら訴えた形だ。英紙ガーディアンは社説で「重要な一歩」と評価。米シンクタンク「世界資源研究所」(WRI)は「気候変動に関するリーダーシップの輝かしい例」と持ち上げた。 *3-1-2:https://mainichi.jp/articles/20241122/k00/00m/020/374000c (毎日新聞 2024/11/22) 電気・ガス、ガソリン…補助金の終わり見えず 事業の出口戦略に注目 22日に閣議決定された総合経済対策で、10月で終了した電気・ガス料金への補助金を来年1~3月に再実施することが決まった。年内を終了期限としていたガソリン補助金も規模を縮小して延長する。政府は時限措置だった補助金の終了に踏み込めずにいる。暖房需要で電力の消費量が最も増える1~2月は家庭向けで電気は1キロワット時あたり2・5円、ガスは1立方メートルあたり10円を補助する。電気代は標準家庭(使用量400キロワット時)で月1000円の補助となり、ガス代と合わせると計1300円程度の負担軽減になる。3月は電気1・3円、ガス5円に補助額を縮小する。電気・ガス代への補助金は、ウクライナ危機に伴う燃料価格の高騰対策として2023年1月使用分から開始。その後、燃料価格が落ち着いたため24年5月分でいったん終了した。しかし、岸田文雄前政権が酷暑対策として8~10月の限定で電気は最大1キロワット時あたり4円、ガスは同1立方メートルあたり17・5円の補助を復活。今回、またも終了直後に再開が決まった形だ。一方、ガソリン価格を抑制するため22年1月から続いている石油元売りへの補助については、12月から段階的に補助の規模を縮小させるものの、年明け以降も延長する。来年1月中旬のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は約180円、2月中旬には約185円になる見込み。それ以降は月5円程度の価格上昇となるよう補助率を見直す。終了時期は定めていない。10月の衆院選中には公明党が「寒い時期が一番電気・ガス代がかかる」として経済対策に盛り込むよう要求し、石破茂首相も「電気代が上がって困る人には十分な支援を行う」との意向を表明。選挙の結果、衆院で過半数割れし少数与党となった自公と政策協議していた国民民主党も値下げを求めていた。電気・ガスやガソリン代に対する補助金が長期化していることに対し、「市場原理を無視している」「脱炭素に逆行している」といった批判の声が噴出している。だが、酷暑対策で補助金が復活した際には「絶対に冬もやることになる」(経済官庁幹部)と政府内には諦めムードが広がっていた。電気・ガス補助金は問題も指摘されている。会計検査院の調査によると、補助金事業の事務局業務を319億円で受託した広告大手の博報堂が、業務の大部分を子会社などに委託し、さらに別会社に再委託されていたことが判明している。業務委託費率が50%を超える場合は所管する資源エネルギー庁に理由書を提出する必要があるが、書類には委託が必要だとする理由が具体的に記載されておらず、エネ庁にも委託を認めた経緯の記録が残っていなかった。経済産業省の事業では、過去にも新型コロナウイルス禍を受けた中小企業向けの持続化給付金を巡り、事業を受託した一般社団法人が大半の業務を再委託していたことが発覚して問題になったこともある。エネ庁の担当者は「今後、同じように再委託があればどういう形で適切と判断したのかが残るように手続きを検討している」としている。経産省は今回の補助金の再開・延長で必要な予算額を明らかにしていないが、これまで投じられた累計額だけで電気・ガスは約4兆円、ガソリンは約7・1兆円と既に計11・1兆円に達している。ガソリン補助金は間もなく開始から3年がたつ。膨大な税金を投じた補助金事業の出口戦略を描けるかにも注目が集まる。 *3-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSB041PWSB0ULBH00QM.html (朝日新聞 2024年11月3日) 福島第一原発、根拠なき「2051年廃炉完了」 現実的な工程示せ *ポイント: 福島第一原発の廃炉は、政府と東京電力が掲げる2051年までの完了は非現実的だ。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出すには100年超かかるとの試算もある。処理水問題の反省も踏まえ、地元と丁寧な対話を重ねて現実的な工程を探るべきだ。 「燃料デブリが原子炉内のどこにどれぐらい分布するかが正確にはわからない。しかも、高線量の中で遠隔で作業しなければいけない。それが取り出しの難しさだ」。原子力規制委員会の前委員長、更田豊志氏は、燃料デブリの取り出しについて、こう解説する。東京電力福島第一原発の1~3号機には推計880トンの燃料デブリがある。3基とも圧力容器の底を突き破り、外側の格納容器にまで広がっている。放っておけば、将来、建屋の老朽化などで放射性物質が漏れ出す恐れがある。政府と東電は、全て取り出して安全な状態で管理しようとしている。東電の構想では、まずは2号機で試験的に3グラム以下を取り出し、2020年代後半に別の手法で段階的に取り出す量を増やす。それから、30年代初めに3号機で大規模な取り出しを始め、その後、1号機に展開する。この構想の最初のステップが今年9月に始まった。東電は2号機の原子炉格納容器の側面にある貫通口から取り出し装置を挿入した。カメラの不具合で作業は1カ月以上中断したが10月28日に再開。燃料デブリを装置でつまみ、今月2日に装置ごと格納容器の外側の設備に入れた。線量が基準を下回り容器に収めれば初の取り出し成功となるが、これから続く道のりは深い霧に覆われている。政府と東電は51年までの廃炉完了を掲げている。11年12月の工程表で示したものだ。当時の想定では21年までに燃料デブリの取り出しに着手し、10~15年程度で1~3号機すべての取り出しを終える計画だった。しかし、開始は3年遅れた。主な原因は、関連事業を含めて78億円の国費を投じて開発したロボットアームの精度不足だ。ロボットアームはいまも試験中で、今回の取り出しには簡易的な「釣りざお式装置」を使った。原子炉建屋のプールにある核燃料の取り出しも大幅に遅れている。当初の計画では、1~4号機に計3108体ある核燃料を21年までに取り出すとしていた。だが、ガレキの撤去など作業環境の整備に時間がかかり、21年までに取り出せたのは3、4号機だけ。1、2号機はいまも始まっていない。最新の工程表では、当初から10年遅れの31年までにすべての取り出し完了をめざしている。重要作業の遅れが続いても、政府と東電は51年までの廃炉完了という旗はおろしていない。東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は「51年までの完了を目標に仕事を積み上げていくことが大事だ」と強調する。そもそも、なぜ51年までの廃炉完了を目標にしたのか。政府関係者は技術的な根拠はまったくなかったと明かす。「事故直後は廃炉が進まないと原発周辺の避難区域の住民は帰還できないような空気だった。何かしらの数字を出さざるを得なかった」。参考にしたのが1979年に事故を起こした米スリーマイル島(TMI)原発2号機だ。事故から11年後に99%の燃料デブリの取り出しが終わっていた。福島第一原発は1~3号機に燃料デブリがあるため、3倍の時間がかかるとみて、30~40年後(51年まで)の廃炉完了を目標にしたという。だが、TMI原発と福島第一原発は状況が大きく異なる。TMI原発では原子炉圧力容器に水をはった状態で、燃料デブリを取り出すことができた。水は放射線を遮れるうえ、作業時に放射性物質の飛散を抑えられるという、大きなメリットがある。 ●取り出し困難な燃料デブリ 一方、福島第一原発は圧力容器の損傷が激しく、水をはることができない。外側の格納容器まで広範囲に燃料デブリが広がり、TMI原発よりも取り出しの難易度が格段に高いとみられている。そもそも事故を起こしていない原発でも、原子炉に核燃料がない状態から作業を始めて廃炉完了までに30~40年かかるとされる。このため、51年までに廃炉完了とする目標については、多くの専門家が「あり得ない」などと指摘している。政府や東電は廃炉の工程をすぐには見直そうとしていない。専門家の間では、自主的に根拠のある見通しを示そうという動きが出ている。早稲田大学の松岡俊二教授(環境経済・政策学)は22年、福島第一原発の燃料デブリの全量取り出しにかかる期間を試算し、論文を発表した。TMI原発では約132トンの取り出しに4年3カ月かかった。週休2日で作業が年間260日とすると、1日の取り出し量は120キロ。TMI原発より作業が難しい福島第一原発の取り出し量は、1日20キロ、もしくは50キロと仮定した。その場合、全量取り出しにかかる期間はそれぞれ170年、68年という結果だった。松岡さんは「3グラム以下の取り出しに難航している現状を踏まえれば、170年でも相当楽観的な数字だ」という。廃炉作業で出る放射性廃棄物は、事故を起こしていない原発600基分になるとの見方もある。技術コンサルタントの河村秀紀さんらは、福島第一原発の図面などの公開情報をもとに試算した。敷地の放射線量が下がり、自由に出入りできる状態にする場合の放射性廃棄物は約780万トンになるという。日本原子力学会の分科会はこの試算を参考に、汚染された地盤などを残して継続管理とする「部分撤去」のシナリオについて検討した。廃棄物量を試算すると約440万トンとなる。放射性物質が自然に減るのを待つために数十年間の期間を挟めば、さらに約110万トンまで減らせるという。 ●地元と対話で探る将来像 政府と東京電力は福島第一原発の廃炉完了の姿を明確にしていない。更地をめざすのか、一部の施設が残っても完了とみなすのか。ゴールはあいまいだ。福島県は燃料デブリを含む放射性廃棄物をすべて県外で最終処分するよう、繰り返し求めている。だが、処分地探しなどの議論は進んでいない。原発事故を後世に継承できるよう、一部を「遺構」として残すよう求める意見もある。廃炉の費用は東電が出すが、電気代の一部として国民の負担になる。政府は廃炉に必要な技術開発への支援などとして、毎年100億円以上を企業などに補助している。最新の見積もりでは廃炉費用は8兆円とされるが、燃料デブリの最終処分にかかる費用などは含んでいない。さらに膨らむのは確実で、廃炉の将来像は国民全体に関わる問題だ。日本原子力学会の分科会が示すように、将来像や時間のかけ方で発生する廃棄物の量は変わる。技術的な検討だけでは解決できず、社会的な合意形成が重要となる。昨年8月に始まった処理水の海洋放出では、政府は専門家会議での技術やコスト面からの議論を重視した。放出の方向性を固めた後に、地元や漁業者らへ説明して理解を得ようとした。だが、結論ありきの姿勢に幅広い納得は得られず、強い反発を招くことになった。福島では地元の住民や専門家、東電社員らが対話し、廃炉の将来像を探る「1F地域塾」が22年から続く。廃炉作業について助言する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」も今年6月、原発事故の避難指示が出るなどした13市町村で住民の声を直接聞く場を設けた。政府と東電はこうした取り組みを参考に、丁寧な対話を重ね現実的な工程を探るべきだ。 *3-2-2:https://www.asahi.com/special/10005/TKY201108240683.html (朝日新聞 2011年8月25日) 校庭利用の基準「20ミリシーベルト」撤廃へ 学校の校庭利用をめぐる放射線量基準について、文部科学省はこれまで示してきた「年間20ミリシーベルト」の目安を撤廃する方針を固めた。基準を定めた今年4月と比べて線量が大幅に減ったため。児童生徒が学校活動全体で受ける線量を年間1ミリシーベルト以下に抑えるとの目標は維持するという。目標達成のため、学校で毎時1マイクロシーベルトを測定した場合は除染が必要との考えを示す予定で、26日にも福島県に通知を出す。ただし、校庭利用の制限基準とはしないという。東京電力福島第一原発の事故を受け、文科省は4月、福島県内の学校で毎時3.8マイクロシーベルト以上が校庭で測定された場合、校庭の利用を制限すべきだとの暫定基準を示した。子どもが年間に受ける放射線量が20ミリシーベルトに達しないよう設定された値だったが、保護者らから「上限20ミリシーベルトは高すぎる」との批判が相次いでいた。文科省はこの夏、基準を改めて検討。自治体による校庭の土壌処理も進み、福島県内の学校の線量は現在3.8マイクロシーベルトを大きく下回っていることから、「役割を終えた」としてこの基準を撤廃する考えだ。合わせて、年間被曝(ひばく)量を1ミリシーベルト以下にするとの目標を改めて示す。学校内では局所的に線量が高い場所があるため、こうした場所を把握するための測定や除染も呼びかける。測定方法をまとめた手引も公表するという。 *3-3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241114&ng=DGKKZO84780400U4A111C2KNTP00 (日経新聞 2024.11.14) ごみ屋敷、精神的支援に軸足、医師とも連携、包括的に対処 悪臭や害虫の発生などで周囲に大きな影響を与えるごみ屋敷。居住者の自己責任と思われてきたが、疾患や認知症などの問題が影響するケースも多いことが分かってきた。自治体は当事者に寄り添った精神的な支援に軸足を移している。「ごみが壁のようになっていた」。愛知県内に住む自営業の40代女性は実父の家の状態を振り返る。2023年2月、父の入院を機に足を踏み入れると、服やティッシュ箱、缶などが室内にあふれていた。「父は昔から物を全く捨てられない性格。家族が訪ねても、中に入るのを嫌がられ状況がつかめなかった」という。事態に気づいた後は夫と週2回、1年以上通い、8割ほど片付けた。衛生上の懸念や親戚の反発、近隣住民からの苦情もあり、結局は家の解体を決めた。「自分も幼少期から20年ほど住んだ思い出があり、残せるなら残したかった」と複雑な思いもある。環境省の調査によると、全国1741自治体の38%が「22年度までの直近5年度で『ごみ屋敷』事案を認知している」と回答した。ごみ屋敷が形成される要因の一つに、生活への意欲を失い無頓着になる「セルフネグレクト」がある。ほかにも身体的、精神的な障害や特性があってごみが出せない例もある。認知症などにより判断能力が低下し、周りの環境を正しく認識できずに物をため込む場合もあり、事情は様々だ。ごみ屋敷はその居住者だけの問題と捉えられやすいが、実情は異なる。東京都立中部総合精神保健福祉センターの菅原誠副所長は「高齢単身世帯の増加などによる孤立や孤独などの問題も絡んでおり、ごみ屋敷は社会の縮図ともいえる」と話す。8月公表の総務省の報告書によると、181事例のごみ屋敷のうち約3割は居住者に精神疾患やその疑いがあるという。菅原さんは「住環境の改善に加えて支援に精神医学的な知見を入れる必要がある」と説く。当事者への精神的な支援を重視し、手厚く対応する自治体も出てきた。東京都足立区は23年、ごみ屋敷対策のために精神科医を配置した。職員は月1回、悩みや課題を相談できて実際の対応に生かせる。これまでの事例を分析したところ、問題が長期化している居住者の約6割に精神上の課題があることが分かった。ごみ屋敷対策係の小野田嗣也係長は「医療的な助言があると自信になり、現場としてとても助かる」と安堵感をにじませる。20年から3年間対応した70代男性の事例では、医師の指摘で解決に近づいた。当初は男性が区への不満を一方的に話すだけだった。職員が医師に相談すると「(1)自尊心を大切に向き合う(2)ごみ屋敷解決のための『支援』ならできると伝える」と本人の特性を踏まえた助言を得た。男性は支援という言葉に興味を示し、片付けを申し出たという。23年7月に「ごみ屋敷」条例を施行した浜松市の担当者は「制定で法的根拠をもって動けるほか、部署間の連携が取りやすくなった」と話す。看護分野に詳しい専門家などに意見を求められる体制も整えた。当事者への命令や行政代執行の前に相談する。今後は個別の例に対して助言をもらうことも視野に入れる。地域社会での包括的な支援も進む。福岡県の知的障害を持つ40代男性は20年に自宅にたまった不用品を捨てた。民生委員らが手伝ったほか、社会福祉法人は袋や車を提供してくれた。男性は「分別ができずに捨てられなかった」と話す。片付けに参加した自治会長に「いつでも教えるから持ってきて」と言われ、安心して捨てられるようになったという。地域での顔が見える関係作りは問題解決の一手になりそうだ。 *3-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD301N40Q4A131C2000000/ (日経新聞 2024年11月30日) プラ生産削減目標、100カ国超提案 条約交渉国の過半 プラスチックごみを減らす初の条約作りを目指す政府間交渉で、100カ国超がプラ生産量の削減目標を設定するよう提案した。12月1日の交渉期限が近づくなか、生産削減に賛同する国の広がりを示して受け入れを迫る。提案書を出したのは欧州連合(EU)に加盟する全27カ国やスイス、カナダ、オーストラリア、メキシコ、パナマなど。島しょ国のフィジーやアフリカのケニアも加わった。政府間交渉に参加中の約180カ国、国連に加盟する193カ国の半数を超えた。生産規制には中東産油国やロシアが抵抗しており、交渉国間の隔たりが大きい。日本は一律の生産規制に慎重で提案に加わっていない。100を超える国々は11月末までに交渉事務局の国連環境計画(UNEP)に対して文書を提出した。パナマがEU加盟国を含む80を超える国の幹事として提案書を起草した。11月25日に始まった政府間交渉の場で、参加国が追加提出した提案書をもとに日本経済新聞社が集計した。プラのほとんどは石油由来で、生産時に大量の温暖化ガスを排出する。ポイ捨てが原因で海洋などに流出したプラが環境汚染を引き起こしたり、食物連鎖を通じて人間の健康に悪影響を及ぼしたりしているとの指摘もある。こうした汚染を止めるには発生源であるプラの生産量を減らす必要があるというのが提案国の主張だ。これらの国は以前からプラの「削減」あるいは「持続可能な生産」への切り替えを掲げてきた。条約をめぐる政府間交渉委員会の全体会合ではロシアや産油国が生産規制について繰り返し反対している。100を超える国々は交渉期限間際に改めて提案書を出すことで、多数の国が生産削減に賛同していることを示すのが狙いとみられる。 *3-3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1366805 (佐賀新聞 2024/12/1) プラ条約、合意先送りへ、生産規制巡り溝埋まらず プラスチックごみによる環境汚染を防ぐための国際条約作りを進める政府間交渉委員会は1日、全体会合を開き、ルイス・バジャス議長が、この会合で目指していた条約案への合意を先送りすることを提案した。議長は「私たちの作業は完了からはほど遠い」と述べた。最大の焦点となっているプラスチックの生産規制を巡り、厳しい規制を求める欧州連合(EU)側と、プラスチックの原料となる石油を産出する中東諸国側との間の溝が埋まらないことが背景にあるとみられる。韓国での今回の交渉委は条約案を取りまとめる最終会合の位置付けで、各国の代表団が1週間にわたり議論した。だが会期末のこの日までに合意が得られず、今後の交渉も難航が予想される。生産規制を巡っては、パナマやEU、島しょ国など100カ国以上が、条約発効後に開く第1回の締約国会議での国際的な削減目標の採択を提案。中東諸国側は「(条約は)あくまで廃棄物対策に絞るべきだ」と反対している。 *3-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN10EIA0Q4A410C2000000/ (日経新聞 2024年4月11日) 米政府、飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満に 米環境保護局(EPA)は10日、人体への有害性が指摘されている有機フッ素化合物「PFAS」について飲料水における含有基準を決めた。日本が定めた暫定基準値の1割未満に相当する厳しい水準にした。米連邦政府がPFASを巡り、強制力のある基準を定めるのは初めて。PFAS規制を巡る日本の議論にも影響を及ぼす可能性がある。EPAはPFASのなかで毒性が強い「PFOS」と「PFOA」の基準値を1リットル当たり4ナノ(ナノは10億分の1)グラムと定めた。強制力のない目標値はゼロにした。両物質の合算で同50ナノグラムとする日本の暫定基準を大幅に下回る。「PFNA」や「PFHxS」など他の3種類のPFASと、2種類以上のPFASの混合物質についても基準値を1リットル当たり10ナノグラムと定めた。新規制は全米6万6000の水道システムが対象となる。水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定し、情報を公開するよう求める。基準を超えるPFASが測定された場合、5年以内に削減するよう対応を求める。EPAは、新基準に対応が必要となる水道システムを全体の1割程度と推定している。対応費用は全体で年間およそ15億ドル(約2300億円)と見積もった。EPAは新規制で「PFASにさらされる人が約1億人減り、数千人の死亡を防ぎ、数万人の重篤な病気が減る」と理解を求めた。水道を運営する州や自治体に対し、PFAS検査や対応を支援するため約10億ドルを提供する。水道事業者が加盟する非営利団体の米国水道協会(AWWA)は声明を出し「公衆衛生を保護する強力な飲料水基準を支持する」と規制の設定に支持を表明した。新基準に対応するための費用負担はEPAの試算値の「3倍以上になる」と指摘し、多くの地方で水道料金の値上げにつながると懸念を示した。バイデン政権は2021年の発足以来、PFASの規制強化に取り組んできた。EPAは21年10月、飲み水や産業製品、食品などに含まれるPFAS量を調べたり、飲料水の安全基準を引き上げたりするなど3年の工程表を公表した。毒性が強い6種類のPFASを有害物質に指定し、規制の枠組みづくりを進めてきた。直近ではPFAS汚染に企業の責任を問う動きも広がる。23年には、公共水道システムのPFAS汚染の責任を問う訴訟で、製造元の米化学大手スリーエムとデュポンが相次いで巨額の和解金の支払いに合意した。 ▼有機フッ素化合物「PFAS」 4700種を超える有機フッ素化合物の総称。数千年にわたり分解されないため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水や油をはじき、熱に強いなどの便利な性質から、消防署で使う消火剤や、フライパンの焦げ付き防止加工まで、幅広い産業品や日用品に使われてきた。PFASのうち「PFOS」と「PFOA」は毒性が高いとされている。自然界に流出すると、土壌に染み込むなどして広範囲に環境を汚染する。環境省が国内の河川や地下水への含有量を調べた結果、2022年度は東京、大阪、沖縄など16都府県の111地点で国の暫定目標値を超えていた。沖縄県では過去にも米軍嘉手納基地周辺の河川や浄水場などで検出されており、健康被害への不安が根強い。 *3-4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1365559 (佐賀新聞 2024/11/29) 2割の水道でPFAS検出、46都道府県、332事業 発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)が全国で検出されている問題を巡り、環境省と国土交通省は29日、水道水の全国調査結果を公表した。2024年度に富山県を除く46都道府県の332水道事業でPFASが検出された。