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2017,12,07, Thursday
財政 日本の2017、2018年度予算案 サウジアラビアの財政 (図の説明:一番左のグラフのように、国と地方の歳出は消費税増税を行っても税収を大きく上回り、税収と歳出の差額を公債で賄っているため、債務残高がうなぎ上りに増えている。そして、左から2番目の2017年度予算案を見ると社会保障費が最も多いが、社会保障は保険料で賄われているため、発生主義で積立金を積んでおけば、本来は税金投入が不要だったものである。また、左から3番目の図のように、2018年度予算案でも税外収入が少なく、税収と歳出との差額分が国債で賄われているため国債費が多いが、一番右のグラフのように、サウジアラビアは政府歳出が政府石油収入で賄われているため税がない。日本も多くの資産や資源を持っているため、本来は工夫次第で税外収入を増やせるにもかかわらず、政府が高いエネルギー価格の負担を国民に押し付け、社会保障を減らすことに専念しているのは、自らの責任を放棄して国民の生命線を切っているものであり、無能すぎるとともに憲法25条違反だ) 所得税増税案 社会保障費の推移と医療・介護の変更案 アジア諸国の人口ピラミッド (図の説明:政府は、一番左の図のように種々の増税に専念し、左から二番目・三番目の図のように医療・介護費用を削減のターゲットにしているが、病気は最初の診断がその後の治療成果を左右するため、最初こそ大病院でしっかり検査して治療方針を決めることが重要だ。それにもかかわらず、最初に大病院に行くのを難しくしたり、急性期病棟の報酬要件を厳しくしたりしているのは、変更内容に疑問が多い。また、今でも十分でない介護サービスをさらに削減すれば、国民の生命線を切ることになり、憲法25条違反である。なお、人口構成は、どの国も死亡率が下がった後で出生率が下がる形で変化するため、ピラミッド型からつぼ型への人口構成の変化が起こり、日本では1980年代にはその変化を見通すことができたし、現在の開発途上国でも同じことが起こる。しかし、日本政府はその準備を怠ったのだ。なお、人口構造が変われば需要構造が変わるのであり、高齢者割合が増えたから経済成長しないというメッセージは浅学すぎる) (1)国の杜撰な国有財産管理と無駄な歳出 1)国有財産の管理について *1-1の「森友学園」に対する国有地売却に関する土地評価額は、埋設されたごみの量が8億2千万円の値引きの根拠になっているが、証拠資料がないため妥当とは言い難い。しかし、財務省の管轄下に国税庁があり、国税庁は民間企業に対して譲渡資産の評価には正当な根拠とそれを立証する証拠資料の7年間の保存を求めているため、財務省が税務調査に対応できる程度の資料を揃えておくことは、技術的には簡単である上、国民の血税を使っている省庁として当然のことである。 従って、この契約に関する資料の一部が廃棄され、売却価格の妥当性が確認できなかったということは、その国有財産の売却価格(評価額)は適切でなかったという推測ができる。そのため、こういう場合に国税庁ならどう取り扱うかを、財務省は国税庁に聞いてみればよい。しかし、ここで問題なのは、国税庁も会計検査院と同じく、財務省に予算の配分をしてもらう立場であるため、完全な独立性はないことである。 そのため、*1-2のように、今更、「重要文書の保存期間を原則1年以上とする」などという新指針を出すのは馬鹿げているのだが、私は、安倍首相など特定の政治家をつぶすために、森友・加計問題のみをとりあげて追究する野党の姿勢には賛成しない。何故なら、このような国有財産の低廉譲渡は、年金資金や郵政資金で作られたホテルはじめ、多くの国有財産でこれまでも行われてきたことで、森友・加計だけが問題なのではなく、そういうことが起こる背景が問題だからである。 2)放置される国の膨大な無駄使い このほか、国の歳出には、*1-3の「原子力事業の環境整備」に代表されるような時代錯誤の支出も多い。これは、古くから既得権益を持っている相手に対する誤った配慮だが、債務保証であっても偶発債務を国が引き受けることになるので、国に膨大な支出をさせる可能性が高い。そのため、40年経っても民間で完結できないほどリスクが高いのなら、原子力事業はすっぱり止めるのが、国民負担が最も少なく、よほど安上がりなのである。 (2)国への公会計制度の導入の必要性 これらの国有財産の低廉譲渡や膨大な時代錯誤の支出を無くして賢く使えば、国民に痛みを強要せずに経済発展することは可能だ。しかし、国有財産の低廉譲渡や膨大な時代錯誤の支出は、思いつきでいくつか指摘すればすむようなスケールではなく、網羅性・検証可能性を担保する複式簿記による公会計制度を国に導入して、(民間では当たり前の)資産・負債、発生主義などの概念をすべての省庁に徹底させ、つぶさに行政評価する必要があるのだ。 何故なら、①固定資産の管理という意識がないため、各省庁は国有財産を低廉譲渡しない動機付けがなく ②価格交渉は「トラブルを起こす」として、むしろ嫌がり ③特定の政治家に媚びても、自らの省庁の政策を通す方が賢いことになり ④それによって国民に損をさせても、管理も公開もしていないのでうやむやにできる のが現状だからである。 私は1995年前後から公認会計士としてこのことについて指摘しており、2005~2009年の衆議院議員時代は予算委員会の分科会で、①網羅性・検証可能性のある複式簿記による公会計制度導入 ②それに基づいた行政評価 ③我が国の財政状態 等について質問形式で提言している。 しかし、国はなかなか重い腰を上げず、地方自治体が先に導入し、地方自治体は、現在、複式簿記・発生主義会計による公会計制度に移行しつつあり(http://www.soumu.go.jp/main_content/000379748.pdf#search=%27%E7%B7%8F%E5%8B%99%E7%9C%81+%E8%A4%87%E5%BC%8F%E7%B0%BF%E8%A8%98%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%85%AC%E4%BC%9A%E8%A8%88%E5%88%B6%E5%BA%A6%E5%B0%8E%E5%85%A5%E6%99%82%E6%9C%9F%27 参照)、公会計制度導入の必要性は、*1-4にも記載されているとおりだ。 従って、技術的には十分可能で、民間企業はどこでもやっていることであるため、国も速やかに複式簿記による公会計制度に移行すべきである。 (3)税と社会保障の一体改革(増税と社会保障削減のセット)では解決できないこと 1)森林環境税の新設 *2-1のように、森林環境税が2024年度から国に導入されるそうだが、森林環境税は地方税(県民税)として既に導入されている。これも、国がなかなか環境税を導入しなかったので、地方自治体が先に導入した税の一つだ。しかし、私は、国が森林環境税を導入するのは、人口が少なく森林の多い県だけでなく、人口が多いのに森林が少ない県からも税を集めて、全体の緑の割合に応じて支出できるメリットがあるため、前進だとは思っている。 しかし、国に公会計を導入して無駄使いされないことを保障できなければ、国民負担増と政府の放漫財政の規模が大きくなるだけであるため、複式簿記による公会計制度の導入とそれを前提とした使い方のチェックが必要不可欠である。そして、国が集めた森林環境税の配分方法には徹底した公正性と無駄遣いの排除が求められる。 なお、国が森林環境税を導入する時には地方税の森林環境税は廃止すべきであり、その時は、地方は国がまだ逡巡している環境税を導入すればよいと考える。 2)観光促進税の新設 *2-1には、2019年4月から日本を出国する全ての人から、「観光促進税」として1000円徴収することが記載されている。しかし、訪日客が急増すれば法人税・所得税が増える筈で、その増収分を観光インフラの整備に当てられるため、観光促進のために「観光促進税」を徴収する根拠は考えにくい。 つまり、国は、国有財産を低廉譲渡したり、稼げる資産で稼がなかったりしながら、くだらない歳出をしたい放題して、増税するという理念なき政策をやめるべきなのである。 3)所得税増税 *2-2-1のように、政府・与党は、サラリーマンの給与所得控除を一律10万円引き下げ、控除上限額も現在の「年収1000万円以上で年220万円」から「800万円以上で年190万円」に引き下げ、基礎控除は、現在の年38万円から年48万円に引き上げて、年収800万円超の会社員は増税とするそうだ。 しかし、物価が上昇している中で、「年収800~1000万円」は、転勤が多くて共働きができない上、都会の市場価格で住宅費を支払わなければならないサラリーマンにとって高給ではないし、配偶者控除の年間38万円や48万円で配偶者を養えるわけではない。そのため、私は、フランスのように、N分N乗方式(https://kotobank.jp/word/N%E5%88%86N%E4%B9%97%E6%96%B9%E5%BC%8F-183863 参照)を選択できるようにするのがよいと考える。 さらに、*2-2-2のように、政府の税制改正は、働き方の違いによる不公平や所得格差を是正するものだとしているが、子育てや介護世帯の負担が増えないようにすればさらに煩雑化して税法の理念である公正・中立・簡素から程遠くなり、増税になる人が会社員は全体の約5%、年金受給者は全体の約0.5%と少ないのなら増税の効果は小さい。また、ここで公務員を除くのも意味不明だ。 4)社会保障の削減 そのような中、「無駄遣いは、社会保障」とばかりに、*2-3のように、2018年度予算編成に向けて、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が、①医師の技術料 ②介護報酬 のマイナス改定等の歳出改革の提言を公表したそうだが、①②とも、もともと少なすぎることが問題になっている分野である。さらに、このブログの2017.1.5にも記載しているとおり、どれも働いている期間には保険料を支払ってきたものであるため、発生主義で引当金を積んでおけば、団塊の世代が退職し高齢化したからといってあわてる必要のないもので、すべての原因は厚労省・財務省の無知と無責任にあるのだ。 にもかかわらず、「低金利が続き借金の利払い費が伸びづらく、歳出改革への危機感は広がらない」などという社会保障の削減を目的とするような考え方は重大な問題であり、抜本的に改革すべきは各省庁とメディアの姿勢である。 また、地方自治体に複式簿記・発生主義会計による公会計制度が導入された現在では、国より地方自治体の方が本当の意味で効率的・効果的な予算編成ができる素地ができたため、地方に配る地方交付税を削減するのなら、消費税は全額地方税にするなどの税源移譲をした方がよいと考える。さらに、都道府県や市区町村が積み立てた基金の総額は21.5兆円と過去最高だなどとしているのは、発生主義による引当金・積立金の発想がないからなのである。 なお、*2-4のように、高齢になるほど改善が難しく自立できにくくなるため、高齢者自身のためにも家族の負担軽減のためにも、生活援助サービスは必要不可欠であり、介護サービスこそ本当の需要だ。それにもかかわらず、財務省は介護報酬を全体でマイナス改定するよう求めているが、それならば機器や薬剤の価格が他国と比較して高すぎることにメスを入れるべきで、診療報酬は他国に比べて低く、介護報酬は国内の他産業と比べても低いことを忘れてはならない。 <国の杜撰な財産管理と歳出> *1-1:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171122-00000074-asahi-soci (YAHOO、朝日新聞 2017/11/22) 地中のごみ量、最大7割減 森友問題、値引き根拠揺らぐ 学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地の売却経緯を調べた会計検査院は22日、調査内容を国会に報告した。地中のごみの量について、国が売却契約時に推計の理由としたデータは根拠が不十分としたうえで、独自に試算した結果、最大で約7割減ることなどを指摘した。ごみの量は8億2千万円の値引きの根拠となっており、売却価格の妥当性があらためて揺らぐことになった。検査院は、契約に至るまでの資料の一部が廃棄されるなどで、価格決定の詳しい経緯が確認できなかったとも指摘した。国の財産処分が適切に行われたかどうかが検証できない状態で、「適正」と繰り返してきた政府の姿勢が厳しく問われることになる。問題の国有地は、2016年6月に学園側に売却された。鑑定価格は9億5600万円だったが、学園側が地中深くにごみがあると申告したことから、売却価格はごみの撤去費用として8億2千万円などを差し引き、1億3400万円とされた。こうした大幅な値引きのうえ、公開が原則の売却価格が非公表だったことなどから、契約の経緯が問題となっていた。今年3月に国会の要請を受けた検査院は、売却契約の窓口になった財務省近畿財務局や、土地を所有していた国土交通省大阪航空局などへの調査を実施。主に価格の決定経緯について調べを進めてきた。調査では、国が1万9520トンと認定した地中のごみの量は、推計の理由とされた混入率や深さに十分な根拠が確認できなかった。そこで検査院は混入率や深さを算定しなおし、ごみの量を独自に試算。その結果、少ない場合だと6196トン、多くなる場合でも1万3927トンとなり、国の推計を7~3割下回った。国は売却時、1トンあたり2万2500円の処分単価をごみの量に掛け合わせて処分費用を算出した。検査院はこの処分単価についても調べたが、どのような内訳で見積もられたのかを示す資料がなく、詳細な内容は確認できなかった。このため、適切な売却価格は示せなかった。また、学園側との具体的な交渉内容が確認できる資料などが廃棄されていたことから、検査院は「会計経理の妥当性の検証が十分に行えない」と指摘。検証ができないのは適切でないとして、行政文書の管理について改善を求めた。 ◇ 〈会計検査院〉国などの会計経理を監督する機関。憲法90条で設置が定められ、会計検査院法で「内閣に対し独立の地位を有する」とされている。国会は会計検査院に対し、特定のことについて調べて結果を報告するよう求めることができる。 *1-2:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/153217 (佐賀新聞 2017.11.27) 首相、公文書管理で新指針、森友、加計批判受け表明 安倍晋三首相は27日の衆院予算委員会で、学校法人「森友学園」と「加計学園」の問題で批判を受けた公文書管理を巡り「国民の信頼を一層高いものにするように、行政文書管理のガイドラインの改正を年内に行う」と表明した。公文書管理法の改正も検討する考えも示した。森友問題で文書管理の改善を求めた22日の会計検査院による報告も踏まえた対応。重要文書の保存期間を「原則1年以上」とすることで理解を得たい考えだ。首相は公文書管理のガイドラインに関し、各府省庁間で打ち合わせを行った際の記録作成と、相手方との相互確認などで文書内容の正確性を確保するよう義務付けると明言した。 *1-3:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171130/k10011241521000.html (NHK 2017年11月30日) 東京電力 原子力事業で国に環境整備を要請へ 東京電力は、原子力事業をほかの電力会社と共同で進めていくため、国に対し、債務保証などの事業の安定化に必要な環境整備を要請する考えを明らかにしました。東京電力は、福島第一原発の廃炉や賠償などに必要な費用の総額が21兆円余りに膨らむことを受けて、原子力事業のほか、送電や配電の事業を再編して収益力の向上を図る新しい事業計画を、ことし5月に策定しました。東京電力が30日に明らかにした計画の今後の進め方によりますと、原子力事業では、青森県で建設する予定の東通原発の事業をほかの電力会社や原子力関連のメーカーと共同で進めるため、具体的な協議に入るとしています。そのうえで、原子力事業は、電力小売りの自由化で長期的な採算が見通しにくくなっているとして、国に対し、債務保証などの事業の安定化に必要な環境整備を要請するとしています。また、送電や配電の事業では、ほかの会社と海外展開などで共同事業を進めるための協議に入るとともに、国に対して規制の見直しを求めていく考えです。会見した東京電力の文挾誠一副社長は「原子力事業はいろいろなリスクがあり、今後の予見性を高められる制度をお願いしたい」と述べました。 *1-4:http://sinwagroup.jp/wp/p-account/pa-corner/post99.html (新和会計グループ 2008年9月16日) 新和会計グループは企業と地域社会の発展に貢献していきます。 - 第01回 なぜいま公会計改革か 今回、地方公共団体における公会計制度の整備の推進により、すべての地方公共団体に、連結ベースでの新たな財務4表の作成、公表が求められていますが、この背景に、行政の役割の拡大に伴う行政の肥大化、地方債などストック化の進行があります。更には、今後、少子高齢化の進行が必至で右肩上がりを前提とした財政運営はできないという事情があります。今回の地方公会計整備は、複式簿記の技術ないしその考え方の導入と純資産変動計算書に特徴がありますが、それだけでなく、行財政運営の本質に迫るものを含んでおり、「公会計改革」といわれるゆえんでしょう。 1 なぜいま公会計改革なのか (1) 全体が見えない -ストック情報の欠如とフロー情報の不備 行政の決算は、公金の使途、収支を明確にすることを目的としており、減価償却や引当金なども含めた赤字・黒字や資産・負債・純資産の把握を目的としていないため、現在どうなっていて・これからどうなるのかの財務ポジションがつかめず、財政の全体の姿が見えません。更に、行政には、特別会計や企業会計、独立行政法人など複雑な仕組みがあり、国から地方への補助金等財源移転の仕組みもあるため、ますます分かりにくいものとなっています。増税が必要だとしても、これでは国民はいつも半信半疑になります。更には行政への不信や不安が拡がります。つまり、行政と住民との信頼を培う財政情報に不備があると見られます。年々の税収増が期待できる右肩上がりの時代には、これでも問題がなかったといえますが、既に基礎的収支もあやうく、長期債務が累増し、少子高齢化が必至の状況においては、これを補う必要があります。フロー、ストックの全体状況を分かりやすく示す新たな財務情報が必要です。これが第一の課題です。 (2) 将来計算ができない -マネジメント情報の不備 発生主義、複式簿記の大きな特徴は、フロー(損益)とストック(資産負債)が緊密な連絡を保って、体系をなしている点です。従って、民間企業においては、どれだけの設備投資をすればそれが将来どれだけのコスト圧力となり、将来どれくらいの建替え需要が生じるかの計算が可能で、いつでも将来貸借対照表、将来損益計算書、将来資金繰り計算書を計算することができます。しかし、行政の収支決算システムには、この仕組み・体系がありません。即ち、財政の将来計算の仕組みがないということです。これは将来に対する共通の認識を欠くことになります。これは少子高齢化が進行する中で、将来を図り、計画的に財政を運営する上で大きな課題となります。これが第2の課題です。 (3) 行政コストが捉えられない -コスト情報の欠如 しばしば「役所にはコスト意識がない」といわれますが、今日の収支決算システムにはむしろ「コスト意識を持つ仕組み」がありません。費用測定の仕組みが不完全であるために、全コスト(フルコスト)や将来にわたるコスト(ライフサイクルコスト)の把握が不完全なままで政策選択をすることになります。したがって、行政の効率化の観点からは、これを仕組みとして行政に埋め込む必要があります。これが第3の課題です。 2 行政は赤字か黒字か 役所の決算時期になると、今年は「○○円黒字」だったとか・「○○円赤字」だったとか報道されます。これは普通「実質収支」のことです。「形式収支」や「実質収支」が「○○円」赤字だとか・黒字だとかいう言い方もしますが、いずれも(収入-支出)で捉えた収支差額のことです。下記は、「会計君」の家計簿と役所の捉え方を対比して示したものです。会計君は収支がトントンでも毎年100万円の赤字になっていて、財産がそれだけ減っているのを認識しています。事態を正しく認識するために何が必要かはおのずと明らかです。発生主義会計を取り入れるとは、こういうことであり、財政運営の基本にかかわることです。 <増税と社会保障削減> *2-1:http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/267228 (福井新聞論説 2017年12月3日) 二つの新税導入へ、国民の痛み感じているか 「用を節して人を愛す」とは2500年も前に孔子が説いた財政の眼目だ(「論語」)。政治に携わる者は、税金を元に仕事をしているのだから費用を節約し、人民の福利増進を図れというのである。外国人旅行者や日本人が出国する際に徴収する「観光促進税」が2019年4月から、また森林の間伐費用などを賄う「森林環境税」が24年度から、それぞれ導入される方向になった。恒久的な国税の新設は、土地バブル対策のため1992年に導入された「地価税」以来。孔子の金言は生かされるだろうか。 ■1人当たり千円■ 観光促進税は、航空機や船舶を問わず日本から出国する全ての人から1人当たり千円を徴収する内容だ。航空機利用ならチケット代に上乗せし、船舶の場合は実態を踏まえた徴収方法を採用するという。導入の背景には訪日客の急増がある。16年は2404万人と5年前に比べて3倍近くに増え、消費額も3兆7476億円で約3・5倍となった。国は東京五輪・パラリンピックの20年に4千万人、30年には6千万人の達成を目標に掲げている。そのためには観光インフラの整備など観光立国実現に向けた各種施策が必要になる。その財源として浮上したのが観光促進税である。使途には出入国手続きの迅速化や標識の多言語対応、地方の観光振興などを見込んでいる。一方の森林環境税は、二酸化炭素の削減や土砂災害防止を目的として、約6千万人が負担する個人住民税に1人当たり年間千円を上乗せして徴収する。森林面積などに応じて自治体に配分し、荒廃した森林の整備に充てる。 ■取りやすいところから■ どちらの新税導入も、理由はもっともである。だが、疑問や課題も少なくない。特に観光促進税である。「受益者負担」の原則から懸け離れていないかとの指摘は傾聴に値する。まず、出国する日本人には千円を負担するだけのメリットはあまりない。いまでもそれほど待たずに出入国できるし、まして標識の多言語化には関係ないからだ。そこで、税を負担する対象を外国人に限ることも検討されたようだが、各国と結ぶ租税条約などに「国籍無差別」の原則があるため立ち消えになった。結局、海外旅行を楽しむぐらいの経済力がある人たちだから許容範囲とみたのではないか。税金は取りやすいところから取る、という典型例だろう。もっとも、訪日外国人であっても全員に十分な利益があるわけではない。2割はビジネス目的だからで、税の投入で観光関連施設が整備されても負担に見合う受益はなさそうだ。 ■無駄遣いの恐れ■ 二つの税を導入すると、税収はどうなるか。16年の出国者は訪日外国人と日本人を合わせて約4千万人なので、観光促進税で約400億円。観光庁の17年度当初予算の2倍近くになる。もう一つの森林税は、個人住民税を支払っている約6千万人に千円を掛けて約600億円だ。いずれも特定の目的に使うだけに、税収を1年ごとに使い切ろうとして無駄遣いされる恐れがある。かつてのガソリン税がそうだった。道路整備のための財源だったのに、マッサージチェアの購入などに使われた。先日あった自民党の税制調査会では早速、二つの新税を巡って想定以上の使い道を求める声が上がった。「用を節して…」の金言とは無縁の様相である。現パナソニック創業者の松下幸之助にも政治家を戒める言葉がある。「税金を取るのは当然と考えるばかりか、増税することに痛みを感じない為政者は失格である」。安倍晋三政権はどうなのか。 *2-2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13259273.html (朝日新聞 2017年12月5日) 会社員増税、年収800万円超 政府・与党が最終調整 20年1月目標 所得税の見直しについて、政府・与党は、年収が800万円を超える会社員を増税とする案で最終調整に入った。2020年1月の実施をめざす。5日にも自民・公明両党の税制調査会の非公式幹部会に示し、与党内の議論を経て、14日にまとめる税制改正大綱に盛り込む。この案によると、会社員向けの給与所得控除を一律で10万円引き下げる。さらに控除額の上限もいまの「年収1千万円以上で年220万円」から「800万円以上で年190万円」に引き下げる。一方で、すべての納税者が受けられる基礎控除は、いまの年38万円から年48万円に引き上げる。この結果、年収800万円以下の人は、給与所得控除の縮小額と基礎控除の増加額が同じになり、増税にならない。年収800万円超から増税になり、900万円で年3万円、1千万円で年6万円の負担増となる。ただし、22歳以下の子どもや、体が不自由で介護が必要な人がいる世帯は増税にならないようにする。基礎控除は年収2千万円を大幅に上回る人から段階的に縮小し、2500万円超でゼロにする方向だ。年金受給者向けの「公的年金等控除」は、控除額を一律で10万円減らし、年金以外の収入が1千万円超の人は控除額をさらに減らす。年金収入が1千万円超の人や年金以外に年1千万円超の収入がある人は増税になる。今回の見直しによる増税対象者は給与所得者の5%程度で、全体で1千億円超の増税になる見込みだ。 ■給与所得控除と基礎控除の見直しによる負担増額 <給与収入> <負担増額> 800万円以下 なし 850万円 1.5万円 900万円 3万円 950万円 4.5万円 1000万円 6万円 1500万円 8.6万円 2000万円 8.6万円 3000万円 33.5万円 5000万円 36.9万円 (金額は年間ベース。3000万円以上は基礎控除の段階的縮小・廃止の影響を含む) *2-2-2:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/156333 (佐賀新聞 2017.12.6) 所得増税、会社員全体の5%、給与1千万円で6万円 政府が2018年度税制改正で検討する所得税の改革案が5日判明した。基礎控除と給与所得控除、年金控除を見直して、働き方の違いによる不公平や所得格差を是正。子育てや介護世帯の負担が増えないようにしつつ、年収800万円を超える会社員や高収入の年金受給者を増税、自営業やフリーで働く人らを減税とする。増税となるのは会社員で全体の約5%、年金受給者は20万人程度で全体の約0・5%と想定しており、20年1月からの実施を目指す。公務員を除く会社員全体の5%で単純計算すると200万人余りとなる。年間の増税額は年収1千万円の会社員で6万円となる見込みだ。 *2-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171130&ng=DGKKZO24040570Z21C17A1EE8000 (日経新聞 2017.11.30) 歳出削減に政治の壁、社会保障・公共事業…財制審提言、改革迫る 2018年度予算編成に向け、財務省と各省庁が本格的な調整を始めた。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が29日、歳出改革の提言を公表。医師の技術料などの診療報酬本体や介護報酬のマイナス改定などを求めたが、関係省庁や与党の族議員などの反発は強い。低金利が続き借金の利払い費が伸びづらく、歳出改革への危機感は広がらない。18年度の政府予算案は12月22日に閣議決定する見通しだ。財制審の提言を受け、財務省は各省庁との調整を急ぐ。財制審は各分野にわたり抜本的な改革を求めるが、関係省庁や与党の族議員の反発などで実現が見通せないものも多い。例えば高齢化で国の歳出が膨張する社会保障。財制審は診療報酬本体で「一定程度のマイナス」を求め、企業や個人の保険料負担の上昇を抑えるため介護報酬も引き下げを訴えている。だが自民党の厚労族議員はプラス改定を主張。安倍政権は日本医師会と距離が近く、本体はプラス改定との見方が政府内で大勢だ。財務省は報酬の抑制だけでなく、患者負担の引き上げなども訴える。代表的なのが所得の多い75歳以上の高齢者の窓口負担の引き上げだ。高齢者の反発を恐れる厚労族などから反発は強く、実現は見通せない。国が地方に配る地方交付税の削減も焦点だ。都道府県や市区町村が積み立てた基金の総額は21.5兆円と過去最高だ。財務省は交付税を減らしても自治体の財政運営は成り立つと考えているが、総務省の反発は大きい。教育分野では、政府・与党は全大学生を対象にした出世払い方式も中期的なテーマとして検討している。在学中は授業料を納めず卒業後に所得が一定水準以上の場合は授業料の相当額を後払いする仕組みだ。ただ、財制審は高所得者にも恩恵が及ぶ点や制度設計の難しさなどを理由に「導入は不適切」としている。与党内からは公共事業の上積みを求める声が強い。内閣府によると、7~9月期の国内総生産(GDP)速報値から試算した日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示す「需給ギャップ」はプラスだ。すでに需要が供給を上回っている状態で追加需要を作っても経済への効果は限定的といえる。にもかかわらず、17年度補正予算案で公共事業関係費が膨らみそうだ。財政運営では、財制審は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化の早期達成を求めた。政府は消費増税の使途変更により20年度の黒字化目標を事実上、断念した。財制審は「財政規律がこれまでにも増して強く問われている」と訴えるが、政府内には早期の黒字化目標の設定に慎重論がくすぶる。 ▼財政制度等審議会 予算編成や財政運営の基本的な方針について議論し財務相に提言を出す。現在の会長は経団連の榊原定征会長が務める。年末に建議を示し、政府の予算編成作業へ反映を目指す。財政再建を重視し、厳しい歳出改革を求めることもある。 *2-4:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20171126/KT171125ETI090012000.php (信濃毎日新聞 2017.11.26) あすへのとびら 社会保障をどう守る 一時しのぎは通用しない 一口に社会保障と言っても分野は幅広い。医療、介護、年金、失業手当、生活保護、児童や障害者への手当…。何らかの事情で日常の暮らしの維持が困難になった際、憲法に記された文化的生活を続けられるよう支えるのが社会保障である。この仕組みが機能不全に陥りつつある。高齢化が進んで医療や介護の費用は増大し、地域社会や家庭、雇用の環境の変化もあって、現役世代も重くなる負担を背負い切れなくなっている。来年は診療報酬と介護報酬を同時に改定する6年に1度の年。政府は支出を抑えようと躍起で、息苦しい調整が続く。これからますます、高齢化率は上がり、労働人口は減るというのに、一時しのぎを繰り返すしか手はないのだろうか。介護報酬を巡る議論を取り上げてみたい。貫かれているのは「自立」という考え方だ。例えば、厚生労働省は、介護が必要な高齢者の自立支援で成果を上げた事業所への報酬を増やす方針を示している。通所介護(デイサービス)で、リハビリ専門職と連携して身体機能の訓練を行う事業所には手厚くし、消極的な事業所は引き下げる。訪問介護でも、掃除や洗濯、調理を担う生活援助には短期で養成するヘルパーを充てて報酬を減らす。その分、現行のヘルパーによる身体介護は高くする。こんな案も浮上している。国が評価指標を用意し、高齢者の自立支援や要介護度の維持・改善に取り組み、実績を上げた市町村に新設の交付金を支給する―。いずれも、要介護度の重い人を減らすことで費用の抑制を狙う。 <不安を高める議論> 「高齢になるほど改善は難しくなる」「高齢者が家に閉じこもるのを防ぎ、家族の負担を軽くする役割は評価しないのか」「生活援助で気持ちに余裕が持てたのに、使えなくなると困ってしまう」。介護事業所の職員や利用者からはそんな声が聞かれる。財務省は、介護報酬を全体でマイナス改定するよう求めている。他の産業に比べ、給与が著しく低い介護職の待遇改善のため、この4月の臨時改定で報酬を引き上げたばかりだ。また減らすことになれば、人手不足に拍車を掛けることになりかねない。厚労省は今月、世帯ごとに発行している健康保険証の番号を個人ごとに割り当て、個々人が受診履歴や健康診断の結果を閲覧できるようにする、との方針を打ち出した。2019年度から発行を始めるとしている。国民の健康意識を高める目的というが、それだけか。いわば医療版「マイナンバー制度」で、健康に関する情報を国が一元管理することになる。プライバシーがさらされ、医療費抑制の名の下、健康増進への統制色が濃くならないか懸念される。暮らしの悩みを解消するはずの社会保障の議論が、国民の不安を高めているように感じられる。安倍晋三首相も、その不安を大きくした。社会保障制度の安定に使う計画だった消費税増税分を幼児教育の無償化に回すとし、衆院解散の理由にした。高齢者に偏っている社会保障を「全世代型」に転換することに異存はない。が、真っ先に着手すべきは幼児教育の無償化なのか、財源を消費税に求めるのが適当なのか。疑問の多い判断だ。年間の医療費は45兆円、介護費用は10兆円に上る。団塊の世代全員が75歳以上となる25年には、医療費は4割増え、介護費用は倍になると試算されている。サービスの効率化を図ることも大切だけれど、改定のたびに報酬を増減させ、利用者の負担割合を見直す対症療法で、超高齢社会を乗り切れるとは思えない。 <政治の責任は重く> 政治の責任は重い。国民に構想を示し、負担=痛みから逃げずに議論する。それは政治にしかできない。安倍首相、そして与野党にその覚悟はあるのか。一向に将来が見通せない状況に、国民は不安を感じている。人口減少だけではない。非正規雇用の割合が高まり、格差が広がって、社会保障を担ってきた中間層が疲弊している。地域や家庭で支え合う関係は薄れ、人々の社会的孤立が問題になっている。こうした現実を見据え、国民、政府、自治体、企業の役割と負担のあり方を見直すこと。地縁や血縁に代わる地域のセーフティーネットの拡充も求められる。首相が言う全世代型への転換も、全体像を欠いては説得力がない。自立した生活を望まない人はいない。それができなくなったときの支え合いとして、社会保障はある。原点を忘れず、時代に見合う仕組みの構築を急いでほしい。 <増税・社会保障削減・貧困と無駄遣いの負のスパイラル> PS(2017.12.8、2018年1月10、11日追加):*3-1のように、高校公民の教諭が「アクティブラーニング(主体的学習)」を学んだことは、民主主義国の主権者たる有権者を育てる上で重要だ。しかし、発展途上国の貧困を取り上げて、できる支援について話し合っただけなら、日本の主権者教育としては不足である。何故なら、日本にも貧困家庭は多いのが現実で、現状と政府の政策の妥当性を冷静な目で判断できる有権者が民主主義には必要だからだ。 一例は、*3-2のように、文系のエリートと思われる日経新聞記者が、病院が介護施設などの代わりをしている高知市の社会的入院の事例を「日本の未来」として取り上げているのだが、これは未来ではなく過去の話で、病院のベッドしか居場所のない可哀想な高齢者をなくすために、自宅療養を可能にする介護制度を設けたり、施設を個室にする政策を行ってきたからだ。つまり、介護を後退させれば、病院のベッドしか居場所のない高齢者がまた増えるにもかかわらず、虚実をごちゃまぜにした質の悪い記事を書き、財政悪化の懸念を言い立てるようなことをしているのである。しかし、*3-4のような数千億円規模の無駄遣いは枚挙にいとまがなく、この記者が国民に求める①「自助」「共助」の範囲 ②それを行う主体 ③その実行可能性 などを具体的に検討すれば、現在の「公助」は足りないくらいであり、少なからぬ人が現場の実態に基づかずに、論理性も実現可能性もない議論をしている不都合な真実がわかる筈である。 なお、*3-3のように、無年金の高齢者に対する生活保護費の見直しで、厚労省は「生活扶助」も引き下げる方向で検討に入ったそうだが、これも過去の年金制度・年金保険料の徴収法・年金積立金の管理に関する不備・不手際によるところが大きいため、憲法25条違反になるような生活を強いることのないようにすべきだ。 さらに、診療報酬のマイナス改定や物価上昇による人件費・材料費の上昇が続き、*3-5のように、公立病院は2016年度で約6割が赤字だそうだ。しかし、民間病院も含む病院の赤字は、私が衆議院議員をしていた2005~2009年頃には既に多数言われており、その状況が激しさを増したと思われるが、特に公立病院や拠点病院はその地域の人が先端医療にアクセスできるか否かを左右し命に関わるため、民営化して収益性の低い診療科を廃止したり、経験のないスタッフに変えたり、非正規労働者を増やしたりすればよいわけではない。つまり、一定地域内に経験と技量のある医師や必要な質・量を満たすスタッフを確保しておくことが必要で、合理化して経営改善しさえすればよいわけではないのである。そして、総務省が2017年末に病院改革の報告書で述べている地域医療の再編を促すネットワーク化は、市町村を超えて経験と技量のある医師やスタッフを確保し、どこに住んでいても30分以内でどの科の先端医療にもアクセスできる状況を最低のコストで実現するために私が提唱して佐賀県では既に終わっているものだが、これだけ病院や医師を標的にした診療報酬のマイナス改定、物価上昇による人件費・材料費の上昇、消費税増税が続けば、その効果もかき消されただろうと考えている次第だ。 このように、国民の命綱になっている社会保障を1千億円単位で節約しながら、*3-6のように、民間企業である日立製作所が英国で進める原発事業に日本が融資する1兆1千億円分に日本政府が保証(=偶発債務)をつけ、原発事業のリスクを肩代わりするそうだが、原発は、今でも安くて安全なエネルギーという触れ込みなのである。これは、第二次世界大戦の際に、先進国は戦闘機の時代に入っていたにもかかわらず、日本軍は巨艦主義の過去から脱せず、理論的・科学的思考を排して精神論で闘い、国民を犠牲にして敗戦したのと酷似している。従って、ここは、民間企業が脱原発を決意するのが賢明だろう。 厚労省の生活保護実態調査 2017.12.8日経新聞(*3-2より) (図の説明:現在、社会的入院をしたり、施設に入ったり、介護を受けたりしている高齢者は、右の写真のように孫の世話ができるお爺さん・お婆さんではなく、自分のこともできなくなったひいお爺さん・ひいお婆さんの年代であるため、*3-2の写真は現実とは異なる。つまり、自助ができず、共助にも負担がかかるようになった人を、公的にサポートしているのだ) *3-1:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/157328 (佐賀新聞 2017.12.8) 高校公民教諭が主体的学習事例学ぶ、7日、佐賀北高で研修会 次期学習指導要領に盛り込まれた「アクティブラーニング(AL)」をテーマにした高校教諭向けの研修会が7日、佐賀市の佐賀北高で開かれた。新設される公民の必修科目「公共」や主権者教育での活用が期待されるALの実践事例を学んだ。島根県立大客員研究員で、秋田県内の高校で教える市川聖教諭が、発展途上国の貧困を取り上げた授業を報告した。映像も活用して途上国の現状を詳しく学んだ後、自分たちにできる支援について話し合い、それぞれが意見を発表することで理解を深めた。市川教諭は「途上国について知りたいという探求心が芽生えてきた」と成果を語った。指導要領は、ALを「主体的・対話的で深い学び」と位置付けて授業改善を求めている。公開授業を行った春田久美子弁護士も交えたパネル討論で、市川教諭は「普段の授業から、クラスの生徒全員に質問して対話に務めている」と紹介した。主権者教育に関しては「公民科の教員にとどまらず、学校全体で取り組むことが必要」と課題を指摘した。県高校公民部会が主催し、約30人が参加した。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171208&ng=DGKKZO24396610X01C17A2MM8000 (日経新聞 2017.12.8) 2030年への責任(4)不都合な現実 今こそ直視 痛みは分かち合うもの 日本の未来を探るため、取材班がこだわってきた地域がある。人口当たりの病院や病床数、医療費が常に上位に入る高知市。街を歩いて病院やクリニックの看板を数えるとすぐ両手に余る。「病院が介護施設などの代わりをしていた」と岡崎誠也市長。高齢化が全国平均の10年先を行くのに、介護で済む人を入院させていれば、医療費がどんどん膨らむのは自明だ。 ●病院に変化も 高知の手ぬるい医療財政が破綻を免れるのは、公的保険という大きな器の一部にすぎないからだ。だが足元で変化が始まっている。「病院は機能の向上を求められるようになった。さもなくば淘汰だ」。JR高知駅前に病院を展開する近森会の近森正幸理事長は神妙に語った。医療保険の配分ルールがじわりと厳しくなり、治療の必要の乏しい長期入院は認められにくくなった。業態転換を余儀なくされる病院があり、退院を促される高齢者がいる。許されていた甘えが少しずつ通用しなくなってきた。では、いまの高知のように日本全体で3人に1人が高齢者になると何が起きるのか。団塊の世代が80代になる2030年の試算が衝撃を告げる。年金や医療、介護の隠れた債務はおよそ2000兆円。国が抱える1000兆円の借金の2倍もの負担が将来世代にのしかかる。人類が経験したことのない状況を迎える。厳しい未来予想図を前に、私たちはいまどうすべきだろう。取材班はヒントを求めてこの1年以上、現場を歩いてきた。話を聞いたのは有識者から公務員、年金受給者や高校生まで延べ数百人。ほとんどの人たちと「このままでは持たない」という思いを共有した。 ●刻々と財政悪化 いま必要なのは世代や立場を超えた痛みの分担だ。公的サービスである「公助」の領域が小さくなり、不便を感じる人も出てくるはずだ。そのぶん皆が自己責任の「自助」に努め、周囲が手を差し伸べ合う「共助」を広げる。地道な取り組みが求められている。ところが目の前の政治には厳しい未来への責任が感じられない。高齢者に偏る社会保障を全世代に広げるという掛け声で進むのは保育所や幼稚園の無償化。2兆円もの税金を使って公的サービスの範囲を広げる。03~04年に厚生労働次官を務めた大塚義治氏が今日と似た風景に接したのは若手官僚だった1970年代。老人医療費が無料化された。「医療費が大爆発し、財政が大変なことになった。30年余りの仕事の大部分は高齢化対策だった」。退官から13年、財政はいまも刻々と厳しさを増す。医療と介護、生活保護や福祉。安心網の柱をなす諸制度が2018年春から同時に改まる。一斉点検は30年に1度しか来ない。不都合な現実から目をそらさず、厳しい選択に向き合う。私たち一人ひとりがそう思うところから始めるしかない。 *3-3:http://qbiz.jp/article/124190/1/ (西日本新聞 2017年12月8日) 貧困高齢者の暮らし窮迫 食費切り詰め「もう追い込まないで」 生活保護引き下げ検討 5年に1度の生活保護費見直しで、厚生労働省は一部世帯について、食費や光熱費などに充てる「生活扶助」を引き下げる方向で検討に入った。受給世帯の過半数を占める65歳以上の高齢者では、単身世帯の多くが対象になる見通しだ。社会保障費を抑制したい国の思惑が透けるが、現状でも切り詰めた生活を送る高齢者らは「これ以上、追い込まないで」と訴える。スーパーで半額になったヒレカツ190円、キャベツの千切り58円、まとめて炊いておいた白米とみそ汁−。東京都大田区の都営住宅に住む浜井清見さん(79)のある日の夕食だ。「外食は一切しない。お金がもたない」。多めに買った牛スジを大根とコンニャクと煮て、3日間しのぐこともある。9年前に妻を亡くし、現在は1人暮らし。中学卒業後、配管工として働いてきたが年金に加入せず、貯金は脳梗塞で倒れた妻の医療費で底を突いた。5年ほど前までは水道工事などで生計を立てていたが、体力的に厳しくなって無職に。やむなく生活保護を申請した。毎月7万5千円弱の生活扶助が支給されるが、光熱水費や電話代、新聞代で月3万円は消える。食費はやりくりしても2万〜3万円。消耗品などを買えば数百円残るかどうかで、常にぎりぎりの生活だ。おととし広島県に住む母親が亡くなったが、役所に頼んでも交通費の支給が認められず駆けつけられなかった。さまざまなことを制限される老後の日々。「千円減るだけでも大きな差だよ」と、さらなる引き下げに不安を募らせる。各地で訴訟も。生活保護の受給世帯は今年9月時点で約164万世帯を超え、20年間で約2・7倍となった。このうち1人暮らしの65歳以上の高齢者が48%と大半を占める。年齢や病気で就労が困難な人のほか、浜井さんのような「無年金」や、保険料の納付期間が足りず満額を受け取れない「低年金」の人の増加が背景にある。生活保護費は国と自治体が全額公費で賄い、国費分だけでも約3兆円(2018年度予算概算要求)に上る。このため、支給基準の抑制圧力は年々強まっている。前回の13年度改定では生活扶助が世帯平均で6・5%減額された。憲法が保障する最低限度の生活を維持できないとして各地で違憲訴訟も起きている。負のスパイラル。今回の引き下げの根拠は、生活保護を受給していない低所得世帯の消費支出に比べ、受給水準が上回るとの調査結果に基づく。だが、そもそも生活保護が必要な人のうち、約2割しか実際には受給していないという専門家の指摘もあり、実態を反映していない恐れがある。元厚生官僚で生活保護制度に詳しい尾藤広喜弁護士は「年金の支給水準も下がり、下流老人、老後破産といった言葉に象徴されるように、高齢者の生活は全体的に窮迫している。生活扶助を引き下げるのは負のスパイラルで、受給者の生活が破壊される」と指摘。「『最低限度の生活』とは何かという議論を無視し、最初から引き下げの結論ありきで、政府が誘導しているとしか思えない」と話している。 *3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171207&ng=DGKKZO24330990W7A201C1EE8000 (日経新聞 2017.12.7) もんじゅ廃炉、30年で 原子力機構が計画提出 費用3750億円、上振れ必至 日本原子力研究開発機構は6日、原子力規制委員会に高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉計画を提出した。2018年度に着手し47年度までに廃炉を終えるとしている。費用は3750億円を見込むが、国内では高速炉の廃炉経験はなく技術も確立していない。放射性廃棄物の取り出し後の処分場も決まっておらず、今後費用の上振れは必至だ。原子力機構が6日に提出した計画では22年度末までに核燃料の取り出しを終える。最大の難関は原子炉内のナトリウムの取り出しだが、今回の計画では具体的な時期の明記は見送った。ナトリウムは水や空気に触れると爆発する恐れがあるため取り扱いが難しい。原子力機構の伊藤肇理事は「コスト面でもできる限り削減を検討する」と話すが、今後の技術開発には大きなコストがかかる。また福井県の外に搬出するとする核燃料やナトリウムの取り出し後の処分場も決まっていない。今後、原子力機構などが選定作業に着手するが、ナトリウム処理と同様に費用が上振れする要因になりそうだ。核燃料サイクル施設関連では、同じ原子力機構が持つ東海再処理施設は廃止費用が70年で1兆円に上ることを明らかにしている。 *3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180109&ng=DGKKZO25434510Y8A100C1NN1000 (日経新聞 2018.1.9) 公立病院、6割が赤字 16年度、材料・人件費重荷 総務省がまとめた2016年度の公立病院の経営状況によると、経常収支が赤字の病院は全体の61.7%だった。比率は6年連続の増加で、8年ぶりに6割を超えた。人件費や材料費の上昇、診療報酬のマイナス改定などが響いている。病院数は15年度比で1.5%減の873と過去最少だった。同省の調査研究会報告書によると、独立行政法人を含めた公立病院の経常損益は831億円の赤字。15年度は542億円の赤字で赤字幅は1.5倍に拡大した。人手不足や、機材・材料費の高騰が経営を圧迫している。ただ公立病院の多くは地方のへき地など過疎地域の医療体制の維持には不可欠だ。全国の病院のうち公立病院数は11%にとどまるが、へき地医療の拠点病院に限れば62%を占める。地方では医師不足も問題で、赤字比率が高止まりすれば地域医療の維持も難しくなる。総務省は17年末に病院改革に向けた報告書をまとめ、地域医療の再編を促すネットワーク化の推進や外部人材の活用などで経営改善を目指すことなどを提言した。 *3-6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13307475.html (朝日新聞 2018年1月11日) 日立製作所が英国で進める原発事業をめぐり、日英両政府が官民で総額約3兆円を投融資する資金枠組みについて大筋で合意したことが分かった。出資額4500億円のうち、日立の出資は3分の1にとどめ、日英で折半する融資額2兆2千億円の日本分には政府保証をつけるなど、異例の手厚い政府支援で原発事業のリスクを肩代わりする。ただ、事業で損失が出れば国民負担につながりかねない。複数の関係者によると、両国政府は昨年末、今回の枠組みについて書簡を交わして確認した。対象となるのは日立が英西部アングルシー島で計画する原発2基の事業で、2020年代半ばの運転開始をめざす。日立は12年、英国の原子力事業会社ホライズン社をドイツの電力会社から約900億円で買収したが、今回の枠組みはこのホライズン社の事業への投融資が柱だ。出資額は日立と日立以外の日本側、英国側の3者が1500億円ずつで、日本側の出資は政府系の日本政策投資銀行や大手電力会社などが想定されている。1兆1千億円にのぼる日本側の融資の主体は政府系の国際協力銀行や3メガバンクが見込まれる。政府系の日本貿易保険が融資の全額を保証する方向で検討している。先進国向けの貿易保険で全額保証は異例だ。日立は事業を進めるかどうかの最終判断を20年夏にする方針だ。その判断基準として挙げているのが、ホライズン社への出資比率を現在の100%から50%未満まで下げることだ。東芝が米国の原発事業で行き詰まり、経営危機に陥った事態を踏まえ、事業を日立本体の連結対象から切り離すためだ。枠組み通りに進めば、日立の出資比率は33・3%になる計算だ。一方、安倍政権は原発や新幹線技術などのインフラ輸出を成長戦略の柱に掲げる。とりわけ日立の英事業は「先進国で原発が成立するかしないかの最大の試金石」(経済産業省幹部)と位置づけ、英政府と支援策を交渉してきた。国内で原発の新増設が見通せない中、海外で実績を重ね、人材や技術を維持する思惑もある。とはいえ、東京電力福島第一原発事故以降、先進国では原発の建設コストが高騰している。日立の英事業も当初の総事業費は「1・5兆~2兆円」とされたが、為替変動などもあって3兆円に膨らんだ。英国政府はこの原発で発電される電気の買い取り価格をまだ決めていない。日本の大手電力は出資に応じるかも決めておらず、事業の先行きは不透明さをはらむ。 <生産性が低くて無駄遣いの多いのが日本の役所> PS(2017年12月9、24日追加):*4-1のように、11月末に北海道松前町沖で見つかり、函館港沖に曳航されて海上で巡視船に横付けされていた北朝鮮の木造船が、12月8日、事情聴取していた警察官が巡視船に引き揚げた後にエンジンを動かして巡視船から離れ、海上保安本部が元の位置へ戻したそうだが、粗末な木造船に8人も乗せたまま10日以上も海上においているような①日本の警察の仕事の遅さと判断の悪さ ②10日以上も一つの舟に横付けしている巡視船の暇さ(ほかにも仕事はあるのに・・) ③人権意識の低さ に呆れた。北朝鮮船は松前小島に一時接岸し、島から家電などが無くなったそうだが、乗組員と船を陸に上げて調べればよい。 一方で、*4-2のように、北朝鮮の拉致問題は蓮池さんたちが帰国してから15年経っても1mmも進んでおらず、選挙には利用するが解決する気は無いように見え、そのようなことを訴え続けたい人はいないのに時間ばかりかけて、引き裂かれた人々の台無しにされた人生や人権には思いをいたしていないように思われる。 さらに、尖閣諸島については、*4-3のように、最近は尖閣諸島付近の領海周辺への中国船侵入が恒常化しているのに、巡視船が警告するだけで報道が少なくなった。そこで、*4-4のように、沖縄県石垣市の中山義隆市長が同諸島の地名を「石垣市尖閣」とする議案を12月の市議会に提出し可決される見通しだそうだが、「石垣市尖閣」の後は、一年間も議論しなくても、久場島、大正島、魚釣島などの各島名にすればわかりやすいのではないだろうか。 また、*4-5のように、中国は東シナ海でガス田の開発をしており、大人口を抱える中国の第一の目的は明らかに資源獲得で、日中中間線の中国側にガス田の“構造物群”を作っているので、中国の程駐日大使が「中間線から西は双方の意見に食い違いがない海域で、日本から異を唱えられる余地は全くない」と発言したのは正しい。つまり、日中中間線から西側は中国の裁量下にあり、*4-6の菅官房長官の「指摘はまったく当たらない」という反論の方が間違っているのだ。なお、日本政府の言う東シナ海の資源開発に関する2008年6月の日中合意はあるが、日本側には共同開発する気配も意欲もないため、いつまでもは待たないのが世界常識である。そして、税外収入を得るのではなく、くだらない予算を分捕ったり、資源を外国から輸入したりすることしか考えていない日本の経産省が、将来を展望しておらず、情けないのだ。 結論として、最も生産性が低いのは役所であるため、ここが大量の資金を使うと役に立つ投資への資金投入や経済成長が小さくなるわけである。 なお、*4-7のように沖永良部島沖海底で金・銀・鉛などの鉱物を含む海底熱水鉱床を新たに見つけたのは頑張った成果であり、希少金属(レアメタル)も含んでいるのは有望だが、レアメタルの存在が明らかになっても採掘技術の開発を急がず、2020年代半ばまで事業を開始しない真剣みのなさと生産性の低さが日本の役所の問題点だ。そして、排他的経済水域内の海底は国有財産であるため税外収入を得られる筈だが、採掘権も無料で民間企業に譲ってしまうのが、ビジョンなき日本政府の特徴なのである。 北朝鮮の木造船と日本の巡視船 拉致被害者家族 日中中間線付近のガス田開発 *4-1:http://www.sankei.com/photo/story/news/171208/sty1712080011-n1.html (産経新聞 2017.12.8) 北朝鮮木造船、かじ故障しているのに逃亡? 松前小島の被害額800万円 北海道松前町沖で11月末に見つかり、函館港沖にえい航されて巡視船に横付けされていた北朝鮮の木造船が8日午後3時25分ごろ、男性乗員10人のうち8人が乗った状態でエンジンを始動し巡視船から離れた。第1管区海上保安本部(小樽)によると、船につながれたロープが外れており、別の船艇が再びロープをつないで停止させ、約2時間半後に元の位置へ戻した。逃亡を図ったとみて経緯を調べている。北朝鮮船は、松前町の無人島、松前小島に一時接岸していた。島から家電などが無くなり、道警は窃盗の疑いで乗員全員から任意で事情聴取。松前さくら漁協は8日、避難小屋の発電機やボイラーも壊されて被害総額が800万円近くに上ることを明らかにした。 ●突然前進 捜査関係者によると、木造船の前部と後部が巡視船とロープでつながっていた。事情聴取していた道警の警察官が巡視船に引き揚げた直後、突然前進を始めたという。木造船のかじは故障しているが、エンジンに問題はなく、動きだした際は8人が木造船にいた。 *4-2:https://mainichi.jp/articles/20171013/ddm/041/040/074000c (毎日新聞 2017年10月13日) 北朝鮮・拉致問題:北朝鮮から帰国15年 解決一刻も早く 蓮池さん「拉致は夢と絆奪う」 北朝鮮による拉致被害者5人が帰国して、15日で15年になるのを前に、被害者の一人、蓮池薫さん(60)が新潟県柏崎市内で毎日新聞のインタビューに応じた。蓮池さんは「私や家族にとって、かけがえのない15年だった」と振り返った。その一方で「被害者家族の高齢化が進んでいる。秒読みとも言っていいような切迫した問題」と今も故郷の地を踏めずにいる被害者の早期帰国を訴えた。「帰国してからの15年間は自分の意思で人生を自由に切り開いていけた日々だった。北朝鮮にいた24年間とは対照的な時間で、それは私の子どもたちにも言えることだと思う」。蓮池さんは中央大学法学部に在学中だった1978年7月31日、当時交際していた妻祐木子さん(61)と新潟県柏崎市の海岸で拉致された。北朝鮮では日本の出版物を翻訳する仕事を命じられ、招待所と呼ばれる施設での生活を強いられた。「帰国したいという思いはあったが、考えてもつらくなるだけだったから、ずっと抑え込んできた」と振り返る。風穴が開いたのは、2002年9月の日朝首脳会談だった。北朝鮮は日本人の拉致を認め、翌10月に蓮池夫妻、地村保志さん(62)、富貴恵さん(62)夫妻、曽我ひとみさん(58)の5人が帰国を果たした。「故郷に帰った瞬間、抑え込んできた気持ちがあふれ出した」。蓮池さんは北朝鮮には戻らない、という決断を下す。しかし、北朝鮮に長女(35)と長男(32)を残したままだった。家族が離ればなれになることに祐木子さんは猛反対したが、「自分で人生を選ぶ生き方は北朝鮮ではできない。リスクはあるかもしれないが、政府を信じ、日本で子どもたちの帰国を待つべきだ」と考えたという。子どもたちの帰国は1年半後に実現した。蓮池さんは柏崎市役所に臨時職員として勤めながら、一家4人での生活を取り戻した。それでも、気持ちは落ち着かなかった。「自分の人生の『居場所』が見つけられなかった」ためだ。「拉致される前は法学を勉強していたが、今から学び直して、法律で生きていくことはできない」。自分に何ができるかを模索していた時、知人から韓国の書籍の翻訳の仕事を紹介された。周囲の協力もあって05年5月に出版にこぎ着けた。「あの国の言葉を武器に生きていく」--。翻訳という仕事が蓮池さんが見いだした「居場所」だった。沈黙を守っていた拉致問題に対し、声を上げるようになったのもそのころからだ。「日本政府は核・ミサイル問題を解決するために独自の寄与をしつつ、日朝交渉では拉致問題を最優先にすべきだ」「全てが解決すれば国交正常化交渉の開始などを盛り込んだ平壌宣言の履行という『未来』を示すことも必要だろう」。今では、新潟産業大で准教授を務める傍ら、各地の講演などで政府への提言もする。「帰ってきた喜び、生きがいが大きいからこそ、他の人が帰って来られない状況がもどかしい」。蓮池さんは「人生には夢と絆が必要だ」と語る。夢とは自由に人生を生きる選択肢を持つことであり、絆とは家族とのつながりだという。二つを引き裂いたのが、拉致事件だ。「拉致問題は被害者が帰ってきて終わりではない。その後に夢と絆を取り戻すには、時間が必要になる。だから、一刻も早く解決しなければいけないのです」。蓮池さんはそう訴え続ける。 ■北朝鮮による拉致事件 1970~80年代に日本人が不自然な形で、相次いで行方不明になった。北朝鮮の工作員らの関与が指摘され、2002年の日朝首脳会談で北朝鮮は日本人の拉致を認め、謝罪した。日本政府が認定した被害者17人のうち蓮池薫さんら5人が同年に帰国。しかし、北朝鮮は横田めぐみさん(行方不明時13歳)や有本恵子さん(同23歳)ら8人については「死亡」と主張、松本京子さん(同29歳)ら4人は「未入国」としている。 *4-3:https://mainichi.jp/articles/20170925/ddg/041/010/006000c (毎日新聞 2017年9月25日) 沖縄・尖閣諸島:中国船4隻、領海周辺に侵入 25日午前10時10分ごろから、沖縄県・尖閣諸島周辺の領海に中国海警局の船4隻が相次いで侵入した。中国当局の船が尖閣周辺で領海侵入したのは21日以来で、今年24日目。第11管区海上保安本部(那覇市)によると、1隻は機関砲のようなものを搭載。領海から出るよう巡視船が警告した。 *4-4:https://mainichi.jp/articles/20170922/ddp/041/010/034000c (毎日新聞 2017年9月22日) 沖縄・尖閣諸島:地名「石垣市尖閣」に 市長が変更案提出へ 尖閣諸島を行政区に抱える沖縄県石垣市の中山義隆市長は、同諸島の字を変更し地名を「石垣市尖閣」とする議案を市議会12月定例会に提出する方針を示した。同市が明らかにした。賛成多数で可決される見通しという。現在の尖閣諸島の地名は「石垣市登野城(とのしろ)」。中山氏は開会中の市議会9月定例会で19日、「住所に『尖閣』の文言を入れ込むため、どのような字名を付ければいいか内部で検討している」とし、字を「尖閣」とする意向を表明。その上で「12月議会には必ず(議案を)上程し、住所として『尖閣』の言葉が入るようにしたい」と明言した。市の担当者は「住所を見ただけで、その場所が尖閣諸島だと分かるようになる」と話した。尖閣諸島の字の変更は、昨年から市議会で議論されていた。 *4-5:http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/223968.html (NHK 2015年7月29日) 時論公論 「東シナ海 中国のガス田開発の狙いは何か?」 東シナ海の「日中中間線」付近で、中国がガス田開発の構造物の建設を着々と進めていることが明らかになりました。そこには、エネルギー資源の獲得だけではない、したたかな中国の戦略が垣間見えるように思います。今夜は、ガス田開発をやめようとしない中国の狙いと日本政府の対応について考えます。 ■(ガス田構造物群) 政府の発表によりますと、中国が建設した洋上の構造物は、日本が東シナ海の境界線にすべきだと主張している「日中中間線」のすぐ西側に集中しています。あわせて16基が確認されていて、この2年間だけで12基も増えました。 ■(日中中間線とは?) はじめに、「日中中間線」とはどういうものなのか整理しておきましょう。 そこで日本が提案したのがこの「中間線」です。地理的に中間にある線を境界線にするべきだとの主張でしたが、中国はこれを受け入れず、200海里よりもさらに深く日本側に入り込んだ「沖縄トラフ」が境界線だと主張しています。そして中間線ぎりぎりのこの位置にガス田の“構造物群”をつくってきました。 ■(日中中間線付近のガス田問題の経緯) 日中はかつて、中間線付近でのガス田開発で合意に達したことがあります。中国が2004年、中間線のすぐそばで「白樺」と呼ばれるガス田の施設の建設を始めたことがきっかけで問題化しました。その後、協議の末、2008年6月、白樺ガス田を共同開発することなどで合意しました。境界が確定するまでは互いに協力するなどとした合意で、日本が提案していた中間線の考えを中国側も尊重したものと受け止められていました。ところが、同じ年の12月、中国の法執行機関の船が尖閣諸島の日本の領海に初めて侵入。さらに2010年、尖閣諸島沖合で、中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件も起きて、以来、交渉は中断したままになっています。 ■(損なわれる日本の海洋権益) 中国側の構造物は、中間線からはみ出してはいませんが、ここで重要な点は、日本は「中間線」を提案してはいるものの、境界が画定されていない以上、200カイリまでの海域の権益を放棄したわけではないという点です。ところが今回確認された構造物のほとんどは、この係争海域につくられていて、中国の一方的なガス田開発によって日本の権利は損なわれている状態です。 ■(16基のガス田構造物の現状) 今回撮影された14枚の写真を見ると、多くの構造物は海底にのびる細い「掘削用のパイプ」が確認でき、このうち5基の構造物からは、ガスを生産する際に発生する炎が噴き出しているのが見えます。先月、存在が確認されたばかりの土台だけの構造物もあり、この海域でガス田開発をさらに拡大させていく姿勢をうかがわせています。 ■(中国ガス田開発の狙い) さて、中国が中間線付近でガス田の開発を続ける狙いはどこにあるのでしょうか。指摘されているのは、主に次の3つです。1つは文字通り「エネルギー資源の確保」、「軍事目的の利用」、そして、「海洋権益の拡大」です。ひとつずつ見ていきます。 ■(エネルギー資源の確保か) エネルギー資源の確保は、急速な経済発展で需要が増している中国にとっては喫緊の課題です。実際、中間線付近のガス田の一部からは中国本土に天然ガスが送られ、上海で消費されているといわれています。中国では、エネルギー資源のおよそ60%余りを石炭に依存しています。石炭は、深刻な大気汚染の原因になっているため、中国政府は、その比率を減らし、天然ガスや石油を増やしていこうとしています。しかし、石油や天然ガスは、多くを輸入に頼っていて、特に石油を運ぶ中東からの海上輸送ルートはアメリカ海軍の影響力が大きく、中国としてはこのルートを使わずに済む中国近海でのエネルギー資源の開発を目指しています。中国が東シナ海と南シナ海の海底資源に強い関心を持つのはこのためです。しかし、これまでのところ、中国が期待する大規模なガス田の存在は確認されていません。 ■(軍事目的の利用か) 一方、防衛省は、「軍事目的」に使われる可能性を指摘しています。例えば、ヘリコプターや無人機の洋上の基地となることです。また、軍事専門家は、レーダーが設置されるかどうかに注目しています。現在、東シナ海に中国軍機の飛行を支援するレーダー施設はなく、ガス田の構造物に航空管制レーダーが設置されれば、中国空軍の行動半径は大きく広がることになるからです。 ■(狙いは「海洋権益の拡大」か) そして、政府関係者や多くの専門家がこぞって指摘するのは、中国の真の狙いは「海洋権益の拡大」だというものです。 (中略) ■(日本の対応は?) さて、こうした中国の海洋権益の拡大の動きに対して日本政府は、どのように対応してきたでしょうか。中国による構造物建設の状況を、上空からの監視飛行によってつぶさに把握する一方、先週までその詳細を公表してきませんでした。公表に踏み切ったことについて菅官房長官は「中国の開発行為が一向に止まらないことや、中国の一方的な現状変更に関する内外の関心が高まっていることなどを総合的に判断して公表した」と説明しました。中国と交渉を進める上で様々な「外交的配慮」が必要だったにせよ、中国の海洋進出の実態を世界に発信して、国際的な世論を味方につけ、中国と交渉するという手段もあった筈だと批判する声もあります。また、安全保障法制の国会での議論を有利に進めるためにこのタイミングで公表したとのではないかと訝る声もあります。一方、中国の程永華駐日大使は、「中間線から西の部分は双方の意見に食い違いがない海域で、日本から異を唱えられる余地は全くない」と発言しました。私には、「東シナ海の半分はすでに裁量のもとにある」と言っているかのように、聞こえました。この問題をめぐって中国は話し合いを続ける立場を示しています。日本としては、中間線付近では互いに協力することで一致した「2008年の合意」に戻るよう求め、対話による解決の糸口を探っていく方針です。中国による既成事実化と現状変更の試みに対して、今後、効果的な手段をどのように繰り出していけるのか、日本の外交力が問われています。 *4-6:https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H0E_T20C15A7EAF000/ (日経新聞 2015/7/23) 官房長官、中国の非難に反論 東シナ海ガス田写真で 菅義偉官房長官は23日午前の記者会見で、中国による東シナ海のガス田開発の写真公開をめぐって、中国外務省が主権の範囲内だと非難したことについて「指摘はまったく当たらない」と反論した。日本政府として一方的な開発行為の中止や、東シナ海の資源開発に関する2008年6月の日中合意に基づく協議再開を中国に求めていると強調。「中国側が日本側の呼びかけに応じて建設的に問題を解決するよう期待したい」と語った。 *4-7:http://qbiz.jp/article/125146/1/ (西日本新聞 2017年12月24日) 沖永良部沖に海底鉱床 金多く含み希少金属も 鹿児島県・沖永良部島沖の海底で金や銀、鉛などの鉱物を含む海底熱水鉱床が新たに見つかった。調査、発見した独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は「国内の他の海底鉱床より金、銀の含有量が多く魅力的な鉱床。今後、鉱石の全体量や金属の資源量を詳しく調べる」としている。JOGMECによると、調査は経済産業省の委託を受け、2016年11月〜17年2月に実施。水深1100メートルの海底で、長さ300メートル、幅100メートルの範囲で熱水を噴出する様子を、無人探査機を使い確認した。鉱物が冷えて沈殿した煙突状の構造物「チムニー」も多数発見。最高220度の熱水を噴出する高さ約30メートルの巨大チムニーもあり、一定期間活動を続けている鉱床とみられる。同島の洞窟「銀水洞」にちなみ「銀水サイト」と名付けられた。採取した鉱石の分析では、鉱石1トン当たり金13・6グラムが含まれ、これまでJOGMECが沖縄本島沖などで発見した5カ所の鉱床よりも含有量が多いという。レアメタル(希少金属)のガリウムも微量ながら検出した。海底の鉱床から鉱石を大量採掘する技術は開発中で、JOGMECは今夏、鉱石をポンプで吸い上げる試験に世界で初めて成功した。国は20年代半ばに鉱石の採掘事業開始を目指している。 <森林環境税等について> PS(2017.12.10、17追加):*5-1に、「1人当たり年1000円で総額年620億円にもなる森林環境税を、①私有林の面積や林業就業者数などに応じて市町村に配分し ②私有林の間伐のための林道整備や放置された私有林の整備などに使う」と書かれている。しかし、①は、国有林や公有林は森林環境税とは別に予算を取るということであり、②は私有林の世話(それも道路整備)だけに使うということであるため、国民全体で負担する意義が見い出せない。 私は、森林保全のために森林環境税を徴収するのなら、国有林・公有林(税外収入の宝庫)の維持管理費用もそれで賄い、私有林についても間伐のための道路工事だけではなく、里山の持続的な利用を可能にする政策を行っていくべきだと考える。そのため、各地域大学の農学・林学・水産学等の研究室に、①現在、その地域で何が足りないか ②地域の森林にどういう手入れをすれば、豊かな自然を守って持続可能に利用していけるか などを報告してもらい、必要な予算を積み上げて森林環境税の個人負担額を決め、負担と効果を毎年チェックすべきだ。 なお、*5-2のように、九大の研究者でつくる「豪雨災害調査・復旧・復興支援団」が、九州豪雨被災地で出された住民の意見を集落ごとに空撮地図上に記入した新聞を住民に配布し、住民から「まとまっていて次の議論に生かせる」「集落の未来図が分かりやすい」と好評だそうだ。このように、住民にフィードバックして住民の意見を集約していくことは大変重要だが、未来の街を造るためいろいろな学部からアドバイスを提示するのもよいだろう。これは、東日本大震災の復興はじめ都市の再開発などの街造りに大学の知を活かすよい機会であり、学生が現場の事例を参考にしながら具体的なニーズを知って研究する機会にもなるため、それぞれの地域の大学が行うのがよいと思われる。 *5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171210&ng=DGKKZO24464740Z01C17A2EA2000 (日経新聞 2017.12.10) 森林環境 使途限定が課題 森林保全に使う森林環境税は2024年度から導入する方向だ。1人当たり年千円を個人住民税に上乗せして課税する。23年度までは東日本大震災からの復興事業費として、住民税に千円上乗せしている。24年度から代わりに導入し、途切れなく徴収する格好だ。対象は住民税を納める約6200万人。単純計算で年620億円の増収になる。私有林の面積や林業就業者数などに応じて、市町村に配分する。お金は間伐などによる林道整備や放置された森林の整備などに使う。ただ使い道を特定の政策目的に限ると、無駄遣いを生みやすく、効果が不明瞭なバラマキに陥る恐れがある。国際観光旅客税にも同じ懸念があるが、森林環境税は都市部の納税者に利点がみえにくいのが難点。独自に実施する自治体では住民に二重の課税を強いる可能性がある。 *5-2:http://qbiz.jp/article/124410/1/ (西日本新聞 2017年12月17日) 復興アイデア新聞 朝倉市と東峰村 九大支援団製作 九州大の研究者でつくる「豪雨災害調査・復旧・復興支援団」が、九州豪雨被災地の福岡県朝倉市と東峰村の住民集会で出された意見を集落ごとに新聞にまとめ、住民に配布している。集落の空撮地図上に意見などを記入。住民から「まとまっていて次の議論に生かせる」「集落の未来図が分かりやすい」と好評だ。 ●「集落の未来図 分かりやすい」 朝倉市、東峰村は、いずれも来年3月に復興計画を策定する予定。これに住民意見を反映させようと集落や地区ごとの集会が活発化する中で、新聞が生かされている。朝倉市では、松末(ますえ)地区の集落集会などに九大の教授や学生が参加。出た意見を島谷幸宏大学院教授の研究室スタッフがパソコンで空撮地図上に書き込み、A3判1枚の新聞にして集落ごとに配っている。10月から製作を始め、現在は松末、林田、白木各地区などで7種を製作した。このうち松末地区の乙石、中村、石詰3集落の意見をまとめた「乙石川復興新聞」は、表の面に集会の合意項目などを表にしてまとめた。裏面は空撮写真上に新たに住宅や田んぼが望ましいと思う位置が一目で分かるよう色分けして描いた。他にも、主要道路に「洪水時でも通れるよう(中略)片側1車線以上は確保」などと記載。新聞の内容は集会のたびに更新される。石詰集落区会長の小嶋喜治さん(62)は「新聞を見ながら家族で話せるし、次へ進む知恵が出る。復興へ前向きになれる」と語る。一方、東峰村では、4地区ごとに地域住民協議会が開かれているが、こちらは三谷泰浩大学院教授の研究室が製作を担当。協議会で出された意見を空撮地図上に書き込み、次の協議会の場で配布している。島谷教授は、新聞が復興計画策定時に住民意見として活用されることに期待。「住民だから分かる情報も入っている。私たちが(復興策を)行政などにアドバイスする際にも役立つ資料」と話す。今後、他集落から要請があれば新たな新聞を製作したい考え。 <日本における水素社会の意味> PS(2017.12.10追加):*6のように、神戸市は水素燃料で発電した電気や熱を公共施設に供給する実証実験を始めるそうで良いことだ。しかし、「水素は発電時には二酸化炭素(CO2)を排出しない」と書かれているように、水素を都市ガスや天然ガスから作ればCO2や他の廃棄物が出る上、料金を海外に支払わなければならない。そのため、水が豊富な日本は、自然エネルギー由来の電力で水を電気分解して水素と酸素を作るのが最も安価で環境に良いのだが(海の水を使えば、同時に塩も分離できそうだ)、外国に金をばら撒くことでしか日本の存在感を示せない能無しの経産省が、高い燃料を輸入して国民に負担を強いたがるのは困ったものである。 *6:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/158129 (佐賀新聞 2017.12.10) 水素発電施設が神戸で完成、世界初、市街地へ供給実験 来年1月に神戸市で、水素を燃料として発電した電気や熱を病院などの公共施設に供給する実証実験が始まるのを前に、水素発電のプラントが同市中央区のポートアイランドに完成し10日、記念式典が開かれた。市などによると、市街地での実証実験は世界初という。実験は来年1月下旬から3月中旬までの予定で、市が進める水素を活用した都市づくりの一環。水素は発電時には二酸化炭素を排出しないため、クリーンなエネルギーとして注目されている。プラントの敷地は約3700平方メートル。水素だけを燃焼させたり、天然ガスを混ぜて発電したりして、安定して運用できるかを調べる。 <民間企業は工夫次第の筈> PS(2017年12月11日追加):*7-1に、「①過疎地の店舗網を存続させるため、銀行支店の営業日を週2日に」という提言を佐銀の頭取が行い、「②日銀のマイナス金利政策による低金利の影響で銀行の収益環境が悪化した」と書かれている。しかし、銀行は一般企業に貸付を行って収益を挙げるのが本来の業務であるため、それをしっかり行えば日銀のマイナス金利は銀行にはプラスに働く筈であり、②は誤りだ。それでは、どうしっかり行えばよいかについては、自然エネルギー・PFIによる鉄道高架化・電線地中化・都市の再開発・工場や事務所のオートメーション化・介護施設建設などの時流にそった投資に貸付を行ったり、銀行自身のルーチンワークを徹底的にオートメーション化して余剰人材を営業や接客にまわしたり、子会社を作って中小企業の経理を代行したりすれば、生産性が上がり、新しいニーズも見えてくる筈である(例えば、眞子様のご結婚にあたり、美智子皇后がお持ちのものと同じか少し色違いの佐賀錦の帯を完全機械織りで作って差し上げるなど、現代に合った高度なオートメーション化もあってよい)。 また、郵便局も、*7-2、*7-3のように、郵便が減少していることを悔やんでばかりいても仕方がないので、資産であるネットワークを活かして便利な宅配便を作ったり、建物が便利な場所にあることを活かして、*7-1のような銀行業務を受託・代行したり、建物の中にクリニック・介護施設・保育施設・ショッピングセンターなどを入れてもよいだろう。そして、このような工夫は、郵政省の管轄下ではできなかったが、民営化後の現在は、先入観にとらわれずに他の業種と提携すれば簡単に行えるのである。 *7-1:http://qbiz.jp/article/123873/1/ (佐賀銀行 2017年12月11日) 「支店営業は週2日に」 佐賀銀・陣内頭取 過疎地の店舗網存続へ提言 銀行支店の営業日を週2日に−。経営合理化で銀行の支店網が全国的に見直される中、佐賀銀行の陣内芳博頭取は過疎地の店舗網存続に向けてこんな構想を打ち出した。銀行法は原則、平日に休業日を設けることを認めていないが、陣内氏は「顧客に不便をかけずに合理化を進めるためには規制緩和が必要」と唱える。陣内構想は、同じ顔触れの行員グループが1週間に2日ずつ、複数の店舗を移動しながら勤務する。これなら「行員を増やさず、過疎地の店舗網を維持することができる」とした。同行も拠点網の再編を進めている。来年8月には、水ケ江支店(佐賀市)の犬井道出張所と東与賀出張所を市内に新設する拠点に集約する。ただ、両出張所の統廃合はせず、同居の形で存続させるという。顧客が口座番号を変えずに済むといい、これまでも同じ対応を取ってきた。拠点数は福岡、佐賀、長崎、東京の4都県で計91カ所と1減になるが、支店・出張所は計103カ所を維持できるという。銀行業界では日銀のマイナス金利政策による低金利の影響で収益環境が悪化。みずほフィナンシャルグループが国内拠点の約2割削減を表明するなど、拠点再編の動きが広がっている。陣内氏は11月29日の記者会見で「銀行の支店は社会インフラだ。むやみに閉めていいとは思わない」とし、全国地方銀行協会の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)にも構想を提言したという。 *7-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24414940Y7A201C1000000/ (日経新聞 2017/12/11) 「ゆうパック」年末危機 ヤマト値上げで殺到 「ゴルフバッグの送料は往復で820円上がった。嫁に怒られる」。ヤマト運輸や佐川急便が10~11月に相次ぎ実施した宅配便値上げが家計を直撃している。その分、来年3月まで料金をすえ置いている日本郵便「ゆうパック」に日本中の荷物がシフトしている。だが日本郵便も喜んではいられない。 ■来年2月まではゆうパック 札幌市に住む50代の主婦は、東京で一人暮らしをする娘に宅配便で食品を仕送りしている。10月のヤマトの値上げで、段ボール箱の縦・横・高さの合計が100cmの荷物を送る運賃は1620円から1793円に上がった。「食品も値上がりしているからお財布に響く」。同じ条件なら1500円で済むゆうパックに切り替えた。ゴルフが趣味という都内在住の50代男性は、週末になるとヤマトを使って長野県のゴルフ場にゴルフバッグを送っていた。料金は1404円から1814円に上がった。往復では820円の負担増だ。日本郵便なら、今なら片道1400円で送れる。10月1日、ヤマトは個人向け運賃の定価となる基本料金を引き上げた。佐川も11月21日に値上げを実施。日本郵便も追随するが、値上げ時期は来年3月1日とした。個人向けの値上げはヤマトが消費増税時をのぞいて27年ぶり、佐川が13年ぶりなのに対し、日本郵便は2015年に値上げしたばかり。日本郵便だけが年越しとなったのはこうした背景もあるが、「大手3社の中では最下位の日本郵便が、先行2社の動向を見極めた」とも言われている。16年度のシェアはヤマト47%、佐川31%、日本郵便16%で、一気に追い上げるチャンスだ。いずれにせよ、年末の繁忙期に1社のみ運賃をすえ置いたゆうパックに、日本中の荷物がシフトしている。個人向けだけではない。実は宅配便の総量のうち、個人向けが占めるのは1割に満たない。9割を超えるのが、アマゾンジャパン(東京・目黒)などに代表される大口顧客向けだ。個人向けと違い、大口顧客向けは宅配の総量が圧倒的に多く、価格も定価がなく、料金は相対で決まるブラックボックスだ。荷主企業を取材してみると、ヤマトや佐川が強硬な値上げを要求している実態がわかった。 ■中小通販会社の悲鳴 「もう決まったこと、の一点張りで、とりつく島がなかった」。千葉県の中堅倉庫会社の社長は憤る。同社は通販会社の商品を倉庫で預かり、発送を代行している。ヤマトと契約して宅配便で商品を発送しているが、9月に一方的に値上げを通告された。同社の場合、荷物1個当たりの平均料金は300円台だったが、ヤマトの営業担当から提示された見積もりは2倍超の700円台。しかも運賃改定の実施日は1カ月後の10月だという。値上げ幅の圧縮と延期を求めたが「こちらの主張はまったく聞いてもらえない」。契約を打ち切るわけにはいかず、泣く泣く値上げを受け入れた。 *7-3:https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_1002.html (NHK 2017.12.11) 民営化10年 郵便局は変わったか 130年以上にわたって国が行ってきた郵政事業が民営化され、1日で10年を迎えました。民営化の大きな狙いは、金融事業が抱える巨額の資金を民間に回し、経済を活性化させること。一方で、赤字体質の郵便事業は効率化が進められ、過疎地のサービスが低下すると懸念されました。全国におよそ2万4000ある郵便局は、民営化から10年でどう変わったのか。各地の郵便局を訪ねてみました。「民営化でよくなったことはない」。茨城県北部の大子町。福島・栃木の両県に接し、観光名所の「袋田の滝」で知られる山あいの町は人口が年々減少し、現在およそ1万7000人。65歳以上の高齢者が40%を超え、過疎化と高齢化が進んでいます。大子町にある「上小川郵便局」は、ことしで開局90年を迎えた職員5人の郵便局。周辺のおよそ1000世帯をカバーしています。1日に訪れる客はおよそ30人。近くに金融機関やコンビニがなく、ATM=現金自動預け払い機を利用するために訪れる人も多いといいます。石井義孝局長は、10年前の状況を「お客様から見たら郵便局は郵便局のままなのに、急に制度だけが変わって当初は苦情も多かった」と振り返りました。民営化からの5年間は、窓口業務は「郵便局会社」、集配業務は「郵便事業会社」と別会社が行う形態でした。上小川郵便局の窓口にいる職員は全員が「郵便局会社」の所属。集荷の依頼や郵便の問い合わせは受けられなくなり、利用者には30キロ以上離れた別の郵便事業会社に電話してもらうことになりました。実は、壁1枚隔てた窓口の裏には、集配を担当する職員がいたため、窓口で利用者の依頼を聞き取ってメモで手渡したこともあったといいます。民営化に伴って、手続きも厳格化。窓口で預金を引き出す際、“顔パス”で済ませていた本人確認も、毎回、書類を提出してもらうことが必要になりました。この10年、石井局長が懸念していた郵便局の統廃合はありませんでしたが、預金や保険の契約をとるなどの“営業目標”が厳しくなったといいます。「職員にとっては、民営化でよくなったことはないと思います。ただ、民営化して何か変わらないといけないという危機感があったのも事実です」と複雑な心境を語ってくれました。 ●新たな役割 新たな活路 全国一律のサービスの維持を法律で義務づけられている郵便事業は、慢性的な赤字体質からの脱却が課題です。売り上げの大幅アップが難しい過疎地の局では、地域の課題にあわせたサービスに活路を見いだそうとしています。その1つが、「高齢者の見守りサービス」です。大子町の郵便局ではことし4月、町と連携して75歳以上の1人暮らしのお年寄りを対象に、月に1度、自宅を訪問する取り組みを始めました。体調や暮らしぶりを尋ね、回答をタブレット端末に入力。役場と家族にメールで報告するもので、およそ150人が利用しています。利用料は町が負担しています。利用者の85歳の女性は「近所の人も施設に入ってしまい、話し相手がいないので、郵便の方が来てくれるのは楽しみ。これからも続けてほしい」と、笑顔で話していました。日本郵便は、この高齢者の見守りを1日から、月額2500円の有料サービスとして全国およそ2万の郵便局で始めました。コストの要因となっている郵便局を収益の上がる存在に変えるチャレンジ。今後さらに増加が見込まれる1人暮らしの高齢者を支える社会インフラになれるかが問われます。 ●若い世代を取り込め! “高齢者の支え”に活路を見いだそうという郵便局がある一方、若い世代の取り込みに力を入れる郵便局もあります。千葉市美浜区にある大型商業施設「イオンモール幕張新都心」の一角に、この7月、郵便局ができました。全国で17局目となるショッピングモールの中の郵便局。周辺に大きな住宅地がなく、高齢者も少ないため、従来の考え方では郵便局にとって不利なエリアです。しかし、買い物に訪れた家族連れなど、いわゆる「いちげんさん」を引きつけることに成功。オープンからの3か月で保険商品の契約金額は、半年分の目標を達成したということです。好調の秘けつは、郵便局の施設にあります。平均的な郵便局の2倍ある広いスペースには、子ども用の小さな机といす。そして、描いた絵を壁に映すことができるプロジェクター。子どもが絵を描くことに夢中になっている間に、母親に貯金や保険の商品をすすめる戦略です。2歳の子どもと一緒に訪れた40代の母親は「家の近くにも郵便局はありますが、何か用事がないと行くことはありません。このモールには週に1回は来るので、ついでにちょくちょく立ち寄っています」と話していました。「イオンモール幕張新都心内郵便局」の田中義明局長は「赴任する前は、お客さんは来ないと思っていたが、予想外に売り上げが伸びている。カウンターの外に立って、モールに来たお客さんに声をかけて営業する『攻めの姿勢』を心がけています。ハロウィーンやクリスマスなど季節のイベントにあわせたキャンペーンを展開して、さらに売り上げを伸ばしていきたい」と意気込みを語っていました。「まだ1合目か2合目」。民営化10年の節目を控えた9月29日。グループを束ねる持ち株会社「日本郵政」の長門正貢社長は記者会見を開きました。「現状に点数をつけるとしたら?」という質問に対しては、「立派な業績を挙げてから採点したい。郵便事業はもうけることを前提とせずに、140年近くやってきた。いろんなところにコストがかかっていて、それを跳ね返さないといけない。富士山ならまだ1合目か2合目」と述べました。そのうえで長門社長は「世の中の動きが早く、未来永劫、安泰と言われる事業はない。10年、20年先を見据えながら、強い成長戦略を描いてくことが急務だ。次の中期経営計画でグループ全体の成長戦略を示せるよう努力したい」と決意を語りました。メールに続いてSNSが急速に普及し、“手紙離れ”には歯止めがかかりません。民営化から10年、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融事業の収益が郵便事業を支える構図は変わっていません。昨年度は、海外事業の業績悪化が響いて、初の最終赤字に転落した日本郵政。全国にある郵便局の不動産やネットワークをいかに収益に結びつけ、自立した経営を実現するか。各地の郵便局の試みに、今後も目を向けていきたいと思います。 <教育はすべての基礎> PS(2017年12月12、21日追加):*8-1のように、「①歴史の変遷を説明するのに必須ではない」として、「②教える歴史用語を絞って授業時間を確保し歴史の流れなどの考察力育成を促す」とするグループがあるそうだが、①は、定義や背景とともに用語を覚えていなければ記憶に残らずコミュニケーションすることもできないため、②の考察以前になる。ちなみに、中国の高校中国史は日本の1.5倍くらいあり、日本が勉強しない方向への改革ばかりしているのは、全分野の人材を劣化させるためよくない。 そのため、高校までは広範囲の知識を覚えることが必要条件で、その知識を教える際に、ただの丸暗記ではなく流れや相互関係として理解できるよう、先生自身がそれを理解して解説し、生徒の質問にも適格に答えられるなど、教える人に能力(知識と論理性)が必要なのである。そして、授業時間の確保は、中学・高校で同じことを2回教えているのをやめ、中高一貫校で日本史と世界史を2年間ずつ教え、概略は小学校で教えておけばよいのだ。この時、*8-2の人づくり革命で、小学校を3歳児以上とし、高校までを義務教育とする政策が効いてくるのであり、財源は、カンフル剤的な景気対策を節約して作らなければならない。 なお、歴史の流れを理解するには、世界史なら人類の発生、移動とその原因、その際に起こった戦い、民族による価値観の違いとその理由、王家同士の関係、文化の融合などを解説できなければならず、その真実は人類の壮大な歴史スペクタクルである。また、日本史なら、古代も含めて世界や周辺諸国と日本との関係もごまかさずに教えなければ背後関係がわからず、役に立たない丸暗記となる。そのため、先生の報酬は上げ、優秀な人が先生になるようにすべきだ。 従って、NHKの大河ドラマも、戦国時代と明治時代ばかりを繰り返して放送するのではなく、中国や朝鮮の歴史と絡んだ日本の古代史を放送してもよいのではないかと考える。 なお、世界史で人類の移動とその理由、その際に起こった既存民族との戦いなどを勉強しておけば、国際関係について現状維持が最善とするのではないもっと深い報道ができる筈だ。その事例の一つに、*8-3の「トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認め、国連総会(193カ国)が米国に撤回を求める決議案を採決することを受けて、決議案に賛成した国には援助を打ち切ることをトランプ大統領が示唆した」というのがある。エルサレムは、紀元前20年にはヘロデ大王によって統治され、その神殿を取り巻いていた外壁の西側部分が、現在「嘆きの壁」として残っている。しかし、紀元135年にローマがイスラエルの地を「パレスチナ」と改称し、1191年にユダヤ教徒は十字軍に追われて世界に散り辛酸を舐めることとなり、1946年にパレスチナにはアラブ人が130万人、ユダヤ人が70万人住んでいたが、1947年の国際連合によるパレスチナ分割決議によって、1948年にイスラエルが国として独立し、世界に散っていたユダヤ人も故郷に戻れた。この時、その地は本来は誰の故郷かという問題になっているのだ。 *8-1:http://qbiz.jp/article/124371/1/ (西日本新聞 2017年12月12日) 脱暗記で歴史用語半減を提言へ 教員有志、龍馬・信玄も入らず 大学入試で問われる歴史用語が多すぎる影響で高校の歴史教育が暗記に偏っているとして、大学、高校教員有志でつくる研究グループが、教科書本文で扱うべき重要用語を精選した案をこのほど公表した。「歴史の変遷に関する説明に必須か」などの観点から選び、用語を現状の半分程度にとどめており、日本史では坂本龍馬や吉田松陰、武田信玄、上杉謙信ら著名な人物でも案に入らなかった。案をまとめたのは、高校や大学教員ら約400人でつくる「高大連携歴史教育研究会」(会長・油井大三郎東大名誉教授)。用語を絞って授業時間を確保し、歴史の流れなどの考察力育成を促すのが狙い。 *8-2:http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20171212/KT171211ETI090010000.php (信濃毎日新聞 2017.12.12) 人づくり革命 持続性ある政策なのか 安倍晋三政権が、幼児教育や保育、高等教育の無償化を柱とする「人づくり革命」の政策パッケージを閣議決定した。少子化対策が急がれる。ただ、巨額の予算を投じるからには、子育て世代の要望を踏まえ、持続性のある財源を確保して臨まなければならない。パッケージの中身は現場の声を優先したとは言い切れず、財源も曖昧なままだ。教育費の無償化や減免は、10月の衆院選で与野党がそろって公約していた。パッケージをたたき台に、国会で精度の高い内容に練り上げてほしい。柔軟に議論に応じるよう安倍政権に求める。幼児教育・保育では原則3〜5歳児の全員を、0〜2歳児は住民税非課税世帯を対象とする。高等教育でも、入学金や授業料を免除するなど低所得世帯の学生を支援する。私立高校授業料の無償化は所得制限を設けて実施する。気掛かりなのは財源だ。政府は消費税再増税の増収分のうち1兆7千億円と、企業の拠出金3千億円を充てるとする。掲げた政策を全て実現するとなると、この2兆円では足りない。社会保障給付費は年115兆円に上っている。教育費の無償化をもって安倍首相は「全世代型の社会保障への転換だ」と言う。高齢化に伴い、給付の増大が見込まれるのに、逆進性の高い消費税に財源を絞ることに無理がある。企業や会社員、自営業者らから保険料を徴収し「こども保険」を創設する―。自民党若手議員の提言は検討したのか。それぞれの社会保険が一定額を出し合う「子育て支援連帯基金」の案もあったはずだ。前提として「子どもを社会で育てる」との理念を根付かせることも政治の役割だろう。現場の要望との不一致も気になる。母親たちは「保育所の整備と質の向上が先」と訴える。国は保育士の確保へ賃金を月3千円引き上げるとしたが、現場は「焼け石に水」と指摘する。高等教育関係者からも「教育の質を高めることが優先」との声が聞かれる。大盤振る舞いにも映る構想を、衆院選から2カ月足らずで固めた理由として、来年に控える自民党総裁選、憲法改定を見据えた公明党との連携を意識した、との見方も出ている。少子化対策は社会の根幹に関わる重要な課題だ。それだけに党派を超えて知恵を持ち寄り、中身の濃い計画に仕上げなければならない。政局と混同してはならないことは言うまでもない。 *8-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13284425.html (朝日新聞 2017年12月21日) トランプ氏、援助停止示唆 エルサレム決議、賛成なら 米トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都と認めた問題で、国連総会(193カ国)が米国に撤回を求める決議案を採決することを受けて、トランプ大統領は20日、「我々に反対する投票をさせておけばいい。我々はたくさん節約する」と語り、決議案に賛成した国には援助を打ち切ることを示唆した。米国の方針に反対する国を脅迫するかのような外交姿勢に反感が高まるのは必至だ。国連総会は21日(日本時間22日午前)に緊急特別総会を開いて、決議案を採決する予定。採択には投票国の過半数の賛成が必要だが、多数の賛成で採択される見通しだ。トランプ氏は20日、ホワイトハウスで開いた閣議の冒頭で「何億ドル、何十億ドルも(米国から)受け取る国が、我々に反対票を投じる」と不満をあらわにし、「我々は投票を見守る」と強調。「米国民は(他国に)利用されるのにうんざりしている。これ以上利用されない」と警告した。またトランプ氏の発言に先立ち、米国のヘイリー国連大使は「大統領は米国に反対した国についての報告を求めている」とする書簡を国連加盟国に送付した。国連総会の採決で加盟国には、「賛成」、「反対」、「棄権」のいずれかのボタンを押すか、そもそも採決に参加しないという選択肢がある。国連総会のライチャーク議長は20日に開いた会見で、トランプ氏を名指ししなかったが、「それぞれの考え方を示すのは加盟国の権利であり責務だ」と強調した。一方、国連関係者からは、米国ににらまれることを恐れて、採決に参加しない国が増えると予測する声も出ている。米国がトランプ氏の発言通りに援助を打ち切るかは不透明だが、実行すれば米国から多額の経済援助や軍事支援を受ける中東諸国にとっては大打撃になる。 <教育の質> PS(2017.12.13、14《図》追加):*9-1の教育の質(教育内容・供給者・供給体制)は、人材を育てる上で決して無視してはならない課題だ。また、*9-2の大学トップが挙げる重点課題のうち、「能動的学習や対話型授業」が行われていないのは、大教室で教授の言うことを書き留めて覚えることを主とする文系学部の教育で、これでは創造的な技術を導入できる人材を育てることができない。「課題解決型学習」は、国や地方自治体がかかえる課題を近くの大学に投げかけて解を出させ、結果をフィードバックすれば、お互いに有効に機能するだろう。 なお、*9-3のように、政治とは関係ない筈のオリンピックでロシアが差別されるのは目に余るが、ロシアの選手はバレエの素養があるためか、フィギュアスケートや体操等では技術が確かな上、表現も魅力的だ。つまり、しっかりした基礎をつけておけば何をやってもうまくなるものであるため、私は、小学校を3歳からにして、素人の教諭ではなく専門家が、語学・バレエ・絶対音階・楽器・スポーツなどの基礎となる素養を、子どもを楽しませながら教える仕組にするのがよいと考える。ちなみに、日本のアイドルは、芸がお粗末すぎて鑑賞に堪えない。 幼児教育 2017.12.13日経新聞 (図の説明:小学校を3歳から始めると、これまで時間が足りないためできなかった教育を全員に行うことができる。また、現在は、音楽や英語などの専門家も多くなっているため、専門家が本物の教育をすることが可能だ。さらに、教育の専門家である教諭がやらなければならない仕事とサポートの仕事を分けて分担することによって教育の生産性が上がり、必要な人には相応の報酬を支払うことが可能になって教諭の質を上げることができる) 2017.12.13日経新聞 2017.12.14日経新聞 (図の説明:能動的学習や課題解決型の学習がこれまで行われていなかったことがむしろ驚きだが、高等教育ではグローバルに通用する人材を作らなければならない。ただし、これには留学してMBA等をとってきた人材を関係部署に配置して育てるのではなく、別の仕事をさせてつぶし、社員全員を「何もできない人」にするような日本企業の人の使い方にも問題がある) *9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171213&ng=DGKKZO24533460S7A211C1EN2000 (日経新聞 2017.12.13) 教育改革に必要な供給側の質 幼児・高等教育の無償化の大枠が決まった。経済的理由で子供を持てない、あるいは貧しい家庭の子供たちが進学を断念するといった状況の解消に主眼が置かれている。子供と子育て世代に大胆に政策資源を投入するこれらの政策は、待機児童解消などと並び、社会保障制度を高齢者だけでない全世代型に改革していく第一歩といえよう。ただし、幼児教育、高等教育の課題はこうした需要側だけではない。教育改革では供給側の質も同時に問われなければならない。幼児期は、能力開発、人格形成、情緒と道徳心の涵養(かんよう)などにとって極めて重要な時期であり、教育の役割は重大だ。幼児期の教育が将来の所得向上をもたらすとの研究結果も広く受け入れられつつある。従って、待機児童解消や幼児教育無償化の次に問われるべきは、幼児教育の中身である。だが、教師の質の向上や教育内容充実の議論は、これまでのところあまり行われていない。高等教育の質の重要性はいうまでもない。日本の学生の質の低下が懸念されているが、同時に教育の供給側の質の向上も待ったなしだ。大学側からは入学時の学生の質を問う声が多く聞かれるが、ならば入学時から卒業まで学生の力がどれだけ伸びたかを客観評価し、大学教育の質を問うのも一つの手法である。地方には、偏差値はさほど高くないが、卒業生が引く手あまたの私立大学もある。就職後に必要技能を学ぶ「リカレント教育」も同様だ。長寿化時代でライフステージが複線化するだけでなく、IT(情報技術)、人工知能(AI)がイノベーションを加速させる社会では、リカレント教育のあり方が今まで以上に問われる。単なる教養講座に終わらせず充実させるには、今後、教育機関と産業界、行政が連携を進め、産業界のニーズなどを踏まえた教育プログラムを組み、教育人材の確保、再就職支援にまで取り組む必要がある。企業も社内教育だけでなく、社外教育の活用を視野に、人事制度や雇用のあり方にまで踏み込んで、本気で働き方改革を進めることを求められる。真に教育改革を進めるなら、今回の教育改革で議論の対象になっていない義務教育も含め、一気通貫で教育の質を問い直す場を設けるべきである。 *9-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171213&ng=DGKKZO24535880S7A211C1TCN000 (日経新聞 2017.12.13) 教育改革が重点課題 大学トップが当面の重点課題と考えていることは何か。選択肢から5つまで選んでもらったところ、最も多かった回答は「教育改革」(85%)で、「研究力の向上」(71%)や「国際化の推進」(68%)が続いた。 学部教育の改革で重視する項目としては60%が「能動的学習や対話型授業の拡大」、39%が「課題解決型学習の拡大」を挙げた。「評価の改善や学習成果の可視化」(38%)、「海外留学の促進」(37%)も多い。ほかは「教養教育」(22%)、「カリキュラムの体系化」(18%)など。低所得層の高等教育無償化が決まり、教育の質の確保が求められているが「進級・学位認定の厳格化」は7%にとどまる。社会人の学び直しニーズへの対応に関わる「既卒者や社会人の受け入れ」も4%と少ない。能動的学習などはきめ細かな指導が必要だが、学生・教員比率(S/T比)の改善について尋ねたところ、36%が「教員数を増やしたい」と答えた。教員増・学生減のどちらも考えていない大学が59%を占め、「学生の削減と教員の増加をともに実施したい」としたのは1%(2校)だった。 *9-3:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/158998 (佐賀新聞 2017.12.12) ロシア選手、平昌五輪参加へ、個人資格で、大統領支持 ロシア・オリンピック委員会(ROC)は12日、モスクワで総会を開き、来年2月の平昌冬季五輪に同国選手が国旗や国歌を使用できない個人資格で参加することを支持すると全会一致で決めた。ジューコフ会長が発表した。ペスコフ大統領報道官は、プーチン大統領も決定を支持すると表明。この結果、国際オリンピック委員会(IOC)が、ドーピング違反がないことなどを認めたロシア選手は五輪に参加できる見通しとなった。ジューコフ氏は記者会見で「IOCの決定は多くの点で不公平だが、ロシアの栄誉のために勝利をつかまねばならないとの意見で一致した」と説明した。 <“化石”は地球環境と経済の両方に有害> PS(2017年12月16、19日追加):*10-1-1のように、EV・燃料電池車等の環境対応車や自動運転車は日本が先頭だったが、メディアを巻き込んだ逆噴射によって外国に後れを取り、他国の進歩を見て追随している情けない状態だが、これは、「EVは、エコカーだから走る喜びはない(?!)」などと言うような科学的判断のできない人々の責任である。 また、*10-1-2の「三菱重工業の火力発電所向けガスタービンが不振」というのも、世界の化石燃料離れから今後も回復する見込みはない。