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2015.6.26 マイナンバー制度による国民の管理しすぎは人権侵害に繋がるということ
   
       2015.6.11西日本新聞     非正規社員数の増加  2015.6.20日経新聞
                                 上
    (注:男女の均等待遇を義務化した改正男女雇用機会均等法が1997年に成立し、
       1999年4月に施行された後の2000年から、派遣社員が目立って増加した)

(1)マイナンバーのリスクについて
1)マイナンバー制度とは
 *1-1に書かれているとおり、政府が導入を決めたマイナンバーは、国民一人一人に番号を割り当て、税・年金・医療・介護等の情報を一括して管理する制度である。最初は、社会保障・税・災害などの3分野に限定していたが、改正法案では、予防接種・検診情報・預金口座への適用を盛り込み、将来は、戸籍・パスポート・証券分野まで拡大を目指すそうだ。

 しかし、プライバシーは、一度漏れたら「覆水盆に返らず」で、頭を下げられたからといって損害が回復するものではなく、多くの情報をまとめればまとめるほどそれが漏れた時の被害は大きい上、その情報を入手したいという動機づけは等比級数的に大きくなる。さらに、その情報を取り扱う人は、日本年金機構から大量の個人情報が流出した事例を見ればわかるように、非正規雇用・派遣社員・契約社員が多い上、正規職員の危機意識も高くはなく、サイバー攻撃の技術と対策はいたちごっこなのだ。

 なお、*1-2のように、日本年金機構は社会保険庁時代から、国民が支払った年金保険料が記録にない「消えた年金」問題があったり、*1-3のように、国民年金の納付率を60%台のまま放っておいたりなど、民間企業では考えられないずさんさがあるが、第一次安倍政権時代にはこれを回復しようとしていたのであるため、これらについて安倍首相が悪いわけではない。この頃、(私の提案で)本人に確認するための年金特別便や年金定期便が送られ始めたことを国民は知っている筈だ。つまり、日本年金機構に、「年金資産は国民から預かった大切な資産だ」という意識が乏しいのが原因であり、その時、たまたまトップにいた政治家を叩いても改善はできないのである。

 それにもかかわらず、*1-6のように、経団連会長は、「マイナンバー制度は生活の利便性と経済性を考えると非常に重要。計画通り遅滞なく進めてほしい」と述べたそうだが、*1-3のように、東京商工会議所もサイバー攻撃を受けて大量の個人情報が流出しており、私は、マイナンバー制度の枠組みと広すぎる連結範囲を見直して、少なくとも税・年金・金融などの所得把握系と医療・介護・教育・保育・生活保護などのサービス給付系の社会保障は、番号を分けるべきだと考えている。

2)マイナンバー制度で、個人情報の守秘義務は保たれるのか 
 *1-4のように、サイバー攻撃は日々巧妙化し、情報セキュリティーを維持するためのシステム構築は非常に遅れており、個人情報が漏れれば、憲法で保障された人権を侵害する可能性が高い。また、情報処理推進機構(東京)の調査によると、2013年度にウイルスに感染、または発見した企業の割合は約7割に上り、情報セキュリティー大学院大の田中教授は「コンピューターウイルスに感染することは避けられず、適切な処理で実害を防ぐことが重要」としている。

 しかし、サイバー攻撃への対策は、攻撃そのものよりも一歩遅れるのが通常である上、完璧な防護システムを作っても人的な情報漏出はなくならない。そのため、個人情報に関する守秘義務が護られるためには、個人情報にアクセスできる人をその情報の重要性と意味が理解できる専門的担当者に限定して守秘義務を課すべきなのである。例えば、市役所の職員、税務職員、年金保険機構の職員、金融機関の職員などが、医療に関する個人情報にアクセスする可能性があるような制度にするのは間違いであり、介護職員に医療情報を開示する場合でさえ、本当に必要な担当者に限定すべきなのである。

3)では、どういうシステムにすべきか
 日本年金機構の事例で述べると、①データベースをインターネットに接続しない ②地方支部との接続は専用線で行う ③個人情報の意味を理解し守秘義務を守れる担当者を使い、非正規社員、アルバイト、派遣社員などの流動性の高い社員を守秘義務のある情報に近づかせない ④守秘義務のある情報の取り扱いに関するマニュアルを定めた上で職員の教育を徹底する などが考えられる。

 これに対し、*1-5のように、標的型攻撃を受けてから、①初期潜入 ②侵入範囲拡大 ③端末内の情報の窃取の3段階に分けて各段階で不正通信の遮断の方法を示し、④事後的に攻撃者を特定しやすくするため、インターネット接続事業者に接続通信履歴を最長1年保存するよう要請する などとしているのは、「国民の情報漏出は、覆水盆に返らずの人権問題である」という意識に欠けており、甘すぎる。

(2)高齢者福祉削減が目的の負担増・給付減について
 *2-1のように、マイナンバー制度を活用して医療費の高所得者負担増が検討されており、金融資産の保有状況を考慮した仕組みを検討して、医療費や介護サービスの利用料に関して、高所得者に負担増を求めるそうだ。しかし、所得の再配分は、所得税・相続税・保険料の支払いで果たされるため、(保育料もその例だが)同一のサービスを提供する時に利用者の負担額を変えるのは、税や保険料の二重負担となって理論的に誤りである。

(3)医療費などの社会福祉と税の連結の妥当性について
 *2-2のように、日経新聞でマイナンバー制を使って医療費控除の領収書を不要にすると書かれている。これは、税務当局がマイナンバー(税と社会保障の共通番号?)でひも付けられる健康保険のデータを使うことでのみ実現するが、本人の許可なく税務当局が健康保険のデータを閲覧できるようにすると、(1)2)で述べた問題が生ずるので、適切ではない。

<政府のセキュリティー意識>
*1-1:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-244338-storytopic-11.html
(琉球新報社説 2015年6月16日) マイナンバー 拙速な導入は危な過ぎる
 政府が安全性を強調すればするほど、疑念は膨らむ。立ち止まって考えるべきではないか。国民一人一人に番号を割り当て、税や年金などの情報を管理するマイナンバー制度の法改正案が国会で審議中だ。マイナンバー法は2013年に成立し、来年1月に運用開始の予定だが、政府は運用前に適用範囲を拡大する法改正案を提出した。当初は社会保障と税、災害の3分野に限定していた。だが改正法案では予防接種や検診の情報、預金口座への適用も盛り込んだ。安倍晋三首相は「(将来は)戸籍、パスポート、証券分野までの拡大を目指す」とまで言い切った。日本年金機構から大量の個人情報が流出したばかりだ。新たに適用を目指す分野は個人にとって秘匿したい分野ばかりである。ひとたび流出すれば被害はこれまでと比較にならないほど甚大だろう。政府は「仮に一つの機関から漏えいしても他の情報が芋づる式に漏れる制度設計にはなっていない」と説明する。だがこうした情報漏えいはいつも対策と攻撃のいたちごっこだ。現状では芋づる式に引き出せないとしても、未来永劫(えいごう)そうだとは限らない。情報が関連づけられれば、それだけリスクが高まると見るのが自然ではないか。現状でも、例えば一部情報を基に偽造免許証が造られることもあるのは、過去の犯罪で実証済みだ。偽造免許証を基に住所などの情報を書き換えれば、本人に成り済ますことも可能である。対象情報の大幅拡大は危険過ぎる。年金機構は制度の中軸ともいえる機関だ。そこからですら簡単に流出したのである。過去には財務省、農水省、外務省からも流出した。今後は絶対に流出しないなどと、どうすれば信じられるだろう。加えて、今後は民間分野も対象になる。企業にとって対策は人手や資金の面で負担が重い。県内企業でも現時点で対策を取っているのは2割にすぎず、情報漏えい防止策に限れば0%だ。こんな状態で拙速に導入する必要がどこにあろう。プライバシーは「覆水盆に返らず」である。ひとたび流出すれば被害の完全な回復は不可能だ。サイバー攻撃が巧妙化する現在、もはや攻撃は防ぎ得ないとの前提に立つべきだ。国民を守れない制度の安易な導入は許されない。法改正は見送り、来年の施行も延期して必要性をもう一度吟味すべきだ。

*1-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015060302000136.html
(東京新聞 2015年6月3日) 「消えた年金」幕引き直前 国民の不信 再燃も
 安倍政権は日本年金機構の年金情報約百二十五万件の外部流出に神経をとがらせている。第一次安倍政権は、支払った年金保険料が記録にない「消えた年金」など年金記録問題が打撃になって退陣した。記録回復に向け設置した組織を廃止する矢先の新たな問題発覚に対し、安倍政権は官邸主導で対応する方針だ。菅義偉(すがよしひで)官房長官は二日の記者会見で「機構の認識の甘さがあった。責任は免れない」と批判した上で「受給者の皆さんになりすましなどで迷惑を掛けないよう、政府を挙げて対応策に全力で取り組んでいる」と検証委員会などを立ち上げ、原因究明や再発防止策を徹底する考えを強調した。機構を所管する厚生労働省任せにせず官邸主導で問題解決に乗り出すのは、安倍政権にとって年金問題は苦い記憶があるためだ。第一次政権の二〇〇七年、持ち主不明な「宙に浮いた年金」約五千万件などの年金記録問題が発覚。旧社会保険庁の不祥事が次々と明るみに出る中、政権の対応が遅れ国民の不信が高まった。安倍首相は「最後の一人まで記録をチェックし年金を支払う」と理解を求めたが、同年の参院選で惨敗し退陣につながった。国民からの記録回復の申し立てを審査する総務省の第三者委員会は六月末で廃止する。「消えた年金」問題に幕引きを図ろうとしていたところだけに、今回の情報流出がきっかけとなって、国民の年金不信が再燃する可能性がある。国民一人一人に番号を割り振るマイナンバー制度でも、情報流出への懸念が高まる。一六年一月の制度開始に向け、国会で審議が進むマイナンバー法改正案に関し、菅氏は「今回の件はあったが、対応策を取る中で、早期成立に努力していきたい」と述べた。
◆情報流出問題をきょう集中審議
 衆院厚生労働委員会は二日の理事懇談会で、日本年金機構の年金情報が流出した問題に関し、三日に集中審議を実施すると決めた。民主党など野党は塩崎恭久厚労相らの監督責任や、日本年金機構の対応などを厳しく追及する構えだ。与党は当初、審議中の労働者派遣法改正案の質疑を求めたが、情報流出の実態解明を優先すべきだとの野党の主張を受け入れた。

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/201663
(佐賀新聞 2015年6月26日) 国民年金の納付率60%台、2年連続、14年度
 厚生労働省は26日、2014年度の国民年金保険料の納付率は63・1%で前年度から2・2ポイント改善したと発表。2年連続で60%台に乗り、上昇は3年連続。景気の回復に加えて、未納者への督促強化が上昇に結び付いたとしている。ただ、所得が低く納付の全額免除や猶予を受けている人が加入者全体の3分の1に当たる602万人いる。免除者などを含めて計算した実質的な納付率は40・6%にとどまる。全都道府県で13年度よりも納付率が上昇。島根の76・7%が最も高く、新潟75・3%、富山74・4%と続いた。最低は沖縄の45・2%で、大阪54・0%、東京58・8%だった。

*1-4:http://qbiz.jp/article/64147/1/
(西日本新聞 2015年6月10日) 標的拡大、遅れる防御 サイバー攻撃巧妙化、東商PC感染
 東京商工会議所が日本年金機構と同じくメールを使ったサイバー攻撃を受け、大量の個人情報が流出した。石油連盟も同様の攻撃を受けていたことが発覚、ハッカーの標的は省庁や大企業から業界団体や中小企業に広がってきた。手口も巧妙化し、防御策は追い付いていないのが実情だ。
@標的型メール
 「職員への教育が不足していたと言わざるを得ない」。10日に記者会見した東商の高野秀夫常務理事は、沈痛な表情で謝罪した。東商の会員は主に中小企業で、情報セキュリティー対策が十分でない会社も多い。東商はサイバー攻撃の防止策などのセミナーを開き、専用窓口も設けて会員を指導してきた。それだけに、今回のウイルス感染は「恥ずかしい」(担当者)との声が漏れる。特定の部署や職員を狙いウイルスを忍び込ませたメールを送る「標的型メール」は、年金機構に対する攻撃と同じ。受け取る側の業務に関連した表題や内容に偽装しているため、不用意に開けてしまうことが多い。東商では個人情報を保管するファイルにパスワードが設定されていなかったという甘さもあった。
@踏み台に利用
 東商や石油連盟のような業界団体は、多くの加盟企業や関係者の名簿を保有、管理している。情報セキュリティーの専門家の間では、攻撃者はそうした情報が狙いだったとの見方が出ている。また、攻撃対象は中小企業にも広がっている。大企業と取引がある一方で、セキュリティー対策は大企業より甘いとされ、中小を「踏み台」に大企業のシステムへの侵入を図るといわれる。独立行政法人の情報処理推進機構(東京)の調査によると、2013年度にウイルスに感染、または発見した企業の割合は約7割に上る。従業員300人未満の企業に限っても6割弱と高水準で、企業規模にかかわらず被害は広がっている。中でも、同機構に寄せられた標的型メールに関する相談件数は、13年の97件から14年は509件と5倍以上になった。「同僚や取引先からのメールを装うなど、開封させるための文面が巧妙になっている」と同機構は指摘する。
@「感染不可避」
 菅義偉官房長官は10日の記者会見で「(東商が)原因の分析や対処をしっかりするように、経済産業省を通じて指導していく」と述べた一方、「政府も気を引き締めて対応していく必要がある」と強調した。国会では連日のように年金情報流出問題の集中審議が開かれ、再発防止策を求める声も強い。情報セキュリティ大学院大の田中英彦教授は「コンピューターウイルスに感染することはもはや避けられない。いかに早く、適切な処理で実害を防ぐかが重要だ」と話す。攻撃を受けた企業や組織は、積極的に情報を開示すべきだとも田中氏は指摘する。「攻撃が広範囲に及び、類似の手口やウイルスが見つかることもある。サイバー攻撃対策は、官民一丸で取り組まなければならない」
◆セミナー名簿など1.2万人分の情報流出
 東京商工会議所は10日、延べ1万2139人分の会員企業の個人情報が流出した恐れがあると発表した。ウイルスに感染した電子メールの添付ファイルを開封したことが原因とみられる。警視庁公安部は不正指令電磁的記録供用容疑などを視野に捜査を始めた。東商の高野秀夫常務理事は東京都内で記者会見し「多くの方々に迷惑、心配をかけ、深くおわびする」と謝罪した。サイバー攻撃の一種で、メールに添付されたファイルを開くとウイルスに感染する「標的型攻撃」とみられる。日本年金機構(東京)の年金情報が大量に外部に流出した問題もウイルスメールが原因だった。流出した疑いがある個人情報は氏名や住所、メールアドレスなどで、銀行の口座番号といった金融関連の情報はないという。東商の国際部が主催したセミナーの参加者名簿が主体で、一部に会員企業以外の個人も含まれる。東商によると、ウイルスメール1通が送られ、職員1人が開封し、この職員のパソコン(PC)1台が感染した。5月11日にセキュリティー関連の専門機関から不審な信号を検知したと指摘を受け調査を依頼。22日に感染が判明した。6月3日に警視庁丸の内署に相談した。東商は東京23区内の中小企業が加盟する経済団体で会員数は3月末現在で約7万7千。経営支援や政策提言などを業務としている。

*1-5:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150622&ng=DGKKASFS22H0M_S5A620C1MM0000 (日経新聞 2015.6.22) 情報盗むメール、全機関で遮断 政府がサイバー新防衛策 通信事業者は履歴を最長1年保存
 日本年金機構から年金情報が流出した問題を踏まえた政府のサイバー対策が明らかになった。攻撃者がコンピューターから情報を抜き出すウイルスを秘めた「標的型メール」を送った場合、それを遮断する措置を特殊法人を含めたすべての政府機関に徹底させる。政府が月内にも閣議決定するサイバーセキュリティ戦略に盛り込む。年金情報の流出問題では日本年金機構の職員がインターネットに接続した端末で個人情報を扱うなど情報管理の甘さが指摘されている。政府機関向けの対策は内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が指針を作成。各省庁だけでなく日本年金機構など特殊法人や独立行政法人にも順守するよう求める。指針は政府機関の端末がウイルス感染したことを前提とし、端末から情報が流出しないよう対策の手立てを示す。具体的には、標的型攻撃を(1)初期潜入(2)侵入範囲拡大(3)端末内の情報の窃取――の3段階に分け、各段階で不正通信の遮断の方法を示す。攻撃者がファイアウオールを破って機関内のパソコンに侵入した場合、ほかのパソコンと遮断する手法を示している。政府は攻撃者を特定しやすくするため、インターネット接続(プロバイダー)事業者には、個人利用者がインターネットに接続した通信履歴を最長1年保存するよう要請する。総務省の指針を月内にも改正する。ネットに接続する際に必要となるIPアドレスをプロバイダー事業者が割り当てた記録を消去しないよう求める。保存期間は原則として半年、必要に応じ1年とする。

*1-6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150609&ng=DGKKASFS08H4T_Y5A600C1EE8000 (日経新聞 2015.6.9) 経団連会長「計画通りに」
 経団連の榊原定征会長は8日の記者会見で、日本年金機構の個人情報流出問題に関して「まさにあってはならない問題。国民への説明をしっかり果たしてほしい」と強調した。今年秋に個人番号の通知が始まる社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度については「生活の利便性と経済性を考えると非常に重要。計画通り遅滞なく進めてほしい」と述べ、年金問題の悪影響が広がることがないように、政府に万全な対応を求めた。

<高齢者福祉が標的の負担増・給付減>
*2-1:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/198237
(佐賀新聞 2015年6月16日) 医療費、高所得者の負担増検討、骨太方針の原案判明
 政府が策定している経済財政運営の指針「骨太方針」の原案が16日、分かった。医療費や介護サービス利用料に関し、高所得者に負担増を求める方向性を明記。国民に番号を割り当てるマイナンバー制度を活用し「金融資産の保有状況を考慮した仕組みを検討する」ことも盛り込んだ。2020年度の財政健全化目標に向けて、経済成長による税収増と歳出抑制策の両面を挙げたものの、歳出に関する具体的な数値目標は明記を見送る。政府は22日の経済財政諮問会議で示し、月内に閣議決定する。富裕層の負担アップは17年の消費税再増税を控え、幅広い層への影響を避けながら財政再建を進めるのが狙い。

*2-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150619&ng=DGKKASFS30H76_Y5A610C1MM8000 (日経新聞 2015.6.19)
医療費控除 領収書不要に、17年メド、マイナンバー活用
 政府は家族の医療費が一定額を超えた場合に税負担を軽くする医療費控除(総合2面にきょうのことば)を使いやすくする。現在は1年分の領収書を保存、確定申告の際に提出しなければならないが、税と社会保障の共通番号(マイナンバー)制度で集積する医療費のデータを使うことで、大半の領収書は出さなくてよくなる。インターネットで手続きする場合でも領収書の内容を入力する必要がなくなる。2017年夏をメドに始める。6月中にまとめる新しい成長戦略に盛り込む。来週、加藤勝信官房副長官を座長とする政府の検討チームが発表。財務省は医療費控除の法令改正の準備に入る。医療費控除の対象になるのは、1年間の家族の医療費から保険で補填された額を引いた額が10万円を超える場合だ。基準から超えた額を所得から差し引き、課税所得を減らせるため、税負担が減るメリットがある。現在は領収書の保存の煩わしさや医療機関名や投薬の内容、自己負担額などの入力の手間が面倒で、申告を諦めている人が多いという。毎年約700万人が使っているが大幅に増えそうだ。領収書を不要にする役割を果たすのがマイナンバー。17年夏までに健康保険のデータが、マイナンバーにひも付けられる。これが今回の仕組みの土台となる。現在は国民健康保険や健康保険組合から郵便などで届く「医療費通知」が、マイナンバーの個人用サイト「マイナポータル」に送られるようになる。利用者はこのデータを税務署にネット経由で送れば、領収書を出さなくてよくなる。ドラッグストアで購入した市販薬の代金や、通院のためのタクシー代なども医療費控除の対象だが、医療費通知からは漏れるため、これまで通り、領収書の保存と提出が必要だ。厚生労働省はこれにあわせて健保加入者に通知する医療費通知の基準を統一する。税務署がネット経由で受け取った医療費通知に対応できるようにするためだ。マイナンバーは10月から通知を開始。来年1月に導入する。17年7月からは国や地方自治体の情報を連携する。日本年金機構の情報流出問題で、年金分野へのマイナンバーの適用が遅れる可能性はあるが甘利明経済財政・再生相は「全体のスケジュールは予定通り進める」としている。政府は多額の税金をかけて構築するマイナンバーを有効活用するため、医療費控除以外の利便性向上策も併せてまとめる。低所得者や学生らが国民年金の保険料の減免手続きをする際、マイナンバーの個人用サイトから簡単にできるようにする。税と年金保険料の納付はネット上で、クレジットカードで一括でできるようにする。

| 日本国憲法::2013.4~2016.5 | 03:45 PM | comments (x) | trackback (x) |
2015.6.15 論点を間違えている集団的自衛権に関する批判、及び安保関連法案は解釈改憲ではなく違憲であること (2015年6月16、24、26日、7月15日に追加あり)
       