検査を実施した全国1745水道事業の2割に相当する。PFASに特化し、小規模事業者にも対象を拡大した大規模調査は初めて。PFASの代表物質PFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という国の暫定目標値を超えた水道事業はなかったが、岩倉市水道事業(愛知県)と新上五島町水道事業(長崎県)、むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)で49~47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出された。調査は5月下旬から9月下旬に実施。対象は給水人口が5千人超の上水道や101~5千人の簡易水道など。浄水場の出口水や給水栓から出る水の水質を調べた。社宅などで使用する専用水道は現在集計中のため今回の発表に含まれていない。現在は暫定目標値を超えても水質改善などの対応は努力義務にとどまる。浅尾慶一郎環境相は29日の閣議後記者会見で、PFASを水道法上の「水質基準」の対象に格上げし、対応を法的に義務付けるかどうか25年春をめどに方向性を示すとした。今回調査では「水道法上の測定義務がない」として20年度以降、一度も検査を実施していない水道事業が一定数確認された。20~23年度に暫定目標値を超えた事業数は20年度は11、21年度は5、22年度は4、23年度は3と低減傾向だった。国交省は高濃度で検出された事業者向けに、国内12カ所で実施されたPFASの対応事例集を公表した。PFASは近年、日本水道協会の水道統計でも検査項目の一つとして調べられているが、対象は規模の大きい水道事業などに限定。今回は小規模な簡易、専用水道にも対象を広げた。有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。1万種類以上の物質があるとされる。耐熱や水、油をはじく特性から布製品や食品容器、フライパンのコーティングのほか、航空機用の泡消火剤に使われてきた。有害な化学物質を規制する「ストックホルム条約」でいくつかの物質が対象となっており、国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが21年に輸入や製造が原則禁止され、その後PFHxSも追加された。 *3-4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16097877.html (朝日新聞社説 2024年12月3日) 水道PFAS 実態と影響 調査続けよ 健康への影響が懸念される有機フッ素化合物(総称PFAS〈ピーファス〉)について、水道水の全国調査が公表された。直近では、国の目安である「暫定目標値」を超えた例はなかったが、昨年度までは超えていた例もあり、その大半の汚染源は特定されていない。安心して水道を使い続けられるよう、検査や影響の調査を継続しなければならない。国による水道水の全国調査は初めて。環境省と国土交通省が20~24年度の水道事業者など3755事業の検査状況をまとめた。20~23年度は計14事業で暫定目標値を超え、一方で今年度は9月末時点までで検査した1745事業で暫定目標値超えはなかった。比較的小規模な専用水道は集計中で後日、公表する。PFASは水や油をはじき、熱に強く、泡消火剤、半導体や防水加工、自動車の製造過程などでも使われてきた。自然界でほとんど分解されず、生物に蓄積する恐れがある。沖縄の米軍基地の消火設備から大量に漏れたほか、首都圏の基地や、各地の工場周辺でも検出されてきた。それ以外でも、「思いがけない所から検出された例もある」と専門家は指摘する。岡山県では、使用済みの活性炭が置かれた場所が発生源と考えられた。検査を実施していない事業者は、取り組みを始めることが求められる。今回の結果について、環境省は、水源の切り替えなどの対策の効果があったと評価する。検出された例でも対策で目標値以下にすることができた。国は未検査や回答がなかった自治体に検査を呼びかけていく。検査と対策を進めれば、水道の安全性は高まる。住民への結果の速やかな公表は信頼関係を損なわないために不可欠だ。検出状況に応じて、健康調査などの対応を検討する必要もあるだろう。汚染があった自治体では、水源の井戸の一部使用停止や新たな水源の確保などを進める。血液検査を始めた自治体もある。沖縄県金武町では約3億円かけて新たな送水管を整備した。国は、検査や除去に関して財政や技術面で自治体を支援し、PFASでどんな健康への影響があるのか、調査と研究例の収集を進めてほしい。暫定目標値は、水質基準と違って公表や超えた場合の改善の義務はない。環境省は水質基準にすべきか検討を続けている。過剰な対策は混乱を招きかねないが、健康被害の「予防原則」を徹底して制度を整えなければならない。どんな制度が望ましいのか、国民が安全な水を安心して使えるよう探るのが国の責務だ。 <国際学力調査から> PS(2024年12月6日追加): *4は、①2023年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)で、算数・数学・理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は小4理科で国際平均を上回ったが、それ以外は下回った ②文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている ③小4は、「楽しい」が算数は前回より7%減の70%・理科は2%減の90%で、「得意」が算数は9%減の56%、理科は5%減の81% ④中2は、「楽しい」が数学で4%増の60%、理科は横ばいの70%で、「得意」が数学で1%減の39%、理科が2&減の45%となった ⑤理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った ⑥「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差 としている。 学問は、ドラマや漫画と異なり、その場で「楽しい(満ち足りて愉快な気持ち)」と感じるよりは、(やり方によるが)やっているうちに面白さ(興味をそそられ心引かれること。例:仕事が面白くなった)がわかってくるものであるため、記事のうち「楽しい」の部分と増減部分を除くと、小4では、③のように、「算数が得意」としたのは56%、「理科が得意」としたのは81%で、中2では、④のように、「数学が得意」がとしたのは39%、「理科が得意」としたのは45%と、学年が上がるにつれて「得意」の割合が下がっている。 これは、①のように、小4理科のみで国際平均を上回り、それ以外は下回ったという結果であり、②のように、文科省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としているが、苦手意識は学校だけではなく、メディアはじめ社会や家族からも発信されており、子どもは大人の真似をしながら成長し、成長に伴って大人の影響を大きく受けていくため、教師だけでなく、社会人を変える必要があるのだ。 その証拠は、⑤⑥のように、理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「得意」は小4算数で男子66%、女子45%であるのに対し、中2数学では男子49%、女子28%と大きな差になっていることだ。そして、そうなる理由は、「女の子は理数系は苦手」「女の子は勉強が苦手と言わなければ生意気」「成長すれば、どうせ男の子に負ける」等々、周囲から苦手意識を促すようなことばかり言われて育つからである。私の場合は、社会からはそう言われて育ったが、家族が違ったのだ。 しかし、いつも感じるのは、TIMSSは中学生までの学力しか調査していないことであり、高校2年生と大学2年生の学力も調査すべきだ。そうすれば、高校で文系と理系を分けている日本の理系学力は驚くほど低く、大学2年生ではさらに低くなるため、OECDでもG20でも最下位に近くなって、教育システムや教え方に関する良い反省材料になると思うのである。 2024.12.6西日本新聞 2024.12.4Goo 2024.9.23Coki (図の説明:左図は、TIMSS2023の順位と平均得点で、小学4年は算数5位・理科6位、中学2年は数学4位・理科3位と上位にいるが、高校・大学での調査はなく、こちらの方が悪そうだ。また、中央の図は、小学4年と中学2年の数学・理科に関する得意度で、学年が上がると男子の方が女子よりも[得意]と答えた人の割合が上がる。右図は、日本が直面している教育システムの課題について聞いたもので、どの世代も「教員教育の不十分」「時代遅れのカリキュラム」「公的資金の不足」を挙げているのは尤もだが、世代によって割合が異なるのは興味深い) *4:https://news.goo.ne.jp/article/kyodo_nor/nation/kyodo_nor-2024120401001406.html (Goo 2024/12/4) 平均より上、小4理科のみ 「勉強は楽しい」「得意」の割合 2023年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)によると、算数・数学と理科で「勉強は楽しい」「得意」とした割合は、小4理科で国際平均をそれぞれ6ポイントと16ポイント上回ったものの、それ以外は4〜11ポイント下回った。文部科学省は「苦手意識の背景を詳細に分析し、指導方法を研究していく」としている。小4では、「楽しい」の割合が算数で前回より7ポイント減の70%、理科は2ポイント減の90%。「得意」は算数が9ポイント減の56%、理科は5ポイント減の81%だった。中2は、「得意」が数学で1ポイント減の39%、理科が2ポイント減の45%、「楽しい」は数学で4ポイント増の60%、理科は横ばいの70%となった。理数への苦手意識は男子より女子の方が強く、「楽しい」「得意」とも女子が男子を下回った。「楽しい」は中2理科で男子76%に対し女子63%。「得意」は小4算数で男子66%、女子45%、中2数学は男子49%、女子28%と大きな差があった。 <カネと不倫で足を引っ張るえせ“民主主義”について> PS(2024年12月7日追加):*5-1-1のように、2024年10月の衆議院議員選挙後に議員数を4倍に増やして“103万円の壁”を突破すべく交渉していた国民民主の玉木代表は、*5-1-2の不倫問題をきっかけとして3カ月間の役職停止処分となった。国会議員・公務員はじめ各界のリーダーになろうとする人は、他の人が身辺を粗探ししても何も出ない生活をしておく必要があるため、「玉木氏は脇が甘すぎた」とは言える。しかし、「処女」「やまと撫子」などの言葉は死語となりつつあり、メディアにおける性の不道徳は不潔で見ていられない程であるのに、玉木氏やトランプ氏の不倫を批判した人たち自身は批判する資格があるのかを私は問いたい。何故なら、民主主義は、政策論争をする限りは有意義だが、個人が聖人のような生活をしてきたか否かに関して粗探しする場になると時間を空費し、独裁主義の方がよほど効率的になるからである。 また、*5-2-1・*5-2-2・*5-2-3のように、韓国の尹大統領が12月3日夜に、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言されたことには私も驚いたが、尹大統領の「非常戒厳宣言」のおかげで世界中が現在の韓国が置かれている立場を理解したと言える。その「非常戒厳宣言」は、与野党や市民の強い反発で12月4日未明には解除が表明され、その後、韓国与党「国民の力」の韓代表が、尹大統領の「速やかな職務執行停止」を要求したり、野党が尹氏の弾劾訴追案の可決に向けて与党の切り崩しを図ったりしている状況だそうだ。 しかし、そもそも尹大統領が選挙で大敗し、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が予算案や法律案の通過を次々と阻止して政治の停滞を招く結果となった原因には、i)2023年12月、韓国の国会が尹大統領の妻が株価操作事件に関与したとして「特別検察官」を任命する法案を可決し、尹大統領が2024年1月に拒否権を行使したこと ii) 尹大統領の妻が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる(くだらない)疑惑をかけられ、韓国ソウル中央地検は10月2日に「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」という理由で不起訴処分としたこと 等々、本人の人格否定ができなければ妻の人格を否定すべく粗探しをして中傷に結びつける民主主義とはかけ離れた人権無視の態度があったと思う。さらに、韓国では、大統領になると次は監獄に行くという事態が続いており、このような形で司法が活躍する社会は、とても民主主義国家とは言えないのである。 *5-1-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSCW342QSCWUTFK00FM.html?comment_id=30148&iref=comtop_Appeal4#expertsComments (朝日新聞 2024年11月27日) 「全国の女性を敵に回した」と憤る連合 玉木氏が不倫問題で謝罪 国民民主党の玉木雄一郎代表は27日、党の支援組織である連合の芳野友子会長と国会内で会談し、自身の不倫問題について「期待と信頼を裏切る結果になったことに心からおわびを申し上げたい」と謝罪した。芳野氏は会談後、記者団に「信頼回復に向けご努力をいただきたい」と述べ、玉木氏の進退については「ご本人が考えることだ。その考えを尊重する」と語った。ただ、不倫問題に対し、連合内では「参院選に影響が出る。全国の女性を敵に回した」との厳しい声も出ている。会談では来年夏の参院選に向けた対応も協議。国民民主、立憲民主党に連合を加えた3者で、原発を含むエネルギーなどの基本政策について協議していくことを確認した。 *5-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/352e4eb116d971b16a0a59108237a6445e9718de?page=1 (Yahoo 2024/11/15) 玉木代表の不倫相手“元グラドル”を男性は絶賛、女性は同情…のワケ。「あふれ出るB級感に悲しみを感じる」 11月11日、国民民主党の玉木雄一郎代表(55)が、香川県の高松市観光大使を務めるタレント・小泉みゆき(39)と不倫関係にあることが、週刊誌『FLASH』の電子版『SmartFLASH』により報じられた。10月27日に投開票が行われた衆議院選挙で28議席を獲得するなど大躍進を見せた国民民主党。その立役者である玉木代表のスキャンダルに多くの有権者から失望の声が寄せられている。ただ、今回の不倫報道にSNSでは玉木バッシングだけではなく、もう一つ別の角度からの声が少なくない。それは不倫相手の小泉の容姿に言及するものだ。そういったコメントを見ていると、男女で意見が大きく異なっている印象を受ける。男女間で小泉に対する声がどのように違うのか考えたい。 ●男性からは「この人相手なら、不倫するのも仕方ない」と絶賛も まず男性の意見は小泉の容姿を絶賛する傾向が強い。目元が大きく、サラサラした髪が特徴的な顔に好感を示す声は少なくない。また、スキャンダルが報じられた記事内では、ボディラインがはっきりと見えるパツパツの服を着た小泉の写真が何枚も添付されており、その妖艶な身体つきに「不倫するのも仕方ない」と玉木の不倫を肯定する声もかなり寄せられていた。小泉があまりに“エチエチ”すぎたがゆえに、玉木の情状酌量を訴える人が続出しているが、実際のところ小泉が男性に魅力的に映るのは理解できる。やはりボディラインがまるわかりの服を着ていると、否応なしに男性の性的興奮を高める。クリクリした目元も“小動物感”を演出しており、男性の支配欲・守ってあげたい欲をより一層駆り立てている印象。小泉は現在39歳ではあるが、そのファッションセンスはとても幼い。どことなく“痛さ”を覚えるが、「痛い」は「天然」「ドジっ子」と変換できる。虚栄心の強い男性からすれば、そういったデメリットを持つ女性のほうが好都合。“自分の思い通りに支配しやすい女性”と想起させ、むしろ安心感を与えるのだろう。隙が多い女性がモテるのはそういった背景が大きい。男性が小泉に惹かれるのも無理もない。 ●女性からは「あふれ出るB級感」「権力者に遊ばれて気の毒」 一方、女性のものと思われる声を見てみると、小泉の容姿には否定的。年齢不相応のファッションセンスに嫌悪感を示す人ばかり。中には、40歳手前であるにもかかわらず、腕時計をはじめとしたアクセサリーを身に付けている写真が一切ないことに懐疑的な見解を示す“観察眼の鋭い人”から声も見られた。実際のところ、女性は小泉のビジュアルをどのように捉えているのか。取材するとパンチの利いた声が集まった。「一部でバッシングされてますけど、単純に『容姿に嫌悪感』というより、なんていうか、あふれ出るB級感に悲しみを感じるんですよね。39歳ではもうレースクイーンなどの稼業は無理、これといったキャリアもなくて、玉木程度のショボい権力者に遊ばれて、お飾りのような『観光大使』の職まで奪われそうになっている」(40代女性)。「あのパツパツのTシャツも膝上30センチくらいのミニスカも、今のトレンドとは真逆だし、街で振り返られるぐらい珍しい。いまもその土俵で勝負せざるを得ないのが悲しいです。 でも、手が届きそうな感じがあるほうが、男性はグッとくるのもわかります。本人もわかってやってるはずですよ。あのお顔とボディなら、もっとステキになれるはずなのに」(50代女性)。 ●“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い 「もし小泉さんが自力で何かをなしとげていて、生き生きして、自分の好きなものを着てるなら、40でも50でもミニスカでステキに見えますよ。でも、そうじゃないことに、世の女性は気づいてしまっているんです」(50代女性)。各女性の言い分から察すると、今回のスキャンダルを“小泉が男性ウケに振り切ったがために起きた悲劇”と捉えており、“攻撃”ではなく“同情”のニュアンスが強い。たしかに小泉の容姿を否定しつつも、小泉の“軌跡”を想像して憐れむ声が散見される。つまりは、「男性は容姿に対する表面的な感想」「女性はその容姿から想像される小泉の生き様に関するお察し」に大きく分類できそうだ。 ●“不倫両成敗”ではない、女性だけが割を食う哀しさ 男女の見解が異なる背景が見えてきた。ただ、まだまだ釈然としないことがある。今回のスキャンダルを受け、小泉は自身のX、Instagramなどのアカウントを削除。小泉が19年12月から香川県高松市観光大使を務めてきたが、各メディアの取材に対して高松市は「解職も含め検討している」と回答している。また、7年前に退社したものの当時所属していた芸能事務所には小泉の公式プロフィールが残っていたが、12日までにそのページは削除された。小泉は窮地に追い込まれている中、玉木は代表の座を降りずに続投する見通しだ。小泉と同じように玉木も何かしらの責任を取るべきではないか。玉木が今後どのような対応を見せるのかも注目したい。 *5-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241207&ng=DGKKZO85315040X01C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.7) 尹氏停職、与党代表が要求 狭まる包囲網、弾劾案採決へ 国防省、司令官の職務停止 韓国与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は6日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「速やかな職務執行停止」を要求した。野党は尹氏の弾劾訴追案の可決に向け与党の切り崩しを図る。尹氏への包囲網が狭まってきた。韓国メディアによると、最大野党「共に民主党」は弾劾案を7日午後5時に採決したい考えだ。国会は弾劾案を8日未明までに議決する必要がある。韓氏は6日の党会議で、尹氏が軍の防諜(ぼうちょう)司令官に主要政治家を逮捕するよう指示した事実があると説明した。「信頼できる根拠を通じて確認した。政治家を逮捕し、収監しようとする具体的な計画も把握した」と述べた。国家情報院の次長は6日、逮捕リストに韓氏や野党の代表らが含まれていたと国会議員に明らかにした。韓氏は国会議員ではなく、弾劾案への投票権はない。韓氏が尹氏を批判する一方、与党内には尹政権を形だけでも維持し、大統領選までの時間を稼ぐべきだとの意見もある。大統領が弾劾となれば次期大統領選で不利な立場に置かれるとの懸念が渦巻く。与党は6日、断続して議員総会を開いた。党の報道官は同日深夜、弾劾案に反対するという党方針を維持すると明らかにした。7日午前9時に議員総会を再招集するとしている。与党の指導部から尹氏に党内の意見を伝え、尹氏は「議員の話の意味をよく傾聴し、よく考える」と応じたと説明した。与党側は尹氏の対応を見極めているとみられる。聯合ニュースによると、韓氏は6日の尹氏との会談後、党所属議員に「私の判断を覆すほどの言葉は聞いていない」と話したという。与党が弾劾案に反対すれば世論の批判は免れず、造反票が出るかが焦点になる。所属議員の安哲秀(アン・チョルス)氏は尹氏が退陣しないなら弾劾に賛成すると明言した。弾劾案の可決には国会(定数300)の在籍議員の3分の2に当たる200議席以上の賛成が必要となる。108議席を占める与党「国民の力」から8人以上の賛成が要る。警察と検察の当局は6日、非常戒厳を巡ってそれぞれ特別捜査体制を組んだ。警察は120人あまりの専門捜査チームで本格捜査に着手。検察は軍の検察機関と合同で捜査にあたる。国防省は6日、非常戒厳に関わったとされる陸軍の首都防衛司令官、特殊戦司令官、防諜司令官の3人の職務を停止したと発表した。それぞれ別々の場所で待機措置とし、各司令部に職務代理を置いた。国会は終日、騒然とした状況が続いた。午前には野党の政治家や支持団体が集まり、尹氏の弾劾を求めて声を上げた。尹氏は4日未明に非常戒厳の解除を宣言して以降、公の場に姿を見せていない。「尹氏が2度目の非常戒厳宣言を出す可能性がある」といった報道も緊張を高めた。3日の非常戒厳を巡る軍の動きは金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相が指示を出したとの証言がある。国防相の職務を代行している金善鎬(キム・ソンホ)国防次官は「もし戒厳発令の要求があっても、国防省と合同参謀本部はこれを絶対に受け入れない」と明言した。禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は「第二の非常戒厳は許されない。万が一誤った判断があったら国会議長と国会議員はすべてをかけて阻止する。軍と警察は憲法に反する不当な命令に応じずに、制服を着た市民としての名誉を守ってほしい」と呼びかけた。 *5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASSD40D5RSD4UHBI00QM.html?iref=pc_extlink&_gl=1*iw58rc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年12月4日) 尹大統領とは何者か 酒豪の親日家、検察出身で「友達人事」に批判も 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、政治活動や言論の自由などを制限する「非常戒厳」を宣言した。