しかし三菱自動車は、世界で最初に燃料電池車を作った会社であるため、工業用・個人用の水素燃料による発電、燃料電池による航空機・船舶を作っていれば、トップランナーでいられ、従業員の転用を行う時間も十分あった筈で、経営者が直ちに正しい意思決定をできることが重要なのである。ちなみに、「ゆっくりした方がよい」などと言うのは、世界中で日本だけだ。 さらに、*10-1-3の「A重油の値上がりが農漁業に打撃を与えている」という課題も、私が衆議院議員をしていた2005年当時から農漁業関係者に言われていたため、私はエネルギーの変換や省エネが不可欠だと考えて取り組んできた。そのため、10年以上も同じことを言って国民に負担ばかりかけるのではなく、農業なら自家発電・ハウスの省エネ・EV化などを既に進めて終わっていてもよい時期で、燃料費が漁業経費の3割に達する漁業もまた同じである。 そして、人件費や化石燃料価格が高いのに、運転手付きディーゼルカーを走らせているJRの損益分岐点が高止まりするのは尤もで、*10-1-4のように、JR九州は来年のダイヤ改正で九州新幹線や在来線の運行本数を1日当たり現状より117本減らすそうだが、既にこのブログで書いてきたように、鉄道の経営体質を強化する方法は退却ばかりではない。 なお、広島の住民が四電伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分の即時抗告審で、広島高裁は、*10-2-1のように、阿蘇の巨大噴火の危険性と火砕流到達の可能性が小さくないことにより立地不適として2018年9月末まで運転停止を命じる決定をしたそうだが、これまで苦労を重ねてこられた弁護士はじめ関係者の皆様には敬意を表する。私も、原発は事故を起こせば膨大な被害になるため、事故の確率が0でなければ積算した被害額は大きくなり、速やかに廃炉にしてもらいたいと考えている。 そのような中、地元四国の新聞はこの司法判断について称賛の記事が多いのに、日経新聞は、*10-2-2のように、「九電瓜生社長は『伊方原発差し止めは残念だ』『火山の状況はモニタリングしている』『マグマの状況など科学的な説明を示して安全性を訴える』と述べた」と書いている。しかし、火山学者は「噴火予知はできない」と言っているので、次は地震・火山・断層・津波に関する安全神話を作らないようにすべきだ。また、*10-2-3のように、2017年12月19日には、政府の地震調査委員会が、「北海道東部沖太平洋で、海抜20m超の大津波を伴うM9級の超巨大地震の発生が切迫している可能性が高い」と予測し、「近畿から西に延びる中央構造線断層帯は、四国を横切って大分県に及ぶ」と改めたそうだが、プレートの境界を見ると阿蘇山から霧島連山も含んでいると考えた方が自然である。 2017.12.16日経新聞 2017.12.14、19東京新聞 (図の説明:世界は自然エネルギーに方向転換し、環境に悪い化石燃料や危険な原発は過去のエネルギーとなりつつある。日本でも、自然再生可能エネルギー・水素燃料・電気エネルギーを使うのが、最もエネルギー自給率を上げ、経済と環境によいだろう) *10-1-1:http://qbiz.jp/article/124671/1/ (西日本新聞 2017年12月16日) EVや燃料電池車ずらり AI搭載の自動運転車も 福岡モーターショー クルマと変えよう暮らしの未来」をテーマに開幕した福岡モーターショー2017。会場には最先端の電気自動車(EV)や水素で走る燃料電池車(FCV)、人工知能(AI)を搭載した自動走行車など計204台が並び、大勢の自動車ファンたちが車の将来像に思いをはせた。 世界的な環境規制強化で「EVシフト」が鮮明になる中、注目を集めたのはEVのコンセプトカー。ホンダのスポーツカー「ホンダ・スポーツ・EV・コンセプト」は車体の重心が低く、EVが得意にする加速時の安定走行を可能にする。EVはエコカーのイメージが強いが「EVの世界でも走る喜びを提供する」(広報担当者)。ダイハツ工業は、低床で広い室内空間を確保した商用EV「ディーエヌ プロカーゴ」を出展している。トヨタ自動車は、3分程度の水素充填(じゅうてん)で約千キロの走行を目指すFCVのコンセプトカー「ファイン−コンフォート ライド」を展示。FCVは水素ステーション数が少ないなどの理由で普及が遅れているが、航続距離や充電時間などでEVより優位に立つ。先行開発推進部の内藤了輔主任は「FCVの得意分野は長距離なので、EVとのすみ分けが起きてくる」と分析する。各自動車メーカーは、AIを活用した自動運転技術もアピールする。三菱自動車は、AIが運転手に路面状況などを伝え、運転操作をアドバイスするコンセプトカー「ミツビシ e−エボリューション コンセプト」を披露。日産自動車もAIなどを搭載し完全自動運転を目指すコンセプトカー「ニッサン IMx」を展示している。IMxが自動運転モードに切り替わると、ハンドルが格納される様子を見ていた熊本市の会社員野崎大貴さん(23)は「自動運転の技術が急速に発展している気がする。実現化が待ち遠しい」と目を輝かせた。会場では発売予定の最新型車のほか、高級車やバイクなども間近に見ることができる。 *10-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171216&ng=DGKKZO24704800V11C17A2TJ2000 (日経新聞 2017.12.16) 三菱重、火力不況が直撃、主力重電「低迷2年続く」 欧米大手、リストラ先行 三菱重工業の屋台骨がきしんでいる。15日には宮永俊一社長が主力の火力発電所向けガスタービンの不振が少なくとも今後2年は続く見通しを明らかにした。営業利益の7割を稼いだ主力部門の失速は、MRJや造船の不振とは影響の大きさが違う。世界の需要が半分以下に縮む「火力不況」で、先行して大胆なリストラ策を打ち出した欧米大手に対抗できるか。15日、7カ月ぶりに開いた記者会見で宮永氏は「パワー(発電所向け)があれほど急激に落ちたのは想定外だった」と危機感をあらわにした。温暖化ガスの削減義務を新興国にも求めるパリ協定の成立で、太陽光や風力など再生エネルギーの普及が加速。同社が得意とする出力30万キロワット超の大型ガスタービンは市場の収縮が止まらない。環境急変に対応し、独シーメンスは11月に6900人の人員削減を発表。米ゼネラル・エレクトリック(GE)も12月に入って1万2千人の大規模なリストラを公表した。ただ宮永氏は「日本の企業にレイオフはなじまない」とリストラを否定する。全国5カ所にある製造拠点の再編や効率化に活路を見いだす考えという。だが、悠長に構えている余裕はない。2018年3月期のパワー部門の受注高は前期比2割減の1兆4500億円の見通し。当初のプラス想定を5千億円引き下げた。「GEがあり得ない価格で出してくる」(関係者)というライバルの安値攻勢にも手を焼き、採算も悪化。営業利益は当初想定の3分の2の1千億円にとどまるとみている。ガスタービンを手がける三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の安藤健司社長は「大胆な価格を提示して、少し無理をしてでも取りにいく」と採算度外視の受注もあると強調する。しかし、肝心の需要が出てこない。シーメンスによると大型ガスタービンの世界需要は年間110基程度。これに対して世界の生産能力は4倍近い年400基に達し、供給能力の過剰感が目立つ。三菱重工は巨額損失を計上した豪華客船や納入延期を繰り返すMRJなど負の連鎖が続く。だが、ガスタービンは同社の屋台骨。17年3月期には旧エネルギー・環境部門(現パワー部門)が営業利益の7割を稼いだ。客船やジェット機など「夢のある事業」(関係者)でつまずいても、後ろに控える安定感抜群のガスタービンが安心材料だった。14年には仏アルストムの重電部門買収で「打倒GE」を旗印にシーメンスと組み、敗れはしたものの存在感を示した三菱重工。それから、わずか3年の市場急変だ。GEでは8月に就任したジョン・フラナリー最高経営責任者が電光石火でリストラを加速している。世界は待ってくれない。宮永氏は来春で就任5年の節目を迎える。祖業の造船部門の分社など改革を断行した5年を「この会社に足りないのは意思決定のスピードだと感じた」と振り返った。何よりスピードが求められているのは今なのかもしれない。 *10-1-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171216&ng=DGKKZO24702360V11C17A2QM8000 (日経新聞 2017.12.16) A重油、3カ月で18%上昇 農漁業に打撃 ビニールハウスの暖房や漁船燃料に使うA重油が値上がりしている。国内スポット(業者間転売)価格は1リットル56.8円前後(海上物)と前月比で2%、3カ月前に比べ18%高い。漁業者への卸価格も上がっている。例年より早い寒波の到来に原油高が重なり、農家や漁師の負担が増えている。農林水産省によると、A重油購入などの光熱費は農業経営費の2~3割を占める。ピーマンは26%、バラは31%が燃料代だ。「今年は寒くなるのが早く2週間ほど早めに需要期を迎えた」(全国農業協同組合連合会)。漁業への影響も出始めている。全国漁業協同組合連合会(東京・千代田)のA重油販売価格は前年同月比で2割高く、漁師から悲鳴が聞かれるという。燃料費は漁業経費の3割に達する。今年はイカやカツオ、サンマが不漁だったため、A重油価格の上昇が打撃になっているという。一度に3キロリットル程度給油するという岡山市の洋ラン農家は「1円上がっただけでシーズンの出費が数万円増える」と話す。価格がさらに上がると温度を下げざるをえず、出荷遅れを懸念する。長崎県佐世保市のミカン農家は「燃料費がかさむと栽培可能なギリギリの温度に設定するため品質に関わる」とこぼす。 *10-1-4:http://www.saga-s.co.jp/articles/-/160489 (佐賀新聞2017.12.16) JR九州 運行117本減 過去最大、佐賀は7本、来年3月ダイヤ改正 JR九州は15日、来年3月17日のダイヤ改正で、九州新幹線や在来線の運行本数を1日当たり現状より117本減らして3011本とすると発表した。九州全7県が対象で減少規模は過去最大。佐賀県関係は7本削減のほか、始発や最終便の時間繰り上げなどがある。沿線の人口減少を踏まえた鉄道事業の合理化が狙いで、運転区間の短縮や運行日の見直しも行う。ただ、利便性が損なわれることになり、さらなる利用減を招く可能性もありそうだ。博多(福岡市)―鹿児島中央を結ぶ九州新幹線は6本減らして119本とする。在来線では、特急が24本減の277本、快速と普通列車が計87本減の計2615本となる。佐賀県関連では、筑肥線(唐津-伊万里)の最終列車を上下とも約1時間半繰り上げる。唐津線は多久-西唐津の早朝1本の運転を取りやめ、佐賀-西唐津の始発を現行より22分遅くする。長崎線は肥前山口発の最終列車の運転区間を短縮し、諫早行きを肥前大浦まで、多良行きを肥前浜までに変更。肥前山口-佐世保の最終も23分繰り上げる。博多-長崎の特急は、平日の利用が少ない午前10時台~午後3時台の上下各2本を土、日曜日、祝日だけの運行とする。佐賀発の上りの最終や、下りの午後10時台の1本を取りやめ、前後の運転時間の変更などで利便性を確保する。2017年3月期の連結売上高は鉄道事業が4割超を占める。単体での鉄道事業の営業損益は会計処理に伴う費用軽減分を考慮しなければ87億円の赤字となる。福永嘉之鉄道事業本部副本部長は「他事業の黒字で埋めればいいものではなく、鉄道事業を永く続けるために経営体質を強化しなければいけない」と説明する。改正内容では、「早朝や深夜、昼間など利用が少ないところを見直し、通勤、通学の時間帯は(できるだけ)現状のままにした」と語った。佐賀県は今後、県内沿線の影響を把握するとともに、JR九州に利便性の確保を要望する。副島良彦副知事は「公共交通機関に頼っている地域もあって非常に厳しく、本数が減るのは誠に遺憾。県の実情や沿線の声をいろんな形でJR九州へ届けていく」と述べた。 *10-2-1:http://www.kochinews.co.jp/article/145907/ (高知新聞 2017.12.14) 【伊方原発】運転差し止め決定は重い 原発の安全性について、あまり注目されてこなかった角度から司法が疑問を呈した。広島の住民らが四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求めた仮処分の即時抗告審で広島高裁は、来年9月末まで運転停止を命じる決定をした。最大の理由は、阿蘇の巨大噴火の危険性だ。火砕流が到達する可能性が十分小さいとは言えないとして、立地を不適とした。3号機は昨年8月に再稼働し、ことし10月から定期検査のため停止している。来年1月に運転を再開する四電の計画は事実上不可能になったといってよい。原発の再稼働を巡っては、伊方を含め、各地で運転差し止めの仮処分申請が相次いでいる。地裁段階では判断が分かれているが、高裁が運転停止を命じたのは初めてだ。火山は全国各地に存在する。大きな課題を突き付ける、重い決定といえよう。政府や電力企業、安全審査を担う原子力規制委員会も深く受け止める必要がある。決定で広島高裁は、約9万年前に阿蘇で発生した「カルデラ噴火」に触れ、四電の火砕流シミュレーションの甘さを指摘した。研究では、この時の噴火は火砕流が100キロ先まで到達し、山口県に達したことも分かっている。阿蘇の火砕流が海を越えて伊方に到達する危険性は、簡単に想像できるものではない。違和感を持つ人もいるだろう。思い返したいのは東京電力福島第1原発事故だ。大津波の襲来を過小評価し、悲劇を招いた。自然の脅威を謙虚に受け止めることが大きな教訓である。火山の影響も軽んじることはできない。だが、原発回帰は進んでいる。規制委トップが新規制基準に適合しても「絶対安全とは言わない」と主張している中で、だ。決定はこうした現状に改めて疑問を投げ掛けるものでもあろう。広島高裁は他方で、地震や津波など火山被害以外の新規制基準、四電の想定は「合理的」とした。伊方原発は北側に巨大活断層の中央構造線が走る。原告は、四電が耐震設計の目安となる基準地震動を過小評価しており、新規制基準の実効性の不十分さも主張してきた。決定は、地震と火山とでは明らかに判断が異なっている。大きな疑問を残したといえよう。伊方3号機の運転差し止めを求める仮処分を巡っては、今後も司法判断が続く見込みだ。松山地裁の却下決定を受けた高松高裁の即時抗告審のほか、大分地裁、山口地裁岩国支部でも審理が続いている。四電は広島高裁に対し、早急に異議申し立ての手続きを取る方針だ。裁判長は近く定年退官するため、新裁判長による審理が注目される。福島第1原発事故のような惨劇を繰り返してはならない。安全を求める住民の当然の権利に対し、司法の責任は重い。 *10-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171216&ng=DGKKZO24697760V11C17A2EA6000 (日経新聞 2017.12.16) 九電社長、伊方原発差し止め「残念」 火山の状況注視 九州電力の瓜生道明社長は15日、都内で開いた記者会見で、広島高裁による四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県)の運転差し止めに対して「残念だ」と述べた。高裁は熊本県の阿蘇山が過去最大規模の噴火をした場合の安全性の観点から伊方原発の立地を不適当だと判断した。九電は熊本県と同じ九州の佐賀県と鹿児島県に原発を持つ。瓜生社長は原発運転期間中に高裁が指摘したような噴火が起こる「確率は非常に低いと思っているし、確認のために火山の状況はモニタリングしている」と説明。自社の原発に対する差し止め訴訟では「地下のマグマの状況など科学的な説明」を示して安全性を訴えるとした。神戸製鋼所のデータ改ざんを受けて玄海原発(佐賀県)の再稼働時期を延期した問題で、神戸製鋼への損害賠償請求は「(するかしないかも含め)弁護士と相談中だ」と述べた。再稼働が遅れると原発の代わりに稼働させる火力発電所の燃料費がかさむが、2017年度業績については「発表(した予想)どおりになるよう全社をあげて対応する」とした。 *10-2-3:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017121901001512.html (東京新聞 2017年12月19日) 北海道東部沖で「M9切迫」 政府調査委、大津波も 政府の地震調査委員会(委員長・平田直東京大教授)は19日、北海道東部沖の太平洋で、大津波を伴うマグニチュード(M)9級の超巨大地震の発生が「切迫している可能性が高い」との予測(長期評価)を公表した。道東沖では340~380年間隔と考えられる超巨大地震が約400年前に発生。北海道大の研究では、この時の津波は海抜20メートルを超え、沿岸から4キロ内陸まで浸水したと推定されている。同時に四国地域にある主な活断層の長期評価も公表。近畿から西に延びる「中央構造線断層帯」は四国を横切り、大分県に及ぶと評価を改めた。断層帯の長さは360キロから444キロになった。 <燃料電池と太陽光発電、次の展開へ> PS(2017年12月22、26日追加):*11-1の仏ルノーのゴーン会長兼最高経営責任者退任は寂しいが、後継者として欧州エアバスのブレジエ最高執行責任者の名前が挙がっているのは、エアバス社が航空機に燃料電池や電動を取り入れる準備が進みそうで期待が持てる。是非、ゴーン氏も何らかの役職に留まって企業連合全体を統括してもらいたいものだ。 なお、EV・燃料電池と太陽光発電を組み合わせれば、我が国は「資源のない国」どころか「エネルギー自給率の高い資源大国」になれる。そして、EVと同様、太陽光発電も1995年前後に私が経産省に提案してから20年以上が経過し、最初は100%日本製だったにもかかわらず、現在では、*11-2のように、2016年のシェアで上位5位以内に日本勢は1社も入っておらず、スリム化することしか思いつかない状況なのである。この原因には、非科学的・感情的思考が多い文系出身者の理系教育の不十分さとそれによる世界競争を考慮しない視野の狭い競争と反発のような次元の低い思考過程がある。 *11-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171222&ng=DGKKZO24921130R21C17A2EA1000 (日経新聞 2017.12.22) ゴーン氏、ルノーCEO退任観測 仏紙報道 来年任期 仏ルノーのカルロス・ゴーン会長兼最高経営責任者(CEO、写真)が退任するとの観測が浮上している。レゼコー、フィガロなどの現地メディアは21日までに、ヘッドハンティング会社による後継者の選定が始まったと報じた。改選期を迎える2018年の株主総会に向けた駆け引きが激しくなりそうだ。ゴーン氏のルノー取締役としての任期は18年6月15日に開かれる株主総会で切れるため、CEO職の去就に注目が集まっていた。CEOを交代する場合、株主総会までに後任を選ぶ必要がある。ルノーは2月に経営委員会を招集し、候補者を決めるとみられる。現状では人材会社に社内人材の評価や外部人材のヘッドハンティングを依頼し、候補者を選んでいる段階とされる。現地メディアでは後継候補として、ルノーでものづくりを統括するチーフ・コンペティティブ・オフィサー(CCO)のティエリー・ボロレ氏や販売担当責任者のティエリー・コスカス氏の名前が挙がっている。ルノーの広報担当者は報道についてコメントを避けた。外部の人材では、欧州エアバスのファブリス・ブレジエ最高執行責任者(COO)らの名前が取り沙汰されている。同氏の名前は2~3年前から挙がっている。自動車業界では、トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長、仏グループPSAのカルロス・タバレスCEOらの名前も挙がる。タバレス氏は元ルノーでゴーン氏の懐刀的存在だった。ただ、外部の人材はよほどの逸材でないと難しいとの見方が強い。仏政府は外国人CEOを避けたがっているとの観測もある。1999年に始まったルノーと日産自動車の提携関係は20年近くに及ぶが、16年に新たに企業連合に加わった三菱自動車を含め、各社の成長は今もゴーン氏のリーダーシップに依存している側面がある。ルノーのCEOを退任する場合にもゴーン氏はなんらかの役職にとどまり、日産や三菱自の会長職も続けながら企業連合全体を統括するとみられる。 *11-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171226&ng=DGKKZO25048780V21C17A2TI1000 (日経新聞 2017.12.26) 太陽電池、日本勢スリム化 シャープ、子会社移管 パナソニック、国内を縮小 日本の太陽電池メーカーが事業の抜本改革を急いでいる。シャープは2018年春に開発や設計、保守、海外営業など本体の数百人の人員を販売子会社に移管し、蓄電池や家電を組み合わせた提案営業を強化する。パナソニックや京セラは生産を縮小する。日本企業のシェアは中韓勢に押され下がり続けており、事業をスリム化して収益を確保できる体質をめざす。2005年時点の太陽電池の世界シェア(生産量)は、上位5位中4社が日本企業だった。だが再生エネルギーの買い取り価格引き下げや中韓勢の低価格品の流入で日本勢の劣勢が続く。16年のシェア(出荷量)では上位5位以内に日本勢は1社も入っていない。シャープは太陽電池の研究開発や保守管理を手がける葛城工場(奈良県葛城市)の社員などを販売子会社シャープエネルギーソリューション(SESJ、大阪府八尾市)に移管する。開発や間接部門から営業への異動など、配置転換も含めて検討する。今後は住宅や建材メーカーに太陽光パネルを供給するだけでなく、開発部隊などが営業に同行して現場の需要動向に即応できる体制にする。シャープの太陽電池事業は、16年8月に鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入って以降、原料であるシリコンの調達価格契約の見直しにより17年3月期に営業黒字に転じた。だが同期の売上高は1036億円とピーク時(14年3月期)の4分の1程度になっている。12年に始まった再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)の見直しで価格が当時の半分程度まで下落しており、シャープ以外も事業見直しを急いでいる。パナソニックの太陽電池事業は17年3月期に初めて赤字に転落した。国内市場の落ち込みにより、「セル」と呼ぶ中核部材を作る二色の浜工場(大阪府貝塚市)は停止中で、島根工場(島根県雲南市)も稼働率が低迷している。太陽光パネルの組み立て工程を担ってきた滋賀工場(大津市)は17年度内に生産を終了する。国内シェア首位の京セラも採算性改善のため生産再編で選択と集中を進めてきた。太陽光パネルに関しては三重県伊勢市と米工場での生産を中国と東近江市に集約した。太陽電池の製品販売も補助金優遇が進むタイなど東南アジアへのシフトを進めている。営業担当者も異動などで海外を増やしている。 <科学的・論理的思考の欠如と集団主義が根本原因> PS(2017年12月24日追加):*12-1に、博多発東京行き「のぞみ」の台車に亀裂があった問題で、「①小倉駅を発車して乗務員が焦げたような匂いに気付き、福山-岡山間で乗客から車内にもやがかかっていると申告があり、岡山から検査班が乗り込んで確認して『異常なし』と告げた」「②JR西の乗務員は新大阪駅でJR東海の乗務員に引き継ぐ際にも『異常なし』と口頭で報告した」「③JR西には、走行中に異常音があったらすぐに停車するなどを定めたマニュアルがあるが、異臭については決められていなかった」と書かれている。また、*12-2に、「④2日に1度、目視による台車検査を実施するが、ファイバースコープや超音波による非破壊検査は実施していない」「⑤JR西は列車数に余裕がないため、列車交換ができなかった」というその原因が記載されている。 しかし、①②のように、明らかに異常があるのに「異常なし」として列車を使い続ける安全よりも社内の人間関係を重視する誤った価値観、③のマニュアルに書いてなければ安全だとする思考力の欠如、④の目視だけで検査できると考える非科学性、⑤の列車交換も可能にしておくセキュリティー概念の欠如 など、時間の正確さを損なわずに安全を維持する工夫がない。そして、その根本には、ゆとり教育と推薦入学で必要な知識を持たず、甘い価値観を持った人間が見え隠れする。つまり、基礎教育不十分が根本原因であるため、こういうことが、命に関わる医療やメディアを始め全分野で進んでいるという恐ろしい事態なのだ。 *12-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201712/CK2017122002000238.html (毎日新聞 2017年12月20日) 【社会】新幹線亀裂「異常なし」引き継ぎ 新大阪駅でJR西乗務員 博多発東京行き新幹線のぞみの台車に亀裂が見つかった問題で、JR西日本の乗務員が新大阪駅でJR東海の乗務員に引き継ぐ際、「異臭はあったが異常はない」と口頭で報告していたことが二十日、JR東海への取材で分かった。両社が具体的なやりとりを調べている。JR西は十九日の記者会見で、新大阪駅でJR東海に運転状況と車両状況が引き継がれたと説明し、「内容については調査中」としていた。異常音や異臭を感知していたが結果的に運行は続いており、指令所と車掌のやりとりの中では走行を止めるという判断はされなかったという。JR東海などによると、のぞみは十一日午後四時ごろ新大阪駅に到着。福山(広島県福山市)-岡山(岡山市)間で乗客から車内にもやがかかっていると申告があったが、JR西の乗務員は交代時に「岡山駅から検査班が乗り込み、異常がないかどうか確認した」として、「異常はない」と告げていた。JR西によると、新幹線の走行中に異常音があった場合はすぐに停車するなどのマニュアルがあるが、異臭については特に決めていないといい、担当者は「今回は異臭や異常音がずっと続いたわけではなく、直ちに支障が出るものではないと判断した」としている。のぞみは十一日午後に博多駅を出発し、小倉駅(北九州市)を発車した際、乗務員が焦げたようなにおいに気付いた。さらに岡山駅を過ぎてうなり音が確認され、名古屋駅で運行を取りやめた。 *12-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2492306021122017TJ1000/ (日経新聞 2017/12/21) JR西新幹線トラブル 運行と検査の体制に穴 JR西日本が東海道・山陽新幹線ののぞみで台車に亀裂が入ったまま運行を続けたトラブルは、2つの問題を浮き彫りにした。一つは異常に気がついても列車を止められなかった運行体制。もう一つが亀裂の予兆を見落とした検査体制だ。「新幹線は遅らせてはいけないという深層心理がある」。JR西の関係者は打ち明ける。JR西はJR東海より新幹線の列車数に余裕がなく、車両繰りに苦労している。新幹線のトラブルでの重大インシデントは今回が初めて。博多駅を出発した列車が運行中に異音やにおいが発生しているにもかかわらず走り続け、JR東海が名古屋駅で台車の亀裂を発見。岡山駅で乗り込んだJR西の保守担当が異常を感知したが停止させなかった。JR西の来島達夫社長は「運行ダイヤ優先ではない」と否定する。だが新幹線は鉄道収入の5割を稼ぐ主力事業。在来線は異常が見つかればすぐに停止して点検する。一方、新幹線は運行中に年100件程度の異音が報告されるが、列車を止めて点検をすることはほとんどない。JR西は2005年に乗客106人が死亡する福知山線脱線事故を起こした。事故を受けて「安全性向上計画」を策定し、自動列車制御装置の導入など年1000億円規模の安全投資を続ける。ヒューマンエラーの研究なども進めてきたが、安全優先の意識が現場まで徹底できたかどうか。もう一つの問題が点検体制の不備だ。JR西と東海は2日に1回のペースで目視による台車検査を実施する。一定期間走行した後も部品などを取り外してより精密な目視検査を行う。だが、今回亀裂が起きた場所は力が集中しない場所と判断し、細かいキズの有無を確認する非破壊検査を実施していなかった。JR西は当面、運行の合間に新たに非破壊検査を実施する。将来は振動センサーを台車部分に設置して運行中でも運転席から異常を検知できるシステムの導入を目指す。JR東海も目視で確認しにくい狭い場所に入り込めるファイバースコープや素材内部も確認できる超音波など、非破壊検査の対象拡充を検討する。今回の重大インシデントの原因は国土交通省の運輸安全委員会で調査を進める。JR西と東海は抜本的な解決策は結果が出てからとしている。
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2017,10,01, Sunday
2014.6.9日経新聞 2015.10.6日経新聞 (図の説明:左の2つは、インクジェットで染められた布とその機械、右の二つは、3Dプリンターで作られた有田焼で、伝統工芸も最新技術の導入で進化できることがわかる) (図の説明:写真は博多人形だが、これにロボット技術を加えて、しゃべったり、音楽を奏でたり、一定の動作ができたりするようにすると面白いし、写真を使って亡くなった人とそっくりのしゃべる人形を作ったりすることも可能だろう。上の博多人形は、ロボットでなくても今にも動き出しそうにしているため、リンカーン大統領、マハトマ・ガンジー、サッチャー首相、メルケル首相等のロボットを作って、象徴的な演説や仕草を真似させ、アメリカ・インド・英国・ドイツなどに寄贈すれば、博多人形ロボットを世界で有名にすることができると考える ) (1)伝統産業には、どういうイノベーションが行えるのか 1)織物と染色-秩父銘仙の事例 銘仙は、*1-1のように、ガシャンガシャンとにぎやかに機織機の音が響く中でほぐし織りにするため両面を使えるそうで、美しくて便利なため世界でヒットさせることもできそうだ。 しかし、作り方は「父が数時間でできる仕事が、1週間かけてもできない(=生産性が低いため、価格が高くなる)」ということを現代でも繰り返す必要はなく、名人が作った製品と同じものやそれよりも安定したものをコンピューター制御で作れば、飛躍的に生産性を上げながら静かに美しい絹織物を作ることができるだろう。例えば、*2-2の、キヤノンが宮崎工場を自動化して競争力を強化し、製造業の日本回帰事例となっているように、である。 また、染色も、*1-2のようなインクジェットによる染色もできるので、少量多品種生産が容易になった。さらに、現代では、繭を育てる背景の色を変えたり、DNA操作をしたりすれば、繭自体に初めから色や蛍光を持たせることができるため、退色しない美しい絹織物を作ることもできそうだ。 2)陶磁器-有田焼の事例 有田焼の産地、有田では、現代にマッチした製品を作るため、伝統の中に最新技術を取り入れようとしているが、*1-3のように、佐賀県窯業技術センターが、3Dプリンターで造形した立体モデルを焼成して陶磁器の成形品を得る技術を開発した。 3Dプリンターでは、インクジェットノズルから吐出したバインダーで粉末材料を固める手法を採用し、有田焼と同じ天草陶石の粉末を使って成形品を造形したが、最初は成形品を取り出す際に崩れてしまい、流動性の確保とバインダーの固着性の向上などを実現して強度を高めていったそうだが、私は、その粉末に冷えると固まり焼くとなくなる接着剤を混ぜておけばよかったのではないかと考える。 有田焼の場合も、3Dプリンターやインクジェットを使えば、名人はがっかりするかも知れないが、すでに著作権のなくなった過去の名品を高すぎない価格で再現したり、新しい作品を作ったり、書や絵画を有田焼にして残したりすることも可能になり、応用は多岐にわたるだろう。 3)林業の振興-新建材CLTの事例 直交集成板(CLT)を使えば、*1-4のように、6、7階建ての木造中層ビルも容易に建てられるそうだが、現在は、鉄筋コンクリートよりも総工費が高くなるため使われず、その克服には需要拡大でCLT製造価格が下がる好循環を作るしかないそうだ。そして、欧州に遅れること20年で、日本でもようやく普及段階に入ったものの、普及速度が緩慢なのだそうである。 日本では、良い方向への変化でも変えるのに20年以上かかり、他国よりもかなり遅れてから追いかけるため、変えようとした人には負担がかかり、最初にその事業にチャレンジしたパイオニア企業は倒産することが多い。これは、我が国で新規事業の利益率が低く、その結果、新規事業の開業意欲が低い一因だろう。そしてすぐ、政府の補助金頼みになるのだが、森林の育成には都道府県の森林環境税を投入しているため、林業は既に「役所が補助している産業」なのである。 (2)労働力としてのロボット 中国の人民網が、*2-1のように、「超高齢社会の日本を支える『第4の労働力』」として、「日本人の中には、高齢者、女性、外国人という3つの労働力で問題を解決できると考える人もいるが、実際には第4の労働力としてロボットがある」と伝えているのは面白い。 日本でも、パナソニックが「離床アシストロボット」「自立支援型起立歩行アシストロボット」を開発し、トヨタは歩行不自由な障害者の歩行や起き上がるのが難しい障害者のベッドの上り下り・トイレへの移動を支援するパートナーロボットを作成し、ホンダは利用者の動作に合わせてモーターで歩行を支援する歩行アシストロボットを作っており、今ではロボットが普及向上期に入ったのだそうだ。 ちょうどEVへの転換で仕事がなくなるとされている自動車部品メーカーは、これまでに培った精密な技術を活かして、航空機やロボット部品などの新技術に転換すればよいだろう。 (3)エネルギーと自動車のイノベーション 1)エネルギーのイノベーション 2017.10.5佐賀新聞 スカイマークの 都道府県別 主要産業の 民事再生法申請 倒産状況 倒産件数推移 (図の説明:太陽光発電事業者の倒産は買取制限によって増加し、航空参入したスカイマークも民事再生法を申請した。右の2つは、2015年の都道府県別倒産状況と産業別倒産件数である) 私が1995年頃に太陽光発電を提案して20年以上が経過し、ドイツは、*3-1のように、フクイチ以後、科学的・論理的に脱原発を行って自然エネルギーを進め、トランプ米大統領のパリ協定離脱表明を受けて離脱に反対する米国の州と連携して引き続き米国を取り込み、温暖化対策で国際協力を進めているのに対し、日本は太陽光発電による電力を制限しつつ原発を再稼働した。そして、これは、新興企業が既得権のある大企業と政府にひねりつぶされた一例となった。 また、*3-2のように、2017年9月24日投開票のドイツ総選挙では、緑の党の結党以来の主張だった「脱原発」は国の方針として定着し、「ドイツのための選択肢(AfD)」以外はすべての政党が「脱原発」を前提として再生可能エネルギーの拡大を掲げ、緑の党は「2030年までに全電力の需要を再生可能エネルギーで賄う」という公約を打ち出したのだそうだ。私は、「2030年までに全電力の需要を再生可能エネルギーで賄う」という公約も、市場の選択によって前倒しで達成され、それが緑の党の存在意義だと考える。 2)自動車(輸送手段)のイノベーション (図の説明:左は京都市内を走っている中国製のEVバス、真ん中は太陽光発電と組み合わせたEV乗用車、右はロボット掃除機で、どれも日進月歩だ) 電気自動車も、私が1995年頃に提案して始まったのだが、日本では、何かとEVの邪魔をする世論が多く、ハイブリッド車しか普及しなかった。しかし、*3-3のように、中国ではガソリン車が禁止され、BYDのトップは「中国市場からガソリン車が消える時期は、2030年になる」という見通しを示したそうだ。私は、あらゆる点でEVの方が優れているため、市場の選択によって、変化はそれより早いと考える。 そのため、トップを走っていた日本は、*3-4のように、仏英両国の2040年までの「脱エンジン」の方針を見て、「ここで競争に負けてはならない」などと言わなければならない羽目に陥っているのだが、「車の動きはもっとゆっくりだろう」と兎さんではなく亀さんの方が寝ている状態であるため、とても競争に勝てそうにはない。つまり、このような油断と誤った方針決定が、技術を遅らせ敗退させるのである。 なお、*3-5のように、スマホはワイヤレス給電のものがあるため、自動車も駐車場に駐車してスイッチを入れれば充電され、レストランから出てきた時や買い物が終わってスーパーから出てきた時には充電が終わっているということになればなおさら便利だ。そのため、市民は、そういう設備のあるレストランやスーパーを選ぶことになりそうである。 <伝統産業のイノベーション> *1-1:http://digital.asahi.com/articles/CMTW1709211100003.html (朝日新聞 2017年9月21日) (13)秩父銘仙(秩父市) ◇ハイカラ復活 新たな挑戦 華やかなデザインと色彩で大正、昭和の女性を魅了した着物「秩父銘仙(めいせん)」=◎。夏目漱石の小説にも登場し、竹久夢二も大正浪漫漂う銘仙姿の女性をたびたび描いた。セメントや材木と並ぶ秩父の近代産業を代表した銘仙の復活へ、若い後継者たちがいま、新たな挑戦を続けている。 ◇ほぐし織り 現代に生かす 秩父市黒谷(くろや)にある織元「逸見(へんみ)織物」。工場を訪ねると、ガシャンガシャンとリズミカルに機(はた)を織る自動織機(しょっき)の音がにぎやかに響いていた。逸見織物は1927(昭和2)年、初代が皆野町の織元から独立して創業した。秩父銘仙協同組合によれば、昭和初期、秩父には約500軒の織元が年に約240万反(1反は約12メートル)を織り、約7割の住民が、養蚕を含む織物関連の仕事に従事していたという。「そこらじゅう機織(はたおり)の音が響いていた」と2代目逸見敏(さとし)さん(84)。銘仙は、絹の経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に組み合わせた平織物の総称。大正、昭和に大流行した模様銘仙は「ほぐし織り」という高度な技法で作られる。1908(明治41)年に地元の坂本宗太郎が「ほぐし捺染(なっせん)」の技法で特許を取得。仮織りの糸をほぐしながら本織りするのでほぐし織りという。新技法は画期的で、型紙で捺染するため大胆でハイカラな柄を織れるようになった。ほぐし織りの工程はちょっと複雑だ。まず真っ白な経糸を並べ、本数と長さを整え(整経(せいけい))、整経した糸を仮織り機でざっと織る(仮織)。仮織りした経糸に、模様を彫った型紙を載せ、染料を塗る(捺染)と、経糸に柄が入る。「つなぎ」をかけ、本織りした糸を「蒸し」て色止め。最後に「整理」と「検査」を経て、反物に仕上がる。織物はかつて一貫生産されていたが、工場経営に変わると分業体制が進んだ。しかし今、各工程の職人の高齢化などで分業を維持できるか難しい状況もある。銘仙は戦後、復興や朝鮮戦争の好景気で日常着として人気を集め、物不足の時代に飛ぶように売れた。ガチャンと機が動くと万単位の金が入る「ガチャ万」と称された「糸へん景気」だったが、昭和30年代に洋装が中心になり、和服も銘仙も廃れた。秩父の織元も現在、数軒に減ってしまった。銘仙を織り続ける逸見織物は貴重なその一つだ。作家宇野千代さんの依頼で、ほぐし織りの桜模様の着物を製作。30年前に長女の恭子さん(49)が3代目を継ぎ、夏銘仙の復活など様々な試みを続けている。ほぐし織りの良さを伝えたいとの思いは秩父市中宮地町の「新啓(あらけい)織物」も同じだ。新井啓一さん(83)が1970年に創業。織り手の妻ヤスさん(85)とともに国認定の伝統工芸師だ。新啓織物では12年前、長男の教央(のりお)さん(49)が2代目を継いだ。インドなど世界や日本各地の織物を見て、ほぐし織りの魅力を再発見。デザイナーとして15年勤めた繊維商社を辞め、元同僚の妻園恵さん(51)ら一家で里帰りした。「両親が織る物は魅力的だと思う半面、携わっていない自分への疑問もあった」。しかし家業を継ぐことに啓一さんからは「苦労するから」と反対された。現実はその通りで、父が数時間でできる仕事が、1週間かけてもできない。「でも、昨日できなかったことが今日は少しだけできる。それが励みになった」。まもなく園恵さんも加わり立ち上げたのが、ほぐし織りのブランド「機音(ハタオト)」。新感覚の色柄の銘仙のほか、園恵さんのセンスで淡い色合いの反物を織りだしている。工場に捺染の仕事場も併設し、自社一貫生産も目指す。反物だけでなくストールやバッグ、綿や麻に素材を変えたほぐし織りも制作。銘仙を現代に生かすため、新たな魅力を探る。長瀞町の清流沿いに看板を掲げる「秩父織塾工房横山」も秩父銘仙の一貫生産を試みる。1920(大正9)年創業の工房には、2代目横山敬司さん(83)が関東一円の工場などから収集した織機類がぎっしり。まるで織機の博物館だ。戦後は夜具(やぐ)地や大手寝具メーカーの発注で大手百貨店に置く座布団カバーのほか、サンローランやエマニュエル・ウンガロなどライセンス物を手がけたが、「原点に返ろう」と草木染に力を入れながら銘仙復活を目指している。「日本は絹文化と生きてきた。絹と絹織物の文化の証しを残すのは自分の使命」と敬司さん。今は3代目の大樹(たいじゅ)さん(56)が敬司さんから一貫生産を目指して学ぶ日々だ。「銘仙の全工程を自分でできるようになりたい。それができる機械がそろっているから」。秩父銘仙は2013年、国の伝統的工芸品に指定された。100年以上の歴史があり、主要部分が手作業という条件を満たし、県内では春日部の箪笥(たんす)などに続く指定で、織物では初だ。逸見織物3代目の恭子さんは今、新企画「STYLE*MEISEN(スタイル銘仙)」に取り組む。秩父や栃木県足利市の職人、服飾デザイナーらと組み、銘仙を洋服に発展させようという試み。香港など海外でも展開し販路を広げる。「現代のファッションとして銘仙を復活させる、ジャパン・メイドの誕生です」 ◎秩父銘仙 絹の経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に組み合わせた平織物「銘仙」は、秩父・足利・桐生・伊勢崎・八王子が五大産地。秩父銘仙の起源は織物の女神が創案した布「千千布(ちちふ)」に由来し、秩父の地名の語源の一つとされる。経糸を仮織りし、型紙を使って模様を先染めして本織りをする。経糸と緯糸の色の重なりが角度によって変化して見える玉虫効果が特徴。染めた糸に織るため表と裏が同じ柄になり、色あせたら裏返して仕立て直しができる。 《ちちぶ銘仙館》 秩父織物や銘仙の資料を収集・展示し、伝統技術の継承を目的に2002年にオープン。本館や工場棟は昭和初期の面影が漂う旧県秩父工業試験場の建物で、国の登録有形文化財。生糸をたぐる作業から織り上げるまで全工程を見学できる。 *1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ0408U_U4A600C1000000/ (日経新聞 2014/6/9) ものづくり進化論:インクジェット、広がる用途 衣類や食品、医療にも 液体をノズルから飛ばすインクジェット技術。これまでは紙に文字などを印刷する場合に使われることが多かったが、アパレルや食品の製造現場を変えようとしている。ノズルを搭載する先端部品(ヘッド)やインクの改良により、衣服に使う生地に直接柄や模様を描いたり、食品にカラーのイラストや写真を描いたりすることができるようになってきたからだ。医療分野での応用も進み始めた。 ■製造工程、2カ月から3日に 繊維製品を染色する捺染(なっせん)加工を営む工場が集積するイタリア北部のコモ地区。工場の中では、大型のインクジェットプリンターが24時間稼働し、高級シャツやネクタイを量産している。コモ地区では工場の2割程度が、染料と溶剤をまぜた糊(のり)や原版を使う伝統的な捺染から、インクジェットプリンターによる量産に移行しているとされる。長野県諏訪市に本社を置くセイコーエプソンがインクジェット技術をコモのメーカーに提供、同社が印刷機を製造した。従来の捺染方式と違い、版を製造したり、洗浄したりする必要がなく、直接模様などを描くことができるため、1.5~2カ月かかっていた製造工程を、3日~2週間程度まで短縮できる。ぎりぎりまでデザインをいじれるため、「工場の方にデザイナーが(インクジェット方式の導入を)要求することが多い」(インダストリアルソリューションズ事業部の有賀義晴課長)という。エプソンの装置が捺染に使えるのは、同社のインクジェット技術が多様なインクに対応できるからだ。インクジェットには加熱で作った気泡で液体を吐出する「サーマル方式」と、電圧をかけると変形するピエゾ素子にスポイトのような働きをさせて液体を吐出する「ピエゾ方式」があり、エプソンは後者を採用している。印刷画質での違いはないとされるが、ピエゾ方式は液体に熱を加えないためインクの自由度が高いのが特徴だ。そのため、技術供与した製品やエプソンが2013年に自社製造・販売を始めた捺染プリンター「シュアプレスFP―30160」は、絹や羊毛に向く酸性インクや、麻や綿に向く反応インクなど粘度が異なる様々な液体を飛ばすことができる。07年には半導体の微細加工技術を取り込んで開発した新型ヘッドを発表。インクを出すノズルの設置密度が従来機種の2倍で、小型になったうえ印刷の速度や精度も上がっている。同ヘッドを搭載したシュアプレスFP―30160は従来機種に比べて製品自体の体積が半分程度、大きさも3分の1程度だ。 ■食べられる印刷 エプソン以外にも長野県の中信地域にはインクジェット装置を独自で開発するメーカーが多い。特殊プリンターを製造・販売するマスターマインド(塩尻市、小沢啓祐社長)は食品に絵や写真を印刷できる「フードプリンター」を扱う食品業界で有名なメーカーだ。創業者である小沢千寿夫氏が地元の農家に「りんごに印刷できる?」と話を持ちかけられたのが開発のきっかけだ。そこで特殊な液で下塗りをして印刷をしたリンゴを持っていったところ「これ食べられないの?」と聞かれたので、「食べられる印刷」ができる装置の開発に乗り出したという。食品に色をつける「色粉」を液体に混ぜるだけだと、プリンターのヘッドに詰まりやすい。同社はインクメーカーと協力し、食物油の量や種類を工夫し、詰まりにくいインクを開発した。食品に模様を付けるには、焼きゴテを使って食品の表面を焦がしたり、可食インクを判子を押すように食品に載せる手法などを使うのが一般的。だが、専用の焼きゴテを作るのに3万~4万円かかったり、圧力で食品が割れてしまったりするのが難点だった。デジタルデータをもとに印刷するインクジェット方式なら、少量多品種にも対応できるほか、食品を変形させる心配もない。核となるプリントヘッドの部分は、大手のプリンターメーカーの製品を使っているが、食品をヘッドの下で搬送するベルトコンベヤーの制御技術は独自のものだ。同社は6月10日に始まる国際食品工業展「FOOMA JAPAN2014」でフードプリンターの新製品を発表する予定だ。食品を搬送するベルトコンベヤーの幅を2倍の60センチメートルにすることで、製造速度を2倍近くに高めた。大手菓子メーカーの工場にも営業をかける。ご当地ゆるキャラの流行でキャラクターをデザインしたお菓子の需要は増している。また「2020年には東京五輪の開催もある。需要は間違いなく伸びる」(営業部の芦田賀浩課長)という。研究所向けのインクジェット装置を開発・販売するマイクロジェット(塩尻市、山口修一社長)はこのほど、液体の吐出の仕方を自動調節できる新製品を開発した。装置に新材料を入れると電圧のかけ方や電流波形を変えて何度か試行的に吐出し、カメラで飛散の仕方などを捉える。装置にはいくつかの材料の飛散に関する基本データを盛り込んだソフトウエアがあらかじめ組み込まれており、このソフトが基本データを参照しながら、カメラが捉えた画像を吟味して吐出の最適条件を自動的に決める仕組みだ。 ■研究開発向けでも脚光 インクジェット装置は、一定量の液体を精密に出すことができるので、ナノ金属インクによる電子回路の作製やDNAやたんぱく質によるバイオチップの製作など、高価な液体を使う研究開発分野でも使われ始めている。吐出条件を自動調整できれば、材料のロスを抑制できる。同社は5月にはドイツの企業と連携し、液体の流路となるパイプを交換できるヘッドも発売した。薬剤を変えるなど実験内容を変えても、パイプを交換しながら使用を続けることができるため、部品全体を交換するのに比べて費用は3分の1以下で済むという。ものづくりのデジタル化は今後ますます進む。注目が集まる3Dプリンターが速度や精度の面でまだ「量産」に使える水準にないのに対し、インクジェット装置の一部はアナログなものづくりに比べて速度も精度も遜色がないレベルに来ている。製造業や研究所への普及が加速しそうだ。 *1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO91640500R10C15A9000000/ (日経新聞 2015/10/6) 3Dプリンターで有田焼 伝統工芸、デジタルで革新 佐賀県窯業技術センターは、3Dプリンターで造形した立体モデルを焼成して陶磁器の成形品を得る技術「C3DPO(Ceramic 3D-Direct Print-Out)」を開発した(図1)。石膏型に液状の泥である「泥漿(でいしょう)」を流し込んで硬化させるという従来の成形方法に比べて、大幅な工程短縮や低コスト化、複雑なデザインの実現などが期待できる。 ■有田焼と同じ材料 3Dプリンターとしては、インクジェットノズルから吐出したバインダーで粉末材料を固める手法を採用する市販の装置を導入。この装置で、有田焼と同じ天草陶石の粉末を使って成形品を造形した。開発を始めた当初は、成形品をうまく固めることに苦労したという。粉末材料が3Dプリンター用の純正品とは異なるため、成形品を未硬化の粉末から取り出す際に崩れてしまうのだ。粉末粒径を均一化するなど試行錯誤しながら、流動性の確保とバインダーの固着性の向上などを実現して強度を高めていった。その結果、3Dプリンターで成形品を得られるようになったが、それで有田焼の製品が完成するわけではない。成形品を素焼きし、下絵付けと施釉(せゆう:釉薬を施すこと)をした上で本焼成。さらに上絵付、上絵焼成という工程を経て初めて製品となるからだ。最終的に求められるのは、製品としての品質である。実際、3Dプリンターによる成形品を素焼きしたところ、当初は崩れてしまうことが多かったという(図2)。そのため、従来の石膏型による成形品を焼成する場合とは異なる条件を見出す必要があった。具体的な温度は明らかにしていないが、温度や焼成時間などを試行錯誤することで、陶磁器として完成させることに成功した(図3)。このように、陶磁器の成形品を3Dプリンターで造るためには、3Dプリンターに関する造形条件の工夫だけでは済まない。特に、成形品は製品になる前の中間品である。陶磁器の製造プロセスを構成する他の工程においても、従来とは異なった手法を見出し、それと組み合わせることが求められた。 ■シート積層法で原型を造形 実は、佐賀県窯業技術センターにおける3Dプリンターの活用はこれが初めてではない。まず取り組んだのが、石膏型を造るための基となる原型を3Dプリンターで造ることである。紙をカッターで切断し、積層していく方式の3Dプリンターを10年以上前に導入し、実際の製品に適用した(図4)。ただし、造形後に不要部分(原型ではない部分)を削除したり、角度によっては表面を滑らかにしたりする手作業が必要だったことなどがネックになった。さらに、造形後に時間がたつと変形してしまうこともあったため、原型での活用は続かなかったという。その後、しばらく3Dプリンターの適用は考えず、3Dデータを使って石膏型を切削加工することに取り組んだ(図5)。しかし、型を使う以上は抜き勾配という形状の制約はどうしても発生する。原型や石膏型ではなく、成形品を直接3Dプリンターで造れれば、その制約はなくなる。3Dプリンターの機能や性能が向上したことも踏まえ、再度チャレンジしたことで実現したのがC3DPO技術である。 ■熟練技能者の減少対策にも 有田焼は2016年に創業400年を迎える。近年の売り上げ減少や熟練技能者の減少といった課題にさらされる中、3Dプリンターの活用はこれらを解決する手段の1つになるかもしれない。例えば、3Dプリンターによって直接、成形品を得られることは、複雑な形状だけでなく、ごく少量や単品の生産も容易にする。型のコストを大量生産で吸収する必要はないからだ。一般消費者によるオーダーメード・システムなど、新しいビジネスモデルや市場を開拓できる可能性が広がる。現状では「完全に磁器化していないため、強度が不足している」(佐賀県窯業技術センター陶磁器部デザイン担当係長の副島潔氏)ことが課題だという。今後、さらに造形条件や焼成条件などのノウハウを蓄積して、3Dプリンターを活用した陶磁器の製造技術を確立していく考えだ。 *1-4:https://www.agrinews.co.jp/p41984.html (日本農業新聞 2017年9月23日) 新建材CLT普及 林業振興へ加速化急げ 政府が国産材活用で期待する直交集成板(CLT)だが、普及はまだほとんど進んでいない。コスト高が障害になっている。CLTを使えば6、7階建ての木造中層ビルを容易に建てられるものの、鉄筋コンクリートより総工費が1割ほど高い。その克服には、需要拡大でCLT製造価格が下がる好循環を早くつくるしかない。林業振興に向け、政府は思い切った普及加速支援を急ぐべきだ。CLTは、ひき板を交互に積層接着したパネルで強度がある。壁や床にすれば、柱なしで中層の木造施設を建てられる。鉄筋コンクリートに代わって大量のCLTを使うようになれば、国産材の需要が大きく増えて林業振興に直結する。政府が目指す「林業の成長産業化」の切り札になり得る。CLTの日本農林規格(JAS)が制定され、国内初建築となった2013年が「CLT元年」とされる。昨春に国土交通省が建築基準を整えたことで、CLTは新建材として一般的に使えるようになった。欧州に遅れること20年。日本でもようやく本格的な普及時代に入った。しかし、その普及は緩慢だ。今年3月末までに国の支援を受けて建てられてCLT施設は、全国で51棟にすぎない。ほぼ半数の22府県は皆無だ。国内のCLT8工場の経営は厳しい。稼働率は昨年度がわずか1割で、今年度も3割がやっとの見込みだ。稼働率を高める需要拡大がないと、工場の存続自体が危ぶまれ、製造価格も下がらない。政府は、CLT生産体制を7年後の24年度までに年間50万立方メートルとする目標を掲げている。国内工場における昨年度の製造能力の10倍、製造実績の100倍に匹敵する。この量産体制を実現すれば、CLT製造価格を半減でき、建築工費を鉄筋コンクリート並みにできる算段だ。この目標を必達してこそCLTは独り立ちでき、木造ビル新時代に入る。欧州連合(EU)では来年、CLT生産量が日本の目標の2倍になると推計され、上昇飛行が続く。CLTのオフィスビルやマンション、ホテルなどが次々と建つ。木造は地球環境に優しく、社会的貢献の高いメッセージ性がある。日本は短期間で欧州に追い付かなければいけない。だが、わが国ではCLTは離陸後も低空飛行だ。会社や自治体、個人などの建築発注者が、鉄筋コンクリートに比べたコスト高にひるみ、二の足を踏んでいる。国交省や林野庁などにCLT建築のコスト高を埋める補助金があるが、財源が限定的で普及に弾みがつかない。今はCLT建築の発注増が何より肝要だ。量産によってCLT製造価格が下がれば、それがまた注文を呼ぶ。その経済的循環の早急構築が欠かせない。政府は今年1月に普及の新たなロードマップを示したが、悠長ではいけない。補助金増額をはじめ施策の集中的投入による普及の加速化が求められている。 <労働力としてのロボット> *2-1:http://qbiz.jp/article/117436/1/ (西日本新聞 2017年8月28日) 中国・人民網おすすめ記事:超高齢社会の日本を支える「第4の労働力」とは よく知られているように、日本は深刻な高齢化社会の国だ。人口高齢化にともなう深刻な労働力不足にどう対処したらよいだろうか。日本人の中には、高齢者、女性、外国人という3つの労働力で問題を解決できると考える人もいる。そして実際にはこれ以外に第4の労働力といえるものがある。それはロボットであり、決して冗談を言っているわけではない。「光明日報」が伝えた。日本はこれまでずっと高齢者の生活を支えるロボットの開発を積極的に進め、この分野では世界のトップレベルにある。パナソニック、トヨタ、ホンダといった大企業が相次いで主業務と無関係にみえる介護ロボットの開発に乗り出している。報道によると、パナソニックは車いすと介護ベッドが誘導した新発想の「離床アシストロボット」を開発した。ベッドの高さ、背上げの角度、アームレストの高さを調節でき、ベッドから車いすを分離することが可能だ。車いすは眠ることはもちろん、自動的に血圧や体温をはかる機能も搭載されている。パナソニックが開発した自立支援型起立歩行アシストロボットは高齢者の小さな動きを検知し、この情報に基づいて高齢者の状態を予測し、ベッドからトイレへの移動、ベッドからイスへの移動を支援する。内蔵のモーターが足りない力だけをアシストして、高齢者の自立的動作を支援するため、筋肉の衰えを防ぐことができる。医療者や介護者の負担を軽減し、被介助者にとっても福音といえる。トヨタが打ち出した4種類のパートナーロボットは、下肢麻痺で歩行が不自由な障害者の歩行を支援したり、起き上がるのが難しい障害者のベッドの上り下りやトイレへの移動を支援したりする。そのうちの1つでロボット脚を備えた「ウェルウォークWW‐1000」シリーズは、ロボット脚を膝下部分に装着し、ベルトで太もも、膝、足首、脚にしっかりと固定して、膝の曲げ・伸ばし運動を補助するものだ。ホンダが開発した歩行アシストは、バッテリーを内蔵した腰フレームを腰に巻き、下に伸びた大腿フレームを膝に固定する。利用者の動作に合わせ、モーターで歩行を支援する。利用者の脚の動きを検知して、約1キログラムの力で前後の移動を支える。特定の病気の患者の歩行を支援するだけでなく、高齢者の日常的な動作も支援することができる。日本には脳血管障害の後遺症やパーキンソン病により歩行が不自由な患者が40万人以上いる。こうしたロボットの登場は歩きたいと強く願ってきた人々にとってうれしいニュースだ。 ●ロボットの応用は普及段階へ 介護ロボットは日本のロボット研究の1分野に過ぎない。日本のロボット発展は短い揺籃期を経て、急速に実用期へ突入し、今では普及向上期に入った。日本はロボット産業に極めて大きな期待を寄せており、ロボットを日常生活、公共サービス、工業生産の中で人により近づいたツールにすることを目指している。日本政府は中小企業に対して積極的な経済的補助政策を打ち出し、小規模企業に出資してロボット応用の専門的な知識や技術を身につける指導などを行い、応用ロボットの一層の発展と普及を奨励し、ロボット産業に取り組む企業の積極性を高めている。日本政府の予測では、2020年には日本のロボット産業の規模は2兆6700億円を超え、12年の4倍以上になるという。日本政府が15年に発表した「ロボット新戦略」では「アクションプラン−五カ年計画」が制定され、製造業、サービス業、農林水産業、医療・介護産業、インフラ建設、防災などの主要応用分野をめぐって、ロボットの技術開発、標準化、実証実験、人材育成、ロボット規制改革の実行など具体的な行動が打ち出された。日本は各分野のロボット化推進を通じて、作業の効率と質を大幅に向上させ、製造業やサービス産業などの国際競争力を強化するとともに、「少子高齢化」がもたらす一連の問題の解決をサポートしたい考えだ。注目されているのが、日本のロボット研究の第一人者で「日本の現代型ロボットの父」などと呼ばれる石黒浩氏が、人間そっくりのアンドロイドの研究を続けていることだ。石黒氏によれば、「ロボットは人間を模倣しなければならない」という。なぜなら人の理想的な対話型インターフェースは人であり、人間の脳は人を認識することができ、人間にとって最良の対話方式は人と人との対話にほかならないからだ。そこで人間そっくりのアンドロイドを研究し、人と機械がいかに対話するかを研究している。人間との密な対話が必要な多くの分野では、アンドロイドなら暮らしのニーズにかなり応えられる。特に高齢者や子どもに医療行為や介護を行う場合は、アンドロイドなら利用者の世界に入っていけるという。石黒氏が指導する研究計画では、さまざまなタイプのアンドロイドと高齢者、子どもとの対話が行われている。石黒氏はかつて、「自分のチームが発見したのは、高齢者でも子どもでも、アンドロイドに反感を抱く被験者はいなかったということだ。アンドロイドは認知症や自閉症の患者の介護で、大きな役割を果たすことができると確信する」とも述べている。 *2-2:http://qbiz.jp/article/118392/1/ (西日本新聞 2017年9月9日) 拠点国内回帰進む キヤノン宮崎に新工場 カメラ生産九州に集約 自動化で競争力強化 キヤノン(東京)が、宮崎県高鍋町にデジタルカメラ製造などを担う新工場を開設するのは、生産拠点の国内回帰の一環だ。同社の国内でのカメラ工場設立は、2008年の長崎キヤノン(長崎県波佐見町)以来。九州に生産拠点を集中し、カメラ組み立ての自動化などを進めた最新鋭の工場を新設することで、競争力を強化する。「カメラはできるだけ日本に残そうと、生産技術を磨いていた。為替が1ドル=100円以上(の円安)であれば採算に合う」。8日に宮崎県庁であった記者会見でキヤノンの御手洗冨士夫会長はこう強調した。同社は現在、カメラ工場を国内に4カ所、海外に3カ所展開。国内は全て九州で、大分県に2カ所、長崎県に1カ所、宮崎県に1カ所ある。キヤノンは国内生産を維持するなどの狙いから、生産の自動化によるコスト削減を進めてきた。16年には、大分キヤノン安岐事業所(大分県国東市)に、自動化に向けた生産技術の研究開発拠点となる「テクノ棟」を設立。九州をカメラ生産の本拠地と位置付けている。今後は、宮崎キヤノンが運営する新工場と、大分キヤノンや長崎キヤノンとの連携を進め、市場動向に伴う需要の変化にも、柔軟に対応できる生産態勢を構築するという。御手洗会長は「今は64〜65%が国内生産。高鍋ができれば70%になると思う」との見通しを示した。一方、新工場の進出先である宮崎県高鍋町の黒木敏之町長は「キヤノンが高鍋町に工場を建てることで、雇用やにぎわいが生まれ、知名度が上がり、町民みんなで歓迎している」と語った。宮崎キヤノン従業員の雇用が維持されることについて、同県の河野俊嗣知事は「全体の雇用が守られるということでありがたい」と話した。 ◇ ◇ ●製造業回帰広がる 日本の製造業は2012年ごろから国内回帰の動きが出始め、15年ごろから本格化した。パイオニアは日本市場向けのカーナビ製造の一部をタイから青森県十和田市の工場に移管し、ダイキン工業は中国企業に委託していた家庭用エアコン生産の一部を滋賀県草津市の工場に切り替えた。JVCケンウッドも高級ホームオーディオの生産をマレーシアから山形県鶴岡市の工場に移している。経済産業省の調査によると16年には海外生産を行っている製造業の11・8%が国内に生産を戻した。移管元は中国・香港が66%を占め、人件費の高騰が後押ししているという。 <エネルギーと自動車のイノベーション> *3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201707/CK2017070602000136.html (東京新聞 2017年7月6日) ドイツ環境相の寄稿全文 「脱原発通じて独は多くを学んだ」 ドイツのヘンドリクス環境・建設・原子力安全相(65)が本紙に寄稿し、トランプ米大統領が地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱表明したことを受け、離脱に反対する米国の州による「米国気候同盟」と連携して引き続き米国を取り込み、温暖化対策での国際協力を進めていく考えを表明した。パリ協定履行に向け、トランプ政権との対立も辞さない決意を示した形だ。 ◇ 一年あまり前に福島第一原発と周辺地域を訪れ、原子力の利用はいかに甚大なリスクを伴うのかを目の当たりにしました。二〇一一年三月十一日、海底地震が引き起こした津波は日本沿岸を襲い、広い地域が荒野と化し、二万人近い住民の方々が亡くなったり、行方不明になったりしました。その後の数日間に福島第一で起きた原発事故は大惨事となり、当時のドイツで、政治における考え方を根本的に改める契機となりました。ドイツ政府は、国内の原発の運転期間延長を決定したばかりでしたが、政策転換に踏み切り、原発八基の運転を停止し、残り九基も段階的に稼働停止することを決めました。これにより遅くとも二二年末にはドイツの全ての原発が停止することになります。この決定でドイツでは再生可能エネルギーが大幅に拡大しただけでなく、国内の政治論争が納得いく形で収束し、エネルギー政策、気候変動政策の将来のあり方が示されました。ドイツのエネルギーシフトは、同様の計画を進める他国にとってモデルケースとなるだけではなく、むしろドイツ自身が他の部門や業種で構造改革を行う際に役立つ多くのことを学んでいます。ドイツは五〇年までに温室効果ガスニュートラル(排出量と吸収量を相殺)を広範囲で実現しなければなりません。そのために必要な変革を社会とともに形づくり、新たなチャンスが生まれ、皆が社会的、経済的、そして環境的に持続可能な行動をとるようになることを目指しています。この枠組みを定めるのが、一六年末に、パリ協定履行のため長期戦略として策定された「地球温暖化対策計画2050」です。この計画は、経験から学ぶ過程を打ち立て、定めた道筋が削減目標達成のために適切かどうかを定期的に検証することを盛り込んでいます。また、計画は欧州連合(EU)の気候変動政策にも合致しています。ドイツの三〇年温室効果ガス排出削減目標の「一九九〇年比で少なくとも55%削減」も、EUの二〇三〇年目標のドイツ分担分に相当します。エネルギー需要を再生可能エネルギー源で全て賄うまでは、エネルギー部門で脱炭素化を推進するため、特にエネルギー効率を大幅に高める必要があります。これに関してドイツはこれまで日本から学び、今でも活発な交流を続けています。資源効率性の向上もまた、日本とドイツが協力して国際的に取り組んでいるテーマの一つです。日本との協力関係が、二国間でも、また先進七カ国(G7)、二十カ国・地域(G20)といった多国間の枠組みでも築けていることは非常にうれしいことです。昨年の「脱炭素社会に向けた低炭素技術普及を推進するための二国間協力に関する日独共同声明」は、長期的課題や温暖化対策のさらなる局面において、両国が共に進むべき道を示しています。米国政府がパリ協定からの離脱を決定したにもかかわらず、もしくは離脱決定があったからこそ、新たな協力関係が生まれています。ジェリー・ブラウン米カリフォルニア州知事とはつい最近、共同声明に署名を交わしました。知事は、パリ協定を順守するための州の組織「米国気候同盟」で主導的な役割を担っています。パリ協定は現米国大統領の在任期間を物ともせず存続し続けていくと、確信しています。ドイツは、特にフランスをはじめEU内で、そして日本、中国、インドとも協力し、地球温暖化対策をさらに推進したいと考えています。G7ボローニャ環境相会合の共同声明は、協力関係を国際的にどう展開していくのかを示しています。ドイツが議長国を担うG20でも必ずや野心的な成果が得られることでしょう。今年九月にドイツでは連邦議会選挙が行われます。どの政党が政権を担うことになっても、ドイツの温暖化対策の取り組みは変わることなく、場合によってはより野心的目標を掲げ継続されるのは間違いありません。ドイツの経済産業界も確固たる意志でこの政策を受け入れています。日本とドイツは将来も必ず、両国の温暖化対策技術をさらに進展させていくでしょう。(バルバラ・ヘンドリクス=ドイツ環境・建設・原子力安全相) *3-2:http://digital.asahi.com/articles/ASK950P7XK94UHBI03T.html (朝日新聞 2017年9月10日) 脱原発「当たり前」、緑の党の支持下落 ドイツ 24日投開票のドイツ総選挙で、緑の党が「2030年までに全電力の需要を再生可能エネルギーで賄う」との公約を打ち出している。結党以来の主張だった「脱原発」が国の方針として定着。緑の党は支持率が下落傾向にあり、さらに野心的な公約を掲げて党勢回復を狙っている。ドイツでは再生可能エネルギーの発電割合が約3割だが、石炭火力も4割、天然ガスも1割を占める。公約では現在100以上ある石炭火力発電の設備のうち、効率の悪い20設備を即座に停止し、30年までに全て廃止する目標だ。再生可能エネルギーシフトには経済界から、「供給が不安定で、急速な拡大は経済活動に影響する」(ドイツ産業連盟のデニス・レントシュミット博士)との懸念があるが、緑の党のベルベル・ヒューン連邦議会議員は「蓄電池の開発や電力需要のコントロールで、安定化させることは可能だ」と強気だ。ドイツ政府は東京電力福島第一原発の事故をきっかけに、22年までの全原発停止を決めたが、今回の選挙では、議席獲得が予想される政党のうち、新興右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を除くすべての政党が「脱原発」を前提として、再生可能エネルギーの拡大を掲げている。世論調査では、他政党も環境や気候保護をテーマにしているので「緑の党はもはや重要ではない」との意見に57%が「ほぼ同意する」と回答。新たな目標の設定は、存在意義をかけた闘いと言えそうだ。 *3-3:https://www.nikkei.com/article/DGXLZO21456050S7A920C1FFE000/ (日経新聞 2017/9/23) ガソリン車禁止でBYDトップ「中国の車、30年に電動化」、自社電池を外部供給 中国最大手の電気自動車(EV)メーカーである比亜迪(BYD)のトップの王伝福・董事長(51)は日本経済新聞などのインタビューに応じ、中国市場からガソリン車が消える時期が2030年になるという見通しを示した。中国政府は9月上旬、将来ガソリン車を禁止する意向を表明し、時期は検討中としていた。政策立案にも関わる王氏の発言から今後、急拡大が予想される中国EV市場の内情を読み解く。王氏は21日のインタビューで、中国のガソリン車の廃止時期について「車種別に工程表を決めることになるだろう」と語った。具体的には「20年に公共バスが全面的にEVに代わり、25年にトラックなど特殊車両、30年には全ての車が電動化するだろう」と述べた。その上で、中国のガソリンは現在62%を輸入に依存していると指摘し、「国家の安全上、中国はどの国よりも早く(ガソリン車禁止の)期限を公表し、EVの拡大を急ぐ必要がある」と語った。英国とフランスは40年までにガソリン車などの販売を禁じる方針を示しており、王氏の見解通りなら、中国はそれより早く大きな転機を迎える。王氏は、中国EV最大手として「これまでも先頭に立ち、政府に(EVなどの)政策を提案し、政策を推し進めてきた」と強調。王氏の意向は今後のEV関連の新政策にも、強い影響を与えていくとみられる。実際、王氏は「我々の強みは中国の政策に精通していることだ」と語る。エコカー推進役として政府の信頼も絶大だ。すでに手厚い補助金の後押しを受け、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の「新エネルギー車」(新エネ車=NEV)の販売は昨年、前年比7割増の9万6千台へと急激に膨らんだ。中国政府は今後、中国新車市場が25年に16年比で25%増の約3500万台に達すると予測する。そのうち20%以上を新エネ車とし、700万台の販売を目指す計画だ。普及のカギを握るのは政府が18~19年に導入を予定する「NEV規制」だ。中国でガソリン車を販売するメーカーに対し、販売量に応じて一定量の新エネ車販売を義務付けるものだ。これまで中国政府は、多額の補助金をほぼ自国メーカーのみに使い、市場を独占させてきた。一方、支援のない外資は中国で新エネ車の体制整備が遅れた。そのため厳しいNEV規制をクリアするには、市場をリードする中国のEVメーカーからクレジットと呼ばれる権利を購入しなければならないケースもある。NEV規制の建前は、あくまで環境規制の強化だ。だが実際は中国企業をクレジットでもうけさせ支援するものとも指摘され、外資から反発の声が上がるのが裏事情だ。BYDはNEVの導入後の3年間だけで、クレジット販売で少なくとも140億元(約2400億円)の利益を手にするという試算もある。そんな同社の株価は連日上昇し、香港証券取引所では21日終値は71.65香港ドルと、今月に入り53%も上昇する過熱ぶりだ。当の王氏も「NEV導入は政府の補助金支援に代わる新しい我々への(支援)政策と理解している。利益がどれだけかは不明だが、トップメーカーとして恩恵は受けるだろう」と語った。中国政府はNEVの導入で新エネ車市場の拡大と中国メーカーの後押しを一挙にもくろむ。16年の50万台から25年には700万台へ急拡大を見込んでいるが、課題は無いのか。これに対し、王氏は「電池生産には巨額投資が必要で、最大の今の課題は電池の供給能力だ。このままでは20年以降、市場全体で電池が足りなくなる」と指摘した。対応策として「すでに現在、複数社と合弁生産や自社で生産する電池の外部供給、協力体制について交渉中で、大きなプロジェクトになる」と明かした。さらに独ダイムラーとのEVでの提携関係も一段と強化し、「新モデルの投資を今後行う」とも述べた。政府はNEV規制導入の詳細を近く公表する。外資各社はその動向を固唾をのんで見守らざるをえない状況だ。 *3-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170910&ng=DGKKZO20957690Z00C17A9EA1000 (日経新聞社説 2017.9.10) 電気自動車時代の足音が近づいてきた 電気自動車(EV)シフトの動きが世界的に高まっている。日産自動車はEV「リーフ」の初のフルモデルチェンジを実施し、西川広人社長は「日産のコアになる車」と表明した。米国ではテスラが50万台という破格の予約を集めた「モデル3」の納車を始めた。メーカーだけでなく各国政府もEVの普及に熱心だ。仏英両国は2040年までにガソリン車などの販売を禁止する「脱エンジン」の方針を打ち出した。中国やインド政府、あるいは米国でもカリフォルニアをはじめとする有力州がEVの普及を後押ししている。以前のEVブームは尻すぼみに終わったが、今回は本物だろう。日本としてもここで競争に負けて、基幹産業の自動車を失うわけにはいかない。EV化の波を「脅威」ではなく、電池の部材や車の新素材、関連する電子部品など幅広い産業を浮揚させる「好機」ととらえ、変化を先取りしたい。ただ、いたずらに慌てる必要はない。携帯端末の世界では、スマートフォンがいわゆる「ガラケー」に取って代わるのに10年もかからなかったが、車の動きはもっとゆっくりだろう。米金融大手のゴールドマン・サックスは2040年時点でも世界の新車販売におけるEVの比率は32%にとどまり、エンジン車の45%を下回ると予測する。電池の性能向上や量産体制の確立、さらにリチウムやコバルトなど電池に使用される金属資源の増産にはかなりの時間が必要になる。使用済み電池のリサイクル技術の確立も未解決の課題だ。とはいえ変化の波は確実に押し寄せる。過去100年続いた「エンジンだけが車の動力源」だった時代が終わる衝撃は予想以上に大きいかもしれない。独自動車工業会などは「エンジンがなくなれば、ドイツ国内で60万人以上の雇用が影響を受ける」と試算した。日本でも「脱エンジン」の加速で、一部の自動車部品メーカーなどが痛みを被る恐れはある。こうした負の側面の一方で、EV化は電子部品や軽量な炭素繊維などの需要を広げるだろう。EVは自動運転技術との相性がよく、機械が人の運転手をサポートすることで、交通事故が大幅に減る可能性もある。そして何より排ガスがゼロになるので、新興国を中心に大気汚染に苦しむ地域には朗報だ。EV時代の足音を、冷静に前向きに受け止めたい。 *3-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170910&ng=DGKKZO20925630Y7A900C1MY1000 (日経新聞 2017.9.10) スマホ・車 どこでも充電、置くだけ 走るだけ 感電なし 電線を使わずに電気を送るワイヤレス(無線)給電が身近になりつつある。電動自転車などに電気を供給する国内初の実験が始まったほか、人気スマートフォン(スマホ)の最新型にも搭載されるとみられている。宇宙空間でつくった電気を地上へ送る研究もある。いつでもどこでも電気が充電できる「電線のない社会」が実現するかもしれない。京都府南部に位置する精華町役場。今年3月、新しい電動自転車が登場した。見た目は普通の自転車だが、前カゴに板状の受電装置があり、専用の送電装置の前に駐輪すると無線を受けて充電できる。無線は電子レンジにも使うマイクロ波を使う。充電は安全面を考慮し職員がいない夜間だけ。1回の充電で約25キロ走れる。同町は研究所が点在する関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)があり、業務に自転車は欠かせない。森田吉弥健康推進課長は「重いバッテリーを取り外す手間が省けて便利だ」と話す。同町では5月、役場の5階にある企画調整課内の壁に貼り付けた温度計へ無線給電する実験も始めた。配線が難しい壁近くの温度が簡単に分かり、空調を管理しやすい。得られたデータは高齢者施設で入居者の体調などを把握するセンサーの開発に役立てる。これらの装置は京都大学と三菱重工業、パナソニックが共同開発した。いずれも政府の国家戦略特区で電波法の規制緩和を受けた国内初の実証実験だ。篠原真毅京大教授は「無線給電の普及に向けた大きな一歩になる」と強調する。電気自動車(EV)も無線給電の用途として期待されている。三菱電機は2つのコイルの間で磁界の変化を介して電気を伝える「電磁誘導方式」で、高効率の無線給電装置を開発した。「自宅に設置した太陽光発電との間で、電気を簡単に融通できる」(同社)。英国の高速道路では、走行しながら充電できる専用レーンの計画も進む。EVと無線給電の組み合わせにより、燃料補充の心配がない、新しい自動車社会が誕生しそうだ。実用化が先行するのは携帯電話だ。電磁誘導方式を採用する。普及を後押しするため、中国語で「気」の意味を表す「Qi(チー)」という規格が2010年に始動した。世界の携帯機器や自動車のメーカーなど約240社が、同規格を運営するWPCという団体に参加している。欧米を中心に、互換性のある製品が200点近く市場に出ている。今年2月には、米アップルがWPCに加盟した。9月12日に発表するスマホ「iPhone(アイフォーン)」の新型に同規格による機能が搭載されるとみられている。篠原教授は「無線給電の知名度が一気に上がる」と期待する。Qiの送電能力は現在15ワットまで。60ワット、120ワットと能力を上げていく計画だ。能力が高まれば携帯電話から照明やテレビ、パソコン、掃除機まで用途が広がる。家庭から電源コードがなくなるかもしれない。同規格の日本代表を務めるロームの鈴木紀行通信スマートデバイス課長は「新サービスが生まれたり、生活が便利になったりする」と話す。コンセントが要らず、水にぬれても感電の心配がないため、喫茶店のテーブルに置くだけで充電したり、屋外の自動販売機などから電気をもらったりもできる。充電機能を売りにした机や照明機器、カバンなども登場しそうだ。こうした商品が身の回りにあふれれば、「充電」という意識すらなくなるかもしれない。地球規模の研究も進んでいる。京大の石川容平特任教授は宇宙空間で太陽光により発電し、地上に送る「宇宙太陽光発電」技術の実現を目指している。静止軌道に浮かべた太陽光パネルで電気をつくって、海中に設けた装置にマイクロ波で送り、いったん蓄えた後に、陸上へ送電する構想だ。石川特任教授は「世界全体を網羅して安定的に電力を供給する全く新しい送電網が実現できる」と力を込める。大きな期待が集まる無線給電にも課題はある。一つは安全性だ。電磁波の人体影響に詳しい京大の宮越順二特任教授は「長期の評価はまだ十分ではない」と指摘。篠原教授と協力し今年度からマイクロ波による影響研究を始める。もう一つは電波を扱う規格だ。携帯電話使用時に発生する電磁波との干渉が指摘されている。普及には電波法を見直す必要があるが、日本は欧米に比べて出遅れており、国内メーカーは危機感を抱く。無線技術の進歩で生まれた携帯電話はこの数十年で、ビジネスや生活スタイルを大きく変えた。「第2の無線技術」といえる無線給電が普及すれば、新たな経済社会が生み出されるだろう。 <医療のイノベーション> PS(2017年10月4日追加):医療もイノベーションを繰り返してきた伝統産業と言えるが、私は衆議院議員時代(2005~2009年)に再生医療を進め、日本は世界でリーダーになれるかに見えたが、*4-4のSTAP細胞はじめ、日本ではiPS細胞以外の研究は嘘か邪道であるかのような批判をして排除するようになったため、またまた先端研究が世界に遅れ始めている。 例えば、*4-1のような体性幹細胞を利用した臨床研究は、皮膚などの体細胞に遺伝子を導入することがないためiPS細胞よりも問題が少なく、外国では進んでいるのだが、日本では手術や抗癌剤治療や放射線治療などで既に造血機能が低下したり免疫機能が損傷したりしている患者にしか適用されないので、効果が低い。 また、臍帯血にも生命力あふれる元気な幹細胞が含まれているが、*4-3のように、臍帯血を違法に患者に移植していたとして医師ら6人が再生医療安全性確保法違反の疑いで逮捕され捜査されるのだそうだ。しかし、“違法”とはいっても、法律が医学研究より先を行くわけではないため、これでは日本で先進医療やその研究を行うのは医師にとっては危なすぎることになり、頭脳流出の原因になるだろう。また、治療による深刻な副作用であれば、現在の癌の標準治療の方がむしろすさまじいため、これらに関する検証は、抗癌剤を作っている薬剤会社の側に立ちがちな厚労省だけでなく、本当に公正に比較できる学者組織が行うべきである。 さらに、*4-2のように、厚労省は癌の免疫療法に有効性を認めず実態調査をするそうだが、最も安全で賢い治療方法は、もともと体が持っている免疫機能を利用したり、それを強化したりして治すことであるため、「患者自身のリンパ球を使うものや癌ワクチンなどは科学的な効果が確立されていない」などとして研究や治療を禁止するのではなく、研究者に必要なバックアップを行って安定した結果を出せる治療法を確立すべきである。そして、文系出身の役人も、こういう知識を持って、知識に基づき正しい判断ができる教育をしておくことが必要だ。 *4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13104676.html (朝日新聞 2017年8月27日) (科学の扉)体性幹細胞、変える治療 再生医療の研究、iPS・ESに先行 自分の体の中に存在し、骨や神経など特定の組織を再生する能力を持つ体性幹細胞(組織幹細胞)を利用した臨床研究が、iPS細胞やES細胞に先行している。従来の治療をどのように変えていくのだろうか。幹細胞は、体を構成する様々な細胞に変化する分化能と、自分と同じ細胞に分裂できる自己複製能を併せ持つ。中でも、受精卵の中にある細胞を取り出して作るES細胞や、皮膚など体の細胞に遺伝子を導入して作るiPS細胞は、体の中のどんな細胞でも作り出せ、多能性幹細胞と呼ばれる。一方、幹細胞のうち、体の中に元々存在し、決まった組織や臓器の中で働くのが体性幹細胞だ。傷ついて古くなった細胞を入れ替えたり、病気やけがで失われた細胞を新しく補ったりする役割を担う。体性幹細胞には、赤血球や白血球などの血液をつくる造血幹細胞、神経系をつくる神経幹細胞、骨や軟骨、脂肪などへの分化能がある間葉系幹細胞などがある。幹細胞の機能を使った再生医療では、安全性の評価などに課題があるiPS細胞やES細胞に比べ、体性幹細胞の研究が実用化に近づいている。札幌医大の研究グループは2014年、脊髄(せきずい)を損傷した患者に、自分の骨髄液から分離した間葉系幹細胞を静脈内に投与して神経を再生させる臨床試験(治験)を開始。神経や血管系に分化する能力を持つ間葉系幹細胞は骨髄細胞の中に0・1%程度含まれる。これを1万倍に増やし細胞製剤にして点滴すると、患者の体内で傷ついた神経に細胞が集まり、その働きを取り戻すことが期待されている。国は16年に「高い有効性を示唆する結果が出ている」として、承認審査の期間を短縮する「先駆け審査指定制度」の対象に指定し、治験も終了。同大は、骨髄の間葉系幹細胞を脳梗塞(こうそく)患者に静脈投与し、後遺症の軽減を目指す治験も進めている。 ■「親知らず」活用 ただ、患者自身の幹細胞を使う方法は、摘出する際に体へ負担がかかり、培養に時間やコストがかかる問題もある。そこで、他人の良質な幹細胞を大量に培養し、必要な患者の治療に使う方法も研究されている。東海大の佐藤正人教授(整形外科学)は、ひざの軟骨がすり減る変形性膝(しつ)関節症の8人を対象に、患者自身のひざから取りだした軟骨細胞を培養したシートを患部に貼り付け、軟骨を再生させる効果が全員にあったことを確認した。細胞シートが特殊なたんぱく質などを出して、ひざの骨にある骨髄由来の間葉系幹細胞を活性化し、軟骨が再生すると考えられるという。今年2月からは、先天的に指が6本ある多指症の赤ちゃんから、手術で切除した指の軟骨の提供を受け、細胞シートに培養して患者に移植する臨床研究を始めた。佐藤さんは「軟骨は他人の細胞でも拒絶反応が起こりにくい。乳児の細胞は増殖能力が高く、修復を促す成分も多い」と話す。抜歯後に捨てられていた「親知らず」が歯周病の治療に役立つ可能性も見えてきた。東京女子医大の岩田隆紀准教授(歯周病学)は歯の根と周囲の骨(歯槽骨)の間にある歯根膜に着目した。歯根膜は間葉系幹細胞が豊富に存在し、骨の再生を促す役割があるが、歯周病の患者では部分的に失われている。そこで、抜歯した親知らずから歯根膜を採取して培養した細胞シートを歯の根元に移植し、骨の欠損部に一緒にいれた骨補填(ほてん)材(リン酸カルシウム)が骨に置き換わって周囲の骨を再生させる方法を考えた。重い歯周病10人を対象に患者自身の親知らずを使った臨床研究では、骨が平均で約3ミリ回復した。すでに、20代前半の健康な人の親知らずから細胞シートを作り、患者に移植する研究の準備を進めている。岩田さんは「1本の歯から約1万人分のシートができる。大量生産することでコストの大幅な削減が見込める」と言う。 ■商品化、ごく一部 再生医療の「治療薬」はごく一部で商品化されているが、研究の多くは安全性や有効性の確認を進めている段階だ。ロート製薬と新潟大の寺井崇二教授(消化器内科学)は7月、他人の脂肪組織に含まれる幹細胞を培養し、肝硬変の患者に点滴する治験を開始すると発表した。肝硬変は、肝臓の組織が炎症を繰り返して硬くなる「線維化」を起こす。マウスの実験で、脂肪由来の幹細胞を投与すると線維化が改善したため、治験をすることになった。寺井さんは「脂肪の採取は体への負担が比較的軽く、美容整形などで余っているものが入手しやすい」と話し、20年度の承認を目標としている。沖縄県は今月、再生医療の産業化を進める目的で、「脂肪幹細胞ストック事業」を琉球大などに委託することを決めた。琉球大医学部や再生医療ベンチャーのセルソース(東京都)の加工施設で、医療機関から提供された脂肪組織から幹細胞を抽出し、長期的にストックする技術を構築することを目指す。琉球大の清水雄介特命教授は「脂肪幹細胞の性質は個人ごとに大きな差があり、治療に適したものを選ぶ方法も確立していない。まず多くの細胞をストックして、個人ごとの異なる性質を解析することが不可欠だ」と課題を挙げる。 <治療法確立の分野も> 体性幹細胞による再生医療としてすでに治療法が確立しているのが、白血病などの治療における造血幹細胞移植だ。抗がん剤や放射線治療によって骨髄の造血機能が損傷した患者に、正常な造血幹細胞を移植して回復させる。骨髄液を採取して患者に移植する骨髄移植は1970年代に開発された。造血幹細胞はほかにも、特別な薬を投与すると全身の血液に流れ出す末梢(まっしょう)血幹細胞や、赤ちゃんと母親を結ぶ臍帯(さいたい=へその緒)と胎盤の中に含まれる臍帯血にも含まれており、それぞれ移植に使われている。 *4-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13164507.html (朝日新聞 2017年10月4日) がん「免疫療法」、調査へ 厚労省、拠点病院など434カ所 効果、不確かなケースも 厚生労働省はがんの「免疫療法」について、有効性が認められておらず、治療費を患者が全額負担する治療があるとして、初の実態調査をすることを決めた。対象は、地域のがん医療の中心となるがん診療連携拠点病院など434カ所。加藤勝信厚労相は3日の閣議後会見で「どういう形で実施しているのか、速やかに調査したい」と話した。免疫療法は、体内の異物を攻撃して排除する免疫のしくみを利用して、がんを治すことを目指すもの。オプジーボなどの新しいタイプの薬・免疫チェックポイント阻害剤は、一部の進行がんで保険適用されている。一方、患者自身のリンパ球を使うものやがんワクチンなどは科学的な効果が確立されていない。研究目的の臨床試験でなければ、治療費は全額患者負担となる。こうした自由診療は民間クリニックだけでなく、国が指定するがん診療連携拠点病院でも実施し、多額の費用を患者が払うケースもあるという。国立がん研究センターの若尾文彦・がん対策情報センター長は「効果が確認されていないことなどの説明を十分せずに患者側の期待をあおり、多額のお金を使わせるのは問題だ」と指摘する。厚労省は、どれだけの拠点病院が免疫療法を実施しているかや安全管理体制などについて調査する。 *4-3:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/461079 (佐賀新聞 2017年9月6日) 無届け臍帯血移植、患者保護へ規制を見直せ 他人の臍帯血(さいたいけつ)を違法に患者に移植していたとして、医師ら6人が再生医療安全性確保法違反の疑いで逮捕された。リスクが高い医療行為であるにもかかわらず、厚生労働省が認めた委員会で審査を受け、同省に届け出るという定められた手続きを踏まなかったというのが直接の容疑。安全性に問題がある移植が行われていた疑いも指摘されている。捜査で実態を明らかにするとともに、安全性や有効性に問題がある類似の医療行為から患者を守るため、再生医療に関する現行の規制や患者への情報提供の問題点を洗い出し、早急に対策を進めるべきだ。臍帯血は、赤ちゃんのへその緒や胎盤から採取される血液で、さまざまな血液細胞に成長できる幹細胞を多く含む。臍帯血移植は白血病などの治療法として確立しているが、容疑者らは、別のがんの治療や美容目的など、効果未確認の移植を行っていたとされる。再生医療安全性確保法は2014年施行。自由診療で幹細胞の移植を受けた患者が死亡した問題などをきっかけに検討が進み、今回が初の刑事摘発だ。同法がなければ、医師と患者の合意の下で行われる自由診療に当局のメスが入ることは、深刻な健康被害が明らかになるなどしない限り考えにくかった。法は一定の役割を果たしたと言える。一方で、現行の規制に深刻な不備があることもはっきりした。移植に使われた臍帯血は、09年に経営破綻した民間の臍帯血バンクから流出したものだとされる。国内には、白血病患者らの治療に使うため、産婦から任意で提供を受けた臍帯血を保存する公的バンクが複数ある。これらは法に基づく許可制で、臍帯血の品質確保のための基準もあるが、他人への移植を前提とせずに有償で臍帯血を預かる民間バンクは規制の対象外。破綻時の対応も業者任せで、保管方法に問題があれば、健康被害に結びつく可能性がある。日本で人工多能性幹細胞(iPS細胞)が開発されたこともあり、再生医療の研究は国が積極的に推進し日々のニュースにも登場する。それだけに患者の期待も膨らむが、多くの再生医療はまだ研究段階にあり、長期の効果やマイナス面ははっきりしていない。そうした現状での大きな問題は、再生医療と称し患者に提案される個別の自由診療の安全性や有効性について、患者自身が判断できる材料が非常に乏しいことだ。再生医療安全性確保法は「認定再生医療等委員会」と呼ばれる委員会が治療計画を事前に審査することで一定の安全性などを担保する仕組みだが、委員会の審査の質にはばらつきがあることや、治療後のフォローが十分なのかといった疑問も指摘されている。改善が急務だ。患者が自由診療の具体的な中身を他の医療機関と比較することも難しい。厚労省は、再生医療に携わる医療機関の情報提供を、患者に役立つ形に見直す必要がある。日本再生医療学会は、一般の人から再生医療の相談を受け付ける窓口を開設する方針を決めた。これも実施を急いでほしい。患者が相談したり、疑問を寄せたりしやすい仕組みを常設することは、患者を助けるだけでなく、問題ある医療機関の情報を、学会や当局が把握するにも有益だ。 *4-4:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48272 (「週刊現代」2016年3月26日・4月2日合併号)小保方さんの恩師もついに口を開いた!米高級誌が報じたSTAP騒動の「真実」 小保方さんは間違っていたのか、それとも正しかったのか—アメリカの権威誌に掲載された記事には日本で報道されていない新たな証言が書かれていた。世界中が彼女に注目し始めている。 ●すさまじい駆け引き 「私は、STAP細胞は正しい、確かに存在すると100%信じたまま墓場にいくつもりだ」。こう語るのは、小保方晴子さん(32歳)の恩師、アメリカ・ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授だ。バカンティ氏は、小保方さんが発表し、後に撤回された「STAP細胞論文」の共著者でもある。小保方さんが、自らの言葉で綴った手記『あの日』が、海の向こうでも話題になっている。アメリカで有数の権威を持つ週刊誌『NEW YORKER』(ニューヨーカー)の電子版に、一連のSTAP騒動を検証する記事が掲載されたのだ。筆者は、アメリカ人のデイナ・グッドイヤー女史(39歳)。'07年まで『ニューヨーカー』の編集者として勤務し、その後、ノンフィクション作家として独立した人物である。冒頭のバカンティ氏の言葉は、グッドイヤー女史のインタビューによって騒動以降、初めて明らかになったものだ。在米の出版社社員が現地の様子について語る。「バカンティ教授が取材を受けたのも『ニューヨーカー』だからこそです。それくらいこの雑誌で記事が組まれることはステータスでもあるんです。この記事を掲載するに当たって編集部は約半年にもわたり、準備をしたそうです。かなり気合が入った記事であることは間違いない。小保方さんが手記を出したことで、世界が再び彼女に注目しています」。『ニューヨーカー』はアメリカ雑誌界の最高峰に君臨。読者層は知的好奇心が高く、「高級で権威がある雑誌」と認識されている。紙の雑誌の発行部数は100万部以上。電子版も好調で、こちらも100万人以上の会員数を誇る。一本一本の記事が丁寧に書かれている総合誌で、非常に読み応えがあるのが特徴だ。小保方さんに関する記事のタイトルは「THE STRESS TEST」。幹細胞研究の世界はまさに陰謀、欺し合いが錯綜している。そこに細胞に対して行う「ストレス・テスト」を引っかけ、ストレスに弱い者は、科学界で生き残れないことをこの記事は示している。グッドイヤー女史は日本中を巻き込んだ「STAP」騒動をどう分析しているのか。まず小保方さんの登場について記事ではこう書かれている。「この仕事(STAP)の背後にいた『革命児』が小保方晴子であった。彼女は男性中心の日本の科学界に女性として一石を投じた。彼女は他の女性に比べて、男たちとの駆け引きの中で生きることに長けていた。そして独創的な考えの持ち主であると賞賛されていた」(『ニューヨーカー』より・以下カッコ内は同)。その小保方さんを引き上げた人物こそ、バカンティ教授だった。「小保方がバカンティ教授の研究室にやってきた時、バカンティはすぐに『彼女にはopen‐minded(心の広さ、進取の気性に富む)と、明敏さがある』ことに気づいた。ただしバカンティは当面、細胞にストレスを与えると幹細胞を作り出す可能性があるという仮説を伏せておいた。彼がもっとも避けたかったのは、留学生が自国に戻って、他の誰かの研究室で彼女のアイディアを展開することにあった。バカンティは私にこう言った。『私の主な懸念は、我々はハルコを信用できるのかだ』と」 ●「彼女には才能がある」 だが、バカンティ氏の懸念は杞憂に終わる。小保方さんは彼の研究室で信頼を高めていった。「小保方の下でリサーチ・アシスタントとして働いたジェイソン・ロスはこう言った。『彼女がいかに才能があるかは、誰もが分かった。ハルコのような才能のある人はそう多くはいない』。それに対して小保方はこう返した。『日本では女性研究者は二流です。たとえ年下の大学生でも、男性が必要としたら、女性は顕微鏡を使うのを諦めないといけません』」。やがてバカンティ教授の元での短期留学を終えた小保方さんは、日本に帰国し、'11年に理化学研究所(CDB)の研究員に。そこで「STAP騒動」のキーパーソンである若山照彦教授のチームに所属する。そして本格的にSTAP細胞の研究に取り組んでいく。「生物学者の山中伸弥がノーベル賞を受賞したとき、CDBの研究者たちの野心は奮い立った。CDBのチームは、自分たちの発見が山中の発見と張り合う、いや山中の研究をobsolete(時代遅れ、廃れた)にしてしまうとまで考えた」。その一方で、当時の小保方さんについては、「小保方はCDBでの昇進は早かったが、うまく適応できてなかった。アメリカ的になっていたので、元同僚たちによると小保方は、日本の研究所の厳格なヒエラルキーにイライラしているように見えた」。と記している。'12年、STAP細胞発見への意欲を見せる小保方さんのもとにもう一人の協力者が現れる。それが騒動中に自殺した笹井芳樹・元CDB副センター長だった。笹井氏のもとで、小保方さんは論文を再構築する。そして'14年、ついに世界的権威を持つ科学雑誌『ネイチャー』にSTAP論文が掲載される。日本のメディアは割烹着姿で顕微鏡をのぞき込む小保方さんを「リケジョの星」、「ノーベル賞級の発見」と煽り持ち上げた。だが、風向きが急速に変わり始める—。「ブランドン・ステルという名の神経科学者が'12年に創設した『PubPeer』というオンライン・フォーラムがあり、そこでは誰もが科学論文を分析して議論することができる。STAP論文は彼らにとってまさに、好奇心をそそる材料であった。2週間も経たないうちに、匿名のユーザーが論文に掲載された画像の2つがほとんど同一のものであることに気づいた」。STAP論文の発表は世界に衝撃を与えると同時に、世界中の研究者からの検証にさらされることにもなった。これこそが「ストレス・テスト」なのだ。このテストにバカンティ氏と小保方さんは耐え抜くことができなかった。「ハーバード大学の科学者でボストン小児病院の幹細胞移植のディレクターであるジョージ・ダレイは私にこう言った。『当時、世界中の私の同僚たちは、お互いにメールをしあって、おーい、何が起きているんだ。うまくできたか? 誰も成功してないのか、と言い合っていた』」 ●今も信じている グッドイヤー女史によると、ダレイは「STAPは幻想である」ことを立証するための論文を『ネイチャー』に発表する準備を始めたという。さらにダレイは2回にわたって、バカンティ氏に間違いを諭そうとしたが、無駄に終わったという。「ダレイは私に『バカンティは自分が正しいと思い込んでいる』と言った。そして、昨年の9月、『ネイチャー』はダレイのSTAPに関する論文を掲載した。そこには小保方の主張を正当化すべく7つの研究室が再現をしようとしたが、すべて失敗したと書かれていた。この論文の共著者であるルドルフ・イェーニッシュは、遠慮することなく私にこう言った。『小保方が若山にいろいろ混ざった細胞を渡したことは明らかだ。若山は彼女のことを信じてそれを注入した。そして美しいキメラができた』」。バカンティ氏は一度、小保方さんに「データの捏造はしてないのか」と尋ねたが、小保方さんの答えは、「それならこんなに時間をかけて実験はしない」だったという。さらに記事の中には、バカンティ氏は論文撤回後もSTAP細胞作製に向け、いまも研究を続けていると書かれている。断っておくが、『ニューヨーカー』に掲載されたこの記事は、誰が正しいと断定はしていない。あくまでそれぞれの当事者に取材し、主張を丁寧に拾ったものである。騒動以降、口を閉ざしたままだったバカンティ氏が、今も小保方さんを信じ続けていることは、この記事を読めば十分に伝わってくる。筆者のグッドイヤー女史は今回、記事を書くにあたって小保方さんとメールでコンタクトを取ったことを明かしている。「小保方は『私はスケープゴートにされた』と書いてきた。『日本のメディアはすべて、若山先生が犠牲者で、私がまったくのろくでなしと断定した』とも」。小保方さんは今、どんな思いで、何を考え、日々を過ごしているのだろうか。 <エネルギーから考えた街づくりのイノベーション> PS(2017/10/6追加):*5-1に「①経産省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で、太陽光発電のさらなる価格引き下げを行い、最終的には10円前後を目指して、今後は競争を通じて民間で自律的に市場を拡大していくよう促す」「②小規模な発電にも入札対象を広げることを検討する」「③太陽光発電の導入費用は、日本が1キロワットあたり約30万円と欧州の2倍であるため、事業者には安価で質の高い設備などの一層の技術革新が求められる」と書かれている。この①②③については、最初に太陽光発電を導入した事業者には普及を促す目的で高い買取価格を20年間保障し、普及後は次第に市場に委ねる方法が正しい。にもかかわらず、最初に太陽光発電を発明した日本では、普及が遅れて技術が進まず、欧米の5~10円/kwhに及ばない状況となっているのは、油断と妨害の結果である。なお、電力のコストは「賦課金」ではないため、記者は原価計算を踏まえて正確に議論すべきだ。 また、*5-2には、「①柏崎刈羽原発6、7号機に原子力規制委員会が安全審査に事実上の『合格』を出し、再稼働にようやく動き出した」「②日本では再生エネでベースロード電源を担うのは難しい」「③原発1基再稼働させれば同規模の火力発電に比べてコストは年350億~630億円、二酸化炭素(CO2)排出では260万~490万トンを減らせる。」「④政府は原子力の総発電量に占める割合を2030年度に20~22%とはじく」などが書かれている。しかし、原発に絶対安全はなく、事故を起こせばCO2どころではない公害を引き起こし、使用済核燃料の最終処理まで考慮すれば発電コストは最も高いため、①②③④こそ、環境後進国日本の思考停止による見解だ。そして、再生可能エネルギーの制約として書かれている内容は、使用済核燃料の処理よりもずっと簡単に解決でき、外国では既に実践されているものである。そのため、分散発電を前提とした良質で安価な機器が増え、それを使った街づくりが進めば、100%再生可能エネルギーによる電力社会は、石炭から石油に転換したよりも早いスピードで来るだろう。 *5-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21969410W7A001C1MM0000/?n_cid=NMAIL004 (日経新聞 2017/10/6) 太陽光買い取り価格、さらに下げ 18年度20円弱に 経済産業省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で、太陽光発電のさらなる価格引き下げに乗り出す。2018年度にも産業用の買い取り価格を現在の1キロワット時21円から同20円弱とする見通しで、最終的には10円前後を目指す。再エネの導入拡大に向け国が手厚く支援してきたが、今後は競争を通じ、民間で自律的に市場を拡大していくよう促す。FITは再エネでつくった電気を大手電力が一定期間、同じ価格で買い取るよう国が定めた制度。参入事業者が収益性を見通しやすくする目的で、12年度に導入した。経産省はこのほどFITに関する有識者会議「調達価格等算定委員会」で18年度以降の見直しに向けて議論を始めた。年度内に結論を出す。12年度に制度を導入した際の産業用の買い取り価格は1キロワット時あたり40円だったが、産業用は17年度は21円となっている。また、同省は17年度からは2千キロワット以上の大規模な太陽光発電に対し、欧州などで普及する入札制を導入し、さらなる価格下げを促している。今秋に予定する初の入札の結果を踏まえた上で、現在21円の入札上限価格についても今後、引き下げるほか、より小規模な発電にも入札対象を広げることを検討する。太陽光の普及が進み、入札制が多い独仏、米国などは1キロワット時あたりの太陽光発電による電力価格は5~10円が相場で、日本の半分から4分の1と低い。経産省が太陽光発電の導入費用を調べたところ、日本は1キロワットあたり約30万円と欧州の2倍に上る。事業者には安価で質の高い設備の導入など、一層の技術革新が求められる。