安保法制案の全体像   同組立   想定事例(??)      憲法9条 

(1)集団的自衛権の定義
 *1-1、*1-2のように、集団的自衛権とは、国連憲章第51条で加盟国に認められている自衛権の一つで、ある国が武力攻撃を受けた場合、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、密接な関係にある他国が共同して防衛にあたる権利で、行使に当って国連加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならないとされている。

 そのため、日本も主権国として国連憲章第51条により個別的及び集団的自衛権の双方をを有しているが、憲法9条で戦争放棄と戦力不保持を規定しているため、これまで集団的自衛権は憲法の容認する自衛権の限界を超えると解され、行使しないとされてきたのだ。

 そして、*1-1のように、平成26年(2014)7月に自公連立政権の閣議決定により従来の憲法解釈を変更して、一定の要件を満たした場合に集団的自衛権の行使を容認する見解が示されたとされ、武力行使が許容される要件には、①日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由・幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある ②日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない ③必要最小限度の実力を行使すること が挙げられた。

 私は、「日本も主権国として国連憲章第51条により個別的及び集団的自衛権の双方を有しているが、憲法9条の範囲内でのみそれを行使することにしている」というのが正しいと考える。

(2)それでは、憲法9条の範囲内とはどこまでか(ここが重要)
 結論から言って、日本の領土・領海・領空を占領する目的で武力攻撃が行われた場合には自衛権を行使することができ、それは個別的であるか集団的であるかを問わないと考える。つまり、警察官が駆けつけてくるまで夫と協力して自分の家に入った強盗とは闘うが、隣の家やまして遠くの家に出かけて行ってまでは闘わないということだ。

 しかし、これまで個別的自衛権のみが憲法9条の範囲内だと主張されていたのは、「集団的自衛権=日本が外国を護るために外国で闘うこと」と解釈されていたからであり、日本を護るのを外国に手伝ってもらうことや隣近所と力を合わせて日頃から周辺を警備しておくことを集団的自衛権行使の範囲に入れていなかったからである。

 なお、*1-3のように、公明党は6月12日に集団的自衛権を使える範囲を日本周辺の有事に限定したうえで認めるかどうかの検討を始めたそうだが、私も、現行憲法下では、日本の領土・領海・領空を武力攻撃された場合と力を合わせて周辺を警備する場合に限るべきだと考えている。

(3)審議中の安保関連法案は、解釈改憲ではなく違憲である
 *1-2の国連憲章により、日本も主権国家として国連憲章第51条により個別的及び集団的自衛権の双方を有しているが、日本国憲法9条の範囲内でのみその行使は容認され、それは専守防衛であるため、*2-1のように、現在審議中の安保関連法案は違憲である。

 また、憲法は最高法規であり一般法より上位であるため、*2-2のように、下位法で改憲することは許されない。しかし、私は、現在の自民党の「憲法改正草案」はお粗末な上、変更点が多岐にわたり、改正後の国家観は現行憲法よりも劣るため、これなら憲法の変更はしない方が余程よいと思っている。

 憲法変更の理由とされている「現行憲法は敗戦後に短期間で作られ連合国に押しつけられた」というのは事実とは異なり、日本国内では英語を学ぶことすら禁止されていた終戦前から、連合国は終戦後の統治を考えて日本文化を調べあげ草案を練っていたことを、ルース・ベネディクトが著書「菊と刀」にかなり正確な日本文化の分析とともに記載している。そのため、8日間くらいの短期間で作ったものではなく、連合国が理想とする国民主権、基本的人権の尊重、平和主義のようなわが国の終戦前と比べれば民主主義への革命的な変更が憲法に織りこまれ、これらは敗戦でなければフランスなどのように国民同士が血を流して闘いとらなければならなかった理想的規範なのである。

 なお、「孫子の兵法」で有名な孫子も、「敵を知らず己を知らざれば百戦あやうし。敵を知り己を知れば百戦百勝す」「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」などの現代にも通じる有名な言葉を遺している。

(4)国民の意見
 *3-1のように、集団的自衛権行使を容認し、自衛隊の活動範囲を広げる安保関連法案への反対を訴える集会やデモ行進が2015年6月13日、九州各地であった。また、*3-2のように、長野駅近くで、赤いスカーフやTシャツ、帯などを身に着けた女性約70人がデモ行進し、憲法を学ぶ会もできている。さらに、*3-3のように、神奈川県内の鉄道やトラック、港運などの労働者でつくる労働組合「神奈川県交通運輸産業労働組合協議会(神奈川交運労協)」も、同日、「われわれは戦争のための輸送はしない」と訴えながらデモ行進している。

(集団的自衛権とは)
*1-1:https://kotobank.jp/word/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E8%87%AA%E8%A1%9B%E6%A8%A9-77203 【集団的自衛権】
 国連憲章第51条で加盟国に認められている自衛権の一。ある国が武力攻撃を受けた場合、これと密接な関係にある他国が共同して防衛にあたる権利
[補説]日本は主権国として国連憲章の上では「個別的または集団的自衛の固有の権利」(第51条)を有しているが、日本国憲法は、戦争の放棄と戦力・交戦権の否認を定めている(第9条)。政府は憲法第9条について、「自衛のための必要最小限度の武力の行使は認められている」と解釈し、「個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権は憲法の容認する自衛権の限界を超える」との見解を示してきたが、平成26年(2014)7月、自公連立政権下(首相=安倍晋三)で閣議決定により従来の憲法解釈を変更。一定の要件を満たした場合に集団的自衛権の行使を容認する見解を示した。武力行使が許容される要件として、(1)日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある、(2)日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない、(3)必要最小限度の実力を行使すること、を挙げている。

*1-2:https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/unch.htm
国際連合憲章(要点のみ)
署名
1945年6月26日(サン・フランシスコ)
効力発生
1945年10月24日
日本国
1952年3月20日内閣決定、6月4日国会承認、6月23日加盟申請、
1956年12月18日効力発生、12月19日公布(条約第26号)
 われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いることを決意して、これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。よって、われらの各自の政府は、サン・フランシスコ市に会合し、全権委任状を示してそれが良好妥当であると認められた代表者を通じて、この国際連合憲章に同意したので、ここに国際連合という国際機関を設ける。
第1章 目的及び原則
第1条〔目的〕
国際連合の目的は、次の通りである。
1 国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。
2 人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。
3 経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。
4 これらの共通の目的の達成に当って諸国の行動を調和するための中心となること。
第2条〔原則〕
この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。
1 この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
 すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。
2 すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。
3 すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4 すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
5 すべての加盟国は、国際連合がこの憲章に従ってとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合の防止行動又は強制行動の対象となっているいかなる国に対しても援助の供与を慎まなければならない。
6 この機構は、国際連合加盟国でない国が、国際の平和及び安全の維持に必要な限り、これらの原則に従って行動することを確保しなければならない。
7 この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。但し、この原則は、第7条に基く強制措置の適用を妨げるものではない。
(中略)
第51条〔自衛権〕
 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
(以下略)

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/ASG6D64K7G6DUTFK017.html
(朝日新聞 2014年6月13日) 集団的自衛権、公明に限定容認論 72年見解を根拠に
 公明党は12日、集団的自衛権を使える範囲を日本周辺の有事に限定したうえで認めるかどうかの検討を始めた。党幹部の中に、集団的自衛権の行使を朝鮮半島有事など極めて狭い範囲に限ることで、党内や支持者の理解が得られないかとの意見が出始めたためだ。ただ、行使容認そのものに慎重な意見もなお根強く、党内がまとまるかは予断を許さない。山口那津男代表、北側一雄副代表ら幹部は12日、国会内などで断続的に集団的自衛権の行使を認めるかどうかを協議した。1972年に自衛権に関する政府見解で「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態」に限り自衛措置が認められるとした部分を根拠に、集団的自衛権が使えるか議論することにした。与党協議のメンバーの一人は、使える場合を「生命や権利が根底から覆される」という日本人に直接影響が出るケースに限定することで、政府が示した朝鮮半島有事から避難する邦人を乗せた米輸送艦を守る事例だけが容認されるとみる。別の幹部も「首相が想定する米国に向かう弾道ミサイルの迎撃や、中東のホルムズ海峡での機雷除去はできなくなる」と話す。だが、72年の政府見解は同時に、「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」と結論づけている。公明が、限定的とはいえ見解を行使の根拠とすれば矛盾することになる。安倍晋三首相が集団的自衛権の行使へ、今国会中の閣議決定を指示したことから、公明内には「反対するだけではすまない」(幹部)との声も上がっており、限定的な容認を検討することにした。政府・自民内には、公明内に容認に向けた動きが出てきたことから、22日が会期末の今国会中の閣議決定見送りを容認する意見も出ている。

<解釈改憲ではなく違憲>
*2-1:http://www.shinmai.co.jp/news/20150611/KT150610ATI090029000.php
(信濃毎日新聞 2015年6月11日) 安保法案「法治国家として危うい」 日弁連、19日に反対要請
 日本弁護士連合会の村越進会長(64)=上田市出身=は10日、都内で信濃毎日新聞の取材に応じ、今国会で審議中の安全保障関連法案に反対するため、長野県弁護士会など全国52の弁護士会の会長がそれぞれの地元選出国会議員に法案廃案を訴える一斉要請を19日に行うと明らかにした。日弁連は18、19日に都内で理事会を開く予定。これに合わせて各弁護士会長が法案反対の声明などを携えて衆参両院の議員会館を回る。日弁連が安全保障関連法案について反対の国会議員要請を行うのは初めて。村越会長は「弁護士会は会員それぞれの政治的信条を超えて、立憲主義を守る法律団体として法案は違憲だと考えている」と強調。衆院憲法審査会で自民党推薦を含む憲法学者3人が関連法案を「違憲」と明言した意味は重いとし、「その法案が国会多数の賛成で通ってしまうことになれば最高法規としての憲法の意義が失われる。法治国家として危うい」とした。政府に対しては「改憲論者も含め、政府解釈を理解した上で違憲だと指摘した。政府は自分たちの解釈はこうだと繰り返すのではなく、憲法学者の意見を真摯に受け止めるべきだ」と求めた。憲法審査会での憲法学者の発言をきっかけに、各論に入りつつあった国会審議が「そもそも合憲なのか違憲なのか、原点に立ち返ったのは好ましい」とし、「さらに議論が深まることを期待したい」と述べた。

*2-2:http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201505/0008016555.shtml
(神戸新聞社説 2015/5/12) 2段階改憲/「お試し」と呼ぶしかない
 自民党は、大災害などに備える緊急事態条項と環境権、財政規律条項の3項目について改憲を優先的に議論してはどうかと提案した。改憲の本命は9条だが、その前に各党の協力を得やすい項目に絞って実現を目指す2段階戦略を描いている。9条改正への抵抗感を和らげ、国民に改憲に慣れてもらう。そんな狙いが透けて見える。「お試し改憲」と呼ぶしかない。自民党の船田元・憲法改正推進本部長は「全ての憲法改正は真剣だ」と「お試し」を否定する。だが、「各党が関心事項として挙げているところから議論を始めるのは自然な流れ」とし、国論を二分する9条を後回しにしたことは認めている。9条改正の正面突破を避けるやり方はこれまでも繰り返されてきた。安倍晋三首相は第2次政権が発足した直後、憲法改正の国会発議要件を緩和する96条改正に意欲を示した。中身の議論を棚上げし、改正手続きのハードルを下げる。強引な戦術には国民の反発が強く、撤回するしかなかった。一方、政府は昨年7月の閣議決定で9条の解釈を変更し集団的自衛権の行使を容認した。それを反映した安全保障関連法案を国会に提出する構えで、憲法の空洞化も同時に進んでいる。審査会では、維新の党が緊急事態条項について「早急に検討すべき」とし、次世代の党も同調した。民主党は、「押しつけ憲法」を改正の理由とすることについて、「議論の前提として各党の考え方を確認すべき」とけん制し、「お試し改憲」も批判した。共産党は「国民の多数は憲法改正を求めていない」と反対する。公明党は環境権など新しい権利を加える「加憲」を主張しているが、審査会では「冷静かつ慎重な議論を進めるべきだ」と、改憲論議の加速化にはくぎを刺した。改正の発議には衆参両院の3分の2以上の賛成が必要になる。そのため自民党は公明党や野党と一致できる枠組みづくりを優先させる。2017年の国会発議などとスケジュールが語られ、改憲ありきの姿勢が目立つ。議論が深まる前に「簡単なところから」と「お試し」を画策する。あまりに危うい動きだ。

<国民は>
*3-1:http://mainichi.jp/select/news/20150614k0000m040062000c.html
(毎日新聞 2015年6月13日) 安保法制:九州各地で反対集会「戦争法案いらんばい」
 集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の活動範囲を広げる安全保障関連法案への反対などを訴える集会やデモ行進が13日、九州各地であった。福岡県弁護士会は、福岡市中央区の市民会館で「憲法違反の集団的自衛権に反対する市民集会」を開き、弁護士200人を含む約1700人が参加した。日本弁護士連合会憲法問題対策本部の伊藤真副本部長が講演。集団的自衛権の行使が容認されれば、交戦権を認めていない憲法9条が空文化されると指摘して「どんな国にしたいのかは私たち自身が決めること。憲法の番人は私たち国民だ」と訴えた。集会後は市内中心部をデモ行進し、「戦争法案いらんばい」とシュプレヒコールした。佐賀県鳥栖市では、市民団体が主催する「戦争立法に反対する学習会」があり、約30人が参加した。同県弁護士会の東島浩幸弁護士が集団的自衛権について「行使したら国際紛争の当事国となり、相手から攻撃を受ける可能性がある」と指摘した。参加した鳥栖市の無職、山元睦美さん(63)は「戦争は絶対にいけない。外交で解決していくべきだ」と話していた。一方、長崎県佐世保市では、陸上自衛隊相浦駐屯地と海上自衛隊佐世保教育隊などの約630人が商店街をパレードした。恒例行事で新入隊員の市民へのお披露目が目的だが、佐世保地区労などはパレードに反対する集会を開催。参加者約100人は「戦争にいかせたくありません」などのプラカードを掲げた。今夏までに安保関連法案の成立を目指す政府に対し、地区労の豊里敬治議長は「政府は隊員の命や人権をもっと見つめるべきだ」と批判した。

*3-2:http://www.shinmai.co.jp/news/20150614/KT150613FTI090002000.php
(信濃毎日新聞 2015年6月14日) 安保法案論議 母親立つ 県内 デモや憲法学ぶ動き
 安倍政権が安全保障関連法案の早期成立を目指す一方、法案に反対の意思表示をしたり、憲法を学び直したりする動きが長野県内の女性たちに広がっている。国会審議では複雑な法解釈や主張が飛び交うが、女性たちは子どもを産み、育てる立場から、基本となる憲法や集団的自衛権について理解を深めようとしている。13日は、同法案に反対を訴える女性たちが長野市でデモ行進した。「女は戦争を許さない」「子どもを守ろう」。この日、同市の長野駅近くをデモ行進したのは、赤いスカーフやTシャツ、帯などを身に着けた女性約70人。新日本婦人の会県本部などが呼び掛けた「レッドアクション」で、1970年代にアイスランドの女性たちが地位向上を求めて赤いストッキングを履いた運動をモデルに全国に広がっているという。「安倍首相は『徴兵制は絶対にない』と言うけれど、20年後はどうか」。参加した市内の会社員女性(31)は3人の男の子を育てる。「子どもの将来を考えると、米国の戦争に協力できるような法案には反対したい」と話した。長野市では昨年6月、憲法を学ぶ「自分で考えるために学ぶ会」ができた。東京電力福島第1原発事故を機に子どもの食の安全を考えてきた母親らが、集団的自衛権の行使容認に疑問を感じて発足。ほぼ毎月学ぶ会を開き、10人ほどで憲法と自民党の改憲草案を読み比べている。会員の西林薫さん(37)も2児の母。「最低限の力として自衛隊は必要」と考えるが、自民党が改憲草案で「国防軍」と記したことに不安を感じた。安保関連法案の説明で、政府が中東・ホルムズ海峡の機雷掃海が可能になると例示したことも、「資源獲得のために武力を使っていいのか」と疑問。「今までいかに政治を『お任せ』してきたか分かった。母親として見過ごせない」と話した。6歳と2歳の男児を育てる松本市職員の今井留衣さん(39)は、信州大大学院法曹法務研究科の成沢孝人教授(憲法学)を講師に7月11日から全5回の憲法学講座を開こうと準備を進めている。子どもの未来に関わると感じて安保関連法案の国会中継を見るようになった。ただ、法案の合憲性論議では「72年政府見解」「砂川事件判決」といった言葉が飛び交い、「よく分からないことばかり」。ママ友との話題にもなりにくい。「賛否を決める前にまずお父さん、お母さんが気楽に学び合える場をつくりたい」と意気込んでいる。下伊那郡阿智村では昨年10月、40~70代の女性10人ほどが「女性のための平和学習会」をつくった。今年5月下旬には憲法や集団的自衛権を分かりやすく解説する紙芝居を発表。老人クラブや婦人会の会合で上演している。事務局の原佐代子さん(68)は「紙芝居を見たお年寄りから『孫を戦争に取られないか心配』との声を聞く。子育て教室などでも上演したい」と話している。

*3-3:http://news.nifty.com/cs/domestic/societydetail/kanaloco-20150614-102526/1.htm (niftyニュース 2015年6月14日) 横浜で安保法案反対デモ 「武器運びたくない」
 県内の鉄道やトラック、港運などの労働者でつくる労働組合「神奈川県交通運輸産業労働組合協議会(神奈川交運労協)」は13日、国会で審議中の安全保障関連法案に反対するデモを横浜市内で行った。参加者は「憲法違反の戦争法案を許すな」「われわれは戦争のための輸送はしないぞ」と訴えながら約2キロを練り歩いた。デモに先立つ集会では、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に批判が集まった。安保政策における専守防衛の基本を大転換させた解釈改憲が新たな安保法制の前提となっていることから、神奈川交運労協の本間秀明議長は「安倍政権は勝手な憲法解釈を国民に押しつけようとしている。これを許せば、日本は戦争国家になってしまう」と強調した。デモには約720人が参加(主催者発表)し、トラック運転手の男性(49)は「戦争に使う武器をわれわれが運ぶことになるかもしれない。そうした仕事はしたくない」と切実さを込めて話した。別のトラック運転手の男性(59)は「(集団的自衛権が行使できるよう安保法制を)変えたいのなら、国民に問うという手順を踏むべきだ」と批判した。


PS(2015年6月16日追加): *4-1、*4-2のように、自民党は、他国からの武力攻撃や大災害・感染症の際に、首相の権限を強化する緊急事態条項を衆院憲法審査会などで最優先に議論する方針を固めたそうだが、他国からの武力攻撃と災害・感染症は全く性質の異なる事態であるため、①何を緊急事態とするのか ②その際の首相の権限をどう強化するのか ③それがBestな方法なのか について議論すべきだ。何故なら、それによって、自民党が本音では何をしたいかがわかるからである。