だが、与野党や市民の強い反発を受け、一転、4日未明に解除を表明する事態に追い込まれた。尹氏とは一体、どんな人物なのか。尹氏は1960年、ソウル生まれ。検察トップの検事総長だった2020年12月、捜査妨害や政治的中立性違反などの疑いで、当時の文在寅(ムンジェイン)政権の法相から懲戒処分を受けた。有力な政治指導者がいなかった保守勢力が、「反文在寅の象徴」として尹氏を担ぎだし、22年3月の大統領選では僅差(きんさ)で勝利した。尹氏は政治家としての経験がないため、当初から人脈や指導力が不安視されていた。閣僚や政府高官に次々と検察出身者や大学時代の旧友らを起用した。各国の大使や有力政治家が出席した22年5月の大統領就任式には、検事総長時代にソウルの日本大使館に勤務していた検事を招待し、周囲を驚かせた。 ●妻の疑惑に拒否権を行使したことも 強大な人事権を握る韓国大統領は「王様と帝王を合わせたような権力者」(元大統領府高官)とされる。関係筋によれば、尹氏がある日、側近の閣僚にソウル大学当時の旧友の近況を尋ねた。側近はすぐ、この旧友に連絡を取り、政府関係機関のトップとして起用したという。こうした忖度(そんたく)ともいえる空気が非常戒厳を宣言する背景の一つにもなったと言える。親しい人物を重用する政治の極みが妻、金建希(キムゴニ)氏の存在だった。韓国の国会は23年12月、金氏が株価操作事件に関与した疑いで「特別検察官」を任命する法案を可決したが、尹氏は今年1月、拒否権を行使した。世論の不満が高まり、支持率が2割を切る事態に至り、尹氏は11月の記者会見で陳謝する事態に追い込まれていた。韓国では若者の就職難や不動産価格の高騰などから、政治に対する不信感が増大している。国会で過半数を握る最大野党・共に民主党が、予算案や法律案の通過を次々と阻止し、政治の停滞を招いたことも一因だが、世論の不満は尹氏の「わかりやすい独断政治」に向けられる事態になっていた。 ●岸田氏と夜遅くまで酒を飲み交わした 尹氏は親日家としても知られる。就任直後には、新型コロナウイルスの感染拡大で停止していた羽田・金浦両空港の直行便再開を指示。日本企業に賠償支払い命令が出ていた徴用工問題でも、韓国側が賠償金相当額を肩代わりする解決策を発表。冷え込んでいた日韓関係の急速な改善につなげた。日韓外交筋によれば、石破茂首相が来年1月上旬に訪韓する際、「来年の日韓国交正常化60年を契機に、両国関係をさらに発展させる」ことで合意する方向で調整していたという。尹氏は酒豪でも知られる。23年3月、大統領就任後初めて日本を訪れた際、岸田文雄首相(当時)と遅くまで痛飲した。酒席が終わらず、金建希氏が声を荒らげて止めたという。ソウルでの日本政府関係者を招いた酒席では、お土産に持参された度数40度以上の芋焼酎をいきなり開封し、オンザロックで出席者とともに回し飲みしたとされる。野党側は、混乱を招いた責任を追及するとして、尹大統領に辞任を求めている。弾劾(だんがい)決議案の発議には国会(定数300)の過半数、決議には3分の2の賛成がそれぞれ必要。4月の総選挙で大勝した野党勢力は3分の2に肉薄する議席を確保しており、与党の一部が離反すれば、弾劾が決議される可能性もある。与野党は世論の動向を注視したうえで、今後の方針を判断するとみられるが、低支持率の尹大統領の弾劾を求める声が高まる可能性が強い。非常戒厳に対する国民の反発は強く、決議されれば、最終的に憲法裁判所も弾劾を認める可能性もある。 *5-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSB233WBSB2UHBI022M.html?iref=pc_extlink&_gl=1*1qazrlc*_gcl_au*MTU2NjY4NzQ1LjE3MjY5ODcxOTI. (朝日新聞 2024年10月2日) 韓国大統領の妻、検察が不起訴処分に 高級ブランドバッグ授受疑惑で 韓国のソウル中央地検は2日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の妻の金建希(キムゴニ)氏が高級ブランド「クリスチャン・ディオール」のバッグを受け取ったとされる疑惑をめぐり、不起訴処分(嫌疑なし)としたと発表した。理由について「大統領の職務と関連して物品を授受したとの事実は認められない」としている。疑惑を追及してきた野党は反発している。金氏は知人の在米韓国人の牧師からバッグを受け取ったとして、請託禁止法違反などの疑いがもたれていた。検察は7月に金氏を事情聴取するなど捜査を進めてきた。金氏の疑惑をめぐっては、国会で多数を占める野党が主導して、政府から独立した特別検察官を任命するための法案を9月に可決したが、尹氏は2日、拒否権を行使した。進歩(革新)系最大野党・共に民主党は2日、尹氏が検察出身であることを念頭に「検察は大統領府が望む結論を出した」と批判した。金氏の疑惑は「金建希リスク」と呼ばれ、尹氏の支持率低迷の理由の一つとされている。金氏はドイツ車の輸入販売会社の株価操作に関与したとされる疑惑ももたれており、検察は捜査を続けている。 <政治雑感> PS(2024年12月8日追加):*6-1-1のように、6階建マンションの最上階にある猪口邦子参院議員宅から出火し、国際政治学者で東大名誉教授の夫孝氏と長女が亡くなった。しかし、i)最初のテレビの画像では何かが爆発したような燃え上がり方だった ii)出火原因が特定されないのに事件性はないとされた iii)最初は台所からの失火と言われたが、燃え方が激しかったのは応接室だった iv)事件性は外部から侵入して油をまくことに限っている 等の不自然さがあってすっきりしない。猪口氏は、私と同期の2005年の郵政解散で衆議院議員となり、2005年に内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)になられ、私の提言も受けて少子化対策を行って、その結果、合計特殊出生率は2005年の1.26から2015年は1.45まで上がった。少子化の真の原因は、*6-1-2に纏められているとおりだと思うが、2016年以降に合計特殊出生率が下がり始めたのは、物価上昇による生活費の高騰、都市部マンションの高騰、高齢になった時の準備、教育費の高騰など、多くの子を育てる費用を捻出できなくなったことが原因であろう。 また、*6-2のように、仙台市秋保地区周辺のメガソーラー建設計画については、地元の町内会や温泉組合など10団体が、景観悪化や森林伐採による土砂崩れの懸念のため、郡和子市長に建設中止を要望されたそうだ。私も、自然豊かな景観を悪化させたり、土砂崩れのリスクが増したりするだけでなく、CO₂の吸収源自体を失うことになるため、森林を伐採してメガソーラーを建設するのは止めた方が良いと思う。そのため、これまで作ったメガソーラーも下を放牧地等にして二重に利用したり、今後メガソーラーを作るとすれば農地に併設する形で作ったりし、森林に設置するのは風力発電機にした方が良いと思うわけである。 さらに、*6-3のように、佐賀平野のクリークののり面劣化が進んでいたため、全703kmの護岸工事を進め、県は東西を走る「横幹線」や支線など約580kmを担当して木柵による護岸工事を行い、国は南北を走る「縦幹線」約170kmを担当して植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどして整備しているそうだ。整備が進めばクリークの貯留容量が増えて災害対策効果向上が期待できるのは良いことだが、せっかくクリークの整備を進めるのなら、水をたたえたクリークのある風景は希少で美しいため、両岸に水をよく吸って根が張り、桜のような花が咲くアーモンドを植えると、公園以上の田園風景になるのに、と思った。 2023.3.1東京新聞 2023.5.3日経新聞 Zehitomo (図の説明:左図は、出生数と合計特殊出生率の推移で、2005年に最低の1.26を記録してから2015年の1.45までは上昇した。また、中央の図は、合計特殊出生率の推移のみを大きな縮尺にして表したもので、同じ結果が出ている。それでは、どうやって生産年齢人口不足を解決するのかと言えば、右図で75歳までを生産年齢人口と考え、それと同時に機械化も進めれば、年金問題と同時に当面の解決はできそうだ) 地域の礎 横尾土木(株) 2024.12.7佐賀新聞 (図の説明:左は、有明海を干拓して農地を広げた筑後川流域の航空写真で、クリークが不規則に曲がりくねっているため、大型機械が入りにくいとのことである。そこで、中央のように、まっすぐにしてクリークを広げ、木材やコンクリートでのり面を補強しており、右は植生を妨げないコンクリートで補強したところだが、水をたたえたクリークのある風景は少ないため、せっかくなら両岸に水をよく吸って根が張るアーモンド《花は桜と同じ》を植えると、さらに美しい田園風景になりそうだ) *6-1-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/370859 (東京新聞 2024年12月1日) 「事件性はなく失火」か…猪口邦子参院議員宅、出火原因は未特定 死亡は夫・孝さんと長女と確認 東京都文京区にある自民党の猪口邦子参院議員(72)の自宅マンションで2人が死亡した火災で、警視庁捜査1課は1日、死亡したのは夫で国際政治学者の孝さん(80)と、長女(33)と判明したと発表した。いずれも死因は焼死だった。出火原因は特定されていないが、事件性はなく失火とみられる。同課は、特に燃え方が激しかった応接室から出火したとみている。室内にストーブはなく、ライターなどの着火物もなかった。外部から人が侵入した形跡や、室内に油をまいた跡も確認されなかった。死亡した2人は台所付近で倒れているのが見つかった。火災は11月27日午後7時10分ごろに発生。6階建てマンションの最上階150平方メートルが全焼した。一家は4人暮らし。猪口氏と次女は外出中で無事だった。28、29日の2日間にわたり実況見分が行われていた。死亡した孝さんは政治学や国際関係論が専門の東大名誉教授。 *6-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD180MY0Y4A111C2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 少子化の真の要因は何か 近藤絢子・東京大学教授(1979年生まれ。東京大経卒、コロンビア大博士(経済学)。専門は労働経済学) ○80年前後に生まれた女性の出産数は微増 ○背景に出産後も就業継続できる環境整備 ○足元の出生率低下は固定観念離れ分析を 少子高齢化は日本経済が直面する最大の課題の一つである。選挙のたびに少子化対策が焦点になり「若年層の経済状況の悪化が少子化の元凶である」「若年層の雇用を安定させ、収入を増やせば子供は増える」との主張が繰り返される。若年層の経済状況の悪化と少子化を結びつける議論は、1970年代前半生まれの第2次ベビーブーマー世代が30代を迎えた2000年代ごろから盛んになった。バブル崩壊後の「就職氷河期」によって若年層の収入が減り、非正規雇用が増えたことで少子化が加速しているという論調だ。たしかに第2次ベビーブーマー世代が大学を卒業するころに就職氷河期が始まり、彼らの出産適齢期に第3次ベビーブームと呼べるほどの出生数の増加が起こらなかったのは事実だ。以来、就職氷河期世代が子供を持てなかったために少子化がさらに進行したというのが通説となっている。しかし未婚化・少子化の傾向は氷河期世代が生まれる1970年代からすでに始まっていた。90年代以前は、女性の社会進出が進んで結婚・出産に伴う機会費用が上昇したことが少子化の主な要因とされてきた。事実、バブル期も合計特殊出生率は下がり続けていた。そして第2次ベビーブーマー世代より就職状況の悪かった80年前後生まれの世代では、むしろ出生率は下げ止まっていたのだ。 ◇ ◇ 図は、人口動態統計(厚生労働省)の母親の年齢別出生数と国勢調査(総務省統計局)の各歳別人口を用いて、生まれ年別に1人の女性が35歳及び40歳までに産んだ子供の数の平均を示したものだ。就職氷河期世代を「1993年から2004年の間に高校や大学を卒業した世代」と定義すると、生まれ年で1970〜85年生まれに相当し、第2次ベビーブーマーはその最初の5年間にあたる。確かに66年生まれの女性に比べると70〜85年生まれの女性が産んだ子供の数は少ない。しかし出生数の減少は主に66〜70年生まれの間で起きていて、40歳時点の平均出生児数は70年代前半生まれ、35歳時点は76〜77年生まれを底にわずかながら増加に転じている。最も景気が冷え込んでいた2000年前後に大学を卒業したのは1970年代後半生まれ、高校を卒業したのは80年代前半生まれだ。彼女たちはその上の世代よりもさらに厳しい雇用状況にさらされてきたはずだが、1人当たりの出生数は下げ止まっていたのだ。なぜ、この世代で1人当たりの出生数は下げ止まったのだろうか。おそらくは育児休業の期間や育児休業給付金の拡充、保育施設の整備、社会規範の変化などによって、出産後も仕事を続けられるようになったことが大きいのではないか。単なるタイミングの一致を因果関係と解釈することには慎重であるべきだが、若い世代ほど既婚女性の就業率や正規雇用比率が高いのは事実だ。労働力調査(総務省統計局)で1960年代後半生まれと80年代前半生まれを比べると、大卒既婚女性の30歳前後(卒業後7〜9年目)の就業率と正規雇用比率はそれぞれ8.2%ポイントと7.4%ポイント上昇した。他の学歴でも、卒業後7〜9年目の既婚女性の就業率は上昇している。背景には、第1子出産前後での就業継続率の上昇がある。出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、女性が第1子出産後も就業継続する割合は、85〜99年に出産した女性は24%程度で横ばいだったのが、2000年代に入ると上昇し始め、10〜14年には42%、直近の15〜19年では54%に達した。2000年代は、1970年代生まれが30代を迎える時期に相当し、既婚女性の就業率や正規雇用割合が上昇した時期と一致する。もう一つ無視できない要因として、体外受精をはじめ高度生殖医療の普及があるかもしれない。国による不妊治療の助成は2004年に開始され、22年の保険適用に至るまで段階的に拡充された。35歳時点と40歳時点の平均出生児数の差が拡大していることから、30代後半での出産数が増えていることが分かる。ここに高度生殖医療の普及が影響していた可能性がある。もっとも35歳までに産む子供の数への影響は限定的なので、出産後も仕事を続けられる環境整備が寄与した部分は大きいのではないか。2010年代は認可保育所の待機児童が問題となったが、保育所のキャパシティー自体は継続的に拡大していた。それに追いつかないほど就業を続ける母親が増えたことが、待機児童が増えた原因だったのだ。 ◇ ◇ ただし世代内の格差という視点で見ると、経済的に安定している方が子供を持ちやすいことも事実だ。昔から男性は経済力のあるほうが結婚し子供を持ちやすい傾向があるが、近年は女性にも同様の傾向が見られ、しかも若い世代ほどその傾向が強まっている。かつては高学歴でキャリア志向の女性ほど、仕事と家庭の二択に直面して、子供を持つことを諦める割合が高かった。しかし社会規範が変化し共働きが増えると、家庭と両立できるような安定した仕事に就いている女性のほうが子供を持ちやすくなってきたのだ。経済力の指標として、学校を卒業してすぐに正社員の仕事に就いた女性とそうでない女性を比較してみよう。卒業後すぐに正社員にならなかった女性は20代のうちはむしろ既婚率や子供がいる割合が高いものの、これはおそらく因果が逆で、若年妊娠の結果、就職する前に結婚・出産をする女性がいるためだろう。30代に入ると逆転し、正社員だった女性の方が既婚率が高く子供の数も多くなる。学歴別で見ても、30歳代後半以降で同じ世帯にいる子供の数は、大学卒ではやや増加傾向にあるが、高校卒では減少傾向にある。かつては大卒の女性は高卒の女性よりも結婚や出産をしない傾向があったのだが、ちょうど1980年前後生まれのあたりで大卒と高卒の子供の数が逆転した。こうした経済力による世代内格差の出現が「雇用の不安定化が少子化を招いている」という印象につながっているのかもしれない。世代内の経済格差が子供を持てるか否かにまで影響すること自体は看過できない問題だ。しかし近年再び出生率が急激に下がってきている原因は別のところにあるのではないだろうか。近年は人手不足から若年の実質賃金は相対的には上がっている。保育所にも余裕が出てきて育児休業の取得率も上がっているのに少子化は加速しているのだ。新型コロナウイルスによる行動制限で若い男女が出会う機会が失われたことや、医療へのアクセス不安から妊娠を控えた影響もあるだろう。しかし出生率の低下はコロナ禍の前から始まっており、行動制限がほぼなくなった23年以降も回復する兆しがみられない。都市部のマンション高騰、高齢化に伴う将来不安、過熱する教育投資など考えられる要因は幾つかある。何がいま出生率を下げているのか、一度固定観念から離れて考える必要がある。 *6-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC248BG0U4A021C2000000/ (日経新聞 2024年10月24日) 仙台・秋保でメガソーラー計画 住民らが市長に中止要望 仙台市の秋保地区周辺での大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画を巡り、地元の町内会や温泉組合など10団体は24日、郡和子市長に建設中止を要望した。景観の悪化や森林伐採による土砂崩れなどが懸念されるためとしている。秋保小学区連合町内会によると、沖縄県の企業が約600ヘクタールの山林に太陽光パネルと蓄電池の製造工場と、メガソーラーを整備する計画で、3月に地権者向けの説明会を開いた。2027年5月に工事に着手し、31年4月の操業を予定しているという。同会の大江広夫会長は「秋保地区は里山や温泉に代表される自然豊かな地域だ。国の脱炭素の政策は理解できるが、つくる場所を考えてほしい」と話す。 *6-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1370316 (佐賀新聞 2024/12/7) 佐賀平野のり面劣化、護岸工事703キロ必要 クリーク補修81%完了 計画遅れも2028年完了見込み のり面の劣化が進んでいた佐賀平野のクリークに関して、整備事業が進展している。佐賀県が2011年に打ち出した翌年度から12年間の整備計画で、総延長約1500キロのうち護岸工事などが必要な区間703キロで、本年度までに約81%にあたる572キロで補修が終了した。若干の遅れはあるものの、一部をのぞき、28年までの事業完了を見込んでいる。県農山村課によると、土がむき出しののり面が水位の上下や浸食で崩落している場所が目立ち、貯水機能や営農に支障をきたすおそれがあった。県では東西を走る「横幹線」や支線など約580キロを担当し、木柵による護岸工事を行っている。南北を走る「縦幹線」約170キロは国が担当し、植生を妨げないコンクリートブロックを並べるなどしてのり面の整備を行っている。県が整備する13地区のうち、佐賀市西部、上峰、神埼市千代田中央の3地区で整備が完了している。残り10地区についても着々と整備が進み、範囲の広い佐賀市川副をのぞいた9地区で28年までの事業完了を見込んでいる。事業完了が12年間の整備計画期間からずれ込む見通しとなった要因としては、旧民主党政権時代の「事業仕分け」で「農業農村整備事業関係予算」が大幅減額となったことなどがあるという。民主党政権前の2009年は5820億円だったが、政権交代後の12年には2187億円まで落ち込んだ。クリークではここ数年、大雨対策で事前放流を行い、約1200万トンの洪水貯留容量を確保している。整備が進めば貯留容量も増え、災害対策への効果向上が期待できる。江口洋久課長は「クリークの事前放流が佐賀の風土として定着してほしい」と話した。 <日本のサイバー・セキュリティーについて> PS(2024年12月9日追加):*7-1は、①能動的サイバー防御の法整備には一定の条件の下で通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要 ②政府は有識者会議の最終提言を踏まえて、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする ③有識者会議の最終提言は、通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載 ④通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提で、提言は定期的な報告書公表などの適切な情報公開の必要性を訴え、独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集する問題がないかを調べる機能を備えて、憲法や通信の専門家らで構成する見通し ⑤監視対象はi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報で、日本から海外への通信も監視するのはマルウエアに感染した国内サーバーがあるため ⑥「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要とし、メールの中身をすべて見ることは適当でないと明記 ⑦膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないため、検索条件等を絞り、機械的にデータを選別すべきと唱えた ⑧経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向けて協議に応じる義務を課し、使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエア情報の国への登録を義務づける制度も提案 ⑨電力・ガス事業者等がサイバー攻撃に遭うと国民生活への影響が大きいため、重点的に監視対象へ ⑩有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラ等への攻撃も重点 ⑪「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」とした と記載している。 まず、EUは、個人の人権を大切にし保護する個人主義が根底にあるのに対し、日本は、「防衛や企業のため」と称すれば個人の人権を疎かにすることが許される集団主義・全体主義の発想が根底にあり、それがEUと日本の法律及び運用の違いとなって出て来ているのである。 そして、日本国憲法は、敗戦後に欧米の指導で作られたため、②のように、「通信の秘密」が憲法に記載されているのだが、日本政府は、①のように、能動的サイバー防御の法整備には通信情報の監視が必要として有識者会議を設定し、その有識者会議は、③のように「通信の秘密は、法律により公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と提言している。そして、憲法との整合性をとるために、④⑪のように、透明性確保や憲法や通信の専門家らで構成する独立の第三者機関のチェックを加えたようだが、“独立の第三者”というのは、メンバーの選び方によってどんな結論でも出せることが、経産省設置の原発推進派だらけの有識者会議や原子力規制委員会の適合性審査を見れば明らかなのである。