より発電効率の高い太陽光パネルやパワーコンディショナー(電力変換器)を使ったり、効率的な保守管理サービスを利用したりする必要がある。再エネ導入を加速させるためFITで手厚く支援してきて、太陽光の普及は進んだ。しかし事業者側のコスト競争力はまだ低い。経産省幹部は「日本でも大幅なコスト削減を進め、競争力のある電源にしていく」とし、買い取り価格の引き下げや入札制度の導入で、太陽光関連事業者の「自立」を促す。同省は太陽光に限らず、風力、水力、バイオマスなど他の電源でも価格の引き下げを進める方針だ。FITの背後で高まる消費者負担に配慮する面もある。標準家庭が月々の電気代で負担する再エネ促進のための「賦課金」は、17年度で686円と、12年度の57円から跳ね上がった。30年度には1千円を超える見通しで、対応を迫られている。 *5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171006&ng=DGKKZO21827100T01C17A0EA1000 (日経新聞 2017.10.6) 環境後進国ニッポン(下)思考停止 もう許されない 温暖化対策と安定的な電力供給を両立する原子力発電は過度な依存を望めない。一定量の電力を低コストで安定供給できるベースロード電源の議論は堂々巡りが続く。 ●再稼働弾み期待 東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)。原子力規制委員会が安全審査に事実上の「合格」を出し、再稼働にようやく動き出した。事故を起こした福島第1原発と同じ「沸騰水型」で初の合格内定。経済産業省は同型原発の再稼働に弾みがつくと期待する一方で、「東電を適切に指導したい」と気を引き締める。同意が必要な地元の反応はなお厳しい。1年前の選挙に勝って新潟県知事に就いた米山隆一氏。福島原発事故の県独自の検証が済むまで認めない立場に固執し、3年ほどかけるという。東電は理解を得る活動を急ぐ。政府が報道各社の世論調査を分析したところ、福島事故直後から今まで「再稼働賛成1に対し反対2」の構図のままだ。経産省は原発再稼働をベースロード電源と位置づける。1基再稼働させれば同規模の火力発電に比べ、コストは年350億~630億円、二酸化炭素(CO2)排出では日本全体の0.2~0.4%にあたる260万~490万トンを減らせる。政府は原子力の総発電量に占める割合を2030年度に20~22%とはじくが、16年度は2%。経産省によると、目標達成には全国にある42基のうち30基程度の再稼働が要る。12基が安全審査を待つが、達成はなかなか厳しい。老朽化による廃炉かリプレース(建て替え)かの判断を迫られる原発も出てくる。同省幹部は「30年以降、原発の新増設がなければ20~22%は維持できない」と語る。想定する水準を確保できなければどうするのか。今の総発電量に占める再生エネの割合は15%(大規模水力含む)。30年度は原子力より高い22~24%になるとみる。ただ天候や日照時間に左右される太陽光や風力は電力が安定しない。国境をまたいで送電網がつながる欧州では、再生エネの普及するドイツと、原発大国のフランス間で電力の融通が成り立つ。現時点の日本では再生エネでベースロード電源を担うのは難しい。地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾主席研究員は「再生エネの普及と技術の革新を進めながら、火力と原子力を使うのが現実的」と話す。再生エネの不安定さを液化天然ガス(LNG)火力で調整して、発電量を安定させられる。 ●地熱は10年停滞 ベースロード電源の可能性を秘めた再生エネもある。火山国、日本で資源豊富な地熱発電だ。世界3位の約2300万キロワットの資源量があるとの試算があり、日本の電力の総設備容量の約1割にあたる。だがここ10年間は50万キロワット超で大きく変わらず、ニュージーランドやアイスランド、トルコ、ケニアに抜かれた。停滞の理由は内向きの事情だ。適地の8割が国立・国定公園内にあり、景観との兼ね合いで慎重論との一進一退になりがち。温泉地に重なり関連業者の懸念もある。環境を論じるには温暖化と密接に関わるエネルギー政策が欠かせない。衆院選でも争点となり、希望の党代表の小池百合子東京都知事は30年までの原発ゼロを主張。それなら代替エネルギーを示すべきだ。東日本大震災で原発を軸とする構成が壊れて6年半。思考停止を乗り越え、エネルギーの将来像を議論する時だ。 <農林漁業のイノベーション> PS(2017年10月8日):*6-1に、「①地方銀行による農林業への融資残高が2017年3月末時点で約5400億円に上り、資金需要は拡大傾向」「②各行は農家への助言強化や農家が生産から流通までを手掛ける『6次産業化』を後押しするサービスを拡充し、需要の取り込みに躍起」「③強い農業には生産技術に加え、生産計画や財務管理といった企業経営で求められるノウハウが必要だ」と書かれている。農林漁業のイノベーションにも資金が必要であるため、①のように銀行が融資先として認識し始めたことはよいことで、②③に述べられている農林漁業の経営管理は非常に重要だが、無理に融資して貸しはがしすることにならないよう、銀行も情報収集力や人材を活かして農林漁業の得意先と一緒に育って欲しい。 このような中、*6-2のように、「森林環境税(仮称)」を財源に市町村が管理の行き届いていない森林を整備し、担い手への集積・集約化を進める仕組みの構築を目指すとのことだが、CO2を吸収するのは森林に限らず、環境を汚している主体からはそれに見合った金額を徴収したいので、私は「環境税」という名前にした方がよいと考える。なお、木材の価格低迷で森林の所有者が森林を管理する意欲を無くしている点については、*6-3の大川のように、日本各地に家具の街があるため、これも伝統産業のイノベーションを行い、現代の住生活にあったおしゃれな家具を安価に作れるようにした方がよいだろう。何故なら、消費者は、自分の家に合わない家具やないものは欲しくても買えないのであり、この要求を満たせば輸出も可能だからである。 2017.10.7西日本新聞 (図の説明:地方銀行の農林漁業への貸付残高、農林漁業金融公庫/日本政策金融公庫の農林水産事業への貸付が増え続けている。また、合板用材の国産割合も増加中だ) *6-1:http://qbiz.jp/article/120196/1/ (西日本新聞 2017年10月7日) 地銀の農業融資5千億円超 大規模化、企業参入背景 地方銀行による農林業への融資残高が2017年3月末時点で約5400億円に上ったことが7日、分かった。農業の担い手減少が続く一方、農家の大規模化や異業種からの企業参入を背景に資金需要は拡大傾向にあり、融資残高も年々増加している。各行は農家への助言強化や、農家が生産から流通までを手掛ける「6次産業化」を後押しするなどサービス拡充の動きを活発化させ、需要の取り込みに躍起だ。第二地方銀行協会などの集計では、第二地銀を含む地銀の13年3月末以降の農林業の融資残高は年100億円超のペースで増え、16年3月末時点で5千億円を突破した。長野県地盤の八十二銀行の17年3月末の農業融資残高は215億円で、前期から41億円伸ばした。農家との接点を増やそうと6次産業化や経営に関する講座などを開催。強い農業には生産技術に加え、生産計画や財務管理といった企業経営で求められるようなノウハウが必要だと訴えてきた。農業の専任担当者は「高い経営感覚を持った農家が増えれば、資金供給先も増える」と期待。企業から農業参入の相談があれば、経営計画の策定や、その後の販路開拓を後押しする。地域の基幹産業である農業に自ら参入して知見を蓄積しているのは鹿児島銀行(鹿児島市)。運転資金がかかる畜産向け融資も堅調で、17年3月末の残高は528億円と全国の地銀でトップだ。昨年9月に農業法人「春一番」を共同出資で設立し、銀行から出向した4人がタマネギとオクラを生産。「農業経営の理解が深まり、どうすれば稼げるかを考える意識が高まった」(鹿児島銀の担当者)といい、営業力強化へ増員を予定する。6次産業化を推進する西日本シティ銀行(福岡市)は農業融資の残高を17年3月期までの5年間で約16倍に拡大。宮崎銀行や常陽銀行(水戸市)、宮城県地盤の七十七銀行、北陸銀行(富山市)といった有力地銀も残高の伸びが目立った。 *6-2:https://www.agrinews.co.jp/p42095.html (日本農業新聞 2017年10月6日) 森林管理 委託を促進 所有者の責務 法で規定も 規制会議 政府の規制改革推進会議は5日、農林ワーキング・グループ(WG、座長=飯田泰之明治大学准教授)の会合を開き、林業改革について議論した。「森林環境税(仮称)」を財源に、市町村が管理の行き届いていない森林を整備し、担い手への集積・集約化を進める仕組みの構築を目指す。管理が困難な所有者に市町村への委託を促すため、適正に管理する責務をいかに法的に課すかが焦点となる。年内に結論を取りまとめる方針。同会議では9月の初回会合で、今期の重要課題のひとつに林業の成長産業化を掲げ、年内に結論を出すとしている。具体的には、意欲ある林業経営者に、森林の管理を集積・集約化する仕組みの構築を目指し、こうした仕組みを補完する市町村の役割などを詰める。所有者が管理できない森林について、市町村が受託し、作業道の整備や間伐などをした上で、担い手となる経営体に再委託する仕組みを検討する。一方、こうした市町村の取り組み財源として、与党は2017年度の税制改正大綱で、18年度の税制改正で森林環境税を創設する方針を示している。焦点となるのは、森林所有者にいかに市町村への委託を促すかだ。農水省によると所有者の約8割は経営意欲が低く、さらにそのうちの7割は主伐の意向がない。こうした中で、自ら管理する意向がない所有者に、市町村への委託を促すため、所有者に対して森林を適正に管理する責務を法律で課すことを検討する。来年の通常国会での森林法改正か、新法の制定も視野に入れる。この日の同WGの会合では、総務省が森林環境税の検討状況を報告。財源の使途について、間伐や作業道の整備の他、森林の所有者を特定する調査にも充てるとした一方、地方公共団体からは、森林の状況に応じて柔軟な使い方ができる仕組みを求める声が上がっていると説明した。 *6-3:http://qbiz.jp/article/120204/1/ (西日本新聞 2017年10月8日) 1万点の家具 展示販売 大川木工まつり始まる 家具のまちの秋恒例イベント「大川木工まつり」が7日、大川市酒見の大川産業会館と大川中央公園をメイン会場に始まった。市内外の家具メーカー約200社が最新の約1万点の商品を展示販売しているほか、木工体験などさまざまなイベントがある。9日まで。会館横の市文化センターでは、東京を拠点に国内外で活躍する男女2人組のアートユニット「ミレイヒロキ」さんが、市内の倉庫に眠っていたタンスやベッドなどに色鮮やかな花を描いて再生させた作品を展示。木工体験では、南米生まれの箱形楽器「カホン」を作るコーナーもあり、親子連れでにぎわっている。8日は午前10時55分から木工まつりパレードがあり、市出身の歌手大川栄策さんや俳優の陣内孝則さん、騎手の的場文男さんが市民約500人とともに練り歩く。酢の醸造蔵や製材所などを巡る工場見学バスツアー「職人めぐり」(無料)も実施する。大川商工会議所=0944(86)2171。 <農業とJRのイノベーション> PS(2017年10月26、29日追加):農業は起伏のある広い土地を有しているため再生可能エネルギー生産の適地であり、*7-1のように、京大農学研究科とNTTデータ経営研究所が「エネルギー創造・利用型農業」の実用化・普及に向けた組織を立ち上げたそうだ。そして、京大付属農場は、既に透過光型の太陽光発電パネルを園芸温室の天井や妻面に貼って、農産物の生産性を落とさずに発電する実験を始めたそうで、早期の実用化が望まれる。これらの製品は、世界で受け入れられるに違いない。 なお、発電した電力は消費地に送電しなければならないが、近距離ならNTTの線やガス管・水道管に併設した電線を使うことが可能だ。長距離なら、*7-2のようなJRが送電事業に進出して超電導電線を敷設するのがよいと思われる。つまり、JRが送電子会社を作って事業の多角化を行えば、連続した土地という既にある資産を使って収益を挙げることができ、駅ビル・マンション・大型開発地でも創電すれば、さらに収益拡大が可能だ。そうすると、鉄道利用者が少ない路線も貨物運搬や送電線敷設場所を兼ねて存続することができるだろう。 さらに、*7-3のように、環境省は国立公園をドローンで空撮し、外国人観光客を増やすため外国に発信するそうだが、外国人だけでなく、(楽しみながら歩いた方が健康に良い)高齢者も対象とすれば利用者数が増える。そのため、高くない入場料をとる形で国立公園や国定公園内に遊歩道や乗り物を組み合わせて配置すればよいだろう。そこで、*7-2の耶馬日田英彦山国定公園内にある日田彦山線は、生活路線としてだけでなく、日本史のKeyである標高1200mの英彦山や日田を通る観光路線としても使い、鉄道沿線に、春は梅・桃・みかん・りんご・アーモンド・桜・菜の花、夏は大豆・蕎麦・ひまわり、秋は楓など、その地域にあった花と収穫を楽しめる植物を農林業や地域の人と協力して植え、絶景を作ればよいと思われる。 (図の説明:上の段の左からEVトラック、EV軽トラ、EV電車だ。また、下の一番左はBMWの自動運転車で、中央は自動運転車の仕組に関する説明である。そして、一番右の図は超電導電線の説明で、電動化・自動運転化の技術も既にあるため、JRはじめ多くの産業がこれらの技術を使ってコストダウンし、損益分岐点を下げるのは容易な筈である) *7-1:https://www.agrinews.co.jp/p42292.html?page=1 (日本農業新聞 2017年10月26日) 「創エネ」組織を発足 農家の収益向上に 京大とNTTデータ経営研 京都大学農学研究科とNTTデータ経営研究所は25日、農産物とエネルギーの両方を作る「エネルギー創造・利用型農業」の実用化・普及に向けた組織を立ち上げたと発表した。名称は「グリーンエネルギーファーム(GEF)産学共創パートナーシップ」といい、ヤンマーやパナソニック、和郷園、京都府など同日の時点で23団体が参加。京都府木津川市にある同大学付属農場を拠点とし、研究開発や制度設計、政策提言などをしていく。現在のエネルギー消費型の農業を、創出型に転換させる。そのモデルを、大学と産業界が提携して作り出す。農作物を生産するとともに、エネルギーを作る“創エネ”の考え方を農業に導入し、農家の収益性向上につなげる。具体的には、太陽光や風力、小水力、バイオマス(生物由来資源)などを利用した発電事業に農業者が参入しやすいように、大学と企業などで技術開発の共同研究や事業開拓を手掛ける。作物の生育に必要な色の光だけを透過させ、それ以外の光は発電に使うような太陽光発電システムの開発や、農業とエネルギーを一緒に作る「農・エネ併産」型農業の収益性の実証などを進める。「農・エネ併産」に必要な制度や政策の提言もする。企業や大学への研究支援にも取り組む。将来は農場で生産した電力や水素で農場の電力自給や地域へのエネルギー供給ができるような社会へとつなげる構想を描く。京都大学の付属農場では既に透過光型の太陽光発電パネルを園芸温室の天井や妻面に貼り農産物の生産性を落とさず発電する実験を始めている。GEFパートナーシップには、新興の電力会社、電気、通信、ガス関係企業の他、金融機関や農業法人などが参加。大学も、京都大学以外に5大学が入っている。今後も多くの企業や団体の参加を呼び掛けていく。NTTデータ経営研究所によると、欧州では化石エネルギーを大量に消費する今の農業を見直す方向にある。農場で農産物と併せて再生可能エネルギーを作り出し農産物のブランド化を目指す。 *7-2:http://qbiz.jp/article/121273/1/ (西日本新聞 2017年10月25日) JR九州上場1年、多角化で成長をけん引 被災や赤字線…鉄道事業には課題 JR九州が東京証券取引所第1部に株式上場して、25日で1年。企業の合併・買収(M&A)による多角化や九州域外への進出など、鉄道以外の事業を積極的に展開、成長のけん引力になっている。一方で本業の鉄道事業は実質的に赤字が続き、地震や豪雨で被災、復旧のめどが立たない路線もある。上場企業として、鉄道事業の改革をどう進めるのか。2年目の課題は重い。広い敷地に、黄色い建設機械がずらりと並ぶ。世界最大の建設機械メーカー「キャタピラー」の九州地区での販売を担う「キャタピラー九州」(福岡県筑紫野市)。今月、JR九州が販売・リース事業を買収し、傘下に収めた。JR九州から出向した山根久資(ひさし)社長は「JR九州グループの建設会社への営業や、駅ビル工事などへのアプローチも積極的に進めたい」と、組織力を生かした経営に意欲を見せる。これまでもドラッグイレブンなど運輸関連とは異業種のM&Aを進めており、JR九州の青柳俊彦社長は「九州を元気にする事業、鉄道と相乗効果を生む事業で(M&Aを)考えていきたい」と、さらなる事業拡大を狙う。 * * 困難視されていた上場を果たしたJR九州。原動力となったのは、事業多角化による収益の拡大だ。駅ビルやマンション、流通や外食など幅広い事業を手掛け、2017年3月期の連結売上高3829億円のうち、鉄道以外が約6割を占める。9月には、福岡市中央区の九州大六本松キャンパス跡地に複合施設の商業エリアをオープン。同社にとって初の沿線外での大型開発となった。青柳社長は「六本松で一つの実績ができた。応用する場所はたくさんある」と強調する。九州外での事業展開にも力を入れる。14年の東京に続き、今年6月には那覇市でホテルを開業。今後はアジアへの展開も加速する構え。タイ・バンコクに現地法人を設立し、ホテルなどを視野に不動産開発を本格化させる。 * * 鉄道以外の事業が拡大を続ける半面、最大の課題は鉄道事業の収支改善だ。7月には路線ごとの輸送密度(1日1キロ当たりの平均利用者数)を初めて公表。現状を理解してもらい、鉄道網の在り方への意識を高めてもらう狙いだが、利用者の少ない沿線では廃線への懸念が募る。7月の九州豪雨で被災した日田彦山線では、復旧の見通しも示していない。青柳社長は赤字ローカル線に関し「今回のような大きな災害があった場合、ゼロから鉄道を造るようなもの」と指摘。日田彦山線については地元に現状などを説明し、意見を聞いた上で鉄道以外での輸送も検討する可能性を示唆する。沿線の自治体関係者は「JRから見れば利用者は少なくても、生活には重要な路線。早期の全線復旧を望む」と訴える。青柳社長は上場前の15年、国会で「路線の廃止は検討していない」と明言。一方で、不採算路線に対する投資家の厳しい目があるのも事実だ。地元や株主の理解を得ながら、いかにして鉄道の収支改善を図るか、経営手腕が問われる。 *7-3:http://qbiz.jp/article/121580/1/ (西日本新聞 2017年10月29日) 国立公園の魅力 ドローンで空撮 環境省、外国人向けに発信 環境省は、国立公園を訪れる外国人観光客を増やすため、小型無人機「ドローン」を使って上空から動画を撮影、無料で配信する取り組みを始める。インターネット上での閲覧や海外のテレビ局に無償提供し、番組で紹介してもらうことを想定している。環境省が訪日外国人旅行者の誘致に向けて「国立公園満喫プロジェクト」に指定した8カ所を2017〜18年度に撮影する。17年度は阿寒摩周(北海道)、十和田八幡平(青森、岩手、秋田)など、18年度は阿蘇くじゅう(熊本、大分)、霧島錦江湾(宮崎、鹿児島)などが対象。それぞれ特徴となる美しい自然を収録する。撮影や編集は主にNPO法人「ネイチャーサービス」(埼玉県坂戸市)に依頼。動画は同法人のサイトなどにアップされる。公開時期は調整している。政府は20年までに訪日外国人旅行者を4000万人に増やす方針。関連して国立公園の訪日外国人利用者数を16年の546万人から、20年には1000万人まで増やす目標を掲げている。 <産業と社会のイノベーション> PS(2017年11月1日追加):日本が先行のチャンスを失ったのは、*8-1の「量子コンピューター」だけでなく、EVもその一例だ。そして、先行する技術にケチをつけ、その技術をビジネスに結びつけて変革するのを妨げたのは、ほかならぬメディアと経産省だった。なお、創造は規則的なサイクルになってはおらず、サイクルだと考えること自体に意味がない。そして、企業は市場のニーズにあった事業を行い、市場によい提案を行い続けなければ、市場からそっぽを向かれ淘汰されて、世界の先頭に立つどころか技術も失うのである。 そして、まず、*8-2のように、次世代エコカーはEVが中心でFCVが置いてきぼりになった状態を「雌伏」と表現しているが、「雌伏」とは「女性は負けて伏せる」という意味であるため、女性に対して失礼である。しかし、このように、メディアは女性蔑視用語を多く使い、「女性は劣った存在だ」という先入観を社会に広めているのだ。 また、EVもFCVも、(1995年前後に私が電気自動車を提案して)日本発の技術だったのに外国に追随せざるを得なくなったのは、①EV用電池を改良することを考えずにEVの航続距離にケチをつけることに専念した ②部品点数が少ないEVの価格を高止まりさせた ③FCVの燃料である水素を再生可能エネルギーで水を電気分解して作るのではなく、輸入した化石燃料から作ることを考えた など、関係者があまりにも馬鹿だったからである。ちなみに、水素だけを作って皆で使うと「酸素不足」という公害が起きるため、再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を作り、一緒に発生した酸素も車内に放出するなどして使う必要がある。 なお、EVの航続距離が延びた現在、仕組みが簡単で爆発の危険のないEVの方が、より乗用車に向いていることは明らかになった。しかし、FCVの開発は無駄だったわけではなく、大きな馬力を必要とするトラック・電車・飛行機などではFCVの出番も多いだろう。さらに、電車も新幹線まで含めてFCVにすれば、建設・維持コストを低く抑えることができる。そのような中、EV・FCVへのシフトでガソリン車の部品を作っていた会社が苦境とのことだが、現在の日本は、*8-4のように、(私の提案で)航空機を作ることも可能になったため、公害を出さない燃料電池を使った航空機部品を作れば、付加価値の高い仕事をすることができる。この時、輸入品で作るアルミ部品を使う必要はなく、炭素繊維を使って強く軽くした方が燃費にもよいのだが、日本企業は炭素繊維も含めていつまでも製品価格を高くしておくのが問題なのである。 さらに、*8-3のように、長府工産が水素給湯器を事業化し、まず家庭用・小規模事業所向け給湯器として商品化するそうで、これも価格を安くして普及させれば規模の利益が得られるが、ここが技術をビジネスに繋げるポイントの一つだ。 2017.11.1日経新聞 2017.11.1日経新聞 2017.11.1日経新聞 (図の説明:中国・インドなどの人口が多い新興国で論文数や基礎研究の伸びが著しいのは当たり前だが、日本は基礎研究力が減少し、応用開発力の伸びも小さいため、全体として革新力が低い。米国は1位を保っているため、違いが出る理由を明らかにして改善すべきだ) *8-1: https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171101&ng=DGKKZO22923560R31C17A0MM8000 (日経新聞 2017.11.1) 活路はどこに(1)瀬戸際の技術立国、新たな創造の循環を 景気回復や株高が続きながら、高揚感に欠ける日本社会。新産業を生み続ける米国や急成長する中国に押され「技術立国」の看板が色あせているためだ。問われるのは技術を生かし社会や産業を変革するイノベーション(革新)の力。世界は進化する人工知能(AI)など新たな産業革命のさなかにある。技術立国をどう再建するか。その挑戦がニッポンの未来のかたちをつくる。神奈川県厚木市のNTT物性科学基礎研究所。大型冷蔵庫よりも大きい箱型の「量子コンピューター」試作機を研究者が整備する。11月27日から公開し、顧客に無償で利用してもらうためだ。小さな粒子で起きる物理現象を利用する量子コンピューターを使えば、3年以上かかるデータ処理を理論上、1秒でできる。あらゆる機器にAIが載る時代の基幹技術で、西森秀稔東京工業大学教授が理論を提唱するなど日本が先行してきた。NTTは試作機の公開で実用化へ一歩進むが、世界はその先を行く。「未来へようこそ」。カナダ・バンクーバー郊外にあるスタートアップ企業、Dウエーブ・システムズの本社は垂れ幕で顧客を迎える。同社は2011年、世界で初めて量子コンピューターを商用化した。「ドクター・ニシモリがもたらした変革に我々は鼓舞されている」。営業部門トップのボウ・エワルド氏は笑みを交えて語る。Dウエーブ製は得意な計算領域が限られる「簡易型」だが、デンソーとの利用契約を決めるなど実績を重ねている。「性能は我々の方がずっと上だが、Dウエーブはマーケティングがうまい。日本はそこが弱い……」。NTTの技術者はこうぼやく。だが、世界が高性能の製品ができるまで待ってくれると考えるのは、楽観的すぎる。時代や市場の変化に即応し、革新を実現する経営力の貧しさがにじむ。日本は明治維新後、欧米の模倣(イミテーション)から出発し、技術を改良(インプルーブメント)して魅力的な商品を創ってきた。最近のノーベル賞ラッシュは日本が発明(インベンション)で力を持ったことの証左だが、それをビジネスに結びつけ、社会を変える革新力では後手に回る。日本の革新力は現在、世界でどんな水準にあるのか。日本経済新聞社は日米独中韓5カ国について、革新力を示す4つの指標を選び、06年と16年を比較した。日本は「稼ぐ力」を示す上場企業の営業利益の合計が11%増えた。しかし、7.3倍の中国などに遠く及ばず、伸び率は最低。産業の「新陳代謝力」を示す株式公開から10年未満の企業の時価総額は約半分に減った。「基礎研究力」を示す科学技術の有力論文数を推計すると、米中独韓は大幅に増えたが日本は2%減少。「応用開発力」を示す国際特許の出願も中国が追い上げ、日本は4指標を総合した「革新力指数」が伸び悩む。瀬戸際の技術立国・日本をどう立て直せばいいのか。同じコンピューター分野にヒントがある。「AIの利用が世界で広がれば、コンピューターを動かす電力が足りなくなる」。ペジーコンピューティング(東京・千代田)の斉藤元章社長はこんな問題意識でスーパーコンピューターの開発に取り組んでいる。世界のスパコン開発は13年以降、中国勢が計算速度で独走する一方、消費電力をどう抑えるかという難題が浮上する。ペジーなどスタートアップ2社は半導体回路を工夫し、機器を液体に直接浸して冷やす独自手法で電力消費を抑える。10月には、日本最速の計算速度と世界トップ級の省エネ性能を両立したスパコンを開発したと発表。技術ありきという発想を転換したことが日本を最前線に呼び戻した。市場のニーズに真摯に耳を傾け、「使われる技術」を生み出す新たな創造のサイクルを築ければ、日本は世界の先頭に立つ力があるはずだ。 *8-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13207933.html (朝日新聞 2017年11月1日) 燃料電池車、雌伏の時 「究極のエコカー」復権のカギは価格 次世代エコカーの開発競争が電気自動車(EV)を軸に激しさを増し、水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)には逆風が吹きつける。インフラ整備が進まず、車両価格も高いためだ。FCVは、二酸化炭素(CO2)を出さない水素で走る「究極のエコカー」。巻き返しのチャンスはあるのか。「FCVへの我々の取り組みが後退したわけではない」。開幕中の東京モーターショーで、トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長は力をこめた。10月25日、報道陣向けのプレゼンで、「水素社会実現へのトヨタの『変わらぬ意志』の象徴」と語り、FCVのコンセプトカーを披露した。FCVは燃料電池で水素と酸素を反応させ、生み出した電気でモーターを動かして走る。トヨタは、電池の発電効率などを上げて、水素の充填(じゅうてん)1回で航続距離1千キロの実現をめざす。2014年末に世界で初めてFCV「ミライ」を販売したトヨタは、モーターショーでEVの試作車や、EV用次世代電池を開発する計画を打ち出した。ルロワ氏が強調しなければ、FCVに対するトヨタの姿勢に疑問符がついたはずだ。今回のモーターショーは、本格的なEV時代の幕開けを告げた。新たなFCVを出展しているのは、トヨタと独ダイムラーのメルセデス・ベンツぐらいだ。航続距離は日産自動車のEV「リーフ」の400キロに対し、ミライの650キロが上回る。一方、国内のインフラ数は、EVは約7100(急速充電)あるが、FCVは約100。車両価格はFCV700万円台、リーフは最安のグレードで約315万円。いずれも国などの補助金があるものの、EVの方が手が届きやすい。ベンツは、外部電源で充電もできるプラグインFCVを出展。水素による航続距離は437キロだが、備えたバッテリーだけでも49キロ走れる。水素が切れても走れ、インフラ不足をカバーする。来年から生産を始め、ドイツや日本、米カリフォルニア州などで販売する計画だ。FCV開発を担当するダイムラーのゲオルグ・フランク氏は、「長距離走行やバスやトラックにはFCVが向いている。いまもガソリン車とディーゼル車があるようにEVとすみ分けできる」とみている。FCVもEVもエコカーとして注目されるが、地球温暖化対策としては、どちらもまだ不十分だ。水素は、天然ガスなどの化石燃料からつくる方法が主流で、その過程でCO2が発生する。EVも石炭や石油など化石燃料でつくった電気を使えば、CO2の発生量を大きく減らせない。ただ、発電時にCO2を出さない原発の再稼働に慎重な日本にとって、水素は大きな可能性を秘める。風力や太陽光、バイオガスなど自然エネルギーを生かし、CO2を出さずに水素をつくる実験が全国で進む。究極のエコカーを実現できる供給網づくりもFCVの普及に急務となる。FCVの技術は日本勢の一部が優位に立つが、内外の他社も巻き込まないと広がりに欠ける。「クラリティ」を昨春発売したホンダは米ゼネラル・モーターズと組み、新たなFCVを20年ごろに投入する。こうした仲間づくりも課題だ。追い風もある。20年の東京五輪で水素社会の幕開けを世界に示そうと、政府は水素ステーションを160に増やす目標を立てる。九州大の佐々木一成・水素エネルギー国際研究センター長は「EVが注目を集めるいまはFCVにとって雌伏の時。東京五輪までには新型車が出てくる。インフラ整備を進めるためにも、車両価格をどこまで下げられるかが、FCV復権のポイントになる」と話す。 *8-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22893630Q7A031C1LC0000/ (日経新聞 2017/10/31) 長府工産、水素給湯器を事業化 年明けに展示場・実験施設 住設機器販売の長府工産(山口県下関市)は水素を燃料とする給湯器を開発、事業化に乗り出す。自社の石油給湯器の技術を応用、水素バーナーを製品化する。本社内に水素給湯器のほか燃料電池、蓄電池、モデルルームなどを備えた水素利用の実験施設を年明けをメドに設ける。水素燃料が一般に普及する前に先行して、生産技術を確立する狙いだ。トクヤマ、東芝燃料電池システム(横浜市)、岩谷産業などとのグループで昨年末に山口県周南市の水素型コージェネレーション(熱電併給)システムに納入した実験機の技術をもとにする。この際、水素と空気を混合してガスコンロのように円形に噴出し、点火する手法の水素バーナーを開発。炎の熱を水に伝える部分の構造は石油給湯器の方式を採用した。冷水から80度のお湯にする加温能力を確保した。今後は外装ケースの小型化と家庭用水素バーナーの構造を詰め、まず家庭用・小規模事業所向け給湯器として商品化する。価格は一般の石油・ガス給湯器並みの30万円以下を目指す。当面は災害用の水素ステーションを導入する予定の自治体や近隣の企業向けの販売を進める。水素は単位体積あたりの熱量がガスなどの3分1程度しかなく、燃料費は3倍とあって、現時点でコスト面で化石燃料の代替にはならない。水素給湯器は水素をエネルギー源として活用する「水素社会」を目指す自治体で必要な機器として提案する。将来は太陽光・廃棄物由来や、工場からの副生で得る水素を燃料とする発電・蓄電システムが普及するとみて、参入を決めた。今回、水素給湯器をはじめとする関連技術のショールームとして本社敷地内に実験施設を設けることにした。水素ボンベの収納庫、純水素型燃料電池、水素給湯器、水素由来の電力と湯を利用する設備としてシャワー室や洗面所、パソコンを置いたコンテナ型のモデルルームを設ける。家庭用蓄電池や電気自動車も置き、接続できるようにする予定。現在工事を進めており、年明けにもオープンできる見通しだ。長府工産は1980年に住設機器の商社と部品メーカーが統合して発足した。2017年3月期の売上高200億円のうち、9割超が他社製太陽光システムの販売で、残りが自社開発の給湯器、風呂釜、温水暖房製品になる。昨年から「フューチャー10」という長期計画を掲げ、メーカー機能を強化して売り上げの3割程度を占める構造としたい考えだ。水素関連の機器開発もその一環。 ▼水素社会 エネルギー源を水素を中心とすることで二酸化炭素(CO2)排出ゼロとする社会。日本では経済産業省が2014年6月(16年3月改定)に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」をまとめた。第1段階は家庭用燃料電池、燃料電池車(FCV)の普及。家庭用燃料電池は30年時点で530万台、FCVは25年にハイブリッド車並みの価格を目指す。 *8-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13207896.html (朝日新聞 2017年11月1日) MRJ部品調達、神鋼から変更も 三菱重工が検討 三菱重工業は31日、開発中のジェット旅客機「MRJ」にデータが改ざんされた神戸製鋼所製のアルミ部品が使われていた問題で、部品の調達先変更を検討する方針を明らかにした。この日、東京都内で開いた2017年9月中間決算の会見で、小口正範常務執行役員が「(調達先を)今のままいくのか、変えるのかは当然検討の俎上(そじょう)にある」と述べた。米国などで試験飛行中のMRJは、垂直尾翼の付け根や胴体の骨組みの一部などに神鋼製の部品を使っている。「安全性に問題はない」(小口氏)という。また、MRJの設計見直しについて、三菱重工は同日、「秋までに完了させる」としていた従来の方針を事実上撤回した。ただ、設計の見直しが終わった部品から順次、製造を始めており、20年半ばに納入を始めるスケジュールは維持する。 <運転支援の標準装備へ> PS(2017年11月4日追加)*9のように、「高齢ドライバーは症状を自覚していなくても認知症の恐れがある」などと言って免許の返納や取り消しを推奨するのは、人生100年時代に高齢ドライバーの足を奪い、家にひきこもらせ、意気消沈させて命を縮めるため感心しない。また、高齢者でなくても、居眠り運転・疲れ・飲酒運転・病気・よそ見、乱暴な運転などで交通事故を起こす人は多いため、世界に先んじてアクセルやブレーキを備えた車には運転支援機能を標準装備するという規制に変更すべきだ。 *9:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201711/CK2017110202000244.html (東京新聞 2017年11月2日) 認知症のおそれ 3万人 増える高齢ドライバー 七十五歳以上の高齢運転者を対象にした認知症対策が強化された改正道交法が施行された今年三月十二日から九月末までの半年間に、検査で認知症の恐れがあると判定されたのが三万人超に上ったことが、警察庁のまとめで分かった。このうち、六百九十七人が医師に認知症と診断され、運転免許が取り消し・停止された。警察庁によると、施行からの半年で、百十一万七千八百七十六人(暫定値)が認知機能検査を受け、認知症の恐れがあると判定されたのは2・7%の三万百七十人。このうち免許の自主返納などを除き、七千六百七十三人が医師の診断を終えた。施行後半年で受診者が千九百三十四人だった昨年一年間の四倍増となった。認知症と診断されて免許が取り消された人が六百七十四人、免許が停止されたのが二十三人だった。ほかに医師の診断待ちなどが約一万人いるため、これらの人数はさらに増える見通し。七十五歳以上で免許を自主返納したのは、今年一~九月で十八万四千八百九十七人(暫定値)で、過去最多だった昨年一年間の十六万二千三百四十一人をすでに上回っている。「認知症の恐れ」と判定された人数を都道府県別で見ると、多いのは愛知の千五百三十六人、茨城、神奈川の千二百五十六人など。東京は八百十六人だった。警察庁は「医師会などとの協力で、改正道交法は円滑に施行されている。高齢ドライバーの増加を見据えて、さらなる対策を検討する」と説明している。 ◆生活の足 支えが課題 改正道交法の施行後半年で、認知症と判明して運転免許が取り消し・停止となった高齢ドライバーは、既に昨年一年間の人数を上回った。七十五歳以上の免許保有者は二〇二一年までに百万人増える見通しだ。事故防止への取り組みが急がれる一方で、高齢者の生活を支える視点も欠かせない。運転できる車種や時間帯などを指定する限定免許の検討など、運転能力に応じたきめ細かな対策が模索されている。昨年十月、横浜市港南区で集団登校中の児童に突っ込んだ軽トラックのドライバーは、認知症であることが事故後に判明した。当時八十七歳の男性は症状を自覚しておらず、小学一年の男児ら八人が死傷したものの「過失責任が問えない」として不起訴になった。警察庁では、昨年末に五百十三万人だった七十五歳以上の免許保有者は、二一年には六百十三万人になると推計。事故をどう防ぎ、日常の移動手段の確保など、高齢者の生活をどう支えていくかが課題になる。同庁は有識者らの検討会議を設置。初期の認知症などを念頭に、認知機能に応じた対策を調査研究するほか、アクセルとブレーキを踏み間違えても加速を抑える「安全運転サポート車」などに限定する運転免許に関して、海外事例などをもとに導入の可否を検討している。 <認知機能検査> 3年ごとの免許更新時に加え、更新前でも認知機能の低下が疑われる信号無視、逆走などがあった場合、受検を義務化。約30分の筆記検査で、指定の時刻を示すように時計の針を文字盤に書いたり、イラストを記憶して何が描かれていたかを答えたりする。点数に応じて「認知症の恐れ」「認知機能が低下している恐れ」「記憶力・判断力に心配がない」の3段階に分類。認知症の恐れがある場合は医師が診断し、認知症ならば運転免許が取り消し・停止になる。 <製品の社内検査に国家資格?> PS(2017年11月9、10日追加):*10-1のように、EUの欧州委員会は、2017年11月8日、EU域内で販売する自動車のCO2排出量を、2030年に2021年の目標に比べて3割削減する規制を発表し、電気自動車(EV)などの環境対応車普及を後押しするそうだ。燃料の変更は、日本にとって最もメリットのあることで、日本の自動車メーカーは20年以上前から環境対応車を手がけるチャンスはあったため、2020年には、①新車はすべて環境対応車にする ②電力は再生可能エネルギー由来にする などが可能な筈で、いつも外国の後ろからあわてて追いかけることしかできないのは情けない限りだ。 そのような中、日産自動車は(日本人ではない)ゴーン社長のリード下で、世界最初のEVを実用化したが、日本のメディアはEVの航続距離の短さや静かさなど、何でも悪くしか報じなかったのを、私は忘れていない。そして、EVは既に世界競争が始まっており、競争相手は日本のメーカーだけではないのに、*10-2、*10-3のように、1)日産自動車が無資格の補助検査員らに完成車両の検査をさせていた 2)補助検査員は正規検査員の判子を使って検査結果を記す書類に押印していた 3)国土交通省は、長年にわたり検査現場で組織的な偽装工作が行われていた疑いがあるとみて実態の解明を急いでいる 4)日産自動車検査員テストで解答を見せて受験させた などを問題にしているのである。 私は、この報道が行われ始めた頃から、企業の工場内で行われる最終検査に国家資格が必要であることの方が異常で、今からEVを売り出そうとしている日産自動車への嫌がらせではないかと感じた。何故なら、①現在の平均的な車を前提としている国家資格を持っている従業員と持っていない従業員の間で、日産車の検査能力に有意な差があるとは思われず ②仮に国家資格を持っていたとしても、企業に従属している企業内資格者が検査すれば独立性はない上 ③企業は製造物責任があることによってユーザーから厳しく評価されている からであり、1)2)3)は、電気製品などの工場内最終検査に国家資格が必要ないのと同様、国土交通省のシステムの方がおかしい。そして、あまり意味のない資格なら、4)のように、日産自動車が検査員テストで解答を見せて受験させたのはよいことではないものの、その国家資格に意味を感じていなかったことが原因とも考えられる。 このような中、*10-4のように、中国は、「中国資本の出資比率50%以上」という合弁規制を緩和し、自由貿易区で新エネ車等をつくる場合に限り自由化して高度技術を持つ外資を誘致する政策に変更したそうだ。そのため、これまで外資が経営権を握れなかった規制が解除され、外資系メーカー主導の現地生産が可能になるため、日産などは中国の自由貿易区で新エネ車を作って輸出した方がやりやすい上、種々のコストが下がる。ここで、中国の賢さは外資のノウハウを入れつつ遅れていた自国の産業を育成し、自国企業に競争力がついた時点で外資と競争させて産業を高度化しようとするビジョンがある点で、日本の愚かさは優良企業を技術付で追い出そうとしているビジョンのなさである。 なお、日本のメディアはあまり報じなかったが、*10-5のように、トランプ米大統領が来日された際に、2017〜2018年に米国と協力して石炭火力発電所と原発の建設を世界に広げることに合意したのであれば、日本は温室効果ガス削減にも消極的であるため、「化石賞」に選ばれたのは尤もであり、馬鹿にも程があると言わざるを得ない。 2017.11.7東京新聞 (図の説明:1番左の図のように、CO2排出量の総量は中国が世界一だが、一人当たりのCO2排出量は米国・韓国・ロシア・日本と続く。そのため、左から2番目の図のように、意識の高い国はEV化を進めて内燃機関を禁止しつつある。従って、次世代環境車はEVが中心になると思われ、右から2番目のグラフはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の伸びを高く見積もりすぎている。その結果、日本では、一番右の図のように、EVのホープを追い出そうとしているが、これは太陽光発電のシャープが追い出されたのと同じ愚かな構図だ) *10-1:http://qbiz.jp/article/122338/1/ (西日本新聞 2017年11月9日) EU、車CO2排出量3割削減へ 30年、EV普及促す 欧州連合(EU)の行政執行機関に当たる欧州委員会は8日、域内で販売する自動車の二酸化炭素(CO2)排出量に関する規制を発表し、2030年に21年の目標値に比べ3割の削減を要求した。ガソリン車やディーゼル車では達成が難しいとみられ、電気自動車(EV)など環境対応車の普及を後押しするのが狙い。日本メーカーも対応が求められる。日本政府による今後の排出量目標にも影響を与えそうだ。地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」の策定で中心的な役割を果たしたEUの環境規制は世界で最も厳しいとされる。欧州委には、これを一段と強化し温暖化対策をリードしたい思惑もある。EUの乗用車のCO2排出量目標は21年が1キロ走行当たり平均95グラム。欧州委は25年にこれを15%、30年に30%それぞれ減らすとしている。日本の環境省によると、日本は20年に122グラムを目標としており、中国が20年に117グラム、米国は25年に97グラムとなっている。フランスは40年までに石油を燃料とするガソリン車やディーゼル車の販売終了を目指す方針を表明している。ただ、規制導入には加盟各国や欧州議会の承認が必要で、協議は曲折も予想される。大手自動車メーカーが本社を構えるドイツなどが反発する可能性がある。欧州自動車工業会は30年のCO2排出削減量は21年比で2割が妥当だとの考えだ。 *10-2:https://mainichi.jp/articles/20171005/k00/00m/020/063000c (毎日新聞 2017年10月4日) 日産 組織的偽装か 検査しない有資格者の印 日産自動車が無資格の補助検査員らに完成車両の検査をさせていた問題で、正規の検査員が自分の判子をあらかじめ補助検査員に渡していたことが4日、分かった。補助検査員は正規検査員の立ち会いなしでこの判子を使い、検査結果を記す書類に押印していた例があった。国土交通省は、長年にわたり検査現場で組織的な偽装工作が行われていた疑いがあるとみて実態の解明を急ぐ。日産は、神奈川、栃木、京都、福岡にある国内すべての完成車工場で、正規検査員に交じって補助検査員が日常的に出荷前の最終段階の検査を行っていた。最終検査は、1台ごとに8人程度で分担。ブレーキの利き具合などをチェックするもので、検査を通らないと出荷できない。日産によると、全国で正規検査員は305人、補助検査員は19人いる。補助検査員が検査する際、書類への押印も含めて正規検査員が立ち会うが、不在時には補助検査員が自分1人だけで押印した例があった。書類上は複数の項目の検査を1人の検査員が同時に行ったことになり、書類を調べた国交省が不自然さを指摘して発覚した。国交省は3日、京都と栃木両工場に抜き打ちで立ち入り調査を行った。今後、他工場でも実態把握を進める。日産は既に在庫約3万4000台の再点検に着手。週内に計24車種を対象に販売済みの約121万台のリコール(回収・無償修理)を届け出る。原因究明と再発防止策を10月末をめどに報告する。 *10-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201711/CK2017110702000118.html (東京新聞 2017年11月7日) 【経済】日産、検査員テストで不正 解答見せ受験させる きょう生産再開 日産自動車は六日、新車の無資格検査問題を受け停止していた国内向けの生産と出荷を、七日から順次再開すると発表した。再開が決まったのは完成車を組み立てる全六工場のうち、グループのオートワークス京都(京都府宇治市)を除く五工場。また第三者調査では、正規検査員を認定するテストで解答を見せ受験させるなど教育面の不正が六工場であったことが分かり、国土交通省はこれらの問題是正を再開の条件とした。国交省の検査で不正が発覚してから約一カ月半ぶりに事態が正常化へ向かうが、ずさんな品質管理体制が改めて浮き彫りになった。日産によると、追浜工場(神奈川県横須賀市)など五工場が、部品メーカーからの調達を含む準備が整い次第、生産と出荷を始める。国交省は各工場に立ち入り検査をした結果、生産体制について一定の見直しが進んだと判断した。関係者によると、正規従業員が出荷前の最終検査に携わる運用を確実にするため、当面は以前より生産ペースが大幅に落ちる可能性があるという。新たに判明した不正は、試験で解答を見せたことに加え、本来七十二時間が必要な受講時間を短く済ませた例があった。日産は時期や規模を明らかにしていないが、正規検査員約三百人全員への再教育や再試験を実施し始めたという。また、各工場で検査スペースを独立させ週一回の外部監査を行い、現場で適正に運営されているかどうか確認する。日産の無資格検査は九月十八日の国交省の立ち入り検査で発覚。公表後も不正が続いたことが判明し、十月十九日に国内向け生産、出荷の全面停止を発表した。国交省は今月六日にオートワークス京都を立ち入り検査し、これで不正が発覚した国内全六工場に検査が入った。京都も対策が十分だと認定されれば、生産と出荷を再開する見通し。 *10-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S13221582.html (朝日新聞 2017年11月10日) 中国、車の合弁規制緩和へ 自由貿易区の新エネ車に限定 中国外務省の鄭沢光次官は9日、中国資本の出資比率が50%を下回らないという自動車メーカーの合弁規制を、自由貿易区で新エネルギー車などをつくる場合は試験的に自由化すると述べた。外資系メーカー主導の現地生産が可能となりそうだ。2018年6月までに実施する。国営新華社通信が報じた。既存の規制は、外資が経営権を握れない点が問題視されていた。中国の習近平(シーチンピン)指導部は19年から自動車メーカーに、電気自動車など一定量の新エネ車の製造・輸入を義務づけるなど、新エネ車大国化を推し進めている。出資比率を緩和することで高度な技術を持つ外資を誘致。現地企業と競争させて中国の自動車産業を高度化しようとしている。新華社通信によると、鄭次官はこの日、米中首脳会談の成果について記者団に説明する席で、出資比率の規制緩和を明らかにした。 *10-5:http://qbiz.jp/article/122452/1/ (西日本新聞 2017年11月10日) 日本、化石賞をダブル受賞 石炭火力広げ、目標消極的 世界の環境保護団体で組織する「気候行動ネットワーク」は9日、地球温暖化対策の前進を妨げている国を指す「化石賞」に、日本と、「先進国」をそれぞれ選び、ドイツ・ボンの気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)会場で発表した。日本は先進国にも含まれるため、不名誉な化石賞のダブル受賞となった。日本が単独で選ばれた理由は、トランプ米大統領が来日した際、2017〜18年に米国と協力して石炭火力発電所と原発の建設を世界に広げることに合意したため。先進国は、歴史的に温室効果ガスを大量に排出してきたにもかかわらず、削減目標の引き上げに消極的なため。
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2017,09,12, Tuesday
高齢者人口の割合 年金受給年齢の引き上げと継続雇用 2017.9.7日経新聞 日本人の平均余命 支えられるべき高齢者 外国人労働者 女性労働のM字カーブ 2017.9.9日経新聞 (1)高齢者に対する差別 日本老年学会と日本老年医学会は、*1-1-1のように、現在は「65歳以上」とされる高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるべきだと国に提言した。私も、65歳時点の平均余命は男性19歳、女性24歳と長く、75歳時点の平均余命でも男性12歳、女性15歳で、医療の進歩や健康意識の高まりで高齢者が若返った状態で平均寿命が延び続けていることを考えると、高齢者は75歳からとし、65~74歳はできるだけ社会の支え手になってもらうのがよいと考える。 ただし、その際、高齢者に対して雇用差別を行ってはならず、平均余命や平均寿命に男女差・個人差があることも考慮すれば、職種や個人によって仕事が続けられる上限は異なるため、定年ではなく客観的評価(しかし、日本人はこれが苦手なのが問題なのである)でFairに報酬を決めて、働けるようにするのが良いだろう。 一方、*1-1-2のように、医療制度や人口統計上の区分で「高齢者=65歳以上」が定着しているのに、公務員の定年を60歳から65歳に引き上げることに反対意見があり、役職定年の導入に取り組むべきだとしているが、これは高齢者差別そのものであるため、役職は仕事の遂行能力で決めるべきである。 また、*1-1-3のように、60歳定年後も希望者全員を雇用することを企業に義務付ける高年齢者雇用安定法改正案の成立に対し、企業は継続雇用の対象者を能力などで絞り込めなくなるため負担増に備えて対応を急いでいると書かれているが、これも働く以上は年齢で差別すべきではないと考える。そして、第一生命経済研究所の熊野首席エコノミストの「人件費の増加を防ぐため能力の高い高齢者の賃金まで企業が一律に抑制しかねない」という警鐘は現実で、人口が減り働き手が減ると言いながら、高齢者の雇用が若年者の雇用を食うと言うのはおかしい。 つまり、私は、公務員であれ、民間企業のサラリーマンであれ、仕事をこなせる人は気持ちよく働けるようにすべきであり、年齢や性別による差別に合理性はないのに、若い男性しか働かせない状態にしているのはむしろマイナスであって、日本で自動車、家電・パソコンの説明書、銀行の書類等が高齢者や女性に扱いにくい仕様になっている原因だと考える。 (2)社会保障に関する政治・行政・メディアの主張の不合理 1)“子ども保険”創設の主張について 幼児教育・保育の無償化を目指し、*1-2-1のように、自民党は「子ども保険」の創設を提言しているそうだが、「子ども保険」はリスクも便益もない人からも保険料を徴収するため保険ではなく、公的保険として創るべきでない。小泉氏は「子どもがいなくても年金、医療、介護の受け手となるが、その持続可能性を担保するのは若い人だ」としているが、社会保障には消費税増税か子ども保険による新たな負担が必要で、その他の膨大な無駄は垂れ流しのままでよいとする広報ばかりを受けて育った日本の若者が、真摯に高齢者に寄り添った政策を作ったり介護したりする人材になるわけがないため、外国人労働者の方がよいということになるだろう。 そしてまさに、*1-2-2のように、「若者に比べて高齢者を優遇する“シルバー民主主義”が財政を悪化させてきたが、政治家は投票所に足を運んでくれる人の意向を気にするため、選挙制度を変えて、“ドメイン投票”や“余命投票”が真剣に議論されている」と言う人まで出てきており、これは底の浅すぎる解釈で、日本国憲法で定められた普通選挙、基本的人権の尊重、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利などを無視している。さらに、「政治家が高齢者の意向を勝手に忖度しているだけ」「新たな人気取り」などとしているのは、(ここでは長く書かないが)我が国の周回遅れの社会保障と本物の財政改革の遅れに対する合理化にすぎない。 2)介護保険制度について *1-2-3に、「我が国の介護保険は膨張しており、介護施設や在宅サービスの給付費は総額約9兆円に上り、2025年度には2倍以上のおよそ20兆円に膨らむ見込みで、週2回、月10回程度の訪問が常識的だ」と書かれている。しかし、自宅療養をする人に月101回(1日3.4回)は不自然ではなく容体によるため、最高利用回数が月30回というのを威張る必要はない。 そして、ムダを生む理由の一つは「安さだ」とも書かれているが、介護保険制度はすべての人にリスクと便益があるのに、介護保険料は「40歳以上~死亡時」まで支払わなければならない。一方で、医療保険制度は世帯主が支払義務者で40歳以下でも支払っているのであり、私は「子ども保険」を創るよりも介護保険料の支払義務者を医療保険と同じ世帯主とし、保険料の支払者・受益者の年齢制限をなくすのが筋だと考える。そうすれば、病児保育も介護で賄える。 なお、「生活援助サービスは無駄」とも書かれているが、高齢や病気で家事ができない場合は、生活援助サービスがなければ施設に入らなければならず、QOL(Quality of Life)が低くなると同時に、施設の建設コストもかかる。そのため、「回数を増やすとコスト意識が甘くなる」などと言うのは、家事が知識と体力を要し失敗の許されない労働であって、85歳の高齢者には大変な仕事であることを知らない人の主張である。 また、*1-2-3では、サービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)等での在宅サービスが問題視されているが、自宅を離れてサ高住に住まなければならなくなった高齢者がどういう人であるかの丁寧な考察がない。つまり、サ高住で介護保険の給付が増えるのは当然で、そのため介護サービスの内容は障害の程度に応じて専門家が判定しており、認められているケアを100%受けても足りない程度の設定になっているのである。 このように、メディアが「高齢者は金持ちで社会保障などする必要のない人」「若者の負担になるだけの存在」などという宣伝を熱心に行った結果、*1-2-4のように、二度と稼げない高齢者から、息子を語って大金を奪うなどという詐取が増えた。私は、「子どもだとしても、甘やかしすぎだ」「見ず知らずの人に、そんな大金をよく渡すものだ」などと驚くことが多いが、詐欺は騙した人が悪いのであって騙された人が悪いわけではないため、警察は、気を付けるように広報するだけではなく、犯人を逮捕して厳罰に処し、犯罪の予防に繋げるべきである。 (3)外国人労働者に対する差別 佐賀県は、2016年に、*2-1のように外国人数が前年比13%増の5,140人で伸び率では全国の都道府県でトップになり、県が受け入れ態勢づくりに取り組んで、「壁」の突破に努めているそうだ。 しかし、政府は、トランプ政権の移民政策を批判する割には、*2-2、*2-3のように、技能実習でも最長3年しか働けず労働条件が悪く、国家戦略特区で認めた農業の外国専門人材も日本で働ける期間を通算3年に制限するなど、外国人労働者に対する差別的扱いを行っている。ちなみに、最長3年では、仕事を覚えたところで帰国するため、労働力として頼みにならない。そして、農業だけではなく、加工・販売・輸出入・製品企画などで、日本人労働者と同じ条件で働けることを「差別のない状態」と言うのである。 (4)高度専門職差別と女性差別 1)高度専門職に対する差別 *3-1のように、労働基準法を改め、「残業代ゼロ」制度を作って“高度プロフェッショナル”と呼ばれる人をそれに当てはめる制度は、他の法案と一括化して出し直すのではなく、①“高度プロフェッショナル”と呼んでいる人は本当に高度プロフェッショナルなのか ②“高度プロフェッショナル”なら、残業代をゼロにするのが適切な理由は何か などについて、立法理由を明確に説明すべきである。 しかし、私は、労働時間を自己管理できて報酬もそこそこに高い管理職に残業代がつかないことで十分であり、“高度プロフェッショナル”という職種を分けて残業代をゼロにするのは不適切だと考える。何故なら、努力して“高度プロフェッショナル”になると、プラスどころかマイナスになる社会システムにしては、智の時代に対応できないからだ。そして、現在、博士課程を修了してポスドクになっている人も同じである。 2)女性に対する差別 *3-2のように、日本女性には、谷が緩やかになったとはいえ、まだM字カーブがある。そのM字カーブは欧米にはないが、それは保育施設が整っているだけではなく、ナニーやメイドを雇って子どもを見させることもできるからである(ただし、日本でこういうことをすると批判する人すらいる)。そのため、優秀な日本女性は、欧米に留学している間や欧米に転勤している間に子ども作る人が多く、そうした方がやり易いと言われている。 そのM字カーブが、近年は米欧とほぼ遜色のない形に近づいたそうだが、女性は労働条件が悪く、昇進も困難であるため、賃金が低い。その理由は、生産年齢人口の男性を中心に据えて、多くの女性を補助的労働力と捉えているからにほかならない。 <高齢者差別> *1-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGKKASDG05H6Y_V00C17A1EA1000/ (日経新聞 2017/1/6) 「高齢者は75歳から」 学会が提言 65~74歳は社会の支え手 日本老年学会と日本老年医学会は5日、現在は「65歳以上」とされる高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるべきだとする国への提言を発表した。心身が健康な高年齢者が増えたためで、65~74歳は「准高齢者」とし、社会の支え手として捉え直すべきだとしている。社会保障や雇用制度をめぐる議論に影響を与える可能性がある。提言をまとめるに当たり、両学会は高年齢者の様々な健康データを解析。日本老年医学会副理事長の秋下雅弘東京大学教授によると、医療の進歩や健康意識の高まりで現在の高齢者は10~20年前に比べ5~10歳若返った状態にあるという。提言は、前期高齢者とされる現在の65~74歳は「心身の健康が保たれ、活発な社会活動が可能な人が大多数」と分析。健康な間は仕事を続けたり、ボランティアに参加したりするなど、支えられる側から支える側に回る必要があるとした。この世代を過ぎた75~89歳を高齢者と定義し、平均寿命を超えた90歳以上を「超高齢者」と呼ぶのが妥当だとしている。2016年9月の総務省の推計によると、65歳以上は人口の約27%。高齢者を75歳以上とした場合、約13%と半減する。日本では「65歳以上を高齢者とする」と定めた法律はないが、医療制度や人口統計上の区分などで「高齢者=65歳以上」が定着している。高齢者を65歳以上と定義した1956年の国連の報告書が契機とされる。海外でも60歳以上や65歳以上を高齢者とする国が多い。ただ、56年に男性63.59歳、女性67.54歳だった日本の平均寿命は2015年にそれぞれ80.79歳、87.05歳に延びた。内閣府の14年度の意識調査では、高齢者だと考える年齢は男性が「70歳以上」(31.3%)、女性は「75歳以上」(29.9%)が最多。65歳以上が高齢者だと答えたのは男性が7.1%、女性は5.7%にとどまった。 *1-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO20949810Y7A900C1EA1000/ (日経新聞社説 2017/9/9) 公務員の定年延長には十分な議論が要る 安倍内閣は公務員の定年をいまの60歳から65歳に引き上げる方針だ。国や地方自治体の財政事情が厳しいなか、総人件費が膨らまないか、心配になる。民間で定着している役職定年の導入などに取り組むのが先決であり、拙速に定年延長を進めれば社会の反発は免れないのではないか。国家公務員法は定年を原則60歳と明記しており、地方公務員もこれに準拠する。定年の延長には法改正が必要で、政府は6月に「公務員の定年引き上げに関する検討会」(座長・古谷一之官房副長官補)を発足させた。早ければ来年、法案を国会に提出し、2019年度から段階的に定年を引き上げる構えだ。年金支給開始年齢が65歳になったことで、60歳からの5年間をどうやって生活すればよいのかと不安を訴える公務員が多い。内閣人事局はそう説明する。しかし、そのための措置を政府はすでに講じている。公務員が再任用を希望したら必ずそうする、と閣議決定しているのである。これは民間企業の多くが導入している再雇用制度と大差ない。再任用から定年延長へ、なぜ急いで移行させるのか。十分な説明が求められる。公務員の給与体系は民間に比べて恵まれている。成果主義が導入されたとはいえ、最低の評価を受け続けても給与が増えないだけで減りはしない。役職定年がないので、いちどたどり着いたポストの給与が定年まで続く。検討会は定年延長とセットで役職定年の導入を検討しているらしいが、役職定年は民間ではとうに常識で、周回遅れの感がある。そもそも長年の課題である公務員と民間の年金格差がなお残っている。こうした課題を早く片付けるべきだ。いまのご時世に公務員の総数を増やすことは考えられない。定年を延長すれば新規採用の抑制は不可避だ。それで組織の活力を維持できるかどうかも、疑問点だ。ベテランのノウハウの継承は大事だが、官が人材を抱え続ければ政府が目指す労働力の流動性の増大をさまたげる要因ともなる。再任用では定年前よりも給与水準が下がるのが普通だ。そうしないための定年延長であり、公務員だけがいい思いをしようとしている。そんなふうに有権者に受けとめられたら、政治への不信はますます増大することになる。 *1-1-3:https://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2800Y_Y2A820C1EA2000/ (日経新聞 2012/8/28) 65歳まで雇用、企業身構え 義務付け法 29日成立 60歳の定年後も希望者全員を雇用することを企業に義務付ける高年齢者雇用安定法改正案が29日、成立する。来年4月から厚生年金の受給開始年齢が引き上げられるのに対応し、定年後に年金も給料も受け取れない人が増えるのを防ぐ狙い。2025年度には65歳までの雇用を義務づける。企業は継続雇用の対象者を能力などで絞り込めなくなるため、負担増に備え対応を急いでいる。28日の参院厚生労働委員会で民主、自民、公明などの賛成多数で可決。29日に参院本会議で可決、成立する見通しだ。会社員が加入する厚生年金(報酬比例部分)は現在60歳から受け取れるが、男性は13年度に61歳からとなり、以降3年ごとに1歳上がって25年度には65歳開始となる。現在、企業の82.6%(約10万9千社)は継続雇用制度を持ち、定年後も希望者を雇用している。ただ、その5割強は労使協定の基準を満たす人に対象を絞っている。労働政策研究・研修機構によると、健康状態や出勤率・勤務態度のほか、約5割の企業が業績評価も基準に使っている。改正法は企業が労使協定で対象者を選別することを禁じる。ただ、企業の負担が重くなり過ぎないよう、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会で指針を作り、勤務態度や心身の健康状態が著しく悪い人は対象から外せるようにする。継続雇用する対象者の範囲は年金の受給開始年齢の引き上げに合わせて広げ、受給開始が65歳となる25年度には65歳まで希望者全員の雇用を求める。指導や助言に従わない企業名は公表する。11年6月の厚生労働省の調査では、過去1年に定年を迎えた約43万人のうち10万人以上は継続雇用を希望しなかった。年金の受給年齢が上がると定年後もしばらく年金を受け取れなくなるため、来春以降は希望者は増えると考えられる。みずほ総合研究所の試算では、継続雇用を希望しなかった人と希望しても離職していた人が全員、継続雇用されると賃金総額は来年度に4千億円増える。25年度には1.9兆円増え、総人件費を約1%押し上げる。コスト増以上に、能力の低い従業員も雇用しなくてはならず労働生産性が下がると懸念する声も多い。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「人件費の増加を防ぐため能力の高い高齢者の賃金まで企業が一律に抑制しかねない」と警鐘を鳴らす。高齢者の雇用が増える結果、企業が若年者の雇用を抑える可能性もある。「高齢者と若者のワークシェアなど柔軟な働き方を進めていく必要がある」と高年齢者雇用コンサルティングの金山驍社会保険労務士は指摘している。 *1-2-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201709/CK2017091202000117.html (東京新聞 2017年9月12日) 子育て「共助で」 「こども保険」提言の小泉氏 幼児教育・保育の無償化を目指す新制度「こども保険」の創設を提言した自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長=写真、小平哲章撮影=は十一日、本紙のインタビューに答え「親の自助だけに子育てを委ねるのは難しい。急速に人口が減っている中で、優先すべきは人生前半の教育だ。共助の仕組みである保険がかなう」と必要性を強調した。こども保険は、厚生年金と国民年金の保険料に一定額を上乗せし、児童手当の増額などに充てる制度。税金でなく「社会保険方式」で財源を確保するのが特徴だ。小泉氏らは約一兆七千億円あれば、実質無償化になると試算する。だが、負担が現役世代に限られることや、子どものいない世帯はサービスを受けられない点が課題と指摘され、自民党内にも反対論が強い。小泉氏は「子どもがいなくても年金、医療、介護の受け手となる。その持続可能性を担保するのは若い人だ」と指摘。二年後に予定される消費税増税の増収分を財源にすべきだとの意見には「政治的な困難、待ったなしの子どもの問題を考えたら現実的なのはこども保険だ」と反論した。こども保険は二〇一六年二月、小泉氏を中心に自民党の若手議員が参加した「二〇二〇年以降の経済財政構想小委員会」が議論に着手。今年三月に導入を促す提言をまとめた。四月に政調会長を委員長とする特命委員会に格上げされた。 *1-2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170828&ng=DGKKZO20438380X20C17A8NN1000 (日経新聞 2017.8.28) 忖度しすぎ?シルバー民主主義、高齢者を優遇、財政悪化 負担増、受け入れる素地 年金は少しでも多く、医療・介護や税の負担は少しでも小さく――。若者に比べて高齢者を優遇する「シルバー民主主義」政策が財政を悪化させてきた。お年寄りがこれからますます増えるなか、目先の痛みを強いる財政再建など、とても支持を得られない。だがこうした常識を覆す研究が出てきた。諦めるのはまだ早い。お年寄りの政治への影響力は大きい。直近3回の衆議院選挙の平均投票率は20代が39%なのに対し、60代は75%だった。2025年には、有権者の6割が50歳以上になる。病院の窓口負担を増やしたり、年金の給付額を減らしたりするのは難しくなるというのが霞が関や永田町の常識だ。 ●利害・公共心カギ 政治家は投票所に足を運んでくれる人の意向を気にする。それなら選挙制度を変えるしかない。そこで親が子どもの分まで投票する「ドメイン投票」や、年齢が若いほど1票の価値を高める「余命投票」などが真剣に議論されてきた。しかし、本当に単純な世代間対立で語れるのかと異議を唱える研究が最近、出てきた。鶴光太郎慶大教授らが全国の6128人に税制と社会保障に関する考え方を聞いたところ「増税をして社会保障を拡大する必要がある」とした人が20代では29%で、60代では40%だった。高齢になるほど高くなる。高齢者はすでに社会保障の恩恵を受けており、実利の面から増税と社会保障充実の組み合わせを選んだ可能性がある。一方、20代で最も支持を集めたのは「増税をせず社会保障を拡大する」というただ乗りで、35%を占めた。高齢者に比べてすぐに社会保障の恩恵を感じにくいため、増税への支持が少ないようだ。調査では政府やまわりの人への信頼が低く、ゴミのポイ捨てや年金の不正受給などに目をつぶる「公共心の低い人」ほどただ乗り政策を選ぶ傾向もあった。財務総合政策研究所の広光俊昭氏は仮想の国の財政政策について、負担を30年後に先送りするか、現世代と将来世代が分かち合うかを10~70代の447人に聞いた。先送りは、30年後に付加価値税(消費税に相当)が10%から25%に、年金給付が月10万円から5万円になる。分かち合いは付加価値税が20%、年金給付は7万円の状態がずっと続く。30代は67%が、60代は54%が分かち合いを支持。「将来世代」役を1人置いて討議をすると、分かち合いを選ぶ割合はさらに高まった。広光氏は「政策選択には個人的な利害と公共的な判断が併存して働く」とみる。 ●若者の理解課題 「政治家が高齢者の意向を勝手に忖度(そんたく)しているだけ。きちんと説明すれば高齢者もある程度の負担増を受け入れる」。「シルバー民主主義」(中公新書)を書いた八代尚宏・昭和女子大学特命教授はいう。 ただ、お年寄りの理解を得ても財政再建のハードルは高い。莫大な国の借金が若者の不安につながっている。鶴氏は「若い人でも目先の利益を重視する傾向がある」と話す。教育年数が短く、時間あたりの所得水準が低い人ほど、小さな負担で大きな受益を求めがちという。世界的に所得格差の不満が高まるなか、新たな人気取りは財政再建をより難しくする。 *1-2-3:https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC08H39_Y7A900C1MM8000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2017/9/10) 介護費膨張 3つの温床 25年度に20兆円、ムダの解消急務 介護保険が膨張している。介護施設や在宅サービスの給付費は総額約9兆円に上り、2025年度には2倍以上のおよそ20兆円に膨らむ見込みだ。給付の伸びは高齢化だけでは説明しがたく、サービスのムダにつながる3つの温床が浮かび上がってきた。「お肉はこのくらいでいいですか」。横浜市金沢区の団地。ヘルパーの藤田博美さん(62)が菅野茂さん(81)に尋ねながら料理する。訪問は週2回。「体の状態が悪いとき、言わなくても分かってくれる」と菅野さん。利用するのは生活援助と呼ぶサービスで、全国の平均的な利用回数は月10回程度。菅野さんのように常識的なケースが多くを占めるが「家政婦代わりに使われて本人の自立につながらない」(神奈川県の中堅介護事業者)との指摘が絶えない。北海道標茶町101回、大阪市98回……。財務省が6月まとめた調査には生活援助のひと月当たりの利用ケースで驚くような数字が並んだ。介護の取り組みが先進的とされる埼玉県和光市では月平均わずか6.7回で最高利用回数も30回だ。 ■安い自己負担 標茶町によると、101回利用したお年寄りは軽い認知症を患うなどして手厚い世話が必須だ。こうしたやむを得ないケースもあるが、全国でみれば要介護度や居住環境が同じでも自治体格差が大きく広がっている。ムダを生む理由の一つは「安さ」だ。例えば生活援助なら1回約2千円。自己負担は原則1割の200円ほど。最低でも1時間925円ほどかかる民間の家事代行サービスより格段に手軽だ。軽い介助が必要な要介護1なら保険給付の月額限度額は17万~19万円程度で、上限内で何度でも利用可能。コスト意識が甘くなり生活の「援助」に使うという本来の目的を逸脱しやすい。財務省幹部は「あまりにずさんな使い方が増えた。来年度改定で厳格に対応する」という。政府内ではサービス利用の上限制導入などが課題に浮上している。介護保険の給付費は国や自治体による公費と40歳以上からの保険料(労使折半)でまかなう仕組みだ。健康保険組合連合会によると13年度から17年度にかけて労使を合わせた保険料は7千円近く増え、年9万円に迫る。15~25年の要介護の認定者数の伸びは3割強を見込むが、保険からの給付費総額は2倍になる。高齢化で重度の認定者が増える面もあるが、財務省などはムダ遣いなどの非効率が広がってきた影響だと分析している。 ■規制に抜け道 保険対象の施設などには国の総量規制があるが、ここにも死角がある。その一つがサービス付き高齢者住宅(サ高住)などによる需要の囲い込みだ。サ高住自体は一種の賃貸住宅で保険の枠外。ところが運営者の企業などがサ高住に住むお年寄り向けに自社系列の事業者を使い、頻繁な在宅サービスを供給するケースも急増した。大阪府が昨年12月公表した調査では、府内のサ高住や有料老人ホームでは給付限度額の9割前後を消化していた。全国平均は約4~6割だ。この6年で府内にサ高住などの施設数が3倍に拡大した結果、その施設と在宅などのサービスが抱き合わせで増えていたのだ。 ■監視難しく では介護サービスの内容を定めるケアプランを厳しくすればいいかといえば、それも困難だ。ここに3つ目のムダの温床がある。介護保険の運営主体の市町村にはプランを精査して見直しを迫る権限がない。介護事業所の経営者は「ケアマネジャーと事業者が結託すれば過剰サービスは防ぎようがない」と明かす。介護保険には今年度から収入が多い人ほど多く保険料を負担する「総報酬割」が段階導入される。大企業を中心に約1300万人は負担増の見込みで、高所得者を中心に現役へのしわ寄せは拡大の一途だ。焦点は政府と与党が年末にかけてまとめる来年度の介護報酬改定だ。「要介護度が低い人向けサービスを定額制にしたり、事業者が回数を抑えたりする動機付けが必要」。日本総合研究所の西沢和彦氏は指摘する。例えば現行は状況が改善して要介護度が下がると介護報酬も下がり、事業者の経営が苦しくなる。そこで自立を後押しした事業者には努力に報いて報酬を上乗せすれば、ムダ遣いを直す余地が生まれる。近年の介護費用の伸び率は医療や団塊の世代が受給し始めた年金を大きく上回る。介護の効率化を進めながら質の高いサービスの担い手のやる気を引き出せるか。介護保険は改革を先送りできないところまで来ている。 *1-2-4:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170907-00000022-kyt-l25 (京都新聞 2017/9/7) 息子をかたり490万円詐取 大津の女性被害 滋賀県警大津署は7日、大津市内の女性(68)が息子をかたる男に490万円をだまし取られたと発表した。 同署によると、5日から6日にかけ、女性宅に息子を名乗る男から「友人と投資をやっていて、友人が会社の金に手を出した。500万円の示談金が必要」と電話があった。女性は大阪府高槻市内で、弁護士の代理を名乗る男に現金を手渡したという。 <外国人労働者差別> *2-1:http://qbiz.jp/article/117249/1/ (西日本新聞 2017年9月3日) 佐賀県、外国人受け入れへ態勢着々 在住者13%増、伸び率全国トップ 佐賀県内在住の外国人数が、2016年は前年比13%増の5140人で、伸び率では全国の都道府県でトップになった。県は今後の増加を見据え、日本語教室の開設を後押しするなど受け入れ態勢づくりに取り組んでいる。全国ではごみ分別の理解不足などから住民トラブルに陥ったり、犯罪に巻き込まれたりするケースも後を絶たないが、山口祥義知事は「官民で多文化共生を進めたい」と話す。県によると、県内在住者のうち、技能実習生が1863人で前年より426人増えた。留学生も前年比87人増の744人。この両者で全体の増加(604人)の約85%を占め、伸び率を押し上げた。コンビニや工場などの労働現場は人手不足に陥っており、技能実習生は「引く手あまた」(福岡県内の機械部品メーカー)の状態。県によると、多くが製造現場で働いており、今後も増える見通しという。このため、県は外国人の受け入れの課題や対策などの助言を政策に反映させようと、国際交流の有識者や関係者を招き、2015年4月に国際戦略本部会議をスタート。8月24日に6回目の会議を開き、「外国人住民への生活支援」をテーマに約20人が論議した。この日の会議では、日本で暮らす外国人を支援する東京のNPO法人国際活動市民中心(通称CINGA=シンガ)のコーディネーター新居(にい)みどりさんが、「外国人の在住には法律と言葉、心の『三つの壁』がある」と指摘。具体的には(1)夫の暴力で骨折しながら「逃げたら在留資格を失って子どもに会えなくなる」と逃避できない(2)東日本大震災で「タカダイ(高台)」の言葉の意味が分からず避難が遅れて被災した(3)マンションの隣人から「怖い」と敬遠され孤立した−といった事例を報告した。県によると、県内には日本語での会話に支援が必要な小中高校生が50人いるといい、子ども世代へのサポートも欠かせないという。県は「佐賀モデル」として、市民ボランティアによる日本語教室開設を会場費の助成などで後押ししており、現在、13教室が運営されている。本年度からは専任のコーディネーターも1人配置し、「壁」の突破に努めている。 *2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170909&ng=DGKKASFS06H5G_X00C17A9MM8000 (日経新聞 2017/9/9) 外国人就農、通算3年 特区で延長 総労働時間には上限 政府は国家戦略特区で認めた農業の外国専門人材について、日本で働ける期間を通算で3年とする方針だ。技能実習制度で働く場合は最長3年だが、特区では農繁期だけ働く場合などは初めて来日してから3年を超えても働くことを認める。年間総労働時間の上限も設け過重労働を防ぐ。外国人材の活用で、高齢化などで担い手不足に悩む地方農業の活性化を狙う。農業での外国人受け入れを盛り込んだ改正国家戦略特区法が6月に成立したことを受け、受け入れの詳細をまとめた指針や政令を近く公表する。自治体の間で農業分野の外国人活用に対する関心は高く、すでに特区に指定されている愛知県のほか長崎県や茨城県、群馬県昭和村、秋田県大潟村などが関心を示している。政府は年末をめどに特区を追加指定する方針で、これらの自治体が選ばれれば、農業での外国人活用が広がる。政府・与党内には特区に限らず全国で認めるべきだとの声もある。農業で受け入れる外国人は満18歳以上で、1年以上の実務経験がある人材に限る。農業に従事するうえで必要な日本語が話せることも条件とした。派遣会社が雇用契約を結び、過去5年以内に労働者を雇用した経験がある農業生産法人などに派遣する。生産法人が直接雇用することは認めない。期間は通算で3年だ。例えば春から夏にかけて半年だけ日本で働くケースでは、初来日から6年目まで就労できる。農作業のほか加工や販売にも携わったり、複数の生産法人で働いたりすることもできる。派遣会社には日本人労働者と同等以上の報酬を払うことを義務付ける。指針などとは別に、法令の解釈通知を通じて年間の総労働時間の上限を決める。 *2-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/461590 (佐賀新聞 2017年9月8日) 外国人実習生の労働条件改善を 市民団体、県に要請 労働組合や患者団体などでつくる「はたらくもののいのちと健康を守るネットワークさが」は7日、外国人技能実習生の労働条件の改善などを求める要請書を佐賀県に提出した。実習生の長時間労働や賃金の未払いなどの違法な労働実態の調査や、実習生に対応できる相談窓口を設けることなど4項目を求めた。要請書を手渡した東島浩幸弁護士は「外国人技能実習生の制度は『奴隷労働』と国際的にも批判されている。窓口の設置や、通訳をつけて対応するといった相談体制の充実に取り組んでほしい」と強調した。県産業人材課の担当者は「国が所管しているため、(県では)取り組みを進められない項目もある。対応できる部分は関係課に報告したい」と話した。団体側はアスベストを使用した建物の所在を掲載したハザードマップの作成も求めた。 <高度専門職差別と女性差別> *3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201709/CK2017090902000140.html (東京新聞 2017年9月9日) 【政治】働き方法案に「共謀罪」・安保法の手法 「残業代ゼロ」根幹残し一括化 秋の臨時国会に提出される「働き方改革」関連法案のうち、労働基準法を改めて「残業代ゼロ」制度(高度プロフェッショナル制度)を創設する部分は、継続審議となっている法案を取り下げ、他の法案と一括化して出し直す。かつての「共謀罪」法や安全保障関連法と似通う手法だ。「残業代ゼロ」制度は、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す。政府はこれを柱とした労基法改正案を二〇一五年の通常国会に提出したが、一度も審議入りしていない。法案要綱では、関連法案のうち「残業代ゼロ」を導入する労基法改正案は、休日確保措置などが新たに盛り込まれたが、従来の法案と根幹部分は変わらない。批判が強い法案の内容を微修正して出し直すやり方は「共謀罪」法と重なる。「共謀罪」法案は〇三、〇四、〇五年に国会提出され、「人権侵害につながる」との懸念が出て廃案に。安倍政権は構成要件を一部変更した上で罪名を「テロ等準備罪」に変え、今年六月に成立させた。また、今回の法案は残業時間の上限規制や正社員と非正社員の待遇差縮小など、性格の異なる法案と一括化して提出する。審議時間を短縮するのが狙いで、「残業代ゼロ」など個別の制度の是非を巡る審議が不十分になる可能性がある。多くの法案と抱き合わせる手法は、一五年九月に成立した安保関連法と似ている。同法も、集団的自衛権行使を可能にする武力攻撃事態法、地球規模で米軍を支援可能にする重要影響事態安全確保法など十本を一本化し、批判を受けた。政府が提出した法案を自ら取り下げるのも異例。二〇〇〇年以降では、衆参の多数派が異なる「ねじれ国会」で成立を断念するなど計八法案だけだ。一橋大大学院法学研究科の只野雅人教授(憲法、議会制度)は「政治的な思惑から法案を一括化することは、審議の充実という観点から問題がある。賛否が分かれる法案は個別に提出し、別々に議論すべきだ」と話す。 *3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170909&ng=DGKKASDF29H17_Y7A900C1MM8000 (日経新聞 2017.9.9) M字カーブ 「谷」緩やかに、30~40代女性の離職に歯止め 女性の就労が増えている。労働力としてみなされる女性の割合を示すグラフをみると、30~40歳代の部分が顕著に落ち込む「M字カーブ」と呼ばれる特徴が薄れ、米国や欧州各国などに似通ってきた。育児休業など企業側の制度整備が進んだことや働く意欲を持つ人が増えたことが大きいが、待機児童の解消はなお道半ばだ。働きやすさと労働の質を高めるさらなる工夫がいる。デイサービス(通所介護)大手のツクイは従業員の75%が女性だ。働き手の確保のため介護施設内に託児所を設け、0~2歳児の子供が5人いる。ある従業員は「休憩時間をつかって子供の様子を見に行けるので安心」と語った。総務省の7月の調査によると15~64歳人口に占める女性の労働力の割合(労働力率)は69.7%で、働く女性は着実に増えてきた。年代別ではM字の谷に相当する35~44歳の労働力率が前年同月比0.7ポイント増の75.3%。10年前の2007年7月と比べると全ての年代で上昇し、全体的に底上げされている。 ●米欧に近づく 15年時点では米国や英国、北欧地域とは大きく異なるカーブを描いていた日本。近年は米欧とほぼ遜色のない形に近づいており、女性の労働市場は歴史的な構造変化を遂げつつある。女性の就労が加速した最大の理由は、企業が離職防止に取り組んできたことだ。女性の育休取得率はやや低下傾向にあるとはいえ8割超で推移している。育休中の生活を支える政府の育児休業給付金の受給件数は、06年度の13万件から16年度の32万7千件へと2倍以上に増えた。高齢化で15~64歳の生産年齢人口はこの10年で700万人以上も減った。その一方で実際に働いている労働力人口をみると同じ時期におよそ50万人増えた。女性だけに限れば約200万人増え、M字の底を押し上げるのに大きく貢献したことがわかる。働き口も高齢化でニーズの強まる医療・福祉業など裾野が大きく広がっている。大和総研の鈴木準政策調査部長は25~44歳女性の就業率について「このままのペースで伸びれば22年には80%に到達する」と話す。国立社会保障・人口問題研究所の試算をもとに計算すると22年に25~44歳女性の就業者数は16年と比べて200万人以上減る見通しだが、就業率が80%に上がることで減少幅は46万人で済む。政策努力などでさらにこの比率を高めることができれば、減少を食い止めることができるかもしれない。もっとも楽観的な見方を戒める声も目立つ。第一生命経済研究所の柵山順子氏は「M字カーブの完全解消には保育所不足などがハードルになるだろう」と分析する。ここ数年で女性の就労が政府の想定以上のテンポで進み、待機児童は減るどころか2万6千人強に膨らんだ。政府は22万人の保育枠を追加整備する方針だが、都市部の整備が遅れるミスマッチを解消するのはやさしくない。 ●賃金は伸び鈍く 生産年齢人口の急激な減少が進む中で女性の就労をさらに後押しするには企業の一段の取り組みも重要だ。オリックスは配偶者の転勤で現在の勤務地で仕事が続けられない場合、勤務エリアを変更できる制度を昨年3月に導入。配偶者の転勤で退職を選ぶ社員も多かったが「キャリアを途中で諦めなくてすむので好評だ」(同社)。ユニ・チャームは全社員を対象に在宅勤務を導入。ネスレ日本は昨年に在宅勤務の制約を緩和し、上司の許可があれば理由に関係なく会社以外で勤務できるようにした。経済成長の土台を確かなものにするにはM字カーブを解消し、労働力を底上げするのは理想的な方向だ。とはいえ夫の収入が低迷するなどしてやむを得ずパートなどで働きに出る女性もまだ多く、賃金の伸びは鈍い。さらに女性の就労を後押しするには育児休業などの整備を加速させるのはもちろん、生産性向上と賃上げなどで働き手に報いる努力が必要だ。離職者向けの再就職支援、学び直しの機会の提供など、様々な手立てを講じることも欠かせない。 <サービス付き住宅> PS(2017年9月12日追加):*4のように、訪問サービス付き高齢者向け集合住宅に大手不動産などの参入が相次いでいるそうだが、私の叔父が入っている横浜市のサ高住には食堂があり、栄養管理した食事が出されて介護付きであるため、便利だ。中では、書道や軽い体操などのコースもあるが、高齢者が若い頃に流行っていた音楽や映画などもやると心が元気になってよいと思われる。なお、訪問サービスの内容に介護だけでなく、家事サービスを加えて間取りを広くすれば、高齢者だけではなく、独身者、共働き家庭、子育て家庭にも便利な住宅になりそうだ。 *4:http://digital.asahi.com/articles/ASK945D0FK94UTLZ00G.html?iref=comtop_list_biz_f03(朝日新聞 2017年9月9日)「サ高住」銘柄に熱視線 大手不動産など参入相次ぐ 「足腰が元気なうちに『終の棲家(すみか)』となる新築物件に移り住もう」。郊外の持ち家を処分して都心の超高層マンションに引っ越すシニア層が増えています。一方で、看護・介護の訪問サービス付きの高齢者向け集合住宅、いわゆる「サ高住」が高い関心を集めています。利用者の需要も全国レベルで拡大。事業者向けの税制優遇や融資制度など、国や自治体が促進施策を充実させて、参入企業も増えています。登録物件をオンラインで公開する高齢者住宅推進機構によると、有料老人ホームも含めた「サ高住」は7月末時点で、全国6697棟、21万8851戸。この4年で棟数、戸数とも倍増しました。政府は共同住宅、寮、ホテル、老人ホーム、賃貸住宅など既存施設の改修を呼びかけていますが、補助事業全体に占める改修物件の割合は少なく、大半は民間企業が医療・社会福祉法人と手を組んで開発した新築物件です。「サ高住」事業に参入している民間企業で有名なのは、学研ホールディングス系の学研ココファン。神奈川県を中心に全国で117事業所を展開しています。最近勢いがあるのは、大手損害保険のSOMPOホールディングス。「メッセージ」「ワタミの介護」と介護事業者を相次いで買収し、新築物件を供給しています。大手不動産の参入も目立ちます。賃貸アパート受託など、サブリース事業を手掛ける企業が、入居者への転貸目的で働きかけを強めそう。「サ高住」は株式市場のテーマとしても今後、注目の的になる可能性があります。 <開発力・技術力とそれを支える国民> PS(2017年9月14日追加):*5-1のように、佐賀新聞は2015年度の国民医療費が42兆円に達し、これは、高齢化に加えてオプジーボなどの超高額薬の保険適用が影響したものだと報道している。高齢化によって有病者が増えるのは自然だが、薬の飲ませすぎもあるのではないかと思われ、オプジーボの価格も、図のように、英国・米国では日本の約1/5と1/2だったので、厚労省の価格決定や過度な使用範囲の制限が問題なのだと思われる。何故なら、原理から考えると、オプジーボは、どの癌にも効き広範に使用できるのが当たり前だからだ。 また、*5-2-1のように、英国・フランスに続き中国がガソリン車・ディーゼル車の廃止に向けた検討に入り、環境規制を強化するため、自動車大手は電気自動車(EV)の開発を急いでいるそうだ。しかし、日本の「リーフ」は、いつまでも「市街地で短い距離を走るなど、中国では独自の使われ方がある」などと、排気ガスを出さないのだから少しくらい不便でも我慢しろという態度だ。しかし、EVは、①排ガスが出ない ②静か ③操作性がよい ④燃料費がいらない など、ガソリン車と比べて欠点がないから売れるのであって、ドイツのVWは、*5-2-2のように、2030年までにEVに200億ユーロ(約2兆6千億円)を超える投資を行う計画を発表し、2025年までには80車種の新型車両を投入する方針にしたそうだ。なお、開発を始めて20年以上経過している日本は、とっくの昔にそれをクリアしていなければならない時期なのである。そして、こういう意思決定を速やかに行えるためには、文系の人もこの程度の理系の知識は必須であるため、それを高校卒業までに教えておかなければ国力をそぐことになる。 そのため、*5-3のように、私企業である日立が英国に建設する原発に、同じく私企業である日本の銀行が融資する建設資金を、日本政府が全額補償して膨大な偶発債務を引き受け、昔帰りの技術に固執するなどという馬鹿な税金の使い方を止めさせつつ、幼児教育の無償化もよいが、それに先立って小学校への入学年齢の3歳への引下げを行い、いろいろなことを高校卒業までにマスターしておけるようにすることが必要だと考える。 2017.9.13佐賀新聞 日米英の価格比較 2016.11.2朝日新聞 *5-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/462976 (佐賀新聞 2017年9月13日) 15年度国民医療費42兆円、過去最高、高額薬が影響 厚生労働省は13日、2015年度に病気やけがの治療で全国の医療機関に支払われた医療費の総額(国民医療費)が、前年度比1兆5573億円増(3・8%増)の42兆3644億円だったと発表した。国民1人当たりでは1万2200円増(3・8%増)の33万3300円。いずれも9年連続で過去最高を更新した。高齢化の進行に加え、がん治療薬「オプジーボ」など超高額薬の保険適用が相次いだことが要因。国民医療費が国民所得に占める割合は10・9%。年代別では、65歳以上の高齢者向けが25兆1276億円で59・3%を占めた。 *5-2-1:http://qbiz.jp/article/118672/1/ (西日本新聞 2017年9月13日) EVシフト急加速 英仏中、ガソリン車廃止検討 英国やフランスに続き中国がガソリン車とディーゼル車の廃止に向けて検討に入った。環境規制の強化を受け、自動車大手は電気自動車(EV)の開発を急ぐ。割高な生産コストや基幹部品である電池の安定調達がEV転換への課題となる。「フォルクスワーゲン(VW)の歴史に新たな幕が開こうとしている」。フランクフルト自動車ショー開幕を前にした11日、ミュラー会長は環境規制に対応したEVを含む電動化投資戦略を発表。2030年までにグループで200億ユーロ(約2兆6千億円)超を投じる計画をぶち上げた。欧州に続いて、中国政府はEVをはじめとする新エネルギー車の普及を加速させる。EVの主戦場になると予想される中国市場で、日系メーカーは攻勢をかける構えだ。先行する日産自動車は18〜19年に複数のEVを投入する方針で、今月披露した新型「リーフ」の発売も検討する。西川広人社長は「市街地で短い距離を走るなど、中国では独自の使われ方がある」とし、現地で受け入れやすい商品展開を狙う。現地主導で開発するホンダは18年に新型EVを投入する予定。出遅れるトヨタ自動車も19年をめどにEVモデルを既存車種に設定する考えだ。規制強化をいち早く打ち出した欧州では、低燃費を売りにしたディーゼル車からの撤退が進む。ホンダは18年に欧州で売り出すスポーツタイプ多目的車の新型「CR−V」にディーゼル車の設定をなくす方針。SUBARU(スバル)は20年をめどにディーゼル車販売を取りやめる見通しだ。ある日系メーカー首脳は「環境対応車の主役にディーゼル車が今後座ることはない」と断言する。ただ、EVはエンジン車に比べると依然として割高感があり、販売が政府の補助金に頼っている面は否めない。さらに、基幹部品のリチウムイオン電池に使われるレアメタル(希少金属)の生産は中国やアフリカ、ロシアなど少数の国に偏っており「安定調達がネックになってくる」(日産幹部)との懸念もある。国際エネルギー機関(IEA)は、世界の新車販売に占めるEVの割合は35年でも1割程度だと予想。住商アビーム自動車総合研究所の大森真也社長は、EVの普及見通しについて、エンジン車の乗り入れが将来禁止されそうな都市部で存在感を示すなど「すみ分けが鍵となる」と指摘する。 *5-2-2:http://qbiz.jp/article/118559/1/ (西日本新聞 2017年9月12日) VW、電動車両に2・6兆円投資 80車種投入へ ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は11日、グループで2030年までに電気自動車(EV)など車の電動化に200億ユーロ(約2兆6千億円)を超える投資を行う計画を発表した。25年までに80車種の新型車両を投入する方針だ。VWの排ガス規制逃れによる欧州でのディーゼル車離れや、市場シェアが高い中国の大気汚染規制の動きに対応する。欧州最大級の国際自動車ショーが12日にドイツ・フランクフルトで開幕するのを前に、ミュラー会長が公表した。車に搭載する電池性能の向上のほか、工場設備や充電設備を整備する。80車種のうちEVが約50車種、プラグインハイブリッド車(PHV)が約30車種になるという。グループのブランド全300車種に電動化モデルを最低一つそろえる。ミュラー氏は「自動車産業の(電動化への)変換は止められない。VWがそれを主導する」と語った。また、VW傘下の高級車アウディは11日、ハンドルやペダルがない完全自動運転によるEVの試作車を公開した。1回の充電で800キロまで走行できることを想定している。具体的な実用化の時期は未定。 *5-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170902&ng=DGKKASFS01H5T_R00C17A9MM8000 (日経新聞 2017.9.2) 政府、原発融資を全額補償、まず英の2基 貿易保険で邦銀に 政府は日立製作所が英国に建設する原子力発電所について、日本のメガバンクが融資する建設資金を日本貿易保険(NEXI)を通じて全額補償する。先進国向け案件の貸し倒れリスクを国が全て引き受けるのは異例の措置だ。国内の原発新増設が難しい中、国が全面的な支援に乗り出してメガバンクなどの協力を引き出す狙い。インフラ輸出は中国など新興国勢との競争が激しくなっており、国が他のインフラ案件でも支援拡充に動く公算が大きい。安倍晋三首相は8月31日にメイ英首相と会談し、原発建設の協力推進を確認した。貿易保険(総合2面きょうのことば)の補償対象は日立子会社のホライズン・ニュークリア・パワーが受注した、英中部ウィルファで計画中の原発2基だ。両政府と日立は事務レベルで資金支援の枠組みを詰めて2019年中の着工を目指している。試算によると、事業費は2基で2兆円超だ。英政府と日立、日本政策投資銀行、国際協力銀行(JBIC)が投融資を実施する見込みだが、巨額な資金を調達するには民間融資が不可欠になっている。NEXIは通常、民間融資が焦げ付いた場合に備えた保険を提供し、融資額の90~95%を補償する。今回の英国案件については全額を補償する方向で邦銀と協議に入る。原発事業は東京電力福島第1原発事故以降に安全対策費が膨らみやすく、三菱東京UFJ銀行やみずほ銀行も貸し倒れリスクが大きいと判断しNEXIの全額補償を条件にしていた。過去に途上国向けで全額補償したことはあるが、先進国では例外的な措置だ。数十年程度の長期融資などが補償の条件になる見込みだ。原発事故などが発生した場合、三菱UFJ、みずほ両行は第三者から原発事業への貸し手責任に関して訴訟を起こされるリスクもある。両行は損害賠償に関する日英両政府間の協議などを見極めたうえで最終判断する。国が資金支援で前面に立つのは大きなリスクとも隣り合わせだ。原発建設は徹底した安全対策で工程が長引く傾向にあり事業費が想定を上回るケースも後を絶たない。貸し倒れになったりすればNEXIやJBICのバランスシートを直撃し、税金投入を通じた資本増強が不可避になる。最終的に多額の国民負担が発生する危険を冒しながらインフラ輸出を推進することの是非についても議論が活発になりそうだ。一方で中国は国有企業を中心に国を挙げて大型のインフラ輸出を加速させており、日本も対抗上、相応のリスクを取らなければ激しい受注レースで生き残れない現実もある。英政府は15年、英南東部で中国製の原子炉を先進国では初めて導入することを決めた。安倍政権は今回、全額補償措置などと引き換えに英国側にも官民での資金支援を手厚くするよう要請する。 <福岡市の再開発と自動車> PS(2017年9月17日追加):日本で5番目に多い人口約153万人を擁する福岡市で、*6-1のように、建物の高さ制限を緩和しているのは新しい街づくりが進み易くなってよいが、次はオフィスや商店を高くなったビルに集めて、広い自動車道・自転車専用道・歩道などを備えた緑多き安全な街づくりをして欲しい。なお、排ガスの出る自動車が通らなければ、ビルの中を通る道路や高速道路を作ることも可能だ。また、福岡市は市内に空港があって便利な街だが、航空法の規制緩和は危ないので、空港を能古島か糸島半島に移転してはどうかと考える。現在は北九州空港もできているため、福岡空港は西に移動してもよいのではないだろうか。 さらに、*6-2のように、我が国では、現在の一般車を前提として高齢者の免許返納を進め、高齢者の運転を制限しているが、免許返納して外出できなくなってから認知症になる高齢者も多いため、何でも禁止するのではなく、自動運転車や運転支援車など、自動車の方を迅速に改良すべきだ。 *6-1:http://qbiz.jp/article/118957/1/ (西日本新聞 2017年9月17日) ウオーターフロント地区も高さ緩和 福岡市都心部再開発 上限100メートル、国が最終調整 福岡市都心部の再開発を促進する一連の建物の高さ上限緩和で、国が博多港中央・博多両ふ頭のウオーターフロント(WF)地区について、現行から最大30メートル引き上げて高さ上限を最高点で約100メートルとする方向で最終調整していることが16日、分かった。高さ上限緩和を巡っては、国が「天神明治通り地区」(中央区)で渡辺通りを挟んで西側は一律約115メートル、東側は約99メートルを最高点とするレベルまで大幅に引き上げる方針を既に固めており、月内にもWF地区と合わせて正式に決定する見通し。福岡市は天神、JR博多駅周辺、WFの3地区を「都市成長の軸となるトライアングル(三角形)」と位置付け、民間を中心としたビルの新築・建て替えを誘導するため、国に対し国家戦略特区による航空法の規制緩和を要望している。7月には、天神に隣接する旧大名小跡地(中央区)の高さ上限が地上26階建て相当の約115メートルまで緩和されたばかりで、都心再生に向けた環境整備が急ピッチで進みだした形だ。WF地区は、海外からの大型クルーズ船の発着地点として注目が高まっており、市は民間活力を生かして高級ホテルや大型ホール、商業施設を集積する再整備計画を検討している。WF地区の建物の高さ上限は現在、福岡サンパレス付近で約70メートルなどとなっている。市は、地区内の博多ポートタワー(高さ約100メートル)と同じ高さを最高点とする規制緩和を求めていた。実現すれば、地上22階建て相当のビルの建築が可能となり、WF地区の再整備計画の追い風となりそうだ。また、市はJR博多駅周辺地区についても、現行の高さ上限約50メートルを最高約60メートル(地上13階建て相当)まで引き上げることを要望しており、国との協議が続いている。 *6-2:https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-572995.html (琉球新報 2017年9月12日)75歳以上の免許返納14万件 改正道交法、事故対策に一定効果 75歳以上の高齢運転者への認知機能検査を強化した改正道交法は、12日で施行半年となった。高齢者の事故が依然として高水準な一方、1~7月の運転免許証の自主返納は14万件を超え、死亡事故も減少するなど一定の効果があった。警察庁は運転できる車種や地域、時間帯を限定した「限定免許」の導入も検討するなど、さらに事故防止の取り組みを進めていく。警察庁によると、75歳以上の1~7月の免許自主返納は14万3261件(暫定値)で、昨年1年間の16万2341件を上回る勢い。過失の重い「第1当事者」となった死亡事故も1~7月に219件で、過去10年間で最少だった。 <教育は国の礎なのに> PS(2017年9月25、26日追加):明治時代から「教育は国の礎だ」として小学校から大学まで整備してきたことは、我が国の経済発展に大いに寄与した。今、そのうちの義務教育を3歳から18歳までとして無償化し、現代に必要な基礎的知識や技能を義務教育で身に着けられるようにすることは、無駄遣いでもバラマキでもなく、必要な教育を国民全体に行き渡らせ、生産性を向上させるために必要なことである。にもかかわらず、*7-1のように、「教育無償化」「保育」と言えば、「財源として消費税増税やこども保険が必要だ」とか「バラマキだ」などという批判が出るのは間違っている。バラマキは、景気対策と称して生産年齢人口の成人が働く産業に支払う多額の支出や補助金であり、教育レベルを高めることは、国から補助してもらわなければならない人を減らして税金を多く支払う人を増やすものであるため、消費税以外の税収を財源として優先的に支出しても何ら問題ない。 また、外国では海底油田から原油を採掘しており、日本の排他的経済水域(EEZ)にも地下資源が埋蔵されていることがわかっていたのに、*7-2のように、海底鉱物採掘は2020年代の半ば頃しか商用化できないそうで、経産省の判断の悪さと生産性の低さが問題である。遅れ馳せでも海底鉱物資源を大量採掘することに成功したのはよいが、海底資源は国有財産であるため、国交省・財務省は国の収入として教育・福祉・国の借金返済に貢献するスキームを作るべきだ。 *7-1:http://qbiz.jp/article/119372/1/ (西日本新聞 2017年9月25日) 財政健全化の目標先送り 人づくり2兆円、ばらまき批判も 衆院解散・総選挙を決断した安倍晋三首相は25日、「人づくり革命」に2兆円を投じる方針を掲げ、政策パッケージを年内に策定するよう関係閣僚に指示した。2020年度までに3〜5歳児の幼稚園・保育所の家計負担を全て無償とし、0〜2歳も低所得世帯に絞って無償化する。財源には消費税増税分の一部を転用する方針。基礎的財政収支を20年度に黒字にする財政健全化目標の先送りを事実上認めた。19年10月に予定する消費税率8%から10%への引き上げでは、増収分のうち4兆円を「社会保障の安定化」として借金抑制に充てる計画だったが、使途見直しにより財政再建は後回しとなる。無償化で家計は助かる一方、選挙での票獲得を狙った「ばらまき」との批判も強まりそうだ。首相は25日の記者会見で財政目標の20年度達成は「困難」と説明。黒字化自体は引き続き目指すと強調したが、具体的な時期は示さなかった。人づくり革命では、低所得世帯の大学生を対象に17年度から一部導入した給付型奨学金の支給額を大幅に増やすことや、授業料減免の拡充を表明。待機児童の解消に向け、32万人分の保育の受け皿を22年度まで5年間で整備する計画を前倒しし、20年度末までに完了する方針も打ち出した。幼児教育・保育の無償化はこれまで低所得世帯を中心に段階的に進めてきた。年収を問わず全て無償化するには約7300億円の追加費用が必要になる。首相は財源の大半を消費税で賄うとした上で、企業と従業員が負担する「こども保険」の導入是非も引き続き検討すると述べた。企業の設備投資などを促す「生産性革命」についても年内に政策パッケージを策定する。20年度までの3年間を集中投資期間とし「税制、予算、規制改革を総動員」(安倍首相)する方針だ。 *7-2:http://qbiz.jp/article/119459/1/(西日本新聞 2017年9月26日) 海底鉱物、大量採掘に成功 20年半ば、商用化目指す 経済産業省と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は26日、海底にある鉱物資源を船で大量採掘することに世界で初めて成功したと発表した。沖縄県近海では海底から熱水と一緒に噴き出した金属が堆積してできる「海底熱水鉱床」の存在が相次いで確認されており、2020年代半ばごろの商用化を目指す。海底熱水鉱床には亜鉛、鉛のほか、金や銅などの資源が含まれている。今年8月中旬〜9月下旬、沖縄近海に投入した採掘機で海底約1600メートルの鉱床を細かく砕き、ポンプで海水とともに船に吸い上げる方式で試験を実施して成功した。今回採掘した鉱床には日本の年間使用量に相当する亜鉛が存在すると分析しているという。沖縄近海の排他的経済水域(EEZ)内では過去3年間で6カ所の鉱床が見つかっており、今後も新たな鉱床が発見される可能性が高い。日本は鉱物を輸入に頼っており、経産省は「生産性の高い採掘方法を確立し、十分な埋蔵量が確認できれば資源産出国になれる可能性がある」と期待している。18年度に経済性評価を実施する予定だ。 <保育・学童保育の質について> PS(2017年9月28日追加):*8のように、放課後学童保育は必要で、これは量だけでなく質も重要だ。私は、退職後の教諭が予習・復習を手伝ったり、エンジニア出身者が遊びを兼ねて工作を手伝ったりなどすると、子どものうちから知らず知らずのうちに役に立つ能力が身につき、興味がわいてよいと考える。 *8:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/466972 (佐賀新聞 2017年9月28日) 学童保育、定員501人増 新設や余裕教室活用 9月定例佐賀県議会は27日、総務、文教厚生、農林水産商工、県土整備・警察の各常任委員会の質疑を行った。共働きやひとり親家庭の小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)の待機児童が増え続け、5月現在で235人に上っている問題で、県こども未来課は、市町がクラブを新設したり、余裕教室など既存施設を改修したりすることで、本年度中に定員が501人増える見込みを示した。放課後に安心して過ごせる生活の場としての放課後児童クラブを質・量ともに充実することが課題となっている。待機児童問題や、職員の処遇改善などについて、徳光清孝議員(県民ネット)が聞いた。定員増により、待機児童が出ている6市町中、佐賀市を除く5市町は施設面では待機児童を受け入れることができる見通しだが、一方で放課後児童支援員の不足も深刻化しており、「『待機児童が解消される見通し』とまでは言えない」(こども未来課)という。152人と県内で待機児童が最も多い佐賀市の定員増は50にとどまる。支援員の資質向上や処遇改善の質問に、藤本武こども未来課長は「子どもたちが安心して放課後を過ごすため、放課後児童支援員が果たす役割は大きい。市町と連携し、支援員が働きやすい環境づくり、質の向上に努めたい」と答弁した。過熱する部活動や教職員の負担軽減の観点では、武藤明美議員(共産)と古賀陽三議員(自民)が取り組みを尋ねた。牛島徹保健体育課長らは中学校の部活動に関し、「県内統一の休養日を設定する方向で調整している」と述べた。部活動の過熱化にブレーキをかけるとともに、教員の負担軽減を図る。10月初旬にも通知する。6月時点では佐賀市など6市町の教育委員会が休養日を独自に設定している。 <希望の党の小池氏への期待> PS(2017年9月29日追加):*9-1、*9-2のように、高齢世帯の4分の1が貧困状態にあり、その生活水準は「生活保護以下」である。これは、スーパーでちょっと気を付けて庶民の高齢者の買い物かごを見ていればすぐにわかることで、買いたくても金がないから買えないのだ。にもかかわらず、経済政策は、①物価上昇を目的に金融緩和して貨幣の購買力や資産価値を低下させ ②ゼロ金利にして金融資産からの収入を無くし ③年金を削減し ④介護保険料などの負担は増やし ⑤消費税増税を自己目的化して他の工夫はせず ⑥教育・福祉の財源は消費税しかないかのような論調をはびこらせて高齢者いじめをしており、目に余る。 そのため、安倍首相の「消費税収の使い道の変更」が衆議院選挙の争点になっているのだが、実際には、*9-3、*9-4の原発は、何十兆円もの予算を使いながら激しい公害を出すシロモノで、速やかに「原発ゼロ」にすれば多額の原発予算を削減して本物の地域再生や教育・福祉にまわすことができるため、希望の党の小池百合子氏には、具体的に、「速やかな原発ゼロと自然エネルギーへの転換」「消費税凍結」「脱世襲政治」を前面に掲げて欲しいと考える。 *9-1:http://qbiz.jp/article/118821/1/ (西日本新聞 2017年9月15日) 高齢世帯の4分の1が貧困状態 「生活保護未満」立命館大教授分析 ●独居女性では2人に1人 65歳以上の高齢者がいる世帯の貧困率は2016年時点で27・0%−。厚生労働省の国民生活基礎調査を基にした立命館大の唐鎌直義教授(経済学)の独自分析で、こうした結果が明らかになった。1人暮らしの女性は特に深刻で、2人に1人が生活保護の水準を下回る収入で暮らしている。高齢者世帯の貧困率は上昇しており、その背景について唐鎌教授は年金受給額の減少を指摘している。唐鎌教授は、全国約29万世帯を対象に所得や家計支出などを調べた16年の国民生活基礎調査のデータから高齢者世帯の所得状況を分析。平均的な生活保護費(1人世帯で月額約12万円と想定)に租税免除などの影響を加味し、生活保護受給者と同等の生活水準になる世帯年収を1人世帯160万円▽2人世帯226万円▽3人世帯277万円▽4人世帯320万円と設定。この基準に満たない世帯の割合を貧困率として算出した。分析によると、1人世帯の貧困率が特に高く、女性56・2%、男性36・3%。2人世帯でも2割を超え、高齢者と未婚の子の世帯は26・3%、夫婦世帯は21・2%だった。高齢者世帯全体の貧困率は27・0%で、以前まとめた09年調査の分析結果と比較すると2・3ポイント増加。この間、貧困世帯は156万世帯以上増えて約653万世帯に、人数で見れば1・3倍の約833万6千人になった計算だ。背景について唐鎌教授は「公的年金の給付額が低下したため」と指摘。国立社会保障・人口問題研究所の統計から割り出した高齢者1人当たりの年金受給額は「(直近の調査結果である)14年度は年間約161万8千円で、09年度に比べ14万円減っていた」と説明する。国民生活基礎調査は、1986年から毎年実施。全国から無作為に対象世帯を抽出し、回答結果から全体数を推計している。3年ごとの大規模調査の年は、子どもの貧困率も公表しているが、高齢者の貧困率については算出していない。子どもの貧困率は、平均所得の半分に満たない家庭で暮らす子どもの割合で、今回の分析はこの基準と異なるが、唐鎌教授は「子どもだけでなく高齢者の貧困も深刻。生活保護受給者は今後さらに増えるだろう。これ以上の年金引き下げはやめるべきだ」と強調した。 *9-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170929&ng=DGKKASGF28H0R_Y7A920C1EE8000 (日経新聞 2017.9.29) 市場、財政悪化を警戒、国債の信用リスク高まる、消費増税の扱い懸念 金融市場で日本の財政悪化への警戒感が高まっている。日本国債の信用力を映すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率が数日で急上昇し、約1年2カ月ぶりの高水準をつけた。長期金利もおよそ2カ月ぶりの水準まで上がった。衆院選を前に、安倍晋三首相をはじめ、どの政党が勝っても財政再建の道は険しいという見方が広がる。安倍首相は選挙の争点に「消費税収の使い道の変更」を掲げる。2019年10月に予定する10%への消費増税の際、もともと借金返済にあてる予定だった税収の一部を、幼児教育の無償化などに回す方針だ。基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年度に黒字化する目標も「達成は困難」としている。市場が意識するのは、首相の発言や動向だけではない。「希望の党」代表の小池百合子東京都知事は景気が回復するまで「増税は凍結する」と唱える。民進党はこの希望の党に事実上合流する。市場関係者は消費増税の行方を注視しつつ「自民・公明両党もそうだが、他党も輪をかけて財政拡張路線ではないか」と警戒している。具体的な市場の動きとしては、情報会社マークイットによると、日本国債の信用力を映すCDSの保証料率がここ数日で急上昇した。市場がよりリスクを意識すると、CDSの需要が高まり保証料率が上がる仕組みだ。料率は衆院解散観測さえなかった今月初めまでは0.3%程度。足元で0.4%前後と16年7月以来の水準まで上がった。長期金利も上がっている。新発10年物国債利回りは28日、国債を売る投資家が増え一時0.075%と約2カ月ぶりの高水準を付けた。この10日で0.03%上昇しており、40年物国債など償還までの期間が長い超長期債で金利上昇が目立つ。欧米の金利上昇が主因だが、メリルリンチ日本証券の大崎秀一氏は「日本の財政悪化懸念もあって投資家の買い意欲が鈍っている」と指摘する。国債の格付けにも不安は連鎖する。欧米の格付け会社は変更しない方針だが、格付投資情報センター(R&I)は28日、首相の財政健全化目標の先送り表明を受けて「政策運営の信頼感を損ね、見通しに対する懸念を高める事態だ」との見解を示した。R&Iは現在、国債の格付けの先行き見通しを「ネガティブ」(弱含み)とする。仮にここからさらなる格下げとなれば、地方自治体が発行する債券や社債などにも影響が広がる可能性もある。政府系金融機関や地方自治体が発行する債券の格付けは、日本国債をもとに決まる。たとえば日本の金融機関などの信用度が下がると、外貨を調達する際の金利が高くなる場合も発生し得る。市場関係者はこぞって「少なくとも選挙が終わるまで不透明感はぬぐえない」と語る。選挙戦で与党も野党も「痛みを伴う改革」よりも、景気刺激に重きを置く政策に傾きやすいとみる。金利動向をはじめ市場にも緊張感が当面残りそうだ。 *9-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170929&ng=DGKKASFS28H67_Y7A920C1EA1001 (日経新聞 2017.9.29) エネ政策 原発再稼働で対立 原発政策でも溝は深い。自民党は原発について安全性の確保を前提として、季節や天候、昼夜を問わず安定的に発電できる「ベースロード電源」として活用すると主張。原子力規制委員会の基準を条件に原発再稼働を進める方針を示す。一方の小池氏は28日の会見で、新たな原発の新設は難しいと説き「30年までに原発はゼロにもっていくためにどういう工程があるか検討したい」と表明。「原発ゼロ」に慎重な連合を名指しし「膝をつき合わせて真剣に考えたい」と述べた。原発ゼロには代替エネルギーの確保が必要。エネルギーの輸入を増やすならコストがかかる。実体経済にどの程度の影響を与えてゼロを目指すのか、デメリットへの言及は乏しい。小池氏は「原発ゼロ」を唱える小泉純一郎元首相と近く、人気をとりこむ思惑も透ける。 *9-4:http://qbiz.jp/article/119749/1/ (西日本新聞 2017年9月30日) 九州の原発:玄海3号機にMOX燃料16体を装填方針 九電 九州電力の山元春義取締役は29日、来年1月の再稼働を目指す玄海原発3号機(佐賀県玄海町)について、今年12月に想定する核燃料の装填(そうてん)時に、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料16体を使用する方針を示した。MOX燃料数は東京電力福島第1原発事故前と同じになる。29日の佐賀県議会で説明した。九電は2009年、国内で初めてMOX燃料を使ったプルサーマル発電を玄海3号機で始めた。再稼働でもプルサーマル発電を行う計画。山元氏によると、16体は3号機が10年12月の定期検査で運転停止するまで使用していた。停止中に福島原発事故が起き、保管していたが、再稼働に向け「もう1回入れる」という。さらに16体とは別に、新たなMOX燃料を「20体準備している」と説明。装填数を増やすなど今後については「検討している」とするにとどめた。