*4-1:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015052301001447.html
(東京新聞 2015年5月23日) 緊急事態条項を最優先 憲法改正、自民党方針 
 自民党は憲法改正に関し、他党の賛同が得やすいとみる緊急事態条項、環境権、財政規律条項の中で緊急事態条項を衆院憲法審査会などで最優先に議論する方針を固めた。自民、公明両党内に慎重論がある他の2項目に比べ、合意形成が見込めると判断した。自民党幹部が23日、明らかにした。26日に審議入りする安全保障関連法案をめぐり与野党対立の激化が予想され、審査会での改憲議論は停滞する可能性もある。緊急事態条項は、大災害や他国からの武力攻撃の際、首相の権限を強化することなどが柱。

*4-2:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015052701001671.html
(東京新聞 2015年5月28日) 参院憲法審、改正で各党が見解 自民、緊急条項新設訴え
 参院憲法審査会が27日、国会内で開かれ、各党が憲法改正をめぐり見解を表明した。自民党が最優先で議論を進めたいとしている大規模災害などに対応する緊急事態条項について、同党はあらためて必要性を訴えた。他の党からは、一定の理解を示しつつも、慎重論議を重ねるべきだとの意見が出た。自民党の佐藤正久氏は「緊急事態には、外国からの攻撃や感染症などが想定される。個別の法律で対処するのは限界がある」と主張。緊急事態条項の憲法明記へ議論を急ぐよう求めた。公明党の西田実仁氏は、同条項を取り上げる必要性は認めた上で「人権制限が行われる懸念がある」と指摘。


PS(2015年6月24日追加): *5のように、(他地域も同様だろうが)長野県内の36市町村議会が、国会審議中の安全保障関連法案について廃案や慎重審議を求める意見書案を可決したそうで、私は、こちらの方が正しいと考える。特に原発や使用済核燃料をかかえている市町村議会の意見を知りたい。

*5:http://www.shinmai.co.jp/news/20150624/KT150623ATI090031000.php
(信濃毎日新聞 2015年6月24日) 県内意見書可決 計36市町村会に 安保法案「反対」「慎重に」
 中野市、千曲市、上伊那郡箕輪町、木曽郡上松町、東筑摩郡朝日村、下水内郡栄村の6議会は23日、国会審議中の安全保障関連法案について廃案や慎重審議などを求める意見書案を可決した。安倍晋三首相らに提出する。県内市町村議会の6月議会で同様の可決は少なくとも36件になった。中野市議会は議員提出の「国民的合意のないままに、安全保障体制の見直しを行わないことを強く求める」意見書案に、議長を除く19人中18人が賛成。安保法制の整備は「国際紛争の場に自衛隊を派遣するということ」とし、「憲法9条に逸脱している」と主張している。千曲市議会は、十分な国民的議論と国会での慎重審議を求める議員発議の意見書案を全会一致で可決した。「国民の間には政府の考える『(集団的自衛権の)行使の対象・範囲』など具体的な事例に対して、十分な理解が得られていない」としている。箕輪町議会は、法案の今国会での成立断念を求める意見書案を全会一致で可決。「自衛隊が戦争に巻き込まれる」「歯止めのない自衛隊の海外活動が展開される」といった不安が広がっていると主張している。上松町議会は法案の撤回・廃案を求める意見書案を全会一致で可決。法案は「戦争を放棄した平和国家日本の在り方を根本から変えるもので、容認できない」とした。朝日村議会は、慎重審議を求める議員発議の意見書案を全会一致で可決した。「国の根幹に関わる重要法案にもかかわらず、現在国民の間で十分理解されているとは考えられない」とし、「今国会での強行成立は避け、広く国民の合意を形成するよう要請する」としている。栄村議会は法案の慎重審議を求める意見書案について、議長とこの日欠席した議員を除く10人全員が賛成。「拙速な議論ではなく、徹底的な審議と多面的な検討」を求めている。一方、下伊那郡阿智村議会は、沖縄県名護市辺野古への米軍基地移設問題に絡み、地方自治の尊重を政府に求める意見書案を全会一致で可決した。沖縄県民が移設に反対の意を表しているのに「国の姿勢は県民の自主性や自立性を尊重しているか疑問」としている。県内市町村議会での6月定例会で同様の可決は少なくとも4町村となった。


PS(2015年6月26日追加): *6-1、*6-2のように、百田氏が、集団的自衛権の行使容認に賛成の立場を表明した上で「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない。沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ」と主張した見識の低さには呆れる。木原稔議員は通常はリベラルな人なのだが、講師に百田氏を招いた責任はあるだろう。そして、「憲法改正に悪影響を与えている番組を発表し、スポンサーを列挙し、経団連に働きかけて広告料収入がなくなるようにしてマスコミを懲らしめて欲しい」と発言した人の方が重大な問題であり、その人も国民に選出された現職の国会議員であるため、その人の名前を報道するか、この人たちにTVの前で話をさせるのがよいと考える。何故なら、主権者である国民は、事実(ここが重要)を知って選択と判断をすべきであり、メディアはそのためのインフラだからだ。
 
*6-1:http://www.asahi.com/articles/ASH6T5W6FH6TUTFK00X.html
(朝日新聞 2015年6月25日) 「経団連に働きかけ、マスコミ懲らしめを」 自民勉強会
 安倍政権と考え方が近い文化人を通し、発信力の強化を目指そうと、安倍晋三首相に近い若手議員が立ち上げた勉強会「文化芸術懇話会」(代表=木原稔・党青年局長)の初会合が25日、自民党本部であった。出席議員からは、広告を出す企業やテレビ番組のスポンサーに働きかけて、メディア規制をすべきだとの声が上がった。出席者によると、議員からは「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけて欲しい」「悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを列挙すればいい」など、政権に批判的な報道を規制すべきだという意見が出た。初会合には37人が参加した。官邸からは加藤勝信官房副長官が出席し、講師役に首相と親しい作家の百田尚樹氏が招かれた。同会は作家の大江健三郎氏が呼びかけ人に名を連ねる「九条の会」などリベラル派に対抗するのが狙い。憲法改正の国民投票まで活動を続けたい考えだという。

*6-2:http://www.nikkansports.com/general/news/1497679.html
(日刊スポーツ 2015年6月25日) 百田尚樹氏「沖縄の2つの新聞はつぶさないと」発言
「文化芸術懇話会」の初会合で講演する作家の百田尚樹氏(右)(共同) 安倍晋三首相に近い自民党の若手議員約40人が25日、憲法改正を推進する勉強会「文化芸術懇話会」の初会合を党本部で開いた。安全保障関連法案に対する国民の理解が広がらない現状を踏まえ、報道機関を批判する意見が噴出した。講師として招いた作家の百田尚樹氏に助言を求める場面も目立った。出席者によると、百田氏は集団的自衛権の行使容認に賛成の立場を表明した上で、政府の対応について「国民に対するアピールが下手だ。気持ちにいかに訴えるかが大事だ」と指摘した。出席議員からは、安保法案を批判する報道に関し「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」との声が上がった。沖縄県の地元紙が政府に批判的だとの意見が出たのに対し、百田氏は「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない。あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ」と主張した。懇話会は木原稔青年局長が代表で、首相側近の加藤勝信官房副長官や萩生田光一・党総裁特別補佐も参加した。出席者の一連の発言について、自民党中堅は「自分たちの言動が国民からどのような目で見られるか理解していない。安保法案の審議にマイナスだ」と指摘。公明党幹部は「気に入らない報道を圧力でつぶそうとするのは情けない。言葉を尽くして理解を求めるのが基本だ」と苦言を呈した。


PS(2015年7月15日追加):違憲の法律は安保関連法案だけでなく、他にも多い。そのため、現在は限定的にしか運用されていない違憲立法審査権(法律・命令・規則・処分が憲法に適合するか否かを審査する裁判所の権限で、最高裁判所が終審裁判所)を使いやすくし、三権分立がもっと有効に働くようにして、問題のある一般法を見直すべきである。

*7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015071502000125.html
(東京新聞 2015年7月15日) 反安保 大学にも拡大 「憲法を無力化」「今声上げねば」
 安全保障関連法案に反対する動きが各地の大学に広がっている。「民意や立憲主義に反し、戦争につながる」と教員有志が危機感を募らせ、緊急声明や集会を重ねている。十四日は市民団体や学者グループによる声明も相次いだほか、実戦となる恐れもあったイラクへの自衛隊派遣の検証を求める声も上がった。十四日昼、東京都港区の明治学院大の教室で「声明を語る会」が開かれ、教職員と学生ら計二十人が集まった。教員有志十五人は六日、「憲法の平和主義が無力化される」と法案への反対声明を発表。学内に掲示し、百七十人超の賛同人を集めている。「語る会」はこの日を含め四回開催。昼休みにランチを食べながら、日本の戦後責任や九条、言論への圧力といった問題をテーマに挙げた。今後も続ける予定で、呼び掛け人の猪瀬浩平准教授(文化人類学)は「法案は多様な問題を含む。開かれた対話の場としての大学の役割を果たせれば」と語る。国会審議が本格化した六月から、法案に反対する大学有志の声明が出始め、東京大でも今月十日、学生や教職員、OBらによる抗議集会に三百人が集まった。国際基督教大の稲(いな)正樹客員教授(憲法)は十三日、政治学、国際関係学の異分野の三人で声明を発表。「法の支配の根本が覆される事態。今声を上げなくては、研究を続けてきた意味がない」と危機感を募らせる。立命館大の法学部と法科大学院の教員有志六十四人も同日、「戦争準備法の性格を持つ」と法案に反対する声明を発表。他学部の教員が入り、全学で賛同を募る活動もインターネットで始まった。憲法学者の多くが「違憲」とする法案を強行しようとする政権の動きに、小松浩教授(憲法)は「専門知を軽視し、学問を侮辱する政権への憤りが広がっている」と厳しく批判した。東京学芸大の教員有志七十八人は十四日、法案の撤回を求めて緊急アピールを発表。とりまとめた教育学部の及川英二郎准教授(近現代史)は「強行採決を何としても阻止したいと賛同を募った」。十六日に学内集会を開く。
◆学者9000人「廃案を」「採決反対」市民団体 
 ■「安全保障関連法案に反対する学者の会」は14日、緊急要請行動として会の呼び掛け人14人が
   衆院特別委員会の自民、公明、民主、維新、共産各党の理事や委員の議員室を衆院議員会館に
   訪ね、強行採決せず廃案とするよう訴えた。参加したのは佐藤学・学習院大教授(教育学)ら。
   思想家の内田樹氏ら4人は与党側筆頭理事を務める江渡聡徳前防衛相(自民)の議員室を訪れ
   「9000人以上の学者が法案に我慢しきれず反対の意思表示をしている事実を重く受け止めて
   ほしい」と秘書に伝えた。社会学者の上野千鶴子氏は江渡氏の議員室を訪ねた後に「憲法に違反
   する法律をつくったら、立法府まるごと、議員全員が憲法違反を犯すことになりますよ」と強調した。
   会には6月の発足からこの日までに、呼び掛け人61人、賛同者9766人の計9827人の学者が
   名を連ねている。
 ■海外で人道支援や協力活動をする団体の有志がつくった「NGO非戦ネット」は14日、自衛隊が
   海外で武力を行使すれば、非政府組織(NGO)の活動環境は著しく危険になるなどとして、安全
   保障関連法案の採決に反対する声明を発表した。声明では、安保法案は日本を戦争ができる国
   にしようとするもので、憲法の平和主義に反すると指摘。非軍事の国際貢献が必要だとしている。
 ■市民団体のピースボート(東京)と韓国の環境NGO「環境財団」は14日、安全保障関連法案の
   採決に反対する共同声明を出した。声明は「憲法解釈を変えて集団的自衛権行使を容認する
   ことは相互不信を増幅し、アジアの緊張を高める」と政府を批判。近隣諸国の市民の声に耳を
   傾け、立憲主義を尊重するよう求めている。

| 日本国憲法::2013.4~2016.5 | 02:08 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.6.3 集団的自衛権は、どこまで認められるのか (2014.6.4追加あり)
(1)日本国憲法について
1)憲法9条の解釈の変遷
 *1-1のように、日本国憲法は、前文で「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」として主権在民であることを明確化しており、英文のオリジナルは、「We ,the Japanese people,~」で始まるため、国民が主語であり主体であることが、より明確である。

 また、憲法9条1項では、「戦争と武力行使を、国際紛争を解決する手段としては、永久に放棄する(戦争放棄)」とし、同2項で「この目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は保持しない、国の交戦権も認めない(戦力不保持)」としている。

 憲法9条の解釈の変遷は、*1-2に記載されているとおり、1959年に最高裁判決が出た砂川事件の時代には、一審の東京地裁は「安保条約での米軍駐留も憲法9条に反する」としたのに対し、最高裁が、「安保条約や在日米軍については高度の政治性を有し、司法裁判所の審査にはなじまない」として判断を避け、「日本は、主権国として持つ固有の自衛権は否定されていない」とした。つまり、この時代は、憲法9条に照らして、安保条約や自衛権の存在も争われていたことがわかる。そして、戦力である自衛隊は、1954年7月1日に、「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるもの」として設立された。私は、「必要に応じて公共の秩序の維持に当たる」の具体例がどういうものか、昔の憲兵のようなものでないのかは、確認しておきたい。

 一方、*1-3の東京弁護士会会長声明は、「砂川判決は、たとえ個別的自衛のためであっても戦力を持てるかどうかについては判断していない」「ましてや個別的自衛権とは異なる集団的自衛権を肯定しているなどとは言えない」「砂川判決は駐留米軍が戦力にあたらないと判断しただけである」「岸信介首相(当時)も、砂川判決直後の1960年(昭和35年)3月31日の参議院予算委員会において、『集団的自衛権は日本の憲法上は、日本は持っていない』と答弁している」としている。

2)自主憲法であることは重要な要素か
 日本国憲法は、昭和20年(1945年)8月15日のポツダム宣言受諾後、連合国軍の占領中に連合国軍最高司令官の監督の下で「憲法改正草案要綱」が作られ、昭和21年(1946年)11月3日に公布されて、翌年の昭和22年(1947年)5月3日から施行された。この経緯から、「日本国憲法は日本国民が自主的に作った憲法ではないので自主憲法を作ることこそ重要だ」と主張する人がおり、自主憲法の制定は自民党の党是とされている。しかし、自民党員や自民党議員も現行憲法下で生まれた人が多いため、全員が自主憲法の制定が必須と思っているわけではないだろう。

 私自身は、無所属だが、自民党の憲法改正草案(https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf 参照)より現行憲法の方が格調高く、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の理念を高らかに謳っており、よいと思う。現行憲法は、民主主義を獲得するために苦労してきた欧米諸国が敗戦国としての日本に強制したからこそできた理想の憲法であるため、自民党の憲法改正草案のようなものが出てくるようなら、日本が憲法改正を語るのは、かなり時期尚早だと考える。

(2)自衛権について
1)個別的自衛権・集団的自衛権と自衛権の関係
 憲法改正を行えば、どういう憲法になるかわからないため、憲法改正はせず、自衛権の中に個別的自衛権と集団的自衛権があり、どちらにしても、日本は最高法規である日本国憲法により、真に自衛に属する武力行使以外は行わないとするのが妥当だと考える。これは、ご都合主義の憲法解釈の変更と言うより、憲法解釈の進化と考えてよいのではないだろうか。

 もちろん、日本国憲法の98条で、「この憲法は国の最高法規であり、これに違反する法律、命令、詔勅、国務行為は効力を有しない(憲法の最高法規性)」としているので、日本国憲法違反の法律、命令、詔勅、国務行為は効力を有しないのであり、このブログの2014.3.6に記載したとおり、日本の領土・領海が直接攻撃された場合のみ、集団的自衛権も行使できると考えるのが妥当だろう。

2)集団的自衛権、集団安全保障、日米安全保障条約の関係
 *2-1に書かれているように、政府が「基本的な方向性」に盛り込む予定の事例が下のようになったとのことであるため、私の感覚から○、×、△(日本領土の自衛に資するものか否かの判断を要す)をつけると、下のようになる。
 【集団的自衛権】←下の事例の中には、日本領土の自衛に資するものがないため、○はない。
  ●公海上で米艦船への攻撃に対する応戦 △
  ●米国に向かう弾道ミサイルの迎撃 △
  ●日本近隣で武力攻撃した国に武器を供給するために航行している外国船舶への立ち入り検査 △
  ●米国を攻撃した国に武器を提供した外国船舶への検査 △
  ●日本の民間船舶が航行する外国の海域での機雷除去 ×
  ●朝鮮半島有事の際に避難する民間の邦人らを運ぶ米航空機や米艦船の護衛 × 
 【集団安全保障】←但し、「国際平和活動」の定義は厳格にすべきである。
  ●国際平和活動をともにする他国部隊への「駆けつけ警護」など自衛隊の武器使用 ○
  ●国際平和活動に参加する他国への後方支援 ○
 【グレーゾーン事態】←領土、領海への進入対処こそ自衛であり、グレーゾーンではないだろう。
   また、結果を確実にするためには、これこそ集団的自衛で行うべきである。
  ●日本の領海に侵入した潜水艦が退去要請に応じない場合の対処 ○
  ●日本領土の離島に上陸した武装集団への対処 ○ (←上陸させないことの方が先だ)

 *2-2で、「安倍晋三首相や自民党幹部が限定的な行使容認を目指す姿勢を強調しており、『必要最小限』だから心配は要らない」と言っており、「必要最小限」の範囲は日本国憲法9条1項に記載され、98条には「憲法に違反する法律、命令、詔勅、国務行為は効力を有しない」と記載されているのだから、首相がどう答弁しようと、集団的自衛権の範囲が止めどなく広がることは不可能であり、それを監視するのはメディアと国民の役割だ。なお、このような状況であるから、わが国では、日本国憲法を改正する前に、現行憲法に照らしてものを考え、違憲立法でないか、既存の法律をReviewする必要がある。

(3)日本はリスク管理できる国か
 *3のように、神戸新聞が社説で、「集団的自衛権、首相は行使のリスク語れ」と記載しているが、日本が安保条約を締結している米国を守るためなら何でもするような国になれば、日本も米国と同様、世界で一番狙われる国になるだろう。しかし、日本には、林立して使用済核燃料を大量に補完している原発、集中した石油施設や工業地帯など、戦争になればリスクの高い場所は枚挙に暇がない。

 また、人材も、原発事故や尖閣諸島での航空機の異常接近を想定外や不測の事態と説明したり、北方領土の返還に前向きで日本通のプーチン大統領を欧米と一緒になって制裁したりしている思考力であるため、残念だが、これでは自衛戦でも武力行使はおぼつかないと考える。