また、政府が設置した有識者会議は、⑤⑦のように、監視対象をi)日本を経由する海外間 ii)海外から日本 iii)日本から海外 の通信情報としているが、そもそもサーバーのウイルス感染対策は、それぞれのサーバーが行なうべきで、日本政府にやってもらうべきものではないし、⑥の「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」を見ていただく必要など全く無いのである。 さらに、⑧⑨⑩のように、国民の重要なインフラを担っていたり、有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラは、サイバー攻撃だけではなく、複合災害や武力攻撃に対するセキュリティーもやっておくのが当然であるため、今更、サイバー攻撃に的を絞って政府が監視するというのは、政府が国民を監視するためのこじつけにしか見えない。 次に、*7-2は、⑫政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行するEUと比べて限定的 ⑬EUは、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて問題点を幅広く捉える ⑭EUは、デジタル市場法(DMA)と同時に企業に違法コンテンツ排除や偽情報拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定 ⑮EUは、2018年施行の「一般データ保護規則(GDPR)」で、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護 ⑯日本は包括的法整備には至らず、個人データ保護は規制強化に反対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる ⑰EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く設定 ⑱課徴金水準も、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%としたのに対し、EU の制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)と巨額 ⑲日本の経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」とする と記載している。 EUは、⑬⑭⑮のように、市場支配により公正な取引が歪められるだけでなく、個人データ乱用や偽情報拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えて、デジタル市場法(DMA)と同時に「デジタルサービス法(DSA)」を制定し、「一般データ保護規則(GDPR)」によって「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護する。しかし、日本は、⑯⑲のように、包括的法整備はせず、規制強化に反対するIT業界に応えて、個人データ保護はEUから大きく遅れているが、経済官庁幹部は「企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべき」としているのである。 その結果、⑫⑰のように、EUのデジタル市場法(DMA)は巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、日本のスマホ新法は対象範囲をスマホアプリ市場と狭く限定し、⑱のように、日本の課徴金水準は、EUの制裁金と比較して著しく低い。実際、私は、週刊文春に嘘八百の記事を書かれ、その偽情報が検索サイト上位で拡散されたことによって選挙結果を歪められたのだが、訴訟で人権侵害や侮辱は認められたものの、損害賠償金額は普通の人なら「訴え損」と思う程度の低い金額で、「(女性である)私が一生かかって築き上げた人格に対する誹謗中傷の値段は、たったこの程度か、ふざけるな!」と憤りを覚えた次第なのである。なお、虚偽で他人を陥れる行為は“表現の自由”で護られる範囲にはならず、憲法21条の「表現の自由」の範囲も人権侵害・人格権の侵害・セクハラ等の範囲の進展とともに狭くなっているため、メディアはじめSNSが“表現の自由”を武器に「何を言ってもいいだろ!」と主張できる範囲は、これらを除く範囲であることを忘れてはならない。 *7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241130&ng=DGKKZO85152850Z21C24A1EA1000 (日経新聞 2024.11.30) サイバー防御、「通信の秘密」と両立探る、監視データは選別/定期的に情報公開 能動的サイバー防御の法整備には平時から通信情報を監視することへの国民の理解を得ることが重要になる。政府は29日に有識者会議がまとめた最終提言を踏まえ、憲法の「通信の秘密」に配慮した仕組みにする。提言は重大なサイバー攻撃への対策には一定の条件の下で通信を監視する必要があると提起した。通信の秘密は「法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることが認められている」と記載した。監視対象は(1)日本を経由する海外間(2)海外から日本(3)日本から海外――の通信情報を想定する。海外から海外の通信は日本の海底ケーブルを経由するものが多く、中国やロシアなど懸念国のサイバー攻撃に関する情報の入手が期待できる。日本から海外への通信も監視するのはマルウエア(悪意のあるプログラム)に感染した国内サーバーが踏み台となって国内外への攻撃に悪用される場合があるためだ。「個人のコミュニケーションの本質的な内容に関わる情報」は分析に不要だと整理した。メールの中身を逐一すべて見るようなことは「適当とは言えない」と明記した。膨大なデータを人間の目で判断するのは不可能でプライバシー保護の観点から適切ではないと記した。検索条件などを絞り、機械的にデータを選別すべきだと唱えた。攻撃の標的となりやすいインフラ事業者には事前に同意を得ておくべきだとの考えも示した。経済安全保障推進法で規定する基幹インフラ15業種には事前同意に向け「協議に応じる義務を課すことも視野に入れるべきだ」と書き込んだ。電力・ガス事業者などがサイバー攻撃に遭った場合、国民生活への影響も大きいため、重点的に監視対象とする。有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラなどへの攻撃も重点を置く。基幹インフラ事業者が使用するIT(情報技術)機器、ソフトウエアの情報の国への登録を義務づける制度も提案した。攻撃の兆候がある相手サーバーに入って無害化する手法は「状況に応じ臨機応変な判断」が必要と指摘した。「独立した立場から専門的知見も取り入れた事後的な監督を受けることなども考えられる」と盛り込んだ。通信監視への懸念払拭には透明性の確保が前提となる。提言は定期的に報告書を公表するなど適切な情報公開の必要性を訴えた。独立した第三者機関は政府が目的外の情報を収集するといった問題がないかを調べる機能を備える。憲法や通信の専門家らで構成する見通しだ。提言は官民の人材交流や中小企業への対策支援の重要性も説いた。すでに能動的サイバー防御を導入している英国や米国などは情報の取得や処理のプロセスを第三者機関が監視する仕組みをもつ。政府は海外事例を参考に制度設計する。 *7-2:https://mainichi.jp/articles/20240418/k00/00m/020/316000c (毎日新聞 2024/4/18) スマホ新法、EUに比べデジタル規制は「限定的」 日本が遅れる理由 政府はスマホ新法によってデジタル規制の本格強化に踏み出すが、その動きは先行する欧州連合(EU)に比べると限定的だ。EUは巨大IT企業のビジネスモデルの問題点をより幅広く捉えている。市場支配によって公正な取引がゆがめられるだけでなく、個人データの乱用や偽情報の拡散で民主主義に悪影響が及ぶ恐れもあると考えるためだ。EUはデジタル市場法(DMA)と同時に、企業に違法コンテンツの排除や偽情報の拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を制定した。また、2018年に施行された「一般データ保護規則(GDPR)」により、EUが「基本的人権」と位置付ける個人データを強く保護している。個人データは巨大ITのビジネスモデルの核心だ。日本はこうした包括的な法整備には至っていない。特に個人データ保護の面では規制強化に対するIT業界の反発もあり、EUから大きく遅れる。DMAは巨大IT企業のビジネスモデル全体を規制しているが、今回のスマホ新法は規制対象の範囲をスマホアプリ市場と狭く設定した。また、課徴金の水準を見ても、日本が違反行為に関連する分野の国内売上高の20%と定めたのに対し、DMAの制裁金は世界総売上高の10%(違反を繰り返せば最大20%)とより巨額だ。EUにはデジタル分野でのルール作りを主導することで、米巨大IT企業が牛耳るデジタル市場での影響力を確保する狙いがある。実際にEUの規制によって巨大ITがサービスのあり方の変更を迫られる例が相次いでいる。一方、政府は今後もさまざまなデジタル規制を検討していくとみられるが、ある経済官庁幹部は「民間企業のイノベーションを阻害しない形での規制を進めていくべきだ」と話す。 <マイナ保険証のセキュリティーについて> PS(2024年12月10日追加):*8-1は、①12月9日から救急患者を受け入れた病院が患者の意識がなく同意がなくてもマイナ保険証で使用中の薬や持病など過去の医療情報を閲覧できるシステムを運用開始 ②救命率向上・治療後生活の質の向上に繋がる可能性 ③例えば心臓・脳の血管が詰まって倒れた救急患者は血液サラサラにする薬を飲んでいると出血を起こしやすいので正確な薬の情報が重要 ④厚労省が開発する新システムは医療者が過去5年分の患者の受診歴・処方された薬剤・診療・健診等の情報と過去100日分の電子処方箋情報等が閲覧可能 ⑤今後はマイナ保険証なしでも名前・生年月日・性別・住所の4情報がわかれば閲覧可能 ⑥消防庁もマイナ保険証を使って救急隊が患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備し119番通報した家族らに患者本人のマイナ保険証を準備しておくよう依頼 としている。 また、*8-2・*8-3は、⑦政府は国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証廃止を閣議決定 ⑧2024年12月2日から新規の保険証発行ができなくなる ⑨2023年11月のマイナ保険証利用率は4.33% ⑩「何のメリットもない」「顔認証や暗証番号が面倒」「保険証で十分」が患者・国民の声で、世論調査では8割超が存続・延期を求める ⑪保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後に紐づけミス報告 ⑫医療現場でマイナトラブルは多岐 ⑬こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱するので、保団連は患者・国民、諸団体と保険証存続を求める取り組みを推進 ⑭2024年も健康保険証を使い続けることが保険証を残す最大の力 ⑮2023年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率は4.36% ⑯政府はキャンペーンで2024年5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせているが、2024年1月の国民のマイナ保険証利用率は4.60% ⑰推進側の国家公務員のマイナ保険証利用率も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印 ⑱マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を12月に廃止することは大問題 等としている。 マイナ保険証の問題点について、保団連は、⑪⑫⑬のように、i)紐づけミスが多発していること ii)医療現場でのトラブルが多岐に渡ること iii)こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱する としているが、これらは導入初期のインプットミスと不慣れによるトラブルであるため、導入して時間がたてば解消していくものである。 しかし、⑨のように、国民全体で利用率が4.33%と低い理由を明らかにしているのが、⑮⑰の国家公務員のマイナ保険証利用率がわずか4.36%と国民全体より低く、「マイナ保険証のメリット無し」という烙印を押していることで、現職国家公務員は、それでも「メリット無し」という柔らかな拒否感を示しているが、実際には被保険者にとってはディメリットの方が大きいのだ。 そして、そのディメリットとは、マイナンバーカードに載ったマイナ保険証は、一枚のカードですべての情報にアクセスできるため、便利である反面、紛失や悪用が起こった場合には、すべての情報がリスクに晒されることである。従って、最善のセキュリティー対策は、1つのカードに情報を紐付けしすぎないことで、医療情報のように守秘義務を要する情報は、医療の専門家だけが見る保険証をネットワークで繋げば良く、①~⑥は、それで十分解決できる筈なのだ。 では、政府は、何故、⑦⑧⑯のように、キャンペーンや217億円もの補助金を使ってまで保険証を廃止し、半強制的にマイナンバーカードに保険証を紐付けして、マイナ保険証に変更したがっているのかと言えば、まさに紐付けされたその情報を使いたいからである。例えば、所得と紐付けして公的医療保険でカバーされる割合を変えたり、特定秘密保護法・運転免許証等で特定疾患の患者を排除したりするための悪用で、公務員はそれを知っているためディメリットを感じているのであり、国民もまたうすうすそれを感じているから、⑩の結果になっているのだ。 そのため、専門家集団である全国保険医団体連合会が保険証廃止に抗議するのであれば、⑭⑱のように、マイナ保険証利用率が低調なまま健康保険証を廃止することは大問題として抵抗するのではなく、疾患に基づく差別や保険医療を受ける段階での(大したこともいない)所得差による負担割合の差の問題について、資料を添えて正攻法で抗議するのが良いと思う。 *8-1:https://digital.asahi.com/articles/ASSD435GVSD4UTFL01DM.html (朝日新聞 2024年12月6日)意識ない救急患者、マイナ保険証で医療情報を閲覧 病院で運用開始へ 救急患者を受け入れた病院が、患者の過去の医療情報を閲覧できるシステムの運用が9日から始まる。患者の意識がなく、同意がとれなくても、保険証にひもづいたマイナンバーカード(マイナ保険証)があれば、患者が使っている薬や持病などを医療者が把握できるようになる。救命率の向上や、治療後の生活の質を上げることにつながる可能性がある。救急現場では、意識のない患者から得られる情報が乏しいことが、治療法を選ぶ上で大きな障壁になってきた。例えば、心臓や脳の血管が詰まって突然倒れた救急患者では、手術前に血液検査などをしないと危険な場合がある。患者が普段、血液をサラサラにする薬をのんでいると、出血を起こしやすくなり、手術前に中和薬などが必要になるためだ。どの薬をのんでいるかによっても対応が異なるため、正確な薬の情報が重要になる。厚生労働省が開発する新たなシステムでは、医療者が、過去5年分の患者の受診歴や処方された薬剤、診療、健診などの情報のほか、過去100日分の電子処方箋(せん)の情報などを閲覧することができる。9日から順次、病院に導入され、今年度中には救命救急センターがある病院のほとんどで使われる見込みだ。また、今後はマイナ保険証がなくても、名前、生年月日、性別、住所の4情報がわかれば、閲覧できるようにする。総務省消防庁でも、マイナ保険証を使って、救急隊が救急車の中で患者の医療情報を閲覧できる仕組みを整備しており、来年度には全国の消防本部で展開する予定だ。119番通報した家族らに、患者本人のマイナ保険証を準備しておくように依頼していくという。 *8-2:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/information/hokensyonokose/ (全国保険医団体連合会 2024.12) 保険証廃止勝手に決めるな 政府は、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定(政府は、国民の8割が存続・延期を求める中、2024年12月1日に健康保険証を廃止することを閣議決定しました。2024年12月2日からは新規で保険証を発行することができなくなります。2023年11月のマイナ保険証の利用率はわずか4.33%と7カ月連続で低迷しています。厚労省が示した患者総件数に占めるマイナ保険証利用率はわずか2.95%とさらに低い数字です。「何のメリットもない」、「顔認証や暗証番号が面倒」、「保険証で十分」が患者・国民の声です。世論調査で8割超が存続・延期を求めています。保団連が実施したマイナトラブル調査でも政府の総点検本部後も紐づけミスが報告されています。医療現場でマイナトラブルは多岐にわたり、厚労省が対策したトラブルも一向になくなりません。こんな状況で保険証廃止すると医療現場は大混乱します。保団連は、患者・国民、諸団体とともに、保険証存続を求める取り組みを推進します。「#保険証廃止勝手に決めるな」を掲げて記事を配信します。 2024年も健康保険証使い続けることが保険証を残す最大の力となります。「#保険証廃止勝手に決めるな」の声をSNS等で拡散していきましょう。 *8-3:https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-02-29/ (全国保険医団体連合会 2024.2.29) 12月以後の国家公務員マイナ保険証利用率を速やかに公表すべき! 厚労省は2月29日の医療保険部会で23年11月時点の国家公務員のマイナ保険証利用率を公表しました。国家公務員全体でマイナ保険証の利用率がわずか4.36%です。政府は、マイナ保険証使ってみようキャンペーンでは数値目標として5月末までに利用率を20%、11月末までに50%まで上げることを掲げて217億円もの補助金を投入し、医療機関にも半強制的にマイナ保険証の持参や利用を呼び掛けさせています。ところが24年1月の国民のマイナ保険証利用率が4.60%であり、推進側の国家公務員のマイナ保険証も国民と同程度でマイナ保険証のメリット無しとの烙印を押しています。マイナ保険証利用率が低調なままで健康保険証を12月に廃止することは大問題です。保団連は、厚労省に23年12月以後の国家公務員のマイナ保険証利用率を速やかに公表するよう要望しました。 <おかしな財源論> PS(2024年12月12~16日追加):平成29年度税制改正によって、平成30年分以降の所得税で適用されている配偶者控除は、下段の左図のように、扶養者(仮に夫とする)の所得によって変わり、被扶養者(仮に妻とする)の所得が103万円以下で、扶養者の所得が900万円以下なら満額の38万円、900万円超950万円以下なら26万円、950万円超1,000万円以下なら13万円、1,000万円超なら0円というように、配偶者控除を満額とれる妻の最大所得が103万円なのである。また、配偶者控除の壁を緩やかにするため配偶者特別控除制度も変更して、上段の左図のようになだらかになり、配偶者特別控除をとれる妻の最大所得が年収201万円になったわけである。しかし、妻はじめ親族を扶養すれば夫の生活費負担が大きくなるのは夫の所得額とは関係無い上、物価上昇で生活コストが上がり、累進課税で所得の再分配はできているため、夫の所得によって控除額を変更するのは所得税の計算が複雑になりすぎ、公正・中立・簡素の税の原則にも反する。 従って、理論から離れて屋上屋を重ね複雑怪奇になっている配偶者控除・配偶者特別控除は、共働きが普通になった現在であれば生産年齢人口の人は廃止し、共働きでも必要な保育・介護は保育制度・介護制度を充実させて対応すべきである。また、子の扶養控除も子育てに関する物価上昇に応じた児童手当の増額と教育無償化をセットにして廃止すべきで、そうすれば何に使われるかわからない僅少な税額控除より確実に子への投資になる。なお、米国の選択的夫婦合算課税は、夫婦間で所得差が大きい場合に累進税率が低くなる合理的な制度であり、フランスのN分N乗方式は、それに加えて子の数も累進税率に影響させるというさらに合理的な制度である。 そのような中、*9-1-1は、①自・公・国の幹事長は所得税が生じる「年収103万円の壁」を2025年から引き上げることで合意し178万円を目指す ②自公は引き上げ時期で現場事務負担等を理由に2025年からの実施に消極的 ③非課税枠の引き上げに伴い財源の手当てが必要 ④ガソリン税の暫定税率廃止も一致 ⑤大学生年代(19~22歳)の子を扶養する親の特定扶養控除も、国は少なくとも150万円で2025年分から実施するよう要求 ⑥高校生の扶養控除について国は維持を求めた ⑦2024年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳を加え、与党は2024年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要 等としている。 また、*9-1-2は、⑧自・公は12月13日、所得税がかかる年収最低ラインを基礎控除と給与所得控除の最低保障額を10万円ずつ引き上げ103万円から123万円にする案を国に示した ⑨自の宮沢税制調査会長は30年間で生活必需品の物価が約2割上がったことを念頭に決めたと説明 ⑩国の古川税調会長は「グリーンも全然見えない距離」と拒否 としている。 上の①⑧⑨⑩については、1995年から2025年の30年間の物価上昇率は、頻繁に買う生鮮食品を含む必需品では約2割ではなく3割以上であり、さらに統計と体感(頻繁に購入する財・サービス)との差も15%程度あるため、物価上昇から考えれば150万円に引き上げるのが妥当で、これは、⑤の大学生年代の子を扶養する親の特定扶養控除150万円とも整合性がある。また、②については、所得税の扶養控除と特定扶養控除の数値を変えるだけなので、やるとすれば2025年分から実施可能だ。さらに、生活の基礎的コストである基礎控除を物価上昇に伴って上げるのは当然なので、住民税にも同じ変更を適用すれば簡素になる上、③の財源は(これまで公正でも中立でもなかった)配偶者控除の廃止と物価上昇に伴って生じる税収増で賄える筈である。なお、⑥の高校生の扶養控除は、⑦のように、月1万円の児童手当が給付され始めたため、2024年度税制改正で(縮小ではなく)廃止し、児童手当の金額自体を物価上昇に合わせて上げるべきである。なお、④のガソリン税の暫定税率廃止には賛成だ。 また、社会保険には、上段の中央の図のように、106万円と130万円の壁があり、106万円の壁は、i)賃金月額8.8万円(年収約106万円以上 ii)厚生年金保険被保険者である従業員数51人以上 iii)週の所定労働時間20時間以上 iv)学生でない という条件をすべて満たす従業員を雇用する企業は社会保険の加入手続きを行わなければならず、130万円の壁は、i)企業の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人以下 ii)年間収入見込み130万円以上 という条件を満たすと、企業もしくは個人が社会保険の加入手続きを行わなければならないというもの(https://www.mdsol.co.jp/column/column_121_2607.html 参照)だが、従業員の福利の観点から見れば、企業規模で従業員の社会保険加入を差別するのは適切でないため、企業規模要件は速やかに廃止すべきだと思う。