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2017,08,03, Thursday
(1)長崎新幹線のフル規格化とJR九州赤字路線の扱い
2017.7.26西日本新聞 2017.8.1西日本新聞 (図の説明:リニアを通す時は、唐津線・久大線の土地を使って通せば、殆ど用地買収がいらず安価にできそうだ。また、リニアも地下を走ると景色が見えないため、高架を作って走らせるのがよいと私は考える。なお、筑肥線は「福岡空港(福岡市営地下鉄空港線)⇔博多(福岡市営地下鉄空港線)⇔筑前前原(JR筑肥線)⇔唐津(JR筑肥線)⇔呼子⇔玄海町(脱原発とセット)⇔伊万里⇔松浦⇔平戸口⇔佐世保⇔長崎」を連続させると、日本海のリアス式海岸の絶景を眺めながら、新鮮な天然の魚介類や真珠・鮪・ふぐ・鯛の養殖など各産地を通るので、利便性だけでなく観光にも有益だろう) 1)長崎新幹線のフル規格化 九州新幹線長崎ルートで当初予定されていたフリーゲージトレイン(FGT)は、*1-1、*1-2のように、武雄市、嬉野市の両市長が「全線フル規格化を実現するよう国に働きかけてほしい」と要望したにもかかわらず、佐賀県知事と副知事は「負担を考えると議論する環境にない」と答えたとのことである。一方、長崎県の中村知事は「一番効果が期待できるフル規格を実現してほしい」と要請している。 現在、在来線が走っている「新鳥栖⇔武雄温泉間」のフル規格化には5千億円規模の財源が必要で、佐賀県の負担は800億円超に上るとされるが、長崎県までの運転になるため、今さらミニ新幹線を作るのではなく、全線フル規格と定めて建設費の削減(外国製の車両使用や建設への外国人労働者の使用等)や建設費の捻出(ふるさと納税もある)に頭を絞った方が、今後のためになると私は考える。 このような中、*1-3のように、JR九州はバンコク事務所を開設し、青柳社長が「東南アジアでマンション、ホテルなどの不動産開発事業を1年以内に始めたい」などとしているが、国内で稼いだ金を海外で散財するようなら、地域の人は応援しなくなる。そのため、国内で速やかに新幹線を整備し、駅周辺で新しい街づくりを行った方が、確実に収益が得られる上、地域の協力も得やすいと考える。 2)JR九州赤字路線の扱い JR九州は、*1-4のように、6割の12路線で乗客が減少し、存廃を巡る議論につながる可能性もあるそうだ。しかし、鉄道は、繋がれば便利になって利用者が増えるものであるため、「赤字路線→廃止」だけではなく、「赤字路線→黒字路線との連続→周囲を一体として再整備」という選択肢もあるだろう。 特に九州は、原発事故発生地域から遠く、成長途上のアジアに近い上、これまで投資が遅れていたので、将来性が大きい。そのため、今はむしろ投資すべき時だと考える。 (2)神武天皇東征のルートに沿って進むリニア 宗像大社 宗像大社の所蔵品 2017.7.31日経新聞 百舌鳥・古市古墳群 (図の説明:左2つの写真は宗像大社で、左から3番目、4番目の写真は宗像大社の所蔵品である。志賀島で発見された「漢の倭の奴国王印」は金印であるため、卑弥呼に贈られた鏡なら、大量に出てくる三角縁神獣鏡よりも金の装飾のついた4番目の写真のようなものの方がふさわしそうだ。一番右の写真は、仁徳天皇陵などだ) 1)神功皇后(台与)と応神(=神武?)天皇の進路 ユネスコの世界遺産委員会は、2017年7月8日、*2-1のように、古代東アジアの交流にまつわる沖ノ島など「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」を構成する8つの史跡を世界文化遺産に登録する決定を行った。宗像大社(福岡市)は、新原・奴山古墳群などの8つの国指定史跡で構成され、天照大神の三柱の御子神(田心姫神、湍津姫神、 市杵島姫神)を祭っている。そして、沖ノ島は、九州と朝鮮半島の間に位置して航海の安全や交流の成就を祈る祭祀が行われ、入島制限で守られてきたため、遺跡がほぼ手つかずで残っている。 そして、宗像大社の近くに住吉神社(福岡市)があり、その祭神は、主祭神底筒男命、中筒男命、表筒男命の「住吉三神」と、天照皇大神、神功皇后である。『日本書紀』等によれば、神功皇后は神功元年から神功69年まで政事を行ない、夫の仲哀天皇が香椎宮(福岡市)にて急死した後、熊襲を討伐した。それから住吉大神の神託により、お腹に子供(のちの応神天皇)を妊娠したまま佐賀県唐津市の港から玄界灘を渡って朝鮮半島に出兵し、新羅の国を攻めると新羅は戦わずに降服して朝貢を誓い、高句麗・百済も朝貢を約して、これが三韓征伐と言われている。 神功皇后は、渡海の際、月延石や鎮懐石と呼ばれる石を腹に当ててさらしを巻き、冷やして出産を遅らせ、筑紫の宇美(福岡県宇美町)で応神天皇を出産したと伝えられている。そして、神功皇后が三韓征伐の後で畿内に戻る時、自分の皇子(応神天皇)の異母兄にあたる香坂皇子、忍熊皇子が畿内で反乱を起こして戦いを挑んだが、神功皇后軍は武内宿禰(蘇我氏などの祖とされる)や武振熊命の働きでこれを平定したのだそうだ。 現在、神功皇后は、住吉三神とともに住吉大神の祭神とされ、応神天皇とともに八幡三神の祭神としても信仰されており、佐賀県唐津市の鏡神社、大分県宇佐市の宇佐神宮、大阪府大阪市の住吉大社、福岡県福津市の宮地嶽神社、福岡県大川市の風浪宮、京都市伏見区の御香宮神社などの祭神でもある。 2)百舌鳥・古市古墳群 文化審議会は、2017年7月31日、*2-2のように、2019年の世界文化遺産に登録をめざす国内候補として「百舌鳥・古市古墳群(大阪府)」を選び、政府がユネスコに推薦書を出して、2019年夏の世界遺産委員会で審査されるそうだ。この古墳群は国内最大古墳の仁徳天皇陵古墳(百舌鳥古墳群、486メートル・堺市)と、2番目の応神天皇陵古墳(古市古墳群、425メートル・羽曳野市)など、4世紀後半~5世紀後半に造られた49基で構成され、「応神天皇=神武天皇」とも言われている(そろそろ、正確な特定が必要な時だろう)。 そして、*2-3のように、「百舌鳥・古市古墳群」が世界文化遺産に登録されれば、観光客らが前年比で約561万4千人増えると仮定し、その経済効果は、大阪府全体で1年間に約1000億円、堺市では、約338億円と試算している。さすがに大阪は計算が速く、佐賀県も見習うべきである。 3)飛鳥・斑鳩時代 聖徳太子(厩戸皇子:574年~622年)が眠っているのは大阪府南河内郡太子町にある叡福寺で、そこには、父の用明天皇や推古天皇陵もあり、母の穴穂部間人皇后や妻の菩岐々美郎女も一緒に埋葬されており、叡福寺の境内を北に見ると聖徳太子廟があるとのことである。また、近くに、隋の皇帝煬帝が激怒したことで有名な 「日出處天子致書日沒處天子無恙」という文言がある国書を隋に持参した小野妹子も眠っているそうだ。 そして、この太子町には、飛鳥時代に飛鳥京と南波を結んだ日本で一番古い「竹内街道」と呼ばれる官道があり、シルクロードの終点として大陸文化を伝えてきたところだ。 なお、日本書紀には、厩戸皇子は推古天皇の摂政として蘇我馬子と協調して政治を行い、国際的緊張のなかで遣隋使を派遣するなど、当時進んでいた中国の文化・制度を学び、冠位十二階や十七条の憲法を定めるなど、天皇を中心とした中央集権国家体制確立を図り、仏教を取り入れて神道とともに信仰し興隆に努めたと書かれている。 4)リニア中央新幹線名古屋―大阪の早期開業について 奈良県の荒井知事は、2017年7月26日、*2-4のように、リニア中央新幹線名古屋―大阪の早期開業を求める会議を、三重県や大阪府と合同で設立すると発表したそうだ。リニア中央新幹線は、釜山・九州・四国を通ってシルクロードの終点である堺市、奈良市に至るまでは、中国の言う一帯一路の終点にあたり、奈良より東に関しては奈良県の荒井知事が三重県や大阪府ととともに早期開業を求めているわけだ。私は、京都はこの道筋からは外れ、東海道新幹線が通っているので、重ねてリニアまで通す必要はないと考える。 しかし、「釜山→対馬→壱岐→唐津→鳥栖(吉野ヶ里、大宰府、久留米の近く)→日田→宇佐→四国→堺→奈良」という経路のリニア新幹線又は新幹線を作ると、現在は赤字路線となっている鉄道過疎地に高速鉄道ができ、その高速鉄道は古代史の跡をなぞるという面白いことになる。 5)魏志倭人伝の卑弥呼・台与(トヨ)と日本書紀の天照大神・神功皇后 「魏志倭人伝(http://www.eonet.ne.jp/~yamataikoku/6000.html 参照)」によると、*2-5のように、邪馬台国は「対馬国(長崎県)→壱岐国(長崎県)→末盧國(佐賀県)→伊都国(福岡県)」まで行った後、「南水行二十日(南に船で20日)南水行十日陸行一月(南に船で10日 陸路1月)」で邪馬台国に着くと記されており、この通りだ考えれば邪馬台国は九州の遥か南の海中になってしまうが、沖縄県与那国島付近の海底に立派な遺跡があるため、素直に読んでそこだと結論付けることもできる。 この場合、248年9月5日に地殻変動が起こって沖縄の大部分が沈み、それによって卑弥呼が亡くなったが、「魏志倭人伝」の著者である陳寿は、そう記載しても誰も信じないだろうと考え、「卑弥呼以て死す」としか書かなかったのだという説もあるので、中国と沖縄にそのような大地震や地殻変動の記録があるか否かを確かめる必要がある。 そうでなければ、「伊都国」までは北部九州にある現在の地名で辿れるため、「狗奴国」は球磨国、投馬国は投与国の書き違いと考えられる。そして、肥前と肥後の間に肥国(=日国:佐賀県吉野ヶ里町付近)、豊前と豊後の間に投与国(=豊国:大分県宇佐市付近)があったと推測できる。それにしても、魏志倭人伝(中国の歴史書『三国志』中の「魏書」第30巻烏丸鮮卑東夷伝倭人条)は、日本に関する漢字に卑しい当て字を使ったものだ。 <長崎新幹線のフル規格化> *1-1:http://qbiz.jp/article/114694/1/ (西日本新聞 2017年7月22日) 武雄、嬉野両市長「全線フル規格に」 九州新幹線長崎ルート 九州新幹線西九州(長崎)ルートでフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)導入の見通しが立たなくなっていることを巡り、沿線の武雄市の小松政市長と嬉野市の谷口太一郎市長は21日に県庁を訪れ、副島良彦副知事と会談した。両市長は「地元の財政負担スキーム(枠組み)を見直した上で、全線フル規格化を実現するよう国に働きかけてほしい」と要望した。長崎ルートは、武雄温泉駅で新幹線と在来線を乗り継ぐ「リレー方式」での2022年度暫定開業が決まっている。ただ、導入予定のFGTは車軸の改良や検証だけで「年単位の時間が必要」とされ、開発のめどが立っていない。小松市長は「新幹線の特性である安全性、高速性、定時性と、関西方面への乗り入れを確保するには現段階ではフル規格による整備が必要」と主張。全線フル規格化では県負担が約800億円に膨らむことから、谷口市長は「財政面のスキーム見直しを国に強く伝えてほしい」と求めた。副島副知事は「地元負担は法律で決まっている。フル規格効果はFGT以上と認識しているが、負担を考えると議論する環境にはない」と答えるにとどめた。会談後、谷口市長は記者団に対し、長崎県の沿線自治体とも連携して国に全線フル規格化を求めていく考えを示した。 *1-2:http://qbiz.jp/article/115269/1/ (佐賀新聞 2017年7月29日) 長崎新幹線、長崎県は全線フル規格を要請 佐賀県は難色 九州新幹線西九州(長崎)ルートに関する与党の検討委員会は28日、フリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の導入を断念する方向となったことを受け、長崎、佐賀両県から意見を聞いた。長崎県の中村法道知事は「一番効果が期待できるフル規格を実現してほしい」と要請。一方、佐賀県の山口祥義知事は「フルは地元負担の課題があって非常に厳しい」と強調、在来線に新幹線幅のレールを設ける「ミニ新幹線」については「提案があればしっかり検討する」と前向きな姿勢を示した。同ルートは、在来線と新幹線を乗り継ぐ「リレー方式」で2022年度に暫定開業を予定。中村氏はリレー方式は「交流人口の拡大に万全ではない」と指摘し、長崎県知事として初めて、全線を新幹線区間とするフル規格化を提案した。ただ、在来線区間の新鳥栖−武雄温泉のフル規格化には5千億円規模の財源が必要。佐賀県の負担は800億円超に上るとされ、山口氏はフル規格化には難色を示しながらも、整備費が抑えられ、既存の新幹線とも直通運転ができるミニ新幹線に関しては「真摯(しんし)に考えていきたい」と述べた。与党検討委は8月下旬、新しい整備方法の検討に着手。全線フル規格とミニ新幹線を軸に、総事業費や工期、費用対効果などを検証しながら整備方法を絞り込む考え。新たな整備方法が決まるまでには、少なくとも数カ月はかかる見通しという。 *1-3:http://qbiz.jp/article/115421/1/ (西日本新聞 2017年8月1日) JR九州、6割12路線で乗客減少 地方路線の低迷目立つ JR九州は31日、路線ごとの利用状況を示す2016年度の平均通過人員(輸送密度)を初めて発表した。JR九州が発足した1987年度と比較ができる20路線のうち、6割に当たる12路線で利用者が減少。鹿児島線など幹線の多くで利用は増えた一方、地方路線で落ち込みが目立った。JR九州は当面、現在の路線網を維持する方針だが、利用低迷が続けば、存廃を巡る議論につながる可能性がある。輸送密度は、1キロ当たりの1日の平均通過人員を示す鉄道の経営指標。JR九州は路線別の収支は公表していないが、昨年秋の株式上場に伴い、大半の在来線が赤字とされる鉄道事業の現状を「より細かく伝える」ために指標を公開した。幹線のうち比較可能な7路線では、利用者が2倍になった篠栗線をはじめ5路線で乗客が増加。一方、利用が一定数以下の「地方交通線」は、乗客がほぼ3分の1になった吉都線など13路線中10路線で利用者が減った。より細かな区間ごとでみると、比較可能な55区間のうち6割超に当たる35区間で利用者が減少。都市部で乗客は増えたが、山間部などでは利用減が進んだ。輸送密度を巡っては、JR発足前の国鉄分割・民営化の際、4千人未満の場合は廃止の検討対象となった。JR北海道は昨年冬、輸送密度が200人未満の路線をバス輸送などに転換し、200〜2千人未満の区間についても、運賃値上げや駅の廃止などを地元と協議するとの方針を打ち出している。31日に記者会見したJR九州の青柳俊彦社長は「(現状の)交通ネットワークを維持するよう努力する」と強調しながら、輸送密度の公表で「いろんなことを検討していただければ出した意味がある」と述べた。 *1-4:http://qbiz.jp/article/115258/1/ (西日本新聞 2017年7月29日) JR九州バンコク事務所開設を記念し式典 東南アジアで不動産開発へ JR九州は27日夜、タイの首都バンコクのホテルで、5月に構えたバンコク事務所の開設記念式典を開いた。青柳俊彦社長は東南アジアでのマンション、ホテルなどの不動産開発について「1年以内に事業を始めたい」と報道陣に語った。式典にはタイに進出している日系企業などが参加。青柳社長はあいさつで「4千億円弱の売り上げの約60%を鉄道以外の事業で稼いでいる。九州などで培った(不動産開発)事業を海外でも展開するため、バンコクの地にやってきた。新参者だが精いっぱい汗をかきたい」と意欲を示した。バンコク事務所は日本人2人、現地スタッフ2人の4人体制。タイやベトナムなど東南アジア地域の土地情報や売却物件情報を収集している。海外では中国・上海で外食事業の実績があるが、不動産開発は初めての取り組みとなる。 <日本史に沿って進むリニア> *2-1:http://www.sankei.com/life/news/170709/lif1707090039-n1.html (産経新聞 2017.7.9) 宗像・沖ノ島、世界遺産に逆転一括登録 ポーランドのクラクフで開催中の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は8日、古代東アジアの交流にまつわる沖ノ島など、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)を構成する8つの史跡全てを世界文化遺産に登録することを決めた。事前審査をしたユネスコ諮問機関のイコモスが5月、沖ノ島と周辺の岩礁を登録し、本土側の宗像大社など4つを除外するよう求めた勧告を覆す一括登録となった。日本国内の世界遺産は昨年の「国立西洋美術館」(東京都)に続き21件目。文化遺産が17件、自然遺産が4件となる。宗像・沖ノ島は、沖ノ島と3つの岩礁(福岡県宗像市)、九州本土の宗像大社(同)、新原(しんばる)・奴山(ぬやま)古墳群(福津市)など8つの国指定史跡で構成する。沖ノ島は、九州と朝鮮半島の間に位置し、4~9世紀に航海安全や交流成就を祈る国家的祭祀(さいし)が行われた。入島制限の禁忌が守られ、自然崇拝に基づいた古代祭祀の変遷を示す遺跡がほぼ手つかずで残る。奉献品約8万点が出土し、“海の正倉院”とも呼ばれる。 *2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG31H3E_R30C17A7000000/ (日経新聞 2017/7/31) 世界文化遺産に「百舌鳥・古市古墳群」推薦、19年審査 文化審議会は31日、2019年の世界文化遺産登録をめざす国内候補として「百舌鳥(もず)・古市古墳群」(大阪府)を選んだ。政府は国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦書を提出。諮問機関による現地調査などを経て、19年夏の世界遺産委員会で審査される見通し。百舌鳥・古市古墳群は堺市と羽曳野、藤井寺両市に広がる古墳群の総称。文化庁に提出した推薦書案では、国内最大規模の大山古墳(仁徳天皇陵)など、4世紀後半~5世紀後半に造られた49基で構成する。文化審議会の国内推薦は、今回が4度目の挑戦だった。世界文化遺産の推薦は各国年1件に限られており、17年の世界遺産委では「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)の登録が決まった。政府は18年の審査に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎、熊本両県)を推薦している。 *2-3:http://www.shinmai.co.jp/news/world/article.php?date=20170802&id=2017080201001687 (信濃毎日新聞 2017.8.2) 古墳群の経済効果1千億円と試算 世界遺産登録で大阪 堺市の公益財団法人堺都市政策研究所は2日、2019年の世界文化遺産登録を目指す大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」に関し、登録されれば府全体で1年間に約1005億8400万円の経済効果があるとの試算を発表した。研究所は、19年に登録された場合、古墳群がある堺市や同府藤井寺市などを訪れる観光客らが前年比で約561万4千人増えると仮定。観光客らが使う宿泊費や飲食費などを足し合わせて経済効果を計算した。このうち、国内最大の前方後円墳・大山古墳(仁徳天皇陵)がある堺市では、約338億3900万円の経済効果があるとした。 *2-4:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10204/449523 (佐賀新聞 2017年7月26日) リニア早期開業訴え会議開催へ、予定ルートの奈良など3府県 奈良県の荒井正吾知事は26日、県庁で記者会見し、リニア中央新幹線名古屋―大阪の早期開業を求める会議を、三重県や大阪府と合同で設立すると発表した。9月に初会合を開く。三重県の鈴木英敬知事も同日、会見する。荒井知事は「引き続き、ルート、駅の位置の早期確定をお願いしていきたい。大阪府が入ることで促進することを期待する」と話した。リニアは、品川―名古屋が2027年に開業する予定。名古屋以西のルートは、11年に決定した国の整備計画で奈良市付近を通るとしているが、京都府などが「京都を通過するルートの方が、経済効果が高い」などとして、京都経由を求めている。 *2-5:https://blogs.yahoo.co.jp/tsn_take/1257315.html ■ 「魏志倭人伝」 邪馬台国の存在の根拠とされる史書は、中国の「魏志倭人伝」の僅か二千文字のみ。その地理的位置を示す記述は曖昧で、正確な位置については専門家でも意見が割れていた。倭人伝には邪馬台国への行き方が、対馬~壱岐を経て現在の福岡市付近まで行った後、「南水行二十日(南に船で20日)南水行十日陸行一月(南に船で10日 陸路1月)」で邪馬台国に着くと記されている。しかし、この通りだと邪馬台国は九州の遥か南の海の中になってしまう。弥生時代の1~3世紀、約30の国(クニ)からなる「倭国」の中心のクニ「邪馬台国」が在った。「魏志倭人伝」では「邪馬壹国」とあるが「後漢書」には「邪馬臺国」とある。"臺"の字を"台"を以って代用したと見られる。元々は男王が治めていたが、1~2世紀、倭国全体で長期に亘る戦乱「倭国大乱」が起きた。魏志倭人伝には、他に「伊都国」と「狗奴国」が登場するが、伊都国は邪馬台国の支配下。邪馬台国と言う国名に卑しい漢字を用いられていないことから中国にとって重要な国であったのではないか? 一方、「狗奴国」[男の国王・「卑弥弓呼」(ひみここ)]は邪馬台国の南にある敵国。この国は邪馬台国に屈することはなかった。邪馬台国は戦乱による疲弊を逃れえず、「卑弥呼」(ひみこ)という女王を立てることによって、ようやく混乱が収まった。弟が彼女を補佐し国を治めていた。女王は魏に使節を派遣し親魏倭王の封号を得たが、248年頃、卑弥呼は狗奴国との戦いの最中に死去している。両国の争いは、どちらが勝ったか負けたかは定かでない。最後の記述は、男王が後継に立てられたが混乱を抑えることができず、「壹與」または「臺與」(台与)が女王になることで収まり、魏国に貢物を贈ったところで終わっている。卑弥呼の死とともに、中国の歴史書から消えるのである。その後の100~150年間、日本では何があったのか?少なくとも、親・中国政権は誕生しなかったのだろう。空白の時代。ポスト邪馬台国の「ヤマト王権」への歴史の連続性が未だはっきりしない。 ■ 明治期に二つの学説が対立する。 が、両説とも、江戸期の新井白石や本居宣長の説のように、自分の思想や仮説に都合のよい唯我独尊が見え隠れしていた。 □ 東大教授・白鳥庫吉氏 倭人伝の「陸行一月」は「陸行一日」の間違いであろう。そう考えると、邪馬台国は九州島の中、熊本辺りに在った筈である ⇒ 九州説。 □ 京大教授・内藤湖南氏 倭人伝の間違いは距離ではなく方角であって「南水行」は「東水行」の間違いであろう。そう考えると、九州ではなく近畿に在った筈である。⇒ 畿内説。 (以下略) <新しい時代の街づくりへ> PS(2017年8月4日追加):*3-1のように、九州北部豪雨で被害が出た朝倉市と日田市では、病院・介護施設・障害者施設・小中学校・保育所など災害弱者が利用する154施設のうち、4割弱の57施設が浸水や土砂災害の恐れのある区域に立地していることが分かったそうだ。しかし、こういう安全を無視した土地利用は日本全国で同じであり、都市計画や土地利用計画が有効に機能していないということである。そのため、高齢化と人口減を踏まえ、安全性・利便性・好環境を備えた都市計画・土地利用計画が必要であり、それには地方の鉄道再編と駅周辺における福祉を考慮したコンパクトシティーへの再開発が有効だろう。 このような中、*3-2のように、フランス・英国・中国・インド等の環境規制強化と自動運転技術の進展により、EV自動運転車への変換を前提に日本の自動車会社も再編を始めている。そのため、私は、列車こそ(高架にして)EV自動運転車に変えれば運行コストの削減が可能だと考える。また、*3-3のように、分散型電源が普及し始めて再生可能エネルギーのコストも下がっているため、JR九州なら①自家発電システムを作れば燃料費を0にできる ②地方自治体と協力し、分散型電源で作った電力を集めて他地域に送電するシステムを構築して送電料を収入とすることができる など、持っている資産を活用して収益を増加させることも可能だ。 2017.8.4佐賀新聞 2016.9.1毎日新聞 2016.8.31Yahoo 2017.8.4 岩手県の台風による河川の氾濫 東京新聞 (図の説明:川の中に作られたと言っても過言ではない住宅や高齢者施設が多く、これは避難の問題というよりも、土地利用の問題だ) *3-1:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/452232 (佐賀新聞 2017年8月4日) 九州豪雨 避難時利用施設、警戒区域に4割弱 九州北部の豪雨で大きな被害が出た福岡県朝倉市と大分県日田市で、高齢者や子どもら災害避難で配慮が必要な人が利用する計154施設のうち、4割弱の57施設が浸水や土砂災害の恐れのある区域に立地していることが3日、分かった。豪雨発生から5日で1カ月。6月以降、避難計画の策定が義務化されており、国は全国の同様の施設に対応を求めている。これらの施設は介護施設や障害者施設、小中学校・保育所、病院など。昨夏の台風10号で岩手県岩泉町の高齢者グループホームの入所者9人が犠牲になったことなどを受け、浸水想定区域や土砂災害警戒区域にある場合、避難計画の策定や訓練、自治体への報告を義務付ける改正水防法などが6月に施行された。朝倉市では123施設のうち、浸水想定区域にあるのは24施設、土砂災害警戒区域が17施設。日田市では少なくとも31施設のうち浸水想定区域は9施設、土砂災害警戒区域は7施設だった。いずれも今回の豪雨で直接犠牲となった人は確認されていない。国土交通省によると、昨年3月末時点で約3万の対象施設のうち計画策定済みは約2%にとどまり、朝倉、日田両市はゼロだった。朝倉市の担当者は「(義務化を受けて)施設から報告を受ける窓口などに関し内部で協議を始めたばかりだった」と明かす。国交省は2021年度までの全施設の計画策定を目標にしており「高齢者や子どもの逃げ遅れがないよう策定を進めてほしい」と訴える。静岡大防災総合センターの牛山素行教授(災害情報学)も「避難発令を待たずとも、それぞれの施設で危険を感じたら安全確保の対応をするのが重要だ」と指摘する。 *3-2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017080490135907.html (東京新聞 2017年8月4日) 【経済】トヨタ、マツダが資本提携 EV技術を共同開発 トヨタ自動車とマツダが資本業務提携する方針を固めた。トヨタがマツダに5%程度を出資し、マツダもトヨタ株を取得する。トヨタが自動車メーカーとの間で株式を持ち合うのは異例。電気自動車(EV)技術の開発を共同で進めるほか、米国で新たな車両組立工場を共同建設するなど、包括的な提携を進める。四日午後に両社が東京都内で共同記者会見して発表する。両社は二〇一五年五月、環境や安全技術分野で提携することで基本合意。その後、具体的な内容を協議してきた。一五年の記者会見では「資本提携は考えていない」(マツダの小飼雅道社長)としていた。しかし世界的な環境規制の強化で欧米メーカーがEV開発を急加速させている状況を踏まえ、競争に勝ち抜くには資本提携を通じた関係強化が必要と判断した。トヨタは一九年をめどに中国で、小型SUV(スポーツタイプ多目的車)「C-HR」を改良した初の量産型EVを生産・販売する計画。マツダも同時期にEVの市場投入を目指しており、互いの技術を持ち寄って基幹技術を共同開発する。トヨタは、自社技術をマツダに提供することで技術基盤を共有する仲間を増やせるメリットがある。マツダは遅れ気味なEV技術でトヨタの支援を受けられる。米国の生産でも提携し、SUVなどを組み立てる新工場を共同で建設することを検討。設備投資の負担軽減を図る。世界では、従来型のエンジン車から走行時に二酸化炭素(CO2)を出さないEVへの移行を促す動きが相次いでいる。フランスと英国は四〇年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を表明、中国やインドなどもEV優遇策を鮮明にしている。 ◆環境規制競争に対応 トヨタ自動車がマツダと異例の資本提携に踏み込むのは、自動運転技術の進展や、環境規制の強化など自動車を取り巻く環境が激変し、一社だけでは対応が困難になっているためだ。株式を持ち合い、関係を強固にすることで、競争に勝ち抜く体制を構築する。トヨタは自社で開発したハイブリッド車(HV)などの環境技術や自動運転技術を世界標準にするため、マツダやスズキなどと提携を積極的に進めてきた。最初から資本を入れてグループ化させる欧米勢とは異なり、トヨタは技術面の協力などを軸に、国内メーカーだけで年間販売が千六百万台に上る緩やかな連合を形成している。当初、マツダとは資本関係にまで踏み込む予定ではなかったとみられる。しかし、最近になってフランスや英国、中国などが従来のエンジン車への規制を強化した。急速に変化する市場環境に対応するには迅速な電気自動車(EV)開発が不可欠となり、資本関係を結ぶことを決断したとみられる。豊田章男社長は今年六月の株主総会で「明日を生き抜く力として、今後はM&A(企業の合併・買収)を含め、あらゆる選択肢を考える」と強調しており、今後も資本提携先を広げる可能性がある。 <トヨタ自動車> 愛知県豊田市に本社を置く世界最大規模の自動車メーカー。ダイハツ工業や日野自動車をグループに抱える。ハイブリッド車(HV)などの技術に定評があり、2017年3月期連結決算の売上高は27兆5971億円、純利益は1兆8311億円。グループの世界販売台数は12年から4年連続で首位だったが、16年は2位に後退し、17年上半期は3位だった。連結従業員数は約36万人。 <マツダ> 広島県府中町に本社を置く自動車メーカー。ガソリン車やディーゼル車の省エネ技術に強みを持つものの、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の開発は出遅れている。2017年3月期連結決算の売上高は3兆2143億円、純利益は937億円だった。世界販売台数は過去最高の155万9000台を記録し、うち3割弱を主力の北米市場で売った。連結従業員数は約5万人。 *3-3:http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/264994/062400064/ (日経BP 2016/6/28) 【エネルギー】分散型電源の導入は、もう止まらない 太陽光発電に風力発電――。再生可能エネルギーの導入は、止まることはなさそうだ。5月23日~6月23日の「エネルギー」サイトで最も読まれた記事は、調査会社のブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)が発表した、エネルギー長期予測の記事だった。BNEFは2040年までに世界で新たに導入される発電設備への新規投資のうち、約3分の2を再エネが占めると予想している。加えて、太陽光と風力のコストは今後、急速に低下すると分析。環境志向だけではなく、「安い電気」として再エネが活用される日が来ると予測する。既に世界では、再エネ電力の調達に動く企業も出てきた。ここ最近では、米国ネバダ州の自治体や企業の動向が相次いで報じられている。第5位にランクインした「米ラスベガス市、2017年に電力需要を「再エネ100%」に」や、第17位の「米大手電力、世界最大のデータセンター向けに「100%再エネ」プラン」に詳しい。ネバダ州最大の電力会社、NVエナジー社は、自治体や企業の要請を受け、「100%再生可能エネルギー」電力プランの提供を開始した。ただ、米国の大手電力が最初から再エネ電力の供給に前向きだったかというと、そういうわけでもなさそうだ。 ●事業変革を求められる世界の大手電力 ネバダ州は1月、「ネットメータリング」と呼ばれる制度を変更し、太陽光発電の「第三者保有モデル」が成立しにくい環境へと変わった。これは、ネバダ州の公益事業委員会が、火力発電を中心とした垂直統合型の電力会社であるNVエナジーに配慮したためと言われる。第三者保有モデルの増加は、太陽光の自家消費量の増加を意味する。NVエナジーにとって、販売電力量を減少させるビジネス形態だからだ。一見、NVエナジーなど大手電力は、増殖を続ける再エネ電源に既存事業を脅かされるリスクを軽減したかに見える。だが、BNFFの調査が示すように、分散型電源の導入は今後も止まりそうにない。今はまだ環境志向から再エネ電力の調達を進めている企業も、遠からず「安い電気」としての再エネ電力を求めるようになるだろう。再エネ電力をどのようにビジネスに取り込んでいくかは、急務となっている。独最大手のエーオン、第2位のRWE、仏エンジー(旧GDFスエズ)など、欧州の大手エネルギー会社が相次いで事業再編に踏み切ったのも、こうした事業環境の変化を捉えるためだ。実際、RWEのテリウムCEOは、事業再編を経て「プロシューマー・モデルの推進役になる」と明言している。プロシューマーとは、分散型電源の保有し、自家消費する需要家のことだ。再エネというと、固定価格買取制度(FIT)や補助金などに頼った官製市場というイメージが依然、強いかもしれない。だが、大量普及とそれに伴うコスト低減は、再エネの位置づけを変えていくだろう。もちろん、日本も例外ではない。 <パリ協定と燃料電池車> PS(2017/8/5追加):燃料電池の方が馬力がありそうなので、トラック・電車・貨物船・航空機などに向いていると思ったが、①水素ステーションをいつまでも増やさなかった ②水素燃料価格をガソリンと同程度に高止まりさせていた ③燃料電池車の価格が高すぎた などが理由で、*4-1のように、乗用車ではEVに負けそうだ。これは、プラズマTVが、画面はきれいだったが電気代が高い上、本体価格も高く設定しすぎたため普及せず、後から開発された液晶テレビに打ち負かされたのと似ている。つまり、日本政府はアクションを間違い、日本企業はちょっと付加価値の高いものを作ると法外な価格設定をし続けることが、問題だったのである。 また、米政府は、*4-2のように、「パリ協定」の離脱方針を国連気候変動枠組条約事務局に正式に通知したそうだが、「パリ協定」を守らなければ、米国はますます世界で売れる車を作れなくなるため、米国の自動車産業・関連労働者・国民にとって好ましくないのは明らかだ。何故なら、現在は、地球規模で産業革命が起こっている時代であるため、環境維持は決して無視できないからである。 *4-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL04HN6_U7A800C1000000/ (日経新聞 2017/8/4) <東証>大陽日酸が2%下落 水素ステーション関連が安い 13時10分、コード4091)反落している。一時前日比29円(2.2%)安の1279円まで下落した。「トヨタ(7203)がマツダ(7261)に出資し、電気自動車(EV)の共同開発などを検討する」(4日付日本経済新聞朝刊)と伝わり、これまでトヨタがけん引してきた燃料電池車(FCV)の開発が停滞し、普及が遅れるとの懸念から売りが出た。水素ステーション向けの機器を製造する。水素の供給や設備を手がける岩谷産(8088)も安い。一方で、リチウムイオン電池の部材を手がけるWSCOPE(6619)や安永(7271)はEV普及が加速するとの思惑で買われている。 *4-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170805&ng=DGKKASGT05H0K_V00C17A8NNE000 (日経新聞2017.8.5)米、パリ協定離脱通知 条件次第で再加盟に含み 米政府は4日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の離脱方針を国連気候変動枠組み条約事務局に正式に通知した。トランプ大統領が6月に表明したパリ協定から離脱する意向に沿ったものだが、米国務省は声明で「米産業や労働者、国民、納税者にとって好ましいとみなせば、トランプ氏はパリ協定に再加盟する意思がある」と含みを持たせた。トランプ氏は6月の離脱表明時にも、米国にとって「公正な協定」を再交渉したいと述べていた。国務省は「あらゆる政策の選択肢を残す」として、11月にドイツ・ボンで開かれる第23回気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)などの国際会議への参加を続けることを明らかにした。声明では、温暖化ガスの排出削減と経済成長やエネルギー安全保障のバランスをとる方針を強調。化石燃料の効率利用や再生可能エネルギーの活用を進め、温暖化ガスの排出削減の取り組みを続けるとしている。パリ協定の規定によると、離脱が可能になるのは発効日から4年後の2020年11月4日。前日の3日に次期米大統領選があるため、実際にパリ協定から離脱するかどうかは次期大統領が決めることになる。トランプ氏は再選に向けパリ協定離脱の是非を選挙の争点にする狙いとみられる。 <地図は一番乗りの開拓者が作るもの> PS(2017.8.9追加):日経新聞は、*5-1のように、「①EVへの大転換は海図なき戦いだ」「②欧州発ドミノ、トヨタ走らす」「③中国やインドは環境規制を盾に自動車産業での下克上を狙う」と表現している。しかし、①のように海図がなければ方針を決められない企業は、1番手ではなく2番手以下にしかなれない。また、海図やマニュアルに従ってしか働けない人も、ロボットに置き換えられるだろう。しかし、環境を汚さず、需要者に求められる品質を持ち、より安価な製品が売れるという単純な原則は必ず成立する。さらに、②のように、先発は必ず欧州でなければならないわけではなく、また、競争相手が無数にいる社会では、③のように特定の敵をターゲットにして競争する発想では勝てない。しかし、求められるものをよりよく作れば必ず売れ、日本はその技術を持っているため、それをやればよいのだ。 そのような中、*5-2のように、九電が欧州や北米で発電事業に進出し、5年で550億円投資して新たな収益源に育てるというのは面白い。米国・カナダでは天然ガス火力発電所建設、欧州では洋上風力等の再生可能エネルギー事業へ参画を検討しており、ベトナム・インドネシア・メキシコなどの新興国7カ国・地域では既に8カ所の発電所に出資し、アジア・アフリカの19カ国でコンサルティング事業を手掛けて発電所の建設可能性調査や省エネ推進など、新興国のエネルギー事情の向上を支援しているそうだ。ただし、新興国でも、初めから環境適合性を重視するのが、無駄な投資をしないコツだろう。 (図の説明:世界のGDP成長率は新興国で高いため、自動車や電力需要の伸びも新興国の方が大きいが、九電の場合は、欧州や北米で発電事業を行うことによって、他流試合して先端競争を学ぶことが可能だ。なお、日本の成長率が欧米よりも低いのは、需要の大きな部分《年金・医療・介護などの社会保障サービス》を減らし、インフレ政策・消費税増税で国民から所得を分捕り、環境機器への変換投資を遅らせ、外国人労働者を受け入れないことなどが原因だろう) *5-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170809&ng=DGKKZO19810670Z00C17A8MM8000 (日経新聞 2017.8.9) EV大転換(上)海図なき戦いだ 欧州発ドミノ トヨタ走らす 100年超続いたエンジンの時代の終わりが見えてきた。英仏政府は2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止し、中国やインドは環境規制を盾に自動車産業での下克上を狙う。トヨタ自動車とマツダは電気自動車(EV)の共同開発に向け資本提携を決めた。うねりを増すEVシフトはあらゆる産業に大転換を迫る。「EV試作1号車」。今春、トヨタはEVの投入に向けた試作車を完成させた。昨年12月に「EV事業企画室」を立ち上げ、従来の開発期間の半分となるわずか3カ月で仕上げた。デンソーなどトヨタグループからの出向者ら企画室の4人が社内調整を省き迅速に仕様を決定。普及を見すえ銀行や愛知県豊田市の関係者なども加えた約30人を集め開発期間を縮めた。「海図なき戦いだ」。マツダとの資本提携を発表した記者会見でトヨタの豊田章男社長はこう述べた。世界の2大市場、米国と中国で環境規制が強化され、英仏政府が40年までにエンジン車の販売を禁止するなど大気汚染対策の動きも世界中に広がる。「EVシフトは想定よりも早い」(トヨタ役員)。異例の開発体制は危機感の裏返しだ。トヨタは走行距離の長い燃料電池車(FCV)を次世代環境車の本命とする。走行時に水しか出さず「究極のエコカー」とされるFCVだが、量産が難しく水素の充填インフラも未整備。開発が容易なEVが先に普及すればトヨタのシナリオに狂いが生じる。トヨタを突き動かしたEVドミノ。車の技術革新をけん引してきた欧州と世界最大の中国市場の「共振」が発端だ。独フォルクスワーゲン(VW)から広がった排ガス不正問題でディーゼル車の信頼が失墜。パリやマドリードは25年からの乗り入れを禁じ、ほかの大都市も追随する構えを見せる。一方でドイツ車の「ドル箱」である中国はEV普及を国策に掲げる。ドイツ勢の変わり身は早く、VWにダイムラー、BMWの独3社は25年に販売台数の最大25%をEVなど電動車にする計画を打ち出した。「未来は間違いなくEV」。VWのマティアス・ミュラー社長は言い切る。 ●下克上狙う中印 中国やインドが狙うのは参入障壁が低いEVシフトによる自国メーカーの競争力底上げだ。中国は既にEVの世界シェア3割を占め、比亜迪(BYD)など地元メーカーが市場を席巻。中国資本傘下のスウェーデンのボルボ・カーは19年から販売する全モデルの電動化を宣言した。従来のエンジン車の部品点数は約3万個。EVでは部品の約4割が不要になるとの試算もある。それだけに従来の「勝ち組」には痛みを伴う。トヨタは今春、EVなどの生産拡大による部品メーカーへの影響を調べ始めた。トヨタ幹部は「変革のスピードアップと影響を抑える施策の両立を考えなければ」と悩む。富士経済によると16年のEVの世界販売は47万台で、うち日本車は14%。まだ世界販売全体の1%にも満たないEVが、エンジン車の誕生から100年以上続いてきた自動車産業を根本から揺るがす。 *5-2:http://qbiz.jp/article/116117/1/ (西日本新聞 2017年8月9日) 九電、欧米で発電事業に進出 5年で550億円投資へ 九州電力は、欧州や北米での発電事業に進出する方針を明らかにした。2017年度から5年間で、直近5年間の11倍の550億円を海外での発電事業に集中投資し、新たな収益源に育てる。電力自由化や人口減少で九州の電力需要が縮小する中、既に発電所を保有しているアジアやメキシコの新興国に加え、先進国を含む海外事業を成長戦略の柱と位置づける。九電の掛林誠常務執行役員(国際担当)が西日本新聞の取材に応じ、「欧米や先進国もチャンスがあればやっていきたい」と述べた。既に社員を現地の展示会などに派遣し、メーカーや開発事業者などから情報収集を進めている。欧米市場は成熟し、競合企業も多いが、確実な投資リターンや世界最先端の市場情報を得られると判断した。電力需要の伸びが見込める米国やカナダでの天然ガス火力発電所建設や、欧州で洋上風力などの再生可能エネルギー事業への参画を検討。新興国と合わせ10件以上の建設や買収を計画している。九電は01年、海外で発電所を保有し電力を卸売りする海外発電事業を開始。ベトナムやインドネシア、メキシコなど新興国7カ国・地域で8カ所の発電所に出資し、日本の商社や大手電力会社、外国企業と共同で事業を運営している。天然ガス火力を中心に風力、地熱発電も手掛け、市場の成長性が高い新興国に技術移転してきた。九電は6月に公表した財務目標に、海外発電事業の強化を盛り込んだ。17年度153万キロワットの出力を、21年度240万キロワット、30年度に500万キロワットに増加。同事業の経常利益も年20億円から21年度70億円、30年度には100億円を目指す。 ■九州電力の海外事業 発電所を自ら保有し電力を卸売りする発電事業を、新興国7カ国・地域の8カ所で展開。収益性が高く、海外事業の軸に据えている。アジアやアフリカを中心とした19カ国ではコンサルティング事業を手掛け、石炭火力や水力発電所などの建設可能性調査や省エネの推進など、新興国のエネルギー事情向上を支援している。 <エネルギーミックスに見る政府の愚かさ> PS(2017.8.10追加):2030年時点のエネルギーミックスを人為的に決めようとすること自体、環境志向や技術進歩による価格低減によって変化する市場を考慮しておらず、経済学の原則に反する。さらに、日経新聞は、*6の社説で「重要なのは30年時点の目標の先をにらみ、エネルギーを安定的に使い続ける長期の視点だ」などとして原発の新増設を結論付けているが、これには呆れるほかない。何故なら、その根拠として「再生可能エネルギーのコストは電気料金に上乗せされて電力需要者の負担になっている」としているが、再生可能エネルギーのコストは上乗せされているだけで電力製造の原価計算には入っておらず、原価計算には膨大な原発コストが入っており、原発には税金からも膨大な支出が行われているからだ。その上、原発には、見積もりすらできていない膨大な後処理費用が存在する。そのため、“エネルギーミックス”を決めたり、このような記事を書いたりする人は、おかしな屁理屈を言わないために原価計算くらい頭に入れておくべきだ。なお、地球温暖化対策の道筋を定めたパリ協定は、電力を作るのに、原発ではなく再生可能エネルギーを予定している。従って、50年も経たなくても、旧式の日本車以外はEVになり、その動力は再生可能エネルギーで賄われているだろう。 *6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170810&ng=DGKKZO19849720Z00C17A8EA1000 (日経新聞社説 2017.8.10) エネルギー政策の見直しは長期の視点で 経済産業省がエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の見直しに着手した。2つの有識者会議で議論し、来年3月末をめどに見直し案をまとめる。2030年時点でどのようなエネルギーを、どんな組み合わせで使っていくのかについて、14年につくった計画を足元の変化をふまえて再検討する。国際情勢の変化や技術の進展に応じてエネルギー政策を見直すことは大切だ。ただし、重要なのは30年時点の目標を達成するだけではない。その先をにらみ、エネルギーを安定的に使い続ける長期の視点を欠いてはならない。東日本大震災後初となった現行の基本計画では、原子力発電所への依存は「可能な限り低減させる」と明記する一方、原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、安全性の確保を条件に再稼働を進める方針を確認した。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは「重要な低炭素の国産エネルギー」と位置付け、「13年から3年程度、導入を最大限加速」するとした。国はこれをもとに30年に原子力を20~22%、再生エネルギーを22~24%などとする電源構成の組み合わせ、いわゆる「エネルギーミックス」を定めた。これまでに11社の26原発が再稼働に必要となる安全審査を申請し、5基が再稼働した。ただ、今後も再稼働が順調に進むかどうかは不透明だ。また、30年時点の発電量は確保できても、国が定める最長60年の運転期間が過ぎれば廃炉となり、いずれゼロになる。基幹電源として使い続けるならどこかで新増設を考えなければならない。30年以降を意識した議論を今から始めるべきではないか。割高な再生エネルギーの費用を電気料金に上乗せして普及を促す「固定価格買い取り制度」が12年に始まり、再生エネルギーの導入量は制度開始前に比べ2.7倍に増えた。発電量に占める比率は約15%まで高まった。だが、買い取り費用は17年度で2兆円を超す見通しだ。導入拡大に伴って国民負担はさらに増える。いつまでも青天井は許されない。持続可能な形で普及を促す仕組みに変えていかねばならない。地球温暖化対策の道筋を定めたパリ協定が発効し、電気自動車(EV)へのシフトも加速している。エネルギー利用の変化は社会を変える。50年後、100年後を見据えた備えを始めるときだ。 <赤字路線の商機> PS(2017年8月12日追加):四国でも将来の利用者減が見込まれる鉄道路線網の維持に向けて対策を話し合うため、*7-1のように、JR四国と4県知事らが懇談会を開いたそうだが、やはり地域ぐるみで他産業を巻き込みながらやるのが効果的だろう。 観光では、*7-2のように、JR西日本が山陰地方の日本海沿岸を巡る観光列車「あめつち」を、鳥取駅と出雲市駅間150キロを約3時間半かけて走らせるそうだ。天井の一部まで透明な窓の広い列車で、歴史の真実に関する新発見のあるストーリーとともに走ると面白い。 また、貨物との混合輸送では、*7-3-1のように、岐阜県等が出資する第三セクター「長良川鉄道」がヤマト運輸と提携し、宅配荷物の一部を旅客用の車両に載せて運ぶ「貨客混載輸送」の実証実験を9月に行うそうだ。私は、旅客用の車両に載せるよりも、旅客用の車両は乗客数に合わせて小さくし、スイスのように必要な大きさの貨物車両を連結した方が、つぎはぎのようなデザインにならないためよいと考える。また、ヤマト運輸の荷物を運ぶ貨車なら、小さく猫のトレードマークを付ければヤマト運輸の宣伝にもなりそうだ。 さらに、豊田市は、*7-3-2のように、公営バスの一部路線で、ヤマト運輸から預かった荷物を運ぶ実証試験に取り組んでいるそうだ。そのため、新幹線に新幹線用貨物車両を繋ぐのもありではないだろうか。 *7-1:http://qbiz.jp/article/116714/1/ (西日本新聞 2017年8月18日) 四国の鉄道維持に向け初会合 JR四国と4県知事らが懇談会 四国4県とJR四国は18日、人口減少で将来の利用者減が見込まれる鉄道路線網の維持に向け、対策を話し合う懇談会の初会合を高松市で開いた。懇談会は、神戸大大学院の正司健一教授が座長を務め、4県の知事やJR四国の半井真司社長らで構成。来夏ごろにまとめる中間報告を基に、県ごとに分科会を開いて具体的な対策を検討する。半井社長は会合の冒頭で「10年、20年先を見据えた場合、自助努力のみでは今の路線の維持が困難になることが想定される。抜本的な対策について地域を挙げて議論していただきたい」とあいさつした。 *7-2:http://qbiz.jp/article/116696/1/ (西日本新聞 2017年8月18日) 新観光列車「あめつち」導入へ 鳥取と出雲を3時間半で結ぶ JR西日本米子支社は17日、山陰地方の日本海沿岸を中心に巡る新観光列車「あめつち」を来年7月に導入すると発表した。約3時間半かけ、鳥取駅(鳥取市)と出雲市駅(島根県出雲市)を結ぶ約150キロを走る。列車の名称は古事記の書き出し「天地の―」に由来し、コンセプトは「ネーティブ・ジャパニーズ」。山陰地方は神社や歌舞伎、相撲などの文化の発祥の地とされ、多くの神話が生まれたことにちなんだ。車体の外観は海や空をイメージした青を基調に、山陰のたたら製鉄と日本刀から連想した銀色の装飾を施す。定員59人の2両編成で、土・日・祝日に両駅を1往復する。 *7-3-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK8B4GQ3K8BOHGB009.html?iref=comtop_8_01 (朝日新聞 2017年8月12日) 宅配荷物、ローカル線の救世主に? ヤマトなど実証実験 岐阜県などが出資する第三セクター「長良川鉄道」(本社・関市)は、宅配最大手のヤマト運輸と提携し、宅配荷物の一部を旅客用の車両に載せて運ぶ「貨客混載輸送」の実証実験を9月に行う。過重労働が問題になっている宅配ドライバーの負担軽減と、経営が厳しいローカル鉄道の増収が期待されている。実証実験では、関駅(関市)から美並苅安(みなみかりやす)駅(郡上市)までの約20キロを1日1回、列車に荷物を積んで運ぶ。荷物は専用の輸送ボックス(高さ170センチ、横107センチ、奥行き78センチ)に入れ、車内の乗降口付近のスペースに置く。美並苅安駅で荷物を車に積み替え、ヤマト運輸のドライバーが郡上市南部の美並地区に配達する。美並地区は面積が広く、担当ドライバーは郡上市中心部の支店まで、日に何度か往復約1時間かけて荷物を取りに戻る必要があった。鉄道輸送で労働時間の短縮や利用者へのサービス向上が期待できるという。長良川鉄道は1986年の開業以来、赤字続きで、沿線自治体が多額の補助をしている。特に昼間の列車は乗客が数人以下と少なく、荷物輸送を新たな収入源と見込む。実証実験は平日に約20日間行い、来年度から本格運用をめざすという。国土交通省中部運輸局によると、鉄道と宅配業者の提携は新潟県の北越急行と佐川急便などの例があるが、東海地方では初めてだという。 *7-3-2:http://digital.asahi.com/articles/ASK8B4334K8BOBJB001.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2017年8月11日) (愛知)路線バスに人も貨物も 豊田で試験開始 豊田市は、公営バスの一部路線で、宅配大手ヤマト運輸(東京)から預かった荷物を運ぶ実証試験に取り組んでいる。市側にとっては運賃収入のアップに、ヤマト側にとっては運転手の負担軽減につながる。利用路線の拡大も検討している。試験をしているのは岐阜・長野県境にある稲武地区と足助地区を結ぶ基幹バス「稲武・足助線」(路線距離29キロ)。市から運行を委託された豊栄交通(本社・豊田市)が、両地区を1日11往復している。このうち午後2時55分に足助病院を出発し、午後3時43分に稲武のどんぐりの湯前に到着する便を利用する。バスは一部の椅子を外して高さ60センチ、幅80センチ、奥行き60センチの荷物用の箱を積んでいる。ヤマト運輸の足助センター(営業所)の運転手は、バスが足助病院へ行く前にこの中に荷物を入れ、稲武にいるヤマトの運転手が荷物を受け取る。バスは通常通り客も乗せる。これまでは、ヤマトの足助センターの運転手が朝、荷物を稲武まで運んで配り、午後はいったん足助まで戻って追加の荷物を受け取り、再び稲武へ行き、配っていた。この試験によって、計1時間20~30分の時間の節約ができ、運転の負担が軽減できるという。一方、市はヤマトから輸送した分の運賃を受け取る。運輸業界では運転手不足が深刻となっており、ヤマト運輸中部支社(名古屋市)は、配送効率の悪い過疎地での、回送距離を減らすため豊田市に提案し、実現したという。ヤマトは同様の試みを、北海道や兵庫、熊本県など5道県で民間業者のバスを使って実施しているが、自治体のバスを使っているのは全国で初めてという。利用している基幹バス「稲武・足助線」は乗車率が1便あたり4・7人と12路線あるうちの下から3番目に低い。公営バス全体では昨年度、「赤字」で7億4400万円の負担を強いられている市にとって、利用収入を増やすことは課題の一つだった。試験は9日から始め、毎週火~土曜、来年1月末までの半年間の予定。市の試算によると、1年続けた場合、30万~40万円の収入になるという。市交通政策課の担当者は「双方に長所があることなので、できれば他の路線にも広げていきたい」と話している。 <日出ずる国の発電方法> PS(2017年9月9日追加):九州では、*8のように、太陽光発電容量が817万キロワット(原発8基分)に達し、稼働を控える施設も419万キロワット(原発4基分)あって、九電は受け入れきれないと言っているため、JR九州が発電子会社を作って受け入れたらどうかと考える。そうすれば、自社用電力をなるべく自給した後、余剰分は他社に販売することが可能で、太陽光発電は「日出ずる国」の発電方法としてBestだからだ。 *8:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/461927 (佐賀新聞 2017年9月9日) 九電、太陽光電気供給増で 今秋一時停止要請も、15日から訓練 九州電力は8日、太陽光発電事業者の電気供給量が増加し需給バランスが崩れて、今秋、事業者に対し発電の一時停止要請に踏み切る恐れがあると発表した。混乱を招かないよう、発電停止を要請する「出力制御」訓練を15、20、21日の3日間実施して備える。九電によると、電気の安定供給に影響しない範囲での太陽光の発電容量817万キロワットに対し、受け入れ量は7月末時点で741万キロワットに達したという。これ以外にも、九電と受け入れ契約を結び稼働を控える施設がすでに419万キロワット分ある。出力制御は、揚水・火力発電での調整、他電力との融通などができなくなった場合に実施する。訓練は九州の太陽光・風力発電の専門事業者約2千社を対象に行う。電話とメールによる模擬指令だけで、実際の制御作業はしない。佐賀県内では百数十社が対象という。15日は、全国の電力会社同士が電力を融通し合う際の連絡訓練にも取り組む。九電の担当者は「秋はエアコンなどの電力需要が大幅に減り、需給のミスマッチが大きくなれば制御する可能性が出てくる。訓練結果を参考に準備したい」と語った。
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2017,07,14, Friday
2017.7.4西日本新聞 2017.4.24日経新聞 2017.7.9 西日本新聞 (図の説明:ふるさと納税でいつも上位にくる地方自治体には、その努力に敬意を表する。それに対し、努力もせずに無駄遣いばかりしている負け組の地域が、勝ち組の返礼品等に文句をつけているのは、正々堂々と競争しておらず見苦しい。また、使途による寄付は、東日本大震災や熊本地震などの大災害で著しく増加したが、そのようにわかりやすい使途だけが重要なのではないため、主体である地方自治体に自由に決めさせるべきである。そのため、総務省は、地方自治体の箸の上げ下げにまで指示するのは控えるべきだ) (1)災害支援とふるさと納税 九州北部の激しい豪雨で、福岡・大分両県の被災地では、*1-1のように、自衛隊や警察などによる捜索や救助が続き、有明海に5遺体が流れ着くなど、その被害の大きさを物語っている。また、熊本地震と重ね合わせてみると、どのようにして日本の山・川・扇状地・平野・干潟ができたのかが、映像で記録された体験として理解できる。 福岡県朝倉市、大分県日田市付近は、大宰府・吉野ヶ里遺跡・神崎・耶馬渓・高千穂に近く、まさに日本の古代史の現場である。そして、そこから中継されてくる映像を見ると、近年、もともと川だった場所に道を作ったり、堤防を過信して川の近くや三角州に住宅を建てたりしており、これならちょっと激しい雨が降れば危険になるのは当然だと思われる。また、その山に作ったコンクリートのちゃちな砂防ダムで、山崩れが防げるわけがない。 そのため、少子高齢化で人口減少時代の現在であれば、復旧ではなく、住居は安全性と高齢者等のケアを考えて街づくりを行い、危険になりやすい地域は農業や林業を行う形で復興するのがよいと思われる。たくさん流れてきた木材も、製材すれば使えそうな立派なものが多いようだ。 そのような中、政府が激甚災害の指定を行い、災害復興のために要する地元負担が小さくなったのは助かるとともに、*1-2のように、福岡県朝倉市と大分県日田市への「ふるさと納税」が急増しており、感謝されている。ただ、今回は、熊本地震の時とは異なり、他の自治体がふるさと納税事務の代替をしているわけではなく、災害の対応と両方を行っている役場の人手は足りているのだろうか? また、被害を受けた地域は、福岡県朝倉市と大分県日田市だけではないので、正確に報道すべきだ。 (2)ふるさと納税の実績 ふるさと納税制度は、2005~2009年の間に衆議院議員をした私の提案で、2008年4月30日に公布された「地方税法等の一部を改正する法律」により開始され、手続きの簡易化や上限の引き上げにより、2016年度の寄付総額は、*2-1のように、約2844億円に上った。そして、その制度の導入が決まった時の自民党税調会長は、青森県選出の津島雄二衆議院議員だった。 これに対し、*2-2、*2-3のように、全自治体を合計した返礼品の調達費約1091億円に送料、広報、事務費などを加えた総経費が1485億1千万円に達して寄付総額の半分を超えた等々の批判があったため、総務省は2017年4月の通知で寄付の30%を超える品物や換金性の高い商品券や家電などを贈る自治体に見直しを求めた。 しかし、私は、今回被害を受けた久留米市の久留米絣や大川市の家具、その他中小企業の工場がある地域など、応援したい産業のある地域もあり、国が一律に地方の箸の上げ下ろしにまで口を出して護送船団方式にするのはよくないと考える。つまり、良識の範囲のことをしていればよいのであり、仮にふるさと納税の大部分を返礼品に使ってしまえば、その地方自治体はふるさと納税の事務費はかかるが、ふるさと納税収入で事業を行うことができなくなり、これはその自治体自身の経営の問題だからである。 (3)地域振興と街づくり、教育と福祉 地域振興・街づくり・教育・福祉などは、地方自治体が賢い基本計画を作って実現していくべきもので、その成否がその後の地域の発展や住みやすさに繋がる。その原資には、地方交付税交付金、地方税、地方消費税、ふるさと納税などがあり、産業を振興し、居心地のよい安全な街を作り、教育・福祉を充実させることが、その後のその地域の振興に繋がる。 1)地域振興と街づくりに関する地方自治体の総合基本計画 野村総合研究所(東京)がまとめた国内100都市対象の「成長可能性都市ランキング」では、*3-1のように、九州は福岡市が2位、鹿児島市が5位に、福岡県久留米市が9位、長崎県佐世保市が10位と、上位10都市中、九州が4市を占めたそうだ。しかし、調査は九州の10市を含む人口10万人以上の主な都市を対象にしたものだそうで、人口10万人以上の主な都市しか対象にしなかった点で、調査者は自らは気付いていない先入観を持っている。それは、*3-2の沖縄の例をはじめとして、地方都市は、その命運をかけて地域の基本計画を作りつつある所が多く、住みやすい街は人口10万人以上の主な都市とは限らないことである。 そして、*3-2のように、沖縄総合事務局と沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)が観光客を迎える視点で道路の景観を考える「沖縄における観光の推進と道路緑化シンポジウム」を那覇市のテンブスホールで開いたところ、東京都市大学環境学部の涌井特別教授が「玄関口である道路で、沖縄らしさをどう表現するかを練らないといけない」と基調講演で強調され、沖縄総合事務局南部国道事務所の小幡所長は「都市や海岸、山あいなど地域の特性に応じて植樹すべきだ」と述べられたそうで、その地域らしい美しさや魅力を演出するのが最も効果的なのは、北海道から沖縄まで同じだろう。 2)教育と福祉 東京の大学は、*3-3のように、画一化を脱するため、地方出身者用の奨学金や学生寮の充実を行い、多様な学生を全国から集めようとしている。そして、これをやらなければ、東大、東工大などは、東京近郊にある受験高出身の男子学生が大半を占め、その人たちが大挙してエンジニアになったり官庁に就職したりする結果、自然を知らない人、教育・福祉・環境を軽んじる人ばかりがリーダーとなって、視野が一面的で狭くなる。 私も、地方出身者や理系女子学生数が少ないことで、多くの分野で考え方が悪い意味で画一化されているため、母集団の多様性こそが幅広い思考の原点になるという大学の思いに賛成だ。 さらに、*3-4のように、東大は女子学生に限定して家賃補助を行い、それが逆差別との批判もあるが、もともと男子学生寮は充実している上、家族やそれを取り巻く社会は東大志望の女子生徒には「無理しなくても」と言い、男子生徒には「何が何でも頑張れ」と言う傾向にあることから、女性の高学歴に反対する社会や親へのよいメッセージになると考える。 確かに、佐賀県も東京の県人寮に入居できるのは男子学生だけであり、女子には高学歴は不要だと言わんばかりのように見える(それどころか、はっきりそう言う人もいる)。しかし、管理職やリーダーの母集団になる女性は、男性と同等以上の実力・能力を要求されるため、東大方式はジェンダー(社会的性差)の公平を狙った策であり、不平等にはあたらないだろう。 そして、地方では、ふるさと納税収入から、これらの教育・福祉にかかる経費を支払ったり、卒業後にふるさとで就職した学生に奨学金返済を肩代わりしたりすることも可能だ。 <災害とふるさと納税> *1-1:http://qbiz.jp/article/113836/1/ (西日本新聞 2017年7月9日) 豪雨死者18人に 被災者か、有明海に5遺体 福岡・大分 九州豪雨による福岡、大分両県の被災地では8日も自衛隊や警察などによる捜索や救助が続いた。福岡県朝倉市では新たに女性の3遺体が見つかり、犠牲者は両県で計18人になった。福岡、佐賀両県沖の有明海では豪雨で流されたとみられる男女5人の遺体が見つかった。生存率が急速に下がるとされる発生から「72時間」が経過する中、大分県日田市では安否不明者全員の無事が確認されたが、福岡県では依然として27人と連絡が取れていない。犠牲者の内訳は、朝倉市13人、同県東峰村2人、日田市3人。朝倉市黒川で見つかった3遺体は、渕上麗子さん(63)と娘の江藤由香理さん(26)、江藤さんの長男友哉ちゃん(1)▽同市杷木林田の遺体は岩下ひとみさん(36)=杷木池田▽東峰村宝珠山の2遺体は熊谷国茂さん(81)と妻千鶴代さん(81)と判明した。また、日田市の田代川近くで発見された遺体は矢野知子さん(70)=鶴河内=と確認された。福岡県などによると8日午前、朝倉市杷木を捜索していた消防隊が川の上流で女性の遺体を発見。その後も杷木の竹やぶなどから女性の2遺体が見つかった。被災地の川から数十キロ下流にある有明海やその沿岸でも女性3人、男性2人の遺体が相次いで見つかった。福岡、佐賀両県警によると、周辺に大量の流木があったことなどから豪雨で流された可能性があるという。安否不明の26人がいる朝倉市では、果樹園の様子を見に行ったまま行方不明となっている男性などの捜索が続いた。1人の行方が分かっていない東峰村宝珠山でも捜索が行われたが、二次災害の危険があることから日没で打ち切られた。同日夕現在、孤立しているのは朝倉市で1人、東峰村で28人、日田市で545人。避難所には朝倉市1142人、東峰村429人、大分県378人が避難している。朝倉市と東峰村では計2170戸が断水し、計1200戸が停電。日田市では410戸が断水している。交通では、大雨の影響で不通となっていたJR佐世保線の肥前山口−早岐で運転が再開されたほか、東九州自動車道や九州道も8日までに通行止めが全線で解除された。九州北部は8日も、朝倉市や福岡県嘉麻市で局地的に非常に激しい雨が降った。今後も大気の不安定な状態が続くといい、気象庁は土砂災害などへの厳重な警戒を呼び掛けている。9日午後6時までの24時間予想雨量は多いところで熊本200ミリ、福岡150ミリ、佐賀、長崎、大分120ミリ。 *1-2:http://qbiz.jp/article/114256/1/ (西日本新聞 2017年7月14日) 2017九州豪雨:被災地のふるさと納税急増 朝倉、日田両市 九州豪雨で被災した福岡県朝倉市と大分県日田市への「ふるさと納税」が急増していることが13日、分かった。朝倉市によると5〜12日の8日間だけで計4888万370円(2485件)。「応援しています」など、被災者へのメッセージも添えられているという。朝倉市へのふるさと納税は、昨年7月の1カ月間では計2051万9000円(1388件)だった。同市は6日から返礼品をストップしているが、勢いは止まっていない。日田市でも今月5〜12日、少なくとも1605件、計2802万3600円(1605件)が集まった。直前の6月27日〜7月4日は計409万円(305件、いずれも暫定値)で、約6.9倍に増えた計算だ。同市は「『一日も早く復興に向かうよう祈っています』などコメントを付けて納税してくれる方が多く、本当にありがたい」と感謝しきりだ。 <ふるさと納税の実績> *2-1:http://qbiz.jp/article/113473/1/ (西日本新聞 2017年7月4日) ふるさと納税が過去最高の2844億円 首位は2年連続で宮崎・都城市 総務省は4日、ふるさと納税による2016年度の寄付総額が過去最高の2844億887万5千円に上ったと発表した。15年度より1200億円近く増え、伸びは1・7倍。返礼品の充実に加え、インターネットでの簡易な手続きが定着したことも追い風になったが、住民税や所得税の減税が受けられる寄付額上限が約2倍に引き上げられた15年度の伸び(4・3倍)には及ばなかった。件数は1・8倍の1271万件だった。寄付額は宮崎県都城市が73億3300万円で2年連続のトップ。昨年4月に大規模な地震があった熊本市は復興支援の寄付が急増して36億8600万円で6位に入った。寄付額の上位には、高額な商品や多彩な特産物を返礼品とする自治体が並んだ。2位以下は長野県伊那市の72億500万円、静岡県焼津市の51億2100万円、宮崎県都農町の50億900万円、佐賀県上峰町の45億7300万円と続いた。都道府県別の寄付額は、北海道271億2400万円、山形225億3300万円、宮崎206億200万円の順だった。総務省は4月以降、返礼品競争の過熱を抑えるため、寄付の3割を超える金額の品物や、換金性の高い商品券や家電などを贈る自治体に見直しを要請した。その結果、寄付額上位の約200自治体のうち9割程度が見直す意向を示したという。15年度の寄付総額は1652億9102万円。17年度に入ってからは総務省が高額な返礼品の自粛を全国の自治体に求めており、伸びが落ち込む可能性もありそうだ。 *2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/443653 (佐賀新聞 2017年7月5日) ふるさと納税2844億円 16年度過去最高、返礼品が追い風 総務省は4日、ふるさと納税による2016年度の自治体への寄付総額が過去最高の2844億887万5千円になったと発表した。15年度の1・7倍で、返礼品の充実やインターネットでの簡易な手続きが定着したことが追い風になった。ただ住民税や所得税の減税が受けられる寄付額の上限が約2倍に引き上げられた15年度の伸び(4・3倍)には及ばなかった。件数は1・8倍の1271万件だった。寄付額は宮崎県都城市が73億3300万円で2年連続のトップ。長野県伊那市の72億500万円、静岡県焼津市の51億2100万円と続き、上位には高額な商品や多彩な特産物を返礼品とする自治体が並んだ。昨年4月に大規模な地震があった熊本市は復興支援の寄付が急増し、36億8600万円で6位だった。都道府県別の合計は、北海道271億2400万円、山形225億3300万円、宮崎206億200万円の順だった。寄付額に占める返礼品調達費の割合は全国平均で38%。15年度から横ばいだった。全自治体を合計した調達費1090億8千万円に、返礼品の送料や広報、事務費などを加えた総経費は1485億1千万円に達し、寄付総額の半分を超えた。高額な返礼品で寄付を集める自治体間の競争が過熱したことから、総務省は4月の通知で寄付の30%を超える金額の品物や、換金性の高い商品券や家電などを贈る自治体に見直しを求めた。ただ寄付額の上位約200自治体のうち10%ほどは受け入れておらず、今後も働きかけを続ける。15年度の寄付総額は1652億9102万円だった。17年度に入ってからは総務省の要請に応じた返礼品の見直しが広がっており、寄付の伸びが鈍化する可能性もありそうだ。 *2-3:https://www.agrinews.co.jp/p41343.html (日本農業新聞 2017年7月11日) 再考 ふるさと納税 返礼品競争に終止符を 2016年度のふるさと納税の寄付総額が過去最高を更新した。地方支援の広がりは歓迎するが、豪華な品物で寄付を集める「返礼品競争」が過熱し、本来の趣旨を逸脱する面もみられる。行き過ぎた競争は早期に是正する必要がある。ふるさと納税は、出身地や応援したい自治体に寄付をすると税金が軽減される制度。08年度に始まった。寄付金額から2000円を引いた額が所得税や住民税から控除される。寄付した自治体からは、特産品などの返礼品が届く。15年度からは、減税される寄付額の上限が2倍に引き上げられ、寄付先が5自治体までなら確定申告のいらない「ワンストップ特例」が導入された。この結果、全国の自治体が受け入れた寄付額は1653億円と前年度の4.3倍にも増えた。16年度は前年度比1.7倍の2844億円で過去最高となった。一方で、返礼品調達費は16年度で1091億円にも上り、寄付額に占める割合が全国平均で38.4%にも達した。負担になり始めている。総務省は4月に、寄付額の3割以下に抑えるように自治体に通知し、6月からは100団体に改善を求めているが、対応が遅れている。自治体の中には、寄付金で財政が潤い、特産品の消費拡大にもつながるとして、見直しには消極的なところもある。見直し根拠が曖昧なことへの戸惑いも見える。しかしこのまま高額の返礼品が続けば、対価を求めない寄付文化をゆがめたり、特産品の廉売につながったりする。総務省は説得に努めるべきだ。とりわけ農畜産物は、農業関係者の間に「将来的に安売りや投げ売りにつながり、自らの首を絞めることになりかねない」との懸念が強まっている。返礼品に「上限」を設けたり、品目を制限したりする明確なルールを考えるべきだ。寄付の集まらない自治体の不公平感や、住民が他市町村の特産品を目当てに寄付し「税金が逃げる」という弊害、多額の寄付ができる富裕層ほど税の控除が多くなる問題も指摘されている。政府はこうした問題の是正も急ぐ必要がある。寄付する側の意識改革も必要だ。商品を探すように、ネットでの返礼品人気ランキングを見ながら寄付先を選ぶような行為は制度本来の姿ではない。返礼品を得ることが目的ではないはずだ。制度の趣旨を理解した上での冷静な行動が求められる。制度創設時から過剰な返礼品を規制すべきだとの議論はあった。その対策を怠って混乱させた政府の責任は重い。このまま過熱し続けると、制度の存亡に関わる。全国市長会など地方6団体が中心になって返礼品の是正に取り組むことも重要だ。都市と地方との関わりの契機となり、寄付した人が実際に産地を訪れたりする。そうした真のふるさと創生につながる制度となるよう抜本改革も含め再設計する必要がある。 <地域振興と街づくり> *3-1:http://qbiz.jp/article/113834/1/ (西日本新聞 2017年7月9日) 福岡市が「成長可能性都市」2位 鹿児島など九州4市もトップ10入り 野村総合研究所(東京)がまとめた国内100都市対象の「成長可能性都市ランキング」で、福岡市が2位、鹿児島市が5位になった。他に福岡県久留米市が9位、長崎県佐世保市が10位と、上位10都市中、九州が4市を占めた。1位は東京23区だった。野村総研は「九州の地方都市は、大都市に頼らない『ローカルハブ』(地方拠点)になる可能性を秘めている。自らの強みを生かし、地域経済をけん引してほしい」としている。調査は九州の10市を含む人口10万人以上の主な都市が対象。人口、事業所数、地価、財政力、地方交付税への依存度、創業支援策、産学連携など計131の指標に加え、各自治体100〜300人の住民アンケートを点数化し、合計のスコアから順位を算出した。その結果、2位の福岡市は空港、新幹線駅へのアクセスや起業支援策が充実し、市民の幸福度も高いことなどから「“支店経済”の街を脱し新たなビジネスを創出するなど、三大都市圏に次ぐ第4の都市として成長している」。鹿児島市は「外部人材の受け入れに寛容でビジネス集積の伸びしろが大きい」とした。一方、久留米市や佐世保市については「一見、産業創出力が乏しいイメージだが、多様性があり、企業、人材の誘致につながる潜在力は高い」としている。分析した小林庸至上級研究員は「多様なローカルハブを育てていくことは、地方創生だけでなく、首都直下型地震の危機に備えた、災害に強い国づくりにもつながる」と述べた。 *3-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-531155.html (琉球新報 2017年7月9日) 経済:「道路に沖縄らしさを」 戦略的緑化を議論 沖縄総合事務局と沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は4日、観光客を迎え入れる視点で県内道路の景観を考える「沖縄における観光の推進と道路緑化シンポジウム」を那覇市のテンブスホールで開いた。観光、道路緑化などに携わる関係者による討論では、維持管理費の公共予算が減額される中、緑化保全にも優先順位を付ける必要性が確認された。沖縄海洋博覧会の基本計画やハウステンボス、全日空などのリゾート計画に関わった東京都市大学環境学部の涌井史郎特別教授が基調講演し「玄関口である道路で、沖縄らしさをどう表現するか。そのことを戦略的に練らないといけない」と強調した。討論では、OCVBの前田光幸専務理事がシンガポールやハワイなど観光と道路緑化を戦略的に実践している国々の事例を紹介した。沖縄総合事務局南部国道事務所の小幡宏所長は「観光客の訪問頻度や、都市や海岸、山あいなど地域の特性に応じて植樹するべきだ」と述べた。和歌山大学システム工学部の山田和司非常勤講師は、亜熱帯気候のため他県より3倍の早さで成長する沖縄の植物管理頻度の高さを指摘した。沖縄国際大学の宮城邦治名誉教授は「観光客が抱く『日本の中の異国感』という印象を植樹でも想起させるべきだ」と提案した。 *3-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201702/CK2017020202000130.html (東京新聞 2017年2月2日) 【社会】来れ地方の学生よ 東京の大学、脱「画一化」に挑戦 入学試験に「地域の課題」、地方出身者用の奨学金、学生寮の充実-。多様な学生を全国から集めようと、東京の大学が試行錯誤している。親の世帯の収入の減少などで地方出身者が減少し、理系を目指す女子学生数も伸び悩む。放っておけば画一化が進みかねない中で、多様性こそが、幅広い思考の原点になるという大学側の思いが込められている。早稲田大は二〇一七年度、「地域に貢献する人材育成」をうたう「新思考入学試験(地域連携型)」という入試を文学部や商学部など五学部で始める。リポートなどで、自分の暮らす地域の課題と解決のために大学で学びたいことなどを示してもらうという。入学センターの担当者は「広く日本各地の受験生に挑戦してもらいたい」と期待する。全国から学生が集まることを特色の一つとしてきた早大でも、地方出身者は年々減少し、現在は全学部生のうち首都圏出身者が約七割を占める。仕送りの負担から、東京への進学をあきらめている地方の若者を後押しするため、〇九年度に首都圏以外の受験生を対象にした「めざせ!都の西北奨学金」も導入。年間約四十万円を給付してきたが、一七年度からは半期分の授業料(約五十万~七十万円)を免除する制度に拡大する。他の私立大でも地方出身者対象の奨学金導入は広がっている。一二年度から「学問のすゝめ奨学金」を設けた慶応義塾大は、首都圏以外の道府県をブロックに分け、給付人数を振り分けて地域が偏らないようにしているという。同大でも一九九五年の入試では43・8%を占めていた首都圏以外の合格者の割合が二〇一五年には28・9%に減少している。女子学生を増やすため、住まいの確保を重視する大学もある。東京工業大は二年前に老朽化で閉鎖した女子寮を建て替え、設備を充実させた上で今年四月にオープンする。キャンパスまで徒歩十五分と便利だ。東京工業大の女子の学部生は12%にとどまり、このうち九割近くは首都圏から通学している。留学生は女子の割合が増えてきており、担当者は、「留学生も含め、安心できる環境を整備して女子学生を増やしたい」と話す。同じく女子学部生の割合が19%と低い東京大は今春、地方出身の女子学生に月三万円の家賃を補助する制度を導入する。安全性を重視した住居百室を用意し、最長で二年間支給する。制度を公表すると、「男子学生との不平等になる」との意見も出たが、同大は「学生の多様性を拡大するため」と説明している。 *3-4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12723358.html (朝日新聞 2016年12月26日) 東大の家賃補助、女子限定のワケ 家族、志望に「無理しなくても」 安全重視、高め物件 東京大が来年度から設ける女子学生向けの家賃補助制度にさまざまな声があがっている。女子学生を増やす狙いだが、「なぜ女子だけ?」といった批判の一方、女子の高学歴への偏見や自宅外通学を理由に受験を反対された人たちの間では歓迎の声が上がる。年明けからは本格的な受験シーズン。東大だけでなく各地の大学も、女子学生増へ手探りの試みを続ける。歓迎の声の一つは、家賃補助制度が、東大をはじめ、女子の志望先に反対する親へのメッセージになることへの期待だ。「女の子が無理して頑張らなくてもいいのに」「なぜ東京に行くの?」……。東海地方出身の東大4年の女子学生(23)は、家族の言葉が忘れられない。当時、東大に毎年10人以上が進学する県立高に通っていた。先生の勧めで高校2年の1月、志望校に決めた。だが、80代の祖母と50代の母が反対した。祖母の兄弟姉妹で大学に行けたのは男の子だけだったといい、母も短大卒。今では「それが影響したのかも」と思う。現役で受験に失敗すると、「女の子が浪人なんて」と言われた。結局は父が賛成で、東大に挑戦できたという。東大の女子学生の割合は2割未満。この女子学生は「東大が地方の女子学生を増やす手段を採ったことには好感がもてる。送り出す親の意識も変わるだろう」と期待する。家賃補助を歓迎する側のもう一つの理由は、女子が安全に暮らせる住居へのニーズが切実なことだ。東大によると、大学の説明会などで、女子の安全な住まいの確保を心配する保護者の声があったという。「遠くの大学は危ないからダメだ」。神奈川県の30代の女性会社員は湘南地方の高校に通っていた時、父からこう反対されたのをよく覚えている。「一橋大か京都大を目指す」と家族に宣言。模擬試験の成績では十分にめざせる判定だったが、受験を認めてもらえず、自宅から約1時間の私立大に進学した。東大は今回の家賃補助の対象を「自宅から90分以上かかる女子学生」とし、安全や耐震性にも配慮することも強調している。女性は「東大は女子学生がなぜ来ないのか、その理由を調べたのだろう。こうした制度があれば、一人暮らしに反対する親を説得する材料になる」と期待する。東海地方の女子学生も合格後、住居で苦労した。「東京の県人寮に入居しているのは男子学生だけ。女子学生には、安くて安全な住居の選択肢が少ない」。東京で民間の女子専用学生会館に住んだが、干していた下着を盗まれたこともある。3年で一人暮らしを始めたが、安全面から家賃を高めにするしかなかった。一方、東大によると、この制度に約80件の意見が寄せられ、「(男性への)差別だ」という声が多かった。ネット上では「女性限定ではなく、(男女関係なく)貧困の学生に補助すべきだ」という声のほか、まず女子に高学歴は必要ないなどとする一部の風潮に対処すべきだとして「家賃は根本的な問題ではない」などの意見もあった。 ■男女平等とは、他大学も模索 女子教育に詳しいNPO法人サルタック理事の畠山勝太さん(31)は「安全性が高い住まいという女子のニーズへの対応は、ジェンダー(社会的性差)の公平を狙った策で不平等にはあたらない」とみる。「日本の女子の学力は国際的にもトップレベルで、大学進学率の低さは能力の問題ではない」と指摘。東大の家賃補助制度を「国際的には当然のことだ」と話す。男子学生だけでなく、優秀な女子学生を増やすことで研究の多様性を向上させようと大学も様々な試みを続けるが、手探りの段階だ。金沢工業大(石川県野々市市)はバイオ・化学部を新設した2008年度から2年間、女子の特別選抜制度を設けたが、志願者は12~13人と少なく中止した。「特別選抜が敬遠され、AO入試など別の試験が受験しやすかったようだ」(同大)という。大阪電気通信大(大阪府寝屋川市)は十数年前から、公募推薦入試の優遇制度の一つに「女子への点の加算」を設けるが、「女子の志願者は増えていない」という。九州大(福岡市)は12年度の理学部数学科の入試で「将来の女性研究者を増やすため」として、女性枠を設けようとした。だが、「『法の下の平等』の点から問題があるのではないかとの意見があり、社会的影響や入学した学生の精神的負担などを総合的に判断して取りやめた」(同大)という。辻村みよ子・明治大教授(憲法)は「東大の家賃補助は女子寮に代わる学生支援の特別措置ならば、男女共同参画社会基本法上のポジティブ・アクション(積極的改善措置)と認めることができ、法の下の平等を定めた憲法にも違反しない」と指摘。そのうえで「入試では(特例で入学したという)女子学生への烙印(らくいん)にならないよう、男女ともに合格最低点を設けるなどの方が有効だ。こうしたポジティブ・アクションは社会的合意が大切で、大学が丁寧に説明する必要もある」と話す。 ◆キーワード <女子学生への家賃補助> 東大が2017年度から、駒場キャンパス(東京都目黒区)周辺に安全性や耐震性の高い部屋を100室ほど確保し、入居した女子学生に月3万円の家賃を補助する。自宅から90分以上かかる女子学生が対象で最長2年間支給。保護者の所得制限はつけない。 <地方の選択に中央政府の指示は不要である> PS(2017.7.15追加):日経新聞は、*4-1のように、都市寄り・省庁寄りの見解が多いが、これまでに多くの投資がなされて資源や人材の多い都市部自治体の税収減は努力と工夫不足の結果にすぎないため、言い訳無用で自助努力させるべきである。そして、三重県の鳥羽、志摩両市が真珠の返礼品を認めるよう総務省に要望したのは同感で、(高いものから安いものまである)真珠が返礼品になるのは面白く、「返礼品は農産品に限る」などとするのは、論理とは関係なく反対したいだけの狭い発想である。 なお、*4-2のように、西日本地区の18の経済同友会が、観光推進で地域活性化するため西日本全体が広域で連携すべきだとし、四国新幹線を含む交通網に言及したのには賛成だが、広域の方がよいのは西日本だけではないだろう。ただ、カジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)を起点にするという発想は情けなく、九州を起点として四国を通り、伊勢志摩から奈良・京都に至った方が余程面白い。さらに、2025年に万博を大阪に誘致するというのは、日本が開発途上国で威信を示さなければならない時代ではないため古くさい戦略で、既に有名な陶磁器・織物・染色・真珠養殖・漆器・機械などの生産現場を案内した方がよほど面白くて買ってもらえるだろう。つまり、誰にとっても、ゲームより本物の方が見ごたえがあるということだ。 *4-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170705&ng=DGKKASFS04H64_U7A700C1EA2000 (日経新聞 2017.7.5) ふるさと納税、自粛・継続で割れる自治体 ふるさと納税の人気上昇とともに制度のひずみが鮮明になっている。2016年度の寄付額は2844億円。4年連続で過去最高を更新した。特色ある返礼品で納税者の関心を引き付け、地元農産品の活用や被災地支援など地方振興で成果をあげている。その一方で高額の返礼品や都市自治体の税収減といった問題も浮上。自治体には適正な競争が求められている。ふるさと納税は自治体への寄付額から2千円を引いた額が国の所得税、地方の住民税から一定額控除される仕組み。自治体は寄付を増やそうと返礼品を充実させている。16年度に最も多くの寄付を得たのは宮崎県都城市。2年連続の首位で、返礼品の宮崎牛や焼酎の人気が高く73億円を集めた。2位の長野県伊那市は家電の返礼をあてにした寄付を集めた。ふるさと納税を通じ、被災地を支援する動きも目立つ。6位の熊本市は昨年の震災を機に寄付額が増え、前の年度の86倍に膨らんだ。使途として熊本城の修復を指定したものが多かった。 ■総務省の要請に難色 ただ寄付獲得へ向けた自治体間の競争は過熱気味だ。寄付の趣旨から外れ「2千円で返礼品がもらえる」とあおる自治体もある。総務省は4月、寄付額に対する返礼品の割合を3割以下に下げるよう全国の自治体に要請した。都城市は6月に約6割あった割合を下げると表明。佐賀県上峰町も約5割だった返礼割合の引き下げを目指す。一方、難色を示す自治体もある。ふるさと納税を特産品などのPRに使う自治体には不満がくすぶる。総務省によると、寄付額の上位200自治体のうち、20弱が指摘を受けた返礼品を見直さない意向を示した。三重県の鳥羽、志摩両市は真珠の返礼品を認めるよう総務省に逆に要望した。 ■都市は税収減を懸念 都市と地方のあつれきも表面化している。都市部は地方の自治体に税収を奪われると反発。ふるさと納税による減収額は東京23区で16年度129億円、17年度207億円の見込み。17年度の減収額を30億円とする世田谷区は「30億円といえば学校1校の改築費にあたる規模。税収減が累積すると行政サービスに影響が出る」(財政課)と危機感を強める。地方に対抗しようと、中野区は16年10月から返礼品を設けた。区内レストランの食事券や交流のある他県の日本酒など特産品もそろえる。品川区も競馬場の指定席を返礼品に加えるなどした。 ■使途の明確化が必要 ふるさと納税の運用を巡っては、専門家からも異論が出始めている。とりわけ問題視するのは、集めた寄付の使い方。関西大の橋本恭之教授は「4割の自治体が寄付金の使途を明らかにしていない。公表しない場合は特例控除の適用外にすべきだ」と指摘、使途の明確化を求める。一橋大の佐藤主光教授は「財源を必要とする地域に寄付金が渡っていない。返礼品は農産品などに限り、調達の情報公開を進めるべきだ。過剰競争で利用者も返礼品以外に無関心になっている」と警鐘を鳴らしている。 *4-2:http://qbiz.jp/article/114338/1/ (西日本新聞 2017年7月15日) 九州など18同友会が声明 観光推進へ広域連携を 関西や中部、九州など西日本地区の18の経済同友会は14日、大阪市内で開いた会議後に、観光推進による地域活性化を実現するため、カジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)などの観光資源を起点にし、西日本全体が広域で連携するべきだとする声明を発表した。声明では、増加を続ける訪日観光客の受け入れ態勢を整える必要があると強調。国に対し、空港・港湾の整備や、四国新幹線などの整備計画を早急に検討するよう要望した。北陸新幹線の大阪までの早期延伸も求めた。会議後に記者会見した関西経済同友会の黒田章裕代表幹事(コクヨ会長)は、2025年の大阪誘致を目指す国際博覧会(万博)やIRを西日本全体の観光推進につなげるため、「大阪からそれぞれの観光地にお連れするには、交通網をどうすれば良いのかなどの検討が必要だ」と述べた。 <災害支援法と街づくりのあり方について> PS(2017年7月17、18日追加):*5-1については、①災害額を確定するためには被災状況の調査や被害額の算定は必要だが、それに時間がかかることが問題であり、②災害補償は復旧を後押しするだけなので、より災害に強い街へ都市計画を変更できないという欠点がある。 そのため、①については、必要な書類と被災状況を証明する写真を標準化しておき、それに従って提出された書類をコンピューター処理すれば固定資産税評価額等と照合して概略の被災額・補償額を直ちに計算して支払い、後で確認して調整する仕組みにすればよいだろう。また、②については、川の三角州やもともと川だった場所を埋め立てて洪水リスクの高い場所に住宅を作っているようなので、人口減少社会で何度も同じ被害が起こらないよう、安全で便利な街づくりに変更するために、復旧だけではなく積極的な復興も対象にすべきである。 なお、溶岩の上に火山灰や有機物が積もってできた九州の地形では、*5-2のような表層崩壊が起こるのは想定内になるため、それに耐える土地利用や街づくりをすべきだ。 2017年7月九州北部豪雨被害 2017.7.16西日本新聞 *5-1:http://www.shinmai.co.jp/news/world/article.php?date=20170716&id=2017071601001513 (信濃毎日新聞 2017.7.16) 二階氏、激甚災害法の改正検討 豪雨被害受け、手続き迅速化 自民党の二階俊博幹事長は16日、福岡、大分両県で大きな被害が出た九州北部の豪雨を受け、激甚災害指定の手続きを迅速化するため、激甚災害法の改正を進める考えを表明した。視察先の福岡県朝倉市で「災害発生後、(政府が)直ちに指定の準備に当たれるよう、法改正を検討したい」と記者団に述べた。秋に想定される臨時国会での成立を目指す考えも明らかにした。激甚災害法は、地震や豪雨など大規模災害で被災した自治体の財政負担を軽くすることで、復旧を後押しする。ただ被災状況の調査や被害額の算定に時間がかかり、1~2カ月後になるのが一般的だ。 *5-2:http://qbiz.jp/article/114370/1/ (西日本新聞 2017年7月16日) 土砂崩れ300ヵ所超 雨で進行の懸念も 農水省調査 九州豪雨により発生した土砂崩れが、福岡県朝倉市と東峰村、大分県日田市で少なくとも300カ所に上ることが農林水産省九州森林管理局の調査で明らかになった。ほとんどは、深い岩盤までは崩れず、表土層と樹木が滑り落ちる「表層崩壊」とみられるという。識者は、斜面に残った土砂や樹木が今後の強い雨や台風で流れ落ちる恐れがあるとして、警戒を呼び掛けている。九州森林管理局は8、10日に上空から被災地を調査した。土砂崩れは朝倉市と東峰村に集中し、その多くは長さ数メートルから数十メートルと比較的小規模だった。調査に加わった森林総合研究所九州支所の黒川潮・山地防災研究グループ長は、山の谷筋に雨水が集中して斜面が削られ、同時多発的に土砂崩れが起きたとみている。熊本大学の北園芳人名誉教授(地盤工学)によると、上空から見た限り、朝倉市や東峰村の土砂崩れでは深い岩盤は崩れておらず、多くが浅い表土層が崩れた「表層崩壊」だった。猛烈な雨が斜面の表面を勢いよくそぎ落とし、深く根を張らないスギなどの針葉樹も流れたとみられるという。表層崩壊は、雨水が深くまで染み込み、岩盤部分から崩れ落ちる「深層崩壊」と比べると、流出する土砂は少ないが、今回は表層崩壊が多発したことで、流れ出た土砂や樹木が膨大になったとみられる。日田市の土砂崩れは数十カ所と比較的少なかった。ただ、朝倉市などの土砂崩れと異なり、川の流れをせき止める“土砂ダム”ができた日田市小野地区の土砂崩れについて、北園名誉教授は、深層崩壊に近いとみている。豪雨翌日の6日朝に発生したことから、雨が時間をかけて斜面深くに染み込み、地下水位が上がって土が浮き上がり、崩れたと考えられるという。福岡大の村上哲教授(地盤工学)の調査では、小野地区の一部斜面では岩盤が露出。山はなお大量の水を含んでいる可能性もある。朝倉市や東峰村も含め、さらに土砂崩れが進む恐れがあると指摘している。 <木材の利用法> PS(2017年7月19日):国交省は、*6-1のように、九州豪雨で土砂・流木が堆積している福岡県朝倉市の県管理河川について、国が権限代行して緊急に大量の土砂・流木の撤去を始めたそうで、福岡県も少しほっとしただろうが、*6-2のように、①20万トン超の流木があり ②寺内ダムは水面を覆うように大量の大木が漂い ③具体的な処理方法は決まっておらず ④1次仮置き場に収集運搬した後で2次仮置き場に移し、 ⑤▽木材として利活用▽破砕して焼却▽バイオマス燃料のチップや建築資材として売却するなどの方法を検討しているそうだ。 しかし、①②③から、所有者がいるのならその人に引き取ってもらえばよいし、所有者がわからず廃棄物となっている木材なら、焼却して無駄にした上、余分なCO2を出すよりも、利活用できる人に無償で渡した方がよいと考える。また、⑤については、写真から、1)建材・家具材として使える大木 2)バイオマス燃料のチップにはできそうな枝・古材 3)焼却して発電できる木材 などがあるため、引き取り手が受け取りやすいように、④の2次置き場は分類して置くのがよいだろう。なお、木材は、一昔前は、水に浮かせて貯蔵したり運んだりしていたため、泥が付いたから価値が低いということはない。 (2017.7.17、19西日本新聞) *6-1:http://qbiz.jp/article/114430/1/ (西日本新聞 2017年7月18日) 2017九州豪雨:国が土砂や流木の除去代行 朝倉市の3河川、新制度で全国初 国土交通省は18日、九州豪雨で大量の土砂や流木が堆積している福岡県朝倉市の赤谷川など県管理3河川について、国が権限代行で緊急的に土砂や流木を除去すると発表した。国による代行は今年6月に施行した改正河川法に基づく新制度で、全国初の適用となる。対象となる河川は、いずれも朝倉市を流れる筑後川水系の赤谷川、大山川、乙石川の計15・5キロ。上流の山腹で多数の土砂崩れが発生したため、大量の土砂や流木が河道をふさいで氾濫の要因になっていた。権限代行は14日に福岡県が要請。二次災害の恐れが高いほか、撤去には高度な技術を要することもあり、国が18日から緊急的に撤去を始めることになった。作業の終了する時期は未定で、国交省は「軟弱になった地質の状況なども勘案する必要があるが、なるべく早く終えたい」としている。 *6-2:http://qbiz.jp/article/114459/1/ (西日本新聞 2017年7月19日) 2017九州豪雨:流木20万トン処理に苦慮 仮置き場足りず 材木転用にも難題 九州豪雨により、被災地の福岡県朝倉市などで発生し、有明海まで広がった流木の処理に行政側が頭を悩ませている。福岡県の推計によると、流木は少なくとも20万トン超。5年前の九州北部豪雨時に比べて3倍を超える。現段階では、回収して一時的に保管する仮置き場の確保もままならず、復旧は見通せない。山あいになみなみと水をたたえる同市の寺内ダム。水面を覆うように漂う大量の大木を見つめ、管理する独立行政法人水資源機構の担当者は声を落とした。「具体的な処理方法は決まっていない」。船や重機を使って回収する方針だが、本格的な作業は手付かずだ。豪雨で山腹が崩壊し、大量の木々や土砂が河川や道路、海にまで散らばった。県の推計は市内を流れる二つの川の航空写真から目視で算出したもので、有明海の流木は含んでいない。流木や土砂の処理は筑後川や有明海などは国、ダムは水資源機構、県管理の河川や道路などは県、農地や民有地などは市町村が担う。いったん1次仮置き場に収集運搬した後、より広い2次仮置き場に移す。1次仮置き場は現在、朝倉市と東峰村の駐車場や広場など計7カ所。福岡県は近隣自治体を含め、民有地など約20カ所を候補地として、1次、2次仮置き場の確保を目指す。だが「廃棄物」だけに地域の反発も予想され、「地権者や周辺住民に対し、丁寧に説明している」(廃棄物対策課)段階という。保管した流木はその後、木材として利活用▽破砕して焼却▽バイオマス燃料のチップや建築資材として売却−する方法を検討しているものの、「売却は交渉次第であり、泥が付いた流木は買ってくれない」と県の担当者。二次利用も容易ではなさそうだ。家屋やがれきなども含む災害廃棄物は九州北部豪雨では約6万5千トン。被災自治体だけでなく、福岡市や北九州市で広域処理した。今回も既に両市のほか久留米市が受け入れを始めたが、その総量も不透明だ。 <無電柱化と街づくり> PS(2017年7月20日):東京都は、*7-1のように、小池知事が公約を実現して無電柱化条例を成立させたが、無電柱化は防災・景観の両方の視点から重要なことである。また、無電柱化はコストが高くつくという主張もあるが、やる気があれば、市町村・事業者との連携やコスト削減技術の開発で可能で、既に先進国だけでなくアジア諸国も高い割合で無電柱化しており、日本の無電柱化率が異常なくらい低いのである。 しかし、日本の地方自治体も、*7-2のように、福岡県田川市は電力自由化を受けて民間5社と新電力を設立し、電気料金削減とその収益の地域への還元で地域活性化を図るそうだ。また、佐賀県伊万里市は、*7-3のように、佐賀県西部4市5町の広域ごみ処理施設「さが西部クリーンセンター」を完成し、溶融処理で発生する熱を利用した発電や溶融物の再資源化を図っており、これは循環型社会のKeyになりながら収益を挙げる点で先進的な例だ。 さらに、*7-4のように、地方交付税が不要な不交付団体は76自治体で、2017年度は5年ぶりに減少したそうだが、地域電力供給や電線地中化で水道管に電線を併設し、電気料金や配電料金を税外収入として収益源にすればよいと思われる。 世界の無電柱化率 日本の無電柱化率 災害時の電柱 景観への電柱と電線の影響 *7-1:http://www.sankei.com/politics/news/170608/plt1706080018-n1.html(産経新聞 2017.6.8 11)東京都が全国初の無電柱化条例成立 小池知事の公約実現、9月施行 都道上への電柱新設を原則禁止することを柱とした「無電柱化推進条例」が7日、東京都議会本会議で全会一致により可決、成立した。都によると、都道府県での条例化は全国で初めて。9月1日から施行する。無電柱化は、災害時に電柱が倒壊して道路をふさぐことなどを防止する防災面の機能強化と、景観の確保が狙い。小池百合子知事が昨夏の知事選で公約に掲げていた。都は条例に基づき、無電柱化を推進する計画を策定。区市町村や事業者と連携を図るほか、無電柱化を進めるために必要なコスト削減方法の調査や技術開発に取り組む。国会では昨年末、国や自治体、事業者に無電柱化を促す法律が議員立法で成立している。 *7-2:http://qbiz.jp/article/111921/1/ (西日本新聞 2017年6月14日) 電力新時代:田川市が民間5社と新電力を設立 料金削減と収益還元で地域浮揚狙う 福岡県田川市は13日、民間企業5社と共同出資する筑豊地区で初の地域新電力会社「Cocoテラスたがわ株式会社」を設立した。同社は九州電力などの発電事業者から卸値で電力を調達して安価で供給。電気料金削減と収益の還元で地域活性化を図る。12月からまず市の公共施設へ電力供給を開始。2020年度以降は民間企業や一般家庭にも広げる予定だ。「Cocoテラスたがわ」によると、同社からの電力供給により、市公共施設の電気料金は年間約470万円削減されると試算。同社は18、19年度に約600万円、民間への供給を始める20年度以降は年間1千万円前後の収益を見込んでいる。収益はまちづくりなどの地域振興事業などに活用する。資本金は870万円。市と小売・卸売電気事業「パシフィックパワー」(東京)、「NECキャピタルソリューション」(同)が各250万円、福岡銀行、西日本シティ銀行、田川信用金庫の3金融機関が各40万円を出資する。設立記者会見で、二場公人市長は「電力小売自由化を背景に新たなビジネスに挑戦する。公共施設の電気料金削減とともに、新会社を核に収益を地域に還元する地域活性化の新たな手法と確信している」と語った。 *7-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/263515 (佐賀新聞 2015年12月26日) 「さが西部クリーンセンター」が完成、循環型社会のモデルに ■溶融熱で発電、再資源化 伊万里市松浦町に建設していた県西部4市5町の広域ごみ処理施設「さが西部クリーンセンター」が完成し25日、竣工(しゅんこう)式があった。溶融処理で発生する熱を利用した発電や溶融物の再資源化も図り、運営する県西部広域環境組合(管理者・塚部芳和伊万里市長)は「循環型社会形成の拠点」と位置付ける。1月4日から正式稼働する。県ごみ処理広域化計画に基づき、老朽化の進む伊万里市環境センター、杵藤クリーンセンター(武雄市)、有田町クリーンセンターの3施設を統合した。伊万里、武雄、鹿島、嬉野の4市と有田、大町、江北、白石、太良の5町の計24万人のごみを処理する。総事業費は約174億円で施設建設工事は約143億円。総事業費のうち国の交付金や地方債を除く約25億円が市町の負担となる。高温でごみを溶かすガス化溶融炉は計2炉で1日最大205トンを処理できる。溶融物のスラグとメタルを分離回収し、それぞれ道路舗装用材や建設機械のおもりに再利用する。溶融処理の熱で発電する蒸気タービン(3900キロワット)で施設内の電力を賄い、余剰分は売電する。不燃ごみや粗大ごみを処理する「マテリアルリサイクル推進施設」では、鉄やアルミを再資源化する。竣工式で塚部市長は「一部事務組合の設立から8年余りで竣工を迎えられたのは、地元の理解と協力のおかげ。4市5町が団結し、施設運営に取り組みたい」と述べた。 *7-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/447960 (佐賀新聞 2017年7月20日) 交付税不要は76自治体 17年度、5年ぶり減、税収伸び悩みが要因 独自の税収が豊かで国から地方交付税(普通交付税)を受け取らなくても財政運営できる2017年度の自治体は、宮城県女川町など76団体の見通しであることが分かった。全体の4%に当たる。前年度より1団体少なく、減少は5年ぶり。地方税収の伸び悩みに加え、社会保障費の支出が膨らんでいることが要因。総務省が近く閣議で報告する。不交付団体の数は、景気回復により12年度の48から増え続け、16年度は77だった。17年度はこのうち栃木県上三川町、東京都羽村市、静岡県富士市、佐賀県玄海町の4市町が交付税を受け取るようになる一方、新たに宮城県女川町、埼玉県八潮市、大阪府摂津市の3市町が不交付となる。不交付の都道府県、政令指定都市は16年度に引き続き東京都、川崎市だけとなる。総務省は毎年度、自治体ごとに地方税などの収入と、事業や住民サービスにかかる支出の見込み額を比較。収入が支出を上回っている場合は不交付団体として普通交付税を配分しない。同省は、交付税を必要としない自立した自治体の拡大を目指している。しかし大企業などが立地する一部の地域を除き、大幅な増加は難しい状況だ。17年度の交付税は総額16兆3300億円。災害対応などに充てる特別交付税を除く15兆3500億円が普通交付税として配られる。 <木材のプレカット工場> PS(2017年7月29、30日追加):唐津市佐志浜町の埋立地が空き地になっていたので、*8-1のように、「木材プレカット」事業の最大手「ポラスグループ」が新工場を完成させたのは喜ばしいことだ。伊万里市にも中国木材(http://www.chugokumokuzai.co.jp/home.html 参照)があり、2005年に国産のスギとベイマツを組み合わせた異樹種集成材「ハイブリッド・ビーム」の生産を開始し、原木集荷などに広いネットワークを持つ伊万里木材市場株式会社と、原木集荷・製材・乾燥・集成・プレカット・流通を一貫して行える木材コンビナートを形成している。そして、今回の北部九州豪雨を見ればわかるとおり、九州には良質の木材資源が多く、これを高度な技術で自動的にプレカットして付加価値をつければ、復興に使用できるだけでなく、アジアの木材の少ない地域へ輸出も可能だろう。 また、*8-2のように、市内産材を利用して雪や風に負けない木造ハウスができたそうだ。木造といっても全体を木造にする必要はなく、上部は軽い素材の方が丈夫になるのではないかと私は思うが、専門家がしっかりと設計して標準化し、プレカットして組み立てて、安価で災害に強く、生産性の上がるハウスを作るのがよいと考える。 (図の説明:一番左のような骨組みにビニールをかぶせた農業用ハウスが作られ始めているが、災害の度に壊れるのではなく丈夫で作業が快適なハウス作りをした方がよいため、専門家の設計を標準化して自動プレカットし、左から二番目、三番目のような温室を安価に作る方法を考えた方がよいだろう。また、一番右の図のように、リビングの先を温室にすると、共働き家庭が、テラスやベランダよりも安心して洗濯物・布団を干したり、植物を育てたりできる) *8-1:http://qbiz.jp/article/115253/1/ (西日本新聞 2017年7月29日) 唐津市に新工場完成 住宅建材加工のポラスグループ 住宅建材加工「木材プレカット」事業の国内最大手「ポラスグループ」(埼玉県越谷市)は、佐賀県唐津市佐志浜町の埋め立て地「虹の松原ファクトリーパーク」に、新工場「レインボーフィールド(佐賀工場)」を完成させ、21日に見学会を開いた。県有地約3・8ヘクタールを購入し、鉄骨平屋の工場(床面積約1・5ヘクタール)と事務所棟を建設。コンピューター制御で建材の継ぎ手を成形するなどの機械を導入し、木造在来工法を中心とした住宅の月約300棟の生産能力を備えた。初期投資額は約20億円。社員数は33人で、うち22人を地元雇用した。九州一円の工務店や住宅建築会社に販路を求め、2018年5月までにフル稼働を目指す。さらに3〜4年内に隣接地で第2工場を建設し、生産能力を月約500棟に増強する計画。新工場は国内5カ所目で、九州では初めて。同グループは、耐震性向上に向けた構造計算サービスが強み。16年4月の熊本地震を受け、復興需要に応えようと、誘致を受けた唐津市への進出を決めた。21日は市内のホテルで完成披露パーティーも開かれ、中内晃次郎社長が「住宅事業は地域密着に徹する必要がある。地域の発展に役立つ工場になるよう考えていく」とあいさつした。 *8-2:https://www.agrinews.co.jp/p41470.html (日本農業新聞 2017年7月28日) 雪や風に負けない 木造ハウス実証 広島県廿日市市 広島県廿日市市に木造構造のビニールハウスが登場した。市内産材を活用して大雪、台風などの影響を受けずに農業生産ができるかを実証しようと、市の事業で3月に設置。地元のJA佐伯中央が実証試験に協力し、効果を確かめる。同市が2016年度の「市産材活用モデル事業」として取り組んだ。幅6メートル、長さ25メートルで、主に市内産の杉を使う。施工費や材料費などで520万円かかった。同市飯山のJA研修農場に設置。50センチほど雪が積もる場所で、パイプハウスでは雪の重みに耐えられないこともある。JA職員が管理し、7月上旬に小ネギの種をまいた。使い勝手は通常のパイプハウスと変わらないという。費用対効果が課題だが、市は「農業の振興とともに木材の新たな需要を作っていきたい」(産業振興課)としている。 <循環型社会に捨てるものはないこと> PS(2017年8月3日追加):大分県と同県日田市が、九州豪雨で大量に発生した流木を木材チップにして、木質バイオマス発電の燃料として活用することを決めたのはよかった。しかし、「流木の表面に付いた泥や中に含まれる水分は、細かいチップに加工する作業の支障になる可能性があるため、水分が抜きにくい根や泥は、流木を回収して搬送する過程で取り除く」というのは、都会のコンクリートの中で育って掃除すらしたことのない人の発言ではないかと思われる。何故なら、泥は水で洗い流せば落ち、水分は屋外に放置しておけば乾くからだ。しかし、チップとして燃やすには少し泥が残っていても機械に不具合を生じさせるというのなら、細かく粉砕して有機肥料にする方法もある。 *9:http://qbiz.jp/article/115641/1/ (西日本新聞 2017年8月3日) 2017九州豪雨:流木を発電燃料に 大分県と日田市 福岡からも受け入れ検討 大分県と同県日田市は2日、九州豪雨で大量に発生した流木を木質バイオマス発電の燃料として活用することを決めた。流木は河川の復旧工事や農業の足かせになっており、順調に進めば、福岡県内の流木も受け入れる方針だ。国土交通省の推計によると、大分県内の流木は日田市の大肥川や花月川の流域で約2万立方メートル。県や日田市は県建設業協会などの協力を得て流木を回収し、木質バイオマス発電の燃料となる木材チップを加工する「日本フォレスト」(日田市)に処理を委託する。同社は1年間に大分県の流木量以上の処理が可能で、木材チップは県内や九州一円の発電事業者に販売する。流木の表面に付いた泥や中に含まれる水分は、細かいチップに加工する作業の支障になる可能性がある。このため水分が抜きにくい根や泥は、流木を回収し、搬送する過程で取り除く。福岡県内の流木は朝倉市を中心に約19万立方メートルと推計(国交省)され、県などが処分後の活用策を検討している。大分県循環社会推進課の担当者は「日田市で発生した流木の処理を優先するが、隣県としてできるだけの協力をしたい」と話した。
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2017,06,26, Monday
2017.6.21 2017.6.24 2017.6.25 日経新聞 東京新聞 日経新聞 2017.6.24 2011.2.26 2017.6.26 佐賀新聞 日経新聞 佐賀新聞 (図の説明:日本郵便の利益は、2017年3月期は買収したオーストラリア物流子会社ののれん減損処理の影響で、マイナスになりそうだ。ウェスティングハウスの買収による巨額損失を抱えこんだ東芝は、上場維持さえ危うくなり、東芝メモリを売却することによって債務超過を回避しようとしているが、これまでに締結した不利な契約に束縛されて困難が多い。富士ゼロックスは、ニュージーランド子会社の不適切会計を理由として統括会社の支配を強めようとしているが、ローカルな市場に直面する販売はローカリズムを維持した方がよいと考える。JR九州は不動産事業の好調で順調な上場を果たしたが、気のゆるみや驕りは巨額損失に繋がるので禁物だ。また、鉄道の不採算路線は、地域社会と協力しながら、ふるさと納税も利用して話を進めることにより、問題解決して次の収益機会が得られると考える) (1)大企業の買収・分社と失敗事例の原因 1)買収で巨大損失を招いた日本郵政 日本郵政は、*1-1のように、買収したオーストラリアの物流子会社の業績が振るわず、のれんの減損処理をする必要が出て、民営化後初の赤字の可能性とのことである。 減損処理を検討しているのは、2015年に純資産額より約4,700億円も高い6,200億円で買収した豪トールの「のれん代」で、上場前に国際物流で成長するというメッセージを発する目的で買収し、「上場を乗り切ろうという姿勢で、会社の将来を考えての判断とは思えない」状況だったのだそうで、この時の株主は国であり、買収は東芝出身の西室前社長の主導で行われて、内部での検討は殆どなかったそうだ。 また、*1-2のように、早ければ7月とされる政府保有株の売却を前に、郵政が持つ膨大な不動産を野村不動産の力を借りて再開発する成長の展望を示そうと動いた日本郵政の野村不動産ホールディングス(HD)の買収交渉は中止となった。郵政株の売り出しの主幹事を務める野村証券は郵政との良好な関係を維持したいが、野村不動産は安定収益を稼ぐグループ会社であるため、郵政の要望にどう応じるべきか、野村社内には困惑するムードがあり、郵政による買収検討が伝わると野村不動産株式は急上昇したのだそうだ。 この日本郵政の両方の買収に言えることは、金や取引関係や政府の後ろ盾を背景に、競争相手に望まない買収をしかけていることである。そのため、必要以上に高い価格で買わされ、被買収会社のモチベーションは低く、買収価格に見合った収益が挙がらないのだろう。では、相手も望む組織再編はどういうものかと言えば、技術やネットワークを拠出しあえるなど、お互いにシナジー効果のある買収や合弁だ。 例えば、*1-3のように、ドイツポストは、配送用の電気自動車(EV)の生産で米フォード・モーターと提携し、7月からフォードの車台を使って中型のEVトラックを生産し、2018年までに2,500台を生産し、中型EVトラックとしては欧州最大規模の生産体制にし、自動車大手との提携で小包配送車をEV化する計画を加速するそうだ。この理念と仕組なら、相手も喜んで協業するだろう。 そのような中、日本郵政のこれまでの業務とシナジー効果のある成長戦略を考えると、①最もよく使う配送車をEV化するため、日本の優秀な自動車会社とジョイントベンチャーを作る ②配送や仕分けの拠点は、土地の価格が安くて便利な高速道路のインター付近に引っ越して自動化する ③街の中心部に持っている主要郵便局は、高層化して商店・保育所・学童保育・介護施設・サービス付きマンション等を入れ、建設会社と組んで新しいスマートシティーを提案する などだ。つまり、今の時代に必要とされるサービスを提供できるよう、シナジー効果のある事業を関係する会社と合弁会社を作って行うのがよいと考える。 2)東芝のウェスチングハウス買収と不利な契約締結による失敗 東芝も、*1-4のように、ウェスチングハウスの高値買収と米原子力発電所建設に関して電力会社に提供した親会社保証契約で債務総額 98億ドル(約1兆900億円)を抱え、東芝原子力エナジーホールディングス(以下、TNEH)は、米国連邦倒産法第11章(Chapter 11)に基づく再生手続を申し立てることを決議して、同日付でニューヨーク州連邦破産裁判所に申し立てた。 そして、*1-5のように、東芝は、東芝メモリを2兆円で売却して利益を出す計画で、経産省が日本勢が66.6%の株式を保有する「日米韓連合」を提案し、日米韓連合案は産業革新機構と政策投資銀行が計6千億円、ベインとSKが計8,500億円を拠出し、銀行融資も加えて2兆円となっている。そして、産業革新機構以外は融資や優先株による出資を含むため、議決権は産業革新機構が50.1%、政策投資銀行が16.5%、ベイン側が33.4%で、売却から2〜3年後の上場を目指すそうだ。 しかし、半導体工場を東芝と共同運営する米ウエスタン・デジタルが「契約違反だ」と反対し、法廷で争う姿勢を鮮明にして経産省などと駆け引きを続けているとのことである。 このように、高値買いと不利な契約締結の結果、東芝は、*1-6のように、2017年3月末で5,816億円の債務超過が確実となり、今月末に期限を迎える2017年3月期の有価証券報告書(有報)の提出を8月10日まで延期することを関東財務局に申請して承認され、2017年8月1日付で東証2部に降格となった。 3)東芝と日本郵政の巨額損失を招いた西室元社長について 日本郵政は、*1-7のように、郵便事業や貯金・簡保などとは業務の異なる東芝から西室社長(1935年生まれで、2015年のトール買収時に80歳)を招き、自社に技術のないものを人脈と金にあかして買収で手に入れようとして高値買いをするという東芝と同じ失敗をしている。そして、東芝と同様、不利な契約を結んでいるという悪材料が次々と出てくるのではないかと心配されている。 買収時に被買収会社の企業価値を厳しく精査するのは外資系企業では当然であり、私もPWCで監査していた頃、買収会社の依頼で被買収会社を監査したことがある。その目で見ると、日本企業の経営者は、根拠なき信頼をベースに企業価値をしっかり精査もせずに買収し、欧米企業を買収したこと自体に喜びを感じる人がおり、買収後の経営戦略が甘すぎるケースが散見される。 (2)富士ゼロックスのケースについて 富士ゼロックス(株)は、富士写真フイルム(株)と英ランク・ゼロックス社との合弁会社として1962年に誕生したコピー機メーカーで、写真屋とコピー屋が技術を出し合って優秀なコピー機ができたケースだ。現在、富士ゼロックスは富士フイルムホールディングスの連結子会社だが、米ゼロックス社も25%の株式を保有しており、この協業はもともと成功事例だった。 しかし、*1-8のように、ニュージーランドのプリンターリース会社MARCOが、普通のリース取引の形をとりながら、金融会社FINCOにリース債権を譲渡する形でリース販売を確定させ、売上の過大計上をしていたそうだ。ただ、「リース開始時に見積もったリース債権額と満了時までのリース料総額(コピー料金総額)に大きな差額が出るのは、リースが満了すれば直ちに損失計上すべき」と書かれているが、リース期間満了時に直ちに使えなくなるコピー機はないため、コピー料金で全額を支払うまでリースを解除できない契約にしておけば回収可能になる。 実は、私は衆議院議員の時、唐津事務所で富士ゼロックスのいいコピー機を使っていて、ハンコを押した書類はどちらがオリジナルかわからないほどのカラーコピーの出来栄えに感心していたが、リース料とコピー料金が高すぎるのが欠点で、有権者に配る資料を思う存分カラーコピーすることができなかった。これは、物価の安い外国ではなおさら感じられることだと思うため、この提案をした次第である。 今回の会計不祥事を受けて、*1-9のように、グループの成長を引っ張ってきた独立心の強い富士ゼロックスの経営を、富士フイルムHDが経理・人事・広報などで年内にも一体的に運営し始めるというのは、経理は一体的に行った方がコストの削減効果が大きいが、国によって異なるマーケットに直面している販売を統合管理するのはむしろマイナスで、人事もまた日本の論理を押し付けすぎると、現地に合ったやり方を阻害して業績悪化を招く恐れがある。 そのため、不正をなくすためには、経営の自由度を保ちながら、富士フイルムホールディングスに社長直轄の内部監査部を作って、世界中の関連会社をローテーションしながら社内監査する仕組みにすればよい。私はPWCで監査をしていた頃、ロイズやブリストルマイヤーズの内部監査人(Big4出身の公認会計士が多い)が日本子会社の監査に来た時に、日本(東京)のPWCからその内部監査の手伝いに行っていたので知っているのだ。 なお、写真屋とコピー屋の合弁会社である富士ゼロックスなら、*1-10のような薄い太陽電池を建材シートに印刷することも可能ではないだろうか。これにより、爆撃で建物が壊滅したイラクなどで、昔の写真を使って元の街並みを断熱性の高い建材で復元した上、可能な場所には元の建物と同じ色調の太陽電池シートを張って元の街並みを復元しながら、超次世代の街を作れば面白いし、日本の技術のアピールになると考える。 (3)JR九州について JR九州は本物の利益を出して滞りなく上場にこぎつけたが、*2-1のように、上場後初の株主総会に向けて準備を進めるにあたり、他社を見学したり、23人の役員全員でリハーサルを3回も開いたり、質疑に対する各役員の答弁練習を実施したり、会場で案内などを担当する社員への教育を進めたりしたのは面白い。しかし、このような成長期には、すべてを子飼いの社員でやらなくても、上場会社で総務を担当していた人材、公認会計士、弁護士、税理士などを雇えばもっとスムーズに付加価値の高いことができると考える。 なお、JR九州の上場を容易にしたのは、*2-3のように、「不動産事業」からの収益だ。何故なら、JR九州は、現在は運輸サービス事業と駅ビル・不動産事業の利益がそれぞれ全体の4割で、不動産からの収益が多いからだ。私は、鉄道会社が運輸サービス事業とシナジー効果の高い駅ビル・不動産事業を行うのは極めて合理的だと考えている。何故なら、運輸サービス事業の充実によって、手持ちの不動産の価値を上げることができるからだ。ただし、これは、自らが運輸サービス事業を行っている地域に限られ、他の地域や外国に出るとシナジー効果はない。 このような中、上場後初の総会では、*2-4のように、株主に地方路線での廃線の動きを懸念する声があったり、株主から不採算路線については第三セクターへの移譲を検討してはどうかとの意見が出たり、JR九州の担当者が効率化を図ることでネットワークを維持していく方針を説明して理解を求めたりしたそうだ。私は、鉄道収入だけを見れば不採算でも、その鉄道があることによって連続性を保つことができたり、駅近くの地価が上がったり、観光振興ができたりすることを考えれば、廃線や第三セクターへの移譲のようなコストカットだけが解決策ではなく、その特性を活かした収益拡大策があってよいと考える。 また、*2-2のように、九州新幹線長崎ルートのフリーゲージトレインは、車体価格などコストが通常よりも約3倍になるうえ、長崎と新大阪を直通運転することもできないため、R九州の青柳社長は、全線を通常の新幹線と同じフル規格で整備すべきだとの意向を示したそうだ。私も、長崎行きがフル規格でないのはもったいなすぎるため、①高架下を利用したり ②駅近エリアの開発を行ったり ③送電線を敷設して送電料をとったり ④夜間は新幹線貨物を走らせたり しながら、フル規格で整備すれば何とかなるのではないかと考える。 ちなみに、九州新幹線を使うと、*2-5のように、新大阪―鹿児島中央間でも3時間45分で走ることができ、夜間の新幹線貨物なら止まる駅が少ないので3時間程度で走ることができると思われる。そのため、*2-6のような物流会社と合弁会社を作れば、九州の農水産物を高付加価値のまま、高くない運賃で大消費地に届けられるだろう。 また、街づくりのために新幹線の駅が欲しい都市は、*2-7の「ふるさと納税」で使い道を指定して寄付を集め、JR九州に目的を持って出資して、路線の有効な使い方にも知恵を絞るのがよいと考える。ただし、これがうまく機能するためには、JR九州は路線ごとに別会社にして管理しておく必要がある。 (4)合併後の戦略について ー 十八銀行の事例から どの合併会社でも同じだが、経理・総務は一つになり、販売も店舗の統廃合や業務の効率化で、*3のように、合併後には余剰人員が生まれる。2017年10月にふくおかフィナンシャルグループ(FFG)との経営統合を目指す十八銀行は、FFG傘下の親和銀行との合併に伴う店舗統廃合等で計400人以上の余剰人員が生じ、余力を地域活性化や新規事業に振り向けるそうだ。 それが成功するためには、視野が広くて応用力のある優秀な人材を、経営企画部・新規事業部に配置し、事業として再編されようとしている農水産業・食品・新エネルギー・第4次産業革命・地域活性化などに関する仕事を開拓させることが必要だ。銀行経験者は、情報通で、きちんとした経理や経営計画を行う能力があるという意味で貴重な人材だが、とかく投資よりコストカットに目が向きやすい欠点があるため、自覚して気を付けるべきである。 <大企業の買収・分社と失敗> *1-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK4P4S39K4PULFA00Y.html (朝日新聞 2017年4月22日) 日本郵政、誤算の買収 豪子会社巡り巨額の損失計上へ 日本郵政が巨額の損失を計上し、民営化以来初めて純損益が赤字になる可能性が出てきた。買収した豪州の物流子会社の業績がふるわず、会社の資産価値を切り下げる「減損処理」をする必要があるからだ。買収に慎重論もあったが、西室泰三前社長が主導した。日本郵政が減損処理を検討しているのは、2015年に6200億円で買収した豪州の物流大手「トール」。資源価格の低迷を受け、16年4~12月期の営業利益が前年同期に比べ7割も減るなど、業績は買収前の予想を下回る。買収額はトールの純資産額より約4700億円も高かった。トールのブランド力やノウハウが収益につながると期待したためで、この差が「のれん代」と呼ばれる。のれん代は買収した企業の資産になるが、期待ほど収益が上がらなければ損失として計上しなければならない。東芝が巨額損失を計上したのと同じ構図だ。買収発表は日本郵政が株式を上場する約9カ月前。「上場前に郵便事業の成長戦略を描く必要があった。国際物流で成長するというメッセージ」(当時の幹部)だったが、巨額の買収費用に「高値づかみだ」との声も出ていた。トールののれん代は16年12月末時点で3860億円あり、日本郵政は来週前半の取締役会でこの大半について減損処理を決める見通しだ。日本郵政は17年3月期決算の純損益を3200億円の黒字と予想するが、減損額によっては07年10月の民営化以来、初の赤字に転落する可能性がある。業績の大幅悪化は、政府が東日本大震災の復興財源に当て込む日本郵政株の売却益を減らしかねない。政府は22年度までに郵政株の3分の2を売って計4兆円を確保する計画。15年に約2割の株を1・4兆円で売却済みで、早ければ7月にも追加で売却するとみられる。日本郵政株の終値は、減損の検討が明るみに出た20日に前日比で2・6%下落。翌21日に1・6%戻したものの、今後も不安定な値動きが予想される。財務省理財局は「売却時期や規模については、市場環境などをふまえて適切に判断する」と話す。株価の下落が続く場合、売却時期の先送りもありうる。 ■「内部検討ほとんどなし」 日本郵政グループ幹部によると、西室前社長は15年春の取締役会で初めてトールの買収を説明し、「もう決めた」と語った。取締役から批判が上がったものの、西室氏の意思は変わらなかった。巨額買収を心配する声は当初からあった。別のグループ幹部は「買収について内部の検討はほとんどなかった。上から降ってきた話」と明かした。元幹部は「とにかく上場を乗り切ろうという姿勢で、会社の将来を考えての判断とは思えない」と語っていた。16年初めの日本郵政の経営会議。トールの現状について「かろうじて黒字」などと報告されたのに対し、社外取締役から「日本郵便にとって意味があるから買ったのでは」「いくらもうかり、いくら損して、これからいくら負担しなければならないのか、数字で示してくれ」などの懸念が出た。グループ内でも「すぐに減損処理せざるをえない」との見方が強まっていた。このころ、西室氏がかつて社長を務めた東芝の子会社、ウェスチングハウスも原発の受注悪化などから減損が避けられないとの見方が出ていた。だが、東芝はまだ「将来の収益が見込める」として損失の計上は不要との姿勢を続けていた。16年2月に取材に応じた日本郵政幹部は、同年3月期にトールの減損を実施するかを問われ、こう答えた。「しない。ウェスチングハウスと同じだ」(真海喬生、織田一) *1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170621&ng=DGKKZO17905290Q7A620C1EE9000 (日経新聞 2017.6.21) 郵政成長戦略の舞台裏(上)、大型買収不発 次の一手模索 政府の保有株売却を意識 日本郵政による野村不動産ホールディングス(HD)の買収交渉が中止になった。早ければ7月とされている政府保有株の売却を前に成長の展望を示そうと動いたが、大型買収への懸念をぬぐいきれなかった。オーストラリアの物流会社への出資に続く失敗で、M&A(合併・買収)による成長の道は狭まった。これから新たな戦略の模索が始まる。「ちょっと難しくなってきたな」。6月上旬、日本郵政のある幹部が関係者にこう漏らした。郵政による野村不HDの買収が報じられて1カ月。6月に入って資産査定のプロセスが止まり、買収交渉からの撤退は秒読み段階に入っていた。郵政が持つ膨大な不動産を野村不の力を借りて再開発する。野村不は有望なマンション用地などを確保。互いにメリットがあると思われた枠組みを止めたのは、他ならぬ郵政自身の「失敗」だ。 ●ゲームより汗を 郵政は2015年11月に株式上場したが、発行済み株式の8割はまだ政府出資だ。追加で売り出す株式の収益は東日本大震災の復興財源にあてられる。郵政が成長するかどうかは震災からの復興に響く。海外の買収で大失敗した直後に出てきた野村不の買収案は、政治家の目には浮ついた「マネーゲーム」に映った。郵政は野村不の買収を巡り、親会社の野村ホールディングスと交渉を進めていた。郵政株の売り出しの主幹事を務める野村は郵政との良好な関係を維持したい。一方で野村不は安定収益を稼ぐグループ会社でもある。郵政の要望にどう応じるべきか、野村社内には困惑するムードがあった。 ●高値づかみ批判 5月上旬に郵政による買収検討が伝わると、野村不株は急上昇。4月まで1800円前後だった株価は2500円程度まで上がった。「トールに続く高値づかみ」。こんな批判に耐えて買収に踏み切れるほど郵政に自信はなく、応援する人も少なかった。買収は白紙に戻ったが、成長戦略を白紙にしておくことはできない。政府が株式の追加売却を迫られているためだ。政府は3月に2次売却を引き受ける主幹事証券を決めており、追加売り出しは最も早くて7月だ。日経平均株価は2万円を超え、市場の環境は悪くない。だが郵政株は1300円台でもたついている。17年度予算に盛り込まれた売却額は1兆3000億円。郵政株が1200円台なら届く水準だが、成長戦略がきちんとしていれば、もっと大きな額で売れる可能性はある。郵政の強みは郵便・貯金・保険の3事業で培った顧客層。全国の郵便局は投資信託の販売網などとしても有力だ。華々しいM&Aには取り組みにくくなり、郵政は原点に立ち戻ろうとしている。 *1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170615&ng=DGKKASDZ14HS2_U7A610C1TJ1000 (日経新聞 2017.6.15) 独ドイツポスト、フォードとEV生産 来年までに2500台 国際物流・郵便世界大手の独ドイツポストは14日、配送用の電気自動車(EV)の生産で米フォード・モーターと提携すると発表した。7月からフォードの車台を使って中型のEVトラックを生産する。2018年までに2500台を生産する。中型EVトラックとしては欧州最大規模の生産体制になる。自動車大手との提携で小包配送車をEV化する計画を加速する。フォードのドイツ法人と契約を結んだ。フォードの商用車「トランジット」のシャシーをベースに独自仕様の車体やEVシステムを載せる。組み立ては独西部アーヘンのドイツポスト子会社の工場で手がける。ドイツポストはEVベンチャーを買収し、積載容積4立方メートルなどの小型の自社開発EVを国内で2500台導入している。ドイツポストは全ての小包配送車をEVにするため、積載容積20立方メートルの車両を18年までに投入する方針を表明していた。フォードとの提携で中大型車両の導入に道筋を付けた。 *1-4:http://news.mynavi.jp/articles/2017/03/30/toshiba/ (マイナビニュース 2017/3/30) 東芝、最終赤字1兆円超 ウェスチングハウスの負債はこれで本当に終わるか? 巨額の損失が発生することが判明した東芝。そのがん細胞となっている、海外原子力事業リスク遮断のため米国子会社・ウェスチングハウス社切り離しに向けて大きな動きがあった。 ●債務総額 98億ドル 米国時間の2017年3月29日、東芝の海外連結子会社に米ウェスチングハウスエレクトリックカンパニー社とその米国関係会社、米国外の事業会社群の持会社である東芝原子力エナジーホールディングス(以下、TNEH)が、米国連邦倒産法第11章(Chapter 11)に基づく再生手続を申し立てることを決議し、同日付でニューヨーク州連邦破産裁判所に申し立てしたと、東芝が発表した。ウェスチング社とTNENの2社の債務総額は98億ドル、日本円で約1兆900億円だ。3月29日、午後5時45分から都内の東芝本社で開かれた会見の冒頭、説明にたった綱川智社長は、今回の11章に基づく再生手続きの適用について「ウェスチンググループの事業の再生に不可欠だ。それと同時に、非連結化により原子力事業のリスクを遮断するという当社の方針にも合致する」と説明。申請と同時に再生手続きに入ったため、ウェスチンググループは裁判所の法的保護のもと、電力会社、東芝などの当事者の協議によって事業再建をはかることを模索していくとした。これによってウェスチンググループは東芝の実質的な支配から外れ、2016年度通期決算から連結対象からはずれることになるという。ウェスチングハウス社の今後については、再生手続に乗っ取った事業再編を念頭に置き、当面は当面現行の事業をこれまでどおり継続する予定だという。この当面の事業継続のために、ウェスチング社は8億ドルの第三者からのファイナンスを獲得し、そのうち東芝が、2億ドルを上限として債務保証を提供する予定としている。建設中の米国原子力発電所2サイトについては、ウェスチンググループと東芝の2社が、顧客である電力会社と当面のプロジェクトの継続にむけた合意を目指して協議を進めているという。包括的な合意形成にむけて協議を行う当面の間は、電力会社が建設コストなどを支払う前提だという。 ●東芝への影響について 東芝本体への影響については、2016年度業績は、現時点でまだ影響額を確定できていないと説明した上で、2月末までの計算を公表し、追加の影響可能性額を示した。2月14日に公表した2016年度業績見通しでは、原子力事業ののれん減損によって営業利益が7125億円、当期純損益・株主資本・純資産については6204億円の悪化影響を織込んで、当期純損益3900億円の赤字、株主資本1500億円のマイナス、純資産1100億円としていた。この値から当期純損益は、6200億円規模の追加悪化となり、1兆100億円の赤字。株主資本については、4700億円規模の追加悪化となり、6200億円のマイナス。連結純資産では、4500億円規模の追加悪化となり、3400億円のマイナスだという。これだけの追加の影響が出ると想定される要因。それは、再生手続きの開始によって、主にアメリカ原子力発電所建設プロジェクトの東芝が電力会社に提供している親会社保証に関連する損失計上と、ウェスチンググループへの東芝の債権に対する貸倒引当金の計上を新たに検討する必要があるというのだ。2月末時点で、親会社保証は全額で6500億円規模、債権は全額で1756億円規模で、それに対する貸倒引当金が見積もられている。その一方で、ウェスチングハウスグループが連結から外れる影響で当期純利益が概算で2000億円超の改善影響が出る見通しだ。これらを勘案し、上記のような影響額になる可能性が示された。計上額は、再生手続きの過程で確定する再生計画の内容で大きく変動すること、額の算出については、東芝グループの2016年度第4四半期実績を踏まえる必要があるとしている。このため、先に述べたように、影響額は確定できていないというのだ。「一時的には追加の損失が発生する可能性があるが、マジョリティを含むメモリー事業の譲渡。外部資本導入に加え、聖域なく保有する資産の意義を見直し、意義の低い資産の売却を進める。新生東芝において注力事業と位置づける社会インフラなどで安定的に利益を拡大、確保し、債務超過の解消と毀損した財務基盤の回復をはかる」と発言した。再生手続きの申請によって、一つ山を超えた東芝だが、親会社保証などの額が確定していない。さらには建設中の4基の原発のスケジュールの遅れなど指摘されているリスクはまだまだある。3月30日の臨時株主総会、4月11日に予定される第3四半期決算など動向を見守りたい。 *1-5:http://qbiz.jp/article/112533/1/ (西日本新聞 2017年6月21日) 東芝メモリ売却、日本勢6割超 「日米韓連合」が提案 経営再建中の東芝は21日、半導体子会社「東芝メモリ」(東京)の売却に向け、経済産業省が主導した「日米韓連合」と優先的な交渉に入ると発表した。連合の提案によると買収額は2兆円で、東芝メモリ株の議決権の66・6%を日本勢が握る。国外への技術流出阻止や雇用確保の観点から財界の実力者や有識者を含む取締役会が「最も優位性が高い」と判断した。28日の株主総会までに合意し、来年3月までの売却完了を目指す。だが三重県四日市市の半導体工場を東芝と共同運営する米ウエスタン・デジタル(WD)は「契約違反だ」と反対するコメントを改めて発表し、法廷で争う姿勢を鮮明にした。WDは売却の差し止めを求めて米国の裁判所に提訴している。WDは「(現地時間の)7月14日に予定される審問を楽しみにしている」と表明した。訴訟の展開次第では売却手続きが頓挫する恐れがある。日米韓連合は政府系ファンドの産業革新機構、日本政策投資銀行、米ファンドのベインキャピタルで構成。韓国半導体大手SKハイニックスはベインと連携し参画するが、東芝メモリと同じ主力製品で高いシェアがあり、中国など独占禁止法の審査で問題視される可能性もある。日米韓連合案は現時点で、革新機構と政投銀が計6千億円、ベインとSKは計8500億円を拠出。銀行融資も加え2兆円とした。革新機構以外は融資や優先株による出資を含むため、議決権は革新機構が50・1%、政投銀が16・5%、ベイン側が33・4%。売却から2〜3年後の上場を目指す。日本企業数社や米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の出資も取り沙汰され、陣容や枠組みは変わる可能性もある。WDは経産省側などと駆け引きを続けており、買収に関与する可能性も残る。対抗馬だった米半導体大手ブロードコムの陣営は、訴訟の行方を見守る構えだ。東芝の資金繰りを支えるため、三井住友銀行やみずほ銀行など主要取引銀行7行は6月中に、280億円の新規融資をする方向だ。 *1-6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201706/CK2017062402000138.html (東京新聞 2017年6月24日) 【経済】東芝、東証2部に降格 8月1日付 決算発表も延期に 経営再建中の東芝の株式について東京証券取引所は二十三日、八月一日付で東証一部から二部に降格になると発表した。二〇一七年三月末で負債が資産を上回る債務超過が確実になったため。また東芝は今月末に期限を迎える一七年三月期の有価証券報告書(有報)の提出を八月十日まで延期することを関東財務局に申請し、承認された。綱川智社長は東京都内で記者会見し、「非常に責任を感じている。上場を維持し、有報の提出へ監査法人と協調し最善を尽くす」と語った。有報の提出延期は、四半期ベースを含め、不正会計問題が発覚した一五年以降で五度目。元子会社の米原発大手ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)を巡るPwCあらた監査法人の監査が七月末までかかるため延期した。東芝がWHの巨額損失をいつ認識したかについても、あらたとの意見の相違を解消する必要がある。東芝は、WHの破綻に伴い米電力会社が求める債務保証の負担などが膨らんだとして、債務超過の額が従来予想から四百十六億円増え、五千八百十六億円になったことも明らかにした。東芝は来年三月末時点で債務超過を解消できていなければ上場廃止になる。このため財務改善に必要な半導体子会社「東芝メモリ」の売却に向け、政府系ファンド産業革新機構などがつくる「日米韓連合」と交渉を急いでいる。三重県四日市市の半導体工場を共同運営する米ウエスタン・デジタル(WD)が売却に反対し係争中だが、綱川社長は今月二十八日の株主総会までに連合と売却契約を結べるとの認識を示した。 *1-7:https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/204179/1 (日刊ゲンダイ 2017年4月25日) 東芝に続き…日本郵政の巨額損失招いた西室元社長の罪 日本郵政の巨額損失を巡り、市場の判断が揺れている。日本郵政は2015年に子会社の日本郵便を通じて、オーストラリアの物流会社トール・ホールディングスを6200億円で買収した。ところが、オーストラリア経済の低迷などでトール社の業績は悪化。3000億~4000億円程度の減損を計上する可能性が指摘されている。17年3月期の最終損益で赤字転落する恐れも出てきたのだ。「ウミを一気に出し切ることは悪くない。ダラダラと損失を処理するより、よっぽどマシでしょう」(株式アナリストの黒岩泰氏) ■「悪材料がまだあるのでは…」 一方で、トール社買収を主導した人物が、西室泰三元社長だったことから、市場がざわついている。 「西室氏といえば東芝の元社長です。“東芝の天皇”とすら呼ばれ、その影響力は計り知れません。東芝が不正会計に手を染めたキッカケとされる経営トップの人事抗争をつくり出した張本人ともいわれます。日本郵政の巨額損失は、東芝と同じ海外M&Aに絡んでいます。もしかすると日本郵政も東芝と同じように、次々と悪材料が出てくるのではないか……と勘繰っているのです」(市場関係者)。 西室氏はトール社買収に際し、「日本郵政は世界をリードする物流企業だ。アジア太平洋で最大級のトール社との組み合わせは強力」と自信満々にコメントした。だが、西室氏の見立ては、わずか2年あまりで崩壊。買収当時、市場がささやいていた「株式上場(15年11月)に向けた“お化粧”にすぎない」「高い買い物」が正解だった。東芝の米ウェスチングハウス(WH)社買収(06年)に暗躍したのも西室氏だ。当時、西室氏は相談役に退き、社長は西田厚聰氏に譲っていた。WH社を巡っては日立製作所や三菱重工も熱心だったが、最終的には東芝が手中にした。決め手は、院政を敷いていたといわれる西室氏が人脈を駆使し、ベーカー元駐日米国大使に働きかけたからだといわれている。「ただ、その過程でWHの買収額は倍以上の約6000億円にハネ上がっています。日本郵政のトール社買収も西室氏の鶴の一声で決定したといいます。企業価値をキチンと精査しなかったので、今回のような巨額損失が生じるのです」(証券アナリスト)。日本郵政にとって「西室つながり」は悲劇だが、投資家の不安は高まるばかりだ。 *1-8:http://toyokeizai.net/articles/-/176127 (東洋経済 2017年6月14日) 富士フイルムHD、「不正会計」の絶妙カラクリ、海外子会社で売り上げのカサ上げが行われた 6月10日。富士フイルムホールディングスの第三者委員会は、海外子会社の不正会計疑惑についての調査報告書を同社に提出した。その全文版には不正の実態が克明に描かれている。調査報告書は「不適切会計」と多く記述しているが、「不正会計の隠蔽指示」「監査上の重要性の低い監査対象外の会社での不正な会計処理等」など不正会計という記述もある。単に間違えただけなら不適切会計だが、意図的に悪意を持って正しくない会計処理をすれば不正会計だ。はたして富士フイルムHDのケースは、どちらのケースなのか。 ●一見すると普通のリース取引&債権譲渡 不正の舞台となったのはニュージーランドのプリンターリース会社MARCOと金融会社FINCOである。両社を合わせて富士ゼロックスニュージーランド(FXNZ)と呼んでいる。MARCOとFINCOの親会社が、シンガポールにあるアジア・オセアニア地域統括子会社富士ゼロックスアジアパシフィック(以下FXAP)。その親会社が富士ゼロックス(以下FX)、さらにその親会社が富士フイルムHDという複雑な親子関係だ。MARCOとFINCOの取引は大きく3段階に分けられる。まず、リース会社のMARCOはプリンターを顧客にリースする。期間は平均48〜60カ月だ。リース料金は毎月のコピー代で回収する。次に、MARCOはそのリース債権を金融会社のFINCOに全額譲渡する。最後にMARCOはリース債権を譲渡することで、債権譲渡と同時に、向こう48〜60カ月分のリース代金の合計を売上高として一括計上する。これだけならごく普通のリース取引であり、通常の債権譲渡である。問題はリース債権の見積もりにあった。このリース債権をかなり高く見積もることで、実態よりもかなり多い売上高を計上していたのである。どうやって高く見積もっていたかというと、MARCOは毎月のリース料をプリンターの使用量に完全比例するように料金設定していたが、この使用量の見積もりを、実態よりも高く見積もっていた。その高く見積もった使用量をベースにした金額でリース債権をFINCOに譲渡し、リース開始時点でリース満了までの収入を一括で得ていた。この手法だと、リース開始時に見積もったリース債権額と満了時までのリース料総額に大きな差額が出る。これはリースが満了すれば、直ちに損失計上すべきものだ。それなのにFINCOはこの差額を、未回収のリース債権としてバランスシートに計上していた。あたかも回収可能性があるかのように会計処理をすることで、損失を先送りしていたのである。 ●これはやはり「不正会計」 このケースはやはり「意図的に悪意をもって正しくない会計処理をしていた」といえるのではないか。実は、富士フイルムHDの過去分の決算修正はこれからだが、大手監査法人は不正会計を検証する前提ですでに修正作業に入っている。なぜこうした不正会計が行われたのか。調査報告書はいくつかの原因を指摘している。最大の原因はMARCOとFINCOの経営者が同一人物のニール・ウィッタカー氏だったことだ。同氏は現地採用でたたき上げの人物だったという。「料金は使った分だけ。使わなければ無料」を意味する「ミニマムペイメント(=固定費部分)なし」契約を始めたのは同氏だという。この顧客に有利な条件を武器に契約数を伸ばしたと見られる。特殊な報酬体系も不正の温床となった。売り上げ増に対する評価部分が大きいことが、毎月のリース料を高く見積もることにつながった。ウィッタカー氏はFXNZでの実績が認められてオーストラリア子会社の経営トップに栄転している。そのオーストラリアでもニュージーランドと同様の不正会計がなされた。富士フイルムは同氏への損害賠償請求を検討しているという。そもそも不正はなぜ見過ごされてきたのだろうか。調査報告書は、ニュージーランド現地の自主性を重んじ、FXが日本人経営者を派遣しなかったこと、内部監査と業績目標の管理部門が同一だったことなどを挙げている。FXでは、吉田晴彦副社長が山本忠人会長や栗原博社長に報告しないという隠蔽もあった。だが報告書は、不正会計や隠蔽は組織的だったとまでは結論付けていない。不正会計はあくまでもウィッタカー氏個人の、隠蔽は吉田副社長個人の行為だとしている。 ●3月に1300億円の社債を発行 本調査が4月20日〜6月10日まで約50日もかかったのは、国内外のすべての子会社でニュージーランドやオーストラリアと同様の不正がないかを調査したからだという。結論は「ニュージーランドやオーストラリア以外で同様の不正は見つからなかった」というものである。一方で報告書は「もう一丁(1兆)やるぞ!!」をスローガンとした売上高1兆円回帰運動や、「プライド値」という売上高目標の存在を指摘し、業績至上主義の体質を指摘している。もし報告書が指摘する通りであれば、本当に不正会計問題はこれですべてなのか。他の手口による別の不正会計は存在しないのだろうか。12日の会見は2時間近くに及んだが、すべての疑問が解決されたとまでは言えそうにない。なお、今回の不正会計騒動の最中、富士フイルムは3月に1300億円の社債を発行している。また、不正会計への疑惑が指摘されているにもかかわらず、あずさ監査法人が第2四半期・第3四半期の四半期レビュー報告書で適正意見を表明している。PwCあらた監査法人が東芝に対してしたように、あずさの監査意見が「不表明」だったら、このタイミングでは社債を発行できていなかったおそれもある。 *1-9:http://www.nikkei.com/article/DGXKASDZ20IDY_R20C17A6MM8000/?dg=1 (日経新聞 2017/6/25) 富士フイルム・ゼロックス 17年目の親子接近、管理部門統合 日本流グループ統治、岐路 富士フイルムホールディングス(HD)が子会社の富士ゼロックスと年内にも管理部門を統合する。グループの成長を引っ張ってきた富士ゼロックスは独立心が強いことで知られるが、同社の会計不祥事を受け、富士フイルムHDは経営を任せてきた方針を転換する。人事権を含めて経営を掌握して名実ともに傘下に入れる方針。成長を目指してM&A(合併・買収)で手に入れた子会社の統治が、日本企業の盛衰に直結する経営課題に浮上している。管理部門の統合は6年間で375億円の損失を出した会計処理を受け、12日に発表したガバナンス(統治)見直しの一環だ。経理や人事、広報などが候補で、年内にも一体的な運営を始める。部門の重複を減らして効率を高め、ガバナンスも強化する。近くプロジェクトチームを設け、具体的な手法を詰める。とりわけ人事部門の意味合いは大きい。2001年に連結子会社にして以来、足かけ17年にわたり主要人事の大半を富士ゼロックス側に任せ、親会社として追認するにとどめてきた。今後は富士フイルム側が社長を含む人事や主要な経営方針に強く影響を及ぼす。経理も所管しM&Aを含めたお金の流れを把握する。 ●収益の多く生む 新体制では富士ゼロックスの栗原博社長を除く6人の役員が一斉に退任。富士フイルムHDは古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)が富士ゼロックス会長を兼務するなど計7人の役員を派遣した。財務や技術といった主要ポストに富士フイルム側の人材が就き、栗原氏は営業を主に担う体制に改めた。 12日、富士フイルムHD本社。取締役会を終えた古森氏は富士ゼロックス会長を務めた山本忠人氏に会い、「辞めてもらえないか」と切り出した。栗原氏を除く総退陣という大なたを振るう形で、古森氏は聖域に切り込んだ。これまで経営に細かく口を挟まなかったのは、富士ゼロックスが富士フイルムHDの収益の多くを生み出してきたからだ。経営の柱だった写真フィルムは00年代、デジタルカメラの台頭で市場が急速に収縮していた。液晶パネル用部材、医薬品、化粧品――。富士ゼロックスが業績を支える間に富士フイルムは業態転換を進めて安定収益の礎を築いた。今も連結の売上高の半分近く、営業利益の4割を富士ゼロックスが稼ぐ。だが、両社の関係はこのころからよそよそしかった。もともとは折半出資だった米ゼロックス側の経営不振に伴い01年に富士フイルム側が25%分の株式を買い取った。富士ゼロックスは米ゼロックスを親会社と思う風潮が強く、富士フイルムによる連結子会社化に戸惑いを隠せなかった。両社の関係に緊張が走ったのは00年代半ばだ。古森氏が富士ゼロックスの社外の取締役として率直に意見を言い始めた。市場環境や販売の見通しといった当然の質問だが口調は厳しい。富士ゼロックスの故小林陽太郎氏は「古森さんが遠慮無く、優れた質問をする。いい意味での厳しさが増している」と評していた。両社が表立ってトラブルを起こすようなことはない。しかし、下町の印刷所に印刷材料を売り歩いて出世の階段を上った古森氏と、国際派の小林氏らは大きく境遇が異なると周囲に見られた。古森氏はこのころ「両社の関係が前向きでないなら、そうしてみせる」と微妙な間柄を示唆するような発言をしていた。富士フイルムHDの助野健児社長が12日の記者会見で言った「遠慮があった」という表現は、両社の積年の関係を映す。打ち解けない親子関係は、富士ゼロックス幹部が会計を操作する遠因にもなった。好業績こそが独立性を保てる最大の理由だということを、富士ゼロックス幹部は分かっていた。 ●東芝も危機招く 国内市場の伸び悩みを受け、日本企業はM&Aに活路を見いだしている。米ゼロックスの苦境を救う意味があったとはいえ、富士フイルムも富士ゼロックスの連結子会社化により、成長の足がかりをつかみたかった。M&Aで子会社が増えれば、それをどう管理するかという問題に直面する。とりわけ海外は目が行き届きにくい。東芝の経営危機は子会社だった米社のずさんなコスト管理が招いた。ソニーは米映画事業で1千億円以上の損失を出した。富士ゼロックスの不祥事も豪州とニュージーランドの事業で起きている。欧米の大手企業はCEOが強い権限を持ち、グループ企業の意思決定もトップに一元化している。日本企業はそれが曖昧だった面は否めない。成長に向けてM&Aが欠かせない手段となった今こそ、グループ統治の基盤強化が求められている。 *1-10:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170626&ng=DGKKASGG23H3W_V20C17A6TJM000 (日経新聞 2017.6.26) 薄~い太陽電池、丈夫で長持ち 理化学研究所、食品ラップの3分の1 理化学研究所の福田憲二郎研究員らは薄型でも丈夫で長持ちする太陽電池を開発した。厚さは食品ラップの約3分の1の3マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル。腕に巻いたり服に取り付けたりしながら4~5年は使い続けられるという。健康管理用のウエアラブル(装着型)機器の電源などとして2~3年後の実用化を目指す。開発した有機薄膜太陽電池はシート状で軽い。研究チームは電池の基板に防水性に優れた「パリレンフィルム」を採用した。全体を変形させても発電に関わる部分は壊れないように設計を工夫した。従来の有機太陽電池は基板にポリイミドなどを使うのが一般的。全体の厚さは数十マイクロメートルで、折り曲げることはできても全体をくしゃくしゃにすることはできなかった。渡り鳥に取り付けて生態調査に役立てるといった用途も検討している。 <JR九州について> *2-1:http://qbiz.jp/article/112433/1/ (西日本新聞 2017年6月21日) 「初の総会」準備着々 他社を見学、予行も JR九州、23日開催 JR九州は23日に福岡市で開く上場後初の株主総会に向け、大詰めの準備を進めている。上場前は国土交通省所管の独立行政法人鉄道・運輸機構が全株式を保有していたため、同機構の担当者のみへの対応だったが、今回は会場のホテルに千人を超す株主の来場が見込まれる。鉄道事業の合理化などに投資家の厳しい目が向けられることも予想され、円滑な総会運営へ万全の準備を目指している。「どのくらいの来場者数を見込み、どんな会場で準備をしたらよいのか。苦労しました」(広報部)。同社は“初の総会”に向け、総務課を中心とする各部門の担当者などで準備作業を進めてきた。これまでは、福岡市の本社会議室で鉄道・運輸機構の担当者1人に対する総会を開催。所用時間は質疑応答を含め長くて2時間ほどだったという。ところが今回は、総会前に約14万通の招集通知を発送。JR他社や地場大手企業などを参考に、千〜2千人程度の来場を見込む。当日は約200人の社員で会場案内などをする予定だ。上場後を見据えJR九州は、株主総会に備えた情報収集を3、4年前から進めてきた。いつ招集通知を発送するか、会場受け付けはどうするか−。他社の総会リハーサルを見学することもあった。上場が目前に迫った昨年は、今回の会場となる福岡市のホテルで株主総会を開催。ひな壇に約20人の役員が並び、鉄道・運輸機構の担当者に対して説明するなど、来るべき日に備えて運営などを確認した。準備は今年4月から本格化。23人の役員全員でリハーサルを3回開いたほか、質疑に対する各役員の答弁練習も実施。会場で案内などを担当する社員への教育も進めてきた。鉄道事業の合理化や九州新幹線西九州(長崎)ルートへのフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)導入、上場後に相次いだ輸送障害といった課題を抱えるJR九州。「株主の関心が高そうなところはしっかり準備をし、円滑な答弁ができるようにしている」。広報部の担当者は力を込める。 *2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO17641000T10C17A6TJ2000/ (日経新聞 2017/6/14) JR九州、採算見込めず 長崎新幹線フリーゲージ導入断念 JR九州は2022年度に開業予定の九州新幹線長崎ルートで、フリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)の導入を断念する方針を固めた。車体価格などコストが通常よりも約3倍になるうえ、長崎と新大阪を直通運転することもできない。昨秋に上場し、実質赤字の鉄道事業に株主から厳しい視線を向けられるなか、十分な収益を得られないと判断した。FGTは線路の幅が違う新幹線と在来線を行き来できる利便性がある一方、軌間を変換させるために特有の部品を使用することなどから車体価格が高くなる。また、部品交換のために台車の解体が必要で、保守点検も高コストだ。鉄道建設・運輸施設整備支援機構が開発し、川崎重工業と日立製作所が試験車両を製作していたが、コストは通常の車体などと比べて約3倍になるとみられる。「従前の新幹線と比べ費用がかかるという状況で、効果的な対策が出ていない」。5月、JR九州の青柳俊彦社長は定例記者会見でこのように述べ、FGTの経済性に懸念を表明していた。JR九州は長崎ルートでの採用を目指していた。博多から新鳥栖(佐賀県)まで新幹線を走り、新鳥栖から武雄温泉(同県)までは在来線。武雄温泉から長崎までは新幹線を走行する計画だ。現状では長崎と新大阪を直接結ぶこともできない。FGTについてJR西日本の来島達夫社長は「山陽新幹線への直接乗り入れは難しい」との見解を示している。FGTの最高速度は時速270キロメートル。「山陽新幹線は同300キロメートル区間で、走行性能が異なる」(来島達夫社長)ためだ。山手線や東海道新幹線のようなドル箱路線のないJR九州の17年3月期の鉄道事業は「実力では87億円の赤字」(同社)。長崎ルートの開業が収益の改善につながらなければ、株主から厳しい批判を受けかねない。加えて、安全性にも課題が残る。走行試験を始めた直後に不具合が発覚するなど開発は難航している。社内では「万が一事故が起きた際に責任を取るのは我々だ」という意見も根強い。JR九州はこうしたFGTの問題点を説明することで政府・与党や地元自治体から理解を求める考えだ。今後長崎ルートの運行方法はどうなるのか。暫定開業する22年度は、博多から武雄温泉まで在来線を特急が走り、武雄温泉で新幹線に乗り継ぐ「リレー方式」で運行することは決まっている。JR九州の青柳社長は「今夏に(実用化できると)断定できなければ、対案を示すのが国の仕事だ」と述べ、全線を通常の新幹線と同じフル規格で整備すべきだとの意向を示した。フル規格は収益性は高いが、新幹線の整備に関しては政府・与党や地元に委ねられ簡単には決まらない。このため、リレー方式による運行が長期化しそうだ。FGT導入というJR九州にとって“最悪のシナリオ”は脱することになりそうだが、鉄道事業の収支改善に道筋をつけるのはこれからだ。 *2-3:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ25H80_V21C16A0000000/ (日経新聞 2016/10/25) JR九州上場、快走演出した「不動産事業」 九州旅客鉄道(JR九州)が25日、東京証券取引所第1部に上場した。朝方から買い注文が膨らみ、取引開始から30分ほどたって付けた初値は3100円と、売り出し価格(公開価格、2600円)を19%上回る水準。ひとまずは順調な「走り出し」といえそうだが、人気の背景を探ると、少し気掛かりな点も浮かび上がる。 ■営業利益でみると「不動産会社」 「現在は運輸サービス事業と駅ビル・不動産事業の利益がそれぞれ全体の4割。しばらくの間はこの構成で成長を目指す」。青柳俊彦社長は午前中、経済専門チャンネルの番組に出演し、成長のけん引役として不動産事業への期待感を隠さなかった。JR九州は社名の通り、鉄道事業が主力ではあるが、実は不動産事業が孝行息子。九州新幹線をはじめとする鉄道事業は2017年3月期にひとまず黒字化する計画だが、営業利益でみると連結全体の4割にすぎない。残る6割のうち、4割分を稼ぐのが駅ビル不動産事業。営業利益でみれば、鉄道事業と同じ規模なのだ。JR九州はJR博多駅の駅ビル「JR博多シティ」(福岡市)や4月に開業したオフィスビル「JRJP博多ビル」(同)など駅前の不動産を活用した商業施設や賃貸用不動産を運営しており、今後も駅ビルや駅ナカを開発していく方針を示す。保有不動産の収益力を高めるというストーリーは、東日本旅客鉄道(JR東日本)や東海旅客鉄道(JR東海)が歩んできた成長路線と重なる。初値時点でのJR九州の時価総額は4960億円と1兆~3兆円に達する、他のJR3社と比べると小粒だが、割安なJR九州に投資する理由は十分にある。 ■不動産マネーの「逃げ場」にも 完全民営化で経営の自由度が高まれば、成長のけん引役である駅ビル運営で大規模投資や他社との連携などに踏み切りやすくなる。楽天証券の窪田真之氏も、「高収益の駅ビル不動産事業は、これからさらに利益を拡大する余地がある」と指摘する。JR九州株の初値は、不動産事業への「期待料込み」ともいえる。実際、日本株の運用担当者の間では、「国内外の機関投資家がJR九州の不動産事業に注目して投資しようという動きも出ていた」という。そして、もう一つのJR九州にとっての追い風も吹いたのかもしれない。日本国内の不動産に向かっていた投資マネーの変調だ。ここ数年来の不動産価格の高騰で、投資額に見合う利回りを得にくくなっており、今年1~9月の累計で海外勢や国内の事業法人は不動産をこぞって売り越した。行き場を失った不動産への投資資金が向かいやすいのは、流動性が高く、一時期に比べて過熱感が薄れた不動産投資信託(REIT)や株式。つまり、巨大な投資マネーの流れの中で、JR九州株が資金の「一時的な逃げ場」になったのかもしれない。 ■初値は「追い風参考記録」か もっとも、期待通りの水準だった初値が「追い風参考記録」になる恐れもある。JR九州が自社で保有する不動産は九州地方が中心で、東京や東海地域の一等地に資産を持つJR東日本やJR東海とは異なるからだ。不動産市況の過熱感が想定外に強まれば、新規の案件の取得や開発にかかるコストが膨らむ。今後、九州より不動産市場が大きな首都圏、成長著しいアジア地域で不動産ビジネスを拡大したとしても、リスクは消えない。25日のJR九州株は初値に比べて178円(5.7%)安い2922円で午前の取引を終えた。シナリオ通りに不動産事業を伸ばし、JR東日本など旧国鉄民営化の成功事例に加われるだろうか。 *2-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/440538 (佐賀新聞 2017年6月24日) JR九州合理化強調 上場後初の総会 ■地方廃線、株主懸念も JR九州は23日、昨年10月の上場後初めてとなる定時株主総会を福岡市で開いた。青柳俊彦社長は「九州外のエリアに事業進出して売り上げの拡大を目指す。徹底的なコスト削減も図りたい」と述べ、不動産など非鉄道事業で収益拡大を図る一方、合理化を推進する姿勢を強調した。株主には地方路線での廃線の動きを懸念する声もある。総会には個人株主ら987人が出席し、約1時間45分で終了。株主から不採算路線について「第三セクターへの移譲を検討してはどうか」との意見が出た。日豊線の大分-宮崎空港(213キロ)の一部列車に導入した車掌を乗せない「ワンマン特急」に関して説明を求める質問も出され、JR九州は「安全面で問題はない」と回答した。JR九州の担当者は鉄道事業に関し、効率化を図ることでネットワークを維持していくとの方針を改めて説明し、理解を求めた。フリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の九州新幹線長崎ルートへの導入可否については「初夏に予定される国の専門家委員会の(耐久性などの評価に関する)判断を待ちたい」と述べるにとどめた。JR九州株を巡っては、廃線の可能性が取り沙汰されている沿線の自治体がけん制の目的で株式を取得する動きもある。日南線沿線の宮崎県串間市の担当者は総会には参加しなかったが「路線存続を求める意思表示を続けたい」と話した。 *2-5:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2500I_V20C11A2000000/ (日経新聞 2011/2/26)九州新幹線、新大阪―鹿児島中央間を最短3時間45分、空とシェア争奪 3月12日、九州旅客鉄道(JR九州)が運行する九州新幹線鹿児島ルートが全線開業する。九州を南北に縦断して博多(福岡市)―鹿児島中央(鹿児島市)の257キロメートルを直結。同時に西日本旅客鉄道(JR西日本)が運行する山陽新幹線との相互直通運転も始まり、九州と関西の交流拡大も期待される。博多―新八代(熊本県八代市)が新たに開通、2004年に開業した新八代―鹿児島中央とあわせて全線が開業する。博多―鹿児島中央は、新幹線と在来線特急を乗り継ぐ現行に比べ所要時間を約50分短縮、最速約1時間20分で結ぶ。博多―熊本は約35分となる。列車は停車駅の数に応じて3種類。新大阪から鹿児島中央までを約4時間10分で結ぶ「さくら」は1時間に1本を運行。九州新幹線でのみ運行し、各駅に停車する「つばめ」は博多―鹿児島中央を2時間弱で結ぶ。さらに新大阪―鹿児島中央を約3時間45分で結ぶ最速列車「みずほ」を投入。途中停車駅を新神戸、岡山、広島、小倉、博多、熊本に限り所要時間を短縮。朝夕にそれぞれ2往復運行する。使用する車両は2種類。九州新幹線区間の折り返し運転に主に使うのは、すでに開業区間を「つばめ」として走る800系。山陽新幹線との相互直通運転にはN700系の改良車両を使う。正規料金は博多―鹿児島中央は1万170円(指定席利用)、新大阪―鹿児島中央が2万1300円(同、最速列車「みずほ」は300円加算)。インターネット利用による割引切符は主要区間で最大40%割引する。乗車日の3日前までしか予約、変更ができない早期割引切符「e早特」は新大阪―鹿児島中央で1万7000円、新大阪―熊本で1万4400円。博多―鹿児島中央は早割で8500円。博多―熊本の早割は正規料金より40%安い3000円。九州内のネット予約割引にはJR九州が発行するクレジットカードへの入会が必要。山陽新幹線との直通列車のネット予約割引にはJR西日本発行のカードも使える。所要時間の短縮や割引料金の設定で、9割以上が空路を利用するとされている大阪―鹿児島を筆頭に、交通機関のシェア争奪戦激化は必至。全日本空輸が3月の伊丹―熊本線を正規料金から最大1万1300円割引き、最安で九州新幹線の割引料金と同程度の1万4400円とするなど、各社は新幹線対抗策を強化している。 *2-6:http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/012600245/?rt=nocnt (日経BP 2017/1/26) Amazon.comが物流事業を拡大、海上輸送への進出本格化 米Amazon.comが海上輸送事業への進出を本格化させていると、複数の海外メディア(米The Verge、米TechCrunchなど)が現地時間2017年1月25日、米Wall Street Journalの記事を引用して報じた。同社はすでに、中国の小売業者がAmazon.comのeコマースサイトで販売する商品の米国への海上輸送を始めている。こうした輸送事業はこれまで米UPSや米FedExなどが手がていたが、Amazon.comは今後これらの企業と直接競争することになり、自前の物流事業構築計画をさらに一歩前進させることになるとWall Street Journalは伝えている。英Reutersによると、Amazon.comは2015年に「Beijing Century Joyo Courier Service」と呼ぶ中国子会社を、非船舶運航業者(フォワーダー)として中国運輸省に登録した。これは自ら輸送船を保有しないが、通関や書類手続きなどを行って貨物輸送を取り扱う業者。Amazon.comはこれにより、中国から同国外への海上貨物輸送業務が可能になった。今回のWall Street Journalの報道によると、2016年10月以降、同社が取り扱った中国からの海上輸送コンテナ数は150超に上る。今月には、前述の中国子会社が、仕分けや貨物追跡といった業務についての料金を公開したという。なお、Amazon.comは約1年前に、同社の倉庫など米国における施設間で商品を輸送するために、自社ブランドのトラックを大規模導入すると発表した(関連記事:Amazon.comが数千台の輸送トラック導入 配送を効率化)。2016年8月には、「Amazon One」と呼ぶ自社ブランドの貨物航空機を利用した輸送業務を始めたことも明らかにしている(関連記事:Amazon.com、自前の貨物航空機の運航開始)。こうして同社はこれまで外部委託していた物流の中間業務を自社で手がけ、輸送業務の拡大とコスト削減を図っているとTechCrunchは伝えている。 *2-7:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS17H6H_Y6A610C1NN1000/ (日経新聞 2016/6/18) ふるさと納税寄付額の4割が返礼品経費に 個人が故郷や好きな自治体に寄付できる「ふるさと納税」で、寄付額の4割が返礼品の費用に使われていることが総務省の調べで分かった。広報などの経費も含めると、地方の活性化に活用できるのは半分程度になる。寄付額が全国最多の宮崎県都城市や長野県飯山市では返礼品の費用が7割超だった。同省が全国の自治体から2015年度に受け取った寄付額と返礼品の費用などを聞き取った。寄付額が全国合計で1652億円だったのに対して「返礼品の調達費」に632億円、「返礼品の送付費」に42億円かけた。返礼品は地元の肉や魚といった特産物が多い。自治体にとって寄付してもらう動機づけになるほか、地元のPRにもつながる。全国最高の42億円の寄付があった都城市は肉と焼酎が人気で、返礼品経費は31億円だった。飯山市は寄付額17億円に対して12億円を返礼品に使った。高額な返礼品が増えたため、総務省は4月、高額だったり寄付額に対して経費がかかり過ぎたりしている返礼品の自粛を自治体に要請。これを受け、7自治体が返礼の取りやめや価格を下げることにした。自治体間の行き過ぎた競争につながりやすい返礼品の価格や寄付額に対する価格割合の表示をやめることにした自治体も33あった。高市早苗総務相は「(返礼品の費用は)基準を決めてこちらから指導するようなものではない」として自治体側の対応を見守る考えを示している。 <合併後の戦略> *3:http://qbiz.jp/article/112722/1/ (西日本新聞 2017年6月24日) 余力400人超「新事業に」 十八銀頭取、統合意義を強調 株主総会 10月にふくおかフィナンシャルグループ(福岡市)との経営統合を目指す十八銀行(長崎市)の株主総会が23日、本店であった。森拓二郎頭取は、親和銀行(長崎県佐世保市)との合併に伴う店舗統廃合や業務の効率化で計400〜500人の余剰人員が生じると説明。余力を地域活性化や新規事業に振り向けるとし、統合の意義を強調した。現在の行員数は十八銀が約1400人、親和銀が約1200人。合併後、2割弱が余剰になる計算。総会は非公開で約250人が出席。十八銀によると、森頭取は「スケジュール通りの統合を目指す」と語ったという。一方で株主から「選択肢として白紙撤回もあるのでは」との意見が出たほか、貸出金シェア引き下げに向けた債権譲渡に関する質問が複数あったという。総会後、長崎市内の男性株主(65)は「人口が減る中で統合する理由は分かるが、本当に実現するのだろうか」と話した。 <大都市の街づくりについて> PS(2017年7月4日追加):東京のマンションは、容積率を上げれば階数を2倍以上に増やすことができたり、古いマンションは、容積率以下の上、建築後に建築基準法が変わっていたりするため、*4は、周囲の低層建築も巻き込みながら、階数を増やして建て替え、緑の多いマンションと住宅地に変えるのがよいと思われる。その場合、ハードを整えるだけでなく、希望する人は家事や介護のサービスを受けられるマンションにすると、高齢者・独身者・共働き世帯・学生など、多くの世代のニーズを満たすマンションにできると思うが、それを実現するためには、あらかじめ東京都知事のところへ行って、東京の都市計画・容積率緩和・介護等の社会保障に関して意思疎通しておくのがよいだろう。 *4:http://qbiz.jp/article/113428/1/ (西日本新聞 2017年7月4日) JR九州が東京でマンションを取得 賃貸用12階建て JR九州は、東京都北区東十条の賃貸マンションを6月1日付で取得したと発表した。取得額は非公表。同社は収益拡大に向けて積極的に不動産事業を展開しており、東京で保有するオフィスやホテルなどの事業用不動産は7件目となる。取得した「東十条マンション」はJR京浜東北線の東十条駅近くで、地上12階建て。全182戸のうち約9割が入居しており、リニューアルするか建て替えるか検討していくという。 <農協監査について> PS(2017年7月5日追加): *5のように、農協法の改正に伴ってJAに公認会計士監査が義務付けられ、JA全中の監査部門であるJA全国監査機構が行っていた監査を公認会計士監査に移行するのに伴い、JAを中心に監査を行う「みのり監査法人」が業務を開始して会計士を50人規模に増やすことにしたのは一歩前進だ。 しかし、「農協監査士は、独立性を確保し、都道府県中央会などから転籍・出向する」と書かれているのは、出向してきた人は独立性を持てず、農協しか監査したことのない人は農協の特殊な遅れに気付かないため間違いであり、今後は農協の監査しか経験していない農協監査士は必要ないと言わざるを得ない。何故なら、製造業や金融関係の監査をしている公認会計士も、最初は全業種の監査を経験し、できれば外国企業の監査も経験した上で、その業種の監査に長く従事して詳しくなっているので、その業種に詳しいだけでなく、業種間比較や連携が容易だからだ。さらに、農学部卒はじめ理系の人や経営学修士(MBA)である公認会計士も少なくない。 なお、日本は、資格を細かく分けて狭い範囲のことしかできない人材を作りたがる国だが、その職に就いた人にとっては時代が変われば努力して得た資格と人生を台無しにされ、視野の狭い人材ができ、人材の無駄使いも多いため、このやり方は生産年齢人口の少ない時代に適さない。 *5:https://www.agrinews.co.jp/p41280.html?page=1 (日本農業新聞 2017年7月4日) 「みのり法人」始動 JAの公認会計士監査対応 農協法の改正に伴いJAに公認会計士監査が義務付けられたことを受け、JAを中心に監査を行う「みのり監査法人」が3日、業務を開始した。会計士と農協監査士が連携し、JA事業に精通した監査を実施。公認会計士監査に完全移行する2019年度までに会計士を50人規模に増やし、全国のJA監査の受け皿になることを目指す。みのり監査法人が同日、発表した。16年4月施行の改正農協法で、貯金量200億円以上のJAなどに、公認会計士か監査法人の監査を義務付けた。従来、JA全中の監査部門・JA全国監査機構が行っていたが19年9月までに公認会計士監査に移行する。15年2月に政府・与党が決めた「農協改革の法制度の骨格」では「全国監査機構を外だしして、公認会計士法に基づく監査法人を新設」するとしていた。同法に沿って、みのり監査法人は、全国監査機構でJA監査に従事した経験のある会計士ら17人が6月30日に設立。あずさ監査法人出身の大森一幸氏が理事長に就任し、3日に業務を始めた。JAや連合会を顧客の中心と想定し、会計士と農協監査士がチームを組んで監査に当たり、JA事業に詳しいのが特徴だ。農協監査士は、独立性を確保し、都道府県中央会などから転籍・出向する。全中は、今後も農協監査士の資格試験を継続するという。ただ、実際にJAなどを監査するのは、JAが公認会計士監査制度に完全に移行する19年度からとする。それまでは、公認会計士監査に円滑に移行できるよう、全国監査機構による監査に帯同するなどしてJAの内部統制の整備を支援する。内部統制が不十分だと監査時間が増し、費用が膨らむためだ。一方、同監査法人の会計士は全国監査機構への出向などでJA監査の経験を積む。現在、監査の対象となるJAや連合会は全国に600超ある。JAは他の監査法人も選べるが、同監査法人は19年度までに会計士を50人程度に増やし、全JAを担当できる体制を整える方針だ。これらを踏まえ、全中は今後、必要な農協監査士の人数や、都道府県中央会による業務監査の在り方などを検討していく。 <農業の競争力強化について> PS(2017年7月6日追加):*6-1のように、JA全中の次期会長にJA和歌山中央会会長である中家氏が当選したのは尤もで、その理由は、和歌山県は米だけでなく、他の農産品でも実績を挙げている県だからだ。JAは現在、農家の所得向上や地域活性化に向けて自己改革を進めており、全中は、2019年9月末までに一般社団法人に移行して、中家氏には変革期のJAグループを導くリーダーシップが求められるそうだが、変革の課題は、①農家の高齢化と担い手不足は農業所得が労働と比較して低いこと ②EUとの経済連携協定(EPA)など、農産物市場開放に堪える農業にするためには生産性と付加価値(安全性を含む)の高い農業経営を行わなければならないこと に尽きる。そのため、農業には、国会議員・大学教授・官僚のような経営の素人ではなく、優秀な経営コンサルティングが必要であり、経営戦略・中長期事業戦略・成長戦略ならアクセンチュアやマッキンゼーのような世界的なコンサルティング会社に、世界のBest Practiceを調べてもらい、自らも視察に出掛けて、日本の得意技を織り込みながら、世界で勝てる農業を創るしかないと考える。 なお、*6-2のように、農業は殆どが家族経営であるため女性の参画は50%以上だが、認定農業者に占める女性割合は低く、農業委員に占める女性割合7.4%(2015年10月現在)、JA役員に占める女性割合6.8%(2015年3月末現在)など、10%以下である。私は、海外の優良経営体や市場・スーパー・デパートの食品売り場などに出ている農産物の種類・価格を見れば、女性がピンとくるものも多いため、しばらくは農閑期に、(温泉ではなく)出荷している農産物や気候が近い優良な国に、地域農協でまとまって視察に行ったらどうかと考える。 *6-1:https://www.agrinews.co.jp/p41294.html (日本農業新聞 2017年7月6日) 全中会長に中家氏 「自己改革やり遂げる」 JA全中の次期会長に5日、JA和歌山中央会会長の中家徹氏(67)が内定した。選挙の結果、JA東京中央会会長の須藤正敏氏(69)を抑えて当選した。任期は3年で8月10日の臨時総会を経て正式に就任する。中家氏は記者会見で「JAグループの自己改革をやり遂げる」と強調。農業者の所得増大に全力を上げる決意を示した。会長選は現任の奥野長衛氏(70)の任期満了に伴うもので、中家氏は前回の2015年に続き2回目の出馬となった。JA組合長ら全中代議員(定数251人)が6月22日から郵送で投票。締め切りの5日に即日開票し、有効票総数240票のうち中家氏が152票、須藤氏が88票を得た。結果を受け、全中の役員推薦会議が中家氏を次期会長候補として推薦することに決めた。和歌山市の和歌山県JAビルで5日に開いた記者会見で中家氏は、奥野氏の路線を基本的に継承する方針を示した上で、「自己改革の一丁目一番地は農業者の所得増大」と強調。「農家や地域の方々からなくてはならないと言われる組織を目指す」と述べた。政府・与党の農業・農協改革などには、是々非々で対応していく考えを示した。また大枠合意の可能性が高まっている欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉について、「酪農家を守るのはわれわれの使命だが、今の状況では推移を見守るしかない」と述べた。選挙戦で消費者との連携を強調してきた須藤氏も同日、東京・大手町のJAビルで会見し、「立候補には意味があった。中家会長を中心に、JAグループとして(自己改革の実践などを)しっかりやっていかなければならない」と述べた。JAグループは現在、農家の所得向上や地域活性化に向けた自己改革を進める。全中は、中家氏の任期中の19年9月末までに一般社団法人に移行する。中家氏には、変革期にあるJAグループを束ね、導くリーダーシップが求められる。農家の高齢化や担い手不足、農産物の市場開放といった内外の農政課題への対応も待ったなしだ。一方で安倍政権の農業・農協改革には、生産現場の不信感も根強い。政府・与党に是々非々で臨み、日本農業の持続的発展に向けた提言をしていくことも必要となる。全中は28日の理事会で役員選任議案を決める。8月10日の臨時総会で新体制が正式に発足する。 *6-2:https://www.agrinews.co.jp/p39934.html?page=1 (日本農業新聞 2017年1月17日) 女性認定農業者が増 農委7.4%、JA役員6.8% 内閣府調査 女性の認定農業者が3年連続で増えていることが、内閣府男女共同参画局が16日に発表した「政策・方針決定過程への女性の参画状況」で分かった。2015年3月末時点で1万812人と前年より441人増え、12年から年間400人以上増え続けている。農業委員やJA役員に占める割合も向上しており、女性の活躍の場が広がっている。認定農業者は、農業経営改善計画を申請、認定されなければならない。同計画が認定された農業者のうち女性の単独申請と夫婦による共同申請から女性の人数を算出した。女性の単独申請は5950件と449件増加。一方、夫婦による共同申請は4862件と8件減少した。農水省経営政策課は「農業女子プロジェクトなどで女性の活躍を後押しする取り組みがある中でじわじわと増えてきている」とみる。認定農業者に占める女性の割合は、担い手としての女性の活躍や、農業経営への女性の関与状況の指標となる。第4次男女共同参画基本計画でも、男女共同参画社会の形成の状況を把握する上で重要な指標としている。また、農業委員の過半を認定農業者としなければならなくなり、女性登用を進める上でも女性の認定農業者を増やしていく必要がある。同課は「農業就業人口のおよそ半数を女性が占める中、認定農業者となり積極的に経営に関わる女性が増えていくことは大切」と強調する。男女共同参画基本計画の成果目標である農業委員に占める女性の割合は7.4%(15年10月時点、前年比0.1ポイント増)、JA役員に占める女性の割合は6.8%(15年3月末時点、前年比0.7ポイント増)と改善した。ただ、指導的地位に占める女性の割合を表す指標である女性の指導農業士等は6405人(16年3月末時点)と390人減少した。女性の占める割合は30.6と1.4ポイント減少した。 <経産省のお馬鹿な政策> PS(2017年7月6、7日追加):*7-1のように、経産省は、馬鹿の一つ覚えのように「自由貿易」「自動車」と言ってはTPPやEPAを進め、「交渉が難航したのは欧州産チーズと日本産乗用車で、日本車にかける関税を協定発効後7年かけて撤廃する方針」などと、いつまでも日本車に競争力があるかのようなことを言っているが、7年後に物価と賃金の高い日本で製造された車が欧州に輸出されているわけがなく、日本は輸入だけ増えて輸出は減っているだろう。 何故なら、太陽光発電やEVは、(私の提案で)1995年頃から世界で最初に日本が手をつけていたのだが、経産省や産業界が変なことばかり言って逆噴射したため、*7-2のように、ボルボが2019年以降に発売するすべての車を電動車にすると発表し、*7-4のように、独ダイムラーが中国の北京汽車集団と中国でEV生産するため50億元(約835億円)を投資する発表し、*7-5のように、テスラがEV・太陽光・安い蓄電池のセット売りで日本に攻勢をかけているのに、日本ではまだ、*7-3のように「ガソリン車に必要な部品が約3万個とすればEVでは約1万8900個ですむので、(20年経っても)急激な事業構造の転換はできない」などと言っており、日本車は高くてうるさく排気ガスの出る環境に悪い車になるからである。 そして、このような状況では、日本車を輸出するどころか、日本人も中国製のベンツやテスラを買う時代になって日本車に競争力がなくなる日は近く、リーダーが馬鹿で方針を間違うと大きな負の影響があるということで、家電も輸出どころではなくなっているだろう。 なお、*7-6のように、フランスは、「パリ協定」の目標達成に向けてCO2排出削減計画を発表し、その柱の一つに2040年までのガソリン車・ディーゼル車などのCO2排出車の販売禁止方針を明らかにしたそうだが、これはオランダやノルウェーなどの欧州各国に広がりつつあり、都市の空気をきれいにする。また、インドも2030年までに販売する車をすべてEVにする計画で、これらによってEVの購入コストがガソリン車より安く、デザインも豊富になるのは、部品の数と仕組から考えて当然だ。また、EVを含めた再生可能エネルギーによる分散発電も進むと思われる。日本には、大量の燃料を輸入して多額の燃料費を外国に支払いながら、消費税率を引き上げるのが財政健全化策だと主張している人が多いが、これらの人々は消費税率引き上げを自己目的化しているとともに、思考停止が甚だしいのである。 2017.7.6 2017.7.6 2017.7.6 2017.7.6 読売新聞 毎日新聞 日経新聞 日経新聞 (図の説明:日本は乗用車・家電の輸出を増やすために食品を犠牲にしているが、これは1980~90年代の新興国が十分に工業化されていなかった時代のスキームだ。今後は、世界では食品が不足し、エネルギーに化石燃料は使わなくなるのだが、このように何十年も止まったままのカビが生えたような古い発想しかできないのが、日本の行政の致命的欠陥なのである) *7-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170706&ng=DGKKZO18529550W7A700C1MM8000 (日経新聞 2017.7.6) 日欧EPA、閣僚級協議で大枠合意、首脳きょう宣言 日本政府と欧州連合(EU)は経済連携協定(EPA)交渉の大枠合意を6日の首脳協議で宣言すると決めた。岸田文雄外相は5日午後(日本時間同日夜)、訪問先のブリュッセルでマルムストローム欧州委員(通商担当)との協議後、「閣僚間で大枠合意の達成を確認できた」と表明した。日欧間で関税がなくなる品目は全体の95%超に達する見込み。世界の経済・貿易の3割を占める大経済圏が誕生する。大枠合意した内容は、6日の安倍晋三首相とトゥスクEU大統領との首脳協議で正式に決める。EU高官は「最終的な合意には数カ月かかる」と語り、今回の大枠合意で詰めきれなかった部分を含めた最終合意は、年内に実現できるとの見通しを示した。首相は5日の欧州歴訪出発前に「日欧EPAはアベノミクスの重要な柱だ」と強調。日欧EPAの大枠合意をテコに、米国を除く11カ国での環太平洋経済連携協定(TPP)の発効を目指す「TPP11」の交渉進展にもつなげたい考えだ。欧州側も7日から独ハンブルクで始まる20カ国・地域(G20)首脳会議を前に、自由貿易を重視する姿勢を強調するため大枠合意を急いでいた。岸田氏は協議後、記者団に「大枠合意によって保護主義的な動きのなかで世界に前向きで大きなメッセージを送ることができる」と意義を強調した。「日・EUが世界に範を示すに足る内容だと自負している」とも述べ、日欧が自由貿易を主導していく考えを示した。大枠合意の内容は首脳協議後まで明らかにされない。これまでの交渉で日欧が貿易品目の95%超で関税を撤廃することになった。これはTPPと同程度の自由化水準だ。関税撤廃する品目のうち、交渉が難航したのは欧州産チーズと日本産乗用車の扱いだったが閣僚級協議でメドがついた。欧州側が市場開放を求めたチーズは、日本側が欧州産チーズに低関税で輸入する新たな枠を設け、枠内の税率を15年かけてゼロにする見通し。欧州側は、日本車にかける関税(最高10%)を協定発効後7年かけて撤廃する方針となった。このほか、日本側は欧州産ワインにかかる関税(ボトルワイン1本で約93円)を即時撤廃する方針。欧州産の豚肉やパスタ、木材などの関税も削減・撤廃でほぼ決着し、欧州側も日本産の緑茶・日本酒にかける関税を即時撤廃する。大枠合意後も、引き続き日欧間で協議を続け、年内には最終合意する方向。協定が発効すれば日本の消費者にとっては欧州産ワインやパスタ、チョコレートを今よりも安く買えるようになる。一方、日本から欧州には自動車や日本酒を売りやすくなる。 *7-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170706&ng=DGKKASDZ05IDT_V00C17A7TI1000 (日経新聞 2017.7.6) ボルボ、全車種電動に 有力メーカー初、19年、環境対応でEV・ハイブリッド集中 スウェーデンの高級車メーカー、ボルボ・カーは5日、2019年以降に発売するすべての車を電気自動車(EV)やハイブリッド車などの電動車にすると発表した。世界中で厳しさを増す環境規制や消費者ニーズの変化に応える。世界の自動車大手が進めるガソリンやディーゼルなど既存エンジンの搭載車からEVなどへの移行がさらに加速しそうだ。ボルボ・カーのホーカン・サムエルソン最高経営責任者(CEO)は声明で「(ガソリンやディーゼルなどの)内燃機関の時代の終わりを意味する」と述べた。有力自動車メーカーで、長期目標を除いて「脱内燃機関」を表明したのはボルボ・カーが初めて。5日の記者会見で同CEOは「ボルボ・カーにとって非常に重大な決断であり、戦略的な転換」と強調した。25年までに電動車両を累計で100万台販売する計画。16年の世界販売台数は53万台。既存のエンジンを搭載しない純粋なEVは、19~21年までに5車種を発売する。EVや家庭などで充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)、バッテリーとモーターを補助に使う「マイルドハイブリッド」と呼ばれるタイプなどすべての品ぞろえを構成する。価格は高級車と同水準になるが「ディーゼル車とは勝負になるレベル」という。サムエルソンCEOは「電動車両へのニーズは強い。消費者の現在と将来の需要に応える必要がある」と強調した。背景にあるのは米テスラの台頭だ。ドイツでは1~6月の販売台数は前年同期の約2.4倍。月末からは400万円程度の廉価版EVの納車を始める。ボルボ・カーは対抗策として6月、傘下の高性能車部門「ポールスター」をEV専用ブランドとして立ち上げると発表。21年までに投入する5車種のうちポールスターのEVは2車種含まれる。EVのネックとされていた航続距離が短いという課題は、電池技術の進化でクリアされつつある。価格面でも18年に欧州でのEV保有コストはディーゼル車と並ぶとスイス金融大手UBSが試算している。充電インフラ不足という課題は残るが、数年前に業界で予測されていたより早く普及の条件はそろいそうだ。すでに最大のEV市場となっている中国の攻略も狙いの一つだ。ボルボ・カーは現在は商用車主体のボルボから分離され、米フォード・モーターによる買収を経て10年に中国の浙江吉利控股集団の傘下に入っている。中国は近く「NEV規制」と呼ばれる規制を導入する。EVやPHVの市場は急拡大するとみられ、親会社と連携して中国での販売拡大を狙う。フォルクスワーゲン(VW)やダイムラー、BMWの独大手3社も、25年に販売台数の最大25%をEVなどの電動車両にする計画を掲げる。ただ、独大手の現在の事業の柱はディーゼル。EVへの移行はエンジンや変速機をつくる工場の雇用問題に直結するため、急激な移行は難しい。 *7-3:http://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20170706&c=DM1&d=0&nbm=DGKKASDZ05IDT_V00C17A7TI1000&ng=DGKKZO18527410V00C17A7TI1000&ue=DTI1000 (日経新聞 2017.7.6) 大手、構造転換に時間 部品産業への影響懸念 日欧米の自動車大手は動力機構について、当面は全方位で開発を進める。