*1-1:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html 
日本国憲法 (昭和二十一年十一月三日公布)
  (われわれ)日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
(中略)
  第二章 戦争の放棄
第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
(中略)
第九章 改正
第九十六条  この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
○2  憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
   第十章 最高法規
第九十七条  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
第九十八条  この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
○2  日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
第九十九条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/ASG526SMMG52UTFK00W.html?ref=reca
(朝日新聞 2014年5月6日) 「国の存立脅かされる」事態とは 中東での行使も想定
 政府が集団的自衛権を使う際の新たな要件として検討する「我が国の存立が脅かされる」事態とは、どんなケースなのか。具体性に欠け、自衛隊が活動できる範囲に「歯止め」がかからない恐れがある。政府が検討にあたって最も重視する最高裁判決にも、公明党や憲法学者から解釈の仕方に疑問の声があがる。新たな要件では、自衛隊の活動範囲をできるだけ縛らないようにする――。これまで政府が示してきた事例や発言からは、そうした姿勢が透けて見える。首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)。政府側がこの中で、ペルシャ湾・ホルムズ海峡を念頭に置いた機雷除去を「我が国の存立」を脅かす可能性のある事態として持ち出したことがある。ホルムズ海峡は日本が輸入する原油の8割が通過する。政府側は懇談会に「機雷が放置されれば、我が国の経済及び国民生活に死活的な影響があり、我が国の存立に影響を与えることにならないか」と問題提起した。委員らはこうした事態では、集団的自衛権を行使すべきだと賛同した。中東のような日本から遠く離れた場所で発生した他国への攻撃でも、政府が「我が国の存立」にかかわると判断すれば集団的自衛権を行使する。その可能性を示した議論だった。安倍晋三首相も先月8日のBS番組で、遠隔地での集団的自衛権の行使について、「例えば日本人を守ると考えた時、近くなら守るが(地球の)裏側なら助けに行かないのか」と述べ、含みを残した。これまでの3要件は、武力行使の基準がはっきりしていた。日本が直接攻撃されたときに限られ、「急迫不正の侵害」がいつ発生したと政府が判断するかも、具体的な国会答弁が積み重ねられてきた。例えば、北朝鮮を念頭に置いた弾道ミサイルについての国会答弁。政府は、日本に向けて発射された時点で、日本への武力攻撃が発生したと判断する、としている。また、相手国から「東京を火の海にしてやる」などの表明があって、ミサイルの燃料が注入され、ミサイルが発射できる態勢になった場合についても「武力攻撃の着手」と認め、個別的自衛権の発動が許されることもありうるとしてきた。一方、集団的自衛権は「憲法上認められない」としてきたこともあり、どういう場合に行使が許されるか、政府の公式な見解はない。政府が想定するのは、ホルムズ海峡に加えて、朝鮮半島有事だ。朝鮮半島で戦闘が拡大すれば、北朝鮮が日本国内の米軍基地をミサイル攻撃するなど、「日本有事」につながる可能性がある。そのため、米国や韓国への攻撃を「我が国の存立が脅かされる」事態と判断するケースもありうる、という理屈だ。だが、具体的にどの時点でそう判断するのかは不透明だ。
■「砂川判決」根拠に、公明は反発
 新たな要件の背景にあるのが、1959年、米軍駐留の合憲性が問われた「砂川事件」での最高裁判決だ。判決では「自衛権」について「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置」と定義した。自民党の高村正彦副総裁は今春、「判決は必要最小限の措置であれば、集団的自衛権も排除されないとしている」と主張しはじめた。最高裁判決では、「集団的自衛権」という文言はないが、45年制定の国連憲章では個別的、集団的自衛権双方を規定しているため、「当時の裁判官が、集団的自衛権を全く視野に入れていなかったとは考えられない」という。しかし、集団的自衛権に直接言及していない最高裁判決を、行使の根拠にするには無理がある、という意見も根強い。公明党の山口那津男代表は「判決のころは自衛隊が発足して間もないころで、日米安全保障体制が憲法違反という人も多かった。当時、集団的自衛権を視野に入れて判決が出された、という人はいなかったと思う」と指摘する。改憲論者である小林節・慶応大名誉教授も「30年以上憲法学者をやってきたが、集団的自衛権の論議で、砂川事件は教わったこともないし教えたこともない。自民党が苦し紛れにやっている」と批判している。
    ◇
〈砂川事件の最高裁判決〉 東京都砂川町(現立川市)の旧米軍立川基地の拡張に反対した7人が基地に入り、日米安保条約に基づく刑事特別法違反に問われた事件で1959年に言い渡された。一審の東京地裁は安保条約での米軍駐留は憲法9条に反するとして全員無罪としたが、最高裁が破棄した。安保条約や在日米軍については「高度の政治性を有し、司法裁判所の審査には原則としてなじまない」と判断を避けた。日本の自衛権については「主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではない」「(国の)存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうる」と言及した。

*1-3:http://www.toben.or.jp/message/seimei/post-357.html (東京弁護士会 2014年5月2日) 砂川事件判決を集団的自衛権の根拠とすることに反対する会長声明
 砂川事件最高裁判決を根拠として、集団的自衛権の行使を容認する動きが伝えられる。すなわち、同事件の最高裁判決に「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうる」とあることを根拠に、「最高裁は、わが国の存立を全うするのに必要な範囲で、個別的か集団的かという区別をせずに自衛措置を認めている」として、集団的自衛権の限定容認を正当化しようとする試みである。しかし、当会は、法律家団体として、集団的自衛権の行使を容認する根拠に砂川判決を援用することは余りにも恣意的な解釈であって、不適切であると考える。砂川事件は、1957年(昭和32年)、米軍が使用する東京都下の砂川町にある立川飛行場の拡張工事を始めた際に、工事反対派のデモ隊が乱入し、旧日米安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法違反として起訴された事件である。争点は、旧安保条約に基づく米軍の駐留が憲法9条2項の「戦力」にあたるかどうかであった。
 最高裁判所は、駐留軍が憲法9条2項の「戦力」に該当するから違憲だとした一審の東京地方裁判所の判決を取消し、次の理由で事件を差し戻した。第1に、「戦力」とは「わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しない」から駐留米軍は「戦力」にあたらない。第2に、駐留の根拠となる旧日米安保条約は高度の政治性を有するものであって、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、司法裁判所の審査には馴染まない。砂川判決が示したのは、この2点である。
 一般に、判決文として示されたなかで判例として拘束力をもつのは、判決の結論を導く直接の理由付けであり、それ以外は傍論であって拘束力を持たない。砂川判決は、第1の判断の過程で「わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく」、「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。」と述べているが、それは、米軍が日本に駐留していることと国家固有の自衛権が矛盾しないことを傍論として説明したものに過ぎず、先の第1、第2のいずれの結論の根拠となるものではない。このような傍論を安易に一般化し、それを最高裁判所の判決の趣旨であるかのように主張することは、判決の引用の仕方としては恣意的とのそしりを免れない。そのことは、1976年(昭和51年)3月30日参議院予算委員会の答弁において、高辻正己内閣法制局長官(当時)が砂川判決が駐留米軍の合憲性以外のことについて判断を下していないと明言していることからも明らかである。しかも最高裁判決が傍論において「固有の自衛権」として認めているのは、「他国」ではなく「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な」限りでの自衛権であるから、それは個別的自衛権にほかならない。他方、砂川判決は、たとえ個別的自衛のためであっても戦力を持てるかどうかについてはあえて判断していないのであって、ましてや個別的自衛権とは異なる集団的自衛権を肯定しているなどと言えないことは明らかである。それゆえ、岸信介首相(当時)も、砂川判決直後の1960年(昭和35年)3月31日の参議院予算委員会において、「集団的自衛権は日本の憲法上は、日本は持っていない」と答弁しているのである。以上のように、砂川判決は駐留米軍が戦力にあたらないと判断したに留まり、自衛権について触れた傍論が認める「固有の自衛権」もあくまでも個別的自衛権を指すだけであり、集団的自衛権を含んでいない。したがって、砂川判決を根拠として集団的自衛権を認める余地はないのである。当会は、砂川事件最高裁判決の趣旨を歪曲して集団的自衛権行使容認の根拠とすることに強く反対する。

*2-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11131666.html (朝日新聞 2014年5月13日) 政府、行使事例提示へ 「基本的な方向性」の概要判明 集団的自衛権
 他国を守るために武力を使う集団的自衛権の行使容認をめぐり、政府が与党に示す事例集の概要が分かった。集団的自衛権では朝鮮半島有事の際に避難する民間人を運ぶ米艦船の防護を例示。さらに尖閣諸島での中国との対立を念頭に、有事に至らない「グレーゾーン事態」の法整備も求めている。行使容認に慎重な公明党や世論を引き込む狙いがある。安倍晋三首相は、行使を認める憲法解釈の変更を閣議決定で行う考えだ。しかし、ときの政権の意向で憲法の根幹である9条の解釈が変えられることには、公明党や世論の中にも強い懸念がある。首相側は週内に、事例集を中心にした「基本的な方向性」を与党に示して検討を要請。閣議決定に向けた具体的な手続きに踏み出す。首相側が示す事例は、集団的自衛権に加え、国連の加盟国が一致して制裁を加える「集団安全保障」、相手国から武力攻撃を直接受けていない「グレーゾーン事態」の3分野に及ぶ。これまで政府は、米国に向かう弾道ミサイルの迎撃などの事例を示してきたが、公明党の理解を得るために、新たな事例を追加することが明らかになった。例えば、集団的自衛権では、朝鮮半島有事の際に、韓国から避難する邦人ら民間人を運ぶ米航空機や米艦船を自衛隊が護衛する事例だ。さらに「グレーゾーン事態」では、尖閣諸島での中国との対立を念頭に、離島に上陸した武装集団への対処を追加することもわかった。これは公明党が「集団的自衛権より先に検討すべきだ」と主張している。首相側が打ち出す「基本的な方向性」は当初、「政府方針」と呼んでいた。しかし、公明党からの反発に加え、政府内にも「政府の考えを押しつけるイメージになる」(関係者)との意見があり、名称を変えることにした。首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は週内に、行使容認を政府に求める報告書を提出。これを受け、首相は「基本的な方向性」を同日にも示す。与党はこれを受けて協議を始める。
■政府が「基本的な方向性」に盛り込む予定の事例
【集団的自衛権】
●公海上で米艦船への攻撃に対する応戦
●米国に向かう弾道ミサイルの迎撃
●日本近隣で武力攻撃した国に武器を供給するために航行している外国船舶への立ち入り検査
●米国を攻撃した国に武器を提供した外国船舶への検査
●日本の民間船舶が航行する外国の海域での機雷除去
○朝鮮半島有事の際に避難する民間の邦人らを運ぶ米航空機や米艦船の護衛
【集団安全保障】
●国際平和活動をともにする他国部隊への「駆けつけ警護」など自衛隊の武器使用
●国際平和活動に参加する他国への後方支援
【グレーゾーン事態】
●日本の領海に侵入した潜水艦が退去要請に応じない場合の対処
○離島に上陸した武装集団への対処
 【注】●は政府がこれまで安保法制懇に示した事例。○は今回、新たに追加された事例。

*2-2:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/91830
(西日本新聞 2014年5月31日) 集団的自衛権 早くも広がる行使の範囲
■安全保障を考える■ 
 集団的自衛権について、安倍晋三首相や自民党幹部は、限定的な行使容認を目指す姿勢を強調している。これまでの枠は破るが、「必要最小限」だから心配は要らない‐という論理である。しかし一方で、「必要最小限」の範囲が止めどなく広がり、やがては日本が大義のない戦争に参加することになるのではないか、と不安に思う人々もいる。今週、国会で集団的自衛権に関する本格的な論戦が始まった。国会審議での安倍首相の答弁を聞く限り、「行使の範囲拡大」の懸念は一層強まったといえる。象徴的なのは、首相が記者会見で持ち出した「米艦による邦人退避」の事例だ。朝鮮半島有事を念頭に、在留日本人を日本に向けて輸送中の米艦船を自衛隊が防護するため、集団的自衛権の行使を容認すべきだと主張している。各党の委員がこの事例を突っ込んで質問したところ、首相は「日本人が乗っていないから駄目だということはありえない」「米国の船以外は駄目だと言ったことはない」などと述べ、日本人が乗船していない艦船や、米船籍以外の船舶も防護の対象とする考えを示した。首相は論議開始早々、自ら示した事例の範囲を大きく広げた。また、野党の委員が「自衛隊が戦闘地域に行ってはならないという歯止めは残すのか」と質問すると、首相は「(戦闘、非戦闘)地域の概念にはさまざまな議論があった。さらに精緻な議論をする必要がある」と答え、自衛隊が活動可能な「非戦闘地域」の概念を拡大する可能性を示唆した。「日本人を守る」という事例を前面に押し立てて集団的自衛権の行使を認めさせ、その後は状況に応じていくらでも行使の範囲を広げていく‐。それが首相と自民党の戦略なのだろうか。集団的自衛権の行使容認論者の中にも「歯止め」の重要性を訴える人は少なくない。「必要最小限」とは具体的に何なのか、国会でもっと掘り下げて議論してほしい。

*3:http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201405/0007008398.shtml
(神戸新聞社説 2014/5/31) 集団的自衛権/首相は行使のリスク語れ
 集団的自衛権をめぐる集中審議が衆参両院で行われた。安倍晋三首相が行使容認に向けた憲法解釈変更の検討を表明して初の国会論戦だ。議論の焦点は、なぜ今、集団的自衛権の行使が必要なのか、それを憲法解釈の変更で認めていいのか、この2点に集約される。戦後日本が掲げてきた平和主義の大転換につながる問題だ。国民には慎重な意見が多く、わずか2日間の審議で懸念を解消するのは難しい。引き続き国会の場で議論を尽くす必要がある。安倍首相は、日米同盟を維持するために集団的自衛権の行使が必要だと繰り返したが、想定する事例の矛盾点を突かれると曖昧な説明に終始した。「行使容認ありき」の前のめりの姿勢があらわになった格好だ。
 例えば「有事に邦人を乗せた米艦の防護」は、首相が記者会見でパネルを使い「日本人の命を守れなくてよいのか」と熱弁を振るった事例だ。ところが国会答弁では「日本人が乗っていなければ駄目ということはない」「米国以外の船は駄目とは言っていない」などと軌道修正した。中東のホルムズ海峡を念頭に、海上交通路の機雷除去にも集団的自衛権を使う必要があるとの認識を示した。憲法解釈で禁じられてきた「他国の武力行使との一体化」の制限緩和を検討する方針も示した。自衛隊の活動範囲が海外へ、戦闘地域へと際限なく拡大する恐れがある。実際に武力行使するかどうかは「時の内閣が総合的に判断し、慎重に決断する」とも述べた。行使は「限定的」「最小限度」とするが、具体性に欠ける。これでは時の政権を縛る明確な歯止めはないも同然だ。安倍首相は集団的自衛権を行使しなければ国民の命を守れない、と強調する。一方で、行使に伴うリスクについては一切語ろうとしない。他国のために自衛隊員が血を流し、戦争当事国とみなされて国民が危険にさらされる。本当に行使容認に理解を得たいなら、首相はこうした可能性についても国民にきちんと説明すべきだ。政府は年末の日米防衛協力指針見直しまでに閣議決定するスケジュールを描くが、答弁を聞けば聞くほど疑問が膨らむ。国会審議で徹底的に問題点を洗い出さねばならない。政権の暴走に歯止めをかける国会の存在意義が問われている。


PS(2014.6.4追加):下図及び*4のように、政府は、国際協力で、「戦闘地域」での多国籍軍等への自衛隊による後方支援範囲を大幅に広げる見直し案を示し、(1)支援する他国部隊が戦闘を行っている (2)提供する物品・役務が戦闘行為に直接使われる (3)支援場所が戦闘現場である (4)支援内容が戦闘行為と密接に関係する を掲げ、この4基準のすべてに該当しない限り、後方支援ができるとしたそうだが、何故、それでよいのかは説明がない。実際には、誰から見ても(敵から見ても)、平和主義の国が行う国際協力だという認識が共有できなければ、世界に敵を増やして、平和主義でいられなくなる。そのため、(1)~(4)の一つでも該当すれば、後方支援はしないという方向の方がよいと考える。

   
     *4の記事より
*4:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140604&ng=DGKDASFS0304N_T00C14A6PP8000
(日経新聞 2014.6.4) 安保法制、新たな火種 「戦闘地域」でも後方支援、公明反発「事例で説明を」
 政府は3日、自民、公明両党の安全保障法制見直しに関する会合で、国際協力で多国籍軍などへの自衛隊による後方支援範囲を大幅に広げる見直し案を示した。従来は認めていなかった「戦闘地域」での活動も可能となる内容。反発した公明党は、政府が想定する支援の具体例を示して説明するよう求める構え。政府・自民党は焦点の集団的自衛権の論議に入る前に、新たな火種を抱えた。政府は3日の「安全保障法制整備に関する与党協議」で新しい基準を示した。(1)支援する他国部隊が戦闘を行っている(2)提供する物品・役務が戦闘行為に直接使われる(3)支援場所が戦闘現場(4)支援内容が戦闘行為と密接に関係する――を掲げ、この4基準にすべて該当しない限りは原則、後方支援ができるとした。単純に解釈すれば、自衛隊が戦闘地域に出向いて他国軍に水や食糧を提供したり、負傷兵を治療したりするなど幅広い支援が可能となる。新基準でも認められないのは、戦闘中の他国軍に現場で武器弾薬を直接渡すことなど極めて限定的なケースになる見通しだ。政府は過去の自衛隊の後方支援では「活動は非戦闘地域に限る」との制約をかけてきた。憲法9条が海外での武力行使を禁じているためだ。戦闘中の場所で他国軍に支援することは「他国の武力行使と一体化する」と見なし、憲法違反になるとの解釈をしている。政府は他国の武力行使と一体化する活動を認めないとの解釈を維持。そのうえで「戦闘地域」と「非戦闘地域」など曖昧な概念で線を引いて「一体化か否か」を判断してきた従来の基準を見直す。政府関係者は「新しい概念で線引きを明確にして自衛隊の活動範囲を広げるべきだ」と訴える。公明党の北側一雄副代表は協議後、記者団に「新基準では相当広い支援ができるようになる」と自衛隊の野放図な活動拡大に懸念を表明。党幹部は戦闘地域での支援は認められないと強調した。自民党にも戸惑う声が上がった。幹部の一人は「自衛隊派遣のリスクが大きくなり国民から理解を得られるか分からない」と漏らした。公明党の理解を得やすいと考えてきた分野でも火種が生じたことに頭を抱える。自公は3日、週1回ペースだった協議回数を増やすことを確認。安保法制見直しで掲げた15事例のうちまだ1事例も対処方針で合意しておらず、安倍晋三首相が意欲を示す集団的自衛権の行使容認に関する事例は議論にも入れていない。このままでは公明党がさらに議論に時間をかけるのは必至だ。政府内には支援の拡大範囲を抑える軌道修正を図るべきだとの声も出ている。

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2014.3.6 集団的自衛権は、現行日本国憲法下でどこまで認められるか (2014.3.7追加あり)
   
 *2-3より             (図をクリックすると大きくなります)

(1)日本国憲法9条と集団的自衛権の関係について
 私は、日本国憲法は世界に誇れる立派な憲法で、その三大原則である基本的人権の尊重、国民主権、平和主義及び男女平等は、国内からでは実現できなかったものであるため、太平洋戦争で得た唯一最大の財産だと思っている。

 そして、*1のように、日本国憲法の9条1項には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定され、2項には「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と規定されている。

 このうち、「国際紛争を解決する手段としての戦争を永久に放棄する」というのは、放棄していない戦争があるということだが、それは、国際法上認められている自衛戦争(自国の領土を攻められた時に守る戦争)である。その自衛のやり方に、個別的自衛と集団的自衛があるため、私は、日本の領土を攻められた時に守る目的の集団的自衛は現行憲法でも認められていると思う。ただし、2項の戦力不保持は、1954年、自衛隊が発足した日に形骸化したのだが、自衛戦争目的ということで合理化されているのだ。

(2)日本はどこまでの集団的自衛権なら行使できるのか
 *2、*3に賛否と経過が記載されているが、現行の日本国憲法の下で日本が行使できる集団的自衛権は、日本の領土を攻められた時に守る権利を行使するための戦争だけであって、他国を守るために集団的自衛権を行使することはできないと解するのが自然であり、これがけじめだと、私は思う。

(3)具体的事例で考える
   
       ウクライナとロシア           尖閣諸島         北朝鮮
1)ロシアに対する態度はどうあるべきか
 *4-1のように、ウクライナもクリミアも内部に異なる民族を抱えているので気の毒だが、仮にロシアがウクライナに軍を投入することを決定してヨーロッパ諸国や米国と対立したとしても、日本はそれにかかわるべきでない。

 何故なら、国連安全保障理事会で決議が行われたとしても、イラク戦争のような欧米の我田引水のようなこともあるし、日本は自らそれを判別した上で先見の明ある公正な態度を決定できる国ではないからである。その理由は、日本が島国であり、国内に多様な民族や文化のぶつかり合いを抱えた上でそれをまとめた経験がないためか、視野の狭さがあるからだ。そのため、ウクライナとロシアの件では、憲法9条に基づき、日本は中立でいるのが正解だろう。

2)中国が尖閣諸島に侵攻する場合はどうすべきか
 *4-2のように、中国は、沖縄県石垣市の尖閣諸島久場島沖の接続水域内を中国海警局の公船「海警」2隻に航行させ、世界に尖閣諸島は中国の領土であることをアピールしている。これに対し、日本は海上保安庁の巡視船が領海に入らないよう警告したりしているものの、日本政府は太平洋戦争の歴史を否定したり、日本国憲法をアメリカから押し付けられたという理由で“改正”しようとしたりしているため、他のことで同盟国を敵にしており、肝心の尖閣諸島に関する広報戦で中国に完敗している。