しかし、所得要件は「基礎的生活コストの除外」という視点から税制と同じ150万円にするのが、仕組みを変に複雑化させず整合性がとれると考える。 このような中、*9-2-1・*9-2-2は、5年に1度の年金制度改革に関する厚労省の項目案は、①老後受給額の底上げと幅広い世代の就労促進が柱 ②見直しの第1は基礎年金の底上げ ③全ての人が受け取る基礎年金は年金財政悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるため、過去30年と同程度の経済状況が続くと将来の受け取り水準が3割下がる ④厚労省は財政が比較的安定している厚生年金積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げすると、基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まる ⑤上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金底上げ効果で厚生年金受給者の大半は合計年金額増 ⑥経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は生涯総額で136万~215万円受給額が増え、2024年度に65歳になる人は76万円減ることもある ⑦パート労働者は週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入 ⑧週20時間の手前で働き控えが起きないよう月収13万円(年収156万円)未満・標準報酬月額12.6万円(年収151万円)未満のパート労働者を対象に労働者側の厚生年金保険料負担を企業が肩代わりできる仕組みを作る ⑨例えば年収106万円の人は9対1で企業が負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻せば働く人の手取り急減が防げる ⑩制度導入は企業毎の労使合意が前提 ⑪一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を月50万円から62万円か71万円に引き上げ ⑫働く女性が増えているため遺族厚生年金の男女差をなくす ⑬厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限(月収65万円)を75万~98万円に引き上げ ⑭経済同友会と連合は、会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致 ⑮連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきで、働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考えるべき0」と語った としている。 このうち、④⑤⑥の「足りなくなったら、給付水準を下げればよい」という発想自体が公的年金の信頼性を損なう原因になっている上、③の基礎年金の年金財政悪化は「第3号被保険者制度」と社会保険庁(日本年金機構の前身)のずさんな運用が原因であるため、まさに⑭⑮のとおり、まず第3号被保険者制度の廃止で賄うのが筋である。本来なら、他人の負担で専業主婦を優遇する理由などなかったため過去に遡って返して貰いたいくらいであり、「比較的安定している」などという理由で高い年金保険料を支払ってきた人の厚生年金積立金の一部を使うのでは、日本年金機構も社会保険庁と同様、他人の年金積立金を平気で流用する組織だということであり、運用のずさんさも変わっておらず、公正性に欠ける。従って、⑦のパート労働者で週20時間以上働く人は原則として厚生年金加入というのは正しいし、厚生年金に加入しない人は自営業の妻と同様、自分で国民年金に入るべきで、そうすれば⑧⑨⑩のように、屋上屋を重ねてパート労働者の厚生年金保険料負担を労使合意で企業が肩代わりするなどという不完全かつ不公平な仕組みを作る必要はないのだ。なお、⑪の一定の給与所得がある高齢者の受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」の基準額を引き上げるのは良いが、保険料を支払って積み立ててきた金額に応じて「ねんきん定期便」で支給額を確認してきたのであるから、働いたからと言って年金支給を停止したり、年金支給に上限を設けたりすることは契約を反故にしているものである。なお、⑫の働く女性が増えたため遺族厚生年金の男女差をなくすのは良いが、未だに労働条件に男女差があるため、同時に労働条件の男女差をなくすべきであろう。さらに、⑬の厚生年金保険料算出に用いる「標準報酬月額」の上限引き上げも良いが、保険は税金とは違うため、支払った分だけの見返りがなければ誰も納得しないのである。つまり、物価上昇で基礎的生活コストが上がっているため、①②のように、年金受給額の底上げは必要不可欠だと思うが、その目的を「幅広い世代の就労促進」に置くと、年金の目的や保険契約に反するのだ。 さらに、*9-3は、⑯厚生年金の積立金等を活用して基礎年金を底上げする背景は、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙い ⑰実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要だが、財源確保は置き去りのまま ⑱社会保障審議会年金部会では基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ ⑲厚労省は一定負担を下に受給額を増やす改革として基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していたが、負担増への批判が強くて見送った ⑳抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかず ㉑基礎年金底上げが必要となる背景は過去のデフレ下で給付抑制がなされず年金財政が悪化したこと ㉒日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず将来の年金水準を一段と切り下げる必要 ㉓厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と給付引き下げに繋がるデフレ下での抑制に慎重 としている。 日本政府は、原発・特定産業・農業には非効率で無駄の多い補助金を湯水のように使いつつ、国民生活に必要な福利厚生(年金・医療・介護・教育・保育etc.)にはケチケチしながら、不公正・不公平の屋上屋を重ねている。年金はその1例であり、i)「基礎年金を底上げするため」として厚生年金積立金を流用 ii)消費税増税 iii)年金・健康保険料・介護保険料の負担増・給付減 など、必要不可欠な社会保障間での流用や負担増・給付減を当然の如く行ないながら、政府歳出全体の無駄や非効率は野放しにしている。そして、これが誰にも追求されない理由は、明治維新以降、藩のかわりに省というテリトリーを作り、省毎に既得権たる財源を作り、無駄な歳出であっても他省の財源とならないよう省益を死守し、歳出の効率性を正確に比較できる会計制度にもなっておらず、政治家は世襲か金持ちの男性が殆どで社会保障の必要性を感じなかったり、または能力不足で官の言いなりだったり、メディアもまた能力不足で官の言いなりだったりするからである。そのため、有権者ができることは、官に対して論理的に対抗できる有能な人を政治家にし、上場企業並みの公会計制度を国や地方自治体に導入させ、その場限りの観念論ではない本当の意味の有効性や効率性を追求し続ける政府を作ることなのである。 そのような中、*9-3は、メディアが官の発言を拡声器よろしく垂れ流しているという典型例で、⑯は、弱者保護と称して他人の財布の資金を流用する詐欺行為である。また、⑰⑱は消費税増税をほのめかし、3号被保険者制度は維持しながら、不公正や流用を黙認し続ける体質であって、この発想ではいくら増税しても国民を貧しくするだけで豊かにはしない。 なお、⑲の厚労省の基礎年金保険料支払い期間を40年から45年に伸ばす案は、平均余命・健康寿命・年金受給期間が伸びているので、定年を65歳以上にする制度とセットであれば良いと思うが、厚労省は批判があったら合理的な説明もできずに見送る程度なのである。そして、⑳㉑のように、“マクロ経済スライド”などと呼ぶご都合主義の抑制措置を導入し、物価を上昇させることによってただでさえ少ない年金の実質額をさらに減らして、㉓のように、厚労省幹部が「年金受給者が気にしているのは名目額だ」などと言っているのであり、これは消費者を甘く見ている。なお、㉒のように、日本経済は次のPSで述べるとおり、政治や官の責任で不景気やデフレが続いているのであるため、抑制措置を続けて年金水準をさらに切り下げれば、それに応じて消費が減退して物価はさらに下落し、深刻なデフレスパイラルに陥ると思う。 生命保険文化センター JB Press 2024.11.26日経新聞 (図の説明:左図が、平成30年分の所得から適用されている所得税の配偶者控除と配偶者特別控除額で、配偶者の所得だけではなく本人の所得によっても金額が異なる。その結果、中央の図のように、税金の壁は、住民税の所得割が課され始める100万円、所得税が課され始める103万円、配偶者特別控除が減り始める150万円、配偶者特別控除も全く受けられなくなる201万円の4つになり、所得税の配偶者に関する控除額は、壁ではなく下り階段になった。しかし、社会保険は本文で説明するとおり、106万円と130万円の壁が残っている。また、配偶者手当の壁は、公正・公平の観点から企業が判断し、基本給を上げながら無くしていくべきものである。右図は、103万円の壁撤廃に対する国民民主党《以下、国》と政府与党の論点で、国は最低賃金の伸びに合わせて178万円への増加を主張し、与党は財源問題を縦に、またまた屋上屋を重ねる理論からかけ離れた改正案を提示していた) 上山市 2024.12.12佐賀新聞 2024.12.10時事 (図の説明:左図は、平成30年分の住民税から適用されている住民税の配偶者控除と配偶者特別控除の例で、現在は全国一律になっているが、地方自治の観点からは一律にする必要のないものだ。しかし、物価上昇によって基礎的生活コストが上がっていることは所得税と同じであるため、控除額を据え置いて良いわけではない。中央の図は、親が大学生の子の特定扶養控除を適用できる子の年収の上限だが、こちらは103万円から150万円に上がることが決まった。右図は、社会保険料《厚生年金・健康保険》の壁を「企業が一部肩代わりできる仕組み」を導入することによってなだらかにする与党案だが、これも屋上屋を重ねて理論から離れていくその場しのぎの仕組みにすぎない) *9-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1149B0R11C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月11日) 年収103万円の壁、25年から引き上げ 自公国が合意 自民、公明、国民民主の3党は11日、所得税の非課税枠「年収103万円の壁」に関し、2025年から引き上げることで合意した。3党の幹事長が25年度税制改正をめぐる合意書を交わした。引き上げ幅については「178万円をめざす」と明記し協議継続を確認した。ガソリン税に上乗せしている旧暫定税率の廃止でも一致した。自公は補正予算案の12日の衆院通過をめざし国民民主の主張に譲歩した。国民民主の榛葉賀津也幹事長は幹事長会談後、国会内で記者団に「この合意書をもって補正予算案に賛成したい」と明言。24年度補正予算案が衆院で可決する公算が大きくなった。103万円の壁の具体的な引き上げ幅やガソリン税の旧暫定税率の廃止時期は引き続き話し合いを続ける。自公は103万円の壁の引き上げ時期について、現場の事務負担などを理由に25年からの実施に消極的だった。非課税枠の引き上げに伴って財源の手当てが必要となる。自民党の森山裕幹事長は3党合意後、記者団に財源の議論が深まっていないと問われ「健全な財政へ引き続き努力しないといけない」と語った。「103万円の壁」は税負担を避けるために働き控えが起きている問題だ。国民民主は手取りを増やすために非課税枠の調整の必要性を指摘し、最低賃金の伸び率を根拠に178万円への引き上げを求めていた。政府は非課税枠を178万円に引き上げると国税で4兆円弱、地方税で4兆円程度の税収減になると試算する。特に地方税の減収に全国知事会などから懸念が出ている。国民民主は主張が盛り込まれなければ補正予算案に賛成できないとの立場を強調していた。10月の衆院選を経て少数与党となった自公は補正予算案の衆院通過を急ぐため、幹事長同士による交渉で妥結した。ガソリンは1リットルあたり28.7円の通常の税率に、さらに25.1円を上乗せする旧暫定税率を適用している。国民民主は価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の凍結解除のほか、旧暫定税率の恒久的な廃止などの減税策を訴えている。もう一つの「103万円の壁」である大学生らを扶養する親の税負担を軽減する特定扶養控除については3党の税調会長が11日に協議した。自公は子の年収要件を現在の「103万円以下」から「130万円以下」に緩和する案を示した。国民民主は「150万円以下」で25年から実施するよう求めた。自公側は国民民主からの要求について「前向きに検討する」と伝えた。高校生の扶養控除については国民民主は維持を求めた。24年10月に月1万円の児童手当の給付対象に16〜18歳が加わったことから、与党は24年度税制改正で縮小の方針を決めており調整が必要になる。 *9-1-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/fe05c347fac374996acc98836580468341adaceb (Yahoo、朝日新聞 2024/12/13) 課税最低ライン123万円案 国民民主拒否「グリーンもみえない」 自民・公明両党は13日、所得税がかかる年収の最低ラインを103万円から123万円に引き上げる案を国民民主党に示した。178万円への引き上げを求めてきた国民民主は自公案を拒否し、週明けに再び協議することになった。与党は、大半の納税者が対象になる「基礎控除(48万円)」と、会社員などの経費にあたる「給与所得控除の最低保障額(55万円)」を、10万円ずつ引き上げる案を示した。自民の宮沢洋一税制調査会長は、ここ30年間で生活必需品の物価がおおむね2割上がったことを念頭に決めたと説明。来年1月の所得から適用し、年末調整で減税分を還付することも提案した。これに対し、国民民主の古川元久税調会長は協議後、記者団に「(ゴルフに例えると)グリーンも全然見えないような距離しか飛んでない」と、与党案を拒否したことを明かした。3党は週明けの17日にも再び協議に臨む。自民税調幹部は「提示した数字が低すぎるということだから、こちらとしても何ができるか考える」と語った。税制に詳しい大和総研の是枝俊悟主任研究員の試算によると、今回の与党案の場合、所得税の減収は5千億円程度になる。是枝氏は「物価上昇への対応としては、妥当な提案だ」とみる。 *9-2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380430R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 5年に1度、年金改革の狙いは 給付を底上げ 将来世代、多くは受給増 5年に1度となる年金制度改革について厚生労働省の項目案が10日、出そろった。老後の受給額の底上げと幅広い世代の就労促進を柱に据えた。将来世代の多くは受給増につながる。厚労省は2025年の通常国会に法案提出を目指す。少数与党のもとで政策の実現は簡単ではない。 見直しの第一の柱は基礎年金の底上げだ。厚生年金の受給者を含めた全ての人が受け取る基礎年金は、過去30年と同程度の経済状況が続く場合、今のままでは将来の受け取り水準が3割下がる。年金財政の悪化で将来の受給水準を大きく切り下げて帳尻を合わせる必要があるからだ。そこで厚労省は財政が比較的安定している厚生年金の積立金の一部と、追加の国庫負担を基礎年金に投入して底上げする。基礎年金は現在より1割低い水準で下げ止まり、現状の見通しに比べると3割上振れする。上乗せの厚生年金の水準は下がるが、基礎年金の底上げ効果が大きく、厚生年金受給者の大半は合計の年金額が増える。厚労省は10日の社会保障審議会年金部会で、関連の試算を公表した。仮に経済が横ばいでも1975年度生まれで2040年度に65歳を迎える人は、生涯総額で136万~215万円受給額が増える。他方、24年度に65歳になる人は、76万円減ることもあるという。第二の柱は「働き控え」を減らすことだ。パート労働者は現在(1)企業規模が51人以上(2)月額賃金が標準報酬月額で8.8万円以上(年収106万円以上)(3)所定労働時間が週20時間以上――などの要件を全て満たすと、厚生年金に入る義務がある。改革案では「週20時間以上働く人は原則として厚生年金に入る」というルールに見直す。「106万円の壁」はなくなり、約200万人が新たに厚生年金の対象となる。それでも週20時間の手前で働き控えが起きうるため、実際の月収で13万円(年収156万円)未満のパート労働者を対象に、労働者側の厚生年金保険料の負担を企業が肩代わりできる仕組みをつくる。標準報酬月額では12.6万円(年収151万円)未満となる。例えば年収106万円の人は9対1で企業が多く負担し、156万円が近づくにつれて本来の5対5に戻していけば、働く人の手取り急減が防げるため、「年収の壁」を意識せずに働けるようになると厚労省はみている。制度導入は企業ごとの労使合意が前提となる。高齢者の働き控えも防ぐ。一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」を縮小して、満額受給できる人を増やす。現在は給与と厚生年金の合計額が月50万円を超えると、受け取る厚生年金が減る。この基準額を62万円か71万円に引き上げる方向だ。高齢者の就労意欲がそがれないようにする。働く女性が増えていることを受け、配偶者が亡くなった際に受け取る遺族厚生年金も男女差をなくす。20歳代から50歳代で配偶者と死別して子がいない人の場合、給付期間を原則5年で統一する。これまでは30歳以上の女性は生涯支給、男性は55歳未満では支給なしだった。第三の柱は高所得者の負担増を通じた年金財政の安定だ。賞与を除く年収798万円以上の人の厚生年金保険料を増やす。現在は厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限が月収65万円となっているが、75万~98万円に引き上げる。同日の部会でパート労働者の厚生年金の適用拡大と遺族年金制度の見直しについて大筋で了承された。 *9-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA122ZV0S4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月12日) 年金「第3号」廃止要望、経済同友会・連合が一致 経済同友会と連合は12日、都内で幹部による懇談会を開いた。会社員に扶養される配偶者が保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」の廃止を求めることで一致した。終了後、経済同友会の新浪剛史代表幹事は「年金制度改革は5年に1度。5年後の実現を目指したい」と述べた。連合の芳野友子会長は「社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきだ。働きたくても働けない人への対応は福祉政策の側面で考える方がいい」と語った。懇談ではこのほか、賃上げの継続や適切な価格転嫁の推進などについても話し合った。 *9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241211&ng=DGKKZO85380490R11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.11) 財源確保、なお置き去り 実現、野党の賛成必要に 厚生年金の積立金などを活用し基礎年金を底上げする背景には、将来低年金で生活に困る高齢者を減らす狙いがある。実現には消費税1%分にあたる最大年2.6兆円の巨額の国庫負担が必要になるが、財源の確保は置き去りのままだ。「将来の安定財源の確保時期など曖昧な点が問題ではないか」。10日の社会保障審議会年金部会では、基礎年金の底上げに慎重意見も相次いだ。基礎年金の財源は半分は保険料などを活用するが、半分は国庫が出す。厚労省は具体的な策は示していない。高所得者にとっては年金の増加より税負担の増加が上回る可能性があり、国民にとってはわかりにくい。もともと厚労省は基礎年金の保険料を支払う期間を40年から45年にのばす案を検討していた。一定の負担をもとに受給額を増やす改革だ。働く高齢者が増えた今の時代にも合っていたが、負担増への批判が強かったため7月には早々と見送りを決めた。現在の厚労省案では今後、必要な安定財源をどう確保するかが火種になる可能性がある。抑制措置のマクロ経済スライドをデフレ下でも発動する改革も手つかずのままだ。基礎年金の底上げが必要となる背景には、過去のデフレ下で給付抑制がなされず「もらいすぎ」の状態が続き、年金財政が悪化したことがある。日本経済が再び長いデフレに陥れば、抑制措置が機能せず、将来の水準を一段と切り下げる必要に迫られる。ただ、厚労省幹部は「年金受給者が気にしているのは名目額だ」と、給付引き下げにつながるデフレ下での抑制には慎重だ。衆議院では与党が過半数を割り込んでいる。25年の年金改革を巡る厚労省案を実現させるには、国民民主党など一部野党の賛成を得る必要がある。国民民主は税制改正では所得税の「103万円の壁」の引き上げを強く主張しているが、年金改革で何にこだわるのかはまだ見えていない状況だ。厚労省が描く一連の制度見直しがどこまで形になるかは、少数与党という現状も重要な変数となる。過去の年金改革に比べ今後の不透明感は強い。 <イノベーション阻止による日本の停滞・政府の膨大な無駄使い・国富の流出> PS(2024年12月17、18、19、21日追加):*10-1-1は、①環境・経産両省は11月、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、世界的目標達成に向けた水準としては不十分 ②両省案は経団連が10月に提言した消極的な数字に沿っての現行目標の延長で、2035年度に2013年度比60%削減が軸 ③COP26は産業革命前からの平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを世界目標とし、COP28は「2019年比で2030年までに43%、35年までに60%削減が必要」と合意し、これは日本の2013年度比なら66%減に相当する ④(日本を含む)先進国が高い目標を掲げることは途上国に対策を促すことに繋がる ⑤短期的な経済的利点にこだわって低い目標を掲げるのは気候変動被害軽視 ⑥環境団体の批判だけでなく大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めている ⑦低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含め国際的に後れをとりかねず、策定中のエネルギー基本計画は世界水準との整合性がない ⑧温室効果ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべき としている。 