トヨタ自動車は2050年をめどにエンジン車をほぼゼロに、ホンダは30年に3分の2をハイブリッド車(HV)を含む電動車に置き換える構想を描くが、ボルボ・カーと比べると転換のペースは遅い。構造転換に二の足を踏む背景には産業の裾野の広さがある。経済産業省はガソリン車に必要な部品点数が約3万個としたときに電気自動車(EV)では約4割の部品が不要となり、約1万8900個で構成すると試算する。トヨタやホンダでは「ティア1」と呼ばれ自動車メーカーと直接取引する1次部品メーカーが数百社にのぼるとみられる。急激な事業構造の転換が部品メーカーの収益に与える影響は大きい。エンジン部品を手掛ける大手メーカー首脳も「自動車分野に限らず新たな収益源を育成しなくてはならない」と身構える。トヨタやホンダなどは燃料電池車(FCV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、HV車などの開発も進める。新興国市場での展開などを踏まえると、幅広い動力機構を持つことも成長につながるためだ。独フォルクスワーゲン(VW)は今後5年間に電動化技術に90億ユーロ(1兆1000億円)を投じ、25年のEV比率を20~25%にする計画。米ゼネラル・モーターズ(GM)もEVを投入しているが世界販売における電動化比率など中長期的な目標は明示していない。 *7-4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170706&ng=DGKKASDZ05IBS_V00C17A7TI1000 (日経新聞 2017.7.6) EV中国生産へ800億円投資 ダイムラーと北京汽車 独ダイムラーは5日、中国国有自動車大手の北京汽車集団と共同で中国で電気自動車(EV)を生産するため50億元(約835億円)を投資すると発表した。このうち数百億円規模をEVの肝となる電池の工場建設にあてる。世界に先駆けてEV市場の拡大が見込まれる中国で、存在感を高める狙いだ。高級車「メルセデス・ベンツ」を生産する合弁会社、北京ベンツで2020年までにEV生産を始める。ダイムラーがドイツ国外に電池工場を造るのは初めて。研究開発のための施設も用意する。 *7-5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170706&ng=DGKKASDZ05HU0_V00C17A7TI1000 (日経新聞 2017.7.6) 太陽光再生、起点はテスラ 売電偏重、市場にゆがみ 太陽光発電の国内最大級の見本市「PV Japan」が5日、横浜市内で開幕した。目玉の一つが米テスラの出展だ。日本の太陽光市場は固定価格買い取り制度の機能不全で低迷が続く。自動車のほかエネルギー分野でも世界の産業秩序を壊しつつあるテスラの上陸は、日本市場再生の起爆剤になるか。 太陽光パネルが立ち並ぶ見本市会場のど真ん中。電気自動車(EV)が置かれたテスラのブースには終日、人だかりができていた。ブースを訪れた大手電機メーカーの担当者が驚いたのはテスラが提示した家庭用蓄電池の価格だ。販売時期は未定だが、予定価格は約70万円。国内で現在普及する製品の4分の1の水準になる。住宅などの屋根に取り付けた太陽光発電が機能するのは日中のみ。雨の日や夜間に家庭の電力を賄うには蓄電池が欠かせない。テスラの説明員は「太陽光発電を自家消費や地産地消のために使う動きが日本でも始まる」と話した。米国ではエネルギー分野でもテスラの存在感が高まっている。昨年は太陽光パネルメーカーのソーラーシティを買収。EVと太陽光、蓄電池のセット売りで攻勢をかける。太陽光や蓄電池は環境意識の高いユーザーが多い点でEVに近い商品だ。EVの本格普及後に、充電の時間帯が集中し電力不足を引き起こすリスクも蓄電池があれば緩和できる。3つの商品をEVの販売店で直販するのもテスラの特徴。機器の設置工事はソーラーシティの社員が担当する。無駄なコストを徹底して省き、蓄電池の価格を米国の競合品と比べ半分以下に抑えた。デザインにこだわった太陽光パネルは投資回収に約10年かかる価格設定ながら、予約が殺到し今注文しても納入は来年以降という。一方、日本市場は個人の需要がけん引する米国とまったく違う景色になっている。その原因が2012年に始まった太陽光による電力を一定価格で買い取る制度。高い価格が設定され、売電目当てのメガソーラーが急増した。パネルの市場は急拡大したが、一般家庭や工場、ビルの自家消費向けの需要の開拓が遅れるゆがみが生じた。その後、制度への批判が高まり買い取り価格が下落。発電所の設置基準も厳しくなり、市場は一気に冷え込んだ。16年は米国や中国、欧州など世界の主要国が軒並み成長するなか日本だけが前年割れ。太陽光発電協会の増川武昭事務局長は「20年ぐらいまで下降トレンドは続く」と話す。世界を追いかけるには政策頼みでない地道な需要の開拓が欠かせない。見本市では三菱電機が自家消費用にEVの蓄電池を使うシステムを提案。京セラは太陽光で発電した電気の需給を効率的に調整するシステムを展示した。テスラが運営する日本の店舗は東京、大阪など6カ所のみ。蓄電池や太陽光の販売を広げるにはまだ手薄な体制だ。しかしテスラが本気で開拓に乗り出せば市場の再生にも弾みが付く。そのためにも買い取り制度に依存しない市場環境の構築を急ぐ必要がある。 *7-6:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ07HHP_X00C17A7000000/?n_cid=NMAIL002 (日経新聞 2017/7/7)フランス、EV社会へ大転換 ガソリン車禁止の余波 フランス政府が6日、2040年までに国内のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を明らかにした。自国に世界大手のメーカーを抱える国が、ガソリン車禁止を明確に打ち出したのは初めて。実はフランスに似た動きは欧州やアジアでも相次ぐ。同日には40年時点で全世界の新車販売に占める電気自動車(EV)比率が5割を超えるとの予測も出た。電動化の流れが一段と加速する。 ■G20直前、マクロン流のエコアピール 仏のユロ・エコロジー相が6日に記者会見し、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の目標達成に向けた、二酸化炭素(CO2)排出削減の計画を発表した。柱の一つが、40年までのガソリン車など走行時にCO2を排出する車の販売禁止。さらに22年までに予定する石炭火力発電所の停止なども着実に進め、50年までに国全体のCO2排出量を差し引きゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すという。7日からはドイツで20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれる。マクロン仏大統領は就任以降、パリ協定からの離脱表明や保護主義的な主張を続けるトランプ米大統領に対抗し、メディアを意識し情報発信をしてきた。トランプ氏も参加するG20を前にした、「マクロン流」の広報戦略の一環とみるのが自然だ。産業界への影響は大きい。フランスはルノーとグループPSAの二大メーカーが本社を置き、トヨタ自動車や独ダイムラーも工場を構える。16年の乗用車販売台数は約200万台と、ドイツ、英国に次ぐ欧州第3の規模だ。仏自動車工業会(CCFA)によると、自動車産業に従事するのは約20万人、関連産業も含めると約230万人に達する。フランスは欧州ではEV普及に熱心なことで知られるが、限界がある。17年上半期の新車販売ではガソリン車・ディーゼル車が95.2%を占めた。ハイブリッド車(HV)は3.5%、EVは1.2%にとどまるのが実情だ。ルノーのEV「ゾエ」は欧州市場のEV販売ランキングで常に上位に位置する。だが、市場全体に占める存在感は小さく、収益貢献もまだ先だ。ユロ氏も、国内自動車メーカーなどへの影響は「厳しい」と認めた。同時に、国内メーカーは他社に先駆け変革をすることができると期待を示した。仏政府はルノーとPSAの大株主で、官民連携で戦略転換を進めやすい面はある。 ■各国に広がるガソリン車販売禁止 欧州ではCO2排出抑制と、都市部の大気汚染対策の両面からディーゼル車などへの逆風は強まる。オランダやノルウェーでは、25年までにガソリンやディーゼルを燃料にする内燃機関の車の販売を禁止する動きがある。ドイツも同様のうねりがある。連邦参議院(上院)は昨秋、30年までにガソリン車などの車の販売を禁止する決議を採択した。連邦議会(下院)で法案が成立したわけではなく、ドブリント運輸相も決議を「非現実的」と評した。決議に拘束力はないが、欧州最大の自動車大国でさえこうした議論が公にされるのが現実だ。アジアにもこの波は及ぶ。代表がドイツを抜き世界4位の自動車市場になったインド。ゴヤル電力・石炭・再生可能エネルギー相は4月、「30年までに販売する車をすべてEVにする」と野心的な計画を表明した。EVに一気にシフトして自国産業を育成しようという狙いで、中国でも似た政策が打ち出されている。メーカー側の動きも急だ。米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は2日、初の量販EV「モデル3」の納車を今月末から始めると表明。ボルボ・カー(スウェーデン)は5日、19年以降に販売するすべての車をEVかHVにすると発表した。すでにルノーは充電1回の航続距離を400キロメートル(欧州基準)に伸ばしたEVを発売。18年には独フォルクスワーゲン(VW)傘下の独アウディと独ポルシェが500キロメートルを走れるEVを投入する予定だ。 ■「20年代後半、ガソリン車より安く」 調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)は6日、40年時点の世界の乗用車販売に占めるEV比率は54%に達するとの見通しを発表した。従来予想の35%から大幅な上方修正だ。新たな予測では20年時点のEVは全体の3%、25年では8%。その間に電池価格の下落と容量の増加が進み、「25~29年までにはEVの販売価格が内燃機関の車より安くなる」とみる。5月にはスイス金融大手UBSが、欧州では18年時点でEVを購入した場合のトータルコストが、ガソリン車と対等になるとのリポートを出し、業界で話題を呼んだ。ただ、これはEVを最後まで乗っての計算。BNEFの予測では、20年代後半にEVを店頭で買う時点から競争力を持ち、普及のハードルが一段と低くなる。BNEFは市場別の40年の新車販売のEV比率も公表し、欧州が約67%、米国58%、中国51%の見通し。「早くEV採用を進めた国は40年にはリーダーになる」と指摘し、具体的にノルウェー、フランス、英国の名前を挙げた。40年には世界の路上を走る車の33%がEVになるという。同社シニアアナリストのサリム・モーシー氏は「EVは確実に力強く成長するが、世界規模でさらに多くの充電インフラ投資が必要になる」と指摘する。EV充電の用途もにらんだ、再生可能エネルギーなど分散型電源の整備など関連投資の動きも活発になりそうだ。 <人口減少時代の労働力―農業の事例から> PS(2017年7月10日追加):*8のように、農業分野の労働力不足を解決するために、沖縄県は国家戦略特区制度に基づき人材派遣業者と雇用契約を結んだ外国人労働者の受け入れを検討しているそうだが、これは沖縄県や農業だけの問題ではないため、日本全国で解禁すべきだろう。そうすれば、外国人労働者も日本人労働者と同様の柔軟な労働条件で働くことが可能となり、農林漁業の人手不足を緩和して生産拡大に繋げることができる。また、労働にも難しさのさまざまなレベルがあるため、雇用対象となる外国人は、その仕事ができる人を派遣してもらえばよく、技能実習制度で2年以上現場実習したことを要件にする必要はないと思われる。 *8:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-531175.html (琉球新報 2017年7月9日) 経済:農業に外国人就労、県が検討 人手不足解消図る 国家戦略特区活用 沖縄県内農業分野で労働力不足が課題となっていることを受け、県が国家戦略特区制度に基づいて外国人労働者の受け入れを検討していることが8日までに分かった。農業を学ぶ技能実習生として外国人を受け入れる従来の制度に比べて作業内容に制限がなく、農閑期には一時帰国もできる。植え付けや収穫期など人手が必要な時期に限った雇用が可能となり、農家の負担軽減や農業生産の拡大につながることが期待される。外国人労働者の農業就労を認める制度は、6月に国家戦略特区法が改正されて導入が決まった。作物は指定せず、繁忙期のキクやサトウキビを想定する。外国人労働者は「特定機関」の認定を受けた人材派遣業者と雇用契約を結び、高齢化や大規模化により労働力を必要とする農家に派遣される。農家が直接雇用していた「技能実習生」制度と比べ、複数の農家で働くことが可能になる。できる農作業の制限がなくなるほか、農作物の加工、販売もできるようになる。雇用対象となる外国人は、技能実習制度で2年以上現場で実習した「技能実習2号」の修了者らを対象にする見通しで、即戦力として働くことが期待される。沖縄は2014年に国家戦略特区に指定されており、観光分野や区域限定保育士事業など4件で活用している。農業分野で労働者を受け入れるには、新たに区域計画案を策定して国に申請する必要がある。現在、国は9月末までの改正法施行を目指し、細かな受け入れ条件を定めた政令や指針を定めている最中だ。県民の雇用に影響が出ることや、外国人が失踪するなどの事態も考えられる。農水部は労働政策を所管する商工労働部や、県警とも協議を進めていく考えだ。県農林水産部の島尻勝広部長は「外国人の就労解禁は関係機関からも要望が寄せられている。関係機関と連携を取って有効に活用したい」と語った。 <先が見えない日本のリーダー> PS(2017年7月11日追加):東芝がウェスティングハウス(WH)の買収で大きな損害を受けたにもかかわらず、今度は三菱重工が経営不振に陥った原子炉製造会社「アレバNP」の買収に15%出資し、出資比率を最大で19.5%に上げるそうだ。ここまでくると、日本企業(特に重電会社)の経営者は先が見えず、ハイリスク・ローリターンの事業に大金を出し、経営方針に社会貢献や安全運転という哲学がなく、大損ばかりして地球上から消えていくため、困ったものである。 *9:http://qbiz.jp/article/113980/1/ (西日本新聞 2017年7月11日) 三菱重、最大19・5%出資 仏原子炉製造会社 フランス電力は10日、同国の原子炉製造会社「アレバNP」の買収に三菱重工業と地元のエンジニア大手アシステムが参加すると発表した。三菱重工は15%出資し、出資比率は最大19・5%に上がる可能性があると説明した。アレバNPはフランス原子力大手アレバの子会社。アレバが経営不振に陥ったため、フランス電力が救済する。アシステムは5%を出資する。フランス電力は昨年11月、アレバNPの全株取得額は25億ユーロ(約3250億円)となり、51〜75%を出資すると公表していた。一連の出資手続きは年内に終えることを目指す。買収後の社名は「ニューNP」となる。 <新しい技術の障害を突破できない日本企業> PS(2017年7月13日追加):燃料電池車は水素を燃料とするため、①走行時に水しか出ず、排気ガスによる公害がない ②再生可能エネルギーで水を電気分解すれば、エネルギーの100%自給が日本でも可能である のに、輸入した化石燃料から水素を作ろうなどと考えること自体、意味が分かっておらず、化石燃料から水素を作る技術開発への人材の投入や費用は無駄だったのだ。そして、これは、試行錯誤などしなくても、ちょっと考えればわかることである。 また、いつまでも水素の製造費や運搬費が高いなどと言い続けて改善策を思いつかないのも努力と工夫が足りず、水を電気分解して水素を作れば酸素もできて販売可能なため、今後、燃料電池車が増えて混雑した道路が低酸素状態になることも考えられるので、車内の酸素濃度を一定に保つためや療養中の患者などのために、副産物の酸素も売ればよいだろう。 なお、今日の日経新聞社説記事には「電気自動車を普及させるためには原発が必要だ」などと書かれていたが、化石燃料よりも公害の大きな原発を使って水素燃料や電気を作ると言うのは、環境への配慮に欠けすぎており、安全不感症の領域だ。 *10:http://qbiz.jp/article/114143/1/ (西日本新聞 2017年7月12日) 風力発電使い水素燃料を製造 トヨタや神奈川県が新設備 トヨタ自動車や神奈川県などは12日、風力発電と水を使って二酸化炭素(CO2)を出さずに水素燃料を製造する新たな設備を、横浜市で報道陣に公開した。2015年度に水素活用の可能性を探る実証プロジェクトを始めており、13日から新設備を本格的に運用する。実証プロジェクトは環境省からの委託で、期間は18年度までの4年間。事業費は計約20億円という。これまで水素の利用によるコストやCO2削減効果を燃料電池車のフォークリフト2台で検証してきた。今後は新施設から水素を供給し、横浜市と川崎市の工場などで計12台を稼働させる。燃料電池車は走行時に水しか出ないが、現在は化石燃料から水素を作るのが主流で、製造時にCO2の排出を伴うことが課題となっている。今回、横浜市の臨海部にある風力発電所内に新設した設備では、風力で得た電気で水を電気分解して水素を製造し、CO2は排出しないという。神奈川県などは従来のガソリンや電気で動くフォークリフトでの作業と比べ、80%以上のCO2を削減できると試算している。横浜市内で記者会見したトヨタの友山茂樹専務役員は、水素の製造や運搬の費用が高いことも課題だとして「どこまで価格を下げられるか検証したい」と説明した。 <エネルギー大転換に対する日本のリーダーの対応> PS(2017.8.7追加):日経新聞は、*11-1のように、①英仏政府が2040年までにガソリン車の国内販売を禁じる方針を決め、EVや再生可能エネルギーのコスト低減が石油の大量消費を前提とする産業構造を変えようとしている ②「液化天然ガス(LNG)はずっと続くと信じてやっている」と三菱商事のエネルギー部門の幹部は気色ばんだ ③石油のピークはいつか ④国家運営を石油収入に頼る産油国は小さな可能性も見過ごせない、サウジアラビアが大胆な改革を進める背景には石油の需要ピークへの備えがあるのではないか 等と記載している。 しかし、①については、エネルギーにおける脱石油で最も恩恵を受けるのは日本で、それを最初に提案したのは私であるにもかかわらず、英仏政府の決断によって初めて日本でも変革が起ころうとしているのが日本の情けない点であり、これは各界リーダーの知的レベルの低さに由来するため、教育の問題である。 また、②③については、商社には文系の優秀な人が多く就職したにもかかわらず、どこよりも高い値段でエネルギーとして原油を購入し、すべての産業の足をひっぱってきたという点で情けなさすぎる。そして、エネルギーは、優秀な役所と言われている経産省の管轄なのだ。私は、原油は最も付加価値の低い使い方であるエネルギーとしてではなく、化学製品を作るために使えばよいため、不要になるわけではないと考える。そこで、④のサウジアラビアは、石油製品を作って輸出するように産業構造を変革すればよいし、原油産出の少ない日本は、天然ガスを使って化学製品を作る方向にシフトすればよいのである。 なお、改造内閣で沖縄・北方担当大臣になった江崎衆議院議員は、*11-2のように、「北方領土問題について素人なので、答弁書を朗読させていただく」などと述べ、それが謙虚な態度のつもりだったのだそうだが、「謙虚」というのは知っていて威張らないことであり、知らなければ大臣(リーダー)は務まらない。しかし、長く衆議院議員をやっていながら、そのくらいの知識や問題意識もなかったのだろうか。何故なら、知らなければ仕事はできず、理念もなく役人の原稿を読むだけでは国民主権の国の大臣を勤める能力は認められないからで、知らない人を大臣にすることこそ任命責任に反するからである。 *11-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170807&ng=DGKKZO19712870W7A800C1TJC000 (日経新聞 2017.8.7) 経営の視点EV革命と石油の終わり 事業の寿命、自問続けよ 英仏政府が2040年までにガソリン車の国内販売を禁じる方針を決めた。トヨタ自動車とマツダは電気自動車(EV)の共同開発を視野に資本提携で合意した。EVの台頭や、再生可能エネルギーの急速なコスト低減が、石油の大量消費を前提とする20世紀型の社会・産業構造を変えようとしている。「液化天然ガス(LNG)はいつまで必要か」。「ずっと続くと信じてやっている」。三菱商事の垣内威彦社長の問いに、エネルギー部門の幹部は気色ばんだ。同社の16年3月期決算は資源安の影響を受け、初の連結最終赤字に沈んでいた。同年4月に就任した垣内社長がまず手をつけたのは150に及ぶ事業単位の「仕分け」だった。それぞれの事業を5段階に分類し、ピークアウトしたと判断した事業は撤退も考える。三菱商事はLNGビジネスのパイオニアだ。1969年に投資を決めたブルネイLNGプロジェクトは「失敗すれば三菱商事が3つつぶれる」と言われた。この決断が花開き、原料炭などとともに三菱商事を支える主力事業に育った。だが、「どんな事業、どんなビジネスモデルにも寿命がある」と、垣内社長は言う。過去に安住して未来はない。ピークアウトに向き合い、どう乗り越えるのか。問われているのは変化への対応力だ。中核事業だからこそ自問を迫った。燃料転換にとどまらず、人工知能(AI)やIoT、シェアエコノミーなど、自動車を起点とする革命は全産業に広がる可能性がある。誰が主導権を握るのか。垣内社長は「見極めるためにも自動車ビジネスに関与し続ける」と話す。石油のピークはいつか。ここ数年、関心を集めるテーマだ。「地球上には経済成長を支えるだけの石油がない」とするかつての議論ではない。温暖化対策や、自動車・発電の燃料転換によって石油消費は遠からず減少に転じ、石油が余る時代が来るとの見方だ。「石油の終わり」と決めつけるのは早計だ。英メジャー(国際石油資本)、BPのチーフエコノミスト、スペンサー・デール氏は「現在、200万台のEVが35年に1億台に増えても、失われる石油需要は日量300万~400万バレル。1億バレル前後の需要全体でみれば小さい」と指摘する。EVの実力を見極めるにはもう少し時間が必要だろう。ただし、国家運営を石油収入に頼る産油国は小さな可能性も見過ごせない。国際エネルギー機関(IEA)の事務局長を務めた田中伸男・笹川平和財団会長は、「国営石油会社の新規株式公開(IPO)など、サウジアラビアが大胆な改革を進める背景には石油の需要ピークへの備えがあるのではないか」と見る。仏トタルの生産量は10年前、石油が7割、天然ガスが3割だったが、今は5対5。パトリック・プヤンネ最高経営責任者(CEO)は「35~40年にはガス比率がさらに上がり、再生可能エネルギーが全体の2割を占めるだろう」と語る。メジャーとはもはや、巨大石油企業の代名詞ではない。エネルギー大転換のうねりは速度を上げ、国家と企業に変身を迫る。 *11-2:https://mainichi.jp/articles/20170807/k00/00e/010/212000c (毎日新聞 2017年8月7日) 江崎沖縄・北方相:朗読発言で陳謝 野党「辞任を」 江崎鉄磨沖縄・北方担当相は7日午前、北方領土問題に関し「答弁書を朗読させていただく」と述べたことについて「不用意な発言で、軽率だった」と陳謝した。内閣府で記者団に語った。野党からは辞任を求める声が出ているが、江崎氏は「やります、必ず」と辞任を否定した。発言の真意について江崎氏は「(答弁書の)原稿にしっかり目を通し、チェックして、自分なりに加えるところは加え、省くところは省きながら参考にするということだ」と釈明した。「(国会)軽視なんて一切していない」とも述べた。菅義偉官房長官から6日に電話で「十分に気をつけるように」と注意を受けたという。北方領土問題について「素人」と述べたことに関しては「今まで実際携わっていなかった。北方領土問題は外相、日露の経済協力は経済産業相だから、あのような表現になった」と説明した。民進党の山井和則国対委員長は7日午前、「役所の書いた原稿を朗読するだけなら閣僚は必要ない。北方領土問題に取り組む方々にも極めて失礼だ」と記者団に語り、江崎氏を批判。安倍晋三首相が「仕事人内閣」と名付けたことを挙げ、「どう考えても江崎氏が仕事をしそうには思えない。看板に偽りありだ」と江崎氏の交代を求めた。
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2017,02,04, Saturday
2017.1.28 外国人労働者と雇用事業所数推移 2016年外国人労働者数 外国人労働者賛否 東京新聞 2017.1.28西日本新聞 2016.2.4朝日新聞 (図の説明:日本で働く“外国人労働者”は次第に増え、日本全国では2016年10月末で108万3,769人となったが、総人口(1億2,698万人)に占める割合は0.85%にすぎない。そのうち九州は59,053人で日本全体の5.4%だ。また、“外国人労働者”と呼ばれている人のうち、技能実習生や留学生のアルバイトは本来の労働者ではない上、経済連携協定による受入者も3年で帰国を求められる人が多いため、労働者としてあまりあてにならない。なお、我が国は、専門的・技術的分野の外国人労働者は積極的に受け入れているが数が少なく、永住者・定住者には戦前から日本に住んでいる人も入っている。なお、外国人労働者の受け入れには、全体では過半数の人が賛成だが、40代男性のみ反対の方が多い) *1-5、2017.2.4佐賀新聞より 労働力人口推移 女性の就労が進む場合と進まない場合 (図の説明:日本の労働力人口は、女性や高齢者の就労が進んでも減少するが、進まなければ急速に減少する。そのため、外国人労働者の受入は合理的な選択となっており、外国人労働者なしでは考えられない職種や地域もあるため、受入地域は外国人と生活者として共生する準備が必要だ) (1)日本における外国人労働者と難民の受け入れについて 1)外国人労働者と難民の受け入れについて 厚労省の調査で、*1-1のように、日本で働く外国人労働者が2016年10月末時点で108万3,769人になったことが分かり、厚労省は、①政府が単純労働に従事する技能実習生の受け入れを拡大し ②留学生の就職支援を強化し ③高度技術を持つ人材の受け入れが増えたことが要因だとしている。 しかし、一番上の左図の専門的・技術的職種、永住者・定住者、看護師・介護士など特定の職種の人のみが外国人労働者であり、技能実習生・留学生は正確には技術や知識を学びに日本に来た人で労働が目的で来た人ではないため、世界標準では外国人労働者と認められないだろう。 また、特定の職種の外国人労働者も、*1-2のように、労働基準法などを順守せず過酷な労働を強い、日本人と比較して給与水準が低く設定されて、合理的理由なき差別のある職場も多いのは問題だ。 さらに、難民については、*1-3のように、日本政府は今年から5年間でシリア難民の留学生とその家族を計300人を受け入れるそうだが、規模が小さすぎて殆どの人が救われず、シリアで約480万人が難民として周辺国に逃れている中で、欧米諸国の①米国60,964人 ②カナダ48,089人 ③ドイツ43,708人 ④英国20,000人 ⑤フランス16,497人 ⑥ブラジル11,450人 ⑦ノルウェー9,000人 ⑧スイス6,700人 と比較して、受け入れ人数があまりにも少ないと言わざるを得ない。 2)イスラム教徒の受け入れについて それでは、大量のイスラム教徒を受け入れた場合についてだが、日本では「信教の自由」を根拠に学校など公共の場での女性のベールを禁止したり、浜辺でのブルキニ着用を禁止したりすることを批判する声が強いが、これは、実状を知らない日本人の甘さだ。 何故なら、その傍にいるイスラム教徒の男性は、ベールをかぶっていない女性や浜辺で通常の水着を着ている女性や教育を受けて社会で自由に活躍している女性について、それが異教徒であってもひっかかるものがあるため、近くにいる日本女性の行動も制限されることになるからだ。例えば、私は、20年くらい前、ODAでキルギスタンに行った時、「日本人女性がODAで来ていることが知れ渡って、街のイスラム教徒の男性がつけまわしていて護りきれないから、早く仕事を終わって日本に帰って」と、同じチームの男性チーフに言われて、ショックを受けたことがある(ちなみに、同じチームに親切なイスラム教徒の男性もいて、一緒に市場を見に行き、説明を聞いて、よい見聞もできたことを付け加えておく)。 また、多くのイスラム教徒の移民を受け入れているフランスでは、*1-4のように、沿海のリゾートでブルキニ着用を禁止した自治体の数が約30に上り、サルコジ前大統領を先頭に右派勢力はブルキニ着用を全国で禁止する措置の法制化を強く求めており、一方、ベルナール・カズヌーブ内相は地元紙のインタビューで「ブルキニの着用を法律で禁止するのは憲法違反だ」と指摘しつつ、「イスラム教徒側にも、引き続き私たちと共に男女平等、共和国の不可侵の原則、寛容さに関わっていってもらいたい」と注文していることから、現在の状況が伺える。そのため、私は、イスラム教も、もう中世型を脱して21世紀型に変化すべき時だと考える。 そこで、日本がイスラム教徒の難民を国内に受け入れるにあたっては、日本国憲法で男女平等や教育の権利・義務、勤労の権利・義務などの必要事項が定められており、民法で重婚の禁止が定められており、男女共同参画基本法や男女雇用機会均等法・女性活躍推進法もあるため、「日本国内では日本の法律に従う」という誓約書への署名を最低の受入要件とし、その意味をしっかり説明しておく必要がある。 3)外国人労働者や難民の受け入れについて 佐賀県基山町長野地区の住民は、*1-5のように、外国人に自転車や地域で暮らすためのマナーを身につけてもらおうと、英語、ネパール語、中国語、ベトナム語、日本語の5カ国語で解説し、親しみやすいイラストを添えて小冊子を作ったそうだ。これは、日本人も勉強した方がよさそうだが、今後は、外国人労働者を雇う企業が増え、外国人労働者を受け入れた方が地域も活性化するため、重要な一歩だろう。 また、過疎地や国境離島ではない離島で、既にある学校や空き家などのインフラを使い、まとまった数の外国人労働者や難民を、まずは農林漁業や中小企業の被用者として受け入れることも考えられる。 (2)女性・高齢者の雇用について 1)高齢者の定義と定年制について *2-1のように、老年学会が高齢者は「65歳以上」ではなく「75歳以上」としたため、高齢者の定義、定年年齢・年金支給開始年齢の妥当性について議論が始まった。確かに、日本人の平均寿命が延び、2015年は女性87.05歳、男性80.79歳になったため、75歳くらいまで働ける高齢者は多いだろう。 そのため、定年制を廃止して働きたい人は働く方式にするのが理想だろうと私も考える。しかし、その際には、望む仕事が得られるかどうか、教育は人生の前半だけでなく途中での追加も必要なのではないかということが問題になる。 2)労働参加率上昇の必要性 九州経済調査協会は、*2-2のように、急速な人口減少で企業の人材確保が難しくなっており、今後はさらに争奪戦が激しくなるため、女性や高齢者など多様な人材の活用に加え、限られた要員で稼ぐ力を高めることが必要だとしており、尤もだ。 しかし、女性は賃金よりも職種や勤務時間、休日などを重視しているとして、①短時間勤務 ②地域限定正社員 ③再雇用 ④IT技術を活用した「テレワーク」の導入 などを提言しているのは、「正社員での採用」や「男性との同一労働同一賃金」の仕事が自由に選択できた上での話だろう。「女性=短時間勤務、自宅でのテレワーク、再雇用を希望する」と位置づけるのは、家事と仕事の両方を女性が行うことを女性も望んでいるという前提の男性の発想であり、30~50年古いと言わざるを得ない。 (3)日本における明確な女性差別 私も驚いたが、*3-1のように、埼玉県川越市のゴルフ場が女性の正会員を認めていなかったのだそうだ。これは、女性に、ゴルフをするような仕事上の場面を想定していないということだろうが、私から見ると、「はあ?何を時代錯誤してんの!」と言いたくなる状況だ。ちなみに、関東には、公立高校も男女別学の地域が多く、これは高校から男女で別の教育をしているということで、埼玉県もその一つだ。 そして、それを批判した小池百合子東京都知事に対し、丸川珠代五輪相は電話で真意を聞いたそうだが、真意を聞くということは、何か他に真意があることを想定していたのだろうか? 小池東京都知事が「言葉通りです。せっかくスカートをはいておられる五輪相もいるのだから、もっと明確に言うべきではないか」と言われたのは、全く同感だ。 なお、*3-2のように、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案に、婚姻適齢を男女とも「18歳以上」に統一する規定が盛り込まれていることが分かったと、佐賀新聞が「置き去りだった差別」として記載している。先進国では男女同一が普通であるのに、日本では女性の方が心身の発達が早い(そして発達が速く止まる)などとしているのは非科学的であり、男女平等後進国のなせるわざだ。 <外国人労働者と難民の受入状況> *1-1:http://qbiz.jp/article/102594/1/ (西日本新聞 2017年1月28日) 外国人労働者100万人突破 全都道府県 前年上回る 日本で働く外国人労働者が初めて100万人を突破し、2016年10月末時点で前年比19・4%増の108万3769人になったことが27日、厚生労働省の調査で分かった。08年の集計開始以来最大の増加率で、全都道府県で前年を上回った。政府が事実上、単純労働に従事する技能実習生の受け入れを拡大してきたことなどが背景にあり、国民的議論がないまま外国人労働者受け入れが進んでいる。厚労省は留学生の就職支援強化や、高度な技術を持つ人材の受け入れが増えたことが要因としているが、働き先は製造業が31・2%、卸売・小売業が12・9%で、人手不足感の強い業種を中心に、外国人労働者が増えている。全国の労働者の2%程度を占め、雇用する事業所数も最多の17万2798カ所に達した。在留資格別でみると、高度で専門的な知識のある人材が20・1%増の20万994人なのに対し、日本の技術を学ぶ技能実習が25・4%増の21万1108人、留学生が25・0%増の20万9657人となっている。国籍別での最多は中国の34万4658人で、前年比6・9%増。ベトナムが56・4%増の17万2018人、フィリピンが12万7518人で続いた。増加率では、ネパールも35・1%と大幅に伸びた。都道府県別では、東京が最多の33万3141人で、2番目に多い愛知の11万765人と合わせ2都県で全体の4割が集中。九州では福岡が全国で8番目に多い3万1541人で、留学生アルバイトの比率は全国最多の42・7%だった。政府は介護現場での技能実習生受け入れの解禁を既に決め、今国会では国家戦略特区を活用して農業分野で外国人が働けるよう法改正する方針で、今後も受け入れを拡大する。 *外国人の就労 外国人が日本で働くためには在留資格が必要で、大きく分けて(1)永住者や日本人の配偶者ら、日本人と同じように就く仕事に制限がないグループ(2)外交官や医師、外国料理の調理師らそれぞれ定められた範囲、職種で就労が認められるグループ−がある。技能実習生や経済連携協定(EPA)に基づく看護師などは(2)のグループで、昨年の入管難民法改正で新たに介護分野も加わった。 *1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017020301001792.html (東京新聞 2017年2月3日) 比女性らと介護施設が和解、大阪 過酷労働を陳謝 大阪府東大阪市の介護施設「寿寿」に勤めていたフィリピンから来日した男女ら10人が、厳しい条件で勤務を強いられたなどとして、未払いの賃金や慰謝料などを求めた訴訟が3日、大阪地裁(菊井一夫裁判長)で和解した。和解は、施設側が労働基準法などを順守せず、過酷な労働を強いたことを陳謝し、総額計約1千万円の解決金を支払う内容。訴状などによると、10人はいずれもフィリピンから来日した20~50代の男女。日本人の職員に比べ給与水準が低く、差別的な待遇だったとし、それぞれの未払い賃金のほか、残業代など計約4100万円を請求していた。 *1-3:http://digital.asahi.com/articles/ASK225HLZK22UTFK00R.html?iref=comtop_list_int_n03 (朝日新聞 2017年2月3日) シリア難民、300人規模で受け入れへ 政府、定住に道 日本政府が今年から5年間で、シリア難民の留学生とその家族を計300人規模で受け入れる見通しになった。留学生は配偶者と子供を帯同でき、家族にも生活手当が支給される。留学終了後は必ずしも帰国する必要がなく、事実上家族とともに定住する道を開くことになる。特定国のまとまった難民受け入れ策としては、1970年代後半から2005年までに1万人を超えたインドシナ難民、10年から計123人が来日しているミャンマー難民以来となる。国際協力機構(JICA)の技術協力制度を活用し、年20人の留学生を受け入れる。対象はレバノンとヨルダンに逃れたシリア人難民。JICAはシリアの一般家庭の家族構成を踏まえ、5年の受け入れ数は300人規模になると試算。今年夏、最初の20人と家族が来日する予定だ。日本政府は昨年5月、JICA枠と文部科学省の国費外国人留学制度枠(年10人)を使い、5年間で150人のシリア難民を受け入れると表明。主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の議長国として難民問題に前向きに取り組む姿勢をアピールする狙いで、留学生の募集や留学先の選定を進めてきた。JICA枠は、留学終了後の帰国を義務づけないうえ、留学中は本人に月約14万円、配偶者に月1万3千円、子供1人当たり月6500円を支給するのが特徴。日本での就職も後押しし、事実上定住を容認する内容だ。JICAは「あくまでも帰国して復興を担う人材の育成が目的だが、(内戦状態の)シリア情勢を考えると卒業後すぐに帰国しなさいとはならない」(担当者)と説明する。日本は欧米各国に比べて難民受け入れに後ろ向きで、15年に難民認定されたのは27人。一方で、混乱が長期化しているシリアでは約480万人が周辺国などに逃れているとみられ、欧米諸国は数年前から、外国に逃れた人を別の国が受け入れる「第三国定住」制度で多くのシリア難民を受け入れてきた。この制度は日本にもあり、これまでミャンマー難民を受け入れてきた。シリア難民については、政府内に「第三国定住制度で受け入れるほど、国内の世論が熟していない」との意見があり、JICAの既存制度を活用することにしたという。移民大国の米国ではトランプ政権が誕生し、難民受け入れの規制に転換。欧州でも反移民を掲げる右派勢力が台頭している。世界の難民政策が曲がり角を迎える中、日本はミャンマー難民の2倍以上のシリア難民を受け入れることになる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のダーク・ヘベカー駐日代表は「日本はまだ、永住を前提としたシリア人の定住を受け入れる準備ができていない。一方で、何かしなければならないことをよく分かっている。留学生としての受け入れは『妥協案』なのだろう」と指摘する。難民問題に詳しい筑波大の明石純一・准教授は「定住も意識しており、中東の難民問題へのアプローチとしては画期的。ただ人数が圧倒的に少ない。保護を必要とする世界の難民全体のうち微々たる数に過ぎない。今回の仕組みをパイロット事業と位置づけ、受け入れ人数を広げていってほしい」と話している。(機動特派員・織田一) ◇ ■主要国のこれまでのシリア人難民受け入れ ※表明分含む 国名 人数 ①米国 60964 ②カナダ 48089 ③ドイツ 43706 ④英国 20000 ⑤フランス 16497 ⑥ブラジル 11450 ⑦ノルウェー 9000 ⑧スイス 6700 ----------------------------------------------------------------- 日本 300規模 ※日本はJICA枠での今後の受け入れ見通し。 そのほかは、昨年末時点の国連難民高等弁務官事務所調べ。 *1-4:http://www.afpbb.com/articles/-/3098942?utm_source=yahoo&utm_medium=news(朝日新聞2016年8月29日)ブルキニ禁止法は「違憲」 仏内相 、取り返しつかない結果に警鐘 フランスのベルナール・カズヌーブ(Bernard Cazeneuve)内相は28日に掲載された地元紙のインタビューで、同国でイスラム教徒の女性向けの全身を覆う水着「ブルキニ」の着用を法律で禁止するのは憲法違反だと指摘するとともに、こうした法律を制定すれば取り返しのつかない悪影響を及ぼす恐れがあると警鐘を鳴らした。日刊紙ラクロワ(La Croix)のインタビューに応じたカズヌーブ内相は、国内の一部自治体が導入して物議を醸しているブルキニ規制について、政府としては反対という立場を重ねて示した。この問題は女性の権利やフランスの厳格な世俗主義をめぐって、国内外で大きな論議を招いている。カズヌーブ内相は「政府が(ブルキニ禁止の)法制化を拒否しているのは、こうした法律が違憲かつ無効であり、対立や取り返しのつかない緊張を生む恐れがあるからだ」と説明。その上で「イスラム教徒側にも、引き続き私たちと共に男女平等や、共和国の不可侵の原則、寛容さに関わっていってもらいたい」と注文した。仏沿海のリゾートでブルキニ着用を禁止した自治体の数は約30に上っているが、フランスの行政裁判の最高裁にあたる国務院は26日、うち1つの自治体による禁止措置を凍結する判断を下した。この判断は他の自治体にも影響を及ぼす判例になるとみられている。一方、来年の次期大統領選に出馬を表明した二コラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)前大統領を先頭に、右派勢力はブルキニ着用を全国で禁止する措置の法制化を強く求めている。 *1-5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/402173 (佐賀新聞 2017年2月4日) 基山町長野地区住民ら、外国人向け冊子作成、相互理解へ活用 ■暮らしのルール5カ国語で解説 外国人に自転車や地域で暮らすためのマナーを身につけてもらおうと、基山町長野地区の住民らが小冊子を作った。交通標識などを英語、ネパール語、中国語、ベトナム語、日本語の5カ国語で解説し、親しみやすいイラストも添えた。舟木喜代美区長(67)は「声かけやあいさつと併せて活用し、融和を図っていきたい」と意気込む。長野地区には企業の工場などが多く立地している。近年は外国人労働者を雇う企業が多く、通勤のため地区内を自転車で通行する外国人の数が急増。道路上での並走や2人乗り、ごみのポイ捨て、深夜に大声で騒ぐなどの事例が相次いだため、地区として対策に乗り出した。冊子はA6判12ページのフルカラー。県国際課や県警などの協力を得て200部を作成し、ネーティブスピーカーに表現に間違いがないか確認してもらうなど念入りに準備した。自転車の乗り方では、「車道の左側を走る」「2人で乗らない」「携帯電話は使わない」などの基本マナーを紹介。「くらしのルール」編では、「地域の人に会ったらあいさつしよう」「ごみの投げ捨てはいけません」「住宅地は静かに通りましょう」などと呼び掛けている。1月末に街頭で通勤途中の外国人に冊子を配布したほか、企業3社に計80部を贈った。舟木区長は「異国の地で暮らすための、基本的なマナーを知らないままの人も多い。今後も外国の方は増えていくと思うので、啓発に向けて町全域で継続して取り組んでいきたい」と話す。 <女性・“高齢者”> *2-1:http://mainichi.jp/articles/20170201/dde/012/040/003000c (毎日新聞 2017年2月1日) 特集ワイド 「高齢者は75歳から」の是非 年齢の線引き、捨てよう 高齢者は「65歳以上」ではなく、「75歳以上」に--。こんな提言が今、話題を集めている。確かに最近の中高年は元気で、そう言われれば納得しそう。ただ、多くの人が見直しの動きを警戒しているのも事実だ。そこで経験豊かな有識者に聞いてみた。高齢者の定義変更をどう見ますか?しゃれたレストランを都心などで手掛ける会社の役員が打ち明けた。「困ってるんですよ。60代の優秀な料理人がどんどん定年になっちゃって……。このままでは経営が立ち行かない」。今の60代は現役とまったく変わらない。気力も体力も衰えず、高い技術は若い人に代えられないほどだ。でも会社にはルールがある。働き続けてほしいと願うが、臨時雇いになって給料が激減すれば辞めてしまう。この会社は定年後も待遇を変えず、人材をつなぎ留める方法を真剣に検討し始めた。日本人の平均寿命は延びている。厚生労働省によると、2015年で女性87・05歳、男性80・79歳。戦後間もない1947年は女性54歳、男性50歳だった。「人生50年」は過ぎ去り、今や「80年」の時代。それなのに、現状に合わない“高齢者像”が生き残り、さまざまな場でひずみをもたらしている。そんな中、日本老年学会などがこの1月、65歳以上の体の状態や知的機能は10~20年前と比べ5~10歳ほど若返っているとし、医療や介護などで「65歳以上」とされてきた高齢者の定義を「75歳以上」に見直すべきだと提言した。大きな狙いは65~74歳の積極的な社会参加を促すことだ。社会問題について積極的に発言しているライフネット生命保険の会長、出口治明さん(68)に提言の印象を尋ねると、「高齢者の体力などを考えたら、ごく自然なことでしょう。当たり前の話では」と笑う。そうはいっても、この線引き、なんとなく割り切れない思いを抱く人は少なくない。人気長寿番組「世界ふしぎ発見!」(TBS系)の司会などとして活躍するテレビキャスター、草野仁さん(72)は、まずこう問い掛ける。「『高齢者』とひとくくりにすることに無理があるのではないでしょうか」と。「人は年を取るほど、体力をはじめ、いろんな意味でバラつきが出てきます。一律に『高齢者』と決めつけることは好ましくありません」。生きてきた環境が異なるうえ、大病をしたり、しなかったりなど健康面の違いも生じ、高齢になるほど個人差は大きいとされる。若者と同じように精力的に外で動きたい人もいれば、「引退」してのんびり過ごしたい人などさまざまだ。それを一つにまとめることに違和感を覚える人は多い。今回の提言では、これまで「高齢者」と呼ばれてきた65~74歳を、高齢者の準備段階となる「准高齢者」と位置づけた。これには言葉のプロである草野さんは不満を隠さない。「75歳以上を『後期高齢者』と呼ぶこともありますが、『もうアウト』と言わんばかりの愛情のない表現です。『准高齢者』には、それと同じ冷たさを感じますね。私はそんなふうに呼ばれたくないなあ」。なぜわざわざ「准高齢者」とくくるのか。普通の「大人」でいいではないか。「高過ぎるわね、定義が75歳以上というのは」。はっきりとした口調で話すのは、エッセイストで青森大副学長の見城美枝子さん(71)だ。見城さんは、公的機関の委員や大学の同期会会長を務めるなど活動が幅広い。同世代との付き合いも多い中、体感として、こう感じるという。「女性なら70歳を楽々と越えていきますが、男性は少し違います。一握りの特別な人は別でも、70歳が一つの峠になっていると思うんです」。定義するにはもっときめ細かな配慮が必要だというのだ。見城さんのように、提言に対する慎重な見方は多いが、それは多くの人が直感的に、ある種の不安を感じるからといえよう。現在の社会保障制度の多くは65歳を基準としているからだ。「高齢者は75歳以上」という社会的な合意ができれば、年金の支給開始年齢の引き上げなど社会保障の見直しにつながる可能性もある。見城さんもこの可能性を否定せず、こう主張する。「社会保障制度などを見直すというなら、国はまず、『これまでの制度設計には誤りがありました』と謝罪すべきです。既存の制度は設計ミスで維持できないときちんと説明し、国民の納得を得た上で次に進まないといけません」。まるで暗雲が垂れこめるようにばかり言われる「超高齢社会」。若者が抱える閉塞(へいそく)感を打ち破るためにも、定義変更の提言をチャンスとし、日本が進むべき未来像をはっきり示すべきだと呼び掛ける。 ●定年制を廃止せよ そもそも、年齢を基準に物事を決めることは必要なのだろうか。草野さんは、日本のテレビ放送はニュースなどで人を紹介する場合、「何歳」と伝えるが、海外ではそういう例はほとんどない、と指摘。「日本人は相手に敬意を払うため、年齢に対し非常に細やかな神経を使います。それが逆に、何かに挑戦する時の阻害要因になってしまう」と述べ、こう強調する。「もう70歳だから遅すぎるとか、年齢を意識して前に進めない人がとても多いが、そんな意識は絶対必要ない。やれる範囲のことに一生懸命打ち込むことこそ、生きる充実感につながると私は思います」。年齢なんか気にしていたら、本当に生きているとは言えないというのだ。草野さん自身、同年代の人たちと競い、100歳以上も参加する「マスターズ陸上」に、75歳になったら挑戦しようと準備している。高齢者の定義変更自体に異論はないという出口さんに、社会保障制度について改めて聞いてみた。出口さんは「今の制度はゆがんでいる」とし、もはや年齢を基準にしてはいけないのだと主張する。「少子高齢化の本質というのは、年齢制限を設けない『年齢フリー』の原則に移らなければ、国はもたないということです。その選択肢以外に生きる道はないんだから」。超高齢社会の中、若者が多くの高齢者を支えるのは限界がきている。一定の年齢になれば全員に公的年金を支給する従来の形ではなく、生活にあえぐシングルマザーなど本当に困っている人に集中して給付するよう仕組みを変えなければいけない。だから、年齢に関係なく、お金がある人は相応の負担をし、幾つになっても働きたい人は働く。そのためには定年制を廃止するしかない--。それが出口さんの主張だ。 実際、出口さんが経営するライフネット生命に定年制はない。「定年は戦後日本の高度経済成長期に作られた慣習でしかない。社会の変化に応じた構造改革をやらないことが大きな問題ですよ」。年齢を重視し、「高齢者」とくくることに何の意味があるのか。高齢者の定義見直しについて考えていくと、根源的な疑問にたどりつく。 *2-2:http://qbiz.jp/article/102952/1/ (西日本新聞 2017年2月3日) 女性、高齢者の活用提言 九州経済白書「柔軟な人事制度を」 九州経済調査協会(福岡市)は2日、「人材枯渇時代を生き抜く地域戦略」と題する2017年版九州経済白書を発表した。急速な人口減少で企業の人材確保が難しくなっており、今後はさらに争奪戦が激しくなると予想。女性や高齢者など多様な人材の活用に加え、限られた要員で稼ぐ力を高めるためにも、人口増加に支えられてきた「これまでの成功体験から脱却」し、働き方の大転換を図る必要があると提言している。国勢調査によると、九州地域の生産年齢人口(15〜64歳)は2000年に比べ足元で1割以上も減少している。九経調が地場企業・団体を対象に実施したアンケート(有効回答数741)では、55・1%が人員について「不足」「やや不足」と回答。要因として「地域の人口減少」などを挙げる企業が多く、「人口減少や高齢化といった構造的要因で人材不足が顕在化してきた」ことが浮き彫りになった。アンケートで、人材不足解消への取り組みを聞いたところ、「正社員の採用拡大」や「給与の引き上げ」が上位に入った。だが、政府が経済成長を支える「最大の潜在力」と期待する女性は賃金よりも職種や勤務時間、休日などを重視しているとの調査もあり、白書は企業側との認識に「ずれ」があると訴えている。人材確保のためには、賃金の引き上げだけではなく、柔軟な人事制度が重要と指摘。先進事例を紹介しながら、短時間勤務▽地域限定正社員▽再雇用▽IT技術を活用し自宅でも仕事ができる「テレワーク」の導入−などを提言した。また、九州地域で機械化やICT(情報通信技術)の導入を検討している企業は少数であるとして、人材枯渇時代を見据え「ICTやロボット、人工知能(AI)といった新しい技術の導入にも積極的になるべきだ」としている。 <日本における明確な女性差別> *3-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017020301001360.html (東京新聞 2017年2月3日) 【政治】 丸川五輪相、都知事に真意問う ゴルフ会場巡る批判で 丸川珠代五輪相は3日の記者会見で、2020年東京五輪のゴルフ会場が女性正会員を認めていない問題を巡り、批判している小池百合子東京都知事に電話で真意を聞いたと明かした。「『言葉通りです』と直球が返ってきた。ありがたく承る」と述べた。小池氏は今月1日「せっかくスカートをはいておられる五輪相もいるのだから、もっと明確に言うべきではないか」と政府の対応に不満を示していた。会見で丸川氏は「(都庁のある)西新宿から永田町のグリーンに『ワンオン』をずばんと打たれた感じだ。私も飛距離を伸ばすよう頑張りたい」と競争心をちらつかせた。 *3-2:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/401877 (佐賀新聞 2017年2月3日) 結婚、女性も「18歳以上」 民法改正案、置き去りだった「差別」 成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案に、結婚できる年齢(婚姻適齢)を男女とも「18歳以上」に統一する規定が盛り込まれていることが2日、政府関係者への取材で分かった。終戦直後に定められた女性は「16歳以上」とする規定が見直される公算が大きくなった。法務省は「共謀罪」の構成要件を変えた「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の成立を優先し、民法改正案の今国会提出は見送る方針。現行民法は婚姻適齢を男性18歳以上、女性16歳以上と規定。さらに未成年者の場合は親の同意が必要となる。国際的には男女同一が一般的だが、日本では女性の方が心身の発達が早いなどの理由で低く設定されている。明治時代の民法施行時は男性17歳以上、女性15歳以上だった。しかし女性の高校進学率が飛躍的に伸び、16、17歳での結婚が減少したことなど社会的な背景が変わり、男性と区別する合理的な理由がないとの指摘が出ていた。さらに現行制度のまま成人年齢を18歳に引き下げた場合、女性だけ成人年齢と婚姻適齢が一致せず、親の同意が必要なケースが残ることになる。こうした観点から、今回の民法改正と同時に婚姻適齢を18歳に統一するのが適当と判断した。法案成立後、3年程度の周知期間を設ける方針。厚生労働省の人口動態調査によると、2015年に婚姻届を提出した女性約63万人のうち、16、17歳は1357人だった。婚姻適齢を巡っては、法制審議会(法相の諮問機関)が1996年に「男女とも18歳」とする民法改正案の要綱を答申したが、法改正に至っていない。法制審は、成人年齢の引き下げを議論した際の最終報告書でも同じ意見を表明している。国連の女性差別撤廃委員会は、日本の現行民法の婚姻適齢規定を「差別的」と批判している。 <働き方改革について> PS(2017年2月6日追加):働き方改革は、*4-1のように、残業時間の上限を「繁忙期100時間」「2カ月平均月80時間」「年間720時間」に抑えるように労働基準法を改正し、違反には罰則を科す方向となり、これに対し野党は反対しているが、私はこの程度でよいと思う。何故なら、民進党の大串さんもよく御存じのように、税理士の例では、個人所得税申告書の提出期限は3月15日に集中しており、繁忙期に合わせて従業員を増やせば閑散期に養いきれずに倒産することになり、このように季節変動のある職種は多いからである。そのため、電通の女性新入社員の自殺という特殊な事件を背景に、低い上限規制を導入して狭い範囲の“ワーク・ライフ・バランス”を国民に押し付けるのは、研究や仕事が趣味という人もおり、そのくらいでないと何かを成し遂げることはできないことも考えれば、事業主だけでなく、働く人をもHappyにしないだろう。なお、勤務の終了から始業までに10~11時間くらいを保障する「勤務間インターバル規制」はよいと思うが、インターバルとして必要な時間や子育てへの利便性は通勤時間によっても異なるため、往復2~4時間もの通勤時間を使わせるような職場と住居の配置は変えるべきである。 また、*4-2に、「先生の多忙が問題になっており、学校を働き方改革の例外にしてはならない」「日本の先生の勤務時間は参加34カ国、地域の中で最長」「精神疾患で病休をとる先生の数は、年間5千人台で高止まりしている」と書かれている。そして、忙しさの原因は、①書類作りや部活動 ②給食費の集金 ③保護者への対応など切りがない としているが、教育は学校に任せられる必要があるため、先生の仕事を吟味し、他の人が行っても支障がなかったり、よりよくできたりする仕事は他の人に任せ、先生しかできない教育をより充実して行うべきだと考える。例えば、部活動の指導はメダリストなどの専門家が行った方がよい指導ができる上、選手を引退した後の生活も保証される。また、給食費の集金は自動引き落としにすれば正確かつ確実であり、書類は最小限にして新人の先生を副担任として採点や教育に関する雑用をさせるなど、学校が組織として最小費用で最大効果を出すための改善も可能だ。 その上で、*4-3のようないじめに対しては、「忙しかったから対応しなかった」「担任教諭も名前に『菌』をつけて呼んだ」「担任は親しみを込めたと言っている」など、先生として正しい説明や教育をしていないようなあるまじきケースは、決して起こしてはならないのである。 *4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12776816.html (朝日新聞 2017年2月2日) 残業上限、線引きどこに 長時間労働是正、政府議論が本格化 安倍政権が旗を振る働き方改革の最重要テーマ「長時間労働の是正」をめぐる政府の議論が1日、本格的に始まった。事実上、青天井に設定できる残業時間に「月平均60時間」といった上限を設ける方向で議論は進みそうだが、早くも「これでは不十分」との異論が野党などから出ている。 ■繁忙期「100時間」原案 野党反発 政府の働き方改革実現会議(議長・安倍晋三首相)はこの日、残業の上限規制をめぐる議論に着手。メンバーが意見を交わした。「時期的な繁閑の差があるなど、どうしても残業が必要な場合もある」(榊原定征〈さだゆき〉・経団連会長)、「残業の上限が『月100時間』など到底ありえない」(神津里季生〈りきお〉・連合会長)。労使の代表らによる応酬の後、安倍首相は「長時間労働の是正については、罰則つきで限度が何時間かを具体的に定めた法改正が不可欠。次回はより具体的に議論したい」と述べた。規制強化には経済界の反発が予想されたが、女性新入社員が過労自殺した事件で、広告大手の電通が昨年末、労働基準法違反の疑いで書類送検され、社長が引責辞任。これが「追い風」(厚生労働省幹部)になり、上限規制の導入に向けた動きが水面下で加速した。この日の会議では示されなかったが、政府は残業時間の上限の数字を明記した原案を昨年秋にまとめ、労使双方への根回しを進めてきた。原案は、労基法36条に基づいて労使協定(36〈サブロク〉協定)を結ぶことを前提に、上限を「月45時間(年間360時間)」に設定。特に忙しい時期は「月100時間」「2カ月の平均が月80時間」を上限にすることを認める一方、年間を通じて「月平均60時間(年間720時間)」に抑えるよう求め、違反には罰則を科す――という内容だ。経済界は繁忙期などに対応できるように「例外」の設定を強く主張している。政府が落としどころとして持ち出した数字が、厚労省による過労死の労災認定基準として用いられる「月100時間超」「月80時間超」。厚労省が2013年に約1万1千事業所を対象に実施した調査によると、36協定で定める上限時間が「月80時間超」の事業所は4・8%。大企業に限ると14・6%。実際の残業時間より上限を高めに設定するケースも多く、政府関係者は「この上限で困る企業はほとんどない」とみている。しかし、原案の内容が先週末に報じられると、野党側は「規制が不十分だ」と猛反発。1日の衆院予算委員会でも、「過労死ラインと同じようなものを上限としても、ほとんど規制していないに等しい」(民進党の大串博志氏)などと安倍首相らを追及した。 *4-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12778736.html (朝日新聞社説 2017年2月3日) 先生の多忙 学校にも働き方改革を 働き方を改革するなら、学校を例外扱いしてはならない。先生の多忙が問題になっている。国際調査では、日本の先生の勤務時間は参加34カ国・地域の中で最長だった。精神疾患で病休をとる先生の数は、年間5千人台で高止まりしている。松野文部科学相は、業務改善のモデル地域の指定、有識者ら業務改善アドバイザーの教育委員会への派遣、部活動の休養日などに関するガイドラインづくりという三つの対策を掲げた。忙しさの原因は多様だ。書類作りや部活動、給食費の集金、保護者への対応など切りがない。個々の業務を軽くするよう工夫し、先生が担うべき仕事を吟味することは不可欠だ。ただ、連合のシンクタンク「連合総研」が全国の公立小中学校の教諭に調査し、労働時間と学校の取り組みを分析したところ、行事の精選やノー残業・部活動デーといった試みが必ずしも労働時間の短縮につながっていなかった。「新たに生まれた時間を他の仕事に充てるからでは」と連合総研は見る。時間の余裕があればもっと授業の準備をしたい。子どもの作文にコメントを書きたい。そんな先生たちの気持ちは貴重だ。しかし、疲れを抱えたまま子どもの前に立っても、よい授業や丁寧な言葉かけはできまい。先生の長時間労働を改めるには、校長らが先生の勤務時間を管理することが出発点になる。ところが同じ調査だと、自校の管理職が「出退勤時刻を把握していない」「しているかどうかわからない」と答えた教諭の合計は小中とも半数近くに上る。都道府県の条例で決められた所定勤務時間数を「知らない」と回答した教諭も6割近い。研究者が「学校は労働時間の無法地帯」と言うのも無理はない。学校が時間管理に熱心でないことの背景にあるのが、「公立学校教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)だ。先生の仕事は複雑で管理が難しいとして残業代を払わず、代わりに基本給の4%を全員に支給する仕組みになっている。1971年に成立した。誰にも一律の額を出すため、管理職は勤務時間を把握する義務があるのに、時間管理の必要に迫られない。文科省の勤務実態調査では、法が成立した頃と比べ、残業時間は5倍に増えている。法の見直しの議論を始めるべき時ではないか。もっと先生の数を増やしてほしいとの現場からの訴えにも耳を傾けるべきだ。先生にも労働者としての権利があることを忘れてはならない。 *4-3:http://mainichi.jp/articles/20161203/k00/00m/040/119000c (毎日新聞 2016年12月2日) 新潟原発避難いじめ 市教委が謝罪 担任「親しみ込めた」 新潟市教育委員会は2日、福島県から自主避難してきた同市立小4年の男子児童が、同級生や40代男性の担任教諭から名前に「菌」をつけて呼ばれるなどのいじめを受け、1週間以上学校を休んでいると発表した。男児は先月、担任に相談していたが、直後に担任からも「菌」づけで呼ばれ、強いショックを受けたという。教委の高島徹教育次長は記者会見で「他の児童も同様に『キン』をつけて呼ばれており、原発事故と直接結びついていないが、いじめと捉えている。担任の言動は児童の心を傷付ける不適切なもので、児童と保護者に深くおわびする」と陳謝した。市教委によると、男児は東京電力福島第1原発事故を受けて家族と避難し、新入生として入学した。3年の時から仲間はずれにされたり、からかわれたりし、今年になっても持ち物を捨てられるなどのいじめがあったという。 男児は今年6月、「ばい菌扱いされている」と担任に相談。担任は、いじめた児童らを指導し、落ち着いたとみていたという。横浜市立中学で福島県から避難してきた生徒が「菌」をつけて呼ばれた問題が報道されるようになり、11月17日、児童は再びいじめについて担任に相談した。だが、同22日の昼休み、教室で担任から連絡帳を受け取る際、同級生の前で名前に「菌」をつけて呼ばれた。保護者に「もう学校に行けない。担任と会いたくない」と話したという。保護者の指摘を受け、同校は同29日、児童らに聞き取り調査。複数の児童が担任による「菌」づけ発言があったと話し、担任も認めた。市教委によると、このクラスでは映画などの登場人物にかけて名前の後に「キン」をつけて呼ぶことが流行していたといい、担任は「菌の意味ではなく親しみを込めた発言だった」と釈明。「児童に謝罪したい」と話しているという。2日の授業は別の教諭に担当させた。 PS(2017.2.7追加):東京オリンピックのゴルフ会場になっている「霞ヶ関カンツリー倶楽部」は、*5のように、正会員が男性に限定され、女性は日曜日にはプレーできないことになっているため、大会組織委員会事務総長が「できるだけ早く正会員に女性が入れるような細則にしていただきたい」と要望したが、今日の理事会でも対応が決まらず、霞ヶ関カンツリー倶楽部の木村理事長は「オリンピックは頼まれて受けただけで、こちらから『いらっしゃい』と言ったわけではないので、急にこんな事態になったのは迷惑で困惑している」とNHK・TVで言っていた。しかし、このような差別的な場所で行われるオリンピックは応援したくない人が多いため、会場を変えるか、適切な会場がなければオリンピックでのゴルフを中止するくらいの厳格な対応をした方が今後のためによいと思われる。 *5:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170207-00010000-teletamav-l11 (Yahoo 2017.2.7) 霞ヶ関カンツリー倶楽部 理事会で対応を協議 東京オリンピックのゴルフ会場で、川越市にある霞ヶ関カンツリー倶楽部が女性正会員を認めていない問題で倶楽部側は7日、都内で理事会を開き今後の対応を協議しました。霞ヶ関カンツリー倶楽部は現在、およそ1,200人の正会員が男性に限定され、平日は女性もプレーが可能ですが原則として日曜日はプレーできません。この問題を受け、大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は2月2日、国際ゴルフ連盟などと連名で規則改正を求める文書をメールで提出したうえで「できるだけ早く正会員に女性が入れるような細則にしていただきたい」と述べ早期の対応を要望しました。要望を受け霞ヶ関カンツリー倶楽部は7日、都内で理事会を開き今後の対応について協議したということです。霞ヶ関カンツリー倶楽部の木村希一理事長は「これからどう対応しようかということを話しました。それだけです」と話しました。また、この問題を受けて上田知事は7日の定例会見で「正々堂々と女子の会員を認める。そうすることで立派なゴルフ場として判断される」と話しました。 PS(2017年2月11日追加):*6で、JA佐賀中央会金原副会長は、「①国内では多くの品目で生産戸数が減少し、それに伴って需要に追いつかない品目が出ている」「②『6次産業化』の販路を広げ、品目の幅を充実させたい」としている。このうち、①については、生産戸数が減少しても規模を拡大し、繁忙期には人を雇うようにすれば収入が増加し、繁忙期は地域や作物によって異なるため、農協や派遣労働会社が(外国人)労働者を雇って繁忙な場所に労働者を派遣するようにすれば、効果的な人の使い方ができる。また、②についても、日本では人件費がネックであるため、機械化や外国人労働者の使い方を工夫すれば、より安価に加工食品を作ることができ、輸出にも貢献できると考える。 なお、「現在は、自民党を勝たせすぎて、主権者の意図しなかった変更が、よく吟味もせずに次々と行われている」というのには、私も同感だ。また、自由貿易協定(FTA)になればTPPより条件が厳しくなるという交渉力のなさも情けなく、他の先進国同様、食料自給率は重視すべきだ。 *6:http://qbiz.jp/article/101787/1/ (西日本新聞 2017年1月16日) 投資進め生産基盤強化 JA佐賀中央会 金原 寿秀副会長 トップに聞く新年展望 近年、農業を取り巻く環境は転換期を迎えている。JA全中の組織見直しを柱にした改正農協法が昨年施行し、トランプ次期米大統領の出現で発効は絶望的とされるものの環太平洋連携協定(TPP)も国会で承認された。県内農業はどうなるのか。JA佐賀中央会の金原寿秀副会長に新年の展望を聞いた。 −農家の経営力強化が課題とされている。 担い手や収益確保に向けて集落営農組織の法人化を進めている。昨年、JAグループ佐賀は法人化や新規就農を支援する「県域担い手サポートセンター」を開設した。生産者が加工から販売まで手掛ける「6次産業化」も販路を広げ、品目の幅を充実させたい。 −新規就農については。 新年度から市町と協力し、武雄市などではキュウリを、佐賀市富士町ではホウレンソウを栽培する農家を育てる。国内では多くの品目で生産戸数が減少しているが、良質な作物は売れる。収益を見込める作物に特化して就農を促す。 −改正農協法をどう評価している。 十分な議論がないうちに通ってしまった。改正法は将来的に信用、共済事業を分離することも視野に入れている。農協の営農指導は費用も手間がかかるが、これを賄うのは信用、共済事業の収益だ。専門的な書類作成も営農指導員が担っており、指導員を減らすのは難しい。 −JAグループ佐賀の政治団体、県農政協議会は次期衆院選にどう対応する。 現在の農協改革は自民党を勝たせすぎたのが原因で対応を考えないといけない。政府の農業政策や通商政策を見据えたい。 −TPPをトランプ次期米国大統領は否定している。どう見通すか。 日米の2国間交渉で、TPPよりも厳しい条件を突き付けられないか心配だ。韓国は米国との自由貿易協定(FTA)で食料自給率が大幅に低下した。 −新年の展望を。 作物の安定供給のためには生産基盤の強化が必要だ。生産戸数の減少に伴い、需要に追いつかない品目が出ている。県域全体で投資を進め、基盤を強化する。産地力の向上のため、作付けや収穫などの在り方も見直しながら、需要が高い地域に販売できるようにしたい。
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2017,01,24, Tuesday
トランプ大統領就任演説 英国のEU離脱をめぐる経緯 メイ首相の演説 日本の永住資格 (1)トランプ大統領の政策と日本政府・メディアの反応 米国大統領選は候補者同士のくさしあいとなり、両候補とも魅力に欠ける状態に陥ってしまったが、*1-1のトランプ大統領就任演説全文を見ると、私はトランプ大統領は米国大統領としては当たり前のことを言っている部分が多いと思った。 1)「国民に権力を」について トランプ大統領が述べている「①大切なのは、国民が政府を動かしているかどうかだ」「②権力を首都ワシントンからあなた方国民に返還する」「③支配層は保身に走り、市民を擁護しようとしなかったため、支配層の勝利や成功は皆さんの勝利や成功とはならなかった」というのは、米国でもそうだったのかと思われたが、日本では実質的にそうなっていないため、もっと深刻である。そのため、このフレーズは、日本人こそよく考えて聞くべきで、主権者に権力があるのは、日本国憲法に明示されているとおり、民主主義(主権在民)の国なら当たり前のことなのだ。 2)「全てが変わる」について 「①この米国は皆さんの国だ」「②大切なのは、どの政党が政権を握るかではなく、国民が政府を動かしているかどうかだ」「③国家は国民に仕えるために存在する」「④国民は子どもたちのために素晴らしい学校を望み、家族のため安全な環境を欲し、いい仕事を求めており、それは善良な人々のごく当たり前の要求だ」のうち、①③は日本国憲法にも明示されている理念だ。また②も真実であるし、④はどこの国の人も同じで、どこかの国だけが特別ではないだろう。 3)「殺りくに終止符」について しかし、「①都市の市街地で母子が貧困から抜け出せないでいる」というのは、米国では特に、離婚や無計画な出産が多すぎるのではないかと思う。「②さびついた工場群が墓石のように国内の至る所に散らばっている」というのは本当かも知れないが、それを解決するためには昔に戻せばよいのではなく、米国内に高コスト構造に耐える現代産業を育成するしかない。 「③何十年もの間、われわれは米国の産業を犠牲にして、他国の産業を豊かにしてきた」というのは、NAFTA・中国・日本のことを言っているのだろうが、これらの国は、「遅れているから」として米国に負担ばかりをかけられる時代が過ぎ、相互主義でやるべき時代が来たことを実感すべき時なのだろう。 なお、「④自国の国境防衛は疎かにしながら、他国の国境を守ってきた」というのは真実なので笑ってしまったが、その相手が日本だとすれば、それは米国がアドバイスしてできた世界でも理想的な日本国憲法の下、日本は弱い自衛軍しか持たないため、日米安全保障条約を結んで米軍に頼っているのだが、本当に頼りになるかどうかは心配だ」というのが本音である。 また、「⑤国外で何兆ドルも金を費やしている間に、米国のインフラは荒廃し、朽ち果ててしまった」というのは、米国のインフラもIT時代の最新のものに更新すべきで、日本も他山の石とすべきだろう。 4)「米国第一」について 「①今日からはひたすら『米国第一』で、貿易、税金、移民、外交で常に米国の労働者と家族の利益となる決定を下す」というのは、時代錯誤にあたるような過度の保護主義でなければ、米国大統領として当然のことだ。また、「②この素晴らしい国の全土に新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道を造る」「③国民を生活保護から抜け出させ、仕事に戻ってもらう」というのも、失業者に生活保護給付をし続けるよりも、その労働力を使ってインフラ整備をした方が建設的であるため同意する。 「④国益を最優先する権利が全ての国にあるという考えに基づき実行する」というのも、過度の保護主義でなければ当然のことであり、「⑤われわれの流儀を押しつけたりはせず、模範として追随されるように、われわれを輝かせよう」というのも、民主主義には発展段階があり、専制から一足飛びに完成型にはならないため、米国流を押し付けるのではなく、次第に理想形に変えていく必要があり、同意だ。 5)「国民の結束」について 「①われわれの政治の根底にあるのは、米国への完全な忠誠や国民同士の忠誠心だ」「②心を開いて愛国主義を受け入れれば、偏見が生まれる余地はない」「③神の民が一つになって共に生きることは、なんと幸せで楽しいことか」というのは、戦後の日本人には馴染みの薄い言葉の連続だ。 6)「行動の時」について 「①大きく考え、大きな夢を見よう」というのは賛成だ。しかし、権限があってできる立場にいるのに「②口ばかりで行動しない政治家、不平ばかり言って自分では何もしない政治家」が米国にはいるのだろうか?この章は、全体として論理の飛躍が多く、一般の人が夢を持てる言葉を並べたものと思われる。 7)「声・希望・夢」について 「全ての米国民の皆さん。住んでいる町が近くても遠くても、小さくても大きくても、山々や海に囲まれていようとも、あなたたちが無視されることは金輪際ない。あなたたちの声、希望、夢が米国の運命を決めるのだ」というのは、本当に実行されれば、それこそ民主主義のよい国である。そして、現代では、IT技術の発達によって、それも可能になっている。 8)「一つの中国」の見直しについて トランプ次期米大統領は、*1-2のように、「中国と台湾を不可分とする『一つの中国』原則を含めて全てが協議される」と述べ、見直しもあり得るとの考えを示した。これには、中国は反発するだろうが、台湾の望みを考えれば、日本政府にはできない勇気ある行動だ。 9)環太平洋連携協定(TPP)からの離脱表明について *1-3に、「TPPを成長戦略の柱に据える日本は、経済・外交・安全保障分野で大転換が求められ、新たな対米関係が迫られる中で日本の立ち位置が問い直される」と書かれているが、自国の国益を第一に考えるのは日本も同じであるべきだ(でなければ日本国民が困る)。しかし、だからといって国際協調をしないということではないため、*1-4なども含め、日本のメディアは冷静さを欠く保護主義キャンペーンをし過ぎている。 また、企業のグローバル化とは、地球規模で生産・販売・研究開発・資金調達・租税政策などを行うことであり、EU、TPP、NAFTAのように経済の囲い込みをすることではないため、「トランプ現象=反グローバル」というのは間違いだ。そして、どの国にとっても産業政策・雇用政策は重要で、日米自由貿易協定(FTA)などの2国間協議でも、日本政府は国益を優先して交渉すべきだ。しかし、これに関して、私はビジネスマン出身のトランプ大統領と比べて、日本の政治家・行政官はもめないことを最重要課題として本当の交渉をしないため、不利な交渉結果を導くことが心配である。 10)オバマケアの撤廃について トランプ米大統領は、オバマ前政権が進めた医療保険制度改革の撤廃に向けた大統領令に署名されたそうだが、誰にとっても必要不可欠な国の医療・介護保険制度をきっちり作った方がよいと、私は考える。何故なら、それは必需品であり、雇用吸収力があるとともに、中産階級以下の国民の将来の心配を軽減することによって、現在の需要への支出を増やすことができるからだ。 (2)「欧州覆うか『自国第一』、相乗効果狙い右翼ポピュリズム政党結集」というメディアの論調 「トランプ米大統領の就任式参加者がオバマ前大統領よりも少なかった」という報道が日本では多い。しかし、トランプ米大統領の就任演説は、就任式に参加した人だけでなく、衛星放送やインターネットで聞いた人も多いため、前評判やトランプ米大統領の政策の世界への影響から、世界ではオバマ大統領よりも多かったかもしれない。日本では、私も就任演説を聞きたいと思ったが、真夜中だったため、翌朝の新聞に英文と日本語訳の全文が掲載されたのを読んだ。つまり、トランプ米大統領の就任演説は、オバマ前大統領に劣らず、世界中で関心が高かったと言える。 そして、*1-5のように、「重要選挙を迎える欧州連合(EU)各国の右翼ポピュリズム政党が就任式翌日の21日、ドイツに集まって『エリートでなく、民衆による政治が始まった』と気勢を上げ、トランプ大統領と同じ『自国第一』を掲げた」そうだ。 しかし、私は、「右翼ポピュリズム政党」という表現は正しくないと考える。何故なら、「自国第一」を掲げるのは「右翼ポピュリズム政党」と定義するのであれば、世界中の多くの政党が「右翼ポピュリズム政党」ということになり、日本では全政党が「右翼ポピュリズム政党」ということになって事実に反するからだ。 日本は、*4-1のように、難民受入国支援のために約2800億円拠出し、シリア人留学生150人の受け入れ表明をしたが、難民の受け入れは極端に少なく、「国境を自由にして難民が自由に出入りできるようにせよ」と主張している政党はないため、相手によって異なる多重基準でモノを言うのは不公平だ。 また、*4-2のように、外国人労働者の受け入れも、留学生・実習生として日本に入国した外国人を介護専門職に育成して就職に繋げる法律ができたばかりで未施行であり、その留学生も、*4-3のように、例年20人程度だった留学生の入学者数が2016年度は257人になった程度だ。なお、研究者や企業経営者等の高度の専門性を持つ外国人は、*4-4のように、従来は最短5年で永住権取得を認めてきたが、今後は1年で永住権を取得できるようにするそうだ。ただ、その要件は非常に厳しい。 しかし、私は、*1-5のように、難民受け入れに寛容なドイツのメルケル首相が批判されているのは気の毒だと思う。何故なら、メルケル首相は、東ドイツ出身でありながら統一ドイツの首相になった聡明な人で、難民の受け入れに寛容な精神を持っている理由が理解できるからだ。 (3)英国の欧州連合(EU)離脱決定をポピュリズム(衆愚)と呼ぶのは、民主主義への挑戦である 1)英国国民投票でのEU離脱決定はポピュリズム(衆愚)か 2016年6月24日の英国国民投票でEU離脱が決定し、*2-1は、「①反EUのポピュリズム(衆愚)が理性に勝った」「②英国のEU離脱決定は欧州統合の機関車役ドイツにも打撃」「③この開票結果は、欧州市民の間でEUへの失望がいかに深く、右派ポピュリズム勢力への支持が強まっているかを示した」「④英国に追随して国民投票によるEU離脱の動きが広がる可能性があり、2016年6月24日は、欧州の歴史の中で暗黒の日として記憶されるだろう」としている。 私は、①の表現は、国を単位とする民主主義への挑戦であり、誰から見た目かわからないが、国民投票の結果をポピュリズム(衆愚)と呼んでいる点で傲慢だと考える。②は、国境という国の主権にかかわる問題にEUが自由化を強制した点が問題なのであり、③は、ギリシャに強制的に年金削減をさせるなど財政という国家主権に関わる部分にまでEUが口を出しすぎ、国情によっては唯一の解決策ではないのに強制したという不安・不満があったため、きっかけさえあれば、④のように同じ動きが広がるのである。 2)EU離脱で英国経済の競争力は低下するか *2-1に「①英国のEU離脱決定は英国経済にとって激震となる」「②英国の輸出額のうち半分以上をEU加盟国向けが占め、対EU輸出は英国のGDP(国内総生産)の約15%を稼ぎ出し、英国の輸入額の約50%もEU諸国からである」「③そのため、英国はEU脱退によって雇用が脅かされるかもしれない」「④EU離脱によって多くの金融機関がロンドンから欧州中央銀行(ECB)があるドイツのフランクフルトに拠点を移すと予測されている」「⑤英国に拠点を持つ日本企業も欧州市場戦略を大きく見直す必要がある」「⑥スコットランドがEU加盟を求めて、英国からの独立運動を再燃させる可能性もある」「⑦英国の唯一の経済的利点は、EU加盟国が支払う会費を納める必要がなくなることだ」と書かれている。 このうち、①は本当だが、マイルドな方がよいとはいうものの、変革に震動はつきものだ。②③④については、東西冷戦後の東欧諸国からの安い賃金の移民を使った経済モデルが終わり、新しく英国は雇用吸収力のある現代産業を育成する必要があるのであって、私は、それが可能だと考える。⑤は、日本企業の都合であって英国の都合ではないため、英国から見れば、『だから外資に頼らず自国の産業を育てておくべきだ』ということになり、立場を逆にすれば日本政府も同じだ。⑥は、現在、その最中だが、困った時に協力できない分断された国なのかと思う。⑦の利点は、国家主権にかかわることにまで強制が及ぶことも考えれば、英国にとって大きく、新しい経済モデルに踏み出す時と言えるだろう。 3)移民増加と排外主義の高まりか? *2-1に、「EU脱退がもたらす経済的打撃にもかかわらず、英国の有権者がEU離脱の道を選んだ理由は、難民危機を追い風として、英国だけでなく欧州全体で右派ポピュリストに対する支持が高まっている事実がある」と書かれている。 しかし、*2-2に、「EU離脱がポピュリズムというのはこじつけだと、離脱派の旗振り役だったジョンソン英外相が反論した」「英国には、EUを弱体化させたり、EUに対して意地悪をしたりする意図は全くない」などが書かれている。 私は、英国の有権者がEU離脱を選んだ理由を右派ポピュリストと呼べば、世界中が右派ポピュリストと呼ばれる政党ばかりとなり、その呼称はおかしいと考える。そして、先進国の高い賃金の労働者が賃金の安い移民・難民に労働市場で敗退するのは、どの先進国でもあったことで、EUの重要な原則の一つである域内移動の自由は、国が計画的に移民・難民を受け入れることを不可能にするため、反発があったのだと考える。 (4)英国、メイ首相の方針 英国のメイ首相は、*3-1のように、EUとの離脱交渉を控えてロンドンで演説し、域内での人、モノ、サービス、資本の移動の自由を原則とする欧州単一市場に「とどまることはできない」としてEUから完全に離脱する意向を示し、EU域外の国々との貿易強化方針も打ち出し、「より強く、よりグローバルな英国をつくる」と主張したそうだ。 これは、英国へ進出した日本企業にも影響を及ぼすが、日本企業も東欧の安い労働力を使って生産したものを欧州に輸出するという経済モデルは終わりに近づいたことを認識し、英国の方針転換に適応して次のモデルの準備をした方がよいだろう。そして、新しいモデルには適応できない企業は別の場所に移転するしかない。 なお、*3-2のように、日本のメディアは、「英国とEU『自国優先』に歯止めを」というような論調が大半であり、その価値観は異常だ。何故なら、ある国の政府が自国民のために政治を行うのは、主権在民(民主主義)の政府であれば当然であり、地球のことを考えれば愛国心だけでは足りないというだけである。そのため、「人の移動の自由を受け入れてまで、EUの単一市場に残る選択をしない」という選択も、批判すべきではない。英国なら、それよりダイナミックな、次の時代に向けての展開もあり得る。 <トランプ大統領就任> *1-1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201701/CK2017012202000110.html (東京新聞 2017年1月22日) トランプ大統領就任演説全文 「米国はかつてないほど勝利していく」「みんなで米国を再び偉大にしよう」 ◆大切なのは、国民が政府を動かしているかどうか ロバーツ最高裁長官、カーター元大統領、クリントン元大統領、ブッシュ元大統領(子)、オバマ前大統領、米国民の皆さん、世界の皆さん、ありがとう。 ▽国民に権力を 米国の市民は今、国を挙げた壮大な取り組みに臨もうとしている。国家を再建し、全ての人が希望を取り戻す取り組みだ。われわれは共に、米国や世界が今後何年にもわたって進む針路を決定する。難題や苦難に直面するだろうが、仕事をやり遂げる。四年ごとにわれわれはここに集まり整然と平和裏に権力を移行する。オバマ前大統領とミシェル夫人に感謝する。政権移行を丁重に支援してくれた。彼らは素晴らしかった。ありがとう。ただし、今日の式典には特別な意味がある。単に政権交代が実現し、権力が政党から別の政党へと移っただけではない。権力を首都ワシントンからあなた方国民に返還するのだ。あまりに長きにわたり、政府から恩恵を享受するのは首都にいる一握りの人々にとどまり、国民にはしわ寄せが及んできた。ワシントンは繁栄しても、国民が富を共有することはなかった。政治家が潤う一方で、職は失われ、工場は閉鎖された。支配層は保身に走り、市民を擁護しようとはしなかった。支配層の勝利や成功は、皆さんの勝利や成功とはならなかった。支配層が首都で祝杯を挙げていても、懸命に生きる全米の人々に浮かれる理由はなかった。 ▽全てが変わる ここから、たった今から、全てが変わる。この瞬間は皆さんのためにある。今日ここに集まった皆さんと、式典を見守る全米の皆さんのためにある。今日は皆さんこそが主役で、これは皆さんの祝典だ。そしてこの米国は皆さんの国なのだ。大切なのは、どの政党が政権を握るかではない。国民が政府を動かしているかどうかが大切なのだ。二〇一七年一月二十日は、国民が再び主権者となった日として記憶されるだろう。忘れられてきた人々も、これからは忘れられることはない。皆さんの声に誰もが耳を傾けている。大勢の皆さんが歴史的なうねりの当事者となるためやって来た。世界がかつて目撃したことがないような社会現象だ。その中心には重大な信念がある。国家は国民に仕えるために存在するという信念だ。国民は子どもたちのために素晴らしい学校を望んでいる。家族のため安全な環境を欲し、いい仕事を求めている。善良な人々のごく当たり前の要求だ。 ▽殺りくに終止符 しかし、あまりに多くの市民にとって、現実は異なっている。都市の市街地で母子が貧困から抜け出せないでいる。さびついた工場群が墓石のように国内の至る所に散らばっている。教育システムに金がつぎ込まれても、若く優れた学生たちは知識を得ることができずにいる。犯罪、悪党、麻薬が多くの命を奪い、可能性の芽を摘んできた。こうした米国の殺りくは今ここで終わる。われわれは同じ米国民だ。彼らの苦悩はわれわれの苦悩だ。彼らの夢はわれわれの夢だ。彼らの成功はわれわれの成功となる。われわれは一つの心、一つの故郷、そして一つの輝かしい運命を共有している。今日の私の大統領就任宣誓は、全ての米国人に対する忠誠の誓いだ。何十年もの間、われわれは米国の産業を犠牲にして、他国の産業を豊かにしてきた。米軍の嘆かわしい劣化を招いた一方で、他国の軍に資金援助してきた。自国の国境防衛はおろそかにしながら、他国の国境を守ってきた。そして国外で何兆ドルも金を費やしている間に、米国のインフラは荒廃し、朽ち果ててしまった。他国を豊かにしている間に、われわれの富や強さ、自信は地平のかなたへ消え去っていった。工場は次々と閉鎖され、残された何百万人もの米国人労働者を顧みることなく、国外へ移転していった。中間層の富が奪われ、世界中にばらまかれた。だがそれは過去のことだ。今、われわれは未来だけを見据えている。 ▽米国第一 今日ここに集まったわれわれは、全ての都市、全ての外国政府、全ての権力機関に向かって、新たな決意を宣言する。今日から、新たな考え方でわが国を治める。今日からはひたすら「米国第一」だ。米国が第一だ。貿易、税金、移民、外交では常に、米国の労働者と家族の利益となるような決定を下す。物作り、企業、雇用を奪う外国から、われわれは国境を守らなければならない。(貿易や雇用の)保護は、大いなる繁栄と強さをもたらす。私は全身全霊で、皆さんのために戦う。そして私は皆さんを決して失望させない。米国は再び勝利し始める。いまだかつてないほど勝利していく。われわれの雇用を取り戻す。国境を取り戻す。富を取り戻す。そして夢を取り戻す。この素晴らしい国の全土に新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道を造る。国民を生活保護から抜け出させ、仕事に戻ってもらう。そしてわれわれの国を、米国人の手によって、米国人の労働力で再建する。われわれは二つの簡潔な規則を守っていく。米国製品を買い、米国人を雇う。われわれは世界の国々との友好、親善関係を求めていく。ただし、国益を最優先する権利が全ての国にあるという考えに基づき、実行していく。われわれの流儀を(他国に)押しつけたりはしない。むしろ模範として追随されるように、われわれを輝かせよう。古くからの同盟を強化し、新たな同盟関係も築き、文明国を一つに束ねてイスラム過激派によるテロに対抗し、地球上から完全に根絶する。 ▽国民の結束 われわれの政治の根底にあるのは、米国への完全な忠誠だ。そして国への忠誠心を通して、われわれは国民同士の忠誠心も再発見することになるだろう。もし、心を開いて愛国主義を受け入れれば、偏見が生まれる余地はない。聖書にこう書かれている。「神の民が一つになって共に生きることは、なんと幸せで楽しいことか」。自分の考えを包み隠さず語り、相違があれば率直に議論しなければならないが、常に結束を目指さねばならない。米国が団結すれば、誰にも止めることはできない。恐れることはない。われわれは守られており、これからも常に守られる。軍、治安機関がわれわれを守ってくれる。そして、何より重要なことに、われわれは神に守られている。 ▽行動の時 最後に言いたい。大きく考え、より大きな夢を見よう。米国では、努力してこそ国は存続するということをみんな知っている。口ばかりで行動しない政治家、不平ばかり言って自分では何もしない政治家はもう認めない。無駄話の時間は終わりだ。行動する時だ。できないなどと言わせてはならない。米国の熱意、闘志、気概をもってすれば打ち勝てない困難などない。失敗することはない。米国は再び繁栄し、成功するのだ。宇宙の謎を解き、地球上から病の苦しみをなくし、未来のエネルギー、産業、技術を活用する新たな時代が始まったばかりだ。国への新たな誇りがわれわれの魂を揺り動かし、視野を広げ、分断を修復してくれるだろう。わが国の兵士たちが決して忘れない、古くからの格言を今こそ思い出そう。肌が黒くても、白くても、褐色でも、同じ赤い血が流れ、国を愛する気持ちに変わりはないということだ。同じ輝かしい自由を享受し、同じ偉大な米国旗に敬礼するのだ。子どもたちはデトロイトの都市部で生まれようとも、ネブラスカの風吹きすさぶ平野で生まれようとも、同じ夜空を見上げ、同じ夢で心を満たし、同じ全能の創造主により命の息吹を吹き込まれる。 ▽声・希望・夢 全ての米国民の皆さん。住んでいる町が近くても遠くても、小さくても大きくても、山々や海に囲まれていようとも、次の言葉を聞いてほしい。あなたたちが無視されることは金輪際ない。あなたたちの声、希望、夢が米国の運命を決めるのだ。あなたたちの勇気、優しさ、愛がわれわれを永遠に導くのだ。みんなで米国を再び強くしよう。米国を再び豊かにしよう。米国を再び誇り高くしよう。米国を再び安全にしよう。そう、みんなで米国を再び偉大にしよう。ありがとう。皆さんに神のご加護があらんことを。米国に神のご加護があらんことを。ありがとう。米国に神のご加護があらんことを。 (原文略) *1-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/395328 (佐賀新聞 2017年1月14日) 「一つの中国」見直しも、トランプ氏、中国反発必至 トランプ次期米大統領は米紙ウォールストリート・ジャーナルとのインタビューで、中国と台湾は不可分とする「一つの中国」原則を含め「全てが協議される」と述べ、同原則の見直しもあり得るとの考えを示した。ロシアに科されている制裁解除の可能性にも触れた。同紙電子版が13日伝えた。「一つの中国」原則の尊重を米中の「政治的基礎」と位置付ける中国の習近平指導部の反発は必至だ。トランプ氏は昨年12月、米歴代政権の慣例を破って台湾の蔡英文総統と電話会談し、「為替操作国」と批判する中国に揺さぶりを掛けた。 *1-3:https://www.agrinews.co.jp/p39970.html (日本農業新聞2017年1月22日) トランプ政権発足 問い直される対米関係 米国の新大統領にトランプ氏が就任し、新政権は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を正式表明した。就任演説では「米国第一」主義を宣言し、「米国製品を買おう」「米国人を雇おう」と呼び掛けた。TPPを成長戦略の柱に据える日本は、経済・外交・安全保障分野で大転換が求められるのは必至だ。新たな対米関係が迫られる中で日本の主権、立ち位置が問い直されている。異様な雰囲気での新大統領誕生となった。首都ワシントンの就任式には多くの民主党議員がトランプ氏の人種差別的な発言に抗議して欠席、全米各地で就任に反対する市民団体の集会が開かれた。就任時の支持率が4割という歴史的な不人気ぶりだ。歓迎と抗議が交錯する。分断された米社会が浮き彫りとなった。米国第一主義は世界に何をもたらすのか。オバマ前政権の国際協調路線から自国中心主義に傾くのは明らかで、安全保障や貿易ルール、地球温暖化問題に影響を及ぼすのは避けられない。国と国が協力し、譲歩し合い、時間を掛けて構築してきた秩序をそう簡単に放棄すべきではない。米国は国際社会の一員として、世界の平和と安定に貢献し続けるべきである。極端な米国第一主義には、保護主義や差別・排外主義が潜む。こうした考えは、世界に受け入れられるものではない。一方でグローバル資本が利益の最大化を目的とした自由貿易のひずみと矛盾も直視すべきだ。就任演説でトランプ氏は「権力をワシントンからあなた方国民に返還する」と断言した。政府から恩恵を受けたのは一握りのエリート層にとどまり、市民の職は失われ、工場は閉鎖されたとし、これからは国境、製造業、雇用を守ると強調した。「トランプ現象」を生んだ反グローバルの潮流は、格差と貧困が社会問題化する欧米で広がった。そうした民意が新大統領を生んだのも事実だ。このことから目を背けてはならない。トランプ氏がどう民意に応えていくか、注視したい。トランプ政権は、TPPからの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を表明した。米国抜きのTPPは発効が一層難しくなった。一方で、トランプ氏は2国間貿易協定に意欲を示す。2国間交渉となれば、米国からの農産物の市場開放圧力はTPPの合意内容以上に攻め込まれるのは必至だ。米国に追従する安倍政権の経済・外交政策は限界を迎え、抜本見直しを迫られている。新政権の動向を見極め、日米自由貿易協定(FTA)の阻止に備えることこそ肝要である。トランプ氏は各国との関係について、「国益を最優先する権利が全ての国にあるという考えに基づき、実行していく」とも明言した。安倍政権は日米同盟の在り方も含め、日本の国益を損なわない政策実現が急がれる。. *1-4:http://digital.asahi.com/articles/ASK1M7X8ZK1MUHBI047.html (朝日新聞 2017年1月21日) TPP発効は絶望的 日本、通商戦略見直し必至 トランプ政権は就任式直後から、ホワイトハウスのホームページで、「米国第一エネルギー計画」「米国第一外交政策」「雇用と成長を取り戻す」「再び米国軍を強くする」など、外交や貿易に関する6項目の主要政策を発表した。そのなかで、「強固で公平な協定により、貿易は我が国の成長のために活用できる」として、「その戦略はTPPからの離脱によって始まる」と強調。公約通り、就任初日から、TPPから離脱する方針を正式に表明した。さらに、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を求める方針も示し、参加国のカナダとメキシコが交渉を拒めば、NAFTAから離脱することも打ち出した。TPPの発効には米国の批准が不可欠で、TPPは発効が不可能となる。TPPを成長戦略の柱としてきた安倍政権は、戦略の見直しを迫られる。雇用創出では、「年4%成長への回帰をめざす」と強調。選挙中に35%から15%への引き下げを訴えた法人税率は、「世界で最高水準の税率を引き下げる」としたが、数字には触れなかった。一方、外交・安全保障政策については、「米国の国益と安全保障を最重視する」ことを基本方針に掲げた。そのために、米軍の軍事力の再構築を進めていく方針を打ち出した。過激派組織「イスラム国」(IS)やイスラム過激主義のテロ組織の壊滅を最優先課題と位置づけ、軍事作戦を強化する。その上で、各国と協調して、テロ組織の資金源の遮断や情報共有を進めていく。また、防衛予算の一律削減を終わらせ、海軍の艦船と空軍の航空機を増強していく。北朝鮮やイランのような国からのミサイル攻撃を防ぐため、最新のミサイル防衛システムを開発することを表明。サイバー分野での防衛・攻撃双方の能力向上も優先的に進めていく。さらにトランプ氏はこの日、オバマ前政権が進めた医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃に向けた大統領令にも署名。新たな規制の凍結も各省庁に指示するなど、精力的に動いた。 ■トランプ氏方針、覆る見込み薄 米国のトランプ大統領が環太平洋経済連携協定(TPP)を離脱する方針を明確に打ち出したことで、安倍政権が成長戦略の柱に据えてきたTPPの発効は、絶望的になった。日本政府は、まずは自由貿易の重要性を米側に訴え、TPPへの理解を得たい考えだが、トランプ氏の思い入れが強い貿易政策の方針が覆る見込みは薄い。日本側が通商戦略の練り直しを迫られるのは必至だ。TPPは、太平洋を取り囲む日米など12カ国で域内の関税を撤廃したり投資などのルールを共通化したりする協定で、2015年10月に合意に至った。しかし、経済大国である日米両国が批准しなければ発効できない条件になっている。トランプ氏の離脱表明を受け、日本の内閣官房幹部は「時間はかかるが、TPPが米国にとっても利益になるということを分かってもらうように説得するしかない」。だが、オバマ前政権の貿易政策を転換し、米国の雇用を守るという主張は、トランプ氏の最重要の公約で、簡単に方針を転換するとは考えられない。安倍晋三首相は20日の施政方針演説で、TPPを「今後の経済連携の礎」とし、発効をめざす考えを強調していた。TPPによって、アジア・太平洋地域への輸出を増やしたり、日本企業の進出を促したりすることで、日本経済を押し上げようと考えてきたからだ。また、この地域の経済ルールを日米が主導して決め、台頭する中国に対抗する狙いもあったが、米国の離脱が決定的となり、こうした通商戦略の見直しは避けられない状況だ。 *1-5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760754.html (朝日新聞 2017年1月23日) (トランプの時代)欧州覆うか「自国第一」 右翼ポピュリズム政党、相乗効果狙い結集 トランプ米大統領の就任による大波が、早くも欧州に及んでいる。今年、重要選挙を迎える欧州連合(EU)各国の右翼ポピュリズム政党が就任式翌日の21日、ドイツに集まり、「エリートでなく、民衆による政治が始まった」と気勢を上げた。掲げるのは、トランプ大統領と同じ「自国第一」だ。 ■反移民掲げ「次は我々だ」 21日、ドイツ西部の人口11万の町コブレンツに、欧州各国で「自国第一」を掲げる面々が勢ぞろいした。オランダのウィルダース自由党党首やフランスのルペン国民戦線(FN)党首、新興政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のペトリ党首らは、約千人の聴衆を前に「次は欧州の番だ」と言わんばかりだった。「エリートが、我々の自由を危険にさらしている」「我々は、我々の国を再び偉大にする」。ウィルダース氏の発言は明らかにトランプ氏の就任演説を意識していた。ルペン氏は「最初のパンチは英国の民衆が選んだEU離脱。二つ目がトランプ政権。2017年は大陸欧州が目覚める」と宣言した。会合は、EU批判を繰り広げる右翼政党が結成した欧州議会の会派「国家と自由の欧州」の主催。相乗効果で支持拡大を図る狙いがあるのは明らかだ。各党とも移民制限を主張し、中東やアジアからの難民受け入れへの反対で一致している。ペトリ氏は「政治家やメディアは寛容を口にするが、なぜ普通の人々に聞かないのか。彼らは不安だらけだ」と話した。3月に総選挙を迎えるオランダでは、イスラム教への敵意をむき出しにする自由党が、世論調査で支持率トップを走る。フランスでも4月の大統領選第1回投票でルペン氏が首位に躍り出る可能性がある。9月に連邦議会選が予定されるドイツでも、支持率が12~15%のAfDは初の連邦議会入りが確実視される。 ■メルケル氏批判 批判の矛先は、欧州の統合を重んじ、難民受け入れに寛容なドイツのメルケル首相に向かう。会場では、党首らの演説に、聴衆がしばしば「メルケルは去れ」と連呼して応えた。トランプ政権の発足と右翼政党の高揚で、欧州でも分断と緊張が広がる。会場付近では、開催に抗議する約3千人が「開かれた欧州を」と訴えてデモ行進した。ドイツのガブリエル副首相や、ユンケル欧州委員長の出身国ルクセンブルクのアッセルボーン外相ら、いま政治を動かしている側の姿もあった。 ■政策はそろわず 「自国第一」や「愛国心」を唱える各党。EUやエリート層への批判で一致はしているが、具体的な政策で足並みをそろえているわけではない。訴えも日和見主義的だ。例えばAfDは、ギリシャ危機後の13年に共通通貨ユーロへの反対を掲げて誕生した。だが15年にペトリ氏が実権を握ると、難民危機を受けて反難民、反イスラム色を強めた。ルペン氏は「違いを探すことに意味はない」と意に介さなかった。「大義のために集まったのだ。国境を管理して国民を守る。国を愛し、主権を取り返す」。この日の会合には、ドイツの公共放送など、一部メディアの取材登録が認められなかった。その一人、フランクフルター・アルゲマイネ紙のユストゥス・ベンダー記者は「主催者から『うそを書くのをやめろ。フェアな記事を書け』とのメールが来た」と話した。「彼らは批判的な記事を書くジャーナリストを受けつけない。これも米国と同じだ」 ■分断の背景、各国で相似 トランプ氏は、就任演説で「ピープル」という単語を10回繰り返した。「2017年1月20日は、民衆(ピープル)が再び、この国の支配者になった日として記憶される」。19世紀末の米国で、既成政党に属さない農民運動として「ピープルズ・パーティー(人民党)」が台頭。「ポピュリスト党」とも呼ばれたことからポピュリズムという言葉が生まれた。そして今、「ピープル」を強調し、「自国第一」を主張する政治家が、各国で支持を集める。