 しかし、尖閣諸島は沖縄県石垣市であり、間違いなく日本の領土であるため、ここを自衛するのは憲法9条にも反せず、集団的自衛権も認められる筈だが、アメリカの態度は中国と対立したくないため曖昧で、肝心のところで日米安保条約や集団的自衛権が生きていないが、日本は、台湾とも協力しながら、あらゆる方法で目的を達するべきである。

3)北朝鮮の場合はどうか
 *4-3のように、安倍首相は、「米国が北朝鮮に攻撃された場合、日本が北朝鮮に武器弾薬を運ぶ船に強制的な検査を可能にすべき」と答弁したとのことだが、米国が北朝鮮に攻撃されるのは日本の領土を侵害されるものではないため、そもそも日本国憲法9条に合致した集団的自衛権の行使ではないし、米国は、世界の警察と自負していろいろな国で戦争をしているため、米国が攻撃されるのにいちいち日本がつき合っていたら、日本は、世界一戦争をする国となってしまう。

 そして、*4-4のように、名古屋高裁も、自衛隊が行う補給活動や米兵の輸送もまた「武力行使」「戦闘行為」と認定し、憲法9条に違反するとしており、こちらの方が常識的でわかりやすい判断だ。

(4)日本における原発等の危機管理について
 *5のように、ウクライナのデシツァ外相は、原発などの核施設防護について、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に協力を要請する書簡を送り、治安の悪化で「チェルノブイリ原発事故のような核災害が起きることは誰も望んでいない」と指摘したそうだが、日本にも54基もの原発があり、それぞれの使用済核燃料プールには使用済核燃料が大量に保管されている。これらは、冷却装置が働かなくなっただけで大惨事になるものであるため、日本は、戦争の「せ」の字を語る前に、使用済核燃料を迅速に処分すべきである。

*1:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html
日本国憲法 (昭和二十一年十一月三日公布)  <関係個所のみ>
前文
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第二章 戦争の放棄
第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第三章 国民の権利及び義務
第十条  日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第十一条  国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

*2-1:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014021100231
(時事ドットコム 2014/2/11) 憲法解釈、閣議決定で変更=集団自衛権容認へ首相方針
 安倍晋三首相は11日、集団的自衛権の行使を可能にするための憲法解釈変更について、閣議決定により行う方針を固めた。政府の安全保障政策に関わる重要な意思決定で、これに伴い法改正も予定しているため、拘束力の強い形で政府見解を確立する狙いからだ。ただ、閣議決定には全閣僚の署名が必要で、行使容認に反対する公明党の太田昭宏国土交通相の対応が焦点になりそうだ。首相は5日の参院予算委員会で、集団的自衛権の行使容認に向け想定する手順について、(1)憲法の解釈変更(2)行使のための根拠法の整備 (3)行使するかどうかの政策的判断 の3段階と説明した。具体的には、政府の有識者会議が4月にまとめる提言を踏まえ、与党内調整を経て6月22日までの今国会中に解釈変更を閣議決定。秋の臨時国会で自衛隊法など関連法の改正を目指すとみられる。これに対し、公明党は「現状の憲法解釈を今直ちに変えなければいけないという認識は持っていない」(井上義久幹事長)などとして解釈変更に反対する構えを崩していない。太田国交相は5日の参院予算委で、与党内や国会での与野党間の論議を見守る考えを示すにとどめている。内閣法制局によると、政府が過去に憲法解釈を変更したのは、当初は文民としていた自衛官を、1965年に文民ではないと変えた1例のみ。その際は、当時の高辻正己内閣法制局長官が衆院予算委員会で「自衛官は文民にあらずと解すべきだ」と答弁し、続けて佐藤栄作首相が「法制局長官の答弁した通り」と答弁、これを追認した。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2641106.article.html
(佐賀新聞 2014年3月1日) 集団的自衛権で個別法10超改正 / 政府方針、秋の臨時国会で
 政府は、集団的自衛権の行使を可能にするため、秋の臨時国会で有事に備える武力攻撃事態法や自衛隊法など10本を超える既存の個別法を改正する方向で調整に入った。行使容認の理念を盛り込む新法として想定していた「国家安全保障基本法」の制定は当面先送りする方針だ。政府関係者が1日、明らかにした。安倍政権は4月に安全保障に関する有識者懇談会(安保法制懇)から集団的自衛権の行使容認に向けた報告書を受け取り、6月22日の今国会会期末までに行使できないとしてきた従来の憲法解釈変更を閣議決定。その後、必要な法整備を図る段取りを描いている。

*2-3:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014030602000129.html (東京新聞 2014年3月6日) 自衛権3要件 拡大検討 首相表明で揺らぐ専守防衛
 安倍晋三首相は五日の参院予算委員会で、集団的自衛権の行使を容認するための解釈改憲に向けて、自衛隊の武力行使を限定した「自衛権発動の三要件」の拡大解釈を検討していると明らかにした。専守防衛の基本方針を具体化した三要件が変更されれば、憲法の平和主義の理念は大きく揺らぐ。 (後藤孝好)
Q 三要件って何?
A 他国から攻撃を受けた際、自国を守るための武力行使を抑制的に認めた憲法解釈だ。(1)わが国に対する急迫不正の侵害がある(2)これを排除するために他の適当な手段がない(3)必要最小限度の実力行使にとどまる-の三つを満たす場合しか、武力行使ができない。
Q いつからあるのか。
A 一九六八年、当時の内閣法制局長官が国会答弁で、憲法に基づいた自衛権の範囲の政府解釈として三要件を示した。その後の歴代政権も長年、解釈を維持してきた。
Q 集団的自衛権との関係は。
A 自分の国ではなく友好国が攻撃された時、一緒に武力行使する集団的自衛権は「わが国に対する急迫不正の侵害」には当たらず、「必要最小限度の実力行使」も超えているとして、憲法上行使が禁じられていると歴代政権は解釈してきた。
Q 首相はどこを変えようとしているのか。
A 首相は参院予算委で「『わが国に対する急迫不正の侵害』に至らなくても、事実上、わが国の生存権に大きな影響があるのではないかということも議論している」と指摘した。礒崎(いそざき)陽輔首相補佐官も五日の討論会で「必要最小限に入る集団的自衛権は何か、今、検討している」と表明した。
 「急迫不正の侵害」の対象を「わが国または密接な関係にある国」などとして他国への攻撃でも日本の武力行使を容認し、「必要最小限度の実力行使」に集団的自衛権の行使も含めようとしているようだ。
Q 大きな方針転換になる。
A 拡大解釈で武力行使のハードルが下がれば、自衛隊が海外の紛争地に出向いて、なし崩し的に戦闘に参加することにもなりかねない。

*3-1:http://mainichi.jp/opinion/news/20140212k0000m070079000c.html
(毎日新聞社説 2014年2月12日) 集団的自衛権の行使 今は踏み出す時でない
 集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更をめぐる議論が、国会で始まった。安倍政権は集団的自衛権を行使できるとした上で、政権の政策判断や関係する法律、国会承認によって歯止めをかけ、限定的に行使する方針を今国会中にも閣議決定するとみられている。しかし、安倍政権の外交姿勢や歴史認識を見ていると、いったん集団的自衛権の行使を認めてしまえば、対外的な緊張を増幅し、海外での自衛隊の活動が際限なく拡大され、憲法9条の平和主義の理念を逸脱してしまうのではないか、との危惧を持たざるを得ない。行使容認が日本の総合的な国益にどんな結果をもたらすか、慎重に考える必要がある。
◇政権の外交姿勢に懸念
 私たちは、冷戦期とも冷戦後とも異なる複雑な時代を生きている。2010年代に入って中国の経済的・軍事的な台頭が顕著になり、米国から中国へのパワーシフト(力の変動)が進行している。日本や国際社会を取り巻く脅威の内容も大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、テロ、サイバー攻撃など多様化している。こうした安全保障環境の変化を踏まえ、安倍政権は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」を基本理念に掲げた。積極的に国際社会の平和と安定に寄与することにより、日本の平和と国益を守るという。集団的自衛権の行使容認もそのために必要なことだと位置づけられている。安保環境変化への安倍政権の問題意識は、私たちも理解する。日本が集団的自衛権を行使することで、朝鮮半島有事への効果的対応が可能になる側面はあるだろう。安倍政権には中国の軍備拡張や海洋進出に対する日米同盟の抑止力を強化する狙いもあるようだ。だが、さまざまな観点から私たちは、集団的自衛権の行使容認に今踏み出すべきではないと考える。安倍晋三首相の私的懇談会の議論では、行使が想定される具体例として、公海上で自衛隊艦船の近くで行動する米軍艦船の防護、米国向け弾道ミサイルの迎撃、シーレーン(海上交通路)の機雷除去、周辺有事の際の強制的な船舶検査(臨検)などがあがっている。「今の憲法解釈のままでは、こうしたこともできない」事例として集められたものだ。だが現実には、これらの活動だけを限定して行うのは難しい。戦闘地域で機雷除去や臨検を行えば、国際法上は武力行使と見なされる。他国軍から反撃され、双方に戦死者が出ることも覚悟しなければならない。

*3-2:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014030502000131.html (東京新聞 2014年3月5日) 作家ら「解釈改憲に反対」 「戦争させない委員会」結成
 安倍政権が意欲を示す憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認に反対する作家や学者らが四日、東京・参院議員会館で「戦争をさせない千人委員会」の発足集会を開いた。憲法学者の奥平康弘東大名誉教授やルポライターの鎌田慧さんら八十七人が呼び掛け人となった。記者会見で奥平氏は「解釈改憲は憲法改正と同じ。内閣の解釈で九条をないがしろにしてはならない」と訴えた。鎌田氏は「戦争前夜が迫っている。政党や労組だけでなく、運動のネットワークを広げたい」と語った。作家の雨宮処凛(あまみやかりん)さんは「(安倍政権が)本性をむき出しにした。この国を根本からものすごいスピードで変えようとしている」と指摘。「九条が空文化する方向への動きが加速している」と危機感をあらわにした。会見に先立つ集会には約百二十人が出席。「戦争準備を進め、秘密国家をつくろうとする政府への批判行動を強める」とのアピールを出した。委員会は各都道府県で同様の組織をつくり、署名や国会要請行動をする。他の呼び掛け人は作家の落合恵子さんや評論家の佐高信さん、俳優の菅原文太さんら。

*4-1:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2641102.article.html
(佐賀新聞 2014年3月2日) ロシア、軍投入決定 / 欧米との対立決定的
 【モスクワ、キエフ共同】ロシアのプーチン大統領は1日、ロシア系住民の保護を理由に、ウクライナに軍を投入する方針を表明、憲法の規定に従い上院の同意を求め、全会一致で承認された。ウクライナの政変で生じた混乱に乗じ、公然と軍事行動に踏み切る立場を鮮明にしたことで、欧米との対立は決定的となる見通しだ。部隊はロシア系住民が多いウクライナ南部クリミア自治共和国に投入するとみられる。ロシアが国外で軍事行動に踏み切るのは、2008年にグルジアから独立を求める南オセチアを支援する名目で軍事介入して以来。国連安全保障理事会は日本時間2日午前、緊急協議を開催する。

*4-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140304-00000445-yom-soci
(読売新聞 2014年3月4日) 尖閣接続水域に中国「海警」2隻…海保警告
 第11管区海上保安本部(那覇市)によると、4日午前9時現在、沖縄県石垣市の尖閣諸島・久場島沖の接続水域(領海の外側約22キロ)内を、中国海警局の公船「海警」2隻が航行している。海上保安庁の巡視船が、領海に入らないよう警告している。

*4-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11011742.html?iref=comkiji_redirect
(朝日新聞 2014年3月5日) 北朝鮮を念頭、「米有事に臨検」 集団的自衛権で首相
 安倍晋三首相は4日の参院予算委員会で、集団的自衛権行使の具体例として、米国が北朝鮮に攻撃された場合を念頭に「攻撃した国(北朝鮮)に武器弾薬を輸送している日本の近傍を通っている船を臨検できなくていいのか」と答弁した。北朝鮮へ武器弾薬を運ぶ船に対する強制的な検査を可能にすべきだとの考えを示したものだ。社民党の福島瑞穂氏が「朝鮮半島有事で米国が攻撃されている時、日本も有事に参加する可能性があるのか」と質問したのに答えた。首相は「朝鮮半島で自衛隊が活動することは想定していない。米国を攻撃するための武器弾薬が運ばれている中、私たちはそれを阻止する能力がある」とも答弁し、日本の役割として臨検を強調した。米国が攻撃された場合、北朝鮮に武器弾薬を運ぶ船への臨検を可能にするには、集団的自衛権の行使に加え、強制力を持って警告射撃などをできるよう武器使用基準を緩和することも必要になる。

*4-4:http://asahisakura.nobody.jp/nagoyakousaihanketukakutei.htm
(2008年4月17日) 4.17名古屋高裁・自衛隊イラク派兵違憲判決
 1422名が提訴した「自衛隊イラク派兵差止訴訟」の控訴審判決が名古屋高裁で出された。
判決は歴史的なものである。
1、本判決は「自衛隊派兵の撤退」という控訴人の主張を直接に認めたものではない。しかし画期的な意義を有する内容である。
 第1に、自衛隊機が発着するバグダッドを「戦闘地域」、自衛隊が行う米兵の輸送を「武力行使」とそれぞれ認定し、政府の憲法解釈を前提としても、自衛隊のイラク派兵は「特措法」と憲法9条に違反するとした。判決は「現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為」と断じ、「非戦闘地域」規定のあいまいさを突くもので、今後の自衛隊派兵反対運動に強力な根拠を与えるものである。第2に、控訴人の主張する憲法前文の「平和的生存権」を「憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない」とし、9条とあわせ「裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求しうる」具体的な権利としたことである。昨今、「前文」や9条、さらには25条「生存権」も、たんなる理念にすぎないという論調がはびこるなかで画期的である。改憲阻止運動にとっても重要な光明といってよい。第3に、自衛隊とその活動の違憲性を問う裁判では、長沼ナイキ訴訟札幌地裁の自衛隊違憲判決をのぞいて、司法は全て判断を逃げてきた。それが「平和的生存権」に立脚し高裁レベルで真正面から自衛隊の具体的な活動とイラクの状況を精査し、違憲との判断をくだしたのも画期的である。2、名古屋高裁違憲判決は、3.13鉄道運輸機構東京地裁判決、4.11立川ビラ配布事件最高裁判決と、司法の義務を放棄した反動判決が続く中で、限りない勇気を与えるものである。それは全国各地で幾度負けてもくりかえされてきた違憲訴訟の成果である。私たちは判決を武器に憲法闘争をさらに前進させよう。当面、自衛隊海外恒久派兵法制定の動きを止めさせよう。あきらかな武力行使と司法が判断した「後方支援」も「戦闘地域」のあいまいさも、すべて「恒久派兵法」の根幹をなしている。自民党・公明党に、「恒久派兵法」与党案策定のプロジェクトを始動させてはならない。民主党は継続審議となっている同党の「テロ根絶措置法案」をとりさげるべきである。

*5:http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2014030400544 (時事ドットコム 2014/3/4) 核施設防護で協力要請=EUなどに書簡-ウクライナ
 ウクライナのデシツァ外相は3日、原子力発電所などの核施設の防護について、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に協力を要請する書簡を送ったことを明らかにした。地元通信社が報じた。EUなどの回答を待っている段階だという。具体的にどのような支援を求めたのかは不明だが、治安悪化を受けた措置とみられる。外相は「チェルノブイリ原発事故のような核災害が起きることは誰も望んでいない」と指摘した。ウクライナにはフメリニツキー、ザポリージャなど四つの原発があり、国内全発電量の約半分のシェアを占めている。ロシアによる占拠が進んでいるクリミア半島に原発はない。


PS(2014.3.7追加):*6のように、内閣法制局元長官の阪田氏から、「集団的自衛権行使を認めようとする憲法解釈の変更に反対」という意見があった。これまでの経緯があるのかも知れないが、私は、憲法9条2項については、憲法改正なき超解釈がなされていると思う。

*6:http://digital.asahi.com/articles/ASG3662WZG36UTFK00R.html?iref=comkiji_redirect (朝日新聞 2014年3月6日) 法制局元長官、再び政権批判 憲法解釈変更に反対
 内閣法制局の阪田雅裕・元長官が6日、都内の日本記者クラブで会見し、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を認めようとする安倍政権を改めて批判した。「(改憲)手続きが面倒くさいから解釈(変更)というのは憲政の王道では決してない」と述べ、国民投票を経る憲法改正で臨むべきだとの考えを強調した。阪田氏は行使を認める解釈の変更を「解釈の域を超えている。無視に近い」と批判。海外での自衛隊の武力行使につながるおそれもあり、「大きな転換で国民の覚悟もいる」と述べた。「(内閣法制局は)理屈をしっかりと申し上げることができるかどうかが全てだ。そこが失われたら、法制局が国会でなにを言おうと『政府の使い走りをやっているだけだ』と見られてしまう」とも述べ、解釈変更に関わることで内閣法制局への信頼が損なわれかねないとの懸念を示した。

| 日本国憲法::2013.4~2016.5 | 11:03 AM | comments (x) | trackback (x) |
2013.11.12 遺産相続における婚外子の取り分は、本当に憲法の法の下の平等に反するのか?
   

(1)私が、この最高裁判決に反対である理由
 *1に書かれているように、最高裁は2013年9月に、婚外子の相続格差について、(1)日本社会に法律婚制度は定着しているが、家族の形態は多様化している (2)父母が婚姻関係にないという子にとって選択の余地がない理由で不利益を及ぼすことは許されないとの判断を示し、婚外子の遺産相続分を嫡出子の半分とする民法の規定を、憲法14条が保障する法の下の平等に反するため、違憲とした。

 しかし、私は、この判決は家族の定義を変更し、法律婚の意義を弱めさせるものであるため、その家族の定義の変更が妥当か否かについて、先に議論すべきだと考える。

 私が、リベラルであるにもかかわらず、こういうことを書く理由は、婚外子差別をなくすことを歓迎しているのは、「多様な家族を認めることによる少子化対策」を建前として掲げながら、本音は愛人を持ちたいおじさんたちであり、被害者は、まさに、そこに生まれてくる子どもとその母親であるため、そういう人を増やしたくないからだ。

 子どもを主体として考えれば、子どもは少子化対策のために生まれてくるわけではなく、生まれてきた以上は、両親や祖父母に愛されて育まれる権利がある。それにもかかわらず、法律を無視して子をもうけるカップルは、双方の子に対して無責任である。そうしてできた婚外子が相続のみを平等とされても、両親や祖父母に愛されて育まれることができない宿命の子を増やす結果となり、それはどうかと思うのだ。また、子育ては夫婦で行っても大変なものであるため、子育てを、婚外子を持った母親だけに託すのも、子とその母の両方に対して無責任である。

(2)現行憲法では、立法、行政、司法は三権分立であり上下関係はない
 *1に、「行政に当たる政府は『立法的な手当ては当然。可能な限り早く対応すべきだ(菅官房長官)』として、今国会での民法改正を目指している」と書かれているが、立法府が司法判断に従って法改正の義務を負っているとすれば、立法より司法の方が上であるということになり、おかしい。

 しかし、現行憲法では、立法、行政、司法は三権分立で上下関係はないため、司法判断の妥当性も議論して、法改正に組み込むべきだろう。

(3)民法の相続規定は、本当に現行憲法違反なのか
 最高裁は、相続分を法律婚の子(嫡出子)の半分とする*4の民法900条4項最終部分の規定を憲法14条違反で違憲と判断したが、*3のように、憲法14条は「すべて国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と書かれており、これは、誰であっても、現存する法律が平等に適用され、人種、信条、性別等によって差別されないと定めているにすぎない。

 その現存する法律が民法900条4項であり、「ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする」という部分なのだ。しかし、これを読めばわかるように、父母(法律上の妻)の双方を同じくしない子(連れ子など)の相続分が、父母の双方を同じくする子の相続分の二分の一とされているのであって、婚外子のみを差別しているのではない。そのかわり、婚外子の実母の財産を、法律婚の子が相続することもできないのである。

 また、被相続人にその意思があれば、婚外子でも、民法902条の遺言や903条の特別受益者として被相続人から遺贈を受けたり、養子縁組して受贈することもできる。そのため、複雑な家族が増えた現在、民法の相続関係については、こうするしかなく、婚外子についても、父母の双方を同じくしていないという意味で平等だと思う。