日本政府(環境・経産両省)は、①②③のように、温質効果ガス削減の新しい目標案を示したが、経団連が提言した消極的数字に沿って現行目標の延長をしたため、COP26の産業革命前からの平均気温上昇を1.5℃に抑える世界目標もCOP28の段階的目標も達成していない。そのため、⑤⑥⑦のように、「低い目標で再エネ拡大を怠れば技術力を含めて国際的に後れをとる」として、大企業も含む気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体が「企業の産業競争力に影響する」として2013年度比75%以上の削減を求めているが、技術先進国であり続けたければ当然である。さらに、下段の右図のように、輸入化石燃料による発電が3/4近くを占め、⑧のように、石炭火力発電脱却への道筋も示せず、日本に豊富な再エネの拡大に全力を尽くさず、④のように、「途上国に対策を促す」等と言うのは、環境後進国の根拠無き自信と言わざるを得ない。なお、日本は外交力が低く、国民が稼いだ国富を海外に流出させて高い価格で化石燃料を購入することによって相手国との繋がりを保とうとするため、政府の無能力を国民からの搾取で尻拭いしており、いくら国民負担を上げても「財源がない」と言って国民を豊かにするための福祉政策が削られるのである。そのため、これらすべては、教育に由来するわけである。 また、*10-1-2は、⑨石炭産出国オーストラリアに「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、蓄電池が天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという通説を覆した ⑩豪州最大の資源最大手BHPグループは基幹電源を再エネで供給する契約を仏ネオエンと結び、ネオエンは風力・太陽光発電所の近くに巨大蓄電池を設置して電力を安定供給し、銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は26年6月に85%、2027年までに100%の実現を目指す ⑪米西部カリフォルニア州は蓄電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源 ⑫全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超し、市場でお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた ⑬国際エネルギー機関(IEA)は2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測 ⑭再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠 ⑮蓄電池の2023年導入量は、トップの中国27.1GW、米国15.8 GW、日本0.6 GW ⑯大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無で、米国は2022年成立のインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛り、蓄電池の製造業者に1 GWhあたり3500万ドル(約50億円)を減税して蓄電池工場を米国に誘致 ⑰中国政府は再エネを巨額支援して蓄電池シェアは世界首位 ⑱日本政府は次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があり、ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではなく、長期的に蓄電池を増やす政策にせず民間任せ」と疑問視している としている。 つまり、日本が石炭を輸入する石炭産出国のオーストラリアにさえ、⑨⑩のように「再エネ100%」の電力網を目指す州があり、豪州最大の資源大手BHPグループは仏ネオエンと結んで巨大蓄電池を使って電力を安定供給し、2027年までに南オーストラリア州の再エネ発電比率100%を目指すそうだ。ただし、「天候によって発電量が大きく変わる再エネは安定供給に向かないという“通説”を蓄電池が覆した」と書いてあるのは、蓄電池は1859年に発明され、必要に応じて改良されてきたものであるため(https://ncltrading.com/column/history/ 参照)、その“通説”自体が再エネ普及を妨げるため発せられた“俗説”にすぎず、そのことにすぐ気づかないのは勉強不足も甚だしい。 それに加えて、シェールガスやシェールオイルが出現して石油・天然ガスとも世界一の輸出入貿易を誇る米国(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009863.html 参照)でも、⑪⑫のように、カリフォルニア州で電池容量が5年間で15倍超に増え、日没後の送電は蓄電池が最大の供給源となり、全米の3割の太陽光パネルがカリフォルニア州に集積し、日中は発電量が消費量を超えて電気の「マイナス価格」が頻発しているいそうだが、電力料金の引き下げ・蓄電池の普及・水素の製造などを目的として電気のマイナス価格はあって良いと思う。これについて、*10-1-3は、「再エネ急増のひずみ(再エネ普及が悪い!?)」などと記載しているが、世界の電力料金が下がる中、日本の電力料金だけが高止まりしていれば、国民が仮に勤勉だったとしても日本の全産業の足を引っ張ってコスト競争力がなくなり、日本からは産業が消えて、国民は賃金引き上げどころか自給自足しなければならなくなるだろう。そして、これは日本政府やメディアの無能力の結果なのである。 一方、国際エネルギー機関(IEA)は、⑬のように、「2030年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再エネ発電比率が46%とほぼ半数になると予測」しており、当然のことながら、⑭⑮のように、再エネを基幹電源にするには蓄電池の大量導入が不可欠だが、2023年の蓄電池導入量は、中国27.1GW・米国15.8 GWで日本は0.6 GWに過ぎないそうで、これなら生産拠点が中国に移るのは当然と言える。これについて、⑯⑰は、大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無とし、日本政府は、⑱のように、次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト(資源エネルギー庁)」などという後ろ向きな声があるそうだが、日本の場合は、国立大学である東京大学が2016年の調査で南鳥島周辺海域に鉄・マンガン・レアメタル・コバルト等が含まれる海底鉱物資源(マンガンノジュール)が広範囲にあることを発見し、詳細な調査の結果、日本の排他的経済水域である南鳥島周辺の海底100km四方に約2.3億トンものマンガンノジュールがあると判明したのであるため、「日本は資源がない」「蓄電池は日本では海外より高コスト」などと言っているのは、(勉強不足か故意かは知らないが)不作為も甚だしいのである(https://news.yahoo.co.jp/articles/f12abc01b8fae98abfe90ba48a34424d1b9a2491 参照)。 そして、*10-2-1・*10-2-2・*10-2-3は、⑲経産省は原発建替の障害になる「可能な限り原発依存度を低減」という表現を削除して、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示した ⑳経産省は「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という表現も盛り込み、原発を再エネとともに最大限活用と明記 ㉑既存原発の大半の30基程度を再稼働させても2030年度目標20~22%、2040年度の原発割合が2割程度 ㉒ロシアのウクライナ侵攻による資源価格急騰で岸田前政権が原発推進に転換 ㉓次はデータセンター・半導体工場の新増設に伴って将来の電力需要増加に対応するという理由 ㉔廃炉作業中の玄海原発1、2号機(佐賀県)のかわりに九電川内原発(鹿児島県)敷地内での新設を見込み、原発建替要件を緩和して同電力会社なら廃炉が決まった原発敷地外でも建設できるとした ㉕2040年度の再エネ割合は 2023年度の22.9%から4~5割程度と提示したが、「最優先で取り組む」との文言は削除 ㉖2023年度68.6%の火力は2040年度3~4割程度とし、CO₂を多く排出するため世界的に廃止圧力の強い石炭火力割合は具体的に示さない ㉗再エネと原発を脱炭素社会実現の核に位置づけた原案は、パブリックコメントを経て来年2月頃閣議決定 ㉘2040年度電源構成は技術革新やデジタル化の進展に伴う電力需要増加を見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた ㉙安全性を大前提に安定供給・経済効率性・環境適合性が原則 ㉚経産省幹部によると「今回の狙いは軌道修正」 ㉛原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めていた ㉜再エネは天候に依存するため、安定的電力供給には原発が欠かせないとの立場 ㉝福島事故後に民主党政権が掲げたのは「2030年代原発0」だが、遠くかけ離れた未来図 ㉞新エネ基は、発電所建設支援制度対象の拡大、原発建設費・廃炉費を電気料金に上乗せして回収できる制度導入も盛り込み、原発推進に大きく転換 ㉟経産省が震災後に進めてきた電力自由化にも逆行 ㊱市民団体から「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判 等としている。 しかし、㉙のように、i)安全性が大前提 ii)安定供給 iii)経済効率性 iv)環境適合性が原則と言いながら、㉕㉗のように、平時から放射性物質を出し、事故時には人がコントロールできなくなって莫大な被害を与える原発を、再エネと同列に脱炭素社会の核に位置づけ最大限活用するのは、「iv)環境適合性」を脱炭素のみと意図的に狭く解釈している上、「i)安全性を大前提」にすれば原発は使えない筈であるため、根本的に矛盾を含んでいる。 また、技術革新は、デジタル化だけでなく再エネにも起こってコストが下がるため、真面目に再エネを増やせば2040年には国民負担を加味した「統合コスト」は原発の方が比較にならないくらい高くなり、再エネの方が「iii)経済効率性」でもずっと優れる。だからこそ、*10-2-4のように、無理なこじつけで「40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも」などという記事を書かなければならないのだ。つまり、技術革新があるため、㉘のように、2040年度の電力需給を見通すのが難しいのは当然である上、「ii)安定供給」についても、㉜のように、「再エネは天候に依存するから安定的電力供給に原発が欠かせない」などと言い続けて蓄電池の普及を妨げつつ再エネの安定電源化を阻害している人たちが「エネルギー基本計画」をたてること自体が市場に任せるより悪い結果をもたらしているのである。その上、㉟のように、東日本大震災と津波によるフクイチ事故ときっかけとして進めてきた電力自由化も反故にしている。 では、何故、日本の経産省は、㉒㉓のように、長期的展望のない思いつきの理由を並べて、⑲のように、原発回帰を鮮明にした「エネルギー基本計画」原案を有識者会議に示したのかと言えば、㉚のよう軌道修正しながらどうしても原発建替に漕ぎ着けたいからで、その浅薄な発想が現在の経産省の限界なのである。その過程として、㉑のように、既存原発のフル活用をまず示し、㉔のように、大手電力会社のために発建替要件を緩和し、㉞のように、発電所建設支援制度対象拡大・原発建設費・廃炉費は電気料金に上乗せして国民から徴収する制度を盛り込んで原発推進に大きく転換しているのだが、原発の方が再エネよりも安ければ支援金は一切不要であるため、㊱のように、市民団体が「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせる」と批判するのは当然なのである。 なお、㉖のように、日本政府は世界的に廃止圧力の強い輸入石炭による石炭火力発電廃止を考えていないため期限を設けず、㉛のように、原発は建設に20年程度かかるため2040年度の電源寄与は期待できないのに経済界が求めているのだそうで、経済界もこの程度であるため、先進的な企業の芽をつぶし、イノベーションの好機を逃して国を挙げてのコストダウンも出来ず、製造業の生産拠点は日本から海外に移って、実質経済成長率が低いままなのだ。 つまり、㉝のように、フクイチ事故をきっかけとして作られた「2030年代原発0」「再エネによるエネルギー自給率100%」「再エネによるエネルギーコスト大幅削減」という明確な展望は、日本の経産省と経済界によって潰されつつあり、⑳のように、「エネルギーミックス」「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」「原発を再エネとともに最大限活用」などと言って将来性のないことが明らかなエネルギーに補助し続けることによって、環境対策のみならず、真に合理的なエネルギーの普及を遅らせてコストを高止まりさせ、国民に無益な負担をさせているのであり、*10-2-5のとおり、時代の要請に全く応えていないわけである。 2022.7.4 Sustainable Switch 2022.6.27福島ミエルカ (図の説明:左図は、世界の再エネ発電・バッテリー・EV普及量とそれに伴うコスト低減の状況で、普及して大量生産すればコストが低減するという当たり前の結果が出ており、そのうち集光型太陽熱発電はあまり普及しないうちから化石燃料以下のコストになっている。また、右図は、世界の電源別発電コストで、再エネ《特に太陽光》が最も安く、原発が最も高くなっているが、再エネは設置費《固定費》はかかるが、運転費《変動費》がかからないため、大量に発電するほど発電単価が安くなり、電力会社の水力発電の事例が原価計算の教科書に出てくるのである) すべて2024.2.8 Carbon Media (図の説明:左図は、G7各国の2030年の電源構成だが、化石燃料を全量輸入しながら火力発電を41%も残すような馬鹿なことをするのは日本だけであり、ドイツ・イタリアが原発0で再エネ70~80%と意欲的、米国・英国・カナダも脱炭素化に意欲的である。中央の図は、日本の電源構成の推移だが、「エネルギーミックス」と称して思いつきでえいやっと決めた現状維持に近い数値を目標に掲げてきた結果、右図のように、現在でも石炭・LNG・石油による発電が約73%を占め、世界でも遅れた国になってしまったのだ) *10-1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S16105707.html (朝日新聞社説 2024年12月14日) 温室ガス削減 世界目標満たす水準に 温室効果ガス削減の新しい目標を決める期限が近づいている。先月、環境省と経済産業省が案を示したが、世界的な目標達成に向けた水準としては不十分だ。削減幅を上積みする必要がある。気候変動の国際ルールのパリ協定では、各国は「国が決定する貢献(NDC)」として削減目標を5年ごとに提出し、実現に向けて取り組むことになっている。次の提出期限は来年2月だ。環境・経産両省の案は、基本的には現行目標の延長で、2035年度に13年度比で60%削減するのが軸になっている。50年の排出実質ゼロと整合的な道筋だとの説明だ。しかし、これでは明らかに削減が足りない。21年の国連の気候変動会議(COP26)では、産業革命前からの平均気温の上昇を1・5度に抑えることが世界目標になった。昨年のCOP28では「19年比で30年までに43%、35年までに60%」の削減が必要と合意されている。これは日本が基準とする13年度比なら66%減に相当する。両省案の60%減では、この水準に届かない。温室効果ガスの排出を重ねて発展してきた先進国として、責任を果たす姿勢とは到底言えない。21年に掲げた現行の目標でも、30年度に「13年度比で46%削減」を目指すにとどまらず、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と世界に宣言していたはずだ。日本を含む先進国が高い目標を掲げることは、途上国に対策を促すことにもつながる。短期的な経済上の利点にこだわって低い目標を掲げるのは、すでに顕在化しつつある気候変動の被害を軽視するに等しい。地球温暖化で災害や熱中症に拍車がかかり、犠牲者が増えれば、国内経済も打撃を受ける。両省案は、経団連が10月に提言した数字に沿っている。経団連は1・5度目標の実現に必要な削減幅の範囲内に入るというが、その説明でも35年度段階での「幅」の下限に近い数字で、消極的な目標であるのは明らかだ。環境団体からの批判だけでなく、大企業も含め気候変動対策に積極的な約250社が加わる団体も「企業の産業競争力にも影響する」として、13年度比で75%以上の削減を求めている。低い目標で再生可能エネルギーの拡大を怠れば、技術力を含め国際的にも後れをとりかねない。策定中のエネルギー基本計画も、世界水準との整合性が問われる。温室ガスを大量排出する石炭火力発電からの脱却と、再エネの大幅拡大への道筋を明確にすべきだ。 *10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241214&ng=DGKKZO85470250U4A211C2MM8000 (日経新聞 2024.12.14) エネルギーの新秩序 国富を考える(4)「再エネ100%」導く革命 蓄電池、米欧中が覇権争い 石炭産出国オーストラリアに「再生可能エネルギー100%」の電力網を目指す州がある。天候によって発電量が大きく変わる再生エネは安定供給に向かないという通説を覆したのは、蓄電池の存在だ。鉱石を運び出す巨大なエレベーターが24時間動き続ける豪州最大の銅鉱山オリンピックダム。地下坑内を昼間のように明るく照らす照明や、換気や温度を管理するエアコンなど、操業には大量の電気を使う。 ●不安定さを克服 鉱山を運営する資源最大手BHPグループは、基幹電源を再生エネで供給する契約を仏ネオエンと初めて結んだ。ネオエンは風力・太陽光発電所近くに巨大蓄電池を設置、雨天や夜間も絶え間なく送電する。「蓄電池があることで電力が安定供給される」(BHPの責任者アナ・ワイリー氏) 銅鉱山のある南オーストラリア州の再エネ発電比率は2025年7月~26年6月に85%になる見通し。27年までに100%の実現を目指す。米西部カリフォルニア州のニューサム知事は10月、同州の蓄電池容量が5年間で15倍超に増えたと発表した。日没後の送電は火力発電などで補ってきたが、4月に蓄電池が初めて最大の供給源になった。「蓄電革命だ」(ニューサム氏)。蓄電池が増えたのは電気が余っているためだ。全米の3割の太陽光パネルが同州に集積し、日中は発電量が消費量を超す。電力卸市場ではお金を払って電気を引き取ってもらう「マイナス価格」が頻発していた。 国際エネルギー機関(IEA)は30年までに化石燃料の需要はピークを迎え、世界の再生エネの発電比率が46%とほぼ半数になると予測する。再生エネを基幹電源にするには、蓄電池の大量導入が不可欠となる。主要7カ国(G7)は4月の閣僚会合で、世界の蓄電容量を30年に22年比6.5倍に増やすことで合意した。英業界団体によると蓄電池の23年の導入量は、トップの中国が27.1ギガ(ギガは10億)ワット。米国が15.8ギガワットと続くが、日本は0.6ギガワットにとどまる。 ●戦略描けぬ日本 大差の理由は強力な蓄電池支援策の有無だ。米国は22年に成立したインフレ抑制法(IRA)に約50兆円の気候変動対策を盛った。蓄電池の製造業者に1ギガワット時あたり3500万ドル(約50億円)を減税し、蓄電池工場を米国に誘致した。中国が念頭にある。中国政府は再生エネを巨額支援し、蓄電池のシェアは世界首位。安価な中国製品が市場を席巻するのを米欧は警戒する。 欧州連合(EU)は23年に電池規則を施行し、廃電池のリサイクルを義務付けた。コバルトやリチウムなどの重要原材料は高い回収率を求め、中国などへの依存を減らす。日本は出遅れている。政府が策定する次期エネルギー基本計画の議論でも「(蓄電池は)日本ではまだ海外より高コスト」(資源エネルギー庁)と後ろ向きな声があがる。ある国内事業者は「コストが高いことが原因ではない。日本は長期的に蓄電池を増やす政策になっておらず、事実上民間任せだ」と疑問視する。 *10-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1041D0Q4A710C2000000/?n_cid=SPTMG002 (日経新聞 2024年7月14日) 電力「マイナス価格」世界各地で 再エネ急増のひずみ 世界の電力卸市場が再生可能エネルギー急拡大の「ひずみ」を映している。天候に左右されやすい太陽光や風力発電が需給をかく乱し、取引価格がマイナスになる事例が頻発している。事業者の収益悪化を招き再生エネへの逆風となりかねない。1メガワット時マイナス67ドル、マイナス87ユーロ、マイナス45オーストラリアドル――。2024年の春から夏にかけて、米国や欧州、豪州の電力卸市場で取引された電力価格(1日前取引のスポット=随時契約)の一例だ。マイナス価格は発電事業者が小売業者や需要家にお金を支払って電力を引き取ってもらうことを意味する。原油では新型コロナウイルスの感染拡大で需要が消失した20年春に史上初めてマイナス価格をつけたが1〜2日で解消した。そうそう起きることではない。しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日しかし、電力市場ではマイナス価格が慢性化している。LSEGのデータによると、フランスのマイナス価格発生時間は1〜6月で計205時間と、すでに23年の1年分(128時間)を超えた。ドイツも224時間と前年同期から3倍に増え、スペインでも4月に初めてマイナスを記録した。米カリフォルニア州でも1130時間と全時間の4分の1を占め、23年の同時期と比べると3.5倍、22年からは10倍超に膨れ上がっている。豪州や北欧でも23年以降、マイナス価格が慢性化している。原因は再生エネの急拡大だ。発電事業者は気象予報などをもとに、翌年や翌月、翌日の電力需要を予測し、需要に見合った発電計画を立てる。前日時点で供給不足が見込まれる場合は市場で買い、余る場合には売る。原子力や石炭、ガスといった安定電源が主力だったころは発電計画を立てることが容易だったが、再生エネの拡大が需給予測を困難にした。太陽光は晴天時に多くの電力をつくるが、曇天や雨天であれば発電量は極端に下がる。前月や数日前時点の気象予報は前日になって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。なって変わることも多く、需給バランスを乱す。6月1日の米カリフォルニア州の例を見てみよう。夜間にほぼゼロだった太陽光の供給力は太陽が昇る午前6時ごろから急拡大し、午前11時ごろには全供給力の8割超にのぼる17ギガワットに到達。午後5時ごろまではほぼ同水準を維持したのちに急低下し、日没後の午後8時すぎには再びほぼゼロに戻った。発電事業者は太陽光の供給増を見て水力やガス火力の供給力を減らしたものの、全てを相殺することは難しい。多くの時間や作業のコストがかかるため頻繁に停止・再稼働できない原子力は発電を続けざるを得ない。