トランプ氏らへの支持が広がる背景や世論の動向も、各国で相似形を描く。きっかけは2008年のリーマン・ショック後の世界不況だと米ジョージタウン大学のマイケル・カジン教授は説く。不況とともに、大量の移民、格差の拡大、ITによる省力化などで、「自分たちは見捨てられた」と考える人が急増した。「政府は経済を統制できず、救済を必要としている国民を助けようともしないと、人々は悟った。既成政治への不安と怒り、叫びこそが、米欧で起きている現象の理由です」。従来の政党が効果的な回答を見いだせない限り、反既成政治の運動は成長する。一方で、怒りや反発だけで国家を治めることはできない。「ポピュリズム運動が政権を取っても、効果的に統治を行うのが難しい」とカジン教授は言う。トランプ氏は、欧州の政治家に先駆けて、現実という試練に向き合うことになる。 <ポピュリズムとは?> *2-1:http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/062400017/?rt=nocnt (日経ビジネス 2016年6月24日) 反EUのポピュリズムが理性に勝った日、英国のEU離脱決定は、欧州統合の機関車役ドイツにも打撃 6月24日、英国の国民投票でEU離脱派が勝った。英国の有権者は、キャメロン首相の嘆願を拒絶し、43年ぶりにEUに背を向ける道を選んだ。実際に英国がEUから脱退するまでには、少なくとも2年間はかかると見られているが、この国がEUと袂を分かつことは確実だ。キャメロン首相は辞任を表明した。離脱によって悪影響を受けるのは、英国の経済界だけではない。長期的には、EUそして欧州統合を最も強力に進めてきたドイツにとっても大きな打撃となる。この開票結果は、欧州市民の間でEUへの失望がいかに深く、右派ポピュリズム勢力への支持が強まっているかを示した。英国のEU離脱は、EU政府に相当する欧州委員会に対し、EUの根本的な改革を迫るものだ。英国に追随して他のEU諸国でも、国民投票による離脱の動きが広がる可能性がある。6月24日は、欧州の歴史の中で暗黒の日として記憶されるだろう。 ●英国経済の競争力低下へ この決定はまず、6月24日のポンド暴落が象徴するように、英国経済にとって激震となる。同国の輸出額のうち、半分以上をEU加盟国向けが占める。対EU輸出は、英国のGDP(国内総生産)の約15%を稼ぎ出している。また英国の輸入額の約50%も、EU諸国からのものだ。英国はEU脱退によって、単一市場の利点(関税廃止、人と物の自由な移動、自由な資本取引)を失う。英国では輸入品の価格が上昇する。対EU貿易での価格競争力も弱くなる。したがって、同国はスイスやノルウェーのようにEUと交渉して、少なくとも関税廃止などの利点を維持しようとするだろう。同国にとって特に大きな懸念は、金融機関の動きだ。英国のGDPの約8%は金融サービスによって生み出されている。ロンドンには、米国の投資銀行、商業銀行など外国の多くの金融機関の欧州本社がある。EU離脱によって、ロンドンはEU域内の自由な資本取引の流れから遮断される。国民投票の直前に金融機関に対して行われたアンケートによると、回答企業の33%が「英国がEUから離脱した場合、同国でのオペレーションの規模を縮小する」と答えていた。EU離脱は、欧州最大の金融センターであるシティーで働く人々の雇用を脅かすことになるかもしれない。欧州では、「EU離脱によって、多くの金融機関はロンドンから、欧州中央銀行(ECB)があるドイツのフランクフルトに拠点を移すだろう」と予測されている。日本の外務省によると、英国には約1000社の日本企業が進出し、約16万人を雇用している。同国に拠点を持つ日本企業にとっても、欧州市場戦略を大きく見直す必要がある。ドイツのバーテルスマン財団の研究報告書によると、EU離脱が英国経済にもたらす損失は、2030年までにGDPの0.6%~3%に達する。外国企業の数が減少し、失業率が上昇することも避けられないだろう。さらにスコットランドがEU加盟を求めて、英国からの独立運動を再燃させる可能性もある。英国にとって唯一の経済的な利点は、EU加盟国が支払う「会費」を納める必要がなくなることだ。英国は現在約86億4000万ユーロの「会費」をEUに払っている。しかしこれは英国のGDPの0.5%にすぎない。価格競争力の低下や外国企業のユーロ圏への流出、雇用の減少などのデメリットを相殺することはできない。EUにとっても英国の離脱は大きな痛手だ。2015年の英国のGDPは約2兆5690億ユーロで、ドイツに次ぐ第2位。EUは同国の脱退によって、GDPが一挙に17.6%減ることになる。ドイツにとっても、英国の喪失はマイナスだ。両国の意見はしばしば対立してきたが、英国は南欧の債務過重国の経済を立て直す上で、財政出動よりも構造改革を重視するという点では、ドイツと考え方が似ていた。財政出動を重んじるギリシャ、イタリア、スペインの意見を抑える上で、プラグマティズムを重視する英国はドイツの「盟友」だった。つまりドイツは、南欧諸国との交渉の中で重要な応援団を失うことになる。 ●移民増加と排外主義の高まり 日本の読者の皆さんは、「EU脱退がもたらす経済的な打撃について再三伝えられていたのに、なぜ英国の有権者はEU離脱の道を選んだのか」と不思議に思われるだろう。この背景には、難民危機を追い風として、英国だけでなく欧州全体で右派ポピュリストに対する支持が高まっている事実がある。英国のEU脱退を最も強く求めていたのが、ナイジェル・ファラージ率いる「イギリス独立党(UKIP)」だ。同党の党員数は2002年には約9000人だったが、2014年には約4倍に増えて約3万6000人となっている。2015年の下院選挙で同党は12.6%の得票率を確保。2014年の欧州議会選挙では得票率が28%に達し、英国社会に強い衝撃を与えた。英国のポピュリストたちがEUを批判する最大の理由は、EUが政治統合・経済統合を進める中で、域内での移動の自由と他国での就職の自由を促進したことだ。この結果、英国ではポーランドなど東欧諸国からの移民が急増し、ロンドン以外の地方都市を中心として、移民制限を求める声が強まった。英国の反EU勢力は、EUの事実上の憲法に匹敵するリスボン条約を改正し、域内での移動の自由を制限することを求めていた。だがEUにとって、域内の移動の自由は欧州連合にとって最も重要な原則の1つだ。ドイツのメルケル首相をはじめとして、他国の首脳は英国のためにリスボン条約を改正することに難色を示していた。英国のポピュリスト勢力は、「我々はEUが自らを根本的に改革し、加盟国の利益を尊重しなければ、脱退すると再三訴えてきた。だがEUは結局、改革を拒絶した。だから我々はEUから出ていく」と主張していた。私の脳裏に去来するのは、ウインストン・チャーチルが1946年9月19日にチューリヒで行った演説である。彼は、この中で第二次世界大戦のような惨劇を二度と起こさないために、欧州大陸の国々が統合し『欧州合衆国』を作るべきだと提唱したのだ。だがチャーチルは、この合衆国に英国は加わるべきではないと断言していた。彼は、大戦中の苦い経験から、英国は欧州大陸とは一線を画するべきだという態度を持っていたのである。英国はユーロ圏に加盟しない道を選んだ時にも、チャーチルのこの思想を実践した。今回の国民投票により、ジョン・ブル(英国人のこと)たちは再びチャーチルの警告に耳を貸したのである。 *2-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJD26QWTJD2UHBI02Y.html (朝日新聞 2016年12月2日) EU離脱はポピュリズム? 英外相が反論「こじつけだ」 欧州連合(EU)をめぐる国民投票で離脱派の旗振り役だったジョンソン英外相が2日、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で講演し、「離脱の投票結果を世界中に広がるポピュリズム(大衆迎合)と比較しようとする性急な議論がある」と述べ、米国のトランプ現象とEU離脱を結びつける議論を「こじつけ」と反論した。ジョンソン氏は「私を含め、離脱に投票した人の多くは、外国人への嫌悪や恐怖から投じたのではない」「英国には、EUを弱体化させたり、EUに対して意地悪をしたりする意図は全くない」とも述べた。フランスの右翼・国民戦線(FN)のルペン党首や英国独立党(UKIP)のファラージ前党首らEUを敵対視する政治家や、排外主義的なゼノフォビア(外国人嫌悪)と英国政府の立場に一線を画したい意図があるようだ。対アジア政策では、国連安保理常任理事国拡大に賛成だとしてインドの国名に言及した。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に「英国はいち早く加盟した」と語った。日本については質疑応答で「すでに非常に強固な関係をさらに伸ばす余地がある」と述べるにとどまった。 <メイ首相の方針> *3-1:http://qbiz.jp/article/101901/1/ (西日本新聞 2017年1月18日) 英、EU単一市場を離脱 移民制限を優先 メイ首相が交渉方針表明 欧州連合(EU)との離脱交渉を控える英国のメイ首相は17日、ロンドンで演説し、域内での人、モノ、サービス、資本の移動の自由を原則とする欧州単一市場に「とどまることはできない」としてEUから完全に離脱する意向を示した。英国へ進出した日本企業にも影響を及ぼすのは必至。メイ氏が交渉方針を表明したのは初めて。単一市場への参加継続を訴えてきた与野党議員や経済界の反発は避けられず、政局や市場の混乱が予想される。メイ氏はEU域内からの移民流入を制限するなどの優先事項を提示。加盟国間の関税を撤廃し域外との貿易に共通関税を設けるEUの関税同盟から離脱、新たにEUと貿易協定を結びたい意向も表明した。メイ氏は3月末までにEUに離脱の意思を通知し、原則2年の離脱交渉に入る考え。2年の交渉で離脱した後に一定の移行期間を設けることが望ましいとしたほか、EUとの最終的な合意について、上下両院に投票による承認を求めるとも述べた。演説では「EUとは前向きで新しい関係構築」を目指すとし「部分的にEUのメンバーになるような中途半端なことは目指さない」と強調。単一市場の規則に関する判断を示すEU司法裁判所の管轄から外れる考えを表明したほか、EU域外の国々との貿易強化方針も打ち出し「より強く、よりグローバルな英国をつくる」と主張した。英国の離脱派は単一市場へのアクセス維持と移民制限の両方を交渉で勝ち取るとの考えを示していたが、EU側は移動の自由が単一市場参加の条件だとの原則を示し「いいとこ取り」は許さないとの姿勢を堅持。メイ氏がどちらを優先させるのか、その選択に大きな注目が集まっていた。 *3-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12754139.html (朝日新聞社説 2017年1月19日) 英国とEU 「自国優先」に歯止めを 欧州の「一つ屋根」から完全に離別し、孤独な道を歩むのか。それは英国にも世界にも利益になるとは思えない。メイ首相が欧州連合(EU)からの完全離脱を表明した。昨年6月の国民投票の結果をふまえ、方針を鮮明にした。EUの単一市場に残るには、人の移動の自由を受け入れざるをえない。その選択肢を捨てて「完全離脱」するのは、あくまで移民の流入規制を優先させるためだという。英世論は今も割れ、政治も揺れている。首相はその混迷に区切りをつけたかったようだ。しかし、英国はEUを含む国際協調の枠組みの中に常にいた国だ。自由貿易の理念や、移民に門戸を開く寛容な価値観を推進する責任を果たしてきた。国民の反移民感情に配慮する必要があったとしても、英国が欧州の国々と積み上げてきた政治・経済の協調枠組みから早々に決別するのは得策ではない。メイ氏は「よりグローバルな英国を築く」と、楽観的な将来像を描く。EU域外との貿易協定を目指していくという。だが英国の最大の貿易相手はEUであり、輸出のほぼ半分を占める。日本を含む多くの外国企業も「EUへの足がかり」として英国に拠点を置いてきた。離脱は、英国自身の貿易を損ねるだけでなく、保護主義を広げかねない。規制に批判的だった英国を欠いたEUは、障壁を強めるかもしれない。EUが揺らげば、経済・金融危機は他の地域にも波及する。移民が経済的な繁栄を下支えしてきた事実を無視して英国が規制に突き進めば、排斥の機運が各国にも広がりかねない。EU離脱は実現しても、それにかわるEUとの貿易協定交渉がスムーズにまとまる保証はない。むしろ国内にEU懐疑勢力を抱える国々は、英国に厳しい条件を求めるはずだ。英国に住むEU市民や、EU域内の英国人の権利や雇用をどう守るか。同じ「欧州」の人間として長く共生した関係を変えるのは容易ではあるまい。少なくとも離脱の衝撃を和らげる十分な移行期間が欠かせない。EU側もこれを引きがねに、欧州の統合という歴史的な取り組みを頓挫させてはならない。国際協調路線を守り、「自国優先」の拡散を防ぐために、英国もEUも、長期的な秩序安定の道を探ってもらいたい。交渉の過程で孤立主義の弊害が顕在化すれば、民意が変化することもありえるだろう。その時、英国は改めて引き返す賢明さも忘れないでほしい。 <日本の場合> *4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12572990.html (朝日新聞社説 2016年9月23日) 難民と世界 もっと支援に本腰を 世界の難民・避難民が6500万人に達し、第2次大戦以降で最大になった。迫害や戦火を逃れる難民だけではない。より良い暮らしを求めて他国へ渡る移民の流れも急速に広がっている。この喫緊の問題にどう取り組むべきか。その国際協調を探るサミットが国連で開かれた。とりわけ内戦の出口が見えないシリア、アフガニスタンなどから逃れる難民の流出は深刻だ。国際社会は停戦への努力を強めるとともに、難民受け入れの負担に苦しむ周辺国に、まず目を向ける必要があろう。100万人超のシリア難民を受け入れたレバノンや、250万人が避難したトルコなどからは「限界だ」との声が漏れる。全会一致で採択された宣言に「責任の公平な分担」が明記されたのは当然だ。地球規模で人が移動する時代であり、難民・移民問題は世界の政治・経済に直結する。紛争地からの距離にとらわれず、国際社会全体で負担を分かち合うべきだ。では、各国がどう分担するのか。具体的な数字や期限が宣言に盛り込まれなかったことは、大きな課題として残った。腰が引ける背景には、テロの恐怖や、「仕事を奪われる」との不安による排斥感情の高まりがある。欧米では近年、そうした主張をする政治家や政党が勢いを増している。しかし、こうした排他的な非難は、貧富の格差など広範な社会問題への国民の怒りを利用した責任転嫁であることも多い。長い目で見れば、難民や移民は受け入れ国に、利益や活力を少なからずもたらしてきた。サミットの会合で、経営者や労働者の団体は「秩序ある移民や難民の受け入れは経済を活性化させる」と述べた。経済協力開発機構(OECD)も、長期的に経済的にプラスになると指摘する。各国政府は、そうした受け入れのメリットについて国民にきちんと説明すべきだ。安倍首相は受け入れ国支援のための約2800億円の拠出や、シリア人留学生150人の受け入れなどを表明した。だが、多くの国と比べて難民の受け入れが極端に少ない現実は変わっておらず、国際的に批判の的となっている。近年は日本でも難民の雇用に取り組む企業や、支援団体に寄付する人が増えている。政府も行動の幅を広げ、もっと世界に門戸を開き、十分な責任を果たす国の姿をめざすべきだ。 *4-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161119&ng=DGKKASFS18H5J_Y6A111C1EA2000 (日経新聞 2016.11.19) 外国人労働者、まず介護から 改正入管法成立 「高度人材」と両にらみ 外国人労働者の受け入れを拡大するための法律が18日、成立した。留学生や実習生として日本に入国した外国人を介護専門職に育成し、就職につなげる。来年中に施行する。国内での外国人材育成を重視する新たな仕組みで受け入れの大幅増を目指す。政府は人手不足分野と高度人材の2本柱で受け入れを検討中で、介護での制度構築は、その第1弾になる。在留資格に「介護」を追加する改正出入国管理・難民認定法と、外国人技能実習制度を拡充する法律が成立した。18日の参院本会議で自民、公明、民進など各党の賛成多数で可決した。改正入管法は日本の介護福祉士の資格を取得した外国人を対象に、介護の在留資格を認める。外国人技能実習適正実施法は、実習期間を最長3年から5年に延ばす。長時間労働などを防ぐため、受け入れ団体・企業を監督する機構を新設。同法の施行と共に、技能実習の対象に介護を加える省令改正をする。2法の成立を受け、政府は外国人が実習中に国家資格を取れば、実習後に介護の在留資格で就職できる制度を設計する。これまでの制度では、介護職は経済連携協定(EPA)の枠組みに限って受け入れをしてきた。インドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国が対象だ。滞在期間を限定しているうえ、現地の資格や日本語能力が条件。ハードルが高く、過去8年間の累計で看護師とあわせ約3800人(9月時点)にとどまる。厚生労働省の推計では、介護職員は2025年に日本国内で約38万人も不足する。この差を少しでも埋めるため、今回の法整備はEPAを締結する3カ国以外の留学生も対象にした。少子高齢化で日本人の生産年齢人口は減少の一途だ。今後の成長のためには外国人労働力は有力な選択肢になる。政府は2本柱で受け入れを進める考え。経営者や技術者ら高度人材では、最短1年の滞在で永住権を認める制度を検討中だ。もう一つ、介護を含めた人手不足産業では、日本は単純労働者の入国を原則認めていない。だが政府内では建設業で2国間協定を使った受け入れ拡大を考えているほか、農業では特区での受け入れ解禁を検討中だ。 *4-3:http://digital.asahi.com/articles/ASJC46QKVJC4PTFC01M.html (朝日新聞 2016年11月10日) 介護福祉士の学校、留学生急増 入管法改正の見通し 日本介護福祉士養成施設協会によると、例年20人程度だった留学生の入学者数は、昨年度は94人、今年度は2・7倍の257人に。国籍はベトナムが114人と最も多く、中国53人、ネパール35人、フィリピン28人と続く。入学者全体の3%を占める。なぜ急増しているのか。留学生が介護福祉士の資格を得ても、現状では日本で介護の仕事はできない。これが変わる可能性が出てきたためだ。政府は今国会で、出入国管理及び難民認定法(入管法)改正法案の成立をめざす。外国人の在留資格に新たに「介護」を設ける内容。成立すれば留学生が卒業後に在留資格を「留学」から「介護」に切り替え、日本で仕事に就くことができる。外国人の介護福祉士をめぐっては、2008年度から経済連携協定(EPA)に基づく候補者の受け入れが始まった。しかし資格試験に不合格なら原則帰国など、留学ルートよりハードルが高い。今国会では、この入管法改正法案とは別に、外国人技能実習制度の適正化法案も審議されており、成立、施行されれば実習の対象職種に介護が加わる方向だ。外国人が介護現場で働く流れが一気に拡大することになる。ただ、介護業界の慢性的な人材難の大きな理由は賃金の低さだ。そこが改善されていない状況で外国人を広く受け入れると、現在の低い賃金水準が固定化されるのでは、という懸念はぬぐえない。日本介護福祉士会は「外国人が介護を担うことにより、介護職の処遇や労働環境をよくするための努力が損なわれることになってはならない。その点は国の検討会で確認されており、受け入れの前提と理解している」と話す。介護現場で働く外国人への支援も検討しており、「日本の介護全体の質を上げる努力をしていきたい」という。留学生の処遇も課題だ。外国人介護労働者の問題に詳しい京大大学院の安里(あさと)和晃特定准教授(45)は、授業料が借金となる懸念があるとし、「授業料の軽減や教育内容の充実、就職先を選択する自由を保障すべきだ」と訴える。「多様な人々が尊重され活躍できる場になるよう、学校や施設側は業界を挙げて努力する必要がある」 ■ベトナムから視察団 10月中旬、介護福祉士を養成する関西社会福祉専門学校(大阪市阿倍野区)に、日本への関心が高いベトナムからの視察団が訪れた。現地の医療短大の学長らだ。この専門学校では、今春に新入生の約2割を占める9人の外国人が入学。6人がベトナム人で、新たに日本育ちのベトナム人講師を採用し、10月から専門用語の学習をフォローする授業を始めた。「来年はベトナム人だけで25人程度入学します」。山本容平学校長(35)が説明すると、視察団の学長は大きくうなずいた。視察団をこの学校へ案内したのは、大阪市の医療法人「敬英会」だ。今夏以降、この医療短大から卒業生7人を受け入れた。7人は敬英会が用意した寮に住み、敬英会が運営する介護施設でアルバイトをしながら、日本語学校で学んでいる。来春はこの専門学校に入学し、介護福祉士の勉強をスタートさせる予定だ。その一人、グェン・ティ・ハンさん(22)は、母国で看護の勉強をしながら日本語を学んできた。「今は漢字の勉強が大変だけど、介護の免許をとって、日本で働きたい」と話す。敬英会の光山(みつやま)誠理事長(51)は将来の人材不足に備えてきた。「質が高く信頼される育成の仕組みを作りたい」。この動きを参考に、大阪介護老人保健施設協会も取り組みを進める方向だ。いま、同じような留学生受け入れのルートが国内各地で生まれている。東京国際福祉専門学校(東京都新宿区)では今春、中国、フィリピン、ベトナム、台湾から6人の留学生が介護福祉科に入学した。しかし日本人はゼロ。来春に向けて、人材紹介業者や外国人採用を考える法人とのパイプを増やし、定員の40人に近づけたいという。担当者は「経営を考えると数が多いほどいいが、授業についていけないようでは困る。いかに日本語能力が高い人を見つけるかがカギ。現場のリーダーとなる人材を育てたい」と話す。 ■事業者自ら養成する例も 人材難に苦しむ介護事業者が、自ら介護福祉士の養成校を作り、留学生を受け入れようとする動きもある。兵庫県篠山(ささやま)市。無人駅から徒歩約15分の山や田んぼに囲まれた場所に、3階建ての校舎が建っている。特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人「ウエルライフ」(同県西宮市)が来秋の開校をめざす「篠山学園」だ。1学年80人の2年課程。ホーチミンの日本語学校と提携し、入学者の多くをベトナム人留学生にする予定という。介護福祉士の養成校の多くは専門学校。専門学校は、外国人がほとんどを占める状況では認可されない。しかし篠山学園は、あえて外国人の制限がない「各種学校」での養成校をめざし、県に申請中だ。ウエルライフ側の危機感は強い。十分な採用ができずに人材派遣会社に頼らざるをえず、その費用が大きくなっている。開設準備室の安平衛(まもる)事務長(58)は「施設運営に介護福祉士は絶対必要。リスクは大きいが、直接のルートを作る方がいいと判断した」と話す。篠山市も期待をかける。県立高校の分校だった建物を県から約6千万円で購入し、同法人に貸す。校内で高齢者サロンを開く計画もある。「留学生のために、ベトナム料理に欠かせないパクチーを作ろうか」という地元からの提案も。市の担当者は「地域活性化につながるだけでなく、卒業後はできる限り市内で働いてもらえればありがたい」と話す。 *4-4:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170118-00000014-asahi-pol (朝日新聞 2017/1/18) 外国人の永住権、最短1年で付与へ 高度人材の確保狙う 研究者や企業経営者など高い専門性を持つ外国人が最短1年で永住権を取得できる「日本版高度外国人材グリーンカード」が3月から始まる。現在は5年間日本で暮らせば永住許可を申請できるが、学歴や年収などを点数化し、条件を満たした場合は取得に必要な在留期間を短縮する。1年での永住権取得は国際的にも最短クラスで、獲得競争が激しくなっている外国人の人材を呼び込む狙いだ。外国人が永住権を取得するには、通常は10年以上の在留期間が必要だが、法務省は2012年に「高度人材ポイント制」を導入した。「学術研究」「専門・技術」「経営・管理」の3分野に分け、研究者の「博士号取得者」に30点、経営者の「年収3千万円以上」に50点などとポイントを積算。70点以上で「高度外国人材」と認めて最短5年で永住権取得を認めてきた。今回は、永住許可の申請に必要な在留期間を5年から3年に短縮。さらに、ポイントが80点以上の対象者は最短1年とする。「大学ランキングの上位校を卒業」(10点)、「国内で経営している事業に1億円の投資」(5点)なども新たにポイントとして加算する。 PS(2017年1月25日追加):*1-4の「米国第一エネルギー計画」「新たな規制の凍結も各省庁に指示」に関連して、トランプ米大統領は、*5-1のように、「①日本との自動車貿易は不公平だ」「②われわれが自動車を売る際、日本が販売を難しくしているが、日本は米国で多くの自動車を販売している」と指摘している。これは、関税だけでなく規制による非関税障壁も含む発言だが、環境規制などは規制緩和しさえすればよいわけではない。日本車は、1)狭い道路を走れる小型車を開発したり 2)高いエネルギー代金に対応する省エネを進めたり 3)厳しい環境規制をクリアしたりすることによって、付加価値の高い自動車を作ったため、米国でも売れているのである。そして、今後は、高齢化社会対応の自動運転車や環境対応の電気自動車・燃料電池車の開発が進むため、*5-2のように、米国がシェール、石油資源などの化石燃料を開発し、*5-3のように、化石燃料の増産や環境規制の緩和を図る方針を打ち出せば、米国の自動車は機能で他国の市場では売れなくなる。つまり、1980年代の日米自動車摩擦が再現するのではなく、需要者がどのような自動車を選択するかが重要であるため、販売は日本車に限らず顧客ファーストで考えたところが勝つのだ。 これに対して、英国は、*5-4のように、①グローバルな競争力をもつ製造業の集積 ②世界最先端の専門知識の集積と研究開発 ③英国政府の支援 などによるビジネス環境の魅力により、自動車でゲームチェンジ(イノベーション)が起こった時に勝つための準備ができつつあるようだ。 テスラ電気自動車 BMW電気自動車 日産電気自動車 ジャガー電気自動車 日産電気トラック トヨタ・ヒノ燃料電池バス トヨタ燃料電池列車 ホンダ燃料電池車 *5-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017012590070133.html (東京新聞 2017年1月25日) 【経済】日本の車市場を狙い撃ち 日米貿易摩擦再燃の恐れ トランプ米大統領は二十三日、ホワイトハウスで環太平洋連携協定(TPP)から「永久に離脱する」とする大統領令に署名した。一方で「二国間の貿易協定を目指す」と明言、米国の利益を最優先にする米国第一主義に基づき、各国に市場開放を迫る方針を示した。日本については「日本との自動車貿易は不公平だ」と指摘しており、一九八〇年代から九〇年代にかけての日米自動車摩擦時のような厳しい交渉を強いられる可能性もある。「米国の労働者にとって非常に良いことだ」。トランプ氏は大統領令を掲げ、満足そうに語った。通商政策の司令塔となる新設の国家通商会議(NTC)のトップに就くカリフォルニア大のピーター・ナバロ教授らが見守った。政権が本格稼働した同日、ホワイトハウスで最初に署名した大統領令が、TPPからの永久離脱だった。続く労働組合の幹部らとの会合で「交渉参加国と二国間の貿易協定を目指す」と宣言した。署名の前には企業経営者らと会合。「われわれが自動車を売る際、日本が販売を難しくしている。だが、日本は米国で多くの自動車を販売している」と批判し、対日圧力を強める考えを示した。日本は自動車の関税を撤廃しているが、米国メーカーは燃費や安全規制が厳しいと主張してきた。トランプ氏は、大統領選挙戦では「ラストベルト」と呼ばれる中西部各州で、自動車産業などで働く白人労働者階級に「海外に奪われた仕事を取り戻す」とアピールし、彼らの支持を集めることで勝利の原動力とした。日本の自動車市場批判は米国から日本への輸出を増やし、支持層に報いる狙いがあるとみられる。トランプ氏の日本批判について菅義偉官房長官は二十四日のテレビ番組で「日本は関税ゼロで、事実誤認。米国メーカーも右ハンドルにするとか努力をすれば問題ない」と反論した。日本政府は米国との二国間交渉には否定的な立場で米国にTPPに加わるよう翻意を促す方針。日米首脳会談を二月上旬に行う方向で調整しており、安倍晋三首相はその場でもTPPの重要性を訴える考え。だが、逆にトランプ氏から二国間交渉の要求を突きつけられる可能性がある。TPPの事前協議に農林水産省の交渉官として携わった明治大の作山巧(たくみ)准教授は「多国間交渉では、大国でも主張を押し通せない場合があるが、二国間では理屈抜きに主張がぶつかり合うため、大国が優位になる」と指摘。二国間交渉になった場合、農産物や自動車で米国の圧力が強まると予想している。 <日米自動車摩擦> 1973年の第1次石油危機などを背景に米国で小型車の需要が高まり、日本車の輸入が増える一方、対応が遅れた米自動車メーカーは大きな打撃を受けた。米国内で対日感情が悪化し、日本車の輸入規制を求める動きが広がった。日本側は81年以降、対米輸出の自主規制を実施。93年に始まった日米包括経済協議で自動車は優先分野となり、95年に両国政府は日本市場への参入拡大などで合意した。摩擦を受けて日本自動車メーカーの海外進出が進んだ。 <米大統領令> 立法手続きを経ずに米大統領が直接、連邦政府機関や軍に発する命令。議会は大統領令の内容を覆したり修正したりする法律を制定することで対抗することができる。憲法に反する内容の場合は、最高裁が違憲判断を示して無効とすることもある。太平洋戦争開戦から約2カ月後の1942年2月19日にルーズベルト大統領が出した大統領令9066号は、日系人の強制収容につながった。 *5-2:http://ieei.or.jp/2016/11/special201603013/ (国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授 有馬 純 2016/11/15) トランプ政権の下で米国のエネルギー・温暖化政策はどうなるか 米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選したことは世界中を驚かせた。そのマグニチュードは本年6月の英国のEU離脱国民投票の比ではない。選挙キャンペーン中のトランプ氏の過激な言動や公約が、大統領就任後、どの程度実行に移されるのかは未知数である。しかし確実に言えることは米国のエネルギー温暖化政策が大きく様変わりするということである。 1.国内エネルギー生産の拡大、安価なエネルギー価格が中核 トランプ氏のエネルギー政策の中核は国内エネルギー生産の拡大と米国のエネルギー自給の確立である。彼の「米国第一エネルギー計画(An America First Energy Plan)」注1) は以下の公約を列挙している。 ●米国のエネルギー自給の確立、数百万の雇用創出 ●50兆ドルにのぼる米国のシェール、石油、ガス、クリーンコール資源の開発 ●OPECカルテルや米国の利害に敵対する国々からの輸入を不要に ●連邦所有地(陸域、海域)のエネルギー資源開発への開放 ●排出削減、エネルギー価格の低下、経済成長につながる天然ガスその他の国産エネルギー源の使用を促進 ●オバマ政権の雇用破壊的な行政措置を全て廃止し、エネルギー生産への障壁を削減・撤廃することにより、年間50万人の雇用創出、300億ドルの賃金引上げ、エネルギー価格の低下を図る またトランプ氏はAn American First Energy Plan の中で、オバマ政権の「反石炭的な規制」を引き継ぐクリントン氏を強く批判している。トランプ氏が10月に発表した「米国を偉大にするための100日行動計画(100-day Action Plan to Make America Great Again)」注2) では「米国の労働者を守るための7つの行動」の中で上記のエネルギー資源開発の促進に加え、「キーストーンパイプラインを含むエネルギーインフラプロジェクトに対してオバマ・クリントンが課した制約を撤廃する」としている。こうした彼のエネルギー関連の公約には、シェール開発で巨万の富を得たContinental Resources 社オーナーのハロルド・ハム氏が強い影響力を及ぼしているといわれる。ハロルド・ハム氏は以前から2012年の大統領選ではミット・ロムニー候補のエネルギー問題のアドバイザーを務めており、トランプ政権のエネルギー長官候補としても名前が挙がっている。またトランプ氏の移行チームの中でエネルギー省を担当するのはMWR Strategies社長のマイク・マッケンナ氏である。彼はエネルギー省、運輸省の対外エネルギー関係アドバイザーやバージニア州環境局の政策・対外関係局長の経験があり、MWR Strategies社はダウ・ケミカルやKoch Industries, TECO Energy, GDF Suez 等のためのロビイングを行っている。エネルギー長官候補として彼の名前を挙げる記事もある。 *5-3:http://www.cnn.co.jp/usa/35093713.html (CNN 2016.12.14) トランプ氏、エネルギー長官にペリー氏を指名へ 情報筋 米国のトランプ次期大統領は、新政権のエネルギー長官にリック・ペリー前テキサス州知事を指名する方針を固めたことが14日までに分かった。政権移行チームの複数の情報筋がCNNに語った。 ペリー氏は同州の共和党重鎮として知られ、2012年と今回の大統領選に名乗りを上げたものの撤退していた。12年の共和党指名レースでは3つの省庁を閉鎖するべきだと訴えたが、討論会でそのうち1つを思い出せずに立ち往生した。この省庁がまさにエネルギー省だった。今回の指名レースでは当初、トランプ氏批判の先頭に立ったものの、資金集めに行き詰まって昨年9月に撤退。その後はトランプ氏支持に回っていた。オバマ現政権下のエネルギー省は再生可能エネルギー開発事業への助成や融資などを通し、化石燃料からの方向転換を推進してきた。一方、トランプ氏は現政権のエネルギー政策を覆し、化石燃料の増産や環境規制の緩和を図る方針を打ち出している。規制の多くは環境保護庁の管轄下にあるが、エネルギー省も重要な役割を果たすことになる。連邦所有地での化石燃料掘削には内務省の許可が必要とされる。移行チームから13日に入った情報によると、新政権の内務長官にはエネルギー自給を主張し、環境保護団体から批判を浴びているライアン・ジンキ下院議員が就任する見通しとなった。 *5-4:http://special.nikkeibp.co.jp/as/201501/innovation_is_great/great4.html 急速なグローバル化が進展する自動車産業の中で、英国の存在感が増している。その背景には3つのファクターが存在する。英国の自動車産業に詳しいリカルド ジャパン株式会社代表取締役社長の山本雄二氏に話を聞くことができた。同社は英国の自動車産業を代表する総合エンジニアリング企業であるリカルド社の日本法人だ。リカルド社は今年で創業100周年を迎える歴史を誇り、英国のみならず日本および世界の自動車メーカーと幅広くビジネスを展開している。 第一のファクターは、グローバルな競争力をもつ製造業の集積である。「欧州では自動車の開発プロセスにも数多くのサプライヤーが関わります。自動車メーカーにとって、確固たる技術基盤をもったエンジニアリング企業の存在は必要不可欠になっています」と山本氏。同社が提供するエンジニアリング分野は幅広く、自動車分野だけでもパワートレイン開発、ワイヤハーネス設計、軽量化技術など、多岐にわたるソリューションを提供している。「およそ自動車メーカーができることはリカルド社もできると思っていただいて結構です」。さらに同社の大きな特徴に「戦略コンサルティング」が挙げられる。単に技術の提供だけでなく、商品企画段階から市場予測に基づく戦略的コンサルティングを行っているのだ。リカルド社は現在、ジャガー・ランドローバー社と長期的かつ包括的なサポート契約を結び、エンジン・車体開発の一部を担当している。また、マクラーレン・オートモーティブ社が製造する超高性能スポーツカー向けのエンジンを共同開発し、その生産まで請け負うなど、エンジニアリング企業の枠を超えた自動車メーカーとの関係を築いている。リカルド社のような企業の存在こそが、英国の自動車産業のイノバティブな躍進を支える大きな原動力と言えるだろう。 第二のファクターは、世界最先端の専門知識だ。英国にはホンダ、日産、フォード、BMW、上海汽車、吉利汽車など、世界を代表する自動車メーカーが拠点を構え、研究開発を行う。リカルド社でも「既存のエンジン技術での資源の有効活用、低排出ガス(CO2抑制)などが求められるなかで、高効率ハイブリッドシステムやEV関連などの研究開発も行っています。特にバッテリーやモーターに関するソリューションを提供できるエンジニアリング企業は世界的に見ても少ないのが実情で、当社の強みの一つとなっています」とその先進性を語る。「英国には次世代のイノベーションが期待できる産官学連携のプログラムが数多く用意されています。当社でもいくつかの基礎研究分野において英国の大学との共同研究を行っています」。英国におけるイノバティブな産業育成プログラムといえば、前々回記事で紹介した、政府と産業界が資金を拠出する「カタパルト」が知られている。自動車関連では「高付加価値製造(HVM: High Value Manufacturing)カタパルト」によって多くの研究機関が連携するほか、輸送システムにおける将来のイノベーションの開発と展開を目指す「輸送システム・カタパルト」も積極的に活用されている。 最後のファクターは、ビジネス環境としての英国の魅力である。英国政府は産業界と連携し、前出のカタパルトを補完しながら、将来の自動車技術を開発する企業を支援している。投資受け入れ先として英国自動車産業の魅力を高めることにも積極的だ。取り組みの一部を紹介する。 ・先端推進システム技術センター(APC: Advanced Propulsion Centre ) 産官共同の自動車産業戦略の中心となり、今後10年間に10億ポンド(約1940億円)の資金を 投じ、先端推進技術の開発、商業化の実現を促進。 ・低排出車両庁(OLEV:Office for Low Emission Vehicles) 超低公害車の初期市場を支援する政府横断的な組織。9億ポンド(約1740億円)超の資金を 投入し、超低公害車の開発、製造および利用で世界の先頭に立ち、温室効果ガス排出と 大気汚染の削減を促進。 ・国立自動車イノベーションキャンパス(NAIC:National Auto Innovation Campus) 政府、ジャガー・ランドローバーおよびタタ・モーターズによる9200万ポンド(約178億円)の構想。 化石燃料依存を削減し、二酸化炭素排出を低減する新技術の開発を目指す。約1000名の研 究者、科学技術者、エンジニアが働く。 ・政府、ジャガー・ランドローバーおよびタタ・モーターズによる9200万ポンド(約178億円)の構想。 化石燃料依存を削減し、二酸化炭素排出を低減する新技術の開発を目指す。約1000名の研 究者、科学技術者、エンジニアが働く。 英国に拠点を置く企業に対する税務上のインセンティブも大きい。英国の法人税は現在、G20諸国中で最も低い20%にまで引き下げられている。大幅な研究開発費控除(適格研究開発支出1 ポンドにつき最大27 ペンス控除)を提供しているほか、特許発明などのイノベーションから生じた利益に対して法人税率を軽減(10%)するパテントボックス税制も適用している。また、製造部門の労働費用も西欧諸国としては最も低い水準であり、人件費の面でもメリットがある。「グローバル化とともに、自動車メーカーが全てのリソースを自前で賄うのがむずかしい時代になりつつあります。すでに欧州がそうであるように、日本でも外部のエンジニアリング企業にアウトソースを求める時代が到来しつつあります。そうしたなかで、日本企業が英国および英国企業とパートナーシップを組むことは意義のあることだと思います」。グローバルな視座からマーケットを俯瞰し、ダイナミックに変化し続ける需要にフレキシブルに対応できる英国のビジネス環境。そこには新しいビジネスの可能性が広がっている。すでに新しい日英パートナーシップは走り出している。その象徴が、欧州最大の自動車生産工場である日産サンダーランド工場が製造する電気自動車「リーフ」である。2015年9月8日(火)~9月18日(金)、英国政府による「Innovation is GREAT~英国と創る未来~」のキャンペーンロゴをまとった日産リーフが、東京の英国大使館から全国ツアーに出発する。日本各地の観光名所、英国ゆかりの地を巡りながら、日英パートナーシップをアピールするという。日本F3に参戦する英国人ドライバー、ストゥラン・ムーア選手が運転することが既に決定している。 PS(2017年1月26日):*6のように、佐賀県内の追突事故の1割弱は自動前進機能が原因だそうだが、運転車が意図しないのに自動車が動き出すのはプログラムミスだ。そのため、オートマチック車の運転者に「停止中はニュートラルして、サイドブレーキを使うように」と言うよりは、オートマチック車のプログラムを変更した方がよいと考える。また、確かに警察が集計した交通事故原因を参考にして改良すれば「運転支援システム」や「自動運転機能」の完成に役立つだろうし、事故が起こった際の関係者の怪我を集計すれば、車体の安全性における改良ができるだろう。 *6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/399034 (佐賀新聞 2017年1月26日) 県内の追突事故、1割弱が「自動前進」原因、県警「サイドブレーキを」 佐賀県内で昨年1年間に発生した追突事故のうち316件(8.7%)が、ブレーキから足を離すと自動的に進む「クリープ現象」によるものだったことが県警の集計で分かった。オートマチック車の運転者にサイドブレーキの徹底を促している。25日の定例会見で説明した。交通安全企画課によると、信号待ちなどで停止した際、後部座席のチャイルドシートを見ていて踏みが弱くなり追突したケースや、ブレーキペダルを踏む筋力自体の衰えでぶつかった高齢ドライバーもいた。同課は「ゆっくりとした前進でも大きな事故につながる可能性はある」と指摘し、「停止中は車間距離を十分取ってニュートラルの状態にし、サイドブレーキを引くことを徹底してほしい」と呼び掛けている。追突事故を原因別で見ると、脇見などの前方不注意が最も多く2378件(65.1%)。次いで歩行者らへの注視を怠った事例が744件(20.4%)、クリープ現象を含むブレーキ操作に起因するケースが435件(11.9%)だった。 PS(2017年1月27日追加):ゴーン社長率いる日産・ルノー組が世界で最初にEVを開発したが、日本の政府・メディアは航続距離が短いなどの批判ばかりを行ってディーゼル車やガソリン車への回帰を進め、EVの短所解決に協力することはなかった。そのため、*7のように、EVで世界の第一線から外れたのであり、日本の技術は、ハンドルを握っている文系の愚(中等・高等教育や組織構成に問題があると思われる)により、世界から遅れて初めてエンジンをかけられるというお粗末さなのである。なお、PHVは、ガソリンエンジンを併用しているため、部品が多くてコストダウンできず、車内も従来のガソリン車と同様なので、EVのメリットが出ない。 *7:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12767174.html (朝日新聞 2017年1月27日) ホンダ、EV開発に注力 燃料電池車の普及進まず ホンダが、出遅れた電気自動車(EV)の開発に本腰を入れ始めた。水素で走る燃料電池車(FCV)を「究極のエコカー」と位置づけてきたが、FCVの普及が進まず、米国で今秋に始まる環境規制への対応も急務となっているためだ。「EVをやめたわけではない」。昨年12月、早稲田大で講演したホンダの八郷隆弘社長は、「なぜEVに力を入れないのか」と質問した学生にこう強調した。社外には公表していないが、昨年10月、開発部門ごとに散らばっていたEVの技術者を集め、専門組織を新設。四輪車開発の責任者の直属とし、米国で今年売り出すEVの仕上げや、次世代のEV開発に当たらせている。ホンダは昨年3月、FCV「クラリティ フューエルセル」のリース販売を始めたが、初年度の国内販売計画は200台。米国も当面はカリフォルニア州の12店舗だけでの販売で、普及にはほど遠い。一方のライバルは、日産自動車がEV「リーフ」を世界で約25万台売った。同じくFCV重視だったトヨタ自動車も昨年11月、2020年をめどにEV量産を目指すことが判明した。米カリフォルニア州で今秋発売の18年モデルから始まる規制強化も、ホンダにEV開発を迫る背景だ。排ガスのない車(ZEV〈ゼブ〉)をより多く売り、一定の「点数」を稼ぐ必要があるが、ホンダなど日本勢が得意のハイブリッド車(HV)はZEVから外れた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、18年モデルでホンダが規制を達成するための販売の水準はEV約3千台、FCV約1千台、プラグインハイブリッド車(PHV)約8千台と厳しい。点数を満たせなければ罰金を支払うか、超過達成した他社から点数を買わなければならない。日産のようなEVの量産経験に乏しく、研究開発費がトヨタより3割少ないホンダにとって、EVとFCVとの「二正面作戦」が重荷になる可能性もある。ただ、ホンダが12年からリース販売した小型車「フィット」のEVは、開発にHVやFCVの知見を生かし、一度の充電で走れる距離を当時の世界最高水準にした。広報担当者は「技術で他社より遅れているとは思わない」と話す。 ■自動車大手3社はZEV規制への対応を急ぐ <ホンダ> ●従来の主なエコカー/クラリティ フューエルセル(FCV) ●累計世界販売/年200台以上を予定(16年3月発売) ●米国のZEV規制への対応/16年にクラリティ、17年にクラリティの車台を使ったEVとPHVを投入 <トヨタ自動車> ●従来の主なエコカー/ミライ(FCV) ●累計世界販売/約2300台(14年12月発売) ●米国のZEV規制への対応/ミライに加え、「プリウスPHV」の2代目を投入。20年メドにEV量産 <日産自動車> ●従来の主なエコカー/リーフ(EV) ●累計世界販売/約25万台(10年12月発売) ●米国のZEV規制への対応/リーフで対応。近い将来にリーフは全面改良し、傘下の三菱自動車のPHV技術も導入 PS(2017年1月29日追加):台湾には、17世紀頃に中国福建省の人が移民して来る前から居住していた先住民がおり、第二次世界大戦後に日本に代わって台湾を統治した中華民国政府は、1949年2月7日に蒋介石率いる中国国民党が台湾島に来たことにより実効支配するようになったものである。そのため、*8-1のように、中国から「日本が台湾を侵略したことを忘れたのか」と批判されるのはおかしい上、日本が侵略したとされる他国と異なり、台湾の人々は親日的な人が多いのだ。 また、*8-2のように、厚労省の発表では、2016年10月末時点の外国人労働者は108万人で、(労働条件は改善すべき点が多いものの)中国からの34万4,658人が最も多く、日本は中国へのODAもかなりやってきたため、「日本が中国を侵略した」ということを、いつまでも外交カードに使ってもらいたくない。さらに、私は個人的に、中国はスケールが大きく将来性もある国だが、民主国家とは言えず、まだ公害が多くて人権が疎かにされているため、安心して住めないような気がしている。 *8-1:http://mainichi.jp/articles/20170129/k00/00e/030/107000c (毎日新聞 2017年1月29日) 台湾、蔡英文総統が英語と日本語でツイート 内外に波紋 台湾の蔡英文総統が28日の春節(旧正月)に合わせて英語と日本語で新年のあいさつをツイッターで投稿したところ、中国から「なぜ中国語で書かないのか」と批判の書き込みが相次いだ。これに対し日本や台湾からも反論が投稿され、激論となった。台湾紙、自由時報(電子版)が28日、伝えた。蔡氏は大みそかにあたる27日、英語と同時に日本語で「日本の皆様、今年は実のある素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り致します」と書いた。中国からは「ごますり」「日本が台湾を侵略したことを忘れたのか」などと批判が殺到した。 *8-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201701/CK2017012802000113.html (東京新聞 2017年1月28日) 外国人労働者108万人 昨年10月末 技能実習生、受け入れ拡大 厚生労働省は二十七日、二〇一六年十月末時点の外国人労働者数が初めて百万人を突破し、百八万三千七百六十九人になったと発表した。前年比で19・4%増加し、企業に届け出を義務付け集計を始めた〇八年以来最多となった。全体の増加率はこれまでで最も大きく、全ての都道府県で前年の人数を上回った。人口減少で人手不足感が強まる中、外国人労働者に頼る流れは続くとみられるが、欧米諸国では外国人居住者の増加が国を二分する論争になっている。日本でも受け入れを巡り国民的な議論が必要となりそうだ。人手不足から高い技能を持つ人材や留学生アルバイトの受け入れが増えたほか、安価な労働力との批判がある技能実習生の大幅増も全体を引き上げた。国籍別で最多は中国の三十四万四千六百五十八人で前年比6・9%増。次いでベトナムが十七万二千十八人で56・4%増加し、留学生によるアルバイトや技能実習生が多くを占めた。フィリピンが十二万七千五百十八人で続いた。ネパールはベトナムに次ぐ増加率(35・1%)だった。都道府県別では、東京が最多で三十三万三千百四十一人、愛知が十一万七百六十五人、神奈川が六万百四十八人だった。
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2017,01,05, Thursday
あけまして、おめでとうございます。書くべきことは多いのですが、今日は2017年度の国家予算と高齢者いじめの年金・医療・介護の負担増・給付減の話です。
国の借金 国の一般会計 2017年度予算案 社会保障推移 日本の人口構成 2015.1.28Goo 2016.12.22毎日新聞 (図の説明:国の借金は1989年《平成1年》の消費税導入以降、次第に増えて2015年《平成27年》には1000兆円を超えた。これは、消費税増税を目的として税収増以上の景気対策と称する歳出増を行ってきた結果である。また、消費税は、価格を上げて消費を抑える効果もある。この結果、2017年政府予算案では、国債費が最も大きな支出項目となっているが、このうち国債の利払費は低金利の現在、国債を借り換えすることによってかなり節約できる。社会保障費の割合は大きく金額も増えているが、これは高齢者の数が増加したことが原因で一人当たりの社会保障費が増えたわけではない。特に介護は大きく不足しており、我が国の社会保障は、まだ削減するよりも充実すべき段階にある) 労働生産性 労働者一人当たり労働時間推移 労働時間世界比較 医師の労働時間世界比較 (図の説明:我が国の労働生産性はOECD加盟国のうち21位で決して高くないが、全員の労働生産性が低いわけではなく、公的部門や雇用対策・景気対策でなされる事業の生産性が特に低いのだろう。また、我が国の労働者1人当たりの年平均実労働時間は、1980年には2,104時間/年だったが、2012年には1,765時間/年まで減っており、これはアメリカ・イタリアより少ないため、我が国の労働者は働き過ぎだと主張する人は30年古い感覚である。しかし、医師の労働時間数は世界でもとりわけ高く、過労死認定基準を超えており、このように疲れていては治療の安全性さえ危ぶまれるが、他の職種との給与差は世界でも小さい方であり、度重なる診療報酬の引き下げは医療の質を落とす可能性が高い) (1)国の異次元の借金と歳入・歳出について *1-4に、「①国の借金が1062兆5745億円に達して国民1人当たり約837万円の借金になった」「②高齢化で増え続ける社会保障費を賄うため借金が膨らんだ」「③経済対策の財源として建設国債を発行するため、2016年度末の国の借金は1119兆3000億円程度になる」と記載されている。 このうち①は、国の負債部分しか見ておらず資産を考慮していないため正しくない。そして、その資産は使い方によっては大きな収益を産んで価値が高くなるが、金をどぶに捨てるような使い方をすれば価値がなくなり、現在は後者の使い方が目立つ。 また、③は事実を書いたのだろうが、②の「借金が膨らんだ理由は社会保障費だ」というのは間違いだ。何故なら、社会保障費はあらかじめ予測できた支出であり、受益者たる国民は働いた期間に保険料を支払ってきたため、基本的に保険料収入から支出すべきもので財政支出すべきものではないからだ。それにもかかわらず、国民が支払った保険料では賄いきれずに財政支出しているのは、これまで監督官庁が単年度の収支しか考えておらず、保険料の徴収や積立金の管理・運用・配分等が著しく杜撰だったからである。 そのため、その本質的な原因をなくさずに、「官は正しいことをしてきたが、少子高齢化(これも予見できた)が原因だ」などとして積立金不足の責任を特定世代の国民にしわ寄せするのは、正義に反する上、それでは社会保障が信頼をなくし、杜撰な管理・運用が今後とも改善されないのでよくない。 (2)2017年度の政府予算案について 1)予算案はまともに審議されるのか? 一般会計歳出総額97兆円台半ばの2017年度政府予算案が、*1-1のように閣議決定されたが、これでもし衆議院が1月に解散されれば、国会のしっかりした審議もなく膨大な予算が執行されることになる。そのため、これは主権者である国民を無視した憂慮すべき事態だ。 2)国債残高と利払いについて 大手新聞社は、*1-1のように、一貫して「社会保障が膨らみ、新規国債の発行額は16年度の34.4兆円をわずかに下回る薄氷の減額で、改革の切れ味が鈍い」という論調だが、正しくは国債増加額と国債の利払いを問題にすべきだ。そうすると、金利の低い現在は、新規国債を発行して金利の高い国債を返済し、今後の利払いを抑えるのが賢明だということがわかる。そして、「歳出の中で割合が大きいから、社会保障費を削るのが改革だ」とするのは、後で理由を書くとおり、間違いである。 3)沖縄振興と政府開発援助について 沖縄振興は、基地を縮小し、沖縄自身が観光業・その他の産業を起こし、街づくりをして自ら稼ぐことができるようにするのが最も有効な投資であり、基地負担を強いるためにいつまでも補助金をばら撒くのは誰にとってもプラスにならない。 また、政府開発援助(ODA)も大きいが、日本の外交は、国民に負担させて金をばら撒くばかりで、論理的に交渉する力に欠けているため、無駄遣いが多すぎる。 4)高齢者の負担増について 高齢化による自然増6400億円の社会保障費を1400億円抑え、中高所得者とも言えない所得の低い高齢者の医療・介護負担を増やして高齢者向け社会保障費を5000億円増に抑えたのは、現在の本物のニーズである高齢者の医療・介護需要を減らさせ、命を支えている医療・介護従事者に不当な負担を強いた上、高齢化社会で必要となる財・サービスの開発・普及を妨げているため、間違った政策である。 一方で、健康な生産年齢人口に当たる人の“働き方改革”に2100億円も充てているが、これは、脱法行為も含む労働基準法違反や男女雇用機会均等法違反をしっかりと取り締まればよいのであり、補助金を積んで改善していただくべき事項ではない。 なお、*1-5のように、電通の新入社員である高橋まつりさんが異常な長時間労働の末に自殺した事件について、母の幸美さんが「日本の働く全ての人の意識が変わってほしい」と求める手記を公表し、一つの特殊な事例を働く全ての人に敷衍しようとしているが、これには無理がある。何故なら、(アウト・プットを見ればわかるとおり)電通は広告会社であり、東大は研究者や各界のリーダーを養成する校風であるため、東大文学部を卒業したからといって電通の仕事をする能力に長けているとは限らないからだ。 また、上司が「目を充血させて会社に来るな」と言ったのも、本人が長くエネルギーを出し続けるためには無茶な残業をするよりも規則正しく仕事をする方がよい上、朝から他の社員に疲れを伝染させるようなことはしない配慮も必要であるため、上司として必要な注意だったかも知れず、パワハラとは決めつけられない。さらに、上司が「君の残業は電通にとって無駄だ」と言ったのも、成果があがらないので少なくとも頑張っているところを見せたいため長時間残業をする人もおり、それは本当に無駄であるため、必要な注意をしたのかもしれないからである。しかし、新入社員に、一人で責任を持つ形で困難な仕事をさせていたのであれば、それは異常であるとともに、社員を育てる意識に欠ける。 そのため、まつりさんは、①社内の人事部などに相談する ②私もされた経験があるのでわかるのだが、東大卒など上昇志向の女性いじめの可能性も高いため、大学の就職相談室に相談しておく (労働基準監督署は、それ自体に女性差別があり、賃金と残業時間くらいしか対応できないため、このような女性差別の問題は大学の就職相談室が相談を受け付け、会社毎に挙がってくる問題を集計して対処した方がよい) ③労働問題・男女共同参画問題の専門家である弁護士に相談する ④(本当に自殺なら)母一人子一人の母親に喪失感を与えるような自殺はしない ⑤どうしても仕事や社風が合わなければ転職する など、大人としてやるべきことがあった筈なのだ。 なお、日本社会は、「会社に入ったら辞めるのは落後者だ」という烙印を押すのをやめ、諸外国と同様、転職や中途入社をしても不利にならない雇用システムにすることが重要だ。また、本気で仕事における女性軽視や上昇志向の女性いじめをやめることも必要である。そして、この事件に対する日本社会の変な反応によって、本当に必要な時間外労働をしている人までが批判され、わかりやすい例を挙げれば、医療・介護も夜間・休日は休業しなければならないとか、メディアも生放送や朝刊をなくさざるをえないなどの負の結果が出るのは論外だ。さらに、仕事量が減らないのに午後8時や10時に全館消灯されると、家に仕事を持ち帰らざるを得ない人が増え、電車に忘れたりしてセキュリティー上のリスクが上がるとともに、それこそ仕事とプライベートの堺をなくさせ、ペースを乱させて労働生産性を下げる。なお、生産年齢人口が減る中で労働生産性を下げると、労働の量と質の両方が減ることを忘れてはならない。 最後に、*1-2に、「1億総活躍社会の実現」として、保育士や介護職員の処遇改善に952億円を充てたと書かれているが、このやり方は保育と教育の連携や医療・介護制度の全体を考慮していないため、資本生産性が低い。 5)防衛費について 防衛費は過去最高の5.1兆円に増やしたそうだが、東京オリンピックの競技場と同様、政府が購入する物品は国内市場価格の3~4倍であり、中国と比較すれば5倍にものぼる。そのため、多く支出する割には大したことはできておらず、公的部門の資本生産性(支出1円当たりの効果)は著しく低い。 また、*1-2の海上保安庁の予算(2106億円)も同様だと思われるため、高コスト構造や公的部門の購入コストを何とかしなければ、無駄遣いが非常に大きいのだ。 6)土地改良事業について 資本生産性が低いのは、4020億円を充てた土地改良事業も同じだ。土地改良費はこの20年の累積で約8兆円(4000億円/年 x 20年)近くにのぼるが、未だに大型機械が入らない区割りになって いる場所があったり、いつまでも土地改良事業が必要だと言っていたりするのは、これまで何をしてきたのかと思われる。私は、災害で壊れた場所を治す時も、何度も同じ場所を工事する必要がないように、復旧して元に戻すのではなく、時代の要請にあったものを造るべきだと考える。 7)歳入・歳出と消費税増税について 歳入面では、来年度の税収は今年度当初比1000億円増の57.7兆円に留まり、歳出の伸びと比較して税収の伸びが鈍いため、外国為替資金特別会計の運用益等の税外収入を2016年度の4.7兆円から2017年は5兆円超に伸ばす方針なのだそうだ。しかし、これまでに書いてきたとおり、税収増は、各生産性を上げ、国産自然エネルギーに代替したり、新産業を創出したりすることによって実現でき、税外収入は地熱・天然ガス・地下資源などの国産資源を開発する方が大きな効果が得られる。 なお、日本の消費税は、1989年(平成1年)に導入されて税率3%でスタートし、1997年(平成9年)に5%に引き上げられ、2014年(平成26年)4月からは8%に引き上げられた。そして、一番上の左から2番目のグラフを見ればわかるとおり、消費税導入翌年の平成2年から国の歳出が歳入を大きく上回り始め、その差は増税毎にますます大きくなって、それにつれて国債発行残高が増えているのだ。これは、消費税増税のための景気対策と称して消費税増税以上の歳出をしているからで、消費税が財政に貢献するというのは消費税増税自体が目的である政府の御都合主義の神話である。なお、「社会保障費は消費税や付加価値税からしか支出してはいけない」などとする国は、日本以外にはない。 8)少子高齢化社会のニーズに合ったサービスである社会保障の削減について 東京新聞が*1-3に記載しているように、政府が12月22日に閣議決定した2017年度予算案は、上記3)~6)の増加があった半面、高齢者関係の社会保障費の増加を抑え、高齢者に対して予算のしわ寄せを行っている。 そして、歳出の1/3を占める社会保障費の伸びを抑えるためとして、医療・介護の分野での高齢者の負担増が多く、①一定の所得のある70歳以上を対象とした医療費の自己負担上限引き上げ ②後期高齢者医療制度保険料の自己負担増加 ③高齢中所得者の介護保険サービスの利用者負担上限引き上げ が盛り込まれ、菅官房長官が12月22日の記者会見で「社会保障と財政を持続可能にすることができるようにするということは当然」として、翌年度以降も医療・介護での負担増は避けられないとの考えを早くも強調したそうだ。 しかし、この政策は、“社会保障”と“財政”を持続可能にするどころか社会保障の機能を失わせ、「高齢者は国民負担になるから、次世代のために早く他界してくれ」と言わんばかりだ。これは、憲法25条の「①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する ②国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という国民の生存権と国の社会的任務を定める規定に反する。 また、(3)で書くとおり、もともと少ない高齢者の可処分所得を削り、生産年齢人口にあたる健康な人のために景気対策と称して資本生産性の低い大きな財政出動を行って国全体の労働生産性を落としつつ、今後人口における割合が高くなる領域(一番上の右端のグラフ参照)の消費を抑えてGDPの増加(=経済成長)を阻害している点で、賢くない政策である。 (3)GDP算出方法の基準変更と実質GDPが増えない理由 異次元の金融緩和や莫大な財政支出による景気対策を行っても、*2-1のように、実質国内総生産(GDP)の成長率は2%に満たず、①個人消費などの内需は弱くて輸出が牽引している構図に変わりない ②企業の設備投資が下方修正された ③民間在庫の減少も下押し要因となった とのことである。私は、①は税と社会保障の一体改革で人口の25%を占める65歳以上の消費を抑制した影響が大きく、その結果、国内消費が冷え込んだため、②③のように国内投資が抑制されたのだと考える。 また、内閣府はGDP算出方法の国際基準変更に伴って、今回から研究開発費を投資に追加する変更を行い、過去分にさかのぼって数値を修正したところ、設備投資は速報値の前期比0.03%増から0.4%減と悪化し、GDPの6割を占める個人消費は0.1%増から0.3%増に改善したそうで、内閣府が国際基準の変更に伴ってGDPの計算方法を見直した結果、2015年度の名目GDP確報値は532兆2千億円になり、基準変更の影響だけで2015年度の名目GDPは旧基準と比較して31兆6千億円拡大して、安倍政権が目標として掲げる名目GDP600兆円に近づいたそうだ。しかし、これは尺度の変更にすぎない。 このうち最も大きな変更点は、今まで費用とされてきた研究開発費を付加価値を生む投資としてGDPに加えるようになったことで、これによる名目GDPへの上乗せ効果が研究開発費だけで19兆2千億円あるそうだが、研究開発に失敗はつきもので研究開発費のすべてが付加価値を生む投資になるわけではないため、私はこの認定は甘すぎると考える。国際会計基準(IFRS)では、研究開発投資について合理的な根拠がある場合(新商品に繋がる可能性が高く、その際に特許権・商標権等が生じるなど)に限って資産性を認めて資産計上できることになっている。 なお、*2-2に書かれているとおり、新基準では統計の基礎となる産業連関表を実勢に近い2011年分に切り替えるそうだが、日本の産業連関表は、第二次産業(製造業)が細かく分析されているのに対し、第一次産業(農林漁業、鉱業)や第三次産業(サービス業)が大雑把にしか扱われていない点で時代についていっていないため、これを改善すべきだと、私は考える。 何故なら、先進国で高コスト構造の日本は、既に製造業による加工貿易に適した国ではなく、そのような国で雇用吸収力の高い産業は国内向けの財・サービスを生産する産業で、実際にそれらのGDPに占める割合が高くなっているからだ。さらに、人口に占める割合の高い高齢者向けの需要は増え、日本で高齢者向けの洗練された財・サービスを開発すれば、それは後に続く他国へも輸出可能な筈である。 なお、日本で輸出を伸ばせる産業には、これまで重視してこなかったため伸びしろが大きく、工場のように移転できない農林漁業と関連食品産業、鉱業、現代の技術を取り入れた伝統産業などもある。 そのため、(2)の予算のように、高齢者から可処分所得を巻き上げ、高齢者がQOLを高くするために自由に選択して消費することを不可能にし、それによって高齢者向けの洗練された財・サービスの開発を妨げて、一方でグローバル化と称して農業を犠牲にして自動車の輸出を計るのは、過去のやり方を繰り返そうとしているだけで現在と将来を見すえていないため愚かである。 (4)高齢者に対する給付減・負担増は日本経済にマイナスであること 1)年金について “改革”の工程 圧縮案 年金“改革”の内容 賃金スライド “改革”の理由 2016.11.24 2016.10.13 2016.12.3 佐賀新聞 毎日新聞 西日本新聞 (図の説明:一番右の表のように少子化で支え手が減るという理由で、一番左の表のように年金・医療・介護などの高齢者向け社会保障は給付減・負担増ばかりだが、これでは社会保障の機能を果たさない。そのうち年金に関する支給開始年齢の引き上げはよいと思うが、仕事も蓄えもなければ生活保護に頼らざるを得ないため、70歳くらいを年金支給開始年齢(=定年)として、それ以前に健康で仕事がない人には失業保険で対応するのがよいと考える。なお、年金については、受託者が失敗した徴収・管理・運用の責任を国民に押し付け、受給額引き下げや賃金スライドまで取り入れて減額に専念しているが、このままでは今後も同じことが繰り返される。そのため、組織の見直しでお茶を濁すことなく、年金に退職給付会計を採用して要積立額の数理計算を行い、年金受給者のための徴収・管理・運用を徹底すべきだ) 各国の公的年運用 日本は積立金運用方針変更で赤字 厚生年金未加入者 (図の説明:公的年金の積立金運用は、アメリカでは100%債権であり、そうでない国もあるものの、金融技術が進んでいるのはアメリカだ。私も、老後資金であり喪失できない年金積立金の運用は、元本が減らないような割合(80%以上)で債権による運用をすべきだと考えているが、日本では年金積立金をリスク資産に振り向けた結果、大きな赤字を出し、積立金のさらなる減少を招いた。なお、物価上昇や低金利は債権での運用に不利だが、そもそも物価上昇や異常な低金利は国民生活を害する経済政策なのだ。また、利子率は労働生産性や資本生産性などの生産年齢人口の稼ぎ方に依るため、日本は労働生産性や資本生産性を上げるような予算の使い方をしていない点でも政策が間違っている。なお、日本では厚生年金に加入できない人が多く、老後の生活に不安があるが、これらの人も厚生年金に加入させれば、厚生年金財政も少し楽になる) 日経新聞は、2016年12月8日に経済教室で、*3-1のように、中央大学教授の山田氏の見解を掲載しているが、このように高齢者は金を使わないと言うのが、現在言われている高齢者からは金を巻き上げてよいとする根拠だ。しかし、この感覚は全く変である。 その内容は、「①欧米と違い、家族の制約から高齢者はお金があっても消費に回さない」「②日本では家計を妻が管理しており、引退後も夫は自由に金を使えない」「③団塊世代の夫婦年齢差は平均4歳で平均寿命も6歳ほど女性が長く、妻は夫が亡くなった後の10年を1人で生活しなければならないため、金を夫に使わせたくない」「④日本では夫婦共通の趣味を持つ高齢者が少なく、共通の趣味を楽しむために2人で金を使う夫婦は少数」「⑤夫婦仲も欧米に比べて良いとは言えず、自分の趣味のために夫婦のお金を使うと相手に嫌がられる」「⑥高齢者は子との関係が悪化することに不安をもっており、資産のない高齢者は子との関係が疎遠になりがちなため、資産がなくなったら子から見捨てられるかもしれないという不安がある」「⑦そのため、金を持っていようという高齢者が増える」「⑧日本では、病気や介護状態が長期化した時、中流生活を維持しようとすれば、ヘルパーなど余分な費用がかかるので、可能性は低くてもそういう状態になった時に困らないように、お金を取っておこうとする」などと書かれている。 このうち、①は間違いで、⑧の医療・介護需要は必需品の消費だ。そして、高齢者は医療・介護が必要になった時に、あてにできない子に頼らなくてもよいように蓄えを持っておこうとしているというのが正しい。さらに、③のように一人で生きなければならない期間に年金が減らされて貧困に陥るのを避けるため、②のように無駄遣いをしないようにしているのだ。また、④⑤は一般化できず、⑥⑦のように子との関係維持のために資産が必要だというのは、よほど子の教育が悪かった人だろう。 そのため、私は、意図的に高齢者の消費を抑えなければ、堺屋氏の言うように高齢者が多く消費する時代が来て、洗練された高齢者のニーズが新たな財・サービスの開発に繋がると考える。 しかし、*3-1のような世論を作った上で、将来の年金水準確保が狙いだとして、*3-2のように、政府は、「物価が下がった場合だけでなく現役世代の賃金が下がった場合にも高齢者への年金支給額を減額する」という新ルールを作って高齢者への年金支給額抑制を強化した。これにより、*3-3のように、国民年金の支給水準が現行より最大0.6%下がり、将来世代の受け取りが最大0.6%上昇する計算だそうだが、このような単純な算術しかできない人が日本経済を考えたり年金の設計をしたりするのが、大きな間違いなのである。 なお、中小企業の従業員や非正規社員も、本来は厚生年金に加入しなければ老後の生活に困るため、ここを厚生年金に加入させることは、本人のためである同時に、年金財政上も重要である。そして、年金で生活できなければ貯蓄を増やさざるを得ず、貯蓄がなければ生活保護受給者になるのだ。 また、私は、*3-4の「年金運用巨額赤字 国民に失敗のつけを回すな」という琉球新報の社説に同感で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がリスク資産への投資を増やして、2015年度の運用損が5兆円を超える巨額赤字になる見通しだというのは失策だと考える。そして、ここまで大きな責任に対し、誰かが引責辞任したからといって、国民にとっては何の役にもたたない。 さらに、*3-5のように、厚労省は、75歳以上の後期高齢者医療制度で保険料徴収システムの不備があり、2008年度の制度発足時から全国的に計算ミスで保険料を過大・過小に徴収し、ミス発覚から5年間も放置していたとのことだが、これがこれまでにも多かった厚労省の杜撰さで、民間企業ならとっくに倒産しているところだ。しかし、2年を超えて請求のなかった債権債務は、短期消滅時効にかかるため請求はできない。 なお、*3-6のように、国民年金・厚生年金を受け取るのに必要な受給資格期間が25年から10年に短縮されたのは、少し進歩だ。しかし、本来は、短い期間でも年金保険料を支払った人は、支払期間と支払金額に応じて年金を受けとれるようにするのが公正で、今まで支払期間が25年に満たないとして年金が支払われなかった分は、国の不当利得になっていたのである。 2)医療・介護について “改革”の工程 圧縮案 医療の高額療養費 介護負担 65歳以上の介護保険料 2016.11.24 2016.12.16 佐賀新聞 東京新聞 (図の説明:高齢になると病気が増えるので医療・介護費がかさむが、働いている期間は病気もしないのに保険料を支払っているので、これによって保険制度が成立するわけである。そのため、高齢者のみが入る後期高齢者医療制度を作るなどというのは、保険を理解していない人のすることだ。また、高齢になると医療・介護の出費がかさむため、大金持ち以外は75歳以上の窓口負担を1割にしたり、高額医療費の上限を低くしたりするのが当然で、支払上限は医療・介護の双方を足した金額も考慮して決めるべきだ。また、救急で近くの専門医に運んでもらったり、深刻な病気でセカンド・オピニオンをとったりする場合もあるため、かかりつけ医以外を受診すると追加負担させるというのも先進国のすることではない。さらに、入院した際に部屋代以外に高熱水費をとられるのは、ホテル代を支払う時に高熱水費を別に請求されるのと同じくらい違和感がある。そして、こうまでしてたった数百億円を節約するために既に法案提出の準備を終わったというのだから呆れる。さらに、介護については、2000年(平成12年)4月に始まったばかりで、まだ軌道にさえ乗っていないのに、上限引き上げ・利用料引き上げ・保険料引き上げ・サービスカットなど負担増・給付減の話ばかりで、40歳以上からしか介護保険料を徴収せず、利用者の年齢も制限しているという不合理で変則的な制度については改善していない。つまり、他では兆円単位の無駄遣いをしながら、命を支える医療・介護には数百億円単位でケチケチしており、倫理に反する) 来年度から順次実施される医療保険と介護保険の見直し案が、*4-1のように決まり、それは高齢者に負担増を求める内容で、①医療は70歳以上で現役並みに所得のある人の月毎の負担上限額を現役世代と同水準に引き上げ ②75歳以上の保険料を本来より軽減している特例も段階的に縮小し ③介護では、現役並み所得者の利用者負担を2割から3割に引き上げる ④現役よりも所得の少ない人も、住民税が課税されていれば月毎の負担上限額を医療並みに上げる とのことだ。 さらに、*4-1には、会社勤めの人の保険料は、大企業の社員は重く、中小企業の社員は軽くなると書かれている。見直しの根底にあるのは、大企業・高額所得者という分類を設けて負担を重くすることだが、「大企業」を分ける意味はなく、「現役並み」とする境界も低すぎる。また、所得の再分配は累進課税で既に行っているため、同一サービスを同一対価で受けられないのはむしろ差別にあたる。その上、高齢者は支えてもらう側というのも、働いている期間に多額の保険料を払って来た人にとっては失礼な話だ。さらに、悪影響を受けるのが高齢者だけならよいとする発想はあくどい。 つまり、*4-2のように、高齢者の命に関わる支えをはずし、高齢者の生活を脅かす改悪をして公正さを損ないながら、社会保障費でたった1400億円を抑制するよりも、(2)に記載したとおり、抑制すべき桁違いに多額の無駄遣い予算がいくらでもあるのだ。 さらに、*4-4のように、医療費と介護費の毎月の自己負担額にそれぞれ上限を設ける「高額療養費制度」「高額介護費制度」も上限を上げるそうだが、医療費で高額療養費制度を適用されるような高齢者は、介護も受け続けなければならないケースが多く、高齢者の収入から両方を支払うのは年収370万円(=月収約31万円だが、介護保険料や水光熱費は必ず引かれる)だったとしても容易ではないだろう。そのため、医療費と介護費を合計した上限も設定すべきである。 また、*4-3のように、厚労省は、2017年度から予定する公的医療保険制度の見直しで、75歳以上の後期高齢者医療制度で、所得が比較的低かったり扶養家族だったりした人も保険料の特例軽減を廃止して段階的に引き上げ、70歳以上の医療費優遇措置も縮小して、国費350億円の抑制を見込むそうだが、小さな効果のために高齢者の生活を脅かすのはいい加減にすべきだ。 そして、診療報酬削減も繰り返した結果、*4-5のように、地域医療が崩壊の危機に瀕し、居宅・特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・介護老人保健施設のニーズの見直しが進んでいるが、高齢化が進んでいる農村で、住民が住み慣れた土地で安心して暮らし続けられるためには、医療・介護の一体化が欠かせず、地域包括ケアを根付かせることができるかどうかが地域医療の試金石となるそうだ。 なお、日本農業新聞が、*4-6の2016年11月13日に書いているとおり、介護の必要度が比較的軽い「要介護1、2」でも、社会的入院をせず自宅療養するためには在宅支援サービスの生活援助が不可欠であるため、介護保険が縮小されると介護利用者の不安が頂点に達するそうだ。そのため、現在でも足りないくらいの介護費用を数百億円削り、健康な生産年齢人口の人に対して景気対策と称する数兆円規模の無駄遣いをするのは不適切である。また、年中、制度変更と削減を繰り返されると、介護主体も経営が安定せず混乱する。その上、介護や生活支援のように毎日必要とされる重労働に報酬で報いることなく、善意のボランティアで済ませようとするのは、介護や家事労働を馬鹿にしている人の発想だ。 <国の財政支出、借金> *1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161218&ng=DGKKZO10806150X11C16A2NN1000 (日経新聞 2016.12.18) 来年度予算 改革の切れ味鈍く、歳出、社会保障膨らむ/歳入、薄氷の国債減額 政府は2017年度予算案で一般会計の歳出総額を97兆円台半ばとする方針だ。5年連続で過去最高を更新する。国債の想定金利を過去最低の1.1%に据え国債費を抑えたが、高齢化で社会保障費の膨張が続く。歳入面では税収が16年度当初予算並みの水準にとどまると想定し、新規国債の発行額は16年度の34.4兆円をわずかに下回る薄氷の減額となる。麻生太郎財務相らが19日に関係閣僚と折衝し、沖縄振興や政府開発援助(ODA)、教職員定数など残された課題の予算規模や方針を詰める。22日に閣議決定し、来年の通常国会に提出する。歳出総額は前年度の96.7兆円から増やし、97.4兆~97.5兆円とする案を軸に最終調整している。夏の概算要求の段階で高齢化による自然増を6400億円と見積もった社会保障費は、中高所得者の高齢者の医療・介護分野の負担を増やし5000億円増に抑えた。その一方で、子育てや介護、年金などの充実策には新たに3000億円程度を投じ、働き方改革の予算には前年比3割増の2100億円を充てた。ミサイル防衛などを強化する防衛費は過去最高の5.1兆円に増やし、4020億円を充てた土地改良事業を含む公共事業費は5年連続増の6.0兆円とした。今年度第2次補正予算案で追加支出した農林水産関係費は20億円減の2.3兆円に、文教・科学技術振興費も微減の5.4兆円とした。一般歳出以外の経費では、財務・総務両省が地方交付税交付金を前年比3000億円増の15.6兆円前後とする方向で詰めの協議を進めている。国債費は国債の想定金利を過去最低の1.1%に据えた。5000億円程度の抑制効果があり、国債費全体でも16年度当初の23.6兆円を最大1000億円下回る。歳入面では、今年度第3次補正で税収見積もりを1.7兆円下方修正する影響で、来年度税収が今年度当初比1000億円増の57.7兆円にとどまる。歳出の伸びと比べ、税収の伸びが鈍かったため、外国為替資金特会などの運用益などの税外収入を確保し、16年度の4.7兆円から5兆円超に大幅に伸ばす方針だ。この結果、財源不足を穴埋めする新規国債の発行額は16年度の34.4兆円を数百億円程度下回る見通しだ。ただ、国債減は想定利率の大幅な引き下げや税外収入の確保といった特殊要因の寄与度が大きく、減額幅は安倍政権発足後ではもっとも小さくなった。 *1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12719390.html (朝日新聞 2016年12月23日) 膨張予算、歯止め遠く 来年度、過去最大97.5兆円案決定 政府が22日に閣議決定した2017年度予算案は、5年連続で過去最大になった。高齢化で年金や医療など社会保障費が膨らむ中、防衛費や公共事業費も増える。一方、ここ数年は数兆円伸びていた税収は、16年度当初比で1080億円の微増にとどまる。一般会計の歳出総額は97兆4547億円。歳入穴埋めのための新たな国債(国の借金)発行額は34兆3698億円となった。16年度当初より622億円減らすが、17年度末の国債の残高は2・4%増の865兆円に膨らみそうだ。税収は、政府の17年度の経済成長率見通し(名目2・5%、実質1・5%)が前提。米大統領選後の円安・株高も織り込んでおり、世界経済の動向によっては想定通りの税収が得られない可能性もある。社会保障費も1・6%増の32兆4735億円で、過去最大を更新した。一部の負担増で自然増を圧縮しつつ、「1億総活躍社会の実現」として、保育士や介護職員などの処遇改善には952億円を充てた。防衛力強化に向け、防衛費も過去最大の5兆1251億円とした。海上保安庁の予算は要求を上回る2106億円を認めた。公共事業費も、5年連続で前年度を上回った。政府は、16年度より新たな借金はわずかに減らせたことから、「経済再生」と「財政再建」を両立できたとする。だが、税収は伸び悩み、新たな借金に頼らない財政という20年度の目標は遠のいた。 *1-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201612/CK2016122302000143.html (東京新聞 2016年12月23日) 安倍カラー 暮らしにツケ 17年度予算案 閣議決定 政府が二十二日に閣議決定した二〇一七年度予算案の一般会計の歳出総額は九十七兆四千五百四十七億円で、五年連続で過去最大になった。防衛費は五年連続で増やし五兆一千二百五十一億円と過去最高を更新。一方で社会保障費は増加を抑えるなど、安倍政権の姿勢を反映した予算のしわ寄せは、国民の暮らしに及んでいる。 ◆膨張 「わが国を取り巻く厳しい安全保障環境の下で、防衛の質と量をしっかり充実させることが必要だ」 稲田朋美防衛相は二十二日の記者会見で強調した。一七年度予算案では防衛費が過去最高額を更新。予算額は一六年度当初比で1・4%増の五兆一千二百五十一億円に膨れあがった。押し上げ要因として浮かび上がるのは、米国製の高額な武器を積極的に購入していることだ。最新鋭ステルス戦闘機F35六機の取得費計八百八十億円、新型輸送機オスプレイ四機の取得費計三百九十一億円、無人偵察機グローバルホーク一機の組み立て費百六十八億円…。米国から買う武器で一七年度予算案に盛り込まれた総額は三千五百九十六億円に上る。四千億円台だった一五、一六年度よりは減ったが、一四年度の千九百五億円を大幅に上回る高水準だ。F35を巡っては、トランプ次期米大統領が「計画も費用も制御不能だ」と批判し、米国防総省による購入費の削減に取り組む考えを表明。日本政府内にも「高額であることは間違いない」(高官)との意見がある。 ◆圧迫 一方、歳出の三分の一を占める社会保障費の伸びを少しでも抑えるため、医療や介護などの分野で国民の暮らしを圧迫するメニューはめじろ押しだ。一定の所得のある七十歳以上を対象とした医療費の自己負担上限を引き上げることや、後期高齢者医療制度の保険料の自己負担を段階的に増やすこと、さらには、中所得者を対象に介護保険サービスの利用者負担上限を高くすることなどが盛り込まれた。菅義偉官房長官は二十二日の会見で「社会保障と財政を持続可能にすることができるようにするということは当然。不断の取り組みが大事だ」と話して、翌年度以降の予算編成でも医療や介護での負担増が避けられないとの考えを早くも強調した。歳出は拡大していく一方だ。公共事業は老朽インフラの更新などで五兆九千七百六十三億円と微増ながら増加を続け高止まりだ。中でも五年連続で増やした防衛費は五兆円を突破しただけでなく、一六年度第三次補正予算案でも千七百六億円を計上する大盤振る舞いだ。高齢者の医療や介護では自己負担の増加を求める一方で、防衛費や効果が見えない「アベノミクス」の柱である公共事業を優先-。安倍政権の「本音」がより鮮明になった予算の姿を浮かび上がらせている。 *1-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/376438 (佐賀新聞 2016年11月14日) 国の借金1062兆円 過去最大、国民1人837万円 財務省は、国債と借入金、政府短期証券を合計した9月末時点での「国の借金」が1062兆5745億円に達し、過去最大を更新したと発表した。国民1人当たり約837万円の借金を抱えている計算になる。高齢化で増え続ける社会保障費を賄うため、借金が膨らんだ。経済対策の財源として建設国債などを発行するため、2016年度末には1119兆3000億円程度になると財務省は見込んでいる。これまでは15年6月末の1057兆2235億円が最大だった。今年6月末からは9兆1069億円増えた。9月末の借金の内訳は、国債が926兆1383億円に上り、6月末に比べ7兆6619億円増加した。金融機関などからの借入金は9749億円増えて53兆6869億円。一時的な資金不足を穴埋めする政府短期証券は4701億円増の82兆7493億円だった。 *1-5:http://qbiz.jp/article/100680/1/ (西日本新聞 2016年12月25日) 過労死ない社会、母の願い 電通社員自殺1年で手記 電通の新入社員、高橋まつりさん=当時(24)=が長時間労働の末、自殺してから25日で1年を迎え、母の幸美さん(53)が、電通の役員や幹部に「まつりの死に対して心から反省をして、見せかけではなく本当の改革を行い、二度と犠牲者が出ないよう決意していただきたい」と求める手記を公表した。「仕事のために不幸になったり、命を落としたりすることはあってはならない」とも記述。最後を「日本の働く全ての人の意識が変わってほしい」という一文で締めくくっており、過労死を招く社会の在り方を考え直すことを求める内容となっている。まつりさんが命を絶ったのは、昨年12月のクリスマスの朝。幸美さんは娘を失った喪失感を「あの日から私の時は止まり、未来も希望も失った。息をするのも苦しい毎日。朝、目覚めたら全て夢であってほしいと思い続けている」とつづる。夫と離婚後、静岡県で働きながら育て上げたまつりさんについて「困難な境遇でも絶望せず、10歳の時に中学受験をすると自分で決めた時から夢に向かって努力し続けた」と振り返り、電通に入社後も「期待に応えようと手を抜くことなく仕事を続けたのだと思う」と推察。「あの時、会社を辞めるよう強く言えばよかった。母親なのにどうして助けられなかったのか」と後悔を吐露している。今年9月にまつりさんの自殺が労災認定されると、東京労働局などが電通への強制捜査を実施。折しも政府の働き方改革実現会議の議論も進んでおり、長時間労働を抑制する機運が高まっている。こうした状況について、幸美さんは「まつりの死が、日本の働き方を変えることに影響を与えているとしたら、それは、まつり自身の力かもしれない」とする一方、「まつりは生きて社会に貢献できることを目指していた。そう思うと悔しくてならない」「本当の望みは娘が生きていてくれること」とも書いてあり、抑えきれない悲しみが伝わってくる。 ◇ ◇ ●午後10時全館消灯…改革半ば 昨年12月に自殺した電通社員、高橋まつりさんの母幸美さんが、悲痛な思いをつづった手記を公表した。まつりさんは昨年春、電通に入社。東大在学中に就職先として広告大手を選んだのは「一流企業に就職し、お母さんを楽にしてあげたい」という思いがあったから。入社後はインターネット広告などを担当した。しかし、昨年10月に本採用になると業務が激増。月100時間以上の残業も強いられた。「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」。亡くなる直前まで書き込み続けたツイッターの文面を見ると、今となってはSOSにしか映らない。若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」の今野晴貴代表は「企業の自主的取り組みだけでなく、長時間労働の法規制まで踏み込むべきだ」と、政府に注文を付けた。電通は午後10時以降の全館消灯を始めるなど改善に取り組むが「みんな仕事を持ち帰るようになっただけ」(20代社員)という声もあり、改革は道半ばのようだ。「会社の深夜の仕事が東京の夜景をつくっている」。まつりさんは生前、深夜残業がまん延している異常さを、こんな表現で幸美さんに伝えていたという。「制度をつくっても、人間の心が変わらなければ改革は実行できない」。幸美さんが突き付ける言葉が重く響く。 ■電通社員の過労自殺 2015年4月に電通に入社した高橋まつりさんが、同年12月に東京都内の社宅から飛び降り、24歳で亡くなった。三田労働基準監督署は、長時間労働が原因として16年9月に労災と認定。まつりさんは自殺前「本気で死んでしまいたい」「もう体も心もズタズタだ」などの思いを会員制交流サイト(SNS)などに書き込んでいた。 <GDP> *2-1:http://qbiz.jp/article/99717/1/ (西日本新聞 2016年12月9日) GDP下方修正、年1.3%増 内需低調、輸出頼み続く 7−9月期改定値 内閣府が8日発表した7〜9月期の国内総生産(GDP、季節調整値)の改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0・3%増、このペースが1年間続くと仮定した年率換算は1・3%増で、速報値の年率2・2%増から下方修正した。3四半期連続のプラス成長だが、個人消費など内需が弱い中で輸出がけん引する構図に変わりはなく、景気は力強さを欠いている。速報後に公表された法人企業統計を受けて企業の設備投資が下方修正され、民間在庫の減少も下押し要因となった。内閣府は国際基準の変更に伴い、今回から研究開発費を投資に追加するなどGDPの算出方法を変更。過去分にさかのぼって数値を修正した。改定値の内訳をみると、設備投資は速報値の前期比0・03%増から0・4%減と悪化。不動産業や鉄鋼業などで減り、2期ぶりのマイナスだった。GDPの6割を占める個人消費は0・1%増から0・3%増に改善。内閣府は「テレビや飲料販売、宿泊施設関連の増加がプラスに寄与した」と説明する。一方で、大和総研の長内智氏は「引き続き内需に力強さが欠けている点には留意しておく必要がある」と指摘する。輸出は速報値の2・0%増から1・6%増に下方修正されたものの2期ぶりに増加。実質GDPへの影響を示す外需の寄与度は0・3%と、押し上げ効果をもたらした。トランプ次期米大統領の政策が見通せないことなど、世界経済を巡る「不確実性の高い状況は続く」(黒田東彦日銀総裁)中で、今後も輸出が成長を主導できるかは流動的といえる。景気実感に近いとされる名目GDPは前期比0・1%増、年率換算0・5%増で3期連続の増加だった。 ◇ ◇ ●名目GDP31兆円拡大 15年度、国際基準見直しに伴い 内閣府は8日、国際基準の変更に伴って国内総生産(GDP)の計算方法を見直した結果、2015年度の名目GDP確報値は532兆2千億円になったと発表した。安倍政権が目標として掲げる名目GDP600兆円にやや近づいた形だ。内閣府は新基準の採用に合わせ、GDPを過去22年分にさかのぼって改定した。16年7〜9月期の実質GDPは速報値に比べ下方修正されたが、内閣府は「基準改定による影響は分からない」と説明している。計算方法の見直しは、統計の精度向上が目的だが、基準変更に伴う影響だけで15年度の名目GDPは旧基準と比べ24兆1千億円拡大した。今回、約5年に1回実施している基準改定や、統計の基礎となる産業連関表の切り替えも行った。これらの影響も含めると、15年度の名目GDP確報値は旧基準の推計値から31兆6千億円増えた。GDPは一定期間に国内でつくり出されたモノやサービスの付加価値の合計額だ。計算方法は国連が定める国際基準を基に各国が決めている。今回の見直しは国際基準が08年に刷新されたことに対応したもので、日本では16年ぶりの大幅改定になる。もっとも大きな変更点は、これまで費用とされてきた研究開発費が付加価値を生む投資と認められ、GDPに加えるようになったことだ。名目GDPへの上乗せ効果は研究開発費だけで19兆2千億円あった。この他に、特許使用料や不動産の仲介手数料、防衛装備品なども加算された。 *2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS08H0R_Y6A201C1MM0000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/12/8) 15年度の名目GDP、31兆円かさ上げで532兆円、基準改定、研究開発費など加算 内閣府が8日発表した2015年度の名目国内総生産(GDP)の確報値は532.2兆円となった。研究開発費の加算など新たな基準に切り替えた影響などで、31.6兆円かさ上げされた。旧基準では500.6兆円に相当する。安倍晋三首相は20年ごろまでに名目GDPを600兆円に増やす目標を掲げており、100兆円の開きが一気に縮まることになる。新基準は統計の基礎となる産業連関表を、実勢に近い11年分に切り替える。これまでは05年分を使っていた。また国連の最新の基準を使い、推計方法も見直し、1994年まで遡って再計算した。GDPの押し上げに大きく影響したのは研究開発費で、それだけで19.2兆円上振れした。これまでは「経費」として扱ったが「投資」とみなしてGDPに加えた。このほか、特許使用料の加算が3.1兆円、不動産仲介手数料の加算が0.9兆円のかさ上げ要因になった。新基準への切り替えで、16年7~9月期の名目GDPは季節調整済みの年率換算で537.3兆円となり、過去最高を更新した。旧基準では日本経済がデフレに陥る直前の1997年10~12月期の524.5兆円(新基準では536.6兆円に相当)がピークだった。 <年金> *3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161208&ng=DGKKZO10386900X01C16A2KE8000 (日経新聞 2016.12.8) 経済教室:家族の衰退と消費低迷(7)高齢者のお金は消費に回らず 中央大学教授 山田昌弘 今回は高齢者の家族状況と消費との関連を示しましょう。10年ほど前、堺屋太一氏と対談したとき、堺屋さんは「これから高齢者消費の黄金時代が来る」と言われました。堺屋さんが名付けた「団塊の世代」が退職する。資産があり、年金もまだ高水準、時間も十分にある高齢者が消費市場に出てくるというのです。しかし、筆者は、欧米と違い、日本では「家族のあり方」が制約になり、次に挙げるいくつかの理由で、お金があってもなかなか消費に回らないのではないかと疑問を呈しました。まず、日本では通常、家計を妻が管理しています。筆者の調査では、現役世帯で4組に3組の夫婦が、夫は収入を全額妻に渡し、小遣いを妻からもらう形態をとっています。引退後も、財布のひもは妻が握るのが多数派です。すると、いくらお金があっても、夫は自由には使えません。団塊世代の夫婦年齢差は平均4歳で、平均寿命も6歳ほど女性が長くなっています。平均すれば、妻は夫が亡くなった後の10年を1人で生活しなければなりません。それを考えると、お金を夫に使わせたくないのです。さらに日本では夫婦共通の趣味を持つ高齢者は少なく、共通の趣味を楽しむために2人でお金を使う夫婦は少数派です。夫婦仲も欧米に比べて良いとは言えないので、自分の趣味のために夫婦のお金を使うと相手に嫌がられます。夫が引退後、田舎で暮らしたいと言っても、妻が反対して実現しないことが多いのです。子どもとの関係も問題になります。高齢者は子どもとの関係が悪化することに不安をもっています。現実に日本では、資産がない高齢者は子どもとの関係が疎遠になりがちです。これはいい悪いの問題ではありません。資産がなくなったら子どもから見捨てられるかもしれないという不安があるので、自分で使わずに持っていようという高齢者が増えるのです。また日本では、いざ病気や介護状態が長期化したとき、中流生活を維持しようとすれば、ヘルパーなど余分な費用がかかります。可能性は低くても、そのような状態になったときに困らないように、お金を取っておこうとするのです。 *3-2:http://qbiz.jp/article/100046/1/ (西日本新聞 2016年12月14日) 年金額の抑制強化へ、改革法成立 現役賃金下がれば減額 年金制度改革法が14日午後、参院本会議で自民、公明両党や日本維新の会などによる賛成多数で可決、成立した。将来の年金水準を確保することを狙い、支給額の抑制を強化。毎年度の改定ルールを見直し、現役世代の賃金が下がれば高齢者への支給を減額する。中小企業に勤めるパートなどの短時間労働者は、労使が合意すれば厚生年金に加入できるようになる。現行制度では、支給額改定に際して高齢者の暮らしに大きな影響を与える物価の変動を重視している。2021年度以降は保険料の支払いで制度を支える現役世代の賃金を重視し、賃金が下がった場合は年金も必ず減額する。 *3-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/390819 (佐賀新聞 2016年12月28日) 年金新ルールで支給0・6%減 厚労省が試算公表 厚生労働省は27日、先の臨時国会で成立した年金制度改革法に基づく支給額改定の新ルールが適用された場合の試算を公表した。リーマン・ショック時のような経済状況になり現役世代の賃金が下落すると、国民年金(老齢基礎年金)の支給水準は現行ルールよりも最大0・6%下がる。その分、将来受け取る世代は最大0・6%上昇する計算だ。支給額は毎年度、物価や現役世代の賃金を踏まえて改定されている。2021年度からは賃金が下がった場合は、その下落率に合わせて必ず減額するようルールが変更される。試算では、リーマン・ショックの影響を受けた08~09年度の賃金下落率を21~22年度に当てはめ、それ以降の支給水準を現行ルールと新ルールで比較した。賃金の下落は数年後の改定に反映される仕組みで、ルール見直しによる水準の低下は26年度に最も大きくなった。早い時期に支給水準が下がれば、その分、年金財政に余裕が生まれるため、現役世代が将来受け取る水準は上がる。43~44年度にかけての支給水準は新ルールの方が0・6%上昇した。 *3-4:http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-251749.html (琉球新報社説 2016年4月6日) 年金運用巨額赤字 国民に失敗のつけを回すな 政権の面目を保つために国民の資産を危険にさらすのは、もうやめにしてもらいたい。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度運用損益が、専門家の試算で5兆円を超える巨額の赤字になる見通しが強まっている。安倍政権が金看板とするアベノミクスと連動した投資配分の変更が、いまや全て裏目に出た。GPIFが運用する約140兆円のうち、国内株式投資は25%、約35兆円とみられる。この半分、約17兆円を売りに出すだけでも市場の混乱は必至だ。損失拡大を防ぐ株式売却すらできない。まさに袋小路だ。国民の資産を守り、混乱を最小限に抑えるため、GPIFは緩やかな退却を模索する以外にない。GPIFの資産構成割合は、かつては比較的安全な国債60%、国内外の株式に12%ずつだった。2014年10月に資産構成割合を国債35%、国内外の株式で計50%へ変更したのは、日銀の大規模金融緩和により、国債の利回りが低下したことと株式市場が上昇基調にあったからだ。その後、市場が安定したのは、ほかでもないGPIFの資金が流入したからだ。株価を下支えしたのが国民の資産だった。ところが15年8月には中国を「震源地」とする世界同時株安が進み、日本市場も乱高下した。最終的に日経平均株価は15年度だけで2400円値下がりした。運用比率変更当初から複数のエコノミストが「年金運用の安定性が損なわれる」「年金資産が株価操作に使われる」と懸念したことが現実になった。GPIFの担当者は「長期的な視点で捉えてほしい」と言う。だが客観的に見れば、損失を出した当事者が責任を取らず、次世代に先送りしているとしか見えない。責任を取るべきは、株価上昇を演出するために国民の資産を相場につぎ込んだ安倍政権だ。しかも例年、6月末から7月上旬に発表している年度の運用実績を、ことしは参院選後の7月下旬に公表するという。選挙に影響しないよう公表を先送りする意図が見え、論外だ。政府は少子高齢化時代を見据え、年金給付抑制策を強化する。積立金が目減りすれば、つけは国民に回ってくる。政府は運用比率を見直すなど「長期的な視点から、安全かつ効率的」(国民年金法)な運用にかじを切るべきだ。 *3-5:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/390597 (佐賀新聞 2016年12月27日) 厚労省、徴収ミス5年放置、後期医療、保険料6億円 厚生労働省は27日、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度で保険料徴収システムの不備があり、2008年度の制度発足時から全国的に計算ミスで保険料を過大、または過小に徴収していたと発表した。ミス発覚から5年放置していた。対象者の抽出などは来年1月以降に行うが、推計では約2万人、総額約6億円に上る可能性があり、取り過ぎた分は返還、不足分は追加徴収する。厚労省によると、11年から同省には制度を運営する都道府県の広域連合から正しい計算方法に関する問い合わせがあったが、個別対応で済ませ放置してきたという。 *3-6:http://mainichi.jp/articles/20161116/dde/007/010/037000c (毎日新聞 2016年11月16日) 無年金救済法.成立 加入期間短縮 新たに64万人受給 国民年金や厚生年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を現行の25年から10年に短縮する改正年金機能強化法が16日、参院本会議で全会一致により可決、成立した。来年10月から約64万人が新たに年金を受けられるようになる見通しだ。受給資格期間は保険料を納めた期間や免除された期間を合計する。2015年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げと同時に短縮する予定だったが、安倍政権による増税延期で先延ばしされていた。改正法は来年8月に施行。加入期間が10年以上25年未満の人は9月分の年金から受け取れるようになり、実際の支給は10月に始まる予定だ。無年金の人の救済につながる一方で、加入期間が短いと支給額は低く、将来低年金者が増えるとの懸念もある。国民年金の場合、加入期間が10年だと支給額は月約1万6000円、20年だと約3万2000円にとどまる。対象となるのは65歳以上の人と60代の前半から厚生年金の一部を受け取る人を合わせて計約64万人。費用は通年で約650億円。 <医療・介護> *4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12711673.html (朝日新聞社説 2016年12月18日) 高齢者負担増 将来像示し不安なくせ 来年度から順次実施される医療保険と介護保険の見直し案が決まった。高齢者を中心に負担増を求める内容だ。医療では、70歳以上で現役並みに所得のある人の月ごとの負担上限額を、現役世代と同水準に引き上げる。75歳以上の保険料を本来より軽減している特例も段階的に縮小する。介護では、現役並み所得者の利用者負担を2割から3割に上げる。それより所得の少ない人も、住民税が課税されていれば月ごとの負担上限額が医療並みに上がる。