(4)それでは、どう改正すればよいか
 私は、共働き夫婦を中心とした現在の核家族においては、むしろ民法900条の配偶者と直系尊属、兄弟姉妹が同順位の相続人であることに違和感を覚える。何故なら、夫婦の財産は、先祖から受け継いだものではなく、夫婦で築き上げたものである場合が多いからだ。

 そのため、改正するのであれば、全額を法律上の配偶者が相続することを原則とし、被相続人を介護をした人に、特別の配慮をするのが公正だと考える。その配偶者も亡くなった後には、再度、その配偶者を介護した人に特別の配慮をした上で、残りを子どもに相続させればよいだろう。このやり方で異議のある家族は、遺言により、あらかじめ遺産の分け方を指定しておけばよい筈だ。

*1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013103102000120.html
(東京新聞 2013年10月31日) 婚外子、民法改正に異論続出 自民、司法判断軽視
 結婚していない男女の間に生まれた子(婚外子)と結婚している夫婦の子(嫡出子)の遺産相続を同等にする民法改正案に、自民党内で反対意見が相次いでいる。最高裁は婚外子の遺産相続分を嫡出子の半分とする民法の規定を違憲と判断している。立法府の一員として、法改正の義務を負っているにもかかわらず、自民党保守派議員の司法を軽んずる姿勢が目立っている。
 最高裁は九月、親が結婚しているかどうかで遺産相続の取り分が異なる民法の規定を「憲法一四条が保障する法の下の平等に反する」と判断した。
 政府は「立法的な手当ては当然。可能な限り早く対応すべきだ」(菅義偉(すがよしひで)官房長官)として、今国会での民法改正を目指している。
 ところが、自民党の保守派が政府に「待った」をかけた。民法改正は「家族制度を崩壊させる」というのが大きな理由だ。三十日の参院政策審議会では、出席者から「婚外子をどんどん認めていくと、法律婚の割合が減る」との懸念が相次いだ。「最高裁の決定は踏み込みすぎだ。民法の規定は国民感情に沿ったものだ」と、司法判断に異を唱える意見さえ飛び出した。自民党は改憲草案に「家族の尊重」を明記。党内の保守派は、現行憲法より、党の改憲案の方が正しいとの思いが強い。西田昌司参院議員は会合で「最高裁はわれわれの常識とは違うが、現行憲法を結びつけると今回の決定になる。現行憲法が間違っている」と言い切った。保守派の高市早苗政調会長も最高裁決定について「私個人の主張とは相いれない」と疑問を示す。一方で「違憲とされた民法の条文を放置すると、世の中が混乱する」と指摘。改正案の了承手続きを速やかに終えたい考えだが、「もっと議論に時間をかけるべきだ」との声を無視できないでいる。
 公明党は早期の法改正を強く訴えている。石井啓一政調会長は三十日の記者会見で「最高裁決定を重く受け止め、法的措置を取ることが国会本来の在り方だ」と述べた。

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS12001_S3A111C1MM0000/?dg=1
(日経新聞 2013/11/12) 婚外子の相続格差なくす 民法改正案を閣議決定
 政府は12日の閣議で、結婚していない男女間に生まれた婚外子(非嫡出子)の遺産相続に関する格差規定を削除する民法改正案を決定した。最高裁が相続分を法律婚の子(嫡出子)の半分とする民法の規定を違憲と判断したのを受けた措置。改正案は与野党の賛成で、今国会中に成立する見通しだ。改正案は民法900条の「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とする」との規定を削除する内容。改正案が成立すれば、婚外子と嫡出子の相続分は原則として同じになる。
 法務省は当初、民法改正案と併せ、出生届に嫡出子か婚外子かを記載するよう義務付けた規定を削除する戸籍法改正案も提出する方針だった。しかし自民党法務部会で一部の保守系議員が「家族制度が崩壊する」などと反発。民法改正案は了承されたが、戸籍法改正案の提出は見送られた。
最高裁は9月、婚外子の相続格差について(1)日本社会に法律婚制度は定着しているが、家族の形態は多様化している(2)父母が婚姻関係にないという子にとって選択の余地がない理由で不利益を及ぼすことは許されない――との判断を示した。

*3:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html  (憲法)
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

*4:http://www.ron.gr.jp/law/law/minpo_sz.htm (民法)
第二節 相続分
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
第九百一条 (略)
(遺言による相続分の指定)
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

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2013.11.9 天皇の政治利用禁止は、太平洋戦争や明治維新による革命など、国論を二分する場合の話ではないのか?原発事故の現状を手紙に書いた一参議院議員である山本太郎議員の行為は政治利用に入るのか?
    
  神武天皇        持統天皇         明治天皇

(1)天皇の政治利用の歴史
 *4に書かれているように、わが国の歴史を見れば、明治維新というわが国の近代化革命では、NHKの大河ドラマ「八重の桜」でも語られているように、トリックのような天皇の政治利用で革命が進められた。その天皇の政治利用の排除が明文化されたのは、太平洋戦争後の日本国憲法からである。日本史上、それ以前は、今ほど明確に天皇の政治利用の禁止が明文化されていたわけではなかったのだから、「天皇の政治利用」の範囲を広げすぎずに、その定義を明確にする必要があるだろう。

(2)山本太郎議員の行為について(小さなことへの懲罰が好きで、大きなことを見逃している方々へ)
 *1によれば、「園遊会で天皇陛下に手紙を渡した無所属の山本太郎参院議員に、参議院議長が厳重注意した上で皇室行事への出席自粛を求める案を提示する方針を固めたが、これは参院の正式なルールに基づく処分ではなく異例であり、野党も同調する見通し」とのことだ。しかし、日本は罪刑法定主義であるのに、法律で罪とされていないものを懲罰するのは法治国家であることを放棄したことになるし、日本は罪刑法定主義の法治国家であることを知らない人がいたとすれば、それこそ「非常識」である。

 具体的な行為についても、*2に書かれているように、「園遊会で天皇陛下に手紙を手渡した」ことが「非常識な行為」として処分に値するとされているが、山本太郎議員は天皇陛下に爆弾入りの手紙を手渡したわけではなく、*4に記載されているように、原発事故による健康被害や事故収束作業に当たる作業員の健康状態を書いた手紙を手渡したに過ぎないため罪はないと私は思う。「原発事故という政治的テーマについて天皇に何らかの観念を持ってもらおうとするのは、政治利用になりかねない危うさをはらむ」との、(たぶん)原発推進派の意見もあるが、そういう事実や意見があることを知った上で、どう振舞うかは天皇が決めることであり、宮内庁が宛名の人に手紙を渡さなかったというのも変である。

(3)開かれた皇室との矛盾
 私が衆議院議員だった2006年10月末に、佐賀県で「第26回全国豊かな海づくり大会」が開かれ、天皇・皇后両陛下が佐賀県を来訪され、近くでお会いしたことがある。その時、皇后陛下に「あなたがここの国会議員なの。頑張ってね」とお声をかけていただき、その驚くほど澄んだ声とお言葉に感激したが、欲を言えば、単に「大変ですね」「頑張って下さい」というフレーズだけではなく、現状を理解した一言があればもっとよかったと思う。そして、そういう現状把握は、宮内庁が、天皇宛てに参議院議員が書いた手紙すら渡さないという状況では無理だろう。

 そのため、私も、「国会議員が天皇に手紙を渡したら不敬罪もの」と言う非難には、違和感を覚える。何故なら、それは「開かれた皇室」と矛盾するからだ。*4には、参議院議長の山崎正昭氏が、「参議院議員として自覚を持ち、院の体面を汚すことがないよう肝に銘じて行動してほしい」と国会内に山本氏を呼んで諭したと記載されているが、参議院議員は元は貴族院議員である。TPOはあるかも知れないが、山崎氏の説諭は、参議院議員として卑下しすぎではないのか。

*1:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2577760.article.html (佐賀新聞 2013年11月6日) 山本氏に皇室行事出席の自粛要求 / 参院、自民処分案に野党も同調へ
 自民党は6日、園遊会で天皇陛下に手紙を手渡した無所属の山本太郎参院議員の処分に関し、山崎正昭参院議長が厳重注意した上で皇室行事への出席自粛を求める案を提示する方針を固めた。共に参院の正式なルールに基づく処分ではなく異例。野党も同調する見通しだ。自民、民主両党の議運委筆頭理事が6日、国会内で会い、自民党側が民主党側に打診した。7日午後の参院議院運営委員会理事会で正式に提案する。処分が決定すれば、7日中にも山崎議長が山本氏に伝え、8日の参院本会議で報告する。

*2:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2578169.article.html
(佐賀新聞 2013年11月7日) 参院、山本太郎氏の処分を確認 / 8日に具体案
 参院議院運営委員会は7日の理事会で、園遊会で天皇陛下に手紙を手渡した無所属の山本太郎参院議員への対応を協議し「非常識な行為」として処分する方針を確認した。具体的な処分案は8日午前に再協議する。自民党は、山崎正昭議長が厳重注意した上で皇室行事への出席自粛を求めるとの処分案を各党に示す方針を固めている。この日の理事会で提示する方向だったが、党内に「軽すぎる」との異論もあり、調整のため提案を見送った。理事会では、自民党が「山本氏は自ら出処進退を明らかにすべきだ。議員辞職を促したい」と強調した。

*3:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-214924-storytopic-11.html
(琉球新報 2013年11月7日) 山本議員手紙 議席返上の必要はない
 秋の園遊会で天皇陛下に手紙を手渡した山本太郎参院議員の行動が波紋を呼んでいる。軽率な行動は批判を免れないにせよ、「不敬罪もの」といった猛烈な非難ぶりには違和感を禁じ得ない。明治憲法下に逆戻りしたかのような時代の空気に不安を覚える。67万人から負託を受けた国会議員が職を辞するほどの問題なのか。辞職要求は均衡を失している。議席返上の必要はない。皇室と政治との距離について、冷静に議論すべきだ。
 山本氏は「原発事故による子どもの健康被害や事故収束作業に当たる作業員の健康状態を知ってほしかった」と説明し、政治利用との意図は否定した。だが、原発事故という政治的テーマについて天皇に何らかの観念を持ってもらおうとするのは、政治利用になりかねない危うさをはらむ。近世の「直訴」のようで、国民主権を定める憲法とも相反する。やはり軽率な行為であろう。とはいえ、閣僚や与党から議員辞職の大合唱が起こることには強い違和感を覚える。
 安倍政権は4月の「主権回復の日」式典に天皇・皇后両陛下を出席させた。「天皇陛下万歳」の掛け声とともに安倍晋三首相は壇上で万歳をした。沖縄からの強い反発が起きた式典の強行はまさに政治的行為であり、天皇出席を求めたのは政治利用ではないのか。9月の国際オリンピック委員会総会への高円宮妃久子さまの出席は、下村博文文科相が宮内庁に強く働き掛けた。政治利用だとの批判が起きたが、その下村氏が山本氏に辞職を求めるのは皮肉だ。政権の行為は不問に付す一方で、山本氏をことさらあげつらうのは公平ではない。市民派として登場し、反原発を掲げて当選した山本氏は政権には目障りなはずだ。そんな議員の職を天皇の威光を借りて奪おうとすることこそ、逆に天皇の政治利用ではないか。
 そもそも山本氏の行為は、不適切ではあるが、法規に抵触するわけではない。その行為一つで有権者の負託を即、無効とするのは、「不敬罪」を設けた明治時代と同じ発想ではないか。その発想自体が危険である。脱原発の世論を一顧だにしない政府の姿勢への絶望が、山本氏にそんな行動を取らせたのだとしたら、理解できなくもない。その閉塞感を打破する回路をどう構築するかも、政治の課題であろう。

*4:http://mainichi.jp/select/news/20131109k0000m010130000c.html
(毎日新聞 2013年11月8日) 山本太郎氏処分:天皇の「政治利用」議論深まらず 
 秋の園遊会で山本太郎参院議員(無所属)が天皇陛下に原発事故の現状を訴える手紙を手渡した問題は8日、山崎正昭参院議長が山本氏を厳重注意し、皇室行事の出席を禁止する処分を伝え、ひとまず決着した。与野党は前例のない山本氏の行動を「非常識な行為」と位置付けたものの、調整は「懲罰」に傾き、政治的に中立な天皇の「政治利用」に関する論議は深まらなかった。
 「参院議員として自覚を持ち、院の体面を汚すことがないよう肝に銘じて行動してほしい」。山崎氏は8日昼、国会内に山本氏を呼び、こう諭した。山本氏は「猛省している」と陳謝した。これまでに山本氏は手紙を手渡した理由として、福島第1原発事故に関して「子供たちの健康被害、原発作業員の労働環境の実情を伝えたかった」と述べ、「政治利用ではない」と釈明していた。
 憲法は国民主権を原則としており、4条で「天皇は国事行為のみを行い、国政に関する権能を有しない」と定めている。しかし、山本氏の行動は原発事故対応という政治課題に天皇陛下を巻き込んだともいえ、「文書を手交すること自体が政治利用ではないか」(石破茂自民党幹事長)との批判が浮上。自民党からは自発的辞職を求める強硬論も出ていた。
 ただ、前例のない事態のため、政治利用に該当するかどうかまで踏み込んだ議論に至らないまま、結論までに1週間を要した。参院議院運営委員会の理事会では「憲法などに照らして懲罰には値しない」(共産党)として、厳罰処分には慎重な意見もあった。皇室の政治利用を巡っては、これまでも議論が続いてきた。高円宮妃久子さまの9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会への出席や、天皇陛下が出席する形で4月に安倍政権が開いた「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」は、いずれも政権の意向や要望に沿ったもので、野党側は「政治利用に当たる」と批判している。
 昭和史や皇室の歴史に詳しいノンフィクション作家の保阪正康さんは「山本氏の行動は国会議員の資質に欠けるが、政治利用というのは一定勢力による行為を言い、今回は違う」と指摘。その上で「一部で処分を議論するより、皇室と政治のあり方について山本氏に所信を述べさせるなど、国会全体で議論すべきだった」と話した。

| 日本国憲法::2013.4~2016.5 | 01:25 PM | comments (x) | trackback (x) |
2013.11.6 特定秘密保護法案と自民党の2012年憲法改正案の関係は如何?
       
  ICRPの被曝限度  2013.10.25河北新報  2013.11.2東京新聞
    (上のようなものまで「特定秘密」にならないでしょうね?)

(1)2012年の自民党憲法改正草案のポイント
 *3には図が添付されており、自民党憲法改正草案の前文は、2005年案では現行憲法と同様に「日本国民は」で始まるが、2012年案では「日本国は」で始まると書かれている。これは、政府は、日本国民の福利を最大にするためではなく、日本国の威信を第一に考えるという変更だ。

 また、基本的人権の不可侵と永久性(憲法97乗)も、2005年案では現行憲法通りだが、2012年案では11条と重複するとして削除している。しかし、これは、他国では、革命や内戦をして血を流して手に入れた基本的人権を、わが国は第二次世界大戦の敗戦によって日本国憲法で念には念を入れて与えられたにもかかわらず、やすやすと捨て去ってしまう戦前回帰だ。

 なお、私は、このようにリベラルであるため、自民党参議院議員の片山さつき氏や西田昌司氏などから、保守本流ではないと言われたことがある。それでは、そこで言う「保守」と「本流」の定義を聞かせてもらいたいところだ。

(2)2012年の自民党憲法改正草案と特定秘密保護法案との関係
 2012年の自民党憲法改正草案では、主権在民や民主主義の意識が弱まり、天皇は象徴ではなく元首と明記されている。そして、(1)のように、国民の福利よりも日本という国家の威信を大切にして、そのためには基本的人権や知る権利も制限するという態度なのであり、2012年の自民党憲法改正草案と特定秘密保護法案は、関連していると思う。そのため、私は、*1、*2に賛成だ。

 そして、*4の特定秘密保護法案の目的の項目では、「我が国及び国民の安全確保に係る情報の重要性」「高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴う漏えいの危険性」等が指摘されているが、これならば、日本政府は、今まで平和ボケでまともなセキュリティーを行っておらず、どの情報もダダ漏れだったことを管理上反省すべきなのであって、法律で特定秘密の指定や取扱者の制限などを定めて漏洩を防止するような大げさなことはない。例えば、どの会社も、人事情報や特許のある製造法は秘密扱いで、それにアクセスできる従業員を限定しているのと同じ管理をすればよいことである。

 また、「安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要なもの」についても、その判断者のみが情報を知っているのであれば、どうにでもなることが目に見えているし、秘密にした情報の記録は、今でも作っておかなければ、開示すべき時が来ても開示して国民の知る権利に応えることはできない。

 そのため、第三条の「行政機関の長が所掌事務に係る情報で秘匿することが必要として特定秘密としたいもの」は、現在の法律でも守られており、それ以上に知る権利を制限して人権侵害を招く可能性の高い法律はいらないと、私は考える。各メディアも、2012年の自民党憲法改正草案と特定秘密保護法案との関係、日本はどういう国でありたいかという視点からの分析もしてもらいたい。

*1:http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_gnavi#Edit1
(朝日新聞社説 2013年 11月 6 日) 秘密保護法案―社会を萎縮させる気か
 秘密をつかんでいなくても、だれかと秘密を得ようと話し合った。それだけで処罰される。国民の知る権利を侵す懸念が強い特定秘密保護法案には、そんな内容も盛り込まれている。共謀罪といわれるものだ。この法案は、秘密に接する人たちだけを監視の対象にするわけではない。ふつうの市民の暮らしをめぐる調査活動も違法となりかねない。法案そのものが社会を萎縮させてしまう。とりわけ共謀罪は、犯罪が起きていなくても、複数の人が合意すれば成立する。秘密保護法案の場合、政府が指定した情報の漏洩や取得を「共謀」することを、未遂、教唆、扇動とともに処罰の対象にしている。
 日本の刑事法は、犯罪は実行されて初めて罰することを原則にしている。予備、陰謀の罰則規定はあっても、内乱罪などの重大な犯罪に限られてきた。だが、今回の法案にある共謀は、未遂や予備よりさらに実行から遠い段階の行為だ。しかも何をもって共謀があったと判断するか線引きは難しく、恣意的に使われかねない。人が意思を通じ合ったことをもって処罰する手法は、戦前、戦中は、政府と違う考え方を持つ人たちへの弾圧に使われた。心の中のことで人を処罰できれば、権力に都合の悪い人を訴追するのはいとも簡単だ。治安維持法下の苦い教訓であり、だからこそ戦後の社会は共謀を犯罪とすることに抑制的だった。
 だが、政府は2003年以降、国際的な組織犯罪を防ぐ条約の批准に向け、600以上の犯罪に共謀罪をつくる法案を3回、国会に出した。野党や市民団体の反対だけでなく自民党の一部にも乱用への懸念があり、すべて廃案に終わった。秘密の保護をめぐる共謀罪に前例がないわけではない。01年の自衛隊法改正の際に設けられた。だが、その対象は狭い防衛秘密の漏洩に限られている。今回の法案のもとで秘密指定される情報の範囲はずっと広い。
 たとえば、原発の安全性や、在日米軍の事故の調査など、安全や人権にかかわる情報や真実に近づこうとする営みは市民の間でも日常的に行われている。共謀罪の規定のもとでは、そうした重要な事実に迫ろうと打ち合わせた段階で法に触れることになりかねない。当局が実際に法をどう適用するかは見通せない。はっきりしているのは、秘密をめぐるさまざまな罰則をあれこれ張り巡らせることが、国民が真実を知ろうとする動きを牽制し、鈍らせる悪弊を生むことだ。