こうして市場で余剰電力の売りがかさみ、価格は午前7時から午後5時の間、マイナスに沈み続けた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、欧州の太陽光発電の容量は23年に288ギガワットと18年から2.4倍に増えた。太陽光パネル1枚の出力を200ワットとすると、23年だけで毎日74万枚のパネルが追加されている計算だ。米国も2.7倍、豪州も3.0倍となった。マイナス価格は発電事業者の収益悪化につながりかねず、事業者の間では再生エネへの投資を見直す動きも出ている。欧州最大の再生エネ発電会社スタットクラフトは6月、再生エネの導入目標を従来の「25年以降に年2.5ギガ〜3ギガワット、30年以降に同4ギガワット」から「26年以降に2ギガ〜2.5ギガワット」に引き下げた。ビルギッテ・ヴァルトダル最高経営責任者(CEO)は「再生エネの市場環境がより厳しくなっている」と話す。イタリアの電力大手エネルも23年11月、再生エネへの投資を23〜25年の170億ユーロ(約3兆円)から24〜26年には121億ユーロに減らすと決めた。ポルトガル電力大手EDPも24年5月に「電気料金の低下と高金利」を理由に目標を引き下げた。スウェーデン金融大手SEBグループのチーフコモディティアナリスト、ビャーネ・シールドロップ氏は「太陽光発電の急増は自らの収益性を破壊する『ハラキリ』だ」と表現する。とはいえマイナス価格は「他の電源の供給を抑えても余るほど再生エネの普及が進んでいることの証左」(日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事)で、再エネ積極導入の副作用とも言える。事態打開のカギを握るのは、蓄電池や送電網といった周辺インフラの拡大だ。蓄電池が普及すれば、マイナス価格時に電力を購入・貯蔵し、高価格の夜間に利用することができ、需要増で日中の価格も上昇する。送電網を通じて余剰電力を別の地域に融通することも可能となる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界で蓄電池や送電網への投資額は18年から23年に1.2倍に伸びたものの、再生エネの1.9倍に比べると弱い。英調査会社ウッドマッケンジーのサイモン・フラワーズ会長は「送電網と蓄電への投資は再生エネの成長に合わせなければならない」と指摘。「電力価格下落に触発された米欧では周辺インフラへの大規模投資が着々と進んでいる」(国際ビジネスコンサルタントの高井裕之氏)という。一方、日本ではマイナス価格導入はまだ検討段階で、国の制度に基づく電力会社による出力抑制という形で、発電事業者に負荷を強いるのみだ。太陽光発電協会(東京・港)の増川武昭事務局長は「できるだけ自由な市場メカニズムを通じて行動変容を促す欧米と、市場機能への評価が低く介入が許容される日本との違いだ」と話す。日本の太陽光発電の導入量は18〜23年で1.6倍にとどまり、伸び率も年々縮小するなど伸び悩んでいる。再生エネ再加速に向け、日本でも電力市場の役割をいま一度見直す余地はありそうだ。 *10-2-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1375810 (佐賀新聞 2024/12/17) 原発、再エネと最大限活用、2割維持、大半を再稼働へ 経済産業省は17日の有識者会議で、中長期的な政策指針「エネルギー基本計画」の原案を示した。2011年の東京電力福島第1原発事故以降に記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除。再生可能エネルギーとともに最大限活用すると明記した。40年度の発電量全体に占める原発の割合は2割程度と見通した。既存原発の大半に当たる30基程度を再稼働させる想定で、30年度目標の20~22%と同水準を維持した。原発は建て替えの要件緩和も盛り込んだ。同じ電力会社であれば、廃炉が決まった原発の敷地外でも建設できるようにする。政府関係者によると、当面は玄海原発1、2号機(佐賀県)の廃炉作業中の九州電力が川内原発(鹿児島県)の敷地内に新設することを見込んでいる。40年度の再エネの割合は4~5割程度と提示。23年度の22・9%から約2倍に増やすが、前回計画にある「最優先で取り組む」との文言は消した。23年度に68・6%の火力は40年度に3~4割程度にする。二酸化炭素(CO2)を多く排出し、世界的に廃止圧力が強い石炭火力の割合を今回は具体的に示さない。国内では削減ペースが予測しにくいと説明している。原案は17日の議論を踏まえ来週の有識者会議に諮る。パブリックコメント(意見公募)を経て、来年2月ごろの閣議決定を目指す。40年度の電源構成は、技術革新やデジタル化進展に伴う電力需要の増加を明確に見通すのが難しいため、前回計画に比べ幅を持たせた。21年に閣議決定した現行の計画では30年度の電源構成は原発の他に、再エネが36~38%、火力が41%、水素・アンモニアが1%。エネルギー基本計画 日本の中長期的なエネルギー政策指針。2002年施行のエネルギー政策基本法に基づいて策定する。おおむね3年ごとに見直し、閣議決定する。今回は第7次計画となる。安全性を大前提に安定供給、経済効率性、環境適合性を原則とする。東京電力福島第1原発事故以降は、福島の復興・再生を最重要課題と位置付けている。 *10-2-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1376505 (佐賀新聞 2024/12/18) 【エネルギー基本計画】官僚主導の原発復権、政権弱体化で念願成就へ 経済産業省が17日提示した次期エネルギー基本計画の原案は、原発の復権を強く打ち出した。少数与党で弱体化し、政治的な資源を割く余裕がない石破政権を横目に、経産省が議論を主導。脱炭素化に加え、脆弱な供給体制、人工知能(AI)普及に伴う大量電力消費時代の到来を訴え、念願である原発建て替えの要件緩和にもこぎ着けた。 ▽軌道修正 「今回の狙いは軌道修正だ」。経産省幹部はこう解説する。前回の計画は菅義偉元首相が表明した「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」達成に向け、政治主導で再生可能エネルギーの偏重を迫られたとの思いがある。現在は閣外の河野太郎行政改革担当相と小泉進次郎環境相(いずれも当時)が再エネの割合を高めるよう水面下で強く働きかけたと、前回のとりまとめ作業を知る関係者は証言する。それが野心的な30年度の再エネ目標36~38%につながった。今回は対照的に政治の影が薄かった。自民党総裁選で一時言及した「原発ゼロ」を早々と封印した石破茂首相は「議論に口出ししなかった」(経産省関係者)。政府内には「そもそも関心がない」といった声も漏れる。その結果、40年度の原発の電源割合は、既存原発のフル活用を事実上意味する2割程度に設定。一方の再エネは4~5割程度と最大電源に位置付けたものの、30年度目標から大きな上積みがあったとは言い難い。 ▽敷地外も 「戦後最大の難所」。別の経産省幹部は、データセンター増設や半導体産業の強化で電力需要が高まる中、温暖化対策で火力発電所の休廃止も進めなければならない当面のエネルギー事情をこう表現する。再エネは天候に依存するため、安定的な電力供給には原発が欠かせないとの立場だ。既存原発を廃炉にする際、別の原発敷地での新設を容認する「敷地外」の建て替えにも道筋を付けた。建設には20年程度を要するため、40年度電源への寄与は期待できないが、その先を見据えて経済界が求めてきた。「将来的に原発に依存しない社会」と訴える連立与党の公明党はこれまで「敷地内」に限って認めてきたが、衆院選で議席数とともに発言力を減らし、容認に転じた。公明のエネルギー基本計画に対する提言は、経産省との文言調整を重ねた上で「わが党の基本的な方針に変わりはない」と書き込むのにとどまった。公明幹部は「(建て替えても)原発の数は今より増えない」と強弁するしかなかった。 ▽住民不在 次期エネルギー基本計画も東京電力福島第1原発事故を受け、福島の復興・再生を最重要課題と位置付ける。ただ、地元との話し合いに割かれた時間は短く、住民不在の懸念は尽きない。NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は「正面から福島の事故に向き合わず、経産省主導で原発の積極活用に踏み込んだ。空虚な議論で終わっている」と指摘する。経産省内では「やりたいことが粛々と進む」(中堅幹部)と楽観論が広がり、原発新増設を訴える国民民主党との協力を期待する声もある。福島事故後に当時の民主党政権が掲げたのは「30年代に原発ゼロ」。事故から14年近くたつ今、遠くかけ離れた未来図が描かれている。 *10-2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASSDC3GR5SDCULFA00XM.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2024年12月11日) 原発依存度「可能な限り低減」の文言削除へ 経産省のエネ基本計画 国の中長期のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」(エネ基)について、経済産業省が近くまとめる新しい計画案の概要が分かった。東日本大震災後に掲げた「原発依存度を可能な限り低減する」との表記を削り、原発回帰の姿勢をより鮮明にする。経産省が来週にも開く有識者会議で素案を提示する。「低減」の文言をなくすかわりに、「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」という趣旨の表現を盛り込む方向で、最終調整している。エネ基はおおむね3年に1度のペースで改定し、震災後の2014年に策定した計画では「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する」と掲げた。その後の改定でも「可能な限り低減」の文言は維持されてきた。だが、ロシアによるウクライナ侵攻により資源価格が急騰したことをきっかけに、岸田文雄前政権は原発推進に転換。22年6月、経済財政運営の指針となる「骨太の方針」で、前年に盛り込んでいた「依存度低減」の表記を見送り、原発を「最大限活用する」と踏み込んだ。23年2月に閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」でも、原発回帰の動きを鮮明にした。新しいエネ基もその流れを引き継ぎ、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む方針だ。GX基本方針では建て替えを「廃炉を決めた原発の敷地内」に限ったが、新しいエネ基には、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも、廃炉した分だけ原子炉をつくれるようにする案を盛り込む。ただ、40年度の電源構成に占める原発の割合は2割を目標とし、震災前の3割には達しないとする。その分、再生可能エネルギーは4~5割に増やし、火力は3~4割とする方向だ。新しいエネ基の議論は今年5月に始まり、40年度に向けて原発を再生可能エネルギーとともに脱炭素電源と位置づけ、「拡大する必要がある」との議論が進む。データセンターや半導体工場の新増設に伴い、将来の電力需要が増加する可能性が高く、それに対応するためとの理由だ。ただ、稼働できる原発が減っていくため、少しでも早く原発の建て替えに着手したい経産省にとって、障害になりうる「低減」の文言を削ることが課題だった。「低減」は「足かせ」だった政府が原発回帰の姿勢を改めて鮮明にした。近く示す新しい「エネルギー基本計画(エネ基)」の素案で、これまで掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との文言を削り、原発の建て替え(リプレース)にも踏み込む。今後は電力需要が増えるため、原発を最大限活用するべきだとの理屈からだ。福島事故の反省をふまえた方針が、転機を迎える。「(次の)エネ基の最大のミッションは、依存度低減の文言を書き換えることだ」。経済産業省の幹部はエネ基の改定にあたり、こう語っていた。原発推進を掲げる同省にとって、「低減」の一文が政策の求心力をそぐ「足かせ」となっていたという。それが外れることで、原発の支援策も大手を振って打ち出せる。新しいエネ基には、原発への投資を後押しする新制度についても盛り込む。エネ基はおおむね3年に1度改定する。同省は今回のタイミングに向けて、手を打ってきた。岸田文雄前政権が、ウクライナ危機をきっかけに立ち上げた「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」だ。会議では脱炭素社会の実現をめざすため、再生可能エネルギーとともに原発も核に位置づけた。2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」では、原発を「最大限活用する」とし、廃炉を決めた原発内での建て替えも認めた。原発回帰には慎重だった公明党も、GX基本方針を了承した。廃炉した分だけ建て替えるなら、原発の基数は増えないからだ。新しいエネ基では、同じ電力会社ならほかの原発の敷地でも廃炉した分だけ建設することも認める。同党は先の衆院選でも「将来的に原発に依存しない社会をめざす」とする公約を掲げた。新しいエネ基から「低減」を削ることとの整合性が問われそうだが、足元では再稼働すら順調に進まず、40年度の電源構成に占める原発の割合も2割を目標とする。東日本大震災前の3割には達しないことから、受け入れたもようだ。週内にも政府に出すエネ基に向けた「提言」にも、「低減」の文字は盛り込まない。新しいエネ基には、発電所の建設支援制度「長期脱炭素電源オークション」の対象を拡大し、原発の建設費や廃炉費を電気料金に上乗せして回収できるようにする制度の導入についても盛り込む。「低減」どころか、原発推進に向けて大きく転換する。経産省が震災後に進めてきた電力自由化に逆行するともいえる。市民団体からは「発電事業者や投資家が負うべきコストやリスクを一般市民に広く負わせるものだ」との批判もあり、慎重な議論が求められる。 *10-2-4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1622U0W4A211C2000000/ (日経新聞 2024年12月16日) 40年度の原発発電コスト、再生エネより割安ケースも 経済産業省は16日、2040年時点の電源ごとの発電費用の試算結果を発表した。発電費用だけをみると太陽光発電が原子力を下回るものの、関連コストを合わせると原発の方が下回る可能性があるとの結果を示した。太陽光は昼間しか発電できず、電気が余った時間には使われずに捨てられるケースがある。再生エネを大量に導入すると、電力の需給を均衡させるために発電をとめる出力制御と呼ぶ費用も発生する。こうした費用を加味した「統合コスト」を検証した。経産省が試算のとりまとめ案として同日公表した資料によると、各電源の発電費用は1キロワット時あたり、太陽光(事業用)が8.5円、原子力が12.5円以上、洋上風力(着床式)が14.8円、液化天然ガス(LNG)火力が19.2円などとなった。各電源の統合コストについては1キロワット時あたり太陽光(事業用)が15.3〜36.9円、原子力が16.4円以上、洋上風力(着床式)が18.9~23.9円、LNG火力が20.2〜22.2円などとなった。関連コストなどを合わせると再生エネよりも原子力が割安になる可能性があるとした。現行のエネルギー基本計画を策定した際に検証した電源別コストでは、1キロワット時あたりの発電費用が30年時点で太陽光(事業用)なら8.2〜11.8円、LNG火力なら10.7〜14.3円、原子力が11.7円以上、洋上風力が25.9円などと見込んでいた。経産省は週内にも示す次期エネルギー基本計画の素案に今回の結果を反映する。11年の東日本大震災後に加わり、21年度に閣議決定した現行の計画でも明記している「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除し、原子力を再生エネとともに最大限活用することを記す方針だ。 *10-2-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1377035 (佐賀新聞 2024/12/19) エネルギー基本計画素案 時代の要請に応えてない 経済産業省が、新たなエネルギー基本計画の原案を示した。東京電力福島第1原発事故以降、明記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を撤回。同一原発の敷地内に限って認めていた建て替えの要件も緩和するなど「原発回帰」を鮮明にした。2040年度の電源構成は現状の2割程度を維持した。経済界の一部意見に沿った内容だが、原発の将来に関する議論は不十分だし、高コストで建設から運転開始まで長時間を要する原発の電力安定供給や、気候危機対策への貢献は限定的だ。気候危機やエネルギー安全保障を視野に入れた将来ビジョンなしに、既得権益の調整に終始する過去の過ちを繰り返した結果で、時代の要請に応えたとは言いがたい。原案は、原子力について安全性の確保を大前提に必要な規模を持続的に活用していくとした。だが、23年度の原発の発電比率は8・5%で、30年度に20~22%とする現行目標達成すら危うい。今後、廃炉となる原発も見込まれ「40年度2割」の実現には再稼働や運転期間の延長、新増設などに多額の投資が必要になる。大手電力会社にその体力はほとんど残っていないのが現実だろう。熟議に基づく合意と、裏打ちとなる政策導入の見通しがない方針転換はあまりに無責任だ。深刻化する気候変動への危機感が極めて希薄なのも原案の大きな問題点だ。産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるという日本も支持する国際目標の達成には、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量を今から早急かつ大幅に減らし、50年には実質ゼロにすることが求められている。40年度が視野の新計画では、そのための野心的なビジョンを示した上で、思い切った政策メニューを示すことが求められているのだが、原案にはそれがない。40年度の電源構成は再生可能エネルギーを4~5割程度、火力発電は3~4割程度で、30年度の目標と大差ない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や1・5度目標への言及もない。気候危機の解決に加え、エネルギー安全保障を確保し、化石燃料購入費の国外流出を防ぐために、短期間で何より効果的なのは再生可能エネルギーの大幅導入だ。にもかかわらず原案からは再エネ導入に「最優先で取り組む」との文言が消えた。目標数値も既に一部の国で達成されているレベルの小ささだ。石炭火力への依存を続ける日本には国内外から厳しい批判が出ているが、火力のどれだけを石炭が担うのかは示されていない。「35年までに電力供給の全て、または大部分を脱炭素化する」という日本を含めた先進7カ国(G7)の合意はどこに行ったのだろうか。ヒアリングの中で、1・5度目標の重要性や世代間の公平性に基づく長期的な視点の明記を訴えた若者団体の声が反映されることはなかった。経産省は40年度の温室効果ガス削減割合として13年度比で73%という数字を示したが、この目標案にも「先進国としては不十分で1・5度目標に整合的でない」との批判が根強い。温室効果ガスの大排出国としての国際的な責任、次世代の人々に安全安価で持続可能なエネルギーを提供するという責任。原案はその両者から目を背ける内容だ。 <日本の停滞・低成長の理由 ← 傲慢さと科学に基づくイノベーションを嫌う国民性> PS(2024年12月22~27日追加):新興国が世界市場に参入し始めたのは、今から35年前の1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、同年12月に米国のブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が「冷戦終結」を宣言した時からで、それまで社会主義体制下にあった国々は、教育水準は高かったが人件費は安かったため、安価な生産基地として世界市場に参入してきた。つまり、冷戦中、日本が生産国として独壇場のような経済成長をすることができたのは、社会主義国が世界市場に参加していないという幸運があったからなのである。 そのような中、*11-1-1・*11-1-4は、①ホンダ・日産は持株会社設立を目指し経営統合協議に入る ②三菱も持株会社への合流検討 ③持株会社を上場させ、ホンダ・日産両社は上場廃止方針 ④持株会社社長はホンダの取締役から選出し、取締役の過半もホンダ ⑤EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示していた ⑥鴻海幹部が日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオCEOと会談する可能性も ⑧鴻海が経営参画すれば一段と踏み込んだリストラを迫られるため、内田社長はホンダとの経営統合を選んだ ⑨ホンダ・日産・三菱3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる 等としている。また、*11-1-2は、⑩世界の自動車大手が戦略の転換点を迎え、EVや車載ソフトウエアを強みとするBYDやテスラ等の新興勢との競争激化で経営環境が厳しい ⑪EVを軸にした協業や連携相手の変更、大規模リストラを通じ100年に1度と言われる変革期を乗り越えようとしている ⑫自動車産業の構造はダイナミックに変化し、対応できない企業は淘汰 ⑬ガソリン車を強みとした自動車メーカー間で、EVを軸に新たな提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ ⑭GMはホンダとの低価格EV量産を中止、新たな連携先として韓国の現代自動車を選択 ⑮2024年7~9月の自動車世界販売は、BYD(前年同期比38%増)、テスラ(6%増)、ホンダ(8%減)、日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減) ⑯ホンダ・日産に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ・VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点ではテスラ・BYDには及ばず ⑰今後の競争の軸となる自動車の電動化・知能化に向け巨額な投資が必要になり、各社とも適切な人員・生産規模・協業相手を見極めて機動的に構造対策に踏み切る重要性増 としている。 しかし、自動車は、1769年(周囲は馬車)にフランスでキュニョーが蒸気自動車を発明し、1873年にイギリスで電気式四輪トラックが実用化され史上初の時速100㎞超を達成し、その後、1885~1886年にドイツでダイムラーがガソリン車を発明し、1908年からアメリカでフォード社が自動車を大衆化し(https://gazoo.com/feature/gazoo-museum/car-history/13/05/30_1/)、その間もニーズに合わせて改良されてきたため、⑪のように、「100年に1度の変革期」と言うのは、現在の形のガソリン車しか知らない人の固定観念である。そして、世界中で自動車が普及する中で加えるべき付加価値は、大気を汚さず、地球温暖化を防止し、何処にでもある安価なエネルギーを使うことと、少子高齢化に対応して運転しやすいことなのである。 