会社勤めの人の保険料は賞与を含む収入に応じた負担とし、大企業の社員は重く、中小企業の社員は軽くなる。見直しの根底にあるのは「年齢を問わず、負担能力に応じた負担を求めていく」という考え方だ。4年前の社会保障・税一体改革大綱で示された方針だ。少子高齢社会のもと、社会保障費が膨らむ一方で、制度を担う現役世代は減る。高齢者は支えてもらう側、若い人は支える側という従来の考え方では、立ちゆかなくなる。高齢者でも負担ができる人には負担を求めることは必要だろう。ただ、生活の実態に照らして過重な負担にならないか、影響は丁寧にみる必要がある。とりわけ介護は、治療を終えれば負担がなくなる医療と違い、長期化する傾向にある。必要な介護サービスが利用できなくなれば、家族の介護のために仕事をやめる介護離職が増えてしまうかも知れない。影響を受けるのは高齢者だけでないことも、忘れてはならない。介護保険では、昨年夏に一定所得以上の人の利用者負担が1割から2割になったばかりだ。わずか1年あまりでさらなる引き上げを決めたのは、あまりに場当たり的との印象を与えた。負担はどこまで増えるのか。そんな先行きへの不安に応える改革の全体像と将来ビジョンを示すことが不可欠だ。政府は、社会保障費の伸びを抑えるために、さまざまな検討項目を示している。しかし、それらをどこまで、どう実施していく考えなのかが見えない。検討課題の一つだった軽度の人への介護サービスの縮小などは今回、見送りになった。今後、そうした給付の抑制にも踏み込むのか。給付の抑制が限界だというなら、今のサービス水準を維持するために、保険料や税の負担を増やすことも考える必要がある。サービスを担う人材の不足も深刻で、そのための財源も考えねばならない。社会保障制度の根本に立ち返った改革に取り組んでほしい。 *4-2:http://mainichi.jp/articles/20161216/ddm/002/010/128000c (毎日新聞 2016年12月16日) 社会保障費 1400億円抑制 高額療養など自己負担増 厚生労働省は15日、自民党と公明党の部会で、2017年度予算で高齢化による社会保障費の自然増を約1400億円分抑制する案を提示し、大筋で了承を得た。焦点となっていた70歳以上の一般所得者(住民税が課税される年収370万円未満の人)が外来の窓口で支払う毎月の限度額を、現行の1万2000円から17年8月に1万4000円に引き上げる方針でまとまったほか、介護費の自己負担増、大企業に勤める会社員の介護保険料の引き上げなどによって抑制を図る。 医療費の毎月の自己負担額に上限を設ける「高額療養費制度」を見直し、約220億円を捻出する。70歳以上の一般所得者について、厚労省は当初2万4600円への引き上げを提案したが、引き上げ幅を圧縮し、年間上限額(14万4000円)も設ける。一方、18年8月には1万8000円に引き上げる。年収370万円以上の現役並み所得者は外来限度額を5万7600円とする。40~64歳の介護保険料は、収入に応じた計算方法「総報酬割り」による算出を段階的に導入し、収入の高い大企業のサラリーマンなどの保険料負担を増やす。来年8月の導入で500億円弱を確保する見通し。また、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の保険料では、負担軽減のための特例を段階的に縮小し、180億円前後を確保する。介護保険で利用者の自己負担に上限を設ける「高額介護サービス費」は、住民税が課税される一般所得者の毎月の負担上限額を3万7200円から4万4400円に引き上げる。厚労省は17年度予算の概算要求で社会保障費の自然増を6400億円と見込んだが、財務省から最終的な増加を5000億円程度に抑えることが求められている。 *4-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/381488 (佐賀新聞 2016年11月29日) 75歳以上329万人に保険料軽減を廃止 厚生労働省が2017年度から予定する公的医療保険制度の見直し案の全容が28日、分かった。75歳以上の後期高齢者医療制度では、所得が比較的低かったり、扶養家族だったりした人ら計329万人を対象に、保険料の特例軽減を廃止し、段階的に引き上げる。医療費の自己負担に月ごとの上限を設ける「高額療養費制度」でも、70歳以上の優遇措置を縮小する。厚労省は、後期高齢者医療と高額療養費の見直しで、17年度にそれぞれ国費350億円の抑制を見込む。30日の社会保障審議会の部会で提案し、来月上旬までに与党と調整して最終決定する。75歳以上が支払う保険料の軽減措置には(1)所得に応じた部分(2)定額部分-の2種類があり、合わせて900万人以上が対象となっている。このうち74歳まで専業主婦ら扶養家族だった人(169万人)の定額部分は、最大9割の軽減を17年度に5割に縮小。18年度には77歳以上で軽減を廃止し、保険料は現在の月380円から約10倍に引き上げる。所得に応じた保険料は現在徴収していないが、77歳以上は18年度から支払うようになる。また年金収入が年153万~211万円の160万人を対象に、所得に応じた保険料を5割軽減している特例も17年度に廃止する。定額部分を9~8・5割軽減する特例(約614万人対象)は、新たに75歳になる人を含め当面存続する。「高額療養費制度」では、70歳以上の上限を見直す。「現役並み所得」の人は、17年8月から外来医療費の月ごとの上限額4万4400円を5万7600円に引き上げる。18年8月からは特例を完全に廃止し、入院などを含めた世帯全体の上限も現役世代に合わせる形で引き上げる方針だ。 *4-4:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/389660 (佐賀新聞 2016年12月24日) 保険料増、介護3割負担 医療・介護制度見直し ■70歳以上の高額費上限額を引き上げ 今回の見直しは、高齢者らの支払い能力に応じ、負担増を求めているのが特徴だ。医療では、患者の窓口負担が重くなりすぎないようにするため、月ごとの上限額を定めた「高額療養費制度」があるが、70歳以上を対象に上限額を段階的に引き上げる。年収370万円未満で住民税を課税されている人の場合、外来の上限額(月1万2千円)は2017年8月に1万4千円、18年8月には1万8千円になる。ただ持病などで通院している人は出費がかさむため、年間の上限額14万4千円(1万2千円の12カ月分)も新たに設けた。入院を含めた世帯当たりの上限額(月4万4400円)は5万7600円に上がる。年収370万円以上の人は、外来が月5万7600円に引き上げられた後、18年8月に上限がなくなる。入院を含めた世帯の上限額は18年8月以降、月8万100~25万2600円になる。後期高齢者医療制度に加入する75歳以上は、これまで特例で安くなっていた保険料が増える。所得が比較的低かったり、74歳まで夫や子らに扶養されたりしていた人が対象だ。このほか慢性疾患で医療療養病床に長期入院している65歳以上の人は、光熱水費の支払いが増える。18年4月以降は一律で1日370円(難病を除く)。介護では、サービスを主に利用する高齢者と、制度を支える現役世代が負担を分かち合う。現役並みに所得が高い高齢者は、18年8月から介護サービス利用時の自己負担が現在の2割から3割にアップ。さらに医療と同様に、月ごとの上限額(高額介護サービス費)も見直す。住民税が課税されている年収383万円未満の単身世帯などで、17年8月から上限額が7200円増えて月4万4400円に。収入が少ない世帯は3年間に限り、年間の上限額を据え置く。40~64歳が支払う保険料は、収入に応じた「総報酬割」と呼ばれる計算方式に変更。20年度までに段階的に導入し、大企業の社員や公務員の負担が増えることになる。 ■高額医療・介護費、合算制度で払い戻しも あまり知られていないが、1年間(毎年8月から翌年7月)に支払った医療と介護の自己負担額を合算して、一定額を超えた場合は払い戻しを受けられる仕組みがある。「高額介護合算療養費制度」または「高額医療合算介護サービス費制度」と呼ばれ、市町村に毎年申請しないと利用できないので注意が必要だ。数十万円が戻ってくるケースもある。井戸さんは「手続きに手間がかかるが、分からないときは市町村の窓口で相談してほしい」と話す。 *4-5:https://www.agrinews.co.jp/p39294.html (日本農業新聞 2016年10月27日) 危機の地域医療 厚生連の包括ケア期待 地域を支える医療が崩壊の危機にさらされている。都会と農村の医療格差は拡大する一方だ。日本農村医学会は未来の地域医療をテーマに27、28の両日、第65回学術総会を三重県志摩市で開く。JA厚生連病院の課題と試みを共有し、農村再生につなぐ。成果を期待したい。玉置久雄学会長(JA三重厚生連松阪中央総合病院名誉院長)は「地域医療について国や行政は対策を講じてきたが、むしろ医療の偏在化、格差は広がっている」と指摘する。総会の主催県・三重は人口当たりの医師数が全国平均より少なく、遠隔地ほど慢性的な医師不足が深刻だ。医師の高齢化は救急医療を制限せざるを得ない事態にまで追い込んでいる。国は増え続ける医療費の削減のため地域医療構想を各地で検討するよう指示している。効率化を求めた病床数の削減などが始まっている。これから厳しい診療報酬改定、消費税増税が待ち構えている。在宅医療については居宅、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設などの需要見直しが進む。その結果、地域の統廃合で病床数の削減の影響を最も受けるのは、農山村に立地する厚生連病院である。全国の厚生連病院の多くが地方にあり、変革を迫られるのは必至だ。地域医療の崩壊は、地域社会の崩壊につながる。人口流出を生み、若い世代のU・Iターンといった田園回帰の流れを阻みかねない。高齢化が進む農村では住民が住み慣れた地で安心して暮らし続けるための医療と介護の一体化が欠かせない。この地域包括ケアを根付かせることができるか、農村医療の試金石ともなる。玉置学会長は「将来の人口減を見据えれば立場の異なる地域の病院が限られた医療資源を補完し合うことも必要だ」とし、競争から協調へ、かじを切る時期が迫っていると言う。シンポジウム「地方から発信するこれからの医療」には三重、新潟、広島、愛知の厚生連病院の取り組みが発表される。医師・看護師不足の下、救急医療や在宅医療、地域包括ケアにどう取り組んでいるか、先進的な取り組みに期待したい。一般演題は540とこれまでにない応募数となった。終末期医療、大災害時の医療、看護教育、在宅ケア、病院食の地産地消など今日の課題を網羅する。市民公開講座には関心の高い認知症を取り上げた。家族を支えるための知識、認知症患者の安全対策について報告される。ポスター発表では、韓国農村振興庁が取り組む農業労災を予定している。総会後の29日には、日本農村医学会と韓国の主催で第8回日韓合同農作業安全シンポジウムが開かれる。韓国が国家資格として今年創設した「農作業安全指導士」制度が報告される。日本の参考となろう。地域医療、農作業安全に貢献する学会となることを望む。 *4-6:https://www.agrinews.co.jp/p39431.html (日本農業新聞 2016年11月13日) 介護保険縮小 利用者の不安 直視せよ 2018年度の介護保険改正に向けた見直し議論が進んでいる。介護の必要度が比較的軽い「要介護1、2」のサービスを中心に削減する考えだ。現場の反発は強く、大幅な改正は見送る方向だが、年末の取りまとめに注視が必要だ。要介護度は軽い順から5段階に分かれる。見直し議論の焦点は軽度者向け在宅支援サービスで、訪問介護の生活援助など。厚生労働省は、ホームヘルパーが自宅を訪れて掃除や調理などを介助する生活援助を保険対象から外し、市町村事業へ移行する改革案を示した。この案に利用者や介護関連団体は猛反発している。「自宅で自立した生活を送るために欠かせないサービス」「サービスの質が変わることで重度化を招き、かえって介護費用が膨らむのではないか」など、制度変更を疑問視する声だ。既に前回の15年度改正で、要介護よりさらに軽度な「要支援」向けサービスの一部を保険から外し、市町村事業に切り替えた。移行期間を経て来年4月には全市町村で事業を開始しなければならない。介護保険にかかる費用を国の全国一律給付から市町村の独自事業とし、NPOやボランティアなど地域住民の活用によってコストを抑える狙いだ。しかし、実際は体制がなかなか整わない。そこに要介護1、2まで市町村に移行するとなると、これまでと同様のサービスを受けるのは難しい。介護の必要性は数値では測りきれない。「要支援」「要介護1、2」は一つの基準にすぎず、高齢者を取り巻く状況は千差万別である。介護の必要度が軽い人でも、独居であったり老夫婦世帯であったり、家族が介護できない状態であるかなどで異なる。例えば、認知症なら重度化を防ぐため介護保険サービスを続ける必要性が高くなる。暮らす環境も違う。住まいが過疎の山間部にあるのか、都会なのか。「要介護度」という物差しで一律に当てはめるのは難しい。利用者の状況に合った適切なサービスが行き渡る手法を模索するべきだ。高齢者は年を取るほど心身の調子が不安定になり、要介護度は変化しやすい。利用者の環境や状況を考慮した上で支え方を見極めなければならない。在宅介護で欠かせない視点である。介護の世界で懸念されるのが“2025年問題”だ。団塊世代が75歳を過ぎ、要介護者が急増し、社会保障財政が行き詰まる事態が予測される。少子高齢化は加速し、介護サービスのコスト削減、効率化は免れないだろう。肝心なのは本当に支援を必要としている人に、適切なサービスが提供できるかだ。既存のサービス縮小を論じるだけでは介護を必要とする人や家族の不安は募る。利用者が尊厳を保ち、安心して暮らせるよう、自立を支える支援の在り方について議論を深めるべきだ。 PS(2017年1月6日追加):日本老年学会は、*5のように、心身の若返りを理由に65歳以上とされている高齢者の定義を75歳以上に見直す提言を発表したそうだ。そのため、年金支給開始年齢と定年年齢を75歳にし、前提が覆る日が来るかもしれない。しかし、人に依って若さや健康状態は全く異なるので、「超高齢者」や「准高齢者」と呼び分ける必要はないだろう。なお、仕事を続けている高齢者の方が矍鑠(かくしゃく)としているのは、よく知られているところだ。 国の歳入・歳出 社会保障費の抑制 介護費と介護保険料の推移 高齢者の定義 2016.12.23 2016.12.23 2017.1.6 佐賀新聞 東京新聞 佐賀新聞 (図の説明:一番左のグラフのように、国家予算に占める社会保障費は大きいが、高齢者が仕事を続けて収入があるのでなければ年金や医療・介護の軽減を受けて支えられる側にならざるを得ない。しかし、一番右の図のように、高齢者の定義を75歳以上として65~75歳の人が働ける環境を整えれば、支える側になれるので、その前提が変わる。そのため、社会保障費を節約するには、70~75歳まで仕事を続けられる環境を整えるのが、誰にも無理がいかない。一方、国債の支払利子も大きいが、これは借り換えで節約できる。地方交付税は、それぞれの地方がエンジンとなる産業を持てば節減できる) *5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/392784 (佐賀新聞 2017年1月6日) 「高齢者」は75歳以上 身体若返り、学会見直し 高齢問題の研究者らでつくる日本老年学会などは5日、現在は65歳以上とされている「高齢者」の定義を75歳以上に見直し、前期高齢者の65~74歳は「准高齢者」として社会の支え手と捉え直すよう求める提言を発表した。医療の進歩や生活環境の改善により、10年前に比べ身体の働きや知的能力が5~10歳は若返っていると判断。活発な社会活動が可能な人が大多数を占める70歳前後の人たちの活躍が、明るく活力ある高齢化社会につながるとしている。高齢者の定義見直しは、65歳以上を「支えられる側」として設計されている社会保障や雇用制度の在り方に関する議論にも影響を与えそうだ。学会は、年金の支給年齢の引き上げなど社会保障制度の見直しに関しては「国民の幅広い議論が必要だ」と強調している。提言をまとめた大内尉義(やすよし)・虎の門病院院長は「高齢者に対する意識を変え、社会参加を促すきっかけになってほしい」と述べた。平均寿命を超える90歳以上は「超高齢者」とした。学会によると、日本は50年以上前から国連機関の文書などに基づき、慣例的に65歳以上を高齢者としている。学会は、脳卒中や骨粗しょう症などの病気や運動のデータを解析。慢性疾患の受診率は低下し、生物学的な年齢が5~10歳若返っているとみている。知能の検査では、最も得点の高い世代が40代から50~60代に変化。残った歯の数も同一年齢で比べると年々増える傾向にあり、死亡率や要介護認定率は減少していた。国の意識調査で、65歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が大半であることも考慮した。昨年9月の総務省の推計によると、65歳以上は約3400万人で人口の約27%。高齢者を75歳以上とした場合は約13%に半減する格好だ。准高齢者は、仕事やボランティアなど社会に参加しながら、病気の予防に取り組み、高齢期に備える時期としている。 =解説= 保障や雇用に影響も 現行の社会保障や雇用・労働の制度は高齢者を65歳以上とすることを前提としているものが多く、今回の提言は制度の見直しにも影響する可能性がある。少子高齢化の中、働き手、社会保障の支え手を増やす議論は加速しそうだ。高齢者の急増で国の財政負担は重くなり、現状のまま制度を存続させるのは難しい。医療保険や介護保険では、高所得者への負担増などが相次いで打ち出されている。会社員らの厚生年金の支給開始年齢は、60歳から段階的に65歳に引き上げられている途中段階だ。高齢になっても働き続ける人が増えた。高齢者の定義を巡る国民の意識も変わりつつある。40歳以上を対象にした昨年の厚生労働省調査で「高齢者と思う年齢」を尋ねたところ「70歳以上」との回答が最も多く、41・1%で、「65歳以上」は20・2%にとどまった。「75歳以上」は16・0%だった。日本老年学会などは「提言は医学的なもの」と強調するが、提言がこうした流れを後押しする可能性もある。ただ、高齢者の負担増については、反発も大きく、見直しは容易ではない。 PS(2017年1月8日追加):*6のように、確かに病院や介護施設の食器も、趣のないプラスチックではなく、軽くて強い磁器があればよいだろう。なお、年末に、一年に一度の人間ドックに行ったところ、壁に素敵な絵がかかっており、有田焼で作った絵もいいのではないか思った。 *6:http://qbiz.jp/article/101294/1/ (西日本新聞 2017年1月8日) 熟練のろくろで「くるまおろし」 有田・深川製磁 有田町幸平の深川製磁で7日、仕事始めとなる「くるまおろしの儀」があり、ろくろ師たちが熟練の技を披露した。神職による祝詞奏上や玉串奉納の後、この日89歳の誕生日を迎えたろくろ師、深川剛さんが「ようっ」と気合の声を上げながら土の塊からつぼを形作った。隣に座る剛さんの長男、聰(そう)さん(60)は直径65センチの大皿の仕上げにいそしんだ。深川一太社長(68)は年頭あいさつで欧州での発信拠点をミラノからパリに移したことに言及。「継続性ある海外ブランディングを展開したい」と話した。高齢化社会に応じた医療用食器や葬祭用具作りにも意欲を見せた。 PS(2017年1月8日追加):*7のように、輸入チーズは伝統に根ざした美味しさがあるが、日本産チーズも負けてはいない。例えば、カルシウムや鉄分を強化した製品やワサビ・ゆず・からしめんたい・アーモンドなどと混ぜて小さく包装した製品など、日本でしか作らないような逸品もあり、これらは、どこにでも輸出できるだろう。なお、牛乳・卵はアイスクリームにすると保存がきき食べやすいが、私は、まだハーゲンダッツ以上の日本産アイスクリームに出会ったことがない。しかし、アイスクリームも、日本産の果物等を使えば工夫の余地が大きく、輸出可能だと考える。 *7:https://www.agrinews.co.jp/p39853.html (日本農業新聞 2017年1月7日) [TPP徹底報道 需要奪還 5] 乳製品 地元密着で付加価値 成長市場のチーズ 国内での総消費量がここ10年で2割増と、需要拡大がさらに見込まれるチーズ。国産割合はまだ15%(2015年度)で、伸びしろは大きい。酪農振興の新しい柱と期待されるが、有望市場は他国も狙う。EUは、大詰めを迎えるEPA交渉で大幅な自由化を要求。欧州産のブランド力は脅威で、酪農家らは生き残りに向け、価格だけではない酪農の価値を発信しようと、地域や消費者との結び付きを強めている。150万人が暮らす大都市・神戸市の中心部から車で約20分、閑静な住宅街の一角に牧場へと続く門が現れる。酪農家が手掛ける国産チーズの先駆けとして、1985年から代表商品「フロマージュ・フレ」などを販売する弓削牧場だ。約9ヘクタールの敷地内では、放牧された牛が歩き回り、全国から訪れる年間約3万人の客がログハウス風のレストランでチーズをふんだんに使った料理を楽しむ。弓削牧場では、生乳生産部門の箕谷酪農場から加工部門のレチェール・ユゲが生乳の3割を買い取り、チーズやホエー(乳清)を使った化粧品作りなどを手掛ける。和食と組み合わせた日本人向けの食べ方提案など、欧州のチーズと差別化を図りながらファンを増やしてきた。加工部門は売り上げ全体の7割を占め、今や経営の柱だ。 ●価格競争に懸念 国内のチーズ消費量も増え、裾野は広がっている。その半面、安さを重視する中食・外食の需要で、輸入品が入り込む可能性が高い。輸入量は10年で2割以上増えたが、国産割合は思うように上がらず、むしろこの5年は4ポイント下げている。代表の弓削忠生さん(71)は「ただチーズを作って売るだけなら、輸入も国産も同じ」と言う。生産現場と切り離された商品として扱われれば、外国産との単なる価格競争に陥りかねない。TPPや日欧EPA交渉が、心配を膨らませる。外国産にはない価値をどう発信するか。弓削牧場では生乳生産を基本に置き、命につながる食料を生産する農業の本質を伝える講座や牧場での結婚式の企画などに力を入れる。近隣の森林植物園にカフェを出店するなど、地域との連携も重要視する。バイオガスプラントを設け、資源循環型農業にも乗り出した。弓削牧場と同様、同県明石市の住宅街の一角で酪農を営む伊藤靖昌さん(32)も「都市型酪農を続けていくには地域との結び付きが必要だ」と呼応し、生乳の価値を発信するため加工にも取り組む。 ●取り組み発信を 国産チーズの活路について、酪農情勢に詳しい名古屋大学大学院の生源寺眞一教授は「品質面での差別化だけでなく、発達した情報通信技術(ICT)も活用しながら、背景にある作り手の思いや取り組みを発信していくことが重要だ」と指摘する。 PS(2017年1月10日追加):*8のように、シルバー人材センターが耕作放棄地を農地として整備し、会員高齢者の就労や技能習得の場として利用するのは、アクションが速くてよいと思う。このケースなら、最終的に高齢者が月収15万円くらい稼げるようにすると、生活を支えることができるだろう。 *8:http://qbiz.jp/article/101357/1/ (西日本新聞 2017年1月10日) 耕作放棄地 高齢者に“活” 九州各地 シルバー人材センターが整備 九州各地のシルバー人材センターが、全国的に増えている耕作放棄地を農地として整備し、会員の高齢者の就労や技能習得の場として利用する例が相次いでいる。高齢者の生きがいづくりと、低迷する農業の活性化につながる「一石二鳥」の取り組み。今後の充実・拡大が期待される。一方で、収穫物の売り上げだけでは必要経費を捻出できないなど、事業の難しさも浮かび上がっている。 ●就労、技能習得の場に 北九州市シルバー人材センターは2014年度から、会員たちに農作業の知識・技術を習得してもらう「シルバー農園」事業を開始。同市小倉南区の約1200平方メートルと若松区の約千平方メートルの耕作放棄地(放棄地になる恐れがある農地を含む)を借り、雑草を除去して事業を進めている。参加する会員は約100人で、大半が農業未経験者。月数回、シルバー農園に通い、元農家の会員らの指導を受けながら大根やジャガイモなどを育てている。収穫物はイベントなどで販売。売り上げは会員に分配せず、借地料や苗代などに充てている。会員たちはシルバー農園で稼ぐことはないが、身に付けた農業技術を生かし、センターが外部から受注した農作業の仕事に出向いている。その受注額は14年度約50万円、15年度約100万円。「シルバー農園によって農作業ができる会員が増えたので、受注に積極的に動いている。会員の就労機会拡大を図り、地域の農業活性化に貢献したい」とセンター企画課の神野譲嗣課長。 ◆ ◆ 福岡県の築上町シルバー人材センターは、耕作放棄地になる恐れがある農地約2千平方メートルを15年度から借り、会員たちの就労の場として利用。会員15〜20人がイチゴ栽培に取り組んでいる。イチゴの売り上げで、会員の報酬をはじめ、農地の借り賃など必要経費を賄う仕組み。ただし1年目に報酬を時給850円に設定して赤字が出たため、本年度の途中から時給を定めず、売り上げの範囲で報酬を払う「出来高払い」に変更した。センター業務主任の古門敏彦さんは「会員の皆さんが頑張って売り上げを伸ばせば、報酬も増える。出来高払いに納得してもらっている」と話す。熊本県の八代市シルバー人材センターも12年度から放棄地を借り、就労の場にしている。場所は山に囲まれた同市坂本町鶴喰(つるばみ)地区で現在は約6千平方メートル。本年度は会員16人でコメ2460キロを収穫した。やはり出来高払いで、会員1人当たりの報酬は平均で約2万円(時給で800円強)になる見通しだ。 (編集委員・西山忠宏) ◇ ◇ ●農地再生へ思惑一致 国・自治体センター 各地のシルバー人材センターが耕作放棄地の活用に乗り出しているのは、放棄地の増加に歯止めがかからないことが背景にある。国も自治体も放棄地の解消・発生抑制に取り組んでいるが、力不足は否めず、センターが対策の加勢をしている形だ。放棄地は農家の高齢化などで増加。農林水産省の「農林業センサス」によると2015年には全国で計42万3千ヘクタールと過去最大を更新、富山県とほぼ同じ面積になっている。問題点として農地減少だけでなく(1)雑草や害虫が増え、周辺農地に影響を与える(2)鳥獣の隠れ家となり農作物への被害が増える(3)廃棄物が不法投棄される恐れが高まる−などが指摘されている。一方、センター側からすれば、農業分野に積極参入することで、主目的の「高齢者への就労の機会提供」を拡大できる利点がある。放棄地の問題を解決して地域に貢献でき、存在感を高める狙いだ。全国シルバー人材センター事業協会(東京)によると、センターは全国に1282団体(昨年3月末現在)。放棄地の活用事業に取り組むセンターの数は把握できていないが、放棄地を安く借りられることもあり、かなり広がっているとみられる。ただ、事業を拡大するには「しっかり稼ぐ手法」の確立が欠かせない。 PS(2017年1月13日追加):森林の手入れや草刈りなどの環境関連の仕事は、最近できたものであるため人手不足だ。そこで、「製造業や事務職は高給取りだが、森林の手入れは環境好きのボランティアの仕事」などと考えるのではなく、働きに応じた報酬を支払えば中高齢者を含めて雇用吸収力がある。 *9:http://qbiz.jp/article/101616/1/ (西日本新聞 2017年1月13日) 福岡県、森林環境税継続へ 保全、再生「理解得られる」 福岡県は森林の保全や再生を目的に2008年度から導入した森林環境税について、徴収期間が終わる17年度以降も継続する方針を固めた。温室効果のある二酸化炭素を吸収し、地下水を蓄えて土砂流出や崩壊を防ぐ森林の機能は公益性が高く、県民負担への理解は得られると判断した。森林環境税は10年間の時限措置として、個人県民税に一律500円を上乗せして徴収。法人は資本金などに応じて、千円から4万円までの5通りの税額を設定している。新たな課税期間は18年度から5年間を軸に検討し、税額は変更しない。森林環境税の検証や在り方を検討する有識者委員会の報告を受けて、正式決定する。15年度までの8年間で103億円超の税収があり、間伐や植栽をする市町村への助成、森づくりに関わるボランティアの育成などに充てている。有識者委員会が昨年実施した県民アンケートでは「良い取り組みだと思う」と評価する回答が多かった。 PS(2017年1月15日追加):日本では、65歳以上の“高齢者”に対する介護と65歳未満の“障害者”に対する福祉は、サービスの内容が異なる。そのため、障害者が65歳になると、それまで受けていた自立支援サービス等を受けられなくなったりする。しかし、年齢で差別するのは不合理であるため、介護事業者は両方の指定を受けられるようにし、地域包括ケアシステムを整備して、どのサービスを受けるかについては、本人・家族・医師・ソーシャルワーカーなどが相談して決められるようにするのがよいと私も考える。また、その場合は40歳未満の人からも介護(福祉)保険料を徴収し、介護・福祉サービスの内容に年齢を理由とする差をつけないのが妥当だろう。 年齢階層別障害者数推移 サービス利用手続 介護サービスの内容 障害者福祉の内容 (図の説明:障害者に占める65歳以上の割合は次第に増え、2011年には2/3を超えている。そこで、介護と福祉サービスを年齢で分けず、必要なサービスは年齢に関わらず受けられるようにすべきだ) *10:http://mainichi.jp/articles/20170115/k00/00m/040/103000c (毎日新聞 2017年1月15日) 厚労省、介護・障害を一括サービス 18年度実施へ法案 厚生労働省は、介護保険と障害福祉両制度に共通のサービス創設の方針を固めた。高齢の障害者が、一つの事業所で一括してサービスを受けられるようにするなど、利用者の利便性を高めるのが狙い。2018年度の実施を目指し、20日開会の通常国会に関連法案を提出する。介護・障害の両制度は、サービスを提供するのに、それぞれ指定を受ける必要がある。このため、65歳以上の高齢の障害者が、障害福祉事業所で介護サービスを受けられないなどの課題が指摘されている。そこで同省は、通所や訪問など、いずれの制度にもあるサービスについて、事業者が両方の指定を受けやすくするよう制度を見直す。同省は、高齢者や障害者、児童といった福祉分野に関し、地域住民とも協力して包括的にサービスを展開する「地域共生社会」を目指している。高齢化がさらに進む中、地域内の限られた施設や人材の有効活用を促す。実施には介護保険法や障害者総合支援法などの改正が必要で、関連法案を一括し、「地域包括ケアシステム構築推進法案」として提出する方針だ。同法案には、介護サービス利用時の自己負担について、特に所得の高い人は、現在の2割から3割に引き上げることも盛り込む。対象は、単身の場合で年収約340万円以上、夫婦世帯は約460万円以上。当初は単身で383万円以上を想定していたが、見直した。負担増になるのは利用者の3%に当たる12万人で、18年8月実施を目指す。一方、40~64歳の介護保険料について、年収の高い会社員らの負担が増える「総報酬割り」の導入も盛り込む。17年8月分からの適用を想定している。
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2016,10,27, Thursday
発展段階別 $と購買力平価による アジアの購買力平価による 日本の 一人当たりGDP成長率 GDPの比較 一人当たりGDP推移 平均世帯所得 (グラフの説明:既にGDPが大きくなっている先進国ほど「一人当たりGDP成長率(「一人当たりGDP」ではない)」は低い。また、物価の高い日本では購買力平価によるGDPの順位は$ベースの順位より低くなっており、アジアの中で比較しても日本の購買力平価による一人当たりGDPは高くない。さらに、日本の平均世帯所得は減少しており、特に高齢者世帯で低い) ASEAN諸国の人口ピラミッド 世界の人口推移 日本の人口推移 (グラフの説明:ASEAN諸国をはじめとするアジアの他国では、まだピラミッド型の人口構成をしており、次第に日本に近いつぼ型になるだろう。そして、開発途上国で人口増加が止まるまで世界人口は増え続け、2011年の世界人口は70億人で、2050年には93億人になりそうだ。どの国も産業革命後に急速に人口が増加し始めたのは、物資が豊富になって栄養が行きわたり、衛生状態がよくなるとともに、医療が普及したからだと言われているが、人口がピークになっている現在の日本と同様、人口増加の終息後は各国とも人口減に転じ、次第に高齢化社会になっていくと考えられる) (1)日本の経済学者がノーベル経済学賞を獲得するには・・ 1)私がこの解を書ける理由 私は人間の遺伝や進化(今で言う生命科学)に関心を持って東大理科Ⅱ類に入り、女性が結婚しつつやりたい研究をして大学で昇進できる可能性の低さに愕然としながら医学部保健学科(今から40年以上前に環境の研究をしていた)に進学し、人類生態学・環境・疫学等を勉強し卒業した後に、公認会計士・税理士に転向して仕事を続けてきたので、本気で生物系と経済学・法律の勉強をした経験がある。そのため、両方のアプローチを比較して、日本人がノーベル経済学賞を受賞できない理由を書けるので書く。 例えば環境を例にとると、ヒトが生きる環境を悪化させる要因は多く、複数の物質が反応し合って複合汚染を起こす化学物質や単体でも人体に重大な害を与える放射性物質・有機水銀のような物質もあり、特定するのは一苦労だ。そのような中、ヒトに与えている害の原因を求めるには、注目する要因と背景となる要因の相関関係を多変量解析して発生している事実と比較する方法があるが、考慮すべき要因が多いためすっきりした解が得られないことが多い。 一方、経済学は、人間の意思決定と行動から生じる社会現象を簡単な数式やグラフで説明しており、私はそれを初めて勉強した時には理論の美しさに感動したが、不変と看做して無視する“与件”が多すぎて、実際の社会現象を実証的に説明することはできていない。それが、現在、日本で語られている経済学の欠点で、つまり科学になっていないのだ。 そのため、「①マクロ経済はミクロの経済行動の総計である」「②公害・環境は無視できない重要な要素となった」「③技術進歩を無視することはできない」「④食料・資源・地球環境は、地球上での人口増加・経済拡大の限界を意味する」などを前提とし、これまでの経済学では無視していたものも考慮し、社会調査に基づいて日本で起こっている現象を実証主義によって数式で説明すれば、課題先進国である日本の経済学者は、世界の課題に大きく貢献し、ノーベル経済学賞候補になれると考える。 2)日本人がノーベル経済学賞を獲得できない理由 産経新聞は、*1-1で、経済学賞は日本人が獲得したことのない唯一のノーベル賞だが、ノーベル賞受賞者は「①米国の有名大学を拠点に活動している」「②ノーベル賞を受賞するには米国で論文を積極的に発表し、その論文を世界の研究者が頻繁に引用する必要がある」「③功績に追随する人が一派をなしている」「④日本人は米国の主流派に大きな影響力を持つ研究者が少ない」などとしている。しかし、ノーベル経済学賞の選考はスウェーデン王立科学アカデミーが行うため、英語で論文を発表し、それを世界の研究者が読んで頻繁に引用する必要はあるが、米国の主流派か否かは関係ないと思われる。そのため、他分野の日本人ノーベル賞受賞者が日本で活動した人も多いことを考えれば、①②③④は泣きごとにすぎない。 また、日経新聞も、*1-2で「英語力の壁」「インパクト不足」を上げているが、世界の研究者がその論文の存在を知って引用するためには英語で記載されていることが必要条件ではあるが、内容が先進的で新しい解を導いており魅力的でなければ、世界の研究者が引用する理由がなくインパクトも小さい。しかし、日本の経済学者には、それがないのである。なお、アメリカの文化・歴史・社会背景を理解していない日本人がアメリカで研究した経済学は、それらを理解しているアメリカ人がアメリカで研究した経済学よりも背景に詳しくない分だけ考察が浅く、インパクトのある内容にはなりにくいと思われる。 そこで、私は、「経済学の新分野を開拓した、あるいは既存の分野に新しい視点を取り入れて経済学を革新したと多くの経済学者が認識する理論を造る」には、課題先進国日本で、社会調査に基づいた実証主義により問題を解明して経済学の理論を造れば、地球に貢献する大きな流れができ、評価力のある人から評価され得ると考える。 なお、東京大学経済学研究科でゲーム理論の人気が高いそうだが、観念的で単純化しすぎた理論だけでは実際の経済事象を説明することができないため、その功績は限られるだろう。 (2)GDPの算出方法による歪んだ実態把握 1)GDP(国内総生産)について GDPは、国内で新しく生産された財・サービスの合計で、経済活動の規模や動向を総合的に示す指標として用いられる。また、GDPには名目と実質があり、実質GDP(名目GDP/《1+物価上昇率》)は、名目GDPから物価変動の影響を除いたものだ。 また、GDP等の経済実態を把握する方法は経済統計だが、*2のように、GDP統計の把握の仕方が古く、実際に生産しているものがGDPに入っていなかったりして、GDP統計に基づいた政策決定を誤らせるという問題点が指摘されている。そのため、総務相の高市早苗氏が個人消費の新指標を開発する研究会を立ち上げられたのはよいことだ。 私自身は、日本のGDPは製造業中心で、医療・介護・保育・教育・ハウスキーピングなどの20~21世紀型サービスが十分に算定・評価されておらず、このことが政策におけるこれらのサービスの軽視に繋がっていると考える。しかし、2014年の統計では、日本のGDPの構造は、第三次産業(サービス業)が74%と最も大きく、次に第二次産業(製造業)24.9%、最後に第一次産業(農林水産業)1.2%となっており、日本はモノを作って輸出するのに適した国ではなくなっているのだ。 2)GDP成長率(いわゆる経済成長率)について GDP成長率とは、GDPの変化率(g=GDP、t=時間として、dg/dt)のことで、変化率であるため、本来、プラスの場合もマイナスの場合もありうる。しかし、経済を語る文系の人は、微分・積分を知らない人が多く、GDP成長率と名付けたこともあって、GDPの成長に子の成長のような特殊な積極的意味を付加している。しかし、感情の入らない科学用語としては、「GDP変化率」が適切だ。 また、「GDP変化率」と表現すると、人口が減少してGDPの総計が減っても、一人当たりGDPが増え、一人一人がより豊かな生活を送れるようになっていれば問題ないことがわかる。 (3)伊勢志摩サミットで世界に向けて語られた日本の政策の誤り 1)財政出動 日米欧の主要7カ国(G7)が4月26、27日に、*3-1のように、首脳会議(伊勢志摩サミット)を三重県で開き、その最大のテーマを「マクロ経済政策の協調」とし、「①原油価格の下落」「②中国をはじめとした新興国の経済低迷」を理由に、財政出動での内需拡大を求めたそうだ。 しかし、原油価格下落は日本にとってはマイナスではなく、中国のGDP成長率の鈍化はリーマンショック後に金融緩和して世界経済を支えた中国の出口戦略によるものであるため、外国のせいにして新たな財政出動を合理化するのは正しくない。 むしろ、日本は東日本大震災、熊本地震、鳥取地震等からの復興や東京オリンピックの準備などで既に莫大な財政出動を余儀なくされているため、景気対策のためにこれ以上の財政出動をしなければならない理由はなく、*3-2のように、無駄な財政支出をやめ財政出動に慎重なメルケル独首相の見解の方が正しいと、私は考える。 2)金融緩和 日本は結論ありきの消費税率10%への引き上げのため、*2のように、デフレ脱却と称する金融緩和のインフレ政策を行い、貨幣価値を下げることによって国の借金を実質で目減りさせ、株価や土地の価格を上げ、グローバル企業の利益を増やしたが、これによって国民は実質賃金や実質債権価値が下落し、実質賃金下落の効果として雇用は増えたものの生産年齢人口でも生活の苦しくなった人が多い。まして年金生活者は、年金給付の実質目減りと介護保険料の負担増で生活できない人も出ている。 これは、日本の政治が経済学のマネタリズムを御都合主義で利用して過度の金融緩和というインフレ政策を行い、声の小さな国民にしわ寄せした結果であるため、私は、これを日本国憲法(第11条基本的人権、第25条生存権、第29条財産権)違反だと考える。 また、*3-3のように、先進国の金融緩和政策の長期化に伴う低金利の副作用への警戒感が急浮上しているが、いくら金融緩和したり低金利にしたりしても、最終需要者の国民から消費財の購入資金を奪っているため、それを供給する企業の健全な投資も起こらないのが当然だ。ただし、低金利を利用して本当に必要なインフラに投資すれば、その後の生産性向上に資するし、ゼロ金利を利用して政府が国債を借り換えすれば、年間20兆円に及ぶ国債の利払いを抑えることが可能だ。 3)生産性の上昇 麻生財務相は、*3-4のように、「生産性上昇で低成長克服を」と述べておられるが、確かに生産性を高める技術進歩と構造改革は重要だが、電力自由化後も原発への国費の無駄遣いが続いたり、新電力に原発の廃炉費用を負担させようとするなど、国内での自由競争を阻害する政策が多すぎる。そのため、「経済成長(GDPの変化率をプラスにすること)が善である」と述べているが、どういう状態をゴールとして、いかなる方法で、何のためにGDPを拡大させたいのかという最も重要な展望を考え直すべきだ。 私自身は、日本国憲法に書かれていることが、まさに日本が目指すべきゴールであり、これは条文を読めばわかることで、日本国憲法が外国から強制されたか否かは問わないと考える。 (4)年金削減と介護サービスの削減は伸ばすべき消費を抑えたのだということ 1)年金について 年金は高齢者の生活の糧であり、これを不当に侵害しなければ、高齢者が必要とするものを購入することによって、人口における高齢者の割合が著しく増加する課題先進国日本で、新たに起こる需要に対応する供給が確立してきた筈のものである。 そのため、*4-1のように、年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を25年から10年に短縮し、無年金となっていた64万人を新たに年金を受け取れるようにしたことは、公正な方向への変更であり歓迎だが、本当は、年金保険料を支払ったことのある人なら加入期間にかかわらず誰にでも受給資格を与え、年金加入期間と保険料支払い額に応じて支給額を調整するのが公正だと私は考える。 なお、*4-2のように、厚労省は年金の試算において、会社員の夫と専業主婦のモデルケースで2013年度の厚生年金の所得代替率を62.6%と過大に試算していたが、賃金と年金をいずれも手取りで計算し直すと所得代替率は53.9%に低下し、税・社会保険料を含めて計算すると所得代替率は50.9%にまで下がるとのことだ。しかし、まだ夫と専業主婦の2人世帯のモデルケースしか試算しておらず、どちらか1人になれば年金額はさらに減少する上、高齢者は生産年齢人口の50%程度の収入があれば生活できるとしているのも不可解であり、今後、高齢者が生活できない状況は頻繁に起こりそうだ。 2)介護制度について 介護制度も、高齢化・核家族化が進んだ現在、生存権を護るために必要なもので、高齢者や障害者にとっては生きるために必要不可欠なものであるため、介護制度を改悪すれば介護制度の存在意義が怪しくなる。もう一方の見方をすれば、高齢化・少子化した日本では、介護サービスは真に必要とされるサービスであり、これを抑制することは、本物の需要を抑えて真に必要なサービスの供給を発展させるのを妨げたものだ。 そのため、*4-3のように、介護と言えばサービスを縮小して現役世代の負担を減らすことばかりを主張するのではなく、現役世代は介護を自分でしなくてよくなった分だけ確実に負担軽減されていることを考慮し、まだ十分に供給されたこともない介護サービスの削減ばかりを唱えずに、必要な需要は供給できるよう、働く生産年齢人口は全員、医療保険と同様に介護保険料を負担するようにすべきである。 <日本人がノーベル経済学賞を獲得できない理由> *1-1:http://www.sankei.com/politics/news/161011/plt1610110054-n1.html (産経新聞 2016.10.11) 日本人はなぜノーベル経済学賞を獲得できないのか…米主流派、英語が壁? 2016年のノーベル経済学賞は米国の経済学者2人が受賞し、日本人で最有力視された米プリンストン大の清滝信宏教授(61)は今年も受賞を逃した。経済学賞は日本人が獲得したことのない唯一のノーベル賞。米国の学界が「主流派」として幅をきかす中、英語力のハンディもあり、日本人は受賞の“地歩”を築けていないのが実情だ。ノーベル経済学賞は、市場の役割を重視する米国主流派の系譜を引く学者が相次ぎ受賞している。2010~16年の受賞者14人中12人が米国の大学教授や名誉教授だ。背景には現代経済学の主流派の多くが、米国の有名大学を拠点に活動していることがある。このため、ノーベル賞を受賞するには、米国で論文を積極的に発表している▽その論文を世界の研究者が頻繁に引用している▽功績に追随する人が一派をなしている-などの条件が必要とされる。日本人に関しては「米国の主流派に大きな影響力を持つ研究者は少ない」(内閣府経済社会総合研究所の堀雅博上席主任研究官)。語学力の壁もあって説得力ある論文の執筆や人脈作りが難しく、受賞の条件を満たせないとの見方がある。この点、毎年候補に名前の挙がる清滝氏は米国に足場を持つまれな存在だ。また14年に死去した宇沢弘文・元東大名誉教授も数理経済学の業績で受賞に近いとされた。ただ、米国から日本に帰国後の1970年代、社会運動にのめりこみ、主流派に批判的となったことが受賞を最終的に不可能にしたといわれる。日本人の受賞を目指すのであれば、若手研究者が米国で腰を据えて研究できる環境整備や、米国から優秀な指導者を招き、日本の学界を底上げする取り組みが求められそうだ。 *1-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGH05H0Y_V01C16A0000000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/10/10) ノーベル経済学賞、日本人が受賞する条件 今年のノーベル経済学賞は、米ハーバード大学のオリバー・ハート教授、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のベント・ホルムストロム教授の受賞が決まった。ノーベル賞の歴史の中で、日本人が受賞していないのは経済学賞だけで、今年も受賞を逃した。日本人の経済学者が世界で評価され、ノーベル賞を受賞するためには何が必要なのか。 ■「英語力の壁」やインパクト不足 昨年夏に死去した青木昌彦氏(米スタンフォード大名誉教授)の生前の活躍ぶりを示す著書が9月、書店に並んだ。タイトルは「比較制度分析のフロンティア」(青木昌彦・岡崎哲二・神取道宏監修)。世界各国の経済学会の連合体である国際経済学会連合(IEA)の会長を2008年から11年まで務めた青木氏が企画し、11年に北京で開いた世界大会での発表の中から、青木氏が厳選した論文を邦訳した。IEAの初代会長はジョセフ・シュンペーター。以来、ポール・サムエルソン、ケネス・アロー、アマルティア・セン、ロバート・ソローら世界を代表する経済学者が会長を務めてきた。ちなみに青木氏の後任はジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授(11~14年)である。青木氏は、人々の行動を左右する慣習などを「制度」と定義し、ゲーム理論の手法を使って各国の経済構造の違いを解明した。歴史や文化の中ではぐくまれる「制度」と、経済学の中でもとりわけ「純粋理論」の色彩が濃い「ゲーム理論」。対極にあるようにもみえる両者を結びつけて独自の理論を展開する、斬新な着想が世界の経済学界で高く評価された。人脈づくりにも熱心で、青木氏を中心に世界の研究者の強力なネットワークができあがっていた。「ノーベル経済学賞を受賞する資格があり、本人も狙っていた」(今井賢一・スタンフォード大名誉シニアフェロー)と評される青木氏のような存在は、残念ながら現在の日本には見当たらない。「比較制度分析のフロンティア」には、清滝信宏・米プリンストン大教授の「金融制約へのメカニズムデザイン・アプローチ」と題する論文も収録されている。引用された論文数を基準にノーベル賞候補を毎年発表している米トムソン・ロイターは10年、清滝氏を経済学賞の候補に選んだ。日本人が初受賞するなら清滝氏と関係者は口をそろえる。清滝氏の名前がよく挙がるのは、世界で認められている日本人がごく限られているためでもある。世界で評価される条件は何か。日本人の経済学者たちに尋ねると、ほぼ同じ回答が返ってくる。 (1)アメリカン・エコノミック・レビュー、エコノメトリカ、ジャーナル・オブ・ポリティカル・エコノミーなど「トップジャーナル」と呼ばれる論文誌に投稿し、多くの論文が掲載される。 (2)論文が世界の経済学者の間で注目され、他の論文に引用される。 (3)論文に関連するテーマに取り組む研究者が増え、経済学界に大きな流れができる。 (4)経済学の新分野を開拓した、あるいは既存の分野に新しい視点を取り入れて経済学を革新したと、多くの経済学者が認識する。何をすればよいのかは十分わかっていても、実行できないのはなぜか。依田高典・京大教授は「英語力の壁」を挙げる。数理経済学が全盛だった頃は、数学が得意な日本人学者が活躍する余地が大きく、ノーベル経済学賞の有力候補と呼ばれた宇沢弘文氏(東大名誉教授)らのスターが生まれた。応用経済学が主流となった現在、トップジャーナルのレフェリーを納得させる論理を展開するのは難しいとみる日本人学者は多い。岡崎哲二・東大教授が日本人学者に欠けているとみるのは「新しい問題を発見し、大きな流れをつくっていく力」。トップジャーナルへの掲載を目指してこつこつと努力し、成果を上げている学者は増えてきたものの、経済学界に大きなインパクトを与えるほどの勢いはない。 ■海外との人材交流も乏しく この点でよく指摘される問題が、特定の分野への研究者の集中だ。例えば東京大学の場合、経済学研究科の大学院生の間で最も人気が高いのはゲーム理論。ゲーム理論が専門でトップジャーナルへの論文掲載の実績がある教授陣が在籍しているため、世界で活躍したいと考える若手研究者がゲーム理論に殺到している。論文を量産しないと大学に職を得にくいという就職事情も影響しているようだ。ゲーム理論は確かに最先端分野の一つではあるが、今後も「成長分野」であり続けるのかどうか。「ゲーム理論の論文を積み上げても、経済学の革新に貢献したと評価されるのは難しいのではないか」と懸念する声もある。 <政府統計> *2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160920&ng=DGKKASFS16H0X_W6A910C1PE8000 (日経新聞 2016.9.20) 統計大論争(1)GDP信用できない ふたりの“教授”が霞が関を震撼させている。やり玉にあげるのは政府統計。追及の手が緩む気配はない。ふたりの教授は毎週金曜日、午後3時からみっちり2時間、官僚とゼミを開く。物価変動の影響をみるデフレーターの算出方法をただし、生産性の分析の仕方を問う。専門用語が飛び交う。「自分が呼び出されるのはいつだ」。統計を扱う官僚は戦々恐々とする。ゼミの教授は大阪学院大教授の三輪芳朗(68)。もうひとりの「教授」は所属する自民党岸田派でついた異名、行政改革相の山本幸三(68)だ。ふたりは東大教授だった経済学者、小宮隆太郎(87)の門下生。1年先輩の三輪が後輩である山本の大臣補佐官を引き受けた。勉強会で統計の不備をただすのは主に三輪の役回りだ。三輪が書いた「よりよい政策と研究を実現するための経済統計の改善に向けて」は官僚必読の論文。ふたりの教授は正確な統計を生かし、誤りのない政策決定に導くという思いを共有する。勉強会には若手国会議員も顔を出す。教授を中心にした統計論議は騒がしさを増している。 □ □ 山本は旧大蔵省出身で、宮沢喜一の蔵相秘書官も務めた。政界入り後は日銀にデフレ脱却を迫ってきた。筋金入りのリフレ派だ。やや異端視される存在だったが、旧民主党政権時、今の首相、安倍晋三(61)に金融緩和の必要性を説いた。安倍は首相復帰後、アベノミクスの第1の矢に「大胆な金融政策」を据えた。山本がアベノミクスの「生みの親」と主張するゆえんだ。そんな山本が閣僚に就くや、真っ先に矛先を向けたのが政府統計だった。就任2日目の8月4日。「ぜひやりたいのは、政府の経済統計の整理統合」「日本のGDP(国内総生産)統計はどこまで信用していいかわからない」。消費統計の不備などから経済の実情がつかめないと持論をぶった。「景気がいまひとつなのを統計のせいにするのか」。内閣府は真意をいぶかった。だが、この夏、異論を唱えたのは山本だけでなかった。日銀職員2人が7月、GDPの算出方法に疑問を投げかける論文を公表したのだ。2014年度の名目GDPが内閣府の公表額(490兆円)より約30兆円多い519兆円だったと指摘。実質成長率は内閣府のマイナス0.9%でなく、2.4%と主張した。内閣府内には反論文書を出すべきだとの意見も出たが、最後は「論評に値しない」と切って捨てた。一部の研究者やエコノミストが援軍に回った。「消費増税があったのに、14年度のプラス成長はにわかに信じがたい」。内閣府を勇気づけた。内閣府も統計の機能不全を否定しない。実質GDPは15年7~9月期に速報値のマイナスから改定値でプラスに転じるなど、数字のぶれが信頼性を下げている。消費統計もネット販売を加味せず、若年層の購買行動を捕捉できていない。それでも「今ある統計を作るのに精いっぱい。改善の人手も予算も足りない」(内閣府)。 □ □ 統計への厳しい視線を感じ、重い腰をあげたのは総務省だ。9月15日夕、総務相の高市早苗(55)は大学教授やエコノミストら約15人を集め、個人消費の新指標を開発する研究会を立ち上げた。高市は「政府統計が新たな地平をひらくための挑戦の場」と意気込んだ。1時間半の会議終了後にはみずから参加者を見送る熱の入れようだった。これまでも消費統計の刷新を探る動きはあったが、めぼしい成果はない。研究会では有識者から総務省の本気度を問う声もあがった。「(すべてのものがインターネットでつながる)IoT時代に沿った、新たな政府統計を作りたいと思います」。総務省消費統計課長の阿向泰二郎(46)は退路を断った。日本最初の政党内閣を組織した大隈重信。総務省は統計の礎を築いたとたたえる。大隈は1916年、全省庁に発した内閣訓令第1号で統計の重要性を訴えた。「其の調査は、迅速精確にして実用に適するものたるを要す」。正確なデータが国の政策づくりに不可欠と喝破した。今、100年前の大隈の訓示をかみしめる時が来ている。 ◇ 経済の実態をつかむのは難しい。統計という物差しが古び、精度が低ければ、なおさらだ。愚直に数字を積み上げるだけで日本の今はとらえられない。(敬称略) <世界経済と伊勢志摩サミット> *3-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO00288580Q6A430C1970M00/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/5/3) 世界経済占う「伊勢志摩」 サミットの焦点と歴史 日米欧の主要7カ国(G7)は26、27両日、各国首脳が一堂に会する主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を三重県で開く。日本で開くサミットは8年ぶり6回目。首脳同士が同時通訳を介して直接、さまざまな世界の難題を話し合う首脳外交のひのき舞台だ。議長として安倍晋三首相の力量も問われる。 ■最大のテーマは マクロ経済政策の協調探る サミットは主要国の首脳が世界の重要課題を話し合うため年1回開く国際会議だ。初会合は1975年11月。石油ショックへの対応を話し合うため、先進6カ国首脳がフランス・パリ郊外のランブイエ城に集まった。メンバーは日本、米国、英国、フランス、西ドイツ、イタリア。76年にカナダが加わり「G7」(Group of Seven)と呼ばれるようになった。98年にロシアを加えて「G8」になったが、2014年にクリミア半島の併合を強行したロシアを外し、この年からG7の枠組みに戻った。毎年の議題は大きく政治と経済に分かれる。今年は世界経済の先行きに不透明感が増すなか、G7が一致してマクロ経済政策で協調姿勢を打ち出せるかが最大の焦点だ。原油価格の下落を引き金に、昨年来、これまで世界経済をけん引していた中国をはじめとした新興国の経済が低迷。収縮しつつある世界経済を下支えするには、G7や新興国に財政出動での内需拡大が求められている。ただ財政規律を重視するドイツは財政出動に慎重だ。サミットでの世界経済の議論が、17年4月に迫った消費税率10%への引き上げを延期するかどうかの安倍晋三首相の判断に影響するとの声も多い。内需拡大で一致するなら、消費増税は消費や投資拡大の足かせになるとの見方だ。富裕層や有力政治家らのタックスヘイブン(租税回避地)での節税の実態を明らかにした「パナマ文書」を巡る問題を受け、課税逃れ対策の取り組み強化も話し合う。政治分野では、過激派組織「イスラム国」(IS)による相次ぐテロや、シリア内戦による欧州への難民流出問題が大きなテーマになる。G7がどこまで具体的な処方箋を示せるかが注目点だ。4月に広島で開いたG7外相会合では、サミットで「具体的な施策を含むテロ対策行動計画を作成する」とした。テロリストやテロ組織の資金の流れに関する情報や、航空機の乗客情報を共有する仕組みづくりなどが課題だ。日本政府としては「アジアで8年ぶりに開くサミット」(安倍首相)で、アジア地域の問題も重点的に取り上げる。特に核実験や弾道ミサイル発射を強行した北朝鮮への対応や、人工島造成など南シナ海での海洋進出を強める中国への対応が焦点だ。G7外相会合では中国の活動を念頭に「挑発的な一方的行動に強い反対を表明する」と明記した声明をまとめた。首脳宣言でけん制のトーンをどう強めるかが注目だ。議長国の日本としてはサミットを通じ、安倍政権が国際協力の柱に据えるアジアでの「質の高いインフラ投資」の促進や、目玉政策である「女性活躍の推進」も国際社会にアピールしたい。エボラ出血熱や中南米でジカ熱が流行していることを踏まえ、感染症対策など保健衛生分野での貢献策も打ち出す。サミットに先立ち、財務相・中央銀行総裁など計8つの閣僚会合を開き、各分野でグローバルな課題を話し合う。サミット閉幕後に発表する「首脳宣言」に反映する。 ■なぜ「G7」で開催 民主主義など価値観共有 サミットの主要議題は、その時々の国際情勢を映す。1975年の初会合は経済問題が議題で、当初は経済政策が中心だった。ソ連のアフガニスタン侵攻を受けた80年のベネチア・サミットから「西側の結束」を確認する政治討議に比重が移った。地域紛争や環境問題など議題は広がり、2000年代以降は地球温暖化やテロ対策といったグローバルな課題が目立つ。ロシアは冷戦終結後に加わったが、2014年からG7がロシアの参加を停止。再び自由や民主主義などの価値観を共有する国だけの集まりとなり「話し合いは格段にスムーズになった」(外務省幹部)。その分、G7の結束力が高まったと言える。共通の価値観を土台にすることで、中国の挑発行為も話しやすくなった。南シナ海や東シナ海への海洋進出で「法の支配」に反するような動きは、どの国も賛意を示せない。かつては中国をサミットに加える構想も浮かんだが、いまは消えている。世界でみると裕福なG7のテーマは、新興・途上国が今後直面する課題にもなる。高齢化や医療、女性活躍など課題を先取りして世界の議論をリードする役割もある。サミットは国際社会の中で常に存在意義を問われてきた。最近では08年のリーマン・ショックの後。世界経済を揺るがす事態の発信源が米国だったことに加え、日本や欧州各国の経済も大きく傷み、国際社会への影響力を一時は失った。代わりに存在感を高めたのが20カ国・地域(G20)。G7にブラジル、中国、インド、ロシア、韓国、インドネシアなどを加えた枠組みだ。首脳会議はリーマン・ショック後にブッシュ前米大統領の呼びかけで始まった。金融規制や監督など危機の再発防止策をまとめ、ギリシャ危機を受けた10年には財政健全化策を議論した。ただ先進国と新興国の利害が対立することも多く、協調はなかなか難しい。現在は新興国経済が軒並み伸び悩む。G20だと発言する人数が多すぎて突っ込んだ議論ができない問題も明確になり、再びG7に注目が集まっている。 ■国際社会への影響力は 閉幕の「首脳宣言」カギ サミットがどこまで国際社会に影響力を与えられるかは、閉幕時に打ち出す首脳宣言がカギを握る。そろって具体的なメッセージを打ち出せば、その後の国際社会の流れに道筋が付く。逆にいかにG7とはいえ、打ち出すメッセージがバラバラでは影響力は維持できない。例えば1979年の東京サミットは第2次石油ショックへの対応で、石油消費・輸入上限目標を国別に具体的数値で示すことで合意した。83年のウィリアムズバーグ・サミットは、米国による西欧へのミサイル配備の是非が議題になり、激論の末に中曽根康弘首相が必要性を主張。ソ連への対抗姿勢を示した。2008年の北海道・洞爺湖サミットでは、50年までに世界全体の温暖化ガスを半減する長期目標に合意。目標設定に慎重だった米国を巻き込み、環境問題を前進させた。今回のサミットでは、欧州で社会不安の原因となっている中東からの難民問題で、欧州の緊迫感を日米が共有できずにいるとの見方は多い。ロシアや中国との距離感でも温度差を抱える。G7の結束を打ち出せるかどうかは議長である安倍晋三首相の力量次第だ。かつて1年ごとに首相が交代し、「日本の首相は毎回サミット初参加」という時代と異なり、安倍氏は今回でサミット参加が5回目と経験も豊富だ。G7が再び結束を強められるか。安倍氏の役割は大きい。 *3-2:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO01960380V00C16A5I00000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2016/5/5)メルケル独首相、財政出動にゼロ回答、日本との対立避け、温和な表現 ドイツが日本の期待に応えて財政出動に踏み切るかが焦点となっていた4日の日独首脳会談。安倍晋三首相との話し合いを終えて共同記者会見に臨んだメルケル独首相は成長戦略について「詳細は日本で議論する」と語った。文字通りに受け止めれば、ドイツが新たな景気刺激策を講じることに理解を示したかに見える。だが発言を丹念に追えばゼロ回答なのは明かだ。わざわざベルリンを訪れた安倍首相のメンツをつぶさないように温和な表現に終始し、日本との対立を避けるという配慮を見せた。会見で安倍首相は「機動的な財政出動が求められている」と語った。これをメルケル首相は否定しなかったどころか「投資、構造改革、適切な金融政策の3つが必要だ」と呼応した。だが新たな補正予算を組んで、景気刺激に乗り出すつもりはない。ドイツ政府が4日夜に公表したプレスリリースを読めば真意が分かる。「主要7カ国(G7)首脳会議の準備=メルケル首相、訪独の安倍首相と会談」と題された報道資料で、財政政策には一言も触れなかった。具体的に書き込まれたのは日本と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)やテロ対策。肝心の財政は素通りしたのである。共同会見の発言からもゼロ回答がにじみ出た。「大勢の難民がドイツに流入したことで内需が刺激された。さらにFTAで成長を高め、世界経済に貢献する」。行間から読み取れるのは、難民対策やFTAというのがドイツの成長戦略で、新たな景気対策は検討しないというメッセージである。なぜメルケル首相は頭ごなしに財政出動を拒否しなかったのか。理由はいくつかある。ひとつはドイツの政治情勢だ。ドイツは財政黒字だが、難民対策で歳出は膨らんでいる。しかも来秋に連邦議会(下院)選挙を控え、教育など重点政策には予算を厚めに配分せざるを得ない。外から見れば緊縮派でも、実際にはドイツなりに財政拡大しているのである。このタイミングで財政政策を「不要」とは言えない。ふたつ目は日本への配慮。わざわざ訪独し、構造改革にも言及した安倍首相を追い返すようならドイツの度量が疑われる。「大人の対応」で亀裂を目立たなくしたということだろう。メルケル首相は2013年にアベノミクスを公然と批判し、昨年3月は日中韓で争う歴史認識問題に注文をつけた。今回は対立する政策があっても事を荒立てず、無難にやり過ごした。裏返すと真正面から議論し、G7を舞台に財政・経済政策で協調するという発想はない。対日政策の優先順位も低い。英国のEU離脱や難民危機、それに極右の台頭をどう抑え込むかという域内の問題でメルケル首相は手いっぱい。日独首脳会談について地元メディアは小さく報じただけだった。 *3-3:http://qbiz.jp/article/95611/1/ (西日本新聞 2016年10月8日) 低金利の副作用警戒が浮上 IMFC開幕 国際通貨基金(IMF)の運営方針を決める国際通貨金融委員会(IMFC)が米首都ワシントンで7日午後(日本時間8日午前)に開幕し、世界経済が直面する課題を議論した。6日の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に続く一連の国際会議で、先進国の金融緩和政策の長期化に伴う低金利の副作用への警戒感が急浮上している。資金の運用で利益を十分に上げるのが難しくなり、銀行の経営不安や年金の収益悪化を招く恐れがあるためだ。各国の金融政策頼みは岐路を迎えている。会議に出席した日銀の黒田東彦総裁は7日の記者会見で「金融政策だけではバランスの取れた成長につなげるのは難しい」と述べた。IMFのラガルド専務理事は6日の記者会見で「銀行や保険会社、年金ファンドのビジネスモデルを見ると、ゼロ金利近辺での運用で苦しい事態に陥っている」と述べ、金融政策への過度な依存に警鐘を鳴らした。日米欧は長らく緩和策を継続してきたが、成長率は低迷する。「経済の体温」である物価は上がらず、緩和の限界と低金利の弊害が指摘され始め、6日のG20でも、低金利が銀行や年金基金に及ぼす悪影響の度合いを巡って議論が交わされた。銀行は顧客から集めたお金をより高い金利で運用することで利益を得ており、低金利で利ざやが縮小する弊害を無視できなくなってきた。日本では、年金に収入を依存する高齢者の暮らしを脅かしかねない。IMFCでも、低金利の長期化が世界経済や銀行に与えるリスクを議論。オーストラリアはIMFCに提出した声明で「低金利で金融は脆弱さを増す。過度に金融政策に頼るのは避ける必要がある」と強調した。一方、アルゼンチンは低金利で調達した資金をインフラ投資などに充てれば経済が底上げできると主張。G20やIMFCを契機に、低金利の評価を巡る議論が国際社会で活発になりそうだ。 *3-4:http://qbiz.jp/article/95613/1/ (西日本新聞 2016年10月8日) 生産性上昇で低成長克服を 世界経済で麻生財務相 麻生太郎財務相は7日夜(日本時間8日午前)、米首都ワシントンで記者会見し、「世界経済には不確実性が存在するが、過度な悲観論に陥ることなく適切に対処することが重要だ」と述べ、低成長克服へ生産性を高める構造改革に取り組む重要性を強調した。ルー米財務長官との会談では「世界経済や為替市場など幅広いテーマについて意見交換した」と説明。財務省同行筋によると、環太平洋連携協定(TPP)の重要性を強調し、臨時国会で成立させると伝えたという。米財務省によると、ルー財務長官も米議会でのTPPの速やかな承認と発効に向けて努力すると強調。麻生氏に対して、輸出増を狙って通貨価値を意図的に引き下げる通貨安競争を回避するとした20カ国・地域(G20)の合意を守ることが重要だと伝えたという。麻生氏は会見で世界貿易の減速に関して「要因をしっかり把握し対処することが大事だ」と指摘した。保護主義の台頭を念頭に「自由貿易の障害を除去する行動が求められる」と語った。米大統領選が世界経済に与える影響については「うかつに言えない」と言及を避けた。同席した黒田東彦日銀総裁は日銀が金融政策の枠組みを変更したことに対する他国の反応を問われ「日銀の政策は以前から十分な理解が得られており、新たな政策枠組みについて特段の意見は聞かれなかった」と述べた。 <年金・介護> *4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/368667 (佐賀新聞 2016年10月21日) 無年金64万人を救済、法案、今国会成立へ 無年金の人を救済するため、年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を25年から10年に短縮する年金機能強化法改正案は21日、今国会で成立する見通しとなった。同日に衆院厚生労働委員会で審議入りした。野党も賛成の意向のため、早ければ来週にも衆院を通過する。成立すれば、来年10月にも約64万人が新たに年金を受け取れるようになる。一方、支給額の抑制を強化する年金制度改革法案には、民進党が反発を強めており、審議入りのめどが立たない状況が続いている。 *4-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJBP73Z4JBPUTFK01S.html?iref=comtop_favorite_03(朝日新聞 2016年10月21日)年金試算、不適切な計算式を使用 塩崎厚労相が認める 厚生労働省が年金の試算で不適切な計算方式を使い、現役世代の平均的な収入に対する年金額の割合(所得代替率)が高く算出されるようになっていた。塩崎恭久厚労相が21日の衆院厚労委員会で明らかにした。政府は厚生年金の所得代替率について「50%以上を維持」と公約しているが、将来的に割り込む可能性が高くなった。年金の試算は5年に1度、時々の経済情勢に応じて年金制度を見直す財政検証で行う。厚労省は所得代替率を計算する際に、分母となる現役世代の収入は税や社会保険料を除いた手取りとし、分子の高齢者の年金は税や社会保険料を含めた収入としていた。21日の衆院厚労委では、民進党の長妻昭氏の質問に対し、塩崎氏は年金の試算について「役割を果たしていないこともありうる」と述べ、不十分だと認めた。その上で「次期財政検証に向けて議論する」として、2019年度の財政検証の際に新しい計算方式を検討する考えを示した。会社員の夫と専業主婦の2人のモデルケースでは、13年度の厚生年金の所得代替率は62・6%とされている。厚労省によれば、仮にいずれも手取りで計算すれば53・9%に低下。いずれも税や社会保険料を含めると50・9%になるという。実質賃金が上がり続け、経済成長率が実質0・4%のプラスが続くという前提では、43年度の所得代替率は50・6%と試算されている。厚労省は計算方式を変えた場合の試算を明らかにしていないが、13年度の再計算後の下げ幅から見ると50%を割り込みそうだ。所得代替率は欧米では税や社会保険料を両方含めるか、両方除外して算出するのが一般的だという。安倍晋三首相は1月の衆院本会議で「新たに年金を受給される方の所得代替率は50%が確保されることを確認している」と強調している。 ◇ 〈所得代替率〉 現役世代の平均的な収入に対する年金額の割合。最新の財政検証では、厚生年金に入る会社員と専業主婦の「モデル夫婦」が14年度に65歳になった場合、年金を受け取り始めるときは月21万8千円と試算。現役世代の平均的な収入の62・7%とした。43年度に65歳となる夫婦は50・6%になると見込んでいる。 *4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20161022&ng=DGKKZO08673770S6A021C1EA1000 (日経新聞社説 2016.10.22) 将来を見据えた介護保険の改革いそげ 介護保険制度の改革議論が難航している。介護が必要な度合いの低い軽度者向けサービスの縮小が焦点だったが、厚生労働省は大きな改革を見送る方向だ。大きな改革は利用者にいたみをもたらす。改革案を議論している厚労省の審議会でも、選挙が近いのではと浮足立つ与党内でも、反対意見が強い。厚労省はそうした声に配慮したようだ。ただ、介護が必要な高齢者は増え続ける。2025年には団塊の世代が、要介護状態になりやすいとされる75歳以上の後期高齢者になる。このままでは莫大な介護費用が必要になりかねない。コストを抑えて持続可能な仕組みを整えるのに残された時間は、実は少ない。その場しのぎではない改革の議論を急ぐべきだ。在宅の要介護者向け訪問介護サービスには、身体介護と生活援助の2種類がある。身体介護は食事や排せつの世話などだ。生活援助は調理や掃除、洗濯などを指す。軽度者はこのうち生活援助を多く利用する傾向がある。生活援助サービスがないと困る人はいるだろう。その一方で「がんばれば自分でできることまでヘルパーにやってもらうので、かえって状態が悪くなっている」といった指摘も絶えない。14年の前回改革では、要介護状態になる手前の要支援者に対するサービスの一部について、介護保険による全国一律の給付から市町村独自のものに切りかえることが決まった。生活援助的なサービスは各自治体の判断でボランティアやNPOなどを活用し、効率化しようとの考えだった。今回の議論でも、軽度者の生活援助サービスについては市町村の独自事業に切りかえる案が出された。しかし「自治体の態勢が整わない」ことなどを理由に見送る方向が、早々と固まりつつある。代わって、生活援助サービスを提供する事業者に支払う報酬を引き下げる案などが浮上している。だが、報酬引き下げだけで増え続ける軽度要介護者に対応していけるのか、疑問だ。自治体へのサービス移管も視野に、さらなる効率化は避けられないのではないか。保険を使わず自費で生活援助サービスを購入しやすい環境も、整えたい。社会保障制度のなかで最も急激に費用が膨らむと予想されているのは介護だ。改革の手をこまねいてはならない。 <中高年人口の増加と需要構造の変化> PS(2016年10月29日追加):第三次産業(サービス業)が74%と最も大きい日本の需要構造(=供給構造)はどう変わったのかと言えば、*5-2のように、65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める集落が、2015年4月には1万5568に上っている。また、*5-3のように、女性の3割超が65歳以上となり、ネットの活用が60代に広がっており、ネットショッピングを利用した65歳以上の世帯は13.6%となって過去最高を更新し、購入した商品・サービスはパック旅行、食料品、健康食品・サプリメント・贈答品等で、本当かどうかはわからないが64歳以下の世帯より多く支出しているそうだ。これは、現在の65歳以上は高卒以上が多く、職場で普通にパソコンを駆使していた購買意欲の高い層だからだろう。 一方で、*5-1のように、井筒屋の社長(男性)が、「流行のボタンを押せていないから、消費が振るわない」と述べておられるが、実際は、中高年人口の割合が高い時代に消費の対象を若い女性のみに据え、人口の多い中高年世代を無視しているのが販売が振るわない原因だと考えられる。購買経験を積んだ中高年女性は、流行や面白いだけのものは買わず、質のよいものを選ぶため、本来は百貨店に販売機会が多い筈だが、私の経験でも百貨店の品揃えは細身・小型の若年女性中心で中高年女性の魅力を引き出す衣料品が少なく、あっても野暮ったかったり、少し良いと非常に高い価格設定になっていたりする。そのため、顧客の大半が女性で女性従業員が多い小売やデパートは、女性を馬鹿にせず女性管理職や女性社長を増やして、本物のニーズを発掘するのが良いと思う。なお、中高年者のニーズを察して満たせるためには、接客する従業員にも同世代の経験豊富な人がいた方がよい。 *5-1:http://qbiz.jp/article/96279/1/ (西日本新聞 2016年10月21日) 「流行のボタンを押せていない」 井筒屋・影山英雄社長(10月11日) 消費が振るわない。しかし、それは、小売り側が需要を喚起できていない表れではないか。そんな流通の「心構え」を示すような一言を、全国の政令市で最も高齢化率(1月1日現在で28・6%)が高い北九州市に本拠を置くデパート、井筒屋のトップが発した。中間期としては8年連続の減収となった井筒屋。主力の衣料品が振るわず、関連商品も含めて前年に比べ8億円の減少と足を引っ張った。高齢化や人口減に歯止めがかからず、地域経済の先行きが見通せない。さらに、ライバルの福岡都市圏は商業集積が進むばかり。そこに、天候不順も重なった。不振の理由を挙げれば、枚挙にいとまがない。そんな厳しい環境下でのことだった。4月下旬〜5月上旬にかけ、小倉井筒屋(北九州市小倉北区)であるイベントを開いたところ、商品が飛ぶように売れ、完売も相次いだという。その商品とは、マスキングテープ。スマートフォンのケースに独自のデザインをあしらうなど、若い女性に人気のアイテムだ。売れ筋の単価は1個200〜300円と安いながらも、1カ月にも満たない期間中の売り上げは2千万円に上った。10月11日。2016年8月中間決算の記者会見に臨んだ影山英雄社長は、こう語った。「面白いものには人が来てくれる。(われわれは)まだ流行のボタンを押せていないということ」。期待か、自省か。潜在需要を感じさせつつ、それを引き出せていない地場デパートトップの重みのある一言だった。井筒屋が今後、どんな流行のボタンを押すのか。「百貨店といえば衣料品」という従来の枠から脱した発想が必要かもしれない。 *5-2:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/358375 (佐賀新聞 2016年9月21日) 高齢者半数の集落1万5千、15年、5年で1・5倍 65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める過疎地域の集落は、2015年4月時点で1万5568に上ることが21日、国土交通、総務両省の調査で分かった。10年度の前回調査から約5千の増加。調査対象の集落全体に占める割合も15・5%から20・6%に上昇した。過疎地域の高齢化が進行し、共同体の維持が困難な「限界集落」とも呼ばれる集落が増えている実態が浮き彫りになった。調査は、過疎法の指定地域などがある1028市町村にアンケートを実施。調査対象の集落は7万5662で、今回から離島なども加わったため前回(6万4954)から大幅に増えた。 *5-3:http://qbiz.jp/article/94318/1/ (西日本新聞 2016年9月19日) 女性の3割、65歳以上に 敬老の日、総務省推計 敬老の日を前に総務省が18日発表した人口推計によると、女性の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が9月15日時点で30・1%となり、初めて3割を超えた。男性は24・3%。男女を合わせると前年から0・6ポイント増の27・3%だった。65歳以上人口は73万人増の3461万人で、割合、人数とも過去最高を更新した。女性の総人口に占める65歳以上の割合は2001年に20%を上回り、09年に25%を超えた。今年の65歳以上人口は、女性が前年より38万人増えて1962万人、男性は35万人増の1499万人だった。後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上は1697万人で総人口の13・4%。女性が1037万人、男性は660万人だった。推計は、15年国勢調査の人口速報集計を基に、その後の出生・死亡者数から算出した。日本の高齢者の割合は欧米主要6カ国との比較でも最も高く、22・7%のイタリア、21・4%のドイツを上回った。1995年以降の伸び幅も日本は12・7ポイントに達した。イタリアの6・2ポイント、ドイツの6・0ポイントを大きく引き離しており、日本の高齢化が急速に進んでいることを改めて示した。また労働力調査によると、15年に職に就いていた高齢者は730万人と12年連続で増え、過去最多を更新した。約半数の360万人が企業などに雇用されていて、このうち74・2%に当たる267万人がアルバイトやパートといった非正規雇用だった。就業率は21・7%で、米国18・2%、カナダ12・8%を上回るなど、欧米6カ国より高かった。男女別では男性が30・3%、女性が15・0%だった。 ◇ ◇ ●ネットの活用 60代に広がり 総務省の家計調査によると、世帯主が60〜69歳の2人以上世帯が、2015年にインターネット接続料として使った金額は年間で約2万5千円だった。5年前より約5千円多く、29歳以下の世帯と肩を並べた。ネット普及の世代格差が縮小していることがうかがえる。またネットを旅行予約や食品購入などに活用していることも分かった。家計消費状況調査では、ネットショッピングを利用した65歳以上の世帯(単身を除く)も15年に13・6%となって過去最高を更新。05年の3・8%から大きく伸びている。ネットで購入した商品・サービスのうち、パック旅行などに使った金額の割合が最も高く、全体の22・5%。次いで食料品の16・4%だった。健康食品やサプリメント、贈答品も、64歳以下の世帯より支出した金額の割合が高かった。総務省の担当者は「レンタカーやホテルの予約など、レジャーの手配にネットを活用している実態がうかがえる」と説明している。 PS(2016年10月29日追加):*6のように、ドイツのメルケル首相がフクシマの惨状を目にして脱原発に転換したのも、安価でクリーンなエネルギーを開発・普及するための英断だと私は考えるが、それに対して日本人が、「なぜそんなに福島の事故を恐れるの?」と問うのは、無知で恥ずかしすぎる。何故、それに気がつかないのだろう? *6:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016102902000192.html (東京新聞 2016年10月29日) 【社説】ドイツの大転換 民意こそエンジンだ ドイツでは電力消費量の三割をすでに、再生可能エネルギーで賄っている。シュタインマイヤー外相の手記は訴えてくるようだ。「エネルギー大転換」のクリーンなエンジンは「民意」であると。3・11の年。ちょうどハロウィーンのころにドイツを取材した。「原発はいらない」と書かれた黄色い旗が、カボチャの飾りとともに目についた。フライブルクやミュンヘンの街頭で手当たり次第に聞いてみた。「なぜこんなに、福島の事故を恐れるの?」。異口同音に問い返された。「福島は日本じゃないの?」。ドイツの反核、反原発の歴史は深い。東西冷戦の最前線で核ミサイルを目の前に突きつけられた恐怖は、国民的トラウマ(心的外傷)と言っていい。そして一九八六年のチェルノブイリ原発事故。千二百キロ離れたドイツにも放射能が降り注ぎ、食卓から牛乳やキノコが消えた。「母親が沈み込んでいた。あんなの、もうたくさんだ」とミュンヘンの青年が吐き捨てるように言った。ドイツは原発事故の当事者にはなっていない。だが、ドイツ市民には原発事故の当事者という自覚が強い。二〇〇〇年にはすでに、時のシュレーダー政権が脱原発の方針を打ち出していた。3・11の前年、メルケル首相は運転寿命延長による原発の再浮上を図ったが、フクシマの惨状を目にして急転換。原子力の専門家以外で構成する倫理委員会の意見を優先させて、二二年までに全原発の段階的廃止を決めた。メルケル首相が恐れたのは、チェルノブイリやフクシマの再来を正しく恐れる民意である。一方、欧州では、日本とは段違いに温暖化への危機感が強い。昨年末のパリ協定は、石油、石炭など化石燃料の時代の終わりを予言した。とはいえ原発はそれ以上に恐ろしい。生命が大切ならば、再生可能エネなのである。環境や倫理だけではない。福島や温暖化への危機感をバネにした再生可能エネへの大転換には、やがてそれが巨大な世界市場を形成するとの読みもある。だから大手電力を含む経済界も、連邦政府の方針を受け入れざるを得ないのだ。「国民の八割以上が再生可能エネルギーの拡大に賛同しています」。シュタインマイヤー外相の手記の行間、浮かんできたのはやはり、あの言葉。「福島は日本じゃないの?」 PS2016年10月31日追加):*7-1のように、高島と池島で若者がハッサクやヤギを利用しているそうだ。離島は、海・田畑・山が近くにあり、海も本土とは比べ物にならないくらい美しいため、シチリア島のようにハッサクをレモン・オリーブ・アーモンド・ブドウに変えたり、山羊を羊・牛に変えたり、カレイだけでなくウニ・アワビも養殖したりすれば、稼げる事業を行うことができる。現在は、*5-2のように、日本全体では高齢者が半数以上を占める集落が1万5千もあり、若者が住み着いて何かを始めるのに協力する人も多い。また、デザイン・染色・絵画・音楽なども、美しい日本の風景を写し取った方が、都会のコンクリートの中で醜いアニメに興じているよりも世界の人々に訴えられる作品を作り出すことができ、自己実現する方が仮装して初めて自己表現できる状況にいるよりもずっと面白いだろう。 そこで、*7-2のハロウィンだが、発祥地の外国ではかわいい子どもの祭りであるにもかかわらず、日本では成人が醜いおばけ姿の仮装大会に興じている(同じことはディズ二ーランドでも起こっている)。これは、普段、一人の大人として発言することのできない人が、仮装して初めて何かに反抗して自分を出したつもりになっている幼稚さとこれまで触れてきたものの貧しさによる美意識の退化に見える。 佐賀県馬渡島 春の北アルプス 渋谷でのハロウィン仮装姿 *7-1:http://qbiz.jp/article/97053/1/ (西日本新聞 2016年10月31日) 閉山の島再生、若者が一歩 長崎 懸命の荒れ地対策 世界文化遺産の高島炭坑がある高島(長崎市)と九州最後の炭鉱があった池島(同)で、急速な人口減少のため荒れ地が増えている状況を打開しようと、魚や動物を活用した取り組みが始まった。雑草刈りや間伐の人手が不足する中、知恵を絞り出したのは30歳前後の若手たち。「何とか島の荒廃に歯止めをかけたい」と力を込める。 ●高島…未利用のハッサク餌に 1986年に閉山した高島は、68年のピーク時に約1万8千人が暮らしていたが、現在は384人(今年9月末)。閉山後、当時の高島町が地域振興策として「島民や観光客が収穫できる果樹を植えよう」と炭鉱住宅跡など広範囲にハッサクを植えた。だが、過疎化がさらに進んで通路などに草木が生い茂り、多くのハッサクが収穫も管理もされていなかった。市と漁協が出資する長崎高島水産センターに昨春入社した永田晋作さん(27)は高島出身。幼少期に親がハッサクを取って食べていたことを思い出し、昨秋から伐採を兼ねて収穫した。果汁を飼料に混ぜて養殖ヒラメに与え続けると、臭みが消え、ハッサクの香りが付いたため、今月17日から一般に売り出した。「収穫するためには間伐が必要で、結果的に荒れ地対策になる。『はっさくヒラメ』がヒットし、島民や観光客に草刈りをしようという機運も高まってほしい」と生まれ育った島への思いを強くする。 ●池島…ヤギ飼い除草に一役 池島炭鉱は2001年11月に閉山した。1970年に約7700人だった島の人口は、今年9月で159人に。こちらも除草作業が追いつかず、荒れ地の拡大やイノシシの繁殖が懸念された。そこで有志が同7月、ヤギ2匹を飼い始めた。発案したのは、池島を含めた長崎市外海地区の地域おこしに関わる嶋田純人さん(37)。島民が小屋などを準備し、生い茂る雑草を食べさせたところ、少しずつ減っているという。嶋田さんは東京都出身。都の職員だった昨年夏に旅行で訪れ、人の良い土地柄を気に入った半面、地方の厳しい現実を知った。「地方に支えられて都市がある。行政サービスに携わってきた者として助けたい」と昨年秋に移住してきた。島では道路や建物の老朽化など課題も多い。それでも「ヤギは餌代がかからないし、島民や観光客の癒やしの存在にもなっている」と前を向く。2匹の名前は「けん」と「めい」。島民らの「懸命」な思いを込めた。 *7-2:http://digital.asahi.com/articles/ASJBV72XMJBVUTIL049.html (朝日新聞 2016年10月28日) ハロウィーン、渋谷厳戒 初のホコ天・更衣室設置… ハロウィーンの「本番」10月31日が近づいてきた。今年はイベントが開かれる期間が4日間と長く、この間のイベントは、最も盛り上がる東京・渋谷だけで100件近くある。一方で、ゴミやトイレ、騒乱など年々、規模とともに問題も増えており、地元や警視庁は厳戒態勢。今年初めて渋谷駅近くを歩行者天国にし、混乱を防ぐ。 ■4日で催し100件 31日は月曜日にあたるため、ハロウィーン関連のイベントは前の週の金曜日から予定されている。 渋谷区の担当者は「人がいつ集まるか読めない」と嘆く。区は28日から11月1日まで、仮装のための更衣室や仮設トイレを渋谷駅周辺に設け、案内などのため、駅周辺に職員やボランティアを計120人置く。特に、トイレは深刻だ。昨年の10月31日前後、区には「トイレに入れない」「街中で尿のにおいがする」といった苦情が相次いだ。百貨店などのトイレで若者が仮装するために着替えたり、メイクしたりしたため、買い物客がトイレを使えなくなったからだ。外で用を足す人もおり、繁華街一帯では異臭が漂ったという。区は今年、渋谷駅周辺の3カ所に仮設トイレを置き、ゴミ集積所も増やす。さらに人だかりを分散させようと、区観光協会は駅から少し離れた代々木公園で31日、イベントを開く。参加者が放置するゴミも難題だ。区と地元商店街などは11月1日の朝に、約500人で繁華街のゴミ拾いをする。区によると、昨年のハロウィーンに関連する一般ゴミの収集量は2・3トンにのぼった。 ■DJポリス出動 多くの人出を見込む警視庁は28~31日の4日間、混雑に応じて渋谷駅近くの車道を開放し、歩行者天国にする。ハロウィーンの警備で車の通行を制限するのは初めてだ。大勢の若者が歩道からあふれ、事故につながることを防ぐためで、仮装した人が集まり始める午後7時以降を想定している。歩行者天国は、駅前のスクランブル交差点の先からファッションビル「SHIBUYA109」をはさんだ文化村通りの約300メートルと、道玄坂の約250メートル。交差点と地下鉄の出入り口は規制しない。駅周辺の3カ所で検問も行う。不審な車の侵入や暴走行為を阻止するためだ。渋谷署員に加え、機動隊の爆発物処理班や銃器対策部隊も出てテロを警戒。現場の警察官は頭に小型カメラをつけ、映像を警視庁本部に送る。英語、中国語、韓国語に自動翻訳できる拡声機を使い、集まった人が転ばないように誘導する。車上からマイクで呼びかける「DJポリス」も出動する。昨年の10月31日は土曜日で、夜に数千人が渋谷駅周辺に殺到し、警視庁は交差点周辺を数百人態勢で警備した。痴漢のほか、機動隊員に殴りかかったり、商店街のガラスを割ったりした容疑で計3人が現行犯逮捕された。警視庁は今年も最大で数百人規模を動員し、土曜、日曜にあたる29、30日の夕方以降を中心に警戒を強める。鎌谷陽之警備1課長は「集まる人数が予測しにくく、チャレンジングな警備になる」と話す。(池田良、小林太一) ◇ 〈日本でのハロウィーン〉 ハロウィーンは古代ヨーロッパのケルト民族の収穫祭が起源。米国では10月31日、仮装した子どもたちが「トリック・オア・トリート」と菓子をもらいにまわる習慣が文化となった。日本では2010年ごろから、仮装して「非日常」を楽しむ意味合いで人気が高まった。「日本記念日協会」によると、今年のハロウィーンの推計市場規模は前年比約10%増の約1345億円。バレンタインの約1340億円を初めて上回るとみられる。マーケティング会社「マクロミル」が首都圏の10~40代の1千人を対象に調査したところ、「仮装する」は28%。「仮装してお出かけする街」では渋谷が40%、2位の六本木は17%だった。 PS(2016年11月1日追加):主権者が政治を理解せず幼稚でいるのは、自分の利益のために政治を利用しようとする人にとっては願ってもないことで、例えば介護される立場になりながら現役並みに所得の高い高齢者はいないにもかかわらず、*8-1のようなヒューマニズムと根拠に欠けた政策を提案する人もいる。なお、介護される人が配偶者であったとしても、介護されるようになれば家事負担が困難になるため世帯が困窮するのは同じだ。そのような中、*8-2のように、「コストが安くて安全だ」と主張してきた原発が起こした事故の損害賠償や除染費用の超過分を国費で負担するよう、電気事業連合会の元気な人たちが政府に要望しているのは、税金の使い方の優先順位に関する認識が間違っているだろう。これまで、大手電力会社は総括原価方式で優遇されて莫大な資産を形成してきているので、電力自由化に向け送電会社を作って株式を上場するなど、独自の資金調達方法やビジネスがいくらでもあり、そんなことも自分で考えつかないようでは社会貢献できる企業にはなれない。 *8-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016103101002294.html (東京新聞 2016年11月1日) 介護保険、3割負担案が浮上 高所得の高齢者対象に 介護保険制度の見直しで、現役並みに所得の高い高齢者を対象に、サービス利用時の自己負担を3割に引き上げる案が政府内で浮上していることが31日、分かった。増え続ける介護給付費の抑制が目的。実施する場合、来年の通常国会に提出予定の介護保険法改正案に盛り込むことになる。ただ、介護保険の自己負担は制度スタートから一律1割で、昨年8月から一定以上の所得(単身で年金収入だけの場合年収280万円以上)がある人を対象に2割にしたばかり。浮上しているのは、2割負担の人の一部をさらに引き上げる内容。高齢者からの反発は必至で、調整は難航しそうだ。 *8-2:http://mainichi.jp/articles/20161004/k00/00e/020/174000c (毎日新聞 2016年10月4日) 福島原発、8兆円負担増 電事連、国費求める 電力業界団体の電気事業連合会(電事連)が、東京電力福島第1原発事故の損害賠償・除染費用について、東電を含む大手電力各社の負担額が当初計画を約8兆円上回るとの試算をまとめ、超過分を国費で負担するよう政府に非公式に要望していることが4日明らかになった。政府はこれまで「賠償・除染費用は原則的に原発事業者の負担」との立場を取ってきており、慎重に検討するとみられる。福島第1原発事故の賠償・除染費用は、(1)国がいつでも現金に換えられる「交付国債」を原子力損害賠償・廃炉等支援機構(国の認可法人)に渡す(2)東電は機構から必要な資金の交付を受け、賠償・除染に充てる(3)機構は後に東電を含む大手電力から負担金を受け取り、国に返済する−−という仕組み。賠償分は東電と他の大手電力が分担▽除染費用は機構が持つ東電株の売却益を充当▽中間貯蔵施設の費用は電源開発促進税で賄うことになっている。政府は2013年、賠償費用5.4兆円▽除染費用2.5兆円▽中間貯蔵施設の建設費などを1.1兆円と見込み、機構への資金交付の上限を9兆円とした。だが、関係者によると、電事連は、賠償費用が見通しより2.6兆円増の8兆円、除染費用が4.5兆円増の7兆円になると試算。また、東電株売却益も株価下落で1兆円減少し、合計で8.1兆円の資金が不足すると見積もっている。大手電力各社は「除染費用は東電株の売却益で賄えず、最終的に電力各社が負担を迫られる」とみている。一方、原発再稼働の停滞や、電力小売り自由化による競争激化などから大手電力の経営環境が悪化したとして、賠償・除染費用の超過分の政府負担を求めた。福島第1原発の廃炉費用を巡っては、東電が2兆円を工面しているが、数兆円規模の財源不足も予想される。東電ホールディングスは7月、廃炉費用などの負担支援を政府に求めている。今回の電事連の要望に廃炉費用は含まれていない。政府は福島第1原発の賠償や廃炉費用の負担について、5日から始める「東京電力改革・1F問題委員会」などで議論することにしており、電事連の要望も今後協議される可能性がある。 ●解説 事故つけ回し「無責任」 電気事業連合会が東電福島第1原発事故の賠償・除染費用の超過分を国に負担するよう要望した。だが、大手電力各社はこれまで「原発のコストは安い」と説明してきた。事故のつけを国に求める姿勢は、「無責任」との批判が免れない。電力各社には「原発は『国策民営』で推進されてきたのに、事故が起きたときは事業者が責任を取らされる」との不満がある。東電以外の大手には「東電の事故の責任を負わされるのは理不尽」との思いもある。だが、大手電力は原発稼働で巨額の利益を上げてきた。原発の「安全神話」に寄りかかり、事故対策を怠ってきた面は否定できない。福島第1原発事故に伴う賠償・除染費用が膨大な額に達する見通しになったからといって、国に負担を押しつけるのは筋が通らない。国が負担を引き受ければ、最終的に税金が投入され、国民負担につながる。福島第1原発事故の処理費用は、国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じていったん立て替えるが、最終的に電力各社が負担する仕組みだ。この制度の趣旨にも大きく反する。 PS(2016.11.2追加):*9-1に書かれているように、日銀は金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期の見通しを「2018年度頃」に先送りし、黒田総裁は、2013年4月に始めた大規模な金融緩和で2%の物価上昇目標(生鮮食品を除く)を達成することを目指したが断念し、達成できなかった原因を「①消費増税後の景気低迷」「②原油安」「③新興国経済の減速」といった環境変化によるものとした。しかし、②は原油高でコストプッシュインフレーションが起き、国民資産が海外に多く流出して国民生活が困窮しても物価さえ上昇すればよいという逆の発想であるし、①は消費税率に影響されない(結果として売り手が消費税を負担する)生鮮食品を除けば、消費増税後に物価が上がり、それに伴って需要が減るのは当然のことだ。また、③は景気を下支えしていた中国の金融緩和が出口に向かったため支えが弱くなったということで、文句を言いながらの中国頼みだったのだ。 一方、物価上昇・年金削減・介護負担増などで消費者の可処分所得を減らし、原発再稼働のために電力自由化という大改革を骨抜きにして自然エネルギーが普及するのを妨げたことは、エネルギー改革や民間投資による技術進歩と生産性向上を阻害した。そのかわりに、投資1円当たりの生産性向上が低い公共投資を増やしたため、全体の生産性は上がらなかったのである。つまり、国民には、気分でモノを買えるような人が少なくなっているので、需要増による物価上昇がなかったのは当然だったのである。 なお、*9-2の日銀法第二条に定められているように、本来、日本銀行は物価の安定を通じて国民経済を健全に発展させることを理念としている。しかし、その日銀が物価上昇(インフレ)目標を持って金融緩和を続けたことにより、実質資産や実質収入が減り、国民は将来にも不安を感じたので、消費を増やすどころか節約してできるだけ貯蓄せざるを得なかったのだ。そして、これは経済学の原則どおりであるため、やってみなくてもわかることだった。 実質家計収入と消費支出 2015.6.12日経新聞 2016.11.2日経新聞 2016.10.20東京新聞 *9-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12638027.html (朝日新聞 2016年11月2日) 物価2%目標、任期中断念 黒田日銀「18年度ごろ」 日本銀行は1日の金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期の見通しを「2017年度中」から「18年度ごろ」に先送りした。黒田東彦総裁は13年4月に始めた大規模な金融緩和で、2%の2年程度での達成を目指したが、18年4月までとなる任期中の達成を事実上断念することになった。物価目標の達成時期の先送りは今年3度目で、大規模緩和開始からは5度目となる。日銀は会合で、3カ月に1度まとめる「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の物価上昇率(生鮮食品を除く)の見通しを下方修正した。16年度平均は7月時点の見通しのプラス0・1%からマイナス0・1%に、17年度は1・7%から1・5%に、18年度は1・9%から1・7%にそれぞれ引き下げた。黒田総裁は記者会見で、目標を達成できなかったことは「残念ではある」とし、任期中に達成できない責任は「物価がどうなるかということと私自身の任期に特別な関係はない」と言及を避けた。日銀は13年に政府と2%の早期達成を約束したとして、「早期実現に適切な政策を決定し実行することに尽きる」とし、任期中に達成できなくても、日銀として目標実現を目指す必要性を強調した。日銀は9月の会合で、物価目標が達成できなかった原因は、消費増税後の景気低迷や原油安、新興国経済の減速だったと検証し、政策の重点を、市場に流すお金の量の拡大から長期金利の操作に切り替えた。黒田総裁は会見で、目標が達成できなかった理由は「検証に詳しく書いている」と繰り返し、「世界共通の事象が影響している。欧米の中央銀行の予測も後ずれしている」と主張した。また、追加の金融緩和は見送った。黒田総裁は「企業や家計の両部門で、所得から支出への前向きなメカニズムは維持されている」と説明した。 <解説>異次元緩和の「敗北宣言」 日本銀行が「2%インフレ目標」を黒田総裁の5年間の任期中には達成できない、と初めて認めた。事実上、異次元緩和の「敗北宣言」に等しい。2年間で2%の目標を達成し、デフレから脱却する――。黒田総裁は3年半前、そう高らかに宣言して登場し、アベノミクスの第1の矢を担った。「今後は物価が上がる」というインフレ期待を生めば、早めに投資や消費をしようとする動きが広がって経済が活性化し、賃金も上がるというシナリオを描いた。しかし現実はそうはならなかった。最近は物価上昇率はマイナスが続き、経済成長率も低水準にとどまる。相変わらず消費はさえず、賃上げも期待通りには広がっていない。日銀は物価が上がらない原因を、(1)原油価格の下落(2)新興国経済の不調(3)消費増税の影響といった環境変化によるものとしてきた。とはいえ、5年間でも無理だとしたら、もはや環境を理由にはできないのではないか。政策手法に問題があるか、目標自体が間違っていると考えるべきだ。黒田総裁は記者会見で、今の政策を続ければ今後物価は上がると主張した。緩和策を支持する安倍晋三首相に配慮せざるをえない事情もあるのだろう。日銀の金融緩和の規模はケタ外れだ。市場への資金投入量は国内総生産(GDP)比で8割に達し、2割ほどにとどめている米欧をはるかに上回る。将来、緩和を縮小する「出口」では、金利の急上昇などの副作用が予想され、日銀はそうしたショックにも備えなければならない。黒田総裁は目標を任期中に達成できず、政策の正常化は「ポスト黒田」も視野に入れた、日本経済の長期的な課題となっている。 *9-2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO089.html 日本銀行法 (平成九年六月十八日法律第八十九号、最終改正:平成二三年六月二四日法律第七四号) 第一章 総則 (目的) 第一条 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。 2 日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。 (通貨及び金融の調節の理念) 第二条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。 (日本銀行の自主性の尊重及び透明性の確保) 第三条 日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。 2 日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければならない。 (政府との関係) 第四条 日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。 (業務の公共性及びその運営の自主性) 第五条 日本銀行は、その業務及び財産の公共性にかんがみ、適正かつ効率的に業務を運営するよう努めなければならない。 2 この法律の運用に当たっては、日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない。 (以下略)
| 経済・雇用::2016.8~2017.12 | 10:00 PM | comments (x) | trackback (x) |
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