*2:http://www.shinmai.co.jp/news/20131104/KT131102ETI090015000.php
(信濃毎日新聞 2013年11月4日) 司法の闇 市民が逮捕される日
 201X年11月の早朝。長野市はヘリコプターのごう音と振動に包まれた。多くの住民が驚き目を覚ました。平和運動を進める団体の代表Aさんもその一人だ。窓を開けて上空を見上げると十数機の自衛隊ヘリが北に向かっていた。県庁に問い合わせたが「訓練の連絡は来ていない」との返事。「住民に何も知らせず、大掛かりな飛行訓練をするのは問題だ」と感じたAさんは、仲間2人とヘリの離陸地点とみられる隣県の陸自旅団に抗議に訪れた。具体的な飛行訓練計画を明らかにするよう求めるAさんに担当者は「答えられない」の一点張り。業を煮やしたAさんは語気を強めて「なぜ言えないんだ。住民は迷惑している。問題にしてやるぞ」と迫った。担当者は押し黙ったまま。Aさんたちは何の成果も得られないまま引き揚げた。
<ある日突然、捜査員が>
 数日後の朝、Aさんの自宅を捜査員が訪れ、逮捕状を示した。「罪名 特定秘密保護法違反」―。防衛や外交などの情報を秘密指定して、それを漏らしたり、取得したりする行為を罰する特定秘密保護法案。政府が今国会に提出した法案が成立、施行されると、こんな事態も起こり得る―。自衛隊の活動を調査している県護憲連合事務局長の布目裕喜雄さんや、刑事訴訟法が専門の大出良知・東京経済大現代法学部長(九州大名誉教授)は危惧する。防衛分野の秘密指定範囲は「自衛隊の運用」などと大ざっぱだ。具体的に何が指定されたか国民には知らされない。市民が知らず知らずのうちに法に抵触。裁判になっても、証拠自体が秘密扱いで審理され、有罪判決が出る恐れがある。大出教授の話を参考に、判決までの流れを想定し、法案の危険性を考える。現行の国家公務員法や自衛隊法でも秘密を漏らすと処罰される。今回の法案は秘密を得た側も処罰されるのが特徴だ。だましたり、暴行したり、脅迫したりして、特定秘密に指定された情報を取得した場合、最高で懲役10年の罰則がある。未遂も対象。秘密を漏らすようそそのかしたり、あおったりしても最高5年の懲役刑だ。Aさんが問題にしたのは、実は日本海有事に備えた自衛隊員の大量輸送訓練で、防衛相が秘密指定していた。Aさんは、それを脅して取得しようとした罪(未遂)に問われ、起訴された。
 裁判が始まった。Aさんは「脅していないし、求めたものが特定秘密とは知らないので、犯罪の故意がない」などと無罪を主張した。ところが、一番肝心な証拠が開示されない可能性が高い。
<証拠は裁判でも秘密>
 “前例”がある。6年前に発覚したイージス艦情報流出事件の裁判だ。特別防衛秘密(特防秘)を別の自衛官に漏らしたとして海上自衛官が逮捕、起訴された。1954(昭和29)年施行の日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪で初めての起訴だ。検察側は「機密は裁判所にも明かすことはできない」と、機密部分を黒塗りした資料を証拠提出した。裁判長は資料に「極秘」の記載があることなどから特防秘に当たると「推認」できるとし、有罪判決を出した。
この事件で主任弁護人を務めた田中保彦弁護士は「(秘密を取得した方も罰せられる)今回の法案では、被告がどんな情報を取得したかを聞いた弁護人も罪に問われる危険がある」と指摘する。Aさんの裁判も同様に進む。訓練の名称自体も秘密なので、検察側が出す証拠の題名さえこんなものになりそうだ。「■■■■■■■■にかかわる■■■■■■■■■■の計画」。計画の内容は全面黒塗りだ。裁判長は、資料に「特定秘密」と記されていることや防衛省担当者の証言から特定秘密と推認できると判断。こんな判決を出す。被告人を懲役5年に処する
<人権侵害の恐れ>
 争点について判決は▽「問題にしてやる」との言葉が「害悪の告知」に当たるなど、脅迫と認められる▽特定秘密の範囲は「自衛隊の運用」と法律に示されており、被告人には、求めた情報がこの秘密に当たるかもしれないという認識(概括的故意)があった―と示した。情状では、反省していないとの指摘も。未遂なので、最高刑にはならなかったが、懲役3年を超えるので執行猶予が付かず、実刑に―。あくまで仮定の話だが、ここから浮かび上がるのは、自分のした行為が本当に犯罪になるのかすら確認できず、弁護活動も制限され、市民が犯罪者にされてしまう恐れだ。法案は、国民の知る権利を侵害するだけでなく、憲法に保障された基本的人権さえ危うくする。成立させてはならない。

*3:http://www.geocities.jp/le_grand_concierge2/_geo_contents_/JaakuAmerika2/chunitiKensho130713.htm#top 自民改憲草案05年案と比較-保守離れ懸念 タカ派色前面-国防軍/「基本的人権」97条削除-党内に見直し論首相も修正言及
 「自主憲法の制定」を党是とする自民党は参院選で党独自の改憲草案を掲げる。しかし、草案は昨年、民主党に政権を奪われていた野党時代につくったもので、実現可能性よりも支持層を意識したタカ派色が濃い内容だ。これに対し、他の改憲政党には「幅広い支持を得るのは難しい」との声が広がり、自民党内で見直し論が浮上する。同党が二〇〇五年につくったもう一つの改憲草案と比較しながら、問題点を検証した。(政治部・岩田仲弘、岩崎健太朗)
■特徴
 自民は政党の中で唯一、条文形式の改憲草案を持つ。現在の草案は昨年四月に作成されたが、小泉政権時代の〇五年十一月にも改憲草案を発表。二つの草案を比べると、現在の草案の特徴が浮かび上がる。自民が最もこだわる九条改憲について、〇五年の改憲案は「自衛軍を保持する」としていたが、現在の草案は「国防軍を保持する」と表記している。国防軍も自衛軍も、自衛隊を「軍」として位置づけることに変わりはないが、自衛軍が現在の自衛隊を軍隊として「追認」するイメージに対し、国防軍は自衛隊を「普通の軍隊」に変え、専守防衛など防衛政策の転換まで想起させる。「自衛軍」よりも軍事色が強い。
 また、現在の草案は家族を社会的な単位とし、助け合い義務を規定している。〇五年の草案には盛り込まれていなかった条文で、自民を支持する保守層が抱いている伝統的な価値観を強く意識した。
 さらに、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と定めた九七条を削除。基本的人権の尊重を明記した十一条と趣旨が重なるためとの説明だが、九七条は憲法の根幹部分で、野党は「(安倍普三首相は)日本をどういう社会にしようとしているのか」などと批判している。この延長線として、基本的人権の一つである表現の自由について「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」などを認めない規制を設け、〇五年草案よりも国民の義務規定を増やしている。
■怖さ
 なぜ自民の改憲草案は変質したのか。現在の草案作成時、自民は〇九年の衆院選で民主党に敗れ、野党に転落していた。「自民党らしさ」を前面に出すことで、離れていった保守的な支持層を取り戻し党勢を回復することを最優先に考えていた。〇五年当時、自民の参院議員として草案作成の中心的な役割を果たした新党改革の舛添要一代表は「国防軍と書いたら三分の二を取れないが、自衛軍なら公明党を含めて取れる。一日も早く改憲を実現するために知恵を働かせた」と振り返る。〇五年案は政権与党として改憲の実現性を考え、国民に改憲を発議するために必要な衆参両院での「三分の二」の賛成を得ることに配慮したが、野党時代につくった現在の草案は保守派への受けが先に立ち、「実現性」の発想が乏しいとの指摘だ。改憲を目指す自民、みんな、日本維新の会の三党は昨年暮れの衆院選で、議席の三分の二を確保した。仮に今回の参院選で三分の二を獲得すれば改憲発議が可能になるが、こうしたときに幅広い理解を得にくい改憲草案を掲げるという皮肉な結果をもたらした。
 現在の草案に対し、みんなの党の渡辺喜美代表は「国民の義務を強調するところに国家主義的なDNAを感じる」と指摘。維新の橋下徹共同代表も「公権力を前面に出し過ぎて怖い」と批判する。このため、首相は柔軟姿勢に転じ、「自民党の案で、ここを修正すればいいというなら考えていきたい」と草案の修正に言及。磯崎陽輔・党憲法改正推進本部事務局次長も「草案はあくまで党の目標。一字一句これでなければだめという考えはない」と強調している。

*4:http://www.tokyo-np.co.jp/feature/himitsuhogo/zenbun.html
(東京新聞 2013年10月25日) 【特定秘密保護法案全文】
 第一章 総則
 (目的)
 第一条 この法律は、国際情勢の複雑化に伴い、我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。
 (定義)
 第二条 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。
 一 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関
 二 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうち、国家公安委員会にあっては警察庁を、第四号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては当該政令で定める機関を除く。)
 三 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(第五号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
 四 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、警察庁その他政令で定めるもの
 五 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの
 六 会計検査院

 第二章 特定秘密の指定等
 (特定秘密の指定)
 第三条 行政機関の長(当該行政機関が合議制の機関である場合にあっては当該行政機関をいい、前条第四号及び第五号の政令で定める機関(合議制の機関を除く。)にあってはその機関ごとに政令で定める者をいう。第十一条第一号を除き、以下同じ。)は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(昭和二十九年法律第百六十六号)第一条第三項に規定する特別防衛秘密に該当するものを除く。)を特定秘密として指定するものとする。
 2 行政機関の長は、前項の規定による指定(附則第四条を除き、以下単に「指定」という。)をしたときは、政令で定めるところにより指定に関する記録を作成するとともに、当該指定に係る特定秘密の範囲を明らかにするため、特定秘密である情報について、次の各号のいずれかに掲げる措置を講ずるものとする。
 一 政令で定めるところにより、特定秘密である情報を記録する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録をいう。以下この号において同じ。)若しくは物件又は当該情報を化体する物件に特定秘密の表示(電磁的記録にあっては、当該表示の記録を含む。)をすること。
 二 特定秘密である情報の性質上前号に掲げる措置によることが困難である場合において、政令で定めるところにより、当該情報が前項の規定の適用を受ける旨を当該情報を取り扱う者に通知すること。
 3 行政機関の長は、特定秘密である情報について前項第二号に掲げる措置を講じた場合において、当該情報について同項第一号に掲げる措置を講ずることができることとなったときは、直ちに当該措置を講ずるものとする。
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2013.8.5 集団的自衛権行使の容認拡大は、専守防衛の変更ではないということ
  

(1)日本国憲法は日本の財産である
 私は、基本的人権の尊重・国民主権・平和主義を三大基本原理とする日本国憲法を、太平洋戦争で得た唯一の財産だと思っている。何故なら、基本的人権の尊重・国民主権は、他国では革命や内戦で血を流して闘い取らなければならなかったが、日本では、終戦後、内戦や革命なく得られたからである。また、男女平等も日本国憲法で初めて定められたものだ。

(2)国際法で認められている防衛は、平和主義に反しない
 しかし、*3、*4のように、沖縄県尖閣諸島周辺の領海内に中国国旗の帆船が中国海警局の船3隻とともに侵入したり、中国海警局所属の船が領海外側にある接続水域で航行したりすることが頻繁に起こり、日本の巡視船が領海に近づかないよう警告すると、「中国の管轄海域である」という応答があるという事態が頻発している。私が、このHPの外交・防衛のカテゴリーで、2013年6月5日、同年3月5日、2012年12月24日に記載しているとおり、尖閣諸島はわが国の領土であり、自らの領土を守るのは国家主権であって、国際法で認められているものである。

(3)集団的自衛権行使の容認拡大は、防衛の域を出るのか
 外国の資源を奪うために集団的自衛権を行使するのであれば、それは防衛ではなく、侵略であって、日本国憲法違反である。しかしながら、上の写真のような日本の領土・領海・資源を守るために集団的自衛権を行使するのは防衛の範囲内である。侵略しているのは相手国であり、このような時に自らを守らない国を守ってくれるような国はないだろうし、尖閣諸島に関しては、アメリカは中立の立場をとりたがっているくらいだ。そのため、私は、外国での戦争に参加するのではなく、日本の領土を守る戦いで集団的自衛権を行使するのは、国際法で認められていることであり、適切だと思う。

(4)憲法9条の改正は必要か、解釈の変更だけで済ませるか
 私は、憲法9条についてはもっと明確に自衛隊や自衛権の範囲を定義した方がよいと思っていたが、自民党の憲法改正案を見ると、このほかに基本的人権の尊重や国民主権に関わる部分が国民にとって不利な方向に変えられようとしている。そのため、麻生財務大臣がうっかり本音を述べたように、「誰も気がつかないうちに、静かに現行憲法をすっかり変えられる」くらいなら、9条の解釈変更だけで済ませるのが無難だと思う次第である。

*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130805&ng=DGKDASFS04019_U3A800C1PE8000
(日経新聞 2013.8.5) 集団的自衛権行使の容認拡大へ議論 政府懇 年内にも報告書
 政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」座長を務める柳井俊二元駐米大使は4日のNHK番組で、憲法解釈で禁じている集団的自衛権の行使を容認する報告書を年内にも取りまとめる考えを表明した。柳井氏は「国際法に従った解釈変更をし、日米同盟関係がきちんと運用できるようにすることが絶対必要だ」と述べ、国連憲章に沿って幅広く行使を認める方向で議論する意向を示した。懇談会は第1次安倍内閣で設置。福田内閣の2008年6月に報告書を公表し、(1)公海上で攻撃された米艦船の護衛(2)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃――の2類型で行使を認めるべきだと提起した。安倍晋三首相は2月、当時と同じ有識者メンバーを集めて懇談会の議論を再開させている。これに関連し、小野寺五典防衛相はNHK番組で年内にまとめる防衛計画の大綱に懇談会の議論を反映させたい考えを示した。「様々な政府の方針がある程度出て、初めて大綱を作っていける。スケジュール感は共有している」と語った。

*2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0200S_S3A800C1MM0000/?dg=1
(日経新聞 2013/8/2) 法制局長官に小松大使 集団的自衛権の解釈見直し派
 安倍晋三首相は2日、内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、後任に小松一郎駐仏大使を充てる方針を固めた。8日にも閣議を開き、正式に決める。首相は集団的自衛権を巡る憲法解釈の見直し議論を進めており、小松氏は見直しに前向きとされる。法制局長官は内閣法制次長が昇任するのが慣例で、異例の人事となる。小松氏は外務省出身で、条約課長や国際法局長を務めるなど国際公法に精通している。第1次安倍内閣が設置した、集団的自衛権の行使を可能にするための検討をする有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の実務に携わった。懇談会は日米が共同で活動する際、危険が及んだ公海上の米艦船の防護など4類型を検討し、解釈変更を求める報告書をまとめた。小松氏はこの立案にかかわった。首相は第2次安倍内閣の発足に伴い、懇談会を再始動させたが、2月に1度開いただけだった。8月後半から議論を再開する方針で、憲法解釈をつかさどる内閣法制局の人事の刷新と合わせて、懇談会の議論を加速させる。集団的自衛権の行使容認に向けた地ならしを進める狙いがあるとみられる。菅義偉官房長官は2日の閣議後の記者会見で「人事は白紙」と断ったうえで、政権の人事は「順送りでなく、適材適所で行っている」と強調した。小松一郎氏(1972年《昭47年》一橋大法中退、外務省へ。国際法局長、11年9月フランス大使。神奈川県出身、62歳)。

*3:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2521759.article.html
(佐賀新聞 2013年7月30日) 尖閣周辺、14日連続で中国船 / 海保の巡視船が確認
 沖縄県・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で30日、中国海警局所属の船4隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。中国当局の船が尖閣周辺で確認されたのは14日連続。 第11管区海上保安本部(那覇)によると、4隻は「海警2101」「海警2166」「海警2350」「海警2506」。領海に近づかないよう巡視船が無線で警告すると、海警2350から「中国の管轄海域で定例のパトロールを実施している」と日本語と中国語で応答があった。

*4:http://www.saga-s.co.jp/news/global/corenews.0.2525084.article.html
(佐賀新聞 2013年8月4日) 中国国旗の帆船、尖閣周辺領海に / 当局船も
 3日午後5時15分ごろ、沖縄県・尖閣諸島周辺の領海に中国国旗を掲揚した帆船が侵入し、約5時間半後に魚釣島の西北西から領海外に退去した。同じ時間帯には、中国海警局の船3隻も相次いで侵入し、約5時間半、領海内を航行した後、領海外側の接続水域に出るのを海上保安庁の巡視船が確認した。第11管区海上保安本部(那覇)によると、帆船は領海内を航行している間、赤色の旗が付いたブイ10個を海に投入するのが確認された。海保は巡視船から領海外に出るよう警告したが応答はなく、目的は不明。複数の乗員がいたという。

*5:http://kumanichi.com/syasetsu/kiji/20130729001.shtml
(熊日コム社説 2013年7月29日) 新防衛大綱 「専守」変更につながるのか
 敵国の基地を攻撃する能力の保有を念頭に置いたミサイル抑止力の強化や、離島防衛のための海兵隊機能の充実、無人偵察機の導入-。防衛省が公表した新たな「防衛計画の大綱」に関する中間報告は、これまでの「専守防衛」を旨とする安全保障政策の根本的な変更につながる可能性がある検討項目を列挙した。政府はこれを踏まえ、年内の新大綱策定と2014年度予算編成に向けた作業を加速させる。安倍晋三首相は新大綱策定と並行して、これまで憲法解釈上認められていなかった集団的自衛権の行使を容認する解釈変更に向けた議論も進める構えだ。27日には訪問先のフィリピンで「検討を進めていく」と明言した。参院選で圧勝した安倍首相が、いわゆる「右傾化」の外交・安保政策に踏み込むのか、内外が注視している。新大綱がいたずらに近隣諸国を刺激しないよう、慎重な検討と外交努力を求めたい。国民に対しても丁寧な説明が必要だ。
 現在凍結されている防衛大綱は、10年に当時の民主党政権が策定したものだ。沖縄・南西諸島などの離島防衛で機動性、即応性を重視して自衛隊を運用する「動的防衛力構想」を打ち出した。だが安倍首相は就任直後に見直しを表明。今年1月に大綱の凍結を決定し、年末に新大綱を策定する方針を決めた。前大綱は財政事情を理由に人件費の抑制を盛り込んでいたが、首相は13年度予算で11年ぶりに防衛関係費も増額した。確かに、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍備強化、海洋活動の活発化など日本を取り巻く安保環境は悪化している。13年版防衛白書は初めて「一層厳しさを増している」と明記した。こうした情勢を受け、今回の中間報告には首相の意向に沿った装備や能力の検討項目が並ぶ。武器の国際共同開発に向けて武器輸出三原則を見直す方向も打ち出した。敵基地攻撃に関して、首相は5月の国会答弁で「相手に思いとどまらせる抑止力の議論はしっかりしていく必要がある」と積極姿勢を示した。だが、攻撃は他国内での活動であり、海兵隊能力も他国侵攻に活用可能な装備を持つことになる。また、実際に敵基地攻撃能力を保持するには大きなハードルがある。防衛省内部では「予算、周辺国の理解、米国側との役割分担という複雑な要素をクリアしなければならず、難しい問題」との見方が多いという。
 「憲法9条の下で許容される実力の行使の範囲を超える」として政府が禁ずる見解をとってきた集団的自衛権の行使についても、首相は有識者懇談会を再開し、報告書を受けて新大綱に反映させる意向という。公海上での自衛隊による米艦船防護や、米国を狙った弾道ミサイルの迎撃などを行えるようにする方向だ。首相は「他の国々が当然行い得るものの一部を日本でも可能にしようとするものだ」と、右傾化の指摘は当たらないとの認識を示した。緊張が想定される地域で警戒態勢や事態対処の能力を高めるのは当然だ。だが、憲法の制約に縛られた政策判断と、制約を外したそれとは全く異なる。新大綱の下で何を行うのか。歯止めはどう担保するのか。国民の理解が得られる議論が必要だ。

| 日本国憲法::2013.4~2016.5 | 11:02 AM | comments (x) | trackback (x) |
2013.5.16 憲法改正の必要性について(1):「環境権」が現行憲法に記載されていなかったから環境破壊が続けられ、被害者が救われなかったのではないということ
    
                       東京新聞より

 *1、*2のとおり、公明党が改憲容認に転じるように、96条と環境権をセット改正する案が浮上しているが、私は、96条改正は邪道であり、必要な改正は今の条件のまま、一つづつ国民に問う形で行うべきだと思っている。また、環境権の創設は必要ない。

 何故なら、良い環境に住む権利(=環境権)は、現行憲法でも、第25条の「健康で文化的な生活の保証」という規定で確保されており、それは、*4の環境基本法で「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的」として、具体的に規定されているからである。