そのため、日産が2010年12月に初代EVを市場投入し、2017年10月に「プロパイロット」「プロパイロット パーキング」を搭載する等の「電動化」「知能化」を進めたのは変化を先取りしていて良かったのだが、その後、HVに投資し始めたりして資金を分散させたのは、自らの売りとなる技術を伸ばさずに後ろ向きの技術に資源を浪費したと言わざるを得ない。世界では、⑬⑰のように、競争の軸が「電動化」「知能化」であり、EVを軸とした提携関係や協業相手の見直しが相次ぐ中、日産は軸がぶれて利益を減らし、①④のように、ホンダ・日産が設立する持株会社では社長と取締役の過半をホンダに占められることになったのである。なお、日本では、⑧のように、リストラを嫌うため、企業のイノベーションに時間がかかりすぎ、高コスト構造で、世界競争に負けるという現実もある。 また、(共同記者会見で日産の内田社長とホンダの三部社長は否定しておられたが)メディアは、⑤⑥のように、EV事業参入を表明した鴻海精密工業が、日産のEV開発力・製造技術に目をつけて日産への経営参画意欲を示し、鴻海の幹部が日産株を持つ仏ルノーのデメオCEOと会談する可能性もあったため、ホンダと日産の経営統合が進んだとしていた。これについては、オリンピックのスポーツではないので、⑨のように、一瞬、販売台数が世界3位の日本の自動車会社ができたとしても、その提携や統合の後に長所を活かし合ってシナジー効果を出せなければ心中せざるを得なくなる。つまり、⑫のように、自動車産業もダイナミックな変化に速やかに対応できなければ淘汰されるのであり、ホンダも日産も三菱も、他の会社の動きとは関係なく、本当に必要で最善の提携先を探さなければならないのだ。そのような状況の中、③の持株会社を上場させて、ホンダ・日産両社が上場を廃止する方針なのは、いつぞやの日産のように、短期的視野で外野からくだらない指摘をされないためには良いと思うが、②のように、三菱も持株会社に合流して日本の自動車会社がたった2グループになってしまうと、⑯のように、規模が大きくなって、国内では寡占状態となり、競争が起こらず多様性に欠けそうな気がする。しかし、世界では、⑩⑭⑮のように、BYD・テスラ・現代等の新興自動車会社が出てきており、日本人でもBYDやテスラを選ぼうかと思うため、i-MiEVを作った三菱でも厳しい競争環境にいることは推測できる。 なお、前日産自動車会長のゴーン氏は、*11-1-3のように、⑱似た製品を同じ市場で展開しているため、日産とホンダは事業にほとんど補完性がなく、ホンダと日産の経営統合に相乗効果を見いだすのは難しい ⑲背景には日本政府(経産省)の圧力があり、ホンダはこの協議に押し込まれた ⑳日産は米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない とされており、私も⑲は事実だと思うが、⑳のように、日産が米国や中国で苦戦しているのに対し、ホンダは、“脱エンジン”の電動化戦略を2021年4月に発表し、2024年3月期の連結営業利益は1兆円に達して米国を中心とする北米市場の四輪事業で前期比38%もの販売増を見込んでいるため、技術と販売市場での相互補完性はあると考えている。 2024.12.19日経新聞 2021.5.11大学院 2023.6.8CNETJapan (図の説明:左図のように、IEAは2035年に世界のEV販売は5,000万台に達すると予測している。しかし、中央の図のように、世界のEV販売台数・保有台数は中国・欧州・米国が上位で、将来予測ではインドが加わるが、世界で最初にEVを市場投入した日本は「その他」に入っている程度だ。また、右図は、世界のEV販売台数トップ10で、アジアでは1位にBYD、9位にHYUNDAIが入っており、日本の姿は見えない。そして、何故、こういう結果になったのかは、多くの人が知っているだろう) 左から、2023.1.4、2022.10.19、2024.12.18、2024.12.18日経新聞 (図の説明:1番左の図のように、日本は屁理屈をこねてガソリンエンジンやガソリンスタンドの保護に固執したため、人口1万人あたりの公共充電器数が世界でも低い方になっており、これでは日本の自動車産業の未来は暗い。しかし、EVを世界で最初に市場投入したのはゴーン氏率いる日本の日産自動車であり、左から2番目の図のように、その技術力や可能性にルノーは魅力を感じていたのだが、検察を使ってゴーン氏を退任させ、世界では通用しない方向に日産の経営方針はかわった。その結果、取り柄を失って日産の利益は次第に縮小し、右から2番目の図のように、身売りに近い統合話が持ち上がっているのだ。なお、研究開発費も固定費であり、積極的に研究開発しながら利益を上げるには効率的な技術開発に加えて販売規模の大きさが必要であるため、1番右の図のように統合や協業が進んでいるのだが、経営方針の誤った統合は瞬間的に売上規模が大きくなるだけで、その後は次第に衰退していくものである) *11-1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85565050Z11C24A2MM8000 (日経新聞 2024.12.19) ホンダ・日産、EV世界競争へ連合、来週統合協議入り 「鴻海の買収」危機感 ホンダと日産自動車は23日にも経営統合に向けた協議に入る。背景にはトヨタ自動車と並ぶ2大勢力の結集に向けたホンダの強い覚悟がある。巨額投資が必要な電気自動車(EV)やソフトウエア搭載車(総合2面きょうのことば)の世界競争で劣後する状況の打破をめざす。日産には台湾電機大手・鴻海(ホンハイ)精密工業が経営参画の意欲も示しており、買収回避へ一気に統合に動いた。今秋、日産の周辺に鴻海の影がちらついていた。鴻海は2019年にEV事業への参入を表明した。日産が持つEVの開発力や製造技術に目をつけ、経営参画に動いていた。ホンダと日産はその動きを察知した。「日産と鴻海が連携すれば、こちらの連携は白紙に戻す」。ホンダ幹部は日産に強く警告していたが、焦りの裏返しでもあった。両社は8月に全面提携を発表した。ホンダにとって日産との協業は成長の軸で、破談は何としても避けたい。鴻海が日産に対して敵対的TOB(株式公開買い付け)に踏み切れば、ホワイトナイト(友好的買収者)になることも検討していた。同時期に日産の内田誠社長は業績面でも追い込まれていた。「日産を救済すると共倒れリスクがある」。ホンダ幹部は驚いた。11月に日産が発表した24年4~9月期の連結純利益はわずか192億円。前年同期比で9割も落ち込んだ。想定以上の業績悪化に、ホンダ側でも近づきすぎることに反対意見が出るようになった。日産は抜本的な構造改革の策定に時間をとらざるをえなくなった。9000人の人員削減や世界生産能力の2割減を打ち出したが、具体的なプランの公表は遅れていた。決断が遅い経営陣に対して、日産社内でも批判の声が高まっていた。12月に入り、内田社長は苦境ぶりが深まる。日産は構造改革のスピードを速めるために、前倒しで経営人事を見直した。最高財務責任者(CFO)ら一部担当の席替え人事にとどまった。内田社長は続投が決まったが、一部から反対の声が上がり、全面的な信任は得られなかった。「内田社長を継ぐ人材が育っていないだけだ」。社内からは厳しい声が聞こえるようになってきた。鴻海の動きも活発になっていた。中旬には鴻海幹部と日産株を持つ仏ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)が会談する可能性があるとの情報も入ってきた。鴻海が経営に参画すれば、一段と踏み込んだリストラを迫られる。追い込まれた内田社長は、挽回策として自主再建でなくホンダとの経営統合の道を選んだ。将来的には三菱自動車との合流も視野に入れる。3社で販売台数が800万台を超える世界3位グループになる。「3社連合は10年来の悲願だ」。ホンダの三部敏宏社長は実現の意欲を周囲に隠してこなかった。世界のEV市場で生き残りに必要な規模だと考えていた。18日の東京株式市場で日産株が制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比80円(24%)高の417円60銭で取引を終えた。収益改善への期待感から買いが先行した。一方で、ホンダ株は財務の悪化懸念から一時4%安となり、年初来安値を更新した。今回の経営統合は日産の救済ととらえる投資家が多く、ホンダの投資負担の拡大を嫌気したとみられる。ホンダと日産は社内の反対や批判を乗り越えて提携に動き出した。経営資源を結集して生き残れるか。早期に相乗効果を示すことが求められる。 *11-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241219&ng=DGKKZO85564850Z11C24A2EA2000 (日経新聞 2024.12.19) 自動車大手、迫られる改革 協業相手組み替え/大規模な人員削減 世界の自動車大手が戦略の転換点を迎えている。新興勢との競争激化により、多くは経営環境が厳しい。電気自動車(EV)を軸にした協業や連携相手の変更、大規模なリストラなどを通じて、100年に1度とも言われる変革期を乗り越えようとしている。「自動車産業の従来構造はダイナミックに変化している。対応できない企業は淘汰される」。8月、日産自動車とのEV協業について記者会見したホンダの三部敏宏社長は危機感を隠さなかった。ホンダと日産が三菱自動車を加えて世界3位グループを目指す背景には新興勢の成長がある。EVや車載ソフトウエアを強みとする中国・比亜迪(BYD)や米テスラが勢いを増している。ガソリン車を強みにしてきた自動車メーカーの間で、EVを軸に新たな提携関係を結んだり、協業相手を見直したりする動きが相次いでいる。伝統的な自動車メーカー同士の提携が主だった従来と比べ、業界内の連携の様相は大きく変わった。米ゼネラル・モーターズ(GM)はホンダとの低価格EVの量産を中止し、新たな連携先として韓国の現代自動車を選んだ。電池やソフトウエアなど次世代車で規模を追求する。独フォルクスワーゲン(VW)は中国の新興EVメーカー小鵬汽車(シャオペン)に7億ドル(現在の為替レートで約1070億円)を出資し、中国向けに多目的スポーツ車(SUV)など2車種のEVを共同開発している。欧州自動車大手のステランティスは、中国EV新興の浙江零●科技(リープモーター・テクノロジー、●はあしへんに包)との共同出資会社をオランダに設立した。24年7~9月の自動車の世界販売は、BYDが前年同期比38%増の113万台と躍進し、テスラも6%増と前年同期を上回った。対照的にホンダ(8%減)や日産(4%減)、VWグループ(7%減)、GM(9%減)、ステランティス(20%減)などは軒並み前年同期を下回った。新たな協業先探しと並行して、自動車大手は構造改革を急ぐ。まず、現地企業の攻勢を受けている中国市場で工場閉鎖などを進めている。GMは4日、中国の工場閉鎖や事業再編で50億ドル超の特別損失計上を発表。GMの中国の自動車販売台数はピークの17年は400万台だったが、直近の23年は210万台まで減った。VWも上海汽車集団(SAIC)との合弁工場を閉鎖する検討に入っている。日本勢もホンダが中国でのガソリン車の生産能力を3割減らす方針を固めている。中国ではスマホメーカーの小米(シャオミ)や華為技術(ファーウエイ)など異業種からの参入も相次ぐ。日米欧の自動車メーカーが巻き返すのは容易ではない。中国市場の依存が高かった欧州勢は、地盤の欧州域内のリストラにまで影響が及んでいる。VWは欧州でのEV需要の低迷と高コスト体質も響き、独国内で少なくとも3工場の閉鎖と数万人規模の人員削減などを労組に通告した。同社にとってドイツでの工場閉鎖は初となる。ステランティスも最大2万5000人の削減を検討している。12月にはカルロス・タバレス氏が任期途中で最高経営責任者(CEO)を辞任することを発表するなど経営が混乱している。ホンダと日産も新興勢に対抗するために次の一手が求められていた。両社に三菱自動車を加えた販売台数規模は800万台を超え、トヨタグループ、VWグループに次ぐ巨大グループが誕生するが、EV販売という点で見ればテスラやBYDには及ばない。今後、競争の軸となる自動車の電動化や知能化に向けては巨額な投資が必要になる。各社ともに適切な人員・生産規模や協業相手を見極め、機動的に構造対策に踏み切る重要性が増している。 *11-1-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241221-OYT1T50094/ (読売新聞 2024/12/21) ゴーン被告「日産にはパニック状態が広がっている」「ホンダは押し込まれた」 前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告は20日、米ブルームバーグ通信のインタビューに応じ、ホンダと日産の経営統合協議について「相乗効果を見いだすのは難しく、現実的な取引ではない」と指摘した。ゴーン被告は、両社が協議を行う背景には日本政府の圧力があったとの見方を示した。「経済産業省の影響力により、ホンダはこの取引に押し込まれた」と語った。また、「日産とホンダは事業にほとんど補完性がない。似たブランドと製品を同じ市場で展開している」と述べ、相乗効果は薄いとの見方を示した。日産の経営状況については「米国や中国で苦戦し、将来の計画も見えない。日産の内部にはパニック状態が広がっている」と指摘した。ゴーン被告は会社法違反(特別背任)などで起訴されたが、保釈中の2019年に不正に出国、レバノンに逃亡した。23日に日本外国特派員協会でオンライン記者会見を開く予定。 *11-1-4:https://digital.asahi.com/articles/ASSDR2FC0SDRULFA00PM.html?iref=comtop_7_01 (朝日新聞 2024年12月23日) ホンダと日産、経営統合協議入り正式発表 来年6月の最終合意めざす ホンダと日産自動車は23日、持ち株会社の設立を目指して経営統合の協議に入ると発表した。三菱自動車も同日、持ち株会社への合流を検討することを正式に表明した。来年6月までの最終的合意を目指し、2026年8月に持ち株会社が発足する統合が実現すれば、販売台数で世界3位の巨大グループが誕生する。23日午後5時から東京都内で3社の社長が記者会見し、説明する。ホンダと日産は同日、経営統合に向けた協議に入ることで基本合意書を結んだ。持ち株会社を設立して上場させ、傘下に入る両社は上場廃止となる方針。持ち株会社の社長はホンダの取締役から選出し、新会社の取締役の過半もホンダが占める方針だ。事実上、新会社の主導権はホンダが握ることが鮮明になった。 <買収の失敗事例←相手の立場を考えないメンツのための買収は成功しないこと> PS(2024年12月28日追加):日本製鉄はアメリカの鉄鋼大手USスチールを約2兆円で買収すると発表したが、*11-2-3のように、USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)は、「買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性がある」とバイデン氏に報告し、バイデン米大統領に決定を委ねることになったそうだ。「鉄は国家なり」という言葉があるくらいに製鉄業はどの国でも重要な産業であるため、バイデン米大統領だけでなく、トランプ次期大統領や全米鉄鋼労組が「USスチールは、国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠」と考えるのは当然で、その理由は、同盟国であっても韓国の鉄鋼大手ポスコが日本製鉄を買収すると発表すれば、日本人も反対するのと同じであろう。 また、日本製鉄は、「提示してきた約束は米国の雇用を維持すること」としているが、米国は年功序列・終身雇用・義理人情型の社会ではないため、USスチールでは有能な人が退社し、取引先も離れて販売も振るわなくなり、原子力発電所建設を手掛けていたストーン・アンド・ウェブスター社を高値で買収した東芝と同様、多額の損失を出して本業まで危うくしそうだ。 これに先立ち、*11-2-1・*11-2-2は、①日本製鉄はUSスチールの買収計画を巡り、安全保障の問題を審査するCFIUSに対し、さまざまな提案や説得を続けたが、CFIUSの懸念を払拭できなかった ②バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい ③日本製鉄は、トランプ次期米大統領の反対表明を受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」とする声明を出した ④日本製鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」「日本製鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」「買収はUSスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱化する」と説明した ⑤日本製鉄は政治リスクを縮小するため、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた としている。 このうち、①②については、最初に説明したとおり、米国の対応は理解できるし、③については、理由の説明がないため説得力が無く、米国が鉄鋼産業を護ろうとすれば日本製鉄以上のことができる。また、④のうち、「雇用を守る」というのは米国ではさほど重視されることではなく、仮に日本製鉄が最先端の技術を持ち、それをUSスチールに供与してしまえば日本の優位性はなくなるため、日本製鉄の説明は実行不可能なようなのである。 2024.12.18日経新聞 2024.4.13時事 2024.9.13読売新聞 (図の説明:左図のように、メディアは買収によって世界での販売量・生産量の順位が上がると主張するが、合計売上高や合計生産高の順位が一瞬上がることに意味は無い。そして、中央の図のように、USスチールの買収を巡っては全米鉄鋼労組はじめ現米国大統領・次期米国大統領がともに反対しており、買収できたとしてもその後の経営は困難を極めると予想されるため、買収額の2兆円はドブに捨てるようなものである。なお、右図のように、USW会長や幹部も最初から乗り気ではなく、日本製鉄の買収計画には無理があったため、2兆円もかけるのなら、今後、確実に鉄鋼需要が伸び、かつ喜ばれるアフリカの適地に製鉄所を作った方が賢いと思う) *11-2-1:ttps://jp.reuters.com/economy/industry/SSRJFBBWP5KGZCIBDGOGBZQJN4-2024-12-18/ (Reuters 2024年12月19日) 日鉄、USスチール買収でCFIUSの懸念払しょくできず=書簡 日本製鉄(5401.T), opens new tabは米鉄鋼大手USスチール(X.N), opens new tab買収計画を巡り、安全保障上の問題を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)に対してさまざまな提案や説得を続けたものの、CFIUS側の懸念を払しょくできなかったもようだ。CFIUSが14日付で日本製鉄に送った書簡の内容をロイターが確認して分かった。CFIUSは23日までにバイデン米大統領に買収計画を承認するか、審査を延長するか、あるいは計画を認めないことを提言する見通し。書簡によると、CFIUSを構成する関係省庁の間でなお意見がまとまっておらず、このままの状況ならば最終的にバイデン氏の判断に委ねられる形になる。バイデン氏は以前から買収に反対しており、計画は阻止される公算が大きい。書簡には、9月初めから日本製鉄がCFIUS側と対面で4回、電話で3回の協議をしたとの経緯が記されている。直近では13日にも米財務省および米商務省の事務局との話し合いがあった。また、日本製鉄は安全保障上の懸念を和らげるための対応策も3回提案していたという。 *11-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0354A0T01C24A2000000/ (日経新聞 2024年12月3日) 日鉄「米国の安全保障強化」 USスチール買収意義を強調 日本製鉄は3日、トランプ次期米大統領が日鉄によるUSスチール買収計画に反対すると表明したことを受けて「買収は米国の国家安全保障を強化するもの」と買収意義を強調する声明を出した。日鉄は「27億ドル(約4000億円)以上の投資を行う予定で、雇用を守ると約束している」とも改めて強調した。声明では、日鉄が持つ最先端の技術をUSスチールに供与することで「米国の顧客に最先端の鉄鋼製品を提供する」と説明。買収は「USスチールを支え、成長させるとともに米国産業界を強靱(きょうじん)化する」とした。トランプ氏の反対表明についての直接的な言及はしていない。トランプ氏は2日(米国時間)、「かつて偉大で力強かったUSスチールが外国企業に買収されることは私は完全に反対だ」と自身のSNSに投稿した。大統領選のさなかも、日鉄による買収計画に反対する考えを再三述べてきた。日鉄のUSスチール買収計画は現在、対米外国投資委員会(CFIUS)による安全保障上の審査と、独禁法上の審査の最中だ。CFIUSの審査期限は12月23日とされており、日鉄は現バイデン政権下で12月末までの買収完了を目指している。買収計画は米大統領選の影響で政治問題化してきた。9月にはバイデン大統領が中止命令を出すと欧米メディアが報じた。日鉄は政治リスクを縮小するために、CFIUSへの審査を一旦取り下げて再申請し、結論は大統領選後に持ち越されていた。 *11-2-3:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241224-OYT1T50042/ (読売新聞 2024/12/24) 日鉄のUSスチール買収、バイデン大統領に最終判断委ねられる…15日以内に決定へ 日本製鉄は日本時間24日、米鉄鋼大手USスチールの買収計画を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)から、審査結果について全会一致に至らず、バイデン米大統領に決定を委ねたとの報告を受けたと明らかにした。バイデン氏は15日以内に決定を下す必要がある。米紙ワシントン・ポストも23日、事情に詳しい関係者の話として伝えた。報道によると、CFIUSは、買収を認めれば米国内の鉄鋼生産が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性があるとバイデン氏に報告した。その上で、日鉄側のリスク解決に向けた対策や投資計画の実現可能性などについて、委員会内で意見の一致に至らなかったと伝えたという。バイデン氏は3月、USスチールについて「国内で所有・運営される米国の鉄鋼会社であり続けることが不可欠だ」との声明を発表。ホワイトハウスは、その立場は現在も変わっていないとしている。日鉄は「日鉄が提示してきた約束が米国の雇用を維持し、ひいては国家安全保障を強化するということについて、大統領が熟慮されることを強く要望する」とコメントした。CFIUSは財務長官や国務長官らで構成し、全会一致の結論が出なければ、大統領が最終判断する。日鉄は米大統領選前の9月中にCFIUSへ買収計画を再申請しており、今月23日が審査期限だった
| 環境::2015.5~ | 04:18 PM | comments (x) | trackback (x) |
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