 しかし、*3のように、水俣病が起こり、被害者救済の判決が出るのに57年も要した。その理由は、日本国憲法も骨抜きにされ、第25条の「国民の健康で文化的な生活の保証」は徹底されず、公害を黙認して被害者を犠牲にし、産業を優先したことにある。もちろん、産業は大切だが、産業や経済の発展のためには何をしてもよいという価値観がよくないのだ。そして、この価値観は、今でも、原発再稼働推進派の意見や、福島第一原発事故後の情報開示と避難誘導、居住制限区域の設定等で健在ぶりが示されているが、そもそも、産業の育成・発展は、国民がより健康で文化的な生活を送るために行うものであるため、本末転倒なのである。

 では、どうすればよいのかと言えば、*4の環境基本法に罰則規定をつけ、人間を始めとする生物が、生命を維持して心地良く住める環境を守ることを義務付ければよい。これは、普通の法律改正であるため、国会がその気になれば、すぐに行うことができる。それに伴い、一般国民が、「環境を守ることは、健康で文化的な生活を送るための必要条件である」ということを認識できるよう、環境省、司法、メディアが運用を改めるべきなのである。

*1:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013050602000121.html
(東京新聞 2013年5月6日) 公明ジレンマ 参院選 改憲ブレーキ役
 夏の参院選へ改憲が大きな争点となりつつある中、公明党の対応が揺れている。「平和の党」を看板に、与党として保守色を強める自民党のブレーキ役を自負するものの、改憲慎重の一辺倒では取り残されるとの焦りからだ。公明党が改憲容認に転じれば、参院選後に改憲勢力が三分の二に達する可能性が高まる立場の重みも苦慮する一因になっている。公明党の斉藤鉄夫幹事長代行は四月三十日、与野党の改憲勢力による推進会合に出席し「党の憲法への考えは『加憲』だ。最も現実的、穏当だと確信している」と主張した。公明党は完全な護憲勢力ではないが、政権復帰後は改憲問題で「時期尚早」との立場を取った。国会で再開された憲法審査会の議論を見守るべきだと訴え、改憲に注目が集まる参院選での争点化は避けたいのが本音だ。しかし、最近は幹部が党方針の「加憲」を強調している。加憲とは、九条の「戦争の放棄」などの根幹部分は堅持しつつ、時代の変化に応じ環境権などを新設する考え方だ。幹部の転換は、改憲要件を定めた九六条問題で、与野党の改憲勢力が緩和を先行させる意見集約に向かっているのが大きい。公明党は九六条先行論にも、国民に浸透していないと異論を唱えてきたが、改憲勢力の自民、日本維新の会、みんなの三党が先行論で固まれば、反対するだけでは歯止めにならなくなる可能性が出てくる。三党が参院選で、改憲の発議に必要な三分の二の議席を得る可能性は低いが、先行論が勢いづきかねないとの懸念もある。最近、公明党幹部が九条など重要な条文を切り離し、それ以外なら要件緩和もあり得るとの柔軟姿勢を示したのも、自民党をけん制する狙いからだ。公明党は参院選公約で、改憲をどう位置付けるのか議論の最中。山口那津男代表は「自民党との連立は揺るがない」と強調するが「平和の党」の存在意義が問われている。

*2:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013051300966
(時事ドットコム 2013/5/13) 96条先行「難しい」=環境権とセット改正も-自民・船田氏
 自民党の船田元・憲法改正推進本部長代行は13日夜、BS11の番組で、憲法改正の発議要件を定めた96条の先行改正について、「96条単独ではかなり厳しい」との認識を示した。船田氏は「(憲法の)どこをどう変えるか分からないうちに96条改正というのは、危機感や懸念が国民に結構あると思う」と指摘。同時に「新しい人権や環境権など比較的多くの政党が賛成するものとセットで出すことも考えなければならない」と述べた。 

*3:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130419/trl13041903170001-n1.htm
(MSN産経ニュース 2013.4.19) 水俣病判決 なぜ57年もかかったのか
 水俣病の患者認定をめぐって、最高裁が国の認定基準(判断条件)で患者と認められないケースでも、司法により独自認定できる道を開いた。行政の審査ではねられた被害者を、訴訟を通じて救済する新たな仕組みである。長い間、認定を求め続けてきた人々にとって朗報だ。ただ、来月で水俣病の公式確認から57年になる。なぜこれほどの年月がたってしまったのか。かたくなな対応を続けた環境省、甘い判断しかできなかった政治家ら関係者は、厳しく反省すべきだ。司法も判断が遅すぎたという批判を免れない。最高裁は、熊本県水俣市の女性の遺族の行政訴訟では水俣病と認定するよう命じた2審福岡高裁判決を支持した。遺族側の勝訴が確定し、最高裁で患者と認定された初のケースとなった。大阪府豊中市の女性の訴訟では、水俣病と認めなかった2審大阪高裁判決を破棄して審理を差し戻した。患者としての認定を求める人々に立ちはだかってきたのが、昭和52年の旧環境庁による現行の認定基準だ。感覚障害や運動失調、視野狭窄など複数の症状が重なっていることが大原則で、行政審査は今回の原告のような感覚障害のみの場合は認めようとせず、「患者切り捨て基準」と批判された。事実、潜在患者が20万人ともいわれる中で認定患者は2975人(今年3月末時点)と少ない。最高裁は「個々の事情と証拠を総合的に検討して個別具体的に判断すべきだ」との判断を下し、感覚障害だけの原告を患者と認定した。行政よりも柔軟な姿勢を示したといえる。今回の判決を受け、環境省は「国の判断条件は否定されていない」と認定基準を見直さない考えを示したが、基準の運用に幅を持たせることは必要である。水俣病は、工場から海に垂れ流されたメチル水銀が魚介類に蓄積され、それらを食べた人々が病気になった健康被害である。日本が急激な経済発展を続ける中で生み出された成長の負の部分で、「公害の原点」といわれている。公害を克服する努力は重ねられたが、近年もダイオキシンやアスベストなど新たな健康被害が起きている。そうした事態を未然に防ぎ、起きてしまった場合の補償制度を確立するため、政治や行政は一層、知恵を絞ってほしい。

*4:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO091.html (環境基本法) 
(目的)
第一条  この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「環境への負荷」とは、人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
2  この法律において「地球環境保全」とは、人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう。
3  この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。第二十一条第一項第一号において同じ。)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるものを除く。以下同じ。)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをいう。

(環境の恵沢の享受と継承等)
第三条  環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。

(環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等)
第四条  環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない。

(国際的協調による地球環境保全の積極的推進)
第五条  地球環境保全が人類共通の課題であるとともに国民の健康で文化的な生活を将来にわたって確保する上での課題であること及び我が国の経済社会が国際的な密接な相互依存関係の中で営まれていることにかんがみ、地球環境保全は、我が国の能力を生かして、及び国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない。

(国の責務)
第六条  国は、前三条に定める環境の保全についての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)
第七条  地方公共団体は、基本理念にのっとり、環境の保全に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(事業者の責務)
第八条  事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する。
2  事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有する。
3  前二項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、物の製造、加工又は販売その他の事業活動を行うに当たって、その事業活動に係る製品その他の物が使用され又は廃棄されることによる環境への負荷の低減に資するように努めるとともに、その事業活動において、再生資源その他の環境への負荷の低減に資する原材料、役務等を利用するように努めなければならない。
4  前三項に定めるもののほか、事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、これに伴う環境への負荷の低減その他環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。

(国民の責務)
第九条  国民は、基本理念にのっとり、環境の保全上の支障を防止するため、その日常生活に伴う環境への負荷の低減に努めなければならない。
2  前項に定めるもののほか、国民は、基本理念にのっとり、環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する。

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2013.4.11 日本国憲法の改正について (2013年5月24日最終更新)
(1)誰が作ったかが重要なのか
 「占領軍が作った憲法なので自主憲法を制定する。それが自民党の結党理由だ」というのは、自民党内でも一部の人が強く言っていたにすぎないことであり、戦後生まれの多くの自民党議員が同じ考えというわけではない。私は、憲法は内容が大切であり、どこをどう変えたいから国民投票したいのかを議論すべき時だと思っている。
 私は、中学生の時、教科書に日本国憲法が添付されてきたので、何故か自分でそうしようと思って、憲法全文を一年間毎日、声を出して読んだ。そのため、日本国憲法の考え方はすべて素直に頭に入っているが、これは、憲法学者が建前と現実を調整するために、こねくりまわして解釈した憲法論より、日本国憲法の本質だろう。そして、日本国憲法は、自由、平和主義、国民主権を徹底したもので、全体として素晴らしいものであり、変えるより、まず徹底して実践すべきだと思っている。これだけの民主主義憲法が国民の内部から一挙に生まれることは難しい。それは、太平洋戦争に負けなければできなかったことであり、この憲法が、太平洋戦争の唯一の遺産ではないかとさえ思っている。

(2)目指すのは、どういう国家観なのか
 日本国憲法(http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/kenpoupeji.htm 参照)は、前文で、自由・平和主義・国民主権について述べた後、1条~8条で天皇の地位と行為の範囲を述べているが、これはよいと思う。9条で、以下のように戦争放棄を述べ、2項で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」としているのが自衛隊の存在と矛盾しており、そのため、今まで超解釈がまかり通ってきたが、他国に侵略することはなくても、他国の侵略から防衛する必要はあるので、ここを事実に即して改正するのには、私も賛成である。
 第9条 [戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認] 
  ①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力に
    よる威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
  ②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
    認めない。
 10条以降の条文の基本的人権、法の下の平等などについては、私は非常にいい憲法だと思っている。しかし、*2のように、自民党政調会長の高市氏は、「私は憲法改正のために国会議員になった。憲法は国家観に関わる。常に選挙の争点になるべきで、国家観による政界再編が最後の正しい姿だ」と述べられている。それならば、現憲法のどの国家観が納得できず、どういう国家観に変えようとして憲法改正を発議しているのか、その内容を具体的に説明し、総選挙で国民に問うべきだ。民主党ができたか、できなかったかは、国民にとってはどうでもよい話だ。

(3)具体的に憲法のどの条文をどう改正するのか、及び、その理由を開示すべきだ
 自民党の憲法改正案(http://www.dan.co.jp/~dankogai/blog/constitution-jimin.html の比較表参照)は、多くのことを変更しようとしている。そのため、どういう趣旨で、どういう条文に変えたいのか、国民に説明すべきだ。自民党内の総務会を通ったとは言っても、他の仕事で忙しい人、憲法に関心の薄い人、反対の人は次第に出なくなる会合を重ねて、党内の意見を集約したにすぎない。小選挙区で有権者の意志とは異なる与党議員数が実現し、その中の一部の議員の主張で憲法を改正すれば、国民全体から見れば、非常に少数の意見によって憲法が変えられることになる。そのため、憲法改正の趣旨は、その内容を逐条解説し、一つ一つ、個別に国民に問うべきである。そうしなければ、なし崩し的改憲になるのは目に見えている。

(4)96条の改正から始めるのは適切か
 日本国憲法は、96条で改正要件として、1)国会が衆参両院のすべての議員の3分の2以上の賛成を得て発議する 2)国民投票での過半数の賛成で承認する ということを定めており、通常の法律より改正が難しい。そして、殆どの国の憲法がそうであり、それが世界標準だ(http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/b55b9146bbd00daeb3402cf21d1a4ee6 参照)。憲法改正が一般の法律改正よりやりにくくなっているのは、憲法が一般の法律より上位にある国の基本方針で、その時々の為政者による人権侵害などの津波に負けないようにするためで、変えにくいこと自体に意味がある。そのため、私も、*3、*4と同様、まず96条を改正するというのは邪道であり、改正したい条文とその理由を国民に説明し、96条に従って改正すべきだと思う。

*1:http://mainichi.jp/select/news/20130406k0000m010135000c.html
(毎日新聞 2013年4月6日) 安倍首相:予算委で持論「占領軍が作った憲法」
 「占領軍が作った憲法だったことは間違いない。形式的にはそうではないが、占領下に行われたのは事実だ」。安倍晋三首相は5日午前の衆院予算委員会で、現行憲法に関する持論をぶった。首相は7月の参院選後をにらみ、憲法96条の定める改憲の発議要件を衆参各院の「3分の2以上」から「過半数」に緩和する方針を示しているが、もともとは「自主憲法制定」が悲願。「(占領下の)7年間に憲法や教育基本法、国の形を決める基本的な枠組みができた。(独立時に)真の独立国家をつくる気概を持つべきではなかったか」と冗舌だった。質問したのは民主党の細野豪志幹事長。サンフランシスコ講和条約締結から61年となる今月28日に政府が「主権回復の日」の式典を開くことに絡め「私は憲法を前向きに評価する。戦後の認識が自民と民主で違う」と憲法観の違いを強調した。式典には、主権回復後も占領下に置かれた沖縄から反発も出ている。首相は「昨年が60年の節目だったが(民主党政権下で)できなかった。毎年やる式典ではない」と来年以降の開催には慎重な考えを表明。沖縄が返還された5月15日の式典開催も「考えていかなければならない」と沖縄への配慮を示した。

*2:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130406/stt13040611310004-n1.htm
(MSN産経ニュース 2013.4.6) 高市氏「国家観で政界再編」 改憲めぐり公明との連立解消示唆
 自民党の高市早苗政調会長は6日の読売テレビ番組で、憲法改正に関し「憲法は国家観に関わる。常に選挙の争点になるべきで、国家観による政界再編が最後の正しい姿だ」と述べた。さらに「私は憲法改正のために国会議員になった。私たちは絶対何が何でもこれをやり抜く」と訴え、夏の参院選で憲法改正を前面に掲げる考えを強調。憲法改正に慎重な公明党との連立解消もあり得るとの認識を示した格好だ。一方、高市氏は、憲法改正を掲げる日本維新の会の綱領については「国の歴史と文化への誇りなど、価値観が一致するところが結構ある」と賛同。同じ番組に出演した維新共同代表の橋下徹大阪市長は重ねて改憲の必要性を強調した。

*3:http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201303217214.html
(愛媛新聞社説 2013年3月21日) 憲法改正の発議 「3分の2」緩和は邪道の極み
 衆参両院が憲法審査会を再開した。ひときわ目を引くのが憲法96条改正論だ。まずは憲法改正のルールから変えようという動きが政界で急速に広がっている。安倍晋三首相はあえて国会答弁で踏み込んだ発言をする。96条は、衆参両院でそれぞれ総議員の「3分の2以上」の賛成があれば改正を発議できるとする。その後の国民投票で「過半数」が賛成すれば承認されると定めている。首相らは発議要件の「3分の2以上」を「過半数」にしたいという。平和条項の9条などと比べ、イデオロギー色の薄い手続き論ならば、議論と合意がしやすいと踏んだのだろう。実際、制度改正に思い入れのある日本維新の会、みんなの党が同調している。
 ただ、改正発議のハードルを通常の法案可決と同じ過半数に下げると、憲法は極端に軟性化しかねない。与党本位の憲法改正に道を開いたとしても、実はもろ刃の剣だ。与党の地位とて不変ではない。96条改正に反対だった政治勢力が政権に就いた場合、今度は過半数の賛成によって再び3分の2へと戻す発議がなされる局面もありうる。国民投票が控えるとはいえ、無用な政治の浪費を繰り返すことになりかねない。スポーツの試合で片方に有利なルールがまかり通るのであれば観客はしらけよう。集団的自衛権の扱いや二院制のあり方といった憲法をめぐる核心の議論よりも、手続き論を優先するのは邪道の極みというよりほかない。
 憲法は時の政権の都合で憲法秩序をゆるがせない。96条は権力者を縛る憲法の本質であり、最高法規性のあらわれである。どんな理由があっても96条の改正は許されないとする学説さえあるほどだ。日本の憲法は改正されたことがない。ただ、それは自民党が問題視するハードルの高さが原因でないのは明白だ。憲法改正を試みた米国や欧州の国々は、ハードルが低いわけではない。硬性の程度は日本とさほど変わらず、多くは二院の3分の2要件を乗り越えて改正を成している。
 憲法改正は国会や国民の納得を得るために、どれだけ政治的な努力が注がれてきたかが問われる。欧米の国々は幅広い合意を得る過程を怠らなかったということだ。発議要件の緩和は、改憲のハードルを下げるというよりも、むしろ国民投票へのハードルを下げる。国のかたちを直接民主制のように描いていく覚悟が、どれだけ今の政治家にあるのかと問いたい。憲法公布直後の一時期を除けば、96条のあり方はほとんど議論されていない。立憲政治を見つめ直すための論戦は大いに結構だ。そして「3分の2」が意味する重さに気づく機会になればいい。

*4:http://mainichi.jp/feature/news/20130409dde012010003000c.html
(毎日新聞 2013年4月9日) 特集ワイド:憲法96条改正に異論あり 9条を変えるための前段、改憲派からも「正道じゃない」
 もしかしたら憲法9条改正よりも、こちらの方が「国家の大転換」ではないのか。憲法改正のルールを定めた96条の改正問題。改憲派が目の敵にし、安倍晋三首相が実現に意欲を燃やすが、どこかうさんくささが漂う。実は「改憲派」の大物からも異論が出ているのだ。【吉井理記】
 「憲法議論は低調だ。なぜなら結局、(改憲発議に要する)国会議員数が3分の2だから。2分の1ならすぐに国民投票に直面する。そこで初めて、憲法問題を議論する状況をつくり出すことができるのではないか」。先月11日の衆院予算委員会。民主党の議員から改憲への考えをただされた安倍首相は96条を改正するメリットをそう強調し、改正への意欲をにじませた。
 96条は改憲に(1)衆参両院のそれぞれ3分の2以上の議員の賛成で国会が改正を発議し、国民に提案する(2)国民投票で過半数が賛成する−−の2段階が必要と規定している。(2)の手続きを定めた国民投票法は第1次安倍内閣の07年に成立、10年に施行された。
 焦点は(1)だ。安倍首相は「3分の2以上」から「過半数」への緩和を目指す。今年に入り民主党、日本維新の会、みんなの党の有志が96条改正に向けた超党派の勉強会を発足させた。既に改憲派は衆院で圧倒的多数を占めており、今夏の参院選で定数242の3分の2、162議席以上になれば条件は整う。昨年8〜9月の毎日新聞の世論調査では96条改正賛成は51%、反対は43%だった。
    ■
 「絶対ダメだよ。邪道。憲法の何たるかをまるで分かっちゃいない」
 安倍首相らの動きを一刀両断にするのは憲法学が専門の慶応大教授、小林節さん(64)だ。護憲派ではない。今も昔も改憲派。戦争放棄と戦力不保持を定めた9条は「空想的だ」と切り捨て、自衛戦争や軍隊の存在を認めるべきだと訴える。改憲派の理論的支柱として古くから自民党の勉強会の指南役を務め、テレビの討論番組でも保守派の論客として紹介されている。その人がなぜ?
 「権力者も人間、神様じゃない。堕落し、時のムードに乗っかって勝手なことをやり始める恐れは常にある。その歯止めになるのが憲法。つまり国民が権力者を縛るための道具なんだよ。それが立憲主義、近代国家の原則。だからこそモノの弾みのような多数決で変えられないよう、96条であえてがっちり固めているんだ。それなのに……」。静かな大学研究室で、小林さんの頭から今にも湯気が噴き出る音が聞こえそうだ。

PS(2013年5月24日追加):一流の学者たちが頑張ってくれており、心強いです。ただし、強めるのは、政治家の権力だけでなく、官僚の権力もでしょう。
*5:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013052301001904.html
(東京新聞 2013年5月23日) 96条改正「憲法への挑戦」 主張超え学者結集
 改憲の発議要件を緩和する憲法96条改正に反対の学者が「96条の会」を発足し、代表の樋口陽一東大名誉教授らが23日、東京・永田町で記者会見して「96条改正は憲法の存在理由そのものへの挑戦だ」とする声明を発表した。発起人は憲法学者や政治学者ら36人。護憲派だけでなく9条改正を唱える改憲論者も含まれており、主張の違いを超えて大同団結した。声明は「96条を守れるかどうかは権力を制限するという立憲主義にかかわる重大な問題。(改正は)政治家の権力を不当に強めるだけだ」と訴えた。自民党などは発議要件を衆参両院の3分の2以上の賛成から過半数にすることを主張している。

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